どうしてこうなった日記~ぐだぐだ人生録~ (花極四季)
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A.D.2004 炎上汚染都市 冬木
01


リハビリ目的で、簡単に書けるであろう形式で新しく書き始めました。
ストーリー展開が原作に追い付かない程度の緩い気分で投稿しようと思いますので、不定期になるのは確定です。すまない……。

細かい設定まで把握していない(そうでなくても把握していない)個所があるかもしれませんが、やんわりと指摘して戴けたら嬉しいです。最近、なんか豆腐メンタルなんですよね……。


○月×日

 

今日から、日記をつけようと思う。

自分に起きている出来事を振り返るという意味でも、活字を書くのは大事だしね。

そもそもなんでこんな突拍子もないことをやり出したかと言うと、それは全部今置かれている状況が悪い。

 

気が付いたら、雪山のただ中にいました。

雪は降っておらず視界は良好だがクッソ寒い。やばいですね☆

どうしてこうなった?どうしてこうなった!

混乱しつつも、自分の状況を振り返る。

手持ちのリュックにはペンとメモ用紙、他にも食料もあるけど、それ以外に良く分からないものも入っていた。

校章だったり、マフラーだったり、小刀だったりと、統一性の感じられないそれらは、何故かどれも質量に対して羽のように軽い。

気のせいか、このバッグも四次元ポケットよろしく見た目以上に物が入っているようにも感じられる。

 

取り敢えず、マフラーとかの防寒具になりそうなものは速攻で着用。

すると、それだけで快適な温度にまで落ち着いた。

謎が謎を呼ぶマフラー達だが、とても有り難い。

寒さ問題は解決したが、ここからどこへ行けばいいのやら。

食料もどれぐらいリュックにあるか分からないし、あまり悠長には構えていられない。

 

というわけで、取り敢えずひたすらに歩いていたら、山頂付近に建物らしき影が視界に入った。

ほとんど偶然の産物のようなものだけど、目的地が見えただけでも良かった。

眼下は地上の一切見えないぐらいに山ばかりで、降りるにしても希望が見えない状況だったので、正直助かった。

まぁ、そんな山奥にある建物とか怪しいなんてレベルじゃないけど、藁にもすがるしか出来ないわけで。行くしかないべさ。

 

○月△日

 

なんとなく、休憩がてらにリュックの中身を漁ってみた。

冷静になってみると、この謎マフラーしかり、もっと便利な道具が入っていても不思議じゃないなーって今更ながら思ったからね。

という訳で、リュックに入っているもので有用そうなものを漁ってみることにした。

結果――不審者になりました。

 

如何にも業物な刀を腰に帯刀し、真っ黒なコートを身に纏い、薄い素材の黒いグローブを嵌め、真っ赤なマフラーで口元を覆うように隠した結果が、今の自分です。

客観的に見れば、間違いなく通報されても文句言えないレベルで危ない人だったよ。

父親寄りの目つきの悪さも相まって、知らない人からすれば怯えられても不思議じゃないわこれ。

でも、なんかこれを付けていると何故か凄い力が沸くんだよね。やっぱり不思議道具じゃないか!

そんな理由で、いつ体力が切れてゲームオーバー、なんて結果を避ける為にも、この格好を続けることに決定したのであった。

それにしても、なんか見たことある物も中に入ってた気がするけど、何だっけ。思い出せん。

 

 

○月@日

 

やっと、人に遭えました。女の子です。

名前は菅野理子ちゃん。何でも、この先にある『人理継続保障機関』なる場所に向かっている最中らしい。

恐らく、それこそが自分の向かおうとしていた建物なのだろう。

 

明るく元気な子で、何でもマスター候補として選ばれたとかなんとか言っていた。マスターってなんぞや。

自分とは違い、遊びの一切無い防寒着フル装備な彼女だが、そんな彼女は何処からどう見てもこんな僻地に居て良さそうな人物ではなかった。

悪く聞こえるかもしれないが、彼女はひと目見ただけで平凡だと分かる容姿をしていた。

美醜に対しての比喩ではなく、雰囲気がそう語っていたのだ。ていうか、見た目はめっちゃ可愛いっす。

それこそ、彼女自身何故この場に居るのかが分かっていないような。この過酷な環境下で彼女の地に足のつかない、朗らかで明るい少女然とした在り方は、誰が見ても浮いている(・・・・・)と言うだろう。

 

だが、元々喋るタイプじゃない自分は、そんな理子ちゃんの人懐っこさに救われたとも言える。

何せ、久しぶりに人間を見つけたとはいえ、自分よりも年下の女の子にどう接してよいかなんて分からなかったし。

彼女の方から色々聞いてくれたものだから、それに答える流れになってくれたのは僥倖だった。

 

それにしても、この子もよく自分相手に話しかけてきたなと思う。

流石に理子ちゃんの姿を背後から発見した時は、咄嗟に刀は四次元リュックに仕舞ったけど、それを差し引いて尚、見た目不審者なのだから、そう思うのは自然だ。

それに、自分は父親の教育の影響で、強い我を常に出せるような男に育てられているということも大きい。

簡単に言えば『俺は凄いんだぞオーラ』を常に出して、相手に嘗められないようにする、威圧感を出せるようになる技術だ。

そんな一般生活において使い所のな技術を身に着けているのかというと、自分が――というよりも、家族の男共が結構危険な目にあったりする仕事をしているせいだ。

 

危険とは言ったが、マフィア的なものではなく単なる『何でも屋』に過ぎない。

猫探しから用心棒まで何でもござれな、やれることは何でもやると言わんばかりの幅広さで仕事を受け入れている。

しかし、その幅広さゆえに、日常生活を送っていたら会えないであろう危ない人ともお近づきになったりもしちゃうんだよね。

当然、自分としては不本意極まりないが、不幸な星の下に生まれたのか、割と頻繁に遭遇しちゃうのよね。

……多分、恐らく、ほぼ確実に。馬鹿兄貴がやらかしているせいなのが半分は関係しているだろうが、それを追及したところでどうにかなるでもなし。

実力行使なんてしようものなら返り討ちになるし、ロクなことがないので結局降りかかる火の粉を払う方が楽なんだよね。

まぁ、本当にヤバかったら母さんが怒って止めてくれるので、最悪な事態にはならないんだけどさ。

本当、うちの男共のヒエラルキーの低さと言ったら。我が家最強(物理)の親父ですら怒った母さんには逆らえないしね。

 

そんな一般人からすれば危ないことをしていると言うこともあって、友人と呼べる人は少なく、数少ない友人も時間の流れで疎遠になっていき、成人してからは何でも屋が本格化してきたので友人との連絡さえ取っていない。

でも、理子ちゃんはそんな自分にも平然と話しかけ、笑顔を振りまいてくれる。

あぁ^~心がキュンキュンするんじゃ~。

 

そう言えば、ここに来る少し前に漸く「合言葉」の仕事に参加させてくれるみたいなこと言ってたけど、一体何だったんだろう。

冷静に考えなくてもロクなことじゃないから、知らなくて正解だったんだろうけどさ。 

 

追記:ここに来て初めての二人ご飯はとても美味しかったです。

 

 

 

○月◇日

 

人理継続保障機関に着きました。

何か自分は登録されていないから入れないみたいなことを言われたんだけど、何やかんやで特例として招待された。やったぜ。

人理継続保障機関――カルデアとやらは、雪山なんかにあるとは思えないほどの規模の施設で、何でこんな辺鄙な場所にあるんだと考えていたら、理子ちゃんがいきなり倒れた。

驚き戸惑っていると、マシュという眼鏡少女が現れて、介抱に協力してくれた。

あと、フォウってふさふさな動物もいたね。なんかめたくそ警戒されてたけど、昔から動物に懐かれないので、今更気にしないけど。……寂しくなんか、ないもん!!!!!

 

そんな感じでマシュちゃんとフォウと交流していると、緑の帽子とスーツを着た笑顔が胡散臭いレフ・ライノールって男が現れた。

レフと理子ちゃんの会話を聞いている限り、理子ちゃんのマスター候補というのは数合わせとしての意味合いが強いものらしいことが判明。

よくわかんないけど、数合わせだろうが選ばれた人に変わりはないだろうし、そこの所はフォローしておいた。

そして、予想通りというかレフの自分に対する質問。

これは、自分が記憶喪失だと嘯いておくことで話を逸らした。

真面目な話、ここは自分の知らない世界だと言うことは、何となく分かっている。

いや、あの男共なら、平然と雪山に放置とかするだろう。ていうか、過去に北極に置き去りにされたことあったわ。

正直、ペンギンさんやアザラシさん達とお友達になれなかったら死んでたと思う。

人間、死ぬ気で頑張れば動物の言葉もなんとなく分かるんやなって。

 

そんな過去を思い出してノスタルジックな気持ちにさせられている中、状況はあれよあれよと動く。

所長?とかいう人の説明会があるとかで、中央管制室とやらに向かう。

部外者な自分もいいのか?と思ったけど、マシュちゃんと一緒に隅にいるならいいと許可してくれた。

レフも来るらしいけど、いらないです。帰って、どうぞ。

 

 

○月□日

 

……あまりにも突拍子もないことの連続で、書く余裕がなかった。

簡潔に説明すると、説明の途中で寝てしまった理子ちゃんが、オルガマリー所長なる人物によってファーストミッションから外されたので、それに追従する形で自分も退室。魔術とか何やら、興味深い話してたけど、理子ちゃんのが心配だしね。

ぶっちゃけ、あんな過酷な環境でようやく到着したか弱い女の子にする扱いではないよ、マジで。

んで、理子ちゃんと共に部屋に向かったら、ロマニ・アーキマンなるいい加減そうな男とバッティング。

そこで適当な談笑をしていると、ロマニがレフに呼ばれるも、少しだけサボろうとロマニがそれっぽい言い訳をしている間に停電が発生。

 

何か非常事態らしく、モニターの向こう側は大惨事と化していた。

しかもモニターの向こうは管制室らしく、そこにはマシュちゃんがいるとのことで、ロマニの避難指示を無視して、理子ちゃんと共に向かうことになった。

いや、自分としては避難したかったよ?だけど、流石に乗り気な理子ちゃんがいる手前、男の自分だけ逃げるとか、流石にないですわ。

それと、咄嗟の判断で刀は持っていった。こういう危機に対してのセンサーは敏感になるよう、嫌でも鍛えられたし。

――だからこそ、自分達が管制室に向かうことが愚行であることも、分かりきっていたのに。何故、理子ちゃんを止めなかったんだろう。

 

そうして辿り着いた先で、崩壊した壁面に潰された瀕死のマシュちゃんを見つけ、気付いた時にはカルデアスが核融合炉の如く朱く染め上がり、隔壁は封鎖。

脱出も絶望的で、どうしようもないと絶望していた二人を、一抹の希望に賭けてどうにか護ろうとカルデアスを背にして壁役に徹する。

動けないマシュちゃんを中心に、理子ちゃんを抱き締める形でどうにか頑張ってみたけど、何の慰めにだってならない。

万が一にも理子ちゃんは救えたとして、マシュちゃんは助からないって確信していたから。

瓦礫の下敷きになった人間を解放すると、圧迫されていた箇所に血液が一気に流れ込むことで心不全を起こしてしまう為、この施設を破壊出来る規模の爆発が起こってしまえば、瓦礫なんて簡単に壊されてしまい――その時点でアウトだ。

 

それでも諦めることが出来なかったのは――多分、ただのカッコつけなんだと思う。

秒読みで訪れる死を前に、二人の目は絶望と諦観に染まっていた。

どうにかして、その目の色を変えたくて。だけど、現実ではそんなこと出来ないって分かっていたから、せめて無力な木偶の坊なりに、格好良く護って死んだっていう免罪符が、自己満足が欲しかったんだと思う。

だって、そうだろう?こんな結末、誰だって納得できる筈がない。

だからこそ、せめて僅かな選択肢から手繰り寄せられる納得が欲しかった。我ながら、情けない奴だ。

そんなだから、つい最近まで親父に認められなかったんだろう。

アラームが鳴り止まない中、突如理子ちゃんと自分の名前がアナウンスされ、マスターとして再設定とか言い出して、臨界点にまで達していたカルデアスが、遂に爆発して、そこで一度記憶は途切れている。

 

次に見た景色は――瓦礫と火で満たされた、地獄だった。

自分の良く知る現代の建物が、災害に見舞われたかのように倒壊し、絶望の音を立てている。

音の正体は、欠けた剣を握る骸骨の群れ。

不規則に奏でられる骨の擦り合う音と、瓦礫を踏み抜く音が、四方八方から聞こえてくる。

こうして日記を書いている今でも混乱している。生きている実感も沸いていない。

ただ、自分の生存本能が告げた。このままでは殺される――と。

そこからは。ひたすらに我武者羅だった。

刀でどうにか一方向の骸骨だけでも退け、強行突破し、今は廃屋に身を隠している。

取り敢えず、今日は少しでも休まなければ。とは言え、寝るなんてことは出来そうにないけど。

 

 

 

○月α日

 

時間を置いたことで落ち着いてきたので、装備の再確認をする。

流石にマフラーは外してる。こんな火の海であんな熱い恰好してられんわ。

自然と力が沸いてくるおかげで、気持ちにも余裕が出来てきた。

取り敢えず、この廃屋の中を探索してみることにした。拠点にするにも、逃げ道だけでも把握しておかないことには始まらない。

廃屋と言っても、武家屋敷なのかとても丈夫で広々としており、物理的な衝撃が柱に及ばない限りは倒壊することはなさそうだ。

 

家探しをしている時に、仏さんと出逢わないことを祈りながら散策していると、不思議な石を見つけた。

虹色に光るそれは、どことなく自分が纏っている装備と同じ雰囲気を纏っている。

何か凄いものだろうと、取り敢えずポケットに入れておいた。

屋敷を出て敷地内も探していると、納屋を発見。中には、魔方陣のようなものが地面に刻まれており、ただの納屋の筈がどこか異界めいて見えた。

そして、自分はこの景色に既視感を感じた。

漸く、気付く。ここは、『Fate/stay night』に出てくる、衛宮家の納屋で、セイバーが召喚された場所じゃないか、と。

既視感の不連続が、今になって一つの仮定を導き出す。

今自分がいるのは、まさに『Fate/stay night』の世界なんじゃないか、と言うとんでもな仮定だ。

馬鹿馬鹿しい、と普段なら思える推測も、ここまでお膳立てされては否定すること自体が愚かだ。

と言うことは、ここは冬木ということになる。

 

だけど、この火の海はどういうことだ?

自分は原作ぐらいしか良く知らないけど、確かこんな状況が第四次聖杯戦争の末路だと言われていた気がする。

主人公がその災害に遭い、そこで衛宮切嗣に助けられたことが、主人公の人格形成の雛形となったということぐらいしか知らない。

取り敢えず、今日はここで散策を終えることにした。色々と考察したいことも出てきたし。

 

 

○月β日

 

今日、骸骨の群れが衛宮家に襲撃してきた。

奇跡的と言うべきか、魔術によるトラップが機能していたらしく、鳴子の鳴る音が襲撃者の存在を知らせてくれたのが幸いだった。

そうでなければ、自分は寝ている間に二度と目が覚めない状況に陥ってただろう。

しかし、それで状況が改善されたかと言えばそうでもなく、危機が迫っていることに変わりはない。

必死に戦って、必死に逃げる。やっていることはそれだけの、どこまでも見苦しい立ち回り。

それでも、死ななければいい。理不尽に死ぬのだけは、許容できない。

そして、自分はいつの間にか、納屋に追い詰められていた。まるで、導かれるように。

後ずさりで魔方陣を踏んだ瞬間、魔方陣とポケットの石が共鳴するように発光。

光に怯んだ骸骨を一閃し、一息吐いて振り返った先には――鎧を着た見覚えのある女の子が立っていた。

 

自分の知る彼女の凛々しいそれとは程遠い、開花したばかりの白百合のような甘い笑顔。

戦場であるこの場に不釣り合いな白無垢と、それを覆い隠す軽鎧の存在。そして――その手に携えた、黄金の剣。

その剣を、見間違う筈もない。

騎士王アルトリア・ペンドラゴンの原点にして、永劫の呪いを植え付ける楔。勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

しかし、今の彼女はそんな未来なんて露程も知らない、希望に満ちた目をしている。

何となく、分かってしまった。彼女は、選定の剣を抜いたばかりのアルトリア・ペンドラゴンなのだと。

そして自分は、そんな彼女をサーヴァントとして召喚してしまったのだと。

 

彼女――リリィは自分が戦うから下がってくれと、そう提案してくるが断った。

そもそも、こんな場所に安全な所なんてない。ならば、サーヴァントである彼女の傍にいた方がまだ安全であると、説明した。

騎士王ならば間違いなく拒否する提案だが、リリィは一考して、何を納得したのか、背中を預けるとまで言ってくれた。

嬉しいと思う反面、そんなことが自分に出来るのか?と思わずにはいられない。

それでも、彼女の傍にいることを提案した手前、そんな都合の良い逃げは許されない。

ならばやるしかないと、必死に戦った。

 

兎に角、斬る。決して深追いせず、必ず彼女の背中に立つように意識する。それだけをただ繰り返した。

ぶっちゃけ刀の使い方なんて知らないから、いつ折れるかと冷や冷やしたものだったけど、受けない限りはその心配はなさそうで、安心した。

こういう確認をしながら戦えたのも、ひとえにリリィが一緒に居てくれたおかげだ。

敵もいなくなったということだが、骸骨が暴れたせいで衛宮家も流石に限界を迎え、倒壊してしまった。

拠点を変えると共に、リリィに現状の把握を提案。情報を集めるべく行動する流れになった。

さて、次に日記を書けるのはいつになるだろうか……。

 

 




Q:主人公の名前は?
A:次ぐらいで分かるんじゃない?(鼻ホジ)

Q:菅野理子がぐだ子?
A:そうだよ。因みに作者のゲーム内での名前でもあるよ。

Q:人間なのに鯖と対抗できる骨を倒せる主人公。
A:この時点で勘違いされる爆弾投下しているんだよなぁ……。刀繋がりで龍殺しになる未来も有り得そうなんだ、すまない……。

Q:リリィが最初のサーヴァントな理由は?
A:今のところストーリーに一切絡んでなくて、扱いやすいキャラだったから。因みにこれのプロトタイプの話は、ステンノちゃんを召喚して何故かステンノちゃんが主人公に一目惚れしたけど、異性に対する愛情を発現したことがなかった彼女にはその感覚が理解できず、結果突き放す行動を取ってしまい、主人公が嫌われていると認識するタイプの勘違いものでした。あまりにも砂糖吐けそうな内容だったので、多分自分には書けないと断念した。


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01~ぐだ子の不安~

FGOの大規模なバージョンアップ記念に、急いで投稿しました。
なので細かいところがおかしいかもしれません(いつも通り)
論外な間違いがあったとしても、許してくださいなんでもしまどりる!


 

初めまして、菅野理子と言います。

この度、人理継続保障機関――通称カルデアから、マスター候補として選ばれました。

いきなり専門用語ばかりですが、私は十分の一も分かってません。

どうやら私は、カルデアで行われるとある実験で求められる基準――適性があるらしい。

専門用語ばかりで混乱しっぱなしだったけど、それでも私は二つ返事でオーケーした。

最重要項目の才能はあるけど、それ以外の基本的な素養――魔術だっけ?の才能はからっきしらしく、あくまで補欠という形での参加であるということも相まって、気楽に同意した。

私みたいなドジで要領も悪くぐだぐだになってばかりのせいで、仇名が『ぐだ子』となっているような奴が、ただちょっぴり才能があるってだけで抜擢されるぐらいだから、よっぽどその適性が重要なんだろう。

 

それはともかく、私はそんな理由でこんな見渡す限りが雪ばかりの山道を歩いている。

途中までは乗り物で快適に移動できたけど、この時の自分は徒歩でひいひい言って歩いてた。

何でも、神秘の秘匿とかがどうたらで、目立った行動は取れないらしく、ある程度の距離まで登ってからは歩きだという。それならせめて事前に教えて……。

疲れて何度も倒れそうになった。でも、『人類の救済』の為という言葉を信じて、歩みを進めるのだけは止めなかった。。

 

でも、私なんかに何が出来るんだろう。

人の役に立てるのは良いことだとは思う。だけど、出来もしないことに対して、気持ちだけでどうにか出来るなんて甘い考えが通るのなら、そもそも私が出る幕なんてない。

失敗して本当に怖いのは、誰かを希望から絶望に落とすこと。

自分自身の失敗は自業自得でも、失敗の皺寄せが誰かに来るのであれば、それはただの嫌がらせだ。やらない方が万倍もマシだ。

とは言え、補欠である時点でそんな考えは杞憂みたいなものなんだけど。

 

だけど、そんな滑り止め以下の価値しか求められていない私でも、何か出来ることがある。

毎日が平凡で、普遍で、平坦で、躍動のない人生。それが嫌だった訳ではない。

友達だってそれなりに居るし、恋人なんて出来たこともなければそもそも恋を経験したことさえないけれど、毎日はそれなりに充実していた。

にも関わらず、私hは非日常を選択した。

何もかもが未知数で、初めて未来へのヴィジョンが見えなくなるような暗闇の荒野を進む選択を。

その決断の原動力となったが何なのか。実のところ自分自身把握出来ていない。

分からないけど、足を止めたいとは思わなかった。

何か出来るならば、何かしたい。抽象的で言葉で表現出来ていないけれど、この気持ちに偽りはない。

 

自問自答を繰り返しながらひいこら歩いていると、背後から視線を感じたので振り返ると、不思議な格好の男性が居た。

凡人の自分でも理解できる。ああいう人が、世界を救う逸材なんだって。

距離にして100メートルは離れているのに、まるで隣にいるかのように感じられる存在感。

いや、そんな言葉は生温い。存在が圧力となって、私を圧殺しようとさえしている。

一瞬、呼吸を忘れた。いや、喉を絞められた。ただの存在感に、だ。

違う。私とは、何もかも。語るまでもない。

だからこそ、とても分かりやすい。

あれぐらい出来なければ務まらないんだと、とても分かりやすく教えられた。

自分は、蟻んこ以下の矮小な存在に過ぎない。

知ってしまえば、そこに油断も慢心もなくなる。妥協なんて以ての外。

今の自分なら、ほんの少しだけなら前を向いて歩ける気がする。

 

勇気を出して、男性に話しかけると、意外と丁寧に挨拶を返してくれた。

男性の名前は暮宮那岐(くれみや なぎ)。何だか雅な感じな名前の男の人。

防寒具らしきものはマフラーだけで、後は見慣れない造型のコートやらを羽織るように着込んでいるだけにも関わらず、寒そうにしている気配はない。

まるで漫画のキャラみたいだと、第一印象はそんな感じだった。

 

暮宮さんは、何というか、物静かな方です。

殆ど喋らないんですけど、決して寡黙という訳でもなければ無視されている訳でもなく、要所要所できちんと相槌を打ってくれる。

あの圧倒的な存在感も、私を認識した途端に収まりましたし、やっぱりあれは意図的なものだったんだと感心しました。

 

彼はどうやら、同じくカルデアに向かっているようでしたが、予想外だったのが彼はカルデアのことも一切知らない部外者だったということ。

そもそも、彼は自分が何故ここにいるのかを分かっていないようでした。

私にはよく分かりませんが、ここは秘匿されている土地だと聞いています。なのに、そんな当たり前のように部外者が入れるものなのかな。

嘘をついているようには見えないけれど、こんな雪山の中で迷子なんて、それこそ信じられない。

何となく、彼ならこっそり入れそうな気もするけど、ならあんなに存在感をアピールしていた理由が分からない。

考えるだけ無駄だと判断した私は、取り敢えずカルデアへ向かうことを提案して、そのまま目的地まで頑張って歩くことにしました。

 

追記:一人より二人の方が、気持ち楽に登ることが出来た気がする。退屈しのぎの会話に付き合ってくれてありがとう暮宮さん。

 

 

○月◇日

 

カルデアに到着!疲れたー!眠いー!

と言うか、その睡魔のせいで後々怒られちゃうんだけどね。

それはそれとして、シミュレータ?みたいなので、英霊による模擬戦を体験してみたけど、凄いとしか言いようがない。

神話や歴史で出てくる英雄を使い魔として顕現させた存在――サーヴァント。

使い魔、と聞けば可愛く思えるけど、こんな人の及ばぬ領域の戦いを見てしまえばそんな考えは一瞬で吹き飛んでしまう。

昔の人は、こんな凄いことを当たり前にやっていたんだ。

同じ戦争でも、今と昔ではまるで違う。シミュレータなのに、肌にリアルに纏わりつく圧倒的なパワーが、未だに尾を引いて私の身体を震わせる。

でも、この感覚には覚えがある。

そうだ、暮宮さんから発せられていた存在感と全く同じだったんだ。

もしかして、暮宮さんが現代に名を馳せる英雄だったり?まっさかねー。

 

それはともかく、今日だけで色んな人と知り合いました。

マシュちゃん、フォウ、レフ教授、Dr.ロマン。教授って言われてた人は……ちょっと違うかな。

マシュちゃんは何故か私を先輩と呼び、フォウには妙に懐かれるし、レフ教授にはちょっぴり心に来る言葉を戴いた。

分かっていたとはいえ、今の自分が所詮数合わせだと改めて突きつけられるのは、少し辛い。

だけど、暮宮さんがそんな私にこう言ってくれた。

 

「胸を張れ。君がここにいるのは、紛れもなく運命だ。それに、正規だろうが候補だろうが、やるべきことが同じならばその立場に優劣はない。決して卑屈にならず、これから高めていけばいい」

 

よくある慰めの言葉だったけど、あの英霊と同じ雰囲気を持つ彼の言葉だったからだろうか。それはとても身に染みた。

飾った言葉ではなくて、彼もまた同じ気持ちを味わったことがあるかのような、重みのある言葉だった。

 

そんなこんなで、疲れが出ていたのか所長の説明を聞いている内に、意識がブラックアウト。そのまま二軍落ち宣告を受けてしまった。いや、三軍かな。

折角暮宮さんがフォローしてくれたのに、なんて無様。

申し訳なさ過ぎて、顔も上げられないよ……。

 

 

 

 

 

 

――深層に落ちた意識が、波紋のように広がっていく。

井戸の底から世界を見渡す蛙が、外を繋ぐ一本の糸に縋りつくが如く、現実という光に向けて意識を向ける。

光は徐々に明度を落とし、現実に浸食されていく。

微かに聞こえる澄んだ音。それは、どこか聞き覚えのある、ような――

 

「――起きてください、先輩!!」

 

澄んだ音は焦燥を乗せて、私の意識を揺さぶった。

五感が少しずつ覚醒していくのが分かる。同時に、自らの置かれた状況も、嫌という程理解することになってしまう。

 

――それは、まさに"死"そのものだった。

 

見渡す限りの瓦礫の山と、夥しいまでの炎の牢獄。

命の営みも、平穏な日常も、ここには存在しない。

ここは、地獄だ。生者を否定し、悪辣に呑み込んでいく。

まるで、悪魔の胎の中。絶望を糧に稼働し、余分な(もの)を原型なく破壊して打ち捨てるだけの箱庭。

 

「ここ、は――」

 

未だ鮮明とは程遠い思考をどうにか揺り動かす。

そうだ。私は確か、管制室で爆発が起こったって聞いて、居ても立っても居られなくなって、それで閉じ込められた後に爆発に巻き込まれた筈。

 

「起きましたか、先輩」

 

声の聞こえる方へと振り向くと、そこには見慣れない見慣れた姿があった。

目の前にいる彼女は、間違いなくマシュ・キリエライトだ。

しかし、自分の知っている彼女は、眼鏡を掛け、白衣を着ていた。それに、瓦礫に埋まって……。

では、今の彼女はと言うと、眼鏡もなければ白衣もない。負傷した様子も一切見られない。

あるのは、十字架を模した盾のようなものと、身体のラインが出る程にきっちりとした鎧と、まるで正反対の姿へと変身していた。

 

「マシュ……?」

 

「はい、マシュ・キリエライトです」

 

「いや、うん。それは分かってるんだけど……」

 

あまりの状況の変化に、思考が追い付かない。

マシュの傷もそうだが、そういえば自分も無傷だ。怪我どころか、服装にさえ一切の乱れはない。

一連の記憶は夢だったのかと思いきや、周囲は倒壊した建物だらけで、雪山の中に放り出されたなんてこともない。

 

「先輩の言いたいことは何となく分かります。ですが――その問いに答えられる余裕はありません」

 

マシュからピリピリとした空気が滲み出る。

そして、私を庇うようにマシュが盾を構え、鋭い気を炎の中へと向ける。

――がしゃ、がしゃ、と。不気味な音が炎の中に影を落としながら、徐々に音を大きくして近づいてくる。

 

「何、アレ――」

 

炎を乗り越え現れたのは、人間の骨。それが、マリオネットのように不器用に歩を進める姿が、そこにはあった。

それも一体や二体ではない。見える範囲だけでも、十はあるだろう。

そのどれもが、剣や槍といった原始的な武器を手に持ち、私達を蹂躙せんと着実に歩みを進めている。

 

「敵性反応です、先輩。大人しくしていてください。私がどうにかします」

 

「どうにかって、え、え?」

 

マシュの言葉で混乱している内に、マシュは骸骨の群れに突っ込んでいく。

静止の言葉が漏れるよりも早く、目の前の光景に息を呑んだ。

マシュはその身体全体を覆う程巨大な盾を目の前に突き出し、タックルをする。

たったそれだけで、直接触れていない骸骨の群れも余波で吹き飛んでいく。

しかし、マシュは止まらない。

盾の十字架に位置する部分を、剣のように振るい両断していく。

たった一人の存在――しかも少女が、十はいるであろう敵を相手に怯むどころか、大立ち回りを演じているその姿を見て、こう思った。

まるで、本の中に出てくる英雄だと。

 

「敵性反応、消失。先輩、もう大丈夫ですよ」

 

「う、うん……」

 

マシュの手を借りて立ち上がる。

未だに状況が呑み込めないながらも、取り敢えず冷静になろうと頭を振る。

 

「それで、どういうことなの?私、何が何やらさっぱりで……」

 

「そうですね、では――」

 

『――二人とも、無事かい!?こちらカルデア管制室!』

 

突如、空間にノイズが走ったかと思うと、ロマンの姿が空間に貼りつけられる。

どうやら、通信映像のようだ。

 

「ドクター、そちらもご無事のようで」

 

『うん。僕はあの場にいなかったからね。それよりも、マシュも理子ちゃんもレイシフトに巻き込まれる形になってしまったか……』

 

「レイシフトって……?」

 

「そういえば、先輩はこちらの用語に疎いんでしたね。では、ドクター。説明してください」

 

『僕がかい!?まぁ、いいけど。現状の確認にも丁度良さそうだし』

 

そうしてロマンから語られた内容は、私の混乱を更に加速させるものだった。

レイシフト、特異点F、そして……マシュがデミ・サーヴァントと化した事実。

これは一番ロマンが驚いていた。私の方は、現状の理解で手一杯で、驚く余裕なんてなかった。

デミ・サーヴァント――つまり、人間とサーヴァントの融合体。

そもそもサーヴァントとは、簡潔に言えば過去の英霊を使い魔という形で召喚した存在で、マシュは"シールダー"というクラスのサーヴァントと契約して、あの姿へと変身したとのこと。

どうやら、シールダーは今起こっている異変――特異点の異変を解決して欲しいと願い、その代償として自らの力を譲渡して、消えてしまったらしい。

 

「――って、そうだ!暮宮さん、暮宮さんは!?」

 

一連の会話が纏まった所で、重大なことを思い出す。

あの場には、私達以外にも彼が居た。

私の我儘に黙ってついてきてくれた彼は、今どこに?

 

『……彼の所在は、分からない。何せ、彼は今回の特異点の事故とは一切の関係を持たない部外者だ。48番目の登録をしていた理子ちゃんはともかく、そう都合よく彼もこの場所に辿り着いているとは思えない。あの中に取り残されたままか、特異点の移動に巻き込まれたとしても意味消失しているか、良くてこちらに辿り着いていても、そこの骸骨みたいなのに襲われて――』

 

ロマンの冷静な分析を、私は空虚な思考で聞き続ける。

暮宮さんが、死んだ?

死んだ、何で?

――そうだ、私のせいだ。私が身勝手な行動を取ったから、関係のない彼が巻き込まれたんだ。

私は、間違えた。その代償が、自らの命ではなく、誰かの命。

そんなの、そんなのそんなのそんなの――有り得ちゃいけない、のに。

 

「――ドクター。先輩が泣きそうになっています」

 

「そんな……そんな……」

 

後悔に後悔を重ねる私を慰めるように、ロマンが言葉を続けていく。

 

『あ、ああああ!!そんなに悲観しなくても、まだ決まった訳じゃないし。それに、何となく彼なら無事が気がするんだよ、うん!』

 

「ドクター、適当な気休めは先輩の傷を抉るだけです」

 

『いやいやいや、無根拠って訳じゃないよ?初めて彼と会った時から、こう、底知れないオーラを感じたんだ。きっと、理子ちゃんもマシュも感じた筈だよ』

 

「……はい。何と言うべきか、何者にも屈しない、まるで王者のようなイメージを彼から感じました。或いは、孤独に生きる飢狼でしょうか」

 

『うん、そんな感じ。びっくりだよ、あんなオーラ出されてちゃあ、そりゃ所長も説明に集中できない訳だ。それに、彼が装備していた物の数々だけど――実はあれ、全部が礼装だ。それも、アトラス院にさえあるかも怪しいぐらい、超一級品のね』

 

「それは、本当ですか?」

 

『具体的には分からないけど、ね。礼装が紙だとすれば、マナはまるで水のように礼装に浸透していたのが、肉眼でも分かるぐらいだったからね。微量に発光していたでしょ?あれがそう』

 

「良く分かりましたね。暗がりでもないのに、そんなの気付く訳ないじゃないですか」

 

『そこはまぁ、魔術師の医師だからね。魔力反応には聡いのさ。それはいいとして、そんなカルデアやアトラス院が涙目になるような礼装をこれでもかと装備していた彼が、果たしてこの事故でぽっくり逝くと思うかい?』

 

「……なるほど、彼ならば自力でどうにかしているかもと、そうドクターは推測している訳ですね?」

 

『うん、まぁ。と、言うことなんだけど、理子ちゃん……』

 

腫物に触れるようにおっかなびっくり私に伺いを立てるロマン。

周囲が動揺していると、冷静になれるって本当だね。

 

「大丈夫、落ち着きましたから。それと――ありがとうございます、心配してくれて」

 

「ああ、いや――」

 

「先輩、元々はドクターの失言が原因なので、感謝する必要はないかと」

 

「そ、そうかもしれないけど……さ。それでも、こんなことで動揺して、マシュ達に迷惑かけたくないから。もう、こんな無様は晒しません」

 

『……その心意気は立派だけど、君は一般人上がりの素人なんだ。純粋な魔術師のような、目的の為に手段を選ばない機械的な考えを教育された訳でもない、普通の女の子なんだ。だから、そんなに気を張らなくてもいいんだよ?僕やマシュが、君をフォローする。だから、ね?』

 

子供を諭すような優しい言葉で、ロマンが私の決意を否定する。

 

「先輩。貴方の苦しませるものは、すべて私の盾で防いで見せます。それが何であれ、例外なく。私は、その為にいるんですから。だから――そんな顔しないでください」

 

「は、はは――。敵わないな、本当に」

 

そうだ、何を舞い上がっていたんだ私は。

ここに来る前、嫌という程思い知らされた筈だ。私は底辺も底辺、底なし沼の底に触れられるぐらい低い立場にあるんだって。

その癖、上辺だけの決意表明をして、二人を心配させて――バカみたい。

 

『――あ、ヤバ。通信断絶しそう。と、取り敢えず2km先に霊脈ポイントがあるから、そこに向かって!そこなら通信も安定しそうだから、それじゃ!』

 

矢継ぎ早にロマンが今後の目的を告げた後、すぐさま通信は途絶えた。

私達はロマンに言われた通り、指定ポイントへと向かうことにした。

断続的に現れる骸骨の徒党を、マシュが淡々と倒していく。

本当に、サーヴァントになっちゃったんだなぁ……。目の前の現実離れな光景を目にしてなお、信じられない。

 

「――先輩、先輩!」

 

「ふぇ?」

 

「敵性反応ありです。その数――100以上」

 

「……え?」

 

「言いたいことは分かります。ですが、迂回するにもかなりの回り道になりますし、結果的に霊脈と敵の位置が近いので、安全の確保を考慮に入れるなら、避けては通れぬ道かと」

 

「で、でも。大丈夫なの?」

 

「大丈夫、とは言えませんね。寧ろ、危険です。どこかの言葉で、相手が複数人であろうと一人を相手に出来るのは四人までで、その四人を瞬時にあしらう力があれば誰にも負けないとありますが、私にはその四人を瞬時に倒せる技量はありません。性能ではこちらが優るとはいえ、数で押し負ける可能性が大でしょう」

 

「困ったなぁ……」

 

逃げるなんて選択肢はあってないようなもの。

時間を置いて敵が散るのを待つと言うのもあるけど、現実的ではない。

そもそも私達には、籠城なんて選択肢はない。

備蓄も何もないこの状況、待てば待つほど消耗するのは私達だ。

というか、ここに来てまともに食事さえ摂ってない自分に、進退窮まったこの現状はまさに死活問題だった。

 

「――先輩、敵性反応とは異なる反応を観測しました。数は二。その内のひとつは――サーヴァントです」

 

「それって、つまり――」

 

「いえ。安易に仲間と判断するのは早計かと。幸い、ここから先に見渡しの利く場所がありますので、そこで様子を窺いましょう」

 

私の考えを先読みされて潰された。そんなに私、分かり易い?

マシュに言われるがままに言われた地点へと向かい、目的の場所に視線を向ける。

 

「――――、あ」

 

そこには、奇跡が存在していた。

円陣を組むように骸骨の群れが中心にいる二つの影を取り囲み、その影を押し潰さんと怒涛の勢いで迫っていく。

だが、その勢いは影が放つ二つの軌跡によって阻まれる。

首、腕、腰、足――その全てを断ち切られ、瓦解していく骸骨達。

その鋭さは、遠巻きに見てなお美しいと思わせる。

 

「嘘……敵性反応消失――十、二十、三十……なんて、速さですか」

 

マシュも目の前の光景に圧倒されている。

言い方は悪いが、マシュは確かに強いけど、素人目に見ても粗削りな感じが否めない。

力任せというか、性能頼りというか。少し前まで普通の女の子だったんだから、当たり前なんだけど。

だからこそ、自分とは圧倒的に違う強さを持つ、目の前の奇跡を体現したサーヴァントに魅入られているのだろう。

でも、サーヴァントは一体と聞いていたけど、じゃあ、もうひとつの影の正体は?

 

煤けた灰に覆われた雲が動き、月光がその姿を晒す。

まるで、あの中心にいる二人を祝福するように。

 

そうして――私は、二度目の奇跡を拝むことになる。

 

「――暮宮、さん」

 

奇跡の体現者のもう一人。

それは、購いの対象であり、憧れの人であり。私が、とても強く惹かれた存在。

彼のサーヴァントと思わしき少女。その手には黄金を携え、黄金のポニーテールを振り回しながら、優雅に敵をひとつ、ひとつと駆逐していく。

暮宮さんと黄金のサーヴァントは、互いが互いの死角を補うように背中を合わせ、目の前の敵を屠っていく。

呼吸をするように無駄のない連携を取る姿は、歴戦の友のよう。

そんな雄々しくも美しい光景を目の当たりにして――私の胸は、ちくりと痛んだ。

 

 





Q:ぐだ子ってどんな子?
A:言える範囲で書くなら、レイシフト適正100%以外はただの一般人で、正しくあれという考えを基盤に生きている少女。間違いを起こしてしまった時、普段の明るい性格が一変して卑屈になったり消極的になったりと、トラウマでもあるかのような反応を見せる。それ以外は普通の女の子です。

Q:マシュ強い……強くない?
A:ゲームのように単体で鯖を圧倒できる雑魚なんていません。その代わり、数の暴力に頼ります。

Q:主人公&リリィ無双
A:どっちも実力者ですから(ただし一方は勘違い)


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01~リリィの憧憬~

今日も団子初級で回すお仕事が始まるお……。
フェストドロップせえへんねん……一枚は交換したけど、それ以上はきついねん……。
取り敢えず、モニュメントは全回収したいねん……。

あ、それと色々思うところがあったので、主人公に関する描写を少し修正しています。まだキャラが立ってない状態だからへーきへーき。


――選定の岩に深々と突き刺さる黄金を前に、息を呑む。

見る者を等しく魅了させる魔力を秘めたそれは、王を選定する為の、王たる象徴である。

誰しもがその剣を手に取るも、決して抜くことは叶わなかった。

高名な騎士でも、名だたる諸侯でも、例外はない。等しく理想を胸に、現実を突きつけられていった。

マーリンは、私をこの場に誘い込んだ。その意味は、まだ分からない。

ただ、彼はこう忠告してきた。

 

「これを抜けば、君は王として祝福されるだろう。しかしそれは同時に、君の運命を否応なく決定づけることになる。同時に、人であることもね。後悔しても、呪いを吐こうとも、奇跡に縋っても。決して、変わることはない。――それでも、君は王になるかい?」

 

試すようで確信を持って問われた言葉に、私は静かに行動を以て示す。

柄を手に、一息。ゆっくりと、感触を名残惜しむように、引き抜いた。

喜びは、ない。どこまでも予定調和染みていて、実感が沸かない。

 

それでも、私は王となった。

望んだ未来だ。それが例え、示し合わされた結果だとしても。この選択に間違いはない、筈だ。

そうだ。こんなにも、未来は明るい。

蛮族に怯えて暮らす無辜の民、それを護るために命を懸ける騎士といった、かけがえのない国民を導く。私には、その力がある筈なのだ。

選ばれたと言うのは、つまりそういうこと。

ならば、臆している暇なんてない。

人間であることを止めてでも、私はブリテンを救いたいと思っていた。それぐらい、愛しているのだ。

 

――それなのに、いざ王になってしまえば湧きあがる不安と焦燥感。

ブリテンという国そのものを背負ったという事実が、選定の剣を通して重く圧し掛かる。

それでも、決して弱さを見せることは出来ない。

騎士としての実力も不足している上に、政治に関しても秀でている訳でもない。

如何に選定の剣を抜いたとして、本質が変わる訳ではない。

 

 

足りない、あまりにも、足りない。

 

 

だからせめて、明るく振舞おうと思った。王が明るく振舞えば、民の不安も少しは安らぐだろうと思ったから。

今の私には、その程度の事しか出来ない。

 

 

足りない、あまりにも――

 

 

王とは何なのか、かくあるべきなのか、それさえも不明瞭。

だからこそ、自分に出来ることを全力でやるしかない。

手探りでも、徒労であろうとも。

 

 

――ならば、求めろ。己が望む王を。理想の憧憬を。

 

 

王となって数年。研鑽を重ねながらも悶々と不安を抱えたまま日々を過ごしていた、そんな時だった。

一人静かに王としての知識を学んでいる時、眼前に不思議な光が奔流する。

濃密なマナの渦が、私を飲み込まんと勢いを増す。

このような未知を前に、私は何故か逃げようとは思わなかった。

月並みな言葉になるが――この光の先に、私の求める"答え"があるような気がして、躊躇われたのだ。

 

王になったばかりで何も成していない自分が、まるで逃げるようにいなくなってしまったら、この国はどうなるのだろうか。

好奇心と理性がせめぎ合っている時、マーリンの声が聞こえた。

 

『――ふむ、その光の先に、因果律が収束する地点があるね。原因は不明だけど、どうやら君がその先に進むことは確定しているらしい。ということは、これはきっと、君が王になる為に必要な試練なんだろう。なら、行ってくるといい。テコ入れなら私がやっておくから、気にすることはないよ』

 

誘惑を後押しする一言を前に、私は唾を飲み込む。

恐る恐る、手を光に向けて伸ばす。

指先に微かに触れた瞬間――抵抗する暇もないほどの力で呑みこまれた。

驚愕に動きが僅かに止まった、その刹那。頭の中に、私の知らない知識が一瞬で送り込まれてくる。

聖杯、サーヴァント、マスター……脳を蹂躙される痛みに耐えながら、その意味を咀嚼していく。

そして理解できたのは、英霊の座と呼ばれる場所に何故か登録され、とあるマスターに召喚されようとしていること。

 

理解は出来た。しかし、解せない。

私はこの知識で言う所の英霊足る格を持ち合わせているとは思えない。

何故、私なのか。間違いではないのか。

そんな疑問に答える者はいない。

しかし、これがマーリンの言う通り、試練だと言うのならば。それを終えることが、私の――いや、ブリテンの繁栄に繋がるとするならば。

 

引き寄せられる感覚に身を委ね、精神を落ち着かせる。

選定の剣を抜くときと同じぐらいに緊張しているのが分かる。

何事も初めては緊張するものだとサー・ケイも言っていたが、なるほど確かにその通りだ。

未熟ながらも王である私を隷属させる力を持つ人間が、マスターとなるとするならば。その者から色々と学ぶことが出来るかもしれない。

しかし、その逆も然り。悪逆の限りを尽くす外道がマスターとなる可能性だってある。

もしその時は――覚悟を決めなければならないだろう。

気を引き締め、その瞬間を待った。

 

 

――光を抜けた先私は、鈍色の軌跡に祝福された。

 

 

この世の者とは思えない深く、悍ましい悲鳴が鼓膜に響く。

しかし、本来ならここで持つ不快感も、目の前の光景に目を奪われていた私には届かない。

足元まであるであろう長身の黒いコートに、革素材であしらえた赤いパーカーを下に着込んだ青年。彼こそ、

そして、その手に握る、片刃の長剣――確か、刀だったか。

純白の柄と、鈍色に妖しく光る極限まで洗練された刃。派手な装飾もないシンプルな構造なのに、選定の剣と同じ位に美しいと思った。

 

しかし、それに魅入られている暇はなかった。

私のマスターであろう青年の纏う剣呑な雰囲気によって、未知の連続を前に茹だっていた思考が冷却されていく。

襲い掛かる化生の者を斬り、カタナを鞘に戻した彼は、ゆっくりと私の方に振り返る。

目と目が合った瞬間――目を背けられないほどの圧倒的な自己が、私を呑みこまんと襲い掛かってきた。

 

彼はただ、こちらを振り返り立っているだけだ。

それなのに、動けない。身体が石になったかのように、指先の僅かさえ動かせない。

私は、王だ。選定の剣が選んだ、なるべくしてなった王だ。

そんな私が、彼の覇気を前に言葉を紡ぐことさえ出来ないでいる。

――悔しい。心の底からそう思うと同時に、私は歓喜さえしていた。

間違いなく、彼はマスターとして最高峰の逸材だ。これが初めての召喚である自分でも、はっきりと公言出来る。

 

そして、彼が軽く目を伏せた途端に場の空気が弛緩していく。

突然の出来事に、変に勢いよく息を吸って咽そうになったが、ぐっと堪えて整える。

彼は、間違いなく私を試していた。吟味し、見極めようとしていた。私が、彼のパートナー足り得るかどうかを。

……答えはない、が――及第点程度は貰えたと勝手に解釈することにした。

ならば、無様をこれ以上晒すことは許されない。

評価が地の底であろうと、並であろうと、彼を失望させてしまえば同じこと。

これからの私は、常に上り調子でなければ許されないだろうから。

 

「初めまして。私はセイバーのサーヴァント、ですが――まだ半人前なので、セイバー・リリィとお呼びください」

 

こういう場での礼儀が分からないので、せめてもの挨拶をする。

 

「……暮宮那岐だ」

 

少し遅れる形で、マスターも名前を預けてくれた。

……いや、私の場合はただの記号であって、本名を預けてはいない時点で対等とは程遠い。

そも、サーヴァントとは使い魔――つまり、彼にとっての道具のようなものでしかない。ならば、呼び方にこだわる理由もない筈だ。

事実、彼はそのことに対して何も返してこない。不満がある訳ではない多少の証拠にはなる。

 

「マスター、外に複数の敵を察知しました。状況は分かりませんが、私が殲滅してきます。マスターは待機を」

 

ともあれ、この場は未だ敵陣の中。悠長に事を構えている暇はない。

この剣がどれほど通用するかを見極めると同時に、彼の期待に応えることのできる唯一の役目を逃す道理はない。

 

「待て」

 

しかし、そんな逸る思いを一喝するように、静止の言葉が室内から飛び出さんとした私の背中に刺さる。

 

「この一帯、どこにも安全な場所なんてない。俺を護る為の選択なのは分かるが、そう思うなら共に行動していた方がいい」

 

……確かに、その通りだ。

敵の絶対数も不明、待機するよう告げた室内は、倒壊寸前の廃屋。

マスターの安全を優先するのであれば、あまりにも外れた作戦だ。

私は愚かだ。先んじてマスターに自分の価値を証明したいとばかり逸った結果、危うく空回りするところだった。

失望、されただろうか。

 

「――大丈夫。邪魔にはならないさ」

 

しかし、そんな私の心境を悟ったかのように、マスターは先程よりも落ち着いた調子で答えてくれた。

私の浅ましい考えを汲んだ上で、私を立てようとしてくれている。

悔しさに打ち震える身体は、次第に理性を取り戻していく。

――期待、されている。故に、もう無様は晒せない。

 

「ありがとうございます、マスター。では、共に往きましょう。その背中、微力ながら守らせて戴きます」

 

マスターは頷き、どちらともなく屋外へと飛び出した。

そして待ち構えていた化生の群れを、互いの獲物を以て薙ぎ払う。

黄金と鈍色という対照的な輝きが、地獄を抜け出す活路を開く。

夥しい数の骸骨の群れが、古ぼけた剣やら槍を構えてこちらに襲い掛かる。

しかし、遅い。欠伸が出る程に。

数ばかり多くて統率が取れておらず、我先にと迫るせいで動きに精彩を欠いている。

ただでさえそんな状態なのに、敵の動きそのものも、訓練された兵士に比べて遥かに劣る。

魔力で動いていることもあってか、人間とは違い筋力の制約のない馬鹿力で武器を振るうが、獲物の長さで同族を巻き込んでさえいる始末。

未熟者の私でさえ、雑魚と言い張れる程度の、数だけの存在。

これでは、彼に実力を評価してもらうにはあまりにも不相応だ。

 

気が緩んだのだろう。私の意識は、次第にマスターの方に向けられる。

彼もまた、つまらなそうに眉間に皺を寄せて敵を一掃している。

サーヴァントである私には敵ではないとしても、人間にとっては十分脅威となり得る数と力だ。

しかし、それさえも彼にとっては関係のない話だと言わんばかりに、美麗な一振りを以て殲滅していく。

形状からして、敵の攻撃を受けることも出来なければ、使い方を誤れば簡単に折れてしまうであろう極限まで鋭利になるように特化された剣。それがカタナ。

こと斬ると言うだけならば、これだけ優れたものはそうないだろう。

 

しかしその多様性の薄い斬ることに特化した形状は、必然的に使う者を選ぶ。

片刃しかない為、返しによる斬撃が出来ない上に、突けば骨に当たった時点で砕けてしまうだろう。

だが、剣閃に一切のブレがなければ、それは万象一切を切り裂く至高の一撃と化す。

首を、胴を、腕を、足を。状況に適した部位を、一撃の下に寸断していく。

無意識に唾を呑みこむ。

私の知っている円卓の実力者ほどではないにしても、その強さは召喚の際に贈られた知識による、現代の一般人の基準を遥かに凌駕している。

単純な剣術のぶつかり合いなら、下手をすればマスターに分配が上がるのではないだろうか。

 

その可能性に至った途端、口元が吊り上がる。

嬉しいのだ。こんなにも素晴らしいマスターと共に戦えて。その背中を護ることが出来て。

次第に私自身も昂り、剣に込める力がより一層増していく。

マスターもまた、カタナを振るう速度を上げていく。

それから数分も経たない内に、次第に数を増やしていき、最後には百を優に超えていた化生は、全て物言わぬ残骸と成り果てた。

 

「お疲れ様です、マスター」

 

「ああ」

 

互いに軽く息を吐き、顔を見合わせる。

マスターの全容をきちんと見るのは、これが初めてになる。

童顔の部類に入る顔立ちながらも、青年としての面影を残しており、その眼光の鋭さは修羅場を知る者のそれ。

この時代の人間にしては珍しい、淀みのない白髪は、煙に乗った粉塵によって多少煤けているも、その色は失われていない。

自然と、その姿を見入っていた。

カリスマ、と言えばいいのだろうか。少なくとも、未熟者の私に比べて、余程他者を導くに相応しい能力がある。

彼がマスターで本当に良かったと、改めて認識する。

だって、マスターのような手本から、王となるべき素養を学ぶことが出来るのだから。

 

「ここにもう用はない、別の拠点を探そう。取り敢えず、あちらにでも向かおうか」

 

マスターの指差す方から、強い魔力反応を感知する。

魔力の正体が何にせよ、有力な情報には繋がりそうだ。

私はマスターの言葉に頷き、移動を開始した。

 




Q:(日記じゃ)ないじゃん。
A:せやな。

Q:主人公、強くね?
A:少なくとも、本人は高スペックなので無意識に凄いことやっている可能性はある。自覚無しだから、勘違い。イイネ?

Q:リリィと同程度の剣術って、どれぐらい?
A:紅茶から護りの要素を抜いたぐらいかな。流石にしょぼすぎるか?(ぇ

Q:リリィ可愛い
A:ずっとこのままのリリィでいてくれよな~頼むよ~


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02

ゴールデンな彼がガチャに登場するようですが、ピックアップ鯖ゴールデン以外持ってるから回すべきか悩み中。
そんなことより曜日AP緩和+超級追加や、ログインボーナスの新規見直しが嬉しいです。
ダ・ヴィンチちゃんの所で再臨素材交換できるようになればいいなぁ……。


○月γ日

 

骸骨との死闘を切り抜けてすぐのこと。なんと、理子ちゃんとマシュちゃんと合流することが出来た。

あの爆発の中生き残ってこの場に連れてこられた自分と同じく、もしかしたらと思っていたことが現実になってくれて、本当に嬉しい。

 

しかし、マシュちゃんよ。その恰好はなんですとばい!

潰されていた身体は五体満足になっていたことは喜ばしい限りなんですが――お召し物がヤヴァイ。

白いパーカーを羽織っていたほんわか眼鏡女子が、今やへそ出し魅惑の盾持ち系女子になってるんだもの。お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはないです!!(迫真)

 

それにしても、この場に居る女子のレベルの高さが半端じゃない件。

理子ちゃんはスタンダードに可愛いし、マシュちゃんは童顔+良スタイルの持ち主だし、リリィは騎士王とのギャップでつい愛でたくなってしまう。

あれ?この状況ってハーレムじゃね?

……ないわ。書いておいてなんだけど、ないわ。

伊達に女っ気のない人生を送ってないし、そんな展開になるわけないじゃないですかー。

尊敬できる方の兄貴は、一匹狼みたいな性格しているのに美人の嫁さんもいれば、子供までいるって言うのに。

駄目な方の兄貴は、何か二人の女性にいつも追いかけられてるし。羨ましくないけどさ、アレに関しては。

 

兄貴と言えば、尊敬できる方の兄貴はそういえば居合道をやっていたなぁ。すぐやめたけど。

辞めた理由が、周囲のレベルが低すぎるって理由な辺り、らしいと言えばらしいけど。

実際、駄目な方も含めて自分は兄貴相手に一度も喧嘩で勝ったことはない。

喧嘩と言っても殴り合いではなく、何でもありの異種格闘技みたいな感じだけど。

尊敬できる方の兄貴は、模造刀と格闘。駄目な方は長剣のレプリカと銃(と言っても違法改造したエアガンだけど)を得意としていた。

自分は……特にない。あるとすれば、兄貴達に唯一勝っている腕力ぐらいか。

何でも屋での仕事も、土方仕事ではよく頼られたものだ。まさか人生で、やかんの口から直接麦茶を飲む日が来るとは思わなかったよ。

 

そんな理由から、自分は重量のある武器で怒涛に攻める方が性に合っている。適当にぶん回すだけでいいから楽だし。

逆に言えば、今持っている刀みたいな繊細な武器だと、使い方が雑になってしまう。

尊敬出来る方の兄貴みたいに抜きから納めにかけて視認できないレベルの抜刀なんて出来ないし、馬鹿兄貴みたいにどんな奇天烈な体勢でも百発百中の射撃を行える精密さもない。

この腕力ぐらいしか取り柄がないせいで、技術に関してはどんどんからっきしになっていく。

それでも兄貴達にそれなりに喰らいついて行けてたし、まんざら悪くはないんだけどね。

 

てか、書いてて尊敬できると駄目な方とか書くの面倒になってきたから、これからは尊敬できる方を兄貴(鬼)、駄目な方を兄貴(駄)としよう。

前者が鬼な理由は、シゴキが鬼のようだったから。後者はそのまんまだ。

 

……そういえば、自分がいなくなって何でも屋はきちんと運営出来ているのかな。

自分ひとり抜けたぐらいでと思うかもしれないけど、片や一匹狼の協調性皆無で、片や適当で刹那的快楽主義者の兄貴達だと、自分がやっていた集団行動を強いられる派遣は間違いなく無理だし、本当にどうすんだ。下手したら信用問題だぞ。

誰かがやるしかないんだろうけど、兄貴達ならどっちも嫌がって今頃暴れていそうだなぁ。まぁ、どうせそうなっても親父にノされているんだろうけどさ。

最悪、あの二人なら自力で異世界越えとかして自分を連れて帰ろうとしてきそうだけど……流石にないよね?

 

戦闘はもっぱらリリィとマシュちゃん頼りで進んでいると、カルデアで所長と呼ばれていた女性を見つけた。

名前はオルガマリー・アニムスフィア。カルデアで魔術師達を相手に堂々と説明していた時は、高圧的ながらも理性的な印象だったが、今では少々ヒステリックさが際立った印象を受けている。

でも、それが普通なんだ。

こんな状況で冷静さを取り繕える方が普通はどうかしている。

自分は兄貴達の影響もあって割とすんなり慣れた。自分でも勝てる程度の相手だってことも大きい。

それはそれとして、オルガマリーさんが自分に視線を合わせようとしないのが、地味に傷ついた。何故だー!!

 

あと、なんでマシュちゃん頼りにしているかって言うと、何かサーヴァントと合体したらしくて、疑似的に理子ちゃんをマスターとしたサーヴァントになっているらしいから。

実際、あの大盾を軽々と扱う姿を見て、納得するしかない。

それでも、戦い慣れてない感はあるのは仕方ない。それを補って余りあるパワーがあるし、今のところは問題ないんじゃないかな。リリィもいるし。

 

マシュちゃんとリリィは、同じサーヴァントとして未熟者だということで、すっかり意気投合しちゃってる。仲良きことは素晴らしきかな。

対して、未熟なマスター組である自分と理子ちゃんは――なんか、距離があります。

理子ちゃんが初めて会った時に比べて、積極的じゃないというか。

なら自分から行けよベイベーとか思うだろうけど、それが出来れば苦労しない。

友人は少ない方で、口数が少ない自分は喋るのが下手糞だと自負している。

だから、必要なこと以外は出来るだけ喋らないようにしている。つい、変なこと言いそうになるから。

この時世、安易な言葉がセクハラに繋がるなんて当たり前だし。

そんな理由で、どうにももどかしい関係になってしまっている。まぁ、これから改善できることを祈ろう(努力するとは言っていない)

 

そうして、オルガマリーさんをリーダーに色々と行動を開始した。

レイシフト?の機能が壊れているせいで戻ることは出来ないらしいので、探索を継続。

大橋にて自分達マスター候補のやるべきことについて、オルガマリーさんから説教のような形で改めて説明された。理子ちゃんがレムレムしていたせいです。

でも、シールダーなんて初めて聞いたなぁ。自分が知らないだけで、色々増えているんだろうなぁ。派生作品とかあるっぽいし。

 

そうしている内に協会跡地に辿り着き――サーヴァントに遭遇した。

しかし、その姿は正常とは言いがたかった。

黒いオーラを纏い、形が漠然と掴めないが、あれはライダーだ。確か、メドゥーサだったか。

骸骨なんかとは違う、肌に刺さる指向性を持つ殺意が、リリィ達の身体を軽く強張らせている。

逃げるなんて、無理だ。相手はどんな地形だろうと蜘蛛のように縦横無尽に移動できる機動力を持っている。

二人だけならともかく、人間である自分ら三人は足手纏いになる。

 

結果だけ言えば、二対一の戦いでありながら、自分達を護りながらというハンデを背負った戦闘はこちらの辛勝で終わった。

だが、ロマニから更に複数のサーヴァントが来ていると言う情報を得て、尻尾巻いて逃げ出すことにした。馬鹿野郎お前俺は逃げるぞお前!

 

あの黒いライダーは、冬木の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントだけど、人類の未来が途絶えたターニングポイントたる出来事が原因で、あんな歪な形となっているらしい。

良くわからないが、マスターがいなくても行動できるサーヴァントで、厄介極まりないことだけは分かる。

便宜上、あのタイプをシャドウサーヴァントと定義することにした。

そして、逃げる自分達に対して、アサシンのサーヴァント――ハサンと、ランサーと呼ばれた知らないサーヴァントが立ちはだかった。

戦闘能力の低いハサンにさえ苦戦していたと言うのに、後続で現れたランサーのサーヴァントの存在が、皆に絶望を叩きつける。

逃げられないなら、戦うしかない。マシュちゃんもリリィも、必死に戦った。

それでも、及ばない。

少女達の肢体は傷に侵されていき、一歩、また一歩と死への階段を昇らせる。

自分は、それをただ眺めることしか出来ない。

 

刀の柄を、血が滲む程握り締める。

何もできない自分が、悔しかった。

彼女達が死ぬと言う事実を、許容できない。

それは、自分が死ぬと言うことよりも怖いことで。

決して、認めてはいけないもので。

ならば、どうする?どうしなければならない?

脳裏に先程から響く声と、自分の想いがシンクロする。

内側から湧き上がる、渇望と呼ぶべき感情が、ひとつの言葉を紡ぎ出した。

 

その瞬間、意識が弾けて、何かが交わるような感覚に引っ張られる。

自分が自分じゃなくなるような、中身を無理矢理挿げ替えられるような、強引な剥離と接合。

何度もバラバラになりそうな苦痛が一瞬の内に襲いかかってきて――そこからの、意識はない。

 

気が付いた時には、二体のサーヴァントが何分割にも身体を分かち、消滅していく姿が目に入った。

訳が分からない状況を前に、突然全身に激痛が走る。

呼吸もままならない。膝から崩れ落ちていく肉体を制御できない。

再び意識を落とす瞬間、リリィの今にも泣きそうな表情が映ったのが印象的だった。

 

んで、もっかい気が付いたら、何故かキャスターになっている青タイツことクー・フーリンが一緒にいたでござる。

しかも、シャドウ化もしていないし、理子ちゃんと仮契約しているとのこと。

サーヴァントって、複数契約したら実質魔力倍取られると思うんだけど、いいのかな。それとも、また自分の知らない裏技でどうにかなってるのかな。

更に、自分がくたばっている間にマシュちゃんが宝具を展開できるようになったらしい。ていうか、使えなかったんだ。

護りに特化したものらしく、これで対軍宝具が来ても安泰だ。

取り敢えずキャスターの青タイツ――もうキャスニキでいいや。キャスニキはリリィに対して思うところがあるらしく、事あるごとにちらちら見ている。

でもそれ以上に、自分に絡んでくる。

 

「俺がランサーだったら、真っ先にお前と手合わせしたいところだが……本当、キャスターで現界したことが悔やまれるぜ」

 

だの、

 

「いや、やっぱりキャスターでもいいからやってみねぇか?あ、でもルーンは先に刻ませてくれ。流石に負ける」

 

とか、訳の分からない提案を事あるごとにしてくる。

いやいや、負けるのはこっちですから。キャスターでも無理ですから。

知ってはいたけど、キャスニキはどこか戦闘狂のきらいがあるよね。まぁ、逸話が逸話だしね。

でも、戦闘したいからって一般人に絡まないでください。

でもリリィにも絡まないでね、リリィの尻撫でようとしたの知ってるんだからな?

リリィは天使なんだから、お触りは厳禁なんだよ。まぁ、ポーズだけなのはなんとなく分かってたけどさ。

てか、仮にも騎士王相手によくそんなこと出来ますね。アンタ、聖杯戦争で普通に殺し合ってましたよね?

 

理子ちゃんが大丈夫かと尋ねてくるものだから、大丈夫だと答えても納得してくれない。

どうしてかを尋ねると、どうやらあの意識がなくなっている間の自分はおかしかったらしい。

具体的にどう?と質問しても、言葉を濁すばかり。

……でも、何となく分かってしまった。

 

自分には、とある癖がある。それは、感情が昂ると喋ることが英語になってしまうことだ。

これは自分に限らず、うちの男共の共通の癖であり、多分親父の教育のせいだ。

親父が欧米人で、母親は日本人というハーフになるべくしてなった俺達は、外国で暮らしていたせいもあって、英語自体はそれなりに喋ることは出来る。

それでも自分は日本に居た時期の方が長いので、癖になっているとしたら、親父のスパルタ教育のせいだ。

失敗すれば事あるごとに口汚い英語で罵倒されることもあって、影響されたんだろう。

まぁ、日本語ぺらぺーらなのにいきなり英語喋り始めたらそりゃ大丈夫かと心配されるわな。

理子ちゃんは優しいから、そこんところオブラートに包もうとしてくれたっぽいけど。

 

それはそれとして、今は大聖杯に向けて歩を進めている。

何でもそこに、セイバーがいるらしい。

大聖杯の最奥にセイバー……それって、もしかしてセイバー・オルタだったりする?

マジかよ……流石に勝てないだろそれ……。

シールダー、セイバー、キャスター。バランスは取れているように見えるけど、熟練者はキャスターのみ。

前衛が抜かれてしまえば、熟練者と言えどキャスターではオルタを止めるのは不可能だろう。

実際、すぐにオルタの正体はキャスニキから明かされた――と思いきや、別の声によって遮られた。

 

その姿、シャドウ化しても忘れる筈もない。

英霊エミヤ。抑止の守護者にして、正義の味方の成れの果て。

リリィはエミヤの発言に戸惑い、エミヤ自身もリリィの存在に戸惑っている。

本来在るべき形とは違う、ズレた因果がここに集う。

エミヤはオルタを護っているらしく、倒さなければ先に進めない。

ならば、戦うしか道はない。互いに思うところがあれど、その感情に引かれている場合ではない。

 

戦いは始まった。

エミヤとリリィが切り結び、キャスニキに時折放たれる矢や剣をマシュちゃんが防ぐ。

数では有利と思いきや、彼の得意の投影が不利を一気に押し上げる。

絨毯爆撃のような剣の雨が、絶え間なく降り注ぐ。

リリィの能力では、エミヤに投影を行わせないほどの攻めは行えない。

増してや、彼はアーサー王の剣筋を知る者。リリィのそれは、彼にとって非常に読みやすいものであっただろう。

一進一退の攻防。差し引きゼロの戦闘は、リリィとマシュちゃんに深いダメージを負わせながらも、勝利をもぎ取ることが出来た。

エミヤの最期は、リリィへの警告で終わりを告げた。

 

この先に待つのは、リリィにとっての可能性のひとつ。

非道を以て国を束ねることを是とした、孤独に破滅した王。

リリィにとって、決して避けては通れない現実。目を逸らしてはいけない未来。

それを理解して尚、リリィは震えている。

そんな彼女の弱々しい姿を見て――つい、頭を撫でてしまった。

慰めたかった?気持ちを落ち着かせたかった?

多分、どっちもなんだろう。

マスターとしても役に立たない自分には、それぐらいしか役に立てることはないだろうし。

微力ながらも彼女の慰めに貢献した結果、リリィも何とか気を持ち直してくれたことで、最奥まで進むことにする。

……絶対、みんなで生きて帰ろう。そう心に誓って。

 




Q:日記長い……長くない?
A:現状、情報量が多いせいです。もう少し後になればすっきりすると信じてる。

Q:主人公の家族スペックどうなってんの(強さ的な意味で)
A:全員合わせれば、その気になれば世界を滅ぼせてもおかしくない気がする。

Q:アサシンとランサーが死んだ!
A:マシュとリリィの柔肌傷つけたから残当

Q:キャスニキいいとこなし
A:それも全部、暮宮那岐って奴の仕業なんだ



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02~ぐだ子の戦慄~

今回、少し雑かもしれません。
あ、あとうちのオルタが遂にドレス姿になりました。今ではマイルーム在住メンバーの一人で、トップの実力者です。ヴラドは二番目落ちしました。リミゼロあれば……。




 

暮宮さんの戦闘を見届けた私とマシュは、すぐさま彼と合流を果たした。

私達の存在にもさして驚いた様子もなく、当然と言わんばかりに静かな対応をされた。こっちは凄く心配したって言うのに……ズルい。

 

彼と一緒にいたサーヴァントは、予想通り彼が召喚した英霊らしい。

しかも、その正体があの名高い騎士王、アーサー・ペンドラゴンだと言うのだから驚きだ。

更に言うと、女の子だったということにもね。しかも、すっごく可愛いの。

真っ白なドレスもひらひらしてて、髪はさらさらの金色で、スレンダーな体形の中にも程よく引き締まった筋肉があって、全部の相乗効果で黄金比と呼べるほどの完成された肢体を維持している。

あ、でも胸の大きさなら勝ってるかも。……勝ってるよね?

王様だから厳格なイメージがあったけど、リリィちゃん――本人がそう呼んでほしいと言ったのでそう定義する――は王様になりたての状態から召喚されたらしく、まだまだ未熟者だと謙虚かつ丁寧に答えてくれた。

少し固い感じはするけど、壁があると言うよりも、同年代の同性との付き合い方が分かってない感じだった。

ああ、そんな不器用なところも可愛い。なでなでしたい。

本当、ランスロットとかモードレッドは駄目だね!こんないい子を裏切るとかさ!

 

それにしても、暮宮さんが召喚したなら、リリィちゃんではなく全盛期のアーサー王が出てきてもおかしくないと思ったけど、どうなんだろう。

リリィちゃんが悪いわけでは全然ないんだけど、彼ならもっと凄いサーヴァントを呼べてもおかしくないなーってね。

それこそ、ギリシャの大英雄ヘラクレスとか、英雄王ギルガメッシュとかさ。

触媒のない召喚は、召喚者と近しい存在を引き寄せるらしいけど、リリィちゃんと暮宮さんは全然似てないと思う。

うーん、分かんないや。

 

道中はマシュとリリィちゃんを前線に立たせ、骸骨を倒していく。

暮宮さんと私は、後方でついていくだけ。

時折奇襲してくる骸骨は、暮宮さんの一太刀であっさりと沈む為、数で押されて抜かれたとしても何ら問題はない。

というか、暮宮さんいつ刀抜いてるの?いつの間にか斬られてるってことしか認識できないんですけど。

サーヴァントでセイバーのクラスであるリリィちゃんでさえ、彼の居合は万全の状態でも斬られる可能性が高いと太鼓判を押されている。

本当に、暮宮さんって何者?頼もしいからいいんだけど。

 

そんな疑問を抱えている内に、オルガマリー所長が襲われているところに出くわし、救出。

誰もが彼女もここにいるなんて思っていなかったし、そもそも忘れていたんじゃないかな。まぁ、生きていて何よりである。

そんな所長だけど、初対面の態度が悪かったせいで、事あるごとに辛辣に当たられる。

そりゃあ、自分はマスターとしても未熟な訳ですし?知識もないですし?緊急時に私みたいな素人を頼らないといけないって思うと、怒りたくなる気持ちも分かりますし?

でも、だからって私ばかりに当たらないで欲しい。

 

見てて分かるけど、所長は暮宮さんには一言も声を掛けないし、目も合わせない。意図的に意識の外に追い遣ろうとしているのが透けて見える。

臆病な性格なのは嫌という程理解したけど、それにしたって無視は酷すぎる。

所長だって彼の護衛でこれから助けられていくことになるっていうのに、あんまりだ。

暮宮さんが何も言わない以上、私が口出す問題じゃないことは分かっている。

だけど、こんな空気で旅をして人類を救えるとは思えない。

時間が解決してくれると信じたいけど、そんな悠長に事を構えていられるのか、私には分からない。

 

それよりも重大なことが起きた。敵対するサーヴァントが現れたのだ。

真っ黒の霧がヒトガタになったような造形のそれは、マシュやリリィよりも強かった。

二対一なのに徐々に押されていく中、辛くも勝利を収めたのも束の間。ロマンによる増援の報告が送られる。しかも複数。

マシュもリリィも継戦するには消耗しすぎているし、一体であの状態なら、今度こそ敗北は必至。

私はマシュと所長の手を取り、駆ける。暮宮さんもリリィちゃんをサポートしながら走る。

だけど、相手は英霊。私達のようなただの人間が逃げ切れるほど、容易い相手ではない。

建物や瓦礫を足場に、地形を無視した跳躍で私達を追い回す。

結局、あっさりと追い付かれてしまい、マシュとリリィちゃんに二体のサーヴァントの迎撃に出てもらうも、勝ちの芽は、ない。

もうダメ――そう、諦めかけた時。

 

「――give me more power!!」

 

縋るような、渇望するような言葉が、暮宮さんの口から流暢な英語で紡がれる。

彼を中心に爆発的に高まるプレッシャー。後に、このプレッシャーの正体が魔力だと所長から説明される。

瞬間的な魔力の高まりを前に、サーヴァント達の動きが鈍り、マシュ達は辛うじて回避に成功する。

そこからの光景は、未だに現実かと疑うものだった。

 

暮宮さんが腰を軽く落として刀に手を掛けたかと思うと、瞬きした後には既にその姿はなく。

トドメの一撃を加えようとしたランサーの腕が、宙を舞う。

誰もが――斬られたランサーでさえも――理解するのに数秒を要したことだろう。

ランサーの腕が地面に落ちた音が響いた途端、停止した時間が動き出し、ランサーの悲鳴が鼓膜を揺さぶる。

しかし、それさえも煩わしいと、いつの間にかランサーの背後に回っていた暮宮さんが、その胸倉を鷲掴みにしたかと思うと、片手で軽々と地面に叩きつけた。

陥没する地面は、まるでクレーターのようで、その威力がどれほどのものかを証明していた。

目下の脅威が暮宮さんだと判断したアサシンのサーヴァントがその隙に攻撃しようとするも、あろうことか彼は刀を目にも止まらぬ速さで回したかと思うと、投擲してきたダガーを盾の要領で叩き落としていく。

そして、親指を地面に突きつけて、挑発。

嘗めているのか、と。その程度か、と。

 

アサシンの雰囲気がより鋭くなり、先程以上に苛烈な攻撃が暮宮さんに襲い掛かるも、それさえも届かない。

ダガーをすべて消費したのか、アサシンの動きに一瞬動揺が見られる。そこに、暮宮さんは付け入った。

一息でアサシンの懐に迫ったかと思うと、刀ではなく拳だけでアサシンを一方的に攻め立てていく。

デンプシーロールからのアッパーカットで遥か上空まで吹き飛ばし、同じ高度まで飛んだかと思うと、アサシンの足を掴んで自身もろとも空中で超速度で回転する。まるでサーカスの空中ブランコみたいだ。

遠心力を全開に利用した回転が最高潮に達すると共に、アサシンの身体を地面に叩きつけた。

ランサーの時とは比べ物にならない威力で放たれたそれは、小規模な地震さえ引き起こした程。

それでも、流石英霊と言うべきか。死ぬには至っていない。

ランサーも再び立ち上がって、無数にある背中の武器で怒涛に攻めるも、使う武器ひとつひとつを一刀の下に切り捨てられ、丸腰になった所で四肢をバラバラに切り裂かれた。

アサシンも、ランサー以下の耐久性で受けたダメージはまともに回復する様子はなく、あっさりとランサーと同じ末路を辿った。

 

誰も、声を出せない。

目の前の光景を、今になっても信じられないせいもあるが、恐らく――みんなが彼を恐れている。

英霊より強い人間。サーヴァントのように令呪による楔もない、解き放たれた獣。

所長は怯え、マシュは警戒を露わにしている。

一触即発な雰囲気の中、暮宮さんは――その場に崩れ落ちた。

その姿をすぐさま抱き留めたのは、リリィちゃんだった。

何故倒れたのか、なんてことは誰にも分からない。

 

そんな私達の混乱を他所に、新たなサーヴァントが現れた。

青髪のサーヴァントは、自らをキャスターと名乗る。

本来なら加勢するつもりだったが、暮宮さんのせいでタイミングを逸したとのこと。

どうにも、彼はこの狂った聖杯戦争の唯一の生存者であり、同時にこの聖杯戦争を終わらせようと行動しているらしい。

私達がシャドウサーヴァントと呼ぶことになったあの黒いサーヴァントは、ここで行われた聖杯戦争で召喚されたらしく、セイバーの手に掛けられた者は等しくこうなったとのこと。

つまり、セイバーを倒すことが出来れば、この異変は収まる可能性が高い。

でもキャスターではセイバーとの相性は最悪。一人で挑んでも勝てる相手ではないとのことで、私達に目を付けた、というのが彼の弁だ。

嬉しい提案ではあるけれど、それよりも暮宮さんだ。

追ってのことは、彼を安静にさせてからということで、取り敢えずの終着点とした。

 

それから半日は経っただろうか。暮宮さんは目を覚まさない。

睡眠を必要としないリリィちゃんが夜に見張り番をして、日中は私が彼を看てリリィちゃんの回復に当たらせる。

静かに寝息を立てており、私の知る限り苦しんだりする様子はなかった。

電池が切れて動かなくなった人形みたいに倒れたのを見る限り、あの戦闘で一気に身体が限界まで消耗したのかもしれない。

 

……少しだけ、安堵する。

恐怖からではない。いや、別の意味でなら、恐い。

彼の強さは未知数だ。あれが限界なのか、それさえも計り知れない。

だからこそ、これかも彼はこんな状態になるのではないかと、不安になる。

マシュもリリィちゃんも――私も、弱い。彼に比べたら、まるで赤子だ。

彼がこの状況に巻き込まれたのは、恐らく偶然だ。だと言うのに、今や問題解決の中心になりつつあり、こうして倒れるにまで至っている。

情けない。その一言に尽きる。

マシュもだけど、特にリリィちゃんが深刻そうに語ってきた。

サーヴァントとマスターという関係上、護るべき相手に護られることの屈辱と、その事態を打開し得ない自らの無力さへの嘆き。

私はただ、その言葉を聞き届けることしか出来ない。

 

そんな時、キャスターが重い腰を上げた。

辛気臭いと一蹴し、挑発し、リリィに剣を抜かせた。

そこからは、リリィちゃんとキャスターの一騎打ち。

本来ならキャスターに勝ちの芽は見えないカードだが、精彩を欠いているセイバーの剣では、如何にキャスターと言えど百戦錬磨のその身体に傷をつけることは出来ず、子供をからかうように魔術でセイバーをあしらっていく。

キャスターもキャスターで、杖をまるで槍のように扱ってなおリリィを上回る技術を持っていることに、驚きを隠せない。

キャスターは魔術を使うことに長けたクラスだと聞いていたが、まさか彼の本職はランサークラスではないだろうか。

 

不毛とも言える戦いが終わりを告げたのは、リリィちゃんが剣を降ろしたことによってだった。

キャスターが、リリィちゃんの混乱した頭をすっきりさせる為に、敢えてあんな行動を取ったのだと意図を理解したことで、最早この戦いに意味はないことも理解したらしい。

リリィちゃんの謝罪と感謝の言葉で、その場は締めくくられた。

 

その後、マシュの方に矛先が向く。

彼女も先程宝具の展開が出来ないことを口に出しており、それがキャスターの何かに触れたらしい。

ここにいる全員を殺すと公言し、防ぎたければ抗えと。

所長は騒ぎ立てたけど、リリィちゃんが気絶させた。グッジョブ。

……キャスターは本気だ。だけど、それを止めようとは思わない。私も、リリィちゃんも。

これを乗り越えられなければ、遅かれ早かれ同じ末路を辿るだけ。

弱ければ死に、強ければ生きる。そんな当たり前が、私達が立つこの地には蔓延っている。

こんな取っ掛かりで躓くようなら、いっそここで終わってしまった方が、きっと良い。

死ぬのは怖い。それでも――それが逃れられない運命だと言うのなら、せめて光明を見出す一手が見たい。

それに、マシュはきっとやってくれる。そんな確信があった。

 

かくして、その希望(ゆめ)は現実となる。

キャスターの宝具―灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)が解き放たれ、私達を圧殺せんと迫るその瞬間、マシュの盾を中心に巨大な魔方陣による盾が展開され、巨大な炎の塊の全てを受け止めた。

マシュが宝具を展開できなかった理由は、前提を履き違えていたからだとキャスターは言う。

護る為の力。それが、マシュに備わった力の指向性であり、彼女自身の願望でもあった。

しかし、宿った英霊の名を理解するには至らなかったようで、そこは残念だったけど、分からないものは仕方ない。

復活した所長がまたあれこれ五月蠅かったけど、何とかなだめたり宝具の名前を仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)にしたりとあれこれしている内に、暮宮さんが目を覚ました。

 

暮宮さん曰く、少し頭がくらくらする程度で、命に別状があるとかそういうことはないらしい。

それよりも、私が過剰に心配するものだから何があったのかと勘繰り出したぐらいである。

別に隠している訳ではないので、素直に私が見て思ったことを話した。

暮宮さんは、それに対して何も語らなかった。

だけど、私は見逃さなかった。彼の表情に僅かばかりの影が差したのを。

思えば、普段の彼は表情を崩すことはないが、サーヴァント二体を葬ったあの時は、明らかに感情が昂っていた。

だけど、今はそんな雰囲気は一切纏っていない。私の知っている暮宮さんだ。

なら、それでいい。あの時の彼はとても頼りになったけど……なんとなく、あんな風にはさせてはいけないと感じていたから。

そうさせないためにも、私も何かできることがあればしないと。彼に任せきりなんて、そんな甘い考えが許される筈がないもんね。




Q:主人公無双
A:序の口なんだよなぁ……

Q:殴りはともかく、叩きつけに鯖にダメ与えられるの?
A:まだ語られないけど、独自設定を考えています。多分、序章終わっての閑話辺りで語られると思う。

Q:マシュの視点はあるの?
A:謎の多いキャラで、あまり触れられないんだ、すまない……。


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02~リリィの覚悟~

ブーディカから生まれたい(梶田並感)
駄目ならマタ・ハリでもカーミラでも許せる。

あ、それと今回長いです。いつもより3000字ぐらい。
何年も小説書いてるけど、未だに戦闘描写は慣れん。ボキャブラリーが貧困だから、精細な描写が出来ないねん。


廃屋の崩れる音も炎の弾ける音も聞こえない僻地の、更にその奥。

私達は、大聖杯があるとされる洞窟の奥深くに足を運んでいる。

頭上から水の滴る音が静謐な空間に広がっていく。

誰も言葉を口にしない。

緊張からか、それともそれ以外の何かがあるのか。

何にせよ、不気味なまでに静かな空間が形成されている事実に変わりはなく、それによって更なる緊張感が走ると言った悪循環が出来上がってしまっている。

私もまた、考えることがありすぎてそんな状況を打破する余裕がない。

 

オルガマリーによって語られる、マスターである暮宮那岐の圧倒的な強さについて。

曰く、強さ自体ならそこまで特別視するところではない、らしい。

英霊という存在が規格外であることは確かだが、だからと言って現代の魔術師が対抗できないかと言われれば、決してそうではない。

相性の有無もあるが、英霊である以前に人型であるからには、相応の弱点も存在する。かくいう私も、竜の心臓を宿している為、竜特攻の武器で攻撃されればひとたまりもない。

単純にダメージが大きいだけならともかく、弱点を受けた瞬間に一般人でも勝てるレベルにまで能力がダウンすると言ったように、その手の弱点はたった一発で致命傷になり得るものは決して少なくない。

だからこそ、聖杯戦争においてサーヴァントの真名を秘匿することが重要なのである。

補足すると、マスターはそんな弱点を考慮せずに、自身の実力のみで打倒していることもまた、異常性に拍車をかけている。

シャドウサーヴァントが宝具も使えず、理性的とは言えない精神状態であることを考慮に入れても、やはり納得は出来ないというのが、オルガマリーを初めとしたカルデアの面々の評価である。

納得できないながらも、その場はどうにか話は収まった。カルデアに帰還した後、マスターがどのような目に合うかは分からないが、面倒なことになるのは確かだろう。

 

とはいえ、私にとってはそんなことは重要ではない。

問題は、サーヴァントである私が、マスターに戦闘面で遥かに劣ると言う事実。

未熟者だなんて、言い訳にはならない。

ここは戦場なのだ。敵側にしてみても、私達の都合が介在する意味がない。

敵は敵。弱ければ都合がいいが、味方がそうであるならば、その限りではない。

サーヴァントである自分で勝てない相手を、マスターが仕留める。この時点でおかしいのだ。

従者が主に剣を取らせ、何もせずに寛いでいるのと何ら変わりない。

私が求められているのは、戦うこと。そして、勝利をマスターに捧げること。

それさえ出来ない私に、何の価値がある――?

 

マーリンは言った。これは、私が王になる為に必要な試練だと。

私には、その意味がだんだんと測りかねてきていた。

確かに本質的な意味では、王に戦う力は必要ないのかもしれない。

しかし、それは国が繁栄し安定している場合であって、今のブリテンはそれとは真逆。

土地は干上がり食料の供給もままならず、そもそも王国にさえも金がない上に、野党や蛮族の脅威は増え続けるばかり。

打開策を必死に考えるも、一時凌ぎどころか目に見えない所でマイナスが働いてくると言う、あまりにも絶望的な状況。

そんな国の王が戦う為の力を持たないだなんて、笑い話にもならない。

お飾りの王には、誰もついてこない。だから、力を求めた。

その結果が、今の私。求められた役割ひとつこなせない木偶の坊。

 

実際問題、私はこの場において戦力レベルで言えば、菅野理子やオルガマリーと言った戦闘能力を持たない人間を勘定に入れない場合、マシュと同列ぐらいだろうか。

否、マシュのシールダ―という唯一性を考えると、剣を振るうことしかできない自分と違い、替えが利かない立場を有している彼女よりも下とさえ言える。

キャスターである彼にさえ、先の私の冷静さを取り戻す為の戦いであしらわれる始末だったと考えると、何も言い訳出来ない。

それに、マシュは宝具を展開出来るようになったが、私は――

 

「――さて、もうすぐ目的地な訳だが」

 

キャスターから端を発した言葉は、無意識に私達に緊張を帯びさせる。

 

「そろそろ、重要なことを話しておくか」

 

「重要な、話?」

 

「ああ。これから戦うことになるセイバー、ソイツがどんな奴かをな」

 

「それって、真名を看破してるってこと?それなら、なんですぐに言わなかったのかしら、キャスターのサーヴァント」

 

如何にも不満だと口調や表情に現しながら、オルガマリーが問いかける。

 

「そりゃあ、ある程度嬢ちゃん達が落ち着くまで待ってたからさ。盾の嬢ちゃんはともかく、剣の嬢ちゃんにはちと刺激が強い話題になるからな」

 

「私にとって、ですか」

 

含みのある物言いで、キャスターがそう答える。

 

「奴の真名は、あの宝具を見ちまったら誰だって分かるだろうってぐらい有名なものだ。同時にその強力さから、見た瞬間さよならってことにもなりかねない、馬鹿げた代物だがな」

 

「それは、どういう――」

 

「――その極光は王の証であり、振りかざせばその悉くを呑みこむ光を吐き出す竜の息吹と化す。この時代においても有名な、黄金の聖剣」

 

マシュの問いかけを遮るように、洞窟の奥から聞き覚えのない声が響く。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。騎士王として名を馳せた、誉れ高い王。アーサー・ペンドラゴンの持つ剣だ」

 

――脳が、揺さぶられる。

この男は、今、何と言った?

 

刹那、私達の動揺に付け入るように数多の矢が襲い掛かる。

しかし、唯一冷静だったキャスターが、ルーン魔術による防御結界を展開したことで、辛うじて迎撃に成功する。

 

「言ってる傍から騎士王の信者様のご登場と来たか。相変わらずのようで、面倒極まりねぇぜ。なぁ、アーチャー」

 

「信者などになったつもりはない、が――これも仕事でな。つまらん来客を追い返すぐらいのことはするさ」

 

堂々たる足取りで暗闇から顔を出したのは、黒塗りの弓を携えた白髪の青年だった。

鷹を彷彿とさせる鋭い眼力と、弓兵にも関わらず前線に堂々と現れた事実を前に、誰もが警戒を露わにする。

 

「待って、待ってください!アーチャーのサーヴァント、貴方は先程、何と言いましたか!?」

 

キャスターとアーチャーの問答にオルガマリーが割って入る。

アーチャーの視線が此方を一瞥すべく左から右に流れていき――私と目が合った。

そして、気付く。殆どが漆黒に染まるその表情が、僅かばかりに動揺を見せたことに。

 

「君は――なるほど、何とも奇異な運命だ」

 

「質問に答えなさいっ」

 

「答える義理はない。そも、私の憶測が正しければ――白百合の騎士。君はその話を聞くべきではない」

 

ほんの一瞬。見間違いかと疑う程の刹那が生んだ、憐憫の色を宿した瞳を、私は確かに見た。

 

「何を、勝手な」

 

「これは忠告だ。身綺麗な少女のまま在れるのであれば、それに越したことはない」

 

アーチャーののらりくらりと私の言葉を避けようとする姿勢が癪に障る。

言いしれぬ不安が、私を焦らせる。

あの地獄を生み出したのが、アーサーだと――私自身だと言うのなら。

私の理想の果ては、そんな悪逆の王だと言うのなら。

私は、一体何のために選定の剣を抜いたと言うのか。

 

「――ふん、やはり君は違う。どうにも君も、とある部分においては彼女と同じらしい。なら、まだ戻れる。再度言うが、手遅れにならない内に――」

 

「おうおう、随分とお熱じゃねぇか。同じ面だからか?アレに比べたら、よっぽど愛で甲斐があるのは分かるが、俺達はその先に用があるんだ。テメェの頭ん中で完結してる説教を聞く為じゃねぇ」

 

饒舌に語るアーチャーの言葉を、キャスターが無理矢理断ち切る。

 

「そうか、それは失礼した。失礼ついでに、彼女を連れてとっととここから立ち去れ」

 

「――は、そうかい。やっぱ嫌いだわ、テメェのこと」

 

「私は最初から気に食わなかったがな」

 

両者の間で、一触即発の雰囲気が漂う。

 

「キャスターさん、冷静に。貴方が前に出ては、私の存在の意味がなくなります」

 

マシュがキャスターの前に立ち、大盾を構える。

自分よりも圧倒的に強者であることを肌で感じつつも、それでも盾の役割を果たさんと前に出る姿に、キャスターは感心する。

 

「――っと、悪ィな。冷静ではあったんだが、どうにも腹の虫が収まらなくてな」

 

「リリィさんも、今は集中してください。思うところがあるのは分かりますが、彼に問いたださずとも、先に進めば分かることです」

 

マシュの言葉に背中を押され、私は剣をアーチャーに向けて構える。

 

「三対一か……問題はないな」

 

アーチャーは二振りの剣をその手に顕現させ、静かに構える。

 

「アーチャーなのに、剣……?」

 

「弓兵が剣を使って悪いなんてことはなかろう。そら、行くぞー―!!」

 

瞬間、あろうことかアーチャーは双剣を左右に展開するように投擲した。

まさか獲物を手放すか、と予想外の展開に動きが鈍る。

だが、そこで驚きは止まらない。

彼の手には新たにまったく同じ剣が握られており、それも先程より低い軌道で投擲する。

計4本の剣が私を封じ込める牢獄を形成する。

 

「嘗めるな――!!」

 

魔力を爆発させ、疑似的な衝撃波を展開する。

左右からの剣の軌道をずらし、遅れて来た対の剣を薙ぎ払う。

 

「遅い」

 

再びアーチャーを見据えた時、眼前に矢が迫っていた。

数にして、百は下らない。

軌道からして、キャスターどころか、マスターにまで届く距離だ。

 

「――仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

マシュの宝具が、私以外の全員を防護壁で包み込む。

放たれた矢の悉くを弾き飛ばし、それでいてなお堅牢さは健在。

あれを打ち破るならば、宝具の真名解放ぐらいしなければ到底突破は不可能だろう。

 

「リリィさん!自分の事に集中してください。皆さんは、私が護ります!!」

 

「そっちはそっちで自由にやりな、嬢ちゃん!」

 

マシュとキャスターの力強い後押しに、剣を握る手に力が籠る。

後ろを心配する必要がないことが分かれば、存分にこの剣を振るえる――!!

 

「――押し通らせていただきます!」

 

魔力を推進剤に、一気にアーチャーの懐まで迫る。

ただの弓兵ならば、この状況に対応は不可能。しかし――

 

「ふっ――!!」

 

アーチャーの双剣によって自身の一撃を軽くいなされる。

まるですべて想定していたかのような、完璧な対応。

だが、それもまた想定の範囲内。

最早彼を弓兵のカテゴリに当て嵌める愚は犯さない。

他にも幾つも隠し玉を持っていると心構えをしておけば、決して対応できないレベルではない。

 

「アーチャーが、セイバーである私と剣技で勝負するつもりですか?」

 

「生憎、弓だけが取り柄ではないものでね。それに、そのアーチャーに一太刀も入れられないのでは、セイバーの名が泣くぞ?」

 

「言われなくても――!!」

 

だが、そんな意気込みとは裏腹に、何度剣を交えても届く気配はない。

私の剣は確かに未熟だが、それでも円卓の騎士達の戦いを間近に見てきた者としては、決して私の剣技がアーチャーのそれに劣っているだなんて思えない。思いたくない。

 

私の目から見ても、彼の剣技は才能あるものとは到底思えない。

凡夫が努力に努力を重ねて、刃を研ぎ続けた境地。

故も名もないただの鉄を、名を連ねる英雄の武具クラスにまで昇華させるのと同じ苦行の果てに身に着けたであろうそれは、決して才能ある剣に劣るものではない。

しかし、それだけが理由だろうか。

負け惜しみでも何でもなく、あまりにも私の剣筋に対して、最適解を出し過ぎている気がする。

そして、何度も交えた剣戟の果てに、彼の鷹のような目が私の剣筋を正確に目で追っていることに気付いた。

 

「考え事とは、余裕だな騎士姫よ」

 

鍔迫り合いの最中、一瞬の隙を突かれて押し込まれ、その反動で距離を取られる。

バックステップと同時にアーチャーは三度双剣を投擲し、再び矢を放とうとする。

 

「させるかよ、ausuz(アンサズ)――!!」

 

その一手を、キャスターのルーン魔術が妨害する。

無数の炎の塊が、苦し紛れに打った矢もろとも焼き尽くしながら、アーチャーの行動を制限していく。

 

「ちっ――面倒な男だよ、貴様は」

 

「俺には矢除けの加護があるからな。さっきみてぇな矢の雨ならともかく、数本程度の矢じゃ俺は仕留められねぇよ」

 

「えっ、それ初耳なんですけど」

 

「わりぃ、忘れてた」

 

「そんな重要なこと、最初に言いなさいよ!ていうか菅野理子、貴方マスターならステータスの確認できるでしょうが!」

 

「ご、ごめんなさ~い!」

 

……アーチャーから同情の視線が送られてくる。

気のせいではない、間違いなく、今この瞬間の空気は、どうしようもなく緩んでいた。

 

「……まぁ、何だ。私達は私達で続けようか」

 

「そう、ですね」

 

取り敢えず後ろの声は聴かなかったことにして、仕切り直す。

敵ではあるのでしょうけれど、今のやり取りで彼が善人であることは何となく分かってしまった。

 

「して、騎士姫よ。再び問うが……この先に待つは、地獄だぞ。きっと君にとって、目を背けたくなるようなモノが存在している。それでも、進むのか?」

 

アーチャーの真剣な声色を前に、身体が強張るのが分かる。

それは、私の中に迷いがある証拠に他ならない。

 

「……正直な所、恐いです。あの街の惨劇が、私の行き着く先が引き起こしたものかもしれないと思うと、震えが止まらなくなりそうです」

 

「―――――」

 

「しかし、私は王なのです。民を導く為の器が、不完全であってはならない。だから、逃げる訳にはいかないのです。逃げてしまえば、私は一生不完全のままだ」

 

「立ち向かった結果、満たすもの等しく毒に変える器になろうともか?」

 

「ならば、更にその上から清浄な雫で毒を流し尽くすまで。たとえ、幾星霜の果てにあろうとも、諦める理由にはなりません」

 

それが、私の出した答え。

元より私は、王になる為の試練としてこの場に顕現したのであって、未来の自分と向き合うことが試練だと言うのならば、是非もない。

それに――私は一人ではない。

マシュ、キャスター、――そして、我がマスターである暮宮那岐。

理子やオルガマリーも、戦えずとも立派な仲間だ。

彼女達が後ろから見守ってくれているだけで、力が滾る。

マシュではないが、私も本質は護る者なのだろう。

それを王の資質というには些かちっぽけだが――それでも、無根拠よりはまだましだ。

 

「それが、君の答えか」

 

「はい。若輩者の戯言と思われても結構。斜に構えて現実的な判断しか下せない王になど、なりたくないですから」

 

「……なら、その意思を試させてもらう。ここで折れるようならば、それまでのこと」

 

アーチャーは新たに見慣れた二対の剣を握る。

これまでとは違う、ただならぬ雰囲気を彼から感じ取った私は、より一層の警戒をして待ち受ける。

 

「はっ――!!」

 

今までとは異なる、捻りのない正面からの投擲。

あまりにも不可解なそれを、私は難なく弾き飛ばす。

後方に弾き飛ばされたそれを見送ることもせず、再びアーチャーを見据える。

 

「―――鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

謳うような音が、アーチャーの口から紡がれる。

同時に山なりに放たれる二対の剣。

それは私の首を狩らんと、的確に左右から迫る。

身体を一歩分引き、一度の斬撃で軌道を逸らす。

だが、それからが本番だった。

 

心技 泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)――」

 

双剣を手に一気に距離を詰めて斬りかかるアーチャーの斬撃を打ち返す。

――瞬間、ぞわり、と背中が粟立つ感覚が走った。

逡巡する思考の中、私は全力で身体を捻る。

 

「がっ――!!」

 

脇腹に痛みと熱が迸る。

深々と刺さる対の剣の内の一本。

それが、先程弾き飛ばしたものだと気付くのに、時間はかからなかった。

誘い込まれた。気付けど既に遅く、正面からの斬撃が迫る。

 

「ああああああ!!」

 

無理な体勢から、更に無理矢理身体を動かし双剣を弾く。

その結果、刺さった剣は更に深く身体へと沈んでいく。

骨まで届いた。しかし、そんな事実に大きな意味はない。

重要なのは、ここで一時でも意識を落とすようなことがあれば、待つのは死だということ。

 

「――心技 黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)

 

見慣れていた双剣が、その言葉と共に変化を始める。

砕けるような音を立てて誇大化し、本来の大きさの優に二倍を超える姿へと変容する。

それを対に構える姿は、まるで人が翼を得たかのような、異質なれど幻想的な光景を生んでいた。

無慈悲に振り下ろされる二つの刃。それは断頭台の如く私の命を刈り取らんと迫りくる。

 

「(避け――否、防御――間に合わない、カウンター――相手の方が速い)」

 

死が迫る中、加速する思考が反撃の糸口を冷静に潰していく。

これまで、なのか――?

 

「リリィさん――!!」

 

私が次に見た光景は、鮮血舞う大地ではなく、火花散る仲間の背中だった。

マシュの持つ大盾が、アーチャーの一撃をまとめて受け止めている。

 

「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、そらそら――!!」

 

アーチャーの側面から放たれた火炎弾は、吸い寄せられるようにその身体を炎に染め上げた。

 

「ぐっ――小癪な真似をする!!」

 

苦し紛れにバックステップで距離を取り、誇大化した剣をマシュに向けて投げつける。

 

「――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

瞬間、音を置き去りにして剣が爆発を起こす。

予想外の一手と威力を前に、マシュの身体は大きく吹き飛ばされる。

 

「あああああっ!!」

 

「マシュ――」

 

「振り返るな、セイバー!!嬢ちゃんの身を挺して作ったチャンスをふいにする気か!」

 

キャスターの怒号を前に、私は後方に振り返ることを踏みとどまる。

そうだ。アーチャーはキャスターの魔術を直撃して、動きに精彩を欠いている。

距離も10メートルあるかないかの、一息で迫れる距離。ならば、ここで攻めなくていつ攻める?

 

「アーチャー!!」

 

「――――ッ」

 

放出した魔力を蹴り、アーチャーへと肉薄する。

彼もまた距離を取ろうとするが、それさえも上回る速度で懐に入り込む。

双剣を交差させ、防御の姿勢を取るアーチャーを、防御の上から斬り上げる。

 

「ハァアアアアアッ!!」

 

両腕が打ち上がり胴が晒された所に、斬り上げの勢いをそのままに身体を回転させる。

肉に更に食い込んでいく剣の痛みを必死に堪え、勢いは決して緩めない。

左肩に掛けて袈裟に切り捨てた。

しん、と洞窟内が静まり返る。

響くのは、私とアーチャーから吐かれる荒い息遣いのみ。

 

「――――何故」

 

剣を振り下ろした体勢のまま、アーチャーに問う。

触れ合えるほどの距離で、互いが聞こえるだけの声量。私達二人以外に、この会話は聞き取れない。

 

「貴方が先程剣を爆発させた技を使えば、とっくに私は死んでいた。攻撃があのような形で命中した時点で、私は詰みだった。――何故、加減をしたのです」

 

口元から血を垂らしながらも、皮肉な笑みで彼は答える。

 

「さて、な。敢えて答えるなら――そもそも、私は最初から敗北者だった、ということだよ」

 

「それは、どういう――」

 

「……君の決意が、どこまで本物か。せいぜい座から見守っていることにしよう。――さらばだ、■■■■■」

 

今際の際に口に出されたそれは、とても馴染み深いもので。だけど、彼が知る筈もないもので。

問い返そうとするも、それより早く彼の肉体が粒子に還っていく。

胸の中に言いようのないしこりを残し、戦いは終わりを告げた。

 

「リリィさん!」

 

マシュが盾を投げ捨て私の下に駆け寄る。

アーチャーの消失と共に剣が消えたことで、大量の血が一気に噴き出す。

激痛と失血による眩暈で、身体が崩れ落ちるところを間一髪マシュに抱えられる。

 

「リリィちゃん、大丈夫!?」

 

「リコ……ええ、なんとか」

 

涙目で私の傍に寄る菅野理子を見て、苦し気にも微笑む。

 

「よくやった、ってところか」

 

「キャスター……いえ、貴方の援護があったからこそです」

 

「一応キャスターとして現界されたからには、これぐらいはな。――しっかし、性に合わないったらありゃしねぇ」

 

後ろ頭を掻いてそうぼやくキャスター。

真名は未だに知らないが、この言動を聞く限りだと彼にはもっと相応しいクラスがあるのだろう。

それも恐らく、三騎士の内のどれか。それも、セイバーかランサーのどちらか。

 

「そんなことより、邪魔よ!!」

 

オルガマリーが息を切らせながら、私の患部へと手を添えて治癒魔術を発動させる。

龍の心臓がもたらすオドの後押しもあって、傷はみるみる内に塞がっていく。

オルガマリーの魔術の腕が相当なものというのも、大きな一助となっていた。

 

「ありがとうございます、オルガマリー」

 

「全く……あんな男に手間取っているようでどうするのよ?これからが本番だっていうのに」

 

オルガマリーの厳しい言葉の中に、確かな優しさを感じる。

……そうだ。気を抜いてばかりもいられない。

次が本番なのだ。この戦いは、いわば前哨戦。

これぐらいで立ち止まっているようでは、話にならない。

 

ふと、マスターの姿を横目に捉える。

彼の視線は、アーチャーが消えた場所をただじっと見つめている。

どこか望郷の念を孕んだそれは、どうにも不可解で。

 

「マスター、彼を――アーチャーを知っているのですか?」

 

ふと、そんな質問を投げかけていた。

それに呼応して、一斉に皆がマスターの方へ視線を向ける。

 

「――彼は、夢に呪われた果てに行き着いた存在だ。正義の味方というな」

 

「夢に――呪われた?」

 

「夢を叶えられず、挫折した者は永遠にその夢に縛られる。救われたければ叶えるしかない。それが出来なければ――それは最早、夢なんて綺麗なものではなく、ただの呪いに成り下がる」

 

「……貴方がその果てを知っているってことは――彼とは知り合いなのですか?」

 

「いいや。俺が一方的に知っているだけだ」

 

マシュの疑問をそう切り返すマスターの表情は、一方的な知り合いというにはあまりにも情念を感じられる。

そもそも、英霊である彼を一方的に知っているという時点で、理解が及ばない。

この場にいる誰もが、暮宮那岐という青年に対して、新たな疑惑を抱いたことだろう。

 

「――疑問は置いておきましょう。異変を解決しないことにはおちおち聞きたいことも聞けないわ」

 

オルガマリーの提案に、一斉に頷く。

幸い、表面上の傷は癒えている。魔力ダメージが多少残っているが、斬られただけなので大きく動きを阻害することはない。

立ち上がり、私の先陣の下最下層を目指す。何があっても取り乱さない覚悟を心に添えて。

 




ネタバレ:次回は三人称視点の勘違い/Zero

Q:主人公 is 空気
A:ガチで何もしてません。周囲からは、敢えて戦ってないんだなと思われてます。

Q:オルガマリーちゃんまじ白衣の天使
A:本当にそろそろ天使になるけどね(白目)

Q:こんな戦闘力で次大丈夫か?
A:一人だけボスクラスの仲間がいるので……(鯖とは言っていない)


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~GRAND BATTLE 1/2~

ゲームが面白くて、FGOがイベントしてくれなくて腐ってたけど、持ち直した。
でも、APを吸われた思い出が強烈に残っている。リトライ事件だったり、林檎でAP回復してプレイ出来なくなったり、回復して即メンテだったり、言葉もないね。

でもまぁ、ハロエリちゃんが強くて可愛いからトントンかな。他の鯖もこれぐらい再臨楽にしてくれよな~頼むよ~

あ、でもガチャでムーンセル出るのは許せないかな。キャス弧もプチデビルもないし、アイテム回収でお流れかなぁ……。


洞窟を歩き続け、遂に最奥へと辿り着く。

狭い通路を抜けた先には、先程までの道が嘘のように広大な世界が広がっており、誰しもがその異質な光景に息を呑む。

地下深くである筈なのに、天井はまるで雲に覆われているかのように暗黒で満たされており、それ以上に目を惹いたのが、切り立った絶壁の上に鎮座している、大聖杯の存在だった。

 

「あれが……大聖杯?」

 

理子が虚げに呟く。

ただ見ているだけなのに、呑まれてしまいそうな錯覚が彼女を襲うも、何とか堪える。

 

「なんて馬鹿げた魔術炉心なの……?こんな超抜級のものが、辺鄙な極東の島国にあるっていうのよ……」

 

カルデアで幾多の神秘を目撃してきたオルガマリーでさえも動揺するレベルの聖遺物。

ただそれだけで、目の前の存在がどれだけの代物であるかを想像するのは、容易にして困難を極めた。

 

『どうやら、アインツベルンという錬金術の大家が制作したそうです。ホムンクルスのみで構成された、魔術協会に属さない一族のようですが……』

 

ロマニの関心と驚嘆がないまぜになった言葉は、リリィが突如として剣を構えたところで中断される。

 

「――そこにいるのは、誰だ」

 

どこか確信を持った声で虚空へと語りかける。

そして間もなく、大聖杯の影から悠然と現れる影。

 

「―――――」

 

それは、冒涜そのものだった。

顔つきはまさに瓜二つ。しかし、その発する覇気は真逆で。

見開いた眼球は、捉えるもの全てを塵芥と評しているかのように色を持たない。

鎧から籠手に掛けて漆黒と赤の紋様で染められたそれは、僅かな光によって鈍く光る。

そして――今まさに地面に突き立てられた、漆黒の剣。

光を呑みこむ程に黒く染め上げられたそれは、どこか見覚えのある造形をしている。

 

「う――そ、」

 

それは、誰の吐いた言葉だったのか。

事前に聞かされていたとはいえ、目の当たりにするまで信じられなかった。

それは、白百合の如く清廉な少女を間近に見てきた弊害か。

だが、最早間違える筈もない。――否定したくとも、眼前の光景が脳に焼き付いて決して離れない。

 

「分かっちゃあいるとは思うが……俺が言っていた奴は、アイツだ」

 

「――――ッ」

 

リリィの剣を握る手が、微かに震える。

当事者である彼女にとって、覚悟していたとはいえこの現実はあまりにも――

 

『そのよう、だね。変質してはいるけれど、彼女は間違いなく……』

 

ロマニも言い淀むが、それが確信の決定打となった。

外見が如何に歪になろうとも、その本質は決して変わらない。

アーサー・ペンドラゴン。合わせ鏡のようで、どこまでも別の存在が、互いに顔を合わせた瞬間だった。

 

「――ハ、どうした小娘。手が震えているぞ」

 

それに満足したかのように、墜ちた騎士王は頬を微かに吊り上げる。

騎士王は蛇のような視線で、リリィを射抜く。

同一存在と対峙したというのに、一切の動揺を見せる様子はない。

 

「……って、テメェ喋れたのかよ!だんまり決め込んでたのは無視しやがってたってことか!」

 

キャスターが食い気味に騎士王へと声を荒げる。

 

「どこに行けども目が光っているからな。策に乗るのは気に食わなかったというだけだ。――それよりも、だ」

 

ギロリ、と今度はマシュに対しても同じ眼光を向ける。

決して少なくない動揺を見せたマシュに対して、手前勝手に話を進めていく。

 

「そこのサーヴァント、貴様も随分と面白い。――共々構えろ、その剣と守りが真実かどうか確かめてやる」

 

宣告し、漆黒の剣を下に向けた構えを取る。

威圧感となって放たれていた魔力が、騎士王へと収束していく。

安定と不安定の波を繰り返し、今にも爆発しそうなまでに高まっていく。

 

「皆さん、下がって――!!」

 

マシュは地面に大楯を突き立て、魔力を集中させる。

 

「卑王鉄槌、極光は反転する……光を呑め――!!」

 

「宝具、解放します!!」

 

瞬間、互いの魔力は同時に解放される。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)――!!」

 

「――仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

光さえ呑みこむ黒濁の波濤が押し寄せる。

マシュの展開した極大の魔方陣の盾が、彼女を中心に波の軌道を逸らす。

しかし、その暴力的なまでの波動は、盾で遮られてなお勢いが削がれるどころか、徐々にマシュの身体を押すにまで至っていた。

 

「うぅ――ぅあああああああああ!!」

 

恐怖を叫びで掻き消し、大地を砕かんばかりに踏み込み、耐える。

呑まれれば、それで終わり。あの威圧感にも、墜ちた聖剣から放たれた暗黒そのどちらにも。

暗黒が地面を容赦なく抉り取るその光景は、まさに地獄の体現。

それから皆を護ることが出来るのは、自分しかいない。

脳裏にちらつく諦観と失意を飲み干し、永遠とも思える時間を耐える。

――そして、遂に終わりは訪れる。

 

「耐えたか。しかし――それまでか」

 

黒の聖剣を、まるでこびりついた血を飛ばすように軽く振りぬくと、同時にドサリと言う音が響く。

 

「理子!?」

 

オルガマリーが突如倒れた理子を支えるも、研究者である彼女が女性とは言え抵抗の一切ない肉体を支えられる筈もなく、同じくして倒れ伏す。

 

「ちっ――魔力切れかよ」

 

キャスターが失態と言わんばかりに舌打ちする。

即興の契約、そこから二人目のサーヴァントとのパスを繋げ、宝具まで何度も使用している。

そして、今回の宝具同士のぶつかり合いを制す為に、理子の魔力量を度外視してマシュが防御につぎ込んだ結果が、今の惨状だ。

適正レベルの低い彼女の魔力が今まで持ったのは、奇跡としか言いようがない。

 

「これでキャスターもただの案山子と成り下がったか。軟弱なマスターだと如何な英傑と言えどまともに武を振るうことさえ出来ない。哀れなことだ」

 

「マスターを……先輩を、馬鹿にしないでください」

 

「されど、事実だ。ただの一度耐えただけで勘違いしているかもしれんが、私は際限なくあの力を振るうことが出来る。魔力残量など、取るに足らん問題だ」

 

どこまでもはっきりと紡がれる言葉から、それが偽りでないことを如実に表していた。

この狂った聖杯戦争と、大聖杯の存在を考慮すると、墜ちた騎士王が大聖杯の魔力を余すところなく使えるとしても、何ら不思議ではない。

そもそも、耐えたと言えどマシュ本人もまた消耗が激しい。魔力残量があったとして、果たして二度目を耐えられたことか。

 

「――さぁ、どうする?戦えるのは小娘一人……いや、そうでもないか。だが、実質の戦力は貴様一人だぞ?」

 

再び蛇のような双眸がリリィを捉える。

息を呑み、黄金の剣の切っ先を騎士王に向ける。

 

「言われるまでもない」

 

「……是非もない。ならば、戯れと行こうか」

 

切り立った崖から降り、同じ目線の大地に騎士王は立つ。

 

「宝具は暫く封印してやる。せいぜい剣技で私を抜いてみろ」

 

その言葉を皮切りに、リリィが騎士王へと迫る。

言葉は不要、ただ剣で語るのみ。それを体現するように、魔力の解放と共に斬り結ぶ。

 

「ゼアアアアアッ――!!」

 

「――フ」

 

リリィの乾坤一擲の一撃は、騎士王の片手で握っただけの聖剣に阻まれる。

ただの一度で、彼我の戦力差が如何な物かを証明されてしまった。

しかし、リリィの心は揺れない。

未熟は承知の上で、かつ目の前の存在は未来の可能性である自分。弱いと思える訳がない。

片や一撃一撃を全力で振るい、片やそれを涼し気に受け止める。

ここまで差があるかと、驚嘆に値する。

自分にもそこに至れる潜在能力があるかもしれないという希望と、この状況を乗り越えられなければその希望も水泡に帰すだけという現実の板挟み。

 

「余裕だな。ならば、これでどうだ?」

 

そんな思考の揺らぎを、嘲笑うように付け入られる。

受け止めるだけの用途だった剣をリリィの剣戟に合わせ、思い切り弾き飛ばす。

辛うじて剣を手放すことはなかったが、手の痺れが尋常ではない。

そこからは、防戦一方だった。

先程の真逆とは到底言えない。立場は逆転すれど、遊びと全力の差まで逆転することはない。

 

「温い」

 

そう一蹴し、容赦のない蹴りがリリィの横腹に叩き込まれる。

地面を削り取り、勢いを殺さず岩壁へと激突する。

たった一撃で、状況は最悪へと追い込まれた。

――そもそも、やろうと思えばいつでも出来たのは、分かり切っていたこと。

騎士王にとっても、今の一撃は遊び程度のものだったに過ぎない。

生きた年月が違えど、同じ出自、同じ人生を歩むであろう同一存在で、ここまで差が出る。

それは、騎士王の人生が如何に苛烈で試練に満ちていたのかを表していた。

 

「ぐ――」

 

「マスターの素養は知らんが……サーヴァントは脆弱だな。まだ、あの盾の小娘の方が見所がある」

 

冷めた視線で、リリィの弱った姿を見下ろす。

しかし、その瞳には何も映っていない。興味を失った存在は、視界に映す事すら唾棄すべきことだと言わんばかりに、

 

「な、何してるのよセイバー!宝具でも何でも使って、反撃しなさい!」

 

オルガマリーの焦燥を孕んだ怒声に、リリィは答えない。

苦虫を噛み潰したような表情は、何かを訴えたくても出来ないもどかしさを表層化している。

 

「その様子だと、情報を開示していなかったらしいな。恥部を晒すことを恐れて、自尊心を優先したか。実に愚かだ」

 

「――――ッ」

 

騎士王の真っ直ぐな視線に耐え切れず、顔を逸らすリリィ。

 

「それは……どういうこと?」

 

「……まぁいい、戯れに教えてやろう。そもそも|勝利すべき黄金の剣(カリバーン)は|約束された勝利の剣(エクスカリバー)と同じ宝具であれど、元は式典・儀礼用の剣としての側面が強く、武器としての精度は遥かに劣る代物だ。そんなものに、龍の心臓という魔力増幅炉を宿した奴の、力任せな魔力を叩き込めばどうなると思う?」

 

「まさか……」

 

「早い話が壊れる、ということだ。魔力の津波を内側から受け、そのままの――いや、それ以上の力で吐き出せばそうもなる。確かに威力だけなら|約束された勝利の剣(エクスカリバー)に迫れるだろう。しかし、それだけで戦局を左右出来ると思わないことだ」

 

膝から崩れ落ちるオルガマリー。

マシュもキャスターも、差はあれど驚きを隠せないでいる。

自らの獲物を犠牲にした一回切りの使い捨ての宝具なぞ、役に立つ筈がない。

 

「那岐は……知っていたの?」

 

震えた声で閉口を貫いていた那岐にオルガマリーが問う。

しかし、彼は視線を逸らすだけで、何も答えない。

絶望を噛み締めて満足したのか、騎士王は多弁に言葉を続ける。

 

「私は貴様を知っているが、貴様は私を知らない。力も、知識も、精神も――私に勝てる要素など何一つ、ない」

 

聖剣の切っ先をリリィの喉元に突きつける。

絹のような肌に、紅い雫が線を描く。

 

「何故貴様がそのような半端で顕現したかは知らないが……無知な小娘のまま死ぬのが一番貴様にとっては幸福だろうさ」

 

それは、アーチャーにも言われた言葉。

召喚システムによる知識の恩恵を何故か受けられないリリィには、その言葉の重みが分からない。

口を揃えて、お前の未来は不幸しか存在しないと決めつけられている。

納得なんて、出来る筈もない。

 

「――ほう」

 

だらんと下げていた腕を振り上げ、突きつけられていた聖剣を弾く。

その反撃に思うところがあったのか、僅かにリリィへの関心を強める騎士王。

 

「勝手に――決めつけるな!私は、善き王となり、民を導く。艱難辛苦あれど、私の決意は揺るがない!如何な不幸が待ち構えていようとも、私は民を――ブリテンを護るんだ!!」

 

吠えるような、決意表明。

今までのリリィとは違う、力強い覇気。――王者の気質。

その芽が、微かに芽吹いた。

 

「その願望を、ブリテン島そのものが否定したとしても、か?」

 

「……?どういうことですか」

 

「――喋りすぎたか。まぁ、ここで死ねば意味のないこと」

 

騎士王が魔力を爆発させ、リリィと再び剣戟を始める。

先程よりも洗練され重い一撃が、目にも止まらぬ速さで襲い掛かる。

 

「ぐっ――――」

 

リリィは完全に防御に徹することしか出来ない。

ダメージは先程の会話の間で殆ど回復したが、それを塗り潰すような連撃に、状況は再び逼迫する。

 

「終わりだ」

 

幾重もの剣戟の果てに無防備になったリリィの首を、騎士王が一閃する――

 

「――『Die』」

 

戦いの音に紛れて聞こえた、凛とした音に、騎士王の脳が警鐘を鳴らす。

首を獲る筈だった一撃を無理矢理静止させ、横に全力に飛ぶ。

瞬間、騎士王の居た空間に、何本もの剣閃が走る。

騎士王は理解する。あの場に立っていたならば、四肢の余すところなく切断されていただろうと。

そして、確信を持ってそれを為した存在へと視線を向ける。

しかし既に、その姿はない。

 

「『Too slow』」

 

背後からの殺気に、振り向きざまに剣を振りぬく。

金属の擦れ合う音。獲物を交えたことで出来た刹那の時間、騎士王はその正体を視た。

白髪に刀を振るう姿。間違いなく、セイバー・リリィのマスター暮宮那岐である。

 

「チィッ――!!」

 

この戦いの中で初めて生まれた、焦り。

人間であり、神秘の価値も薄れた現代に生きる青年が、当たり前のように神秘の具現と互角の剣舞を行っている。

魔力放出による腕力での迎撃も、刀の腹に滑らせるようにいなされ、反撃に移られる。

サーヴァントという、本来の能力を抑圧された状態での顕現とはいえ、その能力は決して現代の人間に追い付けるレベルではない。

ましてや、大聖杯による全霊のバックアップを受けている状態。そんな縛りなどあってないに等しい、筈なのにだ。

一時距離を取り、体勢を立て直そうとする。

しかし、それに合わせるように紅い剣のようなものが襲い掛かる。

何本かは叩き落とすも、それでも捌ききれない数本が、肩や足を掠めたり突き刺さる。

 

「ハアアアアッ――!!」

 

魔力を聖剣に集中させ、地面を抉りながら思い切り振り上げ、魔力を解放する。

|卑王鉄槌(ヴォーティガーン)。|約束された勝利の剣(エクスカリバー)よりも威力は劣るが、篭める魔力の量を落とすことで速射性と連射性に特化した、彼女ならではの技。

威力が落ちたと言えど、人間一人を呑みこむぐらいは容易い魔力の刃が、那岐へと迫る。

 

「マスター!!」

 

リリィの叫びと共に、那岐の居た場所が闇に呑まれる。

非戦闘員の女性人はその光景に思わず目を背ける。

 

 

「――『Don't get so cocky!!』」

 

騎士王の真正面から、まるで瞬間移動したかのように現れた那岐。

光速と呼ぶに相応しい速度で、そのまま騎士王の横を走り抜いたかと思うと、騎士王の身体から一斉に血が噴き出す。

通り際に斬られたのだと気付くのに、血が出るまで気付けなかった。

あまりにも鋭く、無駄がない。自然な動きから放たれる一撃は、肉体にさえ痛みを悟らせないとでもいうのかと、遅れて来た痛みの中で思考する。

 

「『Lily!!』」

 

「――――ッ、はい!」

 

突如呼ばれた名に反応し、リリィは騎士王へと肉薄する。

二対一によって繰り出される挟撃。それはまるで鏡合わせのように、息の合った連撃は確実に騎士王に隙を突き、傷を負わせていく。

 

「調子に、乗るな――!!」

 

活路を開かんと突破口であろうリリィに対して、魔力放出による突進を試みる。

 

「『You're going down!』」

 

その刹那の隙に、那岐が割り込む。

鎧の襟を掴んだかと思うと、そのまま片手で地面へと騎士王を叩き付ける。

そのまま馬乗りになったかと思うと、容赦なく顔面を殴り始めた。

普通ならば嫌悪すべき光景。しかし、相手は暴力の具現であって、女として見て良い相手ではない。

 

「『It's over!!』」

 

トドメの大振りの一撃。耐え続けていた騎士王はそこに好機を見出す。

首を傾けてそれを回避したかと思うと、そのまま那岐の頭にヘッドバッドを繰り出す。

しかし魔力を込めたそれは、那岐の身体を逸らすどころか、遥か上空へと吹き飛ばす。

那岐から視線を外し、リリィに標的を移す。

 

「今度こそ、終わりだ」

 

「――ああ、テメェがな」

 

瞬間、騎士王の身体が業火に包まれる。

それに連続して、横からの衝撃で地面を這うように吹き飛ばされる。

 

「キャスター、貴様――!!」

 

「理子嬢ちゃんの魔力じゃ戦えないと言ったな?だがよ――手前の魔力絞り出しゃあ、これぐらいはできんだよ」

 

鬼の首を獲ったような不敵な笑みで答えるキャスター。

そして、衝撃の正体はマシュの盾による突進であることも、遅れながらに気付く。

 

「これで――終わりだああああああ!!」

 

気が付けば、眼前にリリィの剣閃が迫る。

慢心――そんな言葉が彼女の脳裏に過ぎる。

相手を侮り、玩弄し、そのツケを清算する時が来たのだ。

しかし――目の前の曇り鏡に引導を渡されるのだけは、許容できない。

アレに負けるのだけは、駄目だ。

 

「う――ああああああ!!」

 

騎士王は聖剣をリリィの振り下ろした剣に遅れる形で受け、地面は陥没し肉体が軋みを上げる。

最初とは真逆の立場になった現実が、騎士王の焦燥を後押しする。

魔力を聖剣へと集中させ、文字通り力押しで跳ね除けようとする。

しかし、出来ない。

聖杯との繋がりも途絶えておらず、魔力も潤沢である筈なのに、押し返せない。

次第に黒く染まった聖剣に、微かに罅が入る。

亀裂が徐々に拡大していく光景を、まるで他人事のように見つめる。

この剣が折れるなんて、有り得ない。しかし、それさえも何故か納得している自分がいることに、騎士王は自らを嘲笑する。

もし、この剣が折れると言うのなら、その時は――

そこで、思考が途切れる。

均衡を保っていた聖剣は硝子細工のように砕け散り、黄金が一筋の線となり騎士王の身体に煌めく。

 

「――――」

 

今際の際、思考が加速する。

思い返すは、生前の生涯。

この身は王故、その勤めを果たすべく奮闘してきた。

民の笑顔の為――そう考えて行動してきた筈なのに、いつしか国を生かす為に民を蔑ろにするようになった。

国を生かす為に、少しずつ民を犠牲にしていく。それが時間稼ぎにしか過ぎないと分かっていても、対策を講じる時間もなければ、起死回生に乗り出せる案もなく、果ては金もないと来ている。

滅びは必然。しかし、それを肯定してしまえば、礎となった者達に唾を吐くことになってしまう。

だから、止まることは出来なかった。それが例え、後世に暴虐の王として名を残す結果となってしまっても、歩みを止める訳にはいかなかった。

 

白無垢の如き目の前の幼い騎士は、置き去りにしてきた夢の跡だ。

ブリテンの未来が明るいことを絶対と信じてきた、無知で蒙昧で――どこまでも、純粋な頃。

何故、ここまで歪んでしまったのだろう。

やはり、私は王になるべきではなかったのか。マーリンの忠言を聞き入れず、勢いに任せた結果がこの結末だと言うのなら、私の生きた意味は、一体――

 

ふと、背中に感じる暖かな感触。

最早痛みも感じないというのに、その感覚だけは確かに感じられる。

虚ろになった目で見上げると、そこに居たのは吹き飛ばした筈の那岐だった。

頭蓋が陥没してもおかしくない一撃だったというのに、平然としているのを見て、最早笑うことしか出来ない。

 

「――道化だな、私は」

 

口元から、血が噴き出す。

そんな騎士王の姿を、固い表情で見守るリリィ。

 

「聖杯を護る、なんて勤めを忘れてしまったのも、やはり貴様の影響かな。セイバー」

 

小娘、としか評さなかった騎士王の口から漏れる、騎士として認められた証。

リリィはそれを複雑な表情で受け止める。

 

「――確かに、貴様はまだまだ未熟だろう。だが、私にはないものを持っている。敗因は、その違いか」

 

皮肉気な笑みを浮かべる。

リリィはその言葉の意味を理解できず、考える。

 

「分からないのなら、それもいい。理解できないレベルで身近にあると言うことが、そもそも恵まれているのだからな」

 

少しずつ、騎士王の身体が魔力へと還っていく。

 

「だが、これで終わりではない。グランドオーダー――聖杯を巡る戦いは、始まりに過ぎないと言うことを、覚えておけ」

 

それだけ言い残し、騎士王は遂にその姿を座に帰した。

 

「――ちっ、意味ありげなこと言い残しやがって。しかもこっちまでお払い箱と来たか。後はお前達でどうにかやってくれや!」

 

キャスターが忌々し気にそう呟くと、声をかける間もなくその姿は消えた。

冬木の聖杯によって現界したセイバー、キャスターの二人の消失。それが、この戦いの終止符を告げる幕となって降りた。

 

その一瞬の気の緩み――それが、運命の分かれ道となる。

 

「――――え?」

 

その呟きは、オルガマリーのもの。

突然、目の前に影が差したかと思うと、重く醜悪な音が耳朶を打つ。

ゆっくりと視線を上げると、影の正体は那岐が目の前に立っていたことに気付く。

そして、目の前の那岐の心臓に位置する部分に、黒々とした尖った何かが突き刺さっている。

突き刺さっている、という表現は生温い。文字通り貫通していた。

その勢いを削ぐ為か、はたまたオルガマリーを巻き込まない為か。その尖った何かを掴み、静止している。

永遠のような時間。那岐が前のめりに倒れていくのを、オルガマリーはただ見送ることしか出来ない。

重い音と共に地面に伏した那岐。そして、穿たれた心臓から溢れる血が虚ろだった現実を引き上げる。

 

「イ――ヤアアアアアアアッ!!」

 

絹を裂くような悲鳴が、世界を覆った。

 




Q:理子ちゃんが空気
A:MPの切れた魔法使いなんて、肉盾にしかならないし……(RPG並感)

Q:男女平等パンチ
A:ネロがMISSION1でダンテェにやったあれみたいな感じ。バーサーカー状態だから、まぁ多少はね?

Q:英語何言ってるか分からん
A:ライブ感を意識して訳は外しておきました。反省はしない。

Q:儀式完了
A:あっ……(察し)


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~GRAND BATTLE 2/2~

オケアノス実装に合わせて投稿しようかと考えたが、冷静に考えたらつつがなく事が運ぶとは思えないので、普通に投稿することにした。

やっと序章が終わります。次回は一章前に何話か幕間の話が入る予定。
そろそろギャグを書かなきゃ……(使命感)


黒く塗りつぶされた意識の中、蜘蛛の糸を手繰り寄せるように状況把握に努める。

身体の芯まで冷えた感覚とは裏腹に、胸の辺りが灼けるように熱い。

四肢の一本さえまともに動く気がしない。まるで、蝋人形にでもなった気分だ。

微かに鼓膜を震わせる何かの音も、意味を持たないぐらいに遠く聞こえる。

 

「――番外――――イレギュラー――しかし――」

 

「――教授!?」

 

「――愚か――使えない――」

 

「――何故こんな――答えて!!」

 

「――所長――逃げ――」

 

「オルガ――予想外――死んでいる筈――」

 

聞き取るのもやっとの、自分を蚊帳の外にして行われている会話。

どこか聞き覚えのある声が増えている気がするが、そんなことには気が回らない。

だけど、おぼろげな意識の中、自分の中の何かが警鐘を鳴らしている。

動け、動け、動け。動かないと、さもなくば――失うぞ、と。

 

「カルデア――人類の生存――赤色――」

 

「嘘――違う――有り得ない――」

 

「君の最期――カルデアに繋がって――カルデアスに触れ――」

 

次第に、遠かった音がノイズを掻き消しながら近づいてくる。

 

「やめて――アレに触れたら助からない――死にたくない――」

 

オルガマリーの悲痛な訴えが聞こえる。

だけど、救いの手は伸びない。伸ばせない。

 

「どうしてこんなことに――私はまだ認められて――やだやだやだやだやだぁ!!」

 

動け、動け、動け動け動け――!!

何が起こっているかは分からない。だけど、ここで動かないでいつ動く。

動け、動いてくれ、動けって言ってるんだよこのポンコツ!!

自慢の馬鹿力でオルガマリーを引っ張れよ!無駄に丈夫な身体で盾になれよ!

それしか取り柄がないんだから、それぐらいやってのけろよ!!

 

しかし、祈りは届かない。

 

「――――助けて、那岐」

 

ノイズは、消えた。

そしてそれを最後に――大切な何かも消えたのを、理解してしまった。

 

「――ハ、ハハハ。何とも無様な表情で逝ったな。つまらん」

 

ふと、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

懐かしい――けれど、こんなにも苛々させる声。

 

「き、貴様ァアアアアアア!!」

 

「落ち着いて下さいリリィさん!今の貴方では、あの男――レフ教授には敵いません!!」

 

「そんなこと、知るかぁぁぁあああ!!」

 

「勝てずと分かっていながら向かうか。マスターを護ることも出来ないできそこないのサーヴァント如きが」

 

「ぐ――!!」

 

レフの憎悪が湧きあがらんほどの嘲笑が響く。

――理解した。コイツが、コイツがオルガマリーを――!!

 

「サーヴァントを圧倒したかと思えば、心臓の一突きで死ぬ辺り、あの男も人間だったと言うことだ。そして、マシュを繋いでいる菅野理子も、魔力を搾り取られて意識不明。今のお前たちなど、指先ひとつで下せるだろうさ。まぁ、私自ら手を下さずとも、最早人類に未来はないのだがな」

 

『――カルデアスが赤く染まったことと関係があるのか、レフ・ライノール』

 

「その通りだよ、ロマニ。滅ぶことが確定した未来。それは即ち、消滅に非ず。最初から存在しないのだ(・・・・・・・・・・・)。カルデアスはともかく、その外は冬木と同じ末路を迎えているだろう。しかし、それも時間の問題。時が過ぎれば、内側から焼き尽くされるだけなのだからな」

 

『――お前は何者なんだ、レフ』

 

「知る必要はない。お前達人間は、人間の無意味さ、無能さ故に!滅びるのだ!!」

 

――黙れ。

 

「無価値に、路頭の小石のように、紙クズのように!ただ死を待つだけの木偶として焼却されるのだ!!」

 

三流役者のような白々しい台詞回しが、怒りを加速させる。

冷たかった身体が、僅かに熱を帯びるも、それに気付けない。

 

「――さて、そろそろ時間だ。この特定点も消滅する。君達はせいぜい、無力を嘆きながら無駄に最後まで足掻くと良い」

 

――無力?

瞬間、頭の中がグチャグチャに掻き回される。

写真の貼り付けを乱雑に行われたような情報が、脳に杭を打ち付けるような痛みと共に刻まれていく。

知らない記憶。でも、何故か懐かしくて――。

その中で、一際鮮明に映った、ひとつの映像。

表情は見えない。しかしその絹のような金髪と雪のように白い肌が、その女性が如何に美しいかを如実に表している。

……俺は――この女性を――失った?

無力さ故に、弱かった故に。

刻まれていない筈の、曖昧な記憶。だと言うのに、自分の中でそれは偽りではないことを告げている。

 

――失うのか?これ以上、大切な人を。

 

理子ちゃんに、マシュちゃんに、ロマニやフォウ――そして、リリィ。

付き合い、なんて言える程長く共に過ごしてきた訳ではない。オルガマリーに至っては、この場の誰よりも短い付き合いだろう。

――そんなの関係あるか。

救いたいから、助けたいから手を伸ばすことの何がいけない?

手が届くなら、伸ばすべきだ。それが大切な人ならば、猶更。

俺は強くなった筈だ。兄貴達にさえまだ敵わないひよっこだけど、あの男を殴り飛ばすぐらいの力はある筈だ。

それともまだ足りないと言うのか?

 

自らの無力加減に、身体が震える。

貼りついた蝋を力づくで剥がすように、ゆっくりと、しかし全力を込めて動く。

それでも、足りない。

足りないならどうする?――他から持ってくればいい(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

――誰もが、それを前に窒息した。

大地を砕かんばかりの圧力が、とある一帯から観測される。

 

「――何故だ」

 

今しがた立ち去らんとしていたレフの表情が曇る。

特異点の崩壊による世界の揺れとは違う。そんなものよりも、もっと悍ましい――否、畏れ多い何か。

 

「何故――生きている。暮宮ナギィイイイイイl!!」

 

未だ足元がおぼつかないながらも、心臓を穿たれた筈の那岐が、地に足を付けて立っていた。

 

「マス、ター……?」

 

リリィの怒りが、その姿を見た瞬間霧散する。

那岐の死に報いる為にも、消えるまでのその一瞬まで、原因であるレフに牙を剥く覚悟を抱いていた。

だが、そんなことは最早どうでもいい。

一秒でも早くその身体を支えるべく駆けつける。

 

「マスター、よくぞご無事で……!!」

 

泣き出しそうな声に、那岐は反応しない。

それどころか、俯いて表情も窺えない。

 

「――死にぞこないの負け犬が、今更出てきたところで」

 

レフは再び黒の槍を生成する。

その数、実に百を超える。

 

「周りにいる者共々、苦しみもがいて死ぬがいい!」

 

レフが手を振り下ろすと、それは那岐達に向けて襲い掛かった。

マシュとリリィは、互いのマスターを護るべく前に出て構える。

それが最終的に同じ末路を辿るだけの、無駄な行為だったとしてもそうせずにはいられない。

マスターであるからではない。ただ、大切な人を護りたいから。その想いに集約される。

 

「(申し訳ありません、マスター。不甲斐ないサーヴァントで……)」

 

謝罪を心の中で呟くも、決して口には出さない。

最期の最期まで足掻く覚悟を絶やさない為にも、それだけは決して口に出してはならない。

 

「『――Luminous』」

 

静かに、厳かに。

それは下された。

 

「――――は?」

 

レフの間抜けな声は、誰にも届かない。

誰しもが、目の前に落ちた圧倒的質量の何かに釘付けになっていた。

 

それは、あまりにも巨大だった。そして、尊いものだった。

 

「ての、ひら?」

 

神々しい光を放つそれは、眩さに隠れながらもその輪郭から掌であることが分かる。

しかし、その存在はあまりにも荘厳で。近寄りがたくて。

途切れた腕の付け根から指先に掛けて、何本もの直線が彫り込まれているそれは、どこか冒涜的にさえ思える。

だが、それを加味しても神の掌(ゴッド・ハンド)のような威光は微塵も衰えることはない。

 

「――――馬鹿な、そんな。有り得ない、有り得ん!!」

 

レフが錯乱気味に黒槍を未だ地に伏す掌に向けて射出する。

しかし、それは本体に到達するよりも遥か前に、音もなく霧散する。

何度も、何度も何度も何度も射出しても、同じ結末を迎える。

まるで二者の間の位相が異なるかのように、互いが互いに干渉できない。

 

「何故だ、何故だああああ!!」

 

「『Where do you see?』」

 

レフの剥がれた仮面に、衝撃が走る。

遥か彼方に居た筈の那岐が、レフに察知されることなく懐に潜り込んだかと思うと、思い切りその頬を殴りつけたのだ。

地を滑ることさえ許されないと言わんばかりの速度で、その身体は岩壁に叩きつけられる。

 

「があっ――!!」

 

だが、それでは終わらない。

数秒遅れて、那岐がレフの眼前に姿を現したかと思うと、飛び蹴りの姿勢で突っ込んでくる。

しかし、そこに確かな違和感があった。

那岐の脚部に、先程まで存在していなかったものが装着されている。

黒と赤で構成された、見るも悍ましい形容しがたい何か。

五本の爪はまるで杭のように太く伸び、六本目の爪と言わんばかりに踵の裏にも同じものが生えている。

そしてそれは、まるで生きているかのように胎動しており、不気味さを一層と表現している。

それはまるで――悪魔の脚ではないかと、レフは思考を逡巡させた。

理解した瞬間、レフの顔面にそれは突き刺さる。

そこから怒涛の蹴りのラッシュで追撃が始まった。

 

「『――一体、何が何やら』」

 

管制室から遠巻きに眺めるロマニでさえも、怖気が止まらない。

那岐の身体から湯気のように立ち上がる赤黒いオーラのようなものを見ているだけで、心臓が鷲掴みにされたような錯覚を覚える。

それは、現場にいる三人にも言えることで、理子が気絶したままで助かったと、ロマニは彼女の未熟さに感謝した。

 

その所業、神か悪魔か。

レフに向ける残酷で苛烈で無慈悲な感情とは相反して、何が何でも後ろの三人を護るという鋼の意思を那岐から感じる。

オルガマリーの死が彼を覚醒させたと言うのならば――レフは土壇場でミスを犯してしまったということになる。

他者を見下し、自らを絶対とするその傲慢のしっぺ返しがあの結果だと言うのならば、これ以上とない報復だろう。

――そもそも、アレで未覚醒状態だったのかと、ロマニは愕然とするしかなかった。

自身のことを何も語らず、本人も口数が多くないこともあり、ミステリアスな印象さえ受けた彼の、初めてと言っても差支えない秘密がこれとは、誰が想像できる?

前提として、人間が当たり前のようにサーヴァントと肉弾戦しているという事実が塗り潰されてしまう程度には、それはあまりにもインパクトが過ぎた。

そこに、更に彼が人間なのかすら疑わしい要素さえ盛り込まれたのだから、最早訳の分からないの一言である。

だが、それが逆にとても頼もしい。

 

「『Pray to god if you want to live!!』」

 

――死にたくなければ神に祈れ。

神にさえ唾を吐きそうな下衆に向けるには、あまりに不相応な言葉。

否、そんな男に向けるからこそだ。

お前は神に祈ることしか出来ないのだと。そう確信させるには、最高のシチュエーションだ。

 

光を帯びた右腕がより一層輝きを増し、光は次第に形を得る。

それは、先程現れた光の腕を等身大のサイズまで落としたものであった。

しかし、その存在感は健在で、見る者全てを魅了する魔力を帯びているそれは、紛れもなく先の掌である証明となっていた。

 

「『Be gone!!』」

 

洞窟全体を揺らすほどの一撃が、レフが貼り付けられていた場所に掌底という形で炸裂する。

特異点の崩壊も合わさって、立つことさえままならない状態。

粉塵が晴れ、神の掌は消失する。

破壊された箇所に、レフはいなかった。

消滅した、というには那岐の表情は曇っており、逃げられたのだと遠巻きに眺めていた全員が理解する。

 

「――――ッ、マスター!?」

 

全てが終わったと同時に、那岐は膝から崩れ落ちる。

それを慌ててリリィが支え、マシュも理子を抱えて合流する。

 

「『マズい、そろそろ本当に限界みたいだ。こっちでもレイシフトの準備はしているけど、どうにも崩壊までに間に合いそうにない。少しだけでいいから、そっちでどうにか生き延びてくれ!』」

 

「そんな無茶な――」

 

「『大丈夫、数秒ぐらいなら意味消失に耐えられると思うから!自分を信じて!』

 

それだけ言い残し、通信が途切れる。

あまりにも理不尽な要求に、マシュは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「勝手なことを……後でしばきます、ドクター」

 

「そうするにも、何としてでも戻らないとですね」

 

「……はい」

 

リリィの優しい声色に、マシュは少しずつ冷静さを取り戻す。

何故彼女はここまで穏やかでいられるのか。

――それはきっと、彼女が今度こそマスターを護るという使命を全うできるからなのかもしれない。

理不尽が具現化したような青年は、今は静かに寝息を立てている。

流石の彼でも、この状況をひっくり返す奇跡は起こせないだろう。

だからこその、安堵。絶体絶命が故に、やっと自分が役に立てると、本懐を遂げることが出来るなんて、ままならないにも程がある。

 

互いにマスターを胸に抱き、その場に縮こまる。

何が出来る訳でもない。だからせめて、自分達が先に消滅するように祈りを込めて、マスターの盾となる。

人間よりも高次の存在であるサーヴァントが先に消滅するなんて有り得ないが、マスターが消えれば自分達も消える以上、優先すべきがどちらかは語るまでもない。

死が二人を分かつまで――そんな悲哀にロマンチックな感情を抱きながら、訪れるその瞬間を待った。

世界が白に染まる最後の光景で二人が見たものは、今までどこにいたのかさえ忘れていたフォウの姿だった。

 

 

 

 

 

目が覚めたら、リリィの顔がすぐ近くにあったでござる。

ファッ!?と驚いていみるも、身体は動かない。兄貴達の地獄の特訓(という名の玩具にされる刑)でヘロヘロになった時と同じ感覚だ。

リリィは穏やかな表情で寝息を立てている。サーヴァントだから寝なくてもいいんだろうけど、寝られない訳でもないっぽいし、普通だな!

……そんなことより、冷静に状況を分析してみる。

どうやら自分はカルデアに戻って来たらしく、見覚えのある白の景観が寝起きには眩しい。

そして、ベッドの上に寝ている自分。リリィはベッドの端に腕を乗せ、それを枕に寝ておられる。

あー、こうしてじっくり見ると本当に可愛いな畜生。

理子ちゃんやマシュちゃんも可愛いけど、リリィは突き抜けているっていうか。

騎士王なセイバーは、凛々しい要素が前面に押し出されているせいで、可愛いと言うより美人なイメージが強かったんだけど、リリィの場合垢抜けてない感じが強くて、初々しいんだよね。

だからだろうか、外見年齢なら明らかに年下ということもあって、凄く可愛がりたくなるんだよね。やったら斬られそうだからやらないけど。

 

「おー、起きたかねヒーロー君」

 

空気の抜ける音と共にドアが開かれたかと思うと、見知らぬ美人が部屋に入って来た。

絵画を切り取ったかのように完璧な美を備えた顔と、左手の武骨な籠手と杖がアンバランスさを増長させている。

 

「アンタは……」

 

「私かい?私はダ・ヴィンチちゃんさ。ちゃんまでが名前だから、そこの所よろしく」

 

茶目っ気たっぷりにウィンクをするダ・ヴィンチちゃん。

意外にフランクな性格らしく、これなら普通に話をしても平気そうだね。

 

「ダ・ヴィンチ……というと、あのルネサンス三大巨匠の一人か」

 

「そうだよ。お姉さんとしては、もう少しリアクションが欲しかったところだけどね」

 

いや、驚いてはいますよ?

とはいっても、アーサー王だったりギリシャの大英雄だったりと、英霊の数々を知っている身としては、言う程驚くべきところはないと言いますか。

いや、敬意は払いますよ?サーヴァントだからって使い魔的な扱いなんて魔術師でもない一般ピーポーに出来る訳ないし。

 

「身体の調子はどうだい?ここに戻って来た時、君の身体はあらゆる箇所がボロボロになっていてね。良く生きていたもんだと感心した程さ」

 

「……すまないが、記憶が混濁していてな。少し、整理させてくれないか」

 

「構わないよ」

 

ダ・ヴィンチちゃんに許可を貰い、思考の海に没頭する。

……思い出すのは、最悪なものばかり。レフの下卑た笑い、オルガマリーの慟哭。

受け入れたくない現実。しかし、逃げることは許されない現実。

思い返すだけでも、苛立ちで殺したくなる。レフも――自分自身も。

 

「その怖い顔はやめたまえ。それだけで君が何を考えているかは想像つく」

 

「…………」

 

「気にするな、と言っても無理だろうから言っておく。あれは仕方のないことだったんだ」

 

「――ッ、だが、彼女は俺の名前を呼んだ!助けてと、確かに言ったんだ!!」

 

「その時の君は、心臓を穿たれて生きているかさえ定かではない状態だったらしいじゃないか。君に責はないよ」

 

分かっている。分かってはいるが――それで割り切られるほど、簡単な問題じゃない。

 

「悩め、青年。経験こそが立派な先生だ。オルガマリー君の死を悼み、救えなかったことを後悔するのならば、尚の事今回のことは経験として糧にしなければならない。二度と同じ過ちを繰り返さない為にもね」

 

出来の悪い弟子に対して向けるような、厳しくも優しい言葉に平静を取り戻してく。

 

「……その通りだな。すまない、そしてありがとう」

 

「気にしなくていい。若者を導くのは先を生きる者の義務だ」

 

そう微笑むダ・ヴィンチちゃんに、思わず見惚れる。

身近にこういうお姉さんタイプな女性がいなかったせいか、どうにもやりにくい。

 

「さて……そろそろ私はお暇しよう。後は若い二人でよろしくするといい」

 

意味深な言葉を残し去っていくダ・ヴィンチちゃん。

それに続くように、傍で寝ていたリリィが小さく呻いておもむろに顔を上げる。

 

「んん……ま、すたー?」

 

「起きたか」

 

リリィの虚ろだった目が次第にはっきりとしていき、遂には慌てて姿勢を正して自分に向き合う。

 

「あ、えっと。ご無事で何よりです」

 

「そうだな……お互いな」

 

「はい。……だからこそオルガマリーのことは、本当に残念でなりません」

 

「リリィに責任はないさ。悪いのは全部レフだ。アイツだけは、俺がこの手で――」

 

悔しさをバネに力んだ身体に、痛みが走る。

 

「無茶しないでください。私達にも、何故貴方が生きているのか分かってないぐらいなんですから」

 

「……その言い分だと、俺はやはり死んだのか」

 

今もこびりついて離れない、心臓を穿たれる感触。一瞬で失せていく血と体温の悍ましくもどこか心地よい感覚。

アレで死んでいなければ、何だと言うのか。

何故生きているかだって?こっちが聞きたいぐらいだ。

……と考えてみたものの、士郎も心臓ズドンされたけど凛のペンダントで生き永らえてるよね。

そう考えると、割と普通なのか。魔術ってスゲー。

カルデアってなんか凄い設備でいっぱいだし、それぐらいなら普通なんだろ(適当)

 

「ええ。……未だに信じられませんが、生きていて本当に良かったです」

 

「全くだ。死ぬのだけは死んでも御免だよ」

 

「フフッ、何ですかそれは」

 

冗談交じりの会話をしていると、気分もだいぶん楽になって来た。

まだまだ吹っ切れないことはいっぱいだけど、それでもダ・ヴィンチちゃんが言った通り立ち止まってしまえば、本当に彼女の死が無意味なものになってしまう。

彼女の祈りが、この世界を救うことだと言うのなら――自分も腹をくくるしかない。

乗りかかった船だ。それに、ここまで付き合っておいて今更見捨てられる程、神経太くないしね。

 

……それに、自分の中から発現したあの『力』。

夢現な感覚の中でも、その溢れんばかりのエネルギーはしっかりと感じていた。

時々記憶がぶつ切りになる感じはしていたけど、もしかするとその力が原因なんじゃないか?

そもそも、今の自分は何だ?(・・・)

自分は一般人よりちょっと戦えるだけの能力しかない。おぼろげながらも、自分がオルタセイバーと戦えていた記憶もある。

その二つが織りなす矛盾が導く回答は未だ得られない。

もしかしたら……というものもあるが、情報が不足している。

頭を捻ろうにも、身体が休息を求めているらしく、次第に眠くなってくる。

 

「今は休息を。落ち着いたら、これからの事を話し合うことになるでしょうし、せめて今だけでも……」

 

「……そうさせてもらう」

 

「良き夢を、マスター」

 

リリィの優しい笑顔に見守られながら、意識を闇に落とした。




Q:所長がまるでヒロインのようだ。
A:だが もういなくなった

Q:キェェェェェェアァァァァァァ(主人公が)シャァベッタァァァァァァァ!!!
A:ちゃんと前も喋ってたじゃん……二言ぐらいだけど。でも、描写内だけでもっと話してるし。

Q:レフざまぁ。
A:まだだ、まだ終わらんよ!(展開的な意味で)

Q:リリィのヒロイン力がどんどん増していく。
A:スカウターがまだ壊れていないことが奇跡ですわ。

Q:みんな大好きダ・ヴィンチちゃん!
A:実装されたらキャスター筆頭のスペックになりそう。宝具は多分支援系だろうけど、アーツだろうからスキルも相まってかなりヤバそう。
 あ、あとああいったお姉さん属性を全面に押し出しているキャラはほんとすこ。元男だけど。


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幕間の物語~伝説の胎動~

ヘクトールおじさんが二十連で五枚揃いました。
残念かと思ったら割と使えてワロタ。火力をどうにか出来れば、普通に運用できるレベル。

あと、三章は良い戦いになりそうな相手といい具合にボッコボコに出来るキャラが揃ってて僕満足(暗黒微笑)

それと、今回でクロス元ネタのマトリクスが開示されたので、それに伴いタグの変更・追加を行います。


○月x日

 

一日休んだら気分は最高潮。疲れなんてどこへやら。

心臓も無事らしいし、魔術すげーよ。少し嘗めてたわ。

皆に心配かけたことを詫び、今日はダ・ヴィンチちゃんに集合を掛けられていたこともあって、そのまま話が始まった。

 

現状、レフが言っていたらしい人類がとうに滅びているという言葉は、事実だとのこと。

カルデアが無事な理由は不明だが、ここ以外の場所は崩壊しているという前提に置いた方がいいぐらいには、外部との接触は絶望的らしい。

でも、どうやらまだある特異点が観測されたらしく、これをどうにかしない限りは外側の世界もまた、今のままだという。

逆に言えば、特異点さえどうにかしてしまえば、人類は救済される。シンプルで分かり易い。

確かに並大抵のことではないだろうけど、解決策もなく手をこまねいているよりはよっぽどマシだ。

ロマニが言う特異点とは、人類史におけるターニングポイントがカギになっているらしい。

パッと思いつく限りでは、産業革命とかかな?他は……第二次世界大戦とかぐらいしか思いつかない。

特異点ということは、その歴史に歪みが生じているということで、産業革命なら半年――それどころか、たった一日ズレてしまうだけで、まったく異なる未来になるんじゃないだろうか。

第二次世界大戦なら、日本が勝利していたら?という分岐になるのかな。

どんな特異点なのかはまだ分からないけど、人類が死滅するぐらいだ。余程の事態であることは確実。

そんな時代に存在していた英雄ともなれば、知名度の高さもまた推して知るべきだろう。

そして、この事態を解決できるのは自分達だけ。

世界を救済するには、あまりにも戦力不足だ。

 

ロマニに、人類の未来を背負う覚悟があるか?と尋ねられた。

……そんなもの、分かる訳がない。

そもそも、人類が死滅していると言う事実さえ、未だに信じ切れていないと言うのに、そんな大それたことを明確に考えられる訳もないだろう。

そんな時、袖を引かれる感覚を覚えた。

そこでは、理子ちゃんが指先で袖をつまみ不安げな視線と共に見上げている姿があった。

――ああ、そうだよな。怖いよな。不安だよな。当たり前だよな。

だけど、やらなければならない。やるしか、ない。

不安なのは自分だけではない。それが、自分よりも脆く、幼い少女だと言うのであれば――護るしか、ないじゃないか。

どちらともなく頷いた自分達に満足したロマニとダ・ヴィンチ。

もし断っていたらどうしたんだろう、というたら、ればの考えを振り払う。進んで嫌な気分になる必要もない。

ここに、人類守護指定グランドオーダーが決行された。

 

そんな感じで次の話題。

次の話題は、まさかの自分絡み。

聞けば、オルタセイバーとレフを退けたのは、実質自分の力あってこそだったと言う。

その辺りの記憶は曖昧だけど、レフを殴り飛ばした時の記憶はしっかり記憶している。

今までの自分では有り得ない身体能力、そしてどこぞのス○ンドのような、自分のそれとはまったく違う腕が、自分の意思で動く現実。そして、明らかに真っ黒い異形と化した脚。

あんなもの、自分は知らない。けど、ロマニ達はあれが何なのかを問い詰めてくる。

知らない、記憶にないの一点張りを通す。幸い、最初に記憶がないって言っておいたおかげで、強く言及されることはなかった。

しかし、問題はここから。

人類史における数多の英霊と対峙するにおいて、人間の身でありながら英霊と拮抗――いや、それ以上に戦えるポテンシャルを秘めている可能性を持つ自分を無視することは出来ない。

どうにかして使えないか、なんて飛んでくるロケットをライフルで撃ち落とせって命令ぐらいムチャなことを言われた。

 

結論、出来ました。

案外あっさり出せるもんだね。やったぜ。

……いやいや、冷静に考えておかしいでしょうが!!

右手はなんかピカピカ光ってるし、脚は膝から爪先に掛けて悪魔みたいな形になってるし。なにこのアンバランス。

ダ・ヴィンチちゃん曰く、この状態の自分は、右手のみ聖人のそれとなっており、脚は予想通り悪魔になっているらしい。

なぁにそれぇ。訳が分からないよ。

ていうかアレか。ネットで聞いた、光と闇が両方備わり最強に見えるって奴か。

こんなフランケンシュタインよろしく、厨二病を詰め込んだ設定が追加されてしまった訳だが……ここで、ひとつの仮説を立てた。

 

そもそも、自分は一体何者なのか。

いや、馬鹿な意味ではなくて、正確にはこの世界の(・・・・・)自分は、という点だ。

推測の域を出ないが、今の自分は、並行世界の暮宮那岐に魂のみが憑依した状態なのではないだろうか。

そうでなければ、一般人の自分がこんな力を持っている説明がつかない。

逆に言うと、並行世界の自分スゲーってことなんだろうけど。どうしてこうなった。

……並行世界の自分でさえこれなら、親父や兄貴達はどうなるんだ?

考えたくもない、が――もしそうなら、あの三人は間違いなく生きてるだろうな。元から死んでも死ななそうだし。

因みに推測の件は話していません。適当ブッこいて痛い目見たくないし。

 

ただ、気になる話題を耳にした。

ロマニが自分の造形を見て、とある物語を思い出したと言っていた。

題名は『魔剣士スパーダの伝説』。

解散した後に書庫を漁って読んでみたけど、中々面白い。

人間界に侵攻しようとした魔帝ムンドゥスの軍に所属していたスパーダという悪魔が、ある日突然正義の心に目覚め、たった一人で魔界の軍勢を押し返し、人間界から自らの力と愛剣共々封印を施した。

しかし、戦いの末に満身創痍になってしまい、余命幾ばくもない状況に陥った時、とある女性と出会う。

名前はエヴァ。それはそれは美しい女性だったと書かれている。

エヴァはスパーダの状態を見るが否や、躊躇いもなく助け起こしたかと思うと、看病から世話まで献身的にこなした。

エヴァはスパーダに一目惚れしていたらしく、スパーダもまた、悪魔として生きてきた自分に向けられた初めての純粋な愛情を知り、それが切っ掛けで惹かれ合っていった。

そして、エヴァはただの人間ではなかった。

本人も知らないことではあったが、彼女の正体は聖書において真の救世主(メシア)と呼ばれている存在、エヴァンジェルの転生体だった。

エヴァンジェルは人間界を魔界から護る為に存在していた神だったが、次第に高まる魔界からの圧力を前に、封印が間に合わないと判断したエヴァンジェルは、自らの死と引き換えに魔界に何重にも封印を施した。

千年。それがタイムリミットで、その間に魔界を封印する対策が来るのを信じ、彼女は命を散らした。

その願いは届いた。形こそ歪なれど、その結果は紛れもなく本物であった。

命を賭した封印、その果てにある運命の出会い。そして――次世代に繋ぐ。

ここで話は終わっている。

この流れからして、所謂子供世代の話もあるんだろうけど、そっちは探しても見当たらない。今度あるか聞いてみよう。

 

明日は英霊を召喚するって話だから英気を養っておかないとね。

でもその前に、これからは本格的に自分も前線に立つことになりそうだし、装備の点検をしようと思い立った。

まず、普通に何気なしに持っていた刀。色々調べていたら、名前が彫られているのに気づいた。

斬棄刀……ざんきとうって読むのかな?

まぁ、名前はいい。取り敢えず、このチート入った身体なら兄貴の動きに迫れるかもしれないし、練習しないとね。

そして今の今まで忘れていた四次元リュックを漁って、他に使えそうなものはないかを探る。

そしたら、スナイパーライフルっぽいものが出てきた。

しかもなんかこれ、中折れ式になってるっぽい。

まだ撃ってはいないけど、これソードオフ・ショットガンみたいな構造らしく、折った状態でも撃てそうなんだよね。

折った状態のバレルの長さは、デザートイーグルの二倍ぐらい?なっげー。

でも、この状態なら近接でも使えそうだ。単純な重量だけなら、片手で持つぐらい何てことないし、問題は反動だな。

遠距離で使うときはバレルを元に戻すだけでいいし、近接戦闘ならハンドガンとしても使える。いいね、これ。

更に色々調べてみると、どうにもこのライフルにはまだオプションがつけられそうなスロットがあるんだよね。オーパーツってレベルじゃない気がしてきたけど、宝具なんてものをなまじ知っているせいか、ふーんぐらいの感想しか抱けなかった。

それと、これにも銘が彫ってあった。

Horoscope――ホロスコープか。どっかで聞いたことあるけど、何だっけ。

そんなことを考えていたら、もう夜も更けていた。生活態度はしっかりしないと、年下の子に示しがつかないし、規則正しい生活を出来る限り心掛けないと。

 

それにしても、エヴァンジェルか……。

既視感というか、どうにも聞き覚えがあるんだけど、なんだろう。

 

 

 

 

 

――それは、あまりにも冒涜的な姿だった。

聖と魔の融合。善と悪の共存。

相反する二つの概念が一つの肉体に集合している事実は、ダ・ヴィンチの常軌を逸した脳でさえ解を得られないイレギュラーな問いかけであった。

 

「ロマンも言ってたけど、確かにあれは魔剣士スパーダの伝説のそれだ。悪魔と神の転生体が交わり生まれた魔人そのものじゃないか」

 

興味深げにそう一人ごちる。

魔剣士スパーダの伝説には、未だ謎が多い。

書籍として形が成った今でこそ、魔剣教団などという魔術協会や聖堂協会に次ぐ巨大勢力が出来上がる程度には浸透しているスパーダの伝説だが、その原典を知る者はいないとされている。

曰く、スパーダの生前に記されたないしは子孫が遺した自伝。

曰く、とある英雄の伝説が曲解されて出来たもの。

曰く、誰かが書き始めた根も葉もない物語のひとつ。

挙げればキリがないが、兎に角魔術師がこぞってこの疑問に着手する程度には、スパーダ伝説は注目されているのが分かるだろう。

魔剣教団とは、人間界を守護したスパーダを神と崇め、その存在を肯定する為にありとあらゆる活動に着手している組織だ。

活動内容の詳しくは知らないが、スパーダ伝説の中に出てくる魔具を手に入れることがメインとなっているとも聞く。

噂では、幾つか手に入れているらしいが、真偽は不明。この手の話題は大抵が嘘っぱちだからいちいち真偽を確かめていてはキリがないだろうしね。

 

そんな謎の多いスパーダ伝説だが、暮宮那岐によって大きな変革が訪れようとしている。

悪魔と神、そして人間の因子が混ざり合った合成獣(キメラ)。しかし文字通りのそれではなく、ヒトガタとして生を受けた、いわば魔人と呼ぶべき存在。

共存、ではなく共生と呼べるほどに聖と魔が親和性を保つその在り方は、生まれながらの超越者。

そんな魔人のエピソードだが、ここから一切の情報が存在しない。

意図的に削り取られたのか、それとも――まだ(・・)存在していないからか。

 

「私の推測が正しければ――フフッ、こんな時代でお目に掛かれるかと思うと、ワクワクしちゃうね」

 

ダ・ヴィンチの知識欲と好奇心を刺激する可能性が、目の間に転がっている。

人類が滅びる瀬戸際で現れた、記憶喪失を語る半神半魔の青年。

形こそ違えど、それはスパーダ伝説の再来と呼ぶに相応しい舞台。

 

「君は本物か?それとも……」

 

新しい玩具を手に入れた子供のような無邪気さで、虚空に問いかけた。

 





Q:(クロスオーバー先)やっぱりな♂
A:三章を出し渋った庄司レベルに見苦しい悪あがきだったね。仕方ないね。

Q:主人公の状態ってどんな感じかkwsk
A:現状確認されている段階では、右手のみが聖人の手(しかも甥っ子みたいに召喚可能)。脚は両足とも悪魔化しています。因みに任意でどちらも元に戻せる便利機能。
 武器は斬棄刀(ざんきとう)と銘が彫ってある刀と、新たに手に入れたホロスコープという狙撃と拳銃形態を使い分けることのできる銃の二つ。因みに後者の外見はHELLSINGに出てくるハルコンネンと同じぐらいの全長で、横幅が1.5倍程増大している、最早スナイパーライフルとしての運用さえ難しい、オーバードウェポン。それを那岐は片手で普通に持てます。もうこれわかんねぇな。更に言えば、まだ追加機構がありそうだがその詳細は不明。
 那岐本来のスペックは、覚醒によってどれだけ変化しているかはまだ不明。どんなぶっ壊れ方してももう驚かないんじゃないかね。

Q:ダ・ヴィンチちゃんマジモナリザ。
A:個人的にダ・ヴィンチちゃんって後に愉悦部に入りそうで怖い。なんか色々分かってて話してないこととか多そうなんだよね。


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幕間の物語~再会 理解 和解~

Fateとまったく関係ないけど、レイド・ラプターズがようやく混成じゃなくても高火力出せるようになってウレシイ……ウレシイ……。
まぁ、ホープ軸のが結局強いんですがね(ぉ


カルデア内に設置されている召喚サークルの前に、菅野理子が緊張した面もちで立っている。

今から行われようとしているのは、英霊召喚――つまり、サーヴァントとの契約だ。

 

「そんなに緊張する必要はないよ。触媒を用いない召喚は相性の良い英霊が選ばれることが多いらしいし、カルデアの召喚は、人類救済の意思を持つ英霊のみが選定されるシステムになっているから、滅多なことで裏切られることはないから気楽にやればいい」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

理子にとって、実質初めての英霊との契約。

マシュとの契約は本人達の無意識の内に為されていた上に、キャスターとの契約は利害の一致による仮契約。

魔術師として正式に英霊と契約するプロセスを組むのは、これが初になる。

ましてや、彼女は魔術師と言えど、あくまで素質があるだけのズブの素人。魔術師としての価値観を持ちえない彼女にとって、世界に名を遺した英雄を従わせるなんて畏れ多いこと、まともな精神状態で出来る訳もなかった。

 

「何にせよ、やらないなんて選択肢はない以上覚悟を決めてもらわなければ困る。それに、尊大な態度で臨めとは言わないけど、あまり情けない姿を見せては今後の関係に支障を来たすかもしれないから、せめて普通にしてくれたまえ」

 

「は、はい」

 

ダ・ヴィンチにそう諭され、理子は大きく深呼吸をして改めて眼前の召喚サークルに意識を向ける。

そして、予め渡されていた金平糖のような宝石をサークル内にばらまく。

これは聖晶石とダ・ヴィンチが命名したもので、言わば高純度の魔力結晶である。

レイシフトによる特異点のある時代への移動による弊害か、それとも複数のサーヴァントが召喚されたことによって大気中のマナが何かしらの作用で結晶化したのか、それは分からない。

歴史の修復が完了したことで、帰還した際に一緒についてきたのがこの聖晶石という訳である。

世界の滅亡という形でカルデア以外の環境が死滅してしまった今、カルデア内に潤沢に満ちている魔力もいつ尽きるかは分からない現状、可能な限りマナの節約を行う必要がある。

召喚サークルといった、常時使用する訳でもない部分に流す魔力さえ惜しい節制時に、代わりとなる魔力供給源が見つかったのは、まさに天啓とも言えた。

 

「じゃあ、始めるよ。――『守護英霊召喚システム・フェイト』起動シーケンス、開始」

 

ロマ二がそう告げるが否や、召喚サークルが一人でに発光を始める。

過去、英霊召喚には様々なプロセスを踏む必要があった。

触媒、詠唱、環境――理想とする最高の英霊を召喚する為には、それらを万全に期す必要があった。

しかし、聖杯戦争ならばいざ知らず、今回の英霊召喚の目的は人類の救済。

七人のマスターによる殺し合いではなく、47人のマスターが味方の共闘だ。

求められるのは、個の質ではなく、量による人海戦術。

タイムリミットが明確ではない以上、英霊の格を落としてでも戦力を複数用意させる必要があった。

そこで、先程説明した召喚に必要となるあらゆる要素を十把一絡げに纏め、安定した魔力運用でサーヴァントと契約が出来るように手を加えたのが、この『守護英霊召喚システム・フェイト』なのだ。

個人で複数の契約を可能とする為に、カルデアの魔力を膨大なまでに利用して繋ぎ止め、宝具の運用といった瞬間的な魔力の消費はマスターの魔力量に依存させるという仕組みは、過去の聖杯戦争のそれを踏襲している。

『守護英霊召喚システム・フェイト』の場合、複数体のサーヴァントとの契約が前提となっているので、単体に供給される魔力量は本来絞られる筈だったが、マスターが二人しか存在しない現状ではその制約を無視しての召喚が可能になる。

つまり――マスターへの負担は最小限に抑え、性能の劣らないサーヴァントを召喚できるのである。

これだけ聞けば良いとこ尽くしかもしれないが、調子に乗って自分の身の丈を超えるサーヴァントと契約してしまえば、カルデアの補助ありとはいえ自滅は免れない。

ましてや、バーサーカーのような魔力喰いを召喚しようものなら、どうなることか。

とはいえ、触媒がない召喚である以上、運を天に任せるしかないのが辛いところではある。

 

「お、おおおお」

 

光が魔方陣の外周を描くように回り出し、次第に速度が上がり円を作り出す様に、理子は思わず声を上げる。

一瞬収縮したかと思うと、光の円が弾けた。

爆発のような衝撃が魔方陣の中心から発生し、誰もがその衝撃に視線を逸らす。

理子に至っては、衝撃と驚きで尻餅をついてしまい、まるで格好がついていない。

光が次第に収まっていく最中、その中から理子に向けて差し伸べられる腕。

反射的にその手を取ると、勢いよく立ち上がらされ、そのまま暖かな壁にぶつかる。

 

「――おいおい、シャンとしろよ。マスター」

 

聞き覚えのある声に、理子は顔を上げる。

そこには、見覚えのある野性味溢れる笑みがあった。

 

「キャ……スター?」

 

「それは違うぜ。あの時はそうだったが、今の俺は――」

 

光が完全に収まり、声の主の姿が露わになる。

フードのあるゆったりとした着物から打ってかわって、その洗練された筋肉が強調される薄い生地の青いスーツを身に纏っている。

そして、杖ではなく真紅の槍を携えており、同一人物ながらもその変化に思考が追い付かない。

 

「――ランサー、クー・フーリンだ。またよろしく頼むぜ」

 

ランサーはニカッと笑うと、連続して理子の身体が跳ねた。

 

「ひゃっ!?」

 

「――ちょっと、何しているんですか!!」

 

マシュが慌てて間に割って入る。

一連の流れの原因は、あろうことかランサーが理子の尻を鷲掴みにしたことにあった。

 

「いや、あまりにも無防備だったから、つい」

 

「そんな理由で女性の臀部に触れるとか、そんなアイルランド流の挨拶は受け付けていません!」

 

「そりゃあ偏見だろ。それに、こんな良い尻を前にして触らないとか、男じゃないだろ?なぁ、そこのヒョロいの」

 

「え、僕に振るの!?」

 

「フォーウ……」

 

「……ランサー、貴方と言う人は」

 

「ううううう……お嫁に行けない……。だから那岐さん、もらってください」

 

「何故そうなる」

 

先程までの緊張感はどこへやら。現れたのが知人だったことも相まって、空気が一気に緩んでいった。

 

「――まぁ、つーわけで。ここに契約は完了した。我が槍は、マスターを阻む障害の悉くを穿つ魔槍となり、道を切り開く標となろう、ってな」

 

「……お尻を触ったことは不問とするから、頑張ってよね」

 

理子は顔を真っ赤にしてふくれっ面になったまま。

ランサーに向けられる視線は、アイルランドの英雄を敬うそれではなく、完全に発情期の狗か何かを見るような目になっていた。

 

「それで許してくれるってんなら、バリバリ働くぜ」

 

「先輩、今の内に礼呪使いましょう。このままでは貞操が危ういです」

 

「いや、そこまではしねぇよ?そもそも、俺の好みの年齢からは外れてるしな」

 

「対象外の女性の臀部を当たり前のように触る人の言葉は信用できません」

 

「……ごもっとも」

 

「はーい、そろそろいいかな?後がつっかえてるからパパっとやりましょうね~」

 

ダ・ヴィンチが手を叩いて、場の空気を一度整理する。

忘れてしまいそうだが、これは未来を賭けた大博打なのだ。

気の持ちようでサーヴァントの良し悪しを選定できる訳ではないが、それでも最低限の礼儀というものがある。

とは言え、当事者である那岐はいつも通りの涼しい表情な時点で、杞憂かもしれないが。

 

「リリィ、俺と一緒に来てくれ」

 

「え?あ、はい。お供します」

 

突然の那岐からの指示に、要領を得ないまま従うリリィ。

召喚サークルの前に立つと、理子がやったと同じように聖晶石を中心に向けてばらまく。その数、理子が使用した倍。

ロマニはそれが召喚の準備であることに遅れて気付き、起動準備に取り掛かる。

 

「那岐さん、いつの間にそんなに聖晶石を確保していたんですか?」

 

「冬木で回収していたものだ」

 

「落ちてるんだアレって……。もしかして、見逃してる可能性もあったりする?」

 

「いや、仮にそうだとしても特異点が正常に戻る反動で弾きだされるだろうから、あまり気にする必要はないと思うよ」

 

「というか、あんなに使っていいモンなのか?貴重な魔力源だろ、それ」

 

「ないことはないけど、僕には彼が何故あんな行動を取ったのか分からないなぁ」

 

「――それよりも見てください、暮宮さんの身体が」

 

マシュの言葉に、誰もが那岐を注目する。

そこでは、召喚による魔力反応に呼応するように、那岐の身体から傷のような形で迸る赤色の光が迸る光景があった。

両手両足に始まり、脇腹と額にまでそれは浸透しているそれは、魔術回路とは明らかに異なる。

そして、異変はそこに留まらなかった。

今度はリリィの足元からも光が立ち上っていく。黄金色の粒子は、彼女の気質そのものであり、彼女を基点に発生していることから、粒子そのものがセイバー・リリィの欠片であることが判断できる。

そのまま粒子は召喚サークルに吸い込まれていき、虹色の光となって円を描き出す。

 

「マスター、これは――?」

 

リリィにとっても予想外だったらしく、困惑の色を孕んだ視線で那岐を見上げるも、詠唱を続ける那岐には届かない。

 

「――ははぁ、そういうことか」

 

「どういうことです?」

 

ダ・ヴィンチの愉快な笑みに訝しみながらも、マシュはその意味を問う。

 

「彼は、彼女――セイバーリリィそのものを触媒として召喚を行おうとしているんだ」

 

「……そんなことが可能なのですか?」

 

「分からない。そんな事例は今までに一度もなかっただろうし、そもそも従来の聖杯戦争で行うには不可能な召喚方法だ。だけど彼女の持ち物一つ一つが、聖遺物としては破格の代物だ。そんなことが出来ると言うのならば、結果も大いに保証できるだろうね」

 

「――そっか。リリィちゃんは彼のアーサー王なんだから、彼女を基点に召喚を行えば、彼女と縁のある人物を召喚できるってことですね!」

 

「その通り。付け加えるなら、彼女自身を触媒にすると言うことは、縁のある人物というよりも、最早同一人物が出てきても不思議ではない。それこそ、万が一無関係な第三者が出るとするなら、何かしらの形でエクスカリバーに大きく携わりでもしない限りはあり得ないだろう。それこそ、彼の聖剣を握ったことがある、ぐらいの有り得ないが起こらない限りはね」

 

そんな会話を繰り広げている間に、儀式は佳境に入る。

しかしダ・ヴィンチの中で、未だ解せない問題が残っていた。

那岐の身体から放出した傷のような光と、その意味。

反応そのものはリリィのそれと似ているが、決定的な違和感があった。

あの傷の現れた個所に、何か引っかかりを感じる。

とても、重要なことだった、気が――

 

「――――ッ!!」

 

理子の時よりも眩しく、激しい光の奔流が室内全体を満たす。

刹那、白に染まった世界が次第に色を取り戻していくに連れて、結果が見えてくる。

 

――そこには、獣を象徴するような騎士が立っていた。

白を基調とした武骨な西洋甲冑には、赤色で彩られた紋様が刻まれており、人によっては返り血を浴びたようにさえ見えるであろう、不気味ながらも雄々しさが優る立ち姿。

そして、何よりも目を引くのが、フルフェイスの兜。

そこでは、獣か悪魔かを連想させる巨大な二本角が左右に分かれていきり立っており、威圧感を放っている。

……誰が見ても、彼の存在が圧倒的強者であることは明らかだ。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。問おう、お前がオレのマスターか?」

 

重く、しかし中性的な声が響く。

 

「――そうだ。マスターの、暮宮那岐と言う」

 

「契約は履行した。オレはセイバーのクラスで現界した、モー――!!」

 

一瞬、真名を口にしようとした赤銀の騎士が、リリィの姿を見るが否や、言葉を呑みこんでしまう。

そして、神聖な立ち合いである儀式の最中であるにも関わらず、まるで盲目の老人のように覚束ない足取りで、リリィの方へと歩み寄る。

 

「ち、ち――うえ?」

 

「――え?」

 

「やっぱり、父上。貴方まで召喚に応じていたなんて」

 

我慢ならないと言ったばかりに、兜を脱ぎ捨てる。

 

「―――ーなっ」

 

それは、誰が零した声だったか。

悪魔のような兜から出てきたものは、金髪を小さくポニーテルで纏めた少女。

そして――目の前にいるリリィ――アルトリア・ペンドラゴンと瓜二つの造形をしていたのだ。

 

「モードレッドだよ、分かるよな!?」

 

そう問いかけ、リリィに詰め寄る。

同じ美貌ながらも、自分達の知るそれと違い、勝気で野性的な明るさが行動の節々で目に付く。

それに――モードレッドと言えば、アーサー王を親とする、後にアーサー王に対して謀反を起こし、カムランの戦いで対峙するまでに至った、運命に弄ばれた英雄の名だ。

しかし、そんな史実とは打って変わって、モードレッドのリリィに向ける感情はどうにも好意的に見える。

真名を知ったときはどうなるかと逡巡したりもしたが、これなら問題なさそうだ――そう、誰かが思った時。

 

「――すいません、貴方は誰ですか?(・・・・・・・・)

 

――その言葉に、誰もが絶句した。

アーサー王とモードレッドの関係は、あまりにも有名。

それを知らない、という事実はあまりにも重い。

そして、その言葉に誰よりも過敏に反応したのはモードレッドだった。

先程までの好意的な雰囲気が一転、火山の噴火を彷彿とさせる憤怒が、モードレッドの中で沸々と沸き上がっていく。

 

「――――なよ」

 

震えた声で、何か呟いたかと思うと、リリィの胸倉を乱暴に掴んだ。

 

「不山戯るなよ!オレを息子と認めないばかりか、今度は存在すら忘れたいってか!!」

 

「な、なにを――」

 

モードレッドの瞳が揺れる。

絶望と怒りと悲しみがないまぜになった、形容しがたい混沌が映る。

今、モードレッドはリリィを見ているのではない。モードレッド自身の中にあるキングアーサーの呪縛を、リリィを現身に見ているに過ぎない。

 

「父上、アンタはいつもそうだ。何でも完璧に成し遂げるアンタにとって、それ以外の存在なんて劣等種にしか見えなかったんだろう?ましてや、同じ血を引いているオレなんて、さぞ良い比較対象になっただろうさ!!」

 

「お、落ち着いて――」

 

「まだ何も為していないのに、何で確認もしようともせずに否定する!アンタには一体、何が見えているって言うんだ、答えてくれよ!!なぁ、なあ!!」

 

今にも斬りかからん勢いでリリィに迫る光景に、影が差す。

それはモードレッドの後頭部を掴んだかと思うと――何の躊躇いもなく床に顔面を叩きつけた。

文字通り、床が割れた。魔術でコーティングしてある床に、クレーターが出来上がった。

しん、と静まり返る。

モードレッドを叩きつけた張本人、暮宮那岐は何事もなかったかのようにモードレッドの醜態を見下ろしている。

 

「――なにしやがんだ、テメェ!!」

 

跳ねるように起き上がり、今度は那岐に食って掛かろうとして、

 

「黙れ」

 

一言。それだけでモードレッドが竦み上がった。

円卓の騎士の一角である英雄を、まるで粗相をしたペットを叱るようにあしらうその姿は、マスターとサーヴァントという関係においてはある種正しい。手段が異常なだけで。

気のせいか、那岐の身体からレフとの戦闘で見せた赤いオーラが発生している気がする。

那岐を前にして、借りて来た猫のようにおとなしくなったモードレッドを見て好機と判断したリリィは、躊躇いがちに言葉を発する。

 

「――ごめんなさい。何と言えばいいのか分かりませんが――取り敢えず、話を聞いてもらえますか?」

 

「……話?」

 

鼻っ面を赤くさせながら、モードレッドが返す。

 

「はい。お互いに情報が錯綜している状況では、またさっきみたいになってしまいます。私の事情が事情なので、せめてそれだけでも聞いて下さい」

 

「……分かった」

 

「――と、その前に。すみませんが、モードレッドと二人きりで話をさせてください」

 

「うーん、僕としては色々気になることばかりだけど、そもそも二人きりにして大丈夫なのかい?」

 

モードレッドの蛮行を思えば、ロマニの不安も尤もだった。

 

「心配いりません。」

 

しかし、リリィは一切の憂いを見せずそう断言する。

そんな言い方されては、彼には最早何も言えない。

マスターである那岐は、目を伏せて閉口を貫いており、我関せずと言った様子。

 

「ありがとうございます。では、部屋をお借りします。行きましょう、モードレッド」

 

「あ、うん……」

 

そうして、二人は部屋を退室し、場を静寂が包む。

 

「……まさか、モードレッドが召喚されるとはね」

 

「モードレッドも女性だったことも驚きですが……まさかリリィさんがモードレッドの存在を知らなったとは思いもしませんでした」

 

「全盛期より昔の状態で召喚されたという話だし、知らないのも無理はない――と言いたいけど、召喚の際に不手際が起こったのかな?というか、そもそも彼女は冬木にある魔方陣から召喚されたという話だし、イレギュラーなことになっていても何らおかしくはないと思うよ?」

 

「そのところ、どうなんですか那岐さ――あれ?」

 

考察に対し、返答を求めようと那岐の方へ振り替えるも、そこに姿はなく。

いつの間にか彼は召喚サークルの上に立っており、何かを床から拾い上げる動作をしていた。

そして拾ったものの正体は――那岐の身の丈ほどもある、赤い意匠が施された片刃の機械剣だった。

 

 

 

 

 

リリィとモードレッドは適当な一室を借り受けた後、自らの状況を語り出す。

モードレッドの知る、全盛期のアーサーではないこと。

選定の剣を抜いて幾ばくも経たない内に召喚された、モードレッドにとって過去の人物であること。

召喚の際に恩恵として得られる知識の類が機能していないこと。

そのせいで、名前を聞いても誰だと判断がつかなかったこと。

――そして、自分が女であること。

 

「俄かには信じられないな」

 

一通り聞き終えた感想で、モードレッドはそう呟く。

 

「……でしょうね。イレギュラーが連続してばかりで、私自身でもそう言い切れるぐらいですから」

 

「だけど、アンタがオレの知る父上とは違うのは分かった。雰囲気もそうだけど、何より――きちんと、オレの目を見て答えてくれている。父上が相手じゃ、絶対に考えられなかった」

 

ほんの一瞬、そう語るモードレッドの表情がほころぶ。

その刹那の少女の顔は、すぐさまぎこちなさを取り戻す。

 

「――もし、よろしければ貴方の事も教えてくれませんか?」

 

「それはいいけど……えっと、円卓の騎士の一人で、モルガンが父上から――」

 

「ああ、いえ。そういうのではなく」

 

「じゃあ、何が聞きたいんだよ」

 

「そんなの――好きな食べ物とか、趣味とか、そういうのですよ」

 

「――は?」

 

どこまでも大真面目に、そんなことを言い出した。

 

「いや、普通オレとアンタの関係とか、どういう結末を迎えたとか気にならないのか?」

 

「そんなこと、どうでもいいです」

 

「いや――どうでもって、アンタ」

 

「いいんです。それよりも、私は貴方自身の人となりが知りたいです」

 

「何で――そこまで」

 

モードレッドには理解できなかった。

何故、目の前の父上であって父上ではない存在が、そこまで自分に固執するのか。

 

「だって――家族(・・)の事を知らないなんて、悲しいじゃないですか」

 

「――――ッ」

 

モードレッドは、今度こそ絶句した。

花開くような笑みで、父上と同じ顔で、父上とはまるで逆の言葉を紡ぐ。

これは、自身が妄想で生み出した理想の父上ではないのか?なんて馬鹿な思考に行き着く程度に混乱していた。

 

「……おかしなことを言いましたか?」

 

「そんな、こと。ない。待って、話すから。整理するから」

 

何とか対話として成立する程度の語彙を並べ立て、その間に必死に冷静さを取り戻す。

アレ(・・)は別人だ。別人だと必死に自らの内に反芻させながら。

 

「……じゃあ、話すから」

 

「はい」

 

それから、ぽつりぽつりと話し始める。

性格、趣味、簡単な人間関係――そんな、見合いの席で語るような自己紹介を、モードレッドはひたすらに語った。

それに対してリリィは、何も言わずただ相槌を打ちながら聞きに徹している。

鏡合わせの姿は、困惑と安寧という全く異なる形容で映し出されており、各々の心境がありありと見て取れた。

 

「――これぐらいで、いいか?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「……なぁ、聞いてもいいか?」

 

「何でしょう?」

 

「アンタは――今回のような非正規な召喚ではなくて、正規の……万能の願望器たる聖杯を勝ち取るための召喚だったとするなら。どんな願いを聖杯に託すんだ?」

 

それは、話の間で浮かび上がった疑問。

別人だと思い込もうとしている癖に、思考は一向に納得にまで至っていない。

だからこそ、このような――父と目の前の少女の祈りが、どれだけ似とおったものなのかを確かめたいと、浅ましくも考えてしまっているのだから。

 

「聖杯――ですか。確かに、そんなものがあったら、便利ですね」

 

「だろ?だから――」

 

「でも、そんな大それたものに願うようなものなんて、ありませんね」

 

至極あっさりと。一切の躊躇いもなく。

奇跡に縋る祈りはないと、目の前の少女は言いのけた。

 

「……そんな訳ないだろ!誰だって、縋りたいものはある筈だ!それが、アンタが――」

 

そこまで言い、言葉を呑む。

王だったら猶更、と続く筈の言葉は、モードレッドのささやかな抵抗の下寸での所で留まる。

揺らぎに揺らいでも、それでも認めないと意固地になる。

――その在り方に、ふと脳裏に過る父の姿。そして、思う。

もしかして――自分は、父が自らに向けた仕打ちと、まったく同じことをやっているのではないかと。

 

「……そうですね。これも私が、王としてまだまだぬるま湯に浸かっている段階だからこそ、このような甘えを口に出来るだけなのかもしれません」

 

「あ……」

 

リリィの笑顔が僅かに曇った途端、モードレッドの胸が締め付けられる。

これは――後悔、なのだろうか。当人でさえ理解できない思いの丈をそのままに、リリィは言葉を続けていく。

 

「ですが、それでいいんです。私はまだ未熟で、王と言えども無知な小娘と何ら違いはありません。そんな小娘が、矮小な思考で理想を奇跡に預けるなんて、あってはならないんです。それは、奇跡の枠に入る存在の人生を、玩具にするのも同然なのですから」

 

――それを聞いてモードレッドは、とうとう沈黙した。

モードレッドが聖杯に掛ける祈りは、『選定の剣を引き抜く機会を得る』というものだ。

チャンスさえ与えられれば、自分は後継者になれる。そう思い込み、それに縋り、英霊となってから機会を待ち続けた。

だけど、それは本当に正しい望みなのだろうか。

 

アーサー王が、どんな考えを持ってモードレッドを後継者ではないと否定したのかは分からない。

出自を隠し接し、いざ明かしたら否定され、失意と激情に晒された経緯こそあるが、冷静に考えて裏切られたのはお互い様ではないか?

血を分けた中ではある。しかし、生まれ方が歪であるが故に、アーサー王もまた思うところがあったのかもしれない。

 

あの頃のブリテンは、疲弊に疲弊を重ね、最早死に体も同然だった。

アーサー王の人間離れした采配あって、ようやく維持出来ていたと言っても過言ではない。

そんな綱渡りの中、自分のようなアーサー王のクローンという、非正規な誕生をした存在を後継者に選ぶのは、果たして正しいと言えるか?

……少なくとも、不安要素の欠片でも取り除かないと、一瞬で綱が引き千切れる結果になるのは目に見えていた。

だけど生前時は、滅ぶことは有り得ないと信じ切っていた。

アーサー王の常軌を逸した能力を目の当たりにしてきたからこその、慢心とも言える考え。

そして、同じ血を引いている自分なら、それに決して劣ることのない能力を発揮できると信じていた。

――なんて、甘ったれな考え。

もしかすると、そんな甘さをアーサー王は見抜いていたのかもしれない。だから、後継者たる要素の一切を否定した。

そんなことも露知らず、認められなかった恨みから、取り返しのつかない行動に出てしまったのか。

 

「――あ、ああああ」

 

頭を抱え、うずくまる。

モードレッドが考えた通りなのかは誰にも分からない。

しかし、元々実直で素直な性格だったことが災いして、思考がマイナスの泥沼に嵌っていく。

 

「モードレッド……?」

 

「――なさい」

 

リリィが突然うずくまったモードレッドに触れようとした時、小さく擦れるような声が耳に届く。

 

「ごめんなさい……私は……なんてことを――!!」

 

顔を上げたモードレッドの表情は、今にも泣きだしそうで。

屈強な鎧を身に纏っているにも関わらず、その身体がとても小さく感じられた。

突然の謝罪――否、懺悔。

リリィにとっても理解の追い付かない、この状況。

何かしなければ――そう思い、リリィはモードレッドの頭を、自らの胸の中へと受け入れた。

 

「――――」

 

今まで感じたことのない暖かさが、モードレッドを満たす。

モードレッドは、知らなかった。人に愛されることの、その意味を。

教えるべき人が与えてくれなかった。誰もが教えようとは思わなかった。

あったとしても、それは偽りでしかなく。誰もが、モードレッドを本当の意味で見てはいなかった。

真に愛情を与えられるべき相手に否定され、心が壊れなかったことが奇跡なのだ。

 

「……もう、大丈夫です。貴方は、よく頑張りました。だから――泣いても、いいんです」

 

見て来た訳でも、教えた訳でもないのに。リリィはまるで見て来たかのように、モードレッドが欲しかった言葉を与えてくれる。

優しく、慈しむように撫でてくれる手の柔らかさ。

呼吸をする度に鼻孔を擽る、甘い香り。

それら全てが、モードレッドの心を解きほぐしていく。

 

「……私は、貴方の言う父上――アーサー王とは、違う存在です。ですが、貴方が望むのであれば、私を父親だと思ってくれても良いのですよ?私も、貴方が拒否しない限りは――いえ、例え貴方が否定しても、私はあなたを娘だと思い続けます」

 

モードレッドに伝わるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。

それは徐々にモードレッドに沁みこんでいき――遂に、限界を超えた。

 

「――――ッ、あっ、うぁっ、ああっ……!!」

 

必死に声を抑え、それでも止まらない嗚咽。

それを少しでも抑えようと、リリィの胸に顔をより埋めていく。

そしてリリィもまた、何も言わず抱きしめる腕に力を籠める。

モードレッドは、無意識の内に思考する。

やはり、彼女は父上などではない。

もっと暖かな――そう、母親のような存在。

だけど、それが父上の本来の在り方だったとすれば。

王となり、シビアな現実と対峙し、何千、何万の命を背負い、それでも前に進むのが王だとするならば。

こんなにも愛を振りまく少女の心が擦り切れて、擦り切れて――その果てが、あの冷めた鉄のような王だったとするならば――王とは、まるで継承される呪いではないか。

そんな呪いから遠ざけたくて、父上は自分を否定したのかもしれない。

少なくとも……目の前の母親の如き少女ならば、そうしても不思議ではない。

そして、仮にそうだったとするなら、自分はなんて親不孝者なのか。

 

「ごめん……なさい。母上……はは、うえっ……!!」

 

知らず、目の前の少女を、母と呼んでいた。

その言葉は、思っていた以上に型に嵌っており、訂正することさえ烏滸がましいと思わせる程。

 

「……はい、貴方の母上ですよ」

 

一瞬の間。それでも母上は手を止めず、自分の戯言を肯定してくれた。

それが嬉しくて――今度こそ、声を大にして泣いた。

 




Q:ランサーが召喚された!
A:なお、平然とセクハラする模様。羨ましい。自害しろ。

Q:赤い機械剣……うっ、頭が。
A:搦め手二つ目。ジャンルとしては鯖ではなく礼装が召喚された的な。

Q:モーさん来た!
A:搦め手と言っていた部分のひとつですね。モーさん可愛いよモーさん。

Q:那岐君セイバー顔絶対痛めつけるマン説
A:一章からは別の女の子がターゲットになるし(震え声)

Q:モーさん性格+口調こんなだっけ。
A:気にするな!(魔王並感)

Q:リリィの母性+人の心が分かりすぎててモーさんがヤバい。
A:書いていた自分もヤバい。コハエースで駄目青王成分補給してなきゃ死んでた。その代りモーさん成分が増えて結局死んでた。


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幕間の物語~嵐の前の団欒~

リアルで色々あったようなそうでもないような気がして遅れた。

いやぁ、ぐだぐだ本能寺は強敵ですね(ノッブ宝具5が廃人仕様、問題多発によるプレイ時間の制限etc……)
そんなことより、うちにおき太がいないんじゃが……。なんじゃクソゲーか。



○月z日

 

昨日は色々あった。

理子ちゃんの召喚ではランサーのクー・フーリンが召喚され、自分の時はモードレッドが召喚された。

那岐知ってるよ、モードレッドって、ブリテン崩壊の一手となった人物だよね。

……やっべぇ、とガチで思った。

それでなんかモードレッドがリリィに必死に何か叫んで詰め寄るものだから、つい武力行使で黙らせてしまった。

今にして思えば、安易な行動だった。リリィが危ないと思うと、つい反射的に……。

その時は後日謝ろうと意気込みつつ、なんやかんやでリリィとモードレッドが二人きりでOHANASHIしたいって言うから、不安はあるものの見送った。

それにしても、モードレッドは随分男勝りな性格をしていた。

見た目はリリィとそっくりなのに、何か違和感。

 

それから、ふと召喚サークルの方に目をやると、何かが落ちていることに気付いたので、拾ってみる。

それは、グリップ部分がバイクのハンドルのようになっている、自分の身の丈ほどはある片刃の機械で出来た剣だった。

……ヤダ、カッコいい……!!

何か、男の浪漫を詰め込んだ感じが凄い。機械の剣って、男の子だよな。

当然、それに興味を持つ理子ちゃんを初めとした面々。

ロマニ曰く、聖晶石を本来の必要数の倍を投入したことで、副産物として召喚された可能性のあるものだとか。

ぶっちゃけ、そんなことはどうでもよくて。一刻も早く、どんな仕組みかを調べたかった。

そんな理由でけんもほろろな態度を取っていると、ランサーが性能を試すと言う理由で模擬戦を申し出て来た。

え?ヤダよ。そんなこっちの希望とは裏腹に、ロマニやダ・ヴィンチちゃんが観戦モードに入ってしまい、そんな空気が伝播したことで、最早逃れられないモードにまで発展していた。

特に理子ちゃん、そんなキラキラした目で見ないで。眩しすぎて死んじゃうから。

 

そうして、ランサーと自分はアリーナにいる。

このアリーナ、サーヴァントの性能確認の為に建造された設備らしく、かなり丈夫らしいので暴れてオッケーとのこと。

やめてください、しんでしまいます。

しかし、戦わないという選択肢もない。

それに、決して自分にとっても悪い話ではない。

これからは自分も最前線――まではいかなくても、戦いに駆り出される機会が出てくるのは確定している。

だったら、模擬戦という形で自分に宿っている未知の能力の使い方を学べた方が、いざって時に生き残れる確率が高まるだろうし。

手加減して欲しい、と伝えたら意味深に笑うだけに終わった。……この時点で、嫌な予感をひしひし感じていた。

 

いざ始まった模擬戦だが、結果だけ言えばドローだった。

と言うのも、ランサーがこちらの気持ちを汲んでくれたおかげで、自分の能力でもなんとか拮抗できたのだ。

縛りという訳ではないけど、模擬戦の条件の中にさっき手に入れた機械剣を使うことが挙げられていたので、こんな馬鹿でかい剣でランサーの攻撃を捌けるかどうか不安だった。

実際、捌くのは無理だった。ただ、ランサーが手加減してくれていたことが功を奏し、攻撃を避けることは十分に可能だった。

馬鹿兄貴がミリオンスタンプだったかほざきながら木刀で突いてきた速度よりも多少速い程度だったので、マイボディがハイスペック化と合わさって回避することが出来た。

しかし、それでは防戦一方。痺れを切らされてもこちらが困るので、何とか攻撃に転じようとするも、上手くいかない。

槍は懐に入れば攻撃できない~なんて聞くけど、プロの槍兵なめんな。無理だから。

一瞬の隙をついて少し距離を取るも、ランサーは瞬時に肉薄してくる。

ヤベェ、と思って剣を握る力が強くなると、ドゥルン、てな感じの音が鳴った。

それが機械剣のハンドルを回したことによって鳴った音だと気付いたのは、突然暴走を始めた機械剣に振り回されてからだった。

何か滅茶苦茶な馬力と、過剰熱によるオーバーヒートで剣が燃えてるんだけどぉぉぉ!!

しかも馬力凄い上に体勢半ば崩れてるから止めらんないのぉぉぉ!!

内心ヒーヒー言いながらどうにか収まったと同時に、ダ・ヴィンチちゃんがストップをかけてくれた。

ああ、こっちが武器を使いこなせていないのを理解してくれて止めてくれたんだね。御免よ、君のこと誤解していたよ。ただのモナリザ厨じゃなかったんだね……。

 

肉体はともかく精神的にヘロヘロになったから、すぐ部屋に帰って寝た。

起きてから、リリィちゃん達を放置していたのに気づいた。死にたい。

 

 

 

○月Λ日

 

翌朝リリィちゃん達の様子を見に行ったら、モードレッドがわんこになっていた。な、何を(ry

昨日までの敵意剝き出しの彼女はどこへやら、ははうえーははうえーと緩んだ顔でリリィちゃんにすり寄っている姿は、皆一同を驚かせた。

憑き物が落ちた、と言うべきか。父――というか、アーサー王へ向けられた妄執やら憎悪やらは、つまるところアーサー王への関心が極みに達した結果だと見ていいだろう。

モードレッドがリリィちゃんに存在を否定されたような発言をした際、過剰なまでに反応していたことを考慮すれば、あながち間違いではないと思う。

そんな感じで、牙の抜けた獣のようになったモードレッドと、謝罪からの和解で正式にマスターとしての契約を結んだ。

まぁ、実際には最初からマスターなんだけど。パス繋がってるし。

エミヤだって名前の交換は大事だって言ってたし、そんな感じよ。

 

それで、朝食になったんだけど――やっぱり、どうにも美味しくない。

マズくはないんだけど、カルデアが研究機関だからってのもあるのか、味より成分とかを重視しているっぽくて、味気ないんだよね。

ここでの食事はまだ数少ないけど、理子ちゃんにしても納得のいっている様子はなかった。

研究しているならともかく、自分達が駆り出されるのは戦場だ。

肉体的、精神的に万全な状態でなければ、名だたる英雄と戦うなんてとてもじゃないけど無理だ。

幸いにも、そんな有り合わせなものだけではなく、調理前の肉や野菜も保存されているらしいので、自分で作ってみた。パンケーキを。

……肉と野菜のくだりがあって何故パンケーキかって?何となくだよ!!!

というのは半ば冗談で、こんな場所だと普通の食事はともかく、甘味処とは縁遠くなりそうな気がして、食べられるときに食べようという、何とも自分勝手な理由だ。

母さんの影響――というか、他の男共が家事をしないこともあって、流石にそれは可哀想だと手伝ったのが事の始まり。

最低限、それこそ一人暮らしなら問題なく出来るレベルの家事能力は鍛えられたと思う。

まぁ、一人暮らしなんてしようものなら、ここぞとばかりに馬鹿兄貴にマイハウスをいいようにされるのが目に見えているので、そんなことしないけど。

ただでさえ、ストロベリーサンデーなんて馬鹿兄貴の好物を作らされた挙句に味に文句付けてくるんだから、マジで勘弁してほしい。

……あれ?割と命の危機がある現状の方が、のびのびと出来ているってどういうことなの?

 

そんなこんなでパンケーキを作っている時、モードレッドが匂いにつられて現れた。

何というか、比喩ではなく、顔を押し出すような姿勢で匂いの元に近づいていく姿は、漫画みたいな光景で思わず笑ってしまった。

誤魔化す意味も兼ねて、パンケーキを譲ってあげたら凄い喜ばれた。食べたらもっと喜ばれた。

そういえば、ブリテンの食事情ってだいぶヤバかったらしいし、こんなものでも異常なまでに美味しく感じるのだろう。

それでも、美味いと言われれば嬉しくなるのが人情というもので。調子に乗って何枚も作ってしまった。

フルーツサンド仕立てだったり、ホイップクリームをふんだんに使ったものだったりと、アレンジを加えて攻めていけば、モードレッドもまた異なる反応を以て返してくる。

その様子が面白くて、いじらしくて――気が付けば、頭を撫でていた。

やっちまったあああああああ!!と内心バクバクになりながらも、手は止まらない。

何やこのふさふさほわほわな髪。こんなん触ったことないっての。

女の子の髪ってこんななの?母さんの絹のような肌触りともまた違う、太陽の暖かさを吸収した草原を連想させるそれは、触れているだけで気分を落ち着かせる。

モードレッドも食に夢中なのか、反応を見せる様子もなく、申し訳ないと思いつつもしばらくその手触りを堪能した。

 

そんな一時は、遠くからの足音によって中断された。

次にやって来たのは、リリィ。どうやら彼女はモードレッドを探していたらしく、その際に甘い香りがしたから立ち寄ってみたらということらしい。

モードレッドがパンケーキをリリィに分けようとする姿、そしてそれを拒否し自分で食べるように促すリリィ。

……本当に、ただの親子のやりとりだなぁ。

パンケーキを食べている姿もそうだけど、モードレッドの良くも悪くも明け透けない態度は、非常に動物的で分かり易い。

根が真っ直ぐだからこそ、包み隠すことをせず、ありのままを表現できる。それは、とても尊いことだ。

その真っ直ぐさが、カムランの丘の悲劇を生んだものだとしても、それは彼女が悪いわけではなく、ただ間が悪かっただけに過ぎない。

そう信じなければ、目の前の二人が幸福であることが許されないことだと認めてしまうことになる。

そんな和気藹々とした様子を見守っている内に、一人、また一人と集まってきて、最後にはパンケーキパーティみたいな流れになっていた。当然、作るのは自分だけです。

まぁ、いいんだけどね。兄貴達と違って、素直に喜んでくれるから食べさせ甲斐あるし。

 

それと、驚くべきことがあった。

後片付けをしている最中、リリィがお菓子作りを教えてほしいと頼んできたのだ。

当然、それを承諾。カルデアの備蓄にもよるけど、やれることはやるつもりだ。

騎士王のせいで、食べる専だと思い込んでいたからこその驚きであって、冷静に思い返せばリリィなら割と納得できる不思議。

習おうと思った切っ掛けも、純粋にブリテンでは食べたことのない程美味な食べ物だったから是非自分でも作れるようになりたいと言うもので、当時のブリテンの食糧事情が如何に酷かったかが分かってしまい、涙が出そう。

でもきっと、それ以上に。モードレッドに食べさせてあげたい、とかそんなのが本音なんだろうなぁ。わかるわ。

実際、昨日からリリィのお母さんパワーが凄い。

口におべんとつけてるモードレッドを拭ってあげたり、自分のを分け与えてたりと、もうね。

見た目的に同じぐらいの年齢なのに、どうしてこうなったとしか言えない。見てて微笑ましいから、全然ありだけどね!

 

 

 

○月Δ

 

今日は、新たな特異点を発見したとのことらしいので、事前準備も兼ねた作戦会議となった。

パンケーキを通して、交友を深めることも出来て、モチベーションも連帯感もばっちり。少なくとも、誰一人として不安な表情はしていない。

肩慣らしも兼ねて、一番特異点としての揺らぎのない場所を選んでくれたらしい。

因みにそれを含めて七つあるとか。マジかよ。

取り敢えず、自分達がその時代に飛んだ後にすべきことは、まずは召喚サークルを設置することらしい。

これさえしておけば、補給物資を定期的に送れるから超重要。そういった後ろ盾がしっかり出来ていると分かっているだけでも、精神的に余裕が出来るのはサーヴァント達のが良くわかっている筈だ。

その時代の霊脈を利用しないと駄目なのがネックだが、特異点となるような出来事が起こった場所ならば、そういった霊的要素のある土地が近場にあっても不思議ではないから、深く考える必要はないと言うのがダ・ヴィンチちゃんの弁。

そういうのは詳しくないんで、なるようになるだろうとしか言えない。

楽観的だと思われても仕方がないけど、気負って失敗するよりはいいさ。

ともあれ、自分は英傑が集うであろう戦場で、一介の兵士として戦うこととなった、その初陣になるのだ。

せめて、みんなに迷惑を掛けない程度に頑張ろうとは思う。これでも兄貴達の指導の賜物か、ランサーの攻撃を何とか凌げる程度には動けるっぽいので、何とかなるやろ。

それにしても、英霊って凄いってイメージあったけど、ゲーム的な演出のせいで過剰に持ち上げられてただけで、やっぱり人間の延長でしかないのかな、と失礼なことを考えたりもした。

実際、主人公だのあかいあくまだの黒桜だの暗殺教師だのと、限定的ながらもサーヴァントと互角以上に立ち回ることさえ出来ていたのを考えれば、別段不思議ではないんだろうね。

やっぱり重要なのは、宝具。あれは唯一無二の切り札だから、そんなもんのない自分はどう言い訳してもサーヴァントに勝ることは有り得ない。

例の右手と両脚――手の方は神判下せし右腕(ゴッドハンド)、脚の方は悪魔殲滅せし具足(デビルブレイカー)と原作風に勝手に命名――がそれに相当するものなのかもまだ分からないし、過信も出来ない。

というか、結局使う練習すらしてないやんけ。アカン。

まぁ、そんな取って付けた力に頼るようではこの先生き残れないだろうし、これは追々でいいかな。

あ……なんか胃が痛くなってきた。

 




Q:武器に振り回されてるけど、自慢の腕力どうした。
A:不意打ちで引っ張られて、腕が伸びきった状態なら力も入らんだろ(適当)

Q:別に信じてはいないけど送り出したモードレッドが、次の日リリィの母性に脳を溶かされわんこになっているなんて……
A;知ってた(諦め)

Q:那岐っちの料理の腕ってどんなん?
A:一般的な家庭料理とか、趣味で菓子を作る人レベル。つまり普通。でもモーさんは墜ちる。

Q:リリィが飯墜ち二コマシリーズ化していない……だと……?
A;うるさい馬鹿!そんなことよりモーさんの為に料理練習だ!

Q:作者の宝具?ネーミングセンスのなさ
A:すまない……。


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A.D.1431 邪龍百年戦争 オルレアン
03


後半になると、普通にノッブ宝具5に出来てなんか拍子抜け。なお再臨素材。

次イベの特攻鯖にマリーがいるけど、ということはボスとしても出るってことだよね?多分。
キラキラキラキラキラキラ……輝くの。うっ、頭が……!!

それと、スカアハピックアップガチャで取り敢えず呼符一枚回したら、ワカメだった。死ね(直球)



×月○日

 

青い空、白い雲。何と心地よいことか。

こっちに来ての初めての大地は草も根付かない山の上、レイシフトした先の冬木は廃屋と死で満ちた陰鬱とした世界だったこともあって、出発前の緊張も幾分か緩和されたのは嬉しい誤算だった。

マシュちゃんによると、今は1431年。時期でいう所の百年戦争真っ只中ということらしいが、その言い分だとここってフランスなの?

それと、マシュちゃん曰くこの時代の戦争は名ばかりのもので、百年間うだうだと小競り合いみたいな感じで続いてきたものらしい。

理子ちゃんが空を見て何かに気付いたらしく、遅れて現れたロマニの推測によれば空に展開されているものは、一種の魔術式の可能性があるとのこと。

特異点と何らかの関わりがあるのは間違いないとして、ロマニが解析を継続する形となり、まず自分達は霊脈の探索に勤しむことになった。

 

見晴らしのいい場所と言うこともあって、気分はちょっとした散歩。

それじゃダメなのは分かっているんだけど、ずっと気を張っていても疲れるだけだし、何よりそういう気配に敏感な英霊達が周りにいるのにそんなことしても、付け焼刃にさえならないと思うんだ。

適材適所。自分は最低限の仕事が出来るように、万全を整えているのが正しいんだ。きっとそう。

そんな言い訳を繰り返しながら街に向けて歩いていると、兵隊らしき人達がいたので接触するべきかという話になった。

――イヤイヤ、駄目でしょう。うちらどう見てもこの時代にそぐわない恰好してるじゃん。危ない人だよ?傍から見れば。

とはいえ、ロマニ曰く万が一歴史が変動するような事態が今起きても、タイムパラドックスが起こることはないから、多少のイレギュラーな行動を取っても支障はないってさ。

そうじゃねぇよ!そういう問題じゃねぇよ!

誰かに会うのはいいよ?でも、明らかに兵隊な格好している人と、見た目怪しい集団が街の外で接触しようものなら、普通警戒されるって考えない?

……結局、接触することになったんだけどさ。こっちに迫ってくる以上、逃げるような行動を取れば余計に不審がられるってランサーの意見もあって、その辺りのプロっぽい人に言われてはこちらも折れるしかない。

じゃあ誰が?という所でモードレッドが行くことになった。多分、リリィにいい所見せたかったんだろうね。

結論――うん、やっぱり駄目だったよ。知ってた。

峰打ち?で制圧したから多分死人はいないと思うけど……不安だ。

モードレッドはリリィに慰められていた。甘やかしすぎは駄目だと思うよ。

 

放置するのは申し訳ないと思うが、起こした所で襲われる未来しか見えないので、そのまま街を目指した。

辿り着いた先の街で、疲弊した兵士から聞いた話ではシャルル王は殺されたらしい。何でも、魔女の炎に焼かれたとかなんとか。

しかもその魔女と言うのが、ジャンヌ・ダルクだと言うのだからこれまたびっくりだ。

シャルル王って、この時代だと七世ぐらい?確か、その辺りでジャンヌが魔女裁判に掛けられて処刑されたんだっけ。

魔女狩りの話は、聞いているだけで胸糞悪くなったのは今でも鮮明に覚えている。

間違いなくジャンヌは処刑されているらしく、それで尚現れたということは――サーヴァントであることは間違いないだろう。

ならばシャルルを殺したのは、復讐の為か?

でも、当時のフランスって実質イギリスの支配下にあったようなものだったらしく、シャルルが彼女の処刑を止める手段はなかったとも聞いている。

聖女としてジャンヌが崇められているのも、シャルルが後に名誉奪還の為に邁進したからこそ勝ち取れたものであって、シャルルを憎むよりも彼女を売った軍をどうこうするのが先なんじゃないかな。

少なくとも、ジャンヌが聖女として崇められるのは、以前の行動がそれに相応しかったからこそであって、そんな人間が復讐に走るものだろうか。

 

そんな答えの出ない自問自答をしている内に、骸骨兵が徒党を組んで街に向かってきた。

意図的にこの街を狙った行為。誰だか知らないが、見通しが甘い。

こっちにはそんなもの物の数ではない、本物の英雄が三人もいるんだぞ!マシュちゃんは……うん。

それでも数は馬鹿みたいに多く、一部の地平線が見えないぐらいで、下手をすれば物量で押し込まれかねない。

ランサー辺りの宝具で一掃するのもアリかと思ったが、これが作為的なものであるならば、どこかで監視しているであろう敵に手の内を晒すことになりかねないので、出来る限り使う訳にはいかなかった。

自分も城壁の上から、ホロスコープで狙撃援護をして何とか凌いだが、あの程度の兵ならマナが潤沢にあるこの時代では幾らでも作れるらしく、幸先が不安だ。

――とか考えていたら、なんかワイバーンが出てきた。

は?馬鹿なの?死ぬの?死ぬよ?主に自分が。

骸骨兵に比べたら数は劣るが、空を覆いつくさんばかりのワイバーンの群れを前に、出し惜しみをするなんて不可能だ。

兎に角撃った、撃ちまくった。

遠距離戦が出来るのが自分だけというのもあって、ヘイトは当たり前のようにこちらに向く。

もう、頭の中大パニック。城壁の上にいたら中の負傷兵が標的にされてしまうのだけは辛うじて思い出せたので、距離を放すべく地上に降りてひたすらに逃げ回った。

ホロスコープもハンドガン形態に変えて、引き撃ちを繰り返し、懐に潜り込まれたら即ぶん殴って離脱。

だがしかし、多勢に無勢。ヘイトの殆どを自分が受け持っているせいで、ワイバーンの群れにいよいよ呑みこまれんとした時――淡く、優しい光が壁となりワイバーンの猛攻から身を守ってくれた。

ワイバーンの一瞬の動揺を突き、リリィ達が殲滅を開始。自分を襲おうと地上に限りなく近い場所まで降りていたことが幸いして、何とか全滅させることが出来た。

あと、何か知らない女性が追加されていた。

ルーラーを名乗る女性、真名はジャンヌ・ダルクらしい。

……あれー?なんでいるのー?そもそもルーラーってなーにー?

疲労も相まって思考回路がショート寸前だった所で、なあなあな感じでジャンヌから事情を聞くことに。

 

ジャンヌはリリィと同じく、聖杯の知識がないらしく、ステータスも弱体化しているとこのこと。

そして、ジャンヌ・ダルクは二人いると言うこと。

目の前にいるジャンヌは、つまり善ジャンヌということで、シャルル七世を抹殺したのが悪ジャンヌということか。

竜の魔女、という表現からその悪ジャンヌがワイバーンを操っていたと判断してもいいだろう。それに加えて、悪ジャンヌはルーラーのクラス特性で、こちらを常に監視している可能性があるとまで言われてしまった。わーい、もう一度ワイバーンと遊べるドン!(白目)

しかも、そんな大それたことが出来る時点で聖杯が絡んでいるのは確定なので、無視も出来ない。もうやだ。

取り敢えず、善ジャンヌと一緒に悪ジャンヌを倒すことが決まったので、それに向けて計画を練ることにした。

 

追記:善ジャンヌがいい子過ぎて死にそうなんですが、どうすればいいですか?

 

 

 

 

×月×日

 

ラ・シャリテに向けて行軍を行う世界救済御一行。

もう少しで着く、という所でサーヴァントの気配をラ・シャリテの辺りから察知。

しかも、ラ・シャリテに火の手が上がっていることも確認された。

慌てて生存者を探しに向かうも、ロマニが全滅している事実を告げる。

それだけでも酷いと言うのに、その死体を利用したリビングデッドを自分達に仕向ける始末。

流石にキレそうになったが、冷静さを欠いてしまえば相手の思うつぼ。骸骨兵の時と同じく、後方支援で撃退。

駄目押しにワイバーンまで出てきたのは驚いたが、幸か不幸か今は護るべき存在が限りなく少ない為、出し惜しみすることなく戦えたので割と楽に終わった。

それにしても、ホロスコープの弾は据え置きのものを使っているけど、これいつなくなるんだろう。撃っても撃ってもリロードいらずなんですが……。まじゅつのちからってスゲー!

ジャンヌの悲痛な表情が、今も脳裏に焼き付いている。

非情の死を遂げた死者達を悼む思いと、この惨劇を引き起こしたのがまた別のジャンヌ・ダルクだという確信があるからこその、やりきれない表情。

下手に慰めの言葉をかけたところで、事情の半分も理解できていない身分での言葉など、届く筈もない。

 

悪いことは続く。

先程のサーヴァントが反転してこちらに向かってきているとの報告を受ける。

数は五。こちらもサーヴァントは五人いるが、ジャンヌが不完全と言うこともあって拮抗しているとは言い難い。

しかし、これは好機でもある。

遠くからちまちまやられるよりも、敵の頭が自ら飛び込んできてくれるのならば都合がいい。

不安を胸に抱えながらも、サーヴァントを待ち構えた。

セイバーオルタのように色調が暗く反転した、ジャンヌ・ダルク。そして、それに付き従うように連れ添う四体のサーヴァント。それが、自分達の敵。

悪ジャンヌ――いや、ジャンヌ・オルタはジャンヌとは似ても似つかない悪辣な笑みでジャンヌを見下し、罵声を浴びせる。

神経を逆撫でする様な挑発。普段ならば軽く聞き流している、が――この街をこんなにしたのが奴の仕業だと思うと、我慢ならなかった。

眉間に一発、無拍子で狙いを定めた一撃は、バーサーク・セイバーと呼ばれた少女によって妨害される。

しかし、構うものか。躊躇いなく何発も撃ち続けると、他のサーヴァントがこちらに狙いを定める。

だが、こちらは一人ではない。リリィを筆頭に、各々がサーヴァントへと対処を始める。

互いの実力が拮抗している故か、乱戦にはならず一対一の戦闘となる。

セイバーを自分が、モードレッドがアサシンを、リリィとマシュがライダーを、兄貴がランサーを、ジャンヌがジャンヌ・オルタをと言った具合に分かれた。

戦いの最中で抱いた感想だが、セイバーの動きは一言で言うと違和感があった。

無理をしている、と言うべきか。やりたくもないことをさせられている、というべきか。兎に角、動きに無駄があった。

そしておぼろげに理解したのが、セイバーへ抱いた違和感は、その戦い方にあるのではないかということだった。

セイバーの攻めは、こちらを確実に殺さんと言う意思こそあれど、身体が追い付いていなかった。

セイバーの能力不足、と言う訳ではないだろう。どちらかというと――剣筋を見て、何となく彼女が護りを比重に置いた型がベースであることも関係している、と自分は判断した。

護りの型で怒涛の攻めをすれば、歪にもなる。

 

自分よりも、ジャンヌの方が問題だった。

弱体化している彼女にとって、十全であるジャンヌ・オルタは事実上の上位互換。タイマンを張って勝てる見込みはまずない。

守勢に徹していて尚、ジャンヌ・オルタはそれを問題なく崩せるほどの差。

今まさに崩れようとした時――硝子の薔薇と共に、美しき花が咲いた。

舞台の演者の如き口上と共に現れたのは、マリー・アントワネットその人だった。

そのお供のように現れた、これまた有名人であるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの宝具による精神攻撃が、拮抗を崩す一助となる。

結果として、ジャンヌ・オルタの指示で撤退が行われるまで何とか凌ぎきることが出来た。

去り際、まるで親の仇と言わんばかりにライダーに睨みつけらたが、何だったんだろう。

それにしても、ランサーがヴラド三世、アサシンがカーミラだと言う情報を得られたのは収穫だった。自爆みたいなもんだったけど。

……そもそも、ジャンヌ・オルタのチームはどうにもギクシャクしており、それだけでも寄せ集めのその場凌ぎの集団だと言うことが分かる。

いや、リーダーがあんなだから、というのが一番だろう。

それにしては、セイバー然りライダー然りと、ジャンヌ・オルタに召喚されるような雰囲気を持っていない手合いも混ざっている辺り、連携なんてものは皆無と見ていいだろう。

弱点があるとするならば、そこしかない。

弱体化していたジャンヌでオルタの相手は役者不足だったらしく、メンバーの中で最も消耗が激しい。

それを考慮に入れると、この後またワイバーンをけしかけられようものならば、下手をすれば瓦解してしまう。

 

そんなことよりも、手助けしてくれたマリーとアマデウスだ。

マスターの存在しない、非正規の召喚で現界しているらしく、いまいち自分達の境遇も理解していない様子。

あれこれと推測を立てている内に、召喚された理由は「英雄のように、彼らを打倒するためなのね!」とマリーが笑顔で言い放った。

……強い人だ、と素直に思う。

マリー・アントワネットに武勇があるなどという逸話はない。

英雄でもないのにサーヴァントとなり、英傑が鎬を削る場においても、決して優雅さを捨てず、無邪気を秘め、決して意思を曲げない。

ジャンヌ・オルタを前にしても、恐ろしいと口にはすれど、決して一歩も引かなかった。

例え物理的な強さがなくとも、その在り方は確かに英雄と呼ぶに相応しい。

それこそ、何故あのような悲劇の末路を辿ったのかを疑うぐらいに。

 

ジャンヌ曰く、ジャンヌ・オルタを除くサーヴァントには総じて「狂化」が付与されているらしい。

聖杯による、意思に反する狂気を宿されて、その諸悪の根源足る者を護るべく戦わなければならない気持ちは、誇りある英雄ならばさぞ屈辱的なことだろう。

どこまでも腐っている。レフもそうだが、吐き気を催す邪悪とは、ああいう手合いのことを言うのだろう。

 

取り敢えず、次の目標は決まった。

マリー達が召喚されたように、他にも善なるサーヴァントが召喚されている可能性に賭け、ジャンヌ・オルタに気取られる前に確保する。

そして、戦力が整い次第一気に追い詰める、というもの。

敵が増えるだけ、という可能性を考慮にいれても十分に試す価値はあるし、明日からまた頑張ろう。

 

追記:あのセイバー、シュヴァリエ・デオンらしいけど、男でも女でもないらしいよ?何それ、コメントに困る。

 




Q:雑魚兵の数ってどんぐらい?
A:骸骨兵は500、ワイバーンは200ぐらいを想定。十分の一は那岐君の手柄。

Q:やっぱりジャンヌは天使だな。
A:それ、一番言われてるから。

Q:やっぱりマリーは天使だな。
A:当たり前だよなぁ?

Q:デオンくんちゃん……那岐相手によく無事で。
A:流石護りに関しては優秀な鯖やで(なお護りは狂化で捨てた模様)

Q:デオンくんちゃんは性別どっちが良い?
A:安易に答えを出せる程単純な話ではない。これは男の娘やフ○○リのように安易に女性と男性の性質を混合させたものではなく、男性にも女性にもなれるという特性についてまず焦点を当てる必要がある。肉体的にどちらにもなれるということは、精神もまた共存――女性としてのデオンと男性としてのデオンの二つが一つとして存在している可能性が高い。一概に男性の肉体ならば女性の精神は入り得ない、なんてことは同一の肉体に存在する魂である以上決して断言することは出来ない。男性の肉体で精神は乙女、女性の肉体で精神は青年。どちらも背徳的であることに変わりはない。肉体が変異したところでその美しさが損なわれる訳ではない以上、性別はその時点で些末な問題に過ぎない。むしろ、そのどちらにもなれる、という性質を利用して、女性の肉体の時に調教して男性の時にその時の快楽を思い出して悶えさせて自分からその快楽を求めるように(ギロチン行き)


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03~モードレッドの変貌~

投稿できなかった間に合った中の人の出来事まとめ(FGO編)

スカサハ様編

・スカサハ様ゲイボルク投げスギィ!!青タイツ涙目やんけ!

・叔父貴は那岐にワンチャンあるキャラ(性的な意味で)

・空気な黒子

・このストーリーが、ぐだ日記でかなり重要な役目を持たせられそうだったので、僕歓喜

・40連ガチャでカレスコ三枚目当たった。なお


サンタオルタ編

・モードレッドが死ぬ(サンタオルタ的な意味で)

・鼻歌サンタオルタ可愛い

・ライダーとして最強候補じゃね?いいのかこれ

・40連でナーサリィライム当たった。そろそろ死ぬかもしれない

・アストルフォ!アストルフォ!アストルフォ!アストルフォぉぉぉぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!アストルフォアストルフォアストルフォぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!アストルフォきゅんのローズピンクの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
サンタオルタイベントのアストルフォきゅんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
イベントに出られて良かったねアストルフォきゅん!あぁあああああ!かわいい!アストルフォきゅん!かわいい!あっああぁああ!
セイバーアストルフォきゅんも出るから嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!100連回して出ないなんて現実じゃない!!!!あ…仮にガチャで本当に追加されたとしても…
ア ス ト ル フ ォ き ゅ ん が当 た る な ん て 保証 は な い ?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!シャルルマーニュぅううう!!
この!ちきしょー!やめてやる!!こんなクソゲーなんかやめ…て…え!?見…てる?Apocrypha3巻表紙絵のアストルフォきゅんが僕を見てる?
Apocrypha3巻表紙絵のアストルフォきゅんが僕を見てるぞ!アストルフォきゅんが僕を見てるぞ!挿絵のアストルフォきゅんが僕を見てるぞ!!
アニメ(妄想)のアストルフォきゅんがが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはアストルフォきゅんがいる!!やったよデオンくんちゃん!!ひとりでできるもん(意味深)!!!
ち、ちびちゅきのアストルフォきゅううううううううううん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあ女体化我様ぁあ!!ジ、ジャンヌー!!ブーディカママぁああああああ!!!リリィぃぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよアストルフォへ届け!!英霊の座のアストルフォへ届け!



彼女にとって、アーサー・ペンドラゴンは何よりも特別だった。

アーサー王の因子によって生み出されたクローンである彼女にとって、目指すべき目標であり、理想であり、親同然の存在。

それをモルガンから知らされる以前よりも、アーサー王はモードレッドにとって特別であることに変わりはなく、寧ろ同じ血を分けた存在だと知ったことで、誇りと僅かばかりの優越感が彼女を満たした。

努力を重ねれば重ねるほどに、アーサー王が如何に優れた存在かを思い知らされ、尊敬の念が止むことはなかった。

憧れは理想となり、そして自らもまたブリテンの次世代を担う存在となれると言う事実は、筆舌に尽くしがたい喜びであった。――あの日までは。

彼女は、愛情に飢えていた。

モルガンから語られる以前より、モードレッドは明確に親と呼べるものが存在していなかった。

それは当然。彼女はホムンクルス――人間の在るべきサイクルから逸脱した生命として生み出された、ヒトガタでありながら人間とは呼べない、クローン体だった。

例に漏れず、モードレッドもその男勝りな性格故に、それをおくびにも出さず平然を装い続けた。

ある意味ではモルガンが親なのだが、モルガンにとってモードレッドは叛逆への一石でしかなく、親心なんてものは初めから存在してはいなかった。

それ故に、モードレッドもまた、彼女を親とは認識してはいなかった。

当時としては親無しなんていうのは決して珍しいものではなかったから、普段気にするようなことはなかった。

しかし、寂しくないかと言えば別問題。一見寂しさとは無縁な性格をしていても、腹の内までは吐露するまで誰も理解できない。

それに比例して、飢えも増していく。

飢えは我欲を生み、貪欲さを増し、依存性を高めていく。

それが、肯定的な感情によって発露するならば良かった。――しかし、現実は甘くなかった。

 

アーサー王は優秀だ。優秀過ぎた。

故に、一目で看過した。モードレッドに、選定の剣を抜く才は無い。次代の王となる資質は、ないと。

自己完結し、理由も説明されなければ、試す事さえ許されなかった。

――トドメに、親子の縁さえも否定されたことで、モードレッドは歪んでしまった。

愛情と憎悪という、二律背反とも表裏一体とも取れる感情がひとつになり、アーサー王への執着を狂気的なものにまで発展させた。

その末路が、カムランの戦いと呼ばれるアーサー王伝説の幕引きとなった、叛逆と言う名の仲間割れ。

外敵から身を守り続け、僅かばかりの灯火を必死に保ち続けていた国の末路は、内側からの崩壊と言う、ある意味必然ともとれる終焉だった。

 

繁栄と衰退はこの世の理であり、決して逃れられる定め。

形は何であれ、終わりを迎えた事実こそ咎められる謂れも謗られる謂れもない。

そも、こんなものはその時代――否、それ以前よりもありふれた幕でしかない。

人間の営みの根底には、欲望が常に息を潜めている。

富める者への妬み、優れた者への妬みと言った、貧富の差が起こす謀反やクーデターなんてものは、それこそ戦乱の時代の象徴と言っても差支えないもの。

当たり前のことが、当たり前に起きて、当たり前のように終わった。それだけのこと。

 

――だが、それでも。こんな悲劇で終わるのは、誰も望んでいなかったことだけは確かで、それを変えたいと思うのは、ある意味では当然のことだった。

アーサー王は、吹けば飛びそうなブリテンと言う国を一秒でも長く存続させる為に、綻びを作ることを良しとしな

かった。

ひとえに国を愛しているが故に。ブリテンの国民を生かす為に。あらゆる不確定要素を排し、完璧を遂行するマシーンとして妥協を是としなかった。

モードレッドは、ただアーサー王に息子として認められるだけでよかった。

次代の王になることなど、その足掛かりでしかない。

自分と言う個の生命を肯定して欲しかった。存在しないと思っていた他者との明確な繋がりが、彼女が欲しくて止まなかったもので、それ以上を望まなかった。

しかし、時代がそれを許さなかった。

もし、当時のブリテンが当時ほど困窮していなければ。

アーサー王が客観的に人間と言うものを見ることが出来たならば。

モードレッドが感情的に短慮な行動に走らず、冷静にアーサー王の意図を考えることが出来たならば。

二人にいざという時頼れるほどの、信頼に足る存在がいれば。あそこまで悲劇的な終わりを迎えることはなかったかもしれない。

外敵に滅ぼされるにしても、騎士たちと心を一つに最後まで戦い抜くことが出来れば、それは立派な英雄譚として後世に語り継がれたことだろう。

 

しかし、モードレッドにはそんなことは関係ない。

彼女が望むのは、叛逆ではなく忠義の騎士としての名誉を得ることでも、王として次代を担うことでもない。

ただ息子としてアーサー王に認められたかった。それだけの、ちっぽけな祈り。

そんなちっぽけな祈りさえも、戦乱の時代は見逃さずに蹂躙する。

時代が。環境が。彼女達をただの親子であることを許さなかった。

そんなもののせいで、自分のたったひとつの望みさえ叶えられないだなんて、納得できる筈もない。

だから、聖杯に望みを託した。選定の剣を抜く機会が欲しいと。次代のブリテンの王になりたい、ではない。

ただ、納得したいだけ。

選定の剣を抜けるにしても抜けないにしても、一方的な理屈で試すことさえ許されなかった、そんな理不尽の先にある結果が見たいのだ。

モードレッドは決して愚かではない。それが良い結果であれ悪い結果であれ、納得することさえ出来れば、少なくとも叛逆などと言う終わりには至らなかっただろう。

そんな理屈じゃない感情論を、超越者であるアーサー王は理解できなかった。だからこじれてしまった。

だけど、聖杯さえあれば。こんな筈じゃなかった未来を変えられるかもしれない。

そんな蜘蛛の糸を掴むような気持ちで、召喚されることを待ち続けた。

 

そして、待望の召喚された先で、思いもよらぬ出来事が連続した。

若き日のアーサー王との邂逅。アーサー王が女だという事実。

理解の及ばない出来事の連続。しかし、何よりも驚いたのが――似ても似つかない、自分の知るアーサー王とは異なる、あまりにも柔らかな態度。

それだけではない。表情、物腰――そのどれもが、厳格で他者を寄せ付けない父とは真逆で。

そのせいで、余計に二者が同一人物だという認識が出来ず、混乱の極みに達した。

そこで、父に似た別のナニか――セイバーリリィに、優しくされてしまったのがいけなかった。

実質全くの別人だと理解していても、同じ顔で、同じ声で、慈しむように接されてしまえば、親の温もりを求めていたモードレッドが陥落するのは、時間の問題だった。

生まれてこの方流したことの無い涙。幼子がするような慟哭。

仮面の騎士として戦いと叛逆の旗印としての価値しか求められなかった彼女の人生に、初めて明るい色が差した。

 

 

 

……とまぁ、茶番のような長い前振りが流れたところで、結論に走ろうと思う。

 

要点として、

 

1:モードレッドは今現在に掛けてまで、明確な親の愛を受けたことはない。

2:故に、無意識の内に愛情に飢えている。

3:父親であるアーサーに認められたいが為に国を滅ぼす一助となる程のかまってちゃん。

4:憎さ余って愛しさ百倍。ある意味でヤンデレっぽいその行動の根幹には、純粋なまでの求愛が原動力となっている。

 

という究極のファザコン体質のモードレッドが、

 

1:モードレッドの全てを肯定してくれる存在が現れる。

2:それは若き頃のアーサーであり、未来に起こるであろう悲劇を欠片も知らない無垢な女性であること。

3:父とは真逆の砂糖水のように甘く包み込んでくれる、どちらかと言えば母と呼べるタイプである。

4:実質の別人とは言え、姿形も声も同一のそれで、モードレッドに優しくしてくれる存在であること。

 

等と言う彼女にとっての理想を体現したような存在が現れたら、どうなると思う?

まぁ、言わずとも分かるであろうが、結論を言うと――

 

 

 

「ははうえー、ははうえー!!」

 

「はいはい、どうしたのですかモル」

 

緩んだ表情でまるで子犬のように母上と呼び慕う女性――セイバー・リリィにべたべたする光景。――これが、答えだ。

因みにモル、というのはモードレッドの愛称でリリィ命名である。モードレッドと呼び続けるのは他人行儀が過ぎると言うことで、ぱっと思いついたそれを採用。モードレッドも大喜びの良いことづくめ。

普段の凛々しさはどこへやら、発情期の犬もドン引きする勢いでリリィに甘えている。時と場所を選ばずに、だ。

リリィもそんな彼女を否定しないどころか、それに余すことなく答えているものだから、最早止めようがない。

駄目だこの反逆の騎士……早く何とかしないと……。甘々空間を作っている二人以外は、一回は考えたフレーズだろう。

悲しいかな、それを口にできる度胸のある人は誰もおらず、結局レイシフトが開始するまでの間、殆どの時間を親子の団欒に費やした。

周囲の心労、プライスレス。

 

 

 

 

 

そんな駄目な子と化したモードレッドだが、戦場に立てば凛々しさを取り戻し、円卓の騎士の一員として恥ずかしくない立ち居振る舞いを見せつけていた。

特異点と呼ばれる人類のターニングポイントに突如として出現した異物を取り除くことが、サーヴァントとして召喚された役目だと改めて説明された時、彼女の中にあったのは歓喜であった。

普段の様子はどうあれ、彼女は騎士として申し分ない正義感を持つ彼女にとって、人類の救済は本懐と言って差支えないものである。

加えて、同じく剣を取り戦場を駆ける仲間に、母と呼び慕う女性がいるとなれば、それは不安以上に彼女を奮起させる材料となる。

ぶっちゃけて言うならば――俺の活躍する姿を見てくれははうえー!!そして褒めてくれー!!と言うことだ。

彼女の境遇を思えば、多少マザコンでも問題はない。

寧ろ、歪んだ愛が固着する前に矯正出来たと考えれば、リリィの対応は間違いなくファインプレー。

計算でも何でもなく、純粋な感情から二人が寄り添っていることを思えば、これ以上とない最良の結果と言えよう。

 

――それでも、万事すべてが丸く収まった訳ではない。

先程も述べた通り、セイバー・リリィとモードレッドの知るアーサー王は、実質の別人。

如何にリリィが受け入れたところで、アーサー王への遺恨がなくなる訳ではない。モードレッドも、それを理解していた。

今回の召喚の経緯が特殊と言うこともあり、此度訪れることになったフランスのように、自分の知るブリテンがまだ活きていた時代に飛ばされることも、砂漠で金を見つける程度には可能性はある。

そうなると歴史が狂っている、という意味ではブリテンもまた混沌とした時代を迎えていることになり、素直に喜べないだろう。

だけど、それ以上に――今の自分なら、父上とやり直せるんじゃないか、と言う淡い期待をしてしまう。

そこまで高望みしないにしても、あの時の自分のように暴走せず、きちんと向き合って行くことさえ出来れば、何かが変わるかもしれないと希望を抱くのは、決して傲慢などではない。

ともあれ、確定した訳でもないことに不安を抱えていても仕方ない、と改めて思考を整理する。

 

次に考えるべきは、マスターのこと。

暮宮那岐。二十歳半ば前後と言ったところで、銀の掛かった白髪――プラチナブロンドの銀の傾向が強い感じ――と整った顔立ちが特徴の男性。

円卓の騎士は眉目秀麗が揃っていた為、それと比較すると見劣りする部分があるが、彼らにはない野性的な雰囲気がモードレッドの性格も相まって好感触だった。

そんな二人の出会いは、コンクリートの砕ける音から始まったと言っても良い。

リリィを前にして冷静さを欠いていたモードレッドに、容赦のない顔面からの地面陥没アタック。

サーヴァントだからその程度ではダメージがないとしても、問題はそれに一切反応できなかったという所にある。

冷静さを欠いていたとは言え、モードレッドは円卓の騎士であり、アーサーの遺伝子を持つ強者となるべくして生まれた存在。

付け加えるならば、彼女の生きた時代では通信手段と言う物が存在せず、それが当たり前の中で何千何万と言った人間が入り混じった戦争をし、尚且つ何度も生還を果たしているのは、ひとえに彼女の気配察知能力や直感が常人離れしているからこそ。

そんな彼女が、油断があったとはいえ地面に叩きつけられるまで反応さえできなかった。しかも、それを為したのは英霊でも何でもない、一人の人間。

最初は何の間違いだ、と思った。

しかし、事実は小説よりも奇なり。その戦闘能力は、別のマスターである菅野理子が召喚したランサー、クー・フーリンと互角以上に渡り合える程だと、ランサー本人の弁で知る。

彼のような戦いに高潔さを見出している戦士にとって、戦いの結果で嘘を吐くことは自らを侮辱するようなもの。

寧ろ、相手を称えるような評価をしている時点で、嘘もへったくれもあったものではない。そんなことをする意味がないからだ。

とは言え、実際に見てもいないものを信じられる程、彼女は素直ではない。

言葉を片隅に置き、そんなことも言っていたなぐらいの漠然さで理解するに留めていた、が――知るのは、そう先の事ではなかった。

 

目の前で繰り広げられる戦いを端に見て、モードレッドは言葉が出なかった。

百を超えるであろうワイバーンに敵対心を向けられ、息を吐く暇もない程の猛攻と物量が那岐に向けて襲い掛かる――そんな地獄の中を、彼は平然と駆け抜け、逆にワイバーンを圧倒している。

可変式の巨大な拳銃を手に、ワイバーンの眉間や口内、場合によっては翼と的確に一匹一匹対処していくかと思えば、数に圧倒されて接近された所を殴る蹴るなどして後ろにいたワイバーン諸共吹き飛ばしたり、挙句の果てにはワイバーンを足場に疑似空中戦を繰り広げていたりと、やりたい放題である。

英霊であれば、あれぐらい出来ても不思議ではない。こちらは街を護りながらと言う制約がある以上、迎撃が最も正しい選択である。

それなのに、マスターはあろうことか自ら先陣を切って囮となった。

救いようのない愚か者だ。英霊である自分と違い、死ねばそれまでであると同時に、世界の救済への可能性を著しく遠ざけてしまうその蛮行は、侮蔑に値する。

――だけど、それ以上に。雄々しく、勇ましく戦場に立つマスターの姿を見て、歓喜に震えた。

マスターの在り方は人それぞれで、それに文句を言うつもりはないが、モードレッドにとっての理想は、那岐のように共に戦場に立つ気概のある人物だ。

騎士としての正道に順ずるならば、マスターとは本来契約者であると同時に護るべき弱者。

つまり、モードレッドの理想とは真逆の在り方こそ、騎士としてあるべき姿であり、マスターとサーヴァントの関係においても正しいのである。

だけど、そんな邪道を理想としてまで共に戦場に立てるマスターを望んだのは――やはり、無意識の内に芽生えていた孤独故か。

リリィのお蔭で和らいだとは言え、それは一過性のものに過ぎない。本来彼女が求めていたのは父性であり、母性は副次的なものに過ぎないのだから。

ならば、那岐に父性を見出しているか?と言われればそうでもない。せいぜい、兄が関の山だろう。

とは言え、今のモードレッドにとって那岐はマスターであり、それ以上でもそれ以下でもないので、そう思うようになるかどうかは、今後次第。

 

「モル、どうしました?」

 

紆余曲折あり、那岐と理子が就寝したところで一息吐く。

そんな折、那岐をジッと見つめていたせいか、リリィがそう尋ねてくる。

 

「いや……マスターはいつもあんな感じなのかって思って。マスターなのに当たり前のように前線に出て、俺達と同じくして戦っていたのかって」

 

「いつも、と言う程長い付き合いではありませんが……あの人には何度も窮地を救われています。物理的な意味でも、精神的な意味でも。本来なら、私が率先して矢面に立たなければならないのに、未熟故にマスターに負担を強いてしまっているのが、申し訳なくて……」

 

しょんぼりする母上マジ天使、と引き締めた表情の裏で考える。

リリィの戦闘能力が、アーサー王に比べて遥かに劣ることは事前に聞かされていた為、先の戦闘ではもっぱら彼女のフォローをメインに立ち回っていた。

母上の役に立てている、という事実がモードレッドをより一層輝かせ、リリィは無傷で敵は一人として通すことなく完封という、実力以上の結果を残すことが出来た。

因みに、那岐はともかくマシュとランサーの戦果に関しては考慮に入れていない。ざんねん。こうかんどがたりない!

 

「母上は悪くないですよ。それを言うなら、俺達サーヴァントがマスターを前線に出させる事態を作った時点で、罪を共有すべきだ」

 

先程那岐を愚かと評価したが、根本的な問題として、サーヴァントである自分達が不甲斐ないから彼が矢面に立たなくてはいけなかったのだと考えれば、彼の行動に説教するのは筋違いではないだろうか。

敵方の戦力差なんて言い訳にならない。勝たなければ、負ける。逃げることも出来ない。ならば、何に縋ってでも勝ちの芽を拾わなくてはならない。

そういった意味では、サーヴァントに匹敵する戦闘能力を持つマスターを遊ばせておくのは間違いで、彼の判断は正しかったと言えよう。

 

「……母上、マスターは何者なんだ?英霊である自分達が言えた立場じゃないかもしれないけど、この時代であれだけの強さを持つなんて、普通じゃない」

 

神秘が薄れた現代において、神秘がまだ歴史の表舞台にあった今の時代の生物は、現代兵器で太刀打ちするのは困難を極める。

英霊のようになまじ神秘によって固着されていれば、それだけで核兵器さえ通用しなくなるのだ。理不尽にも程がある。

そんな理不尽が跋扈する場において、当たり前のように前線で生き残れる那岐が何者かと疑問に思うのは、自然なことだ。

 

「何者か、ですか。……それは貴方自身が見極めるべき事柄であって、誰かに尋ねるようなものではありません。違いますか?」

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

「少なくとも、あの人が悪人でないことは理解しているでしょう?なら、後は少しずつでいいから彼を理解する所から始めればいいんです。焦る必要なんてありません」

 

リリィに諭され、頷く。

リリィの言葉になら、ほぼ無条件で従う辺り、生粋のマザコン――いや、父親のアーサーも含めるのであれば、ファミリーコンプレックス……ファミコンになるのだろうか。どこの国民的家庭用ゲーム機だ。

 

「母上……別に俺はマスターに悪感情を抱いているつもりはないからな?パンケーキ作ってくれたし」

 

「――フフッ、パンケーキですか。確かにあれは美味でしたね」

 

「ブリテンの食事情がアレだったからなぁ……。あんなに美味い物初めて食べた」

 

「私も、思わず作り方を習いたいと言ってしまいました」

 

「えっ、母上が!?俺、母上の手作り食べたい!!」

 

「いえ、まだ教えてもらってないですから。それに、私自身料理なんて未経験ですし、モルに食べさせてあげられるような仕上がりになるのはいつになるか」

 

「失敗しても全部食べるからへーきへーき」

 

「いえ、お腹壊しますよ……って、サーヴァントだから大丈夫なのでしょうか。いやいや、それでも倫理的に……」

 

「――えっと、もしもし?」

 

二人の会話に割って入ってくるジャンヌ。

 

「ん?なんだ?」

 

「いえ、静かにしないと起こしてしまいますよ」

 

「「……ごめんなさい」」

 

至極真っ当な意見を述べられ、親子二人は委縮したまま朝を迎えることになった。

なお、影でこっそり笑っていたランサーは、後でモードレッドに殴られたとか。

 




Q:前書きどうした
A:知らん、そんなことは俺の管轄外だ(現実逃避)

Q:もう(モードレッドのキャラが元に戻ること)ないじゃん……。
A:ええんやで(にっこり)

Q:シリアスの中からも垣間見えるポンコツ具合
A:アルトリアの血筋だし……(諦め)

Q:ファミコンという略し方に草生える
A:寧ろスーパーファミコンでいいと思う。


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04

明けましておめでとうだオラァ!今年もよろしくなシャバ僧共!!
こっちは腰が痛くて投稿ギリギリになったんだよオラァン!本当は別の停止してた作品もお年玉感覚(価値は百円あるかないか)も投稿しようと思ってたのにこのザマだよ!

……いや、マジで辛いです。ヘルニア再発とかやめてくれよ……(絶望)

あ、あと作者は現時点でまだ四章終わってないからネタバレするなよ!フリじゃないからな!やったら十連ガチャの確定☆4を目覚めた意思にする呪いを掛けるぞ!!



×月☆日

 

マリー・アントワネットとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを仲間に加え、着々と前へ進んでいく。

その過程で二人の人となりを理解する機会があった訳だが……マリーは何というか、天真爛漫と言う表現が良く似合う人だった。

見る物聞く物すべてに対して、身体全部を使って明るく答えていく姿は、まるで子供だ。

それだけだと頭の足りていない子と判断する人もいそうだが、そうではない。

全てを肯定している、と言うべきか。条理を、正統性を、誠実さを、向上を、善行を、羨望を、平等を、慈愛を、共生を。その裏にある悪意さえをも呑みこんで、我が子のように受け止めている。そんな気がしてならない。

……そうでなければ、愛していた民草によって命を散らした彼女が、あんな見惚れるような笑顔を振りまける訳がない。

本来何の力も持たない筈の彼女が、英霊と召喚されたのも納得できる程の心の強さ。

彼女は間違いなく、魂の在り方ひとつで英霊と評価されたのだ。それがどれだけ凄いことなのか、自分には想像もできない。

アマデウスは、良くも悪くも物凄い自由な人間だ。

自分の発言に対して、何を憚ることもなく口に出来る。それが相手の悪意を誘うことでも、下ネタだろうと、耳が痛くなるほどの正論でも。

マリーにさえも毒舌を吐かれる辺り、人として捻子曲がっているのは確かなようだが、それは自分への絶対的な自信の表れでもある。

万人受けする性格ではないのは確かだが、それでも彼のような人は必要だ。こういう人間が、時として歴史を揺るがす存在となる。実際そうだしね。

 

マリーは憧れだったジャンヌとお友達になれたことが嬉しいのか、所謂女の子なトークで場を盛り上げている。

ジャンヌもまた、拙くはあるがそんな彼女に合わせようと会話に花を咲かせている。

王妃として生きた少女と、聖女と崇められた少女。そのどちらにも不足していたのが、ただの女の子としての生き方。

高潔であれと言う見えない圧力が、生まれながらの運命が、彼女達を普遍的普通から遠ざけた。

それを最終的に決断したのが自分の意思だとしても、憧れることを止めるなんて出来はしない。

だからこそ。サーヴァントとして召喚され、ただの『マリー・アントワネット』になれた彼女は、これでもかと言うほどに今世を謳歌している。

それが命を懸けた闘争の波の中へ向かう結果になろうとも、それさえも善き事として優雅に進んでいくんだろう。

 

因みに、その女の子トークにはリリィ達も巻き込まれていました。

アマデウスがモードレッドを女性扱いしたことでキレたり、リリィが今度料理を覚えたいことを話して盛り上がったり、マシュが周囲のボケにツッコミかましていたりと、本当にただの女の子していた。

……せめて今だけでも、彼女達には女の子らしく在って欲しい。そんな手前勝手な思いを胸に、ただ遠巻きにその光景を眺め続けた。

 

追記;マリーにセクハラしそうな駄目な青タイツには眠っていただきました(物理)。英雄がネックハンキングで墜ちるなよ……。

 

 

 

 

 

一夜明け、オルレアンへと進み始める一行。

好調だった旅路に、大きな変化が訪れようとしていた。

 

「――――ッ、サーヴァント反応感知!数は……6!!」

 

マシュの焦燥を孕んだ言葉に、一斉に警戒態勢に入る。

そして、遥か彼方から軍勢と呼ぶに相応しいワイバーンの群れが飛来してくる。

 

「奴さん、どうやら本気で仕留めに掛かってきやがったようだぜ」

 

ランサーはどこか楽し気に呟く。

 

「へっ、上等。あの時は不完全燃焼で終わったもんだから、腹の虫が収まってなかったんだよな」

 

モードレッドは愛剣である燦然と輝く王剣(クラレント)を肩に担ぎ、獰猛に笑う。

 

「初戦がクライマックスとは、ただの音楽家にとってみればただの地獄だね。しかもこの愚にもつかない雑音を前に長時間いなくちゃいけないなんて、それ以上の苦痛だよ」

 

「あら、ならサッサと始末すればいいじゃない。ほら、前に出ないと貴方の唯一の価値である音楽も耳に届かないわよ」

 

「やれやれ、それは困るな。馬鹿どもに向ける曲とは言え、耳に届かなきゃただの自己満足――いや、それ以上に虚しい独り遊びになる。そんな勿体ないこと、許せる筈もないね。そう言うマリーだって、戦いは専門外なんだから後ろに居てもいいんだよ?」

 

「あら、それは駄目よアマデウス。王とは常に民の模範となるべき立場にある者の称号。それは王妃であれど変わらない。なればこそ、少しでも私に力があるのなら矢面に立つのが、在るべき王の姿じゃないかしら?」

 

「そういう脳筋思考は、もう少しその細腕を鍛えてから言うべきだと思うけどね。――まぁ、君の人生だ。好きにやればいい」

 

マリーとアマデウスが互いに背中を押し、戦場に立つ。

掛け合う言葉こそどこか辛辣なれど、内に秘めた感情は確かに通じ合っていた。

 

「理子さん、那岐さん。私とマシュさんで貴方達を護ります。下手に打って出ては、貴方達に被害が及ぶ可能性があります」

 

「そうですね。特に先輩は、那岐さんと違って戦闘能力もありませんし」

 

「……ごめんね、二人とも」

 

理子は圧倒的な敵を前に、何もすることが出来ない己が無力を嘆く。

仕方ないことだと理解していても、それを傘に開き直れる程彼女は厚顔無恥ではない。

 

「気にすることはありません。貴方がいなければ、私もランサーさんも現界出来ない身。貴方が生きているだけで、私達は全力で敵に立ち向かうことが出来るんです。卑下することはありません」

 

「マシュさんの言う通りです。それに私はそもそも、弱体化している以上切った張ったをするには些か荷が勝ちますし、防衛に回った方がまだ役に立てるというものです」

 

マシュとジャンヌに慰められ、理子は悔しさを呑みこんで飛龍で埋め尽くされた空を見上げる。

力では逆立ちしても勝てずとも、気概では負けないと言わんばかりに睨み付ける。

その気丈さに、ランサーもまた薄く笑みを浮かべる。

 

「良い顔だ、嬢ちゃん。そうやって嬢ちゃんは、俺達の勝利を信じていてくれればいい。英雄ってのはな、護る相手がいるほど強くなれるものなんだ」

 

「――そうですね。私も騎士として、マスターを十全を以て護る誓いを立てましょう」

 

セイバーリリィが那岐に向けて、凛とした声で宣言する。

 

「俺が出る必要は本当にないのか?」

 

那岐がそう問いかけるも、リリィは首を横に振る。

 

「マスターはその銃でワイバーンの群れの対処をお願いします。前線に出れば、マスターである貴方は真っ先に狙われる。如何に貴方が私達と同等の力を持っていても、それだけは譲れません」

 

頑ななリリィの言葉に、那岐は静かに目を伏せる。

 

「分かった。こちらも出来る限りのことをしよう」

 

「感謝を」

 

そう言い残し、リリィは胸元に勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を掲げる。

誓いを胸に刻み、無言を以て反芻する。

護られてばかりだった過去を払拭すべく、敵を迎え撃たんとした。

――しかし、悲しきかな。その思いはすぐに打ち砕かれることになる。

 

「――――皆さん、避けて下さい!!」

 

突如、リリィが叫んだ。

思考は一瞬。前線に出ていたサーヴァント五人はその場から全力で退避し、後方に居たサーヴァント二人は護りの為の宝具を展開する。

 

――そして、それ(・・)は地平を崩壊させた。

 

灼熱を纏って目に留まらぬ速度で空から飛来したそれは、真っ直ぐ那岐達後方組の方へと着弾した。

 

「――ッ、ああああああ!!」

 

しかし、それに轢き殺されることなく、マシュの宝具である仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)による神秘の盾によって一命を取り留めていた。

だが、それも一瞬。灼熱と圧倒的質量と速度で何に阻まれることなく直線運動で発射されたそれと、リリィの掛け声と共に反射的に展開された間に合わせの盾では、あらゆる部分で後者が劣っていた。

このままでは、為すすべなく圧殺されてしまうことだろう。

 

「――我が旗よ、我が同胞を護り給え」

 

――だが、ここには彼の救国の聖女がいる。

祖国の為に立ち上がった、ただの村娘が得た身分不相応な祈りの具現。

しかし、その純粋なまでの祈りは天使の守護として味方を護る結界となり、その痛みは旗の下に集い、自らを傷つけていく。

宝具の在り方こそ、彼女の人間性そのものである。その真名は――

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

仮想宝具・擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)が突破された瞬間、第二の結界宝具が展開される。

宝具を展開したジャンヌのステータスが低下したとはいえ、宝具そのものの質は変化していない。

媒介となる対魔力EXにも影響がない以上、この宝具は究極の護りとなる。

その堅牢さ足るや、半端な展開とは言え護りに特化したマシュの宝具で防げなかったそれを、容易く受け止めて尚余裕がある。

涼しい表情でそれを受け止めるジャンヌだが、手に持つ旗がカタカタと悲鳴を上げる。

今はまだこの程度で済んでいるが、着実に限界は訪れる

 

「これが……ジャンヌさんの宝具」

 

マシュが驚きとほんの悔しさを乗せて呟く。

実際に見るのは二度目だが、最初はワイバーンの猛攻を凌いだだけで、今回と比較してスケールが違いすぎる。

圧倒的なまでの差を見せつけられ、悔しさを覚えない訳がない。

だが、そんな感情は今は邪魔でしかない。頭を振り、思考を戦闘状態へと引き戻す。

 

時間にして十秒あるかないかの凌ぎ合いは、発射されたそれが思い切り後方に飛び跳ねることで終わりを告げた。

余波で舞った煙が晴れた先の光景は――焦土そのものだった。

美しいとさえ思わせる若草色の大地が、今では見る影もない焼野原と化していた。

それだけではない。ただの余波で直線に地面が抉れ、着弾地点は結界を除いてクレーターのように陥没さえしていた。

まるで、小規模の核攻撃だ。

後コンマ一秒でもマシュの宝具展開が遅れていたら、それだけで勝敗が決していた可能性さえある戦略兵器級の宝具が相手にはある。

それが、明確な脅威となって目の前に現れた。

 

「あれは……亀?」

 

巨大な亀、と形容するのがしっくり来る造形のそれは、静かにジャンヌ達を見据えている。

だが、それはただの亀と呼ぶにはあまりにも巨大で、そして悪魔的過ぎた。

肉食獣と呼ぶに相応しい風貌をしているそれは、存在しているだけで相手を畏怖させる。

それこそ、甲羅を背負った獅子と形容しても通用するだろう。

その獅子のような亀は、忠犬の如く静かに待機している。

その様子から、これが何者かによる意図的な差し金だと言うのが分かる。少なくとも、あの忠犬っぷりを見る限り、あれ単体で召喚されたと言うよりも、サーヴァントの宝具か何かだと判断するのが自然だ。

 

「前衛の皆さんは――?」

 

意図は不明だが、襲い掛かってこない獅子亀を警戒しながら前に出ていたサーヴァント達を探す。

どうやら、全員無事のようだ。――でも、余裕がありそうな様子はない。

加えて、距離は視認できるギリギリの範囲にまで遠ざかっており、応援に向かうにも救援を迎えるにも、敵方のサーヴァントを処理しないことには

最初の遭遇の焼き増しと言わんばかりに、各々にジャンヌ・オルタが召喚したサーヴァントが張り付いていた。

その内、マリーとアマデウスについている白髪の青年は、初めて見る手合いだ。

しかし、そのサーヴァントがメンバーに加わったとしたなら、もう一人はどこに――

 

「――――!!」

 

瞬間、何かが疾風を伴って駆け抜けた。

速い。マシュもジャンヌも、巻き起こる旋風に反応するのがやっとの速度。

ワンテンポ遅れて振り返った先には、そこにいる筈の人物がいなかった。

 

「那岐さん……!?」

 

マスターの一人である暮宮那岐が、獲物である機械剣を残してその姿を消していた。

隣に立っていた理子は怪我ひとつない様子だったが、突風に煽られたせいか尻餅をついて倒れていた。

その視線の先には、本来那岐が居て然るべきだというのに、何故か?

しかし、その疑問を解する余地を与えないと言わんばかりに、不動を貫いていた獅子亀とワイバーンがマシュ達に襲い掛かって来た。

 

「くっ……!!まさか、最初から分断させるのが目的で――」

 

「考えるのは後です!せめて、理子さんだけは護り切らないといけません!」

 

ジャンヌの一喝でマシュは思考をリセットする。

考えたくないことだが、那岐が絶命していれば単独行動のスキルを持たないリリィ達は瞬時に座に還っている筈だ。

しかし、見ている限り変化する様子もなく、まだ那岐が存命であるという証拠だ。

那岐の超人的な肉体のお蔭で生き永らえたのか、それとも最初からその気がないのか。

何にせよ、一秒でも早くこの絶望的な状況を打開しないことには、那岐の安否さえ判断できない。

 

「ドクター!那岐さんの捜索をお願いします!私達は目の前の敵を殲滅します!」

 

『ああ、任せてくれ!!』

 

マシュはロマニにそれだけ告げると、本格的に戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

――そして、同時刻。

消えた那岐がどうなったかと言うと――空を舞っていた。

等と表現してはいるが、実際に翼を得た訳でも、魔術的要素で空を飛んでいる訳でもない。

実際の所、那岐は何者かに襟首を掴まれ、その何者かは常軌を逸した速度で疾駆しているせいで、地面に引き摺られることなく横移動していたのだ。

傍から見ればそれはまさしく疑似的な空中遊泳。

惜しむらくは、乗り手に一切の配慮のない乱暴な運転であると言うことか。

流石の那岐も宙ぶらりんな状態ではまともに抵抗することも出来ず、せいぜい襟首を掴む腕を掴むぐらいが関の山だった。

 

突如として何者かが停止したかと思うと、慣性をそのままに那岐を放り投げた。

那岐は器用に空中で体勢を整え、地面を引き摺りながら綺麗に着地し、すぐさま何者かの正体を探るべく周囲を見回した。

それは、すぐに見つかった。

白地の法衣と十字の杖が特徴的なその容姿は、以前の交戦に於いてライダーと呼ばれていた女性そのものであった。

ライダーは憎悪と困惑をない交ぜにした視線を那岐に向ける。

親の仇、という表現さえ生温くなるであろうそれは、その困惑から未だ不完全であるとするならば、本気の殺気は如何ほどのものか。

しかし、それさえも涼しい顔で那岐は受け止める。

 

「……こうして言葉を交わすのは初めてですね。私はライダー……いえ、マルタ。知らぬかもしれませんが、聖女等と呼ばれたりもしている、しがないサーヴァントの一人です」

 

「――聖女と言う割には、随分と物々しいな。一介のマスターに向ける殺気ではないぞ」

 

「一介のマスター……ですか。面白いことを言いますね。まぁいいです、貴方だけを引き離したのは、聞きたいことがあったからです」

 

「聞きたいこと?」

 

「ええ。――貴方は、悪魔ですか?それとも、私と同じ聖人ですか?」

 

射抜くような視線で問いかけられる。

口調こそ穏やかだが、少し小突けば爆発しそうな危うさをマルタは放っている。

 

「知らん。そもそも俺は記憶喪失で、自分を人間だと思っている。その問いには答えられない」

 

「……嘘、を言っている訳ではないようですね。ですが――私の目は誤魔化せません。貴方自身、人間と自称しておきながら、悪魔の力も聖人としての力も理解している。違いますか」

 

「……俺自身、この力を理解したのがつい先日のこと。悪魔だの聖人だのと言われたところで困る」

 

「――なら、最後の質問です。貴方はその二つの力を使い、何を為そうと言うのですか」

 

今までで一番、感情の乗った問いかけ。

これが、真に那岐に問いかけたかった言葉。

 

「――ただ、護れればいい」

 

「護る……?」

 

「未来を救う、等と大それた目的の為に行動しているが、俺自身そんな器だとは思わない。そんなものは彼ら英雄と呼ばれる者達の役目。俺はただ、そんな彼らを微力ながら支えていくことが出来ればいい」

 

マルタは初めて、微かながらも硬い表情を崩した。

清廉さを秘めた美貌が、初めて形となった。

 

「――私は、悪魔が嫌いです。今すぐに滅してやりたい程に。ですが、貴方自身の人柄はとても好ましく思えます。少なくとも、悪魔と聖人という、相反する属性を共生させて尚平然としているのは、生まれながらの特性か、それとも融和する程に長い年月を費やしてきたか。それにしても、普通ならばどちらかに呑まれてしまうでしょうに、強い方ですね。心も――肉体も」

 

「褒められるようなことではない。やれることをやっているだけだ」

 

「そんな次元の問題ではないのですが――まぁ、いいでしょう。そろそろ私も限界のようですし」

 

「限界?」

 

「ええ。今の私は、あの哀れな聖女に狂化を無理矢理付与されて、精彩を欠いている状態です。それでも、平時であれば抑え込むことは出来ましたが……悪魔を前にして、どうにも理性よりも本能が勝ってしまいそうなんですよね。聖女の名に懸けて悪魔は滅ぼせと」

 

「……それは、難儀だな」

 

「ええ、本当に。それに、理解(わか)るんですよね。幾度と悪魔と立ち会ってきたからこそ、貴方がたかがサーヴァント如きで抑えられるような存在じゃないことも」

 

「買被り過ぎだ。いや、見当違いも甚だしい」

 

「……まぁ、記憶喪失だと言うのならその評価もある意味当然なのかもしれませんが――偽りではありませんよ」

 

マルタは杖を地面に突き立てたかと思うと、法衣を脱ぎ捨てた。

女性らしい肢体の中に隠れた引き締まった筋肉が、彼女がただの聖女でないことを如実に語っている。

 

「だからせめて、貴方がその力を自覚する為の手助けをしましょう。安心してください、万が一その過程で悪魔の力に呑まれるようなことがあれば――私が責任を持って天に還しますから」

 

「キツいジョークだ」

 

「冗談でこんなこと言えませんよ。はしたないですが――今すぐにでも貴方を(かえ)したくて堪らないんです」

 

狂気とも甘美とも取れる艶のある深い溜息。

まるで、長年待ち焦がれた恋人を見るような目で那岐を捉えて離さない。

マルタは那岐を見ているようで、別の何かを見ている。少なくとも、初対面の相手に向ける感情でないことだけは確かだ。

那岐自身、それを無意識に感じ取っていたのか、この場に来て初めて構えを取る。

機械剣は手元になく、所持量の都合で斬棄刀も置いてきた。あるのは銃であるホロスコープのみ。

元よりそんなものがサーヴァント相手に届くと思っていない那岐は、自然と無手で立ち回る選択を余儀なくされた。

 

「逃がしては――くれないようだな」

 

「そも、逃げられるとでも?」

 

マルタの問いに、那岐が鼻で笑う。

自分で言って、有り得ないと結論付けた彼は、諦めたようにマルタを睨みつけた。

 

「それで良いです。さぁ、貴方があの方(・・・)と同じ聖の気質を放つと言うならば――この程度、見事捌きなさい」

 

その言葉と同時に、那岐の背後から獅子亀――否、旧約聖書に於いてマルタが鎮めたとされる悪竜タラスクが流星の如く襲い掛かった。

 

 




Q:開幕から本気出し過ぎじゃね?
A:これも全部、那岐って奴がいるせいなんだ。チートが居たら出し惜しみする訳ないやん?

Q:これからどうなるんやこの展開……
A:各メンバー(全員ではない)の視点で戦闘描写が挿入される予定。軽いネタバレだと、モーさんは間接的な因縁の相手と戦うことになります。

Q:マルタVS那岐……あっ(察し)
A:間違いなくこの章で一番の強敵になりますね。もうこれ(誰がラスボスか)分かんねぇな。

Q:刀ないのか……
A:四次元掌の使い方知らないからね、仕方ないね。


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04~英雄の集う戦場~

(主人公ズの出番は)ないです。

さっきなんとなくカルナガチャで十連一回したら、カレスコ二枚同時に当たった。カルナガチャはカレスコガチャだった……?


「――――ああ、懐かしい。まさか、君と再び会いまみえることになろうとは」

 

恍惚とした声色で吐き出すは、歓喜の音。

男は、目の前の少女――マリー・アントワネットに語り掛ける。

 

「ええ、私も忘れたことはありませんわ。本当に、懐かしい――ねぇ、サンソン」

 

マリーは、目の前の男――シャルル=アンリ・サンソンにそう返す。

彼の者は、嘗てフランス革命において王権の終焉を、ギロチンと言う断頭台を以て飾った処刑人である。

 

「僕達はやはり、運命で結ばれているんだね。ああ、二度も同じ人間を処刑できるなんて、そうとしか言いようがない」

 

「…………」

 

悪辣で狂気的な発言を前に、マリーは閉口する。

しかしそれは臆した故のものではなく、ただあまりにも――目の前の青年に掛ける言葉が見つからなかったからである。

マリーは、嘗て自らを処刑した青年に対して、同情していた。

 

「あの男が君の傍らに居る、というのが不愉快で仕方ないが……あの男の相手は同じ音楽に狂った奴がするようだし、これで二人きりだ」

 

「ええ、そうね」

 

「処刑とは、慈悲だ。一撃の下命を散らしてこそ、処刑としての矜持が成り立つ。だから――暴れないでくれ。僕に、マリーの命の価値を冒涜させないでくれ」

 

サンソンは処刑人であると同時に、人間は崇高であるという考えを持つ、二律背反の存在であった。

処刑人である誇りと、悪戯に命を手に掛ける愚かさと、愛した存在をその手に掛けることを肯定できる、一種の歪みを持つ青年。

出生が、時代が、彼に過酷な運命を背負わせた。

そして同時に、マリーもまた、そんな運命を辿ったサンソンに処刑されたことに関して、一切の恨みを持ってはいなかった。

彼女自身、処刑された結果に関して納得しているし、それが不条理だとは思っていない。それ故に、サンソンの行いを否定しないし、恨み言を吐くつもりもない。

だからこそ――目の前にいる処刑人が、哀れに思う。

 

「……可哀想な人」

 

「ん?」

 

「貴方はいつだって高潔だった。死を司る人生を送りながらも、貴方は決して輝きを損なわなかった。罪人を蔑まず、肯定し、それでいてなお職務に忠実だった。そんな貴方を私は信頼していたわ。でも――今の貴方に、嘗ての輝きは微塵も感じられない」

 

「――何を言い出すかと思えば」

 

マリーの言葉を、サンソンは理解できないと言わんばかりに一笑に付す。

そんな反応を当然と受け止め、マリーは言葉を紡いでいく。

 

「貴方は、私を処刑することに固執し過ぎている。職務と言う領域を超えて、自らの欲を満たすためだけに人を殺めようとしている。王妃マリー・アントワネットではなく、いちサーヴァントであるマリー・アントワネットを、謂われない罪で断罪しようとしている。それは、詭弁だわ」

 

「それは違うよ。君が犯した罪は、確かにギロチンを以て一度は購えただろう。だけど、君が君である限り、罪の色は決して色褪せない。君がどんなに自分を王妃でないと否定しても、君は決して"王妃であるマリー・アントワネット"以外にはなり得ない。だから、僕は君を処刑する。嘗てと同じように、君に最高の快楽を以て命を絶つ権利があるのだから」

 

サンソンは掌で自らの表情を覆い隠し、笑う。

狂気に呑まれた笑みが隙間から窺える。マリーは、ただそれを見届ける。

 

「違うわ、シャルル=アンリ・サンソン。私と貴方を繋ぐ糸は、とっくに断ち切られていたのよ。他でもない、貴方自身の手によって」

 

「そんなことはない。こうして君と僕は再び巡り合えた。ならばそれは運命だ!!」

 

サンソンは叫ぶ。

どんなに愛を訴えようとも、言葉を尽くしても、マリーは揺れない。

歪んだ愛情表現だからではない。そも、歪んでいると言うのならば彼女も同類だ。

だからこそ、否定する。心の擦れ違いを終わらせるべく、言葉を刃にして。

 

「違うわ。これは偶然。ほんのひとつのボタンの掛け違いで起こる、その程度の関係に過ぎないの。そうでなければ――貴方と私は、アマデウスと同じく、隣り合う運命にあっただろうから」

 

「…………」

 

サンソンはその行動と結果から、善人と呼べる立ち位置にはいない。

だが、心まで悪に染まっていた訳ではないことは、この中では当人を差し置いてマリーが一番理解していた。

彼は、王権を終焉へと導き、新しい時代を開拓した英雄だと、マリーは思っている。

彼にとって望まざる結末だったとしても、彼が振り下ろした刃は、確かに未来を繋ぐ確かな光となったのだ。

故に――本来ならば、サンソンもまた、マリーの味方として召喚されるべき、正しき存在なのだ。

だけど、現実はそんな甘いものではない。

狂気に囚われ、処刑人としての側面ばかりが出ているサンソンこそ、紛れもない今の現実。

だからこそ、マリーは言葉を尽くす。

始まりは悪に侵されていようとも、その本質は異なることを知る彼女だからこそ、厳しくも誠実な言葉を紡ぐ。

彼もまた、マリーにとって愛する民の一人だから。

 

「貴方は、何人殺しました?この歪んだフランスで、私利私欲の為に何人殺しましたか?きっと貴方は、私の知らない内に何人もその刃で無辜の民に謂われない罪を被せて断罪している。違いますか?」

 

「……その通りさ。でも、何で分かったんだい?」

 

「――だって、貴方。とても殺しを楽しんでいる顔をしているんだもの」

 

「――――!!」

 

サンソンの目が見開かれる。

無意識に、サンソンの足が一歩後退する。

マリーもまた、それに続いて一歩距離を詰める。

全てを語るまで、決して逃がさないと。そう言い聞かせるように。

 

「処刑人の刃は、罪人を救うためのもの。それがただの人殺しの道具に成り下がったならば――それは最早、殺人鬼でしかないのよ」

 

「ち――違う!僕は、ただ君の為に腕を磨き続けただけで――」

 

「殺すことを目的に処刑する時点で、貴方は私の知るシャルル=アンリ・サンソンではなくなっていたのよ。そんな貴方の思いを受け止めることは出来ないわ」

 

「そ、それでは僕は……どうやって君に許してもらうことが……」

 

絶望の負荷に耐え切れず、サンソンは膝から崩れ落ちた。

ただ、マリー・アントワネットを思い続けて首を刎ねる技術を磨き続けた彼の行いが、真っ向から否定された事実は、彼にとってどんな刃よりも鋭い一撃だった。

マリーはそんなサンソンの前に立ち、零れ落ちそうだった涙をその手で拭う。

 

「……本当に、哀れで可愛い人。最初から私は、貴方を恨んでなんかいなかったのに」

 

「え――――?」

 

「私は、愚かな王妃だったわ。私はフランスを愛していたし、民も愛していた。だけど、それだけだった。民が私を本当に愛してくれていたかも分からないし、知ろうともしなかった。私の世界は宮殿の中で完結していて、隔絶された世界から間接的に聞こえてきた、僅かな情報だけで満足していた。だから、自分の過ちに気がつけなかったし、今も理解しているかどうか怪しい状態。だから、私は笑顔を振りまくの。愛を謳うの。それしか私が民に報いる方法を知らないから。だから――貴方は正しいの。貴方の貫いた信念は、決して屍に埋もれて終えるようなものではなかったのよ」

 

サンソンの頭をマリーは優しく抱き締める。

母のように、女神のように、聖女のように。慈愛で満ちた抱擁は、奇跡的に彼に植え付けられていた狂気を振り払った。

 

「……そう、だったんだ。僕が――間違っていたんだね、マリー」

 

マリーの胸の中で、サンソンは静かに涙を流す。

ただ、愛を捧げた女性に肯定された。それだけの事実が、彼にとっての何事にも変え難い幸福のカタチだった。

 

「ありがとう――僕は愚かだったけど、それ以上に幸せ者だったよ。だから、さよならだ」

 

マリーを突き飛ばしたサンソンは、間髪入れずに自らの首を自らの刃を以て斬り落とした。

狂気に呑まれた処刑人の最期は、自らの罪を受け入れて自らの罪を清算するという、皮肉に満ちたものだった。

魔力の粒子となり空に消えていく姿を、マリーはただ見上げ続ける。

 

「本当――馬鹿なんだから」

 

願わくば、次に会うときは――お互いに笑い合える関係でありたい、そんな優しい祈りを抱えながら。

 

 

 

 

 

とある一幕。対峙するは狂気に呑まれた演者と狂気を受け入れた音楽家。

演者の名はオペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)

互いに音楽を知る者だからこそ、互いが互いに相容れない存在であることが理解できる。

 

「ああ――なんて聞くに堪えない音を掻き鳴らすんだ、糞野郎。音から腐臭さえ漂ってくるぞ!!」

 

「然り、それが私、オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)の意味する魂の形であり、不変の真理。私の奏でる音、それは我が天使クリスティーヌに向ける為のものであり、それ以外の評価に一切の価値はなく」

 

「ああ、五月蠅い黙れ黙れ!なんだってよりにもよってこの組み合わせなんだ畜生。こんな糞を相手にするぐらいなら、ワイバーンの群れに突貫する方が何倍もマシだ!!」

 

アマデウスは耐えられないと言ったばかりに耳を塞ぎ首を横に振る。

意思疎通等と言う文明人らしいやり取りなどそこには存在せず、ただ言いたいことだけ言っているだけの愚にもつかない不毛な言葉の応酬が続いていく。

そも、互いに相手を理解する気が微塵もない以上、それも必然と言えた。

音楽性の違いとはかくも難儀なもので、それが時代に名を遺す程の偏屈者であればあるほど、妥協なんて言葉が希薄になっていく。

音楽とは、種族の壁さえ超える究極の表現技法だ。付け加えるならば、究極なまでの我の押し付けとも言える。

音楽に限らず、芸術家なんてものはそんなもので、有名著名人ならば誰も彼もが、自分が最も優れていると信じて憚らないだろう。

演者と奏者。立場こそ違えど、音楽を司る者同士。決着をつけるに相応しい舞台は、ひとつしかない。

 

「ああ、クリスティーヌ。姿は見えずとも、この音色だけは君に届けよう。唄え、唄え、我が天使……地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)――!!」

 

オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)の真名解放と共に地面から出現する、嘗て愛に狂った男の手に掛けられた被害者の遺骨で作られた巨大なパイプオルガン。

醜悪で、下劣で、悪辣で、呪いに満ちたそれは、奏でる音にさえ呪いを植え付ける。

人間性を捨て、音楽に傾倒した人生を送ったアマデウスにとって、それを存在させると言うことは、己が人生を否定されることと同義。

故に、彼にとって目の前の存在は、何を犠牲にしてでも排斥すべき存在なのだ。

 

「公害を撒き散らそうとするな、音楽を冒涜するな!!本当の音楽を聞かせてやるよ、死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!!」

 

叫びと共に現れるは、天使の音楽隊。

それは、生前作曲した名曲『レクイエム』とそれにまつわる伝説の具現。目の前の呪いとなって固着した怨念へと手向ける鎮魂歌。

宝具にまで昇華した音楽の究極の一が、衝撃となりぶつかり合う。

それらが重なり合うことで、音楽はただの音波兵器へと成り下がる。

そんなことも露知らず、二者はお互いの音楽をただ奏で続けた。

 

 

 

 

 

真紅の魔槍と蝙蝠を象った杖が交差する。

アサシンとランサー。近接戦闘において圧倒的有利を誇るランサーが苛立ちを募らせ、アサシンが余裕な表情でランサーを攻め立てる。

何故、ランサーがここまで追い込まれているかには、理由がある。

ひとつは、アサシンが常に着かず離れずを維持し、それでいて基本的に逃げの一手を取っていることにある。

アサシンからすれば、相性が最悪な相手との戦い。真っ向勝負で勝てる訳もないからこそ、ヒットアンドアウェイを絶対として行動している。

しかし、それだけでクランの猛犬と謳われたランサーを苦戦に追い遣ることは不可能。

だからこそ、それに加えて随伴してきたワイバーンが要となってくる。

圧倒的物量でランサーへと襲い掛かるワイバーン。彼にとってそれ自体は大きな脅威とはなり得ない。

だが、彼は理解している。下手に無視してアサシンに集中すれば物量で押し込まれる上に、そうでなくとも逃げの一手を貫くアサシンは、自らを囮にワイバーンを理子達のいる後方へと一気にけしかけることだろう。

マシュとジャンヌを信用していないかと言われればそうではない。ただ、あまりにも数の差がありすぎるのだ。

ましてや二人とも護りに特化したサーヴァント。広範囲殲滅の宝具も恐らく無い。故に、護るだけで精一杯の筈。

那岐が何者かの介入によって姿を消したことは、辛うじて理解していた。それはつまり、後方組の唯一と言って良い逆転のカードを失ったことに他ならない。

だからこそ、彼は歯を食い縛って耐える。

実力を知っているからこそ那岐なら大丈夫と思考停止した結果が、サーヴァントにとって許されるべきではない失態へと繋がった。

もう一人のマスターである菅野理子は、サーヴァントを従える能力こそあれど、本人は一般人に毛が生えた程度の存在。

それこそ、この戦場に於いては吹けば飛ぶような儚い命でしかない。

それでいて、この戦線を維持するには必要不可欠なピースであるならば、敵が狙わない道理はない。

だからこそ、アサシンもまた、ランサーを討つことに拘らない。試合に負けても、勝負に勝てばよいのだから。

 

「ちっ、やりにくいったらありゃしねえ――なっ!!」

 

神速とも呼べる突きの応酬は、アサシンに決して届かない。

時にはワイバーンが盾となり、攻撃に転じて体勢を崩されたり、おおよそ半分の能力も発揮できないでいた。

 

「あら、その程度?期待外れもいいところね」

 

仮面の奥に忍ばせた侮蔑の視線を、ランサーは軽く受け流す。

挑発による精神的動揺を揺さぶるなど、ランサーに通じる筈もない。

だが、そんな言葉を吐き出せる程度には、アサシンに余裕があることだけは、誰の目から見ても明らかだった。

 

本来、逆転の一手となる宝具も、その性質上使用不可能な状態に陥っている。

対人用にアレンジした刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)も、本来の用途である対軍宝具としての突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)も、一定の溜めや初動の跳躍と言った前準備を必要とする宝具だ。

前者は良くて相打ち、悪くて不発のままワイバーンの餌食。後者に至っては、着弾することで炸裂弾のように敵を殲滅すると言う性質上、ワイバーンのように空を飛ぶ敵にはほぼ意味がなく、仮にアサシンを狙おうとも、空はワイバーンの領域と言う事もあり、撃つのは容易なことではない。

結果として、ジリ貧になろうとも堅実にワイバーンを殲滅していくしか出来ないのであった。

 

「抜かせ、アサシン風情が。テメェの浅知恵なんざ、俺の槍捌きひとつで踏み倒してやらぁ――!!」

 

ランサーは盛大に吠え、アサシンを打倒せんと再び槍を振るった。

 

 

 

 

 

「――ふむ、その鎧。どこかで見たか。生前でもなく、死後でもなく。どこかで会ったかな?」

 

「ああ、オレには覚えがあるぜ。直接顔を合わせたのは初めてだが、お前の名前から宝具、そして哀れな末路までしっかりと聞き及んでるぜ。――なぁ、"黒"のランサー、ヴラド三世」

 

「……ふむ、一方的に知られていると言うのも何と歯痒いことか。まぁ、詮無きことか。それにしても、その呼ばれ方――懐かしさを覚えるよ。ああ、そうだ。嘗て私は、そんな呼称で聖杯戦争に参加していたな」

 

静かに対峙するは、嘗て同じ聖杯戦争に召喚された者達。

黒のランサー、赤のセイバーと呼称されていた時の"記録"を持つ彼らは、互いに懐かしさを噛み締めていた。

だが決して、安穏とした雰囲気にはなり得ない。

根幹にある想いこそ違えど、両者は闘争を望んでいる。

ここにあるのは、僅かばかりの望郷の念と、そこから派生する嘗ての戦争の残滓から来る、闘争本能を揺さぶる恍惚とした感情のみ。

 

「又聞き程度の情報しか知らないオレが言うのもアレだが――随分と吹っ切れてるようじゃないか」

 

モードレッドの知るヴラド三世は、上に立つ者としての風格と威厳を備えた傑物だったと聞いている。

しかし、目の前のそれはどうだ?まるで、餌になら何でも喰らい付く意地汚い獣そのものではないか。

 

「ああ、貴様は私を知っているのだったな。嘗ての私は、随分と下らない妄執に囚われていたことだと、我が事ながら同情を禁じ得るよ。吹っ切れればこんなにも晴れやかな気持ちになるというのに。生前でさえ一度も経験したことの無い甘美な昂ぶりが、今の私を構成する絶対要素となっていることを鑑みれば、やはり私の収まるべき形は悪魔(ドラクル)として恐れられる怪物(モンスター)であってこそよ」

 

「誇り高いと音に聞いたルーマニアの王が、随分と落ちぶれたことだ。まぁ、オレは嫌いじゃないけどな。小奇麗に纏まってお高く止まるのは、父上だけに許された特権だ」

 

「貴様の父上とやらは存じないが、一理ある。吸血鬼は血に塗れてこそ映えるというもの。なればこそ、目の前にある最高級の食事を逃す道理はあるまいて。それにしても――匂うぞ、悪魔の如し兜や鎧で姿を覆おうとも、その穢れのない乙女の匂いは覆い隠せないぞ」

 

「――――あ?」

 

乙女、と評価された事実が、彼女の感情に罅を入れる。

 

「おや、怒ったかね。何分その手の匂いには敏感でな、敵同士故謝罪する道理もないが、形だけでも誠意は見せておこうか?」

 

「必要ないね、お前がどんな態度を取ろうとも、オレがお前を殺すことに変わりはないからな……!」

 

燦然と輝く王剣(クラレント)の切っ先を、ランサーの喉元に向くように構えを取る。

それに続いて、ランサーもまた双刃槍の切っ先を下に向けるようにして構えた。

 

「そうか。ならば失礼ついでに吐露するが――貴様以上に注目している者が居てね。あの白無垢の如し穢れなき乙女の血を、今すぐにでも下品に吸い尽くしたいと――」

 

斬、とランサーの居た空間が赤雷を纏った銀剣が横一閃に放たれる。

ランサーは尋常じゃない殺気を瞬時に察知し、後方に飛び回避していた。

 

「――――殺す」

 

それは、獣か悪魔か。

赤雷がモードレッドを中心に空間を歪ませるほどに蓄電する。

赤雷が彼女の怒りを象徴するものであると言うのなら、その怒りは仇名すもの総てを焼き殺す裁きの雷そのものか。

目の前の節操の無い獣に、敬愛する母を(おか)される。そんな現実は、決して認られない。

だって――母上を愛し、護り、嬲り、侵すことを許されるのは、ただ一人。モードレッドにしか許されない普遍の事象だから。

誰一人とて、その領域に踏み込む者は容赦しない。それが例え――暮宮那岐(マスター)であろうとも。

 

「良い殺気だ。ならばお見せしよう、悪魔(ドラクル)としての生を許容した、ヴラド・ドラキュリアの磔地獄を!!」

 

「磔刑になるのは――テメェだあああああああああああ!!」

 

怒りを孕んだ咆哮と共に、赤雷を纏いし叛逆の騎士は墜ちた吸血鬼へと突撃した。

 

 

 

 

 

――それは、金色の舞う舞踏会だった。

片や、幼さを残しながらも誰もが見惚れるであろう美しさを持つ少女。

片や、女であり男、男であり女として後世に語られることになるほどの美貌を備えた少女。

共にセイバーのクラスに適応した者同士が織り成す剣戟は、まるで踊っているかのように輝いていた。

しかし、現実は互いが決死で臨む命の奪い合いでしかない。

 

「はっ――!!」

 

金属の擦れ合う音が響いたのは、これで何度目だろうか。

リリィが扱う西洋剣特有の重圧的な両刃のそれは、敵方のセイバーの持つレイピアと比較して威力に優れている。

それこそ、まともに打ち合えばレイピアのような細剣が折れるのは必定。

だが、それはまともに受ければの話。

細剣特有の脆さは、剣戟に対して絶妙な角度で滑らせるように操ることで、衝撃を逃がしつつ相手の体勢を崩すと言う卓越した技量を以て補っている。

対して、リリィも負けていない。

確かに彼女は全盛期のアーサー・ペンドラゴンのそれと比べると明らかに実力不足だろう。

しかし、彼女自身が立つ場所は、いずれキングアーサーの立つ頂にまで至る、約束された栄光の欠片。

何段階とキングアーサーに劣ろうとも、決して彼女が弱者であるという証明にはならない。

寧ろ、その才能は決してキングアーサーに劣るものではない。故に――

 

「――っ、また、速くなった、だと……!!」

 

セイバーは苦虫を噛み潰したように苦悶の言葉を吐き出す。

マスターである暮宮那岐の戦いを間近で観察し、墜ちた騎士王の暴力的な強さを体験し、そして今、同等の実力を持つ剣士との尋常な立ち合いの下戦いを繰り広げたとなれば――彼女が爆発的な成長を遂げることは、その才能もあって必然とも言えた。

 

「はぁああああ!!」

 

リリィの放つ斬撃は、段階を踏むように威力と速度を上げていく。

軽さと取り回しの良さに優れた細剣での剣捌きが通用しなくなってきた現実に、セイバーは歯噛みするしかない。

一瞬の隙を突き、セイバーは一気に距離を取る。リリィはそれに追撃することはない。

自分の弱さを理解しているからこそ、蛮勇を嫌う。

互いに宝具を使用していない状況で過剰に攻め立てるのは愚かな行為である。

そんな正道な思考に、セイバーは助けられた。

 

「……白百合の騎士よ、貴方はさぞ名のある英雄と見た」

 

「花の麗人よ、貴方こそ素晴らしい剣士のようだ。こうして立ち会えたことに、不謹慎ながらも喜びを禁じ得ない」

 

「はは、そういってもらえると嬉しいかな。……本当、こんな召喚のされ方でもなければ、語らい合いたいぐらいには、貴方を気に入っているのに」

 

「…………」

 

セイバーの自嘲する様な言葉に対して、リリィは何も返せない。

自分達は所詮、サーヴァント。後世に名を残すほどの大英雄であろうとも、依代無くしてはカタチを保つことさえ出来ない泡沫でしかない。

リリィ達のマスターのような、良識と善性ばかりの存在は稀だ。

聖杯戦争に於いて魔術師とは、その九割が『根源』に至る為の手段として聖杯を求める。

人間的な感情を排斥した魔術師が殆どである中、そんな破綻者に召喚されたサーヴァントの扱いは、詰まる所"駒"に尽きる。

言葉の上では敬意を表そうとも、友好的な態度を示そうとも、それは英霊を御する為のプロセスでしかなく、本心であることはほぼ無い。

そしてセイバーもまた、異例の形ではあるがサーヴァントを駒として――いや、それ以下として扱うような外道に召喚された、哀れな存在。

無理矢理な方法で狂化のスキルを付与され、理性を破壊し、ただの兵器として運用する。

実際、そう上手くはいかないのがセイバーの理性的な態度が証明しているが、それは克服できた訳ではなくあくまでも何とか耐えているからに過ぎない。

英雄としての矜持が、正義であらんとする高潔さが、人としての誇りが、セイバーの理性を未だ留めているのだ。

意思の強さひとつで、理不尽を跳ね除けるその在り方は、まさしく英雄。

 

「……貴方のマスターを思う焦燥が羨ましい。そんな貴方を見ているだけで、己が身を呪いたくもなり、嫉妬してしまう。駄目ですね、この作戦を実行した時点で、そんな事を思うなんて許されないのに」

 

「――なら、何故そこまでして戦うのです?剣を重ねて、貴方が如何に高潔で誇りある英霊かを多少なりとは理解したつもりです。だからこそ、言いたい。何故、あの残虐非道を繰り返すマスターに従うのです!!」

 

「さぁ、ね。狂化の影響かな、私としては滅ぼすのも滅ぼされるのも一緒なんだよ。――狂っているからと言って、罪のない人間を手に掛けてしまった時点で、私は破綻したんだ。もう、どうでもいいんだ」

 

セイバーは笑う。

抗おうとも決して抜け出せない地獄。残った理性が、悪に墜ちて自刃するという最悪な結末を拒む。

なら、どうすることが正しかったのか。

大人しく狂えば良かったのか。それとも敗北が必定と分かりながらも竜の魔女に挑めば良かったのか。

思考が纏まらない。狂っているせいなのか、それとももっと別の要因があるのか。

何にせよ――ここまで来たからには、もう止まることは出来ない。

その手は無為な血で汚れ過ぎた。綺麗事を並べたところで、その罪は決して消えない。

ならば、最後まで悪を貫こう。

心が折れた訳ではない。セイバーは、自らが踏み台になることを良しとしたのだ。

この戦いの中で、リリィは異常な速さで成長している。それこそ、これ以上続けてもセイバーでは決して勝てない、と思わせる程度に。

だから、託すのだ。セイバー――否、シュヴァリエ・デオンの屍を踏み越えた先にある、彼の竜の魔女を滅ぼすと言う、自分には出来なかった祈りを。

 

「だから――来い。マスターを助けたいのならば、まずは私を乗り越えて見せろ!!」

 

デオンは思いの丈をその一文に乗せ、リリィを強く見据えた。

リリィもまた、それに応えるように聖剣を構える。

言葉に込められた意図を理解したのか、リリィは無言で頷き、再戦の狼煙を上げた。

 




Q:【悲報】マリー・アントワネット。言葉攻めで男を自殺に追い遣る
A:間違ってないけどさぁ!!

Q:サンソン死ね、マリーのちっぱいに包まれるとか死ね。
A:包んでないんだよなぁ……

Q:まさかのファントムさん。
A:原作より目立ってるんじゃね?これ

Q:兄貴戦闘地味だな
A:ゲームでも超耐久型だし……(震え声)

Q:ドスケベ公、女扱いとリリィを狙うと言う二重の地雷を踏む
A:勝ったな(確信)

Q:リリィとデオンくんちゃんのやり取りが普通過ぎてコメントに困る
A:可愛いからいいじゃない

Q:あれ、後二人英霊がいたような……
A:ワイバーンと戯れてる所を描写したところでねぇ……。


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04~聖女の慈悲~

私の書く戦闘シーンなんてこんなもん。本当に申し訳ない。(メタルマンの博士並感)


空の一切を覆いつくす程に眼前に広がるワイバーンの軍勢に、私は震えることしか出来なかった。

マシュとジャンヌの宝具による護りがなければ、とっくの昔に命を落としていたであろう。

否、数など問題ではない。

あの中の一体でも二人の防御を超えて私の前に立ってしまえば、その時点で終わり。

凡人には決して埋められない、弱肉強食の節理。

物語の登場人物のように、人が竜に勝てる訳がない。

所詮自分は、マスター適性があるだけの一般人でしかない。

魔術なんて知らないし、ただ言われるがままに正義感だけは一丁前にこの領域に踏み込んだ、身分不相応も甚だしい愚か者。それが私、菅野理子を象徴する要素。

空想上の世界に乗り込んだからと言って、自分がその恩恵を受けられる保証なんてどこにもないのに。自分ではそう思っていないつもりでも、自分はどこか特別なんだと錯覚していたのかもしれない。

――でも、これが現実。

ハンマーで頭部を殴られる以上の衝撃が一斉に私を襲い、今の私は木偶人形にさえなり得ない芥に成り果てている。

 

初めてのレイシフトの時は、最後の方で気絶していたせいでどういう状況だったかを理解したのは、全て終わってから聞いただけの中身を伴わない薄っぺらな現実のみ。

きっと――いや、間違いなく。言葉以上に熾烈な戦いがあった。

今みたいにみんなが決死の覚悟で臨み、明日を掴む為に武器を振るっていたに違いない。

なら、私は何?

世界を救いたいなんて甘い理想だけは抱いておいて、それを全部自分以外の誰かに擦り付けて、傍観者を気取っている。

これなら、自分の手を汚してでも悪事を為そうとする人間の方がまだ高潔ではないか。

 

「マシュ……みんな……!!」

 

私はただ、立ち膝の姿勢で無事を祈ることしか出来ない。

那岐さんが目の前で消えたあの時、私は那岐さんに押しのけられ、尻餅をついたと同時に彼はその姿を消した。

見えない速度で私が立っていた付近を何かが通り過ぎたと同時に彼も消えたことから、その何かが那岐さんを連れ去ったのかもしれない。

本当の狙いが私だったのか、それとも余波に巻き込まれない為にこんなことをしたのか。それは分からない。

どちらにせよ、私はまた那岐さんに助けられてしまったことだけは確かで。逆に私は、そんな那岐さんの安否さえ確かめる手段を持っていない。

リリィちゃん達が消えた居ないことから、死んではいないことだけは確かだけど、それで安心する理由にはならない。

思えば、ここに来てからずっとこうだ。

気持ち程度のサポートさえ出来ず、ただ目の前で誰かが傷つくことを傍観することしか出来ないなんて、そんな残酷なことったらない。

傷……?そうだ、傷。思い出した。

思えば、所長が治癒の魔術を使っていたではないか。

私でも、習えば使えるようになるかもしれない。少なくとも、最低限の素養はあると思う。魔術回路がなかったら、サーヴァントを現界させることもパスを繋ぐことも出来ないんだし。

希望は見えた。所詮付け焼き刃だとしても、絆創膏ぐらいの価値しかなくても、ないよりはマシだ。――そう思わなくては、自分で自分が許せなくなる。

それよりも、今の今までそんな考えにさえ及ばなかった自分のお気楽さが許せない。

私だって当事者なのに、何だこの体たらくは。馬鹿じゃないのか。

 

「ごめんね……ごめんね……!!」

 

涙交じりの懺悔は、戦場の音に掻き消される。

決して届かないと理解しつつも、敢えてここで吐き出すのは、みんなの前では笑顔でいたいから。

自己満足で本心を覆い隠し、嘘の笑顔で皆を迎えよう。

マスターである私が不安な顔をしていては、彼らは満足に戦えないだろうから。

きっと気付かれるだろう。それでも、私が笑顔で在り続ける間は、詮索はしない筈。彼らは聡い人達だから。

今はただ、毒にも薬にもならない祈りを捧げよう。ただ、自己満足の為に。

祈りを捧げるその手は、強く握り締められて爪で傷つき、微かに血で濡れていた。

 

 

 

 

 

灼熱を纏って那岐の背後から現れたタラスク。

それはまるで大気圏を超えた隕石のようで、通り過ぎるだけで周囲一帯は吹き飛び、焦土と化す生きた災害と化していた。

そんな現象を前に、振り返った那岐は動揺することはなかった。

ただ、静かに両手を前に突き出したかと思うと、静かに息を吐く。

一秒にも満たない間を超えて、タラスクは那岐を蹂躙する――筈だった。

 

――それは、紛れもなく英雄の所業だった。

形状を認識できないほどの回転と、万物を焼き尽くさんとする災害を、彼は受け止めていた。ただの素手で、だ。

 

「■■■■■■■■――!!」

 

那岐が放ったそれは、最早声とは呼べない叫び。

本来ならば刹那にも満たない間に塵と化す筈の肉体は健在で、それどころか地面を削りながらも最終的にはタラスクと拮抗する状況にまで持ち込んだという事実は、あまりにも現実離れしていた。

身体全体が悲鳴を上げながらも、さも当たり前のように再生する肉体。

一般成人男性程の肉体的質量しか持たないにも関わらず、巨人を彷彿とさせる腕力で隕石と化したタラスクを押し留めたその光景は、敵方からすれば悪夢と呼ぶに相応しいものだった。

――にも関わらず、その光景を見守るマルタの表情は、酷く平坦なもの。それこそ、出来て当然だと確信するように、つまらなさそうに眺めている。

そして、那岐は大きく右腕を振りかぶったかと思うと、その背後に自分のそれよりも三倍はある巨大な聖人の手を顕現させ、そのまま振りぬいた。

那岐の拳がタラスクの顔面に直撃すると同時に、聖人の掌底がタラスクの甲羅を震わせる。

何度も、何度も何度も何度も――ただの一度の容赦もなく繰り返されたそれに対し、タラスクは反撃することさえままならない。

 

「『Lift off!!』」

 

悪魔の脚を顕現させ、膝が鼻に接触する勢いでタラスクを蹴り上げる。

t単位はあるであろう巨体を軽々と上空へと吹き飛ばしたかと思うと、聖人の手がタラスクを掴み――地面へと叩きつけた。

 

「『You――grounded!!』」

 

轟音。タラスクを中心に出来上がるクレーター。

タラスクの重量と那岐の全力による地面への叩き落としの相乗効果が生んだ惨状は、凄まじいものであった。

堅牢を誇る甲羅はひび割れて形を保つのがやっとの状態。その中身もまた、甲羅を通して伝わる衝撃をモロに受けたことで最早痙攣するだけの機械に成り果てていた。

 

「――まぁ、こんなものでしょう」

 

マルタは自らの宝具であるタラスクを一瞥すると、すぐさま那岐に視線を向ける。

漏れた声色からは、どこか不満の色が見えた。

これだけの成果を出して尚、マルタの理想には遠いと言うことなのか。

 

「やはり、ちぐはぐですね。どちらにも依存せず両立した使い方が出来るのは評価出来ます、が――それだけです。半端な状態で力を扱えば、それは全て負担となって貴方に帰ってくる。短期決戦ならばいざ知らず、このままでは自滅するでしょうね」

 

マルタは再び杖を手に取ったかと思うと、静かに言葉を紡ぎ出す。

言語とも呼べない難解な音が透き通る声と共に広がっていく。

そして、紡ぎ終えると同時に杖を地面に突き立てると、杖を中心に銀幕の薄い壁が展開される。

それは那岐にぶつかることなく素通りし、半径100メートルほどまで広がったかと思うと、動きを止めた。

 

「さぁ、来なさい」

 

マルタは挑発するように手首を内側に仰ぐ。

那岐もそれに応えるように脚に力を籠め、一足飛びでマルタに肉薄する――筈だった。

 

「――――がっ!!」

 

那岐は無様に地面を擦るように倒れ込む。

那岐自身理解が追い付いていないのか、体勢を立て直すことなく倒れたままとなっていた。

 

「脚がまともに動かないでしょう?先程展開したのは、対悪魔用の結界です。本来ならば、高位の悪魔でさえ身動き一つ取れないレベルのものですが――貴方にとっては多少痺れる程度でしょうね」

 

「……それでこのザマか」

 

「タカが足の痺れレベルですが――私を相手取るには、致命的な問題なのではないかしら?」

 

那岐はその問いに答えることなく、聖人の掌で地面を押し、後方に跳躍する。

目標は、結界の外。脱出することさえ出来れば、不利な状況をイーブンにまで持ち込める故の、正常な思考の帰結。

故に、読まれやすい。

 

「させると思ってるの?」

 

那岐の跳躍よりも早く駆けるマルタ。

空中に身を投げた状態でありながら那岐は鋭い蹴りを浴びせる。

しかし、読んでいたかのようにマルタは身を屈ませ、そのまま空振りした悪魔の脚を掴んだかと思うと、片手で軽々と那岐を地面へと叩きつけた。

一瞬止まる呼吸。視界が朦朧とする中、直感的に首を横に振ると、頭のあった位置がマルタの拳によって陥没した。

寝転がる体勢のままマルタへと拳を放つも、それをマルタは目を閉じた状態で首だけ動かして回避。その拳を掴み、あろうことか頭突きをブチかました。

 

「その程度?ならとんだ期待外れね」

 

マルタの穏やかだった口調は次第に粗雑かつ冷淡になっていく。

 

「『Spark it up!!』」

 

那岐はマルタの襟首を乱暴に掴み上げ、頭突きを鸚鵡返し、その勢いのまま巴投げで体勢を立て直す。

マルタも空中で姿勢を整え着地する。しかし、ノーダメージでは終わらない。

 

「~~~~ッッ!!やれば出来るじゃないの、出愚の坊!」

 

額を抑えながら歯を剥きだすように笑うマルタに、聖女の面影はない。

互いの視界にあるのは、闘争本能に身を任せた獣のみ。

 

「オラ、掛かってきなさい半端者!!私の教育、アンタの血反吐ごとまるっと味わうがいいわ!!」

 

「それは光栄――だ!!」

 

マルタと那岐の拳が衝突する。

衝突の余波で木々が揺れ、枝葉が千切れるように舞う。

そこからは、最早泥仕合だった。

互いが互いの間合いに常に入り込み、ただひたすらに殴る。

右の頬を抉られれば右の頬を。顔面ならば顔面を。

意趣返しが如く繰り返されるそれは、華々しさとは縁遠い原始的な暴力のみが蔓延る殺伐とした舞台を幻視させる程に雄々しく、そして力強かった。

現代を生きる者を神代に生きた聖女が導こうと、己の全てを賭けて対峙する。

言葉にすれば尊いそれも、現実を見せつけられれば何と陳腐なことか。

 

マルタの伝説は有名とは言い難いが、触りだけ知る限りでも、彼女の異常性が窺える。

道具を用いたとはいえ、単体で龍種を抑え込み、あまつさえ村まで持ち帰ったなど、聖女と言う名に相応しくない破天荒な人柄が浮き彫りになっている。

奇跡の力、と安易に決めつけるのは容易だが、現実はそれ以上に出鱈目であるなど、誰が想像できる?

聖女?笑わせてくれる。那岐の目に映る女は、そんな儚げな印象とは真逆の存在だ。

 

対して、マルタも思う。愉しいと。相応しくないと理解しつつも、そんな猟奇的な感想を抱かずにはいられない。

元来、彼女は聖女と呼ばれるには些か自己が強すぎた。

しかし唯我独尊という訳でもなく、妹弟の世話を献身的に日常的に行ってきたことから、寧ろ愛情は深い性質にある。

それ故に、彼女は常に抑圧されることを強いられてきた。

聖女として生きることも、姉として下の子達を支えることも、決して苦痛ではなかった。

だが、それでも――望まれる『聖女としてのマルタ』と言う目に見えないプレッシャーは、確かに彼女の心に影を落としていた。ストレスという形で。

威光だけで言えば遥か上を行く聖人が身近に存在していた為、祀り上げられる程ではなかったにしても、やはり聖人と聖女ではカテゴリーが違うらしく、崇拝の目が分離することはなかった。

だからこそ、親しい人間だけにしか見せない『聖女ではないマルタ』が貴重で尊いものであると、真の彼女を知る人は思うだろう。

その稀有な彼女の魂は、今目の前にいる男によって丸裸にされている。

龍種でさえも服従する程の腕力。それに連動するように素の性格は活動的で勝ち気。

その全てを解放する、となれば聖女と言う肩書そのものを捨てる覚悟で臨まなければならない。それほどに、彼女は強すぎた。

 

「ハァアアアア――!!」

 

「『Ahhhhhh――!!』」

 

しかし、そんな彼女の全てを受け止めてなお余裕のある目の前の青年、那岐に彼女は夢中になっていた。

タラスクの甲羅すら破壊する拳は、同レベルのそれによって我が身に振りかかり、それでいて相手も当たらない為に残像を残す速度で動き続ける。

脚の痺れに慣れて来たのか、それとも漸く目覚めて来たのか。それを考える余裕はない。

刹那に放たれる拳や蹴りの数は、数えることさえ不可能なレベルに昇華している。

時には素直に、時には搦め手を使い、一手一手を読み合って騙し、躱し、一撃を叩き込む。

実にシンプルで、原始的な戦い。だが、そんな野生の解放をマルタは甘美としていた。

異常だろう。狂っていると思われるだろう。

それがどうした。そんな腑抜けた感想に何の価値がある?

理性的な視点で他者を評価して智慧者を気取る阿呆の評価など、それこそ芥にさえ劣る。

そも、今のマルタは狂化を掛けられていることを忘れてはならない。

理性で抑え込んでいたとはいえ、タガが外れればこんなもの。逆に言えば、理性で抑え込めるほど彼女の聖女としてのスタイルは完成されていたとも言える。

『聖女のマルタ』も『村娘としてのマルタ』も、ひっくるめて自分なのだと。拳に想いを込めて放ち続ける。

これでもかと言う程に思いの丈を乗せた暴力は、那岐に余すところなく受け止められている。

那岐は肉体を砕けば再生、肉を裂けば再生を繰り返す。それと比較して魔力供給こそあれど自然治癒能力は人並みである故に消耗の止まらないマルタ。

理不尽とは思わない。そも前提として、自己と他者を照らし合わせる時点で間違っている。

サーヴァントとして現界され、生前の能力とは比べ物にならないぐらいに劣化しているとはいえ、それでも全力であることに変わりはない。

固有スキルである『奇蹟』を使えば、そのような枷を外すことは容易だが、それは『仕上げ』に取っておく必要がある。

 

「――――ごっ」

 

思考に集中し過ぎていた。

眼前に迫る拳を護ることも回避することも出来ず、全力の拳を叩きこまれた。

ゴム毬のように跳ね、大地を削り、結界の外にまで弾き飛ばされたマルタの肉体はそこでようやく勢いが収まった。

鼻が完全に折れている。気付かなかったが、肋骨も何本逝っているか想像もできない。

顔そのものも醜く腫れ上がり、端正で美しかった造形は最早見る影もない。

しかしそれを本人は意に介した様子もなく、鼻を無理矢理正中線に戻し、鼻血を勢いよく飛ばす。

それに呼応するように那岐も結界の外から現れるが、表情に疲労の色こそ見えるが肉体そのものは無傷そのもの。

 

「今のは効いたわ……。ああ、痛い。痛くて堪らない、けど――」

 

弱音のような言葉とは裏腹に、目の奥に宿る闘志は未だ燃え尽きてはいない。

 

「――それが楽しくて、本当に仕方がないのよ」

 

恍惚とした笑みで、那岐と向かい合う。

那岐はそれに、無言で答える。

連れない、と思いつつも口にはしない。

 

「とはいえ、そろそろ私も限界。そろそろ『仕上げ』と行きましょうか」

 

痛みに耐えるようにおもむろに立ち上がると、マルタは祈りを捧げる態勢を取る。

それを静かに見守る那岐は、何を思ってその光景を眺めているのか。

かくして、祈りに応えるようにマルタが発光し始める。

 

「奇蹟って言うのはね、些細なことから人理を捻じ曲げる程の大規模なものまで多々あるけれど、その差の基準は何だと思う?」

 

マルタは一呼吸置き、続ける。

 

「人理を捻じ曲げる程の奇蹟が起きる時はね、共通して人類の歴史を揺るがすターニングポイントが関わっているのよ。世界の創造然り、ノアの洪水然り、人類の生誕から存続に掛けて、その安定が揺らぐその時、奇蹟は最大限の力を発揮する。そして、その中心にいるのは、貴方」

 

「何を――」

 

「奇蹟とは、起こるべくして起こる変革であり、それは無意識の願望によって形を成す。貴方の望みは、何?」

 

 

 

――――瞬間、世界が爆ぜた。

 

 

閃光の先に創造されるは、影。

それは、那岐にとって近しい者であり、超えるべき目標のひとつであり、魂の破片。

 

「――兄貴」

 

那岐の驚愕がありありと表情に現れる。

目の前の男は、那岐の知る限り粗雑で下品で弟を弄り倒すことを日常とする、謂わばロクデナシの駄目人間。

だが、その奥底に眠る誇り高き魂は、共通の父から最も色濃く受け継がれている、密かに尊敬もしていた存在。

 

「『――Let's rock, baby』」

 

業火を纏う籠手と具足を嵌めた兄の片割れ――ダンテの影は、不敵な笑みで那岐を見据えていた。




Q:理子ちゃん曇りそう
A:私の作品中で曇るヒロインは優遇されるシステム

Q:タラスクさんの咬ませ犬以下の仕打ち
A:ベヨネッタだって衛星キャッチボールしてたし、これぐらい出来ないと話にならないと思うんだ

Q:泥臭い戦い(笑)
A:血生臭い戦いだったね(一方のみ)

Q:姐さんの素のスペックが想像できない件
A:ベヨ姐ぐらいとなら張り合えそう(白目)

Q:おい、最後何か出て来たぞ
A:勢いに任せて出した

Q:那岐君何考えて生きてるの?
A:いずれ分かるさ、いずれな……。


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04~壁を超えた先には~

腰また痛くして休んだり椅子に長時間座れなかったりそれ以前に筆が進まない上に迷走しまくって妥協に妥協を重ねた、残念な内容になってます。いつもの事か。

それよりよー、バレンタインイベでアストルフォ出さないとか、DWに殺意を抱いたよ。デオンくんちゃんから貰えるからまだいいけどさぁ……。

(今回も勘違い要素は)ないです。
もうタグ外してもいいんじゃないかって?(そうだな)


魂さえも燃やし尽くす獄炎が地を焼き、空を焦がす。

影によって構成されたダンテの攻撃は、彼の知るそれと比べれば速度も鋭さも数段劣る。比べるのも烏滸がましい、文字通りの劣化存在だ。

しかし、そんな攻撃でさえも那岐はついていくのがやっとだった。

那岐のイメージに存在するダンテは、多少劣化した程度では追い付けないほどの高みにいるのだと思い知らされた那岐は、苦悶の表情を浮かべる他なかった。

 

「『Huhooo!!』」

 

そんな那岐を嘲笑うように、楽しそうな声と共に猛攻を繰り広げるダンテ。

業火を纏う籠手や具足の一挙一動は、ただそれだけで那岐を着実に追い込んでいく。

炎が頬を撫でるだけでそこには斬るような痛みが走り、インファイトを常に保たれているが故に炎が酸素を奪いスタミナをも過剰に奪っていく。

そして――どういうトリックかは不明だが、その炎で焼かれた箇所は彼の驚異的な再生能力を以てしてもすぐに治らず、着実にダメージを蓄積していく。

 

「『Beat it!!』」

 

痺れを切らした那岐の回し蹴りが、ダンテの懐薄皮一枚を通す。

ダンテは飛び退いたその反動で、後方回転しながら距離を取る。

それを予想していた那岐は、聖人の掌ですかさず追撃する。

互いに肉体を武器に立ち回る中、那岐のリーチは圧倒的に那岐に分がある。

握れば捉えられるまでの距離まで追い詰めた。――そう、思ってなどいなかった。

 

「『――Blaze rising dragon!!』」

 

炎を身に纏いながら拳を突き上げ、ダンテは空高く飛び上がる。

ダンテの身体を覆い尽せる巨大な掌を、炎で出来た昇り龍が容易く打ち破る。

その勢いのまま空中で静止したダンテは、予備動作の一切を排斥した弾丸のような蹴りを那岐へと浴びせる。

しかし、それは即座に体勢を立て直した聖人の掌によって食い止められる。

数秒の均衡。結果として、互いに弾き飛ばされる形で仕切り直しとなる。

 

「『Fire!!』」

 

炎の籠手から魔力で構成された隕石が発射される。

籠手の力で炎を纏って迫るそれを、那岐は最小限の動きで回避しながら、ダンテとの距離を詰めていく。

影とは言え、自身より遥か上を行く存在を使い慣れない力で打倒できるなどと、そのような慢心を抱けるほど彼の育ってきた環境は優しくなかった。

 

見上げれば、常に三人の男の背中があった。

手を伸ばそうとしても、それ以上の速さで歩みを進めていく背中を捕まえるには、彼はまだ未熟すぎる。

だけど、一足飛び程度では足りず、それ以上を望めば蹴躓くことは想像に難くない。

過ぎたるは及ばざるが如し。力は所詮力でしかなく、使う者が未熟であればどんなに優れていようとも意味は為さない。

力とそれを扱う者の能力。そのどちらをも高水準に備えた兄と父を知るが故に、それを持たない自分が如何に凡夫で無才かを、改めて理解することとなってしまった。

 

「『……Too easy!!』」

 

しかし、そんなことで那岐の歩みは止まらない。

彼は良くも悪くも自己を確立しており、外側からの干渉で意思が弱まったり、意見を変えることは滅多にしない。

一度決めたこと、求められたことは投げ出すことはせず、その過程において弱音を吐くこともなければ恨みを持つこともしない、現代人とは思えない程に実直な青年。

良く言えば質実剛健、悪く言えば融通が利かないタイプであり、その悪い部分が責任感という形で彼に重石を背負わせている。

力を持つ者の義務。自分がやれるのならば、やらない訳にはいかない。

誇りを護る為でも、受け継がれた力を振るう為でもなく――ただ、自分の世界を護る為に。

家族を、友人を、仲間を、そして何より自分自身を。

そこに優劣など存在せず、よく例え話にある「どちらか片方を犠牲にしなければ二人とも犠牲になる」等という理不尽と言う名の二者択一への答えを言うとするならば、「そもそも前提としてそのような理不尽を起こさない為に力がある」と臆面もなく答えるタイプの人間だ。

答えとしてはあまりにも論点のすり替えが過ぎて不適切だと言えるが、考え方は間違えてなどいない。石橋を叩いて渡ると言う言葉があるように、安全を求めるのであれば、事前の準備を怠らないのは当たり前のことだ。

 

そんな那岐だが、この世界に来る以前は基本的に平和な環境に身を置いていたこともあり、護りたいという意思は雲のように不定形なままで、ただ家族を――というよりも、強者ばかりの身内に於いて唯一の例外である母を護れるぐらいにはなりたいぐらいにしか考えていなかった。

しかし、当たり前のように母に脅威が迫るなんて漫画のような事態になることはなく、言うなればただ強くなっていっただけだった。

覚悟、信念と言った英雄が持つ概念的な「強さ」を彼は持っていなかったのだ。

そして、平和な世界で生きていた彼には、それを得る機会を与えられることはなかった。

そんな時、意図せず異世界に訪れてしまったことで、転機が生じる。

自分の知る、ゲームの中に存在する英雄が跋扈する世界へと身を投じることとなり、そこで護りたいものが出来た。

それを自覚したのがいつかは、当人でさえ理解していない。そもそも、自覚すらしていない可能性だってある。

だが、無自覚であろうと根幹にそのような意識が存在するからこそ、彼は英雄にさえ立ち向かえる。

そして、彼は異質な力に目覚める。まるで、護りたいと言う無意識に引き寄せられるかのように、奥底に眠っていた力が呼び覚まされた。

だが、所詮は無意識で生まれた力であり、使い方も知らずただ振り回しているだけに過ぎない。それこそ、無意識で動いた方が使いこなせてしまう程度に、彼はこの力に無知過ぎた。

 

「『Is that all?』」

 

「『Shit……!!』」

 

猛攻は止まない。

ダンテは必死になって喰らい付く那岐を見て、楽しそうに笑みを零す。

所詮は影でしかない筈なのに、内に眠る感情は本物ではないかと思わせる、慈しみを孕んだそれに那岐は気付けない。

ただ、目の前の超えるべき壁を打倒したい。偽物だと理解していても、それさえ下せずして、本物を超えるなど出来ない。

勝ちたいと常々思っていた。思いだけでは足りず、されど力を詰めど届かず。

何が足りない?何が、何が何が何が――

一向に解を出せない自問自答は、ダンテの拳が那岐の顎に突き刺さったことで霧散した。

 

「戦闘中に考え事とは、余裕だな愚弟」

 

意識と共に上空へと吹き飛び、そのまま叩きつけられた那岐にダンテは近づき話しかける。

那岐はその様子に睨んで対抗するも、受ける当人はどこ吹く風。

そう、こんなやり取りは以前にもあった。ありふれた、日常の欠片だった。

 

「うる、さい……馬鹿兄貴が」

 

「相変わらずの連れない態度だな。久しぶりの再会だってのによ」

 

「……そもそも、本当に兄貴なのか?」

 

「今更過ぎる質問だな。俺はお前の知る俺じゃない。だが、あながち偽物って訳でもない」

 

身体がまともに動かない那岐に合わせてか、ダンテはしゃがみ込み目線を低くして会話を続ける。

 

「今の俺は、お前のイメージが生んだ贋作だ。だが、お前が俺をどこまでトレース出来ているかによっては、本物同然にもなれば、靴の裏にへばり付いたガムみたいなものにだって成り下がる不安定な存在。それが今の俺だ。まぁ、俺が消えても本体に一連の会話が届くことはないから、偽物ってことで問題なさそうだがな」

 

「意味、分からねぇ……」

 

「別に深く気にする必要なんざねぇよ。――まぁ、お前の想像力が貧困だってことは分かったがな」

 

那岐の無拍子の水面蹴りは、軽く跳躍することで回避される。

この流れもまた、日常的に行われてきた光景のひとつ。

那岐が煽られ、お返しとばかりに反撃しても軽く躱される。それこそ、じゃれあいレベルのやり取りでしかない。

 

「おいおい、馬鹿にしてるつもりはねぇからな?寧ろ、今の今までそのレベルに落ち着いてたことが驚きだってことでな」

 

「何が言いたいんだ、結局」

 

「焦るなよ、そんなだからモテねぇんだ。俺みたいにもっと人生楽しく生きなきゃな」

 

「悪いが、俺は日本人寄りなんでな。どっかの誰かさんみたいにモラルを落っことしてはいないんだよ」

 

「お堅いこって。アイツの面倒な所ばかり似ちゃって、お兄ちゃん悲しいぜ」

 

ワザとらしく肩を落とすダンテ。

それを無視し、ようやく立ち上がった那岐はストレッチをしながらも会話を続ける。

 

「……で、兄貴は俺と再会するが否や襲い掛かって来た訳だが、何のつもりだ?」

 

「そりゃあ、久しぶりの再会なんだ。ちょいと遊んでやろうと思ってな。今の俺とお前は、互角――いや、俺の方が弱いからな」

 

「はぁ?冗談言うなよ」

 

「大マジだぜ。俺がこれひとつでしかお前と戦えないのがその証拠だ」

 

そう、籠手をノックしながら答える。

 

「俺を呼んだお嬢さんが悪いと言うつもりはないが、俺を再現するにはちょっと役者不足だったってことさ。まぁ、お前を基準にしているのにお前の知らない俺を再現する、なんて矛盾が起こる訳ないんだがな。つまり、お前が悪い」

 

「なんて滅茶苦茶な理論だ、頭が悪いにも程がある」

 

「男なら女の失態を受け止めるぐらいの度量がなくちゃな?」

 

「否定は、しない――!!」

 

那岐とダンテの蹴りが鍔迫り合いの如く交わり合う。

そこから連続して行われる、蹴りによる剣戟。

斬り、薙ぎ、払い――本物と遜色ない鋭さを以て繰り出されるそれは、剣を幻視させる程に洗練されている。

だが、錬度の差は如何ともしがたく、徐々に那岐が劣勢になっていく。

 

「お前は、俺に勝てない。他でもない、お前自身がそう思っている限りな」

 

「何っ……!!」

 

「俺はお前のイメージによって作られた存在だ。お前は俺をと思っている癖に、心のどこかで俺には敵わないと思っている。諦めちまっているんだよ」

 

「違う――」

 

「否定すれば遠ざかるぜ?」

 

「俺は――」

 

「疑えば足が止まるぞ?」

 

「そんなこと――」

 

「受け入れなきゃ――大事なものを失うぞ?」

 

その言葉が切っ掛けとなった。

視界が白く染まり、見たこともない映像が那岐の脳裏に過っては消えていく。

見るも悍ましい化け物の群れ、狂気と冒涜を孕んだ地獄を彷彿とさせる風景、地面に届く程の黒髪を靡かせる少女とその傍らに立つ巨大な白狼――そして、血に塗れて倒れる母親の姿。

割れるような頭の痛みを対価に映し出される光景を前に、那岐は――

 

「『『A――aaaaaahhhhhhhhhh!!!!』』」

 

咆哮。世界を揺らすほどの叫びが、二つ(・・)響いた。

那岐は先の映像の記憶など、一片たりとも持ち合わせていない。それは、純然たる事実だ。

だが――肉体の方はどうだ?

那岐自身確信していたではないか。この肉体は並行世界の(・・・・・)暮宮那岐の肉体であって、自分自身のものではないと。

それに、忘れてはならない。

トリガーとなった言葉を紡いだのはダンテだが、それは那岐自身が構築した存在であることを。

つまり、ダンテの言葉は那岐の言葉であり、そんな彼の言葉に狂気的な反応を示した時点で、無関係だと断ずることは不可能であると。

 

「やるじゃないの、那岐」

 

天を仰ぎ、不敵な笑みを浮かべるダンテ。

視界は陰りに覆われている。それは、目の前の存在が太陽の光さえ遮る程に巨大であるが故の、必然の光景。

神話で語られている悪魔そのものな悍ましい造形をしておきながら、その背中からは天使のような純白の羽が六枚生えており、その身から放たれる力もまた悪魔と天使の二つ分と言う、歪を極めたナニカ。

 

「ま、これぐらいが及第点か。――嬢ちゃん、聞こえているか」

 

「――え?」

 

今まで二人の戦いを静観していたマルタが、ダンテの言葉でようやく意識を取り戻す。

目の前の規格外の存在を前に、意識を失ってしまったが故の遅れた反応。

それも仕方ないこと。

誰がこんな結果を予想できる?こんな――山さえも軽く跨げる程の巨人が現れるだなんて。

 

「逃げろ。死にたくなきゃな」

 

「あ、アンタは――」

 

「弟が壁をひとつぶち破ったんだ。ご褒美がてら、今の俺の全力で答えてやるのが兄としての役目だろ?」

 

ダンテは拳に掌を重ね、指を鳴らしながら巨人へと近づいてく。

表情は死地に向かう者のそれではなく、これ以上となく楽しそうで、マルタは呆気に取られる。

マルタとて血の気の多い質ではあるが、流石にあんな規格外を前にして戦いたいとは思えない。

それほどまでに、目の前の巨人は圧倒的で、禍々しくて、神々しかった。

神と言う存在を強く知るマルタでさえも、畏敬の念を感じずにはいられない高次の存在へと昇華した那岐。

だが、彼女と違ってダンテは不遜な態度で歩みを止めることはない。

神であろうが悪魔であろうが、彼の者を止められはしない。その在り方は、英雄と呼ぶにはあまりにも愚かで、愚者と呼ぶにはあまりにも高潔であった。

 

「それに、あんたみたいな美人をそんなになるまでボコるような弟を躾けるのも、兄としての責任ってな」

 

ダンテはおもむろにマルタに向けて何かを放り投げる。

思わず手に取ったそれは、緑色の星型をした魔力の籠った石だった。

 

「傷ついた魂ごと復元させることが出来る、最上級の霊石だ。霊的な組織で出来ているアンタなら効果抜群だろうから、それでうちの弟が馬鹿やらかしたことはチャラにしてくれ」

 

「……ありがたく受け取っておくわ」

 

礼を告げたマルタは、そのまま素早く戦線を離脱する。

その姿を見送ったダンテは、つれないね、と肩をすくめながら改めて巨人となった那岐と向かい合う。

先程まで抑えていた魔力が、ダムが決壊したかのように溢れ出す。

 

「さて、準備はいいか愚弟?お前に本気を出すのは初めてだから――痛くて泣いても知らねぇぞ?」

 

その言葉に反応するように、光の巨人は吠える。

 

「『It's show time!』」

 

どこまでも楽しそうに、ダンテは光の巨人と対峙する。

ここに、傍迷惑極まりない兄弟喧嘩が始まった。

 

 

 

 

 

 

英雄達の戦闘も佳境に入った頃、それは起こった。

 

「な、何……?」

 

誰となく呟かれたそれは、突如現れた地面の揺れによるものだった。

微弱なそれから、次第に高まっていく振動に、英雄達は戦慄する。

継続するのではなく、断続的に行われるそれは、まるで何かが歩行しているような――

 

「おい、アレなんだよ……?」

 

バーサーク・ランサーを倒し、いざセイバー・リリィの援護に回ろうとしていたモードレッドが、彼方を見つめながら呟く。

そこには、光の巨人としか表現できないモノがあった。

遥か彼方に存在するにも関わらず、放出する光と山をも越える巨大さが、嫌でも存在を目に焼き付けてしまう。

神々しくありながら、どこまでも禍々しく感じられるそれは、幾多の戦場を駆け戦果を挙げ、時には異形の怪物でさえ屠って来た彼らをして恐怖させた。

化け物だの、悪魔だの、そんな陳腐な表現で形容できるかさえ怪しい。ただ言うのであれば――格が違いすぎる、の一言に尽きた。

 

「綺麗……でも、何故でしょう。とても、悲しいです」

 

光の巨人を茫然と見上げるマシュの呟きは、誰の耳にも届かない。

誰もが光の巨人に集中するあまり、この場が戦場であることさえ忘失させていた。

 

「――――」

 

予想外にも、英霊の中で一番に意識を取り戻したのは、バーサーク・アサシンだった。

アレの危険性を瞬時に察知した彼女は、隙だらけなランサーを追撃するよりも、逃げると言う選択肢を選んだ。

数を減らしたとはいえ、未だ健在のワイバーン達は、洗脳を振り払い一目散に逃げ出しており、最早戦力にはならない。

彼女は英霊ではあるが、斬った張ったをして名を残した英霊ではない。所謂反英霊と呼ばれる存在で、その功績もまた、地位を利用した恐怖と流血を以て欲望を満たしてきた、悪の側面によって英雄として扱われたバグ。

武勲によって英雄となった訳ではない彼女だからこそ、光の巨人に呑まれる以上に恐怖が勝った。

なまじ腕っぷしに自信のある者程、現状に危機感を抱けない。実力に裏打ちされた自信がそうさせたのだ。

――だからこそ。英霊でも何でもない一人の少女が、いの一番に行動を起こしていたことに誰も気付けなかった。

 

「――――ッ、待ちなさいリコ!!」

 

愚行に気付いたのは、リリィだった。

脇目も振らずに光の巨人に向けて走り出す理子を止める。

英霊と人間では、身体能力の時点で差がありすぎる。ましてや、鍛えてもいない少女のそれでは、振り切ることなんて出来る訳もない。

 

「放して、あっちには那岐さんが!!」

 

「マスターが……?」

 

「私を庇って吹き飛ばされた方向と一緒なの。だからきっと、あそこには」

 

「だからと言って、貴方が単身向かった所で何になります。むざむざ死にに行くものです――ぐっ!!」

 

突如、苦悶の声を上げて膝をつくリリィ。

バーサーク・セイバーとの死闘の果て、決着の瞬間に受けた決して浅くない傷を通して、純白のドレスが朱に染まっていく。

鎧さえ纏っていない彼女にとって、一発のダメージは他の英霊と比較にならないぐらいに重い。

その分速さに重きを置けると言う長所もあるが、今回のように差し違える覚悟で放たれた一撃と言う、回避不可能のタイミングで繰り出されたそれに対抗する手段を持たないのは、目に見える大きな欠点だ。

元より死を覚悟していたバーサーク・セイバーにとって、この一撃こそが本命。

例え自らを踏み台とすることを是としても、手を抜く理由にはならない。

寧ろ、この一撃を以てリリィが反省を糧により高みへと向かう可能性を思えば、これもまた必要な行程だったと言える。

しかし、そんなバーサーク・セイバーの思惑を知らないリリィにとっては、この傷はただのマイナスでしかない。

事実、その隙を突いて理子は再び走り出してしまう。

 

「貴方は休んでいなさい、リリィ」

 

透き通るような声が、頭上から降り注ぐ。

見上げれば、硝子細工の馬に騎乗したマリーがいた。

 

「多かれ少なかれ、皆さん消耗している。この場で唯一消耗していない私なら、彼女を連れ戻すぐらい出来るわ」

 

後方を振り返ると、所々に負傷し息も未だに整わない仲間の姿が目に付く。

彼らは決して弱くはない。だが、英雄同士の戦いともなれば、単純な実力の強弱に意味はない。

技量、扱う武器、地形、得意な戦術、そして宝具。ひとつひとつが味方であると同時に、自らを不利に陥れる敵とさえなり得る。

常に十全で戦えるなんて有り得ない。英雄達は、常に逆境の中で命を賭して戦ってきた。

綺麗な勝利など理想でしかなく、勝つためならば多少の犠牲を払うことも厭わない。

それが個人での戦術レベルともなれば、やれることも限られてくる。

その結果が、絶えない生傷だ。犠牲に出来るものが、己自身ぐらいしかない以上、それも必然。

そういう意味では、言葉のみで無血勝利を収めたマリーは、やはり人の上に立つ者であって、真の意味での英雄とは程遠い存在であることは疑いようもない。

 

「ならせめて、その馬に」

 

「駄目よ。この子の積載量は多いとは言えないし、人間一人の重さが増すだけで速度が落ちて理子がより危険に晒される可能性が高くなるわ。――問答している暇はないわ、みんなは休んでいて」

 

硝子の馬を撫でると、それに答えるように走り出した。

マリーに暗に足手纏いだと揶揄されたことに怒りはない。寧ろ、マスターを奪われ、取り戻すことさえ出来ない己の弱さを呪うばかり。

 

「母上……」

 

「モル……大丈夫ですか?」

 

「ああ。万全とまではいかないが、そこまで消耗してはいない。それよりも、母上の方が」

 

「私は平気です。流石に戦力になれるほどではありませんが、死ぬに至る程ではありません」

 

「畜生っ、オレがもっと早くあの野郎を仕留められていたら……!!」

 

「貴方に非はありません。これは、私の未熟が生んだ結果」

 

そう言われてしまえば、モードレッドも反発出来ない。

彼女が未熟なことはモードレッド自身も知るところであるし、下手な慰めは侮辱にさえなる。

王となるべく邁進しているとはいえ、リリィもまた騎士と呼べる存在。決して無下に出来る要素ではない。

歯噛みすることしか出来ない自分自身に、苛立ちを隠せないモードレッド。

護ることも出来なければ、精神的な支えにさえなれないことが、ここまで辛いものなのかと思わずにはいられない。

 

そして所変わってマリーはと言うと、非常に落ち着いた心境で馬を走らせていた。

道なき道を優雅に駆けていく姿は、死地に赴かんとするためのものとはとても思わない程に落ち着いている。

光の巨人は、まるで何かと戦っているかのように、緩慢ながらも鋭い動作で拳を震わせている。

那岐が戦っているのか?そんな疑問に行き着くより早く、理子の背中に追い付く。

地震によりおぼつかない足取りの彼女を、通り過ぎ様に引っ張り上げる。

 

「きゃっ」

 

「ごめんなさいね。でも、あのままだと転んで怪我をしていたわ」

 

引っ張り上げられた理子は、そのままマリーの背後に回る形で馬を跨ぐ。

必死に走っていたせいで整わない呼吸の中、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「マリーさん……どうして」

 

「どうして?変なこと聞くのね」

 

「そ、そうですよね。やっぱり私を連れ戻しに――」

 

「あの光の巨人の所に行くために決まっているじゃない」

 

――予想外の答えに、ポカンとした。

子供のように純粋な瞳で答えるものだから、それが嘘でないことが嫌でも分かってしまう。

理子は自分が同じことをしてしまった手前、マリーに掛ける言葉が見つからない。

 

「さ、行きましょう?」

 

混乱の最中、マリーが光の巨人へと向かおうとした時、目の前に人影が介入する。

 

「お待ちなさい」

 

そこに居たのは、ジャンヌ・オルタ側のサーヴァントであるライダーだった。

しかし、以前と異なり服装に乱れや汚れが見られる。にも関わらず、怪我のようなものはどこにも無い。

 

「あら、貴女は?」

 

マリーは素直に馬を停止させ、視線を同じくせんとそこから降りる。

 

「ま、マリーさん!あの人、敵サーヴァントです!」

 

柔和なマリーの態度とは裏腹に、その存在を知る理子は慌てて警戒を促す。

 

「敵?と言うことは、あの光の巨人は貴方が関わっていると見て良いのかしら?」

 

「当たらずとも遠からず、ですね。ですが、仮に私がこの場で倒されようとも、そうでなくとも、彼の巨人はいずれ消えることでしょう」

 

「……良く分からないのだけれど、あちらには私達の仲間がいるの。通して下さらない?」

 

「駄目です」

 

にべもなく返される。

しかし、言葉から一切の悪意を感じない。

 

「誤解なきよう言っておきますが、貴方達の前に現れたのは、戦う為ではありません。あくまで、今はまだお通し出来ないのであって、時が経てば喜んで道を譲る所存です」

 

「……何を企んでいるの?」

 

恐る恐る理子は問いかける。

ライダーはそんな対応にも優しく微笑んで答える。

 

「今、貴方達の求める人物は、試練の中にいます。超えるべき壁を超える、次のステップを踏み出すための重要な儀式。それは決して、誰にも邪魔される訳にはいかないもの」

 

「貴方は、彼の何を知っているんですか」

 

訳知り顔で語り出すライダーに対し、ほのかな敵意を抱く理子。

確かに、自分は那岐と多く接点がある訳でもない。数日前に偶然出会ってから、浅くもなく深くもない付き合いをしているに過ぎない。

だけど、間違いなく目の前のサーヴァントよりは彼を理解している筈だ。

それなのに、あの態度。まるで自分と那岐の繋がりを馬鹿にされているようで、嫌だった。

 

「私は自分で見て、聞いて、感じたことしか知りません。彼と対峙して、言葉を交わして――」

 

そこで一旦区切り、首を横に振る。

まるで、余分なものを振り払うかのように。

 

「――とにかく、貴方達を今向かわせる訳にはいかない。私は、彼に希望を見出している。その希望の芽を摘もうと言うのなら、容赦はしません」

 

ライダーは杖の切っ先を突きつけ、宣言する。

しかし、恐怖はない。怒気も殺気もない、上辺だけの言葉では、王女であるマリーはおろか、軽い死線を超えたばかりの理子には届かない。

だが逆に言えば、そこまでしてなおライダーが自分達を故意に害する気はないと言う意思表示でもあった。

狂化に侵されている筈の彼女が、何故ここまで理性的でいられるのか。

理由は分からない。だけど、自分達の知らない間に那岐を中心に大きな変化が起きている。それだけは間違いない。

 

「……分かったわ。大人しくしていましょう」

 

「マリーさん!?」

 

「私は、彼女を信じるわ。本来なら問答無用で敵対しなければならない関係なのに、それでも彼女は交渉で場を収めようとした。理由こそ分からないけれど、少なくとも利で動いているようには感じられない。だから、心配いらないかなって思ったの」

 

「でも、那岐さんが心配じゃないんですか?」

 

「大丈夫よ」

 

マリーは振り返り、理子の頬を撫でる。

根拠も何もあったものではないそれは、不思議と正しいと思わせる魔力を秘めていた。

これが、革命の時まで国民に愛され続けたた少女、マリー・アントワネットのカリスマの為せる技なのか。

 

「それに、もうすぐよ」

 

マリーに釣られる形で見上げると、光の巨人は苦しそうに身体を震わせたかと思うと、一際眩い光を放ったかと思うと、光が収まった先に巨人は既に存在していなかった。

遠くからでも分かる木々の倒壊からの破壊の跡だけが、光の巨人が確かに存在していたことを証明していた。

 

「もう、行っても?」

 

「ええ、お好きにどうぞ」

 

ライダーの許可を得て、その横を通り過ぎたかと思うと、マリーはライダーへと振り返る。

 

 

「貴方は来ないの?」

 

「……私はいいわ。どうせ、また会うことになるでしょうから」

 

そう言い残し、ライダーは立ち去る。

去り際の陰りのある表情に思う所はあったが、それよりも今か今かとうずうずしている理子の意思を尊重すべく、マリーは馬を巨人のいた場所へと走らせる。

進むにつれて開けていく視界。それは、巨人の暴れた余波によって生み出された光景であり、味方の存在を無視してその発生源に向かおうとしている自分達は、正しく愚か者なのだろう。

だが、それでも。那岐が心配だから、ただそれだけの理由で駆けつけられると言うのは、得難い絆であることに違いはなく。この行動をただの蛮勇と切って捨てる権利は誰にもありはしない。

『理』と『利』で感情を支配することは誰に出来ない。

不確定要素を無限に備えた存在。それこそが人間であり、だからこそ人は時には超常を行使し竜、果ては神さえも殺すといった、現実には考えられないような奇跡を起こしてきた。

それを架空の物語と俯瞰するなかれ。いつだって現実は、想像の斜め上を超えて我らを逆に見下しているのだから。

 

「あ、あれ――!!」

 

理子の指差す先は、巨人の足元だったであろう大地。

苛烈な戦いの跡か、クレーターを通り越して壁の如くせり上がる地面、その合間を縫うように那岐の横たわる姿を発見する。

それに隣り合うように赤色の籠手と具足が無造作に置いてあるのを視界の端に捉えるも、それは今重要なことではないと切り捨てる。

 

「那岐さん、那岐さん――!!」

 

理子は慌てて馬から飛び降りたかと思うと、ボロボロになった那岐の下へと走り出す。

乱暴に肩を揺する行為は、本来ならば不適切とも言えるものであり、流石のマリーも止めようと声を掛けようとした時、突如理子の身体が前のめりになる。

それは、那岐の手によって理子の身体が引き寄せられたことで起こった結果であり、必然的にその勢いのまま理子は那岐の胸に抱きしめられる形で収まる。

突然の出来事に、理子は困惑することしか出来ない。

 

「――良かった、生きてて、くれた」

 

絞り出すような声と共に、抱き締める力が一層強くなる。

しかし、気持ちを押し付けるようなそれではなく、あくまで慈しみを忘れない優しい抱擁。

男性特有の固い胸板と、ほのかに感じられる体温。汗と土の匂いに紛れた、彼自身の匂い。それらが一体となり、安穏とした気分になっていく。

ここで何が起こったかは分からない。だけど、こんなになって尚自分の身を案じてくれていたのかと思うと、不謹慎にも喜びを隠せずにはいられない。

しかし、そんなひと時はすぐに終わりを告げる。

理子を抱き締める腕の力は徐々に弱まっていき、するりとほどけるように離れていく。

静かな寝息が聞こえる。それを邪魔しないように身体を起こすと同じくして、リリィを初めとした味方サーヴァントが追い付いてきた。

叱られるだろうな、という陰鬱な気分から逃避するように、理子は先程の温もりをただ反芻し続けた。

 




メルティ・スイートハートのマシュが加えたチョコを近藤さんにして、目の中にハートマーク追加したコラ画像誰か作ってくれたら、次の投稿が早まるかもしれないネ!

今回のガチャはジャンヌもついでに狙いたいからしばらくはお預けかなぁ、当たる気はしないが。

それよりもメンテだよメンテ―。いつものこととはいえ、完全にお茶濁されている感が凄くて歯痒いと言うか、せめて寝る前に少しでもAP消化したかった……何とか体験クエと第一話だけはやったけど、それだけだし。

Q&Aはどうしたって?昨日逮捕された。DW関係者の娘とヤッちまって。


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05

遅れてしまったお詫びよりも大事なことがあるんだ。









天草アアアアアアアア!!テメェはイラネェからアストルフォきゅんを出せよやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )



×月△日

 

疲れた。それしか言えないわ、マジで。

ライダーことマルタに拉致られ、指導(物理)させられ、何かどう見ても馬鹿兄貴にしか見えないモノが出てきたりと、カオス極まりない日だった。

マルタと名乗ったライダーだが、ぶっちゃけ名前言われても分からんですよ。植物の方なら分かるけど。

それはいいとして、そんな彼女は聖女と名乗っておきながら超武闘派でした。杖なんて途中から補助具としてしか使ってないし、だからと言って魔力を打ち出すとかもしないしで、余計にマルタと言う聖女の存在に疑問を覚えていった。

いや、そうではない。きっと、それもこれも無理矢理狂化させられているせいなんだ。そうでなきゃあんな清楚美人な人がヤンキー口調で殴りかかってくる訳がない。ジャンヌ・オルタぜってぇ許さねえ!!

それと、馬鹿兄貴が使ってた赤い籠手と具足が手持ちに追加されました。いらねぇ。

強そうなのは分かるよ?でも、ぶっちゃけどうしろと?

剣持ちながら使えるような構造してないし、瞬時に交換できる訳でもないし、と言うかマルタのお蔭か元の那岐君の力であろう、光の腕と悪魔の脚っぽいのを使いこなせるようになったから、間に合ってます。

 

ジャンヌ・オルタへの怒りも新たに、その後の事を思い出す。

兄貴と対峙して間もなく、いつの間にか意識を失っていたのか夢を見ていた。

すぐに夢だと判断できたのも、あまりにも荒唐無稽な内容だったからだ。

死地と呼ぶに相応しい世界で、俺と母、そして見知らぬ少女と巨大な狼が対峙している。

狼は明確な殺意を持って、俺――ではなく、母を睨んでおり、俺はそんな母を護ろうと母を背中に隠す。

そして、そんな母は――血に濡れて今にも息を引き取りそうな程、弱っていた。

十中八九、あの狼の仕業だろう。

夢とは言え、それを達観して受け入れられる程、冷血ではない。

憤怒を込めた咆哮を上げた俺は――なんか巨人になってました。

その時点で一気に冷静になったよ。しかしいかんせん、肉体は勝手に動き狼を殴りまくる。

これだけ聞けば圧倒的優位に聞こえるが、そんなことはなく。母を護りながらの立ち回りだったせいで、寧ろフルボッコにされる側でした。

でも、最終的には撤退させたよ!倒してないのかって?夢だろうとそうご都合主義はないんですよ。

そんなこんなで、満身創痍ながらも一命を取り留めた母を抱きしめ、生きてくれていることへの感謝を紡いで、夢は終わった。

母はうちの男共と違って繊細極まりないんだから、あんなになったら死んでまうって!夢とは言え、本当生きてて良かったよ。

 

それはともかく、起きてからと言うもののメンバーの空気が最悪です。

マルタとタイマン張る羽目になったのも、自分達が不甲斐ないせいだと特にリリィが深刻そうに謝罪してきて、そこからはより一層ピリピリした空気の中、次なる都市に向かうことに。

リリィはピッタリとくっついて離れないし、その付属でモードレッドも近くにいるし、理子ちゃんは何故か顔を合わせてくれないしで、物凄い胃が痛い。

いや、分かるよ?立場考えたら、前者二人が責任感じるのも。

でも、自分にはサーヴァントとある程度戦える力がある以上、遅かれ早かれこういう事態になっていた。

最悪の事態一歩手前だったこともあるから、それを突っぱねるなんてことは出来ない。自分が死ねば契約しているメンバーも共倒れなんだから、楽観する方がどうかしている。

だけど、自分を護ることに固執していては、それこそ敵にとって隙を晒すのと同義。

臨機応変に、と行きたいところだけどリリィはこの調子だと無理そうだし、モードレッドに期待しよう。

それと、マリーと話す機会が増えた。それも、彼女から率先して話しかけてくるようになったからである。

この空気の重さの中心が自分だと理解した上で、それを軟化させるべく明るく振舞っているのだろう。

まぁ、付属品のアマデウスが五月蠅いのは、今回ばかりはマリーのツッコミもあってこの悪い空気を変える緩衝材となってくれているので、見逃しておいた。

 

そして、自分が発見された場所から一番近い都市に、リヨンと言う所があるらしく、取り敢えずはそこに向かうことになった。

オルレアンからは遠回りになってしまうが、自分の容態を心配する一同からの提案によるものだったので、仕方なくである。

まぁ、自分より理子ちゃんの方が負担掛かるだろうし、渡りに船だったのかも。気絶していたと言っても、自分起きてからは別に辛いとかそういうのなかったし。

反抗してまた悪い空気再発ってのも嫌だしね。

そんなこんなでリヨンに着いた……と思ったら、何か凄いことになってた。

リヨンの門を護るように背を向けるイケメンが、黒い甲冑で身を覆った騎士が対峙しており、激戦を繰り広げていた。

街への被害が被らないように防戦を繰り広げるイケメンと、獣のように荒れ狂い傍若無人を振舞う黒甲冑では、どちらが悪者か一目瞭然だった。

そして、加勢しようと提案するよりも早く、モードレッドが黒甲冑へと迫った。

リリィも信じられないと言った様子で傍観していたが、それを気にする余裕がなくなる程、事態は加速していく。

ジャンヌ・オルタが馬鹿みたいな数のワイバーンとなんかでっかい龍を引き連れてやってきたのだ。

どうやら狙いはイケメンらしく、こちらがリヨンを護っていることを良いことに、圧倒的物量で押し上げてきた。

後のリソースを考えることは不可能と判断したので、可能な限り宝具を使用して壁となるワイバーンを減らし、本命の龍とオルタを狙う作戦に出た。

結果的には、辛勝ではあるが退けることに成功。

なんと、あのイケメンの正体は龍殺しの逸話を持つ英霊ジークフリートだったのだ。

先の黒甲冑との戦いで消耗していたこともあって、一発限りではあったが宝具を解放してファヴニール――あのでかい龍にダメージを与えることに成功。撤退に持ち込めたのだ。

ワイバーンの壁さえなければ致命傷までワンチャンあったんだろうけど、街を護れただけでも良しとするべきだろう。

と言うか、後から聞いた話だけどあの二人三日三晩ぐらいずっと戦ってたらしいよ。

ジークフリートは、背中以外は不死身の肉体と言うチート持ちでまともなダメージを与えられず、黒甲冑の方は木の枝から小石まで武器として扱い、特性か何かなのかそれらを疑似宝具のように扱って変幻自在の攻防を繰り広げていたらしく、かつリヨンを護らないといけないということもあって、千日手となっていたとのこと。

リヨンの人達にはとても感謝された。特にジークフリートは文字通りの英雄と賞賛されていた。当人は随分謙虚だったが。

それと、あの黒甲冑だけど、何と話によるとあれは円卓の騎士の一人であるランスロットらしい。

バーサーカーとして召喚され、更に狂化増し増しになっていたせいか、モードレッドやジークフリートと戦っている時にも、アーサーと吼えていたらしい。

恐らく、理性が吹き飛んで誰もかれもがアーサー王に見えているのだろう。

リリィ大好きなモードレッドにとって、ランスロットは生前の因縁もあって不倶戴天の敵。そんな理由から、オレが仕留めると言って聞かないのだ。

因みにランスロットはオルタの撤退に乗じて、令呪でも使ったのか一瞬で消えたとのこと。

と言うか、もしそうなら令呪あるのかよ……。イレギュラーな複数召喚だからもしかしたら、と思ったがそう都合よくは行かないらしい。

 

そして、これからについての話し合いが始まった。

図らずもリヨンを防衛する形になってしまった手前、この街を放置する訳にはいかなくなった。

オルタにとって、リヨンの街は最早間接的な人質だ。

リリィやジャンヌ、ジークフリートといった分かり易いぐらいの善性を持つ者にとって、万が一リヨンを後ろ盾にされようものなら、少なからず精神的な影響は免れないだろう。

それが例え、特異点を修正した後にはすべてがなかったことになると知っていても、だ。

必要な犠牲、と葛藤もなしに割り切れるならばそれは最早ヒトではない。目的を完遂するために作られたプログラム、機械だ。

知る限りでは、アーサー王としてのアルトリアがそれに当て嵌まる。

ブリテンと言う崩壊寸前だった国を纏める為に、自己を封印しブリテン発展の為に尽力する狂いのない歯車となった彼女の最期は、人らしさを失った王への猜疑心から来る叛逆の刃によるものであった。

正しければ、効率的ならばすべてが上手くいく訳ではない。人の心と言うものが介在する限り、常に流れは不定形で有り続け、決して固まることはない。

だからこそ、人は繋がりを貴ぶ。繋がりを経て、人らしさを得て、繋がりはまた違う繋がりを生んで、そうして結束していく。

どんな人間でも、感情が伴う限り喜ぶことだって悲しむことだってある。だが、そういったものは自己完結しても虚しいだけでしかない。

共有し、分かち合うことで心は豊かになっていく。逆に、孤独で在り続ければ荒む一方だ。

人々から賞賛され、その名を呼ばれることで人は初めて英雄となる。それは、ある種の繋がりだ。

希望を振りまくのが英雄ならば、その後押しをするのが彼らが護る無辜の民。どちらが欠けていても成り立たない、相互関係。

そのような生き方を経験してきた彼らにとって、一時の関係とは言え護るべき存在を背にしてしまった以上、見て見ぬ振りは出来ないだろう。

寧ろ、後顧の憂いを失くすと言う意味でも、多少リスクを払ってでもこの街を護るのが得策だと結論付けた。

とは言え、合理的な面がない訳ではない。

ジャンヌ・オルタの最終目的は、自身を裏切ったフランスを破滅させること。

フランスの崩壊は人理の崩壊へと繋がり、人類の焼却へと至る最悪の連鎖が起こってしまう。

それを防ぐ防波堤と言う意味でも、リヨンを護ることは決して感情論を抜きにしても無駄にはならない。

此方があと一歩までオルタを追い詰めても、その前にフランスが事実上の崩壊をしてしまえばゲームオーバーになる。

これからどれ程まで戦火が拡大していくか予想も出来ない現状、予防線を張ることは戦力の分散と言うリスクを踏まえた上でもやっておくべきであろう。

 

と言うことで、メンバーを二分することにした。

メインチームは、ジャンヌ・オルタの探索および彼女側の戦力を減らす為の遊撃部隊。

メンバーは、リリィを初めとして遊撃にうってつけな兄貴ことクー・フーリン、ファヴニール対策のジークフリートで構成。

防衛チームは理子ちゃんをリーダーに、アマデウスの優れた聴覚で敵をすぐさま察知し、マシュちゃんとジャンヌの防御組で耐え、マリーが硝子の馬で攪乱させて戦力を分散させつつ、モードレッドが打って出る形を取る。

リリィとモードレッドが離れるなんて有り得るの?と思ったそこの貴方、これを提案したのは以外にも彼女からだったんだよ。

恐らく、ランスロットがもう一度リヨンを襲う可能性があると踏んだのだろう。理性が崩壊している状態では、オルタにとっても扱いにくい存在だろうし、使い潰せる状況ならばそちらを選ぶ筈だ、とのこと。

とは言え、流石に心配だ。万が一の令呪のサポートも無理だし、取り敢えず具足の方だけでもさっきの赤い奴を渡しておいた。

彼女の戦い方は、喧嘩殺法と言うか騎士らしくない使えるものは何でも使うスタイルなので、蹴りだろうと何だって使うこともあり、ちょうどいいんじゃないかと思ったのだ。

と思いきや、籠手も欲しいと言われたのであげた。まぁ、邪魔だったし、だからと言って放置もアレだしいいけどさ。

別れ際まで籠手で剣を掴む練習をしていたのは微笑ましかった。多分、リリィが居ない寂しさを紛らわせようとしていたんだろうな。

実際、リリィ成分(笑)を補給するべくして、普段以上にひっついていたし。街の人から生暖かい視線向けられていたよ。

まぁ、親近感を持たれるのは良いことだ。サーヴァントは一般人からすれば理性と知性を備えた龍が闊歩しているようなものだし、幾ら街を護ってくれると言っても信用できるかは別だしね。

 

それと別れ際に、モードレッドが万が一ランスロットがこっちに出たなら、全力でリリィとは接触させるなと釘を刺されました。

あのランスロットは、どう見ても正気ではない。遠巻きにとは言え、円卓の騎士でありリリィにとってはその変わり果てた姿を前に、まともに戦えるとは思えない。

いや、間違いなく無理だ。戦士としてはいっぱしでも、精神的に未熟な部分がちらほらと見受けられる。

サーヴァント同士の戦いは、苛烈を極める。そんな状況で精神的動揺が起こる場に駆り出すなど、鴨が葱を背負って来るのと同じ。嬲り殺しにされるのがオチだ。

そんなこと、マスターとしてさせる訳にはいかない。

リリィ達には悪いが、そんなケースになれば俺自ら前線に出ることも辞さない。リリィよりは戦えるだろうし。

まぁ、そうならないことを祈るばかりだよ。明らかに強そうだったし、死にたくないしね。

 




Q:更新遅かったのは何故?
A:隕石破壊によって世紀末化した地上で三体のロボットを操作して戦うオンラインゲームでハートキャッチ(物理)してたから。アストルフォきゅんがいなかったらもっと遅かったかも。

Q:モーさん強化されスギィ!!そもそも装備できるのアレ!?
A:マルタ様の奇蹟によって作られたものとはいえ、再現率は半分がいいところの劣化品なので、DTの触媒にもならなければ純正品よりも性能は落ちています。でも、その代わり装備するデメリットはほぼ存在しない良心的な仕様。デメリットについては後々に判明する予定。

Q:背中以外無敵とか、誰だこのイケメン!?(驚愕)
A:彼はすまないさんではない……伝説の龍殺しジークフリートなんだ。しかも原作よりも本調子なので、このままいくとジャンヌオルタに億が一にも勝ち目はないが、さて……。


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05~偶像と嘘と聖人と~

みんな大好き彼女達が登場します。それに合わせてエイプリルフールに投稿したかったんだが……内容も短いしで本当に申し訳ない(メタルマン並感)

エイプリルフールと言えば、リヨさん過労死事件もあるけど、それ以上に十連ガチャで一度に波濤の獣が四枚出た事実をエイプリルフールにしたかった。因みに二十連して新規カード出たのが、波濤の獣とレコードホルダーとジェロニモだけだった。死にたい。


煩わしいほどに燦然と輝く太陽の下、私の身体は翼を得たかのように風を纏い自由意思のない低空飛行に身を委ねる。

布越しに伝わる温もりは甘く蕩けそうなのに、その事実を否定しようとしている自身もいる。

あの人とはまるで異なる魂だと言うのに、私はあの人を忘れてしまいそうになるほど、目の前の男性に傾倒していた。

 

音痴ドラゴン娘との言い争いの最中に現れた、異常な数の飛龍。私はその数の暴力を前に、あわやその命を散らす直前に――彼が現れた。

巨大な片刃の剣を横薙ぎに振り払ったかと思うと、両断された飛龍を弾丸として後続の飛龍達をも吹き飛ばした。

勢いをそのままに、地に伏した飛龍の一体に剣を突き刺したかと思うと、柄を思い切り捻り騒音を掻き立てながら、飛龍の背に乗り大地を滑り始めた。

そして、彼は私へと手を伸ばし――しっかりと、離さないと言わんばかりに強く握り締め、引っ張り上げた。

彼の胸の中に引き寄せられた私は、呆然とした様子で、彼を下から見上げる。

私よりも頭一つ分抜けた身長、布越しから伝わるがっしりとした体格、凛々しさの中にどこか垢抜けない雰囲気を感じさせ、母性本能が擽られるといった、女性を――否、雌を惹き付ける魅力を持つお方。

私の愛して、敬愛して、慈愛して、愛寵して、愛して愛して愛して愛してアイシテアイシテアイシテタマラナイ――あの人とは何もかもが違うと言うのに、何故心が揺れるのだろうか。

 

「今から手を放す。しっかり掴まっていてくれ」

 

ぶっきらぼうにそう告げると、彼は私の背中に回していた手を放す。

名残惜しさを振り払うように彼の腰に手を回す。

男らしい体型をこれでもかと感じるだけではなく、汗から発せられる男性フェロモンを否応なしに鼻孔から肺へと吸い込んでしまい、それが脳を犯していく。

分かっているのに、逃げなければならないのに、まるで麻薬のような依存性を持つソレを前にして、私の身体は石像と化したように動かない。

寧ろ、前のめりに倒れる勢いで彼の胸元に入り込もうとしている。穴と言う穴から、彼の存在を取り込まんとするかのように。

愛している筈のあのお方への想いを、進んで捨てようとしている自分を軽蔑する。

お前の愛はその程度のものだったのかと、私の冷静な部分が叱咤しても、止まらない。

ここに在るのは、ヒトではない。本能のままに身を任せる獣――獲物を丸呑みして血肉としてでもひとつになりたいと言う祈りだけを持つ蛇だ。

 

しかし、最後の防波堤となっているのは、私自身が刻んだ誓約と呼ぶに相応しい祈り。

この世のありとあらゆる"嘘"と言う概念の否定。如何なる理由があろうとも、嘘は悪しき物と排斥するという絶対の意思。

それは最早、私自身を構成するにあたり欠けてはならないものへと変質している。

嘘による裏切りが生んだ、揺るぎない個性。傍から見れば子供の癇癪と同レベルの我儘。

他人にも自分にもそれを強要し、違えれば憤怒の炎によって対象を焼き尽くさんとする。

それはまるで龍の逆鱗に触れた者の末路のようで、自分がどのような存在へと昇華したのかを改めて思い知らされる瞬間でもある。

 

そして、湯だった思考の中で浮かぶ更なる疑問。

まるで他人事のように自己分析出来ていることが、何よりも異常なことであること。

嫉妬と嘘への叛逆によって作用する狂気は、一見理性的に見えても根幹にあるのは獣のような欲望が為す、一方通行の意思伝達に過ぎない。

自分の世界のみを許容し、それ以外からは目を逸らす。

誰しもが一度は夢想するであろう、殻に閉じこもることで得られる理想郷。

しかしそれは、人が人である為に欠かせない他者との繋がりを代償にしなければ得られず、支払った所でそれを維持する為に再び繋がりを渇望せざるを得ないと言う負のスパイラル。

そして、私の狂気も繋がりなくしては作用しない、限定的なもの。

女としての――否、雌としての本能を揺さぶるのは、いつだって夢中になれる雄の存在あってこそ。

しかし、本来私には既に意中の男性が居て、その人以外は視界にさえ映らないぐらいに傾倒している筈。

だと言うのに、私の意識は別の男性に取られている。狂気に陥る程に愛を捧げた存在を、まるでどこにでもいるいち男性と同じカテゴリに当て嵌めようとしている。

唾棄すべき感情である筈なのに、嫌悪感と歯痒さに苛まれながらもソレを許容することを受け入れている自分が、何よりも気持ち悪い。

矛盾を重ねた矛盾。毒が裏返り正常を表すような歪な矯正。

狂気が狂気を呼び、あらゆる感覚が前後不覚に陥る。

嘘を誰よりも嫌う私が、狂気の果てに自らを騙そうとするなんて、何たることか。

それが正常の証だとしても、そんな感覚など忘れて久しい自分にとって、今の状態こそが異常であって、そんなものを易々と受け入れることなんて出来はしない。

 

改めて、私を救ってくれた彼の魂を観察する。

彼の魂は、暴虐の限りを尽くさんと暴れ狂う巨大なソレを、見ることさえも憚られる程に清らかな膜に包むことで均衡を保っていると言う、古いロープで綱渡りをするような、存在そのものが奇跡と呼ぶべき一種の芸術品。

膜の存在が彼を正常足らしめており、もしそれが破られればどうなることか。

一歩間違えれば悪逆の徒と成り果ててしまいそうで、だと言うのに彼自身はどこまでも透き通った魂をしている。

彼を許容すると言うことはつまり、火鉢に進んで手を入れるようなもの。まず間違いなく、無事では済まないだろう。

だけど、そんな痛みさえも快感へと変換されていく。これが愛する者から受ける苦痛だからこその結果だと言うのなら……もはや、問答は無意味なのかもしれない。

どんなに取り繕うとも、自分を騙そうとしても。心がそれを否定してしまえばそれまで。

ならば、どこまでも墜ちていこう。この甘い泥の中へ、深く深く。逃れらない程に沈み込もう。

それが許されない所業だと言うのならば、切り離そう。生前の愛に生きる自分と、これからの愛に生きる自分を。

そうだ、それならば浮気にはならない。私は私であって、私じゃない。そうだ、それならば何の問題もないではないか――

 

「――なんて、心地よいのでしょう」

 

ごめんなさい、安珍様。移り気のある愚かな妻を許してください。

サーヴァントとして生まれた、この泡沫だけ。私――清姫はただ一度の罪を背負い、目の前の男性と共に生きていきます。

静寂を取り戻した中、見上げるとそこには薄く微笑む彼の――私の旦那様(マスター)がいた。

 

 

 

 

 

放棄されたと思われる砦を道中に発見したはいいが、遠巻きから分かるぐらいにワイバーンが集合していることから、何かがあると判断した自分達は、全力ダッシュでその場へと向かう。

そこでは、サーヴァントと思わしき二人の少女がワイバーンに襲われており、咄嗟に近くにいた白い角の方の子に襲い掛かる奴らを蹴散らしてしまった。

つい少し前にみんなに迷惑を掛けたばかりなのに、これである。

かんにんやーー!!しかたなかったんやーーーーー!!身体が勝手に動いたんやーーーー!!

ここまで来たらどうにでもなれだ、と開き直って後の説教タイムに絶望しながら暴れまわった。

思えば、最低なことをしたよ。

助ける為とはいえ、ワイバーンにトドメで突き刺した反動でグリップが回ったものだから、車線上(?)にいた助けようとした子を思いっきり抱き締めたんだもん。

ロクに風呂にも入れない環境で、近場に水場がなければタオルで拭くが関の山な状態で、毎日が快晴で激しい運動をするものだから衣服も当然汚れたり汗が沁みこむ訳で、そんな不潔な身体を触らせてしまったのは、状況が状況とは言え本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

その少女――清姫は、笑顔で許してくれたんだけどさ。ええ子や……てんすがおるでぇ……。

あ、でも間違いなく気にしているとは思うよ?真名を名乗ったけど、清姫は自分をバーサーカーと呼んでほしいと一点張りするし、何かにつけて見られてることからも間違いないと判断していいだろう。

改めて謝罪の場を設けたくはあるんだけど、いかんせんそんな私事に時間を割いていられる余裕もない。

 

 

そしてもう一人の黒い角の少女は、エリザベート・バートリーと名乗っていた。ランサーらしいです。

那岐知ってるよ。若さを求めるあまりに女性の血の風呂に入ったって言われている人でしょ?

普通なら怯えるんだろうけど、見た目からして恐らく彼女はそんな残虐なことをする前の状態で召喚されたタイプだろうから、気にする必要もないだろう。理子ちゃんが居たら別だったかもだけどねー。

ツッケンドンな感じだけど、根は良い子っぽいし杞憂だろうけどね。

それはともかく、図らずも仲間を二人手に入れた――バーサーカーは自分から、エリザベートは渋々と言った様子で――訳だが、これからどうしよう。

ガンガン先に進んでもいいんだけど、リヨンの方も心配なんだよね。

同じ気持ちなのか、リリィもどこかさっきの戦いで精彩を欠いていたし。うーん。

 

そんなことで悩んでいたら、エリザベートがカーミラをこの手で始末したいと言って躍起になり出したのだ。

カーミラって誰ぞ、って思ったらバーサーク・アサシンのことね。しかも、聞くところによればアレが未来のエリザベートの姿なのだとか。

なるほど、同一存在が現界していられるのも、過去と未来で実質別の存在として区切られているからってことで問題ないのか。

カーミラの方は反英雄に属するタイプで、エリザベートは純粋な英霊として召喚されたと言う考え方も出来る。

ジャンヌ・オルタが召喚したことで、性質の近いサーヴァントが引き寄せられたと考えれば、納得がいく。

兎に角、そう言われてしまえば協力しない訳にはいくまい。彼女は、己の運命を知りつつもそれに屈することなく、抗おうとする彼女の意思を尊重したいと思う。

それに耳寄りな情報で、彼女達はどうやらゲオルギウスと名乗るサーヴァントと遭遇していたらしい。

誰?と思ったけど、聖ジョージだと知って納得した。

そのゲオルギウスは、聞く限りではリヨンの方向へと向かったらしい。

入れ違いになってしまったのは不幸だが、まだ味方してくれるサーヴァントが存在してくれていると言う事実は、これ以上とない希望である。

ゲオルギウスはジャンヌ・オルタが召喚した意図せず狂化を付与されたサーヴァントを殲滅すべく行動しているらしいので、いずれは合流するのは確定だろう。その間に、彼が倒されなければの話ではあるが。

 

結局、ゲオルギウスとの合流を目的に、一度リヨンに戻ることになった。

ロマニに通信で事情を説明しよう――そう思った時、ロマニの方から突如通信が入った。

焦燥に塗れた声色から発せられる内容は、リヨンにファヴニールとサーヴァントの群れが襲撃してきたという、一同を絶望へと駆り立てるものだった。

 




Q:清姫(のアイデンティティ)が死んだ!
A:ホモの安珍からNTR分には誰も不幸にならないし問題ないよね!なお那岐君にはそんな気は欠片もなかった模様。

Q:清姫今どんな状態なの?
A:狂化:EXはそのままに、理性が極限まで保たれている状態。決別する、と自答しはしたものの、それを完全に受け入れることが出来ていないので、那岐君に対してのアプローチはかなり消極的になっている。清姫ではなくバーサーカーと呼ぶように願ったのも、安珍を好きな清姫と、そうではない清姫を差別化させる為の暗示の意味あってのもの。

Q:そんな無理矢理なテコ入れしなくても那岐君なら問題ないのでは?
A:そうだよ(確信)。きよひーだろうがブリュンヒルデだろうが、彼に全部押し付ければ丸く収まると思う。那岐君が無事とは言わないけど。


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06

ラスボスぶっころした記念に投稿。

うちのカルデアで一番絆高いのがステラさんな時点で、どれだけ本腰入れてプレイしていないかが分かる。
魔神柱イベントも、多分十体ぐらいしか手に掛けてないし。だって、ガチャしても鯖手に入らないから関係ないし……。
アナムネシス見習えって、あれ1.5回に一回は十連で最高レア出るぞ。

なお、ストーリーの展開を知ったことでこの小説の前提が一部崩壊してしまった模様。割とどうしよう。
継ぎ接ぎで取り繕ってもどっかでまた破綻しそうで……。
え、どうせまたエタるんだから関係ないって?……せやな!!


我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

赤雷を纏いし鮮血の刃から放出される一撃が、波濤の如く飛竜の群れを呑み込んでいく。

これで、何度目の真名開放になるだろうか。

今この場に居ないマスター、那岐の魔力残存量などお構いなしに幾度となく放たれる一撃をもってしても、飛竜は一向に数の減退を見せない。

聖杯という究極の魔力タンクを贅沢に利用した人海戦術。質はともかく、量に関しては一級品。

対して此方の数は、十にも満たない英霊とマスター。そして、背後にあるリヨンの街の人々。

以前から数の暴力に頼る傾向は見られたが、今回はあまりにも露骨過ぎる。

それはやはり、リヨンに陣を取る此方の思惑を逆手に取ろうとしたが故の、当然の思考の帰結か。

 

「チッ……鬱陶しい。蛮族の侵攻を思い出す。数ばっかり多くて、その癖ひと当てのやり甲斐はねぇと、全く一緒だ」

 

「呆れるほどに有効な戦術だね。財産の使い方というものを理解している」

 

「間違っているわ、アマデウス。悪戯にお金をばら撒くのは、資産の独占以上に経済の流れに影響を及ぼす悪行よ。その日気分で衝動買いするのはいいけど、無駄な浪費は駄目なんだから。あんな風にね」

 

マリーの視線の先では、またもモードレッドの宝具によって、まるでハエ叩きが如くあっさりと地に落ちていくワイバーンの群れが量産されていた。

突如として現れたワイバーンの群れは、まっすぐリヨンへと進軍。

一切の警戒もなく、ただただ愚直に進んでいく姿は、紛れもなく死兵。或いは、捨て駒。

破れかぶれに見えるそれも、数が多ければ此方としては無視することも出来ない。

だからと言って、個別撃破するにも数が多すぎる。

一体一体殲滅していく内に、徐々に街へと押されていく光景が容易に想像できる。

故に、有限の魔力を使い潰していくしかない。

数の暴力を前に、ジリ貧になっていく――なんてことはなかった。

 

「まだまだ行けるぜヒャッフーー!!」

 

生き生きとした表情で、モードレッドは二発、三発と宝具を発動していく。

その姿に疲労の様子も見受けられなければ、魔力が不足すると言った様子もない。

モードレッドのマスターは、何かと規格外な印象を持つ那岐であり、彼ならばアレほどの宝具を使用されたとしても問題ないと言うのも、妙に納得してしまう。

しかし、過信は禁物なのは確かであり、敵方の戦力を把握できない以上、下手に撃ち続けるのは悪手。

迎撃体勢前に来たロマニの通信では、那岐達は全速力で此方へと戻ってきているとのことで、合流さえすれば後はどうにでもなる筈だ。

 

「今のところは問題ないけど、ここでモードレッドが宝具を撃てなくなってしまえば元の木阿弥だ。僕の宝具ではあそこまで殲滅力はない」

 

「円卓の騎士の一角と比較すること自体が間違いじゃないかしら?」

 

「当たり前だ。僕はあんな野蛮な行為は一度としてないし、これからもするつもりはない」

 

「聞こえてんぞ大量鼓膜破壊野郎!!」

 

ギャーギャーと騒ぎながらも、やることはしっかりとやる。

三人の役目は単純。モードレッドが殲滅、アマデウスがそのフォロー、マリーは形勢不利となった場合の移動手段。

つまり、マリーはともかくアマデウスは本来ならば働いて然るべき状況なのだが――予想外、あるいは予想通りか、魔力が潤沢なモードレッドの大奮闘によって役目を奪われ、しめたものだと楽をしていたりする。

モードレッドとしてもそれはそれでいいのだが、したり顔で後方で遊んでいるアマデウスの存在そのものがなんだかムカつくので、マリーが傍にいなければ彼に向かってブッパしていたことだろう。

 

「さて、事態は全く好転する様子はないようだけど、どうする?」

 

「どうするも何も、こうしているしかないのではなくて?」

 

「それはそうだろう。けどね、そもそもその事実こそが相手の思惑通りだとしたら?」

 

「……やっぱり、そう思う?」

 

「物量に頼る作戦、大いに結構じゃないか。だけど、如何に量産が出来ようとも、今減っている数と生産されている量が釣り合いが取れているとは考えにくい。それに、非効率的だ」

 

「余裕があるからこそ、という可能性は?」

 

「竜の魔女がおつむの弱そうな事は全面的に同意するが、それでも参法の一人はいるんじゃないかな。それこそ、いるだろう?彼女に縁があり、狂的なまでに聖女ジャンヌ・ダルクを信奉していた、そこそこ名のある英雄が」

 

「……まさか。でも、この時代はジャンヌが処刑されて幾許も経っていない筈」

 

「いやいや、別におかしくはないだろう?何せ竜の魔女と聖女ジャンヌの両方が存在しているんだ。それこそ今を生きている彼と、ジャンヌの死後に外道へと堕ちた彼の両方が存在していたとして、何ら矛盾はない」

 

マリーとアマデウスの中で想起されたのは、ジル・ド・レェという、後に青髭と言う名で歴史に名を刻んだ男。

ジャンヌ・ダルクと共にオルレアンを奪回したことで英雄として讃えられた彼だが、ジャンヌの理不尽な死を切っ掛けに魔導に堕ち、非道な行いを繰り返してきた。

竜の魔女と呼ばれるジャンヌの傍には、性質の関係で青髭である方が召喚されていても不思議ではない。

否、居て当然と考えた方が寧ろ自然なぐらいであろう。

 

「ジャンヌのお陰でフランスは確かに救われた。しかし、神の声を聞いただけの一介の田舎娘一人でその偉業を為すことは出来なかった。それを為し得たのは、ひとえに軍事に明るく軍略に敏い存在がいたからこそ。今回の進行とて、一見力押しに見えるがもし参法としてあの男がいたとするならば――」

 

アマデウスの確信に近い推測は、突然のロマニからの通信によって遮られた。

 

『――突然すまない。良い報せと悪い報せだ』

 

ロマ二の僅かな焦りと緊張が声色を通して伝わってくる。

深刻、という程ではないにしても穏やかな内容でもない。そんな雰囲気。

 

「……あまり穏やかな様子ではないようね。悪い知らせから教えて頂戴」

 

『うん。悪い報せは、リヨンが襲われた。敵のサーヴァント、それもニ体だ』

 

「はぁ!?おい、ひょろ長!!母上は無事なんだろうな!?てか、なんですぐ報告しなかった!?」

 

ロマニの言葉に一番に反応したのは、モードレッドだった。

吠えるようなそれに一瞬すくみ上がるも、すぐに持ち直してロマニは話を続けていく。

 

『こっちだって、那岐君の方や理子ちゃんの方を並行してモニターしているから、作業が追いつかないんだ!』

 

「それがお前らの仕事だろうが!」

 

「駄目よ、モードレッド。無理を言っては。それよりも、これからどうするかを考えましょう?」

 

それでも食って掛かるモードレッドをマリーが諌める。

頭ごなしに叱るのではない、なだめるようなそれが一瞬リリィと被って見える。

それを不覚と恥じている内に、いつの間にか怒りは収まっていた。

 

「……ちっ、わかったよ」

 

「叱られて不貞腐れるなんて、まさに子供だね」

 

「そんなんじゃねぇ!!」

 

『喧嘩は止めてくれ、頼むから!そこまで状況は深刻ではないけど、危機であることには変わらないんだから』

 

状況が状況にも関わらず平常運転なのは、余裕の表れでも何でも無く、単に二人の反りが合わないだけ。

戦術の分担としては最適解だったかもしれないが、性格を考慮に入れられなかったのは致命的とも言える。

 

「そう言えば、良い報告もあったわよね。それは?」

 

『ああ、それがさっき言った状況が深刻ではないって言葉に繋がるんだけど……こっちにも、味方のサーヴァントが出来た。名前はゲオルギウス。聖ジョージとしても有名な、竜殺しの逸話を持った守護騎士だ!いやぁ、モニター越しに見ても凄い戦闘能力だって分かるよ。派手さはないけど、その堅実な立ち回りは堅牢かつ強固で、まさに騎士って感じで惚れ惚れするよ!』

 

「そんなことはどうでもいい!母上は無事なんだろうな!?」

 

『セイバー・リリィなら無事だよ。当然、マシュ達にマスターの理子ちゃんも然りだ。ただ、護りに特化した編成であるが故に、打って出ることが出来ないのが問題だ。君達に戻ってきて貰いたいという思いはあるけど、ワイバーンを捨て置く訳にはいかない。今ここで足止めしないと、状況が悪化するだけだ』

 

「っ、ざけんな畜生ォオオオオ――!!」

 

モードレッドは憂さを晴らすように宝具を再びワイバーンへと放つ。

彼女とて、曲がりなりにも騎士の名を冠している身。個々に課せられた役目が大局を左右することぐらいは承知している。

故に、ロマニの意見は至極真っ当であり、感情論を抜きにすれば反論する余地はない。

叛逆の騎士で名を馳せている彼女にとっては、そんなもん知ったこっちゃねぇとバッサリ切り捨てる話かと言えば、実はそうでもない。

モードレッドとて、自身の身勝手で母に万が一の事が起こるかもしれないと思えば、流石に躊躇うというもの。

これもある意味では、良い流れなのかもしれない。少なくとも、足並みが揃わないということはなくなるであろうから。

 

『那岐君達にも早く戻るよう言っては見たけど、位置的にまだ時間が掛かりそうだから、もう少し辛抱してもらうしか――って、嘘だろ!?那岐君の位置情報が断続的になるぐらいに加速して、リヨンへと一直線に向かっている!』

 

驚愕を孕んだロマニの言葉に続くように、遠くから咆哮が響く。

ワイバーンのものではない、もっと雄々しい、まるで竜のような――

 

「ねぇ、あれ見て」

 

「――随分なご登場の方法だ。演出家で食べていけるじゃないか?彼」

 

マリーの指差す先には、まるで東洋の龍を思わせるような巨大な生物が空を飛んでいた。

そして、龍の背の上には、機械剣の柄を背中に掛けたまま握り、世界を見下ろしている那岐の姿があった。

 

 

 

 

 

隙間なく鳴り響く金属音が街中一帯に響き渡る。

その中心にいるのは、漆黒の鎧を纏いし狂戦士ランスロットと、狂戦士となった彼の本能の赴くままに放つ斬撃を受け止めるマシュ。

バーサーカーのクラスに更に狂化を重ね、圧倒的なまでの力を得た漆黒の騎士と、戦闘経験の浅いマシュが防戦一方とは言え拮抗していられる理由は、2つある。

 

ひとつは、ランスロットが完全な狂気に支配されているが故に、複雑な行動が出来ないという点。

そしてもうひとつ。ランスロットが求めている人物が、マシュの背後に待機しているからだ。

 

「――Arrrrrrrthurrrrrrrrr!!」

 

ランスロットはそればかりを叫び、我武者羅にマシュの防御を突破しようと躍起になっている。

アーサーは、ランスロットにとって――否、円卓の騎士にとって何よりも特別な意味を持つ存在だ。

精鋭揃いと謳われた円卓の騎士の中で、最強とさえ評された騎士。それこそランスロットその人であり、目の前の狂戦士の正体である。

裏切りの騎士と呼ばれるに至った彼の経緯の中に、当時アーサー王の后とされていたギネヴィアとの不貞がある。

そして、モードレッドも含めた二人の行動が切っ掛けで、円卓の崩壊が始まっていくことになる。

同情の余地が無い訳ではないが、それでも彼らが犯した過ちは決して精算されることはない。

だからと言って、開き直れる程にランスロットのアーサーへの忠が無いどころか、寧ろその逆を行く程に正義感のある彼が、後悔を抱えずに生を終える訳もなく、こうして英霊として召喚された彼は、ただただアーサーを求めるだけの装置と成り果てる。

それは、贖罪の為。

赦されたいが故に刃を向け、断罪されたいという奥底の感情が、狂気を昇らせる。

整合性も何もない、自分勝手極まりない暴走は、皮肉にも狂戦士としてのポテンシャルを十全に働かせる要因となり、マシュを苦しめていた。

 

「くっ……!!」

 

防戦一方。押すことも引くこともままならない。

そこに在るだけの壁として立ちはだかることしか出来ない歯痒さ。

未熟を呪うマシュであるが、その感情は余分なものでしかない。

デミサーヴァントとなって日の浅い彼女と、円卓の騎士最強と謳われたランスロットでは、あまりにも経験が違いすぎる。

それこそ、狂戦士となって色褪せない技量を持つ彼を、条件込みかつ護り一辺倒とは言え持ちこたえられている時点で、マシュの戦士としての才能が伺える。

 

そんな中、マシュ以外は行動を起こさない。否、起こせない。

理子は言わずもがな。ジャンヌは能力が不完全な状態な上、リヨンの人々に万が一があることを恐れて。

加えてマシュに意識が向いている状態に横槍を下手に入れてしまえば、折角の膠着状態が崩れる可能もある。

護る相手が多いか少ないかで、結局メンバーが欠けている現状彼女達に出来ることは僅かしか無い。

 

そして、セイバー・リリィ。

全盛期では無いが、紛れもないアーサー・ペンドラゴンその人である彼女は、無残な姿に成り果てた円卓の騎士を見て――ただ混乱していた。

無理もない。何故なら、今の彼女はランスロットなど知らない(・・・・・・・・・・・・)のだから。

彼女が召喚される時代では、ランスロットはまだ円卓の騎士の住人ではなかった。

ランスロットは未だ湖の乙女ヴィヴィアンの下で修行をしており、召喚による知識で円卓の騎士を知らされなかった彼女にとっては紛れもなく他人。

モードレッドも、敢えてその情報は告げていない。

リリィとアーサー王は別人であると切り捨てて考えているが故に、主観の混じった説明をするのはリリィにとって悪影響となりえると考えた結果である。

その選択は正しかったとも言えるし、間違っていたとも言える。

だが、誰がこのような状況を想定できる?

教えるにしても、せめてもう少しリリィが心身ともに成長する時間があればまだ分からなかった。

しかし、此度の邂逅はあまりにも早すぎた。

 

遠目で一度存在を認識しているとは言え、その時はここまでの殺気を放ってはいなかった。

リリィ達には知るよしもないが、あの時のランスロットは誰も彼もが狂化した影響でアーサーに見えており、殺意に明確な指向性は存在しなかった。

だが、彼は認識してしまった。

同じのようで、限りなく別。されど決して偽物では放てない、本物の輝きを。

 

そうなってしまえば、後は篝火に群がる虫の如く一直線に光を目指す。恐ろしいまでの暴力を以て。

ただの殺意ではないことは分かる。だけど、それが何なのかは分からない。

堕ちた騎士王の時は、未来の可能性という事を考慮に入れればまだ考察する余地はあった。

しかし、今回は赤の他人から謂れのない殺意を抱かれている。

敵だからとか、そういった安直なものではない。もっと、絡み合った糸のように複雑怪奇な感情の発露。

理不尽である筈なのに、何故か弾劾された気持ちになる。

恐れる必要なんてないのに、彼の狂戦士を前にすると指が動かない。

ただただ悲しくて――涙が出そうになるけれど、それだけは駄目だと最後の一線を必死で堪えるぐらいしか出来ない。

自分で自分が分からない。何がしたいのか、何をすればいいのか――そんな、戦場には不要な思考に支配されてしまっていた。

 

「リリィさん!!」

 

「逃げてっ!!」

 

――そんな、愚かとしか言いようのない、油断。

マシュが遂にその護りを崩し、ランスロットは一直線にリリィへと肉薄する。

リリィとてある程度は実戦を経験しているが、英霊召喚の条件もイレギュラーな彼女と、全盛期に等しい能力で召喚されたランスロットでは、あまりにも力の差は歴然。

刹那にも満たない逡巡とて、英霊同士の戦いにおいては致命的なまでの隙となる。

如何に優れた直感を有していようとも、それを損なわせるのは自身の思考ともなれば、最早縋るものなどありはしない。

 

「あ、――――」

 

漆黒の刃が眼前へと迫る。

剣で受ける?――それごと両断される未来しか見えない。

回避する?――全盛期ならばともかく、未熟な身では動けたところで致命傷は免れない。

思考が加速し、ゆっくりと刀身が迫る様子だけがはっきりと映る。

それでも、身体は思考と同じように加速はしてくれず、ただただ死が迫る時間が引き伸ばされていくだけ。

 

「(マス、ター……マスターッ!!)」

 

ここにはいない彼女のマスター、那岐を思う。

サーヴァントさえも凌駕する強さを持つ、イレギュラーなマスター。

未熟な自分は言わずもがな、クー・フーリンやモードレッドのような全盛期に呼ばれたサーヴァント相手にも劣らぬ強さを持つ彼に、彼女は救いを求めた。奇跡を、求めた。

幾度となく助けられてきた身ではあるが、今度こそは助からない。そんな諦観を抱きつつも、それでもと粒のような希望に縋る。

それはただの足掻きか、それとも――信じているからか。

果たして、その答えは出た。

 

突如、上空から降り注いだ何かは、二人の間に割り込むように着弾し、ランスロットだけを後方へ吹き飛ばした。

不意打ち気味であったとは言え、彼の狂戦士を抵抗も許さず吹き飛ばした事実に、一同は目を見張る。

同時に、確信した。何がランスロットにあれ程の一撃を叩き込んだのか、その正体を。

 

「――間に合ったか」

 

土煙が晴れたその先には、那岐が低姿勢で地に機械剣を叩きつける姿があった。

ランスロットの姿を見ると、兜から鎧にかけて斬撃の痕が刻まれており、その一撃によるものか、明らかに那岐の存在を遠くから警戒していた。

改めて思い知らされる那岐の強さに、リリィを始めとした面々は息を呑んだ。

そして、同時に胸に去来する不甲斐なさ。

三人のサーヴァントがいながら、単体のバーサーカー一人抑えるだけしか出来なかったのに対して、不意打ち気味ではあれど、明確なダメージを与えることが出来た那岐。これで何も思わない方があり得ないというものだ。

 

「マスター……申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに」

 

「気に病むな。あの男の相手は君には酷だろう」

 

那岐の言葉は、リリィがアーサーであると知っているが故の慰め。

しかし、その言葉は的外れであり、だからと言って全面的に否定出来るものでもない。

それに――どんな理由があろうとも、私情を挟んで人理修復など夢のまた夢。

例え相手が何者であれ、阻むのであれば打ち破る。さもなくば、何もかもが無為に帰すのだから。

 

「湖の騎士、ランスロットか……。生憎と騎士道精神なんて高尚な精神は持ち合わせていないからな、存分に卑怯な手を使わせてもらう」

 

那岐の宣言と共に、空から炎が降り注ぐ。

炎はランスロット諸共地形を焼くべくして、周囲一帯を満遍なく満たしていく。

 

「あれは、ドラゴン!?いえ、違う……。まるで、蛇のような――」

 

その存在にいち早く気が付いたのは、ジャンヌだった。

炎が降り注いだ地点から遥か上空を見上げれば、そこには蛇のように長い胴体に短い手足に鋭い爪を備えた、白い何かが居た。

それは東洋における龍を彷彿とさせる容姿で、炎を吐き出しているのもこの龍であった。

膨大な熱量はランスロットの退路を塞ぎ、突破しようものならば相応の被害は免れない。

狂戦士と言えども――否、獣じみた感性が故に、危険に対してはより敏感になっている彼が取った行動は――その場からの消失だった。

 

「――令呪、か」

 

ランスロットの意思に関わらず、何かしらの方法で監視していたのであろう誰かによって、強制的に退去させられたようだ。

ここまで追い詰めておきながら、制御の利かないバーサーカーを敢えて使い潰さずに手元に残したのは、何か考えがあってのものか。

真意は不明ではあるが、那岐の存在が決して侮られていないことだけは一連の流れではっきりと分かった。

それは同時に、那岐達以外は取るに足らない存在であったと侮られていた証明でもあった。

 

「那岐さんっ!」

 

脅威が消え、静寂が訪れる。

それを見計らうように理子が那岐の下へと走り出した瞬間――何かが飛来する音が徐々に空から落ちてくることに気付く。

否、それは音だけにあらず。

音は自由落下を伴って、那岐の頭上へと迫り――遂に、その腕の中に収まった。

 

旦那様(マスター)……一瞥さえせずに受け止めて下さいましたね。言葉にせずとも、想いは通じ合っている。これは何よりの証明ですわ」

 

「偶然の結果だ。そんな芸当、俺には無理というものだ」

 

「嘘偽りのない謙虚事さは美徳ですが、その答えは女としては複雑な気分ですね……」

 

「済まないな。女心を理解するよりも、先の芸当のこなす方が百倍は楽というぐらいには疎い自覚はある」

 

頬を赤らめて那岐の胸の中で横抱きになる角の生えた着物少女の突然の出現に、周囲のメンバーはぽかんとした表情で眺めることしか出来なかった。

ただ一人、また助けられてしまったという情けなさと無力感によって、心と表情に影を落としたリリィを除いて。




Q:相変わらず話進まねぇ
A:ぶっちゃけ一回全部なかったことにしてもっとテンポ良い構成で書き直したい(本気)

Q:清姫が暴走していないのが新鮮
A:きよひーの狂化が抑えられている以上に、那岐君がガチガチの正直者なのがデカイね。きよひーが消極的になるだけで、二人の相性はかなり良くなる。

Q:次回はいつ投稿するの?
A:(無言の逃走)


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