ハメっこ動物☆ハメ太郎! (Rohino)
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ニンゲンさんがやってきた!

ハメ太郎の二次創作です。



ここは愛と神秘の国、ハメランド。

色とりどりのたくさんな妖精たちが、それはもう幸せに暮らしている世界でした。

何事もなく、ただ平穏に、楽しくお気楽に。

毎日がバラ色の、まさに地上の楽園でした。

でも、そんなある日――。

 

ハメガミ「というわけで、明日からこの世界にニンゲンがやってきますです! よろしくねっ!」

 

ハメランドは、そのハメガミさまの一言で、大騒ぎになりました。

 

ハメ太郎「聞いたハメ、ハメ美。人間、だってハメ。そんなの絵本の中でしか読んだことないハメ。一体ぜんたい、どうしたらいいハメ! ハメガミは何を考えてるハメ!」

ハメ美「ハメ太郎くん、そんなにあわてちゃだめミィ。きっとハメガミさまには深い深ーい考えがあって、ニンゲンさんたちをこの世界に招きいれるミィ」

ハメ太郎「そんなこと言われても……」

ハメ美「きっとニンゲンさんたちはいい人ばっかりミィ。大丈夫ミィ」

ハメ太郎「そうかなぁハメ……」

 

きーんこーんかーんこーん……。こーんきーんかーんこーん……。

 

そして、遠くの立派なお城から、鐘の音が響きました。

この音色は、そう、人間たちがやってくる合図です!

ハメランドのみなが城門の前に集まって、

立派な飾りと立派な音楽隊と立派なお食事を用意していきます。

 

ハメ美「ほらハメ太郎くん、門が開くミィ、ニンゲンさんたちが来るミィ!」

 

ギィィィ……

 

そうして、ついに、とうとう、結局、

ハメランドの門は、人間さんたちへと解放されたのです。

 



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ハーメリア、爆誕!!!!

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ギィィィ………………。

 

城門が開く、重苦しい音。

不吉な予兆のような、あからさまな響き。

不穏なきしみ、不安な唸り。

悪と不逞の箱が開かれる、最後の断末魔。

 

数百年の長きに渡り、硬く静かに閉ざしてきたハメランドの城門。

何人をも寄せ付けず、何人をも拒んだ、鉄壁の城門。

しかし、今ここに、ハメガミの不自然な決断により、ついにハメランドの門は開かれたのだった……。

 

ハメ美「ほらハメ太郎くん、門が開くミィ、ニンゲンさんたちが来るミィ!」

ハメ太郎「不安ハメ、怖いハメ、涙が出るハメ!! ハメハメハメ!!!」

ハメ美「クスクス! ほらぁハメ太郎くん、そんなに泣いてちゃニンゲンさんたちに笑われるミィ!」

ハメ太郎「でも……」

ハメ美「ほらっ、門が開くミィ……ッ!!!」

 

彼ら妖精たちが次の瞬間に見たのは、城門のわずかなスキマから盛大に漏れ出す、ニンゲンさんたちの真っ黒な怒涛だった。

 

人間A「ヒャッハー!!!!!! とりあえず消毒だぜぇ!!!!」

人間B「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッッッッッッッ!!!!!!」

人間C「ここが探し求めた新天地ッ!!! オレ様の領土!!!!! オレ様がこの世の神になるッ!!!!!!!」

人間D「ワルイ仔いねがぁっ!! ワルイ!仔!!いねがぁっっっっ!!!」

人間E「とりあえずっ! ぶっつぶせっっ!! 悪はどこにいるんだっ!! 俺が、全員、ぶっ殺してやるぜ!! なんつったって英雄だからな!!」

人間F「ハメ妖精と聞きました。ハメ妖精とはなんですか? もしかして危険な、ひょっとすると性的な害悪ではないですか? それならばしょうがないですね、私、スキルランクSSS+相当の能力をもつこのわたくしが、この悪の中枢を瞬くまに滅ぼして上げましょう、それが世界平和とこの世の平穏のためっ、殺戮を重ねる小汚い悪魔を皆殺しにせねばなりませんっっっ!! それがっ、わたしのっ、天命!!!! 女神さまから与えられた真の目的ッ!! わたしはっ! 選ばれしっ!! 勇者ッッッッッッッッッ!」

……

人間Z「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!! 皆殺しだッ! とりあえず拷問にかけろ! 後先は考えるなッ! こんなところにひそんでいる奴らっ、何を考えてるか、そんなものは分からないっ! うっていいのは打たれた注射だけだッ!! 注射だっ! クスリだっ! はやくクスリだせっ!! ク☆ス☆リ!!!!」

 

ニンゲンさんたちは、凶暴だった。

そして、決壊した海のように、人間の波が彼ら妖精を瞬く間に呑み込んでいった。

 

妖精1 プチッ

妖精2 グチャ

妖精3 ベチャッ

妖精4 マピョーーーーーーーーーーン

妖精5 ペチャッ

妖精6 パチャッ

妖精7 ペチッ

妖精8 ボカッ

妖精9 「たすけてッ、ハメたーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」

 

用意された豪華な飾利も豪華な食事も豪華なお迎えも、とりあえず豪華な全てが、一瞬でわけのわからない、グチャグチャしたゴミへと変化してしまった。そして、次々に、妖精たちの家に火がつけられ、あたり一面は瞬く間に煙と炎が充満する地獄となった。

 

ハメ太郎がハメ美を見つけたのは、ゴミ箱のウラの茂みだった。轢かれたぬいぐるみだった。

 

ハメ太郎「ぐすん、ハメ美……」

ハメ美「ハメ、たろうくん……やっぱりわたし、間違ってたミィ……」

ハメ太郎「しゃべるなハメッ! 今、今手当するハメッッッ!」

ハメ美「いいミィ、ハメたろうくん……わたしはもうダメミィ……」

ハメ太郎「そんな、ハメ美…… グスッ……グスッ……」

ハメ美「泣かないでミィ……希望は……希望は……まだ……ある……ミィ」

ハメ太郎「ぐすん、希望???」

ハメ美「でんせつ……の……せんし…… ハーメリア……ミィ……」

ハメ太郎「ハーメリア???」

ハメ美「ハメたろうくん……」

ハメ太郎「何ハメ……」

ハメ美「あなたと……いられて……ほん、とう、に……」

ハメ太郎「ハメ美!?」

ハメ美「……」

ハメ太郎「ハメ美、ハメ美っ、ハメ美っ!!!!!」

 

そこに唐突に、巨大な影が現れた。

 

???「あなたたち、大丈夫?!!」

ハメ太郎「誰ハメッ!!!」

???「わたし、人間よ」

ハメ太郎「ニン……ゲン……」

 

 

 

 

〈次回予告〉

破壊され、燃え盛るハメランド。

そこに平穏は再び訪れるのか。

ハメ太郎の決意とは。

そして、ハメ太郎の前に現れた謎の美少女とは。

次回、「変身! 伝説の戦士、ハーメリア!!!」。

あなたといっしょにハメハメしましょ!

 



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変身! 伝説の戦士、ハーメリア!!!

ハメ太郎「ハメ美、ハメ美っ、ハメ美っ!!!!!」

 

ハメ美は、ハメ太郎の腕の中で息絶えた。

ニンゲンさんたちのとてもひどいことで、死んでしまった。

いろいろと考えることがあるのだろうけど、

今はもう、悲しいことしか思いつかなかった。

 

ハメ太郎「うわあわああぁぁぁ~~~~ん!!!」

 

そこに唐突に、巨大な影が現れた。

 

???「あなたたち、大丈夫?!!」

ハメ太郎「誰ハメッ!!!」

???「わたし、成美」

ハメ太郎「ニン……ゲン……」

なるみ「わたし、二之瀬成美。……その子……死んじゃったの?」

ハメ太郎「ま……えたち……」

なるみ「え?」

ハメ太郎「お前たち、ニンゲンがっ! ハメ美を! ハメ美をっ、ハメ美を……」

なるみ「ごっ、ごめんなさい……。でもね、ここは危ないわ。早く逃げないと……」

 

人間A「おっおっおっ!! まだ生きてるのが一匹いんぞ! シメるぞ殴るぞ蹴るぞ殺すぞォォォォォ!!!」

なるみ「誰っ?!」

人間B「お嬢ちゃあん、その妖精さん、こっちに渡してくんないかなぁ???」

人間A「オレたち、ソイツに用あるんだよねェ」

人間B「こいつらさ……。ケッコー オイシイんだよネっ」

 

あろうことか、いきなりあらわれた二人組の手には、食われたと思しき何かがあった。

 

ハメ太郎「それは…… それはっ、何ハメッッッ!!!!」

人間A「さあて……。なんだろう、ねェ」

人間B「とってもオイシーのは *確か* さ(はぁと)」

なるみ「あなたたち…… あなたたちっ、今すぐっ ここからっ 立ち去りなさい!!」

 

成美が言うと、両腕を広げて、二人組の前に立ちはだかった。

が、問答無用で殴られて吹っ飛んだ。

 

なるみ「キャッ!!」

ハメ太郎「ナルミ!!」

人間A「そーら ひょいと」

ハメ太郎「な、何をするハメッ…… グッッ!!!」

 

人間Aはハメ太郎の首をつかんで持ち上げた。

その力はじわじわと強くなっていく。

 

ハメ太郎「や、やめる……ハメ…… 苦しい……ハメ…… ハ……ハメェ……」

人間A「きひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!! オモシー! タノシーぞ! コレ!」

人間B「うけっ、うけけけっ」

なるみ「や……めなさい…… あなたたち……」

人間B「オジョーチャンはそこでネンネしてな YO!」

 

強めのケリが、成美の腹に、一発。二発。三発。四発。

ハメ太郎の顔色も、どう見ても、悪くなっていき、

そして。

 

――ゴギッ。

 

ハメ太郎の、首の、辺りから、

何かが、折れる、音が、――した。

 

ハメ太郎「ぐげ」

人間B「死んだか?!」

人間A「死んだ! 死んだぞ!! 死にやがった!! 死にやがった!!!」

人間B「うひゃひゃひゃひゃ!」

人間A「うけけけけ!!!!」

 

ハメガミ『聞こえますか、ハメ太郎』

ハメ太郎『ハメガミさま……? ここはいったい…… 何ハメェ……』

ハメガミ『あなたは、選ばれたのです』

ハメ太郎『えら……ばれたハメぇ……?』

ハメガミ『そうです。この笛を授けます』

ハメ太郎『これは……ハメェ……』

ハメガミ『ハメ太郎。あなたが、このハメランドを救うのです。伝説の戦士、ハーメリアとともに、救うのです!!』

ハメ太郎『ハーメリア?! 救うハメ?! このハメランドを……ハメぇ。ハーメリアと、一緒に……ハメ』

ハメガミ『ハメ太郎、あとはヨロシク頼みましたよ』

ハメ太郎『ハメェ?! ……ハメガミさま! ハメガミさま、ハメガミさまハメぇぇぇ!!! ハメハメェ!』

 

すると、ハメ太郎の体がいきなし輝きだした。

強烈な光だった。

 

人間A「なっ、なんだっ?!」

人間B「コイツ、まぶしくなってるゼっ!!!」

なるみ「な……に……? この……ひかり でも……体が、軽くなった、ような……!!」

 

ハメ太郎『ナルミっっっ!!!』

なるみ『あなた……! 生きていたのね!』

ハメ太郎『とりあえずハーメリアに変身してハメランドを救うハメッ!』

なるみ『えっ えっ?! 変身??!』

ハメ太郎『いま出すハメッ』

 

ピーッ!プーッ!ポーッ!

ハメ太郎が笛を吹いた。

すると、綺麗で豪華で上品で、とかく素晴らしいスティックが出現した。

 

なるみ『これ……は……!』

ハメ太郎『ハメ棒(ハメ・スティック)ハメ! これを握って、はやくハメハメするハメ! ハメランドを…… 世界の平和をっ…… ハメハメハメぇぇぇっっっ!!!』

なるみ『――わかったわ、ハメ太郎っ! お約束ね! ……わたし、変身するわ!』

 

なるみ「キープ・ドリーム! ハーメリア!」

(変身バンク 略)

レインボー・メリア「虹の戦士、レインボー・メリア!!」

 

人間A「オイオイ! 変身かよ!!」

人間B「こっちもよぉ、Sランクの魔獣変身、見せてヤンよ!!」

人間A「こちとらビーストブラザーズ、そー呼ばれて元の世界じゃあちったあ名の知れた最凶最悪のコンビ! 肉を食やーオレさまの幾重にも隠された真の能力が発現して……なんと! 変身協会・ランクS+の魔獣にいィィィィィィィ……?!!!!」

レインボー・メリア「そうはさせないっ! ハーメリア!・ミラクル!!・シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーート!!!!!!!!!」

人間A・B「ぐぎゃあああああああああああああああああっっっつ!!!!!!」

 

ハメ太郎「ハメハメしたハメッ?!」

レインボー・メリア「ええ……。これが、ハーメリアの、ちから……」

ハメ太郎「ハーメリア……。すごいハメェ」

レインボー・メリア「とりあえず、ここはもう危険よ。逃げましょう」

ハメ太郎「逃げるハメェ……? どこに……行くハメェ……?」

レインボー・メリア「人間の世界、よ」

ハメ太郎「ハメッ?!」

レインボー・メリア「大丈夫、わたしがついているわ。それに、ほら、もうそこに新手が……」

ハメ太郎「……わかった。……わかったハメっ。ニンゲンさんたちの世界に、行くハメ!」

 

………………

…………

……

 

人間の世界に戻り―― 夜。

ハメ美の亡骸は、街の小高い丘の上に埋めた。

ハメ太郎は、泣きながら土をかぶせた。

 

ハメ太郎「ハメ美…… ハメェ……」

なるみ「もう、泣かないで……」

ハメ太郎「ハメ……ハメェ…… グスン」

なるみ「――そう言えば。あなたのお名前、なんていうの?」

ハメ太郎「ハメ? ハメ太郎ハメェ……」

なるみ「ハメ太郎。いい名前ね」

ハメ太郎「ハメ美もそう言ってたハメ……」

なるみ「ハメ美ちゃんも、きっと待ってるわ。ハメランドが元に戻るのを……」

ハメ太郎「ハメ美……。そうハメ、ハメランドを取り返すハメ。悪いやつらをやっつけて、ハメランドを……取り戻すハメェッ! ナルミ。力を貸してくれるハメ?」

なるみ「――うん!」

 

 

> 〈次回予告〉

>

> 次回、「」。

> あなたといっしょにハメハメしましょ!

 



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ニンゲンさんはどこから来るの?

ハメ美『……くん、……太郎くん、ハメ太郎くん、ハメ太郎くんっ』

ハメ太郎『ハメェ…… 何ハメ、ハメ美…… まだ眠いハメ……』

ハメ美『だめミィ、起きるミィ』

ハメ太郎『ン……もう、おきる……ハメェ・・・?』

ハメ美『それじゃあハメランドの歴史、もう一度ミィ。準備はいいミィ、ハメ太郎くん?』

ハメ太郎『ハ、ハメェ……。やっぱり、難しいハメェ』

ハメ美『コホン。何回もやれば、大丈夫ミィ。それじゃあ、いくミィ。

……むかしの、むかしの、も~~~っとむかし、なにもないところに何かが生まれたミィ。誰かが何かをしたミィ。きれいな緑のところ、きれいな水のところ、きれいなお空のところが生えてきたミィ。そしてお空のところから、ハメ美やハメ太郎や、みんなみんなの種がふってきたミィ。にじ色の種ミィ。きれいな種ミィ。それがいっぱい、いっぱい、いーーーっぱいふってきて、ハメ美たちが出てきたミィ。

この絵本にかいてあるミィ。「ベータリータとサミアス」ミィ。この絵本にはこうかいてあるミィ。

「――やがてそれは増えていき、まるでとめどない無限の増殖を繰り返すかのようになった。あり得ない数、あり得ない。瞬く間にこの大地を埋め尽くし、それ以上のおおらかさをもってこの大地はそれらを迎え入れた。しかしその繁栄も長くは続かなかった、私の友人かつ長年の仕事仲間であるガーゴリが言うには、

『おお見よこの数この群れこの増殖! まさしく夢のようでありまさしく悪夢のようでもある、そうだとしたらこの世の神は何をなさっておられるのだ、これではわれわれが絶滅してしまうではないか! もしもそのためにこの者たちを天からつかわしたのだとすれば、それは私たちが何か都合の悪いことでもしでかしてしまったというのか! ……それにおいてもこのえげつないほどの群れ、このままでは我々はおしまいだ!! 君はどう思うのかね、君は! ……そうか、これはあり得ない妄想なのか…… 昔からの箴言、〈ネクハールは地上に落ちない。造物主の計らいによって〉。――この言葉のように、すべてわたしの思いすごしであってほしいものだよ……』

とのことらしいのだが、結局はそのようなことは起こらないだろう――そういって仲間内では笑い話の一つのツマミとして流されたのだった――」。なんだかむずかしいミィ。とにかくハメ美たちはどんどん増えたミィ。いっぱいになったミィ。マンパイになったミィ。増えすぎてこまったミィ。キレイにしようと誰かがいったミィ。たいらにしようと誰かがいったミィ。すると、伝説の戦士、ハーメリアがあらわれたミィ。この「マーハトトルン」にかいてあるミィ。

『アーミルがメヘスを生み、メヘスがアトゥーガを生み、アトゥーガがアポレパスを生み、アポレパスがヒュルスを生み、ヒュルスがネーサーを生み、ネーサーがデファンタを生み、デファンタがサーザーサを生み、サーザーサがウェンウェスを生み、ウェンウェスがウェンスターを生み、ウェンスターがベローサを生み、ベローサがメクフェスを生み、メクフェスがクトゥーラーファーを生み、クトゥーラーファーがアハを生み、アハがメトラスジアを生み、メトラスジアがペッボトボルを生み、ペッボトボルがアハンナテースを生み、アハンナテースがヤーラスを生み、ヤーラスがアタランタラスを生み、アタランタラスがジェジージャを生み、ジェジージャがチェジェスを生み、チェジェスがミミハルミタを生み、ミミハルミタが……』。そしてやっぱり、ハメ美たちは増えていったミィ。

怖いことやおっかないことがたくさん起きるようになって、最初の王国ができたミィ。小さな王国がいっぱい、大きな王国もいっぱい、できたミィ。長老のポポンガさまから聞いた話ミィ。『よく聞くゾナ、ハメ美。このハメランドの上のほう・下のほう・左のほう・右のほうには、それはもうたくさんのたくさんの、数えきれんほどたくさんの王国があったものゾナ。しかしゾナ、それは巨大な争いと長く続く混乱でみんなどこかへ行ってしまったゾナ。そうなるときには伝説の戦士ハーメリアがあらわれて、このポポンガたちを助けてくれるゾナ。よーーーく覚えておくゾナ』って、長老さまは言ってたミィ。長老さまから聞いたからまちがいないミィ。それに、この「ザツカリアール王国興亡史」にもかいてあるミィ。

『……すべての辺境から近いところ、遠いところ、誰も行ったことのないところ、遠く遠くに離れたところ、うら側のところ、暗いところ、明るいところ。それらを全て総べんと、何物かが果敢にも立ち上がった。いや、誰もが立ち上がった。それは雨後に一斉に地表に湧き上がるように生えるメネーシアスのようであり、空から降る大量のアハルシスのようでもある。とかくもこの地上の各地で大小とりまぜての多くの戦が起き、多くの命が失われた。その筆頭は、まずはネブーカ王国と真性ミミミリン王国のあのドゥランガの戦いである。かのネブーカ王国の伝説的な将軍、チャルンテラは「我の進むところに我あり、我の引くところに我なし! 全ての土は我がものであり、全ての水は我がものである!! 全ては我らネブーカ王国のものであり、全ては我らがネブーカ国王の総べるものである!」と言ったと伝わるが、それは彼の全盛期の話であり、そして悲劇はその直後から生まれる。まず将軍チャルンテラはミミミリン王国の右辺を攻め落とそうと巨大な湖たるミミリを大きく迂回したが、そこにもっとも致命的な欠陥があった。彼は知らなかったのだ、真性ミミミリン王国の大量の精鋭の技術者が、水に浮かぶ巨大な船を造っていたということに。これは全て真性ミミミリン王国の一番の策士、ミミミリン王国の参謀たるラーミスタスの計によるものだ。全てを悟られず、全てのことを隠してからこそ、あのような稀に見る戦いが起きたのだ。ミミミリン王国の横腹に食らいつこうとした将軍チャルンテラは、そのミミリの中原から悪夢のようにあらわれた数万の船にのった数十万の兵に食い破られ、ミミミリン王国を目前にしてその夢を終えたのだ。

それと同時期に起こったのが、この地からはるか下にある、正統王国トッキーンの惨劇だ。彼らトッキーンの民は選りすぐりの精鋭からなる超魔道兵団ザクーラなる集団を練り上げていたがそれが反旗を翻し出奔、たちまちにトッキーンの街は炎にのまれ、数万数十万の民が生きながらにして焼かれたという。そして彼らザクーラは隣国のクァータ国に落ち着き、しばらくして、一人、また一人と処刑されていったという。何が間違いだったのかはわからないが、トッキーンの街が焼け落ちる数年前、ザクーラの前団長たるマハイマハラが何者かによって暗殺されたときから、何かが始っていたというのがいまの通説で、それ以上はトッキーンの街が何も残っていないこともあって、そしてクァータ国王が彼らについての記録を残すことを全く許さなかったので、彼らザクーラ兵団の記録は、この小さな小さな手紙、本当かどうかもわからないようなこのちっぽけな紙切れにしか残っていないのだ。そして、この手紙を出したクァータ国の大臣も、本当にいたかどうかもあやしい。ともかくも、そのザクーラ兵団の処刑と暗殺と前後して、クァータ国王が毒を盛られて伏してしまった。

そこに目を付けたのが、ポッコラなるものが治めていたポッコラの国と呼ばれる地域だ。ポッコラは、〈ミヒャヤーとアハメラは一度に捕まえよ〉との言葉通り、弱ったクァータ王国に一気に攻め込んだ。それでもクァータ王国は民の粘り強い活動もあり少しは生き延びることができたし、なによりも、クァータ王国の一番の売りどころでもあるクァータの大砦(おおとりで)があった。その大砦が過去も今度もこれからも守ってくれるとクァータの民と何よりもクァータ国王は信じ切っていたが、ポッコラがもちだした破裂する者ども、あれがいけなかった。砦の下にぶつかっては破裂し、砦によじ登っては破裂し、砦に取り付いては様々に盛大に破裂した。クァータ国王が〈何事か!!〉と発したときにはもうすでに時はおそく、クァータ王国が誇るこの堅牢な大砦はもうすでに何の役にも立たない瓦礫と岩のクズ山になっていた。見る見るうちに破裂する者どもがクァータ王国に入り込み、ただちに街の各所で破裂が起こった。それは月が10も巡るまでも続いた盛大な破裂で、それに巻き込まれたクァータの民の数万は全て命を落としたという』。

やっぱり難しいミィ。でも、こっちの絵本はかんたんミィ。今朝、掘ったら出てきた本ミィ。読むミィ。

『……そのような大変なときに、わたしたちのハーメリアはこの地にやってきました。大きな水たまり、ピピルピピル湖。その隣の、もっと大きな水、ボピピル湖。その奥の、もっともっとの水、ボボボピル湖。そして、緑のあるところ、マハマパス。ここに、大きなお城と壁と門を生やしました。どこまで続いているか、誰も知らない壁でした。でも、その門はまだ空いていました。コンコンと、門のところを叩いて入ってくるものがいました。するとそれに気づいた他の者が、またコンコンと音をさせて、その門の中へ入っていったのです。その音はどんどんと増えて、たくさんの音となり、いつまでも鳴りやみません。そしていつしか、最後の音が聞こえたときに王さまがあらわれ、そこは誰ともなく〈ハメランド〉と呼ばれるようになったのです』。……この絵本のとおりに、他の国は見えなくなったミィ。ここからじゃあ、見えないところに行ったミィ。そして、危なくなったハメランドも、何回もハーメリアが救ったミィ。そしてようやく、ハメランドにハメガミさまが来たミィ! メルンの司書さんから聞いたミィ!!』

ハメ太郎『……やっぱり難しいハメ、わかんないハメ、もうやめるハメェ』

ハメ美『怖いの、また来たらどーするミィ』

ハメ太郎『来ないハメ。そんなの、ぜーーーーったい、来ないハメ!!』

ハメ美『ミィ……? 門がひらくミィ……???』

ハメ太郎『ハメ?! あけちゃ、あけちゃダメハメッ!!!!!』

ハメ美『たすけてッ、ハメたーーーーーーーーーーーーーーーーーー……』

ハメ太郎『ハメ美、ハメ美っ、ハメ美ーーーーーーッ!!!!!』

 

ハメ太郎「ハメェッ?!」

ハメ太郎「――見たことのない、天井ハメ……」

 



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ハメッコのひみつ

「ふぁあぁぁ……。ん、起きたの、ハメ太郎? なんか、うなされてたみたいだけど」

「ハメェ……。こわーい夢を、見たハメェ……」

 

朝。昨日の大波乱から一夜明けた、朝。

 

成美の部屋には、大量のぬいぐるみと大量のファンシーなグッズが飾られていた。いかにも女の子の部屋っぽいが、そのどれもが用途が定かではない。その部屋で成美と一緒に寝ているぬいぐるみのように見える何かこそ、用途がもっとも定かではない「何か」であり、この世界においてその真の姿を知っているものは誰も――成美以外は――いなかった。

 

命からがら逃げてきたハメ太郎は、あまりの疲れにすぐに眠ってしまった。そして寝ている最中も、ハメ美から聞いた長ったらしい歴史の講釈を思い出して、さらにうなされてしまった。その夢の終わりがどうなったか、ハメ太郎は覚えていない。残っているのは、ハメランド開闢から今に至るまでの長いながーいお話のつながりだけだった。でも、それもすぐに忘れてしまいそうな、とてもつまらないものだった。

 

「……そう。……でもハメ太郎、そんなときは、ごはん食べて元気だしなよ!」

「……そうするハメェ」

 

成美が部屋を出ていくと、ハメ太郎はじっと閉まったドアを見つめていた。

 

「……ハメランドに戻るハメ」

 

朝食後。無言のままに食べていたハメ太郎が、食べ終わった途端に、唐突に、核心的なことを、ボソリとつぶやいた。

 

「え?」

「……ハメランドに戻って、ハメランドを取り戻すハメ!!」

「へっ、もう行くの?! 朝ごはん、食べたばっかりじゃない!」

「ナルミ、〈奇菓(きか)食うべし〉ハメッ。それに……。ハメたろうには、伝説の戦士、ハーメリアがいるハメ!」

「そりゃあ……ね。でもねハメ太郎、こういうものには、順序とお約束が……」

「行くハメ、行くハメ、行くハメ、行くハメェッ!!」

「わ、わかった、わかったわよ……ンもう、朝からお盛んなんだからぁ……」

「それじゃあ、さっそく出発ハメ! ハメランドを取り戻すハメ! 最後の戦いハメ!」

「……しゅっぱ~~つ……」

「……それでナルミ、ハメランドにはどこから戻るハメ?」

 

数分後、二人?は薄暗い路地の前にいた。成美はそこで立ち止まると、周囲が誰も見てないのを確認してから、バッグから勢いよくハメ太郎を取り出し、その狭い路地の奥へ奥へと入り込んでいった。そのあやしげな路地は奥が見えず、どこまで続いているか全く分からず、そして歩き進めるうちに、徐々に確実にジメジメしてきた。さらには、得体のしれないゴミがあったり、得体のしれない暗がりが見えたり、得体のしれない鳴き声が聞こえてきたり、得体のしれない何かが同じような得体のしれない何かを食っていたりしたあと、今まで無言だったハメ太郎が口を開いた。

 

「ナルミ、ほんとにこっちでいいハメェ…… とっても……怖いハメェ……」

「なによー、行く前からもう怖気づいたの? それにね、ハメ太郎、たいてい、ファンタジーでメルヒェンな扉や道っていうのはね、こういう、誰も通らないような誰も知らないような、暗くて狭いところにあるモンなの。それがね、ハメ太郎、お約束ってものなのよ。お約束。お・や・く・そ・く。分かる? あるでしょお約束、ハメランドにも」

「わかんないハメェ……」

「ンもう。……とにかく、大丈夫よ。私を信じなさい、伝説の戦士たるこの二之瀬成美たるもの、道をたがえることはないわ!」

「ハメェ……」

「それにね、『世界が危機に瀕して、そのとき伝説の戦士があらわれた! あなたはそれと一緒に戦いなさい!』……なんて、お約束以外の何ものでもないじゃない! それはどーなのよ、ハメ太郎」

「ハメェ。難しくてよくわかんないハメェ。でも、ここの道は何か違うハメェ。なんでこの怖い道がハメランドにつながってるハメェ? 何かおかしいハメ……」

「ないない、そんなことない、ないの。大丈夫。大丈夫よ、ハメ太郎」

 

とはいうものの、その路地はどんどんと胡散臭くなっていく。まるで何か怪物が出そうな雰囲気(ふ・い・ん・き)を醸し出しながら、何もかもを飲み込む邪蛇のような風体を醸しながら、二人?はひたすらに続く奥へと進んでいった。すると。

 

この世のものとは思えない巨大でさらに不穏な影が、暗い路地をさらに薄暗くするかのように、成美とハメ太郎、ふたりの前に立ちはだかっていた!

 

「おじょうちゃん、それに、それ。あんたら二人をこの先に通すわけにゃー、いかないなァ。何せ、この先は……」

「出た、出たっ、出たハメッ!!!」

「そんなことより変身よ、ハメ太郎!!!」

 

成美は、どこからともなくハメ・スティックを取り出した。手にしっかりと握ったそれを、天高くを掲げた。

 

「キープ・ドリーム! ハーメリア! ……虹の戦士、レインボー・メリア!! ……ハーメリアァァァァァァァァーーーー・ミラクルッッッッッッ・シューーーーーーーーーーーートッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

「グオォォォォッッッッッ……」

「ハメェ!! やっつけたハメェ?!」

「もう、って。ンもうハメ太郎、〈奇菓(きか)食うべし〉って、こういう意味なんでしょ?」

「ハメェ」

 

爆散した敵の煙が晴れたその向こう側、いかにもな扉が見えた。

 

「あれハメ?」

「あれ、ね」

 

この狭くて薄暗くて湿った路地には全然似つかわしくない、丁寧な装飾が施された豪華な扉だった。路地のこちら側とむこう側、それを隔てるように、堂々と、そして場違いなほど立派に、その扉は置かれていた。

 

「そうね……。行くわよ、ハメ太郎。覚悟はいい?!」

「ハメ!!!」

 

 

 



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消滅?!ハメランド!!!

成美は、扉をギィィと開いた。そこは、ハメランドの……はずだった。

 

「!! ……ここが、ハメランドハメェ?!」

 

薄暗く、ジメジメしている。さっきまでいた路地の続きのようだった。とめどもない陰鬱だった。夜のような暗さ、生ぬるい風、そして、どこからともなく聞こえてくる、いかがわしい音の群れ。

 

しかし。

 

「まちがい、ないわ……。見て、あれ」

 

遠くに見える、城壁と城門。

 

「ハメェ……。ハメランドのハメェ…… でもちょっと……違うハメ……」

 

城壁と城門のさらに遠くに見える、城。巨大で、高くて、塔のような、禍々しい城。無数に尖っていて、それでいて歪んでいて、ぐにゃりとした建物。尖端には、お約束のような、ドンヨリとした雲が幾重にもかかっている。いかにもな、『悪のお城』だった。

 

「やっぱり……。ここが、ハメランドなのよ……」

「そんなことっ、ないハメッ! ハメランドは、こんな、こんな、こんな…… ハメェ……」

「とにかく、あそこ。あそこに行きましょう。悪の親玉がいるはずよ。さ、行きましょう、ハメ太郎……。ハメランドを、取り戻すんでしょ!」

「ハメェ……。……い、行くハメっ……」

 

しかし、ハメ太郎は、足がすくんで動けなくなった。成美はハメ太郎を、ヒョイと抱え込んだ。

 

「ちょっと、腕の中にいなさい。危ないから」

 

成美は、その平原……のようなところを、静かに、音も立てずに、黙々と歩いて行った。謎植物や、謎動物の跡や、謎の音や、謎の叫び声や、謎のオドロしい風が吹いていた。

 

「おっとっと……」

 

さっきから、ぬかるみに足を取られている。ぐにゃぐにゃした大地は不定形で、二足歩行さえも、ままならない。歩くたびに、ぐちゃぐちゃと音がする。

 

「あれ、何かしら……?」

 

しばらく歩くと、牧場のような柵が見えた。……というよりも、何かの牧場なのだろう。そして、その柵の中には、大量の()()が、養殖されているようだった。

 

「何、ハメェ……。 こ、これは…… 何ハメ……??!!」

 

柵の中では、得体のしれない()()がうごめいていた。そのかたわらで、誰か……が、餌をやっていた。

 

「ホーラ……。オマエラの好きな、肉コップンだぞォ…… イッパイ喰えよォ……」

 

――などと言いつつ、ドロドロした、ピンク色の、謎のエサを、桶からヒシャクでひっきりなしにバラまいていた。ベチャリと落ちたエサは、まるで生きているかのように、数度だけ、ピクピクと動いた。それに群がり、むさぼる()()。ものすごい食欲、ものすごい速さ、あさましい姿で、その不定形の謎エサを、一心不乱に食らい尽くしていく。

 

「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」「キシャー」……

 

何か――が発した、鳴き声とも叫びとも取れない謎の音が、あたり一面に、異様なまでに折り重なる。

 

「うえ…… 吐きそ……」

「これは、……何、ハメェ……」

 

「ホーラ、ホーラ。どんどん喰えヨォ……。ん?」

 

()()が、成美たちに気づいたようだった。

 

「んだぁテメェら、今頃ノコノコやってきたのか…… まあな、入れてやりてぇのは山々なんだけどな、こちとら、もうパンパンで、アリの子一匹、入るスキマもネェんだよ…… お?」

 

その誰かは、成美が抱えているハメ太郎を凝視した。すると、口の端が徐々に吊りあがり、目も細くなっていった。

 

「ソレ、ちょっとオレ様に、貸してくんねぇかなぁ、お嬢ちゃん」

 

ニヤつきながら、その誰かさんは、成美に、〈さっさと寄こせ、さもなきゃあシめるぞ、喰うぞ、殺すぞ、エサにすんぞ〉というジェスチャをした。

 

「あんたなんかに、渡さないわよ!!!」

「ハメェ!!」

「こりゃあ……」

 

ひとしきり、上から下まで成美の全身を見た後、視線をハメ太郎に戻し、その誰かは、赤くて長い舌を見せつけながら、ゆっくりと、ぞんざいに、唇を舐め摺った。

 

「うきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!! カモネギかよ! 今ごろノコノコ! 手間がはぶけたゼ! 大手柄だ! 表彰モンだぜ!!! ホラ、さっさと寄こせ!寄こせ!寄こせ!!! そいつを寄こせェェェッッッッッッッ!!!!!!!!」

「何を言ってるハメ!」

「うるせぇ! ぶっ潰してやんゼッッッッ!!!!!!」

 

その誰かは、そう叫ぶと、懐からお札のようなものを取り出した。

 

「いでよ!! ジラーイ!!!」

 

牧場で養殖されていた何かを軽々と持ち上げ、そのお札をペタリと張り付けた。すると、その何かは、みるみるウチに膨張し、腐臭と悪臭が漂う、キッカイなバケモノへと変化した。

 

「ジラーイ!!!」

 

そのバケモノは、ひとしきりの増殖と膨張が終わると、豚の屁のような声で叫んだ。

 

「何ハメッ、何ハメッ、何ハメッ!! これは、何ハメッ!!!」

「……何よ、そんなものっ! ……ハーメリア・ミラクル・シュート!」

「ジジジ……! ジラーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!」

 

そのバケモノは、必殺技を繰り出すと、すぐに爆発して、消滅した。が。

 

「なんのこれしきっ! まだまだイくぜぇ!!!!! ヒャッハーーーーーーーーーーー!!!!」

 

その誰かさんは、ふところから、お札の束を取り出した。

 

何枚あるか数えたくもない。百万円があればあのくらいの枚数なんだろうなぁ……などと思いつつも、その全部を相手にするには、きっとあまりにも分が悪いだろう。そして、もし、もしも負ければ、そのあとは……。

 

『フッハッハッハ…… サぁー、おじょうちゃん。オレ様とイイコトしようじゃねーかぁ!』

『きゃー イヤー たーすーけーてー』

『ぐへへへへ……』

 

……みたいな、どこかで見たようなお約束の展開が待っているのだろう。

 

ゾクリとした。

 

「一人じゃ、敵わない…… もっと、もっと多くの力が必要だわ……」

「いったん、退却よ! 逃げるわよ、ハメ太郎!!!」

「ハメェ?!!! に、逃げるハメェ?!」

「あんな数だし場所も悪いし……とにかく、退却よっ!!」

「ハメハメっ、逃げちゃダメハメェ!」

「〈三十六計、逃げるにしかず〉ッ!!!、逃げてこそ、本物の戦いよ! 逃げ足こそ、本当の強さよ!」

「知らないハメェ!」

「当たり前でしょ、さあ、捕まって!」

「ハメェ?!」

 

彼女たちは、逃げ出したのだった……。

 




【ドキわく?!用語ワールド!!】『コップン』

「やってきました、『ドキわく?!用語ワールド!!』のコーナーでーすっ!」
「ハメー!!」
「今回は、『コップン』!!」
「コップン! ハメェ!」

「で、ハメ太郎。いったいぜんたい、コップンって何なの?」
「コップンハメ? コップンは、大きくて、ぶにょぶにょして、丸くて、ピンクで……」
「あーあー、わかんなーい。ハメ太郎、これに描いてよ!」
「ショーが無いハメェ。ナルミ、くれよん貸すハメ!」
「はーい……」
「………………。ジャジャーンハメ! これハメ! コップンハメ!!」
「へぇ! これが!! ……まったく訳が分からないわ!」

………………
…………
……

「かくかくハメェ」
「うんうん」
「しかじかハメェ」
「うんうん」

………………
…………
……

「……で。コップンは、ハメランドの周りにいた動物なのね!」
「そうハメ! いっぱいいるハメ!」

「で、肉コップン……って、何なの?」
「おやつハメ!」
「おやつ?」
「そうハメ、おやつハメ! コップンをハメハメすると、オヤツになるハメ! それが、肉コップンハメ!」
「へぇ……うまくできてるのね! で、お味は?」
「ゲロの味ハメ!」
「そ、そうなの……。それじゃあ、今回はここまで! みなさん、ご清聴、ありがとうございましたー! 次回をご期待ください!!」
「ハメー!!」


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【第三話】誕生?! 二人目のハーメリア!!

〔ハメゴス帝国 side〕

 

城壁がある。高くて厚くて強固な城壁。そして、城がある。城壁の向こう側、天に届かんとばかりに伸び出た尖塔、幾重にも重なる塔、複雑に絡み合った飛び通路。威風堂々たる姿を以て、その城は治めるべき城下の未来を象徴している……はずだった。

しかし、まだ昼だというのに、その城の上方には、すっかり暗雲が立ち込めている。その壮麗な尖塔を、すっかり隠してしまっている。ようやく立ち上がったこの若い国を覆う、不吉な影だった。その雲はひっきりなしに雨を降らせ、この国の住民たちの心を、より一層重く深刻なものへと結晶させている。

その城の一角。上層部の他は極一部のみしか知りえないであろう、極秘の一室。部屋の前の重厚な扉の前には両の側に十ずつの守衛が立ち、それぞれが、名工による、徳と名の高い、伝説から抜け出たかのような、煌びやかで装飾的で、それでいて実用的――つまりは殺戮的な武器――を、しっかりと、まるで戦場に立っているかのように、緊張し高揚した手つきで、今かとばかりに携えている。

そして、その扉の向こう側では――。向こう側では、円卓会議が開かれていた。

固く締め切った部屋の中。そう多くはない窓も、全てが固く閉ざされている。そして、灯されている蝋燭のか細い明かりが重なり、広くも狭くもないその部屋を、じっくりと照らしていた。

その中央には、円卓。大きな、そして、豪華さを抑えつつも質実剛健な、長い歴史の風格すらをも感じさせる威容の円卓だ。そしてそこは、円卓同様の、やはり堅固で物々しい顔ぶれで、満座であった。

その円を囲むのは、いずれも、生きる伝説と称すべき、錚々たる面々ばかりであった。復国の四英雄をはじめ、八人衆、十傑、そして三本柱。彼らが一旦口を開けば、十万の軍勢が動き百万の敵をも駆逐するであろう。彼らが一旦剣を握れば、一騎当千の圧力が敵対する全てに襲いかかるであろう。そのような彼らは、みな壮麗な衣装に身を包み、腰には鮮やかな刀剣を携えている。すなわち彼らの面持ちは、歴戦の勇者という形容が最も相応しい。その円卓には、圧倒的な武を感じさせる歴々が、余りにも静かに着座していた。

その一角、この城の――いや、この国の中枢ともいうべき場所で、やはり中枢というべき十数名が、一堂に会している。これほど豪華なことはない。ここが爆破でもされれば、たちまちの内に国は烏合の衆となり、歴史という海の藻屑となり消え果てるであろう。

「で、イクルード。話……というのはなんだ。これほどの人数、これほどの会合。今までこのような重苦しい集まりがあったか?

いや、無い。こんなこと、先の最終決戦以来だ。雌雄を決し運命を我がものとすべきあの日の語らい、今でも思い出す。未来はこちらか、それともあちらか。夜が明けるまで、日が昇るまで、長くに渡り語ったものだ。お前はあの時こう言った、『未来はどこか。それは、ここにある。それは我々だ。我々こそが未来であり、未来こそ、我々の手で創り出す明日なのだ!!』……と。

そして今日、我々がこうして再び一堂に会するには、それなりの、……というよりも、〈それほど〉の、何か巨大で忌まわしき理由が、あるのであろうな?」

出席者の一人が、その場の雰囲気に合わせたかのような、重苦しくかつ苦々しい口調と内容で、ようやくと口火を切った。

「――今日、ここに集まってもらったのは、他でもない。……帝国の危機か希望か、先日、ついに、ついに、祖体(オリジナル)らしき()()を、発見したのだ!」

「なんだとっ!」

「それは(まこと)か、イクルード!」

復国の四英雄のひとり、ジョン・イクルード・ペサシアムス三世は、最上段から話に突入した。そして、それは余りにも唐突だった。青天の霹靂であった。何事にも動じないであろう彼らの目が、瞬く間に驚きに満たされた。ある者はざわつき、また、ある者は動揺を隠せず、そして、ある者は興奮の声を上げた。

伝説となるべき彼らの、このように取り乱した姿は、今この現在のこの場所でしか見られないだろうし、この円卓会議の内実が後世の歴史書に載るはずもないだろう。後世に残るのは、『英雄的な出来事が語られた』『切っ掛けがもたらされた』『あの会合が、国をさらなる栄光に導いた』……、ただただ、それくらいのものだけであろう。このように、歴史とは些事を省き伝説を誇張して、都合の良いように伝わるものだ。何が真実であり、何が嘘であるかは、それは往々にして歴史の深い闇に永遠に消える。そして、敗北したものたちの真実は、やはり勝者の手によって幾重にも折り曲げられ、歪み、間違い、湾曲しきった姿でのみ、伝えられる。それこそが、伝説という文脈のもつ、元来の生体的な弾力だ。我々は、その文脈の影から日向から、ありとあらゆる枝葉の分岐した文脈を推測しなければならない。それが、我々後世の歴史家の役目であり、誰に強いられた訳でもない、いわゆる天命なのだ。

さらに、復国の四英雄の一人である、彼、ジョン・イクルード・ペサシアムス三世は語る。

「我が愛すべき臣民、皇帝ハメゴスの大いなるの薫陶を受けし者、アフェリアリーリアの(その)の番人、第三級一般国民、アダマスだ」

厚いカーペットの上で長い間膝まづき、今の今まで一度も面をあげなかったアダマスと呼ばれた彼が、ようやく指名された。彼のような低い身分であれば、謁見はおろか、生きている間はこのような雲の上の人物からは声をかけられることさえもなかろう。

「アダマス、話すがよい。アフェリアリーリアの園で起こった、一部始終を」

「は」

アダマスは、最上級のうやうやしさを籠めた丁寧すぎる口調で答えた。

そしてアダマスは、円卓の全ての視線を一斉に一身に浴びた。かの輝かしい戦場では、目線だけで数百の敵が倒れた――とされる眼力だ。そのような、実在するかも疑わしかったような、伝説のまさに途上にある数十の半神の視線の雨は、一般の国民には、文字どおりに余りにも、余りにも、余りにも、荷が重かった。目がつぶれるほどにまぶしい威光と、明確な圧力と、常時に渡り一粒程度の暴力が含まれたその視線は、ただのアフェリアリーリアの園の番人たる彼、アダマスの全身に、鋭く突き刺さった。

「牧地にて給餌をしていたところ、オリジナルらしき何かが、現れたのです。その姿たるや、言い伝えと伝説に、まさに瓜二つ。そしてなにより、昔の言葉を使っておりました」

おお……と、円卓の数人が小さくどよめいた。

()のものは、我々の知っている帝珠(ていじゅ)……、それに成るべきような、姿形をしておりました」

帝珠。皇帝の復活に必要な宝石。帝国の完成に必要な宝石。形のよい眉をわずかにひそめ、ジョン・イクルード・ペサシアムス三世は、座の対面の壁を見詰めた。他の数名も、それに倣った。

あらんばかりの宝石で埋め尽くされている、レリーフのような、壁掛けのような、モザイク画のような、豪華絢爛たる台座だった。余すところなく一面に、宝石が(ちりば)められている。しかしそれらの高貴な宝石は、よく見れば一部は宝石ではない。宝石とはまた別種の輝きをもった、不可思議な光をたたえる、神秘の珠だった。それが帝珠である。偉大な肉食獣の目のような、まさに野性の生命の結晶たる、雄渾かつ壮烈な煌めきを放っている石だった。しかし。

「見よ、見るのだ。台座を」

円卓の全員が、その台座を見、口いっぱいに苦虫を詰め込んで一気に噛み潰し飲み込んだかのような、険しい表情となった。最後の最後、あと19個を残して伝説の時代から埋まらなかった、宝玉の台座。ぽっかりと空いた、19個の穴。中心の欠けた完璧。だからこそ、その宝物かのような台座は実は宝物ではなく、欠落の充填を待つ一個の台座なのだ。

そして、これがすべて埋まれば、皇帝が復活する。帝国は完成する。

「見よ、その欠落を……。"○○○○○○○○○○○○○○○○○○○" だ。あの、輝かしくも忌まわしき欠落した台座。あと19、たった19を残して、長きにわたり、この帝珠の台座は埋まらぬまま……。されば皇帝の復活もままならぬ。我々が真に動くのは、まさに今、この時であろう。時は、満ちたのだ!

……で、アダマスよ。まだ報告があるそうだな」

再び、視線が第三級一般国民たるアダマスに注がれた。

「は。それらは、第一〇二七番帝国領ミハラマシア、そして帝国の最古の扉と言われる、『ネフィールの扉』から、出て行きました」

列席者の中から、やはり驚きと動揺と興奮の声が上がった。先ほどのどよめきとは比較にならないくらいの、小波のようなざわめきだった。そのざわめきが引くと、ジョン・イクルードの口から、半ば独白のような小声が漏れた。

「そう、思えば、はるか昔。きゃつら祖体(オリジナル)から、この国、この帝国、我らが皇帝を取り戻した時。その時、異世界への扉なる『ネフィールの扉』から、いくばくかの祖体が逃げたのでは――と言われ続けていたのだ。何より、今を以てしてもなお埋まらぬあの19個の帝珠こそ、それを雄弁に物語る。彼らが抱え持っているその帝珠こそ、このハメゴス帝国の本当の礎となるべき、神聖そのものなのだから……」

帝国を復古させた開闢の当時から、残る帝珠は、あの扉の向こう側の世界にあるのではと言われ続けていた。しかし、あの扉の向こうに行って帰って来た者は誰もいない。苦難の道なのだ。魂も精神も引き裂かれ、死してなお、死廟アハトリアには行くことができなくなる――と言われる。先日も一人、あの扉に果敢に挑戦せんとす勇者が旅立ったが、今なお、その帰還はない。数十・数百の挑戦者と同様に、扉の向こう側の恐ろしい世界の深い闇に呑まれ、朽ち果ててしまったのだろう。

円卓のそれぞれが悠久と深慮に身を委ねそうになったとき、アダマスが再び、恐る恐る、口を開いた。

「わたしは、見ました……」

話は、いよいよ核心に入った。

「わたしは、見たのです……。それは……それは……、伝承の魔女……、らしき姿を、表しました……」

アダマスは明らかに言い淀み、そして場は悪い方向へとざわついた。

「なに!!! 伝説の魔女、とな!!!! それは、本当か!!! 真実なのだな! 誓って、神聖皇帝に誓って、命からの言葉か!!!!!!」

その言葉に合わせ、帝国全土を包み込むかのような雷鳴が、広く大きく、轟いた。アダマスは、目に見えて委縮した。声は震えていた。

「はっ……。その通りでございます。〈真実こそ命〉、古くからの御言葉どおりでございます……。誓って、真実でございます……」

アダマスはうやうやしく頭を垂れ下げ、最上級の敬意を発散させた。

その時、部屋の柱の陰の暗がりの中から、唐突に一人の老女が現れた。

「大婆様……」

と、円卓に座す誰かが、それとなくつぶやいた。皆、同じ台詞を言いたそうな面持ちであった。

彼女のその素性や素顔、ましてや、何のために、何時から、何故ここにいるのか、誰の赦しがあって在室できるのかすら、彼ら円卓の英雄たちであっても、誰ひとり知る者はいない。

そして下級兵士たちの噂では、『彼女は城に憑いた城婆(シロババ)であり、帝国が危機に瀕するとき、彼ら英雄たちを導く、老賢者なのだ――』などという筋書きで、まことしやかに流通している。

その老女は、やにわに口を開いた。その口から出てきたのは、帝国に伝わる、古い伝承だった。

「ネフィールより 出でし 魔女

 ネフィールより 来たりし 宝珠

 ネファとアグァ 両の翼 飛び去らん

 永遠の栄誉よ 永劫の繁栄よ

 今こそ大地に 舞い降りん……」

『〈ネフィールの扉〉の向こう側には、全てを飲み込む魔女が潜んでいる』――という伝承は、伝承を超えて遥かに切迫し、霧のように密着した現実として、彼ら円卓の英雄たちを、音もなく包み込んだ。

「やはり……。やはり、伝承は真実であったのか……」

誰ともなく、つぶやいた。

そして、空気を見計らいつつ、アダマスが続ける。

「アフェリアリーリアの園の番人たるこのアダマス、その責と名誉にかけ、魔女のような『それ』を〈黄の紋章〉により撃退……しようとしましたが、召喚した超獣は、『それ』に、一発で撃退されました」

「一撃?! たったの一撃とな?! 間違いないのだな、アダマスよ!!」

「はっ、その通り、わずか一瞬の出来事でございました。……そして恥ずかしながら、あまりにも動転したので、持ち合わせていた紋章全てを、使うところだったのです」

「なにっ?! 紋章を一気に??!! あっ、あれだけの数を練り上げるのに、一体、幾星霜かかるか、分かっておるのかッ!!!!!!!!!!!」

「は、は、は、わ、分かっております……! 使ってはおりませぬ! 使ってはおりませぬ、済んでのところで、使わなかったのです! ……ここに、残りの紋章があります」

と、アダマスは懐から黄の紋章を取り出した。十分な数だった。

「そうか……。いや、いい。いいのだ」

もしも使われていたらば、それは大きな損失になっただろうが、結果としてはいい方向へと進んだ。伝説の魔女らしき『それ』は、ネフィールの扉から去ったというのだから。

しかし、災厄そのものが去ったわけではない。むしろ、到来したのだ。帝国史上最悪の、そして、開闢以来の危機が……。

「皇帝復活にようやく光が見えたというのに。これは、一体どうなることか。祖体と魔女、伝承の通りとは言え、両方がかくも同時に姿を現すとは。〈ネファと書くか、アグァと書くか〉。帝国の未来は、どちらなのだ」

「――なに、簡単なことだ」

ジョンの苦悩に応えるように、場の一人が、満を持して口を開いた。

その声こそ、三本柱の一人として名の通った、連雷(れんらい)の将、アハル・ミタス・アヴェジャジスであった。

「伝説の最後は、この(わし)が、締めくくるとしよう」

アヴェジャジスは、恰幅のいい体から、相応の低い声を紡いだ。

「扉のあちら側に行き、祖体を取り戻し、魔女を屠れば、よいのだろう。何、やることは決まっておる。単純明快。そうではないか、ジョンよ」

「そうだ。が……」

「しからば、儂がいざ行かん。あの〈ネフィール〉の、向こうの果てへ!」

 

 

 

 

〔成美 side〕

 

朝の虹扇中学校。ざわめく教室に、まるでフェイントかのように、後ろの扉から女教師が登場した。担任の、木下(きのした)穂笑(ぽえむ)だった。年齢は極秘である。そして教室は、いつも通りに静かになった。

「アー。今日は、転校生を紹介するわ」

教壇の前で木下先生が言い、教室がニワカに色めき立った。

「入ってきてちょうだい」

そしてガラリと開けられた扉から、一人の女の子が登場した。

「二之瀬成美です。よろしくお願いします! ニコッ!」

「うぉおおおぉおおおおおぉおおーーーーー」

「わー」

「きゃー」

「ポッ……」

予想通りの野蛮丸出しな声と、なぜか、女子の黄色い声も、少しだけ混ざっていた。

「えー静かに、静かに。彼女が、今日からこのクラスの一員になる、二之瀬成美さんよ。いろいろと分からないことがあるだろうから、みんな、いろいろと教えてあげてね」

「はーい! イロイロ教えまーす!!」

「ホラーそこ、茶化さない!」

「はーい……」

市立虹扇中学校、二年C組。それが、成美の転入先だった。

「それじゃあね……。そこの空いてる席、座ってちょうだい」

木下先生は指差した。、後ろの窓際の空席だった。

成美は、年期の入った新しい椅子に腰かけた。隣で同級生が微笑んでいた。そして、彼女は小声で成美に囁いた。

「はじめまして、わたし愛川みのり。みのりって呼んで」

「こちらこそ、よろしくね」

成美は、彼女――愛川みのりに、微笑み返した。

 

そして、一時限目。黒板の方では、何かコマゴマとしたことが書かれている。みのりは成美の方に席を寄せて、一緒に教科書を見ている。

成美は、しきりにノートにペンを走らせている。

『愛川みのり

 クラス委員

 栗毛

 セミショートで、ふわふわした感じ

 幼い感じ

 わたしより背が低い?

 小さい小動物のような

 白い肌

 スベスベのお肌

 柔かそうな肌

 お餅みたいに肌色な』

キーンコーンカーンコーン……。

そんなことを書いていると、アッという間に昼休みになった。隣のみのりが、成美の目を見た。

「一緒に、お弁当食べない?」

「うんっ 食べよ!」

成美は、軽快に答えた。ついでに、その周りには数名のクラスメイトも、集まってきていた。

 

学校初日が終わり、成美は帰宅した。机の上にカバンをドサリと置くと、勝ち誇ったかのように宣言した。

「みのりさんよ」

「ハメ?」

成美が通学カバンに語りかけると、中から、ハメ太郎の声がした。

「みのりさんよ、みのりさん。みのりさん、ハーメリアよ」

「急に、なにハメ」

よっこらしょっ、と、ハメ太郎はカバンの中から這い上がり、机の上に座った。

「ンもう。見てたでしょ。転校初日の、優しくて可愛い同級生。お約束じゃない」

「お約束って、何ハメ」

「お約束は、お約束。と・に・か・くっ。彼女しか、いないわ」

「ハメェ」

「それにね、一人よりも二人、二人よりも三人。ハーメリアがもっといれば、ハメランドを取り戻せるのよ!」

「それは、ハメェ……」

「ハメランド、早くどうにかしたいでしょ」

「ハメ」

「そういうコト。見てなさいハメ太郎、わたし、みのりさんがハーメリアかどうか、探ってみるわ」

 

夜。不穏な影が蠢く時間。例の路地裏の奥の奥、最も暗く湿った場所から、闇からの使者が姿を見せた。扉を通ってきたのだ。路地に置かれた場違いな扉が開き、そこから人間とは思えないような大きさの人型の影が、姿を現した。

ハメゴス帝国からの使者、ジャジーだった。

「やっと……、やっと着いたゼ!! ブッ殺してやる、皆殺しにしてやる、とりあえず、ブチ壊しにしてやンよ!!!!」

ジャジーは闇夜に向かって一通り吠え、町中へと姿を消えた。悪意は、野に放たれた。

 

次の日の朝。

「ナルミ。なにしてるハメェ」

カバンの中から、ハメ太郎が顔を出した。成美は、電柱の陰に身を潜めている。

「シッ。静かになさい、隠れてなさい、ハメ太郎。……あ、来たわ」

成美は、ハメ太郎を、グイとカバンの中に押し戻した。

「あら? 成美さん! おはよう、家、こっちの方なの?」

愛川みのりは、今日は黒色の靴下で、昨日とは別のローファーだった。

「おはようございますみのりさん、オホホ奇遇ですわね、こんなバッタリと出会うなんて。ええ、この近くに住んでいるの」

「へぇ、そうなんだ」

「で、ね。みのりさん」

「こういう小さいぬいぐるみ、見かけなかった?」

成美は、カバンの中からハメ太郎を取り出して掲げた。ハメ太郎はまるでぬいぐるみかのように、全く動かない。

「ううん。……でも、可愛いぬいぐるみ!」

「えへへ、そうでしょ。前の街で買ったんだ」

二人はあれこれとハメ太郎を品評しながら、歩いた。やがては生徒の本流に合流し、校門の中へと流れて行った。

 

「それじゃわたし、クラス委員の集まりあるから、また、後でね」

「それじゃね、みのりさん!」

と玄関で手を振り、みのりが立ち去ると、成美は近くの階段の物陰で、コソコソと背を向けた。

「疲れたハメェ。ぬいぐるみゴッコは疲れるハメ、もうしたくないハメ。いろいろ触られて、くすぐったかったハメェ」

「いいじゃない触られるくらい。慣れてるでしょ?」

と言いつつ、成美はハメ太郎をナデた。

「慣れないハメ、ハメ太郎はぬいぐるみじゃないハメ。で、ナルミ。何か分かったハメ?」

「え? こう言うのって、ハメ太郎が、何か不思議なパワーとか、スペシャルなオーラとか、グレートなエネルギーとかを、キャッチするんじゃあないの?」

「分かんないハメ」

「んー、しょうがないわね。それじゃあ、セカンド・プランよ!」

 

授業中。成美は、丁寧に幾重にも厳重に折り畳んだノートを、それとなく、みのりにまわした。

『ねえねえ

 路地裏の扉

 っていう都市伝説

 知ってる?』

『えー

 知らないよー』

『友だちの友だちの、そのまた友だちから だけどね

 路地の奥に とびらがあるんだってさ

 夜になると

 そこからお化けがでてきて

 あっちの世界に 連れて行かれるんだってさ』

『えー

 初めてきいたよー

 こわーい』

何度か紙が往復した後、終了のチャイムが鳴った。成美はその紙を再び丁寧に折り畳み、カバンの奥にまでねじ込んだ。そして、カバンを持って、そそくさと立ち上がった。

「成美さん? どこか行くの?」

「えっ、あぁ、うん、そう。そう、ちょっとね。ちょっとだけ、職員室に少しだけね、教科書を……」

「一緒に、行く?」

「えっ? 別にいいのよ、私一人で持ってこれるわ」

と言い残し、成美はカバンを抱えて教室を後にした。そしてまたもや校内の死角にて、カバンと向き合いつつ、ハメ太郎を取り出した。

「……という訳よ」

「フワァァアーーー…… 寝てたハメ…… センセイのおしゃべり、むつかしすぎハメェ…… 退屈ハメ…… 眠くなるハメ……」

「そんなこと言わないの。で、これよ、これ」

と、成美は先ほどの小さく小さく折り畳まれたノートを、これまた丁寧に開いて、ハメ太郎に見せた。

「ハメー。読めないハメ、なんて書いてあるハメ、分からないハメ」

「ンもう、ハメ太郎。ハメ太郎の方がよっぽどお勉強が必要じゃあない。帰ったら、さっそく漢字の書き取りね!」

「ハメ?!」

何かよからぬことを直感したらしく、ハメ太郎の身の毛が逆立った。

「ウフフ、ウソよ、ウソ。で、みのりさん、あの扉のこと、知らないみたい」

「ハメ。ナルミ、やっぱりミノリは……」

「最後まで言わないの。まだ、サードプランが残っているわ」

「ムギュハメ」

成美は握りこぶしを作りつつ、やはりハメ太郎をカバンの中に押し込んだ。

 

成美とみのりは、屋上でお弁当を食べていた。まるで青天を空にブチまけたかのような、出来すぎの青空だった。

「……でね、さっきのウワサには続きがあって」

「うん、うん」

みのりは、コロッケをおいしそうに食べながら、成美の話を聞いている。

「夢の中に、お姫様があらわれてね」

「うん、うん」

「『助けて……』って……、助けを求めるらしいのよ!」

「へーっ」

「で。みのりさん。そういう夢とか、見たことない?」

「ううん、無いよー」

愛川みのりは、笑顔で首を振った。

 

夕暮れ時の下校の時間。多くの生徒が、家路を急いでいる。二之瀬成美も例外ではない。……結局、成美のプランとやらは、全て失敗に終わった。しかし。

「二人目はみのりさんよ! 間違いないわ!」

「そうハメ?」

「きっとそうよ。だって、あんなにいい子なんだモン。ね、だから、ハメ太郎、みのりさんをハーメリアにしてよ!」

「ハメ? ハメハメェ? どうやって、ハーメリアになるハメェ?」

「カンタンよ。一芝居ブつのよ!!」

そう言うと成美は、いつの間に作ったのか、ハメ太郎の帽子とよく似た赤い色の帽子を、どこからともなく取り出した。

 

さらに、次の日の朝。愛川みのりは、いつも通りの時間に、いつものように家を出た。少し歩いたところで、そこらのごみ箱の影から、薄汚れた()()が飛び出して来て、みのりの顔面に直撃した。みのりは尻もちをついた。

「あいたた……え?」

みのりの腕の中には、昨日、成美に見せてもらったようなぬいぐるみのような何かが、すっぽりと納まっている。

「助けてハメ!!」

「あなた……ぬいぐるみ?」

「ちがうハメ、ハメ太郎はハメ太郎ハメ!」

「ハメ太郎? あなたのお名前?」

「そうハメ。ハメ太郎は、ハメ太郎ハメ」

「助けて、って……?」

「怖いのに追われてるハメ、だから、助けてほしいハメ!」

ハメ太郎は、成美に叩き込まれた作り話を、涙ながらに語りだした。扉の向こう側から怖いヤツらがやってきたこと、命からがら逃げてきたこと、その怖いヤツに追われていること。王国が危なくて、女神さまの復活が必要で……。色々と一気にまくし立てた。

と、その時。みのりが、遥か上方を見上げた。ハメ太郎も、釣られてそこを見た。

「あれって……」

「ハメ?!」

敵の、影だった。

 

「いたよいたよ、キャッキャウフフとか言ってんぜ オイオイ、リア獣かよ、とにかく、とにかく、ハメッコはいただくぜ!! 出でよ! ジラーイ!!」

「敵ハメェ!! はやいハメェ!!!」

ジャジーは、懐からハメ太郎によく似た()()を取り出し、黄色いオフダをペタンと張り付けた。そして、無造作に放り投げた。それは落下しながら、見る見るうちに膨張していった。

ここら辺りに落ちてくる。危険だ。

「どうすればいいの……?!」

「に、逃げるハメ!!」

みのりは、ハメ太郎を抱えて駆けだした。同時に、元いた場所は、落ちてきた肉の塊に、押しつぶされた。家やら何やらが、その下敷きになった。

「ジラーーーーーーーーーーイ!!!!」

そのジラーイと呼ばれた肉の塊のバケモノは、大きく吠えた。逃げ出すみのりたちに目を据え、ものすごい勢いで迫ろうとする。

「逃げるハメッ、逃げるハメェ!!」

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

みのりは、息を切らせて、虹扇町を駆ける。

「くきゃきゃきゃきゃ!! 逃げてるッ! 逃げてんゼ!! 行けジラーイ、ブッ殺せ!! ひねりツブせ!!!!!!!」

バケモノは、道など関係なく、ほうぼうの家を破壊しながら、一直線に、みのりたちを追う。差は、縮まってゆく。

みのりが何度か曲がると、途端に視界が開けた。虹扇川と、それに架かる虹扇大橋だった。

「大きな水ハメェ!」

「ここを…… 超えれば…… きっと……」

みのりは、息を切らせ、顔をゆがませながら、橋の中央にまで差し掛かった。

が。

「おおっと! ザンネン! ザンネンでしたァ!! ここから先にゃー、行かせねーよ!! くたばれ!!」

行く手に、ジャジーが先回りした。そして後ろには。

「ジラーーーーーーーーイ!!!」

囲まれてしまった。

バケモノは拳を握り、大きく振りかざした。その先には、みのりとハメ太郎。

「きゃああああああーーーーーーーっっっ!!!」

「い、今ハメェッ!!!!!!」

 

ハメ太郎は、みのりの腕の中から飛び出し、勢いよく笛を吹いた。

ピーッ!プーッ!ポーッ!

しかし、マヌケな音が辺りに響いただけで、何も出てこなかった。

「ハメェ?! 話が違うハメェッ!! 出てこないハメッ、ハメ・スティック、出ないハメ!!! 出ないハメェ!」

バケモノの拳が直撃して虹扇大橋は崩れ、みのりは落ちて行った。ハメ太郎は吹っ飛び、河原のそこら辺に転がった。そして、橋の残りのガレキが、みのりに降り注ぐ。

「うげっ」

みのりは大量のガレキの下敷きになり、やはりマヌケな音を立てた。そのスキマから見える、細くて白い腕は、ダランとしていた。ピクリとも動かなかった。

「ミノリッ?! ……ミノリッ!! ミノリ…… ミノリッ……!!」

ハメ太郎の目から、大粒の涙が零れた。

 

その時。

"●○○○○○○○○○○○○○○○○○○" ピコンッ

その時、どこかで、何かが埋まった。

 

ハメ太郎は、河原に都合よく落ちていた棒きれを拾って、構えた。

「ミノリを、返すハメェェェーーーーッ!」

ハメ太郎は、果敢にもジャジーに立ち向かおうとした。ジャジーは、橋の欄干に立って腕を組み、ニヤケている。お定まりのポーズだ。

が。

「なんだ、このジャジー様に勝てると思ってんのか、そこで寝てろアホ」

ジャジーは小さめのエネルギー弾を繰り出した。その光球はハメ太郎を直撃し、ハメ太郎は、ポコンポコンという情けない音とともに、河原を転げた。

「ハメッ、ハメッ、ハメッ…… なんでハメ、どうしてハメッ……」

「ジ・ジ・ジ……ジラーーーーーーーーイ……!」

バケモノが、ハメ太郎の哀れな大声に誘われるように、ゆっくりとハメ太郎に近づいてきた。その大きな口は大量のヨダレがタレ流しで、目と思しき大きな部分は、危険なまでに血走っている。

「キイィーーーー シャァァァァーーーー……

 フゥゥーーーー ハァァァァーーーー……」

低くて高い、そのバケモノの啼き声。圧倒的な異質さが、河原を満たした。バケモノは、ハメ太郎への歩みを止めない。ドスン、ドスン、と一歩ずつ、確実に距離を詰めてくる。

「ハメ?! 来るな、ハメェ!! ハメェ……ッ!」

喰われる。ハメ太郎は、そう直感した。

 

「私の出番ね!!」

物陰に身を潜めていた成美は、どこからともなく、ハメ・スティックを取り出した。

「キープ・ドリーム! ハーメリア! 虹の戦士、レインボー・メリア!!

ハーメリア・ミラクル・ダブル・シュート!」

成美は迷うことなく変身した。決めポーズもそこそこに、即座に、物陰から狙撃した。

ハメ・スティックの周辺から、二本の虹色の光が放たれた。その二本の光条は、あり得ないカーブを描き、光の速さで目標を狙い撃つ。

一本目は、運命で定まっていたかのように、バケモノのコアを直撃した。バケモノは少しだけ呻き、そして肉のさらなる膨張の後、水風船のように破裂した。橋とガレキはさらに吹っ飛び、周囲を巻き込みつつ、さらなるガレキの山と化した。

二本目の虹の光は、迷いなくジャジーの頭を貫いていた。

「うけ?」

ジャジーはパシャンと川に落ち、水に溶け、そして、跡形を残さずに、流れ去って行った。

「これで、一件落着ね……」

成美は、誰ともなく、つぶやいた。

 

ハメ太郎は、河原のそこらの草むらで、くるまって泣いていた。

「ハメェ……。ミノリが……ミノリが……、ハメハメ……したハメェ……。ミノリは、ハーメリアじゃ……なかったハメェ……。ハメェ……」

「もう泣かないで、ハメ太郎。あなたがそんなんじゃ、ハメランドのみんなはどうなるの?」

「ハメェ、でも、ミノリが、ミノリが……ハメェ」

ハメ太郎と成美は、崩れてえらいことになっている橋の方を見た。現場からは、うめき声一つすらも、聞こえてこない。

「でもねハメ太郎。もっと仲間を増やさないと、今日と同じようなことが、また起きるわ。そうなれば、もっともっと悪いことが……この人間の世界が、ハメランドのようになっちゃうわ。それは、イヤでしょう?」

「それは……ダメ、ハメェ……」

「そうよ、ハメ太郎。私たちの戦いは、まだ、始まったばかりなのよ!!」

 

 

〈次回予告〉

成美とハメ太郎の前に現れた、不気味な影。

静かに忍び寄る、巨大で不愉快な恐怖。

虹扇町を覆う、その謎の真実とは。

そして覚醒する、二人目のハーメリア!

次回、「ウソ?ホント?! あなたが二人目のハーメリアなの?!」。

あなたといっしょにハメハメしましょ!

 

 



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