ソードアートオンライン―アリシゼーション・フェイクソウル― (榛野 春音)
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birth by zero

0、

 

 

 

「――おぬし、今なんと!?」

 巨大な隔離図書館の中央にて、アンダーワールドの旧支配者の一人《カーディナル》は、驚愕の表情になる。

 すると、カーディナルの正面に立つ青年は、不敵な笑みを漏らしつつもう一度言った。

「現支配者を抹殺する為の騎士団を作る――と、言ったのだよ」

 そして、その口元をニンマリと吊り上げる男、名をユリエノス・アーケネスと言い、アンダーワールドにて[神聖術語学者]の天職を受ける者であった。

 細身で長身に灰色の短髪鋭い目つきを持ち、体には研究衣を身に付け、その上に羽織りのようなものを羽織っている。

 ユリエノスは、続ける。

「私はね。現実世界と呼ばれる世界を見て来たんだよ。そして、ストレートに感じたのさ。この世界は間違っているとね。別に現実世界が正しいとは思ってないが、少なくともあんなクズババァの独裁に浸かる世界が間違っていることくらいはハッキリと断言出来るよ」

 そこまで言って口を閉ざしたユリエノスに、カーディナルは問う。

「でも、どうやって倒すつもりじゃ?奴も奴の騎士団も消して簡単に倒せたものではないぞ?」

 すると、その一言クックッとユリエノスが笑う。

「もちろん。なんの下準備も勝算も無しに賭け金をレイズするほど、私はバカではなくてね。――既に整っているよ。整合騎士の武装完全支配術を凌駕する力の開発はね」

 ユリエノスの得意気な言葉にカーディナルは言葉を失う。

 

 武装完全支配術を凌駕する力……じゃと!?

 

 ユリエノスは続けた。

「もう、実用可能段階だ。既に稼働チェックと適合者の判明している力は、十三。あと一つだよ。あと一つで私の《鍵憶十四騎士》は完成する…………見ていたまえカーディナル。私があのクズを神の座から引きずり下ろしてやるさ」

 そんな狂気に満ちたユリエノスの言葉にカーディナルは、脅えを感じつつもその考えを否定することはなかった。

 

×××

 

 カーディナルと会話を終えたユリエノスは、自らの研究施設に戻ると地下へと向かった。

 暗い部屋の中、無数に伸びる配線の先には円筒形に伸びる一つの水槽があった。

 その中には、一人の少女が眠っている。年は16才くらいだろうか。水色のロングヘアーが美しい。

 全体的美しい容姿のこの少女だが、彼女はユリエノスの神聖術によって人工的に生み出された生命。

 今は、アンダーワールドでの生命活動における最終調整を行っているのだ。

 水槽に触れたユリエノスは少女を見つめると、そっと呟いた。

 

「君が……十四番目だ」

 

 その言葉は、先程とはまるで違い、どこか優しさと悲しみの込められたものだった。

 

 ユリエノスは、水槽に背を向けると地下室を後にする。

 一階に登る階段の途中でユリエノスは、ふと足を止めた。

 目の前には、紫色の騎士服に身を包んだ一人の少女。

「ユウキ。……どうした?」

 ユリエノスの言葉に《絶剣》ユウキはこたえる。

「えへへ。ちょっと気になっちゃってさ新人の子。生まれたら僕が世話する予定でしょ?なんか楽しみなんだっ!」

 その言葉にユリエノスはフッと笑みを零す。

「そうか。まぁ彼女が生まれたら、よろしく頼む。まぁ、あちらの世界で生きていた頃は《絶剣》と呼ばれていた君だ。きっと彼女を立派な人間、立派な騎士にできるだろうな」

「ふふんっ!オッケー!このユウキにお任せくださいっ!」

 そう言って、ユウキは胸を張り敬礼すると足早に地下室へと降りて行った。

 

 あのユウキと言う少女、生前現実世界に直結するとある仮想世界で《絶剣》と呼ばれた最強クラスの妖精剣士であった。ある理由がキッカケで死亡した彼女だが、ユリエノスが直前にその全てをバーチャル側からトレースした為、今彼女はこの世界の住人として新しい生活を送っている。

 これまでの記憶や知識、剣士としての実力はもちろん健在でユリエノスの組織には欠かすことの出来ない人物である。

 ユウキは、《演習教官騎士団》と呼ばれるユリエノスの《鍵憶十四騎士》を育成する為に作られた騎士団に所属し、次に生まれて来る十四番目の騎士の教育担当者となっているのだ。

 故に先程のように張り切っているのである。

 

 一階に戻ったユリエノスは、研究所内ロビーにあるソファーに腰かける。

 この研究所内にあるものは、全て現実世界およびその世界に直結した仮想世界からトレースしたものだ。もちろん。中にはアンダーワールドに存在しないものもある。

 ソファーに腰を落ち着けたユリエノスは息を吐く。

 

 そして、窓の外、遥かに見えるセントラル・カセドラルを睨み、こう呟いた。

 

「貴様だけが、世界を知った気になるなよ。――アドミニストレータ」

 

 その声は誰に届くことも無く、虚ろな世界に消える。

 暫しの間、無言でセントラル・カセドラルを睨んでいたユリエノスだが、不意に立ち上がると自らの研究へと足早に入室し、その扉を乱暴に閉めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

1、

 

 

 

 目を開けた時から、私には生における全てが理解出来た。

 

 これは、私の生みの親であるユリエノス氏によって脳内に組み込まれたものだそうだ。

 

 だから、生まれた瞬間から私には個性が有り、自我が有り、そして何よりも人間としての心があった。

 言葉も知識も一般以上のものがあり、この世界における常識、そして世界の真実も知っていた。

 

 

 

 しかし、それだけに全てを得ていながらも、まだ私はゼロに過ぎないであった。

 

 

×××

 

 

「おっはよー!フィルフィア!」

 ユウキの声にフィルフィアは、その水色の髪を揺らし振り返った。

 その可憐な姿にしばし見とれていたユウキがすぐさまその胸元に飛び込みヒシッと抱き締めた。

 そんなユウキにフィルフィアは、苦笑いする。

「おはようございます。ユウキ先輩」

 すると、ニコーッと笑みを浮かべたユウキは、パッとフィルフィアから離れると言った。

「遂に今日だね」

「はい」

「頑張ってね?フィルフィア。僕はお留守番だけど、ここから応援してるよ」

 そう言ってユウキは、フィルフィアにブイサインをする。

 そんなユウキにフィルフィアは、そっと笑みを浮かべ頷いた。

 

 ユウキが去った後、フィルフィアはユリエノスの研究室に行った。

 

 そこには、数人の騎士が並びユリエノスの向かい合っていた。

「遅れてすみません」

 予定時間よりも二十分早く来たのだが、それよりも早い先輩騎士達にフィルフィアは頭を垂れる。

 しかし、騎士達は別に気にする様子は無く、むしろ中にはニヤニヤと笑っている者もいる。

 ユリエノスは、フンッと鼻で笑う。

 そして言った。

「さて……と、今日の任務は言うまでもなく――」

 そこで言葉を切ったユリエノスは、フィルフィアを見た。

 すると、それまでユリエノスを見ていた先輩騎士達も一斉ににフィルフィアを見る。

 

 その全ての視線が、今回の任務をお前の口から告げろと言っている。

 

 暫しの間。

 

 何故皆がそのように言うのか。

 簡単である。

 それだけ今回の任務がフィルフィアに関係したものであるからだ。

 そして、それだけ関係があるからこそ、敢えて意識させ自覚させる為に口にさせるのだ。

 

 

 全く――皆して言わずとも、私はそれなりの覚悟を持ってここに来ている。いや、むしろそれ以上の覚悟を持ってここに来て、皆の期待する覚悟など生まれた時から既にこの身に宿されている。

 

 

 微笑を浮かべたフィルフィアは、真っ直ぐ前を向き凜とした声で言った。

 

 

「今回の任務は――私の剣となる母材を手に入れることです」

 

 

 

 

 

 私の名は、フィルフィア・アーケネス。

 《鍵憶十四騎士》十四番目の騎士となる者。

 目標は、強く有り、誰に屈すること無き最高の騎士になる。

 そして、この世界の[偽りの神]に裁きの刃を振り下ろす。

 

 

 任務を言い終えたフィルフィアは、ユリエノスの背後の窓から見えるセントラル・カセドラルを見た。

 

 

 

                  今ここに、私の始まりを告げる――

 

 

 




どうも新作ですw
先に注意ですが、
※私が執筆中の「ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~」の内容とは、別ものです。話的な繋がりはありません。

そして「ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~」もよろしくお願いしますw

結構今作は、壮大な話になります。ww

頑張っていきますので、よろしくお願いします!

感想待ってますので、よろしくお願いします!
※あんまりツッコミは避けて欲しいですw


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ダークテリトリー

今回、最後に挿絵あります。


1、

 

 

今回の母材探索任務にフィルフィアと同行する騎士は、三人。皆《鍵憶十四騎士》に席を置く強力な戦士である。

現在、フィルフィア達は、果ての山脈を越えた先にありダークテリトリーたる場所へ来ている。

本来、この地へ足を踏み入れることは人界の禁忌とされていて、少しでも侵入すればセントラル・カセドラルの監視ユニットに探知されてしまう。

しかし、今回はユリエノスの開発した監視ユニットへのジャミングコマンドが機能している為、フィルフィア達は簡単にダークテリトリーへ侵入することが出来ているのだ。

周囲は見渡す限りの荒野で、空は赤く、遥かに森といくつかの建造物および城が見える。

 

「にしても、相変わらず不気味な世界だ」

そう言って空を仰ぐ青年、名をドラグレン・バードロアと言い《鍵憶十四騎士》の三番目の戦士だ。

長身で筋肉痛な肉体を持ち、ガサガサの金髪、顔には一筋の傷がある。

性格は、騎士と言うよりも気前よい船乗りと言う方が的確だろう。それほどに明るく、頼れるタイプだ。

「でも、向こうの住人からすれば、こっちの世界の方が不気味にうつるんじゃなぁい?――結局は、主観の問題よ。主観」

ドラグレンの言葉にそう返すのは、《鍵憶十四騎士》五番目の戦士、ハーヴェニオ・ロマイアだ。

この男、一言で表すなら、オカマである。

スラリとしたスレンダーな体格に、セクシーなメイクをした綺麗な顔が案外板についている為、見れなくもない。

オネェ口調でおどけてはいるものの、いざというときは冷静かつ的確な判断の出来る人物である。

「そういうもんかねぇ?まっ何にせよ。さっさと終わらせて帰ればいいだけの話か……」

ドラグレンは、ハーヴェニオの言葉に肩をすくめる。そして、欠伸を漏らしつつこんなことを言った。

「そう言えば、フィルフィアは今回がダークテリトリーはじめてだっけ?」

「はい。――でも、大体のことはあらかじめ入れられたので、あまりはじめてという感じはしませんね」

フィルフィアは、そう答え天を見る。

「羨ましいわね――でも、少し虚ろね」

そんなフィルフィアに不意に声をかけたのは、《鍵憶十四騎士》七番目の戦士、リン・ノクスペロロヌス。

彼女は、凜とした声の美女戦士だが普段はフード付きのコートを着ていて顔を見せない。

時々しか喋らず、喋っても全てを語らない為、謎の女というイメージが強い。

「――虚ろ……ですか?」

フィルフィアは、リンの言葉に首を傾げる。

「んもぅ!リンったら、また変なこと言ってぇ!あんまりフィルちゃんイジメないの」

ハーヴェニオにが、リンに言う。

すると、リンはムスッとした声になると静かに言った。

「別に、そういう意味じゃ……ない」

 

その時、先頭を歩いていたドラグレンが突然立ち止まる。

「見ろ。嗅ぎ付けて来やがったな」

そう言って、ドラグレンは前方を指差した。

「あららぁ~。思ったより多いわねぇ」

ハーヴェニオが笑う。

見ると、ドラグレンの指す先には、十数人もの黒い騎士団の姿が見える。

いづれも馬型の魔物に騎乗していて、一直線にこちらに向かって来る。

ダークテリトリーの《暗黒騎士》だ。

まだ十分に距離がある。戦うことも、退避も可能だ。

フィルフィアは、先輩騎士の判断を待つ。

すると、リンがおもむろに腰から大型の蛮刀を抜き放つ。

「光導け。帯絃刀-村雨-、――エンハンス・アーマメント」

直後、

リンの蛮刀が光に包まれ形を変える。

光がやむと同時に、その手には蛮刀《帯絃刀-村雨-》では無く一本の弓となった《帯絃弓-村雨-》が握られていた。

リンが弓を引き絞るように構えると、そこに光の矢が出現する。

なんの躊躇も無く、リンはそれを射た。

発射と同時に衝撃波のようなものを微かに感じる。

 

刹那

 

遥か前方で爆発が起こり、大地が砂埃を巻き上げた。見れば、二人ほどの暗黒騎士が光の矢に胸元を串刺しにされ落馬したのが確認できる。

それを見たドラグレンは笑い剣を抜く、ハーヴェニオもヤレヤレと腰から細剣を抜いた。

フィルフィアもフゥーっと息を吐くと、すっと腰からなんの変哲も無い刀を抜いた。

フィルフィアの持つ今の刀は、他の騎士達と違い《十四鍵》ではない。

《十四鍵》とは、ユリエノスの作成した神器を越えた超高位武器オブジェクト。

その全てが使用者と特別な因果関係を持ち、《真戒》と呼ばれる力の真意を組み込まれている。

 

今の自分には、先輩騎士達のような力は無い。

ならば、ユウキより手ほどきを受けた強力な剣術のみで、この場を切り抜けねばならない。

 

刀を構えたフィルフィアは、迫り来る敵を真っ直ぐに見つめた。

 

 

 

 

 

 

2、

 

 

「唸れ!剛龍剣!!――エンハンス・アーマメント!!」

ドラグレンが叫ぶ。同時にその左手に握る剣が灰色の光を放ち、大剣へと変化した。

ノコギリのようにギザギザとした鱗に覆われた刀身の先には巨大な鉤爪が組み込まれている。

「うぅおおっ!!!」

ドラグレンは、飛び出すと空中で大剣を振りかぶると、落下と同時に地に叩きつけた。

 

轟音が響き、大地が揺れる。

大地に放射状に広がった亀裂にバランスを崩した馬達が、暗黒騎士を背から振り落とす。

地に落ちた暗黒騎士達が慌てて剣を構えると同時に、今度はハーヴェニオが剣を構えた。

「凍えなさい。紫冷剣――エンハンス・アーマメント」

すると、ハーヴェニオの構える剣が霜を帯び、冷気を放出し始める。

突撃してくる暗黒騎士に向かってハーヴェニオは剣を振った。

その剣が暗黒騎士の一人を捉えた直後、その暗黒騎士の剣を構えた右腕が凍りつく。

驚愕した暗黒騎士は後退するも、素早く追撃するハーヴェニオの連続斬りで全身氷付けとなる。

そうしている間にも、リンとドラグレンは次々に暗黒騎士を処理して行く。

と、突然三人の暗黒騎士達がフィルフィアに向けて突っ込んで来た。

フィルフィアは、息を吸って飛び出した。

素早く一人目の横降りをくぐるようにして交わすと、二人目の剣を下から弾く。のけぞった二人目を蹴り飛ばし、三人目にぶつけると、素早く振り返り一人目の第二撃を受け止める。

つまぜりあうこと無く、それを押し返したフィルフィアは、スキルモーションに入る。

アインクラッド流剣技、別名SAOソードスキル《刀》三連撃技[羅刹]。

これは、かつてリアルネットワークを散策したユリエノスがとある意識体より授かったデータをフィルフィアが引き継いだものだ。

鍵憶十四騎士である全員が、このSAOソードスキルを何かしら習得している。

 

フィルフィアの三連撃が暗黒騎士を捉え、その天命を削る。

暗黒騎士が吹き飛ぶ。

フィルフィアは、スキル終了直前に別のスキルモーションを取った。

すると、再び刀がエフェクトを帯びる。

これぞユウキにより、伝授された技[スキル・コネクト]。

本来、このソードスキルとは終了時に微かな硬直がある。

しかし、この技はその硬直から技を繋げることで一時的硬直から逃れ、第二撃目のスキルを発動するというものだ。

それなりに練習は必要だが、かと言って超難易度の高いというような技でも無い。

フィルフィアは、技発動と同時に振り返り、未だにもつれている二人目と三人目に向けて放つ。

《刀》五連撃技[鷲羽]。

閃光の如く駆ける刀が、二人を襲う。

後、その剣技が二人の天命を全損させたのは言うまでも無い。

フィルフィアは硬直の後、背後に迫る殺気に振り返りもせずに飛び退いた。

すぐさまその空間に、先程吹き飛ばした一人目の剣技が振り下ろされる。

敵の剣が空を斬った。

飛び退いたフィルフィアは、宙で回転しスキルを放った。

 

 

《刀》単発技[旋車]。

 

 

×××

 

 

「思ったよりやるじゃんよ」

闘いの全てが終わり、地に伏せた暗黒騎士達を眺めつつドラグレンが言った。

その言葉は、フィルフィアに向けられる。

「そうですか?」

あくまでサラリと流すフィルフィアに、リンがヨシヨシと頭を撫でる。

「……上々」

「……あ。ありがとうございます」

ついお礼を言うフィルフィアにクスリとリンが笑う。

その様子にドラグレンが不機嫌な口調になる。

「なんか、俺の時と反応が違う……」

そんなドラグレンにハーヴェニオがフフフと笑いを漏らす。

「まぁ、そんなことはさておき、さっさと進みましょうよ。ねぇ?」

そう言って、ハーヴェニオもフィルフィアの頭をポンポンと撫でる。

 

何度も先輩達に撫でられ、フィルフィアは赤面するもコクリと頷くと前を見た。

 

 

 

まだ目的地までは、遠い。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




挿絵についてですが、中央の女の子が主人公フィルフィア。
中央下でニヤついてる悪人面がユリエノスです。
※ちなみにユリエノスは、顔で見るよりいい人ですww


今回お気に入り登録してくださいましたお二人、本当に有難うございます!

これからもよろしくおねがいします!!!
感想など、待ってます!


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解零無境術

1、

 

 

 数匹のゴブリンを斬り伏せたフィルフィアは、ゆっくりと振り返った。

 見れば、先輩騎士達も各々に敵を処理し終えたところだった。

「なかなか無いものねぇ」

 そう呟くハーヴェニオに、フィルフィアは問う。

「あの、今回探してる母材って、どんなものなんですか?」

 実際のところフィルフィアは、ユリエノスから「剣の母材となるものを探せ」とは言われたが詳しくは聞いていない。

 すると、その問いにハーヴェニオは答える。

「それは、私達には分からないわ。でもね。それはアナタの剣となるものよ?剣とは、この世界では自分の命と同等のものなの。だから、アナタがコレだ!って思ったものが[答え]なの」

「そう……ですか」

「まっ、ゆっくり探しなさい。幸い時間はあるわ」

 そう言って、ハーヴェニオはいつの間にかフィルフィアに迫っていたスライムを突き刺し、凍りつかせた。

 

 それから、フィルフィア達はさまざまな所を歩いた。

 峡谷、砂漠、洞窟、森、と沢山歩く。

 しかし、どの場所でどんなものを見てもフィルフィアは、コレというものを見つけられなかった。

 フィルフィアは、ふと先輩騎士達を見た。

 流石にこれほどの時間、付き合わせられて嫌気がさしていないかが心配だった。

 しかし、先輩達は別に嫌な素振りを見せず、むしろ楽しげに雑談をしていた。

 

 少し不安になったフィルフィアは、リンに聞いた。

「あの……なんかすみません。なかなか見つけられなくて」

「…………何故あやまるの?」

「え?」

 リンから返ってきた返答に若干驚くフィルフィア。

「え?……だって、わざわざ私の為に付き合わせてしまっているので……」

すると、リンはフードの下で首を振った。

「……私達、みんなこうして探して自分の剣を見つけたのよ?ドラグレンもハーヴェニオも私も……みんなこうして探した。別に迷惑じゃないわ」

 そう言ったリンはそれ以上何も言わず、さっさと先の行く。

 それを見たドラグレンがフィルフィアに声をかけてくる。

「まっ、そういうこった。気負いすんなよフィルフィア。中には1ヶ月も探した奴だっていた。1日くらいで気にするとか、まだまだ青いぜ?」

「いっ?1ヶ月!?」

「おうよ。だからなっ、気にすんなって!フィルフィアは、母材探しに集中してればいいんだよっ!」

 言うなりドラグレンは、フィルフィアの可愛らしい額にデコピンしてみせた。

「きゅぅっ!」

 フィルフィアは、額を抑えて涙目でドラグレンを睨む。

 ドラグレンは、はははっ!と笑いながら前に行きハーヴェニオにど突かれた。

「女の子にデコピンとか、何してんのよ」

「あれくらい良くないか!?――痛いっ!」

 

 考え過ぎなのかも……

 

 そう思うとスッと胸の中が晴れた。

 フィルフィアは気持ちを切り替え、前を歩く先輩達を追いかけた。

 

 

×××

 

 

 そして、フィルフィア達はとんでもないものに出会った。

 

「おいマジかよ…………マジかあああ!」

ドラグレンが叫ぶと同時に、吹き飛ばされ岩の壁に激突した。

 

 轟音が響き、地鳴りがする。

「先輩っ!?」

「フィルフィア集中しなさい!ドラグレンは、あれくらいじゃ死なないわ!」

 そう言ったハーヴェニオがフィルフィアの腕を掴み、その場から飛び退いた。

 直後、その場に巨大な尾が叩きつけられる。

 

 もの凄い衝撃が伝わって来る。

 

 フィルフィア達は、目の前にいる巨大な魔物を見た。

 

 

 ドラゴンだ。

 

 

 とてつもなく巨大で強力なドラゴンだ。

 ドラゴンは、この開けた洞窟内をゆっくりと動き、こちらの様子を窺っている。

「これは……この地の守護龍ということかしらね……」

 ハーヴェニオが苦笑いする。

 その時、

 

「リリース・リコレクション!!!!」

 

 ドラグレンの声が響き、土煙の中から銀色の龍の顎が飛び出した。

 蠢く龍の顎は、ドラゴンに噛みつきその巨体を引きずり壁に投げ飛ばした。

 

 地面が揺れ、ドラゴンが壁に叩きつけられた。

 

 土煙から、飛び出したドラグレンの持つ剣は、刀身が龍に変化していてまるで生き物のように蠢いている。

 おそらくあれはドラグレンの剣《剛龍剣》の記憶解放術だ。

「うぅおおっ!!!」

 ドラグレンが叫ぶと、それに呼応するかのように龍がその口から火炎のブレスを吐き出す。

 ドラゴンは、その火炎に焼かれ砲口を上げた。

 しかし、ドラゴンは鉤爪で無理やり炎をかき消すと、ドラグレンに向かって突進する。

 だがその時、

「リリース・リコレクション」

 リンの声が響くと同時にドラゴンに向かって無数の光の矢が放たれた。

 連続砲撃の如く次々うち込まれる矢にドラゴンが唸り、突進を中心する。

 リンの《帯絃弓―村雨―》は、弓の鳥打のところに刃がついた形に変化を遂げていた。

 これも、記憶解放術だ。

 リンが矢を放つと、光の矢が無数に分裂し一斉にドラゴンを襲う。

 しかし、ドラゴンは怯みこそしても弱る様子は、微塵も見せない。

 ハーヴェニオが言った。

「みんなっ!!三秒後にジャンプよ!わかった?」

 

 ?

 

 一瞬意味が分からなかったが、言われるままにフィルフィアはカウントする。

 

 三……二……一っ

 

 フィルフィア、ドラグレン、リンが飛び上がった瞬間

 

「――リリース・リコレクション!」

 

 物凄い冷気が体を掠めた。

 次の瞬間、フィルフィアは息を呑んだ。

 

 洞窟全体が凍りつき、一面銀世界となっているのだ。

 ドラゴンは、足をその場に凍り付けにされて動けなくなっている。

 

「暴れなさい!氷達よ!!」

 

 ハーヴェニオが宣言すると同時に四方の壁から、氷の槍のようなものが壁から突き出し、ドラゴンを襲う。

 

 ドラゴンの鱗が欠ける。

 

 これは、ハーヴェニオの剣《紫冷剣》の記憶解放術だろうか?それにしても規格外の力だ。これだけ広大なフロア一面を白銀の世界に変え、その氷を操るなど――。

 

「っ!」

 気がつくと、フィルフィアも飛び出していた。

 

 

 これ以上、先輩達にすがれない。だって、これは私の冒険なのだからっ!!

 

 

 飛び出したフィルフィアを見た先輩騎士達は、目配せしフィルフィアの支援に回った。

 

 フィルフィアは、素早くドラゴンの前足を駆け上ると、頭に向かって飛び上がりソードスキルを放つ。

 

 《刀》単発技[絶空]。

 

 ドラゴンにスキルが直撃する。

 が、

「硬いっ!」

 余りの鱗の硬度に刀が弾かれる。

 スキル補正が無ければ、刀身が折れていたかもしれない。

 

 その時、フィルフィアの視界にキラリと光るものが――

 

 落下するフィルフィアが目を凝らすと、それはドラゴンの眉間にあった。

 

 宝玉だ。

 

 黒い。宝玉。

 おそらくあれは、このドラゴンの力の源、あるいはその象徴なのだろう。

 そう感じた時、フィルフィアは自らの内にときめく何かを感じた。

 

 着地後、素早く飛び退いたフィルフィアは満面の笑みを浮かべた。

 そして、

 

 

「見つけたっ!!私の力っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

2、

 

 

 ドラグレンは、フィルフィアの言葉聞き笑みを零した。

 そして、

「なら、コイツ。さっさと倒さねーとなっ!!」

 そう言って、龍の顎をドラゴンにかじり付かせる。

 

 フィルフィアは、駆け出した。

 目指すは、ドラゴンの眉間にある宝玉。

 ドラゴンは、遂に氷の束縛を破壊し自由になる。

 振り下ろされるドラゴンの爪を避けながら、フィルフィアは走った。

 単純に斬ることは、今の自分では叶わない。

 狙うのは、宝玉。あの周辺には鱗がなかった。狙うならあそこしか無い。

 そして、なんとしてもあの宝玉を手に入れてみせる。

 四方から氷の槍が飛び出し、ドラゴンの爪をブロックする。

 ドラゴンがブレスを吐こうとすれば、光の矢がドラゴンを襲い阻止する。

 ドラゴンが尾を降れば、龍の顎が噛みつき動かさせ無い。

 

 先輩騎士達がしっかりとサポートしてくれているのだ。絶対に成功させたい。

 

 ドラゴンの体を跳ねるようにして、登りその眉間に迫る。

 

 が、その瞬間にフィルフィアは浮遊間に襲われた。

 鱗で足を滑らせたのだ。

「しまっ!」

 ドラゴンから転がり落ちたフィルフィアは、なんとか受け身を取って着地に成功する。

 しかし、次の瞬間目の前にドラゴンの爪が――――

 

 

「トゥルース・リベレーション」

 

 

 光

 

 眩い光が洞窟を包み込んだ。

 ドラゴンの動きが一瞬止まったのが分かる。

 すると、フィルフィアとドラゴンの間に何かが割り込んだ。

 そして、光が止んだ瞬間。

 ドラゴンが吹き飛び、壁に激突した。

 

 

 あの巨体を吹き飛ばすとは、一体!?

 

 

 顔を上げたフィルフィアは、目を見開いた。

 

 そこには、龍の手甲とそれに派生するかのように全身に広がる装甲を纏った戦士がいた。

 その全身からは、流れ出る気迫とエネルギーにフィルフィアは息がつまる。

 

 戦士が言った。

「解零無境術、解放。竜源万華-剛龍拳-!」

 

 良く見ると、その戦士はドラグレンであった。

「せん……ぱい?」

 驚きのあまり、つい間抜けな声が漏れる。

 すると、ドラグレンはニカッと笑う。

「すげぇだろ?これが、俺とコイツの解零無境術だ。……ちなみに剣じゃねぇ、拳だ!」

 

 解零無境術。ユリエノスの開発したアンダーワールド最高位の超高等神聖術。その力は、武装完全支配術や記憶解放術をはるかに凌駕すると言われ、術の真意は武装と己の融合とされている。

 使えるのは、十四鍵の使い手である《鍵憶十四騎士》のみだ。

 

 強いとは知っていた。

 しかし、いざ目の当たりにすると身震いしてしまう。

フィルフィアは、ドラグレンの一歩前に出ると言った。

「サポート、お願いします!!」

「おうよっ!!」

 ドラグレンの言葉を聞くと同時にフィルフィアは再び飛び出した。

 先輩が全力で守ってくれたのだ。今飛び出すしか無い。

 ドラゴンは、少しフラフラとしているがまだ暴れそうである。

 

 ここからは、速さこそ全て!

 

 フィルフィアは、加速する。

 ユウキにより、手解きを受けたのは剣技のみにあらず。この速さこそしかり。

 

 意識のハッキリしていないドラゴンの体を一気に駆け上ったフィルフィアは、その眉間に向かって飛び上がり刀を振りかぶった。

 

「はぁああああっ!!!」

 

 

 

 そして、宝玉の埋まる皮膚の根元目掛けて全力で刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 




次回辺りから、学園編に向かっていく予定です。
すぐに入りはしませんが、楽しみにしておいてください!

今回、新たにお気に入りしてくださった五人の方々ありがとうございます!

次回もよろしくおねがいします!


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