リリカルに立ったカメの話 (朽葉周)
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00 海の底で目覚めた少年。

00

 

 

◇新暦71年 第97管理外世界

 

――海上保安庁巡視船「のだめ」。

地球と呼ばれる惑星、その日本と呼ばれる国家。その海を守るフネが、海洋上で激しく警報音を鳴らしていた。

 

「かいりゅうまる、座礁!!」

 

巡視船「のだめ」は、今回普段とは違い護衛任務についていた。しかも只の護衛ではない。日本の原子力発電所へと届けられる、一種の放射性物質の輸送船の護衛という、重要な代物であり、「かいりゅうまる」は、その放射性物質を運ぶ輸送艦だった。

 

「なっ、馬鹿な!? この辺りに環礁は……」

「事実ぶつかったのだ! エンジン停止させ、直ちに目視確認せよ!!」

 

艦橋にて威風堂々と構えた男性――艦長は、慌てる青年を気迫だけで押しとどめ、次いで各員へとむけて声を上げた。

 

「――なんだありゃ」

 

だれかが、ポツリと呟いた言葉は、それを目撃した全員の感想だった。

乗員達が見たのは、海底を漂う巨大な何かだった。

 

 

 

 

 

――同年、約一ヵ月後

件の環礁――漂流環礁と呼ばれるそれを追った調査隊は、そこで件の漂流環礁との再会を果たしていた。

 

全長60メートルはあろうかと言う馬鹿でかい岩の塊。

何故そんなものが太平洋を漂流しているのか。一層理由が不可解となり、調査隊隊員たちは首を傾げていた。

 

そんな中、彼等は漂流環礁に上陸。その地質を調査しようとする最中で、不意にその環礁に埋まった何かを発見する。

不思議な金属で出来たそれを掘り出すべく、即座に発掘を開始。その二日後、漸く現れたそれは、金と銀を混ぜ合わせたかのような不思議な色をした、一枚の金属の板と、複数の勾玉常の金属片だった。

プレートに描かれていたのは、象形文字に似た文字で描かれた、まるで絵のような文字。

 

「これは?」

「わからん。ピレネーの古代文字ってのに似てるらしいが……っ、なんだ!?」

 

突如として調査隊隊員達を襲った地震。いやそれは正確には地震ではない。環礁が、激しく揺れ動いていたのだ。

揺れに呼応するように崩壊する金属板。慌てて船へと退避し、船へと書け戻る調査隊隊員の背後、揺れる環礁が激しく輝いていた。

 

「な、なん――うわあああっ!?」

「や、矢島ああああ!!!」

 

悲鳴と共に、船から身を乗り出していた隊員の一人が海へと転がり落ちた。

矢島と呼ばれた青年は必死に水面を目指して泳ぎ――その最中、海中で陽光を反射する巨大な金属の塊を見た。

 

「――っぷはぁっ!!」

「や、矢島!! 無事だったか!!」

「っ、大迫! あれは作られたものだ! 人工物だ!!」

「何!? ――うおっ!!」

 

途端、光がはじけた。

 

「……っ、皆、無事か!!」

「――お、大迫さん……」

 

眩い光が収まったその後。何とか立ち直った大迫が周囲に声を掛ける。そうした最中、不意に一人の男性が会場を指差す。

 

「どうし――なっ……」

 

そこには、何も無かった。

それまで其処に確かに存在していた筈の、巨大な漂流環礁。それは、最早影も形もなくなっていたのだった。

 

 

 

Side Mera

 

はい、というわけでトリッパー(?)の俺です。

愉快型転生神・ゴッドアンバーの犯行に巻き込まれ、魂に魔改造を施されてしまいました。

良識派の運営者さん? に救助されたものの、既に魔改造後だったので、適度に世界に影響を与えすぎないチートを貰って転生することに。

なんでも施工されたのはチートを施されたわけではなく、チートを得る為の下地が如何とか。まぁ、なんにも無しにトリップするよりはマシだよね。

で、目が覚めたらガラス製のカプセルの中。転生先がリリカルまじかるな世界と聞いていたので、先ず思い浮かんだのがスカ博士の戦闘機人ルート。次がアリシア憑依。

先ず自分の身体を見直す。――おk。元のに比べると些か造型が良くなってるけど、まぁ普通の男性の姿だ。

次、カプセルから出られないかと周囲を見回すと、カプセル内側の一角に、パネルらしき物を見つけた。

 

「ガボゴボゴボ(何語だこれ)?」

 

アルファベットに似た、けれども何か違う文字。むむ、我が厨二心が刺激される。そう、これは多分ルーン文字だ! 昔ウィキったのを覚えてる。

読めるわけではないのだが、何となく内容は理解できる。理解できるという事自体に戦々恐々としつつ、パネルを操ってカプセルから出ることに。

カプセル内の保護液を抜いてから、カプセルがプシュッと空気圧で開く。で、気付いた。俺マッパだ。

 

――ひゃー、マッパは拙い

 

なんて考えつつ、とりあえず自己確認。記憶は――ある。身体は――病院の退院直後みたいに微妙に動かないが、暫くすれば治る。何故かそれがわかる。

 

――この肉体の機能不全は、長期の休眠から目覚めた直後である為のものだ。軽いマッサージ、もしくは軽い運動で肉体をほぐす必要がある。

 

そう、何故かそんな情報が脳裏に浮かんだ。

突如として激しく廻りだす思考。それは本来の俺の物を悠に超越していて、というか人類の思考速度ではない。その上ナンダコレは、並列思考?

高速思考に並列思考でガンガンと廻る思考。但しその全てがパニックを起こしている辺りが俺らしいのだけれど。

 

とりあえず、服だ服。どこかに服はないか……。

 

考えているうちに、ふとバリアジャケットという文字が脳裏を過ぎった。

そうか、確かにアレが出せれば服にはなるわな。

 

――なんて、考えた途端だ。

身体の周囲を覆うようにあふれ出すエネルギー。それが魔力というモノなのだろうと予想したときには、魔力は具質化し、身を覆う黒い衣装へと姿を変えていた。

黒くて派手な、なんというか、F○teのセイ○ーオルタの衣装を男性用衣装に仕立て直したような。

 

装甲も胸部だけだし。あ、スカートじゃなくてズボンだけど。

 

正直、派手だ。

とりあえず鏡でも無いかと周囲を見回すが、何やらこの部屋矢鱈とメカメカしたSFな部屋だ。

やっぱり何処かの研究所なのかな? とか思いながら、とりあえずそれまで自分の入っていたポッドのガラス部分で自分をチェック。

 

――何このイケメン。死ねばいいのに。

 

――はっ、もしかしてこのイケメン、いやイケメソが俺なのか!?

 

成程成程、確かにコレは引きニートが憧れる。運動不足の弛んだ肉体が、あっという間に人造イケメンに変身とか。世の中舐めてる。

まぁ、ラッキーではあるが。

然し、顔がなぁ。何かもとの顔の面影を残している辺り、少しだけ安心した。

服も着て顔も見て、一息ついたところで早速情報収集のために再び周囲を見回す。

そうして見つけたのが、部屋の一角に設置されたパネルっぽい物。どうやらコレが此処の情報端末らしい。

知識としてそれが情報端末だというのは理解できるのだが、如何見ても水の出ない流し台にしか見えないそれ。知識と感覚の乖離が酷くて、なんとも違和感が凄い。

 

――っておぉ、なんか視界にデータが出た。

 

網膜投影? いや、もしかしてコレは『念話』かな? 音じゃなくてデータが入ってきているけれども。

とりあえず何とか情報を拾い出すべく、端末からのデータを次々と開いては閉じていく。

艦はTC社製小型隠密航行艦『ウル』級、ペットネーム無し。

行動履歴は――あった。製造の翌日に、俺と思しき積荷を搭載、その後からデータが無い?

つまり、如何いうことだ? 漂流していた? しかし何故? 俺を運び込んだ奴はこの艦で逃げなかったのか??

思わず首を傾げる中、目に付いたのはまた別のデータファイル。

 

――G計画・プロジェクト『M.e.r.a』?

 

そのデータフォルダを開いて、思わず顔が引きつった。

其処に書かれていたのは、俺という存在についてと、その存在理由に関すること。

先ず、俺と言う存在について。俺は、アルハザードという世界で開発された、決戦兵器に相当する存在らしい。

 

世界のマナ……原始的霊力を凝固して生み出された半人半魔の人工生命体。ありとあらゆるエネルギーを糧とし、単身で難解とされるアルハザード式魔術を操る存在。

 

俺風に言わせるならば、何処かの小学生が考えた『ぼくの考えたサイキョー』だ。

 

で、なぜそんな存在を作ったのかと言うと、その必要があったからだという。

アルハザードと呼ばれる世界は、その当時次元世界の中で最も文明の進んだ世界だったのだという。

 

科学と魔術が完全に交わり、無限世界を統べる事すら可能とされるほどに莫大なエネルギーを操る技術を持った人々。

そんな人々が慢心した結果として、彼等はとんでもない化物を生み出したらしい。

それが、ギーオス。人を喰い、魔力を喰い、リンカーコアを喰う事で無限に成長する生物兵器――怪物だ。

 

元々彼等の兵器として生み出されたギーオスだが、命を弄んだ罰が故かギーオスは暴走。あっという間にアルハザードを滅ぼす一因にまで成長したらしい。

 

そう、アルハザードは既に滅んでいる。滅んだ原因はギーオスだけでは無い様だが。

俺と言う存在は、ギーオスに対抗するために生み出されたらしい。俺――メラは、その由来から魔力でありながら似て非なる力――アエテル、霊力、第五真説などなど、そんな風に呼ばれる少し違う力を扱う事で、ギーオスに対抗する最強の手札として用意されたのだ。

 

……のだが、完成した俺(メラ)は肝心の時に間に合わず、何時か来る後世のためにと、アルハザードからこの艦と共に放流されたらしい。

最初はまるで説明書のように書かれていたその文章は、けれどもその実俺に対する懇願、願いが書かれた手紙だ。

 

とりあえず名前はメラと名乗っておくとして。

 

で、俺の感想。

――何この平成ガ×ラ三部作っぽい設定。

引き出したデータも、俺のスペックなんか如何見ても○メラですし、ギーオス? ギ○オスじゃねーか!!

 

思わず叫――べない!?

今気付いた。俺今まで全く声を出してない!!

喉に異常があるわけじゃない。それは自己診断で理解る。じゃあ何故? 肉体と精神のズレ? そもそも声帯を使ってないから?

 

馬鹿だろう俺の製造者! 円滑な任務遂行には現地住民との円滑なコミュニケーションは必須だろうが!!

ポッドのガラスを見ると、叫んだ心算で一切声が出ないどころか、表情が一切動いていない俺の顔が写っていた。

 

あれか! 内面に外面がついてこないテンプレ!勘違いモノの王道!!

 

くそう、何てこった! 勘違いモノは読者としては好きだが、自分がそれやるのは何か厨二病で厭だぞ!! 何か改善策を考えねば!!

 

「――とりあえず、能力の把握か」

 

不意に出た声に、中々のいい声。というか何か何処かの声優っぽくないか? 俺の声。

内面フツオタ、外見クールイケメン、声イケメンヴォイス。

 

――内面がっ、残念すぎるっ!! せめて俺じゃなくてもうちょっとこう正義の為に自己犠牲出来るようなイケメン、いや、イケてる魂イケ魂を使うべきだろう。

 

――いやまて。というか、俺が目覚めたという事はつまり、ギーオスは既に目覚めてるって事? え、此処リリカルだよね?

 

そんな事を考えている最中、不意に艦船が警告警報で満たされる。

何事かと慌てて端末を操作すると、其処に見えたのは――何かトリっぽい全長15メートルくらいの怪物。

 

――俺に、アレを退治しろと?




にじファン閉鎖直前、駆け込みで投稿した作品。
原稿のメモ帳を発掘して、気が付いたら続編を書いていたので、折角なので投稿。


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01 第58無人世界。

 

その日、高町なのはは時空管理局本局の武装局員として、第58無人外世界への臨時出張を請け負っていた。

任務の目的は、この世界で確認されたという未確認生物の確認と情報収集だ。

とはいえ、実際のこの派遣は、半ば彼女の休息の為に仕組まれたものと言っても差し支えない。

 

嘗て遮二無二なって働きすぎた彼女は、過去に一度、撃墜の憂き目にあっている。そんな彼女を心配する彼女の取り巻き達が、偶にこうした半休ともいえる任務を彼女に押し付ける事で、彼女を無理矢理休息させているのだ。

 

「こちら高町二等空尉。目標の生物は未だ見当たりません」

『了解。引き続き調査の続行をお願いします』

(全く。みんな私の事心配しすぎなの)

 

内心でそう嘯く少女、高町なのは。

彼女自身も、彼女の友人達の計らいは認知しており、それが自らの事を思ってのことだという事も理解している。

けれども彼女にしてみれば、彼等の対応はまるで出来の悪い妹を心配する兄や姉のそれに近い、と感じてしまうのだ。

そう、とても気恥ずかしいのだ。

 

(もう、心配しすぎ。其処まで心配されなくても、私は大丈夫なの)

 

空を飛びながら、高町なのはは考える。どうすれば、彼女達友人の自らに対する心配癖を改善させられるかと。

 

(そういえば、アリサちゃんとすずかちゃんも心配して顔出せって言ってたの)

 

そこで思考が逸れる。この派遣の後、彼女はそのまま97管理外世界――つまりは彼女の故郷への帰宅が決まっている。

やはりこれも彼女の友人達の手回しなのだが、元々管理外世界出身で、またミッドチルダからは距離があり、中々帰郷できない彼女には、管理局もある程度の融通を利かせてくれるのだ。

そんな今日。何時ものように何事も無く終わり、久々の帰郷を。そう、彼女も矢張り楽しみにしていたのだ。

 

だが、世界はいつもこんな筈じゃなかった事ばかり、だ。

 

「――っ!? 魔力反応!?」

 

不意に首を回す高町なのはの視線の先。突如として密林から飛び出すのは、無数の黒い鳥たち。

一瞬あれが報告にあった未確認種かと疑った高町なのはは、然し首を振ってその考えを否定する。

 

――あれは、小さすぎると。

 

報告には、小さくても1メートル。大きくて3メートルもあるトリだという。

けれど、鳥たちが飛び立ったという事は、少なくともあの辺りで何かがあったという事。まして魔力の反応まで感じたのだ。少なくとも何かある。

そう判断し、一気に加速する高町なのは。

 

「此方特派の高町なのはです。何等かの魔力バーストを確認。至急確認に向います」

『了解。座標位置を確認。何か有れば即座に連絡を』

「はい」

 

宙を蹴って、鳥たちが飛び立ったその場所、その少し手前で地上に降りる。もしあの場にトリが居たとして、直接駆けつけてはトリを刺激してしまうかもしれないと判断したから。

 

――その判断は、彼女の命を繋ぐ事と成る。

 

地面に降り立った高町なのは。草と枯葉に被われた地面をザクザク進む。

 

「ふぅ、ふぅ……オフロードは私じゃなくて、お兄ちゃんかお姉ちゃんが専門なの!!」

 

小さくそんな如何でもいい事を呟きながら、森の中をザクザク進む。

そうして、木の根を乗り越え、木の幹に手を掛けたところで、不意に掌に伝わる妙な感覚に首を傾げる。

見れば、掌には小さな赤いしみ。木の幹を見れば、其処には赤いゼリー状の何かが張り付いていた。

 

「なんなの?」

 

首を傾げる彼女は、然し次の瞬間にそれがなんであるかに気付く。そう、気付いてしまった。

びゅぅっ、と一瞬風向きが変わる。その瞬間、それまでの独特の森のにおいが掻き消え、変わって現れたのは血錆びの臭い。

「武装」局員を名乗りながらも、「非殺傷設定」などというモノを使う彼女等にすれば、非日常を示すそれ。

 

――つまりは、血錆びの臭い。

 

ひっ、と小さく息を呑む少女は、顔色を青く染めながら、それでも首を振って再び前に歩き出す。

けれどもそんな少女の決意を砕くかのように、脚を進めるごとに周囲の臭いは、より一層鉄臭く、より一層錆び臭く。

それどころか、それまで薄らと緑がかっていた森の色も、何処か赤く、まるで異界に迷い込んだかのような気分に彼女を誘い込む。

 

ドキ、ドキ、ドキ。

 

何処かから聞こえるその音を疎ましく感じて、少しして高町なのはは、それが自らの鼓動の音だと気付いた。

ドキドキドキ。

もしかすると、報告にあったトリというのは肉食獣なのかもしれない。

進む彼女の前に広がるのは、血に濡れた真っ赤な地面と、引き裂かれて飛び散った肉片。

腐敗臭まで漂い始め、そろそろ彼女の精神も危機的状況に陥り始めたそのときだ。

不意に彼女の視線の先から、ガサガサと何か大きな物が動く音と気配が伝わってきたのは。

(もしかして……ターゲットなの?)

こっそりと、もし目標であっても。もし目標が肉食獣であったとしても気取られないように。

そろそろと近寄る高町なのはは、そうして茂みをそっと両手で掻き分けて。

そうして、みてしまった。

 

「――――っ!!!!!!????」

 

咄嗟に両手で口を押さえる。悲鳴を上げなかったのは奇跡に等しい。

少女の視線の先。そこには、バラバラに解体された腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚、腕、脚。

 

無数に散らばる腕と脚、そうして偶に所々かけた頭と開かれた腸が転がっている。胴体は殆ど見当たらない。

そうしてその中央。全長15メートルはあろうかと言う、巨大なトリ。

 

――いや、それをトリと評してもいいのか、少女には分らなかったが。

 

何しろ、そのトリには毛が無く、くちばしも無く、鋭い牙と爪があり、なによりも――ヒトを貪り食っているのだ。

寧ろ翼竜の類だといわれたほうが未だ信じられる。

 

『こ、此方特派の高町。目標を発見し――ひっ!?」

 

視線の先でヒトを貪り喰らう『トリ』を確認しながら、目線を逸らす事すら怖いと感じた少女は、そのまま念話でCPに報告を入れようとしたところで、思わず悲鳴を零した。

少女の視線の先。其処には、少女の居る方向――いや、其処に居る少女の目を見るトリの姿があった。

 

彼女の誤算は、トリが普通の肉食獣だと考えてしまった事にある。トリ――ギーオスは、普通のトリではない。古アルハザードの民により生み出された、一種の生物兵器なのだ。

知能こそそれほど高くないギーオスだが、それでも連中の知能はカラス並にはあるし、何よりもその特徴は主食である魔力に対する感知能力にあった。

 

精度こそ低いが、広い感知範囲を持つギーオス。ましてそれが眼と鼻の先であれば、幾ら雑な感知能力とはいえ、彼等でも十分に探知する事はできる。

そして、何よりも最悪な事に。彼等にとって、高い魔力を持つ高町なのはは、コレ以上ない豪華なご馳走なのだ。

 

『どうしましたか高町二等空尉!!』

『標的と遭遇!! 標的は体長15メートルまで成長、その上魔力感知能力アリ!!』

『なっ、体長15メートル!? 見間違いではなく?』

『現在目標に目視されています。物凄い屍の数――ヒトの、です』

『――っ』

 

ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。

 

『高町空尉、即座にその場を離脱してください。此方からも増援を送ります』

『――了解。私が、逃げ切れたら、だけど』

『――どうか御武運を』

 

通信に苦笑しながら、目の前の怪物を睨みつける少女。

そんな少女の前で、獲物を見つけた怪鳥は、両腕の翼幕を大きく広げ、森に響く大きな鳴き声を上げたのだった。

 



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02 ある日森の中、超遺伝子獣に出会った。

このウルという艦、なんでも元々はただの半自立型随行艦とかいう代物を魔改造したものらしい。

このウル級と言う艦は、完全自動制御により、中心となる大きな母艦の周囲を飛ぶ衛星艦のような存在として建造されたのだとか。

そしてその建造目的は、隔離研究施設――要するにこの船は、研究・開発施設機能を持っているのだ。

 

このウルは、俺とセットでの運用を目的としていた為、元のウルとは違いマニュアル・オートマ操縦を行う事が出来るようにカスタマイズされているが。それでも元は無人艦。俺が何もせずとも、艦は常に一定以上の状態を維持する。

 

さすがアルハザードの技術パナい。

 

とりあえず俺の寝てた部屋から艦橋へ移動。といってもこの艦橋、元々無人艦を魔改造して取り付けられたものと言うだけ在って、実にシンプルだ。

何せコンソールと椅子が一つ。要するに俺一人でこの艦を運航しろと。

とか思って、コンソールの中をチェックしている際にそれを見つけた。

 

――艦管理用AI?

思わずコレだとニヤリ。早速AIを起動させて、この船の大まかな管理を任せる事に。

残念ながら、AIの人格は学習型の代物で、現時点ではまだヒトらしさは影も形も無い。これは後々に期待だな。

と、そんな事を考えていたら、AIが早速報告をしてきた。

なんでも、この世界から程々の所にある世界で、ギーオスが暴れているのだとか。

早速艦を出航させ、それと同時に俺自身は自らのスキルチェックを行う為、艦に設置された仮想演習装置の中に入る。

 

――うん、成程。

プラズマ火球は使える。誘導プラズマシューターも使える。バニシングフィストなんかもOK。

そうそう、俺の特性として、エネルギーの変換というモノがあるらしい。つまり、吸取った(ドレイン)エネルギーを、攻勢エネルギーとして出力する事が出来るのだ。またチートである。

 

再生能力も高いし、空も飛べる。デバイスはないけど、寧ろデバイスを必要としない程の化物染みた脳みそがある。しかも最も驚くべきは、この身体精霊(?)と会話できるのだ。

なんだよ精霊って。某子供魔法先生の世界かツンデレピンクボムの使い魔かよ、と思わず自分に突っ込みを入れつつ、精霊についてのデータを漁る。

 

――あったあった。世の中に満ちる魔力の根、魔素。これを体内に取り入れ、各々のシステムにより生成することで魔力となる。

 

然しこの魔素は、自我のない意思を持っており、これとの意思疎通を行う事でより円滑な魔力運用が可能となる、とか。

要するに、世界のシステム運行におけるアプリケーションソフトか何かだろうか?

元々マナを縁り集めて生み出された俺だ。成程魔素の意思――精霊との意思疎通が容易いのも理解できる。まぁ、それが事実なら、の話だが。

 

ある程度自らの戦力調査が完了した所で、艦が実相空間に出たらしい。AIに頼んで艦内から転移出撃。ただしギーオスから少し離れた地点に出現させてもらった。

いやだってほら、いきなり顔面に15メートル級の怪獣とか出てきたら恐いじゃん。

で、転移して出たポイントから、AIの誘導に従ってギーオスの居るであろう予想ポイントに向かって飛行する。

 

最初若干びびったものの、慣れてみればコレが面白い。人間じゃなく、元々空を飛ぶことも考慮して作られた肉体であるおかげなのだろうが、物凄く飛びやすいのだ。

その上この身体、ありとあらゆるエネルギーを吸収できるドレイン能力を持ち、更にそのエネルギーをプラズマ化して攻撃に転用する事も出来る。

飛行時にはその応用で、プラズマを身にまとって飛行することで、戦闘行動時に各行動の威力を一段階引き上げる事が出来るのだ。

正にチート。いいのかこのボディー。

 

なんて事を考えていたら、何か視線の先で大爆発が起こった。ビックリしながら、足元の森の中に身を潜め、何事かと彼方に向けて視線を飛ばす。

 

其処には、中々大きめの魔力と、それを狙うように暴れる巨大な『トリ』の姿。

おぉ、早速ギーオス発見。アレの耐久力がどの程度の物かは知らないが、とりあえずさっさとバラして引き上げよう。

 

しかも何か、何処かの誰かと戦闘に入っているらしい。感じる魔力質からして、ギーオスを退治することは不可能ではない、と言う程度の魔力。一対一で向かい合うのは自殺行為だろう。

まぁ、俺には余り関係ないのだが、どうせならアレが殺される前にギーオスを仕留めてしまおうと思う。

 

一応万が一映像記録に顔を記録されては困るので、黒いフェイスガードをバリアジャケットで構築。これで顔も分らないだろう。

そうして準備万全の状態で、ギーオスと魔導師からある程度はなれた、然し両方を完全に射程に納めた位置に陣取る。

 

単発の威力が一撃必殺のプラズマ火球。ある程度の距離から魔力を溜めて――。

ごうっ、という音と共に放たれる山吹色に燃える弾は、そのままギーオスに直撃――しない?!

ギーオスはプラズマ火球が直撃するその直前、ピンク色の魔力砲撃に撃たれ、その所為で俺の予想地点から少しずれた場所に居た。その所為で俺の一撃は、ギーオスの片腕をもぐに留まってしまった。

一撃で仕留め切れなかったのは惜しいが、然しコレはチャンスだ。

片腕で身動きの取れないギーオスに、全身から魔力―プラズマを迸らせて特攻する。

後から記録映像で見れば、それはまさしく火の玉。白熱するそれは、ギーオスの脳天から股間までを貫通し、その直後ギーオスは轟音と共に爆散した。

 

 

ふぅ、なんとかなった。幸いあのギーオスは幼生体から間もない個体だった。

あれが全長100メートルにも及ぶ老成体だったりしたら、それこそ序盤からルナティックなんて展開になったかもしれない。

何せ俺はまだこの力を手に入れてから、まともな訓練など一度も経験していないのだ。

「――っ、此方時空管理局本局所属、武装局員の高町二等空尉です! あなたには原住生物殺害の現行犯です。大人しく此方に投降してください!!」

 

――って、あれ? 管理局、ってか、ピンクの高町って、え? いや、原住生物? (パニック中)

 



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03 セカンドフォール

身を覆う羽毛も無く、くちばしも無く、その代わりに牙を持つトリ。

 

肉食獣のそれに身を狙われる高町なのはは、必死に魔力攻撃を当ててトリを牽制する。

最初に当てたのはディバインシューター。

誘導性のその攻撃は、トリの姿勢を乱すことには成功した物の、その効果はそれだけ。まるですれ違い様に肩がぶつかっただけとでも言うように、トリは問答無用で高町なのはに襲い掛かった。

 

次に仕掛けたのはバインド。砲撃魔導師たる高町なのはの、縁の下を支える慣れ親しんだ術だ。

然しコレも効果は低い。何せ相手は全長15メートルの巨体だ。それは戦闘機を手錠で押しとどめようと言うような無謀な行為でしかない。

そうして最後に高町なのはが選んだのが、自らが長年愛用し続けた術――つまりは、砲撃。

 

シューターで姿勢を乱し、出来た一瞬の隙を狙って砲撃を叩き込む。

ディバインバスターと呼ばれるその一撃。迫る桜色の壁に、コレならばトリの無力化も出来たのではないか。

 

そう、高町なのはが考えた、次の瞬間。

 

「キャアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

甲高い、まるで悲鳴のようなその音。咄嗟に耳を守った高町だったが、次の瞬間凄まじい衝撃に押され、高町なのははそのまま地面へと叩き落された。

 

(いったい、何が……)

 

何が起こったのか確認しようとして、高町は全身に走る激痛に思わず顔をしかめ、その原因を見て改めて顔色を悪くする。

左肩から、胴体を横断するように走る裂傷。まるで鋭利な刃物にバッサリ切られたかのようなその傷。

 

不可思議な現象にパニックを起こしつつも、けれどもその思考を放棄。即座に次の手を考えて頭が廻りだす。

その正面。どうやったのか、此方の砲撃を耐え抜いたギーオスが、こちらに向かって勢い良く走り出した。

その眼は完全に此方を獲物として捉えている。

 

(――拙い)

 

咄嗟にディバインバスターの発射準備を整えるものの、コレを撃ってしまえば後が続かない。

けれども、コレを打たなければ私は確実にあの怪物に「食われ」てしまう。

背筋を這う冷たいもの。その感覚を無理矢理押し殺して、その瞬間を待つ。

 

『Master……』

「未だだよ、レイジングハート」

『――Master』

「まだ…」

『――――Master!!』

「行くよ、ディバイン!!」

『――Buster!!』

 

彼女にとって慣れ親しみ、何時もなら頼りがいの在る桜色の光の柱。けれども、あの怪物に相対してのこの魔法のなんと心許ない事か。

身体には傷、魔力は枯渇寸前。

絶望に押しつぶされそうな心を鼓舞して、少女は砲撃に更に魔力をこめようとして――。

 

 

そうして、淡い光の柱を押しつぶす、白い太陽が落ちてきたのだ。

 

 

「えっ……?」

 

思わず声を漏らす高町なのはの視線の先。落ちてきた太陽は、トリの傍で大爆発を起こした。

 

その衝撃は凄まじく、傍に居た高町なのはは地面を派手に転がりまわる羽目に成った。

そうして、痛む傷を抑えながら立ち上がった高町なのはが眼にしたのは、片腕をもがれ、地面の上でのた打ち回るあのトリの姿だった。

一体何が起こったのか。それを確認しようと高町なのはが周囲を見回すと、その視線が一点で固定される。

 

其処に見えたのは、黒と白。全身を黒いバリアジャケット、いや寧ろ騎士甲冑らしき防護服に身を包み、全身から溢れる白いエネルギーに被われたその姿。

高町なのはは咄嗟にそれに声を掛けようとして、けれども次の瞬間その姿を見失った。

慌ててその姿を確認しようとし、次いで聞こえた爆音に振り返る。

 

「……え?」

 

そうして、爆発。

其処にあったはずのトリの姿は、けれども爆発と前後して其処から跡形も無く消え去っていた。

呆然と佇む高町なのは。その視線の先には、先ほど見失っていた筈の黒い人影があった。

先ほどまでの、身体を覆う白いエネルギーは消え去り、はっきりとその黒い姿が見える。年の頃は高町なのはよりも少し上の青年。それが、彼女の見立てだった。

 

『Master!』

 

呆然と彼を見ていた高町なのはは、相棒たるレイジングハートの声に、ハッと慌てて青年に向き直る。

――あの青年は、此方で保護観察指定にされていたトリを殺してしまったのだ。助けられた側としては申し訳ないのだが、拘束しないわけにはいかない。

 

「――っ、此方時空管理局本局所属、武装局員の高町二等空尉です! あなたには原住生物殺害の現行犯です。大人しく此方に投降してください!!」

 

そうして、少女は杖を彼に向ける。

――ザッ。

途端、目の前の青年はなのはに向かって歩き出す。

 

「っ、それ以上近寄らないで!」

 

まるで機械か何かのように無反応のまま近寄る青年に、思わずそういって後退る高町なのは。

けれども青年はあくまで無表情に、その手の先に光る弾を、高町なのはに向けた。

其処に籠められた圧倒的エネルギー。魔力だとすれば、間違いなくSSSランクの威力、しかも非殺傷設定なんて物が在るのかも怪しいソレ。

圧倒的な威圧感を持つソレに、既に高町なのはの激しい心は、恐怖で挫ける寸前であった。

 

(……これまで、なの)

 

既に先の戦闘で、高町なのはの魔力は底をついている。青年にレイジングハートを向けはしたものの、その実魔力が空であることを知られれば、威嚇にもなりはしないのが現状だ。

諦める心算は無い。けれども、何処かで終わりかと理解してしまって。

 

(……え?)

 

そうして、高町なのはの身体を異変が襲う。

 

(これは……治療魔法なの?)

 

それまで感じていた、体から熱が逃げるような感覚が消え去り、次いで体の中に熱の灯る感覚が沸き起こる。

医療魔導師でこそないが、都合上医療魔法の世話になる機会の多い高町なのはだからこそ気がついた。それが、今まで経験したことも無いほど高度な医療魔法だという事に。

高町なのはが呆然としていると、不意にその身体を覆っていた白い光が途切れる。

試しに腕を動かすが、先ほどの致命傷を受けていた時点に比べ、明らかに身体が軽くなっているのが分る。そう、間違いなく回復しているのだ。

 

「え、あの……」

「…………」

 

次いで放たれる白い光。青年の指先から放たれた小さなそれは、高町なのはの身体に触れた途端、その身体の内側へと染み渡っていく。

 

(……嘘!? まさか、今の魔力!?)

 

驚愕に、思わず眼を見開く高町なのは。

普通、魔力量というのは、外見容積にある程度比例する。魔力に質があることも事実だが、人間である以上質の上限など高が知れている。

だが、今高町なのはが受け取った魔力。それは、ピンポン玉にも満たないサイズであったというのに、エースオブエースとまで呼ばれるに至った、彼女、高町なのはの、実に3分の1ほどの魔力を回復させて見せたのだ。

それは彼女の常識からしてみれば、とてもではないがありえない。例えば彼女も特異とする『収束』能力によってあのサイズまで圧縮しただけの大きな魔力だった、と言うのなら理解できなくも無い。けれども、すぐ傍に居た彼女は、青年が魔力を圧縮するモーションなど欠片も見ていないのだ。

だからつまり、それが指し示す事は――。

呆然と立ちすくむ高町なのはの前。踵を返した青年は、その身を薄らと白い魔力(?)を纏い、ぬるっとした動きで上空へと舞い上がった。

 

「あ、え、あ……ありがとうなの!!」

 

今にも立ち去ろうとする青年。渦巻く理性と感情に、思わずといった様子で零れ出たのは、青年への感謝の言葉だった。

そのまま飛び去ろうとしたのであろう青年は、その言葉に思わず、といった様子で少女を見てしまう。

 

「……ギーオスは魔力を持つ生き物を喰い、力を溜めて次元の海を渡る。しかもアレは単為生殖で増える……一匹だけとは限らない」

 

青年はそう呟くようにして、けれども確かに伝えるという意思をこめてそう呟く。

言葉の内容を理解して息を呑む高町なのはのその目の前。白い光に包まれた黒い青年は、そのまま天高く舞い上がり、空に溶ける様にして姿を晦ませたのだった。

 

『……、……ん!! ……ら、C……うい、高町二等空尉、聞こえますか!!』

 

と、青年が立ち去ると同時に、高町なのはの脳裏にそんな声が響く。

 

「あ、こちら高町二等空尉」

『よかった、無事でしたか。状況は問題ありませんか?』

「……すいません、また、落されてしまいました」

『なっ?!』

「幸い、といっていいのか、標的は第三者の介入により排除されてしまいました。私は現在行動不能、救援と、調査の為の人をお願いします」

『了解、直ちに武装局員と救護班、それに技官をそちらに送ります』

 

そういって途切れる通信に、なのはは漸く息を吐いた。幸いあのトリ――青年はギーオスと呼んでいた――と争っていた為、あの血みどろの地域からは少し離れている。ゆっくり呼吸しても、血の臭いにむせる事は無い。

 

「……れいじんぐはーと。少し、おねがいしてもいいかな?」

『All Light My Master. Please take a rest slowly.』

「うん、それじゃ、ちょっとやすませてもらうよ」

 

小さく呟いて、高町なのははその身体を休める為、瞳を閉じたのだった。

 

 




これで、にじファン末期に書上げた分を全てうp。一応修稿したけど、メモ帳で書いているので。


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04 会議

やっべー、なのはさんだよなのはさん。大魔王NANOHAさん。

管理局の白い悪魔だとか固定砲台だとか大魔王とか呼ばれているお方じゃ在りませんかっ!!

しかも何故かギャ○ス、もといギーオスと交戦してたし! あの人って航空部隊の教導官なんじゃなかったか? ああいうのって自然保護監察官か何かの仕事じゃなかったか?

いやそんな雑事は如何でもいいか。問題は、此処が「リリなの」だという点。改めて思うが、ガ○ラ×リリなのって誰得だっ!! 魔法少女と怪獣の戦いに誰が萌えると言うのだっ!!

 

……って、まさか俺の生産地のアルハザードって、まさかあの忘れられた都のアルハザードかっ!? ギーオスに滅ぼされたのかよっ!! プレシアさん涙目じゃねーかっ!!

 

いいやもちつけ、もとい、落ち着け俺。

今さっきのなのはさんの外観年齢を鑑みるに、どうやら現在はStS前、所謂『空白期』と呼ばれる期間だと推測される。

 

つまり、まだあの顔芸マッドは野放し。下手に行動すると、あの顔芸に目を付けられてしまう可能性が在る。いや、寧ろ俺よりもあのギーオスに目を付けるんじゃないか? アイツ、ある意味最強の対魔導師戦闘用生物兵器だし。

 

此処は下手に動かず、何処かの世界に潜伏でもしておくべきか?

「然し、ギーオスの駆逐は最優先事項でもある……」

そう、今の俺にギーオスを駆逐しないという選択肢は存在しない。

別に放置しても問題ない、と言うのであれば、誰も好き好んであんな危険な怪獣を放置する心算はない。が、アレは危険と言う文字が形を取ったような存在。

アレは俺にしか倒せない。魔力を用いた戦いでは倒せないのだから。

更にデータを漁る事で得た事情なのだが、元々ギーオスは環境改善型の生体システムだったのだとか。

 

魔力系文明の発展により、高度に成長した魔法社会。けれども魔法社会の発展は同時に、世界に対する廃魔力汚染という重大な環境問題を齎した。

この廃魔力というのは、所謂使用済み魔力のこと。当時はそれほど問題視されていなかったのだが、文明が発達し、瞬間廃魔力生成量が一定値を超えたとき、廃魔力は廃魔力同士で結合。魔導師に対して脅威と成ったのだとか。

そこで開発されたのが、廃魔力を餌とする生体ユニット・ギーオス。廃魔力を餌に、自動的に世界を浄化する、という目的の元、彼の怪物は世界に放たれてしまった。

 

廃魔力はギーオスにより浄化。旧文明の人類は喜び勇むも、続くギーオスの暴走・反乱により一気に危機的状況に陥る。

廃魔力だけではなく魔力をも餌食として活動し始めたギーオス。対する旧文明は魔法に支えられた文明である。魔法が無効化される以上、彼らに抗うすべは無く。辛うじて少数の変換資質持ちにより戦況は支えられていた。

それでも徐々に追いやられる人類文明。結果、最後に俺(Mera)を製造するが戦線投入には間に合わず、旧文明は崩壊。

此処からは推論になるが、その後魔力資質を持つ生物を食い尽くしたギーオスは、次に共食いを始め、最後に卵に戻って自分達に適合する環境が訪れるのを待っていたのではないだろうか。

 

元ネタの考察も組み合わせてみれば、この考えは割と外れていないような気がする。

もしかすると何処かの機械文明によりギーオスの侵攻が食い止められ……なんて可能性も在るが、まぁ、実際問題となるのは、今ギーオスが次元世界のどこかに潜んでいる、と言う可能性だろう。

 

少なくとも、俺(メラ)が存在しているという事は、敵が居る、という事に成るのだから。

 

まぁ、とりあえずというか、少なくとも俺が目覚めた切欠となったであろうギーオスは駆逐した。次もその内目覚めるのは間違いないだろうが、少なくとも長期間に渡って、という可能性は否定できない。

つまり、俺も生物兵器とはいえ生き物。どこかに拠点・住処を用意しなければ。さすがに長期間お日様の光も当らない次元航行艦の中に引篭もっているのはいやだ。

 

「地球、か」

 

そうだ、地球へ行こう。ではなくて。地球を拠点にしよう。そうしよう。

何かアルハザードで封印されていた筈の俺とこの艦『ウル』、目覚めたのは地球だったような気がするが、まぁ細かい所は考えない。帰省本能とかではなく、俺の意思で地球に帰りたいだけだ。うん。

 

心の中で頷いて、即座にウルのメインコンピュータに命令を下す。航路反転、一路元来た地球へと世界の狭間を進むのだった。

 

 

 

 

 

Side Nanoha

 

「これが、今回私が出向した先で経験した出来事です」

 

少女――高町なのははそう言葉を締めて、一歩後ろへと歩を引く。

現在彼女が立つこの場所は、時空管理局の中でも、『海』と呼ばれる部類、その上層部が集う会議室の部類。その中でも、上級将校の集う高町なのはには縁遠そうな場所だ。

では何故彼女が此処に立っているのかと言うと、ソレは彼女が提出した今回の報告書・『トリ』に関する報告からだ。

 

第58無人世界での戦闘の後、管理局の回収班により回収された高町なのはは、当然とでも言うべきか、今回の行動における報告書の提出を求められた。

ソレも当然。今回は先遣隊の全滅に加え、人を食う巨大なトリにより生み出された、血みどろの森などというとんでもない光景が生み出されていたのだから。

彼女を回収するために地上へ降りた武装局員。戦う事を本分とする彼らだが、その戦いは非殺傷設定という殺しから縁遠い場所に在る。

そんな彼らが突然見せられた、バラバラに成った人の肉片。中には嘔吐し、意識を途絶させる者も出た。

 

そんな悲惨な状況が何故生み出されたのか。高町なのはのレポートは、その状況が生み出された原因を知る為にも、重要な情報源と目されていた。

そうして、提出されたレポートは、更に管理局に混乱を齎す事になる。

人を喰い、魔力を喰う怪鳥『ギーオス』と、ソレを駆逐する未知の術式を扱う黒い魔導師。レイジングハートにより記録されていた壮絶な光景と戦いは、現在の管理局の知るソレを悠に上回る凶悪な物だった。

 

ベルカ式の騎士にも見えるその姿は、然し扱う魔法陣が余りにもかけ離れすぎている。

ミッド式の魔法陣は円、ベルカ式の魔法陣は三角。例えばコレが四角である、とかならば、何処かのマイナーなプログラムであるといわれても理解できる。

 

然し黒い魔導師の扱っていた魔導プログラムは、立体球形。そんなプログラムを扱う魔導師は、少なくとも現在の時空管理局勢力圏内には存在し無い。

 

詳しい情報を得るという名目の物、会議に急遽召集された高町なのはは、レイジングハートの映像記録と共に、その詳細を解説するという仕事が与えられ、その結果として現在こうしてこの会議室の一角に立ち言葉を紡いでいたのだった。

 

「高町二等空尉、このトリ――黒い魔導師曰くのギーオスだが、まだ存在する、というのは事実かね?」

 

声を挙げた一人の将校。その男性は青白い顔で、映像が映し出されていたスクリーンからは目を逸らさずに、そんな言葉を高町なのはに問い掛けた。

 

「……はい。戦後、あの生物、ギーオスの死体を回収し、分析班が調査したところ、あの黒い魔導師の証言通りあの生物は単為生殖が可能であるという事がわかりました」

 

ざわめく議会。再びスクリーンに映し出されるのは、一対の奇妙な影。

 

「これは、あのトリ、ギーオスの死体から採取された染色体です。ご存知の通り染色体は遺伝子情報を担う生体物質。生物の進化の系譜です。ギーオスからは、一対の染色体が発見されました」

「……? ソレはつまり、如何いうことかね?」

 

首を傾げる将校。魔法偏重の文明の弊害とでも言うのだろうか。こうした科学・化学技術等の知識は、次元世界ではマイノリティーな部類に分類されてしまう。

「はい。染色体とはつまり、進化の系譜。人間で23対、鶏で39対、雨蛙で12対、どれ程進化を繰り返したか、と言う生物的な進化の過程が記されているモノです。コレが多いという事は、それだけ進化を経た生物である、と言うことです」

 

「成程。然しこのギーオスは染色体が一本。つまりこれは、原始的な生物であると?」

「いえ、逆に、この生物は完璧だそうです」

 

言いつつ一歩後へ下がる高町なのは。その背後から前へと踏み出してきたのは、白衣に身を包んだ眼鏡の女性。

 

「本件における技術解析を行ないました、本局第四技術部所属のマリエル・アテンザであります。以降は極めて専門的分野である為、高町二等空尉に変わって私から説明をさせていただきたいと思います」

「ふむ。で、ギーオスにおける遺伝子情報が完璧と言うのは?」

「はい。本来生物の遺伝子情報には、ジャンク情報――進化の過程で淘汰され、採用されなかった情報、と言うものが存在します。例えば人間で言う、三つ・四つ目の乳房の跡や、尾てい骨、尻尾の名残などがソレですね。ですがこのギーオスにはそれらが在りません。進化の帰結としてではなく、最初からあの形で完成形なんです」

アテンザ技官の言葉にざわめく議会。

「……最初から完成していた?」

「と言うより、最初から完成形を計画し『製造された』、と言うのが正しいのだと思います」

 

――つまりこれは、人為的かつ現行技術を悠に上回る技術によって生み出された、人工的な生物である、という事。

その事に気付いた途端、議会はパニックに陥った。

 

「つまりこれは……生物兵器なのか!?」

「初めから兵器として開発されたかは別ですが、脅威のレベルとしては限りなくそれに近いかと。――そして、問題はそれだけではありません」

 

ざわめく議会に、更に響くアテンザ技官の声。これ以上まだ在るのかと言う周囲の何処か引きつった目線に、何処か血の気の失せた表情で彼女は言葉を続ける。

 

「死体を解剖した結果、このギーオスには雌しか存在しないという事がわかりました」

「メスしか存在しない? それは、現状以上に個体数が増える事はないという事かっ!!」

何処かの巨漢が少しだけ明るく声を上げて。

「いいえ」

ソレをアテンザ技官が素気無く否定する。

「ギーオスは生態的にはメスですが、遺伝子情報にはXX染色体と同時にXY染色体を持つモノも存在しました。これは単為生殖により、番を必要とせずに繁殖できるという事です」

「なっ!?」

「人を餌とする全長15メートルの怪物……いえ、細胞分裂数を鑑みるに、これが最大だとも限りません。それが、更に人を餌として爆発的に増え続ける事になれば……」

 

ぞっとした表情のアテンザ技官の顔色に、途端に議会が静まり返る。この場の誰もが、途轍もない脅威が目の前に現れたのだという事を、遅まきながら理解し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様やったなぁ、なのはちゃん」

 

本来ならなのはでは参加するはずも無い上級幹部同士の会議。そんな中に突如呼び出され、事件の事情説明を求められたなのはは疲れ果てていた。

第一彼女は致命傷を負い、本来ならばまだ病院のベッドの上に拘束されていてもおかしくないのだ。

 

まぁ、「はやく仕事に戻るの!」と言って強引に病院を退院した、この年齢で既にワーカーホリックの気のある彼女の自業自得、と言う面が無きにしも非ずなのだが。

 

「あ、はやてちゃん」

「お疲れ様なのは。大丈夫?」

「フェイトちゃんも。お仕事はもう終わったの?」

 

そんな疲れたなのはの目の前に現れたのは、彼女の幼馴染であり、最も親しい友人であるフェイト・T・ハラオウンと八神はやての二人であった。

 

「でも災難やったなぁ。そのトリ、相当ヤバイ代物やったんやろ?」

 

言いつつなのはの座るソファーに、冷蔵庫から取り出した冷えたレモネードを持っていくはやて。

 

「そうなの? でも、幾ら大きいっていっても、野生動物でしょ?」

いいつつ草臥れたという風にソファーに座るなのはの肩を軽くもんでやるフェイト。

「いや、それがただの野生動物やのうて、魔法を喰うみたいなんよ」

「魔法を、たべる?」

 

はやてから渡されたレモネードを口に含み、極楽といった表情でフェイトに肩を揉まれるなのは。

そんななのはの背後できょとんとした表情を見せるフェイト。

 

「魔法って、あの、私たちの使ってる魔法だよね?」

「そうや。勿論、魔法だけやのおて、魔力かて喰うてまう。その上で人間すら餌にする怪物や。ほんま、なのはちゃんよぉ帰って来れたわ」

 

言いつつなのはの頭をなでるはやて。

 

「……うん、助けてもらったから」

「あぁ、例の黒い騎士な」

「黒い騎士?」

「フェイトちゃん知らんのん、って、フェイトちゃんは違法研究所の摘発から帰って来たばっかやったもんな」

 

言いつつはやては夜天の書を展開し、そのデーターストレージから一つの映像を投影する。

 

「今回なのはちゃんが行ったんは、第58無人世界。で、件のトリと戦闘になったらしいんやけど、そんときにトドメを指される寸前のなのはちゃんの前に突然現れたんがその黒い騎士なんやって」

 

言いつつはやてはチョット芝居がかった口調で言葉を続ける。

 

「あわや命の危機に陥るなのはちゃん、そんな彼女の前に突如現れた黒い騎士、彼は炎の一撃でトリを葬り去ると、何も言わずになのはちゃんに手当てをし、颯爽とその場を去っていったのであった!!」

 

そんなはやての言葉にほーっと驚くフェイトと、無言で苦笑するなのは。

 

「……あれ? でも、そのトリって魔法が効かないんだよね?」

「そうらしいな」

「じゃぁ、一体どうやってトリを倒したの?」

「それがな、レイジングハートの記録には、ミッド式でもベルカ式でもない、しかも魔力の反応からして妙なんを使って倒すところが映ってたんよ」

「それは、レアスキルとかじゃなくて?」

「なのはちゃんの怪我を治すときに魔法プログラムっぽいのを使ってるところが映ってたんやけど、ほら」

 

言いつつ次の情報を展示するはやて。その投影されたグラフィックには、球形のテンプレートを手の前に翳す黒い姿。

 

「これ、円じゃなくて、球?! そんな、こんな魔法式見たこと無い!!」

「ん、やから未知の魔法を使ったんやろうか、って話しも在る。まぁ、他にも可能性はあるんやけどな」

 

彼女が言うのは、例えば戦闘機人。魔法ではなく、ソレと似て非なる力を扱う存在である戦闘機人であれば、もしかすれば火球を跳ばすのに似たような事は可能かもしれない。ただそうであれば、あの治療魔法が分らないのだが。

 

「で、や。コレで、この黒いあんちゃん、かなり危険視されとるみたいやねん」

「え、ええっ!?」

「え? でも、なのはを助けてくれたんでしょ?」

「せや。でもなフェイトちゃん、このあんちゃんは魔法の使えへん状況で魔法を使いおった。幾ら最近はAMF対策が組まれてるとはいえ、十分驚異になりえる」

「で、でもっ!! それならあのトリのほうがよっぽど危険なの!!」

その言葉に声を上げたのは、他の誰でもなく、彼に助けられた高町なのは本人。

「せやな。でも上はトリより、魔法使用不可能って状況で魔法をつこた、この黒いあんちゃんを捕縛したいみたいや」

「そんな……」

言って顔を青ざめさせるなのは。何せ彼女にしてみれば、命の恩人を指名手配する切欠になってしまった、いわば恩に仇なすようなものだ。

「まぁ、せやったら他の連中に捕まる前に、うち等が見つけて説得すりゃええんや」

「そ、そっか! その手が在るんだよね! フェイトちゃん、お願い!!」

「え、あ、うん。任せてなのは!!」

 

トン、と胸を叩くフェイト。何しろ本局所属のはやてや戦技教導官のなのはに比べ、執務官であるフェイトはそれこそ次元世界を良く飛び回っている。なのはやはやてに比べ、彼に出会う確率は間違いなく高い。

なのはの勢いに圧されるまま、彼女の願いを引き受けてしまったフェイト。でも内心ではなのはが喜んでくれて嬉しい、なんて考えしかなかったり。

 

「でも、あのトリには気をつけてね?」

「え、あのトリってまだおるん?」

 

不思議そうに首を傾げるはやて。何せそもそもの情報として、あのトリは希少生物であり、それ故になのはが派遣された、というのが彼女の聞いていたものなのだ。

そんな彼女の疑問に首を横に振るなのは。

 

「ううん、あのトリは単為生殖で増えるって、物凄い勢いで増殖する、しかもアレはまだ幼生で、もっと大きくなって、百メートルを超えるって」

「ひゃく……何処の大怪獣やねん!」

「それだけじゃなくて、其処まで大きくなると今度は次元世界を渡るようになるって……」

「しかも次元転移まで!? そんな野生動物がおってたまるか!!」

溜まらず、といったように叫ぶはやて。実はその叫びはいいところを突いているのだが、その事を知る人間はその場にはいなかった。

「でも、嘘とは限らない。少なくとも、もっと大きな固体が存在する可能性はあるの。二人とも、気をつけてほしいの」

 

そう言うなのは。少々呆気に取られたと言うか、否定的なはやてではあったが、それでも自分達を心配している事は理解できるのか、フェイトと揃って首を縦に振ったのだった。

 



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05 第97管理外世界・地球。

 

 

と、言うわけで管理局表記・第97管理外世界地球は海鳴市にやってまいりました。とりあえず、真っ黒なバリアジャケットから装甲はパージしておく。怪しいけど、鎧を纏っているよりはましだろう。

彼の超人一族高町家や夜の一族の頭月村家、世界的企業バニングス財団社長一家、退魔の神咲一灯流、世界的歌手に妖怪、忍者、九十九神とまさになんでも在りな混沌の街。

果てには魔法少女による世界を掛けた戦いなんてものまで発生したのだから、もうなんというか、ねぇ?

 

「……とりあえず、戸籍、いや資金かな?」

 

多分この時代、というかこの世界、現代ほど戸籍管理が徹底されているわけではないと思う。何せ元が20世紀の作品だ。その辺りの縛りは緩い――筈。

一番手っ取り早いのは、ウルのメインコンピュータを使って、官公庁なり都道府県なりの戸籍を管理しているところにハッキングなり何なりで、架空の戸籍を一つでっち上げる事。

 

が、残念ながらこの世界、時代的にまだ20世紀終わったばかり。まだ携帯電話が漸く普及したという辺りだ。この時代では戸籍管理は電子情報ではなく紙で管理されている時期だろう。

 

こういう場合、この時代なら何処にでもいそうな自由業の方々の事務所を襲撃して、適当な物資を蒐集して行くのが吉か。いや襲撃などせずとも、ある程度の資金を用意してソレを対価に戸籍を用意させるか。いやそもそも資金を如何やって用意するか。

うん、資金を調達する為、先ずは自由業の方々の事務所を襲撃するのはアリかもしれない。まぁ襲撃ではなく潜入でいいのだが。どうせ真っ当な方法で集めた金でも在るまいし、此方で有効に利用させてもらいたい。

 

 

 

 

 

~~~メラ潜入~~~

 

 

 

 

 

事務所を発見し、光学迷彩系のプログラムで事務所に潜入するところまでは成功。その後人が少なくなった頃合を見計らい、金庫の内側と外側にゲート……ベルカ式で言う『旅の鏡』に近い術式を用いて、中身を外に引っ張り出す。

本当は事務所の外からコレで金庫の中身だけ強奪したかったのだが、残念ながら今の俺に其処までの習熟度は無い。何せ俺はまだ起動したばかり。空腹さえ誤魔化せれば、すぐにでも自らの性能をチェックしておきたかった。

そんな状況で、金庫の中から多数の札束と、何故か有った黒光りする携行火薬式金属投射機、チャカとかハジキとか呼ばれるそれにちょっとした悪戯(粘土を詰めたり)をしつつ、そのままそっとその場から立ち去ろうとしたときの事だ。

 

「其処、何者だ」

 

いきなり響いた声に思わず身が強張る。声に振り向けば其処に居たのは、黒いナイフを手にニヤリと佇む異様な風体の男。

即座に理解したのは、「コイツはヤバイ」という事。

直感に従い即座にその場を飛び退く。途端ソレまでいた空間を薙ぎ払う何か。振り返って直視すれば、壁に掛けられた日本刀が真っ二つに分かれていた。

 

「チョッ、先生!?」

「かわしたか。――姿を見せない敵とは、御神と当る前に奇怪な輩と相間見えるものだ」

 

横薙ぎに払われる腕。即座にしゃがみ込み、襲い来る何かを回避。が、追撃とばかりにその手に持つナイフで切りつけられる。

 

「――っ!」

「……うん? 奇妙な手応えだ」

 

フェイスガードの展開を確認して、光学迷彩を解除。というか、迷彩術式の維持が出来ない。

 

「なっ?!」

「ふん、漸く姿を現しましたか」

 

驚くヤの字の家業の人と、それをさも当然とばかりに眺める黒いナイフの男。多分だがこの男、裏の暗殺者という奴だろう。そうだ、リリなのなんだからとらハ系のヤバイ連中だって居てもおかしくは無いか!

ナイフの斬撃自体はバリア・ジャケットによる防御で軽減できたが、それでも腕に伝わるダメージ。ジャケットを抜けて伝わるダメージは、斬撃のそれではない。この、腕そのものを破壊するような衝撃は……。

 

「……御神……いや、不破流?」

「おや、彼の流派をご存知で?」

 

リリカルなのは原作・とらいあんぐるハート3主人公、高町恭也の使う流派。正式名称は『永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀流』と馬鹿みたいに長いその名前。

その流派は名前の通り小太刀二刀流に加え、鋼糸などの暗器も使う。大昔から政治家などの重要人物を影から護衛し、不穏組織の殲滅などを担っていたという、一種のシークレットサービス、いわゆる現代の忍びのような存在だろうか。

 

確か正等な御神一門は、竜だか龍とかいう組織に壊滅させられ、現在残るのは高町家と御神美沙斗の少人数のみ、の筈。

 

そしてこの男が使った斬撃によるガードを無視したかのような攻撃。武器を使った浸透勁、御神流の貫を受けたようなその感覚。

 

「私は御神でも不破でもありません。私はしがない暗殺者です。過去に少し御神とやりあった事がありましてね」

 

言いつつ両手で二本のナイフを構える男。

 

「まぁ、その時に幾つか技を見て、命辛々逃げ出しまして。何時か再戦を、とおもいこの町での仕事を引き受けたわけですが……」

 

成程、理解した。つまり、俺では絶対にコイツには敵わない。

確かに俺は負けはしない。何せ俺は、そう簡単には死ねない存在としてこの世界に生まれている。然し、だからといってコイツに勝てるかといえば、先ず無理だろう。

生まれたての、それこそ半ば野生の獣であるギーオス程度であればまだ何とか成ったかもしれない。然し相対するこの男は、間違いなく戦場を渡り歩く殺し屋。俺が魂から強化されていなければ、既に失禁していたかもしれないほどの殺意。

 

逃げる、と決めた瞬間、脳裏に浮かぶ幾通りもの逃走パターン。けれどもその大半は相手の力量から不可能と判断。脱出するには、少なくともこの相手と数合手を合わせねば成らない。

 

「…………」

 

全身のマナを賦活させ、バリアジャケットの強度を高め、更に肉体的な治癒能力も向上させる。

貫に防御の意味は低いが、刃物に対する防御は必須。ダメージを防げないのであれば、喰らった端から回復させればいい。なんとも贅沢な対処法だが、今の俺の技能ではこれ以上はない。

 

どちらからとも言わずに踏み出される一歩。最初の一撃は拳で真横に逸らす。リーチの短い、然しそれゆえに取り回しのいいナイフ。弾いた傍から次の斬撃が襲い掛かってくる。

最初の一発で右拳は損壊。即座に修復を掛けるも間に合わないと判断。左拳で迎撃するも、ついで左拳も損壊。一歩踏み込み、懐から顎めがけて肘を振り上げる――顎を逸らして回避された。

 

そうして此方の姿勢が上に伸びている状態で、仰け反る黒ナイフは前蹴りを此方の腹にぶち込んできた。

回避も防御も出来ない、無防備な状況での一撃。しかも当ててきたのは腹ではなく心臓の位置。

時が止まったかのような、一瞬の激痛。けれども無常にも時間は経過し、俺の躯は事務所内の机を巻き込んで壁際へと吹き飛ばされた。

 

「な、何事だっ!?」「何処かの鉄砲玉かっ!!」

 

そうしてその騒音で、漸く侵入者との戦闘に気付いた構成員が、どたどたと室内に飛び込んでくる。

 

――っ、チャンス!!

 

激痛をカットし、表向きの生物としての機能を無視し、人の姿を無理矢理動かし体を立ち上げる。背にした机のうえを飛び越え、窓をバニシングフィストで叩き壊し、背後に向けて火炎球を叩き込む。

爆発する背後を尻目に、一気にその場から逃げ出す。さすがに転移魔法を使うにはテンプレート(魔法陣)の展開が必要になる。が、この魔法文明が存在しない世界でのテンプレート展開はさすがに目立ちすぎる。

 

火炎球などはテンプレートの展開無く放つことが出来る為、何等かの超能力の類か、そういった武器かと誤認させる事も出来るだろう。が、さすがにいかにもな魔法では誤魔化しきれないかもしれない。

考えつつ、再び光学迷彩展開。姿を完全に晦ました状態で距離を稼ぎ、工業港地区を抜けて山の方向、森の中へと脚を踏み入れる。

周囲に人間の気配が無い事を確認し、漸く一息つく心算で地面に腰を下ろして。

 

「……っ!?」

 

息をついた途端、人間としての、いや生物としての機能が再開。全身を襲う激痛に身もだえ、そのまま強制的に意識が途絶した。

 

 

 

Side Out

 

「まってー、まちなさいルフナー!!」

 

不意に森の中に響いたそんな声。紫がかった髪の少女が、何処からともなく声を上げながら森の中を走っていた。

少女の行く手を先導するのは、一匹の子ネコ。森の中をぐにゃぐにゃと走り回る猫は、そのまま森を縦横無尽に駆け抜けて。

 

「もーっ、ルフナー!!」

 

ソレを追いかける少女。年の頃にして中学生くらいだろうか。その大人しそうな外見に比べ、高校生もかくやと言うほどの速度で子ネコを追撃している。

 

「って、あれ? ルフナー!」

「にゃー!」

 

そうして一瞬、少女が子ネコの姿を見失う。慌てて声を上げる少女に応えるようにして、大きな鳴き声を上げる子ネコ。

その子ネコの声を頼りに森の中を進む少女。そうして不意に、妙なニオイに気付く。鉄のような――いや、少女はそのニオイを知っている。それは間違いなく、血のニオイだ。

何事かと警戒しつつ、少女は子ネコを回収して家へと引き返す事を心に決めて。

 

「……っ!?」

 

そうしてたどり着いた子ネコの元。其処に居たのは、少女の追いかけていた子ネコと、見たことの無い黒い少年の姿だった。

 




オリ主、チートに胡坐をかいてボコられる、の図
く、クラ○スー。 作者はご都合主義論者です。
因みにルフナはスリランカの紅茶。


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06 ここは海鳴、あなたは?

俺は森の中で気絶したと思ったらいつの間にかベッドの上で寝ていた。な、何を言ってるのかわからねーと思うが……いや、テンプレは程ほどにしておこう。

 

まぁ実際のところ、今の現状は前述の通り森の中で意識を失っていたはずだ。目覚めたら、生前ですらお目にかかったことの無い、超の付くほどの高級感漂わせる一室に横たえられていた。なんだこの急展開。

 

「目が覚めましたか」

 

不意に響く声に、視線を声の元へと向ける。其処に立っていたのは、この高級感溢れる空間に見事に調和した、見事なメイドさんが一人。

 

「……ここ、は」

「私は詳細を語る資格を持たされておりません。少々お待ちください」

 

言いつつその場から離れていくメイドさん。うん、物凄い美人さん何だけど、何でだろう、生命力と言うか、生き物の気配と言うか、そういうのが薄い?

ギィ、と小さく音を立てて開かれた扉と、その向こうへと立ち去っていくメイドさんを見送りつつ、とりあえず自らの状態をチェックして、思わず頭を抱える。

心臓、及びそれを中心とした周辺の生体組織に甚大なダメージ。組織や骨が、貫だか徹だかの所為でかなり甚大な被害を受けているのが見て取れた。

幾ら本体はオカルトな存在であり、肉体に関しては如何とでも成るとはいえ、さすがに此処まで甚大な被害を受けて放置するというのはいただけない。

即座に肉体を構成するマナを活性化させることで、損傷した内臓器官を急速に自己修復させていく。

 

――コンコンコン

 

「入るわよ」

 

ノックの音に続いてそんな声が聞こえてきた。治癒を始めたばかりで、未だ完全とは言い難い体調だが、それでも首を回すくらいの事は既に出来る。

そうして振り向いた視線の先、其処には紫髪の美女と、その背後一歩後ろに控える騎士の如く佇む青年と先ほどのメイドさん。

……あれ? なんだろうかこの組み合わせ。何か何処かで見たことが在るのだけれども。

 

「あら、本当にもう目が覚めてるのね。医者の話だと、内臓がボロボロで暫く目は覚まさないって言ってたんだけど」

「……此処は? 貴女は?」

「私は月村忍。此処は私の家、月村の屋敷よ。あなたはね、ウチの敷地近くの森で倒れてたのよ。

 

月村、月村、月村。あぁ、とらハ3のメインではない公式ヒロインの、夜の一族の。成程。

 

……つまり、背後のはエーディリヒ後期型と、御神の剣士、と。

 

 

 

やばい、詰んだかも。

 

 

 

 

 

Side Shinobu

 

 

 

私は全身に力を籠めて、何時でもどのような事態にでも対処できるようにして、目の前のベッドに臥せる少年の目の前に立つ。

 

この少年は、昨日、私の妹であるすずかが敷地に隣接した森の中で、ボロボロに成っている状態で発見した子供だ。医者曰くそのダメージは日常的な生活で受けうる物ではなく、何等かの武術の達人による『技』を受けた痕だという。

 

後に恭也にその傷を見せたところ、恭也の納める武術、永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術にある『徹し』という技で受けた物に似ている、と言うことで、体を内側から破壊されているそうだ。

けれども問題はそんな事ではない。それだけであれば、彼は即座に市営の病院へと搬送されていただろう。

 

問題は、倒れていた彼がその手に握り締めていた数枚の紙束。ホチキスで乱雑に纏められたその紙束に記されていた情報こそが、私たちが彼を簡単に解放できないその理由なのだ。

 

「さて、私は名乗ったわよ。もし貴方に礼儀があるのなら、貴方も名乗り返してくれないかしら?」

「……メラ」

 

小さく、ぽそりと呟く少年。名前はメラと言うらしい。とはいえ、ソレが本名とは限らないのだが。

その年頃はは妹であるすずかとそう変わらない様に見えるというのに、その無言の様から放たれる圧倒的な空気。一種のカリスマとでも言うのであろうか、それによってとてもではないがすずかと同年代の子供とは思えない。寧ろ外見的な年齢が近く見える分、余計に違和感が際立つ。

 

「メラ、と言うのね。あなたに聞きたいことが在るのだけれども?」

 

コクリ、と小さく頷く少年――メラ。

 

「貴方、何故あの森で倒れていたの?」

「……戦闘」

「戦闘? 貴方みたいな子供が? 確かにその傷は日常生活で出来る物じゃないみたいだけれど、何故?」

「…………」

 

ムッツリと黙ってしまうメラ。これは応えられない事。

 

「じゃぁ、質問を変えるわ。コレ、見覚えは在る?」

 

言いつつ差し出した数枚のファイル。これはメラが倒れていたとき、その手に握り締めていた数枚の資料をコーティング強化したものだ。

差し出したソレ。彼が持っていたものだ、何か知っているのは間違いない。だというのに、メラはその首を横に振って。

 

「これは貴方が倒れていたとき、その手に持っていたものよ」

「……逃走時、無意識に掴んだか」

 

ポツリ、と呟くメラ。基本的に無表情な少年だ。その表情から真実を読み取るのは中々に難しそうだ。

 

「――この紙にはね、私の妹を襲撃するっていう計画が書かれてたのよ」

「……!」

 

反応を見ようと放った言葉。相手が此方に対して罠を仕掛けて来ているだとか、そういう裏のプロであれば、特に反応も返さないだろうと。そう思っていたというのに。少年は見事にピクリと反応して。

 

「事情があり、暴力団系事務所に潜入。結果目的は果たしたものの、事務所に居た裏の人間に看破され、この傷を負わされた」

 

途端、ソレまでとは打って変わって饒舌に語り始めたメラ。余りにもソレまでと反応が違いすぎ、これは引っかけなのか如何なのかと内心で思わず首を捻る。

 

「暗殺者、黒いナイフの男。曰く御神流との戦闘経験があり、その模倣と自称していた」

「御神流の模倣者だとっ!?」「ちょっ、恭也っ!」

 

慌てて恭也を押さえつける。恭也にとって御神流とは守りの剣。その御神流を模倣した暗殺者など、彼の剣に真正面から喧嘩を売っているようなものだ。

 

「徹と貫、と言う技を使っていた」

 

言いつつ右手を持ち上げたメラは、その指先で胸の真ん中を指差してみせる。

事前にその傷は恭也も見ていた。ほかならぬ恭也であるからこそ、先に自ら指摘したとおり、その傷が自らも使う流派のソレに似た物によって付けられたのだというのは理解しているのだろう。

 

「あと、鋼糸だ。多分、ゲインベルグの3番」

 

ゲインベルグの名前は知っている。ドイツの繊維メーカーで、恭也の使う鋼糸やノエルのロケットパンチ用のリールにも其処の製品を使っている。他にも海外の軍の特殊装備などにも採用されているらしく、業界ではなかなかなの知れた企業だ。

 

「……それが事実だとすれば、相手は相当に舐めた真似をしてくれている様だな」

 

苛立った雰囲気の恭也がそう呟く。そんな恭也を尻目に、忍び込んだという事務所の名前を告げるメラ。

 

「あそこか……でも、なら貴方は何をしにそんな所へ……」

 

言った途端、メラがその手を宙に翳す。途端、その手の先に白く発光する球体――良く見れば何等かの文字が浮き出ている――が、浮かび上がった。

 

「な、ナニソレ!?」

「ちょ、落ち着け忍!」

 

思わず身を乗り出すが、後ろから恭也に押し留められてしまう。けれども目の前で行なわれているソレ。未知の現象。あぁ、ダメだわ、私の知的好奇心がっ!!

そうして私と恭也がくんずほぐれつ暴れている最中、メラの手の先の白い球体から、ボトッと音を立てて何かが零れ落ちた。なんだと視線を移せば、其処には白い帯で括られた紙の束。所謂札束と言う奴が落ちていた。

 

「目的は、これ」

 

そういって札束を指差すメラ。心なしかその頬は薄らと赤味を帯びているような気がする。……つまり、何? この子が怪我をしたのは、暴力団の事務所に盗みに入って、返り討ちにあったって事?

 

「はぁ……い、いえっ、そんな事は如何でも言いわっ! メラ、今貴方何をしたの!?」

「如何でもって……忍……」「お嬢様……」

 

呆れたように呟く恭也とノエル。なんだか中がいい二人に少しむっとするが、まぁ私の旦那様と信頼するメイドなのだしと気を取り直して。

 

「魔法だ」

「魔法!? いきなりオカルト、いえ、ファンタジックな言葉が出たわね」

「それは、貴女に言われる筋合いは無い」

 

ジト目でそんな事を言うメラに、思わず固まる。まさかこの子、私の事を……。

 

「説明はしよう。突拍子も無いが、最後まで聞け」

 

 

 

Side Mera to Shinobu

 

古代の超兵器だけど、資金難で空腹に耐えかね、ヤの字の事務所に襲撃掛けた結果返り討ちにされたとです。

……恥ずかしすぎて説明なんてできねーよ。思わず言い淀んで片言で喋ったけど、変なキャラ付けされてるんじゃないだろうか。

 

と、言うわけで忍さん、恭也さん、ノエルさんの三人に俺の事情というモノを話してみた。

古代のアルハザード文明、その繁栄と末路。時のゆりかごに託された己の存在などなど。

 

ちゅ、厨二病が過ぎる――っ!!

 

「……えらく荒唐無稽な話だ。それを信じろというのは、幾分無理が在る」

「いえ、私は信じるわ」

「しのぶ?」

 

何故か此方のいう事を信じる、などと言い出したしのぶさん。何故にホワイ? 自分で説明しておいてなんだが、とてもではないが俺の言った話なぞ信じられるはずも無い。

 

「確かに胡散臭いわ。何処の宗教だってくらいにわね。でもこの子、実際に魔法らしき物を使っていたでしょう? 私たちが知ってるのとはちょっと違ったけど」

「新手のHGSという可能性も在るだろう」

「そうね、でもソレは跡で検査すればいいわ。私が彼を信じるのは、別ルートからの情報と、彼の言葉が符合するからよ。ノエル」

 

しのぶさんの言葉に、「はいお嬢様」と何処の執事だといわんばかりに即座に資料を差し出すノエルさん。畜生、バーホーデンのココアを良く練ってPLZ、ミルクと砂糖アリアリで!!

 

「……別ルート?」

「これよ」

 

そういって差し出されたまた新しい紙。書かれている内容は、海上保安庁巡視船「のだめ」と、のだめの警護対象である「かいりゅうまる」を襲った事故の記録。

「ウチ、月村の家って結構大きくてね、色々な業界に手を出しているのよ。その中で、この不可思議な事件に関する調査依頼も来ててね」

 

渡された資料にざっと目を通す。接触した巨大な回遊環礁から得られた謎の金属や、環礁そのものの土を放射性炭素年代測定で図ったところ、少なくとも一万年以上の時間が経過しているという事。

 

また同時に、発掘された金属パーツ(勾玉らしきもの)は、現代科学では再現不能な、人工的な合成物質だという事。オリハルコンの勾玉かよ。

 

「そして、今度はこっち」

 

渡された次の資料に目を通して、思わずぎょっとする。九州の五島列島、姫神島。頻発する行方不明事件と、奇妙な鳴き声のようなもの、更に大きな鳥の姿が見られたという噂。

 

「ちょ、まだ動いちゃダメよ!!」

「拙い! これ、ギーオスだ!!」

 

俺の躯が如何とか、そういう事は最早どうでもいい。体ならばその内時間が過ぎれば勝手に治る。問題なのは、ギーオスが活動を開始しているという事だ。

ええい、忌々しい! 肉体と魂が未だ完全に合っていないのか、未だに言葉が不自然に途切れる!

 

「大丈夫よ、貴方の話ならそのギーオスってのは魔力を持つ存在しか襲わないんでしょ?」

「違うんだ! アレは環境で進化する! この世界、魔力を持つモノは少ない!」

 

ギーオスのその最大の脅威は、環境に合わせて進化していくという点、そして単為生殖による驚異的な繁殖能力だ。

例えば此処が魔力を持った人間が適度に居る世界であれば、成程ギーオスも魔力を持った存在を餌として付け狙ったかもしれない。

然しこの世界は、魔力を持って生まれる存在が極端に少ないといわれる97管理外世界。ならギーオスが魔力を餌にするというのは考え辛い。

――であれば、当然魔力の無い物をも餌にし始める。

その事を理解したのか、顔色を青く染める月村忍。

 

「で、でもっ、この世界には魔法技術なんて無いのよ!? そんな世界のバランスを崩すほどの出来事なんて……」

「……まさか、アレか?」

 

恭也の呟きに、しのぶの言葉が詰る。何か心当たりが在るのだろう。具体的には、五月にあったという魔法少女同士の戦いとか、12月にあったという古の魔導書の呪との戦いとか。

 

「で、でもそんな、あの一件だけで!?」

「正確には二件、両方とも次元震という大規模災害になりかけたらしいが……」

 

言われて、チラリと此方に視線を投げてくる高町恭也氏。その視線はこちらに向かって「どうなんだ」と問い掛けてきているのだが、生憎俺はギーオスに対する抗体。現れたギーオスを叩き潰すのが使命。

 

「この世界、妙にマナが濃い。汚染に過敏に反応したのかも……?」

 

詳細は分らないと首を振っておく。旗艦、ウルに戻れば何か分るかもしれない、と付け加えて。

 

「ウル?」

「旗艦。この身を運用する為のシステム」

 

其処に行けば、体も素早く修復する事ができる、と付け加える。

 

「ギーオスは孵化から短時間で成長する。幼生で数メートル、最大で80メートル強まで成長する。そこまで育てば、手が付けられない!」

 

息を呑む二人。だから、急いでウルに戻り、姫神島へ向かわなければ成らない。

 

「……いえ、わかった。なら、私を連れて行きなさい」

「おい、しのぶっ!?」

 

突然そんな事を言い出した月村忍に、高町恭也が声を上げた。何言い出すんだこのお嬢さん。

 

「あなた、いきなり姫神島に行っても不審者よ。最低私が居ればその辺りはクリアできるでしょ?」

「おい、しのぶ」

「大丈夫よ。それに、ノエルも、恭也だって守ってくれるでしょ?」

 

言いつつ此方に向き直る。……まぁ、確かに住所不定身元不明の、手荷物すらない俺が、行方不明者の頻発している姫神島にいきなり訪れれば……不審者として捕まる様しか目に浮かばない。

 

「……わかった。でも、戦うのは俺だ」

 

言いつつ、ベッドからゆっくりと体を起こす。既に自己治癒能力に加え、動的回復魔法の併用により、最低限動くだけの身体機能は回復した。

 

「もう動けるなんて……」

 

何かメイドさんが驚いているが、それに一々反応していられるわけでもなく。

 

「持っていくものはあるか?」

「……少し待て。最低限の装備を取ってくる」

「では私も、火砲支援装備を」

 

そう言って何処かへと足早に移動を開始するメイドと剣士。なんだか二人ともヤる気満々?

 

「大丈夫よ。私たちはあくまで自衛の為に動くから。それよりも、ギーオスに関する情報、もう少し詳しい物をくれないかしら。各国に流すにしても、もう少しあったほうがいいでしょう?」

 

そう言う忍。俺が持っている情報は少ないが、ウルのメインシステムの中には未だ情報が在るはずだ。どうせウルにくるのだから、彼女にはそのときに存分にウルのメインシステムに触れてもらおう。

 

「どうせなら、先に行って少し触れないかしら?」

 

そう言う月村忍の瞳は、好奇心でキラキラと輝いていた。はぁ。




※マナ
本作ではマナのことを万物の持つ生命力のような物と解釈。但しSFファンタジーな魔力よりもオカルト寄りな解釈。
マナが濃いと言うのは、生命力に満ち溢れているという事。
逆にマナが薄いと言うのは、不健康な状態、と言うこと。
マナが薄い=病気に対する抵抗力が落ちる→病気になる=ギーオス発生
という解釈。
因みにマナは環境汚染により薄くなり、大規模魔力行使により汚染されるという設定。


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07 姫神島

 

 

考えてみれば、話の始まりはここからなのだ。原作――この場合はガ○ラ――でも、始まりはこの姫神島から。

コレも因果というモノなのだろうか、何て考えつつ、準備完了した月村忍、高町恭也、ノエル・綺堂・エーアリヒカイトの三人を目の前に集める。

 

「準備は」

「いいわよ」

「戸締りは」

「ファリン――もう一人のメイドなんだけど、その子に任せてあるわ」

 

そういや、そんな存在もいたんだっけか。原作の考察で、イレインからパーツ取りで再構成されたんじゃないかとか、すずかの発作処理用のロールアウトだとか色々言われていたドジッ子メイドさん。

家に幼子一人残して行くとはいえ、戦闘用のメイドさんが残っているなら安心か。

 

「……襲撃計画の件。不安」

「――いや、すぐにウチの妹が来る。ファリンも戦闘力は一級品だ」

 

いざとなれば父さんの足元に逃げ込めばいい。そういう高町恭也の言葉に、とりあえず納得しておく事にする。

 

「じゃぁ、行く」

 

言いつつ立体魔法陣を展開。白い光と共に転移を実行。

 

「……本当に移動したわね」

 

そうして移動した先、ウルの転移スペースに到着して一番、そんな事を呟いた月村忍。

とりあえず、ウルに現存する未発達なネットワークを利用して蒐集した現地情報を使い、艦内システムにフィルタリングをかける。フィルタリングといっても、要するに使用言語をルーン文字から日本語に変更しただけなのだが。

この辺り、命令一つで簡単にやってくれるこの艦がどれ程バケモノじみているかと言うのが……まぁ、実感はしにくいか。

 

「知りたい事は、艦橋のコンソール」

 

言いつつその場を離れる。

 

「ちょ、何処へ行くのよ!?」

「……メンテナンスポッド」

 

正直、ギーオスを駆逐するのは早いほうがいい。そしてギーオスを駆逐する為に、先ず自らの体調を万全にしておく必要が在る。

 

「でも、コンソールって……っ!?」

 

途端、艦内に記されていた文字列がその形を変え、象形文字のようなルーンから、見慣れた日本語に書き換えられた。

……まぁ、そもそも最低限の生活スペースと艦橋、あとは殆ど防衛兵器と攻城兵器、小型戦艦と言っていいようなこのウル。迷うほど道も無いのだが。

促されるままに歩き出した三人を見送りつつ、俺は俺で起動直後に入っていたカプセルへと脚を進める。

 

たどり着いた部屋の中。カプセルの中でバリアジャケットを解除。真っ裸に成ってしまうが、まぁカプセルの中でくらい誰も見ていないし、問題ないだろう。

カプセル内のパネルを操作。足元から徐々に登ってくる液体。高濃度かつ高純度のマナに体を浸され、急速に回復していく己の身体。

ソレを把握しつつ、腕を動かし通信を艦橋メインモニターへと繋いだ。

 

『キャッ!? って、あなたか』

「……驚かせたか?」

『いえ、まぁ少しね』

 

とりあえず突然繋いだ事を詫び、問題のギーオスに関するデータを彼らに見せることにする。

データ自体はそもそも敵の記述という事で、艦のデータベースに確りと記載されいてた。更にソレをフィルタリングにより日本語翻訳したものをメインモニターに転載。

 

『……報告にあった「トリ」と同じものの様子ね』

『これが……然し、報告には数メートルとあったんだろう? 本当にこれが80メートル強にまで成長するのか?』

「それは、行ってみればわかる」

 

見せられた報告書。其処に記されていた失踪事件の初期報告は一ヶ月近く前。下手をすれば、既に15~20メートル程度のサイズに成長している可能性も否定できない。

 

「現行技術での対処、多分、そこまで」

 

15~20メートルレベルの敵であれば、まだ航空戦闘機での撃墜も不可能ではない。問題はそれ以上。30メートルを超えたサイズになったときだ。

ギーオスの体長が30メートルを超えると、その辺りから途端に連中の身体構造は強化されていく。例えば夜行性ギーオスが得る遮光版であり、砲弾をものともしない肉体がそれだ。

それに加え、大きさを増したギーオスはその機動力を大幅に上げる。15メートル程度では、ソレこそ航空戦力にも及ばないそれらは、成体へと近付くごとに、成層圏付近での活動をも可能としてしまうのだから。

 

 

 

 

三人に此方の持ちえる情報を渡しつつ、ギーオスの脅威を説いていると、あっという間に姫神島へと到着した。ワープを使えば一瞬の話なのだが、俺の治癒の関係でウルを使わなければならない点、現状でウルを使うと、俺が直接主管制を行なわなければワープ座標がアバウトに成ってしまう点などから断念。

 

海底に潜伏させていたウルへ転移し、そのまま海中を進み、漸く訪れた姫神島。

体の調整に合わせて到着したその時点。即座にポッドから身を起し、再びバリアジャケットを展開する。

艦橋に招いていた三人を、今度はポートからではなく、通常ハッチから外へ。

 

「気密隔壁が在るってことは、この艦宇宙船でもあるのね」

「(コクリ)」

 

しかも一応この艦、希望の揺り篭というのは伊達ではないらしく、単艦でも高い戦闘能力を持ち、更に対ギーオス用の様々な技術データなんかも搭載されていたり。

とりあえずこのギーオスを駆逐したら、月村家に協力してもらってそれら技術を形にするのもありかもしれない。

上部甲板に出た三人と共に、ゴムボートを使って姫神島へ上陸。そうして立ち入った先には、ボロボロに崩壊した無人の島。

 

「……遅かったか」

「こ、これがトリ……いえ、ギーオスによって起こった被害!? そんな、ありえないわ、こんな事ができる生物、私の知る限り人間だけよ!!」

 

唖然としている三人。だが、今はそういう事を言っている場合ではない。

 

「三人とも。すぐにウルに戻れ」

「なにを「忍……ここも危ないという事か」ちょ、恭也!?」

 

月村忍の反論に被せるように言う高町恭也。見れば彼は既にその手に太刀と鋼糸を用意しており、隣に立つノエル・綺堂・エーアリヒカイトも臨戦態勢といった様子だった。

 

「この島、ギーオスの巣。でも、餌が無い」

 

この姫神島は、日本と言う国の端。島の中に住んでいるのも総数で20に届かないという程度の人数しか居ない。

 

「……俺達は、餌の尽きた狩人の巣に迷い込んだ獲物、か」

 

高町恭也の言葉に首を縦に振る。

 

「――っ、拙い」

 

直感に反応。何かが此方に気付いた。

手の平に魔法陣を展開。急速に近寄る気配。崩壊した村は、島の開けた盆地に存在している。こんな場所で襲われれば、逃げ込むことも出来ない。

 

「跳ばす」

「ちょ、メ」

 

強制転移術式により、三人を強引にウルへと転移させる。これで守護対象は無く、ただ集中してギーオスの駆逐を狙える。

 

「……ふぅ……」

 

全身のマナを喚起。肉体、バリアジャケットを共に強化。何かバリアジャケットの肩当がカメの甲羅みたくなってるが気にしない。

手の平の上の白い立体魔法陣。ゆっくりと上空へと昇り行くその背後、励起された白いプラズマ火球が幾つも浮かび上がる。

準備は出来た。あとはコレを叩きつけてやればいい。

……そう思っていたのだが。

見えた敵影。――3。そのどれもが既に15メートルを超える全長まで育った個体。

 

「…………拙い」

 

今の俺は、まだ身体能力頼りの、戦闘技術に疎い、文字通りの生物兵器。戦技者ではない。

一対一であれば、15メートルクラスの相手でもまだ何とかなっただろう。二対一でも、辛うじて何とか成ったかもしれない。

……が、三対一はチョット辛い。

有り体に言えば、ピンチだった。

 

 

 

 

 

 

Side another

 

プロジェクトM.e.r.a支援艦ウル。無人のまま海中に身を潜めていたその艦の中、転移門のターミナルに不意に明かりがともった。

輝く粒子が溢れ、次の瞬間直前まで何も無かった空間に、三人の人影が現れていた。

 

「――ラっ!? って、ああもうっ!!」

 

突然響く女性の声。だが然し、彼女が声を掛けようとしていた相手は既にその場に無く。言葉の行き先をなくした彼女は、怒りのままその場で地団太を踏んだ。

 

「忍、とりあえずもう一度艦橋へ行くぞ。あそこからなら戦いをモニターできるかもしれない」

「え、ええ、そうね。ノエル?」

「はいお嬢様。先導します」

 

言いつつ、先頭を進むメイドの女性。その後を追うように小走りで進みだす二人。

隔壁の開くエアーのプシュッという音を耳朶に、青み掛かったいかにもSFな艦内、という廊下をまっすぐ駆け抜けていく。

そうして数分もしないうちにたどり着いた艦橋スペース。女性――月村忍が即座に端末に指を走らせると、メインモニターに大きく映し出されたのは広い青空。そしてその中で眩く輝く炎の光だった。

 

「もうやってる!!」

「――ッ三羽もいたのかっ!?」

 

モニターの中に映し出されたその姿。黒い騎士服のような姿をしたメラと、それに向かって高速で飛行する三羽のギーオスの姿だった。

 

「……ちょっと、何か圧されてない?」

 

忍はモニターの光景を見て、思わずそう零す。何せ彼曰く、彼はギーオスを狩る為のハンターだ。そのハンターが、ギーオスに圧されている。その圧倒的なサイズからも分かる脅威。そのハンターであれば、力を上回るのは当然の筈。

実際見せられたその光景。メラの放つプラズマ火球は、その速度、誘導性、威力のどれをとっても現行兵器のソレに十分対抗しうるどころか上回っているのではないかと感じさせるほどの物だ。

だというのに、肝心の対ギーオス戦の肝たる存在である筈のメラが、ギーオスに圧されている。

 

「三羽の連携を崩せずにいるみたいだな……」

「そんな、でも、あの子はそれの専門家なんでしょ!?」

「お嬢様、これを……」

 

不意にしのぶの横から、彼女のメイドであるノエルの声が響く。しのぶの横、其処に備え付けられたコンソール。それを機械的な指さばきで操作していたノエルの手元に表示されているのは、艦の行動ログだった。

 

「行動ログって、これがどうかしたの?」

「……彼が起動したのは、数日前です」

「「――っ!?」」

 

その言葉に目を剥くしのぶと恭也。それはつまり、彼は起動したての、慣らしの済んでいない自称兵器だ、ということ。

 

「先ず間違いなく、今の彼ではギーオスに勝てません。いえ、一対一や二対一であればまだ分りませんが、三対一では先ず不可能です」

「……戦闘経験が足りないんだろう。確かに力は持っているようだが、戦術的なものが不足していると見える」

「ちょ、ちょっと! 言ってる場合じゃないでしょ!! ノエル、何か手段は無いの!?」

「……俺が甲板に出て囮になるか? 空戦は出来なくても、地上付近なら……」

「チョット恭也、馬鹿な事言わないでよ!!」

「馬鹿とは何だ。鋼糸を使えばアレにしがみつく事だって」

「しがみついて、いざアレを殺した後は如何するのよ! 上空から真っ逆さまに落ちる心算!?」

「…………」

 

小太刀を抱えて覇気を放っていた恭也だが、たしかにこんな海のど真ん中では足場もないし不可能かと思い直す。

 

「……ありましたお嬢様。このウルには、対ギーオス戦用に幾つか武装が搭載されているとの事です」

と、ソレまでモニターに指を滑らせていたノエルが、不意に声を上げた。

「本当!?」

「はい。直ちに海面へ艦を浮上、援護攻撃に入りたいと思いますが、宜しいでしょうか」

「すぐにやりなさい!」

かしこまりました、と小さく返事をするノエル。彼女の指が小さく踊ると、ついで艦が大きく揺れた。

「な、何!?」

「ウル、浮上します」

 

そんなノエルの妙に冷静な声。メインスクリーンの中では、未だに激しい空戦を行なうメラと三羽のギーオスの姿が映し出された居る。ただ、心なしかその映像に映るメラとギーオスらの姿が大きくなっているように見えた。

 

「ふ、浮上ってまさか、ノエル、この船飛んでるの!?」

「勿論です。……お嬢様も仰られました通り、この艦は宇宙航行も可能な艦ですので」

「いや、宇宙航行が可能だからって、重力圏内での浮遊航行が可能ってどんな超理屈よっ!! スパロボじゃないのよっ!?」

「落ち着けしのぶっ!!」

 

声を荒げる忍の隣で、それでも冷静にパネルを操作し続けるノエル。自動人形という特性か、何故か迷い無くこの艦を操作出来ていることに本人も内心で驚きつつ、それでも指を止めることなく素早くウルのメインシステムと『対話』を進めていく。

 

「敵、有効射程圏内」

「ノエル、メラに通信は繋げる?」

「可能です。通信、開きます。此方ウル、ノエルです。メラ様、聞こえますか」

『……聞こえている』

 

システムに呼びかけるノエル。それに答えるように、端末からは画面の向うにいるメラの声が響いた。と、その声が聞こえた途端、横から割り込むようにしてしのぶがメラへと声を掛けた。

 

「メラ、聞こえてるわね。これからこの艦で支援するから、相手の連携が崩れた隙に一羽仕留めなさい!」

『了解した』

「ノエル」

 

そのしのぶの声にあわせ、ノエルの指が最後の一打を叩く。

 

「メインシステム・FCS正常稼動。主砲角調整、敵ターゲットロック。荷電粒子砲、発射します」

「「――って、ええっ!?」」

 

ノエルの言葉が終わると同時、モニターを轟音と白い光が染め上げた。

空に向かって放たれた白と金の混じる凄まじいエネルギーの濁流。ソレは空中で暴れまわる三羽の怪鳥とメラへ向かい、当に光の速度で空を駆け抜けるのだった。

 

 

 




※ウル
メラのクレイドル。
本来はウル級衛星無人艦。古代アルハザードで用いられていた超大型航行艦の護衛などに用いられていた、無人かつ大量生産されていた護衛艦。
システム構造がブロック化され、整備・メンテナンス、改造などが容易く、量産性・汎用性共に優れていた。
量産型であったが故、緊急時に艦橋と最低限の生活スペースを無理矢理搭載し、所謂『時の揺り篭』とされた。でっち上げられた艦ではあるが、そもそも仕様変更ドンと来いな構想の艦であるため、完成度は高い。
また対ギーオスの為の様々な技術がデータとして収められている。
一応主砲に荷電粒子砲一門、対空砲に120mmレールガンが12門、誘導ビーム砲台が42門。防御にはディストーションフィールドと次元断層バリア、因みにレールガンはリープ・レールガンにも出来るらしい。


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08 可能性

 

 

――轟音と共に空を裂く白い稲妻。

 

それは宙を舞う三羽の怪鳥と、それに相対する黒い騎士に向けて光の矢の如く空を走る。

そうして駆け抜けた光の矢。黒い騎士の脇を通り抜けたそれは、三羽の怪鳥、その中心を飛行していた一匹を巻き込み、空中で盛大な爆発を起して見せた。

 

「――っ!!」

 

爆風によりあおられる二羽と一人。だが然し、相対する二組には決定的に違う差異が存在する。

そもそも魔法に近い純粋数学による空間制御を用いたメラと、餌食とした魔力を推力として利用しているギーオスでは、空中での被弾時の影響はギーオスのが大きいのは明白。

瞬時に体勢を立て直したメラは右手にマナを集中。白く輝き一回り大きくなったかのように見えるその手を携え、瞬時にギーオスの一匹に肉薄する。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「ピギャアアアアアアアアアアア!!!!」

 

滞空で姿勢を整えようとしていたギーオス。その無防備な腹部に向けて放たれた白い一撃。バニシングフィストを受けたギーオスは、甲高い悲鳴を上げた。

途端にギーオスの身体から零れだす白い光。内側からあふれ出す白い炎に焼かれ、二匹目のギーオスが宙に砕け散る。

が、その一撃の最中、最後の足掻きといわんばかりに砕け行くギーオスから放たれた閃光がメラの左腕を刎ね飛ばした。

 

「――っ!!」

 

咄嗟に軽くなった左肩を押さえつけるメラ。そんなメラの視線の先、数的有利を失ったと判断してか、最後の一匹であるギーオスがメラに背を向けた。

小さくうめき、けれども表情に一切の苦悶を浮かべることも無く。刎ね飛ばされた腕をキャッチしたメラは、ソレを小脇に抱え、そのまま魔法陣を展開。

再びメラの背後にセットされる多数のプラズマ火球。それもソレまでのものと違い、一つ一つのサイズがソレまでの物を圧倒的に上回っていた。

 

城砦から放たれる石弓の如く、次々と宙へ放たれる白い火球。それらを右へ左へ上下へとフラフラと揺れて回避してみせるギーオス。けれども次の瞬間、ギーオスの下部後方から放たれた光の火線に、咄嗟にといった様子でギーオスが真上へと回避した。

その瞬間。メラの航法に比べ、比較的航空力学に近い法則で飛行していたギーオスだ。咄嗟の上昇で一瞬その速力が落ちた。

 

「おおおおおおおおおお!!!!!」

 

放たれるプラズマ火球。サイズは通常通りの、けれども圧倒的速力を持ったソレ。宙を引き裂き飛び出したプラズマ火球は、狙いを違える事無く、一直線にギーオスの頭部へ命中。

莫大な熱エネルギーを叩き込まれたギーオスは、内側からはじけるようにしてその姿を掻き消した。

 

「……」

 

そうして、漸く全てのギーオスを駆逐したことを駆逐したメラ。表情こそ変わらないものの、何処か疲れたような雰囲気を漂わせた彼は、そのまま真下、海上を浮遊している母艦ウル、その甲板へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

疲れた。マジデ疲れた。こんな重労働をしたのは何年ぶりだろうか。

いや正確には精神的疲労。俺、今でこそ生物兵器だけど、元々はしがない学生さんですよ? 命を掛けた戦いとか、プロの軍人に任せたい。

 

「メラ、無事かっ!?」

 

と、甲板に到着した途端、ハッチから現れたのは高町恭也。慌てた様子で此方に近寄ると、何故か驚いたような顔で此方を見つめて。うん?

 

「メラ、お前、その腕は……」

 

その視線の先。見れば其処は、先ほどのギーオスの断末魔攻撃、FPSでいう『殉教』によって軽くなってしまった左肩が。

 

「……問題ない」

 

とはいえ、コレ如何しよう。これを持ったままポッドに入れば勝手にくっ付くんだろうか? 普通に病院にでもいけば、ギーオスの超音波メスで刎ねられた腕だ。多分一般整形外科でもくっ付けられるだろう。

が、俺は生物兵器。出来ればそういう一般的な医療関係機関に記録を残すのは避けておきたい。

 

「問題ないって、腕一本取れて何が…………いや、何で取れた腕を肩にくっつけてる」

「くっついた」

「なにを……そんな馬鹿な」

 

モノは試しと、脇に抱えていた左腕を左肩にくっ付けてみた。すると、途端に千切れていた左肩に走る激痛。見れば簡単にでは在るが、既に千切れていた腕は肩口に再接合されていて。

が、くっ付いたとはいえ、これは応急処置のようなものなのだろう。痛覚から神経と血管が繋がったのは分るのだが、腕を動かす事はまだできない。筋肉と骨は後回し、と言うことか。

 

「ポッドに行く」

「あ、ああ。……大丈夫なんだな?」

「多分。それより、艦橋へ。頼みたいことがある」

「あ、おいっ!」

 

言いつつ恭也を押しのけて艦内へと戻る。会話なんてどうせポッドの中で治療しながらでも可能なのだ。であれば、次の襲撃に備え、一刻も早く肉体の再生を行なうべきだろう。

 

……あぁ、何で俺真面目に対ギーオス戦をやってるんだろうか。俺、別に英雄願望なんて無いんだけど。

 

カツカツと足音を立てて通路を進み、恭也を艦橋へ送り出しつつ俺は治療の為ポッドの部屋へと戻る。

そうして出たばかりのポッドへ再び身を浸し、艦橋へと通信を繋ぐ。

 

『此方艦橋。お疲れ様です、メラさま』

 

と、まずそう声を掛けてきたのが、通信に対応したノエル・綺堂……あぁ、面倒くさい。ノエルさん。

 

「其方は無事か?」

『はい。私、お嬢様、恭也様揃って無傷です』

「そうか。支援に感謝する。月村忍にも」

『ふふふっ、感謝するなら、後々の技術提供をヨロシクね』

 

突如通信に割り込んでくる月村忍。なんだろうか、彼女はこういう突然の介入と言うか、そういうのを好んでいるのだろうか。さっきもやってたし。

 

「それは、無論」

『……あら、断られると思ってたんだけど』

「人類にも備えは必要」

『備えって……え、いえ、でもギーオスは……』

「……分っているのだろう」

 

何となく、彼女も察しているのだろう。嘗て次元世界を統べた一つの一大文明。それが、たった三匹による物ではない、と。

そしてこれから起こりえるであろう、頻発的な対ギーオス戦闘。此方の言う備えとは、ギーオスと戦う為の物であると。

 

『……いえ、分っていた事では在るのだけれども……そう。あんなのがまだ何匹も……』

「故に、世界に技術を広める。その伝手が必要だ」

 

これから先、間違いなくギーオスはこの世界でも多発する。それはもう、既にギーオスが多数目覚めだしている事で確定した事実だろう。

さすがに何時までも俺単体で戦い続けるというのは不可能だ。なら、せめて人間にギーオスと戦う力を与える必要が在る。

 

『――ええ。分った。これはやるべきこと、なのね』

「やらねば、人類に未来は無い」

『全く。成り行きとはいえ、人類種の選択肢に関わる事になるとはね』

 

そういってはぁ、と溜息を吐く月村忍。

 

「不服か?」

『まさか。不謹慎だけれども、これはチャンスだわ。人類が生き延びる為の。そして月村にとっても利が在るのよ。文句なんてないわよ』

『忍……』『お嬢様……』

『な、なによぅ』

 

画面の中でなにやら仲良さ気な三人に、若干羨ましいなぁなんて感じつつ。とりあえずこの後のことに付いてを如何するべきか、と言う方向へ話を引っ張る事に。

 

『まず必要なのは、ギーオスの情報かしら。貴方から貰った情報だけじゃなくて、出来れば私たちの手で得た情報が』

『であれば、ギーオスの死体を……そういえば、全て木っ端微塵でしたね』

『ああっ!? メラ、破片は回収できないかしら!?』

 

今から海中にもぐってギーオスの肉片を回収して来いと?

 

「それは、問題ない。島に巣が在る筈」

 

原作でもあったが、ギーオスの巣、というか、永い眠りについていたギーオスの卵が複数個姫神島に眠っている筈だ。原作でアレが三羽だったのは、その三羽が同じく孵化した同属と共食いをした結果だった。

大体、このギーオスに関してもそうだ。生まれたばかりで大体体長が1メートル未満のギーオスが、何故人を襲うことが出来たのか。それは、人を襲うことが出来るサイズになるまで、共食いで食い繋ぎ成長したということなのだろう。

 

『……なんだか、とんでもない生物ね、ギーオスって』

「BETAよりはマシだが、な」

『べーた?』

「……なんでもない」

 

実際、ギーオスは某人類に敵対的な地球外起源種に比べ、知能はカラス程度であえて集団行動を取るようなものでもない(狩に有利と判断した場合は複数で行動する場合が在る)し、バリエーションが多彩と言うわけでもない。

単一種で圧倒的繁殖力こそ持つが、ウルに搭載された次世代人類に託された技術データを使い、ギーオスの侵攻までに用意を整える事ができれば、駆逐は難しくとも人類圏の守護は間に合うだろう。

まぁどちらにしても、連中は星を食い尽くす怪物だ。駆逐しなければ到底平穏な生活は得られない。

 

『じゃぁ、とりあえずは私から姫神島に調査団を送る、ってことで良いかしら?』

「頼む。俺も護衛につく」

『そうね、万一もあるし』

『忍、俺も行くぞ』『ちょ、ダメよ恭也っ!!』『落ち着いてください恭也様』

「……仲が良い」

 

やっぱりちょっと羨ましいな、何て思いつつ、ウルの航路を一路海鳴へ。これからに備え、色々と準備を整える算段を整えるのであった。

 

 

 

 

 

 

月村邸へと帰宅し、先ず最初に月村忍はノエルに、姫神島に対する新たな調査団の編成を命じさせた。これによりギーオスの生態、少なくともその存在は明らかになってくれるだろう。

 

で、その先のことを予想するに、さすがにこの世界では環境省によるギーオス捕獲作戦なんて行なわれないと思う。そう信じる。ので、その点は気にしない。一応月村忍に根回しを頼んでおくが。気にしない。

 

現時点ではギーオスの発生は散発的。まだギーオスの大集団が発生するという事態には陥っていない。現状で邪神覚醒のラストの如く大群に襲われれば、間違いなく世界は破滅する。

 

「一番簡単な対処法は、核による殲滅」

「……まぁ、確かに核の熱量と範囲なら、ギーオスも逃げ切れないでしょうけど……」

「この国がその手段を許すとも思えんな」

 

どちらかといえば否定的感情の見え隠れするその言葉に、此方としても首を縦に振る。

何せコジm……核は拙い。確かにギーオスの駆除は可能だろうが、その放射能汚染により一気に地球環境の悪化。魔力的変異のダメージの残る地球に核のダメージを与えれば、間違いなくギーオスは爆発的に増殖する。

 

「必要なのは、ギーオスの脅威の周知」

 

生まれたばかりのギーオスは、数メートルもの体長であるとはいえ、まだ人間に制御できると錯覚させてしまう。ライオンなどの獣と同類、と判断してしまうのだ。

ギーオスが本当に恐ろしくなるのは、その体長が20メートルを超えてから。現行兵器も効果を及ぼさず、何よりもその驚異的な速度を用いたヒットアンドアウェイ。コレにより人を餌として驚異的な速度で増殖。更にその個体をも強化する。

人と言うのは、特に日本人は、実際にその脅威が目の前に迫らなければ中々動く事ができない。かといって、ギーオスを其処まで成長させてしまえば、俺でも勝つのは途轍もなく厳しい。

かといって、ギーオスの被害が出てから動くのでは絶対に間に合わない。

 

「……そうね、対ギーオス用の装備ってどんな物を考えているの?」

「ウルのデータベースにある、幾つかの研究データ、その併用が理想」

 

ウルに残された大量の実験データ。これは所謂ギーオスの魔力吸収能力条件下でもギーオスを打破できる兵器、それを創造する為に開発された技術群だ。

肝心の先史文明らはその投入が間に合わなかった物の、データと言う形でこうして現代へと託されたソレ。実際ウルの主機は縮退炉であるし、確かにこの技術を使えばギーオスに対抗することも可能だろう。

 

「具体的には?」

「――多分、巨大ロボ」

 

そして、なによりも頭が痛いのが、その対ギーオス兵器の中で最も有効である確率が高いのが、よりにもよって巨大ロボなのだ。

ギーオスと戦う上で必要なのが、陸戦・空戦が可能で、かつ魔力を利用しないというモノ。

 

おれ自身がデータベースをチェックしていた中で最初に思い浮かんだのが、可変戦闘機。然しアレはエンジンが熱核反応タービンエンジン、要するに核だ。まずこの国では使えないし、第一技術的にぶっ飛びすぎている。ウルの自己補修用ナノマシンの応用で単体ずつなら生産できるだろうが、それでは量産は出来ない。

 

で、次に思い浮かんだのが戦術機。アレならばかなりの空戦能力に加え、比較的構造も単純。技術レベル的にも、ウルのソレを用いれば不可能ではない。勿論OSはXM3レベルの物を用意するが。

 

「……ふ、ふふふ」

「「「!!??」」」

「ふ、ふふふ、ふはははは、あーっはっはっはっは!!!」

「ど、如何した?」

「……しのぶの、悪い癖が……」「お嬢様……」

 

思わずビックリして、そんな声を掛けてしまう。何事かと見れば、高町恭也とノエルが互いに頭に手を当てていて。

 

「ロボ、巨大ロボ!! なんて浪漫溢れる言葉かしら!! 開発の切欠が地球の危機っていうのはいただけないけれど、それでも滾る物が在るじゃない!!」

 

目があい、思わず身がすくむ。俺は見た、あの瞳の中に燃える野望の炎を。

 

「いいわ、ならウチが作業用重機として技術供与を受けてソレを開発して……いえ、ウチだけじゃ脚が遅いわね。ならすずか経由でバニングス財団にも声を……」

 

言いつつブツブツと何かを呟きだす月村忍。バニングス財団って、アレだよね? この世界有数の大手企業。で、月村すずかの友人の、バーニン……大尉……でもなくて、アリサ・バニングスの家。

 

「でも、脅威を説明する理由が不足」

「巣を発見して、遺伝子サンプルを得るだけじゃ足りないのか?」

「恭也様、現在の技術では、遺伝子を見ただけでその全てを推測するのは不可能です」

 

確かにギーオスの遺伝子は、『計画し完成された単一にして完全』なものだが、その脅威自体は実際に姿として現れるまでは如何ともし難い。

 

「いえ、バニングスグループなら少しは事情を話せるわ」

 

と、其処に何処かへとトリップしていた月村忍が突如復帰し、そんな事をいって見せた。

 

「あそこの社長令嬢とウチの妹が仲良くてね。その伝手で、あの家も魔法っていう技術の存在は知っているのよ」

 

故に、その魔法文明を滅ぼしたという生物兵器、その脅威も、伝える事ができれば信じてくれる可能性は在るのだという。

 

「では、頼む」

「任せなさい。寧ろ是非私に任せておきなさい。最高の仕事をしてあげるから。ふふふふ、腐腐腐腐腐腐」

 

……何か恐いなぁ。

 



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09 月村すずか

先ず月村家はバニングスグループと結託、共同出資で、B&T・新技術開発プラントを設立。大量の資金と物資を投入し、即座に一つの形を作り上げて見せた。

此処で開発されているのは、ロボット開発・システム制御技術・新素材開発と、悪意在る見方をすれば軍需系と思われても仕方のないような、それでも必要な技術ばかり。

 

最初に作り上げたのが、フライングパワードスーツ。略してしまうとFPSに成るので、通称はウイングスーツと呼ばれている。これは実に簡単で、電気により伸縮するマッスルスーツと、プロペラントを詰んだウィングユニットをくっつけただけ。

 

だがコレがヒット。災害現場への急行や、特殊部隊の急行なんかにも使えそうだ、という事で様々な国で需要が発生。そしてその後、マッスルスーツ部分だけでも、工事用重機レベルの出力が在ると分り、更に需要は拡大。

 

そうした成果を足場に、更に発表したのが、TSFシリーズ。戦術機をモデル、というか構想をモロパチして作り上げた機動兵器だ。因みに某『社名が3年の単位になっている会社』にはいろいろと許可を頂いた。宣伝にもなるし、OKとの事。

最初は技術系譜に従ってF-4から開発しようかと考えたのだが、さすが海鳴の技術者バケモノ揃いだというか、現行の技術レベルで不知火くらいは普通に作れてしまう加工技術を持っていた現地の技術者達。

 

これはいいと、早速不知火を生産したはいいのだが、いきなりこんなモノ作っても操縦できる人間が居ない事に気づき、仕方無しにシミュレーターを製造。次は吹雪を製造しなきゃなぁ、なんて考えつつ、出力をダウンさせた訓練機の製造を提案。

バニングスグループと、月村の分家筋から回された人員により訓練が開始。コレにより、何とか雪吹の運用が行なわれ、漸くの発表となったのだ。

 

最初このTSFシリーズは、人型ロボットという事で世界各国のOTAKU達から大いに注目を浴びた。何しろデザインもモロにヒーロー機。こいつに乗るために日本、もしくは月村・バニングス系に就職する、と言う人間も増えたくらいだ。

だがしかし、同時にこのロボは既存の現行兵力に比べ、何処か中途半端なのだ。

拠点防衛及び占領なら戦車、対戦車には航空戦力があればいい。態々割高なコストを掛けて、戦争用にロボットを用いるなんていうのは途轍もなくナンセンスだ、と言うのが一般的な解釈であった。実際のところ、ギーオス戦を考えなければTSFの配備は俺でもしないと思う。

 

で、暫くこのTSFシリーズは表舞台ではなく、B&Tの技術開発及び拠点設営のために用いられる事と成る。何気に人型ロボというのは、戦闘よりも重機としての役割のほうが向いていた。

 

さて、そんな最中でも俺は通常営業。ウルのシステムを解析し、次元探査端末――要するにギーオスセンサーを近隣の次元世界及び地球にばら撒き、コレに反応したギーオスを即座に殲滅する、という日々を送っていた。

 

とはいえさすがのギーオスも、日々チェックしていれば早々連日出現するわけでも無し。さすがに暇な日々と言うものが出来てしまう。

そうして暇な時間というモノが出来ると、自ずと月村の屋敷に滞在することになる。

 

というのも技術開発の件で、一々ウルから此処にくるより、此処に滞在しておいたほうが便利だ、という月村忍の言葉に押され、いつの間にか月村の屋敷の一室に住む事になってしまっていたのだ。

いや、それはいい。月村邸に住む事自体は別に問題ない。

ただ問題が在るとすれば、此処には俺(の外見年齢)と同年代の少女が一人住んでいる、と言う点。

 

最初は、此方も艦から持ち込んだ端末で、自分専用のサポート機の設計なんかを考えていたので態々接触するという事も無かったのだが、さすがに同じ家に滞在している以上顔を合わせることは頻発する。

 

相手は美少女。此方としては是非とも仲良くしておきたいのだが、如何せん今の俺は言語障害(笑)で上手く喋る事のできないコミュ障持ちだ。しかも表情筋の硬直した無愛想顔。

 

俺ならあえて近寄ろうとは思わないね。

 

「…………」

「…………(ビクビク」

 

だというのに。何故この少女は俺の前に座っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

Side Suzuka

 

目の前に座る男の子。彼は少し前、ウチの敷地近くの森の中で倒れているところを私と子ネコのルフナが見つけて拾ってきた子だ。

 

最初は怪我でもしたのかと思っていたのだけれども、彼のことを調べたというお姉ちゃんたちが急に怖い顔で何か慌てだしたのを覚えている。

 

その後、お姉ちゃんは男の子と恭也さん、ノエルを引き連れて何処かへといって、帰ってきたかと思えばいつの間にか彼はこの家に住み着いてしまっていた。

ううん、それは別に悪くない。どうせこの屋敷に住んでいるのなんて、最初からたったの四人。使われない建物は傷むのが早いって言うし、人が増えるのは否定しない。

 

でも、その男の子はいつも恐い顔をしていた。何か怒っているのか、悩んでいるのか。いつもムッツリと唇を結んで。

 

――本当のところを言うと、チョット恐い。

 

でも、多分本当は優しい子なんじゃないかなと思う。この前に見たのだ。彼にウチの猫達が懐いているのを。

ウチの猫は気配に敏感だ。敵意を持っている人間には絶対に近寄らない。ちょっと抜けている子も居るけど、そういう子は先輩猫が絶対に守る。

そんな猫達が、あの子相手には普通に近付いて、そのまま撫でられながら寝ているのだ。

 

多分、きっと、彼は悪い子じゃない。良い子なんだと思う。

だから、同じ家に住んでいるんだから、チョットでも仲良くなろうと、お庭でのお茶に誘ってみたのだけれど。

 

「…………」

「…………」

 

空気が重いよぅ。

 

やっぱり私じゃダメなのかなぁ? いつもならアリサちゃんが一杯騒いで、なのはちゃんがニャハハってわらって、フェイトちゃんが慌てて、はやてちゃんがボケて。

 

皆がいればあんなに簡単なのに、私一人だとこうも声が出ない。というか、この場に声が出ない。猫たちも何故かピクリと身動ぎもせず、何処となく緊張した面持ちで此方を観察しているような気がする。

 

ど、どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 

えっと、こういう時はどうするんだっけ? お天気の話!? 確かはやてちゃんがそんな事を言ってたような!!

 

「え、えっと! 良いお天気ですね!!」

 

……外した!

 

違う、ウケ狙いでやってるんじゃないの!! はやてちゃんは今度のお茶会の時に紅茶を紅生姜の漬け汁に摩り替えてやる!!

ああっ、でもそんな事を考えている場合でもなくて!!

 

「そうだな」

 

不意にそんな言葉が聞こえた。意識を声の方向に向ければ、此方に視線を向けている彼と視線が合う。

――そうだ、彼は私のお誘いを受けてくれたじゃないか。なら、きっと仲良くなりたいって気持ちは持ってるはず。多分、きっと、めいびー。

なのはちゃんも言ってた! OHANASHIすればお友達になれるって!!

 

……あれ?

 

「えっと、改めて自己紹介します! 私、月村すずか。この家の次女で、私立聖祥大付属中学校3年6組です!」

「メラだ。生物兵器をやっている」

 

やった! やったよぉ! なのはちゃん有難う、コミュニケーションの第一段階成功だよ! 次は此処から話題を深めていけばいいんだよね?

で、えっと。せいぶつへいき?

 

「せいぶつへいき?」

「……先史文明の末期に作られた、対怪物用の生物兵器だ」

「せんしぶんめい? たいかいぶつよう?」

 

えっと、何?

 

 

 

 

 

Side Mera

 

自分で説明してて、頭を抱えたくなった。

 

だって、「嘗て現人類を上回る技術力を持った旧人類によって生み出され、新しい時代へと揺り篭の中で眠りについていた生物兵器」だ。何処の厨二病だ。物凄く痛い。俺なら黄色い救急車を手配する。

 

何か凄く胡乱気な表情で見られているような気がして、溜まらず話を変えることに。

 

「月村すずかは私立の三年生と言ったが、エリートか?」

「え、エリートって程じゃないよ、普通だよっ――あと、私はすずか、で」

「ふむ。――メラでいい」

 

まぁ、今の俺に苗字なんて無いのだけれども。

 

「そ、そうだ、メラくんは何処の学校に行ってるの?」

「……」

 

ソレを聞かれたか。いや、確かに外見年齢はすずかと同年代に見える俺だ。学校へ行っているのか、と問われる可能性は確かにあった。

 

「行っていない」

「え、ええっ!? メラくんってもしかして年上?!」

 

いきなり話がずれた。何でそんな結論に至ったのかと考えて、修学していない同年代→中学までは義務教育→修学していないという事は、義務教育は卒業済み→つまり年上、という連想が成り立った。

 

まぁ、誤解されても悪い話ではないので適当に話を濁しておく。うーん、折角すずかが話しかけてきてくれているというのに、なんと話し概の無い男なんだろうか、俺。

 

「ねぇ、メラくんは普段は何をしてるの?」

「――色々、だな」

 

実際、本気で色々と仕事をこなしている。ギーオスの駆除は絶対だし、月村家と技術・ギーオスの情報を共有するための回線形成、譲渡技術の選定、他にもウルの増設パーツ設計だとか、最近はロボットの設計もしたりしている。

 

「……これだ」

 

言いつつ取り出したのは、未来でまず間違いなくヒットするであろうタッチパネル式のタブレットコンピュータだ。何かをしている証拠として、そのロックを外してすずかに見せる。決してニートと思われるのが嫌だからと言う理由だけではない。

 

「わぁ、これ、もしかしておねえちゃんたちがやってるTSF!?」

「いや、あれはリアル系。これはスーパー系」

 

ギーオスは、その成長過程で20メートル程度のサイズの時期が在る。この時期が最も食料を必要とし、尚且つ人類にも少ない被害で駆逐で来うるチャンスなのだ。だが、全てを必ずこの時期に駆逐できるとは限らない。

 

其処で必要と成るのが、80メートル台のギーオスに対抗できる、同等のサイズを持った存在。もしくは、成体ギーオスの戦闘能力に比類する能力を持つ特機。さすがに此方を現行技術、TSFの延長上で実装するのはまず不可能だ。であれば、ソレとは違う技術系等のロボットを自分で作ればいいのだ、と。

まぁ自分で作るとは言っても、あくまで設計をやるだけで、組み立てや製造は他所に回す心算なのだが。

 

――で、気付いたら隣に瞳をギラギラ光らせて佇むすずか嬢の姿が。

 

「ねぇ、ねぇメラくん。これ、ちょっと私に説明してくれない?」

 

首を縦にガクガクと振る。これはヤバイ。どうヤバイかとは説明できないが、ヤバさだけは伝わる。雪の日の峠をバイクで攻めるよりもヤバイ。偶々入った店がボッタクリバーで、肩をでっかい兄ちゃんにつかまれてるって状況ぐらいやばい。あ、これ案外的確かも。

 

 

 

俺が設計しているスーパーロボット計画。如何いうものかと言うと、上述の条件を満たす為、現行技術とはかけ離れたオーバーテクノロジーを多数実装する、いわばエクストラなオーバーテクノロジー搭載型の開発だ。

 

ただ、此処で単純に純科学技術製の機体を作るかと言えばそれは否。純科学製でも悪いとは言わないが、ギーオス相手に純科学製品ではタフネスが足りない。システムトラブルでピンチ! とかは勘弁被る。

 

其処で思いついたのが、俺が作るスーパー系には魔術的要素を突っ込んでみよう、と。

 

そもそも俺が超常的科学、オカルトの領域に踏み込んだ科学により生み出された産物だ。インストールされている知識と、更にウルの技術を使用すれば、不可能ではない。……筈。

 

「魔術って何?」

「オカルト、だが、この機体の建造には、オカルトの根本を科学で構成している」

「エミュレートしてるの?」

「否。機械駆動自体を儀式の代用とし、機体を一種の魔術的偶像と見立てる」

 

要するに、巨大ロボットを神像と仮定することで、機体そのものに神性を宿すという手法である。これで一番簡単に製造できるのは、先ず間違いなく鬼械神だろう。

ただ、アレはやばすぎるので今回は見送る。こっそり自分用に作るかもしれないが、とりあえず公式には作らない。

今回作るのは、いわばエース専用のコスト度外視の超高性能機なのだ。

 

「でも、何でその魔術を使うの?」

「魔術を使った場合、異界法則が使用できる」

「異界法則?」

 

簡単に言うと、何の魔術的要素も無い現行技術だけで仕上たシステムは、当然の話しだが物理法則の中で動く。化学反応式のジェット推進は、ジェット推進で前へ進むという物理法則の元で成り立っているのだ。

 

大して魔術的な要素を含むと、此処に異界法則が介入してくる。例えば物理法則では突破不可能な『光速の壁』を平然と突破したり、空間に穴をあけてワープしたり。

 

さすがに其処まで行かずとも、例えば化学燃焼式ではなく、霊的な出力機関を作れれば、環境に優しい推進システム、なんてものも出来るかもしれない。

で、ソレを説明して横を向いたら、物凄いキラキラした目で此方を見つめてくる少女が一人。

 

コイツ、リアル路線の姉とは逆にスパロボ路線かっ!!

 

「スパロボ……乗りたい、いや、造りたい?」

「(ガクガクガクガクガクガク!!!!!!)」

 

最早そんな音に聞こえてしまうほどに激しく首を上下に振ってみせる少女。

 

――うーん如何しよう。

 

本来、スーパー系の技術はあまり表に出す物ではない。何せスーパー。下手に強力な機体が、下手に能力を持った人間に渡ってしまうと、それだけで世界が崩壊しかねない。

いやさすがにそのレベルの機体を作れるとは思わないが、何せ此処は海鳴。何時何処で何が化けるかわからない。

 

「(キラキラキラキラキラキラキラキラ)」

「……内緒だぞ?」

「やったぁ!!」

 

くっ、良い笑顔しやがって。美少女ってそれで全て許されるんだから、本当羨ましい。

 

 




と言うわけで、ヒロインのすずか。
此処から先、ガメラ要素は急速に薄くなるかも。ただ、基本骨子はあくまでもガメラ、と言うのは変えません。他に色々クロスするかもだけど。

■B&T
バニングス&月村社。バニングスグループと月村家の出資によって創設された新技術開発プラント。に見せかけて、メラ持込の技術を分析し、世に出すという役割の研究機関。
結託の要因は色々あるが、最大の要因はすずかとアリサの縁。

■TSF タクティカルサーフィカルファイター
要するに戦術機。対ギーオス戦に備え開発が行なわれた。
史実と違い、一応F-4を最初に試験機として製造後、簡単に陽炎を経由、一気に不知火へと進歩。更にXMOS搭載。
・人類の牙。でも現在は高級な穴掘り機。

■SR計画 スーパーロボット計画。
成体ギーオスに対抗すると言う前提で、メラにより個人的に計画された。
その内質に魔術的要素を組み込むことで異界法則を発現させ、その隙間から奇跡を呼び込むことをもう一つの目的、手段としている。
因みにSR機とリアルロボット(RR)機の区分は、性能比ではなく、使用されている技術で区分している。
・プロジェクト開発推進主任は月村すずか。別名『すずかのおもちゃ箱』。


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10 はじめてのTSF

と言うわけでスーパーロボットを造ろうと思うのだが、本件をSR計画と呼称する。

 

先ずSR計画を進めるに当って、いきなりオリジナルの機体を作る、と言うのは拙い。如何不味いかと言うと、やりすぎて暴走してしまう可能性が途轍もなく高い。

例えば今ぱっと思いついただけで、俺の肉体細胞を培養してエヴァモドキでも作ろうか、なんていう考えも在る。やれば多分出来てしまうとは思うのだが、さすがに拙い。

 

とりあえず試しに、何か最初から魔術を含んで動くスパロボを造ってみようと思う。本当なら造りたいのは鬼械神なのだけれども、何度も言うが鬼械神は拙いので、もうチョットマイルドなところを狙おうと思う。

例えばサイバスターとか。アレは確か、機体と精霊を契約させて、オカルティックなパワーを引き出すとかなんとか、そんな感じだったような? でも風って聞くと「デッド・ロン・フゥゥゥン!!!」を思い出すんだよなぁ?

 

――何でか嫌な予感が止まらない。

 

で、とりあえず製作目標はサイバスターという事なのだが、ソレを作るに当って試作モデルを一つ作ろうと思う。適度に魔術を含んでて、でも量産型とかな奴がいいな。ガディフォールとか如何だろうか。

今用意している設計図は、これから作ろうと思っているスパロボの基本設計。機械的に魔術を再現するもの、魔術と科学のハイブリッド、魔術が根本に在るものの三系統。

 

ガディフォールは魔術が根っこに在るタイプで、まぁ造ったところで俺以外に動かせる人間は存在しないだろう。その辺りのサポートは用意できているし、とりあえず機体を作ってしまおう。

 

内装の案は大体出来ているので、やるべき事は資材の用意と加工。でも、我が旗艦ウルにはとても便利な物が存在する。

先ず一つ目、多連結縮退炉。多数のブラックホールエンジンを並列接続する事により、安定的且つ莫大なエネルギーを取り出すことが出来る。

次に二つ目、マテリアルコンバーター。電力さえあれば、自由自在に様々な物質を生成することが出来るというモノ。莫大なエネルギーが必要である事が欠点だが、まぁウルにはそもそも過剰なほどのエネルギー生成能力が在る。

 

そして三つ目、超汎用型ナノマシン。これは医療にも使えれば艦の自動修復にも使えたりする超汎用マルチシステム。

 

先ず最初に、マテリアルコンバータで必要な素材を生成。ついでにB&Tに頼んで幾つかの電気部品を取り寄せておく。

で、集まったパーツと素材を、ナノマシンをたっぷり自己増殖させたプールに放り込む。これで其々のプールの中では、投入された素材をナノマシンが分解したり整形したりして、いつの間にかロボのパーツになる、という寸法だ。

 

問題点としては、パーツや各部位ごとの生成は可能なのだが、さすがに一つの完成固体を作るには重機での組み立てが必要と言う点か。

 

※因みにプールはTSFにショベルを持たせて掘っていただきました。

 

何故SR計画の候補がデモベと魔装機神かというと、まぁ、恭也をスパロボに乗せてみたかったと言うのが最大の一因。

え、声優ネタですよ?

 

 

 

で、そんなこんなでサイバスターを建設している最中、そんな時でもギーオスの襲撃がなくなるわけではない。

なんでも突如中国の某所、大気汚染の激しい都市に現れたとかで、現在ギーオスは人を餌に急速に成長を続けているのだとか。

何をトチ狂ったのか中国政府はギーオスの捕獲を決定。自国民が食われたというのに捕獲を決めるとは。これはもしかして、修正力という奴なんだろうか。

 

……単純に環境汚染が酷すぎたからだったりして。うーん。

 

「行くのか」

 

月村邸、その中庭で一人佇んでいると、背後からそう声を掛けられた。振り向けば其処に立つのは、前よりも何処か落ち着いた雰囲気を漂わせる高町恭也。なんでもギーオスを見て、諦める心算はないが壁の存在も理解した、とか。

恭也の言葉に頷き、右手に魔法陣を展開。前回は使えなかった俺の転移魔法。コレを使えば、ギーオスのいるポイントまではすぐに到着する。

のだが、その動きを不意に恭也に止められてしまう。

 

「……何だ」

「まぁ、待て。今回のギーオスは、既に50メートル級にまで成長しているらしい。お前単独で行くのは流石に無謀だろう」

「ウルを」

「アレをもう表に出すのか? 別の意味で世界が荒れるぞ?」

「………………」

 

ウルは、古代文明の遺産とはいえ、行ってしまえば超科学によって生み出されたオーバーテクノロジーの結晶。それも更なるテクノロジーのデータを内包した、しかも小型の戦艦に近い能力まで持っている。

 

あんな艦が存在する事が知れてしまえば、先ず間違いなくどこかの国が捕獲に動く。もし捕獲されれば最悪だ。此方のコントロールを離れ、無尽蔵にオーバーテクノロジーが流出する。そうなれば世界は二度目の滅亡を迎えるだろう。

 

流石に俺一人が地球人類の文明を全てコントロールする、などとうぬぼれる心算はないが、少なくとも俺由来の技術で自滅させる心算はない。

 

「…………」

「メラ、お前は確か、TSFは動かせるんだよな?」

 

頷く。TSF、戦術機。適性的な意味で言えば、機動兵器に関する適性は俺はとても高い。何せ生身で曲芸機動を連発しても酔わないのだ。人型こそしているが、肉体のモデルはアレ。多分、超電磁スピンを生身でやっても酔わない。

と、そんな事を考えていると、恭也がPCタブレットを取り出し、其処に何かの情報を表示して見せた。

記されているのは世界地図。いや、見ればソレは中国大陸にピックアップされている。

 

「いいか、此処がギーオスが餌場として陣取っている箇所。これが、現在中国工場で建造されているTSFのFCS試験場だ」

 

言われてみれば、その指し示された試験所はギーオスの陣取っていると言うポイントから程近い場所に在る。

 

「この実験施設は、ギーオスの影響で現地職員は総員退避した。が、連絡の不備で火装済みの不知火が一機残された。因みにこの機体は何者かによって強奪される予定だ」

「……いいのか?」

 

思わず聞いてしまう。恭也が行っている事はつまり、それを使え、という事、なのだろう。

 

「本来なら、俺が直接行って戦いたいくらい何だが、残念ながら俺にはあんな怪物と戦う術を今は持たない」

 

――だから、頼む、と。

 

……SR計画、間に合わなかったか。

 

「任せろ」

 

言って、地図をチェック。座標を確認した後、その地点へ向かって転移プログラム起動。世界が瞬時に書き換わり、次に俺が目にしたのは丘の上から何処かの施設を見下ろすような風景。

その一角に、自走整備支援担架に積み込まれた不知火の姿を確認して、即座にその胸部ハッチへと転移。生憎強化装備は無いが、あったところで生体データを取られるわけにも行かない。バリアジャケットを少し弄り、邪魔にならないような形にして代用する。

 

管制ユニットに乗り込み、即座にシステム起動。どうやら暖機は既に済ませておいてあるらしく、即座にシステムが立ち上がる。

担架をTSF側から遠隔操作で立ち上げ、一歩脚を地面へ。

 

直立歩行で少し移動し、其処に用意されていたカタパルトシステムへ接続。チェックを済ませ、システムに命じてカタパルトを作動。

同時に噴出する跳躍ユニット。突如加速する機体。体をシートに押し付ける加速を感じながら、機体を一気に空中へと飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

三十分ほど機体を飛ばし続けると、途端に周辺の空気が変わり始めた。山を一つ越えた辺りから急速に大気が曇り始め、同時に立ち並ぶビルと、響く砲撃の音。――そして、人の気配。

違和感に即座に不知火のメインカメラを操作。そして即座にその違和感の理由を突き止めた。

 

「何で、避難が行なわれていない!!」

 

思わず激昂しながら、慌てて無線を調節。どうやらこの国の軍隊は国民の避難よりもギーオスの撃退を優先したらしく、巣を作るギーオスに対して戦車・航空部隊による一斉攻撃を敢行したらしい。

 

その結果、当然の帰結と言うか、既に60メートルの大台に乗っていたギーオスの盛大な反撃(超音波メスの乱射)により部隊は壊滅。地上どころか航空部隊までも壊滅し、今は次の戦力を国土から寄せ集めている最中、といったところだろうか。

で、住民の避難に人手が回らないどころか、更に駆逐された戦車や航空機で被害は拡大。更に何故か頻発する暴徒やらの所為で被害は悪化の一途。

 

若干こいつら滅んだほうがいいんじゃないだろうか、何て思いつつ、とりあえず武装を解禁。なんと装備はいきなりレールガン。まぁ既存兵器での効果が薄いからこそ、俺由来の超兵器を開発したのだが。

 

ただこのレールガンは原典のソレとは違い、コストを抑える為に単発式になっている。軍用ではなく民間のライフル、といった感じだろうか。まぁ、超電導物質なんて使うとコストも跳ね上がるし、第一精度が取れない。

 

故に一撃必殺。ギーオスの拠点としているらしいビルを光学で確認。避難が済んでいないため道路はそこら中混雑の最中。何処か狙撃体制を保持できるスペースはないかと周囲を索敵しつつ、ギーオスの待機地点を中心にぐるりと円形軌道で移動。索敵を続行する。

 

そうして見つけた一角。他に比べ建造物が新しい区画。早々に避難した富裕層の区画なんだろうと辺りをつけて不知火を着地。膝を付け、ギーオスに向けて狙撃体勢をとる。主機で慣性を相殺する必要が無いというのは、単発式の利点か。

視界の中、網膜投影されるターゲットマーカー。それらがギーオスに重なる一瞬を狙う。

 

深呼吸。する意味は今の俺には余り関係ないのだが、これも人であった名残かな、なんて如何でもいい事を考えて。

 

キィンッ!!

 

音にすればそんなものだろうか。一瞬の静寂、そのあと放たれた衝撃波。

目に映る景色には、ギーオスの陣取るビルが弾けとんだ景色が映し出されていて。

 

「やったか――っ!!」

 

思わず言ってしまった自らの言葉に、思わず頭を抱えてしまう。それはやってないフラグだろうが俺ぇ!!

これもまた案の定と言うべきなのだろうか。巻き起こる粉塵の向こうから響くギーオスの声。

 

再度の砲撃に備え次弾装填、粉塵に銃口を向けたところで、咄嗟に機体を立ち上げ真横へ跳躍させる。途端寸前まで機体が存在していた場所を通り過ぎる黄色い光。ギーオスの超音波メスだ。

ギーオスの超音波メスは空気ではなく魔力を触媒としているため、そういうモノに敏感な俺には察知しやすい。流石に至近距離で打ち込まれれば回避は難しいが。

光線の角度から大体の位置を割り出し、粉塵に向かって第二射。放たれた閃光は粉塵を蹴散らし、白く濁る空を裂いて、その場に無窮の空を描き出す。

 

――見えた。

 

其処に陣取るギーオス。どうやら照準にずれがあったのか、こちらのレールガンの一撃はその中心を避け、ギーオスの脚を叩き落していたらしい。

道理で、ギーオスを狙ったのにビルが爆ぜた筈だ。

と、視線の先。ギーオスが此方を驚異と判断したのか、此方に向けて更に超音波メスを放つ。

 

それを再び跳躍ユニットの自由稼動で回避し、ビルの陰に回りこみ、そのまま道路を通って姿を晦ます。

ギーオスの超音波メスは、既にビルなんて容易く輪切りにする程の威力を備えている。が、その照準はあくまでギーオス本体による光学視認。一応超音波探査なんかも使えるらしいが、壁越しの探査は不可能。

故に遮蔽物のあるこの場では比較的此方に有利!

 

……なんて考えて、再び新しい狙撃ポイントを探そうかと考えていたのだが。視線の先で上空へ飛び立つギーオス。

 

拙い。既に成体に近いギーオスは、文字通りマッハでの飛行も可能。生身での戦闘ならまだしも、TSFでは流石に追いつけない。

此方に向けて凄まじい勢いで迫るギーオス。ほぼ直線的な機動であるため回避は出来るのだが、その凄まじいスピードの影響で発生するソニックブームまで回避することは出来ない。

 

回避先で機体に膝を付かせて衝撃波を耐えるが、軽乗用車が容易く宙を舞うほどの衝撃波だ。飛ばされてきた乗用車の爆発なんかが地味に不知火にダメージを与えていく。

 

旋回し即座にギーオスの背中へレールガンを発射。然し在る程度の距離がある所為かレールガンは微妙にその軌道をずらし、ギーオスの胴体に命中する事はない。

これは、チョット拙いかもしれない。

いや、怯むな。この程度の苦境で怯んでいては、この先に来るであろう災厄を乗り切ることなど到底不可能。

そう、来る可能性は高いのだ。群体と邪神が。

 

……あー、なんだろう、この絶望感。

 

首を振って迷いを振り切る。諦めるなと念じて、なぜそう絶望的な状況しか頭に浮かんでこないのか。

大怪獣対ロボット軍団と考えろ。どうだ、燃えてきただろう?

 

そう、今戦えるTSFはこの不知火一機だが、後にこの機体が量産されれば、この状況は一気に改善される筈。というか改善されてほしい。

ならせめて、その明日が来ることを願って、その明日を呼び込むために、今この機体で、俺は出来るだけのことはやってみようと思う。

 

「く、そっ!!」

 

再び強襲するギーオスを回避、けれども今度はそのままでは終われない。咄嗟にギーオスの残された脚を掴み取る。途端掛かる横からの重圧を感じながら機体をなんとか制御する。

このギーオスの驚異的なこと。なんと数十トンもの重量を持つTSF、それに足をつかまれているというのに、欠片も速度を落とす気配も無く飛行を続けている。逆に脚を掴んだ不知火は、その余りの速度に既に機体の全身が悲鳴を上げていた。

 

「……!!」

 

流石に自分から飛行しているわけでも無いのに掛かるこの重圧は少し辛い。振動の中でコンソールを操作し、なんとか機体の体勢を変更。レールガンを腕で保持したまま、なんとかその銃口をギーオスの身体に向けて。

 

「この距離なら、外しはしない!」

 

バシュンッ!! ガチャッ、バシュンッ!! ガチャッ、バシュンッ!!

連続して三発の発射。初弾で羽を貫通、バランスを崩したギーオス。ついで二発目で胴体を貫通。三発目で頭を貫通。

片腕を削がれたことで飛行能力を失い、慣性のままに吹き飛ぶギーオス。かくいうこちらも、ギーオスの変則機動による過負荷と、レールガンの反動により既に機体はボロボロ。

凄まじい勢いで郊外の山中へ突っ込んでいくギーオス。その死亡をなんと無しに確認して、ギーオスから離脱。

中国の山中に響くギーオスの墜落した轟音を耳朶に、そのスモッグに隠れて姿を消すのだった。

 

「流石に、疲れた」

 

そうして、既に殆どの機能を失っている不知火と共に、日本へと転移したのだった。

 




■TSF
戦術機のこと。開発はB&T、協賛は某ゲームブランド。
本来はF-15から不知火が開発されたが、この世界ではF-4→不知火で不知火からF-15が開発されるかも。
最初に世界に存在が知られた時点で、世界中のOTAKU達が日本へ巡礼へ訪れた。


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11 議会とデート。

そしてその翌日。世界、というかその一部、上層部は派手に荒れたらしい。

 

体長60メートルを超え、平然と人を喰う超巨大生物の存在と共に、ソレを撃破した人型機動兵器の存在。そして中国で回収された、撃破された巨大生物の存在について。

 

先ずTSFに関しては、即座にB&Tに連絡が入った。何故無許可で戦闘をしたのかと、中国政府からの盛大な苦情と、潰されたくなければあれを寄越せ、という圧力と共に。

それを月村とバニングスは盛大に拒否。アレはギーオスの被害で実験場を引き払う際、何者かに強奪され、勝手に使用されたのだと。

 

これに中国政府は怒りを顕わにしたのだが、逆に「ならば貴方達の誤爆で起きた我々の被害を賠償しろ」と言われ、あえなく撃沈。事実中国製のミサイルは明後日の方向に飛び、幾つかはB&Tの試験演習場まで飛んで来ていたのだとか。どれ程明後日の方向に飛んでいるんだ。

 

そうして中国政府の苦情は黙らせたのだが、今度は世界中から「あの機体を売ってくれ」という要求が届けられた。特に某『自称・世界の警察』からの要求は凄まじく、仕方無しにTSFを生産。世界各国にイーグルやバラライカ、ジャンジなどをばら撒く事に。

 

大体の技術は国際特許を得ているので問題ないし、技術も解析すれば理解できるレベルの物が多い。どうせコピーされるなら、此方から恩を売る形でばら撒いたほうがいい、という打算だそうだ。

で、TSFを得るという動きと同時に、ギーオスの驚異が世界各国で話し合われだした。

 

というのも最初にギーオスの驚異を説いていたのが月村子飼の学者(長峰博士)であり、その関係企業がそれに対抗する手段を独自に模索していた。肝心の国家は何も対抗手段を考えていないどころか、そもそもその驚異を一笑に付せていたのだ。

これに某内閣だとか、某自称世界の警察の国だとかで盛大に政変が起こったりしていたのだがそれは余談。

 

早急にギーオスの驚異についての情報提供を国連議会で求められたB&Tは、即座にコレまで得られたギーオスの情報、更にソレを作ったと思われる古代文明からのメッセージを提出した。

 

「馬鹿な、古代文明の遺物だと!?」

「そんなオカルトを、この国連議会の場で論じろと言うのか」

「君は正気かね!?」

 

当然飛び出す暴言。頭にくるものは在るが、その場に参加した月村・バニングスの両グループとも、確かにオカルトだよなぁ、と頷いてしまい、逆に周囲が戸惑いを見せる。

 

「我々も、コレが我々の狂気で有ればいいと思うのですが」

 

そう言って提示されたのは、先ずギーオスの遺伝子データ。その存在がいかにおかしなものか、人造でもなければありえない存在であるかを説明した。

そうして次に提示されたのが、少し前に月村に持ち込まれた、突如消失した回遊環礁から見つかった碑文のデータであった。

其処に刻まれた文字、ルーン文字の亜種とされるそれを解析した結果、あの鳥のような怪獣がギーオスと呼称される存在であり、人の文明を滅ぼしかねない危険物である事。同時に、何等かの対抗手段が後世に残された事が記されていた、と。

 

「対抗手段とは何かね」

「それは分りません。然し得られたデータの中に、ギーオスに対する実験のレポートのような物がありました」

「それは?」

「はい、要約すると、ギーオスにどのような攻撃が通用し、どのような攻撃が通用しないか、と言うものです。ただ、この中に少し……」

「何かね? はっきり言いたまえ」

「はぁ、この文の中に、ギーオスは魔法を喰らうという文字がありまして」

 

その言葉にまた頭を抱える議会。ただでさえ超古代文明だ何て胡散臭いオカルト話なのに、この上魔法と。もう既にコレがドッキリなのではないかと周囲を見回す某ブラックジョークの国代表。

 

「それは、何かね。魔法と言うものが存在した、と?」

「はい。ただ皆様がお考えになっているような、動物と言葉を話すとか、悪魔と契約するとかそういったものではなく、魔力、と仮称しますが、何等かの未知のエネルギーを使う技術であったのではないか、と推測されます。また旧文明は主にこの魔法を使う文明であったが為、ギーオスに滅ぼされたと記述があり……」

 

残念ながら、魔法と呼ばれる技術は再現できないが、と話を続ける月村の人間。ただ既に、周囲はオカルト話にゲンナリとした様子で、殆ど聞いていない。

 

「まぁ、なんでしょうか。B&Tから提出された資料は後ほど各国に回しますので」

「よろしくお願いします、議長」

 

疲れた様子でそう締めくくられた議会。結果として、TSFは急遽増産・世界各国への販売が決まり、ギーオスの驚異が世界で認知されることに成功した、と言うもの。

 

 

 

 

 

 

 

で、月村邸へ帰った俺は俺で、すずかに物凄くおこられることになった。

 

「何で一人でむちゃするの!!」

「…………」

 

私怒ってます、という顔で、しかも目の端に涙まで浮かべてプンスカ怒っているすずか。どうも俺が勝手に中国で暴れてきたと言うのをしのぶに聞いたらしい。

 

「もうちょっと待てば、B&Tが中国政府と相談して、一個中隊規模を中国に送り込んだのに!! メラ君が無茶する必要なんて無いでしょ!」

 

反論しようとしたら物凄い涙目で睨まれた。

まぁ、ソレは確かにそうなのだが。俺は対ギーオスの生体兵器としてこの場に生まれ落ちたのだが、おれ自身をそう縛り付ける法則は何処にも存在しない。正直なところ、ギーオス対策は他所に押し付けて、俺は隠居を決め込んでも何の問題も無い。

 

……でも。

 

「それは、できない」

「なんで!?」

「――後味がわるい」

 

知っていては、放置は出来ない。例え何も出来なかったとしても、まして何とかする力がこの手の中に在るのに、何もしないなんて出来ない。

 

「う~……」

「……心配掛けた」

 

言いつつ、すずかの頭を撫でておく。何だかんだで心配してくれていたのだという事は分る。

確かに俺が急行せずとも、暫くすればB&Tから一個中隊が派遣されたのであれば、俺の出番なく事態は収束したかもしれない。

その点は、俺が先走りすぎたと言うのもあるだろう。いや、恭也=しのぶにあの選択肢を用意されていたことを考えると、俺の行動も織り込み済みでのことかもしれないのだが。それをすずかに知らせる必要はないか。

 

「あ、あぅ……」

 

と、いつの間にか目の前に、顔を真っ赤にしてうつむかせたすずかがいた。因みに頭は撫でっぱなしである。

 

「あらあら」

 

と、何故かそれを廊下の角からニヤニヤと覗き込んでいるしのぶが居たりしたのだが、あえて無視することで精神の安定を図ってみたり。

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで何故かすずかとデートをする事に成った。しのぶ曰く、「たっぶり搾り取られてきなさい。それが男の甲斐性ってものよ」とか。

因みに俺の現在持っている資産は、某事務所から徴収してきたものと、月村に対して供与した技術、およびその運用から入手される財産の一部を与えられている。とはいえ、此方は戸籍も持たない異邦人。お小遣い、という形で云千万も渡すのは如何かと思うが。

 

「……」

 

緊張に身を固めてか、さっきから一言も喋らないすずか。正直俺もそれほど女の子との付き合いが在るわけではない。女の子と出歩く経験なんぞ多々在るわけでもない。

如何した物かな、なんて考えつつ、すずかと並んで歩いているのだが。

とりあえずすずかをつれてたどり着いたのは、出だしが昼頃と言うことも在り、軽く食事をという事で、すずかオススメの店として翠屋を紹介された。

 

「ここはね、私の友達のなのはちゃんのお家でやってるの」

「ほぅ。……宣伝活動含む、か?」

 

ニヤリ、と笑ってすずかを見ると、照れたようにあははと笑って見せて。

 

「あ、恭也さんのお家でもあるんだよ?」

「恭也の」

 

そういえば、アイツって高町恭也だったか。月村邸でしか会わないから、あそこが恭也の自宅だと錯覚していたみたいだ。

 

「まぁ、もうすぐ私のお義兄さんになるらしいし」

「ほぅ」

 

それはまた。人をからかっておいて、其処まで美味しいネタを隠していたとは。

その内このネタでからかゲフン、祝福してやろうと企みつつ、すずかと一緒にみどりやに足を踏み入れる。

 

「いらっしゃ……あれ、すずかちゃん?」

「こんにちは美由希さん」

 

と、目の前に現れたのは、眼鏡をかけた美少女。歩き方からして、先ず間違いなく恭也と同門だろう。そうそう、確か、メインヒロインで公式ヒロインじゃない哀れな人。

 

「……なんだろう。凄く失礼な事を言われたような?」

「あはは、気のせいじゃないですか?」

 

首を傾げる高町美由希の影、俺の脚をさり気無く踏みつけるすずか。うーん、淑女だ。

 

「ま、いいや。そちらさんは彼氏?」

「え、あ、いえ! メラ君とはまだそんなじゃ……」

 

と、高町美由希の言葉に顔を赤くするすずか。嗚呼、可愛らしいなぁ。この子と会ってから何か凄く毎日萌えている気がする。

 

「まだ、ねぇ? 私だってそのうち……でも恭ちゃんを超える逸材は…………って、メラくん? どっかで聞いたような?」

「あ、メラ君は恭也さんに少し訓練をつけてもらってるから」

「あ、あー! 君が恭ちゃんの言ってた子!?」

 

俺が目覚めて、既に半年近い日数が経過している。その最中、俺は自らの身体能力を生かすための技術を求めた。その結果、最も身近に居たのが、高町恭也。つまり御神の技の継承者だった。

流石に御神の技を学ぶ事はできなかったが、基本的な体裁き、戦術的思考などは恭也から教わる事ができた。因みに、徹や貫は出来ないが、肉体スペックで無理矢理神速に対応する事はできるし、鋼糸の技は趣味で盗み取らせてもらった。

 

「メラだ。よろしく」

 

そういって目礼する。これでも最近は大分口数が増えたとすずかにも評判なのだが、それでも矢張り知らない人に対しては失礼になりそうな口数の少なさ。本当これどうにかならないだろうか。

 

「あはは、恭ちゃんの言ったとおりの子なんだね。うんうん、私は高町美由希。よろしくね!」

 

そういって手を握り、ぶんぶんと握手をする美由希。そして何故か背後で拡大する冷たい気配と、俺の背後を見てニヤニヤする美由希。

 

「美由希さん?」

「――っとと、そうそう。二名様ご案内しまーす!!」

 

慌て逃げるようにして店内に駆け込む美由希。その背後をクスクス笑いながら、ちょっと近寄り難い雰囲気のすずかが後を追う。ていうか、なんでただの中学生がこんな威圧感を出せるんだ。あれか、王者の才か。

 

「メラくん?」

「応」

 

答え、すぐさますずかの隣に立ってあるく。別にびびったとか、声を掛けられて思わずビクッとなったとか、その恐い雰囲気の中のすずかの下から仰ぎ見る目が可愛かったからとか、そういった理由は一切無い。

美由希に導かれるまま翠屋の中へ。そうして案内された、店内の洒落たテーブル席へ案内された。何か若干カウンター側から好奇心旺盛な視線が飛んで来ているような気がするが、まぁ気にしなければ問題はないだろう。

 

「えっと、それじゃ私はトーストセットで」

「オムライスセット。コーヒーをアフターにもう一つ」

「はいはーい、少々お待ちくださーい」

 

そういって立ち去る美由希を見送りつつ、食事が来るまで何を話したものかと首を傾げる。

 

「すずか」

「ひゃ、ひゃひっ!!」

 

……可愛いなぁ。

 

「な、何、メラ君?」

「話をしよう」

 

何か何処かのルシフェルさんみたくなってるが、気にせずに話題を求めてみる。とりあえず話しの切り口として、すずがの通う学校の事を聞いてみたりして。

 

私立聖祥大付属中学校。それがすずかの通う中学の名前であり、小学校から大学まで続く一貫した私立聖祥学園の系譜でも在る。

 

この私立聖祥学園というのがかなり大手の学園らしく、小学校から大学、果ては中高と分けて女子校だけが存在したりと、もう色々と凄い。

しかもこの私立聖祥学園は、その三割が「車でお出迎え」なお嬢様であるらしく、当然警備体制だとか施設設備だとかが、風芽丘学園と比べても……いや、訂正。あそこはあそこで怪物学園だから。

 

昔は仲のいい五人組でよく活動をしていたのだが、最近そのうちの三人はよくお仕事で学校に来れないだとか、アリサちゃんが寂しがっててその様子が可愛いのだとか、最近付き合いが悪いって拗ねられてるとか。

 

「そういえばアリサちゃんが、今度メラ君を紹介してって」

「俺を?」

「うん。同居人が気になるんだって」

 

そんな話をしつつ、到着したトーストセットとオムライスセット。楽しそうに話すすずかの話を聞きながら、おいしそうなオムライスにスプーンを入れるのだった。

 

 

 

「うんうん、二人とも仲いいねぇ」

「アレなら二人になっても、いえ、ファリンちゃんがいるけれども……大丈夫よね?」

「いざとなれば僕たちがサポートすればいいんだよ。そうだろう、桃子さん」

「そうね、士郎さん」

「うぅ、恭ちゃ~ん(;;)」

 

このとき俺は知らなかった。喫茶翠屋の調理カウンターの向こう側で、こんな会話がなされていたとは。カウンターの向うで、老けない夫婦のイチャイチャと、公式脱落メインヒロイン(旧)の間で、絶対に聞き逃すべきではない重要な会話が成されていたのだという事を。

 




高町家
奥さんの桃子がパティシエで、旦那さんの士郎が風来坊の剣士。夫婦の実子はなのはのみ。
奥さんが高町桃子。政界のパーティーなんかで腕を振るうレベルのパティシエ。
旦那さんが不破士郎。圓明流じゃないけど、古流の剣術を継承しており、名称は御神流、正式名称は永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術の使い手。もしくはその裏である不破流かもしれないけど、御神の本家は全滅したらしい。身を隠すついでに婿入りした。
長男は士郎と元内縁の妻の『夏織』の子。因みに夏織さんは蒸発済み。基本的に見せ場を奪われる性質の人物で、一般人をはるかに上回る戦闘能力を持つのだが、周囲にそれを更に上回る人物しか居ない為に出番をいつも奪われる。
長女が美由希。実は恭也の従姉妹で正当な御神の剣士の後継者の血筋。原作の原作、とらいあんぐるハート3のメインヒロインだったけど、公式ヒロインの座を月村しのぶに持っていかれた哀れな元『ヒロイン(笑)』。才能だけなら恭也以上。
次女で末娘のなのは。今や管理世界の誰もが知る白い魔お……エースオブエース。家族内で唯一名前がひらがな。漢字で書くなら『菜乃葉』になるらしい。字が厳ついからとひらがなにされた。実はメカオタのカメ子。代名詞は『OHANASHI』。幼少期は運動音痴とされていたが、やっぱり高町の子。
親戚に唯一美由希の実母である御神美沙斗がおり、実質最強の『御神の剣士』。“非合法ギリギリの法の番人”香港国際警防隊に所属するツン^10デレ母さん。二本の刀の嵐で表現されるツンを生き残れれば一流。

※近々親戚が増えるらしい。


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12 ごまあえ

なにか、ドイツで用事が出来たとかで、恭也と忍、さらにノエルまで連れ立って、三人はドイツへと旅立ってしまった。

 

「ファリンは置いていくから、不純異性交遊とかはだめよ?」

 

責任取るならそれも在りだけど、なんて台詞は、しのぶが日本を発つ直前に俺に言い放った言葉。

思わず「如何しようコイツ」という視線をすずかに向けたのだが、一体何を如何したのか、すずかはその顔を真っ赤に染めてピュンと何処かへと走り去ってしまった。

 

嗜める恭也とノエルに引きずられ、笑いながら飛行機へと乗り込んでいくしのぶを見送りつつ、気配を辿り、出発ロビーの一角でしゃがみ込んでいるすずかの手を引いて月村邸に帰ったのはまだ記憶に新しい。

 

 

さて、そんな前日譚は別として、俺は一つ重要な事を忘れている事に気づいた。

 

――この世界が、リリカルなのはである、と言うことだ。

 

俺は確かにこの世界の原作知識を持っている。が、現在に至るまで活用された原作知識と言えば、裏業界っぽい暗殺者と相対した時だとか、ギーオスに関する知識だとか。要するに、この知識はとらハやガメラの知識であって、リリなの知識ではない!

 

其処で俺は、折角リリなの世界に居るという利点を生かすべく、またその他にも存在する可能性のある技術・可能性・危険性の対処の為、少し世界をまわってみることにした。

別に、最近寝ていると妙に視線を感じるだとか、すずかの視線が妙に肉食的だとか、このままこの家に無防備に滞在していたら喰われるんじゃないかとか、そんな事は思っていない。

 

最近矢鱈とスキンシップが過激になってきたとか、風呂にファリンと一緒に乱入してこようとしたとか、目が覚めたら裸の女の子が隣に寝ていたとか。別にそれらが色々拙いから出て行く、と言うわけではない。断じて違う。

俺としては据え膳を是非とも頂いてしまいたいところなのだが、流石に中学生を美味しく頂くわけにも行かない。せめて高校生になってから、うん。

 

「……どのくらい行くの?」

「とりあえず、一年「一ヶ月」……」

「来月には、帰ってきてね?」

 

こりゃダメだと判断して、結局月一で月村邸に帰ってくることに。

月一で帰ってくることを認めたら、今度は週一で帰って来いと言い出したので、これ以上何も言わせないように、両手と口を物理的に塞ぐ。

 

「………!?!?!?!?」

「いってくる」

「あーうーわー、凄い、すずかちゃん大人ですぅ」

 

そうして真っ赤になってパニックになっているすずかをファリンに任せそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 

 

それから、事前に海鳴とその近隣の暗部に繋がる暴力団系組織をさらっと地図から消した。俺が居ない間にすずかに手を出されるのは癪だし。

 

地球上を飛び回り、世界各地のギーオスの巣と思しき箇所を潰し、更に俺を作ったとされているアルハザード文明の残滓が他に何か残っていないかを探したり、3のラスボスの封印を探したり、色々と世界を回っている最中。

 

結論から言えば、3のヤツ、柳星張。ヤツの眠るとされる村と、その守人の一族に会うことは出来た。出来たのだが、どうも俺がその場を訪れる少し前に何者かがその場に侵入したらしく、既にその場は空っぽ。何者かに持ち去られたらしい。

 

凄く嫌な予感しかしないのだが、然しかといって俺を恨む少女なんて存在する筈も無い。何せ俺は表舞台で目立った活躍はしていない。活躍するときは、マナを使った一種の結界で、誰にも見られないようにギーオスを始末しているし。

 

第一最近は俺の出番も減り、対ギーオスの主力は既にTSFに移行しているのだ。

 

――故に、俺の直感は此処ではなく彼方に敵が在ると告げているのだけれども。

 

まぁ少なくとも、今すぐ此処で大怪獣が復活して、ソレと戦う、何て事には成らない。たぶん。

 

――空から降ってくるほうは知らないけど。

 

で、怪獣のほうは一先ず置いておいて、世界を回って調べた旧文明の遺産。もしかすると管理局側にロストロギアとして回収されてしまっているかもしれない何て思いつつ、ウルのセンサーを最大にして世界各地を回った結果。あったよありましたよ。世界各地に点々と。

 

例えば幾つかあった生命研究プラントタイプの遺跡。人をベースに強化することで、常人のソレを圧倒的に上回るスペックを持った、その代わりに異性の血を求めるようになってしまった強化人類のデータだとか、動物の遺伝子情報を組み込むことで強靭な生命体を生み出そうとした獣人タイプだとか。

他にも人ではなく無人機、ただし人の形をさせることで、ある程度人と共通規格で戦えるという自動人形の情報だとか。

 

 

……うーん、何か全部何処かで聞いたことの在るような。というか、こじ付けが過ぎるだろう。

 

 

情報こそ多々あったものの、そうした生命系のプラントは大半が機能を停止。中に何かが浮いていたのであろうポッドは内側から砕かれ、中には分厚い埃が堆積していた。なんとなくコレが起源だったりするのだろうか、なんていう考えが浮かぶものの強制的にシャットアウト。

 

他に見つけたのが、海底で沈没していた大型のプラント艦。主機が魔力炉で、エネルギー切れで停止していたソレ。ウルからエネルギー供給をしてやると、即座にシステムが再起動。中に仏さんが漂っていたらイヤだな、なんて考えていたのだが、沈没の後に搭乗員は全て転移で脱出したと言う記録がメインコンピュータに残されていた。

 

……そう、このプラント艦、なんと電力を通しただけで、メインコンピュータのデータが復元されたのだ。

 

これはいい拾い物だと、システムをウル側からハッキング。複数個の縮退炉で過剰出力を誇るウルからのエネルギー供給により、浮遊こそ不可能だが、潜水艦程度の機動は可能となったそのプラント艦。

 

主機以外の殆どのシステムは、電力供給により蘇ったので、ついでとばかりに艦のデータをチェック。そうして出るわ出るわ、お宝の数々。

アルハザード時代のインテリジェントデバイスの材料、現物、システム情報、魔力炉、次元航行システム、宇宙航行システム。そのた様々なデータを引っ張り出す事に成功した。他にも沢山の物資が搭載されていたその艦。どうやらギーオスから逃れる為の箱舟の一つだったらしいそれ。ご先祖様、あなた方の残した遺産は、我々が有効に使わせていただきます。

 

なんて事を考えながら、回収したデータをB&Tに引き渡した。これで更に技術開発が過熱するだろう。流石にこの規模の艦を引き渡すのはスパイ対策とか色々な観点から承服しかねた。

 

 

 

そうして地球上を在る程度回りきった俺は、更なるアルハザードの遺産を求めて、拾ったプラント艦とウルを使い次元世界中を航行した。

 

途中でミッドチルダを訪れる機会もあり、何となく仲良くなったオレンジツインテの少女に、魔導師ではなく戦場で生き抜くための兵士としての技術を伝授してみたり。

 

アルハザードの遺跡を探していたら、何故かベルカの遺跡に遭遇。その中に建設されていた違法研究所の中で赤い融合機を拾って、何故か懐かれてしまったり。因みに違法研究所は一人も逃さず滅ぼしておいた。

 

森の中で竜と共に暮らす一族の里に迷い込み、何故か棄てるという少女を保護して、月村邸に連れ帰ったらすずかに思い切り殴られたり。俺は産ませてない。だから浮気なんかしていない。だからその包丁を仕舞え!! 眼を赤く染めるな!!

 

何か、アルハザードの遺産というより、原作のキーパーソンをあらかた奪って行ってるような気がしないでもないが、きっと気のせい。たぶん、めいびー。

 

 

 

 

そんなこんなで、StS前に大分原作を荒らした感のある俺なのだが、その過程で気づいた事がある。

 

先ず一つに、この世界、俺以外に転生者が居る可能性が在る。その可能性の理由に、すずかが語る「なのはちゃんとフェイトちゃんのボーイフレンド」なる人物の存在。二人と同じ仕事をしている、と言う話しか聞かないが、少なくとも俺は原作にそんな人間が居たとは知らない。

 

オリ主というよりオリキャラだ、と言う可能性もあるのだが、俺が救いたいのは地球。ミッドまで手を伸ばす心算はないので放置していれば問題は無いだろう。例外として、仇をとりたいというあの子なんかには、地球の俺の連絡先を教えて在るが。

 

他に、俺と言う存在の戸籍がいつの間にか用意されていた、というのもある。

どうやらしのぶの手配で、俺の戸籍が用意されていたらしい。

 

因みにその用意されていた戸籍だが、「メラ・シューメーカー・秋星」という。

 

米日のハーフで、名前の由来はネットで適当に検索した結果、だそうだ。適当な。

更に付け加えると、来年度からすずかと共に私立聖祥大付属高校に通え、との通達が届けられた。

 

うへぇと思いつつも、「貴方は平和に生きたいんでしょ? やることはやってもらったんだし、後は現人類の仕事よ」という忍の言葉と、目をキラキラさせて全身から期待を迸らせているすずかに圧倒され、仕方なくソレを了承。まぁ、いざとなれば飛び出せば言いだけの話では在る。

 

まぁ、すずかと一緒に学校へ通うのは面白そうだな、なんていったら、また顔を真っ赤にするすずか。あぁ、かわいいなぁ。

 

あともう一つ。忘れていたのだが、この地球に住む管理局世界の人間の事。俺の知る限りの二名、リンディ・ハラオウンと、ギル・グレアムという二人。

ふと思い出し、この二人がいたなら地球の急速な技術的革新について何等かの情報が管理局へ流れてしまったかな? 何て考えていたのだが。どうやら魔力を餌食とするギーオスが、対抗するすべのない(と思われている)文明的後進世界(と言うのが一般認識らしい)に留まるのは危険と判断し、管理世界へと逃げ帰ったのだそうだ。

 

何かその理由がいろいろムカつくが、まぁ消えてくれたのならあえて如何しようと言うことも無い。

 

 

 

 

 

 

Side other

 

 

メラが次元世界での遺産回収を終え、地球へ戻り高校生活を送り、渡した遺産技術の解析が進むその最中。ある日突然、空中から染み出すようにして現れた成体ギーオス。

 

地球上からの侵攻ではなく、他の次元世界で育ち、餌を求めて地球を訪れたのであろうその個体。体長100メートルを超える超巨大怪獣。

 

地上のギーオスを幼生段階で駆逐しているからと、近隣の次元世界への警戒を怠ったツケかとメラは唇をかみつつ、最初に出現した中国山中に住み着こうとしたギーオスに中国軍が総攻撃。この時点でTSFを多数配備していた中国軍はギーオスを駆逐するかと思われていたのだが、これをギーオスは撃退。

 

既に成体であるギーオスに時間を与えれば間違いなく産卵しその数を増やす。それは拙いと判断した国連は、即座に国連軍の派兵を決定。周辺各国から送り込まれた多数のTSF部隊が投入された。

 

これでギーオスに巣を作らせないことには成功したが、何よりも成体のギーオスはそれ以下のギーオスに比べ、圧倒的に機動力が上昇している。UN軍の包囲網を突破したギーオスはそのまま東進。国連軍の派兵により手薄になっていた日本を目指して飛来した。

 

この緊急事態、戦力は殆どで払って手薄となった現状に、日本の国会は大いに荒れた。急遽月村の日本工場で組まれたTSFに訓練兵を搭乗させ、本隊帰還までの時間稼ぎにするか、などといった案まで飛び出したほどだ。

 

しかしその非道な作戦に待ったを掛けたのが、月村家現当主、月村忍だった。

月村忍が提示したのは、B&Tが独自に開発していたSR計画の機体を実戦に投入するというモノであった。

 

これに日本政府らは難色を示したが、しのぶは同時に訓練生に機体を与え戦場へ連れて行くことを代価にSR計画機の投入を認めさせた。

 

そして実際に投入されたSR計画機。

最初に投入されたのは、マナ理論により物理法則を超越するという目標を持って建造された、サイバスター。

搭乗者は月村財閥当主、月村忍の婚約者である高町恭也である。彼自身にはサイバスターを操る魔術センスは無いものの、ソレをフォローするB&T(の中でメラ)の開発した、魔術プログラム代理演算仮想人格システムにより、機体搭乗時の魔術制御を代行。そのシステムにより恭也の魔術実装機搭乗を可能としたのだ。

 

因みに、恭也専用サポートAIの名前はエセルドレーダといふ。

 

このサイバスターにより軌道を逸らされ、宮崎県山中への撃墜に成功。とはいえまだ体力に余裕のあると思われるギーオス。そもそも30メートル級のサイバスターではギーオスとの空戦は出来ても、ギーオスを撃破するために多くの時間を要する。

 

其処で次に戦場に投入されたのが、B&Tグループの片割れたるバニングス家、その令嬢たるアリサ・バニングスの駆るガオガイガー。補助AIはアラストール。規模としてはサイバスターよりも若干上程度なのだが、此方は陸戦を誇る機体。

 

(実はすずかから流出した)SR計画技術を使い、(アリサとすずかが)秘密裏に建造された機体であり、本筋のSR計画機ではなかったりするのだがソレは余談。

ガオガイガーとサイバスターの連携攻撃により、ダメージを蓄積していく成体ギーオス。そんなギーオスが再び宙に舞い、その場から逃げ出そうとしたところで最後の三機目が空中に登場。

 

如何やって飛行しているのか、何等かの化学反応ロケットらしき物の燃焼の気配すらなく、ただ泰然と空中に飛行するその機体、名は天のゼオライマー。これもまた(流出した)メラの技術により(すずかが勝手に)組み上げた機体である。補助AIはミク。歌姫のほうである。

 

ゼオライマーにより超上空から地上へ叩き落されたギーオスは、然しそのまま軌道を微妙にずらし、流れ太平洋へ墜落。海中から脱し、再び上空へ舞い戻ったところへ、メラすらそのシステムを知らない、すずかの独自技術・次元連結システムによるメイオー攻撃により、既にボロボロであったギーオスに止めを刺した。

 

後にこの戦いにおける映像が世界に流出。世界各国から、このSR計画機の情報提出が求められた。

これにB&Tは、幾つかの条件(戦争におけるSR機の使用禁止を定義した条約の締結)を持って、その中枢システム(魔術系技術)を除き、器を作るだけならば可能な技術を世界に(勿論特許は確保して)開放。コレにより地球では第一次SR開発競争が起こるのだが、ソレはまた別の話。

 

 

 

Side other 2

 

「見たまえウーノ、これは素晴らしい!」

 

そうして、そんな激戦が繰り広げられている地球とは少し別の場所。とある無人世界の地下に設けられた秘密基地の中で、一人の白衣の男が顔面を崩壊させて喜んでいた。

 

「どうしましたドクター」

「どうしたもこうしたも無いさ、見たまえウーノ!」

「これは……ドゥーエの持ち帰った石、ですか?」

 

ウーノと呼ばれた女性、その視線の先に在るのは、様々な機械につながれた奇妙な石。時々不自然に明滅するソレは、とてもではないがただの石には見えない。

 

「石? これはそんなものじゃない。これはねウーノ、卵なのさ」

「卵? コレがですか?」

「そう! しかも炭素年代測定で図ったところ、一万二千年以上の古代の代物だ。しかもこの卵、生きていた」

「いき……!?」

 

その白衣の男性がぽろりと自然に零したそんな事場。ソレを理解し、ウーノと呼ばれた女性は一気にその金色の瞳を丸く開いた。

 

「ドゥーエには確か、上が見つけた『トリ』に関するデータを集めさせていたのでしたよね?」

「ああ、これはその調査の過程で発見された物だよ。トリの遺伝子情報を求めていたんだが、ソレと似た魔力波形を持つ、とドゥーエに持ち込まれたんだ。それが……」

 

そうして再びドクターと呼ばれた男の顔が喜色に歪む。

 

「これは素晴らしい生命体だよ。あのトリすら上回る、凄まじい生命体だ」

「ドクター?」

「確かに基礎はあのトリと同じものなのだろう。然しコレにはトリの環境適応能力を上回る、まさに進化というに相応しい驚異的な遺伝子細胞が在るんだよ!!」

「進化、ですか」

 

その言葉に理解が追いついていないのだろう。ウーノは呆然と彼の言葉に合図地を打つ。

 

「ああそうさ。これは面白い素材だ。なにか他の物に混ぜ込んでみれば、一体どんな反応をするのか……そうだ、アレを試してみようか」

 

そうしてドクターが視線を向けたのは、一つのガラスポッド。

 

「っ!? ドクター、アレはそのまま最高評議会へ……」

「あぁ、そう何だが……どうせ老人連中の手ごまにされるなら、爆弾の一つくらい仕込んでおくのも面白そうじゃないか?」

 

そういって高笑いをしだすドクターと呼ばれた男性。その笑い声は、暗い地底の底で、何処までも響き続けるのだった。

 




色々ヤバイフラグが乱立。

・柳星張
やばいフラグその1。勝利の方程式が思い浮かばない。
・空から降ってくるほう
やばいフラグその2。ちゃんと対処しないと人類が滅びる。
・生命研究プラント
ヒント1:月村 ヒント2:綺堂家 ヒント3:エーディリヒ式
物凄いこじ付け。
・オレンジツインテの少女
魔改造フラグ。ガンナー少女。立派な兵士へ!
・赤い融合機
拾われた融合機。原作崩壊フラグ。
・竜の一族の追放少女
原作崩壊フラグ。魔力含有生物を狙うギーオスが竜種を狙ったところ、偶々ギーオスを追っていたメラが迎撃。その際村と知り合い、少女を引き取る。
養子化した為名前が変わった。
・なのは&フェイト達のボーイフレンド
オリ主フラグ。本作開始が原作で言う空白期からで有った為、既にオリ主たちはその活動拠点をミッドへ。結果メラの活動はオリ主たちに気付かれる事は無かった。
・メラ・シュメーカー・秋星
日米ハーフで月村の遠い親戚という設定。
・地球上の管理局
ギーオスの大量発生に伴い、その全局員・及び全関係者が地球上から撤退。
・サポートAI
……エセルドレーダ ヤバイフラグ。声優ネタ。別に前置きとかではない。ということで。
……アラストール 荒簾 透さん。喋りがジジくさい。
……ミク ミク違い。一応歌姫のミク。
・SSR計画
すずかによるスーパーロボット計画
本来メラ主導により進められていた呪術的なSRとは違い、メラがすずかにポロッと零した技術を用い、すずかが独自に設計を進め、アリサが悪乗りで開発したアニメ系スーパーロボット。
・SR開発競争
日本、B&Tが独自に開発したSR機の性能に脅威を感じた各国が、その性能開示を要求。その結果開示された技術を用い、各国でSR機開発ラッシュが開始された。
因みに某国らが「SRなんてとんでもないものを作ったんだ。責任とってそのパイロットの養成施設を作れ。ただし金は全部お前持ちな」的な発言をしたが、B&T及び日本政府「はぁ?」の一言によりその意見を蹴り飛ばした。
・生きた石の卵
かなりヤバイフラグ。よりにも寄ってこの人の手に渡ってしまった。


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13 4YEAR’S

今回会話はかなり少ないです。



そうして、あれやこれやと言う間に四年の歳月が過ぎた。

地球では派手に政変が起こり、国連(UN)が変化して地球連邦(EF)になったり、地球人に魔術プログラムを伝授してみたり。

 

UNがEFに変化した切欠は、某年に起こったレギオン襲来が大きな切欠となった。

 

最初にレギオンが襲来したのは、これまた中国。本当なんであそこはあんなに狙われるんだろうか、なんていうのは世界各国共通の思いだろう。

で、最初に草体が生えた中国某所。カシュガル、という文字を聞いて、あの時程絶望的な思いに駆られたことは無い。

 

何を思ったか中国政府は、地上にハイヴを構築したレギオンを捕獲しようと行動、国連軍の介入を拒絶。その危険性を訴えるB&Tの声すら無視し、強引に捕獲作戦を強行。

 

その結果レギオンは見事に草体を爆破・射出。某都市は完全に消滅し、草体は更にユーラシア東部を侵食。ある意味でユーラシア大陸最大の問題区域はさっぱり綺麗に成ってしまった。

 

コレに対し中国軍は戦術核による焦土作戦を決行。反対する周辺各国の意見を無視し、核投入を強行した中国軍は、なんとかレギオンの侵食拡大を抑えることに成功し、レギオンの群を一点に抑えることに成功した。まさしく初期の対BETA戦略だという状況に陥ったわけだ。

 

――が、ここで問題となったのが核使用による環境汚染だ。

 

B&Tから世界に公開されたマナ・マップ。これは環境変数をシステムに入力する事で、マナと呼ばれる仮想的な地球の生命力をグラフィカルに表示すると言うソフトだ。ドリキャスは使わなかったが。

 

――で、この核使用で中国大陸が真っ赤に染まった。

 

殲滅しきれないマザー・レギオン、環境の激減によりあふれ出した大陸のギーオス。最早地球はコレまでかと、誰もが諦めかけたときに、なんとかB&Tの力で強制的にレギオン戦に介入する事に成功。

ただでさえダメージを受けている地球上で、そのマナを更に酷使するウルティメイト・プラズマの行使は不可能。レギオンに肉弾戦を挑むと言うルナティックな作業を何とかこなし、至近距離からのバニシングフィストで内部から破壊。何とかレギオンの撃退に成功する。

 

然しその時点で個人の生命力としてのマナを消費しきってしまい、即時戦線復帰は不可能と言う状況。そんな状況でギーオスの大群に挑んだのは、周辺諸国で建造されていた各国のスーパーロボット軍団だ。

 

レギオンの拡大防止の任を解かれ、いざ反抗に出た光子反応炉を主機とした多数の超大型ロボット群。更に増産されたTSFまで持ち出して、周辺諸国による同時攻撃が開始された。まさにリアル・スーパーロボット大戦という有様に、日本やドイツなんかからは野太い黄色い悲鳴が上がったとか否とか。

 

然しギーオスもカラスレベルとはいえ知恵を持つ怪物。その全体の3割が撃破された時点で、ギーオスの群は三つに分かれて世界各地へ逃走を開始。

 

一つの群れはアメリカ大陸へ。

一つの群れはヨーロッパ方面へ。

一つの群れはロシア方面へ北上した。

 

結果としてギーオスの殲滅には成功した物の、主だった発展国は総じて壊滅的打撃を受け、本格的な『人類の危機』を誰もが予感した。

 

 

 

そんな中でB&Tが行なったのは、俺――先史文明の遺産の存在を明かすこと。

各国が戦力を持っている状況では小出しにしか出来なかったオーバーテクノロジー。然し慢心の結果として滅びかけたその状況では、そんな事も言っていられる状況ではなくなっていた。

 

力を残した各国により、UN(国連)をEF(アースフェデレーション:地球連邦政府)へと再構成。EFの議会によりこの開示された技術を統制し、人類のためにのみ使うと言うその制御の為、国際連合は地球連邦政府として新生した。

 

……さすがの俺も、此処まで世界が追い詰められるとは思っても居なかったのだ。いや、ギーオスを初期段階で倒し、その本格的驚異を人類に理解させなかった俺の手落ちかもしれない。

 

そうして新生された地球連邦、及びその軍部実行機関であるEFF(アースフェデレーションフォース:地球連邦軍)。多次元世界の存在を遺産から示唆された地球連邦軍は、即座にこの対応に乗り出す。

 

案としては、多次元世界へ進出し、コレを制圧。新たな資源確保と同時に、ギーオスに対する絶対防御網を形成する、と言うものだった。

然しコレにB&Tが反発。次元世界は広い。それこそ底なしに。そんなものに『領域』を形成しようというのは無謀を通り越して愚者の所業と言うものだ。

そんな否定意見と共にB&Tが出したのは、地球上に次元世界との接続を断つ次元断層フィールドを展開する、というものだった。

 

衛星軌道上に展開された縮退炉を搭載した巨大なフィールドジェネレーターにより形成される次元断層フィールド。これにより、地球および宇宙からの侵入を防ぐ、と言うものだ。

 

即座にその計画は実行され、地球上を異世界との接続から隔離する事に成功。残すところを、環境変動により発生する内患のみとした。

まぁ、この内患に関しては適宜駆逐していくしかないので、EFとして世界各地にTSFを配備する事で対処する事に成ったらしい。

 

そうしてギーオスに対する備えが進む中で、更にマナを用いたアルハザード式魔術に関する研究というのも進む。

このマナと言うのは、要するにあらゆる生命体が持つ生命エネルギーの事で、個人が持つと同時に地球も持つモノだ。

 

ミッドやベルカの使う魔法との相違点は、『生命力であるマナ』を使うためにかなり過酷な修練を必要とする点だろう。リンカーコアの有無に左右されない代わり、対価となるのは己自身の生命力なのだから。

ミッドやベルカのリンカーコアを使ったものと比べると、リンカーコアを使ったものは『呼吸』のように魔法を使い、マナを使う術は『血液』を対価に術を使うようなもの、と言えば少しは理解できるだろうか。

幾ら激しく呼吸をしたところで、過呼吸にこそなれど死ぬ事はない。しかし血液を対価にする術は、いずれ貧血に、果てには失血死という運命が待ち受けている。

――で、流石にコレに関しては手を出す人間は居ないだろう、というのが俺の予想であった。……のだが、甘かった。公開されたこの技術、手を伸ばす人間は世界各国に存在した。

 

流石に指導者もなしに独自で手を出されるのは拙いので、俺がB&Tから「いち派遣技術者」として出向し、マナを使用したアルハザード式……マナ使用を前提として改変された『ガイア式魔術』として、召集されたEF各支部の人間にそれを教授。その中にティアナとキャロ、アギトをこっそりと混ぜて置いたのは、本人等の希望による物だ。

 

この『ガイア式』の教練により、各国のSRに魔導理論実装型が登場。中でも俺が認めた国連軍の3人には、グランヴェール、ガッデス、ザムジードの魔装機神を送っておいた。恭也のサイバスターを作った時の試験機、そのレストア機を再利用したのは内緒だ。

 

――因みにだが、この世界、バ●ダイをはじめとした各ゲーム・アニメ企業は存在した。一応パロディーな機体は権利を得ているのだが、逆に広告料を払われそうになるほどに、実在の機体の存在により株価が上昇。大手に成長していたり。

 

他にも某「名前が三年の単位にされている会社」は流石に年齢制限で引っかかるかと思ったのだが、何故か此方もこの世界に存在。やっぱりこの世界、元が元なだけにその辺りは寛容なんだろうか。

 

話を戻す。ガイア式魔術を教えた結果、ティアナはサイレントキリングを得意とする魔術暗殺者っぽい存在に。まぁ、普通に兵士としても優秀なのだが、どちらかと言うと特殊部隊員だろうか。キャロは自己ブーストによる、支援も出来る万能型グラップラーに。アギトはワイルドキャラから騎士キャラへと成長してしまった。

 

で、その後ティアナは管理世界へ戻り、ティーダの汚名返上の為に管理局の陸士訓練学校にて活動を開始。キャロは俺の教導中に目を付けられ、国連でガイア式魔術師の教導官の任を与えられてしまった。本人はチョット恥ずかしそうにしてたが、あれは多分他人に認められたことを喜んでいたのだろう。

 

アギトはというと、ガイア式のフォーマットをし、実際にその運用を肌で確かめた事で、より固体として強力なユニゾンデバイスへと成長していた。生命力を操るガイア式を、ユニゾンデバイスであるアギトが扱えるのか、という問題点はあったのだが、どうやらガイア式における生命の定義とはかなり広いものらしい。

 

因みに俺が関わった事で、最もその原作キャラを崩壊させたのは、間違いなくこのアギトだろう。何せもう姿からして違う。

原作ではフェイトより際どいワイルドなビキニの、ショートツインテールだったが、現在は何処か俺のに似た身軽そうな軽鎧に身を包み、その髪も真直ぐ背中に下ろしている。アギトと俺とのユニゾン適合率は高めで、ユニゾン時は赤い外炎に白い内炎が立ち上るような姿となる。

さらにマナ、オカルトエネルギーの塊のような俺とユニゾンした事で、純粋なデバイスから九十九神っぽい何かに変質してきているらしい。神咲一灯流の人に聞いたのだ。間違いない。

 

 

 

 

 

 

そうしてとりあえず地上を安定させ、ガイア式魔術を国連内に浸透させている最中。不意に地上へと飛来したのは、再びのレギオンの草体だった。

コレに今度こそ世界はEFを中心として集まり、即座に草体を駆除。マザー・レギオンは一緒ではなかったらしく、TSFと現地のSRの活躍により、草体は早期に駆逐された。

 

然し問題となったのは、何処からこの草体が飛来したか、と言う点。レギオンとギーオスの再来から急遽仮設した次元断層フィールド生成衛星、それと並び設置された外宇宙監視衛星。然しこの外宇宙監視衛星にはソレらしき飛行物体の姿は観測されず、NASAや世界各国の天文台も言葉を同じにした。

 

そうして更なる調査が進められる中、不意に一つの答えが得られた。それが、レギオンが月に拠点を作っているのではないか、と言う仮説だ。

 

地上からの観測ではレギオンの存在は確認できなかった物の、急遽地球防衛網に敷設された人口衛星の一つを月の裏側へと飛ばした。その結果、月の裏側のクレーターの中に、レギオンの草体が育っている事が確認された。

 

このまま放置していては、地球は常にレギオンの驚異に晒され続けることに成る。ましてレギオンは草体を使い増殖するのだ。月で増殖したレギオンが、一気に地上を襲わないとも限らない。

 

コレに人類は急遽国連のSR軍団を月へ派兵。月の表側に拠点を建設しつつ、月レギオンの勢力を削いで逝き、ついに現在それらをコロリョフクレーターの中へと追い詰める事に成功したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「で、そんな激戦の真っ最中に居る筈のメラさんが、なんでこのミッドチルダにいるんですか?」

 

そういって胡乱気な表情で此方を見るオレンジ髪のツインテール少女。名前をティアナ・ランスター。ミッド擬装ガイア式魔術を扱う俺の二番弟子の魔導師だ。

 

「陸戦B、合格したんだろう?」

「なっ、何で知ってるのよ!?」

 

チラリと視線をティアナの腰、ベルトに装着されたカード型のデバイスに目線をやる。

 

「……お前か、ファントムクロス!!」

『ハッハッハ、いえ、マイスターから頼まれていたことですから。あぁ、ダメですってマスター、フレームが歪む、ゆが、アーッ!!』

 

カード型の待機状態のデバイス、ファントムクロスをへし曲げながら声を荒げるティアナ。因みにファントムクロスの声は小野Dだったりする。いや、ほら、ティアナの搭乗機体は武御雷(黄)だからだ。

 

「Bランク合格おめでとう」

「――あ、ぅ、……その、ありがとう」

『おやめずらしい。マスターがてれて……ハッハッハ、いえ、なんでもないですよ? なんでもないのでマスター、フレームを曲げるのを止めてください。ギシギシ言ってますから』

「なら黙ってなさい」

 

目の前でギャグっているティアナとファントムクロス。うん、中々いいコンビに仕上がっているようだ。ティアナには忠僕よりも箴言を述べる道化が必要、なんて考えてお惚けな人格に設定したのだが。上手く言っているようで安心した。

 

「――って、ああ違う!? そうじゃないんですよ、なんでメラさんが此処に居るんですかって話を」

「だから、祝辞。ついでに食事でも」

「すずかさんに怒られますよ? じゃなくて、どうやって次元世界に? 次元断層フィールドがあるのに」

 

言われて首を振る。というのも、ティアナを此方に送り返すとき、地球には既に次元断層フィールドを展開し始めていた。

ティアナ本人は時空管理局に就職する心算であったため、フィールドが地球上全てを覆いつくす前に此方に送り返したのだが。

 

「月基地には、フィールドは無いからな」

「……あぁ、成程」

 

レギオンの撃退において、流石に行って倒して地球へ帰る、なんてファミレス気分で月と地球を往復する事はできない。其処で月には、レギオン本拠地に攻め込む為の橋頭堡として幾つモノ基地が建設されているのだ。

 

「地球からミッドは無理でも、月を経由すれば往来可能だ」

「成程。……あの、月の座標、貰っても?」

「ああ。月のポートを使うときは連邦の登録コードを……ファントムクロスがいるか」

『そうですよマイスター。僕がいる限りは……って、話し聞いてます? ちょ、座標データの容量大き、アーッ!!』

 

ダメだコイツ、と言った表情で自分のデバイスを眺めているティアナ。まぁコイツの役割は、堅物のティアナの柔らかさを補うというモノだから、逆説的にティアナがどれだけ堅物か、と言う話しなのだが。

 

「で、ですよ」

「?」

「惚けても無駄です。態々私に会うためだけにミッドに来た、ってワケじゃないんでしょう?」

ばれたか。思わず苦笑しつつ、ティアナの頭に手を置く。

「それだけじゃないけど、ソレが主目的だ」

「ちょ、私もう16ですよ、頭を撫でられるような年齢じゃ……」

「気にするな」

「気にします! すずかさんに言いつけますよ!」

 

言われて渋々ティアナの頭から手を離す。すずかに言いつけるとか、そんな事に成ったら……うぅっ。

なにやら心無し若干もったいない事した子供のような表情をしたティアナの頭を最後にポンポンと撫でて話を変える事にする。

 

「ティアナ、機動六課に誘われたんだろう?」

「なんでその事を……ファントム、あんたそんな事まで喋ってるの?」

『いやいや、流石にそんなつい最近決まったばかりの未確定事項まで報告できてませんよ。マイスター、本気で得体が知れませんね』

「喧しい。それで、如何するんだ?」

「……受ける心算ですが」

 

少し間をおいて答えるティアナ。その表情には困惑の様が浮かんでいて。

 

「何か、問題が在るんですか、あの部隊」

「色々とな」

 

言いつつ、情報運搬用に持ち運んでいるデータストレージからファントムクロスへデータを送る。ついでにファントムクロスに命じて、ティアナの前にデータを開かせた。

 

『ですからマイスター、強制干渉は勘弁してくださいと……』

「ちょ、何よこれ!?」

 

と、ファントムの言葉を遮って声を上げるティアナ。その視線の先に在るのは、機動六課、その後援者の名前の欄だろう。

 

「クロノ・ハラオウン提督、リンディ・ハラオウン元提督、聖王教会のカリム・グラシア、更に伝説の三提督の名前まで……」

『おやおや、これはまた、中々にビッグネームが御揃いで』

「機動六課はミッド地上部隊。でも、後見人に……」

「……!? なんで地上部隊なのに、後見人の名前に地上本部の人間の名前が無いの!?」

それは、普通で考えればありえないことだ。何せそれは、陸軍の部隊なのに責任者が海軍だというくらいにおかしな話だ。同じ軍だと言えど、海と陸では別のセクションだというのに。

 

「色々事情が在るみたいだが、少なくともまともな部隊ではない」

 

――まぁ、間違いなくいい経験とキャリアは積めるだろうが、と言葉を結んでおく。

 

「どうする?」

「…………それでも、私は、機動六課に行きます」

「いいのか?」

「ええ。確かに怪しいですけど、でも、これはチャンスでしょう。前にも言いましたけど、私は証明したいんです。兄さんの、いえ、ランスターの弾丸は砂糖菓子の弾丸なんかじゃなくて、ちゃんと実弾なんだ、って」

 

問い掛けに、静かに、けれども力強く答えるティアナ。その昔、確りと鍛えてやった影響か、昔のような怨嗟を感じさせる瞳ではない。目標に向かって、挫けても尚諦めないそれは、まるでヒーローの瞳だ。

これなら大丈夫かと首を縦に振る。それじゃ、次の質問だ。

 

「ティアナに、頼みが在る」

「頼み? メラさんが、私に?」

 

頷き、再びファントムクロスに干渉しようとして、今度は普通に声を掛ける。何か『そこは天丼でしょうに……』なんてぼやいているデバイスは知らん。

 

「これは……?」

「機動六課の名簿だ」

「『ブフゥッ!!??」』

 

あ、噴出した。

 

「ちょ、メラさんどっからこんなモノを!?」『マイスター、流石にこりゃ拙いと思いますが……』

「うむ、だから見たあとは削除を頼む」

言いつつ、ファントムクロスにアクセス権を貰い、データストレージから見せたい情報を索引する。

此方がティアナに見せたいのは、機動六課の実動戦力。

 

――本来の原作での機動六課。その戦力のうち、ティアナにはかなりの強化を。キャロに至っては管理局が引き取る前に此方で引き取ってしまった。その事に気付いたのは、実はつい最近だったりする。あまり原作組みって興味が無かったので。

で、ちょっと試しに調べてみたところ、すずかが偶に口にしていたなのはたちと共に行ったという幼馴染達。彼らの存在が浮き上がってきたのだ。

 

「見てもらいたいのはこの二人。御剣護と鳳凰院朱雀」

『マイスター、これどんな厨二病だ』

「俺に言われても知らん」

「?」

 

言い合う俺とファントムクロス。ただティアナだけはキョトンと首を傾げていた。そうか、ティアナは漢字、というか日本語が読めないからミッド語で読んでるんだよな。ミッド後はアルファベットに近いから……。

 

「えっと、それで、この二人について如何すればいいんですか?」

「ああ。この二人、機動六課に行くのであれば、顔を合わせると思う。彼らに会って、どう思うかを教えてくれ」

「? そんな事でいいんですか?」

 

怪訝な顔で此方を見てくるティアナ。まぁ、ティアナにしてみれば、管理外の97番で、それも裏でチマチマ暗躍している謎の人物が、態々管理世界に来たと思えば、ただの局員(とはいえ戦力としては上位)の感想を求めてきたのだから。

 

「ああ。対処するにしても、物によるからな」

「対処……彼ら、何か問題が?」

「いや、問題と言うほどではない。ただ、地球出身という事だからな」

「(それなら高町一等空尉だって実家は97番――というか、恭也さんの妹さんの筈……やっぱり何かあるの?)」

 

胡乱気な表情で見つめてくるティアナだが、流石にこの先の情報を彼女に話すわけには行かない。

御剣 護、鳳凰院 朱雀。この両名が転生者であり、如何いう人物なのか、どう動く心算なのかを知りたい、だなんて。

 

「でも、凄いですねこの二人。御剣二等陸士は陸戦A、鳳凰院って人は、嘱託で……変換資質に広域殲滅の使い手!?」

「ティアナが一番苦手なタイプだな」

「……いざとなれば、魔力中和フィールドを張って逃げます」

 

苦々しげにそう言うティアナ。ティアナは兵士としては優れているが、魔導師としての力量で言えば中の上。相手を如何こうする技術には優れているが、一撃で更地を作るような力技には全く向いていない。

まぁ相対するのであれば、ティアナの言う通りガイア式のマナを使った術で魔力を中和分解してしまえばなんとでもなるのだが。

 

「でも、報告するにしてもこれ、何処に報告すればいいんですか? 私、機動六課がスタートしたら、六課の隊舎に入りますよ?」

「大丈夫。暫く此方に滞在する」

「あぁ、成程……はぁっ!?」

 

大きな声を出すティアナに、咄嗟に耳を塞ぐ。

 

『おやおやマスター。レディーならもう少しおしとやかに……』

「うっさい馬鹿ファントム! これが黙ってられる自体じゃないのはアンタも理解できるでしょう!!」

『そりゃまぁ、確かに』

「そんな、大げさな。たかが暫く地球を離れるくらい」

「その少しで地球が壊滅したら如何するんですか! 具体的には身内の手で!!」

『そうそう。マイスターが少し地球を離れただけで、経済が大混乱を起すんですよ? 具体的には身内の手で』

 

その余りにも凄い言われように、思わず額を流れる冷や汗をハンカチで拭い去る。誰とは言わないけど、其処まで言うか? 俺はアレの彼氏なんだけど。

 

「でも、メラさん反論しませんよね?」

『マイスターは理解がありますよねぇ』

「…………」

 

まぁ、否定は、なぁ。事実が事実だし。

 

「……実は、すずかも此方に来ている」

「え、ええっ!?」『ミスすずかまで?』

 

実際、俺が暫く地球を離れるといったら、すずかはえらくごねたのだ。あの黒い瘴気を撒き散らし、時には怒りの視線で、時には無表情で、時には死んだ魚の目で、最後には涙目で。

 

……其処までされてしまえば、一応彼氏をやっている俺としてはついて来る事を認めざるを得なかった。

 

「ま、まさか、ウルごとですか!?」

「……カスタム3ごとだ」

「な、何て事を……」

 

ウルと言うのは、実は艦種の商標名なのだが、既に俺の旗艦のペットネームになってしまっている。

で、そのウル・C3というのだが、要するに最低限の生活スペースしかなかった小型戦艦の如きウルに、更に格納スペースや何やらのある艦を作って繋ぎ足した物だ。

簡単に言うとキャンピングカー(SR搭載)。管理局に戦争を仕掛けられる戦力である。

 

「――いいです。わかりました。でも一つだけ約束してくださいね」

「なんだ?」

「『私/俺達がいるところに喧嘩ふっかけないでください!!」』

「……分った」

 

笑いながら頷く。確かにティアナの身分を考えると、不審な戦力を抱える俺と出会えば、先ず間違いなく職務質問を行なうのは必須。というかそれが仕事だ。だが、俺が職務質問を受ければ、間違いなく逃げるか抵抗する。であれば相手は当然捕まえようとするだろう。

 

さて、ここで俺の実力を良く知っているティアナは、本当に俺を捕まえられると思うだろうか。因みに俺は素手(バニシングフィスト)でギーオスの成体を砕ける程度には腕を上げている。

 

「じゃぁ、メシに行くか」

「――って、本当に行くんですか!?」

「偶に会った妹分に、飯をおごるくらいはさせろ」

「……それじゃ、お言葉に甘えて」

 

なんだか少し照れたような雰囲気のティアナ。その頭を軽く撫でつつ、二人揃ってミッドの食事どころを探し、ぽかぽかした昼下りの道を歩くのだった。

 

 




■ティアナ・ランスター
本作でかなり主人公の影響を受けて魔改造された人。機動六課編のサブ視点。
ティーダを貶され、我武者羅に成っていたところをメラに拾われ、その後メラの元でガイア式の修練を行ない、更に御神の業も若干盗んでいる。
一応EFFにも籍を置いており、その中で対ギーオス戦、対レギオン戦を経験し、TSFもSRも、基本的な陸戦兵器は大抵使いこなせる前線万能型の人。地味に超人化しているため、一般的な陸戦Bの射撃魔法程度では傷も付かない。
使用デバイスはガイア式擬装ミッド・銃型の『ファントムクロス』。魔力(マナ)噴射による疑似的な空戦も可能。
■ファントムクロス
ティアナ専用の銃型デバイス。本来はガイア式を扱う為のデバイスであるが、ミッドでの活動に合わせてミッド式に擬装した術式を扱えるようにしている。
形態はガンモード(ハンドガン+サバイバルナイフ)、アサルトモード(あさるとライフル)、ショットカノン(ショットガン)、の通常三種に加え、バリアスーツごと形態変化する高燃費のイクリプスモードが存在する。
登録魔法は主にバレット系(フラッシュ・バレット、サイレント・バレット、インヴィジブル・バレットなど、弾速が早く誘導が弱い)を登録している。
■EF/アースフェデレーション/地球連邦
中華連邦国略して中国の暴挙により危機的状況に陥った世界各国とUNをドサクサに紛れて纏めて結成させた組織。一時マブラヴ世界よりもやばいんじゃないかと言うような状況に陥りかけた為、簡単に纏まった。当にドサクサ紛れの所業で結成された。
■EFF/アースフェデレーションフォース/地球連邦軍
本拠地は地上ではなく衛星軌道上に建設されたオービタルリング。これは『国家の軍ではなく地球の軍である』という証のようなもの。
膨大な数のTSFと大量のSR機、更にOE兵器や光子魚雷、更に大型宇宙航行艦などの超兵器を多数所持しているが、下手に威力が高すぎて地球を滅ぼしかねない為、主な戦力は矢張りTSFとSR機。
StS本編開始時点で月の対レギオン最終決戦の最中。
■レギオン
宇宙からやって来た憎いアンチクショウ。電波に反応する困ったさん。
能力的には原作のソレと等しいが、草体が爆発するとマザーも増える。
一応草体のサンプルが回収されており、皮肉にもコレにより焦土と化した中国大陸は急速に回復する事となった。
因みに火星は既にレギオンの勢力圏。月奪還後は火星奪取作戦が計画されている。
■ウル・カスタムⅢ
通称ウルC3。ウルの名前は既に愛称になってしまっている。
カスタムⅢの通り、大元のウルにも改造が施されている。元々のウルは組み替えることでどのような状況にでも対応させられる汎用艦であったが、その為急場の命一杯で改造を施されたような状況でもフルスペックを発揮させることが出来た。其処にウルから回収されたデータを元に開発された各種拡張パーツにより、ウルに高い居住性や格納庫などを外付けすることにより更なる汎用性を持たせた。
カスタムⅢパーツと分離することで、従来のウル単艦とC3パーツ単独の2つに分離行動することも可能。但しC3パーツの戦闘能力は低い。あくまで拡張パーツ。
因みにウル本体はメラ所有で、C3パーツは月村所有。
■光子反応炉
SR技術が世界に公開される際、オーバーテクノロジー過ぎる縮退炉や魔導炉の代替機として公開された技術。一点に固定された光に特定の指向性エネルギーを照射することで一種の核融合を発生させる、と言う装置。
整備性・安全性が高い反面、起動には莫大な電力が必要とされ、従来の発電システムに代替するものではない。
因みにデザインは某ダイナミック系に限らない。


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14 ティアナ・ランスターの弾丸は砕けない

Side Teana

 

私の名前はティアナ・ランスター。次元管理局、陸上警備隊第386部隊……いや、今度から本局古代遺物管理部機動六課に所属する事になった。

同時に地球連邦軍統帥本部所属、機動特務部隊『ホロウ』に所属する中尉なんて階級も持っていたりするのだが、この管理局の支配する世界では余り関係ない話しだ。

 

現在の私は機動六課、正式名称は本局古代遺物管理部・機動六課というのだが、此処に所属し、上司であり教導資格を持つ高町一等空尉の元で訓練を行なっている。

というのも、機動六課はその由来から部隊に保有する人間は、大半が部隊長・八神はやての私兵に近い存在で構成されており、前衛の中で言えば、部外者なんてそれこそ私だけ。

 

私の属するスターズ分隊の同僚であるスバルは陸の家系、ライトニングのエリオはハラオウン執務官が保護者をやっている。御剣二等陸士も高町一等空尉の幼馴染だという。

更に民間企業のデバイス企業から出向してきたという鳳凰院朱雀。彼もまた高町一等空尉の幼馴染であり、同時に管理局で採用された量産砲撃型デバイス「ジークフリート」の開発設計者であり、同時にその試験モデル『ヨルムンガンド』の試験運用者でも在ると言う。

 

正直、裏技のやり方は聞いたが、こんな部隊を作ることを認めた管理局と言う組織が理解できない。

 

上層部は理想に燃える青二才、前衛は素人の寄せ集め、末端は隊長陣のシンパ。

確かに経歴で言えば、時空管理局本局のエリートによって新設された特務部隊の現場、なんて後のキャリアにはとても使えそうな経歴では在る。

 

だが然し、現場指揮の経験だけで碌な戦略的部隊運用も知らない20前の小娘が頭を張り、現場を知らないガキばかりの現場スタッフ。これでどう事態に対処しろと言うのか。

 

幸いにして、八神部隊長の私兵である騎士達は現場を知る人間みたいだが、シグナム副隊長は指揮なんて執らないし、唯一指揮を執るのはヴィータ副隊長のみという有様。

 

本気で、この部隊は何を思って創設されたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ほら、そうやって回避しちゃうと後が続かないよ」

「いえ、続けます」

 

今回の高町一等空尉との演習は、インターセプトトレーニング。弾道回避訓練だ。本来陸戦での弾道回避と言えば、障害物を盾にして隠れ、正面から囮で気を引きつつ分隊を迂回させ背後から強襲というのがセオリーだ。

 

が、高町教導官の場合のインターセプトトレーニングというのは、彼女が作り出す凄まじい数のシューターを迎撃する事を指すらしい。

 

正直な話、この迎撃回避訓練はいったい如何いう状況を想定して行なわれているのかが今一つわからない。私の登録されている魔力量を考えれば、無駄に迎撃に魔力を使うよりも、見敵必殺を優先させたほうが効率がいいのは明白な話しだろうに。

第一、射撃方の真髄云々と言っているが、私と高町一等空尉とではタイプが違う。

私はガン・スイーパー(強襲掃討)型、高町二等空尉はインパクトガード(砲撃支援)型。役割も違えば立ち回りも違うと思うのは私だけだろうか?

 

……まぁ、だからといって一々上司に突っかかるほど私も若くはない。いや、年齢的には若いわよ? でもメラさんの下で本物の軍隊の動きを経験していると、どうにもこの意味不明の回避訓練と言うのは首を傾げざるを得ない。

 

「へぇ、其処から立て直すの! じゃぁ、こっちも弾幕を濃くするよ」

「なら、手札を一つ」

 

言いつつ、意識を集中させる。マルチタスクの数を肉体制御と魔法制御、戦術思考の三つに限定し、私の手札の一つを切る。

 

――脳裏で鳴る、カチリという歯車のかみ合う音。

 

途端、世界から色が薄れる。色彩が霞み、自分が何処か世界から切り離されたかのような違和感に陥る。

同時に私の目に映るのは、ソレまで風を切裂いて進んでいたはずの、高町一等空尉のシューターの雨霰。然し今やソレは、まるで空中に静止したかのごとくゆっくりと、確りと見つめなければ分らないほどの低速で空中を進んでいる。

 

これが私の手札の一つ、『神速』、その亜種の、思考加速だ。

 

本来『神速』は御神の奥義に数えられるモノだが、同時に人間には本質的に備わっている機能。死が間近に迫ったときに見ると言うスローモーションの世界。それを技に昇華させたのが、御神の神速と言う物だ。

 

私の場合は、恭也さんに護身術の訓練をつけてもらっていた最中、事故で死掛け、その最中で神速に目覚めてしまったと言う、少し情け無い経緯でこの技を使うことが出来る。

 

御神の技こそ美由希さんにこっそり教わった徹と貫くらいしか使えないが、それでもこれらの御神の技は魔法戦闘でも十分以上に役立つ。

両手で持っていたハンドガンモードのファントムクロス。ソレを右手に持ち替え、左手にコンバットナイフを呼び出す。このナイフはファントムクロスの一部で、アサルト(突撃銃)モードなどではバヨネットになる。

 

静止した世界。ゆっくりと進むその世界。そんなコンバットナイフを構え、少しだけ神速を緩める。あまり神速の効果が高い常態で体を動かすと、体にかかる負担が洒落にならないことになる。少なくとも私は神速の重ね掛けなんてしたら体がバラバラになってしまう程度の肉体強度しか持たない。術で強化しても、だ。

そうして少しずつ動き出した高町一等空尉のシューター。ソレを左手のナイフで薙ぎ払い、近いものを全て破壊。次いで今にも発射されそうなシューターに向けてハンドガンを向け引金を引く。弾種はこれでもかと弾速と硬さを優先したフラッシュバレット。

 

この加速し停滞した世界の中でもかなりの速度を誇るこの術。それは少し離れたシューターを全て打ち抜き、次いで高町一等空尉の周辺のシューターを全て打ち抜いた。

さて、それで、こういう時にはこの台詞を言うのだそうだ。

 

――そして時は動き出す。

 

「それじゃ、シュート!!    ――あれ?」

 

正しい時計の針が動き出す。途端そんな事を叫んだ高町一等空尉。だが彼女の周囲には既にシューターなど一つも無く。

慌てて周囲をキョロキョロと見回し、ソレまであったはずのシューターが全て消えている事に気づいて、目を丸くしている。

――なんだろうか。その挙動がちょっと美由希さんを思い出して面白い。

 

「え、え、ええぇ!? あれぇ!? なんで!?」

「どうかしましたか?」

「え、いや、今私、いっぱいシューターを浮かべてたよね!?」

「今撃ち抜きましたよ?」

「へ、ええええええええええええ!!!???」

 

やっぱり普段の美由希さんを思い出すなぁ。

現在地球は次元遮断フィールドにより、次元空間からの往来を完全に封じている。この前貰った月からのルートを使えば久々に地球に帰る事も出来る。

たまには懐かしい顔を見るのもいいかな、と思ったり。

 

 

 

 

 

 

「い、インターセプトは問題ないみたいだね。それじゃちょっと時間があまっちゃうな……ティアナ、少しターゲットトレーニングをやって置いてくれる?」

「は、了解しました」

「か、硬いなぁ。にゃはは……」

 

なにやら困ったような顔で立ち去っていく高町一等空尉。とりあえず私は、彼女に言われたとおりターゲットトレーニング……要するに的撃ち訓練を開始することにした。

 

とはいえ、私が普段やっている的撃ちといえば、メラさんの下でやっていた、低酸素環境を始めとした異常環境条件下でいかに集中力を保持し続ける事ができるか、という訓練だ。

 

例えば低酸素。例えば高温の火災現場。例えば低温の極寒条件。例えば砂嵐で視界の悪い場所。例えば食料を得られずギリギリまで追い詰められた状況などなど。

人間、連続して集中できるのは5分も無い。故に、本当に必要な一瞬毎に集中すればいい、と言うのがメラさんの教え。

何処の漫画だと言うような過酷な修行は、でも間違いなく私の身になっている。

 

「……ファントム、アレだして頂戴」

『了解、マイマスター』

 

言いつつファントムが顕現させるのは、金属製の奇妙な拘束具。それを口元にはめ、頭の後ろで金具を停める。これはメラさんが用意してくれた訓練用の呼吸強制具。コレを装着する事で、一時的に低酸素環境を再現することができる。普通のマスクでも出来なくは無いのだが、今の私だとマスクくらいでは呼吸を阻害できないらしい。

メラさんは波紋の修行が如何たら言っていたけれども、私には何の事か……。

 

「……」

 

マスクを口にはめ、無言で次々と的を撃ち抜いていく。基本的に私はサーチャーに頼る事をしない。というのは、マナを扱う人間にとっては当然の事なのだが、マナ使いは自らの周辺環境に対してとても敏感なのだ。つまりは、世界のマナに。

 

例えば空中に突如ターゲットが投影されるとして、その投影される前後では微妙に感覚が異なる。その異なる違和感を辿れば、一々サーチャーでチェックをするまでも無く、更に慣れれば個人のマナの差異だって把握できるようになる。

 

メラさん曰く「見るんじゃない、感じるんだ……!」だそうだ。思うのだが、あの人って無表情の割りにけっこうお茶目な性格をしていると思う。

 

感覚に対する反射。但しその動きは体にしみこませた技術で。咄嗟の動きにこそ、修めた動きをしてこそ意味が在る。そんな思想の元、長く体を動かし続けている私。今やっている的撃ちにしても、最早思考容量を使うまでも無く反射として行動していたり。

 

そんな状態。余った思考で考えるのは、この機動六課が集める目標としているレリックと呼ばれるロストロギアの話。

いや、正確にはレリックではなく、それを求めて行動している自立機動兵器・ガジェットドローンの事だ。

 

正直な話し、AMFは問題にはならない。態々多重弾殻射撃を行なうまでも無く、ガイア式であればAMFに干渉されることは無い。ただその場合問題となるのは、私が使うガイア式の存在が管理局にばれてしまうと言う点だろう。ミッド式に擬装しているとはいえ、流石にAMF下で魔力が阻害されないとなれば……。

 

AMFの対処法は、他に性質変換、実在する物質を魔法で叩きつけるなど、幾つかの手段が在る。でも実は、此処にもう一つ裏技というか、奥の手というモノが存在する。

 

AMFの魔法阻害のプロセスは、その魔力結合を阻害するというモノ。それ故に、多重弾殻射撃は効果が在るのだ。

では、それ以外の魔法はAMFの前には不可能なのかと言うと、実は一つ抜け道が在る。それは、魔力を高密度で圧縮し、更に細かいプログラムを省くというモノ。

例えば誘導弾であれば、魔力を弾体整形・誘導効果・着弾時の魔力ダメージなど、大雑把にいえば三つのプログラムが付加されている。

 

これを弾体形成のみに絞りプログラム自体の強度を上げ、更に魔力の圧縮率をある程度上げてしまえば、長距離は不可能でも中距離での射撃は十分効果をなす。

しかしこれを使うとなると、今度は命中精度が問題になってくる。何せ誘導プログラムをオミットしているのだ。弾体の誘導は全て初期モーション、普通の銃を撃つのと変わらなくなってしまうのだ。

 

私としては別にソレでもいいのだが、そのためには普段から在る程度この条件――誘導をオミットした状態――での射撃訓練を行なう必要が在る。

まぁ、いざとなればファントムのバヨネットで格闘戦を挑めばいいのだし。

 

『マスター、平均着弾タイムは0.46秒。ちょっと落ちてますね』

「鈍ったかしら。今度メラさんにウルの訓練設備借りて鍛えなおさなきゃ……」

『問題ないとは思いますが……まぁ、私もソレをオススメしておきます』

 

相手がガジェットドローンであれば問題ない。アレの攻撃は触手かビーム。ビームには半秒ほど間があるし、速度だってメラさんの最速のプラズマ火球に比べればかなり襲い。今の私でも十分に対処できると思う。

ただ問題は、任務の過程でメラさんと相対、もしくは敵対してしまった場合の事だ。

 

「……ころされる」

『いや、殺しはしないでしょう。……ただ、延々なぶられるとは思いますが』

 

体がガクガクと震えだす。忘れもしない、あの過酷な訓練の日々。猛吹雪のアルプスの山頂で、デバイスなしの状態で延々メラさんの襲撃から逃れ続けた山岳逃走訓練。何がデバイスなしの対等だ。あの人デバイス無しのが強いじゃないのっ!!

 

『マスター? マスター!!』

「はっ!? あ、ゴメンファントム」

『いや。それに、マイスターだけじゃなくて、連中の襲撃だってありえるんだしな』

「そう、よね」

 

連中。つまり、EFF、地球連邦軍の最大の敵対勢力、ギーオス。嘗てアルハザードで生産されたという環境修復の為の生物装置にして、現在人類を脅かす最大の脅威。

時空管理局の勢力圏内は、主に魔法文明が主流となっている。と言うのも、嘗て起きたと言う次元大災害。その原因が科学文明により齎されたというモノだからだそうだ。

 

私にしてみれば、アルカンシェルなんて超兵器を持っている時点で、管理局にそんな事を言う資格は一切無いと思うのだが、とりあえず管理局の上層部の人間に言わせれば、質量兵器は世界に災厄を齎す存在なのだそうだ。臍で茶が沸く。

 

そんな魔法偏重の世界に現れる、魔法を喰らう超生物・ギーオス。正直、災厄以外の何物でもない。

 

現在、管理局の守備範囲内に現れたギーオスは少数。まぁ魔法を酷使する文明とはいえ、それ故に次元震まで行った事は数少ない。

 

現れたギーオスには、変換資質持ちが対処する事で、何とかその被害を最小限に食い止めている、と言うのが局の上層部の言い分。

 

その割には何故かギーオスの情報を下層部に対して緘口令を敷いているが。十分な対処とは自分達でも思っていないのだろう。体面を保たねばならない立場と言うのは本当に大変だ。

 

それに、私の聞いた話では、一部ギーオスによって制圧された次元世界なんかを、アルカンシェルによって惑星ごと砕いた、なんて話も聞く。管理局の支配地域は着実にその数を減らしているのかもしれない。

 

更にこの件で問題となっているのが、次元渡航に関する問題だ。管理局の勢力圏であればあまり問題は無いのだが、下手に勢力圏外に移動することは現在完全に禁じられている。下手をすればギーオスを呼び込みかねない、と言う判断だそうだ。その為、現在管理局の表のルートからでは地球に帰る事が出来なくなってしまっている。迷惑な。

 

因みに私のこの情報源、局の同僚や前の部隊の友人なんかから情報を貰っている。探せば在るのだ、そういう情報交換のネットワークと言うのは。

……話が逸れた。

 

結局の所、私が訓練をするのは、対メラさん、もしくは対ギーオス戦を見据えた物、という事だ。いざとなればファントムクロスのイクリプスモードを解禁するが、アレは負担が大きすぎる。出来れば通常戦力での対処が望ましい。

 

「……ファントム?」

『ええ、ガンモード、アサルトモード、ショットカノン、イクリプスモード、何時でもいけますよ。まぁ、イクリプスは止めておいたほうが無難ですが』

「うっさい、分ってるわよ。言われなくてもね」

 

何せ身体強化をかけても神速をフルに使うと後が辛いのだ。まだ、今の状態ではイクリプスモードは使えない。

 

『それじゃ、隊の訓練の後はマイスターのところですね』

「……ちょっと気が重いわ」

 

なんて会話をファントムクロスと話しながら、頭の中に響く高町一等空尉の訓練終了の声を聞いて、隊舎へと踵を返すのだった。

 




■機動特務部隊『ホロウ』
EFF内に存在する特務部隊。EFFにおけるアグレッサーや教導、SR機による最前線任務など、様々な任務を請け負う。
実を言うとEFF所属扱いのB&Tの私兵。故に命令を下せるのはすずかかアリサの二人だけ。
ホロウはHollow、つまり虚ろ。名前はあるけど実際には名前だけ、という暗喩。
厨二病ではない。

■思考加速
御神の技の一つ、神速を思考にのみ適応した物。ティアナは亜種とか言っているが、正直正道の物と変わらない。単純に「その速度で肉体を動かしていない」だけ。正規の訓練を受けていないティアナが神速として発動させてしまうと、全力で肉体強化をしても数日筋肉痛で動けなくなる。
実は生物的にも(本人も知らないうちに)魔改造を受けてるティアナは、間違っても神速で完全に自滅する事はない。

■――そして時は動き出す。
誰もが一度は言ってみたい台詞。第一部の彼に比べ、第三部のあの人って如何見ても老けてるよな? 若者がナイスミドルくらいにはなってるよな? 老けないって設定じゃなかったっけ? アニメは第三部やらないかな? やらないんだろうなぁ……。

■金属製の奇妙な拘束具。
つけていると強制的に波紋の呼吸を覚えさせられてしまいそうなマスク。ティアナ魔改造装置の一つ。おかげでティアナは過酷な肉体修行にも関わらず、怪我の治りが早かったり、お肌が若々しいままだったりしているが、ティアナ本人は単純に低酸素運動用マスクだと認識している。

■あの人デバイス無しのが強い
元が一種の究極兵器である為、本来は単独で完結している。その為デバイスを使用するのは手加減などの為。


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15 MとS

Side Teana

 

私の属する機動六課のフォワードには、二人の男性が所属している。

 

一人は御剣護。善人と言う言葉が服を着て歩いているような人物。元は陸士部隊所属の陸のエース、だそうだ。スバルに格闘術を仕込んでいるのを見たことが在る。

一人は鳳凰院朱雀。彼は前日の列車襲撃以降に六課に参入した嘱託の出向で、此方は才能にモノを言わせたいけ好かないやつ……に、見える。

 

が、ここ数日彼らとチームを組んで訓練を繰り返す内に、何となく見えてきたことが在る。

 

確かに御剣二等陸士はいい人だ。だけれども、アレでは毒にもクスリにもなりはしない。辛いときに優しく慰め、再び前へと引っ張る人間。でもそれは、隊長陣も同じ人種。べつにその役割は機動六課には求められていないし、彼に出来るのは当に前衛のみ。

 

それに比べ、鳳凰院さん(階級も無いのでこう呼んでいる)は、嘱託の出向であるというのに、矢鱈と軍事に詳しいように感じる。

 

御剣二等陸士が「みんな、出来る事をやろうぜ!」という人なら、鳳凰院さんは全員のスキルを確り把握した上で、其々に役割を振り、それをしっかりとこなさせる、と言うもの。

 

また鳳凰院さんは何処かふざけた印象が在るものの、多分あのナンパはフリだけ。一度試しに食事に誘われてみたのだが、本当に食事だけでしかも奢られてしまったのだからもう頭が上がらない。

 

機動六課の中での視線は、御剣二等陸士に好意的、鳳凰院さんには否定的とまでは言わないでも、一般職員は彼を苦手にしているみたいだ。

因みに、御剣二等陸士は鳳凰院さんに対して否定的、鳳凰院さんは御剣二等陸士に対して無関心。

 

アレは、なんだろうか。大人に対してライバル心むき出しの子供と、子供を全く相手にしない大人、といったかんじ、なのだろうか。

 

因みに隊長陣からの評価は、二人とも同じレベル。ただ過去に隊長陣と何かあったらしく、少し鳳凰院さんは御剣二等陸士に比べよそよそしい。

とはいえ、現場職員から信頼が厚いのは……多分、鳳凰院さんだろう。

 

 

 

「スバルのお父さんとお姉さんは、陸士部隊の方なんだってな」

「うん。八神部隊長も一時期、父さんの部隊で研修してたんだって」

 

と、隊の食堂で大量のスパゲッティーが乗った大皿を机の中心において。いざ喰わんとするところで、不意に御剣二等陸士がそんな事を言い出した。

 

「あのはやてが研修……ねぇ」

 

何かしみじみと言う御剣二等陸士。

これはもしかしてチャンスかもしれない。さり気無く、少しだけ探りを入れてみようか。

 

「しかし、ウチの部隊って関係者つながり多いですよね?」

「隊長たちも幼馴染同士なんでしたっけ?」

 

「そうだよ。なのはさんと八神部隊長、あと鳳凰院さんと護くんも同じ世界出身で、フェイトさんも子供の頃はその世界で暮らしてたとか」

「えっと、確か管理外世界の97番」

「97番って確か、ウチのお父さんのご先祖様が居た世界なんだよね」

「そうなんですか?」

「うん」

 

そういうスバル。確かに、あの世界からこちらの世界に来る人間と言うのは、実は多々事例があるらしい。と言うのもあの世界、突然変異的に莫大な魔力を持った人間が発生するという特徴が在るのだが、その莫大な魔力を持った人間が、ソレを切欠として次元漂流者になる、と言う事件があったらしい。

 

地球では当然過去に魔力の存在や異世界の存在など知られていなかったために、失踪した対象は神隠しとして扱われ、神隠し――次元漂流者となった人間も、元の世界に帰るよりは次元世界でその魔力を活かした職に付く、という事のほうが多かったらしい。

ソレを考えれば、中島家というのはそうした突然変異の血筋なのかもしれない。

 

「あれ、そういえばエリオは何処出身だっけ?」

「ボクは本局育ちなんで」

 

……そうして、スバルが地雷を踏んだ。

 

「ボクは本局の、特別保護施設育ちなんです」

 

そんな事を朗らかに言うエリオ。ただ、本人が朗らかでも周囲の空気が一気に落ち込んだ。しかも馬鹿スバルは漸く自分の失言に気付いたようで、如何した物かと情け無い顔を此方に向けてきて。

知るか、とばかりに少し睨んでおこう。

 

「あ、あの、気にしないでください! 優しくしてもらってましたし、全然幸せに暮らしてましたんで」

「あー、そうそう。確かその頃からずっと、フェイトさんがエリオの保護責任者なんだもんね」

 

そうしてソレを切欠として始まるエリオのハラオウン執務官の語り。もう、なんだろうか。エリオはマザコン、という事でFAね。うん。

 

「因みに、マモルもなのはさんの幼馴染なんだよね?」

「ああ。なのは達とは旧い付き合いだよ」

 

と、何かエリオのいい話しで終わりそうな雰囲気の最中、相変らず空気を読まない馬鹿が更に話を続けた。まぁ、食事中の話なんだし、此処で終わられても後が困るんだけど。

 

「でも確か、管理外世界の97番って魔法文明が無い世界だった、よね?」

「スバル、あんたにしては珍しく物をしってるじゃない?」

「えへへ、なのはさんについて調べたときに、ちょっと」

 

……コイツ、ストーカー化してる?

 

若干身を引きつつ、けれども確かにその辺りのことも少し気になるのは事実。ちらりと視線を御剣一等陸士に向ける。

 

「あぁ、確かにウチの世界には魔法文明は無かった。まぁ、なのはと一緒にちょっとした事件に巻き込まれてな。その時の出来事が切欠で、魔法にかかわるようになったんだ」

「事件?」

《馬鹿、言葉を濁したって事は秘匿事項が絡むって事でしょうが!》

《あ、あわわ!》

「あぁ、いや、いいってティアナ。別に聞かれて困る事までは話さないさ」

 

咄嗟に念話で注意したのだが、どうやらその様子を気取られていたらしい。そんな風に顔の前で小さく手を振る御剣二等陸士。

……うーん、馬鹿スバルの対応だけは完全に読まれちゃってる気がする。いやこれは私が読まれているというより、私とスバルのやり取りのパターンを読まれたの、かな?

 

「昔な、地球……97番にロストロギアが落ちてきてな。ソレの回収になのはが巻き込まれたんだよ」

「ロストロギア!? でも、魔法技術は無かったんでしょ!?」

「ああ。発掘されたばかりのロストロギアを本局に移送中、ちょっと事故があったらしくて、地球にそれが降り注いだんだ。幸い、と言うべきか、その当時ロストロギアの発掘担当が咄嗟にそれの回収をしようとして地球に来てたんだが」

 

その発掘の担当が戦闘向きではない奴で、暴走したロストロギア相手に敗退。その際に念話を無差別に発信して救援を求めたところ、魔法資質に恵まれた過去の高町一等空尉と御剣二等陸士がそれに反応、事件に巻き込まれていったのだと言う。

 

「それはまた、なんと言うか、ハードな」

「幸いその当時、ロストロギアでの死人は……まぁ、行方不明者一人だけだったし」

少しだけ苦い表情の御剣二等陸士。――のんびり話を聞いていたが、コレもまさかの地雷か。

「ま、その後も色々あってな。いつの間にか関わって、必死に抗っていたらいつの間にかこんなところまできていた、って感じかな」

「はー……」

 

なにやら感心したような表情のスバル。

 

然し彼の話しは此方の得ている資料と大部分が合致する。

プレシア・テスタロッサによるPT事件とよばれるジュエルシードを巡る一連の事件。彼はその最中、高町一等空尉の精神的に支える立ち位置に居たのだと言う。

PT事件でこそ魔法を知ったが、彼が魔法と言う技術に本格的に触れたのは、その後に起こった闇の書事件からだ。

 

ヴォルケンリッターにその魔力を狙われた彼と高町一等空尉。そんな最中に駆けつけた時空管理局時空航行艦アースラチーム。

彼らに保護された二人だったが、その時点で高町一等空尉はリンカーコアを抜かれ、戦力的には少し厳しい状況。そんな最中で、自己防衛の手段として、魔法と言う技術に手を伸ばしたのだと言う。

 

……因みに、何故高町一等空尉と同期であり、陸でエースとまで呼ばれる彼が二等陸士という低めの階級化と言うと、彼は社会正義よりも自分の正義を信じているとかで、良く上司と揉め事を起すのだそうだ。まぁ、もう少し渡りが上手ければ、この部隊には階級的に入れなかったかもしれないのだが。

 

「あ、でもでも、それなら朱雀さんは? あの人も幼馴染の一人なんでしょ?」

「……アイツか。アイツは地球育ちだが、一応コッチにも籍が在るらしい。最初から魔法には触れてたらしいぞ」

 

と、何処か嫌そうに言う御剣二等陸士。本当に嫌ってるなぁ、何て思いつつ、同時に何故彼が其処まで鳳凰院さんを嫌うのかが理解できない。

確かにあのワザとらしい気障ップリは鬱陶しいが、やっている事には何ひとつとして間違いない。寧ろあそこまでストイック――という表現は、果たしてあっているのだろうか?――に必要な仕事をこなしていく姿勢には見習うべき物が在ると思う。

 

実際、鳳凰院さんは管理局に採用された量産型デバイスの開発者という事でかなりの資産家でもある。本来なら既に何処かの管理世界で悠々自適の生活を送っていてもいいはずなのだ。

だと言うのに、彼は何故か今機動六課に出向してきている。しかも民間人の出向だというのに、その実力は高町一等空尉に並ぶという折紙付だ。

 

「アイツの目的は、なのは達に粉掛けるのが目的だからな。本当、アイツも懲りない」

「「あ、あはははは」」

 

そんな風に皮肉る御剣二等陸士。でも冷静に考えて、あの頭の回る鳳凰院さんが、あそこまでワザとらしいアプローチが本当に成功するなんて思っているはずが無い。

 

だって「あぁ、なのは、フェイト、ついでにはやて。今日も相変らず可愛いね。どうだい、この後俺とデートしないかい?」なんて朝一番にそんな事を言うのだ。起動六課の隊舎で。普通に考えて、この後仕事が在るのは分っている話だ。

 

実際高町二等空尉に「にゃはは、お仕事が在るから」と断られ、「そうか、なら仕方ない。が、その内是非デートしよう」と諦めている。実際デートしたと言う現場を見たことは無い。

 

あの、ミッドの経済界に若くして進出し、経済界の魑魅魍魎と若くして対等に向かい合って見せた彼が、よりにもよってあんな下手糞なナンパを本気でしていると、何故御剣二等陸士は頭から信じられるのだろうか。

 

実際、私が過去彼の挑発に乗ってデートの誘いを受けたとき、何だかんだで此方の情報もある程度引き出されてしまっている。まぁ、知り合いに引き取られて、その知り合いの元で訓練していた、という程度の物だけれども。

 

私にとって警戒するべきは、決して御剣二等陸士などではない。

 

寧ろ何を考えているのか決して表に出てこない鳳凰院さんこそが最大の警戒対象だ。

 

「ティアー? 食べないの?」

「……はっ!? た、食べる、食べるわよ」

 

と、思わず考え込んでしまっていたらしい。スバルに促され、慌てて少し冷めたパスタを口の中へと運ぶのだった。

 

 

 

 

 

そうして、その日の夜。何故か私は、いつもの陸戦用空間シミュレーター(建物とかはえるアレ)の中、開けた道路を模した一角にファントムクロスを構えて立っていた。

 

そして私の視線の先、宙に佇みその剣を正眼に構えるのは、エリオと御剣二等陸士の属するライトニング分隊、その副隊長、シグナム二等空尉だった。

 

「えーっと、シグナム副隊長?」

「どうした、ランスター」

「私は何故、こんな時間にこんな場所で、武装したシグナム副隊長と完全武装して向かい合っているのでしょうか?」

 

そう、問題はソレだ。ファントムクロスは既にセットアップ済み。ハンドガンだけではなく、コンバットナイフまで展開した完全装備状態。

 

「ふむ。いや、貴様がどうも物足りなさ気にしていたのが気になってな」

「私が……ですか?」

「ああ。貴様、高町の訓練ではセンターガードをやっているが本来はもっと攻撃的な、それこそ貴様の相方のポジションと同じ立ち回りが本来の貴様の動きなのではないか?」

 

言われて思わず目を見開く。何せこの方数年、管理局の陸士訓練学校に入ってからこの方、今の今まで私をアタッカーと見た人間はシグナム副隊長が初めてだった。

 

「何故、という目をしているな」

「え、ええ。私は今まで、少なくとも管理局に属してからは前衛をしていませんでしたから」

「――理由を聞いてもいいか?」

「いえ、特に深い理由でもなく、単純に相方に合わせていたってだけなんですが……」

 

なるほど、と頷くシグナム副隊長。相対する私としてはチョットばかり内心で焦っていた。何せ意図したわけではないが、この状況、下手をすると私が実力を偽っていたととられかねない。何故実力を偽る必要が在るのか、つまりスパイではないか、なんて疑われてはとんでもない。

 

「貴様が前衛ではないかと思った理由だがな」

「はい」

「貴様の動きだ」

 

言われて、思わず首を傾げる。

 

「貴様の動きは、所謂魔導師のそれではなく、どちらかと言えば武人のそれだ。私も魔導師ではなく騎士の端くれだ。その程度は見ればわかる」

「……そんなものですか」

「そんなものだ」

 

思わず口元が引きつる。夜天の書の守護騎士にして、ベルカの戦乱の時代から存在する最古の騎士が、騎士の端くれ、ねぇ……?

 

「此処へ貴様を連れてきた理由だが、貴様が動き足りなさそうだった、と言うのに加え、もう一つ理由が在る」

「それは?」

「単純に、私が動き足りないと言う話だ。 ――レヴァンティン!」

『アンファング!』

「ファントムクロス!」

『セーフティー解除。いけます』

「ゆくぞ!!」

 

その言葉と共に宙を蹴るかの如く此方へ突っ込んでくるシグナム副隊長。――これ、トラップで迎え撃つのは無粋よね?

一歩前へと進みだし、そのまま術式を機動。

 

『クイック・ブースト』

 

瞬間的に体にかかる加速を感じながら、此方に切りかかるシグナム副隊長の懐、レヴァンティンの軌道のその内側へと踏み込む。

 

「くっ!!」

 

ニヤリという笑みを浮かべながらそんな声を上げたシグナム副隊長。……あー、この人バトルジャンキーだったのか。

若干物悲しい物を感じつつも、私の訓練には丁度都合のいい存在である事は確かだと思い直し、踏み込んだまま左のコンバットナイフを一閃。咄嗟に一歩下がるシグナム副隊長のレヴァンティンにより弾かれてしまう。

が、それでもこの距離はまだ私の範疇。即座に右手のハンドガンを正面に向け、フラッシュバレットを連射する。光速の弾丸は然し、即座に危機を感じたかのように回避行動を取っていたシグナム副隊長からはずれ、そのまま投影されたビルに小さな穴を開けるだけだった。

 

「驚いたぞ。まさかあそこから更に一歩踏み込んでくるとは」

「ソレは此方の台詞です。まさか、フラッシュバレットを回避されるなんて」

 

フラッシュバレットは文字通り閃光の弾丸。光であり同時に質量を持つ、という少し変わった性質を持つ物質が地球で開発されたのだが、ソレを参考に組み上げた術式だ。

バレット系は弾速が早く、制御が効かない変わりに最速の一撃を備ええている。私のフラッシュバレットは、更にカートリッジシステムや圧縮技能を併用し、高い打撃・貫通能力を持たせている。

 

「うむ。今の術は初めて見たが、如何いうものだ?」

「シンプルな魔力圧縮弾を最速で射出するってだけの術式です。ただ、その分威力と速度、射撃間隔は最速を名乗ってますが」

「なるほど。隙の少ない良い術だ」

「有難うございます!」

 

言いつつ今度は此方から一歩前へと踏み出す。振りかぶるのは左手のコンバットナイフ。

 

「ほう、然しそのナイフで格闘戦は……っ」

「私は魔導師でも在るんですよ!!」

 

ナイフの先から奔るオレンジ色の魔力の刃。それはナイフの刀身以上の刃渡りとなる。シグナム副隊長はそれを咄嗟にレヴァンティンで受け止めた。この不意打ちもダメか。

 

「く、くく。面白い。面白いなランスター。貴様、こんな手札も隠し持っていたのか」

「ええ。私、ティアナ・ランスターは夢が在ります。そして私は其処に向かって真直ぐに進むと決めている! その為にありとあらゆる手を惜しむ事はありません!!」

「――なるほど。高町とは別に、貴様の根っこを作った良き師がいるようだな」

「ええ。私の苦境に現れて、歪みかけた私の心を鍛え、私に牙と爪を与えてくれて、その使い方を教えてくれた恩師です」

「なるほど。ならばその力、私に見せてみろ!!」

「望むところです!!」

 

言いつつ、私も魔力を滾らせる。陸戦ランクはBだが、魔力総量はA+程度はある。私は陸戦魔導師では在るが、出力任せに疑似的な空戦くらいはこなせる!!

 

「行きます!!」

「来い!」

 

噴出する魔力の勢いにのり、そのままシグナム副隊長へ向けて吶喊する。

重なる刃から響く轟音が、その日暗い夜の訓練場に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

結局シグナム副隊長との夜間自主訓練は延々続き、終わったのは翌日の朝日が昇り始めた頃だった。

 




ティアナとシグシグのガチバトル。とはいえティアナはガイア式封印のシグナムは魔力封印中で、限定的な全力状態。この状態ではほぼ互角、といった感じです。
そしてコレが、本作最後のシグナムの活躍となるのだった……!!

■御剣 護
オリ主その1。所謂「テンプレオリ主を嫌うオリ主」という奴。
魔力ランクはA、陸戦ランクがA+。デバイスはベルカ式のショートソード型デバイス『アテナ』と、カートリッジシステム『アイギス』の二つ。
地球出身のなのは達の幼馴染で、すずかやアリサ曰く『なのはちゃんたちのボーイフレンド』。但しこの場合は本当の意味で『男友』である。
基本的なスタンスは原作順守。出来ればいい方向に持って行きたいとは思うが、思うだけ。下手にデリケートなところを触って取り返しが付かなくなるのを嫌がり、最も重要なところには手出ししない。
なのは達の心の支えと言えば聞こえは良いが、それ以外居ても居なくてもあんまり変わらない、と言うのが鳳凰院の認識。
流れに流される性質で、正義漢といえば格好良いが、要するに自分の感情を律し切れていない。

■鳳凰院 朱雀
オリ主その3。結構凄まじい名前のテンプレオリ主。魔力ランクS、陸戦B、空戦B、魔力色赤、変換資質:光、広域殲滅魔法Sの砲台型かと思えば格闘戦もそこそここなす。
元々クラナガンの中流層に生まれ、原作スタートに合わせて地球へ。その時点までは所謂テンプレな自己中心的オリ主で、分りやすいアプローチをなのは達にもしていたのだが、プレシア救済に失敗した辺りから改心しだし、以降は必至に原作の悲劇を回避するために行動を開始。
御剣には『黄金律』でもあるのだろうと疑われているが、実は生まれたときの条件はミッド生まれと言う以外は殆ど御剣と同等。社会的地位は自分の努力で築いたという、テンプレオリ主にしてはかなり頑張る人。
救済の殆どに失敗したと内罰的ではあるが、成果としてSAの師であるクイントを生存させたり、新型デバイスの発表で管理局魔導師全体の生存率を上げたりと、御剣とは比較にならないレベルで原作改良に貢献している。

■八神シグナム
バトルジャンキーな剣の人。本作ではアギトが既にメラに取られている為、最終的なパワーアップは無し。多分出番もこれだけ。哀れ。
因みに作者がシグシグというあだ名を聞いて真っ先に思い浮かぶ人物は、シグナムではなく時雨沢恵一様。今更だけど、なんで犬とバイクが喋ってるんだろう。


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16 ホテルアグスタの後

 

Side Teana

 

ある日のこと、私達はホテルアグスタの警護任務を請け負う事となった。

相変らず、最大火力である隊長陣をドレスアップさせて内部警護に回すという意味不明な戦力配置に頭を悩めつつ、とりあえず自分達で出来る事をと、広域探査魔法で戦場になるだろう地域の地形情報を把握して。

 

案の定襲撃してきたガジェットドローンの群を、ロングアーチから貰ったデータと組み合わせ、作成したマップデータ上に投影。かなりリアルな戦況情報を得ると共に、副隊長陣営のフォワードをサポートする形で守備陣形を整える。

 

そうして全てのガジェットをなんとか殲滅し、何事も無く機動六課隊舎へ戻った後のことだ。

 

「……地球への出張任務は? いや、それ以前になんでミスショットが……」

 

小声で何かをボソボソと呟きながら、此方を奇妙な目線で見てくる御剣二等陸士。ジロジロと此方を不審な目で見てくるその様は、正直見られていて気持ちのいいものではない。

 

「おやティアナ。今日も相変らず美しい。が、折角のその美しさを憂鬱な顔が妨げているよ。いや、その少し憂いた顔すら可愛らしいのだけれども」

「……はぁ。そうだ、いま少しお時間もらえますか?」

「おや、ティアナからデートのお誘いとは。少しとは言わず明日のモーニングを共にするまで……」

「はいはい。とりあえずロビーに行きましょうか。この時間ならもう人も居ないでしょうし」

 

言いつつ鳳凰院さんをひっぱり、六課隊舎のロビーへと連れて行く。

六課のロビーは既にひと気が無く、明りも既に消灯していた。

 

「で、相談とは?」

 

と、最初にその話を切り出したのは鳳凰院さんから。なんだかんだでこの人、面倒見のいいところも在るのだ。

 

「はい、今日のことなんですけど」

「……あぁ、ホテル アグスタの警備の仕事、だよな? 特に問題は無かったと思うんだが?」

「ええ、そうなんですが……」

 

言いつつ、今日の出来事のあらすじと、その後の御剣二等陸士の不審な視線についてを相談してみた。

 

「……御剣が?」

「はい。なんだか変なものでも見るような眼で見られて……」

「――――――」

「あの、鳳凰院さん?」

「……朱雀でいいって言ってるのに、ティアナは硬いなぁ」

 

と、何か少し目元を指でつまんで揉み解す鳳凰院さん。如何したのかと声を掛けると、いつもの気楽そうな声でそんな事を言って。

 

「これが私ですから」

「……ま、わかった。それは俺がアイツに話を聞いてみよう。ただ……」

「ただ?」

「一つ聞かせて欲しい。ティアナの、そのデバイスをくれたっていう師匠の事を」

「マスターの事を?」

 

なんでメラさんのことをと、思わず内心で首をかしげながらも、その言葉に首を縦に振る。

 

「聞きたいのは一つ。ティアナの師匠って、どんな人だ?」

「変な人です」

 

思わずその問いに即答していた。目の前にはポカンとした鳳凰院さんの顔。この人がわざとではなく、自然な顔でこんな間抜けな顔をするのは珍しい。

 

「変な人?」

「はい。鳳凰院さんみたいに、変な行動を取る人、ではなくて、……そうですね、奇天烈な行動の果てに明後日の方向から成果を引っ張ってくる人、って感じでしょうか」

 

私が彼を評するのであれば、当にこの言葉に尽きるのではないかと思う。

何せギーオス戦略にゲームのロボットを実現化させて対処させたかと思えば、今度は実現するのも馬鹿らしい、次元管理局の次元航行艦の出力をも上回るスーパーロボットを建造してみたり。

 

はてまた宇宙から飛来した謎の生命体との戦いの最中、ふらりと地球を飛び出し、次元世界を放浪して、私やキャロ、アギトなんかを救ってくれた。

でも本人曰く、救った心算などなく、ただ落ちてたから拾い上げ、その結果勝手に助かっただけ、なのだそうだ。何処の怪異の専門家だ。

 

「なるほど。変な人、か」

「変な人、です」

 

鳳凰院さんの言葉に即座に頷く。まさしく、あの人を示すのに、これ以上に合う言葉は無いだろう。

 

「……そうか。うん、じゃぁ俺の聞きたいことはない。アレの対処は俺に任せてもらうよ」

「はい、お手数おかけします」

「なに、可愛い子の為ならこの程度。その代わり今度俺とデートしない?」

「揃って休日が取れれば、クラナガンくらいご一緒しますよ?」

「ホント? やった、言って見るもんだね!」

 

そういってわざとらしく喜んでみせる鳳凰院さん。その姿を見れば、デートの約束を取り付けて若干困っているのが何となく見て取れる。コレを見てどうして彼が本気で軟派な人物だ何て思えるのだろうか。隊長陣営も若干人を見る目が足りないと思う。副隊長陣営は気付いてるみたいだけど。

 

――因みに、デートの約束を取り下げる心算は未だ無い。もう少しこの人の困っている顔を眺めているのも面白そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side other

 

「お前か?」

「何のことだ」

 

管理局地上本部所属・機動六課隊舎。その中庭の一角で、二人の男が一目を離れて話し合っていた。

 

「惚けるな! 地球域の任務が無かったのも、ティアナがミスを起さなかったのもお前の所為かって聞いてる!!」

「余り大声を出すな」

 

並ぶのは、片や黒目黒髪の典型的な日本人、という容姿に、管理局の陸士服に身を包んだ青年。片や赤み掛かった髪を後ろで雑に束ねたスーツの青年だ。

 

熱くなっているのか大声を出す陸士服の青年――御剣護に、相対する赤毛の青年――鳳凰院朱雀が冷静に返すのだが、どうやらその冷静さが逆に彼の激情に火をつける結果に成ったらしい。

 

「お前、何て事をするんだ! 地球訪問は六課と地球側の連中との顔合わせだし、アグスタの件はソレを切欠になのはとティアナの絆を深める重要なイベントなんだぞ!?」

「騒ぐな、と言っている。それに、俺は何も干渉していない」

「嘘を言うな! じゃぁお前以外に誰が手を出すって言うんだ」

「それこそ知らん。――いや、大体心当たりは在るんだが」

「は、ワザとらしい。あのティアナのデバイスといい、アレだってどうせお前が家の力で作って渡したんだろう!?」

「だから違う。第一、俺が個人に特注のデバイスを渡すって、そんな事したら週刊誌のいいネタになるだろうが、馬鹿」

 

もう少し考えろ、と見下され、思わず苦虫を噛み潰したような表情になる御剣。

 

「じゃ、じゃぁ」

「多分、第三者がいるんだろうな」

「だいさ……三人目!?」

 

そういって驚いた御剣は、けれども突如踵を返し、何処かへと歩き去ろうとする。

 

「如何する心算だ?」

「ティアナに直接聞く! この時間ならまだ内線で――」

「……馬鹿が。今この時期に六課の部隊員の過去をほじくる? 下手すりゃお前、スパイ容疑でつかまるぞ?」

「ば、俺がスパイなわけ……!!」

「別に人間誰もがお前の味方ってわけでも無い。疑われるような行動は控えろと言っている」

「……くっ」

 

また苦々しげに口元を噛み締める御剣。そんな御剣を呆れた様子で見つめる鳳凰院は、壁に預けていた背を放し、六課隊舎の玄関口へと向かって歩き出した。

 

「あ、おい!?」

「俺はお前と違って、いい方向に変わるなら原作を順守する心算も無いよ」

「馬鹿な!? あれこそ奇跡のような結果って奴だろう!?」

「ふん。 ――そうそう、ティアナがお前の目線が気味悪いってぼやいてたぜ? あんまり変な目で見てやるな」

「なっ!?」

 

目を見開く御剣。本人は内心に押しとどめていたつもりでいたのが、周囲に知れていたという事に驚いているのだろう。

そんな驚きを見せる御剣に、心底呆れたような表情をする鳳凰院。不幸か幸いか、既に日の沈んだ薄暗い通路で、その呆れた表情を御剣が見ることは無かったが。

 

「じゃな。また明日」

「……ふん!」

 

不機嫌そうに鼻を鳴らす御剣を無視して、そのまま隊舎の外へと脚を進める鳳凰院。

その口元は、何処か不敵に歪められていたのだった。

 




今回少し短め。

■怪異の専門家
地球の娯楽小説の登場人物。ティアナは実在しない、と思っている。
「元気が良いなぁ、何かいいことでもあったのかい?」

■次元航行艦の出力をも上回るスーパーロボット
実際のところ光子反応炉は魔導炉に比較し出力自体に大差は無い。
ただ対ギーオス兵器であるSR機は出力の割り振りを適宜調整出来る戦闘用であり、次元航行艦とSR機が相対すれば先ず間違いなくSR機が勝つ。


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17 クラナガンの家/異界仮設拠点/ウルC3

Side Mera

 

「――という感じでした」

「そうか。ご苦労様」

「いえ。これだけの期間があれば、態々探らなくても」

「謙遜すんなって。ティアはちゃんと仕事やったんだから、その分は胸張ってりゃいいんだって。折角ソコソコの胸はあるんだしさ」

「ちょ、アギト!」

 

目の前でかしましく騒ぐ少女達。でも出来れば、そういうガールズトークよりの会話は俺の居ないところでやって欲しいなー、なんて思わないでもなかったり。

久しぶりに我が家、EFF仮設ミッド拠点兼ウルC3に訪れたティアナ。頼んでいた件の二人に関する報告を済ませた彼女は、そんな感じでアギトと並びリラックスしているようだった。

 

「でも、よく出てこれたな?」

「そうね。機動六課って確か、緊急時に飛び出す特殊部隊、なんだよね?」

 

奥の部屋からトレイの上に紅茶を載せたすずかが、そんな事をティアナに聞いた。

 

「ええ。なんといいますか、機動六課のフルメンテナンスのために、隊長陣営は半間休息、私達前衛もお休みがもらえたんです」

「……ほぅ?」

 

その言葉に、チョットだけ前世の記憶――というか、原作知識を掘り起こす。確か、そう、最初の休日って言うのは、何かイベントがあったような……?

 

「お休みって、前線メンバー全員で?」

「はい。私とスバルとエリオと御剣陸士の四人が休暇をもらいまして、現在全員がクラナガンに出てきてるんです」

「ティアちゃんは皆と一緒じゃなくていいの?」

「ええ、私は報告もありましたし、スバルは食べ歩きに、御剣陸士とエリオは、御剣陸士がエリオにクラナガンを案内するって」

「クラナガンを? でもそのエリオくんはミッドの子なんでしょ?」

「色々事情のある子みたいで……」

 

ミッドって何気にそういう事情のある子って多いよなぁ。いや、機動六課に事情持ちが集中しているんだろうか?

 

――じゃなくて。

 

そうだ、思い出した。今日、というか、機動六課のフォワードの初めての休日。その日こそが、彼女、ベルカの聖王の遺伝子を用い、プロジェクトFによって生み出された存在、ヴィヴィオ、と呼ばれる聖王クローンが姿を現すその日だったのではなかったか。

 

……でも、あれ? ヴィヴィオの発見って、確かエリオとキャロのデートの最中に発見されるんだった、ような?

 

「なぁ、アギト、今キャロって何処に居たっけ?」

「キャロ? キャロなら月でガイア式の教導か、SR機の教導だと思うぞ」

 

だよ、なぁ。 今の彼女、キャロは、四年前ルシエの里から追放される前、里の竜を襲っていたギーオスを倒した際、偶々里に招かれていた俺によって地球連邦へと招かれ、そのままEF国籍を得ている。

一応ルシエとしての(次元世界所属の)戸籍も持っているが、現在のキャロは既にEFFのガイア式魔術教導官という立場が定着している。

 

「だよな、キャロは月でガイア式の教導官のはずだし。……そういや、最近昇進して大尉になったんだっけ?」

「え゛っ!?」

「あはははは、ティアナ、キャロに階級抜かされてやんの!!」

「う、うっさい! 私は今あそこを離れて管理局で頑張ってんの!!」

 

因みにティアナの階級は、EFF(アースフェデレーションフォース:地球連邦軍)で中尉だったりする。これはTSFやSR、ガイア式を用いた実戦による昇格で、実はティアナ、地球に戻れば確りとした保障を受けられる結構な立場を持っていたりする。

 

――因みに、すずかはEFFの最大出資者であるB&Tグループの片割、月村の家長の妹にしてSR機の設計において重要なポジションを担っている為、名誉中将の階級を持っていたりする。付け加えておくと、俺のEFF内での階級は大佐だったりする。

 

年金が保証されてるのが嬉しいが、大佐の階級を得る為にやったのが、俺の体質――ありとあらゆるエネルギーを無尽蔵に吸収/変換できるというものを利用し、核により派手に汚染された中国大陸を浄化していく、というもの。TSFを使ったとはいえ、中国大陸を走破するのは洒落にならないほど草臥れた。時間的にもすずかに拗ねられたし。

 

俺と言う存在に関しては、地球連邦政府、及び地球連邦軍の一番頭の部分には知らせてある。が、連中、俺に戦闘ではなく環境改善活動の仕事ばかり回してくる。なんでも「兵器として生まれたからと言って、兵器として生きるなんてナンセンスだ」だそうだ。――いや、格好いいと思うんだけどね、でも普通、政府側って悪役じゃないの? なんでそんな良い人側なの? こういう所って普通悪人側じゃないの?

 

おかげで俺がギーオスと戦うのは、SR機でも苦戦する超級の個体が出現したときのみ。それこそ本当の意味で最終兵器扱いされているような気もしないではないが、普段の俺の仕事は本当に「草花を愛でる」事なのだ。

もう、本当になんだかなぁ、である。

 

話が逸れた。

 

「言っておくが、ティアナ、お前一応任務中扱いだからな?」

「ええっ!? 任務って、なんで!?」

「一応地球連邦軍で階級を取ったからな。任務中にしておけば給料も保証も付くし」

「いや、でもそれは流石に権力の乱用じゃ……」

「大丈夫よ、管理局世界に潜入して、現地の文化や政治体系を学び、更に懸念される問題に対する草となるっていう、何もしなくても特に問題ないお仕事だから」

「現地の文化や政治体系?」

「ティアナが電話越しで話してくれた管理局の話、マスターがレポートにして提出してたんだよなぁ」

「………」

 

引きつった表情のティアナ。だがティアナの話って結構纏まってて聞き取りやすいし、例えばレジアス中将の話なんかだと、ミッドの社会的に見れば質量兵器は否定的だけど、現状はそれ以外にどんな方法が考えられるか、とか具体的だし。

 

なんとなくレポートにして提出してみたのだが、これが他次元世界対策チームに受けたのだ。ならばと折角なのでティアナのことを任務扱いにしてもらっておいたのだ。

 

「因みに、コレが預かってたティアナの地球連邦銀行の通帳」

「げっ!? 数字が七桁!?」

「八桁目前で、しかもドルだ」

 

口をパクパクさせるティアナ。いやだってほら、ただの中尉ならまだしも、ティアナの所属はEFF統帥本部直属の特殊部隊所属だから。

 

「……ミッドの物価と地球の物価で大体……ドルなら同じくらいで……って事は…………なんだろう、ミッドで真面目に働くのが馬鹿らしくなってきた」

「でもそれ、ギーオス討伐の時の危険手当が殆どなんだよ? 幾らガイア式の使い手で相手が幼生だからって、ギーオスの群に四人で突っ込んだんでしょ?」

「……あぁ、あのときの」

 

懐かしい話が出てきた。アレは確か、ティアナがまだ11~12歳くらいの少女だった頃の話だ。

 

その当時矢鱈と力を渇望し、それ以外を全て棄てる、というヤケクソなティアナ。ならば力とは、戦場とは何かを知らしめる為、同時期に拾って自暴自棄になっていたキャロ、ガイア式をインストールしたが、まだ人見知りのするアギトの三人を連れ、発見されたばかりのギーオスの巣に特攻を仕掛けたのだ。

 

結果ティアとキャロ、アギトは何かを悟ったかのように、ソレまでの陰鬱とした空気を棄て明るい笑顔をするようになったのだ。

 

「生きてるって素晴らしい!」とか、「朝日ってこんなに綺麗だったんですね」とか、「…………」無言で何かを噛み締めて居たりとかしていたが。

 

――大分話が逸れた。

 

結局、現在キャロはEFF所属で、管理局の勢力には所属していない。となれば当然エリオとキャロがデートするというイベントも存在しなくなるわけで、となれば果たしてヴィヴィオは無事正史通り保護されるのだろうか、という疑問が浮上するわけで……。

 

「……よし、ちょっと四人で散歩にでも行くか」

「ええっ!? またいきなり!?」

 

何かティアナが言っているが、基本的にティアナの意見は無視の方針でいく。まぁティアナも変な方向にワーカーホリックになっているし、このまま此処に滞在させると、下手すると訓練用シミュで訓練するとか言い出しかねない。

生へ執着するのはいいのだが、ティアナは現状でギーオスだろうが次元犯罪者だろうが十分に相手できる。油断大敵と教えたのは俺だが、余裕が無いのもダメだろう。

 

もし修正力なり六課の転生者くんらの活動で正史通りヴィヴィオが見つかるならよし、見つからなければ少しでも可能性を上げる為、俺達もクラナガンを歩いておく程度しても問題はないだろう。

 

第一、散歩ならティアナの気晴らしにも成るだろうし。

 

「まぁ、メラ君が突然なのはいつものことだし」

「そそ。マスターの行動に一々突っ込み入れてたってしゃーないのはティアもしってるだろ?」

「……そうね、そうだったわね。メラさんって、こんな感じだったわよね」

「懐かしいだろう?」

「自分で言うなっ!!」

 

ティアナのナイスな突っ込みに思わず笑顔を浮かべつつ、とりあえずクラナガンの美味しいスイーツか軽食屋が無かったかと記憶を探り、ついでに地球のアリサとキャロにオススメのお土産は無い物か、なんて頭を悩ませつつ、三人を連れてクラナガンの街へと足を踏み出すのだった。

 

 

 

そうして、軽く昼食を取って四人で喋りながら街中を歩いているそんな最中。不意にティアナのファントムクロスから通信音声が響いた。

 

「エリオからの全体通信?」

 

ついに来たか、と少し目を細めながら、ファントムクロスの待機状態であるカードタブレットに向けて通信を送るティアナに視線を向ける。

 

「――――――はい、スターズ2、直ちに現場へ急行します」

「仕事か?」

「うん。御剣陸士とエリオが下水道から出てきた、レリックを引きずった少女を保護したって……」

 

なるほど。転生者の片方が行動を起していたわけか。情報通り分りやすい。

まぁ話を聞く限り、御剣とかいう転生者の方は、原作の情報をかなり重要視しているみたいだし。逆に原作の情報に対して無頓着である鳳凰院というのは、ティアナからの印象も含めかなり警戒心を掻き立てられる。

 

「場所は?」

「サードアベニューの、F23」

「此処から近いな」

「私はここから現場に向います。メラさん達は急いで仮設拠点、ウルに戻ってください。お願いしますから」

 

何故か帰宅する事を懇願される。何で?

 

「だってマスター、巻き込まれれば何のためらいも無く暴れるだろう?」

 

――まぁ、暴れるだろう。最近環境保護活動しかしてなかったから、ストレスも溜まっている。確かガジェットが暴れるのって、此処の廃棄区画だった筈だし、被害も出ないだろうし。

 

とはいえ確かに現状で俺が暴れるのは危険極まりないか。元々の独立戦闘ユニットとして活動しているならばまだしも、現状の俺はEFFに所属している。下手に姿を現し、リスクを背負う必要は無い。

 

……が、然し、折角クラナガンの市街地にいて、身近な場所で戦闘が在るというのだ。しかもその部隊は、物語の中核をなす機動六課。

 

別に『原作』という区切り自体に対する興味は殆ど無く、他の転生者がどんな風に原作を曲げようとも俺は気にしない。如何でもいいのだ、実際。

ただ問題は、ソレが此方に及ぼす影響。地球などは既に原作がどうのこうのというレベルから悠に乖離してしまっている。

 

俺がキャロやティアナに与えた影響を考えると、他にも何か影響が出ていないとも限らない。此方の影響が向こうに影響を与えているのだ。逆が無いとは言い切れない。まぁ杞憂だとも思うのだが。

 

「ちょっと思うところがある。裏でこっそり見てるよ」

「え、ちょ」

「すずか、ウチに転送するから、サポート頼む。アギトは俺と」

「もう、仕方ないなぁ」

「合点承知! ……じゃない、了解だマスター!」

 

言いつつすずかを自宅――ウルC3へと転送し、次いでアギトと共にバリアジャケットを展開。迷彩系の術を展開し、即座にその場を離れた。

 

「ちょ、私に如何しろっていうんですかー!」

 

何かティアナが叫んでいたが、普通にお仕事すればいいと思うよ?

 

「……ティア、ガンバ」

 

何かとなりでアギトが手を合わせて拝んでいたが、むぅ、何か失礼な事を言われた気分になる。

はて?

 

 

 

 

 

結局の所、詳細こそ異なるが、ルーテシアによる強襲、ルーテシア捕縛からクアットロ、ディエチの強襲、ヘリへの砲撃から撤退までの一連の流れはあらすじ原作と変化は無かった。

 

予定調和の如く機動六課により保護される聖王のマテリアル・ヴィヴィオ。キャロの存在を欠き、然し火力的には原作のソレを上回っている機動六課。

何も問題は無い。その、筈なのだ。

 

「――――――」

「マスター?」

 

だけれども、何なのだろうか、この感覚は。

背筋がざわめく。血が凍える。肉体、魂、その両方が危機を訴えている。

たかだか戦闘機人の戦闘如きで、俺の六感が何かを感じた、と言うわけではないと思う。

けれどもこの戦慄。それこそマザーレギオンと初めて相対した時の感覚にこそ似ている。

 

「――一体、何が……」

「マスターってば!」

「……アギト、撤退する」

「聞こえてるなら返事しろよ! ったく」

 

言いつつ浮き上がる球体方魔法陣。光に飲み込まれるようにして、俺達はその場から家へと向けて撤退したのだった。

 




■すずかが名誉中将、メラが大佐
=ヒモ。
ヒモって言うなっ!!
機動特務部隊ホロウ=実質すずかの私兵=そこの部隊長であるメラはすずかのヒモ
ヒモじゃないっ!!

■ガイア式教導官キャロ軍曹
本来は大尉だが、訓練部隊出向の折に軍曹という事に成っている。
ガイア式における理論、技術指導、実戦演習などを請け負っており、ガイア式に関わる人間は少なからず彼女の教導を受ける事になる。
そもそもが特務部隊ホロウの任務の一つとしての教導だった。メラが異世界によく出回るため、代わりにキャロが教導を行なったところ、「男よりも可愛い女の子がイイ!」という老若男女の声なき声(全体的に成績向上)により、以後キャロが引き継いだ。
名物として『フリードの火刑スカイラン(飛行訓練。背後からフリードが火を噴いて追ってくる。集中力が途切れれば墜落かアフロ。』『ヴォルテールのスタンピング生存術(これでもかとヴォルテールがアイザックさん張りに踏みつけてくるので、とにかく逃げ回る生存訓練。』『SR復興作業(SR機を用いた復興作業。SR機の訓練にもなり、同時に復興作業にもなるので民間から人気』『キャロせんせーの理論講座(眼鏡型HMDを装備したスーツ姿のょぅι゛ょの姿に萌えつつ受ける講座。大人気だが受講できるのは良く訓練されたエリートだけ。』などがある。


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18 Bullet of Lanster

Side Teana

 

メラさんは結局、此方の戦闘を観測する言葉の通り、戦闘に直接介入する事は無く。私としてもメラさんと直接対決する、なんて事態に陥らずに済んだ事に安堵の吐息を漏らしていた。

 

でも、事態は更に少しずつ進みだす。

 

聖王教会系の医療院に入院していたあの保護された少女――名前はヴィヴィオと言うらしい――を、なのはさんが引き取ってきたのだ。

 

なのはさんに懐いているらしいこの少女。なのはさんに常にべったりなのは、まぁ業務に支障を来たさない程度であれば問題ないのだが。

問題は複数。先ず、何故かこのよぅ……少女が、私にまで懐いてしまっているという点。

 

私、別に懐かれるようなことはしてないわよね? ただちょっとなのはさんが居ない間に様子を見てたとか、余ってたお菓子をあげたとか、その程度のことしかしていない筈。その程度のことならスバルのほうが好まれる要素は多いはず。

 

それに、若干だが、私の直感があの子、ヴィヴィオに対して警戒を解いていない、という点も問題が在る。

 

私の直感は、メラさん、師匠/マスターに鍛えられた、生き抜くための重要な武器だ。私自身の判断よりも余程信用が置ける。そんな私の直感が、未だにヴィヴィオに対しての警戒を解いていないのだ。

 

間違いなく、この少女には何か在る。

 

メラさんから貰った事前資料。人造魔導師という存在。それに当てはめれば、多分この子はプロジェクトFの技術を持った存在だろう。

 

既存の人物を戦闘に耐えうる魔導師に改造する、人造魔導師素体の子供、だとするならこの子は意識がはっきりしすぎている。人造魔導師素体の場合、薬物や機械的な洗脳により自意識が無い、と言う場合が多いらしい。

 

大して人工授精児、つまり初めから遺伝子を弄くられ生み出された魔導師にしても、ここまで安定した状態には成りえない。

 

先ず間違いなく、モデルとなった人物の遺伝子情報と記憶を複製して作られた、プロジェクトFの産物。そうとでも考えなければ、この少女の安定性はおかしい。

 

――でも、だとすれば。今度は少女の少女らしい動きが――不安でたまらない、という少女の動きこそが、逆に疑わしく感じてしまう物が在る。

 

私や高町空尉に懐くのは、もしかして何等かの意思を持った行動なのではないか? 人造魔導師である以上、何等かの此方の知りえない能力を保有している可能性とて否定は出来ない。

 

――が、まぁ実際のところ、私とヴィヴィオが関わる時間なんていうのはかなり少ない。それこそ通りすがりにばったり、何て事も一日に一回あれば多いほうなのだ。

 

偶に隊長陣の出張に際してヴィヴィオの面倒を見る事も在るのだが、その場合は大抵エリオと御剣二等陸士が面倒を見ているし。

 

「…………」

「……おー」

 

だから、私がこうしてヴィヴィオと一緒に電王を見ているのはきっと何かの陰謀だ。

 

 

 

 

 

 

で、もう一つの問題。それは、ヴィヴィオの件に際して、うちのフォワードの内何人かが憂鬱気味になっていると言う点だ。

 

一人はエリオ。公には私は知らない事になっているのだが、あのガキンチョはプロジェクトFによって生み出された、ホンモノ、というか、オリジナルのエリオ・モンディアルを基にして生み出された存在だ。

 

どこぞの馬鹿な富豪夫婦が、自分の息子の死を受け入れられないからと、その息子のDNA情報を元に、当時既に違法とされていたプロジェクトFを使用、その息子を元に、現在のエリオを生み出したのだ。

 

しかも最悪なのが、それが管理局に漏洩した時、よりにもよってモンディアル夫妻はエリオを諦め、素直に管理局に彼を渡してしまった、という点だ。当時の事件担当の記録に、そんな記述があった。

 

本当、いろいろな意味でその夫婦は元のほうのエリオと、今のエリオのことを馬鹿にしている。今私の目の前にいれば、間違いなくイクリプスモードでぶっ飛ばしている。

 

まぁ、エリオに関しては兄貴分である御剣二等陸士や、保護責任者であり母親分でもあるハラオウン執務官がいれば問題は無いだろう。

 

どちらかと言えば問題なのは、私の相棒、スバル・ナカジマ二等陸士だろう。

先日の戦闘で姿を見せた、全身タイツみたいなスケベな格好の女の子たち。その特徴は、魔法陣に似た術式テンプレートを使用し、然し同時に魔力以外の高エネルギーを使用した砲撃。

 

如何考えても自然に生まれる存在ではなく、そして私には彼女達のような存在に対する知識が在る。

 

――それが、戦闘機人。

 

人造魔導師のカテゴリで言えば、素体型ではなく人工授精児。それを素体として、肉体に機械部品なんかを埋め込み作り出される、戦闘に特化し、戦闘を目的として生み出された人造人間。

 

「…………」

 

そうして、私の隣で鬱々と事務作業に励むこの馬鹿。コレもまた、実は戦闘機人として生み出された、なんて過去を持つ子だったりする。

 

曰く、スバルの母親、嘗て首都防衛部隊のエースの一人とされた人物。そのレアスキルを目的に、違法に流出した彼女の遺伝子を利用し生み出された戦闘機人。

 

しかし後にスバルたちの生み出された研究所は、彼女自身により襲撃・壊滅。そして其処で発見されたスバルたちは、彼女自身によって保護される事になる。義理の、とは言うが、実際のところギンガさんとスバルは、母親と血のつながった実の親子でもあるのだ。

 

――どちらかと言えば、三つ子とか、姉妹とかの方が近いのかもしれないのだけれども。

 

右手を肩に沿え、左手の先で狙いをつけて――バチッ!

 

「ウキッ!」

 

あ、面白い悲鳴。

 

「ティ、ティア!?」

「馬鹿ね。コイツラが何なのか考えるのなんて、アタシらの仕事じゃないでしょ? 判断するのはロングアーチスタッフと隊長たち。私達が作ってるのはその判断材料としての報告書! 分ったらさっさと作業」

「うぅ、はーい」

 

実際、私らは下っ端の尖兵。仕事は最前衛で敵を叩き、一般市民をその脅威から守ること。

相手が何か、何が狙いか、なんて事を考えるのは、それこそ私や馬鹿スバルが考る事じゃないし、考えてどうにかできるような事でもない。出来たとして、精々この報告書の末尾に少し意見を書いておく程度か。

 

「それに確定が出たとしてもあんたが悩む事じゃないでしょ? シャンとしてなさい」

「ティア……ありがと」

「うっさい」

 

別に感謝されるような事をやった覚えも無いし、ね。

 

 

 

 

 

そうしてその翌日。いつもの早朝訓練を終え、報告書を作成しているそんな最中。不意に艦内アナウンスで呼び出され、隊長室の八神部隊長の前へと呼び出された。

一体何事かと思えば、どうも八神部隊長、私の目標が執務官であるという事を覚えていてくれたらしく、「将来のために偉い人の前に出る経験」の為に、本局への同行に誘ってくださったらしい。

 

これは有り難い。一応偉い人の前に出る訓練と言うかそういう経験は、EFFの軍人としての経験なら在るものの、管理局所属の局員としての経験は無い。

まぁたいした差は無いと思うのだが、経験しておいて損が在るわけではないだろう。

 

「有難うございます、同行させていただきます!」

 

と言うわけで八神二佐部隊長に同行し、時空管理局本局を訪れたのだが、通されたのは本局ではなく、本局の転移ポートを経由し、その港に停泊している次元航行艦、XV級艦船「クラウディア」の艦内ポートだった。

うっわ、凄い真新しい。下手したら本局の設備よりもいいんじゃないだろうか。

 

「はーやて」

 

と、そんな事を考えていると、だだっ広い艦内通路の向こう側からそんな言葉が聞こえてきた。

 

見れば向うから来るのは、緑髪の長身の男性と、黒髪の男性。確か黒髪のほうが、この時空航行艦クラウディアの艦長、クロノ・ハラオウン提督だった筈。緑髪のは……何処かで見た記憶は在るのだが、情報が出てこない。

 

「ようこそ、クラウディアへ」

「凄い船やね。さすがは新造艦や」

「まぁな。――臨時査察を受けたそうだな。大丈夫だったか?」

「うん、即時査問は回避できたよ――そや、紹介しとくな、ウチのフォワードリーダー、執務官志望の――」

「ティアナ・ランスター二等陸士であります!」

「ああ」「よろしくー」

 

……なんだろうか、この緑髪、妙に違和感が無いというか。

 

そんな事を思いつつ、案内されたクラウディアの接客室。

 

「君も座れば?」

「い、いえ。自分は此処で」

 

言われ、咄嗟にそう返す。軍務上、上官の会談の際、付き添いでしかない自分が上官の座る席に同席すると言うのは流石にありえない。

……いやまぁ、この面々が機動六課のお気楽な雰囲気の元、と言うのを考えれば、私は少しこの場では場違いというか、空気が読めていないのかもしれないが。それでも自分のスタイルを崩すのは勘弁願いたい。

 

「君も食べるかい?」

「いえ、自分は結構です。お気遣い無く」

 

ケーキを八神部隊長の皿によそいながら、そんな事を聞いてくる緑髪の男性。確か、ヴェロッサ・アコースとか言う査察官。

お気遣いはありがたいのだが、寧ろ私に此処でそんなものを勧められても、その誘いに答えるのが不可能だという事を察して欲しい。

で、少しして漸くその事に気付いたのか、アコース査察官は私にデータを渡す、と言う名目で私を接客室から連れ出してくれた。

 

「じゃぁ、データはコレね。重要データだから、気をつけて」

「はい」

「ティアナだっけ?」

「はい」

「君から見て、はやてはどう?」

 

……如何答えろと? 指揮経験も未熟な小娘が頑張っているが、それでも不足は感じる、なんて正直に答えろと? 無茶を言う。

 

「それは……優秀な魔導師で、優れた指揮官だと」

「うん、そっか」

 

ので、妥当なところでお茶を濁しておいた。このお茶を濁すって管理外の97番、日本地区独特の言い回しらしい。然し何でメラさんはこういう独特の言い回しとか知ってるんだろうか。あの人って古代アルハザード文明の生きた遺産、一種のロストロギアなのよね? ソレにしては何か、ニッチというか、現地人として違和感が無いというか。

 

「はやてとクロノくん、ボクの義理の姉のカリム。三人は結構前からの友人同士でね、その縁でボクも仲良くさせてもらってるんだけど……」

「はい、存じております」

 

と、何か語りだしたアコース査察官。要約すると、「はやてはいい子。上司としてだけじゃなく、一人の女の子としても見てあげて欲しい」との事。

……いやぁ、それはちょっと厳しいんじゃないでしょうか。幾ら年の近い女の子同士とはいえ、上官下士官の区別ははっきりと付けておかないと。軍規とはそういうものだと思う。のだけれども、此処は管理局で、軍じゃなくて局だし……。

 

「まぁつまり、ボクの言わんとしている事は……だね。部隊長と前線隊員の間柄だと色々難しいかもしれないけど、上司と部下ってだけじゃなく、人間として、女の子同士として、接してあげてくれないかな? はやてだけじゃない。君の隊長たちにも」

 

――うん、そうだね。一般部隊ならまだしも、特殊部隊所属の隊員同士の円滑なコミュニケーション形成の為、と考えれば、コレも一つの任務だと割り切ってしまおう。

 

「了解しました。現場一同、心がけるよう勤めます!」

 

と、その返事に気を良くしたのか、にこっと笑うアコース査察官。

うーん、やっぱりこの声、何処かで聞いたような。

 

《ははは、やっぱりマスターがしおらしいのはキャラが違いますよね》

《――あぁ、そうか、アンタか》

 

不意に念話で如何でもいい事を喋りかけてきたのは、私の相棒・ファントムクロス。そうか、何処かで聞いた事の在る声だと思っていたのだが、なるほどファントムの声に似ていたのか、このアコース査察官の声。

……なんだろうか、この人がTSFに乗ると、格闘型の機体で無理矢理出力任せの射撃戦をやりそうな気が……うん、きっとこれは電波と言うやつね。

頭を振り払って邪念を払い、ついでに腰ポケットに納めている待機状態のファントムクロスを殴っておく。

 

「どうかした?」

「い、いえ、大したことでは」

「そうかい?」

 

不思議そうに首を傾げるアコース査察官。ああ、この人いい人なんだろうな。

とりあえず、八神部隊長と仲良くする? 方法について、何か在るだろうかなんて事を考えつつ、アコース査察官の横に並んでクラウディアの艦内通路を歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

 

ティアナがはやてと仲良くするその一助として、アコース査察官がティアナに美味しい魚の出る店の場所を教えている、その丁度同じくらいの時。

 

場所は変わって、ミッドチルダは首都、クラナガン。廃棄区画とされたその一角の地下、下水道の網から切り離され、巧妙に構成された地下の秘密通路の先、ぽっかりと口をあけた広大な空間。

 

管理局は勿論、犯罪者組織にすら知られる事のない、秘密の空間。其処に収まるのは、光の反射で少し緑掛かって見える、黒く巨大な艦。ウル、と呼ばれるアルハザードの時代に建造された艦だ。

 

「……どうだ、すずか」

「案の定、かなり危ない数値みたい」

 

そのウルの艦橋。嘗てのソレから考えれば、大分整理され居住性能が向上したその空間。

其処に座る三人の影。一人はメラ、この艦の主であり、古代アルハザード時代に生み出された、対ギーオス用の生物兵器、いや、生物兵器という形を借りた概念兵器であり、形を持った“生きた”生命エネルギー。そして未来を知る転生者の一人。

メラの問いに答えるのは、紫色の髪に、金色に染まった瞳を持った少女。吸血鬼の一族に生まれた、地球人の少女、月村すずか。

 

「あと少し、何か切欠が有れば間違いなく来る、と思う」

「マスター、これティアに知らせておいたほうがいいんじゃないか?」

 

すずかの言葉に意見を付け加えるのは、赤い髪に、地球連邦軍の制服を身に纏った少女。嘗てベルカの時代に製造されたベルカ式融合騎にして、現在ガイア式に改修された融合騎、烈火の剣精アギト。

 

三人の前、ウルの艦橋メインパネルに表示されているのは、一つのMAPデータ。それは、このミッドチルダの周辺、クラナガンに限らず、この星全体を示した地図だった。

しかし地図にはそれだけではなく、全体を覆う赤い斑点のような物が示されている。

 

「そうだな。後でファントムクロスに連絡を」

「――でも、予想していたとはいえ、此処までだなんて……」

「マナ・マップ。こりゃ、中国が焦土作戦を敢行した時の地球並に酷いじゃねーか。なんで未だ無事なんだ?」

 

そう、艦橋に表示されているソレ。それは、メラにより持ち込まれ、地球で現在も利用されている、星の生命力を示す地図、マナ・マップ。

星の生命力を環境変数から割り出し、その地域のマナの状況を視覚的に地図上に投影すると言うシステム。其処に表示されたミッドの地図は、マナ汚染によって真っ赤に染まっていた。

 

「多分、一つにこの世界にギーオスの卵が無かった事、一つに魔法世界の中心というだけあって、直接次元震なんかの大規模災害に見舞われなかった所為、だろうな」

「次元震が無かったから? 如何いうこと?」

 

「確かに環境汚染によりこの世界はギーオスにとって垂涎の的なんだが、その存在に気付かなければ平和なのは当然、という事」

「……そりゃ、盲点だわ。そっか、ギーオスが気付いてないのか」

「多分、な。でもまぁ、時間の問題だろう。管理世界でのギーオス発見数は徐々に増えている。少しでも小さな次元震が起これば……いや、そうで無くとも、その内何処かの管理世界で静かに成長したギーオスが、次元航行艦の軌跡を追ってこの世界に来る」

 

そうなればこの世界は、まさしく地獄に成るだろうと告げるメラ。

ギーオスにとってこの世界は、とても済みやすい環境であると同時、餌となる魔力を保有した人間が大量にいる世界だ。これ程ギーオスの繁殖に向いた世界も他には無いだろう。

 

「この間感じた違和感の事もある。……いざとなれば、キャロに働いてもらう、か」

「まさか、地球から直接?」

「地球からミッドには距離が在るとはいえ、決して人事ではないからな」

 

言いつつ、コンソールに何かを打ち込んでいくメラ。

 

「でもさマスター、今って確か月の最終攻勢に向けて戦力を整えてる上、地球圏絶対防衛網のために月のドックもフル稼働中なんだろ?」

「月のドックだけじゃなく、月―地球間のL点でも、最新の地球圏防衛用超大型艦を建造中だ」

「あの、外殻が一つの素粒子、とかいう?」

「じゃなくて、そんだけフル稼働してる最中で、態々他世界に戦力を出す余裕が在るのか、って話」

 

アギトの言葉に、眉間にしわを寄せるメラ。確かに地球……EFにしてみれば、次元世界、時空管理局は、此方の事を低レベルな文明と断じ、裏で好き勝手していた組織、と言うのが現在の地球連邦における共通認識だ。

 

既に地球圏には管理局の勢力が存在しないとは言え、地球連邦が設立され、その存在が明らかにされた今。嘗て彼らが世界に対して好き勝手に介入していた証拠は腐るほどに存在していた。

 

そんな勢力に、この急場で、見返りも無くあえて戦力を提供しよう、などと言うのは、誰も首を縦に振らないのは明白だろう。

 

「……すずか、頼めるか?」

「GZ? 仕方ないなぁ。その代わり、今度一緒にデートだよ?」

「一日と言わず、この件が済めば何度でも」

「本当? やった」

 

そう言って微笑むすずか。そんな少女の顔を見て、何処か嬉しそうに、けれども無表情なままのメラ。

 

「……うへ~」

 

そんな二人の作り出す桃色空間に、思わず口元を引きつらせ、そんな声を漏らすアギトであった。




■月のドック
運営する企業の名前はB&T下部組織のアナハ……うん? こんな時間にお客さんか……。

■地球圏絶対防衛網
月と月衛星軌道上L点に設置された防衛要塞をはじめとした最終防衛線。
防衛衛星の建造法は、資源衛星をSR機で豪快に砕いた後、建築用ナノマシンで整形するというもの。

■GZ
すずかの搭乗機、ゼオライマーのカスタムタイプ。
メラから流出した超技術をすずかが独自に解釈・分析し生み出した機体。ガイア式技術は極端に抑えられており、使用されているのは主に次元連結システムにほぼ絞られる。その他部分は基本的に従来技術の延長で構成されているため、かなりの汎用性・生産性を誇る。SRなのに他SRに比べるとかなり低コスト。
現在の地球・B&Tの生産する量産型SR機の原型モデルの一つ。
恐ろしいのは当機の根幹たる次元連結システムは完全にすずかの独自作品である点。管制AIはミク。歌姫のほう。


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19 ガンスイーパー ティアナ・ランスター 突撃大作戦

 

 

Side Teana

 

 

 

「あれ? ティアナ、センターガードしかやってないの?」

 

ある日の早朝訓練。珍しく事前に招集が掛かったかと思えば、新しく本局の技術官であるマリエル・アテンザ技術部技官と、108部隊から出向してきたギンガさんの紹介があった。

 

で、ギンガさんとスバルの、ウィングロードがグネグネ絡みあうなんとも不思議な疑似空戦を眺めた後、フォワードメンバーと隊長陣営の模擬戦が終わり、更に軽い訓練が行なわれ、さぁ朝の訓練は終了だ、と言うところで、不意にギンガさんがそんな事を言った。

 

「うん? ギンガ、如何いうこと?」

「え? いえ、ティアナがセンターガードしかやってなかったんで、フロントアタッカーの訓練はしないのかな、って……」

 

キョトンとした表情のギンガさん。そういえばギンガさんには後方支援も突撃前衛も行ける、なんて事を話したことが在るような無いような。

周囲から集まる視線に、思わず視線を横に逸らす。

 

「……ティアナ?」

「ははは、はいぃっ!?」

「ティアナって、センターガードじゃなかったの?」

「い、いえ。その、一応前の部隊ではオールラウンダーとして扱われてましたが……」

「「「「え、ええええええっ!!!???」」」」

「え、ええっと、もしかして知らなかったん、ですか?」

 

ギンガさんのそんな言葉に、コクコクと首を縦に振る高町一等空尉。

 

「言ってなかったの?」

「ええ、まぁ、聞かれる事も無かったので」

 

私は自分のポジションに関しては何も言っていない。何かを言う前に、向うで勝手に訓練メニューを決められてしまっていたので、意見するのも面倒だったのでソレに従い訓練をこなしていたのだ。

 

それに教導メニューで不足したと思った訓練は、その後の自主トレで勝手に訓練をしているし。偶にシグナム副隊長やヴィータ副隊長なんかに協力してもらって、市街地戦なんかを想定した模擬戦闘もやっている。

 

因みにオールラウンダーと呼ばれていたとはいえ、私自身としてはその呼称は身に余ると感じている。精々マルチアタッカー程度じゃないだろうか。フルバックは出力的に厳しい物があるし。一応収束も使えるが、アレは環境汚染が酷いからと使用は一応止められている。

 

それに、本職としてスーパーオールラウンダーであるキャロを日常的に見ていた身としては、私はあそこまで器用に立ち回れるとは思わない。せめてフルバックか前衛かははっきりと切り替えなければ。

 

唯一つ疑問が在るのだが、エリオと御剣二等陸士には、一応スキルと経験を告げた時に、その辺りのことは少し言っておいたと思うのだけれど。

 

――然し、なんだろうか。高町一等空尉のプレッシャーが凄い。

 

「因みに、驚いてなかった其方の方々はご存知だったんですか?」

「わっ、我々は偶にランスターの相手をしていたからな」

 

言うシグナムの言葉に、無言でぶんぶん首を縦に振るヴィータ。

その隣に立つスバルと並び、顔を真っ青にしてガクガク震えている。

 

「……ティアナ」

「は、はいっ!!」

「何で言ってくれなかったの?」

「い、いえ、聞かれませんでしたし……」

 

第一、言ったところでソレを使えるわけでもない。私が戦うのは、主にフォワードメンバー内。フォワードと言えば、技量的には少し心許ない連中がその大半を占めている。

 

オールラウンダー技能を持っているとはいえ、ソレを生かすにはある程度の技量を持ったパートナーが必要だ。例えば前衛の火力不足時、私が前に入っても違和感無く連携を繋げる程度の力量、とか。少なくともポジションチェンジを前提としてある程度の訓練を行なっておく必要が在る。

 

だが、現在この場にいる人間で、私のポジションチェンジに対応して戦闘をこなせる人間と言えば、副隊長陣営とギンガさんくらいか。隊長陣営? あの人たちは出力偏重すぎて、私とはコンビネーションなんて絶対に組めない。

 

「資料にはそんな事、一言も書いて無かったよ?」

「資料……って、どの資料ですか?」

「386のだけど……」

 

前の陸上警備部隊の資料? でもあそこって確か……。

 

「あそこの資料って、新しい信頼性の在るものを頼みましたか?」

「えっ?」

「あそこの部隊は大抵現場処理で、資料整理なんて殆どされてませんよ。私だって、自分からオールラウンダーなんて名乗ってませんし、ソレってあくまで部隊内の通称でしたし」

 

多分、一番最初、隊に配属されたとき、腕前を見せろと言われ、スバルとのコンビで戦って見せたのだ。その時に私がセンターガードだと判断されたのだろう。

 

「でも、そういうのって普通修正しない?」

「警備部って言っても結構忙しい部隊でしたから。信頼できるのは古い資料より新しい資料、新しい資料より古株の局員、です」

 

多分だが、私がオールラウンダーなんて呼ばれるように成る前から、全く資料が更新されていなかったのだろう。

前線部隊なんて大抵滅茶苦茶忙しい。私の居たところもそうだったし、報告書だって大雑把な物にしておかなければ次から次から溜まっていくような状況。たかが新人の戦闘スタイルなんて一々更新したりはしないだろうし。

なんて事を言うと、ガックリと疲れたように溜息を吐く高町空尉。

 

「……私の教導って、無駄だったのかな?」

「(うん、とはいえないし……)いえ、センターガードの訓練としては効果的であったと思いますが」

「そう? ……そっか、うん、有難う、ティアナ」

 

何か勝手に一人で納得したかの様子の高町空尉。でもなんだろう。その場に居る全員、顔色が悪いような気がするんだけど……。

 

「それじゃ、ティアナ、ちょっとティアナの前衛技能を見せて欲しいんだけど」

「は、了解しました」

「相手は――そうだね、シグナム副隊長?」

「(ビクッ!)あ、ああ。承った」

「それじゃ、フィールドはいつもの市街地フィールド。ルールはダメージを数値化した総ダメージポイント制。時間制限は有り、30分、って所かな」

「「了解!」」

 

そうしてシグナム副隊長と共にフィールドへと移動する。

 

「……ランスター、貴様高町に自分の技能について報告しておかなかったのか?」

「いえ、その……どう言うべきだったんでしょうか? 私、実は前衛も出来るんです、って?」

「……むぅ」

 

シミュレーターへ移動する最中、そんな事をシグナム副隊長と話しながら移動する。

とはいえ、私もシグナム副隊長も移動系の魔法は取得しているので、それほど時間は掛からないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

「あの、本当にやるんですか、なのはさん」

「うん。出来る、って言うなら、ソレを戦術に組み込むのも考えなきゃだし、ならある程度実力を見せてもらわないとね」

 

そういいながらシミュレーターのコントロール端末を指で叩く高町なのは。そんななのはの背後、フォワードメンバーは心配そうにシミュレーターの方向を見つめていた。

 

「だがな、なのは。シグナムは制限が掛かっているとはいえ、それでも空戦S-。とてもティアナじゃ相手になるとは思え無いんだけど」

 

そう言って、なんとかこの模擬戦を止めさせようとしている御剣二等陸士。けれどもそんな事は、なのは自身も分っている事だ。

 

「大丈夫だよまもるくん。シグナムさんだってそんな事は分ってる筈だよ。それに、シグナムさんも行ってたじゃない、何度か模擬戦をしてるって」

 

その辺りの加減は本人達もちゃんと心得ているよ、となのは。そうして、まだ少し戸惑っていた御剣を押しのけるようにしてコンソールに口を寄せた。

 

『はーい、それじゃこれからシグナム副隊長VSティアナの模擬戦闘演習をはじめまーす』

 

広い広いシミュレーター空間。けれどもその場に居るのは、ティアナとシグナムの立った二人。その二人は、普段と同じくシミュレーターの中央、一番太い通りで向かい合って其々武器を構えている。

 

互いに構えるのは自らのデバイス。

シグナムはその薄桃掛かった色の騎士甲冑を身に纏い、その手にはカートリッジをロードし炎に燃えるレヴァンティンを既に装備している。

 

対するティアナは、いつもの白いバリアジャケットに身を包み、その手に持つのはハンドガンとダガーの状態に変化したファントムクロス。

 

ティアナに関しては見たことの無いその姿に若干名が驚きを感じつつ、然し大半の注目はシグナムの方へと向かっていた。

 

『ちょ、シグナムさん!?』

「行くぞ、ランスター!!」

「今日は私も突っ込みます!!」

 

完全武装どころか、カートリッジまでロードした限定解除モード。完全に殺る気のシグナムの姿に、咄嗟に制止の声を掛けようとしたなのは。けれどもその声は少し遅く、瞬間空気に溶けるようにしてシグナムとティアナの姿が消えて。

 

――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

直後、音に成らない音の衝撃波が、シミュレーター上に展開された隔離結界の中で強く響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

シグナム副隊長の戦術は、実にシンプル。あの人の行動は、『寄って斬る』の一言に集約される。というか、それ以外にない。

 

ではそれが単純かと言えばそうではない。断じて違う。その、たった一つの寄って斬るという動きには、私には数え切れないほどの年数をそれだけに繰り返してきたのであろう研鑽の重みが感じられる。

 

最初こそ此方を舐めて掛かってきていた所為か、ある程度打ち合うことは出来た。けれども、ある程度打ち合ったところからは通常の状態では全く対処できなくなる。

 

「……っちい!!」

「紫電一閃!!」

 

防御を叩き割る垂直斬り。咄嗟に魔力を乗せたコンバットナイフでカウンターを狙うが、今度は其方に剣をあわせられる。

 

剣の結び合いになれば此方に勝率は無い。即座に右手のハンドガンを乱射。全て回避されるがソレでいい。即座に距離を置き、再び此方の間合いを保ちながら機を狙う。

 

基本的に私とシグナム副隊長の技量差を考えれば、シグナム副隊長とのクロスレンジでの斬り合いは自殺行為。であれば、飽和砲撃で動きを制限しつつ、強襲による一撃離脱が理想系。

 

けれども飽和攻撃をするのは私のポリシーではない。私のポリシーは、精密射撃による一撃必殺。その前提をあわせると、最も効率的なのはカウンターによる必殺だろう。

 

「……如何したランスター。そうして距離をとっていては、何時までたっても私は仕留められんぞ」

「ええ、今仕留める手段を考えてる最中です」

 

普段から用意している対ベルカの騎士戦用プラン、基本戦術プランは先述の通りカウンターによる一撃必殺。ソレが不可能な場合は、御神流を使用した神速による加速を利用した速度による力押し。

 

けれどもシグナム副隊長の場合、カウンターに対応する技量、瞬間的に速度を上げた途端、距離をとって牽制に映る直感・判断力。突飛なレアスキルこそ無いが、この安定した完成度が途轍もなく厄介だ。

 

まだヴィータ副隊長とかなら大技の隙が狙えるのだが、シグナム副隊長にはソレが無い。訓練相手としては最高の相手なのだが、実戦でコレに当りたいとは絶対に思えない、そんな相手。

 

「はぁっ!!」

 

寄って斬る、その動作に最低限のクイックブーストで回避。即座に背後に回りこみ、バックアタックによる強襲を仕掛けるが、振り向き様に振るわれるレヴァンティンを回避するため咄嗟にしゃがみ込む。

 

跳ね上がるように真上に向けてコンバットナイフを振るうが、今度はシグナム副隊長がバックステップ。コンバットナイフは宙を斬る。

 

即座に前方にダッシュし、追撃を仕掛けるが正面から騎士に挑むのはやはり自殺行為。即座に息を吹き返したシグナム副隊長が、再び前へ踏み出しながらの一撃。コレを咄嗟にコンバットナイフで受け流すのだが、受け流した左手に強い痺れを感じる。

 

矢張り騎士にクロスレンジを挑むのは自殺行為だ、なんて考えつつ、即座に左手による攻撃案を破棄、右手のファントムクロス本体によるフラッシュバレットを連射する。

 

何発かは当るものの、元々防御力もソコソコ厚いシグナム副隊長だ。数発当った程度ではびくともしない。が、だからといって無視できるわけでもなく、再び間合いを開く事になる。

 

再びのシグナム副隊長の接近まで、予想時間約4秒。その間にファントムクロスに命じて術式展開。ブースト系術式に被せるようにして回復系術式を機動。ガタガタに成っている肉体に、元々のブーストと合わせて更なる回復処理を施す。若干ブーストの能力は落ちるが、部位に異常を抱えたままの接近戦など御免被る。

 

そうしてある程度無理の効く状態。再び接近してきたシグナム副隊長に、フラッシュバレットを打ち込みながら一気に接近。ナイフに魔力を込め、必殺の一撃を――。

 

――ガキィンッ!!

 

「……其処までにしとけ。ってか、其処までにしとかねーと、後始末が大変だぞ?」

 

不意に何かの力に振りぬこうとした左腕の一撃を止められた。見れば其処には、グラーフアイゼンを構え、私のコンバットナイフを受け止めるヴィータ副隊長の姿があった。

 

――拙い、また戦闘モードに成ってたか。

 

「シグナムも、此処までにして置いてください」

「……テスタロッサか。まぁ、致し方あるまい」

 

見ればヴィータ副隊長の向こう。ヴァルディッシュを構えるフェイト隊長に、レヴァンティンを受け止められたシグナム副隊長の姿が見えた。

 

 

 

そうして終了した模擬演習。結果としては、シグナム副隊長と私は引き分け。けれども、その事で色々と問題が発生した。

 

なんでもシグナム副隊長と引き分ける陸戦Bとかありえない。でも魔力ランクは多く見てもB+。魔力ランクがBでは、如何頑張っても陸戦A以上には届かない。何だソレは、と頭を抱える八神部隊長と高町一等空尉。

 

然し実際のところ、私が戦闘に使っている魔法といえば、補助系がメインで、後はフラッシュバレット――射撃系が殆ど。最後に不発だった魔力刃も結局不発だったし。

 

私の戦闘を支えるのは、主にソレまでの戦場で培った経験と判断力。そして未熟かつ数点のみながら教えられた御神の技だろう。

 

まぁ、部隊長達の葛藤は如何でもいい。もう一つの問題は、私とシグナム副隊長が暴れた結果、本日の昼間の間はシミュレーターを利用することが出来なくなってしまった、という点だろうか。

 

シミュレーターに負荷が掛かりすぎた結果、どうもジェネレーターが冷えるまでの一定時間、シミュレーターを使用できないらしい。偶にシグナム副隊長と模擬戦をやるときは、夜中の涼しい時間であり、終わってから朝になるまで結構な時間があった事で問題にならなかったのだろうが……。

 

幸い責任問題なんかにはならないそうだ。だってシミュレーターで訓練した結果機械が壊れました、なんて流石に無理がありすぎる。

弁償云々という方向に話が進まなかった事にだけは、思わず安堵の吐息を漏らしてしまった。

 

「……私の、私の教導の意味って……」

「あかん、これ下手すりゃ査察の理由になる。ティアナは前衛では使えへん。でも、ああ勿体無い!!」

 

ついでに、何か苦悩する二人が鬱陶しかった、と言うことだけは最後に付け加えておく。

 

 

 

 





■GSランスター突撃大作戦
タイトルネタ。

■ポジション
大体前衛、中衛、後衛の三つを更に三つに分けた六つに加え、その他番外的なポジションが幾つか。
キャロがスーパーオールラウンダーで全ての領域で対応。
ティアナは大体の事が出来るが、広範囲魔法が割と苦手。簡易回復は出来るがブースト系は不可。つまりサポートが苦手。生存能力は凄まじい。
因みになのはの扱いはMAP兵器。

■ギンガ・ナカジマ
スバルの姉。本作においてもティアナとはスバル経由で知り合っている。ティアナの休暇に起こったとある事件で、共に現場に乗り込むに当ってティアナの技能を把握していた。その縁で彼女のストライクアーツは魔改造を受けている。現在はそれをシューティングアーツに組み込むべく努力中。

■戦闘モード
一種のトランス状態。極限の集中状態。KOOLタイム。
戦闘に集中しすぎる余り、前提条件外の事にまで考えが及ばなくなる場合がある。
別に特殊能力云々ではなく、EFFの調きょ……訓練の成果。

■私の教導の意味
何処の二次創作でも言及されているが、まずその意味を教導対象に伝え、一緒になって教導を考えるべき。相談せず勝手に思い込みで行動した結果がこの様だよ!!


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20 公開意見陳述会

Side Mera

 

 

次元世界を広域にわたり守護する組織、次元管理局。

その次元管理局における運営方針を、各次元世界の目も向く公の場で話す。それが公開意見陳述会というもの。

 

俺のあやふやな原作知識では、たしかこの公開意見陳述会と言う場で大事が起こる。はず。あんまり正確な情報を覚えているわけではないのだ。

 

本編はアニメで見て、一応無印の小説版は読んだ覚えが在るのだが、それ以外はさっぱり。ドラマCDなんかは、そんな登場人物がいるという事をネットで見たことが在るだけ。

 

もしそのドラマCD内のことを他の二人が知っていて、その差異から此方の存在に勘付かれている、なんて可能性も無きにしも非ず。

 

まぁ、たかがドラマCDでそこまで本編に重大な要素を与えるシナリオは無い、と思うんだけど……リリなのだしなぁ?

 

話を戻す。詳細は分らないが、本日この公開意見陳述会が襲撃を受ける、という事だけは確りと記憶にある。

 

月の制圧が済み、現在のEFFは火星のレギオン討伐の為、戦力を増強している真っ最中。超弩級旗母艦『コスモ・ワン』の建造も進み、同時に月面のアーコロジー化も進行中。重力制御系の進展により、中・小型の宇宙航行艦の開発も進んでいる。

 

米国系のトレック型、日系のナデシコ型、ソビエトのサリャーリス型、その他多くの航宇宙艦が登場し、同時に宇宙開発がかなり過熱してきている。現在宇宙開発でトップを争うのは日米露濠系の4つに加え、独英印系の三つがそれを追随する、と言う感じだろう。

 

悲惨なのは中国で、嘗ての焦土戦略以降無政府状態が続いている。あれ以降誰もあの土地に手を出したがらないのだ。結果として更に紛争が続き、ギーオスが沸き、もうあそこの土地の人種は壊滅的状況。

 

更に付け加えておくと、そんな状況をチャンスと見た某北の国(EFに地球上で唯一加盟しなかった国)は中国国土に侵攻。即座に沸いて出たギーオス三匹に侵略部隊を壊滅(つぶ)され、更にその間に本国を月の裏側から来たレギオンに潰された。で、援助を寄越せニダニダ言ってる間に、何処からかわいたギーオスと日本へと向かう巣作りレギオンが半島北部で激突。

 

救援を当然ながら無視する各国に痺れを切らしたかの国。この大惨事を何とかすべく自前で動き出した某北の国は、何をトチ狂ったか自国製の核を持ち出した。使えば更なるギーオスの増殖を招くという警告を知っての暴挙に、しかしそうでもしなければ収集もつかないかと、ある程度各国は理解の色を見せ。

 

結果として核は起爆に成功。問題が在るとすれば、核を載せたミサイルが飛ばなかった点。結果、某北の国は自滅。中国大陸に大量の盗賊を放つという、ただでさえ治安も糞もない状況の中国大陸に更なる追い討ちを掛けたのだった。

 

因みに、半島北部は、国家体制が消滅した時点で南半島のEFFが派遣したSRにより正常化。そのまま土地を放棄し、北半島は浄化・緑化作戦が展開されている。

 

今後地球上の安定を取り戻すには、中国大陸になんとか介入する必要が在る。然しそれには現在月、及び火星に向けている戦力を地上に戻すなり、地上で更なる戦力を生産する必要が在る。――という建前の元、今しばらく中国は放置されるのではないだろうか。

 

で、日本が地上開拓をおろそかにし、月ばかりを攻めているのかと言えばそうでもない。

 

宇宙開発用に考えられていたアーコロジー技術。これの転用を用い、資源採掘用の海底プラントやら、海上人工島やらの海の開発を進め、現在日本の国土はかなり広くなっている。とはいえ持ち前の引篭もり精神故か、日本本国国土から出たがる日本人は未だに少ないのだが。

 

それだけ地球の状況が進む最中、既に地上のギーオスは殲滅できたかと言うとそうでもない。

 

何故か延々定期的に沸き続けるギーオスに加え、最近は宇宙空間に次元転移してくる銀色のギーオス……そう、宇宙ギーオスが現れだしたのだ。まだ少数ではあるが、そういった存在が出現した、というのが問題なのだ。

昭和ガ×ラかよと思わず突っ込みを入れたのはいい思い出だが、となるとギロンとか出てくるのだろうか。鉄棒やるのか、俺?

 

……話が逸れた。

結局この状況でここまで安定したとはいえ、未だに俺が自由に動かせる戦力は俺個人が保有する戦力しかない。

 

つまり、独立長距離航行型母艦ウル・カスタム3、すずかとその搭乗機体グレート・ゼオライマー、滅多に使わないが、アギトの使うガオファイガーくらいか。

ティアナは現状管理局に所属している為、下手に使おうとするとあちらに所属していられなくなる。キャロは……本来なら此方の指揮下なのだが、月に置いて以降、此方に呼ぼうとすると月の防衛軍が嫌がるのだ。キャロの転送魔術はチートだからなぁ。

 

まぁそういった理由で、もし動くのであれば俺が自分で動かなければ成らない、という事。

 

いや、まぁ管理局などどうなろうが知ったことではない、と言うのは事実なのだが、どうにも今回何かが起こると俺の直感が囁いているのだ。

今回はティアナも出動しているという事だし、最悪の場合ティアナだけつれて脱出する為、ぐらいの心持ちで此処に自分を配置したのだが。

 

「なぁマスター、本当に何か在るのか?」

「うん」

「でも、もう始まって四時間は過ぎてるぜ? 後ちょっとで終わっちまうんじゃないか?」

「だから、だろう。気の抜けるタイミングを狙ってくる」

「あー、なる」

 

何故か俺についてきたアギト。今日は出来ればすずかとお留守番していて欲しかったのだが、結局こうして付いてくる事を承諾してしまった。

 

今日は多分、戦闘機人やらとの混戦になるし、多分他の転生者と相対することにもなるだろう。あまりまともに相手する心算は無いが、激戦区に突入する事に成るのは間違いない。

 

――ドォンッ!!

 

「……む、始まったか」

「え、如何したんだマスター?」

 

不意に耳朶の奥にかすかに響く爆音。突如として乱れるマナの層と、地上本部を中心として拡散するマナ汚染。多分本部の炉か何かを破壊されたのだろう。本部を包むバリアも若干出力が落ちているように見える。

次いで始まるバリア外での遠隔召喚と、何処からとも無く撃ち放たれるオレンジ色の高出力砲撃。

 

「おわっ!? マジでドンパチはじめやがった!!」

「アギト、最初っからユニゾンで行く。気を抜くなよ?」

「合点承知! ――ユニゾン・イン!」

 

その言葉と共に、アギトの身体が光に包まれ、俺の内側へと溶け込んでいく。九十九神ガイア式ユニゾンデバイスなアギトだが、その性能は元々のそれより随分成長している。

と同時に俺のバリアジャケットに変化が始まる。

 

黒い騎士甲冑のようなそれ。銀色の縁取りに赤い光が走り、そのまま赤く光るラインがバリアジャケットに定着する。

更に髪の毛は黒から輝く朱金へと変化し、瞳の色を黒から紫色に染めた。

 

「――デュランダル、セットアップ」

 

そして最後に、腰に括りつけていた警棒を手に取り、小さく層呟く。途端マナを供給された警棒は光をまとい、その姿を警棒から無骨な一本の剣へと変化させた。

 

「相変らず、無骨な剣だよなぁ? もうちょい洒落っ気があってもいいと思うんだけど?」

「武器は武器だ。ギャルでも在るまいし、俺に剣を飾れと?」

「そうはイワネーけど……」

 

俺はそもそも単体で完結した兵器として作られている。故に、魔術を扱う事においてデバイスなどの二次的な演算装置の必要性を排除されている。要するに、デバイスなしでデバイス以上の魔術が行使できる、という事。

ただそれでも、無手よりは何等かの武器を装備したほうが戦いに幅が出来るのも事実。

 

そういうわけで、俺専用に建造したストレージデバイス『デュランダル』。デバイスなどという名前こそ付いているが、入っているものはGPSやらの情報収集装置くらいで、後は完全に固体強度向上のため不必要な物は全て撤廃されている。

要するにこれは、マナを込めて殴る為のまさしく武器なのだ。

 

因みに、某古代ベルカ式の広域殲滅魔法とは一切関係ない。

 

『おっ、マスター、ティアナたちも突入するみたいだぞ』

「その様だ。では我々も行くか」

『おうよー!』

 

言いつつマナを纏い、そのマナに被せるようにして光学系ステルス魔法を展開し、そのまま適当な入り口から地下へ向けて突入を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

ヴィータ副隊長から八神部隊長とシグナム副隊長のデバイスを受け取り、本局ビル内の中へと脚を進め、そうして突如先行するスバルに攻撃が。

スバルは咄嗟にガードするも、続く襲撃者の蹴りにより壁に激突。見れば完全にスバルの2Pキャラ。

 

「スバル!」

 

咄嗟に叫びながらその場から一歩飛び退く。その途端寸前まで立っていた場所を覆いつくす淡い光。

 

「ノーヴェ、作業内容忘れてないっすか?」

「うるせーよ、忘れてねー」

「捕獲対象三名、全部生かしたまま持ってかえるんすよ?」

「旧式とはいえ、タイプゼロがコレくらいで潰れるかよ」

「戦闘……機人……」

 

相変らずこの話題になると苦々しげに表情を歪めるスバル。とりあえず、スバルに注目している戦闘機人二人を確認し、チラリと横目でエリオと御剣陸士に目線を送る。

 

――コクリ。

 

此方の視線に反応した二人。即座に手元に魔力を集中。

 

――カツンッ

 

「うん?」「何っすか?」

 

不意に此方を見た戦闘機人二人。そのタイミングで手元に集めた魔力を変換・拡散させる。

魔力を含んだ光、ソレが瞬間的に発光。単純な術式では在るが、要するにフラッシュバンだ。

 

「なぁっ!?」「ぐっ、小技をっ!!」

 

戦闘機人達は一瞬視界を失うも、眼にセーフティーでも仕込んでいるのか即座に戦線復帰。然しその一瞬で此方もエリオを包囲網から離脱させ、ついでにスバルの体勢を立て直す時間も稼げた。

 

……此処で私が前衛に出れば、多分戦闘機人を制圧するのは何とかなると思う。のだけれども、多分その場合エリオとスバルの前衛が付いてこれない可能性が高い。

 

幻術でも使うか? けれどもアレは無駄に疲れる。戦闘の合間に距離感をはぐらかす技としては使うけれども、幻術を長時間使うのはあまりやりたくない。

 

――此処は相手に手傷を与えて、隊長たちと合流するのを最優先するのが一番か。

そう考えていると、エリオに向けて放たれたシューターもどきの着弾で、地下の狭い通路に盛大に上がる土煙。それに合わせて幻術を展開、即座に相手の視界をごまかし、ついでに自分の姿を隠して幻影と位置を入れ替える。

 

「スバル!」

「了解!」

 

この状況でのコンビネーションはスバルに徹底的に叩き込んでいる。視界の悪い状況、相手に圧倒的有利な条件、このタイミングなら私が幻術を使うのはスバルも理解している。案の定即座に理解したらしく、スバルは身を伏せて物陰に潜んで見せた。

 

「サンダー!!」

「くっ!」

「レイジ!!」

 

と、視界の端で起こる豪雷。エリオの魔力変換資質による雷撃なのだろう。AMFによる対魔力、対魔導師戦を想定して量産されているガジェット・ドローン。けれども変換資質により発生した電撃への対策は不十分だったのだろう。過剰電圧により次々と爆発していくガジェット。

 

「くっ、この――」

「やらせないっ!!」

 

ガジェットこそ全機撃破したものの、然しそれでもまだ動く砲戦型の戦闘機人。其処に突っ込むのは御剣二等陸士。

二等陸士という階級とはいえ、その実力は長年の現場で研ぎ澄まされたエース級。剣型デバイス『アテナ』による居合いの一撃。戦闘機人はそれを咄嗟にガードしようとしたのだが、あの人の必殺技はガードを叩き割って尚凄まじい威力を持つ一撃必殺だ。

 

案の定そのシールドを砕かれ、悲鳴を上げて壁に突っ込んでいく戦闘機人。

けれどもソレとは別、ガジェット爆発に紛れて突進してくる戦闘機人――2Pカラーのスバル。面倒なので以後2P。

 

どこの電童だというツッコミを控えつつ、視線でスバルに合図。途端掻き消える幻影の私に戸惑う2Pカラーに、十分に時間を掛けて力を蓄えたスバルが、渾身の一撃を見舞った。

 

「全員、撤退!!」

 

言いつつ戦闘機人たちに幾重にかバインドを掛け、一気にその場を離脱。隊長たちの元へ向け、一気に駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そうして駆け抜け、たどり着いた会場のロビー。高町隊長、ハラオウン隊長、あとシスター服の女性が居るその場所。

 

「お待たせしました!」

「お届けです」

「うん」「ありがとう、みんな」

 

そうして笑顔を浮かべる隊長たち。と、残る八神部隊長とシグナム副隊長のデバイスは、その場に居合わせたシスターが届けてくれるらしい。

 

――さて、これでデバイスは届けられたわけで。後は隊長たちの指揮下で、現有の敵戦力を掃討すればおしまい、というわけだ。

 

「ギン姉? ギン姉!!」

「す、スバル?」

「ギン姉と通信が繋がらないんです!?」

 

不意に声を上げるスバルに、高町隊長が少し戸惑ったような声を上げた。

元々戦闘機人がらみと言うことで、スバルも色々警戒していたところに通信不良だ。悲鳴を上げたくなる気持ちも分らないではない。

 

「――戦闘機人二名と交戦しました。表にはもっといるはずですから」

「……ギン姉、まさか、あいつ等と……!?」

 

小さく震えるスバルに、少し表情を歪めた高町隊長。その横で、現状の情報を入手しようと、手元に戻ったデバイスで早速ロングアーチに通信を入れようとしたハラオウン隊長。

けれどもその通信は妙にノイズの多いもので。やはり通信妨害が仕掛けられているのだろうと、そう思ったのだが。

 

『――ングワン、こちらロングアーチ』

「グリフィス? 如何したの、通信が……」

『此方は現在、ガジェットとアンノウンの襲撃を受けています!! 持ちこたえていますが、もう……』

 

思わず息を呑む。公開意見陳述会に加え、機動六課隊舎を襲撃!? 幾らなんでも連中本気で正気か!?

 

「――く」

 

苦々しげに表情を歪めるハラオウン隊長。

 

「拙いぞ、戦力を分散させるか?」

と、そんな隊長に声を掛けたのは、剣を構え依然周囲を警戒したままの御剣陸士。

「此処の防衛と、機動六課の増援に? でも部隊の移送手段がないんだよ……」

「――そうか、―――いないから……」

「御剣陸士?」

「あ、ああ、なんでもない ……なら、フォワードを此処に残して、隊長陣は六課に行け」

「まもるくん!?」

 

声を上げる高町隊長。私達フォワードも少し驚いたが、けれども冷静に考えればソレが一番だと言うのは理解できる。

なにせフォワードは全員陸戦メンバー。一応全員疑似的な空戦は出来るが、あくまでも疑似。長時間の航空戦力として数える事はできない。

その点部隊長達は完全な空戦魔導師。ならば隊長たちにさっさと行って貰ったほうがいいのは当然の帰結だろう。

静かに頷くエリオとスバル。空気を読んで私も頷いておく。

 

「……わかった。それじゃ、みんなお願いね?」

「「「はいっ!」」」「任せとけ」

「ティアナ、いざという時は前衛お願いね」

「……分りました」

 

テスタロッサ隊長に頼まれ、素直に頷く。私だって、こんな鉄火場であえて実力を制限して戦う心算はない。

 

「それじゃ、いくよ!!」

その高町隊長の声を合図に、全員それぞれが其々の方向へ向けて駆け出した。

「ティア、先行くね!!」

「あ、ちょ、スバル!!」

 

キィィィィ、と音を立てて勢い良く走り出すスバル。どうもギンガさんのことで頭が一杯らしく、配置とか全然考えずに一人先行してしまった。

しかもこういう建造物内では、マッハキャリバーみたいな陸戦形は、空戦魔導師の機動力を一部上回る。当然、私達のように足を使う魔導師が追いつけるはずも無い。

 

「ちっ、御剣陸士、エリオ、スバルに追いつける?」

「ストラーダの加速があれば、なんとか」

「俺は無理だ。疑似空戦ってのはあくまで足場を作れるってだけだ!!」

「ならエリオと御剣陸士はツーマンセルで後から追ってきてください!」

「ティアナは如何するんだ!?」

「私は、スバルを追います。――ファントムクロス!!」

『ECLIPCE MODE』

「フル・ドライブ!!」

 

途端、足元に現れた巨大な魔法陣。けれどもその魔法陣は激しく明滅しながら、その中心軸をぶれさせながら回転を続ける。

実はこの魔法陣、ミッド式に擬装したガイア式で、使っている力も魔力ではなくマナであったりする。

 

輝き立ち上る光は私の身体を覆い、次第にその形を変化させていく。バリアジャケットの形を、より強固な物理装甲に。

私にとって、私のイメージの上で最も機動力のある陸戦兵器といえば、地球で用いられていたTSF。けれどもソレをこのミッドチルダの地で使うのは、流石に規格が違いすぎるし、何よりアレはこの世界では質量兵器扱いだろう。

 

けれども、その利点を、機体構想を利用することは出来る。バリアジャケットの腰に出現する跳躍ユニットと、腕や脚に空力制御用のパーツが出現。体の重要部を覆うように追加装甲をまとって。

 

イクリプスモードと呼ばれる、橙色の鎧。これが、私の奥の手。瞬間加速する私の身体を気合で押さえつける。

 

――ぐ、やっぱり消耗が激しい。

 

バリアジャケットそのものが変形するこの形態。それまでの物が対人戦を想定したモードであるのに対し、このモードは対ギーオスを想定した、いわば機動砲台のモード!

ソレまで以上の機動力と攻撃力を誇るが、それは同時に凄まじいまでのマナ――生命力を消耗する、まさに諸刃の剣。

 

『現状では30分以上の戦闘継続は推奨しません。事はお早めに』

「分ってるわよ、ファントムクロス!!」

 

言いつつ跳躍ユニットにマナを叩き込み、爆発的に噴射される推力に乗って、一気に通路の中で加速した。

 




■各国の宇宙船開発
B&Tが月面に建設した宇宙開発基地グラナダ。ブロック化されたパーツをつなぎ合わせ早急に建設された月面開発基地。これをB&Tが開放した事により、旧各国技術陣が宇宙船開発を開始した。
宇宙開発に活発なのが米系と露系。宇宙“艦”開発に積極的なのが日系。
因みに形状は名前の通り。というか如何見てもソレにしか見えない艦を旧各国技術陣が作った。

■焦った某北の国
各国がEFにより解体・再編成を行なう中、唯一国家解体を拒みEFの介入・国家解体を拒んだ国。如何考えても情勢が見えていない暴走であり、最後に根性を見せようとしたが、最後の最後でとんでもないミスをやらかし、結果彼の国は世界中に(汚)名を残した。

■銀色のギーオス
昭和ガ×ラにおいて登場した銀色のギ○オス。宇宙ギ○オスなんて言ってるが、別に宇宙を飛ぶわけじゃなくて、異星で見つけたから宇宙ギャオス。
ギロンに出オチの如く17分割(?)された哀れな怪獣。体液が臭いらしい。

■デュランダル
メラが用意したアームドデバイス。魔術の演算処理は自前で出来る為、ブッチャケ武器型の触媒以上の意味は無い。一応剣以外にも槍なんかにも変形する。
大仰な名前だが使い捨ての量産品だったりする。

■イクリプスモード
ティアナの奥の手。全身を覆う橙色の装甲と各位に設置されたマナスラスタ、更に腰にマウントされる自由機動跳躍ユニット。これらにより驚異的な機動性能と防御力を備える事に成功した、ティアナの奥の手。更にティアナが習得している某剣術の動きを用いることで、驚異的な機動力を誇る。
但しマナ消費が凄まじい上、あくまで陸戦型のティアナの装備である為、完全に足場が無い状況では機動力が落ちてしまい、使いどころの難しいモードでもある。
外観が如何見てもガチの質量兵器(ロボット)である為、管理局局員としての運用は控えていた。
※声優ネタ。


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21 彼と彼女と匣と六課

 

Side Mera

 

 

 

曖昧な記憶に従うまま、地上本部の地下通路をうろうろと放浪する。

 

《なぁ、マスター》

「なんだ」

《道、迷ったのか?》

「……」

 

いや、迷った、と言うわけではない。何せそもそも目的地が存在していないのだ。

目的地へ行く際に経路を見失う事を道に迷うと称するのだから、今の俺は未知に迷っているわけで当て無き道を右往左往しているだけ、だ。うん。(混乱中)

 

「いいから。そういうのも道に迷ったって言うんだよ」

「……おぉぅ」

 

うぅ、アギト、拾った当時は後ろを付いてくる雛の如く可愛らしかったんだけど。娘の成長を見守る父親の気分ってこんな感じなんだろうか。女の子の成長は早い。

そんな事を考えながらふよふよと通路を飛んでいると、不意に真正面、通路の向こう側から何かが近付いてくる気配。

 

剣を片手で下手に構え、相対する何かに向けて視線を跳ばす。

 

《イキモノの気配に、何か混ざってる感じ。でも、混ざってるのは生命的なのじゃなくて……》

「戦闘機人」

 

言っている間に視界が捉えた光景。其処には、空中に浮かぶサーフボードに乗ったのと、ローラーブレードで通路を爆走する全身タイツみたいな格好をした少女達。

うわぁ、なんだろう。こう、言い様も無いエロスを感じさせる格好。あれ、顔芸の趣味なんだろうか。

 

《マスター、後ですずかに言いつけるぞ》

「ソレはなしで」

 

首を振り、改めて右手に持つデュランダルを構える。

向こう側から此方に急速接近する二人分の機影。けれども連中は此方に気づいていない。何せかなり確りとしたステルス迷彩に加え、しっかりとマナを隠蔽しているのだ。この状態では御神の剣士だって位置を把握するのに数秒はかかるという代物だ。

 

――御神の剣士相手に完全阻害? 無理無理、あの連中はこの世界の公式チート。しかも数が減っている所為で補正が強化されたのか、死亡フラグを平然と圧し折る怪物なのだ。 其処に更に月村の血が混ざり生まれた二人のお子様、現在ドイツにいる雫ちゃんとか、もう現状で既に天賦の才を感じさせる。下手をすれば俺を殺せるレベルだろう。

 

改めて意識を集中、デュランダルを構え、目の前から迫る戦闘機人たちに向けて剣を一閃させる。

音も無く切断されるソレ。空いている左手で受け止めると、そのままソレを光学迷彩に含め、音も無くふよふよとその場を離脱。交差点で適当な岐路に入り、人気の無い方向へと舵を取る。

 

《マスター、ソレ何?》

「知らん。が、多分連中の重要な物だと思う」

《いいのか? 取っちゃったりして》

「襲撃犯なんぞに気を使う必要はないだろう」

《ま、そりゃそーか》

 

言いつつ、周囲にひと気が無い事を確認して、適当な場所に脚と奪い取ったソレ……スーツケースのような、けれどもかなりでかく頑丈な匣を開けてみる。

何かロックのような物もあったが、それはアレだ。マナによる疑似単分子でスパッと。

 

「さて、何が入っているのやら」

《お宝お宝!》

 

ギィ、と音を立てて開いたその鞄。中に入っているものを見て、――静かに匣を閉じた。

 

《……いや、いやいや! 待てよマスター、なんだこれ?!》

「そうだな、眼を逸らしてもしかたないよな」

 

言いつつ、再び開いた匣の中。其処には、全身を血塗れにし、膝を折りたたむようにして匣の中に「仕舞われ」ている女性が一人。多分俺の外見よりも二~三歳ほど年下だろうか。千切れかけたその左腕からは、何等かの金属パーツが露出している。

 

《これ、戦闘機人? 大破した連中の戦力か?》

「いや、制服が管理局だ」

《スパイって可能性も在るだろ?》

 

「顔に見覚えが在る。確か、ティアナの相棒の姉、ギンガ・ナカジマだろう。確かあの姉妹は管理局が接収した戦闘機人だった筈」

 

接収、という言い方は余り良くないのだろうが、実際やっていることはそれに等しい。

管理局が襲撃した戦闘機人プラント。けれどもその実体は管理局最高評議会直轄の研究施設だ。

 

最高評議会は次元世界安定の為、管理局に新たな戦力を得ることが目的。けれども戦闘機人などは非合法な技術とされている。けれども必要性は在る。ならば如何やってその必要性を認めさせるのか……答えは『実績を見せる』、である。

 

そうして開発された戦闘機人を管理局が接収し、社会貢献の場を与えるという名目上合法的に戦闘機人を徴用する。これで管理局は合法的に戦闘機人と言う新たな戦力を手に入れられたわけだ。

 

なんともお笑い種な話では在るのだが、現場の職員達からしてみれば皮肉な話だろう。

特に、現在ミッドの地上の平和を願い戦っている彼女達にしてみれば……。

 

《でも、管理局の人間なら余計に拙いんじゃないのか?》

「ああ。でも、かといって放置することは出来ないだろう」

 

現状のギンガ・ナカジマの状態は、良く言っても瀕死。悪く言えばスクラップと言ったところだ。少なくとも管理局の表の技術で彼女を蘇生させる事は先ず不可能。

それこそ違法技術者であるジェイル・スカリエッティーのように生命科学に優れた人間か、我々のようにぶっ飛んだ古代文明の技術を解析した突飛な技術力を持った人間にしか治療は難しいだろう。

 

「……いい、俺が連れて帰る」

《いいのかマスター? あたし達の存在が局に知れるぞ?》

「そのときは、その時だ。別段この世界に絶対留まる必要が在るわけでも無い」

《ティアはどーすんだよ?》

「月のポーターは教えたろ? ……それより、アギト、口調。すずかに怒られるぞ」

《げ、……気をつける》

 

女の子は女の子らしい口調でおしとやかに、と言うのがすずかの教育方針。アギトのネイティブな喋り方はワイルドな物なのだが、その喋り方をするとニコニコしたすずかが延々喋り方を矯正してくるのだ。

 

別に怒っているわけではない、と言うのが本人談なのだが、正直普通に怒られるよりもあれは恐い。

 

「とりあえず、この子は急いだほうが良さそうだ」

《ティアの援護は――》

「元々万が一、だ。過保護すぎても良く在るまい」

《そんなもの……ですか?》

 

若干音程が変な敬語を使うアギトに苦笑しつつ、匣からそっと引っ張り出したギンガ・ナカジマの姿勢を仰向けにのばす。流石にこの重症で匣の中に屈伸っていうのは辛そうだし。

 

で、その状態で通路床の建材と彼女を治めていた匣を少し弄り、簡単な担架を作り出す。分子間結合の分解・再構成による簡単な錬金術だ。一応魔法でも出来る区分なのだが、少なくともミッド式では処理速度的に少し辛い分類に入る魔法だろうか。

 

そうして担架にギンガ・ナカジマを固定し、そのままガイア式魔法陣を展開し、跳躍。管理世界、それも管理局直下のこのミッドチルダで勝手に長距離転移を行なう事は違法に成るのだが、我々の使っているのはミッドの言う魔法とは違う技術だし……。

 

と言うわけでスパッと転移。

 

 

 

 

 

 

――しようとしたのだが。

 

「――っっっ!!??!!??」

 

背筋を襲うゾッとする悪寒。思わず術式が乱れるのを感じながら、視線を気配の方向に向けて集中させる。

 

「マスター?」

「……やばい、来た」

 

口に出してから、その言葉を理解した途端に再び背筋に冷たいものが奔る。

何が来たのか。意識して理解したわけではなく、感覚として理解した。

途端響く爆音。けれどもそれは今までの爆発とは規模が違う。

 

「マスター?」

「アギト、彼女と一緒に送る。すずかに頼んで医療用ポッドに入れるように指示しておいてくれ」

「ちょ、マスター!? 何が来たって――」

 

――ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 

夜、それも地下にある通路にまで突如として響き渡る甲高い音。その声が意味する物は一つだけ。

 

「――何かはわかった。でも、なら尚更マスター一人には出来ないだろう!?」

「問題ない。俺は元々そのために生み出された」

「そういう言い方はすずかに怒られるぞ」

「言い方が悪かったな。生まれながらにその為の専門家だ。――ギンガには即座にある程度適切な処置が必要だ。すずかへの伝言と処置の補助を頼む」

「……仕方ねーな。でもなマスター、無茶はすんなよ?」

「ああ。頼んだ」

 

言って、展開していた転移術式の対象から自分を外し、アギトとギンガ・ナカジマを転送。正しく転送がなされたのを確認し、次いで自分を地上へと転移させる。

 

そうして転移した地上本部の上空。雲を被る摩天楼のその中腹辺り。ビルの外殻に足を置きながら、眼下に広がる光景を眺める。

その場にあるのは、全長100メートルをゆうに超える赤黒い巨体。

 

「……ギーオス。来た、か」

 

特徴的な若葉マークのようなその頭と、翼竜よりもどこか恐竜のような筋肉質な体。

 

それは間違いなく、EFFにおける怨敵であり、同時に世界を滅ぼす敵。

嘗てのアルハザードの戦乱の時代、滅び行く世界を修正する為に生み出され、魔力を喰らい、そしてその果てに暴走し、魔力を喰らう世界の敵たる怪物へと成長した恐ろしい存在。

 

元々は世界のためにと生み出されたのに、結局あれはその悪食故に世界を滅ぼす。それ故に俺と言う対抗手段が生み出され、他にも様々な対抗手段が生み出されたが、結局先史文明は滅亡。それに引き摺られるようにギーオスも眠りについていた。

 

けれども、ギーオスはその永い眠りから眼を覚まし、そうしてついにこのミッドチルダの大地へとたどり着いた。そう、たどり着いてしまったのだ。

 

――奴らにとって、最高の餌場となりうるこの世界に。

 

「――ふぅ」

 

小さく息を吐く。正直なところ、逃げてしまいたい。というかぶっちゃけた話、俺が連中に向かう義務など欠片ほどしかないのだ。

 

俺は確かに対ギーオス用の兵器として生み出された。けれども、だからと言ってソレに従う義務は何処にも存在しない。それに全てを捧げる必要も全く無い。

 

俺に課せられた物といえば、唯一古代文明の、俺の創造主たちの願いくらいな物だろう。――それこそが重苦しいのだが。

 

けれども、俺はそんなものに縛られる心算は一切無い。

俺の矜持は唯一つ。全て自分のために行なう。誰かの為、なんて言い訳をする心算は無い。全て、自分の望むとおりにやる。

 

故に、此処では逃げられない。逃げればあれは間違いなくこの世界を蹂躙する。そうして食うだろう、魔導師を。

 

ティアナは確かに俺の元で育て、地球圏最強の一角を名乗れる程の腕前には成長した。けれども所詮あの子は人間だ。幼生や中期ならまだしも、完全な成体のギーオスに対抗する術は現在持つまい。

 

ならばその末路は容易に想像できる。ギーオスに特攻し足止め、然る後アルカンシェルにより周辺足止め部隊ごとの浄化。管理局の行動パターンは大体それだ。

管理局の手段としてはソレしかないのだろうが、けれどもソレをやらせる心算もおれには無い。

 

「輝け、我が剣!!」

 

噴出すマナの輝きが手に持つデュランダルを覆う。白い輝きとしてあったソレは、今や肉体と魂が完全に同期し、キラキラと輝く白銀色へと染まっている。その白銀はギラギラとしたそれではなく、降り注ぐ太陽のお日様のように暖かい。自分の色ながらお気に入りだったりする。

 

ブースト、トランザム、覚醒、ゲージアタック。何でも良いが、要するに一定時間の爆発的能力増加。銀の如く輝きを纏った白は、全てを断つ力を与えてくれる。因みに現在の持続時間は1時程度。

 

その白銀色のマナを帯びた剣は、声に呼応するかのごとくその勢いを爆発的に増加させた。頭上に掲げる白銀の剣。その先から伸びた光の柱は、天を覆う灰色の雲を裂き、空に銀色の月の光を見せた。

 

「光と闇の狭間に還れ!!」

 

文言を唱え、言葉と共に剣を振り下ろす。

白銀の光は空を裂き、夜の暗闇すら引き裂いて、巨大なギーオスに最初の一撃を叩き込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

 

 

「なんだ、ありゃ」

 

その言葉を口にしたのは、地上の異変を聞きつけ、ズタボロに中破したスバルを抱え、大急ぎで地上へと上がって来た機動六課フォワード陣の中、スバルをその背に担いで居た御剣護のものだった。

 

地下、および地上本部に取り付いたガジェット、その大半こそ始末した物の、既に現有戦力はボロボロ。

 

機動六課隊長陣は六課隊舎へ向かった為、此処に残されているのは既にフォワード陣のみなのだが、その内スバルが中破、ティアナとエリオが対ガジェットで消耗し、唯一余裕を残すのは、回復力に特化したレアスキルを持つ御剣一人であった。

 

故に、まだ体力に余裕の在る御剣がスバルをその背に背負って地上へと登ってきたのだが。

 

そんな彼の視線の先、地上本部面する海岸線に立つ巨大な影。それは鳥のような姿をして、けれどもくちばしは無く、羽毛も無く、体毛すらない。

 

何処かの恐竜か翼竜、もしくは何処かの次元世界の竜だと言われればまだ理解の及ぶ、そんな巨大な生き物。

 

ただ、理解は及べど、それを受け入れる事は絶対に出来ない。何せ、現状あれが敵対するのだとすれば、ソレは間違いなく管理局の敗北を意味するのだから。

 

「――あれも、スカリエッティーの仕業、か?」

「違う事を祈りたいが、だからと言って敵対的な存在であるのは事実みたいだ、な」

 

エリオの言葉にそう返す御剣だが、内心では現状の意味が分らずに完全にパニックに陥っていた。

 

――御剣護は転生者だ。原作順守派と呼ばれる、原作のイベントを神聖視あるいは特別視し、自ら及び他者による改変を好まないタイプの。

 

そんな彼にとって、この場、この会場で起こりうる事件は、戦闘機人による地上本部襲撃と、同時に機動六課隊舎に対する奇襲攻撃。その二つだけのはずだった。

 

ところが蓋を開けてみればどうだ。実際に起こったのはその二つに加え、現状わけのわからない巨大生物が地上本部前――自分達の真正面に陣取っているではないか。

 

そんな恐怖に凍りつく群集の視線の中、不意に海岸線、立ち並ぶティアナたちから見て三角形を結ぶ場所。そこから橙色の光の柱が立ち、ギーオスへ向けて直撃した。

 

「ほ、砲撃魔法?」

 

誰かの呟きは、然し恐怖の息を呑む音に掻き消された。なぜならばその場には、その砲撃魔法を喰らっても傷一つ無い巨大な怪獣の姿が、依然変わることなく顕在であったからだ。

 

そしてある程度の感知スキルを持っている人間ならば尚理解できた。その砲撃が、オーバーSランクによる超高威力砲撃であり、少なくとも一般的な航空部隊所属の魔導師でさえ、あの一撃を受けては間違いなく再起不能になるほどの一撃だ。だと言うのに、怪物はそれを受けて尚平然としている。

 

ソレを理解していた感知系魔導師の前。不意に響く甲高い音に、思わず耳に手を当てる管理局員達。そんな彼らの目の前で、怪物の口から放たれる光の柱。ソレは砲撃魔法の立ち上った辺りを直撃。大地を走り、その場に深い亀裂を刻んだ。

 

「なんで、あれが……」

「ティアナ、知ってるのか?」

 

そんな中、不意に声を上げた物が一人。御剣の視線には、かの巨大生物に視線を向けて青ざめる少女が一人。

 

「知ってる、というか、局員の伝手で出回ってた裏情報って奴ですよ」

 

勿論彼女はそれ以上にその生物に対する知識を備えている。それ故に、現有戦力で怪物を打破できない事も、誰よりも良く知っていた。故に、管理局にその事実を知っている人間がどの程度存在するのか、過去に調べようとした事があったのだ。

 

が、その現状は少女が予想していたよりも酷かった。あのトリ、ギーオスが魔力を糧とし、最大で百メートルを超える怪物になる、と言う事実は既に管理局も把握していた。が、その事実は一般に知れることなく、上層部がその事実を隠蔽していたのだ。

 

……それは、そうであろう。何せ自分達の現在の基幹技術が、世界を滅ぼす怪物を生み出しかねない、などと。

 

そんな事が事実だったとして、だからどうする? 魔法を棄てるか? そんな選択肢はありえない。何せ管理局は、質量兵器を悪とし、比較的クリーンな魔法を絶対としていた組織だ。高々一つの脅威にその根本を曲げるなどありえない。そういった考えの下、ギーオスと言う驚異は一般に隠匿されてしまったのだ。

 

「第一種駆逐指定危険生物!? な、なんでそんなものがこの世界に!?」

「なんで、よりも、あれを如何するべきか、です。――言っておきますけど、アレ、人を喰いますよ?」

 

その言葉を周囲の人間も聞いていたのだろう。一斉に周囲の人間の顔色が青ざめた。

 

「く、食うって人をか!?」

「人を、というより、特に魔力を持った生物を好むそうです。最初の発見記録は高町隊長の物で、通信の途絶した現地調査部隊の確認に行ったところアレと遭遇、魔力どころか魔法すら喰うアレの所為で、二度目の撃墜を経験したとか」

「ま、魔法を喰う?」

「ええ。さっきの見たでしょう? あれ、魔法を喰ったんですよ。……交戦経験のある辺境自然保護隊なんかによると、唯一変換資質による攻撃は通用するらしいんですが、あのサイズでは……象に豆鉄砲って所でしょうね」

「変換資質――なら、ボクが!!」

「やめときなさい。あのサイズにアンタの電撃じゃ、先ず間違いなく通用しないわよ。それともアンタ、瞬間的にとはいえ、落雷を超える電圧なんで出せる?」

 

そのティアナの言葉に沈黙するエリオ。あの巨体の飛行生物だ。先ず間違いなく、雷雲の近くに居れば落雷に遭遇する。少なくとも、ソレに耐えうる存在であると見るのは間違いではないだろう。

 

「何か有効な手段は!?」

「魔法は殆ど無効化されるって聞いてるわ。――やるなら、私達が足止めしてる間に、次元航行艦のアルカンシェルで私達ごと浄化、って所かしら?」

「なっ!?」

「あの規模のサイズの怪物を倒す手段なんて、他にあります?」

 

在るなら是非その手段を教えて欲しい、なんて嘯くティアナに、御剣を初めとした周囲の局員達の顔色がどんどんと青ざめていく。

 

「――おい、何だアレ!!」

 

そんな中、不意に誰かがそんな声を上げた。その誰かの指差す先、管理局地上本部。その中層辺りから、白銀色の柱が天へと伸びていた。

 

その白銀の柱は次第にその輝きを増し、ある瞬間、天を、空を、宙を裂いて、今にも襲い掛からんとしていたギーオスに向けて凄まじい勢いで叩きつけられた。

 

――ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!

 

そんな甲高い悲鳴と共に吹き飛ばされるギーオス。その瞬間ティアナが少しだけ身を硬くしたのだが、ギーオスを吹き飛ばしたその一撃に唖然としていた周囲は、誰もその事に気付かなかった。

 

「あれは……何かの魔法か?」

「――ロングアーチ、ロングアーチ? ……ダメみたいですね。せめてロングアーチが生き残っていれば、まだ何か分ったかもしれないんですが」

 

ティアナのそんな事場に、少しだけ冷静に現状を思い返した周囲の局員達。確かにあのギーオスは驚異だが、今は他にも何か出来る事が在るかもしれない。

そうして立ち止まっていた局員達は、再び動き出す。未だ燃え盛る本局の中に取り残されている同胞達を救うために。

 

「とりあえず、ティアナ? 俺達は如何するべきだと思う?」

「残存ガジェットの討伐がほぼ完了した現在、最大の脅威はあのトリです。なら――っ、陸のアインヘリヤル!!」

「っ、確かにアレなら――でも、あれも魔力砲撃だった筈だが……」

「それでも衝撃くらいは通るでしょう。人を餌にされるよりはましでしょ」

「確かに。でもどうやって……」

「それは大丈夫だと思いますよ。ゲイズ中将が現状を把握すれば、先ず間違いなく使うでしょうから」

 

と、そんな会話がなされている最中。宙では赤黒い怪物に向かって飛翔する火の玉が、その勢いのままに怪獣に対して体当たりを叩きつけていた。

 

響く轟音と怪獣の悲鳴。けれども火の玉は一切手を緩めることなく、絶え間なくギーオスに対する攻撃を続ける。光の玉――メラも理解しているのだ。現状、被害を最低限で食い止めるには、ギーオスが飛び立つ前に勝負を決めなければ成らないと。

 

故にメラが狙うのはギーオスの翼。ギーオスの推進能力は、喰らった魔力を胴体や翼骨から噴出しその反動で加速を得る推進方式と空力制御によるもの。かなり単純なシステム故に堅牢性は中々の物だ。

 

然しその航空能力の重要な部分を羽による空力で制御しているのも事実。故に、羽に大穴の一つでも空ける事ができれば、翼骨を叩き折れれば、ギーオスが空を飛ぶことは不可能となる。とはいえ、ギーオスには驚異的な再生能力もあるのだが。

 

と、そんな最中、防戦一方と成っていたギーオスが事態を打開すべく、その身に打撃を受けながらも怯むことなく、その口元の空気が薄らと歪みだす。

 

先ほどの光線が放たれる、とその光景を見る誰もが予感していた。が、然しメラはそれに臆することなく、逆に前へ飛び出し、そのままスッとギーオスの背後へと回り込んだ。

 

ギーオスはそれが自らの死角に入ったと認識した途端、体ごと位置を変えて照準を合わせようとして。そうして、意識的制御の薄くなった腕部翼骨を叩き折った。

 

――ピギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!

 

響き渡る怪鳥の悲鳴。けれどもそんな事は無視とばかりに、ギーオスに向けてプラズマ火球を連射しながら少し距離をとるメラ。

 

そんなメラに向けて、再びギーオスの口元のけしきがゆらゆらと揺らめく。

今度こそ当るかと思われたギーオスの超音波メス。そしてソレは見事メラへと直撃した。

 

「――ぐぅっ!!」

 

バチバチと音を立てながらメラの身体を削る輝き。然し、常人なら一瞬で粉微塵に分解されてしまうであろうギーオスの超音波メスを、メラはその身で受けて尚耐えてみせる。

 

「――っ、つああああああああああ!!!!!」

 

そうして、敵の攻撃に身を晒し、攻撃を受けて尚得た数瞬の時間。その時間を得て構成されるのは、通常のソレを悠に上回る威力を持つ、白銀に輝くプラズマ火球。

 

超音波メスを放ち、一切動きの取れないギーオス。そんなギーオスへ向けて放たれた、白銀色の巨大なプラズマ火球。

 

凄まじい速度で打ち出された白銀の輝きは、ギーオスに直撃。直後ギーオスは、内側から弾け飛ぶ様に爆発。その巨体を粉みじんに打ち砕かれたのだった。

 

「……終わった、の?」

 

そんな光景を見ていた、管理局地上本部の局員達。

目の前で行なわれた、常軌を逸した御伽噺のような戦い。ミッドチルダの娯楽でももう少しリアリティーが在る、と言うほどに現実味の無い戦い。

100メートルにも達しようかと言う超巨大怪獣と、猫とノミの戦いにもならない、と言うような小さな銀色の炎の玉の戦い。

 

「……なんだったんだ、いまのは」

 

何処かで誰かが呟いたそんな言葉。それこそが、その場に居る、ソレを目撃した全員の、偽らざる心の声だったのは、間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 




チェック中、ティアがディアになってた。
ディアボロなティア――『アリ』だッ!!
(´・ω・`)ないわー
他にも粉微塵が粉ミンチとか。何時の間にオラオラされたんだろうか。無駄無駄かな?

■マナの色
魔力と同じく個人によって色が異なる。色彩は魔力に同じ。
メラの場合魔力色は白。やたらとA’s関連に被るとは思うが気のせいである。

■ゲージアタック
正式名称未定。半疑似生命体であるメラが、その体に過剰なエネルギーを流し込む事で一時的に全能力にブーストを掛ける技。自動車のメーター外速度みたなもの。
体に悪いので連続使用は無し。

■その頃のなのはさん一行
なのは……炎上する機動六課隊舎を前に自失呆然。まさになの破産ッッ!! 貯蓄とか通帳的な意味でッ!



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22 X ~ イクス ~

 

Side Mera

 

助かった。いや、成体ギーオスとの戦いは何度も経験しているのだが、バックアップ無しに生身で成体と戦ったのは、流石にこれがはじめてだ。

 

それだけならまだしも、今回のギーオスはその養分たる廃魔力が大量に在る世界での戦いだ。つまり無尽蔵にエネルギーの供給され、疲れの知らない状態のギーオスと戦う羽目に成ったのだ。

 

しかもあの状況、ギーオスを逃がしてしまうと増援を呼ばれる可能性が跳ね上がる上に、空戦でギーオスを相手取るのは流石に辛い。

 

幸運だったのは、管理局の連中が此方に対して手を出してこなかった事。もし管理局の局員が魔法で此方を援護してきていたりすれば、その魔力を喰ったギーオスが更に息切れ無く此方にせめて来ていたかもしれないのだ。

 

ある程度余裕を持ってギーオスを倒すことには成功したが、全力状態の持続時間はやはり一時間に満たない。

 

今まではまだ良かったが、これ以降、ミッドチルダへの航路をギーオスに知られてしまった以上、ミッドチルダは先ず間違いなくギーオスの激戦地区になるだろう。何せ此処は奴等にとって凄まじく住みやすい環境であるはずだ。

 

「――そろそろ、ティアナにも撤収準備をさせておくべきだろうか」

 

嫌がるだろうが、それでも今のティアナは(俺の調きょ、もとい人格矯正の結果)兄の汚名を晴らすのは最終的な目標で、執務官はその手段。命を賭けることは否定しないが、その賭けどころは冷静に判断できる程度には育てて在る。

 

少なくとも、管理局に付き合ってギーオスに生身で挑むのがどれ程の自殺行為かというのは理解しているだろう彼女が、愚かな選択をするとは思わない。

 

――まぁ、あの子も何だかんだで面倒見がいいから、友達を見捨てられない、なんて言い出すかもだけど。

 

少なくとも今の管理局の法体制では、ギーオスへの抵抗は厳しいと思う。確か六年後くらいには、今回の事件の反省から対対魔法兵器の開発が進んでいる筈なのだが。

 

「うん? メラ君、地球へ戻るの?」

「此処も、ギーオスに目を付けられた。魔法至上主義では対抗措置が無い」

「あー……。なのはちゃんたち、大丈夫かな?」

「少なくとも、他の誰よりも危機意識は持っている筈だ」

 

その昔、俺がまだ目覚めたばかりの頃、次元世界を超えたギーオスを追う最中、高町なのはらしき少女を助けた事が在る、と言うのは、既にすずかも知っている。

 

なのは達5人と映った写真を見せられたとき、ポロッと零して説明する羽目になったのだ。まぁそうした理由もあって、俺達はこの世界で活動する際姿を変えているのだが。

 

「そう、だね……」

「――いざとなれば、助けに行けばいいさ」

「!? いいの?」

「ああ。無論、俺も手伝うよ」

 

言いつつすずかの頭を撫でる。現在のすずか、俺の血を吸う影響で先祖がえりを起している。その結果純粋な人類とは大分遠い、寧ろ俺に近い存在に昇格してしまっているのだ。

 

わかりやすい影響としては瞳の色が金色になって、種族特有の魔眼に加え、筋力や反射神経なんかがぐぐぐっっと向上している。寿命も言わずもがな。

 

おかげですずかはEFF内で『偏食吸血姫』なんて綽名が付けられている。勿論すずかの血筋に関して知識を持つ人間のみの綽名だが。因みに吸血鬼じゃなくて吸血姫で真祖相当だ。

 

まぁ、すずかが機動六課の救援に出撃するときは、すずかの友人達の前に自らが姿を現すという事だから、すずか本人にもある程度の覚悟が必要なのだが。今のすずかはEFFの妖怪部隊やら人外部隊に沢山友人がいて、EFF自体人外が多いからその辺り大分平気になってきているのだが。

 

「まぁ、それでも一応撤退準備は進めておこう」

「うん。といっても、ウルは常にアイドリング状態で、何時でも出発できる状態だよ?」

「お土産なんかはいいのか?」

「食べ物は日本が一番だよ……」

 

何か俺の居ない間に食事で失敗したのだろうか。少し憂鬱気にそんな事を言うすずかに苦笑しつつ、話を変えるべくコンソールに手を伸ばす。

引っ張り出す情報は、今回の地上本部・公開意見陳述会に関する襲撃事件と、その背後に在る存在について。

 

「これ、今回の?」

「そう。本件の黒幕ジェイル・スカリエッティーと、根本的原因である最高評議会。あとゲイズ中将の暗部」

 

本件に関する根本的な問題は、やはりこの三者が絡み合ったところに問題があったのだと思う。

最高評議会としては、スカリエッティーもゲイズ中将も駒の一つに過ぎず、ゲイズ中将からしても地上の平和を守るための駒、顔芸から見ればうっとおしい首輪たち、といった感じだろうか。

 

「聖王のゆりかご、ね。でもこれ、次元空間での戦闘が可能なんだよね?」

「ああ」

「でも、完全稼動するには、二つの月の魔力? が必要なんだよね?」

「ああ」

「次元空間にまで二つの月の魔力って届くの?」

「さぁ」

「…………」

「…………」

 

きっと古代ベルカの時代には、ゆりかごにも月の魔力に依存しない何等かの補助ジェネレーターが存在していたんだろう。ただ経年劣化かゆりかごが埋まった時期かにソレが消失して、現状ではそこまで再現できなかったのではないだろうか。辛うじて現行の魔力炉で最低限の出力を確保している、とか。

 

……そうとでも考えなければ、いくらなんでも間が抜けすぎているだろう、古ベルカの聖王家。元はウチと同じくアルハザードからの流出品という噂もある程だし、さすがにそんな間抜けな設計は無いと思うのだけれども。

 

「そ、そういえば聖王っていうのは、昔のベルカの王様のこと何だよね?」

「ああ。古ベルカにおける一種の称号だな。主にベルカの戦乱末期において活躍した人物に与えられる」

「へぇ、それじゃ他にもあるの?」

 

言われて、頭の中から情報を引き出す。確か、聖王のほかに覇王とか冥王とか魔王――いや、魔王は現代の人物の称号か。

 

「覇王インクヴァルト、冥王イクスヴェリア、魔王高町なのは、他にも色々居るらしい」

「へぇ…………」

 

因みにすずかは突っ込まない。その昔、高町なのは式教導演習を撮影したムービーデータを見せたら、それ以降彼女を魔王と呼称する事に関しては一切何も言わなくなってしまった。

 

まぁ、それも仕方ないだろう。ショートバスター連射で機動力を封じ、動きが取れない状況でバインド。相手の目の前でジワジワと集まる星の光。絶望に泣き叫ぶ相手の目の前で、ゆっくりと必殺技の名前を宣言するその姿。

 

 

 

 

 

「なっ、何ナンだこの『弾幕』は――ッ!!」「ひぃっ、こんな砲撃の雨霰を如何やって抜けろって言うんだ!」「抜けろってのか、この弾幕をよぉぉぉぉぉ!!!!!」

「大丈夫、しっかり相手を見れば避けられるよ」←一本一本が直径数メートルもある砲撃を雨霰の如く撃ちながら。

「ばっ、バインド!? 動けない!!」「硬っ!? ブレイクできない!!?? バインドにどんな錬度だよっ!!」

「足を止めるからそうなるんだよっ! つかまったら即座にバインドブレイク!!」←既にSLB準備中

「ひいいいいっ!! あ、あれはまさか、たかまちきょうどうかんのきょうふのだいめいし?」「ギブアップ! ギブアップです教官殿ぉ!!」

「ふふふ、折角だからこれも経験だよ?」←満面の笑み。

「「ひっ、ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」

――そして白く染まる観測モニター。

 

 

 

 

 

――まさしく魔王の所業、とすずか本人が呟いていた言葉。あれはもしかすると無意識だったのかもしれないが。

 

「……うん?」

 

ふと何かが引っかかる。何が引っかかったのかわからず、改めて過ぎ去った思考を巻き戻し、一つ一つにチェックを入れていく。

 

一つ、聖王のゆりかご。あれはゴミだ。次元空間での戦闘なんてウルでも出来るし、そもそもウルは次元空間よりも虚数空間を移動するほうが多い。ウルは魔力式ではないし航行にも特に問題は無く、其方のほうが短時間で移動できるのだ。火力はまぁ、ご存知の通り。最近相転移砲を搭載する計画もある。

 

二つ、聖王。現ヴィヴィオ、元がオリヴィエ。美人の女王様かつ無敵の人だったらしいが、幼少期には隣国に人質にされたりと波乱万丈な人生を送っていたらしい。現状ではたいした問題にはならないだろう。

 

三つ、覇王。確か4年後くらいにインクヴァルトの記憶を継承したアインハルト嬢が登場するんだったか。序盤をちょっと読んだだけだが、あれも現在は全く問題外。初登場シーンが聖王、冥王を知らないかって――あ゛っ

 

「そうか、冥王か」

「どうしたの?」

「すずか、少し調べ物をする。手伝ってくれ」

「? うん、いいよ。何を調べるの?」

「――ミッドチルダに程近く、建造中の海底トンネル、もしくは海底遺跡。あと、オルセアの活動家、だったか」

「うん、ちょっと待ってね」

 

言って、端末に素早く指を走らせ始めるすずか。この次元世界におけるネットワーク網は、我々地球人の持つソレに比べるとかなり使い辛くなっている。というのも元々広い次元世界で活用されるネットワークだ。維持にはかなりの技術が必要と成る。

 

更に科学技術をオンラインでやり取りしようとすれば、次元世界を超える過程で外部に漏洩しないとも限らない。そんな状況でネットワークに力を咲くはずも無く、であれば当然ネットワークの発達も遅れる。ただでさえ世界の壁があるのに、ニーズまで落ちては技術発達が進まないのも必然。

 

結果、この世界のネットワーク、特にオンラインを扱うには、我々の世界のソレほど気軽には扱える物ではなくなっていた。

 

艦の管理AIに任せてもいいのだが、此処は折角システム系に在る程度強いすずかがいるのだ。パパッとやってもらおうと思う。

 

「えっと、海底トンネルは建造中のが一つ。遺跡は無いね。で、オルセアっていうのは地名だよね? そこの活動家っていう情報は無いな、ネットに上がらないマイナー情報なんじゃないかな? あっ、海底トンネルの地図は送るね」

「そうか。いや、十分だ。有難うすずか」

「あ、えへへ」

 

そういって微笑むすずかをぎゅっと抱きしめてやる。途端に優しく抱きしめ返してくるすずか。昔はこれで真っ赤になって可愛かったのだが、こうして抱きしめ返してくるすずかも可愛い。

すずかの感覚をしっかりと堪能した後、少し後ろ髪を引かれながらすずかと体を離す。

 

「でも、なんでそんな事を調べたの?」

「うん、冥王を探さねば成らない」

「えっ?! でも、冥王って千年以上昔の人だよ?」

「不確定情報だが、冥王は俺の同類らしい。目的は違うが、な」

「それって……」

 

つまりは、人造兵器であるという事。

冥王イクスヴェリア。その正体は、人の死体を触媒に死体の尖兵を量産する生体兵器。しかもどこぞの夜天の魔導書と同じく、過去の改変により自らの兵隊の指揮能力を喪失していると言う。

 

アルハザードにより世界を守護する目的で生み出された俺と違い、純粋に戦う事を目的に生み出された、けれども戦いを好まぬ少女。

 

ミッドチルダに残しても、先ず間違いなくいい事にはならないだろう。それにもし俺の知る僅かな知識どおり彼女に異常があるのであれば、俺なら、いや俺の持つ技術ならば治療も可能かもしれない。

 

「娘が増える、かも」

「娘……」

 

何を想像したのか顔をポッと赤らめるすずか。そんなすずかの髪を指で梳きながら、頭の中に入っている情報を少し整理してみる。

 

確か、イクスヴェリアの登場は、サウンドステージか何かでの登場だったはず。漫画版の第四期だか五期だかのVIVIDでその存在が示唆されて、後から少し調べたような気がする。

 

そのVIVIDの本編が確か、機動六課解散後から二年。つまり今から二年半後の出来事、だったような。イクスヴェリアの事件がその半年前とされていたし、多分今から二年後に事件が起こるの、かな?

とはいえ今から俺が彼女を回収に動くのだ。そんな事件など起させる心算もない。

 

「とりあえず、少し行って来る」

「うん、行ってらっしゃい!」

 

ニコニコ微笑むすずかに背を向け、上部ハッチから擬装邸宅を経由して地上へと足を踏み出す。

 

――ふむ。今日もいい天気だ。

 

 

そうして探し始めた海底遺跡。けれどもその走査は中々に難航する事となった。

というのは海底を調査する――という点ではなく、その海底遺跡のヒントとなる海底トンネルの複雑さにあった。

 

はじめ、海底トンネルというくらいなのだから、海底を貫通する一本道のトンネルなのだろうかと俺は考えていたのだが、実際にその場のデータを見てみるとどうも少し様子が違う。

 

海底トンネル、と一言に纏めてはいるが、その施設はパイプとハブを複数組み合わせて構成される、海底をシナプスのようにつなぎ合わせた、一種の海底施設だったのだ。

 

その為一口に工事中とはいえ、常に複数個所での整備メンテナンス、新規通路の開発、その他エトセトラが大量にあり、現状の少ないヒントでは中々目標地点を絞りきれずに居た。

 

とはいえミッドチルダ近郊という条件が在る異常、探し回って探せないこともない。俺の元ネタ的にも水中は苦手ではなく、むしろ空中を飛び回るよりも気軽に海底を探索する事ができた。

 

そうして探し回り、ほぼ半日。漸く遺跡を発見する事ができた。そこで早速遺跡の位置を端末のマップ上に記憶しつつ、遺跡への侵入を試みる事に。

 

因みに、一言に遺跡と言ってはいるが、その遺跡が建造されたのは俺を生み出したアルハザードがリアルに存在していた時期にあったベルカ文明だ。遺跡と言えど現行のミッドのそれに引けを取るようなものではない。

 

先ず遺跡への侵入方法だが、これには遺跡が生きている場合と死んでいる場合で其々違った方法を取る必要が在る。

 

先ず遺跡が生きていた場合。この場合、つまりシステム面が稼動しているという事だ。古アルハザード時代と同時期の遺跡だ、下手をすると1000年放置されても稼動していることが稀に在る。

 

万が一を考えてためしに端末を遺跡につなげてみる。一応図面データのような物を引き出す事には成功したが、この遺跡の動力が既に死んでいるらしく、施設を稼動させることは不可能だった。

 

ならば次にとるべき進入の手段は、物理侵入。要するに壁に穴あけて入り込むと言うだけの話。

但しこれも適当にやってしまうと、中に納められたロストロギアに引火→次元震なんて恐怖のコンボが起こりうる可能性もありえる。本来管理局が盗掘を禁じたのは、こういった遺跡侵入時のロストロギア暴走の危険性を訴えたからだ、と言う話も見たことが在る。

 

今回の場合は事前に遺跡の地図を入手している為、そういったミスを犯すことはない。

 

先ず海底底辺へともぐり、遺跡の真下から遺跡に向かってプラズマ火球を打ち込む。流石に海中な為威力は減衰するのだが、それでも十分な威力を持って、遺跡の床壁に人一人もぐりこめそうな程度の穴を開けることに成功した。其処からするっと遺跡の中へと侵入。

 

空気が生きていればよかったのだが、残念ながら俺の侵入した箇所は既に水没した区画らしい。真っ暗な中、周囲に照明となるシューターを無数に設置しつつ、先ず少し広い場所目指して移動を開始した。

 

先に入手した地図によると、多分この施設中層中央部に存在する空間。コレが冥王イクスヴェリアを封じている空間だろう。

面倒くさい事が好きではない俺だ。プラズマ火球で目標地点までの真直ぐな穴を掘りたいところだが、此処は我慢して道なりに進む事にした。

 

幸い、と言うべきか、此処は過去の軍事施設云々ではなく、なんらかの生活施設のようで、通路にいきなり地雷が設置されていた、とかいきなりガジェットが、とかいったとんでもトラップが仕掛けられている事はなかった。

 

一応警備システムなんかも存在は確認できたのだが、エネルギー供給の停止に加え、一部は海水の塩で完全にだめになっていた。

 

しかしソレも途中まで。ある程度進んでいくと、急に海水の浸食が止まり、比較的正常な形でその姿をとどめた空間に足を踏み入れた。この辺りにまで来ると、幾分綺麗な形で古代文明の残滓っぽい物が転がっていた。スカヴェンジャーなんかは喜びそうな場所である。

 

道中に拾った電子端末のデータをまるっとコピーしたり、掘り出し物っぽい貴重品を格納領域に納めたりしつつ道を進み、本来電子ロックされていたのであろう扉を力技でこじ開け、ズンズン進み到着したその一室。

 

厳重な謎物質合金で構成された分厚い扉。多分何か扉を開ける正当な手段は別に在るのだろう。が、正直そんな面倒くさい物を探す心算はない。

 

「――ふっ!」

 

手の平に表すプラズマ火球。一瞬息を吐いたタイミングで、そのプラズマ火球が白銀に輝く。

 

瞬時にとろけおちる謎合金の壁。熱しとろけたそれを避けつつ、扉の奥の空間へと足を運ぶ。

 

「――見つけた」

 

そうして見つけた、一つのカプセルポッド。俺の納められていたそれに何処となく雰囲気の似たカプセル。その中には、朱色に近い明るい髪色をした少女が一人。多分これが冥王=イクスヴェリアだろう。

 

即座にポッドに近付き、コンソールからその状態を調べる。

 

ポッドの状態は保全モード。最低限の電力で、内部に格納した対象を冬眠させると言うシステムだ。本来は十分な電力供給の元で行なう事が好ましいのだが、電力供給が途絶えた場合もセーフモードとして機能させることが出来る。

 

ただその場合電力供給源はポッド自体のバッテリーからの物であり、当然何時かは電力が切れてしまう。その場合、そのまま永遠の眠りについてしまう可能性だってありえるのだ。

 

俺の場合は搭載されていたウルが半永久機関を搭載した独立稼動型のシステムであったために万全の状態で稼動することができたが、目の前で眠る彼女は既に低電力モードで長い時間を経ている様子。多分このまま再起動させても、身体のどこかに影響を残してしまう可能性は大きいだろう。

 

本来ならば、彼女を目覚めさせ、その後に彼女の同意を持って俺達の元に迎え入れたかったのだが――。流石にこのまま起動させれば死にかねないような状況の少女に、態々意思確認のためだけに無理矢理起すなんていう『不条理な人道的行為』をする程俺はいい人間ではない。

 

――此処は一つ、俺の勝手にさせてもらおう。

 

外部からの電源供給が既に止まっているポッドは、既にそのポッド単体で移動させることが可能。室内にてポッドを固定していたアームをパージさせ、少女の眠るポッドを術で空中に浮上させる。

 

ポッドの機能としてキャスター代わりの浮遊機能は存在するのだが、ただでさえ電力がない現状でその機能を行使してしまえば、下手をすれば中に眠る彼女がポックリ逝ってしまいかねない。流石にたかが移動のために貴重な電力を消費する愚は犯さない。

 

本来なら彼女の状態を万全に維持するためにも、もう少し電力が欲しいところなのだが――流石に俺も、規格も分らないバッテリーに電撃を行なって充電させる、なんて無茶な真似はできない。

 

そこで、彼女の状態を改善させるという目的を別方向からアプローチ。俺のマナとはつまり、根源的生命力の塊。ソレを彼女に向けて、少しずつ供給してみるのだ。

休眠状態であったとはいえ、大源の供給は見事に正常。大分弱っていた様子の彼女のマナは健康な一般人のソレの状態に近付きつつある。

 

「……さて」

 

では早速彼女を運び出してしまおう。来る時は海底からチマチマ来たのだが、既にこの遺跡には用はない。

右手を握り締め、マナを集中。白銀に輝く力の塊を、壁に向けて一息に解き放つ。プラズマ火球の変形技、プラズマビーム、なんて呼んでる技だ。

 

一気に海底への道……というか大穴が開いた事を確認し、その穴に向かってポッドを運びながら一気に突入。一気に遺跡施設範囲から離脱。

 

海中へ出たことを確認し、即座にその場でウルへ向けて転移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、私を完全な状態で蘇生させた、と」

「そうなる」

 

目の前に立つ朱色の髪の少女。名前をイクスヴェリア。古代ベルカ時代に生産された兵器であり、今に蘇るただの少女だ。

 

「――成程。確かにこの施設はアルハザードのソレに連なる物のようです」

 

言ってウルの艦内設備を眺めるイクスヴェリア。

イクスヴェリアのカプセルを回収後、母艦ウルC3へと戻った俺は、即座にイクスヴェリアのカプセルをウルの医療設備へと接続した。

 

イクスヴェリアのカプセルは予想では古代ベルカ製。アルハザード製のウルのシステムで対応できるか若干の不安はあったが、驚く事にまるで誂えたかのようにイクスヴェリアのカプセルはウルのシステムを受け入れた。

 

どうもイクスヴェリアのカプセル、表面的には古ベルカ式プログラムで構成されているのだが、ブラックボックスやシステム機関部の要所要所にアルハザード製と思しきシステムが組み込まれているのだ。

 

――うーん、アルハザード『死の商人の国』説が頭を過ぎる。

 

「然し……何故私に指令権を? 私を蘇生させたのであればその目的は必然的に戦争。であれば、指揮権は奪っておいたほうが其方にとって好都合では?」

「……話、聞いていたか?」

 

確かにイクスヴェリアは兵器だ。だが、俺達にはそれ以外の選択肢というものがあってもいいのではないか。俺はそう思う。

 

「それは、自己否定になりませんか?」

「誰しも生まれは選べない。が、道を選ぶのは其々だ。事実俺は、兵器としてではなく、今此処に俺として立っている。――それとも君は、生まれこそを至上と思うか?」

「……いいえ。ええ、いいえ。私も、違う道を見てみたい。私も、私として立ってみたい、です」

どうやら、興味を引けたらしい。

「うん、よかった」

「――というか、私が非協力的であった場合、如何するおつもりでしたか?」

「特に何も。――いや、マリアージュは封じたかもしれないが、その後は地球で一般人として、かな」

「……兵器としての私は、端から求められていないのですね」

「まぁ、役に立たないし」

 

言うと、何かガビンッ! という少し古めの効果音が似合いそうな表情で固まるイクスヴェリア。

 

だって実際、マリアージュは対軍兵器。それも古代の戦場の、だ。現代戦においてマリアージュなど、テロくらいにしか使い道が思い浮かばない。まぁ、魔法文明相手ならばソコソコ戦えるかもしれないが、組織化された軍隊相手には厳しいのではないだろうか。

 

「まぁ、そういうわけでイクスヴェリア」

「イクス、で結構です」

 

ツンと横を向いてそんな風に言うイクスヴェリア。少なくとも、自分から寄り添おうという意志は在るのだろう。その点はとても嬉しく思う。

 

「ではイクス。我が家へようこそ。歓迎する」

「はい。よろしくお願いします」

 

無表情に、けれども少しだけ微笑んでそういうイクス。まだ少し硬いが、はじめはまぁこんなものか、なんて思いつつ、ぐしゃぐしゃとイクスの頭を撫でて。

 

「それじゃ、家族を紹介しよう。なに、全員多少クセを持つが、いい奴だぞ?」

「それは、楽しみです」

言ってイクスと手を繋ぐ。これからイクスをすずかとアギト、通信でキャロに紹介するべく、医療ルームを後にし、リビングへ向けて歩き出したのだった。

 

 

 




※イクス回収回。
こまかい矛盾は知りません。もうこの時点で海底遺跡に存在していたという事で。


■アリサ・バニングス
B&Tグループ会長兼地球連邦軍名誉中将。愛機は『ジェネシック・ガオガイガー』。
名誉中将の階級を得てはいるが、ブッチャケ軍に縛られない民間人。なのにガオガイガーで出撃する。戦場の女神。
嘗てのギーオス迎撃会戦の際にその存在を世界に知らしめ、以後『士気向上の為』と称して頻繁に出撃する。
地球に名だたる富豪にして、ギーオス・レギオンの戦場に現れる女神。
現在の夢はメラの第二婦人(EFはギーオスに減らされた人口を回復させる為と言う名目で重婚OKに法改正を行なわさせられました)。
新型出力・制御システム『G・ギア』の視察の際、ギーオスに襲われ負傷。その際ちょっと人を外れる。


■G(ガイア)・ギア
B&Tで研究されていた新型出力・制御システム。
オカルトを用い、マナを触媒にマナを呼び込むという半永久機関と、イメージフィードバックシステムなんかを組み合わせ、直感的に莫大なエネルギーを生み出し、TSFやSRを操作する、という為のシステム。
端的に言ってしまえば、メラの能力の廉価量産型を目指した物。
某令嬢がこれを視察中、ギーオスに襲われ瀕死の重傷を負う。メラの尽力により一命は取り留めたものの、何が如何なってか、感情が高ぶると緑色に輝きだすようになり、更に超人的パワーを得たりした。


■キャロ
地球連邦軍統帥本部直属特殊機動部隊ホロウ所属大尉。ポジションは全対応のスーパーオールラウンダー。
TSF、SR、マナを操り、更に召喚術まで使いこなす万能系チート。だけど本人は「私って周囲に比べたら地味かな?」なんて思ってる。比較対象がおかしい。
EFF内におけるロリっ娘アイドル先生。彼女の講義を受けるためだけにEFFに入隊する紳士が居るほど。但し彼女の講義を受講できるのは訓練された紳士だけであり、また彼女の講義を受けた後は超紳士へと進化してしまう。
外伝があれば間違いなく主人公ポジに収まる筈の子。


■イクス/冥王イクスヴェリア
1000年の眠りから目覚めたらしい子。かなり遠縁ではあるが、メラと同じくアルハザードに由来を持つ。その為、メラの施設によって完全な状態で覚醒した。
古ベルカにおいて運用されていた生体兵器。正確には生体兵器の中枢・生産ユニットであり、操主と呼ばれる主の指示の元、マリアージュと呼ばれる生体兵器を運用する。マリアージュは人の死体を元に生産される生物兵器であり(但し美少女になる紳士仕様)、イクスヴェリアの兵隊であるマリアージュは鼠算式に増えていく。更にマリアージュには鹵獲防止機能として、自らを石油のような可燃性の液体へ変質させる能力を持つ。
かなり恐ろしい能力ではあるのだが、マリアージュ自体の能力が昆虫並みの知能しか持ち合わせておらず、イクスヴェリアを解さなければ命令に向かって驀進する残念兵器。
対魔導師戦においては有利らしい。


■高町なのは
通帳は焼けたものの、カードが財布に入っていた事を思い出して小躍り。
然しテロの影響で銀行がストップしており、どちらにしろ現在手元に何も無いという状況は変わらず愕然。未だになの破産。こんな目に合わせてくれた連中は、ディバインバスターで法に変わってオシオキなの、砲なだけに、と闘志(怨嗟)を燃やしている。お金を借りるべきか、プライドを取るべきか葛藤中。


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23 カスタムⅣ

どうやら機動六課はその本拠地をアースラに移すらしい。

 

アースラ……機動六課の隊長陣にとっては思い出の艦らしいが、地球人にとって見ればあれは、地球の災厄を目覚めさせる切欠となった禍の艦だろう。

 

地球で行なわれた二度の魔法大戦。一度はジュエルシードと呼ばれる願望機を巡る争い。次元干渉型エネルギー結晶体とよばれるそれは、直接世界を捻じ曲げて担い手の願望をかなえると言うとんでもない装置だ。

 

一応データは確認したが、あれは願望機として運用するよりも、次元の歪曲点としてエネルギーを引き出してやったほうが余程有効活用になるのではないだろうか。少なくとも専用の機材もなく願望機として使うべきものではない。

 

で、そのジュエルシード、次元干渉エネルギー同士の接触により発生した幾度かの次元震。コレを担当したのが旧アースラスタッフと呼ばれる、次元航行艦アースラ率いるチームだ。

 

その後地球に対して縁が在るという事で、続く闇の書事件もこのアースラスタッフが担当。その顛末として派手に魔法で暴れた挙句、地球衛星軌道上でアルカンシェルをぶっ放すなんていう暴挙をやらかしてくれたのだ。

 

態々アルカンシェルで駆逐せずとも、取り込むもののない宇宙で枯死させるなり、太陽に向けて放逐するだけで十分だと思うのは俺だけだろうか。

 

話は戻るが、機動六課はそのアースラを空母として今回のジェイル・スカリエッティーの事件を追うことになるらしい。

 

地上部隊の癖に、バカみたいに資金のかかる行動をする。もしこれで資金繰りが地上出資だったりしたら、地上本部上層部は発狂するんじゃないだろうか。俺も機動六課より小規模な――俺個人で艦を運営してはいるが、これは全てこの艦がオールメンテナンスフリーなナノマシン制御の艦であるからだ。

 

積み込んだ物資やら大気中の構成物を勝手に取り込み、ソレを素材として完全自動で艦の補修・整備・メンテナンスをこなす、驚異の艦。生物の新陳代謝を戦艦でやっているようなものなのだが、古代の技術恐るべし、というやつである。正直俺本人よりも便利で多機能なのだ。

 

――アルハザードの遺産って、実は俺じゃなくてウルのほうだったりして。

……あまり深く考えると思考の迷宮に閉じ込められてしまいそうだ。ネガティブ止め!

 

「で、ティアナは如何するんだ?」

『私は……せめて機動六課の解散までは付き合いたい、です』

「……そうか」

 

通信を繋げたティアナはそう言う。ティアナには既に、この次元世界の危機的状況については一通り教えて在る。

 

先ず最初にギーオスの驚異。次元世界を渡り繁殖する驚異の肉食怪獣。一匹見つけたら30匹はいると思え、と言う言葉が通じるほどにその増殖速度は驚異的で、成長してしまえば現在の次元世界を統べる魔法文明では対抗はまず不可能。

 

次にレギオン。流石にあれは次元世界を超える術を持たないと思うのだが、ああいった怪物が自然に存在していると言う可能性はその存在によって肯定される。

 

そして何よりも恐ろしいのが、イリス。本来柳星張の名前で明日香村に封印されていた筈のその個体は、此方が対処に動いた段階で既にその存在を封印から消していた。

周辺及びギーオス駆除における地上掃討作戦においてもその存在を探索していたのだが、結局地球上にその痕跡を発見する事は出来なかった。ギーオスに航宇宙能力は……少なくとも通常種にはなかったはず。であれば、逃げたか、持ち出されたかして次元世界へと移動した可能性が高い。

 

――つまりは、管理局系の世界へ。

 

もしそうで在るとすれば最悪だ。あれが、イリスがもし原作基準の存在であるならば、まず間違いなく勝てない。それはブースト状態に成ったとしても多分変わらないだろう。

 

サイズ、成長速度、その他諸々。最低完全武装のうちの部隊、安全策をとるなら一個大隊は連れてきたい。少なくとも俺一人がガチで殴り合って勝てる相手とは思っていない。

 

そんな様々な驚異が潜み、尚且つ対抗手段を持たないこの世界。とてもではないが滞在していて安全な世界とは言い難い。

 

『……メラさんが、技術提供をするっていうのは不可能なんですか? 地球みたいに……」

「無理だ。俺の技術は現行の管理局支配体制を崩壊させてしまう」

 

俺の扱うマナという技術。これはかなり魔法に類似する能力だが、魔法と違い才能に寄らず、一定の努力を行なえば最低限は誰でも扱えるようになる。

 

現在管理局世界で運用される魔法と言う技術は、生来持ち得るリンカーコアと呼ばれる器官を用い、大気中に在る魔素を収集、生成することで魔力を生み出し、プログラムによってソレを制御する事で現象を発生させるというモノだ。

 

これに対してマナは、万物の生命が持つ生命力、と言うと胡散臭いが、分りやすく言えば生物が生きる過程で発生させる電磁波みたいなものをエネルギーとした技術なのだ。……余計胡散臭い説明になってしまったかな?

 

現行の管理局の支配体制は、魔法を使える、より強い魔法を使えるという人間を上部に置いた、魔法至上主義・魔法選民、および質量兵器を禁じる事による管理局中央集権での世界の支配を行なっているわけだ。

 

ここで重要なのは、魔法と言う奇跡を扱えるのは『選ばれた小数』であるという事。レアスキル持ちなどになれば更に価値は上がる。逆に魔法の使えない人間は十把一絡げ。『その他一般市民』という区分に分けられるのだ。

 

そんな魔法によるヒエラルキーが確定し、それにより運営される管理局という世界に、突如として『才能に左右されず万人が運用可能な、魔法技術に代替可能な技術』が持ち込まれたとする。

 

突如として『その他一般市民』とされていた人間が強大な力を持ち、一部エース級にも匹敵する人材が現れ、更に技術は拡散し、世界中でその技術が普及したとする。そうなればもう魔法による選民方式は崩壊する。選民も何も全員が力を持っているのだから。

 

ヒエラルキー故にかなりの暴虐を行うことが出来る管理局も、そこら中に同等の戦力を持つ組織が乱立してはその規模を縮小せざるを得まい。いや、他組織の成立前に内部紛争で管理局世界というグループが崩壊しかねない。

 

管理局と言うのはそれほど強引な世界運営をやっているのだ。火種など次元世界中に溢れている。

 

「俺に世界は救えない。世界を救うのは皆で、俺が救うのは、俺の救える俺の身の回りの俺の大切な人たちだけ。『世界を救う』こと自体には興味も無いよ」

『……そうですね。まぁ、大丈夫よ。私だって伊達にガイア式の使い手じゃないのよ? 生き延びるくらいは出来るわよ』

「ああ。いざとなれば地球に逃げ帰ればいい。生き延びる事は恥じゃない。例え恥でも、それは生命としての義務だ」

『ええ……はい。そのときはよろしくお願いします。それじゃ』

「ああ。ではな」

 

そんな言葉で通信が途切れる。まぁ、ティアナはティアナで頑張って欲しい。何だかんだでティアナはかなり鍛えたし、何処のオリ主だって程度には魔改造を施した。

 

問題は、ティアナの周辺。機動六課における他転生者達の動きだ。

ティアナから得た情報では、鳳凰院朱雀と御剣護の二人、鳳凰院朱雀が機動六課隊舎襲撃時にその消息を絶ち、御剣護は本局を襲撃した巨大怪獣のことを調べまわっているとかどうとか。

 

御剣のほうは問題ない。正体不明の怪物に対して対策を練ろうというのは、極普通の対応だ。まぁ、俺の知る限り彼にギーオスへの対抗手段は存在しないように思えるのだが。

 

対して鳳凰院朱雀。こちらが問題だ。何せ彼は機動六課隊舎への襲撃を予め承知していた筈なのだ。

 

彼のスペックは、此方で把握しているだけでも相当なもの。ミッド式の砲撃魔導師で、結界も補助も格闘さえも何でもござれの超汎用型魔導師だ。

 

大規模砲撃すら可能な彼が、たかがAMF程度でその力を落とすはずもなければ、戦闘機人相手に勝利する事も容易いだろう。その程度の力は在るはずなのだ。

 

……だというのに、彼はその消息を断った。

 

考えられるのは、一つに彼が誘拐された、と言うもの。人造魔導師やらの素体として目を付けられたか、洗脳して顔芸(スカリエッティー)の手駒にされたか。

 

もしくは元々顔芸の仲間だったと言う可能性。無いとは思うが、ありえないという事もない。昔読んだ二次創作に、スカルートなんて割と良くあった。彼のヒット商品の背後には顔芸の技術が……なんて事があっても否定は……まぁ、違うだろうが。

 

少なくとも、彼という実力者が失踪したのは事実だ。俺としては途轍もなく怪しく感じる。……彼の身を案じているティアナたちには悪いが、な。

 

「それで、結局この件には不干渉なのですか?」

「ああ。下手に過去の兵器がでしゃばる必要は無いさ」

 

過去の遺産に対して俺が出張ることはやぶさかではないが、これはあくまでも管理局という組織が抱える内患でしかない。そんなものに態々介入してやるほど俺はヒーローやってない。

 

「そうでしょうか?」

「そうさ」

「そうかなぁ?」

 

イクスに続いてすずかまでそんな風に首を傾げる。俺は別に正義の味方と言うわけではない。自分に関係の無いところであれば容赦なく斬って捨てる。

 

「そういう割には、ギンガちゃん助けたわよね?」

「……目の前で死掛けてたり、誘拐されそうになってるのを放置するのはまた違うだろう」

「それに、私も助けてくださいました」

「……同類に対する同情みたいなものもある」

「それだけではないのでしょう? それに、それでも私は希望を得ました。その事は事実で、私はそれを嬉しく思っています」

 

そういってにっこり微笑むすずかとイクス。如何した物かと視線を泳がせると、部屋の一角でニヤニヤと此方を観測しているフルサイズモードのアギトが。

視線でヘルプを送ってみた物の、“諦めろ”と言うような事をサインで伝えられた。ウラギリモノメ。

 

「――ギンガ嬢が回復するまでは、戦況を観測する」

「つまりマスター、今回の件は戦場へ出向いて見に行くんだな?」

 

……アギトェ!!

 

結局アギトの裏切りにより、すずかとイクスに「わかってますよ」みたいな生ぬるい視線で延々見詰められる羽目に成ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

『それで、私を第二婦人にする腹積もりは出来たのかしら?』

「ネーヨ。……いいからキャロを出せ」

 

本当、こんな美人が声を掛けてるのにつれないわね、なんてクスクス笑うアリサ。画面の向うに向けて手をひらひら振って追い払い、さっさとキャロを出すように要求する。

 

首をすくめたアリサは、「それじゃ」と手を振って。……本人も言う通り、相当な美人なんだから、俺なんかよりもいい人なんて幾らでも引っ掛けられるだろうに。

――因みに、地球連邦内では、急激な地球人口低減の対策として一夫多妻制が推奨されている。食糧生産事態は農業プラントで大量生産されているので間に合っているのだが、肝心の子供を増やす必要があるのだとか。

 

実はその法案の成立の背後にアリサの影がちらついていただとか、何故か乗り気なすずかの姿がちらついて居たりしたらしいが、俺には一切関係ない。

で、そんな事を考えていると、モニターの向こう側に見慣れた少女の姿が現れて。

 

「……それで、やはり増援は無理か」

『はい、どうも火星から月に向けたレギオンの増援が凄い数で向かってきているらしくて』

 

その言葉と共に表示される画像データ。ぼやけた光学画像で、火星を背景にして撮影されたらしいソレ。はっきりとは見て取れないが、しかしそれでも分る写真を覆う斑点模様。

 

……これ、拙くないか?

 

『いえ、レギオンはマザー含めて、完全な無重力状態での戦闘は不可能らしくて、月か地球に降りられる前に全て叩ければなんとかなる、って』

成程。ソレならば確かに、この数のマザーレギオンを相手取るわけではなく、地球に向かう隕石を叩き潰す、という感覚でいけるのか。

『はい。今アリサさんがフル武装で準備してます』

「アリサが……」

 

あいつはまだ戦っているのか。

アリサは本来、戦場に出る人間ではない。というか、その必要性が全く皆無な人間だ。

 

実家は現在のEFFに最もつながりの深いB&Tのバニングスグループであり、一度世界が滅びかけた際、世界の再建に尽力した事で、世界各国において堅牢な基盤を持つことに成功している。

そんなバニングスグループの社長家、その愛娘。それがアリサ・バニングスなのだ。

 

本来アリサはSRに乗って戦場に出る必要など全く無い。のだが、嘗てのギーオス大量発生事件の際、地球を救った彼女の勇姿。それはすずかや恭也と並び、地球上のヒーロー、もしくはヒロインとして、全世界でかなりの人気を博しているのだ。

 

そんな彼女。そもそも人の後ろで引っ込んでいるような人格ではない。『前線の慰安、もしくは視察』と言う名目で前に出向いては、そのまま勢いで戦場に出撃すると言う、まるで突撃系アイドル。目覚しく活躍しているらしい。

 

本人曰く「戦う力が在る上に、私が出ることで少しでも勇気付けられる人が居るなら、それはきっと価値のあることなのだ」と。

彼女のような人間こそが、英雄としての資質を持った存在と言うのだろう。

 

『アリサさん、会いたがってましたよ?』

「む……」

 

思わず通信モニターから視線を逸らす。俺としては、そんな不義理な扱いを彼女にしたくないのだが。そんな俺を見てか、モニターの向こう側から苦笑するような気配が響いて。

 

『私は大丈夫だと思うんですが……あぁ、それよりも増援の事なんですが』

「? 不可能、という事だったのではないのか?」

『はい。人的支援は先ず無理だそうです。レギオンとの開戦予想時刻は二週間後のヒトフタマルマルを予定しています』

「二週間後か」

『はい。その為人的支援は不可能なのですが、戦力を送る事は出来る、との事です』

「戦力?」

『新型のウルの追加パーツと、SR機だそうです』

 

その言葉に思わず首を傾げる。

 

「……今、この時期に、新型?」

 

現在地球圏で主流となっているSR機は二種類。すずかの趣味で建造された代物の量産型である、量産型ゼオライマー、そしてその友人アリサのために建造された機体の量産型であるガオファイガーの二種類だ。

 

遠距離から大規模砲撃を打ち込める量産型ゼオライマーと、近距離からガンガン攻め込み吹き飛ばすガオファイガー。両機とも量産型の癖にパイロットを選ぶ難しい機体ではあるが、現在地球圏をギーオスとレギオンの驚異から守る重要な機体だ。

現在その二機のSR機で安定している地球圏。そんなところに新たなSR機を開発したところで、生産ラインや機体特性の面から余計な圧迫を生むだけだと思うのだが。

 

『その機体に関しては、かなり昔から開発が進められていたらしいです。L級のSRで、現在最終調整と艤装の最中で、明日には其方に向けて出発させるそうです』

「それは……ありがたい。然し大丈夫なのか?」

『元々ウルの新型ユニット……C4ユニットはウル用ですし、新型SRも高性能ですが、その分パイロット負担が激しい物だ、とかなんとか。多分、使って運用データを送れって事なんじゃないでしょうか?』

「……まぁ、EFFの変態技術者連中なら、そういう事もありえるの、か」

 

パイロットを選ぶ兵器なんていうのはまさしく欠陥兵器。軍事において最も優秀な兵器と言うのは、汎用性が合ってどんな状況でも使うことが出来、使用者を選ばず、尚且つ敵に運用される事の無いという夢のような兵器。

 

要するに汎用性があってそれでいて誰でも簡単に使えて、さらにセキュリティーも確りしている、と言うものだ。

 

……いやまぁ、習得の難しい魔術行使を前提とした特機を広めた俺が言えた事ではないのだろうが。一応AI補助というフォローは入れて在る。

 

確かに高性能試作機なんてロマンに溢れる代物では在るのだろうが、まさかそれを実際にやるとは。さすが変態技術者ども。

 

「まぁ、分った。それじゃその機体とやら、使わせてもらおう」

『はい。……あの、あまり無理をしないでくださいね?』

「ああ。俺も此方での用事が終われば其方に戻るから、それまでキャロ、お前も元気で」

『はい!』

 

そういって笑顔で切れる通信。相変らずキャロは元気一杯だ。

 

因みにウチのキャロは、「ルシエの里追放されちゃった……」なネガティブっ子ではなく、「あんな陰気臭い里よりも娑婆なここはハッピー!」なお日様っ子の気風だ。……これも原作崩壊になるんだろうか? 少なくとも酷いキャラ崩壊ではあるが。

 

「……とりあえず、モノが届くまでは休暇かな」

 

通信端末をカットし、リビングへ向けて踵を返す。とりあえず、増援が不可能と分っただけで一つの成果だろう。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。ミッドチルダ第二・月衛星軌道上。ミッドチルダ地上にすえた仮説拠点。その地下に敷設していたウルを、現在俺達はこの月軌道上へと持ち上がってきていた。

 

「でも、盲点だよな。ミッドチルダの衛星軌道上が抜け穴だなんて」

「ミッドチルダは、あれだ。実は帝国主義と言うか、裏では最高評議会の言いなりだから」

 

その頂点に最高評議会をすえる管理局は、実のところ相当頭が固いとされている。現状、我々がミッドの月に拠点を設置してもばれていないのがその良い証拠と言えよう。

 

ミッドチルダはその嘗ての由来から、次元世界の平和を守ることを最重要課題とした、というお題目の元、周辺次元世界を着々と侵略していく議会制の皮を被った侵略国家である。しかもトップは既にかれた脳味噌が三つ。

 

連中は次元世界の領土を広げる事しか頭にあらず、その結果次元世界よりも身近な、自らの世界を開拓しきるという選択肢を放棄してしまっているのだ。

 

アルハザードのデータが詰まれた、ウルに搭載されていた情報端末『アーク』。この中にあった時限航行艦には、当然のように宇宙での活動を想定した様々な情報が記述されていたと言うのに、現在のミッドチルダの技術体系にはその名残らしきものがごっそりと削られていた。

 

調べた所、何時の時代かにこの宇宙活動に関するシステムは、地上や空中、次元世界を主な活動場所とする次元管理局には不要な技術として斬り捨てられ、そのまま衰退・消滅してしまったらしい。なんとも馬鹿らしい話では在るが、我々にはありがたい話なので特に如何こうする積もりも無い。

 

「……然し、これは……」

「すごく、おおきいです。……これ程の物は、アルハザードの時代にもそうは見ませんでした……」

「C4ユニット、って聞いてたけど、実のところは未完成だったXL級を一隻寄越したみたいだぜ……です」

「XL級を……」

 

ウルから切り離されたC3ユニット、今まで暮らしていた生活スペースの中から、現在接続作業の行なわれているウルとC4ユニットの様子を眺めて、思わずそんな事場が口からこぼれ出た。

 

XL級。全長700メートルを超える超巨大大型母艦として設計され、現在地球で生産が開始されている型の艦だ。この艦は多分だが、その初期ロットの未完成分を改造したものではないだろうか。

 

「マスターの新型と、すずかのゼオラはでっかいから。それにHollowのメンバーの機体全部を運ぶなら、どっちにしろこのぐらいのサイズの艦は居る事になってたと思うしな」

「まぁ、ホロウはもう集まらないと思うが……」

「ホロウとはなんでしょうか?」

「ん? ……イクスにはまだ教えてなかったな」

 

機動特務部隊ホロウ。EFFにおける俺の扱いに困った上がでっち上げた部隊であり、すずかの私兵であったりするその部隊。主な内訳は俺の身内ばかりだったりする。

 

その全員が在る程度のガイア式を扱う事ができ、TSFからSR機を初めとした様々な陸戦兵器を扱う事のできるスペシャルエージェントによって構成されたとんでも部隊だ。

 

ただ実際は、EFF内以外での活動目標を持った連中が、外に出る際に正規部隊に戸籍を残せず、一時的に戸籍を預かる部隊、というような利用もされている。そのため、知る人には「外部諜報部隊」みたいな眼で見られることも。

 

つまり

1.ティアナはEFFに所属しているけど、管理局で頑張ってみたい

2.EFF離脱は不可。なら任務ってことにしてしまえ!

3.特務部隊ホロウの任務で管理局に潜入、という事にしつつ執務官目指して頑張る!

4.あ、じゃぁ俺も、俺も俺も、どうぞどうぞ。

というノリだ。うん、理解できない。

 

「それは……私にも出来るでしょうか?」

「イクスがホロウに? ……そうだな。ガイア式を扱えるようになったら考えよう」

「はい!」

 

ニッコニコのイクスの頭を撫でつつ、改めて視線をモニターに向ける。視線の先に映るのは、ガイドビーコンにそってドッキングを行なうC4ユニットとウルの姿。

 

本来C系ユニットと言うのは、文字通りウルの拡張パーツでしかなかった。現在まで利用していたC3ユニットには、一応独自に航行できるだけの能力は持たされていたが、それはあくまでウルの主機を利用した一時的なものでしかなかった。

 

ところが今回のC4ユニットは、元から完結した戦艦、空母としての運用を考えて開発された超巨大航行艦だ。

多分だが、元々このC4ユニットは普通のXL級として就航する予定だったのだろう。それが何等かの要因で、というか月―火星会戦に間に合わないと判断され、急遽ウルのためのC4ユニットへと改造されたのだろう。

 

「それじゃ、次はマスターの新型なんだけど……」

「確か、C4ユニットに格納して運ばれてきているんだよな?」

「うん。C4のメイン格納庫に」

アギトから渡された指定座標データを元に転移する。何せXL級航行艦は馬鹿でかい。艦内に車道があったり、転移を多用することも前提としているほどの広さなのだ。

C3からC4のセントラルポートに移動し、更に其処から格納庫のターミナルポートへと移動し、漸く到着した格納庫。

格納庫、と一口に言ってもその規模は従来の物をはるかに上回る。何せ全高60メートルを超えるSR機を多数格納する事を前提として設計されているのだ。

単純に部屋の広さだけで何処かの野球場くらいはあるその中に、更に大小様々な作業用オートマトンが所狭しと動き回り、更に巨大なクレーンやなにやらがグリグリと動き回っているのだ。工場オタに見せれば鼻血を出して失神しそうなほどマニアックな光景だ。

 

「む。すずかのGZが……」

「あぁ、ここの設備はEFF本部とかB&Tの整備工場並みに充実してるから、久々にGZをメンテしてあげるんだ、って。ユニット接続前から乗り込んで、早々に整備してたぞ」

「すずか……」

 

思わず額に手を当てる。いや、別に何か文句がアルと言うわけではないのだが。相変らずメカオタ、いや、最早フェティシズムの領域に入りかけているのではないだろうか。

 

と、そんな事を考えていると、何処からとも無く近寄ってくる気配。振り返れば、GZの足元からセ○ウェイにのって此方に近寄ってくるすずかの姿が見えた。

 

「メラく~ん!」

「すずか、ゼオラの整備はいいのか?」

「うん、主だった調整は済ませたし、後はオートマトンでの整備で十分だから……それよりも、メラ君の新型を見るんでしょ?」

「ああ。使うかは分らんが、一応訓練はしておかないとな」

「うんうん、道具は正しく使ってこそ、だもんね。それじゃ、案内するよ。イクスちゃん、アギトちゃん、行こっ」

 

そう言ってすずかは、イクスとアギトの手を取ってトテトテと格納庫の奥へと走っていく。いや、セ○ウェイ如何するんだよ、何て考えていると、何処からとも無く現れたオートマトンの一機が、セグウェイを受け取って何処へとも無く引っ込んでいった。……凄いな、この艦。

 

なんて事を考えつつ、すずかの後を追う。すずかは何処から用意したのか、艦内移動用のエレカ(エレキ・カー:電動モーター自動車)に乗って、此方をせかすように手を振って。

 

慌ててエレカに乗り込み、あっという間に変わっていく風景。GZを通り越し、その向こう側に見えてきた巨体。暫く走り進み、その巨体の足元でエレカから身を下ろした。

 

「……これが」

「アルハザードの技術の集大成。未解析技術も全部突っ込んで作った、最終決戦人型機動兵器」

 

それは全長60メートル近い巨大な鋼の塊。その鋼の巨人は、静かにその場に佇んでいた。

 

まるで城砦の如く佇むその姿は、SR機当初の思想――機械の人型を魔術により偶像化するという、最も最初の設計思想に限りなく忠実な、機械でありながら同時に魔術の結晶である、そんな気配を漂わせていた。

 

――そう、この機体、まだ稼動すらしていないと言うのに、既に膨大なマナをその身に纏わせているのだ。

 

「……これは、俺に使えるのか?」

「マスターの能力は未知数だしな。私にはワカンネー」

……ネタか? ネタなのか? 俺は仮面なんぞつけてないし、赤い機体でも無いぞ?

「すずか、この機体の名前は?」

問い掛けながら、機体を真正面から見据える。閉じられた双眸、眠る鋼の巨人。まるでこれは、鋼で作られた神の如く。

「この機体の名前は――」

 

――デモンベイン・ストレイド

 

その言葉が放たれた途端、格納庫の中を、いや、艦全体を、空気ではない何かを伝わって、静かに、けれども確かに体を震わす何かが放たれたのだった。

 

 

 

 

 




※ついにやっちまった回。

■アースラ
嘗て地球・日本への不法入国やら色々な事に関わった艦。
老朽艦なので解体処分される筈が、再び前線へ出る羽目に。

■アルカンシェル
簡単に言うと次元航行艦の必殺技。キーを差し込んでゴルディ…アルカンシェル発射を承認する。

■地上部隊の癖に、バカみたいに資金のかかる行動をする。
考えても見て欲しい。火災出動の度、スーパーX3で消火活動にこられたら。
対G兵器を消火活動に使うのがどれ程無駄か。

■アルハザードの遺産
生物兵器一つか、ソレを生産するための技術諸々のデータ。果たしてどちらに価値があるのか。明白では有るが、ソレを考えると色々と残念なことが判明してしまいそうで、その内メラは、考えるのを止めた。

■B&T製量産型SR
主にガオファイガーと量産型ゼオライマーで有名。両機とも重役(アリサ・すずか)の機体の量産コピー。設計はすずかとアリサ。
重要部分を簡易化し、整備性や操縦性を上げている。
両機種とも長時間の単独活動は出来ないようになっており、定期的にメンテナンスを行なう必要がある。
因みにこの他にも、メラ設計のシズラー型や汎用フレームがある。シズラー型は何故か不人気で知名度は(他二機に比べ)低い。汎用フレームは諸事情から様々な外装のSR機を建造する必要に迫られ、その苦肉の策として開発された。実働機としてよりも象徴機として使われる。

■ガンバスター
メラの設計したSR機。但しコンセプトはガイア式能力の低い存在にも扱えるSR機という、すずかのコンセプトを受けたもの。
搭乗者はノエルとファリンのエーアリヒカイト姉妹。

■XL級/超巨大大型母艦
全長700メートルの馬鹿でかい艦。建造は地球ではなく、月やL点の建造・造船基地。
本来はウルの追加ユニットとしてではなく、ソレ単体で完結する後方支援艦として建造されていた。
C4ユニットは、未完成且つ前線配備が間に合わないと予想される余剰分を、ウルに接続可能な状態に簡易改造を行った物。
所有権はEFF→メラ個人へと渡されている。
C3ユニットが移動する家なら、C4ユニットは移動する都市。
居住性そのものはC3ユニットのが高い。

■デモンベイン・ストレイド
またやっちゃった。
B&T研究開発班により、某社に許可をもらいつつ建造された機体。
SR機の理想(魔術的偶像)を忠実に実現した、魔装機神の系譜から開発された機体。
オリジナルとデザインが若干違い、対ギーオスに機動力・反応速度特化。コンセプト的には寧ろトゥーソードに近い。

■今週のなの破産
なんとファンクラブ(なのはの教導で新しい何かに目覚めた人達主催)からの愛の募金が入ることに。対価は握手会だが、なのはさん喜びで涙目。
そして物陰で歯噛みする八神はやて(ファンクラブ無し。グレアム家に借金)。


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24 ティアナ・ランスターの弾丸は外れない。

 

スバルの機動六課復帰とほぼ同時。次元世界を駆け抜けた一つのビデオメッセージ。

 

それは稀代の天才広域犯罪者、ジェイル・スカリエッティーが世界に対して放った宣戦布告。

 

ヴィヴィオの苦痛の声を贄に地上に姿を現したのは、悠古代の文明が生み出したとされる悠久の兵器。

 

「理由は如何あれ、レジアス中将や最高評議会は、異形の天才犯罪者、ジェイルスカリエッティーを利用しようとした。そやけど逆に利用されて、裏切られた」

 

そうして復活した機動六課。より所である六課隊舎を失った機動六課は、その新しいより所として、既に退役間近の次元航行艦、アースラを母艦とすることとなった。

 

「何処から何処までが誰の計画で、何が誰の思惑なんか、それはわからへん。そやけど今、巨大船が空を飛んで、町中にガジェットと戦闘機人が現れて、市民の生活と安全を脅かしてる。それは事実や」

 

そうして、そのブリーフィングルーム。集合した機動六課のすべての前線メンバーによる会議。

 

「――私らは、とめなアカン」

 

八神部隊長の力強い言葉が、静かに部屋の中に響いた。

 

 

 

作戦内容は実に簡単。機動六課の部隊を三つに割って、其々各戦線の支援に当る、というもの。

 

聞いて、思わず額に手を当ててしまった私は悪くない。

 

機動六課って確か、特殊部隊のチームじゃなかったっけ? 六課で一つのユニットで有ると思うのだけれども、それを三分割する? そういうのは人員に余裕の有る所轄の手法だろう。

 

よりにも寄って特殊部隊のユニットを分割行動させるなんて。しかも、陸戦部隊と空戦部隊を分けて。もう本当、何をしたいのか。

 

――なんて、内心の愚痴を一切表に出すことなく。

 

「ひっく……ひっく……」

 

隣に座る馬鹿スバルに軽く声を掛けて。どうも高町一等空尉に声を掛けて、ヴィヴィオの事で元気付けようとしたら、逆に元気付けられて帰ってきてしまったらしい。

 

この子も悪い子じゃないんだけど、やっぱり螺子が緩いというかなんというか。まぁ、そんな子だからこそ私が相方に選んだのだけれど。

 

そんな様子のスバルも元気を取り戻し、すぐにアルトの操縦するヘリは目標地点へ向かって移動を開始した。途中は以後からガジェット二型の追撃を受けたりしたが、アルトは見事その迎撃を振り切って見せて。

 

……うーん、ヘリを迎撃できないガジェットに呆れるべきか、ガジェットから逃げ切ったアルトの腕前を賞賛するべきか。

 

「それじゃ、作戦を確認するわよ。作戦指揮はいつもの通り。目標は、地上本局を襲撃する戦闘機人とガジェットの足止め。地上部隊はAMF状況下での戦闘経験が不足してる。私達の役目は、彼らのフォローよ」

 

言いつつ眼前に大きく展開する画面には、地上の様子を遠隔で撮影しているライブデータを投影して。

 

「私達はミッド中央、市街地方面。敵勢力の迎撃ラインに参加する。地上部隊と協力して、向こうの面倒なの……戦闘機人や召喚士を止めるのがあたし達の仕事よ」

「AMF状況下での戦闘経験が豊富なのなんてあたし達くらいだしね。先ずあたし達がトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る!」

「後は迎撃ラインが停めてくれる、というわけだ」

「でもなんだか、ちょっとだけエースな気分ですね」

 

ニヤリと笑う御剣二等陸士と、中々可愛らしい事を言うエリオ。そんな二人ににやりと笑い、小さく頷きを返しておく。

 

「よし、状況は切迫してる。戦闘機人どころかガジェットも、防衛ラインを抜けられれば地上本部――ひいては、其処までの直線上にある市街地はひとたまりも無いだろう」

「市民の安全と財産をまもる管理局としては、絶対に行かせるわけには行かないよね!」

「よし、行くわよ!」

「「「おうッ!!!」」」

 

声を出し合って、降下ポイントに着地。そのまま防衛ラインの部隊に合流すべく、地上を集団で駆け抜けて。

 

「む、あれは――!!」

 

高架道路を駆け抜ける最中、不意に御剣二等陸士が声を上げた。視線を辿った先、其処に居るのは件の召喚術師。メラさんのリークから曰く、ルーテシア・アルピーノ。行方不明と成った陸士首都防衛隊のエース、メガーヌ・アルピーノの娘ではないか、という少女だ。

 

視線の先、少女の指が空を舞うアルトのヘリを指差して……。

 

「拙い!」

 

ダンダンダン!!! 轟音を立てて御剣陸士が宙を舞う。彼の疑似空戦スキル、スカイウォーク。スバルのウイングロードと違い足場を作るのではなく、瞬間的に推力を発生させる事で滑空する、ソニックムーブに近い移動魔法。但し彼の場合、それにバリアタイプの魔法を足場にするという高等技術で、より複雑な機動を可能としている。

 

欠点としては足場にするバリアを展開する都合上、探知能力が高い敵には移動先が予想されてしまう危険性がある、と言うことか。

 

宙を駆ける御剣二等陸士はそのままルーテシアの方向へと加速して――ちいっ!!

 

「の、バカッ!! エリオ、アンタは御剣陸士を追いなさい! 単独行動させるな!!」

「了解! ストラーダ!!」『Exprosion!!』

ゴウッ、と魔力の炎を巻き上げて、轟音と共に御剣陸士を追って飛び立つエリオ。

「スバル、作戦変更。先にあの子捕まえるわよ!」

「了解、ウィング・ロー……っ!?」

 

 

――IS・レイストーム。

 

 

何処からとも無く響く声。咄嗟にその場から飛び退くと、寸前まで立っていた足場を光の雨が襲い掛かった。

 

ビルの屋上に飛び上がり、振り返った視線の先で燃え上がる道路。と、その瞬間に背後から近付く気配を感じ、咄嗟に体を仰け反らせて。

 

現れたのは、長髪に戦闘機人おそろいのエロいスーツに身を包んだ女性。首元のナンバリングは12番。

 

一撃目は何とかナイフで受け流したのだが、二発目をモロにナイフに喰らってしまう。どうやら剣自体に衝撃を増幅する機能でもあるのか、戦闘機人の膂力と相まって凄まじい重圧で吹き飛ばされてしまう。

 

咄嗟にバリアフィールドを展開。背中に感じる凄まじい衝撃から、何処かのビルにでも突っ込んだのだろうと予想。後受身を取る形でそのまま立ち上がり、即座に周辺警戒。

 

『マスター、……ティアナ無事ですか?』

「ええ、ファントム、アンタの方は?」

『ナイフに少し亀裂が入りましたが、リカバリーで十分カバーできます』

「そっか、悪いわね、あたしの未熟で」

『全くです。マイスターか恭也に知れれば、鈍ってるとか言われて訓練漬けでしょう』

「う゛っ……」

 

言われて、思わずその様子を想像してしまう。高町家の地獄のサバイバル訓練に香港に連れて行かれ、美由希さんのお母さんの地獄の特訓――そこにメラさんが巻き込まれて、八つ当たり気味に延々魔術の特訓を受けさせられて……ガクガクブルブル。

 

《ティア、ティア!!》

「っと――《この状況で個人戦は拙いわね。各員、合流するわよ!》――って、ええっ!?」

「残念でした、合流はサセネーっす」

「隔離結界!」

 

不意に聞こえてきたスバルの声に我に返り、慌てて出した指示。ところがその瞬間、私が叩き落されたビルの穴。其処を覆うようにして青いバリアが展開された。どうも私を此処に閉じ込めて、確固撃破する心算のようだ。

 

もしかして私、警戒されてる? ……なんだろう、危機的状況なのに、敵方に高評価を受けてるみたいで若干嬉しく感じてしまう。

 

「ふふふー、ハチマキとコンビでどうにか半人前、四人でやっと一人前のへっぽこガンナーが、仲間と引き離された気持ちは如何すかー?」

 

――ブチッ。

 

『ま、マスター?』

 

ふ、ふふふ、フフフ。そう、そうか。そうなの。一瞬敵に高評価を受けたみたい、なんて喜んだ自分が馬鹿らしくなった。単純に、連中にとって私は最初のターゲットである、と言うだけなのだろう。イートナンバーズ~ティアナ・ランスターの逆襲~である。

 

「《ライトニングチーム、スバル、作戦、ちょっと変更。目の前の相手、無理に倒す必要は無いわ。足止めして削りつつ其々対処。それでも十分市街地と中央本部は守れる》」

「ヴァッッッッカじゃねーの? そんなに時間かかんねーよ!!」

「アンタは捕獲対象じゃねーっすから。殺しても怒られねーっすからねー」

「《念話が聞かれてるみたいね。 通信は以上。 全員、自分の戦いに集中!!》」

 

まぁ、念話が聞かれていようが相手が此方を舐めていようが、正直な所は如何でもいい話なのだ。今回の作戦目標は、端的に言えば戦闘機人の足止め。此処で幻影を使って延々時間稼ぎをしても、ソレはそれで目標を達成できるのだからありがたい。

 

とりあえずフェイクシルエットと設置型シューターの複合技、シューティングシルエットで戦闘機人二機を撹乱すべく撃ちまくる。走って隠れて撃ちまくって。……本当、こういう時ほどメラさんや恭也さんの元で体を鍛えておいてよかったと思うことは無い。

 

マナを用いたガイア式の使用が制限されている現状、Bランク程度しかない私の魔力ではかなり行動が制限される。これで肉体的に未熟だったりすれば、走り回るだけで術の構成にブレが出たりしかねない。その点私は肉体も確り鍛えてるし、肉体疲労で術が甘くなるなんてヘマはありえない。

 

……というか、そんなしょうもないヘマをしようものなら、地獄の訓練コースが待ち受けているのだ。

 

「幻術馬鹿の一つ覚えが……見えてんだよ!!」

 

どーん!! 赤髪の戦闘機人の一撃がシューティングシルエットに直撃した途端、私の姿をした幻影が派手に爆発した。

 

「ノーヴェ!?」

 

プークスクス。シューティングシルエット+爆雷魔術/フローティング・マインを併用した、マイン・シルエット。要するに、私の姿をした幻術を被せた爆雷だ。そんなものをモロに蹴り飛ばした赤髪の戦闘機人。行動不能とはいわないでも、機動力を多少は削れたのではないだろうか。

 

「ねぇ、散々馬鹿にしてたへっぽこガンナーに、散々梃子摺って、幻影を見抜いてるとか叫びながら見事にトラップに引っかかって、ねぇねぇ、今どんな気持ち、今どんな気持ち?」

 

「て、めえええええええええええええ!!!!!!!」

「ノーヴェ落ち着くっすよ!! ……ってぁあもう!!」

 

所謂NDK(ねぇどんな気持ち)である。よくメラさんにやられて何度憤死するかと思ったこのNDKではあるが、極まれば挑発技としては最高位に属するのではないだろうかと言うほどに効果的だ。今現在、我を忘れ、ダメージを受けた状態で尚“幻影に”突っ込んでいく赤髪を見ればそれは一目瞭然だろう。

 

―――ドォォォォオオオオン!!!

 

「うん? ……あら、敵の増援?」

 

不意に響く爆音に、何事かと意識を其方に向ける。と、ビルの中空に配置しておいたシルエット・マインの一つが攻撃を受け、盛大に爆発したその音だったらしい。忍ばせたサーチャーから得られたのは、シルエット・マインに双剣を突き込んで、見事その爆発に巻き込まれた、先ほどの双剣使いの様子だ。

 

……クスクスクス。よりにもよって、この狭いビルの中に空戦個体が追撃を仕掛けてくる? 確かに空戦戦力は陸戦を上回る扱いを受けるが、こういう狭いビルの中では、下手な空戦よりも陸戦のほうが有利なのだ。確かに戦闘機人三人は驚異的な戦力ではあるが――先ず私を最初に狙ったその判断、それが間違いだという事を教えてあげよう。

 

「ちょ、ディード、アンタも来たっすか、っていうか、大丈夫っすか?」

「平気」

「あんな豆鉄砲の一発や二発、如何って事ねーよ!!」

「まぁ、一発や二発だったなら大丈夫だったかもしれねーっすけど……」

「あ゛あ゛っ!?」

「……けほ。オットーの指示。あの幻術使い、確実に仕留めておかないと面倒、って」

 

何かギャグってる三人。その周囲を覆うように展開したシューティングシルエット。実際、戦力で言えば上回っているのはあちらなのだ。油断する心算は一切無い。

 

油断する心算は一切無いが……はてさて、確実に仕留められるのは、果たして一体どちらなのか。

 

「……クスクスクス」

『マスター、恐いですよ?』

 

失敬な。

 

 

 

 

 

三人の戦闘機人を仕留めるのは、実に簡単な手順だ。

連中は情報共有により、常に互いが互いをカヴァーしあう。地球の技術で言えばSOPシステムのそれに似た動きが出来るのだ。

 

そんな連中を仕留める方法――それは、連中が戦闘機“人”である点を徹底的に突くというモノだ。

 

幻影で散々引っ張りまわし引っ掻き回し、幾ら戦闘機人といえど人である以上体力に限界はある。それに加え、あちらは時間との勝負でも有る。私を仕留められない現状に徐々にストレスも溜まっていく。

 

「はずれ」「また外れね」「さっき幻影はバレバレとか言ってたわよね」「その割りに外してるわよ?」「あら、もしかしてワザとやってる?」「そうよね、そうでもなきゃ此処まではずれ続きってありえないし」「――プ」

 

「てめえええええええええええ!!!!!!!!!」

 

「だから落ちつくっすよノーヴェ!! ってぎゃあああああ!!!!」

「………………」

 

一番最初に撃墜したのは、最も戦闘能力の高いであろう長髪の戦闘機人。確かにデータ蓄積による無駄の無い動きは驚異的なのだが、逆に最適化されすぎていて、彼女の戦闘モーションはかなり数が限られている。見慣れてしまえば対応は簡単だった。顎下からと後頭部への魔力ダメージ。脳震盪で動く事もできまい。

更にバインド(に見せかけたガイア式拘束術)で縛っているので、間違っても起き上がることは無いだろう。

 

続いて仕留める心算なのは、散々挑発している赤髪の子……ではなく、そのフォローを必死になってやっている変な口調の戦闘機人。

機動力のある砲撃型みたいだが、あの手のタイプは露払いが上手く機能していなければ案外脆いものだ。

 

――確かに大砲は驚異的だ。が、同時に大砲は弱点でもある。大きな力を使うには、同等に精密な計算が必要と成る。強大な大砲も、上手くすれば小石一つで破壊出来得る。

 

そんな事を言いながら、ギーオスの口の中に石ころを突っ込んで、ギーオスの頭を超音波の共振暴走で爆発させたメラさんの姿を思い出す。

 

……まぁ、流石にあんなグロい技はやる心算も無いが。

 

「糞ッ、其処っす!!」

 

赤髪と引き離した状態で、此方の展開する幻影に砲身を向ける「っす」口調の戦闘機人。その周囲に浮かび上がる膨大なエネルギーによって形成された弾体。……其処に向けて、一発の弾丸を撃ちはなった。

 

「んなっ!?」

 

その一撃は、彼女の周囲に浮かんでいた光球の一つに着弾すると、そのまま誘爆。周囲に浮かんでいた同じエネルギー光球を巻き込んで、盛大に爆発を起した。

 

「ウェンディ!!」

「だいじょう――ブッ!!」

 

即座に接近し、顎の下から拳をカチ上げる。綺麗に決まったアッパー。そんな奇妙な断末魔を上げて、変な口調の子は見事にダウン。我ながら惚れ惚れするようなアッパーカットだった。

 

「て、テメェよくもウェンディをおおおおおお!!!!」

「戦場で仲間の名前を叫んで咆える。……それ、死亡フラグよ?」

 

言いながら思考加速。引き伸ばされた世界の中、ゆっくりと迫ってくる赤髪の戦闘機人の一撃。それを余裕を持って回避する。怒りに我を忘れ、態々近接戦を挑んでくるのだ。寧ろ遠距離からチマチマ削られるよりは分りやすくていい。

振りかぶられたテレフォンパンチ。それを少しからだの位置をずらして回避。そのまま彼女の背後を取る。

 

「なっ!?」

「データだけで強くなったような気分になってるガキが、いっぺん地獄みて出なおせ!!」

「ちょ――オブゥッ!!」

 

背後に組み付いてのバックドロップ。頭部を強打した赤髪は、けれどもまだ動いている。

 

「ならもう一発っ!!」

「ちょ、ま、ギ、ギブふぅぅっ!!!」

 

起き上がりのセカンドドロップ。再び頭部から地面に叩きつけられた赤毛の戦闘機人は、今度こそ全身をピクピク痙攣させ、完全にその動きを止めていた。

 

「――ふ、勝利はいつも空しいものだわ」

『その割に、自己陶酔してるみたいだけど。態々プロレス技なんか使っちゃって』

「あら、世の中には中華拳法と渡り合うプロレス技使いの魔導師だって居るらしいのよ? たまにはいいじゃない」

『まぁ……でも、プロレス技は……』

「いいじゃない花拳繍腿。私派手なのも好きよ?」

 

むしろ打撃技の華を知れ。

あの地味にジワジワ痛めつけるのとか。中々いいと思うんだけど。

 

『そういえばあの戦闘機人、途中で降伏宣言してたような』

「気のせいよ。ファントム、この数分の記録は事故で消去されたわ。いいわね」

『……えと、マスター? 管理局の意義とか……』

「いいわね?」

『イェスマム!』

なんてことを話していると、急に周囲を覆う魔力――結界の気配が掻き消えた。どうやら外の誰かが結界の維持を担当していた存在を潰したのだろう。

 

「それじゃ、私達も行きますか。と、その前に、この子達ね」

『軽く浮かせます』

「頼むわね、ファントムクロス」

 

ファントムクロスの支援により、拘束した三人の身体が軽く持ち上がる。その状態でアンカーで連結して……と。

 

「《――ありゃ、俺の出番なかったかな?》」

「? あら、ヴァイス陸曹」

 

身をのりだしたビルの外。其処には見知らぬ狙撃銃型デバイスを構え、苦笑しながらヘリから身を乗り出すヴァイス陸曹の姿が見えていた。

 

 

 

 

 

Side Mera

 

「大凡、予測どおりの展開なんだが……」

 

俺が介入した事で、原作から乖離した点は三つ。

 

一つはアギト。彼女が俺の元についたことで、ルーテシア陣営は大きく戦力ダウンしている。とはいえそれでもゼストとルーテシアの戦力には侮れないものがある。

正しい運用をすれば、逆に前線に出すよりも効果的に運用できるかもしれない。

 

次に、キャロの存在。竜召喚士である彼女を俺が引き取った結果、現在の機動六課フォワード部隊は、原作に比べ大きく機動力を削られている。とはいえ元々機動力に定評の有るメンバーが多い陸戦型だ。ヘリとあわせればそれほどのデメリットも無い。

 

三つ目、ギンガ・ナカジマを保護した点。地上本部襲撃時に回収した鞄の中に納められていた彼女。蘇生ついでに、アルハザードの技術でちょっとした魔改造を施して、ほぼメンテナンスフリーな戦闘機人にした以外は健全なままだ。この事件が終わり次第地上に返す予定だ。

 

機動六課に加え、スカリエッティ陣営からまで戦力を奪っているような気がしないでもないが、その点は大丈夫らしい。

何の目的があってか、転生者の一人、鳳凰院朱雀がスカリエッティ陣営で活動しているらしく、ヘッドギアをつけて洗脳されている風の彼が、地上でもう一人の転生者である御剣護を相手取っているし。多分目的は最高評議会を自分の手で殺す事、その代価にスカリエッティに協力している、という所だろうか。

調べた所、彼、鳳凰院朱雀は、御剣護に比べかなり積極的に原作介入を行なっていたらしい。

 

彼の原作介入の成果として、

 

・なのは撃墜の怪我度合いの低減

・エリオ・モンディアルの保護早期化

・クイント・ナカジマの生還(但し戦線復帰は不可能)

 

などなど。他にも量産型デバイス「ジークフリート」の採用により、管理局全体の生還率が跳ね上がったりしているのだ。因みにどうやったのかまでは知らないが、先ほどゲイズ中将が暗殺者から逃げ延びた、という情報も入ってきている。此方も俺は手出しをしていないので、多分彼の仕業だろう。

 

ただどうも、プレシアの救済や初代リインフォースの救済にも動いていた形跡があり、数多くの事件に関わった後が見える。

 

彼の目的は多分、そうした数多の悲劇を生み出したその背後の存在、最高評議会に対する復讐、なのではないだろうか。

 

とはいえ彼個人の力では――例え企業の力を使ったとしても、旧暦の時代から存続する最高評議会を捕らえることは実質不可能。それ故に、原作知識をして最高評議会を見事捕らえ、抹殺して見せたスカリエッティ勢力に同調する事で、自ら仇を討った、と。

 

もしこの予想が事実であるのだとすれば、かなり非生産的ではある。が、理解できない事は無いというのもあるのだ。どちらにしろ死ぬのであれば、自分の手で……なんて思いは否定しない。

 

その結果がコレ。スカリエッティーにより御剣を抑える駒として扱われてしまっているのだ。まぁ、二人の転生者同士が丁度いい具合に抑えあい、丁度原作と同程度の戦力比になっている。この状況であれば、流れが大きく狂う、といった事態は回避できそうだ。

 

「……杞憂だったか?」

 

視線の先、モニターに映るのは、母親である高町なのはに泣きながら挑む聖王オリヴィエのクローン……いや、ヴィヴィオという少女の姿。

 

実のところを言うと、あの聖王のゆりかごは大したロストロギアではない。確かに先史ベルカの時代では既にロストロギアの扱いを受けていたのであろうが、あの程度の代物では、少なくとも現時点のEFFと相手取ったところで一瞬で沈められるのは目に見えている。

 

同じアルハザードを祖に持つ艦でこそあるが、あちらは廃棄された艦をベルカの技術で何とか稼動状態に持っていったもの。対する此方は、完全なデータを継承し、それを十全な状態で再現し、更に発展させている代物なのだ。

 

無理矢理OSをアルハザードからベルカに書き換えている所為で、基幹システムも所々穴が見え隠れしている。そのおかげでこうして、聖王のゆりかごの監視モニターにハッキング出来ているのだが。まぁ穴がなくとも、アルハザードのマスターコードを持つ俺が居れば多分アクセスできたとは思うが。

 

『ブラスタースリー!! ディバィイイイイイインン!!!』

 

――ガシャコガシャコガシャコガシャコガシャコ!

――ンガッチャン!!

 

『バスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』

 

『いや………いゃああああああああああああああ!!!!!!』

 

と、画面の中。非殺傷設定なにそれ美味しいの? とでも言わんばかりに、AMFは何処行ったという凄まじい威力の砲撃がゆりかごの中を突き抜け、その先で気取っていた数の子四番を打ち抜いた。うーん、成程これはトラウマになる。

 

「……これ、なのはちゃん、逮捕がもくてきなんだよね?」

「……逮捕? モロに殺る気にしか見えませんが」

 

脇から画面をのぞいていたすずかとイクスが好き勝手言う。まぁ、確かにあんなの喰らえば普通は死んだと思う。というか、幾ら非殺傷設定でも普通は死ぬ。思えばアレに耐えられる兵隊を量産できるというのだから、戦闘機人って凄いなぁ。

 

「うーん、でも戦闘機人って結構欠陥もあるんだよ?」

「……なんですずかが知ってる?」

「イクスちゃんに教えてもらったし、ギンガちゃんを治したのは私だよ?」

 

そういえばそうだった。今現在ミッドにいるウチの面々の中で、最も技術力の高いのはすずかなのだ。俺も頭脳チートを名乗れる程度には超“脳”力を持っているとは思う。が、如何足掻いてもすずかには敵うとは思えない。アッチは公式マッドだし。……流石顔芸の原案と言われる一族だけはある。

 

……いや、そういえばこの世界では吸血鬼はアルハザード由来の血筋というこじ付け設定みたいなのがあったか。もしあれが事実だとすれば、同じアルハザード由来の顔芸は……親戚?

 

「うん? メラ君?」

「!」

 

何か凄い笑顔で首を傾げられたので、これ以上考えるのは止めておこう。うーん、すずかの瞳が金色に染まって以降、下手な事を考える事も出来なくなってきた。まぁ、緑色に輝くアリサも同じぐらい鋭いんだけど。

 

「おっ、マスター、トドメさすみたいだぜ?」

 

アギトの言葉に視線をモニターへ戻す。と、その画面の中では、凄まじい光の塊を、バインドで固定したヴィヴィオに向ける高町なのはの姿が。

 

『全力、全壊! スターラートォ、ブレイカアアアアアアアアア!!!!』

『う、あ、うわあああああああああああああ!!!』

『ブレイクゥ、シュウウウウウウウト!!!!』

『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』

 

轟音、爆発、そして画面はブラックアウト。

 

「……絶対、助ける? 如何見ても必殺を狙ってるよなこれ?」

「きっとその呪われた宿命から開放する(殺る)という意味での言葉なのではないですか?」

「いやいやいや、さすがになのはちゃんも其処までじゃ……うーん………」

 

そういって言葉を濁すすずか。いや、友人を庇うなら確り庇ってあげようよ。

 

「――ん?」

 

なんと事を考えつつ、ふとモニターに向けた視線の先。ヴィヴィオの胸から飛び出して砕けたレリック。けれども一瞬、何かそれとは違う物がヴィヴィオから飛び出していったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 

「如何かしたのか、マスター?」

「……アギト、今のシーン、再生してくれ」

「うん? 了解」

 

そうして再生される画面。飛び出したレリックを拡大して。

 

「……これだ」

「何か、飛び出してる?」

 

レリックの影から、その破片に紛れるようにして飛び出す何か。システムを使い、ぼやけた画像をフィルタリングで解析して。

 

「……っ!?」

 

そうして、背筋に冷たいものが走る。

 

「何だこれ? 生き物か?」

「見たことの無い種ですね。蝸牛のようにも見えますが、人に寄生し、飛行も可能な種など……」

「メラくん?」

 

握り締めたこぶしが震えているのが分る。心配そうに此方に寄り添ってくれるすずか。その暖かさが何よりも心強い。……そうだ。いずれ来ると言うのは分っていたことだ。ただ、ソレが今であった、と言うだけの話。

 

「どうやら、俺の勘も、そう棄てた物ではないらしい」

 

モニターに映し出される、虹色の輝きを纏ったソレ。何時か出会う最大の脅威。地球で姿を見ないと思えば、まさか異世界の最終局面で相対することになろうとは。

 

「……柳星張。いや、イリス……」

 

世界を滅ぼしかねない、最大の脅威。それが、目と鼻の先に現れた。その事に今、漸く気付く事が出来たのだ。

 

 

 

 

 

Side end

 

 

 

 




■イートナンバーズ~ティアナ・ランスターの逆襲~
「ハザード・タイム」
すべてはこの言葉に要約される。傑作級にぶっ飛んだゲーム。何か最近の映画に似たようなコンセプトのがあったような?

■NDK
ねぇ今どんな気持ち?
見下していた相手に見下されて、ねぇ今どんな気持ち? 馬鹿にしていた相手に馬鹿にされて、ねぇどんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?
――などと言う、相手の神経を逆撫でするときの定型句。

■綺麗に決まったアッパー。
因みにジョフレアッパーである。

■戦場で仲間の名前を叫んで咆える。
「戦場でなぁ 恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ 瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞なんだよ」by御大将

■むしろ打撃技の華を知れ。
幕ノ内一歩とか、明日のジョーを参照。
北斗の拳とかジョジョの奇妙な冒険でも良し。

■柳星張
ボスモンスター。なんと聖王の肉体に潜んで、聖王と共に戦闘技術や聖王の鎧、その他様々な技術や、顔芸により他生物のDNA情報などを吸収してしまいました。
原作のソレよりも中々凶悪なことに。


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25 Iris

高町なのはは心底恐怖していた。

 

戦闘機人の四番目、クアットロを倒し、自らの娘であるヴィヴィオを胸に抱き、漸くすべてを取り戻したと、ヴィヴィオを抱きしめて小さく安堵して。そうして、気付いたのだ。この空間に居る、彼女の認識していない何かが居る事を。

 

――――――――――――――――――ッッッ!!!???

 

得体の知れぬ、心臓を鷲掴みにするかのような咆哮。甲高い機械のようでいて、それで何処か生物の色を持った叫び。

 

「な、何!?」

「ママ……」

「だ、大丈夫だよヴィヴィオ。私が守るから」

 

ヴィヴィオにそう囁きながら、けれども高町なのははその身を一層緊張させる。聖王オリヴィエのクローンたるヴィヴィオは、その実力的にSランク魔導師を上回る。そんな彼女を正面から下した高町なのはは、既に体力的にも魔力的にも限界に近かった。

 

――いざとなれば、ヴィヴィオだけでも。

 

「……なんやコイツ……」

 

そんな高町なのはの横。シュヴェルトクロイツと夜天の書を構え、ユニゾンしたまま最大限の警戒を行なっていた増援、八神はやて。彼女は、正面に現れたソレを見て、思わずそんな声を上げてしまう。

 

彼女達の目の前に現れたソレ。それは、ヴィヴィオの奉じられていた王の間、その一角を覆いつくさんばかりに巨大に広がる怪獣だ。その全長は20メートル以上。しかも、目の前で徐々にそのサイズを大きくしていくのが目に見えて分った。

 

「はやてちゃん、逃げるよ!」

「そうしたいのは山々なんやけど、高濃度AMFが……って、アレ?」

 

思わず悲観的になるはやて。けれどもその言葉の途中、何故か不意にゆりかごを満たすAMFがスッと引いていくのを感じて。咄嗟に身体中の魔力の通りが良くなるような錯覚を覚える。

 

「――なんや、急にAMFが消えおった……」

「でも、これなら逃げるくらいは出来るよ!」

「せや……そしたら、とっとと尻尾巻いて逃げよか!!」

 

浮き上がる二人と、その背後から迫り来る触手。なのはは咄嗟にそれをシューターで叩き落すが、その途端にシューターは拡散するようにしてその姿を崩れさせる。

 

「なんや今の!?」

「魔力が拡散……ううん、喰われたんだ!?」

「なんやと!?」

 

なのはは直感的にそれがかつて相対したあの巨大生物、ギーオスと同じ魔力を食う力だと見抜いていた。一度相対し、生死をかけて戦った相手だからこそ分る直感。そして彼女の理性と直感は、揃ってこの怪物をギーオス以上の驚異だと叫んでいた。

 

「アクセルフィン!!」

「ええい、リイン、加速するで!!」『了解なのです!!』

 

なのははその脚に展開する桜色の羽を羽ばたかせ、はやてはその背の四枚羽を羽ばたかせる。途端に魔力を噴出して加速する二人。けれどもその背後を追う様にして、鏃のような切っ先を持つ触手が二人の背中を追いかけだした。

 

「触手ぅ!? アレはトリと……ギーオスとは違うイキモンなんか!?」

「わかんないよ!! でも、アレも魔力を餌にするんだと思う。だから私達の飛行魔法に反応して……」

「ええい、なら魔法やのーてカチで……アカン! どっちにしろ私らはでっかい魔力の塊や!!」

 

はやての言う通り、例え彼女達が魔法行使による魔力噴出を抑えたとして、どちらにしろ現在この聖王の揺り篭の中に存在する魔力源で、最も大きいのは聖王、夜天の王、そして高町なのはの三人だ。

ゆりかごの動力炉が止まった現在、触手にとってのご馳走は、例え魔力を放っておらずとも、その場に居る三人である事は間違いなかった。

 

「……っ!? はやてちゃん前!!」

「なん……やとぉ!? 隔壁が!!」

 

そうして逃げ惑うはやてたちの視線の先。其処には先ほどのアナウンスの後に閉じられた、隔壁シャッターが行く手を塞いでいて。このまま進めばフクロのネズミ。されとて引けば其処は怪物の餌食へ一直線。

 

「ぐっ、こうなりゃ私のデアボリックエミッションでぇ――!!」

「ちょ、こんな所でそんな魔法使ったら……って、アレ!!」

「なんや……ってまたか!!」

 

驚いたなのはの声。釣られて前を見れば、其処には静かに開きだした隔壁シャッターの姿が。

 

「……どうもおかしいでなのはちゃん。まるで誰かが私らの行く先を態々開いてくれとるみたいや」

「でも、此処はスカリエッティの陣地だよ? 一体誰がそんな事を……」

「分らん。少なくともこの阿呆や無いのは分るんやけど……」

 

そういって背中を指すはやて。彼女の背中には、現在なのはの全力砲撃でノックダウンしたクアットロの姿があった。

このゆりかごの最高指令であるクアットロ。彼女がこうしてダウンしている以上、現在の揺り篭は自動操縦以上の行動は出来ない筈だ。だと言うのに現在彼女達は如何考えても誰かの思惑で逃がされている。

 

「考えても分らん! なんか用が有るんやったら向こうから接触してくるやろ! 私らは素直に逃げさしてもらうで」

「うん!」

 

加速。彼女達が通り過ぎた途端、再び下ろされてゆく隔壁。隔壁は一瞬触手の追撃を阻害するが、途端に黄色い光が隔壁を粉々に切裂いていく。

 

「……あの光は、トリのやつと同じやな」

「魔力共振メス、だっけ」

 

丁度一週間前の管理局地上本部襲撃事件。その折、地上本部を襲った最後の出来事。それが、100メートル級の超巨大ギーオスの襲撃だ。結局ギーオスは正体不明の魔導師により滅ぼされたが、その存在が驚異である事には変わり無い。

 

魔法が吸収されるという点からも、対AMF戦闘に優れた機動六課が戦場に駆り出され、相対する可能性は低くない。故に、彼女達はギーオスについての解析情報を既に頭の中に叩き込んでいた。

 

その中にある、ギーオスの攻撃手段。魔力素粒子を共振させる事で、一種の超音波メスのようなものを魔力素粒子を用いて放つ技。純粋な魔力素粒子を用いるが故に魔法的防御手段では防ぐ事は難しく、次元航行艦のディストーションシールドで辛うじて防ぐ事が可能と試算されたソレ。

 

「やっぱり、あれはギーオスと同じイキモンなんか?」

「ソレにしては形が違いすぎる。……もしかしたら、亜種とか、同じものを起源に持つ別種とかじゃないかな」

「成程な。……って、ゆうてる場合やあらへん!! なのはちゃん、右!」

 

はやての言葉に反応し、咄嗟にシューターを飛ばすなのは。その先でなのはと併走していた触手の鏃をシューターが叩き落した。シュピィン、という音と共に切れ落ちる通路脇の壁。分厚い装甲で覆われた頑丈そうな壁が真っ二つにされたその光景は、なのは達の肝を心底冷す。

 

「話には聞いてたけど、なんやこの滅茶苦茶な威力は……」

「回避型じゃなくて迎撃型の私達とは相性最悪だよ……はやてちゃん下!」

「ぬっ、『フリジットダガー!!』」

 

氷の刃が触手の鏃を弾き飛ばす。途端に明後日の方向へ照射される魔力メス。

 

「こら、拙いで……ちょっとずつ触手の本数が増えてきとる。何時までも逃げ切れん」

「諦めちゃダメだよ、何か方法が……うん?」

 

なのはがはやてを勇気付ける最中、不意に何かの音を聞いたような気が下なのはは、その言葉を途中で止め、触手を回避しながらも何とか耳を凝らす。

 

ボボボボ、という洞窟効果で反響する機械音。この音は最近聞いた事の有る、バイクのソレだと、なのはは即座にその正体に気付いて。

 

「これは、バイクのエンジン音やな」

「うん……まさか」

 

これが少し前、AMFに汚染され、ただ撤退が出来ない状態であれば、救援を喜んでいたかもしれない。けれども今現在、この状況では……。

 

「なのはさーん!たすけn「スバルつかまりなさい!」いぎゃっ!?」

 

視線の先、笑顔で此方に手を振るスバル。その彼女が掴まるティアナは、一瞬此方を見て顔を青ざめさせた後、即座にバイクを反転。その凄まじい衝撃にスバルが吹き飛びそうになるのを、片手で襟をつかんで引き寄せて。

 

(……スバルって、実は機械パーツを組み込んでる所為でかなり重い筈なんだけど……)

 

女の子に対する感想としては若干失礼な事を考えるなのは。けれどもそんな事を考えている余裕も無く、背後から迫る触手をシューターで叩き落す。

 

「高町隊長、なんですかコレ!!」

「多分、ギーオスの亜種だと思うんだけど……」

「ギーオスの亜種――ってまさか!?」

「ティアナ、何か知ってるの?」

 

思わず、といった様子で声を漏らしたティアナ。なのはが問うと、ティアナはしまった、と言う風に若干表情を歪めて。

 

「……えぇ、少しだけ。でも、今はそれより……」

 

言いつつチラリと背後を見るティアナ。その視線の先には、先程よりもその本数を増やし、凄まじい数でなのはたちを追いかけるおぞましい触手の群が見えていた。

 

「く、高町隊長、八神部隊長、まだ少し飛んでられますか!?」

「ウチは大丈夫や。けど、なのはちゃんは……」

「私もあと少しなら大丈夫。だけど、それが……」

「少しだけ待ってください。 スバル、ちょっと運転代わりなさい」

「え、ええっ!?」

「無茶な動きしろなんて言わないわ。ただハンドル握ってりゃいいわよ! ファントム、サポートしなさい!」

『I Mam!!』

 

ティアナの言葉に、彼女のデバイスであるファントムクロスが答える。

ティアナがバイクのハンドルから手を離し、そのまま軽く跳躍。その隙に運転座席へと滑り込んだスバルが、ガッチリとハンドルを握りこんで。

 

「てぃてぃてぃティア~!!」

「上手いわよ。なに、ちょっと早いだけの自転車と変わんないわ。速度だってキャリバーのと同じくらいでしょ」

「まるで曲芸やな。で、この後ティアナは如何する心算なんや?」

「こうします。……ファントムクロス、イクリプスモード!!」

『stand by ready!!!』

 

ティアナの声が通路に響く。途端、バイクの後に立ち上がったティアナの姿が光に包まれる。ソレまでの常のバリアジャケットが姿を変え、全体的にメタリックな、機械的な姿へと変身した。

 

「そ、そのバリアジャケットは……」

「私の奥の手です。あんまり管理局では使いたくなかったんですが、そうも言ってられませんし」

 

言いながら、ティアナはその手にファントムクロスを展開させる。けれどもその姿は、普段から愛用しているハンドガンの姿ではなく、なのはもはやても見たことも無い型のライフルだった。

 

――イクリプスモード。それは、マナを使うことの無い管理局での活動に際して封印された、ティアナの全力を扱う高燃費モード。

 

ただマナを使うだけではなく、更にとんでもなく燃費の悪いイクリプスモードを扱う為だけのスタイル。ただしその高燃費分のコストをかけるだけはあり、マナスラスターにより擬似的な空戦を行なうのも、このスタイルであればかなり精細なコントロールが可能となる。

 

全身を覆う金属鎧、腰と肩の跳躍ユニット、体の各部に取り付けられたウィングマストと、額に装備される精密狙撃用センサー。

 

下手すると管理局では質量兵器扱いされかねないコレ。マナ云々もそうだが、そういう点でも露出すれば封印されかねない。そういった意味でティアナは、この橙色の鎧を封印していたのだ。

 

(とはいえ、こんな場所で死ぬよりはマシよね)

「高町隊長、八神部隊長、耳塞いで!!」

「え、ちょ――」

「ファントムクロス、レールガン、フルロード!!」

「まっ――」

 

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!

 

瞬間、ティアナの手元で光がはじけた。連続して放たれる閃光。間隔がゼロに等しければそれは光になる。そしてティアナの放つその閃光は、当にその光と呼ぶしかないものであった。

 

凄まじい勢いで連射されるレールガン。正確には、電磁投射砲をモデルとしたマナ速射砲なのだが、そんな事は些細な事と、ティアナは触手を次から次へと迎撃していく。

 

然しそれは最早ピンポイントな迎撃ではなく、ただ襲い来る方向に銃口を合わせているだけ。それだけで触手は弾けとび、粉々に砕け散るのだから。

 

「しょ、触手が、砕けた? なんで、私の魔法は効かなかったのに!!」

「ってか、耳痛いわっ!!」

 

叫ぶはやてを無視して、ティアナはスバルの肩をポンポンと叩く、途端に再び曲芸のように位置を入れ替えるスバルとティアナ。

 

「……慣れてる?」

「まさか。今日初めてやりましたよ」

 

そんな事をいいながら、バイクと二人の魔導師はゆりかごの通路を加速するのだった。

 

 

 

 

Side Nanoha

 

「見えた、出口だ!!」

 

轟音を立てるバイクの視線の先、不意に見えた光の差し込む場所。それは多分、ティアナとスバルが突入に際して揺り篭に空けた大穴。

 

腕の中で震えて、けれども気丈に振舞うヴィヴィオの体温に勇気付けられて、出口まであと少しだと萎びれそうになる駄目な自分を鼓舞して。

 

けれども、本当の絶望と言うのは後からやってくるのだ。

 

「……っ、出口がっ!!??」

 

悲鳴のようなスバルの声。釣られて前を見れば、正面の床。其処から天に向けて勢いよく突き出した鏃の触手。それはそのまま天井に向けて、件の金色の光を撒き散らした。

 

途端に、相当な強度のあるはずの、聖王の揺り篭、その内部構造が砕けおち、見えていた出入り口の穴、其処へ続く通路を瓦礫で埋めてしまった。

 

「そ、そんな……」

「ちょ、これ本気で拙いんちゃうか!?」

 

悲鳴を上げるはやてちゃん。その声に、思わずヴィヴィオを抱く腕に力が篭ってしまう。

 

「ママ……」

「大丈夫。ママがちゃんと守るから、大丈夫だよ、ヴィヴィオ」

 

……そう、少なくともヴィヴィオだけは、何があっても、命に変えても守ってみせる。

 

「ティアナ、さっきの魔法で何とかならんのか!?」

「さっきのアレは貫通させる魔法であって、吹き飛ばす魔法じゃないんですよ!」

「そやかて他に方法もあらへんや無いか!!」

「やっても良いですけど、高確率で逆に通路が埋まりますよ!?」

「なら、なのはさんのディバインバスターで……」

「ごめんスバル、私、もうショートバスターを撃つ余裕も無い……」

 

というか、既にバリアジャケットの維持も辛くなってきている。さすがに高濃度AMF空間で、更に推定Sランク魔導師と長時間戦い続け、更に全力の飛行魔法で逃げ回った後に、更にディバインバスターを撃てるほどの余裕は無い。カートリッジも既に使い切った。私に手は残されていない。

 

せめてブラスターモードの負荷がなければ……いや、あの時ブラスターシステムを使う必要があったのは確かだ。その事を今さら後悔しても仕方が無い。

 

「なら、私の振動拳で……!」

「やめなさいスバル!! アンタのそれもこの状況じゃ崩落を誘発させかねないわよ!」

「でも、じゃぁ!!」

「……ええい、私が何とかするわよ!! スバル、自走しなさい! 八神部隊長、運転出来ますか!?」

「バイクをか? 自転車みたいなもんやろ、任せとき」

「お願いします。なのはさん、八神部隊長の後ろに。速度大分落ちてます」

 

トンッ、とバイクから飛び降りたティアナ。ティアナの今の姿……イクリプスだっけ? ティアナの切り札であるその姿。腰に付けられた機械パーツから噴出す魔力で推力を得ているらしいソレ。下手をすると質量兵器扱いされるかもしれないのだ、とティアナが零していた。

 

その橙色のバリアジャケット、というか半機械鎧で滑空するティアナ。その手には先ほどのレールガン? の状態に変形したファントムクロスがある。

 

「おっと、ちょっとムズいなこれ」

「八神部隊長、あたしが抑えときますから……」

「ありがとな、スバル。なのはちゃん、後ろに乗ってまい!」

「あ、うん!」

 

速度をあわせ、バイクの後部座席に腰を下ろす。飛行魔法の維持を解除して、その途端体を襲う疲労感。結構ギリギリだったみたいだ。

 

「よし、ファントムクロス、レールガン、しゅ……スバル! 速度が落ちてる!!」

「ええっ?! 拙い、八神部隊長、アクセルまわして!!」

「え、ええ? アクセル!?」

 

不意に叫ぶティアナ。その表情には焦りの色が見て取れた。確かに、逃げ出した当初に比べ、何となくだが景色の流れる速度が緩やかに成っているような気がする。

 

……多分、さっきはやてちゃんが運転を代わった辺りから。

 

「いけない、加速して!! スバル!!」

「うん!! ……な、なのはさん後っ!!??」

 

目を見開いて此方に叫ぶスバル。何事かと後を振り返って、すぐ目の前にある鏃のようなものに気付いた。

 

中央に赤い玉のような収まった、鏃のようなソレ。何処か遠くから聞こえる、ティアナとスバルの私を呼ぶ声。その先端に集まる黄色い光を見て、ただ冷静に「あ、コレで終わりか」なんて思って。

 

――不意に、腕の中に暖かいものを感じた。

 

「――!!」

 

今、今何を考えた高町なのは!! 此処で終わりと、終わってしまうのかと、終わることを認めたか! 終わってもいいと諦めたのか!!

 

それでいいのか、いいはずが無いだろう!! 私には、まだやるべきことが有る。まだ守らなければいけない子がいる!!

 

渾身の気合を込めて、左手に持つレイジングハートを振りかぶって、背後の触手をねらって――。眩い光が視界を白く染めて。

 

 

 

――途端、パリィン、と澄んだ音が、薄暗い揺り篭の中で響いた。

 

 

 

「……え?」

「これは……まさか、メラさん!?」

 

ティアナが声を上げる。振り返ればティアナの視線は私の方向……ただし、その少し上を向いていた。

改めてその方向に視線を向けて、思わず唖然とする。

 

「なのはちゃん、大丈夫?」

「……す、すずかちゃん……?」

 

其処に居たのは私の幼馴染。地球に住んでいるはずの、月村すずかちゃんが、その瞳を金色に染めて、宙に優雅に佇んでいた。

 

「え、すずかちゃん!? 本物の!? 何でこんなところに!? っていうか如何やって!? いやむしろなんで空に?!」

「落ち着きぃなのはちゃん! ホンモノのすずかちゃんがこないな所に居る筈あらへんやろ!!」

「酷いなはやてちゃん。私ホンモノだよ?」

「んなアホなことあってたまるかい!! そもそもすずかちゃんにはリンカーコアかてあらへんのに、何で空とんどんねん!!」

「月村の技術はすごいんだよ。管理局の技術が世界のすべてじゃないんだよはやてちゃん」

 

……まぁ、それは理解できる。昔おにいちゃんと一緒にすずかちゃんの家に行ったとき、忍さんに見せられたあの巨大ロボット。少なくともミッドでは、あんなロボットを製造する技術は無いらしいし。

 

「ほなら何か! 魔法によらん次元転移技術でも開発したゆうんか!!」

「はやてちゃんすごーい! 大当たりだよ!」

「んなアホな事あって……」

「如何でも良いが、さっさと脱出しろ」

 

不意に聞こえてきた第三者の声に視線を動かす。そして見つけたその姿に、思わず喉が凍りつく。

その姿は、何時かの古い過去。二度目の撃墜の折、私を死地から救い出してくれた黒い姿。

 

「あ、あなたは……」

「すずか、其方の要を。アギト、お前もだ」

「うん」「合点承知!」

 

と、此方が何かを言う前に、すずかちゃんと、もう一人何処からとも無く現れた赤い小さな少女に命じた黒い彼。私達を囲うように立った三人は、次の瞬間膨大な魔力を噴出させた。

 

『……違うのです! これ、魔力じゃないのですよ!!』

「は、はぁ!?」「ええっ!?」

『寧ろコレ、ティアナがたまに使ってる魔力っぽい何かです! 個人差かと思ってたのですけど、もしかして何か別の技術だったのですか!?』

「い゛っ、ばれて……」

「ほぉ、ちょっと話聞かせてもらおか?」

「……はやてちゃん、相変らずだね。なのはちゃんも大変でしょ?」

「うぅ、普段はもっとしゃきっとしてるんだよ? 本当なんだよ?」

 

クスクスと笑うすずかちゃん。その姿は昔から見慣れた、優しい月のように何処か気品のある姿で。間違っても偽者なんかに出せる雰囲気じゃない。確証があるわけではないけれど、確信を持って彼女が本物のすずかちゃんだと思っていた。

 

「跳ぶぞ」

「とぶって……ぬわっ!?」

 

黒い人の言葉にはやてちゃんが咄嗟に突っ込みを入れようとして、けれどもその言葉は途中でバッサリと切られてしまった。

 

瞬間あふれ出した白い輝き。何時か見たあの時の白よりも尚一層光り輝く白。浮かび上がった魔法陣は、ミッドの物でもベルカの物でもない、立体的な球体魔法陣。

爆発するように溢れた光。思わず目元を手で覆って、光が収まったのを感じて少しずつ瞼を開いて。そうして見えた景色に、再び目を丸くする。

 

「ここは……」

「ようこそ、ここは私達の母艦、ウルC4だよ」

 

笑顔で振り返ったすずかちゃんは、そうにこやかに告げたのだった。

 

 

 

 

 




■ファントムクロス・イクリプスモード
ファントムクロスの高燃費ハイエンドモード。
マナを使わない管理局世界では封印されていた、ファントムクロスのフルスペックを発揮する為のモード。
装甲、各種センサー、跳躍ユニットなどの機械的なパーツを多く装備し、システム的負担を増やしつつも同時にマナ負担も跳ね上げる事で、使用者の資質に関わらず個人戦力としては圧倒的な物を運用者に与えるというモノ。
実はファントムクロス自体EFFではなくメラの個人的資産から開発されており、日本円で11桁ほどの開発費用がかけられている。
因みにイクリプスモード時のバリアジャケット(バリアアーマー)の姿は、MS少女な橙色の武御雷。

■レールガン
超電磁砲ではなく、マナによるバレット系術式を超加速・超連射で撃ち出す術式。
バレット系術式は速度以外の誘導性などを完全に無視しているため低コストではあるが、連射する分により凄まじくコストのかかるスキルとなっている。

■月村邸地下の巨大ロボット
月村邸地下の秘密工場にて開発されていた巨大ロボット。
全長10メートル程と、TSFに比較すると若干小さめではあるが、それでも十分当時の現行技術を圧倒的に上回る技術により開発されていた。
動作方式はモーションとレース、セミ・マスタースレイヴ。
機体名称は『ジャイアントファリン』。しのぶ本人の姿にしなかったのは、「自分の姿の巨大ロボットなんて恥ずかしい」かららしい。
後に恭也に挑み、彼により真っ二つにされた。更にその後、TSF開発の際、パーツ取りに分解された。

■今週のなの破産
時期はゆりかご突入から暫く前。
愛の募金の感謝として握手会に来るも、何故か会場はクラナガン郊外に存在する広大な面積を誇る市民運動場。
お日様の照る中、その広大な土地を埋め尽くす人、人、人。なのは一人相手に何故か満員の運動場には、何故か屋台やグッズ店舗がずらずらと立ち並び。
何処の夏フェスだといわんばかりの有様に、然し握手側のなのはは時間で区切る事も休憩を入れることも出来ず、快晴の人混み(若干香る汗の香り)を前に、長時間延々と笑顔で握手を、例えばファンの女の子だろうが、追っかけの男の子だろうが、巨体の男性だとか、バンダナリュック相手だろうが、延々握手し続ける羽目に。


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26 in Ul Customize 4

機械的な白亜のお城、とでも言うのだろうか。他に表現の仕様の無い、その白い通路。

 

多分転送ポートの一種だと思うのだけれども、どれも見たことの無い型式のものばかり。しかも其処に刻まれている文字は、ミッド語に似た……正真正銘の英語。

つまり此処は、地球の施設だという事になるの、かな? ……地球ってそんなに技術進んでたっけ? 技術レベルBとかじゃなかったっけ???

 

「説明は後でするから、とりあえず皆私に付いてきてくれる?」

 

そういうすずかちゃんに促され、彼女の後ろを追って歩き出す。

 

「あの、なのはさん?」

「大丈夫。すずかちゃんは私の友達だから」

 

少し不安そうなスバルに、そう声を掛ける。不安そうなスバルとは逆に、こんな状況でも毅然としたままのティアナは流石だ。

 

……でも、何か、妙にリラックスしてない?

 

転送ポートを経由して、少し歩いてたどり着いた場所。全面をモニターで覆われた、とても広いお部屋。管理局のシステムにはこういう型式の物は無駆った筈。

 

――やっぱり、少なくとも管理局の技術ではない。

 

そんな事を考えていると、不意に部屋の中に椅子と机が現れる。立体映像かとも思ったのだが、先を行く黒い人とすずかちゃんたちが平然とそれに腰掛けたのを見て、もう何だか色々考えるのが面倒になった。

 

「……さて、先ず自己紹介からいくか」

 

私達が全員席に着いたのを見て、そんな事を言い出した黒い人。

 

「俺はメラ。地球連邦軍統帥本部直属機動特務部隊Hollow所属の大佐だ」

「同じく、地球連邦軍統帥本部所属の月村すずかです。階級は中将だよ」

「アタシはアギト。マスターのユニゾンデバイスだ」

 

……何処から突っ込めばいいのだろうか。

 

「地球連邦軍? そんな組織うち等は知らんで」

「はやてちゃん」

「わかっとるがな。……えー、時空管理局本局古代遺物管理部機動六課部隊長八神はやてや」

「同じく機動六課ロングアーチ所属のリインフォース軍曹です!」

「同じく、機動六課スターズ部隊長の高町なのはです」

「す、スターズ1、スバル・ナカジマです!」

「……スターズ2、ティアナ・ランスター」

 

全員が名乗を終えたところで、改めて視線が部屋の中央に座る黒い彼に向けられた。

 

「さて、それじゃ話を進めるが……先に行っておくと、我々から君らに渡せる情報は少ない。その事は留意してくれ」

「なんでや」

「国家機密、のようなものだ」

「国家機密て……そもそも、あんた等の所属いうた、地球連邦軍? 地球っていう事は97番の事なんやろうけど、あの世界出身のうち等はそんな組織聞いたこともあらへん!!」

「君等が管理局に亡命した後に成立した組織だ。知らないのは当然だろう」

「ウチが亡命!? いつうち等がそんな事した!!」

「……許可なく外国に移住するのは亡命と言うんだが」

 

確かに、ミッドチルダは外国だよね。というか、異世界なんだけど。あんまり法律とか詳しくないけど、確かに日本とミッドチルダに国交なんてあるはずも無いし、第一私達税金納めてないし。

 

「君等が地球を出て行った後、地球はギーオスにより壊滅。その後復興の為、生き残った人類は一つに統一。そうして結成されたのが地球連邦であり、地球連邦軍だ」

「うち等が地球を離れて10年やで!? その間に地球が壊滅!?」

「正確にはこの5年以内の話だ。君等も見ただろう、ギーオスを。殊更冬眠していたアレの数が多かった地球は、ソレに加え様々な状況から人類滅亡の危機に陥った。幸い、こうして復興して見せはしたのだが」

 

とはいえ、未だ未だ人口は少ないんだが、という黒い人……メラさん。

 

「地球が壊滅って……アリサちゃんは!? お父さん達は?!」

「ちょ、なのはちゃん落ちつきぃ!」

「大丈夫。日本はかなり被害が少なかったから」

 

私達頑張ったんだよ、というすずかちゃん。なんでも、月村財閥とバニングスグループが共同出資で起業した会社でロボットを作って、それでギーオスと戦ったのだとか。

 

……昔からそういうの好きだったけど、まさか本当にそんなもの作っちゃうとは。

 

「まぁ、分った。とりあえずあんた等が地球連邦とか言うところから来たっていうのは納得しといたる」

「……随分上から目線だな」

「ふん! でや、あんた等は何であの現場におった。今私らが居る此処はどこや!!」

「はやてちゃん、仮にも命の恩人何だから」

「……せやな。ちょっと感情が高ぶってしもた。申し訳ない」

 

苦々しげに頭を下げるはやてちゃん。でも、気持ちは分る。私だって、腕の中のヴィヴィオの体温がなければ、もっとパニックに陥っていたかもしれない。

 

「先ず、我々があの場に居た理由だが……簡単に言えば、過去地球に裏から出入りし、不正に資金や物資を動かしていた異世界の存在、と言うものを調べにきていたと言うのが一つ」

 

「……なんやて?」

 

「他にも色々あるが、今重要なこととしては、アレだろう」

 

そういってメラさんが指差す先。光の灯るパネルに映し出されているのは、ミッドチルダの悠か上空を飛行する巨大な戦艦。聖王のゆりかご。

けれどもその様子は、少し前にその傍で空戦をしていたときとは少し違っていて。

 

「……なんやアレ」

 

聖王のゆりかご、その丁度中央の辺りからこぼれ出たそれ。おぞましく蠢く数多の触手と、その中央に陣取るようにして佇む巨大な怪物。

 

「メラ君、あれが?」

「ああ。地球に封じられ、そしていつの間にか管理局の人間によって盗み出され、そしてああして今現代に蘇った怪物。――邪神、イリス」

 

重々しく彼が呟いた言葉。その言葉はこの場に居る全員の耳に響いて。

 

「管理局が盗み出した?」

「ああ。正確には管理局の手駒であるジェイル・スカリエッティが、彼らの命令で動く最中に、地球の姫神島で発見、そのまま盗んでいった代物だ」

「……それから、怪物が?」

「ああ。細かいことは知らんが、アレはゆりかごの中で飼育されていたらしいな。一部パーツはその子の中に埋め込まれていたらしいが……」

 

そういって私の腕の中を見るメラさん。ヴィヴィオの中に、あの怪獣のパーツが?

 

「目的は知らん。が、高町なのは、アンタの魔法がその子に直撃した瞬間、レリックと一緒にその子から逃げ出す陰のようなものを確認している」

 

そういうメラさん。その指が動く途端、空中に投影される映像。ソレは確かに、私がヴィヴィオに向けてスターライトブレイカーを放つ瞬間の映像だ。

 

「こんな映像、どうやって……」

「元が同じ土地の技術で製造された艦だ。ハッキングは容易い」

「同じ技術? 古ベルカのってことか?」

「いや、アルハザードだ」

 

サラッと告げられたその言葉。一瞬流し変えたはやてちゃんが、一呼吸置いて改めて絶句した。

 

「あ、アルハザードぉ!!??」

「えっとね、はやてちゃん。ミッドチルダで伝説扱いされているアルハザードって、実は大昔の地球のことらしいんだ」

「はぁっ!?」

 

すずかちゃんの補足に、尚更驚愕の声を上げるはやてちゃん。私はといえば、もう驚きつかれて慣れてきた。

 

「それよりも、だ」

 

と、席から立ち上がったメラさんが此方へ歩み寄ってきた。何をするのかと少し緊張に身を固めたが、メラさんは此方に見向きもせず、その腕の中にあるヴィヴィオに顔を寄せて。

 

「やぁ」

「……おじさん、誰?」

「おじ……おじさんは、メラっていう。大昔のアルハザードの末期に開発された、マナっていうエネルギーを運用する生体兵器だ」

「「「「……っ!?」」」」

「うん?」

「まぁ、要するにヴィヴィオ、君の同類だと思っておいてくれればいい」

 

若干おじさんの部分に詰まったものの、にこやかにそうヴィヴィオに告げるメラさん。けれども私達は、彼がヴィヴィオに言い放ったその言葉の内容にこそ驚いていて。

 

「で、だ。ヴィヴィオ。君の中にいたアイツのことで、少し君の事を見せてほしいんだけど。いいかな?」

「……うん、いいよ」

「ヴィヴィオ!?」

 

突然の彼の申し出にも驚いたが、それ以上にその言葉を一瞬で承諾したヴィヴィオにも驚いた。

慌ててヴィヴィオを諭そうとしたのだが、その前に目の前に現れる立体型の魔法陣。咄嗟に身を硬くしたのだが、小さな光を上げたそれは一瞬で消え去って。

 

「やっぱり、ちょっと奪われてたか」

「何とか成るの?」

「管理局では無理だろうが、此処には俺が居るからな。俺のマナをちょっと注ぎ込めば……」

 

すずかちゃんと二人で何かを話しながら、その手の先から放たれた白い光。それはヴィヴィオの身体を優しく包むと、静かにその体に溶け込むようにして消えていった。

 

「……あれ?」

「どうかしたのヴィヴィオ!?」

「うん。なんか、すっごく元気になったよ、なのはママ」

 

そういってニッコリ微笑むヴィヴィオに、思わず毒気を抜かれて。

 

「アレに寄生されていたからな。何か悪影響は無いかと少し心配だっただけだ」

「えっと、ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 

和やかに話すヴィヴィオとメラさん。えっと、なんだろう。無表情で恐い人かと思ったら、結構子供に優しい良い人?

 

「……ええと、ヴィヴィオのことは置いておいて、アレの話はしなくていいんですか?」

 

と、そんな事を考えていると、不意にティアナの声が響いた。咄嗟に振り向けば、其処にはゆりかごから顔を突き出した怪獣の姿が映るパネルがあって。

 

「せ、せや! 結局アレはなんなんやねん!! それに、アルハザードって!!」

「端的に言えば、ギーオスはアルハザードを滅ぼした怪獣で、俺は次にギーオスが蘇ったときにその対抗策として残された、アルハザードの生体兵器、君等の言う一種のロストロギア。地球の復興は俺の齎したデータによるもので、アレは俺とは逆、世界を滅ぼそうとしたアルハザードの人間が生み出したギーオスの王だ」

「……え、えっと?」

「要するに、アレを放置すればミッドどころか世界がヤバイ」

 

その言葉に、再び私達管理局の人間は身を硬くし、如何いうことか詳しい説明を求めて再びメラさんに口を開こうとしたところで、不意に通信モニターらしき物が音を立てて開く。

 

「広域通信、だね」

「これは……フェイト・T・ハラオウン執務官からの物だな」

「フェイトちゃんの!!」

 

その言葉に私達管理局組みの視線がモニターへ集まる。映し出されるフェイトちゃんの顔。その何処か焦燥した顔色に、まだ厄介事が残っているのかと何かが折れそうになって。

 

『此方、時空管理局本局古代遺物管理部機動六課所属のフェイト・T・ハラオウンです。現在広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティを逮捕、「ゆりかご」に現れた怪物の情報を入手しました。データと共にその詳細を伝えますので、急ぎ対処してください!!』

 

言葉の終わりはまるで悲鳴のようで。

泣きそうな表情のフェイトちゃんが続けた言葉を聞いて、私達の表情から血の気が引く音を聞いたのだった。

 

 

 

Side end

 

 

 

 

 

 

 

Side Fate

 

 

「簡単に言ってしまえば、アレは古代アルハザードにおいて生み出された生物兵器だ」

「アルハザードの、生物兵器……!?」

 

スカリエッティの言葉に、知らず知らず息を呑む。

事の起こりは少し前。崩落の止まったスカリエッティの秘密基地。エリオの救援でなんとか危機を脱した物の、生き残っていた計器が知らせたゆりかごの現状。それは、得体の知れぬ触手を漂わせた奇妙な怪物がゆりかごからあふれ出す姿だった。

 

「は、ははは、ははははは!!! ついに目覚めたか。いや、目覚めてしまったのか。然しあのような姿になるとは。元の形状とは大きく異なるが……いやぁ、興味深い。実に興味深い!!」

 

バインドにより拘束されたスカリエッティ。その怪物の姿を見た途端、突如としてそんな事を言い出した。

 

「あれが何なのか知っているのか!?」

「知っている。あぁ、勿論知っているとも。あれはね、97管理外世界にて封印されていた、古の邪神さ」

「いにしえの……邪神?」

 

笑いながら告げたスカリエッティの言葉に首を傾げ、そうして再び話は冒頭に戻る。

 

「アルハザードの生物兵器とは一体如何いうことだっ!!」

「あぁ、そう怒鳴らないでくれたまえ。何、アレに関しては確りと説明しよう。……が、一つ忠告するなら説明は何処でもできる。例えば、私達を本部へ連行しながらでもね」

 

そのスカリエッティの言葉にいらだたしい物を感じつつ、アースラのルキノに移送部隊の手配を頼むと、アルトを此方に廻してくれるらしい。

 

――そっか。ヴァイス陸曹復帰したんだ。

 

「ふふ、では話そう。とはいえ、先ず最初に語るべきは、ギーオスという存在についてだ」

「ギーオス……先日のお前達のテロにも現れた、あの怪物か」

 

思い出されるのは、地上本部を襲撃した巨大な怪物の姿。私は機動六課の救援に出向いていた為その姿を直接見ては居ないのだが、後から確認した記録映像では、まるで出来の悪いSFXの如く現実味の無い光景だった。

 

「そう。あれは元々、古代アルハザードで生み出された、環境改善生物型システムでね」

「環境改善…?」

「端的に行ってしまうと、魔法と言うのは使用された後に使用済み魔力素というモノを残す。これは一般的な知識だ」

 

小さく頷きを返す。思い出すのは、嘗て私がなのはと決着をつけるために戦ったあの時。

バインドで拘束され、目の前で集まっていく星の光。あぁ、星が! 星がっ!!

 

――はっ、違う。そうではない。

 

要するにあのスターライトブレイカーは、その使用済み魔力に少し細工をして、再び再利用できる形にしてある、と言うもの。事実として使用済み魔力というモノが存在する、と言う点だ。

「実はその使用済み魔力というのは、一定レベルでは無害なんだが、一定値以上が滞留すると、途端に人体に有害な状態へと変異するんだ」

「なっ!? そんな事ありえない!!」

「それがありえるのだよ。データは研究室にも有るんで、後で確認するといい。……まぁ、そういう理由で産み出されたのが、あのギーオスという生物だ。元々は使用済み魔力を吸収することで無害化するという生体システムだったんだが……これが暴走したらしい」

 

ククク、と笑うスカリエッティ。その顔は相変らず人を馬鹿にしたような表情で。拘束済みでなければライオットザンバーを叩き込んでいる。

 

「未知の生命を作る、という事の難しさだな。0から生み出されたあの生物は、野に放たれたと単に野生化し、初め順調に使用済み魔力を浄化していったんだが……あるタイミングで暴走、彼らの制御の手を離れ、独自の進化を始めた。要するに、魔力を持った生物を食うようになったんだよ」

「…………」

「そう、使用済み魔力を餌としていたギーオスは、暴走の果てに魔力を持つ生物を尽く食い荒らす、最狂の生物兵器へと変貌したんだ!!」

「……それと、あの怪物と、如何関係する」

「あの怪物はね、その進化したギーオスの遺伝子を元に、再調整して『生物兵器』として改めて生み出された、いわばギーオスの王! 滅びを齎す邪神なんだよ!!」

 

高らかに歌い上げるように告げるスカリエッティ。けれども、だとして。

 

「そんな、そんなものを現代に蘇らせたのか、あなたは!! 一体何故、何のために!!」

「興味本位、という点が大きいが……最高評議会の命令でもあってね。彼らも廃魔力の悪性化を危惧していた。その対応策として、ギーオスを調べ……その一環として、あの怪物……柳星張を調べていたんだよ」

 

その為の調査を私に命じたのだ、と。「全く、私は体の良い便利屋ではないというのに」なんてニヤニヤしながら語るスカリエッティ。

最高評議会。事の元凶にして、管理局を裏から操る黒幕。けれども同時に、旧暦の時代から世界の趨勢を見守っていた存在。

 

「……なぜ、最高評議会は、魔力汚染の事を公表しなかった。公表すれば……」

「して如何なる? 現在の管理局は魔法至上主義だ。より強い魔法を持つ者が上位へ、魔法の使えぬ者は辺境へ。それがまかり通るのが管理局世界だ。その根底は『魔法安全神話』のようなもので成り立っていると言うのに、今さら『やはり魔法も危険です』なんて言えると思うのかね?」

「……っ」

「魔法がクリーン? は、私に言わせれば真にクリーンなエネルギーなど存在しない。要は正しく自浄機能が働くか如何か、と言うだけの話だ。その点魔法というシステムは問題になるまで時間が掛かる上、自浄機能が作用しにくい。ある意味質量兵器による瞬間的なそれよりも酷いのさ」

 

そう言って笑うスカリエッティ。……いや、落ち着け私。魔力汚染の話はまた後で考えればいい。

 

「それで、あの怪物について話してもらう」

「そうか、話が逸れたな。……あの怪物、柳星張なんて呼ばれもするんだが、あれは要するに生物兵器として再調整されたギーオスだ。その能力はギーオスを起源としながらも、戦闘用として調整されたことでその能力を悠に上回る。例えば、遺伝子情報の吸収能力などがそれに当る」

「遺伝子情報の吸収?」

「実はね、私はアレの一部をとあるクローンに仕込んでいたのだよ。すると如何だ。今のアレはソレから得た力を持って、魔法に対する高度な防御能力を得ているではないか!」

「……まさか!?」

 

視線の先に映る触手の怪物。その怪物が纏う虹色の輝き。それは前もってユーノから得ていた情報、その中の一つに類似するものが思い浮かんでいた。

 

「そう、あの怪物は聖王の遺伝子情報を取り込んだ!! そもそもが魔法を喰らう怪物が、更に魔法に対して優位な力を得たのだ。もう手のつけようが思い浮かばんな!!」

「対処法は!?」

「それこそアルカンシェルで吹き飛ばすくらいしかないだろうな。やるのであれば急ぎたまえ。あれが成体になれば、自在に空を舞うようになる。そうなれば最早手の付けようはあるまい」

「あれでまだ成体じゃないの!?」

「言っただろう、ギーオスの王だと。少なくとも成体のギーオスが百二十メートルに届くのだから、それ以上に成長すると考えるのはおかしな事ではあるまい?」

 

その言葉に今度こそ肝が冷える。私も予めギーオスに関するスペックデータは得ているのだが、そのどれもが信じがたいものばかり。

体長100メートル級で音速に程近い速度で空を飛びまわり、魔力を共振させて放つ超振動メスは魔法で防ぐ事のできない貫通系の一撃。少なくとも、ミッドにはそんな速度で飛び回り、尚且つあの巨体を落とせるほどの威力を持つモノは存在しない。

 

スカリエッティの話が本当であるのだとすれば、少なくともあの怪物はそのギーオスを悠に上回るスペックを持つ、という事に成るのだ。

 

「……っ、六課、ロングアーチ!!」

 

その事に気付いて、血の気が引いていく自分を自覚しつつ、慌ててロングアーチへと通信を繋ぐ。

やるべきことは一つ。今知りえたこの情報を、あの戦場に立つ仲間達へと伝える事。

 

「エリオ、急いでアースラに戻るよ!」

「はい、フェイトさん!!」

 

――なのは、はやて、如何か無事でいて。

 

その場に居るであろう二人の親友。彼女達の顔を思い浮かべて、胸の中で小さく祈るのだった。

 

 

 

 

Side Mera

 

 

「――と、大体のところはスカリエッティが語ってくれたのだが」

 

改めて目の前に座る三人。高町なのは、八神はやて、スバル・ナカジマの三人に視線を向ける。

ヴィヴィオは高町なのはの腕の中に居るし、数の子の四番なんて興味の対象外で用も無い。ティアナに関しては今さら言うまでも無いだろう。一応彼女の希望が向こうで働く事なので、我々との関連は俺からは喋っていないが。……本人がボロを出す分には知ったことではない。

 

「いまのんは……ほんまなんか?」

「すべて事実だ。柳星張……イリスと呼んでいるが、アレは戦闘用に調整されたギーオスの王。まさか聖王の遺伝子を取り込ませるとは思っていなかったが……少なくとも現状、魔導師がアレを倒すことは絶対にありえない」

 

うん、それは間違いない。何しろ元々魔導師に対して圧倒的とさえ言っていい存在であるギーオス、その戦闘用調整体がイリスだとして、そこに更に聖王の遺伝子が取り込まれたのだ。あの様子から見るに、聖王の鎧は常駐している筈。となれば、変換資質系の攻撃を当てたところで無意味なのは間違いない。

 

「例え質量操作魔法で物質を叩きつけたところで、そのサイズは知れたもの。100メートルを超える大怪獣に効果的な一撃を与えるほどの質量攻撃……それはもう魔法の範疇を越える」

 

例えばアルカンシェル。あれは確かに発動プロセスは魔法だが、その実、発生させた熱量で全てを焼き払うと言う、あまり魔法の関係ない戦術兵器だ。あれならばもしかするとギーオスを倒すことは出来るかもしれない。

が、そもそもイリスはマッハ10で飛び回るとんでもない大怪獣だ。アルカンシェルを用意している間に魔力共振メスで粉々にされるのが目に見えている。

 

「そ、そんな……」

「……例えそれが事実やったとして、それでも私らはアレをとめなあかん」

 

絶望、という文字をそのまま形にしたかのような表情を浮かべる高町なのは。けれどもその隣、ソレとは真逆で、それでも尚輝きを失わない強い瞳を浮かべる八神はやて。

 

「あんた、アルハザードの遺物ゆうたな。なんか対抗策はないんか?」

「ある」

「そか、そりゃないわ…………って有るんかい!?」

 

何てテンプレなノリツッコミだ、なんて戦きつつ、詰め寄る八神はやての眼前に手を出して圧しとどめる。

 

「あるには有る。が、正直言ってあまり使いたい手段ではないし、管理局の法には間違いなく反する」

「……なんや、質量兵器でも持ち込んだか」

「ソレに近い。そしてソレと同時に、その手段に関する情報は一切キミ達に提供する事は出来ない」

 

何せ地球連邦の最重要機密にも等しいのだ。例え管理局の……いや、寧ろ管理局だからこそそう容易く情報を流す事は出来ない。何せ昔から地球で好き勝手やってくれてた腐敗汚職の溢れる組織だ。とてもお近づきになりたいとは思わん。

 

「なんやそれ。コッチを馬鹿にしとるんか?」

「そういうわけではない。が、情報提供は一切出来ない。これは俺だけの判断ではなく、地球連邦、一つの世界としての判断だ」

「なら直接そこと対談すれば……」

「その間にミッドチルダは滅びる」

「く……」

「君らに頼みたいのは、向こう側、管理局に対する連絡だ」

「どういうこっちゃ」

「俺達はイリス殲滅のために行動する。その場合、下手に近付かれると先ず間違いなく闘いに巻き込まれる。ソレを避けるため、魔導師を戦場から引き離して欲しい」

「……その要求が、ホンマに呑まれると思っとんのか?」

「重要なのは確約ではなく、此方が注意を行ったという事実だ」

 

言うと、はやては苦々しげにうめいて見せて。事実、我々EF、もしくはEFFは管理局に対して一切の国交を開いていない。寧ろEFから見てみれば、管理局と言うのは異次元から秘密裏に人材を拉致したり、魔法による犯罪を犯したりする潜在的敵対国家でしかない。

 

「……あの、質問いいですか?」

 

と、そんな八神はやての口惜しそうな雰囲気の漂う中、不意に手を上げてそんな事を言い出したのは、なのはの横で借りてきた猫の如く大人しくしていたスバル・ナカジマ。

 

「なんだい?」

「あの、さっきティアナが貴方の名前を呼んでたみたいなんですけど、お知り合いですか?」

「…………(ジーッ」

「…………(フイッ」

 

視線をティアナに向けると、スッと視線を逸らされた。

 

「せや、確かにさっきティアナがアンタの事を名前で呼んどったな! それもアンタが自己紹介するよりも悠に前や!!」

「……それは、俺ではなく、俺の名前を呼んだという子に聞くべきでは?」

「それもそやな。んで、ティアナ。如何いうことか説明してもらおうか?」

「え、いや、その……」

 

何か恨めしそうな視線を此方に向けてくるティアナ。とはいえ、俺からはティアナとの関連性を連想させるようなヒントは何一つとして漏らしていない。

ティアナのことに関するものは、俺の失態に関する事以外ではあくまでティアナの自己責任。ゆりかごに強襲をかけたのが原因と言えなくも無いが、そもそもあそこに我々が突入しなければ、今頃ティアナたちは触手にとっ捕まってマニアックなプレイの真っ最中だったかもしれないし。

 

「えっと、メラさんは私の魔法の師匠でして……」

「なんやと? なんで地球の人間が、ミッドのティアナの師匠に……」

「昔、現代のギーオスの状況を確認する為なんかで世界を回っていた」

「管理局に許可なく次元渡航しとったんか!? そら犯罪や!!」

「そもそも管理局と地球には正式な国交が無い。連邦政府に所属している俺を管理局の法で裁く権利は無い」

「それは――ってそらあんた等も管理局の統治領域に不法侵入しとるやないかっ!!」

「つまり、お互い様、と」

 

まぁ、逆に密入国という事で殺されても、誰も文句をいう事は出来ないのだが。

 

「ゴチャゴチャ屁理屈言いおって……!!」

「屁理屈結構。結局国交の無い国同士で、更に此方は管理局を自称する組織から不利益を多々被っている。であれば必然的にそれは仮想敵になるし、であればそういった行動に躊躇がなくなるのも必然」

「せやからって、法を破っていいってわけやないやろうがっ!!」

「……キミ達の正義はあくまで君達の正義で、我々には我々の目指すところがある。人が集えば様々な意見が存在するなんてのは、人間社会では当然の話だろう? ――まぁ、其処を弁えないから管理局は腐ってるんだろうが」

「管理局が腐っとるやて!?」

「……はやてちゃん、それには反論できないよ……」

 

と、それまで黙っていた高町なのはが口を挟ん出来た。思い出されるのは、少し舞えにスカリエッティにより明らかにされた管理局の抱えた闇の存在。まさかの味方からの追い討ちに思わず口ごもる八神はやては、けれどもその程度で黙るほど可愛らしい性格でもなかったらしい。

 

「あんなんは一部の暴走や! うち等までおんなじ様に見られんのは……」

「管理局の制服を着た人間がやった事である以上、同じ制服を着た私達の罪でもあるんだよ、はやてちゃん」

 

諭すように言う高町なのはの言葉に、今度こそ口ごもる八神はやて。……うーん、その辺りのことを高町なのはが理解できているとは。俺はてっきり高町なのはもその辺りのことが理解できていない人間かと思っていたんだが。

 

「話を戻すが、その縁で俺がティアナに魔法を教えた」

「……って事は、あの触手に使てた魔法、あれも地球の技術なんか!?」

「ガイア式のことか。そうだ。あれはミッド式やベルカ式とも違う、アルハザード式を元に開発された地球独自の“魔術”。魔力とは違う力を使い、リンカーコアの有無関係なく使える技術だ」

「なんやて!?」

 

実際、俺にリンカーコアという器官は存在しない。俺と言う存在は、例えるならば受肉した精霊。型月でいう真祖……いや、アリストテレスのそれに近い。まぁ、ガイアや阿頼耶の所属ではなく、あくまで無所属かつ個で完結した、なのだが。いわば俺そのものが、マナの湧き出す泉なのだ。

 

「その技術は……」

「当然教えられない。というか、教えれば管理局は崩壊するぞ?」

「なんでや!!」

「先程の再生映像でスカリエッティが言っていただろう。管理局世界は魔法至上主義だ。魔法による能力統制。優れた魔導師が上に立ち、魔法を使えないものは辺境に追いやられる……だったか。実際管理局はすべての魔導師を中央に集め、外周世界からは魔導師が殆ど引き抜かれている。そんな中に、ガイア式の技術を投げ込めば、どうなると思う?」

「そりゃ、当然皆が魔法……いや、あんた等の言う魔術か? それを使えるようになるんやから、より治安がよーなるんちゃうんか?」

「……これだからとりあえず“吹き飛ばしてからOHANASHI”の魔砲少女は」

「あん……やとぉ!?」

 

余りにも能天気な考え方に、思わず頭痛がする。八神はやてが言っているのは、お金が無い、ならとりあえず札束を貧民にばら撒け、といっているようなものだ。

そんな事をしてしまえば、貨幣価格の暴落が起こる。この場合だと、魔法使い一人当たりの価値が暴落して、社会的に大混乱が起こるのは目に見えている。

……まぁ、一瞬高町なのはに視線をやって言葉に詰まったのは見なかった事にしてやろう。

 

「更にだ。これまで管理局に武力で抑圧されていた周辺管理世界が、リンカーコアに左右されない武力を得るわけだ。魔導師人口こそ多いが、総人口は少ないミッドチルダでは、もし周辺世界の全てがガイア式の技術を手に入れれば、間違いなく世界がひっくり返る」

「そ、んな、アホな……」

「ありえないと否定しきれるか? 管理局が正義の名の下、かなり強引な政策をしているのは事実だ。恨みを買っていない筈が無いだろう」

 

ただでさえロストロギアの回収なんかを名目に、各世界に政府との交渉もなく入り込み、いつの間にか武力で支配下におさめる管理局。元々独立した政府を持っていた世界などには蛇蝎の如く嫌われているのだ。

簡単に言えば、ミッドチルダVSその他管理世界、という有様になってしまえば、勝利するのは当然その他管理外世界。そしてそうなってしまえば、後は次元世界同士の戦乱の時代の再来である。

 

「でも、既にミッドにはギーオスの被害が出とるんやで!?」

「それこそ我々の知ったことではない。質量兵器を禁じた管理局の自業自得だろう」

 

そもそもの話、魔法という技術は質量兵器に比べ『比較的』クリーンな技術でしかない。結局の所汚染や被害はあるというのに、まるで魔法こそが至上とばかりに魔法安全論を絶対とした管理局。ソレそのものに問題があるのだ。

確かに魔法が通用しない相手という事で困るかもしれないが、その事自体は我々には全く関係ないのだ。

 

「ぐっ……」

「魔法に拘らなければ、案外何とか成る話でしかないんだけど……。話はこれまで、かな。では機動六課部隊長八神はやて。伝言をよろしく頼む」

 

言いつつ転送術式を起動させる。目標地点は機動六課本部・次元航行艦アースラの転移ポート。

 

「ちょ、ちょいまちぃ!!」

「あの、メラさん、何時かは助けてくれて、有難うございました!!」

「おじさん、ありがとー!」

「……ってなのはちゃん、何暢気に挨拶しとんねん!!」

 

あふれ出す白い光。慌てた八神はやてが何かを叫ぼうとしたが、此方に向けて礼をする高町なのはとヴィヴィオの二人に突っ込みを入れて。関西人なんだなぁ。

その三人の後ろでアワアワと慌てるスバル・ナカジマ。その隣のティアナと一瞬視線があって。……ふむ。

 

「ああ。ではな」

 

高町なのはとヴィヴィオに手を振って、術式実行。“四人”の姿はマナの輝きに飲まれ、その場から姿を消して。

 

「……さて、如何したんだ、ティアナ」

 

そうして、最後に一人。この場に残った我が愛弟子ティアナに、そう声を掛けたのだった。





説明回。更にこの辺りから管理局アンチが濃厚に。……え、前から?

ウチのなのはさんはクール。ただ、『言葉だけじゃ伝わらない』からって『全部行動だけで』示すちょっと抜けた人。
はやてさんにヒートメモリが刺さった所為でちょっと荒れた。


■おじさん
まっ、まだ若いっ!! でも相手は子供だからびーくーる。

■星がっ! 星がっ!!
トラウ魔砲。

■亡命云々
実際にはギーオス・レギオンの大襲撃の際、地球上の人口は一気にごっそり削られた。その際大量の行方不明者・死亡者が出て、其処になのは達の名前も入れられかけたのだが、幸いと言うべきかEFFにより調査対象として観測されていた為、死亡ではなく亡命扱い。EFFに戸籍は無い。


■廃魔力汚染
トロイの木馬みたいな汚染。通常は得に人体に危険は無いが、一定条件を満たす事で急激に悪性化する。
実は管理局世界、特にミッドチルダは惑星の許容廃魔力容量の臨界が見え始めてきている。
原因は何処かの20代手前魔法少女が星の光を乱射したり、北欧神話っぽい魔法をぶっ放したりした為。

■法云々
その国の法で進入禁止と定められている場所に無断侵入した場合、知らなかった場合でも拘束されることはある。つまり、メラの場合はモロにアウト。
見つからなければ良いという事にしておく。

■ギーオス
実は管理局の魔法技術のレベルが科学技術のレベルであれば、ギーオスくらいは拮抗するくらいは出来る技術力がある。魔法だから無理なんですけどねー。

■地球連邦軍と薄い本 部【誤字ネタ】正しくは《地球連邦軍統帥本部》
何かがっ! 這い酔(?)ってくるっ!!ウ=ス異本を読んだ影響かっ!! ああっ、窓に! 窓に!!
……同人誌生産拠点・地球連邦ジャブロー印刷工場、とか? 工場ラインで生産されるロボじゃなくて同人誌。うわぁ。


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27 魔を断つ剣

ティアナに連中へ渡せるだけのデータを封入したデータキューブを渡し、ついでに修理の終わったギンガを抱えさせて、先に彼女達を送り届けたポイントへと転移させる。

 

ギンガは大体の部分は元のまま――に、見えるが、投与したナノマシンの所為でメンテナンスフリーになってたり躯体耐久率が130%向上してたり本体重量がガッと減っていたり。体重を落とさなければ躯体強度をもう少し上げられるのだが、すずかやアギトが重量軽減を優先するべきと訥々と語られてしまったので、こんな感じに仕上がっている。

 

因みに彼女の魔改造に関しては俺はほぼノータッチ。基本的にすずか(技術者)とアギト(兵士)のディスカッションから、要求値を出して、そこにいたる方法を俺が提出、施術は再びすずかとアギトによる。

 

「さて。これで残すはアレの処理だけなんだが……アギト」

「おうっ。あの怪獣、イリスだっけ? なんだけど、現在のサイズは全長60メートル強。大分安定してきたけど、この十数分で一気に成長したみたいだ」

 

そういって画面に映し出されるのは、大穴の開いた聖王のゆりかごから姿を覗かせる巨大な怪物の姿。

よく閣下、もといレギオンと比較し、レギオンのが強いんじゃね? なんていわれる平成ガメラ三部作最後の敵、イリス。

 

「……なるほど。聖王の、というかヴィヴィオの遺伝子データを取り込んだか」

 

原作だと誰だったか。ヒラサカアヤナ? なんだろう、女郎蜘蛛にでも変身しそうな名前に感じるのは俺だけだろうか。とにかく、そんな名前の少女を取り込んで力を得ていたはずだ。

 

ところが今回奴が取り込もうとしたのは、ただの一般人であるヒラサカアヤナではなく、血族としてとんでもない実力を持つ聖王、その末裔に値するヴィヴィオの血を取り込んでいるのだ。

 

「戦いたくねぇ……」

「――メラ君の弱気って、はじめて見たかも」

 

隣を向けば、何か驚いたような表情のすずかが目を丸くして此方を見ていた。とはいえ、相手はあのイリス。それも原作よりも明らかにパワーアップしている奴だ。

平穏に生きる為、といってこんな戦場に出てきた俺だ。矛盾を抱えたまま進んではいるものの、あんな怪物を相手取って五体満足で戻ってこれるとは思わない。

……まぁ、俺の場合腕が千切れても生えてきそうではあるのだけれども。

 

「とはいえ、コレもお役目か」

 

俺ことメラは、そもそも対ギーオス戦用に開発され、先のアルハザードの後の文明の為に残された戦闘用の生体兵器、に類する物だ。正確には分類不能の良く分らない、妖怪、もしくは神霊の類みたいなモノでもあるのだが。

 

そんな俺に預けられた任務は、後進文明をギーオスの驚異から守り、ギーオスと戦う力を与えるというもの。

 

原作のガメラなら…いやそれでも、俺一人に次元世界すべてを救え、なんていうのはさすがに無理だ。そもそもとして、残されていたその命令に俺が従う義務も設定されていない。本当に時の揺り篭に託されただけなのだ。

 

一応俺が平和に暮らす為に、ウルに残されたデータを使って月村を盛り立てたりしたが、現在のようにEFFが出来たのは俺の努力とは関係なく、ただ俺から得られたデータを運用した月村とバニングス、それと怪獣達の動きによるところが大きい。

 

少なくとも地球を守るため(という名目で俺の周囲の安全を整える為)に技術を供給した時点で、一応俺を生み出したアルハザードに対する義理立ては果たした、と考えている。

 

……のだが、一応ミッドチルダもアルハザードの系譜に近い存在だ。直系とは言わないが、少なくとも因果関係を持つ文明圏である事には変わらないだろう。

つまり、この世界に対する助力も、一応義理の範疇に含まれるのだ。とはいえ、さすがにこんな世界に技術提供までする心算は無いが。

 

精々一時的に戦力としてギーオスと戦う事。……考えてみれば、ここでイリスを撃退してしまえば、最低限以上の義理は果たした事になる、か。

 

「よし、それじゃ、出撃するか」

「勿論私も出るよ」

「ダメだ。すずかはアギトとイクスと三人で管制を頼む」

「そんな」「ちょ、マスター!?」「……」

「確かに面倒な相手ではあるが、だからと言って此処を空にするのは拙い。三人には此処をしっかりと守っていてもらう」

「ぬぐぐ……」

「そんな、メラ君……」

「分りました。留守は確りとこのイクスがお守りして見せます」

「あっ、イクスちゃんずるい!」

 

若干むっとしているものの、一人だけしゃきっと返事をして見せたイクス。そんなイクスに何故か涙目でプンプンと怒るすずか。アギトはといえばムグムグと唸りつつも、既に環境のコンソールに身を寄せていた。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

言いつつポートを経由して大型格納庫へ移動。そのまま移動バーにつかまって目的の場所へとたどり着く。

 

「……まさか、本気でこれを使う事態になろうとは」

 

目の前に仁王立ちする鋼の巨人。理不尽に晒された怒りと涙が生み出した、絶望を打ち砕く剣。命の切なる叫びによって練磨された、魔を断つ剣。

ある種の諧謔として建造された筈のSR機の最後発機にして、諧謔では済まないレベルの力を持ってしまった最強の矛にして盾。理不尽を打ち砕く矛盾そのもの。

 

「……やるか」

 

小さく呟いて、コックピットへと飛び乗る。コックピットのコンソールに手を置いた途端、静かに全天周囲モニターが光を灯した。

霊素次元共振機関、銀鍵守護機関、共に正常稼動。G・ギアとのコンフリクトも正常稼動許容範囲内に収まっている。

艦に接続したパネルをトントンと叩く。途端、静かに起動した艦のシステムにより、俺の搭乗する機体が移動し、カタパルトへと運ばれて。

 

――さぁ、虚数の海を渡るアルハザードの技術。その意味を見せよう。

 

カタパルトデッキに運ばれた機体の周囲。展開された立体魔法陣と、ソレを覆う無数の目玉にも見える、玉虫色の沫のようなそれ。

ぐるぐると回転する魔法陣。その回転が頂点に達した瞬間、術式は奇妙な輝きとなり、目に映るのは奇妙に歪んだ空間だけで。

 

「虚数展開カタパルト作動! メラ、デモンベイン・ストレイド、出るぞ!!」

 

そう叫んで、機体――デモンベイン・ストレイドを渦巻く虚数展開カタパルトへと投下する。

途端、玉虫色の輝きの中、あふれ出す白い輝きに飲まれ、デモンベイン・ストレイドはその姿を光の中に消したのだった。

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

「ティアナ、無事やったか!!」

 

戻ってきた私を最初に見つけた八神部隊長。そういって駆け寄ってきた機動六課の面々に苦笑と共に「無事帰投しました」と返しておく。

メラさんに頼んだとおり、ちゃんとゆりかご近隣に浮かぶ機動六課の拠点、時空航行艦アースラへと戻ってきたらしい。

 

「それで、や。ティアナ、あの人らについて、説明してもらえるか?」

 

そうして一息ついた頃。あの怪物、イリスとかいう怪物が居座るゆりかごの風景を映し出すスクリーンの前。ブリーフィングルームに座した機動六課前線メンバーの前で、八神部隊長はそんな事を言い出した。

 

「あの人たち……メラさんたちのことですか?」

「せや。ホンマは今話すべきことや無い言うんはわかっとる。せやけど、小康状態に入った今の内に出来る事はやっとかんと」

「……まぁ、私も知ってることは少ないんですけど……」

 

そう前置きしてから話し始める。本当のところを言ってしまえば、私も結構深いところまで情報を得ているのだけれども。ソレを態々口に出す積もりも無い。

 

「メラさんは97管理外世界地球における、地球連邦軍の大佐で、特殊部隊の隊長、だったと思います」

 

「地球連邦軍? 地球にそんな組織は無かった筈だぞ!?」

 

御剣陸士が叫ぶ。そういえば彼もEFF結成前に地球を離れたんだったか。まぁだからといって一々叫ばれるのは五月蝿くて仕方ないのだけれども。

 

「貴方が知らないだけでは? 結成は四年前と聞いてますが」

「……俺がコッチに来たのは5年前だ」

「正確には3年と半年ほど前、地球はギーオスとレギオン、と呼ばれる宇宙怪獣によって滅びかけ、その復興に際して結成されたのが地球連邦政府と、地球連邦軍、つまりEFとEFFなんだとか」

「ギーオスとレギオン……ギャオスとレギオン? ガメラか? ってことはあれは……」

 

いつの間にか機動六課に復帰していた鳳凰院さんが小さく呟いた。ガメラ? メラさんの事だろうか?

 

「でもねティアナ、私達地球の出身だけど、そんな話一切聞いてないんだよ?」

「なのはさんは地球の出身でしたよね? 地球とは連絡取ってましたか?」

「…………………………その………………仕事が忙しくって………………」

 

そう、この人、高町なのはは地球の家族と連絡を一切取っていない。過去私が恭也さんに師事を仰いでいた頃、士郎さんや桃子さんがその事を嘆いていた記憶がある。

というか、10年……は無いだろうが、少なくとも地球が封鎖されてから5年近く。その間一切連絡を取っていなかったというのは、ある意味驚異的な話だ。どれだけ不義理なんだか。

 

「ウチは住居がミッドやし、グレアムおじさんもミッドに引き上げてきたから、地球との縁は殆ど切れ取るし……」

「最近、っていうかここ数年家に連絡入れてないな、そういえば」

「……もしかして、三人とも知らないの?」

「何がやフェイトちゃん?」

 

愕然とした表情のハラオウン執務官。……まぁ、気持ちは分る。

「地球……97管理外世界は、今、管理世界との渡航が断絶してるんだよ?」

「「「えっ?」」」

 

首を捻る三人に、愕然とした表情のハラオウン執務官と鳳凰院さん。そりゃ、管理局出身の二人が知っていて、地球出身の三人がその事に気付いていないとか。

 

「そ、それって如何いうことなのかな!?」

「言葉通り、97管理外世界への侵入が不可能になってるんだ。何故なのかは分ってないけれど、丁度ギーオス被害が出始めて、地球居住者が疎開を終えた頃だった所為で殆ど問題視されてなかったんだけど……」

「……ってことは、俺達家に帰れないのか!?」

 

まぁ、帰れないも何も、そもそも地球から亡命した扱いになっているこの三人だ。地球に戻ったところで、地球人として扱われる事は無いと思うのだけれども。……なんでミッド人の私が地球で正式な戸籍持ってるのに、この人たちに無いんだか。

 

「そんな……で、でも、あの人たちは地球の軍人さんなんだよね!?」

「せや! あいつ等がホンマに地球の軍人なんやったら、航行不可能になってる状況で如何やってミッドまで来おったんや!?」

「さぁ、其処までは……」

 

言ってしまえば、虚数航行システムによる虚数転移による移動、もしくは次元断層領域外からの往来なのだろうが、少なくとも虚数空間を『魔法“が”使えない場所』としか捉えていないミッドの人間には理解の出来ない方法だろう。

 

「まぁ、それはええ。ソレよりも、あの魔法、触手の怪物に吸収されへんかった魔法について教えてもらおか!」

「ガイア式の事ですか」

「ガイア式ゆうんか? あの魔法は」

「ええ。ガイア式はそもそも魔法ではなく、地球では“魔術”と分類されている技だそうです」

「魔術、な。まるでオカルトやけど、魔法は科学の技やで」

「いえ、ガイア式はオカルトなんです」

 

その言葉に怪訝そうな表情になる八神部隊長。まぁそれもそうだ。ミッドの魔法は魔法という名前こそ冠しているが、魔素を取り込み魔力と言うエネルギーを生成し、それをプログラムに乗っ取って扱うと言うSFじみた科学であり、間違ってもオカルトやファンタジーな力ではない。

 

「ミッドやベルカの魔法は、そもそもリンカーコアを使い、大気中に存在する魔素を吸収・生成することで魔力と呼ばれるエネルギーを生み出し、それをプログラムに則って操る技です」

「まぁ、基本だな」

「ええ。ガイア式もプログラムを使うという点は同じなんですが、エネルギーのほうが全く違って、ガイア式はリンカーコアや魔力というエネルギーを一切使ってません」

「なんやと!?」

 

驚く八神部隊長。その背後を見れば、スターズ、ライトニング、ロングアーチの面々も大体揃って同じように驚愕の表情を浮かべていた。

 

「それは、ホンマのことか?」

「ええ。……シャマル先生、簡易計測お願いできますか?」

「え、ええ」

 

その場に居たシャマル先生に頼みつつ、ガイア式を用いたシューターを一つ手の平の上に浮かべてみせる。

クラールヴィントを展開したシャマル先生。そのペンデュラムがガイア式シューターを指し、シャマル先生の表情が次第に強張っていくのが見て取れた。

 

「どや、シャマル」

「……本当に魔力反応が検出されないわ。コレ、似てるけど別のエネルギーよ」

「それは、戦闘機人のような?」

 

強張った表情のハラオウン執務官がそんな事を言い出す。……あれ? もしかして成体改造兵器みたいな認識されてる?

 

「いえ、それともまた違うエネルギーみたいだけど……」

「これがマナと呼ばれてるエネルギーです。利点は習得に関して資質が問われない点。難点は使いすぎると死に至るという点ですね」

「死ぃ!?」

 

マナと魔力は似て非なる存在だ。

魔力が世界に存在する魔素を取り込み、生成する……いわば呼吸する事で酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すというモノに近いのであれば、マナは血液を使って文字を書くようなものだ。

 

呼吸はしすぎたところで過呼吸になる程度。間違っても死ぬ事はない。然し血液は流しすぎれば貧血になり、場合によってはそのまま死に至る事もある。

 

「成程な」

「でも、なんでそんな危ない技術が……」

「そうだな。間違っても地球でそんな技術が発生する、なんてことは考えられないだろうし」

「……そういえば、あのメラって人、アルハザードの生物兵器だって名乗ってたけど……」

 

その言葉に、あの場、ウルのブリーフィングルームに居なかった面々が目を見開いた。

 

「アルハザードの生物兵器!? なんだそりゃ!?」

「正確には半人半プログラムの、対ギーオス戦及び人類最終絶対防衛機構・生体型守護プログラム・汎用人型決戦兵器G計画発プロジェクト『M.e.r.a』完成固体、だったかな? そんな感じだったかと思います」

「エヴァでガ×ラかよ」

 

ボソッと突っ込みを入れたのは鳳凰院さん。なんだかちょっとテンションが低いのだが、それでも突っ込みのキレは相変らずである事にちょっと安心した。

 

「つまり、ガイア式の大本になった技術っちゅうんは……」

「アルハザードの技術、って事になるのかな」

 

その瞬間、その場に居合わせた全員に戦慄が走ったように見えた。それはそうだろう。管理外世界などと見下していた世界が、自分達よりも優れた技術を手に入れた可能性があるのだから。

 

「それじゃ、今地球に渡航不可能なのも……」

「それは知りません。が、やろうと思えば今だって出来るんじゃないですか?」

「如何いうことや」

「大出力のAMFを惑星全域で展開すれば、そりゃ次元転移による侵入も出来なくなるでしょうし」

「そんな阿呆な。そんな事したら魔法が……」

「使えなくてもいいんですよ。そもそも魔法文明の無い世界では必要ない技術ですし」

「そ、それは……」

 

そもそもの話、魔法と言うのは本当に必要な技術であるのか? という事。魔法と言うのは確かに“比較的”クリーンなエネルギーだろう。然し、あくまで比較的であって、最終的には人類滅亡に繋がる兼ねない危険な汚染を発生させると言うのはメラさんから聞いた話で、結局の所質量兵器と大差ない。

 

むしろ魔法という携行可能かつ汎用性の高い戦闘技術が普及してしまった所為で、逆に次元世界全域における小規模な戦場の拡散という問題を引き起こしてしまっている辺り、補給の重要性の高い質量兵器のほうがミリタリーコントロールは容易であった可能性はある。

 

……まぁ、そもそも優れた技術を戦闘技術に用いている辺り、精神的な習熟が成っていない。精神的習熟が成っていない以上、クリーンだろうがなんだろうが、質量兵器も魔法兵器も大差はないのだ。

 

「…………」

「そ、それでガイア式の事なんだけど……」

「そうですね、話を戻しましょうか」

 

そもそものガイア式とは、古アルハザードにおいて、ギーオスを倒すための術、その一つとして考案された技術だ。

魔力、およびそれから派生する魔法を吸収するという破格の能力をもつギーオス。それに対抗するには、魔法と言う手段は到底抗い得ない。

 

そこで幾つか生み出された技術があり、その中の一つが魔法に変わる新たな力、マナと呼ばれる生命力そのものを対価とし、魔法に似た現象を引き起こす術だった。

 

「プログラム自体はアルハザードで使われていたものを流用しているらしく、リンカーコアを用いてガイア式を行使する場合、それはアルハザード式なんて呼ばれるそうですよ」

 

まぁ、若干プログラムの内容も違うらしいのだが、ほぼ互換性のある術式になっているのだとか。

 

「生命力そのもの、なぁ?」

「ギーオスと戦う為には必要だったのかもしれないけど、危険な技術だよ……」

「いえ、むしろある意味で魔法よりもクリーンなエネルギーではあるんですよ?」

「えっ?」

 

首を傾げる高町一等空尉。

 

「魔法、廃魔力は一定以上の堆積で変異し、人体に有害な汚染物質に変化する、と言うのは既に聞きましたよね?」

「え、あ、うん」

「それに比べ、マナを用いるガイア式はそういった廃魔力を排出する事がありません。魔法のようにリスクを世界に残す事は無く、あくまでリスク・リターン共に術者が被る、と言うだけの話です」

「なるほどな。確かに魔法よりも堂々としとるっちゅーのも理解できる。ティアナの説明やと、魔法っちゅーのはその負債を他所に押し付ける性質の悪い貸付みたいやし」

 

利益を得るのも、不利益を被るのも、すべて自分で引き受ける。利益しかないように見えて、陰で莫大な負債を溜め込む魔法よりも、これほど分りやすいものはないだろう。

 

「因みにそれをウチらに教えるっちゅうんは……」

「無理です」

「なっ、なんでだよ!?」

 

声を上げる御剣陸士。先に説明してなかったのかよと八神部隊長を見るが、苦笑のような表情を浮かべていて。

 

「先ず最初に、コレを教えてしまうとミッドチルダの社会が崩壊してしまう可能性がある、と言うのが一つ」

「社会が崩壊!?」

「生まれながらの才覚に支配された魔法至上主義社会において、ソレと同等かつ生まれ持つ才能に左右されない、代替可能技術。そんなものが広まってしまえば、魔法至上主義の現行社会が崩壊するのは目に見えてます。それに、二つ目。私が他人に教えるのが苦手っていうのですね」

「っておい」

 

いや、コレが実際に大きな問題なのだ。

ガイア式、マナを使う技術と言うのは、その練習過程で常に命の危険と向かい合う事になる。

マナとは命のエネルギー。使いすぎれば命に関わるのは必然であり、扱いの未熟なままソレを使おうとすれば、制御出来ずにそのまま死に至る、なんて可能性も否定しきれないのだ。

 

これが教導に長けたメラさんやキャロであれば、例えば暴走するマナを包み込むように押さえ込んだり、もしくは流れ出るマナ以上のマナを供給したりなんて方法で、かなり安全に教導することが出来る。

 

ところが私は、あくまで自分の能力を伸ばす事を優先していた。そりゃ確かにホロウの任務でアグレッサーや教導隊なんかもやったが、私はあの人たち程教導は上手いと思えない。ましてそれはマナを用いる技術に関して設備の整っていたEFFの訓練学校での話だ。こんな何の設備も無いに等しい場所で教えるなんて、自殺行為以外のなんでもない。

 

「……まぁ、分った。つまり知ったからといって、今のうちらに何か出来る事があるってワケでもあらへんっちゅうこっちゃな」

「はい ……それに、そろそろ動くみたいですよ」

 

そういって、その場の注意をスクリーンに向ける。途端、その場に居る全員の注意がスクリーンに向くのを感じた。

空間に現れる立体魔法陣。その中心に燃える瞳の浮かび上がる五芒星を抱いた立体魔法陣。存在し得ない存在が撒き散らすエネルギーが、その蒼穹に嵐となって顕現して。

 

「なんや、あの馬鹿でかい魔法陣は!?」

「虚数展開カタパルト……来た!!」

 

瞬間、スクリーンを焼く白い光。爆発が起こったかのように視界を染めたその光。咄嗟に手で光を遮って、再びスクリーンに視線を戻すと、其処には空中に仁王立ちする鋼の巨人の姿があった。

 

「きょ、巨大ロボット……やとぉ……!?」

「し、しかもスーパー系なの!?」

「はやて、なのは!?」

 

興奮したように叫ぶ二人に、話についていけないのか悲鳴のように声を上げるハラオウン執務官。

 

「ティ、ティア……あれ、何?」

「多分、地球で生産されてるSR機……スーパーロボット。細かい所までは知らないけど」

「ち、地球ってあんなのを生産してるの!?」

「……スバルさん、少なくともあれ一機だけって事は無いんじゃないでしょうか……」

「つまり、量産されてるってこと?」

 

愕然とした表情のスバルとエリオ。まぁ、私の知る限りでも量産型ゼオライマーと量産型ガオファイガー、あと各国独自のSR機なんかもあり、かなりの数のSR機が存在しているのは間違いないだろう。

 

「デモン、ベイン……だとぉ……」

「なんだ、元ネタ知ってるのか?」

「なっ、御剣、お前まさか知らないのか!? デモベを!?」

「お、おぅ、知らないけど……」

「………………」

 

唖然とした様子の鳳凰院さんと、その様子に珍しくうろたえた様子の御剣陸士。

……なんで地球出身の御剣陸士が知らないのに、鳳凰院さんが元ネタ知ってるんだろうか。というか、元ネタを知ってるか如何かでなんでこそまで驚いてるんだろうか。

中々カオスな状況に染まっていくブリーフィングルームを眺めながら、スクリーンの中、動き出したSR機の様子に視線を移し、改めて状況の推移を見定めるべく集中するのだった。

 

 

 

 

Side Other

 

 

時空管理局本局・次元航行部隊次元航行艦隊。

次元管理局のそもそもの理念、次元世界の平和と安定を守るという根本たるそれを守るために存在する、次元の海を渡る船。

 

本来であれば次元世界のありとあらゆる地域へと派遣されているはずのそれらが、本来ならばありえなかった全艦集合という奇妙な光景がそこにあった。

 

「艦長、聖王のゆりかご、及び同目標上に出現した怪獣、共に動きはありません!」

「そうか……」

 

次元航行艦隊旗艦『クラウディア』艦橋。そこに泰然と座す男性。クロノ・ハラオウン艦長。

オペレーターの言葉を確認した彼は、再びモニターの中に映る聖王のゆりかご……いや、その中央に映る巨大な怪物の姿を真直ぐ睨みつけていた。

 

「解析結果は如何だ」

「はい。あの怪物についてですが、予想通りギーオスのソレに似た存在である事が確認されました」

 

オペレーターの言葉と共に表示される画像とテキストのデータ群。要約すれば、其処にはあの怪物がギーオスと似た器官、遺伝子などを持つ、という事が記されていて。

 

「……なら、あれにもアルカンシェルは効く、と言うことだな」

「はい。魔法攻撃であれば不可能では在りますが、アルカンシェルは魔法を使って空間歪曲及び反応消滅を誘発させる技術ですので……どうかされましたか?」

 

ふとオペレーターの彼が顔を上げると、複雑そうな表情で手で目元を覆うハラオウン艦長の姿があった。

 

「いや。……魔法を使っているだけで、実質質量兵器以上に危険だとされるアルカンシェル。こんなモノを使わなければいけない事態があるという事が、な」

 

手に覆われたその下。表情こそ隠されていたものの、吐き出された言葉の調子は明らかに憂鬱気なもので。

こんなモノに頼らなければならないのなら、結局魔導師である我々はなんだったのか、と。

 

「それでも。矛盾を孕んででも市民のために、次元世界の平和と安定のために戦うのが我々です」

「――そう、だな。すまない、少し気弱に成った」

「いえ」

 

静かな、けれども力強い意志の籠められた彼の言葉に、改めてクロノはその視線を真正面――その先に居座る触手の怪物へと向ける。

 

「――敵艦、有効射程範囲に入りました」

「アルカンシェル、エネルギー充填完了。何時でも撃てます」

「よし、全艦に通達。これより我々は、聖王のゆりかご、及びギーオス変異体の殲滅を開始する。カウントダウンはじめ!!」

 

その言葉と共にモニターに表示される数字。等間隔ごとに減っていくその数字を見つつ、クロノは自らの座す席の正面に一つの球体状の物体を顕現させ、其処に自らの手首に巻きつけた鍵を差し込む。

 

それこそがこの次元航行艦クラウディアにおける最大火力、アルカンシェルを使うに当る最後の認証キーであり、それを封印するFLS、ファイアリングロックシステムある。

 

「5,4,3……」

「アルカンシェル、発射!!」

カチッという鍵を回す小さな音。そんな小さな音を合図に、モニターの中に浮かび上がる光。緑、赤、白、黄色、紫……。瞬間毎に色を変えるその光は、美しくもあり、同時にその光の意味をしる人々の心に冷たいものを感じさせて。

 

そうして数十秒。漸く収まった光を確認して、誰もが再びモニターへと視線を向ける。

 

「……オペレーター、報告!」

「はっ、アルカンシェル、全弾命中を確認しました」

「空間安定――聖王のゆりかご、消滅を確認しました!」

「……っ、ギーオス変異体、現存!!」

「なにっ?!」

 

聖王のゆりかご消滅の報告を受け、既に戦勝ムードへと転じかけていたクラウディア艦内。けれども最後のオペレーターの報告に、再びその空気が硬くなっていく。

 

「馬鹿な、アルカンシェルを凌いだというのかっ!?」

「――映像、出ます!」

 

オペレーターの一人の言葉と共に、正面スクリーンに投影されるソレ。ゆりかごの残骸と思しきデブリの中、それに紛れつつも尚圧倒的な存在感を放つソレ。

 

「……っ、虹色の、翼……?」

 

瞬間、世界が震えた。真空の音無き世界に響く咆哮。魔素を伝播し伝わるその叫びは、その場に居合わせたすべての管理局員の耳へと届き、瞬間その全ての背筋を凍て付かせた。

 

「っ、拙い、全艦、防御体制!!」

 

咄嗟にクロノが叫ぶ。モニターの中では、その触手の先端に光を溜めるギーオス変異体の姿が映し出されていて。

次いで響く衝撃。

 

「何事だっ!!」

「っ、アエミリア、轟沈しましたっ!!」

「なんだとっ?!」

 

オペレーターの悲鳴のような叫びに怒鳴り返すクロノ。ピックアップされたモニターには、クラウディアに並び戦列を築いていたXV級次元航行艦、アエミリアが爆発する様子が映し出されていた。

 

「くっ、救護班、即座にアエミリアの生存者を探せ! 手の空いている物はその援護、解析班、何があったのか報告しろっ!!」

「魔力共振メスです! ディストーションバリアの出力を超えた魔力共振メスがアエミリア主機を貫通、誘爆した模様!!」

「生物でありながら、VX級のディストーションバリアを上回る出力だと……っ、化け物め!!」

 

憤り机を殴りつけるクロノ。だがそうしている間にも再び放たれる魔力共振メス。ギーオスのソレと違い、多数ある触手から放たれるそれは時限航行艦隊のディストーションバリアをまるで紙の如く容易く貫き、XV級の装甲を熱したナイフに削られるバターの如く容易く引き裂いていった。

 

「リウィア大破!!」

「艦長、撤退を!!」

「出来るかっ!! 此処で引けば、後ろにはクラナガンがあるんだぞっ?!」

 

ギーオスの最大の餌は、魔力を持つ生物だ。あの生物がギーオスの係累であると予想されている現在、であれば間違いなくあれも魔力を持った生物を食うのであろうと予測される。

 

そしてこの場の近隣で最も魔力を持つ生物と言えば、間違いなく魔導師であり、ミッドチルダの人類である事は間違いない。

 

「く、アルカンシェル、第二派装填準備!」

「装填開始します!」

「――ダメです、主機出力上がりません! アルカンシェル起動出力値が得られません!!」

「ぐっ ……万事休すか。オペレーター、各艦に退艦命令を出せ! こうなればクラウディアをアレにぶつける!」

「なっ!?」

 

オペレーターがギョッとした表情でクロノに向き直る。が、クロノはといえば既に覚悟を決めたような表情でモニターを睨みつけるばかりで。

 

「そんな無茶な!」

「無茶でもやるんだよ! 最早この戦場、我々管理局にアレを打倒する手段は他に残されていない」

「アルカンシェルをも耐え切ったバケモノですよ!?」

「だからと言って素直に引けるかっ。ユリア以外の艦の操縦権をクラウディアに。ユリアは退避した局員を収容後、本局へ撤退!」

「艦長はどうするんですかっ!?」

「此処からリモートで制御する。誰かがやらなければならないんだからな」

 

そう言って艦のコンソールを展開するクロノ。表示されるデータには、既に満身創痍の次元航行艦隊の姿が映し出されている。最早損害が無いのは最後列に待機していたユリアの一機のみという有様だった。

 

「なら、我々も残ります!」

「いや、君等も退艦しろ。こんな事に付き合う必要は無い」

「馬鹿言っちゃいけませんよ艦長。貴方に艦船の遠隔操作、しかも複数を同時になんて器用な真似出来るわきゃ無いでしょうが」

「そんな拙い手じゃ出来る事も出来ませんよ。成功確率を上げる為にも、我々が残るのは必須です」

「というわけで、艦長はいつもの通り、其処に堂々と座っててください」

「キミ達……すまない、有難う」

 

そうして、再びコンソールに指を走らせるオペレーターたち。ミッドチルダを守るため、覚悟を決めて無人艦の特攻準備を進めて。

 

「艦長、各艦の遠隔操作準備、整いました!」

「よし、それでは、これより艦隊を特攻させ……何事だっ!!」

 

不意に艦橋が赤く染まり、非常事態を知らせる警報が鳴り響く。即座にオペレーターが状況を確認すると、ギーオス変異体を観測していた物とはまた違った種類の観測装置が、ギーオス変異体から少し離れた場所で異常を感知していた。

 

「これは……次元震反応?!」

「次元震だとっ!?」

「いえ……それに似た反応ではあるみたいですが……これは……」

「反応座標、拡大してメインスクリーンに投影します!」

 

ピッ、という音と共に表示されるくらい星空。その中の一点に、白い光が顕現していた。

 

「あれは……魔法陣?」

 

誰かが呟くと同時、浮かび上がる白い光が爆発した。

誰もが咄嗟に目を覆い、収まった光を確認し、再びそこを見て、絶句した。

 

「なにが……あれは、何だ?」

 

そうして、クラウディアのメインスクリーンに映し出された、仁王立ちする巨大な人型。

緑色に輝く光の鬣のような物を真空の宇宙で棚引かせ、額に当る部分から突き出す一本角が目立つ、黒と紺色、さらに金色に輝く光を走らせたその巨人。

 

「あれは何だ!!」

「魔力反応ゼロ!! 然し類似した何等かのエネルギーを検知!!」

「同時にアレの周囲に整理された空間の歪みを検出!! ディストーションバリアに近い物と推測されますが詳細は不明!!」

「魔力光っぽいのは見えてるのに、魔力反応が無いって……」

 

その背に接続されているのであろう巨大な翼。そこからあふれ出す白い光は、それ自体が推力となっているかのように、その巨体をミッドチルダの重力から常に距離を取らせていて。

 

巨人のその右手。其処に握られているのは、二又に分かれた槍のようなもの。それ自体かなりのサイズを誇るであろうソレを、巨人はギーオス変異体に向ける。

 

「……まさか、戦うと言うのか?」

誰かがそう呟く。

視線の先、巨大な人型とギーオス変異体は、互いに互いを敵だと認識したのだろう。

 

―――――――――――!!!!

 

互いに互いを向き合って、白と虹の輝きが、星の海で激しく輝きをぶつけ合ったのだった。

 

 

 




■デモンベイン・ストレイド
またやっちゃった。

■正確には半人半プログラムの、対ギーオス戦及び人類最終絶対防衛機構・生体型守護プログラム・汎用人型決戦兵器G計画発プロジェクト『M.e.r.a』完成固体
長い名乗り。アルハザード表記を無理矢理和訳した後に更に英訳したものをミッド語に変換したらこうなった、という感じで一つ。
G計画があるなら、どこかにアレも存在するのかも。
アルハザードにおける対ギーオス戦略には幾つかの戦略構想が存在し、
・強化人型兵(クローン兵・戦闘機人・遺伝子強化兵・人型プログラム)の運用
・魔力運用を廃絶した質量兵器の運用
・過去に提唱され、しかしその危険性や魔力に比べた場合の効率から否定されていたオカルト寄りのエネルギー『マナ』の運用。
の三つの軸があり、メラ本人はれらを束ね合わせた最終フェーズに生産された数少ない成功個体。
但し“目覚め”は間に合わず、本人は時のゆりかごに託された。

■チート少女キャロ
本編中に言及される通り、マナ式魔術の教導は凄まじく難易度が高い。
想像して欲しい。ムキムキマッチョの男女軍人に、笑顔で教導を行なう幼女の姿を。

■お前まさか知らないのか!? デモベを!?
鳳凰院さんはエロゲ・燃え・渋めのアニメ派。
御剣くんは萌え・コメディーのアニメ派

■「キミ達……すまない、有難う」
OVAのHELLSING見た影響だと思う。
後にエイミィにより大幅に装飾されたクロノ武勇伝がカレルとリエラに語られたとか。

■アエミリア、ユリア
オリジナルのXV級次元航行艦。本当は車の名前にしようかとも思ったんだけど、クラウディアの名称の元ネタがラテン語の氏族名だったというところから。


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28 破神昇華

――『デモンベイン・ストレイド』。それが、俺に用意された新型の試作SR機だ。

 

嘗て開発され、諸事情によりその大部分が破壊された『ガイア・ギア』システム。その現存する内の一つを使用することで、無限のエネルギーと、搭乗者によるダイレクトなコントロールが可能というのが売りであり、同時に『魔術的偶像』というSR機の当初の理念を最もあらわす機体でもある。

 

つまりこの機体は、『機械でできたロボット』であるよりも、『人の形を模倣した鋼の塊』、もしくは『人の形をした鋼の巨人』という、科学で生み出されたくせにオカルト寄りの存在なのだ。

 

またその中枢、出力・制御システムとなっているガイア・ギアシステム。これは一種の半永久機関で、無限のマナを生み出し、同時に魔術的SR機とシンクロする、という能力を持っている。言ってしまえば実のところ、コレは俺という存在を機械的に再現しようとして生み出されたものだったりする。

 

で、このガイア・ギアシステム。オリジナル一号機はアリサに融合してエヴォリューダー化して、現在ストレイドに搭載しているこのガイア・ギアは、損壊していた二号・三号機のニコイチ品だそうだ。

 

現在ではこのガイア・ギア、偶発的とはいえエヴォリューダーを生み出したりと、かなりヤバイ代物だという認識が出来ている為、部分的に性能を再現した廉価版が量産型ガオファイガーに組み込まれていたり、IFS(イメージフィードバックシステム)っぽい魔術刻印が出回ったりしている。ネタだ。

 

さて、話を戻す。

俺と言う存在は、元は対ギーオス戦用に未来に残された、半人半プログラムの戦闘兵器だ。ところが現在の俺は、そのシステム上で運用される筈であったマナというオカルトエネルギーにより、大分その本質を変化させてしまっている。

 

元々の俺がピノキオだったとすれば、現在の俺は型月的な意味でアリストテレス級だ。別に星の意志の代理でこそないが、それの意志を感じる事は出来る。もしかしたらオリジナルのガメラはガイアのアリストテレスだったのかも、なんて思ったり。

 

要するに現在の俺は、妖精さんなのだ。――野郎の妖精とか誰得だろう。

まぁ、そんな俺は実質無限に近いエネルギーを生み出す事ができる。とはいえ最大出力は人型である以上限界がある。星のマナを借りて外部出力で、という方法もあるが、それをやると本末転倒なのだ。ギャオスハイパー発生的な意味で。まぁ重要なのは、俺と言う存在は、限りなく無限に近いエネルギーを生み出すことが出来る、という点だ。

 

さて、その上でこのストレイドには、俺と言う存在を機械的に模倣しようとして生み出されたガイア・ギアが搭載されている。これが如何いう意味か分るだろうか。

つまり『無限×無限』なのだ。――なんて厨二病。

 

 

 

「ティマイオス! クリティアス!」

 

断鎖術式、一号『ティマイオス』、二号『クリティアス』。空間を撓ませることで、その反作用を利用し、跳躍や攻撃などに用いる魔術兵装。

飛行ユニット『シャンタク』と併用する事により、空中をジグザグと動き回る事で、直線速度において圧倒的に上を行くイリスを撹乱する。

 

――KYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!!

 

真空に程近い超高高度。そんな中でも魔素を伝って響き渡るイリスの咆哮。咄嗟にシャンタクのスラスターを吹かして回避機動をとる。

その直後。イリスから伸びた無数の触手から放たれる黄色い光。再び放たれた魔力共振メス。雨霰の如く放たれる光の包囲網をかいくぐり、なんとか接近を試みるも、その弾幕を潜り抜ける事は凄まじく難しく、回避で手一杯だ。

 

「そっちが遠距離戦をするというのなら」

 

此方もそれに付き合ってやろう、と言うわけではないが。腰にマウントされたその武器。ライフル型のソレは、簡単に言ってしまえばビームライフルだ。但し現在装備している物は荷電粒子を発射するのではなく、魔術砲撃プログラムを仕込んだ逸品だ。

地味に砲撃の種類や属性を変更したり出来る便利な代物なのだが、対イリス戦においては選択肢は一つ。選ぶのはプラズマビームの一択だ。

腕を伸ばすストレイドの先、ライフルから放たれた銀朱の閃光。それは黄色い弾幕を潜り抜け、イリスの触手の一本を千切り飛ばした。

 

「よし……っあ!?」

 

ガコン、という爆音。同時に機体が大きく宙を泳ぐ。即座に機体状況をチェック。左脚部に損壊発生!?

 

「レーザーを回避し損ねて、どこかが誘爆したか……」

 

即座にダメコンにより左脚部損傷箇所へのエネルギー供給をカット。以後左脚はAMBAC用の錘として使うしかない。断鎖術式も片方が仕えなくなってしまっている。これはちょっと拙いかもしれない。

と、そんな事を考えていると、不意に機体が警告音を発信した。

何事かと即座にシステムに向き直り、目の前に此方へ向けて高速で接近するイリスの姿を見て。

 

「……っ!!」

 

ストレイドを防御体勢に。更に障壁を展開することで、突進してきたイリスの体当たりを何とか防ぐ事が出来た。

が、どうやらそれだけでは終わらないらしい。

 

「……っ、コイツ、触手を!?」

 

――KYUUAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!!

 

欠損した左脚を含め、ストレイドの四肢に触手を絡みつかせ、その動きを封じようとしてくるイリス。どうやら此方の機体の左脚が損壊し、機動力が落ちたのを見計らって接近戦に持ち込んできたらしい。

然しそれは寧ろ、此方にとっても都合がいい!!

 

「アトランティス……」

 

脚部次元断鎖術式に莫大なマナが充填されていく。閉鎖した左脚部が火花を上げるが、ソレを無視して更にマナを注ぎ込む。

四肢を触手で拘束してくるイリス。だがそもそも術式兵装を物理的拘束で止められる筈も無しッ!!

空間が撓み、擦れたビデオテープの如くストレイドの像がぶれ、次の瞬間イリスの真正面、手を伸ばせば触れられるほどの距離へと現れて。

 

「ストライクッッ!!」

 

ゴッ、という爆音。そう、爆音だ。

デモンベインの“移動距離”を時空間歪曲により圧縮、瞬間移動の如く対象の前に移動し、“歪曲させて溜め込んだエネルギー”を相手に叩き付ける。これこそがこのデモンベイン・ストレイドのプリセット、近接粉砕呪法、術式兵装『アトランティス・ストライク』。

※因みに変形は在りません。

 

「ちっ、ダメか」

 

アトランティス・ストライクを起動させる為の断鎖術式は、空間機動などにも用いる為、その設置場所は脚部に存在する。アトランティス・ストライクは特に攻撃呪法。既に損壊していた左脚部にも当然莫大な負荷がかかり、その結果イリスへ攻撃が直撃したその直後、ストレイドの損壊部分も再び誘爆してしまったらしい。

まぁその爆発すらもイリスに対する攻撃になっているのだから、ストレイドには申し訳ないが、此方としては不満は無い。

 

――KYUUUUUUGIIGIGIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!

 

魔力素の風を伝わり成層圏に響くイリスの悲鳴。アトランティス・ストライクの一撃により、イリスのその右脇腹に大穴が開き、同時にストレイドの暴発によりその傷口が滅茶苦茶に焼け焦げていた。おぉ、ヒドラの首!

 

更に場所的に勢い良くミッドチルダに向かって蹴りだされたイリス。無重力に程近い成層圏を縦横無尽に泳ぎ回っていたイリスは、今度はその母なる大地の重みに引き摺られ、凄まじい勢いで地上へ向けて加速し始める。

 

コレなら! なんて思っていると、不意に体をガッっと引っ張られる。何事かと改めて機体をチェック。損傷箇所は無し。但し左脚欠損部位に異常な負荷が掛かっている事が分る。

 

ストレイドのメインカメラを自らの左脚へ。其処にはレーザーにより裂かれ、エネルギーのオーバーフローにより派手に爆発し、酷い有様になっているストレイドの脚。……そしてソレに巻きつく数本の触手の姿が。

 

――奴め、俺を錘にする心算か!!

 

実際のところ其処まで考えているのかは知らないが、少なくとも俺をつかんだ事でイリスの降下速度は一瞬減速した。ついでにストレイドまでミッドチルダに向けて引っ張られだしたが。

 

即座に術式『アルハザードのランプ』で焼き払おうとしたのだが、現在の損傷した状態のストレイドでソレをやれば、下手をしなくても爆発は必死。そもそもテストもしていない技だ。大気圏に突入しつつある現状でやりたい技ではない。

次に分解してマウントされているビームライフルを展開。即座に流し込まれるエネルギーによりライフルの先端が発光。いざ触手を打ち抜こう、としたところで再びイリスから魔力共振メスが放たれた。

黄金の光をスラスターで小刻みに回避。然しひも付きの現状でそう自由自在に動けるわけでもなく。まるで狙ったかのようにビームライフルを真っ二つに叩き切られてしまった。

 

「ちょっ」

 

拙い。コレでは触手を引き剥がす事が出来ないッ!

爆発するビームライフルを投げ捨てつつ、即座に次の手段を模索しようとして、即座に取れる手段と言うものが殆ど無いという点に背筋に冷たいものが走る。

そもそもこのストレイド、試作品でまだ召喚術式兵装、イコライザを装備していないのだ。現在の装備は内蔵式の基本装備、プリセットと、すべてのSR機に共通する共通装備のみ。

 

「――そうだ、ビームサーベル!」

 

そういえばそんな装備があったのだと、その時漸く思い出した。

プラズマエネルギーを磁場によりサーベル状にしたタイプのソレ。ガンダムで言えば∀のソレであるビームサーベルだが、ストレイドのサイズに合わせ、規模・出力的には寧ろイデじゃないか、と言うほどの物に仕上がっている。

腕部サブウェポンサイロに格納していたビームサーベルを射出。即座にビームを展開して脚に巻きつく触手へ――。

 

――コココゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォ!!!!!

 

そうしてその瞬間、ビームサーベルが不意にぐにゃりと歪み、同時に機体を凄まじい揺れが襲った。

 

「――っ、大気圏ッ!!」

 

そしてこの揺れ、大気摩擦かッ!

大気の壁に突っ込み、その摩擦で直線状態を維持できないビームサーベル。こんな状態では触手どころか機体そのものまで破壊しかねない。

 

一瞬脚を切断してしまえば、なんて考えが浮かんだものの、既に大気圏に突入しかけている以上、今ソレをやれば外圧に耐え切れず機体が爆発しかねない。いや、そもそも宇宙戦闘を想定しているSR機にそんな事はありえないと思うのだが、コレまだ試作機だし。

 

ビームサーベルでの切断が不可能である以上、大気圏突入は確定。設計上大気圏突入は可能な筈だが、今の触手に巻きつかれ、しかも部位欠損が発生している状況では耐久度にも不審点がある。

正直、絶体絶命だった。

 

――プチッ。

 

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

 

 

ボッ、という音と共に、二つの影に火がつく。いや、正確には二つの影ではなく、その周辺。そのもののギリギリに、炎と平常点の境界線が薄らと見えていた。

その影の一つ、イリスは背を炎に焼かれつつ、静かに一人思考していた。

 

このイリスには任務が有る。ギーオスを統率し、地上にはびこる人類と言う汚染物質をすべての世界から消去すると言う任務が。

 

世界の懐は広く、星を滅ぼす人類でさえ世界のバランスに組み込まれてしまっている。人類の存在は星の滅びに繋がるが、人を滅ぼしても星はダメージを受けてしまうのだ。

 

だが然し、だからと言って人類をそのまま野放しにすれば、世界は必ず滅びる。

ソレを憂慮した、過去のアルハザードの過激派。末期的な状況に追い込まれ、色々な意味でキていた彼ら彼女等は、既に存在しているギーオスに人為的に手を加え、このイリスと言う怪物を生み出したのだ。

 

そうして生み出されたイリスの任務は、実に単純。世界から人類という存在に連なる全てを消去するというものだった。

 

そして今。

この世界に再び産み落とされた柳星張、いや『イリス』は、再びその自らの遺伝子に課せられた使命を果たすべく、先ず目の前、周辺に存在する魔導師たちからすべてのエネルギーを吸取ろうとした。その結果は失敗。数体の人類の捕食には成功したが、数としては全く物足りない。

 

仕方無しにイリスは自らがいつの間にか取り込んでいた遺伝子情報を元に、無数の――それこそ百本近い――大量の触手を生み出した。

それを触媒にして自らの目覚めたその土地を探査し、新たな“餌”や、自らに有益な何かが存在していないかと探索を開始したのだ。

 

結果、莫大な魔力を持つ“餌”を発見。捕食しようとしたのだが、最後の最後で邪魔が入り、“餌”の捕食は失敗。

再び何か他の有益な物を探し出したイリスは、その中で一つ、巨大な魔力を持つ存在を見つけることが出来た。

 

ソレは“聖王のゆりかご”と呼ばれた巨大な魔導戦艦の主機、それを支える為、スカリエッティが密かに追加設置していた多数のジェネレーターであった。メインのジェネレーターこそ鉄槌の騎士に破壊されたものの、それだけでゆりかごが止まらなかったのはコレの存在によるところも有った。

 

莫大な魔力を生み出すジェネレーター。これ幸いとジェネレーターからの魔力供給を受けたイリスは、イリス本体も驚くほどの勢いで急速に成長を開始した。

そうして驚異的速度で中期成体へと変貌を果たしたイリス。脱皮も変態も一気に済ませ、自らの納まっていた入れ物を破り出て。そうして見えたのは、広い宇宙。眼下には見慣れない惑星が一つ。

 

少なくとも此処はイリスが最後に納められた土地ではないのだと、イリスは自ら思考して。

そうこうしている内に、いつの間にか自らの周囲を囲うようにして出現した次元航行艦隊。イリスにしてみれば新しい餌が次々と追加されたような物であった。

そうしている内に、次元航行艦の魔力出力が高まり――即座にイリスは行動を開始した。

 

一応兵器として設計されているイリスには、兵器に対する戦術的思考というのも元々に仕込まれていた。

イリス――ギーオスの系譜に当然装備されている魔力共振メスを用い、近寄る次元航行艦をバラバラに分割ないし刻んで行く。

 

そうして適度に刻んだあと、近付いてくるそれらに取り付き、放つ膨大な魔力を根こそぎ奪い取ろうと、イリスはそう考えていたのだが。

突如出現した鋼の巨人により、その考えは根こそぎ粉砕された。

 

巨人、デモンベイン・ストレイドの蹴り。それは蹴りなどという生易しい物ではない。空間を抉り飛ばすその一撃は、例えイリスと言えども直撃すればただでは済まない。

 

実際に大怪我を負わされたイリス。しかもこのままでは重力に引かれ、大気圏へと投げ出されてしまうだろう。

そもそもの航空方法がギーオスの空力学に則った物ではなく、寧ろデモンベイン・ストレイドに近い、魔力を噴射し力任せにすっ飛ぶという飛行方法を採用しているイリス。それゆえに大気圏外での行動も可能なのだが、その飛行方法の応用で大気圏突入程度で死に至る事はない。

 

だが然し、ただで大気圏に落ちてやるのをイリスは“勿体無い”と判断した。そして取ったのが、デモンベインの脚に触手を絡みつかせ、諸共地上に落ちると言うものだった。

 

イリスにしてみれば、地上に墜落するその直前にでも触手を解き、自らは悠々と飛行して離脱すればいい、という考えだったのだろう。現状の傷で大気圏突入を避けるのは難しいが、突入してしまえばその後は如何とでもできるのだ。

そうしてイリスは何とかして脱出しようとするストレイドを嘲笑うかのように、その脱出手段を一つ一つ奪っていき。

ついに大気圏突入が始まり、周囲が灼熱しだした事でストレイドはその動きを止めた。

 

――どうやら諦めたらしい。イリスはストレイドを見て、そう判断した。

 

――だがッ! その時だったッ!!

 

デモンベイン・ストレイドはッ! その操縦者のメラはッ!! 何を思ったか、その背部シャンタクユニットのスラスターを全力で噴出し始めたのだ。

次の瞬間、イリスは仰天したッ!! 普通、脚を引かれれば引かれまいとする。地球の重力を振り切ろうと思えば、尚更引き寄せられるわけには行かない。

然しッ! デモンベイン・ストレイドはッ! メラはッ!!

 

「おおおおおおおおッ!!!」

 

逆に思いっきり近寄ったッ!!

 

――QUGYYYYYYYYYIIIIIIIIIIIIII!!!???

「このままミッドの地表にたたき付けてやるッ!!」

 

そうしてメラはデモンベイン・ストレイドを更に加速させる。轟々と光を迸らせるシャンタクユニット。コレが科学式燃料スラスターであれば、まだイリスにも脱出のチャンスはあったかもしれない。熱負荷を抑える為、冷却時間の必要な燃焼ロケット式であれば脱出のチャンスはあった。

 

だが然しッ! メラの操るデモンベイン・ストレイド。その飛行ユニット『シャンタク』は科学燃料燃焼ロケットによる推力ではなく、デモンベイン・ストレイドから供給される膨大なマナを逐次圧縮・開放により生み出される莫大な推力を用いる推進方式を採用していたッ!!

 

つまりッ! デモンベイン・ストレイドは無限に加速し続ける事が可能ッ!!

 

――PIGYOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!

 

背を焼かれるイリスが悲鳴を上げ、更に我武者羅に魔力共振メスを振り回す。途端ストレイドの装甲がボロボロと削られていく。

だが然しッ! それでもストレイドのその鋼の豪腕は、イリスを掴んで一向に放そうとはしなかったッ!!

 

――QWYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!!!!」

 

――大気圏再突入における問題とはッ!! ソレは『熱の壁』ッ!! 大気圏再突入時に発生する熱による問題である!!

簡単に言えば、大気圏突入において、突入対象により発生する潜熱ッ。これをいかに短時間かつ突入固体に影響を与えずに置くかと言うものだ!!

 

この簡単な解決法として、再突入物をゆっくりと地上に降下させる、と言うものがある。例えば軌道エレベーターや宇宙船をレーザーで押し上げる等と言う推進方式も提唱されている――が、これらは絶対的に大掛かりな施設が必要とされる。

であれば如何するか。熱の発生を不可避とするのであれば、熱によるダメージを軽減させればいいのだ。

 

例えばスペースシャトルなどは、船底に特殊な断熱材を敷き詰める事で、大気圏突入による熱の影響を最低限に抑えることに成功している。何せ使徒のビームを受け止められる程なのだ。人類の技術も棄てた物ではないのだろう。

 

話は戻るが、ストレイド――メラは、現在イリスと共に地球へ向けて勢い良く突入――『落ちて』いた。イリスを盾にして。そう、イリスを盾にしているのだッ!!

ストレイドの欠損状況では、熱によってどれ程の悪影響が出るかも分らない。勿論重要機関には断熱材の保護が掛かっているが、損傷時にも万全とは言い難い。故にメラが取った行動は、ストレイドにダメージを与える熱、その被害を減らす為に、イリスを断熱材として、盾にする、と言うものであった。

 

「――星に墜ちて砕けろッ!!」

――PIGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!

 

その日、ミッドチルダの各地からは、昼間の空に明るく輝く流星のような物が見えたという意見が聞かれるのだった。

 

 

 

 

 

 




※ジョジョの最終話を見ながら書いた結果がこれだよ。

■エヴォリューダー
事故によりとあるシステムと生体融合を果たした事により、半人半機の超人となる。
これにより生身でありとあらゆる空間においての活動が可能となり、また本人としてはメラやすずかと同類の超人と化したことに納得している。

■ガイア・ギアシステム
元ネタは某宇宙世紀の果ての小説。欲しい。
世界からマナを借り受けることで無限に近いエネルギーを扱う炉や、システムに意志をダイレクトに接続する特殊インターフェイスなどの複合装置。実はメラという存在をシステム的に再現することを目標とした装置。
何機かが試作されたが、レギオンの襲来によりその大部分は喪失。そのうちの一つがアリサと生体融合を果たし、エヴォリューダー化を果たした。
本来は携帯型の魔術・システムインターフェイスとして用いられる筈であった。
要するに魔力炉搭載の万能デバイス。

■ストレイドのスラスター
ストレイドはマナ・スラスターを搭載。但しマナ・スラスターの場合、本来燃料は搭乗者のマナであるため、人間個人で60メートル級のスーパーロボットを操るのは不可能。ガイア・ギア及びメラのような莫大なエネルギーを保有する個体を搭載して初めて運用が可能。この為大抵のSR機は光子力推進や数学的情報置換推進方式などを採用している。
量産機の代替装置としてフーン機関が提起されているが、運用に黄金の蜂蜜酒を常飲しなければならないという法的問題(飲酒運転)が有る為、最有力はやはり光子力推進となっている。
因みにグレートゼオライマーの推進装置は光子力+数学的情報置換で、ジェネシックガオガイガーは勇気と気合。



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29 管理局なう@ティアナ

 

Side Teana

 

 

 

本気で管理局から逃げよう。そう思ったのは、メラさんがあの怪物、イリスを撃退した後、段々と周囲がきな臭くなってくるのを感じてからだ。

 

――「ギーオス変異体事件」。

 

JS事件とは別口として扱われる事になったその事件。ギーオスという魔導師の天敵である存在、その亜種とされる存在。

 

それまでの魔導師至上主義を守るため、あえてギーオスという存在に対する対処を行なった結果、そうしたとんでもない存在が出てきて、結果として何の手を討つ事もできないという情け無い有様にあるのが、今の管理局と言う組織だ。

 

一応今回のJS事件において、裏から管理局を操っていたとされる最高評議会は、ジェイル・スカリエッティの手によって(実際は別人らしい)始末されたそうで、管理局は此処から更正の道を歩む、筈だったらしい。

 

現在の管理局を一言で表すのであれば、凄まじく追い詰められている、というのがピッタリと当てはまるだろうか。

 

魔法至上主義、それを裏づけする魔法による世界の管理。ところがその絶対の理を簡単に覆す存在――ギーオス。そしてそのギーオスの延長線上の存在であると思われるイリス。

 

ただでさえ魔法の通用しない怪物の出現に焦る管理局に対し、更に現れたのがそんな怪物を正面から“撃退”して見せた鋼の巨人の存在だ。

 

「……またやられたか……」

 

帰宅し、すっかり荒らされ廃墟の如く様変わりした自室を見て、思わず小さく嘆息する。

 

あの日、メラさんがイリスを撃退した後、管理局は大いに荒れた。自らの文明を滅ぼしかねない怪物の存在と、ソレを撃退しうる質量兵器文明の存在。それは管理局の存在を揺るがしかねない物として、その上位陣営に恐怖を感じさせたらしい。

 

そして何処から洩れたのか、私がその鋼の巨人に関して何等かのかかわりを持っている、と言う情報まで洩れてしまっているらしい。その後ちょくちょくこうして自室をあらされることがあるのだ。

 

しかも常に2~3組の監視が付いているし。さすがにトイレの中では控えてくれるのだが、これではまるで重要指名手配中のテロリストだ。

 

――まぁ、撒いて遊んでいるのだが。

 

「……さて、如何した物かしら」

 

現在の私は機動六課隊舎に個室を貰い、その中で生活している。一応スバルとの共有部屋が本来の割り当てなのだが、ちょっと小細工をしてみたところ割り当ててもらえたのだが。

 

おかげでスバルに迷惑をかけることは無いが、その分好き勝手にあらされているような気がしないでもない。

 

幸い私の最重要物資はこのファントムクロスで、重要な情報は全てその中。その他の私物で見られて恥ずかしい物なんかは左腕のストレージに全て納めている。この部屋に有るのは、全て店売りで揃えられる物ばかりだ。

 

そういうわけで、正直これ以上管理局に残ると言うのは身の危険を感じる。正直、最高評議会が潰れたからと言って、組織の体質がそう簡単に変わるものではない。このまま此処に残っていれば、いずれ私は『ワープロ製の書き置き』一つ残してどこかへと消えてしまうだろう。

 

私も生存能力は高いほうだが、さすがにプロの暗殺者の一撃目を凌げるかは、自信を持って「出来る」とは言い切れないし。

 

――とりあえず、設置しておいた盗撮カメラとマイクは機能してたみたいだし、報復はするとして。

 

と、そんな事を考えて唸っていると、不意にファントムが通信をキャッチした。どうやらブリーフィングルームへの呼び出しが全体通信でかけられているらしい。

荒らされた部屋をそのままに、呼び出しのあったブリーフィングルームへと駆け足で移動した。

 

「お、ティアも来た見たいやな」

「すいません、遅れました」

「ええよ、私らは元々食堂にそろてただけやし」

 

ブリーフィングルームに入って一番。既に私以外のほぼすべての前線メンバーが揃っている事を確認し、一番に部隊長である八神隊長に頭を下げる。

 

案の定軽く流してくれる八神部隊長に内心で「チョロイ」なんて思いつつ、然しその顔色が若干青褪めていることに気付く。

 

「八神部隊長、若干顔が悪いみたいですが」

「そか? ちゃんと毎晩レモンでパックしとるんやけど……って違うッ!! それを言うんやったら『顔色』やろがッ!!」

「失礼、かみました」

「ホンマか!?」

「カンマみた」

「全角で句点に直しとき!」

「神まみえた」

「神秘的ッ!!」

 

流石カンサイ人。ボケとツッコミだけは一流と言うのは嘘じゃないらしい。

 

「ティア……ウチとコンビ組まへん?」

「少し考えさせてくださいお断りします」

「早ッ!? 考えて断るまで早ッ!?」

 

と、散々騒いだところで周囲が呆然としている事に気づく。部隊長の身内であるヴォルケンリッターは若干口元を引き攣らせていたが。

チョンチョンと部隊長の肩を突っついて注意を促すと、八神部隊長も周囲の空気に気付いたらしく、わざとらしく「ゴホン」と咳を一つ。

 

「さて、これで全員集まったわな。――皆、JS事件が終わったばっかりで悪いんやけど、次の任務が入ってしもた」

「次って……まだ皆全快したってワケじゃないのに、早すぎるよ!?」

 

と、そんな八神部隊長の言葉に最初に反論したのはハラオウン執務官。

何せJS事件、いや、イリスがこのミッドチルダで大暴れしてからまだ三日しか経っていない。

 

なのはさんは未だに魔力負荷の影響で全力には程遠いし、ハラオウン執務官も高濃度AMF下での負荷で万全ではない。ヴィータ副隊長、ザフィーラ、シャマル先生なんかのヴォルケンリッターの半数は重症。

 

エリオは軽傷でまだ動けるが、スカリエッティに洗脳されていたらしい鳳凰院さんと、鳳凰院さんと相対していた御剣二等陸士はボロボロ。

機動六課はJS事件で名こそを上げたが、その実現状では全体的にボロボロ。とてもではないが、任務など不可能な状態だろう。

 

因みに現状でも戦力として数えられるのはシグナム副隊長と、ティアナ・ランスターにより何処からか連れ帰られ生還したギンガ・ナカジマ陸士だけなのだが、ギンガさんの方は何か魔改造を受けたとかで、現在本局での精密検査の真っ最中なのだとか。

 

……メラさん、魔改造とか大好きだしなぁ。悪影響は無いと思うんだけど、自重はしてるのかどうか。技術は渡さないんじゃなかったのか。解析されて情報を抜かれても知らないわよ?

※とんだ冤罪である。

 

「それはわかっとる。でも、此処に来て機動六課の古代遺物管理部っていう名目が引っかかってもーたねん」

 

そう言う八神部隊長。合図と共に室内の照明が暗くなり、投影ディスプレイに一つの画像データが表示される。

 

「これは、あの時のロボットですか?」

 

エリオの声。其処に映し出されているのは、メラさんのデモンベイン・ストレイドの姿。

 

「せや。この機体――うちらが会った自称『地球連邦軍』の人間から渡されたデータから言うと、『デモンベイン・ストレイド』っていう名前らしいんやけど、コレに上がめっちゃビビッとる」

 

管理世界外からの未知のテクノロジーの兵器襲来。自分達が察知できず、対処も出来なかったイリスを見事に打ち返して見せたその力。

 

「表向きの任務は第97管理外世界から感知されたロストロギア反応の調査。その実は、地球の実情調査ってところやろうか」

 

実際のところ如何なのかは知らないが、隊長たちの知り合いにはすずかさんやアリサさんが居る。両者共に97番では名の知れた資産家の家であり企業の家である。彼女等にコンタクトを取る事ができれば、調査は不可能ではないかもしれない。

 

「で、そんな上層部の思惑は別として、ウチとしてはあのギーオス変異体、データからはイリスっちゅう名前が出て来たんやけど、これの追跡調査もやっときたいと思もとる」

 

メラさんが撃退したイリス。そう、『撃退』だ。メラさんによって大気圏再突入の地球投げを食らわされたイリス。ところがあの怪物、それでも未だ次元転移できるほどの余裕を残していたらしく、着地のために一瞬隙を見せたデモンベイン・ストレイドの隙を突いて、何処かの次元世界へと逃亡してしまったのだ。

 

当然のようにソレを追いかけてミッドチルダから姿を消した鋼の巨人。こうしてミッドチルダにおけるJS事件は終わりを迎え、現在ギーオス変異体事件の最中というわけなのだが。

 

ただ、鋼の巨人とイリスの戦闘は様々な証拠――例えば砕けたパーツだとか、千切れとんだ肉片だとか――を残してしまった為、その管理局の技術では理解しきれない謎の物質やら遺伝子やらに、管理局そのものがてんやわんやのお祭り騒ぎなのだとか。

 

「上の思惑は別として、私はこの機を使ってあれの追跡調査をするつもりや。あれは放置してまうと、管理世界全体の危機になる」

 

まぁ、出来れば、だが。そもそも追跡して追いついたとして、その後如何する心算何なんだろうか。

 

「ところがや。残念ながら現在、管理局の技術では最大のヒントになりそうな97番に立ち入る事は不可能になっとる」

「原因は不明だけど、地球周辺の航路が常に荒れちゃってるみたいで、如何足掻いても97番に侵入できないんだって」

 

アテンザ技官のその言葉に、地球出身の隊長陣プラス若干名が少し動揺したように表情を歪める。

 

「……で、や。ティアナ、アンタに一つ頼みがある」

「……私に繋ぎをとれ、と?」

「話がはよて助かる」

 

此処で私を出すのか、この人は。よりにもよって、こんな如何考えても監視されているであろうブリーフィングルームでッ!!

何たる無能ッ!! 人間性は親しみやすさのある良い人間かもしれないが、トップにするにはカリスマ不足で参謀にするには考え足らず。

今さらだけど、やっぱりこの部隊に所属したのは間違いだったか。――まぁ、潮時と思っていたところだし。

 

「了解しました。繋ぎは試してみますが、あまり期待しないでください」

「うん。それと、ティアの伝手と平行して、コッチは実際にその97番の実地を直接確認に行こうっちゅう話になっとってな」

「はっ?」

 

思わず上げた疑問の声。見れば八神部隊長は新たな映像を投影スクリーンに映し出していた。

ソレは先の戦いにおいても機動六課の前線基地としての役目を果たしてくれた、旧式の次元航行艦『アースラ』の姿。

 

「もう少し、アースラに頑張ってもらおうとおもてな」

「はやて!? アースラはもう本来なら解体されてるはずの船なんだよ!?」

「問題あらへん。朱雀とマリーに頑張ってもろて、もう暫くは使えるくらいに改造してもろたさかい」

 

……廃艦寸前の次元航行艦を、無駄に延命させた、という事? 既に規格遅れになっている艦を、態々!?

言い換えるなら、勿体無いからとビンテージ物の消防車を消防署が使っているようなものだ。しかも市民の税金で改造して。それって色々かなり無駄でしょ。普通に民間船をチャーターするなり、何処かの次元航行艦に同乗させてもらうなりしたほうが絶対に安上がりだろうに。

 

「因みに、アースラは俺が個人資産で買い取って改修したものを機動六課にレンタルする形になっている。管理局の共通規格からは若干外れるが、中身は大分よくなるはずだ」

 

と、鳳凰院さん。JS事件が終わった辺りから何か吹っ切れたような彼だが、金銭感覚も吹っ切れてしまったらしい。……と、思って見ていたら、若干苦笑気味に一枚の紙を手渡された。ナニコレ、賃貸契約書? 手書きの? アースラ改造艦の賃貸使用料が……一般企業の平社員の月給? 安っ。

 

契約書の名前の欄には、鳳凰院さんの名前と八神部隊長の名前。成程、八神部隊長にタカられたな?

 

――やっぱりこの人達、地上に部隊を作ろうと言うくせに金銭感覚がかなりおかしい。

 

あーだからイヤだったのよこの部隊。素直に地上部隊に所属してれば、もう少し管理局に対して良いイメージを持っていられたかもしれないのに。せめて公私の区別くらいは確りして欲しかった。

……ダメね。部屋を荒らされていたの、思いのほかメンタルにダメージを受けてるのかも。妙に思考がネガティヴだわ。

 

「このアースラを使って、97番への様々なアプローチを試みる事になる」

「例えば?」

「機材を持ってって調査、その後アースラでの直接転移やら、近隣世界に一度降りて、生身で次元転移で移動、とか」

「なんとも原始的な」

「で、でも、色々な方法を試すのは悪くないかと」

 

ガヤガヤと賑わうブリーフィングルーム。どうやら今日のブリーフィングはコレでおしまいらしい。

 

「というわけで、コレより我々機動六課は、97番への出張任務となります。出向はアースラ整備の都合から、明後日のマルキューマルマルに成ります。以上のことを確認して、以後、各自自由にしてくれてかまへんよ」

 

八神部隊長が解散の号令をかけたのを確認し、もう少し八神部隊長に声を掛ける。

 

「ん、ティアナ、どうしたん?」

「八神部隊長、少し内密なお話が」

「うん? ここやとアカンの?」

「少し失礼します」

 

そう言って八神部隊長の腕にポンと手を置く。

 

「《此処は盗聴が多すぎます。コレでお話してもいいのですが、さすがに手間かと》」

 

ピクン、と反応する八神部隊長。この技、接触回線と呼ばれる、ガイア式の中でもかなり初歩の技で、要するに接触対象とのみ念話をするという技。但しこの接触対象とのみ、という制約により盗聴される可能性が凄まじく低いという地味な便利スキルだったりする。

 

コレの発展型に記憶抽出魔法“サイコメトリー”やら意志伝達魔法“達意の言”なんていのもある。

 

「ん、そやね。ここやとなんやし、ちょっとウチの部屋にいこか」

 

察しはそれほど悪くないらしく、そういって先導しつつ部隊長室へと移動を開始した部隊長の背後を追う。これで罪悪感から来る管理局神聖視が無ければ、そこそこ信用できる上司なんだろうけどね。まぁ、経験は別として。

 

――さて、此処からが、私の最後のお仕事なのだ。

 

既に管理局と言う組織に見切りをつけてしまった私の、これが最後の管理局でのお仕事。

 

「ほな、話をきかせてもらおか、ティアナ」

 

ギシリと音を立てて椅子に座る八神部隊長を正面に、私は小さく首を縦に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

Side MERA

 

 

『それはまた、お疲れ様、でいいのかしら?』

「ああ、取り敢えずは撃退したから……とはいえ、あれの能力が分っていない以上、油断は出来ないんだけれども」

 

ボロボロに大破したデモンベイン・ストレイドの前。オートマトンの修復を眺めながら、通信の繋がれた地球、アリサとそんな事を話す。

 

本来ならレギオン襲来に備えて地球に居る筈のアリサ。現在の地球は次元断鎖フィールドの展開もあり、異世界からの通信はかなり繋がりにくい。

 

ところがアリサは、何故か一般人に対して退避勧告が発令されている筈の月のEFF基地にまだ残っており、それゆえに月の大型通信装置を利用し、こうして現在も通信が可能な状態にあった。

 

多分また前線に立つ心算なのだろう。本当、俺としては後に下がって欲しいのだが、アリサ・バニングスは俺がそう言って「はいそうですか」と引き下がるような女ではない。寧ろ巫山戯るなと叫んで前へ飛び出す。そんな格好いい女なのだ。

 

『イリス、だっけ? 情報は無いの?』

「無い。南明日香村から持ち出されたものであるのは間違いないだろうが、資料が少なすぎる。一応アレに手を加えたジェイル・スカリエッティのアジトの残骸を調べているが、管理局から隠れて、と成ると、正直どうなるか……」

 

『ふぅ……ギーオス変異体ねぇ? そんなに驚異的なの?』

「数で叩けば何とか成る。逆に数で叩かれる危険性もある」

 

そして何よりも、アレは俺の対極に存在しうる怪物なのだ。

俺と言う存在が、基本的に人類文明、及び惑星の守護・保全を主目的としているのに対し、アレの目的は人類を滅ぼすこと。鉄槌を下す事なのだ。

 

しかもアレはギーオスの王。下手をすれば、ギーオスの大群がアレに付き従うかも知れないのだ。今のEFFであれば撃退は十分可能であろうが、その他次元世界はその道すがらがごっそりと壊滅していくだろう。

 

実際、手合わせ程度の心算で挑んだ今回のストレイドによる戦闘。まさか背中半分が熱で炭化したような状況で、しかも大気圏突入速度を更に加速しつつある中で、次元転移で逃げるなどと言うのは、さすがに此方としても予測していなかった。

 

着地の為に減速した一瞬。減速せずにそのままの速度を維持したイリスはそのまま次元転移を行ない、減速した此方は相対速度により開いた距離に追いつけず、結局イリスの撤退を許す事と為ってしまったのだ。

 

「レギオンの大群だけでも頭が痛いのに――ッ!」

『世の中上手く行かないわね。如何する? そのイリスの襲来に備えて群を地上に廻す?』

「……いや。イリスは脅威だけれども、群としての脅威はレギオンに劣る。イリスの尖兵になりうるギーオスの方は宇宙での活動は殆ど出来ないからな」

 

とはいえ、成体ギーオスは成層圏上層での活動くらいなら可能になっている。その辺りも次元断層フィールドによる次元転移阻害範囲に十分入っているので、多分大丈夫だとは思うのだが。

 

それに比べれば、下手をすれば地球を滅ぼす覚悟でウルティメイト・プラズマを使わなければ成らないかもしれないレギオンの襲来を防ぐほうを先決させたほうがいいだろう。

一応、プラズマで穴を開けながらの地底活動も可能だが、レギオンの移動速度に比べればとてもではないが対抗できない。俺、と言うか『メラ』と言う存在は、汎用型であるが故に特化型に対しては決定打が今一つ物足りない。確かに全体的に優れているのも事実なのだが。

 

『それじゃ、戦略はこのまま進めるように言っておくわよ?』

「ああ、頼む。……あんまり口出ししてやるなよ?」

『あら、私は別に何にも言ってないわよ』

 

そういって微笑むアリサ。現在のEFF、実質の資金提供者であり、物資提供者にして兵装生産者であるB&Tには全く頭が上がらない。どれくらい頭が上がらないかと言うと、EFFの身分証よりもB&Tの身分証持ちのが軍内部で優遇されてしまうくらい。ソレくらいB&Tは軍上層部に根深く食い込んでいるのだ。

 

EF制御の元、ある程度の自由経済が認められている連邦法には、独占禁止法もある事はあるのだ。事実EFFにはB&T以外の軍需品なんかも納入されている。

が、事TSFやSR機に関してはB&Tが未だにトップを独走している状態なのだ。まぁ、大元の技術の殆どがB&Tで発表され、更にソレが呼び水になって凄まじい速度で技術が発展しているのだ。正直、チート脳を持つ俺でも、一週間目を放せば追いつくのは辛いレベルだ。

 

TSFやSRの兵装なんかは、物によっては殆ど外注だったりもするのだが、基幹技術を抑えたというのは大きかったのだろう。更に実動データの回収のために、積極的に現場に出てきたりもしていて、そんなわけでEFF内でのB&Tの立場は凄まじく強かった。

 

そんなところに、B&Tの重鎮であるアリサが来れば。当然周囲は気を使う。まぁ、それが重鎮に対する気遣いなのか、戦場のアイドルに対する気遣いなのかは知らないが。

 

「あと、デモンベインに関するデータも送っておく」

『了解。大破したって聞いたけど、修復用の資材とかは足りてるの?』

「残念ながら、全く足りない。一応すずかのGZ用のパーツで何とか成らないか試算してみたが、機械よりのGZのパーツと魔術よりのストレイドじゃ具合も悪い。下手にGZのパーツを消耗させるよりは、な」

『ま、ストレイドの予備パーツはコッチで用意させてるし、実戦でのデータで改良も必要みたいだからいいけど……でも、それだとレギオン会戦、如何するの?』

 

そう、其処だ。其処なのだ。

このデモンベイン・ストレイド、万が一に備えて送ってもらった機体では有るが、名目としては現在地球圏に向けて迫るレギオンの軍団、それに対抗するための機体完熟訓練の為になっている。

 

ところが、肝心の機体はレギオンとぶつかる前に、イリスと戦い大破。しかもイリスは撃破ではなく撃退という始末。正直、あそこでイリスを逃してしまったのは痛恨のミスだが、それ以上にレギオン戦を如何するべきか、という問題が残されているのだ。

 

「ストレイドの修復はさすがに間に合わない、か」

『だからと言って、量産機ではアンタの力には耐えられないでしょ?』

 

俺ことメラという存在は、人工的に生み出された半人半プログラムの生体兵器であり、現在はマナ生命体、『人と妖精に近い何か』、『メラという単一種族』だ。

一応人類との高い互換性を備えてはいるが、だからと言って人類かと聞かれれば視線を逸らさざるを得ないレベルの。

 

そんな俺のマナ出力。それは、例えば管理局の次元航行艦、アースラの出力くらいなら軽く上回る。寧ろ生身でアースラと戦っても絶対に負けない、と言うほどの馬鹿出力なのだ。

 

それほどの出力だ。ハードもそれなり以上の堅牢性が必要とされるのだ。物理的にも、魔術的にも。

 

例えば俺が量産型ゼオライマーに乗ったとする。量産型ゼオは魔術適性の低い人間も登場できるようにと、ガイア式は最低限しか使われていない。それは汎用性・量産性においては優れた特徴なのだが、事俺が扱うととんでもない事に成る。

 

まず最初に機体が俺からあふれ出す余剰マナで熱暴走を起こし融解、次いで暴走、後爆発、と言ったところか。

簡単に言えば、『レベルが上がりすぎてヒノキ棒は振っただけで爆散』、といった有様なのだ。

 

『いっそ生身で宇宙戦でもする?』

「……まぁ、最悪の場合それになるんだろうが……」

 

実際、俺は生身で宇宙に出られる。宇宙で生身であれば多少ダメージを喰らうが、その程度。普通の人間のように、水分が飛び出してパーン! なんて事には成らないのだ。

 

……まぁ、それを言ってしまえば現在の真祖覚醒した吸血姫すずかや、真の勇気に目覚めた勇者王アリサも宇宙で普通に生身で過ごせるのだが。

 

――何気に人外率が高いんだよなぁ、EFFって。宇宙と言う環境に適応した人類の新たな姿でしょうか。文字通りの意味でニュータイプか。いや、精神感応能力者も結構出始めてはいるけれども。

 

『パイロットスーツを着てれば最低限は何とか成るし、ホントにやる?』

「いや、その前に一つ手札を切ろうと思う」

 

そう言って、軽くパネルに指を走らせる。

――本当はコレ、真面目に使う気は無かったのだけれども。

 

『……ちょっと、何よコレ』

「……本当はさ、使う気は無かったんだよ。ネームバリューとか凄いし、さすがにコレを使うのはおふざけが過ぎるかな、と」

 

何せ、リアルロボ系といえば先ず最初にコレの名前が出てくる程に有名だ。

ロボット作品、敵の量産型ロボ、宇宙移民者、リアルな戦争。嘗ての業界ではそのどれもが斬新であったのだと言う。

故に、興味が無い人間でも、その姿を見れば少なくとも一言は出てくると言うほどの知名度。多分ソレは日本に限らないのではないだろうか。

 

「いやさ、某ネット掲示板で、『作ってくれ』っていう大量の署名が出回っててだな」

『……あー、ソレアタシも見たかも。装甲機兵だとか歌でデカルチャーな機体も集まってたんでしょ?』

 

そうなのだ。一応装甲機兵は造れなくも無いが、ポジショニングはTSFがあれば十分。コスト的に見送った。

VFはその内作りたいと思っているが、可変機はコストや可変ギミックの安全性を鑑みて未だ暫くは研究期間をとるだろう。SR機にも可変機は存在しているが、魔術的な補助とか高コスト素材でごり押ししているような機体の実動データを量産機に転用なんてとてもではないが利用できない。

話が逸れた。とまぁ、そういう話があり、実際に相当数の署名が集まってしまっていたのだとか。

 

その現状に反応したのが、EFF極東支部。コレはモチベーション的にも作ってみるのはアリではないか、などと、極東(日本)の偉い人が乗り気になってしまったのだ。

 

で、更に某静岡に工場を持つ夢や楽しいときを創るきっかけを創る会社までが乗り気になってしまい、結果として開発部のほうから「ちょっとやってみない?」なんて乗り気な誘いが繰るほどまでに(一部が)加熱してしまっていたのだ。

 

そうした経緯から仕方なしにこれらの機体を開発する事に成ったのだ。まぁ、宇宙戦闘における量産機(TSF)の性能不足なんて問題も提起されていたので、丁度新型の開発時期に来ていた、というのもあり、渡りに船という面もあったのだが。

 

――で、やりすぎた。

 

『ねぇ、一つ聞きたいんだけど』

「なんだ」

『この機体、露出してるフレームが若干赤く光ってるのは何で?』

「それが、作った我々にもわからんのですよ」

『………』

「………」

 

映像データに表示されるソレ。

秘密の格納庫でこっそりと建設されたその一角獣、可能性の獣は、今も何処かで己の出番を静かに待っているのだった。

 

 




■ワープロ製の書置き。
本人確認の取れない書置き。つまり擬装も簡単。

■流石カンサイ人。
原作だと言葉遣いが似非関西弁だったけど。
因みにボケとツッコミをティアナに教えたのは、地球連邦軍ブラジル方面サバイバル・格闘技指南役、徳光 将軍曹。あだ名は『魔術師』。
……このネタ分る人居るんだろうか。

■魔改造
今回に関しては主犯はメラではなくすずか。

■アースラR2
管理局所属L級次元航行艦アースラ、急遽レストアされ前線基地として活用されたそれを、鳳凰院朱雀が個人で購入し、更にレストアした艦。

■デモンベイン・ストレイド
メラの莫大なエネルギーを受け止めうる魔術的触媒としてはかなり良質な代物ではあった。が、デモンベインは人間の為の鬼械神という、某先代死霊秘法の主の言葉もあり、人外に位置するメラとは若干ズレが存在してしまった。
また動力も普通に良い物を積んでいる為、メラでは宝の持ち腐れになるとして、メラの専用機という案からは外されることに。

■某静岡に工場を持つ夢や楽しいときを創るきっかけを創る会社
いつも夢と希望を有難う。

……でもやっぱりageは無い。

■age
sage

■MS
日本で最も有名なロボットのシリーズ。
全長は約20メートル前後と、ほぼTSFと同じ。というか、TSFの技術を流用して開発されている。
但しTSFと違い全天周囲モニターや全身のスラスター、ムバーブルフレームやサイコフレームなどと様々な実験的要素が組み込まれている。
本来は象徴機として開発されたが、作ってみたところ水中型や宇宙戦などの局地型としてはTSFを上回り、結果TSFに並ぶ戦力となる。
因みにVFを作らない理由=可変機構の研究 と言う理由で、Z系の機体は研究中。
原作と違い、宇宙活動の為の小型ディストーションフィールド発生装置を搭載している。


■一角獣/可能性の獣/ターン・ユニコーン/人の意志を無限の可能性に変える
メラが悪乗りのあおりを受けて開発した機体。ガンダムタイプに見えて実はターンタイプ。
TSFのつくりを下敷きに、ムバーブルフレームやサイコフレーム、ナノスキンなんかを試験実装して作られた気体。
気付けばかなりマジモンに近いサイコフレームが出来上がっており、TSFサイズながら出力的にも能力的にもSRに近い機体となった。


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30 別れ

「……え?」

 

向かい合う少女、ティアナ・ランスターの言葉に、言われたスバル・ナカジマが漏らしたのはそんな声だった。

 

「……えっと、如何いうこと?」

「如何いうことも何もそのままで、私はその内管理局から離れるわ」

 

はっきりと。キッパリとそう言い切ったティアナ・ランスター。その少女の言葉には一片の迷いすらなくて。

 

「そ、そんな!? なんで!?」

 

故に、管理局の中から誰かの為を願う少女には、仲の良い友人がそばを離れていくという言葉に思わず戸惑いを抱いてしまって。

 

「理由は――簡単に言うと、管理局に居づらくなってきたから、かしら」

「い、居辛く!? なんでよ、ティアの腕なら管理局の何処にいったって重用されるでしょ!?」

「ソレも原因の遠縁なんだけどね。アンタに言って理解できるかどうか……」

 

そういって肩をすくめるティアナ。スバル・ナカジマは、その脳筋っぽい言動に比較し、実は頭の出来はそれほど悪くは無い。

実際ティアナはスバルと陸士訓練学校での同期であったのだが、そのときの筆記試験では、スバルは常に上位を記録していた。問題は、応用力に欠ける、というところだろうか。

 

「そ、それでも……」

「そうね。相棒のアンタには、ちゃんと話しておこうと思ったから、今こうして話しているのよ」

「……」

 

目を瞑って、何かを考えながら語るティアナのそんな様子に、何かを察したのか黙り込むスバル。

 

「簡単に言うと、私のお師匠様。その人にちょっと問題があってね。その人の関係者って事が明らかになってる私は、今管理局中から注目されてるのよ」

「注目?」

「そう。……例えば、訓練に行って帰ってきたら、毎日部屋があらされてる程度の注目ね」

 

下手に独りきりになれば、何時何処で誘拐されるかも分らないわ、なんて笑って言うティアナに、スバルは思わず顔色を青褪めさせる。

 

「そ、そんな……そうだ! なのはさんに相談すれば!!」

「馬鹿言うんじゃないわよ。相手は管理局よ? 幾らエースなんて呼ばれてたって、所詮その雇われ尖兵でしかない高町空尉に何が出来るのよ。寧ろあの人に相談なんかしたら、下手に出張って無駄に巻き込まれるわよ?」

「な、なのはさんは」

「ええ、知ってるわよ。正義感が強くて、困ってる人に手を差し伸べる。例え自分の許容量を超えていようと、ね?」

「…………」

 

黙り込むスバルに、思わず苦笑するティアナ。思えばスバルも物分りがよくなったものだ、なんて考えて。

嘗てティアナと出会ったばかりの頃のスバルと言えば、熱意と理想に向かって邁進する猪娘であった。だがティアナと出会い、その皮肉屋で面倒見のいい彼女と付き合う内に、少しだけ冷静な、広い視点というモノを身につけることに成功していた。

 

そんなスバルだからこそ分る事がある。それは、ティアナの予想が決して的外れな物ではないであろう、という事。

 

「スバル、アンタも知ってるでしょ? 確かにこの世界、必死になっていい世界にしようとしてる人達は居る。けれども、世界っていうのは善だけで回ってるわけじゃないの」

 

それはスバルの存在を鑑みれば事実以外の何者でもない。

戦闘機人。人と戦う為に、生命を解析して生み出された兵器。今でこそ人のためにというスバルの願いから動いているが、本来は人を倒し制圧し最悪殺す為の技術であった筈のそれ。

 

そんなものが存在している時点で、世界はただただ綺麗である、なんて事はとてもではないがいえない。

 

「……なら、フェイト隊長は? 八神部隊長もダメなの?」

「両方ともそれほどかわんないわよ。執務官といえ根っこの情報は管理局中枢が抑えてるし、たかが一部隊長に何が出来るってわけでも無いでしょ」

 

事実、フェイト・テスタロッサがジェイル・スカリエッティの逮捕に相当な時間を要した事を鑑みれば、執務官単体の捜査能力というのもたかが知れている。

 

本来管理局と言う中枢が、執務官と言う捜査員に対して適宜必要な情報を供給する事で、迅速且つ的確な捜査活動が可能となるのが執務官。執務官を中心としたクラスタ活動こそが最大の強みなのだ。

 

ところがJS事件に関しては、その肝心の管理局中枢が情報隠匿の側に回った。途端重要な情報の往来は停滞し、情報の往来は縦ではなく横のつながりからの物が中心となった。

 

確かに横のつながりも重要ではあるが、組織と言うものの基本は縦のつながりなのだ。

 

「まぁ、そんな事情で今の管理局は私にとってちょっと拙い状況にあるのよ」

 

具体的なことは何一つ言わず、ただ今の管理局に居るのは拙いというティアナ。だが然し、これもティアナから見れば随分と妥協した結果であり、しなくてもいい危険を冒しているのだ。

 

何せティアナの部屋にはいつの間にか大量の監視装置が仕掛けられていた。それがこの機動六課内部に設置されていないなど、如何すればそんな危機感の無い事が言えようか。

事情を説明する事も、まして管理局から逃げるようにして離れるという事も、下手に知られるよりは、誰にも知られないうちに静かに消え去っていると言うのが最良なのだ。

 

――けれども。ティアナには。少なくとも今の彼女には、“相棒”である彼女を捨て置いて、ただ一人何も言わずに逃げ帰るという選択肢はありえないものであった。

 

せめて別れを。メラに言わせれば妙なところで頑固なティアナは、不自然の無い程度に機動六課隊舎の一部、人の来ない場所に、各種監視装置を無効化した上でスバルを誘い込み、こうして事を告げるにまでこぎつけたのだ。

 

「そんな、でもっ!!」

「ごねるな、馬鹿。――大丈夫よ。私はいわば地元に帰るだけなんだし」

「お兄さんの名誉挽回を目指すっていうのは、もういいの?」

「スバルの癖に痛い所突くわね。いいのよ。別に管理局の腐敗政治家共に認められなくても、ランスターの弾丸を認めてくれる人たちはちゃんと居るんだから」

 

――少なくとも、アンタは私の魔法、認めてくれるでしょ?

 

そう微笑むティアナに、泣きそうな表情のままのスバルは、けれども確りと頷いて。

 

「ならいいのよ。それよりも、私は管理局を抜けるからいいとして、問題はアンタよ」

「わたし?」

 

キョトンと首を傾げるスバル。そんなスバルに、ティアナは懐から小さな記憶媒体を取り出し、スバルへ向けて手渡した。

 

「なにこれ?」

「あんまり表に出せないデータ。管理局とは関係ないオフラインの端末でチェックしなさい。最悪、アテンザ技官を頼るのもいいわ」

「え、うん、わかったけど……」

「管理局は現在戦力不足。更にギーオスの出現によって魔導師が戦力として見込めなくなってるのよ。そんな状況でも、戦力として運用できて、更に実戦証明が出来ている。何か分る?」

 

そのティアナの言葉にスバルの顔からさっと血の気が引いていく。

思い浮かぶのは先日のJS事件。スカリエッティにより運用された、少数にして管理局地上本部を陥落寸前まで追い詰めたあの戦力。そしてスバル本人にも共通する、ある技術。

 

「戦闘機人――っ!?」

「そう。まぁ、それだけとは限らないんだけど……少なくとも、管理局内部に所属してるあんたとギンガさんは危ないわ。身の回りに確り気をつけときなさい」

 

そう言ったティアナは、ふと視線を腕元の簡易端末に向ける。

 

「さて、話はこんな所ね。そろそろ安全な時間も超えるし――スバル。アンタはアンタでガンバんなさい」

そういって踵を返すティアナの背中に、思わず、といった様子で手を伸ばすスバル。けれどもスバルはその腕を自らの意志で引き戻した。

「……う、ん。ティアナも、頑張ってね!」

 

少しだけかすれた声で、けれども何時も通りの笑顔を浮かべて、ティアナに向けて声を放つ。

そんなスバルにティアナは少しだけ驚いたように振り返り、けれども小さく苦笑を浮かべて、手を振ってその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

そうしてその日の午後。辞表と書置きを残し、ティアナが管理局から姿を消した事で一つ騒動が起こるのだが、その中で最も騒ぎそうなスバルは、何故か一人一番落ち着いた姿を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

 

そんなわけでティアナを回収しつつ、大急ぎで地球へと戻ってきた俺達。

月衛星軌道上のドッグにウルC4を格納しつつ、地上から運び上げられてきているであろうソレを受け取る為、月面へ向けてランチで移動する。

 

因みに転移系術式はマナ粒子による相互干渉だとか座標のズレだとか色々な問題から、出来る限り乱用は控えることになっている。

 

極論で簡単に言えば、誰だって『かべのなかにいる』状態にはなりたくないのだ。

閑話休題。

 

「メラ、すずかっ!!」

 

ランチで月の港へと降り立った途端、不意に港の向こうから声が掛けられた。

視線を向ければ其処には、輝く笑顔の金髪美女が一人、此方に向けて駆け寄ってきていて。

 

「アリサちゃん!!」

 

と、途端駆け寄る女性――アリサに向けてすずかも駆け出す。

互いに、地味に超人的な身体能力を持っている二人は、一瞬で距離をつめるとガシィッ!! と格ゲーの効果音のような音を立てながら互いに抱擁し合った。

 

「このーっ!! 久しぶりじゃないのっ!! 元気してたの!!」

「うんっ! アリサちゃんも元気そうでよかったよ~!」

 

互いに頻繁、とはいえないが、それでも間々連絡を取り合っていただろう、なんて突っ込みが無粋なのは俺でも分っているので言わない。

 

「メラ! アンタも久しぶりッ!!」

「――うん、久しぶり、アリサ」

 

そういって抱きついてくるアリサに抱擁を返しつつ、苦笑する。

 

「まぁ、何でアリサが(開戦間際の)此処に居るんだ、とか、もうそういう突っ込みはしないけど」

「そういいつつ確りと声にだして言う辺り、アンタらしいわよね」

 

ニコニコと微笑むアリサに苦笑しつつ、とりあえず話をするならもう少し落ち着ける場所に移動しようと提案する。

 

「それなら近場でいい場所を知ってるわよ。案内するわ」

「ちょ、アリサ」

 

そういって俺の腕に組み付いてくるアリサ。如何した物かとうろたえていると、不意に反対側の腕に掛かる重みを感じて。

 

「……すずか?」

「アリサちゃんは久々だし、私は認めてるんだよ? 認めてるんだけど……」

 

そういいながら俺の腕に抱きついてくるすずか。恥ずかしそうに腕に抱きつくすずかと、ニコニコと笑顔で抱きついてくるアリサ。

 

――甲斐性云々を脇において置くならば、正直、天国です。

 

「あー、あの、アリサさん?」

「あら、ティアナじゃない。久しぶりね」

「ええ、お久しぶりです」

 

と、不意に背後から声が掛かる。ぐるっと背後に振り返れば、其処には若干呆れたような視線のティアナとアギト、その背後に隠れるように立つイクスの姿があった。

 

「アギトも久しぶり。そっちの子は……あぁ、例の子ね」

「ええ。イクスです。イクス、この人は……メラさんの第二婦人よ」

「ちょ、おま」

 

文句があるなら鏡を見ろ、とでも言いたげな、ジトーッとした表情のティアナに、思わず口ごもる。

 

「あら!」

 

そして嬉しそうにするアリサ。若干反応に困る。

 

「はじめましてイクス。私はアリサ。アリサ・バニングスよ。EFFの名誉中将で、B&Tの偉い人をやってるわ」

「えと……はじめまして、イクスヴェリア……イクスです。よろしくお願いします」

 

もじもじとティアナの背後から挨拶するイクス。地球に戻るまでの間に、ティアナとイクス、アギトの三人は大分仲良くなったらしい。

俺にしてみればティアナも、弟子と言うよりは娘とか妹といった感覚に近かったので、身内同士仲良くなってくれたのはとても嬉しかったり。

で、そんないじらしい姿のイクスに、何気に可愛い物好きのアリサはその感覚をしっかり刺激されたらしく、俺の腕から離れ、バッとイクスを抱き上げていた。

 

「きゃー! 何この可愛らしい生物ッ!!」

「え、あ、ええっ!?」

 

キャーキャー言いながらイクスを抱きしめるアリサと、そんなアリサのテンションに困惑しつつも何処か嬉しそうに照れているイクス。あの積極性はすずかには無いアリサ独自の持ち味だろうなぁ、なんて考えつつ。

 

じゃれあう二人を眺めながら、ふと視界に入った苦笑気味のティアナ。

 

「そういえばティアナは、アリサに何か用があったのか?」

 

ふと、先程アリサに声を掛けていたティアナの姿を思い出す。アリサがイクスに反応した為、其方に話題がずれたのだが。

 

「あー、いえ、ただ、話をするなら先に移動したらどうですかって言おうと思っただけで……」

「……余計話が逸れちゃった、と」

「……です」

 

まぁ、普段のアリサなら寧ろ彼女がリーダーシップをとってまとめ役になるのだが、どうも今日の彼女はテンションが高いらしく、若干落ち着きが無い様に感じる。

自意識過剰かも知れないが、久々に俺達と顔を会わせてテンションが上がってる、といったところだろうか。

 

「アリサさんですから、すぐに落ち着くと思うんですけど」

「確かに、一頻りはしゃいだらいつものツンデレ一号に戻るんだろうけど」

「……ツッコミませんよ?」

「何がだいツンデレ二号」

「ツンデレじゃないっ!!」

 

などなど。端で腹を抱えて悶絶するアギトと、俺の腕を抱えてニコニコしているすずかに、イクスとじゃれるアリサ。

相変らずなティアナとじゃれながら、漸く移動を開始したのは実に半時程の時間が過ぎた後の事だった。

 

 

 

 

 




■相棒のアンタには、ちゃんと話しておこうと思ったから
要するにデレである。

■超人的な身体能力を持っている二人
方や吸血姫、方や勇者王。型月脳で考えれば、ガイアとアラヤ。

■ツンデレ一号 ツンデレ二号
最早語るに及ばず。


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31 地球へ

Side Nanoha

 

 

「ティアナが出て行った!!??」

 

はやてちゃんのその言葉に、機動六課のブリーフィングルームに衝撃が走った。

……というか、驚いた護クンの声でブリーフィングルームに衝撃波が走ったみたいなの。エリオなんか椅子から至近距離だった分椅子から転げ落ちちゃってるの。

 

「そ、それって如何いう」

「んー、まぁ、言うた通りの意味で、ティアナは機動六課、っちゅうか管理局を離れたっちゅうこっちゃ」

「だから、なんで!?」

「ちょっと、護くん落ち着いて!」

 

勇んで椅子から立ち上がる護くんにそう声を掛けて宥める。護くんって基本的に直情的だから、すぐに興奮するんだよね。

 

「(それ、なのはが言えた事じゃない)」

「何か言ったフェイトちゃん」

「ううんなにも」

 

何かフェイトちゃんが言ったような気がして声を掛けたのだけど、フェイトちゃんはニコリと否定して。うん?

取り合えず護くんが落ち着いたのを確認して、はやてちゃんに再び話を進めてもらうように視線を送る。

 

「さて、ティアナが六課を離れた事に関してやけど……ぶっちゃけると、管理局に対する不審から、っちゅうのが一つ」

「管理局に対する不審?」

「次元世界を守るっちゅうお題目を掲げてたくせに、実際やっとったんはスカリエッティみたいな研究者を抱えて裏であくどい事やっとったりしたやろ」

 

まぁ、それは確かに。管理局はその、次元世界全体の平和と安定を司るとした組織だ。その組織が実は裏で色々悪い事をしてました、だなんていわれれば、ソレは当然信用ががた落ちするとは思う。

 

「……けど、それだけじゃないよね? それだけの事情なら、よりにもよって今管理局を離れる事なんて認められる筈ないよ」

「フェイトちゃん……」

「如何いうことですか?」

「今、管理局は先のJS事件で揺らいでるんだ。常でさえ人材不足な今、ティアナほどの戦力をそう簡単に手放せないだろう?」

 

そうなのだ。ティアナの戦力は、リミッター付きとはいえシグナムさんにも匹敵するほどの物だ。ただでさえ最高評議会の一件で地下勢力が勢いづきそうな今の状況で、ティアナ見たいに優秀な子が簡単に管理局を辞められるとは到底思えないのだけれども。

 

「んー、まぁ、辞表を残して姿晦ました、っちゅうんが正しいから、正直辞表を受け入れざるを得ないってだけなんやけどな」

「――それって、もしかしてティアナが誘拐されたかも知れなってこと!?」

 

ふと思い浮かんだ考えに、背筋に冷たいものが走った。もしかしたら、辞表を擬装してティアナを誘拐することで痕跡を消そうとしているのではないか、なんて。

 

「いや、それはない。……と、いうか、そうならん為に姿を消したっちゅうか」

「――如何いうことだ?」

 

ソレまで黙って静かに話を聞いていた朱雀君が、首を傾げて問い掛ける。

 

「んー……ほら、ティアナ、例の地球の連中に伝手があるっちゅうのはしっとるやろ?」

「らしいな」

「ソレをうち等が上に報告してもうたんやけど……どうも上が、ティアナの身の回りをさぐっとったみたいでな」

 

そういってはやてちゃんがディスプレイに何かのデータを投影する。

其処に映し出されていたのは、見覚えの無い、けれども機動六課の内部だと分る一室の映像。其処に映し出されているのは、目元を隠した管理局の制服に身を包んだ男性の姿。

男性はその部屋の中を物色すると、部屋の中に何等かの術式を設置して、そのままその映像の枠の中から姿を消していった。

 

「コレはな、ティアナの部屋の中にティアナ本人が仕掛けた隠しカメラの映像や」

「……如何見てもコレ、ティアナ本人じゃないよな?」

「せや。ティアナは多分、管理局の特別査察官か情報部の人間やないか、っちゅーとったよ」

 

特別査察官っていうと、アコース査察官みたいな、独自で行動する調査員の事、かな?

でも、だとしたら何でティアナのことを?

 

「そこでさっきの話に戻るんや……ほら、うちらがティアナが地球にコネがあるっちゅう事を話したやろ?」

「え、うん」

「どうもソレが上――特にリンディーさんの派閥に関係ない所に洩れて、その事に上が過敏に反応してしもたみたいで……」

 

この間もブリーフィングルームでモロにその事を話してしもたから、余計にそういう黒い部類の連中が出入りするようになってしもた……なんて、はやてちゃんは笑いながら言い放った。若干引き攣った口元で。

 

「如何言う、こと?」

「如何いうことも糞も、上はティアナを地球のスパイやと疑っとるみたいやね」

「そんなっ!?」

 

思わず声を上げてしまう。ティアは、確かにちょっとおっかないし、私の事名前で呼んでくれない堅い子だし、っていうかなんであの戦闘能力で陸戦Bなんだろうかというか、空戦もこなして空戦AAA+と拮抗する陸戦Bっておかしいだろうとか、寧ろなんであれが一般局員なんだろうとか、あの子を出世させるだけで管理局の情勢は大分楽に成るんじゃないだろうかとか、色々思うところはあるが、基本的にはいい子なのだ。基本的には。

 

「(なのはもOHANASIするけど、基本的にはいい子だよね)」

「何か言ったフェイトちゃん」

「ううん何も」

 

首を振るフェイトちゃんから視線を外し、はやてちゃんに視線を戻す。

 

「まぁ、ただでさえJS事件で体力をごっそり抉られた管理局や。其処にギーオス変異体の一件も重なって、その解決策になりえる地球の情報に関しては、例えグレーでも根掘り葉掘りしとった、っちゅう所やろうな」

「そんな……」

「まぁ、管理局ならやるだろうなぁ」

 

ぼそり、と。不意に誰かがそんな事場を漏らした。思わず伏せていた顔を上げると、其処には何処か物鬱気な表情の朱雀君がいて。

 

「それ、如何いうこと?」

「管理局が本気で真っ白な組織だとでも? もしそうなら、スバル嬢の母君は未だ現役だっただろうし、ウチの会社から献金って名前で大量の裏金が管理局に流れる、なんて事も無かったろうに」

「う、裏金!?」

「……大体の企業はやってるんだよ。というか、それをしないと営業権は中々認められないし、そうやってでも金を集めなきゃ、現行の管理局体制の維持なんて到底不可能だろう?」

 

そう言って朱雀君は、少しだけ話をしてくれた。

拡大しすぎた管理領域、収入源が被保護地域からの献金に頼る物である事。上昇するテロ・犯罪に対する装備の質の向上と、それに比例して増大する装備の費用。

更に少ない資金を如何にかする為に海にばかり力を入れ、結果空白化する地上の守りと、それゆえに更に悪化する地上の治安。

 

まさにドツボとしか言い様の無い管理局の状況は、武力ではなく政治的に解決しなければどうしようもないのだ、と。

 

「……話が逸れたな。で、ティアナはそんな管理局の不穏な気配を察知して、一足先に管理局から手を引いた、と?」

「正にそんな感じやな」

 

疲れたように答えるはやてちゃん。うん、まぁ、私だって管理局が絶対的な正義だとは思ってはいない。それでも、少なくとも現場には、秩序と安定の理念を持って行動する人間は居たのだ。そう信じている。

 

「まぁ、ティアナのことはええねん。ブッチャケ一足先に安全な場所に逃げたっちゅうだけやしな……いや、悪意はあらへんよ?」

 

逃げた、と言う言い方に思わず視線に力が篭ってしまったのだろう。はやてちゃんはすぐにそういって手を振った。

 

「ティアナは無事。これは問題無いねん。問題はやね、うちらが地球にコンタクトを取るための伝手が無くなってしもた、って話やねん」

「あ、そういえば、地球に行くんだっけ?」

「せや。一応ティアナが六課を辞める前にコンタクトを取ってもろたんやけど、残念ながら連絡がつかへんかったらしい」

 

だからはやてちゃんは頭を抱えているんだ。

現在の地球は、何等かの現象によって、次元空間からの転移が不可能な状況になっている。

 

機動六課に下された命令は、そんな状況下で、如何にかして地球に潜入し、反応のあったロストロギアを回収する、と言うもの。

 

けれどもロストロギアの回収と言うのは名目で、本当の目的は地球の現状を確認してくる事なのだそうだ。

 

本来地球への道は現在断絶してしまっている筈なのだが、けれども先のすずかちゃん――地球から来た船の存在から、現在でも何等かの手段で往来が可能なのではないか、という話が出てきたらしい。

 

故に、その往来手段を探るのも、今回の任務の一つになってしまっているのだ。

 

「そんなわけで、うちらの任務は、先ず地球への潜入手段の模索から始める事になる。具体的に言うとくと、地球周辺の次元世界にアースラ、前衛拠点を置いて、何とか地球への道を探るっちゅう、まぁ中々アナログな方法をするわけやな」

 

そういって言葉を区切るはやてちゃん。

アナログな方法――前の会議で幾つか提案されていた、地球周辺の次元世界からの転移魔法による移動。

 

実際に次元世界から地球を観測して見なければ分らないが、現在の地球には次元世界からの航行を阻害する何かがあるらしい。アースラにそれらを計測する機材を詰んで、それを計測する事ができれば、もしかすれば地球に行く事ができるかもしれない、らしい。

 

はやてちゃんは「コスト削減」の為にティアナの伝手が使えればいい、なんていってたけど、あれは機材の借り出して続きがめんどくさかっただけだと思う。コスト削減なんて言葉から一番縁遠い、管理局地上部隊、機動六課です。

 

「と、まぁ土壇場でちょっと変更があったけど、予定通り管理外世界97番、地球へ向けて移動を開始しよと思う。各員、準備はええな?」

「「「「「「「「「「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「それじゃぁ、機動六課、地球へ向かって出発するでー!」

 

そんなはやてちゃんの号令と共に、レストアされたアースラ――アースラR2が次元世界へと転移する。

目指すは故郷、地球。

 

「――おかあさん」

「なのは……(鬼の霍乱だね)」

「何か言ったフェイトちゃん」

「ううん何も(キリッ)」

 

久しぶりに帰ることになる地球。海鳴の母の姿を想い、かの地へと思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

 

「――ハッ」

「うん? 如何かしたのかい桃子さん?」

「あ、ううん、なんだか、久しぶりになのはが帰ってくるような気がしたから……」

「なのはが? でも、なのはは管理局に居るんだろう? 次元障壁が展開されている今、地球連邦政府か、地球連邦軍関係者以外の往来は……」

「それはそうなんだけれど……でも、ふと思ったのよ」

「そうか。桃子さんがそういうなら、案外本当にひょっこり帰ってくるのかもしれないね」

「そうかしら? なら、美味しいシュークリームを焼いて待ってないとね!」

「はっはっは! ならボクは取って置きのコーヒー豆を用意しないとね!」

 

朗らかに笑い、桃子の腰に腕を回す士郎と、そんな士郎とにこやかに笑いあう桃子。

未だに外見年齢が20代半ば、下手をすれば20代前半と言われる海鳴の伝説のおしどり夫婦、彼らの経営する喫茶翠屋は、何時も通り平常運転であった。

 

 

 

 

Side Mera

 

 

 

「そういえば、なのは達が帰ってくるんだっけ?」

 

不意にアリサが言い放った言葉に、思わずコーヒーに伸ばしていた手の動きが一瞬止まる。

 

「ええ。というか、メラさんたちがミッドで大暴れしてくれましたので。管理局が地球の技術に興味を持って、その尖兵として高町空尉含む機動六課を送り込もうとしている、と言うのが正しいんですが……」

「地球の技術、ねぇ? 管理局って、なんだかSF小説の銀河連邦みたいなイメージがあるんだけど……」

「あはは、いいとこ頑張って土地の支配を維持しようとしてるペルシャの王様じゃないかな?」

 

ニコニコ笑いながらそんな事を言い放つすずか。何気に毒が強いが――成程、次元航行艦隊は目と耳か。

 

「そこんとこ、実際管理局で働いてたティアナは如何思うの?」

 

「管理局ですか? まぁ、治安維持組織――地上部隊に関してはうまく機能してたんじゃないでしょうか。問題は遺失物探索と、司法機関、政治機能、でしょうか」

「政治機能と司法機関? 何、管理局って三権分立してないの?」

 

驚いたようにそういうアリサ。日本人としては三権分立は割と当たり前な物なのだろうが、まぁ別に無いところには無い物だと思う。

 

「管理局の前身たる組織は100年ちょっと前のロストロギアによる大災害の折に組織された代物だ。政府どころか国すら崩壊した最中の緊急統治機構として結成されたソレの統治機構をそのまま受け継いでいたんだ。まぁ、政治的に拙い部分があるのは仕方ないんじゃないか?」

「はー……次元航行艦にやら魔法なんてぶっ飛んだ技術を持ってるんだから、あたしはてっきり宇宙ステーションの周りをランチが飛び交うSFな光景を想像してたんだけど」

「まさか。管理局は宇宙進出よりも次元世界進出を勧めてます。SF的な光景というと、寧ろ地球の事でしょう?」

「あー……ええ、確かに最近の地球はそんな感じね」

「地球衛星軌道上の全てのL点、同時に月のL点に建設されている地球圏絶対防衛網と、月に建設されている月面都市。嘗てのベルカの時代、これは架空どころか夢物語でも想像は出来なかったでしょう」

 

チラリと見れば、膝の上で渡されたPDA、そこに移される視覚化情報を見て驚いた表情のイクスが呆然とそんな事を呟いていた。可愛い。

イクスの頭を撫でつつ、一声かけてPDAをささっと操作。とある情報を引き出し、それをイクスに見せてやる。

 

「コレなんかも中々凄いぞ。地球圏絶対防網旗艦、エリュシオン。同型にニライカナイ、アヴァロン、ティルナノーグ、って続く超超大型艦」

 

そういって映し出す、白亜の巨艦。暗い宇宙の中で薄らと白く輝くその巨体は、巨大な宇宙基地に比べれば豆粒程しかない他の宇宙船に比べ頭一つ以上に飛びぬけてその威容を誇っていた。

 

「す、すご……」

「(呆然)」

「あら? そういえばティアナも知らなかったわね。アレが地球圏絶対防衛網の『象徴』、エリュシオン級よ」

 

此方の見ている映像データを引っ張ったのだろう。映し出される映像に、ティアナが呆然とそれを眺めていた。

因みにこのエリュシオン級、ブッチャケると『トップ』の『ヱルトリウム級』である。人工素粒子で構成されており、人工的に反物質を創ってぶつけデモしない限り壊れない、という点まで見事にパチっている。

 

次元航行に虚数空間での航行まで可能。内部はアーコロジー型で、戦闘さえなければ延々自給自足が可能。更には短距離長距離のワープすらこなすというトンデモ艦である。寧ろ変形しない新マクロス級でもいい。

 

……さすがに変形は無理だった。パーツの磨耗とか、メンテナンスの事なんかを考えると。マクロスもやりたかったんだけど。

 

「こっ、これは……ゆりかごよりも大きい?」

「ゆりかご? あんな儀礼艦と比較されても困るわね!」

「儀礼艦?」

「データを見たけど、アレって王族の乗る船なんでしょ? 王族の船を前線に出すワケはないし、戦艦に凝った内装する意味も分らないし。あれが儀礼艦じゃないって言うなら、ベルカってのは相当頭がおかしかったのね」

 

アリサの毒。どうもアリサは戦艦の建造にかなり食い込んでいるらしく、すっかり大鑑巨砲主義の魅力に取り付かれてしまっているらしい。近頃ではSR用のドーバーガンを開発しているとか。誰得だ、本当に。

 

「成程、確かにあの艦はそういう意味では儀礼艦ですね」

「そうでしょ。そもそも『次元戦闘可能』で『月の魔力があれば無敵』って意味分らないわよ。その点、このエリュシオン級はストレートに無敵よ!」

 

星の数ほどの超高出力レーザーは一発一発が小型のギーオスくらいを一撃で消し飛ばす威力。光子ミサイルは重力崩壊を引き起こすブラックホール兵器。最強兵器相転移砲は洒落にならないのでめったに使う機会は無いだろう。

 

相転移エンジンやら縮退炉やら、超高出力エンジンを多数搭載し、更にアルハザードの技術を完全に取り込み、更に発展させて建造されたこの艦。

正直、俺がウルC4フル装備で挑んでも勝てるとは思えない、そんな存在だ。……いや、スニーキングミッションで挑め、とか言われれば、手が無いでもないのだが。少なくとも正面からは無理だ。負けないけど、勝てない。

 

「アリサさん、話が逸れてますよ」

 

と、そんな事を話していると、不意に横――キャロからツッコミが入った。

 

「おっと。そういえば、何を話してたんだったかしら?」

「なのはちゃんたちが帰ってくる、って事だよ」

「そうそう。――で、如何するの?」

「如何する、とは?」

 

此方に向けて問い掛けてきたアリサに、思わず首を傾げてしまう。魔王――高町なのはたちがこの地球に――帰れるかどうかは別として――帰ってくることが、俺に如何関係するのだろうか?

 

「例えば、帰ってこさせるのか、こさせないのか。接触するなら、これを公式な物としてしまうのか、それとも非公式な物にしておくのか。公式なら管理局と如何いう付き合いをしていくのか、とか」

「知らんよ」

「知らんって、あんたねぇ」

 

呆れたような様子のアリサ。けれども、実際、そういった政治的な話は俺の知ったことではないのだ。

 

「だって、そうだろう? 俺はあくまで情報を届けただけで、確かにB&Tに色々設計書を送り付けてはいるけれども、あれは半分以上趣味だ。軍役もしてるけど、これは生活上の必要に駆られて」

「私がやしなうのに」

「ヒモはイヤ」

「なら私が二人とも養うわよ?」

「それもヒモでしょうが。イヤだって。じゃなくて、そういう事は、俺じゃなくて地球連邦政府の偉い人たちが政治的対応をするだろ」

 

実際、俺の知った話ではないのだ。色々設計したり教導したり戦ったりはしているが、俺は政治家ではない。情報は送るが、如何使うかまでは知ったことではないのだ。

 

万が一今の政治がイヤになったのであれば、身内だけつれて何処かの辺境の世界にでも渡ればいい、なんて考えている。

 

「第一、この後は艦隊と一緒に迎撃地点へ移動して、レギオンの群の迎撃なんだろう? 俺達が対応する暇なんてないだろう」

「ま、それもそうなんだけど――って、何か私まで同じグループにしてない?」

「お前、放っておくと何処に行くか分らん。から、お前のところの連中に伝えて、ウチで預かる事にした」

 

実際、コイツは軍人ではないのに前線に出てくる。しかも軍人ではないから軍からの命令を聞く必要は無いし、その上名誉中将の階級まで持っている。

いろいろな意味で押さえの利かないこの娘。ならばいっそ俺の周囲に置いてしまえば、少なくとも仲間のいう事くらいは聞いてくれる。

 

「ちょ、勝手な……ま、まぁ、いいけど」

「やった! 一緒だよアリサちゃん!(アリサちゃんつんでれ~)」

「(あれが元祖ツンデレですか。参考になります)」

「(イクスちゃんはクーデレだよね)」

「(……キャロさんは天然と聞きます)」

「(!!??)」

「(ツンデレキャラはアリサさんで、私はツンデレじゃない私はツンデレじゃない私はツンデレじゃない)」

「にししし、んじゃ、次元世界の話は全部政府に投げて、アタシらはレギオンに専念ってことで」

 

と、何故か最後にアギトの言葉によって纏められてしまった。

 

 

 

 

 

「……と、そろそろ時間か。ティアナ、そろそろ正気に戻れ」

「私はツンデレじゃない私はツンデレじゃ――ハッ!?」

 

何かブツブツ呟いていたティアナに軽くチョップを入れて正気に引き返す。ティアナはツンデレだろうに。

 

「え、ええと、如何しましたか?」

「今から俺の機体の完熟訓練に行くんだが、ティアナにも新型を支給するから、それの訓練をやっておいて欲しいと思ってな」

「新型、ですか? でも、私には……」

「お前が武御雷を使ってた時からどれだけ経ったと思ってるんだ。第一、TSFよりもSRのが生存率は高い」

「はぁ……って、SRを受領するんですか!?」

 

驚いたようなティアナ。だが然し、ティアナの腕前はミッドに行って少し鈍ったとはいえ、それでも俺や恭也が直々に教導を行なった所為で現役でトップクラス。突き抜けた特徴こそ無いが、ソロプレイには最適な万能機。それがティアナなのだ。

そんなティアナを、TSFで遊ばせる? とてもではないがティアナほどの戦力を遊ばせていられる余裕は無い。

 

「と言うわけで、これを支給するから、乗れるようになっておくこと」

「は、はい。……って、これは!?」

ティアナに渡した資料。それは、デモンベイン・ストレイドに関する資料だ。

中破大破して修復には時間が掛かるだろうと思われていたソレ。だが然し、驚いた事に修理はあっという間に完了してしまったのだ。

どうもC4内でオートマトンが自動修復していた事に加え、必要物資や入れ替えパーツなんかのデータを既に本陣に送信していたらしく、パーツを付け替えるだけであっという間に修復を完了させてしまったのだ。

 

「な、なら、メラさんが使えば……」

「いや、実は俺、この機体との相性は微妙に悪くてな」

 

何せ、この機体は『デモンベイン』なのだ。デモンベインとは、『人間の為の機体』なのだから。

俺と相性が悪いのは仕方のないことなのだ。というか、相性の悪さが若干程度しかない事のほうが驚きではあるのだが。

 

「で、俺はターンユニコーンに乗り換えたわけだ。だが、だからって眠らせておくにはコイツの性能は勿体無さ過ぎる」

「そこで、私、と」

「そういうわけだ。何せ今搭乗機が決まっていない凄腕のパイロットと言えば、ティアナくらいしかいなくてな」

「す、凄腕って」

 

そういって若干照れるティアナ。そんなティアナもまたかわいらしいのだ。

因みにウチのティアナは「私なんて凡人です」的な事は絶対にいえない。何せティアナは、凡人では絶対に耐えられないような俺と恭也の試練を見事に乗り切っているのだから。コレで自分を凡人と卑下するようなら、恭也と俺の二人に追われるデッドレースを三週だろう。

 

「と、言うわけで、ティアナにはストレイドの習熟訓練をやってもらうわけだが、……ついでに俺のアグレッサーもやってもらう」

「ちょ!?」

「なに、俺もユニコーンは手をつけ始めたばかりだし、互いに初心者だ。大丈夫だ、問題ない」

「やめて! それフラグですって!!」

 

キャーキャー言って暴れるティアナを引き摺り、機体の納められている格納庫へと移動を開始した。

 

ふ、ふふふ。ミッドでの醜態、俺が知らないとでも思っているのだろうか。ついでだから鈍ってる分も鍛えなおしてしまおうではないか。

生憎恭也はドイツでしのぶ嬢とイチャイチャ子育て生活中だろうから呼び出すのは無理だろうが、EFFの訓練生1000人くらいを呼び出せば恭也の代理くらいにはなるだろう。

 

「無理無理無理無理ッ!! 無理ですって!!!!」

「気合だ。世の中は大抵気合でなんとかなる」

「そりゃどこの熱血世界の話ですかっ!!」

 

そんな事を言いつつ、ティアナを引き連れ、機体の納められている格納庫目指して真直ぐに移動していくのだった。

 




■うちの三人娘
実は魔法信仰に一番染まっているのがはやて。なのはが管理局入りしたのは、人を助けたいと言う欲求と、現実的な経済性から。フェイトはなのはに助けられた事でなのはを親友とは認識しているものの、SLBのトラウマとその後の経験から変な方向にスレていい性格になっている。
作者がアンチしているのは、あくまで管理局世界の未成年を戦場に送り出したりすることをよしとする法制度。もしくは極端な思想教育に関して。とはいえ、あくまでも日本人規準の思考では受け入れ難い、と言うだけで、他所は他所。

■アースラR2
アースラをレストアした艦。
アースラは長期間の活動により廃艦が決定していたが、JS事件の折急遽隊舎を失った機動六課の前線基地としての再びの就役が決定した。
本作では更にギーオス事件、及び地球調査任務のためにアースラの利用が継続される事となった。
廃艦寸前のアースラを鳳凰院が個人資産で買い取りレストア。次元航行艦としては最新式の物になっている。外見が同じだけで中身はほぼ別物という有様。
当然アルカンシェルなどは搭載していないが、機関をフル稼働させてチャージしたエネルギーを全開放することで次元跳躍砲を発射する事が可能。連射は不可能。

■エリュシオン級
地球圏絶対防衛網旗艦。全長72キロの超巨大航行艦。
次元航行、虚数航行、ショートもロングもこなすワープ搭載と凄まじく多機能な万能航行母艦。
ブッチャケるとモデルは『トップをねらえ』から『ヱルトリウム』。
但しエーテル宇宙ではない点や、ワープに伴う時間変動などの点が異なる。
タキオンまで操るトンデモ戦艦な上に、人工生成した単一素粒子により組み立てられており、物理的に破壊するには人工的に反物質を精製―相殺させるしかない。
仮想敵としてアルカンシェルを搭載したXV級次元航行『艦隊』をも想定しており、例えアルカンシェルが連発で直撃しようと耐えられるスタミナを持つ。しかも戦闘出力次元断層フィールドを展開可能で、これはいわば究極の魔体のあのバリアの完全版。攻撃面ではグラビティーブラストは勿論相転移砲まで発射可能なのだが、正直居住惑星近隣での使用は危険すぎて微妙に使えなかったり。
同型艦に『二番艦ニライカナイ』『三番艦アヴァロン』『四番艦ティルナノーグ』『五番艦シャンバラ』『六番艦キャメロット』『七番艦タカマガハラ』等が存在する。

■俺と恭也のデッドレース
基本はメラが魔術、恭也が御神流を使って何処までも追いかけてくる地獄の訓練。
環境は市街地戦、森林戦、洞窟戦、砂漠戦、海戦と様々だが、此処を二人の怪物が本気で襲い掛かってくるというもの。しかも場合によっては追加戦力(才能だけなら恭也を上回る美由希とかその母である美沙斗率いる旧香港警防隊、久遠率いる妖怪部隊とかHGS他超能力者部隊、神裂一灯流初めとした退魔師部隊、キャロの元から送り出された魔術“超”紳士部隊、更に吸血姫や勇者王などの超人まで投入される)がくわえられる地獄の超特訓。良くて病院送り、悪くて短期再起不能。
今までにこれを受けてクリアできたのはティアナくらいで、メラ本人や恭也すらクリアできなかった超難題。その為、下手に自分を“凡人”などと卑下しようものなら、クリアできなかった他EFF隊員にDisられるのは必至。
つまり、“総合戦闘能力(戦術的・戦略的視野含む)”で言えば、ティアナはEFFの最高戦力の一人に入る。とはいえ現在の戦場は其処まで汎用性のある兵士と言うのが必要とされる物でもない(非対人の怪獣戦)上、メラ達のスタンスが「政治は政治家に、戦争は軍人に」である為、割とティアナは自由を許されている。

■デモンベイン・ストレイド
「デモンベインを信じろ、あれは人間の為の鬼械神だ」とは某先代死霊秘法の主の言葉。その為人外であるメラには今一つ相性が悪くなかったり。魔術の寄り代という意味では完璧なのだけれども。
故にこの最弱無敵はティアナに引き継がれることに。ティアナとの相性は、もうお前魔導探偵目指せよというレベル。

■ティアナ・ランスター
実は本作で最もチートな性能を持つのではないかと思われる原作魔改造キャラ。
その昔メラがアルハザードの遺産・遺跡を回収する最中に拾い、徹底的な調教もとい訓練により色々悟ってしまった少女。若年からマナの塊であり、周囲のマナを活性化させるメラの傍で魔術を習い、妖怪からも「あれ人間じゃねぇ」と言われる超人御神流に扱かれ、更に剣士、軍人、特殊部隊、暗殺者、魔術師、魔法使い、妖怪、退魔師、超能力者、超人その他諸々様々な相手との戦闘経験、更に政治的・思想的な教育も受けており、部分部分では他に劣るが、全体的なバランスで言えば最も優れた能力を持つ。
趣味は麻雀で、得意技能はツバメ返しと轟盲牌。


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32 稀人の船

 

Side other

 

機動六課前線拠点・L級次元航行艦アースラ、その改造艦であるアースラR2。

ミッドチルダから飛び立ち、地球へ向けて航行するこの艦であったが、ミッドチルダを離れ、漸くたどり着いた地球――管理外世界97番が存在するはずの地点、その周辺次元海域に停泊していた。

 

「この辺り、の筈なんやけどな」

 

腕を汲み呟くのは、機動六課部隊長・八神はやて二等陸佐。地球出身の魔導師である彼女にしてみれば、この渡航は一種の里帰りになる。のだ。

 

「ええ。でも矢張り、通常空間への転移は不可能なようです」

「なんでかわかったか?」

「計測結果でました。詳細は不明ですが、何等かのフィールドが実層世界と次元世界の間に壁を形成しているみたいです」

 

八神はやてのそんな疑問の言葉に、通信士とメカニックを兼任しているシャリオ・フィニーノ一等陸士がそう答える。

彼女の言葉と共に、アースラのメインスクリーンに映し出される巨大な映像。其処には、ボコボコと多数の球体の寄せ集め出出来たような奇妙なオブジェクトが表示されていた。

 

「なんやこれは」

「これはですね、次元断層――要するにこの次元世界からの侵入を拒んでいる壁、その壁を視覚化した映像データです」

「これは――壁っていうより、囲い? ううん、覆いつくしてる?」

「そう、そうなんですよ」

 

映像を見て、ポツリと呟くフェイト・T・ハラオウン執務官。その言葉に、まさに我が意を得たりと興奮して声を上げるフィニーノ一等陸士。

再び彼女が何かの数値を打ち込むと、今度はそのデコボコのオブジェクト、半透明のソレの中に、青い球体が一つ、少し小さな球体が一つ出現した。

 

「……これって、もしかして地球なの!?」

「そうなんです。この次元断層、ちょうど地球とその周辺をすっぽり覆うようにして展開されてるんです!」

 

 

――まるで、外からの侵入を拒むようにして、意図的に作られたみたいに。

 

 

付け加えられたフィニーノ一等陸士の言葉に、その映像を見ていた機動六課隊員から小さなざわめきが零れる。

次元世界を渡るという技術は、いわば次元世界の平和を守るという次元管理局の根本的な部分を司る技術の一つと言ってもいい。

 

何せ次元世界を渡る事ができるからこそ、次元世界同士の接続が、近隣世界に影響を及ぼしあうからこそ、次元管理局は次元世界の平和と安定の為という名目により各世界へと干渉の手を伸ばしているのだ。

 

ところが、この地球という惑星。此処は、自らその航路を閉ざしたと言う。

ソレはつまり、次元世界との接続を断っている、という事なのだ。

 

少なくとも、管理局にはそんな、自らの存在を根本から揺るがすような技術は存在しない。“ありえない”技術なのだ。

 

「……ま、地球が無くなって行けへんなっとったわけやなかったんや。その次元断層? とかゆうのを意図的に発生させる技術っちゅうんは気になるけど、今の問題はそこやない」

 

凍りつく周囲。そんな中で、ある意味空気を読まずにそんなことを言い放つはやて。その余りにも普段と変わらない様子の彼女に、周囲も少しずつ平静を取り戻していく。

 

そう、彼女達の任務は、あくまでも97番の調査。そういう技術があるかもしれない、という事を知れただけでも成果の一つとしては順調な出だしなのだから。

 

「で、地球への侵入方法は見つかったんか?」

「いえ、断層に隙間が無いかと調べてたんですが、地球上のありとあらゆる場所はこの断層で覆われていました」

「まさに猫の子一匹入り込む隙間も無いわけか」

 

呆れたように呟く八神はやてに、今度こそブリッジにつめていた面々が言葉を失った。

 

「……うん? 如何かしたんですかスバルさん?」

「え、あ、ううん、なんでもないよ!!」

 

と、そんな最中。不意にエリオが何処か挙動不審になっていたスバルに声を掛けた。

声を掛けられたスバルは、けれども手を振りながら何も無いというのだが、その様子は誰が如何見ても“何か隠しています”と言っている様なもので。

 

「どうしたのスバル? 気になることがあるなら言ってくれればいいよ?」

「あー、やー、その……本筋に関係したことじゃなく手ですね」

 

と、そんなスバルの様子を見て、そばにいた高町なのはがスバルにそう声を掛けた。

 

「ただ、その……地球って、月が一つなんだなー……って」

 

ばつの悪そうにそういうスバルに、けれども周囲は苦笑しながらも首を縦に振った。

 

「そういえば、スバルはミッドの地上部隊だったから、他次元世界ってあんまり関係ないんだよね」

「そっかー、スバルはミッド育ちだもんね!」

 

ミッドチルダの月は二つあるり、それも地球の白銀の月とは違い、青と緑の月なのだ。

これがなのは達のような、次元世界を駆け巡る“海”、本局所属局員であれば“違う世界への感慨”というモノにある程度の慣れはあるのだろう。

しかし此処に居るスバル・ナカジマは、管理局員でこそあれど、その所属は主にミッドチルダの治安維持を担う地上部隊の所属であった。

 

ミッドチルダとは違う、白い月。グラフィックに映し出されるソレを見て、改めてミッドとは違うのだ、とスバルは頷いていたのだった。

 

「……あれ? でも、月まではこのオブジェクトに覆われてないんですね」

「うん? あぁ、確かに……」

「……って、ちょ、ちょっとシャーリー!」

「ど、どうかしましたかなのはさん!?」

 

と、そんな中、不意に声を上げた高町なのはに、慌てたようにシャーリーが答える。

 

「月! 月だよ!!」

「月がどうかしたんかなのはちゃん」

「月からなら、っていうか、宇宙からなら地球にいけるんじゃないかな!?」

その言葉に、不意に周囲が沸き立った。

「た、確かに、この次元断層に覆われていない外なら、実層空間への転移は可能です」

「月から地球か。生身では出来ひん、アースラ持ってきたからならではの方法やな……まぁ、地上に降りる方法とかは別途考えなあかんねんけど、とりあえず試すだけ試してみるか」

 

言って、周囲を見回す八神部隊長。その顔を見返す六課部隊員達。

その全員が力強く頷きを返したのを確認して、八神はやては艦長席から力強く立ち上がった。

 

「それではコレよりアースラは、97管理外世界地球、その第一衛星“月”に向けて出発する。地球は現在全く状況不明の謎の土地になってしもとる。各員、各々注意するように!!」

 

アースラ艦内に響き渡る八神はやての声に、全員が確りと頷いたのを確認して。

 

「それでは――アースラ、発進!!」

 

腕を振るう八神はやて。その言葉に合わせるようにして、アースラの主機が唸りを上げ、月へと向けて発進するのだった 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻。地球―月のL2、つまりは月の裏側にて。

現在其処は、火星から襲来するレギオンに対する絶対防衛網の最前線となっていた。

 

『くっ、種の第三派、来たぞ!!』

『弾ける前に叩き落せっ!!』

 

火星のスウィング・バイ――引力加速により凄まじい加速を持って地球へ向かってくるレギオンの大群。正確には、レギオンを包む種(シード)の大群。

月の裏側に展開した部隊は、必死になってそれらを迎撃していた。

 

当初、絶対防衛網旗艦・エリュシオン級による相転移砲の一撃で、火星から襲来したレギオンの第一波を掃討。これにより士気の高まった地球連邦軍であったが、それを嘲笑うように火星からの第二派が襲来。

 

再びエリュシオンにより相転移砲が発射されるも、この殲滅網をシードから分離したマザークラスレギオンが突破。惑星間航行船の役割を果たしていたシードすら上回る速度で強襲を仕掛けてきたレギオンにより、前線は混乱。その隙を突かれ、最前線はまさに混戦といった様相を呈してしまった。

 

こうなってしまえばエリュシオン級の相転移砲は使えない。相転移砲は確かに高火力の空間殲滅兵器ではあるが、当然攻撃の敵味方識別など出来る筈も無く、敵と味方が混ざり合った戦場においてはほぼ無用の長物となってしまうのだ。

とはいえ最新鋭の旗艦であるエリュシオン級。艦側面に装備された無数の大口径ホーミングレーザーにより、なおも続くシードの強襲を迎撃し続ける辺り、そのふざけた高性能っぷりは伊達ではない。

 

 

 

 

そんな戦場、その最前線に、メラ率いる機動特務部隊ホロウは陣を張っていた。

 

「如何だティアナ、ストレイドの調子は」

『機動力、火力、防御力と、全体的に高い水準で纏まっている上に、反応速度もかなり高くて扱いやすいです』

「うん、問題がある様なら即座にウルに戻れよ」

『了解です』

 

前線に立つティアナにそう声を掛けるメラ。そんなメラの視線の先に映るのは、黒鉄の巨体に青い鬣をたなびかせた巨人の姿だ。

デモンベイン・ストレイド。ミッドの対イリス戦においてメラが駆ったその機体。今はティアナがパイロットを引き継ぎ、こうしてレギオン戦の最前線に立っていた。

 

『メラくん、随分ティアナちゃんを気にするよね』

 

と、そんなメラの通信回線に不意に割り込んでくる声が一つ。

 

「別に変な意味は無いぞ? 鈍ってる状態で俺達について前線につれてきたんだ。ある程度は気にかけるさ」

『ホントにそれだけ?』

「無論」

 

通信の相手――すずかは、金色の瞳をどこかギラギラと燃やしながら通信機越しに問い掛ける。そんなすずかに内心若干びびりつつも、けれども自分に後ろめたいところは無いとはっきりと言い切るメラ。

 

『大丈夫よすずか。メラにそんな甲斐性は無いわよ。あったらとっくに私を――』

「げふん。さて、アリサも大分腕を上げたみたいだが」

『あらそう?ま、積極的に前線を回ってたものね』

『っていうか、なんで名誉中将のアリサちゃんが頻繁に戦場に出てるの……』

 

わざとらしく咳をして話を逸らすメラに、苦笑しながらもそれに乗るアリサとすずか。

アリサにしてもすずかにしても、互いに公認しているのだからあとはメラ次第なのだが、本人がヘタレな所為か今一つ先に進まない。とはいえ性急に事を進める積もりも無い二人は、いつものように苦笑を浮かべて。

 

と、前線でレギオンシードを迎撃しつつ、そんな会話をしている最中の事だった。不意に通信機から音が鳴り、メラはソレを即座にキャッチ。

 

「如何したキャロ」

『右翼の防衛網がダメージを受けているので、ホロウは其処に増援に行って欲しい、と本部からの指令です』

「了解。俺達が先行するから、ウルは後から着いて来てくれ」

『了解です』

 

通信先のキャロの返事を確認して、即座に送られてきた座標に向けて加速を開始する。

 

「……でも、キャロは通信士も出来たんだな」

『何せスーパーオールラウンダーですから!』

 

モニターの向こうでその小さな胸を張るキャロに苦笑して。白亜の一角獣――ユニコーンを目標地点に向けて加速させる。

 

その背後に続くジェネシック・ガオガイガー、グレート・ゼオライマー、デモンベイン・ストレイドの三機を確認しつつ、目標地点――苦戦していると言う右翼防衛網のデータを参照する。

 

右翼は開戦後特に敵の攻撃が分厚かった部分らしく、最も消耗の激しい場所であったらしい。

また同時に、右翼が最も激しい攻撃を受けたからといって、別の場所が攻撃を受けていなかったわけではない。左翼こそ全体的に攻撃は薄かった物の、中央は相当数のマザーレギオンが襲撃をかけてきたのだから。

 

「……増援が足りてないのか」

『見たいです。全体にプレッシャーをかけられてた所為で、左翼からも中々増援を送りにくかったみたいで』

『だからこそワタシ達が増援に送られるわけね』

 

それはホロウという部隊の機動特務部隊という性質から来る事だ。

特務部隊に分類されるホロウは、実はその統帥権がEFF本部に無いのだ。そもそもホロウはB&Tの私兵という面も有る為にそんな無茶が通っているのだが、それゆえにホロウはEFFの正規の戦力計算からは外れているのだ。

 

つまり、軍内部においてもほぼフリーランス。元々計算に無い戦力なのだから、何処にあろうと自由、と言うことになるのだ。

 

「……っと、見つけた! けど、おいおい」

思わず、といった様子で声を上げたメラ。その視線の先に映るのは、陣の中央でその側面から被弾したのか爆炎を吹かしているEFFの戦艦の姿だった。

 

「此方特務部隊ホロウのメラだ。そこの艦、無事か!?」

『此方XL級のスクルド、レギオンのマイクロ波シェルで縮退炉を一機失った!! 幸い航行は可能だが、出力不足でフィールドが脆弱化してる。本陣からの交代艦がくるまでの支援を頼む!!』

「了解した。もし避難要員がいるなら、うちの艦で引き取るが?」

『なら負傷者だけ其方で受け取ってくれ。ランチと護衛は此方が出す!』

『了解。それでは此方は直衛に入る』

 

言いつつ加速していたメラのユニコーンは、即座に混戦中の右翼戦線に向けてビームライフルを一発発射する。被弾し爆炎を上げるマザーレギオンを視界に捉えつつ改めて後続の三機と並び陣を組む。

 

「と言うわけで、次の任務はこの場の死守だ。とはいえ、自分が死んでは意味がないことも――お前等には言わずとも、かな?」

『まさに、言われずとも分ってるわよ、ね!』

『メラ君の背中は私がちゃんと守るよ!』

『……まぁ、適度に頑張りますよ』

「まぁ、死なない程度にな。――それじゃ、ホロウ、行くぞ!!」

 

そうして白い噴炎を吐出す四機の機体は、周辺のレギオンを蹴散らしながら戦線へと突っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side MERA

 

 

 

『ちょっと、何かさっきからレギオンの数が増えてきてない!?』

 

通信機から響くアリサの声に、思わず視線を三次元レーダーに移す。確かに、レーダーの察知範囲に居るレギオンの数は、先程よりも密度を増しているように感じる。

 

「キャロ、分るか?」

『えっと……左翼、中央のレギオンがかなり減ってます。何か、右翼に集まってきている……?』

『連中、先に面倒な敵であるホロウを叩く心算かしら?』

「虫の連中にそこまでの知能があるのか如何か」

 

そんな事を呟きつつも、然し実際レギオンの戦力がこのフィールドに集中しだしている事実は否定しようが無い。

幸いにして、俺を含むホロウの面子の乗る機体と、各員の操縦技術は、既にレギオンを狩れる程度の腕は十分にある。

 

問題は、この背に護衛対象を抱えたまま延々とこの場に踏みとどまらなければならないという点。いっその事スクルドを下がらせようかとも考えたが、残念ながらウルにはスクルドのカバーを出来るほどの火力は搭載されていない。ウルはあくまで俺のホームでしかないのだ。でかいけど。

 

『メラ、そっち行ったわよ!』

「了解」

 

ユニコーンの戦闘パターンは実に簡単だ。

ユニコーンは分類としてはSR機になるのだが、MSのサイズはSRよりもTSFに近い。つまり、マザーレギオンとのサイズ差は大人と赤子程、いやそれ以上はあるのだ。

 

だが然し、このユニコーンはSR機。その火力は他のSR機に劣るものではない。ビームマグナムは背後からならその甲殻を容易く貫くし、サイコフレームモドキにより伝達されたマナの影響でバケモノ染みた機動力と反応速度を誇るこの機体。

暴風のようにレギオンを刈り取っていくのだが、けれども徐々にレギオンを捌ききれなくなっていく。

 

と、そんな最中。レギオン目掛けて放ったビームライフルが、レギオンの展開したマイクロ波バリアに弾かれてしまった。

弾かれたビームライフルは、明後日の方向に飛んで行き、そのまま何匹かのレギオンを巻き込んで消えていった。それはいい。問題は目標のレギオンをしとめそこなったこと。

 

「拙いっ!!」

 

即座に追撃をかけるが、レギオンは既にマイクロ波シェルの発射準備に入っていて。その目標は――スクルド。

 

背後からビームライフルで追撃をかけようとするのだが、そんなときに限って横から邪魔が入る。ビームサーベルで邪魔なレギオンを至近距離から真っ二つにして、今度こそレギオンにビームライフルで狙いをつけて。

 

「墜ちろっ!!」

 

桜色の光が宇宙を走り、レギオンを背後から貫く。途端爆発するレギオンに、何とか間に合ったかと息をつこうとして。

そんな視線の先、爆発の中から飛び出す光の本流に、思わず背筋に冷たいものが走るのを感じて。

最後っ屁の一撃。やられたと感じながら、奥歯を噛み締めてその光の先に視線をやって。

 

その光がスクルドに直撃する直前、その光は、スクルドの手前で何かにぶつかり、その何かが派手に爆炎を上げた。

 

「……え?」

『な、何!? 何!?』

『落ち着きなさいすずか。キャロ』

『はい。レギオンのマイクロ波シェルがスクルドに直撃する直前に、スクルドとマイクロ波シェルの間に何者かがワープアウト……次元転移してきたみたいです』

「次元転移?」

 

言われた言葉に思わず首を傾げる。次元転移? こんな月の裏の更に端っこに? 一体誰が、と首をかしげて、不意にすずかから入った通信をキャッチして。

 

『め、メラくん、あれ……』

 

言われて、すずかから送られてきた望遠光学映像を見て、思わず口元が引き攣るのを感じた。

 

『何よすずか、アレを知ってるの?』

『知ってるも何も……』

 

レギオンのマイクロ波シェルをスクルドの代わりに受けて爆炎をあげるその艦。

それは、次元管理局機動六課の前線拠点、L級次元航行艦アースラ、ソレそのものに間違いなかった。

 

「なんでアレが此処に――いや、まさか次元断層の保護領域範囲に気付いたのか?」

 

次元断層フィールド、要する次元空間からの転移を拒絶する為、地球全域に展開した空間結界系の魔術の事なのだが、これには当然有効範囲が設定されている。それが地球を中心とし宇宙空間を含めた、広大な球形の空間だ。

 

これはそもそもギーオスによる次元転移侵攻を防ぐ為の物として建造されたのだが、同時に次元空間から密入国を行なう様々な存在の往来をも禁止する事を可能とした。

 

だが然し、そのフィールドを維持することにも当然エネルギーが必要と成る。幾ら光子炉や縮退炉によって莫大なエネルギーを生産できるとは言え、ソレを管理すること事態にもまたエネルギーを有するのだ。

 

結果、次元断層フィールドの展開範囲は月には及んでおらず、この月周辺ならば、次元転移による転移が可能なのだ。

とはいえ、当然ながら生身での転移などすれば真空の宇宙では即死は必須。少なくとも転移機能を備えた中型クラスの航行艦が必須となるのだが。

 

『あ、アースラ!? ってことはアレ、機動六課ですか!?』

『ティアナさんご存知なんですか?』

『アタシのミッドでの職場よ』

『なんでミッドチルダの人がこの世界に?』

「多分、この世界にコンタクトを取る為に行動してたんだろう。ミッドチルダの技術なら、専門の装置を使えば次元転移を阻む『何か』の存在くらいには気付ける筈だ」

 

ティアナとキャロの会話に割り込む形で部隊内に言葉を伝える。そう、ミッドチルダの専門の技術装置さえあれば、“何かが存在している”という事は分るだろう。ただ、“何が”あるのかまでは理解できないだろうが。

 

『フーン、で、機動六課って?』

『管理局のロストロギアを回収する特殊部隊で、JS事件の間はレリックって赤い魔力結晶体を扱ってたんですけど……確かに、コンタクトを取りたいとは聞いてましたけど』

『それが、どうやってかフィールドの範囲外を割り出して、いざ実層世界へ転移してみれば、其処はなんと戦場の真っ只中でしたって? バッカじゃないの?』

『ちょ、ちょっと待って! アレが機動六課なら、もしかしてあそこになのはちゃんやフェイトちゃんも居るの?!』

『(ナチュラルにはやてをとばしたわねこの子……)って、ええっ!?』

 

モニターの中、艦側面に大穴を明けた姿で宇宙を漂う球形のUFO(アンノウンフライングオブジェクト)。その側面は、如何見ても内部空間に至るまで大きな穴を開けており。

 

「……管理局の次元航行艦って、宇宙活動も想定されてたっけ?」

『……一応活動可能にはなっていた筈ですけど、さすがに地球製の戦艦とは比較にならないと思います』

 

一瞬の空白。

 

「アギト! すぐにウルをあの船に寄せて、無人ランチで救助活動を。キャロは全体周波数であの船に呼びかけを。すずか、アリサ、ティアナ。最悪な事にウルの支援砲火が期待できないまま、お荷物が増えた」

『正直なところ、復帰直後には遠慮したいロケーションなんですけど……』

『フフン! このくらい丁度いいハンディーキャップよ!』

『ふふ……うふふふ…………ふーっふっふっふっふ…………ついに、このグレートゼオライマーの全能力をフルに発揮するその時が来たのね……』

『『「………………』』」

 

何か妙な声が入ったような気がするのだけれども、それに突っ込みを入れられる勇者は誰一人として存在していない。俺だって祟る神の区別くらいは付く。

 

「ま、まぁ、とりあえず。各員――全員で生き残るぞ」

『『『了解!』』』

 

結局、そんな当たり障りの無いいつもの掛け声をむねに、いつものように怪獣の跋扈する戦場へと飛び込むのだった。

 

 

 

 




※ウチのすずかは忍の妹

■稀人の船
要するにUFOの事。管理局の次元航行艦は一般的な地球人から見れば新種の宇宙戦艦かUFOだろうjk。
■レギオン・シード/シード
レギオンの宇宙航行船にして惑星降下艇。
一種の隕石のような形をしたもの。
プラントから打ち出された種で、スウィング・バイで加速した後、新天地へと移動する。


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33 初めての異世界間外交

Side Nanoha

 

 

気付いたとき、私は何処までも続く深い闇の中を漂っていた。

其処が何処なのか、何時此処に来たのか。そんな事を考える余裕は、その場において一切ありえなかった。

 

“寒い”“恐い”“悲しい”“辛い”“苦しい”

 

何時だったか感じて、いつの間にか忘れていたそんな感情。それが、まるで肌を裂くようにして私に襲い掛かってきていた。

 

「――っ、っ!!」

 

嫌だ、嫌だ此処に居たくない。

 

レイジングハート、レイジングハート!!

 

愛機に助けの声を求めても、けれども何処からも返事は無くて。だから私は、誰かが私を助けてくれる事を願ってただただ我武者羅に腕を、脚を、身体を使ってもがき続ける。

 

そうしてどれ程もがいただろうか。視線の先に見えた何か。それに向かって必死に身体をもがかせて。

 

――っ、フェイトちゃん!! ヴィヴィオ!! はやてちゃん!!

 

目の前に現れた親しい友人と、最愛の我が子。漸く見えた光に、必死に手を伸ばしてもがき続ける。

けれども光は、少しずつ私から離れていってしまう。足掻けど足掻けど距離は縮まず、寧ろ尚一層離れていくようにも感じて。

 

――待って!! みんな待って!! ここだよ!! なのははここだよっ!!

そう叫んで手を伸ばしても、誰も振り向く事は無くて、だから私は一層光に向かって手を――

 

 

 

 

 

「なのはさん!!」

「――はっ!?」

 

揺れを感じて目を見開く。勢いをつけて身体を起こすと、身体からずれ落ちた白いシーツが手元に撓んでいて。

 

「……夢?」

 

腕で額の汗を拭おうとして、その腕もまるで服の上からシャワーでも浴びたかのように汗でべっとりしてしまっている事に気づいて。よくよく見れば、腕どころか全身汗まみれで酷い有様になってしまっていた。

 

「大丈夫ですか? うなされてたみたいですけど」

「うん、大丈夫、だよ。有難うティアナ   ――ティアナ?」

「はい?」

 

差し出された湯飲みを手に取り、お茶を飲んで、ふと疑問に思う。あれ? 何でティアナが此処に? そういえば此処は何処で、私はなんでこんな所でベッドに横になっているんだろう?

確か、私たちは、地球への接触を試みるべく月の裏側に次元転移して――。

 

「そう、月の裏側に転移して、その直後におっきな揺れが来て……」

「戦場のど真ん中に出たんですよ。敵の大砲の射線上に顕現しちゃって、ドカン、ってわけです」

「戦場――月の裏側が!? ……って、ティアナ!? なんで此処に居るの!?」

 

其処まで話して漸く思考が戻ってきて、思わず大声を出して驚きの声を上げてしまう。

 

ななな、なんでティアナがいるの!? 姿を晦ましたんじゃなかったの!?

 

「なんでって……此処がEFFの月面基地で、私はお見舞いに来てたんですけれど」

 

キョトンとした顔で此方を見てくるティアナ。え? なに? 私がおかしいの!?

 

「――じゃなくて、戦場のど真ん中!? 皆は無事なの!?」

「えらく話が前後しましたけど、全員無事ですよ。多少宇宙線に当ってましたけど、現在浄化を終えて幾つかの部屋に入ってます」

 

宇宙線? とティアナに聞くと、宇宙の放射線の事です、って言われた。

なんだか良く分らないけれども、ティアナが大丈夫って言うなら多分大丈夫なんだと思う。ティアナはぶっきらぼうであんまり本心を喋らないけど、少なくとも口に出した事に関しては嘘は無かった。

それよりも、考えろ、高町なのは。私は二等空尉。ただただ立ち止まっていられるほど低い身分ではないのだ。

 

「えっと……此処は、管理局じゃないんだよね?」

「ええ。地球連邦軍月面基地の医療用ブロックです。

「それで、ティアナが此処に居るっていう事は、ティアナはその……地球連邦軍のひとなの?」

「ええと、一応そう為りますね」

 

言いつつティアナは、地球連邦軍――EFFにおける自分の階級を教えてくれた。少尉って、えーっと……三尉ってことになるのかな? わ、私の一つ下だ……。

それから何処かバツの悪そうなティアナは、人差し指で頬をかきながら話を続けてくれた。

 

「でも、なんで少尉のティアナがミッドチルダにいたの?」

「ご存知かと思いますが、兄の無念を晴らしたくて。まぁ、別に管理局で、って拘りは殆ど無かったんですけど、なんだかいつの間にかそれもEFFの任務に組み込まれてたみたいで。あ、コレオフレコで」

 

未確認文明に対する情報収集みたいな役目をやってたんです、とティアナ。

未確認文明って、凄い言い様なの。でも、確かに昔の、魔法と出会う前の私からしてみれば、管理局世界ってあるいみ宇宙人みたいなものか、なんて何処か内心で納得して。

 

「確認するね。私たちは地球に接触しようと月の裏側に転移したんだけど、そこで何等かの戦闘が行なわれており、其処に遭遇、アースラが被弾した。それを地球連邦軍の、ティアナたちが助けてくれた。あってる?」

「大体あってます。付け加えて置くなら、月の裏側での交戦相手は地球外生命体の巨大生物、我々がレギオンと読んでる、宇宙怪獣です」

 

そんな言葉と共に、ティアナの手元に浮かび上がる投影型ディスプレイ。ついで私の正面に映し出された立体スクリーンに映し出される、大きな角を携えた、昆虫のような怪物の姿があった。

 

「うちゅう……かいじゅう……?」

 

確かにギーオスとかイリスみたいな怪獣が居るんだから、宇宙怪獣が居てもおかしくはない、のかな?

 

……ううん、違う、絶対おかしいよね!? こんなの絶対おかしいよね!?

 

でもそれは言わない。言っても仕方ないし、第一ティアナの前であんまり取り乱したら、またメメタァッ、って凄い音のツッコミ入れられるかもなの。それは嫌なの。

 

「えっと、それじゃ、私は何かしたほうがいいの?」

「いえ。後ほど責任者が交渉を行なうとは思いますが、ソレは部隊責任者である八神はやて二等陸佐と行なわれると思います。まぁ、後ほど機動六課はグループで近い病室に移動になると思いますので、そのときにでも詳しい話は纏めて」

「そっか、うん。有難うティアナ」

「いえ」

 

何となく、説明が面倒になって投げたな、何て感じつつ。態々様子を見に来てくれたティアナに礼を述べて、病室から退室するティアナを見送って。

 

「そういえばこれ、如何しよう」

 

目の前に表示される、グロテスクな宇宙怪獣(?)の映像データ。正直、余り長時間直視していたいようあ映像ではない。

とりあえずやるべきことは、この投影ディスプレイの消し方を調べる事になるのだろう。

 

 

Side Nanoha End

 

 

 

 

 

 

 

side Mera

 

「さて、それではパパッと説明してしまおうか」

 

目の前のベッドに横たわる八神はやてを目の前に、投影スクリーンに映し出された映像を見せながら簡単なプレゼンの心算で話し出す。

 

「先ず最初に、本日未明、我々地球連邦軍は月の裏側にて、火星から来るレギオン侵攻部隊の迎撃任務に当っていた」

「質問!」

「は、後で纏めて聞こう。防衛に当たり、地球連邦軍はエリュシオン級、XL級、L級の戦艦を多数戦線に配備してコレに応戦。我々起動特務部隊ホロウは遊撃対として様々な戦線を支援していた」

「……っ、全長七十二キロの宇宙戦艦……」

 

スクリーンに映し出さしているのは、エリュシオン級、XL級、L級の各概略図。

中でも八神はやての興味を引いたのは、地球圏防衛のために建設された絶対防衛網の要、平均全長72キロメートルを誇る怪物だ。

因みに地球圏絶対防衛網はその他に、人型の次元/虚数/恒星間航行決戦兵器ら属する無人スーパーロボ軍団などの特秘部隊とかにより密かに守られていたりするのだが、それは完全な余談だ。

 

「アホな、んなモン地球に作れる技術が……」

「ある。で、その戦闘中、XL級スクルドが敵マザーレギオンのマイクロ波シェルの直撃を受け、中破コレにより滞空攻撃力が低下した為、我々ホロウはこの直援に回った」

 

XL級スクルド。サイズとしては現在のホロウの……というか、俺の艦であるウルC4のC4ユニットの部分と同型のそれ。

 

積載能力でこそ長期間航行を想定して改良してあるC4ユニットに劣るが、その火力はSR機の操縦に必要とされる一種の独特なセンスを必要とせず、多人数のIFSにより操縦が可能という究極の『量産型汎用艦』だ。

 

此処にガイア式を扱える魔術師が居れば、単独での操艦も可能というのだから、この艦がどれだけぶっ飛んだ艦であるかと言うのは理解できるだろう。

 

「で、この戦闘の最中、我々ホロウ率いるSR戦隊の防衛網を抜けたマザーレギオンが一匹。背後から撃破するも、マイクロ波シェルは発射されてしまう」

 

その当時の写真。一応記録映像には残っていたらしい。

 

「で、この次の瞬間だ」

 

スクルドの手前。マイクロ波シェルの進行方向の真上。そこに突如として現れた何かの影。

有無を言わさず直進したマイクロ波シェルは、その何等かの影に見事直撃。スクルドは盾に庇われるような形となった。

 

「で、これが手前の乗艦、アースラR2……だったか? であったらしく、我々はコレを即座に救援。気密フィールドで保護し、そのまま月のEFF基地へと運び込んだ、と。こんなところか。運が良かったな。ディストーションフィールドとエンジン保護装置がマイクロ波シェルを減衰させていなければ、余波でエンジンごと消し飛んでいたろうに」

 

あれだけの被害状況で死者がでなかった原因はコレが主だろう。まぁ、流石に重軽傷者は多かったが。此方が得ている本来の巡航L級に比較し、重要システムは各部に分散し、例えばジェネレーターが停止した場合のサブ、そのサブが停止した場合のサブなど、過剰なほどの安全対策が講じられていたのだ。

 

実際今回のレギオンの一撃。ジェネレーターと言うか、ジェネレーターとそのサブ、更にサブのサブまで過負荷で吹っ飛んでいたのだが、サブのサブのサブが稼動したことでディストーションシールドを維持。このおかげで艦体に大穴が開いたにもかかわらず、正常に緊急気密隔壁が作動した為、窒息死や減圧死などによる死傷者が発生しなかった。

 

まだ更にこの安全措置による功績は続く。エンジンに施されていたシールド処置だ。本来の巡航L級に施されている処置は、魔力バリアによる保護のみ。だがこのR2に施されていたのは、魔力シールド・物理保護・電磁障壁などによる多層シーリングであった。もしこれが本来の魔力シールドのみによる保護であったら。ジェネレーターがとんだ時点でこの魔力シールドは霧散。吹っ飛んだ艦の破片がエンジンに直撃、エンジンどころか艦まるごと爆散していた可能性は寧ろ原型を残していた可能性よりも十分以上に高い。

 

極論、此処に来たのが原型を無くすほど魔改造されたアースラR2でなく、管理局の運用する正規の巡航L型であったのならばどうなっていたか。――今頃、地上・L点の居住ブロックでは『爆発!戦場に現れた謎の船籍不明艦』なんてタイトルのニュースが飛び交っていたことだろう。

 

……だから、さ。別室で真っ白に燃え尽きている鳳凰院。君の投資は、少なくとも機動六課の百数十人の局員の命を救ったのだから、無駄ではなかったんだ。就航して初の航海で撃沈したとしても、きっと無駄ではなかったのだと思う。うん。

 

あのアースラR2の残骸、もしくはジャンクと呼ばれるアレ。彼を案内したら、泣いちゃうかな? 泣いちゃうよね? ……サービスで次元航行可能な状態くらいまでは再生させてやるべきだろうか。割と真面目に物語に介入しようとしていた先輩に対する敬意として。

 

まぁ、そんな内心は別として。スライドで数枚の画像データを表示する。其処に映し出されていたのは、大破したアースラと、ソレを徐々に包み行く白い光。そしてそれが月へと曳航され、そのドッグへと運び込まれる様子だ。

 

因みにこの時点でのアースラR2の状態は、辛うじて最低限のエネルギーを出力できている、と言う状態だ。メインジェネレーターはディストーションシールドの過剰負荷で弾け飛び、魔力炉はすぐ傍を貫通したマイクロ波シェルの影響で7割方死んでいる。爆発しなかったのは正に奇跡、もしくは鳳凰院の努力の成果だろう。もしかしてこれも原作主人公補正なのだろうか?

 

「とりあえず説明はした。で、古代遺物管理部 機動六課指揮官の八神はやて二等陸佐、何かご質問は?」

「先ず最初にコレだけはきいとかなあかん。うちらの扱いや」

「知らん」

「そうか、しら……っておい」

 

そうは言われても、本当に知らないのだ。何せ彼女、というか機動六課は、我々地球人がこちら側の公式資料で始めて正式に接触した異世界人なのだ。

コレに対する対応と言うのは、当然ながらEFF――軍部の仕事ではなく、EF――地球連邦政府の仕事なのだ。

 

「現在連邦政府で緊急幕僚会議が開催されている。その如何によっては、客人として扱われるかもしれないし、あるいは未知の侵略者として軟禁、最悪処刑なんてこともありえる」

「……それは、マジで?」

「割とな。とはいえ、幕僚会議の連中はちゃんと裏側も把握しているから、いきなり処刑ってのは先ず無い」

 

第一、連邦政府の上の連中は、B&Tからかなりの資金援助を受けている。地球再生プロジェクトなんかにも莫大な投資を行なっている月村とバニングスは、EFFだけではなく地球連邦政府に対しても強い権限を持つのだ。

サラッとドSなすずかはどうかは知らないが、義理堅いツンデレアリサなんかが居る限り、いきなり処刑って言うのは先ず無い。というか、アイツは自分の権限を駆使し、渾身の限り友達を庇うだろう。アイツはそういう良い女なのだから。

 

「あと忠告だが、間違っても地球人だとは名乗るなよ?」

「なんでや!!」

 

声を上げる八神はやて。彼女にしてみれば自分は地球人であるという自負があるのかもしれないが、残念ながら地球側が彼女を地球人として認めることは無いだろう。

 

確かにギーオスやレギオンの襲来により、世界中の戸籍情報なんかは一度完全に消し飛んだ。然しその後急速に発展したSOPやIFSなどのナノマシン技術により、人類の情報ネットワークは一気に数段跳ね上がり、同時に戸籍情報網も地球連邦政府の名の下に統一して再現された。

 

故に、現在地球に戸籍が残っていない人間と言うのは、ギーオス・レギオン襲来の後、戸籍再編の場において既に死亡していた人間となるのだ。

 

「仮に八神はやてが地球人であったとして、それが地球を離れて異次元の組織に所属していた? 公になれば、公式の記録に管理局の不正入国なんかが記されることになるし、お前も地球を裏切って管理局に逃げた無断出国者、犯罪者になるが?」

「で、でもソレはソッチかて……」

「俺は『公式の記録として』、とつけたぞ」

 

そう、公式の記録として。ぶっちゃけた話、管理局の不正入国なんていうのは以前の管理システムが倒壊した現在では既に確認のしようも無い。状況証拠なんかは幾らでも残っているのだが、それを証明する細かい数字が全部大災害により吹っ飛んでいるのだ。

 

つまり、現状での地球側の公の認識としては、『以前から地球にちょっかいをかけていた“可能性の有る”異世界の組織』、限りなく黒に近いグレーだ。コレが黒なら政府間交渉における此方の手札に出来るのだが、グレーは所詮グレー。チラつかせて牽制に使う程度だろう。

 

ところが、八神はやて=地球人ということを公式の場での記録に残してしまうと、此処からもしかすると以前から地球に接触していたのでは無いか? という疑念が公文書から読み取れるような形に持っていけてしまうのだ。

 

まぁ管理局側にしてみれば“次元漂流者”なんて言い訳も出来るのだろうが、それでも記録に残った時点で疑念の芽は芽吹いてしまうのだ。

 

「因みに俺は八神はやて、君とは初対面であり、俺が君に説明を行なっているのはあくまで俺が君の船を救助し、ファーストコンタクトを取った部隊の人間であり、尚且つ万が一の場合に単独でも何とかできる戦力を保有しているから、だ」

「初対面!? アホな!? アンタはこの前ミッドで……!!」

「何処にそんな証拠が有る? 因みに俺が地球に居たという証拠は、EFFの活動記録に残されていて、これは“此方の裁判における証拠”としては十分な能力を有している」

 

これがミッドチルダの裁判であれば、当然俺の戯言は歯にも掛からないのだろうが、こと地球の裁判となれば話は別だ。まして、船舶の外観はまだしも、俺やすずかの外観記録なんていうのは、デバイスのデータ含め全部クラックしたし。

まぁこの擬装記録の有効性は、もう一段上の、この“擬装証拠”を覆すような明確な証拠が出てこない限り、なのだが。

……無論、下手な証拠など残しては居ない。

 

「んなもんでっち上げやろうがっ!!」

「ならソレを如何やって証明するんだ?」

「あのロボと船があるやろうがっ!!」

 

そういや、ウチのウルC4の船腹にでっかく『E.F.F』ってペイントしてたっけ。まぁ、その辺りも当然言い訳は用意してあるのだが。

 

「あぁ、それは多分無人の対ギーオス殲滅システムの事だろう」

「はぁ?」

「対ギーオス用に用意されている、無人ロボットと、そのキャリアである無人母艦を地球の周辺次元に巡回させていたんだが、多分それが何かの間違いで其方の文明に接触したのではないか?」

 

――と、いう事にしておこう。

 

実際現在の地球の人口は、最盛期の60億人からガッツリ削られ、その半数の三十億人程度しかいない(この世界では70億人に届かなかった)。

60億人でも地球上の完全制圧でさえ不完全だったと言うのに、それが半数になり、更にギーオスとレギオンの脅威から要制圧地が更に増え、結果太陽系全域をカバーしなければいけなくなってしまったのだ。

 

そこで一気に台頭したのが、ナノマシンによる人体―組織間統制システム、戦略統制ナノマシンSOPシステムと、個人による戦艦運用、ワンマンオペレーションシステムをい可能とするイメージフィードバックシステム(IFS)、そしてそれでも足りない数を補うAI搭載型無人兵器だ。

 

なんとかかんとか水増しを繰り返し、漸く地球圏の防衛を可能としている現在の地球。実はその防衛網の面積辺りに配置されてる人間の数は凄まじく少ないのだ。

ウチのホロウなんかは人口も多いほうで、下手をするとカップルが旗艦に乗り込んで無人機を指揮する艦隊とか、大量の量産無人機を隠れ蓑に特攻するSR部隊とか、そんなのばっかりなのだ、現状。

 

更にドロイドを含む無人機なんかは、何時攻めてくるかも分らないレギオンの襲来から、宇宙空間における前線基地の構築なんかを急ピッチで行なう際に多用する為、それこそ天文学的な数が生産されていたりする。

まぁ、そんなわけで無人ロボが量産されていて、対ギーオス用や対レギオン用に無人機防衛網を構築していると言うのは事実だ。

 

「ぐっ――ああいえばこういう!!」

「忠告してるんだよ。これから行く先で手前勝手な正義を振りかざさず、先にちゃんと政府なり管理局上層部なりを通して、正式な外交手段から接触出来るよう要求するとかな」

 

と、其処まで言うとハッとしたような表情になる八神はやて。

まぁ、彼女がどの程度此方の忠告を理解してくれたかは知らないが、とりあえず俺からの忠告はこんなところか。

 

「さて、それじゃ今説明したのと大体同じような事を、多分あとから担当者が説明に――部隊の揃ってるところに説明に来ると思う」

「へ?」

「トップが理解できてないのは拙いだろう……」

 

そこらへんの配慮、先に話を通しておいた此方の気遣い。理解……してくれるかなぁ?

リーダーが下っ端と一緒になって戸惑ってたら、さすがに士気や信用に響くだろう、という考えだったのだけれども。

 

「後から君等は一つの病棟に纏められるはず。そのときに説明が来ると思うから、後は頑張って」

「ちょ、アンタは何処いくねん!!」

「俺は軍属。君等の対応は政府の役人の仕事。以上。さらば」

 

いい加減相手をするのも面倒くさくなってきていたという事もあり、そのまま病室の扉を抜けて廊下へと飛び出す。

 

「あ、ちょっ!!」

 

そんな声が背後から聞こえてきたが、それをキッパリ無視して、現在ウルの停泊しているドッグへ向けて通路を歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「と、そんな感じに説明してきた」

「オーケーオーケー、はやてに現状を認識させたのならそれで十分よ」

 

全員で揃って月の食堂で食べる夕飯の最中、ついでにアリサに報告を済ませてしまう。

B&Tの中で最重要ポジションを占めるすずかとアリサ。すずかが技術職よりであるならば、アリサは運営としての側によっている。故にアリサは経営戦略なんかにも当然口を出しているのだ。

 

とはいえ経営戦略にはすずかも口を出すのだが、月村の血か、有能でこそあれ政治には関与せず、すずかは基本的に新規開発にばかり力を注ぎ込んでいた。

 

「でも、なんでまた部隊ちょ……八神二等陸佐にそんな警告を?」

 

ケラケラと笑うアリサに、少し訝しげな表情で問い掛けるティアナ。

 

「まぁ、アレでも昔馴染みの友達なのよ。あの子の対応次第では、下手すると地球と管理局が表立って全面戦争にだってなりかねないのよ」

 

さすがに幼馴染の名前を戦犯として教科書に刻みたいとは思わない、と苦笑しながら言うアリサ。

そう、表向きのファーストコンタクトとされるこの出会い。管理局お得意の高圧的な発言をいつもの調子でやらかした場合、確実に地球と管理局は戦争になる。

しかも此方はギーオス対策やらレギオン対策の派生で、抗魔素、抗魔力技術がミッドチルダの技術水準から比べて悠に向上している。

 

部分的にアルハザードの遺産を未解析のまま運用しているという部分もあるが、それでも地球の技術力は一部で圧倒的にミッドチルダのソレを上回っているのだ。

 

「そ、それは……」

 

そして事の重要性に気付いたらしいティアナ。顔を真っ青にして口ごもってしまう。

ティアナも理解しているのだ、地球の戦力を。確かに地球の人口は怪獣達の襲撃により大幅に減少している。が、現在の地球は既に人類の制圧下にある。

 

俺が放射能を除去したり、土壌回復用テラフォーミングナノマシンをばら撒いたりして、既に地球は大災害前よりも緑豊かな惑星へと返り咲いた。

 

同時に人類はその半数が宇宙へと飛び出し、無人兵器による大群を保有。それこそ天文学的数字の宇宙怪獣でも襲ってこない限りは、なんとか大丈夫な防衛網を構築しているのだ。

 

もしミッドチルダ――管理局と戦争になるとして、その場合の管理局側の主戦力は間違いなく魔導師だ。まぁ、イレギュラーとして戦闘機人やエクリプスウィルス感染者なんかが参戦する可能性が無きにしも有らずだが、それはあくまでイレギュラーとして考える。

 

で、その魔導師だが、ミッドチルダにおける一般的な魔導師ランクはC。Bランクもあればそこそこ偉くなれ、Aもあれば陸ではエースを名乗れるだろう。

だが魔導師の問題点として、その素質が先天性であるため、常に一定の戦力を維持するという事が凄まじく難しいのだ。

 

何せ戦力は全て人間。代替機を用意したり出来る『兵器』と違い、人間は休息を必要とするし、また怪我をしたり再起不能になる可能性とて存在している。

ソレに対し、現在も月や各地のL点に設置された宇宙工業プラントなんかでガンガン生産されている無人機。

 

規模としては、多次元を抱え圧倒的である管理局。だがそれを支える戦力の数は、割合で考えれば地球が圧倒的だったりするのだ。

 

魔法の殆ど通用しない、凄まじい数の無人艦隊。しかも次元航行も可能で、場合によっては本局にまで攻め込むことも十分可能。

 

地球側の戦力について、すずかやアリサからの縁で最低限以上の知識を有しているティアナ。そんな彼女だからこそ、その現実について硬直してしまったのだろう。

 

「ま、はやてもお馬鹿だけど、其処まで考えなしじゃないでしょ」

 

大丈夫よ、なんて笑うアリサに、少しだけ落ち着いて、それでも尚顔色の悪いティアナ。ティアナにしてみれば、旅立ったとはいえミッドチルダは出身地なのだ。地球の戦力を知るが故、故郷が戦火に覆われる可能性に戦々恐々としているのだろう。

 

――そんな、何時も通りの下らない会話をしている、そんな最中。

 

「!?」「えっ!?」「――っ、何!?」

 

不意に耳に聞こえてきたサイレン。遠くに聞こえたその音は徐々に基地中で鳴り出し、ついには基地中にサイレンの警報音が響き渡っていた。

何事かと即座に端末から基地のメインサーバーにアクセス。即座に緊急情報を参照し、ディスプレイに表示。

 

「……っ!!」

 

ギリッ、と口の中で、歯がぶつかる音がした。

其処に映し出されていたのは、虹色の光を身にまとい、数多の触手をたなびかせ、緑の回復した地上で、残る地上居住区で縦横無尽に暴れまわるイリスの姿だった。

 

「い、イリス!?」

「これが!? でも、地上は次元断層フィールド発生装置で守られてたはず……」

「えっと、えっと……これです! イリス出現ポイントが、フィールド発生装置同士の干渉空域で、他に比べてフィールド出力が低かったみたいです」

 

戸惑うすずかたちに、冷静に調べた情報を読み上げていくキャロ。

 

「っていっても、多少フィールドが弱ってたからって、突破できるほど軟な術じゃないでしょ?」

「それはあれだ。次元断層フィールドって、基本的に想定している敵が生体ギーオス数匹分だったんだけど、このデータ見るに、フィールド許容量の数倍異常の魔力で無理矢理侵入してきたみたいだな」

 

ティアナの疑問に答えたのはアギト。……確かに、次元断層フィールドは、その術式は別として、ソレを支える物は現代の地球で建造された機械装置によるものだ。

仮にギーオスの数倍を限界値に想定していたその装置に、その許容量異常の負荷が掛かり、結果術式に比べ加工技術ではアルハザード程安定していない地球製品であるフィールド発生装置が吹っ飛んだのだとすれば……。

 

「因みに、場所は?」

「中国――旧天津地区!」

「またあそこかっ!!」

 

思わず、と言った様子で声を上げたアリサと、額に手を当てて視線を落とすすずか。

いや、まぁ、確かにあの辺りは環境汚染が――環境改善用ナノマシンでもまだ直しきれてない地域だからなぁ。

 

「で、この警報は?」

「えーっと、地上側からの救難信号みたいです。今地上には宇宙適性を持たなかったTSFパイロットくらいしかいませんから……」

 

あぁ、と思わずその言葉に納得する。

現在EFFは対レギオン火星攻略作戦に向けてその総戦力を衛星軌道上に打ち上げている。

 

総戦力とはつまり、宇宙戦対応TSF派生機であるMSと、そもそも全領域での活動を想定して建造されていたすべてのSR機を指す。

 

地上は既に制圧され、次元断層フィールドによりギーオスの次元航行による侵入は想定されていない。故にこそすべてのSRを宇宙に打ち上げたのだが。

 

「……これは、完全に裏を突かれた形か?」

 

月面の光学レンズからは、既に火星からのレギオン連続射出は終了したとの報告が入ってきており、次の一波を凌げば、今度はこちら側が火星へと侵攻を開始する、そんなタイミングで。

 

まさかレギオンにあわせるようにしてイリスが地球に襲撃をかけてくるとは、さすがに俺も予想をしていなかった。

 

「まぁ、この場合派遣される戦力って言うのは……」

 

ビーッ! ビーッ!

 

「はい此方起動特務部隊ホロウ隊長メラ」

『メラ君! 事情は把握しているかね!?』

「ええ、勿論。申し訳ありませんが、我々は即座に発進、地球の援護へ回ります」

『……帰ってきて早々、使いまわしてしまって申し訳ない』

「それが仕事ですから」

 

月方面艦隊指令からのそんな通信を受けて、一つ小さく息を吐いた。

 

「と、言うわけだ皆。俺達は次に地球へ降りるアリサは――勿論付いてくるんだろう?」

「アタシだけ除者に――って分ってるんじゃない」

 

先回りして言葉を掛けたら、ニッコリ笑うアリサの笑顔。その笑顔に少し苦笑を返して。

 

「それじゃ――急ぎウルへ。行くぞ!」

 

行って、月のドッグへと走り出す。因みにさり気無く、食事中に寝てしまっていたイクスを抱き上げて、の話であった。




■全長七十二キロの宇宙戦艦
エリュシオン級
■無人スーパーロボット軍団
とりあえず恒星間航行決戦兵器は所属しているらしい。
■アースラR2
もともとのアースラに比較して、原型がなくなるほど魔改造が施されていた。
ジェネレーターやバリア、人命救助装置など、予備の予備
■SOPシステム
大体アレと同じ。但し感情抑制機能なんかは最低限しか働かない。反面IFSがデフォルト装備。


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34 戦場の人達

side other

 

 

管理局次元方面――“海”と呼ばれる部隊に所属する彼、大佐は一人焦っていた。

彼は自らをエリートであると称し、また実際AAランクの魔力を持つ、管理局内でもエリートとして扱われる存在であった。

 

そんな彼だが、事此処に至って、自分の周辺に査察の手が伸びてきていることに勘付いていた。

 

彼はエリートで有能だった。故に、彼はとある存在と接触を持っていた。

その存在は、管理局では“最高評議会”と称される、管理局創設時代から存在していると実しやかに囁かれる御伽噺のような組織。

 

実際に存在するその“管理局の守護神”に接触されたとき、彼は喜んだ。自らこそ真に選ばれたエリートなのだと、それは正に彼の思いを正当化しうる出来事だったのだ。

 

そうして彼は最高評議会の手先として活動し、様々な“正義”を行なってきたのだ。

 

……ところが。

 

「……っ、あの馬鹿共め……!!」

 

一人小さく毒づく。その憎悪は、彼の上司であった最高評議会に対して向けられた物だ。

 

彼の上である最高評議会は、つい先日、ジェイル・スカリエッティによって引き起こされたテロにより、彼の尖兵たる戦闘機人により暗殺されてしまったのだ。

更にコレによって流出した様々なデータ。この中には、最高評議会の行なっていた後ろ暗い実験や違法な活動などのデータが存在していた。

 

――そう、彼の行なっていた“正義”の活動に関しても。

 

彼は慌ててそのデータに干渉しようとしたが、既に時遅く、ミッドチルダ中に拡散した情報は、彼程度の権限ではどうしようもないほどに世界に行き渡ってしまっていた。

 

幸い広がったデータ量は膨大で、解析には未だ暫く時間が掛かる。その間に彼は後ろ暗い情報を一切斬り捨てようとしたのだが、そんな最中に彼に命じられたのが、この97管理外世界の調査任務であった。

 

しかも調査するのは彼らではなく機動六課と呼ばれる地上の特殊部隊であり、彼らの任務はそのバックアップであった。

 

外だけ見れば、ある意味重要任務を任されたのだとも考えられるが、これは如何考えても証拠隠滅の時間を潰されただけだった。

 

「くそっ、拙い、拙いぞ………」

 

時間は刻一刻と過ぎていく。それはつまり、あのデータ群が解析されつつあるという事で、そうなれば彼の首は間違いなく飛んでいく。

かといって彼にそのデータ解析を妨害する手段は無く。

 

「あのデータはバレる。となれば、何か、別の……そう、功績が……」

 

そんな事を考えていた最中だ。不意に彼の指揮する艦のオペレーターが声を上げた。

 

「如何した」

「きゅ、97管理外世界、確認!!」

「なにっ!?」

 

それは同時刻、別次元から地球への侵入を試みたイリスにより、次元断層フィールド発生装置が一部破壊され、その結果彼の率いる艦の観測範囲に露出した姿を晒してしまったと言う、正に奇跡的なタイミングであった。

 

「――っ、直ちに97番へ転移!」

「なっ?! 然し、97番の調査は機動六課に一任されて――」

「その機動六課が連絡を絶ったのだろうがっ!! 故に、彼女等には何等かのトラブルが発生した物と考え、我々は管理外97番の制圧を開始する」

「――せ、制圧……」

 

その時彼の頭の中にあったのは、97番管理外世界を制圧し、その功績を持って管理局に再び返り咲く、と言うものだった。

 

『管理世界に劣る次元の彼方のど田舎の世界。偉そうにミッドチルダへと入り込んできたかと思えば、あの機械の人形で大暴れし姿を消したその存在。あれを下し、次元犯罪者の巣食う97番を制圧したとなれば、その功績は大きな物になるはずだ』――そう、真面目に考えたのだ。

 

そして、そんな彼の馬鹿馬鹿しい考えを理解しつつも、ソレに従うしかないのが彼の艦の乗員――彼の部下として、最高評議会の任務に従事していた人間達だった。

 

「よし、本局の最高評議会派に連絡を入れろ!! コレより我々は先鋒として、反管理局勢力に対する武力介入を行なうと!! そしてこの成果を持って、我々はミッドチルダに、本局に凱旋するのだ!!!」

 

響く哄笑に、追い詰められていた周囲の目に、暗い光が灯り始める。そして彼らは悪い意味で優秀だった。何せ彼らは、最高評議会と言う裏側の組織により集められた、一種のエリート集団だったのだから。

そうした結果、レギオン、イリス、EFFなどの思惑とは別に、此処に新たな勢力が地球へと介入行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

 

『我々は時空管理局所属、次元航行艦『リーデーレ』。97番管理外世界を支配するテロ組織に継げる。直ちに武装を解除し、我々に投降せよ。我々は半径数十キロを反応消滅させる兵器を発射する用意がある。投降が確認されない場合はこれを地表に向けて――』

 

何か馬鹿なメガネがそんな妄言を無差別に電波に垂れ流しにしていた。

 

「……何コイツ。状況分ってんの?」

 

思わず、といった様子で呆然と呟くアリサ。けれども彼女の気持ちも十分、いや十二分に理解できる。

どうやらイリスの暴れた結果、発生した次元断層フィールドの穴。そこを通って地球に転移してきたらしいXV級次元航行艦。

 

あわや異世界人との公式コンタクト、その二度目かと思いきや、いきなり前述の妄言を公共電波で垂れ流した自称“管理局所属次元航行艦『リーデーレ』艦長大佐”殿。

地球の事を管理局の割り振り番号で呼んだり、支配するのがテロ組織だとか言ったり。これはもうあからさまに喧嘩を売られていると解釈しても間違いないのだろうか。

 

しかもこの馬鹿、転移してきて一番最初にそんな電波をゆんゆん垂れ流したのだが、垂れ流した場所がよりにもよってイリスとさほど距離の開いていない場所。

イリスが何で地球に来たのかは今一つ分らない。やっぱり封じられていた地である地球に何か縁があるのかもしれないが、それは現在不明。

 

とりあえず分っている事は、イリスが次元断層フィールドを力技で破ったという事と、その破った穴を管理局の次元航行艦通ってきた以上、当然通った先にはイリスが居るのが必然という事。

 

「……で、こうなってるわけか」

 

録画音声をカットして、再び視線を現在のライブ映像に向ける。

其処には、幾千幾多の触手を振り回すイリスと、そのイリスの触手をなんとか払いのけようと必死に対空迎撃やら空戦魔導師やらを飛ばす『リーデーレ』隊の姿だった。

 

「そりゃ、魔力を餌にするイリスの至近距離であんな電波を無差別に垂れ流せば、反応するだろうな」

「管理局の艦は基本的に魔力炉で動いてますから……」

 

当然、人間、というか生物の保有する魔力量を圧倒的に上回る魔力炉。イリスにしてみればそれは、散らばる柿ピーを一粒一粒漁っている最中、不意に目の前に柿ピーの小袋を発見したような物だろう。

 

……例え分り辛っ。

 

「で、如何するのよコレ」

「あはは、どうしよっか」

 

問うアリサに、すずかは困ったように苦笑する。

何せ相手はいきなり宣戦布告をかまし、地球に対して戦術兵器の使用をほのめかした存在だ。何が悲しくてそんな敵性勢力を、SR機数機もの戦力をぶつけて勝てるかどうか、なんて相手から助けねば為らないのか。

 

「これ、助けたら政治的なカードになるのかな?」

「為るだろうけど、あのアルカンシェルとかいう魔導兵器の照準を地球に向けた時点で十分な手札には為ってると思うわ」

「因みにアルカンシェルって言うのは……途中で制御に失敗したストレイドのレムリア・インパクトとかが一番近いかな?」

「えっと、熱量を与えた空間を結界で覆って縮退現象を――恐っ、アルカンシェル恐っ!! っていうかそんな危ない兵器で地球を脅したわけ!! んなもん何が悲しくて助けなきゃなんないのよっ!!」

 

相互にかけた知識を情報交換で補うアリサとすずかの掛け合いを和やかに眺めつつ、膝の上のイクスの髪を手櫛で梳きながら如何した物か考える。

 

「とりあえず……あのリーデーレというXV級次元航行艦自体の救出は不可能そうです」

 

不意に響いたキャロの声。視線を再びライブ映像へと向けると、其処には数多の触手に絡みつかれた巨大な次元航行艦の姿が映し出されていた。

 

「あーあ、取り付かれちまってやんの。早速魔力炉のエネルギーも食われちまってるし」

「あれじゃ次元転移も出来ません!!」

 

質量兵器を厭う管理局の次元航行艦は、その大半のシステムを魔力に依存した物を使用している。

質量兵器は誰にでも利用でき、誰でも世界を滅ぼせる。故に魔力という使用者が限定され、尚且つ比較的クリーンなエネルギーである魔法は素晴らしい! なんていう思想の魔法なのだが、既に戦艦の主機として炉が存在する時点でそんな思想は特に意味を持っていない気もする。

 

まぁ、そんな思想から魔力エネルギーを偏愛する管理局のシステム。イリスによって魔力を強制徴収されてしまえば、当然艦はまともに動く筈も無く。

途端ゆっくりと地上へ向けて降下――いや、墜落していくリーデーレ。その先には、触手を絡ませたイリスが存在していて。

 

「あ、落ちた」

「というかぶつかったぞあれ。まさかの特攻……なわけないわよね」

「単純に、飛行出力を維持する魔力すらなくなって、慣性でイリスにぶつかっただけだろう」

 

画面の中では、大質量の次元航行艦に直撃を喰らい、甲高い悲鳴を上げるイリスの姿が映し出されていた。

 

「うわぉ、今の衝撃、乗員は生き残れたのかしら?」

「生き残っていればもう脱出しているだろう。問題は、墜落の時艦の外に出ていた空戦魔導師だ」

「彼らが如何かしたんですか?」

 

ティアナの問い。まぁ、ミッドの地上防衛を担当していた元陸士のティアナには少し理解し辛いのだろう。問題は此処がミッドチルダではなく、地球である、と言う点。

 

既に此処は次元世界からは隔離された世界であり、彼らは次元航行艦を用いてやっとこの世界に侵入できたのだ、と言う点。

簡単に言うと、生身の空戦魔導師では、次元転移魔法を用いたところで、地球からの脱出は不可能なのだ。

 

「あれを保護できず、下手に逃しでもしてみろ。逃げ帰ることも出来ず、喧嘩を売った手前保護も求められず。賊にでもなられてしまえば、ナノマシンやらケミカルバイオで緑地化の加速している地上で潜まれれば、探し出すのは凄まじく面倒だ」

 

故に、彼らが確認できる現状で、一気に保護してしまうのがいいんじゃないだろうか、なんていう意見をその場で上げてみたのだ。

 

「そうね、地上部隊に管理局局員の保護を頼んでおきましょうか。あくまで、イリスを刺激しない距離から」

「うん、ソレでいいと思う」

 

地上部隊の装備は、現状基本的にTSFだ。イリスの中期体までならまだしも、生体イリスにTSFで挑む事など如何考えても自殺行為以外のなんでもない。

連邦国民の為ならまだしも、地球連邦に喧嘩を売ってきた異世界人のために、国有財産である兵士の命をむざむざと散らせる必要は一切感じられない。

 

と言うわけで、次元航行艦リーデーレの墜落地点を囲うようにTSFを配置。一定の距離を保ちつつ、逃げてきた魔導師なり局員なりを保護、と言う形を取らせることとなって。

 

「で、私たちは何時出撃するの?」

「ある程度局員を保護したら、かな」

 

別に今からイリスに攻撃を仕掛けてもいいのだが、その場合先ず間違いなく墜落したリーデーレが巻き込まれる。XV級は確かに大型で強力な艦ではあるが、動力の通っていない次元航行艦なぞただの鉄の塊以上の価値は無い。

 

SR機の攻撃――メイ・オーでも光になれでも、ましてやレムリア・インパクトでも一瞬で中の乗員毎消し飛ばしてしまいかねない。

別に気にする必要も感じないが、そういう非紳士的行いは後々此方の首を絞めかねない。

 

敵対的ではあるが、ある程度紳士的に行動しておくのも、一定以上の階級を持つ軍人としての勤め、らしい。

 

『空戦魔導師、収容完了まであと3分』

「よし、そろそろ各自自らの機体に搭乗し、発進待機に入る。――みんな、今回の敵はかなり強い。けど、立った一匹の敵だ。囲って殴れば十分勝てる!」

 

多少卑怯かな、なんて思いつつも、口の中で新撰組新撰組と呟きながら、改めて全員に視線を送る。

 

「イリスは知性も高い存在だ。各自、努々油断せず、全力であれを排除するぞ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

全員の声が揃うと同時に、ブリーフィングルームから一気に全員が駆け出し、各自の機体登場タラップへと向けて走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side other

 

 

 

「くっ、怪物め……!」

 

何処からとも無く地上へと降り立ったその怪物。データベースリンクにはイリスと名付けられたその怪物。

ソレが出現した直後、地上は静かにパニックに陥った。何しろ地球上は既に連邦軍により浄化作戦が推し進められ、次元断層フィールドによって隔離された地上には、宇宙以外からの攻撃――奇襲はありえないとされていたのだ。

だと言うのに、突如として地上に現れたその怪物。幸いであったのは、その怪物の出現地点が、既に人類が居住区としての役割を捨てた地域であった、と言う点だろうか。

 

現れた怪物イリスは、そのまま大地に降り立ち、まるで力を蓄えるかのように静かにその場に立ち竦む。

EFFはそれを、特殊部隊の攻撃による傷を癒しきれていないのだと判断。強敵には違いないが、回復される前に打撃を与え続ければ、本陣から戦力が引き返してくる時間を稼ぐ事は可能と判断。

 

即座にEFF地上残留部隊により、世界中からTSFがかき集められた。その数3000にも届こうかと言う大部隊だ。

 

当初「行き過ぎではないか?」「過剰戦力ではないか?」という声が、前線部隊、統帥指令本部両側から上ったのだが、いざ戦端が開いた途端、そんな事を言っている暇は一欠けらも無くなった。

 

唸る数十本の触手から放たれる黄色い閃光が大地を薙ぎ払い、その一撃で数十機のTSFが一気に撃破されていく。

 

対ギーオス用に開発された、超振動拡散シールドを持ち出してそれを防ごうとした機体もあったのだが、魔素濃度がギーオスと比べ桁違いであったイリスの魔力共振メスを受け止めきれず、ソレもまた次々爆炎に飲まれて消滅していった。

 

そんな最中、何処かから現れた次元航行艦。それが話を更にややこしくした。

ただでさえ強大なイリスだと言うのに、突如現れたその次元航行艦は、何を思ったのか地球連邦軍の戦力に対して地球を盾に取った脅迫行為を開始。

 

呆れて唖然とするEFFを他所に、そんな馬鹿の妄言、垂れ流しに成った電波に反応したらしいイリスは、そのまま周囲のTSFを無視し、次元航行艦を強襲。

折角エネルギー不足で機動力の落ちていたイリスは、次元航行艦の主機からエネルギーを強奪。傷を癒すどころか、そのままその肉体を更に巨大化させていった。

 

そうして地上に現れた、全長200メートルを超える巨大なバケモノ。しかもその肉体の一部が、次元航行艦を内側から乗っ取り、全身に鎧を纏った巨大な怪物へと変貌していた。

 

「アームド・イリスって所か……日本人のイモムシ怪獣でもあるまいに、鎧なんぞ着やがって」

『なんだ、何なんだよありゃ……』

「びびってんじゃねーよ。あと10分もすりゃお空の上から味方の増援が駆けつける。ソレまで精々ネバりゃいいんだよ!!」

『畜生!! 俺は帰る!! こんな所で死にたくないっ!!』

「何処に帰るってんだ!! 此処で奴の注意を母艦に引いてみろ。その途端帰る場所なんぞなくなっちまう!! 泣き言ほざく暇がありゃ一発でも多く弾丸をぶち込め!!」

 

オートマトンによる自動操縦機も含み、3000もあった戦力はあっという間に1000を割った。無人操縦機の損耗率は特に酷く、有人機の盾となってその大半は既に原型を留めず消滅している。更に有人機の損耗も少なくは無く、大地はオイルの血と鋼の骸で溢れかえっていた。

 

『畜生! 死にたくねぇ!! 援軍はまだかよっ!!』

「うるせぇよ。俺だって本当はまだ死にたかねーよ……っくそ、飛べ!!」

 

彼の言葉と共に、数機のTSFタイフーンが直上へと飛び上がる。途端地面を薙ぎ払う黄色い光に、逃げ送れた数十機のTSFが消滅、引火した燃料が爆発し、大気を振るわせた。

 

『隊長! もうだめだ!! ベルナドット隊長!!』

「言ってられる間は大丈夫なんだよ!! 各自弾薬、噴射剤の残量チェックを怠るな、副長!!」

『現在独立機動特務部隊ホロウが大気圏上へ転移。次の転移で此処に来ます!!』

「聞いたか馬鹿共! あと数分耐え凌げ!! そうすりゃお空から救いの天使が舞い降りるぞぉ~」

『隊長が天使って、似合いませんよ』

「うっせえよ! ほれ撃て撃て!! あのデカブツは鎧をまとって鈍足なんだ、しっかり見て回避すりゃ逃げ延びられる!!」

 

言いつつバリバリと撃ち放たれる突撃砲の36mm砲弾。然し次元航行艦の堅牢な装甲を身に纏ったイリスに対して効果的な一撃を入れることは出来ず。

稀にイリスの触手に弾丸が当たり、その魔力共振メスの方向を逸らせればいいほう。まさに暖簾に腕押し糠に釘といった有様だった。

 

『う、うわあああああああああああ!!!!!』

「っ!? 馬鹿、不用意に飛び上がるなっ!!」

 

その砲撃戦の最中。不意に飛び上がった有人機。戦場のTSFが既に壊滅判定に当るほどの損耗状況。そんな最中で単騎目立ってしまえば、イリスは間違いなくそこに攻撃を打ち込んでくるだろう。

事実イリスの触手に集う不気味な光。隊長と呼ばれた彼は、咄嗟に機体の跳躍機を吹かし、飛び上がったTSFの脚を掴んで地面へと投げ付けた。

 

「っ、マズ……!!」

『隊長ぉぉぉぉ!!!!』

 

そうして、入れ替わりに宙に浮いた隊長の機体。それを狙い打つかのように放たれたイリスの魔力共振メス。回避のために続けて跳躍機を吹かすが、魔力共振メスの速度は明らかにタイフーンの回避速度よりも速い。

コレまでか。隊長と呼ばれた彼が苦々しげにタバコの吸い口を噛み締めたとき、不意に視界が黒い影に覆われた。

 

『地球連邦軍統帥本部直属、機動特務部隊ホロウ部隊長メラだ。其処のタイフーンのパイロット、無事か?』

「……此方地球連邦軍ヨーロッパオチコボレ残留部隊ワイルドギース隊隊長のピップ・ベルナドット。支援に感謝する」

 

その瞬間、思わず彼は、タイフーンのコックピットの中で、操縦桿から手を放して脱力してしまった。

目の前に移る白い機体。まるで白亜の騎士のような、TSFとは違ったつくりのロボット。明らかに自分達のTSFよりも尚新しい、最新鋭の機体。ああコイツらが居れば、何とか為るだろう。そう感じたのだ。

 

『あー、ベルナドット隊長、我々はこれからイリスに対して攻撃を仕掛ける。其方は……』

「おけーおけー、生存者を救助して、そのままさっさと逃げさせてもらいますよ」

『その間の囮は確り勤める』

「ありがたい! そういうわけだ、全員、生存者を探しつつさっさと母艦までトンズラするぞ!!」

『『『『『Yes Sir!!』』』』』』

 

そんなベルナドット隊長の掛け声に、生き残っていたワイルドギースの部隊員は即座に生存者を回収。そのまま一気に母艦へ向けて長距離跳躍を開始。

 

「……へ、本当になんとかなりそうじゃねーの」

 

そうして母艦へ向かって跳躍する最中。ベルナドットの視界には、はるか背後、仁王立つ小さな白い機体と、更に天から舞い降りる、三機の巨大なSR機の姿が映し出されていた。

 

 

 




■次元航行艦『リーデーレ』
オリジナル。XV級だから結構デカイ。
登場してからあっという間にイリスに丸呑みにされた。

■民明書房『管理局、海の漢達』
97番から編集者だか作者だかが次元漂流した末、持ち前の好奇心から管理世界に定着。後に民明書房ミッドチルダ支部を立ち上げたとか。

■日本人のイモムシ怪獣
私は好きよ?

■ピップ・ベルナドット
ワイルドギース隊隊長。カウボウイハットの似合う人。
元々はヨーロッパ地方で傭兵として活動する『ワイルドギース隊』、ハグレ者のリーダーであったが、『世界がこんなに成っちまったんだ。仕方ねーよ』とEFFに参加。実力的には中の上といったところだが、その高い戦術的直感は地上部隊でも多くの人間から頼りにされるほど。搭乗機はTSF『タイフーン』


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35 決戦

 

「それじゃ、結局あれは救助しなくてもいいのか?」

『いや、救助は出来そうならやってくれ。その後拘束して、後の交渉材料にする』

「あいあいさー」

 

また面倒な事を、なんて思いながら、取り敢えずの作戦を考える。

 

「最優先目標はイリス殲滅、だよな」

『副目標が管理局艦生存者救出、かな。でも、生存者って居るのかな?』

 

既にあのイリスの触手でバックリ逝っちゃってる気がする。

 

「キャロ、イリスの装甲――次元航行艦の部分をスキャンできるか?」

『はい、えっと――ダメです、イリスの生命反応が強すぎて、それに阻害されちゃってます』

『ま、そりゃそうよね。救助は無理って思っておいたほうが良さそうね』

『神ならざる我等です。すべてを救える訳ではないのです……』

 

ちょっと残念そうなイクス。でも彼女こそが、戦場における無常さをこの中で一番知っているのだろう。何せ、人外だなんだと言って、一番長生きしているのはイクスだし。

 

俺なんて製造年月日こそ最古だが、稼働時間はイクスよりも下なのだ。それで御父様って如何よ? なんていう突っ込みは有るかもしれないが、いいのだ、イクスは可愛いし。

 

「よし、それじゃ全機、先ずイリスを囲って、遠距離から徹底的に叩くぞ!」

『うわ、卑怯臭い』

「生き残る為なんだ。先ずは勝つ事優先!!」

 

スパロボで例えるなら、周囲を囲っての援護攻撃ハメ。SR機の王道といえば接近戦なのだが、態々危険を冒してまで接近戦をするメリットというのは、実は現時点ではなかったり。

 

接近戦と言うのは、あくまで長期間戦い続ける為の高等スキルで、普通遠距離戦で片を付けられるなら其方のほうが楽だし、生存確率も高いのだ。

ユニコーン、ストレイド、ジェネシックガオガイガー、グレートゼオライマーによる遠距離攻撃が開始された。

 

先ず最初に放たれたのは、ストレイドの対霊狙撃砲。パイロットが俺からティアナに変更されるに辺り、銃系武装を大量に追加したとは聞いていたのだが、いきなり大技を放ったものだ。

 

放たれた灼熱の炎のは、イリスへと直進。その炎の弾丸を、俺のプラズマ火球の同類とでも思ったのか。イリスが触手で不用意にソレに触れた途端、轟音と共に一帯が灼熱の炎に包まれた。ソレこそティアナの得意技能、炎熱結界弾だ。

 

『いきなり派手にやるわねティアナ。まぁ、此処って元々度重なる戦火で元から灰しかないし、別に良いんだけど』

『手加減なんてしませんよ。……そんな事したら、また地獄のもう特訓ですし(ガクガクブルブル)』

『あー、ゴメン、私が悪かった』

 

ティアナとアリサは中が良いなぁ、流石ツンデレ同士、なんて考えつつ、センサーを光学カメラから量子カメラに変更し、イリスの位置情報を確認。

……矢張りと言うべきか、イリスは若干のダメージこそ受けているものの、未だその場に確りと留まっていて。

 

多少熱で軌道がぶれるのを覚悟しつつ、マナ・ビームマグナムを連射。流石マナ高圧縮システムを搭載した新型ビームライフルは違う。炎を突き抜けて、ブスブスとイリスに穴を開けていく。

 

――キュギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

 

全身を焼かれ、チクチクとビームマグナムで穴をあけられ。そんな状況に耐えられなかったのか、イリスは悲鳴を上げてその灼熱の爆心地から逃げ出そうと飛び上がり――

 

――チカッ、チカッ!!

――グギョオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

『うふふ、にがさないよっ!』

『見ようによっては、結構エグイわよね、すずか』

『うん? アリサちゃん何か言った?』

『ひっ、なっ、何も言って無いわよ?』

 

両手を翳すグレート・ゼオライマー。その拳に備え付けられた次元連結システムの干渉装置がチカリと光る度、イリスはまるで何かに殴られたかのようにバランスを崩す。

グレートゼオライマーの手が光る度、飛び立とうとしてはドン、ドンと殴られるように姿勢を崩し続けるイリス。勿論俺はマナ・ビームマグナムで狙撃を続けている為、殴られ焼かれ貫かれ続けるイリス。

 

『……如何考えても過剰戦力よね、コレ。若干あの怪獣が哀れに思えてきたわ』

「元々怪獣軍団を相手取る為の戦力だからな。とはいえ、それでも油断できる相手じゃ無いんだが……」

 

何せ、此方は単騎で地球を砕ける戦力が複数。それを個体に向けて延々攻撃しているのだ。

ジェネシックガオガイガーは当然、グレートゼオライマーも、熟練度によってはデモンベイン・ストレイドも。どれもこれも惑星粉砕レベルの禁忌指定戦力だ。

下手をすれば地球ごと砕きかねない過剰戦力。それがこのホロウには集められている。それだけヤバい山にかかわることが多かったという事でもあるし、それが許されるだけの功績を積んでいると言う事でも有るのだが。

 

「まぁ、確かに哀れなんだけど」

 

前回、完熟訓練も済んでいない不慣れなストレイドと一対一で戦っていた状況とは全然違う。

其々が慣れ親しみ、または完熟訓練を終えた、禁忌指定のSRが三機とSR相当の俺専用機が一機。もうこれだけで管理局世界を滅ぼせるほどの戦力なのだ。

それが延々、博打な接近戦をせず、チクチクチクチクと遠距離から削り続ける。これならいっそ接近戦で大技を狙ってくれたほうがいい。おれがイリスの立場ならそう思うだろう。

 

『やっぱり、私の出番は無さそうね』

「まぁ、ガオガイガーの出番は最後のトリだよ」

 

なにせガオガイガーは基本的に殴る蹴るの近接決戦機だ。正直地球上でこの機体を使うのもできれば控えたい。

まぁその分近接戦では無敵なのだが、その反面、遠距離攻撃の手段がブロウクン・マグナムくらいしかないのだ。そのブロウクン・マグナムの威力と言えば、対レギオン軍団戦を想定されている為、ギーオス数匹を纏めて血風に変えるトンでも威力なのだ。

 

グレートゼオライマーやストレイドとて、簡単に地球を焼き払える程度の攻撃能力は持っているし、このユニコーンとて、ただでさえ無限に近い俺のマナと、サイコフレームっぽい技術を試してみたら変に成功したマナの増幅装置、面倒なのでサイコフレームと呼んでいるソレがあれば、惑星を砕くくらいは軽い。

まぁ、惑星と人類の守護者である俺が地球を砕くのは、まずありえないのだけれども。

 

『あ、魔力反応。魔力共振メス、来ます』

「Mフィールドバリア」

 

盾がガシャンと駆動し、白銀色のバリアを生み出す。途端魔力を収束・発射し、ソレを媒介し超振動を加えることで物質を切断する魔力共振メスは、高濃度マナ障壁に遮られ、あえなくその光はプツリと途切れてしまった。

 

……なんだろうこれ。備えて戦えば、イリスってこんなものか? ストレイドで苦戦した俺が馬鹿みたいに思えてきた。

いや、ミッドチルダなんて異邦の土地で、グレートゼオライマーの火力をぶっ放すのは絶対拙いし、あの時はアレがベターな選択であったと思う。

でも、なんだろう。目から汗が零れだしてるきがする。

 

「……お?」

 

と、そんな最中だった。

ティアナの対霊狙撃砲から放たれる熱量に、ジワジワと融解していくイリスの姿が、不意に甲高い声をあげ、その触手を大きく広げたのだ。

大きく広げられた触手。それに誘発されるように、ボロボロと崩れだしていくイリスの纏っていた時空航行艦の装甲。

 

熱とビームライフル、更に次元連続システムのちょっとした応用でボコボコにされ剥がれ落ちた装甲。その下から現れたのは、大きく傷ついてはいる物の、それでも何処か洗礼された鋭角なフォルムの装甲で。

 

俺の、所謂原作知識にある成体イリスよりも、全体的に甲殻――いや、鱗のような物に覆われ、全体的に強度が増していそうな感じに見えた。まぁ、そもそもこのイリスは人型をしていないのだけれども。

 

「おぉっ!!」

『何喜んでるのよ馬鹿っ!!』

「だって第二形態だぞっ!? 正直このまま嬲り殺しとか、合理的では逢っても萎えるとか思ってたんだよ!!」

『馬鹿正直にそんな事言うんじゃないわよっ!!      ……まぁ、私だってそう思うけど』

 

ボソッと本音を漏らしたアリサ。やっぱり活躍の場は欲しいですよねー分ります。

 

『メラさんもアリサさんも!! 喜んでないでさっさと倒しますよ、アレ!!』

「『は、はいっ!!」』

不意にポップアップした通信スクリーン。映し出されたのは、何処か血走った目のティアナの顔で。……きっと1000人抜きで高ぶってるところに、レギオンと戦う為宇宙に行ったり、かと思えば地球に折り返したりでストレス溜まってるんだろうなぁ。

『――ってマズっ、炎熱結界破られます!!』

『あ、コッチの攻撃にも慣れちゃったみたい』

 

ティアナの声に続き、すずかののほほんとした声。見れば、無数の触手が炎を切り払い、その中から虹を纏った巨大な怪物が此方へ向かって進みだしていた。

 

「…………」

『ちょっと、何感動してるのよ』

「いや……これでこそボス戦というか、なんというか」

『だからそういう事で感動するなっつってるでしょ!!』

まぁ、不謹慎と言うのは十分に理解できているのだが。だが、ボス戦と思っていたら嬲り殺しでした、なんて展開よりは十分に燃える展開だろう。

 

「よし、第二ラウンドだ。各員、気を『メラさん!! 大変です!!』 ……如何したキャロ」

『次元航行艦の、管理局の次元航行艦の大群が、イリスの空けた穴から地球に!!』

「な、にぃ!?」

 

その言葉と共に、此方の舞台とイリスを挟んだ三角線上に、ぐにゃりと空間を歪めて現れる巨大な多数の人工物。

油断していたと言うか、なんというか。やっぱり俺には、燃える展開なんて無理なのだ。

 

「……各員、戦闘継続。イリスにも、管理局に対しても、気を抜くなよ!!」

やっぱり我々には、燃える戦場ではなく、何時も通りの混沌とした戦場というのがお似合いなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Nanoha

 

 

「つ、疲れた……」

「あ、あはは、お疲れ様はやてちゃん」

 

アースラの乗員が集められたその一室。会議室のようなつくりになった、けれどもそれは如何見ても管理局の技術と同等かそれ以上といったような技術の使われたその一室。

幸いと言うべきか、大破したアースラに比較し、負傷者こそ多数出たものの、死傷者に至ってはゼロという不幸中の幸いであったその後。全員が意識を取り戻したという事で、その部屋へ集められたのだけれども。

まず最初に行なわれたのは、地球連邦政府から派遣されてきたという“外交官”さんであった。

 

「まさか、自分が働くことがあるとは思っていませんでしたが」

なんて苦笑しながら言うその男性。どうも嘗てあの黒い人――メラさんだっけ? から貰ったデータ……地球統一政府、地球連邦と言うのは本当のことらしい。そりゃ、地球に国家が一つしかなければ『外交』の相手なんて想定しても居ないか。なんて思っていたのだけれども。

 

「いえ、正確には『私の代で』外交官に仕事が来るとは思ってなかった、なんですけどね」

 

納得した私に、少しだけ注釈を付け加えてくれたその男性。何でもこの外交官というのは“対人”外交官ではなく、“対異星人”外交官なのだとか。『来るべき対話に備える』とか『イオリア博士の計画』だとか、なんだか難しい話もあったのだけれど、正直良く分らなかったので殆ど聞き流しちゃっていたり。要するに、私たち宇宙人扱い?

 

で、結局その外交官さんにより、最初に説明を受けたのが、私たちが如何いう経緯でこの月面基地へ収容されたのかという経緯。

まず最初、地球の現在の状況から。

 

 

 

 

6~7年程前から騒がれだした怪鳥の事件、後にギーオスと呼称されるようになったその怪物。コレがそもそものすべての始まりなのだそうだ。

人を喰い、最大で100メートル近くまで成長する怪物。地球人類は急遽この怪物に対抗する必要に迫られた。

 

とはいえ基本、幼生体のギーオスには従来兵器が通用していた為、人類は何処か油断してしまっていたのだ。

そうして起こったのが大異変と呼ばれる変異。宇宙から飛来した謎の草体と、蟲の様な姿をした怪物――レギオン。ただでさえ疲弊していた地球に現れたこの怪物により、地球は更に甚大な被害を受けた。

 

この被害――環境破壊により、更にギーオスの大量発生が誘発されるという悪循環が発生し、地球人類はその総数を全盛期の半数近くまで減らしてしまう。

此処で目覚しい活躍を見せたのが、B&Tの戦術歩行戦闘機――TSFであった。航空戦闘能力では従来の戦闘機にこそ劣るものの、陸戦を含め、限定的な立体軌道で言えば戦闘機のそれを上回る能力を持つTSFの台頭により、ギーオスとレギオンを一時的に押し返すことに成功。

 

そうしてなんとか定格戦力の維持に成功した人類は、続き成体ギーオスに対抗する為開発された規格――SR機の開発に着手した。

このSR機の登場により、地球上からのギーオス及びレギオンの掃討に成功。更なるレギオンの襲来に備え、大量の無人機を生産し、ソレを用いての宇宙開発を急速に発展させたのだそうだ。

 

これ――地球のL点に設置された“地球件絶対防衛網”の建設が開始されたのだが、この最中に再び地球圏にギーオスが現れたのだ。

地球上のギーオスは掃討したはずであるというのに、何故ギーオスが現れたのか。少なくとも幼生であれば未確認の巣の存在が疑われたのだが、現れたのは成体のギーオスであった。流石にあの巨体では成長過程で発見できる筈であった。

 

だと言うのに現れたギーオス。解析の結果、ギーオスの発する特殊な生体エネルギー反応。発見者の『豊穣魔実博士』の名前から、冗談であったのがいつの間にか定着した『魔力』と呼ばれるその素粒子による時空間干渉技術により、何処かの異世界からやってきたのではないか、という仮説が提唱された。

 

これに対処するべく、かねてより研究されていた技術、『マナ』と呼ばれる生体エネルギー反応と、それを用いる術式、『魔術』なんて呼ばれるその技術により、幾つかの対抗策が講じられた。

 

一つは侵攻、一つは防衛。つまり、異世界から攻められているのであれば、異世界に攻め込んでしまえと言う考え方と、異世界に対して壁を作り、その往来を封じ込めてしまおうというモノであったのだそうだ。

結局、どの程度の規模が存在しているのかも想定できない異世界へ侵攻するよりも、素直に異世界の往来を防ぎ、地球で力を蓄えなおすほうが現実的であると判断され、マ時空間の往来を禁ずる次元断層フィールドが地球圏に展開。これにより地球連邦はその敵を火星のレギオンにのみ絞る事に成功したのだとか。

そうして敵を火星に絞った地球連邦は、地球、月、各L点の宇宙基地で無人機により、大異変前から考えても如何考えてもおかしい速度での宇宙開発が侵攻。そうして一定戦力を整え、地球圏の防衛能力に余裕が出てきたところで、火星側に動きがあったのだとか。

 

月面の光学望遠鏡“シャロン”が捉えた、火星から飛来する多数の斑点。これを地球人類は火星からのレギオンの侵攻と判断。すべての防衛戦力を持って、月の外延部での迎撃作戦を開始。

多数の無人機と有人艦により、なんとか戦線を維持していた戦場。そのど真ん中に、不意に異次元からこの世界に侵入してきたのが、アースラ及び時空管理局の機動六課。

 

これが運悪くレギオンと地球連邦軍の戦火の狭間、それもレギオンの射線上のド真前に出現。マザー・レギオンのマイクロ波シェルによりその艦の中央を貫かれ、大破炎上。

 

なんとかレギオンを撃退しつつ、ソレを観測した前線部隊が、何処の所属かは知らないが見捨てるのも拙いと判断。ガイア式を用いた緊急保護装備を用い、アースラを艦毎封印保護。そのまま月面基地へと搬送されたのだとか。

 

「……これがホンマの出オチってか」

「文字通り、ですよね。笑う以前に唖然としちゃいましたけど」

 

はやてちゃんのコメントに対する外交官さんのコメント。如何でもいいんだけど、外交官ってもっとカッチリした人だと思ってたんだけど、この外交さんは随分フランクな人なの。

 

「にしても、うち等の知ってる状況とは若干違うみたいやけど?」

「と言いますと?」

「あのアルハザードの遺産とかゆー奴のことが一切書かれとらんやないか」

「はて、アルハザードの遺産とは?」

 

はやてちゃんの指摘に首を傾げる外交官さん。そう、彼の話には、事前情報として得ていた彼、メラさんのことが一切話に出てきていないのだ。

 

「良く分りませんが、アルハザードの遺産というのは? 確かに、遺跡発掘などで得られた先史文明の超技術を利用している、と言うものは有りますが」

「あの真っ黒姿のスカしたにーちゃんや! アレの技術供与があったからこそ、地球が爆発的にその技術力を高めたんと違うんか」

「はて、私はそんな存在は知りませんが?」

 

そう言う外交官さん。思わずといった様子でヒートアップしそうなはやてちゃんをフェイトちゃんが後から抱きかかえるようにして抑えさせた。

「えと、メラさんのことなんですけど、あの人は地球連邦軍に属しているんですよね?」

「さて、軍属に関する情報は重要機密扱いですので、軍属に関する一切の質問には答えられません」

 

その答えに、もしかしたらあのメラさんって言う人は、存在が秘匿されているのかな? なんて思って。

まぁ冷静に考えてみれば、対外的な話に、そんな内輪の重要機密まで漏らすわけないか、と改めて納得して。あれ? でもすずかちゃんとメラさん、普通に色々喋っちゃってたような???

 

で、そんな事を考えつつ始まったのが、はやてちゃんと外交官さんの間での、六課に対する待遇での交渉。

コレがまた面倒で、事務仕事がメインのはやてちゃんに対し、相手は話術巧な外交官さん。

 

交渉する以上自らに有利な条件を『勝ち取らなければならない』『八神はやて二等陸佐』ではあるのだけれども、そもそもアースラは相手方に曳航、職員は全員保護されてしまっている状況。すべてが相手の手の平の上の出来事なのだ。

そんな状況で此方を対等に扱ってくれているのだが、寧ろいっその事高圧的に対応してくれたほうがやりやすいのでは、なんて、端から聞いていて思うほど外交官さんの話術は凄まじくて。

 

気付いたときには、アースラのデータを根こそぎ回収されることを『承諾してしまった』はやてちゃんが、机に顔を伏せてぐったりとしてしまっていた。

 

「なんやねんあれ。あんなん反則やん。出来る上司になる方法なんて気になってまうやん」

「主はやて……」「はやて……」「気にしてたんだな……(哀れみの視線)」

 

シグナムさんやまもる君、朱雀君が頭を抱えるはやてちゃんをみてそんな事を呟いて。

 

「元気出せよはやて!!」

「まもるくん……」

「確かにアースラのデータは拙いけど、そもそも管理局に帰れるかも分んないんだし」

「あああああああああああ……………」

 

あ、護くんがトドメさした。

真っ白に燃え尽きているはやてちゃんを皆が宥めているのを眺めていたのだけれども、あれは一種のコミュニケーション、もしくはいつもの茶番劇と言うやつだ。

仲いいな、何て思いつつ、折角なので預かっている端末を使って情報をチェックする。所詮はゲストIDだから、そんな対した情報は閲覧できないけど、簡単なニュースくらいはチェック出来る筈、なんて思って。

 

「……え゛っ」

 

そうして視界に入ってきたその映像に、思わずそんな声を上げてしまって。

 

「如何したんですかなのはさん?」

 

と、はやてちゃんの茶番劇を遠目に眺めていたスバルが私の声に気付いて此方に近寄ってきた。

一瞬隠そうかとも思ったのだけれども、かくしてどうなる訳でもないかと思い直して、端末をスバルに示す。

 

「……こ、これ!? 如何いうことですか?!」

「さぁ。でも、艦種は間違いなくウチのXV級みたいだし……」

 

其処に映し出されているのは、暴れまくるギーオス変異体『イリス』と、その傍で周囲へ向けて脅迫染みた内容を無差別に放送している管理局のXV級次元航行艦の姿で。

可能性としては……なんだろう。こんな馬鹿なことをしてるってことは、よっぽど追い詰められてる……管理局で追い詰められてるって、今はギーオスの話で結構慌しいけど……。

 

「あ、もしかして、最高評議会派っていうのじゃ……」

「おぉなるほど。エリオ賢いじゃん!」

 

と、そんな最中不意に、いつの間にかこちらに来ていたエリオがそんな事を言った。

確かに最高評議会派……JS事件の後、管理局の闇を担っていた最高評議会と、その最高評議会に付き従っていたとされる管理局上層部の一部分。

確かにあそこは後ろ暗い事――管理局の理念から大分遠い事をやっていたとかで、査察の手が伸びている……っていう話を、はやてちゃん経由のアコース査察官から聞いた覚えはあるけど。

 

「あぁっ、フネが……」

 

と、不意にスバルが声を上げた。何事かと見れば、その次元航行艦がイリスの触手に絡みつかれていて。

あぁ、あれはダメだ。あの時みたいにこのまま動力の魔力をまるごとごそっと持っていかれちゃうんだろう。

……なんて思ってたら、魔力どころか艦そのままを鎧のように着込んでしまったイリス。

 

「次元航行艦の強度ってどれくらいでしたっけ?」

「私の全力全壊なら穴を開けるくらいは出来るけど……場合によっては質量兵器を使う紛争地帯とか、危険な暴走ロストロギアを相手取る場合も想定して、結構強靭な装甲だったはずだよ」

「それを装備して……ボクじゃアレを相手取るのは無理ですね」

「魔導師じゃ無理だよ。私だってあの装甲を抜いたところで、肝心の砲撃は減衰してるだろうし、それもあの怪獣は吸収しちゃうんだし」

「あ、そっか」

 

仮にあのイリスと相対するとして、その場合火力の中心となるのは間違いなくスバルだ。

確かに魔導師ではあのイリスに打撃を与える事は出来ないが、スバルなら、戦闘機人モードのスバルであれば、少なくとも魔力に頼らない攻撃を行なう事ができる。とはいえ相手は怪獣。大軍装備ならまだしも、対人兵器である振動破砕では今一つ心許ない。

 

いつぞやのヘリを砲撃した攻撃。アレなんかはこの状況に丁度いいんだけど。

そんな事を考えながら動画を見ていると、イリスと戦っていたロボット――えっと、確かTSFだっけ? それが徐々に圧され始めた。

 

さっきまでは大分拮抗していたのだけれども、やはり基本的な性能が違う。イリスの圧倒的能力に対して数で抵抗していたTSF部隊だけれども、その数が減ってきた事で、加速度的に損害が拡大しているのだろう。

 

「あの、なのはさん?」

「うん、どうしたのかな」

「えっと、コレ……このデータ、八神部隊長に報告しなくていいんですか?」

「………あっ」

 

忘れてた。そうだよこれ、リアルタイムの映像データならはやてちゃんにも見せておいたほうが良いに決まってる!!

 

「はやてちゃんコレ!!」

「なんやなのはちゃん……こんなダメ上官にまだ何かあるんか?」

「ド底辺ならこれ以上下がることは無いでしょ!! それよりもこれ!!」

 

何かはやてちゃんが「グハァッ!!」って悶えてるけど、知った事じゃないの。

未だに悶絶しているはやてちゃんの首を掴んで画像に向けて、と。

 

「(さすがなのは、容赦が無い。其処に痺れる憧れない)」

「何か言ったフェイトちゃん」

「ううん何も(キリッ」

「あ、あーっ!! これ、ギーオス変異体!?」

「そう、このデータを信じるなら、どうも次元断層フィールドを無理矢理突破してきたみたいで」

 

漸く正気に戻ったはやてちゃん。大声を上げたはやてちゃんの声に釣られて、周囲の皆の意識もこちらに引っ張られてしまった。

 

「しかもイリスの後を追って、管理局のXV級次元航行艦が此処にきてたんだけど……」

「……ウチの見間違いとちごたら、なんかこの怪獣、鎧着てへん? しかもなんかこの鎧、見覚えあんねんけど」

「うん、間違ってないよ。しかもこのフネの人達、何でかしら無いけど盛大に地球に喧嘩売ってたし」

 

いいながら、少し前の動画を再生する。内容は、イリスに取り込まれた次元航行艦の艦長さんが撒き散らしていた暴言の部分だ。

「……あー、なんやこれ。何をトチ狂って……」

「さっきエリオとスバルで、もしかして最高評議会派の人たちかな、って」

「……あー……えー……でもこの声、聞き覚えあんねんけど……この連中って、此処に来るときのうち等機動六課の後詰めの連中やなかったっけ?」

「え、そうなの?」

 

後詰めといえば、いざと言うときには私たちの救助部隊なんかを努めてもらう必要のある、重要な部隊だ。

今回みたいな、難易度の高い、何があるか分らない任務なんかには、必ず後詰め、バックアップが求められるのだけれども。

 

「……まさに、頼みの綱が切れた、やな」

「なんだろう、急におとーさんとおかーさん、おにーちゃんとおねーちゃんにあいたくなってきたなー」

「なのはちゃんしっかりしぃ!! いやまぁ一応此処地球圏やし、今やったら会えるかもしれんけど!!」

 

と、そんな事を話していると、また映像の中で戦況が動いた。

ボロボロに為っていたTSFの部隊。それが全滅する、という寸前のところで、上空から入った援護。

 

純白の角の生えたロボット。TSFとはちょっと違って、貰ったデータの中には無かった型式のロボットだ。ということは、SR機になるのかな?

そのロボットのあと、更に舞い降りたのは三機のSR機。

 

「なっ、ジェネシックガオガイガーにグレートゼオライマーやとぉっ!?」

「し、知ってるのはやて?」

「知らんわけあるかいなっ!! あらゲームとかアニメで有名な……ってそれをホンマに作ったんかい!!」

 

フェイトちゃんの問い掛けに、一人ノリツッコミを放つはやてちゃん。

 

「ってあぁ、イリスが一方的にボコボコに……」

「当然や! あれがマジモンのゼオライマーとガオガイガーやったら、下手すりゃ一瞬で地上が焦土になるんやで!!」

「……アレって対霊狙撃砲か? あれはアイオーンの装備じゃ……いや、ネクロノミコンの魔術礼装だから……でもネクロノミコン積んでるのか? ――ハッ、アブドゥル・アルハ……ッ!?」

 

なんだか色々混沌としてきたの。

とりあえず手元の映像を見る為に、アースラの乗員全員が近寄ってきて暑苦しかったから、会議室に備え付けられていた端末からディスプレイに現状のライブニュースを投影するように設定して、と。

 

元々会議室として作られていたらしいこの部屋。部屋の広さは勿論、こういう情報出力用の設備も当然備え付けられていたみたい。

そんな事を考えていたら、急に会議室のスクリーンが白い光を放ちだした。見ればソレは、あのロボットの内の一機が、鎧を着込んだイリスを炎の結界で圧し包んでいた。

 

「「「「「う、うえっ……」」」」」

「ぐ、グロっ」

 

その光景に、思わずスクリーンを見ていた局員の何人かがそんな声を上げた。まぁ、ソレも仕方ないか。スクリーンに映るのは、金属と一緒にその触手や身体の一部をドロドロと溶かしていくイリスの姿。

 

前線職の私たちでも若干気分が悪いのだ。バックヤードの事務員な子達には辛い光景だとおもう。……まぁ、何時ぞやの『赤い森』に比べれば大したことはないのだけれど。うぅ、あれはトラウマなの……。

 

「(私はピンクの光の壁がトラウマなんだよ……)」

「何か言ったフェイトちゃん?」

「うん、このチョコレート美味しいねって(キリッ」

 

会議室の所々に用意された小さな籠の中に入っていたチョコレートをモッキュモキュとつまんでいるフェイトちゃん。……なんでアレでお肉が全部胸に行くんだろう……。とりあえず口元のチョコレートを拭くべきなの。

と、そんな事を思っていたら、ギーオスが鎧を脱ぎ捨て、さっきまでとは違った、目を見張るほどの素早い動きで空を飛び始めたの。

 

「まぁ、イリス……っちゅうか、ギーオス種の最大の利点は高い攻撃力と機動力でのヒットアンドアウェイやからなぁ」

「如何いうことだ?」「要するに、戦闘スタイルがスーパーよりもリアルに近いという事だ」

 

何かまもるくんと朱雀君がわけのわからない話をしてる。けど、やっぱりあの二人、普段喧嘩してるけど時々凄く仲良くなるよね。

と、そんな事を考えていると、会議室に誰かの悲鳴が響いた。

何事かと視線をモニターに向けなおすと、其処には先程の次元航行艦をまといゴツゴツとしていた姿のイリスと変わり、今度は曲線を描く細身の姿になったイリスが映し出されていて。

 

「……イリスが……フェイトちゃんみたいに脱ぎおった……」

「ホント……ってちょっとまってはやて。私みたいにって何!?」

「「「「「……えっ?」」」」」

「なんでみんな不思議そうな顔するのー!?」

 

良い年齢して加速するごとに脱ぐ子の悲鳴はともかく、その姿形を変えたイリスの様子は、まず間違いなく本来のヒットアンドアウェイで戦うための物で。

それも、あの灰色の装甲。外骨格の類だと思うのだけれども、あの次元航行艦の装甲ですら融解するほどの熱量の中でも形を残していることを考えると、相当な代物である事は間違いないだろう。

……私の砲撃で抜けるかな?

 

――ビーーーーーーーーーー!!!! 

 

「ま、また……今度は何だってんだよ……」

 

疲れたように呟くまもるくん。その言葉に、声にこそ出さないが周りの皆は殆ど同じことを考えてるようで。

そんな皆の視線の集まる先、部屋に設置されたスクリーン。其処に映し出されたものを見て、再び皆は絶句した。

 

「じ、次元航行艦隊……」

「アホな!? 外交関係も結んどらん、こんだけの技術力持った世界に艦隊派遣するやて!?」

「これは……下手をすれば戦争になるぞ……」

 

顔色を真っ青に染めたのは、フェイトちゃん、はやてちゃん、朱雀くんの三人。それ以外の皆は、何処か安心したような、戸惑ったような、そんな雰囲気で。

ことの重要性を理解しているのは、執務官権限で法的知識を持ったフェイトちゃん。部隊運営なんかで同じくそうした知識を持つはやてちゃん。企業云々で社会経験のある朱雀君。

 

「なのはさん、顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」

「……そういうスバルも顔色悪いよ」

 

……あ、スバルも理解してるみたい。これはアレかな? ティアナの仕込みなのかな。どちらかと言うと肉体派に見えるスバルだけど、実は陸士訓練校では成績一位だし、勉強は好きじゃないけど頭はいいのだ。

 

たとえ話をすると、『いきなり見知らぬ沢山の赤の他人達が、いきなり家の中に入り込んできました』というのが今の地球連邦軍の状況だろう。

普通管理局が未接触文明とコンタクトを取るときは、よっぽどの事がない限り最低限の人数で行なう物なのだ。それが、大艦隊を引き連れて。

 

……これはもう、家にトラックの群が突っ込んできたとか評しても違和感無いの。

 

「(さすがなのは、たとえ話が私達の常識を飛び越えてる。其処に痺れる憧れるぅっ!!)」

「何か言ったフェイトちゃん」

「うん、アレは多分、エルラン中将の所の第一駐留艦隊じゃないかな?」

「エルラン中将っちゅうと、あの?」

「知ってるのかはやて」

「ん、我々が良く知るのは、海で大きな権力を持つ『波羅王雲』派だが、海にはソレを超える巨大な一派が存在している。ソレがかのエルラン中将率いる『得屡蘭派』っちゅう一派や。

エルラン中将本人は実力もたいしたことない……ッちゅうたら失礼やけど、あくどいっちゅう噂がそこら彼処に溢れる、フツーの官僚型のお人や。

けど、その政治力は中々凄まじいらしいて、犯罪結社やらにも伝手があるとかゆう噂もあるし、……最高評議会直属戦力やっちゅう噂もある

 By民明書房『管理局、海の漢達』 著:燐出異 派羅王雲     ――って何いわせんねん!!」

 

「……」

「せめてツッコミくらい入れて!?」

 

最高評議会直属。それは、つい先日漸く解決したJS事件。その裏で……いや、管理局と言う組織そのものの裏で暗躍していた組織の名前。もしくは管理局の闇そのもの。

JS事件の折、主犯、ジェイル・スカリエッティーの刺客により暗殺されたのだが、その影響で管理局は彼らの管理していた暗部情報により天地がひっくり返るほどの大混乱に見舞われているのだ。

……はやてちゃんに対するツッコミ? 民明書房って何かな?(←数少ないネタを理解し得る地球人)

 

「……さっきの次元航行艦、リーデーレ……アレが最高評議会派だったら……」

「仲間をよんどった……ちゅうことかいな……」

「なるほど、連中の主張――地球勢力を、悪質なテロ組織とするならば、イリスと敵勢力、両方を叩くことが出来れば、本局に胸を張って凱旋できるだろうな」

「テロリスト……地球連邦軍は『地球連邦政府』の『軍隊』なんだろ!?」

「勝てば官軍、実績を残せば結果なんて好きに書き換えられる――連中はそう考えているんだろうな」

「そんな……」

 

もしそれが事実だとすれば、なんだかとてもやりきれない気分になる。理想を持って戦ってきた私たち。その私たちと同じ組織の人間が、そうした行動を起す。

うん、やっぱりなんだかやりきれない。

 

「しかも……最悪の展開に入ったみたいや」

 

そうして表示されるディスプレイの中には、地上上空でアルカンシェルをチャージする次元航行艦隊と、その触手に溢れんばかりの稲光を滾らせるイリス、そして恐ろしいまでの規模のオーラを放つ四機のロボットの姿があって。

私たちは、画面の中に映る、これから始まるであろう三つ巴の戦いを予期して、思わず固唾を呑むのだった。

 




■シャロン月面望遠鏡
元ネタ:宇宙兄弟。
元ネタ書こうとしたら宇宙兄妹って変換してしまった。これはコレでアリじゃないだろうか。
■対霊狙撃砲
魔術師の杖。焼き祓う時にはコレ、というような物。
但し杖という特性を備えた砲であるため、マナの増幅率が半端無く、同時に制御が困難になる為、ガイア式適性の高い者ほど扱いが難しくなる。
■惑星を砕く戦力
・ジェネシックガオガイガーのヘルアンドヘヴン・アンリミテッドやゴルディオン・クラッシャー
・グレートゼオライマーの“天”メイオウやら“烈”メイオウ
・デモンベイン・ストレイドの“焼滅呪法”“凍滅呪法”“昇華呪法”その他諸々
・ユニコーンのオーバーロード
・無人ロボっ娘軍団の師団長クラスの火器(7号のビームスラッシュ、)
などなど。
■月面電波望遠鏡“シャロン”
月面望遠鏡建設計画主任、金子シャロンの名前に因んで名付けられた、月の望遠鏡。
この月面望遠鏡の技術から、各L点における光学監視装置の開発が行なわれた。
本編中においても、宇宙観測における重要拠点として存在する。
■普通に色々喋っちゃってたような?
レイジングハート等デバイスのレコード、ティアナから提供された情報などからは、メラやその周辺の機密情報は削除されている。
要は記録に残らなければ、証拠が無ければ嘘を嘘と証明できない。
“外交官”の彼の話は結構矛盾もある。
■エルラン中将
ミッドチルダの『海』に所属する中将。魔法ではなく政治力でのし上がった人。
割とゲスい人で、最高評議会どころか次元世界各部の裏組織とつながりがあった。そのつながりを利用し、裏に最高評議会の意志を流す役割なども請け負っていた。
最高評議会が崩壊した事で一気に悪事が露見し、その名誉挽回の為にトチ狂い地球に侵攻してきた。
■しっているのかはやて!
元ネタは「知っているのか雷電」から始まる『男塾』の民明書房ネタ。
因みに民明書房は架空の出版社。
■家の三人娘
・なのはさん――天然ボケ気味の鬼教導官。教導の効果は管理局基準で微妙ながら、その圧倒的迫力から、彼女の砲撃を体験したものが戦場でビビる事は無い。
・はやてさん――豆狸。リーンフォースⅡの製作助力だったり闇の諸云々だったりの始末をやってくれた管理局万歳! ただし義務教育が足りていない。
・フェイトさん――とある自己啓発セミナーに参加したことから、圧倒的自立心を確立。なのはさん万歳じゃなく、多々毒を吐くように。どうしてこうなった。
■戦闘スタイルがスーパーよりもリアル
とても簡単に言うと、
・スーパー――トンデモ装甲と馬鹿げた火力で受けとめて叩き潰す
・リアル――蝶の様に舞い、蜂の様に刺す。装甲はぼちぼち。
■うちのスバル
ティアナのスパルタ訓練によりティアさんの海兵隊式罵り手帳新兵訓練編をクリアし立派なソルジャーに! ただしその後再洗脳により人格は元に戻されたとか。
■民明書房
皆大好き民明書房! じつはクラナガンにも何故か存在している民明書房! 民明書房は次元を超えるのさっ! きっと次元を超える武術とかの使い手が居るんだねっ!


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36 戦

 

 

まず真っ先に撃墜されたのは、当然ながら次元航行艦隊であった。

EFFの機体――特にSR機や専用機などにはガイア式魔術が組み込まれていることが多く、このガイア式に用いられているマナというエネルギーは魔力よりも比重が重い。

 

如何いうことかと言うと、要するに魔力が氷、マナが鋼と考えるのが簡単だろうか。

 

魔力は実に多様性に富むが、純然たるマナに比べればその強度は脆い。マナが魔力の上位のエネルギーなのだ。

マナから魔力に干渉することは可能だが、魔力からマナに対する干渉は不可能。不可逆な関係にあるエネルギーなのだ。

しかもSR機の中でも、ホロウが保有するのは其々の専用機。特機なんて称しても良い程の特別製ばかりなのだ。

 

幾らアルカンシェルが凄まじい威力を誇ろうとも、その前段階、魔法の起動プログラムが阻害されてしまってはどうしようもなかった。

 

更にイリスに至っては魔力をそのまま餌食に出来るのだ。しかも成長した事で、一定領域内の魔力を無差別に吸収する能力を得たらしく、前々までのような触手による“有線”ではなく、“無線”で次元航行艦隊のエネルギーを喰い散らかしているのだ。

 

片や魔法を形成するプログラムが散らされ、片や魔法を起動する魔力を根こそぎ食い千切られる。こんな状況で次元航行艦隊に対応する術はなく。

艦隊砲撃は全て散らされ、送り出した武装局員はイリスに喰われるわ魔力を散らされて墜落死するわ。

 

最終的に艦隊の何割かを特攻させて此方を潰そうと目論んだようなのだが、ティアナの重力結界に縛られ動きを封じられたところを、イリスの魔力共振メスによりバラバラに刻まれ、そのまま爆散してしまった。

 

まぁ、それでも多少は生き残りが居るのだろうが、救助するとすればこのイリスを倒してから。それも捕虜として、だろう。

 

 

 

 

そうして次元航行艦隊が撃沈し、更に問題が発生。というのは、次元航行艦隊の砲撃に対する対処法の差異、というものだろうか。

片や魔力をエネルギーとして喰らうイリス似たいし、方や魔力を散らす、結合を阻止すると言う方法で無力化する我々地球連邦軍勢力。

回復しているイリスと、殆どノーコストとはいえ消耗している此方では、当然差が出始めて。

 

一進一退の攻防の最中、装甲を脱ぎ捨て、凄まじい速度で空を飛びまわるイリス。そんなイリスとの戦いの最中、不意に放たれた一撃。長期戦の最中で集中力も途切れだしていたのだろう、その一撃を回避し損ねたティアナ。

咄嗟に前に割って出たのだが、常駐バリアを割って入った魔力共振メスの一撃。咄嗟の事でシールドバリアの展開が間に合わず、その一撃はユニコーンに痛手な一撃を与えて。

 

『す、すいませんメラさん!! 無事ですか!?』

「大丈夫だ、気にするな。味方をフォローするのは当然だろう? それに、機体のほうもナノスキンが……あれ?」

 

そうして視線を落とした手元のコンソール。其処に表示されていたのは、赤字で点滅するエラーの文章。

 

この機体――ユニコーンは、TSFから発展したMSを、SR寄りに仕上げ、更にコスト度外視で持てる技術を全てつぎ込んで作り上げた機体だ。

下手なSR機を圧倒する性能を誇るユニコーン。その特徴の一つに、ナノスキンというモノが存在する。

これは要するに『ナノマシンの皮膚』の名の通り、まるで皮膚のように傷ついても再生する装甲を持つというモノだ。実際、この機体は某ターンエー宜しく、千年万年経っても稼動するようにと渾身を凝らして開発した。

 

ただどうも、宇宙でのレギオン戦含め、今回ほどの損傷を実戦で受けたことはなかったのだ。どうも、その影響が今になって表に出てきてしまったらしい。

 

「エネルギーバイパスのエラー? 場所は腰部エネルギーバイパス……ナノスキンの自己修復機能が誤作動したか」

 

俺というエネルギー源から供給されるマナの供給回路にエラーが発生した。多分だが、ナノマシンによる自己修復の際、何等かのエラーで間違った形に自己修復してしまったのだろう。

 

これは……此処で戦いながら直せるだろうか。いや、然しエネルギー系に問題のあるまま、あのイリスとまともに戦えるとは思えない。

 

『大丈夫だよメラ君。メラ君一人抜けた程度で負けちゃうほど、私たち弱くないよ?』

『そうよ、迷ってないでさっさと戻って補給してきなさい!』

『味方をフォローするのは当然の事、なんですよね』

「すずか、アリサ、ティアナ……すまん、すぐ戻る。時間を稼いでくれ!」

『ふ、あえて言ってあげましょう。時間を稼ぐのはいいけど、倒してしまってもいいのでしょ』

『アリサちゃんそれフラグ!?』

 

などと、こんな状況にも拘らず余裕を持って対処する三人。いや、こんな状況だからこそ余裕を持って対処しているのだろう。

 

「キャロ、アギト!」

『了解。ユニコーンを召還します』

『座標軸固定、何時でもいけるぜ!』

 

その言葉と同時に輝く立体球形魔法陣。空間の歪みを感知しながら、一瞬で俺はウルC4の格納庫内へと転移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Nanoha

 

 

「どどどどどっど、どど、どないすんねんこれええええ!!!???」

 

地球の、それも地表近くで本気でアルカンシェルを撃った次元航行艦体の姿に、まさにパニック、といった様子で慌てるはやてちゃん。

 

「まぁまぁ、はやてちゃん落ち着くの」

「落ち着くやて!? んなもん無理にきまっとるやないか!! この後始末どう……まさかウチが責任とるんかっ!?」

「あー、確かに今回の遠征は主軸が機動六課だし、その可能性はあるかも。とはいえ総監は六課じゃないし、大丈夫じゃないかな? ソレに関しては」

 

「……付け加えられた『それに関しては』、っちゅーフレーズが妙に恐いんやけど?」

 

「まぁ、そういう事を言ってられる事態なんて超越しちゃってるだろうし」

 

何せ、地球に対して正面から喧嘩を売ったのだ。コレってもう既に詰んでるんだよね。

 

何せまず管理局と言う組織の現状について。

 

1.ジェイル・スカリエッティーのテロにより、管理局は地上本部、管理局本局の両方がボロボロ。

2.スカリエッティの行動により、最高評議会が暗殺される。これにより、最高評議会が抑えていたヤバイ技術が裏に流出。スカリエッティ系譜のヤバイ技術が裏に流れ出す。

3.ただでさえスカリエッティの所為で局の暗部が公にされて局員の士気が低い+襲撃で局員が大打撃の現状に、更にパワーアップした裏の勢力が襲来。

4.正直治安維持すら困難な状況にイリス・レギオン襲来。対処法は数少ない魔力変換資質技能保持者による攻撃だが、そのレアスキル持ちもダウンしていたり士気を落としていたり。

 

で、そんな「正直詰んでる」状態の管理局が、攻撃した地球連邦軍の戦力はといえば

 

1.魔法とは違うエネルギーを利用した、ギーオスにも十分通用する『ガイア式魔術』と呼ばれる技能。

2.無人機と有人機を織り交ぜた大量の戦術歩行戦闘機。

3.成体ギーオスとガチンコで殴り合えるスーパーロボット機。

4.アースラが小型に見えるほどの、大陸ほどの大きさもあろうかと言う宇宙戦艦。次元航行能力はあるのかな?

 

なのだ。

 

管理局の平均的な魔導師で、10メートル級ギーオスに対抗するとして、キルレシオは……陸空混合でもで100対1くらい。冗談みたいな話だけれども、魔力を使った技術が中心になる管理局の一般的な武装局員では、本当にソレくらいの差があるのだ。

 

仮に機動六課でどのくらいの数のギーオスを相手取れるか。ヴィータちゃんたちヴォルケンリッターが居るから比較的可能性はあるのだけれども、それでも一度に複数のギーオスを相手取りたいとは思えない。管理局にとってのギーオスの脅威と言うのは、本当に拙いものなの。

 

それにたいして地球連邦軍はといえば、10メートル級のギーオスであれば、無人機で一個中隊、有人機で一個小隊、エースなら単独でギーオスを落とせるらしい(端末のデータ参照)。

 

施設設備なんかの事を考えれば、とんでもない数の動員、というのは無理かもしれない。けれども、少なくともあのTSFと言うのは成長期のギーオスと同等というのは間違いないだろう。流石に対魔法処理は施してないと思うので、高出力の魔力砲なら落とせるだろうけど……そもそも、Aランク以上の砲撃魔導師が少ない管理局では、量産機のアレを相手取るのは……。

 

で、TSFだけでも無理ゲーなのに、其処にさらにあのSR機が加わるの。アレはミッドで暴れた成体ギーオスとかとガチンコで殴り合えるバケモノなの。

 

正直、今の管理局が成体ギーオスを倒そうと思えば、アルカンシェルを着弾式から時限式に変更して、マッハ幾らでびゅんびゅん飛び回るギーオスに、緻密な計算の元魔力を吸収される前にアルカンシェルを至近距離で発動させる、なんて神業をしなけりゃならないの。

 

……そんな怪物と正面から相手取る戦力(しかも量産可能)と、どうやりあえと?

更に更にその背後には、既に地球を捨てても宇宙で生活していられるほどのおっきな宇宙戦艦がいっぱいあるの。あれもアルハザードの技術を継承しているとするなら、もしかすると次元航行艦としての機能を有しているかもしれないの。

万が一そうであるのだとすれば……。

 

「あは、あはは、大丈夫なの。どっちにしろミッドチルダは、次元世界は地球に喧嘩を売った時点で滅びる定めなの!!」

「な、なのはちゃーーーんん!!! アカン、なのはちゃんの目が腐った魚の目みたいに!? しっかりしぃなのはちゃん、あかん、救護班はよ、メディック、メディーーーック!!!」

 

ああ、見える、見えるの。放たれるホーミングレーザーの雨霰に焼き尽されるミッドの大地がっ!!

 

「あ、あのー?」

 

なんてことを話していると、不意に何処かからともなく声が掛けられた。

はやてちゃんと声の方向に振り向くと、其処には地球連邦軍の制服を着た、赤毛の女性が此方に困ったような笑顔を向けていて。

 

「えっと、すいません。貴女は?」

「あ、はい。地球連邦軍、月方面軍基地所属のノエル・アンダーソン少尉です」

「古代遺物管理部 機動六課、総部隊長の八神はやてです。で、……このタイミングでの御用という事は……」

「あー、その、はい。本日先程の戦闘から、地球連邦政府は時空管理局を名乗る勢力に対して敵対姿勢をとることを決定しました。ひいては、あなた方に対するセキュリティーなどの変更がありまして……」

 

若干気の毒そうに此方を見るアンダーソン少尉。けれども、正直そんな事を気にしている余裕は私にはなくて。

 

……時空管理局に対する敵対姿勢。

 

オワタ。時空管理局オワタ。

クラナガンのヴィヴィオ、おかあさん、もしかしたら帰れないかも……。

 

「フ、フフフ……私、クラナガンに帰ったら、ヴィヴィオと養子縁組するんだ……」

「何フラグ立てトンねんなのはちゃん!? って、ちょ、なのはちゃん? なのはちゃーん!!??」

 

はやてちゃんのそんな声を聞きながら、私の視界は真っ暗に染まっていく。

あぁ、オチるな、なんて何処か冷静に認識しながら、次目覚めるときは、もうちょっと状況がよくなってるように、なんて祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

Side Mera

 

ユニコーンのナノスキンを調整し、エラーを起していた部分を修正して。漸く戦場に戻ったところで、視界に飛び込んできたのは、今にも魔力共振メスの直撃を受けそうなガオガイガーの姿で。

 

咄嗟に前に割り込んで、シールドバリアでそれを弾き飛ばす。ユニコーンの防御機能は、航宙機ならすべてが搭載しているディストーションフィールド、サイコフレームの生み出すサイコフィールド、ユニコーンの盾であるビームバリアの三重構造。

 

触手一本の魔力共振メス程度であれば軽くはじけるのだが、全て束ねた重い一撃であった場合、完全に防ぎきるのは難しい。

その一撃は、すべてとは言わずとも、相当数を纏めた一撃だったのだろう。バリアを通過した魔力の粒子が盾を焼き、白い盾が部分的に灼熱していた。

 

「無事かアリサ!」

『ギリギリ、助かったわ』

「戦況は?」

『ココが宇宙ならとっくに戦いは終わってたんじゃないかしら?』

『地上だからこそ、こっちの手札がふうじられちゃってるんだよ……』

「各機の機体コンディション」

『GZとD・ストレイドは問題ありません。が、前衛のG・ガオガイガーは損耗が激しいみたいで……』

 

必然的に、前衛であるG・ガオガイガーは稼働率が落ちている、と。

 

「イリスの状態は?」

『アリサさんのブロウクンマグナムが翼部に直撃して、その所為かあの虹色の翼が展開できなくなったみたいです。浮遊はまだできるみたいですけど、前と同じ速度での飛行はもう』

「ふむ。十分な戦果じゃないか」

 

あの虹色の翼。如何見ても実体のある物質には見えなかったアレだが、多分あれも魔力で編まれた存在だったのではないだろうか。

そこに、俺についで濃いマナを持つアリサのブロウクンマグナムを喰らったのだとしたら。翼を構成していた魔力、及び出力器官に甚大なダメージを受け、その結果飛行能力を大幅に喪失したのだと考えられる、のではないだろうか。

 

「……よし。アリサとティアナは補給にもどれ。すずかは中距離援護。俺が前に出る」

『『『了解!!』』』

 

即座に撤退していくアリサと、ソレを支えるように滑空するティアナ。二人の機体を見送って、改めてユニコーンを前線へと出す。

 

「すずか、援護頼む」

『任されたよっ!!』

 

ズキュゥゥゥン。響くビームマグナムの轟音。マナを多分に含んだその一撃は、機動力の大半を喪失したイリスに向かっていく。然しその赤い光は、イリスの触手によって微妙にだが角度をずらされてしまう。

 

『メラくん、あれ……』

「魔力を収束させた触手で弾かれてるのか? 魔力とマナが反発するのは事実だが、怪獣の癖に器用な……すずか」

『うん、任せて』

 

カチッ、カチッっと、何かのスイッチを圧すかのような軽い音が連続して響く。それはすずかのグレート・ゼオライマーの力。両腕の次元連結システム出力端末。それがカチリと輝くとき、イリスは何かに殴られたかのように大きくその場から弾き飛ばされる。

 

――そうして身体を揺さ振られていれば、ビームを弾くのも上手く行くまい。

――ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

虚空に響き渡るイリスの悲鳴。けれどもどれでビームマグナムの発射を止めることもなく。

 

「……む」

 

そうしてビームマグナムを連射する内、イリスがその触手を束ね円錐形をつくり、それに魔力を通すことで一種のシールドのような物を形成しだした。

「……マグナムでは弾かれるか。なら」

 

ビームマグナムを改めて腰につけなおし、NT-D、もといMB-D(マナバースト・ドライブ)を起動させる。NT-Dと同じなのだが、別にニュータイプをデストロイするわけではないので。そんな名前なのだが。

ガンダム顔の露出したユニコーン。その背のビームサーベルに手を掛ける。

 

「すずか」

『タイミングは合わせるよ』

 

その言葉を聞いて、ユニコーンを加速させる。背部スラスターから吹き上げる白炎に乗って一気に加速。イリスに斬りかかろうとしたところで、円錐状のシールドの戦端に金色の光が集まっていくのが見えた。

 

『メラくん、危ないっ!!』

「問題ない」

 

触手を束ねて創られた円錐状のたて。その先端から放たれたのは、それまで幾度となく此方を苦しめてきた魔力共振メス。束ねる事で威力が増すソレを、けれどもユニコーンは膝を少し深く落とすことで回避する。右肩の上を通過していく金色の光は、そのまま何処へともなく飛び去り、大気の圧力で拡散してしまって。

 

――まぁ、そりゃ、そもそもあの触手は捕食器官であり、攻撃の為の武器であるんだから、それは不意打ちにすらなりえない。

寧ろ、防御に回していた魔力を攻撃に転換したのだ。今ならば防御力も落ちているはず。

 

そう睨んで、一気に触手の壁を切裂いた。マナを多分に含んだビームサーベルにより、その触手の大半をバッサリと切裂かれたイリス。

再び悲鳴をあげ、蹈鞴を踏むようにして後退るイリス。そんなイリスに再び切りかかろうと、バーニアで機体の高度を上げる最中。不意にイリスが不自然な動きをしだした。

 

何事かとセンサーの感度を最大にして周囲を警戒する最中、イリスの胸部がガパリと音を立てて二つに裂けたのだ。

 

「なんだ?」

『……っ、メラ君、あそこっ!!』

 

グレートゼオライマーからデータリンクで映像が転送されてくる。見れば其処には、イリスの筋肉繊維のようなものに絡まって、黄色い球体の中に閉じ込められている人間の姿が幾つもあって。

 

「……人質の心算か?」

 

イリスの驚異的な能力の一つに、凄まじい成長速度というモノが存在する。これは適応能力と言い換えてもいいのだが、また同時に学習能力と言ってもいい。

特に原作でのイリスという存在は、人と共感する怨敵を真似、人そのものを取り込むことでより優れた存在へと至ろうとした。

 

原作と違いこのイリスは人間からの影響として、ヴィヴィオの内側に潜んでいた頃の、聖王の鎧くらいの性質しか得ていない。要は、原作ほどに人間に対して価値を感じていないのだ。その為原作のイリスよりも若干鳥らしい形を残している。筋肉質な触手ではあるのだが。

 

で、人間に対してそれほどの価値を感じていないイリスだが、それでも多量の人間を捕食した事で、人間のような悪知恵を得たのだろう。

例えば、善人に対して人質を取れば、相手は多少なりともためらいを持つモノなのだ、と。

 

嘲るような気配を浮かべるイリス。討てないだろう、斬れないだろう、何せ貴様等は守るための存在なのだから、と。

その嫌な気配を撒き散らすイリスを、出力を最大にして、その刀身が真直ぐに伸びたビームサーベルでバッサリと斬り付けた。

 

「……阿呆が。何で俺が地球に攻め込んできた管理局の人間なんぞにためらう必要がある」

 

確かに、それが地球人の人質であったのであれば、俺もその手を緩めたかもしれない。だがしかし、イリスの内側に囚われているのは、十中八九間違いなく、今先程イリスに艦ごと食われた、地球に対して宣戦布告をしてきた次元航行艦の乗組員だろう。

 

例えイリスに捕食されていたのだとしても、『敵』に対して情け容赦をかけるほど、俺は余裕もなければ強くも無い。

身体の中心からバッサリと切りつけられたイリスは、最早抗う触手も持たず、此方を前に慄くのみで。

 

あふれ出すマナがサイコフレームに共振し、その機体を赤、いや桜色に輝かせる。

ただでさえ無限に近い俺のマナ出力を、更にサイコフレームにより増幅して。そうして生み出されたエネルギーのすべてが、ビームサーベルへと収束していく。

桜色に輝く機体は更に輝きを増し、ついにユニコーンは白い光の巨人のような姿になって。

 

「さぁ、闇に還れ!!」

 

振り下ろされるのは白銀の光の柱。最早翼を失った邪神の皇子は、その光の柱を前にして逃げることも出来ず、ただただその輝きの中に飲み込まれていったのだった。

 

 




36

■時空管理局と地球連邦
なのはの予想は概ね正しいが、平時の戦闘であれば連邦と管理局の戦力はほぼ互角。
ミッドが多次元世界を有している事に対し、地球連邦はギーオスにより人口が激減し、その戦力の大半を無人機に頼っている為。
また単純に物量の差も大きく、性能面では圧倒的であるとはいえ、未だ多くのブラックボックスを残す連邦の技術に対して、安定量産可能な管理局の次元航行艦や、莫大な人的資源、多次元世界に渡る豊富な物資は地球にとってもかなりの脅威。
ただしこれはあくまで“平時”の話。
前提をなのはの提唱する、JS事件、最高評議会、流出技術による治安悪化、ギーオス、イリスなどの脅威により甚大な被害を受けている現在のミッドチルダであれば制圧は難しくとも焼き祓うのは簡単。

■ノエル・アンダーソン
地球連邦軍、月方面軍基地所属の少尉。元ネタは機動戦士ガンダム戦記より。
宇宙だしミユ・タキザワでもいいかなーと一瞬思ったのだけれども、やっぱり連邦のオペ子といえばこの人が一番好きなので。フラウ? ねーよ。

■ズキュゥゥゥンン!!
別に強引にキスを奪ったわけではない。

■ユニコーンのオーバードライブ
このユニコーンの必殺技。もしくは厨二技。転生者奥義。無敵モード。
全身のサイコフレームを開放し、莫大なマナと共振させる事で、純粋な精神とマナで構成された『光の巨人』になる。
“因果”も“摂理”も世界すら、問答無用で滅ぼし得る、本作最強のチート技。
欠点は無限のマナを持つメラでさえも、3分でほぼすべてのエネルギーを使い果たしてしまうという点。


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37 まだ続くそうです。

 

Side ???

 

「そうですか、地上のほうは決着がつきましたか」

「うん、今現在月基地のヴェーダに情報が入ったんだよ」

 

母艦・アイゼンメテオールの艦橋にて、私はソルティーの言葉に頷きます。

しかし、メラ様も無茶をされます。サイコフレームを利用した光の顕現。あれは下手をすれば命を燃やし尽くす自滅技であると、それを記述として残したのはメラ様本人でしょうに。

 

「というか、其処まで原作に忠実に再現する辺り、マイスターはかなりの酔狂者であります」

「アイギス、それは主を馬鹿にしているのですか?」

「まさかそんなコレは一種の親愛表現でありますのでどうかその携行重力波砲を仕舞ってほしいのであります」

 

手を振り否定するアイギスを確認して、重力操作を使用。そのままマイクログラビティカノンを分解・スカートの中へと仕舞いこみます。

 

『SfさんSfさん』

「どうしましたかタチコマ」

『あのね、マイスターの言うイリスは倒したんだよね?』

「Tes.光学、サーマル、ソナー、バイオ、ケミカル、マナ、他様々な装置において、観測できるすべての装置がイリスの消滅を確認していると判断します」

 

私はそうタチコマに返します。タチコマは一応戦車に分類される存在の筈ではありますが、言動が妙に幼かったり、かと思えば妙に鋭いところのある子です。

と言うのもタチコマは複数存在し、その全体が独自の量子通信ネットワークにより意思疎通を行い、一つの記憶を共有することが出来るのだとか。メラ様曰く『ミサカネットワーク』とのこと。シンクライアント型ではないので、すべての筐体を破壊しなければ完全に殲滅されることは無い、とのことです。

 

『それじゃ、管理局はどうなったのかな?』

「と、いいますと?」

『えっとね、火星降下作戦の概要を見てたんだけど、艦艇部隊には後続の待機部隊がいるでしょ?』

 

火星降下作戦、といえばアレですか。月裏面、現在アイゼンメテオールが調査を行なっているこの空域で行なわれた、レギオン迎撃作戦の続き。レギオンの拠点である火星を制圧してしまおう、と言う作戦。

 

レギオンの行動パターンは、

 

1.子レギオンの増産

2.草体の生産

3.草体爆破による種子打ち上げ

 

の三つの段階で行なわれます。要するに、草体とはレギオンの燃料式打ち上げロケットなのです。

 

故に、火星を制圧する為にEFFが行なう役割は三つ。

 

1.高高度に待機部隊による迎撃網を形成し、それによる種子逃亡の阻止。

2.SR部隊によるマザーレギオンの迎撃

3.電磁爆弾による子レギオンの誘引・殲滅及び地上の制圧

 

の三つです。

 

マザーレギオンの迎撃と言うのは、羽で飛ぶ子レギオンと違い、マザーに関してはその特異な能力により宇宙での航行が可能である、というデータが観測されている為です。

 

宇宙での行動が可能であるのならば、当然あのマザーレギオンは、種子を撃墜されれば、その撃墜した相手に対し攻撃を仕掛けようとするのは必定。故にSR部隊による迎撃体制を整える必要があります。

 

そして三つ目。子レギオンをとり逃してしまえば、いずれ時間を掛けて草体を再生されてしまう可能性があります。また、草体の脅威は人間に対しては十分以上の脅威。火星移植計画を行なううえでは、殲滅は必須でしょう。

 

『で、思ったんだ。地球に来たのって、これで例えるなら地上制圧部隊だけだよね?』

「つまりあなたは、まだ敵の本隊が待機しているのではないか、と言いたいのですね?」

 

なるほどと私は小さく頷きます。確かにその可能性は否定できません。

仮に地球を訪れたのが制圧部隊ではなく後詰め部隊含むものであったとしても、警戒しておくに越した事はないでしょう。

 

「アイギス、現在ノノは何処に居ますか」

「ノノでありますか? あの子は確か艦内のブラシ磨きの罰当番の最中であったと思いますが?」

「即座に呼び出し「お呼びでしょうかSfおねえさま!!」……ノノ、貴女の『軍団』のネットワークは正常に稼動していますか?」

「はい、問題なくかどうしているでありますっ!!」

 

にゅっと何処からともなく現れた、橙色の夕日のような髪をした少女。7号、もしくはノノと呼ばれるその少女は、私達の中でも特に戦闘に特化した能力を持つ個体です。

 

その中でも『軍団』と呼ばれる彼女の端末。奇妙な怪獣のような姿をした彼女の部下達は、この広い太陽系全域に展開し、高精度の監視防衛網を形成する事に大きく活躍しています。

 

そして何よりも恐ろしいのが、その監視防衛網は、なんと『次元の海』にすら目を向けているという事です。

現在の地球、EFFの扱う転移技術は次元転移ではなく虚数転移。つまり、次元空間を扱う技術は大きくは取り扱っておりません。

 

然し彼女の防衛網は、そんなどうしても監視の目の届きにくい次元の海にまでおよんでいるのです。

 

……とはいえ、流石に次元の海との通信は不安定な物であり、今回のように管理局の船の進入を許したりと穴も存在している上に、我々の存在が秘匿部隊であるという事も有り、中々情報の伝達がスムーズに行かないという問題も有るのですが。

 

「名誉挽回のチャンスをあげましょう。現在地球圏周辺の『次元の海』において、地球に向かっている次元世界の船舶・転移を行なおうとしている人間など、何か小さなものでも無いか探索をさせなさい」

「りょーかいです! んー、びびびびび!」

 

そういうと、ノノはアホ毛……失礼、触覚をゆんゆんと揺らし、どこかに向けて何かを念じるように唸りだしました。

 

「Sf.お姉様!」

「如何しました」

「『海』で全領域に向かって演説してる管理局の船を発見しました」

「やはり居ましたか。然し、演説? ……モニターに出せますか?」

「勿論! ……はむっ」

 

言うと、ノノはコンソールからケーブルを延ばし、その先端をパクリと加えて見せた。マイスター曰く、口から端子はロマンだそうです。

 

「へっほ、ほれれふへ」

『……繰り返し、97管理外世界を制圧するテロリストに対して告げる。

我々時空管理局は、一つの世界を制圧し、尚且つ質量兵器により武装した貴様等を見過ごす事は無い。また同時に、我等の同胞を撃墜したその罪は真に重い。

然し、我々管理局は、貴様等に対しもう一度だけ投降の機会を与えようと考えている。

今から12時間後、ソレまでにすべての武装を解除し、我々に投降せよ。さもなくば我々の12機のXV級に搭載されたアルカンシェルが、星に向かって制裁の光を降らせることになるだろう!!』

 

……これは、また。私がもし人間であれば、頭痛と言うものを感じていたのかもしれません。

 

「ソルティ、至急KOS-MOS、ADA、バチスカーフを呼び戻しなさい。アイギス、貴女はこのことを至急地球へ――いえ、メラ様へ通達しなさい。ノノ、貴女は即座に『軍団』から可能な限りの戦力を集めなさい」

『上層部の皆さんにはボクから伝えたほうが早いかも?』

「ならタチコマにも任せましょう。正式なものではなくとも、予め知っておく事はいいことです」

「えっと、軍団の集結ポイントは何処にしたらいいのでしょうか?」

「ソルティー、管理局の侵入ルートは」

「えっと、多分だけど、機動六課の使った月裏面ルートじゃないかな?」

 

機動六課が使用した時点で、あそこが通行可能であるという事は管理局側にも知られてしまったと考えるべきだったのでしょう。矢張り次元断層フィールド発生装置の設置を上奏しておくべきでした。

 

「ならば月基地……いえ、L2の採掘基地跡を使いましょう」

 

L2に幾つか存在している採掘基地。それは、言ってしまえば私達を建造する為、宇宙資源として採掘されたデブリの残骸、それを用いて建設された宇宙港です。

港とはいえ、あそこはレギオン掃討前の環境では何時襲撃されるかも不明であった為、何時でも廃棄出来るよう簡単なつくりになっています。

 

太陽光による最低限の基地施設維持以外は、格納された艦からエネルギーを賄うと言う低コスト使用。現在では酸素があるかも不明と言う有様です。

まぁ、そもそも私達に酸素は必要ありませんし、姿さえ隠せれば問題は無いのですが。

 

「それじゃ、皆にはL2に向かうように通達するよ」

「ええ、では、アイゼンメテオールもL2に向けて発進しましょうか」

「「「『了解!」」」』

 

そう言って、皆の声を確認し、静かに艦長席の傍へと戻るのでした。

 

 

 

Side end

 

 

 

 

Side Mera

 

と言う通信が、アイギスから報告されました。

 

『我々はこれからL2に伏兵として潜伏するであります。いざという時は我々をつかえば宜しいかと』

「使えるか。いや、使うにしても場所を選ぶわ」

 

思わずアイギスにそう答える。何せあの無人スーパーロボット軍団、通称スーパーロボっ娘軍団と呼ばれている軍団、『俺よりも戦闘能力が高い』のだ。

 

流石にアイギスやソルティーには十分勝てるが、一撃で星を真っ二つにする奴とか、単騎で新星爆発押さえ込む奴とか、むしろ銀河を消し飛ばせる奴を相手にするのは俺にだって無理――とは言わないが、絶対に勝つことは出来ない。

 

元々俺にすら対応できない敵、もしくは俺が異常を来たした場合のセーフティーとして建造したあいつ等は、本当の意味での人類最後の砦なのだ。

 

「というか、お前達が必要になると判断するほどの戦力なのか?」

『確認しただけで、XV級12隻に加え、XL級32隻、L級11隻、CL級64隻が存在しました』

「戦争しかける気か管理局は!?」

 

確かに時空管理局は多次元世界の管理者を自称する巨大組織だが、魔法原理主義を唱える彼らは魔法と言う枷に縛られた存在でもある。然し魔導師の出生率は常に不安定。魔導師同士の婚姻を持ってすらも、親の才能を引き継ぐ魔導師が生まれるとは限らないのだ。

故に彼らは常に「人材不足」という制限を受けており、一度に動かせる戦力など高が知れているはずなのだが。

 

「……ティアナ、如何いうことだと思う?」

「……もしかして、オム大将かもしれません」

「オム大将って、如何いう人?」

「一言で言えば差別主義者です。思想家であったハイマン提督配下で、彼の引退後に一気にハイマン提督の権力を掌握した、ミッド、いえ管理局至上主義者です」

 

それはまた。いかにもバスk……ゲフンっ、最高評議会の駒っぽいお人じゃないか。

 

「ええ、確実に繋がってると思いますよ。あの人の思想は、『ミッド、管理局の秩序の為ならば多少の犠牲は已む無し』って感じでしたから」

「そんな人間なら、地球にアルカンシェルを打ち込むのに躊躇いはしないか」

「また面倒な……本隊は動かせないの?」

 

アリサの言葉に首を振る。何しろ現在の地球連邦軍は、その大半の戦力を火星に向けて進軍させている最中。余裕があるのは俺達のような特務部隊か秘匿部隊、あるいは私有部隊ぐらいだろう。本当なら多少余裕のあるはずだった地上部隊は、イリスの攻撃で壊滅したし。

 

「出来ればあいつ等は参戦させたくないんだが……」

「人間同士の戦いに巻き込む心算はない、ってメラ君言ってたもんね」

 

そう、あのロボっ娘軍団は、あくまで人類防衛の剣として生み出したのだ。異世界人とはいえ、人間同士のいざこざに巻き込むのは不本意だ。

本当なら、俺も人間同士のイザコザには関わりたくないのだが、一度関わった責任は最後まで取らねば成らないだろう。

 

「此処からジャブロー……へ行くくらいなら月のドッグのがいいか。キャロ」

「はい、月基地に入港要請を出しておきます」

「アリサ、すずか、ティアナ、悪いが一度自分の機体のチェックだけしておいてくれ」

「ま、仕方ないわよね」

「りょーかいだよ」

「自分の機体くらいは、ですね」

「アギト、ウルの調子は?」

「絶好調」

 

よし、と頷いて、ふと何かの気配に気付く。見れば其処には、ワクワクとした表情で此方を見るイクスの姿があって。

チラリ、とすずかに視線を向ければ、苦笑するような気配を感じて。

 

「イクスは、時間の余裕の間、俺がガイア式を教える。逃げられるくらいにはガイア式を習得してもらうぞ!」

「は、はい、わか、了解しましたっっ!!」

 

びしっと返事をきめるイクスに、ちょっとだけ周囲の空気がほんわりしたのだった。

 

「それじゃ、これより我等ホロウは月基地へ戻る。エンジン全開、座標確認。虚数展開カタパルト作動!!」

「エンジン全開オッケーだぜ!」

「座標入力完了。虚数展開カタパルト、正常稼動を確認しました」

 

アギト、キャロの声に頷いて。

 

「ジャンプ!」

 

その言葉と共に、ウルC4の巨体は、光となって地上から姿を消したのだった。

 




※口調に違和感あったらごめんなさい。

■無人スーパーロボット軍団/(スーパーロボっ娘軍団)
旗艦アイゼンメテオールを中心に存在する、地球圏絶対防衛網を不定期に周回している完全無人艦隊。もしくはその中枢たる超高性能戦闘ユニット。
現代の人間には耐えられない長期の宇宙活動を行なう為、その大半を無人(ロボっ娘)化した。因みに当然デザインは日本人。
特徴として、『完全に無人である』『地上で使うにはヤバすぎる』『萌える』等が存在する。因みに本人等は自分のモデルを確認して居り、
・師団長SeimFrau(ザインフラウ)
・防衛部隊長バスターマシン7号率いるバスター軍団
・前衛部隊長ソルティー率いる情報統合制御システム
・補給部隊長タチコマの多脚戦車補給部隊。
・医療部隊長アイギス率いるメカっ娘部隊
・奇襲部隊長KOS-MOS率いる対特殊概念攻撃部隊
・戦術指揮・公安部隊長ADA率いる情報統合戦術支援システム
・汎用無人輸送空母部隊長バチスカーフ率いる人格搭載型特殊航行戦闘艦部隊(秘書麗人)
■NHS-00 旗艦・アイゼンメテオール
名前の元ネタはRAVEから。
サイズは300メートル級と小さめ。実はウルのコピー艦を艦首としてドッキングした船。
戦闘能力は最低限搭載し、メインにB&T本社に匹敵する演算装置を搭載している。
主にSf.が指揮を取る為に運用する他、将官ユニットの生活スペースとなっている。
そもそも艦隊の旗艦であるため、前面に立って戦う事はまず無い。

■Sf.
艦長席に座らず、その傍で指揮官として振舞う。艦長席に座っていいのは主だけだそうです。重力を操る瀟洒でブラックジョークなメイドさん型自動人形。
ちなみに終わクロ読破しているらしい。
■ソルティー
本来はコロニーの制御補助の為の人型アンドロイド。アイゼンメテオールのシステム・通信全般を担当。人間とのコミュニケーション担当でもある。
■アイギス
ソルティーと同じくアイゼンメテオールのシステム・通信担当。要らないボケを挟むたび縄を命綱に宇宙遊泳を愉しまさせられる。ボケてるのか天然なのかわからない子。
■ノノ
ロボっ娘軍団3位の戦闘力、1位の総合戦力を持つ子。バスター軍団と常に情報交換を行なっている為、何処に居ても同じ働きが出来る。下手をすればネオニート一直線だが、本人が好奇心旺盛なのでそれはない。バスター軍団は随時生産中。天然ボケ。トップ2を見て号泣。
■タチコマ
思考戦車。シンクライアント方式ではなく、並列ネットワーク型。タチコマを完全に滅ぼすには、そのすべての筐体を滅ぼすしかないのだっ!!
でも肝心のタチコマAI達は天然ばかり。衛星落としで号泣。
■ADA
戦闘力2位の子。光学情報が記録に残らないという筐体性能と、本人の戦闘よりな思考から単独での特殊作戦を好む。普段はメタトロン製の筐体を求めて単独行動。
無論擬人化済みである。
■COS-MOS
対異星生命体に対する切り札。単身戦闘能力は最強。ただし火力が極端すぎる為、単独での作戦行動を行なう。
■バチスカーフ
宇宙船にしてアンドロイドな子。ノノの汎用量産モデルの中で、最も古さゲフン、もとい戦略的に優れた思考を持ったため採用された。戦闘能力も人格的にも優れているため、よく単独行動ないしセメント組の補助に回る。当部隊の母親ポジ。
亜空間格納庫から召還する戦艦義体と合体する事で凄まじい機動性能・継戦能力を誇る旗艦・戦艦として活動する事も可能。


■オム大将
攻撃的な思想家であったハイマン提督の下で権力を握り、彼の引退後その権力を丸々乗っ取った主義者。
極端なミッドチルダ至上主義、管理局至上主義者であり、その他世界を発展途上の外界と卑下する。
また最高評議会に近い思想の持ち主であり、管理局安定の為には犠牲も已む無しという思想の元、様々な暗部に関与している。
JS事件、イリス事件の後、エルラン中将の連絡を受け、様々な思惑から地球侵攻を策略する。

■オム艦隊
オム大将が保有する総戦力。オムは管理局の暗部に携わっていた為、正規戦力に加え非正規戦力を大量に保持している。更にこの艦隊は現状でオムの手が届く範囲の全ての次元航行艦をかき集めた物であり、ミッド・本局の防備からごっそり艦をもってきてしまっている。
現在地球近隣の次元空間には、XV級12隻に加え、XL級32隻、L級11隻、CL級64隻の大艦隊が近付いている。


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38 外側のあれこれ。

 

 

 

Side Chrono Harlaown

 

「なんだこれはっ!? 一体何を考えているんだ連中はっ!?」

 

時空管理局本局の某所。先のJS事件により、軒並み上層部の首が飛んだため、急遽代役として事務処理を開始したクロノ・ハラオウン提督。

 

現在の彼の仕事は、本来であればXV級次元航行艦『クラウディア』の艦長であるのだが、現在クラウディアを初め、ミッドチルダにおける対イリス戦を経験したXV級は軒並み大破してしまい、現在大破した艦をニコイチにしてでものレストアや、工場をフル稼働しての増産が行なわれている最中だ。

 

そんな最中、先ず最初に彼の元に届いたのは、現在辺境の次元世界から本局へ向かっての出頭命令が出ているはずのオム大将が、ミッドではなく再び辺境方面へと向かったと言う話だった。

 

そもそも最高評議会とのつながりなどの黒い噂を持つオム大将だ。すわ反逆かと緊急会議が招聘され、喧々諤々とミッド防衛の策が練られる中、次に届いた報告に、思わずクロノは声を上げたのだった。

 

「如何したのですかな、クロノ提督?」

「……オム大将からの連絡です」

「なんと!?」

 

瞬間、会議が沸き立った。何しろ議題の中心である当の本人からの連絡だ。仮に彼の反逆が事実であったとするのであれば、それは高い確率で彼からの要求である、と誰もが考えていたのだ。

 

「それで、内容は?」

「……我、オム率いる船団は、このまま97管理外世界へと侵攻し、現地を制圧する不届きなテロリストの制圧を開始する、と」

「………………」

 

そうして放たれたクロノ・ハラオウンのその言葉に、沸き立った議会が瞬間的に凍りついた。

97管理外世界。それは現在、この時空管理局においてかなり特殊な存在と言う扱いになっている。

 

ソレはつまり、恐怖。

 

時空管理局のほぼ総力とさえ言っても差し支えない戦力で挑んだイリスと呼ばれる怪物。200メートルを超えるその怪物は、AMFの中で尚馬鹿げた威力の破壊力を行使し、尚且つ此方の魔法攻撃はそのすべてをエネルギーとして喰い散らかして見せた。

 

対して、地球の戦力。何処からとも無く表れ、イリスを撃退し、再び何処へとも無く撤退して入った彼ら。

管理局の認識では、地球の文明レベルはB。少なくとも、10年前まではあんな巨大ロボットが、まして異世界にまで進出できるほどの技術力・戦力は持っていなかったはずだ。

 

此処で更に問題となったのが、97管理外世界の情報が一切手に入らないという点。数年前から突如として往来が断絶しているのだ。

 

……いや、実のところ、往来が断絶して暫くは、97管理外世界との往来が断絶したという事に誰も気付かなかった。気付くのが遅れた原因は、97世界の連絡員が、97世界へのギーオス出現の退避勧告に紛れ、別世界から97世界の情報を、さも現地からであるかのように偽証していたのだ。当然彼は処分されたが、問題はそんな事ではない。

 

そうした事情からも、第97管理外世界の実情と言うのは、かなり謎に包まれている。そんな謎の世界から訪れた機械の巨人。

魔法の通じない怪物と、対等に渡り合ったあの兵器は、間違いなく管理局にしてみれば脅威であった。

 

「や、奴は何を考えているんだ!?」

 

誰かが、会議に参加していた誰かがそう叫んだ。

 

「確かに質量兵器は管理世界法違反だが、そもそもあそこは管理外世界だ、国交も無い世界に違法も糞も無いだろうがっ!!」

 

誰かが言ったその言葉。途端会議室に『グサッ』と言う音が幾つか響いたような気がしたが、誰も気にしたり慰めたりはしなかった。

 

「話はそんなレベルではないっ! 奴はよりにもよっていち世界に対して、アルカンシェルを向けているんだ。これは他世界に対する管理局への信頼に関わるぞ!?」

 

時空管理局。その理念は、次元世界の平和と安定を得ること。最大の仕事は、次元世界に眠る旧文明の遺産、ロストロギア。その中でも世界を滅ぼしかねない危険物を回収・封印するというものだ。

 

嘗てのレジアス中将の言う『陸の平和』というのは、本来管理局ではなく現地政府の治安維持部隊がやるべき仕事なのだ。確かに海が陸から戦力を吸い上げているというのは事実だろうが、しかしそれを言ってしまえば時空管理局と言う組織自体が成り立たない。なにせその本命である海の母体となる管理局発祥の地は、ほかでも無いミッドチルダなのだ。

 

話が逸れたが、そうした理由で多次元世界を巡回する時空管理局は、様々な世界に対して、ロストロギアを口実に介入することがある。

各政府は、多次元を往来するという時空管理局の戦力の前に、「危険なロストロギアを封印する為」という名目の元に、その横暴な行為にもとりあえず閉口して見せているのだ。

 

だというのに、オム大将は管理外世界に向けて一個艦隊の戦力を引き連れて向かったのだと言う。

仮に97世界を制圧できたとしても、次に起こるのは各次元世界政府からの反逆、造反、反乱、なんとでもいえるが、要するに各次元世界の政府の鉾は間違いなく管理局に向くだろう。

 

ただでさえ戦力を消耗している現在、残り少ない戦力の大半はあのオム大将が引き攣れ、遠い97管理外世界へと旅立ってしまっている。仮に本局に戦力が差し向けられたとして、艦隊が戻ってくるのが間に合うとは到底思えない。

 

まして彼らが制圧に向かったのは『97管理外世界』なのだ。XV級はイリス一匹に艦隊規模をぶつけて大敗を喫したのだ。仮にあの巨大ロボットの戦力をイリスと同等と見た場合、とてもではないが彼らが勝てるとは思えない。

 

「だから、それだけではないのだよっ!!」

「ど、う言う事だ?」

「まだ分らんのか!? あれはロストロギアではなく兵器である可能性が高いんだ!! 兵器と言うのはな、『誰にでも使え』て『量産が出来る』から兵器と言うのだっ!!」

 

その言葉に、今度こそ会議室に集まった参加者の顔色が纏めて青白く染まる。

仮に。仮にだ、あの巨大なロボットが量産されていたとしたならば。間違いなく、地球へと向かったXV級の艦隊は壊滅する。

 

そして更に彼らは間違いなく自分達を正義の代行者として、97管理外世界に対して宣戦布告じみた真似をするだろう。

 

もし彼らがそんな真似をして、もしそのまま壊滅してしまえば。攻められた地球側は、当然反撃に出る可能性が存在しているのだ。

 

「いっ、急ぎオムに連絡を!?」

「無理です。奴め、作戦を強行する為か通信をカットしているようで」

「そ、そんな……」

「管理局が……次元世界の平和と安定を守ってきた、時空管理局が、終わる……?」

 

青くなりすぎて、真っ白に顔色を変えた参加者達。其処には既に絶望しか残されておらず。

 

「……あの巨大な質量兵器が、量産されていない事を祈るばかり、ですか……」

 

誰かが呟いたその言葉。仮にあの巨大兵器が量産されていないの出るとすれば、仮にオムの艦隊が迎撃された後であれば、万に一つ講和を結ぶ事が出来るかもしれない。

 

その場の全員が、その小さな希望に縋りつく最中、真っ白な顔色のクロノ・ハラオウン提督は静かに手元に表示した資料のデータ画面をクローズした。

其処に表示されていたのは、機動六課――高町なのはと八神はやてが持ち帰った、EFFの人物から渡されたという地球のデータ。

 

本来この会議で提出される筈であったそのデータには、『地球』で『量産』されている『巨大ロボット』や『超巨大戦艦』の概要データが入っていたのだが。

 

流石に、この儚い希望をこの場で叩き折るほど、彼、クロノ・ハラオウンは何時までも空気が読めないままではなかった。

仮に数日、数時間後、絶望が訪れるのだとしても。今だけは、そんな儚い希望にすがり付いていてもいいのではないか。

クロノ・ハラオウンは、そう思ったのだった。

 

 

 

Side end

 

 

 

 

Side 地球連邦 幕僚会議

 

「さて、如何しますかな」

 

何処に有るとも知れない暗闇の会議室。見る人が見れば『何処のゼー○だ』とでも突っ込みを入れそうなその空間に、数人の人影が小さな明りに映し出されていた。

 

「今このタイミングであれば、我々は『異世界』に対する『ファーストコンタクト』を行なう事は可能でしょう」

「ま、予め存在を知り、仮想敵として対応していた、と言うよりは幾分ましでしょうな」

 

異次元世界など諧謔で済ませておきたい話ではあった。しかし、異世界文明というのは現実として存在しているのだ。

これを一切合財無視し、次元世界との往来を断ち切り、一種の鎖国にする、と言うのは、あらゆる観点から見て非合理的だ。

 

多次元世界に眠る新たな技術は興味深く、また多次元世界からの侵略者の可能性と言うものも十分に考慮しなければならない。実際、地球に攻め込んできたギーオスの何割かは異世界からの増援であったのだ。

 

「では、正式に国交を開くと?」

「開くにしても、先ずはこの状況を乗り切る必要がありますが」

 

秘匿部隊から伝達のあった情報。つまり、時空管理局の大型次元航行艦艦隊による、地球に対する『脅迫』じみた宣告。他国に対してテロリスト呼ばわりをし、挙句の果てに投降せねば星を焼くとまで言っているのだ、相手は。

 

「現物の録画はあるのだな?」

「ああ。確りと証拠は残してあるぞ。これで連中の侵略を乗り越えられれば、外交は有利に進められるだろう」

「この戦局を乗り越えられれば、だがな」

「うむ……」

 

そう、問題は、この管理局の『侵略』を如何乗り越えるか、なのだ。

 

「戦場は、再び月の裏側、なのだな?」

「はい、先日の月裏会戦の戦場とほぼ同位です。というのは、先の会戦の最中次元空間から転移によりこの世界へ侵入してきた管理局の部隊、彼らが侵入に成功したという事実からそのルートを選ぶ公算が高いという物です」

「ふむ……然しそれでは、地上へと攻め込んできた管理局の部隊、アレと同じルートというのも考えられるのではないかね?」

「それは物理的に不可能です。というのも、あのルートは事前に侵入してきたイリスが、莫大な魔力付加を加える事で次元断層フィールド発生装置をショートさせたことにより出来た『抜け穴』を使ったものです」

「まさか、もう修理が終わったと?」

「現在では近隣の基地から仮設フィールド発生装置を運び込み設置し、加え近隣のフィールド発生装置の出力を上げる事で穴を塞いでいます。正規の修復には未だ少し掛かりますが、防衛網自体は問題ないでしょう」

「なるほど」

 

要するに足りない部分を寄せて上げて嵩増ししているのだ。当然これだと周囲のフィールド発生装置に負荷が掛かるが、短時間であれば問題は無い。

 

「まぁ、要するに、戦場はほぼ確定している、と」

「だとすれば予め兵力を集中させて――」

「無理だ。現状可能な限りの兵力は火星に向かわせている」

 

レギオンに対する火星侵攻作戦。それは、地球から三つの軌道を使い、火星からのレギオンを封殺しつつ、火星へと攻め込む計画だ。

この作戦にはエリュシオン級を含めた地球の限界ギリギリの戦力を投入している。当然現在の地球の防衛網は、ほぼギリギリの状態なのだ。

 

「エリュシオン級とて現在建造中の12番艦を含めても、地球の守りには3隻しかまわせていないのだ。とてもではないが防衛戦力に余力は無いぞ!?」

「かといって、侵攻部隊から兵力を引き戻すのも……。今でこそ万全の包囲網で被害を最低限に抑えられていますが、下手に戦力を引き戻せばそれだけ損耗率が上るのは目に見えている」

 

そもそもとして、地球の人口は嘗てのギーオス・レギオンの二重襲来により大幅に低下しているのだ。今再び出生率は向上し始めているものの、人口が嘗ての人数に回復するまでに実に半世紀近く掛かるのではないか、などと言う話もある。

 

「むぅ……ならば、核……は拙いな、相転移砲は……」

「月の裏側で!? 馬鹿な、せめて惑星軌道上ならまだしも、あんな場所で使えば月裏面基地が吹っ飛ぶぞ?!」

「だよなぁ」

 

相転移砲、つまり相転移エンジンを用いた、指定座標で強制的に相転移……ビッグバンに近い現象を誘発させる攻撃だ。火星からのレギオン迎撃に何度か用いられたのだが、余りの威力に有効と分っていても誰もが使うのをためらう兵器であり、現在では緊急時を除けば、コロニー建設地点の最初期のデブリ撤去に使われる程度だ。

「ソーラーシステムは……L4の防衛網に設置したのだったか」

「光子魚雷は……無理か、現地への輸送部隊が足りん」

「月裏基地からグラビティーブラストの援護射撃くらいはできるだろう」

「援護射撃程度にしかならないのが問題ですが……やはり、彼らに任せるしかないのでしょうか」

 

その誰かが放った言葉に、幕僚会議が静かに黙り込む。彼ら――つまり、この地球連邦政府及び地球連邦軍設立の影の立役者。B&Tグループ、いや、そのトップ二人と、更にその背後に佇む彼。

 

「また頼らざるを得ないのか、我々は」

 

誰かが悔しそうに呟いたその言葉。それは小さな音ではあったものの、静かに会議室に響き渡って。

 

「……ええい、次こそは、連中に頼らん! 次こそは、連中が動かんで済む強い連邦に育て上げる!! ソレよりも、一つでも対策を考えんか馬鹿者共がっ!!」

 

沈みかけたその空気は、そんな誰かの一喝で再び息を吹き返して。

 

「相手は管理局なのだよな? なら、指向性AMF放射装置の設置準備を……」

「確か月基地でも次元断層フィールド発生装置を生産中だったはずだな? 転移阻害は間に合わないとしても、防御転用すれば月面への被害を阻止する事は可能な筈……」

 

そうして息を吹き返した議会は、自分達にできることを探し、再び紛糾し始めたのだった。

 





■時空管理局――絶望的状況。ただでさえ少ない戦力を勝手に動かされるわ、測定不可能な戦力を保有する未知の勢力に勝手に喧嘩を売られるわ。勝っても負けても更なる絶望的状況(管理世界の造反)に叩き込まれることは目に見えている。
因みに現在管理局中央に残っているのは、『管理局至上主義』だったり『魔導師至上主義』、『管理外世界蔑視観持ち』だったり色々思想に問題はあるものの、『管理局の危機』をしっかりと認識している『比較的』まともな局員。

■『グサッ』
例えば管理局法に従う理由が一切存在しない現地の協力者の少女に対して偉そうに説教垂れた身長の低かった務官、現提督とか。

■地球連邦政府――ついに管理局との戦争に。想定はしていたが、実際にやるとなるとちょっと。まぁ、精々被害を抑えて、戦後此方が有利になるように派手にぶちかまそう。

■機動六課――アカン!? ミッドが、ミッドが燃える?! っちゅうかウチらはミッドに帰れるんか!? かつ、公開されたデータに存在する対ギーオス用『36mm魔力素結合分解弾頭』の存在、乱発される『広域殲滅兵装(MAP兵器)』の存在に、未来を想像して絶望中。

■特務部隊ホロウ――ミッド→月→地上→月 そろそろ疲れてきた。


※正直なところ今回は閑話。


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39 対『管理局』決戦前

 

 

 

指定空域に到着した特務部隊ホロウが、先ず最初に行った事。それは、敵の予測侵攻ルート上に多数の自立起動型ミサイルや宇宙爆雷を設置することであった。

戦力的に見て、敵の戦力は圧倒的。いや、キルレンシオだけで見るのであれば、ほぼ同等といっても問題はあるまい。

 

しかし最大の難点は、相手のXV級が保有する魔導砲・アルカンシェルである。ウルC4であればアルカンシェルの熱量程度は次元断層障壁で防ぎきれるが、ソレを連発されれば少し心許ない。ましてSR機では範囲攻撃を回避しきれるとも限らないのだ。

 

機動兵器でアルカンシェルを防ぐ方法は二つ。一つ、アルカンシェルの発射そのものを防ぐ。二つ、アルカンシェルの起爆点を潰す。

アルカンシェル発射自体の阻止は、一隻や二隻程度ならば可能だろう。然し、艦隊が分散して配置されていた場合、少なくとも数発のアルカンシェルが放たれる可能性は存在している。

 

次にアルカンシェルの起爆点を潰す。これはいわば博打技、知っている人間ならば『アンチフレイヤシステム(笑』などとでも言うのだろう。

 

結論を言ってしまうのであれば、圧倒的に『数』が足りていないのだ。

然し、だからといって諦める様な人間であれば、地球はとっくにレギオン、もしくはギーオスに制圧されていた事であろう。

 

つまり、数が足りないのであれば戦術で補えばいいのだ。

爆雷は誰でも知っているとは思うが、要するに触れれば爆発する接触式爆弾であり、自立起動型のミサイルというのは、センサーに反応があった時点で墳進を開始し、対象に向けて自動的に攻撃を開始するというモノだ。要するに『ナタルさんのアレ』だ。

 

「ウチが普通の、もう少し正規よりの部隊であれば、もう少し手を打てたんだけどな」

 

小さくメラがそう零す。本来であれば彼はコレに加え、無人兵器による奇襲部隊を設置したいと考えていたのだ。が、メラ率いるホロウは特務部隊。一騎当千を率いて暗躍するのが彼らだ。一応無人機は搭載しているものの、それらは機体や艦を整備する為のオートマトンが大半であった。

 

「ま、何とか成るわよ。コッチにはアタシも居ればすずかもいる。ティアナやキャロ、アギトにイクスもいるんだしね!」

「そうだよ。それにメラ君も、アレはとどいたんでしょ?」

「アレか」

 

月裏基地からレーザー推進で送られてきた『アレ』。外見はメガバズーカランチャーに似ているのだが、最大の特徴はその砲の側面に取り付けられた4枚の折り畳み羽。広げるとソレは、『X』の字を描いていた。

 

「サテライトキャノン……まだ残ってたんだな……」

 

サテライトキャノン。MS規格で開発された、戦略兵器。元ネタではコロニーを砲撃で撃ち落すトンデモ兵器であったが、ソレを再現して開発されたコレは、レギオンを殲滅するために開発された超兵器だ。

 

主に火星侵攻部隊に多数配備されたこの機体は、エリュシオン級から放たれる莫大なマイクロウェーブを地上で受信、そのまま大地に蔓延るレギオンを薙ぎ払うことを目的として開発されたのだ。

 

何しろ現在のE.F.Fの火力は、全体的に加減が効かなさ過ぎる。光子魚雷だとか重力波砲だとか縮退砲だとか相転移砲だとか。特に無人スーパーロボット軍団は、場合によっては一恒星系をも消滅させられる超兵器持ちも居るので、下手に運用する事が出来ないのだ。

 

そんなやりすぎた火力を調整するために開発されたのが、MS規格のXシリーズだ。まぁXのサテライトキャノンも十分やりすぎではあるのだが、少なくとも惑星が消滅するような事態にはならない上、火星であれば余計な被害が出ることも先ず無い。

 

そしてこのメラの手元に届いた代物。『メガサテライトランチャー』と呼ばれる代物は、巡航形態と発射形態の2形態を使い分けることが出来、更に接続するMSないしSR機、エネルギー供給システムを有する艦船からのエネルギー供給、または月面のエネルギー供給システムからのエネルギー供給により、とんでもないレベルの面制圧砲撃を可能とするのだ。

 

「……まぁ、烈メイオー攻撃には届かんのだろうが」

「そのかわり射程はそっちのほうが長いんだよ?」

「私にしてみれば全員ぶっ飛んでるんですけどね」

「あはは……」

「そういえばメラ、あの子達の部隊にはどう行動させるのよ」

「あいつ等か?」

 

アリサの言葉に考え込むメラ。あの子達、と言うのはつまり、無人スーパーロボット軍団、俗称スーパーロボっ娘軍団の事だ。俗称が長すぎる上に呼ぶのが恥ずかしいという理由で『あの子達』と言う風に呼ばれることのほうが多かった。

 

「んー、此方が注意を引いている間に、旗艦含むアルカンシェル搭載艦を殲滅、後に全体に向けて投降勧告、かな?」

「やりすぎると後がこじれるし、妥当なところじゃないかしら」

「問題はアルカンシェルの発射を如何防ぐかだよね。ティアナちゃん、アルカンシェルの充填時間ってどのくらいか分る?」

「平時からの発射であれば三分、転移直後からだったら15分って所でしょうか」

「如何いうこと?」

すずかの問いに答えたティアナだったが、その返答にメラは少し首をかしげた。

「XV級は最新型の次元航行艦ですが、だからといってアルカンシェルをデフォルトで発射できる設計で開発されたわけではないんです。あのアルカンシェルは管理局にとっても最終手段ですからね」

 

ティアナ曰く、アルカンシェルに回るエネルギーは、あくまで次元航行艦のメインジェネレーターから供給されるものであって、アルカンシェルの充填様に独自のジェネレーターが用意されているわけではないのだという。

 

「つまり、航行用のエネルギーとアルカンシェル発射用のエネルギーは共用されている、と?」

「そういうことです。だからこそ、転移直後のキャパシタがダウンしている状況からであれば、ある程度の時間が得られるはずなんです」

「それが15分……まぁ、転移後宣戦布告から考えれば10分程度か。十分だな」

 

そうして最後に呟かれたメラの言葉に、ティアナは思わず苦笑を零してしまう。彼が言っているのはつまり、XV級12隻を初めとしたXL級32隻、、L級11隻、CL級64隻、計119隻もの艦隊を、たった4機の機動兵器と一隻の母艦だけで、それもたった10分で完封してみせると言うのだ。

 

これがティアナの嘗て属していた機動六課であれば、何を戯言をと思っていただろう。然し彼女が今属しているのは、このE.F.F、地球連邦軍統帥本部直属、機動特務部隊ホロウなのだ。自分達ならば出来る。そう確信する何かが其処には有った。

 

「よし、キャロ、機雷分布図、ならびに作戦概要をあっちに転送しておいてくれ。連中が引っかかったところで毛ほども気にはしないだろうが、間違いなく後から集られる」

「あ、あはは……りょーかいです。機雷分布図並び作戦概要をアイゼンメテオールに転送しました」

「よし、それじゃ……あとは作戦に備えて少し休んでおくか」

小さく息を吐きながら言うメラ。その言葉に、ウルのブリッジに集まっていた全員が小さく息を吐いて。

「よし、それじゃ食堂行きましょう」

「あっ、そうだ、今日はアギトちゃんとイクスちゃんが何か作ってくれるんだって」

「アギトちゃんは意外と家庭的ですから」

「キャロ、アンタ……」

「あっ、無し! 今の無しですよティアナさんっ!!」

 

と、少しに賑やかに、全員揃って艦内の食堂へ向けて移動を開始するのだった。

 

 

――宣告時刻まで残り四時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「技術部、次元断層障壁システムの配備状況は!!」

「現在96%です。定刻の一時間前には予備システム含め完成する予定です」

「作戦部、懸案事項は」

「特にありませんが、強いて言うのであれば支援用のレーザーシステムですか。試射が出来ていませんので、確実に討てるのはさん、いえ二発が限界かと」

「情報部、敵・時空管理局次元航行艦艦隊の状況に変化は」

「特にありません。相変らず次元世界から走査端子を飛ばし続けていますよ。即座に魔力が拡散してますんで余り意味はなさそうですが」

「それでも連続して飛ばしてくる、という事は走査端子拡散までの短時間でも、ある程度の情報は収集できていると見るべきだろう。タチキ、これでいいのか?」

「ああ、問題ない。とりあえずはこんな所だろう」

 

地球連邦軍宇宙・月基地方面軍月基地。其処では現在、大急ぎでの対管理局戦に備えた、大規模な基地システムの改良が施されていた。

絶対とは言わないが、十分に堅牢と呼べるほどの守りを築いた地球と言う惑星。しかし今現在地球はシステムの隙を晒してしまった。それが月の裏側、つまり次元断層フィールドの境界であった。

 

これが火星軌道、あるいは水星軌道上にフィールド発生装置が設置されていなかった為、と言うのであればまだ理解は出来る。幾ら規模が大きくなろうと、宇宙の全てを掌握するのは無理と言うものだ。

 

然し問題は月の裏側。月といえば地球の衛星であり、次元世界を渡航できるほどの技術があるのであれば、月からであれば地球は十分に行動範囲に入るだろう此処。更に月の裏側――つまり地球から直接観測出来ないというのも拙い。

月の裏側というのは、地球にとっての絶対の死角なのだ。ソレゆえのシャロン宇宙望遠鏡基地でもあるし、月裏基地でもある。

 

仮に現在の状況で月裏に異世界から戦力が送り込まれたとしても、月裏基地はそれに気付き、即座に迎撃の戦力を送り出す事はできる。が、月の裏側と言う地形では、他L点からの支援攻撃というのは先ず期待できない。

 

L3であれば、L4やL5、L4やL5はL1とL3と月から、其々に支援を得られる位置を持っているのだ。が、事L2、月の裏側だけはそれができない。

そんな、地球圏の中でも特に孤立した位置にある月の裏側、L2点。だからこそ狙われやすいその地点を強化すべく、現在月の裏側では急ピッチでの強化工事が行われていたのだ。

 

「ヤマグチ君、マイクロビーム照射装置とレーザーシステムの状況は如何だ」

「現在設置自体は完了しています。ジェネレーターからのエネルギーバイパスも繋がっていますが、何分パーツ事態がMSやSRからの流用品ですので、連射は不可能でしょう」

「予備パーツの確保は可能か?」

「技術的には可能です。しかしパーツを集めるには既存のMSやSRを解体する必要があり……」

「待ってください!? 現時点でも月の保安戦力は限界ぎりぎりなんですよ!? ここも戦闘に晒される以上、最低限の戦力を保持するのは必須です!!」

「ミツイシくん、戦力の再編は無理かね」

「現状では不可能といわざるを得ません。幾ら無人機を生産できるとは言え、時間も無ければ、そもそもソレを指揮する中枢ユニット、操縦する人間の絶対数が完全に不足しています!!」

 

ミツイシと呼ばれた女性の言葉に、タチキと呼ばれた黒尽くめにサングラスの怪しい男性は小さく「ふむ」と言葉を零す。

 

「やはり、現状で支援にまわせる手はこれが限界か」

「残念ながらそのようだな。我々に出来る事はただ神に祈る事くらいか」

「ソレは違うぞキヨカワ。我々が祈るべきは神ではなく、その戦場で戦う彼らに対してだ」

 

そういったタチキの言葉に、キヨカワと呼ばれた白髪の老人は思わず彼を見返して。

 

「……悪役声でなんという台詞を」

「声は言うな。お前も似たような物だろう。キヨカワ、お前は表側の基地へ行け」

「貴様は如何する心算だ?」

「私は此処に残る。それが責任者の仕事と言うものだ」

「だから悪役声でそういう台詞を」

「それはもういい」

 

そうしてじゃれるオッサンとジジイの二人。そんな二人の掛け合いの様子に、司令室で檄を飛ばしていた面々は少しだけリラックスして。

そんな司令室の様子を一人俯瞰して眺めるヤマグチは、本来あの二人がやっていること――つまり現場をリラックスさせたり、部下のケアをするはずの作戦本部長であり、今だにあばばばと年齢も考えずに口走る彼女を見て思わず額に手を当てたのだった。

 

 

 

 

 

――宣告時刻まで残り二時間。

 

 

 

 

そうして、物語の針は進み始めるのだった。終焉へと向かって。

 




・アンチフレイヤシステム(藁
アルカンシェルはその砲弾を飛ばす実弾型の砲撃ではなく、指定座標に飛ばした術式とエネルギーを使って相転移現象を誘発、この熱量と空間歪曲を以って対象を蒸発させるもの。
そこで考案されたのが、この飛来する術式とエネルギーが結合し、相転移現象を起す前に術式とエネルギーを相互に分解してしまおうというもの。
結局現実味が薄いという事で、高強度AMFで術式を不安定化させた後、時空断層フィールドで防御するという方針が選択された。

・サテライトキャノン
地球連邦軍及びB&Tが火星レギオン攻略作戦用に開発したMS規格の殲滅兵器。
広大な宇宙からの侵略者であるレギオンと戦う地球連邦軍の火力は、基本的に宇宙戦闘を想定されている為、その攻撃力を下手に惑星上で使用してしまうと、惑星が割れる可能性すらあるという超兵器がずらりと揃っている。
加減ともいえない加減を行なう為、新規に設計されたMS規格に搭載できる量産型の殲滅兵装を開発する必要があり、それに際して開発されたのがこのサテライトキャノンを搭載したGX、及びGビット。MS本体に搭載された動力に加え、エリュシオン級から送信されるマイクロウェーブを受信する事で脅威の殲滅力を誇るサテライトキャノンを稼動させることが出来る。
生産個体の大半が各エリュシオン級に搭載され、火星地表のレギオン浄化作戦に投入されたが、機体の幾つかとサテライトキャノンの砲身自体が対管理局防衛戦に投入された。

・メガサテライトランチャー
上記サテライトキャノンを改造し、専用MSによる運用から汎用型MSでの運用を可能とした物。モデルは百式のメガバズーカランチャー。

・スーパーロボっ娘軍団
言わずと知れた『あの娘達』。開発にはB&Tの最高責任者二人とメラ、更に副代表のメイドがかかわっている。
各機システム的にはある程度互換性を保っている物の、基本ワンオフであり、其々が少なくとも一点において古代兵器であるメラを圧倒。殲滅力においては星団規模を誇る個体まで存在し、メラ以上にヤバい存在。
製作者というか親であるメラの希望により、ロボット三原則ではなく普通の倫理コードが教え込まれている。

・意外と家庭的なアギト
そのワイルドな口調に反して家庭料理の得意なアギト。ツンデレ娘なのに普通に美味しい料理を出す上に、薬膳なんかにも詳しい。
逆にキャロはサバイバル生活に馴染み深い出自かつ軍所属なので、兎を捌いて丸焼きを出して『料理』と言っちゃったりする。

・月裏面司令部
月の裏側に存在する軍事基地。本来はレギオンの侵攻を観測する為のシャロン電波望遠鏡及び月面天文台を中心とした地球衛星軌道防衛ラインの要。
最高司令官は髭面グラサンの怪しい悪役面のオッサンで、副指令は萎びた電柱。技術部はマッドな金髪(偽)で、作戦部はビア樽。でも基本良い人。

※もうすぐこの作品も一先ず終わり。この終わり方で良いのか悩む。


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40 終末の光

 

 

事が始まったのは、管理局『オム』艦隊が地球連邦政府に対して宣告した時間の、一時間ほど前。

 

最初にソレを観測したのは、月のシャロン電波望遠鏡基地。安定した重力場異常と、空間の魔素濃度係数が通常値を大幅に上回った事を観測した現地の観測員は、即座に電波望遠鏡で異常な数値を発した地点を観測。

 

その結果、その場に巨大な魔法陣が浮き上がり、その魔法陣をくぐって巨大な異形の“フネ”が次々とワープアウトしてくる様子が観測できたのだ。

 

「きやがったぞぉ……っ! しかも予測ポイントのど真ん中! 至急幕僚本部に情報を送れ。観測班はそのまま観測を継続!」

「「「「了解!!!」」」」

 

そうして現場から送られた情報は即座に連邦勢力内を駆け巡る。量子コンピュータと地球圏全域をカバーする高度情報伝達ネットワークにより即座に全ての地球人の知るところとなった管理局の侵攻。

 

コレに対して地球圏は即座に派遣で来得る全ての戦力を月基地へ配備。予備戦力どころか地球圏の防衛戦力すらもつぎ込むという作戦が強行されたものの、反対派に対する強硬派の「では予備戦力を出すのは何時だと? 今でしょう!?」の一言に撃沈。

 

結果火星強襲部隊の一部部隊を帰投させ、これを側面から突くという形で奇襲をかけることに。

 

火星までの道程は、道中のレギオンを殲滅するという目的の為アナクロに純粋情報書き換え推進による航行で侵攻ルートを確保しながらの物だったが、地球圏、月軌道上はほぼ完全に連邦の支配化にある。

 

L4地点に転移した一部強襲艦隊が、月面に向かう管理局艦隊を強襲。これを側面から叩き敵の隊列を乱すという目論見であった。

 

そして更に月の裏側――L2周辺には戦力が集う。L2に運ばれた資源衛星。ソレを秘密裏に改造し、密かに其処に集められた無人スーパーロボット軍団。彼女らにより密かに宇宙に配置されたバスター軍団やらオービタルフレーム「ラプター」やらが小惑星帯の中に潜む。無人ならではの力技だが、結果としてソレは実際に出現した管理局艦隊の極めて近隣に潜む事に成功する。

 

その距離なんと500メートル。デブリに擬装した幾つかのラプターは密かに艦隊に取り付き、何時でも“自爆”可能な状態で待機していた。

 

更にそんな様子を確認する無人スーパーロボット軍団指令S.F。

 

「各員、準備は宜しいでしょうか」

『Tesでありますお姉様っ! ノノの軍団は須らく艦隊をロックオンしてます!!』

『此方KOS-MOS。敵艦隊を第三種兵装の射程に補足完了』

『ADAからSfへ。ベクターキャノン照準完了。チャンバー内正常加圧。何時でも撃てます』

『報告するであります、アイゼンメテオールの全火器完成システム正常に稼動、相転移砲含め、全ての兵装の発射準備を完了しております』

「宜しい。では各自、開戦の合図と共に手加減容赦なくその一切をこの宇宙から消し飛ばして差し上げなさい」

「「「「「「「Testament.!」」」」」」」

 

ヒューマノイドを模し、そしてそれを圧倒するSR機をも越える戦闘能力を与えられた、通称スーパーロボっ娘軍団。

彼女達の唱和が、密かに宇宙に響いていた。

 

そんな最中の事だ。

定刻の時刻の三十分前。突如として月面基地を激しい衝撃が襲った。

 

「如何した!? 何が起こった!!」

「こっ、攻撃です!! 基地防衛用に展開されていた次元断層バリアに凄まじい負荷! これは……管理局次元航行艦の『アルカンシェル』ですっ!!」

「なんだとっ!?」

 

オペレーターの言葉に、月基地本部に陣取る司令部の面々が驚愕の表情を浮かべた。

 

「馬鹿な、宣告の時間までまだ30分はあるわよ!? 第一返答だって未だ……」

「相手もハナから此方が降伏するはずが無いと解っていたんでしょうね。だから時間を待たずして攻撃を開始したんじゃない」

「で、でもなら何でもっと早くに攻撃してこなかったのよ」

「……可能性としては、此方の戦力が月に集結したところを一網打尽にする心算だった、とかかしら。他にはアルカンシェルの発射に時間が掛かった、なんて可能性は……流石に無いと思うけれども。と言うか作戦部長、こういうの考えるのは技術部の私の仕事じゃなくって、貴方の仕事じゃないのかしら?」

「う゛っ、ユリコぉ~」

「やめなさい、良い年齢してそんな声出して。みっともないわよ、コトノ」

「ミツイシ、ヤマグチ君、じゃれるのはその辺りにして、そろそろ作戦指揮を執ってほしいのだが?」

 

と、そんな二人のじゃれつきを副指令である壮年の電ちゅ……老人が止める。そんな副指令の言葉に二人は慌てて敬礼し、改めて正面の戦線指揮モニターに視線を移すのだが。

二人の部長クラスのそんな掛け合いに、周囲のオペレーターたちは若干苦笑を漏らしていた。

 

「……さすがだな」

「あぁ、見事なものだ。さすがはドイツに名を馳せた『黒の魔女』。自らを道化にあっという間に司令部の空気を元に戻してしまったよ」

 

そういって密かに司令部を見渡す二人。先ほどの攻撃の際、完全に動揺に飲み込まれてしまっていた司令部は、けれども既にいつもの、適度に緊張した状態へと戻っていて。

 

ソレは間違いなくあの二人の掛け合い漫才の結果によるものだろう。彼女――ミツイシコトノは、意図的にか天然にかは全く解っていないが、こうした強襲をドイツで何度も経験し、そのたびに自ら率いる部隊を生還させ、勝利させてきた戦場のエキスパートであった。

 

「……あれで後は遅刻と飲酒に関して控えてくれれば問題は無いのだがな」

「……交通局からの苦情も来ている」

「あぁ、そういえばそうだったな。全く、一つ優れた人間と言うのはどうしてこうも何処かブッ飛んでいるのだろうな」

 

副指令キヨカワの言葉にタチキ指令が付け加える。彼女ミツイシ作戦部長は、着任に遅れそうだという理由で、月の輸送機を占拠、表基地から裏基地までを交通ルール完全無視で突っ切らせたというとんでもない経歴を持っていたりもする。

ちなみにコレは月裏基地の必死の工作によりもみ消されているのだが、その賠償に多額の基地資金が飛んだとかいう噂が有ったり。

 

「「……………」」

 

何かを考えて疲れたような表情を浮かべた二人は、けれども再び気を取り直してモニターへと向き直る。

 

「基地の被害状況はどうなっている」

「次元断層バリアの展開が間に合いました。おかげで基地の被害は、アルカンシェルの衝撃によりランチが転覆した、等の被害が報告されている程度です」

「技術部から連絡が入りました。急造品ででっち上げていたバイパスが火を噴いたそうです!! 急ぎ修復に入りますが、ソレまでバリアの出力低下が予想されます!」

「修復無しで後何発アルカンシェルを防げる」

「今の一撃でバリア出力が70パーセントにダウンしています。多く見積もっても三発、でもバイパス強度を考えると……」

「一発でも少なく事を終わらせたい、ってわけね……」

 

そういってニヤリと不敵に笑うミツイシ作戦部長。

 

「で、ミツイシ一尉、どう行動する心算なのかね?」

「如何もこうもありません。相手が予定よりも早く行動しましたが、我々は予定通りに行動するだけです。多少此方の予定も早めますがね。……指令、構いませんね?」

「勿論だ。管理局を倒さぬ限り、我々に明日は無い」

 

ニヤリ、と腕を汲みながら、そんな『台詞』を言ってみせるタチキ指令。そんなタチキにミツイシはニヤリと微笑んで、ヘッドセットのマイクに手を当てた。

 

「此方月裏作戦本部。我々は敵・管理局艦隊の攻撃を受けた。幸い次元断層バリアのおかげで我々はこうして生存している、が、コレは敵の先制攻撃と判断するに十分だろう」

 

そうして一拍。呼吸するように間を空けて。

 

「故に、本作戦司令部直属の作戦部として各部へ伝達、これより『対管理局L2迎撃作戦』を開始! 各員、敵を殲滅しなさい!!」

 

その彼女の宣告は、即座に作戦領域に展開した全ての部隊、いや、この戦闘の趨勢を見つめる全ての連邦軍人へと伝わった。

そうして、次の瞬間。月の裏側、ラグランジュ2で、眩いほどの光の輝きが相次いで瞬きだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……管理局、終わったな」

 

そうして始まった戦いを見て、八神はやては思わずそんな言葉を口から零していた。然しそんな彼女の感想は、見る者からすれば至極当然の意見にも聞こえていた。

 

彼女ら新アースラクルー、もとい機動六課の面々が纏めて収容されている月面基地の一角。先ほどまで収容されていた会議室に比べると行動に制限が掛けられているものの、それでも機能的には先ほどと比べてもそん色ないほどの物。その部屋に彼女等は纏めて収容されていた。

 

地球連邦の最先端技術をこれでもかとつぎ込んだ月基地、その一室。実はアースラクルーほどの大人数を纏めて収容する為の施設を用意していなかったという話なのだが、当然そんな実情を彼女等が知るはずも無く。また彼女等にとってその部屋に纏めて収容された事は特に不利益を被るわけでもなく。

 

先に収容されていた部屋と同じく、月のメインフレームに接続されている端末からゲストIDで情報を引き出した彼女等は、リアルタイムでその光景を見ていた。

 

「此処まで、とは……」

 

先ず最初に放たれたオム艦隊のアルカンシェル。空間歪曲と反応消滅により対象を空間ごと消し飛ばす管理局の最終兵器。

放たれる瞬間、その威力を知る機動六課の面々は思わず悲鳴を上げていた。その威力を知る彼ら彼女等にすれば、自分達ごとの月への攻撃。それは間違いなく自分達の死を意味しているのだから。

 

誰もが目を瞑ってその瞬間に恐怖して。だというのに、彼女等の時間は何時までたっても終わる事は無く。ただ大きな揺れが襲っただけで終わってしまった。

 

「まさか……アルカンシェルを防いだんか……!?」

 

愕然と呟く八神はやての視線の先には、戦場が映し出される投影スクリーン。其処には薄透明の膜のような物が、壁一枚隔てた向こう側の反応爆発を防ぎきっている姿が映し出されていて。

その事に気付いた機動六課の面々は思わず自らが生き残れた事に安堵の吐息を漏らし、同時に前線メンバーの面々は自分達が生き残った、その意味するところを即座に理解して顔色を青く染めた。

 

(アルカンシェルの連続砲撃を無効化しおった……つまり、地球連邦と管理局が戦争になっても、アルカンシェルは使い物にならんと……)

 

それに加え、このアルカンシェル発射は明らかに地球連邦に対して喧嘩を売って、しかもこれを決定打に引き返せないところにまで一気に踏み込んだ。

幾ら宇宙空間でとはいえ、月の連邦基地に対してアルカンシェルを撃ち込んだのだ。いわば他国に核を撃ち込んだようなもの。言い訳のし様も無い、あきらかな戦争行為である。

 

(アルカンシェルを無効化する、魔導師を圧倒するギーオスを殺すロボットを量産し取る世界と戦争……?)

 

はやての頭の中での連邦政府とは、既に見せ付けられた様々な映像から、E.F.F>ギーオス>越えられない壁>>管理局魔導師と成っているのだ。

 

八神はやては機動六課の部隊長だ。仮に地球連邦と敵対した場合を想定して、既にある程度の戦略を練っている。練って、その結果は――無理だと判断した。

 

先ず原因の一つに、地球連邦で使用されているガイア式の存在が上げられる。これはギーオスに吸収されないという特性に加え、参照したデータが事実であるとすれば、魔法に対する優位性、例えるならガイア式のエネルギー……マナの方が、魔力素と比較し比重で勝っているのだ。つまり、魔法とガイア式をぶつけ合った場合、如何足掻いてもガイア式が打ち勝ってしまうのだ。

 

事実だとすれば「鉄と氷とぶつけ合ってどっちが砕けるか」と言うぐらいに明確に勝負が決まってしまうのだが、まずこの時点で勝負にならない。

 

まぁ実際のところ、マナは命そのものを対価とするという出力の制限が存在し、大気中の魔力素を扱う事でエネルギーを水増し可能な魔力は質を量で補える為に一方的にマナが有利であると言うわけでもないのだが。

 

幸い人的資源を考えれば管理局側に勝機はあるが、次点でこの利点は完全に消滅する。

 

 

 

とうのが、「人型巨大兵器」の存在だ。ぶっちゃけるならばロボットのこと。

 

矢張り参照データが事実であるという前提で考えるなら、地球連邦が保有するTSF、あれ一機で少なくともAランク空戦魔導師に匹敵する。それが無人機含めて大量生産されている次点で、数的有利はないに等しい。

 

更にこの上に連邦には宇宙用に再設計されたTSF、いやMSが存在し、更に圧倒的な力を保有するSR機が存在しているのだ。

 

MSはまだしも、SR機になってしまえば魔導師では勝負にならない。仮にアルカンシェルを直撃させる事ができれば勝機があるいは、ともはやては考えていたのだが。

 

(……対策、存在しとったみたいやしなぁ)

 

地球連邦がアルカンシェルを防いで見せた、と言う事実は此処に確定してしまった。

 

これが仮に「月基地と言う大規模設備を用いた防御」であったのならばいい。大規模設備があったからこそ防げたのだというのならば。然し仮に、SR機がアルカンシェルを防ぐ術を持っているのだとすれば。

 

そのときはもうどうしようもない事が確定してしまう。絶望の底だと持っていたら更に下があるようなものだ。

 

で、そんな事を考えているはやての視線の先では更に戦況が進んでいく。

最初の一撃を防いだ月側は、次に防衛行動として全ての自立・半自立の迎撃対空砲・恒星間砲撃システム・スーパーレーザー、イオンキャノンなどの各種兵装を起動。これにより管理局艦隊に対する最初の一撃を与えた。

 

対する管理局艦隊は即座にディストーションシールドによる防御を実行。空間歪曲によるシールド防御は、場合によってはロストロギアの一撃すら無効化する優れものだ。が、それを支えるシステムはあくまでも現行の管理局の技術によって建造されている物だ。

 

最初の10秒は平然とその攻撃を受けていた管理局艦隊だったが、止む事の無い月面からの遠距離砲撃に次第に隊列が乱れていく。

何せ月側は縮退炉や反応炉、対消滅エンジンなんてもので馬鹿げた規模のエネルギーを使い、現在その各種ジェネレーターをフル稼働させ、余裕のあるエネルギーを全て管理局艦隊へ向けての砲撃につぎ込んでいるのだ。

 

幾ら性能の良いバリアとはいえ限界というモノは存在する。圧倒的なエネルギー量を誇る弾幕に晒された時空管理局艦隊のディストーションフィールドは、ジェネレーターを初めシールド発生装置、エネルギー供給ライン、それらを初めとする様々なシステムに過剰な負荷を受け、次第にその歪曲障壁を減衰させていく。

 

そうして消え行くバリアに恐怖するのが次元航行艦に搭乗する管理局員だった。幾ら優れたシステムを保有していても、人と言うのはやはり何処までいってもそう変わるものではない。

 

一隻の航行艦が、少しでも弾幕の薄い後方へ下がろうとする。と、ソレに釣られるように一隻、また一隻と後方へ下がろうとしていく。

その動きは次第に全体へと伝播し、気付けば我先に後方に下がろうと全ての艦隊が月面基地から距離を取り始めていた。

 

「……これで何隻沈んだんやろうか」

「幸い、でいいのかな? 殆どがXV級で構成されてた艦隊みたいだったから、まだ撃沈された艦は無いみたいだ」

「まだ、なんやな、フェイトちゃん」

 

はやての呟きに答えたフェイト。然し、続くはやての言葉には苦々しい苦笑しか、最早浮かべることは出来ない様子で。

 

そうしている内にモニターの中の、月面からの砲撃が唐突に途絶えた。

何か問題でも有ったのだろうかと首を傾げるが、そうしている内に戦場を移す映像が少し移動する。と、映し出された虚空。その暗い宇宙が不意に輝き、浮かび上がった輝く影が沸き立つように膨れ上がり、その中から実体を持った幾つもの宇宙船がその場に現れた。

 

「わ、ワープなの」

「改めてみたけど、ホンマに地球にはあんな技術があるんやなぁ……って、また何かでおったで!」

「……うわぁ、結構えげつない配置だ」

 

と、フェイトが指すのは、前面に投影される大型スクリーンとは別、フェイトの手元のPDA。早速操作方法を覚えたらしいフェイトは、その手元に表示されるデータをはやてとなのはの手元に転送して表示させた。

 

「なんやこれ?」

「戦況MAP。私達の平面MAPと違って、宇宙戦闘を想定してるから最初から三次元MAPみたい」

 

そういってフェイトが表示してみせたMAP。球形のデータ図の中には、その中央に次元管理局艦隊が表示されている。

 

「これが月で、これが管理局艦隊」

「この月と管理局艦隊の間にあるんが連邦艦隊、ちゅう事やな」

「うん、そうなんだけど、それだけじゃなくて……ほら、これ」

 

そうしてはやての視線の先に表示されるのは、管理局艦隊の存在する宙域。その背後の少し離れた位置。其処に表示される味方(連邦軍)のマーカー。

 

「……待ち伏せ?」

「そうみたい。しかも薄く管理局艦隊の背後を包み込む形で。これ、逃がす心算は欠片も無いね」

 

理想的な包囲網だ、何て呟くフェイト。つまり全滅フラグかっ! なんて戦々恐々としながら正面スクリーンに視線を戻すはやて。その目には、第二次攻撃――つまり艦隊及び機動兵器による直接攻撃が開始され、次元航行艦隊が派手に火を噴く様子が映し出されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「バスタァァァァァビィィィィイイイイイイムッ!! スラァァァアアアッシュ!!!」

 

その一撃で管理局艦隊が真っ二つに割れる。

 

更にその割れた艦隊に向かってKOS=MOSのX・バスターやらADAのB・キャノンが撃ち込まれ、既に行動不能に陥った危機的状態の上に更にバスター軍団のバスタービームが撃ち込まれ、容赦なく蹂躙された後、更に特務機動部隊HOLLOW率いるSR機部隊による殲滅砲撃が行なわれる。

 

その時点で既にアルカンシェルを撃つどころか、ディストーションフィールドを張るほどのエネルギーも残されていない次元管理局艦隊は、次々に火を噴き轟沈していった。

 

更にそれでも生き残った艦隊に対して、連邦月方面軍艦隊から放たれるメガ粒子砲、荷電粒子砲、イオンレーザー砲、リープレールガン、その他諸々の兵装が火を噴き、コレでもかと言うほどに徹底的に管理局艦隊を叩き潰しに掛かる。

 

これがただの戦争であったのならばここまで嬲るような叩き方は無かったのだろうが、管理局はよりにもよって地球連邦政府をテロ集団扱いし、挙句の果てには交渉も無く月基地に戦略兵器を撃ち込んだのだ。

 

幸い次元断層フィールドバリアの展開が間に合った為、死者こそでなかった。が、『戦略兵器の使用』や、『怪我人が出た』という『事実』は既に覆しようの無い事実として存在しているのだ。最早地球連邦軍に属する全ての人間にとって、管理局勢は「異世界“人”」ではなく、ギーオスやレギオンに匹敵する「外敵脅威」という扱いになってしまっていた。

 

――因みにこの地球における『外敵脅威』に対する『正しい対処法』は、『繁殖する前に根絶する』である。

 

数々の宇宙的脅威に晒され、幾度もの人類絶滅の危機を経験していた地球人は、生き残る為には全力を尽くす。幾ら同じヒューマノイドであろうとも、最早一欠けらの容赦すらない。

 

結果、地球連邦軍の可能な限りの大火力に晒されてしまった時空管理局「オム」次元航行艦隊は、生存者『数名』を残し、見事に宇宙の塵となって――いや、縮退砲含む各種兵装によって、塵すらも残さず、綺麗さっぱりこの宇宙から焼滅してしまったのだった。

 




・Testament.
誓約とか契約とかそんな感じの意味だったような。
出展は川上稔作品。テンション上る掛け声だと思う。

・月司令部
名前は声優ネタ。元ネタの人たちは二次創作とかでよく毒電波にそまってるけど、本作における彼女等は声優ネタなだけの別人で有る為普通に優秀。

・バスタービーム・スラッシュ
元ネタはトップをねらえ!2のバスターマシン7号「ノノ」の技で、その元ネタはウルトラマンAのバーチカルギロチン。宇宙怪獣じゃなくて管理局艦隊を真っ二つにした。


■総攻撃後の各員

・時空管理局オム艦隊
下手に地球連邦の基地にアルカンシェルを撃ち込んだ為、異世界の『人類』ではなく『外来性の敵』と判断され、一片の容赦なく駆逐。
「ひっ、光が……ウワァァァァァ!!!」

・B&TのHENTAI技術者共
ヒャッハー! 俺達のロボは「スーパー」「MS」「TFS」問わず無敵だぜええええ!!!!

・ロボっ娘軍団
ディストーションシールドとか張ってるからもう少し硬いのかと思ってたら、まさかの一撃余裕でした。
……でもどうせだから徹底的にやっちゃえミ★

・機動特務部隊ホロウ
うわぁ……。意味無いだろうけど、一応グラビティーブラストとか撃っておく……?

・地球連邦幕僚会議
……これ戦後交渉に影響でないだろうな?

・地球連邦軍
いざ気合を入れて出撃したら、何かあっという間に敵さんが殲滅されてたでござる。

・アースラR2クルー/機動六課
……………………(宇宙艦隊戦に呆然としていたら、管理局の艦隊が一瞬で消滅して魂消た)。


※次話で終わりかな?


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Epilogue "To The NextGeneration"

さて、それからどうなったかを少しだけ話しておこうと思う。

 

先ず最初に、オム艦隊を殲滅したその後のことだ。

地球連邦政府は軍に対して、更なる管理局との戦いを考えて、防備を調えるように命令。これに対して軍は、火星の衛星フォボスを改造、軍事要塞とし、コレを用いた月―フォボス間のワープゲートを開設。戦力的には変化が無い物の、戦力の移動速度を格段に向上させることに成功した。

 

そうして対管理局戦を想定した軍備拡張が行なわれる中、地球連邦政府に対して管理局からの交渉官が派遣され、停戦交渉が行なわれる事になった。

……のだが、これがまた大失敗。交渉官は休戦でも停戦でもなく、政府の交渉官を相手に、地球連邦政府に対する『降伏』を求めてきたのだ。

 

相手の交渉官曰く、『無限の管理世界をすべる管理局に対して戦争を挑むなど狂気の沙汰』『今降伏すれば私の権限で悪い扱いにはしない』だとか。

 

ティアナの伝手――管理局に対する反抗的な勢力の運営する裏の、次元世界規模のネットワーク――で調べてみたところ、どうやらその交渉官、元々最高評議会と繋がりがあり、今の政変で窓際に追いやられた高官が無理矢理割り込ませた人間だとか。

 

とはいえそんな裏事情地球連邦政府としては関係の無い話で、その交渉官のあまりの無礼な態度に激怒。これを即座に小型艇に詰め込んでミッドチルダへ強制転移させてしまった。

 

で、当然のように地球へ対して艦隊を進めてきた管理局。コレは寧ろ管理局がと言うよりは、ミッドチルダの民意が『魔法文明の無い世界の癖に』と、意識の其処に根付く他世界に対する蔑視を一部幹部にあおられた結果、その民意を管理局が受け入れざるを得ないような事態に発展してしまったのだとか。

 

 

 

 

 

そうして始まった次元戦争。管理局と地球連邦の戦いは、まさに一方的な戦いとなってしまった。

 

次元空間でも平然と戦闘可能な地球連邦軍に対し、次元空間での戦闘手段といえば次元跳躍攻撃程度しか持たない管理局艦隊。しかも次元跳躍攻撃を可能とするのはSランクの飛びぬけて稀少な魔導師、そのうちの実に何割か存在すれば良いほうなのだ。

 

ならばと管理局は連邦を何処かの次元世界に誘い込み、その土地での地上戦を敢行。結果は当然ながらTSFやSR機に蹂躙されて管理局の敗北。

当初から勝ち目など物量程度しか存在していなかった管理局だが、一部の『魔導師至上主義者』『ミッドチルダ至上主義者』などが、魔法文明の未熟な、卑劣な質量兵器を使う未開拓世界の蛮族に負ける筈が無い! なんて憤り、管理局は無駄に被害を増やしていく。

 

そうして増えた被害の中には、管理局に抑圧された、被支配世界の国土なども存在した。

 

地球連邦に圧倒される管理局は、その損失を補填する為に被支配地域からの搾取を敢行。まるで滅びる前の帝国主義のような有様を示しだした管理局だが、そうなれば当然搾取された国土の民意は管理局から離れていく。

そうして管理局の民意が管理局が離れ、更にその次元世界から管理局が撤退した後。偶々その世界を訪れた地球連邦の御人好しな高官が、現地の復興を強烈にバックアップしてしまったのだ。

 

素質に左右され、しかもその素質がある人間を中央に吸収してしまう管理局。対して素質に左右される事なく、人の生活を豊かにしてしまった地球連邦。片方は直前まで悪意をばら撒いていたのだから、どちらが現地に好まれるかなど比較するまでも無い。

 

当然の如く『反管理局、親地球連邦』に傾いたその次元世界は、管理局に対して宣戦布告、地球連邦に同調し、管理局に対する攻勢を開始した。

そうして一つの世界が地球連邦に付くと、次から次へと地球連邦に対して味方する次元世界が現れ始め、あっという間に管理局の規模は当初のソレを圧倒的に下回り、管理局が『管理世界』と呼んで支配下に置いた幾多の世界は、その大半が地球連邦側に味方してしまった。

 

火星の浄化作戦との両面作戦として管理局と戦っていた地球連邦の進行速度は遅かったのだが、けれどもその進行速度に対して異常な速度で反管理局勢力が拡大していったのだ。

 

この時点で既に管理局の勝利は絶望的、というか寧ろ勝っても負けても酷い事になるのは明らか。良識派や先の見える人間はその顔色を真っ青に染めていたのだが、そんな事は知らず、また実際の被害を受けたわけでもないミッドチルダの民意は戦争継続を望んでしまったわけだ。

 

そうして行なわれてしまったのが、ミッドチルダに対する本土決戦。

周囲の次元世界を、次元断層フィールドによって封鎖され、本局・ミッドチルダ両面の脱出経路をふさいだ上で、徹底的な殲滅戦が開始されたのだ。

 

JS事件など生ぬるい、本物の大破壊。ゆりかごが空を覆う? それどころではない。小さな島国ほどはあろうかと言う巨大な宇宙船が何隻もミッドチルダの上空に浮かび、その空を鋼色に染めてしまったのだ。

 

この時点で漸くミッドチルダの住民は敗北を自覚し、管理局本局の制圧を目途に、時空管理局は地球連邦率いる『反管理局連合』に対する敗北を認めたのだった。

因みに管理局が敗北を認めたその原因の一つに、俺の放ったウルティメイト・プラズマが本局に大穴を明けた事を脅威とした、なんて噂が存在しているが、俺の一撃なんて一要因に過ぎないと思う。というかそうであって欲しい。

 

 

 

 

そうして管理局が滅びた次元世界。然し、管理局と言う組織によって、次元世界と言う異世界複合体の治安維持が行なわれていたというのも事実。

此方の調査の結果、『管理局の暗部による襲撃→管理局の立ち入り強制査察→聖王教会が孤児を回収(人身売買)』なんてとんでもないコンボをやらかしていた腐った部分が存在するのも事実だが、真実真摯に世界平和を願って真面目に仕事をしていた人間が居た、という事実を無視して良いわけでもない。

 

あ、聖王教会に対する黒い噂はこっそりと流しておいた。地球連邦軍は反管理局連合の中でも重要な立ち位置にいたし、さり気無い噂話でもあっというまに尾ひれ背びれ。此方の意図しないレベルで噂話は拡散してしまっていた。まぁ、俺は嘘を話したわけではないし、コレで全世界からディスられても自業自得だろう。

話が逸れた。

 

そうして時空管理局が滅びた後、反管理局連合は本来であればその組織を解体することに成る筈であったのだが、此処で再び地球連邦政府が一つの提案を持ち出した。

 

それが、『次元連合保安局』。対管理局戦用に生産されたTSFなどの余剰戦力を持って組織された、次元世界の『国連』のような組織だ。

どこの世界にも所属せず、何処の世界に対しても中立であり、何処の世界に対しても一定の捜査権限を持つ。

 

管理局のように『陸』や『空』の部隊は持たず、基本治安維持は現地政府に一任。『保安局』の仕事は『ロストロギアの回収』の徒一点のみ。

 

武装なんかは量子演算型コンピューターを中枢としたシン・クライアント方式のTSFを多数配備する事で、かなり武器管理能力の高い組織となっている。

次元世界同士の紛争などには基本的に関与する事は無いが、次元世界の連鎖崩壊を招きかねないような事態に対しては、両陣営を叩き潰す事で対応するという、若干どころではなく恐い組織に仕立てあがってしまったのだが。

 

 

 

 

当初この次元連合保安局の設立に当って、反管理局連合はその中枢に立つ『地球連邦政府』の専横を恐れていたのだとか。然しその時既に地球連邦政府の戦力は他次元世界の戦力を圧倒していた。文句を言うにしても下手に喧嘩を売って損をしたくは無かったのだ。

 

ところが此処で地球連邦政府は次元世界の支配者になることすら可能であるその状況で、突如として『次元連合保安局』に対する占有権を、次元連合保安局の成立を対価に完全に破棄すると明言して見せたのだ。

 

コレを皮切りに反管理局連合に属する政府達は次々と『次元連合保安局』の設立に賛同。そうしてあっという間に組みあがってしまった新たな世界のシステムによって、次元世界は再び平穏を取り戻すに至ったのだった。

 

 

 

 

 

「……と」

 

キーボードに走らせていた指を外して、小さく一息零す。

既にIFSが普及し、キーボードの必要性なんて殆ど存在していないこの地球連邦政府の設備。

 

ある種の懐古主義のようなものだが、こうしてキーボードを叩くというのは、俺にとっての一種の精神安定剤のようなものでもある。

然し俺、この世界に生まれ落ちてから、パソコンのキーボードに触った回数なんてそれこそ知れてるはず何だけど。まぁ、メラになる以前の記憶が多分コレって、『メラ』に成る前の俺の名残なんだろうなぁ、なんて。

 

「御父様」

「ん? イクスか」

 

と、何時の間に傍によっていたのか。アリサに似た色合いの髪の毛を首の辺りで纏めた少女、俺の娘として正式に地球連邦国籍を取得したイクスが、上目遣いに此方を見上げていた。

 

「何をしておられたのですか、お父様」

「んー、まぁ、ちょっと日記みたいな物を、な」

 

相変らず口調の固いイクスだが、これはもう本人の持ち味みたいな物らしく、誰に対してもこんな口調で話しかけるのだ。……まぁ、たまに寝ぼけているときなんかは口調が崩れるのだが、それがまた可愛いのって……げふん。

 

「日記、ですか。お父様も日記をつけておられるのですか?」

「日記というか回顧録というか、まぁ、自分が何をやったかを、後から大雑把な事も確認できるように、な」

 

自分の行動ログというのは案外便利で、後々報告書を作成したり、過去のイベントが先の出来事に何等かの因果関係を持っていたりする場合、その過去の出来事を参照する為の索引代わりになったりする。

 

……とはいえ、この数年であっという間にSF化が進んだこの世界だ。俺の行動履歴なんて、E.F.Fの情報統合リンクを経由して中央演算装置にアクセスすれば、事細かな行動履歴を参照できるのだろうが。

 

「……うん、まぁやっぱり日記かな」

「日記を書くのは良いことだと、学校で習いました。私も日記をつけていますよ」

「毎日?」

「……たまに、その、日記を書くのを忘れてしまいますが……」

 

やっぱりそんなものだよなぁ、なんて笑いながら、イクスの頭を撫でてやる。

寧ろ俺のは日記と言うよりブログみたいなものだし。しかも手抜き。

と、そんな事を考えていると、いつの間にか俺の膝の上へと移動してきたイクスが、俺の腕の隙間からディスプレイへと視線を向けた。……日記モドキでも読まれるのは若干恥ずかしいんだけどなぁ。

 

「これは、管理局戦争の顛末、ですか?」

「そうだよ。向うも漸く一息ついたみたいだし、ここら辺で簡単に、な」

「……良かったんですか? やろうと思えば、地球連邦による次元世界統一も不可能ではなかったでしょうに」

「まぁ、出来なくは無いだろうけどさ」

 

イクスの言葉に苦笑を返す。まぁ、実際アルハザードの遺産を受け継いだ地球連邦政府。現在ではその技術を完全に飲み込み、次の段階――つまり、技術の応用段階に入ろうとしている。

現状の地球連邦の技術を持ってすれば、確かに次元世界の統一は不可能ではないかもしれない。

 

「でも、それは長続きしないし、無用な血も流れるだろう」

「確かに。ですが……」

「第一、俺は正義の味方なんかじゃない。現状ただでさえ広げすぎた身内の輪なんだ。これ以上は俺のキャパシティーでは無理だよ」

 

その言葉に、イクスはうむむと唸りながらうつむいてしまう。

事実、俺は別に『異世界の赤の他人』なんて、別に死のうが生きようが如何でもいいのだ。おれが守りたいのは地球、其処に住む、すずかとアリサ、そして俺の家族達だ。地球を守るのは、俺を生み出した存在に対する義理と、あとはすずかとアリサをまもるついでだ。

 

だというのに、途中からティアナやキャロ、イクスを拾ったりして、何だかんだで守りたいものが増えてしまった。本当、これ以上は俺の許容量を超えてしまう。

 

「それに、今の状況はベストに近いベターだ。これ以上を望むべきではないよ」

 

現在の状況。つまり、次元連合保安局による次元世界の管理、と言う形。

地球から次元世界に対する干渉力は、この組織を設立するに当ってその大半を切り離してしまっている。が、この契約、実は外界からの地球に対する接続を法的根拠に基いて切断するというモノも含まれていたりする。

 

つまり、『地球は次元世界に対して干渉しない。その代わり外界からの干渉も認めない』というのを、次元世界に対して認めさせてしまったのだ。

 

コレは他世界との技術格差からくる地球に対する恐怖心、もしくはソレに近い『恐れ』に付け込んだような形になるのだが、別に他世界に実害を及ぼすわけでもない。精々『各次元世界から秘密裏に回収したアルハザードの技術が、次元世界全体に普及する事が無くなる』と言う程度だ。実は大損害かもしれないが、取らぬ狸のなんとやら、未だ利益を得ていないのだから、損失も糞も無いだろう。

 

そしてまた、外界からの干渉を断つ……外界への干渉を断つというのは、技術供与なんかもスッパリカットするという事だ。

 

こうなってしまえば他の次元世界は、不正規に地球に侵入し、技術を不正に持ち出すしか方法がなくなるわけだが……残念ながら地球には次元断層フィールドがある。そのフィールドに阻まれ地球に対する侵入は出来ず、またその事に文句を言おうにも、他でもない次元世界の各世界が認めた法的根拠が盾となる。唯一地球との交易が存在するのは、月の裏側のL2に設置された『出島』と呼ばれる交易宇宙ステーションのみ。

 

こうして次元世界から切り離された『地球』は、ある程度ではあるが、今度こそ安心して対レギオン、ひいては宇宙開発に取り組めるようになったのだ。

 

「宇宙進出と次元世界開拓。二束の草鞋を履けるほど地球に余裕は無い。なら、取り敢えずは手近な火星を優先した、それだけの話だよ」

 

まぁ、そんな政治の話を決めたのは、俺ではなく地球連邦の政府と軍のお偉いさん達の話し合いだ。俺の「次元世界と係わり合いになりたくない」という感情が多分に影響を及ぼしたような気がしないでも無いが、多分きっと気のせいであって欲しいと思う。

 

 

 

 

そんな事を考えながらイクスの頭を撫でて、ふと改めてイクスの姿に目を向ける。

 

「そういえば、折角おめかししてるのに、髪形崩れちゃったかな?」

 

現在のイクスの姿は、その橙がかった金髪を映えさせる子供サイズの青いドレスを身に纏っており、髪型もソレにあわせて綺麗にカットされている。

 

「いえ、その、問題ありません」

 

そういって、上目遣いに此方を見上げてくるイクス。これはもっと頭をなでてくれと言うサインなのだろうか。やっぱり可愛い、イクスちゃんマジ天使。

 

だがコレは同時に地獄っ! 威厳ある父として振舞う為にも、このハッチャケた思考を表に出すわけには……っ!! 頑張れ俺っ! 今だけで良い、勘違い(され)系オリ主っぽい振る舞い(表情に出ない)をッッ!!

 

「…………ハッ!! 違います、そうではありません!!」

 

と、暫く俺が自らの本能と激戦を繰広げながらイクスの頭を撫でていると、ふと猫のように目を細めて和んでいたイクスが突如としてそんな声を上げた。

 

「ん? どうした?」

「違うのですお父様、私はお父様にそろそろ時間だという事を伝えに来たんです!」

 

言われて、チラリと壁に表示された時計を見る。ヨーロッパ某所で計測された時刻……グリニッジ標準時から計算されている時間が指すのは、確かに予定時刻に近い……というか、もう既に結構ギリギリな時間だった。

 

……少し話しこみすぎたか。然しイクスを愛でて時間を失ったのであれば俺は後悔しない。時間は犠牲となったのだ。イクスを愛でる為のな……!!

 

「確かにそろそろ良い時間か。それじゃイクス、一緒に行こうか」

「はい!」

 

元気よくニッコリ笑うイクス。我が娘に手を差し出し、繋いだ手を握り締めて、片手で触っていたディスプレイを閉じて、その部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー、メラさんがおしゃれな格好してる……」

 

部隊の最前列。タキシードを着こなすメラさんを見たヴィヴィオは、またなんともコメントし辛い、そんな感想を漏らして見せた。

 

「おしゃれな格好してる事に驚くんだ」

「だってメラさんだよ!? あの、普段から軍服を着崩した格好で出歩いてるメラさんなんだよ!?」

「あー……あの、その」

「そのメラさんが、こんな場所だからっておしゃれをしてるんだよ!? 当たり前の事かもしれないけど、ヴィヴィオはちょっと衝撃的だよ……」

 

本人が聞いたら口元を引き攣らせそうな、そんな失礼な事を良いながら感心したように彼を眺めるヴィヴィオ。

そんなヴィヴィオの視線の先、彼と共にこの部屋に入ってきた彼の娘、イクスちゃんが静かにその場を離れ、巡り巡って私達の座るこの席へと近付いてきた。

 

「お疲れ様ですイクス!」

「はい、有難うございますヴィヴィオ。けれどもお父様を先導できたことはとても嬉しい事で、まだまだ余裕がありますよ!」

「あはは、イクスは相変らずファザコンだぁ~」

「そうでしょうか? 普通ですよ、普通」

 

イクスちゃん。メラさんの娘さんである彼女は、現在火星のメインシティー、エリュシオン級コロニー艦アマツ、そのシティー中央に存在する中央校通う学生であり、ヴィヴィオとはガイア式魔術に関する低年齢討論会や技術交流会を切欠に出会った魔法……いや、魔術仲間というものだそうだ。

 

……そう、私、高町なのはは、何の因果か今現在、嘗て時空管理局が第97管理外世界と呼んだ、『地球』世界で、ヴィヴィオと共に日々を謳歌していたりする。

 

事の始まりは、丁度管理局が崩壊したあの頃。

地球連邦は管理局から宣戦布告を受けた事で、『保護』していた私達の扱いを『捕虜』とすることにした。これはまぁ後から考えれば仕方のない、というか当たり前のことであったのだろう。

 

そして始まった地球対管理局の戦争。はじめは地球の技術力を管理局の物量が押さえ込んでいたものの、その管理局の物量というのは、本来次元世界各地で起こる事件に対処する為の物だ。

 

当然戦力を一極集中した結果、管理世界各地は荒れ始め、結果として各次元世界は管理局に対する反抗心を強めていった。

 

で、そんな最中、地球連邦軍は対管理局戦の橋頭堡を各次元世界に設置。此処を守るため、各次元世界の現地政府と協力し、治安維持を進めたのだ。

 

元々異世界にまで領地を持つ心算のなかった地球連邦。そんな彼らの思惑は、各次元世界の政府にとっても都合の良いものであった。

 

管理局に対するネガティブな機運が高まっていた事もあり、各次元世界は地球連邦軍を中心に同調。『反管理局連合』が立ち上がってしまったのだ。

 

地球連邦から一部技術を供与された反管理局連合は、破竹の勢いで管理局を駆逐。あっという間に管理局を解体に追い込んでしまったのだ。

 

後から聞いた話なのだが、その当時首都クラナガン、ひいては第一世界ミッドチルダは、他の管理外世界とは違い、厳しい戦況の中でも相変らずの治安維持を保っていたのだとか。

 

で、そんな戦争の厳しい状況を知らない市民。管理局上層の一部は地球連邦に講和を申し込もうとも考えていたらしいのだけれども、民意は「辺境の魔法文明も存在しない異世界に屈してなるものか!」なノリになっちゃっていたのだとか。

 

ある意味魔法文明至上主義の弊害とでも言えようその状況。完全に管理局の自業自得なのだが、結果として彼らは引くに引けない状況に自ら突っ込んでしまっていたのだ。

 

で、至極当然の流れで敗北した管理局は、反管理局連合によって解体されてしまう。

ミッドチルダの治安維持こそ、管理局地上部隊の流れを汲む「ミッドチルダ国際警察」が引き継いだ物の、時限航行艦隊は完全に解体。クロノくん達「海」に所属してた人たちは、一部ミッドチルダ国際警察に迎合した人を除いて、その大半が故郷に帰ったり、ミッドチルダで新たな職を探したりする事と成った。

 

で、私もそんな『海』解体の流れで地球に帰還した一人だったりする。

 

時空管理局が解体された後、次元世界の治安維持は、反管理局連合の戦力の大半を吸収した『次元連合保安局』、通称『保安局』による運営へとシフトした。

 

時空管理局のソレとは違い、魔法と言う資質に拘らず、例えばガイア式を使うもよし、ミッドチルダでは稀少技能と斬り捨てた『超能力』を使うもよし、地球から技術提供されて各次元世界政府が運用を始めたTSFなんかを使ってもよし。精神と言う資質こそを重視するのが保安局という組織なのだとか。

 

で、そんな保安局だけど、ある意味で当然と言うべきか、この組織には「元時空管理局の職員を一切採用していない」のだ。

 

当初ミッドチルダは保安局成立に辺り、過去のノウハウを売りに人材を押し込み、なんとか保安局、ひいては次元世界に対する影響力を残そうとした。

 

けれども保安局の管理体制は緊急時にのみ戦力を派遣するというもの。管理局のように、支配下に置いた次元世界を管理局で植民地化してしまうようなやり方ではなく、基本的な政治は現地に任せてしまうというやり方で行くのだそうだ。

 

そんなわけで旧管理局のノウハウなんていうものは一切必要とされず、また旧管理局の影響力を新たな組織に残すのを嫌がった反管理局連合により、ミッドチルダの影響力を一切持たない次元世界の治安維持組織、『保安局』が誕生したわけなのだ。

 

で、そういう過程で、当時地球連邦の月面基地に捕らえられていた私には、二つの選択肢が与えられた。

 

一つは、アースラクルーと共にミッドチルダへ帰る事。この場合、治安が大混乱しているミッドチルダではどうなるかわからない上に、以降はミッドチルダ人とみなされ、地球の土を踏む事はもう二度とないだろうという点。

 

二つ目が、すずかちゃんとアリサちゃんのコネで、地球の国籍を復活させて帰化するというもの。この場合私は地球人という扱いになるのだが、そうするとクラナガンの隊舎に残してきたヴィヴィオを放置する事になる。

 

すずかちゃんたちには申し訳ないけれども――そう断ろうとしたところで、更に一つの情報と、一つの条件が付け加えられた。

 

先ず情報。それは、現在管理局の告発と同時に、聖王教会の告発が行なわれ、聖王教が弾圧に近い状態にあるというモノ。

 

なんでも聖王教会と管理局がグルになって人身売買のような事をやっていたらしく、その事実が明らかになったことで現在聖王教会では自爆テロまがいの戦闘が勃発しているのだとか。

 

で、彼らは高い可能性として、権威再興の為に聖王クローンであるヴィヴィオを担ぎ出す可能性があるというモノ。

 

そして条件というのが、もし地球に帰化するのであれば、こっそりミッドからヴィヴィオを連れてきてくれるという話だった。

 

このドサクサに紛れて、ミッド側でのヴィヴィオの情報を「行方不明」扱いにして地球で暮らしてしまえば、渡航制限の設けられたミッドに対してヴィヴィオの情報が伝わることは先ず無い。ヴィヴィオに対してある意味で究極的に安全な、生まれの差別の無い、極普通の生活を送る事ができる環境を得られるのだ。

 

……そんな殺し文句を言われてしまっては、私に出来るのは首を縦に振ることだけだった。

 

そうして地球に帰ってきた私。相変らず老けないお父さんとお母さんに出迎えられた私は、その後お母さんの下でパティシエの修行をすることと成った。

 

因みにヴィヴィオはというと、地球に帰化したなら義務教育!ということで、聖祥と風芽丘のどちらに入学するかと言う話に成った。私としては、卒業生である聖祥をプッシュしたのだけれども、ヴィヴィオはお父さんやお兄ちゃん達の使う御神流の技に興味があったり、地球で普及しているガイア式なんかに興味があるらしく、そういうモノを習得するなら時間を取れる風芽丘にしては、というお姉ちゃんの意見を採用して風芽丘学園附属への入学となった。

 

……まぁ、中学生から聖祥に編入という手もあるから、今は諦めておくの。

で、学校で友達を作ったり、家で御神流を習ったり、ガイア式の勉強をしてみたり、私と一緒にお菓子作りを習ってみたりと、相当充実した日々を送るヴィヴィオ。

 

そんなヴィヴィオと一緒に平和な日常を送りながら日々を過ごす中で、私は偶に顔を出してくれるティアナから少しだけミッドチルダ――機動六課時代のみんなの現状とかを聞いたりしている。

 

先ずフェイトちゃん。フェイトちゃんは現在ミッドチルダ国際警察で、今も執務官として活動しているらしい。世界規模で犯罪を追っているのだけれども、とはいえ世界はミッドチルダの中の話。本当の意味で次元世界中を飛び回っていた頃に比べれば余裕が出来たらしく、最近は色々な趣味を始めて輝いているのだとか。

 

で、フェイトちゃんの保護児童であるエリオ。彼は管理局解体に伴ってミッドチルダに持ち込まれた法律――『義務教育制度』によって学校に入学する事になったそうだ。多くの同年代との交流で、ある意味漸く子供らしさを得たのだとか。あと、凄くモテるらしい。

 

はやてちゃんたちはというと、当初私が地球に帰化することを選んだのと反対にミッドチルダに帰り、現地でミッドチルダ国際警察立ち上げに尽力したのだとか。ただ、立ち上がった後は広域殲滅型の魔導師にそれほど必要とされる戦場があるわけでもなく、如何するでもなくくすぶってしまっていたのだとか。

 

そんなときに、聖王教会関係者と言うことで管理局をクビになって、私立探偵をやっていたアコース元査察官と再会。なんやかんやで二人はくっ付いたらしい。

 

……まさか、はやてちゃんに先を越されるなんて――ッッ!!

 

現在はやてちゃんは、ヴォルケンリッターごと旧管理局――現ミッドチルダ国際警察を辞めて、アコース元査察官と一緒に探偵事務所を開いているのだとか。まぁ、あそこって実はシグナムさん以外はバックヤード向きのメンバーが多いから……。ヴィータちゃんも何だかんだで戦闘以外も出来る子だし。

 

けふん、で、スバルとギンガの二人。

先ずギンガなんだけれども、すずかちゃんによって色々魔改造されたギンガの身体、その一部情報の公開許可がすずかちゃんからギンガに届けられたらしい。

 

その情報と言うのが、戦闘機人の金属骨格を超炭素素材に置き換えることで、メンテナンスの頻度を格段に落として、更に素材を炭素にすることで外部からの干渉ではなく、自己治癒能力による治癒能力の向上がどうとか。

 

要するに、戦闘機人の子達は、骨折とかはしにくいけれど、一回骨折しちゃうと治療ポッドに入れて『修理』する必要があった。けれども、この処置で『修理』ではなく、普通の人間と同じように時間を掛けて『治療』することが可能になったのだとか。

 

ギンガはこの技術を保護された戦闘機人の子達に広めたりしながら、今もミッドチルダ国際警察で治安維持に貢献しているそうだ。

 

で、スバル。ギンガから齎された情報で更にパワーアップしたスバルは今、正義のクラッシャーとして防災隊で腕を奮っているらしい。スバルの話をするときだけ、不自然に口数が少なくなったティアナを見るに、多分色々二人でお話をしたんだろうなーと思う。

 

あとは、鳳凰院君と護くんの二人。

 

鳳凰院君のほうは、会社の経営がヤバイ状況にあるとかで、再起の方法を計っていたところ、何故か鳳凰院君個人に、ミッドチルダ人であるにも拘らず、異世界への渡航許可がでたのだそうだ。

 

機動六課メンバーがミッドへ帰る際、地球で更にレストアされ、後に鳳凰院君に返却されたアースラR3。札束が紙屑になったミッドチルダにおける鳳凰院君唯一の資産と成ったそれを使って、現在彼はミッドチルダにおいて数少ない異世界からの物資の買い付けが可能な人間として忙しく飛び回っている。

 

偶に地球……というか、地球連邦が用意した異世界向けの『出島』と呼ばれる、月に設置されたポートステーションにも訪れているらしく、ティアナ曰く相変らず皮肉屋で元気そうだったそうな。

 

対する護くんはというと、現在ミッドチルダ国際警察の特殊部隊で活躍しているのだそうだ。機械化文明が入った事で空戦型魔導師の需要が減った事に対して、陸戦魔導師の需要は相変らず治安維持面において重要視されている。そんな現状だ、陸戦AAの護くんは現在ミッドチルダ中で引っ張りだこなのだとか。

 

そんな護くん。最近キラキラしだしたフェイトちゃんにアプローチを掛けているらしく、けれども相変らずの天然さんであるフェイトちゃんにスルーされる様がミッドチルダ国際警察クラナガン支部では割と有名な光景になっているのだとか。

 

……もしかして、あの世代で春が来てないのって、……私だけ……?

 

で、ティアナから皆のそんな近況を聞いて一喜一憂しつつ、最後にティアナからすずかちゃんとアリサちゃんの二人連名の招待状を受け取った。

その招待状を読んだ時、思わず声を上げてしまった私は悪くない。

 

 

 

 

そして招待状に導かれてたどり着いた今日この日。場所はなんと地球ではなく、転移門を通ってたどり着いたのは地球から遠く離れた火星の大地。

同年代のガイア式の使い手、それも初等部ながらも上位の術者という共通点を持つヴィヴィオとイクスの二人が仲良く話す中、不意に私達の居る会場の空気が変わった。

 

司会者さんの声に導かれて視線を移せば、其処には白いドレスを着た女性が二人。彼女達はその背後に、其々少女を引き連れていて。

 

「二人とも綺麗だね……」

「そうだね……」

「ママも早く相手見つかると良いね」

「そうだn……にゃっ!? にゃにをおっしゃいますヴィヴィオさん!?」

 

思わずドモリつつヴィヴィオに返し、変な事を言うヴィヴィオのほっぺたをモミモミしつつ視線をその二人に戻す。

白いドレスを着た二人はそのまま壇上へと進み、そこで待っていたのだろうメラさんの下へとたどり着く。

 

そうして進むその儀式。儀式といってもソレは怪しい物ではなく、寧ろ聖約と呼べるものだろう。

 

 

――なぜならばっっ!!!!

 

 

「それでは、新郎新婦、互いに誓の口付けを」

「……順番、な」

「先はすずかに譲るわよ。その代わり、情熱的なヴェーゼを頂戴ね」

「メラ君、私だって情熱的なのがいいよ?」

「…………」

「んむっ」

「あら、珍しく強引にって、ちょ、まっんむっ!!」

 

なんだろう、この纏まらない感は。壇上で醸し出される何処か間の抜けた、けれども三人の仲の良さがありありとわかるピンク色を含んだ空気に、会場全体の空気がなんだか苦笑気味なものになっている。

 

……いいなー、私もあんな相手見つけたいなー。

 

「お父様クラスの男性となると、早々見つからないかと思いますが……」

「いいもーん、メラさん級じゃなくても、私の事ちゃんと受け止めてくれる人さがしますよーだ」

「ママ(の砲撃)を受け止めてくれる人……」

 

なんでだろう、ヴィヴィオが慄いてる。

 

 

 

「――今日結婚の誓いをかわした二人の上に、満ちあふれる祝福があらんことを――」

 

 

 

そうして、壇上に立つもう一人の男性――神父様の言葉で、会場中から拍手が沸きあがる。

 

そう、なぜならばっ!!

 

今日は地球連邦における一夫多妻制制定後最初の、そして始めての火星での結婚式。

 

そう、今日、この場で、メラさんとすずかちゃんとアリサちゃんの三人は、純白のウェディングドレスとタキシードに身を包み、皆に祝福されて結婚するのだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・時空管理局使節団

戦争状態に陥った地球連邦と時空管理局。管理局は地球連邦との講和の為に使節団を派遣した。

然しこの使節団にしっかりと紛れ込んでいたミッドチルダ―魔法文明至上主義者により交渉は交渉と呼べない有様へ。

『たかが質量兵器を使って管理局を脅すとは良い度胸だ。なんでもいいから即座に全ての武装を放棄して管理局に誤れば許してやらない事も無い』

上記のような内容を割りとストレートに交渉の場で発言し、交渉は決裂。使節団はランチに鮨詰めにしてミッドチルダに射出された。

さらにコレが決定的な契機となり、反時空管理局連合の発足、その切欠となったともされる。

 

・反時空管理局連合

地球連邦の奮起を発端とした、次元世界の革命軍。

極限られた末端的な技術ではあったが、コレを各次元世界が供与を受けた事により、『管理局の魔導師』数を非魔導師含む『次元世界の兵士』数が圧倒。

コレにより数的不利を補った地球連邦を中心とし、管理局による一点集中型の支配体制を崩壊させた。

 

・次元連合保安局

反時空管理局連合による次元管理局解体の後、新たに次元世界の治安維持のために設立された組織。

反時空管理局連合の戦力を一部吸収し、どの世界にも所属しない独立組織として成立した。

思想的には、「基本自分の世界の事は自分達で」、「判別付かない、もしくは手に負えない場合のみ呼んでね!」という組織。

構成員は各世界からの士官によるが、各世界が一定の影響力を持ちたがったためそこそこの人材を保有している。

ぶっちゃけ立ち位置的にはアロウズとかティターンズなんて言葉が連想される組織。然し無限図書とか面倒な仕事も引き継いでいる為、武力よりも“脳”力が要求されるハードな職場。

主戦力は激震。但し一部には地球連邦からAI制御型の魔装機やちょっとヤバイ代物なども提供されており、『世界の危機』には対応できるレベルの装備は存在している。

 

・時空管理局

主に海の一部が地球連邦に喧嘩を売り惨敗。そのまま連邦の侵攻を受ける。

コレに一部は和解の方向で動いたのだが、下っ端交渉官が先走りご破算。更に民意までも魔法未開地に頭を垂れる事に反対。結果後には引けなくなり、ズルズルと地球と戦闘継続。

そうしている内に各ナンバリング(管理)世界が地球連邦に同調、反抗作戦を開始。無人世界以外のほぼ全ての世界から敵対され、あえなくミッドチルダ陥落。

後の次元連合保安局には食い込めなかった。また、治安維持は『管理局地上部隊』、『陸』が『ミッドチルダ国際警察』として活動を引き継ぐ。

解体された『次元航行艦隊』『海』は『ミッドチルダ国際警察』に吸収されるか、それぞれの出身世界へと戻っていった。

時空管理局の保有していた司法立法行政の三権は、其々の組織に分立された。

 

・聖王教会

「いやったッ! 管理局が崩壊したぞッッ!! この隙を利用し、蓄えた力を以って再びミッドの大地に聖王の権威をッッ!!」

とか考えていたが、管理局の暗部を暴露する『ついで』に聖王教会の暗部も大々的に暴露されてしまい、聖王教会は盛大に壊滅。

教会関係の犯罪者は全員逮捕。無罪の人間も居たものの、聖王教会自体への目が厳しい物となったため、再興の余地は皆無。

更に数少ない聖王教会再興の希望の灯火であった『聖王のクローン』は管理局崩壊のゴタゴタに紛れて行方不明になり、結果最後の抵抗勢力も空中分解してしまった。

 

・地球連邦政府/太陽系連邦政府(?)

時空管理局崩壊後、次元連合保安局の利権からは半ば手を引き、地球世界における宇宙開発を推進している。

要するに他世界を一々気にかける心算は無く、とりあえず自分達の世界を寄りよくしていこうと言う、極々当たり前の思考によるもの。

地球上のギーオスを完全に駆逐。また次元断層フィールドの性能向上により、ギーオスが地球に侵入してくる可能性はほぼ皆無となった。

更に火星におけるレギオン掃討作戦が完了。外宇宙からの脅威を警戒し、この火星を第三次防衛線へと引き上げる。

現在は火星を領土とし、更に人口数が問題となったため、これを解消する為に『一夫多妻制が連邦議会で可決された』りした。法案成立に至るまでに、どこぞからの凄まじい圧力が有ったとか無かったとか。

火星を領地とした事で、名称を地球連邦から太陽系連邦に変更するべきかというのが最近あった議題。

 

 

 

・高町なのは

時空管理局解体後、すずかの誘いに乗り地球へ帰化。ヴィヴィオと共に翠屋の後継者として修行中。

ついでに娘と共にガイア式を習ったりしている。

 

・高町ヴィヴィオ

時空管理局崩壊後のゴタゴタに紛れて、ミッドチルダのデータ上からその存在を抹消。なのはと共に地球へと移り住んだ。

母なのはからは聖祥を望まれたが、色々な事に興味のあるヴィヴィオは風芽丘附属を選んだ。

現在は母なのはと共に祖母桃子から料理を習ったり、風芽丘附属学園に通ったりと充実した日々を送っている。

 

・フェイト・T・ハラオウン

管理局崩壊後、元地上部隊から成立した『ミッドチルダ国際警察』にて引き続き執務官を継続。

但し範囲が『次元世界』から『ミッドチルダ』に絞られた所為でかなり時間に余裕が出来たらしく、最近人生を楽しむようになってきた。

 

・エリオ・モンディアル

時空管理局が解体された後に制定された『義務教育制度』に則り、現在は学業中。結構モテるらしい。

学校ではキャロとの絡みが無かった分を晴らすかのようにラッキースケベを連発中。正にエロオである。

 

・八神はやて&ヴォルケンリッター

時空管理局崩壊後、地球からミッドへ渡航。ミッドチルダにおいて国際警察の設立に尽力する。

その中ではやては探偵として活動していたヴェロッサとくっ付き、退職後は八神一家まるごとでディテクティブへと転職。

 

・カリム

グラシアの名前をそのまま名乗るのは現在の情勢上危ないという事で名前を変えた。

現在はどこぞの学校で教鞭をとっているとか。

 

・スバル・ナカジマ

管理局崩壊後、ミッドチルダにて災害救護部隊へ。正義のクラッシャーとして各地の災害現場で活動している。

姉のギンガが何処からか持ち込んだテクノロジーにより内部機構が大幅に改善されたりした。

男っ気がない事を周囲に心配されている。

 

・ギンガ・ナカジマ

いつの間にか地球連邦に誘拐されて魔改造を受けていた人。

魔改造の内容は、戦闘機人の機械骨格部分を有機炭素素体に組み替えることでメンテナンスの必要性を極限まで下げた物。

コレにより管理局ないし組織による拘束性が下がり、割と自由に生きる事ができるようになり、更に他の保護された戦闘機人の子に戦場以外の場所を与える事もできるようになった。

事件後はミッドチルダ国際警察クラナガン支部108部隊において治安維持に貢献している。

 

 

 

・鳳凰院 朱雀

ミッドに帰ってみれば、管理局崩壊の影響で会社の資産やらが壊滅。手持ちの資産もほぼ紙屑になってしまった。

一応権利やら他世界に預けていた資産も有るにはあるが、現在の情勢でソレを回収に行くのはほぼ不可能。

手持ちに残った最大の資産は、機動六課に預けて盛大にぶっ壊された後、何故か地球連邦が更にレストアしてくれたアースラR3のみ。

ミッドチルダの人間ながら、何故か異世界渡航が許可された為、アースラR3を使い、異世界間を貿易商人として旅する事に。

偶に地球(L2の出島)による事もあり、そのときは何故か月に出ているティアナと会ったりしているらしい。

実は大昔から原作介入を行う元テンプレオリ主の改心系オリ主。何とかして世界を良い方向へ持っていこうとし、結果クイントを生存させる、管理局地上部隊の戦力の底上げ、などの成果を残したりしている。

そのため、さり気無い所でメラから評価されており、メラも妹(ティアナ)の婿候補として色々支援をしていたり(アースラR3、次元渡航資格、出資などなど)。

 

・御剣 護

管理局崩壊後、機動六課メンバーと共にミッドチルダへ。

元々陸士であった為、そのままミッド国際警察に編入。その無駄に高度な能力から特殊任務を割り振られる事も。

最近時間に余裕が出来て、キラキラ輝きだしたフェイトに色々アプローチを仕掛けている。

朱雀並に原作を良い方向へ変えたい、という思いはあったものの、具体性が一切無く流れに流されてしまった人。そのためメラからの評価は低い。

実はスタート時点において朱雀とは殆ど差異が存在せず、上手くやれば朱雀程度には上を目指す事も可能であったが、本人が『常識的対応』を取ったため、『常識的』な成果しか得なかった。

 

 

 

 

 

・太陽系第三惑星地球衛星『月』

今回の出来事もあり、要塞化が進行した。地球圏における絶対防衛網の最大拠点。月軌道上に存在する多数の防衛線要塞の中枢。

裏面に存在する電磁望遠鏡は現役で活躍中であり、またL2多次元宇宙港の外部観測所としても機能している。

 

・太陽系第四惑星『火星』

地球連邦軍のレギオン掃討作戦により、火星の大地に蔓延っていたレギオンは掃討された。

然し更なる外宇宙からの脅威に備える必要が有るという声に促され、地球連邦政府は火星への殖民――火星植民地化計画を実行する事となった。

幸いと言うべきか、レギオンによる環境改造によって火星は辛うじて人類が『滞在』できるレベルの環境を得ていたため、衛星軌道上に太陽光収束装置、通称『ビッグミラー』を設置し、更にエリュシオン級一隻をコロニー艦へ改造する事で火星への移民を開始した。

移民とはいうものの、転移門により地球とは直通で結ばれている為、割と気軽に地球と往来が可能であり、それもあって急速に開発が進んでいる。

実はこの『ビッグミラー』こそが火星最大の兵器だったりする。

 

・エリュシオン級コロニー改造艦『アマツ』

死後の楽園の名を持つエリュシオン級の中で、「天」の名を持つアマツ。

本来は従来型と同じ長期航行艦とされるはずであったが、その幅広い多様性を利用し、武装の大半を外しアーコロジー化することで、火星における橋頭堡とされた。

現在は火星の大地に着陸し、メインシティーとして火星植民地化の橋頭堡となっている。

 

 

 

・ティアナ・ランスター

実は地球国籍を持っているミッドチルダ人というかなりレアな(外交的な意味で)存在。地球連邦軍の中尉。レギオン掃討作戦、管理局戦争と経て大尉、その後の活動で少佐まで出世した。

現在は特務部隊ホロウの隊員として、然し本隊とは別行動を取り、デモンベインを駆りつつ、教導を行なったり災害救助に出向いたりしている。

因みに鳳凰院が月の出島に来るときに限って何故か月に居合わせるのは、本人曰く「ぐっ、偶然なのよ、別にアンタに会いに来てるわけじゃないわよっ!」だそうです。ツンデレ乙。

デモンベインの銀鍵守護機関から洩れ出る莫大な異界のエネルギーに影響を受けているのか、何故か年齢が20前後で止まっている(旧神化)。

 

・キャロ・ル・ルシエ・バニングス

メラに拾われ、バニングスに里子として引き取られた後、連邦軍内で名を上げた「地獄の軍曹キャロせんせー」である。因みに当時の階級は中尉。実は本編中にルシエを名乗った事は無い。レギオン掃討作戦、管理局戦争を経て大尉まで出世した。

実は自分を助けだしてくれたメラが大好きなのだが、「姉」であるアリサやすずかも大好きであるためその好意を心の奥底に仕舞っておこうとしていた。

……のだが、我等が姉御アリサにそんな心の欺瞞は隠しとおせないッ!! あっさりとソレを見抜いたアリサはキャロを煽動、これによりキャロはメラの第三婦人の座を虎視眈々と狙うのであったッッ!!

戦後はティアナと違い最前線からは身を引きホロウとしての活動、火星開発プロジェクトに参加。仕事しつつ学生したりしている。

メラの濃厚なマナに影響されてか、若干人外(竜魔人)化している。

 

・アギト・秋星

メラに回収され、魔改造された後に超進化した元融合機の炎の魔導精霊。九十九神の一種。本当の意味で『烈火の剣精』。階級は少尉から中尉に上った。

戦後は最前線から退き、特務部隊ホロウとして火星開発計画に参加。……が、何故かメラの勧めで教育制度に参加することとなった。学校では割と人気者なのだとか。

メラ(マナの塊)とユニゾンする影響で、自らも精霊っぽい何かに進化した。

メラの周囲がハーレムと化しつつある状況に苦笑しつつも、特に何かするわけでもなく、常にメラの傍に控えている。

 

・イクス・秋星

元冥王イクスヴェリアであり、メラの養女。メラの魔改造により健全化した。戦闘能力はほぼ皆無だが、一応ガイア式を扱う事は出来る。

現在はメラについて火星に移住し、キャロやアギトと共に学校に通っている。学校では地味にアイドル的扱いを受けていたり。

本人に自覚はないが重度のファザコンであり、既にアリサに目を付けられている。

最近自分の内側にマナとは違う『小さな宇宙』を感じ出したらしい。(冥王)

 

・アリサ・バニングス・秋星

メラを陥落させる為に周囲のハーレム化を目論んだ人。B&Tの代表だったり地球連邦軍名誉中将だったりする。

実験中の魔導器「ガイア・ギア」を事故の際に身体の内に取り込んでしまい、更にそれを安定させる為メラの力を受けた事により人外(エヴォリューダー)化してしまう。

勇気から無限のエネルギーを組み上げたり、接触した機械を支配できたり、運命すら打ち砕いたりと、実はメラの次くらいにヤバい戦闘能力を持っていたりする。

ホロウと共に火星に移住。その後目出度く、すずかと共にメラに嫁ぐ事に。

 

・秋星(月村)すずか

メラの第一婦人にしてB&Tの副代表かつ地球連邦軍の名誉中将。

メラの濃厚なマナに影響され、吸血鬼の血が変異。瞳が金色に染まり、真祖の吸血姫として覚醒した。

空想具現化を使えるとんでもないチートッぷりを誇りながら、同時にシステム寄りのSR機開発に秀でており、自らの搭乗機であるGZを仕上たりしている。

戦後はメラと共に火星へ移住。アリサと共に目出度くメラに嫁ぐ事に。

 

・メラ(メラ・シュメーカー・秋星)

最近は秋星メラと名乗っている主人公。シュメーカー・秋星の名前はその昔適当に擬装した戸籍。べっ、別に忘れてたワケじゃないんだから――ッッ!!

元々はよくある転生オリ主としてどこぞの世界にチートたっぷりで送り込まれるはずが、『愉快型転生神・ゴッドアンバー』の犯行を事前に察知した『代行』グループによりコレを阻止。適当に安全な世界へと転生するはずであった。

……が、愉快型転生神・ゴッドアンバーのトロイの木馬によってガメラっぽい世界観がクロスしたような『とんでもないリリなの世界』に『人造神秘生命体』として生れ落ちる事に。因みに前世の個人情報に関する記憶は綺麗さっぱり消されてしまっている。

自分の事を思い出せないくせに、アニメやらのネタだけは確り覚えている自分の業に苦笑しつつも、色々頑張って地球を、ひいては大切な子達を守ろうとした結果「やり過ぎた」。

 

本来のメラの計画では、管理局崩壊までやる心算は無く、精々力を見せ付けての『地球連邦の独立性の保持』くらいが目標であった。が、政治方面は連邦政府に丸投げしていた為、気付いたときには管理局との戦争に入ってしまい呆然。

被害を減らす為に管理局戦争には参戦した物の同時にB&Tで非殺傷兵器の開発に取り組んだりもしていた。

第一次管理局反抗作戦後、反管理局連合結成中に戦線を離脱。その頃から火星の開発に従事しており、戦後は次元世界から完全に身を引いて、火星開発に専念する事に。

その後、すずかとアリサについに押し切られ、なおかつ地球連邦の婚姻法がいつの間にか一夫多妻制に法改正されていた事もあり、二人を娶る事と成った。

因みに法改正最初の重婚制度利用者であり、また同時に火星での一組(?)目の新婚でもある。

この数年後、更にキャロからまさかのアプローチを掛けられ、更にソレに触発されたイクスの攻めにタジタジする事に成る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、押し切られちゃったな」

 

嘗て、俺はすずかとアリサの二人を同時に受け止める事など出来ないと言った。それは不義理であるし、またおれ自身に其処までの器量があるとも思っていなかった。

 

「後悔してる?」

「いや。二人が俺を選んでくれたんだ。なら、精一杯二人を愛するさ」

 

けれども、いやだからこそ、そんな考えは間違っているのだと思い知らされた。何をうぬぼれているのか、俺の度量など問題ではないのだ。

問題は、あくまでも俺がそれを……アリサとすずかの二人を受け入れるかどうか、と言うだけ。結局受け入れてしまえば、互いに支えあっていけば良いだけなのだから。

 

「……メラ君がクサい愛の言葉……」

「……ちょっと、いえ、かなりレアね」

「………(自分で言って後からクサかったかと照れてる」

「……ふふ」「……あはっ」

 

思わず目をそらした俺を見て、両脇から聞こえてくる彼女達の笑い声。そして少し間をおいた彼女達は、示し合わせたかのように言葉を紡いで。

 

「「不束者ですが、これからどうぞ宜しくお願いします!!」」

「……ああ」

 

感極まって、言葉はソレしかでなくて。

結局、力一杯、両腕に二人を抱きしめるのだった。

 

 

 




これにて「リリカルに立ったカメの話」本編は一応の完結とさせていただきます。

実を言うとまともに完結させた作品って殆ど無くて、公開作品で言うと『リリカメ』だけだったりします。
まさかにじファン末期の駆け込みネタを完結させるまで書き抜くとか、自分でもビックリしてるんですが、なんとかここまでたどり着くことが出来ました。

正直かなり尻切れトンボというか半端な気がするのですが、どうか平にご容赦を。もう最後と言うことで勢いが付きすぎて……またそのうち修正も入れます。あ、誤字脱字の指摘は随時募集中。あ、いつも指摘有難うございます。感想もちゃんと拝見してますよ。

最後に、ここまでこの稚作「リリカルに立ったカメの話」を読んでくださった読者の皆様、ここまでのお付き合い、有難うございました。


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