るーちゃん無双 (るーちゃんLv255)
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第0話 ちゅういがき
本作品はあくまでネタです。ひたすらるーちゃんを賛美することのみを目的として作られた作品なので真面目に考えてはいけません。
また、原作やアニメのネタバレを含んでいたり、それらと矛盾していたりすることがあります。
筆者もたまに脳使わないでかいてることがあるので前後で矛盾が生じる可能性があります。
るーちゃんの可愛さに時空が歪んだと解釈していただけると幸いです。
本作品のコンセプトは「レベル、ステータスカンスト、スキル完備状態のるーちゃんにやりたい放題させる」ことです。るーちゃんTUEEEものです。
るーちゃんが理不尽の塊みたいになってますが温かく見守ってあげてください。
本作ではるーちゃんは事件当日時点で存命のりーさんの妹、という設定を採用しています。
なお事件前のるーちゃんとりーさんの仲は割と良好だったようです。
また、作中に度々(くどいほど)登場するるーちゃんのステータスは所謂るーちゃん指数であり、実在する単位、指標とは異なります。
割と様々なものを0~255でいい加減に表現します。
また、比較対象はがっこうぐらし!とは無縁な種種雑多な何かだったりします。
ちなみにその場のノリで指標は変化しますが、るーちゃんのステータスに関しては一部例外を除いて基本最大値固定です。
るーちゃんは物理法則や科学医学など現実世界の法則を無視した挙動をとることが割としょっちゅうあります。
空中を走ってようが四次元ポケットを取り出そうがその柔肌で銃弾跳ね返そうが唐突に自己再生を始めようが錬金術をしてようが宝具の真名解放を行おうがるーちゃん故致し方無しです。
一々突っこんでいてもきりがありません。流しましょう。
るーちゃんは別に正義の味方というわけではありません。
みんなを救おうとか黒幕をどうにかしようとか、そんな難しいことはあまり考えていないようです。
また、るーちゃんはアンチ・ヘイトになりかねない言動でも自重しません。
流れでやらかす可能性があるのでそこは注意です。
原作、アニメで死亡している人物が普通に出てきたり、端役にすらなってない通行人やオリキャラが唐突に登場したりしますので注意です。
なおその大半がるーちゃんの当て馬かネタ要員なので結構みんな割を食います。
この辺の連中の命は諦めましょう。
あまりにもるーちゃんが強すぎて全くバランスが取れないので、感染者やモヒカン等の生存者の敵対陣営も一部の個体のみですが無駄に強化されています(無論るーちゃんには勝てません)。
基本的にるーちゃん以外の生存者にとってはハードモードとなっているので誰かがぽっくり逝ってもまあそんな平行世界があっても仕方ないよねくらいの感覚で軽く流してください。
るーちゃんは可愛い。
るーちゃんは可愛い。
るーちゃんは可愛い。
くどいようですがるーちゃんは可愛い。
以上が全然おっけーな全国のるーちゃん至上主義を掲げる若狭悠里の皆様方、是非読んでいただけると幸いでございます。
るーちゃんは可愛い。
るーちゃんは可愛い。
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第1話 はじまり
ある日の朝、るーちゃんは起床とほぼ同時になんとも形容しがたい不安をおぼえました。
るーちゃんの勘はよくあたります。なにせ常人の直感力を7とするとるーちゃんの直観力は255、貫禄のカンストなのです。
経験からこれは何かとんでもないことが起こるな、と判断したるーちゃんは、学校へ向かう前に鞄に非常食と飲み物を詰め込み、家族の荷物にもこっそりと水とチョコレートを忍ばせておきました。
非常時に水があるのとないのとでは大違いです。
これで多分みんな大丈夫だろうとるーちゃんは一安心、学校へ向かうことにしました。
一応道中で頑丈そうな建物や、使えそうな場所を確認しておくことも忘れません。
学校に到着しクラスへ入っていくと、いつも通りクラスメイトのみんなは元気に騒いでいました。
これから何かが起ころうなどとは予想もしていないのでしょう。
るーちゃんはとりあえず座席に荷物を置くと、友達の荷物にも予備の水を放り込み始めました。
無論全員分はないので、仲のいいみくちゃん、ゆーたくん、なおきくんが最優先です。
「なんで水?」といわれても気にしません。備えは大事です。
ぶつくさ言ってくるなおきくん達に水を押し付けていきます。
一応渡す際に備えあれば憂い無し、とだけは伝えておきます。
るーちゃんが突拍子もないことを始めるのは今に始まったことではないため、みんなはああ、いつものなのね、と納得してくれます。
とりあえず授業が始まるまでに水を押し付け終わったるーちゃんは、まだ何事も起きていないことを確認すると今のうちに寝溜めしておこうと考えました。
どんな事態が起こるかわからないので今晩は眠れるとは限りませんし、学力255のるーちゃんにとって授業を受ける意味は全くありません。
となると授業に出ているより寝ているほうが有意義です。そして、どうせ寝るのであれば机に伏せているより保健室のベッドを使ったほうが快適です。
というわけでるーちゃんは役者60前後に対して255という脅威の数値をたたき出す演技スキルをフル活用し、仮病で先生を欺いて保健室へ移動します。
さっさと保健室へとやってくると保険医の先生も完璧に誤魔化し、見事ベッドを確保しました。流石の早業です。
後はベッドで事が起こるまで眠るだけです。人が多い学校であれば、何か起こればすぐ誰かが騒いで起きれるはず、と判断したるーちゃんはさっさとすやすや寝てしまいました。
随分寝ていたるーちゃんですが、ベッドに近づく足音で目を覚ましました。
保険医の先生が歩き回ってる分には気にもしませんが、どうにも歩き方がふらついてる気がしたのです。るーちゃんは違いのわかる女なのです。
るーちゃんが身体を起こして足音へ目を向けると、血まみれの保険医がふらふらと近づいてきていました。
その様はまさにホラー映画で見たゾンビそのもの、どうみても異常事態です。
るーちゃんはこれが不安の元凶だと確信し、この場を逃げ去ることにしました。
とりあえず保険医には布団を被せて視界を塞ぎ、じたばたもがいているのを尻目に救急箱とモップを拝借します。
行き先をちょっと考えたるーちゃんですが、記憶の中に自分の姉が通う高校の学校案内を見つけました。
確かあの高校には発電、浄水といった設備がやたら整っていたはずです。
ホラー映画だろうが地震だろうが、とにかくあそこに避難していれば楽だろうなぁ、と思いながら読んでいた記憶があります。
となるとあの高校を目指すのがよさそうです。運がよければ姉と合流することもできるでしょう。
きっとあの姉のことだから今頃立てこもり先の扉でも押さえながら先生あたりに「これからどうすれば・・・・・・!?」って感じで泣きついているに違いありません。
昔からあの人は理解や想定を超えてくる状況にはめっぽう弱いのです。メンタルが豆腐でできてるに違いないとるーちゃんは常々思っているのです。
さっさと合流してあげないと存在を忘却されたり、同級生を妹の代わりにしていたり、縁もゆかりもないものをるーちゃんだと思い込んでたりしかねません。
るーちゃんは進路を決定すると、ようやく布団から解放された保険医に足払いをかまして転倒させて保健室を出ていきました。
保健室を出た廊下には既に三体のあいつらが存在していました。
その中にはゆーたくんの姿もあります。どうやら彼はすでに手遅れのようです。
ゆーたくん達はるーちゃんに気付くとゆっくりと、しかし確実に迫ってきます。
るーちゃんはモップを握り締めました。
ちなみに成人男性がゾンビに物理攻撃を行った場合の攻撃力を10とした場合、るーちゃんの物理攻撃力は255になります。
某ゾンビゲーの暴君シリーズを束にして挽肉にできる威力です。
覚悟をきめたるーちゃんはゆーたくんに飛び掛りモップを一閃。
直撃を受けたゆーたくんは物理演算の狂ったゲームのように吹き飛ばされ、残る二体を巻き込み窓を枠ごと粉砕しながら校舎の外へと消えていきました。
窓の外にいた生存者が理解を超えた光景に呆然自失状態でしたが、彼の近辺にいたあいつらも吹き飛んでいった同胞を呆然と眺めていたため致命的な隙にはならなかったようです。他人に迷惑をかけない、流石るーちゃんです。
るーちゃんはしばし友との別れの感傷に浸ると、破壊音を聞きつけて集まってきた元学友の皆さんを振り切り校舎から走り去っていくのでした。
本日のるーちゃん
直感力255
学力255
演技255
物理攻撃力255
本日のりーねー(推測)
園芸45
面倒見75
ロッカー6
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第2話 みちくさ
元学友たちを場外送りにしたるーちゃんは、現在そのまま外へ向かって移動中のようです。
後先を考えないのであれば衝撃波と共に一瞬で走り去ることも可能なスピードを誇るるーちゃんですが、まだ生きている人や資材も多く残っていることから自動車レベルのお手軽速度(数値換算して40程度。るーちゃんの全力である255には程遠い)で学校を脱出していきます。
道中もあちこちで人が人を喰う惨劇が展開されていましたが、いちいちリアクションしていたら日が暮れることはるーちゃんじゃなくてもわかります。
邪魔なものだけ撥ね飛ばして進むるーちゃんの行動が最も理にかなっているといえるでしょう。
途中であいつらや遺体などに混ざってみくちゃんとなおきくんを撥ね飛ばしたような気がしますが、動きを見るに手遅れだったような気もするので謝りも省みもしません。時に無情な選択も必要なのです。
あれが他人の空似でなくて本人たちだったら結局るーちゃんの親しい友人は全滅してしまったということになるわけで、るーちゃんは用意した水は役に立たなかったなぁ、などと思っていました。
素でこんな思考なのか、親友達を失っての現実逃避なのか、知るのは本人ばかりなりです。
一瞬水を回収しようかとも思いましたが、なんとなく今校舎に戻ると他の生存者と立てこもる羽目になった挙句死ぬ気がしたので諦めて離脱です。るーちゃんの直感は今回も冴え渡っています。
校門近辺でもみ合っている生存者とあいつらをまとめて蹴散らし、るーちゃんは学校を離脱です。そんなところにいるのが悪いのです。
いざ街に出てみると案の定ふらふらと動き回る奴らが大暴れの真っ最中です。
四方八方から悲鳴と怒号が聞こえてきますし、交通事故や爆発なんかも起きているようです。
右を見ても左を見てもスプラッター、ただの映像作品であるなら中々の仕上がりです。
これではそう容易く進んでいくことはできないな、とるーちゃんは考えていました。
勿論思考しながらも四方から迫る元主婦の皆様をモップでホームランし、某大乱闘のごとく残機を削っていくことは怠りません。
認識すら困難な速度で放たれる連撃がるーちゃんを中心にまるで打撃の結界のように展開され、とても思慮の低下したあいつらに突破できるものではありません。次々命中して吹き飛んでいきます。
るーちゃんによって吹き飛ばされた皆さんが砲弾のようにあちこちの建物やら車やらに直撃し、爆撃でもされたかのような被害が広まりつつありますが自衛のためには仕方ないと割り切ってモップを振るい続けます。
あいつらよりはるかに酷いレベルで周辺住民に被害を出してしまっている気もしないでもないのですが、どうせ既にどこもかしもも惨劇だらけなので、今更一つや二つ増えたところでるーちゃんとしてはだからどうしたです。
るーちゃんは神経の図太さも255を誇ります。最高ステータスです。
近づいてくる連中を排除しながら移動し、時に突っこんでくる暴走車両すら跳ね除けてるーちゃんは先へ進んで行きます。
心眼スキルに255振っているるーちゃんは、どこから何が突っこんでこようがだいたい対処することができるのです。無敵です。
下校途中の学生を吹き飛ばし、滑り込んできた原付を切り払い、身の程知らずな野良犬を叩き伏せ、飛び降りてきた自殺者を打ち返します。やはりるーちゃんは無敵です。
とはいえるーちゃんの得物はあくまで掃除用具にすぎないモップです。既にるーちゃんの圧倒的パワーについていけず悲鳴を上げつつあります。
るーちゃんのモップ技能255という卓越した技量によってここまでの戦闘に耐えていましたが、徐々に限界が近づいてきていることは明らかです。
このままでは武器を失ってしまうのも時間の問題です。
そうなると素手で障害を排除しなければならなくなり、手は痛くなるし肌は荒れるかもしれません。
そもそも手が汚れるのが嫌だなぁ、と思ったるーちゃんは仕方なく、もっと頑丈な武器を調達することにしました。
ライフラインの整った学校は魅力的ですが、こんな状況ではまず必要なのは自衛の手段だと考えたのです。
武器を調達するべく行動を起こしたるーちゃんは登校中に目を付けていた町工場にやってきて鉄塊を弄繰り回しています。
元工員の方々は、残念ながら手遅れだったので全員この世から解放してあげました。物理的救済です。
工員さん達を送ったことでとうとうその役目を終えたらしいモップが遺体の山に墓標の代わりに突き立てられています。
彼らを背景にしていなければ、慣れない保護面をつけて一生懸命溶接を行うるーちゃんはたいへん微笑ましいのですが、場合が場合です。背景が多少殺伐としていても仕方ありません。
さんざんに鉄塊を弄繰り回し、るーちゃんが作業を終える頃には既に日が暮れていました。
ふぅ、と一息ついて工場で調達したペットボトル飲料を頂きます。
先程までるーちゃんが作業をしていた場所には、それはもう見事な仕上がりのメイスが鎮座しています。
鍛冶スキル255のるーちゃんにかかれば、ただの鉄の塊を宝具にまで昇華させることとて不可能ではありません。その技術は既に神々と肩を並べています。
るーちゃんはこの新たな武器を「るーちゃんメイス」と名付けました。何事においても最強なるーちゃんですが、ネーミングセンスは僅か2しかありません。常人30前後の1割にも満たない状態です。本人曰くここは無くても別に困らないからいいとのことでした。
しかしせっかく武器が完成してももう夜になってしまっています。
ここから迂闊に動き回るのは流石に危険かもしれないとるーちゃんは考えました。るーちゃんはリスクの計算はできる用心深い子なのです。
こうなると今晩はすでに敵を始末しているこの場で過ごすのがよさそうです。学校へ向かうのは夜明け以降ということにして、今日のところはここに留まることにしました。
そうと決まればるーちゃんは次の行動に移るのも早いのです。防具が作りたい、だのミサイルが撃ちたい、だの子供らしい自由な発想を練りながら、予備の武器などの装備を用意するべく再び保護面を装備し、作業に没頭していくのでした。
その晩のりーねー達
「・・・・・・あいつら、いなくなったみたいだな」
「そうね、でも校内に戻るのは危険だわ。今夜はここに篭りましょう」
「そうですね・・・ここにいれば、きっとすぐに救助が・・・・・・」
「めぐねえ、怖いよ・・・」
「ゆき、だいじょうぶ。ここは安全だから、な」
「・・・・・・」
その晩のるーちゃん
次は・・・・・・剣とか作ってみる。えくすかりばー、なんて。にへ
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第3話 あらためて
今朝のりーねー
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何かを誤魔化すように黙々と菜園で作業している。あまり眠れなかったようだ。
今朝のるーちゃん
すやすや、むにゃむにゃ。にへ。
ぐっすり眠っている。
あれから余裕かまして工場で一眠りしていたるーちゃんですが、見事無傷で朝を迎えることができていました。
それもそのはず、深夜まであれを造りこれを造りと作業をしていたるーちゃんに引き寄せられて集まった近隣住民の皆様は、一人残らず最初に造りだされたるーちゃんの武器「るーちゃんメイス」によって葬り去られていたのです。
るーちゃんは自分の作業を邪魔するやつには容赦なんてしてあげません。悪い人にはおしおきです。
工場近辺はるーちゃんによって粉砕された残骸が積みあがり、誰でも一目見るだけで圧倒的強者の存在を窺い知ることができる状態です。
周辺の建物や道路も当然無傷とはいきませんが、どうせ誰も使わないので関係ありません。
付近の住民が壊滅したことにより最早この辺一帯はちょっとした安全地帯でした。
最低限生き延びるだけならこのあたりを拠点にすれば十分やっていけるでしょう。
とはいえるーちゃんの目的はあくまで潤沢なリソースを備えた拠点です。
ライフラインが断たれてしまうような安全地帯などるーちゃんにとっては何の価値もありません。
結局、安全地帯などあとからいくらでも作れるという判断から、るーちゃんはあっさりここを出発するという結論を下しました。素晴らしい思い切りの良さです。
ここからは各地で水と食料を調達しつつ、改めてるーちゃんのお姉さん、りーねーこと若狭悠里が在籍しており、十中八九まだ立てこもっているであろう私立巡ヶ丘学院高等学校を目指すのです。
日課のラジオ体操を自身の記憶を頼りに終え、大きく伸びをしたるーちゃんは工場の人たち(+モップ)に泊めてもらったお礼を言っていざ出発です。
るーちゃんはこんなときでもしっかり礼儀正しい子なのです。
礼儀正しさという項目があれば満点の評価がつくのは間違いありません。255です。
工場を出発したるーちゃんは、一旦大通りに出てからめぼしい資源を回収して進もうと考えていました。
しかし出発したのは朝方、まだ通勤、通学の人々でいっぱいの時間帯。道路にはたくさんの奴らが蠢いています。通勤ラッシュです。
もはや生存者の姿など全く見えないあたり、いかにこの奇妙な災害が広まっているのかが窺い知れます。
こんなところを堂々と歩いていてはあっという間に通行人の皆さんが群がってきて大乱闘の第二ラウンドが始まってしまいます。
最早迷惑をかける周囲もいないのでやろうと思えば思う存分暴れて通りを制圧することもできるのですが、流石のるーちゃんもこんなところで朝から一々戦っていては途中でお腹が空いてしまいます。
そこでるーちゃんは奴らの群れに紛れ込んで進むことにしました。
某カメラマンがゾンビウォークを習得するレベルを50とするならばるーちゃんのレベルは255。完璧に洗練されたゾンビモーションで奴らの群れに潜り込んでいきます。
その気になればこのまま奴らと連携して生存者を攻撃することすら可能とする圧倒的ゾンビ感です。
そのクオリティはりーさんが見たら卒倒間違いなし、完璧な仕上がりでした。
当然知能のちの一画目の途中くらいまでしか残っていない通行人諸氏にるーちゃんの物真似を見抜けるはずも無くどこからもツッコミが入らないまま通行人とるーちゃんは一緒に歩いていきます。実は近くの建物に立てこもっている人もいないでもなかったのですが、彼らではるーちゃんに気付くことは不可能でした。知能があろうが無かろうが、るーちゃんより上を行くものなどまずいません。
るーちゃんはとりあえずこのまま近くのコンビニ目指してふらふら進軍していくことに決めました。
今朝のるーちゃんはシーチキンおにぎりの気分なのです。おーいなお茶も飲みたいのです。
動きもゾンビで食欲旺盛。るーちゃんの心は今、まさにゾンビでした。
最早るーちゃんはあいつらの思考に至るだけの境地に達したのです。
るーちゃんは最早共に道路を進む彼らを理解することができました。
そして彼らもまた、(少なくとも朝食前にゾンビウォークしてるときの)るーちゃんを理解しました。
彼らは少なくとも今だけは理解しあえたのです。最早彼らは完全に一つの群れでした。
あまりにも馴染んでしまったるーちゃんは、特に何も考えずに、群れに襲い掛かってきたいかにもやられ役系モヒカンみたいな生存者達を彼らといっしょになって攻撃して撃破してしまいましたが、まぁどうせあの手の連中は生かしておいても他の生き残りの方々に迷惑かけるだろうから仕方が無いとさっさと割り切ってしまいました。
るーちゃんはこうした非常時には寛容といたわりの精神が美徳足りえないことは理解しています。るーちゃんは時に非情な判断も下せる子なのです。
そうこうしながら時に数を増やし、時に数を減らしたりしながら通勤ラッシュの皆さんと共にふらふらとコンビニまで到着したるーちゃん。
一瞬だけ本気のスピードを出して群れを離脱、ドヒャアとか効果音の鳴りそうなクイックでブーストした横滑りでそのままコンビニへ来店します。
素早さ255を誇るるーちゃんの早業に、群れのみんなはどこへ行ったのか以前に何が起きたのかすらわからず、そのまま歩いていきました。
店内に入ったるーちゃんは早速おにぎりとお茶を物色です。
ニンジャを200としてなお255という高ステータスの隠密スキルを持つるーちゃんからしてみれば、現在進行形でバックヤードへの侵攻を試みている先客達を完全無視して買い物をすることなど造作もありません。
しかしお目当ての商品を買い物かごに入れたるーちゃんは考えました。バックヤードにあいつらが群がっているということは、誰かが立てこもっているんじゃないのかな、と・・・。
本日のモヒカンズ
「ヒャッハー!ゾンビに金なんていらねえ、適当にブチ転がして金目のもん奪って街を脱出だァ!!」
VS
本日のゾンビーズ
「ヴァァァァァァア!!(馬鹿め、こっちにはるーちゃんがいるんだぞ)」
本日のるーちゃん
ぞんびごっこ、たのしい・・・にへ。
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第4話 こんびに
るーちゃんはバックヤードにいるであろう何者かを救うため、朝ごはんの前に扉に群がっている奴らと戦うことにしました。
るーちゃんの優しさは数値換算するなら255。まさに女神の如しです。
決して誰もレジにいないと買い物ができないからという理由ではないのです。・・・多分。
さあるーちゃんメイスの出番です。当然のようにメイス技能255(中世騎士平均30)のるーちゃんにとっては、周辺に被害を及ぼさずに奴らを殲滅するなど造作もありません。
きちんと立てこもりーズの潜んでいる扉や店内を壊さずに敵を叩き潰します。
たったの7体かそこら、しかもるーちゃんに背を向け扉に集中していた状態では勝負は一瞬でした。
あっという間に全ての敵を葬り去ったるーちゃんは満足そうに微笑むと、メイスをきれいに拭き始めました。
しばらくそうしていると、外が静かになったことに気付いたのか、バックヤードの扉が開き、中の人が出てきました。ちょっと様子を見てみると、どうやら中には三人の人がいたようです。
そのうちのちょっと柄の悪そうな男性一人は怪我をして寝ており、時折苦しそうに呻き声をあげています。もう一人、カチューシャが特徴的な若い女性が怪我人さんに付き添っているようでした。この二人にレジの操作を頼むのは無理そうです。なのでるーちゃんは三人目、一番最初に外に出てきて「た、助かったのか・・・?」なんてフラグ満点な発言をかましてくれやがった若い男性にレジの操作を頼むことにしました。
これでようやく朝ごはんにありつくことができます。
るーちゃんが幸せそうにおにぎりを味わっていると、レジに立たせていた男性が自己紹介や立てこもり仲間の紹介、早朝に一度脱出を試みたもう一人の男性があいつらに噛まれて怪我をしてしまい、戦えずに立てこもり続けていたことなどを聞いてもいないのにべらべらと教えてくれました。
るーちゃん的には食事中なんとなく流しているテレビ程度の感覚だったので、最後の以外はちゃんと聞いていません。適当に相槌です。
しかしるーちゃんの相槌のタイミング、間の取り方などは神業の域に達しており、ほとんどを聞き流しているとは全く気付かれません。るーちゃんの相槌技能は園児時代から255という高ステータスを維持し続けています。社会的評価を高める秘訣です。
そうこうしていると、なんといきなり怪我人さんが起き上がり、付き添っていた女性におもいきり噛み付きました。
驚いたことに、彼はいつの間にやらあいつらの仲間入りをしていたのです。噛まれた女性の悲鳴が上がります。中々の音量です。
るーちゃんは咄嗟に今の悲鳴でこの辺の敵が集まってきてしまうと判断してコンビニを離脱しようとしました。
しかし隣にいたテレビ君(るーちゃん命名。本名は聞き流した)が仲間が仲間を喰らう惨劇を目の当たりにしてSAN値が尽きたのか、わけのわからない奇声を上げて先に店から飛び出していってしまいました。
ちなみにるーちゃんはその可愛らしさと奇行でSAN値を下げる側の生き物なので狂気に陥ることはありません。255から変動なしです。
テレビ君は外に飛び出してもまだ騒いでいるようなので、これでは外の方が危険です。
既に外ではあいつらの呻き声が聞こえ始め、テレビ君の錯乱した悲鳴との不愉快なハーモニーはさすがのるーちゃんも外に出る気が失せてきてしまいます。
仕方が無いのでほとぼりが冷めるまでコンビニの中に残っていることにしたるーちゃんは、せめて店内だけでも静かにしようと手早く女性さんに噛み付き続ける怪我人さん(元)に近づき、その無防備な後頭部目掛けてメイスを振り下ろしました。
怪我人さんを天国に送り出して店内を確保し、外のテレビ君錯乱ボイス祭りも先ほど断末魔を最後に沈静化したためコンビニにはひと時の平和が訪れましたが、るーちゃんはまだ店内で待機していました。
怪我人さんがあいつらの仲間入りしたことがヒントとなったことで、るーちゃんの洞察力255の頭脳がある仮説を立てていたからです。
それは怪我人さんがあいつらになってしまった原因は朝に脱出しようとしたときにあいつらに噛まれたことなのではないか、というものです。
その検証をするための噛まれた人間である女性もおあつらえ向きに店内に転がっていました。あとはれっつ待機です、待っていればこの説が正しいのかがわかります。
まつことしばし、るーちゃんは女性さんの観察を続けました。
するとどうでしょう。さっきまで確かに人間だった女性さんは、見事あいつらとなってるーちゃんに向かってきました。るーちゃんの仮説は正しかったのです。
るーちゃんはついさっきまでは行動に支障がない範疇であれば多少のダメージは気にしない方針でいたので(実際には能力差がありすぎて全てノーダメージで突破してきていたが)、噛まれただけでアウトというこの恐るべき事実に内心冷や汗でした。
これはもう、あいつらについてもっとよく知るしかないとるーちゃんは決めました。
こと用心深さという点では石橋を叩きすぎて壊しちゃうらしい某黒ずくめのあの方さんの188すら上回る255を叩き出すことすらある(本人曰く真面目にやっていればの話であるそうですが)るーちゃんは危険を取り除くために当面の敵であるあいつらに関する知識をとにかく増やそうという思考に至ったのです。
というわけで元女性さんであるゾン子さん(るーちゃん命名)を教材として、コンビニを舞台にるーちゃんの出張授業が始まるのでした。
NGその一
るーちゃんはバックヤードに群がるやつらに手頃な棚を投げつけた。圧倒的パワーで投擲された棚がやつらもろとも生存者達を葬り去っていく・・・・・・!
NGその二
るーちゃんはバックヤードに群がるやつらにえくすかりばーを放った。強烈な閃光とともに放たれた一撃がやつらもろとも生存者達を薙ぎ払っていく・・・・・・!
NGその三
るーちゃんはバックヤードに群がるやつらにタンクローリーで突進した。パワフルでストロングな車体がやつらもろとも生存者達を轢き潰していく・・・・・・!
NGその四
るーちゃんはバックヤードに群がるやつらに召集した通行人と共に突撃した。雲霞の如き数の暴力がやつらもろとも生存者達を喰い尽くしていく・・・・・・!
どう転んでも彼らに未来はないのです。
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休み時間1 一夜が明けて
るーちゃんが通行人たちとモヒカンを蹴散らしたりコンビニに入ったりしてた頃の屋上組のお話。当分出番がないであろう人たちに無理矢理出番を与えたとも言う。
とてもるーちゃん側と同じ世界のお話とは思えませんが、それがそのままこの二人の性能差ということです。
二日目朝・巡ヶ丘学院高校屋上
どうにか屋上に立てこもって一夜を明かしたが、依然として救助が来る様子はない。一時その数を減らしていた奴らもまた増えてきているようだ。
・・・・・・少し、手持ち無沙汰になってしまった。時間潰しに朝から菜園の世話をしていたけど、あらかたすることは終わってしまったし、育てていたプチトマトはみんなの朝食になってしまったし。
この状況ですることがない、というのは何か嫌なものだ。嫌でもこの異常事態に目を向けてしまう。見たくもないものばかりだ。バリケードとして置かれたロッカーや洗濯機。見たくない。あのときの血の跡。見たくない。動く死体と動かない死体。見たくない。
少し頭が痛い。・・・駄目だ、一人で思考に閉じこもっていてはいけない。周りを見る。無事な人。まだ生きてる人。
「・・・・・・めぐねえ、お腹すいた」
「朝ごはん、プチトマトしかなかったものね」
めぐねえにべったりとくっついて離れない子、丈槍由紀ちゃん。昨日こうなる直前に見た、明るくて人懐っこそうな印象は影を潜め、随分と萎れてしまっている。
無理もない話だとは思う。きっと彼女がいなければああなっていたのは私だろうから。
めぐねえにしがみつき、怯えて泣く私。・・・・・・容易に想像できた。弱い私。容易く折れる脆い私。かぶりを振って塗りつぶす。私は、まだ折れてない。
「やっぱり、一回購買まで行かないとダメだなこりゃ」
「あたしもそれには賛成。けど、たぶん校舎の中にもいるぞ、あいつら?」
何やら不穏な会話も聞こえてくる。くるみと、・・・確か柚村さん。この状況で校舎の中に戻ろうなんて、正直言ってどうかしている。そうしなければ食料が尽きるというのも誤魔化し様の無い事実ではあるのだが。
「何か武器が欲しいが・・・・・・」
「このシャベルでいけるさ、やれるってのは昨日わかった」
ああ、もう準備を始めている。止めさせる? でも、その後どうするの?
答えを求めてめぐねえに視線を向けたが、彼女は由紀ちゃんの相手で手一杯だ。きっと二人が校舎に突入しようとしていることすら気付いていないだろう。
溜息。ああ、幸せが逃げちゃう。
「・・・・・・二人とも、何やってるの?」
どうするべきかはわからないし、理解していてもきっと私は判断を下せない。でも、何か言わずにはいられなかった。それだけ。
「「何って、ちょっと中の様子を見てこようと思ってさ」」
「あれ?」「あん?」
完全なハモり。意図したものではないのだろうけど。
クスリと笑ってしまう、こんな時なのに。出鼻、挫かれちゃったわ。
「とりあえず中の様子を見てきて、いけそうなら購買で何か食べ物取って来る」
「でも・・・・・・危険よ?無理にここを出なくたって」
「なんか、こう・・・何かしてないと駄目になりそうでさ」
くるみの笑顔がどこか寂しい。・・・・・・当然か、昨日の今日だ。
やけっぱちになっていないのであれば、したいことをさせてあげるべきかもしれない。
「そんないかにも心配ですって顔するなよ。大丈夫、やばくなったらすぐに逃げてくるって。ロッカーと洗濯機、すぐ動かせるようにしといてくれよな」
そういって、中の様子を窺いながらバリケードをどかしたくるみは、校舎の中へと入っていく。柚村さんも、くるみと軽口を叩きあいながらそれを追った。
二人は勇気がある。あれが自暴自棄でないのなら、だが。 二人は強い。私は?
・・・・・・私は、二人の後を追えなかった。怖かった。私は弱い。
バリケードを見ていなければ、くるみに頼まれたんだから。言い訳だ。私は、現状の安全圏から一歩たりとも出たくないだけだ。いや、違う。何も見たくないだけだ。安全圏すら。
現実なんて見たくない。いいえ、現実ってこういうものじゃないわ。私の心はそう言う。現実って、もっとこう、ありきたりで、日常的なものであるべきだと思う。今にも園芸部員が屋上にやってきて、作業があらかた終わっていることにぶーたれて、そのまま教室に戻って授業。あるべき姿。
狂ってしまえば楽なのかもしれない。きっと、そうあるべき日常に浸っているのって幸福なのかもしれない。見えるものなんて見えない。見えないものの中に入り込んで・・・・・・
だめだ。
現実は非情だ。最善を尽くしたってどうにかなるとは限らない。でも、最善を尽くさなければ助かるとは思えない。めぐねえ一人に負担をかけるわけにもいかない。くるみと柚村さんの二人だけ危ない目に遭わせているわけにもいかない。なにより、
どうにかそう自分に言い聞かせる。私がここを守るんだ。できることをやらなくっちゃ。
適材適所だ。私はくるみ達のように危険な場所には飛び込めない。だから、みんなが帰ってくる場所を守ろう。この場を守る。みんなの無事を祈る。それが私にできることで、今の私がやらなくちゃいけないことだ。
めぐねえと丈槍さんを一瞥してから、モップを手にドアの前に陣取る。怖い。けどもっと怖い目に遭っている友達がいる。今はまだ余裕を保っていないと駄目だ。
だからあえて目を細めて不敵に笑う。伊達に良い子でいたわけじゃない。こんな状況にだって適応してみせるわ。
「どうか、くるみ達を守ってあげてください・・・先輩さん」
呟く。くるみの大切な彼なら、今度こそ彼女を守ってくれる気がしたから・・・。
風のせいか、微かに彼が頷いた気がした。
本人はまだ正気の側で踏みとどまってるつもりなんです。前提が崩れてるってすごく怖いことですよね。
ちなみにりーさん、るーちゃんがせっかく仕込んだ水と食料のことはすっかり忘れています。
おまけ
現状の登場人物のだいたいの戦力差。ただしるーちゃん指数ゆえ割といい加減。
るーちゃん Lv255
ゆき Lv8
くるみ Lv45
りーさん Lv15
めぐねえ Lv18
貴依 Lv14
先輩 Lv20
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第5話 かくにん
正直全力疾走したらすぐとか言っちゃダメ、るーちゃんとのおやくそくだよ。
さあ、るーちゃんの出張授業、inコンビニが始まります。
まずるーちゃんは、あいつらはどのようにして周囲を確認しているのか、ということから確かめていくことにしました。このあたりをよく理解しておけば、見つからずにやりすごしたりできるかもしれません。
とりあえず突っ立っているこの状況でゾン子さんに認識されているので、黙っていればやり過ごせるわけではなさそうです。
まずるーちゃんはその自慢のスピードを発揮して一瞬にしてゾン子さんの背後に回ります。
瞬きすら上回るるーちゃんのスピードをゾン子さんが捕捉できるはずもなく、彼女はクエスチョンマークを浮かべて棒立ちです。むしろこれを捕捉しきれるほうが問題だと断言できる速度が出ていたため、これでは何の実験にもなりませんでした。
見失われたるーちゃんが仕方なく軽くメイスでつついてあげたら振り向いたのでとりあえず触覚は機能しているようだということはわかりました。
るーちゃんが軽く左右に動いてもちゃんと追従してきます。鈍いだけで一応視力はあるようです。
ならばとるーちゃんは左右移動のステップを少しずつ速めていきます。そのうちゾン子さんの瞳に映るるーちゃんの姿はぶれ始め、2人、3人と分身していきます。
なお、最大255人いるようにみせることが可能であるとはるーちゃん本人の談、きっとりーさんにとっては天国です。
いきなり分身していく幼女を前に、ゾン子さんフリーズです。どうしたらいいのかわからなくなってしまったようでした。
るーちゃんも分身に飽きてきたため、さっさと次に進むことにしました。あいつらは理解を超えた光景を目の当たりにすると固まってしまうということがわかっただけ大きな収穫です。
その後もゾン子さんは聴覚検査(常人には決して届かぬるーちゃんの発音可能音域は一部で人類の可聴域を超えてしまっていたため正確な測定は不能)で逃げ回るるーちゃんを音を頼りに追い回して散々店内を歩き回らされたり、反射神経の確認と称したるーちゃんの商品投擲(投擲技能255。ストラックアウトのパーフェクトレベルで120超える程度)の雨に曝されたり、体力測定という名目で目にも留まらぬ速度でメイスを振り回するーちゃんに追い回されたり(店の外に逃げ出すことは許されない鬼畜仕様である)、耐久性調査といわれて無理矢理(本当に無理矢理)正座させられた挙句店内の雑誌という雑誌を膝に積み上げられたり、攻撃力の限界を知ると言い出したるーちゃんによって素手でプリンターを破壊する羽目になったり(無論やらねばやられる)と散々な目にあわされました。
ゾン子さんには実験に付き合う義理など全く無いため隙あらばるーちゃんを食べようとしていたのですが、僅かでも逆らおうものなら手加減スキル255のるーちゃんによってかろうじて実験に支障が出ない程度にボコボコにされます。
やっとのことでプリンターを損壊させる頃には、知性も理性も失ったゾン子さんであっても、るーちゃんに逆らうのはマズイということを学習することは十分に可能でした。本能に恐怖を刻み込まれたとも言います。暴君るーちゃんです。がおー。
そうこう実験を続け、るーちゃんがあいつら(というよりゾン子さん)のだいたいの性能を理解するころには既にお昼になっていました。
どうやらお昼ご飯もコンビニで調達することになりそうです。
今日のお昼はパスタな気分だったので、るーちゃんはそれをレジまで持っていきました。飲み物は午後なお茶をチョイスです。
既にレジ打ちをまかせていたテレビ君は店を出て行ってしまったし、怪我人さんの頭は見事に潰れていたため、るーちゃんの視線は自然とゾン子さんに向きました。
こうなると焦りだすのはゾン子さんです。彼女にレジを操作するだけの知能はありません。生前であれば余裕でできた行動なのですが、今の彼女はただのリビングデッドです。無理があります。
しかしるーちゃんの視線は明らかにゾン子さんに向いています。無言の圧力です。威圧感255です。ドドドドドとかゴゴゴゴゴとかそんな感じです。
これを無視し続けたら最後、店舗ごと投げ飛ばされて少し遠くに見えるビルに着弾する羽目になったとして何の不思議もありません。目の前の
圧力に屈したゾン子さんはとりあえずレジに立ち、操作こそよくわからないもののおぼろげな生前の記憶を必死に思い出しどうにかお金を受け取ってレジに置きました。命の危機ともなれば消失したはずの知性でも機能することがある、生命の神秘を感じることができます。
厳密にはレジの操作なんて全くできていないのですが、とりあえずるーちゃんが納得しているからセーフです。どうにか生き残ることができました。
お昼ご飯を食べ終えたるーちゃんは、空腹を訴えて再び襲い掛かってきたゾン子さんを腹ごなしの運動代わりに叩きのめし、怪我人さん(元)の腕を取り外すとゾン子さんの口に突っこんでおきました。優しいるーちゃんはゾン子さんの食事も考えていたのです。
ゾン子さんが心底嫌そうに同胞の残骸を咀嚼していますがきっと気のせいです。
仮に気のせいでなくてもるーちゃんのポリシーは好き嫌いはよくない、なので無駄です。なんでも残さずぜんぶ食べるのがいちばんえらいのです。
後はコンビニでいくつか買い物を済ませ(ゾン子さん決死のレジ打ち再びである)、全ての用事を終えるといよいよるーちゃん出発です。
思った以上に時間がかかったからか、外にはそんなに多くのあいつらはいないようです。テレビ君や彼に群がっていた群れの姿もないようでした。
左右を確認して軽く伸びをしたるーちゃんは、ゾン子さんを伴ってコンビニを発つのでした。相も変わらず目指すはがっこう、れっつごーです。
ゾン子さん今回の一言
「グオオオオオオオオオオッ!?(私、コンビニに残っちゃ駄目なんですかー?)」
るーちゃん今回の一言
煩いと晩御飯にしちゃうゾ、にへ
りーねー今回の一言
「るぅーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「りーさんは何で飛び跳ねてるんだ?」
「こんな状況だ、無理もないさ。・・・・・・可哀想にな」
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第6話 のりもの
コンビニを出発したるーちゃんとゾン子さん。学校目指して意気揚々と出発しました。
徘徊するあいつらも何のその、鼻歌なんて歌いながらてくてく歩いていきます。フレンドは死体ですかみたいな、そんな感じです。正直油断とか慢心とかそんなレベルの所業じゃないのですが、るーちゃんの機嫌がいいので仕方ありません。これを止めようものならどこからともなくやってきたりーねー(ランタン装備)にほうちょうを叩き込まれて即死することは間違いありません。仮にうまくりーねーを止めてもみんなのうらみを買うことは間違いありません。
そんなこんなでしばらくはご機嫌で歩いていたるーちゃんですが、しかし次第にその表情は険しくなっていきます。
ゾン子さんの歩みが思った以上に遅いのです。もあすろうりいです。
こちらに襲い掛かってくるときだけはやたらと俊敏なくせに、普段のゾン子さんのスローリーぶりは中々のものです。
とはいえそれも当然といえば当然の話で、今のゾン子さんはコンビニから持ち出した荷物を全部一人で持たされている状態なのでした。
正直るーちゃんが全部荷物を持って走ればそれだけで済む話なのですが、こういうときは体力を温存するのも重要かなと思ったので現状では却下です。ゾン子さんの抗議の視線など涼しい顔で受け流します。るーちゃんのスルースキルは相変わらずの255、割と酷い子です。
こうなるとゆっくり進んでいく意外にどうしようもありませんが、そうしてちょっとずつ進んでいくのもるーちゃん的にはちょっと嫌です。日が暮れてしまいます。
足の遅さを改善するために放置自転車にゾン子さんをのせてみたりもしましたが、盛大に転倒したのでこれでは駄目そうです。バランス感覚が根本的にいかれているのでしょう。
なのでるーちゃんは車を使うことにしました。幸いなことに車はその辺にいくらでも転がっています。255台くらい使い潰しても誰にも文句は言われません。
適当に路上駐車しているものに近づいて中の様子を見てみると、運転手は車内で亡くなっているようです。所謂事故車両でした。
るーちゃんは運転手さんを手早く投げ飛ばして運転席に座ります。鍵なんて関係ありません。るーちゃんは自動車重窃盗などお手の物なのです。
しかし、なんということでしょう。せっかく車に乗り込んだのに、るーちゃんの身長ではフットペダルをうまく操作できません。
そもそも前もちゃんと見えてるとは言いがたい状態でした。いかに運転技能255(常人40程度。ただし今回は未経験らしく完全にるーちゃんの自称)のるーちゃんでもこれは流石に難しいと言わざるをえません。最悪足が届いてハンドルが切れれば直感255にものをいわせて無理矢理にでも発車するのですが、流石に一般的な車は小学生が運転できるようにはできていないようでした。
無敵と思われたるーちゃんですが、ここにきて身長という思わぬ弱点を突かれた形です。こればっかりは将来に期待するしかありません。牛乳に相談です。
一応身長的にはギリギリどうにかなりそうなゾン子さんを運転席に放り込むのも試してみましたが、彼女の知性ではアクセルとブレーキを判別できずこれも失敗に終わりました(なお放り込む際に抵抗した挙句るーちゃんに噛み付こうとしたため手痛い一撃を叩き込まれており、仮に生前の知性が万全の状態で残っていてもそもそも運転できるコンディションではなかった模様)。
困り果てたるーちゃんとゾン子さんですが、ここでるーちゃんは昔のりーねーとの思い出に活路を求めます。
困ったときのお姉さんです。普段まるで頼らないくせにとか言ってはいけません、たまにはこうしておかないと姉の威厳に関わります。あの人拗ねると長いのです。
あれは確かまだるーちゃんが幼稚園児だったころのお話です。
当時無意味に持ち物の耐久性に拘りを見せていたるーちゃんですが、市販の物品ではるーちゃんの求める耐久性はとうてい実現できず、当時のるーちゃんは困って泣いていました。今では考えられない光景ですが、当時のるーちゃんは無駄に凝り性なだけのレベル6園児なので仕方ありません。
そのときに泣いているるーちゃんを見かねたりーねーがあれこれ組み合わせたりなんなり色々と工夫してるーちゃんの満足できるものを作ってくれたのです。当時のりーねーはまだ頼れるお姉ちゃんでした。
「無かったら作ればいいのよ。お姉ちゃんに任せて」なんて言っていた笑顔が思い出されます。
よし、作ろう。るーちゃん一念発起です。車を一台作り出すなど今のるーちゃんなら造作もないはずです。
さっそく作業スペースを確保するため近くの民家の駐車場を制圧します。
元住人の方々と元飼い犬さんはあっという間にメイスの錆とゾン子さんのおやつに早変わりしました。押し入ってからわずか数秒、あっという間の出来事でした。
続けて制圧した駐車場の確保をゾン子さんに任せ(押し付け、とも言う)工具類や資材を確保するべくフルスピードで最寄の工具店に突撃します。建物でも電柱でも何でも足場にして猛スピードで突き進むるーちゃんですが、どうも車に無駄に拘るあまりそのまま学校に行くという選択肢はないようです。るーちゃんは割と過程にも拘る子なのです。
到着した店内では肩パッドやトサカ頭の目立ついかにもな人たちがあいつらと争っていましたが、いちいち相手にしている暇はないので店内でフル加速して衝撃波を巻き起こし、纏めて一掃します。るーちゃんは急いでるときには割と容赦しません。
探し物まで纏めて吹き飛び店内はめちゃくちゃですが、るーちゃんのマサイ族すら遥かに上回る優れた目(視力255)は吹き飛んだ店内からでも必要な品々を瞬時に見つけ出します。
あとはそれらを手早く回収して離脱するだけです。積載量255のるーちゃんは多少資材を積みすぎたところでスピードの低下など起こしません。どう考えても最初からこの積載量と速度にものを言わせて目的地に直行した方が早いのですが、たぶん車造りを途中で投げ出すといらんときだけ直感の働くりーねーが拗ねます。もはや手段が目的になってしまっていますがやむを得ません。
見る影もないほど荒らし尽くした店内ではまだ「ま、待て・・・」とか呻いている連中もいますが無視してさっさと出発します。時は金なりたいむいずまねーです。
駐車場へと帰還したるーちゃんはさっそく車を弄繰り回し始めました。
るーちゃんの工作255の技術が振るわれます。流石に一秒で完成とまではいかないようですが、材料確保のために数台バラバラにする程度ならそうかかりません。車の改造程度積み木遊びのようなものです。
途中で手持ち無沙汰になって襲い掛かってきたゾン子さんを投げ飛ばしながら作業する余裕さえあります。
その辺の車解体するだけでは足りないものに関しては、近くのカー用品店や工場まで突撃して確保してきます。カー用品店は店ごとひっくり返され、工場は丸ごと解体されていきます。
るーちゃんのあまりの手際の良さにカー用品店も工場もあっという間に廃墟以下の残骸に早変わりです。わずか数分の出来事でした。
ここまでくれば資材は十分、後は改造を終えるだけです。
るーちゃんの目がキラリと光りました。
後日、学園生活部部室にて
「りーさん、その格好はなんだ?」
「トンベリ」
(だからなんでとんべりーさんなんだって聞いてるんだよ・・・・・・)
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第7話 うんてん
ついにるーちゃんが運転できるよう改造された車が完成してしまいました。頑張って調整を重ねた結果、ペダル届く、前見える(ただし一応がつきそうですが)、ハンドル良好の完璧仕様です。
なんだか前面にやたらと装甲が施されていたり(デフォルメされたりーねーが描いてある。申し訳程度に姉に媚びたらしい)、足回りが無駄に強化されたりして随分ごつくなっていますが、先ほどまではその辺に転がっているいたって普通の事故車両でした。
るーちゃんの溢れる才能は限られた資源でも容赦ない魔改造を可能としています。当然前面が装甲だらけのため視界がけっこう狭いのですが、るーちゃん悪ノリしちゃってたので仕方ありません。ゾン子さんの冷ややかな視線も気にしません。てへぺろです。
さあ、後は走り出すだけです。手早く荷物を積み込むと、助手席にゾン子さんを押し込んでシートベルトで固定します。当然もがきますが、即座に殴って黙らせることも忘れません。今はゾン子さんのわがままを聞いてる暇はないのです。
荷物を全部積み終えたるーちゃんは、さっそくアクセル全開、全力全壊です。民家の駐車場から一気に飛び出し、冗談のようなスピードで道を猛進していきます。
あまりの勢いにゾン子さんが真っ青ですが、元々血の気とは縁もゆかりもなさそうな土気色ピープルなのでそんなものは考慮しません。るーちゃんの辞書から容赦なんて言葉はあっさりと消し飛ばされました。非常事態だからこれでいいのです、たぶん。
少なくとも道中で景気よく跳ね飛ばしまくっている通行人の人々に対するよりはちゃんと配慮はしてるつもりです。シートベルトはしっかりついてます。
ちなみに無駄に頑丈に造られたるーちゃんカーは通行人を跳ね飛ばしたくらいでは何のダメージにもなりません。これにはるーちゃんもにっこり。あらゆる事故に動じない、耐衝撃性能255のなせる余裕です。
なお助手席のゾン子さんの対衝撃性能は8、いつ天に召されても不思議ではありません。必死にるーちゃんの爆走を止めようとしますが、運転を続けながらも器用に手を跳ね除け続けるるーちゃんに文字通り手出しできません。無駄な足掻きです。
こんな異常事態が起きたからか、道中には事故車両がたくさんあります。どこもかしこも通行止めです。
これでは学校まで行くのは容易ではありません。というか少々無理があります。
通れる道を探しながら、少しずつ迂回していってどうにかなるか・・・?というような状態なのです。
しかし当然というかなんというか、るーちゃんは通行止めなど全く意に介していませんでした。るーちゃんカーの耐久性と自身のスペックに物を言わせた正面突破を敢行です。
車を跳ね飛ばし、連中を蹴散らし、電柱をへし折り爆走です。横の同乗者が何やら喚いていますが、きちんとシートベルトはついています。きっと無事です。
さすがにるーちゃんカー側も無傷とはいかないようですが、その前面装甲はまだまだ健在です。デフォルメりーねーが血と埃に塗れてますがそんなことは問題ではありません。後で洗っておけば大丈夫です、多分。
もはやるーちゃんの行く手を阻むものは何もないように思われました。このまま学校まで一気に突貫です。
と、猛スピードで爆走を続けるるーちゃんカーに追従してくる機体が現れました。それも一台や二台ではありません。車やらバイクやらがわらわらと現れ、るーちゃんを追いかけてきます。
どうやらやたらスピードジャンキーなモヒカン集団のお出ましのようです。さっき工具店で蹴散らした連中がやられたらやり返す、倍返しだといわんばかりに襲撃をしてきたようでした。
彼らは次々とるーちゃんカーに体当たりを敢行したり、鉄パイプやら何やらで車体を殴打したりと果敢に襲い掛かってきます。装甲を前面に集中しているるーちゃんカーはこういった襲撃に対してはその辺の乗用車程度の防御力しかありません、割と脆いです。
車体は凹み、ドアは吹き飛び、あっという間にぼろぼろにされてしまいます。
果たしてこの窮地を乗り切ることができるのか、るーちゃんのドライビングテクニックが試されます。まあ、つまりは余裕です。
るーちゃんはさっそく体当たりしてきた車両にお返しとばかりにぶつかり返すとそのまま押し出して事故車両に突っこませ一台を粉砕。一度スピードを上げて前方に突出すると、手頃な事故車両を後方へ跳ね飛ばしてもう一台の車両へぶつけ、これも爆破炎上に追い込みます。
そのまま速度を落とし連中に接近すると、唐突に車体をスピンさせ、バイク数台を巻き込みことごとくを再起不能に追い込みます。この間僅か一分程度、鮮やかな逆転劇です。
続けてゾン子さんのシートベルトを外すと、敵対車両の一台めがけて彼女を蹴り込みます。
発射されたゾン子さんはフロントガラスを突き破ると、待ってましたとばかりに運転手へ襲い掛かります、当然車内は大混乱。車両は大暴走を始めます。
仕上げにるーちゃんはどこからともなく調達した赤と緑の亀の甲羅を手に取ると、残っていたバイクに狙いを定めて次々に放り投げます。エイム255のるーちゃんにかかればサイドミラー頼みの狙いであっても外すことなどありません。投げるもの全て吸い込まれるように敵に着弾し、一台残らず転倒に追い込んでしまいました。
さっきまであんなに元気だったモヒカンさん達もあっという間に壊滅状態、兵どもが夢の跡です。ふぅ、と一息ついたるーちゃんは真横を絶賛暴走中の車両からゾン子さんを回収します。ようやく新鮮な肉にありつけたゾン子さんは満足そうに助手席に収まりました。
あとは暴走車両を無視して進むだけ、と思ったるーちゃんですが、ふと背筋を走った悪寒に慌ててハンドルを切りました。
直後に横の暴走車両はフラフラと道路を外れてガソリンスタンドに突っこんでいきます。一拍置いて無駄に盛大な爆発が巻き起こり暴走車両や他の事故車両、瓦礫やら看板やらが次々とるーちゃんカーめがけて降り注ぎます。事前に回避に入っていたるーちゃんも流石に避けきれず、数発が車体をかすめていきます。回避に気を取られたるーちゃんが次に前を見たときには、まるでジャンプ台のような状態で放置されたキャリアカーが目前まで迫っていました。当然常時アクセル全開のるーちゃんに止まる術などありません。るーちゃんカーはとんでもない勢いを維持したまま大ジャンプ、本来のコースを大きく外れ、空中ゆえに制御も効かないまま近くのショッピングモールへと突っこんでいくのでした。
Q.るーちゃんはなんでそんなにレベルが高いの?
A.はぐれたメタルを乱獲したから
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第8話 もーる
るーちゃんは墜落の瞬間にゾン子さんとるーちゃんメイスを抱えて車体から飛び出しました。どうにかモールの通路に着地すると、乗り捨てた車は盛大にモールを破壊しながら滑落していきました。どうやらここはモールの二階部分のようです。
ギリギリのところでどうにか二人とも無傷とはいえ、荷物の大半を積んだ車を失ったのは大きな痛手です。
このままでは流石に生きていけないと判断したるーちゃんは、車に残された資材を回収するべく一階へと降りることにしました。
そうと決まれば音を聞きつけて群がってきた元買い物客は邪魔です。るーちゃんは手頃なカートを押して勢いをつけると、そのまま飛び乗り群れへと突撃。余計な戦闘はせずに一気に突破していきます。
途中で食料を求めて地下一階を目指す生存者たちを見つけ、一階まで行動を共にすることを決定したるーちゃん。ふと気が付くとゾン子さんをどこかに置いてきたようでしたが、どうせそのうち追いついてくるだろうと楽観視です。薄情なのか信頼なのか、知るのは本人ばかりなり、です。
道中にいたであろうあいつらはあらかた墜落現場に向かっているのかその数は少なめ、るーちゃん達は特に問題なく一階へと到達します。
しかし一階に落下していたるーちゃんカーには割と群がっており、生存者諸君はるーちゃんに車を諦めて先へ進もうと言い、説得を試みます。
危うく生存者諸君の缶ジュースに釣られかけたるーちゃんがどうにか車の方へと向かおうとしていると、唐突に一階の空気が変わりました。張り詰めた空気がこの場に迫る危険をるーちゃんへ知らせています。
「危ない、後ろだ!」
上の階から男の声が聞こえるのと、るーちゃんが横へ飛びのくのはほぼ同時でした。
一瞬遅れて、るーちゃんのいた場所を何かが猛スピードで駆け抜けます。そいつは駆け抜けざまに生存者グループの一人を噛み殺すと、そのままるーちゃんカーに突っこみ、群がっていたあいつら諸共その車体を盛大に跳ね飛ばしてしまいます。ぶっ飛んだるーちゃんカーは出入り口へ続く通路に突き刺さり、道を塞いでしまいました。さらに飛び散るあいつらがそこらに降り注ぎ、まるで死体の雨でも降っているかのような惨状です。ここにきてようやくるーちゃん以外の生存者も襲撃者の存在を認識します。
「TAROUMARRRRRRRRRU!!」
雄叫びをあげる襲撃者。その姿はあいつらと化していることを除けばどこにでもいそうなカートを押した老婆でした。ですがその姿から発せられる鋭い殺気と威圧感、本当にあいつらなのかと疑いたくなるような力強さが、生半可な敵ではないということを静かに、しかし雄弁に物語っています。
なにより、その速度。よほどの事が無ければ走ることなどできはしない筈のあいつらでありながら、あのとてつもない加速。おそらくまともに対応できるのはこの場の生存者ではるーちゃんのみです。るーちゃん調べレベル10前後の雑兵共に太刀打ちできる相手ではありません。
「ヒ、ヒィィッ・・・」
「何なんだ、あいつ? 走りやがった・・・、こんなん聞いてないぞ!?」
「ダッシュババアだ!」
口々に喚き散らす生存者達。わりとツッコミどころ満載ですが一々突っこんでる暇が無いことだけは確かです。るーちゃんのスルースキルは超一流、安定の255です。
「た、助けてくれぇ!」
「あ、どこ行くんだ米村!」
生存者の一人が突然老婆に背を向けて逃げ出しました。そんなフラグな行動を見逃してもらえるはずもなく、急加速したダッシュばばあの突撃を受けあっという間に脇腹を食い破られて脱落しました。ちょうど直線上にあったピアノが巻き添えをくって老婆の突撃を受け、無残にも砕け散ってしまいます。
その恐ろしい光景を見た生存者達は一斉に逃げ出し、当然老婆はそれを追います。るーちゃんはダッシュババアという規格外のUMAを倒すため、手に持っていた缶ジュースを放り出し走り出しました。
これは、るーちゃんが投げた缶ジュースが落下するまでの一瞬の出来事である。
高速で突撃する老婆の前にだいたい同等くらいのスピードで割って入るるーちゃん。そのまま老婆によって高速で振り下ろされるカートを抜き放ったえくすかりばーで受け止め、即座に反撃し猛烈な速度での打ち合いに持ち込みます。
数合打ち合ったるーちゃんはカートを両断。続けて本体である老婆を逆袈裟に切り捨てようとしますが、老婆は更に速度を上げて回避。一撃離脱を繰り返しながら周囲を駆け回ります。しかし心眼255剣術255のるーちゃんには一撃たりとも通用しません。るーちゃんも負けじとスピードを上げ、老婆を追い掛け回し始めたため一撃離脱戦法は崩壊します。
追われる老婆は途中で生存者に噛み付きるーちゃん目掛けて投げ飛ばしてきたため、えくすかりばーとるーちゃんメイスの二刀流で一人残らず打ち落とします。お返しとばかりに投擲された生存者たちはあるものは食いちぎられあるものは回避されエスカレーターに突っこみと壊滅状態。酷い被害です。
「MATANEEEEEEEEEEEEE!!」
続けて咆哮とともに投げつけられるのはピアノの残骸。老婆渾身の一撃です。
しかし精神を集中したるーちゃんの一閃で残骸は見事に真っ二つに切り捨てられます。残骸の影に隠れて接近しようとしていた老婆の姿が露になります。まさかピアノを両断されるとは思わなかったのか、その表情はあいつらと化し崩れた容貌でもはっきりと読み取れる驚愕。そしてそれはるーちゃん相手に致命的な隙を曝したことに他なりません。
投擲されたえくすかりばーが老婆の腹部を貫き、次の瞬間には瞬時に懐に飛び込んだるーちゃんの強烈なアッパー。
老婆は吹き抜けを一気に通過しモールの天井に直撃、衝撃にモールが揺れます。
そのまま重力に従って落ちてくる老婆を落下地点で待ち構えていたたるーちゃんは、いち、にの、さんで思いきり回し蹴りを叩き込みます。再び打ち上げられた老婆はほぼ同じ軌道で天井へ激突。あまりの衝撃にモール全体が軋みをあげています。老婆インパクトです。
腹部を貫通していたえくすかりばーが天井に突き刺さったのか、そのまま老婆が落ちてくることはありませんでした。るーちゃんの完全勝利です。
ここでようやく投げた缶ジュースが着地。一瞬の静寂が訪れます。
戦いが終わったとき、一階で生き残っていた生存者は一人だけでした。他はあらかた巻き添えにしてしまっていたようです。
もっとも、その一人も狂気に爛々と輝く目をぐわりと見開き、るーちゃんを見つけてはしきりに「・・・神。・・あなたが神か・・・・・・」と呟いています。犯罪者予備軍でなければ正気度が尽きています。永続的狂気です。
そんな彼も、「・・・未来・・・拡散・・・・・・クラウド・・・・・・」とよくわからない呟きを繰り返した後ふらふらとどこかへ消えてしまったので、生き残りにカウントするのは難しそうです。
どこかへ去ったクラウドさんは諦め、るーちゃんは車の残骸から荷物を回収します。りーねーの描かれた装甲板は残念ながら通路の出口側にめり込んでおり回収できませんでした。正直かさばるからいらないのですが、多分見つかったら拗ねられます。
想定外の波乱が起きましたが、目的である荷物の回収を滞りなく終えたるーちゃん。ここでようやく上の階から老婆の襲撃を知らせた人物とゾン子さんの存在を思い出し、一応二人(?)を探しておこうと思い立ったるーちゃん。決して本屋に寄って漫画が読みたいわけではありません。
すぐ見つかるといいな、とか、本屋にいないかな、なんてことをつらつらと考えつつ、缶ジュースを飲みながら動かないエスカレーターを登っていくのでした。
さよならえくすかりばー。さよなら太郎丸さんちのばーちゃん。正直な話多少性能が高い程度の感染者でるーちゃんを苦戦させられるわけがありません、るーちゃんは無敵です。
おまけ、そのころのモールの一室
「・・・今、私の脱出路が断たれた気がする」
「・・・・・・圭、何言ってるの? 縁起でもないよ」
「・・・今、私の生存フラグを折られた気がする」
「・・・・・・美紀、どうしたの? 変な電波でも受信しちゃった?」
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第9話 りーだー
はぐれたゾン子さんや、少なくとも一人はいるらしい他の生存者を探すべくモールの奥へと進むるーちゃん。とりあえず目指す先は本屋です。
道中にはあいつらもいないでもないのですが、老婆級のがそうそういるはずもなくるーちゃんのデコピンだけであっさり吹き飛んでいきます。
だんだん相手をするのが面倒になってきたるーちゃんは、近くの店に防犯ブザーを探しに入りました。変な生物やグーマくん、巡ヶ丘のご当地ヒーローなど様々な形をしたブザーをいくつか手に取り店から持ち出します。
本来ならこんな状況での防犯ブザーの使い方は、関係なさそうな方向めがけて投擲してそちらに注意を向けさせる囮としての使用が普通なのですが、るーちゃん何を思ったか手に持ったまま鳴らし始めました。
当然みんなるーちゃん目掛けて群がってきます。さあ大変です。
と、十分にあいつらが集まったところでるーちゃんはブザーを止め、どこかで聞いたようなスリラーな曲を歌い始めます。歌唱力も振り付けも255のるーちゃんを前に、思わず集まったあいつらも動きを止め、見入り、聞き入り、しまいには踊りだします。抗う術などありません、たちまち全員るーちゃんのバックダンサーと化してしまいました。ああ、僅かな記憶の残滓すら残っていなければ襲い掛かれるのに、頭の片隅にこびりついたイメージがそれを許しません。一糸乱れぬダンスを披露します。音を聞きつけて様子を見に来たのであろう生存者がその光景を見て絶句していますが、やってしまったものは仕方ありません。人生楽しんだもの勝ちなのです。いつの間にかやってきていたらしいゾン子さんも何故か絶句サイドですが、きっと世代じゃなかったのでしょう。実にもったいないことです。
その後もしばらく即席ライブを楽しんだるーちゃん軍団はスタッフに仕立て上げられたゾン子さんの誘導で一階へと消え、るーちゃんはドン引きしながら観客していた生存者の青年と対峙します。彼の「なんだこいつ・・・?」的な視線が突き刺さります。
とりあえずるーちゃんは自分は怪しいものではありませんよー、と伝えることにしました。どう考えても手遅れな気がしますが、るーちゃんのSpeechは255、最大値100など関係ありません。無難にるーちゃんですよー、という情報を相手に伝えます。
青年はそもそもるーちゃんて何だよと思いましたが、とりあえず理不尽な生き物だと解釈して思考停止しました。
強引に怪しいものではこざいませんしたるーちゃんは、彼が現在モールで生き残っているグループの総大将で、リーダーと呼ばれていることを聞き出しました(相変わらず本名は聞き流しました)。どうやらこのモールにはそれなりに生存者がいるようです。
リーダーさんはるーちゃんを拠点に誘いましたが、ここで誰か忘れてないかといわんばかりの呻き声が聞こえてきます。考えてみればゾン子さんもいたのでした。
ゾン子さんを見たリーダさんが慌てて武器を構えます。しかしるーちゃんのお供ですと伝えると、しばらく「は?」となっていましたが、目の前の幼女に常識は通じないと悟って渋々ながら武器を下ろしました。どうやらリーダーさんはこの短時間でるーちゃんの理不尽さに適応しつつあるようです。るーちゃんほどではありませんが素晴らしい適応力です。
一行はリーダーさんの案内で生存者の拠点を目指します。道中でるーちゃんはちょっとした小道具を拾ったり、本屋に寄って漫画を回収したりしながら進みます。リーダーさんがしきりに「でも、やっぱりこいつはまずいよなぁ・・・」と言いながらゾン子さんを見ているため、ゾン子さんをごまかすための手段も確保しておく必要がありそうです。
とりあえずるーちゃんはゾン子さんにその辺に転がってたバケツを被せてみました。顔は隠せるし、即座に噛み付く心配も無くなりましたが、視界を遮られたゾン子さんはいつも以上にふらふらと動いた挙句に転倒しました。このプランは失敗です。
一応るーちゃん自身も手本を見せるためバケツを被って歩いてみましたが、視界を封じられた程度では大した影響も受けずに行動することができるるーちゃんでは全く参考になりません。バケツ頭の謎のマスコットが誕生しただけでした。
続けて傷や血の気の無さを誤魔化すためにやたらと厚着させてみましたが、呻き声をあげながらマネキンを齧っていたらいくら外面を取り繕っても無駄です。このプランも失敗です。
最終的にフード付きコートとホッケーマスクで顔も身体も覆い隠し、噛み付きも防止しましたが、下手をしなくてもあいつら以上にヤバそうな見た目の不審者が出来上がってしまいました。これならそこら辺にたくさんうろついてて見慣れているだけあいつらの方がマシです。
こうなってしまうともう誤魔化しようがないので、ゾン子さんが余計なことをしないことを祈るばかりです。
生存者達が立てこもる拠点へとやってきた一行ですが、案の定ゾン子さんを恐れる生存者達は迎撃の体制に入りました。
ならばとるーちゃんも相手を威嚇します。頬を膨らませて両手を振り回するーちゃんの可愛らしさは反則級なのですが、振り回している両手には当然のように攻撃判定があるため近づくと普通に死にます。物理攻撃力255に変わりはありません。
リーダーさんもゾン子さんも、迂闊に仲裁に入れば即死することはわかりきっています。お互いにお前が行け、とアイコンタクトが飛び交い無言の戦いが始まっています。
あわやモール組VSチームるーちゃんの全面対決の危機と思われましたが、ゾン子さんとの威圧合戦に敗れたリーダーさんがどうにか全員を宥め(るーちゃんに接近するような愚は犯さなかったため無事生存)、るーちゃん達は別に敵ではないが、万が一に備えてちょっと離れたところの個室に入ってもらう、ということで生存者達と話をつけていました。
正直なところるーちゃんはモールに留まらなくても一向に構わなかったのですが、そろそろ日は暮れるし、調達してきた漫画を読みたいし、と考え今夜一晩だけはこのモールに泊まっていくことにしました。生存者達への興味も失ったるーちゃんはさっさと個室へ移動します。生存者に追い立てられるようにるーちゃんの後を追ってきたゾン子さんは、個室に押し込められると無い知恵絞って『いずれ喰ってやるリスト』を作り上げていきます。「ヤマモト・・・マエダ・・・メガネ・・・バアサン・・・」と生存組を片っ端から拾ったノートに書き込んでいるのを背景にるーちゃんは漫画を楽しむのでした。
量を集めてみたら戦ってすらもらえない始末。挙句指一本でも倒せることが判明して完全にあいつらの立場はなくなってしまいました。
るーちゃんを冷遇した時点で生存組の皆さんが生き残るのは厳しそうなのでモール編は次回で終わりです。
一方のチーム太郎丸
「・・・・・・みきー、外でライブやってるー。さっきから洋楽聞こえるよー」
「圭、正気を保ってお願いだから」
「・・・・・・わん」
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第10話 かいめつ
そろそろ高校組にも出番が欲しいのでこの次くらいからパンデミックから少し経過した時期の話になるかもしれません
夜になり、モールの一室で泊まることにしたるーちゃん。先ほど入手した漫画を読んで暇を潰しながら夜をすごしていました。るーちゃんは北斗な拳を読み、汚物を消毒する素敵なテンションに感銘を覚えたり、闘気は武器になるなどととんでもないことを考えたりしていました。るーちゃんはまだまだ子供なのですぐ漫画に影響されます。
ちなみにゾン子さんも漫画を読んでいますが、上下を逆にして持っているので多分内容は理解してません。るーちゃんの真似してるだけのようでした。
そんなこんなでるーちゃんが夜のくつろぎタイムを謳歌しているところにリーダーさんが訪ねてきました。流石に自分で招いておいて即座に締め出す羽目になったのはばつが悪かったようで、ちゃんと生きてるのか様子を見に来たとのことです。
ただ正直扱い酷くても全く気にしていなかったるーちゃんからすればただの読書の邪魔でしかありません。よって極めて適当にあしらいながら読書を続けます。
子供に好かれたいリーダーさんが飴玉でるーちゃんを釣ろうとしますが、るーちゃんの鋼の自制心(自制255)はそんな飴玉には釣られません。なんかぴくぴく動いているのは気のせいです。飴玉をすごい精度と速度で目で追っているのも気のせいです。るーちゃんは飴玉なんかには負けないのです。
そんなこんなでリーダーさんと遊んであげて(遊ばれて)いると、生存者組のいる方からものすごい悲鳴が聞こえてきました。
これは何かたいへんなことが起きたと判断したるーちゃんはリーダーさんを伴い急いで現場に急行します。決してリーダーさんに飴玉で釣られて付いて行くのではありません。あくまでるーちゃんの自発的行動です。るーちゃんは飴玉なんかには負けないのです。大事なことなので二回言いました。
現地に到着してみると、生存者達はあるものはあいつらと化し、あるものは貪り食われと地獄絵図が広がっていました。どうやら彼らの中には噛まれた人が混ざっていたようです。るーちゃんがいれば発症直後に処理して一件落着だったのですが、あいにく自分達で追放してしまっており、そんな選択をしてしまったのが彼らの運のつきでした。
リーダーさんの仲間たちは最早壊滅状態でした。呆然と地獄絵図を眺めるリーダーさんを見つけたようで、あいつらと化した元仲間達がゆっくりと迫ってきます。自らのグループの壊滅を目の当たりにしたリーダーさんにはもはや立ち向かう気力など残っていませんでした。絶望的状況です。
そのとき、絶望するリーダーさんの前にるーちゃんが飛び出しました。生き残った自分を助けようというるーちゃんの勇気に、リーダーさんは深い感動と感謝を覚えました。
しかし、よく見るとるーちゃんは何故か手に松明を持ち、『燃料』と無駄に達筆で書かれたラベル(書道255)の貼られた瓶を取り出しています。そしてそのまま燃料を口に含むと、松明を火種に盛大に炎を吹き出しました。
火吹きという芸そのものはそう難しいものではありませんが、大道芸スキル255のるーちゃんが行うそれは最早芸で済む領域ではありません。圧倒的な規模と迫力の火炎の濁流が元生存者達を纏めて飲み込んでいく様はまさに竜の息吹。これほど強力なブレスはファンタジーな世界でもそうお目にかかれるものではありません。
無慈悲極まる高威力のるーちゃんブレスは瞬時に汚物たちを消し炭に変え、彼らのいた痕跡すら根こそぎ消毒してしまいました。汚物は消毒、るーちゃんは学んだことはすぐに活かせる子なのです。
最早完全に立場も拠点も何もかもを焼き払われたリーダーさんにできることは、このふざけた威力のドラゴンブレスにより生じた火災の消火活動くらいのものでした。
こうして、モールの生存者たちは壊滅してしまい、るーちゃんたちは悲しみに包まれた拠点を後にするのでした。
リーダーさんとるーちゃんの二人はモールの生存者は全滅してしまったと結論づけ、この場を去ることにしました。個室で待機していたゾン子さんに再び荷物持ちを押し付けると、三人はモールからの脱出を図ります。
しかし一階はるーちゃんカーによって塞がってしまっています。他の出口に向かわなければなりません。みんなまだ向かっていない辺りにいかなければならないため、あいつらがたくさんいる危険があります。とても夜に行くところではないとリーダーさんは主張します。
ならばとるーちゃんは二人を引き連れ、るーちゃんカーの直撃によって空いた穴へと向かいます。そのまま跳躍255という高い能力を活かして向かいの建物までぽーんと飛び移ります。そのままモールへ向き直ると、残る二人にさっさと来いと言わんばかりに手招きをします。
「・・・・・・いや、無理だろ」
「・・・・・・グォォォォ」
・・・・・・無理だそうです。
再びモールへと飛び込んできたるーちゃんは身体能力で劣る二人をどうやって外へ出すかを考えていました。
るーちゃんが外までみんなを投げ飛ばすというプランAはゾン子さんが全力で逃げようとしたためやめた方がよさそうです。おそらく耐久力的に持たないのでしょう。
続けてるーちゃんが青狸の漫画を読みながらプランBと言って竹とんぼを取り出しますが、これもリーダーさんに却下されます。大方首を刎ね飛ばされる未来でも見えたのでしょう。
プランBが無くなって不貞腐れたるーちゃんは、だったら自分達で考えろとゾン子さんとリーダーさんに丸投げすると、一人で竹とんぼで遊び始めました。
最初はくるくると竹とんぼを飛ばしていたるーちゃんですが、何を思ったかモールから飛び降りると、自らくるくると回転を始めます。外にいたあいつらが、何だこいつと徐々に近づいてきますがるーちゃん気にせず回転中です。
するとどうでしょう、徐々に高まる回転速度に竜巻が発生し、るーちゃんに接近していたあいつらを付近のガラクタ共々めちゃくちゃに吹き飛ばし始めました。ぶっ飛んでくるあいつらと猛烈な風に襲われたゾン子さんとリーダーは慌てて穴から離れ、手を取り合って必死にモールの奥へと逃げていきます。どうやら理不尽への恐怖が種族の垣根を越えたようです。
一方のるーちゃんは自ら起こした竜巻を利用してちょっとした空の旅を楽しんでいました。恐怖に固まった表情の女子高生二人組と窓越しに目が合ったような気もしますが、モールは壊滅しているはずなのできっと気のせいでしょう。るーちゃんの視界はめまぐるしく回転中なので一々確認しません。必死に風に耐えていた強個体もちょっとだけいたようですが、吹き飛んできた車に直撃した勢いで投げ出されて竜巻に吸い込まれ、中で高速回転していたるーちゃんに衝突してバラバラにされてしまいました。明らかに接触事故なのですが、るーちゃんにダメージはありません。無駄死にです。
しばらくして竜巻ごっこに飽きたるーちゃんがモールに戻ると、リーダーとゾン子さんはモール中を駆け回り、群がる敵は全て蹴散らしてどうにか塞がっていない出口へ到達していました。どれだけ危険なルートであっても、竜巻るーちゃんの相手をするよりマシだと判断して火事場の馬鹿力で突破していったようです。気配察知255で二人の到達した出口へ先回りしたるーちゃんはよくやったーと二人を出迎えます。るーちゃんは笑顔でお出迎えしているのですが、正直二人にとってはかなりホラーな展開でした。固まっている二人をぽこぽこ叩いて正気に戻すと(手加減255)、るーちゃんはとことこ歩き出しました。ショッピングモール、無事脱出です。
るーちゃんに漫画を読ませてはいけない。すぐ真似したがります。りーねーも日頃身を守る為に決して漫画を読ませない方針は徹底していました。
そのころの二年生
「「・・・・・・お、お化け!竜巻お化け!!」」
太郎丸を間に挟んで抱き合いガタガタブルブルと震えている。
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休み時間2 ポニテの一日
私の名前は・・・なんだったか、どうにも思い出せない。個体名が出てこないなんて、どれだけ自己を希釈しているんだろう。
そもそも名前とは何だっただろうか。クラスメイトにはカチューシャとか、チョーカーとか、ネコ帽子とか、そんなのがいた気がするが・・・・・・そうだ、ポニテだ。確かそんな呼ばれ方をされたような気がする。言われてみれば私の髪型は所謂ポニーテールというやつだ。きっと名は体を表すというやつだろう。
まあ、とにかく私はポニテだ。
私は私立巡ヶ丘学院高校の三年生だ。じりじりと迫ってくる受験に備えて、今日も今日とて学校で勉強をしなければならない。
・・・受験とは何だったか。思い出せない。ただ、私にストレスを与えていたことはわかる。たぶん嫌なものだ。
もし形のあるものなら、見つけ次第噛みついてやろう。いや、迫ってくるのだから逃げるべきだろうか。わからない。
まあ、とにかく学校で勉強をするのだ。
ふらふらと歩いて学校へ向かう。道行くものも、私も、どうしてこんなにふらふらと歩くのだろう。もっとしゃんとしろ、と声に出して言いたい。
まあ、私達はそんなにしゃっきりぴっしりした優等生だった憶えはないのだけれど。・・・いや、チョーカーとかネコ帽子よりはマシだった自覚はあるのだが。髪とか、帽子とか、独特なセンスの持ち主だった二人は、よく怒られていたような気がする。そんな二人もここまでふらふらしてはいなかったと思うけど。
みんな疲れているのだろうか。学校中があの二人以上の謎スチューデンツで構成されているとは思いたくない。そんなの学校じゃないわ、ただの異次元よ。
少なくとも、私のふらふらは疲労によるものだ・・・たぶん。頭は靄がかかっているようにはっきりしないし、私は常時こんなに呻き声ばかり上げる変な子であるわけじゃない。寝不足だろうか・・・ううむ。
まあ、とにかくみんな疲れているのだ。
ふらふらしつつも学校に到着。下駄箱あたりは今日もぐちゃぐちゃ。しばらく荒れ放題の様相が続いているけど、掃除当番は一体何をしているんだろうか。
いや、私もしばらく校舎の掃除なんてした記憶がない。・・・・・・掃除、してないんだろうか。わからない。先生方は何も思わないのだろうか、まったくもう。
とりあえず、怒られても嫌だから、今日はしっかり掃除もしていこう。なんで今日までやらなかったのかわからないけれど、理由を挙げるならやはり私は疲れていたのだろう。これで一応説明はつく。
まあ、とにかく校舎は荒れているのだ。
教室に友人達の姿は無い。まあ、今に始まったことではない。チョーカーもカチューシャもネコ帽子も、揃いも揃って朝が弱い。遅刻寸前に大慌てで駆け込んでくることだって珍しいことではない。正直、少しは私を見習うべきだと常々思っている。
常々・・・いつからだったろうか。思い出せない。なんだか今日は駄目だ、脳が腐りでもしてるんじゃないだろうか。こんな状態で授業は大丈夫だろうか、不安だ・・・。
少し休んでいるべきだろう、疲れているのだ。始業まではまだ時間があるし、ちょっと仮眠を取らせてもらおう。ちょうど騒がしいネコ帽子とカチューシャもいないわけだし。
まあ、とにかく友人達は遅刻のようだ。
休み時間、廊下を歩いていたら階段の踊り場に身を潜めるチョーカーを見つけた。授業にも出ないで何をしているんだろう、あの馬鹿者は。隠れながらこちらの様子を窺っているようだが、正直見えている。
まあ、どうせまた何かくだらないことをやらかすつもりなのだろう。教室に来ていないから多分ネコ帽子とカチューシャも共犯だろうし、一々ツッコまずにスルーしておくのが一番良いだろう。私まで厄介ごとの片棒を担がされてはたまったものじゃない。ただでさえまだふらふらなんだから。
あの様子じゃたぶん購買で何かしたいんだろう、と判断をつけた私はその場を離れることにした。巻き添えは御免だ。先に教室に戻って、何も知らない風を装っていよう。
まあ、とにかくチョーカーは何かやっているようだ。
学食の食材が腐っていたらしい。廊下を通るときに中でネコ帽子が知らないツインテールと話しているのを聞いた。
この学校を覆うような腐臭は学食が原因か。気付きなさいよ、誰か。そう思わずにはいられない。
実際臭い。最近色々と管理が杜撰だけど、大丈夫かなこの学校。こんな腐臭を漂わせた掃除もしない学校なんて、誰も入学したがらないだろうに。
・・・はぁ、学食は駄目なようだし、食事の気分でもなくなってしまった。
まあ、とにかく学校は腐臭で溢れていた。
結局、チョーカーたちは誰も授業に出なかった。あいつら、学校に来ているのは間違いないのに。三年生のサボりとはいいご身分である。もう試験前にノートを貸してと言われても知らない。たまには痛い目を見せないと駄目だ。甘やかしていたらみんなのためにならないし。ネコ帽子はめぐねえの補修送りだろう。・・・駄目だ、ご褒美だった。
まったく、不真面目軍団め。
まあ、とにかく私は一人だった。
どうせみんなもいないし、疲れているからさっさと下校する。
ふらふら、ふらふら。登校したときと何も変わらない、疲れたふらふらウォーク。・・・いや、登校時はふらふらしていたんだっけ?思い出せない。
ふらふら、ふらふら。下校中。
今日は何してたんだっけか、掃除だっけ。思い出せない。
学校は臭いんだっけ? 何で、突飛な話。
・・・みんなには会ったっけ?みんなって誰。
私今日どこ行ったの?どこに帰ってるの?
ふらふら、ふらふら。私は、ああ、私の名前は何だっただろうか。
・・・まあ、とにかく思い出せない。
ふらふら、ふらふら。
少しずつ学校の探索が進んでいる模様。次回あたりから高校組の出番もちらほらと。
そのころのるーちゃんご一行、民家を借りて
「なあ、さっきからゾン子さんがひたすらリーダーって書きなぐってるやつ、あれ何なんだ?」
あれは、いつか喰ってやるリスト。
「え、俺食われるの?」
「ヴァァァァァァァァァァア」
喧嘩してると食べちゃうぞ、にへ。
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第11話 いきりょう
とある雨の日、誰かさんの退場回です。冒頭だけ貴依さん。
「ちっくしょう・・・さっさと引き連れてる連中共々下校してくれやがれよ、ポニテェ!」
油断だった。順調に広がりつつあった安全圏に調子に乗ってたんだ。シャワーを浴びて、なんとなく教室の方をふらふらしてて、それで・・・。
気付いたらバリケードは崩壊していて、私はクラスメイトだった連中に追い込まれて教室での立てこもりを余儀なくされていた。これじゃあ由紀達が無事なのかもわからないし、そもそも自分がいつまで安全に立てこもっていられるのかすらわからない。
愚鈍なバケモノ共だけならドアと机で凌げそうだが、今もやらた元気にドアを叩き、攻撃を続けるポニーテールな我が友人。あいつはやばい。一人だけ他より動きがしっかりしているし、生前ほどじゃないんだろうが中々速い。
「き・・・い・・・・・・」
「・・・・・・え?」
あいつの声。私を呼んだ?
「ノートは・・・貸してあげないィ・・・・・・」
喋ってやがる。・・・ひょっとして、あいつ生きてるのか?だから動きがしっかりしていた?
そう思った瞬間、私は急いでドア側に積んだ机を崩し始めた。はやくあいつを中に入れないと・・・。あいつがバケモノに囲まれてしまう、急がないと・・・・・・ッ。
「おいポニテッ・・・
「ガァアアアアアッ!!」
・・・・・・校舎の中で、机を動かすような音がした。
リーダーを仲間に加えてモールを後にしたるーちゃんご一行は、安全策を主張するリーダー(車酔い75という割と重度のデメリットを持っていた)によって車での強行突破を禁止されており、学校を目指して数日かけて少しずつ進んでいる状態でした。るーちゃん自身も、案外余裕のあるサバイバル生活に慣れてきたため変に急いでモール突撃のような事故を起こすよりも、少しずつでも安全に確実に進んでいこうと決めていたので意見の衝突はありませんでした。どうせ最も遅いゾン子さんに合わせて移動したとしても二週間はかかりません。
そんなこんなであちこちの民家などを制圧して泊まりつつ、徐々に学校へと近づいてきた一行ですが、この日はあいにくの雨です。濡れるのが嫌だから動きたくない、この意見は三人とも一致していたため、今日は民家で雨宿りです。恵飛須沢なんて珍しい表札のこの家の住人たちは既に隣人達共々るーちゃんが庭先に埋めてしまったため、この家は安全地帯となっています。
民家を制圧したるーちゃん達はみんな思い思いに暇を潰しています。リーダーさんは食料や使えそうなものを求めて家の中を物色しており、ゾン子さんはこの家の娘さんの部屋と思われる場所に入り込み、漫画を読み漁っています(内容を理解できているかはすこぶる怪しいところですが)。るーちゃんはどうしているかというと、先行偵察を行おうと考えていました。思えば目的地である私立巡ヶ丘学院高等学校の様子はまだ全くわかっていません。姉妹の絆(なのかどうかよくわからない謎の感覚)によってりーねーがまだ生きているっぽいことはだいたいわかるのですが、詳しい状況はやはりあらかじめ知っておきたいものです。
るーちゃんは夕食後くらいから正座して精神を集中し、その魂だけを身体から離脱させました。所謂生霊です。幽体離脱255のなせる人知を超えた高等技能でした。
こうして一時的に魂だけの存在となったるーちゃんは、肉体の護りをゾン子さんとリーダーさんに任せると(日頃の恨みと襲い掛かったゾン子さんは何故かオートで動き出したるーちゃんボディの反撃にあい一度轟沈。後日ノートに防衛する必要はなかったのではと疑問を書き記している)、さっそく学校へ向かっていきました。霊体であるるーちゃんには空中を自在に走り回ることなど造作もありません。学校目指して一直線に空を駆けていきました。
さあ、ついにやってきました私立巡ヶ丘学院高等学校。
雨宿りのためなのか、多くの生徒や職員のみなさんが校内にひしめきあっていました。生存者には大変危険な状態です。るーちゃんは生徒や先生方に見つからないようにダンボールを被って忍び込みます。気分は足の無い爬虫類です。待たせたな、にへ。
まずは下から順番に見ていこうと考えたるーちゃん。構造解析255により瞬時に地下の存在を看破すると、シャッターを潜り下へと向かっていきます。しばらく進んでいくと、怪我をした女性が倒れていました。どうやら目の前にある薬箱を開けようとして力尽きたようです。とりあえず箱を開けてみたるーちゃん。多少暗い程度であれば暗視255でばっちり見えるのですが、薬そのものが何が何だかわかりません。薬学255のるーちゃんでもわからないということは、世に出回っている代物ではないのでしょう。これではどれを使おうとしていたのかわからないので、直感に任せて適当にいくつか女性さん(の死体かもしれない。生気は感じられないし、そもそも既に噛まれている)に打ち込んでおきます。きっとこの中のどれかが必要だったのでしょうし、せめてもの手向けです。るーちゃんは女性さんに手を合わせると、他の探索に移りました。もしかしたら生きてたかもですが、るーちゃんはその辺けっこうアバウトです。
周りを一通り調べてみると、この地下には随分とたくさんの食料や資源が溜め込まれていることがわかりました。これなら生存者が15人くらいいたとしても一ヶ月くらい大丈夫だろうなとるーちゃんは判断しました。
あいつらが入り込んで備蓄に悪さをしないようにシャッターをしっかり閉めたるーちゃん。次は校舎の上のほうを見て回ります。再びダンボールを装備すると、階段をかさかさ上がっていきました。
上の階へと上っていくと、机の塊が崩れ去っており、あいつらが続々突破していっています。多分バリケードか何かで、生存者はこの奥だなと判断したるーちゃんは早速机を積み直し、バリケードの復旧を試みます。作業音に気付いて廊下や教室、果ては上の階からもあいつらが近づいてきますが、群がってきた奴らは生霊パワーで呪殺します。るーちゃんが怨めしげな表情で睨みつけると、それを見たものたちは次々と泡を吹いて倒れ、痙攣し、やがて動かなくなります。るーちゃんは呪術も255、迷信深いアフリカへ行っても通用します。
一通り邪魔者を片付けると、バリケードの修復をしっかり終えてるーちゃんは先へ進みます。もはやバリケードを突破して進んだあいつらも、中にいるであろう生存者たちもみんな袋のネズミです。るーちゃんからは逃げられない。
そうして三階まで上がってくると、あいつらが群がっている場所がありました。どうやら生存者はあの辺に立てこもっているようです。一つの扉を護るようにシャベルを振り回す人影が見えます。放置して帰ると後でりーねーに怒られそうなので、るーちゃんも謎のダンボールさんとして扉防衛戦に参戦です。群れを体当たりで蹴散らしながら合流すると、シャベルを振り回していたのはジャージ姿の青年でした。腕にけっこう酷い怪我を負っているようですが、今のところは特に問題もなく戦っているようです。・・・ただ、なんか透けてる気がするので若干不安ですが。
とりあえずシャベルでダンボール粉砕されたらたまったもんじゃないので、味方アピールは必須です。群がる邪魔者をポルターガイストして窓からぶん投げてから、るーちゃんですよー、助太刀ですよー、とご挨拶です。例の如く相手の名前は右から入って左へ抜けていったためるーちゃんは把握しませんでしたが、どうやら彼はこの学校に憑いている地縛霊のようでした。霊体仲間です。るーちゃんはとりあえず彼を先輩さんと呼んでおくことにしました。間違いなく彼のほうが霊体歴が長いからです。先輩さんはまだ生きている後輩さんたちを守るためにシャベルを振り回して戦っていたのです。珍しくいい人に会いました。普段会う人がモヒカンとかばっかりなだけかもですが。
るーちゃんと先輩さんはなおも群がってくるあいつら相手に力を合わせて戦います。先輩さんは全力でシャベルを振るい、るーちゃんは剛の拳で闘気を飛ばして敵を粉砕します。波ァ!って感じです。たちまち敵はバラバラに弾け、盛大に吹き飛んでいきます。
数分も戦えばもう敵は3階に残っていませんでした。しかし、先輩さんもるーちゃんもいい感じに消滅しかけています。身体から離れている上に無意味に人間離れした大技ばかり使いすぎたツケがまわってきたようです。先輩さんの場合は単に現世に留まっていられるエネルギーを使い果たしたのでしょう。所詮は人間です。
先輩さんは扉の横に立てかけるようにシャベルを置くと、るーちゃんにみんなを頼むと言い残し、扉の向こうにいるであろう後輩達を一瞥してから消滅していきました。るーちゃんは先輩さんのいた場所に手を合わせると、自分も消滅してしまわないうちに本体が待っている恵飛須沢家目指して再び空中を全力疾走です。
るーちゃんが無事に帰還すると、ゾン子さんとリーダーさんがるーちゃんボディの前で仲良くダウンしていました。どうやら何かの拍子にるーちゃんの自動迎撃に引っかかって壊滅したようです。こんな状態では先行偵察の結果を話しても無駄です。
るーちゃんは呆れた溜息をつくと、娘さんの部屋のベッドに潜り込み、すやすやと眠りにつくのでした。
さよなら先輩。・・・というわけで彼の退場回でした。南無。
どこから湧いてきたって?・・・いたじゃないですか、第2話あとがきとか、りーねー回とか・・・
その後の学園生活部
「群がってたあいつらが壊滅してやがる・・・」
「いったい誰がこんな・・・まさか、めぐねえ・・・・・・?」
「・・・へくちっ! ・・・・・・暗い・・・寒い・・・ひとりぼっち、・・・ぐすん」
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第12話 むだづかい
あれから更に数日かけて先へ進んでいたるーちゃん一行。随分学校へと近づいてきています。
本日はスーパーを占領して拠点としているようです。真面目に食料を選別するリーダーさんを尻目にるーちゃんとゾン子さんは缶詰でジェンガを行っていました。どう考えても盛大な無駄遣いなのですが、どうせりーねーと合流した後はこんなことできません。怒られるのが目に見えています。今のうちにやりたい放題しておくのが正解だとるーちゃんは判断したようでした。
缶詰の山を贅沢かつ盛大にがっしゃーんと崩していきます。こんな騒音立てたらどう考えても危険極まりないのですが、すっかりサバイバル生活に飽きたるーちゃんはそんなことは気にしませんでした。るーちゃんも疲れているのでしょう。
何であろうとくるならきやがれです。なんて考えていたからか、スーパーの駐車場からわらわらわらわらとあいつらが飛び出してきます。どうやらすっかりこのスーパーは包囲されていたようでした。
リーダーさんがどうしようどうしようと頭を抱えてぐるぐるしています。るーちゃんも便乗してぐるぐると回ります、にへ。一人だけ回らなかった空気の読めないゾン子さんはるーちゃんに簀巻きにされた挙句高速帯回しごっこを敢行されてまるで独楽のように高速回転、そのままあいつらの群れに突っこんでダウンしました。人間だったらそのままあいつらの餌になって死んでいたでしょう、とっくの昔に噛まれていたのは不幸中の幸いです。
リーダーさんが「遊んでる場合か!」と怒り出したのでるーちゃんはこの場を突破すべく頭を捻ります。まずはその辺の棚からケチャップを取り出すとリーダーさん目掛けてぶちまけました。これであいつらに化けて突破しようということのようです。
しかしリーダーさんはゾンビなウォークはできないので無駄です。服を汚しただけでした。
続けてるーちゃんはリーダーさんに西瓜を運んでこさせると、次々とあいつら目掛けて転がしていきます。
るーちゃんのボウリング技能は数値換算すれば255、一般的なプロボウラーの90を遥かに上回ります。転がっていく西瓜は時折見事なカーブを描き、あいつらを次々と蹴散らしていきます。ゾン子さんも巻き添えでぶっ飛んでいってしまった気もしますがるーちゃんは気にしません。そんなところに寝てるのが悪いのです。お前が転がしたんだろうが的な視線も気にしません。るーちゃんは過去は振り返らないのです。
それでもやってくるあいつらに対しては近くの棚にあった消費期限切れのかまぼこで殴りつけます。るーちゃんの圧倒的な物理攻撃力は腐ったかまぼこすら凶器に変えてしまいます。
何体かのあいつらの死因はかまぼことなってしまい、あの世で閻魔様が笑いすぎて腸捻転になって業務が大変滞ったとか。三途の川の向こう側にすら被害を齎す、るーちゃんの絶大な理不尽さがよくわかります。
さあ、まだまだあいつらはやってきます。るーちゃんはリーダーさんに花火を持ってくるように言いつけると、カートにフライパンやガスボンベを詰め込み、包丁を括り付け、六番レジ目掛けて突進攻撃を敢行します。
別にこのスーパーはるーちゃんの店でもなんでもないですし、むしろ誰よりも空き放題荒らしまわって商品をかなり無駄遣いしているのですが、こうしているとなんとなく店を守ってる店長のような気分が味わえるのだとか。でぃす いず まい すとあー。
迫り来るあいつらをばったばったとなぎ倒し、轢き潰し、撥ね飛ばす。るーちゃんと武装カートはまさに獅子奮迅、縦横無尽の大活躍を見せていますが、まだあいつらは全滅するそぶりを見せません。まだまだぞろぞろやってきます。
どういうことだと外を見てみると、外でゾン子さんが『大安売り』と書かれた旗を振り回しています。安売りに惹かれて元主婦の皆さんが大集結してしまったようです。どうやらゾン子さん、さっきのボウリング攻撃を根に持っていたようでした。
るーちゃんは全く躊躇せずにるーちゃんメイスを投擲(流石に威力は抑えているが)、ゾン子さんは再び宙を舞う羽目になりました。逆らうものには慈悲はないのです。暴君るーちゃん再び、がおー。
増援を呼んでいた元は断ちましたが、来店してきてしまったやつらは帰ってはくれません。るーちゃんは武装カートを店のガラス戸目掛けて特攻させてドンガラガシャンと盛大な破砕音を発生させて時間を稼ぐと、リーダーさんが持ってきた花火をひったくり、ガムテープを取り出し何やら作業を始めました。
カートに気を取られていたあいつらが店内に向き直ると、るーちゃんはフルアーマー化していました。全身に装甲を装備し、がっしゃがっしゃと歩いてきます。リーダーさんの何してんだこいつ的な視線はいつものことなので気にしません。
あいつらがるーちゃん目掛けて歩き出すと、るーちゃんの全身の装甲ががぱりと開き、中から円筒状のものが次々とせり出してきます。手作り感こそ漂っていますが、誰がどう見てもミサイルでした。かつて制圧した町工場で作っていたものが、火薬を得てとうとう実戦投入されてしまったようです。割とルールには厳しいりーねーは当然のことですがるーちゃんに火遊びなど許してくれませんでした(許してくれても困りますが)。止めるものがいなくなればやってみたくなるのが子供というものです。るーちゃんは装甲の下でにへ~と笑うと、ミサイルの発射スイッチに手をかけました。
さあ、ミサイルが放たれていきます。発射されたミサイルは次々と買い物客に直撃するとなんともアルミニウム感漂う閃光と共に炸裂。周囲に釘と燃料、そして火を撒き散らします。爆炎と高速で撒き散らされる釘が大規模な破壊を齎し、あっという間に店内に群れていたあいつらを鎮圧してしまいます。全身を釘と炸裂したミサイルの残骸に貫かれたあいつらが、火達磨になって天に昇っていく様は完全に地獄絵図でした。後ろで見ていたリーダーさんもあんまりな有様にドン引きです。後でるーちゃんを叱らねばなるまいと大人として決意を固めていました。
惨劇を巻き起こしながらも無事にあいつらを撃退したるーちゃん。ゾン子さんと一緒に消火器抱えて後始末です。加減していたとはいえるーちゃんメイスの直撃を受けたゾン子さんですが、しばらく休んだら復活していました。毎日毎日事あるごとにるーちゃんにボコられているだけあって耐久性は普通のあいつらの比ではありません。鍛え方が違います。
火を消し終えたらリーダーさんによるお説教タイムです。子供の火遊びなどけしからん、というか流石にアレは無いだろ普通に考えて、と大層ご立腹なリーダーさんに火薬や燃料の類は没収されてしまいました。ミサイル攻撃や火遊びも禁止を言い渡されてしまいます。せっかく頑張ってあいつら撃退したのに、調子に乗りすぎてお説教を受けてすっかり意気消沈したるーちゃんは、日頃の恨みとばかりに嬉々として説教に参加していたゾン子さん(正直唸ってただけだが)に八つ当たりのボディーブローを叩き込むと、無駄に達筆な反省文を提出してから不貞寝を決め込むのでした。
子供のミサイル遊びダメ絶対、普通に火遊びです。食べ物で遊ぶのもダメ絶対、かまぼこ以外はまだ食べられます。
るーちゃんは精神は普通にお子様寄りなのでときどきこういうことをしでかします。ちゃんと叱ってあげましょう。
その頃の学園生活部
「校庭でさ、キャンプファイアーとかしてたらあいつら勝手に飛び込んで全滅したりしないかなぁ・・・」
「ダメだよくるみちゃん、消防車来ちゃうよ!」
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第13話 ごうりゅう
住宅街を滅ぼしたり道中で食料でジェンガしたり散々周辺に被害を齎しながらも、ついにるーちゃん一行は私立巡ヶ丘学院高等学校へと到着しました。相変わらずたくさんの元生徒や職員がうろついており、登校するのは容易なことではなさそうです。跳躍力255のるーちゃんは最悪校庭から屋上まで跳び上がればそれで済むのですが、他の二人はそうもいきません。るーちゃんはまず十数人ほどに分身すると、それらを囮にしてあいつらをひきつけ始めました。
分身によって作り出されたるーちゃんの群れは騒音を立てて騒ぎながらグラウンドを練り歩き、外や入り口にいたあいつらの大半を引きつけます。おびき出されたあいつらがグラウンドに並ぶと、いつの間にか体操着に着替えたるーちゃん11体が迎え撃つようにずらりと整列していました。着替え255のるーちゃんにサービスシーンはありません。一瞬でお着替え完了です。審判の格好をしたるーちゃんがどこからか取り出したホイッスルを鳴らすと、るーちゃん軍団は校庭に転がっていたボールであいつら相手にサッカーを始めました。無論るーちゃんのサッカーがただのサッカーで済むはずもなく、ボールを奪いにかかったあいつらは蹴散らされ、吹き飛ばされ、ボールごとゴールに叩き込まれていきます。るーちゃんはサッカーや少林寺も255のスポーツ万能少女なのです。香港映画みたいなとんでもアクションなどお手のもの、やりたい放題です。あっという間にゴールはあいつらで埋まってしまいました。
手早く校庭の邪魔者を処理したるーちゃんは校舎の中で唖然としているツインテシャベルを一瞥すると、同じく唖然としている仲間達にさっさと行けと通達します。あくまで今の分身は囮であり、殲滅戦をするつもりなんてるーちゃんにはありません。
校舎に入った一行は、るーちゃんの案内でバリケードの方へと進んでいきます。生存者がいることは先行偵察のときに先輩さんから聞いていたので、ゾン子さんは現在謎のホッケーマスク仕様です。不審者感を軽減するために今回はコートはオミットしています。
迫り来る元生徒のみなさんを見事なCQCで無力化したるーちゃんは、仲間たちを先導して階段を上がっていきます。と、突っ走って来たらしい何者かと出会い頭に衝突してしまいます。
るーちゃんと衝突したのは先ほどの唖然ツインテシャベルさんです。かなりの勢いで突っこんできたようで、衝突の勢いそのままで後方へとぶっ飛んでいきます。無論るーちゃんは小揺るぎもしません。グリップ力が違います。255の貫禄です。
しばらく廊下をごろごろごろーっと転がっていった唖然衝突ツインテシャベルさんは、がばっと起き上がると再びこちらへ走ってきます。二度もぶつかられては堪ったものではないと、るーちゃん迎撃体制です。これは唖然衝突ツインテシャベルさんもただではすまないでしょう。
案の定迎撃の一撃代わりにるーちゃんに投げ飛ばされたリーダーさんが直撃し、再び廊下をごろごろごろごろーっと転がっていきます。打ち所が悪かったらしく、リーダーさんは起き上がってきません。とばっちりで可哀想に。
唖然衝突ツインテシャベルさんもしばらく悶絶していましたが、どうにか起き上がりまた突撃してきました。表情を見るにもう意地になって突っこんできてるようです。
対するるーちゃんはグラウンドで拾っていたバットを構えます。打ち返す気満々です。
流石に気の毒に思ったのか、唖然衝突ツインテシャベルさんを救うべくるーちゃんに襲いかかったゾン子さんは鳩尾にバットの一撃を受けて即座に退場です。るーちゃんはホッケーマスクに落書きをする余裕すらあります。『ジョージ・ケツメル』と書かれていますが、別にゾン子さんは審判ではありませんし、このエクストリームスポーツは野球ではありません。
そうこう言っているうちに唖然衝突ツインテシャベルさんは見事にホームランされ、廊下の向こうに消えていきます。「なんでええええええええっ!?」という彼女の悲鳴だけがむなしく響き渡りました。
廊下でのエクストリームスポーツを堪能したるーちゃんはそろそろ先に進もうと、自ら撃破した三人を叩き起こしていきます。とりあえずここの生存者であるらしいツインテシャベルさんにお話をしてみることにしたのでした。
「とりあえず、なんなんだお前らは? ・・・ああ、変人集団なのは言われなくてもわかるからそれ以外で頼む」
開幕から辛辣でした。
とりあえずるーちゃんはるーちゃんですよーと恒例の何も伝わらない挨拶をした後、自分がこの学校の若狭悠里という生徒(一瞬生物と言いそうになったのはるーちゃんの秘密だ)の妹であること、残る二人は荷物持ち担当の変人たちであることを簡潔に伝えます。荷物持ち共の猛抗議など聞こえません。あーあー。
るーちゃんがりーさんの妹であると知ったツインテシャベルさんは5秒ほど硬直すると、慌ててるーちゃんを抱えて屋上目指して猛ダッシュです。まだ自分は名乗っていないことも、荷物持ち二人の存在も頭から抜け落ちてしまったようでした。猛抗議なんて私は聞いてないぞ、あーあー・・・ってな。
「りーさん!」
勢いよく屋上の扉を開け放ったツインテシャベルさんは勢いそのまま菜園の手入れをしていたりーねーめがけて突撃します。当のりーねーは何してんだこいつはみたいな顔してますがそんなのお構いなしです。
「そんなに慌ててどうしたのよ・・・?」
「りーさん!るーちゃんだ!るーちゃんがいたぞ!!」
ツインテシャベルが抱えたるーちゃんをりーさんに差し出します。るーちゃんもるーちゃんですよー、とご挨拶です。久々に見たりーねーはちょっとだけ痩せた気もしますが、一応元気そうに見えます。
しかしりーねー、るーちゃんを見てもノーリアクションです。挙句のはてにしばらくるーちゃんを見つめてから一言。
「くるみ・・・この子だれ?」
それを聞いたるーちゃん、一瞬だけ硬直すると同じく固まったくるみの手を振りほどき、ゆっくりとりーねーに近づいていきます。にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべてはいますが、その笑みには陰が差し、額には青筋が浮かび、いつの間にかその手にはロープや釘が握られています。
どうやらりーねーの寿命が尽きるときが来たようです・・・・・・。
到着早々るーちゃんがキレました。まあ苦労して再会した姉にすっかり忘れ去られてたら誰でも怒ります。
本日のあいつら、ゴールネットに絡みながら
「・・・・・・・・・・・・・・・(我々をここまで苛める必要はあったのだろうか)」
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第14話 おしおき
怒ったるーちゃんのやらかしタイムを止められる人はいるのでしょうか・・・。
学園生活部の部室は形容しがたい嫌な空気に包まれていました。
部屋の中心にはぐるぐると縛り上げられたりーねーが吊り下げられ、周囲を囲む怪しげなローブ(音楽室のカーテンを拝借した)に身を包んだるーちゃんの群れがぶつぶつと何かを呟いています。森ねずみー、森ねずみー。さっきまでサッカーやってた分身の使いまわしですが一切消耗した様子はありません。
部屋の中には資源の消費など知らぬと言わんばかりに大量の蝋燭が設置され、どこから持ち込んだのか山羊の頭骨やら水晶玉やらがそこかしこに転がっています。
床には掃除する人の事など一切考慮していない複雑かつ大規模な魔方陣が描かれ、拘束された鳩がばたばたともがいています。
後は鳩諸共りーねーを生贄に捧げれば悪魔でも何でも出てきそうな雰囲気はばっちりです。
さあ、そんな異様な光景を見たツインテシャベルさん、SANチェックお願いします。
「・・・・・・・・・・・・片付けろ」
激おこでした。
掃除も255な感じで大得意なるーちゃん。あっという間にぶら下がりーねー以外は片付け、部室は新築同然です。誰がここまでやれと言ったレベルのぴかぴか具合にツインテシャベルさん(くるみと言うらしい)もびっくり仰天です。ぶら下がったままのりーさんの救助すら忘れている始末でした。
続けてるーちゃんは窓から外へと飛び出すと、巨大な釜を抱えて帰ってきました。今度は茹でる気満々です。
「・・・・・・それも却下」
くるみさんも容赦なくばっさりいきます。
るーちゃんは軽く舌打ちすると釜を外へと投擲。ようやくゴールから這い出てきたあいつらに直撃して再びゴールへ叩き込みました。今回に関しては通行の邪魔すらしていない彼らは完全に被害者なのですが、同情するものはいない辺りきっとみんなの心は荒んでます。余裕があるのはるーちゃんただ一人です。
ならばと大きな釘を取り出したるーちゃん。しかし金槌を取り出して、まずは親指からーなんて考えていたせいか、くるみさんが慌てて釘を没収します。なぜわかった的な表情でるーちゃんが佇んでいたら、「くけけけけなんてやってたらすぐわかるぞ」と言われました。るーちゃん無意識のうちに昭和の田舎な気分だったようです。
その後も医療用メス(くるみさんが窓から投擲した)、熱々のおでん(勿体無いと言い出したくるみさんに没収された)、鼠花火(くるみさんに火遊びを怒られた)、生きた蛸(くるみさんがギャーギャー騒いでるうちに器用にドアを開けどこかへ逃げていった)などなどあれこれ取り出すたびにくるみさんの執拗な妨害が入り、ことごとく不発に終わってしまいます。時間ばかりが無駄に過ぎていきました・・・。
「というか、とりあえずりーさんを降ろさないか?いつまで吊るしてるんだよ・・・」
そうは言われてもるーちゃんまだ何もしていません。超不満そうに頬を膨らませています。
降ろしたりーねーを屋上まで引き摺っていくと、そのまま投擲の体勢にはいります。くるみさんが待て待て待て待て言ってますが、このくらいはしないとりーねーも思い出さないとるーちゃんは考えています。時には荒療治も必要なのです。一応パラシュート(ただしるーちゃんお手製)は背負わせていますし、何も問題ありません。
「いや、縛られてたらパラシュートひらけないだろ。やめてさしあげろ頼むから」
るーちゃんだったら空中で縄抜けできるので余裕なのですが、確かにくるみさんの言うことももっともです。パラシュート展開要員として、るーちゃんもりーねーの背中にセッティングされました。二人仲良く空の旅を満喫し、姉妹の絆を取り戻そうという筋書きです。
流石に自分自身ごとりーねーを投擲するのも何か変なため(できないとは言わないのがるーちゃんクオリティ)若狭姉妹射出用に大型の投石機も設置してさあ準備万端です。後はくるみさんがストッパーを外せば姉妹仲良くお空の星というわけです。るーちゃんは期待の眼差しをくるみさんに向けます。
しかしそんな目で見られてもくるみさん大困惑です。「え、私が撃つのかよこれ!?」とか言いながら周囲を跳ね回り中々のテンパりぶりを見せています。りーねーが「跳ねてる暇があったら私を助けろ脳筋」的な怨めしさMAXな視線を向けてますがテンパりすぎて完全無視です。まるで気付く様子がありません。
そんなとき、屋上の扉が勢いよく開き、何者かがすごい勢いで飛び出してきました。奇妙な帽子が特徴的な小柄な女性さんのようです。「くるみちゃあああああああああん!部室が、部室が凄いことになってるよーっ!!」なんて叫びながらくるみさん目掛けて飛び込んできます。あまりの勢いに二人は揃って転倒、その勢いで投石機のストッパーは外れてしまいました。
「あ」
というのは誰の台詞だったのでしょう。りーねーとるーちゃんは帽子さんなど比較にならないようなものすごい勢いで屋上から発射され、空の彼方へ行ってしまいました。屋上の二人は呆然と空飛ぶ姉妹を見送っています。状況がいまいちよく理解できていないようでした。
るーちゃんは屋上に向かって軽く手を振ると、手早くパラシュートを開く準備を始めました。
流石に絶叫マシーン過ぎたのか、りーねーは泡吹いて意識不明の重体なので頼れるのは自分だけです。仲良く空の旅とはなんだったのか。
無事にパラシュートを展開したるーちゃんは、仕方ないので一人で空の旅を楽しむことにしたのでした。
「おいおいどうすんだ、りーさん飛んでっちまったぞ!」
「え?なんでそんなことになってたの!?」
「りーさんが妹を怒らせたらしい」
「妹ちゃん来てたんだ・・・というかりーさんリアルお姉さん!?」
「なんだかわけのわからんやつだったけどな」
「面白い子なんだね!」
「うん、まあ・・・面白い、のか・・・・・・?」
屋上組はぐだぐだ喋っていて頼りにならないぞ、頑張れりーさん。
あとがき
少ない出番でもきっちりやらかしていくゆきちゃんは賑やかし要員の鑑。
りーさん視点:わけのわからない子供が襲ってくる、やばい
るーちゃん視点:妹を忘れ去っていなさった、ひどい
どちらにとっても理不尽な話です。
そのころの荷物持ち共、バリケード前にて
「あいつら、何か忘れてたりしないかねぇ・・・・・・」
「グオオォォォ・・・・・・」
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休み時間3 その頃の皆さん
るーちゃんの出番は最後にちょっとだけ。
そのころの3-C
「オーイ、日直ダレダー?」
そんな彼の問いに答えるものはクラスにいない。黒板に書かれた日直の名はここしばらく丈槍から変わっていないからだ。誰もが、黒板を見ろ黒板を、っといった様子で彼を放置しているというわけだ。
どうも、ポニテです。誰に対する挨拶なのかはよくわからないけど、何故だか必要な気がしたのだから仕方ない。やっぱり疲れが取れていないのかもしれないが。
最近、私の友人達は教室に来なくなった。カチューシャも、ネコ帽子(黒板を凝視していたら彼女が丈槍だったような気がしてきたが、はっきりしない)も、あの夜遭遇したチョーカーも。
あの日、雨で帰れなくなった私達は、なんとなく感じた非日常感から誰ともなしに3階を強襲しようという空気になり、なんとなく上に上がっていった(今覚えば極めて馬鹿馬鹿しい騒動である。受験生が集団で学校で暴れるような高校があってたまるか)。
何故か積み重なっていた机は、どうせ二年生の悪戯だろうという話になって蹴散らされ、私達は三階へ進んでいった。自分達のことは棚に上げていたわけである。
そうしたら、いたのだ。何故か3階をうろついている不審なチョーカーが。・・・・・・まあ、我が友人なのだが。チョーカーは私を見るなり逃げ出し、二年生の教室に飛び込んだ。あの逃げっぷりはよっぽど後ろめたいことがあるに違いないと追いかけていったら、あの大馬鹿者はあろうことか窓を越え、3階から飛び降りるという冗談では済まない方法で私から逃げていった。慌てて下を見てみたら、平然と校舎に駆け込んでいって唖然としたものである。心配をかけてくれやがって、まったく。
しかし、それ以来学校でも、街中でも、チョーカーを見かけることは全く無くなった。
考えてみれば、しばらくカチューシャも見かけていないし、ネコ帽子もたまに声がするが授業にはまったく出てこない。みんな教室にやってこなくなってしまったのだ。
理由はわからない。逃げ隠れしているチョーカーと何か関係あるのだろうか。・・・わからない。寂しいわけではないが、なんとなくもやもやするのだ。
「日直ダr
黒板消しで殴って黙らせたが、煩くて自習の邪魔だからであって八つ当たりではない。
断じて、友人達からハブられて怒っているわけではないのだ。
そのころのクラウドさん
「待ってくれ、助けて、ギャアアアアッ!!」
また一人、彼らの仲間へと加えてやった。彼もまた、共有され拡散された意識総体に加わり、人類の天国への足がかりとなるだろう。これで彼の救済は約束された。呻き声をあげてふらふらと立ち上がった男を見て私は確信する。
私の見立てでは、彼らとなることは自己の拡散であり、他者との合一であり、人類の進化であり、そして救済である。彼は羨むべき新時代のネットワークに接続され、天国へと至る資格を得たのだ。
私も、すぐにでも彼らに加わりたいという衝動に駆られる。だが、まだいけない。私にはこの人類の新たな在り様の為に成すべきことがまだ残っている。それを成し遂げられなければ、天国へ至る雲とて地に漂うあやふやな霧にすぎない存在に成り果ててしまう。
神との合一、それこそがクラウドの最終目的であり、彼らの、いや我らの到達するべき姿。全ての人類があの
神の、幼くも力強い、可愛らしくも畏ろしい、可憐ながらも苛烈な、あの姿が思い起こされる。ああ、彼女と交わることは、どれだけの幸福を人々に齎すだろうか。彼女と一つになることで、人々はどれだけの不幸から解放されることだろうか。
神もまた、人類と交わり全てを救うことを望んでいるに違いない。私にはその手助けができるはずだ。クラウドの、彼らの本質に気付いた私でなければならないはずだ。今はその準備を進めよう。人類に至高の幸福を。
そのころのモヒカンズ、そのいち
巡ヶ丘駅前のビル、そこはモヒカン達の巣窟となっていた。彼らは気ままに騒ぎ、気ままに破壊し、気ままに殺す幸福な生活を謳歌し、この破滅的な状況を喜んでいた。彼らは真なる自由をお題目に群れ集まり、暴れまわっていた。だが、同時にその方針に限界を感じているものもいないわけではなかった。ルール無用で暴れまわりたいという欲求と現実的に集団を維持する責任の板ばさみにされた群れの頭目がいたりしていたのである。彼は、ふとより強大な統治者を欲している自分に気付いて愕然とした。より強大な統治者、それこそが自分達が不要と断じた国家であり、政府であり、為政者であったのではないかと・・・。
周囲にわらわらいる仲間のモヒカン共のように心からヒャッハーと人生を楽しむことができない苦しみ、それから逃れることは最早彼の悲願であった。
今日も彼は表面上に仲間と変わらぬ狂喜を貼り付け、己の矛盾した欲を満たしてくれる英傑を探している・・・・・・。
そのころのモール組
「私は、やっぱり外に出たい!」
「私は、圭に出て行ってほしくない!どうしても外に行くなら、私を倒していってっ!」
「・・・わかった。私は、美紀を倒してでも・・・・・・!」
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが」
「モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化形」
「アクショ~ン」
「「デュエル!!」」
MIKI LP4000 VS K LP4000
「くぅん・・・(なんぞこれ・・・)」
そのころのアルノー
くるっぽー。
そのころのモヒカンズ、そのに
駅周辺のモヒカンたちとは別の集団もまたモヒカン大増量中の巡ヶ丘では生き残っているようだった。しかしその数は駅近辺のものと比べると随分と小規模であり、士気も低いことが容易に見て取れる有様であった。
元々彼らはこの騒動の初日時点である人物に金で雇われてあのバケモノ共から依頼人を守るべく戦っていた暴走族であり、途中で発狂したのかすっかりヒャッハーになってしまった依頼人と共に各地を暴走しながら転戦していたものであった。しかしどこかの店かなにかで休憩していたところバケモノの襲撃を受け、迎撃していたところに高速で飛び回る謎の幼女が襲来。少なからぬ被害を受けることとなった。
謎幼女への報復のために出撃した一団も皆殺しにあったようで誰一人として戻らず、結果的にその勢力を大きく減らして現在へ至るというわけである。頭目さんにいたってはこの謎の幼女に強く執着しており、確実に殺すべしとその首に懸賞金までかけている始末。
そんなことしてるからか単にいかれているからか、他の生存者集団とも一切連携の取れなくなった元暴走族な一団。無駄に強大な謎幼女をぶち転がすための仲間は常に募集中、感染してなければ誰でも大歓迎の素敵な一団だとは構成員の談。彼らははたして仲間の仇を討てるのだろうか。そもそも生き残ることができるのだろうか・・・・・・。
そのころの高校地下区画
私は佐倉慈。私立巡ヶ丘学院高校の国語教師だった。・・・いや、まだ教師だ。あの子達はきっと生きているはずだし、少なくとも目の前には足を怪我しているはずなのにやたら元気に鉄パイプを振り回す私の教え子が――
「何してるの!?」
「いや、今度ポニテに会ったらあいつの足も折ってやろうと思って、練習だよレンシュー」
「確か自分で飛び降りて折ったんじゃ・・・」
「いーんだよ、あいつ去年クレープ落としたときに全員に八つ当たりしてやがったから、お互い様ってやつだよ」
思ったより元気な教え子に絶句。考えてみれば彼女達は実にアグレッシブというか、なんというか、非常に元気な個性派集団で有名だった記憶がある。こんな非常事態になってなお、そのノリと勢いは健在であるらしい(しかも、少なくとも一人は感染しているというのにだ!)。教師としては暴力性を咎めるべきか、元気で大変よろしいと安堵するべきかは悩むところである。
こんな調子で上に残してきてしまった子達も無事に生き延びていてくれればいいのだが・・・。確認を急がないと。
「貴依さん、・・・近いうちに上の様子を見てこようと思うんだけど」
「OKOK、というか様子見じゃなくて上に帰ろう。地下ってだけで何となく息苦しい気分になるというか、気が滅入るというか」
滅入ってあれかという呆れが半分。怪我している足をどうするつもりなんだろうかという疑問が半分。そうして足を見ていたからか。貴依さんは振り回していた鉄パイプを杖代わりに、器用に動き回ってみせた。
「案外片足と杖でなんとでもなるぞ。最悪両手と片足で走れるし」
お願いだから人間やめないでね。そんな意味不明な動きで突撃したらみんなが絶対びっくりするから。
大きく溜息。いろいろな意味で前前途多難だわ・・・。
そのころのご当地ヒーロー
とある病院の駐車場に、死体の山が築かれていた。それを構成している者たちは生存者感染者の区別は為されていないようで、この場所で行われた殲滅が徹底的なものであったことを静かに物語っている。もはや、この病院には動くものなど何一つとしてなかった。
・・・・・・いや、一つ、死体の山の傍らに佇む人影があった。注射器のシルエットを模したかのような特異で歪な形状の奇妙な武器を手に立っているそれは、まるで子供向けの特撮ヒーローのような姿をしていた。いや、事実ヒーローだ。ランダルコーポレーションの出資によって実現した巡ヶ丘のご当地ヒーロー、それがこの人影の正体であった。
とある地元小学生(社内では『R』と呼ばれているとかいないとか)がデザインを手がけたものであるらしいその姿はわかりやすく正義の味方であるはずなのだが、周囲の残骸の山と全身に浴びた返り血で紅く染まった姿はどこか邪悪な印象を見るものに与えるだろう。
ヒーローはしばらくその場に佇み、周囲の様子を窺っていたが、そのうち通信機を取り出すと、誰かと話し始めたようだった。通話を終えたヒーローは、最早その機能を停止した病院を一瞥すると、バイクに跨り病院を去っていった。
「引き続き感染者・・・ならびに生存者の処理を遂行する・・・・・・」
そんな奴の呟きを聞いていたものは、死体の他には何もいなかった。
そのころのるーちゃん
何故かインペリアル・マーチを垂れ流しながら、巡ヶ丘の空を漂うるーちゃん。うまいこと風を受け、いったいどこまで飛んでいくのでしょうか・・・。
るーるーるーるーるるーるーるるー、るーるーるーるーるるーるーるるー♪
ボケ連中とそれ以外で温度差がありすぎる・・・。
着々と遠足の難易度を上げていくモヒカン&やばそうな人たち。安全地帯のピアノも砕け散っているし・・・みーくん、ノリノリでデュエルしてる場合じゃないぞ!
なお結末のほど
「レヴォリューション・ファルコンで、テムジン、シーザー、アレクサンダーの三体を攻撃、レヴォリューショナル・エアレイドーッ!」
「おのれ美紀っ、・・・だがここで私を倒しても、すぐに第2第3の祠堂圭が外に出たいって言い出すであろうーッ!!」
K LP4000→2000→0→-2000
「わうっ(勝者、直樹美紀)」
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第15話 じたく
風をうまく受けて飛び続けたるーちゃんは、りーねー共々自宅の近くまで飛んできていました。学校からは大きく離れてしまっていますがるーちゃんなので仕方ありません。
せっかくだから自宅を見ておこうということで、未だに意識の戻らないりーねーを引き摺って自宅へ向かいます。さっさと起きないのが悪いのです。
こんな事態になってからけっこう日も経っているので家に両親がいることは多分無いでしょうが、もしかしたらということもあります。るーちゃんは徐々に早歩きになり、りーねーへのダメージが徐々に上昇していきます。無論気にしません。さっさと起きないのが悪いのです。
自宅前まで来てみると、大量の死体が転がっていました。どうやら誰かがあいつらと戦ったようです。遺体は皆頭や首に切り傷を負っており、刃物を持った何者かが近くにいることがわかります。危険人物だと面倒なので、るーちゃんはさっさと自宅に入ることにしました。久方ぶりのただいまです。りーねーは無言の帰宅ですが、さっさと起きないのがわr――
案の定というか、なんというか、家の中には父上も母上もいらっしゃらないようでした。既にどこかに避難しているのか、あるいは・・・・・・。るーちゃんは考えることをやめました。どうせ判断材料になるものはほとんどないのだから、今は生きていると信じているべきだと考えたからです。便りが無いのは無事な証拠、るーちゃんは両親を信じます。
りーねーがまだ寝ていやがるため、るーちゃんは自分の部屋にいくことにしました。家の中にまではあいつらは入ってきていないようなので、まだベッドは使えるだろうと考えたようです。後のことはりーねーを寝かせてから考えるつもりのようです。
るーちゃんが自室のドアを開けると、小さな影が二つ、るーちゃん目掛けて飛び掛ってきました。首を狙った飛行する影の一撃は見事なスウェーで回避し、続くもう一体による胸への刺突は真っ向から蹴り返します。るーちゃん相手にパワー勝負などできようはずもなく、突いてきた人物は悲鳴をあげて部屋の奥へと転がっていきます。反射255心眼255近接戦闘255のるーちゃんに屋内での奇襲など通じません。
るーちゃんが転がっていった人影をよくよく見てみると、驚いたことにみくちゃんでした。どうやら校舎内で撥ね飛ばしたときには普通に生きていたようです。何でここにいるのかと聞いてみると「るーちゃんは何か起こるとわかってたみたいだったから、るーちゃんちにいれば助かるかもって思った」とのこと。そもそもよく生きてここまで来れたものだとるーちゃん感心です。
そうして話していると、さっき首を目掛けて飛んできた奴もばさばさと戻ってきました。その正体は大きな鳥で、足に刃物が括り付けてあります。こいつは若狭家で飼っていた(本人は長男であると主張している)ヨウムで、名前はラ・ネージュといいます(若狭悠里当事5歳命名)。自宅近辺の死体は彼がみくちゃんに刃物を括り付けてもらって大暴れしていた結果であったようです。みくちゃんとラ・ネージュは協力して家を守ったり食料を運び込んだりしながらるーちゃんの帰りを待っていたとのことでした。るーちゃんはラ・ネージュはとっくの昔に野生に帰っているものと思って計算に入れていなかったので、みくちゃん共々思わぬ収穫でした。
今後のプランを大まかに考えたるーちゃんは、まずみくちゃんに筆と硯を用意させると学校に残っている面々に宛てて明日には戻るという旨の手紙を書くと、ラ・ネージュの足に結び付けて学校まで運んでもらうことにしました。これで学校側はひとまず大丈夫でしょう。
るーちゃんはラ・ネージュを送り出すついでに食料を確保するため最寄のスーパーまで行ってきます。帰ってくる頃にはりーねーも起きているでしょう。
スーパーは食料を求めてやってくる
りーねーもちょうど起きてきたようですが、るーちゃんを見るとまた発射されるんじゃないかと警戒しているあたりまだるーちゃんのことを思い出してはいないようです。単に屋上から発射された恐怖が姉妹の絆を上回っている可能性もあるかもしれませんが。
食事を済ませた三人は学校まで移動する方法について話し合っていました。若狭家の車は父上様が乗っていったきりなので、今この家には車はありません。まずは車を調達しなければまた何日もかけて歩く羽目になりかねません。緊張が解けたのか眠ってしまったみくちゃんをベッドに放り込んだるーちゃんとりーねーは、みくちゃんが起きるまで休んで、起き次第動きそうな車を探して学校に戻るというプランで合意しました。
余った時間で少し仮眠をとることにした二人は、りーねーのベッドで並んで寝転んでいました(るーちゃんのベッドにはみくちゃんがお休み中)。しばらくころころしていると、りーねーがなにやら語り出しました。
「・・・私ね、妹がいたんだ」
目の前にいます。めっちゃころころしてます。
「るーちゃんっていうの・・・」
るーちゃんですよー。るーちゃんですよー。
るーちゃんのかなり露骨なアピールをスルーしながらりーねーは語り続けます。
「私、忘れてた・・・あの子のこと・・・・・・。今まで、ずっと・・・」
いや、だから目の前にいるんですってば。名前も見た目も何一つとして変わってないのに何故わからないのか、るーちゃん不思議でしかたありません。
「ひどいよね・・・お姉ちゃんなのに・・・・・・ずるいよね、自分だけ助かって・・・・・・」
るーちゃんは何言ってんだコイツと思っているのが一目でわかるような絶妙な表情をしながら話を聞いています。表現力255の無駄遣いです。
「ごめんね、るーちゃん・・・」
今の一言でるーちゃん確信しました。りーねーの中ではるーちゃんは既に死んだことになっているのです。既に死んでいる子がいるわけがないという心理的なフィルターがかかった結果るーちゃんを謎の幼女として認識していたようでした。勝手に殺されてたるーちゃんの実は結構すぐ切れる堪忍袋の尾が限界を迎えてぷちんといったようで。唐突に起き上がったるーちゃんはりーねーに情け無用のジャイアントスイングを敢行、部屋のドアの全壊と引き換えに見事りーねーを黙らせることに成功しました。るーちゃんはプロレスも大得意、255の技量が光ります。
りーねーが再び目を覚ましたとき、るーちゃんはちょうどドアの修理を終えたところでした。大工技能255のるーちゃん、その気になれば一晩で城でも築けます。ドアの修理くらいは造作もありません。一仕事終えました的な満足げな表情をしていますが、それがドアの修理のことなのか、りーねーを投げ飛ばしたことなのか、知るのは本人ばかりなりです。
「あれ・・・るーちゃん・・・?」
知りません。聞こえません。あーあー。
このりーねーは昔からるーちゃんの暴走の巻き添えで鍛えられているのでジャイアントスイング程度ならすぐ復活してきます。耐久力だけは100超えてます。
そのころの荷物持ち二人
「結局あのまま完全放置されてるから図書館に退避したけど、案外快適だね」
「ギギギギギギギ」
「・・・たまには漫画以外も読んだらどうだい?というかそもそも読めてるのか?」
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第16話 ただいま
なおリーダーたちは一晩図書室に立てこもってた模様。
「読めねえ・・・」
恵飛須沢胡桃は困り果てていた。唐突に部室へと飛び込んできたでかい鳥(由紀が言うにはヨウムとかいう種類らしい)の足に括り付けられていた手紙と延々睨めっこを続けているのだが、現状なんの成果もないのである。こんな状況で生存者に関する情報になりえる手紙である、気付いた瞬間に大急ぎで確認したのだが、中身はそれこそ歴史の教科書とか博物館でしか見ないような見事な筆遣いの書状だったのだ。現代の若者にこんなもん読めるか!と壁にたたきつけそうになったのだが、流石にそれは勿体無いし、重要な内容だったら大変だし、とこうして書状と睨めっこを続けること数時間。既に夜は存分に更けつつあった。
「・・・・・・ぜんっぜん読めねえ」
なんで全部繋げて書いてんだよ、やらそもそもなんで筆で書いたんだよ、など、胡桃の口をついて出るのは愚痴の類ばかりである。解読はまるで進む兆しを見せなかった。
「くるみちゃん、なに見てるの~?」
「・・・手紙。読めないけどな」
見慣れないものを見ていたからだろうか、由紀が釣られてやってきたようだ。
「私も見ていい?」
「ほれ、でもゆきじゃわからないと思うぞ」
そう言うと胡桃は手紙を手渡した。由紀はそれを一通り眺めると、ふふんと得意げな顔をした。
「るーちゃんですよー。一応はらから揃ひて無事なれば、若狭の家に寄りてから学校へ戻らむと思ふ。明日には帰りてくると思へば心配無用なり。あなかしこ慌てて学校を出でてきてこちらをとぶらひせざるように願ひたてまつる・・・だってさ」
「読めるのかよ!?」
由紀は普通に読めるらしいという事実に胡桃は心底驚いた。正直なところ絶対無理だと思っていたのである。
「で、意味は?要するにどういうことなんだ?」
「え、え~と・・・はらとからが揃って、何事もなかった?」
「意味わかんねーよっ!」
どうやらただ読めただけらしい。意味がわからないのでは何の意味もないのである。
「こんなときにめぐねえはいないし・・・りーさーん!早く来てくれー!!」
ヨウムが心底馬鹿にした目でこっちを見てくるのが印象的な夜だった。
結局朝方までぐーたらしていたるーちゃんは、みくちゃんに荷物の整理(このさい自宅の私物はあらかた持ち出してしまうことにしたようである)を任せると、りーねーと共に車を調達していました。ジャイアントスイングですっかり脳の調子も良くなったらしいりーねーがるーちゃんるーちゃん言ってますが当のるーちゃんは完全無視の構えを見せています。るーちゃんのおしおきはこれからだ!
とりあえずまだ動きそうな車を探して自宅近辺をうろうろしていた若狭姉妹、ときどき現れる早起きなあいつらはりーねーが物を投げたりしてうまく注意をそらして突破していってしまうためるーちゃん割と暇を持て余してます。
そうこう進んでりーねーがまだ使えそうな車を見つける頃には、退屈が限界に達したるーちゃんは何体かのあいつらと共に鬼ごっこに興じていました。なお書くまでもないことですがるーちゃんが鬼です。必死になって車を弄くりまわしてるりーねーを背景にこれまた必死になったあいつらが逃げ惑います。健康な生活のためには適度な運動が大切だというのが持論のるーちゃんは通りすがりのあいつらの健康にもしっかり気を使える女神のような慈愛の心を持っています。嗜虐的な笑みを浮かべてメイス振り回しているのは気のせいです。
りーねーがふと背後を振り返ると、体力の限界を迎えて崩れ落ちたあいつらの群れをるーちゃんがぺしぺし叩いていました。
「るーちゃん!?危ないから離れて、離れて!」
あわてて離れるようにいいますが、るーちゃんは聞いてくれません。むしろあいつらの方がはやくるーちゃんを引き離してくれと懇願するかのような目をりーねーに向けているのが印象的でした。
物理的にるーちゃんをあいつらから引き離し、無事に車に積み込んだりーねー。運転したがるるーちゃんをどうにかこうにか助手席に押し込み、自宅へ向けて恐る恐る車を発進させました。ちょっと車を調達しに出ただけでりーねーの心労は加速度的に溜まっていきます。運転するりーねーの横顔を見たるーちゃんは、この調子だと帰宅するころにはジャイアントスイングが必要かもしれないと物騒なことを考えていました。
と、そのとき車の背後で物音がしたかと思うと、一体のあいつらが後部座席からりーねーに襲い掛かりました。突然の奇襲にりーねーがものすごい絶叫をあげます。るーちゃんがうるさそうにしてますよ。
あまりの驚きと恐怖にハンドルを右へ左へ切りまくるりーねー。当然車はとんでもなく蛇行しながら進んでいき、あまりに車内が滅茶苦茶に揺れるため襲いかかったやつもりーねーに噛み付けず、ラジオ弄ってたるーちゃんは勢いよく窓から飛び出して窓枠に引っかかり、ようやくバス攻撃から立ち直ってスーパーを脱出してきたモヒカンたちは車に撥ね飛ばされ、誰一人まともに行動できずもはや収拾がつかなくなってきました。ラジオから流れるワンワンワン放送局とやらまで何故か(別件が原因と思われるが)やたらとテンパっており、りーねーを焦らせるという点では完璧な状況が形成されています。
そんな状況でもどうにかこうにかりーねーの腕を掴むことに成功した襲撃者さん。あとは思い切り噛み付けばりーねーはおしまいです。しかしそこは威圧感255のるーちゃん、窓枠にへばりつきながらの一睨みで襲撃者さんは後部座席へ飛びのきました。可愛らしい幼女がマフィアもびっくりな眼光と可視化できそうな殺意振りまいてたらそりゃあいつらだって逃げます。しかし自由になったりーねーは再びハンドルを滅茶苦茶に回してますし、アクセルベタ踏み全力全開です。るーちゃんのいい加減にしろ的な視線すら気にしないあたり周りなんて見えてません。現実逃避87(常人25)は伊達ではありません。
そうこういってるうちに車は電柱への衝突コースを驀進していきます。こんなところで事故なんて起こされたらたまったものではないのですが、窓枠にひっかかってるだけとはいえ同乗者はるーちゃんです。どうにでもなります。おもいきり地面を蹴飛ばして余裕の軌道修正です。脚力255のるーちゃん、車の軌道を変えるなど造作もありません。
続けてどこからかフライパンを取り出すと、勢いよく車内に飛び込みながらりーねーの横頭部を殴打し、一撃でその意識を刈り取ります。手加減255でたぶん後遺症ものこりません、ばっちりです。よほど煩かったのか追い討ちで鼻先に肘を叩き込んでますがきっと大丈夫です。
そのまま思い切りブレーキを踏み込み、車を止めてはい解決。ついでに急ブレーキの勢いで後部座席にいたやつはフロントガラスを突き破り、正面の本屋に頭から突っこみました。ちょうどラジオも一曲終わりです。るーちゃんはタイミングを計ってちょうど停止するチャレンジをしていたようです。余裕255がなせるフリーダムぶりです。
りーねーが目を覚ますと、そこは見慣れた学園生活部の部室の前でした。前後に何があったのかはよく思い出せませんが、思い出せないということは大したことはしてなかっただろうし、部室の前にいるということは無事に帰ってこれたのだろうと軽く流します。なんだか鼻が痛いような感じもしますが気にしません。よほど大声をあげていたのか、喉が少し痛いのが気になりますがこれも気にしません。思い出したら正気度が削れるような予感をひしひしと感じるりーねーでした。
「でもねるーちゃん・・・なんで私引き摺られてるのかしら?」
だって起きないんだもん。
あれから運転が面倒なので車を押して自宅まで戻ったるーちゃんは、手早くみくちゃんと荷物を詰め込むと、馬力255のパワーに物を言わせて車を引き摺って学校まで戻ってきていたのでした。りーねーを部室まで引き摺る前にみくちゃんと荷物を上に運んでいたのですが、その感りーねーを車内に放置していたのは秘密です。
「さて、ようやく戻ってこれたわね」
そういいながらりーねーは部室のドアに手をかけます。「ただいまー」と言いながらおーぷんざどあです。
「だからどう考えてもお前はもう死んでるだろうがーっ!」
「グオオオオオオオオオッ!」
部室の扉を開けると、そこではシャベルを持ったツインテールとホッケーマスクが取っ組み合いの真っ最中でした。というかくるみさんとゾン子さんでした。
「何・・・これ・・・・・・」
どうやらりーねーへのストレス祭りはまだ続くようです。
没ネタや延期が多くて今回は遊んでるだけだったるーちゃん。たぶん次あたりから本格的に学園生活編なんでまたやらかすでしょうけど。
そういえば本能寺に行ってるのでしばらく滞るかもしれないとるーちゃんが申しておりました。
Q.読めない手紙に意味はないんじゃないかね?
A.リーダーさんなら読めるからそのまま出しました。
Q.そもそもあんなもんならだいたいの意味がわかるんじゃないの?
A.現代語訳担当:丈槍由紀
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第17話 ぞんこ
「・・・・・・・・・・・・・・・」
安全なはずの部室に突如現れたゾン子さんを見てフリーズしてしまったりーねーは放っておいて、るーちゃんは部屋の隅でみくちゃんといっしょに乾パンつまんでるリーダーさんに状況の説明を要求します。
「え?どうしてこうなったって?そうだなぁ、あれは俺達がバリケードを越えたあたりまで遡るんだが・・・」
昔話が始まるようです。
「・・・さて、結局バリケードを越えずに一晩過ごしてしまったわけだが」
リーダーさんとゾン子さんは図書館でぐだぐだと一晩を過ごし、ようやくバリケードまで戻ってきました。その手には図書室にあった脚立が抱えられています。これならゾン子さんでもバリケード突破できるだろうというリーダーさんの配慮でした。こうしてよっこらせっとバリケードを突破した二人の前に、ちょうど見回りに来たらしいツインテシャベルが階段から降りてきたというわけでした。
「・・・あ!ゴメン、お前らを忘れて・・・た・・・・・・!!?」
最初はすっかり荷物持ち共を忘れ去っていたことを謝っていたくるみさんですが、ゾン子さんを見ると驚愕の表情を浮かべて硬直してしまいました。何かやらかしたかと思ってゾン子さんを見たリーダーさんは、ゾン子さんが漫画読む邪魔だか何だかでホッケーマスクを外してそのまんまだったことに気がつきました。
「・・・あ、やべ」
「おい、そいつはもう手遅れなんじゃないのか・・・」
くるみさんがキッと二人を睨み付けました。学園生活部にとって危険になるなら容赦はしてくれません。慌ててホッケーマスク被っても無駄です。
「ま、待て!落ち着け!話し合おう―」
「問答無用じゃぁ!!」
シャベルを振り回して襲い掛かるくるみさん。必死で逃げ回る荷物持ち二人。いつしか戦場は部室へと移り(帽子の人は授業に行ったらしい)、そこにるーちゃん達が帰ってきたのだとか。
「戦場が部室に移りって、普通に突破されてんじゃん」
みくちゃんのなにげなく放った一言がくるみさんに突き刺さりました。ぐさって音がしそうな勢いです。見る間に萎びるくるみさん、さっきまで元気に暴れていたのにあっという間に真っ白に燃え尽きています。なんてひどいことを言うのでしょう。るーちゃんは同じことを思っていても口には出しません。寡黙255は伊達じゃないのです。
崩れ落ちたくるみさんの肩を元気出せよとでも言いたげに叩くゾン子さんですが、「そもそもお前が原因だろうがっ!」と言われると流石に言い返せません。
「まあ、そんなことはこのさいどうでもいい!」
開き直ったくるみさん。周囲のどうでもいいのかよ的な視線はスルーすることにしたようです。るーちゃんのとこまでずかずか歩いてくると、ずいと顔を近づけ「で、結局あいつはなんなんだ」と聞いてきます。
るーちゃんはだから荷物持ちだと紹介したじゃないかと軽い対応です。自分自身には被害が及ばないため適当な対応です。
そうこうくるみさんがぎゃーぎゃー騒いでいるのを聞き流していると、呆けていたりーねーが復活したようで、ゾン子さんを指差して何やら言いたげです。
「これはゾンビですk「言わせねえよ!」
言わせないそうです。くるみさんは今日もツッコミのようです。「・・・やばい、りーさんまでボケだしたら収拾がつかなくなる」とか呟いてますが最早ゾン子さん以外誰も聞いてないあたり苦労人なポジションが定着していることがよくわかって物悲しさを誘います。
「たっだいまー!」
そうこうしていると元気よく帰ってきた怪しげな帽子が一人。なんとなくネコ感漂う元気な人でした。制服を見るに高校生なのでしょうが、なんとなく雰囲気はもっと幼い感じがしています。やばい人には見えませんが、くるみさんが慌てだしたのでるーちゃんも警戒しておくことにしました。
「や、やばい。るーちゃん、そいつを隠せ!」
ゾン子さんを隠せと言われてもそんな都合よく人が一人入れる場所などありません。仕方が無いのでるーちゃんはゾン子さんを掴んだまま天井にへばりついてその場を凌ぐことにしました。忍術255のるーちゃんには容易いことですが、ゾン子さんがめっちゃもがいていることだけが心配です。
「くるみちゃん、何騒いでるの?」
「あー、いや・・・なんでもない。随分人が増えてにぎやかになったなって話してただけだ。あぁそうだ、りーさん帰ってきたぞ、りーさん」
どうにか天井の二人に注意が向かないようにとくるみさん頑張って帽子さんの気を引きます。しかし肝心のりーねーがるーちゃんのいる天井を見てます。それじゃ気付かれるだろうがと判断したるーちゃんはとっさにみくちゃんにアイコンタクト。それを受けたみくちゃんが椅子を持ち上げるとりーねーの脛めがけて思い切り叩き込みました。りーねーは一撃で轟沈してしまいましたが、とりあえず注意を逸らすことには成功したようです。帽子さんは「りーさん、大丈夫?」とそっちに向かっていったのでおっけーです。くるみさんが「何してんだお前らは」って呆れてますが気にしません。ちゃんと気は逸らせたので問題ないのです。
「くるみちゃん、りーさんが動かなくなっちゃった」
「脛に直撃したからなぁ・・・」
尊い犠牲となったりーねーを片付けたくるみさんとリーダーさん。もう気を逸らす手段残ってないぞと二人でぼそぼそ相談中です。手段その①と背もたれに書かれた椅子を振り回している幼女二人は気にしません。・・・・・・二人?
「おい待てるーちゃん、なんで降りてきてんだ」
ゾン子さんは吊るしてあるから大丈夫です。りーねー吊るしたときの設備がそのまま使えました。上でバタバタ暴れてますがしばらく我慢してもらいましょう。
「いや、待て、流石にそんなにバタバタしてたらバレるって」
「・・・・・・あれ?くるみちゃん、なんで人が吊るされてるの?」
背後から帽子。くるみさんはもう真っ青です。るーちゃんはいつでも物理的に帽子さんを黙らせられるように椅子装備みくちゃんの投擲準備に入ります。るーちゃんは使えるものは友達でも使える子なのです。当のみくちゃんも飛ぶ気満々ですが。
「いや、えーと・・・これはだな・・・」
「ん~、あれ、かっちゃん?」
ゑ?と言い訳しようとしていたくるみさんが停止します。
「あ、やっぱりかっちゃんだー!なんで吊るされてるの?」
「おいおい待て待て、かっちゃんて何だ?」
「えーとね・・・カチューシャだから、かっちゃんなんだよ」
どうやら帽子さんはゾン子さんと知り合いだったようです。
ゾン子さんは在校生でした。ゆきちゃんは変わり果てた(?)友人をどうするのでしょうか。
くるみちゃんが苦労人気質で書いてて楽しい今日この頃。
世間ではモンハンが発売したりしてますね。師走は不定期更新になるかもかもです。
そのころの3-C
「日直・・・」
「ソコニカイテアルダロ。コクバンヲミロー」
クラスメイトがでかい鳥と喋っているように見えるのだが、やはり私は疲れているのだろうか。
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第18話 たいけつ
A.未だに主食が人間のやつが人類サイドなわけないでしょうが
るーちゃんと帽子さんは宙吊りのゾン子さんを挟んで向かい合っていました。
「かっちゃんはかっちゃんだよ!」
ゾン子さんです。
「かっちゃん!」
ゾン子さん。
どうやら二人はゾン子さん(かっちゃん?)の呼び方でもめているようです。両者一歩も譲りません。
ゾン子さんがそんなのいいからさっさと降ろせと言わんばかりにばたばた暴れていますが誰も降ろしてあげません。扱いの雑さは大所帯になっても変わらないようです。
ぐぬぬぬぬとかむむむむむとか言いながら額を突き合せている二人を見て、くるみさんは「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない」なんて呟いてました。子供レベルが二人といいたかったのでしょうが、リーダーさんはるーちゃんレベルの怪物が二人もいる状況を想像して顔色を青くしていました。どうしてもるーちゃんが微笑ましいものには見えないようです。
しばらくむむむと睨み合っていた帽子さんでしたが、突然何かを思いついたようで、目を輝かせてびしっとポーズを決め、大声で叫びだしました。
「第一回、かっちゃん命名権争奪戦ー!」
「さあ、いよいよ開幕となります第一回かっちゃん命名権争奪戦。司会はわたくし、小沢みくと、リーダーさんでお送りします。」
いつの間にやら諸々の準備は整っています。るーちゃんの設営技能は255。一人学園祭とかできちゃうレベルです。ものすごい勢いで色々設置していく光景を見てくるみさんがドン引きしてた気もしますがあの人がドン引きしてるのは割といつものことなのでるーちゃん気にしません。無頓着255が発揮されています。
「えーと・・・まずは選手の紹介です。チームかっちゃん、丈槍由紀選手と恵飛須沢胡桃選手。」
「くるみちゃん、がんばろー!絶対勝つんだからね!」
「お、おぅ・・・、そうだなー」
やる気満々な帽子さん(ゆきというらしい)とくるみさんのチームです。くるみさんの「もうどうにでもなーれ」的な死んだ目が印象的なチームです。何が悲しくて部室まで乗り込んできたあれの命名権賭けて幼女と争わにゃならんのか、寂しげな背中がそう物語っていました。
「続いて、チームゾン子さん。るーちゃんと、・・・るーちゃん。あと、応援団にるーちゃんとるーちゃんとるーちゃんと・・・・・・」
チームメイトを確保できなかったるーちゃんは分身していました。るーちゃんがたくさんいればそれがドリームチームです。何も問題ありません。もはやツッコミすら入らないのでルール的にも問題ないはずです。
「まずは最初の競技、リレーです。皆さん廊下へどうぞ」
最初はリレーを行います。廊下の半分まで走った第一走者が第2走者にバトンを渡し、そのまま端までいった第2走者が戻ってきて第一走者へ再びバトンを渡します。最後に第一走者が帰ってきたチームが勝者です。
「第一走者、恵飛須沢胡桃選手と、るーちゃん。第2走者、丈槍由紀選手と、これまたるーちゃんです。みなさん位置についてください」
みくちゃんの指示で選手達はスタート位置につきます。
「よーい・・・どん!」
合図と同時にるーちゃんの姿は掻き消え、一瞬にして第2るーちゃんへとバトンがわたります。あまりの衝撃でゆきがバトンも受け取らないうちにぶっ飛んでいってしまったため第2るーちゃんは廊下の端からバトンとゆきを抱えて走ってきます。流石にある程度自重した速度で戻ってきたるーちゃんは、第一るーちゃんにバトンを、くるみさんにゆきを渡していきます。くるみさんがゆきを叩き起こしているのを尻目にるーちゃんゴールです。最早競技として成立していませんが勝ちは勝ちです。るーちゃんにスピードで挑むこと自体が根本的に間違っているのでこれはきっと司会のミスです。
「続いての競技は、腕相撲です!」
「待った、あたしは棄権するぞ。どう考えても危険だろるーちゃん相手じゃ」
「洒落ですか?」
「うるさい!」
第2競技の腕相撲は異議申し立てにより中止になったようです。応援席のるーちゃんズからブーイングが飛んでますがある意味自業自得です。
「じゃあ、ババ抜きやりましょう。これなら人死には出ませんよ」
みくちゃんがトランプを取り出しながら言いました。くるみさんやリーダーさんも、まあ流石にこれなら安全だろうと言ったため次の競技はババ抜きです。
しかしるーちゃんが人類には視認できないような速度でシャッフルを始めたあたりでみんなの間に「早まったか・・・」という空気が漂い始めました。すごいすごいと目を輝かせるゆきは気楽なものです。よほどの大物なのか、一人だけお花畑に生きているのか、いずれにせよ他人とは違う視点を持っているのでしょう。
リーダーさんの咄嗟の提案により、今回はるーちゃんは分身せず、二対一のハンデ戦とすることになりました。るーちゃんは余計な提案をしたリーダーさんの脛に手段その①を叩き込むと、ババ抜きを開始しました。
しかし幸運255のるーちゃん、開始と同時にほとんどの手札が捨てられてしまい一瞬にして決着してしまいました。これではゲームになりません。
「むむむむむむむ~」
どうにか勝てる競技は無いだろうかとゆきは必死に考えていました。尋常な勝負では勝機はありません。めぐねえがゴールデンな冷凍庫さんに正面決戦を挑むようなものです。
「そうだ!高校レベルの勉強なら私達が有利だよくるみちゃん!」
「・・・お前、それでいいのか?」
「だって、このままじゃなんにもできずに負けちゃうよ~。あ、それなら料理対決!ちょうどお腹が空いてきたし」
多分最後のが本音なのでしょう。いわれてみればそろそろご飯の時間です。だったらちょうどいいから食事にしようとみんなで料理を作ることにしました。あからさまにほっとしている選手がいますが、彼女も苦労しているのでしょう。そのうち労ってやったほうがいいかもしれないなんて考えるるーちゃんでした。
そうしてわいわい料理を楽しんでいるうちに、いつの間にかるーちゃんとゆきの頭からは勝負事はすっかり抜け落ちてしまいました。あんなにいがみ合っていたのに、いつのまにやら
にこにこ笑いながら一緒にうどんを食べているのでした。
仲良くなれてよかったね、めでたしめでたし。
「・・・・・・ギギギギギギギギ(せめて降ろしてくれませんかね)」
人間相手、しかもお遊びでも容赦なくワンサイドゲームをするるーちゃん。負けず嫌いも255なので手に負えませんね。
そのころのりーねー
「なんだかみんなの楽しそうな声が聞こえるわ・・・うぅ、脛痛い・・・・・・」
そのころの地下組
「なんでさあ今から上に行くぞってタイミングで風邪引くかねセンセー」
「ごめんなさい・・・けほけほ・・・・・・ぐすん」
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休み時間4 祠堂圭はモールを出て行った
「・・・やった。やってしまった・・・・・・」
そんな呟きを繰り返しながらモールを歩く人影が一人。巡ヶ丘学院高校2年B組、祠堂圭ちゃんである。どうも。
18回目の挑戦にして見事に美紀を撃破し、無事に部屋を出ることに成功した私だったけど、おっかなびっくり隠れながら進んでいるからか、まだまだ太郎丸の声が聞こえるくらいの位置を未練がましく行ったり来たりしているのだった。
だって怖いんだもん。徘徊してるあいつらに見つかったら殺されちゃうし、物音的にけっこう近くにいるっぽいし。
「でも、せっかく外に出てきたんだから、あんまり隠れてばかりでも意味がないよね、うん。だいたい縮こまってたら部屋の中に篭ってたときと変わらないじゃない」
あんなただ死んでいないだけなスタンスで何もできずに生きているならそれはもうあいつらと変わりない、私はずっとそう思っていた。だから、ちゃんと生きたい。ただ篭って震えて縮こまるだけでなく、わたしらしく、祠堂圭らしく生きたい。
というわけで、やけっぱちにならない程度に明るくいこう。私の取り柄の大半は元気で明るいなんだから。
とはいえ無防備に鼻歌なんて歌いながら歩き回ってたらすぐに死んじゃうわけで、どうにか見つからないように動き回りたいなと重いながら周囲を見渡していると、転がっているダンボールが目に付いた。こんなので隠れるゲームか何かがあったような気がしないでもない。うん、物は試し。さっそく装備することにした。
試行錯誤すること3分。見事なダンボール戦車が完成した。ふふん、私の美術255のセンスの賜物だね。・・・自称だけど。
さっそく中に入り込み、進軍開始。外はよく見えないからあんまりスピードは出ないけど、ここまで変なものならあいつらも寄ってこないはず。まさか戦車もどきが獲物の肉とは誰も認識できまーい。
そうしてとてとて進んでいると、何かにゴスッと衝突してしまった。あれ、壁かな?
「グゲ、グゴゴゴゴゴ・・・」
ダンボールに空けた穴を通して見える濁った虚ろな目。私とバッチリ目が合って・・・・・・
「きゃああああああああああっ!!」
視界が悪かろうがなんだろうが問答無用で全力疾走した。多分間違ってなかったと思う。
散々にあちこちぶつかり回ってダンボール戦車が大破したころ、ようやく私は停止していた。
「はぁ・・・はぁ・・・、し、死んだかと思った・・・」
幸いなことに至近距離であいつらに接触したけど噛まれたり引っ掻かれたりといった怪我はしなかった。ダンボール様様である。
「やっぱり周りが見えないのはダメだね。もっとこう、オープンにいこう」
そういいながら手頃な武器にと近くの扉を固定していたデッキブラシを手に取る。これくらいのリーチがあれば安全に戦えるような気もするのだ。
「って、これ・・・映画館の扉だ」
いつの間にかこんなとこまで走ってきていたらしい。よくよく見れば、扉の近くには色々積んであり、守りを固めているように見えないこともない。
「案外誰か立てこもってたり・・・」
扉を開けた先にはあいつら。無数の呻き声。濃密な死臭。
「いやあああああああああああっ!!」
脱兎、私はうさぎ。
二度の全力疾走をもってしても体力の底が見えない元気ガール、それが私だ。
しかし流石に叫びすぎて喉が渇いてきてしまった。持ち出した水を飲みながら休憩タイムである。
「モールの中はダメだね、屋外に出ないと。狭いし、危ないし・・・」
この短時間でも、命がいくつあっても足りないことは良くわかった。やるべきとこを素早く片付けていかないとすぐ死んでしまいそうなのだ。
「そうと決まればエスカレーターをさっさと降りて、最短ルートで脱出だよね」
休憩を終えて慎重に、でも急いで歩みを進める。この緊張感、胃が痛くなりそう。はやくも美紀が恋しくなってきた。やっぱり人間って大事、人肌のぬくもりが精神を安定させてくれるのだ。
そんなこと考えていて注意力散漫だったからか、エスカレーター手前で何かを踏んだ。なんか、こう「ぐにっ」って感じの感触。恐る恐る視線を足元へ向ける。
「・・・・・・ギギギギギ」
「やっぱりいいいいいいいいいいっ!!」
首元を踏んだのは悪かったと思う。でもそんなとこに寝てるのが悪いと思うんだ。だから追ってこないでええええっ!!
「ふんふふんふふ~ん、ふ~んふふ~ん♪」
適当な鼻歌を歌いながら堂々と歩いて一階へ到着。周囲の警戒?そんなの知らなーい。どこの世界に日頃から全周囲警戒して歩き回ってる女子高生がいるっていうのよ。私はただのお調子者なのでそんなの知らないのだ、普通の祠堂圭してる真っ最中なのだ。けいいんぐ なーう。
そんな感じで現実逃避をしながらあるいていたが、やけっぱちが一周回って効いたのか全くあいつらと遭遇せず、精神的に限界が近いながら見事に一階までやって来ることに成功していたのだ。
「よし、明るく楽しく元気よく作戦は間違ってなかった」
あとはモールを出るだけだ。粉砕されたピアノとか、明らかに調べるとやばいフラグが立ちそうなオブジェクトは完全無視して脱出するのだ。
「一応確認っ!右よし!左よし!正面よs―」
正面に向き直った瞬間、いきなり上から降ってくる人影。なんか思いっきり剣が刺さってる奇怪な人物があらわれた!・・・というか、このひとって
「太郎丸の、おばあちゃん?」
「TA・・・ROU、MA・・・RRRRRRRU・・・・・・!」
変わり果てた姿だが、確かにあの日、太郎丸を連れていた老婆だった。既にあいつらと化していたのは見ていたが、こんなところで降ってくるとは思いもしなかった。びっくりしすぎて普通に話しかけちゃったよ。
「TAROU・・・MARUU・・・・・・」
「おばあちゃん、大丈夫。太郎丸は上で、美紀と一緒にいるから・・・」
ふらつきながら近づいてくるおばあちゃんにそう告げる。心残りはなくしておいてほしいから。
「私が、これから外に出て、ちゃんと助けを呼んでくるから・・・だいじょーぶ」
言い聞かせながらおばあちゃんの身体に突き刺さった剣の柄に手を伸ばして、握り
「MATA・・・・・・NE・・・」
「あとは、まかせて」
思い切り、引き抜いた。
おばあちゃんを眠らせた私は、しばらくそのままぼーっとしてしまっていたようだった。我に返ると、返り血で酷い姿になっている。せっかく大事に使ってたのに、制服。ちょっと悲しい。
剣はそのまま持っていくことにした。デッキブラシよりは強そうだし、なんだか力が湧いてくるような気持ちになれるのだ。
何故だか湧きあがる力の赴くままに、出口を塞ぐ車両へと一閃。見事に一刀両断して出口を空けることができたので、どうやらこれはすごくいい武器らしい。・・・車に描かれた絵を真っ二つにしてしまったので、この『りーねー』という人に会う機会があったら謝ったほうがいいかもしれないけど。
「なんだろう、すごく元気になってきた。おばあちゃんが元気をわけてくれたのかな?」
車を斬った物音を聞きつけたのか、一階にいたあいつらが集まってきている。さっきまでなら悲鳴をあげて逃げていただろうけど、もう何も怖くは無い。根拠はないけど、私はやれる。
「怖くない怖くない。・・・怖がるのは、お前達だぁーッ!!」
剣を振りかぶって一気に突撃。数秒の間をおいて、血飛沫がモールに飛び散った。
さよならおばあちゃん(二回目)。あいつらの群れに突っこんでいった圭は無事に駅まで行けるのでしょうか。
残ってた人たち
「圭の悲鳴!?・・・うう、圭・・・・・・」
「わぅん・・・(ムチャシヤガッテ)」
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第19話 あね
ある日の早朝、りーさんとあたしは部室のテーブルで向かい合っていた。何やらりーさんが随分と深刻そうな表情してるし、こりゃよっぽどのことだと覚悟を決めて話を促すことにした。
「・・・で、相談ってのはなんだよ、りーさん」
いまいち要領を得ないまま呼び出されたんだが、どうやらりーさん、あたしに相談事があるらしい。話すことを躊躇したのか、どう話したらいいのか決めかねたのか、しばしの沈黙。こういう沈黙はホントはあまり好きじゃない。走り出す直前にちょっとだけ似た、でも自分じゃどうにもならない変な感じ。
そんなとりとめのないことを考えていると、やがて意を決したのかりーさんが口を開いた。
「あのね、くるみ・・・・・・」
いかにも極めて重要な話をするんですといった大真面目な表情。おもわず身構えてしまう。無意識につばを飲み込んだのか、ごくり、と音が響いたような気がする。
「あのね・・・」
ためるなぁ、ひっぱるなぁ。緊張感が質量を持って部室を押しつぶし、制圧しているような錯覚を覚える。ふと、一昔前のクイズ番組を思い出した。昔テレビを見ていたときに、こう、ファイナルなアンサーを言ってるような感じのやつがこんな空気を作り出していた気がしないでもない。
こっちは覚悟は決まったぞ、早く、早く言ってくれ。そう言ってやりたいが、あまり急かすのもよろしくない。困ったなというあたりでりーさんが続きを口にした。
「・・・・・・るーちゃんが、ぜんぜん構ってくれないの!」
凄い音をたてて盛大に椅子ごとひっくり返ってしまったが、これあたしは悪くないと思うんだ。
世間のくるみさん人気を察知したるーちゃん、今日は対抗すべくツインテシャベルにジョブチェンジです。シャベルはさっき早起きして買ってきました。早朝から勝手に学校を出て空き放題散歩してましたが、いざというときの責任を押し付けるためにゾン子さんを連れて行ったから何も問題ありません。これでりーねーにも怒られない。
帰宅したるーちゃんが部室へ行ってみると、くるみさんが椅子ごとひっくり返っていました。よくよく見てみればりーねーもいるので、何やら二人で馬鹿やってたんだろうな、とるーちゃんは思いました。
と、るーちゃんを視界に収めたりーねー、ジョブチェンジに気付いて騒ぎ出しました。
「る、るーちゃんがツインテールに!シャベルも持ってるわ!」
ついんてしゃべるーちゃんですよー、と今日も元気にご挨拶です。
「可愛い可愛い可愛いっ! ・・・・・・あれ、ということはくるみもるーちゃん?」
どこかの配線が切れたのか、りーねーの舞い上がりっぷりが尋常ではありません。破壊力がありすぎたか、とるーちゃん反省です。
とりあえず騒ぎ続けるりーねーは放置して、くるみさんにるーちゃんですよーとご挨拶です。くるみさんが朝から若狭姉妹の被害をもろに受けて浜辺に打ちあげられた河豚みたいな目になってるのが印象的です。
結局くるみさんは、「あたし、二度寝していいかな?」と言うと無駄に元気に飛びついてくるるーちゃんを抱えて部室を出て行き、後にはりーねーだけが残されたのでした。
るーちゃんを抱き枕に二度寝を敢行したくるみさん。ぐぬぬぬぬぬぬという呻き声のようなものでふと目を覚ましました。音源を探して周囲を見回すと、包丁を片手にこちらを見つめるりーさんが・・・
「って怖いわ!なにやってんのこの人!?」
「朝ごはんができたから起こしにきたんだって」
横でごろごろしていたみくちゃんが答えます。全く動じていないあたり最近の幼女は神経が図太いな、なんて一瞬現実逃避していたくるみさんでした。
この光景を見ていた悪戯255のるーちゃん、くるみさんにひしと抱きつくと、くるねーなんて呼んでみます。どちらもジョブはツインテシャベル、姉妹であっても不思議はありません。
「・・・・・・あ、りーさんが灰になってる」
破壊力がありすぎたか、と本日二回目です。
朝食の後もるーちゃんはくるみさんの膝の上にいました。そろそろくるみさんは包丁が怖いのですが、流石に甘えてくる幼女を無碍にはできないようでした。
あれからりーねーはるーちゃんの気を惹こうと色々考えていたのですが、どうにもいい案は出てこないようです。
りーねーが思考の海に沈んだ結果家計簿などの仕事はその辺に放り出され、背中に『若狭悠里代理』と書かれた紙を貼り付けられたラ・ネージュがリーダーさんをこき使いながら家計簿をつけていました。「俺はなんで鳥に命令されてるんだろうか・・・」とかぼやいてますがそれで動いてしまうあたり彼もまた苦労人気質なのでしょう。
昼頃にはるーちゃん不足ですっかり萎びたりーねー。考えに考えた結果どうにかるーちゃんの好物をお昼ごはんに作ろうという策を思いついたのですが、若狭悠里代理がリーダーに既に昼食を用意させていたため実行できずに燃え尽きてしまったようでした。
見かねたゾン子さんが戻ってきたゆきの額に『るーちゃん代理』と書かれたお札を貼り付け、りーねーに押し付けていますがあまり効果はないようです。
「かっちゃん、これじゃキョンシーだよー」
「グォォォォ・・・・・・」
アンデッドばっかりでした。これじゃダメだなと判断したみくちゃんもるーちゃん代理として参戦しますが、「しっくりこない」と言われて終了しました。
「ちくせう。何がいけなかったのか」
「・・・・・・とりあえず、キョンシーしかいないからじゃねえかな」
「ツッコミが投げやりだからだよっ」
「あたしが悪いみたいに言うな、なんもしとらんわ!」
何もしないのもそれはそれでどうなんだろうと思わんでもないるーちゃん、自分のことは完全に棚に上げてます。というかだいたいるーちゃんのせいですが下手に指摘すると何が起こるかわからないので流石のくるみさんもつっこみません。こんな状況では作戦は『いのちをだいじに』一択です。
そうこうやっていると鳥にこき使われる哀れなリーダーさんが部室に戻ってきました。どうやらるーちゃんの手を借りにきたようです。
「るーちゃん、ちょっと手伝ってくれー。飴玉あげるからこっちにおいでー」
どこから調達したのか、リーダーさん飴玉でるーちゃんを釣る作戦です。しかしるーちゃんそんな安い手には乗りません。あっさりリーダーに飛びついてるけど気のせいです。そのまま一緒に部室を出て行ってしまったのもきっと気のせいです。
後に残されたりーねーは呆然としていましたが、パッと冷静さを取り戻し、真面目な表情で素早くくるみに指示を出します。
「くるみ!」
「おう!」
「飴を作りましょう!」
「そこじゃねえだろ重要なのはああああああっ!!」
で、なにを手伝えばいいの?
「さっきから下の階ですごい勢いで走り回ってる足音がするから、確かめようと思ってね」
るーちゃんとリーダーさんは、バリケードを越えて下へ向かうようです。
くるみさん「二人がなにしでかすのか心配」
りーねー「るーちゃんは飴で釣れる、るーちゃんは飴で釣れる!」
この噛み合わなさである。まありーねーもるーちゃんが相手してくれればすぐに頼れるお姉ちゃんとして復帰するでしょう。たぶん。
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第20話 ちかぐみ
バリケードを乗り越えてそのまま一階までやってきたるーちゃんとリーダーさん。さっそく周囲の元生徒さんが群がってきますが、ツインテシャベルと化しているるーちゃんの敵ではありません。シャベル技能255(塹壕戦熟練兵50)のるーちゃんがシャベルを一振りすればあいつらの首の10や20はあっという間に胴体に別れを告げて宙を舞います。飛び散る生首によってかなり盛大に廊下を散らかしてしまっていますがどうせ一階は安全圏ではないので誰にも怒られません。やりたい放題です。
調子に乗ったるーちゃんは槍投げでもするかのように投擲体制に入り、思い切りしゃべるをぶん投げます。尋常ではない勢いで発射されたシャベルは次々とあいつらの心臓を貫いて廊下の奥へと消えていきました。あきらかに物理法則を無視した超軌道に見とれていたリーダーさんがいつの間にか包囲されつつありますがるーちゃん気付かず無双中です。撃破数3ケタ目指して大暴れです。
「ちょっ、るーちゃん、助けて!囲まれてる、囲まれてるから!」
普通に考えたらこの状況で子供に助けを求めるとか情けないことこの上ないのですが、相手はるーちゃんなのでリーダーさんも気にしません。あれはるーちゃんという独自のカテゴリーであり幼女ではないのです。
仕方が無いからそろそろ助けてあげようかなんてるーちゃんが思い始めたころ、ちょっと離れたところから次々とボールやライトが飛来し、リーダーさん包囲陣に次々と着弾していきました。何奴!とるーちゃんぐるりとそちらを振り向きます。包囲に参加していたあいつらがボールとかに気を取られて隙をさらしたためリーダーさんもどうにかこっちへやってきます。
「聞こえるか、こちらへ逃げ込め!」
ボール攻撃の第2陣が飛来すると同時に、声も聞こえてきました。リーダーさんはこれ幸いとるーちゃんを抱えてそちらへ全力疾走します。ボールに釣られてどっか行きそうなるーちゃんをきっちり持っていくあたり対応が手馴れています。
逃げ込んだ先には半開きのシャッターがあり、一人の女子生徒がるーちゃん達を出迎えました。こっちこっちと手招きをして、中へ入っていくのに続き、るーちゃんとリーダーさんもシャッターの奥へと進んでいきました。
シャッター内部はいつだったか見た地下区画だったようで、るーちゃんが色々(深く考えずに)薬を打ち込んでいった女性もここにいました。るーちゃんがお久しぶりのるーちゃんですよーとご挨拶しますが、相手は当然ですが全く覚えていないようで、疑問符を浮かべて首を傾げていました。なんだこいつあざといとか思っているるーちゃんですが、正直人の事は言えないと思います。
結局初対面同然だったので、るーちゃんはるーちゃんですよーと自己紹介です。リーダーさんはとりあえず荷物持ちの一言で片付けておきました。「たまには自分で言わせてくれないかな・・・」とか言ってますが、名前的な意味でそういうわけにもいきません。るーちゃんはメタ思考もばっちり完備しています。
「まあ、そこはツッコムと面倒そうだから適当に流すとして・・・私は柚村貴依だ。友人達はみんな『きー』ってよぶけど『たかえ』だからな、間違えるなよ」
るーちゃん『きー』で覚えました、さっそくきーさんと呼んでみます。
「待て、やめろ。間違えて覚えるな」
知りません。
るーちゃんはそんな内容で言い争う気はありません。さっさともう片方に興味が移ってます。
「私は佐倉慈です。見てのとおり、この学校の教師です」
見てのとおり?とるーちゃん首を傾げました。しかしたったそれだけで目の前の自称教師は轟沈してしまいました。るーちゃんの手にかかれば瞬殺です。
「いや、瞬殺してどーすんだ」
その場の思いつきで行動するるーちゃんに理由なんて聞いても無駄です。るーちゃんが真面目にやってるのなんて非常事態のときだけです。一般的には現在進行形で異常事態ですが、残念ながら既にるーちゃんはこの事態に飽きているため適当です。
あれから、二組の生存者たちはお互いの状況を語り合っていました。
「というわけで、下から聞こえる走り回る足音を探りに来たというわけなんだ」
「ああ、それ多分私だわ。足が動くか確かめるついでにポニテ追い回してた」
きーさんはでんじゃらす、るーちゃん覚えましたし。
この人足怪我してるのに何も気にせず平然と鉄パイプ振り回して走り回っていたそうです。絶賛リミッター解除中か、でなければとっくに感染してるのでしょう。るーちゃんは気にするのをやめました、どうせ大事にはなりません。
「・・・じゃあ、学園生活部のみんなは無事なんですね!」
「えーと、まあ、一応・・・無事、なのかな?」
そうこうしていると自称教師のめぐみはリーダーさんに詰め寄っていました。学園生活部という単語はどこかでゆきが言っていた気がしないでもないので、るーちゃんの中でこの先生=ゆきの同類という方程式が完成しました。るーちゃんの中では先生も幼女にカテゴライズです。
なお、頭を撫でたら泣かれました。なぜ・・・・・・。
「貴依さん、るーちゃんが苛める、しくしく・・・」
「まあまあ、子供のしたことじゃないか、センセー」
それでもるーちゃんは悪くない。
一通り話を終えた一行は、地下を脱して上にいる仲間達と合流することにしました。しかしきーさんは足を怪我しているし、めぐみはみるからにスローリーそうです。これでは無事に三階まで生き残れるか怪しいところです。道中を完全に掃除してしまう手もありますが、リーダーさんはるーちゃんに仕事してもらう切り札だった飴玉をとうとう使いきってしまったようでそうもいきません。
どうしたものかとリーダーさんが考えていると、るーちゃんはおもむろにめぐみに近づくと、ひょいと持ち上げて校舎を出ていきました。そのまま跳躍255を活かして飛び上がると、悲鳴をあげるめぐみを屋上にダンクシュートです。それなり以上にダメージがあったようで、「ぐへっ」とか若い女性があげちゃいけないような声が出てた気がしますが死ぬよりはマシなのできっと許してくれるでしょう。
そのまま残る二人へ向き直るるーちゃん、効率よく全員屋上送りにしようと迫っていきます。しかし当然ながらリーダーさんもきーさんも全力で拒否する姿勢を見せています。とうとう二人はるーちゃんから逃げ出し、道中の生徒を蹴散らしながら階段目指して疾走していきます。あれならぜんぜん余裕そうだなと判断したるーちゃんはリーダーさんの背中目掛けて『夕飯までには帰ります』と書かれたメモを投げつけると、保健室のベッドを拝借してのんびりお昼寝を始めるのでした。
めぐねえに多少の被害がありましたが、一応無事に地下組と合流できたようです。
学校だと好き放題破壊するわけにもいかないからどうしても被害が人間に集中してしまいますが拠点での行い故致し方無しです。
合流した学園生活部
「きー!無事だったのか!」
「無事なように見えるか!幼女が追って来るんだぞ!」
「・・・・・・ああ、あいつか」
「め、めぐねえ!ひどい、いったい誰がこんなことを・・・」
書きかけのダイイングメッセージが残っている。
犯人はr-
「屋上だし、rだし・・・まさか、犯人はりーさん!?」
「違うわよっ!」
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第21話 かいぎ
今のこいつらにみーくんや大学武闘派あたりが接触したら胃に穴が空くかもしれません。
地下に潜んでいた二人と合流して数日、学園生活部は今後の方針を決定するため会議を行うことになっていました。いまいち状況を把握していない(これは自分のせいなのだ、とめぐみが言っていた。悲しげな表情が印象に残っている)ゆきをめぐみと3-Cメンバーが授業に連れ出し、残ったメンバーは職員室に集合です。
職員室は使い道がないだろうとほとんど手付かずの状態で放置されていたそうなのですが、昨日清掃255のるーちゃんがゾン子さんを扱き使って部室同然のぴかぴか仕様に仕上げておきました。机や椅子の配置もすっかり会議仕様です。
軽く見回りに行っていたくるみさんが職員室に到着し、着席したところで会議が始まります。「・・・全員、揃ったようだな」と02のナンバーが書かれたモノリスが発言します。サウンドオンリーのようです。
「では、会議を始めましょう」と続くのも同じような03のナンバーが書かれたモノリス。こちらにも丁寧にSOUND ONLYと書かれています。
「何やってんの、お前ら・・・・・・」
呆れかえるくるみさんを除く参加者は全てモノリスでした。正直そのサイズと声でだいたいどれが誰だかわかるので何の意味もありません。誰だこんなの作ったやつはとくるみさんがぼやくのも無理はありません。
くるみさんのぼやきを聞いたのか、ナンバー01のモノリスが唐突にその存在感を大きくします。その無言の威圧感と、無駄に達筆で描かれた『さうんどおんりゐ』の文字からくるみさんは首謀者であると思われるモノリス01の正体に気付きました。こいつの奇行はツッコむだけ無駄だと学習しているくるみさんは、モノリス03(声からしてこれがりーさんだ、とくるみは考えているし、それは当たっている)に会議を進めるよう促すのでした。
「とりあえず、チームるーちゃんの合流と、めぐねえ、たかえの生存と立て続けに生存者と合流できたのはとても喜ばしいことだったわ。でも、それによって問題が出てきているの」
「物資の不足、というわけだね」
ごく短期間(3日と持たなかった)とはいえ集団を率いていたモノリス02は流石に話がはやいです。男性は一人なのでどうせ正体は最初にばれています。特に隠しません。
「最初5人で暮らしていたのがいつの間にやら9人と一匹まで増えてるから、単純に考えて食料の減りは倍近いわ。購買にもまだたくさんあるけど、どこかで補充できないとすぐに枯渇してしまうと思うの」
戦力も増えてるしどうせるーちゃんがいるしで軽い見回りのとき以外は余裕ぶっこいて立て篭もっていた学園生活部+αですが、思ったより減りの早い物資の数々に危機感を持ったようです。まだ余裕のあるうちから対策を練っていきます。
「補充先・・・どこか安全そうなところあったかなぁ?リーダーとか外にいたんだろ、何かいい場所知ってたりとかしないのか?」
「るーちゃんが暴れた地域なら大体安全な気もするけど、時間がたってるから断言はできないなぁ。食料自体はスーパーとかショッピングモールとか、あちこち場所は案内できるけどね」
「なるほどね、・・・みくちゃんは、ずっと私の家にいたんだっけ?」
「るーちゃんちに着く直前くらいまではカミヤマって人と一緒だったけど、食料は道中のコンビニ頼みだったかなぁ。後はラ・ネージュが持ってきてたし。あと私はモノリス04であってみくちゃんではない」
「今更ごまかすな、無駄にややこしいだろ」
途中に微妙に重要そうな情報が混ざってたりしますが、すっかり茶番パートのノリに染まったくるみさんでは情報を拾いきるのは無理がありました。
色々と補充先の候補が出てきて収拾がつかなくなってきたあたりで、再びモノリス01がその存在感を増大させました。何か言い出すのかとみんな一斉にるーちゃn・・・ではなく01へ向き直ります。
するとモノリス01はくるりと半回転、裏面には『モールの地下は、ほぼ手付かず』と書かれていました。どうやらるーちゃん、最初から意見を書き込んでいたようです。先読みスキル255は伊達ではありません。「言われてみればそうだ、地下に向かった連中は全滅してたんだったな」というリーダーさんの発言もあり、モールを見に行くという意見が優勢になってきました。
「でも、けっこう遠いわよ?道も事故とかであちこち塞がっているし」
「車が欲しいところだな・・・この人数だと2,3台」
どうやら現在の学園生活部、動かせる車は確保できていないようです。るーちゃんが自宅から引き摺ってきた車は最低でも2回の衝突事故(うち一回は本来の持ち主が起こしたもの)を起こしたスクラップ同然の残骸ですし、めぐみがキーを持っているらしい車はずっと放置していたため動く保障はありません。とりあえずめぐみカーの動作確認をしようと思い立ったるーちゃんはさっそく職員室を飛び出し、めぐみに車のキーを借りるべく授業が行われているであろう教室目指して走り去りました。
「・・・・・・で、もうこれは外していいのかい?」
「いいんじゃないか、るーちゃん行ったし」
モノリスの出番も終了のようです。りーねーはやたら気に入ったようですが、とんべりーさんが気に入ってしまうようなセンスの持ち主なので仕方ないでしょう。その残念度は昨年比10%増しです。
一方めぐみはゆきたち3-Cメンバー相手に授業を続けていました。ゆきがものすごく眠そうだったりゾン子さんの教科書が逆さまだったりと割と破綻していますが、気合で授業を継続していたようです。
と、唯一まともに授業を聞いていたきーさん。ふと何か物音がした気がして廊下へと目を向けます。
なんとなく見ただけの廊下です、特に注意を惹くものはありません。ただ教室のドアの前あたりでとんでもない存在感のモノリスが二足歩行しているだけでした。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
モノリスに目があるはずはないのですが、何故か目が合ってるような気がするきーさん。リアクションを期待されている。そんな予感めいたものをひしひしと感じるのです。
「・・・・・・・・・つっこまないからな」
威圧感255のモノリス01、何を期待しているのかわかりませんが、廊下で反復横跳びです。
最初は左右に飛び跳ねている程度でしたが、その動きは徐々にエスカレートしていき、だんだんと壁も天井もお構いなしに好き放題跳ね回り始めました。足以外は全く動かさないモノリスが異様なテンションで跳ね回る様は尋常ではありません。時折フィギュアスケートでも意識しているのかとんでもないスピンを加えていたりとどんどん意味のわからないことになってきています。255回転です。
「・・・・・・・・・・・・つっこまないからな」
とうとう廊下では分身したモノリス軍団によるダンスパフォーマンスが始まりました。きーさんのスルースキルが試されます。
「ん~、なんだか廊下騒がしくない?」
「見るなよ、ゆき。SAN値下がるぞ」
「こらこら、授業中の私語はいけませんよ」
「めぐねえ、なんだか廊下が騒がしいよ?」
やめとけ、ゆきー、と言ってるきーさんをスルーしてゆきはめぐみに廊下について伝えてしまいます。哀れにもめぐみはそのまま廊下を見てしまいました。視界いっぱいに広がるモノリスの群れのダンスパフォーマンス。その効果はメダパニなダンスを遥かに上回ります。
「・・・・・・きゅう」
あまりの意味不明さにめぐみの脳は許容限界を超えたようです。モノリス01は見事撃破しためぐみから車のキーを回収すると、駐車場目指して走り去っていくのでした。
モノリスはダンボール製、01以外はりーねーのお手製です。るーちゃんの気を惹くべく頑張って作りました。
その後の授業組
「めぐねえ、めぐねえ!返事してよ、めぐねえーっ!!」
「・・・・・・・・・・・・ぶくぶく」
「うわー、漫画みたいに口から泡吹いてる。そんなにショックかあの段ボール」
「・・・・・・グオオオオ(慣れないうちは奴の奇行は精神を抉るのだ)」
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第22話 じゅんび
とりあえず駐車場までやってきたるーちゃん。しかし、どれがめぐみの車なのかを聞かずに飛び出してきたため棒立ち状態でした。
当然周囲はあいつらだらけなのですが、未だに段ボールを被っているためかその大半は遠巻きに見ているだけでるーちゃんに襲い掛かる様子はありません。何体かドン引きしている個体がいるようですが、彼らはそれなりに知能の働く強敵なのでしょう。もっとも知恵を働かせたところでどうにかなるほどあいつらとるーちゃんの差は小さくありません。ゾウリムシがどれだけ工夫を凝らしたところで太陽を投げ飛ばすことなどできないのと同じです。
とりあえず誰も襲ってこないし、片っ端から試せばいいかと楽観的な結論に至ったるーちゃん。近くの車から順に見ていきます。
空はどんより曇り空。なんだか雨が降りそうな天気でした。
ようやくめぐみの車を見つけたころには、ぽつりぽつりと雨が降り出していました。エンジンかかるのかやパンクしてたりしないかなどを確認しているるーちゃんを背景にあいつらの群れが続々と校舎に雪崩れ込んでいきます。どうやら雨が嫌いなのは相変わらずのようです。
しばらくめぐみの愛車を(好き勝手に)弄くりまわしていたるーちゃんも、ちょっと傘でも買ってくるかと思い立ち、モノリスをレインコート代わりにすたすたと学校を出ていきます。一応どこに行くのか伝えておかないとりーねーが怒りそうだなと考えたるーちゃん。異様によく通る口笛をぴぃぃぃーっと吹いてラ・ネージュを呼び出すと、『傘買ってきます』とだけ書いたメモを運ぶよう頼んでおきました。これでたぶん怒られることはありません。現在進行形で校舎に乗り込んでいく元生徒の群れのことは完全スルーしていますが、るーちゃん的にはまるで脅威にならないため仕方ないことです。たぶん誰かがなんとかするでしょう。くるみさんとか、きーさんとか、生徒の群れに押し流されていくポニーテールとか。
傘を求めて街をうろつくるーちゃん。道中でも雨を嫌ったあいつらが雨宿りをしている現場がちらほら見られますが、誰に迷惑かけているでもないしとりあえず放置です。片っ端から被せてやるほどのダンボールもないわけですし。
たまに雨を克服したのか元々苦手でなかったのか余裕かましてるーちゃん目掛けて突っこんでくる個体もいるようですが、雨に濡れて風邪を引いてしまってもかわいそうだなと思ったるーちゃんはそれらを掴んではとんでもない勢いで振り回して水気を吹き飛ばし、脱水の終わったやつから順に屋根のある家の中へと放り込んでいきます。水気と一緒に血液とか腕とか頭とかがぶっ飛んでいってしまう個体もいますが脆いのが悪いのです。身体が弱っているときに雨に打たれるなんて健康に悪いから絶対だめです。るーちゃんとのお約束だよ。
そうして歩いていると、一軒のコンビニが目に付きました。棚やら何やらをバリケードに、あいつらの侵入を防いでいるようです。中でギャーギャー大騒ぎしていることから人がいるようです。人がいるならここで傘買えばいいや、とるーちゃんはコンビニへと向かっていきます。
しかし、買い物をするためにはまずコンビニ前に群がっているあいつらをどうにかしないといけません。るーちゃんは手頃なバスを引き摺ってくると、群がるあいつらを誘導して中に詰め込んでいきます。一通りみんなが乗車したのを確認すると、るーちゃんはアクセルとハンドルを固定して窓から脱出します。コンビニ発来世行きバスガイドのるーちゃんでした。
遠くでバスが盛大に事故をおこしたような音が聞こえてきたあたりでるーちゃんはコンビニに入店しました。あいつら相手ならどうにか防げるバリケードでも、るーちゃんの侵入はどうにもなりません。素早さ255掃除255のるーちゃんによってバリケードを構成していた棚やら何やらは一瞬にして通常の配置に戻されてしまいました。あっという間に片付けられてしまった店内は商品が無事ならこのまま営業できそうなレベルです。中に立て篭もってたらしいモヒカン達が「あ、何してんだお前!」と騒ぎ出す頃には既にるーちゃんビニール傘を持てるだけ持ってレジに向かっていました。さっさと会計をしろ、といわんばかりの目でモヒカンを見てますが、彼らは店員ではありません。なんだこいつ的な視線をるーちゃんに向けるばかりでした。
「おい、こいつ多分あれだよな?この前合流してきた幼女打倒し隊が追ってるとかいう・・・」
「ああ、間違いなく例のやばいやつだ・・・。だが、感染したやつを連れ歩いてるって話じゃなかったのか?」
「あれは非常食だって噂だから、もう喰っちまったに違いねえ」
店内で割と失礼なことをぼそぼそ言ってるモヒカン達を背景に、るーちゃんは駐車場でモヒカン達の車を弄繰り回していました。どうやら食料調達中に車が壊れて篭城していたようで、るーちゃんに傘の代金代わりに修理を依頼したようです。修理255のるーちゃんにかかればちょっとした車両トラブルなどあっという間に解決するのですが、モヒカンがぶつぶつうるさいので今日のるーちゃんはちょっとスローペースです。やるき0(最大値255)です。
「どうする?やるか?」
「だが、片手でビルを投げ飛ばすって聞いたぞ」
「瞬間移動するとか言ってたやつもいたな・・・勝てるのか?」
「そんなもん噂だろ、所詮は幼女だ。やってやる!」
モヒカンのうちの一人が敵意を露にした瞬間、駐車場から鉄骨が飛んできてそいつの頭を吹き飛ばしました。明らかに投擲後とわかる姿勢で一仕事終えた表情をしている幼女がいるため犯人は明白です。残ったモヒカン達が始末までのあまりの速さに戦慄していると、るーちゃんはまだやるかと言わんばかりの挑発的な笑みを向けます。最近ずっと学校にいたから、派手に動き回りたい気分になっていたようです。
しかしモヒカン達は即座に降伏の意思を固めたようで、さっさと揚げれるかぎりの白旗を揚げていました。仲間の仇を討つという発想はないようです、モヒカンにあるまじき高い危機回避能力を持っているようでした。
そうこう揉め事を起こしてみたり、部品を求めて他の車両を解体したりと時間を潰し、モヒカン達の車が直る頃にはすっかり夜更けになっていました。るーちゃんとモヒカン達はコンビニで缶詰パーティーをしてお腹を満たすと、それぞれの拠点へと帰ることにしました。るーちゃんは攻撃してこないモヒカンには寛容なのです。優しさ255です。
別れ際にモヒカン達から「駅周辺にはお前を狙っている俺らの仲間がわんさかいるから、絶対に来るんじゃないぞ」なんて情報ももらったるーちゃんは、たくさんの傘とみんなへのおみやげの缶詰を放置されていたタクシーに詰め込むとそれを丸ごと抱え上げて学校へと戻っていくのでした。
モヒカンとて人です。たまには頭がいいやつもいるでしょう。
あいつらとて人でした。たまには頭がいいやつもいるでしょう。
共通するのは触らぬ神に祟り無しと理解していることです。
そのころのご当地ヒーロー
「こう雨が降っていると、生存者も感染者も出てこないから面倒だな・・・・・・ってバスがなz
衝突、轟音・・・そして爆発。雨の日だったこともあり、付近に事故の目撃者はいなかった。
そのころのラ・ネージュ
(めっちゃ校内に入って来てるな・・・これは危険か?)
「くるっぽー」
(お気楽なやつめ、これだから鳩というのは・・・)
「誰が鳩だ」
(!!?)
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論外編 クリスマスシーズンのうつけ者ども
当然のように誰だかわからないやつとか名前すらないやつとかまだ出番ないやつとか混じってますが異界ゆえ気にしてはいけません。
「メぇぇぇ~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁ――――スぅ!!ひゃ――はっはっはっはっはぁ―――っ。…いやあ、一度言ってみたかったんだよね、コレ」
すっかりハイテンションなモヒカン軍団の王さま。サンタ衣装を赤く染めて(元々十分赤いのだが)愛用の銃やら盾やら剣やらに加えて処刑用のドリルまで振り回し、意気揚々とソリの上から破壊を撒き散らしています。下々の者へのプレゼントです。
「TAROUMARRRRRRRRRRRU!!」
おばあちゃんもトナカイ仕様でハイテンション。武器満載のソリを全力で牽引し、聖夜の巡ヶ丘を大爆走していきます。その速度と破壊力は相変わらず、道中の全てを撥ね飛ばして進みます。
「正面からいくぞ、るーちゃん! 素のままのあいつらごとき子細工など不要!」
とんでもない勢いでボウガンを乱射しながらおばあちゃんと共にソリを引っ張っているのはコウガミさんです。何かされているのでしょうか、異様なテンションで走りまわりながらプレゼントと称した射撃を繰り返しています。
当然るーちゃんもソリに同乗していました。真っ白なプレゼント袋からこの日のために作り上げたプレゼントを街のみんなにばら撒きます。ただしるーちゃんの投擲技能は当然ながら255。あらゆるプレゼントが圧倒的威力を持って正確に着弾し、確実に被害を増やしていきます。あまりの残虐サンタっぷりにクラウドさんとご当地ヒーローがあいつらの群れと共に決死の逃走劇を敢行していますが、速度に差がありすぎるため多分逃げ切れないでしょう。…あ、プレゼントで撃ち抜かれました。
『遠征用』と達筆で書かれたキャンピングカーの上からハイテンションサンタ軍団を遠巻きに見つめる人影がありました。くるみさんとみっきーのようです。二人はなにやら遠い目をしていますが、ツッコミを放棄したので致し方ないでしょう。
「楽しそうだな、あいつら。最早面影もないのがいるけど…ああはなりたくないな」
「自分は自分でいたーい!ってやつですね。まるであいつらに対する感想みたいですが……」
「似たようなもんだろ……」
そこにふらりと現れたりーねー、るーちゃんを見るなり目を輝かせます。
「サンタるーちゃん!?可愛い可愛い可愛いぃっっ!!でもだめよるーちゃん、ミニスカサンタなんてまだ早いわ!…いやでも可愛いは正義…でもでもまだるーちゃんは子供だし、お腹冷えたら大変だし…でもでもでもるーちゃん可愛い可愛い可w―
後方からぶっ飛んできたDVDとゲーム機とスパナと辞書とアイスピックにバットに角材続けてラジオと便乗して投擲されたと思われるとーこ代表が次々とりーねーの頭を撃ち抜き、見事に鎮静化させることに成功しました。つっこまないからなと決めていたくるみさんもこれにはにっこり。
「大学組、ナイス!」
「いや、いいんですかこれ。鈍い音と共にKOしちゃってますよ?」
みっきーの心配ももっともですが、どうせるーちゃんが戻ってくれば2秒で復活する人のことです。一々気にしていたらきりがありません。
とーこ代表もぴくりともしませんが、望んで飛んできたのでしょうから多分本望でしょう。生きてられても騒がしいのが増えるだけなので放置安定です。
「え、出番終わり?仕事があるのはコウガミだけか?」
文句はキャラが立ってから言う、脇役の常識ですぞ。
そんなりーねー撃退事件現場を眺めながら、教頭先生がお説教を始めるようです。好き勝手やりたい放題暴れた揚句怪我人を出すなど先生として許容できないのでしょう。他の先生方に注意を促します。
「先生方、生徒が暴力沙汰を起こしているようですぞ。クリスマスとはいえ、教育者として今何をするべきかよく考えて……
「くるっぽー」
「グォォォォ」
教頭先生の話を聞いているのはアルノーとあいつらくらいのものでした。神山先生はどこに行きやがったと周囲を見渡すと、リーダーさんたちモール組に道中退場組を加えて酒盛りの真っ最中でした。このあと酔いつぶれて全滅するのでしょう。
ならば佐倉先生はと探し始める教頭ですが、どうにも見当たりません。どこで何やってんでしょうか。目に付くのは『カモン サンタクロース!』と書かれた旗を掲げるみくちゃんと、それを必死に止めるゆーたくんとなおきくんくらいのものでした。今サンタを呼んだってやってくるのはフルパワー至上主義のるーちゃんドリームチームです。呼んだが最後まず助かりません。
一方ゆき率いる3-Cの愉快な仲間達はというと、これまたサンタに扮してソリに乗り込んでいました。しかしソリを引くのが太郎丸一匹では全くの動力不足です。ソリが進む様子は見られません。
「太郎丸、頑張れー!」
「どう考えてもこいつじゃ無理だろっ!」
ゆきもきーさんもサンタです。トナカイやるつもりは毛頭なさそうです。
「トナカイ役に回ったら、カチューシャ?」
何の脈絡もなく復活を遂げているポニテもまたサンタでした。カチューシャをトナカイに回して太郎丸の負担を軽減しようとしているようです。
「グオオオオオオオッ!?ガアアアアアア!!(何で私だけそのままなんだよおかしいだろ!?お前も行けよポニテェェ!!)」
「嫌よ、私今生を謳歌してる最中だもの」
なぜかカチューシャだけそのままでした。ゾン子さん故致し方無しです。
そのままトナカイと書いてある紙を張り付けただけというすこぶる雑なトナカイに仕立て上げられたゾン子さん。太郎丸と共にどうにかこうにかソリを動かそうとします。
「というかサンタは三人もいらんだろう、降りろ」
「アンタが降りろチョーカー。日頃無駄遣いしてるパワーをクラスメイトの為に使いなさいよ」
ソリの上のサンタ達はすこぶる険悪ムードです。仲良くクリスマスを楽しむ気があるとは思えません。
「じゃあ、私がトナカイになるっ」
つの付けたゆきがびしっとポーズを決めます。らちがあかないと判断したようです。相変わらず空気はよく読む子でした。
「あ、だったら私が降りるわ。ソリ牽くとか余裕だからね」
ポニテもトナカイです。先程まで嫌がっていた割に切り替えが早いようです。何を考えているのやら。
「待て待てだったら私が―」
「「どうぞどうぞ」」
「やっぱりかっ!」
罠でした。
めぐみはゆきに言われて絶賛待機中でした。サンタに加わるでもなく学園生活部に混ざるでもなく酒盛りに加わるでもなく寒い中一人待機です。みんな各々楽しんでいる様を見ているだけですが、別に寂しくありません、ぐすん。
そうしていると、何やら騒々しい足音や罵り合いでもしているかのような生徒達の声が聞こえ始め、思わずめぐみもそちらへ振り返りました。
よくよく音のする方を見てみると、なんということでしょう。教え子たちがサンタに扮してソリでやってくるではありませんか。トナカイ役の二人がやたらサンタを攻撃しているように見えますが気のせいです。にこにこしているのはゆきだけに見えますが気のせいです。
「めぐねえーっ、メリークリスマス!」
ソリの上でサンタに扮してぴょんぴょん跳ねるゆきは、そのままめぐねえに跳びついていきました。慌てて抱きとめるめぐねえ、ダメかもと自分でも思っていたようですがどうにかキャッチ成功です。ふと感じた腰痛は気にしないのが佐倉流です。
「ゆきちゃん、あんなところから飛び降りたら危ないでしょ」
「えへへ~、ごめんなさい」
めぐみにじゃれつくゆきですが、甘えているだけではサンタは務まりません。とうとう戦闘をはじめたゾン子さんとポニテは論外ですが、せめてしっかりプレゼントを配れなければサンタとはいえないのです。百発百中のるーちゃんを見習うのです。
「めぐねえ、いつもありがとう。3-Cのみんなでプレゼントを用意しましたっ」
じゃーん、とゆきが取り出したのはグーマくん寝袋と巨大グーマくん。3-Cメンバーに加えて人手が足りなかったのでモヒカン軍団総動員で街中から回収しました。
プレゼントを手渡すゆき、教え子に慕われている事に嬉し涙を流すめぐみ、茶化しながらも優しい笑顔のきーさん。あたりは廃墟ばっかりですが、ここだけは平和だった頃のような、優しい空気が流れていました。
「ギギギギギィーッ!!」
「ふっ、かすりもしないわよ愚鈍ちゃん。その顔面に熱々の鯛焼きを叩きつけてやるわ!」
「わんっ、わんわんっ!(オイ、色々台無しだからやめろっ!)」
元々が3-C屈指の問題児集団です、多少の台無し感は許してくれるでしょう、たぶん。
そうこう騒いでいるうちに、くるみさん達も集まって来たようです。生徒から人気があって大変結構、とか言っていたので今日は距離感が近くても教頭は多めに見てくれるでしょう。優しく元気なみんなの先生でいられて良かったね、めぐみ。
と、ここで終わればいい話で済むのですが、それを許してくれるほどチームサンタは甘くありません。みくちゃんが放置していた旗に気付いたおばあちゃんとコウガミがよっしゃ任せろと全力ダッシュです。旗やソリの直線上にいるみんなに助かる術などありません。「だからやめろと言ったんだー!」という小学生組の絶叫と同時にソリがみんなに突っ込み、全員空の彼方へ吹き飛ばします。
とどめとばかりにキグルミと装甲を身に纏ってフルアーマーグーマくんと化したるーちゃんが王さまに投擲指示を出します。「プレゼント発射ーっ!」と盛大に放り出されたるーちゃんが空中のめぐみ目掛けてぶっ飛んでいきます。このままではるーちゃんの理不尽攻撃で撃破される末路は逃れようがありません。
「もうこのオチいやああああああああっ!!」とめぐみの悲鳴が街に響き渡りました。
「ああああああああっ!!・・・・・・はっ、夢・・・だったの?」
めぐみが目を覚ますと、いつも寝ている部屋の中でした。理不尽なオチは無かったのか、とめぐみはほっと胸をなで下ろします。
と、誰かが枕元に立っている気配を感じためぐみは、後ろを振り向きました。振り向いて、しまいました。
当然ながら枕元にはるーちゃん。サンタクロースに扮して、巨大なグーマ君を抱えて佇んでいました。
めりーくりすます、とにっこり微笑むるーちゃん。手にしたグーマ君を振りかぶり・・・
「みゃああああああああっ!!」
めぐみは今日も元気です、まる
「相変わらず日直はサボりかー。というか誰もいないじゃないか……」
「カナシーヤツダナオマエモ。マア、トリデヨケレバイッパイツキアウゼ」
皆さんはクリスマスだからって羽目を外し過ぎては駄目ですよ。るーちゃんとのお約束だぞ。
繰り返しになりますが本編とは一切関係ありません。ちなみに夢オチではなく、るーちゃんは撃破しためぐみを回収して追撃したそうです。鬼畜255の恐ろしさがよくわかる事例です。
あと、そろそろ忙しくなってきたので次は年明けかもです。可能そうなら28日かもですが。
どこかで『誰か忘れてないかなぁ・・・・・・?』とか呟いていたシャベルに憑いた魂魄がいたのは秘密ですよ。先生とのお約束です。 -佐倉慈-
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第23話 あめのひ+α
おまけ しょうがつ
お正月だよるーちゃん。というわけでるーちゃんは杵と臼を用意して餅つきをしようとしていました。合いの手担当のりーねーと二人で餅を散々についたりこねたりしようというわけです。
「さてと・・・始めましょうか、るーちゃん。私の手まで搗かないでね?」
さあ、るーちゃん餅つきスタートです。餅つき255のるーちゃんはぺたぺたと餅つきを楽しんでいましたが、徐々にテンションが上がってきたようでそのスピードがちょっとずつ上昇していきます。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったんぺったん、ぺったんぺったん、ぺったんこぺったん、ぺたぺたんぺたぺたぺたん、ぺたぺたぺたぺたんぺたぺたぺたぺたぺたん。
「ちょ、ちょっと、るーちゃん、速い、はやいって――」
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたこねぺたぺたぺたぺたぺたぺたこえぺたぺたぺたぺた。
調子に乗ってきたらしいるーちゃん。徐々に速度が255に近づいていきます。
「るーちゃん、るーちゃん!手!おねえちゃんの手がっ!!」
どかどかどかどかどかどかどかどかどかっ。
「うわあ、凄いことになってるよ・・・・・・」
「りーさんのやつ、こうなることくらいわかってたろうに・・・・・・」
「くるみちゃん、雨だよ」
窓にへばりついている由紀が言った。さっきまでダウンした慈に付き添っていたというのに、もうその興味は外へと移ったらしい。「ほんとか?」と聞く胡桃に対して「うん、運動部が雨宿りしてるもん」と報告を続けていた。しかし、胡桃の方ははさして外の状況に興味があったわけではないようで、しばし手元の漫画から目を離したが、「また雨かよ……」と舌打ちを一つ、すぐに読書へと戻っていった。しばし、沈黙。由紀は外を見たまま動こうとせず、胡桃が読み進める漫画のページが捲れる音だけが部室に響いていた。
他の部員も各々出歩いているし、騒乱の根源とでも言うべきるーちゃんは出払っている(少なくとも、二人は彼女の単独行動を心配などしていない)こともあって、少しずつその存在を誇示しようとしている雨音以外は静かなものだった。二人とも、何か思考に引っかかっている気はしているのだが、何の事であったかは思い付かないようである。ときおりぺらりとページが捲れ、なんとなく時間の経過を感じながらも、部室の空気はいたってのんびりしたものだった。
「・・・・・・あ、洗濯物」
「雨宿り実況する前に思い出せよっ」
「む~、くるみちゃんだって忘れてたじゃん」
夜になっても雨は降り続いているようだった。胡桃は相変わらず読書中のようで、どうにも寝る気分になれないのか、漫画が読みたかったのか、るーちゃんを待つという大義名分で夜更かしの真っ最中。当のるーちゃんは全く戻ってくる気配もないようだが、どうせその辺であいつら投げ飛ばして遊んでいるか、もしくはモヒカンでも集めて缶詰祭りでもしているのだろうよ、と特に心配はしないようだ。
と、そこに見るからに寝惚けてますといった動きでふらふらと由紀がやってきた。「どした?」と聞くとトイレとのこと。学園生活部の心得には夜間は単独行動するな、というものがあるので胡桃も手早く出歩く支度を整えると、愛用のシャベルを手に取った。過保護というわけではなくルールで決まってるのだ、と誰にあてたものでもなく言い訳。普段だったらここで悠里も色々言いだすところなのだが、どうやら今はるーちゃんで頭がいっぱいらしい。二人で静かに廊下を歩いていった。
軽く警戒しながら廊下を歩く。耳に入ってくるのは雨音ばかり、昼間から降っていた雨は未だにその存在を主張し続けていた。
「……!」
トイレの前までやってきたところで、人影が目に入った。あきらかにるーちゃんではない。ということは……。
一方のるーちゃんはタクシーを傘代わりにかついで街を走り回っていました。すっかり夜中になってしまったので、さすがに少しでも早く帰らないとりーねーに怒られてしまいます。急ぐるーちゃんはいつもよりちょっぴりスピードアップ、障害物も一々飛び越えずにぶち破って進みます。突進255のるーちゃんにぶち破れないものなどありません。どんな建造物でも貫通して最短ルートで進むことができます。あっという間に学校まで帰還です。
傘と缶詰を回収してから駐車場にタクシーを投げ込み、大急ぎで校舎の中へと突入です。廊下にやたらたくさんあいつらがいますが、るーちゃんの邪魔をするなど不可能です。一瞬にしてみんな吹き飛ばされ、いつの間にかるーちゃんが設置していたらしい傘に運悪く突き刺さって命を落としていきます。あなざーでなくともしんでます。
るーちゃんが3階までたどりつくと、くるみさんがあいつらに囲まれていました。それなりに激戦を繰り広げていたようで、周囲には何体ものあいつらの死体やゾン子さん(多勢に無勢のくるみさんを憐れんで援護しようとしたはいいが、敵と見間違えたくるみさんの一撃を受けて轟沈したようである)が転がっています。
丁度様子を見るべくドアを開けたりーねーに、くるみさんが「りーさん、無理だ!」なんて叫んでいます。確かにこんな状況でりーねーが出てきたらあっという間に死んでしまいます。いくら包丁が即死効果持ちとはいえ、攻撃速度もトンベリレベルのりーねーでは動く暇すらありません。しかしるーちゃんとしては問題はそこではありません。りーねーが起きてます。寝ているようならいくらでも誤魔化しようもありましたが、これではお説教は免れません。どうにか機嫌をとってうまいことごまかすべく、るーちゃんはドアを閉めようとしていたりーねーめがけて飛び付きました。
「る、るーちゃん!?るーちゃんが自分から私に飛び付いてきてる!?見て見てくるみ!るーちゃんが、るーちゃんがようやく……!」
当たり前ですが、くるみさんは呑気に姉妹のスキンシップ見てる場合ではありません。「そんな場合か!!」と怒鳴ってますが決してくるみさんが短気なわけではありません。他の連中が呑気すぎるのです。
「るーちゃん、雨で身体冷えてない?大丈夫? これは、おみやげなの?缶詰取ってきてくれたのね、えらいわるーちゃん……」
りーねーはるーちゃんを抱きかかえたまま放送室の中へと消えていき、扉はぱたんと音をたてて閉まりました。るーちゃんが絡むと大変なことになるりーねーのことです、うっかりくるみさんが窮地に陥っていることを失念してしまったのでしょう。流石のくるみさんももう笑うしかありません。「ははっ」と空気漏れのような笑い声をあげて立ち尽くすことしかできませんでした。
「いいんだよな…これで……とか言えないじゃないかこれじゃぁ!」
訂正、笑いを通り越してとうとう怒りだしたようです。
放送室のるーちゃんは、怒られこそしなかったもののあまりにもるーちゃんるーちゃん煩いりーねーをどうにかする必要を感じたので一応くるみさんを放っておいていいのか確認してみることにしました。呆けていたら黙らせて自分が動かねばというわけで、りーねーを黙らせる用のパイプ椅子もしっかり用意しています。
「……くるみ?あぁ、そういえばさっき廊下に……しまった、くるみっ!?」
慌てて放送室の機材を弄り始めたりーねーを見て、流石のるーちゃんもこいつ本気で忘れてたのかと呆れかえります。大音量の放送を流すと同時に消火器担いで飛びだしていったりーねーを冷ややかに見つめるるーちゃんでした。
『下校の時刻になりました。まだ残っている生徒は速やかに下校して下さい』
学校に放送が響き渡ります。同時に消火器構えたりーねーがくるみさんを救うべく突っ込んでいきます。
「りーさん!?」
「くるみ!」
果敢に消火器を噴射してあいつらを追い散らしていくりーねーを見て、「コレとアレは同一人物なのか…?」なんて失礼なことを考えていたくるみさん。なんにせよこれで助かったかと一安心です。
ところが、下校時刻を知らせる放送はすぐにぷつりと途絶え、代わりに聞き覚えのある放送が流れ始めました。
その放送が、るーちゃんですよー、とか言い出した時点でくるみさんはりーねーの手を掴んでゆきを迎えにトイレに戻っていきました。るーちゃんが何かしでかす時点でどうせもうこの騒動は終わりだろうし、さっさとゆきを回収して寝てしまいたいのでしょう。
三人が寝室へと向かう途中、ふと窓の外を見ると雨にも関わらずあいつらがわらわらと校舎を飛びだしていきます。下校時刻だから帰っていくのか、何かやばいやつの放送でも聞いてしまったのか、知っているのはあいつらだけです。
「あー、疲れた…さっさと寝ようぜ」
「くるみちゃん、大丈夫?」
「へーきへーき、ただ何かもう精神的に休みたくて…」
みんなそれぞれ帰っていき、あとにはくるみさんに撃破されたあいつらだけが残されていました。
「……ギギギギギギギギ」
一応、あとでゾン子さんの応急手当をするるーちゃんを見た鳥がいるとか、いないとか……。
新年ですが年末にきりが悪かったため微妙なとこまででした。
今年はもっとるーちゃんにやりたい放題してもらいたいです。
その頃の駅側の連中
「ヒャッハー、お頭ァ!食料取りにいってた連中が戻ってきたぜぇーっ!」
「御苦労、休ませておけ」
「ゲヘヘ…ボス、あちこち雨漏りしてますぜ」
「バケツでも置いておけ」
「王様ー、雨宿りの連中が北口のほうに群がってるって」
「それについては私が直接鎮圧に向かう。北口周辺の連中に持ち場を離れぬよう指示しておけ」
「キング、踏んでくだせぇ!」
「這い蹲ってろ!」
巡ヶ丘駅。元々ただの駅にすぎなかったここは、数日前からモヒカン達の手で要塞と化していた。その中心部にて無法者達の報告を受けていた者が、ここの首領なのだろう。どこから運び込んだのか座り心地の良さそうな椅子に座るそいつは、黒いレインコートに身を包んでおりその容貌ははっきりと見る事はできない。
と、しばし思案でもするかのように静止していたそいつは唐突に立ち上がり、北口へと歩き出した。言葉通りに北口に群がるあいつらを鎮圧するようだ。北口のバリケードの見張りをしていたらしい肩パッドの集団が、やってきたそいつを見つけると群がり、平伏していきます。
「親分、長、我が君、王!」
群がる配下を手で制すとバリケードを開くよう示し、なだれ込むあいつらを一瞥し、一振りの剣を抜き放ち、あいつらへと突撃し・・・・・・。
死体の山の中で佇む王様は、何やらぼそぼそ呟いていました。しかし勝利に沸いたモヒカン共の歓声でその声はかき消され、誰の耳にも届きませんでした。
「・・・いや、勝てるのは勝てるけどさ・・・・・・一周回って落ち着いたら私だって怖いんだってば。・・・・・・というかいちいち全部指示仰がないで自分達で考えてくれないかなぁ、みんな大人なんだからさ・・・・・・」
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第24話 はんぎめ
あれさえあればりーさんは瞬殺できるに違いない。
今日は早朝から出先で入手してきたタクシーや職員達の車を弄繰り回しているるーちゃん。前回の教訓を活かして側面の装甲も強化しようとしているようです。改造に時間を割きたいからか前面装甲のデフォルメりーねーが以前よりだいぶ雑になってますがどうせぐちゃぐちゃになるだろうと判断したため気にしません。るーちゃんは自分の趣味以外では極めて合理主義です。
まだまだ朝も早いからか、外にもかかわらずあいつらの姿はほとんどなく、るーちゃんは快適に作業を進めていきます。まともに動いているあいつらは、運動部のごく一部(所謂強個体の諸君であるようで、生前のノリで平然と走っていた)と雨でダウンしてその辺に転がってるやつを引き摺って片付けている謎のポニーテールさんくらいのものでした。今日も学校は平和です、・・・少なくともるーちゃんにとっては。
しばらく作業を続けていると校舎の方からるーちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。りーねーが朝ごはんを用意してるーちゃんを呼んでいるようです。るーちゃんはとりあえず作業を止めると、三階目掛けてぽーんと飛び上がりました。
「るーちゃん、るーちゃん、明日は遠足だよっ!」
びしっとポーズを決めて宣言するゆき。今日も朝から元気そうでなによりです、めぐみに寝癖を直されながらでなければもっとよかったのですが。
何言ってんだコイツと傾聴の姿勢に入ったるーちゃん。色々聞き出してみるとどうやら先日遠征の計画を練っていたら授業を終えて戻ってきたゆきが遠足に行くぞー!とか言い出したのだとか。
どーすんのこいつという疑問を込めてくるみさんの方を向くと、「遠足でも遠征でも変わらないだろー」という返事が返ってきました。なんか楽しそうにしてるので遠足の語感が気に入ったのでしょう、変なとこで子供っぽい人です。
きーさんはきーさんで、「いや、やっぱり遠征でいいだろ。遠足って響きがなんか気が抜けるというか、なんというか・・・」とかぶつぶつ言ってるようでした。
こんなことでも意見が割れるあたり実はこいつらあんまり深刻に考えてないのでは・・・とかみくちゃんが言ってましたが、るーちゃんもぶっちゃけあんまり深刻に考えていません。物資がないならそのへんで買ってくればいいじゃない程度の認識です。正直るーちゃんが全部調達してくるのが一番安全なのですが、流石にるーちゃん一人放り出すのはりーねー達にはできない選択のようなので仕方ありません。リーダーさんなら遠慮なくるーちゃんに買出し頼むのでしょうが、彼は合理主義者るーちゃんをずっと見てきたため思考がるーちゃんに染まってるので致し方ありません。
るーちゃんの直感ではめぐみも単騎で買出しいけるっぽい感じなのですが、流石のるーちゃんもあれを一人でいかせるのはいかがなものかと思うので実行はさせません。迷子になられても困ります。
なんにせよやる気になってるゆきたちは行くなと言ってもそのうち出発すると思われるので、るーちゃんはりーねーに遠足組と遠征組で二つの班をつくるように提案するのでした。
「えんそくー、えんそくー♪ ・・・けっきょくどこ行くんだっけ?」
「ショッピングモール、リーダー達がいたとこだとさ」
遠足班はるーちゃん、ゆき、りーねー、きーさん、ラ・ネージュです。行き先は以前行った事のあるモールなのですが、案内要員にするつもりだったリーダーさんが車酔いで死にかねないということでこちらはるーちゃん任せで行ってみることになったようです。「めぐねえと一緒じゃないとやだーっ!」とだだをこねる自称高校三年生の幼女がいた気がしますが、りーねーが現地で合流するから大丈夫よ、と言ったら黙りました。ちょろいです。
「こっちボケしかいないじゃんか、人選おかしいだろ」
とかなんとかきーさんがぼやいてます。こっちはるーちゃんがいるから特に戦力は必要ないのでこんなメンバーになってしまいました。
「遠征班の責任者は私・・・、頑張らないと、はぅ」
遠征班はめぐみ、くるみさん、リーダーさん、ゾン子さん、みくちゃんです。こちらは駅周辺にモヒカンがいるというるーちゃんの情報を受けて生存者の様子を見てくるつもりのようです。るーちゃん的にはモヒカンなんか見ててもいいことないからやめとけと思わないでもないのですが、今までヒャッハーな連中の被害は受けてこなかった学園生活部メンバーの中では生存者=味方という式ができているようで、一応様子を見てこようというめぐみとくるみさんの意見が通った形でした。リーダーさんは当初留守番を主張していましたが、ゾン子さんが制御不能になっても困るということで結局くるみさんに引っ張り出されてしまったようです。これで後からモールの遠足班に合流するときも道に迷う心配はありません。・・・リーダーさんさえ無事ならですが。
班分けも決まったので、みんなは各自で準備を済ませることにしたようです。るーちゃんはさっさと車の改造を終えて、みんながあれこれやってる中を適当にうろちょろしていました。
まずは「・・・車に乗りたくない」とかなんとかいろいろぶつくさ言ってるリーダーさんに目を付けたるーちゃん。乗り物酔いに効くツボを教えてあげることにしたようです。しかしあちこちぶすぶすと押していくとリーダーさんは「うぐっ!!ぐああ!!」とか言ってひっくり返り、そのまま動かなくなってしまいました。アミバごっこを楽しむるーちゃんは『ん!?まちがったかな・・・』もしっかり完備しています。危険人物です。
流石に哀れに思えてきたので外から酔い止めの薬を持ってきたるーちゃんは、続いてめぐみのところへ行ってみることにしました。めぐみはくるみさんやきーさんとどうやって車を持ってくるのか相談しているようです。
「とりあえず、車は私が持ってくるから、みんなは昇降口で待ってて・・・ね」
「いや、めぐねえのスピードだと素直に昇降口から出て行っても囲まれてやられるだけだと思うんだけど・・・」
「でも、私達が行ったって運転できないだろ」
「あたしは運転できるぞ?久しぶりだけどなー」
どうやらくるみさんは運転ができるようです。しかし直感255が冴え渡っているるーちゃん、くるみさんの車には乗りたくない感じです。班が別で助かりました。
結局誰が車を取りにいくのか気になるるーちゃん、るーちゃんカー二号がるーちゃん仕様である都合上一緒に取りに行くことになるからです。
「運転できるならくるみでいいだろ、めぐねえより速いし」
「どうせるーちゃんいるしな」
「私の車・・・ぶつけないでね・・・」
ちょっぴり心配だわ・・・、と呟くめぐみを半ばスルーしてどこから降りれば近いかやら陽動は必要かやら話していた二人でしたが、背後にいたるーちゃんが凄い勢いでシャドーボクシング始めたあたりでコイツにごり押しさせればいいやと思考を放棄したようでした。るーちゃんのあまりの万能さがあだとなって脳筋に磨きがかかってきているようです。
「りーさん、バナナはおやつに入るかなぁ?」
「そうねぇ・・・めぐねえに聞いてみないと・・・」
「そもそもバナナがどこにあるのさ」
りーねーと幼女組(るーちゃんとめぐみ除く)はお弁当とおやつの準備をしているようです。正確にはみくちゃんはツッコミ入れてるだけですが。
このグループにはりーねーがいるため、るーちゃんこっそり様子を見ます。認識されたらりーねーが仕事を放り出すのですることが増えて面倒です。
とりあえずバナナがあればいいことはわかったるーちゃん、バナナを調達しに学校を飛び出すと、尋常ならざるスピードで南へ向けてぶっ飛んでいきます。スピード255の本気を見せるようです。
あっという間に海を越え、フィリピンへ到着したるーちゃん。バナナをたくさん買い込むと、再び国境を越えて巡ヶ丘までひとっ跳び、とんでもない速度でぶっ飛んでいきます。
何事も無かったかのようにバナナを確保して帰還したるーちゃんはゆきやみくちゃんにバナナを渡しにいきます。
「わぁ、バナナあったんだ、るーちゃんありがとー」
「ゑ、これどっから・・・ゑ?」
両極端な反応を見せる二人を見て楽しんだるーちゃんは、謎の達成感を味わいながら海外で捕まえたよくわからないトカゲの丸焼きをゾン子さんと二人で食べつつ明日の遠足に向けて英気を養うのでした。
班決めって言ってるのに準備が残りすぎてそっちばかりになってしまった。
リーダーさんは無事にぼっちルートを回避しましたが、はたして学校でぼっちと車酔いでモヒカンとどちらが幸せだったのでしょうか・・・。
そのころのモール
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、流れ星。まだ夜じゃないのに」
「くぅん(あれ人に見えたんだけど、気のせいか・・・?)」
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第25話 しゅっぱつ
遠足前夜、私は屋上から街を眺めていた。明日には学校を出て、あの街中を動き回ることになる。何の救助も連絡もないことから外はいまだにあいつらが闊歩する危険地帯のままなのだろう。外から合流してきたらしいリーダーの発言からもそれは間違いない。
必要なことなのだろう、それはわかる。学校の中の物資は無制限にあるわけではない。どこかで調達に出向かなければならないことは確かだ。だが、外に出ることに賛成かといわれると私はすぐには頷けないだろう。当初の予定よりは危ういとはいえ食料が尽きたというわけではない。生きて戻れるかわからない状況に飛び込むのはまだ早いのではないかと私は思っている。遅かれ早かれとも思うのだが、時間を稼いでいれば救助が来る可能性も無いわけではないわけだし・・・・・・。
「お前は、どう考えてんのよ?」
ふと、隣に立っていたカチューシャに話を振りたくなった。こいつが以前のように物事を考えられないのはわかっている、別に返事を期待したわけではない。・・・のだが、何故だか話をしたくなったのだ。こう成り果ててもまだ人類側(そもそもあいつらが人類ではないという定義もそれはそれで怒られそうなものなのだが)に留まっているこいつの視点を知っていれば、自分がああなってもこうして人の輪の中にいられるのかもしれない、なんて打算も無いわけではないが、ただ昔の行動と同じことをすることで精神を落ち着けようとしたというのが大きな理由だろう。我ながら単純な思考である。
「・・・・・・ギギッ」
カチューシャが何を言ったのかは今の私にはわからない。ただ、なんとなく気は楽になったような気はしないでもなかった。
やっぱり、我ながら単純である。
一方で布団の中でごろごろとしている人影が3つ。るーちゃんと、ゆきさん、・・・そしてわたし、小沢みくである。子供ははやく寝なさいと大人たち(その半数以上は高校生だが)に布団に押し込められたものの、流石にそんなにすぐには眠れない。別に遠足が楽しみで眠れないなんて子供じみた話ではない。今この学校を出るというのは、そんなに楽しいことばかりではないのだ。るーちゃんと再会してからは危険を感じることなどなかったが、本来のこの街は地獄そのものである。なおきくんもカミヤマも、とうとうここまで生き延びることはできなかった(二人とも、直接その最期を確認したわけではないのだが、あの状況では生きてはいないだろうという諦念じみた思いがあった)。そんな地獄に明日飛び込むのだ・・・それもるーちゃん抜きで。モールまで行けば再びるーちゃんと合流できるけど、そこまで生き残れるかと言われると怪しいところだと思う。くるみさんがどれだけの腕前なのかは知らないけど、元々は普通の女の子だろうし、頼り切るのはよくない。これが軍人から高度な訓練を受けていますとかだったら後はお任せなんだけど、世の中そうそうそんな人がいるわけもないわけで。
死ぬかなぁ・・・死なないにしてもすごい頑張らなきゃだよなぁ・・・なんてマイナス思考がぐるぐるしてる。ゆきさんは怖くないのだろうか?
「あ~、遠足が楽しみでねむれないよぅ・・・るーちゃん、みくちゃん、まだ起きてる~?」
そうだった、この人は参考にならないんだった。
「はいはい、起きてるよー」
別にわざわざ無視することもない、ちょっと相手してやれば騒ぎ疲れて寝るでしょ。
「るーちゃんは、起きてる?」
話題を振られたるーちゃんはめんどくさそうにころりと転がると、起きてますよーと上体を起こします。明らかにいつもの挨拶の流用です、手抜きです・・・あ、またひっくり返った。
「ショッピングだよるーちゃん、何買おうかなぁ・・・」
好きにしなさいと言わんばかりの適当な対応のるーちゃん、あれは多分話聞いてないだろうなぁ・・・。
「みくちゃんは?」
「そうだね・・・果物の苗とか探したいかな」
一つ考えたことがあるのだ。危険な遠足から無事に帰ってくるための、一つの願掛け。
「無事に遠足から帰ってきたら、果物の栽培をしようと思って。毎回外行くたびにるーちゃんにバナナ取ってきてもらうわけにもいかないでしょ?」
「あ、それいいかも、やろうやろう!」
「でしょ!・・・うん、絶対無事に帰ってくるぞ~」
るーちゃんが、『こいつマジか!?』みたいな顔でこっち見てるのは気になるけど、そんなに変なこと言ったかなぁ・・・。
結局果物栽培計画で盛り上がった私とゆきさんは様子を見に来た悠里さんに早く寝なさいと怒られてしまうのでした、ちくせう。
さあ、いよいよ遠足・遠征の当日です。手早く準備を整えたみんなは昇降口に集合します。
「さて、後はくるみとるーちゃんが車を取ってくるのよね」
「おう、任せとけ・・・いけるな、るーちゃん」
やる気満々なるーちゃん、返事代わりにくるみさんに飛びつきます。
「おい、待て待て、お前にくっつかれるとりーさんが・・・」
「るーちゃぁぁんっ!!」
案の定突っこんできたりーねーに押し出される形でるーちゃんとくるみさんは出陣です。一緒に出てきたりーねーはきーさんが引き摺って昇降口の中へと消えたのでとりあえずは大丈夫そうです。
「よっし、よーい・・・」
どん。
それなりダッシュで駐車場を目指す二人。あいつらの間をすり抜けて進んでいきます。
と、二人の前にやけに大柄なあいつらだ立ちはだかります。柔道部の主将、山岡くんです。
その巨体はそう簡単には通さんぞといわんばかりに行く手を阻みます。
しかしくるみさんが突撃を躊躇し速度を落とした瞬間、るーちゃんが適当に右パンチを放つと山岡くんは校外までぶっ飛んでいきました。「グギィィィィィッ!!?」とか言いながら視界から消えていきます。排除完了です。
「ソコマデダァァァァ!」
続いて二人の邪魔をするのは3-Cメンバーにして野球部のエース、佐々木武正。日本語を話すレベルの知能は残ってるようですが、バットを武器にるーちゃんたちを捕食せんと強襲してきます。
しかしくるみさんが「喋りやがった!?」と驚いた瞬間、るーちゃんの竜巻旋風脚がクリーンヒットして校外ホームランが成立してしまいました。「ホームラァァァァァン!!」とか言いながら視界から消えていきます。駆除完了です。
そこから進むと大型三角定規を抱えたポニーテールが突っ立っていました。うわ、ヤッバイのが来たよとでも言いたげな形相です。
しかしくるみさんが「武器か!?それ武器なのか!?」と突っこんだ瞬間、「あ、いえどうぞ、お通り下さい」と引き下がっていきました。人間二人にドン引きしながら進行ルート上から消えていきます。退避完了です。
「なにがしたかったんだあいつは・・・」とくるみさんもゲンナリしています。一々気にしてたら生きていけませんよとはるーちゃんの談。
そろそろ駐車場、というあたりでくるみさんを囲むように群がるあいつら、その数6体。しかしるーちゃんにあれだけ暴れさせて年長者の自分があっさりやられるわけにもいかないとくるみさん猛奮起です。「でりゃああああっ!!」と気合の入った叫び声と同時にシャベルを一閃、6体全員の体勢を崩して突破していきます。
しかしくるみさんが「どうだ、るーちゃん!」とドヤ顔で振り返るとストリートファイト255のるーちゃんがサイコなクラッシャーを敢行して6体纏めて蹴散らしてしまいました。
「これ、誰でも良かったんじゃないかね・・・」
駐車場までやってきたるーちゃんとくるみさん。るーちゃんカー二号はその異様さゆえ一目ではっきりわかります。しかしくるみさんはめぐみの車の特徴をちゃんと聞いてなかったようで、「くそ、どれだ?」とか言ってました。
こんなこともあろうかと美術255のるーちゃん、あらかじめ段ボールで精巧なめぐみ像を作って車のところに置いておいたのです。これならばっちり見分けがつくはずです。
「いや、見当たらないぞそんなの。どこ置いたんだよ」
そんなわけないだろと車を見に行くと、段ボールめぐみはその精巧さが仇になってあいつらに集中攻撃されていたようで、みるも無残な姿で発見されました。これはめぐみには見せられません。泣く泣く廃棄処分です。
推理255のるーちゃんは僅かに残った段ボールの残骸からでも下手人を特定することができます。駐車場から校舎の中へと飛び込んでいくと、二階をうろつくあいつらの一体を掴んで駐車場へとんぼ返り、そのまま手頃な車に乗せてシートベルトを固定すると一切手加減無しに全力投擲しました。おそらくあっという間に地球の重力を振り切り、戻ってくることはないでしょう。るーちゃんを怒らせるとこうなるのです。
名推理をしている間にくるみさんは車を発進させたようです。るーちゃんもさっさと車に乗り込み後を追います。
「運転、私じゃなくてほんとに大丈夫?」
「だいじょーぶだよ、めぐねえ。よゆーよゆー」
遠征班は車に乗り込んだようです。遠足班もさっさとのりこめー、とるーちゃんジェスチャーです。
「おいおいおいおいちょっと待て、コイツの運転でモールまで行くのか!?」
きーさんが驚愕してますが、他の面々は誰もツッコミ入れてないから大丈夫です。決して「わたしもやるー」とか言ってるやつとか「るーちゃん、がんばってねー」とか言ってるやつで班を固めて異論を潰していたわけではありません。全ては偶然の産物です。
「待て、まてまて落ち着け幼女!話し合おう、飴か?飴が欲しいのか?」
ではアクセル踏んで出発です、遠足班、遠征班ともに学校を出て行きます。きーさんの話は聞こえません、エンジンがうるさいのです。「し、死ぬ!流石の私もこれは死ぬぞ!」とか言ってるのも聞こえません。あーあー。
「くるみちゃーん、めぐねえー、また後でねー」
「おーう、またモールでなー!」
「「それでは遠足に、しゅっぱーつ!!」」
遠足&遠征に出発です。はたして何人生きて学校に戻ってこれるのでしょうか。
ちなみに免許持ってるのはめぐねえだけなので何かあったら大変です
遠征班・車内
「くるみさん、運転本当に大丈夫なのー?るーちゃんがめっちゃ警戒してたんですけど」
運転手にジト目を向ける美紅。胡桃の運転技術を全く信用してないようである。
「あー、・・・いつもとちょっと感覚が違うけど、まあ任せろって」
「違う?そりゃ車種とか、いろいろ違うんだろうケド・・・まさかAT車とMT車の違いとか言わないよね?」
「そうじゃなくてさ、いつもはハンドルコントローラーじゃなくてパッド派だからなーって話」
車内の空気が凍った。比喩でなく、本当に温度が下がった。
「え…、それってゲームの」
おそるおそる、といった様子の慈の呟きに、返事は無かった・・・・・・。
「「「えええええええええっ!?」」」
「グオオオオオオオオッ!!?」
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休み時間5 巡ヶ丘のお犬事情
早朝、モールでは一つの脱出劇が繰り広げられていた。ドアが開かないようにと積み上げられていた段ボールを足場に、ドア上部の小窓から部屋を出ようとするものがいたのである。名を太郎丸という。要するに犬である。
脱出する際に気をつけなければならないのは二点。外に面倒な相手がいないかどうかと、部屋の中にいる同居人が起き出さないかという点である。外にあの面倒な連中(最後に見たのはもう随分と前のことだが、家の老婆を殺害した瞬間はいまでも記憶に残っている)がいれば当然脱出後即座に命がけの鬼ごっこをする羽目になることは明白であるし、背後で寝ているやつを起こしてしまえば出て行くのを妨害されるのは間違いないだろう(現に、以前ここを出て行ったやつは十数回も争った後にようやく出て行った)。外の物音にも、中の物音にも、自分自身がたてる物音にも注意し、そろりそろりと段ボールを登っていく。
「・・・・・・んぅ・・・けい・・・」
背後から聞こえた声に驚かされたが、どうやら寝言のようである。起きているときは静かなくせに(たまに怒鳴るが)、寝ているときに煩いのはどういうわけだと聞いてみたいが、そんなことを聞く機会はないだろうとも思う。こいつはここから出てこないだろうし。
まぁ、片割れの捜索くらいはしてやろう。そう決めると二三度外を見て、小窓から外へと飛び出した。着地には、特に困らなかった。
あいつらは鈍間だ。飛び出してからしばらくモールを徘徊した。当然あの動きのおかしな連中とも遭遇するし、案の定やつらはこちらを追ってきた。しかしその動きは緩慢極まりない上に、ちょっと潜んでいればすぐにこちらを見失う。こんなやつを恐れて立て篭もっていたのかと、若干拍子抜けしたことは間違いない。この様子では外に出ればもう何もかもいつも通りなんじゃないか、そう思えてならない。
そんなことを考えていたからだろうか、背後に迫る奴らへの反応が遅れ、気がついたときにはもうその手がこちらに伸び―
「ちょっと邪魔するにゃー」
ギリギリのところで阻まれていた。
「危ないとこだったにゃ、油断しすぎというもの・・・にゃ」
危ういところを救われた直後、息つく間もなく2階へと逃げてきた。他にもモールをうろついていた面々がいたようで、いつの間にやら5匹もの混成部隊と化していた。
さっき助けに入った猫は近所の玉野家で飼育されていた猫で、名を多摩という。ちょっと大柄なやつで、この辺の犬猫ならたいていが知っている有名人(?)だ。
残りの面々も大型雑種犬のギンやら、どこかの看板犬のココアやら、オールド・イングリッシュ・シープドッグのエリックだの、どこかで見たような犬ばかりが集まっていた。逆に言えば、あまり強くない個体や人間に手厚く保護されなかった個体はあらかたやられているとも考えられる。あんな連中に皆やられたのか、と言いかけたが、かくいう自分も先ほど死ぬところだった。皆油断して死んでいったのだろう。
「これだけ見て回って、成果は小型犬一匹か」
「ニンゲンはみんなああなってるからにゃあ・・・、サンケンもさぞ悲しむだろうよ」
話を聞いてみると、どうやら彼らは現在サンケンなる人間と共同戦線を張っており、近隣への呼びかけや調査を行っているのだという。当の本人は拠点で機械を弄繰り回しており、ギンを中心に外回りの最中だったとのこと。
人間を探しているなら丁度いい、上の階に立て篭もるあいつと合流してもらおう。そう提案しようとしたが、考えてみれば今あの部屋を動けば片割れが戻ってきたとき合流する手段はない。これは少々困ったことになったぞ。
とはいえ何も言わないで孤立させるわけにもいかない。最悪片割れは外を走り回って見つけるしかないかと結論づけ、上にいる人間のことを話すことにした。
「ええと、ニンゲンなら上に一人
「エリック、上だ!」
台詞を遮られたと思ったらすぐそこにいたエリック目掛けて上からあいつらが降ってきた。最悪のタイミングだ。というか飛び降りてまで襲い掛かりたいのかと戦慄。やはりこの鈍間共は思ってる以上に危険なようだ。
エリックの断末魔の叫びを背後に慌てて全員走って逃走を図る。どうにか上にいるやつのことを話そうと思ったのだが、ギンに「ここでお喋りしていてもエリックの二の舞だ。拠点まで戻るぞ」と言われてしまえばどうにもならない。困った。
しかし置いていかれるわけにもいかない、道中で片割れを見つけられることを祈るしかないか・・・。
「これでプラマイ0だにゃ・・・まったくもって困った話にゃ」
確認したわけではないが、間違いなくエリックは死んでいるだろう。というか、人間でなくともああなって襲ってくるのだろうか?
「なるぞ」「なるにゃ」
「思考を読むな」
となると我々が外回りに出ているのもあまりいい手とは言えないのかもしれない。早めにどこか安全なところまでいかなければどうなるかわかったものではない。部屋を脱出したのは賢い選択ではなかったようだ。
そんなことをあれこれ考えながらどうにか出口までたどり着くと、見慣れた老人の遺体が目に付いた。生前見たことも無いような歪んだ表情で固まった顔、全身の傷、赤黒い血や、埃や、僅かな鈍い銀色(金属か何かだろうか)に汚れ、生前の面影を探すのは少々難しい状態になっていたが、流石にこの人を見間違えることはない。もっと上のほうで殺されてしまった気がしたのだか、こんなところまで来ていたらしい。この老人にはこんなことになる前には随分と世話になったものだ。できれば生きていて欲しかった。・・・襲い掛かってこないだけマシな再会だったのだろうが。
老人との別れを済ませ、待っていた皆(老人との関係を察したのか、かつての散歩を多摩が見ていたのかはわからないが、彼らは急かしもせず待ってくれていた。ありがたいことだ)に出発しようと告げる。安全圏まで滑り込めば、それだけ残された人間を早く救い出せるかもしれない。あまり長い間老人のもとにいるわけにはいかないのだ。
まさに出て行こうとしたそのとき、ぞろぞろと人間がモールに入ってきた。まだ普通に生きている連中のようだ。
その中の一番小さい奴と目が合う。その瞬間になんとなく直感でわかった、こいつはやばいやつだ。
別にサンケンさんは沈んでないです。
そういえば、年末の大掃除で本棚の奥からハリー・ポッターが何冊か出てきたんですよ。危うくその場の勢いでロックハート無双を書き始めるところでした、危ない危ない。
そのちょっと前のるーちゃん
アンソロ極でえくすかりばーが出てきてご機嫌なるーちゃん。勢いに乗って街中を爆走していきます。
「もうこの車を止めろぉぉぉっ!ゆきー、笑ってる場合かっ!これは絶叫マシーンじゃねえええええっ!!」
きーさんがうるさいですが、だいたいめぐみのせいなのです。いや、くるみさんかな?
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第26話 えんそく どうちゅう編
合流するまではこんな調子かと思われます。
学校を出発した学園生活部遠足班。るーちゃんは元気に運転をエンジョイしています。改良されたるーちゃんカーの耐久性は相当なものですし、運転するるーちゃんの耐衝撃性は貫禄の255です。こうなるともう進み方は一つ、ゴリ押しです。
事故現場だろうが通行止めだろうが関係ありません、次から次へとぶち破っていきます。
「すっごい迫力だね、るーちゃん。スリル満点~」
ゆきはこのパワースタイルが大層気に入ったようです。アトラクションか何かと勘違いされているような気もしないでもないですが、るーちゃん的には楽しんでくれてるならまあ良しといったところです。
問題は残りの連中です。きーさんもりーねーもこの世の終わりを目の当たりにしたかのような表情で絶叫をあげています。いや、ある意味この世の終わりはいつも見ているのですが。
「やっちゃえ、るーちゃん!」
「ゆき、煽るなー!死んじまうぞおおおっ!!」
「ひいいいいいっ、るーちゃん、前!前ぇ!」
先ほど窓から車外へ脱出していった鳥がいましたが、大正解だったようです。こんな運転では常人は命がいくつあっても足りません。リーダーさんがこちらに乗っていたら車酔いではすまなかったでしょう。
「るーちゃん、ストップ!止まって!お姉ちゃん死んじゃうから!」
「そうだ、止まれ。休憩しよう・・・な!」
仕方がないので手頃な公園に突っ込んで停車します。大して広くもない車内ではのんびりできないのでみんな停車するが早いか次々と車から飛び出していきます。るーちゃんもせっかくなのでお外で遊ぶことにしました。やたら元気なゆきに飛び乗りれっつごーです。合流してきた鳥の呆れたような目なんて見えません。
一方の遠征班は安全運転です。あちこちの通行止めで引き返したりルートを再確認したりとゆっくり慎重に進んでいきます。
「くるみさん、疲れてない?先生が運転変わろうか?」
「まだまだだいじょーぶ、めぐねえはいざって時に温存だよ」
実際あたしはまだまだ問題ない。緊張からくる疲れとかが全く無いといったら嘘になるけど、いざというときに備えて今のうちから運転の練習をしておくのもいいと思ってるし、まだまだやってみることにする。
「グオオオオオ・・・」
「うごごごごお・・・」
「うるせーですよ両隣・・・」
後ろの連中はリーダー達が車酔いしていること以外は特に問題なさそうだ。みくが若干キレかけてる気もするが、配置的に仕方なかったので勘弁して欲しい。荒っぽい運転になったら放り出してしまいそうだからめぐねえの膝上に乗せるわけにもいかないし。
「ここも道塞がってるし」
ずっと学校にいたからそこから見える範囲の状況しか知らなかったが、こうして街の中を走ってみると思っていた以上にひどい。右側、死体。左側、廃墟。正面、事故現場、焼死体っぽいのが見える。当時の大混乱がよくわかる惨劇のオンパレードだ。学校の状況が生温いとは絶対に言わないが、外がとんでもない地獄であったことは確かだ。こんなところで生き残っている人たちが本当にいるんだろうか?それとも、駅のあたりはまだマシなんだろうか?
正直そんなわけはないと思う。人が多ければ多いほど、あの日は酷いことになっていたはずだ。人の集まる駅のあたりがまともな状態なわけがない。るーちゃんによると遭遇した連中は物資の調達のためにうろついていたということだった。きっと相当追い込まれている状態なのだろう。はやいとこ合流しないと・・・。
「ちょっと急ぐぞ、思ったより時間かかってる」
「安全運転でお願いね・・・」
休憩中の遠足班は公園でだらだら過ごしていました。柔軟255のるーちゃんがべちゃっと地べたに転がっていたり、美術255のるーちゃんがその辺のもので謎のアートを創りだしたりしています。
「そろそろ出発しないとめぐねえ達が先にいっちゃうんじゃないか?」
「大丈夫よ。向こうはあの惨状じゃペースが遅いはずだもの。るーちゃんの運転を考えたら丁度いいと思うわ」
「安全運転で進むって選択肢はないんですかねぇ・・・」
るーちゃん的にはしっかり安全運転です。何も問題ありません。その証拠にゆきはぜんぜん問題なさそうに元気にしています。
「むしろゆきはなんで大丈夫なんだ・・・?」
「たぶんだけど、ジェットコースターみたいな感覚なのよ・・・安全は確保された上でのスリルだと思ってるのね」
「思い込みって凄いんだな・・・」
「そうね・・・・・・」
りーねー達は休憩してても精神が休まってないような気がしてきたるーちゃん。もう出発でいいやと判断し、自称現代アートの作成を終了して車に乗り込み、みんなにさっさとのりこめーと手招きします。しっかり三人が乗り込み、ラ・ネージュが先にモール目指して飛んでいったことを確認したるーちゃんは再びアクセル全開で出発です。あっという間にすごい速度を出して曲がり角のコンビニを一軒突き破り、そのまま大暴走を再開するのでした。
みんなが立ち去った公園にはるーちゃんお手製の意味不明なエフィジーが大量に残され、他の住民達の恐怖を煽ることとなるのですがそれはまた別のお話です。
そのころの遠征班は住宅街を進行中、恵飛須沢家を通りかかったことで運転手のくるみさんが一時帰宅。のこりのメンバーはその辺で休憩していました。ゾン子さんとリーダーさんはしばらく前、まだチームるーちゃんとして放浪していた頃にこの辺一帯を三人で(ほぼるーちゃん単独で)掃除して雨宿りをしていたことがあるため万全ではないにしろある程度は安全だろうと余裕ぶって車の外でだらけています。車酔いをごまかそうとする必死の空元気なのは明らかでしたが、めぐみは特にそれを指摘するようなことはせず車内で待機していることにしたようでした。
手持ち無沙汰になったみくちゃんは周囲に使い物になるものはないかを見てみることにしました。万が一あいつらがいたとき用に植木鉢を抱えてうろちょろしています。
しばらくそうしていると、突如猛烈なスピードで突っこんでくる車が一台、みくちゃんの前までやってくると急停車です。盛大に鳴り響いたブレーキ音に慌てた様子でくるみさんが自宅を飛び出してきます。
そしてくるみさんが飛び出すのとほぼ同じくして車からも世紀末なヴィジュアルな方々が次々と飛び出してきます。彼らの血走った目は全てみくちゃんに向いているようです。
「ヒャッハァーッ!見つけたぜ幼女ーッ!」
「今日こそぶっ殺してやるぜェーッ!!」
車に取り付けられた旗に気がついたみくちゃん。でかでかと『打倒幼女』と書かれています。この場にいる幼女は自分だけです。みくちゃんは恐らくこの事態の元凶と思われる
「・・・今日は厄日だわ」
現実でこんな台詞を言うことになろうとは・・・、そう思いながら逃走するべく足に力を込めていくみくちゃんなのでした。
基本的にるーちゃんは対モヒカンでは高速移動しているか相手を一撃で始末してしまうかなので幼女打倒し隊の面々が見た目でみくちゃんとの違いを判断するのは実は中々困難だったりします。こいつら幼女で憶えてますし。
一方のモール
「太郎丸ー、ごはんだよー。太郎丸ー」
・・・・・・寂しい。まさかあいつらすら来ないなんて。
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第27話 えんそく ごたごた編
「みく、逃げろっ!」
くるみさんの叫びを合図に植木鉢を投擲。当たったかどうかなんて確認している暇は無い。全速力で車まで駆け戻る。背後で植木鉢が割れる音。
「全員乗れ!」
車酔い達も慌てて戻ってくる。背後から連中が投げてきたらしい斧が車の後部に突き刺さった。
「ああっ!?車に傷がっ・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろっ!出すぞ!!」
めぐみさんが嘆いているが、後でどうにかするしかない。今はとにかくあいつらを振り切らないと。向こうも車で追ってくるし。
こんな特大級の厄介ごとを呼び寄せているなんて・・・これは次にあったら覚悟しておいてほしいな、るーちゃん・・・。
遠足班は(るーちゃん的には)とくに何の問題も無くモールまでやってきていました。死にかけの姉たち(りーねーもきーさんも、途中から悲鳴すらあげなかった)は少し休ませておく必要がありそうですが、遠征班やラ・ネージュを待たなければいけないのでちょうどいいでしょう。
時間が余って暇になったるーちゃん。ダウン組の様子見をゆきに任せてちょっとその辺をうろうろすることにしました。まだまだ遊びたい盛りのるーちゃんはじっとしているのは不得手です。
窓を板などで塞いだ建物と、その中にいるたくさんのあいつらを気配から発見したるーちゃん、何かを思いついたようで近くの道路標識を引っこ抜くと中にいる連中にるーちゃんですよー、とご挨拶です。
当然気付いた中の人たちは板やら窓やらぶち破ってるーちゃん目掛けて飛び出してきます。しかしそこは反射255のるーちゃん。生物の限界を遥かに超えた反射速度で対応し飛び出したそばから標識で叩いて中に押し戻します。押し戻されたやつらも死んではいないので体勢を立て直すと再び飛び出してきます。そして再び叩き戻されます。その様はまるでもぐら叩きやワニ叩きです。どうやらるーちゃんの目的は巨大もぐら叩きをエンジョイすることだったようです。明らかに表情が活き活きとしています。満面の笑みを浮かべるるーちゃんの可愛らしさは中々に形容しがたい素晴らしさですが、猛スピードでターゲットをぶっ叩き続けているこの状況は傍目には恐怖以外の何ものでもありません。ときおり物音を聞きつけてきたその辺の元通行人が哀れにもるーちゃんに近づいていきますが、即座に建物の中へ叩き込まれてもぐらの仲間入りです。もう助かりません、このままるーちゃんのおもちゃです。
結局巨大もぐら叩きは復活したきーさんが鳥を抱えて呼びに来るまで続いたのだとか。かなり激しい運動だったはずですが、体力255のるーちゃんは汗一つかいていなかったそうです。
絶賛逃走中の遠征班はゲーマー恵飛須沢とモヒカンズによる激しいカーチェイスの真っ最中でした。どんどん増えていくモヒカン達による割と容赦ない攻撃にさらされてめぐねえの愛車は傷だらけです。絶賛号泣中です。
「そもそもなんなんだこいつら!?何が『打倒幼女』だ! ・・・みく、お前何かした?」
「いいえ、たぶんるーちゃんです」
というか間違いなくるーちゃんだと思う。この状況でこんな危なそうな連中と喧嘩する幼女が他にいたら見てみたい。
「ならいけるか・・・おーい、お前ら。人違いだから攻撃をやめろー!」
くるみさんに何か考えがあるらしい。どうなることやら。
「ヒャハー!人違いィ?んなわけねーだろうが!!ギャハハハ!!」
「特徴が一致してんだよォ!」
特徴?私とるーちゃんの共通点なんてそれこそ小学生の女子ってことくらいだと思うけど。
「ゾンビの女を連れてるだろうが、そいつが動かぬ証拠ってやつだ!!」
ゾン子のほうを見る。ゑ?私?みたいな顔してるけど、言われてみればこんなやつが2体も3体もいるわけがない。ましてそれを引き連れたまだ無事に生きている幼女なんて・・・。
「くるみさん、無理だ。逃げよう」
「ああ、流石にこれは誤魔化せない・・・だから今更ホッケーマスクを被るな」
むしろ全員ホッケーマスクを装備していればこのカーチェイス防げたんじゃなかろうか。そんなアホな考えが出てくるくらいには現状はピンチだと思う。相手はこっちを殺す気満々。それだけならいつも通りだけど、生きた人間が敵というのはこちらにとってはかなりきつい。相手を躊躇無く攻撃する覚悟が決まっているのはゾン子ただ一人のみってことだし。
逃げるにしても運転手はおそらくまともな運転は始めてと思われるくるみさんだし、そのうちどこかで事故るのはわかりきってる。
「となればここは、めぐみ先生!」
「私の車~っ!!」
・・・この人は非日常では一緒にいちゃダメな類の生き物かもしれない。
「くるみちゃん達、来ないね・・・」
遠足班は待ちくたびれていました。最初こそ曲芸255のるーちゃんによる自動車ジャグリングだの第2回るーちゃん即席ライブ、バックダンサーもいるよ、だので暇を潰していた遠足班でしたが、遠征班は中々追いついてきません。流石にみんな待つことに飽きてきていました。たまに湧いてくるエネミー集団も出て来るたびに刃物装備ラ・ネージュに瞬殺されるため自衛や警戒の必要すらありません。暇です。
「仕方ないわね、先に入りましょう」
りーねーが痺れを切らしたようです。確かにこのまま待っていても無駄足になるので、先に物資を回収するというのはいい考えです。
「えー、まだみんな来てないよ?」
「先にあちこち見ていたほうがめぐねえ達を案内できるだろ」
「・・・・・・それもそっか」
ゆきも納得したのでいざ入店です。そういえば車(初代るーちゃんカー)で道を塞いでいたんだったかなんて考えたるーちゃんは車を吹き飛ばす準備をしながら進んでいきます。るーちゃんメイスだのドリルだの取り出してますが、どこに収納されていたのかは不明です。るーちゃんの容量は255、大抵のものは格納できるとのことですがいったいどこに隠し持っているのでしょうか・・・謎です。
「なんでドリル・・・?」
くるま。
「くま?」
誰が熊だ。
しかしいざそのあたりまで行ってみると車は見るも無残にぶった切られ、普通に通行可能になっていました。デフォルメりーねーも真っ二つです。これにはりーねーも大きなショックを受けたようで、しばらくの間物凄い顔をして座り込んでいました。ゆきが慰めてもすぐには復活してこないあたり重傷です。
どのみち進むのに邪魔だからドリルやチェーンソーでバラバラにする気だったるーちゃん、自分のことは棚に上げてなんてひどいことしやがると憤ってます。多分内心では自分でぶっ壊してりーねーを不機嫌にさせなくて済んだためむしろ喜んでいるのでしょうが、ポーカーフェイス255のるーちゃんはそんなもの顔に出しません。
いつまでもここにいるわけにもいかないのでりーねーを引き摺り先へ進みます。かつて老婆をぶっ飛ばした地点目指して進行です。。ここにきてようやくえくすかりばーをここに残したままだと気付いたるーちゃん、回収した方がいいだろうかなんて考えはじめます。
老婆の残骸までやってきたるーちゃん、残念ながらえくすかりばーはどっかに行ったようで見当たりませんが、代わりに面白いものを見つけました。犬と猫が何匹もたむろしていたのです。これはもう突撃してモフるしかありません。りーねー達が止める間もなくゆきと一緒に突っ込んでいくのでした。
りーねーは顔芸55、るーちゃんはポーカーフェイス255、対照的な姉妹ですね。
受験生の忙しいシーズンには動きが鈍りますね、また不定期化してしまう・・・。
そのころの王さま
「ご報告申し上げます。幼女打倒し隊がターゲットを見つけたそうです。アスタコの使用を申請してきていますが・・・」
「好きにさせてやれ」
双腕重機は用途も多い私の切り札の一つだが、出し惜しむほどではない。好きにすればいいと思う。自分の目的が果たされれば、私の目的を果たすときにもしっかり手伝うだろう。
早く仕留めてしまえばいい。それを合図に私は動く。
もう少しだ。装備も人員も整えた。あとは戻って助けるだけだ。
「もう少しだけ待っててね・・・」
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第28話 えんそく おそうじ編
とりあえず犬猫を一瞬にしてひっ捕らえたゆきとるーちゃん。りーねーやきーさんが止める間もなくモフモフタイムを開始です。
「もふもふもふもふ♪」
もふもふもふもふ。
「るーちゃん、ゆきちゃん。ちょっと待って。危ないから!」
(多摩が見切れなかった・・・にゃと・・・!?)
そのままるーちゃん達がモフり続けて離さないため、りーねーは仕方ないとそのまま噛まれていないかの確認を始めます。捕まえているので安全といえば安全です。
「大丈夫そうね・・・見た感じ噛まれてはいないわ」
「むしろゆき達が噛み付きそうな勢いなんだが・・・」
噛みませんし噛まれません。まったくもって問題なしです。いきなりひっ捕らえられてモフられる動物達にとっては大問題なのでしょうが、それを気にしてくれる生物は今の遠足班にはいないようでした。
一通りモフり続けて犬猫を堪能したるーちゃん。そろそろよかろうと放してやるとみんな一目散にモールの外へと逃げていってしまいました。よほど恐ろしかったのでしょう。後に残されたのはゆきが放してくれなかったためか置き去りにされた小型犬一匹のみです。どうやらゆきはその犬を連れていくつもりのようで、りーねーと交渉の真っ最中のようでした。
「犬を買いにきたんじゃないだろうに・・・いや、非常食にはなるのか?」
きーさんがさらっととんでもないことを言い出しました。犬の今にも「は?」とか言い出しそうな表情にりーねーが爆笑している間に調理255のるーちゃんはさっそく犬肉を使った料理を考え始めます。少し経つと鍋だな・・・と調理器具売り場へ消えていきましたがさてどうなることやら。
るーちゃんが戻ってくると犬(太郎丸というらしい。首輪に書いてあった)は学園生活部の所属ということになっており、一応非常食扱いは返上になったようでした。るーちゃんは使い道のなくなった鍋を被り一人鍋冠祭りを開始します。そのうちフリーダム鍋被りな不死鳥が加わって二人鍋冠祭りになっている気もしますが、まさか何の脈絡も無く鍋被りが増殖するはずもないのでりーねーもきーさんも気のせいだろうと軽く流します。明らかに鍋二号がるーちゃんに弾薬とか銃とか渡して去っていっても気にしません。До свидания.
「さて、犬で時間をくったがそろそろ本来の目的を果たそうじゃないか」
「・・・地下の食料、ね」
明らかに真っ暗っぽい地下の食料品売り場。上るのが苦手なあいつらのことだから降りるだけ降りて下に溜まっている可能性も高そうです。中々の危険地帯であることが予想されます。
「よし、私とるーちゃんで行くか。残りはその辺で隠れててくれ」
きーさんの提案にるーちゃんも探索モードです。暗視255のるーちゃんに明度によるペナルティはありません。というか心眼255のるーちゃんは無理に視覚情報に頼りきって行動する必要すらありません。相変わらず理不尽に無敵です。
「いってらっしゃーい」とりーねーに送り出されたるーちゃん達、物音を立てないように慎重に地下へと降りていきます。
食料品売り場では案の定あいつらが徘徊しているようで、複数ののろのろと這うように歩き回る足音やら、あーだのうーだの呻いている声があちこちから聞こえています。普通の人間が長居したい場所でないことは間違いありません。危険地帯です。
「・・・とはいえ明かりの一つもないと何も見えないな。あいつら寄ってくるだろうけど逃げ回りながら見ていくしかないか」
照明が必要と言われたるーちゃん、松明を取り出し、謎の仮面を装備し、屈んで壁に張り付き奇妙な動きを始めます。「何してんだお前は」と言われても気にしません。様式美です。
当然松明の明かりに釣られたあいつらがやってきます。きーさんは移動しようとしますが、るーちゃんの考えは彼女とはちょっと違います。先に邪魔者を片付けてしまえば後は探索し放題、これがるーちゃんのやり方です。るーちゃんは夏休みの宿題は初日で終わらせるタイプなのです。優等生っぷりが光ります。まずは松明をきーさんに押し付け、ついでに囮と書いた(相変わらず無駄に達筆である)紙をお腹のあたりに貼り付けます。これでるーちゃんは両手フリー、何でもありの自然体です。順調に群がってくるあいつらを見てにへっと口角を吊り上げます。
現在、私は地下の探索をたかえ達に任せて待機中だ。ゆきちゃんが太郎丸と遊んでいるからあまり静かにできてはいないけど、今のところこちらに近づいてくるやつはラ・ネージュが全て撃退しているようなので安全は確保できている。できた鳥である。
今のところ遠足班は順調に動いている。遠征班が追いついてこないことを除けば現時点では何の問題も無い。地下に食料が一切無いとかいうことにならなければ大丈夫のはずだ。
待機している店内でケミカルライトを見つけた。これならあいつらの気を引いてうまく逃げたりできるんじゃないかと考え、いくつか鞄やポケットに入れておく。自衛手段は大事なのだ。
ふと、外で唸り声。またあいつらが来ているのだろうか?一応外を確認してみる。
ひたり、ひたりと進んでくるその影の姿勢は低く、一瞬どこにいるのかわからなかった。影が二つになった。いや、3つ・・・?迫ってくるにつれてその正体がわかった。犬だ。無傷で確保した太郎丸と違い、彼らは既に成り果てている。わざわざ調べるまでもない全身の傷が彼らの最期が凄惨なものであったことを明示している。
唸り声が一際大きくなって気がついた。彼らはまっすぐこちらに向かってきている。・・・既に見つかっている?というか、ラ・ネージュはどこに・・・?
そこまで考えたところで今までゆっくりと歩を進めていた彼らが駆け出した。彼らの濁り腐った目と視線が交差する。狙いは私だ!
さあ、るーちゃんは撃ちだした。12.7cmの連装砲だ。相手は象ではないので弾が通らないなんて事態が起こるはずもなく、あいつらごと店内をめちゃくちゃに破壊していきます。きーさんなどはこう言った。「なかなかこいつはうるさいねえ、ぱちぱち棚に当たるんだ・・・・・・っておい!食料まで吹っ飛んだらどうするつもりだ!」
オツベルごっこはきーさんに取り押さえられて終了です。ごたごたの過程で地下にたむろしていたあいつらも連装砲も囮の張り紙ももうくしゃくしゃに潰れています。
とりあえず地下を制圧しきったるーちゃん。缶詰の確保をきーさんに任せ、回収できる限りのお菓子を持ち出していきます。るーちゃんは甘いものは大好きです。
食料品売り場を出る頃には荷物の量はとんでもないことになってしまっていましたが、るーちゃんが棚ごと持ち出すことで解決しました。積載量255のるーちゃんは缶詰ごときでは止まりません。
のこのこ上へと上ってくると、腐ったお犬がまさにりーねーに飛びかかろうとしていました。るーちゃんは咄嗟に持っていた棚を投擲、腐れドッグの突撃軌道からりーねーを弾き出します。缶詰満載の棚と壁に潰されたりーねーが「ぐぎゅっ!?」とか言ってますが噛まれるよりマシなはずです。
唐突に飛来した棚の出所に犬共が振り向いたときには既にるーちゃんは突撃しています。その気になればライダーなキックも放てるキック力255なるーちゃんの容赦のないローキックでお犬二匹は瞬時に壁の染みです。残る一匹も瞬時に飛び上がって頭上を取ったるーちゃんに真上から強襲されて無残な末路を遂げました。見事に野犬の群れからりーねーを守りきったるーちゃん、きーさんへと向き直り褒めろ褒めろと飛び跳ねます。
「りーさん、りーさん!しっかりして!」
「わんっ!わんっ!」
「ぜんぜん守れてねー!!!」
・・・りーねーの耐久性なら大丈夫のはずです、たぶん。
「なんだか今日は外が騒がしいな・・・。太郎丸が外にいるからかな・・・。」
やっぱり閉じこもっていてもどうにもならない。探しにいかないと。
私は軽く荷物を纏めると、積みあがっている段ボールをどかし始めた。
不死鳥さんはるーちゃんの武器扱い。なお出所が異界故るーちゃんが暇を持て余して次元航行255で遠出しない限り今後の出没予定はありません。
いつになるかわかりませんが次回は遠征班。難易度を考えるとるーちゃんがモール側に行ったのは大失敗かもしれません。
とんずらしたチーム犬
「・・・いかん、太郎丸を置いてきてしまった」
「尊い犠牲にゃ。諦めるにゃ」
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第29話 えんそく とうそう編
ぼつねた ばれんたいん
バレンタインシーズンだと気付いたるーちゃん。今年はちょっと派手なことをやろうと夜中にこっそりと校舎を抜け出していきました。校庭に残っていた連中を有無を言わさず叩き出すと、猛烈な勢いで作業を進めていきます。
早朝、早めに菜園の様子を見ていたりーねー。ふと校庭の方を見ると、そこにはチョコレートで完全再現された鞣河小学校が建築されていました。建築255のるーちゃんにかかれば一夜城ならぬ一夜校舎など造作もありません。小物類も充実し、チョコレート製ということに目を瞑ればいますぐにでも全学年授業を行えそうな状態です。登校してきた元高校生の皆さんが増殖した校舎にドン引きしており、ある意味最高のバリケードと化しています。
木下藤吉郎が存命でない以上犯人は明白です。りーねーは大声でるーちゃんを呼びつけます。食べ物で遊んではいけません!りーねーはすっかりお説教モードです。
しかしそこで素直に怒られるるーちゃんではありません。チョコ小学校に立て篭もり防戦の構えです。昇降口にはその辺うろついているうちにるーちゃんに拉致されたあいつらが無理矢理防衛体制に組み込まれています。
「るーちゃーん、戻って来ないと朝ごはんが食べられないわよー!」
りーねーは兵糧攻めをするつもりのようですが、こちらは拠点全てが食料です。兵糧攻めなど無駄無駄無駄とるーちゃんはふんぞり返っていました。あの姉の考えることなどお見通しなのです。チョコを齧りながら勝利宣言です。
なおこの15分後、学園生活部作戦会議の結果チョコを食べ過ぎると虫歯になっちゃうぞとるーちゃんに脅しをかけ、見事降伏させたのだとか。(るーちゃんはいろいろ頑丈過ぎて虫歯とは縁が無かったので、なんとなくやばいものとしか認識していなかったらしい)
「また道が塞がってるっ!」
「くるみさん右ー!」
「ギギィーッ!」
「うごごーっ!」
「私の車~っ!」
「後半煩い!」
こうして追い回されて逃走してみると、どうにも今回の外出は戦力のバランスが悪すぎるんじゃないかと思う。きーはこっちで良かっただろどう考えても。あたし一人でこいつら全員守りきれと言われると、流石に厳しい気がしてきたぞ。相手はあいつらじゃないし。そもそもこいつらはシャベルでぶっ叩いてもいいのだろうか。アウトな気がするぞ・・・。
「危ないっ、前前!!」
そうこう考えてるうちにも前方から車が飛び出して道を塞いでくる。ほんとにどんどん増えてくるなこのモヒカン集団。どこにこんなに隠れてたんだよ。今まで学校からだとぜんぜん見えなかったぞ、ちくしょう。
「どーすりゃいいんだこれ、そのうち追い込まれちまうぞ」
「・・・・・・私にいい考えがある」
みく、それは死亡フラグってやつじゃないかと思うんだが・・・。
「で、考えって?」
「えーとですね―」
みくの考えとは、駅側の生存者と合流して窮地を凌ぐというものだった。確かに人数が増せばモヒカン共も無茶はできないだろうし、なにより時間がたてばりーさんあたりがあたし達が追いついてこない事に気付いて駅に来てくれるかもしれない。というわけでその案を採用してみたのだが、考えてみれば駅側に敵を引き連れていくようなもので、実に迷惑な話だよなとは思う。手段を選べる状況でもないから実行するけど。問題は・・・・・・
「こいつらいつまで追ってくるんですかね・・・あ、また右から来ます」
「流れ作業になってきたっ!」
既にめぐねえの愛車はあちこちぶつけられすぎて若干動作がおかしくなっている。廃車にするしかないと思うけど、やっぱり私が怒られるんだろうか?最早魂が抜け切っているのかわたしの車~っとすら騒がなくなってきた蒼白めぐねえに聞く勇気はない。
「駅ってそろそろだよな?というかそろそろだということにしてくれ、流石に集中力切れそうだっ・・・」
「この通りだと・・・もうしばらくですかね。あとここにきて後ろから3台くらい来てます」
「ふざけんなぁっ!!」
あたしは一つ心に決めたことがある。今後遠足とつく行事には一切参加しない。少なくとも、世の中がまともになるまでは絶対にごめんだ。こんな秒単位で追突され続けるような遠足は二度とやるもんか!
「ああもうっ、りーさーん、早く来てくれーっ!」
一方のりーさんは一面のお花畑にいました。なんだか明るく、ふわふわとした雰囲気のそこをぼーっと歩き回っています。なんでこんなとこにいるのかなどは深く考えていないようです。
しばらく進んでいくと、眼前には川が流れていました。向こう岸にはもう懐かしさすら覚える園芸部のみんなが手を振っています。どうやらりーさんを呼んでいるようです。一人だけ陸上部が、というかくるみの先輩が混ざっていて、こっちに来てはいけないと言わんばかりのジェスチャーを懸命に続けていますが、全体で見るとりーさんを呼ぶのが多数派のようです。
部員が呼んでいるなら部長として行かない理由は無いわ、とりーさんは川へと入っていきます。先輩さんの必死のジェスチャーはスルーするようです。
しかし、川に入ったあたりで後ろのほうからも誰かがりーさんを呼ぶ声が聞こえてきます。ところどころ犬の鳴き声とか混じってますが、後方からも呼ばれているようです。困りました。
「もう、どっちに行ったらいいのよ」
だからこっちには来るなとずっと言ってるだろうがと言いたげな先輩がいたりしますが、りーさんは先輩を考慮に入れていないのでいまだにどっちに行くか悩んでいるようです。
しかし長々と悩むりーさんに焦れたのか、後方から唐突にどこかで見たような小柄な人影が飛来すると抱えた棚(缶詰とお菓子が満載だった)をりーさんに叩きつけ、そのまま倒れるりーさんを持ち上げると元来た道を駆け戻っていきました。一瞬の出来事に対岸の園芸部員はツッコミすらできず呆然としているのみでした。
「りーさん!りーさん!」
「・・・・・・ゆきちゃん?」
ようやくりーねーが目を覚ましたようです。一時期生死の境を彷徨っていましたがるーちゃんがひっそりどうにかしました。これで何も問題ありません。
「いや問題大有りだろ。とりあえず二度とやるなよあれ」
きーさんが棚を睨み付けながら文句言ってますが、少なくともきーさんを投擲するよりは事態は穏便に片付いたとるーちゃんは思うのです。るーちゃんは余計なことはしません、世界の真理です。
「で、立てそうか?」
「大丈夫・・・だと思う」
多少ふらついてますが、まだまだるーちゃんがフォローできるレベルなので大丈夫です。最悪脳だけ残ってればボディはどうにかします。戦後のロボブレインみたいなので良ければの話ですが。
「とりあえず一旦食料を車に積んで休憩にしよう。買い物はその後ってことで。ゆき、それでいいよな?」
「うん。さ、りーさん行こ?」
どうやら一旦モールを脱出するようです。そろそろ遠征班が追いついてきてもいい時間だけど何やってんだろうか、とか、鳥はどこ行きやがったんだろうか、なんて考えながらるーちゃんも棚を抱えて移動を開始するのでした。
遠征班はようやく駅前までやってきました、4台ほどモヒカン達の車両も引き連れていますし現在進行形で攻撃されまくってますが、到着は到着です。
「おい、駅前がなんかバリケードだらけになってるぞ。どこから入るんだこれ?」
「ぶち破りましょう」
「いや、それじゃ先住民まで敵に回すだろ・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃ、・・・ってああーっ!?」
揉めてる間に後方から次々と追突され、その勢いのままバリケードをぶち破って駅前へと突入です。くるみさんが大声で「やったのあたしじゃないぞー!」と叫んでますが多分誰も聞いていません。
「今ので車が動かなくなった!」
「嘘でしょ!?これからどうするのさ!?」
ここにきていよいよ追い詰められたか、と思えば突撃を敢行したモヒカン達も全く勢いを落とせないままあちこちへ突っ込み存分に拠点を破壊しながら勝手に壊滅していたようでした。後先のことは全く考えていない、所詮はモヒカンです。ここに保管されていたらしい車両やら資材が壊滅状態に陥っていますが、だいたいモヒカンの仕業です。決してくるみさんが焦れて突っ込んだわけではありません。あくまで無罪を主張します。
「なんか知らんが助かったのか・・・?」
ようやく一息つけたらしいくるみさん。ハンドルにぐでっともたれかかります。長々と続いたカーチェイスで魂が抜け切った人が3人くらいいるようですが、みくちゃんが確認したところとりあえず死んではいないようなので一安心です。
「・・・さて、じゃあバリケードを盛大にぶっ壊した謝罪の練習から始めようか、くるみさん」
「こいつらがやりました、じゃダメかねぇ・・・」
幸い責任を被せる相手は周囲にいくらでも転がっています。というかだいたいこいつらのせいなので、くるみさんは正直にそう言おうと決めました。こちらも大迷惑被った上に迎えが無ければ学校に戻る手段すらないという追い詰められっぷりなので容赦など欠片もありません。
「まあ、とりあえず車から出て、現地の人に事情を説明してバリケードを直さないと。そのうちあいつらが入ってきちゃうよ」
「そうだなー。ちょっと外の空気を・・・」
とまさに車から出ようとしたそのとき、何やらガラガラと音を立て、あちこちに突っこんだ車両を蹴散らしながら重機が一台飛び出してきます。特徴的な二つのアームで車やらバリケードの残骸やらを蹴散らしつつ、こちらへ向かってきます。
「おぉ!何かすごいの出てきましたよくるみさん」
「バリケード直すのに使うのかもなー」
「・・・こっちにむかって一目散なんですけど」
「この車もバリケードにされるんじゃないか?どうせ壊れてるし」
「・・・・・・明らかにモヒカンが乗ってるんですけどっ!」
「あーあー聞こえなーい。打倒幼女の旗なんて全く見えねー」
「現実逃避してる場合かっ!!」
大慌てのみくちゃん、魂抜けーズの三人を車から叩き出すと、くるみさんを引き摺るように車から飛び出します。現実逃避してると車ごと潰されてしまいそうな感じなのでぼーっとしてられません。
「ヒャッハー!こいつのアームの前ではいかに幼女とて潰されるしかあるめぇ!ぶっ潰してやる!」
「流石にオーバーキルだろそれは!」
左腕のカッターをぐるぐると回しながらアスタコNEOが迫ってきます。さすがのくるみさんでもシャベルで重機は倒せません。魂抜けーズを置いて逃げ去るわけにもいかない以上、くるみさんではここで詰みです。
「ははっ・・・この末路は読めなかったわ。もうあいつら関係ないじゃないか」
「何諦めてんですか!」
とはいえ打開策も思いつかないくるみさん。だったらみくはどうにかできるのかと聞いてみます。
「・・・・・・私にいい考えがある」
「それ聞いたらこうなったんですがねぇ!」
とはいえ、みくちゃんの中では既に打開策は出来上がっていました。あとは実行するだけです。
「というわけでくるみさん、みんなのことは頼みます」
言うが早いか、みくちゃんは駆け出していきました。
「潰せるもんなら潰してみろバーカ!」
こちらに注意が向くように挑発して走り出す。あいつらの最優先目標は幼女、つまり私なのだから(流石にバリケードの修復より優先してこちらを狙ってきたのは少々驚いたが)こうして単独で動けば残りの面々に攻撃が向くことはないはずだ。案の定奴はこちらを追ってきた。これで体力が尽きなければ勝てるはず・・・尽きなければ。
溜め込んである資材やバリケード用に積まれたものの、崩れやすそうなところを探しながら走り続ける。当然追いつかれたら即死である。使える障害物はどんどん使っていく。後方から障害物たちが次々蹴散らされる音に混じってくるみさんの怒鳴り声も聞こえてくるが、反応する余裕は無い。一歩間違えるだけでアームで潰されたり轢き殺されたり何か投げつけられたりしてお陀仏なのだ。なるべく短期決戦といきたい、そろそろ走れなくなりそうだし・・・息が続かないっての。
と、痺れを切らしたか多少乱暴にでもこちらを始末しにかかったようで、無理矢理にアームごと車体を旋回させて薙ぎ払ってきた。倒れこむようにして逃れる。・・・勝った。
こんな状態でそんなに派手に資材の山を崩せば、当然派手に崩落を起こす。その辺でバリケードになってる大型バスの直撃を受けるがいい!
「よ、幼女がバスを投げてきたァ!?」
いや、るーちゃんなら投げたと思うけど、アンタが勝手に当たりにいっただけだからねそれ。盛大に横転した重機。多少勿体無かった気もするが、無傷で鹵獲なんてるーちゃんでもやるまい(できるのだろうけど)。とにかく、これで危機は脱した・・・。案外なんとかなるものだね。
・・・なんて油断をしていたからか、最後のあがきにと連中が放った投げナイフが私の左肩へと突き刺さった。
「痛っ・・・つぅぅぅーっ!・・・うわっ、このナイフ柄までべったり血だらけじゃないですか、こんなもん投げるなっての・・・いでででー!」
今回はるーちゃん代わりに悪党(多分)を倒してみたけども、本質的には私はただの幼女でしかないわけで。冷静を装っているけどこの一撃は割と致命的だった。緊張が解けたのとか痛みとかで私はくるみさん達のもとへ戻ることもできずに崩れ落ちた。流石にもう動く気も起きない。くるみさんかリーダーさんあたりが回収に来てくれるのを待つことにしよう。幸い敵は沈黙したようだし、ちょっとくらい寝ていても問題はないはずだ。くるみさんの声は聞こえてるし、すぐに来るでしょ。
「流石に疲れた・・・限界だよ・・・・・・のど、かわいたなぁ・・・・・・」
「お頭ー!大変です!緊急事態ですッ!!」
「・・・・・・何?」
やかましい奴だ。今私はモール突入後の生活プランを考えるので忙しいのだ。バカ騒ぎは後にしていただきたい。これで報告の内容が猪捕まえたとかだったら太平洋まで投擲してやる、と思考が危険な方向に流れていく。うーん、どうにもちょっと落ち着きが足りない。気が逸っているようだ、深呼吸深呼吸・・・。
で、そうだよ報告だった。何が起きたの?
「モール突入用の資材、車両集積所が崩壊した模様です!」
「ゑ?」
意味がわからない。馬鹿共が獲物見つけて暴れてはいたけど、その辺りのものには手をつけないように日頃からよ~く言い聞かせてるはずなんだけど。
「何がどうなってそんなことになったの?」
「それが・・・追い回していたターゲットがこの拠点に突っこんできたようでして・・・」
もう呆れて物も言えない。やっぱりこの馬鹿共を戦力としてあてにしたこと自体が根本的に間違いだった。自分の目的は自分の手で果たさないといけないのだ。
「というわけでちょっとモールに行ってくるので、後は勝手にしてればいいよ」
「ちょっと待ってくださいよ!まだあいつらここで暴れてるんですよ!」
バケモノが暴れてるんじゃないんだから、生きてる人間くらいは自分達でどうにかしていただきたいものである。とはいえ、感染してない確証があるわけではないのか。となると先に始末するべきか・・・モールから救助してきたあの子に危険が及ぶ事態は避けておくべきだ。
「仕方ないか・・・私の剣を持ってこい」
「は、はいッ!」
私の邪魔をする者は皆死ねばいい。私にはあの子がいればいい。犠牲になってもらうぞ、生存者っ。
遠征組がほぼくるみとみくしか喋ってなかったり、王様がだんだんメッキ剥がれてたりするのは仕様です。
視点があっち行ったりこっち行ったりでややこしいので、そろそろ合流したいところですが・・・。
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番外編 るーちゃん 海へ行く ※別次元注意
第28話の鍋被り2号と12.7cm連装砲の出所のあたりのお話です。時系列的には21話『かいぎ』より前くらい。
何これとは言いませんが改が出たとかなんとか。暇を持て余せばるーちゃんだって飛びつきますとも。
こんなことやってる暇があったら本編書けって話なんですが、思いついてしまったものは致し方無しということで・・・・・・駄目?
今日も今日とてゆきを授業に送り出し、くるみさんと一緒に見回りを終えるとすることがなくなったるーちゃん。暇を持て余したのでちょっといつもと違うことをやろうと思いつきました。他のみんなに見つからないようにこそこそと校長室へと入っていきます。
誰も入ってこないことを確認したるーちゃん、軽く深呼吸すると、開け放たれた窓から全速力で飛び出していきます。全力で行われた高速移動は次元さえも歪ませ、いつの間にやらるーちゃんの姿はどこにもありませんでした。
次元航行255のるーちゃんには全く関係ない次元まで徒歩でいくなど造作もないことです。気がつけばるーちゃんは太平洋上を飛行していました。昼間に出発したはずなのに視界には星空が広がっていますが、たぶん時差みたいなものでしょう。るーちゃんは一々気にしません。景色を楽しみながら少しずつ高度を落としていきます。
「夜戦だ夜戦だーっ!夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦」
一方、割と真っ暗な夜の海上をわけのわからないことを叫びながら進んでいく人影がありました。
「・・・・・・で、どうして私まで付き合わされているのかな?」
どうやら流石に単独行動しているわけではないようで、少し遅れて見るからにやる気のなさそうな白っぽいのが追従していました。
「私とは去年の忘年会で漫才コンビを組んだ仲じゃないか!」
「全くうけなかった挙句、電と神通さんに放り出されたけどね」
適当にあしらっていますが、それでもついていくあたり仲は悪くないのでしょう。ぶつくさと垂れ流され続ける悪態を夜戦夜戦と騒いでかき消しながら二人の航行は続きます。
と、不意に夜戦コールと悪態が示し合わせたかのようにピタリと止まります。どうやら電探に反応があったようです。いよいよ待ちに待った夜戦だと騒がしいほうの人物は勝手に意気高揚です。
夜襲など考えていなかったらしい鯨のような奇妙な物体による艦隊の背後から、二つの人影は奇襲をかけていくのでした。
一方着水していたるーちゃん、突如として前方で発生した戦火に興味津々です。現地目指して海上を疾走していきます。走破性255のるーちゃんにとっては海の上を走り回ることなど造作もありません。るーちゃんは水陸両用なのです。途中で意味不明な物体部隊が数隻襲い掛かってきましたが、たまたま現場に居合わせた鮫の尾びれを掴んで振り回したら全員四散してしまったようでした。るーちゃんの手にかかれば魚も立派な武器なのです。
とはいえ魚を振り回すのも可哀想だと考え直したるーちゃん。撃破した連中を使って手早く装備を整えていきます。サバイバル255のるーちゃんはいつも装備は現地調達です。
5インチ砲やら残骸製簡易ハンマーやらを即席で装備したるーちゃん。再び前方のドンパチ目掛けて突撃していきます。まともな人間なら近づこうとは思わないのでしょうが、るーちゃんの目的はあくまで暇つぶしです。こういうときのるーちゃんは特にリスクの管理はせずにいろんなことにどんどん首を突っこんでいきます。好奇心255が大暴走です。
こうして前方の艦隊へ接近したるーちゃん。既に後方から散々に夜襲を受けていて気が立っていたためか、こいつらはるーちゃんを視界に入れるが早いか猛烈な勢いで砲撃を敢行してきます。こいつらからみれば後方の二隻を相手にするより前方の一隻(るーちゃんは一応分類上は人なので一人という表現が適切なのだが彼らにそれを判断する術はない。単装砲を振り回しながら海上を走り回ってる人間など常識で考えているわけないのだから)を沈めて離脱するほうがまだ勝ち目がありそうに思えるようで、るーちゃん相手にその火力を集中していくことにしたようです。言うまでもありませんが、最悪の選択でした。
一斉に放たれた鯨モドキからの砲撃は、しかしただの一発もるーちゃんに当たることはありませんでした。ちょこまかと動き回る艦娘はこれまでにも相手にしてきていたこいつらでしたが、るーちゃんはそれらとはレベルが違います。複雑怪奇な回避パターンと異様な速度で全く攻撃を寄せ付けません。挙句の果てに反撃として放たれる攻撃はたかが5インチ砲のはずなのに誰に着弾しても一撃で爆発四散、沈んでいく残骸に原型をとどめたものなど一つもないという有様です。無論るーちゃんの砲撃にはずれなどあるはずもなく、撃てば撃っただけ彼らは沈んでいきます。最初ちょっと離れた位置の群れまで含めれば18隻(3マス分ほど)もいた彼らですが、後ろの夜戦狂たちに始めの奇襲で2隻、その後の交戦でもう2隻沈められ、乱入したるーちゃんに11隻を瞬殺されてあっという間に残るは3隻という有様です。
「おぉ~、なんだか随分とんでもない夜戦好きの同士が現れたみたいだよ!これは私も負けてられないね!」
「・・・・・・いや、誰だいあの子は?」
勝手に同好の士扱いされてますがるーちゃん別に夜戦好きではありません。夜に出てきたのも偶然です。ついでを言うならば白いのも別に夜戦好きではありません。そんなのは一隻で十分です。
るーちゃんもいきなり「さあ、私と夜戦しよ!」なんて言いいながら突撃してこられてもなんだこいつとしか言いようがありません。とりあえず夜戦がしたいようなので敵(だと思われる変なの)目掛けて投擲してやります。しかしるーちゃん的にはいとやかまし、だまれというニュアンスの行動だったのに投げ飛ばされた状態から魚雷叩き込んで敵を沈め、「ナイスアシスト!」とか言ってくるあたりまともなやつではなさそうです。とりあえず残る2隻を宇宙空間まで蹴り出したるーちゃんは、怪しい夜戦さんの相手をすべく身構えるのでした。
「いやー同じ夜戦好きがドロップしたことを嬉しく思うよ。私は川内、君と同じ夜戦愛好家だよ、よろしく!」
るーちゃん2秒で理解しました。この人話通じない。適当に聞き流せ系の人に違いありません。
「そもそもドロップ艦じゃないと思うんだ・・・普通に暴れてたし・・・」
この白いのの方が話が通じそうです。これでこいつまで夜戦夜戦言い出したら海を叩き割って海底に沈めるしかなさそうです。
「白いのじゃないよ、私は響。別に夜戦好きでもないから沈めないで欲しいな」
違ったようです。後ろで川内がぶつくさ言ってますが、スルーする方針でいくようです。対応が手馴れています。
「まぁ、この夜戦は放っておくとして、君の名前はなんていうのかな?」
るーちゃんですよー。
「ひびきー、わかったー?」
「全然、るーちゃんて名乗られても艦種すらわからないし」
二人に連れられて陸に上がったるーちゃん。どこかの建物で調べ物の真っ最中です。もっともるーちゃんは関係ない本読み漁ってますが。
「提督に聞いたほうが早いかぁ。そろそろ起きてるかなぁ・・・」
「川内が寝たら起きてくるんじゃないかな、習慣的に」
「いーや、起きているぞ・・・」
二人の背後からかけられた声に振り向いてみると、なんだか偉そうな(その割に不思議と威厳は薄めなのだから面白いものだ)男性が立っていました。その額には青筋が浮かんでおり、読心255のるーちゃんでなくても怒っていることは一目でわかります。
「さて、無断で夜戦に出るなんて暴挙に及んだ言い訳を聞かせてもらおうか?」
白いのが「は?え・・・無断だったの!?」と川内に詰め寄っているのでやらかしたのは奴なのでしょう。いずれにしてもるーちゃんには関係のないお話で
「お前も来い、提督がお呼びだ」
逃げられませんでした。
執務室(たぶん)に押し込められたるーちゃん達。川内と白いのが提督(たぶん)とその部下(これまたたぶん)の女性から猛烈なお説教を喰らっていますが、るーちゃん全く関係ないのでだいたい聞き流します。暇つぶし用の本はしっかり持ち出しています。こういう細かい時間でちゃっかりと知識を蓄えていくのが好成績の秘訣です。話の内容も(細かいところを抜きにすれば)しっかりわかってます。マルチタスクを255個同時処理可能なるーちゃんにとっては容易いことです。要するに軍属が無断で出撃して勝手に暴れていた(当然それに伴う資材は提督持ちである)というぶっ殺されても文句言えない所業を行った川内のせいで監督責任を問われた提督やその秘書を務めているらしいナガト、リュウジョウ両名(どちらがどちらかはるーちゃんにはわからなかった。名乗られていないわけだし)の立場が危うくなりそうだから厳罰ですと、まぁたぶんだいたいこんな感じです。もしかしたらところどころ間違ってるかもしれませんが、夜戦をそのうちそのうちと引き伸ばした提督に焦れて無断で飛び出したのは間違いなさそうなので大筋は合ってるはずです。ちなみにるーちゃんなら即銃殺してます。厳罰の話をしてるだけまだ温情があります。
「んで、その交戦時にドロップしたのがその子か」
るーちゃんの話になったようです。一応提督達にもるーちゃんですよーといつものご挨拶です。最早いうまでもありませんが必要な情報は何も伝わりません。
「るーちゃんって・・・・・・なんだ?」
「おそらく新手の駆逐だろう。例外を除けば背格好でだいたいはわかるというものだ。」
「ちょい待ち、いま何でウチ見て言うた?ウチにわかるように説明してくれんか?」
案の定提督たちも混乱しているようです。ちなみにるーちゃん駆逐ではありません。というかこいつら何か勘違いしてないだろうかと考え始めるるーちゃんです。
「えーと、るーちゃん。一つ確認していいだろうか?」
提督からの質問です。さて何でしょうか。
「るーちゃんの正式名称はオゴボォ!!?」
るーちゃんの名前を聞いたものは大いなる意思によって成敗されます。別に他に名乗りようがないとかそういう話ではありません、断じて。ただぶちのめしておしまいにするのも可哀想なので、るーちゃんは苗字だけ教えてあげました。
「若狭・・・わかさ・・・そうか、海自の観測艦か!」
るーちゃんは観測艦ではありませんし、そもそも海上自衛隊とは縁もゆかりもございません。事実をいってるだけで誤解が深まっていくこの状況。どちらかといえば寡黙なほうである、というか行動で示すタイプであるるーちゃんにとってこの状況はあまり好ましくないのですが、ぶっちゃけその誤解で何か困るかというとそうでもないのでスルーします。所詮は暇つぶしの一環です。
るーちゃんの確認が終わるとまた川内たちのお説教(+処分)へと話は戻ります。どうやらここの提督ではもうこの夜戦バカ(提督がそう言った)の面倒は見切れないので島流しだと、なんかまあそういう方向で話が進むようです。左遷というやつです。
「・・・他人事のような顔してるけど、響とわかさもそっちに配属になるんだからな。連帯責任だぞ」
「なん・・・だと・・・」
ふざけている白いのはともかく、るーちゃんまで島流しは理不尽な気もしないでもないですが、せめて同じ野戦バカ仲間をつけてやろうという提督なりの川内への優しさなのでしょう。根本的なところから誤解が混ざっています。るーちゃんは夜戦バカじゃありません、根も葉もない出鱈目です。
そんなこんなで左遷艦隊に配備されてしまったるーちゃん。行き先だけ指示された3隻(二隻と一人である。るーちゃんは船ではない)はあわただしく出発準備です。
いい加減眠い(と言っているのが川内なのが腹立たしいところだが、既に朝なので仕方ないのだろう)とのことで急いで準備を済ませた一行(なお準備時間の大半は出て行くものかと寮にしがみついていた白いのを引き剥がすのに費やした)は、島流し輸送船に乗って運ばれていきます。寝ている二人を放置して景色を楽しむるーちゃんは、そろそろゆきの授業が終わるかな、などと自分の世界の状況を考えていました。体内時計精度255のるーちゃんには時差など関係ありません。夕飯までに学校に帰れるのかどうかを心配しながら運ばれていくるーちゃんなのでした。
「ここが、私達の新たな拠点というわけだね!」
輸送船を降りてみると、島流し先も基地か何か、それっぽい施設のようでした。異様にボロボロの上に人の気配もありませんが、川内がそういうからにはここが彼女の新天地なのでしょう。道連れとなった白いのがあまりのボロさにますます白くなっていきます、哀れなものです。
「・・・まあ、燃え尽きている場合じゃないか。とりあえず、ここの司令官に着任の挨拶でもしてこようか」
るーちゃんの手を引き建物の中へと向かおうとする白いの。川内のハイテンションは相手にしないことにしたようです。人っ子一人いない廊下を進み、ここの提督の執務室(だと思われる、ルームプレートは朽ちていた)までたどり着いた一行。着任の挨拶をするため中に入ります。
ところが、執務室は全くの無人でした。明らかにさっさと新調したくなる薄汚れた壁紙や、何の変哲も無い床が見えているだけの、とても艦隊の指揮など行えなさそうなおんぼろルームです。引越し直後を思わせるダンボールたちが無造作に積み上げられているのがなおさらおんぼろ感を増しています。
「ふっふ~ん。いかにも新天地って感じだね」
「こんな生々しい引越し感はいらないよ。司令官も不在なようだし」
るーちゃんもこう汚い部屋を見ていると掃除したくなるのでそわそわしています。その気になればあっという間に新築同然にしてみせます。めざせ部室状態です。
「いーや、司令官はちゃんとここにいるよ!」
「・・・いや、どこにいるのさ。このダンボールに入ってるわけじゃあるまいし」
るーちゃんの探査に引っかからない以上ダンボールは無人です。生体反応はありません。そしてるーちゃんの索敵を掻い潜れる存在などこの世にいない以上確かにこの部屋は無人のはずです。
ふっふっふと、なにやら不適な笑みを浮かべた川内が部屋の奥へと歩いていき、ダンボールを背にるーちゃん達へと向き直りました。
「まだわからないかなぁ」
にやにやと笑みを浮かべてるーちゃん達を見つめる川内。るーちゃん猛烈に嫌な予感がしています。これはりーねーのお説教手前に匹敵する感じです。碌なもんじゃありません。
「ようこそ、夜戦好きの夜戦好きによる夜戦好きのための鎮守府へ!私が艦隊旗艦兼等鎮守府の司令官を務めることになった川内だよ!改めてよろしく!」
沈黙。ああ、また滑ったね、という白いのの呟きだけが無言の空間に染み入りました。
るーちゃんは無言で校長室に繋がるポータルを設置すると、そのまま迷わず飛び込みました。一拍遅れて白いのもるーちゃんに続いてポータルに入り、後にはドヤ顔で固まった川内とダンボールの山だけが残されたのでした。
続くかは知らない。次からはまた遠足編です、そろそろみーくんに出番をあげたい。
というわけで、艦これ改を川内でスタートして、開幕で響を建造すればあなたもるーちゃん風鎮守府ライフをエンジョイできるかもしれませんよ(マ)
誰がどれだかわからないあなたへ
海洋観測艦『わかさ』(偽)
いつもの人。熊ではない。
何の脈絡も無く出現した大戦期以外の時間軸の艦娘、海上自衛隊所属のふたみ型2番艦「わかさ」・・・などということは全くなく、その正体は艦娘でもなんでもなく、普通にるーちゃんである。相変わらずの全ステータスカンスト+スロット数255の圧倒的物量によってこちらの世界においても無双するものと思われる。ただしバランス調整のためかあくまで暇つぶしだからか、基本的に鎮守府には不在。ちなみに別に夜戦好きではない、時差の問題である。
軽巡洋艦『川内』
夜戦の人。
夜戦好きも度が過ぎた結果「じゃあ自分で好きなだけ夜戦ができる鎮守府でも作ってこい」と言われて提督に放り出された。左遷なのか栄転なのかは誰にも判断不能。本人は喜んでいるが、配属先は廃墟である。親友(とある夜戦で勝手に認定した)の響と、夜戦好き仲間(勘違い)のるーちゃんと共に今日も今日とて夜戦の準備を進めている夜戦狂。なお艦隊運営に必要な資材は古巣からがめている模様。
駆逐艦『響』
白いの。
鎮守府の自由人枠・・・だったのだが気紛れで川内の夜戦に付き合ったのが運の尽き。以降気に入られたようで毎晩散々に振り回され、最終的には仲良く左遷させられていた苦労人。ただし川内が絡まない場面では自ら奇行を繰り返し周囲に苦労をかける側の存在である。川内から逃げるのに便利という理由でがっこう次元にも出入りしている。ちなみに別に親友ではない、気紛れである。
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第30話 えんそく しんじん編
いや、川内は初期で選べるからいいんですが最初の建造で響が出るまでリセマラしてたらもの凄く時間を食いまして・・・。
ようやくみーくんが本編に出てきます。あと消えてた鳥とか。
太郎丸を探しに外に出た私だったが、探索は想定していたよりも遥かに楽なものになった。当然あの恐ろしい人達(人という扱いで合っているのかはわからないけど)もモールを徘徊しているし、私も何度か遭遇してしまっていた。けど・・・
「トリキック!」
どこからか飛んできた変な鳥が全部撃退してくれるのだ。スプラッタな状況さえ気にしなければ中々に快適な道中である。
でも、この鳥どこからきたんだろう・・・?モールにもともといたってことはないだろうし・・・。
「ホラ、サッサトアルケ、ソトニデラレナイダローガ」
そもそもこんなにべらべら喋る鳥っているんだろうか。新手のかれらじゃないよね?
「ハヤクコイ。タローマルニオイテイカレエルゾ?」
「え、太郎丸を知ってるの?」
「シタデイッショダッタ。トイウカアイツガウエニイケッテイッタカラワザワザキタンダゾ」
太郎丸に言われてわざわざ迎えに来てくれていたらしい。そうとなれば急いで下に降りて太郎丸と合流しなくっちゃ。
「よし・・・急ごう、鳥さん!」
「ダカラハヤクシロトイッテタダローガ!」
待ってて、太郎丸っ!
つい早足になってしまう。でも、ペースを落とそうとは思わない。
私は、圭が出て行くのを止めることができなかった。あの子を引き留めることも、あの子と一緒に動き出すこともできなかった。そして、あの子は戻ってこなかった。おそらく、もう会うことはできないだろう。あのとき一緒に出て行けば、何か変わったのだろうかと思い悩んだことも一度や二度ではない。
だから、同じことは繰り返さない。早く、早く太郎丸のところへ・・・・・・ッ!
停止したエスカレーターを駆け下りようとしたところ、前方にはかれらがぎっしり。ちょうど上ってきているところに駆け込んでいってしまったらしい。急いで上に戻ろうにも後方からもかれら。鳥さんは、ちょっと後方・・・丁寧にかれらを始末してくれていたらしい。しまった、突出しすぎた・・・。
どうすれば、と悩みながら周囲を見渡す私。下になにかあればそこに飛び降りようと思ったんだけど、丁度よさそうなピアノがあったはずの場所にはよくわからない残骸が転がっているだけだった。あの日の騒動で破壊されてしまったんだろうか、それにしては派手に壊されすぎているような・・・、なんて考えてる場合じゃない。こんなところで終わりたくないっ・・・。少しずつあいつらは迫ってきて、必死に周囲を見回して、視界に小さな女の子が飛び込んできたのは、こんなタイミングだった。
とりあえず休憩組(というか遠足組+太郎丸、るーちゃん以外の全員である)と荷物を車に放り込んだるーちゃん。るーちゃんカー二号の中は安全圏なので留守番をみんなに任せて一人モールへと戻っていきます。どうせりーねーはダウンしてるから余計なことはしないでしょうし、きーさんはその面倒見てるでしょうし、ゆきは太郎丸と遊ぶのに夢中だから多分放っておいても問題ないでしょう。一人であちこち見てくるには丁度よさそうです。どうせどこかに行った鳥を探さなければいけませんし、多少遊び歩いてもきっと怒られはしないでしょう。
一人で徘徊している分には植木鉢をあいつらに投げて遊んでてもガスコンロ持ってきてカップ麺食べてても店内でゴルフ始めても子供向け特撮の変身ベルト装備してても咎めるものはありません。・・・これ結構うるさいから囮に便利かもしれない、なんてベルトを弄くるるーちゃんでした。囮が必要になる場面があるかどうかはわかりませんが、備えあれば何とやらです。
その後も買い物を続けるるーちゃん。その辺の消火器を持ち出したり、マネキンの胴体を振り回したりとやりたい放題を続けます。そういえばみくちゃんとゆきがなんか野菜だか果物だか何だか必要って言ってた気がするので適当に探してみます。途中で何故か気に入ったらしい鉢植えの小さなサボテンがるーちゃんの頭上に鎮座していますがそれをツッコむほど勇気のあるあいつらはいないようですし、くるみさんも不在です。上機嫌でサボテン載せながらるーちゃんの徘徊は続きます。
そうこうしながら進んでいくと、下のほうからラ・ネージュの声が聞こえたのでそちらへ向かって突撃してみるるーちゃん。どうやら買い物に夢中になって奇行に励んでいるうちに入れ違いになっていたようです。ラ・ネージュのちょっと前方には生存者の姿も見えます、どうやら鳥が見つけて合流していたようですが、よほど急いで脱出しようとしていたのか、突出しすぎてエスカレーターで囲まれてしまっています。
どうやらさっそく囮用ベルトの出番のようです。目玉を放り込めば早速流れる「アーイ!」という合図。続けて「コッチヲミロー!コッチヲミロー!」と変身待機音が大音量で流れればもうあいつらの注意はるーちゃんに釘付けです。生存者さんもこちらをガン見です、観客やってないではやく逃げなさい。一拍置いてレバーをがしゃりと弄くればこれまたうるさい変身音声が流れます。もはや関係ないとこにいたあいつらまで呼び寄せるレベルのやかましさですが、囮という役割は完全に果たせているからオッケーなのです。細かいところに拘るるーちゃんは変身音声と同時に着替え255の早業であらかじめ(モールに転がってたもので)用意しておいたスーツやパーカーを着用して変身完了です(なおサボテンは頭とパーカーのフードに挟まれていた)。凝り性のるーちゃんは音声だけで妥協しません、るーちゃんは何事も形から入るタイプなのです。何故か生存者さんが「す、すごい・・・変身した!」と目を輝かせてますが、るーちゃん的にはこいつの注意を引いてどーすんだ状態です。
とはいえ観客がいるということになるわけですし、あまりいつもみたいに変なことはできません。るーちゃんは意図的には子供の夢は壊しません、たまにやらかすのはあくまで事故です。というわけでゴルフクラブやマネキンで殴打して回ったり、チェーンソーやドリルでスプラッターするのは絵面的に論外です。必然的に素手で立ち回ることになるわけで、それも一発で隣町まで吹っ飛ばすような威力ではなく、丁度こいつらを撃破できるレベルまで手加減する必要があります、繊細な作業です。
とはいえ演劇の派生で殺陣255のるーちゃん、うまいこと立ち回りながらあいつらを壊滅させることなど造作もありません。見事な動きであいつらを叩きのめしていきます。流れるような連撃であっという間に上側のあいつらを蹴散らしエスカレーター上の生存者さんのところまで到達すると、背に庇いながら再びアクションシーンを再会です。今度はあいつらを次々下に蹴り落としていきます。
トドメには纏めたあいつらを真上に蹴り飛ばした上で爆殺することも忘れません。火薬は地下で撃ちまくった連装砲の残りから調達しました。あくまで演出の都合であり火遊びではなかったというのがるーちゃんの主張、どうか反省文は勘弁していただきたいとのこと。
一通りあいつらが片付いたので「オヤスミー」の音声と共に再び早着替えを行うるーちゃん。生存者さんにるーちゃんですよーといつも通りのご挨拶です。
「・・・・・・これ、どういうギミックで変身してるの?」
ごり押し。
一方の車内ではみんなのんびりと休憩中です。まだ本調子でないらしいりーさんがゆっくり水を飲んでいます。
「水うまそうだなっ!」
「? ・・・ゆきちゃんも飲む?」
「いや、なんかよくわからないけど言わないといけないような気がして・・・ごみん」
そもそも何の野次なんだ?と首をかしげる太郎丸でした。
下で部員がふざけている間にるーちゃんもやりたい放題次への手を進めます。まずはいつまでたってもやってこない遠征班の様子を確かめるためにモールの外壁をぶち破るとラ・ネージュをつかんで放り出します。投擲された鳥は弾丸のように駅のほうへと飛んでいきました。これで向こうはOKのはずです。生存者さんが「鳥さーん!!?」と叫んでますがたぶん無事なので大丈夫ですよとるーちゃんは楽観視です。正直外壁ぶち破ってるほうが問題のような気がしないでもないのですが、生存者さんは鳥さんのあまりの扱いにそこまで気が回らなかったようなのでるーちゃん一安心です。
続けて全員分の衣服を買い溜めしておくことにしたるーちゃん。とりあえずサイズが合うものを次々に持ち出していきます。るーちゃんにとって全員の身長やスリーサイズを把握しておくことなど造作もないことです。リーダーさん用の衣服まで女性用になってること意外は完璧でした。まあ、誰が見ているわけでもないしたぶん問題ないでしょう。
いつぞや使った防犯ブザーなんかもりーねーとかに持たせておけば有効活用してくれるだろうとまた回収します。どんどん荷物が増えていってるはずなのですが、るーちゃんを見ていても鞄が一つある以外に特に荷物は見当たりません。不思議でしょうがないといった顔をしている生存者さんがるーちゃんに「荷物どこやったの?」と聞いてますが、るーちゃんは青狸とだけ答えるととことこ先へ進んでいってしまいました。謎はまったく解けません。
そんなこんなで買い物を続けるうちにどんどん上のほうに上ってきてしまったるーちゃんたち。生存者さんが住んでいた部屋まで戻ってきてしまったようなので、ついでに食料などを回収しておきます。たぶんもう戻ってこないと思われるので容赦なく全回収です。生存者さんには元々仲間がいたらしく、もし戻ってきたときのために、ともうこの部屋には何も無いよとメモを書いて扉にくっつけていました。るーちゃんもるーちゃんですよーとメモを残しておきます。無論何も伝わりません。
はやく太郎丸と合流したいんだけど・・・と言ってる生存者さんの意見を全く聞かずに映画館へとやってきたるーちゃん。居残っていた何体かのあいつらと仲良く映画鑑賞です。厳密にはるーちゃんに気付いたやつから消されているので気付いてないやつらと映画見てるだけなのですが、結果的には変わらないのでるーちゃんはあくまで仲良くやっていると言い張ります。
しかし島がドンパチ、賑やかになったころ、偵察に出していたラ・ネージュが戻ってきました。どうやら遠征班はモヒカン共に追い回されているようで、急いで助けにいかないとまずそうです。映画鑑賞を邪魔されて機嫌最悪なるーちゃんは、右手にラ・ネージュ、左手に生存者さんを引っ掴んで映画館を飛び出すと、そのまま外壁を蹴り破って外に飛び出しました。そのままビルやら電柱やらに次々飛び移り、猛スピードで駅に向かっていきます。後には振り回されながらぶっ飛んでいく生存者さんの悲鳴と、下方の車から遠ざかっていくるーちゃんを呆然と眺めるきーさんだけが残されたのでした。
「・・・え?私の出番はこれだけか?」
「きーちゃん、何言ってるの?」
駅前は異様な空気に包まれていた。ぴりぴりとした肌を刺すような空気。物理的な息苦しさすら感じるような重圧。容易く可視化できるのではないかと思わせるほどの濃密な殺気。散々追いかけてきたモヒカン達の騒々しさとは違う、静的な狂気。
この場の空気を一変させたのは、たった今駅の中から飛び出して、あたし達の眼前に着地したこの黒いレインコート。ぶっ倒れたみくに駆け寄ろうとしたあたしを遮るように現れたそいつを認識した瞬間、あたし達はその動きを止めさせられていた。一目でわかったんだ、バケモノだって・・・。
「おい、お前―」
「生存者諸君、健闘ご苦労 さようなら」
みく、すまん。とりあえず倒れたお前を回収してからみんなで逃げようって思ってたんだが、あたし達はここで死ぬかもしれん・・・・・・
この鳥何言ってるかわかり辛くて(鳥なんだから当たり前といえばそうなんですが)あんまり喋らせられませんね。ポニテみたいにちゃっかり日本語化しないと佐々木君コース、安易に総カタナカとかよくないですよ、ほんと。
とうとう王様が遠征班の前に立ちはだかりました。戦力的には作業ゲーにすらならないレベルで遠征班を上回っている王様ですが、早くしないとるーちゃんが来てしまいます。ここから先は時間との戦いですね。
そのころのがっこう、校庭にて
「中々見事ナホームラン・・・死ンダカト思ッタゼ」
(むしろどうやって戻ってきたのか・・・)
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第31話 えんそく さいかい編
今回の登場人物のだいたいの戦力差。ただしるーちゃん指数。
ぞんこ Lv19
りーだー Lv18
めぐみ Lv23
くるみ Lv48
もひかん 平均Lv20
おうさま Lv137
るーちゃん Lv255
駅へ向かって移動中のるーちゃん。一応持ってきた生存者さんが死なないように自重した速度(ただしるーちゃん基準)で道なき道を走っていきます。バランス感覚255のるーちゃんにとっては壁でも電線でも道みたいなものです、全く影響なくどんどん進んでいきます。
速度出しすぎたり振り回したりしないようにとちゃんと配慮していたつもりですが、るーちゃんの疾走に耐えられなかったらしく生存者さんは泡吹いて気絶してしまっていました。どうりで抗議も悲鳴も聞こえないわけです。あとで謝っておくかは悩みどころです。
このくらいなら大丈夫だと思ったんだけど、なんて考えながらちょっとずつ加速していくるーちゃんなのでした。
一方駅前のくるみさんだぞ。あたし達の目の前に殺意全開で降ってきたレインコートの人物。話が通じる人物でないことはわかったが、逃げようにもあまりの重圧に足が動かない。まして立ち向かおうなんて気になれるわけが―
「グオオオオオオオッ!!」
「何の躊躇も無くいったー!?」
奴めがけて突っこんでいくゾン子。正直ほんとに味方なのかよくわからない奴だが、こういう場面では頼りになる奴なのかもしれない。生きている人間に対してあいつらであるゾン子をけしかけることに若干の罪悪感がないでもないが、こいつだってモヒカン共のお仲間なんだろうし、あたし達を殺そうとしてきたんだからお互い様だ。やっちゃえゾン子さん。
「ギィィィィッ!」
奴の首筋目掛けてその歯を突きたてんとするゾン子。あいつは迎撃せんと身構えるそぶりもなく、避けようと動く気配もない。どうにかなったか?
なんて思っていたら、レインコートの姿が一瞬ぶれ・・・一瞬にしてゾン子の背後に回っている!?
「どこを見ている、私はここだ」
背後からゾン子の首を掴むと、そのまま思い切り投擲。とんでもない勢いで投げ飛ばされたゾン子は機能停止していためぐねえの車のフロントガラスをぶち破ると、そのまま動かなくなった。どんな膂力してんだあいつ、ホントに人間か?
「ゾン子さんがやられたっ!」
「私の車~っ! ・・・ちがった、南さんっ!!」
ゾン子も心配だが、めぐねえも大丈夫なんだろうか。ちがったって何だよちがったって。『私の車~』は反射で出てんのか。
「・・・なら、これならどうだ。以前スーパーで没収しておいたお手製ミサイルだっ!」
「ちょっと待て、どこから出したそんなもん!?」
そんなものがあるなら先に言ってほしい。カーチェイス中に使えればここまで来なくてよかったじゃないか。
まあ、出所とかどこに隠し持ってたとか色々気にはなるが、これならあいつもどうにかなるかもしれない。
「緊急事態だから使い込んでも怒られないはず、なので発射ー!」
スイッチ一つで飛び出す手作り感溢れる鉄の塊。火を噴きながらレインコートに迫っていくが、どうなる・・・。
「お、お頭ー!」
「人間相手にミサイルとか、やることが汚ねーぞ!!」
「王様逃げろー!」
駅の中からモヒカン共がわめいている。子供相手に重機持ち出してくるこいつらにだけは言われたくない。
と、迫るミサイルに対してレインコート(モヒカン達の口ぶりからするに、どうやらこいつがここの首領らしい)は一振りの剣を取り出して見せた。あれでミサイルを切断するつもりか?アクション映画じゃあるまいし・・・。
なんて甘い考えでいたからか、現実はそんな予想の遥かに斜め上をいった。
奴はミサイルが近づく前に剣を一閃。剣圧を飛ばしてミサイルを見当違いの瓦礫の彼方まで吹き飛ばし、ついでのように余波でリーダーをめぐねえの車に叩きつけた。
「無茶苦茶だ・・・」
「私の車~! じゃなくて・・・リーダーさん、大丈夫ですかっ!」
やっぱり反射で出てるらしい。愛着のあった車を廃車にされたことがよほどショックだったのだろう。リーダーは一応動いてるから死んではいないだろ。しかし・・・
「次はお前か?」
飛ぶ斬撃とか使ってくるバケモノじみたこいつを、あたしはシャベル一本で倒さなければならないってわけか。正直無理だとは思う、だがみくだって重機相手に勝利をもぎ取ってみせたんだ・・・あたしだって何かやれることはあるかもしれない。あたしがやられたらめぐねえもやられる。そんなのはダメだ!あいつらを相手するとき同様・・・いや、それ以上に集中して、恐怖を押し殺してシャベルを構える。
だが、奴はこちらではなくあたしたちがぶっ壊したバリケードの方を見ている。どうやら騒ぎを聞きつけたあいつらが入ってきたらしい。
「我が君、化け物共が入ってきておりますぞ」
「ヒャッハー、またボスの戦いが見れるぜ!」
「さあ、やっちまってください、我らが王よ!」
向こうの連中は騒いでるだけらしい、よほどこいつを戦力として信用しているらしい。
「はぁ・・・誰の許しを得てここに入ってくる、畜生めが・・・せめて散り様で馬鹿共を興じさせるがいいッ!」
奴はそう言うと瓦礫の山へと飛び上がり、その一角を占めていたコンテナを開け放った。
「本来はモール攻略用に溜め込んだものだが、最早不要故存分に呉れてやるッ!!」
叫びと共に盛大にコンテナを叩くと、中にあったらし鋼材や鉄パイプ、丸太に、ゴルフクラブ、ハンマー、鉈から斧から、すさまじい量の武器がゲリラ豪雨のような量と勢いでもってあいつらめがけて降り注いでいく。絨毯爆撃のように降り注いだ武器の嵐があいつらどころか近辺を何もかも裂き、砕き、破壊の限りを尽くした後にうごいているものなど何一つとしてなかった。普段は存在すら煩わしいあいつらだが、今回ばかりは来てくれてよかった。あの攻撃をこっちに放たれていたら、間違いなく全員死んでただろう。
続けて破壊音の終わりを見計らい、モヒカン共の大歓声。
「「「「「「「「王様!ボス!親分!長!我が君!王!お頭!キング!」」」」」」」」
・・・楽しそうだなぁ、こいつら。こう、何も考えないで生きてそうな感じが。
「待たせたな、さあ決着の時だ」
・・・あ、ぼうっと見ていて何も対策を考えていなかった。しまった。あたしの番じゃないか・・・どうしよう。
るーちゃん接近中。るーちゃん接近中。
というわけでそろそろ駅に到着するるーちゃん。もはやピクリともしなくなった生存者さんとラ・ネージュを掴んだまま元気に駅まで疾走します。
あ、駅が見えてきました。駅前にくるみさんが突っ立っています。るーちゃんはちょっと勢いをつけてくるみさんの手前に着地して驚かせようと目論見ます。るーちゃんはどんな状況下でも加速減速思いのままです。
そのまま飛び出したるーちゃんですが、着弾地点に黒いレインコートの人が立っているのに気がつきます。しかしるーちゃんは急には止まれません(止まらないだけともいいますが)。猛ダッシュしてきた勢いそのままるーちゃんきっくが炸裂です。理不尽極まりない完璧な奇襲を受けたレインコートさんはとんでもないスピードで蹴り飛ばされ、瓦礫の山へと突っ込んで見えなくなりました。普通に惨劇です。瓦礫の音が止んだら周囲を嫌な静寂が包み込みました。
とりあえず誤魔化すためにくるりとくるみさんへと向き直り、るーちゃんですよーとご挨拶。瓦礫に埋もれたレインコートさんは無かったことにしていく方針のようです。
「・・・・・・あぁ、そういえばうちにも理不尽はいたんだったな」
なんでくるみさんが遠い目をしているのかわかりませんが、こんなに可愛いるーちゃんを理不尽呼ばわりとは罰当たりな話です。るーちゃんの頬も順調に膨らみますよ。手に持ってる鳥とか生存者とかも投擲できちゃうんですよ。
両手の荷物(どちらも意識は無かった)の投擲によりくるみさんとめぐみを車に放り込んだあたりで何やら後ろの瓦礫が崩れてきました。振り向いてみるとレインコートさんが瓦礫の山から出てくるところでした。まだ健在だったようです、中々の耐久性です。
とはいえその身体は既にボロボロであり、全身傷だらけでレインコートは裂けて崩壊状態、見るからに満身創痍といった状態で瓦礫を蹴散らして緋色と鈍色を撒き散らしています。これではレインコートさん改めハーフアップおでこさんだな、なんて余裕綽々で観察を続けるるーちゃんを射殺さんばかりに睨みつける紅い瞳が殺意でぎらぎら光っています。
「私は・・・死なない・・・まだ、やらなきゃいけないことがあるんだからッ!」
瓦礫山を脱したおでこさんはかなりのスピードでるーちゃんに迫ってきます。これはるーちゃん以外には追いきれないんじゃないかというレベルの速度、モヒカン達から見たらほぼ瞬間移動でしょう。歓声が上がってます。そのまま速度を生かした分身でるーちゃんを取り囲み、全方位から切りかかってきます。雪崩が取り囲んでくるかのような勢いで迫ってくる斬撃の壁がるーちゃんを切り刻まんとしてきます。
常人では何が起こったのかもわからないまま挽肉になってしまうほどの攻撃に曝されるるーちゃん。しかしるーちゃんにとってはこの程度の斬撃など指一本で全て逸らしきるなど造作もありません。どれだけおでこさんが強かろうが、るーちゃんの白兵戦技能はとっくの昔に255、カンスト状態なのです。たった一本。人差し指だけで周囲を囲む結界のごとき斬撃を一つ残さず往なしきってしまいます。かすり傷ひとつ負いません。
あまりに見事な完封ぶりに驚愕するおでこさん。その隙は一瞬だけですが、るーちゃん相手にその一瞬は致命的です。るーちゃんきっくで生き残ったことも考慮したるーちゃんは適当な攻撃はしません、連続るーちゃんパンチを叩き込み、トドメの一撃で遥か彼方へ吹き飛ばします。その飛距離はるーちゃんきっくの比ではありません。途中に障害物がなければ十分県外まで飛べる威力のラッシュを受けたおでこさんは、こんどこそ駅から退場です。断末魔すら上げずにぶっ飛んでいきました。しかし連続るーちゃんパンチを受けて特に欠損無く原型を保っていたあたり、やっぱりただものではなかったようでした。
「ああっ、我が君!?」
「王様がやられたっ!!」
「なんなんだあいつ、幼女は倒したんじゃなかったのか!?」
おでこさん(王様だったらしい)を撃破したらモヒカン達が騒がしくなってきました。聞き捨てならないことも聞こえてきますが、るーちゃんは健在です。倒されてません。生きてますよアピールをかねてるーちゃんですよーといつものご挨拶です。多分なにも伝わっていませんが。
「おいっ、今の騒ぎで逆側からあいつらが来る!突破されるぞ!!」
「もうだめだ、おしまいだぁ!」
「に、逃げろォッ!」
「そ、そうだ、退却だ・・・我が君を回収しなければ」
「急げ、もう破られるぞ!」
モヒカン達は王様が飛んでいった方角に逃げ去っていくようです。あいつらが迫っているようなのでるーちゃん達も長居は無用です。とりあえずみんな車に乗っているっぽいので、るーちゃんはボロボロになっためぐみカーを担いでモールに戻っていくのでした。
「・・・・・・んぅ、あれ?」
目が覚めたら地べたに転がっている、そんな状態って中々ないと思う。
私なんでこんなところで寝てるんだろう?何やってたんだっけ?
身体を起こすと、懐かしい顔が立っていた。
「・・・あ、カミヤマ。しばらくぶりだね」
とっくの昔に死んだものと思っていたけど、こうして駅前まで彷徨い出てきたらしい。
「正直再会できるとは思ってなかったから、ちょっと嬉しいかも」
立ち上がり、並んで歩き出す。お互い無事でなによりだねって笑いあって。
「どこ行こっかなぁ・・・もう、のど渇いたし、お腹空いたよ」
カミヤマもお腹が空いてるらしい、腹ペココンビだねってまた笑う。
「じゃあ、いこっか!」
美紀と圭、残念ながら合流ならず。ここまで強化しても再会できませんでした。
まあ、人類(とその変異体)相手に無双してる程度でるーちゃんに勝てるわけないですよね。
そのころのがっこう 二階の窓際にて。 ※別次元民注意
「・・・あの・・・響さん、ここは?」
「ここが訓練場だよ。校庭で動いてるやつは全部射撃の的だから、はい撃ち方始め」
「怖いわ!なんだあれ!?」
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第32話 えんそく きかん編
学園生活部の出番は少なめなので買い物を楽しむみんなを見たい人はアニメを見返したり、単行本2巻を見るといいのですよ。向こうではきーさんは不在ですが。
めぐみカーをモールまで運搬したるーちゃん。比較的動けるくるみさんとめぐみを遠足班に編入させて、ゆきの案内で彼女達にはショッピングを楽しんでもらうことにしました。一応護衛にラ・ネージュをつけていますし、くるみさんも健在なのでるーちゃんがいなくても大丈夫でしょう。
ショッピング担当から外れたるーちゃんですが、やらなければならないことはたくさんあります。ゾン子さんもリーダーさんもモールで拾った生存者さんもダウンしていてとても自力で動ける状態ではないため(リーダーさん以外の二人にいたっては意識すらない)こいつらをがっこうまで運ばなければなりません。お仕事その1です。
それに、全員乗っていると思われていためぐみカーにはみくちゃんが乗っていなかったため、一旦駅に戻って捜索する必要もありそうです。リーダーさんが、「みくはたぶんもう駄目だ」なんて言ってましたけど、るーちゃんは自分の目で確認しておく派なのです。お仕事その2です。
更にはるーちゃんカー2号は自分で乗って行ってしまうため、遠足班が帰ってくる用の車も用意しておかなければなりません。お仕事その3です。流石のるーちゃんでも完全廃車モードのめぐみカーを修理するよりはその辺の事故車両修理するほうを選びます。すること多いのでなるべく時間はかけたくないのです。
まずはその3から片付けていくことにしたるーちゃん。その辺の事故車両を適当にいくつか見繕ってくると、猛スピードで車を改造していきます。るーちゃんの作業速度は255。ゆきでも安全に帰ってこれるレベルの超堅牢な車両を仕上げることなど一瞬あれば十分です。車体のあちこちにデフォルメ学園生活部を描いてご機嫌取りも忘れません。(前面装甲は相変わらずりーねー)
一応まだモヒカンとかいるかもしれないので、いざというときには前面装甲を発射して攻撃できる素敵ウェポンも搭載です。使用するとデフォルメりーねーが前方へと盛大にぶっ飛んでロストしてしまいますが、安全のためには致し方無しです。毎回アレな扱いのデフォルメりーねーですが、一応わざとやってるわけではないとはるーちゃんの談。
そんなこんなで作業をとんとん進め、しっかりと学園生活部の帰還手段を用意し終えたるーちゃんは、続けて行動不能組の学校への送迎を行います。ついでに帰路で駅に寄ってみくちゃんを見つけられればるーちゃんのお仕事は完了です。
先に調達していた荷物と、ぐったりしている生存者さんたちを詰め込んで、るーちゃんカー2号がいざ出発です。一応安全運転で行こうというリーダーさんの要望があったため、るーちゃんは右へ左へぶっ飛んでいくような危ない運転はしません。障害物は全てぶち破って一直線に進みます。あんまり曲がったりしないから酔わないんじゃないかなというるーちゃんなりの優しい配慮です。「そういうことじゃねぇ!」って騒いでる人がいるような気がしないでもないですが、破壊音が煩くてるーちゃんには聞こえないのですよ。あーあー。
「めぐねえ、こっちこっち!」
「ゆきちゃんちょっと待って、お店の中で走っちゃだめよ~」
「わんわんわんわんわんわんわん(お姉さんと一緒で嬉しいのはわかるが、一応ぬいぐるみではなく生物ゆえ振り回さないでいただきたい)」
合流した遠足班は、というかゆきは元気そうで良かった。どうやらモヒカン軍団に追い回されたのはあたし達だけだったらしい。
「りーさん、ゆきを走り回らせてて大丈夫なのか?モールの中にもあいつらがいるんじゃ・・・?」
「ラ・ネージュが殲滅してたから大丈夫だと思うけど」
あの鳥が掃除してたのか。まぁ、買い物中までずっと気を張ってても疲れるし・・・油断しすぎない程度にあたしも楽しむか。
「ゆきー、めぐねえー、待てー!あたしも混ぜろー!」
「元気だねぇ、まったく・・・」
駅前広場ではどこもかしこもべこべこに凹んだるーちゃんカー2号が黒煙を吐き出して停止していました。いくらなんでも酷使が過ぎたようです。いつの間にか復活をとげたらしいゾン子さんが駅篭城組の遺産と思われるバスへとせっせと荷物を積み替えています。
「だから安全運転で行こうと言ったんだ・・・」
いけるんじゃないかなと思った。反省はしてるけど後悔はしていない。
お前らも荷物を運べとでも言いたげなゾン子さんがギーギー言ってますが、ぶーたれるーちゃんと死にかけリーダーさんは全く動きません。やるき0です。意識不明の生存者さんの運搬すらゾン子さん任せです。よほどつまみ喰いしてやろうかと思ったゾン子さんですが、後が怖いので一応自制したようです。暴君るーちゃんの厳しいしつけの賜物です。
いつまでも不貞腐れていても先に進めないのでるーちゃんは駅近辺の探索です。みくちゃんは血溜りからは消えていましたが、体力があるほうではなかったはずなのでたぶんその辺にいるはずです。ときどきふらっと出てくるあいつらを一本背負いで投げ飛ばしながらぶらついていきます。投げ技255のるーちゃんから逃れられるものなどいません。哀れな通行人たちは片っ端から投げられ、地面に叩きつけられていきます。致命的な威力にしていないあたりはるーちゃんなりのやさしさです。次から次へと死なない程度に退治してしまいます。
ひとしきりぶん投げきって一息ついたるーちゃん。しばらく満足げな表情でのんびりしていましたが、ふと目的が散歩でも柔道大会でもなくみくちゃんの捜索だったことを思い出しました。いつまでもリーダーさんたちを放置しているわけにもいかないので、るーちゃんフルスピードで捜索開始です。最早当然のように発生する分身255体を総投入、オールるーちゃん総進撃というやつです。情け容赦ない人海戦術を展開したるーちゃんに発見できないものなどありません。しばらくすると、遠目に一体のあいつらを伴って進むみくちゃんを確認しました。一瞬突撃して合流しようかと考えたるーちゃんですが、分身を収容しつつしばしみくちゃんを観察するようです。
しばらくみくちゃんを観察したるーちゃんは、くるりと二人に背を向けると駅に向かって帰っていきます。よく見た結果回収はしないし声もかけないという結論に達したようです。さらばみくちゃん、とるーちゃんは去っていくのでした。
「・・・・・・んぅ」
私、何してたんだっけ? 未だに寝ぼけた頭で考える。確か、小さい子に振り回されてて、太郎丸探してて・・・・・・
「そうだ、太郎丸・・・あうっ!」
飛び起きた拍子に誰かに頭をぶつけてしまった、痛い。そのまま寝ていた座席に逆戻りである。見たところ、私が寝かされていたのはバスの中みたいだ。そのまま視線を上げると、さっきぶつかってしまった人も痛そうに頭を押さえている。前方から「おーい、なにやってんだ?」と問われるとそちらを向いて問題ないとジェスチャーをしていたから、すごく痛かったというわけではないみたいだけど・・・。
「すみません。あの・・・大丈夫ですか?」
声をかけるとその人は、大丈夫だということを強調するようなサムズアップをし、ぶつけた頭を押さえている手を放した。今まで手で隠れていたその顔が露になる。
でも、その顔は、その顔は・・・
「ギギギギギッ」
「・・・・・・・・・・・・きゅう」
遠のいていく意識の中、倒れた私を覗き込んでいたその姿はまぎれもなく、あいつらだった・・・・・・。
ひっそりと一つの別れを終えて駅前へと戻ってきたるーちゃん。ゾン子さんたちはすっかり荷物を積み替え終えて、バスの中で休息をとっていました。どういう風の吹き回しか、ゾン子さんは無駄にこまめに生存者さんの様子を見ているようです。食べるなよとリーダーさんが釘を刺しているので、純粋に心配しているのでしょう。原因は不明ですが同属認定しているようです。るーちゃんの予想では制服しか見てないとみた。
さてさてるーちゃんのお仕事はあと一つ、無事にがっこうまで帰るだけです。
「・・・・・・で、だ。問題は誰がこのバスを運転するのかということだ」
現在るーちゃん達はバス内会議の真っ最中。議題はリーダーさんが言ったとおり、バスの運転を誰がするのかということです。
ここは当然るーちゃんですよー、といいたいところだったのですが、超が付くほど暴力的な運転を行う(もしくは超が付くほどのスピード違反を行う、あるいはその両方)るーちゃんが運転を担当することに反対票が2票も入ってしまったのです(生存者さんは意識不明ゆえ棄権扱い)。たとえ分身したとしても一票分としか扱われない以上多数決というルールはるーちゃんの天敵です。りーねーが不在の時点で勝ち目はありません。
こうなってしまうと運転は残りの二人に任せるしかなさそうです。体力255(比較として並べるならみくちゃんの体力は7)を誇るるーちゃんですが、することが無くなれば休憩くらいします。モールで調達したお菓子をぱくつきながらぐでっとしています。これぞいわゆるたれるーちゃん。既に時代はパンダではなく熊です。 ・・・・・・いや、熊じゃないですよ。がおー。
「ゾン子さんは・・・無理だよなぁ」
「グオオッ」
身振り手振りだけでできるわけねーだろ無免許だよ、と伝えることができるあたりゾン子さんの表現力の高さも中々のものです。その無駄に高めた表現スキルを運転に振ってれば解決したのですが、現実はゲームのようにはいきません。
「俺が頑張るしかないか・・・」
運転してると酔わないっていいますし、案外リーダーさんならどうにかなるかもしれません。るーちゃんが期待のまなざしを向けています。ゾン子さんも応援しています。がんばれリーダーさん。
「よし、学校へ帰るとするか―」
48秒後、瓦礫の山へと突っこんだバスを持ち上げて学校目指して走るるーちゃんの姿が目撃されたとか、されなかったとか・・・。
長く続いたえんそくも終わりですね。後は少しぐだぐだエピソードを消化したら体育祭の予定です。
学園生活部の帰り道
「・・・この車が、るーちゃんが用意したやつよね?」
「車体にあたし達が書いてあるし、そうだろ」
「あ、ちゃんと太郎丸も書いてあるよー」
「ア、鳥ハ一羽モ描カレテナイ・・・」
「じゃあ、帰りは私が運転して帰るわ・・・みんな乗って。さて、エンジンエンジン―」
めぐみがエンジンをかけた直後、前面装甲が猛烈な勢いで発射されていきました。何か操作を誤ったようです。
「ああっ、デフォルメりーさんが!? ・・・ってうわぁっ!泣くなよりーさん」
「どうせ私なんてどうせ私なんてどうせ私なんて・・・」
モヒカンズの行く道
「前方からバケモンが来るぞ、ものすごい数だ!」
「後ろからも来るぞ、囲まれてやがる!」
王様が飛んでいった方向へと進軍していたモヒカン残党軍ですが、不可解な集団行動をするあいつらに包囲されつつありました。
「ヒャッハー、何匹いようがぶっ殺しちまえば関係ねぇーっ!」
なんて言いながら突撃するものもいるようですが、どこからともなく矢やナイフが飛んできて武器を叩き落とされ、やつらの餌食となっていきます。
「誰だ、誰が撃ってきてやがる!」
「どこにいやがるんだグハッ!?」
「ああ!ジャン・ルイがやられた!」
包囲網は狭まっていき、一人、また一人と化け物の仲間入りを果たしていきます。増える一方のあいつらに襲撃者を見つけることすらままなりません。
「ひ、ヒィィッ、・・・た、助けてくれっ、ギャアアアーッ!」
やがて最後の一人も群れに飲み込まれ、付近には呻き声と咀嚼音だけが残されました。
・・・いや、もう二人。大型のトレーラーから惨劇を眺める者がいるようです。
「お見事でした、これでまた一つの集団がクラウドの仲間入りを果たしましたよ」
「勘違いをするな、手っ取り早い手段として協力しているだけで、私はお前のクラウドになど興味はない。生存者の殲滅こそが私の役割だということを忘れるな」
「ええ、わかっていますよ」
「・・・おや、通信か。ちょっと失礼する」
「はい、私はかれらを収容しておきますよ」
「これだから壊れた人間とは恐ろしい・・・壊れた通信機で何と話すというんですかねぇ」
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第33話 げんえい
真ん中らへんはきーさんのお話。
お久しぶりでございます。
正直合間合間でちまちま進めてたやつなので内容が被ってたり矛盾してたりするかもしれません。
何かやばいの見つかったら時間見つけて修正するかもしれません。・・・時間があれば。
遠足という名の資材調達遠征を終え、ついでに街からモヒカン共の脅威を取り除いたるーちゃん。しかし今回の遠足で毎回物資の調達のために動き回るのは他の連中の送迎などが大変面倒になると学習したようで、今後は近場でいろいろ調達できるようにしようと考えているようです。
というわけでまだまだ遠足の疲れも残る(るーちゃん以外の話だが)翌朝ですが朝早くから学校を抜け出して作業中です。るーちゃんを抱き枕にしているりーねーさえ起こしてしまわなければ学校周辺のあいつらによる包囲網などるーちゃんにとってはあってないようなものです。相変わらず余裕で出歩いています。責任転嫁用のゾン子さんを連れてくるのを忘れましたが、どうせ昨晩から生存者さんにべったりだったのですっぱり諦めます。騒いで誰か起きたら本末転倒です、るーちゃんはそんな愚は犯さないのです。賢明さ255は伊達ではないのですよ。やるき無いときは4くらいまで低下しますけど(一般人10)。
そんなこんなで近所の空き地にやってきて、鍬(お手製)を振り回して開墾真っ最中のるーちゃん、この辺を畑にしてしまうことで屋上の畑と合わせればそれなりの食料は確保できるだろうという目論みです。こんなご時勢なら誰の土地だろうが関係ありません。いつだったか大掃除してたら出てきたりーねーの昔のノートに書いてあった墾田永年私財法というやつです。田畑にしてしまえばこっちのものです。
時折朝も早くから徘徊していたらしいあいつらがやってきますが、るーちゃんは気にせず畑を耕します。襲い掛かってくるならともかく、その辺歩いてるだけなら蝿と大差はありません、ちょっと煩くても無視です、無視。
せっかく放置してあげてるのにうっかりるーちゃんに襲いかかった哀れな一部個体は次から次へと鍬の一撃を受けて撃破され、そのまま横のるーちゃんお手製焼却炉(これまた勝手に設置した。地主に怒られたらごめんなさいするしかないが不在だし、おそらく戻ってくることもないだろう)によって火葬されて肥料に早変わりしていきます。るーちゃんなりのあいつら活用法です。勝手に肥料がやってくると思えば便利ですが、正直一定量を超えたら邪魔なだけです。農業を任せられるような知能個体も出てこないのでトラップで一掃することにしました。囮用の焚き火の周りをぐるりと空堀で囲み、下には木製の棘棘を大量設置していきます。なんだかゲームじみていて現実感に欠ける代物ですが工作255のるーちゃんにとってはこんな作業は朝飯前です。秒です。
ある程度のトラップを仕掛け終わったるーちゃんは、後は食後に成果を確認しようと学校へ帰還していくのでした。
「りーさんおはよー」
「おはよう、ゆきちゃん」
本日も丈槍ゆきはハイテンション。朝食を準備している部長のりーさんに飛びついて元気いっぱいご挨拶です。衝撃でぶっ飛んだお玉がくるみちゃんの後頭部を直撃し、一撃で昏倒させていますが気にしません。
「おはよ、ゆき」
「きーちゃんおはよー。あの子起きた?」
ハイテンションの理由は簡単、遠足の後にるーちゃんが連れてきていた女の子。今はまだ寝ているみたいだけど、新入部員獲得のチャンスなのだ。
「まだ寝てると思うけど・・・授業の前に様子見てきたらいいんじゃないかね」
「うん、そーする。・・・みくちゃんも来るよね? ・・・うん!」
「っ!」
「え、先に朝ごはん?・・・わかってるよー、もう」
「なぁ・・・ゆきのやつ、やっぱり・・・」
「・・・見えてるんでしょうね、やっぱり」
「・・・・・・後頭部が異様に痛い・・・りーさん、何か冷やすものくれ~」
はいはい、ちょっと待ってね、と席を立つりーさん。暢気なもんだ。きっとゆきのあれを、そういうもんだと受け入れきっているんだろう。それが下手にどうこう手出しできないからなのか、それとも・・・いや、やめておこう。気にするだけ無駄だ。
「まあ、今更といえば今更なんだけどさ。今までだってゆきにはカチューシャがまともな状態に見えていたわけだし・・・ただ、ねえ」
きーさんきーさん、カチューシャじゃなくてゾン子さんですよー、と横から訂正してくるるーちゃん。「それを言ったら私だってきーさんじゃなくて貴依だよっ!」とツッコんでおく。こいつのはしっかり矯正しておかないといずれ出会う他のグループとかにまできーきー言われる予感しかしない。なんだか進学先とかでまでこの呼び方が続くような、なんかそんな嫌な予感が止まらないのだ。だからそのきーきー言うのをやめろチビ介。
「いいじゃないのるーちゃんがきーきー言ってたって。私なんか滅多に呼んですらもらえないのよ!」
「ややこしくなるから黙っててくんない?」
誰かこのシスコンどうにかしてくれないかね・・・いや、この姉妹をどうにかしてくれないかね?ベクトルは違うけどフリーダムすぎるんだよこいつら。いつだったか夜中にトイレに行こうとしたらランタン持ったトンベリとモノリスが廊下で踊ってたときはどうしてくれようかと一晩悩んだりもしたものだ。
ゆきの症状も確実に悪化してるってのに、こうやって考えてみるとどうにもりーさんも正常とは言い難い気がしてきて困ったものである。こんな状況で病むのは仕方ないと片付けてしまえるほど、私達の避難生活は安定していないのだ。薄氷の上でスケートしてるようなものなんだから、いきなり4回転半ジャンプとか敢行するやつがいては困る。
そもそも抑えになる人材がいない。めぐねえはゆきの状態に責任を感じているみたいだけど、たぶんりーさんはまともだと思っている。リーダーは一見気さくな好青年に見えるけど、チームるーちゃん以外には明らかに一線を引いている。私の勘だけど、彼は意図してそうしているわけではないだろうけど、心の底ではこちらを味方にカウントしてはいないだろう。
大人組はそんな様だ。生徒達である私達で抑えが効く筈もない。くるみにしたってゆきの悪化に思うところがありそうな表情はしていたが、あえて部長とぶつかってまで強硬論は主張しないだろう。りーさんに甘いのか、ゆきに甘いのか、くるみは変なとこで自分の主張を殺してしまうところがある。
カチューシャは何も考えてなさそうで色々考えているのだが、既に思考が人間のそれではない。まあ仮に健在だったとしても3-Cメンバーという時点でやらかしサイドなのであてにはできないのだが・・・。
・・・結局、私が全部気を配るしかないわけだ。ゆきも、りーさんも。余計なことをさせないように、ちゃんと無事に生き延びていられるように。
「辛いポジションだよねぇ、ほんと」
「そうなのよ!るーちゃんったらいつもいつもくるみにばっかりべったりで、お姉ちゃん寂しい!!」
ほんと、辛いポジションだよ・・・。
学園生活部は何やら話し合いの最中のようなので(くるみさんは寝てるだけのような気もしたが)、るーちゃんは生存者さんの様子を見に行くゆきと一緒に廊下を歩いていました。
「起きてるかなー、どうかなー」
ゆきは生存者さんの様子見が楽しみで仕方ない様子。るーちゃんとしては様子見に残しているゾン子さんが驚かせて心停止してないだろうか、とかつまみ食いしてゾン子さん2号になってたりしないだろうか、とかそのあたりが心配です。
「るーちゃん
たちって誰がいるんでございましょうか、と疑問顔のるーちゃん。ゾン子さんがいるのは我々の行き先だし、あの犬(名前は太郎丸だったか、源二郎だったか、るーちゃんほとんど別行動だったためいまいち認識していないのである)だったら日本語は喋れない上に現在所在不明です。少なくとも朝からるーちゃんが活動していた範囲には存在していませんでした。
とりあえずるーちゃんはお得意の気配探知で生存者さんの気配が動いていないことを確認すると、多分まだ寝てると伝えておきます。
「みくちゃんは?」
《るーちゃんに同じく、まだ寝てると思うよ。なんかちょっと体調悪そうだったし》
「そっか」
誰と喋ってんだこいつ、とでも言わんばかりのうへぇ感漂うるーちゃんふぇいす。相変わらずの表現力255の無駄遣いです。一応みくちゃんならまだ駅のほうにいますよ、とまでは伝えませんが。るーちゃんはマインスイーパーで失敗したことは一度もないのです、えっへん。
《まあ、様子見くらいにしておきなよ。ゆきさんのテンションだと絶対引かれるから》
「えー、こういうのって最初が肝心なんだよっ」
《犬のしつけじゃないんだからさ・・・。ま、ほどほどにねー》
まあ、ゆきが楽しいならそれでいいんじゃないかな、子供のすることですし。なんて考えるるーちゃんなのでした。生存者さんが寝てる部屋までやってくると、案の定ゾン子さんが居座っていました。ついでのように源二郎・・・じゃなかった、太郎丸もここにいたようです。そういや元々生存者さんと太郎丸は一緒に暮らしてたんだっけかとるーちゃんは記憶を思い起こします。変身したりコマンドー見たりしてたので正直生存者さんは印象薄かったのでした。
とりあえず生存者さんが起きたときにゾン子さんがいるとまた気絶しそうなので、るーちゃんはゾン子さんを連れ出すことにしました。パッと見た感じでは生存者さんは大丈夫そうですし、ここはゆきに任せようというわけです。子供にはできることをやらせて経験を積ませつつ自信と自立心を養うのがポイント、るーちゃんは育児にもチャレンジするのです。
ではあとは任せた、と部屋を出たるーちゃんはゾン子さんを引き摺りながら去っていくのでした。
「・・・だって、同じ制服だから、うちの子じゃないかなーって。・・・大丈夫だよー、私にまかせてって」
声が聞こえる。人の声。たぶん女性、・・・誰かと喋ってる?
ゆっくりと瞼を開く。徐々にはっきりしていく視界には、こちらを覗き込むように様子を見ている女の子。・・・誰だろ?それにここは?
「おはようっ!」
《おはようございまーす》
「・・・・・・誰?」
エア幼女と喋ってるやつとか、何故か同胞認定してくるあいつらとかが住んでるのですが、はたしてみーくんは新しい学校生活に馴染めるのだろうか。
ちなみに筆者の忙しいモードは最低でも4月18日までは続くようです、忌々しいことに。次が本編か休み時間かは空き時間次第ということで。
一方の聖イシドロス大学 武闘派首脳陣
「正直こんな状況じゃあ何が起こっても不思議じゃないとは思っていた。けどな・・・」
「流石に血塗れの女の子が校舎を粉砕しながら降ってきて、そのまま彼らを殲滅しながら駆けずり回ってるというのは現実感に欠ける・・・って話?」
「まだ動く死体が襲ってくる方が現実味があるだろう。・・・というか彼女の血を大量に浴びた高上も一緒になって暴れているのが気になるんだが、あれは新手のやつらじゃないだろうな」
「彼らだったらこっちに来るんじゃない?向こうを集中攻撃してくれてる分には問題はないでしょ」
「・・・虚空瞬動したり竜巻起こしたりしてなければそれで済ますんだがなぁ」
大学 最前線
「力が湧いてくる・・・これならやれるぞっ!」
「ばけものがっ、じゃまをするなぁ!!」
「ギギィィィィィッ(ボウガンは鈍器じゃないだろぉぉっ)!!」
「グオオォォォォッ(そんな剣どこにあったんだよぉぉっ)!?」
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論外編 四月ばか
なお本編とは別の世界のお話なので見なくても本編を読む分には全く問題ございません。
るーちゃんは最後だけ。
どうして、どうして、どうして・・・。
私、若狭悠里は独り学校の屋上を走る。背後から今も聞こえてくる呻き声と破砕音に追いつかれないように、走り続ける。
どうして、どうして、どうして・・・?
さっきまで、ついさっきまでのんびりとお茶会を楽しんでいたはずなのに。ゆきちゃんの授業が終わるのを待ちながら、るーちゃんが持ってきた茶葉(ちょっとばかり値が張るものだった)でのんびりティータイム。今日もまたそうして一日過ごしていくはずだったのに。
始まりは咳だった。美紀さんが急に咳き込みだして倒れたのだ。リーダーさんが「おい、どうしたー?」なんて言って様子を見ている間に、私は美紀さんを寝かせるように毛布を用意しようとしていた。
ゴホゴホと、美紀さんの咳を背景に毛布を取り出していた私の耳に、次に入ってきたのは何かをぶちぶちと喰い千切るような嫌な音と、短い悲鳴。そして何か液体が滴る音。
振り向いた私の視界に広がっていたのは惨劇。いつの間にか咳の収まっていた美紀さんが、リーダーさんの喉笛を喰いちぎっていたのだ。まだ成り立てだからか、いつもと何も変わらないように見える美紀さんの目に映る私の顔は驚愕に彩られていただろう。リーダーさんが美紀さんに食い破られた首から無理に呻き声を上げて起き上がるまで、私の思考は空白で埋められていた。
「・・・っ! りーさん!!」
くるみが私の手を引いて部屋を飛び出す。咄嗟の行動だったのだろう、その手にはいつも握られているシャベルは無かった。
「く、くるみ・・・美紀さんが・・・リーダーさんが・・・」
「話は後だ!はやくめぐねえ達と合流しないと―」
走る私達の前に人影がふらりと躍り出た。それは私達の見慣れた姿をしていて、でもその衣服は緋色で染められていて。その身体には傷が刻まれていて・・・
「ゆき・・・きー・・・」
「嘘・・・なんで・・・」
ふらり、ふらり、と私達の前に出てきたときと変わらぬ動きで迫る二人。崩れ落ちそうになる私。くるみが引き摺るようにして連れて逃げてくれなかったら、きっと私も二人と同じようになっていただろう。
二人が見えなくなるまで逃げて、走って・・・私が転びかけたころにようやくくるみは足を止めた。
「ねえ、くるみ・・・なんで、みんなが・・・どうして・・・っ」
くるみに聞いたとしてどうにかなるという話ではない。くるみがそんなこと知っているはずがないのだから。でも、一度口を開いたらもう止まらなかった。
「どうしてっ・・・どうしてよッ!!私達が何をしたって言うのよッ!!こんな・・・こんなの・・・」
「・・・りーさん」
身体の震えと涙が止まらない。なだめるように抱きしめてくれたくるみをひしと抱き返す。くるみだけは失ってなるものかと、腕に力を込めて・・・。
しばらくそうしていると、ひたりひたりと足音が近づいてきた。「りーさん、ちょっと離れて」と言われてくるみから身を離す。温もりが名残惜しい。
周囲を警戒していると、近づいてくる人影を徐々に認識することができた。
「・・・なんで」
今朝まで元気だったはずだ。朝が弱くて、でもゆきちゃんが飛びつくと一緒に元気になって・・・
「・・・めぐねえっ!」
真っ青な顔でこちらを見つめていた私達の先生は、急にその速度を速めると倒れこむような勢いでくるみに襲い掛かってきた。
「うわぁっ!?」
「くるみっ!?」
倒れこむめぐねえを受け止めきれずに押し倒されるくるみ。私が助ける間もなく、その身体から血が飛び散った。
「りーさん、屋上!屋上に逃げろっ!!・・・鍵かけて、隠れててっ!!」
「でも、くるみっ」
突然の事態に動けずに立ちすくんでいた私だったが、めぐねえを押しのけて押さえつけたくるみの「あたしも後で追いつくから、ぜったいに!」という言葉を信じて屋上へと向かった。くるみの肩の傷を見ないフリをしながら・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
あの日と違い、屋上にたどり着いたのは私一人だけ。くるみも、ゆきちゃんも、めぐねえも、たかえも、ここには誰もいない、噛まれた先輩でさえも。とうとう独りぼっちになってしまった。
扉の横のフェンスに背を預ける。そのまま座り込んだ。
「もうやだよ・・・怖いよ・・・」
心の内側に留めておけなくなった恐怖が口からこぼれる。かれらに見つかる可能性を上げるだけの行為だけど、止められなかった。
「みんな・・・誰か・・・助けて、助けてよ・・・」
もう限界だった。わけもわからないまま叫びだしたくなる。かろうじて自分を保っていられるのは、くるみが追いつくと言ったから。
だから、階段を上ってくる足音がしたときは本当に嬉しかった。くるみだ。くるみが追いついてきてくれたんだ。
「くるみ、ちょっと待ってて。今鍵を開けr―」
「ぐおおおおっ!」
割れた窓から見えたくるみは、既に私の知るくるみではなくて・・・伸ばされた手にはもう何の温もりも感じることができなくて・・・
どうして、どうして、どうして・・・。
私、若狭悠里は独り学校の屋上を走る。背後から今も聞こえてくるくるみの呻き声とドアを壊しているらしい音に追いつかれないように、走り続ける。
貯水槽を通り過ぎ、太陽電池を抜け、遂に屋上も端が見えてしまった。
これ以上逃げることはできない、いずれここにはあのくるみがやってくる。私もここまでだろう。
後ろから今もひたひたと足音がしている。もうすぐそこまで来ているのだ。
・・・覚悟を決めて振り向く。近づいてくる人影は、予想に反してくるみよりもだいぶ小柄なものだった。
「・・・るーちゃん?」
いつの間にかいなくなってしまっていたるーちゃんだ。無事にここまで逃げてきたんだ!
「るーちゃん!」
駆け寄り、ひしと抱きしめる。私は独りぼっちじゃなかった。るーちゃんが生きていてくれた。
「ごめんねるーちゃん。もう離さないからね・・・」
独りで頑張って逃げ延びていたのだろう。その冷え切った身体をしっかりと抱き、少しでも暖めてあげなければ。
そう思って身を寄せると、私の肩にちくりとした痛みが走った。なぜだろう?
私は自分の肩を見る。どうしてだろう?
なんで、るーちゃんは私に噛み付いているんだろう?
「・・・るー、ちゃん?」
ぐぎ
ぎぎぎ
どうして、るーちゃんはわたしをたべてしまうんだろう?
・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・気絶してますね」
「後ろで振ってるドッキリの看板には気付かなかったのか」
「いや、このメイクのるーちゃんが至近距離にいたら普通後ろまで見えませんよ」
結構途中でボロは出てたんですけどね。みっきーの表情がそのままだったり、めぐみがずっこけたり、くるみさんが棒読みだったり。
まあ、とにかくどっきり大成功なのですよー。
言うまでもありませんが、後日全員泣くほど怒られました。
休み時間ですらないという。
みんなは洒落にならない冗談とか、相手に実害があるような嘘はついてはいけません、るーちゃんとのお約束だよ。
なお前日の夜
「・・・まあ、血や傷は特殊メイク255のるーちゃんに任せるとして、太郎丸はどうするんだい?」
「部屋に置いてきてしまった、って感じでフェードアウトさせるしかないですね。出て行かないように私とリーダーさんで見てましょう」
「ゾン子はどうする?あいつらにやられることはないんだが」
「背景で倒れててもらおう。多分りーさん気付かないだろ」
・・・・・・季節はずれの肝試し、にへ。
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第34話 ようこそ
完全復活には程遠いですが、少しずつ書いていたりします。ぷち復活というやつです。
前半はみーくん、目覚めた際に居合わせたのはなんだか奇妙な女の子のようで・・・・・・
「・・・・・・・・・んぅ」
目が覚めたら目の前には一人の女の子、たぶん制服からして同じ学校の生徒・・・だと思う。「まだ調子悪い?」と心配そうにこちらを覗き込んでいた。かれらではないらしい、ちゃんと生きている人だ。
《とりあえず、お水でもあげたら?ずっと寝てたんだし、何も飲んでないし》
「うん、そうだね・・・お水飲む?」
何か、微妙に違和感のある会話だけど、実際喉は渇いていた。お願いすることにする。
「おっけー!」と水を取りにぱたぱた走っていく。それをなんとなく目で追いながら、ようやく周りの状況をゆっくりと見る余裕ができた。
「・・・ここは・・・がっこう?」
見慣れた・・・部分ではないけれど、とにかく自分の通っていた高校であるらしい、ということくらいはわかった。
「はい、どーぞ」
と、周囲を見渡しているうちにあの子が戻ってきたらしい。その手に持ったコップを差し出してくる。落ち着いて水を飲むのは随分と久しぶりのような気がする。おいしい。
「ありがとう・・・えっと、同じ学校の・・・巡ヶ丘の人?」
考えてみれば、まだ自己紹介もしていない。この学校にいてこの制服ならまあそういうことなんだろうけど、なんかこの子はこう、幼い感じがするというか、もっと小さい子が避難してきたここの服を着てるだけなんじゃないかなって気もしている。
《あ、そういえば自己紹介がまだだよゆきさん。さあれっつ自己紹介》
「そうだね・・・そのとーり!」
びしっとポーズを決める女の子。その通りとは言っているが、高校生には・・・見えないかな、うん。
「巡ヶ丘高校3年C組、丈槍ゆきだよっ!」
《そして私は小沢みくです、鞣河小学校の――
え・・・?さん・・・ねん・・・?
「うそ・・・あなた・・・三年生、なんですか・・・?」
中学3年生というオチではなくてですか?という言葉はギリギリで飲み込んだ。雰囲気というか、なんというか、なんとなく漂う子供っぽさを考えれば、正直背格好を除けば小学3年生だと言われても違和感はない。
「うん、そーだよ!」
三年生、らしい。自称ではあるけれど、この子は私の先輩・・・ということになるようだ。
《うぉぉ、さっそくこちらを見事にスルー。これはまたえらい新人が入ってきましたねゆきさん》
「あなたは?」
おっと、私も名乗っていなかった。
「2-Bの、直樹美紀・・・です」
とりあえず先輩(?)と同じようにクラスと名前を伝えてみた。すると、ゆき先輩の目が「キュピーン!」とでも音が聞こえてきそうなほど漫画チックに光り輝いた。電池式のおもちゃか何かなんだろうか、この人。ほどなくして「じゃあ、私が先輩だねっ!」とか言い出した頃には全身が光り輝いていた、よっぽど自分が先輩なのが嬉しかったらしい。この子ホントに年上・・・?
まあ、本当に年上ですか?なんて確認してもこの子の機嫌を損ねるだけなのは明白なので、今は状況を把握するために聞けるだけのことを聞いてしまうのが優先かな。この子に関しては他に人がいればその時に聞けばいいし。
「・・・ここは、どこですか?」
「学園生活部の部室だよ」
学園生活部?部室?・・・どういうことだろうか。部室というからには部活動なんだろうけど、そんな部活に聞き覚えはない。造りは似ているけど、実はここは巡ヶ丘高校ではない、とか?いや、だったら彼女は何?
一つ確認しようとしたら疑問が数倍に増えてしまった。
《いや、ゆきさん・・・それで通じるのはここの住人達だけだから。見なよこの『やばい、わけがわからないー』みたいな顔。ちゃんと学校だって言わないと》
「うん、そうだね。さすがみくちゃん」
《ふふん、もっと褒めるがいーですよ》
そしていきなり誰かと話し始めるゆき先輩。みくちゃんって誰だろう?というかどこにいるんだろう。私には誰もいないようにしか見えないし、独り言にしか聞こえないけど。
「ご褒美にこれあげるー」と言ってゆき先輩がペットボトルを差し出したから電話してるわけではないらしい。とはいえペットボトルはそのまま見事に落下して床を転がっていたからそこに誰かがいる、というわけでもないらしい。
《これ、飲みかけのペットボトルじゃねーですか!》
やがて話の整理はついたらしい(結局誰と話しているのかや、その内容は一切わからなかった)ゆき先輩が、ここが私達の学校だと教えてくれた。やはり巡ヶ丘高校であっていたらしい。あの日からモールに閉じ込められた生活が延々続いていたから、こうしていつも通っていた校舎にいるというのはちょっと感慨深い。
そのまま話を続けようとしたゆき先輩の足元から、ふと聞こえてきた鳴き声に二人で視線を降ろす。そこにいたのはすっかり見慣れた犬だった。すっかり先輩に懐いたようで、その足に擦り寄っていた。
「ああ、お前もいたね~」
「太郎丸!」
太郎丸だ!この子も無事だったんだ!結局モールで出会ったあの子に振り回されっぱなしで合流できなかったけど、こうして学校にいるということはあの子かゆき先輩が保護してくれていたらしい。
思わず手を伸ばすも、そっぽを向かれた上に逃げられてしまった。嫌われてしまったみたいだ・・・ちょっと悲しい。
「あわわわわ・・・」
《あちゃー・・・・・・そ、そうだゆきさん、この人も久々のがっこうってわけですし、ちょっくら校内の案内でもしてあげたらいいんじゃないですかね》
私が露骨に気落ちしているのがわかったのか慌てるゆき先輩。そのうち「う、うん!そうだね、みくちゃん!」とか言い出したからまた誰かと喋っていたらしい。やっぱり私には誰も見えないけれど。
そうこう騒いでいたゆき先輩だけど、やがて何の脈絡も無く私の手を取ると、「さあ!行こーう、みーくん!」と私を部室(らしい)から連れ出した。どうやらそのまま移動するらしい。
・・・・・・というか、みーくんってなんですか?
《ドアくらい閉めていきましょーよー・・・・・・って聞いてないし・・・》
「まずはここがね、音楽室!」
どうやらゆき先輩は私に校内を案内してくれるつもりらしい。とはいえ、音楽室の場所くらいは流石に私も知ってますよ先輩。私ここの生徒ですからね。
「軽音部の人いるかなー?」
部活!?学校では何も起こってないの?・・・言われてみれば、なんだか音楽室からは音楽が聞こえているような気も――
ゆき先輩が音楽室の扉を開けると、とたんにとんでもない爆音が耳を打った。
凄まじい重音とシャウト、学校の音楽室では縁のなさそうな音楽性。中を見ればまるでかれらのような姿の女生徒(リボンなどから察するにおそらく先輩だろう。やけに精巧かつ不謹慎なメイクだ)やどこぞのデーモンの仲間のような化粧を施した男性、そしてモールで私を助けた(後に散々に振り回してくれたが)女の子が見事な演奏を披露していた。・・・どうやら音楽室ではデスメタルなライブの真っ最中だったようだ。
「すごーい、るーちゃん達ギター弾けるんだ」
「・・・・・・・・・ホント、すごいですね、はい・・・」
ゾン子さんとリーダーさんを(強制的に)巻き込んで重音楽部を楽しんでいたるーちゃん、お客さんが来たためパフォーマンスにも力が入ります。外でどこぞの野球部が「オイイイイイイ!馬鹿共ウルセエゾオオオオオッ!!」とかキレてますけど気にしません。普段はあいつらの呻き声のほうがはるかに煩いわけですし、たまには騒音を味わえば少しは静かにするんじゃないかとるーちゃん思うのです。
そもそも演奏、歌唱ともにカンスト(255)のるーちゃんのそれは騒音呼ばわりで片付けるには勿体無いクオリティです、呻き声シリーズとは実用性が違います。と己を正当化するるーちゃんですが、学園生活部の面々からの評価はあまりよろしいものではなかったようで、爆音を聞きつけて廊下を突っ走ってきたきーさんやらくるみさんやらに強制停止させられた挙句に観客の生存者さんともども強制連行されてしまいました。「じゃあ、私は授業に行くからねー!」《るーちゃん、後は任せますよー》というゆきの言葉を背に引き摺られていきながら、これはお説教コースかなとか考えて言い訳の構想を練っていきます。いかに万能最強生命体のるーちゃんといえどもまだまだ子供、お説教は嫌なのです。
屋上へと連行されたるーちゃんと生存者さん。農作業をしていたらしいりーねーとくるみさんが生存者さんとお話をしている間、るーちゃんはきーさんからお説教のようです。意味もなく大音量の騒音を立てるなそこら中からあいつらやってくるだろうが、ときーさんたいそうご立腹です。とはいえるーちゃん話聞いてるっぽく振舞いつつ他のことをするのは大得意です。お説教を右から左へ聞き流しながらりーねー達の会話に耳を傾けます。るーちゃんは255人くらいの会話なら全部同時に聞き取れます。
「一応確認するけど、ちゃんと私の話聞いてるか?」
ばっちり聞いてますよー、たぶん。今は学園生活部(で合っていただろうか?)とは何かについて生存者さんに話しているようです、るーちゃんばっちり聞いてます。
「そっちじゃないっての・・・」
きーさんがだんだん呆れ顔になってきているのでもうちょっとでお説教はうやむやです。もうちょっと何か誤魔化す手段はないかと周囲の様子を窺うるーちゃん。向こうは何やらめぐみのお話をしていますが、便乗して何かしでかそうにもめぐみ本人は授業で不在です。授業といえばきーさんは授業はいいのでしょうか、とつついてみますが、「誤魔化すな」の一言で片付けられました。後でめぐみに授業を蔑ろにしていたと言いつけてやろうと心に誓うるーちゃんでした。
一方のりーねー達は今度はゆきの話をしているようです。なにやらゆきの取り扱い方に関して意見が割れつつある様子。りーねーと生存者さんの間に不穏な空気が漂いだしたためくるみさんもきーさんもそちらを落ち着けにかかったようです。るーちゃんは幸運をも味方につけてお説教を見事に回避です。あとはきーさんの意識がるーちゃんへのお説教へと戻ってくる前にこの場を離脱してしまえば完璧です。るーちゃんはさっそく生存者さんへと飛びつくと、その手を握ってぐいぐいと引っ張り屋上からの離脱を図ります。
「え、ちょっと、どうしたの?」
ゆきに代わって校内をご案内ですよー、と強引に生存者さんを引っ立てていきます。背後の「ああっ、早くもるーちゃんに飛びつかれるなんて、くっつかれるなんて!しかも手繋いでる!ずるい!ずるい!お姉ちゃん悔しい・・・ッ!」とか言ってる
るーちゃんはさっそく生存者さんを連れて校内を歩き回ります。在校生相手でも案内を欠かさないやさしさ255の所業です。
「・・・・・・えーっと・・・きみは、確か・・・るーちゃんだっけ?」
正解ですよという意味を込めて、るーちゃんですよーと改めてご挨拶です。考えてみればこちらは名乗ったけど、生存者さんの名前を聞いた覚えはありません。るーちゃんはさっそく名前を聞き出します。
「あ・・・私の名前? みきだよ、直樹美紀」
つまりはみっきーですね、るーちゃん覚えましたし。唐突に発生した世界的何某感とか千葉の国感をくるりと回って吹き消すと、るーちゃんの校内案内の始まりです。
ここがお手洗い。
「うん、知ってる・・・」
ここが職員室。
「知ってる・・・」
ここが校長室。
「知ってるよ・・・」
そしてここが夜戦鎮守府。
「・・・どこ!?ねえこれどこ!?今何通ってここに来たの!!?」
淡白なリアクションが続いていましたが、いきなり場所を移動すると流石のみっきーも驚くようです。次からは気をつけようと決めたるーちゃん、見知らぬ人影を見つけて寄ってきた見知らぬ夜戦仮面を白いのめがけて投げ飛ばすと引き続き学校案内を再会します。怨嗟の声などるーちゃんの耳には届きません。
この辺が教室。
「・・・そうだね、私の教室もこの辺だったからよく知ってる」
ここからバリケード、安全地帯はここまで。
「なるほど、ようやくちょっとためになったかも」
で、ここがるーちゃんの畑。今朝開墾したのだ、にへ。
「だから何で一瞬で場面が切り替わるの!?さっきまで校舎の中にいたんじゃないの!?」
スピード255のるーちゃんにとってはみっきーを連れて畑にいくまでに常人が認識できるほどの時間はかかりません。みっきーの脳が移動を認識する前にその移動は終わっています。そもそも両者の神経の伝達速度からして255倍ほど違います。
みっきーが大騒ぎしている間にトラップの成果を確認します。焚き火につられたあいつらが掘に転落して臨終なされているようで、トラップはしっかり機能したようです。るーちゃんの作品は単純なつくりでもしっかりと成果をあげます。ついでに残り物がみっきーの騒ぎで集まってきていたのでその辺に転がっていたロープで束ねてハンマー投げの練習です。ぽーんと放り出してしまいましたが周辺住民には被害はないでしょう。どうせ誰もいませんし。
トラップの穴も埋め立てて中の犠牲者を土葬し、これで畑の安全確保は完了です。満足したるーちゃんはみっきーに好きに走り回ってていいよと伝えます。ちょっと運動不足っぽい雰囲気を感じたので畑の周りで遊ばせてあげようというわけです。あまり離れなければあいつらもいないでしょうし、ちょっとくらい飛んだり跳ねたりしてても何も問題ありません。
「いや、飛んだり跳ねたりはしないけど。太郎丸じゃないんだから」
言われてみれば犬って散歩させなきゃいけないのではと思い至ったるーちゃん。太郎丸を連れてこなかったのは失敗だったかもしれません、もともとみっきーとは一緒に住んでたみたいですし。次に外に出るときは太郎丸を連れ出すことにしようとひっそり決定です。
そうと決まれば散歩用のリードなどを確保するのは必須事項、るーちゃんはさっそく近所のペット用品店めがけて出発するのでした。「え、ちょっと・・・置いてかないでよ」なんて言いながらみっきーが追ってきますが、そこはゾン子さんを見習って思い立ったら即行動即追従を覚えてほしいところです。課題はたくさんだなぁと考えを巡らせながらとことこと街中へと歩いていくるーちゃんなのでした。
現時点では変な奴しかいませんが、はたしてみーくんはこんな学園生活部に入部するのでしょうか。
そういえば、『軽音部』を変換しようとしたら『圭おんぶ』になってて笑いました。こんなところでいつぞやのOイナリーを回収しようとしてくるとは侮れない変換ですね。
おまけ共
巡ヶ丘駅は今
「ヒャッハー、外回り軍団が戻りましたぜ親分!」
「・・・・・・おい、誰もいないぞ」
「バリケードも吹っ飛んでるな。どうなってやがる・・・?」
「おやびーん、どこ行ったんですかおやびーん!」
ハンマー投げの着弾点
「・・・・・・なんだか向こうは騒がしいね、武闘派は何を騒いでるんだか」
「ぐるぐる巻きにされた感染者の塊が降ってきたからみんなで投げて遊んでるんだってさ」
「いいよねーあいつら人生フリーダムで・・・あれ?」
「立場が・・・逆転している?」
夜戦鎮守府
「夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦夜戦!!」
「グオオオオオオオッ!!(夜戦夜戦夜戦夜戦!!)」
「なんでそれ連れてきちゃったの!?」
「だって、身代わりがいないと私が夜戦に巻き込まれるじゃないか」
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第35話 ぺっとしょっぷ
犬用のリードならペットショップにでも行けば転がってるだろうと判断したるーちゃん。ラ・ネージュの餌を買っていたお店を目指して街中を進んでいきます。後ろをおっかなびっくりついてくるみっきーとは貫禄が違います。余裕255です。
途中で真昼間から学校にも行かずにうろつくるーちゃんを補導せんとするかのように元警察官のあいつらが立ちはだかりましたが、みっきーが身構えるころにはるーちゃんによって組み伏せられ、装備を奪い尽くされ、近くのマンホールから下水調査へと送り込まれて退場してしまいました。相変わらずの早業です。
「なんか、あの子見てると身構えるだけ無駄なような気も・・・・・・ううん、油断大敵、しっかりしてないと・・・」
無駄でしたのー、と言ってのけるほどるーちゃんも鬼ではありませんし、自分の身を自分で守れるようにするのは大事なことです。がんばれみっきーと密かに心中で応援してあげます。るーちゃんはやる気のある子は嫌いじゃないのです。
「……なんか、めちゃくちゃになってるけど…ここに入るの?」
ペットショップまでやってきたるーちゃんですが、案の定お店は滅茶苦茶に荒らされていました。あいつらがやったのかモヒカン軍団が暴れたのかまでは判りませんが、みっきーがどん引きするレベルで廃墟感を漂わせているのは間違いありません。
すごく入りたくなさそうにしているみっきーですが、中を確認しないことにはこんなところまでとことこ出向いてきた意味がありません。さっさと来なさいと手招きしながら、るーちゃんは店内へと足を踏み入れていきました。
店内は中々に薄暗く、棚という棚は倒れ、水槽では無数の魚たちがぷかぷかとその腹を晒し、ケージの中やレジの裏手では得体の知れない何かがたくさん蠢いていました。ゲームなんかに出てくる悪い魔法使いの隠れ家みたいだなぁ、とるーちゃんはちょっぴり面白がっていたようですが、後ろのみっきーは流石にこんな光景まで楽しむ余裕は無いようで、ものすごく不快そうな表情をしていました。今すぐにでも帰りたいって顔に書いてあります。
「・・・早く買い物を済ませて帰ろう。ここ、臭いとか酷いし」
病気になりそうだよ、こんなの。とみっきーがぼやいているので周囲を見渡すのもそこそこにるーちゃんは犬用リードを探し始めます。どこもかしこもひっくり返されて荒れているので、掃除と整理整頓を兼ねながらの作業です。清掃技能MAX(255)のるーちゃんによって手頃な棚が猛烈な勢いで復旧していきます。
「魚の餌は太郎丸には関係ないと思うんだけど・・・」
気にしちゃダメなのですよー。
るーちゃんはばたばたと店内の整頓を始めてしまったようだった。何も全部しっかり片付けなくても探し物だけ見つけて帰ればいいんじゃないかなと思うんだけど、ここまで真剣そうにやられると止めるのもなんだか可哀想な気もするし・・・。難しい、むむ。
手伝おうかなとも思ったんだけど、手元の動きが早すぎて何やってるのかわからないし、何かの拍子にるーちゃんの横スライドに巻き込まれたらきっとあいつらみたいにどこかに吹き飛ばされてしまうに違いない。
・・・私は私でリード探そうかな。せっかく二人いるんだし、分担作業した方が効率いいよね、きっと。
るーちゃんが弄っていないあたりをちょっと確認してみる。・・・どうやらこのあたりは鳥の餌らしい。鳥さん用にちょっと持って帰ろうかな、と思っていくつか持ち上げる。るーちゃんなら荷物が多少増えても全部持っていけるだろうし。
なんか一瞬荷物の影から何か飛び出してきたり、るーちゃんが私のとこまでぶっ飛んで来てたりした気がするけど、振り向いたら普通に作業してたからきっと気のせいだよね。まさかあいつらがこんな荷物の影から襲い掛かってくるわけないし、あいつらが襲い掛かってきたりしない限り作業中のるーちゃんが私のところにすっ飛んでくる理由はないはずだし。・・・・・・いや、悪戯しに来てる可能性も? ・・・ないよね?
ちらちらとるーちゃんの方を見ながら物資を漁る。何か悪戯してないかなと思っていたけど、こう見ているとときどき瞬間移動みたいなスピードで動いているのは間違いないみたい。何をやってるのかは全く見えないけど・・・。
そんなこんなで掃除を進めるるーちゃん。商品で遊んだり時折物陰からるーちゃんやみっきーに襲い掛かってくるネズミ(商品ではなく下水道原産と思われる)を水槽に放り込んだりしながらの作業ですが、たぶん店内の半分くらいは片付いてます。
途中で猫用リードを見つけたのでとりあえずみっきーに装備です。これで逸れることはありません。
「なんで人に付けちゃうかなぁ・・・・・・」
そこに猫がいないからです。奥のほうにはいると思いますが、そっちまで行くのを大人しく待っているるーちゃんではありません。基本的にるーちゃんはスピード狂です。
と、おふざけを織り交ぜながら清掃を行っていたるーちゃんがぴたりと静止しました。気配察知255の鋭敏な感覚が、店内を蠢く無数の影達の動きを察知したようです。るーちゃんは手頃な缶詰を2,3個拾い上げると、みっきーに包囲されたと伝えます。
「え・・・囲まれた?」
みっきーが状況を把握すると同時に前後から挟み撃ちにせんと小型犬が迫ります。目を血走らせた血塗れのポメラニアンとか中々のホラー感、それなりに高いクオリティの仕上がりですが、るーちゃん的には可愛くないのでアウトです。みっきー側から来た個体には缶詰を全力投球し、自分側へ迫る片割れにはアジアアロワナの亡骸が詰まったゴミ袋を叩きつけます。生臭さで死んでしまえという慈悲の欠片もない攻撃です。慈愛0です。
突撃した二匹の断末魔を合図に店中の生物がるーちゃん達へと殺到してきます。犬、猫、鼬、兎といった哺乳類だけでなく、少数ですが蛇なんかも扱っていたようで中々の戦力です。当然そのほとんど全てが感染しているため、一撃でも攻撃を受ければるーちゃん達はおだぶつです(るーちゃんの肌をあいつらの牙が貫ければの話ですが)。
そんな絶体絶命のピンチに陥ったるーちゃん。最初に突っこんできた犬の首を掴み取ると二番手の個体へと叩きつけます。次の瞬間には衝突した2体はるーちゃんに蹴り飛ばされて逆側からくる猫たちを直撃。衝撃によって骨の折れる音が軽快に鳴り響きます。
続けて近場の棚から爪とぎ防止シート(未開封品)を掴み取ると迫り来る兎を切り払い、返す刀で蛇を打ち落とします。そのまま開封して広げたシートで3匹の犬を受け止めるとそのまま未整理の棚へと受け流し、回し蹴りを叩き込んで潰してしまいます。あまりの蹴りの速度に副産物として発生した衝撃波が追撃を狙ったフェレットをあっさりと引き裂きます。かまいたち255というよくわからない技能が相手も鼬だった故に発揮されたようです。
みっきーの背後から迫っていた連中には打ち落とした蛇を鞭のように使って対応します。ついでのようにみっきーも2,3発引っ叩いたような気もしますが抗議の声は上がらなかったので特に問題はないはずです。蹲って悶絶してるみっきーなんて見えません。遠巻きに様子を見て攻めかかるタイミングを窺っていた個体に蛇鞭で叩き落としたやつらを投げつけてフィニッシュです。乱戦にも強いるーちゃんはコンボを途切れさせることはありません。流れるように全員殲滅してみせます。
「わぅーん!?(奴め、本当に小学生か!?)」
「にゃーぁ(学校にも行かずに遊びまわっているにしては、えらく芸達者な奴よのぅ)」
いつの間にかギャラリーが発生しているようですが、特に感染している様子はないのでスルーしておきます。どうせ食料調達に来た犬猫の集団です。再び遠足やら旅行やらが企画されでもしない限り縁はありません。
大量に発生した元商品達の亡骸を廃棄し、ギャラリーたちには適当に餌を渡してお帰り願ったるーちゃん。太郎丸に似合いそうなリードもどこからか無事に発見し、後はレジで会計を済ませるだけです。こんなこともあろうかとレジ近辺にいた人間あいつらはとっておきました。るーちゃんは実に用意周到です。
「いや、そんなに頑なに会計がしたいなら私がやるけど」
大量に発生した元商品達の亡骸を廃棄し、ギャラリーたちには適当に餌を渡してお帰り願ったるーちゃん。太郎丸に似合いそうなリードもどこからか無事に発見し、後はレジで会計を済ませるだけです。こんなこともあろうかとみっきーがレジを操作する邪魔になりそうな近辺の人間あいつらの命はとっておきました。るーちゃんは実に用意周到です。
「二回目!?」
いいからさっさとやるのですよー。そろそろお昼も近いと気付いてしまったるーちゃん。お昼ごはんが冷めるまでに学校へと戻れなければりーねーのお説教が待っています。一日に何度もお説教されたくはないるーちゃんとしてはさっさと戻りたいところなのです。
「ちょっと待ってね・・・えーと・・・・・・」
るーちゃんもさっさと小銭を出して準備万端です。小銭を出せーとかするのは小物のすることだとるーちゃん思うのです。
「・・・動かないんだけど、電気がきてないのかな?」
バカなッ!?
その日の巡ヶ丘では、リードの先を掴んだまま微動だにしない幼女を必死で引き摺って歩く女子高生の姿が目撃されたという。
首輪つきみーくんから漂う犯罪臭。なおるーちゃんに悪意はない模様。
がっこう居残り組
「新人にるーちゃんを取られるっ!!!」
「りーさん、どうどう。落ち着こうなー」
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第36話 たいいくさい やるよ!編
とりあえず今後の方向性だけ。
特にハプニングもなく無事にお買い物から帰還したるーちゃん、さっそく太郎丸にリードを装備してご満悦の表情です。これでみっきーと併せて散歩に出ることも可能になったというわけで、わざわざペットショップで大掃除をしてきたかいがあったというもの、とその表情はにへにへ笑顔です。上機嫌のあまりリードを振り回しかねないテンションのるーちゃんに太郎丸が戦々恐々としていますが、いくらるーちゃんでもそこまでの鬼畜の所業は実行に移さないから大丈夫です、恐らく。自制心255を信じるのですよ。
「・・・で、何でお前まで首輪付いてんだ?」
「るーちゃんに聞いてください」
くるみさんも新しいの欲しかったんだろうか、なんて見当違いの発想をしながら周囲をくるくる回るるーちゃんのもとにやってきたりーねーも、なんだかリードに興味津々のようです。
「るーちゃん、私の分は?お姉ちゃんにはつけないの?」
「お前流石に姉として人としてだいぶやばくないか、それ」
そろそろりーねーも構ってあげてガス抜きしないと暴走しそうです。いざとなったらゆきに押し付けようとも考えつつ、るーちゃんは一応りーねーの膝の上に納まることにしました。「たかえも首輪してるじゃない」だの「これはチョーカーだ!」だの頭上で言い争ってる声なんて聞こえません、あーあー。
そんなこんなでりーねーを適当に宥めていたり、きーさんに押し付けたりしてぐだぐだと過ごしていたるーちゃん。ようやくりーねーが離れていって一息ついていると、自慢の超高性能イヤーが廊下を駆けてくる足音をキャッチしました。これはゆきだなと一瞬で看破したるーちゃんは特に警戒したりはしません。るーちゃんの聞き耳技能は255、足音一つで誰なのかもどんな状態なのかも完全に把握してしまいます。
「お昼ごはんだよみくちゃんっ!」
《せんせーが噴火するまで授業中寝続けただけあってすこぶる元気だね》
「えへへー」
《いや、褒めてねーですよ・・・》
騒がしい授業組が戻ってきたのでお昼ごはんです。今日のお昼はなんですか。
「うどん・・・・・・」
みっきーが固まってます。うどんが好物なんでしょうか。
「・・・・・・あ、えーと・・・向こうではずっと、シリアルとかだったから」
凝視してたら答えが得られました。温かい食事は久しく無かったから、ということのようです。となると美味しいものを食べさせてあげたくなるのが優しさ255のるーちゃん。本日の夕食は自ら腕によりをかけて作ろうと決定しました。調理器具はモールで補充した(いくつかは武装と化したが)し、食材のストックもそれなりのはずです。調理技能255の超一流の料理人であるるーちゃんの料理を楽しみにしているといいですよー、とるーちゃんやる気満々です。普段のやる気0とは一味違います。本気モードです。
「るーちゃんが早くも夕飯の事を気にしてる・・・そんなにうどんダメだったの?お姉ちゃん失敗した!?」
うるせー豆腐ぶつけんぞ。
「だいじょうぶだよりーさん、おうどんおいしいよ」
「ありがとうゆきちゃん!ゆきちゃん優しい。 ・・・・・・あれ、ということはゆきちゃんもるーちゃん?」
「くるみ、黙らせろ」
「いえっさー」
やっぱり、そろそろ構ってあげないと駄目そうです。るーちゃんは溜息一つ、くるみさんに蹴散らされたりーねーのフォローに回るのでした。
結局、「食事中に騒いじゃ駄目ですよー」というめぐみの注意を聞いているものは誰もいませんでした。後々部屋の隅でいじける教員に肩たたきをしてご機嫌取りに勤しむ幼女がいたとか、いなかったとか。
「全員、ちゅうもーく!」
食後になっても無駄に元気なゆきが何やら騒ぎ出しました。思い思いにだらだらしていた部員たちが物音に引き寄せられたあいつらのようにのろのろ集まってきます。自力で移動するのも面倒だったるーちゃんはくるみさんの背中にへばりついていきます。こうすることで楽に動くことができる上、面倒事でも逃げ遅れることはありません。
「あたしが楽できないんだけど」
お子様一匹分くらいは気にしないで欲しいというるーちゃんの我侭が炸裂しているため、くるみさんの抗議は当然のようにスルーされていきます。るーちゃんはスルースキルも高い子です、平常運転です。
「それで、どうしたのゆきちゃん?」
「ふっふっふ~」
ゆきのにやけ顔を見たきーさんやくるみさんは、これはまたしょうもないことを思いついたなと疲れた表情を見せています。『人間いつでも笑顔が一番』が持論のるーちゃんはくるみさんの背中をよじのぼって背後から頬を弄繰り回し、表情をにこやか笑顔に変えようと小細工を弄します。「おい、にゃにすんだ・・・ひゃめろ!」とか言われてるのでただ頬引っ張ってるだけかもしれませんが、誰もつっこまないので問題ありません。
「ほっへが、ほっへがのびるっ」
「りーさーん、話進まないからるーちゃん回収しろー」
結局散々にくるみさんの頬を堪能していたるーちゃんはりーねーの膝上へと回収され、ようやくみんなはゆきの話を傾聴する態勢に入ります。いよいよ本題に入るようです。
「体育祭、やるよ!」
皆の反応は無言、るーちゃんも何のリアクションもしていません。やるよの一言で片付けられてもみんなどうしようもありません。ドヤ顔でポーズ決めてもダメです。
「えーと、遊び・・・ですか・・・?」
「ちがうよっ!学校行事!!」
遊びではないと主張していますが、思いつきでやらかすというのは基本的には遊びなのでは?という疑問がないでもないるーちゃん。しかし自分もいつも(というかほぼ常に)やってることなのでとくにつっこみません。るーちゃんは薮蛇を回避することにも長けています。回避性能255は物理的なもの以外にもばっちり発動するのです。
「体育祭、ねえ…どうする?」
「いいんじゃないかしら、運動不足だといざという時困るしね」
りーねーは肯定的なご様子。るーちゃんを確保しているからか、割と冷静かつ現実的に物事を考えているようです。
「じゃあ、ぱぱっと準備して、さっそくやるか」
異論はないらしいくるみさんも準備をしようと立ち上がります。
「え?今日はやらないよくるみちゃん」
「……は?」
まさかのゆきから待ったがかかりました。どうやら想定しているものが部員達とゆきでは異なるようです。
「ほら、まだみーくん病み上がりだし、せっかくだからしっかり準備して盛大にやったらどうって、ポニちゃんも言ってたし」
地域のみなさんも一緒になって楽しめるようにしようと思うんだよー、とかなんとか言ってますが、この辺にいるのはあいつらばかりです。残念ながらどう転んでも競技は成立しません。
「ポニちゃんって、蓮見のことだよな?」
「ああ、だいたいポニテとしか呼ばれないけど」
「……ときどきいるよな、その辺に」
「………ああ、いるな」
くるみさんときーさんは部屋で害虫を見つけたような顔をして二人で部室を出て行ってしまいました。おそらくポニちゃんさんとやらが八つ当たりを受けるのでしょう。もしかしたら本当にゆきに余計なこと吹き込んでる可能性もありますが、本人がやらかしたのかゆきが勝手に幻影見てただけなのかは他人に判断する手段はありません。どのみちボコ殴りです。
「というわけで今日はまず体育祭実行委員会の腕章を作るよ!」
《たぶんみんな半分くらい聞いてねーですよゆきさん》
ようやく長話が終わったようです。
「腕章ねぇ…作らなくてもどこかにしまってあると思うんだけど」
「そうですね、私達で探してみましょう。ゆきちゃんは、校内に掲示するポスター作っててもらっていい?」
「ラジャー!」
めぐみとりーねーは3階を探してみるとのことですので、るーちゃんはチームるーちゃんの二人を引き連れ体育倉庫の確認です。ついでに備品の数と状態をしっかりチェックしてきます。ゆきの面倒はみっきーに任せていざ出発です。「ほら、みーくんもポスター作ろー!」とか言いながら満面の笑みでみっきーを捕獲した幼女枠生命体がいるので後輩一人でも寂しくはないはずです。
「そもそも何を使うか決めてからじゃあ駄目なのかい?」
るーちゃんは思考より行動派だから却下です。ゾン子さんと二人がかりでリーダーさんを引き摺るようにしてずんずん下へと進んでいくのでした。
「やっぱり本体がいたかポニテエエッ!何企んでんだコラァ!!」
「あ、こら逃げるな! ……窓から飛んだっ!?」
……お前らも働きやがるのですよー。
だいたい若狭姉妹のせい。ときどきゆきのせい。 ―学園生活部の日常―
というわけで体育祭の準備が始まります。肝心の出場者たる生徒達が邪魔だからと蹴散らされてもるーちゃん故致し方無しです。
おまけ
大学組の訓練風景
「
「うわぁ、群れがまるごと消し飛んでる・・・」
「さぁ、次はトーコたちもやってみて」
「そんなんできんのは
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第37話 たいいくさい かくにん編
どうやら体育祭が企画される裏には暗躍しているクラスがあるようで…。
「―というわけでさー、どうしたらいいと思う?」
「そうね……なにか皆で取り組める行事でもあれば、後輩ちゃんも打ち解けやすいんじゃない?」
「うーん…、体育祭?」
「運動不足の解消にもなるものね。しっかり準備して盛大にやれば、いい思い出になるかもね」
「なるほどっ、さっそくみんなに提案してみるよ!ありがとねポニちゃん!」
目を輝かせて部室へと走っていくネコ帽子をいってらっしゃーい、と見送ると、私も手早く階段を退く。これで状況を知るための布石は打ったし、長居は無用だろう。
まるでバリケードのように積み上げられた机の隙間を抜け出ると、道中は相も変わらずすっかり慣れてしまった呻き声ばかりだ。中々喧しい。
呻きに満ちた廊下を抜け、教室へと戻る。
「ニッチョク・・・」
ケッチャコみたいなことを言っているやつが常駐している教室、要するに私達の教室である。ここにチョーカー達が来なくなってから随分と経った気がする。若干の寂しさを覚えるその事実から、今現在私が感じている違和感は始まっていた。
正体不明のバリケード、異臭に異音に奇行に呻き声、行われなくなった授業、現れなくなったクラスメート…。全てが、最近の学校が異常事態の中にあることをよく表していた。
「で、アンタはどう動くのよ?」
「ケッチャコ…」
ニッチョクみたいなことを言っているが、要するに状況を把握し打開しろと言っているのだろう。私と考えは同じというわけだ。
あくまで推測だが、机で通路を塞ぎ、上に立て篭もっている面々はこの状況について何か知っているはずだ。ネコ帽子をうまく誘導して彼女らを引きずり出せば、何か掴めるかもしれない。
「さて、ネコ帽子が動く前にじっくり準備をしておかないとね」
となればまずは腹ごしらえだろう。もうしばらくは続くであろう空腹感を誤魔化すように、私は自らの左腕へと噛み付いた。
……もっとも、この後すぐにチョーカー達に追い回され、腹ごしらえどころではなくなってしまったのだが。
体育倉庫へとやってきたるーちゃんご一行。窓から跳んでいった人を追うのはきーさんに任せたらしいくるみさんもこちらに追いついてきています。
「さっそくなんだけど、扉が開かないんだが」
倉庫の扉に手をかけたリーダーさんですが、扉はびくともしないようです。建てつけが悪いのでしょうか。彼も結構本気でやっているようですが扉が開く気配はありません。
「ギギギギッ」
どいてろといわんばかりのゾン子さんが自信満々に扉を開けようとしますが、これまた扉は動きません。それみたことかと言わんばかりの表情のリーダーさんが癇に障ったのか、ゾン子さんとリーダーさんはそのまま扉そっちのけで追いかけっこを始めてしまいました。何の役にも立ちません。
「何をしてるんだあいつらは…」
呆れ顔のくるみさんが扉へチャレンジしますが、くるみさんの腕力をもってしても扉が開くことはありませんでした。むむー!とかなり全力のようですがこの勝負は扉の完勝です。
ぜえぜえと息が荒くなるまで奮闘しても扉を開けられなかったくるみさん。どうやら何かが引っかかっているから扉が開かないようだ、ということに気付いたようです。扉が開かないのは建てつけの問題ではなく侵入者対策かもしれないようです。
「…ってことは、中に誰かいるってことか。おーい、誰か中にいるのかー?」
扉をノックするくるみさんですが、中からの反応はありません。
うおーい、いないのかー? と声をかけ続けるくるみさんに気付いたるーちゃん、荷物持ち共の追いかけっこ観賞を切り上げて扉へと向かいます。くるみさんでも開けられない扉が相手ならるーちゃんも相応の威力で対処します。いつも通りに物理攻撃力255なるーちゃんがくるくると腕を回しながら扉へと迫っていきます。やや遅れて気付いたくるみさんが止めようとしてももう遅いです、扉目掛けてるーちゃんパンチが炸裂です。開けた後閉めることなど微塵も考えていない圧倒的暴力が扉も、内側でバリケードとして用いられていたらしい備品たちも、何もかもを粉微塵に粉砕します。
「中身までぶっ壊してどうすんだーっ!!」
後に残るのは微塵に砕け散った残骸たちと倉庫への入り口、やりきった笑顔のるーちゃんとくるみさんの怒鳴り声だけでした。
結局正座でお説教を受けるるーちゃん。ここしばらくはあの手この手でお説教から逃げ回っていましたが、脳筋のくるみさんに言い訳は通じないので逃げ切れなかったようです。時折倉庫から荷物(ほぼ粉微塵と化した瓦礫である)を運び出すゾン子さんやリーダーさんに助けろとしきりに目配せをしているのですが、二人とも触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに作業に没頭しています。やはり何の役にも立ちません。
「おい、聞いてるか…?」
余所見ばかりしていたからか前回のお返しとばかりに頬を引っ張られていますが、柔らかさ255のるーちゃんほっぺはいくらでも伸びます。引っ張っても効きません。その魅惑の感触にくるみさんが頬弄りにはまってしまいそうなのは少々問題ですが、このままお説教が流れるなら致し方なしとるーちゃん忍耐の姿勢です。というかそろそろくるみさんも荷物を運びだしたらどうでせうか。
「もうちょっとほっぺいじったら行く」
目的が変わってしまったようでした。
「…で、結局中に人は?」
「いたにはいたけど、ダメだったみたいだね。水も食料も限りがあったわけだし、この様子だとかなり前にはもう…」
倉庫に立て篭もっていた人はとっくの昔に即身仏と化していたようで、ゾン子さんに運び出される遺体からくるみさんが軽く目を背けていました。食料を求めて外に飛び出すこともなく座して死を選んだあたりある意味とんでもなく強靭なメンタルの持ち主だった可能性もありますが、亡くなってしまえばそれまでです。残念ながら体育祭には参加できませんので後で埋葬されることになるのでしょう。
こうして倉庫の中身を一通り確認したるーちゃんご一行でしたが、大部分は扉と共に失われてしまったため僅かなハードル程度しか使えるものはないのではないようだ、という悲しい現実に直面していました。
「どうにもならなくなったな。こんな調子じゃ最悪鍋をかご代わりに玉入れだけやるようだぞ」
そんなことになったらるーちゃんお得意の綱引きも大玉転がしも行われなくなってしまいます。るーちゃん猛抗議です。
「お・ま・え・が・ふっとばしたんだろうがっ!」
リズミカルにるーちゃんの頬を引っ張るくるみさん。すっかりるーちゃんほっぺにドハマリしなさったようです。抗議は封殺されるは頬は伸び放題だわでるーちゃんとしては堪ったものではありません。苛めっ子くるみさんを退治するべくりーねーをお呼び出しです。
「いや、りーさん一人じゃ外までは来れないだろ」
そうでもないはずです。普段から来るなと言ってもやってくるりーねーのことですから、今すぐにでも校舎を飛び出してきても不思議ではありません。
いやいや、まさか…でもりーさんだしなぁ、なんてくるみさんが唸っている間にも校舎の方は「どきなさい!」と怒鳴り声が聞こえてきたり、鳥が叫んでたり、あいつらが叫んでたりとどんどん騒々しくなっていきます。
「ああ…これは来るね」
呟きながらリーダーさんとゾン子さんは倉庫の中へと消えていきます。巻き添えを警戒したのか逃げる気満々です。え、マジで?みたいな顔したくるみさんが取り残されていますが、るーちゃんの高性能なりーねー探知機能も猛烈な勢いで迫っていると告げています。ほら、血濡れの消火器とラ・ネージュを抱えて校舎を飛び出してきました。
「るーちゃんっ!苛めっ子はどこ!?すぐにお姉ちゃんが退治するからね!!!」
血走った目ととんでもない表情でるーちゃんたちのところまでやってきたりーねーを見るとるーちゃんも少々呼んだことを後悔しましたが、来てしまったものは致し方ありません。白目を剥いて泡を吹くでかい鳥を頭に乗せ、凄い勢いで消火器を振り回している見るからにやばい人ですが、こんなのでもるーちゃんのお姉さんなのです。
「りーさん、どうどう!どうどう!落ち着けって、るーちゃんすらどん引きしてるから」
くるみさんがどうにか落ち着けようとしていますが、るーちゃんの頬を引っ張りながらでは全くの逆効果です。「くるみぃーっ!!るーちゃんのほっぺは私のものよ!!」とものすごい剣幕です。ちなみにりーねーのものではありません。だからその手を離すのですよ。いくらるーちゃんの頬が伸び放題だからって堪忍袋のほうはそのうちぷちんといくのですよ。
瓦礫で叩きのめして高校生二人を黙らせたるーちゃん。りーねーの持っていたメモから体育祭のプログラムをだいたい把握したところ、やはり色々粉砕したから足りないことがわかりました。
そうとわかればれっつ調達です。どんな状況でも打開する素早い対処はるーちゃんの得意とするところ、対処法の一つや二つすぐに思いついています。体育祭なんて学校ならほぼどこでもやっていますし、他所から色々借りてくれば何の問題もありません。
幸い遠足の帰りで使っていたバスなら荷物もたくさん入ります。るーちゃんは雑務要員としてくるみさんとりーねーをバスへと放り込むと、近くの学校目指してさっそく出発です。もちろん倉庫に逃げ込んでる荷物持ち二人に瓦礫の片付けを頼んでいくのも忘れません。散らかしたらすぐ片付ける、きれいな環境を保つ秘訣です。
とりあえず最初に目に付いた校舎に乗り込んで色々持って帰ればいいか、なんて適当に行き先を考えながらるーちゃんはアクセルを踏み込んでいくのでした。
「……外の偵察、か」
「ああ。いい加減近くのコンビニの物資も限界が近いし、避難所みたいなところが他にあるなら有益な情報を持ってる可能性もあるからな」
特に急ぎの用件もない昼過ぎ。窓の外を眺めていたら背後が少々騒がしくなった。どうやらタカシゲが外へ出ることを主張しているようだ。
無粋だ、と思った。確かに外にはまだ物資もあるだろうし、生きている
だが、まだ駄目だ。まだまだ私はこの大学を楽しみきっていない。味わい尽くしていないのだ。あれだけ嫌いだった学校をここまで楽しめるのに、先に外の世界を摘み喰いするなんて勿体無いにも程がある。
「……そうだな。そろそろ俺達も外界に打って出ようと考えていたところだし、いい機会かもしれん」
だが我らが纏め役殿はタカシゲの意見に賛成のようだ、最早お飾り同然の分際で…。
こうなると残念だけどこの流れは止められそうにない。もっと余裕が無くなるまで追い詰めておけば御しやすかったのだけど、幸か不幸か今の私達は十分に余力がある。全員で動いて拠点を空にすることこそできないものの、近隣を更地にできる程度の戦力なら即座に派遣できてしまうほどに。
「では誰が動く?言い出したタカシゲは決まりとして……」
「じゃあ、僕も行こうかな」
コウガミも外へ出てみるつもりのようだ、特に反対意見が出ないということは、シノウやあの方のような強大な戦力は理学棟や不測の事態に対する備えに残すということだろう。ならば私も残っているという手も――
「だがお前達だけだと勝手に盛り上がった挙句延々敵を追っていって二度と戻ってこなさそうだ。ストッパーが必要だろうな、アヤカ」
ああ無情。色々と動きやすくするために日頃勤めて落ち着いた振る舞いをしていたことがこんな形で裏目に出るなんて。とはいえここで私の持論などぶちまけてもどうせ
こうなったらこの苛立ちを存分にぶつけて回るしかない。本末転倒な気もするが、避難所の一つでも喰い尽くせば溜飲も下がるだろう。
それに、後々への布石である、と思えばいいのだ。
「……決まりね。じゃあ、さっそく行きましょうか」
やるしかないとなれば気持ちは切り替えていく。どうせやるなら全力で楽しませてもらう、せっかくこんな世界に生きているのだから。
ポケットに忍ばせたナイフの感触を確かめながら、私は窓を開け放った。
こんな調子で暮らしてて、まだ仮入部の兆しすらみせないみーくんは無事に入部してくれるのでしょうか?
ここの学園生活部は全体的にネジが飛びがちなのでこいつらはやばい奴らだ、と見限られないように好感度を稼がないとせっかくの新人がどこかに行っちゃいますよ。
なお現在の様子
「太郎丸ー、そのペン取ってー!」
「わんっ(はいどうぞ)」
「太郎丸、わたしにもそれを
(顔を背け、前足で頭を掻いている)
《わかりやすく酷い扱いの差ですね新人さん。…って私もスルーですか!?》
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