オーバーロードと元敵対者 (ニートレス)
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1話 前日
設定表でも作りますかね。
今まで何回挑んできただろう。PTの時もあった。
ギルドでも挑んだ。アライアンスを組んで数十人で突撃したこともあった。
1500人というふざけた大人数で挑んだこともあった。
それでもあいつらには勝てなかった。
8階層で全滅。苦々しい思い出だ。
それからも幾度となく挑んだ。
挑んで。挑んで。そして挑みまくった。
レベルを強化し、スキルを強化し、課金しまくって装備も集めた。
さらには有給を使って72時間連続でリスポーンアタックをかけ続けた。
死ねばレベルが下がる。
しかし、それを課金というブルジョアアタックでレベルを下げずに強制突撃。
24時間、普通の廃人ならいけるだろう。
48時間、廃人でも誰もが眠くなり始めるだろう。
72時間、このゲームで敵(ギルド)を倒したいんです!というアホみたいな理由で、有給使って不眠不休で勝つ為に挑んだのは俺ぐらいだろう。
俺のギルドも最初はアインズ・ウール・ゴウンの打倒を掲げていた。
勝てないのはわかっていたがみんながみんな楽しかったんだ。
だが、サービスも12年経過した今、一人、また一人とプレイヤーがユグドラシルから去っていく。
例にも漏れず俺らのギルドからも人が去り、引退していった。
そして最後に二人残った俺とギルドマスター、しかしマスターであるアイツも1か月程前に引退。
その際に俺にギルドをそのままくれたが、寂しかった。
「在籍だけあっても中身が誰も居らんギルドはギルドやないんよ・・・」
ギルドとは本来人と人が集まり、何かを一緒に行動する。
装備獲得を手伝ってもらったり、イベントクリアを手伝ってあげたり、素材集めをしながら他愛もない雑談やケンカをしたり。
そう、ギルドは一人じゃ意味が無いんだ。
こんな事を一人呟きながら突撃慣行をするための準備を行う。
そんな中で同じように挑んだ相手、最初こそ相手は強大なギルド。
それがお出迎え人数が合う度に減っていった。
その相手ギルドの名はランキング9位まで上り詰めた《アインズ・ウール。ゴウン》、今でこそランキングでは見る影もないが、
ランキングが落ちてもなお実力はトップクラスのPKKを主体とした悪役ギルドである。
お出迎えの人数が減る事で勝機も見えたが、同時に寂しさもあった。
お前らもやっぱりか、でも俺はたっち・みー、ウルベルト・ペロロンチーノなどお前ら全員に勝ちたかったんだと・・・
ここ一か月は俺一人、アインズ・ウール・ゴウンも一人という悲しい戦いになっていた。
最初こそ雑魚で認識すらしてもらえなかった俺だが、強化したおかげかここ1ヵ月の成果か。名前を憶えてくれた。
ロールプレイじゃなく普通に話しかけてくれたのがほんのさっき前だ。
「お互いもう一人になってしまいましたね。ザンギエフさん。」
そういうとモニター越しでもわかるくらい悲しそうなモモンガさんの声が聞こえてくる。
勿論目の前に立っているガイコツに紫色の全身成金趣味的なローブを着せたキャラクターを操作しているプレイヤーの声だ。
「そやね。てか名前覚えてくれてはったんすか?まぁ、今やから自分もギルドマスターになったけど、本当はマスターなんかじゃやなくてもっと楽しみたかったんすよね。
モモンガさんも敵なのにお付き合いしてくれて本当に感謝してますわ。」
これは本当の気持ちだ。俺に最後まで付き合ってくれてるモモンガさんには感謝している。
既にギルド拠点だけ残っていて、プレイヤーがマスター含めて丸ごと居なくなってしまった場所がこの世界には大量にあった。
もしモモンガさんがいなければNPCに突撃しているただの馬鹿になってしまうし、プレイヤーを倒せないのは同じプレイヤーとして何の為にアタックしているかわからなくなる。
それに無視してNPCに相手をさせておけばマスター自らが出てくる必要さえないのだ。
「名前はさすがに毎日来ていたら覚えますよ。それに、こちらこそ誰も来ない場所より攻めて来てくれる方がいるだけでも多少のやりがいはあります。と言っても仲間と作ったこの場所で負けるつもりはありませんけどね。」
死体になった俺に向かってモモンガさんは言うべきところだけはハッキリ言った。
うう~、勝ちてぇわこのハゲに!
「モモンガさん。今日も負けましたけど、明日はホンマの最後なんで本当に全力で来ますわ。と言っても一人やけどね。それに入口守ってるNPC強くてゴッツきついんやけど・・・」
敵の本拠点よろしくで、最初の場所でガーディアン+ラスボス相手とか本当にキツイ!
普通最奥部でラスボスは待つでしょ!なんでいらっしゃいませ~って魔王が出てくんだよ!と思いながらも、
モモンガさんは少し考えるような間をおいてピコん!と閃いたというモーションエフェクトを利用した後にゆっくりと話し出した。
「ならザンギエフさん。こういうのはどうでしょう。最後くらい玉座の間で直接対決をしますか?」
最初は意味がわからなかった。え?なに?なんて言ったんすかこのガイコツ野郎。
俺が理解してなさそうな間をあけると、モモンガさんが続けてこう言った。
「こちらも最後のロールプレイですし、同じユグドラシルのプレイヤーでお互い最後の敵には相応しいかと。ただ、無理にとは言いませんが。」
そう言われ、意味を理解した瞬間に本来喜ぶべき所で迷ってしまったのも事実だった。これは実力で突破して魔王を倒すのが本来の趣旨なはず。
しかし、自分でPOPする雑魚モンスターを倒してたらキリがないし、何といっても全守護者の対策なんぞ、そもそも一人では不可能に近い状態だった。
そもそもエルフである俺がガチンコの装備をして守護者と1VS1は何体倒せても、守護者として同時自動POPしてくる眷属を出されると手がいっぱいいっぱいの状態になる。
ヘイトが全て俺だけとかは本来PTでは問題無い。元は盾役前衛なんだから。しかし、さすがに自己回復しながら戦うとなれば別だ。
エルフの持つ回復能力でも追い付かないし、回復に専念すると倒せないしで悪循環に陥る。
そんな考えを逡巡させた後、ここは仲間の夢だった打倒!アインズ・ウール・ゴウン!を実行できるチャンスが来たと割り切る。
「いいんすか!でも・・・ん~・・・よっしゃ!ほなお言葉に甘えて時間ギリギリに来ます!!どっちが散るか!それとも時間切れでお互い切断されるか、これでいきませんか?」
「かまいませんけど、仲間達に最後の日なので一通り声をかけています。もしみんなが来たら少し時間が押すかもしれないですよ?それに最悪は戦えないかもしれませんがいいですか?」
「かまわんすよ。こっちは声かけてもらった側なんで待ちます。それに戦えなかったらそれはそれで仕方ないですし。敵より仲間が大事なんはわかりますから。もし戦えたら時間ギリのが全力で盛り上がれる思いますし。」
「わかりました。それでは明日守護者を停止させておきますので、直接玉座の間までお越しください。」
「うい!!それじゃモモンガさん!こっちも最後くらい仲間達の夢かけて頑張りますわ~。明日はよろしくっす。」
死体になった俺はホームまで転移してログアウトを行った。
勝てる見込みなんかワールドアイテム持ってるこのモモンガさんに対して、チャンスであっても勝ち目はほぼないんだけどね。
それでもお付き合いしてくれるモモンガさんの優しさはやっぱり好きだな~。
いつの間にか倒すってより挨拶がてら生きてるか確認の為に攻撃しに来ました的なノリになってるし。
仕事をしているため、投稿は不定期となります。
気長にお待ちいただけましたら幸いです。
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2話 サービス停止最終日
しかも結構な時間を使った。
更新まで時間をいただきますが、何卒ご容赦くださいませ。
最終日である23:55。強制ログアウト5分前に玉座の間に到着した。
「さて、最後の勝負やな。できるかわからんけど。ほんまにこの世界、ありがとうな。」
誰に言うわけでもない。誰に聞かせるわけでもない。そんな小さな独り言を発して左手で腰に装備している剣の柄を握る。
まだモモンガさんは来ていない。多分仲間さんが来て話してるんだろうと想像ができる。
それに比べ俺は仲間はもう居ない。というか元ギルメンだった俺がギルマスであるとか前マスターが引退した日より前の人とか知らないだろうしね。
想像したらちょっと羨ましい。
「待たせてしまい申し訳なかったな。」
突如自分が入ってきた玉座の間の入り口から太く低い声が聞こえた。
振り返るとそこにはモモンガさんが居た。よく見ると後ろには美人という言葉がふさわしいNPCを筆頭に、執事風の男やメイド達を従えて登場したのだ。
何の為にNPCを連れて来たのかは理解できないが、あのNPC俺欲しいわ!美人とか俺の妄想が捗る!
ただし、もし戦闘に加わられると俺は多分なんもできずにフルボッコゲームオーバーだね。
そんな事はモモンガさんはしないと思ってるけど。いや、信じてる!
とりあえずNPCはスルーしてロールプレイの再開としよう。
「そうでもない。最後というこの時に貴様という宿敵と戦える事、誇りにさえ思う。この剣に、消えていった仲間達の思い、モモンガを討つ事を命をかけて誓おう。」
最後のロールプレイだ。恥ずかしいとかそんなの今更!じゃなく全力でタイマン勝負なんだ。時間もおしている事だし、温存お互いせずの初っ端から大技乱舞しかないな。
「ふん。私が守護者達を移動させてやったことに感謝してほしいものだ。それに私の仲間とはいかないが、誰も観客が居ないのでは寂しかろう。
その為にいくらか観客という雰囲気でも楽しんでもらおうと思って連れてきたんだが喜んでもらえたかな?勿論手出しするような事はさせない。そこは安心したまえ。」
おお、さすがモモンガさん!さすモモっすわ!めっちゃ似合ってるわ~。
まぁ、でも先でもあるように時間はもうない。その為提案をしてみよう。
「嬉しい配慮感謝する。貴様はまがりなりにもこの組織のトップだと理解しているし、そんな小細工などしてこないと奴だと信じている。
しかしながら時間も押している事だし、お互い遠慮は無しの全力といかないか?」
「ふむ。それもそうだな。煮え切らない戦いではお互い悔いも残ろう。そんな事はお互い望まない結果を招きかねないのでよければ少々時間をくれないか?
ザンギエフが良ければ全力の為考えつく使えるバフをつぎ込もうと思っているのだが?」
「かまわんさ。宿敵であるモモンガの本気と戦えるなら戦士である俺としては光栄さ。その間に俺も準備させてもらう。」
「そうか。それでは準備させてもらおう。」
そう言うとモモンガは呪文を唱え始める。
<飛行><魔法詠唱者の祝福><無限障壁><魔法からの守り・神聖><生命の精髄><上位全能力強化><自由><虚偽情報・生命>――――――――――
え?魔法多くね?想像してたより多いんやけど、しかもまだ終わりそうにないんやけど!これどうなん!?
そんな俺の考えをよそにモモンガは詠唱を続ける。
<看破><超常直感><上位抵抗力強化><混沌の外衣><不屈><感知増幅><上位幸運><魔法増幅><竜の力><上位硬化>――――――――――
うん、時間押してるって言ったよね俺?本気とは言ったけど、時間考えてんの?このハゲ・・・
<天界の気><吸収><抵抗突破力上昇><上位魔法盾><魔力の精髄><魔法三重化・爆撃地雷><魔法三重化・上位魔法封印><魔法三重最強位段上昇化・魔法の矢>―――――――――
何か攻撃魔法も準備してね?これ?マキシマイズトリプレットマジックとか聞こえたんやけど・・・
これ大丈夫やんね?ある程度自信は持ってるけど、初撃で終わるパターンとかならマジ笑えるんやけど。そもそもモモンガさん何個魔法唱えたんだ?
「再度待たせてすまなかったな。本来は全力を出すべきなのだろうが、申し訳ないが仲間との思い出である場所。
流石にナザリックを必要以上に壊したくないのでね。これでこちらの最後だ。<根源の火精霊召喚>」
モモンガさんが右手に掲げた金色の杖、その先端には虹のように7色の綺麗な魔法が込められたような宝石が埋められている。赤い宝石から見事というような白い輝きが周囲に放たれる。
その瞬間、ゴウッ―――――
空気が揺れ、視界が歪み、灼熱とも感じられる濃く赤い炎が舞い上がり、いかつい牛の顔を持った上半身全裸の精霊が召喚された。
え?これ全力じゃないの?手抜きなの?何あの全裸?いや、半裸?てかあんた達ギルドぶっ壊れてると思ってたけど、やっぱぶっ壊れで正解でしたやん!
と内心自分でツッコミをいれながら俺も答える。
「あ、あぁ・・・俺の方も準備は完了だ。」
ちょっとびっくりし、声を発しようとしてもうまいこと言葉が出てこなかった。
だってさ、召喚ってわかるよ!でもさレベル80ってなに?
こっちレベル100で一人やで!
相手も同じレベル100よね?しかも強化スゲー状態、それにレベル80の精霊召喚ってレベル100よりはマシだけど、十分ウザイくらいには役に立つでしょう。
しかも赤い宝石からってことは、残り6体召喚できる可能性があるって事やんね?そうやんね?
はぁ~・・・頭いた~・・・
まぁこっちも
<上位全能力強化><看破><上位抵抗力強化><疾風怒涛><精霊の癒し><悪魔への断罪><最後の根性><死者への鎮魂歌><最高位階・神域><会心必中><魔力浄化吸収>―――――――――
その他諸々魔法、薬物、食物ドーピングも含めて行ってるけどね。
とりあえず1体は会心必中で速攻で火の精霊ぶっ倒すしかないな。
他に召喚するタイプなら詰みだわ。モモンガさんからの攻撃はある程度受けて一気に回復してと・・・そんなシミュレーションをしながら硬貨を取り出す。
「では、残り時間も1分程なので、俺がこのユグドラシル硬貨を投げて、地面に落ちたら開始ということで問題ないか?」
「ああ、それで構わないとも。それでは最後の殺し合いを始めよう。」
了解したというモモンガさんの声と共に空中に硬貨を投げる。
ほんの一時が長く感じた、今までを思い出せる程に・・・
チンッ―――――――――甲高い硬貨の着音が響くと同時に両者は動き出す。
「サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル!目の前のザンギエフを攻撃せよ!」
「そうはさせん!食らえ!<魔力浄化吸収>からの~<解放・会心必中>」
命令を受けた精霊はその灼熱の質量と共に右手を大きく振り上げザンギエフめがけて叩きつけようとする。
まるで某マンガの、我が生涯に一片の悔い無し!状態とも見える行為から振り下ろされたパンチは綺麗にザンギエフの疾風怒涛によって躱される。
これをまともに受けてもあまりダメージはないがユグドラシルの仕様上、炎や闇など視界が見えなくなるのだ。
万が一燃焼効果でもつけられれば殴られる威力よりも遥かに脅威だろう。
その為、出し惜しみは無しで速攻での処理をする事にした。
攻撃対象者が直進猛ダッシュからのいきなりの機動変化に対応しきれないのか、火の精霊は戸惑ってるように見えた。
いくらレベルが高くてもプレイヤーではない知能の持ち主が相手なら、勝つのは容易。
答えは簡単だ、<上位全能力強化>によって基本ステータスを強化し遅めの初速から一段速度を上げる、殴られる瞬間に<解放・疾風怒涛>により肉体のスピード能力と筋力と回避を上昇させて、瞬間的二回目の加速を行う
そのまま精霊の後ろに回り込んで一閃という流れである。
ぐぉおおおおおお!という叫び声と共に精霊が霧散消滅する。
<解放・会心必中>―――――――――
7階位相当であるこのスキルは文字通り、会心をストックして攻撃の際に任意のタイミングで解放して100%クリティカルヒット攻撃、さらに言えばこれは他のスキルや魔法にこの効果を付与できる。
今回はこれを4階位相当である<魔力浄化吸収>に効果を付与して魔力の塊である精霊から、体力ではない源(MP)を断ち切ったのだ。
精霊系統は体力HPとは別に、魔力であるMPが無くなっても存在ができないというのがここユグドラシルでの仕様だ。
この相手からの魔力は自分のMPへと1/100が転化されるようになっている。正直対ボス用にしか使えない難儀な仕様ではあるのだが。
このおかげでMPが回復したが、そんなものは今はどうでもいい。
本当に時間が押しているのだ。あとどれくらいなど確認している時間はないのは確かだ。
精霊が霧散したのを視界の端に捉えながらモモンガさんめがけてダッシュ!
モモンガさんも先程仕掛けたであろう魔法を起動しようとしている。
こちらのダメージも今はどうでもいい!時間的に一撃でもいい!最後なんだ!ダメージを与えたい!
これでモモンガさんともお別れだ。
「さよならです!モモンガさん!今までありがとうございましたぁあああああああああ!!!!」
その瞬間、視界に執事風の男が立ち塞がるのが見えて、同時に悶絶するような痛みが腹部から込みあがってくるのを感じたのを最後に俺の意識はそこで途絶えた。
ナザリックが大好きすぎる。
本当にナザリックの敵とか個人的に許せないっす!
ということで、頑張っていきます。
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3話 異世界転移
なんか終始雑談に近いかな。
受け入れられないぐらい下種い主人公になってきておりますので、お気を付けください。
次回動かします。
「んっ・・・う~ん・・・」
「おはようございます。ザンギエフさん。」
「ん~、おはよ~。」
なんだろう?俺は寝ていたのか?
てか、ザンギエフってなんだ?オフ会だったっけかこれ?
重い瞼を開くのが億劫で、ふかふかのベッドの上で適当に返事をしながら寝返りを打つ。
「おはようございます。ゆっくり休まれましたでしょうか?」
綺麗な透き通る静かな女性の声だ。
でもなんだ?女の子って、俺は女の子は呼んでないぞ。
卑猥なサービスも頼んでないし、酔っぱらって起きたら裸で女の子が寝てる事はあったが、それでも酒を飲んだ記憶はない。
そして目を閉じたまま考える。
えっと、俺ナンパなんかしたっけ?記憶にないぞ。そもそも何でゲームの名前で呼ばれてる?オフ会の女の子をお持ち帰りした記憶もないし、
そもそもオフ会なんかかなりの期間で開催してないぞ。
背筋にゾクっとしたものが流れたような気がした。
必死に昨日の出来事を思い出そうとする。
昨日は確かあのハゲ(モモンガさん)と最後の戦いをして、時間が迫っていたため相打ち覚悟の特攻を仕掛けたんだっけか?
んで、最後は確か執事風の白髭が前に現れて・・・そこから記憶が・・・
(よし!もう一度寝返りを打ったふりして薄く目を開けて確認してみよう。)
「ん~、んんんっ!?自分誰やねん!?」
目の前にいる人物は
黒髪のアップスタイルに纏めた綺麗な艶のある髪。かわいいふりふりが付いた帽子なのかヘアバンドなのか名前がよくわからないような物を頭に乗せている。
眼鏡をかけ整った顔。首の付けている青のチョーカーに、豊満な胸元には青いリボンを付けたメイド服。手元には違和感満載の緑のガントレット。
全体的にスタイル抜群である世の中の男子であれば飛びつくであろう容姿を持ったメイドさんに思わず素が出てしまった。
「失礼いたしました。僕・・・いえ、私はこのナザリック大墳墓、アインズ・ウール・ゴウン至高の41人に仕えるプレアデスの一人、ユリ・アルファと申します。以後お見知りおきを。」
クイっと眼鏡がズレたのか、元の位置に戻してそう言うと
ユリというメイドさんはこちらの発言を待っているような雰囲気を醸し出す。
「えっと、すんません。ザンギエフと言います。自分エルフやってます。ここはホテヘルかなんかですかね?お酒を飲んだ記憶は無いんですけど。」
ベットから出るのも忘れて上半身だけ起こしてふざけたような返事を返してしまった。
俺はこんなメイド服を着せるとかいうプレイはしない!したとしてもサンタクロースや亀甲縛り程度の軽いおふざけです!
それになんだ?エルフやってますってどんなプレイ?
そんな俺の軽いパニックをよそにユリという女性は答える。
「ホテヘル?というものは理解できませんが、先程申しましたように、ナザリック大墳墓にて至高の41名に仕えるユリと申します。
先日ザンギエフさんはセバス様の攻撃により失神されておりましたので、その後モモンガ様の指示に伴いこちらまで運んでまいりました。」
何故か苛立ちを抑えたような雰囲気を漂わせながらも、言うべきことは言ったという感じに突き放された。
「へ~、モモンガさんの指示でか~。ってモモンガってユグドラシルのモモンガさん!?アインズ・ウール・ゴウンって言ったよな?あの人おんの?それにセバスって誰?てか攻撃って何?意味わからんねんけど。」
うん、はっきり言って意味がわからん。
意味がわからんからとりあえず大事なことを聞こう。
「すいません。先程の内容は忘れていただいてかまいませんので、モモンガさんに会えるなら会わせていただけませんでしょうか。」
よし、聞けた!と思った矢先、目の前の女性からありえない程鋭い眼光が飛ばされる。
「モモンガ様から目が覚めたら会わせるように言伝をいただいておりますのでご案内いたします。どうぞこちらへ。」
ユリという女性は、女性特有の有無も言わせない雰囲気にてそう告げる。
くるりと姿勢の良いまま振り返ると、まるで着いてこいと言わんばかりに足早に歩きだした。
俺は急ぎベッドからおりてユリに着いていく。
しばらく歩かされると自分の身長の2倍くらいありそうな大きな観音開きの扉の前でユリは立ち止まった。
取っ手には金色、本当の金が使われているような重厚感があり、その金の部分には細々とした自分には理解の及ばない細工が施されている。
なんか凄いということだけしかわからない。
要するに空気に飲まれてしまったのだ。
「モモンガ様。ユリ・アルファ、只今到着いたしました。」
発言を行って数拍程度の間をおいた後に中から声が聞こえた。
「入れ。」
その言葉と同時に目の前の扉が開かれる。
扉が開くと中からモモンガさんがこちらに向かって、いつも通りのローブを身に纏いイスに腰かけていた。
そのまま中に招かれてイスに座るように促される。
「失礼します。モモンガさん、これはなんですか?全然意味わからんのですけど。」
そう、何度も言うが意味がわからない。
そもそも何でモモンガさんもユグドラシルのキャラの外観?なんでメイド?そもそも扉もそうだったけどこの豪華な部屋なに?
濁流のように浴びせたい質問が次々と沸き起こるが抑え込む。
「あ~、これはですね~、の前にザンギエフさん。自分の顔とか確認しました?」
ん?そういえば驚きとパニックで言われるがまま、なすがままで確認してない。
「やっぱり確認されてませんでしたか。」
ごそごそとアイテムボックスに手を突っ込むモモンガさん。
その光景を見ていて違和感を覚える。
あれ?そういえばアインズ・ウール・ゴウンってモモンガさん残して他は引退されたんじゃなかったっけ?
何で女の子が居たの?引退したと言ってたお仲間さん?それにNPCとか言ってたけど、あの白髭ってもしかしてプレイヤー!?
というかめっちゃ痛かったんやけど。
なんかイライラしてきたぁ~!!
そう考えていたらモモンガさんがアイテムボックスから鏡を取り出して渡してきた。
まるで自分の顔を見ろという風に。
しかし鏡を受け取り、あえて見ないようして告げる。
「モモンガさん。一ついいですか?あの執事風のプレイヤー、NPCじゃなかったから攻撃に参加させたとか言わんでしょうね。めっちゃ痛かったんすよ。内容次第じゃここで戦闘開始なん理解してはるんすか?」
沈黙が流れるが、その沈黙の中でガキンッ!っと金属音が鳴る。
いつの間にか扉の横に立っていたメイドプレイヤーがガントレットを鳴らして俺の意識をメイド自身に向けたのだ。
そしてメイドが戦闘の構えを取る。それをモモンガさんが手で制して話し出した。
「わかる範囲で説明するのでとりあえず鏡見てください。」
「ん~、今日も俺はイケメンすな~。エルフのイケメン!女の子食える!さいこおおおお!」
・・・モモンガさんは黙っている。
「ん?どしたんすか?エルフやってるんすからエルフなんは当たり前やと思うんすけど。てか冗談言ったんすからツッコんでくれたら嬉しかったっす。」
・・・モモンガさんは黙っている。
「ザンギエフさん。至高の御身の方の前でそれ以上の不敬は万死に値します。というよりは今ここで殺して差し上げましょう。」
ユリが今にも殴りかかってきそうな程の威圧に少し冗談が過ぎたかと改める。
「で、ホンマになんかあったんすか?モモンガさんのお友達もなんか気分害してしまったみたいですけど、こっちもいきなり攻撃されて約束ちゃうやんってなってるんすよ。」
後ろでユリがお友達などではありませんとかなんとか言っているが、俺からしたら正直モモンガさんと有名所しか知らないのでどうでもいい。
しかし、モモンガさんがが少し変なので真面目に返す。
「黙ってたらわかりませんって。男なら金玉ついとんでしょ?ハッキリ言うてくださいよ。」
ビクっと一瞬モモンガさんが動いたが、本当に一瞬だったので、多分ユリというお友達は気付いてない。
モモンガさんが溜息をするような仕草を取った後に話し始めた。
「ザンギエフさん。ここはユグドラシルとは違う世界かもしれません。
理解されていると思いますが、先日でユグドラシルのサービスは停止という告知があったのはご存知ですよね?」
あ、本当に忘れてたわ。確かそうだった。俺は思い出して頷く。
「で、私のギルドメンバーは皆別の世界に旅立って戦っています。それはザンギエフさんのギルドメンバーも同じですよね?」
いや、現実という理不尽な暴力に必死に抗っているけど、戦ってはないな。しかし何で言い回しがロールプレイを意識したような言い回しなんだろう?疑問に思うが再度頷く。
「更にゲームで痛みは伴わないというのは常識ですよね?ということはです。私は一人であり、ザンギエフさんも一人です。痛みも感じないはずです。」
え?どゆこと?唐突すぎてモモンガさんの会話を遮って質問を浴びせる。
「モモンガさん。おかしいでしょ。だってサービス停止はわかりますけど、プレイヤーってそこの女の子もメイドロールプレイしてるプレイヤーでしょ?」
モモンガさんは首を横に振って否定する。
「ザンギエフさん。ユリはプレイヤーではありません。ちなみにセバスに攻撃指示も出していません。二人とも元NPCです。セバス本人に聞いてみましたが、私の身の危険に対して不敬を承知の上で庇ったようです。それにコンソール出ますか?」
質問に答える為にコンソールを出そうとするが出ない。なんか操作間違ったっけ?
「ああ、あの白髭はセバスって言うんですね。まぁ、指示以外の行動はバグには付き物なんで仕方ないっすね。ちなみにコンソールはでないっす。これが問題ですか?GMや運営に問い合わせてみては?
昨日で停止なのに遊べてるって事はどっかのブルジョアさんが課金するから延長しろとか言ったんやないですか?それで予定外でバグ抱えたとか?」
実際に月額2000万というバカみたいな金をあるゲームにつぎ込む奴がいた。
というかそれの運営の関係だったので、そいつがゲームから消えない限り、毎月2000万の売り上げが見込めたので、運営はそいつがなにか言って来れば全部対応した。
他のユーザーからすれば最悪だっただろうが。
まぁ、そんな事はさておいて、ブルジョアアタックというのは運営にとってバカにできない金額をつぎ込めばサービスを延長できるってのは事実だ。
それに対してモモンガさんは再度首を横に振る。
「既にGMやメッセージは飛ばそうとしましたが、繋がりません。それに昔はどうかわかりませんが、今の現行法ではそのような事をできないように規制がかかっています。そもそも痛みなんて心臓が弱い人や子供などを考慮すると許されるはずがないでしょう。なのでその線は限りなく薄いと思われます。それにもし延長しているならGMコールもできますし、任意でのログアウトもできるはずです。」
あ~、言われてみればそうだな。コンソールが出ないってことはログアウトもできんってことか。痛みのパッチとかそもそも理解不能だわ。
まぁ24h常時起動のログイン状態でGMから警告は来てもGMに連絡することは今までなかったしな。
俺には多少痛みがあっても面白いし関係ないや。
「確かに変ですね~。でも不具合なら結構おきるので問題ないと思うっすよ?」
正直どうでもいいから適当に合わせて流した。
するとモモンガさんが手を挙げて宗教の教祖様よろしくの体でユリを呼んだ。
「ユリ。こちらに来い。」
「はっ。御身の前に。」
おお、見事な傅きですね。無駄に洗練された無駄のない動きとはこんなものかと感心して見惚れてしまう。
「私は誰だ?」
「アインズ・ウール・ゴウンを纏められ、全ての至高のお方の頂点に立つお方、モモンガ様です。」
うわ~、このNPC濃いキャラしとんね~。まぁキャラは大事よね。覚えやすいし。
「わかりましたか?口が動くんですよ。それに脈のある生物もいた。つまりゲームでの処理で考えると、ありえない負荷や現在の技術では、見えないとこにかけるのはどう考えても不可能なんです。」
「確かに。痛みは個人的にどうでもいいんですが、こんな自立思考型AIプログラムと表情、感情機能搭載とかいう技術導入した場合、廃人スペックでもパンクするかカクカクでシャレにならんですね。ということは、本当に生きている?更に言えば俺の身体どこ?」
「残念ですが、それは私にもわかりません。」
モモンガさんも自分の身体があるのに気を使わせてしまった。申し訳ない。
「ん~、身体は家にあるだろし、いけんじゃないっすか?あっちの世界の時間軸とかも気になりますがファンタジーについて深く考えてもしゃあないっす。
それよりも・・・つまり・・・異世界・・・イケメンきた~!!!フツメンからレベルアップ!しかも生きてるってことはモモンガさん!可愛い女の子ナンパし放題っす!ヤリたい放題っす!YSPですよ!YSP!」
「軽っ!!帰りたくないんですか?」
モモンガさんが心配そうに声をかけてくれるが、自分としてはテンションが上がって正直今はどうでもいい。
なぜなら、ファンタジー世界の女の子ってどんなプレイなん?と頭の中身は煩悩全開ですから!!
その興奮収まらずモモンガさんに悪ノリで耳元で囁く。
「YSPわかります?やり捨てポイって略語っすよ!知ってました?しかも課金しまくったのとRMTでユグドラシル世界の金と装備はめっちゃ溜まってるし!」
モモンガさんはあっけにとられて口元がパカッという感じで開いていた。
テンションが尚上昇中の俺は何も考えずに発言してしまう。
「人生一回ですよ!それが二回で更に転生したらイケメン金持ち最強でしたって夢もいいんじゃね?って思います!向こうでも仕事も全力でさっさと済ませて、金で解決できるのは解決して、女の子とも遊びたい男の性も合わせると全部やる!!正直向こうもこっちも面白くて欲を叶えて面白いなら何でもありっす。小さい事気にしてたら人生きついだけっすよ!」
モモンガさんが俺は男の大事なものを失ったのにとかいう声が聞こえたような気がしたが、はっきり聞き取れなかった。
なんか物凄いバカが誕生してしまったような気がするのは気のせいでしょうか。
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