魔法少女リリカルなのは~鬼神降誕~ (汰蹴)
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序章

初めまして、汰蹴です。


原作崩壊し兼ねないものになるかもしれないので、原作崩壊が嫌な方、転生ものが嫌な方、俺TUEEEEEEが嫌な方、オリジナル展開が嫌な方、ハーレム展開が嫌な方、オリキャラの登場が嫌な方は、読むのをスパッと切る事をお勧めします。


これらの要素があっても「大丈夫、問題ない」という方は、厚く歓迎すると同時に、感謝の意を表します。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…やばい……目が霞んできたぜ、畜生……」

 

 

 

 獣の様な縦に伸びた赤い瞳をし、額に五寸程の一本角を生やした青年、『如月 大雅(キサラギ タイガ)』は、柄が白く赤みがかった刀身と、柄が黒く青みがかった刀身の二振りの刀を地面に突き立て、膝立ちで息も絶え絶えに自答する。

 

 

 

 如月大雅は今、異様な風体を晒していた。

 

 

 

 衣服はボロボロで全身が血塗れ、擦過傷、打撲痕、裂傷、火傷、噛み傷と、至る個所に傷が見受けられる。

 

 

 

 特に目に付くのは、今にも千切れそうで、皮一枚で繋がっている状態の左腕と、右目は抉られ、左の肋骨が皮膚を貫き、右脇腹が喰い千切られた様な噛み傷があり、まさに満身創痍な出で立ちが目に付き、今生きているのが不思議なぐらいだ。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……まだだ……まだ倒れられん……。どれもこれも重傷と言える傷だが、特に困るのはこの左腕か……。こんな左腕じゃ……刀を扱うどころか、握る事すらままならん……。逆にプラプラして邪魔ですらあるか……」

 

 

 

 

 如月大雅は、左腕を一瞥すると、徐に、右手を千切れ掛かっている左腕に添えて、一気に引き千切った。

 

 

 

 

「ふぅ……ここまでくると……痛みを感じる事が鈍くなってきたな……」

 

 

 

 

 此処までボコボコにされると、ランナーズハイみたいに、痛みが薄らいできているらしい。

 

 

 

 満身創痍になっても尚、倒れるわけにはいかない理由があった。

 

 

 

 それは、目の前に在る敵に起因する。

 

 

 

 その敵というのが、神話の大怪物『八岐大蛇』が居るのだから。

 

 

 

 そんなの冗談だろ?とか、ただの伝承でしょ?とか、スサノオに斃されなかったっけ?とか、第一、ハイテク社会である現代で、何故あんなのが居るの?だとか、色々疑問はあるが、実際に目の前に居るのだから、その存在を認めるしかない。

 

 

 

 『八岐大蛇』の特徴である、一つの胴体に、八つの頭と八つの尾を持ち、鬼灯の様に目は真っ赤で、その胴体から苔や檜、杉等が生え、八つの谷と八つの峰に跨る程の巨体で、腹からは血で爛れていたりと、日本書紀に記されている特徴と合致するのだ。

 

 

 

 夢や幻ではなく、冗談だと思えても納得せざるを得ない。

 

 

 

 そもそも、何故、如月大雅が『八岐大蛇』と対峙しているかというと、簡単に説明するなら、彼は、陰陽師に近い存在だからだ。

 

 

 

 つまり、仕事の一環として、『八岐大蛇』と対峙しているのである。

 

 

 

 しかし、前触れもなくいきなり現れたものだから、神話の様に酒を使って退治するやり方が出来ず、シラフで討伐を試みて、戦い続けた結果が、今ではご覧の有り様だ。

 

 

 

 それでも、今ここで力尽きてしまえば、人類が滅亡する事は想像に難くない。

 

 

 

 それが分かっているからこそ、まだ力尽きるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

「あと少しだ……。あともう少しで……奴を斃せる……。もう少し持ってくれよ……俺の体……」

 

 

 

 

 如月大雅は『八岐大蛇』と戦い始めて、八日目を迎えていた。それも、八日も不眠不休でだ。

 

 

 

 その苦労も実り、一日一つずつ首を斬り落とし、ようやくあと一本まで漕ぎ着けた。

 

 

   

 

「さぁ、最終章《フィナーレ》といこうか……。頼むぞ、我が愛剣『霊蒼剣』『霊紅剣』」

 

 

 

 

 剣の担い手たる主に問い掛けられた『霊蒼剣』と『霊紅剣』は、主の問い掛けに応えたかの様に、青と赤に輝く光りを、より一層に輝かせた。

 

 

 

 それに満足した如月大雅は、立ち上がって『霊蒼剣』を口に咥え、『霊紅剣』を右手に持ち、スタンディングスタートの構えをとり、一気に駆け出した。

 

 

 

 如月大雅の動きに合わせて、『八岐大蛇』は迎撃態勢に入る。

 

 

 

 口から火を吐き、大きく太い尾を鞭の様に撓らせ、迎撃する。

 

 

 

 如月大雅は、その攻撃を確実に避けながらも、前へ前へと突き進む。

 

 

 

 火の攻撃も、尾の攻撃も既に何度か受けていて、当たればどうなるか身をもって体験している為、前へ進みながらも機が熟すまで、きっちり避ける。

 

 

 

 どれかの攻撃を一つでも受ければ、恐らく二度と立ち上がれないだろう。

 

 

 

 はっきり言って、掠る事でさえ、尾の風圧の相乗効果によって、20tトラックで高速で突っ込まれるぐらいの威力を誇るのだ。

 

 

 

 だから、掠らせる事もなく確実に避ける。

 

 

 

 そして、如月大雅は何時でも斬り込める場所までくると、確実に斬る為に、タイミングを計りながら、『八岐大蛇』の足下のすぐ側で、隙を窺う。

 

 

 

 【結構危険な場所で観察しているなぁ】と思うだろうが、巨体であるが故に、灯台下暗しという言葉がある様に、比較的安全なエリアで、観察はしやすい。

 

 

 

 それでも、踏み鳴らす足だとか、鋭い爪が覗く振り子の様に振って来る手だとか、時折落ちてくる水滴を注意する必要があるが、ビュンビュンとやってくる尾と、津波の様に吐き出される炎に比べれば、遠方に居るよりかは幾分かマシである。 

 

 

 

 足なんて、右から左まで結構離れている分、踏み付けられる心配は少ないし、手での攻撃も複雑怪奇な動きをする複数ある尾(3本程、尾を斬っている)よりかは、読み易いし、避け易い。

 

 

 

 近場において、意外に曲者なのが、時折落下している水滴が中々厄介だったりする。

 

 

 

 何故、水滴に注意しないといけないかというと、実はその水滴というのが、『八岐大蛇』が口から零す涎なわけだが、その涎が零れ落ちた個所から、地面を腐食させ、草木が焼け爛れたような形跡を見せている。

 

 

 

 実際に飛沫が衣服に掛かり、その衣服をボロボロにさせているのを確認していて、衣服をボロボロにさせている一番の原因がその涎だったりする。

 

 

 

 恐らく『八岐大蛇』の唾液には、地面を腐らせる事から、高濃度の毒性があり、尚且つ、草木を焼け爛れさせている事から、硫酸の様な成分も含まれているのだろう。

 

 

 

 非常に危険ではあるが、ただ落ちてくるだけなので、避け易いが、飛沫にも注意する必要がある為、近場では比較的一番厄介である。

 

 

 

 ただ、如月大雅は毒性に強い耐性を持っているのと、毒の巡りをレジストする手段はある為、多少は抵抗出来る。

 

 

 

 実際に、今、毒の巡りを不可思議な力でレジスト中である。

 

 

 

 噛み傷で分かる通りに、既に厄介な成分を含んだ唾液が付いた牙で噛みつかれている為、流石にある程度抵抗出来るとはいえ、次毒を被れば、毒の巡りを加速させ、死へと至らしめると予測出来るからこそ、きっちり避けるのだ。

 

 

 

 結局のところ、この戦いで勝とうが負けようが、如月大雅は十中八九助からないであろう事は、自分自身も分かっている。

 

 

 

 だが、まだ倒れるところは、今この時ではないし、許されない。

 

 

 

 時が来るまで、毒と傷に耐え続け、時折隙の多い腹下を刀で突っ突いたり、斬り裂きながら、ひたすら待つ。

 

 

 

 あまりに巨体すぎる所為で、斬っても致命傷とならないが、ボディブローの様な攻撃がそこそこ効いているらしく、少しずつ動きも鈍くなってきている様で、段々と最後の攻撃が仕掛けられそうな、後一歩のところまできている。

 

 

 

 

「……光明が見えて来たか?だが、まだだ……。違う、これじゃない……。違う、これでもない……。これも違う……。落ち着け……慌てるなよ。……チャンスは、一度きりだ……」

 

 

 

 

 一見、大振りで隙が結構ある様に思えるが、斬る予定のある首の位置がかなり上空にある為、隙が隙でなくなり、下手に斬りに行こうものなら滞空中に攻撃される。

 

 

 実際にこれをやって、相打ちという形で数回攻撃を受けているから油断が出来ない。

 

 

 

 空中を蹴るという形で、空を駆け上がる事は出来るのだが、飽くまで跳んでいるのであって、飛んでいるわけではなく、多少は空中で融通は利くものの、鳥の様に自由は利かない為、少々の隙では如月大雅の方が分が悪く、打ち落とされるビジョンしか見えない。

 

 

 

 唯でさえ、既に限界突破しているのに、次、攻撃を受ければ、今度こそジ・エンドだ。

 

 

 

 だからこそ、まともに動けるのもこれが最後だと言い聞かせ、背水の陣で臨み、中途半端な隙に惑わされない様に隙を慎重に見極める。

 

 

 

 避け続ける事一時間、遂にその時が来た。

 

 

 

 

「ここだ!如月流奥義……」

 

 

 

 

 決定的な隙を見付け出した如月大雅は、空を一気に駆け上がり、『八岐大蛇』の最後の首に近づき、紫色の炎を霊紅剣に纏わせ、赤かった刀身が赤紫色に燃え輝かせて、その刀で真一文字に首を斬り裂き両断した。

 

 

 

 

「【一鬼当千鬼炎斬】!」

 

 

 

 

 切り取った頭から、紫色の炎が燃え上がり、地に落ちて行った。

 

 

 

 だが次の瞬間、頭が無くなったにも係わらず、『八岐大蛇』の咆哮が辺りを轟かす。

 

 

 

 それと同時に、複数ある尾が無秩序に暴れ狂い、その内の一本が、如月大雅目掛けて襲いかかる。

 

 

 

 

「邪魔だぁ!!」

 

 

 

 

 斬った瞬間の反動で、尾が襲いかかってくるのは何度かあった為、如月大雅は慌てず、闘牛士の様にひらりと交わし、回避際に霊紅剣で横薙ぎに斬り払った。

 

 

 

 しかし、尾がかなり太いという事もあって、完全には斬り切れず、右腕を掠らせ、そのまま引き千切って行った。

 

 

 

 

「!!!!!ッチ、ミスったか……。すまない、霊紅剣……。だが、首は獲った。そして、俺はまだ生きている!最後の仕上げだ!俺の相棒はもう一本あるぜ、行くぞ!」

 

 

 

 

 右腕を千切られはしたが、予定自体はクリアした為、悲観せず、更に追い討ちだとばかりに追撃を試みた。

 

 

 

 如月大雅は、空中で態勢を整え、口元の刀を横から縦に咥え直して、今度は刀だけではなく体全体に紫色の炎を纏い、『八岐大蛇』の四本目と五本目の間の首の付け根目掛けて、真っ逆さまに落下して行った。

 

 

 

 そして、刀の刃先が『八岐大蛇』の首の付け根を捉え、そのまま付け根を貫いて突き進んでいき、終には、胴体の下まで貫通する事に成功した。

 

 

 

 『八岐大蛇』の真下に着いた如月大雅は、すぐにその場から、『八岐大蛇』が倒れ込んで来ても大丈夫な位置まで離れた。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、これで…どうだ……」

 

 

 

 

 如月大雅は、剥製の様に動かなくなった『八岐大蛇』を見つめ、しばらく時間が経った後、ゆっくりと体を傾け、終には『八岐大蛇』が地に伏して、完全に動かなくなったのを確認した。

 

 

 

 それを見届けた如月大雅は、さっきまであった角が消え去り、瞳も通常に戻った後、糸が切れたマリオネットの様に膝から崩れ落ち、仰向けに倒れた。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、どうじゃこりゃあ!あの神話の怪物を倒してやったぜ!グアッ!ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴフッ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ゴホッ、ゴホッ……」

 

 

 

 

 息も絶え絶えに、歓喜の雄叫びを挙げた後、力の抜けた如月大雅は、さっきまでの傷と毒のツケが一気にやって来て、苦悶の表情を浮かべ、咳き込み、大量に血を吐いた。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……死ぬなぁ……こりゃ……。ハァ、ハァ、でも……悪くない……気分……だ……。ハァ、ハァ……もし……あの世……というのが……あるの……なら……ハァ、ハァ……また……あいつと……会えると……い……い……な……」

 

 

 

 

 そう呟いた瞬間、如月大雅は、そのまま眠る様に息を引き取った。

 

 

 

 傷のないところなんて見当たらないぐらい見るも無残な姿だが、如月大雅のその死に顔は、うっすら笑みを浮かべ、清々しい程に晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如月大雅VS八岐大蛇

 

 

勝利条件:先に斃れた者

 

 

勝者:如月大雅

 

 

敗者:八岐大蛇

 

 

勝因:折れなかった精神と諦めない心

 

 

代償:如月大雅の死

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂き、誠に有難う御座います。


投稿間隔は不定期ですが、最低限一週間の内に一回投稿出来るのを目標に頑張ります。


チラシの裏で書いた様な文章ですが、今後とも宜しくお願いします。



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序章 弐

原作崩壊が嫌な方、転生ものが嫌な方、俺TUEEEEEEが嫌な方、オリジナル展開が嫌な方、ハーレム展開が嫌な方、オリキャラの登場が嫌な方は、読むのをスパッと切る事をお勧めします。


これらの要素があっても「大丈夫、問題ない」という方は、厚く歓迎すると同時に、感謝の意を表します。


大切な事なので此処でも書かせて頂きました。


 

 

 

 

 

 

 

「……ん?ック、頭痛ぇ……。何処だ?此処……」

 

 

 

 

大雅は目を覚ますと、痛む頭を押さえながら、起き上がり、辺りを見回した。

 

 

 

上を見上げれば、快晴日の空の様に青い光景が、下を向けば、雪の様に真っ白な地面が広がり、周りは、生き物は疎か、建物すらない、青と白だけの殺風景な世界に大雅は居た。

 

 

 

 

「っつうか眩しいな、おい……。しっかし、ホントに何処だよ此処……。俺って死んだ筈だよなぁ?という事は此処ってまさか天国……な、訳ないな。俺が天国とか(笑)ねーよ。そう思った自分が恥ずかしい。かといって地獄の様にも見えんしな……。さっぱり分からん。う~ん……」

 

 

 

 

いきなり身に覚えのない知らない場所に来た大雅は、なんとか情報を得ようとキョロキョロと辺りを見回しても、何も無さ過ぎて、まともな情報が掴めない。

 

 

 

歩き回って情報を探す事を考えたが、マサイ族を優に超える視力を持つ大雅が見回して何もないのだから、動き回るのは得策じゃないと判断し、その場に座り込んで、目を閉じ、思考に耽った。

 

 

 

状況を整理して、色々考え推測してみるも、即座にその考えを否定し、何度も思考の海に飛び込む。

 

 

 

色々と考えた結果、大雅は一つの疑問に気付いた。

 

 

 

 

「あれ?もしかして、俺ってこんなん考えてる事自体意味ないんじゃね?」

 

 

 

 

 そう思った途端、大雅は考えるのが馬鹿らしくなり、自身に苛立った。

 

 

 

 何故なら、大雅の考えが、当たっていようが当たってなかろうが、大雅の疑問に答えてくれる人はいない為、考える事が無意味と感じ、考える事を放棄した。

 

 

 

 実際に、大雅の疑問が当たっていたとしても、どうする事も出来ないのだから。

 

 

 

 

「だぁ!!!考えれば考える程ドツボに嵌るぞコレ!?いかんいかん、一旦落ち着こう……。ふぅ、どうしようか……。取り敢えず、まぁ、考えたところで何にもならんから、寝てるか。果報は寝て待てって言うしな」

 

 

 

 

そう思った大雅は寝転ぼうとした時、不意に大雅の背後から、人らしき気配を感じた。

 

 

 

 

「!!!其処に居るのは誰だ!!?」

 

 

 

 

直ぐ様振り返って、臨戦する構えを取ると、其処には、青い髪と赤い髪をし、その髪の色と同じ色である、青と赤を基調とした、巫女服みたいな服装を着ており、その容姿は、誰からも目を惹く事間違いない程の二人の美女が、立て膝の姿勢で、大雅に向けて恭しく頭を垂れていた。

 

 

 

 

「えっと……は?どういう状況これ?ていうか、誰だ?」

 

 

 

 

 頭を下げていて、少々分かり辛いが、それからでも窺い知る事が出来る程の美女で、尚且つ、初対面の筈にも係わらず、畏まられているこの状況に毒気を抜かれ、大雅は困惑し、まともな言葉が出て来ない。

 

 

 

 考えていても無駄である事を感じてジタバタするのを辞め、寝っ転がって事態を待とうと思った矢先に、見知らぬ美女二人の普通ではない登場で、展開が急過ぎて思考が付いていけず、疑問符ばかりが頭上に浮かび上がる。

 

 

 

生前に縁のある誰かかと思い、女性二人の顔色を窺いながら、生前の記憶を絞り出そうと思い馳せるがやっぱり出て来ない。

 

 

 

明確な答えは導き出せなかったが、大雅は二人の女性を見て、ふと、ある事に気付いた。

 

 

 

 

「しかし、あれだな。初めて見る顔だけど、何故だか初めて会った気がしないんだよなぁ……。何というか、俺の持つ愛剣と似た気質を感じるし……。あれ?そうだ、愛剣で思い出したけど、終わった後、刀をどこかに吹っ飛ばしたまま忘れてたな。まぁ、それとこれ関係あるかどうか知らんけど……」

 

 

 

 

どうにかそこまで考えが行き着くと、何時までも立て膝の態勢のままである事に気付き、態勢を崩す様にと、彼女達に話し掛けた。

 

 

 

 

「あ、そうだ、君達が何故そうしているか分からないけど、取り敢えずその態勢崩してくれないか?そうされるの結構気恥かしいからさ……」

 

 

 

 

「「はい、分かりました(であります)」」

 

 

 

 

大雅に話し掛けられ、ずっと大人しく控えていた彼女達は、ようやく口を開いた後、態勢を崩し、立ち上がった。

 

 

 

彼女達の佇まいを見て、改めて綺麗な人達だなぁと、大雅は心の中で思った。

 

 

 

 どちらの女性も上背があり、スタイルの出難い和服なのにも係わらず、自己主張の激しい双乳、特に青髪の女性の方はその主張がより顕著だ。

 

 

 

彼女達を個々に見ていくと、青髪の女性は瞳も青く、若干釣り目で、どことなくお嬢様の様な清楚な雰囲気を醸し出し、青く綺麗な髪を腰元ぐらいまで伸ばし、見た目の年齢を予想するなら、十八歳前後くらいだろうか?

 

 

 

顔立ちは、前にも述べた通り、誰もが綺麗だと思う美人で、似ている人物像をイメージするなら、SHU○LE!の背が高めでエルフ耳のないネ○ネに似ているだろうか?

 

 

 

変わって、赤髪の女性を見ると、こちらも髪の色と同じ様に瞳は赤く、こちらもやや釣り目で、髪の長さは、肩に届いているところと届いていないところがあるが、基本的には短めの髪で、見た目の年齢を予想するなら、こちらも二十歳《はたち》前後だろうか?

 

 

 

顔立ちだって此方も綺麗な顔をしているし、敢えて似ている人物像をイメージするなら、某灼眼に出てくる、髪がもうちょっと赤くなったヴィ○ヘ○ミナ・カ○メ○だろうか?初めて口を開いた時「~であります」って言っていた気がするし。

 

 

 

表情に出す事はなかったが、思わず大雅は見惚れてしまったが、先に死別した恋人を思い出し、心を落ち着けた。

 

 

 

 

「あぁ……、立ったままでいないで、取り敢えず座りなよ。君達に聞きたい事が結構あるから」

 

 

 

 

「「はい、失礼致します(であります)」」

 

 

 

 

 大雅に座る事を促され、返事をし、その場に座り込んだ。正座で……。

 

 

 

 

「態々厳かに正座じゃなくて楽に座ればいいのに……。まぁ、いいや。取り敢えず幾つか質問があるんだけど、質問してOK?」

 

 

 

 

「はい、なんなりと」

 

 

 

 

「私が応えられる範囲なら、全て応じるのであります」

 

 

 

 

 二人の許可が得られたので、大雅は質問を始めた。

 

 

 

 

「それじゃあ、まずは、君達誰?」

 

 

 

 

 やんわりとした質問ではなく、いきなりド直球な質問だったが、彼女達同志で視線を合わせた後に、躊躇する事なく応えた。

 

 

 

 

「では、僭越ながら私が……」

 

 

 

 

 先に口を開いたのは、青髪の女性だった。

 

 

 

どうやら、彼女たちが視線を合わせたのは、どちらが、話すか?の為の視線だったらしい。

 

 

 

 

「この姿では、初めてになりますね。私はずっと大雅様に使って頂いた『霊蒼剣』で御座います」

 

 

 

 

 霊蒼剣と名乗った女性の突然の告白に、大雅は驚きの様相を見せる。

 

 

 

元々、霊格の高い霊剣だったが、人に成れたのは流石に予想外だった。

 

 

 

 

「まじでか!?っていう事は、もしかして君は……」

 

 

 

 

 蒼髪の女性の霊蒼剣発言から、大雅はふと閃き、赤髪の女性の正体に心当たりがあり、赤髪の女性に視線を投げ掛け、赤髪の女性も待ってましたとばかりに応えた。

 

 

 

 

「はい、マスターの想像通り、私の正体は『霊紅剣』であります」

 

 

 

 

 荒唐無稽な話しで、彼女たちが嘘を言っている可能性だってあるにも係わらず、大雅は心の底で納得していた。

 

 

 

 

「そうかぁ……、霊蒼剣と霊紅剣か……。彼女達が嘘を吐いている雰囲気も見えんし、何より、気質が刀と同じ波動を感じるから、彼女達の言う事は本当なんだろうな……。取り敢えず、何で人になってんの?というより、人に成れたの?」

 

 

 

 

 大雅は、彼女達が、霊剣である事を納得しているが、何故そうなっているのかは、理解していない。

 

 

 

 

「申し訳御座いません、大雅様。私達も、何故人になっているかは、私達自身存じ上げておりません」

 

 

 

 

「気付いたら、人の姿をとっていたのであります」

 

 

 

 

霊蒼剣の言葉に、霊紅剣が補足する様に説明する。

 

 

 

 

「そうか……、君達で分からないのなら、俺が分かる訳ないか……。あ、そうそう、一つ思ったんだけど、態度とかにも出ていたけど、もうちょっと砕けた話し方出来ない?何故そんなに畏まるのか分からないけど、堅苦しくてさ……」

 

 

 

 

 現れた当初から気になってはいたが、其処を聞いている余裕がなかった為、一旦横に置いといたが、今はそこそこ余裕も出来て来た為、改めて聞いてみた。

 

 

 

 

「気にしていたのなら、申し訳御座いません。私にとって大雅様は、忠誠すべき主ですので、自然とそうなっていました。大雅様がこの口調を気にしているのなら、なんとか変えられる努力は致します」

 

 

 

 

「マスターに忠誠を誓っているのは、霊蒼剣だけではなく、この霊紅剣もそうなのであります。そして、私もマスターが気になさるのなら、私も変える努力をするのであります」

 

 

 

 

納得はしてくれた様だが、直ぐには変えられない様で、やっぱり大雅に対して謙ってしまう傾向にあり、その謙り方が強い所為で、普通に会話出来る様になるまで、道のりはまだ遠い様だ。

 

 

 

 

「ま、まぁ、出来るだけでいいから頑張ってくれ。そうだ!距離を縮める為に、君達の名前を考えようか。幾ら刀とはいえ、人型を取っているなら、何時までも霊蒼剣とか霊紅剣のままじゃ可哀そうだしな」

 

 

 

 

「いえ、私はそのままでも構いませんが……」

 

 

 

 

「私も霊蒼剣の意見に賛成であります。私達の所為で、態々マスターの手を煩わす訳にはいかないのであります」

 

 

 

 

大雅は、否定する事を言うだろうなと見越していた様で、すかさず答えた。

 

 

 

 

「まぁ、待ちなって。距離を縮めるきっかけの一つとしての提案だよ。何よりさ、名前がないと不便だろ?という訳で、君達の名前は俺が考えよう」

 

 

 

 

「いえ、あの、はい、どうもすみません」

 

 

 

 

「申し訳ないであります」

 

 

 

 

「うん、あのな?ここは、謝罪するところじゃないだろ?」

 

 

 

 

「「あ、はい、あの有難う御座います(であります)」」

 

 

 

 

「そう、それでいい。それじゃあまず、霊蒼剣、君の名前から決めるな」

 

 

 

 

 そして大雅は、霊蒼剣の顔をじーっと眺めて、しばし思考する

 

 

 

 霊蒼剣は、大雅にじーっと見詰められ、気恥ずかしさからか、顔を紅潮させて、体をモジモジさせている。

 

 

 

 

「ん?顔赤いけどどうかした?」

 

 

 

 

 原因が大雅本人である事を気付かずに、ノー天気な質問をする。

 

 

 

 

「ひぇ!?いえ、何でもありません」

 

 

 

 

訝しんだ大雅に、いきなり話し掛けられ、可愛らしい悲鳴を上げるが、霊蒼剣は慌ててその場を取り繕う。

 

 

 

 

「そう?おっと名前だな。う~ん……、青、蒼、藍……よし、決めた!霊蒼剣、君の名前は、『魅空《ミソラ》』だ。安直だけど、青髪青眼である容姿から、青といったら何かなと考えたら、空が出てきて、すぐに思いついたのが美空だったけど、【美】ではなく【魅】にしたのは、俺の事を表す鬼を捩って【魅】の方にしてみました。【魅】って鬼を使っているけど、悪い意味でもないしね。どうだろうか?」

 

 

 

 名前の付け方自体は安直だが、それなりに凝った名前で、大雅自身もなかなかの出来栄えだなと思っているが、霊蒼剣本人にはどう映っただろうか?

 

 

 

 

「魅空、ですか……」

 

 

 

 

霊蒼剣はしばらく熟考した後、破顔した顔で頷いた。

 

 

 

 

「はい!すごくいい名前だと思います。私の為にこの様な素晴らしい名前を付けて頂き、誠に有難う御座います!それも、大雅様を表す鬼を頂けるなんて……嬉し過ぎて、思わず絶頂に達してしまいそうです!」

 

 

 

 

 霊蒼、否、魅空は満面の笑みを浮かべ、深く深くお辞儀をする。

 

 

 

あまりの喜びように、大雅は少しタジタジだ。

 

 

 

 

「ま、まぁ其処まで喜んでくれるのには驚いたけど、喜んでくれて何よりだ」

 

 

 

 

「フフッ、魅空……魅空……魅空……。私の名前……」

 

 

 

 

 かなり嬉しい様で、大雅の言葉すら届かず、自分の名前を呟いて心に沁み込むように反芻し、ただただ嬉しさを噛み締めている。

 

 

 

 その光景を、霊紅剣は羨ましそうに、魅空を見つめ、大雅の顔色も窺っている。

 

 

 

 

厚かましいと思いながらも、嬉しそうにする魅空を見て、居ても立っても居られず、思わず大雅に声を掛けた。

 

 

 

 

「あの、マスター……」

 

 

 

 

「おっと、悪いな。次は麗紅剣、君の番だな。それじゃあ、どうしよっかな?う~ん……紅、赤、朱……、よし、決めた!霊紅剣、君の名前は『夕魅《ユミ》』だ!君の名前の決め手も、赤髪赤眼である事から、赤いモノを考えた結果が、夕焼けで、魅空と共通しているのは、どちらも空の事だし、ある意味姉妹剣っぽい君達の事だから付けたんだがどうだい?」

 

 

 

 

「私の名前でありますか……はい、私にもこの様な素晴らしい名前を付けて頂いて、大変嬉しいのであります」

 

 

 

 

 魅空に比べて、若干感情は希薄だが、それでも顔を紅潮させ、表情を綻ばしている。

 

 

 

 

「気に入ってくれて何よりだ。よし、名前も決まった事だし、次の議題に入るか」

 

 

 

 

 ほんわかしている雰囲気を、大雅の言葉で一変させ、話しの内容を切り替えた。

 

 

 

 

「まず、此処が何処で、死んだ筈の俺が居て、今のこの状況がどうなっているか、君達は分かるか?かなりボロボロにされた筈なのに、傷が見当たらんし……」

 

 

 

 

 明確な答えなんて返って来ないだろうなと思ったが、何かのヒントになるかと思い、聞いてみた。

 

 

 

大雅の問い掛けに、二人はしばらく考えた後、魅空がゆっくり口を開いた。

 

 

 

 

「大雅様、私なりの考えがありますが、宜しいでしょうか?私が考えておいて荒唐無稽なのですけども……」

 

 

 

 

 魅空が自信なさそうに、言い淀んでいるが、大雅は構わず続けさせた。

 

 

 

 

「魅空の考えが、的を射ているかどうかは、俺が判断するけど、荒唐無稽だとしても、取り敢えず、聞かない事には先に進まんから、魅空の考えを話してみて」

 

 

 

「分かりました。判断材料がないので、自信は無く、飽くまで私の推測ですけども、此処は恐らく、大雅生死の狭間、天国と地獄の境目、或いは、三途の川や黄泉比良坂の様なあの世に準ずるものの一つではないか?と考えましたが、案外、ただの夢という説も無きにしも非ずと思っております」

 

 

 

 

「成程ね……。魅空もあの世という説を考えたか……。俺も、あの世的な何かかと思ったんだけど、君達が人の姿で出現したと分かった時、あの世説に疑問を抱いて、判断を鈍らせているんだけど……、夕魅の方はどう?」

 

 

 

 

 大雅は、魅空の考えを吟味した後に、夕魅にも考えを求めた。

 

 

 

 

「そうでありますね……、私もこの件に関しましては、霊蒼……いえ、魅空の考えと近いのでありますが、此処があの世でないとするならば、別世界、もしくは平行世界の通り道の中間点、或いは、根源《アカシック・レコード》の様な場所への到達したのではないかとも、考えましたであります」

 

 

 

 

 夕魅の考えは、魅空よりも、斜め上を行く荒唐無稽さだが、それを否定する材料がないので、大雅はその考えを受け入れた。

 

 

 

 

「成程ね。そういう解釈もあるか……。荒唐無稽さがレベルを増したけど、かと言って否定する事も出来ないか……」

 

 

 

 

 それからも三人は、あれこれ意見を交換し合いながらも、結構和気藹々とした雰囲気で居る空間内に、突如として、緊張が走る。

 

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

 

 三人は慌てて、卍の陣の様に背中合わせになり、臨戦態勢を取る。

 

 

 

 

「魅空、夕魅、警戒を怠るなよ?」

 

 

 

 

「「はい」」

 

 

 

 

「よし。其処に誰か居るのは分かっている!今すぐ出てこい!」

 

 

 

 

 大雅が気配のある方向を睨むと、大雅の正面から、靄の中から現れてく人影の様に、スーッと姿を現した。

 

 

 

 そして現れたのは、十二単に羽衣を着飾り、小柄だが、美少女といえる様な顔立ちで、艶やかで、地面に着きそうな程黒く長い髪をした、15,6歳ぐらいの少女が大雅の前に現れた。

 

 

 

 見掛けとは裏腹に、大雅は強い圧力を感じた。

 

 

 

 しかし、敵対する様子はない様で、少しだけ警戒を緩めたが、それでも完全には解かない。

 

 

 

 魅空と夕魅も、現れた少女に気付き、大雅と同じ方向を見た彼女達は、何故か逆に、警戒を強めている。

 

 

 

 

「「何者ですか(ありますか)?」」

 

 

 

 

 彼女達の問いに触発されたかは分からないが、その少女がゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「待たしてしまってすまんのぉ。妾が主等を呼んだ者じゃ」

 

 

 

 

 少女の言葉に、彼女達は元より、大雅も緩めた警戒を強くし、少女を威圧する様に睨む。

 

 

 

 それに気付いた少女は、慌てて大雅達を止める。

 

 

 

 

「はわっ!?ま、待って下s……ゴホン!待って欲しいのじゃ、妾の話しを聞いてたも。まず、自己紹介をするのじゃ。妾の名は、天照と申すのじゃ。倭の国の主神を務めておる」

 

 

 

 

 少女のその名前に、大雅は更に警戒を強め、今にも跳び掛かりそうな雰囲気すらある。

 

 

 

 

「え!?何でですかじゃなくて……何でじゃ!?」

 

 

 

 

 常識的に考えて、いきなり天照と名乗られても、荒唐無稽な為、「はい、そうですか」と頷ける筈もない。

 

 

 

というより、さっきから、何かを言いかけて言い淀んだり、ババァ口調だったりと、変な喋り方をしていて気になり、少女の言葉が中々耳に入ってこない。

 

 

 

 

「お願いじゃから、妾の話しをちゃんと聞いてくれんかの?」

 

 

 

 

 少女の言葉に、大雅は彼女達と視線を合わせて、確認を取った。

 

 

 

 

「分かった。取り敢えず、話を聞こう。魅空も夕魅も一応警戒を完全に解けとは言わないけど、少し力を抜いてくれないか?」

 

 

 

 

「「分かりました(であります)」」

 

 

 

 

 そして三人は、ある程度警戒しつつも、話しの聞く態勢を作った。

 

 

 

 

「うむ。これでちゃんと話せるのぉ……。では、改めて自己紹介から。妾の名は天照といい、主等も承知の通り、天照大神で、日本の主神を務めておる。まず妾は、如月大雅お主に、謝らなければならんのじゃ」

 

 

 

 

 すると、自称、天照と名乗る少女は、いきなり大雅に土下座をした。

 

 

 

 それはもう、地面に額を擦り付けそうなぐらい低く、堂に入った正座で……。

 

 

 

 

「本っ当に申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

 

 

 

「は?え?どういう事?取り敢えず、謝られても何の事だか分からないから。兎に角、頭を上げてくれ。傍から見たら、いい大人が少女を虐めている構図にしか見えんから……」

 

 

 

 

 いきなり自称とはいえ、天照と名乗る少女に、土下座され謝られた大雅は、突然の事に理解出来ず、しどろもどろになりながらも、天照に頭を上げる様に言い、そう言われた天照は、頭を上げた。

 

 

 

 

「お気遣い感謝致すのじゃ」

 

 

 

 

「うん、取り敢えず、説明してくれ。いきなり謝られても訳分からんから。後、その変な喋り方辞めてくれないか?」

 

 

 

 

 大雅の言葉に、天照の動きが固まる。

 

 

 

 

「え?あ、あの?すいません。気付いていたのですか?」

 

 

 

 

「ああ、なんか、所々普通の言葉が出てたし、無理して古臭い喋り方しているなぁと思ってさ……」

 

 

 

 

「そうですか、すいません。私……、女だし、この幼児体型な形では、色々嘗められるので、嘗められない様に無理して使ってました……」

 

 

 

 

「そうか……、取り敢えずさ……、この場だけなら俺等しかいないんだから普通に自分の言葉で喋ったら?」

 

 

 

 

「分かりました。自分の言葉で話します」

 

 

 

 

「よし。それじゃあ、気を取り直して、また説明を始めてくれないか?」

 

 

 

 

 話しが脱線し掛けたが、大雅の言葉で修正し、その後の説明を求めた。

 

 

 

 

「では、続けますね。さっきも言った通り、貴方が此処に居るのは、私達の所為なんです。それには、色々複雑な理由がありまして、一つ一つ説明すると長くなるのですが、其処はご了承下さい。まず、第一に、貴方は先の戦いによって、戦死致しました」

 

 

 

 

「だろうな。あれで、助かる見込みなんてないだろうしな」

 

 

 

 

 死んだというのは、大雅自身も分かっており、納得しながら頷いた。

 

 

 

 

「そして、貴方を死に至らしめた『八岐大蛇』の事なんですが、根本的な原因は私達の不手際にあるのです。つまり、『八岐大蛇』を貴方の世界に解き放ったのは私達神なんですよ。正確に言うなら解き放ったのは、私ではなく他の神ですが、結局のところ監督不行きである、私にも責任はあります」

 

 

 

 

 天照が言った驚愕の事実に、怒るべきか、叱るべきか、監督不行きとはいえ、直接の原因でない天照に言っていいのか判断が出来ず、言葉が中々出て来ない。

 

 

 

 大雅は、思考を総動員して、どうにか言葉にする。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ、あれか?『八岐大蛇』が出現したのを知っていて、放置してたのか?」

 

 

 

 

「いえ、放置というには語弊がありますね。放置していたのではなく、行けなかったのですよ。結界を張られていた所為で、気付くのに時間が掛かってしまいました」

 

 

 

 

「成程。しかし、『八岐大蛇』ってそんな器用な事出来たんだな。ただ只管に暴れている様にしか見えんかったな……。ところでさ、ふと疑問に思ったんだけど、『八岐大蛇』ってあんたの弟が斃したんじゃなかったっけ?」

 

 

 

 

 生き延びて子を生した時に酒呑童子が生まれたという説があるが、神話の通りなら素戔嗚尊に斃された筈だと、大雅は疑問に思った。

 

 

 

 

「まぁ、そういう事になっていますね。実は言いますと、『八岐大蛇』は完全に斃された訳ではなく、封印していたのです。はっきり言って、『八岐大蛇』は殺しきる事は略不可能に近いです。蛇には脱皮を繰り返す事から長生きの象徴がありますが、『八岐大蛇』もその例に洩れず、長寿且つ、不死性すらあったので、頭を斬り落とした後に、厳重に封印するのが精一杯なのです」

 

 

 

 

 『八岐大蛇』の知られざる一面に、大雅は驚きを隠せないが、同時に天照の話しを聞いて、疑問がまた出てきた。

 

 

 

 

「何だって!?『八岐大蛇』が略不死って事は、あっちではまだ死んでいないで、時期に復活されて暴れ出したら、止められる人いないぞ?それじゃあ、俺って無駄死にって事になるんだが?あんなに頑張ったのに……」

 

 

 

 

苦労して斃したと思ったら、天照の言う事実に、大雅は愕然とした。

 

 

 

しかし天照には、焦った様子がなく、淡々と話し出した。

 

 

 

 

「いえ、其処は解決してありますよ。貴方の御蔭で再封印する事が出来ましたよ。スサノオを中心に複数の神を現地に派遣して、今も事後処理をして貰っています」

 

 

 

 

「そうか……、良かった……」

 

 

 

 

危機を逸した事で、大雅は胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

「しかし、あんたみたいな高位の神で、尚且つ、頑張って封印したのなら、そう簡単に封印なんて解けるものじゃないんじゃない?」

 

 

 

 

「はい、貴方の言う通り、ですよ。ちょっとやそっとじゃそう簡単には解けません。ですが、あの封印は事故ではなく故意なのです。それでも、神とはいえ、高々一柱程度では解けません。ですが……」

 

 

 

 

「ああ、複数居たのか……」

 

 

 

 

 天照が言い辛そうに言い淀むが、大雅は察して、先に口に出した。

 

 

 

 

「はい、そういう事ですね」

 

 

 

 

「はぁ、神様っていったい……」

 

 

 

 

 大雅は、ため息を吐きながら、眉間に皺を寄せ、頭を抱えた。

 

 

 

 

「それで?解いた理由ってなんなの?」

 

 

 

 

「え?えっと……、怒りませんか?」

 

 

 

 

 よっぽど下らない理由なのか、もったいぶる感じで言う。

 

 

 

 

「内容に依るな。でも怒るのは、あんたにじゃないから気にすんな」

 

 

 

 

「分かりました。その……、解いた動機が、退屈だからだそうです」

 

 

 

 

「は!?もう一回お願い」

 

 

 

 

 あまりにも下らな過ぎて耳を疑い、思わずもう一度問い掛けた。

 

 

 

 

「ですから、退屈だからだそうです」

 

 

 

 

 そんな下らない理由で、世界を破滅させられそうになった事に、大雅は思わず殺気を飛ばした。

 

 

 

 その殺気に当てられた天照は、涙目になり、それを見た大雅は慌てて取り繕った。

 

 

 

 

「あ、悪い。本当に下らな過ぎて普通にイラッと来たから……」

 

 

 

 

「いえ、私達が悪いのは分かっているので、咎は甘んじて受け入れます」

 

 

 

 

「確かにあんたの監督不行きだけど、あんたには謝って貰ったしな。実際、悪いのは封印を解いた馬鹿野郎共だから、主神だからって、其処まで自分を責める必要はないと思うぞ?」

 

 

 

 

「いえ、そう言って頂けて、非常に嬉しいです。神って基本的に寿命はありませんから、長生き故、退屈は天敵なんですよ。ですから、退屈凌ぎにアホな行動を起こす神が少なからず居まして……、私は結構忙しいんだけどなぁ……」

 

 

 

 

天照は、弱々しく愚痴る。

 

 

 

それを見て、大雅は天照に同情した視線で見つめ、ぼそりと口を吐いた。

 

 

 

 

「あんたも苦労してんのな……」

 

 

 

 

「まぁ、良くも悪くも主神ですから……。愚痴ってすいません……」

 

 

 

 

 最初に登場して来た時の覇気とは違い、その覇気が会話していく度に、下がって行き、今では悲愴感すら感じる。

 

 

 

 

「それで、そんな馬鹿な事をした神に対して、ちゃんと処罰はしたよね?」

 

 

 

 

「はい、それについてはご心配なく。ちゃんと処断しましたよ。神力《みちから》を奪った後に、特殊な呪いを掛けて、高天原から追放してやりました!」

 

 

 

 

 天照はその時の事を思い出したのか、スッキリとした表情で、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

それだけ、鬱憤が溜まっていたのだろう。

 

 

 

その笑みを見て、大雅は思わずスルーしそうになったが、聞き捨てならない言葉を、天照が口走っていた事に大雅は気付いた。

 

 

 

 

「ちょっと待てよ、今スル―しそうになったけど、高天原から追放とか言ってたみたいだけど、もしかして、此処って高天原なのか?」

 

 

 

 

「あ、口に出していましたか。はい、貴方の言う通り、此処は高天原になります」

 

 

 

 

天照が現れる前に、此処が何処なのか、魅空と夕魅とで相談し合っていたが、流石に高天原の案は出て来なかった。

 

 

 

 

「そうかぁ、高天原かぁ……。にしてはやけに殺風景だよな?」

 

 

 

 

「まぁ、高天原でも端の方ですし、何より、結界やら何やらで見えなくなっているだけです」

 

 

 

 

「成程な。それじゃあ、余計に俺が此処に居る理由が分からなくなったんだが……」

 

 

 

 

「それはですね、主に、『八岐大蛇』に真っ向から戦いを挑んで勝ったのが原因です」

 

 

 

 

「ここでまたその名前が出てくるか……。それで?」

 

 

 

 

更に天照は続けて言う。

 

 

 

 

「それが原因で、貴方の霊格が上がり、神格化しました。その為、魂が強靭になり、自然に還る事が出来ず、高天原に引っ張られる形で、此処に召喚と相成ったのです」

 

 

 

 

「ハァ!!!?マジで!?流石に予想外過ぎるぞ!?それは……」 

 

 

 

 

先程からずっと、飽和し兼ねない程に驚きの連続だったが、天照の話しを聞いて、今、一番驚いた瞬間だった。

 

 

 

 

「っていう事は……、つまり……、えっと……、どういう事なんだ?あれか?俺に神格が付いたって事は、鬼神的な何かになったって事か?」

 

 

 

 

「はい、まさしくそれです。人を超え、妖を超え、遂には神へと進化したのです。ですが、鬼という種族は変わらないので、神性を持った鬼、つまり鬼神へと相成ったのです」

 

 

 

「俺が神かよ……、柄じゃないな。ん!?ちょっと待てよ……」

 

 

 

 

 そこで大雅は、ふと気付く。

 

 

 

 

「それじゃあ、霊剣が人型を取っているのは……」

 

 

 

 

 天照は、大雅の言いたい事を察し、先に言い出した。

 

 

 

 

「はい。貴方の考えている通りだと思いますよ?貴方の霊剣もまた、霊格が上がり、略もう神剣と化していますね。ですから、貴方がずっと気になっているであろう、剣が人型になった理由として、単純に、彼女達が願ったからじゃないですか?それぐらい強い想いがあれば、神剣になった彼女達なら、人型ぐらい簡単になれると思いますよ?」

 

 

 

 

 天照の言葉を聞いて、大雅は「そうなの?」という風に彼女達を見る。

 

 

 

 そして、大雅の視線に気付いた彼女達は、今までの想いも含めて、語り出した。

 

 

 

 

「はい、私はずっと大雅様の支えに成りたいと、一日千秋の想いで、ずっと願っておりました。剣として大雅様の身は護れても、剣だから心を護れない私に、ずっと歯痒い思いをして来ました。意思の疎通が出来るだけでもいい、ただただ大雅様の心を解せる方法を、霊蒼剣の中からずっと模索しておりました。そして、この様な形とはいえ、人と成って接する事が出来、喜びの感情と供に、これからは、どんな敵意からも護り通し、振り払って見せます」

 

 

 

 

続けて、夕魅も語り出す。

 

 

 

 

「私も、魅空と同じ気持ちをずっと抱いて来たのであります。どんな敵意があっても我慢し気丈に振る舞い、自分の事よりも他人の為に傷つき、大切な人を亡くして悲しんでいる時に、私が人であれば、励ます事も、慰める事も、抱き締めてあげる事だって出来たのにと、ずっと想い続けて来たのであります。これからは、人に成れた事で、そんな憂いも無くなり、共に歩き、共に探し、共に笑い、共に誓い、共に感じ、共に選び、共に泣き、共に背負い、共に抱き、共に迷い、共に築き、共に願っていける様に努力をして行く所存であります」

 

 

 

 

 彼女達が其処まで言うのには、大雅の波乱万丈に満ちた人生にあった。

 

 

 

 

 これから、大雅の為人を見る為に人生を軽く振り返って行こうと思う。

 




すいませんが、もう少しプロローグが続きます。


いや~、すごく長くなっちゃったな。10000文字越えちゃったよ。


ここまで長くなるとは思わんかった・・・・・・。


というわけで、次回は、主人公を知って貰う為、主人公の今までの人生をダイジェストでお送りします。




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序章 参 追憶編

今回は大雅の過去の話しです(ダイジェスト版)。


まず、初めに行っておきますが、嫌悪する場面が多々あります。


ちょっとしたネタバレがあるんで、それでも問題ないという方は、どうぞご覧なさって下さい。


取り敢えず、此処を読まなくても本編にはあまり影響はないかな?


一応、主人公の自己紹介も兼ねた感じなので、彼の為人を知って頂けたと思います。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 如月大雅は、17歳までは、何処にでもいる様な普通の男子高校生だった。

 

 

 

家系が少し特殊なのを除けば……。

 

 

 

 実は、大雅の家系は、遥か昔に鬼と人間(陰陽師)との間に出来た子供が先祖で、鬼と陰陽師の血を引いていた。

 

 

 

 普通なら、本当の事でも知る機会なんてないが、如月家には蔵があるのだが、その蔵の中を掃除していた時に、家系図や古文書が出てきて、何故か大雅はその古文書が読めて、それを見て初めて知ったのだ。

 

 

 

 ただ最初は、大昔の文字だったにも係わらず、現代人である大雅が読めたのには、自分自身疑問を感じていたが、鬼とか陰陽師の気配なんて親達からすら感じられなかった為、眉唾物ではないかと大雅は疑っていた。

 

 

 

 第一、千年以上も前の事なのだから、血なんて当然薄まっているし、あまり気になる程のモノでもなかった為に、次第に記憶の片隅に追いやられていった。

 

 

 

しかし、大雅が18歳の誕生日を迎えたその日の深夜、事件が起きた。

 

 

 

 突如、現れた妖怪に因って、よく分からないまま家族を殺され、それに怒り狂った大雅は反転し、血に従って鬼となり、家族を奪った妖怪を斃したのだ。

 

 

 

 つまり、感情の爆発が起因で、先祖返りを起こし、鬼と成った。

 

 

 

 復讐を遂げた後、燃え尽き症候群の様になり、この後どうしようかと悩んだが、自分の特性を活かして、人の為に何かしようと考えたのが、除霊と妖怪退治(以下、除霊と妖怪退治を含めて化け物退治と総称)だった。

 

 

 

 鬼と成った事に因って、悪霊、妖怪の類が見える様になり、人に悪さをしようとする、悪霊や妖怪が目に付いた為、自分の様な想いをするのは自分だけで十分だと想い抱き、始めたのが切っ掛けだった。

 

 

 

 それからは、それとなく怪現象の噂を聞けば、東奔西走、南船北馬、あちこち駆け巡り退治して回った。

 

 

 

 その途中で、魅空と夕魅に出逢う事にもなるのだが……。

 

 

 

 そんな事を続けているうちに、大雅の噂が広がる様になった。

 

 

 

 基本的に、化物退治をしている所を、大っぴらに見られない様にやっていたが、ちゃんと隠してやっている訳でもなかった為、大雅が化け物退治をしているのを、見た人が居たのだろう。

 

 

 

 そんな噂が広まり始めた時、京都でとてつもない大物妖怪が現れた。

 

 

 

 それは、妖怪についてあまり詳しくない者でも、詳細は兎も角、名前ぐらいは知っている程の大物、日本妖怪のビッグネーム、『鵺』だった。

 

 

 

 初めて対戦するとてつもない大物に、噂に違わず苦戦必至だったが、どうにか勝利をもぎ取った。

 

 

 

 しかし、激選過ぎた所為で、大雅の存在が知られ、マスコミや報道を通じて、瞬く間に日本中に広がった。

 

 

 

 当初は、英雄の誕生だと日本中が沸き、次第に自分から向かうのではなく、依頼が来る様になった。

 

 

 

 その時に、ある少女を怪現象から助けたのが切っ掛けで、その少女と恋仲になった。

 

 

 

 そして何時しか、大雅の事は、日本のみならず、国外まで帯びる様になり、国外からも依頼が来る様になった。

 

 

 

 しかしある時、海外のジャーナリストらしき人物が、【あの力は、非常に危険ではないか?特に戦争などで使われれば、それこそ核兵器と同じ様な災厄が起きるのではないか?】等と、のたまわった」

 

 

 

 ジャーナリストらしき人物の発言は、ある意味、的を射た発言であったが為に、【それは、確かに】みたいな考えが働き、それが海外で、同時多発するシンクロニシティ現象の様な形で悪評が広まった。

 

 

 

 それから、海外の政治家を中心に、大勢が大雅を非難し始めた。

 

 

 

 そして、その大雅を擁する日本そのものが、非難の対象に晒された。

 

 

 

 最初は、日本が大雅を擁護していたが、非難と侮蔑の目が強まり、情勢が悪くなった途端、手の平を返した様に、あっさり大雅を見限った。

 

 

 

 そして、日本政府、果ては国民からも、大雅を非難する様になった。

 

 

 

 その為、旅費を稼ぐためにしていたバイトを、強制的に辞めさせられ、友人もいなくなり、住む場所を、大雅をアンチする人達の手に因って放火で失い、モノを買う為に店に入っても、門前払いさせられ、挙げ句の果てに、道を歩いているだけで、後ろ指を指しながら、石や鉄片を投げつけられる事だって遭った。

 

 

 

 いきなりの事で大雅は茫然としたが、力を恐れられるのは、仕方のない事だと思い直し、自分がやる事は何一つ変わらないと……、だから、怪現象の噂を聞けば、その場へ赴き、行く先々で、恐怖、侮蔑、非難の視線をぶつけられようとも、曲げずに、化け物退治を続けた。

 

 

 

 そんな事があっても頑張れたのは、恋人の存在があったからだ。

 

 

 

 大勢が非難する中で、恋人とその家族だけは、大雅の味方だった。

 

 

 

 家を失い、路頭に彷徨っていた時も、恋人とその家族が、引き入れて住まわせ、匿ってくれた程だ。

 

 

 

 だから、大雅は頑張れた。自分を信じてくれる人の為に……。

 

 

 

 何カ月か経った頃、何時もの様に化け物退治を終え、帰宅すると、恋人の家に十数人ぐらいの人達が、恋人の家に集まっていた。

 

 

 

 曰く、彼等はかつて、大雅によって助けられた人とその家族で、大雅が非難されている事を知り、恋人の呼び掛けを下に、大恩ある大雅を擁護しようと決起した一団だったらしい。

 

 

 

 その一団の名を、『如月会』と命名したそうだ。

 

 

 

 因みに、他の命名候補に、『鬼兵会』とか、『鬼は内会』とか、『鬼人教』だとか、『如月教』だとかが、あったとかなんとか……

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 ただ、表立って擁護は出来ない為、隠れキリシタンみたいにひっそりと信奉し、これから大雅をどう援護しようかと、計画を企てていたらしい。

 

 

 

 そして、心の安住場所を手に入れた大雅は、彼等の為にも、一層の努力を誓った。

 

 

 

 そんな誓いとは裏腹に、ある事件が起きた。

 

 

 

 その事件とは、架空の怪現象をでっちあげて、呼び寄せた大雅を、暗殺するという計画だった。

 

 

 

 まんまと誘き寄せられた大雅だったが、力の差が歴然としていた為に、暗殺する事は出来ず、容易く逃げだせたのだが、その逃げ出し方がまずかった。

 

 

 

 大雅は、逃げ出そうとする際、小競り合いがあり、その暗殺者を負傷させてしまったのだ。

 

 

 

 普通の人からすれば、暗殺者なんて見分けがつかないし、そもそも暗殺者なんて居るかどうかも分からないし、【あの化け物にやられた】なんて言えば、悪評がある為に大抵の人間が信じ込んでしまう。

 

 

 

 案の定、暗殺者が善良な一般人にしか見えなかった人達は、今まで、大雅が他に人を怪我させてなくても、負傷させたのが大雅だと分かり、その一件だけなのにも係わらず、【遂に馬脚を露わしたな!?】の大合唱で、日和見だった人達も非難する様になった。

 

 

 

 その後直ぐに、大雅は賞金を懸けられた。DEAD or ARIVEで……。

 

 

 

 お尋ね者となった大雅は、それから、賞金稼ぎやら、傭兵やら、果ては警察や自衛隊、海外の軍隊等にも追われる様になった。

 

 

 

 そういった人達に狙われても、大雅には其処まで脅威を感じなかったが、殺さずとも、襲撃者を無力化する度に、懸賞金は上がり、悪循環に陥っていた。

 

 

 

 そこで、大雅は思った。

 

 

 

 このままでは、恋人、そして、自分を信奉してくれる、如月会の人達にまで余波を受け、危険に晒してしまうのではないかと、疑心暗鬼になった。

 

 

 

 だから大雅は、恋人には別れを、そして如月会には、会の解体をして欲しいと申し出た所、返って来た言葉は、拒否する言葉だった。

 

 

 

 恋人に至っては、大雅を殴ってまで拒否られた。

 

 

 

 曰く、全員が【危険なら最初から立ち上げない。覚悟の上で如月会を立ち上げた】のだと言われ、逆に説得された。

 

 

 

 大雅の胸の内を話した事で、更に絆が深まった。

 

 

 

 ところが、世界は大雅に厳しく、悲劇が起きた。

 

 

 

 如月会の中に、スパイの様な人が居て、大雅が化け物退治に出張し、如月会が集会している所に、賞金稼ぎや傭兵を手引きされ、壊滅させられたのだ。

 

 

 

 それこそ、老若男女関係なく殺された。

 

 

 

 大雅がその事に気付いて帰った時には、全てが終わっていた。

 

 

 

 その光景を見て、大雅は年甲斐もなく泣き崩れた。

 

 

 

 それでも、幸運な事は二つあった。

 

 

 

 それは、霊的存在を見る事が出来るという大雅の特性上、霊体となった如月会の人達に別れの挨拶を告げられた事。

 

 

 

 そしてもう一つは、襲撃中に恋人の家族が機転を利かしたお陰で、恋人を逃がす事が出来、生き延びていた事が、自暴自棄になりかけた大雅にとって、それは救いだった。

 

 

 

 それから、大雅は恋人と落ち合い、如月会の人達と恋人の家族を弔った後は、追手から逃れる為に、恋人を連れたって、旅烏の様な生活を始めた。

 

 

 

 旅烏生活は、中々に過酷で、大雅は悪い意味で有名過ぎた為、ホテルや民宿などの宿泊施設に寝泊まりする事が出来ず、掘立小屋や、廃屋、そのまま野宿なんて事がざらにあった。

 

 

 

 食事も満足に取る事が出来ず、自生している食べられる野草や果実、魚、蛙、ザリガニ、蜂の子等を獲って食い繋いでいた。

 

 

 

 そんな背景から、春、夏、秋は兎も角、冬は特に厳しかった。

 

 

 

 そんな生活を続けているにも関わらず、相変わらず化け物退治は続けていた。

 

 

 

 海外で怪現象の噂を聞けば、密航してまで行った程だ。

 

 

 

 それでも尚、恋人は大雅の元を離れる事はしなかった。

 

 

 

 寧ろ、【波乱万丈だけど、大雅とずっと一緒に居れて嬉しいし、慣れればこの生活も結構楽しい】と言う程の、女傑だった。

 

 

 

 日本、海外と行き来し、旅烏生活を続ける事数年後、栃木の大手企業の社長が病死したのを皮きりに、関東一帯の大手企業、遂には永田町でも、似たように病死するという怪死事件が多発した。 

 

 

 

 普通に病死なら、其処まで気にする必夜もないが、その病死というのが、大手企業の社長、会長、政治家と社会に影響がある人を中心に多発した上、死因は全てが心筋梗塞で、健康だった人まで起きたものだから、マスコミ、新聞各社は、ある事ない事面白可笑しく書きたて、ニュース等でも連日連夜報道された事で、あっと言う間に日本中に広まり、震撼させた。

 

 

 

 当然というべきか、必然というべきか、その怪死事件の犯人として、急先鋒に上げられたのが大雅だった。

 

 

 

 大雅が無実を訴えた所で、恋人以外、誰も信用してくれる人なんていない為、無視していたが……。

 

 

 

 大雅自身は報道される以前から、その怪死事件を不審に思った為、既に原因究明へ調査に乗り出していた。

 

 

 

 その時恋人に、【大雅を裏切った人達なのに、態々助けようとするのか?】と問われたが、これを放っておいたら、日本が滅ぶかもしれないと、悪い予感を抱いた為に、【見て見ぬ振りは出来ない】と伝えた所、恋人は大雅の言葉を予想していたので、あっさり受け入れた。

 

 

 

 調査の結果、大雅の予感は当たっていて、調査上に出た犯人は、『九尾の狐』と呼ばれる、『鵺』以上に有名で日本三大悪妖怪にも数えられる、大妖怪だった。

 

 

 

 大雅は、以前にも狐の妖怪『白山坊』と戦った事があるが、その時も苦戦した記憶があった為、今回はこれ以上に苦戦必至だろうと予想し、気を引き締めた。

 

 

 

 大雅が『九尾の狐』と対峙して思った事は、大雅の予想の範疇を大きく超える程強力で、特に呪術や妖術は類を見ない程強力だった。

 

 

 

 激戦の末、討伐出来たが、大雅にとって不幸な事が起こった。

 

 

 

 『九尾の狐』の死に際に、置き土産として、恋人に強力な呪いを掛けた。

 

 

 

 多少の呪いであれば、大雅は普通に解呪出来るが、『九尾の狐』日本三大悪妖怪に数えられる程の大妖怪で、三妖怪の中でも呪術に関してならトップに躍り出るぐらい、呪いのスペシャリストで、大雅とは力の方向性が違う為、呪いを解く事が出来ず、日に日に衰弱していく様を、見ている事しか出来ず、悲しみ嘆いた。

 

 

 

 そんな大事になっている時に、また事件が起きた。

 

 

 

 京都において、『鵺』に続く大妖怪、『酒呑童子』が配下の『茨木童子』『熊童子』『虎熊童子』『星熊童子』『金熊童子』を伴って、突如現れた。

 

 

 

 そして、『酒呑童子』達が公共の電波を乗っ取ると、『酒呑童子』は言った。

 

 

 

「我が名は、『酒呑』なり、この日より、この大和の国を我が支配下にする。この国の民を失いたくなくば、直ちに、金、財産、酒に食料と若い女を献上しろ!」

 

 

 

 という感じの言葉を、古語で大言を吐いた。

 

 

 

 その時に、若い女性を凌辱し、生きたまま喰ったのを、公共の電波に乗せた。

 

 

 

 言う事を聞かなければ、お前達もこうなるぞという見せしめと脅しを込めて……。

 

 

 

 当然、納得出来る筈もなく、『酒呑童子』の行動に許せなかった日本政府は、警察や、SAT、自衛隊、果ては、海外の軍隊にまで応援を求め、『酒呑童子』を捕縛、不可能であれば殲滅する様にと要請した。

 

 

 

 しかし、どれだけ集めようとも、力の差は歴然としていて、あっと言う間に『酒呑童子』とその仲間によって、赤子の手を捻るかの様に、簡単に壊滅させられた。

 

 

 

 何時もなら、そうなる前に大雅が駆け付けるが、恋人が呪いで苦しんでいた為、後ろ髪が引っ張られる思いだったが、恋人の元を離れる事が出来ず、大雅は看病を続けた。

 

 

 

 しかし、恋人が、【貴方がすべき事は、私に構うのではなくて、大勢の人の命でしょ?その力はこういう日の為にと誓ったのでしょ?だったら、私に構ってないで、今すぐ向かいなさい!】と、大雅を突き放した。

 

 

 

 しばらく押し問答を続けたが、恋人の度重なる説得に、大雅は折れ、『酒呑童子』の討伐に向かった。

 

 

 

 結果的に、それが恋人との最後の会話だった。

 

 

 

 速やかに斃して、速く恋人の元へ戻りたかった大雅だったが、最強の鬼の集団であった為に、中々上手く行かず、配下の鬼を一体斃す事すらまる一日時間が掛かり、その後も連戦に継ぐ連戦で、満身創痍になりながらも、七日間掛けて全ての鬼を斃す事に、どうにか成功した。

 

 

 

しかし大雅は、勝利の余韻に浸る事なく、傷だらけのまま、恋人の元へ一目散に戻った。

 

 

 

 だが、恋人は既に事切れていて、霊体どころか、霊魂すら見つける事が出来なかった。

 

 

 

 また大切なモノを亡くした大雅は、自分が傷だらけであるのも忘れて、一日中泣き崩れた。

 

 

 

 涙が枯れる程泣いた大雅は、どうにか少しだけ気を取り直し、恋人の葬式をしようと考え、亡骸を抱え上げた時、枕元に封筒があるのに気付いた。

 

 

 

 大雅はその封筒が気になり、恋人の亡骸を一旦下ろし、それを確認した。

 

 

 

 その封筒には、【如月大雅様へ】と書いてあり、その封筒の中を見ると手紙が入っていて、それを読み始めると、その手紙にはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

                如月 大雅様へ

 

 

 

 この手紙を読んでいるという事は、私は死んでいるのでしょう。

 

 私が貴方に初めて出会ったのは、15歳の時でしたね。

 

 夢魔によって、精神を蝕まれていたあの時、貴方に助けられなければ、貴方と一緒に居る事も出来ず、ここまで永く生きていられなかったでしょう。

 

 その時から、私は貴方に恋をしました。

 

 年齢がネックで、最初はずっとフラレ続けていた、あの頃が懐かしいです。

 

 あの時、呪いを受けたのは、貴方の所為ではなく、足を引っ張ってしまった、私のミスです。

 

 気にするなっと言っても、貴方の性格を考えれば、ずっと自分を責め続けるのでしょうね。

 

 キツイ事言うけど、自分を許してあげなさい!

 

 でないと、私が安心して死ねないじゃない……。

 

 貴方なら、私の死を乗り越える事なんて簡単ですよね?

 

 私を忘れてとは言いませんが、私はもう貴方のソバに居てあげられません。

 

 ですが、鬼でありながら、人よりも人らしい優しい心を持った貴方なら、いつか必ず、貴方を認めてくれる人、必要としてくれる人が居て、そして、貴方の助けになってくれる人が現れると信じています。

 

 心残りがあるとすれば、貴方との間に子供が出来なかった事です。何故だろうネ?

 

 産みたかったなぁ、貴方の子供……。

 

 最後に、貴方にお願いがあります。

 

 私を火葬する時は、貴方の炎に包まれて逝きたいです。

 

 そして、お墓は、如月会の人達と同じ場所に埋めてくれると嬉しいです。

 

 私は、先に逝きますが、あの世というのがあるのなら、私は上から何時までも見守っています。

  

                  

                  愛しています。

 

                  さようなら。

 

                         

 

 

 

                              

                              桃瀬 絆 改め 如月 絆

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手紙を、一字一句余すとことなく読んだ大雅は、枯れたと思った涙がまた溢れ出た。

 

 

 

 そして大雅は、恋人の手紙通りに、自分の炎で火葬し、遺骨の一部を御守り代わりにと、子袋に入れた後、如月会のみんなと同じ場所に納骨した。

 

 

 

 その後は、傷が癒えても、まだ大分消沈していたが、恋人の想いを胸に、どうにか立ち直って、ブレずに化け物退治を続けた。

 

 

 

 しかし、恋人の想いとは裏腹に、何度も人を救おうとも、理解者は一人として現れなかった。

 

 

 

 寧ろ、あの事件の後、非難の声は余計に強まっていた。

 

 

 

 日本崩壊の危機を、救ったのにも関わらず……。

 

 

 

 何故なら、戦っていたのが、大雅も『酒呑童子』と同じ鬼であったが為に、あの事件は大雅が黒幕で、国民の気を引く為に行った、自作自演ではないかと疑われた。

 

 

 

 昔話の、泣いた赤鬼の様にはいかないらしい。

 

 

 

 いつもであれば、そんな非難なんて柳に吹く風だったが、気を紛らわしてくれていた恋人がいなくなった為に、自分でも気付かぬうちに、心が荒んで行った。

 

 

 

 だが、大雅の心が壊れきる前に、件の『八岐大蛇』が現れ、自分の命を代償に、『八岐大蛇』を斃した事で、日本国内どころか、全世界を救った。

 

 

 

 大雅の人生は其処で終わり、その先の事は全く知られなかったが、魅空と夕魅はまだ顕在だったらしく、その先の光景を、剣越しから感じ取っていた。

 

 

 

 実はあの後、『八岐大蛇』を斃して世界は湧いたが、同時に、大雅も死んだ事で更に沸いていたそうだ。

 

 

 

 更に、大雅の亡骸を、弔うどころか、そのままずっと放置され続けた。

 

 

 

とんでもない罪を犯した死刑囚にだって、弔いはするのに……。

 

 

 

 最初は英雄視されていた大雅だったが、非難される切っ掛けなんて、本当に些細な事なのに、今ではこの有り様だ。

 

 

 

 それだけ、大雅の『鬼』という存在を許せなくなったのだろう。

 

 

 

 死して尚、侮辱され続けている光景を感じて、魅空と夕魅は激しい怒りを覚えたが、刀故にどうする事も出来ない自分に、余計に腹が立ったらしい。

 

 

 

 だから、彼女達は願った。

 

 

 

 主を、救って欲しいと……。

 

 

 

 そして、自分達はその救いの手助けになれればと……。

 

 

 

 そうでなければ、大雅は行きても死んでも哀れでしかないから。

 

 

 

 そして、気付いたら、何時の間にか大雅の前に、人の姿で現れていたらしい。

 

 

 

 ここまでが、大雅が死んで、彼女達が大雅の前に居るまでの顛末だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂いた方は、かなり嫌悪したんじゃないですか?


だから書いたのに……嫌悪する場面あるよって……


大雅の人生ハードどころかルナティックモードにしたのは、それだけ辛い前世だったら、今世で良い事があると、喜びも一入じゃない?と思って、ルナティック人生にしました。


長々と書いた序章も、次回で最後かと思います。







以下、ネタバレ。
なので、ネタバレが嫌いな人は読まない様にするべし。





















ヒロインの一人として、大雅の恋人、桃瀬 絆を出す予定です。







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序章 肆

まず、始めに誤っておきます。


申し訳ございませんでした。......orz


文章が無駄に長くなってしまったので、分けました。


 

 

 

「そっか……、俺が死んでからそんな事が……。悪いな……、俺の為に怒ってくれて……」

 

 

 

 自分の為に怒ってくれた彼女達に、大雅はしみじみと感傷に浸る。

 

 

 

 しかし彼女達は、大雅の言葉に恐縮する格好で、顔を俯かせ、口を開いた。

 

 

 

 

「いえ、大雅様の剣として、当然の事です。ですが、私達は大雅様に感謝される程何もしていません」

 

 

 

「魅空の言う通りなのであります。マスターへの雑言を反論する事ができず、腹を立てる事しか出来なかった私達は、悔しくて、逆に大雅様に感謝されてしまうと、恐縮してしまうのであります」

 

 

 

「まぁまぁ、そう気に病むなよ。俺は、そう想ってくれるだけで嬉しいんだ。逆に悪かったと思っているぐらいだ。あんなに近くに俺の事を分かってくれる人が居たのに、お前達の存在を気付いてやれず……」

 

 

 

 

 大雅は、すぐ側に居た、彼女達の想いを汲み取ってやる事が出来なかった事に対し、彼女達に頭を下げ、謝罪する。

 

 

 

 

「い、いえ、そんな滅相もありません。大雅様は謝らないで下さい」

 

 

 

「そうなのであります、マスター。私達が許しを乞う立場なのであります」

 

 

 

「いや、だから、ああ……、まぁ、いいや。そういう事にしておく」

 

 

 

 

 このままでは、謝罪合戦になりそうだと感じた大雅は、彼女達の顔を立てて、その謝罪を受け入れ、話を変える。

 

 

 

 

「でも、まぁ……、形はどうあれ、お前達に逢えて嬉しいよ」

 

 

 

 

 彼女達に言った言葉は、大雅の、嘘偽りならぬ、正直な気持ちを伝えた。

 

 

 

 

「そう仰って頂けると、私は幸いです。大雅様にこうして逢うのみならず、想いを伝える事が出来て、大変嬉しい気持ちです」

 

 

 

「私も、魅空と同じ気持ちなのであります。叶わぬと思っていた願いが、現実にこうして、人として接する事が出来、嬉しさと同時に、これからは、ちゃんと支えてあげられる事が出来るのが、より一層の喜びなのであります」

 

 

 

 

 彼女達の想いが、痛い程伝わって来た大雅は、気恥かしさから、苦笑いを浮かべ、返答する。

 

 

 

 

「ハハハ……。もう少し柔らかい言葉で話してくれると助かるけど、直らなそうだし、俺が慣れる様になればいいか。慣れるまでに時間が結構掛かりそうだけど……。取り敢えず、まぁ……、これからは、刀としてだけでなく、人としても宜しくな?」

 

 

 

「「は、はい!宜しくお願い致します(致しますでありあります)。これからも、永遠《とわ》の忠誠を誓(います)(うのであります)」」

 

 

 

 

やっぱり慣れんなぁ……。相変わらず堅苦しい……。

 

 

 

 

「さて……、これからどうs……あ!!天照の事すっかり忘れてた……」

 

 

 

 

 魅空と夕魅の事は、一応一件落着?となって気が緩み、まったりとしかけそうになったが、其処で大雅はハッ!?と思い出した。

 

 

 

天照と、話の途中だったのをすっかり忘れていた大雅は、慌てて天照の方を向くと、天照は何故かハンカチらしきものを目に当て、ホロホロと泣いている光景があった。

 

 

 

 

「は?何泣いてんだ!?」

 

 

 

「いえ、両者共すごく苦労したんだなぁと思いまして……。ある意味、死んだ事でようやく救われたのかなぁ?と思ったら、ついつい感極まってしまいました……」

 

 

 

 

 ( ;∀;)イイハナシダナーな感じで語る天照を、大雅はジト目で睨む。

 

 

 

 

「まぁ、その苦労の原因の一部はあんた達にもあるけどな」

 

 

 

「ア、 ハハ……、えっと……、あ、そうだ!これからの予定ですよね!?」

 

 

 

 

 大雅の指摘に、天照は言葉を詰まらせ、話題を変えて誤魔化した。

 

 

 

 

「「「誤魔化(したな?)(しましたね?)(したのであります)」」」

 

 

 

 

三人にあっさりバレた。

 

 

 

 

「ウッ……、ゴホン!」

 

 

 

 

わざとらしい咳をしてスル―し、天照は強行して続けた。

 

 

 

 

「兎に角、これからの予定ですけども、如月大雅さん、貴方には転生して貰おうかと思っています」

 

 

 

「はぁ?転生って輪廻転生の事か?」

 

 

 

「概ね、そういう事になりますね」

 

 

 

「それって変じゃね?天照であるあんたが居るって事は、神道なんだろうけど、神道に輪廻転生の概念って無かったよな?死んだ後は、自然に還るだとか、守護霊とかになって子子孫孫に見守り続ける様な事が神道だろ?輪廻転生の概念は仏教だろ?」

 

 

 

「細かい事は気にしないで下さい」

 

 

 

 

 大雅の疑問を、天照は一言で切り捨てた。

 

 

 

 

「おい、一言で切り捨てるな」

 

 

 

「まぁまぁ、多神教の国で神仏習合に寛容なんですから、そういうのを取り入れたと思ってくれればいいんですよ」

 

 

 

「ああ、分かった分かった。あんたがそう言うならそういう事にしておくよ。じゃあ続けてくれ」

 

 

 

 

結構適当な天照に、頭痛を覚えたが、大雅自身も、話していると段々と脱力していく事に気付き、面倒臭くもなって来たので、話を続けさせた。

 

 

 

 

「はい。転生させる理由として、まず、私達が原因で死なせてしまった事でのお詫びと、前世が流石に哀れ過ぎると思っての慰安の意味と、そこの転生先でやって貰いたい事があります」

 

 

 

 

 天照の言っている事は、嘘偽りない事なんだろうけども、本質は違う所にあるだろうなと、大雅は思った。

 

 

 

 

「あのさぁ……、それって、前者二つは建前で、後者が本音じゃないか?」

 

 

 

 

 大雅の思った事は、案の定だった様で、天照は大雅から目を反らしていた。

 

 

 

 

「おい!こっち向いて説明しろ!」

 

 

 

「い、いえ、あのですね、一応、前者に言った事は本当に思った事ですよ?後者に就きましては、また私達の不手際がありまして……、貴方なら何とかしてくれるかな?と思いまして……」

 

 

 

「やっぱりな。だったら最初から誤魔化さずに言えや良かったのに……。受けるかどうかは別として、話しぐらいは聞くから」

 

 

 

「は、はい。どうもすいません。

実はですね、さっき神は基本的に暇人って事を私は言いましたよね?その暇を潰す為に、一部の神の間で、ある流行りがあるそうです。

その流行りというのが、死んだ人間を使って別の世界に転生させ、その転生した人間の人生を酒の肴に面白おかしく楽しんで見るというのが横行しています。

実際に、此方の失敗で、人間を殺めてしまった場合、その特例は認めてはいますが、故意でやるのは当然認めていません。

ですが、法の抜け穴と言いますか、故意死を事故死に見せ掛けてやられると、本当に事故死かどうかは逐一見てなければ分からないので、法を通り抜けてしまうのです」

 

 

 

「成程なぁ……。しっかし、呆れて物も言えんとはこの事だろうな……。でもさ、ただ単に転生させるだけなら、特に問題無くないか?」

 

 

 

「確かに、転生させるだけなら何ともありませんよ。

ですが、失敗をして転生させる際、お詫びの一つに、何かしらの願い事を聞いて、叶えてあげる事が出来るのですが、性根が悪い人物は、とんでもない願いを言う事があります。その願い事の力で、暴れまわったり、世界を征服したり、女性を漁り囲ったりと、やりたい放題する事が出来ます。

それで、貴方にお願いしたいのが、その世界の崩壊を防ぐ為に、転生者の監視をして貰いたいのです」

 

 

 

「ふ~ん、そう言う事。取り敢えず言いたいのは、その神を殴らせて欲しい。まぁ、それは横に置いといて、天照であるあんたなら、転生者とやらに楔を打つ事ぐらい出来るんじゃないの?」

 

 

 

「確かに出来ますよ。そして、私がお尻を拭わないといけないのは重々承知しています。ですが、ここでネックになっている約定があります。

それが、【神は下界で采を振れない】という約定です。

簡単に言うなら、私達は地上に降りて人や世界に干渉してはいけないという物です。

何故なら、下手に地上に降りたら、人や世界が混乱しちゃいますからね。

ただし、祭事や神事、世界の崩壊になりそうな緊急事態以外は、話しは別ですが……。

秘密裏に処理しようとしても、主神をしている事から、良くも悪くも有名ですので、直ぐにバレてしまいます。私アンチの神に非難されるのが目に見えています」

 

 

 

 

力も名声もあり、尚且つ、主神でもあるが故の苦労だ。

 

 

 

 

「まぁ、事情は分かった。だが、その言い方だと、俺も一応神なんだろ?だったら約定に引っ掛かるんじゃないか?」

 

 

 

 

そう、天照の言う【神は下界で采を振れない】というのなら、大雅にも例に洩れずな筈だと想い、大雅は聞いた。

 

 

 

 

「確かに約定には引っ掛かりますが、大雅さんはまだ神に成りたてで、成ったのを知っているのは私を含めた上層部ぐらいです。大雅さんの存在は本当に丁度いいんですよ。

神に成りたてながら、実力は『八岐大蛇』にも勝てる程です。

ウチの三軍神にも匹敵しうるかもしれません。

打算は確かにありますが、私は貴方の力を純粋に評価しています。

ですから、他のバカ神達に知られる前に、件の特例を利用して、転生者の一人として転生させようと考えました。因みに他の上層部の神達からも許可は頂いておりますよ」

 

 

 

随分と用意周到だな……。

 

 

 

 

「OK、理解した。ところで、別の世界ってさっき言っていたけど、平行世界的な何かと捉えていいのか?」

 

 

 

「はい、その解釈で宜しいかと。もう少し細かくするなら、貴方の居た世界では、アニメや漫画、物語としてあったものが、別の世界では、普通に現実として存在しているのもあるのです。それで、貴方に転生して欲しいのが、その物語がある世界に転生して欲しいのです」

 

 

 

「ほー、物語だったものが別では現実ねぇ……。つまり、憧れの世界に行って、その物語の主人公として成りたいのが、転生者に居て、そしてその転生者の行く先を神は面白がって覗いているわけね?」

 

 

 

「はい、まさしくその通りです。察しが早くて助かります」

 

 

 

 

 話しの筋が見えてきた大雅は、頷きながら納得した。

 

 

 

 

「それじゃあ、物語の世界って言うけど、物語ってたくさん有るよな?俺に行って欲しいところってどの物語?」

 

 

 

「そうですね……、お願いしたいのは幾つもありますが、貴方に行って欲しいのが、『魔法少女リリカルなのは』と呼ばれる作品の世界です」

 

 

 

「……は?何?魔法少女、えっと……、何だって?」

 

 

 

 

 聞いた事のない作品に、大雅は首を傾げ、もう一度聞き直した。

 

 

 

 

「リリカルなのはです。アニメ界隈では、結構人気アニメですよ」

 

 

 

「うん、全っ然分からない。魔法少女って事は、『魔女っ子○グちゃん』とか『ひみつ○アッコちゃん』みたいな感じか?でもあれって昭和のアニメだからなぁ……。第一、アニメどころか、テレビなんて暇が無くて殆ど見てなかったからな……。偶に見たとしても、情報収集する為に、ニュースや報道番組ぐらいだもん。普通に見れていたのだって、俺が人間だった頃だもんなぁ……」

 

 

 

「アハハ……、何というか、心中お察しします」

 

 

 

 

 不貞腐れ始めた大雅の態度を見て、天照は苦笑いを浮かべ、思わず同情の言葉が吐いて出た。

 

 

 

 

「それで、魔法少女リリカルなのはって何だ?あ、やっぱり此処は説明しなくていいや」

 

 

 

「え?知らなくて宜しいのですか?」

 

 

 

 

 大雅の言葉は予想外だった様で、天照は虚を衝かれた様な顔をしている。

 

 

 

 

「だってよ、物語の世界であっても、現実の世界であっても、未来を知っちゃたら人生つまらないじゃん?それに、本来なら居ない人物が其処では居るとなると、まるっきり未来が同じとは限らない。下手に物語を知ってしまうと、逆に変な先入観を持ってしまうからな……。予想外な出来事が起きた場合に、対処し難く成ってしまう気がするんだが……」

 

 

 

「おお、其処まで考えているとは流石ですね。やっぱり、貴方頼んで正解でした」

 

 

 

 

 大雅の言葉に、天照は称賛の声を上げる。

 

 

 

 

「おいおい、その言い方だと俺が承諾したみたいじゃないか。俺は、飽くまで話しを聞くと言っただけで、一言もやるとは言ってないぞ?」

 

 

 

 

底意地の悪い顔で、天照を揺さぶる。

 

 

 

 

「ああ、そう言えばそうでしたね。でも、やって頂けるのでしょ?」

 

 

 

 

 しかし、天照は大雅の言葉に釣られなかった。

 

 

 

 

「ハァ、俺が拒否するとは考えなかったのかよ?それに、俺も違う世界に行ったら、好き放題するかもしれんぞ?」

 

 

 

「いえ、貴方の人柄を見れば、やってくれると思いましたし、自分の命を懸して人の為に尽くす貴方が、好き放題なんてする訳ないじゃありませんか。これでも、主神しているんです。為人は見ただけで大体分かります。こうして話しているだけで、貴方の人の良さが窺い知る事が出来ますよ」

 

 

 

 

 天照は、やや説教口調で大雅の言葉を否定する。

 

 

 

 

「其処まで俺を買ってくれるとはな……。まぁ、俺自身はあんたに協力するのは構わない。で魅空と夕魅にも意見を聞きたいんだが、いいか?」

 

 

 

「はい、構いませんよ」

 

 

 

「それと、別の世界に行ったとして、魅空と夕魅も連れて行ける事は出来るよな?」

 

 

 

「はい、出来ますよ。人型を象っているとはいえ、大雅さんの武器ですので、当然可能です」

 

 

 

「分かった。じゃあ、魅空と夕魅が反対すれば、多数決では俺の負けだから、協力は出来なくなるけど大丈夫か?」

 

 

 

 

 大雅の言葉に、天照は考え込み、答えを出した。

 

 

 

 

「…………まぁ、その場合は仕様がないですね。別の方法を考えます」

 

 

 

「悪いな……」

 

 

 

 

 そして大雅は、魅空と夕魅の居る方に目を向けて尋ねた。

 

 

 

 

「という事なんだけど、俺が行くとなれば、お前達も付いて来てくれるか?」

 

 

 

「はい、当然です」「勿論なのであります」

 

 

 

 

 大雅の問いに、彼女達は考える素振りすらせず、一秒で即答した。

 

 

 

 

「早いな。一秒で即答されてしまった。それで、お前達は俺が転生する事に就いて、何か意見はあるか?」

 

 

 

「そうですね。天照さんという懸念材料はありますが、基本的に大雅様が決めた事に、私が反対する理由はありません」

 

 

 

「そうか……、夕魅は?」

 

 

 

「私もマスターの意見に反対する理由はないのであります。ですが私は、天照に、お優しいマスターの心に付け込んで、体よく騙されてないかが心配なのであります」

 

 

 

「ええ!?私は騙すつもりはありませんよ!?どれだけ私は信用されてないんですか!?」

 

 

 

 

魅空と夕魅の懸念に、天照は堪らず抗議した。

 

 

 

「天照はちょっと黙っててくれ。抗議は後で聞くから」

 

 

 

 

 相談途中に天照の横槍が入り、大雅が窘めた。

 

 

 

 

「はい……」

 

 

 

 

 大人しくなった天照をみて、彼女達に向き直り、再び尋ねた。

 

 

 

 

「よし……。胡散臭いけど、天照の人柄、いや神柄か?それは信用出来るから、まぁ大丈夫だと思うが?」

 

 

 

「納得はいきませんが、大雅様がそう仰るのであれば、一応天照を信用します」

 

 

 

「ですが、もし、マスターに何かがあれば直ぐに叩き斬るのであります」

 

 

 

 

二人に睨みつけられ、天照は涙目になり怯えるが、大雅は二人を止めた。

 

 

 

 

「まぁまぁ、二人共落ち着きな。取り敢えず、お前達は俺の転生に賛成という事でいいんだな?」

 

 

 

「「はい」」

 

 

 

「分かった。じゃあ天照、その依頼を受けよう」

 

 

 

「あ、そうですか……、感謝致します。後、私は騙すつもりで、お願いした訳じゃありませんからね!確かに打算はありますが、飽くまで私は……」

 

 

 

 

天照は、まだ気にしているらしく、抗議をした。

 

 

 

 

「まぁ、落ち着け天照。あんたの態度を見れば、演技でない事は十分分かるから」

 

 

 

 

 流石に、大雅もちょっと可哀そうだと感じた為、天照にフォローを入れた。

 

 

 

 

「はい、どうもすみません。気遣って頂いて本当に有難う御座います」

 

 

 

 

 大雅のフォローで、天照が落ち着いたのを見計らって、大雅は話しを戻した。

 

 

 

 

「それで?やるとは言ったけど、どうすればいいの?」

 

 

 

「では、一から説明します。さっきも言いました通り、大雅さんには『魔法少女リリカルなのは』という異世界に転生して貰い、その転生先で、他の転生者の監視をして頂きたいのです。理由は、世界の崩壊を防ぐ為です」

 

 

 

「分かった。それで、その転生者ってのは何人居て、それぞれの為人は分かるか?その転生者の背格好や、顔立ちが分からなければ、監視の仕様がないからさ……」

 

 

 

「はい、そうですね。ちょっと待って下さい」

 

 

 

 

 天照はそう言って、何も無い空間に手を伸ばすと、肘から下が消えた様に無くなり、数分後に、消えた所からまた手が現れ、マル秘と書かれた資料の様な物が、その手に有った。

 

 

 

 天照は、その資料らしき物を捲り、それを読み始めた。

 

 

 

 

「まずはですね、貴方が監視して欲しい転生者の人数は、三人居ます。振り分けは男性二人と女性一人ですね。調査に依ると、女性の方は善人と言える方ですが、男性二人の方は、性格がかなり破綻していますね」

 

 

 

「そんなにすごい性格なのか?」

 

 

 

「はい。何でも、女性崇拝と言いますか、女性支配願望と言うんですかね?それがあるみたいでして、物語の世界の女性達を囲ってハーレムとやらにしたいそうです。全く……、女を何と思っているんでしょうか!?女の一人として不愉快極まりないです!」

 

 

 

 

 天照は、男達の為人が書いてあるだろう資料に向かって、殺気を孕んで言い放つが、大雅が天照の怒りを窘め抑える。

 

 

 

 因みに、魅空と夕魅も、天照の話しを聞いて、その男達に何か思う事がある様で、大雅がいる手前、大っぴらにはしていないものの、静かに怒っているのが表情で窺える。

 

 

 

 

「まぁまぁ、気持ちが分からんでもないが、此処は抑えてくれ。そいつ等が何かしでかす様なら俺がぶっちめるから。要は、そいつ等を監視後、抑制もしくは排除って事でいいんだろ?」

 

 

 

「はい、概ねそんな感じです。何かしでかしたら、私の怒り分も込めて制裁して構いませんからね!?主神の私が許可します!」

 

 

 

「結構私怨入ってるなぁ、おい。まぁ、女性が被害を受けるのは、見ていていい感情はしないから、それは了解した」

 

 

 

「お願い致しますね?」

 

 

 

 全く……、喜怒哀楽の激しい神様だ……。

 

 

 

 

「それじゃあ、個々の為人を照会します。聞きたい事があれば、照会し終わった後にお願いしますね?」

 

 

 

「分かった」

 

 

 

「では、まず一人目。旧名『御手洗 天馬(ミタライ ペガサス)』、今世では、『北大路 天馬(キタオオジ テンマ)』と名乗っていますね。享年、22歳。

前世での生活環境は、親が代議士で、お金に不自由無く過ごし、かなり甘やかされて育っていますね。何かしらの事件を起こしても、お金を使ったり、弱みを握って脅したりして揉み消しています。そんな環境に育ったものだから性格が最悪です。

その性格が、強欲、嫉妬深い、自己中心的、何かあれば直ぐに人の所為にする馬鹿、何があってもお金や権力で解決出来ると思っており、女好きで特に、可愛かったり綺麗な女性には、その人達の意志関係なく、俺の嫁と宣言し、男性、特にこの人が気に入った女性に近付く男性や醜女の女性には敵愾心を抱く程に嫌悪する人格破綻者です。

そんな性格ですから、友達なんて呼べる人は居ませんでしたね。

だから、結構アニメ鑑賞等を趣味にしていた様ですよ。とまぁ、為人はこんな感じですね。

次に、前世での死因が、階段から転げ落ちて脳挫傷で死にました。  

容姿が、前世では、二重顎が目立つぐらいの小太りで、眼鏡を掛け髪を金色に染めていましたね。まぁ、前世の容姿なんて知っても意味ありませんので、此処は流して下さい。

今世では、銀髪で、右目が金色、左目が銀色のオッドアイで、少女漫画に出てくる様な男性並にかなり整った顔をしていますね。

願い事が、ニコポ、ナデポ/イケメン、銀髪、オッドアイ(瞳の色指定)/魔力SSS/無限の剣製/剣製のデメリットなし/という願い事を叶えさせています。

此処まで何か質問ありますか?」

 

 

 

「うん、まぁ、名前に就いては敢えて突っ込まん。性格はさっき聞いてたからショックは少ないな。それにしても、とんでもなく都合のいい前世だな……。取り敢えず、聞きたいのは、意味の分からない単語が多過ぎて、どれから質問していいか分からんな。まぁ、順々に聞くぞ?」

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

 

「まず、前世と今世で名前が違うのは分かる。転生なんだからな。情けない死に方だけど死因も分かる。願い事で容姿にコンプレックスがあれば、変えたくなるのも分かる。ただ、分かんないのは此処からで、願い事の中にある、ニコポ・ナデポって何だ?」

 

 

 

「ニコポ・ナデポですね?分かりました。

ニコポ・ナデポと言うのは、感情変換の一つって事になるんでしょうかね?

例えば、好意を持っている人の微笑みを見ると、紅潮する事ってありますよね?

それを、自分から女性に向けてニコっとやって、惚れさせるのがニコポです。

ナデポも似た様な物で、子供の時に親とかから、何かしら褒められて、頭を撫でて貰うと嬉しい気持ちに成りましたよね?

それを、自分から好意のある女性に頭を撫でる事で、惚れさせる事です。

多少でも好意を持っていれば、その好意を最大限に惹き立て、惚れさす事が出来ます」

 

 

 

「ふ~ん、そんなのあるんだな。たださ、その理屈で言うと、それに対して一切の好意がなければ、好意が何倍になろうが、最大限だろうが、無意味じゃない?」

 

 

 

「はい、大正解です。その人に対して好意が0なら、何を掛けても0にしかなりません」

 

 

 

「だよな?それについては大体分かった。次は、魔力SSSの事だな。まぁ、魔力はなんとなく分かるぞ?魔法とやらを使う為の力の源の事だろ?だが、SSSって言うのはよく分からないんだよね……」

 

 

 

「魔力SSSに就いてですね?貴方の言う通り、魔力とは魔法を使う為の力の源です。

その魔力という物には、ランク、言わば、力の階級の事です。その力の階級をアルファベットで表し、SSSはその力の階級の最上位に位置します。

その種類は、一番下のFから始まり、E<D<C<B<A<AA<AAA<S<SS<SSSとおまけに+、-が付きます。

まぁ、私から言わせて貰えば、どれだけ力が大きかろうと、所詮は人の範疇で、神には遠く及びません。貴方からすれば、其処まで気にしなくていいと思いますよ?」

 

 

 

「成程ね。それじゃあ、次は無限の剣製に就いてだな」

 

 

 

「無限の剣製ですね?能力説明に就いては、私でも説明し辛いんですよね……。これを説明するには、まず固有結界というものを説明しなければ話しが進められないので、この固有結界について説明させて頂きます。よろしいですか?」

 

 

 

「ああ。ただ、その説明ってかなり長い?」

 

 

 

「う~ん、長いといえば長いんですが、普段使わない様な難しい単語が出てくるので、そっちを気にした方がいいですね。ですので、聞き逃さない様にしっかり付いて来て下さい」

 

 

 

「分かった。説明続けてくれ」

 

 

 

「はい。では、行きますよ?固有結界とは、術者の心象世界を形にし、現実に浸食させて形成する結界の事です。

それは、結界内の風景、世界法則を一時的に塗り直したり、捩じ曲げたり、入れ替えたり、書き換えたりして変貌させる事が可能です。

ただし、術者の意のままに自然を変貌させる事は出来ません。

固有結界は、術者の一つの内面を具現化させる為、結界内の心象風景、能力を術者の意志で変える事は出来ないのです。

代わりに、自然と、結界内部のあらゆるものを結界内のルールの影響下に置く事が出来ます。結構自由自在に見えますが、制限もある異界創造法なのです。

そういう性質上、固有結界は術者個人個人で全く違います。

そして、それが無限の剣製に行き着きます。

 

 

 

「うん、まぁ、良くわからんが、俺なりに解釈したんだけど、つまるところ、自分の心象をなんやかんやあって、表に引き出す事だろ?」

 

 

 

 

 大雅のかなり大雑把な解釈に、天照は、眉間に皺を寄せ答える。

 

 

 

 

「ま、まぁ概ね間違いではないんですけど、結構頑張って説明した私の立場が……、まぁ、いいですけど……」

 

 

 

「ああ……、悪い悪い。まぁ、でも合ってんなら、あんたの説明も決して無駄では無かったって事だ」

 

 

 

「なら、いいです。ある程度理解したのなら、次は無限の剣製に就いての説明ですね。

これは、貴方の行く世界とは違う物語の世界での能力で、その能力というのが、視認した武器、と言っても白兵武器に限りますが、それを魔力で複製し、さっき言った固有結界の中に貯蔵しておく事が出来ます。

一度複製した武器は、固有結界を発動せずとも投影として外界に引き出す事が出来る他、応用的に改良を加える事も出来ます。

更に、神話に名を残す様な、所謂、神造武器も、程度によりますが、複製する事が可能で、神話に迫った同じ様な力の使い方が出来ます。当然魔力消費は激しいですよ。

ただし、複製した武器は本物より一歩劣り、極めて高い神秘性の伴った、神造武器は複製出来ません。ですから、大雅さんの持つ、神秘性が高く、インテリジェンスどころか人の姿を象る程の神剣である霊蒼剣と霊紅剣は複製出来ません。

他の用途として、ただ複製し振り回すだけでなく、外界に引き出した武器は、連弩の様にして飛ばす事が出来る他、それ自体を力の詰まった爆弾として扱う事も可能です。

上手く使えばかなり強力な能力ですが、当然デメリットもあります。

武器を心象に貯蔵するという都合上、結界を広げて武器を使うと、使用した後にオーバーヒートして、刃が皮膚を内側から突き破って出て来ます。

他にも、神秘性が高くなっていくと、力の消費も激しくなって行き、脳や体が耐えられません。細かいのはまだありますが、おおまかなデメリットはそんな感じですね。

ですが、この能力を欲しがった北大路天馬は、このデメリットを願い事で解消しました。

最初から出来ない物は、デメリット云々関係ないですけどね。ふぅ……」

 

 

 

 

 天照は長い説明を言い終え、一息吐いた。

 

 

 

 

「成程ね。ただ、この能力に神秘性のある武器を複製出来ると言っていたが、それって本物、あるいは贋作とかがないと、複製出来ないよな?第一、そんな神秘性のある武器ってそうホイホイ転がっている物なのか?」

 

 

 

「ご指摘の通り、普通はありませんね。その様な武器を見る事すら、稀でしょう。ですから、能力の原点となった物語の様にはいかないと思いますよ?いくらデメリットを解消したとはいえね……」

 

 

 

「だよな?それとさ、心象風景って普通は一人一人違う訳だろ?無限の剣製というのは、飽くまで、その物語の登場人物の心象風景なのであって、ええっと、なんだっけ?北大路だったっけか?その北大路の心象風景ではないだろ?北大路本人にも嘘偽りのない自分だけの心象風景がある筈なんだから、自分の心象風景と、他の人の心象風景を重ねると、拒否反応みたいの起こり得るんじゃないか?その辺どうなの?」

 

 

 

 

 大雅の指摘に、天照は表情を一瞬凍らせ、その直ぐ後に目から鱗が落ちましたという様な表情に変えて、返答した。

 

 

 

 

「あ、ああ……そう、ですよねぇ……、私は気付くどころか考えもしませんでした。興味も無かったので、気にも留めてませんでした。ですから、心象風景が重なってどうなるかは、私にも分かりません。お役に立てなくてすみません」

 

 

 

「そうかぁ……。まぁ、分かんないならいいや。俺がどうなるって訳じゃないし……」

 

 

 

 

 大雅がした質問なのに、どうでもいいか?とばかりに投げ槍にスル―した。

 

 

 

 

「まぁ、北大路に就いては大体分かった。次の人を頼む」

 

 

 

「分かりました。次の人ですね?

二人目は、旧名が『山田 辰郎(ヤマダ タツロウ)』、今世では『神楽坂 龍斗(カグラザカ リュウト)と名乗っています。享年、21歳。

前世での生活環境は、中流家庭の育ちで、本人はアキバ系と言われるオタクで、それが行き過ぎて引きこもりニートのダメ人間の典型です。親からも疎まれていた様ですね。

性格は、北大路天馬程最悪ではないですが、似たり寄ったりな性格ですね。

前世での死因が……………………」

 

 

 

 

 スラスラと言っていた説明を、唐突に言い詰まらせ、天照は頬を誇張させ、非常に言い辛そうにしている。

 

 

 

 いきなり説明が止まって気になった大雅は、何事かと聞いた。

 

 

 

 

「あ?どうした?何か分かんない事でもあったか?」

 

 

 

「いえ、そうではないんですけど、女性が言うには少々恥ずかしい事なので……」

 

 

 

「そうなのか?だったらそこは飛ばしてもいいが?」   

 

 

 

「いえ、言いますよ。この人にとっても隠さなくてはいけない黒歴史ですし、私の羞恥心と怒りを込めて、八つ当たりしてやります。

全く、この人は……、幾ら何でもこんな死に方をしなくてもいいのに……。

では、言いますよ?この人の死因は、自慰行為のし過ぎによる、テクノブレイクを引き起こして死亡しました」

 

 

 

 

 天照は、若干の怒りを込めて暴露した。

 

 

 

 

「ハァッなんじゃそりゃ!?て、テクノブレイク?いや、テクノブレイクの意味は一応分かるが……、一生の内に一回使うか分からない言葉だぞ?第一、そんな死に方って現実にあったのか。死んだ人に言う事じゃないけど、本当にしょーもない死に方だな」

 

 

 

「この人が何かしでかす様なら、この事を突き付けるのも悪くないですね。戦って止めるより、よっぽど効果があるかもしれませんね。フフフ」

 

 

 

「ま、まぁ、そういうやり方も有りかな……。ハハハ……」

 

 

 

 意味あり気な笑顔を浮かべて、結構腹黒い事を言う天照に大雅はタジタジになり、話しを変えた。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ続きをお願い」

 

 

 

「分かりました。では、続けますね。容姿は、前世では……、まぁ別に言う必要ないですよね。どうせ聞いても意味ないですしね。今世では、金髪金眼で、顔は北大路天馬とあまり変わりないというより、略同じですね。

願い事は、ニコポ・ナデポ/金髪金眼・イケメン/魔力SSS/魔法変換素質全属性/完全魔法無効化能力/という願い事を叶えさせています。此処までで何かありますか?

 

 

 

「そうだな……、取り敢えず、ニコポ・ナデポ、魔力SSSっていうのは標準装備なのか?まぁ、其処はいいや。さっき聞いたからな。それじゃあ、願い事にある魔法変換素質全属性っていうのは、魔力を火とか水とか雷とかに変質させる事だろ?」

 

 

 

「はい、概ねそれで合っていますよ」

 

 

 

「おお、合ってたか。それじゃあ、完全魔法無効化能力っていうのは、単純に考えれば、魔法を完全に魔力諸共無力化出来るって事だろ?」

 

 

 

「はい、そうですね」

 

 

 

「となると、魔力以外の俺が持つ、妖力や霊力、神力それと固有能力の鬼火はどうなるんだ?」

 

 

 

「そうですね、妖力や霊力は絶対にとは言えませんが無効化されると思いますよ。ですが、力が強大な神力や、源泉がない単純な火力勝負の鬼火は無効化出来ないと思いますよ?」

 

 

 

「そうか……。それじゃあ、北大路のアレはどうなる?複製とはいえ、魔力で編まれた物だしさ……」

 

 

 

「さぁ、調べた事がないので分かりません。出来るかもしれませんし、出来ないかもしれません。でも、私の考えでは、無効化出来る可能性の方が高いと思いますよ?」

 

 

 

「ふ~む……。まぁ大体分かった。それじゃあ、次の人を教えてくれ」

 

 

 

「はい、分かりました。次の人の名前は……」

 

 

 

 

 天照はサラッと名前を言う前に一息おいて、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 天照が次に言う名前に、夢想だにしなかった大雅は驚愕する事になる。

 

 

 




バレバレですね。


次回こそは、序章最後にします。


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