風邪を引いたらシンフォギア装者が看病してくれた(旧題:風邪を引いたらきりちゃんがデスデス言いながら看病してくれた) (リベリオン)
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風邪を引いたらきりちゃんがデスデス言いながら看病してくれた

看病に悪戦苦闘してデスデス言うきりちゃんってきっと可愛いよね。間違いなくかわいいよね。そんな風邪をひいた作者の妄想が爆発した話です。


 ひんやりとした冷たくて心地いい感触が額に触れ、ゆっくりと意識が浮き上がった。

 まぶたを開けると、こちらを窺うように覗き込む見知った顔と目が合う。

 

「あ。起こしちゃったデス?」

 

 申し訳なさそうに言う彼女。

 その独特の口調からすぐに目の前にいるのが暁切歌なのだと分かった。額には彼女が置いたものだろう、濡れタオルが置かれている。

 でも、どうしてここに? と疑問を抱いた。

 

「風邪を引いて寝込んでるって聞いたから、お見舞いに来たんデス。具合は……あまり良くないみたいデスね」

 

 自分でもこれはかなりの重症だと自覚していた。

 きっかけは3日ほど前、軽い頭痛を覚えて最初は疲れが溜まっているのかと思ったら、翌日には頭痛の代わりに喉の痛みと鼻づまり。

 まあこの程度大丈夫だろうと軽く見ていたが、それがいけなかった。時間が立てば経つほど状況は悪化していって、夜には熱を出して寝込み、結果がこの有り様という訳である。

 

「まったく…そんなに前から症状が出ていたのに、なんで放っておいたんデス?」

 

 ハイ、そうデスね。切歌の呆れ交じりの突っ込みを甘んじて受ける。

 1人暮らしをしていれば、怪我病気をした時すぐ助けてくれる人は当然いないから、大人しく布団を被ってゴッホゴッホと咳き込み熱にうなされてるしかない。

 だからなのか、こうして気心知れた相手の顔を見れたのは思った以上に安心できた。

 そう言えば……いつも一緒にいるツインテールの相方の姿が見えないが、一緒じゃないのだろうか?

 

「え? 『調たちはどうしたんだ?』デスか? あんまり大勢で様子を見に行っても迷惑だろうからって、あたしが代表で来たんデスよ。それに皆、看病って苦手そうデスし……」

 

 ああ、確かに。後半の独り言みたいな呟きに苦笑しながら同調してしまう。

 これで切歌は(そうとうズレもあるが。あの日見た墓に供えた醤油を僕達はまだ忘れない……なんて)常識人な所があるし、なんだかんだでオカンな彼女に次いで面倒見がいい所がある。

 これがもし、防人な彼女だった日には物の数分の内にこの世と別れを告げていただろう。あの人片付けられない人だし。

 まあ、誰が見舞いに来ても嬉しかっただろうけど。そう呟くと切歌は苦笑する。

 

「なに弱気なことを言ってるんデスか。らしくないデスよ」

 

 多分それは熱のせいだ。そう答えると切歌は「ならそう言う事にしておくデス」と言って立ち上がった。

 

「どうせ何も食べてないだろうデスし、ちょっとだけ待っててくださいデス」

 

 そう言って切歌は台所に向かう。その手には来る時にスーパーに寄って来たのだろうか、近所のスーパーの店名が印刷されたビニール袋を持っていた。

 

「えーっと……あ、あれ? これ缶切りが無いと開かない奴デスか? か、缶切りは……えっと」

 

 台所から何か焦ったような声に不安を覚え、大丈夫かと思わず声を掛けてしまう。

 

「だ、大丈夫デス! 病人は大人しくベッドで寝てなきゃダメデェス! こっちは全然問題ないデスー……! こうなったら止むを得ないデェス……“Zeios igalima raizen tron...”」

 

 おい今聖詠歌っただろう。

 

「うりゃデースッ!!」

 

 ザンッ! と刃物で硬いものを切り裂くような音が響き、ダルさで思うように動かない身体に渇を入れてどうにか上半身を起こした。

 絶対イガリマ使ったよね。常識人だと褒めた(褒めた? うん…褒めた)ところでこれか!

 

「いやー、焦ったデス。まさか、缶切りを使わないと開かない缶詰だったなんて思わなかったデスね~」

 

 何事も無かったかのように戻ってきた切歌はその手にお盆を乗せ、お盆には飲み物が注がれたグラスとりんごや桃、みかんのシロップ漬けが盛られた皿を載せて戻ってくる。

 今、イガリマ使って缶詰開けただろう。半眼で問うと切歌はわざとらしく目を逸らした。

 

「な、なんのことデス? そんな非常識な事するわけないじゃないデスか」

 

 じゃあさっきの聖詠はなんだったんだ。

 

「気のせいデェス!」

 

 じゃあマリアと調の前でも身の潔白を証明できるのか。

 切り札を突きつけられ、切歌はうぐっと唸った。

 

「し…仕方なかったんデス! 缶切りを置いてないあなたが悪いんデェス!」

 

 開き直った切歌は顔を真っ赤にして、地団駄を踏みながら逆ギレを起こした。

 いやそもそも、今日び缶切りを常備している家なんてあるだろうか。今の主流はプルタブ式のものが殆どなのに。

 

「あった缶詰がこれだけだったんデスよぉ……」

 

 なら仕方が無い……で済むわけがない。

 ただこれも自分の看病をしてくれているためだから、怒るに怒れない。むしろ怒れば熱が上がりかねない。

 しょんぼりしながら切歌はフルーツのシロップ漬けを手に取り、スプーンで救うと自分の口元に運んでくる。

 

「はい、あーんデス」

 

 ……いや、別にそんな事しなくても。

 

「病人は大人しく看病されるものデス!」

 

 言いつつ切歌もやっていて恥ずかしいのか、少しだけ頬が赤らんでいる。

 仕方なく大人しくされるがままにされ、スプーンを口に入れた。

 租借するとみかんの程よい酸味にシロップの甘さが口の中で広がり、ゆっくりと味わってから嚥下する。

 そう言えば何かを胃に収めたのは何時間ぶりのことだろう。昨日の夜は喉の痛みが酷くて唾液を飲む事すらも苦痛で、のど飴くらいしかずっと舐めていなかったはずだ。

 そして今日はずっとベッドの上で身動きを取れなかったし、となるとほぼ1日ぶりに何かを食べたという事か。

 ただ缶詰を開いて……もとい、缶詰をぶった切って中身を盛り付けただけのものだというのに、今まで食べたどんな料理よりも美味しく感じた。

 

「ちょっとは食べておかないと、治る風邪も治らないデスよ。あと、こっちはスポーツドリンクデス」

 

 ご丁寧にストローを差したグラスが差し出され、ストローを口にくわえてゆっくりとグラスの中身を飲んでいく。

 常温のそれは冷たくなくて飲みやすい。

 久しぶりに腹に物を収めた事で少しは気分が良くなった。もし切歌が来てくれなければ重たい体を引きずってスーパーまで足を運ばなければいけなかっただろう。

 本当に感謝してもし切れない。切歌に感謝の言葉を述べると、照れながら手を振る。

 

「そ、そんないいデスよお礼なんて! 別に大したことはしてないデスから」

 

 いや、現にこうして切歌が来てくれなければ満足に食事すら取れなかったから十分に大したことだ。

 つい言葉に熱が篭りそうになると、無理をしたせいでゴホゴホと咳き込んでしまう。それを見た切歌は慌てて背中をさすってくれる。

 

「あぁ~! なにやってるんデス! 病気の身体で無茶したらダメデスって!」

 

 め、面目ない……切歌に背中を擦られて落ち着いた所で謝罪の言葉を口にする。

 

「やれやれデスね~……ほら、大人しく布団を被るデスよ」

 

 呆れながら切歌は身体を横にさせると、布団を被せてくる。

 その上で起きた拍子に落としたタオルを拾い、水を張った桶に浸してからきつく絞ると額の上に載せてきた。

 

「ところで、お薬は飲んでいたんデスか?」

 

 いいや、と僅かに頭を振ってそれに答えた。

 すると切歌は薬箱がどこに置いてあるのかを聞くと、それを取りに行ってからまた戻ってくる。

 

「えーっと…15歳以上は1回3……か、カギ…デス?」

 

 3錠ね。箱の側面に書かれていた説明文の一部で眉間に皺を寄せた切歌に冷静に突っ込んだ。確かに鍵と錠は密接な関係があるけど、この場合全然違うものだからね。

 

「そ、そうデス! それだったデェス! えっと、3ジョウを1日3回、食後なるべく30分以内にふ…ふ…フクヨーするって書いてあるデェス!」

 

 本当に大丈夫かなこの子。将来が本当に心配でなりません。

 この間も「地球(ちきゅう)」を「地球(ちたま)」って読んでたし、自分が住んでいる上に救った惑星の名前くらい覚えようよ。

 

「なっ!? ななぁあっ!? なんでそれを知ってるんデェスッ!?」

 

 調から聞きました。その「おきてがみ」の内容自体、黒歴史を葬りたくて黒歴史になってるって……。

 

「わーっ! わーわーわーっ!?!?」

 

 こっちが病人と言うことなんて頭からすっぽ抜けてしまったのか、切歌は耳まで真っ赤にして慌てふためく。

 と、その時ベッドの上に飛び乗るとガシッと襟を掴み、鼻の先が触れるくらいの位置まで顔を近づけてきた。

 

「こ…この事は絶対、誰にも言わないで欲しいデス……! もし言えばあなたも黒歴史に葬ってやるデェス…ッ!」

 

 うん。わかった、わかったから。目を見れば本気だってわかるから、とりあえず苦しいから離してくれないかな。

 あとあれだよ。そんな近いとキスまで出来ちゃうよ。流石にこんな状態ではやる気もないけど。

 

「っ! ご、ごめんなさいデェスッ!」

 

 気づいた切歌は慌てて手を離して、ベッドから降りる。

 うん、こっちもちょっとふざけすぎたみたいだ。誰かと話すということが楽しすぎてつい度が過ぎてしまった。

 

「い、いえいえ…こっちも相手が病人だってことすっかり忘れてしまってたデス……」

 

 ならどっちもどっちってことでいいかな? と言うと、

 

「そ…そうデスね」

 

 切歌も少し恥じらいを見せながら、笑って答えてくれた。

 

 

 なんだかんだあったが切歌がお見舞いに来てくれたのはとても有り難かった。

 お粥(レトルトだけど)を食べさせてくれたし、ご丁寧に身体まで拭いてくれて着替えまでさせてくれた。

 1人だったら本当にここまで出来なかっただろう。当分の間彼女には頭が上がらない。具体的には勉強を見てあげるとか。

 

「それは暗にあたしをバカにしてるんデスか……?」

 

 いや、感謝してるんだ。とジト目でこちらを見て言う切歌に首を振って否定した。

 薬も飲み、身体も随分楽になった。とは言えこれで無茶をしてぶり返したら元も子もないから、もう暫く大人しく寝込むことになるだろう。

 

「その通りデスよー。『治りかけが危ない』ってマリアも言ってたデス」

 

 確かにオカン気質な彼女なら、そんなことを言いかねない。

 もし……もしも、今日見舞いに来てくれたのが切歌ではなく、マリアならどうだっただろうか。

 恐らく卒なくこなしてくれて、見ていて安心したかもしれない。

 

「……マリアが来てくれた方が、良かったデスか?」

 

 不安げにこちらを窺う切歌。

 確かに今日1日、切歌を見ていたら危なっかしくてハラハラした。缶詰を聖詠してまで開けようとしたり、薬の用量を読めなかったり、レトルトパックのお粥をパックのまま封を切らないでレンジでチンしようとしたり、身体を拭いてくれた時に使ったお湯が意外と熱くて悲鳴を上げたり……。

 でも彼女なりに、一生懸命看病してくれようとする気持ちは十分伝わってきた。看病の内容は悪かったかもしれないが、その気持ちだけは100点満点だろう。

 だからそんな事は無いと、切歌が来てくれてとても嬉しいとはっきり口にする。

 

「そ……そんな風に面と向かって言われると、恥ずかしいデスよ……」

 

 赤くなった両手を頬に当て、切歌は恥ずかしそうに呟いた。

 自分でもこっぱずかしいと自覚はあるが、熱のせいでまともに考える事ができないんだと片付ける。

 

「……じゃあ、あたしはそろそろ帰るデス」

 

 言って、そそくさと帰り支度をする彼女につい待って欲しいと声を掛けてしまう。

 確かに日も暮れ、切歌も帰らなければいけないというのは分かっている。これ以上独占するのは調にも悪いだろう。

 ただもうちょっとだけ、もう少しだけ傍に居て欲しかった。

 だから――。

 

 ――二の腕、ぷにっとさせてくれないか。

 

「――――へ?」

 

 言った本人も「なに言ってんのお前?」って突っ込みたい頼みに、切歌はぽかんと口を半開きにしてこちらを見つめていた。

 いや、本当に何を言っているんだろう。何をどうすれば「二の腕ぷにっとさせてくれ」ってなるんだと自分に突っ込む。

 

「え、えーっと~……なんでそうなるんデスか?」

 

 いや、なんでだろう。

 ああ、もしかしたら前に調が「きりちゃんのぷにっとした二の腕も、ひんやりしてクセになる」って言っていたから、それが原因かもしれない。

 だからって二の腕はないだろう、二の腕は。

 ごめん、今の無し……と言おうとしたところ、

 

「し…仕方ないデスね。今回だけデスよ……」

 

 切歌は恥らいながら右腕を差し出してくる。

 え? と、鳩が豆鉄砲を食らったみたいに呆けてしまう。

 今のは気の迷いで本心だったわけではなくて、でもここでごめん冗談と言ってしまえば魂そのものを両断されかねない。

 なら黙って乗っかろう……そう思いながら差し出された右腕の、肘と肩の間に手を伸ばす。

 

 ぷにっ。

 

「ひゃっ!」

 

 触った瞬間、驚いた切歌が短い悲鳴を漏らした。

 強く摘みすぎただろうか? 慌てて離しながらごめんと謝罪する。

 

「い、いえ…ちょっとビックリしただけデスよ……その、もう1度どうぞ…デス」

 

 ……じゃあ、お言葉に甘えて。そう言ってもう1度切歌の二の腕を摘む。

 

 ぷにっ。

 

「ん…っ」

 

 触れられる緊張に僅かな声を上げるが、今度は大丈夫らしい。

 そして肝心の二の腕はと言うと、確かにひんやりしていて心地良い。単純にこっちの体温が彼女より高いせいもあるのかもしれないが、これで枕にされたらぐっすり眠れそうな気がする。

 

「なっ、なぁっ!? なに言ってるんデスか! さすがにそれはダメデスよ!」

 

 いやうん、分かってるけど。病人だからといっても限度はあるから。

 

「だいたいなんで二の腕なんデスか……こういうときは普通、手を繋ぐとかじゃないんデスか?」

 

 うん、だよね。自分でもこれはどうなんだって現在進行形で思ってるところだし。

 ただ調の言っていた事が気になったからと、つい引きとめようとして口走ったからに過ぎないんだが、もしこれが普段なら間違いなく斬られている所だ。つくづくこの時だけは病人で良かったと風邪に感謝する。

 しっかりぷにっとした二の腕を堪能した所で、ありがとうとお礼を言うと手を引っ込めた。

 

「どういたしましてデス。……それで、どう…だったデスか? 感想は」

 

 ひんやりぷにっとしていて気持ちよかった。素直に答えると切歌は何が不満なのか眉間に皺を寄せる。

 

「むぅ……そんなにぷにっとしてるんデスかね? ダイエットしたほうがいいデスか……」

 

 いや、そんな事は無いと思う。自分はそんなに気にならないし。

 それに無理にダイエットして体調を崩したりすれば大変だ、と伝えると切歌はあはは、と笑った。

 

「じゃあ、もし倒れた時にはあなたに看病してもらうデスよ」

 

 それは構わないが……良いのだろうか? その時には調が看病してくれると思うが。

 

「そうかもしれないデスけど、調1人じゃ不安デスし……」

 

 まあ……気持ちは分からなくもないが。

 切歌には今回の事で大いに助けられたし、いつかは借りを返したいと思ってはいる。具体的には居残り勉強に付き合うとか。

 

「それだけは勘弁して欲しいのデスよ……」

 

 乾いた笑みを浮かべて答える切歌。せめてズレた一般常識とかは矯正したいんだが。

 流石にこれ以上は引き留められないと思い、もう大丈夫と伝えると彼女は頷いた。

 

「それじゃあ、今度こそ帰るデス。大人しく寝てるんデスよ」

 

 分かってる、早く治すから。そう答えると切歌はにっこりと笑いかけた。

 

「風邪が治ったら、また一緒に遊んで欲しいデス!」

 

 オーケイ任せろ。その時には目を回すくらい遊んでやる。

 そう答えると切歌は嬉しそうに頷き、立ち上がると壁にあった照明のスイッチまで向かう。

 

「おやすみなさい、あなたが戻ってきてくれるのを……あたし、楽しみに待ってるデス」

 

 そんな言葉を残してスイッチが切られ、部屋が暗くなる。

 暗くて切歌の姿はシルエットでしか分からないが、静かに彼女が出て行くのを見届けてから、再びまぶたを閉じた。

 

 風邪は昨日よりもかなり軽くなったし、今日は良い夢が見れそうな気がする。そんな気がする1日だった。




ってわけで風邪を引いて熱で若干ぼーっとしながら書いた話でした。

ここでの話はここ最近起きた自分の体験を基に書いてます。ええ、現在進行形で風邪ひいてます。つか昨日は熱が出て危険感じました。

なんでこんな話を書いたのか、理由は良く分からないですけど「きりちゃんが看病してくれたらデスデス言いながらしてくれて可愛いだろうなぁ」って言う思いつきを、風邪ひいてる身で何やってんだって内心突っ込みながらさらさらっと書いてみました。

多分きりちゃんは看病するのそこまで上手じゃないけど、一生懸命看病してくれそうだよなぁってイメージです。以下、個人的主観で装者たちの看病の腕前を5段階評価で纏めてみます。

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響:4(無印でも翼さんのお見舞いに来て、汚部屋を綺麗に片付けていたから標準以上だろうと)


クリス:3(ちょっと判断しかねるけど、GXの1話を見る限りはまあ普通に看病してくれそう。個人的にもう抜群に最強可愛いクリスちゃんが顔を見せてくれるだけで評価は天元突破して10です)


翼:0。0ったら0(すみませーん、緒川さんにチェンジで! いえチェンジしてくださいお願いします!)


マリア:5(何気に1番上手そうなイメージ。なんやかんや言いながらちゃんと看病してくれそう。オカンだからね、仕方ないよね)


切歌:2(意外と看病そのものは苦手そう。ただ悪戦苦闘しながらデスデス言ってる姿をイメージすると癒されるから補正込みだと4.5くらい)


調:3(意外と普通レベル。やるべきことと頼まれた事はやってくれそう。ただちょっと間が持たないかも)


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 こんな感じですね。多分防人さんだけは皆さん共通認識だと思います(笑)。ほんっと、ほんっとに勘弁してください何もしないでくださいお願いですから!(土下座

 皆さんも風邪をひいた時は早めの対処が必要ですよ。

 そして熱があるのに執筆しようとするなんて愚考はやめましょう! お兄さんとの約束だ!(サムズアップ


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続・風邪を引いたら防人さんがお見舞いに来たので絶唱した

まさかの続き。今回はSAKIMORIさん。

※規約に触れる恐れを指摘されたので一部変更しました。


 ドーモ=ミナサン。

 覚えていますか? この間風邪を引いてしまい、切歌に看病された者です。

 ええ、まだ風邪引いてます。でも熱はそれなりに引いて動く事は出来そうです。無理は禁物ですけど。

 

 ピンポーン。

 

 おや、誰だろう。あまり人が訪れる事がないから来訪者なんて珍しいが、流石に長時間対応できるほど回復はしてない。

 どうせ訪問販売とか新聞の勧誘とか、その類だろう。そうタカを括ってベッドで寝ることにします。

 

 ガチャガチャ…。

 

 うん? 今鍵を開ける音がしたような……時間を見れば夕方だし、案外切歌がもう1度お見舞いに来てくれたのかもしれない。

 だとしたら存分に癒される事にしよう。あの子弄られているとかわいいからね。ただし薬と同じで用量間違えると魂を両断されるから要注意。

 

「お…お邪魔します」

 

 はてさて、やって来たのは切歌ではなく。

 かと言って我が愛しの天使にして女神なわけでもなく。

 かと思えばオカンな年長者ではなく。

 

「ああ、起きていたのか。勝手に上がってすまない」

 

 現れたのは時代がかった独特の言葉遣いをするSAKIMORIなお人。

 日本が誇るトップアーティスト。

 現在は世界を舞台に歌ってる真っ最中。

 風鳴翼さん――。

 

「風邪を引いて寝込んでいると聞いて、お見舞いに来たんだ」

 

 ――訂正。風邪を引いて無理無茶な動きは禁物だけど、戦わなければ生き残れなさそうです。

 

 

 Q:ナズェココニイルンディス!?

 

 A:お見舞いに来た。

 

 Q:ビィドゥディダケディスカ?

 

 A:ああ。皆都合が付かなくてな。

 

 ダンティコッタイ……。

 ああ神よ、バビロニアの神よ、なんでこんな仕打ちを! よりによっていっちばん来てはいけない人を寄越したんです!? フィーネ! やっぱり世界はこんなにも残酷だよ! 統一言語取り戻しても無理だよ!

 

「むっ…やはり顔色が悪いな。あまり無理はしないほうがいいぞ」

 

 いや、あなたに危機感抱いているからなんですけどね! なんて口に出来るわけもなく……。

 大丈夫、問題ないと身体に鞭を打って起こすが、ゴホゴホと咳き込んでしまう。

 

「言った通りではないか。無理をしたら治るものも治らないぞ」

 

 呆れてそう宥めながら、翼さんは背中を擦ってくれるが……。

 いつ無理をするの? 今しかないでしょ!!!(ブーメラン

 これが他の面子なら大人しく寝ていましたよ。切歌は危なっかしかったけど一生懸命看病してくれたから。

 けれどあなたアレでしょう!? 聞いてますよ! お見舞いに行ったら汚部屋だとか、ちっちゃい頃から片付けられなかったとか、色々聞いてるんだ! 全部緒川さんがやってくれてるんだろ!

 考えろ、何とか彼女の機嫌を損ねずに丁重かつ早々に退室してもらう方法を!

 

「ん?『風邪を移してしまっては大変だし、大変申し訳ないから帰ったほうがいい』だと? ふっ、気にするな。そんな事で患うほど、この身を剣と鍛えてはいないさ」

 

 あー、デスよねー。

 今考えられる中で会心の策は、じっつに男前な微笑で一蹴されました。この人が風邪でダウンするなんてイメージ、全然浮かばないもんね。

 その後翼さんは身体を横にするのを介添えしてくれて、さらには毛布まで掛け直してくれた。

 

「それに私の心配をするより、今は自分のことを大事にしたほうがいい。快方に向かっているとは言え、ここで無理をしたら逆戻りだ」

 

 無理しなきゃどっちにしても逆戻りなんですよぉぉぉぉ!(血涙

 翼さんは悪い子じゃないんだ。それは良く分かる。

 だからこうしてお見舞いに来てくれたのも、善意からだというのも理解しているし納得もしている。

 けど……そう、『けど』なんだ。ここに彼女だけでなくあと1人居てくれれば安心できた。

 しかし彼女1人だけの場合不安しかない。表では華々しく活躍し、裏でも防人として戦場を一陣の風となって勇ましく駆ける彼女の姿は見ていて憧れる、惚れ惚れする。

 でも日常生活があんな感じじゃ……ねえ?

 

「ところでお腹は減っていないか? お見舞いに果物を持ってきたのだが」

 

 そう訊ねつつ、翼さんは籠を軽く持ち上げる。

 病院とかのお見舞いで見かける、なんか色々果物が入った籠を。生で見たのはじめて見た。って言うかただの風邪で、こんな高そうなものを貰っていいのかと気が引けてしまう。

 

「気にするな。少し待っていてくれ、今切ってこよう。台所を借りるぞ」

 

 ああ、はい。どうぞ。生返事を返すと翼さんは頷いて席を立ち、台所に行ってしまう。

 まあ……切るくらいなら大丈夫かな。実際斬撃はあの人の得意分野だし。

 そう楽観視していると――台所の方で不穏な声が。

 

『むっ…洗い物がそのままだな。ついでに少し洗っておこう』

 

 えっ――と、思わず声を上げてしまう。

 確かに洗い物をする気力までは湧かなかったから、とりあえず水に浸けてそのままにしていたんだ。治ってから纏めて片付けようとしていたんだけど……。

 振り返っている間に水を流す音が聞こえ、カチャカチャと食器同士が擦れる音が微かに響いてくる。

 聞いている限り問題なさそうだし、なんだ、これなら大丈夫そうだな……そんな風に安心していた矢先、

 

 パリーンッ!

 

『……………』

 

 何かが床に落ちて、粉々に割れたような音。

 今の音は明らかに食器が落ちて割れた音じゃないだろうか。

 

『す…すまない! 手が滑って割ってしまった……すぐに片付け――あぁっ!?』

 

 慌てて謝罪した直後、ドンッと何かをぶつけるような音がして、更に慌てる翼さんの声。次の瞬間、

 

 ガチャガチャパリンパリーンッ!

 

 ……積み上げていた食器を根こそぎ落として割ったのだろうか。

 だがあえて何が起きたのか……とは聞くまい。

 

『ご……ごめんな…さい』

 

 若干涙声で謝る翼さん。

 うん――楽観視するのは大きな間違いだったらしい。

 

 

「本当にすまない……割った食器は全て弁償する……」

 

 そう言って隣で正座をして小さくなっている翼さん。

 気にしなくていいよ。100均で買った安物だし。そう言って彼女が切り分けたりんごをシャクシャク食べる。お高いものはやっぱり甘い。

 

「うぅ……」

 

 けどそのフォローはどうにも彼女の良心を苛むものらしく、申し訳なさそうに項垂れていた。

 なんだか、こんな翼さんを見るのって久しぶりだな。その姿を見ていたらなんとなく呟いてしまう。

 

「久しぶり……?」

 

 その呟きに顔を上げ、小首を傾げる翼さん。

 うん、と彼女の疑問に頷いた。

 なんというか、この頃の彼女は防人であろうと、剣であろうと徹してるあまり妙な方向に進んでいるような気がしてならなかった。言葉遣いなんてその典型。

 

「そうだろうか……あまり自分では意識していなかったのだが」

 

 自分でも気づかなかったということは、殆ど無意識のうちにやっていたことなんだろう。

 彼女の夢である世界を舞台に歌いたい気持ちも分かるし、防人としての矜持も理解できる。けど……もうちょっと、歳相応なことをしてみてもいいんじゃない?

 

「歳相応なこと……か?」

 

 そうそう。とまだ良く分かっていない翼さんに頷く。

 例えば……そう、前に響と未来の3人で遊びに行ったこととか。

 

「ああ……あれか。確かに楽しかったな、あの時は……知らないことばかりを体験して、驚きもしたし楽しかった」

 

 そうだそうだ、それが普通なんだ。

 刃を鍛え、研ぎ澄ませるのも結構だと思うが、鍛えすぎて余分なものも捨ててしまったらいけないと思う。色んな経験をしてそれを糧にするのも大事な事じゃないだろうか。

 硬くて鋭い刃は、それだけ鋭い切れ味を見せるだろうが、逆に柔軟性に欠けて折れ曲がりやすい。あんまり真面目一直線だとポッキリ折れそうで不安になるんだ。

 

「……………」

 

 言い終えると、なぜか彼女はぽかんと呆けたような顔をしていて首を傾げる。

 何か変なこと言っただろうか。それとも気に障ったのだろうか?

 

「いや、気に障ったとかそういうのではないんだ。……前にも同じことを言われた気がして、ついな。こちらの事だから気にしないでくれ」

 

 そう語る彼女の顔は何かを懐かしむようだった。きっとそれは彼女にとってとても大切な事で、深く踏み入ってはいけない話なのだろう。

 

「色んな経験を糧に……か。そうだな、なら君の風邪が治ったらどこかに出かけよう」

 

 え。いいの? 感傷に浸っていた彼女をそっとしておこうとした矢先、そんな話を振られて思わず戸惑ってしまう。

 

「もちろんだ。君が言ったのだろう? もっと色んな経験をしろと」

 

 いや確かにそうだが、トップアーティストと出かけたりすれば大騒ぎになるのは間違いないだろう。

 そもそも自分みたいな、何の取り得もないただの人なんかと出かけて楽しいのだろうか?

 

「何を言っているんだ。君はこうして、私に大事な事を気づかせてくれたし、何より私にとって大事な人だ。ただの人ではないさ」

 

 そう言ってくれるのは嬉しいが、なんかそれは愛の告白みたいで勘違いを起こしそうなんだが。

 恐る恐る指摘すると、翼さんは徐々に顔を赤くしていき、全体が真っ赤になったところでボンッと音を立てる。

 

「こっ、こ…告白!? べべっ、別にそんなつもりは……いや確かに君は私の大切な存在で相違ないが、まだそこまでの関係には……な、何を言っているのだ私は!」

 

 いや落ち着け! 錯乱して頭を振り乱す翼さんの腕を掴んでどうにか止めようとする。

 が、日頃鍛えていて同年代の男子よりも腕っ節は間違いなく強い彼女。対してこちらは特に運動をしているわけではなく、おまけに風邪で体力ががた落ちしている自分。

 結果、彼女を抑えることは叶わず逆に振り回され、挙句ベッドから引きずり出された。

 

「きゃっ…」

 

 普段の彼女からは滅多に聞けないだろう女の子っぽい悲鳴。

 あ、マズイ……頭の中で瞬時に考え、鈍い身体に鞭を打ってどうにか翼さんとの位置を入れ替え、自分が下敷きになろうとした。

 次の瞬間、ドスンッと言う音を立てて2人とももつれて床に倒れこむ。

 い……ったい。涙が出るほど痛い。受身を取る暇すらなかったから背中も後頭部も強かに打ちつけて悶絶していた。

 彼女は……翼さんは大丈夫だろうか。ふと考えて閉じていた眼を開けるが……あれ? なんだか暗い。

 大丈夫か、と言葉にしようとしたら、なぜかふがふが言葉にならない声が出て行く。

 なんでだろう。なんだろうこれは……謎の現象に内心首を傾げて手を伸ばした。

 

 ふにっ。

 

「ひゃぁっ!」

 

 ? やや上の辺りで聞こえる翼さんの声。しかしこの柔らかいものは何なんだろう。手に収まるくらいの……。

 

 ふにふにっ。

 

「っっっ!」

 

 次の瞬間、ばっと視界が開く。

 なぜか翼さんが俺の上に跨っていた。いや、彼女の下敷きになろうとしてとっさに割り込んだのだから、自分が下敷きになっているのは当然だろう。

 ただどういうわけか、彼女は頬を真っ赤にして、涙目になって両腕で自分の胸元を隠していた。

 えっと……これは、つまり……あれ、だろうか?

 彼女を庇って下敷きになった拍子に、彼女の胸が自分の顔に押し付けられてしまい、おまけにそれに気づかないまま揉んでしまったと。

 

「……………」

 

 赤らめたまま、翼さんは俺を睨みつけている。

 けど待って欲しい。確かにとんでもないことをしてしまったと思うしそれに関しては謝罪するが、これは事故であって自分に責任はないと……。

 

「――“Imyuteus amenohabakiri tron...”」

 

 こちらの弁解に対し翼さんは何も答えないまま立ち上がり、そのまま聖詠しだした。

 一瞬、ほんの一瞬だけ翼さんを光が飲み込むと、同時にどこからともなく曲が流れ出して光が収まった瞬間、ギラリと照明の光を受けて鈍く光る銀色の刃が首筋に当てられる。

 

「――――♪」

 

 『Beyond the BLEADE』の歌詞、しかも戒名云々とか、辞世の句なんとかかんとかと共に冷たい瞳がこちらを射抜き、ぶわっと汗が噴出した。

 あ…つまりそうですか。辞世の句も残してくれないですか。

 

「悪・行・即・瞬・殺!」

 

 やっぱりこの人がお見舞いに来るとロクな事にならなかったじゃないかぁぁ!

 

 

「――では、僕はこれで失礼します。お大事に」

「ありがとうございました……」

 

 ヘルプに来てくれた緒川さんに翼さんは深々と頭を下げ見送り、緒川さんは微笑みながら出て行く。

 あの後、正気に戻った翼さんはこちらの状態を見て血相を変え、慌てて緒川さんに助けを求めてきた。

 凄いんだね忍者って。呼ばれてすぐに屋根裏から出てきて、分身して手当てをしてくれて、部屋を片付けて、おまけに洗濯物や洗い物も片付けておじやまで作り置いてくれたもん。

 って言うか忍者ってなんだっけ。もう日本どころか世界に誇ってもいいレベルだと思う、緒川さん。むしろ婿にさせてください惚れました。

 

「その……本当にすまなかった。あまりのことに気が動転してしまって……」

 

 ボソボソと、ベッドの横で正座している翼さんは、さっき謝っていた時よりも数段小さい。

 そりゃあ、胸を触られて気が動転していたとは言え、病人をボコボコにした挙句瀕死にまで追い込んでいたら緒川さんに怒られもするし、「翼さんは邪魔だから部屋の隅で大人しくしていてください」と毒舌炸裂されれば凹みもするだろうけど。

 ちなみに緒川さんが動き回っている間、翼さんは言われたとおり隅っこで正座して、涙目になってプルプル震えていた。彼女にとっては兄のような存在でとても信頼を置いていたし、常に助けてくれていた人だったからそんな風に言われればショックを受けるのも当然かもしれないが。

 ただきっかけを作ったのは自分みたいなものだし、緒川さんも翼さんをあまり怒らないで、翼さんも強く責任を感じないでもらえると助かる。

 

「本当に私は……緒川さんや君が居なければ何も出来ない人間だな」

 

 壊すばかりで何も生み出さない――そう自嘲する彼女にそれは違うと即座に否定した。

 翼さんには歌がある。翼さんの歌は人々を癒して笑顔にする力を持っている。それはけして壊す力ではないと。そのことは自分だけじゃなく、皆が知っていることだ。

 それに、その壊す力は少なくとも誰かを守るために振るう力じゃないか。翼さんが自分の身を削ってまで防人として剣を振るうなら、自分が翼さんの防人になってやる。

 

「君が私の防人に……?」

 

 不思議そうに聞き返す彼女に頷き返す。

 別に誰かと戦うことだけが全てじゃない。帰ってくる場所を守る事だって立派な戦いだと思う。

 だから翼さんが戻ってきた時笑顔になれるよう、ここでいつでも待っている。あまり上手く言葉に出来なかったが、とにかく真剣な思いだけは込めてそう答えた。

 

「……ふふっ」

 

 すると彼女は呆けていた表情を崩し、柔らかく微笑む。それは……そう、どこにでもいる普通の女の子のように。

 

「いや、すまない。ただそれをそのまま受け取ると、まるで告白するように聞こえるのだが……?」

 

 ……え?

 え……?

 言われて自分が言った事を振り返る。確かにこれは告白と捉えられてもおかしくないじゃないか……!?

 いや、別にそんなつもりはなく、ただ一生懸命頑張る翼さんを少しでも助けられたらいいと思って言った事であって、深い意味はないんですよ、ええ!

 

「いや、分かっているよ。君の言葉に他意がないことは、聞いていれば分かるさ」

 

 慌てて弁解すると翼さんはくすくす笑って答えた。

 なんてこったい……翼さんへの突っ込みが時間を置いてブーメランしてくるとは。こっぱずかしくて顔も見られないじゃない!

 恥ずかしさのあまり頭まで毛布を被って顔を隠してしまう。その様子を見ていた翼さんはまだ笑っているらしい。

 

「――――♪」

 

 ふと近くで歌声が聞こえ、あれ? と耳を済ませる。

 間に毛布が挟んでいるから若干くぐもっていたが、間違いなく翼さんの歌声だ。

 そろそろ…と頭まで被っていた毛布をずらし、顔を外に出す。

 今度はよりクリアに翼さんの歌声を聞くことが出来た。

 やっぱり彼女は凄い。波が静まっていくかのように先ほどまで荒れていた心がすぅっと静まって、彼女の歌に耳を澄ませている。

 ぼーっとなって彼女の歌を聞き入っていたら、視線に気づいた彼女がこちらに目を向けた。

 

「お見舞いに来たのに、逆に世話になりっぱなしだから……今日は特別に、君だけのために歌わせて欲しい」

 

 そう言って翼さんは柔らかく微笑む。

 これはもう、他の何よりも贅沢なひと時じゃないだろうか。あの風鳴翼が、自分だけのために歌ってくれるなんてことは。

 音楽に疎くてどんな曲かは分からないけど、聞いていると気持ちが安らいでだんだんと眠くなってきて……。

 

 いつの間にやら眠っていて、起きた時には翼さんの姿は無かった。

 枕元に置かれていた書置きから自分が寝て少しして帰ったことが書かれていて、寝ている間は意識がなかったはずだけど彼女の歌が耳に残っているような気がした。




というわけでSAKIMORIさんこと風鳴翼さんがお見舞いに来てくれたパターンでした。

まあ、大半の人が想像するとおりあの人生活能力皆無に近いから、逆に迷惑掛けまくってましたけど(笑)

翼さんは緒川さんがいないと何も出来ないからね、仕方ないよね。でもそんな翼さんも可愛いと思うんだ。

色々語りたい事はあるけど、あえて多くは語るまい。

ちなみにこのシリーズ、あと2人ほどお見舞いに来てくれる予定です。ちなみに人選は完全に自分の趣味なのであしからず!


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続々・風邪を引いたら愛しの女神がお見舞いに来てくれたので丁重にもてなした

少し遅れて申し訳ないです。その分ボリュームたっぷりですよ!

今回の教訓

「好きな人がお見舞いに来てもはしゃがないで大人しく寝てろ」


 あ、どうも! 最近よくお会いしますね!

 ……なんて前振りはおいといて、自分です。まだ風邪が長引いてます。原因はハッキリしてるんですけどね。

 前回、SAKIMORIさんこと風鳴翼さんがお見舞いに来てくれたんですが、その時色々無茶をして熱がぶり返しました。この事を切歌にメールで伝えたら「治りかけが危ないって言ったじゃないデスかー!」ってぷりぷり怒ってました。ごめんなさいきりちゃん。

 おまけに肉体的(外傷的な意味で)なダメージも大きく…って言うか風邪のピーク時よりも更に酷くなったので、大人しく寝てます。

 あとこれ、余談なんですけど、緒川さんに「風邪が1発で治るような秘伝の丸薬とかないんですか?」って冗談で聞いたら「ありますよ」って答えられてずっこけた。

 ただ――。

 

「強力ですけど、飲めば当分の間味覚麻痺しますけど」

 

 だって。

 あれ目が本気だった。メガネ外して言ったから信憑性は本当に高い。何デスかその人類の味覚に挑戦状を叩きつけたような味覚破壊兵器は。毒を持って毒を制する理論デスか? 忍者パネェデッス。

 流石にそれは勘弁したいので、やっぱりいいですと丁重にお断りしました、はい。緒川さんの作ったおじや、大変おいしゅうございましたデス。なんか口調感染したかな。

 ああそうそう、翼さんと言えば昨日の見ていて思ったけど、一週回って可愛いよねってちょっと思った。あっちもまんざらじゃないのが意外で、少し嬉し――。

 

 ガチャガチャ…ガチャッ。

 

「邪魔すんぞー」

 

 こ…この声は!

 チャイムを押さず、鍵を開けて遠慮無用で部屋に押し入ってきた人物に俺の脳細胞がトップギアに入るッ!

 そしてッ! 姿を見せた可憐な少女はッ! まさに我が天使! 否女神ッ! 否! 断じて否! もはや彼女は唯一神なりッ!!!!

 

「お、なんだ。思ったより元気そうだな」

 

 雪音クリスちゃんキタ━━━(゚∀゚)( ゚∀)(  ゚)(  )(゚  )(∀゚ )(゚∀゚)━━━ッ!!!!!!

 ようこそいらっしゃいませ我が天使よ! このような狭苦しい住処へ降臨していただいてありがとーございますッ!

 

「だっ! 誰が天使だ! つかお前風邪引いてんだろ!?」

 

 はいっ! 昼間に測ったときは38.9度をマークしてました! ちなみに自分の平熱は大体36.4度前後なので立派に高熱ですが、活動に支障ありません!

 

「だったら大人しく寝てやがれってんだ! うわ、顔真っ赤じゃねぇか!」

 

 何を仰る! クリスちゃんが来ているのにもてなさないなんて一生の恥だよ! 人生最大の汚点だよ!

 

「お前は病人だろうが!」

 

 病人だから客人をもてなしてはならないと……誰が決めたのかね?(キリッ

 

「……なら帰る」

 

 ああ、待って! お待ちになって! 無情な言葉に涙目になってクリスちゃんにしがみついた。

 

「なら大人しくベッドに戻るか?」

 

 その前にお茶を用意しなきゃ……紅茶? 緑茶? お菓子はクッキー? それともどら焼き?

 

「…っ」

 

 その時、ブチッ――と、クリスちゃんから何かが音を立てて切れる音が聞こえた。

 

「“Killiter Ichaival tron...”」

 

 あれ。このパターンは……。

 嫌な予感を覚える間もなくクリスちゃんが光に包まれ、間近で光を見てしまい思わず手を離してしまう。

 目が、目がぁー! なんてムスカっていたら、ガションガションと何かが展開する音。

 眩む目でなんとか確認すると、クリスちゃんはギアを身に纏い、両手にマシンピストルを握り締め、展開した腰部アーマーからは無数の小型ミサイル弾頭が顔を覗かせていた。

 

「今すぐベッドに戻って寝るか、今すぐあたしに蜂の巣にされて永眠するか……どっちか選べ」

 

 ごめんなさい。調子に乗りすぎました。氷河のように、それでいて内側は噴火する火山のような声音で呟くクリスちゃんに即座にベッドに飛び込んで毛布を被る。

 それを見届けて、クリスちゃんははぁ~…と疲れたように息を吐くと纏っていたギアを解除してくれた。

 

「ったく……お前あのバカと同じレベルでバカだよなぁ」

 

 あのバカ? ああ、響のことね。

 確かにあの子もスキンシップが激しい。挨拶代わりに抱きつこうとするたびに、クリスちゃんにぶっ飛ばされるのがお約束になりつつあるとか。いいないいなー。

 

「いいなー、じゃねえっ! 毎度されるあたしの身にもなれ!」

 

 えー、抱きついてくるのがクリスちゃんならもうご褒美ですけど。

 きっぱりと答えたら、クリスちゃんはジトッと半眼で見下ろしてくる。

 

「ヘタしたらあのバカよりも大バカだよ、お前は……」

 

 いやいや、こんな風になるのはクリスちゃん限定ですよ。普段は案外普通なの知ってるでしょ?

 そう答えたらクリスちゃんは黙り込んで、それまでの事を振り返るようだった。

 自分でも言ったとおり、他の相手ならここまで過激な事はしない。そんなのを誰彼構わずやりまくってたら確実にお巡りさんにしょっ引かれてブタ箱行きだからね。

 え? 前回のSAKIMORIさんへのラッキー☆スケベ? ワケガワカラナイヨー。

 

「なんであたし限定でそこまで過激な行為に走るんだ!?」

 

 だってもう世界一大好きだし。訂正、宇宙……否、全次元レベルで。

 

「……なんだろう、そこまで言われると普通は嬉しいのかもしれないけど、普段の言動のせいで全然嬉しくねぇ……」

 

 なら普通にすれば付き合ってくれるということですか!?

 

「そういう問題じゃねえっ!」

 

 うがーっ、と吠えるクリスちゃんに、えぇー…と不満たらたらで唇を尖らせた。

 酷いよ、こんなにも君への愛に溢れているのにっ! ワテクシとのことは遊びだった……あ、ごめんなさいふざけすぎました。だからイグナイトまで使うのは勘弁してください。反省しますこの通り。

 

「よろしい」

 

 今度こそ自分が大人しくなるのを確認すると、クリスちゃんは頷いてベッドの横に腰を下ろした。

 そしてほら、と来た時から持っていた小箱を突き出す。

 

「土産だ。クラスのとも……れ、連中が美味しいって評判のスイーツの店で買ってきたんだよ」

 

 説明の途中で「友達」と言いかけて、慌てて言い直したクリスちゃん。

 いい加減「友達」って言えばいいじゃないか。まだ恥ずかしいの? って突っ込むと、かあーっと顔を赤らめる。

 

「べ…別に恥ずかしいわけじゃねぇよ! 友達…とか」

 

 恥ずかしがってるじゃん。可愛いなーもう。

 

「うっさい! 可愛いとかゆーな! あと何度も言うが、あたしは年上で先輩だっつの! いい加減先輩とか使え!」

 

 えぇ~……そこまで言うなら仕方ない、クリスちゃん先輩って呼ぼう。

 

「なんでわざわざ変な呼び方にすんだよ……」

 

 クリスちゃんはゲンナリしながら呻く。けど「きねクリ先輩」よりはマシだと思うけどなぁ。

 それにクリスちゃんはクリスちゃんだし、今更先輩も後輩もないと思う。後輩(しらきりs)たちは良い子だからきちんと先輩とか敬語使ってるけどね。

 けど自分、堅苦しいの息が詰まるから、敬語とか使わなくて良いよって伝えてる。年上としての威厳? 要らない。そもそもないし(きっぱり

 だって先輩後輩とかじゃなくて普通に友達だし、そういう壁とか作って遠慮とかされたくないもん。

 

「んなもんかぁ……?」

 

 つらつらと並べたこちらの言い分にクリスちゃんは首を傾げる。

 まあ、個人的な意見だからね。そう答えて彼女の持って来たお土産を開けた。

 中に入っていたのはプリンで、上に生クリームがたっぷり掛かった物と表面を軽く焼いた焼きプリンの2種類が2個ずつ。

 これ、確か駅中にある今女子校生たちに人気のスイーツ専門店のプリンじゃないっけ。しかもその店の人気メニューがこのプリンだったはず……。

 

「ま…まぁな。よく知ってるじゃねぇか……」

 

 評判は結構聞いてるからねーと答えて、そう言えばと思い出す。

 このプリンは連日品切れになるほど人気が高くて、中々手に入らないレア物だったはずだ。

 買うのかなり大変だったんじゃない?

 

「べ…別にそこまで苦労はしてねぇよ。あたしも興味あったから……」

 

 目を逸らしてボソボソ言うクリスちゃんに、じゃあはい、と箱を差し出す。すると彼女は目を丸くし、じーっと箱を見つめていた。

 食べたいならどうぞ。

 

「こ、これはお前の見舞いに買ったんだぞ? あたしが食べれるわけ……」

 

 慌てて箱を押し返そうとするクリスちゃんに、いやいや、興味あるなら食べちゃっていいよ。と返して更にぐいっと押し返す。

 

「そう言うわけにもいかないっての! いいから、これ全部お前にやる!」

 

 そう反論してクリスちゃんは更に力を込めて箱を押し返してきた。このままじゃ箱が潰れそうだから大人しく引き下がったけど、本当は食べたいくせに意地っ張りなんだよなぁ。

 よし、ならそれを逆手に取ろう。もしかしたらクリスちゃんが悲しむかもしれないから本当はしたくないけど、彼女にも食べてもらうためだ。

 

「え…?『じゃあやっぱり要らない』……? な、なんでっ!?」

 

 さっきと打って変わってキッパリ拒絶したこちらに、クリスちゃんは本当にショックを受けて目を見開いた。

 だってクリスちゃんが食べてくれないから。クリスちゃんが食べてくれないなら別にいいや。後で捨てておくね。

 

「そ……そんな……」

 

 口にしなかったけど、多分自分のために時間をかけて買ってきてくれただろうそれを拒否されてしまい、クリスちゃんは顔を伏せてしまう。

 ああ、もう。やっぱりこうなった! だからいやだったんだよなーこれ。とにかくすぐリカバリーしなければ!

 

「――『だから、一緒に食べよう』って……? あたしと、お前で?」

 

 沈んでいたクリスちゃんにそう言うと、俯かせていた顔が上がり自分を見つめてくれる。

 4つもあるのに1人占めなんて出来ないよ。クリスちゃんも一緒に食べてくれたら、こっちも嬉しいし。

 

「本当に……本当にそれでいいのか?」

 

 嫌なら捨てちゃうけど?

 

「っ……分かったよ! 食べりゃあいいんだろ、食べりゃあ!」

 

 最初からこれを狙っていた事にようやく気づいたクリスちゃんだったが、今更撤回できず恥ずかしさを隠すように膝に乗せていた箱をふんだくると、ゴソゴソと中を漁り焼きプリンを取り出すとこっちに投げてきた。

 自分の望み通りになって、顔をほくほくさせながら投げられたプリンを見事にキャッチ。ついでにクリスちゃんが店から貰ったプラスチックの小さなスプーンも貰うと、2人で食べ始める。

 

「…………!」

 

 1口食べた瞬間、クリスちゃんは大きく目を見開いた。

 うん、こっちも中々に絶品なプリンで内心おお、と関心を示す。巷の女の子たちが夢中になるのもこれなら納得かもしれない。

 

「そっちはどうなんだ? 美味しいのか?」

 

 うん。絶品だよ。そっちはどう?

 

「あたしのも……ま、まあ悪くねーな」

 

 素直に美味しいって言えばいいのに。このツンデレ娘め。

 

「誰がツンデレだ、誰がっ!?」

 

 クリスちゃんに決まってるでしょーと言いつつ、もう1度プリンをパクリ。ねっとりとして柔らかくて、濃厚な味わいだが特に卵黄が強く主張しているような気がする。それに微かに良い香りがするし、表面を焼く時に酒でも使ってフランベしたんだろうか。

 なんにしても美味美味。そもそも自分プロの評論家とかでもなんでもないんで、そんな上手く表現できないですから!

 しかし……先ほどからちらちらとこちらの焼きプリンをちら見しているクリスちゃんや、これがそんなに興味あるのかね?

 

「なわけあるかっ!? 何を根拠に言ってんだ!」

 

 だって食べたそうだし。とあっさり言って、食べたい? と聞いてみる。

 

「ま……まあ、興味はあるけど……」

 

 じゃあ食べてもいいよ。と答えると、えっと意表を衝かれたようなクリスちゃん。

 だって買ってきたのクリスちゃんだし、そんな気になってるとこっちも気になるし。と言いながら、自分が食べていた焼きプリンをスプーンで掬って、はいと差し出した。

 

「えっ……あの、これって……」

 

 顔を赤らめて、戸惑ったように自分と自分が差し出してるスプーンを交互に見るクリスちゃんにどうしたの? と首をかしげた。

 なんで戸惑ってるか理由が分からず、早く食べちゃってよ、落ちちゃったら勿体無いし。と催促をする。

 

「~~~っ!」

 

 戸惑いを振り切ったのか自棄になったのか、クリスちゃんは声にならない声を上げつつプリンが乗ったスプーンをぱくり。

 スプーンをゆっくり引き抜いた所でどうだった? と聞いてみると、固まっていたクリスちゃんははっと我に返り、口をもごもごしてから飲み込んだ。

 

「……美味い」

 

 顔を真っ赤にして、こっちとは目を合わさないでボソリと一言。クリスちゃんが苦労して手に入れてきたんだから、美味しさもひとしおって奴だろうなぁ。

 などと考えながら自分の焼きプリンに手をつけようとして、ちょっと待てとクリスちゃんに止められてしまう。

 どうしたのさ? と顔を向けると、顔はこっちを向いていないが目はしきりにちらちらこっちを見るクリスちゃんにはて、と首を傾げる。

 

「こ……こっちのプリンも興味あるか?」

 

 そりゃまあ、一応。質問の意図が読めないけど素直に応じる。

 

「だったら……食べていーぞ」

 

 えっ。でももう1個あるし、後で食べるよ。

 そう答えると、こっちに向き直ったクリスちゃんは顔を真っ赤にして逆上しだした。

 

「いいからこっちの食え! 今食え! すぐ食え!」

 

 その剣幕に圧倒されてしまい、は…はひっ! と変な声で返事をしてしまう。

 なんでそんなに怒るのか分からず、内心首を傾げたつつクリスちゃんの持っていたプリンにスプーンを伸ばした所で、ひょいと。なんでか避けられた。

 な ん で さ 。

 

「い…いいから、大人しくしてろよな」

 

 プリンを遠ざけつつ言うクリスちゃんに、内心釈然としないものを抱きながら大人しくスプーンを引っ込める。

 すると彼女はプリンを引き戻して、自分のスプーンで掬った。

 なんやねん、自分が食べるんかい……なんて関西弁で内心突っ込んでいると――、

 

「ほ、ほら……あーん」

 

 自分のやっていることに相当恥ずかしがりながら、クリスちゃんはプリンを掬ったスプーンをおずおずとこっちに運んでくる。

 え……?

 えぇっ……?

 う゛ぇええっ!?!?

 クリスちゃんからの予想の遥か斜め上を行く行動に思わず変な声が出てしまったよ! ナニソレイミワカンナイ!

 

「は…早く食えよ」

 

 恥ずかしがりながら、クリスちゃんはずいっとスプーンを突き出してくる。

 いやいやいや、食えって! 食えって!? こここkkれrrこれこれをですかっ!?

 

「ん…」

 

 ずいっと、さらに突き出されるスプーン。

 これは夢ですか? 夢なら醒めないでくれ! いややっぱリアルでもやって欲しいから醒めてくれ。

 頭の中が糸が絡まったみたいにぐっちゃぐっちゃになり、なんかもう世界もぐるぐる回ってる気がしてきた。まわってまわってまわってまわーるー!

 ……よし、現実逃避終了。これは間違いなく現実だった。

 そしていい加減クリスちゃんが痺れを切らしそうで、顔を真っ赤にして待っているのを見ていい加減決意を固める。

 あ…あーん……。

 

「……………」

 

 恐る恐る口を半開きで開けると、開いた空間にクリスちゃんはスプーンを滑り込ませた。

 流石に口をあけて食べるのは行儀が悪いので、そのまま口を閉じてプリンを口の中に入れると、ゆっくりとスプーンが引き抜かれる。

 もにゅもにゅ……。

 

「ど、どうなんだよ?」

 

 ハイ、オイシイデス。ちゃんと租借して飲み込んでから、やっとの思いで答えた。

 でも実際の所クリスちゃんのしてくれた事で頭が一杯で、味なんか一切入る隙間がない。多分美味しいんだろうけど、もうね、一杯一杯です。

 まさかクリスちゃんがはい、あーんってやってくれるなんて思いもしなかったよ。やっぱこれ夢じゃない? 夢じゃない? ああもうリピートされたら自分嬉しさと恥ずかしさで昇天する自信ある。

 

「自分だってあたしにやったくせに……なんで恥ずかしがってんだよ」

 

 まさかクリスちゃんもやってくれるとは思わなかったし……。

 そもそも良かったの? これって間接キs

 

「いちいち言うなバカ! 大バカ! 宇宙一バカ!」

 

 言いかけた言葉は顔が真っ赤なクリスちゃんが手で口を塞いで遮られて、その上バカバカ連呼される。

 照れ隠しなんだよなあこれ。ああもうほんとに可愛い。おまけにクリスちゃんとの位置がすっごい近くなってて良い匂いがするし。

 

「っっっ!」

 

 こっちとの距離の近さに気づいたクリスちゃんははっとなって、慌てて飛びのいた。

 危ない危ない……もう少しで理性が吹き飛ぶ所だった。

 

「今も十分飛んでんじゃねぇのか……?」

 

 呆れたように突っ込むクリスちゃんに、いやいや、ちゃんと理性働いてるよと反論する。

 そもそもこういった危険行為の数々は、他の人にやろうものなら問答無用でぶっ飛ばされるに違いない。

 でもクリスちゃんの場合は律儀に行動や言葉で突っ込んでくれるから、こっちも安心してやれるんだよね。その辺も響は分かってるのかも。

 ああでも、本気で嫌がるようなことはしないつもり。こういうのも自分とクリスちゃん流のコミュニケーションと言うか、漫才みたいなものだし。

 もし、もしもだけど……クリスちゃんが本当は、こういう事されるのがいやだって言うならやめるけど……。

 

「なんで……なんでそこまであたしに構うんだよ?」

 

 心底分からない、というようなクリスちゃんの顔。

 それに、だって大好きだからと、迷い無く答えた。

 でもその好きは、響たちがクリスちゃんに向けている『好き』とは似ているようでちょっと違う。

 

「……どう違うんだ?」

 

 響たちの『好き』って、友達とか仲間とか、そんな意味での『好き』なんだと思う。……まあ、響はもしかしたらガチかもしれないけど……それはさておいて。

 でも自分のクリスちゃんへの『好き』は、1人の女の子として、異性としての『好き』だ。

 だから…えーっと、自分は雪音クリスちゃんのことを愛してますっ!

 

「………はっ!?」

 

 数秒間を開けたあと、一瞬にしてクリスちゃんの顔が真っ赤になり、沸騰したヤカンみたいに蒸気を発した。

 いや、それはこっちも同じなんだけどね。こんな真面目に話した上に好きって言ってしまってもうどうしよう! 言っちゃったよ! しかも愛してるとまで言ってしまったよ!

 可愛い、すっごい可愛い、可愛すぎてもうヤバすぎるんだけど、こっちもこっちで反動大きすぎて顔見れないよぉー! うあー! うぁーあーあー!!!!

 もう頭が熱い。風邪なのか告白したせいなのか、それとも両方なのか分からないけれども、タイプデッドヒートだよ! タイヤがバーストして制御できないレベルだよ! 今ならタイプフォーミュラやアクセルフォームも真っ青な速度でかっとビングできそうな気がする!

 ところでそういった凄く速いフォームとか、能力使って速くなる奴よりもすっごい速い奴がいるの知ってる?

 その人はただ本読んだだけで、地球1周を海の上だろうと何であろうと、約8秒で走って回ってくるとんでもない人なんだよ。(システム上は多少ステータス上げる事もできるけどね)

 しかもスタート地点まで正確に戻ってきて、右フック決めたら大爆発とかもうね、あなた本当に人間なのかと。しかもノーリスクとか、(連携前提だけど)連発可能とか。

 だぁっっっもう! なんかもうイミワカンナイ!

 

「――んで」

 

 ポツリ、と。

 顔を合わせられず俯いていたら、クリスちゃんが何かを呟く。

 

「なんで……あたしのこと、す……好きなんだよ」

 

 なんで?

 ……何がきっかけで、彼女の事が好きになったんだろう。

 彼女のどこを好きになったんだろう?

 う~ん…と考え込む自分の姿に、クリスちゃんは眉を潜めた。

 

「なんだよ! 好きだって言うなら……なにかあるだろ!?」

 

 いや、そうなんだけどね。そう答えてさらに考え込む。

 クリスちゃんを好きになった理由。クリスちゃんを今でも好きな理由……。

 考えて考えて考え抜いて、ふと閃いた。ああ、なんだ。こんな簡単なことだったのか。

 それは――。

 

「はぁ? あたしの『全部が好き』……って、なんだよそれ。大雑把だな」

 

 出てきた答えを聞いたクリスちゃんは目を丸くし、呆れたように呟いた。

 だって仕方が無いじゃないか。良い所も悪い所も、全部ひっくるめて好きなんだから。

 良き先輩として立ち振る舞おうと頑張ってる姿も、素直になれない性格も、強すぎる責任感も、案外映画の影響を受けやすい所も、テーブルマナーが悪くて食い散らかす所も……色々ありすぎて上げきれないや。

 あ…でも、これだけは絶対外せない。歌うことが大好きだ、と言うこと。

 歌っている時のクリスちゃんは本当に楽しそうで、こっちにも楽しい気持ちが伝わってくるようで。

 多分そんな色んなクリスちゃんを見ていたら好きになったんだと思う。

 

「……良くそんな恥ずかしい台詞を並べられるよな。聞いてるこっちも恥ずかしくなる」

 

 あはは……自分でもめっちゃ恥ずかしいんだけど、クリスちゃんには知ってもらいたいし。と笑って恥ずかしさをごまかそうとする。

 もうね、こんな事いつもなら恥ずかしすぎて言えないんだけどね。風邪で思考鈍ってるからつい言っちゃったよ。

 

「けど……ありがとな」

 

 い、いえどういたしまして……。お礼を言うクリスちゃんに何と答えればいいのか分からず、なんかズレた返しをした気がしなくもない。

 ただ、あのー……こうして勢いで告白したわけなんで、なんと言うかその……催促するようで申し訳ないんですが、お答えをいただけないでしょうか?

 

「あたしだって……お前の事は嫌いじゃない。好きって言ってくれて、正直に言えば嬉しかった……」

 

 言って、まだ少し何か言いたげなクリスちゃんに頷いて、彼女が続きを言うのを待った。

 

「でもさ……あたしなんかで良いのか? あたしは色んなものを壊して傷つけてきた。今こうしているだけでもこんなに幸せで、夢なんじゃないかって思ってるのに、これ以上幸せになっても良いのか……?」

 

 そう吐露するクリスちゃんの目にはうっすら涙が滲んでいた。

 自分が今日まで歩いてきた道と、クリスちゃんが今日まで歩いてきた道は違う。言ってしまえば光と影みたいな物。

 ……けど今は違う。同じ光が差す道を歩けてるじゃないか。

 涙を堪えているクリスちゃんの手に、そっと自分の手を重ねる。ピクリとクリスちゃんは反応したけど、拒みはしなかった。

 別に遠慮する必要は無いと思うんだ。少なくとも自分はクリスちゃんに幸せになってほしい。そして出来るなら自分がそうしたい。多分今クリスちゃんが感じているのは、ごく普通の幸せなんだよ。

 

「ごく普通の……幸せ?」

 

 聞き返したクリスちゃんに、うんと頷く。

 普通に学校に行って友達と話したり、美味しいものを食べるとか……色んなことをして楽しいとか、面白いを感じるのはどこにでもあるありふれた事だから、当たり前すぎてみんな忘れているだけなんだ。

 ありふれた事も大事だと思うけど、クリスちゃんはもっと幸せになってもいいと思う。だって今まで辛い事を経験してきたんだから、その分もっと幸せにならないとダメだ。

 それをもっと体験して欲しいし、自分も傍でそれを感じたい。だから――。

 

 もっともっと、自分に君を幸せにさせてください。必ずしてみせます。

 

 面と向かって言う2度目の告白。1度目のノリで言ったような事ではなく、一言一言に気持ちを込めてクリスに伝わるように言葉を紡いだ。

 もうこれ、告白どころかプロポーズだよね。しかも風邪引いてるのに。ムードも何もないなぁ……んん?

 

「……………。お前、ほんっとにバカ。そんな恥ずかしい台詞平然と言えるなんて」

 

 あれ……なんだろう。なんか胸の内側が変な感じが……。

 

「でも……ありがとな。そんな風に言ってもらえて、本当に嬉しいんだ」

 

 うっ……このこみ上げてくるのはまさか……! や、ヤヴァイ……!

 

「あのさ、あたし――っておい、どうしたんだよ。急に口を押さえて……顔も青いし……は? なに……気持ち悪い――吐きそうだぁっ!?」

 

 い、いぇす……どうにか吐き気を堪えながらクリスちゃんに説明すると、彼女は素っ頓狂な声を上げた。

 あと直前まで何か言っていた気がするんですが、ごめんなさい。正直それどころじゃないので頭に入ってこなかったです……!

 

「こっ……! せっかくあたしが大事な事を言おうとしてるって時にお前なぁ! ま、待て吐くな! 絶対吐くなよ!? 今風呂桶かなんか持ってくるから絶対耐えろ! いいな!?」

 

 が…がんばりマス……。喉の奥辺りまでこみ上げてきたやばい感じのものを何とか堪えている間に、クリスちゃんはバタバタ慌しく洗面所に向かっていく。

 なんで真剣に決めたこのタイミングでぇ……っ。いや、考えてみればこうなる原因多々ありますけど。はしゃぎすぎたり頭デッドヒートしたり。

 

「ほら! 持って来たぞ桶!」

 

 慌てて向かった時と同じく、慌てて戻ってきたクリスちゃんが風呂場に置いてあった風呂桶を渡してくる。

 

「なに? 『まことに申し訳ないんですが、今からシャングリラシャワーするので出来れば見ないでください』……? 誰が好き好んで○ロ見るんだよ! 言われなくても見るかバカッ!」

 

 真っ赤になって怒ったクリスちゃんは、そのまま洗面所に駆け込んだ。

 よし……流石にもう、これ以上は限か――うっ!!!

 

 

 

 

 

~大変申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

 あぁ……地獄だった。なんかもう胃の中を空っぽにしたような、そんな感じ。

 

「……………」

 

 そして、むっすーとむくれて、頬杖突いてこっちを半眼で睨むクリスちゃんが怖いです、はい。

 えっと……おかげで助かりました。

 

「それほどでも」

 

 あの……何をそんなに怒ってらっしゃるのでしょうか?

 怒っているクリスちゃんが怖くて、つい恐る恐る訊ねてしまう。

 

「知るかバカ。アホ。オタンコナス」

 

 な…なんだか物凄いご機嫌斜めでいらっしゃる……。

 聞きたいとは思うんだけど、正直今はそこまでの体力は残ってない。シャングリラシャワー()で根こそぎ持っていかれた。

 あ゛ぁ゛~……冷たいタオルが心地いい……これだけはクリスちゃんがやってくれたんだよ。

 そんな時、ピピピッと脇に挿した体温計がなって計測を終えた事を知らせてくれた。

 朦朧としながら取り出そうとしたけど、その前にクリスちゃんが取って表示された結果に眉を潜める。

 

「40.2度……上がってるな」

 

 デスね……原因なんて考えるまでも無く、クリスちゃんも見当はついていたから何も言わない。

 はぁ…と溜め息をついて、クリスちゃんは体温計をケースに仕舞い、薬箱に戻すとバッグを手に立ち上がった。

 

「帰る。あたしがこれ以上いると、お前まだバカ騒ぎしそうだからな。土産の残りは冷蔵庫に入れておいてやる」

 

 プリンの入った箱を持って、台所に向かうクリスちゃんへ何から何まで申し訳ない……と弱々しくお礼を言っておいた。

 こんな自分に呆れ果てたのか、クリスちゃんは何も言ってこない。

 ああもう、これは完全に嫌われたかなぁ……みっともない所見せたからなぁ……と凹みに凹みまくってると、台所からクリスちゃんの声が掛かる。

 

「なぁ…お前って自分で料理とかするのか?」

 

 唐突な質問に一瞬えっと戸惑って、まあ一応はと答えた。

 ごらんの通り1人暮らしだし、あまり手の込んだものは作らないがそれなりに料理はする。ごくたまーに、ちょっと頑張って手の込んだものを作るときもあるが。

 

「ふーん……そっか」

 

 なんでそんな事を聞くんだろう? 気にはなるがなんだか聞きづらくて、投げやり気味に返すクリスちゃんにうん、まあ…と頷いておいた。

 

「じゃ、あたし帰るわ。邪魔したな」

 

 そう言ってそのまま玄関に行った気配がして、靴を履く音がしたけどなぜか出ていく気配が無い。

 どうかした? と聞いてみるが、何の返答もない。

 

「あたしも――――きだから」

 

 何か言ったような気がして、え? と聞き返す。

 けれどクリスちゃんは何も答えず、そのままドアを開けると出て行ってしまった。

 ご丁寧に外で鍵まで掛けて、コツコツと厚底ブーツの靴音が遠ざかっていく。

 …………最後に何を言ったんだろう、クリスちゃん。

 考えても今の状態では答えなんてまったく浮かんでこなくて、とりあえず寝て体力を回復しようと目を閉じるのだった。




てなわけでお見舞いシリーズ3人目はクリスちゃんこと雪音クリスちゃんでしたー。

ああもうクリスちゃん可愛い。可愛すぎて辛い。抱きしめたいなぁクリスちゃん!!!!(by我らがグラハム・エーカー上級大尉風

ちなみにここ最近はツイッターでクリスちゃんクリスちゃん連呼していて、落ち着いて振り返ってみるとどん引きするレベル……だけどクリスちゃん大好きなんだもん、仕方ないよね。

ってことで、好き過ぎるあまり大暴走しまくりでした。主人公(って言うか主に自分がですが)。

おまけに今回、色々ネタ突っ込んでますねぇ……ちなみに劇中で触れた約8秒で地球一週をひとっ走りしてくる奴、最終幻想8作目のキャラです。あの作品の最終技はもう、色々おかしい。でも面白い。

まあ、多く語っても仕方ないのでこのくらいで終わっておきましょう!

次回お見舞い編の最後を飾るのは、もちろんあの人ですよ。

あ、司令とかOGAWAさんとか、真実の人とかましてやマムやオートスコアラーとかじゃないんでね! 変に深読みしないでね! むしろ誰得だよマムやオートスコアラーって!


なお読んでブラックコーヒーが必要になった方はさっさと自販機なりコンビニなりスーパーへ行きましょう。


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終・風邪を引いたらたやマがお見舞いに来てくれた

締めは締めてくれる人。


 あたし絶対、柄にも無いことやってんよなぁ……。

 オーブンの前に座り込みながら、今更ながらに溜め息をついた。

 背後の作業台にはここまでたどり着くために犠牲になった残骸の数々。何しろ初めてだから何度も失敗した。

 小日向あたりに相談すればもうちょっとマシになったかもだが、そうなると騒々しいバカもおまけについてきてそっから芋蔓式で知れて行きそうだから手は借りられなかった。

 で、こっそりレシピ本を購入して材料をスーパーで買い揃え、案の定悪戦苦闘しまくったわけだが。

 なんにしてもこれでようやく終わりだ。後は出来たものを適当に包んで……。

 ……どうやって渡すんだ? これ。

 

「……………」

 

 作ることばかりに気を取られすぎてて、肝心の渡す方法を何にも考えちゃいなかった。

 はぁ? 『普通に渡せばいいだろ』って? できりゃ苦労しねぇっての。

 こちとら告白どころかプロポーズみたいな言葉を言われた後で、まともに顔も合わせられないんだよ。

 ……まあその直後、あのバカが無理しすぎた結果○ロってうやむやになったんだけどな。あたしの気持ちも。

 あたしも……す――っっっ!!!

 

「~~~~~っ!!」

 

 それを言葉にするだけでも頭が沸騰しそうなほど熱くなって、激しく頭を振り乱して熱を吹っ飛ばそうと試みた。

 これも全部あのバカのせいだ! あのバカに当てられたあたしも大バカだ!

 ほんっとに有り得ねえ! 有り得ねえったら有り得ねえ!

 そんな風に悶々としていたとき、オーブンがピーピー鳴って焼き上がりを報せ、ふぐっとか唸って息を詰まらせた。

 オーブンを開けて、恐る恐る中を取り出してみる。……ちょっと焦げてるのもあるな。

 試しに1つとって味見……アチチッ! アチッ!

 って焼きたてだから当たり前だよな……なんて思いながら1つを摘んで食べてみる。……なんか市販品より柔らかいな。焼きたてだからか?

 けど味は大丈夫っぽいな……ちょっと焦げた奴は避けて、見た目のいい奴だけ選別してと……。こっちのちょいと失敗した奴はあたしが食えばいいか。

 ただ問題は――どうやって渡せばいいかってわけで。

 さっきも言ったとおり当分顔もまともに見れそうにないから、必然誰かに頼むしかない。なら誰に頼むか。

 先輩――ダメだ仕事だ。

 バカ――これは論外。小日向に頼んでもこれが付いてくるから却下。

 後輩たち――月読はともかく暁が不安だ。

 おっさん――なんでだよ。

 となると1人しか残ってない。まあ口は堅いし信頼も出来る。大丈夫そうだ。

 さっそく携帯を取り出して、電話帳リストから目的の人物の番号をタップ。そういやあたしから電話するのは初めてだっけか。

 何回かのコールがしてから、彼女が電話に出てくれて「もしもし?」と声がする。

 

「あ、マリアか? 悪いけど頼みがあるんだ……」

《珍しいわね。あなたが私に頼みなんて》

「いやちょっと込み入った事情があってだな……」

 

 頼み事をする以上あいつとの間に起きた事を話すのは避けられないんだが、マリアなら周りに言いふらすような口が軽い女じゃないから信用できる。

 ただやっぱり、ちょっと恥ずかしい。これでもし周りに知られた日にはあたしは恥ずかしさで首を吊りそうな勢いだ。物の例えだから本気にするなよ。

 

 

 ようこそ我がベルベットルームへ……。

 なんで嘘です。自分です。いい加減名前出てこないのが若干不便だとか何とかって言われて、ネッシーならぬヌッシーで呼んでくれと言われました。未確認生物か何かですか自分は? 流石に嫌なんで自分で良いです。

 恒例の前回の出来事なんですが、簡単にするため3つに纏めてみました。

 

 1つ、愛しのクリスちゃんがお見舞いに来て脳細胞がトップギア。

 

 2つ、勢い余って告白した上にプロポーズ。

 

 3つ、無理が祟ってシャングリラシャワーした結果フラグバッキバキ。

 

 ……自分で纏めていて悲しくなってきたよ。人生お先真っ暗だ。これが真の絶望なのか……。

 

 ピンポーン。

 

 クリスちゃんに嫌われたよなぁ、間違いなく。もう顔も合わせてくれないかも。これからは何を糧に生きていけばいいんだ……。

 

 ガチャガチャ…カチャ。

 

 いっその事エルフナインに錬金術学んで、想い出を燃やしてしまおうか……。

 ああでも、やっぱりクリスちゃんとの想い出失いたくないぃぃ!

 

「お邪魔するわよ」

 

 どうしよう……自分はどうすればいいんデスかぁっ。

 そんな風に絶望の底に沈んでいた時、シャッとカーテンが開く音と共に日差しが差し込んできて、部屋を照らし出した。

 誰デスか人が絶望に沈んでいる時に……などと心の中で突っ込みながら勝手に上がってきた相手に顔を向ける。

 

「なんだ、起きていたの。けど随分酷い顔をしているみたいね」

 

 反応したこっちを、呆れと同情を込めた目で見下ろすその人。

 世間一般では翼さんに並ぶ歌姫などと呼ばれているが、良く知る自分たちとっては歌姫っていうよりオカン。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴさん。どうしてここにいらっしゃるんですか。

 

「どうしてとはつれないわね。あなたが風邪で寝込んでいるって聞いたからお見舞いに来たのよ。私は今日オフだったから……その様子だと、風邪以外のことで重傷みたいだけど」

 

 見ての通りですよー、と力なくマリアさんに答える。

 風邪もさらに悪化、クリスちゃんへの告白大失敗のダブルコンボで身体も心もボロボロです。なのでほっといて下さい。

 

「クリスに告白したんですって?」

 

 ……え。なんで知ってるんですかそのこと。

 

「本人から聞いたのよ。あなたに告白されたけど色々あってうやむやになったって」

 

 あーはい、デッスデーッス。それを聞いてさらにSAN値が減ってしまい、もう何もかもどうでも良くなってきた。いーや、風邪治ったらエルフナインに錬金術教えてもらおう。それで真理の扉みたいなの開いてみよう。きっとこの辺の記憶がくべられそうだから。

 そんな自分の様子を見て、マリアさんは大きく溜め息交じりに肩を落とす。呆れるなら呆れてくださいよ。自分ですら呆れてるんで。

 

「それで不貞寝と言うわけね。気持ちは……分からないでもないけど」

 

 気休めな同情は要らんのですよ。そう言ってぷいっとそっぽを向く。

 けどマリアさんは怒ったりなんてせず、わざわざ身を乗り出して反対を向いた自分の前に何かをおいた。

 水色のフィルムを赤いリボンで口を縛った、両手に収まるくらいのサイズの包み。いかにもプレゼント用と言った感じで、包み方や縛り方がちょっと不恰好っぽいのを察するに手作りの類だろうか。

 

「クリスからのお見舞いよ」

 

 その一言に、一切の力が通っていなかった全身に瞬時に力が通って跳ね起きる。

 ク、クリスちゃんから? クリスちゃんがこれを自分に? ほんとっすかそれ!?

 

「ええ。私がここに来たのも、あなたにそれを渡して欲しいって頼まれたからだもの。開けてみたら?」

 

 クスリと、こっちの変わり様に微笑するマリアさんに突っ込む余裕なんて無くて、がくぶるしながら頷いてリボンを解く。

 中に入っていたのはクッキーだった。形はシンプルな丸い奴で、見た目からしてプレーンクッキーっぽい。

 感動に打ち震えていた自分だったけど、ちょっと待って欲しい。このお見舞い品やマリアさんの言葉から察するに、もしかするともしかしなくてもクリスちゃんの手作りクッキーじゃないだろうか。

 クリスちゃん……料理してたっけ。見た目や匂いからして大丈夫みたいだけど。

 でも……っ! クリスちゃんの手作りクッキー! 食って死ねるなら死んでもいい!

 ぱくっ……。

 

「どう――ってなにぃ!?」

 

 沈黙したままの自分に感想を聞こうしたマリアさんから驚きの声。

 うぐっ…えっぐ、えっぐ……美味しい、お゛い゛し゛い゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛!

 感動と感激の余り涙が止まりません! 鼻水も止まりません!

 

「な…泣くか食べるかどっちかにしたらどうなの……?」

 

 若干引き気味のマリアさんにそれが出来たら苦労しないんだよぉっ! とガラガラ声で叫んだ。

 味は普通に美味しくて、サクサクの食感に微かにはちみつの甘さを感じる。何よりクリスちゃん手作りクッキーと言うのがもう、嬉しくて嬉しくて……うぉぉぉぉん!

 

「ちょっとあなたまだ熱があるんでしょう!? そんな事してるとまたぶり返すわよ!」

 

 それでも……それでもこのあふれ出す感情は塞き止められないんですよ! こんな40度程度の熱なんて涙と共に流れてしまえ!

 

「程度ってレベルじゃないわよそれ! 大人しく寝てなさいっ!」

 

 いやだ! いくらオカンの命令でもそれは聞けないっ!

 

「誰がオカンよっ!」

 

 ズビシッ!

 ひでぶっ!

 

 

 ずびび~っ。散々目や鼻から色んなものを流しすぎたせいで、呆れたマリアさんがタオル持ってきてくれました。

 

「落ち着いた?」

 

 はい。お手数おかけしました。疲れたような表情を浮かべるマリアさんに頭を下げながらお礼を言う。

 散々泣いたおかげでなんかすっきり出来た。ちなみに自分が泣いている間、マリアさんが持って来たお見舞いの花(こっちがマリアさんのお見舞い品だった)を花瓶に活けてくれたり、散らかった部屋を片付けてくれたり、洗濯物とか干してくれたり……。

 もうマリアさんオカンすぎて誰かお嫁に貰ってあげてください。こんなに良い人なんだよ。

 

「……今、妙な事を考えてないでしょうね?」

 

 ジロッ、とジト目で睨むマリアさん。いえそんな事ないです。マリアさん良い人だなって思ってただけですよ。

 

「そう……まあそう言うことにしておくわ。あなたも元に戻ったみたいだし」

 

 いや、本当に重ね重ね申し訳ないです。なんか今日はマリアさんに迷惑かけまくっちゃったなぁ。

 

「確かにそうね。まあ、F.I.S時代に比べたら軽いわよ。あの頃は節約したり大変だったから……」

 

 そう言って遠い目をするマリアさん。けどフロンティア事変からまだ1年も経ってないんだけどなぁ。

 けどあれ以前からマリアさんは苦労していたそうで、せっかくケータリングで仲間たちに料理を持ち帰っても偏食家の大人たちが好き嫌いしたり、色々と苦労が絶えなかったらしい。

 ……ああ、だからこんなオカンな性格になるのか。納得だわ。

 そう言えばクリスちゃんから告白された事を聞いた……って言ってたけど、他に何か言ってなかったのだろうか。

 

「特に何も聞いてなかったわよ」

 

 ……そう、そうですか。

 はぁ~……やっぱり嫌われたかもなあ。嫌われても仕方ないよなぁ……。

 

「あのねぇ……」

 

 またもブルーになりかけていた自分を、やれやれと頭を抑えて溜め息をつくマリアさん。

 

「少し被害妄想が過ぎるんじゃないの?」

 

 被害妄想? どこがですか。完全に嫌われる要素しかないですよ。

 

「少しは考えてみなさい、もし本当に嫌いになったらわざわざ人に頼んでまでそんな差し入れを渡そうとしないじゃない」

 

 ……………。

 言われてみれば確かに。しかも時間をかけて手作りまでしてくれて。

 でででっ、でもあんな盛大に失敗したし!

 

「それがどうしたのよ。少なくともあなたの気持ちはあの子へきちんと伝わったでしょう?」

 

 うっ……だと、思いたいけど。けどなんだよなぁ。

 

「私はあの子じゃないし、恋愛も…………その、まだ経験したことだってないけど、少なくともあなたの失敗は気にしないわ。むしろ無理してまで言ってくれるって事はそれほどまでに相手のことを想っていると言うことだし、素直に嬉しいと思うから」

 

 そう言って、まるで母親のような顔をするマリアさん。ほんとにオカンだこの人。

 けどそれ以上に、マリアさん恋した事ないんですか。それが特に気になります。

 

「しっ…仕方ないじゃない! 施設にいたときは回りは女の子ばかりだし、男は年上の研究員くらいだったのよ!? 外に出られてもアイドルをしたり、逃げ回ったりして恋愛する暇なんて……うぅぅ」

 

 あ。なんか変なスイッチ入ったっぽい。

 

「事件が収束した後は監視したり監視されたりの毎日……プライバシーはあっても自由なんてほとんど無かったのよ! 周りはガタイのいい年上の男だらけ! おまけにことある毎に厭味を言ってきて好意を抱けると思う!? 私にも出会いが欲しいわよお!」

 

 酒も入ってないのに泣き上戸スイッチが入って泣きながら愚痴を漏らすマリアさんに圧倒され、え…はい、お気の毒ですね。と相槌を打つ事しかできない。

 が、これがいけなかった。

 

「みんなの為にー…って頑張れば、なんか「オカン」って呼ばれるようになって……知ってるのよ? あなたも私を「オカン」って呼んでること。前に翼たちと海に行った時に親切心でサングラスを貸してあげたら、『母親みたいな顔をしているぞ』って……私まだ21なんだけどなぁ。確かに装者の中では最年長だけど、まだ20代入ったばかりなんだけどなぁ……」

 

 ふふふっと暗い笑み。

 なんてこった……マリアさんがダークサイドに落ちてしまった! 彼女にコイバナは地雷だとでも言うのか!?

 

「良いのよ、仕事一筋でも……この身は恋など許されないって言い聞かせてるから……。でも周りが同性(!?)異性問わずイチャイチャイチャイチャしてるのを見ると……あー、私って恋も経験してないのに何やってるのかなーって……そう思うのよねぇ。

 ああでも、断っておくけど私はノーマルよ? 変な趣味趣向は持ってないから勘違いしないでね。念のために」

 

 怖い! 今のマリアさんすっごい怖いよ! リア充たちへの羨望と嫉妬で不吉なオーラ漂ってる!

 考えてみれば彼女もただの人で、1人には有り余る色々なものを背負わされてきてるのにそれを捨てる事もできず溜め込み続ければ……こんな風に爆発してもおかしくないよなぁ。

 

「だけど近くに歳の近い異性なんて……異性なんて……」

 

 こっちを見ながら言っている内にどんどん声が小さくなり、じーっと無言で見つめるマリアさん。

 な……なんでしょうか? 顔に何かついてますか?

 

「……年下、か」(ボソッ

 

 はい?

 

「顔は……まあ普通。でも私たちの事情を知っているから隠し事なんてする必要も無い。むしろ将来有望で今から私色に染め上げてしまえば……?」

 

 ブツブツ不穏な事を口ずさむマリアさんに、猛烈に嫌な予感が警鐘を鳴らす。

 まるで豹が獲物に狙いを定めたような、そんな目にあっと全て察した。

 

 食われる。性的な意味で。

 

 これが…これが喪女に陥りかけている者の執念とでも言うのか……!? 怖いよマリアさん! ただのやさしいマリアさんはいずこへ行ったんです!?

 にぃっと口角を三日月みたいに釣り上げたマリアさんがベッドに上がってきて、ひぃっと小さく悲鳴を上げながら離れようと試みる。けど狭いベッドの上に逃げ場なんてなく、すぐに掴まれて押し倒された。

 

「ふふふ……今ならまだ間に合うわよね……」

 

 やめてぇっ! こんな形で初めて失いたくないですよ自分! って言うかマリアさんほんとにキャラ変わりすぎィっ!

 自分があなたに何をやったと……色々やりましたねすみません! だからってこんな仕打ちはないよぉっ!

 涙目でがくぶるしている自分に、マリアさんがはぁはぁ荒く息をしながら迫ってくるんですけど! もう形振り構ってられないんですか!?

 ああ、さらばクリスちゃん。さらばDT。こんな形で卒業したくなかった……マリアさん嫌いじゃないけどそれとこれとは別なんだよぉ。

 

「……………」

 

 ぎゅぅっと目を閉じて事が過ぎるのを待ち続けていると、いつまで経ってもそれ以上何もなくてあれっとなる。

 恐る恐る目を開けると……目の前にはマリアさんの顔があった。

 改めて彼女の顔を見ると、普段凛々しいのにちょっとした所で可愛い所を見せるよな。マリアさんのことは嫌いじゃないというか好きだけど、当然クリスちゃんに抱いている好きとかではないから。

 

「……けどダメよね、こんなのって」

 

 静かに、どこか寂しさを含んだ呟きと共にマリアさんが離れる。

 そのままベッドを降りると垂れた髪を後ろに梳いて、何事も無かったかのように元のマリアさんに戻った。

 

「ごめんなさい、どうかしていたわ」

 

 こっちに背を向けたまま謝るマリアさんにはあ…と状況が掴めず気の抜けた返事を返す。

 なんで気が変わったんだろう? さっきまであんなに襲う気になっていたのに。

 

「確かにそうだけど……もしここであなたと強引にしてしまったら、あの子が怒り狂ってここら一帯を更地に変えかねないじゃない」

 

 それに寝取りなんて私の趣味じゃないから。と冗談交じりに付け加えるマリアさん。

 ……確かにクリスちゃんならやりかねないなぁ。最大火力においてはイチイバルが圧倒的にアドバンテージあるし。くわばらくわばら……。

 

「そう言うことよ。私もそれはゴメンだし……やっぱりクリスがかわいそうだから」

 

 良かった……なんにしても踏み止まってくれて本当に良かった。まだ卒業しなくて済んだ事にほっと一安心。いや、未遂といえば未遂なんだけど、やっぱその……ねえ? 初めては好きな人とって何言わせるのもー!

 

「はいはい、ごちそうさま」

 

 肩を竦めながら呆れて返すマリアさんはすっかりいつものマリアさんに戻ったらしい。あー良かったぁ……けど今後マリアさんにコイバナは禁句だな。

 けどマリアさんって結構溜め込んでるんだなぁ不満。元々気苦労耐えない人だけど。

 

「え?『自分でよければ愚痴くらいならいくらでも付き合う』……?」

 

 ええ、まあ。マリアさんにそう言うと意外そうに驚いて振り向いた。

 別に何が出来るってわけでもないけど、話を聞くくらいなら自分にだって出来るし。周りに話しづらいことだって言うなら、幸い自分は1人暮らしだから時間さえ都合が合えばいくらでも付き合える。

 何より何もしないで溜め込むのが1番良くないからね。ガス抜きくらいなら付き合いますよ。

 

「……ふふっ」

 

 あれ、何ですかマリアさん。自分変なこと言いました?

 

「ご、ごめんなさい……別に変だとかそういうことじゃなかったのよ」

 

 何がそんなおかしいのか、クスクスと笑いながらマリアさんは目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら謝る。

 じゃあなんで笑ったんですか。こっちはマリアさんに気を遣って言ったのに。

 

「ええ、そうよね。そんな風に言ってくれたのが嬉しくてつい、笑えて来ちゃったのよ……。けど良いの? そんなこと言ったらクリスが妬くかもしれないわよ?」

 

 えー…それはそれで嫌だけど、マリアさんの心の安寧を保たなきゃ(色んな意味で)やばそうですし。

 それに、別にマリアさんに特別な感情を抱いていると言うわけじゃないですし……いや、マリアさんに魅力が無いと言ってるわけじゃないですよ? ただ自分にはクリスちゃんが居てですね……。

 

「はいはい分かってるわよ、あなたのあの子への気持ちはうんざりするくらい知ってるわ」

 

 ですよねー。みんなの前でも散々アピールしていたし。

 ……でも大丈夫かなぁ。どうしても不安なんだよなぁ。「やっぱない。お前なんて嫌いだ」なんて言われた日にはどうしたら……どうすればいいんだっ!

 

「ああっ、もうっ! いつまでもくよくよ悩んだりしないの!」

 

 煮え切らない自分に苛立ったマリアさんが、バッシーン! と。自分の背中を平手で思いっきり引っ叩いてきた。いったい! それかなり痛い! マリアさん本気で叩いてきたでしょ!

 

「いつまでもうじうじしているから悪いのよ。仮に玉砕しても骨は拾ってあげるから、男なら真正面からぶつかりなさい!」

 

 励ましてくれるのは嬉しいですけど、もう少し他に方法なかったんですか……いえ、これでいいです。アガートラームまで使ってもらわなくても結構ですから。

 真正面から、かあ……だけどマリアさんの言う通りかもしれない。あそこまで言った手前、後がどんな結末でも玉砕するしかないか。

 

「それでいいのよ。そのためにもまず、そんな風邪さっさと治してしまいなさい」

 

 うん、マリアさんの言うとおりですよね。いい加減治さなきゃ授業にもついていけなくなるし。

 ちょっとは前向きになった自分を見て、マリアさんは微笑を浮かべる。またあの母親みたいな……いややめよう。

 なんかマリアさんには励ましてもらってばっかりで、感謝の言葉も無いんだよなぁ。

 

「そんな事ないわよ。私だってあなたに励ましてもらっているから。思わず勘違いしてしまいそうな程度には、ね」

 

 ……へ? どういう意味ですそれは。

 意味深な呟きに思わず聞き返すが、マリアさんは微笑んだまま何も言わない。

 そして彼女の荷物を持つと立ち上がって、そのまま玄関まで歩いていった。

 

「そろそろ帰るわ。お大事に」

 

 そう言い残して、パタンとドアが閉じられる音を残してマリアさんは帰ってしまった。

 あの言葉は冗談なのか本気だったのか……どっちなのか分からない。

 ただインパクトだけはかなりあって、しばらくの間玄関の方角を見つめたまま呆けていた。




と言う事で最後にお見舞いに来てくれたのはただのやさしいマリア、略してたやマさんでした。

と言いつつクリスちゃんちょっと出て来てるけど、前回があれだから出さないわけには行かないよね!

最初からオカンな彼女が来てくれれば全部解決だったんじゃないかと思った人、それは言わない約束だ。

あとマムやオートスコアラーやウェル博士とかに看病されたいと思った人はセルフサービスでお願いします。ハードル高いんだよ! そもそもこれシンフォギア装者がお見舞いに来てくれる話なのに関係ないじゃん!?




ってーことで、お見舞いシリーズそのものはこれにてひと段落です。え? まだオチが付いてないしクリスちゃんとはどうなるんだよだって? その辺は……まあ追々。

少なくとも「お見舞い」されることは終了ですよ。だって風邪完治したし! そりゃこんな冷え込んできたのに2箇所ある窓の内の1箇所全開で毎晩寝てれば風邪引くわ!(白目

こんな思いつきで適当に書いていた話をここまで読んでくださった方、そして評価を浸けてくれた方、お気に入りに登録してくれた方々に、改めて感謝を。

一昨日にはデイリーランキング1位と2位もなったようで、ここまで人気が爆発するとは予想外でした。

結構プレッシャーや過大な期待には弱い性分なので、取り扱いには丁重に扱ってくれると助かります(笑)

ま、長くて面倒な話はこれぐらいにして、ありがとうございましたっ!


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風邪が治ったらみんなが大騒ぎしてくれた

やあ (´・ω・`)

遅れてすまない、色々と立て込んでいてね。このテキーラはほんのお詫びとサービスだ。

とりあえず出来たんだけど、1つだけ注意して欲しい事がある。

きりちゃんが好きで好きでたまらないって人は相応に覚悟してほしい。

いや、きりちゃんは好きだよ? シンフォギアのキャラは皆好きだ。

でも自分の中で1番好きなキャラは? と訊かれたら、間違いなくクリスちゃんと答えるんだよ。

だから、きりちゃんが好きな人、そして翼さんが好きだと言う人には、こう言いたい。

お み ま い し て や る 。(大泉さん風


それじゃあ本文どうぞー。


「祝☆完全復活おめでとお~!」

「デーッス!」

 

 ……………。

 わいのわいのと騒ぐ響&切歌。周りにはとりあえず付き合ってあげるか、みたいなノリの未来に調、クリスちゃんに翼さんとマリアさん。

 近所のファミレス、全員にドリンクは行き渡り、定番とも言うべき山盛りポテトフライは注文済み。

 あ、ごらんの通り風邪は完治しました。あれから本気を出して回復に努めましたよ、ええ。

 熱は無事下がり、体調も万全。完全復活を果たしていざ学校へ!――と繰り出したのが『2日前』のこと。

 はい、2日経ちました。治ってから。

 

「いやぁ~、ずっと心配してたんだよ! 結構風邪が長引いてるって聞いて大丈夫かなって心配してたんだ!」

「でも響がお見舞いに行ったら2人とも騒ぎそうだし、私が止めていたんだよ」

 

 うん、響さんや。心配してくれていたのは嬉しいんですが、気持ちだけで結構でした。未来さんが怖いですから。

 それより気になってるのが、なんで2日たった今にお祝いなんてするんですか。

 

「本当は登校してきたその日にって思ったんだけど、みんなの都合が合わなくて今日になっちゃって……」

 

 あはは…と苦笑いする響になるほどねえ、と納得。

 確かに自分でも驚くくらい(自業自得なんだけど)休んでいたが、こんな催しはちょっとオーバーじゃないかと気が引けてるんだ。

 

「なに言ってるんデスか! あなたがいなかった間は……そう! 梅干の入ってないおむすびみたいな感じだったんデェス!」

「それってただの塩むすびだよね、きりちゃん」

「……はっ!?」

 

 うん、相変わらず調の冷静かつ的確な突っ込みは見てて安心する。

 けど梅干と同レベルの存在なんですか、自分。食べて残った種は吐き捨てられる存在ですか。

 

「さすがに梅干はかわいそうだよ切歌ちゃん。せめてラムネが入ってないソーダキャンディくらいじゃないと」

「おおっ! そうデスね!」

 

 あの未来さん、フォローしてくれてるのかもしれないけどそれは本当にフォローなんですか? 梅干と同じレベルですよそれ! そして切歌も納得しないでっ!

 

「うーん、私は酸っぱいのより甘い方が良いかなぁ」

 

 それはマジなんですかボケてんですか響さんっ!?

 

「どーにかしてくれよ、先輩」

「はっはっは、良いではないか。こうして彼が戻ってきてくれて元通りになったのだからな」

 

 呆れたクリスちゃんが翼さんに助けを求めるけど、防人モードじゃない翼さんってボケる事多いからミスだったようだ。

 あっ、そうだ。ねえねえクリスちゃん。

 

「っ! ふんっ!」

 

 ぷいっ。声を掛けたら慌てて顔を背けられた。がぁーんっ! やっぱ嫌われたのかぁっ!

 

「あれ? クリスちゃんと何かあったの?」

 

 自分とクリスちゃんの間にただならない様子を感じ取ったのか、響が顔を覗き込みながら訊ねてきた。

 いや、風邪で休んでいた時にクリスちゃんがクッキー焼いてくれたから、そのお礼が言いたかったんだけど……。

 

「「えぇ~っ!?」」

 

 ありのままに起きた出来事を説明すると、聞いていた響だけじゃなくて未来まで驚いたんですけど。

 

「詳しく聞きたい! 何があったの? ねえ教えてよ~…ぴぎゃぁっ!」

「響ぃっ!?」

 

 目を輝かせながら追求してきた響が、突然尻尾を踏まれた猫みたいな叫び声を上げて飛び上がって周りは目を丸くする。

 悲鳴を上げた響は涙目で左膝を抱えていて、見ると脛が赤くなっていた。

 

「な…何するのクリスちゃん~!?」

「知るかバカッ! あたし急用思い出したからもう帰るっ!」

 

 そう言いつつ、テーブルにお金を叩きつけるとこっちに目もくれずクリスちゃんは店を後にしてしまった。

 ジャ・ジャ・ジャ・ジャアーンッ!(ベートーベン『運命』交響曲第5番第1楽章より)

 オワタ……完全にオワタ。クリスちゃんに嫌われた……。

 

「ど……どうしたんデスかクリス先輩。ってあなたもどうしたデスか!? 真っ白になってるデスよ!?」

「これが有名な「燃え尽きたぜ……真っ白にな」ってやつなんだね」

 

 漂白、どころかそのまま線画まで行った自分の姿に仰天した切歌がグラグラと揺する。確かにそんな心境なんだが、なぜ調がその台詞を知ってるのか。それ何十年前の作品だと思ってるんだと。

 

「いったいどうしたというのだ、雪音は……?」

「あー……なんと言うかあれよ。意識しすぎてるのよ」

「どういうことなんだマリア?」

「それは本人たちの口から聞くほうがいいんじゃない?」

 

 そう言ってこっちを見るマリアさん。つられてこっちを見る残ったみんな。こっち見んな……なわけにもいかんですよね。中心人物ですから。

 でも根掘り葉掘り包み隠さず言わなきゃいけないんですか?

 

「言わなきゃいけないね」

「言わないといけないよ」

「言わなきゃダメデス」

「言わなきゃダメだよ」

「言わないといけないな」

「要するにみんな気になってしょうがないってことよ」

 

 ……はい。包み隠さずさらけ出します。

 

 

「「おおおおぉぉぉ~!?」」

 

 女の子ってコイバナ本当好きだよね。包み隠さず全て言ってしまいました。

 と言うか、特にひびみくの食いつきっぷりが半端なかったです。そう言えば良子さんのコイバナにも興味津々でしたっけ。

 まあ、と言うわけで勢いで告白したものの、直後にシャングリラシャワーと言うみっともない醜態を晒してしまいうやむやになっちゃったんですよ。

 

「なんとも君らしいオチをつけたな……」

 

 はい…自分で自分に突っ込みたいオチです。

 

「けど納得かな。最近のクリスって挙動不審と言うか、ソワソワしてる感じがしたから」

「そう言われてみるとそうだったかもなぁ~。常に何かを気にしてる感じだったよ」

 

 凹んでテーブルに突っ伏した自分の姿を見ていたひびみくの2人が思い出したようにポツリ。

 

「確かにあの子の性格からして、こんなに積極的に動いた後なら周囲の目を気にしそうね」

「じゃあ、まだ先輩を意識してるってことじゃないかな」

 

 なのかなぁ。してくれてるといいなぁ。ワンチャンあると思う?

 

「それは先輩次第だと思う……ね、きりちゃん?」

「…………」

「…どうかしたの? きりちゃん」

「――ひゃいっ? な、なんデスか?」

「なんだかボーっとしてたみたいだけど……」

「な、なんでもないデスよ! いやー、ポテトがおいしいデスねー」

「じー……」

 

 なんだか反対サイドのしらきりが騒がしいな。どうかしたの?

 

「いやいや、なんでもないデス! チョコレートパフェでも頼むデスかねー!」

「……食べすぎだよ」

 

 うん確かに。山盛りポテトやらピザやらもあるし、これ先に片付けないと。

 まあ人数は多いし、ポテトの早食いは得意分野だからすぐ食べ終わるかぁ~……。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

 

「ボーっとしながらただひたすらにポテト食べてる……」

「クリスのことがよっぽど気になって、心ここにあらずって感じだね」

 

 そりゃあ気になりますとも。って言うかこれは男女問わず気にならない? その場で即返事をもらえたならまだしも、タイミング失ってどうにも出来ないこのもどかしさ。

 あーもーどうすればいいのこれ。クリスちゃんがあの調子だと当分避けられるパターンじゃない。

 

「確かにクリスならやりそうかも。普段気が強いけど、あれで実は結構な恥ずかしがり屋でもあるから……」

「――だったら! 私たちで応援しようよ!」

 

 こっちの状況に納得し、多少なりとも同情の意を示してくれた未来に被せるように声を上げた響に、周りはぽかんとしながら言い出した響を見た。

 えっと……いきなり何を言い出すのかなこの子はって思ったけど、響の思い付きは意外といつもの事だったっけ。

 で、何をしようってのさ?

 

「だから~! 君とクリスちゃんがくっつくように私たちで影ながら助けようって話だよ!」

「要するにいつもの人助け……に、なるの? でもこういうのは本人たちで解決するしかないんじゃないかな」

「解決しようにも、クリスちゃんあの調子だとずっと逃げ回りそうだよ」

「確かに……さっきの反応だと彼を避け続けそうね」

「ですよね? クリスちゃんだってきっと思いは同じなのに、言い出せなくて見ているこっちがヤキモキしますよね! と言うことで、ここは私たちが一肌脱ごうってわけですよ! 何より友達としては放っておけません!」

 

 拳を握ってなんだか力説しているけど……もしかしてほんのちょっとは楽しんでないですか、響さん。

 

「うぇぇっ? そ、そんな事ないよ……?」

「……まあ、響がちょっとノリノリかどうかはさておいて、確かにこのままってわけにもいかないよね。私もちょっと手伝おうかな」

 

 おぉ……理由はなんであれなんだかんだ言っても、手伝ってくれるのはやっぱり嬉しいですっ!

 

「ありがとう未来! 未来ならそう言ってくれるって信じてたよ! みんなはどう!?」

「私は構わないわよ。と言うより元々応援するつもりだったから。翼たちはどうするの?」

「あ……ああ。そうだな、私もできる事があれば手伝おう。恋愛事に関しては経験はないが……荒事に関しては任せてくれ」

「いやそれどんなフォローよ」

 

 むしろ告白の返事貰うためだけに荒事になるって言う状況が気になるんですけど。戦場で告白ってそれなんてアニメですか?

 

「響先輩ナイスアイデアデスよ、とーぜんあたしも協力するデェス!」

「きりちゃん……」

 

 ありがとう、ありがとうっ、切歌……! 時に調はどうなんでしょうか?

 

「えっと、あの……」

「ええっ、調は手伝わないデスか!?」

「そうじゃないけど……でも、きりちゃんはそれでもいいの?」

「いいに決まってるデスよ!」

 

 調ってば何言ってるんデスかねー、とからから笑う切歌を調はなんとも言いがたい目で見つめている。なんだろう……何か言いたげだけど、言うのを迷っているような?

 やっぱり何かあったのかと訊ねてみるけど、切歌はこっちの話デース! とはぐらかしてしまう。

 2人だけの問題……って事なのだろうか。関わってほしくないなら無理に首を突っ込まない方がいいのかもしれない。それで問題がややこしくなる事だってあるだろうし。

 

「じゃあ皆手伝う……って事で、良いのかな?」

 

 改めて響が確認すると、皆はそれぞれ頷いたりした。

 ああ、素晴らしい友達に恵まれてるなぁと感極まって目から汗が流れそうになる。一部思惑とかあるみたいだけど、前向きに応援してくれてるみたいだし。

 

「よーし、それじゃあクリスちゃんと君が結ばれるように、景気づけにぱーっとやろう!」

「さんせーデェス! それじゃあもう1度乾杯デース!」

 

 いや、あんまり騒ぐと周りに迷惑掛かるからほどほどに……って聞こえてないし。

 にしても……応援してくれるのは有り難い、それは紛れもなく本心だ。けど……本当に大丈夫なのかなぁって不安も拭えないんですが。

 

「大丈夫! へーき、へっちゃら! 泥舟に乗ったつもりで安心して良いよ!」

「泥舟じゃなくて大船だから! それだと沈没するから!」

 

 うん、やると思ってた。お約束みたいなものだし。

 本当に大丈夫なんだろうか……やっぱり不安だよなぁ。




インターミッション的な今回。

あ、きりちゃん好き、翼さん好きな方々、まだ『お見舞い』は終わってないですよ? 覚悟してくださいね(にっこり


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しらきりを遊びに連れていったー

きっかり2年も空いてしまった……すまない、本当にすまない……。

理由としては単純に後半のシーンを書くのが辛かったんだ……。

と、言う訳できりちゃんが大好きな諸君、約束は覚えているか? ちゃんとお見舞いしてやるから1d100でSAN値チェック逝こうか(白目


「ここが……」

 

「噂に名高い……」

 

「「遊園地!」デーッス!」

 

 目の前にあるゲートの向こうに広がるアトラクションを見て、目を輝かせているしらきりたち。

 と言うかそんなに感動する事なの? 2人して空飛んだり地上疾走したりしてるのに。

 

「ギアで飛んだりするのとは全然違うデスよ!」

 

 素朴な疑問を口にすると、切歌は妙に力を込めて力説して、調も同調してうんうんと頷いている。

 そこまで違うのか……個人的には2人の方が凄いし憧れると思うけど。だって調のアレ……なんだっけ、なんか巨大一輪車とタ○コプターみたいな技。

 

「一輪車……」

「違うデスよ! アレにもちゃんと立派な名前があって、ひ、非常……えっと……」

「『非常Σ式・禁月輪』と飛行するのが『緊急Φ式・双月カルマ』なんだけど……」

 

 小声で説明しながら、ずーんと沈み込んでしまう調。いや、だって名前難しいじゃないか。切歌はアレ、メチャクチャ読みづらいけど。

 

「なんデスとぅ!?」

「私の技の名前は、きりちゃんほどヘンじゃないよ」

「へ、ヘンデスか!?」

「うん。ヘン」

 

 右に同じく。

 2人に肯定されてよほどショックだったのか、切歌の背後で稲妻が落ちたイメージが見えた気がした。

 まあ、2人の技名に関しては置いておくとして、何故2人とここに来たのかと言うと先日お見舞いに来てくれた切歌のお礼が何がいいかと訊ねたところ、「遊園地に行ってみたい」と答えが返ってきたたためだ。(なお勉強を見るのはまた別腹)

 2人ともこういったテーマパークは今まで来た事がないらしくて、2人の経歴を考えてみればそれも頷けた。近場で遊べる所は連れて行ったけど、遊園地は少し遠いし敷居も高いイメージがあって見送っていたからなぁ。

 けど今回は要望を受けたことだし、いい機会だから連れて行こうって決定したんだけど。

 って言うか切歌はいつまでフリーズしているつもりなのか。いつまでもここにいたら遊ぶ時間減っちゃうけど。

 

「ってそうデスよ! 今日は遊び倒すって昨日決めてたデス!」

 

 我に返った切歌は言いながら自分の手を掴んできて、そのままぐいぐいと引っ張って入場口まで連れて行かれる。

 いや引っ張んなくてもいいし急がなくてもアトラクションは逃げないから!

 

「ごめんなさい先輩。きりちゃんずっと楽しみにしてたから」

「えぇっ!? 調は楽しみじゃなかったデスか!?」

「確かに楽しみだったけど、先輩を困らせたらダメだよ」

「うぐっ……ごめんなさいデス」

 

 窘められて切歌は申し訳なさそうにしながら手を離して謝った。

 それに気にしてないと返し、今日はとことん付き合うと答えると切歌はぱぁっと顔を輝かせる。

 

「いいデスか!? やったー!」

「あ、きりちゃん! 1人で先に行くと迷子になっちゃうよ!」

「2人とも早く来るデスよー!」

 

 先走った切歌に慌てて調が声をかけ、振り返った切歌が自分たちを呼びながら元気に手を振っている。

 満面の笑みに調と顔を見合わせて微苦笑し、揃って切歌を追って歩いていった。

 

 

 さて入場口でチケットを購入して園内に無事入場したけど、何から乗ろうか。

 この遊園地はジェットコースターやゴーカート、バイキングにメリーゴーラウンド、ティーカップや観覧車等々、定番のアトラクションは入っているし……あとは空中ブランコとかホラーハウスもあるんだっけ。

 

「ここはやっぱり定番中の定番! ジェットコースターに決まってるデスよ!」

 

 ぐっと力説する切歌に、調はどうかとみる。確かにジェットコースターは定番だけど、絶叫系は苦手な人も多いからどうだろう。

 

「私は絶叫系でも平気だからいいよ」

 

 ただ、どう考えてもこの2人が過激なアトラクションが苦手というイメージは全然湧かないわけで。じゃあ最初はジェットコースターに乗ることにしよう。

 特にジェットコースターは人気だし、待っている人で行列を作っているだろうから早いうちに制覇した方がいいだろうし。

 満場一致でジェットコースターに決定し、ジェットコースターの場所まで移動する。ここのジェットコースターはなかなかにスリリングらしいけど。

 

「あ。あそこだね」

「えっ。なんで乗ってる人宙吊りになってるデスか……」

 

 待っている間に流れていくコースターを見ることができて、切歌が思わず疑問を口にした。

 ジェットコースターといえばレールの上に車両が乗っている形が一般的だけど、ここのコースターはレールの上じゃなくて下に車両が付いている。切歌の言う宙吊りっていうのは正にその通りだろう。

 あー、ここってこういう吊り下がり型なんだ。地上丸見えだからこれってかなりスリルあるんだよねーと暢気に呟いた。

 確かに凄そうだけど、それでもやっぱり2人からすれば味気ないんじゃないかなぁ。

 

「さすがにあんなスピードまでは頻繁に出せないし、そうでなくても初めてだから楽しみだよ」

「そ……そうデスね。すこーしだけイメージと違っていたデスけど」

 

 調の言葉になるほど、と頷く。しかし切歌が気持ち尻込みしているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「い、いやいや気のせいデスよ!」

 

 慌てて否定する切歌に、ならいいんだけど……と呟いて列が動き出したので後に続く。

 そうしてコースターが2周した所でようやく自分たちの番が回ってきた。

 さてどこに座ろうか? 迫力を楽しむのならやっぱり先頭だけど。

 

「きりちゃんはやっぱり先頭だよね?」

「ひぇっ!?」

 

 え、違うの? 当然のように話しかけてきた調に対して驚く切歌に、思わず聞き返した。あんなに楽しみにしていたなら、てっきり先頭に座るとばかりに思っていただけに、その驚きは結構大きい。

 

「あ、えーっと……当然デスよ、先頭以外絶対に絶対、ありえないデェッス!」

「そっか。じゃあ私は2番目がいいから、先輩はきりちゃんと座ってくれる?」

 

 んー……まあ絶叫系はそこまで苦手じゃないし、構わないよと調に答えて切歌と先頭の席に座ると、係員の人が安全バーを下ろす。

 そう言えば前に何かで「ジェットコースターは最後尾が1番Gが掛かる」云々って見かけたような……先頭はやっぱりスリルが大きいのかどうかはさておいて、

 

「あわ、あわわわわ」

 

 切歌が思いっきりビビッてるんですが。

 えっと、やっぱやめておく? と気遣うように言うと切歌はブンブンと頭を振り、

 

「だ、大丈夫デス! これはー……そう、武者震いデスよ!…………あの、ちょっとだけ手を繋いでもらってもいいデスか?」

 

 それってやっぱり怖いんじゃ……という出掛かった言葉をぐっと飲み込み、別にいいよと言って差し出された手を掴む。

 

「それでは発射しまーす」

 

 係員の合図と共にコースターがゆっくり――ではなく急速発進。

 

「デェェェス!?」

 

 急に掛かったGに思わず唸るけど、隣の切歌の絶叫がそれをかき消す。後で知ったけどここのコースターはリニアモーターで加速する方法を採用しているらしく、一般的なチェーンリフトでは味わえないような加速感や速度を実現しているとか。

 

「デデデデース!?!?!?」

 

 連続ループや連続コークスクリューの区間を直前で再度加速して高速通過――っていうか切歌騒ぎすぎ!

 

「きりちゃんちょっとウルサイよ!」

「無理デス! 怖いデスー!!!」

 

 あ、やっぱ怖かったのか……調の突っ込みに対してついに漏らした本音に、内心やっぱりかと納得していた。

 触れただけで炭化して即死確定のノイズと勇敢に戦う装者が、こんな絶叫マシンで怖がるなんて……いやこの急降下して地面すれすれまで迫る迫力は確かに怖いけど。

 そして、コースを1周したころにはすっかりぐったりしている切歌だった。まる。

 

「デース……」

「怖いなら無理しなければよかったのに……」

 

 ベンチでぐったりしている切歌に買ってきた水を渡しながら、呆れ顔の調が言う。

 確かにあれは結構怖かったけど、ノイズの恐ろしさと比較すればそんな怖くないと思うんだけどなぁ。

 

「それとこれとは……話が別デスよ……」

「きりちゃんが騒いでいたから、私は逆にそこまで怖くなかったけど」

 

 え、じゃあもう1回乗ってみる?

 

「それはいや」

 

 だよね。さすがに2連続はちょっと遠慮したい。

 とりあえず次は何に乗ろう。何か乗りたいものはある? と調に訊ねてみる。

 

「きりちゃんがこんなだから、次は絶叫系以外がいいかな……」

 

 絶叫系以外……となるとメリーゴーラウンドやティーカップとか、ああいう系が候補に挙がるなぁ。観覧車はどちらかと言うと締めなイメージがあるし。

 ……でもティーカップはやり方によっては絶叫系に転じかねないし、ここはメリーゴーラウンド……に、なるのか。

 

「……先輩はメリーゴーラウンドはいやなの?」

 

 首を傾げる調に、嫌じゃないんだけど……と言葉を濁す。どうにもああ言うファンシーな乗り物って男は少し抵抗があると言うか。

 でもゆっくりはできそうだし、それでも良いかな。

 

「ありがとう。……きりちゃん、動ける?」

「デース……」

 

 さっきから同じ言葉しか繰り返していないが、力なく手を上げたという事は肯定の意思表示……だと思う。

 グロッキー状態の切歌を連れて、いざメルヘンの世界へ。

 到着すると白馬や馬車が並んでいる光景が広がっていて、なんかここだけ別世界のように思えてしまう。

 やっぱりこういうメルヘンなのって慣れてないからなぁ……いやいや、自分が尻込みしてたらいかんだろ、と己を奮い立たせて中に入る。

 見れども見れども白馬ばかり……なんか黒くて大きい馬とか赤い馬みたいなバリエーションはないの……あるわけないか。

 

「先輩、きりちゃんと一緒に乗ってくれる?」

 

 調の頼みにえ、なんで? と聞き返してしまう。

 

「今のきりちゃん、1人だと危ないから」

 

 あー……乗ってる最中に落ちそうだからなぁ。今の切歌は。

 そう言う事なら構わないよ、と快諾し、調が切歌を2人乗りできそうな馬に連れて行って、切歌を乗せた後にその後ろから自分も馬に跨る。

 

「……ひぇっ? な、なんであなたも乗ってるデスか!?」

 

 後ろに乗ってからワンテンポ遅れて気づいた切歌に、今の状態だと危なそうだから一緒に乗ってるんだと答えた。

 するとどういうわけか切歌はあわあわと慌てだすが、近くの馬に腰掛けた調が釘を刺す。

 

「きりちゃん、もう乗っちゃったんだから降りるのはマナーが悪いと思うよ」

「しっ、調っ! でもこれはデスね……!」

「もしきりちゃんが落ちそうになっても、私より先輩の方が助けてくれそうだから」

「うぅ……」

 

 調の説明に切歌はなおも食い下がろうとしたが、メリーゴーラウンドが動き出してしまったため口を噤んでしまった。

 とりあえず切歌が落ちないように腕の間に挟んでおけば大丈夫かなと思って、両手でバーを掴んでその間に切歌を挟む。ちょっと狭いのは我慢してほしい。

 

「い、いえ……別に平気、デス……」

 

 耳まで真っ赤にした切歌はそう呟いて、シャツの端をちょこんと掴んだ。

 

 

 メリーゴーラウンドを遊び終えて、その頃には切歌もすっかり回復して元通り……と言うか気持ち1割り増しで元気になっているような気がしなくもないけど、とにかく元通り元気全開になっていた。

 

「いやー、メリーゴーラウンドもいいデスね!」

「そうだね。ありがとう、先輩」

 

 調にお礼を言われて、別に大したことはしてないよと返す。精々切歌が落ちないように支えていた程度だし。

 

「じゃあ次は何に乗るデスか!?」

 

 元気になったとたんに目を輝かせて次のターゲットに狙いを定めようとする切歌に、まあまあと宥めた。

 次のアトラクションもそうだけど、少し早めに昼食をとってもいいと思う。

 

「うん。お昼時になったら人が押し寄せそうだよね」

「あー……そうデスね。腹が減ってはなんとやら、って言うデスから!」

 

 結局切歌も賛成し、ひとまず昼食をとろうという事でフードコートエリアに。切歌たちには場所取りを頼んで自分が2人の分も頼んで受け取ってから落ち合う。

 ちなみに切歌はカレーライス、自分と調は焼きそばを頼んでいた。

 座ってる2人を見つけて歩いていくと、お待たせと言いながらトレーをテーブルに置くと、2人とも「ありがとう(デース)」とお礼を言いながら自分が頼んだものを受け取る。

 

「「いただきます(デース!)」」

 

 切歌たちが手を合わせて言ったのに続いて自分もいただきます、と言って蓋を開けた。

 ソースの焼けた香ばしい匂いが漂い、めんを口に運ぶ……むぅ。

 

「どうかしたの?」

 

 眉根を寄せた自分に気づいた調が、不思議そうに首を傾げながら訊ねた。

 いや、やっぱりこういう所の食事って割高な割りに味はそこまでだよなぁって。切歌のカレーも調理済みのものを温めましたー、みたいな物っぽいし。

 

「十分美味しいデスけどね……」

 

 いやほら、海水浴でもあるでしょ? 海の家の食事って実際はそこまで美味しくけどその場の雰囲気とかで美味しいと思えるみたいな感じ。アレと同じ心理。

 

「今年の海は……」

「斬撃武器が軒並みやられてコンビニに買出しだったデス……」

 

 あ。そう言えばそうだっけ。軽く凹んでいた2人にふと思い返す。

 でもこれなら自分で作った焼きそばのほうが自画自賛だけど美味しいよなぁ。おにぎりでも作っておけば良かったかな。

 

「そう言えば先輩って自炊してるんだよね」

 

 1人暮らしだからどうしたってやらないといけないからね、と調に答えつつ、そこまで大したものは作れないけどとさらに付け加えておいた。

 ああでも、この焼きそばよりは美味い焼きそばを作れる自信はある。

 

「……ちょっと気になるデスね、それは」

 

 食べるのを中断して聞いていた切歌がふと呟いた。

 ……なんだったら今度2人に作ってあげようか?

 

「いいデスか!?」

 

 そんな風に返されるのがよほど意外だったのか、切歌は目を見開いて身を乗り出す。

 あんまり過度な期待をされると困るけど、焼きそば以外だと……切歌が食べているカレーとか、そう言うのは作れるし。

 

「それなら食べてみたいデ……………い、いえ、やっぱり遠慮しておくデスよ」

「えっ?」

 

 途中まで言いかけた言葉を飲み込み、突然断った切歌に調と一緒に驚いてしまう。

 今更遠慮する事なんてないんだし、気にしなくてもいいのに。そう言うと切歌はふるふると頭を振った。

 

「いえいえ、まずは先にクリス先輩が食べるべきデスよ!」

 

 クリスちゃん……クリスちゃんかぁー……。

 

「あれからクリス先輩とは話せたの?」

 

 調の問いかけにふるふると被りを振る。

 あれから話すどころか顔すら合わせてくれない状態が続いていて、どうにもならず凹みっぱなしなんだよなぁ。

 

「まったく、クリス先輩にも困ったものデスよ。素直になれば良いのに、見ているこっちがもどかしいデス!」

「うん……そう、だね」

 

 腕を組んでぷんすか怒っていた切歌。調はそんな彼女に同調しながら、何か言いたげに切歌を見ているような気がした。

 この間も似たような事があったけど、あの時はなんでもないって言われたんだよなぁ。

 

「……きりちゃ――」

「だいたい、あなたもあなたデスよ! もっとぐいぐい行かなきゃクリス先輩逃げ続けるじゃないデスか!」

 

 うわっ、こっちにまで飛び火してきたよ。これでも結構がんばってるつもりなんだけどなぁ……。

 

「『つもり』じゃぜんっぜん足りないデスよっ! だからクリス先輩に逃げられるんじゃないデスかっ!」

 

 バンバンとテーブルを叩きながら力説する切歌の言葉が、ぐっさぐっさと容赦なく胸に突き刺さる。

 ぐっふぅ。仰るとおりで……。でも強引過ぎて嫌われたりしたらって考えると怖いし。

 

「それなら大丈夫! なぜならあなたが強引でヘンな人だってことは周知の事実デスから! なんであなたもクリス先輩も、気持ちは同じなのに肝心な時に奥手になるんデスかね~……」

 

 それフォローしているようでフォローしてないんじゃないの!?

 

「――全部、――――も――――ない」

「調からもガツンと言って……って今なにか言ったデスか?」

「……なんでもないよ。先輩、」

 

 無自覚に振り下ろされる切歌の刃にハートがボロボロになりかけている自分に、調が声をかけてきた。……なんでしょうか?

 

「えっと……もっとがんばって」

 

 調だからてっきり辛辣なコメントが来るかと思ったら、意外なことに普通な応援が来てちょっと拍子抜けしてしまう。

 もしかして身体の調子でも悪いのかと思って訊いてみたら、ふるふると首を横に振った。

 

「ううん。だって……せっかく遊びに来たのに、あまり先輩を凹ませて楽しくなくなったらいやだったから。ほら、早く食べて次のアトラクションに行こう?」

「あー……それもそうデスねー。それじゃあチャチャっと食べて次に行くデス!」

 

 前言撤回、やっぱりこの子辛辣だった。忘れがちだけど調は見た目こそ大人しそうだけどとんでもない行動派なんだよなぁ……切歌が慌ててフォロー入れるほどに。と言うかちゃっかり切歌まで同意しちゃって結局凹むんですがそれは。

 ……こんな風に意気揚々と2人に引っ張られるままに次のアトラクションに来たわけなんだけど、

 

「「………………」」

 

 ……あの、2人とも引っ付きすぎて歩き辛いんですけど。ただでさえ薄暗くて視界が悪いのに、調と切歌が両サイドでぴったりくっついてというか、しがみついているから。

 だからやめておいた方がいいって止めたのに……ここのホラーハウスは国内でもトップクラスで怖いって有名で、しかも本物も出るって噂があるのに。

 

「つつつつつ作り物がナンボのもんかデデデデス!」

「そもそも悪魔や天使と言った存在はノイズが元になっているんだから幽霊だってきっとノイズだよだけどこの場所にノイズが出たって話は聞かないしそもそもノイズは宝物庫を閉じたから出てこれないつまり噂の正体は場の雰囲気から誤認や錯覚だったんだt」

 

 バンッ!

 

「「ひっ」」

 

 バンバンバンバンバン!

 

「ひゃああああああああっ!?」

「きゃあああああああああああっ!?」

 

 外から大人数で窓を叩いて、しかもべったりと赤い手形が残るのを見てほぼ同時に2人が叫んだ。

 いや、十分驚いたんだけどそれ以上に切歌と調が驚いて引っ付いてきたせいでそれどころじゃないんですがっ!

 

「ち、血が! 血が手形に! 窓にべったりたくさん!」

 

 いや言いたいことは分かるけど日本語めちゃくちゃなんだけど切歌!?

 

「Various shul shagana――むぐっ」

 

 うわー調はパニクって聖詠しようとしてるし! 間一髪で手で口を塞いで防いだけど、なんで皆してパニックになったら聖詠しちゃうの!?

 

「むぐっ、むぐぐ~!」

 

 抵抗する調を引っ張って、そして目を回す切歌は肩に手を回してその場を離れながら「聖詠ダメ、ゼッタイ」と言い聞かせて落ち着かせると、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した調がこくりと頷いたので大きく息を吐きながら手を離した。

 

「……ごめんなさい。迷惑かけて」

 

 申し訳なさそうに謝る調に対して、あれは仕方ないってとフォローする。さすがに聖詠まではやりすぎだがパニック不可避だ。

 ……にしても、あんなに我を忘れてパニックになってる調を見るのは初めてだった。あんなに強がってたけど可愛いところもあるんだなと思い返してついクスッと笑ってしまう。

 

「私にだって怖いものはあるよ……それに、あんなの怖くて当然だし」

「誰がホラーハウスなんか来ようって言い出したデスかぁ……」

 

 君たち2人が言い出して、自分はやめておいた方がいいって止めたんじゃないか。

 いや、それにしても評判は聞いていたけど予想以上に怖いなここ……とてもじゃないけど1人で来れそうにない。

 このホラーハウス、歩行距離が長い上にその怖さから途中途中にリタイア扉が設置されていて途中退場が出来るようになっている。

 無理ならリタイアするのも手だけど、次の扉でリタイアしようかと尋ねると、2人はそろって首を横に振った。

 

「それだけは絶対にイヤ……!」

「ここで退いたら女が廃るってもんデスよ……!」

 

 なんで2人揃って負けず嫌いなのかな。それに強がってるけど両腕にしがみつかれてたら説得力もないし。

 そんなわけで戦々恐々とする2人に挟まれながらゴールを目指していると……あれ? 通路の先に誰か……女の人?

 

「ま、まさかまたお化けデスか……!?」

「その割には……生きている人っぽいよ?」

 

 いやまあ、お化けもここのスタッフが変装した姿だから生きているんだけど、通路の脇に蹲っていた女性の人は服装的にも自分たちと同じくこのホラーハウスに遊びに来た人っぽい。しかし1人でとはまたチャレンジャーな。

 

「ああ……どうしよう。困ったわ……」

 

 何かを探しているように地面に手を着いているみたいだけど……どうしよう?

 

「他に誰もないし……困ってるなら話しかけてみる?」

「そうデスね。通りかかったのも何かの縁デス!」

 

 2人がそう言うなら、と自分も頷いて、彼女の近くまで行くとどうかしましたかと声をかけた。

 突然声をかけられて女性は一瞬驚いた素振りをするも、こちらに背を向けたままゆっくりと話し出す。

 

「それがこの辺りに大事なものを落としてしまって、あれがないと……」

「落し物デスか。確かにここは暗いデスし、見つけるのは大変デスよ。私たちで良かったら探し物のお手伝いをするデス!」

「まあ……ありがとうございます。助かります」

「それで、何を落としたんですか?」

 

 切歌の言葉に女性は安堵したように肩を下ろし、すぐに調が落し物について詳しく訊いてみた。

 

「ええ……落としたのは、とても大事な……」

 

 あ…れ? 気のせいかな。なんか女性の声のトーンが変わったような……それに今、背筋がぞわってしたんだけど。

 自分を襲った悪寒に内心首を傾げていると、今まで背を向けていた女性がゆっくりと顔をこちらに向けて、頭がそのまま180度回って、

 

「ワ タ シ ノ メ ダ マ」

 

 ぽっかりと空洞になっている目から血を垂らしながら、薄ら笑いを浮かべた顔を自分たちに自分たちに向けてきた。

 

「」

 

「」

 

 ――――――――。

 

 その後のことは、あまり覚えていない。

 気づいたときには3人ともホラーハウスの外に出ていた。リタイアしたのかクリアしたのか……後者は、多分ないと思うけど。何がどうなったのか、思い出そうとするのは絶対にやめようと暗黙の了解な感じで自分たちはホラーハウスのことは無かったことにして他のアトラクションを楽しむことにした。

 

 

「くー……」

 

 肩に頭を預けて気持ちよさそうに眠っている切歌をちらりと見て、くすりと笑みが零れる。かなりはしゃいでいたし、疲れて眠ってしまう気持ちも分からなくもないけど。

 

「きりちゃん、今日が楽しみで昨夜はなかなか眠れなかったんだ」

 

 切歌を挟んで向こうに座っている調が呟いて、それじゃあ仕方ないよと苦笑いしつつ返した。

 小学校の遠足で当日が楽しみで前日はなかなか寝れなかったってよくあるし、かくいう自分にも経験がって切歌の気持ちも理解できるから。

 

「……先輩はきりちゃんのこと、どう思ってるの?」

 

 調からの不意な問いかけに、またえらく唐突だな……なんて思ってしまう。

 どう思ってるのかと訊かれると、良い子だよなぁって思ってる。若干ポンコツな所もあるけど面倒見が良いし、なんだか自分懐かれているし。

 自分は一人っ子なんだけど、妹がいたらこんな感じなのかなぁって思うことがあるかなー。振り回されたりして大変かもしれないけど、嫌じゃないから。

 

「……そっか」

 

 じっとルビーのように赤い瞳をこちらに向けていた調は、こっちの意見を聞いて静かに呟くと目線を下に移した。

 まあ、調との仲の良さには敵わないけど……えっと、何か気に障ることを言ったでしょうか? とついつい敬語で尋ねてしまう。

 

「ううん。……きりちゃんも、嬉しいんじゃないかな。先輩がそう思ってくれて」

 

 そうかな?……そうだったらいいけどなぁ。

 

「きっとそうだと思う。……先輩」

 

 また呼ばれ、少し身体を傾けて調の方を伺った。今度は何を聞かれるんだろう?

 

「そうじゃなくて、きりちゃんをこのまま寝かせて上げたいから、部屋まで運んでもらってもいい?」

 

 あー、うん。確かにぐっすり眠ってるし、起こすのは少し忍びない。女の子1人負ぶって行くくらいお安い御用だ。

 ……と思っていた時期が自分にもありました、はい。2人の暮らす部屋に着くころにはもう息も絶え絶え、へろへろな状態になってました。

 

「先輩……体力無さ過ぎるよ。もしかして私よりも無いの?」

 

 呆れてジト目を向ける調に対して、いやそんなまさかと必死に否定する。

 おかしい、切歌が重いってわけでも部屋までの距離が遠かったわけでも無かったのにこの体たらくはいったい……。

 

「……先輩って風邪が治ってから運動はした?」

 

 運動? いや、そんなにはやってないんじゃないかと。むしろ授業の遅れを取り戻すので忙しかったし。

 

「じゃあ体力が以前より落ちてるんじゃないかな」

 

 ……そう、かもしれない。言われてみれば風邪を引いてずっと寝込んでいたから体力は落ち続けていたし、回復してから運動はほとんどやっていないから前と同じってことは無いはず。

 いやはや、安請け合いしたのにこんなザマとはお恥ずかしい限りです……。

 

「そう言うところも先輩らしいと思う。それよりきりちゃんをベッドまで運んでくれる?」

 

 無理なら私も手伝うけど、と提案した調にいやいやこのくらいできるからと断って、起こさないように切歌を寝室まで運び、無事にベッドへ寝かせてくるとどっと息を吐いた。

 スタミナが以前よりも落ちていたのは予想外だったけど、不幸中の幸いだったのは途中で倒れたりしなかったってことかな。……へとへとだけど。

 

「でも私がきりちゃんを運ぼうとしたら帰れるか難しかったから。だからありがとう、先輩」

 

 いやいや、大したことはしてないから。ぺこりと頭を下げる調に大げさだからしなくてもいいよと慌てながら言う。

 その後少し休んでいって欲しいという調の誘いを丁重に断って、玄関まで見送られながら2人の家を後にする。

 好意に甘えても本当は良かったんだけど……まさかの問題が発覚したし、運動がてら今日は少し遠回りして帰るとしよう。

 

 

 帰る先輩を玄関まで見送ってから、私は寝室にやって来た。

 

「先輩帰ったからもう起きていいよ、きりちゃん」

「……気づいてたデスか」

 

 ベットで寝たフリをしていたきりちゃんに声をかけると、きりちゃんはのそのそと起き上がる。

 先輩は気づいていなかったけれど、私はずっと一緒に居たからすぐにきりちゃんが寝たフリをしているのに気がついた。

 

「うん。私が電車で先輩に訊いた時……実は起きてたよね」

「あはは……やっぱり調には敵わないデスね」

 

 ちょっと困ったように頭の後ろを掻くきりちゃん。

 私はその隣に座ると、ポツリと呟いた。

 

「先輩の事……好きなんだよね」

「……………」

 

 その言葉を口に出すのはとても勇気が要るけど、それでも私は口にした。

 私の呟きにきりちゃんは何も言わなかったけど、こくりと小さく頷く。

 その反応にやっぱり……と私は納得していた。

 最近のきりちゃんは少し様子がおかしかった。具体的に言うと、先輩が元気になった時の快復パーティーから。

 どこか上の空と言うか、思い詰めていると言うか、とにかくそんな事が多かった。

 

「好きになったのって、いつからなの?」

「それが……よく分からないんデスよ。けどあの人がクリス先輩に告白したって聞いた時、胸がチクッて痛くなって……最初は自分でもなんでか分からなかったデスけど。けどそれ以来、あの人の事を考える事が多くなって、その度にもやもやしたり胸がチクッてなったり……好きって気づいたのは結構最近だったんデス」

「だったら気づいた時に告白すればよかったのに……」

「それはダメデス。あの人が好きな人はクリス先輩だから……」

「きりちゃん……」

 

 そんな事……と思わず言いたかった私だけど、口にできなかった。

 電車の中で先輩がきりちゃんをどう思っているか聞いた時、先輩は「妹みたいな感じ」……そう答えていた。きりちゃんは本心を隠していたから……気づけないのも仕方ないのかもしれないけど。

 けれど、もし……もしも、それでもきりちゃんが好きって言ってたなら。

 その時先輩は……やっぱり困ってしまったかも。だからきりちゃんは言わなかったんだ。

 

「そう言う調はあの人の事をどう思ってるんデスか?」

「私?」

 

 突然私に振られて思わず戸惑う。

 好きか嫌いかと聞かれたら私も先輩の事は好きだけど、それはきりちゃんの抱いてる「好き」とは違うものだ。

 先輩は私たちがリディアンに編入してから、響さんたちと一緒に色んな事を教えてくれたり、どこかに連れて行ってくれたり……今日の遊園地もすごく楽しくて、あっという間に楽しい時間が過ぎて。

 確かに先輩がクリス先輩に告白したって話を聞いた時は驚いたし、何故か寂しさのような物も感じたけど、私にとって先輩は兄……のようなイメージを抱いていたからだと思う。歳の近い異性と関わる事なんて先輩に会うまで無くて、異性を好きになると言う気持ちがまだよく分からないから。

 

「ちょっとだけ寂しい……かな」

「寂しい……デスか」

「うん。もちろん先輩たちが結ばれてほしいとは思ってるけど、なんだか急に遠くに行っちゃったような感じ」

「そうデスよね……急過ぎるんデス。クリス先輩に告白した事も、あたしが自分の気持ちに……気づくのも……っ」

 

 ポツリ、ポツリと呟いて、次第に涙声になっていく。

 俯いて泣くのを我慢しようとしているけれど、堪え切れずに溢れた大粒の涙がきりちゃんの頬を伝って零れ落ちていた。

 

「グスッ……初恋は、実らない……ッて、ほんと……デス……ッ」

「うん、そうだね。きりちゃんは頑張ったよ」

「うッ……うぅぅ……ッ」

「よしよし……えらいえらい」

 

 声を殺して泣いているきりちゃんを慰めるように頭を撫でる。

 本当は伝えたかったはずなのに、先輩たちのために何も言わずに身を引いたきりちゃんはよく我慢したよ。

 今のきりちゃんの気持ちの全てに共感できるわけじゃないけど、せめて傍に居てあげたい。

 

「うッ……グスッ……しらべぇ……!」

「うんうん、いっぱい泣いていいんだよ、きりちゃん。きりちゃんの気が晴れるまで傍に居てあげるから」

「あぁ……ッ! あァァ……ッ!」

「泣き止んだらきりちゃんの好きな物、いっぱい作ってあげるね」

 

 優しく言って聞かせてあげるていると、堪え切れなくなったきりちゃんは堰を切ったようにわんわん大声で泣き出した。

 今の私にできるのはこれくらいだけど……大好きなきりちゃんが哀しんでいるのを放ってはおけないから。

 こうしてきりちゃんが我慢してまで引いたんだから、先輩たちは上手く行ってほしいな……。そんな事を思いながら、私はきりちゃんが泣き止むまで頭を撫でていた。




いやー、ただ一言辛い。でもようやく腹括れたから最後を書いたけど、決めていた事とはいえ精神的に辛いわー(白目

ちなみに心理的に修羅場だったのが調ちゃんなのは間違いないです、ええ。

きりちゃんは結局告白しない選択をしましたけど、これが後々伏線になればいいな……とか何とか思ったり。

あ、シンフォギア関連の話するとAXZ終わってXVの放送が決定したり、XDUが配信したりetc

さて次回、我らが防人さんが女(意味深)になる回です。最初のプランから大幅に変更しちゃったけど、それもあのメモリアが悪いわけでつまり俺は悪くネェ!(魔法の言葉


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