オーバーロード《幻の42人目》 (名無し様)
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終わりと始まり
VMMO-RPG ユグドラシル
詳しい説明は省くが簡単に言えば現実に限りなく近いRPG世界で遊べるという革新的なゲーム。
当時は最先端を行くネットゲームで人気を博したが今では同じようなタイトルやシステムのゲームも増え、カーレースやシューティング等のよりリアルを追求したゲームへとユーザーも流れてしまった。
他にも更にシステムを追求した別タイトルのRPGも出てそちらに流れるものも多かった、言わば過疎化したサーバーの1つ、そして今日をもって、そのサーバーすらも消失するのだ。
「もう、そろそろかしら……。」
私は、そんな風につぶやきながら街中を歩く。
そう、ユグドラシルオンラインは本日をもってサービスを終了する。
「……結構、あっという間だったな。この12年間……。」
明日も仕事だ。だがそれが何だって言うんだ。この日のためた仕事を速く終わらせたんだ、静かにさせてほしいものだ。
しかし本当に人が減ったなと感じる。
フレンドリストを見れば分かるが、ほとんどが埋まっておらずログインしているのもほとんどいない。
「ん?モモンガさん?そう言えばあの人は結構頻繁に入ってログインしてたな…。」
確かあの人が所属していたのはアインズ・ウール・ゴウン。特殊なギルドで確か異形種のプレイヤーしか入ることができないギルド。
私も、昔はいろいろと出入りしていたけどなぁ。と、昔の思い出を思い出し少し懐かしいと感じた。
だがそのギルドのリーダーとは仲が良かった方だ、彼らの討伐で1500人が集まったが私はそれには参加しなかった。
むしろ、それを止めるように妨害したぐらいだな。それに対してプレイヤーは私に大量のモンスターを置いて行っちゃったからね。
ほとんどフレンドがいなくなってしまっているが彼がこのユグドラシルの最後に立ち会ってくれることはまるで自分の事の様にうれしい。
「あ。」
メールを一通送られていた。
『拝啓、クロノスさん。今はユグドラシルの最後。ちょっとこちらに来ませんか?』
そのメールを見て、嬉しくなった。ナザリックに入るのは約10年ぶりかな。そう考えながらメールを返信して。自分の側にスタンドを出現させた。
「Dirty Deeds Done Dirt Cheap」
そう呟き、片手に大きめの国旗のようなのを被った。すると、自分がいた街中の景色が一転して、あのナザリックにやって来た。
そうやって転移した先は、メンバー達の自室がある9階層。子供に見せたら十中八九泣かれるだろう外見に少し懐かしさがにじみ出てくすくす笑ってしまう。
「突然のメールに答えて、ありがとうございます。」
「いえいえ、私もこの最後の日にふさわしい場所を探していましてね。」
「…そうですか。」
彼は悲しんでいるのだろうか、程々の付き合いではあるのでなんとなく雰囲気で察する。
「そう悲観しないで、ここで得たことはきっと他でも役に立ちますよ。」
「…ほんとですか?」
「ほ、本当ですよ……。」
私も若干自信が無くなり歯切れの悪い返事を返す。それを見て今度はモモンガが笑い出す。ただカタカタという音なので慣れないと笑っているとは気づかないだろう。
「笑わないで下さい。」
「ふふ、いえいえ。相変わらずなようで」
「全く………。」
「ええ、それにしてもとても光栄ですね。女神様にそう言われるのは。」
「よして下さい。それはちょっとと昔の呼び名です。」
その場で、少しばかり昔話をしたりして笑いあった。
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最後は玉座の間で。
そのモモンガの願いに応じ、モモンガさんと私は歩いていた。モモンガの手には最後の時を迎えるためにギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が握られている。
その杖にふさわしいように、彼自身が身にまとっている装備も相応しいものになっていた。
私の方はといえば黒い神父服に白い手袋。首から十字架を掛けている。見た目は乏しいがどれも神器級のアイテムである。それは傍目から見れば、魔王と神父という風である。
ふたりは玉座の間にたどり着く。
そこはもしもそこまで到達された時、正々堂々真正面から侵入者を迎え撃とうというコンセプトで作られた場所だけあって、輪をかけて豪華な作りになっていた。
それぞれのギルドメンバーを模した旗が下がっている。そしてNPCの一人であり、守護者統括であるアルベドの姿もあった。
「ここには私も久しぶりに入ります。」
「扉といい、中身といい、改めて見るとすごい作り込みですね。」
私は懐かしそうに玉座の間を見渡す。こだわりを持って仲間たちが作り上げたその圧巻の光景に目を奪われてしまう。
無言で玉座につくモモンガさんの隣、アルベドとは反対側に立ち玉座から辺りを見渡す。
(本当に、よくできている………。)
途中、隣からなにやら聞こえたが聞かなかった事にした。
「ひれ伏せ」
モモンガがNPC に命令を下す。するとアルベドにセバス、6人のメイド達は臣下の礼をとる。
「モモンガさん……。」
「クロノスさん。最後くらい、格好つけないと。」
モモンガの骸骨顔を見た私は何だか少しだけ悲しそうな表情が見えた気がした。それに、私は自分の手をおもむろにモモンガへと手を差し出す。一瞬、驚いたモモンガだが直ぐに意図を理解し骨の手で握り返す。
「モモンガさん……。貴方と共に遊んだ日々を私は忘れません。」
「最後が一人じゃなくて本当に良かった。ありがとうクロノスさん」
時間は23:59:45を示していた。
もうすぐ終わるのだと思うと涙が出そうになった。たぶん、ユグドラシルから戻ったら泣いているだろう。私は直ぐに来るであろう感覚に身を委ねようとしていた。
そして、目を閉じまた現実に戻ろうとした…………。
プレイヤー名《クロノス:Chronus》
種族レベル
人間ーーー/
職業レベル
スタンド使いーーー15Lv
ワールドチャンピオンーーー15Lv
など
ユグドラシルで9人しか名乗ることができないという『ワールドチャンピオン』といわれる職業を持ちスタンド使いでは最強の存在。リアルでは、公務員を勤めている。
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