幼馴染は覇王でした。そして俺はーーー (流離う旅人)
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プロローグ
memory 1 『別れーーーそして、始まり』


魔法少女リリカルなのは見ていて書きたくなり書いてみました!
投稿が遅めですが、なるべく早く出していきます!

ショウ「おい、作者。そこはなるべくじゃなくて絶対だろう」

作者「ーーーよし、アインハルトさん始めちゃってください!」

ショウ「明らさまに話をそらすな!」

作者「グハッ!」

アイン「えっと、リリカルマジカル始まります!」


とある国の城の一室でぐっすりと眠りにつく少年がいた。

城の外からは人々の声で賑わっているようだ。

城の中では役人や騎士たちが動き回っているため役人の慌ただしい声や騎士たちの甲冑からガチャガチャと金属がぶつかり合う音が耳をつんざく。

だが、少年はまるで聞こえていないようでピクリとも動かない。

起き上がる気配も自分から目覚めようとする気もなさそうだ。

時刻はもう少しで昼に達するだろう。さすがにここまで寝る必要があるのかと言いたくなってしまう。

と、どうやら何時までも寝ていることに痺れを切らせた様子の少年が少年の眠る一室へとやや小走りで歩いていく。

少年の顔には見て分かる通りの怒りが顕著に現れていた。

察しの通り、今もぐうすか寝ている少年が原因である。

 

バンッ!

 

勢いよくドアを開け放った為、そのまま壁にめり込んでしまうドア。

うん、ドアはちょっとの力で開くんだよ? そこを理解しているのだろうか?

めり込んだドアを気にも留めずズカズカと少年が眠るベッドへと近付いていく。

そして、横まで来ると拳を高く振り上げ、

 

「さっさと起きろーーー!」

 

少年へと勢いよく振り下ろした。

 

「うぉおおお!?」

 

今の今まで寝ていた少年が拳圧で目が覚め、とっさに横へと躱す。

その拳は本来狙っていた少年ではなくベッドを貫いた(・・・)

 

「おい!? 今のは明らかに殺る気だっただろ!」

 

「何を言うか。お前を起こそうとしただけだ」

 

「うん。今のだったら絶対起きないよね? むしろ永遠の眠りについちゃうよね?」

 

「それよりさっさと行くぞ」

 

「露骨にスルーしただと!? くっ! さすが俺の親友だぜ! なぁ、クラウス(・・・・)

 

「いいからさっさと支度しろ! お前が僕たちを集めたんじゃないか。オリヴィエ達(・・・・・・)も待っているんだぞ」

 

「ゲッ、俺そんなに寝てたのかよ。……やばいなぁ、オリヴィエに殴られるんだろうなぁ」

 

それはお前の自業自得だ。

しかし、オリヴィエに殴られるという点についてはーーー自分にも僅かながら通ずるところがある。心の中で手をあわせておこう。

 

「むっ! 今、俺に合掌しただろ!」

 

相変わらず変なところで鋭い奴だ。普段からそれぐらいならこちらも苦労しないのだがな。いや、諦めよう。無理な話だ。

 

「僕は先に行っているからお前も早く来いよ」

 

「ああ、分かった」

 

そう言うと足早に部屋から去っていく親友。

それを見送ってから自分も寝間着からいつも通りの服に着替える。

いつもは動きやすさを優先しているので紺を基調とした長ズボンに上も同じく紺色のTシャツだ。

 

着替えを済ませ、みんなの元へと急ごうとするが自分が寝起きだったことを思い出す。

きっと、涎やら髪が跳ねたりなどとすごい惨状になっているだろう。

踵を返し風呂場へと向かう。

着くなり今来たばかりの服を脱ぎ捨て軽くシャワーを浴びる。

タオルで水分を拭き取り、髪をセットする。

乾かす時間がないので少しズル(・・・・)をする。

 

少年の足元に魔法陣が浮き上がり、熱風が発生する。

熱風が吹き抜けると髪はもう乾いていた。

こんな所を誰かに見られたら口々にこういうだろう。

 

魔法(・・)をそんなことに使わないでください!』、と。

 

さて、クラウス達がそろそろ我慢の限界に達しそうなので今度こそみんなの元へと向かう。

勿論、全力ダッシュでだ。

みんな怒ってるかな?

なんて呑気なことを考えながら。

 

 

 

□■□

 

 

 

遅い。

さっき自分が起こしに行った時はしっかり目を覚ましていた。

寝間着から着替えるだけなのだからそう時間が掛かるわけでもない。

 

(あいつは一体何をやっているんだ!)

 

そう思っているのは自分だけではないようで他のみんなからも苛立ちを感じる。

……ああ、早く来てくれ。オリヴィエの笑顔が怖いんだ。

 

その時だった。

 

バンッと扉が開く音が聞こえた方を向くと膝に手をつき肩で息をする少年がいた。

 

「ゼェ、ゼェ、お、遅れちゃった♪」

 

その時、僕らの中で何かがブチリと音を立てて千切れた。

全員が肺一杯に空気を吸い込み、叫んだ。

 

『遅れちゃった♪ じゃねぇーよ! ショウ(・・・)

 

僕らの心は一つになった。

その時、約三名ほど頬を赤く染めていたような気がするのだが気のせいだろう。

 

 

□■□

 

 

あの後、全員からO☆HA☆NA☆SIされボロボロのまま席に着く。

遅れた俺が悪いけどさ、やり過ぎだろ。

だって、O☆HA☆NA☆SIの途中意識が朦朧として危うく川渡りそうになったよ? あの時、死んだ父上と母上が『まだこっちに来てはいけない!』って止めてくれなかったら俺間違いなく死んでたよ?

ああ、父上、母上、俺はこれからも強く生きていきます。

 

「んで、あたしら集めた理由ってなんなんだよ?」

 

と、エターナルロリータこと鉄槌の騎士ヴィータが聞いてきた。

『夜天の書』を守る為に組み込まれている『守護騎士システム』であるため身長が伸びずに子供体型のままなのだ。

本人もどうやらそのことがコンプレックスらしくよく『成長したい』とボヤいていた。

 

チャキ

 

「……どうしたのかな、ヴィータ? アイゼンを俺の首元に突きつけたりなんかして」

 

「今、絶対に失礼なこと考えてただろ?」

 

「うん、やっぱりヴィータはロリだなって思いました。(そ、そんなこと考えてないぞ!)」

 

「そうか。お前の考えてることはよ〜く分かった」

 

「そうか。じゃあ、アイゼンをーーー」

 

「そのまま潰れてろ!」

 

容赦なくアイゼンを俺の頭へと振り下ろした。

 

「痛い! お前は鬼か!? 今、頭からゴッキャって変な音が聞こえたぞ!」

 

「いや、それで平然としてられるお前の方が鬼だと思うぞ」

 

殴っておいて人を鬼扱いだと!?

さすがにそれはないだろ? だって、頭から現在進行形で血が流れているし骨も陥没したんだし。

それが異常だとショウは気付かない。

 

「なあ、クラウス。俺は何で殴られたんだろうか?」

 

「本音と建前が逆だったからだろう」

 

「なん、だと!?」

 

口に出してましたか。そりゃ、殴られても仕方ないか。

 

「それで本当に何で僕達を呼んだんだ?」

 

「それはなーーー」

 

俺は全員を見渡す。

その目が真剣なものだったので全員が唾を飲んだ。

今、ここにいるのは『夜天の書』の守護騎士である五名、鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎士シャマル、守護獣ザッフィーラ、烈火の将シグナム、管制人格であるアインスのヴォルケンリッター。

『夜天の書』の主は何を隠そうこの俺である。

 

五歳の誕生日の時に忍び込んだ父上の書斎で偶然見つけて契約しちまったんだよな。

でも、悪い気はしていない。

だって、家族が一気に増えたのだから。

 

そして、俺の親友クラウスこと『覇王』イングヴァルト、『冥王』イクスヴェリア、『聖王』オリヴィエだ。

 

この三人とはオリヴィエの国に家でーーー留学した時に出会った。

その時から俺の良き友人たちである。

この三人は色々と複雑な運命にある。それを知った時、何とかすると決めたのは恥ずかしいので内緒だ。

 

 

「何となく、だ」

 

……

………

 

『ふざけんなぁ!』

 

「待った! 冗談! 冗談だからその振り上げた拳を下げろ!」

 

そして、俺へと振り下ろされる拳たち。

そういう下げろって意味じゃねぇ!

 

「痛てて、まあ、今日呼んだのはちょっとした挨拶かな」

 

「挨拶?」と、俺以外が配られた飲み物を飲みながら首を傾げる。

 

「そ。最初はヴォルケンリッターのみんなだな」

 

その時、僕は気がつくべきだった。親友の顔にどこか寂しさと悲しさが見え隠れしていたことに。

 

「ヴィータ、お前とはケンカばっかりだったけど毎日がすごく楽しかった。きっと、兄妹っていうのはこういうのなんだろうな〜って思えた。アイゼンと一緒に俺を守ってくれてありがとう」

 

「な、何だよいきなり? 照れるだろうが」

 

何で

「シャマルとクラールヴィントの回復にはいっつも助けられた。何でも頼りになれるお姉さん的存在だよ、シャマルは。でも、料理が壊滅的だったな。次会う時まで(・・・・・・)にもっと上手くしといてくれ」

 

「うっ、頑張ります」

 

何でだ

 

「シグナムは烈火の将と言われるだけあって模擬戦するたびに負けてたけどその度にアドバイスをくれてありがとう。お陰でみんなを守る力がついた。シグナムは尊敬できるお姉さんだ」

 

「私には勿体無い言葉だな」

 

何でだよ

 

「ザッフィーラ、俺に誰かを守ることの意味を教えてくれてありがとう。ザッフィーラの教えがあったから今まで俺は頑張ってこれた。あとお前は少し寡黙すぎるところがあるからもう少し喋れるようになれよ」

 

「努力しよう」

 

どうして

「アインスお前はもうちょっと感情を出せるようにな。それともう少し俺たちを頼れよ? 家族なんだからさ」

 

「主の命ならば善処しましょう」

 

どうしてそんな

 

「オリヴィエ、お前と会った時俺が怒らせて殴られた時のあの一発はすげー効いた。結局格闘ではオリヴィエには勝てなかったよ。ーーー後悔のない選択をしろよ」

 

「ええ、分かっています。しかし、ショウも強いですよ? 拳を交えるたびに冷や冷やします」

 

どうしてそんなに

 

「イクス、お前はこれからも先きっと辛い思いをする。でも、そんな時はオリヴィエ達を頼れ。きっとお前の助けになってくれる。お前は俺と同じで寝過ごすとこあるから気を付けろよ? 『眠り姫』」

 

「むっ、その呼ばれ方は不名誉ですね。ですが、最初の忠告はしかと胸に刻みましょう」

 

今にも

 

「クラウス、お前との出会いは散々だったけどさ……お前は俺にとって初めての友達で親友なんだぜ。お前にばっかり迷惑掛けた、ゴメン。もし、また会えたならお前の『覇王流(カイザーアーツ)』と俺の『剣王流(シュバルツアーツ)』どっちが強いか決着つけようぜ!」

 

泣き出しそうな顔で、まるでこれが今生の別れのように語るんだ。

 

ショウに詰め寄ろうとすると突然立ちくらみに襲われる。

それもショウ以外全員がだ。

強烈な眠気が襲い、今にも深い眠りへと落ちてしまいそうだ。

 

「やっと効いてきたか……」

 

「な、にを、した、ショ、ウ!」

 

「さっきみんなが飲んだのにはさ睡眠薬を盛ったんだ。一番強烈な奴を」

 

「どう、して!?」

 

「もうすぐ近隣の王国がここに攻め入ってくる。だから、そのお別れが言いたくてさ」

 

何を、言っているのか分からなかった。

いや、分かろうとしなかった。脳がそれを拒んだのだ。

 

「もう国民達の避難は終わってる。勝手だけどクラウス、お前の国に避難させた。ヴォルケンリッターのみんなは俺が死んでもしばらくは活動できると思うから安心してくれ」

 

「いみ、わかんねぇ、よ!」

 

「なぜ、です? ある、じ」

 

「みんなは俺の大切な家族だから傷つけたくないんだ」

 

「いっては、だめ、です」

 

「や、めるん、だ、ショ、ウ」

 

「それは出来ない。みんなのことは忠臣のアリンに運ばせるから安心して眠っていてくれ」

 

そう言うとショウは踵を返し広間を出て行こうとする。

行かせてはいけないと自分の体に鞭を打ち重い体を動かしショウの前に立ちはだかる。

 

「ここから、先には行かせ、ない!」

 

ショウの動きを止めるべく全力で拳を振り抜いた。

だが、万全な状態ではない拳は空を切るだけだった。

視界からショウが消えたかと思うと体が宙に浮いていた。

一瞬で懐に入り込み足払いを掛けられたのだ。

 

「グッ、ショ、ウーーー」

 

受け身を上手く取れず必死に空気を取り込もうと息が上がる。

だが、息をするのも忘れ僕は目を見開いた。

 

ショウの頬には涙が伝い、ポタポタと床に一滴、また一滴と落ちていく。

ショウは今まで僕達に弱いところを見せはしなかった。

そのショウが今、初めて僕の前で泣いていたのだ。

それを見てしまったから僕はもう何も言えなかった。

そして、薄れゆく意識の中微かにショウの唇が動いた。

その意味を理解したくなかった。だって、その言葉は今の僕たちには残酷なまでの宣告と何ら変わらないのだからーーー

 

ーーーさようなら

 

そこで僕の意識は完全に眠りに落ちた。

 

 

□■□

 

 

別れは済ませた。

みんなのことはアリンが運んでくれているので何の心配もない。

ヴォルケンリッターのみんな。父上と母上がすぐに死んで一人ぼっちだった俺の心を温めてくれてありがとう。

 

オリヴィエ、お前はもしかしたら、いや、確実にゆりかごに乗ることを選ぶだろう。でも、俺は止めないぜ。

それがお前の覚悟なのだから。

 

イクス、きっとお前は後世に最悪の王として語り継がれることになるだろう。でも、一人で抱え込まないでくれ。

周りが何と言おうと俺たちがお前の側についている。

 

クラウス、お前には最後の最後まで迷惑掛けたな。

でも、俺が死んでも止められなかった自分の責任だと責めないでくれ。

きっとお前はそうやって全部抱え込んでしまうだろう。だけど、一人で抱え込むな。全部吐き出しちまえ。そしたら、仲間が助けてくれる。

そして、いつか絶対に決着つけようぜ! 親友。

 

閉じていた瞼を開ける。

見えるのは焼け焦げた荒野、此方に侵攻してくる黒い塊。

敵兵だ。ざっと見てどう少なく見積もっても一万人はいるな。

だんだんと喧騒が大きくなっていく。

さあ、始めよう。そして、終わらせよう。こんなくだらない戦争を。

いつの日かみんなが笑いあうことの出来る未来のために。

 

『我は剣王! これ以上の侵攻は我が許さぬ! 民のため、家族のため、我が親友のためにもここは絶対に通しはせん! さあ、行くぞ。剣を取れ! 『剣王』ショウ・S・ナガツキ、推して参る!』

 

腰に挿した剣の柄を握りしめ、抜き放つ。

それが合図だったかのように戦いの火蓋は切って落とされた。

ショウは敵兵の目に止まらぬ早さで走る。

敵兵は無差別的に魔力弾を撃った。

魔力弾を剣で切り裂き、辺りを閃光が包んだ。

 

 

 

□■□

 

 

 

 

ショウ・S・ナガツキ

 

『聖王』、『覇王』、『冥王』の親友にしもう一人の王『剣王』である。

彼は民のために一人で敵前へと赴き、一万人の敵兵をその剣で薙ぎ倒した。

しかし、魔力も体力も既に限界を超えて疲労しその生涯を終える。

彼は民にも兵たちにも絶大な信頼を得ていたためその事実に全員が涙した。

当然、それはクラウス達も同じだ。

ベルカで起こった戦争はこの数週間後、集結する。

 

ゆりかごに乗ったオリヴィエの手によってーーー

 

 

 

ーー後に彼は民たちからこう敬い、語り継がれた。

 

ーー『救世主』、と。

 

 

 

 

そして、時は現代へと移り変わっていく。

 

これは救世主と謳われた『剣王』の少年と友を救えなかった『覇王』の思いを受け継いだ少女の物語

 

 

 




次回予告

「ーーー俺、死んだんだよな」

「みんなはどうなったのかな?」

「もっと、強くならないと」

「初めまして、アインハルト・ストラトスです」

memory 2 『初めまして』








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原作前
memory 2 『初めまして』


作者「カメ投稿の私とは思えないほど早い投稿です」

ショウ「お、あう。どうしたんだよ?」

作者「いや、何かちょっとやる気が出たというかなんというかですね」

アイン「でも、いくらやる気が出たからといって車が動いている時に書くのは止めた方がいいですよ? 現に今日酔ってましたよね」

作者「ギクッ」

ショウ「ーーーなぁ、作者」

作者「な、何かな?」

ショウ「投稿早くても自分の体調考えなきゃ意味ねぇだろうが!」

作者「ヘブンッ!?」

〜取り組み中ですのでしばらくお待ちください〜

アイン「しばらく掛かるそうなので始めましょうか。それでは、リリカルマジカル始まります!」


おぎゃあ、おぎゃあ!

 

「はぁ、はぁ、産まれ、たの?」

 

「ああ、産まれたよマリア。元気な男の子だ」

 

二人の手の中には今産まれたばかりの小さな赤ん坊が泣いていた。

新しい家族が増えたことに二人は涙した。

今日からは三人家族になるのだ。

そして、決めなきゃいけないことがある。

 

「マリア、この子の名前もう決めてるんだ」

 

「あら、ミナト。実は私もよ」

 

「そうか。たぶん考えてることは同じだと思うからせーので言おうか」

 

「ええ! せ〜の!」

 

二人は息を合わせ、まだ泣いている赤ん坊に向かって彼の名前を呟いた。

 

『ショウ・S・ナガツキ』

 

それは民を、家族を、親友を守らんと戦った救世主の名前だったーーー

 

 

□■□

 

 

少年が生まれて三年の月日が流れた。

年を重ねることでだんだんと自我がはっきりとしてきた。

三歳の誕生日を迎えた日のことを思い出す。

あの日はいつも通り両親が祝福してくれて家族だけの細やかなパーティーを催していた。

両親に俺の名前の由来について聞いた。それは民と家族、親友のために最後まで戦った一人の王の御話。その御話を食い入るように聞いた。

 

その時だった。

 

頭の中にいくつもの光景が浮かんでいく。

余りの多さに脳がキャパをオーバーして情報処理仕切れずに気絶してしまった。

突然、俺が倒れたことで両親は酷く慌てたそうだ(後日、両親から聞いた)。

 

見たのは彼の、自分の記憶。

幼い頃、『夜天の書』を開き五人の家族が増え喜んだこと。

城から家出した先で三人の親友に出会ったこと。

その三人の中でも特に仲が良かった親友(しょうねん)のことを。

その全てを思い出し、彼は涙した。

 

この時から彼は本当の意味で『ショウ・S・ナガツキ』として生まれた。

 

 

「ーーー俺、死んだんだよな」

 

確か俺は一万の兵を薙ぎ倒し、みんなのところへ戻ろうとして力尽きた。ーーー沢山の未練を残して。

でも、それはもう叶えられないと思い込んでしまう。

だって、ここにはもうみんなはいないのだから。

だから、自分のことよりみんなのことが気になった。

 

「みんなはどうなったのかな?」

 

それは記憶を取り戻し最初に浮かんだこと。

両親に頼み、図書館に連れて行ってもらった。

あれだけ大きな戦争が起こったのだ。きっと伝承として本に残っているはず、そう思ったからだ。

 

図書館に来た俺はまず最初に絶望した。

何でかって? だって、本が無限(・・)にあるんだもの。

さすがにこの中から探すのも大変だし時間も掛かってしまう。

困り果て首を傾げている俺に一人の青年が声を掛けてきた。

 

長い髪を後ろで縛り、メガネを掛けた二十歳ぐらいの青年。

その目元には濃いクマが出来ておりもう何日も寝ていないのが伺える。どんだけ大変なんだよ、ここ。

彼に事情(自分のことを除いた)を説明すると一つの提案をして来た。

それは俺がこの『無限書庫』の司書の手伝いをしないかというものだ。

 

俺としてもそれは最高の提案だった。

みんなのことを調べた後、独学でデバイスを作ろうと考えていた俺にとってはいいことだ。

ここでデバイスの知識を詰め込み、彼の知り合いのデバイスマスターに手取り足取り指導も付けてもらえるという話だから。

 

その提案を飲み、二つ返事で了承した。

その時、知ったのだが彼はこの『無限書庫』の司書長、ユーノ・スクライアだと知った。

こうして俺は司書見習いとして働き出した。

 

 

□■□

 

 

時が経ち、それから二年ーーー

 

俺は先日五歳の誕生日を迎えた。

『無限書庫』での司書もだいぶ慣れてきた。

ただユーノさんの知り合いだという管理局の提督さんが無理な注文をしてきてこっちの睡眠時間が削られていることに若干の怒りを覚えている。いつか、一発殴ってやる。

 

ーーー司書見習いとして働き出してすぐにクラウス達について探した。やはり、オリヴィエはゆりかごに乗ってしまったようだった。

イクスも最悪の王として今まで語り継がれてしまっている。

そして、親友(クラウス)はオリヴィエがゆりかごに乗ってしまったことを深く悔いているようだ。

 

あいつの悪い癖だ。

そうやって自分の中に溜め込んで辛い思いをする。

そんな親友を助けられなかった自分を責めた。

責めたところで何かが変わるわけではないのにーーー

 

ヴォルケンリッターのみんなは新しい主を得て管理局で働いているらしい。

それだけ聞けてホッと内心安堵する。

今度、ちょっとだけ顔を見に行こう。でも、みんなの前には姿を見せない。だって、新しい家族と幸せを掴んでいるから。

そんなみんなの邪魔をしたくない。

 

湿っぽいのはこれぐらいにして最近のことを離そう。

誕生日のさいプレゼントとしてデバイスの道具を貰い、それでデバイスを作った。

名前はユエ。彼女を作った時にとても綺麗な満月が輝いていてこれだ! と思ったのだ。

彼女というのはインテリジェントデバイスであるためAIが搭載されていてそのAIが女性だからだ。

 

あとは体作りかな。

オリヴィエと鍛え上げた拳も俺が作った《剣王流(シュバルツアーツ)》を使うためには基礎がしっかりと出来ていないとダメだからな。

 

 

「もっと、強くならないと」

 

今は亡き親友を救うために。

もうそんな思いをしたくもないしさせないために。

 

 

 

 

 

 

「ショーーウ! お隣に挨拶しに行くわよ〜〜〜!」

 

「はーい! 今行くよ」

 

昨日、俺が司書の仕事で一々転移するのも面倒だという話が家族間で上がり引越しが決まった。

うん、昨日決めたはずなのにもう引越しが終わっている。

一体何をしたんだ父さんと母さんは。

聞いても『ふふふ』っと二人して不敵に笑うから深く追求出来ないし。もう、やだ二人が怖い。

 

ここはとあるマンションの一室。その隣人への挨拶回りだ。

 

コンコンッ

 

『はい、今行きます』

 

「こんにちは! お母さんいるかな?」

 

「あっ、私は一人で住んでいるので母は居ません」

 

「貴方お幾つ?」

 

「えっと、五歳です」

 

おっ、俺と同い年じゃん。

 

「そっか。昨日隣に引越して来たマリア・S・ナガツキです。困ったことがあったら私を頼ってね?」

 

「ありがとうございます」

 

「ほら、ショウも自己紹介!」

 

肩を叩かれ彼女の前に出る。叩くことないじゃん。

 

「ショウ・S・ナガツキです。よろしくな!」

 

俺が名前を口にした時、彼女の目が大きく見開かれた。

そして、悲しそうな顔をする。まるで過去の何かを思い出したかのように。

それに対して少し思うところがあるがそれよりも何故かこう安心できるというかーーー兎に角まとめると懐かしい、という思いが強い。

それが何なのかは分からないが。

すると、彼女も口を開き自分の名前を口にする。

 

「初めまして、アインハルト・ストラトスです」

 

「よろしくな、アインハルト」

 

スッと握手を求め手を差し出す。

 

「此方こそです。ショウさん」

 

アインハルトは快くその手を取ってくれた。

その手は女の子特有の柔らかさを持っているがこの手の感触には覚えがある。そう、これはまるでクラウスの手のようなーーー

彼女はこの年であいつと同じように鍛錬しているとでも言うのだろうか?

だが、それは聞かない。野暮ってヤツだ。

 

握手を交わし軽く世間話をした後、彼女の手に触発されたのか無性に体を動かしたくなって全力ダッシュをし筋肉痛で動けなくなったのは嫌な思い出だ。

 

 

□■□

 

 

隣に引越して来たと隣人さんが挨拶に来た。

私と同じぐらいの少年とそのお母さんだろうか?

私の年を聞いて彼女ーーマリアさんは少し驚いていたようだった。

それも当然だ。普通、この年で一人暮らしをさせるはずがないのだから。でも、私は家族から疎まれている。あの事(・・・)で。

 

マリアさんはそんな私に困った事があったら頼ってくれと言ってくれた。すごく、嬉しかった。とても暖かい人だと思った。少し少年が羨ましい。

すると、マリアさんは彼を私の前へと連れてきて自己紹介しなさいと言った。

 

「ショウ・ S・ナガツキです。よろしくな!」

 

彼の名前を聞いて私は耳を疑い、目を大きく見開いた。

だって、その名前は彼の親友(・・・・)のものだから。

彼は私の反応に少し疑問に思ったような顔をして微笑んだ。それはまるで懐かしい人に会ったかのよう。

おっと、彼が名乗ったのだ。私も名乗らなければ。

 

「初めまして、アインハルト・ストラトスです」

 

 

 

私と彼は握手を交わし、しばしの間世間話に花を咲かせていた。

そして、彼らが去った後部屋に戻りベッドに倒れ込む。仰向けになり目元を手で隠す。そして、彼の名前を呟いた。

 

「……クラウス(・・・・)」、と。

 

「彼は『剣王』なのでしょうか?」

 

それは彼の親友の王としての名。かつてクラウスが救えなかった親友の名。

 

「ーーーショウ・S・ナガツキ」

 

ーーー貴方は誰なのですか?

 

その疑問に答えるものはなくシンっと静まり返った部屋の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、彼と彼女は邂逅した。

これから数年後、彼女は『覇王』として彼は『剣王』として拳と剣を交えることとなる。

それは未だ未来(さき)の御話。

王と王は再会を果たした。残る王は二人ーーーこの二人ともまたすぐに会う事となるだろう。

 

 




次回予告ーーーの前に感想とか待ってますのでバンバン下さい! よろしくお願いします。



次回予告

『マスター起きてください』

「おはよう、アインハルト」

「何で私はお姫様抱っこされているのですか?」

「ごちそうさまでした」

「どういう意味ですか!?」

memory 3 『倒れたら元も子もないだろ?』


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memory 3 『倒れたら元も子もないだろう?』

作者「突然ですが私は陵辱とかそういう系が嫌いです」

ショウ「本当に突然だな。まあ、その気持ちは俺も分かるよ」

作者「分かってくれますか!」

ショウ「おうともさ!」

ガシッ!(互いに強く握手した音)

アイン「それでどうして投稿が遅れたんですか?」

作者「ギクッ! いや〜本当に無理やりとか理不尽な暴力って嫌ですよね〜!」

ショウ「おい、作者」

作者「はい」

ショウ「何で遅れた?」とってもいい笑顔。

作者「他の先生の作品読んだりしてまーーー」

ショウ「読むのは構わんが自分の作業に支障をきたすな!」

作者「あーーーー!」

アイン「作者さんにも困ったものですね。それではリリカルマジカル始まります!」


ーーーなぁ、クラウス

 

どうした? ショウ

 

俺、お前にばっか迷惑掛けちまったけど俺の事どう思ってたんだ?

 

ーーーそれはな

 

さっきまでの優しい瞳はそこにはもうなく只々何かを恨むような冷たい瞳が俺を見つめていた。

 

ーーーずっと、お前の事が煩わしかったよーーー

 

それはショウの心を抉りとるには余るほどの力を秘めていた。

分かってた。分かってたはずなのに。

動悸が早くなり呼吸が荒くなっていく。焦点も合わなくなってきた。

それだけ俺に取ってクラウスという少年の存在は大きかった。

 

それじゃあ、二度と僕には近付かないでくれ

 

待って、待ってくれクラウス! 俺は、俺は!

 

遠ざかっていく友の背中を必死に走り追い掛ける。

距離が詰まることはない。クラウスへと手を伸ばす。

あとちょっと、そのちょっとで掴むことができるのに掴むことができない。

 

「クラウスッ!」

 

いつの間にか俺は手を伸ばしていた。今はベッドの中にいる。

そこで理解する。さっきのは夢だったと。

寝汗をかいたらしく少し気持ち悪い。風呂に入りたいがどうせ早朝になればランニングに行くので諦める。

時刻は午前二時半。ランニングまでまだあるな。

 

「……寝よう」

 

目を閉じ、呼吸を落ち着かせる。

さっきのことを思い出し体が震える。嫌われるのが怖い子供のように震えながらまた眠りについた。

 

 

□■□

 

 

『マスター起きてください』

 

無機質で機械的な女性の声が耳に届いた。

両親の次に安心できる声だ。

 

「ん、ふぁーあ、おはようユエ」

 

『おはようございます。マイマスター』

 

空中に浮いた一つの指輪から声が聞こえる。ユエだ。

まだユエと過ごして長くはないがユエの存在は今の俺に取ってとても大きい。

ソッと手に取りユエを抱き締める。

 

『え、ま、マスターどうしたんですか!?』

 

「何でもない、よ。何でもない。もうちょっとだけこうさせて」

 

数秒なのか数分経ったのか分からないが心が落ち着きユエを離す。

 

「ごめん。急にこんなことして」

 

『いいえ、大丈夫ですよ。ーーー私は嬉しかったですし』

 

「? っと、もうこんな時間か」

 

時刻は午前五時。そろそろランニングに行く時間だ。

そうと決まればベッドから出て、ジャージに着替える。

軽めに栄養補助食品のゼリーを流し込んだ。お腹減ったまま走ると痛くなってくるからさ。

玄関で靴紐を結んでドアを開けるとそこにはアインハルトが立っていた。

 

「おはようございます、ショウさん」

 

「お、おはよう、アインハルト。どうしたんだよ?」

 

「ランニングをご一緒しようと思いまして」

 

母さんはアインハルトのことを気に掛けていて今ではご飯を一緒に食べる中でもある。

大方母さんが俺のランニング時間を教えたのだろう。

俺のプライバシーはないに等しいなぁ………お願いだから母さん。あんまりむやみやたらと俺の情報振りまかないでね。

何が起きるか分からないから。

 

「ん、そっか。じゃあ、行こうぜ」

 

 

 

 

 

今、走っているのは俺のお気に入りコースだ。

この時間帯は人が通らないので人のことを気にせずにトレーニングが出来る。

女の子にはちょっと早いぐらいで走っているのだが辛い顔をせず、むしろ涼しい顔をしてついてくる。

 

(負けてらんないな、俺も)

 

「ん、そろそろ俺はストレッチに入るけどお前はどうする?」

 

「私もストレッチに入ろうと思います」

 

「ん、分かった。何かあったら声掛けてくれ」

 

「分かりました」

 

 

一通りのストレッチを終え、両手に付けたリストバンドを外す。

それは一見何の変哲もないどこにでもあるリストバンドだがそこらへんにあるものとは訳が違う。特別製だ(・・・・)

「んっしょっと、ふぅ〜〜これ外す時のこの感じやっぱいいな」

 

これは魔力を上げるために作られたリストバンドだ。

これを身に付けることによって体に魔力負荷が掛かり魔法が使い辛くなる。オマケに体が重いのでいいトレーニングになる。

この負荷と解放を繰り返すことで魔力の上限を伸ばしていくという寸法だ。

リストバンドはトレーニング以外にも日常から付けている。

だからこうやって体を動かす時に外している訳だ。

 

「ユエ、魔力どんぐらい上がったかな?」

 

『三カ月前がC+でしたが今はBランクですね。それもAランク寄りです』

 

「おお、結構上がったな。魔力があることに越したことはないからな。さて、さっさと終わらせますか」

 

ユエを空中へと離し、構える。

 

「ふっ!」

 

ヒュンッ!

 

気合いと共に振り抜かれた拳は空を切る。

よし、大丈夫だな。

実際、スパーをする相手がいないのでいつも一人でイメトレしながらやっているからな。今度街の方のジムに行ってみようかな?

呼吸を整え、目の前の敵をイメージする。

イメージするのは俺の知る限り格闘戦では負けなしだった彼女ーーーオリヴィエだ。彼女を超えることは俺の小さな目標だったりする。

返ってくる言葉などないがショウは笑って一人呟く。

 

「さぁ、始めようか」

 

 

 

 

 

ーーー凄い。

それがアインハルトの感想だった。

ショウが一体どんなトレーニングをしているのか気になり木の陰に隠れ覗き見ていた。最初はちょっとした好奇心。

だが、次第に自分が食い入るように見ているのが分かった。

 

彼の一つ一つの動きはとても洗礼されており無駄がほとんどない。

どれほどの鍛錬を積み、ここまで至ったのか?

どれほど鍛練すれば、私もそこに行けるのだろうか?

疑問は潰えなかった。

 

ショウばかりに気を取られていた所為で気が付かなかった。

背後から近付いて(・・・・・・・・)くる男に(・・・・)

 

「かは……っ!」

 

首元に強い衝撃が走り、意識が遠のいていく。

 

一体、何が?

 

薄れていく意識の中、最後に見たのは此方を見て口角を吊り上げ笑う男の姿だった。

 

 

 

 

 

『マスター緊急事態です』

 

「どうした? ユエ」

 

動きを止め、汗を拭いながら振り向く。

 

『家を出る前一応アインハルトさんに付けておいたサーチャーに反応がありました」

 

「何があった?」

 

一瞬でショウの顔が強張った。その顔は正に王と呼ぶに相応しい。

そんなショウに若干怯むがユエは続けた。

 

『サーチャーを通してですが、アインハルトさんが何者かに拉致、誘拐されました』

 

「場所は!?」

 

『ここから少し離れた港湾地域の空き倉庫で反応が止まっています』

 

「ユエ」

 

『イエス、マイマスター。スタンバイ、レディーーーセットアップ』

 

ショウの足元に紺色の魔法陣が展開される。

ショウはベルカの戦乱を生きた王。当然、そのバリアジャケットも騎士甲冑かと思うがそうでもない。

ショウは動きやすさ重視で紺色を基調とした長ズボン、黒のTシャツの上に濃紺のコートを纏った姿だ。

 

「行くぞ、ユエ」

 

ユエは待機状態の指輪ではなく一振りの剣に姿を変え腰に挿さっている。

 

『ブリッツアクション』

 

魔力が迸り、その場にはもうショウの姿がなかった。

 

 

 

□■□

 

 

 

 

ーーーここは、どこだろうか?

目が覚めるとそこは暗かった。体を動かそうとするがピクリとも動かない。

顔を下げると椅子ごと鎖で幾重にも巻かれていた。

そうだ。確か背後から突然気絶させられてーーー

 

「お、やっとお目覚めかい」

 

「ッ!」

 

暗闇から声が聞こえ、思わず身構える。

目の前から一人の男が歩いてくる。その男は私が意識を失う前に見た男だった。

 

「いや〜今回は結構の上玉が手に入って良かったよ」

 

「……どういう意味ですか?」

 

「ああ、お前はこれから売られるんだよ。人身売買ってヤツさ」

 

人身売買。

その言葉は私の心に深く刺さった。

これから私はどこの誰かも分からない人に買われ、奴隷のように生きるというのか?

自分の未来を想像してどんどん体から体温が失われていく。

恐怖から体も震えていた。

 

「ふふ、それじゃあ売る前にちょっと味見でもしようかな〜〜俺、ロリコンじゃないんだけどさ。やっぱ、こんな綺麗なお人形見たら壊したくなっちゃうよね〜〜」

 

「ひっ!」

 

男の愉悦に歪んだ笑顔に恐怖する。

いくら『覇王』イングヴァルトの記憶があるからといってもまだ五歳の女の子なのだ。

目の前にいる男は恐怖以外の何物でもない。

男は手を伸ばし強引にアインハルトの顔を固定する。

 

「そんじゃ、いただきま〜す♪」

 

「い、いやぁあああああ!」

 

必死に抵抗するが鎖の所為で思うように体が動かない。

いや、鎖だけの所為ではない。恐怖で体が竦んでしまっているのだ。

それでも抵抗しなければと暴れる。もう 無我夢中だった。

 

「ああ、もううるさいなぁ……ちょっと、黙ってろよ!」

 

頬に男の拳が入り、一瞬だが動きが止まってしまう。

殴られた頬がジンジンと痛む。

男が更にアインハルトを殴ろうと拳を上げた時だった。

 

バァァアン!

 

扉が轟音と共に爆発し吹っ飛んだ。

その衝撃が此方まで伝わってくる。土埃が舞い、視界が悪くなる。

次第に土埃が晴れ、一つの影が目に入る。

 

黒髪の短髪にアインハルトより少し大きめの身長をした少年。

紺を基調としたコートを纏いその腰には剣が挿さっている。

アインハルトは今にも消えてしまいそうな声で少年の名前を呼んだ。

 

「ショウ、さん………!」

 

アインハルトは等々耐えきれなくなり泣き出してしまった。

人身売買で売られると言われた時、男に殴られても泣かなかったアインハルト。

だが、感情の蓋が外れ全部外に漏れ出してしまう。

 

少年は男を見据え、低く冷たい声で言った。

 

 

「何、アインハルト泣かせてんだよ」

 

 

□■□

 

 

 

ブリッツアクションでショウは港湾地域の空き倉庫まで走った。

ユエにエリアサーチをして貰うと反応は未だ動いてはいない。

さて、問題はどうやってアインハルトを助けるかだな。

 

「ユエ、どうすればいいと思う?」

 

『正面から行くのは自殺行為ですね。ここは後方から忍び込み、犯人の隙を突くべきかと』

 

「よし、なるべく気配を消して裏にまわーーー」

 

『い、いやぁあああああ!』

 

突如、倉庫から響く悲鳴。アインハルトの声だ。

悲鳴を聞いた時にはもう体が動いていた。もう作戦のことなど頭にはなかった。

 

『ちょ、マスター!?』

 

「この扉、邪魔だな。撃ち抜くぞユエ」

 

『はぁ、もう何も言いません。ーーーモードチェンジ・バスター』

 

ユエの姿が剣から長大なライフルへと変わる。

両手で持ち、扉にその砲身を向ける。

魔力を集中させ、カートリッジも二本使用する。

 

『「ショートバスター」』

 

砲身から紺色の光線が撃ち出され、轟音が鳴り響くと同時に扉が吹っ飛んだ。

その拍子に土埃が舞ってしまい視界が悪くなる。

次第に土埃が晴れ、視界がクリアになる。

そこにいたのは惚けた顔をしたクソヤローと鎖で縛られたアインハルトだ。

 

「ショウ、さん………!」

 

アインハルトは泣いていた。

当たり前だ。こんな目にあったのだ。泣かない方がおかしい。

ショウは吹き出す怒りを諌めるように深呼吸を一つ。

心は熱く、頭はクールに行こう。

そして、クソヤローにどうしてもくれてやりたくなった言葉を言った。

それは自分でも驚くほど低く冷たい声だった。

 

 

「何、アインハルト泣かせてんだよ」

 

 

 

□■□

 

 

 

砲撃の衝撃で吹っ飛んだ男が立ち上がり、おかしそうに笑っていた。

 

「ねぇ、君誰かな? ああ、この子が見てたのって君のことか! じゃあ、お礼を言わなきゃね。君のお陰ですんなり事を運ぶことができたよ」

 

ショウは男の言葉に耳を傾けてはいなかった。

何故なら聞くに堪えないからだ。

 

(ユエ、エリアサーチ)

 

(この場にはマスターを含めた三人の反応しかありません。恐らく単独犯でしょう)

 

(そっか。ありがとう)

 

エリアサーチを済ませ、辺りを見る。

使われていないコンテナが積み重ねられ少々狭い。

だが、剣を振るうには十分だ。

男は無視されたことが気にくわないらしく息を荒げ、叫んだ。

 

「ねぇねぇねぇ!? 何、無視してくれちゃってんですか? それとも何? 今更怖気付いちゃった? でも、ざ〜んねん! 見られたからにはここで死んでもらうよ。恨むなら自分を恨むんだね」

 

「さっきからギャーギャーうるさいんだよ。それにそんなに喋るなよ。弱く見えるぞ?」

 

「何だと!」

 

右手が懐へと伸び、何かを取り出した。

それは見覚えがあった。確かーーーそう、拳銃だ。

質量兵器を持ってるってことは結構な犯罪者ってことか? ま、そんなの関係ないけど。

 

男は引き金を絞る。撃鉄が弾を高速で弾き出し頭を撃ち抜く。

ーーーと、男は考えているのだろう。だが、そんな考えは見え見えだ。奴は俺が子供という時点で明らかに自分が強者だと勘違いをしている。

その考えはすぐに改めることになる。

 

キンッ!

 

金属を打ち付けたような音が響いた。

男は口を開けて呆然と立ち尽くしていた。

何故なら、ショウが剣で弾丸を真っ二つに斬り裂いたからだ。

呆気に取られている男を気にすることなくアインハルトへと歩く。

そこで男は我に返ったようでまた引き金を引いた。

学習しない奴だな、とショウは内心嘆息した。

その弾丸を先ほどと同じように斬り裂く。

 

「何で! 何でだよ! 何で当たらない!?」

 

狂ったように撃ってくるが途中で弾は飛んでこなくなった。

弾切れを起こしたのだ。

当たり前だ。バカみたいに無闇矢鱈と撃ち続ければ弾は無くなる。

男が弾を詰め替えようと懐に手を入れるがそんな時間を与えてやるほどショウは優しくはない。

ブリッツアクションで一気に距離を詰め、身体強化で極限まで強化した拳を放った。

それは男の顔面を捉え、地面をニ、三回バウンドしながら吹っ飛んだ。

手応えはあった。ーーーが、この程度で終わる相手だとも思えない。

もしものことがあってからでは遅いのでアインハルトの元に駆け寄り、鎖を引きちぎった。

自由を取り戻したアインハルトは震える体で抱きついてきた。

 

「ぅうっ、こわがっだでず」

 

「ーーーごめん」

 

アインハルトの体は力を入れたらすぐに壊れてしまいそうなほど細かった。恐怖で震えていてとても冷たくなっていた。

ショウはアインハルトを温めるように優しく抱き締めた。

 

「もう少しだけ、待っていてくれ。アインハルト」

 

「っはい!」

 

アインハルトを後ろに下がらせ、吹っ飛んだ方向に振り返ろうとした時、背筋が凍る錯覚に襲われた。

反射的、自動的に振り返るよりも早く剣が動いた。

ズシリとくる重み。鉄と鉄がぶつかり合う擦過音。

振り返るとそこには警棒を持った男がいた。

 

「はは! まさかこれに反応するとは思わなかったよ。完璧に不意をついたと思ったのにさ」

 

鍔迫り合いの中、男が楽しいそうに叫ぶ。

男を見て、あの時感じたものの正体が分かった。殺気(・・)だ。

もし、男が殺気を出さずに気配を完璧に殺していたら今の(・・)俺だったら防げなかっただろう。

 

だんだんと此方が押され始める。

子供と大人の体格差だ。幾ら身体強化で強化しても限度がある。

どちらが押し勝つかなど明白だ。

だが、ここで下がれば距離を詰められ追撃されるーーー

ならば、受け流すだけだ(・・・・・・・)

 

剣を斜めにズラし、警棒を滑らせる。

男の全体重は警棒に掛かっていたため簡単に体勢を崩せた。

そのまま流れるように右脇腹から左肩を斬り上げた。

もし本当に俺が握っている剣が本物だったなら今の一撃で終わっていた。

だが、今は戦乱に包まれたベルカではない。それに出来ることならーーーもう、人は殺したくない。

男は苦しそうに胸を押さえ、肩で荒い息を吐いていた。

 

「ぐっ、痛いなぁ。俺を殺す気かい?」

 

「非殺傷設定なんだから死ぬわけないだろ。それに俺のことを殺そうとしている奴が何言ってんだよ」

 

「はは、それもそうだ。ーーー絶対に殺す」

 

さっきまでのふざけた感じではなく明確な殺意を瞳に込め睨みつけてくる。

これは、何度も感じてきた感覚。何処でだっただろう?

ふと荒れ狂う喧騒が聞こえ、血生臭い匂いが鼻腔を通り抜ける。

ああ、そうだ。ーーー戦場だ。

 

「死ね」

 

「死ね、か……」

 

躊躇うことなく警棒を頭へと振り下ろす。

ショウはそれを読み、剣を横に持ち上げ止めた。

男は警棒に力を込めるがピクリとも動かない。

このままでは殺せないと一旦引こうとしたが動くことができなかった。

今、男の目には無数の剣が突きつけ(・・・・・・・・・)られているように見(・・・・・・・・)えているのだから(・・・・・・・・)

それは全てショウの殺気(・・・・・・・・)。脳がショウの殺気を無数の剣として捉えているのだ。

 

ショウは重く閉ざされた口を開く。

それはアインハルトが攫われた時よりも酷く冷たい声だった。

 

「『死ね』って言葉はそう簡単に口にしてはいけない」

 

男はショウの顔を見て気付く。

自分は決してこの子供の前で言ってはいけないことを言ったのだと。

ショウはゆっくりと男の前へと歩く。

此方に歩いてくると分かっていても体が動かないでいた。

スッと剣を男の喉元に突きつけながら、

 

「その言葉を口にしていいのは自分も殺される覚悟(・・・・・・)を持ったものだけだ(・・・・・・・・・)

 

「う、うわぁあああああああ!」

 

殺られる。殺らなければ自分が殺される。

そう肌で感じた男はデタラメに警棒を振り回していた。

冷静さを欠いた攻撃が当たることはなく、ただ虚しく空を斬る。

 

「もう、終わりにしよう」

 

警棒を振り下ろすよりも早く警棒を持つ右手に蹴りを放つと警棒は宙に円を描きながら飛んでいく。男が警棒を取ろうと視線を一瞬上げる。その一瞬があれば十分だ。

剣を腰の位置で構え、男の体ごと横に薙いだ。

それは最速の一撃。例え見えていても避けることは不可能。

自分の倍はある体は大きく吹き飛びコンテナへと激突し沈んでいく。

 

アインハルトの元に戻ろうと踵を返す。

管理局にも通報しなければならないな。ショウは今から事情聴取のことで頭を抱えた。

 

ショウは男を打ち倒し安心しきっていた。

だから、アインハルトが声を上げるまで気付かなかった。

 

「ショウさん避けて!」

 

「がっ!」

 

アインハルトの声で咄嗟に横に飛んだが背中に強い衝撃を受け、その場に崩れ落ちてしまうショウ。

 

(何が、起こったんだ!?)

 

視界の端に捉えたのはさっき自分が倒したはずの男だった。

その右手には杖ーーデバイスが握られていた。

 

「ふ、ふふ、あはははは! バ〜〜カ! ガキが大人に勝てるはずないだろう。まあ、最後のはヒヤヒヤしたけどね」

 

ショウは勝手に思い込んでいた。

最初に男が使ったのは拳銃。その次は警棒だ。

男は魔力がなく質量兵器を使っている。ショウはそう思っていた。

だが、違ったのだ。使えないのではなく使っていなかったのだ。

 

(クソッ! やっぱ鈍ってるな。昔だったら最後まで注意を怠らなかったのに。やっぱりちゃんとーーー)

 

ーーー殺しておけば良かった。

 

え?

 

今、俺は何を考えた? 殺せば良かった? 違う、違うだろ!

力は誰かを守るための力。

でも、俺はその力を本当に守るために使えていただろうか?

みんなを守るために剣を振るった。

戦場に駆り出し、何人、何十人、何百人と殺してきた。

誰かを守るために誰かを犠牲にしているじゃないか。

本当の意味で俺はあの男と何も変わらないのかもしれない。

でもーーー今だけは考えるな。アインハルトがいるんだ。このままではまたアインハルトに怖い思いをさせてしまう。

 

そんな思いとは裏腹に体は思うように動いてはくれなかった。

魔力弾が男の周りに形成され放たれる。その数四つ。

二つはショウの足へ。残り二つはーーーアインハルトへ向かっていた。

それに気付いたショウは体に鞭打ちアインハルトを突き飛ばした。

瞬間、閃光が視界に広がった。

 

 

 

□■□

 

 

 

「きゃっ!」

 

ショウさんに突き飛ばされた私はその場に倒れ込んだ。

その時、私が立っていた場所に魔力弾が炸裂した。

閃光が収まり、目を開くとボロボロになったショウさんが爆発の中心に立っていた。

その体はゆっくりと横に傾き、力なく倒れ伏してしまう。

私を庇ったせいでショウさんがーーー!

 

「ふふふふふふふ、あははははははははは! やっぱりね! 君ならそうすると思ってたよ。本当に君はバカだね? そういうのを何ていうか知っているかい? 偽善っていうんだよ、それ」

 

あの男がさっきよりも酷く歪んだ顔で狂ったように笑い、叫ぶ。

男はゆっくりとショウさんへと歩いてくる。

ああ、私にはどうすることも出来ない。こうして震えて守られることしか出来ない。

それが嫌で強くなろうと決めたのに。

それが嫌で彼の意思を継ごうと決めたのに。

自分にはどうすることも出来ない。

 

その時、私の脳に映像が浮かんだ。

見覚えのない景色。賑やかな声。そして、目の前に立つ彼。

これは彼の、クラウスの記憶だ。

 

『っと、大丈夫か? クラウス』

 

『っまたお前に助けられてしまったなショウ』

 

『何言ってんだよ。助けんのは当たり前だろうが親友』

 

『僕は、弱いな』

 

『そんなことはーーー』

 

『事実だろう! どれだけ鍛錬しても全然お前やオリヴィエに勝つことが出来ない。僕は守られる側じゃなく守る側になりないんだ! 君には分からないさ! 最初から強い君には!』

 

『本当にそう思うか?』

 

『どういう、意味だよ』

 

『本当に俺やオリヴィエが最初から強かったなんて思うのか?』

 

『だって、そうだろう! 君には圧倒的な剣の才能が! オリヴィエには天賦の格闘があるじゃないか!』

 

『確かに才能はあったかもしれない。でもなーーー誰もがみんな最初から強い訳じゃない』

 

『ッ!』

 

『俺は、たぶんオリヴィエにも言えることがある』

 

『………何だよ』

 

『守りたいものがあるから人は強くなれるんだ』

 

『守りたいもの……』

 

『お前には守りたいものがあるか? もしないならそれを見つけろよ。きっと、今よりも強くなれる』

 

『お前の守りたいものって何なんだよ?』

 

『ん? 俺か? 俺の守りたいものはなーーー』

 

ーーーみんなが笑って暮らせる日常、かな?

そこで映像は終わった。

 

『守りたいものがあるから人は強くなれるんだ』

 

アインハルトは胸を押さえ、その言葉を反芻した。

守りたいものーーー私の、守りたいもの。それはまだよく分からない。

今まで強くなり、クラウスの意思を継ぐことしか考えてこなかった私にはそれが何なのか分からなかった。

でも、今は、今だけは守りたいものがある。

 

体の震えはもう止まっていた。呼吸も安定して体も動く。

手を何度か開閉しながら拳を強く握った。

そして、今まさに私の守りたい人ーーーショウさんに杖を振り下ろそうとしている男に肉薄する。

拳を握る力を更に強くし、歯を食い縛る。

今から放つのは『覇王』の一撃。それはまだ私では打てない一撃。

だから、

 

ーーー少しだけ力を貸してください、クラウス。

 

ーーーああ、任せてくれ。

 

風と一緒に彼の声が聞こえたような気がした。

彼の想いに応えるように、ショウさんを守るためにアインハルトはその拳を打ち出した。

 

「覇王ーーー断空拳!」

 

男は遅れて気付き、障壁(プロテクション)を展開する。

この拳は彼と私の想いが詰まった一撃。

たかが薄壁一枚で防ぎきれるものじゃない!

 

ピシッ ピシピシッ!

 

障壁は音を立てて崩れ落ちていく。

だが、それだけでは終わらない。

障壁を打ち破り、男の鳩尾に決まった。

 

「かはっ……!」

 

「や、やった……」

 

やりました、よ。クラウスーーー

 

紛いなりにも覇王断空拳を使ったため一気に体力を使い果たし膝を付く。そのまま地面に寝そべり目を閉じた。

その表情はとても満足した顔だった。

 

 

□■□

 

 

「覇王ーーー断空拳!」

 

それはかつての親友(とも)の一撃。

何故、アインハルトが? という疑問が上がったがそんなことならどうでも良くなるぐらい懐かしいと思った。

アインハルトは体力を使い果たしたようで気絶したようだ。

その寝顔はとても満足そうだ。

 

「ふ、ふは! ま、まさかその子にも一杯食わされるとはね。殺す! 絶対にお前たち二人は殺す!」

 

まだ、動けたのか。

タフな奴だな。実は人間じゃなくてゴキ○リなんじゃねぇーの?

本当にそう思ってしまうほどの生命力。

そこは素直に感心してしまう。

 

久しぶりに見た親友(とも)の一撃。

それを見てしまったら俺も本気を出さなきゃいけないな。

ーーーなぁ、クラウス。

フラつく体でショウは立ち上がり、男を見据える。

 

「今のお前に言っても分からないし聞こえてないと思うがーーー見せてやるよ『剣王』の一撃を」

 

「うがぁあああああああ!」

 

剣を構える。

先ほどの生半可な攻撃ではダメだ。きっとすぐにまた立ち上がってくるだろう。

だから、剣に想いを込める。込めるのは守りたいという気持ち。

決して殺意ではない。

 

それに気付いた男は障壁を展開しながら突っ込んでくる。

だが、そんな障壁(モノ)『剣王』の前ではないも同然。

 

「『剣王流』ーーー透扇(すいせん)

 

右薙ぎを放ち一閃。

それの一撃は障壁によって防がれるーーーことはなかった。

 

「な、なんで!?」

 

障壁にぶつかることはなくまるで障壁を透かしたかのように男を斬り裂いた。

『剣王』の前では障壁もその効果を発揮することは出来ない。

ただ、それだけのことだ。

 

今度こそ男は意識を失い、崩れ落ちた。

また起き上がるかもしれないのでバインドを付けましたよ?

管理局に通報しそこを動かないようにと言われたが無視してアインハルトを抱き抱えその場を去った。

通報は一応ウィンドウを出さずにsound onlyにしたから大丈夫だろう、うん。

取り敢えず、

 

「……腹減った」

 

 

 

□■□

 

 

 

私たちが現場に着くとそこには犯人らしき人物がバインドで拘束されておりそれ以外の人影は見当たらなかった。

どうやら此方の言葉を無視して帰ってしまったようだ。

 

「取り敢えず、この人を局まで運ぼうか」

 

何人かの局員が男を持ち上げようとした時、私の目にあるものが飛び込んだ。

それは綺麗に服が横に避けていたのだ。

動く相手に対してこれほどの剣技を持つ者は私の知る限り今、私と肩を並べている彼女だけだ(・・・・・)

その彼女に目を移すと何か懐かしいものを見るような顔をしていた。

 

「どうかした? シグナム」

「いや、何でもない。早く戻って事情聴取をしなければなテスタロッサ」

 

「うん、そうだね」

 

そうして私たちは踵を返し、管理局へと戻った。

 

 

□■□

 

 

「ん、んんぅ」

 

眼が覚めると彼の顔がすぐそこにあった。

 

「おはよう、アインハルト」

 

いつもの優しい彼の声。聞くだけで心が温かくなる。

だが、しかしーーー

 

「何で私はお姫様抱っこされているのですか?」

 

「それはね、背中が痛くて背負うことが出来ないからだよ」

 

「あ、その、ごめんなさい……」

 

「謝らなくていいよ。俺が勝手に助けただけだからさ」

 

「すいません。私が弱いからこんなことにーーー」

 

「アインハルト」

 

「何ですか?」

 

「別に俺は気にしてないからこのことはもう終わり。次、謝ったりなんかしたらグリグリの刑だから」

 

「え、あ、ごめ、いや、はい……」

 

「それに弱くたっていいじゃん」

 

「え?」

 

「弱いなら強くなればいい。でも、焦ったらダメだ。それにーーー」

 

ーーー俺がお前のことを守ってやるよ、アインハルト。

 

それを聞いたアインハルトは顔を真っ赤にしていく。

そして、小さく頷いた。

 

 

□■□

 

 

 

「そういえば私ずっと眠っていたってことですよね?」

 

「ん? まあ、そうだな」

 

「ってことは、その、寝顔とか見られてたり?」

 

あの満足そうに眠る顔を思い出す。

少しだけ悪戯してやろうとニヤッと笑い、

 

「ごちそうさまでした」

 

「どういう意味ですか!?」

 

家へと向かう帰り道、彼女の悲痛の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想を頂いた方、本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
それとこの物語で出てくる『剣王流』の技名とその詳細を募集しようと思います。アイデアがあったらどんどんください!
それではまた次回お会いしましょう。

次回予告

「ショウさん、遅刻しますよ」

「朝起きたら目の前にアインハルトがいる件について説明頼む」

『マスター?』

「何でもない。何でもないんだ。ーーーでも、涙が止まらないんだ」

「お久しぶりです、陛下」


memory 4 『学校で我が忠臣と再開す』


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memory 4 『学校で我が忠臣と再会す』

作者「はい、出来ました!」

ショウ「おお、早かったな」

作者「そうですね。今回はショウとその忠臣の再会ですからそこまで長くありませんでしたからね」

アイン「ショウさんはその忠臣さんと再会してどうなるんですか?」

作者「え? それは勿論おおなーーー」

チャキ(首に剣を突き付けられる音)

ショウ「何だって?」

作者「ーーー何でも御座いません」

ショウ「良かったな。今、選択を間違えてたら首が飛んだ」

作者「ガクガクブルブル」

アイン「この二人はいつも通りですね。それではリリカルマジカル始まります!」


あの事件から数年が経ち、ショウとアインハルトは三年生になった。

学校は勿論魔法学院だ。魔法は使えるに越したことはないからな。

しかも何か聖王協会ってことろが運営しているSt.ヒルデ魔法学院なのだ。ーーーオリヴィエ、この学院お前のために作られたんじゃね? って思うのは俺だけかな?

まあ、それは置いといてベルカ時代には学校には行かず独学だったのでとても新鮮だ。

先生もいい人達だし、何より授業が分かりやすい。

友達だってーーーアインハルトとかアインハルトとかがいるし。

……あ、れ? もしかして俺ってアインハルトしか友達いない、のか?

ーーー友達、作ろう。

 

鍛錬の方も順調に進んでいる。

ショウは格闘と剣術に更に磨きを掛けている。

基礎がしっかり出来てきたのでそろそろ本格的に『剣王流』の訓練に入っても大丈夫だろう。

魔力もBランクだったのが今じゃSSランクまで上がった。

良い子は真似しちゃダメだぞ?

アインハルトも基礎が出来てきて何やら熱心に取り組んでいる。

あの時、見せた一撃。今は亡き親友(とも)の一撃。

アインハルトはクラウスのことを知っている?

そういえばクラウスと同じ瞳の色してるっけ。今度、聞いてみよう。

 

こんな感じで毎日楽しくやってます。

最近の悩みは親の過保護が前よりも激しくなったことです。

俺とアインハルトなんて……いや、この先はよそう。

言ってしまったらもうダメな気がするんだ。

 

 

物語が始まるまであと三年ーーーそこで彼らは聖王と相対する。

 

 

□■□

 

 

今日は始業式があるため久しぶりにグッスリと眠っている。

いつもはトレーニングに行くのだが今日ぐらいは休みなさいと両親に釘を刺されているため行くに行けなく寝ることにしたのだ。

だが、いつもなら遅くても六時に起きるのだが今は六時半に差し掛かる辺りだ。このままでは遅刻確定コースだ。

 

「ーーさーーきてーーさい」

 

「みょう、たびぇられなぁい〜」

 

「ショウさん。起きてください」

 

「Zzzzz」

 

『アインハルトさん、そういう時はーーーーすると起きますよ』

 

「なるほど、分かりました。ではーーーハァッ!」

 

ユエのアドバイス通りショウの体に拳を叩き込もうと振り下ろした。

 

「うぉおおおう!?」

 

拳がめり込む直前に目を覚まし、間一髪横に避けることに成功する。

驚き、拳を放った本人を見る。

すると、目の前に色違いの光彩を持った美少女が俺の顔を覗き込んでいた。

そして、さっき殴ろうとしたのが嘘のように爽やかにアインハルトは言った。

 

「ショウさん、遅刻しますよ」

 

数秒、アインハルトの顔を見て固まる。

状況を整理しようと頭を回し浮かんできた疑問をありのまま述べた。

 

「朝起きたら目の前にアインハルトがいる件について説明頼む」

 

「マリアさんに入れてもらいました」

 

「はぁ……母さん。俺のプライベートは完全無視なのね」

 

ハハ、と乾いた笑みを零し明後日の方向を向くショウ。

そして、もう一つの疑問も聞いてみた。

 

「何で殴って起こそうとしたの?」

 

「ユエさんがそうすれば起きると」

 

「ユエ」

 

『な、何ですか? マスター。一応言いますがこのままでは遅刻すると思い良かれと思ってやったんですよ?』

 

「一週間掃除なし」

 

『そ、そんなぁ! あんまりですぅ!』

 

彼女は残酷な宣言にorz状態になる。(ショウとアインハルトにはそう見えている)

時刻は六時半になったところだ。

これなら着替えてすぐに行けばまだ間に合うな。

 

「ん、着替えるからユエ連れて外で待っててくれアインハルト」

 

「分かりました。行きましょうユエさん」

 

『うぅぅアインハルトさ〜ん』

 

何だよ、その俺が酷いことしたみたいじゃないか。

さすがに一週間は言い過ぎたかな?

そんなことを考えながらショウは制服に袖を通していく。

この制服というものにもようやく慣れてきたな。

着替えを済ませてから顔を洗い、両親に挨拶してから家を出る。

片手にパンを忘れずに。

 

「ん、行こうぜアインハルト」

 

「何でパンを?」

 

「俺に空腹で死ねと申すか」

 

「ちゃんとしたものを食べないとダメですよ?」

 

「ウチで食べるようになるまでほとんどジャンクフード食べてた奴に言われたくはない」

 

「うっ、それを言われたら何も言い返せません」

 

「そろそろ行こうぜ。本当に遅刻しちまう」

 

「うう、急ぎましょう」

 

「おう」

 

始業式は確か午前中で終わるんだよな。

それ終わったらトレーニングにでも行くかな?

アレ(・・)試してみたいし。

 

「走りますよ、ショウさん!」

 

「ああ、分かった!」

 

ショウとアインハルトは学院へと走った。

 

 

□■□

 

 

「なぁ、アインハルト」

 

「何ですか?」

 

始業式も終わり帰り支度をしている時のことだ。

 

「何で俺のこと同い年なのに“さん”付けなんだ?」

 

「え? その癖みたいなものですから……」

 

「じゃあ、それ禁止な」

 

「え!? 何でですか!」

 

「いや、何か同い年なのに“さん”付けは何かな」

 

「急にやめろと言われてもーーー」

 

「やめなかったら今日から俺もアインハルトのことを“さん”付けするからな」

「ええ!? うぅ、わ、分かりました。し、しし、ショウ……これでいいですか?」

 

「ん、良いぜアイン(・・・)

 

「へ?」

 

「ん、やっと“さん”付け取れたし俺も呼び方変えようと思ってな。ほら、アインハルトって長いだろ? だから、アダ名みたいに短くしてみました」

 

「そ、そうですか」

 

アインは少し頬を赤く染めて俯いてしまう。

それは恥ずかしさとほんの少しの嬉しさから来るものだった。

 

「そろそろ帰ろうぜアイン」

 

「そ、そうですね」

 

「あ、ここに居ましたか」

 

「シスター・シャッハ? どうしたんですか」

 

「実はショウくんに頼みたいことがあってね。今、大丈夫?」

 

ショウはアインをチラッと見るとコクリと首を縦に振った。

手伝ってあげてくださいと言っているのだ。

 

「大丈夫ですよ。何をするんですか?」

 

「荷物運びとテストの確認です」

 

「分かりました。アインさっき帰っててくれ」

 

「分かりました」

 

アインを先に帰らせ、ショウとシスター・シャッハは職員室へと向かった。

 

 

□■□

 

 

「しっかし、俺にテストの確認させて良いんですか?」

 

「大丈夫ですよ。君なら誰かに言いふらしたりしないですしそれは一年生に出すデバイスのテストですからね」

 

「まあ、信用されてるってことは分かりました」

 

そう、ショウはこの年でデバイスマスターの資格を得ている。

五歳の段階でデバイスを組み上げることが出来ていたので知識はそれなりにあった。

入学と同時にデバイスマスターの試験を受け、見事合格したのだ。

それから同級生や後輩、先生方からデバイスを見てくれと殺到してきたのは苦い思い出だ。

 

「ーーー大丈夫だと思います。これならちゃんと勉強していれば満点は取れると思いますから」

 

「それは簡単過ぎるという事ですか?」

 

「俺ならそう言えますけど、この問題とかは引っ掛けでほとんどの人が点数を落とすと思います」

 

「そうですか。ありがとうございます。あとはこの本を図書館に運んでもらっても良いですか?」

 

「良いですよ。いいトレーニングになりそうですし」

 

シスター・シャッハの指差す所には分厚い本が五冊ほど積み上がっていた。

普通なら辛いが生憎ショウは毎日鍛錬を積んでいるためこれぐらいなら朝飯前だ。

デバイス関係のものや生物、ベルカの歴史と色とりどりの本だ。

それを持ち上げ、

 

「それじゃあ、俺はこれで失礼します」

 

「気をつけてくださいね」

 

 

 

廊下を歩いているが人一人通らない。

もうみんな帰ってしまったのだろう。

静まり返る廊下。城の中を連想させる装飾。

ふとあの頃の事を思い出す。

父上と母上が死んでヴォルケンリッターのみんなと出会った頃だったかな?

みんな戦場に出て城には誰もいなかった。

その頃の俺はとても弱くて戦場に出る事が出来なかった。

そんな悔しさと寂しさを抱きながら歩いた静かな廊下に似ていた。

ただ、少し違うのは隣に彼女(・・)が居ないことだろう。

 

彼女のことを思い出し、苦笑する。

本当に俺なんかには勿体無いぐらいのいい部下だった。

俺が死んでしまったあと彼女はどうなったのだろう。

それを確かめる術はない。どの文献を探しても彼女のことを知ることは出来なかった。

 

彼女とは俺の忠臣だったーーーアリン・キサラギのことだ。

彼女は俺と同い年だったため護衛を務めてくれていた。

そして、俺と同じよう『剣王流』の使い手だ。

アリンはいつも俺のことを気に掛けてくれて寂しい時、いつも側に居てくれた。

そんな彼女は俺の中では家族だった。

最後の時も彼女には迷惑を掛けた。恨まれているだろうか?

もし、また会えたならあの時のことを謝りたい。

 

曲がり角を曲がろうとすると何かがぶつかり本を持ったまま倒れてしまう。そのまま本が俺に覆いかぶさるように倒れてきて倒れた時の衝撃と本の重みが追加され余計痛い。

本で視界が遮られていて何がぶつかったのか分からず確認をしようと起き上がる。

 

「え?」

 

「あ……」

 

ショウは固まってしまう。

それは今、目の前で尻餅をついている彼女も同じだった。

流れるような黒髪を腰まで伸ばし瞳も髪と同じ黒だ。

幼くなっているが尻餅をついている彼女はついさっきまで考えていた彼女だった。

もしかしたら、彼女も俺と同じことを考えて固まっているのかもしれない。そんな、淡い期待を抱いてしまう。

だから、確かめるために勇気を出して一言。

 

「アリン、なのか……?」

 

彼女は目を見開き、驚いていた。

そして、いつも俺に見せてくれた優しい笑顔になり一言。

 

「お久しぶりです。陛下」

 

「あーーー」

 

今、目の前にいる彼女はアリン。

そう思うと何故か嬉しくなって目頭が熱くなっていく。

 

『マスター?』

 

「何でもない。何でもないんだ。ーーーでも、涙が止まらないんだ」

 

ポロポロと涙が頬に筋を描き落ちていく。

アリンはあの頃と変わらない泣き虫な俺を優しく抱き締めた。

 

 

□■□

 

「なぁ、アリン」

 

「何ですか? 陛下」

 

ショウとアリンは肩を並べ半分に分けた本を持ち図書館へと歩いていた。

 

「いや、その前も言ったと思うけどその陛下っていうの止めてくれよ」

 

「それは出来ない相談ですね」

 

「何でさ!?」

 

「私が陛下と呼ぶのは貴方のことを心からお慕いしているからです。それを名前で呼ぶなど言語道断です」

 

「別にそんなの気にしないのに。アリンが俺のことを慕ってくれてるのは痛いほど分かってるよ。でも、側近である前に友人なんだから名前で呼んでくれよ」

 

「陛下の頼みなら考えておきましょう」

 

「分かった。ーーーアリン、一ついいか?」

 

「何ですか?」

 

「アリンは俺のことーーー」

 

「『恨んでないのか?』なんてバカなことを聞いてきたらいくら陛下といえど怒りますよ」

 

「!」

 

どうやら俺の言おうとしていることはアリンには筒抜けらしい。

さすが一番長く付き合ってきた友人だ。

 

「確かに何故、私も連れて行ってはくれなかったのかと何度も思いました。けれど、貴方の性格を考えれば連れて行かなかった理由など明白。だから、私は何も言いませんし恨んでもいません。陛下は何を思い悩んでいるのかはついさっき再開したばかりの私には分かりません。けれどーーー」

 

ーーーその支えにはなろうと思います。

 

「そっ、かーーー」

 

ありがとう、アリン。

アリンの思いを聞けただけで少し報われた気がする。

完全にではないが少しだけ気が楽になる。

本当に俺には勿体無いぐらいいい側近だよ、アリンは。

 

「……ありがとう」

 

本当に耳を澄まさなければ聞こえないぐらいの声量でボソッと呟く。

アリンに聞こえたかは分からないがアリンは優しい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

□■□

 

 

 

図書館に本を運び、アリンと連絡先を交換して今日は別れた。

教室に戻り、荷物を取って校門を出ると校門に保たれ掛かる見知った少女の顔があった。

 

「ずっと待っててくれたのか? アイン」

 

「はい。今日は一緒に帰ろうと思って」

 

「ん、帰ろうぜアイン」

 

「はい」

 

いつの間にか空には真っ赤な夕暮れに変わっていてその赤に見惚れていた。

そして、ソッとアインの右手を握った。

 

「し、ショウ? どうしたんですか?」

 

「いや、何でもない」

 

「でも、何だか嬉しそうです」

 

「ん? そうかーーーそうだな」

 

アインは首を傾げるがショウの笑顔を見て何だか嬉しくなった。

 

 

 

 

こうして『剣王』とその忠臣は再会を果たした。

 

 

 

 

 

 




ユエ『作者さん、作者さん!』

作者「これはユエさん。どうしました?」

ユエ『今回作中では書かれませんでしたがいい動画があるんですよ』

作者「ほほぅ、それはどんな?、」

ユエ『アインハルトさんがマスターを待っている時顔を赤く染めながらマスターの名前を呼ぶ練習をしている一部始終です』

作者「それは使えるな」

ユエ『使えますね』

三人『フフフフフ』

作者・ユエ『あれ? 一人多い』

アイン「覇王ーーー断空拳!」

作者・ユエ『ギャーーーー!!』

アイン「全く二人はショウに見られなくて良かったです」


次回予告

「久しぶりに手合わせ願います」

「それは反則だろ……」

「使ってはいけないと言いませんでしたよ?」

「だったら俺も本気を出そう」

「「『剣王流』ーーー」」

memory 5 『二人の使い手が激突するそうですよ?』


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memory 5 『二人の使い手が激突するそうですよ?』

作者「出来ました!」

ショウ「早いな? どうしたんだよ」

作者「何だか書くのが止まらなくてつい」

ショウ「まあ、早いのは良いことだけどさ。体調管理はしっかりしろよ?」

作者「ショウが優しい、だと!?」

ショウ「どういう意味だ。それは!」

作者「え、ちょ、その関節はそっちには曲がらなーーーあーーー!」

アリン「全く陛下にも困ったものです。それでは楽しんで下さいね。リリカルマジカル始まります」


バリアジャケットを身に纏い二人は相対していた。

ショウとアリンだ。

ショウはいつも通りの紺色。それに対してアリンは白を基調としたドレス型のバリアジャケット。

それを離れて見守るのはアイン。若干戸惑いオドオドしている。

 

「久しぶりに手合わせ願います」

 

「どうしてこうなった」

 

アリンは剣を抜き放ち、ショウに向ける。

瞳はまるで獲物を見つけた獅子のようにギラついていた。

溜息を吐いてこうなった経緯を思い出す。

 

 

□■□

 

 

「おはようございます。ショウ」

 

「もう驚かんぞ俺は」

 

目を覚ますと目の前にアインの顔があった。

また母さんあたりが勝手に部屋にあげたのだろう。

返せ! 俺のプライバシーを!

最近は起きてすぐにアインの顔を拝むのが日課になってしまっている。別にいいのだ。起こしに来てくれるのは有難いから。

ただ、いつも近いんだよ! 顔を寄せればすぐにキスできるぐらい近いんだよ!

天然なのか!? アインは天然の部分があるがそうなのか!?

と、頭の中で葛藤していると、

 

「そろそろトレーニングに行きましょう」

 

「あ、はい」

 

「早く着替えて下さいね。外で待ってますから」

 

「ん、分かった」

ジャージに着替え、顔を洗いいつものゼリーを胃に流し込んでから玄関を出る。

だんだんと肌寒くなっており、息が白くなる。

 

「行きましょうか」

 

「そうだな。あ、そうそう! 今日は紹介したい人が来るからそのつもりで」

 

「? 分かりました」

 

分からないと言いたげな顔をして首を傾げるアイン。

うん、最近この光景が可愛いと思えてきた自分がいるよ。

このままでは変なことを考えてしまいそうなので頭を振り、追い出す。

べ、別にアインの困っているところが可愛いとか思ってないんだからね!

 

 

 

 

 

「初めまして、アリン・キサラギです」

 

「あ、初めまして、アインハルト・ストラトスです」

 

二人が自己紹介しているのを少し離れたところで見ているショウ。

しかし、アインハルトは初めて俺と会った時のような表情をしていた。

前に一度何処かで会ったような顔をしていた。

ーーーお前は、何を知っているんだ? アインハルト。

ーーーお前は、クラウスのことを知っているのか?

考えれば考えるほど謎は深まっていく。だが、最近ある仮説を立てた。

それはアインハルトはクラウスの子孫では? という仮説。

クラウスと同じ光彩のオッドアイ。クラウスしか使い手のいなかった『覇王流』を使ったこと。

それらを合わせて考えるならその線が一番濃い。

 

聞いて確かめるのは簡単だが出来なかった。

簡単なことなのに聞けなかったのだ、俺は。

もし、本当にクラウスの子孫だとして彼女は俺のことをどう思っているのだろうか?

クラウスは俺のことを恨んでいて、それが子孫にも染み付いているのではないかと考えてしまう。そして、何よりも、

 

ーーーアインハルトは俺のことを嫌いにならないだろうか。

 

「ョウ、ショウ!」

 

「え、あ、何だよアイン」

 

「いえ、ただぼうっとしていたのでどうしたのかな、と」

 

「いや、何でもないよ。考え事をしてただけだから」

 

どうやら考え過ぎでアインに心配を掛けてしまったらしい。

今、考えるのはよそう……

 

「ショウ、一つ聞きたいことがあります」

 

「な、何だよ?」

 

いつもより顔が無表情になりとても怖い。

何か後ろに鬼が見える気がする。目の錯覚かな?

 

「アリンさんとは何処でお会いしたんですか?」

 

「え、ああ、この前シスター・シャッハに仕事を頼まれた時だよ」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

ニコリと笑うアイン。しかし、その笑顔は黒い何かを纏っていた。

 

「仕事を頼まれていたのにこんな可愛らしい人と一緒に居たんですね。ショウは」

 

「え? アイン…ハルトさん。その拳はどうするおつもりですか?」

 

「ちょっと今、練習している技を打とうと思いまして」

 

「うん、待とうか。だったらこっちじゃなくて人が居ない方でやりなさい」

 

「何を言っているんですか? 私の前に人なんて居ないじゃないですか?」

 

「最早人間扱いされていないだと!? 一体俺を何だと思っているんだよ!」

 

「可愛い女の子を毒牙に掛ける淫獣」

 

「よし、待て。何で俺がそんな扱いされているのかは置いといて、一体何処でそんな言葉を知ったんだ?」

 

「マリアさんが教えてくれました」

 

「あんのぉバカ親ぁあああああああ!」

 

何、アインハルトに吹き込んでんだよ!

普通女の子に淫獣とか教えるか!? 教えないよね!?

俺が正しいよね!? お願い母さん、そういうことはアインハルトに教えちゃダメだよ!

 

「覚悟はいいですね?」

 

「いい訳ないだろうがあああああああ!」

 

「まあまあ、アインハルトさん。そこまでにしてトレーニングを始めましょう」

 

「アリンさんの言う通りですね。トレーニングを始めましょう」

 

良かった、本当に良かったぁ!

アリンマジでありがとう! このままだったら俺、絶対断空拳食らってたよね。

だが、ショウはこの時安心のあまり気付いていなかった。

アリンもまた黒い笑みを浮かべていたことに。

 

(ふふ、もし我が王に言い寄る女がいたら消す。そして、見境ないのもはしたないので切り落としてしまいましょうか?)

 

ゾクッ!

 

あれ、何か急に寒気がしてきたぞ? それに冷や汗も止まらない。

何でだ?それに、自分のナニかが切り落とされるような気配が……

敢えてナニがとは言わないが。

 

「はぁ、取り敢えずストレッチしよう」

 

 

 

軽くストレッチを終え、いつも通りイメトレをする。

やはりオリヴィエには遠く及ばない。それをよ〜く思い知らされる。

彼女はどうしてあそこまで強くなったのだろう?

守りたいものがあったから?

力を追い求めたから?

それともーーー誰かを殺したかったから?

 

そこまで考えてしまった自分に苛立ちを覚えた。

そんなはずがない。そんなはずがないのだ。

俺が見てきた彼女は大切な人を、大切なものを守るために拳を振るっていた。決して誰かを傷つけるためではない。

そんなこと一番近くにいた俺は分かりきっていることなのに、俺は!

 

「陛下、どうかされましたか?」

 

「……アリン」

 

後ろから声を掛けられ振り向くとアリンが心配そうに此方を見ていた。

心配かけまいとショウは言葉を紡ぐ。

 

「何でもない。何でもないんだ」

 

「……ディルフィング、セットアップ」

 

『スタンバイレディ、セットアップ』

 

アリンの腕に付けられたバングルから無機質な声が発せられた。

アリンを中心として白い魔法陣が展開される。

彼女のバリアジャケットはあの頃と何も変わらない。

それは白を基調としたドレス。

俺と同じで甲冑を嫌い身に纏った最小限の防具を付けた白いドレス。

それは戦場では良く映えた。

 

彼女のデバイスはユエよりも少し細めの片手剣に変わっていた。

ディルフィングーーーそれは彼女と共に戦場を駆け抜けた愛剣の銘。

ディルフィングを抜き放ち、ショウへと向ける。

それはショウとアリンが決めた決闘の合図だった。

 

「久しぶりに手合わせ願います」

 

目の前の彼女はそう囁いた。

 

 

 

□■□

 

 

陛下はいつも悩んでいる。

何を悩んでいるのかは私には分からない。

陛下は何も言ってはくれない。

全部自分の中に抱え込んでしまうから。

だから、あの時どうすることも出来なかった。

もしかしたら他の方法があったのかもしれないのに。

目を閉じると鮮明にあの時の光景を思い出すーーー

 

『陛下! 陛下! 居るのなら返事をしてください!』

 

荒野が炎に包まれ息苦しい。

地面に武器や人だったものが転がり先に進むのも困難だ。

だが、先に進まなければならなかった。我が身も心も捧げ忠誠を誓った王の元へ。

 

『あ、りん、なのか?』

 

微かに声が聞こえた。

それは今、私が一番聞きたかった声。

けれど、その声は掠れていて弱々しかった。

声の聞こえた方へ駆け寄るとそこに横たわる彼の姿があった。

 

『陛下!』

 

『ああ、あ、りん。みんなは、どうな、った?』

 

『無事に全員運び終えました! あとは貴方だけです!』

 

『そ、うか。よが、た。あ、りんお前も、はや、ぐにげろ』

 

『何を言っているのですか!? クラウス様たちが待っているんです! そして、皆さんに怒られてまたいつものように笑ってください!』

 

『ああ、そう、だな。みん、なが待って、るんだもん、な』

 

『ええ、そうです! だから、だからーーー!』

 

次第に失われていく体温。目からも光が失われてもうほとんど見えていないだろう。

それでも彼は震える手を伸ばしソッと私の頬に触れた。

その手は傷でボロボロになり血で濡れていた。

そんなことは気にも留めずにその手を包んだ。

 

『ご、めんな? お前、のドレス、汚しちまった』

 

『ええ、本当ですよ。これは新しいものを仕立てて貰わなければなりません』

 

『アリンが、ずっと、側に居てくれたから、寂しくなかった』

 

『それは、私も同じです! 孤児だった私を拾い、人として扱ってくれました! 返しても返しきれない恩なんです! まだ返しきれてないです……だからッ!』

 

『ありがとう、アリン。ーーーさよなら』

 

最後に笑顔を見せるがその瞳からは涙が溢れていた。

私の頬に触れていた手から力が抜けパタリと落ちた。

体から体温が抜け、だんだんと冷たくなっていく。

それがどういうことなのか分かっていた。

彼は今ーーー死んだのだ。

 

『ああ、あああ、ああああああああ! 嫌だ、よぉ! 目ぇ開けてよぉ! いつもみたいにまた笑ってよ、ショウ!』

 

彼女は天に叫んだ。

何故、こんなにも優しい人が死ななければならないのだ、と。

何故、彼が死ななければならなかったのか、と。

何故、私から大切な人を奪うのだ、と。

返ってくる言葉などありはしない。

ポツポツと雨が降り注ぎ彼女を濡らしていく。

それはまるで彼女の涙を隠すかのように。

 

その場には彼を抱き締め嗚咽する少女だけが残った。

 

 

目を見開き、彼を見据える。

あれは救えなかった過去の話。今ではない。だから、今度こそ守るのだ。彼を。私の大切な人を。

だから彼の悩んでいるところなど見たくない。

 

話してくれないのなら別の手段で聞き出すまで。

愛剣の銘を呼び、バリアジャケットを展開する。

ディルフィングを片手に携え、彼に向けて囁いた。

 

「久しぶりに手合わせ願います」

 

言葉で語ってくれないのなら剣で語り合うまで。

そのためにアリンは我が王に剣を向けた。

 

 

□■□

 

 

「何で、そうなるんだよ」

 

「ここへはトレーニングをしに来たのでしょう? ならば手合わせするのも道理のはずですが?」

 

「…………」

 

確かにそうではある。

だが、何故いきなり彼女はこんなことを言い出したのだろう?

それが、分からなかった。

いつの間にか近くに来ていたアインハルトに至っては戸惑いを隠せないでいた。

彼女が食いさがる様子もない。

溜息を吐き、首にチェーンを通して掛けているユエを握る。

 

「……ユエ」

 

『イエス、マスター。スタンバイレディ、セットアップ』

 

紺のバリアジャケットを身に纏い、腰に差したユエを抜き放つ。

これで双方が同意したとみなし決闘が開始される。

互いに相手の様子を見て動こうとはしない。

お互いの技を知っている相手との勝負は読み合いで決着が決まる。

少しでも読み違えれば良いモノもらってそこで終わりだ。

 

先に動いたのはアリン。

それに少し遅れてショウも走る。

ディルフィングが首元へと迫り、それを上体を反らして躱す。

上体を戻す勢いを使い威力を上げた突きを放つがユエを上に弾くことでそれを防がれてしまう。

今の攻防だけで数秒しか経っていない。

アインハルトの目には捉えられてはいないだろう。

 

距離を取ろうと下がるが背後から何か(・・)か飛んでくるのを感じ無理矢理上に飛んだ。

着地すると同時にさっきまで自分がいた場所が爆発した。

飛んだ時に見えたのは白の魔力弾。

誰が撃ったのかなど明白だ。

 

「それは反則だろ……」

 

「使ってはいけないと言いませんでしたよ?」

 

それを言われてしまうともう何も言えない。

元よりこの決闘にルールなど不要だ。

 

「だったら俺も本気を出そう」

 

剣を構え、走る。

彼女は迎え撃つように同じ構えを取った。

 

「「『剣王流』ーーー」」

 

「「透扇!」」

 

互いに放つは横薙ぎ。

如何なるものも無視し斬撃を通す剣。

寸分違わずにぶつかり合い、弾かれてしまう。

すかさず魔力弾を撃つが呆気なく相殺されてしまう。

 

(何で今、押し勝てなかった?)

 

「迷いを持つ剣に私は負けない」

 

「迷い、か」

 

俺の心を読むようにアリンは答える。

確かにいろんなことで悩んでいる。それが剣にまで出ているせいで本来の力を発揮できていない。

でも、俺にはどうすることもーーー

 

「勝負の最中に考え事とは随分と余裕ですね」

 

瞬間、アリンが消えた。

否、上に飛んだのだ。

 

「『剣王流』ーーー壊刃衝」

 

落下の勢いに自身の振り下ろしのスペードを加えた逆袈裟が咄嗟に展開した障壁ごとショウを斬り裂いた。

 

「ガハッ!」

 

余りの痛みに膝を着いてしまう。

バリアジャケットを着ていても伝わる衝撃が骨に響く。

どうやら彼女もまた鍛錬を怠らなかったらしい。

それに比べて俺はーーー

 

自らの選択を後悔し、親友に恨まれているのではないかと震え、誰かを傷つけることしか出来ない。

そんな自分に嫌気がさしてくる。

 

「いつまでそうやってウジウジしているつもりですか? 私が支える王はその程度では諦めません。ましてや、悩みがあろうと辛いことがあろうとそれに打ち勝ち、いつも前に進もうとしていたはずです」

 

「ーーーッ!」

 

そうだ。そうだよ。

今まで俺は何を悩んでいたんだ! やる事なんていつもと変わらないじゃないか!

いつも通りみんなを守るために剣を握り、例え恨まれようも止まらずに前に進む。それだけで良いんじゃないか。

そう思うといつまでも悩んでいた自分が急にバカらしくなってくる。

憑き物が落ちたかのように清々しい気分だ。

 

「悩みは晴れましたか?」

 

「ああ、お陰様でな。だから、ここからは本当の本当に本気で行く。ーーーさぁ、始めようか」

 

「それでこそ我が王です」

 

足に力を込め、一気に爆発さえ加速する。

魔力弾の嵐が行く手を阻むが止まらない。いつも通り斬って前に進むだけだ。

頭に飛んでくる魔力弾を一閃。一つ目。

上と下同時に飛んでくるが唐竹で斬る。二つ目、三つ目。

左右から挟撃する弾を右足を軸とし回転し斬り伏せる。四つ目、五つ目。

一拍遅れて背後から飛んでくる弾をしゃがんで躱し前に出たところを串刺しにする。ラスト。

 

今度こそ彼女へと肉薄し剣を振り抜く。

それを受け止め、鍔迫り合いへと持ち込んでくる。

彼女は笑っていた。久しぶりに強い相手と戦っているのだ。きっと、俺も笑っているだろう。楽しくて楽しくて仕方がなくて。

このまま一気に押し切ろうと力を込めるがそれを流されてしまう。

体勢が崩れ、彼女が背後を取った。

 

「終わりです。『剣王流』ーーー壊刃衝!」

 

先ほどよりも少し威力に欠けるがそれでもバリアジャケットを斬り裂くだけの力を秘めた一撃を見舞う。

だが、まだ終わっていない!

 

「『剣王流』ーーー」

 

ーーー円絶(えんぜつ)

 

崩れる体勢を無理矢理右足だけで支え、更に軸とし回転。

回転の威力を上乗せしたその一撃がディルフィングを弾き返した。

その威力に堪え切れずにディルフィングが手から抜け落ち、離れた地面に突き刺さる。

彼女の白く滑らかな喉に切っ先を突き付け、呟いた。

 

「俺の、勝ちだな」

 

「参りました」

 

「「ぷっ、ふふふ、ははははは」」

 

二人は何だかおかしくなり吹き出してしまった。

それを見ていたアインハルトは言った。

 

「これ、完全に私空気になってますよね」

 

 

□■□

 

 

「だから、ゴメンってアイン」

 

「何のことですか? 別に私は何も怒っていませんよ?」

 

「だって、なぁ?」

 

「はい」

 

「「怒ってるから頬を膨らませてるんだろ(でしょう)?」」

 

「膨らませてませんよ〜〜〜だ」

 

「うん、怒ってるな。口調変わってるぞ」

 

「フンッ!」

 

「今度何処か連れてってやるから機嫌直せって」

 

「本当ですか?」

 

「約束だ」

 

「約束ですからね?」

 

「分かったよ」

 

「破ったら断空拳を使います」

 

「止めなさい。いろいろと持たないから」

 

「そんじゃ、帰ろうぜ。腹減っちまった」

 

「もうそんな時間ですね。家に帰りましょうか」

 

「では、私はこれで」

 

「何言ってんだよ? お前もウチに来て飯食ってけよ」

 

「へ?」

 

ショウの発言に目を丸くするアリン。

そんなアリンの手を握り、強引に歩き出す。

それを羨ましそうに見るアインハルト。

アリンは少し頬を染めて涙を浮かべながら嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

今度こそ私は貴方を守ります。ショウ。

貴方に拾って貰い、初めて家族の温もりを知ることが出来ました。

困っている時に優しく教えてくれました。弱い私に大切な人を守る術を貰いました。

だから、私は貴方を守ると誓います。

ショウは私のーーー初恋の人でもあるのだから。

 

 

 




次回予告

「眠い……」

「初めまして! 高町ヴィヴィオです」

「高町ってあのーーー!」

「私にはママが二人います」

「えっと、ゴメン。説明お願い」

「つまりそのママ達は百合ってことか!」

「何のことか分かりませんけど絶対違います!」

memory 6 『小さな聖王』


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memory 6 『小さな聖王』

作者「聖王さんが来ます」

ショウ「オリヴィエか?」

作者「違いますがそうです」

ショウ「ややこしい言い方だな」

作者「ま、始めましょう。さ、ショウヤッちゃってください!」

ショウ「は?」

作者「アインハルトさんが居ないんですから必然的にショウがやるでしょ、いつもの」

ショウ「な! お前がやれよ! 作者だろ」

作者「ここに誰も居ないのなら私がやりますよ。さっさとやれ」

ショウ「グッ! あ、う、えっと、リリカルマジカル始まるぞ!」

作者「はい、録画完了っと」

ショウ「…………殺す!」

作者「あーーーーー!」


「……眠い」

 

まだハッキリとしない視界を擦る。

時刻は四時半。いつもより一時間早い起床だ。

何故、こんなに早く起きたのか? と疑問に思うだろう。

理由は二つある。

一つ目はアイン達には内緒でやってみたいことがあるから。

二つ目は街の方へ行ってジムに行こうと思っているからだ。

アイン達には悪いが一人で行こう。

眠っている脳を覚ますように頬を強く叩いた。

 

「……よし!」

 

『スタンバイレディ、セットアップ』

 

紺色に輝く魔法陣が展開され、ショウの身体を包み込んでいく。

紺色のコートに身を包んだショウが数秒後現れる。

だが、いつもと違う(・・・・・・)

ショウの身体は身長が伸び少し大人びた青年へと姿を変えていた。

前から試していた変身魔法を使ったものだ。

 

「よし、成功だな」

 

『そうですね。魔力も安定していますね。それに声も少し低くなりましたね』

 

「ん、そうだな」

 

ユエを抜き、構える。

いつもよりも腕のリーチが伸び範囲が伸びている。

今の身体は全盛期と同じぐらいかな。

その身体を懐かしむように軽く剣を振るう。

ズシリとくる剣の重みも今は幾らか軽くなった。

深く抉りとるように剣が動く。

 

「やべっ、ちょっと感激だな」

 

『泣くんですか?』

 

「泣かねぇよ。もう少しだけ身体を動かしたら型の練習を少しして街に行こう。剣はアリンがいるから良いけど、格闘も相手が欲しいし」

 

『アインハルトさんではダメなんですか?』

 

「アインでもいいんだけどまだ練習を繰り返してるみたいだから変に刺激を与えて悪い癖付けのもなぁ」

 

『しっかり考えてるんですね』

 

「何だその俺がいつも何も考えていないみたいな言い方は」

 

『え、考えてるんですか?』

 

「よし、解体だ。解体がお望みなんだな」

 

『あ、ちょ、マスター!? 冗談ですから可愛い女の子の冗談ですから!』

 

「可愛い女の子? ここに居るのはデバイスだけだな」

 

『うぅ、絶対いつか見返してやるぅ〜〜〜!』

 

ユエの悔しそうな声が朝の公園に響き渡った。

 

 

 

□■□

 

 

 

「ング、ング。美味いなこのパン!」

 

『管理外世界の作り方を真似たものらしいですよ』

 

「そうなのか。 何処か分かるか?」

 

『地球というところらしいですよ』

 

「へぇ〜今度行ってみたいな」

 

街に出てすぐに見つけたパン屋で数個パンを買い、それを片手にジムへと向かっている途中だ。

このチョコパンとか美味いな。チョココロネ? って言ったっけ。

もっと沢山の種類食ってみたいな。あの店の商品全品制覇目指すか。

 

『あ、ここですよ。マスター』

 

「ん、サンキュー」

 

パンに夢中になりすぎて危うく通り過ぎるところだった。

ユエさん、ナイス。

受付を済ませ、短めの服装に着替える。

手にグローブを付けなきゃいけないらしく借りることになった。

何でも拳を壊さないためらしい。この程度で壊れるような柔い拳じゃないんだけどな。

 

拳を打ち付け、グローブの感触を確かめているとジムの中には誰もいなかった。

と、思ったが奥の方からバシバシッとサンドバッグを打ち付ける音が響いていた。先客かな?

奥に進み、確認するとそこには流れるような金髪を揺らし今もサンドバックに食らいつく少女の姿があった。

俺より下ぐらいかな?少女へと近付き、声を掛けた。

 

「よっ、頑張ってるな」

 

「ひゃあ!?」

 

突然声を掛けられたことに驚き、素っ頓狂な声を上げる少女。

慌てて此方を振り向く顔は少し涙目だ。

だが、それよりもショウの目に留まるものがあった。

その少女の瞳は赤と緑のオッドアイだった。

同じ瞳を持つ少女を俺は一人知っている。彼女の顔が脳裏をよぎる。

自分でも気付かないうちに彼女の名前を呟いていた。

 

「オリ、ヴィエ?」

 

「え?」

 

「あ、いや、何でもない!」

 

顔を反らし大丈夫と少女に言う。

しかし、ショウの心境は穏やかではなかった。

彼奴はもういない。ゆりかご乗り、戦争を終わらせた少女はもういない。

なのに何で俺はあの子にオリヴィエと言ったのだろうか?

オリヴィエと同じオッドアイだから?

それともオリヴィエと同じ綺麗な金髪をしていたから?

ああ、もうダメだ。考えるのはやめよう。

考えたって答えは出ない。だって、今目の前にいる彼女とオリヴィエは別人なんだから。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「あ、うん。大丈夫だよ。えっと、俺はショウ・S・ナガツキです。よろしくな」

 

「えっと私はですねーーー」

 

息を吸い、その全てを吐き出しながら少女は満面の笑みで自分の名前を口にした。

 

「初めまして! 高町ヴィヴィオです」

 

「そっか、高町ヴィヴィオか。いい名前だ」

 

ん? 何か引っかかるようなーーーあ!

 

「高町ってあのーーー!」

 

「はい! あの管理局のえーーー」

 

「管理局の白い魔王と恐れられている高町なのはさんの娘なのか!?」

 

「違います! いや、そうですけどママは魔王なんかじゃないです! エースオブエースです!」

 

「あ、そういえばそんな呼ばれ方もしてたな」

 

「ついでみたいに言わないでくださいよ!」

 

ヴィヴィオには悪いがなのはさんは魔王だと思うよ?

だってさ? 俺は体験したことないから分からないけどあのピンクの色の砲撃食らったらトラウマものだよ?

色は綺麗なのにやることがえげつない。

うん、正に魔王じゃないか。

 

「しかし、あのまおーー高町さんに娘がいるとはな。父親は誰なんだ?」

 

「今、また魔王って言おうとしましたよね?」

 

何のことかお兄さん分からないな? テヘッ!

次の瞬間、ヴィヴィオの右ストレートが顔面に決まった。

 

「グベッ!」

 

「あ、ごめんなさい! 何でか分からないんですけど殴らなきゃいけない気がして」

 

そっか……そんな時ってあるよね。俺もよく母さんに殴り掛かろうとするもん。アインに止められるけど。

 

「まあ、いいよ。それで本当に父親は誰なんだ?」

 

「パパはいません」

 

「あ、ごめん……変なこと聞いたな」

 

「いえ、大丈夫ですよ。だってーーー」

 

「私にはママが二人いますから!」

 

「そっか、そっか。ママが二人もいるのかーーーはい?」

 

え? それってどういう意味なんだ!?

ママが二人? つまり女性と女性。そして、ヴィヴィオが娘。

なのはさんと誰かということで、二人がくんずほつれつでヴィヴィオが生まれたってことか?

いや、さすがにそれはーーーもしかしたら有り得るかもしれない。

最近の技術って進んでるからなぁ。

なんて自分の中だけで考えるのは失礼なのでヴィヴィオに問い掛ける。

 

「えっと、ごめん説明頼む」

 

「なのはママとフェイトママ何ですけどその二人が普通の夫婦よりもすっごい仲良しなんです!」

 

白い魔王に続いて金色の死神だと!?

確かあの二人は幼馴染でとても仲がいいと聞いたことがある。

そこから恋愛感情に発展してもおかしくはない。

そこから導き出される答えはーーー!

 

「つまりそのママ達は百合ってことか!」

 

「何のことか分かりませんけど絶対違います!」

 

「ヴィヴィオよ」

 

「大人には子供には知られたくない情ーー事情があるんだ」

 

「今、何を言い掛けたんですか?」

 

ポンっとヴィヴィオの肩に手を置き、遠くを見据える。

 

「ヴィヴィオも大人になれば分かるさ」

 

「どういう意味ですか!?」

 

二人でわいわい騒いでいると後ろから俺たちを見つめる視線に気が付いた。

振り返るとそこには赤い髪を短髪にしたボーイッシュな女性が呆れたような目で此方を見ていた。

 

「何やってんだ? ヴィヴィオ」

 

「あ! ノーヴェ」

 

「あ、初めましてショウ・S・ナガツキです」

 

「ノーヴェ・ナカジマだ。お前もスパーしに来たのか?」

 

「はい。そうなんですけど生憎相手が誰もいなくて」

 

「なら、ヴィヴィオとスパーしてみるか?」

 

「え!?」

 

「良いんですか!?」

 

凄い勢いでノーヴェの前まで走り、手を取るショウ。

その目はキラキラと輝いていた。

これで断れるほどノーヴェは強くない。

半ば勢いに負け、頷いてしまうノーヴェ。

 

「あ、ああ、良いぞ? 良いよな? ヴィヴィオ」

 

「え、まあ、わたしも偶には違う人とやってみたいなって思ってたから大丈夫だよ!」

 

「よし、そうと決まれば軽くアップするか」

 

「うん!」

 

「分かりました」

 

こうして急遽ヴィヴィオとのスパーが決定した。

 

 

□■□

 

 

「二人とも準備はいいか?」

 

「うん」

 

「いつでも」

 

「よし! ルールはどちらかが降参するか相手の膝を地面に着けた方の負けだ。魔法は相手を傷つけるようなエグいのはなしだ。それではーーー始めッ!」

 

ノーヴェさんの合図により試合が始まった。

ヴィヴィオはまだ隙が多いが様になっている。

よっぽど徒手格闘技術(ストライクアーツ)が好きなんだな。

 

「行きます!」

 

ヴィヴィオは一気に距離を詰め、さっき見せた右ストレートを放ってくる。それを紙一重で躱し、掌底で吹き飛ばした。

 

「わわっ!」

 

(へぇ、彼奴も結構やるな。もっと磨けばいい線行くぞ)

 

「やりますね、ショウさん!」

 

「ヴィヴィオもな!」

 

俺のスタイルはクラウスと同じ『覇王流』だ。

ずっと一緒に鍛錬してきたせいか身体が覚えていたのだ。

それに我流を混ぜたものを使う。

オリヴィエ相手では一歩届かなかったが並みの相手なら軽くあしらう程度には強力だ。

 

ヴィヴィオは楽しいのか笑顔で突っ込んでくる。

きっと俺も笑っているだろう。

ヴィヴィオの拳を左手でブロックし右ストレートを放つ。

その際避けられないように左手を掴むのも忘れない。

 

「ック!」

 

ヴィヴィオはそれを擦りながり避け、蹴りを放つ。

掴んでいた手を離し、ガードする。

一気に後退し、息を整える。ヴィヴィオは恐らくカウンター型。

突っ込んで行けば必ず一矢報いようと食らいついてくるだろう。

ヴィヴィオの顔が引き締まる。コブシに魔力が集中していく。

来る……ヴィヴィオの本気が。

 

「行きます!」

 

「なっ!」

 

拳にばかり集中していたため足に集中した魔力に気付くのが遅れ、懐を取られてしまう。

 

「一閃必中ーーー‼︎」

 

ーーーアクセルスマッシュ‼︎

 

ヴィヴィオの気合いと共に放たれたその一撃は身長差があるため顎を捉えていた。

何とか避けようと考えるが、その考えている時間が無駄だった。

ヴィヴィオの拳が不規則に加速し、避けるよりも早く顎を打ち抜いた。

強い衝撃を頭に受け、意識は飛ばないにせよニ、三歩後ろに下がってしまう。

まだ揺れている目でヴィヴィオを見ると勝利を確信した顔をしていた。

 

ああ、本当に強いよヴィヴィオ。

だけどな、勝利の余韻って奴はしっかりと相手にトドメを刺してから浸るもんだぜ。

ダンッと足に力を込め、踏み止まる。

その音に一瞬怯むヴィヴィオ。一瞬、止まれば十分だ。

 

ーーークラウス、技借りるぜ。

 

ヴィヴィオ達には聞こえない声量でボソリと彼の、『覇王流』を口にする。

 

「覇王ーーー空破断」

 

ヴィヴィオに向けて掌底を一発。

掌底によって撃ち出された空気の塊がヴィヴィオに決まり、身体が大きく吹っ飛ぶがそれを耐えてみせた。

凄いな。本来なら魔法を使って単発のソニックシューターも付けるところだがそんなことしたら危ないので踏み留まった。

 

さてーーー

 

「これで終わりだ」

 

「えーーー」

 

ヴィヴィオは後ろからするショウの声に驚き、振り返ろうとするが足を払い転ばせる。

痛ッと小さい悲鳴を上げながらショウの勝利が確定した。

 

『剣王流』ーーー瞬雷

 

それは雷のように速く、鋭く移動する『剣王流』の歩法だ。

ヴィヴィオが膝を着いたことを確認しノーヴェさんはこの試合の勝者の名を告げた。

 

「勝者ーーーショウ!」

 

 

□■□

 

 

「ううっ、勝てたと思ったのに……」

 

ショウと同じく隣に腰を下ろしたヴィヴィオは結果に納得出来ず呻いていた。

 

「ふふ、ヴィヴィオも結構強かったぜ? 最後の加速した拳なんて予測出来ずに食らっちまったし」

 

「本当ですか!?」

 

先ほどの俺と同じように目を輝かせて手を取るヴィヴィオ。

おお、凄い迫力だ。ノーヴェさんもこんな気持ちだったのかな?

今度から気を付けよう。悪魔で気を付けるだけであってしない訳ではない。気を付けるだけであってしない訳ではない。

大事なことだから二回言った!

 

「お前も強かったぞ? ショウ。お前の師匠って誰なんだ?」

 

反射的にクラウスと言いそうになり、その言葉を飲み込んでからノーヴェさんの質問に答える。

 

「基本、我流ですよ。生憎、友達少なくてスパーしてくれる人いないでっし、それに俺は格闘(こっち)が本業じゃないので」

 

パシッと拳を打ち付ける。

 

「本業じゃない?」

 

「ん、俺は格闘(こっち)より剣の方が得意なんだ」

 

「へぇ〜どんな感じなんですか?」

 

「簡単な型でいいなら一つ見せるけど」

 

「お願いします!」

 

女の子の頼みを断らないのは男の性ってね。

ユエを剣に展開し、調子を確かめるようにニ、三回振る。

腰の高さに下げ、身体をやや下げ力を溜める。

ヴィヴィオとノーヴェはその迫力に驚いていた。

ショウの顔はさっきまでの笑顔ではなく鋭いものへと変わっていた。

ノーヴェはそれに見覚えがあった。それはノーヴェ自身もしたことがあったから。

あれは、誰かの命を奪おうとする時の顔。

ヴィヴィオとそう年は変わらないはずなのに何故、そんな顔が出来るのか?お前は何を見てきたんだ?

 

「『剣王流』ーーー透扇!」

 

ショウの剣閃に思わず見惚れてしまう。

一瞬で空を斬り裂く剣速。型の完成度に目を見張る。

今のだけでどれだけショウが鍛錬を積んできたかが伺えた。

 

「ま、こんなもんですね」

 

「凄い! 凄いよショウさん!」

 

「ん、ありがとう」

 

ショウの顔は笑顔に戻っていた。

だが、さっき見せたあの顔はーーーさせてはいけない気がした。

 

「ん? もんこんな時間か。俺、そろそろ帰りますね」

 

外を見ると太陽が傾き、空が赤く染まっていた。

いつの間にか夕暮れになっていた。

 

「私たちもそろそろ帰ろっか、ノーヴェ。あと、ショウさん!」

 

「ん?」

 

「私と友達になってください!」

 

バッと手を出しながらヴィヴィオは明るく友達になろうと言ってくれた。

ショウは目を丸くするがすぐにさっきよりも笑顔になり、ヴィヴィオの手を取った。

 

「よろしくな、ヴィヴィオ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

ヴィヴィオ達と別れ、ショウは帰路に着いた。

そして、ヴィヴィオと繋いだ手を見る。

まだ温もりが残っており、その暖かさがヴィヴィオと友達になったと証明してくれていた。

それが嬉しくて微笑みを零す。

 

『何、幼女と繋いだ手を見てニヤニヤしてるんですか?』

 

「それ誤解招くからやめろ! そして、俺はロリコンじゃねぇーーーー!」

 

 

 

 

□■□

 

 

 

ショウの背中が見えなくなるまでその場に佇む二人。

 

「不思議な奴だったな、彼奴」

 

「うん。でも、友達になれたよ!」

 

「良かったな」

 

「あ、そう言えばーーー」

 

「どうしたんだ?」

 

「ショウさん、小さい声でだけど私に向かって“オリヴィエ”って言ったんだ」

 

「何だと?」

 

それはヴィヴィオの母体、クローンの本体だ。

オリヴィエのことは知っているものは知っているだろうが……ヴィヴィオを見てオリヴィエと初対面で言うだろうか?

 

彼奴は、オリヴィエのことを知っている?

 

「お前は、何者なんだ?」

 

ノーヴェの訝しむような声は風の音と共に掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アイン・アリン『ねぇ、ショウ』

ショウ「ん? 何だよ二人して」

アイン・アリン『何処で女の人と会っていたんですか?』

ショウ「何故、俺が女の人と会ってる前提で話が進んでいるんだ?」

アイン・アリン『ショウから他の女の子の匂いがするからです』

ショウ「怖いよ!? お前らは獣か!」

アイン・アリン『さあ、詳しく話を聞かせてくださいね? フフフフフ』

ショウ「え、ちょ待、止まーーーあーーーーーー!」



次回予告

「おはようございます、ショウさん!」

「ん、魔王の娘」

「やめてください!」

「……本当に何で悪人はこういう倉庫に集まるのかね」

「この私が聖王の力を奪い、あのベルカの戦乱を呼び戻し王に君臨する!」

「寝言は寝てから言え」

「ショウ、さん……助けて!」

「そこで、待ってろ。ーーーすぐに終わらせる」

memory 7 『狂人が戦乱を呼び戻すなんてくだらない事を言っている』


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memory 7 『狂人が戦乱を呼び戻すなんてくだらない事を言っている』

ショウ「そういえば最近アインとアリンの出番が少ないな」

作者「そうですね。今はヴィヴィオがメインですから」

ヴィヴィオ「私の出番です!」

作者「まあ、きっと二人も分かってくれますよ」

ショウ「そ、そうか。取り敢えず頑張れよ……」

作者「どういう意味ーーー」

ガシッ! (アインとアリンに肩を掴まれる音)

ガスッ! ドッ! (首を叩かれ地面に倒れる音)

ズルズル (二人に引きずられていく音)

ヴィヴィオ「ショウさん……」

ショウ「分かってる。分かってるから何も言うな、ヴィヴィオ」

ヴィヴィオ「はい……」

ショウ「まあ、作者は頑丈だから無事さーーーたぶん。き、気を取り直して行こうぜ!」

ヴィヴィオ「は、はい! リリカルマジカル始まります!」


ショウ達はあれから四年生に進級した。

いや、正確には進級を控えた春休みに入ったところだ。

この春休みは全て鍛錬に注ぎ込もうとスケジュールを練っていたらアイン達に止められてしまった。

しかも、二人とも口を揃えてこう言うのだ。

 

『修行するのは構わないけど休むことも考えなさい。この修行バカ』

 

修行バカと言われるのはさすがに心外だ。

休みの日が続いたら寝る時間を一時間まで削ってるだけなんだけどな?何がダメなんだろ?

二人の監視の下スケジュール決めが行われ、今日は休みの日なのだ。

休むことも修行の内ーーーその言葉を実感する。

根を詰めすぎた身体に休みを与えることで溜まっていた疲れが少しずつ抜けていく。

偶にはこういうのもいい、かな?

 

しかし、そうなるとやる事が無くなってしまったのでどうしたものか?

出された宿題は全て片付けたし、家事の手伝いは母さん達が起きる前に掃き掃除だけしたから問題はない。

数分、頭を捻って考え、結局は街をブラブラすることに落ち着いた。

そうと決まれば早く着替えて行こう。

お気に入りの紺のパーカーを羽織り、ショウは待ちへと向けて歩き出した。

 

 

 

□■□

 

 

街に来たは良いが特に行くあてもないしな。ただブラブラするのも何だか気が引けた。

休日だと言うのに街には人が少なかった。

みんな家に篭っているか遠出しているのだろう。

こんなことならアイン達も連れて来るんだったかなと後悔し始めた時、ふいに後ろから声を掛けられた。

 

「おはようございます、ショウさん!」

 

振り返るとそこには太陽の光を反射させ輝く金髪をツーサイドアップで束ねたヴィヴィオがいた。

 

「おはよう、まおーーーヴィヴィオ」

 

「ショウさんは私のことをどういう認識としているんですか?」

 

「ん、魔王の娘」

 

「やめてください!」

 

「えーーー」

 

「えーーーじゃないです! 全くもう。ショウさんはここで何をしてたんですか?」

 

「特に行く当てもなくてブラブラしてた」

 

「暇なんですね」

 

「べ、別に暇なんかじゃーーー「休日の昼間から街をブラブラしていることの何処が暇じゃないんですか?」ーーー暇です」

 

ヴィヴィオは一本取ったと言わんばかりの笑顔を浮かべて胸を張る。

はぐらかそうとしたのは、暇なのだが暇だと言って暇人と思われたくなかったからだ。

 

「それじゃあ、今日は私に付き合ってくださいよ」

 

「俺は良いけど何処か行く当てでもあるのか?」

 

「あ……」

 

「ーーー暇なんだな、ヴィヴィオも」

 

「返す言葉が見つからない………あ、だったら公園に行きましょうよ! 今日は天気が良いですし日向ぼっこしたらきっと気持ち良いですよ!」

 

ショウに暇なんですねと言っていたヴィヴィオも暇だったらしい。

慌てて提案したのは公園だった。

確かにこの日射しの中、草に転がって寝るのも気持ち良さそうだ。

 

「じゃ、公園に行こうぜ」

 

「はい! その、えっと、手、繋いでも良いですか?」

 

「ん? ああ、別に良いよ」

 

右手を差し出すと少し躊躇ってからその手を取る。

ヴィヴィオはお兄ちゃんに憧れている。だから、ちょっとだけショウにバレずにお兄ちゃんがどんなものなのか確かめたい。

そんな気持ちを知ってか知らずかショウは握った手を離さないように痛くならないように強く握った。

 

通行人は“妹の手を引くお兄ちゃん”だと微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

 

公園に来ると街同様に誰一人居なかった。

今は俺とヴィヴィオだけの貸切状態だ。

草原に身を投げ、身体全体で日光を浴びる。草の青々しい匂いが鼻を通り抜けていく。

 

「あーー気持ち良いな」

 

「そうですね」

 

ショウの横に腰を下ろし天を仰ぐ。

その顔は寂しさを映していて暗かった。

すると、ヴィヴィオが自分のことを語り始める。

 

「ショウさん。実は私、クローンなんです」

 

ショウは聞き返したりせず黙ってヴィヴィオの話に耳を傾けた。

 

「私は『聖王』の、オリヴィエのクローンなんです」

 

その言葉に眉間がピクッと反応する。

そうか、だからオリヴィエと勘違いしてしまったのか。

 

「三年ぐらい前に起きたJS事件を覚えてますか?」

 

「ああ。でも、それは主犯が捕まったはずだがーーー」

 

「その時、巨大な空中艦がミッドチルダ上空に出現し街を混乱の渦に呑まれ大騒ぎになったことは?」

 

「覚えてるよ」

 

忘れるはずがない。あれは昔、一度だけ見たことがある。

“ゆりかご”だ。

あれはオリヴィエが戦争を止めるために乗った空中艦。

それを見た時、本気で激怒したことを今も覚えている。

“ゆりかご”は争いが嫌いなオリヴィエが戦争を止めるために乗った殺すための道具だ。

オリヴィエはそれを承知の上で乗った。自分が死んでしまうことを構わずに、だ。

 

それを、そんなオリヴィエの想いを踏みにじるようにジェイル・スカリエッティは自分の欲のために“ゆりかご”を起動した。

そして、ヴィヴィオが今も表情を曇らせている原因は一つ。

『聖王』のクローン。つまり“ゆりかご”を動かすためのキー。

それがヴィヴィオなのだ。

 

「私は“ゆりかご”に乗って街を、みんなを傷付けちゃたんです。みんなは笑って私を許し、温かく出迎えてくれました。ーーーでも、偶に思うんです。私が居なかったらみんなは傷付かずに済んだんじゃないかなって」

 

「それに私はクローンで他の人とは違う存在。ママ達が受け入れてくれてもみんながみんなそうとは限らない。ーーーすみません、こんな話しちゃって……気持ち悪いですよね、クローンなんて」

 

今まで我慢してきた気持ちを隣で寝ている少年に吐露する。

少年は黙って私の話を聞いてくれた。でも、受け入れてくれるか怖かった。

だから、自分から受け入れてくれる、という選択を消してしまった。

等々、堪えきれずに目に涙が溜まりだした。

 

そんなヴィヴィオを見兼ねて、ショウは起き上がるとポンっと手を頭に乗せた。

 

「えーーー」

 

彼の手から伝わる温もりに驚き、声を上げてしまう。

彼はゆっくりと話し始める。

 

「別に気持ち悪くねぇよ」

 

「あっ」

 

それは今、一番聞きたかった言葉。

 

「クローンがなんだよ。クローンだから普通の人みたいに人生を楽しんだらダメなのか? ふざけろ。楽しんで良いんだよ。クローンだろうと何だろうとこの世に生を受けて産まれたんだ。この世に必要のない命なんて一つもない」

 

クローンの私を彼は受け入れてくれた。

 

「それにお前がいるからみんなが傷付いた? 違うな。確かにお前を助けるために戦い、傷付いたかもしれない。でもさ、どうでもいい奴の事を傷付いて、必死になって助けると思うか?」

 

「それはーーー」

 

「お前を助けた時、みんなどんな顔をしてた? 笑ってただろう。そんな人達がお前のことを嫌いなはずがない。なのに、お前は自分がいない方が良いって言ってる。それを聞いたらきっとみんなは悲しむ」

 

「うっ」

 

「だから、自分がいない方が良いなんて二度と言うな。そして、お前は笑ってろ。そしたらみんな嬉しいんだから。お前が笑えばみんな幸せなんだよ。お前が欠けてしまったら意味がない」

 

彼は優しく頭を撫でてくれる。

くすぐったいのにやめて欲しいとは思わなかった。

震える声で勇気を出し、彼に問い掛ける。

 

「ショウさんは私が笑っていたら、幸せですか?」

 

「ん? そりゃ幸せだな。笑顔を見てたらさ、(ここ)が温かくなってこっちまで幸せになっちまう」

 

彼の答えに私は涙を流した。涙は決壊したダムのように止まることはなかった。

悲しくて泣いたんじゃない。嬉しくて、仕方がない。

私は生きていて良いと、言ってくれた。

それだけでも嬉しいのにそんなこと言われたら自分が幸せ者過ぎて泣いちゃうじゃないですか。

彼の胸に飛び込み、顔を隠しながら嗚咽する。その際、後ろに回した手で力一杯彼に抱き着いた。

彼は優しく私を抱きしめ返してくれた。

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「はい……もう、大丈夫です」

 

「そっか」

 

ヴィヴィオは恥ずかしくなり赤く染まった顔を反らした。

 

「これからどうする? そろそら腹減っちまったよ」

 

「そ、それならウチに来ませんか? 今日はなのはママ達がお休みで家に居るんです。美味しい料理をご馳走しますよ!」

 

「え、良いのか? 久しぶりの休みなんだろ? だったら俺は邪魔なんじゃないか?」

 

「大丈夫です。私はショウさんと一緒にご飯食べたいんです!」

 

「お、おう。じゃあ、お邪魔するよ」

 

(やった! 誘えたよ! あ、でも私何を口走ってるんだろう!? は、恥ずかしいよぉ〜〜!)

 

身をクネクネと捩りながら、頭を抱える。

それを優しく見つめるショウ。その顔は優しく穏やかだった。

 

だが、そんな二人の楽しい時間は長くは続かなかった。

 

二人しか居ないはずの公園に複数の気配がいきなり現れた。

それを感じ取り、身構えようとするが後ろから首を強打され崩れ落ちてしまった。

 

「がっ!」

 

「ショウさん! 嫌! 離して! んぐ!? んーんー! ん、ん……」

 

ショウに駆け寄ろうとするが、背後から捕まれ湿った布で口と鼻が覆われる。振り解こうと対抗するが次第に意識が眠りへと落ちていった。

霞む視界でそれを見ていたショウはヴィヴィオへと手を伸ばすが、その手は空を切り、ヴィヴィオを掴むことが出来なかった。

意識が途絶える直前、ショウが見たのは胸にベルカの紋章が入った甲冑を身に付け、黒のローブを着込んだ集団だった。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

風で靡く草のザワザワとした音で目が覚めた。

まだ首が痛むがそんなことを気にしている暇はない。

 

「……ヴィヴィオ、ヴィヴィオ……ッ! ヴィヴィオーーー!」

 

助けられなかった彼女の名前を叫ぶ。

さっきまで自分は要らない、必要ないと泣いていたあの彼女を助けることができなかった。

それをただ黙って見ていた自分を斬りつけてやりたい衝動に駆られ、思いっきり地面を殴った。

 

カチャ

 

殴った衝撃で近くにあった何かが音を立てた。

それを手に取ってみるとそれはヴィヴィオの通信用端末だった。

ヴィヴィオはなのはママ達がお休みだと言っていた。

なら、ヴィヴィオを助け出すために協力者が必要だ。

すぐに通信履歴を確認し、高町なのはに通信を繋げた。

 

『もしもし、ヴィヴィオ? どうしたの? 今日は会いたい人がいるって言っていたけどーーー』

 

「高町さん、ですか?」

 

『あれ? えっと、君は?』

 

「俺はショウって言います」

 

『あ、君がヴィヴィオの言ってた男の子か。なんで君が私に通信を?』

 

「ヴィヴィオが攫われました。だから、ヴィヴィオを探し出すのを手伝って欲しいんです」

 

『ッ! 分かった。今君はどこに居るのかな?』

 

「街近郊の公園です」

 

『ヴィヴィオを攫って行った奴らの特徴は分かる?』

 

「黒いローブを羽織っていって顔までは分かりませんが胸にベルカの紋章が刻まれた甲冑を着込んでいました」

 

『分かった! 君はそのままそこを動かないでね! 全部終わったら通信するから』

 

そう言い残し、通信は切れた。

 

「すみません、高町さん。そのお願いだけは聞けません」

 

助けられる距離にいて手を伸ばしても届くことが叶わなかった。

そんな思いはもう沢山だ。もう何度もして来たのだから。

だから、俺がヴィヴィオを助けます。

高町さんはたぶん管理局に要請してヴィヴィオの捜索に当たるだろう。だが、それでは遅すぎる。

そう思い、バリアジャケットを展開し空へと飛んだ。

 

「ユエ、片っ端から探すぞ。エリアサーチ頼んだ」

 

『分かりました。無茶だけはしないでくださいね』

 

「善処するさ」

 

『そこは素直にうんと言うところです』

 

「生憎俺は素直になれない質でね」

 

『はぁ、全く。まあ、それでこそマスターですか』

 

「そういうこと。行くぞ!」

 

ショウとユエは全速力で街に飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

「なのは! たぶんこれだ」

 

腰まである金髪を後ろで一つに纏めた彼女は私の親友。

フェイトちゃんだ。

目の前にウィンドウが表示され、内容に目を通していく。

 

「ーーー次元犯罪者、ベルク・カロナ」

 

ベルカより続くカロナ家の血統、現当主。

彼は優秀だが、優秀過ぎた故にこの世界に興味がなかった。

そんな彼の興味はベルカの戦乱にあった。そして、それを妄信したのだ。

やはり、狙いは『聖王』の力。

迂闊だった。こんなことなら私も付いて行くべきだったと後悔する。

 

「なのは、大丈夫だよ。きっとヴィヴィオは無事だよ」

 

「うん……そうだね!」

 

無理矢理笑顔を作り、気を紛らわす。

助けた時に笑顔じゃなかったらヴィヴィオも悲しむと思うから。

それに通報してくれた彼ーーー確か名前はショウ、くんだったかな。

彼の目にはヴィヴィオを助けるという強い思いがあった。

だから、静止を呼び掛けて置いたがそれは無駄な気がする。

 

願わくばヴィヴィオと彼が無事でありますようにーーー

 

願いを胸になのはは天を仰いだ。

 

 

 

 

 

「クッソ! 何処にも居ない! ユエ、エリアサーチは!?」

 

『ダメです。全く反応がありません。恐らく魔力を封じているか高度な隠蔽が施されています』

 

「それはご丁寧なこった! 畜生!」

 

苛立ち、舌打ちをする。ヴィヴィオが攫われて一時間は経つ。

狙いはヴィヴィオの『聖王』としての力。

このままではヴィヴィオが危ないと本能が訴えていた。

 

『マスター! 右前方2キロに反応があります。これは、あの黒いローブの魔力と一致します』

 

ユエのエリアサーチ通りの方向に飛ぶと確かに黒いローブを纏った奴が一人で歩いていた。

 

「見つけたッ!」

 

急降下を開始し、すれ違いざまに斬り裂いた。

黒いローブが斬れ落ち、その中身が露わになる。

胸にベルカの紋章を刻んだ騎士甲冑を着込んだ男。

それが何よりもヴィヴィオを攫った奴らの一味だと物語る。

男が剣を取ろうとするよりも速く、喉元に剣を突き付ける。

 

「お前に聞く。ヴィヴィオは何処だ」

 

「ふん。脅しのつもりだろうが俺は騎士だ。そう簡単に口を割るとーーー」

 

答える気など更々ないことが分かり、クイッと剣を喉に押し込む。

首が薄皮一枚斬れ、血が流れ出した。非殺傷設定を無くしたからだ。

それを見た男は見る見る内に顔を青くしていく。

 

「もう一度聞く。ヴィヴィオはーーーヴィヴィオは何処だ!」

 

 

□■□

 

 

 

男から聞き出したのはミッドの外れにある空き倉庫。

非殺傷設定じゃないと分かると男は簡単に口を割った。

騎士を名乗るものがああも簡単に口を割るとは滑稽だった。

ーーー本当の騎士なら自害するところだ。

男をバインドで拘束して管理局に通報した後、空からは気付かれる恐れがあるため、オプティックハイドで姿を透明にし、瞬雷でここまで走ったきた。瞬雷だけでは遅いので少しばかり付け足したけど(・・・・・・・)

 

「……本当にどうして悪人はこういう倉庫に集まるのかね」

 

『悪だから薄暗く廃れたところが好きなんでしょう』

 

「ま、そんなところだろうな。ーーーさて、行きますか」

 

オプティックハイドを解除し、倉庫の扉へと歩き出す。

その際、見張りの二人に気付かれたが気にしない。

アインの時と同じように(・・・・・)入るまでだ。

 

「ユエ、モードチェンジ・バスター」

 

『イエス、マスター』

 

ユエは剣から長大なライフルへと姿を変える。

両手で持ち、見張りを含んだ扉に狙いをすませる。

前より大きな扉でブチ切れる寸前ということもあり、カートリッジを三本、そして一本余分に使う。

 

「ショートバスター」

 

紺色の閃光が砲身から放たれ、見張りごとを扉を包み、吹き飛ばした。

中が騒ついたがそんなことは気にしない。

犯罪者に掛ける情けなど持ち合わせていないので。

だから、倉庫に入る時軽く「お邪魔しま〜す」と言いながら入って来た。

 

「誰かな? 君は」

 

慌てる騎士たちを手で制止、前に出てきたのは輝く銀髪を肩まで伸ばした男だった。犯罪者を抜きにして思わず見惚れてしまう。

だが、ヴィヴィオの金髪の方が綺麗だな。

そのヴィヴィオは身体を縄で縛り上げられて身動きが取れないでいた。

 

「そいつの友達」

 

「ふふ、そうか。私はベルク・カロナという者だ。悪いことは言わない。今すぐここから出て行った方が身のためだ」

 

「あんたこそ何でヴィヴィオのこと攫ったんだよ」

 

「そんなの簡単な事さ。その子が『聖王』の力を持っているからだ」

 

ベルクはヴィヴィオを指差し、言う。

ヴィヴィオの力にしか興味を示してはいない。

その道具として扱うような物言いに腹を立てる。

よく見るとヴィヴィオの頬が赤くなっていた。抵抗した際に殴られて出来た痕だ。

それが更にショウの腹を煮えくり立たせた。

 

「私はね、この世界に全く興味がない。つまらないんだよ、この世界はね。だが、ベルカは違った。何にも興味を示さない私が唯一惹かれたのだ。故に同志を集い、ここまで来た。この世界は面白くないだからベルカの戦乱を呼び戻し、一度壊す」

 

それは詭弁だ。

 

「そのために私は聖王の力を奪い、あのベルカの戦乱を呼び戻し王に君臨する!」

 

それはくだらない妄言。

ベルカの戦乱を呼び戻したところで何かが変わる訳じゃない。

むしろ、今よりも悪くなるだろう。

ベルクの言葉に心底呆れ果てたショウは一言、ベルクに向けて言い放った。

 

「寝言は寝てから言え」

 

「君にはこの素晴らしさが分からないらしい。とても残念だよ」

 

パチンとベルクが指を鳴らすとショウを取り囲むように騎士たちが奥から出てきた。その数、二十。

ベルクの妄言に耳を傾けた同志達(バカども)

王の立場だったショウに言わせるなら戦乱を呼び戻すなどバカのやる事だ。

 

「君を此方側に引き込もうと思ったがそれは叶わない。だからーーー君にはここで消えてもらおう」

 

騎士達が剣を抜き、殺気を醸し出す。

この殺気は一級品と言えるだろう。

そんなベルク達を無視し、ヴィヴィオに目を向ける。

華奢なその身体を震わせ、涙を我慢していた。

だから、ショウはヴィヴィオに問い掛ける。

 

「ヴィヴィオ。お前は俺にどうして欲しい?」

 

小さな口を微かに開き何かを言おうと喉を振動させ、声を絞り出す。

 

「ショウ、さん……助けて!」

 

それは心からの叫び。

ショウはその言葉が聞きたかった。もし逃げてなんて言ったら怒るところだった。

ショウも剣を抜き、構えてヴィヴィオを安心させるように言葉を出す。

 

 

「そこで、待ってろ。ーーーすぐに終わらせる」

 

 

 




次回、戦闘です!
果たしてショウはヴィヴィオを助ける事ができるのか!?
乞うご期待!


戦闘描写難しいですね。
もっと上手く書けるようにもなりたいです。
アドバイスとかしてもらえると嬉しいです!感想もバシバシ待ってます!それではまた次回お会いしましょう!



次回予告

「『聖王』じゃない。ヴィヴィオだ」

「君は私が王となるための糧となれ!」

「リンカーコアを抜き出し、私に移植する事で私は『聖王』の力を得るのだ!」

「ヴィヴィオには指一本触れさせねぇ!」

「そこにいるのは『聖王』なんかじゃない。ーーー今を一生懸命に生きてる“高町ヴィヴィオ”だ!」


memory 8 『今を生きるのは』


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memory 8 『今を生きるのは』

作者「戦闘回なので短めです」

ショウ「書く力が足りないからな」

作者「仰る通りです」

ショウ「こんなダメな作者だけどアドバイスを授けてやってくれ」

作者「それは是非お願いしたいです」

ヴィヴィオ「そんなことより始めますよ? リリカルマジカル始まります!」


騎士達に勝る殺気を放ち、状況を正確に確認していく。

これほどの殺気の中、顔色一つ変えない辺りかなりの手練れだろう。

それだけ罪を犯してきたとも言えるが。

ベルクを含め、二十一人。戦闘の基本の陣形を取っていた。

まず前衛に剣士。片手剣、大剣、刀、大刀と多岐にわたる。

中衛は槍兵、と守りを固める重装備(タンク)

後衛は魔力弾での援護と回復役。

バランス良く配置されていると言えるがこんなものは見慣れている。

これよりも規格外な陣形を見てきたショウに取っては簡単に崩せる。

 

「君は何のために『聖王』を助けるんだい?」

 

ベルクがショウに問い掛けるがそれがショウの気に障る。

 

「『聖王』じゃない。ヴィヴィオだ」

 

「そんな事は如何でも良いんだ。私が聞いているのは君に『聖王』を助けて何のメリットがあると言うのだい?」

 

「損得で助けるんじゃない。俺はヴィヴィオの友達だから助かるんだ。友達がピンチの時、助けるのは当たり前だろう?」

 

「ふふ、友は大事にしなくてはね。まあ、君はここで散ることになるがね」

 

剣を俺に向け、ベルクは叫んだ。

 

「君は私が王となるための糧となれ!」

 

それが合図だったかのように剣士達が一斉に走り出した。

ユエを腰の位置に下げ、意識を集中させる。

 

「『剣王流』ーーー円絶」

 

右足に力を込め、剣を振り抜きながら回転する。

それに反応出来なかった剣士達は後ろによろけ、その間に槍兵が槍を突く。

それを反らすように受け流しながら、前に進む。

槍は突き出された状態であるため、引く事も後ろに下がる事も出来ずに斬り裂かれた。残り二十ーーー

 

『マスター! 右から三発、左から二発来ます!』

 

「モードチェンジ・ツヴァイ!」

 

片手剣から双剣に形を変えたユエを両手で握り、右から迫る三発を斬り裂いた。

後ろの二発はユエがアクセルシューターを生成し、相殺する。

 

「チッ! 後ろの魔導師が邪魔だな。彼奴らから潰そう」

 

『如何やるんですか?』

 

「俺の魔力変換資質(・・・・・・)を使えば行けるだろ」

 

『……マスターのそれって結構チート染みてますよね』

 

「それは昔から思ってる事だから何も言うな。無駄話はここまでにして行くぞ! アクセルシューター!」

 

『アクセルシューター』

 

紺色の魔力光を放ちながらアクセルシューターを魔導師に向け撃つ。

重装備(タンク)を避けるように飛んだアクセルシューターに魔導師達は障壁(プロテクション)を展開する。

だが、それだけでは甘い(・・・・・・・・)

ショウが撃ったのはただのアクセルシューターではない。アクセルシューターに纏わりつくように風も(・・)一緒に撃ったのだ。

風が障壁を切り裂き、魔導師にクリーンヒットする。

残り十二ーーー

 

「奴の魔力変換資質は風だ! 風に気を付けろ!」

 

騎士の一人が注意を呼び掛けるがそれは無意味だ。

槍兵が遠くから槍を突き刺そうと距離を取るが、そこはまだ俺の間合いだ。

 

「『剣王流』ーーー羽斬(はばきり)!」

 

双剣から斬撃を飛ばし、槍兵を捉える。その際、風で斬撃の切れ味を増させる。

槍で弾こうとした者の槍を真っ二つにしその余波で吹っ飛ぶ。

避けられずにその身で受け、甲冑ごと斬り裂かれる者。

羽斬は避けることは出来ても、防御することは不可能の斬撃。元々は空を飛ぶ相手を想定したものだが離れた相手を斬るにはこれが一番だ。残り六ーーー

 

「ユエ、モードチェンジ・グラディウス」

 

『イエス、マスター』

 

今度は双剣から身の丈を超える大剣に姿を変える。

双剣のままでは重装備(タンク)を斬り伏せるのに骨が折れるからだ。

重い大剣を肩に担ぎ、怯む奴らに囁く。

 

「降参するなら許してやるけど?」

 

「ふふ、確かに君は強い。だが、そう簡単にやられる私達でもない。それに君一人で私達を倒そうなど慢心が過ぎる!」

 

「そう言うと思ったよ!」

 

大剣を振り上げ、魔力を込める。

込めた魔力は炎。鉄を溶かしその身を焦がす紅蓮の炎。

誰かが驚愕の声を上げたのが耳に届いた。

 

「な、火の魔力変換だと!?」

 

「バカな! 奴の魔力変換は風じゃないのか!?」

 

「誰が風だけって言った(・・・・・・・・)? ……終わりだ。剛剣一閃! バーニングスラッシュ!」

 

重い炎の一撃。

騎士はベルクを守るように壁になり盾で防ぐ。

受け止めるが徐々に勢いが消え、騎士達の口角が上がる。

しかし、勢いを完全に殺すよりも速く盾を焼き斬った。

その一撃は重装備(タンク)に直撃し、甲冑にヒビが走り甲高い音を響かせ砕け散った。残り一ーー

ユエを片手剣に戻しながら、ベルクの顔を正面から見据える。

 

「あとはあんただけだぜ。ベルク・カロナ」

 

「そのようだね」

 

「一つ、聞く。如何してヴィヴィオを狙った?」

 

「『聖王』はゆりかごを動かすための鍵。例え、ゆりかごが無くともその力は絶大だからさ。そしてーーー」

ショウは顔を顰めた。

まただ。また、こいつはヴィヴィオを『聖王』としてでしか見ようとしない。

 

「リンカーコアを抜き出し、私に移植する事で私は『聖王』の力を得るのだ!」

 

「ヴィヴィオには指一本触れさせねぇ!」

 

「ハハハ! 今の戦闘を見て私はある結論に至った。ーーー君は『剣王』だね?」

 

「………」

 

「無言は肯定と受け取るよ」

 

二人の会話を聞いていたヴィヴィオは頭を悩ませた。

ショウさんが『剣王』? そもそも『剣王』とは何なのか?

沢山の疑問が頭に浮かび、更に混乱させてしまう。

 

「『剣王』ならば分かるだろう!? あの戦乱を! 血で血を洗う戦いを! 心躍る戦争を!」

 

「……そんなの分からないし、分かりたくも、ない」

 

「ーーー残念だよ。こんな人間が王だったなんて失望したよ……古い王はここで果て、新しい王の誕生に祝福があらんことを!」

 

ベルクの剣は細剣。そこから分かるのはベルクはスピード型だ。

ならばとショウはユエの姿を変える。

 

「モードチェンジ・レイピア」

 

『イエス、マスター』

 

ショウが変えたのはベルクと同じ細剣。

基本、ショウもスピード型なので此方の方が合っているし、ベルクと同じ土俵に立って倒そうと考えた。

細剣を突き出し、肩へと迫るがそれをスレスレで避け、薙ぎ払う。

ベルクの身のこなしは軽く羽のようだ。

 

「さすが腐っても『剣王』と言ったところか。やはり剣の腕は大したものだ。ーーーだが、私には勝てない」

 

左手を後ろに回し、細剣を縦に構えると刀身がベルクの髪と同じ銀に発光する。

どんな魔法か分からないため常に警戒する。

ベルクは輝く細剣をさっきよりも疾く突き出した。

それを下から上に弾き上げようと細剣同士が接触した瞬間、微かにベルクが笑った。

刹那、閃光が走り視覚を奪われた。

 

「グッ! クッソ、目が見えねぇ」

 

「ハハハ! いくら剣の腕が凄かろうと見えなければ剣を当てる事も出来まい。 さあ、此処で君を倒し『剣王』の名を譲り受けのも悪くない」

 

「ショウさん!」

 

ヴィヴィオが心配する声を上げるがそれを手で制した。

これで勝った気でいるのは御門違いだ(・・・・・)

ショウがこんな時の対策を練らないとでも思っているのか?

ベルクは笑いながらショウに近付き、細剣を喉元に突き刺そうと構えるが突き出される直前にそれを弾く。

 

「なっ!?」

 

ベルクから驚愕の声が漏れる。

目で見れないなら感じればいい(・・・・・・)

気配を感じ取り、風で動きを把握する。それだけすれば次に奴が何をしようとしているかなど簡単に分かる。

移動しながら細剣で斬りつけようとしてくるがそれも少し身体をズラすだけだ躱す。

痺れを切らし、ベルクは突撃してくるがそれを避け足を掛ける。

体勢が崩れ倒れるが地面には倒れず空中に舞っていた。

 

『剣王流』ーーー逆火

 

倒れた時に下からベルクの身体を切り上げた。

そして、落下してくる身体を更に斬りつける。

 

『剣王流』ーーー壊刃衝

 

「グハッ! グ、ならば!」

 

ヴィヴィオへと駆け寄り、人質に取ろうと手を伸ばす。

ーーーが、それは障壁によって防がれた。

 

「お前が考えてる事なんて読めてるよ。勝てると思っていた相手に負けそうになったら当然人質を取ろうとするよな?」

 

細剣を腰に挿し、ゆっくり歩き出す。

 

「クソが! 目の前にこんなにも近くに『聖王』がいるのに! もう少しで私の(もの)になったのに!」

 

壊れた時計のように障壁を叩きながらベルクは後悔する。

そんなベルクの肩を掴み、ショウは吠えた。

 

「お前の(もの)なんかじゃない。例え得たとしてもそれは借り物の力に過ぎない」

 

それに、と言葉を繋げる。

 

「そこにいるのは『聖王』なんかじゃない。ーーー今を一生懸命に生きている“高町ヴィヴィオ”だ!」

 

今も障壁を叩くベルクを此方に力任せに振り返らせ拳を握る。

ーーー技、借りるぜ。ヴィヴィオ!

 

「一閃必中ーーー‼︎」

 

それは彼女の一撃。これはショウの拳ではない。ましてや、『聖王』の拳でもない。

これは彼女のーーーヴィヴィオの拳だ!

 

「アクセルスマッシュ‼︎」

 

加速した拳が顔面にクリーンヒットし受け止めきれなかったベルクはその身体を大きく吹き飛ばされた。




ふぅーーこれで戦闘回終わりーーーと思ったら実はまだ続くんですねこれが。
感想ありがとうございます!“魔王の後継者”は何処かで使わせてもらおうと思います。
これからも感想やアドバイスをよろしくお願いします!


次回予告

「まだだ………こんなところで終わる訳にはいかないんだよぉ!」

「お前にベルクさんは倒せない!」

「なっ!?」

「ショウ、さん!……カハッ!」

「オマエヲコロス」

memory 9 『狂気』


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memory 9 『狂気』


作者「現実はとても残酷だ」

ショウ「……そんなことは嫌というほど知っているさ」

作者「それでも現実に抗い続ける」

ショウ「大切な人を、守るために」

作者「そんな現実を斬り裂くために」

作者・ショウ『リリカルマジカル始まります』


「ハァ、ハァ」

 

心臓がバクバクとその動きを激しくし、肺一杯に空気を吸い込んだ。

二、三回深い深呼吸をしてからヴィヴィオへと駆け寄った。

 

「大丈夫か!? ヴィヴィオ」

 

「は、はい。大丈夫です。ショウさんが守ってくれたから」

 

「良かったーーー」

 

胸を撫で下ろし安堵するが背後から聞こえる轟音でまたすぐに気を引き締めた。

土煙でよく見えないが音が聞こえたのは吹き飛ばしたベルクがいる方向だ。

ガラガラと瓦礫の音を立てながらベルクが細剣を杖代わりにして立ち上がるところだった。

甲冑にはヒビが入り、その意味を無くしている。輝く銀髪も土を被り濁った色に変わっていた。

身体はボロボロになのにその目の光は消えていなかった。それどころかさっきよりもギラギラと光っている。何という執念。

 

「まだだ……こんなところで終わる訳にはいかないんだよぉ!」

 

「いや、もう終わりだよ。ベルク・カロナ。お前は負けたんだ」

 

「ふふ、フヒヒ、終わる訳ないだろう! 私の理想郷が‼︎ 私は王になるんだよぉ‼︎」

 

最初に会った時の落ち着いた様子は既になく気が狂ったように笑い、叶うはずのない夢を熱弁するベルク。もう、ベルクは壊れているのだ。おもむろに懐に手を伸ばし、何かを取り出した。

それは赤黒い液体が詰まった三本の注射器。

打たせてはいけないとアクセルシューターを作るがそれも虚しくベルクは注射器を三本同時に右腕に打った。

 

「ぐっ、グク、ガァアアアアアア!」

 

ベルクの絶叫と共に甲冑が内側から砕け、筋肉が膨張していく。

肌が注射器の液体と同じ赤黒い色へと変色する。

先ほどまでの細身ではなく筋肉が盛り上がり、熊を連想させる。

正に獣であった。

 

「バカが……!」

 

ショウは怒り、吐き棄てる。

ベルクが打ったのはドーピング剤。そんなものに頼ってまで王になりたいと言うのか?

 

「コロス……コロスゥゥ!」

 

跼み、足に溜めた力を爆発させ瞬間的に距離を詰め殴り掛かって来た。

それを躱すが通り過ぎた時の余波で吹き飛ばされそうになる。

やりたくはなかったがこうなってしまったらそうも言ってられない。

 

「モード・チェンジ、ランス!」

 

剣を突き出しながら叫び、そのまま槍へと変わる。

その際、距離が伸びベルクの眼球を貫いた。

 

「ギャアアアアア!」

 

「今のうちにヴィヴィオをーーー」

 

振り返るがそれが間違った選択だと気付く。

背中に強い衝撃を受け、ヴィヴィオの横まで飛ばされてしまう。

見ると、ベルクが拳を振り抜いた体勢だった。

その目は次第に傷を塞ぎ、傷一つなかった。

幻覚剤と異常な回復力まで与えているのか!?

 

「ヒヒ、ヒャハハハ! コノテイドデオウガタオレルワケナイダロウ!」

 

「……チート過ぎるぜ。畜生」

 

圧倒的な力に異常な回復の速さ。それはもう人間の枠を超えている。

俺は内心嘆息した。

後ろにヴィヴィオがいるこの状況で守りながら戦うことは困難だ。

ならば、とショウはユエを再び双剣へと変え地面を蹴った。

傷つけても回復するのならその回復が追いつかない速さで攻撃すればいい。

 

「『剣王流』ーーー瞬閃!」

 

瞬閃に決まった型はない。ただ何よりも速く、疾く斬るための技だ。

放たれた連撃はベルクの肌で弾かれてしまう。

まるで鉄を斬りつけたかのように硬く、重い。

硬い奴相手なら炎だ!

双剣を炎が包み、灼熱の刃が鉄の肌を斬り裂いていく。

ジュウッという肉の焼け焦げる音が聞こえ、異臭が鼻に届く。

 

「あぁああああああああ!」

 

「グッウァアアア!」

 

幻覚剤で痛みなど感じていないはずなのに鈍い悲鳴を上げる。

だんだん傷も目に見えるほど大きくなり再生スピードが落ち始めた。

このまま一気に決める! その時だった。

後ろから何者かに抱き着かれ、動きが止まってしまう。

抱き着いてきたのは気絶していた魔導師。

 

「お前にベルクさんは倒せない!」

 

「なっ!?」

 

そう叫んだ魔導師は右手に持っていた手榴弾のピンを抜き放った。

このままでは魔導師ごと吹き飛んでしまう。

とても正気の沙汰ではない。これは自爆だ。

振り解こうにも身体強化で上がった筋力でピクリとも動こうとしない。

そして、轟音と閃光がショウと魔導師を包み込んだ。

 

ドゴォオオオン!

 

「ショウさんーーー!」

 

ヴィヴィオは叫んだ。

彼が爆発に巻き込まれてしまったから。

いくらバリアジャケットを着ていてもゼロ距離からの爆発には耐えられない。

爆煙が晴れ、爆発の中心にはボロボロになったショウの姿しかなかった。

魔導師がどうなってしまったかなど言うまでもない。

ピクッと彼の指が動いた。良かった。生きてはいるみたいだ。

だが、この状況はーーー最悪だ。

 

(クソッ! 今ので左手と右足ヤッちまった。不味い、このままだとヴィヴィオが!)

 

「ヒャハハハ! ソレデコソワガシモベダ!」

 

奇声を上げ、ショウへと近付いてくる。

この時点でベルクは気が付いていない。自分が魔導師達のことを同志ではなく僕と言っていることに。

同志とは同じ立場で同じ志を持ったもののこと。僕ではない。

もう、まともな思考も出来ないでいる。

ベルクは俺の前まで来ると鉄柱の太さはある足を腹に落とした。

 

ベキッベキ!

 

「ーーーーーッ!」

 

骨の折れる鈍い音が響き、声にならない悲鳴が飛んだ。

今ので肋骨がニ・三本折れた。

そのまま腹をすり潰すように踏み、ベルクの顔が愉悦へと歪んでいく。

 

「サンザンオウノワタシヲキリツケテクレタナァ? ドウダ? ミウゴキガトレズニアシゲニサレルキブンハ! キサマニオウノセンコクヲイイワタス。ゼツボウヲクレテヤル」

 

そう言うや否や踵を返し、ヴィヴィオの元へ。

 

「やめ、ろ! 逃げろ! ヴィヴィオ!」

 

逃げようとするがショウを残していく事が躊躇われ足が止まる。

ベルクはヴィヴィオの首を掴み上げ、力を込めていく。

 

「ショウ、さん! ……カハッ!」

 

「オマエヲコロス」

 

ゆっくりと見せつけるように手刀を引いていく。

それはヴィヴィオの胸ーーーリンガーコアに狙いを定めた。

ベルクは笑う。ショウの絶望に歪んだ顔を想像して。

ショウは叫ぶ。ヴィヴィオを助けるために。

だが、現実は残酷だ。

 

「やめろーーーーーー!」

 

ベルクの手刀がヴィヴィオの胸を貫いた。

 

 

 





短ッッッッかいです!
でも、次回は長めになりますね。(悪魔で予定)
次回、ついにショウが!? ヴィヴィオはどうなる!?
それではまた次回お会いしましょう。




次回予告

「ナゼ、キサマガソコニイル!?」

「……間に合ったッ」

「一人の魔力で足りないなら周りから補えばいい!」

「束ねるは星光! 輝くスターライト!」

「オレヲ、僕を、コロしてクれ」

「ショウくん、ダメ!」

「あいつが、“殺してくれ”って言ったんじゃないですか」

memory 10 『剣は血に染まる』


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memory 10 『剣は血に染まる』

作者「君は何を見て」

ショウ「君は何を思うのか」

作者「君は何を感じ」

ショウ「君は何をするのか」

作者・ショウ『リリカルマジカル始まります』


世界が、自分だけが時間から遅れているようにスローになる。

手刀がヴィヴィオを貫こうとゆっくり、ゆっくりと胸に迫る。

 

やらせない!

 

だが、ここからでは瞬雷を使っても間に合わない。

残った魔力を掻き集め、目の前に魔法陣を五つ展開する。

展開した魔法陣は加速を付与させるもの。

 

無理矢理重ね掛けしてスピードを底上げする!

 

魔法陣を潜る。一枚目、二枚目、三枚目を通った時に右足に激痛が走る。そんなこと御構い無しに四枚目、五枚目を潜り抜けた。

一気に加速し骨が軋み、折れた肋骨から鈍痛が響く。

痛みで遠くなる意識の中、ヴィヴィオへと手を伸ばす。

手刀がヴィヴィオを貫く直前に通り過ぎながらヴィヴィオを掻っ攫う。右足の痛みでバランスを崩し、そのまま地面を激しく転がった。

ヴィヴィオに怪我がないように強く抱き締めながら。

 

「……間に合ったッ」

 

そして、自分の時間が元に戻り世界が動きを取り戻した。

ヴィヴィオはまだ瞳を硬く瞑っていた。

ベルクは俺が絶望する姿を想像してその快感に浸っているようだった。

しかし、手刀が空を切り目を丸くする。そこにはもうヴィヴィオはいない。

キョロキョロと周りを見渡し俺たちを見つけ、叫んだ。

 

「ナゼ、キサマガソコニイル!?」

 

「自分で考えろ、バカ」

 

「あ、あれ? 何で私ショウさんに抱き締められてるんですか?」

 

「気にするな。俺がお前を助ける時になった事で致し方ないことだ」

 

「は、はぁ、分かりました」

 

さて、助け出したは良いがここからどうしようか?

平静を装いながら内心焦るショウ。

今の無理な加速で身体もボロボロ。魔力ももう残り少ない。

ベルクは未だ健在。状況は最悪なままだ。

こんなことなら高町さん達が来るの待つんだったな、と舌打ちする。

 

「マアイイ。コンドハチャントコロス」

 

「マジでどうしようかね、これは」

 

何かあの耐久、回復力を上回り圧倒するための手段はないか?

残り少ない魔力でどうやって?

カートリッジを使うか? いや、それでもベルクを倒すまでには至らない。

何か、何かないか。奴を一撃で沈め、尚且つ残り少ない魔力で出来ることは!?

 

「……ショウさん」

 

ヴィヴィオが顔を覗き込んでくる。

ああ、手段が無かろうと何とかしないと。

それじゃないと高町さんに合わせる顔がーーー高町さん?

ああ、何だ。こんなすぐ近くに答えが有ったじゃないか!

ニヤリとヴィヴィオを見て思い付いた。この状況を覆す最大の一撃を。

 

「ドウシタ? キデモクルッタカ?」

 

「そっくりそのままお返しするよ」

 

高町さんが管理局な白い魔王と言わしめる一撃。

圧倒的な破壊力。残り少ない魔力でも放つことが出来る。

高町さんの主戦力。Sランクの上位魔法。

ーーー収束砲だ。

幸い、魔導師達の攻撃のお陰で周囲の魔力は足りている。

魔法陣を展開する。俺はベルカ式。高町さんはミッド式だ。

このままでは扱うことが出来ない。だからーーー

無理矢理ベルカの上にミッドの魔法陣を展開する。

 

「ナニヲ!?」

 

「一人の力で足りないなら周りから補えばいい!」

 

『収束、開始』

 

空中に紺色のビー玉サイズの魔力弾が出来、魔力を収束させそれを大きくしていく。

それをさせまいとベルクは走り出すが体勢を崩し地面に顔面を打ち付けた。今になって瞬閃で傷つけた膝の傷が開き、腱が切れたのだ。

だが、それもすぐに回復を始め、地面を這ってくる。

ヴィヴィオを後ろに下がらせ、収束スピードを上げていく。

 

それよりも早く傷が塞いだベルクが拳を打ち出す。

まだだ! まだお前は来るな!

そう思った時、ピンク色の光がベルクを吹き飛ばした。

それは鮮やかなピンク。この戦いの場にはちょっと不釣り合いかなと思う。この魔力光を持つ人物を俺は一人しか知らない。

ーーー高町さんだ。

 

「ショウくん! 私、『そこを動かないでね』って言ったはずなんだけど?」

 

少し怒った声で高町さんが宙を浮いていた。

その隣には白いドレスを身につけた姫を守るように金髪の髪を靡かせた死神ーーーもといテスタロッサさんが並んでいた。

 

「確かに言いましたけど、言っただけです。俺は一言も約束を守るなんて言ってません」

 

「それは屁理屈だ」

 

「そんなの分かってます。テスタロッサさん。ーーー二人はヴィヴィオを俺は彼奴と最後の勝負してくるんで」

 

「君ももうボロボロじゃーーー」

 

「フェイトちゃん、ヴィヴィオの所に行こう。ショウくん、無理はしちゃダメだよ?」

 

「ありがとうございます」

 

テスタロッサさんの言葉は高町さんによって遮られる。

高町さんは注意してからヴィヴィオへと飛んで行った。

ヴィヴィオは泣きながら二人に抱き着いていた。

 

(やっぱり、“家族”ってああいうもんだよな……)

 

正面を、ベルクへと目を向ける。

すでに高町さんから受けた傷を修復し此方へと走ってくる。

だが、もう十分だ。

 

「束ねるは星光! 輝くスターライト!」

 

収束した魔力弾がより一層その輝きを強くする。

そして、それをベルクへと放った。

 

「スターライト、ブレイカーーーー!」

 

「グッ! グゥヴヴアアア!」

 

砲撃を手で受け止め、踏み止まる。

生身で此処まで出来る人間はそうは居ないだろう。

徐々に押され始め、後ろに擦り下がっていく。

 

「あぁあああああああ!」

 

残った全魔力を注ぎ込み、勢いが倍増する。

魔力弾が弾け、ベルクの巨体を包み込んでいく。

 

「コンナトコロデ、ワタシガワタシガァアアアアアア!」

 

「終わりだ!」

 

 

ベルクは絶叫を上げながら濃紺の光に飲み込まれた。

濃紺の魔力は天井撃ち抜き、天へと伸びていった。

 

 

 

□■□

 

 

 

「ショウさん!」

 

フラつく身体を支えるように抱き着いてくるヴィヴィオ。

伝わってくる体温が心地よく感じられた。

それを離れたところから微笑ましそうに見つめる親二人。

自然と手が伸び、ヴィヴィオを抱き締め返した。

ひゃ! と小さな悲鳴を上げたが恥ずかしそうにしながら受け入れてくれた。

 

(終わった、のか?)

 

「うぁああああァアアアアアア!」

 

安心して気が抜けた所にベルクの悲鳴が耳を貫いた。

ベルクは胸を押さえ、地面をのたうち回っていた。

苦しみ方が尋常ではない。薬の副作用か?

段々その身体を膨らませ、風船のようだ。

俺を見て、ベルクは苦し紛れにこう、言った。

 

「オレヲ、僕を、コロしてクれ」

 

その顔は苦痛で歪み、涙を流していた。

そして、俺の中で何かが切れた。

柄を取り、握りしめベルクへと歩み寄る。

責めてもの情け、という奴だろうか。

もう肉が膨れ上がりベルクの顔も見えないし原型を留めていなかった。

もう、これはベルクではない。人間だったものだ(・・・・・・・・)

 

「ショウくん、ダメ!」

 

高町さんの声はもうショウの耳に届いてはいなかった。

ショウの視界にはあの時の光景が映し出されていた。

そう、あの血塗られた戦場をーーー

 

「『剣王流』ーーー瞬閃・五連!」

 

剣が閃き、光速で五回ベルクを斬り裂いた。

それは血飛沫を上げながらドチャッと生々しい音を立てて崩れ落ちた。

噴き出した鮮血が頬に掛かり、今、自分が人を殺したのだと認識させる。

 

「キャアアア!」

 

ヴィヴィオが悲鳴を上げて目を逸らした。

高町さん達は口を開けて固まっていた。

当たり前の反応だ。目の前でこうもあっさり人を殺して見せたのだから。

 

「何で……何で殺したの!?」

 

「彼奴が“殺してくれ”って言ったんじゃないですか」

 

それを聞いた高町さんは愕然としショックを受けた。

この小さな男の子は人を殺しても表情を何一つ変えない。

いや、心の奥底へと押し込んでいる、そう思った。

何よりどうしてああも簡単に人の命を奪えるのか?

ーーーまるで、今までもそうしてきたかのような気さえした。

 

ショウの身体が傾き、大きな音を立てて地面へと倒れた。

もう、限界だったのだ。

アスファルトの冷たさが火照った身体を冷まして気持ちが良い。

意識を失う中、『ありがとう』とベルクが言った気がした。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

「うぅん……知らない天井だ」

 

眼が覚めると見知らぬ部屋のベットの中だった。

お腹の辺りに重みを感じ、起き上がるとヴィヴィオが覆い被さるように眠っていた。

見ると身体には包帯が巻かれていて身体の痛みがなかった。

看病して疲れて眠ってしまったのか。

 

「……ありがとな、ヴィヴィオ」

 

さっきのことを思い出す。

ベルクを殺したことを。人の命を奪ったことを。

生まれ変わってから人を殺したのはこれが初めてだった。

初めてじゃなかったら色々とアウトだが。

あの斬り裂いた時の感触も、噴き掛かった鮮血の生温かさも、何も変わってはいなかった。いつの間にか慣れてきてしまっていた。

慣れてしまってはいけないのに。人の死に鈍感になっていく自分が嫌になる。ここはもう、戦場ではないのにーーー

 

コンコンッ

 

扉からノックする音が聞こえ、返事をする前に開き、髪をサイドポニーにした高町さんが入ってきた。

 

「あ、起きたみたいだね。身体の方は大丈夫かな? 一応治療はしたんだけど」

 

「大丈夫です。身体の痛みは引いてます。えっと、ここは?」

 

「ああ、ここは私達の家だよ。あのまま管理局に連れて行くのはってことで私達がちゃんと事情聴取しておくって言って連れてきたの」

 

「そう、ですかーーー」

 

訪れる沈黙。

気不味い。非常に気不味い。

俺が人を殺した所を目撃しているからか会話が思うように続かない。

何か話題はと頭を回していると高町さんが沈黙を破った。

 

「君は、何者なの?」

 

どうして人を殺したんだ? 何でそんなに落ち着いていられるの?

想像していたものと違い、困惑するが根本的には同じ意味か。

『剣王』ーーーと、言えば信じて貰えるのだろうか?

結局、俺は何も答えることが出来なかった。

 

「君が話せる時に話してね? あんまり自分の中だけで背負いこんじゃダメだよ。それと、あれは正当防衛ってことになって何のお咎めもないから安心してね」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「うにゃ? あー、せんぱいらぁー」

 

「おはよう、ヴィヴィオ」

 

「え、あれ? 夢じゃない? え、本物!? あ、今のは忘れてください!」

 

寝惚けておれに抱き着きながら惚けた声をしていたが、夢じゃないと分かると顔を赤くして慌てだした。

 

「お、落ち着け!」

 

「はぁ、はぁ、そうですね……なのはママ、ショウさんと話したいことがあるからちょっと席外して貰っていいかな?」

 

「分かったよ。終わったら呼んでね?」

 

そう言い残し、高町さんは部屋を出て行った。

残された俺とヴィヴィオは沈黙を保つがヴィヴィオが口を開いたことでそれは終わった。

 

「ショウさん。『剣王』って何なんですか?」

 

「ーーーッ」

 

予想外の言葉に動揺してしまう。

適当に誤魔化そうと思ったがヴィヴィオの目を見て止めた。

ヴィヴィオの目は真剣だった。

それに、ヴィヴィオは自分のことを話してくれたのだ。

だったら俺も自分のことを話さないとフェアじゃないよなーーー

 

「俺は、その『剣王』の生まれ変わりなんだ」

 

オリヴィエ達と親友だったこと、『剣王』のこと、そして自分の最後を全て話した。

聞き終わるまでヴィヴィオはただ黙って聞いていてくれた。

全てを話し終え、ヴィヴィオは少し俯いてから満面の笑みで俺を見ていた。

 

「じゃあ、私と同じようなものなんですね! 私が『聖王』のクローンでショウさんが『剣王』の生まれ変わり。似た者同士です!」

 

否定の言葉ではなくむしろ喜んでさえいた。

ちょっとだけ否定されると覚悟していたのに拍子抜けしてしまう。

必死に涙を堪え、平静を装うながらもショウはヴィヴィオの言葉が嬉しかった。

 

「ショウさん。もう一度言います。ーーー私と友達になってください!」

 

頭を下げ、腰を九十度に曲げた綺麗な礼だった。

そんなことしなくても俺の答えは決まってるのに。

ポンッとヴィヴィオの頭に手を乗せ優しく撫でる。

 

「そんなこと言わなくたって俺たちはもう友達だろ?」

 

「ーーーッはい!」

 

オリヴィエ、お前を基にして作られた子はお前より活発で明るくて良い奴だ。ーーーこんな子に戦場(あんなもの)は見せたくないよな。

 

「さあ! ショウさん。行きましょう! ご飯が出来てますから」

「ん、ありがたくご馳走になるよ」

 

居間に行くと高町さんとテスタロッサさんが準備をしていたので手伝うことになった。

今日はオムライスだ。良い香りが鼻をくすぐり、胃を刺激する。

 

「それじゃあ、食べようか」

 

『いただきます!』

 

一口、口に入れると卵が蕩けライスと絡み合い絶妙な味わい。

それを堪能する。

 

「ありがとうございます、高町さん。ご馳走になっちゃって……」

「良いの良いの。ヴィヴィオを助けてくれた御礼だと思ってね? まあ、これからもウチで食べる事が有りそうだけどね?」

 

ニヤニヤとヴィヴィオを見ながら高町さんが言う。

当の本人は顔を真っ赤にしながら黙々とオムライスを口にしていた。

 

「ショウは強いんだね。あんなに大勢を敵にしてヴィヴィオを守ってくれたんだから」

 

「そんなこと、ないですよ。テスタロッサさん。俺は、強くなんかーーーない」

 

昔を思い出してしまい下唇を強く噛んだ。

何かを察してくれたのか高町さんが席を立ち俺の横まで来ると突然頬を摘みグニグニと引っ張り出す。

 

「いひゃい!? たきゃまちひゃんいひゃいでふぅ!」

 

「暗い顔禁止! 笑顔が一番なんだよ? それと堅苦しいからなのはでいいよ」

 

「私もフェイトでいいよ」

 

「あ、その、なのはさん、フェイトさん、ありがとう、ございます」

 

「うむ! 分かればよろしい」

 

なのはさんーーー魔王に逆らえる気がしない。

もし、歯向かう勇気がある者はここまで来てくれ。

 

「それにしても無茶したよねえ〜まだ小さいのに」

 

「それを言ったら私達も同じだよ、なのは」

 

「あ」

 

「ぷ、ふふ、はははは」

 

面白くてつい吹き出してしまう。

二人は咎めることなくショウの笑い声を聞いていた。

声を出して笑うのなんていつ以来だったかな? 思い出せないや。

三人の家族が見守る中、ショウは声を上げて笑っていた。

 

ーーーそれはもうヴィヴィオに負けないぐらいの満面の笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘回終了!
次回からはなるべく日常を書こうと思います!
それではまた次回お会いしましょう。



次回予告

「久しぶりの日常だな」

『浸ってるところ悪いですけどさっさと図書館に行きますよ』

「悪い、大丈夫か?」

「大丈夫です!」

「魔力変換が二つか……珍しいな。じゃあ、俺も見せてやるよ」

「すごいです! 先輩!」

「私の名前はーーー」

memory 11 『八重歯の少女』




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memory 11 『八重歯の少女』


作者「さあさあ、始まりました」

ショウ「さっさと始めるか。リオ」

リオ「はい! リリカルマジカル始まります!」


始業式から数ヶ月ーーー俺ことショウ・S・ナガツキは元気にやっています。

あの事件後、ヴィヴィオと会う回数が増え、休日に街を一人でブラブラすることは無くなった。

毎回、俺と街を歩く時「手を繋いで欲しい」と頼まれ、繋ぐと顔を赤く染めるのは何でだろう?

そういえば、ヴィヴィオも俺と同じ学校だったらしく休み時間を利用してよく話すことが多い。

余談だがなのはさんに呼ばれ、行ってみると地獄より恐ろしいトレーニングが待っていたことを思い出すと今も軽く身震いすらしてしまう。ーーーやはり、魔王だな。

 

椅子に腰掛け、回想を止め窓の外を見る。

そこには雲一つない青空が広がっていた。太陽の光が眩しく映え眼を細める。

ジメジメとした夏の日差しで汗が流れるが今はそれすらも心地いい。

 

「久しぶりの日常だな」

 

と、しばらく外を見ていると首の下、胸の辺りから無機質な女性の声が聞こえた。

 

『浸ってるところ悪いですけどさっさと図書館に行きますよ』

 

「もうちょっとこのままで」

 

『ダ・メ・で・す! シャッハさんから図書館で必要なものを持ってきてくれって頼まれたじゃないですか! このままやらなかったら説教くらいますよ』

 

「うぇ〜〜お説教はアインとアリンで間に合ってます。はぁ、行くか」

 

『賢明な判断ですね』

 

気怠そうに立ち上がると図書館に赴くため教室を後にした。

 

 

 

□■□

 

 

学校の図書館へと赴き、確認するとちょうどその本は貸し出し中だった。

このままだとシスター・シャッハの仕事が出来ないということで無限書庫まで行ってユーノさんに頼んでみることにした。

 

一応司書資格はあるが探すの大変なんだよね。その点、ユーノさんは本の検索魔法を使えるので少し楽なのだ。

まあ、そのお陰でどっかの提督さんに頼まれた資料の山に追われ愚痴を聞くこっちの身にもなって欲しいのだが……思い出したら腹立ってきたな。そういえば提督さんはフェイトさんの義兄さんだったな。

今度、会えるように根回しを頼んでみよう。立ち回る。

 

「しっかし、ほとんど誰も歩いてないな」

 

『皆さん、プールに行っているか家に引きこもってクーラーでも浴びているのでしょう』

 

「プールか。久しぶりに行きたいな」

 

『そうですね。行く時はちゃんと私に防水コートしてくださいよ?』

 

「分かってるよ。ん、あれはーーー」

 

ユエとプールの話をしていると女の子が三人の男に連れて行かれるところを目撃。テンプレで路地裏へと入って行く。

 

「どう思う?」

 

『大方、自分達の欲望で動いているバカですよ』

 

「決まりだな」

 

拳をニ・三度鳴らしながら狩人のような笑みを零し路地裏へと入って行く。

身を隠し、気配を消しながら近付いていくと女の子が取り囲まれ涙目になっていた。耳を澄ませ、会話を盗み聞く。

 

「おいおいおい! 兄貴の腕折れちまったぞ!? どうしてくれんだぁあ?」

と、叫ぶチンピラA。

 

「折れた、って少しぶつかっただけじゃないですか!」

 

どうやら女の子が今も腕を押さえ続けている男にぶつかってしまいいちゃもんをつけられているようだ。

 

「侘び一つもねぇのか、嬢ちゃんよぉ?」

 

と、身を屈め女の子を威圧する態度を取るチンピラB。

 

「謝ったじゃないですか!」

 

「謝れば済むと思ってんの? 甘ぇんだよ! ま、手っ取り早く体で払って貰おうかな!」

 

「いや! やめてください!」

 

汚い笑みを浮かべながら女の子の服へと手を伸ばす兄貴。

それに反抗しようとするがチンピラAとBに押さえ込まれてしまった女の子。

うんーーー死刑確定♪

ゆっくりと右手に炎を宿しながら兄貴へと歩く。

 

「誰か、助けてぇ!」

 

「ははは! こんな所に誰も来やしねぇよ!」

 

「所が来ちゃったんだなーこれが」

 

「あ? ーーーグベシッ!?」

 

『あ、兄貴!?』

 

肩に手をポンっと手を置くと不思議そうな声を上げながら振り向いたのでそのまま右ストレートをかます。

顔面に来た強い衝撃で身体が宙を舞い、面白いぐらい吹っ飛んでいった。

チンピラA、Bが兄貴に駆け寄り抱え起すと左頬には拳型の火傷が出来ていた。

 

「テメェ、何しやがる!?」

 

「ムカついたから殴った。でも、後悔はしてないし反省もしてない」

 

「「「ふざけんな‼︎」」」

 

そう言うや否や三人同時に殴り掛かってくるが、隙だらけだったので風を起こしお互いの顔面に拳が飛ぶように仕向ける。

拳は綺麗に隣同士の顔面を捉え、目を回しながら倒れてしまった。

これで懲りたとは思えないので最後に一発ずつ頬を叩いた。

振り返り、女の子に声を掛ける。

 

「悪い、大丈夫か?」

 

「は、はい。でも、何でお兄さんが悪いんですか?」

 

「ん、もう少し早く助かれば良かったなって」

 

「そんな大丈夫ですよ! お兄さんが助けてくれたから私は無事ですし」

 

「そう言ってもらえると助かる。そうだ、お詫びにアイス奢ってやるよ」

 

「え、そんな悪いですよ!」

 

わたわたと手を振る女の子の手を掴み、多少強引に手を引いた。

 

「それじゃあ、出発〜!」

 

「あ、自分で歩けますよ! お兄さん!」

 

「聞こえな〜い」

 

「酷いですぅ!?」

 

 

ちょっと遠慮した態度を取ってはいたが実際目の前にアイスが出されるとーーー

 

「このアイス美味しいですね!」

 

と、ニッコリと満足そうにアイスを食べている。

女の子がストロベリーで俺がバニラ。見出しの旗に『地球産の牛乳使ってます』と書いてあったので選択肢はこれ一択だけに絞られた。

うん、やっぱり地球のものは美味しいな。

 

「そういえばずっと女の子って言い方も変だし、自己紹介だな。俺はショウ・S・ナガツキ、好きなように呼んでくれ」

 

「私の名前はーーー」

 

「リオ・ウェズリーです!」

 

「ん、そっか。よらしくなリオ」

 

「はい、先輩!」

 

「ん? 先輩?」

 

「だって先輩が着てるのってSt.ヒルデ魔法学院の制服ですよね? 私もそこに通ってるんですよ!」

 

「ああ、だから先輩ね」

 

「はい!」

 

それにしても、と話題を変え手を繋いだ時の疑問を投げ掛ける。

 

「失礼だけどさ、手を繋いだ時の感触ーーーリオも武術関係やってるんだろ?」

 

「よく分かりましたね。ってことは先輩も?」

 

「ん、まぁな」

 

「先輩の言う通り、私は『春光拳』という武術をやっています。家がやっているので自然と興味が湧いて始めました」

 

「そうなのか。だったら、あの時軽くいなせたんじゃないか?」

 

「えっと、怖くて足が竦んじゃって……」

 

「ん、それじゃあ仕方ないな。女の子だから怖くて当たり前だ」

 

「でも、魔法を使えば良かったんですよね」

 

リオは右手に炎を灯し、左手に雷を轟かせた。

 

「魔力変換が二つか……珍しいな。じゃあ、俺も見せてやるよ」

 

ショウも炎と風を発生させ、更にリオと同じ雷を、他にも水、土、光が現れる。その光景にリオはおお〜っと感嘆の声を漏らす。

だが、ショウの魔力変換はもう一つある(・・・・・・)

 

「すごいです! 先輩!」

 

「うん、俺もそう思う。初めて出来た時なんて驚いたなあ」

 

「ハハハ……」

 

乾いた笑いを漏らすリオ。

 

「リオが使う『春光拳』今度見せてくれよ。すごく興味あるし」

 

「はい! いいですよ。それに何か縁があったら実家に来てください。いろんな秘伝書があるので退屈しないですよ」

 

「ん、縁があったらな」

 

「それじゃあ、そろそろ帰りますね。もうこんな時間ですし」

 

ユエに時刻を表示してもらうと午後六時半。

いつの間にか空も赤くなっていた。

 

「ん、またなリオ」

 

「またです、先輩」

 

ショウはリオが見えなくなるまで手を振り続け、見えなくなったので踵を返し自分も帰路に着いた。

 

「アイス美味かったな」

 

『それは良かったですね。ですがマスター』

 

「ん?」

 

『シャッハさんに頼まれた本借りるの忘れてませんか?』

 

「あ……」

 

この後、御説教を食らったのは言うまでもない。





感想頂きありがとうございます!
読んで頂いた方々評価もつけてくれると嬉しいです!
それではまた次回お会いしましょう。



次回予告

「私は、どうすればいいんでしょうか?」

「その答えは自分にしか出せないよ。君はどうしたい?」

「私はヴィヴィオと一緒に徒手格闘技術がしたいです」

「ん、そっか」


memory 12 『少女は迷う』


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memory 12 『少女は迷う』

ショウ「作者不在のためさっさと始めるぞ」

コロナ「どうしたんですか?」

ショウ「……二人が出番はまだか!って叫びながら引きずって行った」

コロナ「……強く生きてください、作者さん」

ショウ「ま、気を取り直して行こうか」

コロナ「はい! リリカルマジカル始まります」


今日はヴィヴィオとノーヴェさんに誘われ、朝早くからジムに顔を出していた。

指定された時間より少し早く着くとヴィヴィオ達はもう来ていた。

ヴィヴィオとノーヴェ、そしてもう一人の少女の計三人だ。

 

(初めて見る子だな)

 

女の子より遅く来てしまったことを恥じながらヴィヴィオ達に声を掛ける。

 

「おはよ、ヴィヴィオ。ノーヴェさんも」

 

「あ、おはようございます! ショウさん」

 

「私はついでかよ? おはようショウ」

 

挨拶と共に飛びついてきたヴィヴィオを支え、申し訳なさそうにノーヴェさんに弁解する。

 

「ついでって訳じゃないですよ? えっと、この子は?」

 

「初めまして、コロナ・ティミルです」

 

「初めまして、ショウ・S・ナガツキだ」

 

「コロナは私と一緒に徒手格闘技術(ストライクアーツ)をやってるんです」

 

「へー、そうなのか」

 

と、腕に絡みつきながら補足してくれるヴィヴィオ。

 

「ってことは今日はコロナを交えてのスパーですか?」

 

「そうなるな。お前の実力もまだ未知数だから知っときてぇところだしな」

 

「そう簡単には見せませんよ?」

 

「「ハハハハハ」」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ? 何だか二人がとても怖いんだけどーーー」

 

「そう? 二人共楽しそうだね〜〜」

 

「何処が!?」

 

コロナの目には確かに二人の背後に構える鬼の姿を見た。

確認するようにヴィヴィオへと聞くが笑いながら流されてしまう。

当のヴィヴィオもこの光景は見慣れてしまい、恐怖を感じないだけなのだが。

 

「それじゃあ、まずは私とやるか?」

 

「いいですね。手加減はしませんよ?」

 

「はっ、手加減なんてしたらぶっ飛ばしてやんよ」

 

「ふっ、それは怖いなぁ」

 

二人は既に戦闘準備を完了している!

 

「ヴィヴィオ!? これ大丈夫なの? 何だか二人共本気な気がするんだけど!?」

 

「大丈夫だよ、コロナ。ーーー死にはしないから」

 

「当たり前だよ!? え、でも死にはしないってことは他には何かあるの?」

 

「…………」 ニコッ

 

「その無言の微笑みは何なの!? これから何が起きるの!?」

 

「行くぞッ!」

 

「さぁ、始めようか」

 

「責めて、ここから離れてからやってください!」

 

コロナの怒号がジム内に響き渡った。

 

 

 

□■□

 

 

 

「ふぅー、やっぱノーヴェさんは強いッスね」

 

「まだ本気だしてねぇ癖によく言うぜ」

 

スパーを終え、汗を拭いながら他愛ない話を洒落込む。

ノーヴェさんの蹴り技が目の前に迫ると軽く危機感を覚えるほどだ。

こんな風に思ったのはオリヴィエぐらいだったかな?

 

「ショウさん、次は私としましょう!」

 

「ん、いいーーー」

 

「ーーの前にコロナとやってくれよ、ショウ」

 

「ええ!」

 

「まあ、我慢してくれヴィヴィオ。やるなとは言ってないんだから」

 

「それで? どんな魂胆があるんですか?」

 

「気付いてたのか。なら話は早い。コロナと手合わせすれば私の言いたい事が分かるさ」

 

「まあ、良いですけどーーー今度ご飯奢ってくださいよ」

 

「飛びっきりのを奢ってやるよ」

 

ノーヴェさんに奢る約束を取り付け、コロナの前に立つ。

少しビクッとしてから顔を引き締め、構える。

 

「てなわけで俺とスパーすることになったけど大丈夫か?」

 

「はい! 大丈夫です」

 

「ん、ならやろうか」

 

距離を取り、ノーヴェさんが俺たちの中央に立った。

腕を上げ、思いっきり振り下ろした。

 

「始めッ!」

 

「さぁ、始めようか」

 

「行きます!」

 

地を蹴り、勢いを乗せた拳を軽く受け止め別の方向にいなす。

すぐに踏み留まり、振り向きながらフックを打ってくる。

それを後ろに飛んで躱す。

 

「やるねぇ」

 

「ありがとう、ございます!」

 

一気に距離を詰めて追撃を図るが振り抜かれた拳を止めた。

そこでチラッとノーヴェさんの方を見ると頼むぞ、と目で訴えていた。ーーーカウンセラーとかじゃないんだけどなぁ、俺。

でもまあ、目の前に困っている人がいるのなら助かるんだけどさ。

掴まれた拳が振り解けないと分かると前に飛び出し、左上段蹴りを繰り出ししゃかんで躱すがその時緩んだ一瞬を見逃さずに後ろへと飛んだ。

 

大体分かった。

コロナは迷っているのだ。

何を悩んでいるのかは分からないが取り敢えずはこのスパーを終わらせよう。

 

「来なよ」

 

クイクイッと手招きすると気に触れたのか猪突猛進と言える分かりやすい突っ込みをしてくる。

拳を引き絞り、ダッシュとの勢いに乗せて放つ。

コースを見切り、それを顔のスレスレで躱すとコロナに背中を見せながら振り抜かれたままの手を掴み投げた(・・・)

 

「カハッ!」

 

今のは地球の武術ーーー柔道の背負い投げだ。

地球にはいろんな武術があるので調べている内に覚えた。

地面に叩きつけられたコロナは肺にある空気を全て吐き出し、動かなくなった。

 

「あり?」

 

『力加減考えましたか? マスター』

 

「あー、考えてなかったわ」

 

「お前は加減考えろよ!」

 

「痛ッテェ!? 元はと言えばノーヴェさんがやれっていったんだろ!」

 

「やれとは言ったが気絶させるまでやれとは言ってない!」

 

「それよりもコロナを介抱しなきゃ!」

 

「「はい!」」

 

ヴィヴィオの迫力に気圧され二人して敬礼をしてしまった。

最近、ヴィヴィオが魔王(なのは)さんに似てきた気がする。

……それだけは避けなければ! そう心に誓うショウだった。

 

 

 

□■□

 

 

 

「うっうぅん……あれ、私ーーー?」

 

「お、起きたか」

 

「え?」

 

どうして、と言葉を紡ごうとするが真上からショウの声が聞こえて驚く。

そして、よく見てみると私は今ショウさに膝枕(・・)されていた。

 

「よいしょっと、もう大丈夫か? ごめんな。強くやり過ぎた」

 

「いえ、大丈夫です。大したケガもないみたいですし」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

俯きながら謝罪を述べるショウに大丈夫だと伝えると少し微笑んだ。

それは恐れが含まれているような気さえした。

 

「それでさ、コロナ」

 

「何ですか?」

 

「ーーーお前は何を悩んでるんだ?」

 

「何で、それを?」

 

「さっきコロナと拳を交えた時に伝わってきたんだ。コロナは迷いながら拳を握ってるって」

 

「……そうですか。少しお話をしましょうか。ーーー私はヴィヴィオが格闘技をやってるって聞いてびっくりもしたし一緒にいたいから格闘技をするようになったんです。でも、私はヴィヴィオみたいに上手くないから私に格闘技は向いていないんじゃないか、って思うんです」

 

「なるほどね。それで迷ってるって訳か」

 

「私は、どうすればいいんでしょうか?」

 

ここで、何か助言をしてあげるべきなのだろう。

しかし、助言してしまうと自分の思いをそっちのけにしてしまうかもしれない。ーーーそれに

 

「その答えは自分にしか出せないよ。君はどうしたい?」

 

「私……私は……」

 

そう自分の抱える問題には自分でしか答えを出せない。

出した答えが合っているとは限らないけど考え、探し、見つけなければならない。俺は出してきた答えは沢山ある。

でもーーーそれは本当に最善だっただろうか? なんて考えてしまう。

俺みたくはなって欲しくないな。

 

コロナは考える。今、自分がどうしたいのか。

ヴィヴィオがやっていて一緒にいたいから格闘技を始めた。

私は弱いから何度も辛い、やめたいと考えてしまう。

ーーーでも、楽しいこともあった。

練習を重ねる内に出来ることが増えて師匠ーーーノーヴェさんに褒められるのが嬉しかった。

ヴィヴィオも自分のことのように笑って喜んでくれて、すごく嬉しかったのだ。

 

コロナの雰囲気が変わった。

どうやら迷いは晴れたらしい。自分で答えにたどり着けたのだ。

だから、確かめるために問い掛ける。

 

「答えは出たか?」、と。

 

「はい」、と力強く返すコロナ。

 

「私はヴィヴィオと一緒に徒手格闘技術がしたいです」

 

「ん、そっか」

 

さっきまでの暗い感じはもうそこにはなくコロナは明るく笑って見せた。

 

「さて、ヴィヴィオのトコに行こうぜ。いい加減待ちくたびれてるだろうし」

 

「そうですね。あの、ショウさんのこと『お兄さん』って呼んでも良いですか?」

 

「ん? 良いぜ、それぐらい。それじゃ行こうぜ、コロナ」

 

「はい、お兄さん!」

 

 




次回は戦闘回になる予定?です。
最近寝不足で辛いですが頑張って書きます!
それではまた次回お会いしましょう。



次回予告

「嘱託魔導師になりました」

『こんなにアッサリなれて良いんですかね?』

「今回一緒に任務をこなす仲間ってわけ」

「よろしくね、ショウ」

「……初めて男友達が出来た」

「泣くほど嬉しいの!?」

「……身長はこれから伸びるさ」

「私は小さくなんかない!」

「おいおいおい、これは酷すぎるだろッ」

「ショウだけでも逃げるんだ!」

「は? 寝言は寝てから言えよ。ーーー俺の目の前ではもう、誰も殺させない」


memory 13 『友達が三人出来ました』


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memory 13 『友達が三人出来ました』

ショウ「いつの時代にも人を道具扱いする奴はいるもんだな」

エリオ「うん。でも、この世界はそんな人達ばかりじゃない」

ルー「そうね。人は手を取り合って助け合う事ができる」

キャロ「言葉を交わして気持ちを伝え、分かり合うことが出来る」

エリオ「だからこそ、そんな人を無くしていきたいしいろんな人達と繋がって行きたいと思う」

ショウ「そんな人達がいるからこそ人間は素晴らしいと思える」

四人『それでは、リリカルマジカル始まります』


突然だが今の世の中魔法が有れば一通りのことは出来るだろう。

魔力を持たない人でも魔力を有する魔導師達の力を借り、今を生きている。

魔法で火を起こし、水を湧き上がらせ、風を吹き上げるーーー

だが、やはり魔法が有っても起きる問題がある。

食料や衣食住に始まり、道具、日用品だ。

こればかりは魔法で作り出すことは出来ないし、手に入れることは出来ない。

 

手に入れるためにはやはりーーー金が必要になってくる。

さすがにまだ十歳の男の子にバイトさせてくれるほど世の中甘くない。だから俺は考えた。どうすれば金を稼げるか、と。

俺は年齢関係なく魔力に依存するバイトを見つけることに成功した。

だから俺はーーー

 

「嘱託魔導師になりました」

 

『こんなにアッサリなれて良いんですかね?』

 

「まあ、試験に合格したんだから良いだろ」

 

そう、管理局の嘱託魔導師となることで金を手に入れると考えたのだ。筆記試験は司書資格を持っていることもあり知識だけは沢山あったので満点で通った。

実技試験はなのはさん監督の下、試験管を砲撃でぶっ飛ばした。

あの相手に有無を言わさぬ圧倒感。なのはさんが多用する理由が少し分かった気がした。

それでつい先日、なのはさんから試験合格の旨を伝えられ今に至る。

 

『そういえば依頼が来てましたよ』

 

「内容は?」

 

『マスターを含めた四人で犯罪グループを検挙するみたいです』

 

「ん、分かった。準備して行こうか」

 

『はい、マスター』

 

他の三人がどんな人達か期待を膨らませながらショウとユエは目的地へと向かった。

 

 

 

□■□

 

 

 

管理局へと赴き、待ち合わせ場所に向かうとそこには赤毛の少年がソファーに腰掛けていた。少年は俺に気付き声を掛ける。

 

「君が今回嘱託魔導師になった人、かな?」

 

それは確認。見た感じ歳はあまり変わらないみたいだが姿勢を正し、敬礼する。

 

「はい。今回嘱託魔導師になりましたショウ・S・ナガツキです。よろしくお願いします」

 

すると、少年も俺に倣い敬礼を返した。

 

「エリオ・モンディアルです。ーーーと、堅苦しいのはここまでにしよう。歳も同じぐらいだしね」

 

「ん、分かった。よろしくなエリオ」

 

「よろしくね、ショウ」

 

エリオと握手を交わし、心の底から沸々と湧き上がってくる思いが言葉となり口から漏れた。……久しぶりにちょっとだけ涙を流しながら。

 

「……初めて男友達が出来た」

 

「泣くほど嬉しいの!?」

 

「泣いてない!」

 

初めてって言ったけどよくよく考えれば男友達いるはずだよな!

えっと、アインとアリンにヴィヴィオ、リオ、コロナ、ノーヴェさん、なのはさん、フェイトさんーーー女の人しかいねぇ!

いや、待て! 俺にはユーノさんがいるじゃないか!

友達かと言われたら怪しいけども………

 

「えっと、まあ自己紹介は他の二人が来てから詳しくやるって事でいいかエリオ?」

 

「そうだね。もうじき二人も来るだろうからーーーあ、来たみたいだよ」

 

エリオの指差す方向に顔を向けるとちょうどピンク色の髪をした幼女と紫の髪を腰まで伸ばした少女が此方に向かって歩いているところだった。

 

「ごめんね、エリオ君。ちょっと遅れちゃった」

 

「大丈夫だよ。僕らも今来たところだし。ね、ショウ?」

 

「そうだな。ってことはこの二人がーーー」

 

「今回一緒に任務をこなす仲間ってわけ」

 

と、紫の髪を靡かせた少女に今言おうとした言葉を取られてしまった。

言葉を取られたことに少々ムッとしたがすぐに機嫌を直した。

エリオがピンク髪の幼女の頭を撫でていたので和んだからだ。

なんて考えていると少女が隣に来た。

 

「私はルーテシア・アルピーノ。よろしくね。貴方は?」

 

「ショウ・S・ナガツキです」

 

「そ。歳も二歳ぐらいしか変わらないみたいだし気軽に呼んでくれていいわよ?」

 

「じゃあ、ルーで」

 

「それにもう一個ルーを足したら私のアダ名よ」

 

「長くなるから却下で」

 

「手厳しいわね。ーーーそれよりもあの二人見てどう思う?」

 

「ん? 見て思ったことを率直に言うのなら歳の離れた兄妹かな?」

 

「やっぱりそう思うわよね。因みにキャロは私と同い年よ」

 

「なん、だと!?」

 

ピンク色の髪をした幼女ーーーもといキャロはルーと同い年だと!?

俺が勘違いしてしまった原因は明白だ。

それは身長が明らかに平均よりも低かったからだ。

誰が見てもこの事を知らなかったら兄妹だと勘違いしてしまうだろう。

ーーー神よ。どうしてこんなにも人間とは不平等なのか?

と、天を仰いでいるとキャロから声を掛けられた。

 

「えっと、君が嘱託魔導師に成り立ての新人さん?」

 

「あ、はい。ショウ・S・ナガツキです」

 

「キャロ・ル・ルシエです。よろしくね!」

 

「此方こそだよ、キャロ」

 

キャロの頭にソッと手を乗せ一言。

 

「……身長はこれから伸びるさ」

 

「私は小さくなんかない!」

 

おっと、地雷を踏んだようだ。

キャロが怒ったかと思うと俯いて何かを呟いていた。

耳を澄ませてみると「私は小さくない」と何度も言っていた。

…………身長のこと、言うのは控えよう。命に関わりそうだから。

 

「さてと、今回の仕事の話に移るから戻ってきなさいキャロ」

 

「はっ!? そうだねお仕事なんだもんね!」

 

ルーの言葉で現実へと復帰したキャロは元気良くさっきまでのことを忘れるように意気込んだ。

四人はソファーに腰掛けるとルーが俺たちに見えるようにウィンドウを展開した。

 

「今回は犯罪グループの一斉検挙が目的ね。犯罪グループは『リープスパーダ』。ベルカの使い手だけで構成されてるわ。攻撃特化が多いみたいね」

 

「その『リープスパーダ』は一体どんなグループなの?」

 

「ベルカ戦乱時、その剣の腕から『剣王』と呼ばれた王がいたそうよ。その王は一人で一万の敵と相対し、民を守った。そのことから民から『救世主』と敬い讃えられたーーーその王を盲信してるみたいで人殺しを救いだとか訳の分からないこと言っている集団ね」

 

ルーの言葉に拳を強く握りしめた。

俺の、せいなのか?

その問いに答えてくれる人などいない。

また、ベルカの王。ヴィヴィオの時もそうだった。

結局は戦争がしたいだけの集団なのだ。

 

「しっかしバカなことするわよね、この人達。『剣王』は守るために戦ったのにこれじゃあその逆。ただの殺人者よ」

 

いや、違うよルー。

俺も結局は何も変わらないんだ。

みんなを守るために沢山の命を奪ったのだからーーー

 

「『剣王』はどんなことを思って亡くなったのかしらね?」

 

「……悲しかったと思うよ」

 

「え……」

 

その疑問にショウは思わず答えてしまった。

ルー達は視線を集め、暗い顔をしているショウを見つめ続きに耳を傾ける。

 

「一万の兵に対してたった一人で戦った。それは民を、家族を、親友を守るため。本当は戦いたくなんてなかったと思う。だって、例え勝ったとしても絶対に生きて帰れるなんて見込みも保証も何もなかったんだから。……だから、どうすることも出来なかったことがすごく悲しかったと思う」

 

それはあの時、少し考えてしまったこと。

でもすぐに諦めて死ぬ運命を受け入れた。

ーーーそれは多分逃げたかったからだ。自分の運命から。

三人は黙って聞いていたがショウが話を終え、黙り込んだのを見て何かを察したのか明るく話し掛けて来た。

 

「さ! さっさと犯罪者達の腕に手錠をはめてみんなで美味しいご飯食べに行きましょう!」

 

「うん。それがいいね!」

 

「勿論、ショウも行くでしょ?」

 

「ーーーああ、当たり前さ」

 

みんなが心配してくれているのが分かったからなるべく心配を掛けないように笑って答えた。

 

 

 

□■□

 

 

 

ルーテシアは『剣王』の名前を知っていた。

ーーーショウ・S・ナガツキ。

それは今目の前にいる少年と同じ名前だった。

単なる偶然。そう思ったがあまりにも出来すぎている。

一度だけ『剣王』の話を読んだことがある。

それは二ページにも満たないぐらい短いものだったけれど、その内容は悲しいものばかりだった。

だが、彼は別人だ。過去の人物ではない、と自分の中で割り切った。

しかし、その考えはすぐに確信に近いものへと変わった。

ルーテシアが犯罪者達の話をすると途端に拳を白くなるまで握り締め、険しい顔をしながら俯いた少年。

それだけならまだ犯罪者達が許さない、で通った。

 

「『剣王』はどんなことを思って亡くなったのかしらね?」

 

ルーテシアが本を呼んで思ったことを口にした時。

 

「……悲しかったと思うよ」

 

「え……」

 

目の前の少年が静かに囁いた。

まるで見てきたかのように。

まるで彼を知っているような口振りで。

『剣王』の思いを代弁するかのように語る少年の顔は暗かった。

話が終わると無理矢理場を明るくしようとキャロとエリオも明るく少年に語り掛けた。

少年は私達に心配を掛けまいと無理に笑っているように見えた。

 

「ショウ……貴方は、何を知っているの?」

 

 

その言葉は誰の耳に届くことはなく風に流されていった。

 

 

 

□■□

 

 

 

転移ポートから『リープスパーダ』が拠点としている無人世界に足を踏み入れる一行。

最初に感じたのは寂しい、だろうか。

人の影など見る影はなく大地が荒れ、植物が枯れ果てていた。

どんなことをすればここまで酷くなるのだろう。

空も厚い雷雲に阻まれ、光が差すことはない。

 

「おいおいおい、これは酷すぎるだろッ」

 

「うん。僕もここまで酷いのは初めてかもしれない」

 

「……酷いよ、こんなの」

 

落ち込んだキャロを慰めるようにルーがソッと頭を撫でた。

キャロの気持ちが痛いほど分かった。

止めなくちゃいけない。こんなことをする奴らを。

こんなもの“救済”なんかじゃないーーーただの“厄災”だ。

エリアサーチを飛ばすとここから約十キロ先に生体反応がある。

 

「……行こう」

 

「そうね。早く終わらせましょう」

 

デバイスを取り出し、四人は叫んだ。

 

『セットアップ!』

 

魔法陣が足元に現れ、各々がバリアジャケットを身に纏う。

ルーとキャロは召喚士だったか。二人が後衛で俺とエリオが前衛だな。

四人は空へと飛び立ち、拠点へと急いだ。

 

「ショウはこういうの初めてだよね?」

 

と、隣を飛んでいるエリオに聞かれどう答えるかと迷うが正直に答えた。

 

「いや、初めてじゃないかな…………戦乱の時はこれよりも酷かったから」

 

最後の部分だけエリオには聞こえないように言葉を濁した。

それを聞いて納得したのかエリオは、

 

「こんなのは絶対に間違ってる。だから、僕達で止めよう絶対」

 

「ああ、そうだな」

 

お前みたいな奴が沢山いれば戦争も起きなかったかもな……

だが、過去は変えられない。変えることは出来ない。

分かっているけど考えてしまうのだ。

 

「ショウ」

 

「ッ!」

 

物思いに更けていた事で突然声を掛けられたことにビクッと体を震わせてしまう。声を掛けたのはルー。

心配そうに此方を見ていたので出来るだけ笑顔を取り繕う。

 

「どうしたんだよ?」

 

「貴方は何をーーー」

 

抱えているの? その言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

「避けろッ!」

 

下を見てショウが叫んだ。

今から避けるのは不可能、と思い障壁を張る。

次の瞬間、弾幕の嵐が四人を襲った。

ザッと見ると下には既に大人数で連中が待ち構えていた。

情報が漏れていたのだ。奴らに。

 

「このまま空中にいたら狙い撃ちにされる! 一旦降りるぞ!」

 

「分かった!」

 

魔力弾を避けながら地面へと降り立ち物陰に身を隠す。

身を隠すように覗き見ると尚も魔力弾を撃ち続けてくる。

 

「ルーとキャロは後衛(バック)を頼む。俺とエリオが前に出る」

 

「あ、危ないよ! 応援を要請した方がいいと思う」

 

「確かに要請をした方がいいな。ーーー出来るなら(・・・・・)、な」

 

「え?」

 

「ダメね。連中、通信妨害してるみたい。ノイズばっかりよ」

 

「そんな……」

 

この状況に陥ってからすぐに通信を繋ごうとしたが映し出されるのはノイズだけ。

ジャミングが飛ばされ、通信が妨害される。

情報が漏れているのは確実だ。

しかし、たった四人相手にこの人数は多すぎる(・・・・)

連中の目的が今ひとつ分からない。まあ、いい。

ぶっ飛ばして聞き出すだけだ。

 

「エリオ! 俺がデッカいのぶっ放すからその後に俺と突っ込むぞ!」

 

「分かった! 任せるよショウ」

 

「任された! ユエ!」

 

『魔力収束開始』

 

バスターへと変えたユエを構える。

魔力濃度は少し薄いがカートリッジで付け足す!

 

バッシュ! バッシュ!

 

「なのはさん直伝! ディバインーーーーバスターーー!」

 

トリガーを弾き、紺色の閃光が奴らを飲み込みながら突き進んでいく。ーーー道は出来た。

ユエを剣へと戻し、身体強化を肉体に施す。

 

「行くぞエリオ!」

 

「うん!」

 

二人の叫びと共に二人の持つ愛機に声が重なった。

 

『ソニックムーブ』

 

二人は疾風と化し敵陣を駆けた。

エリオは槍ーーーストラーダを巧みに操り敵を倒していく。

見事な槍捌きだ。我流だろうが形になっている。

余所見していると背後から剣を振り下ろそうと男が忍び寄るが何者かによって阻まれた。

 

「なっ!?」

 

男の驚きの声に振り返ると黒い獣? と、言うべき存在が腕で剣を受け、男を殴り飛ばした。

かすかに感じるルーの魔力。ということはーーー

ルーを見るとしてやったりとドヤ顔だった。

彼はルーの召喚獣のようだ。

 

「サンキュー」

 

「…………」コクッ

 

どうやら無口な召喚獣らしい。

さて、と二、三回剣を振り払い眼を細める。

 

「さあ、始めようか」

 

『剣王流』ーーー

 

「羽斬ッ!」

 

斬撃を飛ばし、空中を飛行する魔導師を地面へと叩き落とし、落ちてきたところに更に斬撃を飛ばし蹴散らす。

そのまま脚を止めず、大盾を構える敵へと駆け寄りそのまま剣を走らせた。

男は完璧に塞いだと思っているだろうが、その考えは甘い。

 

『剣王流』ーーー透扇

 

剣は盾を透過するように斬り抜け、男を斬り裂いた。

そこへ空から魔力弾が降り注ぎ、ショウを襲う。

ーーーが、その全てを強化した脚で瞬雷を使い振り切った。

そのまま剣士に突っ込んでいくも上段から斬り落としてきたので横に構えたユエで受ける。

そのままユエを傾け、男の体勢を崩し懐へと潜り込む。

 

『剣王流』ーーー流衝閃

 

そのままの勢いと男が倒れ込む力を使い、斬り飛ばす。

いつの間にか近くに来ていたエリオと背中合わせに立つ。

 

「やるね、ショウ」

 

「エリオもな。槍捌きに惚れ惚れするぜ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

「連中の目的、エリオはどう見る?」

 

「まだ、分からないな。目的が全然見えてこない。でも、『リープスパーダ』は『剣王』のことを敬ってるんだよね? 普通に考えたら『剣王』の復活ーーーでも、僕達にこんな人数で叩きに来る必要性が感じられない」

 

「そうなんだよなぁ。ま、無駄話はここまでにして片付けますか」

 

「うん。行こうストラーダ!」

 

再び敵陣へと走るショウとエリオ。

後ろからはキャロ達の援護射撃が飛び、後ろを気にすることなく戦うことができる。

 

「モードチェンジ・ガンソード」

 

『イエス、マスター』

 

その名の通り、銃剣に姿を変える。

柄の部分にトリガー、刀身の下部分にはカートリッジを取り付けた仕様だ。

このまま一人一人相手にしているのでは時間の無駄。

倒した相手も復活してくるだろう。砲撃魔法で一気に決める!

 

「カートリッジロード!」

 

『ロードカートリッジ』

 

バッシュ! バッシュ! バッシュ!

 

(エリオ! デカいのを飛ばすからうまく避けろよ!)

 

(分かった!)

 

エリオに念話を飛ばし避けるように促し距離を取るため後退したのを確認すると身体から目に見えるほどの高密度の魔力がほとばしる。

 

「ディバインーーーバスターーーー!」

 

一直線に伸びる光線を食らうまいと避ける。

これでは撃った意味がなくなるし魔力の無駄遣いだ。

だからこその銃剣だ(・・・・・・・・・)

(グリップ)を両手で握り締める。

少し動かそうとするだけでズッシリとした重みが襲うがそのまま横に薙ぎ払(・・・・・・・・・)った(・・)

避けたと安堵したところを再び光線が襲い、大半を撃ちのめした。

だが、まだ油断はできない。

一旦エリオのところまで下がろうとして足を止めた。

自分の前に立つ一人の男性の姿を見たからだ。

男性は騎士甲冑を身に纏っていた。その胸にはベルカの紋章。

それはベルクの甲冑を彷彿とさせる。

「強いねぇ君」と、戦闘中だと言うのに呑気な声で喋り掛けてくる。

 

「あんたらの目的は何だ?」

 

「私たちの目的は君だよ。ーーー『剣王』」

 

その言葉に目を丸くするも身構える。

 

「何だよ? 『剣王』って」

 

「おっと、惚けても無駄だ。君が『剣王』ということはベルクとの戦闘でハッキリしているのだから」

 

「どういう意味だよ」

 

「私は見ていたんだよ。君とベルクが剣を交えていたところを、ね」

 

あの時、あの場にいたのは気絶した騎士含め俺とヴィヴィオ、ベルクしかいなかったはずだ。

どこかにカメラでも仕掛けていたのか?

見ていたということはベルクとこいつには繋がりがあるということ。

つまり、あの薬のこともーーー

 

「ベルクに薬を渡したのあんただろ? 何であんなものを渡した? 効果は知っていたはずだ」

 

「ああ、ベルクに薬を渡したのは私。その効果も知っていたさ」

 

「だったら、何で知っていてベルクに教えなかった!」

 

教えてさえいれば、ベルクは死ぬことはなかった。

俺はーーーベルクを殺さずに済んだ。

 

「捨て駒だからだよ」

 

「何だと?」

 

その言葉に怒りを覚える。

今にも殴り飛ばしてしまいたい気持ちを落ち着け、言葉の続きを待つ。

 

あの男(ベルク)は私が王になるための捨て駒に過ぎない。戦いの中で死ねたのだ彼奴も本望だろう。それにーーー私が王となるための礎となったと思えば彼奴も幸せだろう?」

 

こいつは今、何と言った?

ベルクが捨て駒? 戦いの中で死ねたから本望?

ふざけるな!

どうして、人を自分の道具としてみる!?

王となるための礎だと!? 冗談もそこまで聞くと反吐がでる。

ベルクは薬を使う前は仲間のことを同志と言い、助け合っていた。

だが、こいつはどうだ? 仲間を自分が王となるための道具としか見ていない。

こんな奴が王になる? なれるはずがない!

 

「ここで『剣王』を倒すことで私の強さを証明し、『聖王』、『冥王』、『覇王』を殺すことで私はこの世界の王となる!」

 

自分勝手な事情でヴィヴィオを、イクスを、アインを殺す?

こいつは今まで会ってきた人間の中で最底辺の人間だ。

声を聞いているだけでも吐き気がしてくるほどに、だ。

 

「覚えておくといい。ここで君を倒す私の名はーーー」

 

「言わなくていいよ。覚えるつもりもないし。それにーーーこれから倒される相手の名前ほど聞く価値のないものはないだろう?」

 

「その余裕、さすが『剣王』と言ったところか……その余裕を後悔することになる」

 

「させてみろよ」

 

男は懐に手を伸ばすとベルクが使ったものと同じ赤黒い液体が詰まった注射器を取り出した。

 

「それを使ったらどうなるか自分が良く分かってるだろ?」

 

「ふふ、これはベルクが使ったものをベースに作られている。ベルクはいい働きをしてくれたよ。実験で得たデータ(・・・・・・・・)を元に改良を重ねたのがコレさ。この力で私は王となる!」

 

それを左腕の静脈部分に突き刺し、液体が注入されていく。

騎士甲冑が弾け飛び、ベルクの時よりも更に筋肉が盛り上がっている。肌も赤黒く変色していき、体毛が生え、眼光を光らせる。

ベルクの時と変わっているのは手の爪が伸び、獣のものとなっていた。口からも牙が伸び狼を連想させる。

最初の体格から三メートルはある巨体へと変貌した化け物がそこにいた。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

化け物は空へと吠えた。

大気に響き、大地が揺れる。

そこへ仲間が近付いて行く。

 

「すごいっすね! アーーー」

 

そこから先は声にならなかった。

化け物が右手を振った形で立っておりその前には首のない体だけが残っていた。

頭を無くした体から血が噴き出し、血の雨が降る。

パタタッと鮮血が頬に掛かりそれが本物だと自覚させる。

今、彼奴は仲間を殺したのだ、と。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

化け物はまた吠えた。

あれはもう完全に獣と化している。

自我を失い、敵味方の区別が出来ないでいた。

化け物が身を屈め、何かに狙いを定めた。

その先に目をやると未だ唖然とし固まっているエリオ達がいた。

 

「エリオ! 空だ! 空に逃げろ!」

 

ショウの叫びが届くよりも速く化け物が地面を蹴った。

一瞬でエリオ達との距離を半分まで詰めていた。

このままではエリオ達が危ない! だが、この距離では砲撃も間に合わないし何よりエリオ達を巻き込んでしまう。

 

(やるしか、ない!)

 

「ユエ、フルドライブ!」

 

『イエス、マスター。フルドライブ!』

 

「魔法陣展開!」

 

『アクセラレーション!』

 

三枚の魔法陣を展開し、それを潜り抜けるように走る。

一枚目で疾風へと変わり、二枚目で暴風と化す。

三枚目で世界がスローモーションに変わった。

突然の加速に遅れるように衝撃が身体を襲うが気にしている暇はない。

化け物を上回る速度で疾駆し、化け物を追い抜かしエリオ達の前に先回りする。そして、切っ先を突きつけ砲撃を放った。

 

「吹っ飛べ!」

 

「ガァアアアアア!」

 

「え、ショウ? さっきまであっちにいたはずじゃーーー」

 

「そんなことはどうでもいい。三人は下がってろ。俺が彼奴の相手をする」

 

「無茶だよ! 一人じゃ死んじゃうよ」

 

「前にもああいうのと戦ったことがあるから大丈夫だよ」

 

「でも、どうやって止めるの!? 相手は人間なんだよ!」

 

「キャロの言ってることも分かるけどさ…………あれ(・・)はもう化け物だ」

 

「……ッ!」

 

酷く冷たい声にキャロは何も言い返せなくなった。

そんなキャロに代わりルーが質問する。

 

「前に戦った相手にはどうやって戦ったの?」

 

「砲撃で卒倒させた。でも、薬の副作用で体が膨張して風船のように膨れ上がっていったよ」

「その人はどうなったの?」

 

「俺が殺した。そうするしか方法はなかった」

 

『ッ!』

「何で、殺したの?」

 

「……キャロはなのはさんとフェイトさんと同じことを言うんだな」

 

「え?」

 

「ーーーそうすることでしか助けることができなかった。薬の副作用はそれだけじゃなくて死ぬよりも辛い激痛が襲うんだ。それに耐え切れなくてそいつは俺に「殺してくれ」って頼んできたよ」

 

『ーーーーーー』

 

三人は黙ってしまう。

ショウの顔が辛く悲しいものへと変わっていたから。

ショウは誰かを殺したくはないのだ。

でも、頼まれたからと人を殺せてしまう。

それを何度もしてきたかのように、簡単にだ。

そんなショウに掛ける言葉が見つからずに黙り込んでしまったのだ。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

悲鳴にも似た遠吠えが後ろから聞こえ慌てて振り向くと化け物が立ち上がり、此方を睨みつけていた。

肌にビリビリと殺気が伝わり身震いが起こる。

 

「早く、空に飛べ三人共。巻き込まれるぞ」

 

「あ、ショウ!」

 

「ん?」

 

「ーーー気をつけて」

 

「……ああ」

 

三人が空に飛び立ったのを確認し、化け物を見据える。

あれはベルクの時より最悪だ。

何が改良だ。もっと酷くなっているじゃないか。

自我を失い、敵味方関係なく無差別に殺していく。

ーーーこんな力で王になって嬉しいのかな? と、哀れむように見る。

このまま魔力ダメージで卒倒させて管理局に引き渡せばあるいは助かるかもしれない。

あのスピードに砲撃を当てるのは飛んでいるハエを手で捕まえるぐらい困難だ。

まずはあの機動力を封じてからバインドで縛り、決める。

そう決めたと同時に奴の姿が視界から消えた。

砂煙が上がっていてそれは自分の背後へと伸びていた。

そこまで考えて咄嗟に右足に力を込める。

 

『剣王流』ーーー円絶!

 

高速で剣を身体ごと回転させるとギンッという鈍い音が聞こえ、化け物の爪を弾き飛ばした。

大きく仰け反った化け物から距離を一気に取り、退がる。

今のは、運が良かった。

もう少し気付くのが遅れていたらさっきの男の仲間入りを果たしていたところだ。

 

「速すぎるぜッ畜生」

 

このままではすぐに殺されると思い、真上に魔法陣を四枚展開する。

ヴィヴィオの時にも使ったこれはフルドライブ時に使える奥の手だ。

魔法陣を潜るごとに加速し一時的に光すら超え得る魔法。

『アクセラレーション』

だが、これは諸刃の剣だ。前は魔力も残り少なく一瞬だったからそこまで酷くはなかったが化け物相手には常時発動が必要とされる。

ーーーこれは賭けだ。

剣を化け物に突き付けるように構え、覚悟を決める。

 

「俺がお前叩っ斬るのが先か、俺の身体がぶっ壊れて動けなくなるのが先か…………お前はどっちに賭ける?」

 

「ガァアアアアア!」

 

返答はなくその代わりに遠吠えと爪が迫る。

魔法陣を通過し世界が遅くなっていく。

 

『剣王流』ーーー逆火

 

爪を斬り上げ弾き、振り上がった剣が無防備に晒された腹を斬り裂いた。

腹が裂け、血が飛ぶが次第にその傷は塞がっていく。

ご丁寧に再生能力も向上しているようだ。

舌打ちしつつ剣を逆手に持ち替え、身を屈め脚に力を込める。

化け物の傷が塞がり、動き出そうとしたところに狙いを定め追撃する。

 

『剣王流』ーーー天蠍(てんけつ)

 

繰り出すは突き。それは高速を超え音速へと迫る。

塞がったばかりの腹に突き刺す、抜く、突き刺す、抜くを繰り返していく。

そして、最後に柄の根元まで深く刺し込み切っ先に魔力を集中させていく。

 

「ディバイン……バスター!」

 

閃光が腹を突き抜け空へと伸びていく。

化け物は腹に風穴を開けながら大きく吹っ飛んだ。

その光景を見て、後ろの方からキャロの悲鳴が聞こえた。

これでもまだ足りない。すぐに回復し、また立ち上がってくる。

案の定、奴は立ち上がった。まだ傷口が塞がり切らずに肉がウネウネと動いていて気味が悪い。

いつ動き出すかと神経を張り詰めるが一向に動く気配がない。

奴を観察しているうちにその違和感に気が付いた。

目の焦点が合っておらずあっちこっちを向いていた。

おかしい、と思った時には化け物が味方を殺し始めていた。

 

「な!? やめろ!」

 

背中を斬りつけ動きを止めようと駆け出す。

が、振り向きざまに爪が飛んできてそれを左腕で防ぐがバリアジャケットの上から肉が抉り取られ、顔を顰める。

激痛が走り、血が流れ落ちていく。それをどこか他人を見るように眺めていた。

 

ーーああ、昔クラウスと行った森に大きな熊が襲ってきてそれを庇った時もこんな風な感じだったっけ…………あの熊はどうしたんだっけ?

 

疑問が湧いてくるがすぐに思い出す。

自分が殺したのだ、と。

あの時の俺は魔法が使えるように(・・・・・・・・・)なっていて熊を殺さずして退けることは容易だった。

けれど、殺した。力を、自分をコントロールすることが出来ずに。

ドッチャッという生々しい音が響き、物思いに耽っていた思考がハッキリとした。

 

「た、たずげで……」

 

奴の爪で背中が抉れ赤黒く染まった剣士が倒れていた。

震える声を喉から絞り出し助けを求め、手を伸ばす。

その手を取ろうと手を伸ばすが電池が切れたかのように手から力が抜け落ちパタリと音を立てて転がった。

伸ばされたその手を取ることが出来なかった。

この光景にも見覚えがある。

俺はいつも伸ばされた手を、伸ばせば届く手を取ることが出来なかった。助けられたかもしれない命が消えた。

 

「嗚呼ぁあああアアアア!」

 

ショウが吼え、真紅(・・)の魔力がほとばしる。

薄々、勘付いてはいた。記憶を丸ごと保持していたのだから他の前世に持ち合わせていたものが継承されていることに。

この力は目覚めるべきではなかった。

だが、目の前で絶命した男と過去のみんなとが重なり枷が壊れた。

それを見ていたエリオ達が驚愕し、異常なまでの熱気を感じ取った。

 

「熱いッ」

 

「これはショウなの?」

 

ショウの手に握られたユエが真っ赤に輝き、熱気を放出していた。

赤熱剣(ヒートソード)と言ったところだろうか。

すると、化け物にも変化が伺えた。

背中の肉が盛り上がり、四つに裂けた肉の塊が化け物へと変貌する。

一気に五体へと増えたそれはショウを含む味方達の虐殺を始めた。

これを手負いのショウ一人でどうにか出来ることではない。

戦わせてはいけないとエリオが叫ぶ。

 

「ショウだけでも逃げるんだ!」

 

エリオは槍を、ルーとキャロは魔力弾を展開し臨戦態勢を取る。

だが、ショウを逃したところで三人でどうにか出来る問題でもなかった。ショウは先ほどよりも目を細め、振り返る。

その顔に表情はなくエリオ達を恐怖させるには十分だった。

そして、低く冷たい声で、確たる意思を持ってこう、言い放った。

 

「は? 寝言は寝てから言えよ。ーーー俺の目の前ではもう、誰も殺させない」

 

そう言うや否や、分裂し増えた個体へと疾る。風を身に纏わせスピードを更に加速する。

スピードに身体が付いて行かず悲鳴をあげるが治癒魔法を常時全開で発動させ、それに対抗する。

魔力がどんどん減っていくのを感じながら一体目を風で八つ裂きにした。

それに気付き、空中に飛び上がった二体を追い掛け飛んだ。

風で二体の自由を奪い取り、双剣に変えたユエで斬り裂く。

切り口から炎が燃え上がり、二体を吞み込み焼き焦がす。

肉の焼ける匂いがし、不快感を覚えるが慣れているせいかそこまで気にはしなかった。

四体目に目を向けると一目散に逃げ出した。

恐怖を感じることは出来るらしい。ーーーでも、逃がさない。

手を向け、奴の体内の水分ーーー血液に意識を集中させる。

指で銃を作ると「バンッ」と撃ち抜く。それに呼応し内側から血液が上半身を弾け飛ばした。

走っている最中だったため下半身だけが駆け、力無く地面に倒れる。

あと一体ーーー

 

「ガァアアアアア!」

 

生み出した個体が全滅させたことに激怒するように吠える。

血濡れた爪で俺を殺そうとするが、化け物の脳天に雷を落とす。

 

「ギャアアアアア!」

 

肉が焦げ、神経が痺れ動きが止まる。

ショウは走った。

剣を構え、奴の左肩から右脇腹まで斬り落とす。

それで終わることはなくそのままもう一回転しその傷を深くし恐怖を刻みつけた。

 

『剣王流』ーーー転牙

 

血を止めなく溢れさせながら奴は逃げ惑う。

炎で逃げ道を塞ぎ、ピチャピチャと血の水たまりを歩いていく。

なす術を無くした化け物は空へと逃げた(・・・・・・)

飛べないと思い込んだ此方の不手際だと納得する。

化け物はエリオ達の方へと迫り来る。

その顔は此処からではわからないが愉悦に歪んでいるのが想像出来た。

エリオが槍を握る手に力を込め、二人の前に出て構える。

あの人を助けることは不可能だと本能で感じ、ショウと同じ選択を選んだ。

狙うは喉。一撃で仕留める。

それは瞬間移動の如きスピードで割って入ったショウで突き出すことはなかった。

……お前の手は、血に汚しちゃいけないよ。エリオ。

 

『剣王流』ーーー

 

「……烈風獅刃」

 

風のように鋭さを増した獅子の(つめ)が化け物の身体をバラバラに斬り裂いた。

ゴトッと音を立てて落ちた首は俺を見て恐怖した顔だった。

……終わった。

意識が落ち、地面へと落下を始めるがエリオが受け止め、肩に担いだ。

 

「……帰ろう」

 

「……そうね」

 

四人は管理局に応援を要請し、ショウの傷を治療するため飛ぶスピードを速める。

 

あとに残ったのは鉄の匂いを醸し出す血の海と肉の山だけだった。

 

 

 

□■□

 

 

 

 

薬品の匂いが鼻腔をくすぐり目を覚ます。

白い天井が目に映り、腕には針が刺され今尚点滴がポタポタと落ちていた。

 

「……ここは」

 

「管理局の医務室だよ」

 

「……エリオ」

 

声のした方を向くと包帯やばんそうこうを付けたエリオが病室の壁を背もたれに座っていた。

 

「あれから、どうなった?」

 

「管理局の応援に後は任せて僕達はショウをここに運んだんだ。上の人達は今回の件をロストロギアの暴走による事故ってことで片付けるみたいだよ」

 

「そっか……」

 

当然か。今回の任務は検挙。

その大半が死んでしまったのだ。この事が公になれば管理局に取っては大きなダメージになる。

だから、この事を偽り隠蔽したのだ。

 

ーーーダメだ。手からあの感触が離れない。

これは自分への戒め。

人の命を奪ったということを忘れないために。

だんだん身体が思い出し始め、震え始める。

自分の体から体温が抜けていくのが分かる。

だが、冷えきった体に温もりが伝わった。

 

「え……」

 

いつの間にか部屋に来ていたルーとキャロ、そしてエリオが俺の手を包み込み、抱き締めていた。

 

「大丈夫……ショウは一人じゃない」

 

「貴方が何を抱えているのか私達には分からない。でもね、それを支えることは出来るのよ?」

 

「あ……」

 

「私、ショウが怖かった。何であんなに簡単に平気な顔して人を、命を奪えるのかなって」

 

当たり前だ。

誰だって俺を見たら恐れ、恐怖する。

人殺しと蔑まれ、罵倒され、見下されても仕方ない。

 

「でも、本当は違ったんだよね。こんなに震えて、体も冷たくなって、今にも泣き出しそうな顔をして……ショウも悲しいんだよね? 辛いんだよね? だったら、その気持ちに蓋をしないで吐き出して。私達が聞いてあげるから。私達が側にいるから」

 

三人の想いに触れ、また救われた気がした。

本当に俺の周りには優しい人達ばっかりだ。

だから、ちょっとだけ勇気を出して自分から歩み寄ろう。

一旦離れるように言い、ベッドから体を起こすと鈍痛が襲うがそれを我慢し三人の前に立った。

 

「ショウ・S・ナガツキです。俺と、友達になってください」

 

手を伸ばし、深く頭を下げる。

三人は顔を見合わせて微笑むとその手を取った。

 

『喜んで!』

 

ショウは俯いたまま少し震えたがすぐに頭を上げるといつもの笑顔に戻っていた。今度は無理矢理笑った笑顔ではない。

 

「さ! みんなでご飯食べに行こうよ!」

 

「え!? 俺まだケガしてるんだけども」

 

「そんなの自力で治しなさい」

 

「辛辣!?」

 

「私が行きながら治してあげるから行こう?」

 

「う、それならまぁ……よろしくキャロ」

 

「任されました!」

 

「お腹減ったしビュフェ式のレストランに行こう」

 

「お、いいねぇそれ」

 

「ふふ、エリオの食べっぷりにはビックリするわよ」

 

「そんなに?」

 

「うん。フードファイターが出来るぐらいには」

 

「エリオ、食い過ぎるなよ?」

 

「善処するよ。ほら、行こう!」

 

「ああ!」

 

四人の声は廊下に響き、喧しく思えたが誰も注意しようとはしなかった。全員が満面の笑みで今なったばかりの友人とハシャいでいたから。

ショウは三人を自分の親友と重ね、その後ろ姿を見て思わず吹き出した。

ーーー少なくとも今だけは心の底から笑える。

そう、思った。

 

 




ショウ「………」←開いた口が塞がらない。

エリオ「モグモグ、ガツガツ! これも美味しいね」

ルー「だから言ったでしょ?」

ショウ「あ、うん。まさかここまでとは想像出来なかった」

目の前には積み上げられた皿でエリオが隠れ、見えなくなっていた。

キャロ「本当にすごい食べっぷりだよね」

ショウ「だな。……でもそろそろ止めた方がいいと思うんだ」

だって、周りの視線が痛いし何よりここの店長が涙を流しながらこっちを見てるんだもん。

キャロ「ハハハ……」

ショウ「今度からエリオと食べる時はエリオだけで十人前は用意しとかないとダメだな」

そう、心に誓うショウ達だった。




次回予告

「これはこれは人が休日の朝を気持ちよく寝ていた時に叩き起こしてくれたノーヴェさんじゃないですか」

「わ、悪かったよ」

「面白いよ、ショウくん」

「それは何よりだ」

「久しぶりの強敵との戦闘………いいねぇ! さあ、さあさあ、始めようか!」

「『天童流』ーーー」

「『剣王流』ーーー」

「君、女装似合うんじゃないかい?」

「何故!?」

memory 14 『剣王と現代の剣士が剣を交えるそうです』



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memory 14 『剣王と現代の剣士が剣を交えるそうです』

ショウ「作者は今、勉強で忙しいみたいだから今日は俺だけだ」

ノーヴェ「どうしたんだ?」

ショウ「小説の勉強と学校の勉強の板挟み」

ミカヤ「それは大変そうだね?」

ショウ「ま、始めましょうか」

ミカヤ「リリカルマジカル始まります」


とある休日ーーー

 

ベッドの中で幸せそうに眠るショウがいた。

きっといい夢を見ているのだろう、と思った矢先ショウの顔が歪む。

顔からは大粒の脂汗を流し、うなされ始める。

それは、ショウの記憶ーーー過去の自分。

思い出したくもない嫌な記憶。鮮明に脳にこべりついた記憶。

腕の中には涙を流しながら笑顔を浮かべる少女。

同じく涙を流し、少女を抱いているショウ。

目の前には厭らしく笑う魔物達。

ただ、その時のショウの姿はいつもと違っていた(・・・・・・)

黒髪が赤と白を混ぜ合わせた淡い桃色に変わりーーー

今尚涙を流すその瞳は真紅に輝いていたーーー

それを自分の中で見ている彼女ーーー

続きに移り変わろうと景色が動いた時、耳元で喧しいベルの音が響き、沈んでいた意識が急速に浮上した。

 

「うるさい! 鼓膜が破けるわぁ!」

 

『ノーヴェさんから連絡ですよマスター』

 

「よし、出る前に何故音量(ボリューム)が最大なのか聞こうか」

 

『だって、呼び掛けても全然起きないんですもん』

 

「ほう? それで人の鼓膜を潰しに来た、と? ーーーユエ」

 

『な、何ですか?』

 

「お前に人の体を作ってもらって同じことをしようと思うんだけどいいよな」

 

『だ、ダメに決まってるじゃないですか!?』

 

「もしもし、ノーヴェさん? 何のようですか」

 

『無視!? ワザとですか? ワザとですよね!』

 

『えっと……』

 

「気にしないでください。バカが吠えてるだけなんで」

 

『酷い!?』

 

『えっと、お前今日暇か?』

「まあ、そうなりますね」

 

『悪いんだけどここまで来てくれないか?』

 

ノーヴェさんから住所が送られ、確認する。

そして、一つため息を吐きながら、

 

「準備して行くんで一時間後で良いですか?」

 

『ああ、それでいい。それじゃあ、後でな』

 

通信が切れ、ベッドから這い出る。

そのまま着替えていこうとしたが寝汗でビッショリになっていた。

クローゼットへと伸ばした足を方向転換させ、バスルームで汗を流す。

今度こそ着替え、ユエにチェーンを通し首に下げた。

 

「じゃ、行きますか」

 

『あの、マスター? さっきの事なんですけどーーー』

 

「その事ならもう良いよ」

 

『本当ですか!』

 

「その代わり今日散々コキ使ってやるから」

 

『上げて落とされた!』

 

 

 

□■□

 

 

 

ショウとユエはどうせなら歩いて行こうと散歩しながらミッドチルダ南部へと歩を進める。

目指しているのはノーヴェさんから送られた住所ーーー抜刀術天童流第4道場だ。

小一時間で道場に着き、階段を上がっていくと門の前でノーヴェさんが手を振っていた。

それを無視して中に入ろうとすると肩を掴まれてしまう。

 

「何で無視すんだよ?」

 

「これはこれは人が休日の朝を気持ち良く寝ていた時に叩き起こしてくれたノーヴェさんじゃないですか」

 

「わ、悪かったよ」

 

それを聞いたノーヴェさんはバツが悪そうな顔をして申し訳なさそうに謝罪した。

 

「で? 俺は何でここに呼ばれたんですか?」

 

「私が呼んでもらったんだよ」

 

ノーヴェさんと別の声が聞こえ、振り返ると白い胴着に袖を通した女性が刀を持って佇んでいた。

 

「誰ですか?」

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。ミカヤ・シェベルだ。ここの師範代をしている。よろしくねショウくん」

 

「よろしくお願いします。あれ? 何で名前知ってるんですか?」

 

「ナカジマちゃんに教えてもらった」

 

ノーヴェさんに指を差したので振り返ると同時に顔を背けた。

大方、俺が剣を使う事を話してこうなったのだろう。

 

「それでその師範代様は俺に何の用が?」

 

「是非とも君と手合わせがしてみたくてね」

 

もう一度ノーヴェさんを見るがまたも顔を背ける。

頭をボリボリ掻きながらため息を吐いた。

 

「分かりましたよ。やりますよ」

 

「そう言ってくれると思っていたよ。さ、道場はこっちだ。胴着のサイズもバッチリだから着替えてきてくれ」

 

サイズまでもが知られているとは……

今度はノーヴェさんの反応を上回る速度で振り返るとビクッとした顔で固まり一言。

 

「喋っちゃった?」

 

「後で俺と全力のスパーをしましょう。ノーヴェさん」

 

「何でだよ!?」

 

「俺のことを喋ったお仕置ーーー八つ当ーーーサンドバッグになってもらうために」

 

「言い直そうとしたけど結局本音が出てるぞ!」

 

「今から楽しみですね」

 

「勘弁してくれ〜〜!」

 

ノーヴェさんの悲痛の叫びを無視してミカヤさんから貰った胴着を手に更衣室で着替える。

体に馴染むような感覚。布の肌触りがとても気持ちが良い。

こういうのも悪くない。

道場に向かうと既に待機していたミカヤさんが木刀を投げてきたのでそれを左手でキャッチした。

 

「おっと」

 

「中々様になってるじゃないか」

 

「そりゃどうも」

 

「さすがに真剣でやる訳にはいかないから木刀(これ)で模擬戦を始めようか」

 

「はぁ、まあ来た以上はやりますけど……」

 

木刀を二、三度振り感触を確かめる。

今まで真剣しか振ってこなかった所為か違和感を覚えた。

違和感を振り払うように剣を左手に持ち替え腰に右手を添えるように腰を落とす。

呼吸を大きく吸い、吐き出すと同時に振り抜いた。

ヒュンッと音を立てて空気が裂ける感触が手に伝わる。

パチパチとミカヤさんが拍手をしていた。

「どうも」と、軽く会釈する。

 

「すごいねショウくん。それに今の構えは天童流に似ているね」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。俄然君と戦いたくなってきたよ」

 

「それは何よりだ」

 

ピリピリと両者の気迫が肌に伝わる。

ノーヴェは固唾を飲んだ。

今、遅れてここに来たら二人は既に準備万端だったのだ。

気迫が消え、構えるとさっきとは打って変わって湖のような静けさ。

それはまるで嵐の前触れのように感じた。

バンッと音がしたかと思うと二人の剣は打ち出されてぶつかり合っていた。

 

(何が起こった!?)

 

ノーヴェが瞬きした瞬間、その一瞬で剣を打ち出したのだ。

同時に後ろへと飛び去り、口角を吊り上げ、笑う。

同類を見るように強者と巡り会えた事を喜ぶような獰猛な笑み。

ショウは小手先調べで少しのスピードで木刀を抜いたが、ミカヤはそれに合わせてきた。並の相手ならば今ので終わっていよう。

それに剣を通じて伝わってきたもの。

ミカヤは天童流に全てを賭けている、そう伝わってきた。

ならば、それ相応の覚悟で、想いで答えなければフェアじゃない。

何よりーーー

 

「久しぶりの強敵との戦闘……いいねぇ! さあ、さあさあ、始めようか!」

 

ミカヤもショウと同じ思いだ。

しかし、剣を通じて伝わった想いーーーそれは寂しさ、だろうか。

その後には不安、後悔、苦渋、諦め、絶望、負の感情で塗り固められた檻の中に閉じ籠っているのを感じた。

それが何なのかは分からない。だから今はーーー

 

「私の全力を持って斬り伏せる!」

 

今ここに戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「すごいよ、ミカヤさん。その速さ正直驚いた」

 

「それはどうも。君もその年にしては強いじゃないか」

 

それはそうだ。

死ぬ前の記憶があるのだ。当然その中には戦闘の記憶もある。

それにミカヤさんは女で俺は男。筋力の差も出て来る。

速さは互角、かな。ならば気付くことも出来ない速度で斬り伏せる!

上段から剣を振り下ろすと寸分違わずに抜刀した剣が弾く。

そのままがら空きになった腹部を斬りつけようと前に出てきた。

足を踏ん張り、敢えて前に足を踏み出すと一瞬だがミカヤさんの動きが止まり、右足を捻る。

 

『剣王流』ーーー円絶

 

剣を弾き、一回転して再びミカヤさんへと剣を走らせる。

 

「『天童流』ーーー水月!」

 

回転の勢いを乗せた一撃はそれを上回る速さで繰り出された抜刀に弾かれた。

木刀を弾いたはずなのに伝わる重みは鉄と何ら変わらない。

それほど速く打ち出されたというわけだ。

 

「ふふ! 楽しいなショウくん!」

 

「そうですね。ーーーでも、楽しい時間もすぐに終わってしまう」

 

「そうだね……この勝負、次で決めようか」

 

二人の眼差しが鋭くなりノーヴェは身震いした。

ピリピリと空気が震え、それがノーヴェにまで伝わってくる。

何て、気迫なんだ!

 

天童流抜刀居合ーーー月輪

 

剣王流ーーー不動

 

 

両者が最高の技を繰り出そうと構えた。

 

「『天童流』ーーー」

 

「『剣王流』ーーー」

 

一瞬の沈黙。

その緊迫した状況にノーヴェが唾を飲み込んだ。

その瞬間、二人の手が消えた。

 

「天月・霞!」

 

「瞬閃・二連!」

 

互いの剣が交錯する。

しかし、両者共に剣が届くことはなく確実に同じ軌道で剣がぶつかり合い弾かれるが踏み留まり首へと剣を払った。

それは首にも届くことはなくぶつかり合った場所を中心とし木刀が綺麗に折れてしまったのだ。

 

「……ああ〜? これは、引き分け?」

 

「はは……そうなる、のかな?」

 

拍子抜けしてしまったように乾いた笑いを上げる二人。

 

「しっかし、強いですねミカヤさん」

 

「ふふ、君には負けるよ」

 

「いやいや、俺が女だったら絶対今の殺られてましたよ」

 

「…………」

 

ショウがそう言うと顎に手をつけジックリと舐るように観察し始めた。その視線がこそばゆく何をしているのかまで気が回らなかった。

唐突にミカヤが口を開くがその言葉にショウは叫んでしまった。

 

「君、女装似合うんじゃないかい?」

 

「何故!?」

 

「確かにそうかもな」

 

「「あ、ノーヴェさん(ナカジマちゃん)いたんだ」」

 

「お前ら酷すぎるだろう!?」

 

今日一番のツッコミ頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

 





ちょっと短いです。
次回はなるべく長く!
それではまた次回お会いしましょう。



次回予告

「あわわ! また壊しちゃった!」

「いい蹴りだ」

「俺はショウ・S・ナガツキだ」

「私の師匠は八神家の皆さんです!」

「え……」

「誰だ? 彼奴」

「えっと、ショウさんです」

「どっかで聞いたことあるような……」

memory 15 『八神家の弟子』


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memory 15 『八神家の弟子』

突然だがショウは今、アインハルトに正座させられていた。

ショウ自身正座させられる意味が分かっておらず困惑している。

 

「ショウ」

 

「は、はい」

 

「最近、ショウから知らない女の人達の匂いがするんですけどこれはどういうことですか?」

 

「お前は犬か!? どんな嗅覚してんだよ……」

 

「ショウのことならすぐに分かります」

 

「うん。怖い。それはなんか言い知れぬ恐怖を感じる」

 

「とにかく説明してください」

 

ズイッと顔を近づけてきて思わず顔を反らす。

だって、いい匂いするんだもん! 女の子だから当然だけど髪から微かに香るシャンプーがすごくいい匂いなんだよ!

近づいてきた時に唇も柔らかそうだな、なんて考えちゃったんからだよ! こんな風に思う俺って変なのかな? 断じて否だ!

 

「ええっと、修行相手だよ」

 

「本当ですか?」

 

「ホントホント」

 

「もし、嘘だったら断空が飛びますからね」

 

「神に、いやアインに誓ってその通りです」

 

「なら、いいでしょう」

 

ホッと安堵のため息を吐き出す、がすぐにまた固まってしまう。

 

「それで残りの六人の方は?」

 

「へ?」

 

「修行相手というのは分かりましたがその人を除いてあと六人の女性の匂いがします」

 

「……なあ、アイン」

 

「何ですか?」

 

「取り敢えずお前のその嗅覚のことは置いておいてだな。その、全員修行相手です」

 

「そう、ですか。アリンにも報告ですね」

 

「何で!?」

 

「あ、アリンが来るまでしばらく掛かるので何処かに行っていても良いですよ?」

 

「……はい」

 

アインは笑っていた。

笑っているのだが、目が笑ってはいなかった。

恐怖で体が震え、何も言えずに黙って家を出たショウだった。

 

 

□■□

 

 

「……家を出てきたは良いとしてこれ戻ったら絶対死ぬよな」

 

『頑張ってくださいマスター』

 

「頑張れってお前な……あの二人相手にどう頑張れと?」

 

『すみません……あのお二方には勝てる気がしません』

 

「分かってるならいいんだ……うん」

 

アインの気迫に負けて家を出たが特に行く当てもなくフラついていると風に乗って潮の匂いが漂う。

その匂いに惹かれるように足を進めていくと道が開け、砂浜に出た。

目の前には陽の光が反射し輝く海。

青空も広がりさっきまでの暗い気分が晴れていく。

ーーー晴れただけで無くなった訳ではないが。

黄昏ているとバシンッという音が鼓膜を揺さ振った。

その音が気になり導かれるように歩いていくと一人の少女が棒にマットを巻いた簡易的なサンドバッグに蹴りを打ち込んでいた。

踏み込み、威力共に大したものだ。良い師匠に恵まれたのだろう。

さっきよりも強く踏み込んだ一撃が簡易サンドバックを二つに割いた。

「ああ! またやっちゃったよ〜! どうしよう……絶対怒られる」

 

砂浜にガクッと膝を着き、慌て出す少女。

それを見て思わずクスッと笑った為彼女がショウの存在に気が付いた。

 

「えっと、初めまして?」

 

「うん。初めましてであってるよ。ごめんな? つい笑っちゃって」

 

「あ、大丈夫です!」

 

と、目の前の少女は笑った。

 

「特訓の邪魔しちゃったかな?」

 

「あ、いえ、大丈夫ですよ。今ので壊しちゃったから新しいのが出来るまで出来ませんし」

 

「そうなのか? よし、ちょっと待ってろ」

 

「へ?」

 

ショウは砂浜に手をつけると魔力を集中させる。

魔力変換の土を使い、比較的柔らかい砂を掻き集め、一本の支柱へと固定していく。

これに今度は魔力変換の水で水分を持たせ、硬化の魔法をかける。

軽めにストレートを放つとパシンっと音が響いた。

これで即席のサンドバックの完成だ。

 

「よし! これで特訓の続き出来るぜ!」

 

「はい!」

 

少女が構え、飛ぶ。

蹴りは空中で弧を描きながらサンドバックに炸裂した。

先ほどと同じ威力だろうが俺の特別製だから壊れはしなかった。

 

「いい蹴りだ」

 

「ありがとうございます! えっと、お兄さんのお名前は?」

 

「俺はショウ・S・ナガツキだ」

 

「私はミウラ・リナルディです!」

 

「ミウラはいつも此処で特訓してるのか?」

 

「はい! そうです。他にも何人か居るんですけど師匠たちが丁寧に教えてくれるんです!」

 

「へぇ、きっといい師匠たちなんだろうな」

 

「はい! だって私たちの師匠はーーー」

 

少し間を空けてミウラは言った。

それはショウを驚かせるには十分なものだった。

 

「八神家の皆さんですから!」

 

「え……」

 

ショウは耳を疑った。

けど、聞き間違うはずなどなかった。

だって、自分で調べたのだから。

ーーー夜天の魔道書、最後の主と。

 

「そ、そうなのか」

 

なるべく動揺を悟られないように努める。

ミウラは気付いた様子はなく言葉を続けた。

 

「ショウさんも何かしてるんですか?」

 

「ん? 剣とか武術を、な」

 

「見せてもらっても良いですか!?」

 

「お、おう」

 

目をキラキラと輝かせて詰め寄るミウラの剣幕に負け、頷いてしまう。

スッと目を閉じて意識を集中する。

俺は元々剣がメイン。格闘は剣がない時のための保険。

だから、いつもイメージする。

この腕、この脚は剣だと。

 

「シッ!」

 

裂帛の気合いとともに放たれた蹴りは即席サンドバックを綺麗に両断した。

 

「わぁあ!」

 

「ま、こんなとこですかね」

 

「凄いですよ、ショウさん!」

 

「ども」

 

その後、他愛もない話を続けているとミウラが俺の背後を見て、手を振った。

何だ、と思い振り返る。そして、目を見開くことになる。

オレンジに赤が掛かったような髪を下げ、肩にハンマー、アイゼンを担ぐヴィータの姿があった。

その後ろにもシグナム、シャマル、ザフィーラ、そして現主の八神はやてが歩いてきていた。

 

「わ、悪いミウラ。俺、急な用事を思い出したから帰るわ」

 

「え!? そんな折角師匠たちに紹介しようと思ったのにーーー」

 

「悪い! じゃあな!」

 

ミウラの言葉を待つことなくショウは走り出した。

兎に角、当てもなく走る。

みんなの顔を見たらきっと俺は泣き出してしまうだろう。

それに何よりーーー俺はみんなに会わせる顔がないから。

分かっている。

自分でも分かっている。

ただみんなに会うのが怖くて逃げ出したのだとーーー

ショウは振り返ることなく走った。

だから、気が付かなかった。

あそこにアインスが居なかったことにーーー

 

 

「ん? 誰なん今の子」

 

「えっと、ショウさんです。紹介しようと思ったんですけど急な用事があるとかで行っちゃったんですよね」

 

「それは残念やな」

 

「きっと今度また会えるわよはやてちゃん」

 

「そうですよ。主」

 

「せやな」

 

そんな話をする四人を置いて、シグナムとヴィータは何かを考え込んでいた。

 

「ショウ……って、どっかで聞いたことあるような?」

 

と、首を傾げるヴィータ。

 

(この切り口、数年前の誘拐犯にあったものと同じで鋭く速い一撃。それにやはり懐かしいーーー)

 

あの少年が、そうなのだろうか?

 

その答えはまだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語のピースはほぼ揃った。

今、ここから始まる彼らの物語がーーー




ちょーーーー短いです。
テストが続いて短くなってしまいました。
次回はもっと長めの予定です。そして、やっと原作に突入します!
まだジーク達が出ていないだろう、と思う人もいるかもしれないですが後々ジーク達との交流を書きます。
勿論! ショウのオリジナルストーリーも用意してあります!
それではまた次回お会いしましょう!



次回予告

「俺たちも中等部、か」

『最近、『覇王』を名乗る人物が辻斬りまがいなことをしているそうです』

「私と貴方、どちらが強いでしょうか?」

「彼奴の……我が親友(クラウス)の名を軽々しく名乗るな!」

memory 16 『新学期』


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原作開始
memory 16 『新学期』


木々の隙間から陽光が差し込み出し、スズメ達が囀り出す。

スズメ達の合唱に耳朶を打たれながらショウはユエを振るっていた。

 

「999……1000! ーーーふぃー、今日の鍛錬終わりっと」

 

『ちょうど良い時間ですね。これなら朝食を取ってから歩いて行っても遅刻はしないでしょう』

 

剣から指輪に戻し、チェーンを通し首に下げているユエ。

時刻は午前六時。ここから家に戻っても大体十五分前後。

確かにちょうど良いな、と思いながらショウは家へと戻っていく。

 

「最近アインとアリン一緒に鍛錬しなくなったよな」

 

『まあ、良いじゃないですか。別に避けられている訳でもないんでっし』

 

「ん。ま、考えても仕方ないな」

 

腕を頭の後ろで組み、空を見上げると青空がどこまでも広がっている。

戦乱の時に比べたら、いや比べられないほどいい空だ。

本当に、今の時代は平和だよな。ーーー悪い奴らはいなくならないけど。

 

『そういえば、マスター。エリオさん達からメールが届いてましたよ』

 

「ん、サンキュー」

 

メールの内容を確認するとノーヴェさんに誘われている合宿の話だった。

どうやら今回はルーの家で合宿を行うらしい。

三人と会うのも久しぶりだな〜。最後に会ったのが半年前だったっけ。

なのはさん達も来るのかーーーなんか無理矢理訓練に混ぜられそうだな。

ま、考えるのは後にして今は飯だな。

家まで軽くランニングをして帰るとすでに朝食が並べられていた。

そして見知った顔が二つ。

 

「おはよう、二人共」

 

「おはようございます、ショウ」

 

「おはようございます、陛下」

 

アインとアリンだ。

俺が席に着くとちょうど父さんと母さんも来たところだ。

 

「ショウも戻ってきたことだし食べましょうか」

 

『いただきます』

 

「ショウ。醤油を取って貰ってもいいですか?」

 

「ん」

 

「ありがとうございます」

 

俺の対面に座るのがアイン。横にアリン。その二人の横に父さんと母さんが座っている。

こうしてたまに二人が来て一緒にご飯を食べることが多い。

俺としても大勢で食べた方が美味しく感じられるからいいのだが。

うん。やっぱり今日も母さんのご飯は美味い。

料理に始まり、掃除洗濯、容姿端麗と完璧なのにどうも俺のプライバシーを簡単に漏らしてしまうのが難点だ。

……最近父さんが生暖かい目で見てくるのは何故だろうか?

朝食を食べ終え、食器洗いはアインとアリンがしてくれるらしいのでその間にサッとシャワーを浴びて、制服に袖を通す。

鏡に映る自分は初等部のものではなく中等部のもの。

今年の春から俺達は中等部へと進学した。

時が経つのはあっという間だった。初等部の六年間が早送りしているかのように感じられた。

中等部の三年間などもっと早く過ぎていくのだろうな。

ショウは鍛錬を積み、『剣王流』の全ての型を修得した。

それでもまだ、足りない。戦乱の、全盛期の頃に比べたらまだ全然。

仮に全盛期まで鍛えたとしても、俺はまだみんなを守りきれない。

だって、前世で誰も守れなかったんだから。

いや、間接的に守れた人達はいるかもしれない。

けど、守れなかった人達が多すぎるーーー

 

「もっと、強くならなきゃな……」

 

コンコン。

ドアを叩く音が聞こえてハッと意識が戻る。

 

『陛下。そろそろ家を出なければ遅刻してしまいますので行きましょう』

 

「分かった。今行くよ」

 

アリンが歩いていくのを確認して、机からカバンを持って玄関へと行く。

そこには準備を終えた二人が立っていた。

 

「それじゃあ、行ってくるよ母さん。行こうぜ二人共」

 

「気をつけてね〜〜」

 

母さんの声を背中で聞きながら俺たちは通学路へと歩く。

通学路の横に立っている桜が風に揺れて花弁を散らしていた。

それを見て、「ああ、春だな」と思う。

 

「陛下、最近の鍛錬の方はどうですか?」

 

「ん、ボチボチかな。アリンはどうなんだ?」

 

「私は段々勘が戻ってきました。次は陛下に勝ちます」

 

「楽しみにしてるよ。アインはどうだ?」

 

「え? あ、私もボチボチといった感じですね」

 

アインは少しビクッと身を震わせながら答えた。

ショウは疑問に思ったがたぶんまだ少し肌寒いのといきなり話を振ったからだろうと解釈した。

三人で他愛ない話をしながら登校する。

それが楽しい。こうやって歩いているとクラウス達を思い出す。

ショウが昔を思い出し、懐かしんでいると一際(ひときわ)大きな風が吹き抜けた。

ショウは少し目を瞑る程度だったが生憎と立っている場所が悪かった。

アリンは自分の横を歩いていたから分からなかったが、当然風が吹けばスカートが靡く訳で、見るつもりはなかったがアインの下着が見えてしまった。

 

(……白、かーーーじゃねぇよオレェェェエ!? 何ちゃっかり確認しちゃてるんですかね!?)

 

と、確認してしまった自分を責めていると横から肘鉄が飛び、脇腹にヒットした。

勿論、犯人はアリンだ。

 

「グフ!? 痛いだろう、アリン!」

 

「陛下が鼻の下を伸ばしているのが悪い。ーーーその、陛下が見たいって言うなら、わ、私のを見せますのに」

 

最後の部分はかなりの小声だったため聞き取れなかったしアリンが何故頬を赤く染めているのも分からないショウ。

そして、前の方から怒気が伝わる。

恐る恐る前を向くとアインが羞恥で顔を赤く染め上げながら拳を固く握ってプルプルと震わせていた。

 

「ショウ………言い残すことはありますか?」

 

「ちょっと待てぇ! 今から俺が死ぬみたいな言い方やめて!?」

 

「うるさいです! 乙女の下着を見たんですよ? 万死に値します」

 

「怖い!? いや、見たのは謝る! けど、今のは風のせいであって不可抗力だろ!」

 

「問答無用です」

 

「いや、ちょ、ま、その振り上げた拳をどうすーーーギャアアアアア!?」

 

朝の通学路に少年の断末魔が響き渡り、他の学生たちに恐怖を与えたのは言うまでもない。

 

 

□■□

 

 

 

『ええ〜まずは皆さん中等部へようこそ。これからーーーー』

 

長ったらしい先生の演説を気怠いと感じてコクリと頭が落ちる。

危ない、危ない。寝るのだけはダメだ。

聞いてますよーという態度を取っておかないと。

シスターシャッハあたりが怒鳴り散らしてきそうだからな。

そして気付いたら集会が終わっていた。

うん。ーーー寝たんだな、俺……

午前授業ということでアインとアリンは鍛錬をするらしいが俺は図書館に行く用事があったので別れた。

 

「新学期、か」

 

『早いものですね』

 

「このままあっという間に大人になっちまうのかねぇ」

 

『マスターは自分の将来についてどう考えてもいるのですか?』

 

「まだ、よく分かんないな。ボンヤリでいいんだったらやっぱり、誰かを守る仕事かな」

 

『ふふ。それはマスターらしくていいですね』

 

「本当にそう思ってるか?」

 

『思ってますよ〜〜。ん? マスター。ヴィヴィオちゃんからメールです』

 

「ん? どれどれーーー」

 

メールには文章はなく代わりに笑顔を浮かべる少女達の写真が添付されていた。

左からコロナ、ヴィヴィオ、リオの順番だ。

自然と顔が綻ぶショウ。

それを見ていたユエはというとーーー

 

『マスターはロリコンですね』

 

「な、違うからな!? 微笑ましいなって思ってただけだからな!?」

 

『あーはいはい。フリはいいですよ。分かってますから』

 

「何も分かってねぇよ!?」

 

ユエの言葉に納得がいかず機嫌が悪そうにする。

図書館に入るとさっきまで見ていた三人の少女がいたのでさっきまでの機嫌の悪さが嘘のように消えていた。

ショウにいち早く気が付いたのは金髪の少女ーーーヴィヴィオだった。

 

「あ! ショウさん!」

 

「よう、ヴィヴィオ。リオもコロナも」

 

「こんにちはショウさん」

 

「こんにちは!」

 

「三人も本を借りに?」

 

「はい! ってことはショウさんもですか?」

 

「ん、ちょっといろんな武器が載った辞典をな」

「何に使うんですか?」

 

「ユエのモードを増やそうと思ってさ。その為の準備ってとこ」

 

「そういえばユエってショウさんが作ったんですよね」

 

「ん、そうだぞコロナ」

 

「いいなぁ〜〜。私も早く欲しいな〜自分のデバイス」

 

「なのはさんそういうとこ厳しいからな」

 

「そうなんですよね……あ、ショウさんって明日予定です空いてますから?」

 

「ん? 空いてるけど」

 

「じゃあ、一緒に公民館で徒手格闘技術(ストライクアーツ)の練習しませんか?」

 

「別にいいぞ。じゃあ、詳しい日時はメールで送っといてくれ」

 

「分かりました! それじょあ、私達もこれで失礼しますね」

 

「気を付けて帰れよ〜〜」

 

「はーい!」と、元気な挨拶を聞き、ショウは本を探し始めた。

あ、たぶんヴィヴィオは午前中教会に行くはずだよな。

ヴィヴィオ達と入れ違いの形でお見舞いというか花でも添えに行くかな。

 

 

□■□

 

 

 

午後一時四十五分。

教会内ーーーカリム・グラシア執務室。

 

「お話って言うのは……例の傷害事件の事よね?」

 

「ええ。我ながら要らぬ心配かとは思ったのですが」

 

チンクが自嘲気味に笑う。

 

「ーーー件の格闘戦技の実力者を狙う襲撃犯。彼女が自称している『覇王』イングヴァルトと言えばーーー」

 

「ベルカ戦乱期……諸王時代の王の名ですね」

 

「はい」

 

「時代は異なりますがこちらで保護されているイクスヴェリア陛下やヴィヴィオの母体(オリジナル)である『最期のゆりかごの聖王』オリヴィエ聖王女殿下、剣王として名を馳せたショウ・S・ナガツキ陛下とも無縁ではありません」

 

「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」

 

「無くはないかと」

 

ブォンっと音を立ててウィンドウが展開される。

そこには王達の写真が映し出されていた。

 

「聖王家のオリヴィエ聖王女。シュトゥラの覇王イングヴァルト。ガレアの冥王イクスヴェリアーーーそして、救世主の剣王ショウ・S・ナガツキ。いずれも優れた『王』達でしたからーーー」

 

 

「くしゅん! ーーー誰か俺の噂をしてるな」

 

『いやいやマスターの噂をするような物好きなんていやしませんよ』

 

「解体決定」

 

『マジスンマセン。ホントそれだけは勘弁してください』

 

ユエを無視して部屋に入る。

そこにはベッドに横たわる一人の少女がいた。

少女の横まで行き、花瓶に持ってきた花を挿す。

規則正しい息遣いが聞こえてくる。頬なども赤く、血流の流れも良さそうだ。

ソッと頭を撫でると少し笑ったようにも感じた。

 

「早く起きろよ、眠り姫。話したいことは沢山あるんだからな」

 

今もショウの目の前で眠っているのは冥王イクスヴェリアその人だった。

 

 

 

 

 

ショウはイクスのお見舞いを済ませ、公民館に来ていた。

ヴィヴィオ達はまだ来ていない。少し早く来すぎたな。

更衣室で動きやすい格好に着替えてグローブを着ける。

腕をプラプラさせて具合を確認。

一拍。大きな深呼吸をして拳を撃ち出す。

拳はブォンと風を切る。うん、いい感じだ。

ヴィヴィオ達が来るまでサンドバックで練習してようかな。

そう思い、サンドバックのところまで来たのだが空いていなかった。

こればかりは仕方ない。う〜ん、他何しようかな?

そうだ。誰かに組手をお願いしよう!

 

「すみませ〜ん! 誰か俺と組手してくれませんか?

 

 

 

 

 

 

「おい。お前ら着替えたな? さ、行くぞー」

 

「「「はーいっ!」」」

 

ヴィヴィオ達一行は着替えを済ませ、練習場に足を踏み入れて固まった。

何事だと考えて覗き込んだノーヴェまで固まってしまう。

練習場の中央に立つ一人の少年。

その周りには人ーーー徒手格闘技術を練習しに来たであろう人達が横たわっていた。

 

「え〜っと、あの少年は知り合いなんすか?」

ウェンディが少し困ったように聞く。

ようやく硬直が解けたノーヴェがため息混じりに言った。

 

「ああ、こいつらと一緒に練習してる奴なんだ。おーい、お前ら戻ってこーい」

 

ポンっと三人の頭を軽く叩く。

 

「「「はっ!」」」

 

ノーヴェの手により現実に帰還する三人。

よく見ると彼奴も困った顔をしているな。

大方組手を頼んだは良いけどそれを見てた奴らに次々と頼まれて収拾がつかなくなったってところか。

 

「おい、ショウ。お前何やってんだよ?」

 

「あ、ノーヴェさんこんにちは。いや、その組手頼んだら次々に俺も俺もみたいに申し込まれて、済し崩し的にやっていたらこんなことに……」

 

やっぱりかと苦笑するノーヴェ。

遅れてヴィヴィオ達がショウの元に走ってくる。

 

「もうまたやったんですか? ショウさん」

 

「いや、その、あの……おっしゃる通りです」

 

「君、面白い奴っすね!」

 

「えっと、誰?」

 

「ウチはウェンディっす! ノーヴェの家族っすよ」

 

「よろしくお願いします」

 

「よし、私達も練習するぞ。まずは軽く体を動かして温めるぞー」

 

「「「はーい」」」

 

「ノーヴェさんは俺と組手しましょうよ。俺、もう体は温まってるんで」

 

「久しぶりにやるか。よし、ちょっと待ってろよ」

 

「すみません。ここ使わせてもらいまーす」

 

場所を借り、構えるショウ。

ノーヴェも準備を終え、構える。

 

「負けた方は何か一つ言うこと聞くってのはどうですか?」

 

「良いぜ。返り討ちにしてやんよ」

 

二人の闘気が沸々と溢れ出し、周りの人達が息を飲む。

ショウとノーヴェはさっきまでの笑みはない。

いや、笑ってはいるがそれは強敵を前に喜んでいる笑顔だ。

ショウもノーヴェも組手を交えるたびにどんどん戦闘狂への道を登って来ていた。

 

「いきます」

 

「おうよ」

 

ノーヴェの左上段蹴りを右手で受け止める。

そのまま突っ込んで来て右アッパーを放って来るがギリギリでそれを避ける。

攻められてばかりでは楽しくない。

右上段蹴りを放つが後ろに飛んで避けられてしまう。

蹴りを振りはなったままの俺に迫り来るノーヴェさん。

だが、甘いよノーヴェさん。俺の攻撃はまだ(・・・・・・・)終わってない(・・・・・・)

振りはなった蹴りはまだ勢いを失っていない。

左足に力を込め、軸とする。そのまま回転。

迫るノーヴェさんへと再び右上段蹴りが襲う。

突っ込んで来ていたため今度は避けることが出来ずに左手で受け止める。

受け止めたは良いが手が痺れてしまった。

初撃ならば持っただろうが二撃目は振り抜いた勢いと遠心力を上乗せした蹴りだ。

 

『剣王流』ーーー円絶

 

本来なら剣を使うが今は格闘。

ならば自分の四肢を剣とする。

ノーヴェさんへと突貫するショウ。

それを真っ向から受けようと右拳を振り抜いた。

ーーーが、ショウは身を屈めてそれを避け、ノーヴェの体を使い後ろへと回り込みと首元に手刀を添えた。

 

「俺の、勝ちです」

 

「チッ、今回は負けちまったな。で、何を命令すんだ」

 

「この後ジュース奢ってください」

 

「ははは! それぐらいならいつでも奢ってやるさ」

 

楽しそうに笑いだす二人。

 

「二人ともやるもんッスなぁ。特にショウの動きはスゴイっスね」

 

「はい!」

 

「やっぱりスゴイなー先輩は」

 

リオとコロナはそれぞれの感想を口にしていくが一人足りないことに気が付き、ヴィヴィオの方を見ると凄くウズウズしていた。

二人の組手を見て、抑えが利かなくなったのだ。

 

「ショウさん! 私とも組手してください!」

 

「ん。いいぞ」

 

「と、その前にーーーじゃーん! この子はセイクリッド・ハートって言うんです。ママ達が四年生になったお祝いにくれたデバイスなんです」

 

ヴィヴィオの手にはうさぎの人形ーーー恐らくうさぎの人形は外装であの中に本体が入っているのだろう。

 

「へー良かったな。あの二人が許可くれて」

 

「はい! さー出番だよクリス! 服はトレーニングモードでね」

 

ピッとセイクリッド・ハートもといクリスが「任せて!」と手を挙げる。

お、自分で動いたり飛んだりも出来るのか便利だなぁ。

う〜ん。これは本当にユエの人型考えた方がいいかな?

 

「セイクリッド・ハート! セット・アップ!」

 

ヴィヴィオの虹色の魔力光が放ち、魔法陣が展開される。

光が治るとそこにはオリヴィエーーーいや、大人になったヴィヴィオがいた。

本当にオリヴィエに似ている。

懐かしくなって遠い目をするショウにヴィヴィオは言う。

 

「これ、大人モードって言うんです。……やっぱりオリヴィエに似てますか?」

 

大人に変身したことを伝えると後半は俺にだけ聞こえるように囁く。

 

「ああ、本当に見間違えるくらい、な。そっか、大人モードか。よし、じゃあ俺も大人モードになるかな」

 

「え、ショウさんも出来るんですか!?」

 

「ん、ちょっと待ってくれよ。ユエ、セット・アップ」

 

『イエス、マスター』

 

紺色の魔力光が放たれ、魔法陣が展開される。

光が治るとヴィヴィオより少し大きくなった大人モードのショウが立っていた。

今まで何回かこっちの方で練習してきたから問題はなさそうだ。

すると、顔を赤くして固まっているヴィヴィオがいた。

その後ろにいるリオとコロナも何でか顔を赤くして固まっていた。

 

「お〜い。どうしたんだヴィヴィオ」

 

「え? ひゃあ!?」

 

「うわ!? ビックリしたぁ」

 

ヴィヴィオの目の前で手を振っていると俺に気付いたヴィヴィオが小さな悲鳴を上げた。

それに驚き、心臓が跳ね上がる。

 

「大丈夫か? どこか悪いのか?」

 

「いえ、何でもないです。……その、カッコイイですよ」

 

「ん? 何か言ったか」

 

「何でもないです! さ、組手始めましょう!」

 

「お、おう」

 

何が何だか分からないと首を傾げるショウ。

二人を見ていたリオとコロナは同じことを考えていた。

 

(羨ましい……)

 

 

 

□■□

 

 

 

「今日も楽しかったねー」

 

「そうだねー」

 

あの後、ヴィヴィオとの組手を終え五人は帰路に着いていた。

 

「悪ィ、チビ達送ってってくれるかウェンディ?」

 

「あ、了解っス。なんかご用事?」

 

「いや、救助隊で装備調整があるんだ。じゃ、頼むわ。ショウは飲み物奢ってやるからついてくるか?」

 

「んーそうします」

 

「よし、決まりだな。じゃ、またな」

 

「じゃあね」

 

「「「おつかれさまでしたー!」」」

 

 

ヴィヴィオ達と別れ、ショウとウェンディは夜道を歩いていた。

夜道といっても街灯で煌々と照らされているため、昼よりは暗いが不便なことはない。

 

「どうする? 私の仕事終わるまで待つか? 送ってくぜ」

 

「突然ですね。どうしたんんですか?」

 

「いや、最近事件とまではストリートファイターまがいの通り魔が出てて物騒だからな」

 

「ふふん。そんな奴返り討ちにしてやりますよ」

 

「頼もしいな」

 

ショウが突然立ち止まりあたりを警戒する。

それに気付き、ノーヴェも足を止めた。

 

「どうした?」

 

「いますーーー上!」

 

ショウの目線は街灯の上。

その上には翡翠色の戦闘服に身を包み、バイザーをつけた女性が立っていた。

 

「ストライクアーツ有段者ノーヴェ・ナカジマとお見受けします。貴方にいくつか伺いたい事と確かめさせて頂きたい事があります」

 

「質問すんならバイザー外して名を名乗れ」

 

警戒を解かずに女性へとノーヴェが言う。ショウも警戒は解かない。

 

「失礼しました。カイザーアーツ正統ハイディ・E・S・イングヴァルトーーー『覇王』を名乗らせて頂いています」

 

「噂の通り魔か」

 

「否定はしません。伺いたいのはあなたの知己である『王』達についてです。聖王オリヴィエの複製体と冥府の炎王イクスヴェリアーーーそして救世主、剣王ショウ・S・ナガツキ」

 

その言葉にヴィヴィオとイクスの顔が過ぎり、隣のショウに目をやる。

ノーヴェはヴィヴィオからショウが剣王の生まれ変わりであることを聞いていた。

さっきからショウは黙ったまま彼女を見ている。

その顔に表情はなかった。

 

「貴方はその三人の所在を知っていると……」

 

知らねえな(・・・・・)

 

ノーヴェの言葉に彼女の口が止まる。

 

「聖王のクローンだの冥王陛下だの救世主だのなんて連中と知り合いになった覚えはねぇ」

 

「私が知ってんのは一生懸命生きてるだけの普通の子供達だ」

 

「ーーー理解できました。その件については他を当たるとします。ではもう一つ確かめたいことがあります」

 

「ーーーあなたの拳と私の拳。いったいどちらが強いのかです」

 

女性はそう言った。

 

「防護服と武装をーーー」

 

「いらねぇよ」

 

「そうですか」

 

「よく見りゃまだガキじゃねぇーか。何でこんな事をしてる?」

 

「強さを知りたいんです」

 

「ハッ!馬鹿馬鹿しい」

 

構えると同時に飛び、膝蹴りを叩き込む。

それを間一髪で防ぐが魔力が込められた拳が炸裂する。

手を前でクロスし防ぐがその衝撃で後方へと大きく後退する。

だが、何事もなかったかのように彼女はケロッとしていた。

 

(ガードの上からとはいえ不意打ちとスタンショットをマトモに受け切った。チッ、言うだけのこたぁあるってか)

 

「ジェットエッジ」

 

自身のデバイスの名を呼び、バリアジャケットを展開する。

それを見て彼女はただ一言。「ありがとうございます」と、言った。

 

「強さを知りたいって正気かよ?」

 

「正気です。そして今よりも強くなりたい」

 

「ならこんなことしてんじゃねー! 単なる喧嘩バカならここでやめろ。ジムなり道場なり良い所紹介してやっからよ」

 

「ご好意痛み入りますが私の確かめたい強さはーーー生きる意味は表舞台にはないんです」

 

(ーーー構えた。この距離で?)

 

と、相手が空戦でくるのか射砲撃でくるのかと考えを巡らせていると彼女はすでに懐へと距離を詰めていた。

反応がわずかに遅れる。直撃コースだ。

 

(不味!)

 

が、彼女の拳は二人の間に割って入った人物ーーーショウによって弾かれた。

彼女はショウを見て目を見開き、驚いているようだった。

それも気になったがノーヴェはショウを見る。

明らかにキレている。彼女がそうさせたのは最早明白だ。

 

「おい、あんた」

 

「何ですか?」

 

さっきの動揺はすでになく落ち着いた様子で答える彼女。

 

「王達にあって何すんだよ」

 

「列強の王達を全て斃しベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべき事です。そしてーーー弱い王ならこの手でただ屠るまで」

 

彼女は今、一番言ってはいけない事を口にしてしまった。

ただでさえ親友(クラウス)の名を語っていることに腹が立っているのに今度は王達を殺す?

ヴィヴィオもイクスも普通に暮らしてる。今はもう戦乱は終わったんだ。

なのに彼女はそんな二人を殺すと言った。

ショウがキレる理由はそれだけで十分だった。

 

「ーーーるな」

 

「ショウ?」

 

「ふざけるな!」

 

「「ーーー!」」

 

ショウの体から魔力が迸り、徐々にその体を大きくしていく。

完全にキレた。

目の前の彼女が女性である事などショウはすでに忘れていた。

 

「ベルカの戦乱も聖王戦争もッ! ベルカって国そのものも! もうとっくに終わってんだよ! ましてやベルカの天地に覇を成す? 寝言は寝て言え。お前が何をしようと勝手だけどなーーーテメェの都合に他人を巻き込むんじゃねぇ!」

 

「そしてーーー彼奴の、親友(クラウス)の名を語ってんじゃねぇ!」

 

彼女もノーヴェもただ黙っていた。

ショウが怒るところなど今まで一度も見た事がなかったから。

ショウは構える。それは目の前の彼女と同じ構え。

親友が創り上げたカイザーアーツ。

彼女は肌で危険を感じ取り、今持てる最大の一撃を叩き込まんと突撃した。

 

「覇王ーーー断空拳」

 

振り下ろされた手刀はショウの脳天に落とされた。

衝撃が頭から爪先の先まで伝わる。

けれど、ショウは彼女の手を取った。

 

「な!?」

 

ショウは動けなかったのではない。

動かなかったのだ(・・・・・・・・)

 

「……彼奴の拳はもっと重かった。彼奴の拳はもっと強かった!」

 

右拳を引き絞り、彼女に見舞う。

それは彼奴の、親友の一撃。

嘗て共に戦場を駆け、敵を薙ぎ斃してきた一撃。

 

「覇王ーーー断空拳!」

 

強烈な一撃は彼女の鳩尾へと直撃し、一瞬で意識を刈り取った。

地面へと倒れ込んだ

すると、翡翠色の魔力が弾け、 少女へと姿を変えた。

今度はショウが目を見開いた。

だって、その少女は自分の幼馴染(・・・・・・)だったから(・・・・・)

 

「アイン、なのか……あれ?」

 

アインだと気付き、抱き起こそうとしたが逆にショウも倒れてしまった。

当然だ。いくらクラウスよりも軽く弱い拳だったとしてもあれは覇王断空拳。ましてや避けずに脳天で受けたのだから重傷とまではいかなくても大きなダメージを受けている。

幼馴染の顔を見ながはショウの意識は闇に落ちた。

 

 

 

二人が倒れたので確認すると気絶しているだけだった。

二人共体にかなりのダメージを負っている。

通信を繋げ、自分の姉へと連絡する。

 

「はい、スバルです。ノーヴェどうかした?」

 

「ああ、ちょっと噂の通り魔と私の知人一人ぶっ倒れちゃったから運ぶの手伝ってくれ」

 

「ええっ!? わ、分かったすぐに行くね」

 

「頼んだ」

 

天を仰ぎ、ノーヴェは呟いた。

 

「二人共まだ子供なのにな。ーーー本当に『王』ってのは因果なもんだよ」

 

 

 

 

 

 




はい、やっと原作入りです。
これからはなるべく原作を沿っていくつもりですが途中途中でオリジナルを混ぜていくつもりです。
そして、合宿編ですがショウがーーーになります!
楽しみにしていてください!
それではまた次回お会いしましょう!


次回予告

「自称覇王イングヴァルト」

「ショウが剣王だったんですね」

「数百年分の後悔、か。あるよ。たくさんある」

「それでも前に進まなきゃいけないから」

「最初から全力で行きます」

「はじめまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

「起きてる時に言えよ」

「……恥ずかしいです」

memory 17 『覇王と聖王ーーーそして、剣王』


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memory 17 『覇王と聖王ーーーそして、剣王』


やっと投稿できた。


俺とアインは椅子に並んで座っていた。

今、俺たちは湾岸第六警防署に来ていた。

目を覚ましたら隣にアインの顔があった時は吃驚した。

ノーヴェさん、スバルさんとティアナさんもいて俺とアインが倒れた後スバルさんの家に運んでくれたらしい。

アインも混乱して訳が分からない、と俺に視線を送ってきていた。

……ノーヴェさん。笑顔で「自称覇王イングヴァルト」って言わないで下さいよ。アインが俯いてるから。

結局、喧嘩両成敗となりここに足を運んだのだ。

 

さっきから一度も会話を交わすことがない。

とても、気不味い。

どうしたものかな、と頭を回しているとアインが口を開いた。

 

「ショウが剣王だったんですね」

 

それは確認。今更隠す理由もないので俺は頷いた。

 

「私は覇王の子孫に当たります。この碧銀の髪やこの色彩の光彩異色。覇王の身体資質と覇王流。それらと一緒に少しの記憶もこの体は受け継いでいます」

 

薄々、そう思っていた。

アインの碧銀の髪を見てクラウスを思い出すーーー

アインの光彩異色を見てクラウスを思い出すーーー

アインが初めて覇王断空拳を打ったのを見てクラウスを思い出すーーー

時々、俺の剣王流を見て懐かしそうに見入っていたのもそのためだ。

 

「私の記憶にいる「彼」の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せるーーーそんな『王』であることが。そして、貴方との勝負をすることが」

 

「そっか……」

 

彼奴俺の約束覚えてたのか……

それに歴史を読み漁って知った通り。

クラウスはオリヴィエがゆりかごに乗るのを止められなかった自分を許せないでいたんだ。

もし、その場に俺がいたら同じ思いを抱いたことだろう。

幾らそう思っても過去は変えられない。

ましてや、運命から逃げたいが為に生きることを諦めてしまった自分がその場にいたところで何が出来ただろう?

何も出来やしない。ただ邪魔なだけだ。

 

「けれど、弱かったせいで。強くなかったせいで。彼は貴方を彼女を救(、、、、、、、、、)えなかった(、、、、、)……守ることが出来なかった。そんな数百年分の後悔が、私の中にあるんです」

 

それはクラウスのもの。決してアインのものではない。

でも、アインはそう思っていない。

クラウスの思いをアインは背負っている。

その重さに潰されそうになりながら。

ポロポロと涙を零し始め、声を荒げる。

 

「だけどこの世界にはぶつける相手がいない。救うべき人も国も世界も、何もかもが! 」

 

数百年募り募った後悔を吐き出す捌け口がない。

それはどんなことをしても解消されることはない。

どんどんとその重さに耐えられなくなり、いずれ壊れる。

それが、今のアイン。

こんな時気の利いたことを言ってやりたいが何も思い浮かばない。

この時ばかりは自分の引き出しの少なさに呆れ果てた。

ふとアインが口を開いた。

 

「ショウは、ないんですか? 後悔や辛いことが」

 

「数百年分の後悔、か。あるよ。たくさんある」

 

ゆっくりとアインに語りだすショウ。

 

「俺はさ『剣王』って呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ。ただ剣が人よりも得意ってだけだし王と呼ばれるほど偉大でもないしな。王と呼ばれるのはクラウスやオリヴィエのことを言う」

 

あの二人は別格だ。

国民を大事にし、自ら敵陣への先陣を切り兵を導く。

当然、国民からも兵たちからも支持は高かった。

それに比べると、いや比べることすら烏滸がましい。

 

「実際、王と言ってもクラウスたちに比べたら小国だし。俺なんかはクラウスたちとは比べ物にならない人間だった。王と呼ばれるにはあまりにも小っぽけでショボい存在だった」

 

『剣王』と呼ばれても俺は弱いまま。

剣だってクラウスたちに比べれば劣るだろう。

王と言っても心が弱く頼りない自分。

それが嫌で逃げ出してしまった部分もある。

 

「『剣王』ショウ・S・ナガツキは死んだ。今ここにいるのはただのショウ・S・ナガツキだ。過去は変えられない。変えようとも思わない。でも、未来は変えることが出来る。それがどんなに辛くて大変で困難な道のりだったとしても」

 

『剣王』ショウ・S・ナガツキは死んでここにいるのはただの残りカス。

過去は変わらない。けれど未来は変わる。

立ち止まっている訳にはいかない。

 

「それでも前に進まなきゃいけないから」

 

俺の話を聞いてアインは俯いたまま何かを考えていた。

ノーヴェさんがこっちを見て指で丸を作っているのが見えた。

どうやら終わったようだ。

俺の言えることは言った。

ここからは大人(ノーヴェさん)に任せよう。

小さくノーヴェさんに会釈した後、俺は刑務所を後にした。

 

 

 

□■□

 

 

 

明るく照らされた遊歩道をぼうっとしながら歩いていく。

本当なら学校に行くべきだがどうもそんな気分にはならなかった。

みんなが勉強してる中サボるというのは中々背徳感がある。

 

「………………」

 

何の当てもなくトボトボとした足取りで進む。

何をしようにも今なら全て失敗する自信がある。

 

『マスター』

 

首元からユエの声が響く。

顔を覗き込むように浮いたユエを見る。

 

「どうしたんだよ」

 

『さっきからぼうっと歩いていますがそんなことでは事故に遭ってしまいますよ?』

 

「どれくらいそうしてた?」

 

『警防署を出てからですからもう一時間は心此処に非ずといった感じです』

 

「マジか」

 

『どうしたんですか? やはり昔のことが気になるのですか?』

 

「まあ、そうだな」

 

『悩むのは勝手ですがせめて家に帰ってからにしてください。マスターに怪我をされてはアインさんに殺されるので』

 

心配してくれていると思ったらそれが本音か。

まあ、そうだな。

そう思い家に帰ろうと足を動かそうとした時だった。

 

ーーー本当にショウは迷ってばかりじゃの

 

「えっ」

 

風に乗って聞こえてきた懐かしい声。

チリンチリンと綺麗な音を響かせる鈴の音色。

そして、辺りの時が止まる。

俺以外の人たちの動きが止まる。

今正に転びそうになっている子供が浮いたまま止まっていた。

ユエを叩いても反応が返ってこない。

再び聞こえた鈴の音色に導かれるように上を見るとフェンスの上に少女が座っていた。

 

俺が少女の存在に気付くとふわりと目の前に降り立った。

フェイトさんよりも深い金髪を靡かせる赤い瞳の少女。

頭の左に挿したかんざしに付いた鈴が今も綺麗な音色を奏でている。

赤い着物を着込んでいるがスカートタイプのため白い足が伸びていた。透き通るような肌はとても柔らかそうだ。

その姿は艶やかで妖艶な笑みを浮かべ微笑む。

扇子を取り出し顔を半分を覆い隠す少女に俺は見覚えがある。

 

「ふふふ。久し振りだのショウ」

 

見た目に反してませた喋り方をする少女を見て熱いものが込み上げてくる。

少女は俺が名前を呼んでくれるのを待っているのかソワソワとしていた。

まさか、名前を忘れたのか!? みたいな反応をする。

忘れる訳なんかない。だって、その名前は俺がつけたんだから。

 

「ああ、本当に。本当に久し振りだ。…………リン」

 

「うむ! 全く名前を呼んでくれないから忘れたのかと思ったのだぞ?」

 

「ごめんごめん。すごく懐かしくて思わず見惚れてた」

 

「そ、そうか。ならば良いのだ」

 

頬を赤く染めたリンを見て俺は首を傾げた。

 

「やっぱりいたんだな。俺の中に(、、、、)

 

「うむ。詳しい話は追々話すとしよう。今はこの再会を喜ぼう」

 

そう言うと俺の胸に顔を埋めるリン。

背中に腕を回してきたので俺もそれに倣う。

抱き締めると柔らかくて温かい感触が伝わって心地良い。

 

「ショウ」

 

「ん?」

 

「お主は迷い過ぎじゃ。もっと堂々とせい。今更過去は変えられんことはお主はが一番分かっていることじゃろう? ならば前に進め。振り返ったっていい。だが、立ち止まるな。歩いていればその内迷いも晴れよう。今まで妾たちはそうしてきただろう」

 

「……そうだな。ありがとう、リン」

 

「うむ! それでこそ我が主よ!」

 

そう言うと凛の体は次第に色褪せていき、その姿を消していく。

 

「妾は今一度眠りにつく。もう少しで完全に戻るからそれまで待っていてくれ」

 

「待ってるさ。俺とリンは家族なんだから」

 

「ふふふ。そうじゃの。それじゃあ、また今度」

 

「ああ、また今度な」

 

リンが消えると同時に辺りの時間が動き出す。

あ、子供助けるの忘れてたわ。

見ると膝を押さえてわんわんと涙を流していた。

 

『マスター? この一瞬にも満たない時間に何かありましたか?』

 

「どうしてそう思うんだよ?」

 

『さっきまでと違って、すごくいい顔をしています』

 

「まあ、ちょっと家族に会ったんだ」

 

『え?』

 

それはどういう意味ですか? と聞かれるが後でのお楽しみと言って納得してもらった。

今も泣く子供に近付き、屈み傷口に手をかざす。

淡い光が手から漏れ出し、徐々にその傷を塞いでいく。

完全に塞がったのを確認すると子供の顔には涙はなく代わりに笑顔があった。

「ありがとう!」と言って子供は子供たちの輪に戻っていく。

さっきまでの迷いは晴れ、清々しい気分のまま俺はその場を後にした。

 

 

 

□■□

 

 

 

家に帰るとヴィヴィオからメールが届いていたのでその内容に目を走らせる。

どうやらノーヴェさんの計らいでアインと試合をすることになったらしい。

あの頭固くて悪いノーヴェさんの頭にしてはいい考えだ。

 

「くしゅん!」

 

「どうしたんっすか?」

 

「いや、なんか誰かに馬鹿にそれたような気がして……」

 

実際ショウに馬鹿にされているのだがそんなことはつゆ知らずノーヴェは二人の試合の準備を再開した。

 

 

二人が試合をするのはいい。

ヴィヴィオの練習相手には最適だしアインの目的も達成される

それでも心配なことが一つある。

アインは今ではなく過去(ベルカ)を見ている。

スポーツではなく殺し合いを。

そんなアインがヴィヴィオと戦って大丈夫だろうか?

さすがに殺しまではしないと思うが満足はしないだろうな。

アインの悲願はクラウスに変わり、この世に覇を成すこと。

そして、俺との勝負。

 

駄目だ。

考えても何も良い案が出ない。

モヤモヤとした気持ちを残したまま試合の日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

区民センター内にあるスポーツコートへと一行は集まった。

既にアインとヴィヴィオが準備を済ませ、中央に立っていた。

それを少し離れた所で壁に寄り掛かりながら見守る。

ヴィヴィオはいつも通り笑顔を浮かべている。

対してアインは平静こそ装っているが不安が滲み出ていた。

 

「アインハルトさん! 今日はよろしくお願いします!」

「ーーーはい」

 

ハキハキとテンションの高いヴィヴィオ。

素っ気なく落ち着いたアイン。

磁石のように対極の位置にいる二人。

近付けば近付くだけ離れていきそうだった。

 

両者構える。

アインの足元にベルカの魔法陣が展開。

翠色の魔力が火山のように噴き出した。

その魔力に当てられたヴィヴィオとリオ、コロナ、観に来ていたノーヴェさんたちが気圧される。

真正面で相対しているヴィヴィオに至っては冷や汗が止まらないだろう。

この重圧(プレッシャー)の中で全く動じていないのは俺とスバルさん、ティアナさんぐらいだ。

 

「んじゃスパーリング4分1ラウンド。射撃型と拘束はナシの格闘オンリーな。レディ、ゴー!」

 

身構えるアイン。

リズムを刻みながら調子を整えるヴィヴィオ。

 

トントントン……タンッ!

 

踏み出した一歩が空気を震わせる。

瞬間、ヴィヴィオはアインの懐へと潜り込み右ストレートを放った。

驚いた様子のアインは危なげなくそれを防ぐ。

周りから感嘆の声が漏れる。

攻撃を休めることなくヴィヴィオは右、左とコンボを繋げていく。

アインは観察するようにその攻撃を受け止め、逸らしていく。

 

「ヴィ…ヴィヴィオって変身前でも結構強い?」

「練習頑張ってるからねぇー」

「たぶん、それだけじゃないですよ」

「どういうこと?」

「見てれば誰だって気付けますよ」

 

ヴィヴィオは笑っていた(、、、、、)

自分よりも強い相手と戦えることに。

この試合を糧とし更に強くなれることに。

一方、アインの顔は優れない。体調が悪い、という訳ではなさそうだ。

左脚を叩きつけるように軸とし右上段を振るうが躱される。

 

(まっすぐな技……きっとまっすぐな心。だけどこの子は、だからこの子は私が戦うべき『王』ではないしーーーーー私とは、違う)

 

観察を終えたアインは左手を引き絞り、ヴィヴィオの胸に掌底を放った。

強化されたものでないにしろ、ヴィヴィオの身体を吹き飛ばすには事足りる。

呆気に取られたヴィヴィオはそのままオットーさんとディードさんに受け止められた。

遅れてアインを見るヴィヴィオは身体を震わせる。

 

(すごいっ‼︎)

 

屈託ない笑顔を浮かべるヴィヴィオ。

アインはヴィヴィオに背を向けて言った。

「お手合わせ、ありがとうございました」と。

慌ててヴィヴィオはアインを呼び止める。

 

「すみません。わたひ何か失礼を?」

「いいえ」

「じゃ、じゃあわたし……弱すぎました?」

「いえ、趣味と遊びの範囲内(、、、、、、、、、)でしたら充分すぎるほどです」

 

その一言がヴィヴィオの胸に突き刺さる。

俺は内心穏やかではなかった。

アインのことを考えればアインが何故あんなことを言ってしまったのかは大体想像がつく。けれど、今のは言い過ぎだ。

そのままアインは俺の前へと歩いてくる。

その表情はさっきよりも真剣に感じられた。

 

「ショウ。私と戦って頂けますか?」

 

俺はノーヴェさんに念話で確認を取る。

 

『いいんですか? ノーヴェさん』

『ああ、やってやってくれ。チビ共にもいい勉強になる。それと終わってからで良いんだがーーー』

『判ってます。もう一度ヴィヴィオと戦うように取り計います』

『悪い。頼んだ』

 

はぁ、とため息を漏らしながらアインに向き直る。

 

「どうぞ。着替えて来てください。そのままでは動き辛いでしょうから」

「いや、このまんまで大丈夫だよ」

「……ハンデのつもりですか?」

「ん? ハンデな訳ないだろ。高がこの程度、はな。欲しいならハンデ付けるぜ」

 

不満そうに口を尖らせるアイン。

ノーヴェさんが合図するまでに軽く手首足首を解す。

試合内容はさっき同様。なら、速攻でケリをつけようか。

 

「二人共、準備はいいか?」

 

コクリと同時に頷く。

 

「んじゃ、始めるぞ! レディ、ゴー!」

 

開始と同時に俺は地面を蹴り、アインの懐へと潜り込む。

足払いをするがジャンプで軽く躱されてしまう。

宙に逃げたアインはそのまま俺の脳天に踵を振り落とした。

それを見ずに手をクロスさせてガードし、弾き返す。

アインが着地する前に右手を引き絞り、弾丸さながらの勢いで突きをくり出した。

 

『剣王流』ーーー天蠍

 

突きは風を切り裂きながらアインへと迫る。

着地し、防御に移ろうとするのが見えたがもう遅い。

手刀はアインの喉数cmの所でピタリと止めた。

慣性で勢いの残った風が通り抜けていき、アインは尻餅をついた。

みんなを見るとノーヴェさん以外か口を開けてポカーンとしていた。

首を傾げながら俺はアインに手を差し出した。

 

「立てるか?」

「ありがとうございます……」

「不満そうだな?」

「……はい」

 

手を取ったアインを立たせ、ヴィヴィオを見る。

此方を見る顔には不安が張り付いていた。

 

「なあ、アイン」

「何ですか?」

「お前、もう一度俺と戦いたいか?」

「もちろんです!」

「そっか。なら、さーーーもう一度ヴィヴィオと戦ってくれたら相手してやるよ」

 

チラッとアインはノーヴェさんに目を向ける。

俺が作ったきっかけに乗っかりノーヴェさんは切り出した。

 

「あーそんじゃまあ、来週またやっか? 今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ」

「ああ、そりゃいいッすねぇ」

「二人の試合楽しみだ」

「……わかりました。時間と場所はお任せします」

「あ、ありがとうございます!」

 

仕方なくといった感じで了承するアイン。

少し遅れてヴィヴィオが頭を下げた。

その後、ノーヴェさん、スバルさん、ティアナさんがアインを連れて帰っていった。

その際、念話で『ヴィヴィオが気を悪くしないようにフォロー頼む』と残して。

肩を落としたヴィヴィオの頭にポンッと手を乗せ、優しく撫でる。

 

「ショウさん?」

「あー、ごめんな? ヴィヴィオ。あいつも悪気がある訳じゃないんだが不器用な奴なんだよ」

「ショウさんとアインハルトさんは知り合いなんですか?」

「ん? 言ってなかったか? 俺とアインは幼馴染なんだよ」

「「「え!? そうだったんですか!?」」」

「そうなんです」

 

驚きの声を上げる三人に苦笑が漏れる。

 

「ヴィヴィオは、さ。あいつのこと、どう思った?」

「ーーーすごく強いってことと、何だか脆い。と思いました」

「ふむ。言い得て妙だな。きっとあいつは過去に囚われてるんだ。だから、その重みを背負って生きている。そんな風に毎日を過ごしてたらいつかその重みに負けて、壊れる。ーーーまあ、俺も人のことは言えないんだけどさ」

「え? それってどういうーーー」

「ま、取り敢えずさ。いつも通りお前のやり方でアインとぶつかれば良いよってこと! それじゃあ、試合の日程が決まったら教えてくれよ!」

俺は何だか照れ臭くなり、その場から走り去った。

いきなり走って逃げたことヴィヴィオ達に今度謝ろうと心に誓いながら。

 

 

 

 

 

 

自室のベッドに身を放り投げ、ヴィヴィオは考えていた。

あの人からしたら私はレベルが低くて不真面目に映ったのだろうか?

やはり、がっかりさせてしまったのかな? 私が弱すぎて。

私だって、ストライクアーツは『趣味と遊び』だけじゃないんだけどなーーー

 

ピピピッ

 

なのはママが晩御飯だと知らせてくれたので部屋を出て、居間へと降りる。

席に着き、小さく「いただきます」と言うとご飯を黙々と食べ始めた。

 

「ヴィヴィオなんか今日は元気ないね?」

「え、あ、そそ、そんなことないよ? 元気元気! ねークリス!」

「………」ピッ!

「そお?」

「うん、平気!」

 

そうだ。落ち込んでちゃ、ダメだ。

アインハルトさんの求めているものは私にはわからないけど、精一杯伝えよう。 高町ヴィヴィオの本当の気持ちを。

彼も、ショウさんも私のやり方でぶつかれば良いと言ってくれたのだから。

 

「えっと……実はね?」

 

だから、話そう。

新しく出会った私の友達のことを。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

アラル港湾埠頭 13:20

 

廃棄倉庫区画 試合時間 10分前

 

「お待たせしました。アインハルト・ストラトス参りました」

「来ていただいてありがとうございます。アインハルトさん」

 

ペコッと頭を下げるヴィヴィオを見つめるアインの瞳は優れない。

ノーヴェさんの説明ではここは救助隊が訓練で使っていて廃倉庫であり許可も取ってあるらしく安心して全力を出せるとのことだ。

観客は前回のメンツにオットーにディード、アリンを加えたメンバーだ。

 

「陛下はどちらが勝つと思いますか?」

 

いつの間にか隣に来ていたアリンにビクッとする。

さっきまでオットーとディードと意気投合して会話を弾ませていたのにな。

みんなにアリンを紹介すると同時に俺が『剣王』であることもヴィヴィオが話したためみんなの叫び声が上がった時は吃驚したものだり

それにしてもアリンさんや。別に気配消して近付いてこんでも良いだろうに……

溜息を吐いて再び二人を見る。

 

「ぶっちゃけ今回はアインが勝つな」

「やけにバッサリと言うのですね」

「贔屓したり、甘い目で見るのはイカンでしょうよ。はっきり言ってヴィヴィオはまだ経験が足りないからな。今のままだったら(、、、、、、、、)勝てないだろうな」

今のままだったら(、、、、、、、、)、ですか」

「ああ。ヴィヴィオはこれから伸びるぜ」

「そうですね。私の方から見ても伸び代があるように見受けられます。ーーーそれよりも陛下」

「何、だよ、アリン……」

 

黒いオーラを出すアリンに言葉が出なくなる。

冷や汗が止めなく流れる。

 

「私達に内緒で随分と女性の知り合いが増えたみたいですね?」

「あの、アリンさん? これには海よりも深〜い理由があってですね……」

「まあ、いつものことなのでもう良いです。ただし、今度どこかに連れて行ってくださいね」

「ら、ラジャー」

 

ヴィヴィオがクリスを握ると虹色の魔力光が溢れ出る。

 

「セイクリッド・ハート、セットアップ!」

「ーーー武装形態」

 

光が消え、大人モードに変わった二人が相対する。

 

「今回も魔法は無しの格闘オンリー。五分間一本勝負だ。それじゃあ試合ーーー開始ッ‼︎」

 

目の前で構える彼女を見て、アインは思う。

綺麗な構え……油断も甘さもない。

いい師匠や仲間に囲まれて、この子はきっと格闘技を楽しんでいる。

私とは何もかもが違うし、覇王(わたし)(いたみ)を向けていい相手じゃない。

しかし、彼女の後ろに立つ二人を見て考えを改める。

いや、何もかもが違う訳じゃない。

私にも友達(なかま)がいるじゃないか。

そう思うと何だか体が軽くなった気がした。

 

 

目の前で構える彼女を見て、ヴィヴィオは思う。

すごい威圧感。

一体どれくらい、どんな風に鍛えてきたんだろう。

勝てるーーーとは思わない。

だけど、だからこそ一撃ずつで伝えなきゃ。

「この間はごめんなさい」と。そしてーーー

 

拳を握りしめ、動き出そうとするが一瞬早くアインが右ストレートを叩き込んだ。

それを右手で防ぐ。重い一撃が右手を痺れさせ、顔を顰める。

間髪入れずに放たれた左フックがヴィヴィオの右頬を掠めていく。

アインハルトの追撃に完全に防御に回ってしまう。

左手で拳を受け止め、左フックを屈んで避けながら拳を強く引く。

 

これが私の全力。私の格闘戦技(ストライクアーツ)

 

想いを乗せて放った一撃が腹にクリーヒットし、勢いを殺しきれずに足を引き摺るアイン。

咄嗟に身構え、ヴィヴィオの拳を迎撃()け止める。

体勢を立て直したアインの一方的な攻撃が続くがここで諦めるヴィヴィオではない。

必死に喰らい付き、アインから一度も目を離さない。

強打を与えようと大振りになった所を見逃さずにカウンターを決めると歓声が上がる。

拳を打ち合う中、アインは考えていた。

 

この子はどうしてこんなにも一生懸命にやるのか? と。

師匠が組んだ試合だから? 友達が見てるから?

一体何が彼女を突き動かし、駆り立たせるのか?

それがアインにはわからなかった。

 

劣勢の中、ヴィヴィオは思う。

大好きで、大切で、守りたい人がいる。

小さな私に強さと勇気を教えてくれた人がいる。

世界中の誰よりも幸せにしてくれた人がいる。

だから、そんなみんなを守りたくて『強くなる』って約束したんだ。

強くなるんだ! どこまでだって‼︎

 

「ああああっ‼︎」

 

その想いが伝わったかどうかはわからないがアインの顔が引き締まる。

そして、構える。ヴィヴィオに敬意を評し、自分の最高の一撃を持って終わらせる。

 

ーーー覇王、断空拳!

 

最大の一撃がヴィヴィオを撃ち抜き、体を大きく浮かせ此方へと吹っ飛んでくる。

焦ることなく優しくヴィヴィオを受け止める。

みんなが心配そうに走り寄ってきたのでディードにヴィヴィオを任せた。

吹っ飛んだ本人は目を回し、ディードに膝枕されていた。

目立った怪我はなく、アインが加減してくれたようだ。

 

「お疲れさん」

「ショウーーーあっ!?」

「おっと」

 

フラついたアインが胸に倒れ掛かってきたので支えてやる。

本人は何で? と不思議そうにしていた。

 

「最後にお前が覇王断空拳打った時にヴィヴィオがカウンターを入れてたんだよ。それが時間差で効いてきたんだ。となるとこの状態じゃ戦えなさそうだから次回にお預けだな」

「あ、私は大丈ーーーあう!?」

 

戦えない、と聞くと慌てるアインにデコピンをしてやる。

 

「別にしない訳じゃないんだから今はじっとしてなさい」

「……はい」

「なあ? 断空拳はさっきのが本式か?」

「足先から練り上げた力を拳足から打ち出す技法そのものが「断空」です。私はまだ拳での直打と打ち下ろしでしか撃てませんが」

 

クラウスはどんな時でも撃てたからな。としみじみ思う。

 

「なるほどな。ーーーで、ヴィヴィオはどうだった?」

「彼女に謝らないといけません。先週は失礼なことを言ってしまいましたーーー訂正します、と」

「そうしてやってくれ。きっと喜ぶ」

 

アインはヴィヴィオの手を取ると頬を染め上げながら言った。

 

「初めまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

「それ、起きてる時に言ってやれば良いのに」

「……恥ずかしいです」

「通り魔紛いなことはするのにですか?」

「……アリンさんは意地悪です」

 

口を尖らせるアイン。

まだフラつくアインをアリンに任せ、俺はヴィヴィオを背負いどこかゆっくり休める場所へと運ぶ。

未だ気を失っているヴィヴィオの顔は満足しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして聖王と覇王は邂逅した。

そして、これが彼女達と少年は鮮烈(ヴィヴィッド)な物語が始まるーーー

 

 

 








次回予告


「おはようございます! ショウさん、アインハルトさん!」

「もうすぐ試験か。面倒クセェ」

『とか言いつつマスターは何気に成績上位者じゃないですか』

「お世話になります。メガーヌさん」

「そう言えばこうしてエリオ達に会うのは一年振りかな」

「また背が伸びたな。エリオ」

「わ、私も伸びたもん!」

「水着に着替えてロッジ裏集合!」

「眼福です」

「ショウくんも午後から参加する?」

「是非!」

memory 18 『試験明けの異世界旅行』


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memory 18 『試験明けの異世界旅行』

今日は時間があって良かった。
これから時間があればまた投稿していく予定です。


「もうすぐ試験か。面倒クセェ」

「それでも試験はやって来ますよ」

「陛下は勉学が出来た方ではなかったですか?」

「全然全く出来ないさ」

『とか言いつつマスターは何気に成績上位者じゃないですか』

 

ヴィヴィオとの試合から一週間が過ぎ、試験が間近に迫る今日この頃。

俺達三人は他愛ない話をしながら登校していた。

まあ、試験が明けたら四日間の休みがあるからその日を有効活用して訓練に費やそうと考えていたりする。

 

「……眠い」

「昨日は遅くまで何かしていたようですけど何をしていたんですか?」

「ユエのモードの追加。最近は何かと忙しかったからやる暇なくてさ」

「それをするぐらいなら試験勉強をした方がいいと思うのですが?」

「まあ、細かいことは気にすんなって」

 

校門を潜り、学校の敷地内へと足を踏み入れる。

ザワザワといろんな声が聞こえる。

平和だね〜なんて思いながら後ろから元気な声が飛んできた。

 

「おはようございます! ショウさん、アリンさん、アインハルトさん!」

「ごきげんようヴィヴィオさん」

 

ごきげんようと返す女性陣。

ヴィヴィオを加えた四人で校舎へと歩いていく。

ヴィヴィオとアインはあの試合からよく話すところを見かけるようになった。

仲良くなったみたいで内心ホッとしてたりする。

それはアリンも同じようだった。

だってアインを見る横顔が母親のそれなんだもんな。

 

「ーーーヴィヴィオさん。貴女の校舎はあちらでは」

「あ! そ、そうでしたっ!」

 

俺達の中等部校舎とは逆側の校舎を指差すアインにヴィヴィオは顔を赤く染め、声が裏返っていた。

 

「それでは」

「じゃあな。ヴィヴィオ」

「失礼します」

「あ、ありがとうございます。アインハルトさん」

「ーーー遅刻をしないように気をつけてくださいね」

「はいっ! 気をつけますッ‼︎」

 

振り返ることなくスッと右手を上げてヴィヴィオに言う。

それを見たヴィヴィオは嬉しそうに返事をすると鼻歌を歌いながら走り去って行った。

ふと隣を見るとアインが顔を赤くしていた。

 

「恥ずかしいならやらなきゃ良いんだろうに」

「うっ、仕方ないじゃないですか」

「アインさんはカッコつけたいんですよね」

「違います!」

 

相変わらず不器用な奴ーーーまあ、それがアインなんだけどさ。

アリンに弄られている光景を見ながら俺は頬を緩ませた。

 

 

 

 

15:30 学院内図書室

 

放課後になり、今は一人で図書室をウロウロとしている。

二人は試験勉強があるためすぐに帰って行った。

今度は何を見ようかな、と本を散策しているとピピッとユエから電子音が響いた。

 

『マスター。エリオさんから通信です』

「ん。繋いでくれ」

『わかりました』

 

目の前にディスプレイが映し出される。

そこにはエリオとキャロの二人がいた。

 

「二人とも久しぶり」

『本当に久しぶりだね。ショウ』

『早速だけどショウは週末暇かな?』

「暇だな。訓練に費やそうと思ってたし」

『じゃあさ、週末にルーテシアの家で合宿があるんだけど一緒にどうかな?』

「そういうことなら行かせてもらうよ。あ、もう一人いいかな?」

『大丈夫だと思うけど……どうして?』

「ん。まあ、俺の家族みたいな奴がいるから紹介しようと思って」

『わかったよ。楽しみにしてるね』

『それじゃあ、週末にね』

「ああ、またな」

 

通信を切る。

合宿ということはノーヴェさん辺りも行くだろうからアインはまず誘われるだろう。

アリンを連れて行くとしてなのはさんとノーヴェさん、アリンにメールしなきゃな。

簡単に文章をうち、三人にメールを送信。

合宿の準備をしようと俺は帰路に着いた。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

いろいろあり、試験期間も無事に終了。

現在、俺はアリンと一緒に高町家に来ている。

初めて会う人達に一抹の不安を残すアリンの頭をソッと撫でてやる。

子供扱いしないでください、と目で訴えてくるが俺は無視してドアを開けた。

 

「こんにちは。なのはさん、フェイトさん」

「こんにちは、ショウくん。それにアリンちゃん」

「久しぶりだね。ショウ」

「こんにちは。私はアリン・キサラギと申します。陛下の忠臣を務めさせて頂いております」

「いや、アリンさんや。こういう所とかで「陛下」って呼ぶのやっぱりやめません?」

「無理ですね」

「うわー、ばっさり斬りやがった」

 

しかもいい笑顔で。

ふとチビッ子三人がニコニコとしているのが目に入った。

 

「なんか嬉しそうだなヴィヴィオ」

「はい! 三人そろって花丸評価貰えたんです!」

「ほー、それは良かったな」

「それじゃあ、ショウくん達も見せてもらおうかな?」

「うぇ……見せなきゃダメですか?」

「ダメです」

「わかりましたよ……はい」

 

ウィンドウを展開してなのはさん達に見えるように移動させる。

俺の結果を見た途端アリン以外全員が口を開けて固まってしまう。

あれ? なんか悪いとこあったかな? 不安になってきたぞ?

 

「まあ、ショウくんだもんね」

「ねぇ、ショウ? 今度執務官の試験やってみないかな?」

「考えておきましょう」

 

なのはさん。その納得の仕方はどうなんでしょうか?

フェイトさんもここで執務官に勧誘はやめてください。

二人がこんな態度になるのも無理はない。

 

ショウ・S・ナガツキ

1/346

オール100点

 

「ショウさんすごいです!」

「いやーそれほどでも」

「オール100点なんて初めて見ました」

『マスターは司書資格にデバイスマスターの資格も持っていますからね。当然です』

 

いやいや、アリンの2位も十分すごいと思うけど。

「私は陛下の忠臣ですから常に隣にいるのは当たり前です」なんて言われた時はちょっと恥ずかしかったけど……

 

「そろそろお客様が来るからヴィヴィオは待っててね」

「おきゃくさま?」

『It seems to have come.(いらっしゃったようです)』

 

レイジングハートに続いて入って来たのはアインとノーヴェさんだった。

まさかの来客に驚きを隠せないヴィヴィオ。

 

「異世界での訓練合宿とのことでお誘い頂いたのですが、同行させていただいても宜しいでしょうか?」

「はいッッ! もー全力で大歓迎ですッ!」

 

手を取りブンブンと上下させる二人の顔は少し赤かった。

そこからなのはさんがアインと話しているが少し戸惑っているアインに一方的に話をしている。

そこでようやくヴィヴィオの静止が入った。

 

「ほらーお前達も着替えて来いよ」

「あ!そうだった。クリス着替え手伝って!」

「…………」ピッ!

 

ドタドタと階段を駆け上がっていくヴィヴィオにクリスは後ろから飛んで付いて行く。

 

「アインが参加するとは思ってなかったよ。てっきり断るかと思ってた」

「まあ、偶には良いかな、と思っただけです」

「ふーん?」

「こいつはなショウ。おまえがーーー」

「うぁああああ! ノーヴェさんそれは言わないでください!」

「わかったわかった」

「?」

 

頬を赤らめたアインはノーヴェさんの言葉を遮りように大声を上げる。

それをニヤニヤと見ているノーヴェさん。

訳が分からず俺は首を傾げた。

 

 

 

車に乗り込んだ俺達はわいわいと会話を楽しんでいたが遅くまでユエの調整していたことが祟り、眠くなってしまった。

俺の右隣にアイン。左隣にアリン、その奥にノーヴェさんが座っている。

前にはチビッ子三人。助手席になのはさん。運転はフェイトさんだ。

 

「……ダメだ、眠い」

「次元港に着いたら起こしますから寝てていいですよ?」

「それ、じゃあ、おことばにあまえて……」

 

重くなった瞼を閉じると急速に意識が沈んでいく。

支えを失った頭はアインの肩へともたれかかる。

 

(そういえば久しぶりにショウの寝顔を見ますね)

 

寝息を立てるショウを見て笑みを浮かべるアイン。

ショウが起きないように気をつけながら優しく撫でてやる。

すると、くすぐったそうな声が漏れるので段々と面白くなってきて夢中になってしまい、周りの視線に気がつかなかった。

アリンは羨ましそうにアインをジト目で見ている。

前のチビッ子三人も羨ましそうに二人を見ていた。

そんな子供達を見て大人三人は笑っていた。

 

 

 

 

 

旅行先である無人世界カルナージは首都(クラナガン)から臨行次元船で約4時間掛かる場所にある次元世界だ。

標準時差は7時間。一年を通して温暖で大自然が広がる豊かな世界である。

船の中からは次元のうねりなどが見え、早くあの大自然が見たいと考えさせられる。

きっとルーのことだから張り切っておもてなしするんだろうな。

案外温泉とか掘り当てたりな。…………さすがに、それはないよな?

いや、でもルーならやりかねない所が怖いな。

 

程なくして到着した俺達一行はルーの家に訪れた。

迎えてくれたのはルーとルーのお母さんのメガーヌさんだ。

ルーは早速ヴィヴィオ達と話し込んでいる。

と、エリオはどこかな?

すると、奥から薪にするであろう木の枝を抱える二人がやって来た。

 

「よっす。エリオ、キャロ」

「やあ、ショウ」

「久しぶりだね、ショウ」

「こうして会うのは1年ぶりだしな」

「しっかし、また背伸びたなエリオ」

「そ、そうかな?」

「私だって伸びたもん!?」

「ーーー1.5cmと俺は看た!」

「はぅ!? なんでわかるの!?」

「ふっふっふ。これでも長い付き合いだからな」

「なーに三人で楽しく話してるのよ」

「うぉ!? おいルー! いきなり飛び掛ると危ないだろうが!」

 

ヴィヴィオ達と話し終えたルーがいきなり俺の背中に抱き着いてきた為、転びそうになるがなんとか寸での所で堪える。

本人は悪びれもせずに微笑んでいた。

 

「別に良いじゃな〜い。私とあんたの仲でしょ?」

「どんな仲だよ!?」

「ご主人さまとペットの仲」

「そんな関係になったら覚えがないし、聞きたくなかったよ!?」

「ま、冗談は置いといて久しぶりねショウ」

「ん。久しぶり」

 

冗談で済ませていいのかは疑問だが久しぶりに三人と会ったことで会話に花が咲いてしまう。

それをなんだか羨ましそうに見るアインと目が合った。

 

「どうした?」

「えっと、三人とはお知り合いなんですか?」

「ああ、俺が嘱託魔導師になって、初めての任務の時に一緒になってさ」

 

そうそう。

エリオと友達になれた時はちょっと泣いちゃったんだよな〜。

キャロと会った時も中々強烈な印象だったし。

あれを見てからなるべく身長の話はしなかったし。まあ、今では気軽に言える仲にはなった、と思う。

ルーのいたずらに目を輝かせるとこも変わってないしな。

 

あの時は確かリープスパーダの逮捕が任務だったっけーーー

そこまで考えたのが悪かった。

思い出してしまったのだ。あの光景を。

獣に成り果てた人間が自分の仲間を鋭利な爪で殺していく光景を。

助けてくれ、と涙を流し絶命した男を。

そして、あの時の肉を斬り裂いた感触が手に蘇る。

そうだ。俺はあいつをーーーーー

 

「ショウ!」

「ーーーッ」

「大丈夫だよ。ショウ」

「安心しなさい。私達がいるから」

「……ごめん」

 

いつの間にか三人に手を握られていた。

三人の体温が強く感じられる。

それほどまでに俺の体は冷え切ってしまっていた。

チビッ子三人とアインが心配そうに見ている。

アリンは何かを察したのかその表情は暗かった。

 

「えっと僕はエリオ・モンディアルです」

「キャロ・ル・ルシエと飛竜のフリードです」

「ルーテシア・アルピーノよ。一人ちびっこがいるけど三人で同い年」

「1.5cmも伸びたもん!」

 

重くなった空気を壊すようにエリオが自己紹介を初め、ルーがキャロの身長で弄り、笑いを起こす。

さっきまでの空気は一気に霧散していった。

 

「アインハルト・ストラトスです」

「よろしくねアインハルト」

 

ガサッと茂みが揺れる音とともに現れたのは魚を入れたカゴを背負ったガリューだった。

初対面のアインは表情を強張らせ、構える。

そこでヴィヴィオ達がガリューのことを説明し、アインは頭を下げていた。

大人組はトレーニングに行くため、エリオとキャロとは一旦別れる。

 

「そんじゃ、水着に着替えてロッジの裏に集合な!」

「「「「おー!」」」」

 

 

 

水着に着替えた俺達は川で遊んでいる。

と言っても俺は少し離れた所で座禅組んでるんだけども。

リオはどこかチャイナ服を彷彿とさせるワンピースタイプの水着。

コロナは学校で使っているスク水。

ルーもワンピースタイプの水着。

ヴィヴィオとアイン、アリンはビキニタイプの水着だった。

ヴィヴィオの水着を選んだのは多分もしかしなくてもフェイトさんなんだろうな……

まあ、取り敢えずこれだけは言わせてもらおう。

 

「眼福です」

「お前は行かないのか? 変態」

「俺だって男ですからね。けれど変態とは心外ですね。俺は紳士ですよ。もう少ししたら俺も行きますよ」

「…………」フヨフヨ

「クリスは行かないのか?」

「…………」せっせ、せっせ、ぴゅー、パッ!

「なになに? 『外装(オーバーコート)がぬいぐるみなので濡れると飛べなくなります』? ふむ。なら俺が水に濡れても大丈夫なそのまんまの外装作ろうか?」

「…………」ピッ!

「『是非!』か。OK、今度作ってくるよ」

 

アインはノーヴェさんと何やら話している。

まあ、大方水遊びよりも練習がしたいんだろうな。

ま、やってれば気付くだろう(、、、、、、)

 

「陛下は泳がないのですか?」

「ん。ちょっと落ち着いてから行こうと思ってさ」

「ーーー私は何も聞きませんよ。でも、あまり一人で背負おうとしないでください」

「ーーーわかってる。そう言えばさ、アリン」

「何ですか?」

「最近リンに会った」

「本当ですか!?」

「ああ。もう少しで完全に目覚めるって言ってたよ」

「そう、ですか。早く会いたいですね」

「そうだな」

 

アリンと話しているうちにノーヴェさんがアインに何故水遊びさせているか教えていた。

 

「ヴィヴィオ、リオ、コロナ! ちょっと「水斬り」やってみせてくれよ!」

「「「はぁーーーいッ!」」」

 

順番に拳を打ち出していく三人に拳速で水柱が上がる。

アインは少し驚いていたようだが俺とアリンはベルカの時にやったことがあったのでさほど驚きはしなかった。

 

「お前もやってみな」

「ーーーはい」

 

川の中心に入り、拳を引くアイン。

 

(水中じゃ大きな踏み込みは使えない。抵抗の少ない回転の力で出来るだけ柔らかくーーー)

 

「……あれ?」

 

撃ち出された拳は水柱を5メートルほど上げたが本人はあまり上がらなかったことにキョトンとしている。

 

「お前のはちょいと初速が速すぎるんだよ。初めはゆるっと脱力して途中はゆっくり……インパクトに向けて鋭く加速。それを素早くパワーを入れてやるとーーー」

 

ザッパァアアアン!

 

「こうなる」

 

さすがはノーヴェさん。

四人よりも倍はある10メートルは水柱が上がっている。

そして、ルーが俺達にもやってみればと言ってきた。

アリンも頷いたのでやることにした俺達は水の中に入る。

最初はアリンが拳を撃ち出したがアインよりも少し高い6メートルの水柱が上がる。

続いて俺。何故かチビッ子三人が目をキラキラと輝かせているのは気にしないでおこう。心なしかアインとアリンも輝いているような?

 

「ふぅーー……」

 

脱力しながら拳を引く。

そして、インパクトの瞬間に一気に加速し、撃ち抜く。

ノーヴェさんにやや劣るが水柱が上がる。

おおー! と歓声が漏れるが少し納得がいかない。

 

「ノーヴェさん。剣使っても良いですか?」

「別に良いけど……お嬢も大丈夫か?」

「構わないわよ。思いっきりやっちゃいなさい」

「よし。ユエ」

『イエス、マスター』

 

剣に形を変えたユエを腰で隠すように構える。

ノーヴェさんには見覚えがある構えだ。

そう。これはミカヤさんの居合術の構え。

目を閉じ、意識を集中させる。

右手を柄に添え、肺にある空気を全て吐き出した。

カッ! と、瞳が見開かれると同時に剣を抜刀する。

剣閃が川を裂き、滝を一刀両断し、川の水のほとんどが宙へと上がる。

納刀するの同時に時間が巻き戻るように宙に舞った水が俺達に叩きつけられる。

 

「ふぅ、まあこんなもんかな」

「やり過ぎだろ!」

「さっすが『剣王』ってことかしら?」

「その呼ばれ方は好きじゃないからやめてくれ」

「お疲れ様です。陛下」

 

俺の予想以上の「水斬り」を見たチビッ子とアインに火がつき、全員が川で「水斬り」をしていた。

その光景を俺たち四人は笑いながら見守っていた。

 

 

 

 

「おかえりー。みんな遊んできた?」

「はい。楽しかったですよ」

「あらあら? ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん大丈夫?」

「いえ……あの」

「だ、だいじょうぶ……です」

「やめとけって言ったのに無視してずっと「水斬り」やってたんですよ。だからメガーヌさんは気にしなくて良いですよ」

「あら、そうなの」

 

プルプルと震える二人に呆れながら答えるとメガーヌさんは笑っていた。

 

「それじゃ、食べようか」

『いただきまーす!』

 

「あ、これ美味しい」

「それ私が作ったんだよ」

「キャロが?」

「本当に美味しいよキャロ!」

「よしよし、エリオ。飯は逃げないからもう少しゆっくり食べような?」

 

吸引機のように料理を吸い込んでいくエリオ。

うん。こういうところは全然変わってないみたいだな。なんか安心したようなホッとしたような。

キャロは少し苦笑しているし。

 

 

「あ、そうだ。ショウくんも午後からトレーニングに参加する?」

「是非!」

「じゃあ、久しぶりに私と模擬戦でもする?」

 

ガタンッと音が鳴り、全員がショウを見る。

当のショウはいつの間に移動したのか隅っこの方でガタガタと震えていた。

 

「ピンクの砲撃怖い……SLB怖い……魔王(なのは)さん怖い……」

 

なのはのことをよく知っている人達は「あー」と納得しているが何も知らない子供達は不思議そうに首を傾げていた。

 

「ショウくん酷いの! 私は魔王じゃないよ!」

「……ショウの気持ちすごくわかるよ。大丈夫。私がついてるから強く生きよう?」

「……フェイトさんッ!」

 

ガシッと抱き合う二人。

それを見たなのはさんは「フェイトちゃんまで!?」と叫んでいた。

抱き合う俺達を見ていたチビッ子三人とアインとアリンが黒いオーラを放出していたことをここに追記しておく。

 

 

 

□■□

 

 

昼食を食べ終え、俺はエリオと一緒に日向ぼっこをしている。

 

「ねえ、ショウ。今まであんまり詳しく聞いてないけどさ。ショウのーーー『剣王』のこと教えてよ」

「ん? そうだなーーー偶には昔話も悪くない、かな? しっかし何から話したもんかな」

 

時同じくしてルーテシア書斎ーーー

 

「あ、ルーちゃん。もしかしてその本……」

「うん。アインハルトとショウに見せてあげようと思って」

 

「歴史に名を刻んだ『覇王』イングヴァルト、『剣王』ショウ・S・ナガツキーーー二人の回顧録を」

 

 

 

 

「ベルカの歴史に名を残した武勇の人にして初代覇王クラウス・G・S・イングヴァルト。救世主として名を残したショウ・S・ナガツキ。彼等の回顧録。ーーーと言っても現物じゃなくて後世の写本なんだけれどね」

「ルーちゃんはアインハルトさんの事は?」

「ノーヴェからだいたい聞いてるわ。覇王家直系の子孫で初代覇王の記憶を伝承してるってね」

「じゃあ、ショウさんは?」

「それは本人から聞いたわ。ーーーまあ、とても良い話とは言えなかったけど、ね」

「話を戻すわね。彼等の生きていたベルカは乱世。簡単に言うと戦争ね。そんな悲しい時代を生きていたの。ここからはショウに聞いたことなんだけどーーー」

 

乱世のベルカ。

一言で言えるほど軽い言葉ではない。

雲に覆われた薄暗い空。枯れ果てた大地。

人々の血が河のように流れても終わらない戦乱。

誰もが苦しんでも、辛くても、悲しくても乱世を終わらせるためにまた剣を取る。

力を持って戦わなければ大切なものを失ってしまう、戦うことを強要された時代ーーー

 

「そんな時代に生きた覇王と剣王としての短い生涯の記憶。そして、心残りを聞いたわ。ま、こんな悲しいことばかりじゃなかったみたいだけどね」

「それってどういう意味?」

「ちゃんと楽しい記憶、幸せな記憶まあるってことよ。例えばオリヴィエ達との日々とかね」

「オリヴィエって確か……」

「オリヴィエ・ゼーゲブレヒトーーー聖王家の王女にして後の『最後のゆりかごの聖王』。そしてヴィヴィオの複製母体(オリジナル)よ」

「聖王家の王女様にシュトゥラの王子様が仲良しだったの?」

「オリヴィエがシュトゥラに留学っていうのが体裁だったみたいだけどショウに聞いたら要は人質交換だって言ってたわ」

「それってアレだよね?」

「裏切ったら人質処刑しますってやつ」

「それそれ」

 

リオとコロナはお互いに抱き合いながらブルブルと震え始める。

一緒に話を聞いていたクリスまでもが口を押さえながら顔面を蒼白させていた。(外装はぬいぐるみのはずなのにそう見える)

 

「じゃあ、ショウさんはどんな関係があったんですか?」

「あーこれは聞いたら呆れると思うんだけど、なんか家出して、路銀も備蓄した食料も底を尽いて倒れてる所を助けられたみたい」

「あーそれは確かに呆れるのも頷ける、かな?」

 

 

 

 

「くしゅん!」

「大丈夫? 風邪でも引いたのかな?」

「いや、誰かが噂でもしてるんだろ。俺の知り合いなんてあんまいないし案外ルー辺りかもしれないぜ」

「……もっと友達作りなよ」

「言うな……」

 

自身の交友関係という痛い所を突かれ、口籠ってしまう。

 

「それでクラウスとオリヴィエと仲良くなったの?」

「最初はそうでもなかった。初対面で敵と勘違いして思い切り殴ちまったこともあるし」

「は、はは。それは中々強烈だね」

「でも、まあそれから少しずつ仲良くなってさ。すごく楽しかったことだけは今でもハッキリと言える。ーーーあの日々があったから俺は剣を握り続けることが出来たんだ」

 

横からはよくわからないが真剣な雰囲気を醸し出すショウ。

だが、その迫力はすぐに軟化すると笑みに変わっていた。

きっと、クラウス達の日々を思い出しているのだろう。

こうやってショウを笑顔に出来るクラウス達に少しだけ嫉妬を覚えてしまう。

自分達の目の前ではまだ数えるほどしか心から笑ったところを見たことがなかったから。

だから、こうやってショウのことを笑顔に出来るクラウス達が羨ましく思える。

その思いを振り払うように立ち上がったエリオは軽く背伸びをしてから、ショウへと手を差し出した。

 

「そろそろ行こう。訓練が始まっちゃうよ」

「そうだな」

 

エリオの手を取り、立ち上がる。

 

「取り敢えず頑張りなよ? 絶対なのはさん模擬戦するだろうからさ」

「やっぱり? はぁ……俺はまたしばらくピンク色をしたもの全般見るだけでもトラウマ再発するかも」

「うん。結構なのはさんと訓練するけどやっぱりあの砲撃は怖いよね」

「怖いって次元じゃないぞ。あれはもう死を覚悟させられるね」

 

バインドで拘束されて身動きの取れない状況にあの特大ピンク砲が撃ち込まれるんだよ?

撃ち抜かれた時なんて光と一緒に消える感覚に陥るもん。

 

「それ、なのはさんに言ったら酷い目にあうよ?」

「絶対言わない。もう俺はSLBを喰らいたくない! はぁ……トレーニング終わった後、絶対風呂に篭もろ」

「そう言えばルーテシアが温泉掘り当てたらしいよ」

「え、まさか本当に掘り当ててるとか……ある意味才能の塊だよな。ルーは」

「僕もそれは常々思うよ」

 

他愛ない話をしながら歩くエリオとショウ。

エリオは久しぶりの男友達との会話に頬が緩んでいる。

まあ、それは頬が緩む理由の一つであって。

もう一つの理由は……まあ、言わなくても分かるだろう。

 

ゆっくりとした足取りで二人はみんなの待つ訓練場へと歩いて行った。

 

 




次回予告

拡散弾(クラスター)来るよティア!」

「それじゃあ、模擬戦しよっか!」

「私もやっていいかな?」

「あんた達は俺に死ねというのか!?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと加減はするから」

「何の!?」

「……実は俺、女性を傷つけるのは嫌でして」

「私達はそう簡単に傷つけられるつもりはないけど………あ! じゃあショウくんが女の子になればいいんだよ! これで解決だよ!」

「うぅ……何でこんな目に……」

memory 19 『白き魔王と金色の死神vs剣姫』


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memory 19 『白き魔王と金色の死神vs剣姫』

四ヶ月近くも空けちまった……。
これからまた少しずつ投稿していきます。



 

ショウとエリオが訓練場に向かった少し後。

アインはヴィヴィオとクラウス達の話をしていた。

楽しいことも話したのだが大半が暗い話になってしまい、思いやりの深いヴィヴィオの表情は優れない。

何か笑顔になる話をしようと慌てふためくが、沈黙が続く。

まあ、つまりーーー

 

(ーーー何も思いつかない)

 

困った。本当に困った。

表情にこそ出さないがアインの内心は狼狽していた。

こんな時に人ともう少し話せるようになっておけばよかった、と思うのだがなにぶんショウとアリン、ショウの両親としか深く関わったことがなくこういった場合の対処法がわからない。

こうゆう時、ショウならどうするだろうか? と、考える。

ショウなら二、三と笑い話をしていくのだろう。

けれど、私にはショウほど引き出しがある訳ではない。

どうしようどうしようと考えている時、

 

「お、ヴィヴィオ、アインハルト!」

 

ーーーノーヴェさんという天使が舞い降りた。

 

「ブラブラしてんなら向こうの訓練見学しにいかねーか? そろそろス ターズが模擬戦始めるんだってさ」

「アインハルトさん見に行きませんか?」

「ーーーはい」

 

良かった。笑ってくれた。

小声でノーヴェさんにお礼を口にするが訳がわからないと疑問符が頭に浮かんでいた。

 

 

 

□■□

 

 

 

拡散弾(クラスター)来るよティア!」

「オーライ! カウンター行くわよ‼︎」

 

「「シューートッ!」」

 

ピンクとオレンジの魔力弾が放たれ、相殺していく。

その爆発の中、スバルはなのはへと接近。

拳をなのは目掛けて撃ち出すがプロテクションで防がれてしまう。

 

それを見ていた見学組は喰い入るように模擬戦を見ている。

アインがふと横を見る。

そこには白い竜にに跨るエリオとキャロ。その隣にはフェイトが並行している。

 

「あれはアルザスの飛竜……!?」

「キャロさんが竜召喚士でエリオさんが竜騎士なんです」

 

あれはフリードの成長した姿だと話すとまたまた驚くアイン。

ピーッと終了のアラームが鳴り響き、模擬戦が終了する。

ふとノーヴェ以外の全員が気付いた。

 

「そういえばショウさんは?」

「アリンさんの姿も見えませんね」

「あそこだ」

 

ノーヴェさんの指差す方向にはちょうど模擬戦をしていたなのは達が集まっていた。

その中心には蹲る少女をあやすようにアリンが背中をさすっていた。

 

「あの少女は誰ですか?」

「ショウだ」

「「「「え?」」」」

 

ヴィヴィオ達四人の声が重なる。

 

「冗談はやめてください。ショウは男ですよ?」

「そう思うのは当然だが、あれはショウだよ」

「え? ショウさん本当は女の子なんですか?」

「いいや、違うよ。あれも変身魔法を応用したもんさ」

「「「「ええーーーッ!?」」」」

 

 

どうしてこうなったかというとそれは模擬戦の始まる少し前に遡るーーーーーーー

 

 

 

 

「あ、エリオく〜ん、ショ〜ウ」

「よ、キャロ。さっきぶり」

「すみません。遅れましたか?」

「そんなことないよ。みんなも今来たところだからね」

 

すでに全員(俺も含む)はジャージに着替え、その手にはデバイスが握られている。

それにしてもーーー何故、そんなにも笑顔なのでしょうか魔王(なのは)さん?

 

「それじゃあ、早速模擬戦しよっか!」

「もちろん全員で、ですよね?」

「ふえ? 私とショウくんの一対一だよ?」

「『え? 何言ってるのこの人』って顔しないでください」

「あ、私も混ざっていいかな?」

「あんた達は俺に死ねというのか!?」

 

どこかうずうずした様子のフェイトさんまでもが乱入。

エリオに助けを求めるが顔を逸らされてしまった。

キャロとスバルさんは苦笑いを浮かべ、ティアナさんは「諦めなさい」と目で語っていた。いつの間にかアリンまでもが訓練に参加するようで来ているのだが、さっきから助けを求めても無視される一方だ。

くっ!? この場に俺の味方はいないのか!?

 

「大丈夫大丈夫。ーーーちゃんと手加減はするから」

「何の!?」

 

無理無理無理。なのはさんの砲撃は手加減しても威力高すぎるしフェイトさんの高速機動について行くのも大変なんですよ?

てか、本当にこの人達は『手加減』という言葉の意味を理解しているのだろうか?

以前も何度か訓練したことがあったがいつも意識が途切れる寸前までシゴかれた。

あの人達に取って『手加減』とは『気絶する一歩手前』という認識ではなかろうか?

だが、ここで諦める訳にはいかない!

 

「………実は俺、女性を傷つけるのは嫌でして」

 

嘘ではない。

女性を相手にする時はどうも調子が狂う。

まあ、もっともこの二人を果たして女性にカウントしていいのかは疑問が残るところだが。

 

「私達はそう簡単に傷つけられるつもりはないけど………あ! じゃあショウくんが女の子になればいいんだよ! これで解決だよ!」

「ああ、なるほどその手があったか。ーーーって誰が女になるか!?」

「え? 大丈夫だよ。きっと可愛いから」

「うん。全くもって意味が分からないです」

「陛下。潔く諦めてください」

「無理だ!」

 

どうやったらそんな考えを思いつくんだよ!?

それは男としてのプライドに関わるーーー

 

「ユエ。やっちゃってください」

『わかりました』

「ユエさん!?」

 

マスターである俺を差し置いてアリンを取るとは!?

ユエはショウを無視して魔法陣を展開。

自分の意思に反して体は形を変えていくのが判る。

魔力光が消えるとそこには少女が佇んでいた。

髪は腰より少し上辺りまで伸び、風で少し靡いている。

体の線も細くなり、胸が少し膨らんでいた。

瞳も少し大きくなり、爛々と輝いているように錯覚させる。

少しアリンに似ているような気もする。

ショウは口をパクパクさせながら自分の体に手を伸ばし、確認していく。

そして、自分が女の子になっていると気付くと固まってしまった。

 

「うわぁ……予想以上なの」

「綺麗だ」

「本当に女の子になったよ! ティア」

「はいはい。落ち着いて。まあ、しっかりしなさいよショウ」

「可愛いよショウ!」

「……本当に、綺麗だ」

 

おい、お前ら。

俺の心を抉りに来るのはやめてください。

そして、エリオさん。君は何故顔を赤くしているのかな?

 

「陛下」

「……なんだよ」

「今晩陛下を抱きまくーーー抱いてもいいですか?」

「言い直そうとしたんだろうけど余計酷くなってるから!?」

 

力が抜け、その場にしゃがみ込んでしまうショウ。

それを見兼ねたティアナさんは俺が立ち直るまで私達だけで模擬戦をしていようと切り出してくれた。

そして、今に至るのだ。

 

 

「うぅ……なんでこんな目に……」

「可愛いからいいじゃないですか」

「男にそれはどうよ? あ、今は女だからいい、のか?」

「だいぶ混乱してるねショウは」

「お前も女になればわかるぞ俺の気持ちが」

「丁重にお断りさせてもらうよ」

「……チッ」

 

爽やかな笑顔で断るエリオに舌打ちが漏れる。

ニコニコしたなのはさんが近付いてくる。

 

「それじゃあ、ショウくん。殺ろっか♪」

「うわー可愛い言い方の筈なのに寒気しかしないや」

「早く殺ろう? ショウ」

 

くっ!? 二人して戦るが殺るにしか聞こえない。

そうだ。逆に考えるんだ!

この模擬戦が終われば男に戻れるんだ。ならとっととやってしまおう。

 

「わかりましたよ。戦りますよ。戦ればいいんでしょ!?」

「相当その姿が参ってるんだね」

 

エリオ。俺は絶対にお前も女にしてやるから後で覚えとけよコノヤロー。

 

「ユエ。セットアップ」

『イエス、マスター。セットアップ』

 

ユエが輝き、ジャージがバリアジャケットへと変貌する。

光が収まり、視線を自分のバリアジャケットに移す。

予想はしていた。

今の俺はアリンの白いドレス風バリアジャケットを紺色にしたバリアジャケットだった。

 

「……ユエ」

『今のマスターは女の子ですからそれに合わせてみました』

「余計な気遣いありがとう」

「ふふ。私とお揃いですね? 陛下」

 

ーーーまあ、嬉しそうに笑っているアリンに免じて許してやろう。

べ、別にこのバリアジャケットがちょっとアリかな? なんて思ってないんだからね!?

 

「それじゃあ、最初は私と殺ろうかショウ」

「ーーーお手柔らかに頼みます」

 

どうやら最初はフェイトさんが相手のようだ。

なのはさんから提示されたルールは3つ。

 

・フルドライブ禁止

・相手を傷つけるような攻撃は禁止死傷殺傷

・相手が「参った」と言うか気絶させた方の勝ちとする。

 

 

なのはさんも怖いがフェイトさんも怖い。

だって、戦闘狂(バトルジャンキー)だよ? 笑いながら鎌を持って襲いかかってくるんだよ?

とにかく、早いところ終わらせよう。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

なのはさんたちはアインたちの方へと移動し、俺とフェイトさんも少し離れた場所に飛んだ。

………絶対、アインたちも見てる、よな。

そう考えるとアインたちに会うのが嫌になる。

 

首を横にブンブンと強く振り、その考えを吹き飛ばす。

深呼吸を二、三回して落ち着いたところでフェイトさんに目を向けた。

すでに準備万端、といった様子だ。

手を開閉しながら感覚を確かめる。ユエを握る手に力が入る。

大丈夫だ。()も女の体で動いたりしたことはある。

きっと何とかなるーーーはずだ。

腰を落とし、左手を前に出す。それがスイッチだったかのように俺の思考は戦闘へと切り替えられる。

 

『それじゃあ、模擬戦を始めるよ。危ないと思ったら止めに入るからそのつもりでね』

「分かったよ」

「分かりました」

『うん。それじゃあ、試合開始!』

 

なのはさんの試合開始の合図と共に俺はフェイトさんへと飛び出した。

袈裟斬りに斬りつけるがバルディッシュで防がれる。

鍔迫り合いに持ち込まれ、相対するフェイトさんは笑っていた。

 

「どうしたんですか? そんなに嬉しそうにして」

「いや、ショウも速くなってきたな、って思ったら嬉しくなっちゃった」

「うわー、本当に根っこからの戦闘狂だよ。この人」

「むっ、私は戦闘狂なんかじゃないよ」

「戦うことは?」

「とても楽しいと思っているよ」

「それが戦闘狂だって言ってるんですよッ!」

 

バルディッシュを弾き飛ばし、距離を取りながらアクセルシューターを数発放つ。

それは金色に輝くフォトンランサーによって撃ち落とされてしまう。

 

『ソニックムーブ』

 

機械的な男性の声が響く。バルディッシュだ。

刹那、フェイトさんの姿が消えた。

ほぼ反射的に後ろに剣を盾のように構える。

ドンッという衝撃が伝わり、よろめいてしまう。

見るとバルディッシュを横薙ぎに振り抜いた態勢だった。

やはり速い。今のままでは到底追いつけない。

しかも、空中戦は不慣れで余計にやりづらい。

それを言い訳にするつもりはさらさらないが。

 

「行くぞ、ユエ」

『ソニックムーブ』

 

瞬間、世界が遅くなった。

いや、俺が速くなったのだ。

フェイトさんの後ろへと回り込むが攻撃せず、今度は懐へと回り込んだ。

フェイトさんは後ろに振り返っていたので反応が数秒遅れる。

たった数秒。されど数秒。この数秒が命取りになる。

 

ーーー『剣王流 』 透扇ーーー

 

バリアジャケットを無視して衝撃を直接体へと叩き込む。

意識を失うギリギリの威力なので問題はないはずだ。

この一撃で決めるつもりだったので俺は油断していた。

フェイトさんは痛みに耐え、バルディッシュをライオットザンバーに変えるとバットの要領で俺を打ったのだ。

 

反応できずに吹き飛ばされた俺は建物を貫通しながら地面に叩きつけられてしまった。

その際、頭を強く打ってしまい、俺の視界はぼんやりと霞がかかった。

強く打ったせいか頭もボォーッとする。

 

(あれ? 俺、何してたんだっけ?)

 

ぼんやりとした視界に見えるのは手に握られた剣。

そして、空中に浮かぶ敵の姿(、、、、、、、、、)

 

(嗚呼、そっか。俺、戦ってたんだっけ。じゃあ、早く敵をーーー)

 

「殺さなきゃ」

 

ーーー凄惨するほどの殺気が辺りを包み、満たした。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

ショウがフェイトによりビルを突き破りながら墜落していく。

それを見ていた全員は内心ハラハラしていたが、ショウなら大丈夫、という安心感を抱いていた。

だが、辺りを包む殺気に身構える管理局組とアリン。

エリオとキャロ、ルーテシア、アリンはこの殺気に覚えがあった。

これは、紛れもなくショウの殺気だ。

 

この四人だけは瞬時に相棒(デバイス)を取り出し、バリアジャケットを展開していた。

それに倣い、スバルたちもバリアジャケットを展開。

キャロはすぐにフェイトの元に跳べるよう、転送魔法を展開した。

 

 

 

 

腹部を襲う鈍痛に顔を歪み、脂汗が流れる。

バリアジャケットを透過するように放たれた衝撃はフェイトの意識を刈り取るには十分だった。

が、それを歯を食い縛り、耐えたフェイトはショウをライオットザンバーで打ち飛ばした。

 

手応えは、あった。

気絶、とまでは行かなくともかなりのダメージを与えたはず。

警戒は解かずにライオットザンバーを構える。

刹那、殺気がフェイトを襲った。

執務官の仕事柄次元犯罪者との戦闘は避けられない。

当然、殺意を向けられたこともある。

しかし、今感じるこの殺気は今まで受けてきたものがちっぽけに思えるほど強大で、冷たいものだった。

 

ゾクッ

 

後ろに寒気を感じ、反射的にライオットザンバーを振り払った。

キィンッと金属の擦過音が響き、何かとぶつかった。

目の前にいるのはショウだった。

けれど、その目は虚ろで、確かに私を見ているが何か遠くを見るようなもの。

何かがおかしい、と思った時にはショウの姿が消えていた。

 

「えっーーーキャア⁉︎」

 

一秒にも満たないスピードでショウは懐へと潜り込み、私のバリアジャケットを斬り裂いた。

斬り裂かれた部位は素肌が晒され、薄っすらと血が滲んでいた。

 

(非殺傷設定が解除されてる⁉︎ ショウがそんなことするはずないし、一体何が起こってるの?)

 

ショウが剣を振りかぶる。

フェイトは思考に回していた頭を総動員して警戒する。

生半可なものでは駄目だ。

せめて動きだけでも認知していなければ、死ぬ。

それほどまでに今のショウから殺意が漏れ出していた。

 

(ッ、来る!)

 

ショウが構える。

一振り。次の一振りは確実に防げるだろうが、その次はない。

ゴクリ、とフェイトは生唾を飲み込んだ。

酷い緊張感の中、念話での一報が届く。

 

(フェイトさん! あと少しだけ耐えてください! すぐにそっちに向かいます)

(分かったよ。出来ればもう少し早くお願いしたいかな?)

 

キャロが転移魔法を展開しているのを知り、幾らか心に余裕ができる。

すー、はー、と長い深呼吸で息を整え、構える。

キャロの転移が完了するまで最低でも三十秒。

 

 

視界からショウが消え、警戒をより一層強めた。

気配を探ろうにも全くと言っていいほど、気配は感じられなかった。

この時フェイトは無意識にまた正面から来るのでは? と思ってしまった。

その考えが、動きを数秒遅らせる。

瞬間、フェイトはビルの屋上に堕とされていた。

 

「カハッ」

 

肺から空気が漏れる。

立ち上がろうと体に力を入れるが思うようには動いてくれない。

タッ、とショウが舞い降り、フェイトへと近づいてくる。

ショウが剣を振り上げる。そして、振り下ろした。

 

「陛下!」

アリンの声が響く。

ショウの瞳に光が戻り、フェイトへと迫っていた切っ先を方向転換し、そのまま自身の足に突き刺した。

 

「ーーーーーッ!」

 

声にならない悲鳴が漏れる。

足からは血が滲み出し、紅い水たまりを作っていた。

鋭い痛みが走り、体外へと血液が流れ出ていくがそれがショウの意識を現実へと繋ぎ止めてくれていた。

ユエを抜くとドッと勢いを増して血液が流れ出るが、ショウは気にしない。気にすることができない。

フェイトへとのろのろと歩み寄り、治癒魔法を発動させる。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

ショウは壊れた人形のようにぶつぶつと呟いていた。

フェイトにはショウが触れてしまうだけで壊れてしまうガラス細工のように思えた。

そこへキャロたちが合流。

ショウを引き離し、キャロがフェイトの治癒を引き継ぎ、ルーテシアがショウの足の治療を開始した。

 

「……ルー、俺は良いからフェイトさんの治療に回ってくれ」

「うるさい、バカ! あんたは黙って治療を受けてればいいのよ!」

「………………」

 

それ以上、ショウは何も言わず、黙って治癒を受ける。

ルーのお陰で数分で傷は塞がった。

もういい、と断わってから少しふらつく足取りでフェイトの元へと歩を進めていく。

 

「……ごめんなさい、フェイトさん。俺ーーー」

「大丈夫だよ、ショウ。ショウが気にすることじゃない」

「でも、俺はーーー」

「怪我は治せるから大丈夫。だから、そんな悲しい顔しないで? そっちの方が私にとっては辛いかな」

「ーーーそんなこと言うなんて意地悪ですね」

「自分でもそう思うよ」

 

フェイトにつられて少しだけ笑みを浮かべるショウ。

少しは気を楽にできたようだ。

その二人を見守るみんなの顔にも少しだけ笑みが宿っていた。

 

 

 

□■□

 

 

「大丈夫ですか? ショウ」

「あ、うん。大丈夫だよ」

 

顔を覗き込むようにしてアインは心配そうに声をかける。

それに多少無理矢理に浮かべた笑みで返す。ぎこちない感じになってしまったが今はこれが限界だった。

見ると、アイン以外のみんなも心配そうにこちらを見ていた。

当然と言えば当然か。

意識失いかけて勝手に戦場と勘違いしてフェイトさんを殺しかけたのだから。

フェイトさんを襲ったこともショックだが結局俺には殺すことしかできない、と再認識させられほとほと自分が嫌になった。

実際に俺が命を奪う瞬間を見たエリオたちの顔も若干影がさしていた。

そんなことを知ってか知らずかこの場の雰囲気に似つかわしくない明るい声が響く。

 

「それじゃ、今度は私と戦ろう。ショウくん」

「え? この状況でそれ言います? 普通」

「まあまあ、大丈夫だから」

「……それでも、俺は」

「大丈夫だよ。だって、ショウくん優しいもん。だから大丈夫だよ」

「それ、理由になってませんけど」

「聞こえな〜い」

「はぁ……どうなっても、知りませんからね」

「うん。分かってるよ」

 

みんなが心配そうにしているが俺は戦うことにした。

何故だか、なのはさんなら大丈夫な気がしたのだ。

だから、戦う。

 

「ユエ」

『セットアップ』

 

紺色の魔力が湧き上がり、体を包んでいく。

展開されたバトルジャケットはいつものものではなく、アインのバトルジャケットの色を紺色に変えたものだ。

剣を使うからダメなんだ。なら、獲物を剣から拳に変えればいい。

これで多少は変わるはずだ。

そして、手には籠手に変わったユエが纏われていた。

アインが籠手を見て、息を呑んだ。

見覚えがあるからだろう。この籠手はエレミアの鉄腕を参考にして作ったものだからだ。

本物に比べると天と地ほどの差があるが、昔クラウスとの手合わせで使っているところを見たことがあったのでなるべくその時のものに近づけたつもりだ。

ようは本物の劣化版、といったところだ。

 

「準備はいい?」

「いつでも。ーーーと、その前に」

「ん? どうしたの」

「いえ、ちょっと。ーーーエリオ、もしもの時は頼む」

「任せといて。絶対に止めてみせる」

「任せたぜ、エリオ」

「任されたよ」

 

拳を軽く打ち合わせ、俺とエリオは笑った。

なのはさんの展開した転移魔法陣の上に乗り、桃色の光に包まれた。

 

 

 

 

「久しぶりだね。ショウくんと模擬戦するのは」

「そうですね。……俺としてはなのはさんとはあまりしたくないですけど」

「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです」

 

上空で向かい合い、乾いた声で笑う。

本当、この人と模擬戦何度かしたことあるけどあんまり勝てる気がしないんだよなぁ。

空中戦があまり得意じゃないっていうのもあるけど。

深呼吸で心身ともに落ち着かせ、目の前のなのはさんを見据える。

なのはさんはとっくに準備ができているようだが、その顔から笑みが消えることはない。

 

余裕の現れ、だろうか? いや、違う。あれがなのはさんの本気だ。

笑顔を絶やすことなく、面と向かって全力で応える。

それがなのはさんだ。なら、これがなのはさんにとっての普通だ。

そう思うといつまでもビクビクしている自分がちっぽけに思えて、笑みが零れた。

 

クラウスの、覇王流の構えを取り、気を引き締める。

肉弾戦になると自然と覇王流を使ってしまうのはずっと近くでクラウスたちを見てきたからだろう。

 

「それじゃあ、始めようか」

「ええ。ーーーさあ、始めようか」

 

目の前に魔法陣を展開。それを潜り抜け、加速。

ゆうに数百を越えた弾幕の嵐が襲いかかってくるが、気にせず突貫する。

被弾を最小限に抑えながら、拳を叩き込む。

ガンッ! と音を立てたのは拳となのはさんの間に張られた障壁だった。

障壁から拘束せんと鎖が絡みついてくる。足を振り上げ、自分の腕ごと踵落としを振り落とし破壊、後方へ強く飛んだ。

刹那、桃色の奔流が目の前を通過した。

数秒飛ぶのが遅れていたら直撃コース確定だ。

額に嫌な汗が浮かぶのを感じながら、顔を引き攣らせる。

 

そうしている間にも弾幕の嵐が迫っていた。

今からだと完全に避け切るのは不可能。ならば、と魔法陣を展開し足場を作り、腕の力を抜いた。

すでに目の前まで迫った魔力弾に優しく触れ(、、、、、)投げ返した(、、、、、)

 

「覇王流ーーー旋衝破」

 

ギョッと、驚きに目を見開くなのはさんだが、すぐに平静を取り戻し投げ返えされた魔力弾に魔力弾をぶつけ、それを相殺する。

まあ、そう簡単に当たってはくれないか。

 

「いやー、驚いちゃったなぁ。まさか投げ返してくるとは思わなかったよ」

「驚いてもらっただけでも鍛錬した甲斐がありますよ」

 

最初の頃は触れただけで爆発して、黒焦げになったものだ。

クラウスどんだけだよ。弾殻壊さないように触れるとか意味分かんねぇよ。……できるようになったから人のこと言えんが。

 

「近距離ばかりだけど遠距離魔法は使わないの?」

「まあ、近距離でどこまでやれるか確認したかった、って感じですね? 今から少しずつ交えていきますよっと!」

 

足から練り上げた力を腕へと伝え、手刀をなのはさんへと振り抜いた。

覇王断空拳の剣王流ver.だから覇王断空『剣』、てね。

空気を切り裂きながら放たれた一閃は、なのはさんへと直撃した。

いきなり仕掛けてくるとは思わず、障壁の展開が遅れたのだ。

障壁に直撃。突風が発生し、目を瞑る。

次になのはが目を開くと目の前には拳を振り抜いた態勢のショウがいた。

そして、遅れてやってくる衝撃に呻き声を漏らしながら吹き飛ばされた勢いを殺さずに距離を取った。

一閃に隠れながら、接近し拳を叩き込む。シンプルだが上手くいった。

ニッ、と顔を綻ばせていると大きな魔力を感知し、なのはさんを見る。そこには吹き飛ばされながらも魔力を収束させ、(レイジングハート)を向けていた。

 

「ディバインバスター!」

 

拙い! と思った時には発射されていた。

高速で迫りくる桃色の魔砲。

俺は奥歯を強く噛み締め、避けるのではなく魔砲へと突貫した。

直撃するかしないかのすれすれで魔砲の弾殻に乗り、その上を駆け抜けていく。

先ほどの旋衝破で分かる通り、手で可能なのだ。ならば、足でできないという道理はない。

軽い足取りで跳ねるように駆け抜け、右上段蹴りを決める。

とっさに展開した障壁で防がれてしまうが、なのはさんの体が大きく仰け反った。

このチャンスを逃すはずがなく、ラッシュを決めていく。

引き離そうと魔力弾が飛んでくるが紙一重で避け、拳を打ち出す手を休めない。

再び足元に魔法陣を展開。今度は強く拳を握り締め、足から練り上げた力を腕へと伝え、乗せる。

そして、俺は親友の一撃を振り抜いた。

 

「覇王断空拳!」

「カハッ‼︎」

 

鳩尾に決まった拳はなのはさんの肺に残る空気を全て吐き出させた。

これで終わり、と気を緩めた瞬間。桃色の鎖が体に巻きついた。

バインドか⁉︎ なのはさんはなんとか意識を繋ぎ止めたようですでに魔力の収束を開始していた。

それは次第に大きくなっていく。……さっき撃ったディバインバスターよりも大きく。

これは、まさか……ッ!

そのまさかだよ、と言わんばかりの笑顔を浮かべたなのはさんは無情にも死刑宣告を下した。

 

「スターライトーーーブレイカー‼︎」

 

振り下ろされる杖と連動するように桃色の光球が発射された。

バインドで避けることもできず、ただジッと黙った迫りくる桃色を見る。

あ、これ詰んだ。と呑気なことを考えながら、俺は光に呑み込まれた。

ーーーその後の記憶は残っていない。




油断しすぎやデェ……ショウ。



次回予告

「……ショウは大丈夫でしょうか」

「陛下なら、大丈夫ですよ」

「あ〜〜すっごいいい湯加減〜〜」

「おい、エリオ。ルーテシアは嘱託魔導師から建築士に転職したのか?」

「薬を使った者たちの成れの果て。管理局はあれを『凶獣(ビースト)』と名付けた」

「やーーーーッ‼︎」

「あ、ちょ、アイーーーッ⁉︎」

memory 20 『温泉の語らい』


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