魔法使いの弟子 ~並行世界を巡る旅~ (文房具)
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プロローグ

性懲りもなく新作です。


「任務、ですか? 師匠」

「そうじゃ。そろそろ、お前にも働いてもらおうと思ってな。いやだったか?」

 

少年『夜月 翔』は、自分の工房に入ってきた1人の老人、彼の師匠である『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』の一言に首をかしげた。

 

「いえ、いいんですけど。どんな任務なんですか?」

 

そもそも師匠の言う事に刃向かうなんて、弟子に許されているはずがない。

 

「簡単なものじゃ。お前にはこれから平行世界を旅してもらい、とあるものを始末してもらう。そしてこれを、お前の卒業試験とする。生きて帰ってこれれば、晴れて一人前じゃ」

「凄まじくめんどくさそうですね。標的はどんな奴なんですか?」

「詳しいことは分かっとらん」

「は?」

 

翔はゼルレッチの言葉に耳を疑う。どうやってよくわかっていないものを倒して来いというのか。

 

「数日前に覗いた時におかしなものを見つけたんじゃ。おそらくはワシの弟子が作った寄生生命体なんじゃがの、明らかにその世界にはいないであろう存在が多々確認されたんじゃよ」

 

『覗いた』というのは平行世界を覗いたという意味である。

 

「確かに平行世界に干渉できるのは、十中八九、師匠の関係者でしょうけど。師匠の弟子にはろくな人がいませんね」

「それを言うとお前もろくでもないという事になるぞ?」

「弟子は師匠に似るものですからしょうがないですね。それに、僕は十分に自覚してます」

「捻くれてるのぉ」

 

ゼルレッチは自身の髭をなでながら低く笑う。

 

「ではすぐに出発しましょう。何か支給品はありますか?」

「これは卒業試験だと言ったはずだ。すべて自力で何とかせよ。それに、支給品など必要あるまい。お前にはそいつ居るじゃろうて」

 

そう言いつつ、ゼルレッチは翔の横の椅子を見る。そこには腰まで届く銀の髪を持つ小柄な少女が座っていた。

 

ゼルレッチの位置からでは髪に隠れて表情は分からないが、ゼルレッチにはその顔が手に取るようにわかった。

 

少女は頬を膨らませて上目づかいに翔を見つめていた。

 

「マスター。私がいるのにほかの物を使おうとするなんてひどいです」

「何言ってるんだダイヤ。貰えるものは貰っておいた方がいいんだぞ?」

「そういう意味じゃないですよ……」

 

ゼルレッチは心中で、あの空っぽだった少年が、ここまでの女たらしに成長するとは何があるかわからんものじゃな、と、噴き出さないようにするので精いっぱいだった。

 

「じゃあ、行こうか、ダイヤ」

「はい、マスター」

 

翔が立ち上がり、少女―――ダイヤは、光に包まれる。次の瞬間には赤と金を基調とした装甲を身にまとった翔が立っていた。

 

「あいさつ回りはせんでもいいのか?」

「んー、そこまで親しい友達いませんからね。売店のおばちゃんくらいですか?」

 

近いうちに翔のファンクラブの暴動が起こるな。そのことに内心苦笑いしつつもゼルレッチは師匠としての威厳を保つ。

 

そして今度は魔法使いとして翔の姿を見る。

 

そして一言。

 

「見事な礼装だ」

「ありがとうございます」

 

翔は笑みをもってその賛辞に応える。

 

「今分かっているデータはすでに礼装に送ってある」

「はい。ダイヤ」

「確認しました。これをもとに世界間移動を開始します」

「じゃあ、師匠、行ってきます」

「行って来い」

 

こうして翔とダイヤは平行世界に旅立った。

 

 




次回、クウガの世界


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クウガの世界
第1話 始動


亀更新とは一体何か。

ちなみに時系列はTV本編第42話からとなります。


翔を包んでいた光が晴れると、彼はビルとビルの間の路地にいた。

 

「っと、平行世界到着か」

「はい、マスター。無事到着いたしました」

 

翔の頭の中に響くダイヤの声が相槌を打つ。

 

翔はアーマーを解除し、ダイヤは人型になる。少し散策してみることにしたのだ。

 

しばらく歩くが、目に映るのは人とビルと車だけなので翔はたまらず呟く。

 

「ここ、日本なんだな。平行世界っていうからどんなんかと思ったけど、案外普通なもんだ」

「そういえばマスターは日本出身でしたね。ここはそういう世界なのでしょう。神秘なんて存在しない世界だってあるという事です。ところでマスター、今日はどうするのですか?」

「どうする、とは?」

「食事やら寝床やらですが?」

「まあ、適当に、お金も向こうのしか無いしなぁ。銀行いかないとな」

 

それを聞いたダイヤは大きくため息をついた。

 

「それで大丈夫ですか?」

「ちょっと後悔してるかも。最悪、ダイヤがいれば外でも快適に過ごせるけど、食べ物は無理だし」

「野垂れ死にはやめてくださいね。マスターが死んだら私も後を追いますから」

「はいはい。頑張るよ……りあえずどっかはいるか、寒いし」

 

アーマーを着れば魔法で温度調節はいくらでもできるが、この人通りの多い所でアーマーを着る気にはなれない。

 

翔はとりあえずあったかい場所に、と思い近くの建物に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター! マスター! 食べ物がたくさんありますね!!」

「そうだね」

 

翔たちはエスカレーターに乗り、上の階を目指す。

 

「マスター! マスター! 今度は服がたくさんありますよ!!」

「分かった、分かったから少し静かにしてくれ」

 

ダイヤは、翔が1ヶ月前に製造してから時計塔の外には出たことがない。初めての外の大はしゃぎなのだ。

 

一方、翔の方も、日用品はゼルレッチに支給されていたため、外に出る機会がほとんどなく、この大きさのデパートに来るのは、ゼルレッチの弟子になった12歳以来およそ2年ぶりだ。

 

そういうわけもあって日本語をしっかり読めるか少し心配だったのだが、

 

(日本語、ちゃんと読めるな)

 

翔はほっと胸をなでおろす。

 

不安が解消されて気が緩んだのか、袖を引っ張られていたことに気付く。

 

「マスター! 聞いてるんですか!?」

「ああ、聞いて無かったよ。なに?」

「見て下さい」

 

ダイヤに言われて周りを見てみると、人が同じ方向に走っていくのに気が付く。

 

「なんだろうね」

 

翔は走り去っていく人を見てみる、その顔すべてが、恐怖に歪んでいることが分かりただ事ではないことを知った。

 

「あ、マスター! あれを見てください!」

 

翔はダイヤが指差した方を見る。そこには、バッファロー種怪人『ゴ・バベル・ダ』がいた。

 

もちろん名前まで走らない2人は首をかしげている。

 

「着ぐるみショーかな」

「そんなわけないでしょう! あそこに倒れている人たち、どう見てもあいつの仕業ですよ! マスターは、あれを見て平気なんですか?」

 

ダイヤが言っているのは,顔がズタズタになって首が変な方向を向いている人たちの事だ。

 

一般人が見たならば即座に嘔吐する能な光景を見ても、翔の顔色にあまり変化はない。

 

「平気じゃないけど……見たことはあるしな。じゃあ、そろそろ行こうか」

「逃げるんですか? それとも、戦うんですか?」

「もちろん戦う。なるべく早いうちに慣れておかないと、もしもがあったらいやだしね」

「分かりました、マスター」

 

ダイヤが光り輝き、やがて細かな粒子になる。それらは翔の体を包みアーマーを作り出した。

 

その間ゴ・バベル・ダは律儀に止まってくれている。

 

おそらく変身中は攻撃してはいけないというのを分かって……いるわけではなく、単に興味を持ったからだ。

 

装着が完了し、胸の中心にある魔力炉の光が増す。平行世界からの魔力供給が増したのだ。目のディスプレイにアーマーの装着が完了したことが表示される。

 

このアーマーは、翔が自作した第二魔法『平行世界の運営』を使用するためのものである。

 

原型は、半年程前にゼルレッチに見せてもらった『カレイドステッキ』である。翔はこれを見て自分なりに分析、強化してこのアーマーさしずめ『カレイドアーマー』を作り上げたのだ。

 

よってカレイドアーマーは、翔が見たカレイドステッキの弱点の大部分が解消されている。

 

まず大きな弱点として、ステッキがマスターの手を30秒以上離れる、もしくは50メートル以上離れると転身が強制解除される、というものがある。

 

この問題を解決するために、翔は『アーマー』にしたのだ。つまり、肌身離さず持ってる必要があるなら、最初から身に付けていればいいという発想だ。

 

次に、魔力補充のためには一度転身を解除しなければならないという点。カレイドステッキは、第二魔法を使っているため、基本的には魔力は無限に使うことが出来る。しかし、魔力補充のためには一度転身を解除しなければならなかったのだ。ここは純粋に機能自体を改良した。

 

次に、カレイドステッキに宿っている精霊の人格に問題があったという事だ。そこで、翔が精霊を造る際には、細心の注意を払いなるべくマスターに従順なようにした。もっとも、従順というより、マスター大好きっ娘になってしまったが。

 

最後に、カレイドステッキの容量の多くを占めていたた数々の無駄な機能を違うことに利用することだ。ここには第二魔法を利用したとある機能を搭載してある。

 

「それにしても、初戦闘があんなバケモノなんてマスターはついてないですね」

「いや、見方によっては人じゃなくて良かったかもしれないぞ」

「やっぱり、普通じゃありませんよ、マスターは」

「はいはい。さて、じゃあ攻撃開始だ。魔力管理、頼むぞ」

「イエス、マスター」

 

このアーマーを製作するにあたり、翔は某アメコミの鉄の男をイメージした。明確なイメージがあった方が初回の起動に便利だったのだが、これを見たゼルレッチは大笑いしたのだ。何でも神秘を扱うものが、科学技術が振りきれている物をモデルに礼装を作るのがおかしかったとか。最終的には慣れたようだが。

 

軽く両手を開く翔。そして右手を突きだし、掌に装備されている光学兵器、『リパルサーレイ』を発射しようとする。

 

次の瞬間、手のひらから白いビームが発射される。

 

ゴ・バベル・ダは突然の攻撃に踏ん張ることもできず、通路を挟んで向こう側にある衣服売り場に吹き飛ばされ、服を巻き込んで派手に倒れる。

 

「お、ちゃんと出たな。動作に不具合なし」

 

発射しろと思ってすぐ発射できたことに安堵する翔。

 

翔の武装は両掌の『リパルサーレイ』、左前腕部に炸裂式の魔力弾、右前腕部に近接打撃の補助機能、肩に自動ホーミング機能の付いた砲台計12発、さらに胸部の『ユニ・ビーム』だ。

 

「でも、あまり効いてないみたいですね」

 

ダイヤの言葉通り、ゴ・バベル・ダはすぐさま立ち上がり、翔に向かって走り出す。

 

それを見た翔は、今度は両手でリパルサーレイを発射する。

 

それらは再び命中するが、今度は30センチほど後ろに下がるだけで、すぐにまた走り出す。

 

「ッ!!」

 

そしてそのまま格闘戦にもつれ込む。

 

翔の格闘の実力は、時計塔の魔術師の中で格闘の技術の上位20パーセントの人とそれなりに戦えるくらいだ。現代の魔術師がソッチの方面もそれなりに学んでいることを考えると、なかなかの実力であると言える。

 

しかしゴ・バベル・ダも負けていない。翔に撃たれても撃たれても構わずに拳を繰り出してくる。

 

やがてそれは、翔の体をとらえた。

 

「ガッ!!」

 

今度は翔が服を巻き込んで倒れることになった。そこに大きく飛んだゴ・バベル・ダが翔を踏みつけようとする。

 

翔はスラスターを起動させることでそれを回避、一度距離を取る。

 

「痛い痛い。ずいぶんタフだな、あいつも」

「装甲に凹みを確認。修復します」

「ありがとう。よし、武器、使ってみるか」

 

右のアーマーから機械的な音が聞こえ、その武器が作動する。

 

「こいつで行くか」

 

スラスターの勢いを合わせたその打撃は、ゴ・バベル・ダにめり込み、ゴ・バベル・ダは初めて苦痛の声を漏らす。

 

魔力を放出することで打撃の威力を上げる右手は、魔力の尾を引き、次々とたたき込まれていく。

 

「らあ!!!」

 

気合を入れて放った拳でゴ・バベル・ダを殴り飛ばし、左手を向ける。前腕部からせり上がった砲口から、魔力弾が発射される。

 

着弾したそれは周囲10メートルをば爆風にさらした。翔は物理保護と耐熱保護で自身の身を守る。

 

「どうだろうな?」

「どうでしょうね」

 

人間ならとっくに死んでいるほどの攻撃だ。無傷じゃなければいいなー、と翔は呑気に考えている。

 

爆風が晴れると、大の字に寝転んでいるゴ・バベル・ダが翔の視界に入った。そしてゆっくりと起き上がりしっかりと2本の足で立ち上がる。

 

「お前、クウガじゃないな?」

「はあ?」

 

突然言葉を掛けられ、翔は間抜けな声を出してしまう。

 

「リントがここまで強くなっているとはな」

「何言ってるのか、ちょっとわからないんですけど」

 

クウガ? リント? いったいなんのこっちゃ、首を練る翔だったがゴ・バベル・ダは説明する気はない。

 

ゴ・バベル・ダは、くつくつと笑っている。すると突然、ゴ・バベル・ダの体に変化が起こる。色が微妙に変わったのだ。さらに胸についていた装飾を外すとそれがハンマーに変化する。

 

「うわ、何それ」

 

ゴ・バベル・ダが振り上げたハンマーは、デパートの床を砕き、陥没させる。

 

「マスター気を付けてください。物理保護なしに直撃すれば、骨が砕けます」

「やめてくれよ、ダイヤ」

 

翔は冷静に攻撃を見切る。威力は脅威だが、思いっきり振り切っている分、一度話躱せば二度目はない。

 

そう判断し、避けることに集中する。ギリギリで避け、ゴ・バベル・ダの胴を掴み足のすらすら―を最大出力で噴射する。翔とゴ・バベル・ダはすさまじい速度で天井を突き破り、物の数秒で屋上に達する。狭い場所でハンマーを振るわれるよりは、広い場所の方がいいを思ったからだ。

 

「さて、さて、ユニビームで消し炭になってもらいますか」

 

自身の最大火力を上手く当てるために、どうやって隙を作ろうかと思案しようとすると、目の前に人が着地した。

 

「ふぁ! え、何? 新手?」

 

そう翔が判断したのは仕方がなかった。目の前に着地した人は、胴体が青く、顔は青い複眼にクワガタのような角があったからだ。

 

「え? うわ! 君、なんでこんなところに!?」

 

驚いたのは翔だけではなく、突然現れた青い方もだった。

 

翔と青い奴は互いに互いをじろじろと観察していたが、それはそう長くは続かなかった。

 

「ちょ! 危ない!」

 

翔はそれに気付き、横に転がる。一瞬遅れて青い奴も翔とは反対に転がり、危険の原因であるゴ・バベル・ダのハンマーを紙一重絵で避ける。

 

そして、ゴ・バベル・ダは、青い奴を見て一言。

 

「現れたなクウガ」

 

と言ったのだった。

 



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第2話 共闘

「え、クウガ? 明らかにクウガって言ったよね?」

「いいましたね。あの青い奴がクウガという事でしょうか?」

 

そんな翔とダイヤを無視して、クウガとゴ・バベル・ダは闘い始める。どちらかというと、ゴ・バベル・ダが一方的に攻めてクウガは避けることに徹してる。時々反撃しているが効いていないようだ。

 

そうしているとクウガが青から赤に変化する。

 

「なるほど。色が変わると、能力も変わるのか」

 

赤色に変わってからのクウガの戦い方を見た翔は、手を顎に当て頷く。

 

クウガは基本形態のマイティフォーム(赤のクウガ)を中心として、状況に合わせた能力に特化した特殊形態になることで、あらゆる敵と戦うことが出来るのである。

 

先ほどの青い状態はドラゴンフォームという、マイティフォームに比べ、ジャンプ力・瞬発力・敏捷性に優れている形態だ。その代わり、腕力・防御力などはマイティフォームより著しく低下している。それを補うために、棒状の物体を変化させ専用の武器を作り出すことができるのだが、近くに手頃な棒がなかったためにマイティフォームに戻ったのだ。

 

「どうしようかね」

 

果たしてどちらに味方するべきかをじっくり考えることにした翔。

 

「とりあえず、クウガじゃない方に味方するのは無しだな。かと言ってもクウガも人間の味方かどうかなんてわからないし」

「マスター、あれを」

 

考え込んでしまう翔はダイヤの声で現実に引き戻される。

 

そして、ダイヤに言われた方、デパート敷地の周りを見てみるとたくさんのパトカーが止まっていた。

 

「お巡りさん……いや、刑事さんか?」

「そのようですね」

「あの人たちに聞いてみようか」

「撃たれませんか?」

「その時は物理保護で防いでくれ」

 

魔力で強化された視力で刑事が全員拳銃を抜いていることを確認した翔は、しかしそんなこと関係ないとでもいうように軽く返す。

 

実際、彼の両手には拳銃よりも強力なリパルサーレイがあるのだが。

 

「じゃあ、行こうか」

 

屋上から飛び降り、経管のところまで走る。刑事たちは、翔が屋上から飛び降りたのは確認していたが、見た目が完全に人間であることから、走って近寄ってくる翔に向かて発砲できないでいた。

 

刑事がためらっている間も翔は近づき、ついに会話ができる距離になる。

 

「えっと、刑事さんですよね? あのデパートの屋上で怪物2人が闘ってるんですけど、どっちも倒しちゃっていいですか? ちなみに片方は、中で人に危害を加えてましたけど」

「あ、ああ。4号は味方だ」

「……すいません、4号ってどっちですか?」

「人に危害を加えてない方だ」

「(つまり、刑事さんの言う4号=クウガか)分かりました」

 

それだけ聞くと、翔は屋上に飛んで戻る。

 

「あ、今度は紫になってる」

 

クウガは防御力に優れたタイタンフォームになってゴ・バベル・ダのハンマーに対抗していたが、ゴ・バベル・ダの腕力とハンマーの威力はタイタンフォームの装甲の体有力を超えていた。攻撃を跳ね返しきれなかった装甲は、ハンマーによりへこんでしまっている。

 

しかし、攻撃に集中しているゴ・バベル・ダは翔の事はすっかりと忘れてしまっているようだ。無防備に背中をさらしているゴ・バベル・ダに向かって、翔は両手でリパルサーレイをお見舞いしてやる。

 

クウガに跨るようにしていたゴ・バベル・ダは、翔が屋上に来るときに開けた穴にちょうどよく落ちていく。

 

「き、君は……」

「説明はあとで。助太刀します、クウガさん」

「ありがとう。えっと……名前は?」

「翔です。夜月 翔」

「翔君だね。分かった」

 

ゴ・バベル・ダが穴から飛び出してくる。

 

「なんなんだあいつ。タフすぎるぞ」

 

翔が顔をゆがめると、ゴ・バベル・ダは翔とクウガを見て、

 

「なるほど。クウガもそうだが、今度のリントも侮れないという事か。これだけ強ければ、もっと多くのリントを殺せるだろう」

「「ふざけるな!!」」

 

翔と、クウガは同時に飛びかかる。

 

ゴ・バベル・ダのハンマーを翔は左手で発生させた物理保護で受け止め、クウガは顔を思い切り殴りつける。さらに、右手のリパルサーレイを発射してダメージを与える。

 

翔とクウガは頷き合う。

 

起き上がったばかりのゴ・バベル・ダの胸を同時に全力の打撃をくわえる。そのいきおいでゴ・バベル・ダは手に持っていたハンマーを落とした。

 

しかしまだ起き上がってくるゴ・バベル・ダに翔はうんざりとした声を出す。

 

「これ、倒せるんですかね」

「俺の攻撃だったら倒せるんだけど」

「じゃあ、早くそれで……」

「倒すと爆発するんだよ、あいつら」

「どのくらいの規模で、ですか?」

「前のは3キロ以上に被害が出たんだ」

「あ、無理ですね。っていうか、3キロ以上に被害が及ぶ爆発とはいったい何を爆発させてるんだ……? そもそも、クウガさん無事だったんですか?」

「うん。全然」

「……そうですか」

 

クウガも大概怪物である。

 

「だからこいつを、なるべく人がいないところまで連れて行かないといけないんだけど」

「こいつを!? 現実的じゃないと思いますけど。ん? あ、そうだ。こいつ、空で爆発させればいいんじゃないんですか?」

「それこそ無理なんじゃないかな?」

「僕空飛べますよ?」

「え、そうなの? いやでも、そんなに離れると、緑のクウガで倒せるかな? いや、ゴウラムに手伝ってもらうか」

 

クウガはあることを思いつく。

 

「唯一の問題は、あいつを……安全を考えて4000メートルぐらいまで持っていきたいんですけど、そこに行くまでじっとしててくれるか、ですね」

 

そんなことを口にしたと同時に突如、ゴ・バベル・ダは胸を押さえて膝をついた。そして、一瞬遅れて銃声が聞こえる。

 

「チャンス!!」

 

翔には誰の援護かは分からなかったが、今までで一番ダメージがあったようで、数秒経っても苦しんでいるゴ・バベル・ダの両脇を抱え、そのまま垂直に飛んだ。

 

翔の飛行速度は最大で時速1000キロちょっと、だいたい十秒ちょっとで高度4000メートルに達する。

 

翔が飛び去った後、クウガもすぐに準備に入った。

 

どこからともなく巨大なクワガタムシ型の物体が飛来した。名前は『装甲機ゴウラム』。クウガの仲間の頼れる相棒だ。

 

クウガはゴウラムの足に当たる部分を掴む。すると豪ラムは翔の後を鷹揚にクウガを連れて大空に飛んだ。

 

更にクウガとゴウラムに変化が現れる。

 

クウガのベルト『アマダム』から電気のようなものが発生したのだ。その電気はクウガの体にまとわりつき、更にクウガを伝ってゴウラムにも及んだ。クウガの体のいたるところに金の装飾が追加され、右足に金色の足甲『マイティアンクレット』が装着される。ゴウラムにも金色の鎧が装着される。

 

これは『ライジングフォーム』と呼ばれるクウガの強化形態であり、クウガは30秒間だけこの形態に強化することが出来る。

 

クウガか空中で右足会突きだし、キックの体勢になる。

 

翔の方も、じゅうぶんなたかさに着たことを確認してゴ・バベル・ダを放し、降下を開始する。

 

クウガと翔が入れ違うように空中で交差する。ゴウラムのクワガタを思わせる2本の角とクウガのライジングマイティキックがゴ・バベル・ダに直撃。古代文字が刻まれ、膨大な封印エネルギーが流し込まれる。そのエネルギーが腰のベルトに流れ込んだ瞬間。

 

大爆発を起こした。

 

翔は視界全てに炎を映しながら、耐熱保護を使い必死に耐えた。

 

それが収まると、ゴ・バベル・ダの姿はどこにもなくなっていた。

 

翔は息を吐きながら、デパートの屋上に着地する。少し遅れてクウガも。

 

「お疲れ様でした」

「うん、お疲れ」

 

クウガは翔にサムズアップをする。翔もそれに応えサムズアップを返す。そして翔は、次に起きたことに目を見開いた。なんとクウガが、笑顔を浮かべる青年の姿になったからだ。

 

「え? え? あれ? クウガさん、人間になってるんですけど!?」

「え? ああ、うん。俺は五代 雄介よろしく!」

 

狼狽する翔にかまわずにサムズアップを続けるクウガ改め五代 雄介。

 

「とりあえず、一条さん……刑事さんのところに行こうか?」

「あ、はい」

 

いまだに混乱していた翔は素直に従うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり警視庁。

 

あの後翔は、パトカーに乗せられ警視庁まで連れてこられた。現在は警視庁内部の未確認生命体合同捜査本部にいる。そして、立った今、翔の事情聴取が終わった。

 

「魔法使いねぇ」

「にわかには信じられませんね」

「そんなこと言われても……腕からビーム出せば信じてくれますか?」

「やめてくれ」

 

既にアーマーは解除してダイヤも人型になっている。これも刑事の前行なったが、やはりすぐに信じるのは難しいらしい。

 

腕を組みうんうん唸っている刑事一同に、困った顔になっている翔とダイヤ、この空気を壊したのはやはりこの男だった。

 

「大丈夫ですって。この子達は嘘なんてついてませんよ!!」

 

五代 雄介である。

 

「いや、五代、何を根拠に……」

「俺はこの子に助けられましたから。それだけでのこの子を信じるには十分です」

 

場を静寂がつつむ。

 

「まあ、五代さんが言うんだから大丈夫じゃないですか?」

「確かにそうだな」

 

その言葉が始まりとなり、次々とみんなが笑顔になっていく。翔はそっと雄介を見た。警察がこんな荒唐無稽な話を信じたのには驚いたが、それはすべてこの五代 雄介の言葉によるものだった。

 

翔は雄介に尊敬の念を抱いていた。たったこれだけの言葉で人を笑顔にできるその暖かさに、すでに魅せられ、憧れたのだ。

 

「あ、一条さん。そろそろ沢渡さんとの約束の時間ですよ!」

「ん? ああ、そうだな。すいません、行ってきます」

 

時計を確認した刑事『一条 薫』はコートを手にとる。

 

「すいません。僕も一緒にいっていいですか?」

「うん。じゃあ、行こうか」

 

ダイヤの手を引いて歩き出そうとする翔。

 

「ちょっと待て、五代」

「なんですか一条さん。ダメでした?」

「お前、ヘルメット余計に2つ持ってるのか?」

「あ……貸してくれません?」

「もっと言うと、ビートチェイサーは3人は乗れないぞ」

「あ……一条さん、この子たちお願いできません?」

「まったく……じゃ、行こうか、翔君、ダイヤちゃん」

 

一条さんはあきれ顔になり、周囲は笑いに包まれたのだった。

 



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第3話 決意

遅くなってすみません。

これからは毎週日曜日に1話ずつ投稿したいと思います。



翔とダイヤは今、城南大学に向かう車の中で体を揺らしていた。運転手は一条刑事である。

 

城南大学に向かう目的は、『沢渡 桜子』という女性に会う事だ。桜子は、城南大学の大学院生であり、考古学研究室で『リント文字』という古代文字の研究をしている。

 

リント文字というのは、クウガのベルトである『アークル』や、各専用武器に刻まれている古代文字のことである。

 

そもそもクウガは、超古代の『リント』と呼ばれる人々が、グロンギという先ほど翔が闘った怪物を倒すために生み出した戦士である。その古代人の遺跡である九郎ヶ岳遺跡を発掘した時に、クウガになるための装飾具『アークル』が発見され、同時に古代のクウガによって封印されていたグロンギが現代に復活したのだ。ちなみに、現代人はリントの末裔であり、グロンギは現代人のこともリントと呼んでいる。

 

雄介は、ひょんなことからそのアークルを手にしてしまい、現代のクウガとなったという訳だ。

 

そして桜子は雄介がクウガになったことを知っている数少ない一般人の一人で、リント文字を解読することで、クウガとして戦う彼をバックアップしている。

 

今日はその桜子から連絡があり、話をしに行くことになったのである。と、一条刑事は翔とダイヤに説明する。

 

「え? つまり五代さんって、クウガになれるだけの一般人ってことですか?」

「そういうことになるな」

「すごいですね。あんな……平気で人を殺すような怪物と戦えるなんて」

「君だって戦ったじゃないか。しかもその年だ。あいつは少し前まで世界中を旅していたらしいから肝は据わってるんだよ。その意味じゃあいつよりもすごいさ」

 

それは違う、と、翔は心の中でそれを否定する。翔があの化け物に臆せず立ち向かえたのは日常的に魔術という超常現象を目にしてきたからだ。

 

そんな翔の心情を知らずに一条刑事は続ける。

 

「あ、そうそう、あいつには面白いことがもう一つあってな」

 

調度よく信号で車が止まる。そして一条刑事は財布から一枚の名刺を取り出し翔に渡す。そこには雄介の名前と『2000の技を持つ男』という文字が書かれていた。

 

「五代さんの名刺ですか? 2000の技を持つ男?」

「ああ。あいつが言うには、技、というか、特技を2000個持っているらしいんだ。俺もいくつか見せてもらったことがある」

「本当に、すごい人ですね……」

 

翔は月並みな言葉しか出せなくなっている。

 

「ああ。だからあいつには、ずっと旅だけしていてほしかったんだけどな……あいつ、最初の変身の時にこういったんだ『こんなヤツらのために、これ以上誰かの涙は見たくない! 皆に笑顔でいてほしいんです! だから見ててください! 俺の! 変身!!』それで、俺はあいつを信じようと思ったんだ」

 

それっきり、車の中で会話が交わされることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、城南大学の考古学研究室に到着した。

 

桜子の研究室は2階なので、翔たちは階段を使う……はずなのだが、雄介はビルクライミングで学舎の壁を登り始めた。

 

「……五代さん、いつもあんな感じなんですか?」

「……まあ、な」

 

翔とダイヤ、一条刑事はおとなしく普通の入り口から入り、階段を上っていく。そして『考古学研究室』というプレートがある部屋の中に入った。

 

その中では雄介と、一人の女性が言い争っていた。女性の方が桜子だ。桜子はビルクライミングで窓から入ってきた雄介に文句を言っているようだが、本気で怒っているわけではない。雄介は、かなりの確率でこの方法で入ってくるのだ。

 

「もう……あ、こんにちは、一条さん。と、君達は?」

 

桜子は、雄介との会話を打ち切って一条刑事に挨拶をする、と同時に翔とダイヤの存在に気付く。

 

「初めまして。僕は――――」

 

翔は挨拶を返し、簡単に自己紹介をする。ところどころ一条刑事が補足してくれたおかげで、桜子は何とか翔の事情を理解する。

 

「へぇ~。つまり、君は魔法使いで、五代君と一緒にグロンギと戦ってるってこと?」

「そうですね。短い間になると思いますけど」

「あ、じゃあ。資料必要だよね。印刷してくるから待ってて」

 

そう言って桜子は部屋を出る。数分後に、髪の束を持って戻ってくる。

 

翔たちはそれぞれ席に着き、資料が手渡される。

 

「今回は新しく解読できた古代文字の事と、クウガの事についてなんだけど」

 

桜子は語り始める。

 

「まず、クウガについてなんだけど。私たちはずっと、これをクウガを表している文字だと思ってたよね」

 

資料には2本の角がある独特の文字が書かれている。雄介はこの文字をとても気に入っていて、自信のTシャツにプリントまでしている。

 

「でも」

 

2本の角のクウガマークの下に2つの写真の画像がある。一つはひび割れた、石に描かれたもので、発掘品であることが分かる。もう一つはどこかの施設の壁に描かれたもので、無気味にも真っ赤な赤色をしている。つまり、血で書かれたクウガマークだ。

 

そしてその2つは4本の角を持っている。

 

「この2つのマークが問題になったというわけですか」

「でも、これがなにか問題なんですか? どっちでも問題ないと思うんですけど」

 

翔の疑問に桜子は首を振る。

 

「最初私は、この4本角の方は第0号のマークだと思ってたの」

 

第0号というのは、超古代で先代のクウガによって九郎ヶ岳遺跡に封印されていたグロンギ達を現代に甦らせたグロンギの事であり、現在は、一切の行方が分かっていない存在である。

 

「リントの戦士、つまりクウガは、第0号を元に作られたって思ってたんだけど……資料をめくってみて」

 

桜子に言われるまま全員で資料をめくる。そこには翔が今まで目にしたことのない記号が書いてあった。これがリント文字だ。その下にはちゃんと日本語訳がある。

 

「『聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷の如く出で 太陽は闇に葬られん』? これってなんですか?」

「さっき、4本角のクウガマークが2つあったでしょ? そのうちの石板に書かれた方の前後に会った文章なの」

「不吉だな。太陽は闇に葬られん、か」

 

一条刑事は顎に手を添えている。雄介はなぜか何もしゃべらない。

 

「そう言えば、前にヤツらの一人が『今度のクウガは、ダグバと等しい存在になる』と言っていたな……」

 

一条刑事はポツリと漏らす。

 

「じゃあ、やっぱり、あれはそうだったのかな」

「「「え?」」」

 

雄介の言葉に、翔たちが疑問の声を上げる。

 

雄介は立ち上がって歩きながら、丸めた資料で肩をたたいている。

 

「あ、いや、前に42号を倒した時に、俺、見たんです。4本の角があるクウガを。その時俺、すごく怒ってたんですよ。だって、狙われた子達すごくおびえてたじゃないですか。それで、自殺……する子とかも出て、それを考えたら、一瞬、赤の金のクウガで倒そうって思っちゃったんですよ。近くに一条さんたちがいたのに」

 

未確認生命体第42号『ゴ・ジャラジ・ダ』は、緑川高校2年生男子を12日間で90人殺すというルールの元、殺人を行った。

 

これだけならば、他のグロンギと変わらないが、問題は殺害方法にあった。

 

彼の殺害方法は、胸のアクセサリを、標的の脳に刺し込み、内部で鈎針に膨張・変形させて脳を内部から傷つけて殺すというものだ。問題は、この体内に入れられた針が凶器に変化するまでのタイムラグが4日あるという事だ。つまり、針を刺されたら最後、標的は4日間、死の恐怖に脅えなければならないのである。

 

その恐怖に耐えられなかった生徒の中には、自殺という道を選ぶ者もいたのだ。

 

それだけではなく、4日目にターゲットの目に見える範囲に出現し、宣告通りに死ぬ絶望感を与え、恐怖に怯える姿を見て楽しみ、苦しんで死んだターゲットの葬式にまで現れ、その場にいる同級生に恐怖を与える、という狂気じみたことをしたのだ。

 

あの温厚な雄介が怒り狂うのも無理はない。

 

「で、倒した時の爆発の中で見えたんです。4本の角をもってる黒いクウガを」

「つまり、怒りに飲まれて闘うと、凄まじき戦士になり……」

「ダグバと等しい存在になって……」

「太陽は闇に葬られる……」

 

ただの推測がこの場に重くのしかかる。しかし、この男は違った。

 

「大丈夫! 原因もわかったし、俺絶対そうなりませんから!」

 

サムズアップをしながら笑いかける雄介。自分の事だというのにまったく気負った様子がない。

 

「まったく……」

 

一条は本日二度目のあきれ顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとは重い議題がなかったために、割とあっさり話し合いは進み、お開きになった。

 

そこで問題になったのは翔たちの寝床だ。

 

翔は出来ればあまり多くの人に自分のことを話したくはなかったため、雄介が居候している喫茶店のポレポレは却下。警視庁の仮眠室を使うという案もあったが、いくら何でも子ども2人を何日も泊めておくのは、ほかの部署から不審に思われると却下。そこで、ここ数日は泊り込みで解読作業に当たっているという、桜子の研究室に落ち着くことにになった。

 

「じゃあ、翔君、また」

「はい。何かあったら、連絡してください」

 

翔のその日の夕飯はカップ麺だった。それを食べ、簡易シャワーを浴びるとすぐに眠気が襲ってくる。どうやら、このこい1日は翔の体力をかなり削っていたようだ。

 

「おやすみなさい」

「おやすみ、翔君」

 

翔は、渡された毛布にくるまり、ソファーに寝転ぶ。もちろんダイヤは一緒に毛布の中だ。

 

今にも落ちそうな意識の中、一条刑事が言った雄介の言葉が頭の中に響いていた。

 

(こんなヤツらのために、これ以上誰かの涙は見たくない! 皆に笑顔でいてほしいんです! だから見ててください! 俺の! 変身!! か。誰かのために戦うなんて、あんまり考えたことなかったな)

 

魔術世界の魔術師は、魔術回路が一本でも多い跡継ぎを誕生させようとする。魔術は根源に至るために学ぶ。誰かのために魔術を学んでいる人なんていないし、それが常識なのだ。

 

翔は強い後継ぎが欲しいとは考えていないが、第2魔法の研究には大いに興味がある。ここ2年はそればかり考えて来たと言っても過言ではない。

 

誰かのために戦う。とてもいいことだが、同時に、とても大変なことだ。

 

どんなに強くなっても救えない命はある。むしろ強くなればなるほど、救える範囲が広くなり、取りこぼす数も多くなる。

 

しかし、救える人は確かに存在する。もし、自分のようにあらがえない理不尽に襲われた人を少しでも救えるなら。

 

そこまで考えて、翔は自分の腕の中のダイヤに目を向ける。すでに寝息をたてているその頭を軽くなで、桜子に聞こえない大きさでささやいた。

 

「ダイヤ、もし僕がみんなを助けたいって言ったらついてきてくれるか?」

「もひろんでしゅよ、ましゅたー」

 

寝言でそう返すダイヤの頭をもう一度撫で、翔は目を瞑った。

 



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第4話 強襲

1週間ほど何もない日が続いた。

 

その間翔は、桜子の研究の手伝いをして過ごしていた。具体的には、ご飯をコンビニから買ってきたり、印刷されたプリントをまとめたりするだけだったが。

 

それ以外では、自身のアーマーの調整をしていた。翔のカレイドアーマーはカレイドステッキをベースに作っているが、明確な武装を作ることでアーマー形成後の攻撃や飛行を容易にしている。逆に言えば、その時に適した武装がない場合は対応できない場合があるのだ。

 

アーマーは一か月前に製作したばかりであり、アーマーを使った実戦経験は少ないのが現状なので、翔は足りないものがあればどんどん追加していくつもりでいる。材料はあらかじめアーマーの格納領域に収納されている。

 

さらに言えば、このアーマーに搭載された目玉ともいえる機能はまだ一度も使ったことがない。正確に言えば現在進行形で使用しているのだが、ある一定の段階まではダイヤの仕事だ。

 

この作業はダイヤに一番の負荷を強いる作業であるため、翔としては、戦闘がないのはとてもありがたかったりする。

 

翔がパソコンに向かう桜子とソファーに座っているダイヤを眺めていると、コンロにかけているやかんから甲高い音が聞こえ、沸騰したことが分かる。

 

翔は素早くカップ麺にお湯を入れて時計を見る。

 

「5分か」

 

翔は時計を見ながらダイヤの隣の椅子に腰かける。ダイヤは特に反応することはない。翔も、机に置いてある前腕部分のアーマーの調整を再開する。

 

カップ麺があと2分で出来上がるというときに、ダイヤが翔の袖を引っ張った。

 

「マスター、一条刑事から電話です」

「ん? ああ。どれどれ」

 

ダイヤはそう言うとデバイス状態に変化し、そこから半透明の板が出てくる。そこには『CALL』と表記されている。カレイドアーマーにはどんな情報端末とも通信できる機能が備わっている。前に会った時に連絡先を交換しておいたのだ。

 

「はい、翔です。何かありましたか?」

《翔君か。今、未確認生命体第46号が出現したという情報が入った。もう五代も向っている。君も行ってくれるか?》

「もちろんです。どこですか?」

《場所は○○○の○○○だ。分かるか?》

「大丈夫です。すぐに向います!」

 

翔は立ち上がる。

 

「行くぞ、ダイヤ」

「イエス、マスター」

 

翔は装甲を装着する。

 

「じゃあ、行ってきます」

「気を付けてね」

 

桜子に挨拶をした翔は窓から飛び出した。一条刑事が言った場所まで3分もかからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分間飛行すると、目的地に着いた。前回の様に人多い場所ではなく、さびれた廃工場だ。

 

翔は、地上に降り立ってあたりを見回していると、すでにクウガに変身した五代がバイクに乗ってやってくる。

 

「五代さん!」

「翔君、敵は?」

「空からは見えなかったんで、多分あの中に」

 

翔はそう言ってぼろぼろの工場を指さした。

 

「じゃあ、早くいこう!」

「待ってください。もう一つあるんです」

「もう一つ?」

「はい。あそこには多分、ぼくの敵もいます」

 

翔は飛行しながら、一条刑事から追加の情報を2つ受け取っていた。一つは、未確認生命体第46号は、男性警官しか殺害していないという事。もう一つは、未確認生命体第46号とは別に無差別に人を襲っている黒い塊がいたという事。

 

翔はそのことをクウガに告げる。

 

「俺も一条さんから聞いたよ」

「僕も自分の敵と戦うのはなじめてなので、どんな攻撃をしているのか全く分からないんです。気をつけましょう」

「分かった。じゃあ、早く行こう!」

「はい!」

 

翔とクウガは同時に走り出す。途中、既に息絶えている警官が何人も転がっていた。クウガはその中の一人が持っていた拳銃を拾う。

 

翔は、その行動に疑問を持った。なんでわざわざ拳銃を拾うのか。そもそも拳銃で倒せるなら警官達は倒されていないのではないか、と。

 

しかし、その疑問はすぐに解決することになる。

 

「超変身!!」

 

クウガは乗り捨てされたパトカーの上にジャンプする。その姿は緑色に変わっていた。

 

この姿はクウガの派生形態の一つで『ペガサスフォーム』という。この状態では、人間の数千倍の五感を持ち、紫外線・赤外線を見ることや超音波を聞くことが可能になる。その代わり接近戦は極端に不得手なのが弱点だ。ほかにも、数千倍の五感は五代の体に大きな負担になるため、変身は、50秒しか形態を維持できないうえに、制限時間を超過した場合、2時間は変身不能に陥る。

 

「今度は緑か。ん?」

 

前に青から赤に変化したのを見ていた翔は、色の変化にはさほど驚かなかったが、そのあとになって起こったことに目を見開いた。

 

なんと、クウガが手にしていた拳銃が、緑と金で装飾されたボウガンのようなものに変化したのだ。

 

これもクウガの能力の一つ、『モーフィングパワー』である。これは原子・分子レベルで分解・再構成する力で、クウガはこれを利用してその形態に合わせた武器を作り出し戦うのだ。

 

ペガサスフォームでは接近戦での弱さを補うために、拳銃を専用武器である『ペガサスボウガン』に変換したのだ。

 

翔は少し浮かび、クウガの視線を追う。するとその先には未確認生命体だと思われる怪物と2人ほどの警官がいた。翔は、クウガがその位置からの遠距離攻撃で、まだクウガ達に気付いていない未確認生命体を仕留めようとしているという事を理解する。

 

クウガはペガサスボウガンから、封印エネルギーが込められた空気弾を放つ。それは正確に、無防備に背中をさらしていた未確認生命体に命中する。

 

しかし。

 

「……」

「……」

「当たりましたよね?」

「当たったはずだけど……」

 

未確認生命体は微動だにしない。動きは止まったので警官たちはなんとな立ち上がり逃げていく。

 

すると突然、未確認生命体が振り返った。まっすぐ翔たちを見る視線に翔は自分が射ぬかれているような感覚に陥った。そして、それは決して感覚だけで終わることはなかった。

 

未確認生命体は右手に黒いものを持っていた。翔がそれに意識を向けると、自動で視界のディスプレイがズームモードになり、その黒いものが大きくなる。その正体を知ったのと黒いもの―――ボウガン型の銃―――から空気の弾丸が発射されるのはほとんど同時だった。

 

「超変身!!」

「物理保護!!」

 

クウガはドラゴンフォームになり回避、翔は物理保護で防御した。2発放たれたそれは、翔の物理保護にかなりの衝撃を与えたが、突破されることはなかった。クウガの方に放たれたものは、標的を失ったことで、後ろの建物に大穴を開けるだけにとどまった。

 

翔は物理保護を保持したまま空を飛び、攻撃を開始する。放たれる空気弾をローリングで避けながら、リパルサーレイで応戦する。クウガも棒状のドラゴンフォーム専用武器『ドラゴンロット』を打ちつける。

 

しかし、未確認生命体はそれらを巧みに躱す。そしてとうとう、クウガが空気弾にとらえられた。

 

クウガは生体装甲に穴をあけられ、吹き飛ばされる。

 

「五代さん!!」

「マスター、待って!」

 

翔は慌てて助けに入ろうとするが、ダイヤの声が頭に響いた。同時に足を引っ張られる。

 

「うわ!!」

 

翔が足を見ると、黒いものが巻き付いている。翔はブースターのパワーを上げて抵抗しようとするが、それよりも早く体制を崩され、地面に墜落する。

 

「痛っつ、なんだよ」

 

クラクラする頭を我慢して立ち上がると、そこには『敵』がいた。

 

黒い滑らかな体を持ち、顔に当たる部分は凹凸で表されている人型の何かだ。

 

「出たな」

「はい。宝石翁からのデータと一致します」

「あっちは五代さんに任せるしなかいな。逃げても追ってくるだろうし」

 

翔は何回か軽く手を握って開く。緊張をほぐしているのだ。

 

「ちなみにダイヤ、あとどのくらいで構築できる?」

「データの整理は終わっています。あと一晩もあれば形にできるはずです」

「そっか」

 

翔は構える。先制を取るために。

 

ブースターで一息に近づき、魔力の尾を引く右手と通常の左手で打撃をくわえる。ゴ・バベル・ダに対しても有効だった拳は、確かな感触を翔に伝える。

 

(当たってる感触はする。右手も左手も。打撃は効くのか?)

 

敵はめちゃめちゃに腕を振り回してくるが、翔に当たることはない。

 

みぞおちに拳をめり込ませ数歩下がる。そこから助走をつけて敵を蹴り飛ばした。

 

落下した時に土埃が舞い、敵の様子がつかめず翔は目を細める。

 

直後、ゾワリとした嫌な感覚がした翔は、反射的に物理保護を自分の右側に張った。

 

「危ねぇ」

 

物理保護は薄く研ぎ澄まされた刃を受け止めていた。出所は土埃の中だ。敵は自分の右手を変化させて、肘から先を全て刃にした。鞭のようにしなるそれは切れ味も凄まじく、屋根を支えている鉄柱を簡単に切り裂いていく。

 

伸縮も自在らしく、距離を詰められない。かといって、反撃の暇もない。

 

仕方なく自分を囲むように物理保護を張り攻撃を凌ぐが、これでは翔も攻撃できない。

 

「さて、どうするか」

 

相手の攻撃は物理保護を破るほどの威力はないようだが、いつまでも籠城しているわけにはいかない。

 

厄介なあの鞭を止められれば、どうにかできる。

 

そこである考えが浮かぶ。やったことはないが、やってみる価値はある。

 

何度も何度も物理保護に当たる鞭。それにタイミングを合わせて。

 

「出来たッ!!!」

 

やったことは単純だ。平らな物理保護を使って、巻きずしの様に鞭に巻きつくことで動きを止めたのだ。

 

自分を覆っていた物理保護を解く。胸のリアクター、つまり魔力炉が、ひときわ大きな光を放つ。必殺の攻撃の前兆だ。

 

「ユニビーム、発射―――」

 

の直前、巻き取られて動きを止められていた鞭が、アーマーを食い破って翔の背中に突き刺さった。動きを止めることは出来ていたが、伸びることは計算に入れていなかったのだ。

 

歯を食いしばって痛みに耐える。すでに勝負は決まっている。

 

リアクターから、リパルサーレイとは比べ物にならないほど強力な魔力法が放たれる。それは敵を飲みこみ跡形もなく消滅させる。

 

リパルサーレイとユニビームの違いは、使用している魔力がある場所だ。リパルサーレイはアーマー内に貯蔵されている魔力を使うが、ユニビームは平行世界から取り入れた魔力を直接放射している。

 

つまり理論上、上限があるリパルサーレイとは違い、ユニビームは威力を無限に上昇させることが出来る。もっとも、アーマーの強度の問題がるためあくまで理論上の話だが、それでもれパルサーレイの数十倍の威力が出せる。

 

ユニビームを撃ち終わった翔はその場に倒れ込んだ。ダイヤは魔力を治癒に回し翔の傷をふさごうとする。

 

その心地よさを感じながら、翔は目を閉じた。

 




次回でクウガの世界はおしまいだと思います。

そして、やっとスーツの目玉機能が出せる……ッ

自分的にはかなりチートだと思ってます。

それでは、また来週。


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第5話 変身

今回は少し長いです。


翔は病院のベッドで目を覚ました。

 

「良かった、生きてたか」

「そこまで深い傷ではありませんでしたからね。ここに搬送される頃には血管は繋がっていましたよ」

「アーマーのおかげで命拾いしたのか」

「ムッ、マスターは私の治癒魔法をバカにしてますか? 私の治癒魔法のおかげです! 感謝するなら撫でてください」

「はいはい。それでさ、質問があるんだけど」

「なんですか?」

 

翔はダイヤの頭をなでながら問う。

 

「なんでダイヤも布団に入ってるの? いや、別にいいんだけどさ」

「治癒魔法の為には、マスターと接触していないといけませんから」

 

それなら、手を握ってるだけでもいい気がするんだけどなぁと、翔は内心首をかしげる。そのうちこれはこれで得役か、と納得した。

 

ダイヤの人型モードは人とほとんど変わりない。違いは食事と排泄が必要ないことだ。睡眠は魔力の節約という建前で(そもそも魔力は無限に得ることが出来る)それっぽいことはできるが、必要不可欠というわけではない。

 

それ以外は普通の少女と何ら変わりない。つまり柔らかい肌や、甘い息遣いは本物と変わりないのだ。それが甘えるようにすり寄ってくるのだ。魔法を学ぶ過程で魔術も一通りかじった翔は、男女間の『そういうこと』についても調べる機会があった。魔術には、そういう行為を利用するものもあったからだ。翔も男の子、こういう事には興味がある。

 

そういうわけで、頭を撫でていた手を背中に回そうかなんて考えていた翔は、病室の扉が開く音に我に返った。

 

「……お邪魔だったかな?」

 

病室に入ってきた男性は、一緒にベッドに入っている翔とダイヤから目を逸らす。それに対して翔は、全く気にしてない様子だ。

 

「いえいえ、そんなことは。ほら、ダイヤ」

 

翔に促され、ダイヤは名残惜しそうにモゾモゾとベッドから抜け出す。

 

「俺は椿 秀一。ここで解剖医をしている。君の事は聞いてるから安心してほしい。ほかの職員には、ナースコール以外ではこの病室には入らないように言ってあるから」

「ありがとうございます。それで、未確認生命体はどうなりました?」

 

椿は顔をしかめて黙り込む。

 

「逃げられた。いや、見逃してもらったというべきだな」

「見逃して……?」

「五代は今、意識不明の重体だ。隣の部屋で寝ている」

 

その言葉に翔は目の前が暗くなるような気がした。それほどに雄介の敗北が信じられなかったのだ。

 

翔は数日この世界で過ごしたなかで、周囲の人が雄介に寄せる信頼を感じ取っていた。彼に任せておけば大丈夫という信頼だ。

 

しかし、雄介は負けた。

 

「五代さんは……大丈夫なんですか?」

「どうだろうな……今は心停止しているが……」

「心停止!? それ、ダメってことなんじゃありません?」

「前にも心臓が止まったことはあったからな」

「五代さんが人間じゃないような気がしてきたんですけど」

 

五代のタフさに若干引き気味になる翔。

 

「これからどうなるんでしょうね。もし、五代さんが目を覚まさなかったら」

「ん? ああ、五代の目を覚まさせる方法は考えてあるんだ。ただ、それをすると何が起こるかわからなくてな」

「いったい何をする気ですか?」

「電気ショックだ」

「へ?」

 

何が来ても驚かないぞ、と身構えていた翔に告げられたのは医療行為としてはごく普通の方法だった。

 

何故ためらっているのかの理由が分からない翔は、

 

「別に何も起こらないんじゃないですか? 電気ショックくらいじゃ」

「前にも心停止したことがあると言っただろう。その時も電気ショックをしたんだ」

「だったらなおさら早くしないと。心停止って時間との闘いじゃないんですか?」

「……あいつはあの時、電気ショックのお蔭で目を覚ましたわけじゃないんだ」

 

椿は語りだした。五代が未確認生命体第26号『メ・ギノガ・デ』との戦いで瀕死の重傷を負った時の話を。

 

メ・ギノガ・デはキノコの能力を持つグロンギで、この能力を使いクウガを一度戦闘不能にした。

 

クウガが一度グロンギに負けることはそれまで何回もあったが、この時は心臓まで停止して本当に五代の死亡が確認された。

 

その時の蘇生の処置として心臓への電気ショックが行われたのだ。

 

幸いにも、五代のお腹の中にあるアマダムのお蔭で復活を果たしたが、そのあとある変化が起こり始めた。戦っている最中に謎の放電現象が起こり始めたのだ。

 

その結果発言したのが『ライジングフォーム』だ。

 

電気ショックによりアマダムが変異し、アマダムに眠っていた力が解放されたのだ。

 

椿は語る。

 

「だから、今度の電気ショックでも何らかの変異が起こる可能性がある。だからむやみに出来ないんだ」

「そうだったんですか……」

 

話を聞き終わって黙り込む翔。しかし、椿の話はまだ終わっていなかった。

 

「それにクウガの力と、未確認生命体の力は、同じものなんだ」

「どういう事ですか?」

「最近ヤツらの死体を手に入れることが出来て、解剖したんだが、ヤツらの腹の中にも五代の腹の中にある石と同じようなものが埋め込まれていたんだ」

 

その言葉に翔は思い当たることがあった。

 

ゴ・バベル・ダは自らの装飾品をハンマーに変え、クウガは警官の銃をボウガンに変えていた。この2つはあまりに似通っている。

 

「このままだと五代はヤツらと同じ存在になるかも知れない」

「……なんでそこまでして戦うんですかね、五代さんは」

 

数日前にも同じようなことを話したことを思い出して翔はつぶやく。

 

「みんなの笑顔を守るためだろ。いつもそう言ってる」

「……じゃあ、今回の心停止も五代さんが電気ショックをやってもらうために自分でやってるのかもしれませんね」

「なに?」

「みんなを守るために、今の自分じゃ勝てないとわかったから、もっと強くなるために」

 

翔は、小さい声でぼそぼそという。

 

「なるほど……」

 

椿は顎に手を当てて考える。翔も、ある決意をしていた。

 

「それじゃあ、翔君、一応明後日まではいられるようになってるから」

 

それからすぐに椿は病室から出て行った。

 

「ダイヤ」

「はい」

「すぐに調整を始める。画面を出せ」

 

翔は決意した。自分のやるべきこと、やらなければいけないこと、やりたいことをやり遂げる決意を。

 

デバイス状態になったダイヤが出したアーマー調節画面に、翔は向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翔はそれから徹夜で作業をし続けた。作業が終わった明け方には眠気がピークになり、終わった瞬間に寝てしまうほどの集中っぷりだ。そして再び目を覚ましたころには、あたりは暗くなっていた。

 

「日中丸々寝ちゃったか。ダイヤ、どうだ?」

「はい、データ構築、完全に終了しました」

 

よし、と翔は頷く。と、窓の外から何度か聞いた音が聞こえた。五代のバイク『ビートチェイサー2000』の音だ。

 

「五代さん? 目が覚めたのかな」

 

翔が窓にかかっているカーテンをめくって外を見ると、駐車場を出て行くビートチェイサー2000が見えた。

 

流石に、乗っていたのが五代だったのかわかなかった翔は、隣の病室に行こうと、自身の病室から出る。

 

ちょうどそこには桜子と椿がいた。

 

「あ、翔君、怪我は大丈夫なの?」

「はい。それよりも五代さんは?」

「少し前に目を覚まして、連絡があったから出てったよ」

「場所は分かりますか?」

「セントラルアリーナだと言っていたな……行くのかい?」

 

その言葉に翔は笑って返す。

 

「はい、自分がやりたいことが見つかりましたから」

 

翔は右手の相棒を握りしめた。

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

一条はセントラルアリーナの中にいた。付近の住民からの通報でここに来て突入しようとしたところ、中から未確認生命体第47号が飛び去って行った。一緒に来ていた刑事2人に47号は任せて、セントラルアリーナには一条一人で突入したというわけだ。

 

暗いアリーナ内を慎重に進んでいく一条。手にある拳銃には科捜研から届いた新型の神経断裂弾が4発装填されている。

 

一条はアリーナの客席に出る。

 

突然、陰になっていた部分から未確認生命体第46号が現れ、一条に裏拳を食らわせる。

 

その衝撃に一条は階段を踏み外す。が、同時に拳銃でねらいをつけ、撃った。

 

3発の弾丸は全て46号に命中する。

 

クウガの攻撃でも倒れなかった46号は、数秒の痙攣の後、動かなくなった。たった3発の弾丸に倒れ伏したのだ。残る1発を頭に打ち込んでとどめを指そうとする。

 

そこに思わぬ人物が姿を現した。

 

「B1号……!」

 

額に白いバラのタトゥーがある女性、彼女もグロンギの一人である。たびたび一条の前に姿を現し、意味深な言葉を残していく謎が多い存在だ。

 

「リントはやがて、我々と等しくなりそうだな」

 

投げかけられる言葉に目を細めながら銃口を向ける一条だったが、46号から意識をそらしたのは間違いだった。

 

倒れていた46号が起き上がったのだ。

 

46号、『ゴ・ガドル・バ』はグロンギの中でも最強に近い実力を持っている。神経断裂弾を喰らってもすぐに復活できたのはゴ・ガドル・バの高い能力があってこそだ。

 

首を絞められ拳銃を落としてしまう一条。そのまま投げ飛ばされ、叩きつけられてしまう。

 

ゴ・ガドル・バは剣を作り出し迫る。一条の命を刈り取るために。

 

一条は痛む体を引きずって何とか逃げようとするが、その速度は亀の歩みだ。

 

こんな状況で、彼らが来ないわけがない。

 

一条の後ろから猛スピードで迫ってきたビートチェイサー2000にゴ・ガドル・バは撥ねられる。

 

さらに追い打ちとしてリパルサーレイがゴ・ガドル・バを捉える。

 

「一条さん!!」

「五代、翔君……」

 

バイクから降りてヘルメットを取った雄介が一条に駆け寄る。

 

「変身!!」

 

五代はゴ・ガドル・バを見据えながらクウガに変身する。

 

「五代……お前……」

 

一条は始めからライジングフォームに変身している翔に驚く。クウガは2度目の電気ショックのお蔭で、30秒間しかなれなかったライジングフォームに時間制限なしで変身できるようになったのだ。

 

「ずっと金でいけそうです。一条さんは速く逃げてください」

「この周辺の雑木林が追い込みポイントだ。俺は周辺の非難を徹底させる」

「お願いします!」

 

そう言って離れていく一条を見送りながら、翔は五代に告げる。自分の思いを。

 

「五代さん」

「なに?」

「僕、今まで誰かのために戦うなんて考えたこともありませんでした。いや、ちょっと違うかな。誰かのことを本気で、自分の命をかけても守りたいと思ったことはありませんでした」

 

ゴ・ガドル・バとの距離がなくなり、格闘戦になる。

 

「これから僕は色々な世界を旅します! そこにはきっと、理不尽なことで泣いている人たちがたくさんいます! そんな人たちの力になりたい。支えになりたい。そんな人たちを笑顔にしたい! それが僕のやりたいことなんです! だから!!」

 

両手のリパルサーレイと、あまり魔力チャージをしていないユニビームを同時に放つ。

 

「だから見ていてください、僕の、変身」

 

翔は五代と同じポーズをとる。

 

「クウガアーマー、展開します!」

 

ダイヤの声と共に、新しいパーツがリアクターから飛び出してくる。

 

それらは翔の体の各部に装着される。外見はどことなくクウガに似ている。翔の目には『ver KUGA』と表示されている。

 

これがカレイドアーマーの最後の能力、その応用である。大本の能力は、平行世界とリンクしての超絶的な分析能力だ。その性能は、ゼルレッチの魔術礼装を完全解析できるほど。

 

その分析能力を生かして、クウガのアマダムを分析、解明したうえで、アマダムの力を再現したアーマーを作り上げたのだ。無限の魔力をもってすれば、その程度はたやすいものだ。

 

クウガアーマーは、基本の追加装甲による防御力のアップと、流れる魔力量の調節による身体能力の強化のほかに、3つの能力がある。

 

まずは、フォームチェンジ。この機能により、瞬時に各部への能力値の割り振りを変化させることが出来る。

 

次に、モーフィングパワー。これは、クウガの物とは違い、どのフォームでも様々な武器を作り出すことが出来る。例を挙げれば、ペガサスフォームでも剣を作ることが出来るという事だ。

 

最後は、ライジングフォーム。少しの間魔力炉をオーバーロードさせることで、パワーを上昇させるシステムだ。

 

総合的には万能型のアーマーである。

 

2人のクウガとなった翔たちは、一条言われた通りに、雑木林までゴ・ガドル・バを誘導する。

 

ゴ・ガドル・バから金色の雷が発生し、徐々にその姿を変化させていく。ゴ・ガドル・バのライジングフォームだ。

 

翔とクウガはうなずき合う。

 

翔はライジングフォームモードを起動する。クウガ装甲に金色のラインが入る。

 

一方クウガにもゴ・ガドル・バと同じように金色の雷が発生する。右足にしかなかったマイティアンクレットが左足にも表れ、ボディが黒に変わる。

 

土壇場でクウガは更なる進化を遂げ、アメイジングマイティフォームとなったのだ。

 

ゴ・ガドル・バは強い、が、翔たちは2人だ。負けるわけがない。

 

ゴ・ガドル・バのゼンゲビ・ビブブ(電撃キック)と、クウガのアメイジングマイティキック、そして翔のライジングマイティキックがぶつかり合う。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一条はアリーナの外で避難誘導をしているさなか、それを見た。

 

とてつもない火柱が雑木林から上がったのだ。

 

それを見た一条は、顔をほころばせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後、翔は荷物をまとめた翔はお世話になった人たちに挨拶をしていた。

 

「今までありがとうございました」

「気をつけろよ」

「風邪ひくなよ!」

「けがするなよ!」

 

一度しか会っていなかった未確認生命体合同捜査本部の人たちも、翔の旅立ちには駆けつけてくれた。

 

「俺からはこれ」

 

五代は、自分が来ている物と同じクウガマークのシャツを差し出した。

 

「ありがとうございます……皆さん、今日まで、本当にありがとうございました!!」

 

クウガマークの入ったシャツを胸に抱き、翔は次なる世界に旅立った。

 

旅は始まったばかりだ。

 




アーマーの性能はそのうちまとめたいと思います。

今回でクウガの世界も終わりです。

次の世界はブラックブレット。

ハーレムだし、そろそろダイヤ以外のヒロインも出しますか。


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ブラック・ブレットの世界
第6話 伝説はここから始まる


「さて、さて着いたか。今度は森の中か?」

 

雄介たちと別れた翔は次の世界に到着し、あたりをきょろきょろと見回していた。見えるのは木ばかりである。翔は少しだけ木がない所に出たのだ。

 

「うん。夜の森はさすがに怖いな。早く町の方に行こうか。ダイヤ、ナビよろしく」

 

翔は頼れる相棒、ダイヤに声をかける。マスター大好きないつものダイヤなら、喜んで人型になり、手でもつないで歩き始めるところだが、今回は少し違った。

 

「マスター。周囲に大型生物の反応があります」

「大型生物? 熊か何か?」

 

グロンギと殺し合いをした翔は、もはや熊程度では動じることはない。

 

「いえ、もっと巨大なようです。距離50メートル」

 

そう言われた翔は、確かにドスンドスンと何か大きなものが近づいてきている音を聞いた。

 

数秒ほどで、その音の主が現れる。

 

現れたのはとてつもなく巨大なクモのような生き物だった。

 

「あー、確かに大きいな」

「クモ、ですか?」

「うーむ。こんなにでかいクモなんていないだろうからな。この世界固有の生物なのかな?」

 

2人がそんなことを話していると、巨大グモはその口から糸を吐きだしてきた。

 

「おっと」

 

翔はそれを転がりながら避け、距離を取ろうと走り出す。

 

「あれ殺しちゃっていいのか!?」

「分かりません。ですが、あの生物はこちらに対して友好的な感情を持っていないのは確かですね」

 

話している間も糸を吐き続けるクモ。それを必死に避けながら何とか逃げ切れないか考える翔。

 

この世界の事を知ら無すぎる翔にとって、判断が着かない状況で敵に襲われるのは致命的過ぎる。誰に味方して誰を倒せばいいのかわからないからだ。

 

前の世界では、グロンギが言う明らかに人を襲っていたため、すぐに適応することが出来た。

 

しかしこのクモはもしかしたら、満に一つの可能性で人様のペットかもしれない。

 

その可能性がある以上攻撃に踏み切れないのだ。

 

しかし、ただの人間である翔は、いつまでの蜘蛛の糸を避けていられるほど超人的な体力を持っているわけではない。

 

「うわ!」

「マスター!?」

 

とうとう蜘蛛の糸にとらわれ、地面に倒れ込む翔。

 

「気持ち悪いな! もう!」

 

粘着力のあるそれは、翔を地面に縫い付けたまま剥がれる気配はない。

 

それを見て、もう獲物をしとめた気になっているのか、ゆっくりと蜘蛛が近づく。

 

「あ、まずい」

「マスター! 早く転身を!」

「しょうがないか。いくぞ、ダイヤ!」

 

一瞬で赤い装甲を纏うと、肩に装備されているホーミング式の魔力法を起動させ、今まさにかぶりつこうとしてきたクモを吹き飛ばす。

 

翔はクモの糸を引きちぎり、自分の攻撃の結果を確認する。

 

そして、それを見て顔をしかめた。

 

確かに攻撃は効いていた。クモの顔はえぐれており、紫色の体液も噴き出している。しかしそれは数秒すると元に戻ってしまったのだ。

 

「うわ、が元に戻ったよ……再生スピード半端ないな。ダイヤ、あのクモを分析してくれ。特にあの再生能力をどうにかしたいからそれを優先してな……あ、でも逃げればいいのか?」

 

転身した今ならば逃げ切れるのではないかと持った翔だが、ダイヤに否定される。

 

「やめておいた方がいいです。そう遠くないところからヘリの音が聞こえます。今空を飛んでしまうと、見つかってしまう可能性が高いです」

「そうか、じゃあやめよう。分析はどのくらいで終わる?」

「37秒で終了します」

「OK。じゃあ、僕も少し頑張ってみようか」

 

翔は手足のブースターを使い一瞬で蜘蛛に接近、その顔を殴る。殴られたクモの顔にはヒビがはいり苦しそうな声を上げるが、すぐに傷口がうごめき、再生しようとする。

 

それを見た翔は、その場でサマーソルトキックを繰り出し、蜘蛛の顔を下から蹴り上げる。それだけにとどまらず、両手のリパルサーレイを発射し、前足2本も破壊する。

 

「うん。だめだ。どうしろってんだ」

 

頭をつぶされても、なお再生するクモを見て、翔はため息をついた。

 

「マスター、分析終了しました。あのクモの遺伝子パターンが、私の中にあるどの遺伝子パターンとも一致しませんでした。おそらくこれがあの異常な回復能力を司っているものと思われます。さらにこれを分析した結果、特定の磁場に対して極端に弱いことが判明しました」

「流石だ。で、倒せそう?」

「魔力によりその磁場を再現することで、撃破は可能です」

「じゃあ、よろしく」

「イエス、マスター。再現完了しました」

 

翔は左手から炸裂魔力弾を発射する。

 

それはクモの頭と胴体の半分を吹き飛ばし、生命活動を停止させた。

 

「なんて、あっさり」

「攻撃さえ通れば、大したことはありませんね」

 

と、そこで翔は、半分になったクモの胴体から大きめのケースが飛び出ているのを見つけた。

 

「とっと、あれは何かな?」

 

翔はそれを胴体から引っこ抜く。いやな色の体液まみれになっているそれは、近くにあるだけで吐き気を催してきそうである。

 

「開けてみようかな」

「その前に分析しておきましょう。危険なものなのかもしれません」

 

数秒で終わります。というダイヤの声を聞いた翔は、ゆったりとそれを待とうとした。しかし、その数秒が過ぎる前に新しいトラブルが舞い込んでくる。

 

翔のすぐそばに何かが落ちてきたのだ。その落ちて来たものの正体を見た翔は一言、

 

「空から幼女が落ちてきた?」

「なぜ幼女なんですか? やっぱりマスターは幼女趣味なんですか? でも、それならそれで……」

 

ダイヤは何やらぶつぶつとしゃべりだすが、翔の意識は落ちてきた物体に向いていた。

 

「……おぬしらは何者じゃ? 連太郎と同じプロモーターなのか?」

 

赤い髪をツインテールにした幼女は虚ろな目でぼんやりと翔を見てくるが、翔はそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「やばい、やばいよ。また変な単語が出て来た。しかもあの速度で地面と激突して無傷とか……もう人間じゃないだろ」

「マスター。あの少女からあのクモと同質の遺伝子情報が確認されました。注意してください」

 

翔が何とか愛想笑いで質問をごまかしていると、森の方からツインテールの幼女『藍原 延珠』を追いかけてきた少年『里見 蓮太郎』が姿を現した。

 

「延珠!! 無事か!?」

「……連太郎?」

「バカ野郎!! なんで一人で行ったんだ!!」

「だって、妾は……妾は……ッ!!」

 

延珠はいきなり涙目になり蓮太郎の胸に飛び込んだ。

 

「いや、ちょっと急展開すぎてついていけないですね」

「マスター、言わないでください」

 

ひとしきり泣き止むまで連太郎は延珠をあやし、延珠が落ち着いたところで翔に話かけた。

 

「あんたも民警か? このガストレアはあんたが倒したのか? イニシエーターはどうしたんだ?」

「いえ、えっと……」

 

翔がどうしようか迷っていると、さらに新しい人物が現れる。

 

「これはこれは、また会ったね里見君」

 

タキシードにシルクハット、さらに笑顔を浮かべた仮面をつけた男『蛭子 影胤』。さらに、その後ろをついてくる、黒いドレスを着た延珠と同い年くらいの女の子『蛭子 小比奈』だ。

 

「蛭子 影胤……ッ!!」

 

蓮太郎は影胤を睨みつける。自分の存在が忘れられているのを感じた翔は、そろりそろりとその場を離れようとする。

 

「この状況でなければゆっくりと話したいところだが、今は……」

 

翔はそろそろ飛んで逃げようとして、

 

「君の持っているケースに用がある」

 

影胤の声に動きを止められた。

 

「ッ!! おい、お前!! 早く逃げろ!!」

「素直に私にケースを差し出せば、殺さずに逃がしてあげよう」

「え? え?」

 

ここで、翔の混乱は最高潮に達した。

 

そこで翔は元凶となっているケースを、

 

「て、てりゃーーーー!!!」

 

明後日の方向にぶん投げた。

 

「「「「…………」」」」

「て、てへ☆」

 

後ろにとてつもない殺気を感じた翔は、両手のブースターを使って高速でその場を離れる。直後に、翔のいた場所を2本の黒い剣が通り過ぎた。

 

「避けられた」

 

その剣を操っているのは赤い目を爛々と輝かせた小比奈だ。

 

影胤は子陽菜のもとに歩み寄り頭をなでる。

 

「よしよし。次は私も加勢しよう」

 

そういうと影胤は、自然な動作で懐から悪趣味な装飾のされた拳銃を取り出し、翔に向かって撃つ。

 

物理保護障壁を張る暇すらないその攻撃を、翔は地面に倒れることでなんとな避ける。さらに倒れながらも、リパルサーレイで反撃までして見せた。

 

まさか銃も何も持っていない状態から、この距離で反撃されるとは思わなかった影胤は、後ろの木まで吹き飛ばされる。

 

「パパ!」

 

小比奈はすぐさま影胤に駆け寄る。

 

「威力は絞ってあったよな?」

「はい、直撃してもプロボクサーの打撃程度のはずです」

「結構痛いと思うんだけど?」

 

派手に木に叩きつけられた影胤を見て不安になった翔はダイヤに聞いた。

 

「手から光学兵器、だと? まさかあいつも俺と同じ……」

 

蓮太郎もその様子を見て何かを考え始めた。

 

「くくく、ハハハハハハハハハハハ」

 

突然笑い出した影胤に翔はドン引きする。

 

「素晴らしい。素晴らしいじゃないか!!! まさか同胞に会えるなんて!!」

「え、ちょっと待ちましょう? 何言ってるのかわかんないんですけど!?」

「君は、新人類創造計画の機械化兵士なんだろう!?」

「ッ!!」

 

翔は混乱し、影胤は笑い、蓮太郎は息をのむ。延珠と小比奈は空気になっている。そして影胤の問いに対する翔の答えは、

 

「は? いや、違いますけど?」

 

周囲に微妙な空気が流れる。

 

実は翔はかなりマイペースだ。シリアスブレイカーとも呼ばれている。クウガの世界では一時期自分のペースを見失っていたが、少し経てばいつもの通りになっていた。

 

「……まあいい。君、名前は?」

「夜月 翔です」

「翔君か。君と蓮太郎君には特別に、私の技を見せてあげよう」

 

そう言って影胤は、自分の右腕を指パッチンの形にして前に突き出す。

 

「マキシマム・ペイン!!!」

 

影胤から目には見えない力、『斥力フィールド』が発生し、それは影胤を中心に円形に広がっていく。

 

「マスター!!」

「分かってる!!」

 

翔は即座に撤退を選択。ついでに蓮太郎と延珠を抱えて。足のブースターを器用に使い、普通に走る速度の倍は出して影胤から距離を取った。

 

その後、影胤が姿を表すことはなかった。

 

 




今回から少しずつオリジナル登場キャラや道具の紹介をしていきたいと思います。


名前:夜月翔
年齢:14歳
誕生日:7月8日 / 血液型:O型
身長:160cm / 体重:54kg
好きなもの:甘い物全般 / 苦手なもの:お化け
天敵:ゼルレッチ

説明
この物語の主人公。11歳の時にゼルレッチの弟子になり日本から時計塔に移住、わずか2年の間で魔術論理と魔法論理を完全に覚えた鬼才。特に礼装の製作技術はゼルレッチに迫るものになっている。足りないのは経験。唯一の欠点は、代続きしていない魔術師なため魔術回路の数は20本しかないという事。
性格は超絶マイペース。ゼルレッチにたびたびほかの世界に連れまわされたせいであわ沿い事には慣れている。クウガの世界にいた時は初の一人での世界移動という事で少し緊張していたため、この性格はあまり出ていなかった。


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第7話 闘う決意をその手に

「すまん。助かった」

「いえいえ」

 

2分ほど走り続けた翔は、連太郎と延珠を地面に降ろしていた。

 

「俺は里見 蓮太郎。こっちは俺のイニシエーターの」

「藍原 延珠じゃ!」

「僕は夜月 翔です。ところで2人はなぜここに?」

 

翔はまともに話すことが出来そうだと判断した2人に、この世界の事についてそれとなく探りを入れる。

 

「は? そりゃあ……あ、ケース!!!」

「ケース? 僕が放り投げたケースですか?」

「ああ!! 俺たちはあれを回収に来たんだ!! くそっ! 今行っても、もう遅いだろうな……」

「でしょうね。ごめんなさい」

 

翔は素直に謝る。それを見た連太郎は慌てて手を振り、

 

「いやいや。気にしないでくれ。あいつに会って命が助かっただけでも幸運だった。でも、まあ、せっかくの儲けを不意にしちまったからな……木更さんになんて言われるか……うわ! おい、乗るな延珠!!」

「妾をほったらかしにするな!!」

 

その光景に少し頬を緩ませる翔。危険はないと判断し、転身を解いた。

 

赤い装甲が消え、いきなり普通の服になり、延珠と穴時くらいの女の子が会わられたことに驚きの表情を作る蓮太郎。延珠はあまり気にした様子はない。

 

「で、お前はいったい何者なんだ? 本当に機械化兵士じゃないのか?」

「だから違いますって」

「まあ、いいか。とりあえず俺たちは帰るけど、お前はどうする?」

 

蓮太郎は腰に手を当てて問うてくる。

 

「あ、じゃあ、僕もついて行っていいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで連れてきた」

「捨ててきなさい」

「それは厳しいですよ、天童さん。天童さん捨てられたら僕達困っちゃいますよ」

「さらりと会話に混ざるのはやめなさい」

 

翔とダイヤは、その日はもう遅いという事で蓮太郎の家に宿泊し、次の日に、彼の所属する天童民間警備会社の事務所に向かった。そこの社長であり、2人しかいない天童民間警備会社の社員の内の一人(もう一人は蓮太郎)の天童 木更は、自信の机に座りながら顔をヒクつかせていた。

 

「いやいや、木更さん。さすがに捨てて来いっていうのは……」

「里見くん」

 

蓮太郎が意見しようとしたところに木更が声をかぶせる。とてつもなく冷たい声だ。蓮太郎がおびえる中、翔は、『あ、これすごく怒ってるな』と完全に人事だ。

 

「ここの経営が苦しいことは知ってるわよね?」

「あ、ああ、そりゃまあ」

「そんな状態なのに子供2人の面倒みろっての!? そんなお金ここにはないわよ!!」

「グッ!!!」

 

木更の言葉に連太郎が息を詰まらせる。

 

「それになによ、魔法使いとか、異世界とか。訳分からないじゃない!!」

「それは……確かに俺もそう思うが」

 

木更と蓮太郎は翔に視線を向ける。二人の視線を浴びて話題の中心となった翔は、それでも動じずにゆったりとした様子でいる。翔はここに来るまでに、蓮太郎に自分の事情をあらから話してしまっていたのだ。

 

「いや、そんなこと言われましても。事実ですから」

「だったら火とか出せるの?」

「そんな機能はないんで無理ですね。ビームなら出せますけど」

 

微妙は空気になってしまったところで連太郎が、

 

「木更さん。ケースに関しては本当に悪かったと思ってる。でも、あの蛭子 影胤に会って無傷で帰ってこれたんだ。それはこいつのお蔭だし、それに免じて、ここに少しの間でいいから置いてやってくれないか?」

「はぁ……分かったわよ。私だってそこまで鬼じゃないからね。放り出すようなまねはしないわよ。それに、まだ依頼は終わってないしね」

「どういうことだ?」

「さっき聖天子様から直々に連絡があったのよ。蛭子 影胤の場所を特定したってね。里見君にも参加してほしいそうよ」

「聖天子様から直々にか!?」

「ええ、情報はそれだけじゃないわ、影胤が持ち去ったケースの中身はステージⅤを呼び寄せる触媒らしいわ」

「ステージⅤ!?」

「へぇ」

 

木更の言葉に蓮太郎は驚愕し、翔も眉を寄せる。翔は自分が教えてもらったことを思い出していた。

 

ガストレア。

 

それは翔が闘ったクモの化け物の事だ。

 

その正体は、突如現れた未知のウイルスに感染した動物である。これに感染したものは遺伝子を書き換えられ、非常に強い再生能力と赤い目を持つ。

 

更にガストレアは、その再生能力によりレベル分けされていて、ステージⅠからステージⅣまでで、数字が大きくなるほど強くなる。

 

もちろん、ガストレアに対抗する手段は存在する。『バラニウム』と呼ばれるガストレアの再生力を阻害できる特殊な金属だ。この金属の出す磁場には、ガストレアを衰弱させる効果があり、それを利用した、モノリスという巨大バラニウムの柱で囲まれた『エリア』という安全圏が、今の人類の主な活動範囲となっている。

 

そして、ガストレアに対抗するために民間警備会社、通称民警が作られた。民警は主に、ガストレアの駆除を依頼という形で引き受けるため、会社と同じようなもので、大手と呼ばれるところからこの天童民間警備会社のように小規模のところもある。

 

そして、ガストレアの中にはごく稀にその枠を飛び出す個体が存在する。それがステージⅤだ。

 

ステージⅤは、10年前に起きた人類とガストレアとの戦争『ガストレア大戦』において、その圧倒的な戦闘力をもってして世界を滅ぼした存在だ。とてつもない巨体、通常兵器をほぼ無力化させる硬度の皮膚、分子レベルの再生能力などを持つ。また、通常のガストレアと違ってモノリスの磁場の影響を受けないなど、一線を画す存在なのだ。

 

そんなものを呼び寄せられた暁には、連太郎たちが住むこの東京エリアは壊滅することは間違いない。

 

「つまり、さっきの仮面の男を倒せば、すべて丸く収まるってことでいいですか?」

「そうね。それが可能なら」

「じゃあ、倒しましょうか」

「「は?」」

 

あまりにあっさりとした物言いに、連太郎たちは素っ頓狂な声を上げる。

 

「やることは分かってるし、時間もないんでしょ? だったらやることは決まってると思いますけど?」

「それはそうかもしれないけど……そんなに簡単なことじゃないのよ? もうすぐ政府主導で影胤の追撃作戦も始まるし。蓮太郎君はそれに参加するけど」

「はぁ!? なんでだよ!!」

「聖天子様かが参加してほしいって言ってるのよ。それがなくても、参加しない理由はないけどね」

「勝てればいいですよね」

 

静かな声で翔は告げる。

 

「聞きましたよ、機械化兵士計画の事。とてつもないですね、影胤の能力は」

 

機械化兵士計画とは、ガストレア大戦中に立案された、身体の一部を機械化し、超人的な攻撃力や防御力を持つ兵士を造り出す計画だ。

 

影胤はその機械化兵士の一人で、内臓をはじめとする身体の大半を機械化することで、斥力フィールド(影胤はイマジナリィ・ギミックと呼ぶ)による防御能力を得た。性能は拳銃の弾丸をいとも簡単に跳ね返すほどだ。しかも、斥力フィールドは攻撃にも応用できるという優れもの。

 

このように人外の力を手に入れることが出来る機械化兵士計画だったが、機械化手術の成功率の低さ、機械のメンテナンスなどに莫大なコストがかかる点から、数年前に凍結された。

 

一度その力を目の当たりにしている連太郎と木更は何も言えなくなる。

 

「元々、この事態に陥ったのは僕のせいでもありますからね。あの時、僕がケースを守っていればよかったんです」

「いや、それは何も知らなかったから……」

「確かにそうですけど、知らなかったからいい、なんてレベルじゃないですよ、これは。目に目を、歯には歯を、人外には人外を。自分のやったことの責任ぐらい自分でとりたいです。それに、影胤を倒せば多少報酬が出ますよね? ただでお世話になるのは申し訳ないですよ」

 

翔は木更をまっすぐ見る。自分の覚悟を伝えようとしているのだ。

 

「里見君。この子の実力は?」

「え?」

「保護者として、無謀な突撃は認められないわ。この子の実力はどうなの?」

「……実力は申し分ないと思う。ステージⅢのガストレアを一人で倒せるくらいだ」

「そう」

 

木更は連太郎の言葉に短く答え、目を閉じる。そして瞼が持ち上げられたときには木更の顔は戦士の顔になっていた。

 

「社長として命じるわ。影胤・小陽菜ペアを撃破してステージⅤ召喚を止めなさい!」

 

「「はい(おう)!!」」

 

そう宣言した。

 

「ところで木更さん。俺が闘うのは無謀じゃないのか?」

「何言ってるのよ。里見君はうちの社員でしょ。だったらキリキリ働きなさい」

「……そうですか」

 

蓮太郎に対しては厳しい木更だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政府主導となるため、作戦参加者にはもれなく、作戦ポイント周辺までヘリでの送迎がプレゼントされる。助かると言えば助かるのだが、翔は移動開始の時間まで暇になってしまった。それまでの時間、翔はアーマーの再チェックに入り、蓮太郎はいくところがると事務所を出た。さらには木更もどこかに行ってしまったため、今事務所には、アーマーをガチャガチャしている翔と、連太郎に置いてけぼりにされてむくれている延珠しかいない。

 

延珠は暇になったのかテレビをつけ出した。しばらくチャンネルを変えていると、子供向けの番組を発見する。

 

翔はアーマーをいじくりながら、テレビに食いついている延珠を見た。

 

見た目は小学生、しかし大の大人よりも凄まじい力を持っているのだ。

 

イニシエーター。この少女はこの世界ではそう呼ばれる存在だ。妊婦がガストレアウイルスに接触することにより生まれ、ウイルスにより超人的な治癒力や運動能力を持つほか、保菌したウイルスの動物因子によりそれぞれ特殊な能力を持つ。例えば延珠ならば『モデル・ラビット』で、強靭な脚力を有する。

 

このイニシエーターはプロモーターという民警社員と必ずペアを組んで戦う。連衆の場合連太郎がそれに当たるというわけだ。

 

ちなみにイニシエーターは、ガストレアウイルスの影響によりすべてが女の子になり、さらに、ガストレアが割られたのは10年前なので、全員が10歳以下である。

 

それについては翔は納得していた。『それ』というのは、小さい女の子が闘うという事だ。そうでもしなければこの世界は滅んでいた。

 

問題は別にある。

 

ガストレアウイルスに感染している女の子たちには、もう一つの呼び名がある。

 

『呪われた子供たち』だ。

 

前述のようにイニシエーターは、常人とはかけ離れた能力を持つが、それを使うとガストレアウイルスの体内浸食率が上昇する。つまり、ガストレア化する危険があるのだ。

 

ガストレア大戦において、多くの人々に恐怖を植え付けたガストレアになる危険がある存在。それだけでも、差別、迫害される十分すぎる理由になった。呪われた子供たちは生まれた時に『目』がガストレアの様に赤いかどうかで判別でき、赤かった場合は親に捨てられるケースが多く、その多くがモノリスの外の外周区でホームレス同然の生活を送っている。

 

それについても翔は仕方ないと思っていた。

 

誰も自分の隣に、時限爆弾を置いておきたいとは思わないだろう。

 

しかし、それではあまりにも報われない。

 

この世界を守っているのは、紛れもなく呪われた子供たちだ。ガストレアを怖がる気持ちもわかる。呪われた子供たちの中には盗み犯す者もいて、それば世間の目を『呪われた子供たちは危険で、人間ではない』という方向に向けている。だが、そもそも呪われた子供たちが盗みを働いたりするのは、大人たちが呪われた子供たちを見捨てたからだ。

 

(何とかしないとな)

 

大人たちが呪われた子供たちを迫害して笑顔になるなら、呪われた子供たちは自分が笑顔にしてみせる。

 

そしていつかは、大人と呪われた子供たちが一緒に笑える世界に。

 

それは翔がこの世界にいる間には実現しないだろう。それでも、そのための第一歩を踏み出すくらいのことはしたい。

 

なぜなら、

 

(僕は魔法使いだから)

 

腕のアーマーの調整を終えて、握ったり開いたりする。

 

と、いつの間にか、延珠が興味深そうに翔のアーマーを覗き込んでいた。

 

「どうしたの、延珠ちゃん?」

「おぬしは、さっきはこれで『びーむ』を出していたのか?」

「うん、そうだよ」

「妾にもう一度見せてくれんか?」

 

目をキラキラさせながらお願いする延珠。もちろん翔は断らない。

 

「よーし、いいぞ」

 

翔は壁に手を向ける。

 

「おい、翔、延珠、そろそろ行くぞ」

 

蓮太郎が事務所に入ってくるのと、リパルサーレイが壁に穴をあけるのはほとんど同時だった。

 

「……報酬で直します」

「そうしてくれ」

「もしもの時は蓮太郎さんに……」

「いや、俺も金は―――」

「罪をなすりつけます」

「最悪だ!!!」

 

そんなこんなで、出発することになった。

 

 




アイテム 

アークリアクター・カレイドアーマー

翔が使用する魔法礼装。イメージモデルはもちろんアイアンマン。主人公は『アーマー』や『リアクター』と呼ぶが、これは翔が使用している礼装の一部である。
まず、リアクターが平行世界からの魔力を供給し、アーマーやそのほかの機能はこれをエネルギーとして稼働している。その制御、管理を行っているのは人工精霊の『ダイヤ』であり、さらに、超分析を支えている記憶領域という4つの部分から成り立っている。
おまけ機能として、王の財宝のような収納機能があり、ここに呼びパーツや分析によって作られた特殊アーマー(クウガアーマーなど)が収納されている。
デバイスモードではアイアンマンのアークリアクターの様な形状、人型モードでは、ダイヤが人型になる。


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第8話 森の中の襲撃者

ヘリの中の翔たちはその他の民警ペアから異様なほど注目されていた。はっきりとじろじろ見られているわけではないが、明らかに全員が翔たちを観察していた。

 

それもそのはずで、民警は通常プロモーターとイニシエーターの2人一組で行動する。しかし翔たちは、翔、蓮太郎、延珠の3人だ。しかも男が2人。イニシエーターがすべて女の子なことを考えると、プロモーターが2人いることになる。

普通ならこの状況は居心地が悪いものなのだが、翔は自然体で、蓮太郎は周りには興味がなく、延珠は連太郎にじゃれている。つまり誰も3人とも気にしてないのだ。

 

翔は、あることに気づいた。

 

「蓮太郎さん。あの人誰だかわかりますか?」

 

翔は小声である方向にいる人物を指さす。その先には巨大な剣を背負った目つきの悪い男が腕を組んで座っている。唯一その男だけが、翔たちには関心がないようだ。

 

「ん? ああ、伊熊 将監。前に一度会ったことがある。IP序列1584位。多分この中じゃ一番の実力者だ」

 

IP序列とは、イニシエーター・プロモーター序列の略で、全世界のイニシエーターとプロモーターのペアを、戦力と戦果で序列付けしたものだ。民警が世界で20万ペア以上いることを考えると、1584位というのは驚異的な数値である。

 

「へぇ、そうですか……」

 

翔はそのことを聞きながら目を細める。何か得体の知れないものを感じ取ったからだ。実力で負けているとは思っていない。うまく言葉にできない予感が働いたのだ。

 

翔が目線を下に移すと、将監のイニシエーターがいる。将監が巨体だからかひどく小柄に見えるその子は、翔と目が合うと軽く頭を下げた。

 

翔はそれには特に反応することはなく、ヘリの中で会話が起こることはなかった。

 

それからすぐにヘリは目的地に到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリから降りた各民警ペアたちは、散り散りになって目的地である影胤の潜伏地に向かっていった。

 

もちろんそれは翔たちも同じなのだが、ここはモノリスの影響を受けない場所、つまり、ガストレアのテリトリーだ。

 

一体一体なら対処できないこともないが、下手に戦うとそれを嗅ぎ付けた他のガストレアが現れる可能性がある。ボス(影胤)に会う前に余計な体力も、余計な銃弾も使っていられない。

 

そう言う理由から、ゆっくり静かに進むことにしたのだ。蓮太郎を先頭にして、その指示で止まったり木に隠れくれたりしている。

 

「あとどのくらいですかね」

「あと3キロちょいだ」

「遠い……」

「我慢しろ」

 

翔は早くも飽きていた。自分だけ飛んで行こうかとも考えている。

 

そんなことを考えていると、突然轟音が響き渡り、木に止まっていた鳥が一斉飛び立った。

 

翔たちは反射的に音のしたほうに目を向けた。そこからは黒い煙が上がっている。

 

「バカ野郎が!」

「どっかのペアが爆発物を使ったみたいですね」

 

爆発物なんて大きな音の出るものを使えば、周囲のガストレアを集めることになる。そんなこともわからないバカは、この作戦には参加していないはずである。しかし、現実に使われてしまっている。ペアの実力次第では死が決まってしまう可能性がある。

 

「助けに行きますか?」

「ああ。早く、行こ、う……」

「……どうしました?」

 

ドンドン顔が引きつっていく蓮太郎を見て翔は眉を寄せる。

 

「後ろ! ステージⅣだ!! 延珠!」

「うむ!」

「は?」

 

蓮太郎は延珠に担いでもらい、凄まじいスピードで走り去っていく。翔はすぐさま後ろを向いた。そこには、翔が倒したクモとは比べ物にならないほど巨大な4足歩行で首が長いガストレアがいた。

 

「いや、恐竜じゃないんだからッ!!」

 

ガストレアは長い首を翔に叩きつける。途中にあった木々は簡単にへし折れる威力だ。スピードも凄まじく、物理保護を張る暇がなかった。

 

砲弾のようなに打ち出された翔は、何度も木を折りやっと停止する。

 

ガストレアはそれを見て次なる標的を探そうと首を違う方向へ向けた。しかし、翔はそこまで簡単に殺せない。暗闇の向こうで一瞬光りが瞬く。次の瞬間、リパルサーレイがガストレアに命中する。

 

しかし、

 

「効いてないか」

 

ステージ4のガストレアの皮膚はリパルサーレイを弾いたため、有効なダメージを与えることが出来なかった。

 

翔が死んでないことを知ったガストレアは、巨体を揺らし翔に迫る。象の数倍の大きさがあるというのに、人が全力で走るよりもその速度は速い。翔との距離などないようなものだ。しかも、時間稼ぎのためにガストレアとの間に作っておいた物理保護障壁も構わず破壊してくる。

 

翔は木々が密集している狭い空間を縫うように飛び、ガストレアの突進を回避する。

 

翔の中には逃げるという選択肢もあったが、それよりも試してみたいことがあった。

 

「ダイヤ、クウガアーマーを出してくれ」

「イエス、マスター」

 

胸のリアクター部からクウガの生体装甲に酷似したデザインのパースが飛び出し、翔の体の各部に装着されていく。

 

翔はクウガアーマーの性能実験をこのガストレアで行おうというのだ。

 

このアーマーは前の世界でゴ・ガドル・バを倒した時しか使用しておらず、通常の状態との感覚の違いなどには慣れていない。実戦での実験は危険だが、最もいいデータが取れるのもまた、実戦の時だ。

 

「タイタンフォームモード」

 

さっきの出来事をそのまま再現したように、ガストレアが突撃してくる。

 

それを、

 

「物理保護、最大!!」

 

両腕から発生させた2枚の物理保護障壁で受け止めた。

 

何度もぶつかってくるガストレアにもびくともしない。瞬時に張ったとしてはとてつもない強度だ。

 

クウガアーマーの追加能力の一つ、クウガの形態変化をモデルにした自動能力調整だ。クウガは、戦況に合わせて自身の色を変化させて、その時その時で戦いやすくした。この機能はそれを模倣したもので、瞬時に体への魔力の割り振りを変化させ、それぞれに特化した力を得るとこができるようになっている。

 

タイタンフォームモードでは物理保護などの保護障壁が強化・巨大化される。

 

ガストレアはそれを破ろうと必死になっている。首のしなりをくわえた一撃、翔はその『溜め』の時間を見逃さなかった。

 

「ドラゴンフォームモード」

 

ガストレアの首が地面を陥没させる。しかしそこに、翔の姿はない。

 

ドラゴンフォームモードでは、物理保護と各種遠距離武器の威力、飛行能力が下がる代わりに、脚力が3倍近くにまで跳ね上がる。その脚力を利用してガストレアの胴体の下を通り抜け、胴の部分に跨る。

 

右手には、枝が握られている。

 

翔はそれに魔力を流し込む。するとクウガアーマーの能力の一つである『モーフィングパワー』により、木の棒が黒い刀に変化する。クウガの場合、各形態に合った武器しか作れないが、翔にその制限はない。また、作り出せる武器のかなり多彩だ。

 

翔は剣を振りかぶり、ガストレアの体に突き刺―――

 

キンッ

 

「折れたぁ!?」

 

堅い皮膚により剣の方が耐えられなかった。剣には魔力を流し込んでいるため、疑似バラニウムになっているが、刺さらなければ意味がない。

 

剣で刺したことで、傷こそつかなかったものの、ガストレアは暴れ始めた。

 

翔は急いでガストレアの背中から飛ぶ。折れた剣を投げ捨て、着地した先にあった倒された木の幹を両手でつかむ。

 

モーフィングパワーによって、幹が丸々大きなハンマーになる。

 

「どっせええええええええい!」

 

それを振り回し、まずは胴体を押しつぶす。さらに回転をくわえて、動けなくなったガストレアの長い首の真ん中辺りを、だるま落としのように打ち出した。

 

「ふぅ……」

 

再生する気配がないことを確認した翔は息を吐く。ハンマーを地面に落とすと、それは元の幹に戻った。モーフィングパワーで作り出した武器は、手から離れると元に戻るのだ。

 

「いい感じだな」

 

翔は自信の体を眺める。クウガアーマーの使い勝手の良さを確認したのだ。

 

このようにさまざまな能力を与えてくれる追加装甲だが、1つだけ欠点がある。それは、追加装甲を装備している間は、その装甲の制御にリソースを割かれる為にダイヤの分析能力が使えなくなるという事だ。

 

このあたりの使い分けは今後の課題にしよう、と翔は新たな課題を作り―――迫りくる剣を回避した。

 

翔の身の丈以上の剣。先ほどのガストレアほどではないにしろ、人に当たれば確実にその命が奪われる一撃だ。その凶刃の主を見る。

 

「えっと、伊熊 将監さんでしたっけ?」

 

丸太のような腕で剣を担ぐ将監が、仁王立ちしていた。

 

「ハッ、一撃で殺すつもりだったんだがな。さすがに、ステージⅣを倒すだけあってただ者じゃねえな」

 

将監は翔の言葉には耳を貸さず、バンダナで隠れた口をゆがめる。

 

翔も、将監の一言に聞き流せない単語を見つける。

 

「殺す、とは、どういう意味ですか」

「ハァ? 言葉通りの意味だろうが。あの仮面野郎は俺の獲物だ。ほかの民警ペアなんざ邪魔なんだよ」

 

つまり邪魔だから殺している、そういうわけだ。

 

熱血主人公なら『ふざけるな!!』とでも言って戦いになるのかもしれないが、翔はあいにく許せないとは思っても、ここで将監に挑みかかるほど馬鹿ではない。

 

クウガの世界のグロンギにならともかく、曲がりなりにも将監は人間であり、倒すべき敵ではない。そして、翔は将監の剣に血が付着しているのも見つけていた。既に他の民警に手をかけているのだ。

 

明確な動機がなく、ただ邪魔だからという理由で人を殺す相手に説得は不可能。しかし、戦うわけにもいかない。戦ったとすれば、将監は嬉々として襲い掛かってくるだろう。そうすれば、決着がつくまで戦うことになるのは目に見えていた。

 

つまりこの場での最善の行動は、

 

「さてと、ちんたらしてる時間はねえからな、さっさとッ」

 

将監は足元に撃たれたリパルサーレイに怯む。

 

「てめえ、不意打ちか!!」

 

将監が怒号と共に翔を睨―――もうとして、そこにはすでに翔がいないことに気が付いた。

 

最善の行動は、戦闘が始まる前に逃げてしまう事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら何でも血の気が多すぎるんだよな」

 

ダイヤの索敵圏内(約500メートル)から将監の反応が完全に消えたことを確認した翔は、クウガアーマーを解除してゆっくりと歩いていた。

 

民警はチンピラ上がりだったり好戦的であったりする場合が多い、とあらかじめ連太郎に聞いていた翔だったが、あそこまでとは予想外だったのだ。

 

おまけに連太郎とははぐれてしまった。ここでは携帯もつながらない。

 

探し回るのは非効率だと判断した翔は、2人を信じて単独で目的地に向かうことにした。

 

しばらく進むと、石造りの小さなドーム状の建物が見えてくる。その中からは火の光が溢れている。

 

「……ダイヤ」

「中には生体反応が一つです」

「将監じゃないよな」

「流石にあそこから抜かれることはないでしょう」

「だよな。ちょうどいいし、少し休んでいくか。中の人がいい人でありますように」

 

ついさっき殺し合いになりかけたのに恐ろしい度胸である。

 

「お邪魔しま……す?」

 

翔は中にいる少女には銃を向けられた。しかし、翔が首をかしげたのは銃を向けられたからではなく、その顔に見覚えがあったからだ。

 

「あ、君ってもしかして伊熊 将監のイニシエーター?」

「はい、そうです」

 

翔は理解した。

 

「お邪魔しました」

「待ってください」

 

すぐにこの場を離れようとした翔は、呼び止められる。

 

「どうかしたの?」

 

翔はいつ銃が撃たれてもいいように身構える。

 

「休んでいこうとしたのではないんですか?」

「いやぁ、だって君がいたし」

 

翔は、将監のイニシエーターがいたことから、ここが将監の拠点だと思ったのだ。

 

「将監さんと何かありましたか?」

「なんでそう思ったの?」

 

少女は手に持つ銃を下す。

 

「将監さんは脳筋で、ことあるごとにケンカを売りますから」

 

辛辣な言葉に翔は苦笑いする。ケンカを売られるどころか命を狙われた翔としては、あまり笑えない。

 

「大丈夫ですよ。私、今は将監さんとはぐれています。ここに将監さんが帰ってくることはありませんよ」

 

翔は心拍数などを計測して、少女が嘘をついていないことを確認する。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

今度は2人で建物の中に入るのだった。

 

 




アイテム

クウガアーマー

翔がアマダムを分析して作り上げた追加装甲。モデルはクウガのマイティイフォーム。追加能力は3つ。1つ目はクウガのフォームチェンジを利用した能力値の即時変更。2つ目はモーフィングパワーでの武器の生成。3つ目はライジングフォームの再現として、少しの間だけ魔力の供給リミッターを解除する機能。ちなみにライジングフォームを使うと、その後一定時間、魔力の供給量が低下する。


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第9話 イニシエーターの少女

やっと、やっとヒロインが追加される……ッ

本編どうぞ。


「改めて自己紹介させてもらいます。三ヶ島ロイヤルガーター所属プロモーター伊熊 将監のイニシエーターで、千寿 夏世と申します」

 

「えーと、俺は……天童民間警備会社の夜月 翔かな?」

 

なんとなく天童民間警備会社と名乗って首をかしげる翔。

 

「本当ですか?」

「いや、嘘なんだけど」

 

少し目つきを鋭くした夏世にあっさり正直になる翔。

 

「まあ、今はフリーだから。ここから帰ったら天童民間警備会社に入ろうと思ってるから気持ちが先走っちゃったから……」

「イニシエーターがいないようですが、何があったんですか?」

 

どんどん追い詰められていく翔。この子は侮れないと気を引き締める。

 

「いないからね、イニシエーター」

「イニシエーターがいないのにここに来たんですか? バカなんですか?」

「悪いけど、僕は天才だ」

 

翔は、話題を変えようと思い、夏世の様子を見て思ったことを口にする。

 

「なんか、僕の知り合いのイニシエーターと比べると大分違うよね、夏世ちゃん」

 

しゃべり方や纏っている空気、さらに夏世は武器として銃を持っている。ちなみに延珠はイニシエーターとしての能力を利用した蹴り技で戦っている。

 

ちなみに翔には無意識のうちに思ったことを口にしてしまう癖がある。

 

「夏世ちゃんのモデルはチンパンジーか」

「撃ち殺しますよ」

「あ、違った? ごめんごめん」

 

歳には合わないその落ち付き具合と武器を持っている点から、自分の知力を上げ、さらにイニシエーター自体の能力では戦えないものと予測した翔は、夏世のモデルはチンパンジーだと思ったが、夏世の様子を見て慌てて謝る。

 

「どうしてそう思うんですか……確かに、将監さんは脳味噌まで筋肉でできているうえ堪え性がないので、戦闘では私はバックアップに回っています。作戦も基本的には私が立ててますけど」

「やっぱりチンパン――」

「その先を言うと頭が吹き飛びますよ。私のモデルはドルフィンです」

「ドルフィン……イルカか。なるほどね」

 

翔はその言葉に納得する。さらに翔は、銃を向けられたときにあることを発見した

 

「君だったんだね。爆発物を使ったのは」

 

翔の言葉に夏世は少しおびえ、珠を地震の後ろに隠すようにする。

 

夏世の銃にはグレネードランチャーユニットが取り付けられていた。その薬室の中に弾がないことに、銃を向けらえて気が付いたのだ。もちろん、ここに来る前にあらかじめ弾を抜いていた可能性もあったが、夏世の反応はその可能性が0%であることを告げていた

 

「……罠に、かかったんですよ」

「罠?」

 

夏世曰く、将監と一緒にしばらく進んでいると、森の先の方で点滅する青いパターンが見えたそうだ。二人は他の民警だと思い近づく、しかしそれはガストレアだったという訳だ。

 

味方だと思っていたら敵、そのことに混乱した夏世はとっさにグレネードランチャーを使用してしまったのだ。

 

「なるほどねぇ。チョウチンアンコウみたいなガストレアだね」

「……ガストレアに追われた時に将監さんとはぐれてしまいました。私は自分の力があまり戦闘向きではないことは理解しています。なので、やみくもに探し回るよりも、ここに隠れて将監さんからの連絡を待とうと思ったんです」

「で、僕が来た、と。僕と似てるなぁ」

 

翔は顎に手を当てて頷く。

 

「似てる?」

「んー、僕もガストレアに襲われてね。一緒にいた天童民間警備会社の人とはぐれちゃたんだ。ステージⅣはやっぱり強かったよ」

 

朗らかに笑う翔に夏世は目を真ん丸にする。

 

「ステージⅣ……だったんですか?」

「そう言ってたよ。一緒にいた人は」

「もしかして、倒したんですか?」

「うん」

「……」

 

夏世は、目の前にいる少年が突然得体の知れないものに見えてきた。ステージⅣのガストレアは、民警ぺアが一組だけで倒せるような存在ではない。まして、イニシエーター抜きのプロモーターⅠ人で倒すという事はとてつもなく異常なことだ。

 

夏世の高い知能を振り絞っても答えが見えてこない。目の前の少年の腕は、自分のプロモーターの半分ほどの太さしかない。さらに言えば武器を持っているようにも見えない。まさか、素手でステージⅣのガストレアに傷をつけることは出来ない。少年は赤い鎧を着ているだけだが、それにしたって体全てを覆っているわけではなく、さらに鎧の厚さも薄い、パワーアシストはあまり期待できないだろう。

 

「貴方は、何者ですか?」

 

夏世は勇気を振り絞って聞いてみた。

 

「僕? そうだなあ……通りすがりの魔法使いってところかな。あ、いいなこのフレーズ」

「ふざけないでください。子供だからってバカにしてますか?」

 

夏世はふざけられたと思い、ムッとする。

 

「じゃあ腕出して」

「え?」

「腕だよ。ケガしてるでしょ」

 

翔は差し出された右手の袖をまくった。そこには大きな切り傷があった。

 

「これはガストレアにやられたの?」

「はい」

「体液は?」

「大丈夫です。少量でしたから」

 

ガストレアの牙や爪で傷をつけられると、そこからガストレアの体液、つまりガストレアウイルスを注入される。イニシエーターなら、ある程度は大丈夫だが、プロモーターはそれだけで致命傷になる。なぜならガストレア化するからだ。イニシエーターのほうも、浸食率が50パーセントを超えると同じ運命をたどることになる。

 

「帰ったらちゃんと検査してくれ、よっと」

「私を心配してくれ――ふわぁ~……あ!」

 

夏世はセリフの途中で襲ってきた心地よい感覚に、思わずふやけた声を出してしまう。そしてすぐに翔がニヤニヤしているのが目に入る。

 

「よし終わった」

「え……これ」

「治癒魔法だ」

 

翔はにやりと笑う。夏世はすっかり傷のふさがった腕を見て呆然としている。

 

「気持ちよかった?」

「ッ!」

 

耳元でささやかれた声に、夏世は顔を赤くして下を向いた。

 

「翔さんは意地悪ですね」

「知ってる。で、信じた?」

「はい。なんとなくですけど」

 

夏世はそっぽを向きながらも答える。

 

「でもいいですね。あなたみたいなプロモーターだと退屈しなさそうです。あなたのイニシエーターになる子がうらやましいです」

「将監といると楽しくないの?」

「私達イニシエーターは、殺すための道具ですから」

 

言外に楽しくないと言う夏世。同時に翔は、イニシエーターの中にはこういう子もいるのかと理解する。

 

「(将監にそう教え込まれたのか?)いや、違うだろ。少なくとも道具じゃない」

 

翔は否定する。もちろん翔は夏世を道具だとは思っていない。しかし夏世は顔をうつむかせる。

 

「夜月さんは人を殺したことがありますか?」

 

夏世の突然な質問に、とっさに小会えることが出来ない翔。

 

「私はあります」

「……なんで殺したんだ」

「将監さんの命令です。あの仮面野郎を殺すのは俺だと言って、他の民警ペアを殺させたんです。もちろん将監さんも殺しました。そんな命令を受けたのはこれが初めてでしたけど……怖かったです。手が震えました。でも、そのうちに慣れると思います」

 

夏世は、最初に翔に銃を向けた時、震えていた。また人を殺すことになるかもしれないと思ったのだ。

 

夏世の言葉に一度息を吐き、翔は語る。

 

「人を殺すのに慣れてもいいことなんてないぞ」

「それは、あなたが人を殺したことがあるから言ってるんですか?」

「うん。そうだよ」

「え?」

 

まさかの答えに夏世は驚愕する。夏世は、今日、人を殺した感覚は一生忘れることが出来ないものだろうと思っていた。一生その罪に苛まれて生きていくことになると思っていたのだ。

 

しかし、翔は想像していた自分の末路とは違った。何かに苦しんでいる様子がなかった。

 

「実際に殺したのは片手で数えるくらいだけど、人が死ぬのは、数えきれないほど何度も見てきた。多分そのせいなんだよね、どんどんそれが日常の一部になったんだ。人が死ぬのはもちろん今でも悲しいけど、最初と比べて随分軽くなってきたと思う。やっぱり空しいよ、そう考えるようになっちゃうのは。だから君にはそうなってほしくない」

 

儚げに笑う翔から、夏世は目が離せない。同時に、自分の中で何かが生まれていくような感覚がした。

 

「で、でも、私は道具で……」

「人を殺してこんなに震える道具がどこにあるんだ?」

 

せめてもの反撃を口にしたが、それを遮って手を握られたことで夏世は赤くなり下を向く。

 

翔は何も言わずに手を握り続け、夏世が何かを言おうとしては口を閉じてというのを繰り返していると、無線機からノイズと共に将監の声が聞こえた。

 

《おい!! 生きてんなら返事しろ!!》

 

それに反応した夏世は、翔の手を振り払い機器の近くに行く。

 

「将監さん、ご無事でなによりです」

《たりめぇだろ! 俺を誰だと思ってんだ!! それより、いいニュースがある》

「なんですか?」

《仮面野郎を見つけたぜ》

 

しばらくして通信が終わる。すぐに、翔と夏世は指定された場所に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指定ポイントに急いでいると、夏世が話しかけてくる。

 

「夜月さん、あれが何かわかりますか?」

「さあ……?」

 

夏世に指の先には高くそびえたつ物がある。

 

「『天の梯子』。大型のレールガンモジュールで、奪われた世代の象徴です」

「あんなに大きいと、的になるだけだろうに」

 

奪われた世代とは、ガストレア大戦を経験した世代だ。その誰もが、ガストレアにより近しい人を殺された経験がある。

 

反対にガストレア大戦後に生まれた世代は、無垢の世代と呼ばれる。

 

「今ではもう破棄されて使われてません」

「こんな場所にあるんだもんな」

 

そんなことを放しながら目的の場所に到着すると、そこには先客がいた。

 

「あ、蓮太郎さんに延珠ちゃん」

「翔! 無事だったのか! っと、そいつは伊熊 将監のイニシエーターか。なんで一緒にいるんだ?」

「それは成り行きで。っていうか、ひどいじゃないですか2人とも。僕を置いて逃げるなんて」

「うっ、す、すまん」

「まあ、倒したからいいんですけど」

「倒した!?」

「ええ、何か問題が?」

 

蓮太郎も、夏世と同じことを考えていた。つまり、『お前何者だよ!!!』と。

 

「そんなことよりも」

 

蓮太郎たちの思考を、『そんなこと』で流す翔。

 

「あそこに影胤たちがいるんですよね」

 

翔たちの眼下には荒れ果てた町が広がっている。ガストレアの進行により住民に放棄された町だ。

 

「ああ、そうだな」

「ちなみに、後ろには結構ガストレアがいるんですけど、誰かが残った方がいいですよね」

「なに?」

 

後ろを振り返った蓮太郎が目にしたのは、暗闇の中で不気味に光る無数の赤い目だった。

 

「誰かが数を減らさないと、帰れなくなりますよ」

「翔、ここに残ってくれ。影胤は俺が倒す」

「大丈夫ですか? ぶっちゃけ、そっちの方が危険の様な気もしますけど」

「ああ、俺も影胤と同じだからな」

 

同じ、という言葉に一瞬眉を寄せる翔だったが、すぐにその意味を理解し、蓮太郎の体をスキャンすることで確信する。

 

「なるほど、分かりました。なるべく早く片付けてすぐに行きます」

「いや、流石にこの数は無理があるだろ。危なくなったら逃げていいぞ?」

「大丈夫だと思いますよ? あと少しで秘密兵器が出来そうなんで」

「秘密兵器? なんだそれ?」

「それは今後のお楽しみという事で」

 

翔はニヤリと笑う。その顔に自分の知り合いの医者が見せる笑みが重なったような気がする蓮太郎。その顔に少しぞっとする。

 

「それじゃあ、行動開始ですね」

「ああ。気をつけろよ」

 

再び蓮太郎、延珠と別れる翔。夏世はその場を動かない。どうやら一緒に戦うつもりらしい。

 

「じゃあ、やろうか。っていうか、夏世ちゃんは隠れててもいいよ?」

「この数を一人で倒せると思ってるんですか?」

「正直、余裕だと思うけど。ステージⅣとかが来なければ」

 

夏世は銃を構え、翔はリアクターの出力を戦闘モードに切り替える。

 

直後、銃声と共に戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮太郎と延珠は廃墟と化した街を慎重に歩いていた。あたりは暗くなり、月が出ている。少し前までは銃声が聞こえていたが、今では嘘のように静まり返っている。

 

「うわっ」

 

延珠は何かに躓く。

 

「ん~? れ、蓮太郎……これは……」

「腕、か」

 

延珠は自分が何に躓いたのかを確認し貌を青くする。延珠が躓いたものそれは人の腕だった。

 

短太郎が目を凝らして周りを見ると、今まで気が付か中ただけで、あちこちに血濡れになった死体が無造作に、大量に転がっていた。

 

更に背後で音がする。蓮太郎は音がした建物の入り口に銃を向ける。そこから出て来たのは、

 

「伊熊 将監か?」

 

よろよろと、ゾンビのような足取りで、将監が出てくる。

 

「剣は……俺の剣はどこだ……? あれさえ、あれ、ば」

 

そして倒れる。その背中には、将監の探し物である黒い大きな剣が突き刺さっていた。犯人は言うまでもないだろう。

 

「パパ~びっくり~。本当に生きてたよ~」

 

あどけなく、しかし邪悪な声が響く。

 

聞き覚えのある声に蓮太郎と延珠は反応する。

 

十字架と月を背にして、影胤と小比奈が教会の屋根に立っていた。

 

「幕は近い。翔君がいないのは残念だが、決着をつけよう、蓮太郎君」

 

無気味な仮面の下からそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その部屋には、大小さまざまなディスプレイがあった。そこには影胤が潜伏している廃墟の様子が映し出されている。そして、今まさに戦闘が始まろうとしていた。

 

ここは影胤討伐作戦の司令部だ。なんと、東京エリアの代表である聖天子直々に指揮を執っている。

 

薄暗いその部屋の中に足を踏み入れる人物がいた。

 

「木更!?」

 

聖天子のサポートをする聖天子付補佐官、『天童 菊之丞』が木更を見て驚く。他の社長格の男たちも同じ反応だった。

 

木更たちは菊之丞を無視して用意された椅子に座る。そのあとになって明らかな作り笑顔で菊之丞に挨拶する。

 

「ご機嫌麗しゅう、天童閣下」

 

菊之丞は無言で木更を睨む。

 

「地獄から舞い戻って来たか、復讐鬼よ」

「ここに居合わせたのは偶然に過ぎません。気の回しすぎではございませんか?」

「ふん、よく回る口だ」

 

その時、木更の瞳が鋭く冷たい瞳に変わった。

 

「すべての『天童』は死ななければなりません。天童閣下」

 

明確な殺気をにじませる木更に、周りの者は唾を飲み込む。

 

「お二人とも、その辺で」

 

聖天子の言葉で木更は殺気を収める。そして、何事も無かったかのように前を向く。菊之丞も同じだ。

 

「では天童社長。まず聞きたいことが1つあります」

「なんでしょうか」

「天童民間警備会社から送られてきたヘリへの搭乗希望リストには3人と記載されていましたが、どういう事でしょうか?」

 

その言葉に回りにいる別の民警会社の社長たちがざわつく。民警ペアは2人で一組、奇数になることはありえないからだ。

 

「2人はうちの社員です。もう1人は、私にもよくわかりません」

「わからない?」

「はい。私はここに来る前に、彼の事を調べました。しかし、何も……少なくとも私が手に入れられる情報の中には彼は存在していませんでした」

「その人の名前は?」

「夜月 翔です」

 

名前を聞いたすべての人物が、『夜月 翔』とは誰なのか、自分の知る人物ではないかを脳内検索したが発見できない。

 

「聖天子様もご存じないようですね」

 

そんな聖天子の様子を確認して木更は続ける。

 

「彼はこうも言ってました。自分は異世界から来た魔法使いだと」

「魔法使い、ですか?」

 

木更に注がれていた視線が、いっきに疑いの眼差しに変わる。

 

「信じられませんよね? 私もです。ですが社員によると、彼は1人でステージⅢのガストレアを倒す実力があるようです。この際、戦力は少しでも多い方がいいと判断し、作戦に参加させました」

「……分かりました。では、次の質問です。里見ペアは現在蛭子 影胤に挑んでいますが、勝率はいかほどと見えますか?」

 

他の民警ペアは全滅してしまっている。夜月翔という人物が影胤の前にいない以上、彼らが最後の希望なのだ。木更は少し考えた後、答えを言う。

 

「……30%ほどかと」

 

その言葉に、周囲からは落胆のため息が聞こえる。

 

「しかし、私は信じています」

 

木更はディスプレイに映った蓮太郎を見る。

 

「彼は必ず、勝ちます」

 

その根拠のない言葉に、聖天子は理由を尋ねる。

 

「理由をお伺いしても?」

「詳細は省きますが、10年前、里見君が天童の家に引き取られてすぐの頃、私の家に野良ガストレアが侵入しました。ガストレアは私の父と母を食い殺しました」

 

木更以外しゃべる者はない。

 

「私はそのときのストレスで持病の糖尿病が悪化。腎臓の機能がほぼ停止しています。そして、その時、私を庇った里見くんは……」

 

木更は告げる。勝利の可能性を。

 

「右手、右脚。そして左目を失ったのです」

「失った!?」

 

木更のおかしな発言に社長たちは再度ざわめきだす。

 

「ど、どういうことかね? 彼はどう見ても五体満足にしか……」

「瀕死の彼が運び込まれたのがセクション二十二。執刀医は当代きっての神医と謳われた『室戸 菫』医師です」

「室戸、菫、だと? じゃあ、まさか彼は!」

「ご理解していただけましたか?」

 

木更は周りの社長を見回す。

 

全ての人間が木更の言わんとすることを理解する。

 

「彼もなのか!?」

 

その言葉は、映像によって証明されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちにケースは取り戻せない。なぜなら、私たちが立ちふさがるからだ!」

 

蓮太郎は笑って襟を緩める。

 

「1回目は負けて、2回目は逃げて、3回目は味方が全滅した後か……ああ、願ってもない状況だよこの野郎!! 蛭子 影胤、貴様を排除する!!」

 

蓮太郎は構える。それに対して影胤は、

 

「やってみたまえマキシマムペイン」

 

斥力の壁を持って返した。

 

影胤を中心に斥力フィールドが展開する。フィールドは地面をえぐり、蓮太郎に迫る。

 

「天童式戦闘術一の型三番、轆轤鹿伏鬼!!」

 

蓮太郎は、拳一つで挑んだ。

 

「無駄なことを」

 

たかが拳では、どのような拳法を学んでいようとイマジナリーギミックを突破することはできない。

 

そのことから余裕の態度を見せていたが、何時まで経っても弾き返されない蓮太郎に違和感を覚える影胤。

 

次の瞬間、蓮太郎の右手から薬莢が排出され、斥力の壁が粉々になる。

 

拳は影胤の顔面に直撃した。仮面の端から血が流れる。

 

「なッ!! マキシマムペインを破った!? その腕は!?」

「蛭子 影胤……テメェに義理は通す気はねぇが……俺も名乗るぞ」

 

人口皮膚が右手右足から剥がれていく。

 

その中にあったのは、黒光りする金属でできた腕と脚。

 

「元陸上自衛隊東部方面隊第787機械化特殊部隊……」

 

つまり、バラニウム製の義肢だ。

 

「『新人類創造計画』里見 蓮太郎!!」

 

2人の人間兵器による戦いが始まった。

 




夏世ちゃんはこれで落ちたってことで、いいですか? いいですよね。

……今回少し長くなったなぁ。


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