世界一可愛い錬金術師がダンジョンにいるのは間違っているだろうか (スキン集め隊)
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番外編
オラリオのハロウィン(前)


やっと投稿…なんですが、ハロウィンを投稿します。予想以上に次話の内容が浮かばなかったので申し訳ないですが…それより遅れた方が悪いかなーって思いまして。

どれくらい思い浮かばないかと思うと、ベート君を弄る方法を模索していたつもりがハイスクールD×Dの漢女のミルたんがもしも儚い系銀髪美少女(力はそのまま)だったらという話が思いつくくらい。不甲斐ない作者で申し訳ない…

そんなわけでハロウィンなんですが…一番書きたかったのが時系列的にダンまち三巻と四巻の間くらいなんですよ。なので色々と対人関係ネタバレ的なものもありますけど…いつか本編で出てくる部分の予告とでも思ってください(泣)すまない、本当にすまない…


 

「ハロウィン、ですか?」

 

「はい。結構有名な行事なんですけど知りませんか?」

 

僕は今、いつものようにシルさんのーー少し身も蓋もない言い方かもしれないがーーお弁当を頂きにきている。

そこで、いつもと違うオラリオの街の姿がどうしても気になってしまったのだ。

街灯や屋台の周りに作り物のカボチャが被せてあって、そのどれもが怪しく笑った怪物の顔に彫られていた。

他にもコウモリの飾りなどもあって、いつも魔石が光源となっているものは蝋燭に変わっていて、そして極めつけは道を歩く人たちだろう。

英雄譚に登場する化物の姿をしていたり、ダンジョンに出てくるモンスターの姿をしていたりと、中には余りにもリアル過ぎるのもあって、ホームから出た瞬間それらを見て思わず声をあげてしまったのは恥ずかしかった。

大人が厳ついモンスターの仮装をしているのは怖かったけれど、子供がアルミラージの仮装をしてはしゃいでいるのは見ていて微笑ましい。

 

「僕、ほんの少し前まで田舎にいたから知らなくて…教えてもらってもいいですか?」

 

「もちろんです!そうですねぇ、時期的に秋の収穫祭みたいなものですね。他にも悪霊を追い払うためとかの意味もあるのですけど」

 

「あ、悪霊ですか?」

 

「はい。とはいえ私達には神様達もいるので悪霊程度怖くもありませんし、あのようにモンスターの仮装とかして神様達や私達が合法的に騒げる祭になってるんです」

 

「なんというか…豪胆ですね。いつも身の危険に晒されているモンスターの姿になるなんて」

 

「それは、ほら神様達はあんな性格ですし」

 

シルさんの不敬ともとれる言葉に僕は思わず苦笑してしまう。でも彼女が言う通り娯楽好きな神様達のことだ、騒げる機会があるならばとことん騒ぎ、堪能し尽くすに違いない。

 

「あれ?そういえば今日はカリオストロさんはいないんですか?」

 

「あ、それが『今日は準備があるからカリオストロはいけないんだ。ちょっと寂しいかもしれないけど、頑張ってねベルおにーちゃん☆』って言われて。あの、この準備っていうのもハロウィンに関係あるんですかね?」

 

カリオストロがそういった後に『帰ってきたら楽しみにしてろよ』とも小声で聞こえた気もするけど。

 

 

「……」

 

「あれ?シルさん?…どうかしたんですか?」

 

「…ハッ!!い、いえいえなんでもないですよ〜♪あのー、カリオストロさんがそういったんですよね?」

 

「は、はい。そうですけど…」

 

どうかしたんだろうか?マイペースを貫くシルさんが固まるなんて初めて僕と出会った時くらいのものだけど…。

あれ?今シルさんが笑ったような。いつものシルさんの笑みじゃなく、あれは…そう、そうだ!カリオストロがいつも浮かべているような!そんな警戒せざるをえない笑みだった。

でもシルさんがそんな顔するはずないか、きっと目の錯覚だろう、うん。決してあんな笑みを浮かべる人物が二人もいたら僕の胃が痛くなるからでは断じてない…はず!

 

「ベルさん!」

 

「は、はい!」

 

急にシルさんが詰め寄ってきて、シルさんの顔がすぐ目の前にあって上ずった声が出てしまう。こんなだからカリオストロにヘタレって言われるのかなぁ…。

 

「これをもらっておいて下さい!絶対に役に立ちますから」

 

そういってシルさんが手渡したのは銀紙に包まれた甘い匂いがするものだった。

 

「なんですか、コレ?」

 

「チョコです」

 

「え?」

 

「チョコです」

 

「役に立つものがですか?」

 

「はい。チョコです」

 

いったいなんの役に立つというのだろうか…?でもシルさんにはお世話になっているし(それ以上に面倒事を押し付けられている気もするけど)ここは素直に受け取っておこう。

 

「たぶんじきにわかる事ですから。それでは、今日も1日頑張って下さいね!」

 

そういってシルさんは僕にバスケットを渡す。満面の笑みでいわれてはこれ以上言及することもできないし。それに何よりああいった含笑いは絶対に何かあると僕は学習したのだ。あまり詮索するのは藪蛇だろう。

 

さぁ、今日も1日頑張るぞ!僕はシルさんにお礼を一言いってから真っ直ぐにダンジョンを目指した。

 

 

*****

 

「いいですか、ベル様。今日はダンジョンの最も危険な日と言っても過言ではありません」

 

「へ…?」

 

ダンジョンの入り口でリリと合流してダンジョンの一層を歩く中、唐突にリリが話しかけてきた。

ただ、その内容の今日が一番危険な日というのがわからないんだけど…

 

「今日はハロウィンです。オバケです。仮装です。つまりーーダンジョンには、ゴースト系モンスターの出現率がアップし、私達の同業者である冒険者達も仮装をします」

 

……どういうことなの?え?ダンジョンがハロウィンという祝日を認識して作り変えてるってこと?

 

「とにかく、ゴースト系のモンスターは魔法でしか倒せません。ですのでーー」

 

リリが僕にあまりにも大きすぎるバックを見せると、その中にはマジックポーションが大量に入っていた。

 

「頑張ってくださいね!ベル様!!」

 

…どうして僕の周りの女の子はこうも強かなんだろうか。いや、僕しか攻撃魔法使えないから仕方ないのかもしれないけど。

 

「というか、こんな量のマジックポーションをどこから仕入れてきたの?」

 

「カリオストロさんに言えば渋々用意していただけましたよ?」

 

ああ、うん。何気にカリオストロは優しいから文句をいいつつも用意してくれたのだろう。その様子が容易に想像できてしまう。

 

「あっ、とそういえばさっき冒険者にも注意しないといけないって言っていなかったっけ?」

 

冒険者にも注意というと…ドロップアイテムの奪い合いでも起こるのかな?確かに、ゴースト系のモンスターは普段は滅多にいないからその可能性も充分ある。

 

「ハロウィンですので、冒険者達も仮装するんです」

 

「うん」

 

「だから間違えて攻撃してファミリア間の問題になる場合もあるんです」

 

「…うん?」

 

どうしてそうなるのさ!と僕は叫びたい。だけど、ここで慌てふためいてもどうにもならない事も学習した。だから僕はあくまで冷静にリリに聞く。というか、話が繋がっているような、いないような…

 

「なんで冒険者同士で争いになるの?」

 

「冒険者の仮装があまりにもリアルすぎてモンスターと間違えてしまうらしいですよ。他にも、その恰好で驚かしてきて、つい反射的にーーとか。」

 

あんまりな理由に僕は絶句した。ダンジョンでは常に死と隣り合わせだ。だというのに、そんな事をしてさらに死亡率を上げるなんて狂ってるとしか言いようがない。そんなにハロウィンがみんな大事なんだろうか?

 

「全くです。これだから冒険者っていうのは…」

 

そういいつつ、リリ自身も魔法で小人族(パルゥム)から犬人族(シアンスロープ)になって、ロープにも細かな飾り付けで犬っぽいというより、可愛らしい狼を彷彿とさせる姿になっていて何気にハロウィンを楽しんでいるように思える。どうなってるのかな、オラリオって…

 

「…んん?ベル様なにか匂いますね」

 

「えっ」

 

そ、そそそそれって臭いってこと!?流石にまだ十代でそんなこと言われるのは嫌だよ!!

 

「ああ、いえ。臭いってわけじゃなくて…カカオ?チョコの匂いが強烈にするといいますか」

 

チョコ?もしかしてシルさんに貰ったチョコの事かな。そういえば普通のものより幾らか強い匂いだったような…。

 

「まあ、気のせいですよね。じゃあいきましょうか」

 

歩いていくリリを追いかけることに思考が切り替えられて、この時浮かんだ疑問を僕はすっかり忘れていた。

 

*****

 

つ、疲れた…。リリの言っていた通り、何人かの冒険者が驚かしてきて攻撃はしなかったけど思いっきり叫んでしまった。それで次はおどろかしてきても叫ばないように我慢してたら、次に来たのは本物のモンスターで慌てて倒すっていう…。おかしいよね?なんでみんなわざわざ魔法まで使って火の玉だしたり、不気味な音だしたり、身体を透けさせてゴースト系モンスターと無駄に同じように見せたりとするのか理解できない。

まあ、それもドロップアイテムと魔石が高く売れてリリと喜びあったから疲れもある程度とれてよかったけど。

 

今日は早くホームに帰ってやすm……

 

『帰ってきたら楽しみにしてろよ』

 

あ、……ああああああああ!!?そうだ、カリオストロがいるじゃん!!絶対ロクな事にならないよ!!やっぱり早く帰った方がいいよね。どれくらい僕の体力がもつかわからないし…。

 

僕はため息をつき、トボトボと露骨に肩を落としながらホームである廃教会に帰る。

しばらく歩くと、立派な教会が見えてきた。青い屋根の上には大きな鐘。壁は真っ白で、誰でも入って祈ることができるようにしてある大きな門はとても廃教会とは思えない。実際、聖堂には何人か祈りにきたり懺悔しにくる人がいる。

僕も、大きな門を潜り抜けて赤い絨毯を歩いていく先にあるのは天井まである巨大な女神像ーーでもなく。巨大なヘスティア像ーーでもなく、超巨大な黄金に輝くカリオストロ像がある。わかる。みんなのツッコミたい気持ちもわかる。けれど、本当にご利益があるから馬鹿にできない。ここで拝んでおくとなんらかの幸運が訪れると噂され、それに伴ってヘスティアファミリアの名も広まっている。僕も、拝んだ次の日はダンジョンでレアアイテムをゲットできるからできる日は拝むようにしている。

 

きっと、参拝客に何人か神威を感じるが気のせいだろう。気のせいと思いたい。

 

さて、その像の右隅にある通路を抜け、僕達ファミリアのみんなが集まる講堂に行く。非常に嫌な予感がするが、諦めるしかない。

 

 

彼女からは逃げられないーーそれが僕がオラリオに来てから”冒険者は冒険をしてはいけない”の次に沢山学んだことなのだから。

意を決してドアノブに手をかけ、回し、ゆっくりと開いていくーー

 

「トリックオアトリート!」

 

ああ、なんだまた面倒ごとか。僕は、めっきり変わってしまった部屋の内装と、白を基調としカボチャを連想させるゴスロリ服にヴァンパイアのような羽を広げて小悪魔感が増し増しになったカリオストロと、わぁ美味しそうだなーと思えるくらいカボチャ色になったウロボロスを見てそう思った。

 

 

「お菓子くれないと、イ・タ・ズ・ラしちゃうぞ☆」

 

 

これから始まるであろう夢幻の饗宴に、僕は偏頭痛を起こした。





カリオストロの羽があれなにでできてるのか正直わからないからもうヴァンパイアにしちゃいました。

あとビィスターソードゲットしたけどこれは強いのだろうか…?


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オラリオのハロウィン(中)

スマホが五日間フリーズ、と…。玄武狩りとフェンリルぅ…。フェンリルのブレイク時の「きゃんっ!」て声可愛いからもっと聞きたかった。

あとこれ読んでる友人に自分語り多くねって言われたけど、作者の現実友人少なくて寂しいねん…。適当に聞き流して。



 

真っ暗い部屋の中を真っ白なオバケやカボチャ、蝙蝠のライトが照らし、眼前ではとぐろを巻きつつ鋭い眼光を周囲に撒き散らしながら佇むウロボロス。

そして、その中心で確かダンジョンの中層以下で出現するヴァンパイアのような服装を見に纏い、本物のヴァンパイアの真似をしているのかペロリと指を舌で軽く舐めて僕に流し目を送るカリオストロが、妙な色気を醸し出していた。

しかし、僕はそれを見て顔が赤くはなってはいるだろうが、美少女のそんな表情を見れてラッキーと思うわけではなく、今すぐここから逃げなければと思った。

 

カリオストロの目は完全に獲物を見るような目で、首筋に嚙みつかれれば血を全て吸い取られそうなそんな錯覚に陥ったからだ。それでも、身体は硬直して逃げなかったのは僕の人間としての本能よりも男としての何かが彼女に吸い取られたいと思ってしまった事は恥ずかしく思いながらも追記しておく。

そんな考えをしているのをたぶん彼女に気づかれて、いつもより艶やかさが増した笑みと紫色の瞳でカリオストロは僕を射抜く。あ…、これ逃げ遅れたかな…。

 

「唐突だけど…」

 

カリオストロが顔にかかった髪を慣れた手つきで耳の後ろへとかき分ける。うなじをわざと強調してやったそれは少女らしからぬ妖しさがあった。

 

「白兎の血ってどんな味がするのかな?」

 

……喰われるぅぅぅっ!?

 

「さ、さあ?不味いと思うよ」

 

「へぇー…でもね、カリオストロの目の前にいるう・さ・ぎ・さ・ん、とーーっても美味しそうなの」

 

彼女がふふっと軽く笑ったのが何故か怖い。

兎…いやあ、はは…この部屋には兎なんていないんだけどな。アルミラージでも迷い込んだのかな?

 

「だ・か・ら、見逃して欲しかったらカリオストロにお菓子ちょーだいっ☆」

 

ほら早く出してみろと言わんばかりにカリオストロが右手を差し出してくる。

ああ、さっきお菓子くれないとイタズラするって言ってたっけ。これもハロウィンの伝統なのかな。

 

「あれ?兎さんお菓子ないの?じゃあ、カリオストロがイタズラしちゃうねっ!」

 

顔に陰がかかってとても綺麗な笑みなのに不思議と恐ろしく感じる。僕は生まれたての子鹿のように僅かに体を震わせていた。

ウロボロスもゆっくりと旋回しはじめて、これはもう色々終わったかもしれない。

 

でもお菓子なんてないーーあ、そういえばシルさんに貰ったチョコが!!ありがとう、シルさん!!いつもはカリオストロと同列なほど警戒対象ですけど今日は助かりました!

僕はポーチに放り込んでいたチョコを取り出し、今日はもう弄られないぞという意味を込めて勢いよく差し出した。

 

すると、さっきまでの妖しい雰囲気は霧散し、カリオストロの笑顔は徐々に歪んで舌打ちした。えぇ…さっきまであの目と旋回するウロボロスがなければ普通に可愛かったのになんて変わりよう…。いつものことだけど。

 

「なんで菓子持ってんだよ…、お前の知り合い全員にハロウィンについて話すなって言っといた筈だ」

 

「だからなんでそんなハロウィンに綿密な準備をするの!?」

 

「そんなの合法的にいろいろできるからに決まってんだろ」

 

ふははは、と手を掲げてカリオストロは高笑いをした。

うん、そうだよね。君はそういう人だよね!

 

「つかこのチョコ嫌に匂うしさっさと食っちまうか」

 

シルさんには悪いけど、そんな匂うなら捨ててもいいんだけどなぁ。シルさんもどっちかというと防犯?対策みたいなものだと思うし。

 

「いっただっきまーす☆」

 

こういう礼儀もちゃんとするし、わざわざこうやって食べるのも僕から貰ったからっていうのもあるんだろうなぁ。本当にいつものアレさえなければ文句なしの善人なんだけーー

 

「辛ぁっ!?」

 

えっ。か、辛い?

 

「〜〜〜〜〜ッ!!」

 

カリオストロが片手を自分の口の上で振ると、手から光が溢れた。錬金術で治してるのかな。確かにカリオストロが水って叫んで取り乱す姿はあんまり普段からは想像できないし…っていうか焦るとこ自体全然見ないからなぁ。

 

「中から出てきたドロッとした濃縮辛味ソースも最悪だが、それとチョコの味が混ざった不協和音が…ケホッ」

 

あ、噎せた。本当にカリオストロがこんな姿は珍しい。目も微妙に涙目だし、いつもこんな風にしてれば…ってそれはもうカリオストロじゃないか。

 

「おい、ベル。誰だお前にこんなもの渡したのは」

 

「…僕がそれをわざとカリオストロに渡すために持ってたとは思わないんだね」

 

「ハッ、そんなのお前にできるわけねえだろ?なんたってーー」

 

 

 

あ、いつものパターンだこれ。

 

 

 

「ヘタレなんだからさ!」

 

だよね!うん、知ってた。

カリオストロが僕を貶してるわけじゃない。これはカリオストロと僕との信頼の証と受け取っておこう。というか、男としてそう思わなければならない。あと涙目でもドヤ顔しながら言うカリオストロはかなり新鮮で可愛かった。

 

「えっと、シルさんに貰って」

 

「シル、だとぉ…?」

 

急に考えこんだけどどうしたんだろうか。いつもなら普通に殴り込みに行きそうだけど。「あいつの差し金か…?」って何。たまにカリオストロの交友関係が怖い。なんだろう、差し金って…裏の支配者みたいな言い方。

 

…裏の支配者ってカリオストロにぴったりな気がしてきた。

 

「ただいまー!!」

 

あ、神様が帰ってきたみたいだ。神様はいつもの服に色んな飾り付けをしてオバケっぽい感じだけど…まああんまり変わっていない。僕も神様もカリオストロに貧乏癖が直ってないって言われるし、こういうところの出費を無意識に抑えてるんだろうね。僕もまだ教会の入り口入る時なんか萎縮しちゃうし。

 

「おお、いい雰囲気が出てるじゃないか!あれ?カリオストロ君はどうして涙目なんだい?」

 

「はぁ?」

 

神様、近くにいた僕には「っていうか涙出たんだ」って聞こえましたよ。流石にそれは酷いんじゃないかと…。

一方、指摘されたカリオストロはそれに気づいたようでゴシゴシと袖で脱ぐっていた。恥ずかしかったらしく、顔は真っ赤だけど。なんだろうね、口が自然とニヤニヤしてきてつい優しい視線を送ってしまう。それは神様も同様らしく、いかにも女神らしい慈愛に満ちた表情だった。普段弄られているから高圧的な態度だけど、こういうところを見せられたらなぜかそれさえも微笑ましく感じてくる。

 

「…あー、その………」

 

しどろもどろになる姿に神様はただニコニコと笑って佇む。

 

「…ト、トリックオアトリート!」

 

逃げた。けど何か得した気分。まだなんとなくウロボロスだけ後ろでただじっと優しげにカリオストロを見てる気がするけど…。

神様はさっきまでのニヤニヤとした顔から一気に自信の満ちた表情になり、なにかよく分からないものを取り出した。

 

「やあやあ、その言葉を待っていたよ僕は!!」

 

いや、よく分からないものではない。あれを僕は見たことがある…はず。あの茶色い包み紙は、間違いないじゃが丸くんだ!!

けど、いつもの焦げ茶に揚げたものではなく、本当によく分からない色なんですけど神様、これなんなんですか…。

 

「待て、なんだそれ…」

 

「えーっとね、幽霊の霊核とヴァンパイアの翅ウェアウルフの肉、かぼちゃクリーム味のじゃが丸くん!!」

 

カリオストロは頭を抱えた。何というゲテモノ…しかも素材が貴重なものなだけに、余計ショックを受けているのだろう。

 

「あのな、錬金術っていうのはレア物だけを適当に混ぜ込めばいいっていうもんじゃねえんだぞ。相性っていうもんが…」

 

「何を言ってるのさ、錬金術じゃなくて料理だよこれは」

 

「料理は錬金術なんだよ!」

 

流石ヘスティアファミリアの台所を預かるカリオストロ。言ってることが一味違う。それに僕もはっきり言って神様のは料理って言っていいのか…。

 

「さあ、召し上がりたまえよ!」

 

「はい、ウロボロスあーん」

 

ええ…そこでウロボロスって。

 

「そこでウロボロスに頼むのもどうかと…」

 

「大丈夫だ、ウロボロスの捕食は二つあってな。今回のはそのうちの収納の方だ。食ったものをそのまま保存できる。ちなみに味覚は感じない。」

 

結局ウロボロス食べたけどさ…嫌な顔してたけどね。

 

「むー、どうして食べてくれないのさ」

 

「うっせえ、自分で考えろ。あ、これからオレ様はちょっと用事が出来てな。出てくるがあんまり夜更かしすんなよ。じゃあな」

 

もう完全に言ってることがお母さんだよ、カリオストロ…。うーん、それにしても今日はどっちかというとカリオストロが弄られてたよね。僕も最初の方はされてた気がするけど回避できたし。あれ?もしかして今日ってすごく幸運?

 

「あ、ベルくん」

 

「はい、なんですか神様?」

 

「トリックオアトリート」

 

……あっ。




カリオストロが弄られる方も書けて満足。
あとまさかの(中)にびっくりした方もいるかもしれませんが、次の(後)はボス会談です。ボスって聞けば分かる人もいると思います。


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オラリオのハロウィン(後)

カジノでメダルを四百万から千五百二枚まで減らした失意の作者も流石にクリスマスにハロウィンはやばいと思って頑張った。すでに24日だけど気にしない。なんか適当に書きすぎた気もするけど全部カジノのせい。二十人ビンゴ怖い。


あー、ちくしょう。ベルのリアクション楽しみにしてたのになぁ。シルめ…多分ベルにハロウィンの事教えたのもあいつだろうな。そういえばシルにだけあまりベルにハロウィンの事教えるなって言ってないし。いつもシルはオレと一緒にベルを弄る側だと思ってこれぐらい察すると思ってたが、逆に寝返ってオレを弄るとはな…

 

だが、あいつがシルにそうするよう仕向けた場合もあるしな。こういうイベントはあいつにとっても大好物だろう。

よし、バベルの塔にいくか。

 

いかにも高そうなレッドカーペットを歩いて、教会の聖堂から出ようとすると、妙な声が教会に響いた。

 

「ふっ、いつ見てもこの像は美しいでござるな。今日はカリオストロ殿もご不在の様子。どれ、今のうちにパンチラなるものを…」

 

一人の野武士風の黒髪を後ろで束ねた男が、進入禁止の幕を無視して立ち入り禁止区域に歩を進めた。

カリオストロ像の近くが立ち入り禁止区域になっている理由は下着が見えるためだ。それゆえに祈るやつも5メルは離れた場所から祈る。

というかジn…ゲホン、お前ござる口調じゃないだろ。あと像のパンツを覗こうとすんな。

 

「居るっての馬鹿野郎。アルス・パンチ!!」

 

「ありがとうございマスッ!?」

 

渾身の右ストレートが決まり、蹌踉めいたところをウロボロスが出現して尻尾ではたいて転ばせる。転んだところを変態似非武士…ああもう面倒臭い。ジンでいいや。ジンの胸板辺りを足でグリグリする。

 

「か、カリオストロ殿。本日はお日柄もよく…」

 

「お見合いでうまく話せない女性経験ゼロのヘタレかお前は!?…まあいい。でなんだ?バカなの?アホなの?死ぬの?お前そうやって覗こうとするの何回目だ」

 

「くっ、程よい力加減のグリグリッ!!誰しも存在するドMな部分を刺激する快感…これがイタズラ、これがハロウィン…ッなんと素晴らしき事か。だが、なぜこの角度からカリオストロ殿のパンティーが見えぬのか…、くっ噂では真っ黒い情欲を唆るものだとロキ殿が仰っていたと聞いたのに…」

 

 

・・・・・・。

 

 

「おい、連れて行け」

 

さっきまでカリオストロ像を拝んでいた信者達に手を叩いてそう言うと信者達は一度敬礼した後、ジンの両脇を抱えてどこかに連れ去っていく。

 

「ぬうっ!?ハロウィン衣装になって小悪魔感増しましになったカリオストロ殿の言葉責めがまだ途中でござるぞ!!巷で聞くベート殿を縛ったという縛り方も某は興味あーー」

 

ぐらぶるっ!であそこまで酷かったかな、あいつ。あと、絶対領域は美少女にとって必須。意図したものじゃないご褒美なんざあげてたまるか。

 

ていうか信者達がオレがハロウィン衣装なのに気づいて近くに来て拝み始めた。堅苦しいのは苦手だ。軽いノリで作っただけなのに、本格的に拝まれるのはちょっとな…。普通に可愛い、可愛い言ってりゃ良かったんだけど。

慕ってくるからには有効活用するし、相応の恩恵与えるつもりだけどな。

 

「あーもー、ウロボロス頼む」

 

さっさと教会から外にでて、ウロボロスに飛んでもらう。

バベルの塔に向かってオラリオが全貌できる高さまで飛ぶと、町の各地から空に飛ぶウロボロスに向かって「トリックオアトリート」と叫ぶ子供達が多数。

 

普段なら五月蝿いとか思うところだが、妙に癒される気がするのはさっきの出来事があったからか。ガキは良くも悪くも純粋だからな。

それにしても有名になったもんだ。最近ではオレがウロボロスに乗って飛ぶのはオラリオ名物になっているらしい。

確かに美少女が龍に乗って飛ぶ姿は見栄えがいいし、ロマンがある。

だが、人の語り草になるのはなんか嫌だ。なんか、こう…あれだ。ラカム壁画になりそうな絵だからだなたぶん。

 

「まあ、ハロウィンだしそんな事は今考えなくてもいいか。そら、菓子の雨だ。受けとれよ?」

 

ウロボロスの口が開き、そこから大量の駄菓子が空中に放り出される。全ての子供に行き渡るようにウロボロスが何度も旋回し、それらはオラリオを包み込んだ。

さすがにこの場所まで声は届かないが、確かに「ありがとう」と子供達の口は動いていた。

 

 

 

……ふん。

 

「ウロボロス、速度を上げろ」

 

今更だけどやっていることがハロウィンというよりクリスマスな気がしてきたな…。いっそ雪でも降らせるか?なんか顔が熱いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、来て早々こういう事言うのもなんだがその顔やめろ」

 

オレが来たのはバベルの塔の最上階ーーオラリオ二大ファミリアの主神、フレイヤの元ーーなんだが。

 

「ふふ、ごめんなさいね。つい、こういう日は気分が昂ってしまうの」

 

上気し完全に雌と化した顔、滴る汗と肌にへばりつく銀の髪と服、唇をなぞる僅かに赤く染まった白い指。

 

それに下着の下の方が少し湿ってーー

アウト。完全にR指定だ阿保。

 

さらに言えば、その手元にある鏡で町にいる子供達を見ているのはかなり危ないお姉様っぽいぞ。

 

「あら、そんな目で見ないで欲しいわね。まあ、それも貴女なら悪くもないけれど」

 

「何割か増しである意味危ない存在になってないかお前」

 

「だって沢山の綺麗な魂が今日は強く輝いているのだから仕方ないでしょう?特に、貴女がお菓子をあげた時はね。」

 

ニヤリと笑い、イタズラ心を多分に含んだ目でフレイヤはそう言った。一番見られたくないところを一番見られたくない奴に見られた…。

 

「違うっての。ただ単に後でケチだとか菓子がもらえなかったとか騒がれるのが面倒なだけだ」

 

「ふふ、そういうことにしておくわ」

 

「…ふんっ」

 

バベルの塔の最上階の雰囲気は好きだが、こいつだけは苦手だ。

こいつからの話は有益だし、目的を完遂するために徹底的な仕込みや裏からの手引きなどそういった面では非常に役に立つしそんな話ができる相手はオラリオでもこいつぐらいのもんだからそこは好ましい。が、それでオレもこいつの手のひらの上で遊ばれるのは我慢ならん。

 

ひとしきり笑った後、また鏡を見て憂うようにフレイヤは呟いた。

 

「それにしても皮肉なものね。人は時が経てば身体は強く、逞しく、美しくなっていくのに。心は蝕まれていく」

 

「そうか?世の中には性悪説ってのもあるみたいだけどな」

 

その辺に舞う蝶々を自分が欲しいから捕まえて、飽きたらぞんざいに扱って最期には握りつぶしたりな。

 

「ただその行為がどんなものかあの子達は理解していないだけよ。それに、あの子のように純粋なまま育つ子もいる。あそこまで純粋なのは初めてだけれど。…これ以上こんな小難しい話はやめておきましょうか」

 

「最初に始めたのはお前だろうが」

 

「ごめんなさい。こんな話できるのも貴女ぐらいだもの。許して頂戴。…ああ、それと客人にお茶も出さないのは失礼だったわね。準備してくるわ」

 

眷属とかいないのか?わざわざフレイヤが茶淹れなんざやるとは…ああ、そういえばオッタルは最近ウロボロスにあてられてダンジョンに潜り気味だったか。

 

「空を飛んで窓から侵入してきた奴を客人なんて言うような酔狂な神はお前くらいのもんだ」

 

あ、人なら十分異常だが神ならそうでもないか。

 

「貴女ならいつでも来ていいと言ったでしょう?それに今の貴女の格好も見ていたいもの。本当に可愛らしいわーー食べちゃいたいくらい」

 

そう言ってフレイヤは奥へと消えていった。…冗談、だよな?オレを欲しいとか言っていたが、そっち方面でもだとしたら守備範囲広すぎだろ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

「それで今日私のところへ来たのは何の用?」

 

紅茶を優雅そのものを具現化したような動作で飲んだフレイヤの、その言葉を聞いて全部話した。シルのやらかした事+それをそそのかしたのはフレイヤじゃないのかっていう事を。

 

「知らないわ。おそらくシルの可愛らしい嫉妬でしょう?いつもあの子と一緒にいる貴女への。それに、元々お転婆だったシルをあそこまでイタズラ好きに変えたのはあなたでしょうに」

 

「む…」

 

それを言われると…。たしかに一緒にベルをいじりまくったけども。

 

「それにしてもシルが貴女を相手どれるまでに成長していたのは嬉しい誤算ね」

 

「あいつに護衛いるのかが既に疑問なんだけどな。無駄に冒険者へのおべっかも巧くなってるし、厄介ごとに巻き込まれるようなタマじゃないだろアイツは。そもそもシルやベルを巻き込むような厄介ごとを持ち込むのはお前だろうに」

 

「私も貴女にだけは言われたくないのだけど」

 

なんのことかカリオストロわかんなーいっ☆ていうか基本オレはベル関係だけだし、それも身内だけで治るようなものだ。シルを介してファミリア間の事混みで色々持ち込むこいつがやっぱり一番だろ。ベルに関しての事はシルもノリノリで、結果的にはベルだけが被害を被り強くなっているから文句はないけど。ベルの気持ち云々は知らんがな。

 

一通り話し終えて、フレイヤとオレが紅茶をまた含んだところでオレの中で次はどうするかという疑問が湧いた。

 

今日はハロウィンだ。紛う事なきハロウィンだ。こんな格好してここに来た手前、トリックオアトリートをせずに帰るのは逆に失礼というものだろう。

 

だが、こいつをつつけば一体何が出てくるのかわからない。

とはいえ、肝心のフレイヤはまた紅茶を注ぎ、ティーカップを揺らしながら紅茶に写る自分を見てうっとりしている。…やってる事がオレみたいじゃねえか。

 

いや、そうじゃなくて。こんな呑気にしてるヤツが何か仕掛けてると思えないんだよなぁ。ま、何か仕掛けてるとしてもこのスリルを味わう事もハロウィンの醍醐味か。

 

「フレイヤおねーちゃんっ☆トリックオアトリ「ちょっと待てやオラァァァ!!」ーーーあ?」

 

いやお前こそちょっと待てや。なんでエプロン姿なんだよ。しかも、ポケットに可愛い仔猫の刺繍付きの。

あと手には焼き立ての様々な形にくり抜いたクッキー菓子。

 

「むー、ねこちゃん邪魔しないで欲しいなぁ☆」

 

「てめえみたいな腹黒女にフレイヤ様に手出しさせてたまるか!あと猫じゃねえ、俺にはアレンっつー名前が」

 

「可愛いじゃない。ねこ」

 

「……チィッ!」

 

見てるだけで面白いんですけど。フレイヤにだけ心開きすぎじゃね?忠犬ならぬ忠猫かよ。ロキファミリアのわんちゃんに見せてやれ。

「で、なんでお前が菓子つくってんだ」

 

「この時期は男神がバベルの塔にフレイヤ様にイタズラしようと押し掛けてきやがるからロクに外に出れねえからそこらにある菓子買いにもいけけねえし、オッタルはいねえし、俺が菓子作って適当に男神に押し付けて追い払うしかねえんだよ糞が!!」

 

長々とおつかれー。

 

「普通にフレイヤを外に出せばいいじゃん」

 

「あいつらの獣のような眼みて、それでもホイホイ突っ込んでいこうとする主神様を放っておけるか!」

 

「私だってハロウィン楽しみたいのに子供達が外に出ないでって土下座してくるんだもの。さすがにそこまでされたらそれを無視するのも心苦しいしー」

 

「そのくせ他の眷属共は俺に全部任せやがってクソ野郎がああああ!!」

 

アレンはクッキーを机に叩きつけた。もったいない。

いいなー。なんかフレイヤファミリア超楽しそうだな。あー、この佳境にベルも突っ込んでみたい。

というかアレン、もといねこちゃんは最初見た時のクール(笑)の雰囲気が完全に無くなってるな。

 

「いいじゃねえか。おまえ甘党だろ?この前なんてシルの護衛の時に向かい側の喫茶店でいちごミルク飲んでるの見たし。菓子作りとか案外楽しんでるんだろ?」

 

「ばっ、てめえ。それをここで言うんじゃねえ!!」

 

ふふっ、とフレイヤが妖しく笑った。あれ?もしかして知られてなかった感じ?

 

「いつも私といる時はブラックコーヒーしか飲もうとしなかったわね。なんとなくアレンは甘党な気がしていたけれど、私がその場面で近づこうとすると逃げられて確証はつかめなかったけれど」

 

ブラックコーヒーっておい。正直、自分のこだわりなのか猫舌のくせにホットのいちごミルクをおっかなびっくり飲みつつ癒されてる姿みてたらそんなの笑いしか込み上げてこない。

やっぱり孤高(笑)で格好つけたがりなところはわんちゃんと一緒なんだよな。あとなんでも自分が一番でいたいってとこ。まあ、一番はカリオストロだから無理なんだけどね☆もしくはウロボロス。

 

「…クソッ!!」

 

「ねこちゃんったら顔真っ赤ー☆」

 

「テメエは黙ってろ!」

 

「スイーツ(笑)系男子なんてねこちゃんかーわいー☆」

 

「そうね、可愛いわね」

 

「フレイヤ様っ!?」

 

そして、フレイヤが爆弾を投下した。

 

 

 

 

「ーーそうね、アレン。今日は久しぶりにシてみない?」

 

「なっ!?」

 

 

あっ。こいつら主神と眷属ってそういう…。

 

……うん、そうだな。オレの影薄くなる前に退散するか。えーっと、そういうことをするならこれをっと。

ウロボロスの口からピンク色の液体の入った試験管を取り出した。

 

「フレイヤ、パース」

 

「…これは?」

 

「簡単に言えば媚薬」

 

「そう。…これについての商談はまた今度ね」

 

「ん、おっけー」

 

「ちょっと待て!テメェはフレイヤ様のこれがどんなやばいか知らないから「ねえアレン。私、今日はもう十分我慢したと思うの。」ッ!?」

 

おーおーまだオレがいるってのにズボンに手をかけやがって。全くお盛んなことで。フレイヤに関しては今更だけど。

ま、そうは言っても大抵こういうのは内心嬉しいもんだしねこちゃんのあれは外面上断っているだけだろう。…たぶん。うん、誰にとってもいい一日だったな。ベルを含めた冒険者達は金プラスレア素材を。シルはイタズラの成功したし、ヘスティアもじゃが丸くんで生き生きしてた。子供達は言わずもがな。フレイヤも今まで楽しめなかったハロウィンを楽しめたし、オレも割と最後はイタズラ染みたことできて良かった。

 

アレンは…うん、好きな人と結ばれて良かったな!!

 

「ハッピーハロウィン!!」

 

「なにがハッピーだクソッタレがあああああ!!」

 

「大丈夫っ☆媚薬の味はスッキリカボチャのハロウィン仕様!」

 

「そういう問題じゃねええええ!!」

 

数秒後、男の哀れな悲鳴がオラリオに木霊した…ような気がした。





終わりも適当すぎた感がしないでもないが、来年もどうせ書くから問題ない(震え声)。半分作者がフレイヤとの絡みを試行してみたかっただけですし、おすし。

それにしても本編の次話の声が多すぎィ。グラブルの「まずはあの魔物を倒してからだ」的なノリで待たせたのが悪かったんだね。反省。


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本編
1話


初めまして、よろしくお願いします。
グラブルやってない人にもできる限り分かりやすい表現ができるように頑張っていきます。

…カリオストロをスタートダッシュキャンペーンで選んでもええんやで?


 

────目が覚めたら目の前に強面な顔があった。

 

 

ギョロッとした目玉があって、目の位置や顔全体の割合的に蛇にも鮫にも見える獰猛性を秘めたような顔…っていうかそもそも人間じゃなかったようだ。

 顔から視線を外し、その全体像をゆっくりと下に伝って見ていくと見ただけで鋼鉄並みに硬いだろうと予想できる光沢を放つ鱗、そこらの爬虫類に生えているものと同じだがあまりにも巨大な翼、軽く振るうだけで人が吹っ飛んでいきそうな立派な尾。

 

 

───あ、これはドラゴンさんですわ。

 

 

……うん、いやいや待ってくれ。え?ドラゴンって実在したの?とか色々思うところはあるけれど、それよりも何で自分がこんなに落ち着いているのかわからないんだけど。

いや、まあ。目の前のドラゴンさんがその見た目とは違って襲いかかってこないからかもしれないけど。それに、このドラゴンは逆に心配そうに覗き込んでくる。非常に友好的というか…あれ?おかしいな、ドラゴンなのに犬の尻尾が見える。

 

…でも顔は厳ついんだよなぁ。

 

よくこれで漏らさなかったよな、俺。

なんか寝てた筈なのに、背中とかの感触ゴツゴツしてるし、絶対ベッドじゃないぞこれ。だから現状把握するために起き上がりたいんだけども…視線が。ドラゴンさんからの視線が。

 

幸い?ドラゴンさんの体は何十メートルとかゲームで出てくるような大きさではなく、大柄な人一人に巻きつけるような中国の龍タイプの体型。

恐る恐る手を伸ばして、ドラゴンさんの顎下を犬とかを撫でる要領で軽く撫でた。すると、ドラゴンさんはグルグルゥ、とおそらく小動物が出せば可愛い呻き声を出して安心したのか離れてくれた。

 

っていうか俺の手なんか小さくない?しかも滅茶苦茶白くて綺麗だったんだが…まあ気の所為だろう。

 

そう疑問に思いつつ立ち上がると、風で髪が舞う。金色の髪────って待てよ。俺はNOと言える日本人だぞ。そんな外国人な身体的特徴はしていない。思わず頭を触る。

 

「痛っ!?」

 

すると、触った指先に激痛が走った。

 

あれだ、針とかが刺さった感覚。うわぁ、血が滲んでるよ。鈍痛が地味に痛い。それを見かねたのかドラゴンさんが近付いてきてパクッと俺の指を咥えた。

 

……いやあああああ!!俺の指いいいい!!?

 

あれ?痛くない。指を引き抜くと傷は塞がっていた。もしかして、ドラゴンさんが治してくれたのか?ちょっとだけ唾液ついてるのがあれだけど…

ドラゴンさんは褒めてと言わんばかりに俺の方をどこかキラキラした目で見つめてくる。

 

「えーっと…ありがと?」

 

その声に満足したらしいドラゴンさんはちろりと俺の鼻先を舐めて頭上をくるくると回り始めた。

…なんだお前ごっつ可愛いな!!最初は誤解してですまない…。

 

ってそうじゃなくて髪だ、髪!さっきは怪我したから恐る恐る頭を触る。なんだこれ?なんか頭に付けているような感覚。それを取るとカチューシャタイプの金色の王冠らしきもの。その天辺が三叉になっててその中心に蒼い宝石が淡く輝いている。多分この三叉の部分に指が当たったんだろう。

つーか、なんでこんなもんつけてるんだ?俺だったら間違いなくこんなもんあったら売りにいくぞ。ましてや身につけるなんでありえない。

 

この王冠と同じように変なもん俺持っていないだろうな?またあんな痛い思いはしたくないぞ。

下を見るとスカートを身につけていた。…変態街道まっしぐら。周りを見るとどう見ても外。外でスカート穿くとか豚箱に連行だぞ。しかもそれを無意識にやるとかなかなか高度なプレイだ。グッバイ、俺の平穏な日常。

 

「あん?こりゃ…試験管?」

 

内心で無意識に誕生していた性癖に涙を流していると手が服のような柔らかい感触でなく硬い感覚がした。硝子の筒状で尾部が丸っこい物体。小学生から高校生、さらに大人になっても一部の人は使うであろう全年齢層に大人気な理系のお供、その名を試験管という。

 

「なんでこんな変なもんばっかり…」

 

とりあえず身につけている物で変わったものはこれぐらいかなぁ?なんとなく自分の体を手で確認してみる。うん、他に変なものは無さそうだが自分の体に違和感がある。体が小さいのも腕が綺麗なのも、金髪なのも、微妙に胸に膨らみがあったのも気の所為じゃない。ついでに背も低そう。なんとなくこの服に見覚えがあるが…駄目だ、思い出せん。せめて鏡とかあれば顔見えるんだけどな。水溜りでも代用できるかね?それも周りを見た感じ洞窟っぽいところだから望みは薄いけど。なんで明るいのかは聞きたいところだが、灯りはあるから人はいるんだよな。いざとなれば助けを求めれる。

 

「とりあえず何か顔見れるも、のォッ!?」

 

いったぁ…転んだ。血は出ていないようだが本当に今日は厄日だな。人がいなくて良かったぜ。さっきから結構な醜態を晒してるからな。つーか何に転んだんだよ。

 

「こりゃあ本と棒…いや杖か?」

 

杖なんて何に使うんだ。ドラゴンいるし魔法使えたり?いやないな。

本は…著者が書いてあるといいんだが。

 

『天才で世界一可愛い☆錬金術師の、錬金術師による、錬金術師のための魔道書』

 

 

…なにこの人を小馬鹿にしてるとしか思えないようなタイトル。本当にこれの著者誰だよ。

 

『著者:カリオストロ』

 

カリオストロ?………あ、わかったかもしれない。

 

 

変わった形の王冠に、低身長の金髪、試験管、魔道書。

 

そして極めつけは俺の頭上で旋回している龍。

 

よく見れば、赤い体色に何本かの槍が刺さっている。そんな特異な特徴を持つこいつの名前は多分『ウロボロス』ていうことは…

 

「────俺、『グラブル』のカリオストロになってんのか?」

 

えーっと…………………一人称『俺様』にした方がいいのか?




実はまだダンまちまだ全然読んでいないという…少しずつ読み進めて設定とかも理解しつつ投稿していきたいと思います。

ではお目汚し失礼しました。


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2話

お気に入りと評価、ありがとうございます。

SSRが出ないっすよ…。召喚獣は出るのにキャラは一人だけっていう。その一人は言うまでもないですが。

今回の話、錬金術の話ですからちょっと難しいです。(自分でも混乱しましたし)

というか、等価交換とか言ってるけど錬金術ってどうなの。なんで石炭から金が出来るの…。錬”金”術だからとか?
それともただ単に同じ質量あればどんなものでも作れるとか?

それもう未現物質でいいんじゃないかな(結論)


開闢の錬金術師、カリオストロ。

 

グランブルーファンタジーというゲームに登場するキャラの一人で、SSRという最も稀少なキャラの一人。

分類としては回復タイプだが、万能型でそのレア度に見合った分のステータスは有していると思う。

 

錬金術の開祖にして、130cmの限りなくロリ体型に近い美少女の身体に魂を移し替えた元男(・・)。よくある変身とかによって性別が変わるとかそういうものではなく、正真正銘女の子になった元男。とはいえ、完全に精神が女の子なわけではなく、よりその身体の可愛さを引き出すための『美少女モード』と『本性モード』が存在し、美少女ロールプレイ絶賛楽しみ中のカリオストロをファン達は『カリおっさん』と愛称?で呼ぶ。

 

個人的には、TS俺っ娘、猫被り、ナルシスト、唯我独尊、etc────と色々属性つけ過ぎだろjk。といいたいところだが。

 

 

まあ、長々とカリオストロについての説明をして結論は何かというと、結構俺は幸運だということだ。

 

 

ぶっちゃけ女になったのは不幸かもしれない、いや一部の人には二次元の美少女ボディはいいものかもしれないけど───まあ、元のキャラがあんなんだから、女とか男とか深く考えずに生活出来そうな点。

 むしろ、このボディで元々の持ち主と同じように人をからかってみるのも面白いかもしれない。そんな考え方もこの冷静さもこの身体になったゆえに生まれたものかもしれないけど。自称天才じゃなかったんだね。すごいね。公式4コマの『ぐらぶるっ!』では完全に弄られキャラだからカリおっさん…。最初のカリスマはどこにいった。

 

一番好きなのは『好きなんだろぉ?こういう女の子がさぁ~』っていうとある技を使う時のセリフ。それも使ってみたいし、意外と楽しめそう…?

 

おっといかん。主題から離れかけた。あとは戦闘能力かな。カリオストロは必殺技もこのふよふよ浮いてるウロボロスを使う技だから多分あまり支障はない。あとは通常技の地面から槍とかを使った攻撃だが、一種の魔法的なものだと思っている。これで剣とか使って完全に技術頼りな武器とかよりは遥かにマシだ。あ、モンスターが存在しなくて戦う場合がないっていうのはないと思う。そんな選択肢は最初にウロボロス見た時から消えた。

 

『ガアアアアッ!!』

 

そら来た。狼男のような顔で体はヒョロッとした体バランスのおかしいちょっと気持ち悪いモンスター。

チッ、やっぱり地球じゃなかったか。予想はしていたからあまりショックじゃないけど。うへぇ、口からだらしなく涎が出て不衛生だな。ふぇぇ、触りたくないよぉ…。

 

あ、ごめんなさい。こっちこないで。実は内心そんな余裕無いんです。汚いものをこの美少女ボディにつけたくないんです。お帰りくださいぃ────!!

 

 

 

 

ペシッ

 

 

 

 

と。いつの間にか俺に巻き付いていたウロボロスが軽くモンスターを尾ではたいた。まるでホコリでも払うかのような軽快な音だったというのに、それだけでモンスターは霧散した。それをした張本人はモンスターの遺物の朱色の石をモグモグと可愛らしく食べている。

 

 

流石ウロボロス、帰ったらブラッシングしてあげるね☆

 

 

それよりも、あんなのから出た石おいしいの?

 

あ、おいしいんだ…。悪食なのか…?これは飼い主がきっちり矯正しとかないと。道端で変なもん食べられても困る。

 

あー、食料問題もあるのか。ウロボロスはともかくとして(というかウロボロスは完成された存在なので食事がいるのか知らない)俺はいるだろう。

 

れ、錬金術でどうにかなるのか…?

 

そこら辺にいる植物とかから栄養素取り出して組み合わせればギリいけるかなぁ?

 

いや、そもそも錬金術俺が使えるのか?

試さねばなるまい。錬金術は戦闘から日常まで幅広く使える。これが出来るかどうかで俺の生活水準が変わってくるといっても過言ではない。資金を見繕うにしてもそれで色々錬成して売れば金になるし。

 

 

 

あれ…?そもそも錬金術ってどうやってやるんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………駄目だ、『等価交換』のあの漫画の手合わせ錬成しか出てこねえ!!

 

 

いやいや、この身体は仮にも開闢の錬金術師のものだ。グラブルでも一瞬で武器作ってるし!多分、きっと、手合わせで錬成なんてちょちょいのちょいなんだよ、うん。

 

んー、適当になにか…試験管でいいか。これをフラスコに変えるだけで。

 

 

よし、祈るように手を合わせて──錬成!!

 

 

瞬間、光が迸る。光は四方八方に飛び散り、その光とともに鳴り響く音は新たな生命の産声のようだ。そして光の中心は、全ての理を破壊し。形は崩れ、合わさり、そして新たな理を創造する────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、地味。

 

 

あ、いや。錬成は成功したよ?その工程もカッコよかった。ただ、其処から出てきたのがただのフラスコでうんともすんとも言わないという…。ごめん、錬成するものの選択を間違えた。

 

というか、今更、本当に今更なんだけど。錬金術を使うためもしくはその補完をするために魔導書あるんじゃないの?

 

 

……てへっ、カリオストロ失敗しちゃった〜☆

 

 

 

コホン、それでは魔導書を開きますか。この魔導書も中々特殊なものなんだけど…戦闘中常に空中に浮いているから。魔導書としては普通なのかもしれないけれども。

 

あ、本開いたら浮いた。

 

 

反応薄い?仕方がないさ、これまでモンスターや錬金術やウロボロス見てるんだもの。そんなことより本の内容だ。やはり様々な色や五芒星やら七芒星の錬成陣を各ページ毎に微々たる違いのある形で描かれている。

 

赤い錬成陣のものを使ってみよう。色からして火か?

 

 

あ、錬成陣の中心になにか書いてある。えーっと、何々、”魔力を通せ、さすれば煉獄の如き炎が万物を焼き尽くすだろう”

 

 

…魔力って何?どうすれば出るんだよ。こう、あれか?体内のエネルギー的なもの?何か叫べば出るのか?

 

 

 

 

ていっ!!

 

 

そらっ!!

 

 

イィィィィィッヤッ!!!!

 

 

………ソイと矢でソイヤッ!!

 

 

あ、うん。出ないよね。ソイヤで出るわけないよな。知ってたよカリオストロ。だって天才だもん。

 

こう、もっとカリオストロらしく……えいっ☆

 

 

 

 

錬成陣が僅かに光り始めた。一応成功したのか?

 

何かが俺の中から出て行く感覚。おそらくこれが魔力だろう。だが、その勢いが半端じゃない。今にも倒れそうなほどなのだから。いや、これは失うというより…吸い取られている?四方八方から光の糸が繋がる、これが魔力か。

 

 

そう考えている間にも、錬成は続く。陣の上に熱が溜まり、風が渦巻き炎の竜巻となる。目に見えてその猛威は増していく。そして天井と地面が焼かれ、溶かし、壁を破壊して炎は消えさった。

 

威力が半端ないな。魔導書のおかげで一切の無駄を排除し、最大限まで威力を高めているんだろう。それに、この魔力光は錬成の時との光とは別のもの。ならば魔力が錬成の強化剤となっていて、本来は錬成するだけでも小さい炎は出るんじゃないのか?

 

そう思って魔力と魔導書を使わずに錬成してみる。

 

 

…あれ、出ない。

 

 

は、恥ずかし…。え?でもあくまで魔導書は威力を高めるものであって、錬成してもほんのちょっぴりの炎はでるでしょ、大佐みたいに。

 

え、まさか錬成出来てないとか?お馴染みの地面からの錬成は?

 

 

…で、出来ねえ。

 

 

 

え?マジで?でもフラスコは出来ていたよな…。どうなってんの?

 

 

た、助けてえーッ、ウロボロスぅぅぅ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

かぱぁ、とウロボロスが口を開いた。口から水色の光が漏れ出し、立体映像となって写っていたのは変形した天井や地面からここら一帯を写しているようだ。

 

なにこのハイテク機能…。ウロボロスに何を求めてるんだ…。

 

 

 

映像だけじゃく、音声付きの解説のお陰で理解しました。

 

 

要約すると、ここら一帯は元々可視化できない魔力の障壁みたいなのがあって、壁や天井が壊れても元に戻るらしい。

んでそれが錬金術では『生きている』と扱われるらしく、うまく錬成できない。元試験管現フラスコはここのものではないからうまく錬成できた。そして、錬成するには錬成を強化する必要があり、強化には魔力と魔道書が必要。だがその錬成にこの場所の魔力障壁が反応して、殆ど吸い取られるらしい。そのせいで効率悪くなってるとのこと。

 

 

つまり、どうゆうわけかというと。ここの場所のものは錬成出来ない。錬成するには意識が吹っ飛ぶほど疲れる魔力による強化がいるよ!だって。

 

 

 

…ふざけんなぁ!!

 

 

もういいぞ、こんなとこさっさと出てやる。俺は正座して講義を聞いていたために痺れた足を無理矢理動かして立ち上がった。

 

 

 

 

そして、ぐにぃと踏みつけた。

 

 

「あ」

 

 

『グルアアアアア!!?』

 

 

────ウロボロスの尻尾を。

 

 

そのせいかウロボロスが暴走して前に突っ込んで…

 

 

あー、お、追いかけないと!!ちくしょう、災難続きだああああ!!

 

 

 




『ダンジョンは生きている』からダンジョン内のものは錬成出来ない。
錬成時の魔力はダンジョンに吸い取られてほとんど錬成に使えない。

だからダンジョン内のものの錬成は多量の魔力が必要。

これだけを覚えておいてもらえれば…

次回ベル君でますから…。こんな混乱する説明回はもう嫌ぁ!!

くそぅ変換機能に優れるSI☆ME☆JIがうまく使えれば執筆スピード上がるのに…

あ、あとソイと矢は『ぐらぶるっ!』を読めばネタが分かりますよ。普通にゲーム入れれば読めるはずですのでよければグラブルインストールして下さいな。


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3話




今回主人公がちょっとだけキャラ崩壊かもしれないです。


ウロボロスが暴走してどっかいった。

 

 

文面として書くならこれだけだが、まずい。

 

やばい、やばい、非常にやばい。

 

 

何がやばいってウロボロスはあんな見た目だ。もしウロボロスが猛進していった先に人がいたらどうなる?

 

空中を蛇行しながらその鍛え上げられた尻尾でモンスターをなぶり殺し、あの凶悪な牙でモンスターを穿ちながら突っ込んでくるウロボロスを見たらどう思うだろう。

 

うん、軽くホラーだ。それだけならいいとしても、モンスターがいる世界だ。それもポ〇モンのようなほのぼの系じゃないものの。きっとモンスターを討伐するためのギルドもあるだろう。それでもし、ウロボロスが討伐対象にでもなったら俺は号泣する。意外とウロボロスは可愛いのだ。そんな不当な扱い、誰が許せようか。

 

それに俺はどうやらこの場所では錬成も録に出来もしないようだから、ウロボロスに守って貰わなければいけない。あまり防具として使えそうなものも身につけていないし、元のカリオストロもウロボロスにそういった補助をしてもらっていたのだろう。庇護対象が庇護する者に危険を持ち込まれても困る。

 

それに何より─────今がやばい。

 

 

ここでは錬成も1回分しか魔力がもたないようだ。そしてその1回は先程使ってしまった。

 

…やばい、こんなところ襲われたら

 

 

『ゲッゲッゲッ』

 

 

───絶対絶命じゃないですかヤダー

 

 

「ヤダヤダ助けてウロボロスーーー!!」

 

 

眦に涙を滲ませながら俺は全力でウロボロスを追った。もちろん、モンスターを引き連れて。

 

 

ちょっとだけ涙目のカリオストロを想像して、そのレアな光景にほんのちょっとだけ興奮してしまった自分を色々と残念に思った。…ちょっとだけだよ?

 

 

 

* * * * *

 

 

不幸中の幸い、というべきかこの身体の身体能力は高かった。魂は天然物だが身体はカリオストロが創り出した言うなれば半ホムンクルスの身体だからだろう。

 

『最強可愛い』を自称するカリオストロのことだから魔力も多めに設定している筈だが、それでもあの消費量なのは…この場所が酷い暴食だからだろうか?異世界定番の魔力回復のポーション的なものがあればいいんだが…。

 

 

『ゲッゲッゲッ』

 

『ウオオオン!!』

 

 

しっつこいな、こいつら!!軽く十体はいるかもしれない。把握するには後ろを向かなければいけないので正確に数えてなどいられない。だが、普通に走れば逃げ切れるらしく現在はなんとか落ち着いていられる。

 

 

だけど、流石に疲れてきた。ここまでは一本道だったし、モンスターは空間を裂いてどこからでもでてくる。今後前からもモンスターが来て手詰まりなんてことになったら洒落にならない。階段らしきところも二つぐらいあがってきたし、そろそろウロボロスに会わないと危険かもしれない。

 

 

って、ウロボロスいた────!!

 

 

何故かウロボロスがわたわたと忙しなく動いてた気がするが、悪いがこっちの事を優先してもらおう。

 

「ウロボロスー!!このモンスター達どうにかしてくれー!!」

 

なんか他人?他龍任せで情けないな。心底この体が美少女で良かったと思う。これが筋骨隆々の大男だったら、ね?ウロボロスにも見捨てられたかもしれないし…。う、ウロボロス見捨てないでね?

 

そんな不安な思考を薙ぎ払うように、ウロボロスが俺に呼ばれて一直線に向かってくる。その頭を軽く撫でると、その後ろにいたモンスター達に威圧をかける。威圧といっても、ただその眼光を鋭くしてモンスターを見ただけ。

 

安定の最強ウロボロス先生マジパネェ…。

 

その後、一匹一匹丁寧に蹂躙し、落ちた紅石をガリッと苛立たしげに食べていた。もしかすると、俺の為に怒ってくれているのだろうか。

 

一度そう思ってみると思考の渦にはまっていく。

 

ウロボロスに指治してもらって、モンスター倒してもらって、錬金術のこと教えてもらって、今もモンスター倒してくれたのにさっきは尻尾ふんじゃって……。なんかすごい罪悪感ががががが。

 

 

「うわあああああ!!ごめんね、ウロボロスぅぅお願い捨てないでぇぇぇ!!!」

 

 

ウロボロスがぎょっとした顔でいそいそと戻ってきてぺこりと申し訳ないといわんばかりに頭を垂れる。副音声に「申し訳ありません、お嬢」と聴こえた気がした。

 

 

その後、十五分ほど互いに俺達は懺悔し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか慰め合い、何時もの調子を取り戻しかけてきたところでウロボロスが服の裾を咥えてぐいぐいと俺を引っ張った。

 

 

そこに、一人の少年が倒れていた。白い髪に赤い目というどこか白兎を彷彿とさせる容姿。その身なりはシャツに長ズボン、茶色のコートに胸当てのプレートアーマー。腰には短剣…いや、ナイフと呼べる大きさの刃物の鞘があった。

先程のようなモンスターが跋扈するこの場所で、この軽装はどうなのだろうか、と一瞬不安になった。

 

つんつん、とウロボロスが少年の額をつつく。

 

そこにはこれまた派手な擦り傷がついていた。どうして…ってまさか。

 

「まさか、この少年とぶつかったのか?」

 

しゅん、とウロボロスが目に見えて項垂れる。その反応に元は尻尾を踏んだ俺のせいだと慌てて被りをふるといやいや私のせいで、とウロボロスが反応したのでこれはまたさっきの繰り返しになるだろうということで一旦考えるのはやめた。

 

ふむ、と。少年の顔を見ながらどうしようかと振り出しに戻って考えてみる。

 

 

その顔の造形もその体の特徴に似て草食系男子というべきか、優男?これは違うか。

 

ただ、なんとなく。そう、なんとなく。何気なく。

 

 

────こういう子をいじったら楽しいんだろうな。

 

 

と、考えてしまった。

 

だから、つい寝ている主人公にヒロインがよくやるような事を思いついて、実行しようとしたのはカリオストロになった自分は仕方がないだろう。

 

 

まあこの少年君の詫びとしては十分だろうさ。なにせ、この美少女な俺様にこんな事をさせるんだからな!!

 

 

 

 

…ちょっと謙虚な日本人思考な自分が美少女って自分で言うのは少し恥ずかしいかも……てへ☆

 

 

 

 

* * *

 

 

 

────あの美しい光を撒き散らす金色の髪が忘れられない。

 

 

アドバイザーであるエイナさんに彼女の事を聞いて"遠い"と思った。

 

彼女とはファミリアも、技術も、レベルも、何もかも違う。

だとしても、

 

────絶対に諦めてやるもんか!!

 

だって、僕は彼女に美しさを、魅力を、幼い頃から思い描いた憧憬を───抱いてしまったのだから。

 

 

だから、ただエイナさんの『ヴァレンシュタイン氏も、強くなったベル君に振り向いてくれるかもよ?』という言葉に従ってただ、突き進む。

 

 

突き進、めればよかったんだけど…。

 

 

ここは第一階層。つまり、ダンジョンの初歩の初歩。運の悪い事にコボルトが連続して産まれ、戦い、まだ半月前に冒険者となった身としては精神をかなりすり減らしただろう。

 

『冒険者は冒険してはいけない』

 

それはエイナさんに何度も口をすっぱくして言われた言葉だ。

ここで帰らなければまたお小言を言われてしまう。それに、急いでここで二階層に降りてしまえば死ぬかもしれない。特に一階層と二階層では出現するモンスターは同じだから大丈夫だろうという心の隙、それこそが冒険者にとっての最大の敵となる場合だってあるだろう。

 

僕はナイフをしまって、今日の冒険の終わりに安堵してふう、と息を吐いた。

 

 

そして、地面が揺れた。

 

 

明らかな異変。さらに続けて何かの音。それは徐々に近づいている。

 

まさか、と。どうしても嫌な思い出が蘇る。あの人の前で痴態を晒ししまった人の体に牛頭の推定レベル2のモンスター、僕の悪夢の化身”ミノタウロス”。自分の体が強張っていくのが分かった。その原因はきっと恐怖。

 

 

『ウオオオオオンッ!!』

 

 

ダンジョンの壁を割いてモンスターが現れた。それはさっきまで倒していた”コボルト”。自分でも倒せるモンスターだと分かって少しだけ体と心の緊張感が和らいでナイフを構えた。

 

そして、そのモンスターは自分が何もしていないにも関わらず、霧散した。

 

 

「え───」

 

 

呆けた声が出たが、そんなもの気にもならない。

 

だって、そのモンスターの体から鋭利な牙がこちらを覗きこんでいたのだから。

 

牙に貫かれたモンスターの霧が晴れたことでその牙の全貌が露わになる。

 

 

────ドラゴン

 

 

それはドラゴンにしか見えなかった。その身に纏う全てを飲み込む圧倒的な強者の風格。

 

僕が幼少から読み続けた英雄譚の中でもそれは最強の敵として書かれているもの。

 

 

動けない。またしても、僕は魅せられた。

 

それはあの人のような意味ではなく、いつか”倒してみたい敵”として。

 

しかし、それは叶わない。ただ僕目がけてドラゴンが突進してくるのだ。

 

 

ああ、悔しい。このドラゴンを倒せなかった事が。あの人に追いつけなかった事が。英雄となれなかった事が。

 

 

どれだけ僕は生にしがみついているのだろう。本当に情けない。

 

僕に突進したドラゴンが気絶していく僕を見てオロオロと動いている姿なんて、そんな幻想────あるわけないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、僕は出会ったんだ。

 

 

人をからかうのが好きで、神様にもその規格外さにため息を吐かれて、そして何度も助けられて。

 

 

瞳も、武器も、ファミリアも、性格も、従える僕さえも、何もかも違うのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

────あの人と同じ輝きを放つ金色の髪のあの子に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから僕は今なら胸を張って言えるだろう。

 

 

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていない、と。

 

 




うん、もうベル君視点の部分がプロローグでいいんじゃないかな。

カリオストロのステータスどうしましょ。グラブルとダンまちでステータス表記の仕方違うからなぁ。どう分類しようか迷い中です。

あと寝落ちって怖いね。予定が全部狂いましたよ。


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4話

グラブルやってFGOやってグラブルのイベントやってFGOのモニュメント集めしてグラブルの突破素材集めてFGOの種火集めして勉強してグラブルのマルチやって…ああ、忙しい。

6時間で三千文字って遅い…ですよね?


ククク…ああ、楽しみだぜ。その純朴で女慣れしてなさそうな顔をどれくらい真っ赤に変えてくれるのかなぁ!

 

いいリアクションを期待してるぜ?少年君。

 

 

 

さあ、俺様の膝枕を味わいな!!

 

 

 

よし、膝を頭の下に差し込んで…準備完了。後は起こすだけだな。ぺちぺちと少年君の頬を叩く。

んー、起きないな。男にしては柔らかい頬肉をぐにぐにと伸ばしたりこねたりしてみると、眉が僅かに動き口からも声が漏れたので手を頬から離して甲斐甲斐しく世話をしている女の子っぽく優しい手付きで額を撫でた。

 

 

くくっ、後頭部の異常な柔らかさに気が付いてるんだろうな。寝ぼけて何回も手で俺の太もも触ってやがる。

 

 

「起きたかな?しょーねんくんっ☆」

 

さぁ、さぁ、面白い反応を!!

 

 

 

 

 

「………………………アイズさん?」

 

 

 

 

 

…………いや、誰?

 

 

「だっ、」

 

「だ?」

 

 

 

 

「だああああああああああああっ!!?」

 

 

ちょっ、馬鹿、そんな思いっきり起き上がったら───!!

 

 

「「い"っ!?」」

 

 

額がぶつかるだろうが!!

 

 

 

それでも少年はその勢いのまま走っていったが……あれ?なんでこんなぽつんと孤独っぽい雰囲気になってるんだ?俺の期待した反応は?

 

膝枕した相手に逃げられるってのもある意味面白い反応だとは思うがなんか違うだろ、これは。

 

…ああ、忘れねえぞ。この額の痛みは。折角美少女モードでお出迎えしてやろうと思ったんだが、仕方あるまい。決して楽しみを奪われて八つ当たりたいとかそういうわけではない、決して。

 

こんな美少女に膝枕してもらったというのに頭突きした挙句、逃げたんだからな!こっちもそれ相応の態度を取らせてもらうとするか。

 

「ウロボロス!!あのガキを捕まえろぉ!!」

 

ウロボロスはそのチートスペックを十全に発揮し、突風を起こしながら突貫していく。先程の少年もその兎に似た容姿に違わず十分速いと言えるだけの速さだが、ウロボロスの速さとは程遠い。

 

「ほあーっ!?さっきのドラゴンがなんでえーッ!?」と聞こえてきたので多分捕まったのだろう。その数秒後、少年はウロボロスに猫の子のように服の首裏を口に咥えられて運ばれてきた。

 

その姿を見れば決して猫の子のようには見えないけど。咥えられてるから足はぷらんぷらん浮いてるし、少年ビクビクして口から泡ふくかどうかの瀬戸際だもんな。

ウロボロスがどう見ても獲物の兎を捕まえて巣に持ち帰って捕食する気満々の食物連鎖の王様にしかみえない。

 

それより、少年君がぷるぷる怯えちゃてか・わ・い・い・ー・☆

 

うむ、ちょっと方向性は違う気がしんでもないがある程度の不満は発散できて満足だ。

 

 

「しょーねんくん?人の顔見て頭突きをかました挙句逃げ出した訳を話して貰おうかな」

 

 

「…………あれ?アイズさんじゃない?」

 

 

だから誰だよ、それ。

 

とりあえず言葉のキャッチボールしてくれないと俺は困るんだけど。…はぁ、仕方ない。こっちが折れてやるか。一応先に迷惑かけたのこっちだし。元のカリオストロなら迷惑かけても"運が悪かった"で無関係で興味のない相手ならぱっくんちょなんだろうけど…流石にそこまでまだ割り切れない。

 

「で?そのアイズって奴は誰なんだよ?」

 

「…あ、あの、さっきと雰囲気が違いませんか?」

 

「答えるなら答えるでさっさと答えろ。ウロボロスの餌になりたくなけりゃあなぁ?」

 

「え?…ええええッ!?わ、わかりました答えますッ!」

 

 

ったく。余計な事を詮索してきやがって。あとなんだその"女の人怖い"的な顔は。こーんな美少女に詰め寄られて普通は泣いて喜ぶところだろうが。

 

 

「えっと、アイズ・ヴァレンシュタインさんはロキファミリアのレベル5の金髪金眼の冒険者で」

 

「へー」

 

「それで、そのアイズさんにミノタウロスに襲われた所を助けてもらって、その、えーっと、ぼ、ぼぼぼ僕の憧れの人といいますか」

 

「そっかー」

 

 

…ワカンネ。ロキファミリアとかレベルとかなんだよ。なに(ウロボロスが)食えるのかよ?

レベルとかはなんとなくは分かるがいかんせん知識も価値観も違うせいでよく分からないな。

少年の目がキラキラしていたから凄い奴ってのは分かるが…。

あと少年よ、お前は憧れの前に好きな人ってのが入るんだろぉ?はっきり言えよな。そういう情報が一番面白いんだから。

 

 

「へえ、それで少年君はそのアイズってのに惚れてると」

 

「なっなななななな何をををををを!?」

 

おいおい、今更誤魔化そうたってそうはいかねぇぞ?いや、その様子じゃできっこなさそうだがな。

 

 

「何いってんだ?そういう情報が今一番必要だろうが」

 

「え?ひ、必要って…?」

 

「察しが悪いな、俺様は馬鹿は嫌いだぜ?寝ぼけてたとはいえ、俺様とそのアイズってのを間違えたんだろ?」

 

「そ、そうみたいデスネ…」

 

 

ただお前の服を掴んで鼻と鼻がくっつくぐらいに近付いただけだろ?あっれー?なんでそんなに顔赤くなってるのかなー?カリオストロわかんなーい。

 

 

「要するにぃ、お兄ちゃんは私みたいな美少女が大好きってことなんだよね☆」

 

「ちょ、ち、近いですって…!?」

 

「何恥ずかしがってんだ。好きなんだろぉ?こうゆう女の子がさ!なぁ、正直に言えよ。本当は嬉しいんだろぉ?」

 

「あわ、あわわわわ……」

 

少しずつ両手で少年君の体にできるだけ手を回して抱きついてみる。少年君の体は意外と細身だし、抱き着きやすくて結構体温も伝わる。くくっ、こういう反応を待ってたんだよ。

 

「もーっ、カリオストロが聞いてるのに答えてくれないの?お兄ちゃん☆」

 

「そういう女の子が大好きです、とっっっても嬉しいですだからお願いします離れてくださいぃぃぃ────ッ!!」

 

 

ちぇー、そこまで言われたら仕方ないな。まあウロボロスが保存しといたしこれからもこのネタで楽しめるだろ。そう考えると今はこれぐらいにしといた方がより後で盛り上がるしいいよな。

 

少年君はゼェハァ言って胸の辺りを手で掴んで息整えてるけどどーしたんだろーねー?もう、仕方のないお兄ちゃん☆美少女なカリオストロに興奮しちゃったんだねっ☆

 

 

あ、そう言えばここの事とかファミリアがうんたらとか聞いとかないといけねえな。これ逃したら次いつ人と逢えるかわかんねぇし。

 

 

*****

 

 

女の人って怖い……。僕はまた一つ新しいことを学んだ。

 

確かに凄く目の前の女の子は可愛い。だけどいとも簡単に自分が彼女に遊ばれている事が分かってしまう。

 

遊ばれていると認識していてもその子の髪からは女の子特有のいい匂いがするし、抱きつかれるとその体の柔らかさも……。

うぅ、確かに彼女の言う通り喜んでいる男の部分に自分もいるし…。

 

それにその容姿も合わさってアイズさんにどこか似ているから緊張してこの状況についていけない。性格はアイズさんと全然違うんだけどね。

 

それにしてもやっぱり…

か、かかかかかか顔が近いっ!!

 

 

僕はアイズさん一筋アイズさん一筋アイズさん一筋アイズさん一筋アイズさん一筋アイズさん一筋アイズさ(ry

 

 

『ベルよ…』

 

こ、この声はお祖父ちゃん!?

 

『お前は忘れてしまったのか?ハーレムは男の浪漫、だろう?』

 

そ、そうだった!ハーレムは男の浪漫!!それは忘れてはいけないんだ!

 

あれ?なんか視線が……

 

《………………》

 

こ、この視線はあの時のドラゴンから!?よく見れば彼女の近くにいるし…テイムモンスター?

 

『"男の浪漫"、"ハーレム"これを聞いても尚お前の中で複数の女の子を囲うのに忌避感があると言うのならこの言葉を送ろう』

 

《………グルル》

 

お祖父ちゃん気付いてよ!?そのドラゴンはあの子をそれに巻き込むことに怒ってるんだってば!!

 

 

 

 

『────"姉妹丼"は最高だ、と。』

 

 

《グルルルル》

 

いや、無駄にかっこよく溜めて言わなくても…

 

『これは極東の言葉だ、分からないならタケミカヅチに聞きにいけ。もしくはヘルメsぐわぁーっ!?』

 

《グルァッ!!》

 

ああっ!?遂に噛み付かれて…お祖父ちゃんは消えてしまった。だけど確かに"姉妹丼"の言葉は僕の頭に焼き付いたと思う。いつかタケミカヅチやヘルメsって人に聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ。聞いておかないといけないことがあった」

 

 

色々と暴走していた僕の頭は彼女の声で現実世界に戻ってきた。

 

 

「さっき言ってたファミリアってのは何で、ここはなんなんだ?」

 

 

どうやら彼女は綺麗で可愛いけどちょっと変わった人のようです。

 

 

 

あとなんだか彼女といると自分が不憫になるような嫌な予感がします。




カリオストロって主人公の事を〇〇さんとは言うけどお兄ちゃんとかは言わなかった気がする…。

なぜ妹属性だけつけなかった。あ、精神年齢が(ry


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5話

今回は短めです。面白い部分はファミリアについてからにしたいのです。

なんか内容が薄いなぁ…


白兎のような少年───ベル・クラネルというらしい────に地上へ歩きつつこの世界について教えてもらった。

まずは今いる場所からだが、先程地上と言ったのはここが地下だからだ。ここはダンジョンと呼ばれており、その名前通り先刻ウロボロスが倒したモンスター達が蔓延っている。俺達がいたのは上層で現在攻略されている五十層辺りは深層と呼ばれ、地下に行けば行くほど危険度が増す。上層のモンスターであれば武芸を身に付けている常人で決死の覚悟で行けば倒せるらしい。だが、十数層からの中層は決して人の手には負えない。

 

そこで出てくるのが『神の恩恵(ファルナ)』。

一昔前までは地上もこのダンジョンから溢れでたモンスターが各地に放浪し、暴虐の限りを尽くしていたようで人々は人智を超えた存在、神に助けを乞う。そのためにこのダンジョンの真上に『バベルの塔』を築き、一柱の神がバベルの塔を破壊して下界に参上。それからというもの、次々と下界に神々が降臨し、それは地上の人々(神の子供達)の願いの為だったり、あるいは自らの娯楽の為だったり、ただ漠然と面白そうという欲求からだったり、それぞれのしょーもないものもある目的の為に行動しているのだという。

しかし、神々は地上では『神の力(アルカナム)』を封印しているため、自らが見初めた人々に神の恩恵を与える。つまり、人々は超人的な力を得る代わりに神にご奉仕し、神は人々に崇め奉られ人々に力を与えるというなんか鎌倉幕府的な関係。あれだ、ごおんとほーこー。

 

ヴァー、面倒くさそうだな。ベルの話では神は結構フレンドリーで良心的なのもいるらしいが、やっぱり一物抱えてるのもいるようだが…。

ま、悪い事ばかりってわけでもない。神の恩恵があれば未開の地にいけるし、この世界全体は神秘性が高い。となれば研究材料も多い。うーん、どうすっかねぇ…。一応冒険者としてダンジョンを攻略しつつ、色々研究してくってのが無難か。ま、カリオストロらしくそれなりに面白おかしく不思議解明してけばいっか。

 

「ここがダンジョンの入口ですね」

 

そして、と溜めて懐かしむように目をキラキラさせてベルは言った。

 

 

「────ここが迷宮都市オラリオですっ!」

 

 

巨大な白い光を抜けた先は、視界を埋め尽くす程の建物群と耳を侵す人の喧騒。

建物や衣服、大通りに出ている屋台などからおそらくこの世界の文化は中世あたりだろう。最も、この世界には魔法やら神様やらが実在していて全く別の文化が発達しているとみていいだろうが。

 

特に目に付くのは人間が数百人は入れそうないくつかの建物。その建物の側では旗が風で靡いており、なんらかのエンブレムが描かれている。あれが神とその眷属が住むファミリアのホームだろう。最も巨大な建物には道化師のエンブレム。…道化師と言えばロキか?他にも俺が知らないだけで道化師から連想できる神がいるかもしれんが。一応覚えとこう。たぶんかなり大規模なファミリアだろうから。

 

あと特に特筆すべき点は歩いていく人の容姿ぐらいだ。耳が長かったり、ケモ耳が生えていたり、褐色肌の露出狂としか思えない格好をした女がいたり。

…ま、俺が一番可愛いけどな!胸はさっきの奴はでかかったけど。

 

「なんというか、意外ですね」

 

「はぁ?何がだ?」

 

「その、今オラリオを見ていた時の眼が年相応に見えて」

 

「ふーん…ていっ」

 

「痛いッ!?」

 

そりゃこんな光景見たら興奮せずにいられるかよ。ベルに指摘されたのは気にくわなかったけど。

 

「ひどい…けど、その、嬉しくて」

 

え?ドM?ドMなの?(歓喜)

 

「僕も初めて来た時はそんな顔してましたから、カリオストロさんもこのオラリオに何かを求めたり、感じてくれたりしているんだって分かりましたから」

 

あ、そっちか。

それにしても、ふぅーん、へぇー?求める、ねぇ?

 

「堅苦しい、カリオストロ様でいいぜ」

 

「更に堅苦しくなったよ!?」

 

「そうそう、そんな感じ。んで、さっきの言い方からするとベルも何かを求めにきたっつーことだよな?」

 

 

 

 

 

「…ひゃいっ!?」

 

何今の面白い反応。確信した。こいつ絶対なにか面白いなにかを隠し持ってるわ。

 

「えーっと、その…」

 

またベルは口篭る。ほんっっっとにコイツヘタレだな。おねーさん心配だぞ。冒険者なんてのは大抵は荒くれ者って相場が決まってる。そんな中でコイツがちゃんとやっていけるのか…。

 

 

「さっきまであんな恥ずかしい思いしてたんだ。今更羞恥心とか気にする必要もないだろ?」

 

「うぐっ、ま、まぁそうだけど…うぅ、わかったよぉ。出会いを求めてきたんだ」

 

「出会いぃ?」

 

 

「僕を育ててくれた祖父が言ってたんだ。『ハーレムは至高!』で男の浪漫だって」

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

ん?出会いってつまり女の子との出会いってことか?それで、えーと、えーと、は、ハーレムぅ?

 

 

「…誰がハーレムを作るんだ?」

 

「僕、だけど‥」

 

「マジで?」

 

「マジだよ」

 

「……………ぷっ、は、アハハハあ、ありえねーよゲホッ、ちょ、まじで冗談はやめてエホッケホッ」

 

「笑いすぎじゃないかな!?」

 

 

いや、だってなぁ…。

 

 

「だってお前、俺様がちょっと体触れさせただけであんなんだぞ?」

 

「うぅ…」

 

「そんなのがハーレムって言われてもなぁ。カリスマが足りねーよ、カリスマが。ま、いいんじゃねーの。夢があるし。」

 

「否定…しないの?」

 

「まあな。まだ若いし」

 

それにありえないなんてことはありえない。世界に絶対なんてものもないからベルがハーレムができる可能性もないわけじゃない。あるとすれば俺の可愛さだけだけど。

子供の夢を壊さないようにするってのも年上の役割だしな。

 

「あー……あと、え、英雄になりたいなーって」

 

 

…………………。

 

 

「よしよし、なれるように頑張ろうなー」

 

「なんなのその生暖かい視線!?」

 

 

ハーレムに英雄ねえ。まあ鉄板っちゃあ鉄板だな。だからと言って目指すかフツー。悪くいえば世間知らず。良くいえば純粋ってとこか。

 

コイツ大馬鹿だ。だがヘタな馬鹿よりも振り切ってるコイツならいっそ爽快に思えてくる。興味あることにたぶん周りを見ずに前突っ走るタイプだな。完全に餌に食いつく兎じゃねーか。

 

だが、面白いな。どう進んでいくのか。どう挫折するのか。どう強くなるのか。どう弱くなるのか。どう足掻くのか。どう英雄になるのか。そして、どう堕ちるのか。

 

ハーレムだって女関係で死んだ王だっているし、英雄も必ずしもいい英雄ばかりとは限らない。

 

何も知らないコイツが変わっていく様を見るのは、多少の暇潰しにはなるだろう。

 

まあ、それにほんの少しの手助けをしてやるのも吝かじゃないけどな。

 

ま、ぶっちゃけるとこんな格好つけた建前じゃなく。

 

 

 

「ベル。俺様がお前らのファミリアに入ってやるよ」

 

 

 

まあ本音を言えばハーレム築いて四苦八苦するベルがみたいだけなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、まさか、ここまで生活環境が酷いとは思わなかった。この数分後ほんの少し後悔した。







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6話

すいません遅れました。まあ、イベントのせいですが…。出ないよね?ね?みんなカリオストロ出たりしてませんよね?学生に課金はきついよぉ、ふえぇ…。

あと何気に美少女モードのカリおっさん難しい。これでいいのやら。


あの後ベルがウザかった。本当にそれでいいのかとかまだ僕と神様だけの最底辺ファミリアだとか、何回もいいって言ってんのにしつこく聞いてくるんだもん。見た目的にその時の必死さが可愛いかったけど流石に何回も聞かれるとそう思っても仕方ない。

 

最終的には「オレ様に入ってほしいのかほしくないのかどっちだ」って聞いたら押し黙ったけども。

 

それからは自分のファミリアに人が増えるのはやっぱ嬉しいようでファミリアのホームに向かうまで上機嫌に色々話したけどな。かくゆうオレも上機嫌だが。

 

いやー、ベルってばセンスあるな。ウロボロスについても話したんだが、感想が「かっこいい」だと。その関連で錬金術についても話題になって炎を出したら目をキラキラさせて尊敬の眼差しで見られた。炎を出すっていうか魔法に憧れているようで、似たようなことの出来る錬金術にも興味が湧いたらしく懇切丁寧に教えてやると一言一句聞き逃さないようにうんうん頷いていた。これからもオレ様直々に教えてやろうか、こんな美少女が先生なんだから泣いて感謝しろよな。

あ、そうそうウロボロスについてだが、いくらウロボロスがかっこよくてもモンスターという分類に問題がある。こんな町中だとテイムしていたとしても目立つし冒険者登録してないから面倒な事になるのは確定ということで、どうにか隠そうとした所、「ハウス」って言ったら杖に身体を縮小させて巻きついた。

お蔭で服で隠せるし、もし俺の危険を察知したら即巨大化して俺を守れるようにしている。本当に安定のチートウロボロス先生ですねー。

 

「えと…ここがヘスティア・ファミリアのホームなんだけど…」

 

どうやら目的地に着いたらしい。そして前を見て───固まった。

 

目の前にあるのはボロっちい廃墟。所々欠けた女神像があるから教会だったんだろうが……

 

「……ボロくね?」

 

「グフゥッ!?」

 

ベルに瀕死のダメージ!ベルは膝から崩れ落ちた。

 

「あー、正直予想以上に酷かったが、自分で言ったことを曲げるつもりはないから安心しろ。元気だせって、な?」

 

「…うん」

 

 

この惨状を見たらな…ちょっとだけベルに優しくしてあげようと思った。

 

「こっちが普段使ってる場所なんだけど」

 

礼拝堂の横にある部屋のドアをベルが開けた。一室だけというのもあって、やはりあんまり大きくない。家具もあるが最低限の傷のついているものだけだ。余程貧乏なんだな…。貧民の振りして悲劇のヒロイン的なものにもなれるかもしれんが、カリオストロのキャラじゃないしやりたくねぇぞ俺は。即刻変えてやろう、錬金術さえあれば貴金属作って金に還元できるだろ。そう考えこんでいると、トテトテと足音が聞こえてきた。

 

「おかえりぃー!!」

 

「わぁっ、神様!?」

「うんうん、今日も目立った怪我は無いようだね。安心したよ」

 

…神様だと?こんな露出の多い服に胸を無駄に強調させている青い紐を巻きつけているツインテールのロリが?

 

そして向こうも俺に気づいたらしく、抱きついているベルの肩越しに視界に俺を収めると呆然とした顔になり、そのまま数秒固まったのち額に汗を浮かべながら口を開いた。

 

「べっ、ベベべベベべルベルベルベルベルベルべっべべ」

 

 

…俺にもわかる言葉で喋ってくんねえかなぁ。

 

 

「ベル君が女の子を連れてきたぁー!?」

 

女の子の前に超絶可愛いを入れろよデコ助女郎。

まあそんなことは俺の可愛さが天元突破している限りどうでもよくはないがおいといて、先程このロリ女神の言葉で気になった事がある。”友達”やあるいは漠然とした人を指し示す言葉ではなく、わざわざ相手を”女の子”と女性である事を強調したことだ。

それに付け加えて、ロリ女神の顔は愕然というより焦燥の方が割合は多い。ということは────ちょっと所か超面白いことになるかもしれない。ベルやロリ女神に見えないようにさり気なくあくどい笑みを俺は浮かべた。

 

 

* * * * *

 

 

やあ、みんな。ベル君の神様にしてヘスティアファミリアの主神、ヘスティアとは僕の事さ!

 

…一体僕は誰に話しているのだろうね。きっと僕は錯乱しているのだろう。しかし、それも当たり前だと思うよ。

 

だって、あの、あの!、あの!!ベル君が女の子を連れてきたんだ!

ベル君は初心だし、人を疑う事を知らない。それに加えてお人好しで夢を持っている。だから色んな子に出会うのもわかる。

 

「ベルさんっ、私にファミリアのホームの設備を詳しく教えて欲しいな☆」

 

「えっ!?う、うん。そうだね」

 

だけど───なんでその女の子がベル君の右腕に抱きついているのかな!?

あまりにも仲良すぎやしないかい!?一体どこのファミリアの子か詳しく二十四時間ぐらい問い詰めたいぐらいだよ僕は。

…あと、そんなにベル君と仲良くなれる方法も。だいたい、そこは僕がベル君の右腕に抱きついてこの豊満な!ロキよりも母性を感じさせる豊満な!!この、胸をベル君に押し付けて神様から一人の女の子として僕を意識し始めるパターンじゃないのかい!

 

「あ、でも先に神様に入団許可を貰わないと」

 

「えーっ…」

 

「えーっじゃなくてファミリアの内情に関わることだから必要なことだと思うんだけど。あと、何か楽しんでない?」

 

「…………そんなことないよっ☆」

 

「今の間はなに!?」

 

くっ、イチャイチャしやがってえ…。

※ヘスティアフィルターがかかってます。

 

とにかくあの娘をどうにかしないと…。そういえば、ギルドで見せてもらったヴァレン某にどこかあの娘は似ているね。もしや、金髪がベル君は大好物なのだろうか。ハッ、それよりあの娘の対処だよ。

 

A、素直にお帰り頂く

 

B、ベル君と僕がいかにラブラブか見せつける

 

C、実力行使、神の力を使うことも厭わない。そのままベル君と一緒に身投げして天界でベル君の魂と永遠の時を。

 

 

よし、Cd────「神様っ!!」

 

 

「どわあっ!?な、なんだいベル君」

 

あと少しで最高の幸せを僕は得ることができたのに!…あれ、さっきまで何を考えていたんだっけ?覚えていないなら大したことじゃないよね、うん。

 

「入団希望者ですよ!」

 

「へ?…にゅうだんってこの入団かい?」

 

「はい!」

 

うーん、自分で言うのもなんだけどこんな零細ファミリアに入ろうとするなんて変わった子だなぁ。

 

「えっと、どこにいるんだい。その子は」

 

「?何いってるんですか?ずっといるじゃないですか───僕の腕に」

 

えっ。そして悪魔がいた。あろうことかその悪魔は、ベル君の腕に頬を擦り付け、しかもベル君もその仕草に真っ赤に反応して、僕と目が合うとにっこりと笑って────小馬鹿にしたようにフッと鼻で笑ったのだ。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp∠(゚Д゚)/■@ek────!!!!」

 

「か、神様っ!?」

 

 

そして、更に追い討ちをするかのように───実際にそのつもりだろうが────禁断の一言を言い放った。

 

「私、ベルさんが大好きなんです!ベルさんと結婚を前提にしたお付き合いをしているんです。 どうか同じファミリアに入れて下さい!」

 

「「えぇっ!?」」

 

頬を赤くして、切実といった表情で眦に涙を浮かべて懇願し、半分はベル君への勢いだったのか、いかにも演技したような────理想の美少女の姿だった。

 

「だ、駄目だ!ベル君は渡さないぞ!!永遠に僕とふたりきりで幸せに暮らすんだ!」

 

「カリオストロも神様も何を言ってるんですか!?」

 

思えば、なんでベル君も驚いているんだとか、あれは半分どころか百パーセント演技だったとか冷静になれば気付くけることがたくさんあった。

 

「ぷっくくく…」

 

「な、なんだい?どうしたんだい?」

 

「そんなに必死になって威厳の欠片もねえなぁ!!あ、そうそうベルに恋愛的な興味は一切ないから今後ともよろしくっ☆」

 

 

これが僕の恋愛の師匠にして、心労の原因の核が植え付けられた瞬間だった。

 

 

…あとベル君、女の子に恋慕を完全否定されたからといってそこまで落ち込まなくても…。




知ってるか?まだ半日しか経ってないんだぜ…。

魔の箱庭に縛られし民たちを選別せし儀式(テスト)もあるから今後の投稿も遅れるかもしれませぬ…。申し訳ございません。ハロウィンカリオストロゲットも忘れませんが。


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7話

お久しぶりです。
休んでる間にランキング入ったり、1位になっていたりで狂乱演舞しました。どうも、ありがとうございます。ぶっちゃけカリおっさんの人気にあやかっている状態だとおもうのでこれからも精進していきます。

あとこんなのカリおっさんじゃない!って意見ももらいましたが、あくまで二次創作ですし、作者の中でのカリおっさんなんで自分のイメージと合わない点もあるかもしれませんが、まあ自分のやりたいように気楽にやっていくつもりですので肌の合わない方にはごめんなさいという事で…

さて、今回の話と次回はヘスティア視点ですかねー。ステイタスなのでやっぱり神視点が書きやすいので。


ゼェハアと荒く吐かれる息の音がこの部屋を支配する。原因は彼女と口論に口論を重ねてなったわけだが、息の荒い音は僕しかしていない。

こんなに僕は疲れているというのに彼女はそれを意に介した様子もなく、あっけらかんとこう言った。

 

「満足したか?それじゃ、ファミリア入団の検討よろしくね☆」

 

軽快な足取りでベル君の元へ遊びに(いじりに)いった彼女には軽く殺意を覚えたが、なんとか自分を下界の子供に八つ当たりするのは情けないと自制してファミリアと彼女について考えてみた。

とりあえず彼女と口論を重ねる内に、彼女が悪人でない事は分かった。

僕達神は下界の子供達の嘘を見抜くこともできるからそれは間違いない。それに、本当に彼女はベル君に恋しているわけではないようだ。

 

だからといって、本当に僕達が安全かと言われるとそうでもない。彼女は賢いのだ。こちらが彼女を言及しても、はっきりとした言葉ではなくのらりくらりとした曖昧な言葉で濁し、神にさえ真意を掴ませない。それでいて、彼女はカウンターで的確に僕のダメージとなる場所を抉り、人の弱みを得る。既に僕のベル君への想いも気付かれているのではないだろうか……。時折ベル君を弄っては僕の方をチラチラと、そして顔を赤くしたベル君をポイ捨てし、回復したらまた弄る。

 

……ファミリアが乗っ取られそうで怖いなぁ。彼女はするつもりはなさそうだけど、気づけばファミリアの中枢を掌握してたなんてありえそうで。

 

 

とはいえ、それ程の子を逃すことも今のファミリアにはありえない。今最も欲しいのは人材だ。何年後になるかは別としてベル君をこのファミリアの団長にするつもりでいる。となれば戦闘方向に眷属達が傾くのは想像に難くない。

それとは別にファミリアを運営できる能力をもつ人材が必要だ。ここは迷宮都市オラリオ────多種多様の人類と神が集まる場所。それぞれが厄介なクセをもつ、何時何が起こるか予測できないのだ。彼女のような良くいえば人の本質を見抜く能力はファミリアが大きくなればなるほど得難いものとなるだろう。

腹の探り合いなど今のベル君からは想像できないし、この彼はあまりにも純粋すぎる。

 

盛者必衰────十年程前まで栄えていたあの二大ファミリアも一瞬で消え去ったのだ。力の集まる場所ほど生まれる地雷の種は多い。

きっと、僕のファミリアもいつかは消え去るだろう。だが、それでも僕はベル君とまだ見ぬ眷属達とできうる限り長くいたい。神の命は永遠だ。だからこそ、その日々を一日でも多く焼きつけて忘れないようにしたい。だから僕は彼女が欲しい。

 

 

だが、それは未来の話。僕自身、ファミリアに何が必要かなんてまだわからないし。だから、今最も彼女に僕が求めるのはベル君の教育かな。

ベル君は少々夢見がちなところがある。だから、人の悪意なんて分からないし、理想しか知りえない。

それを彼女に抑えてもらいたい。彼女のようにやれとはいわない。ただ、彼女のいじりを通して人を疑い、隙を見せずに自衛するすべを学んでほしい。

 

 

本当に彼女には悪いと思う。もしファミリアに何かあった時、僕の次に彼女に皺寄せがくるということなのだから。ベル君のため、と言い訳しながらベル君の時とは違って打算で彼女の事を考えている自分が嫌になってくる。目の前でげんなりとしつつも満更でない様子のベル君と笑い転げている彼女を見ると尚更だ。

頭のいい彼女の事だ。それを察しているのだろう。だからこそ僕に一人で考える時間を与えてくれたのだ。

 

なんだかんだ皮肉っぽいことを言っている彼女だが、きっと根は優しい。それに僕の神としての直感が言っているのだ───ファミリアを最も愛すのは彼女だろう、と。

 

 

目を閉じれば、彼女が団員達を罵りながらも世話を焼く姿が───……なんか母親みたいだね。あれ、可笑しいななんでロキのところのハイエルフ君が一緒に浮かび上がってくるんだろうか。

 

…………………

 

 

「よし、さっさと恩恵の儀式をしてしまおうか」

 

「急にどうしたロリ女神様」

 

「君は何も気にする必要はないさ!さあ、早くソファーに寝転がりたまえよ」

 

「?わかった」

 

 

何故だろう。彼女の事はまだ理解出来ていないのにそれもいいかもしれないと思ってしまった。

ソファーに寝転がる彼女の姿を見ると、シミ一つない陶磁器のように真っ白な肌と黄金の髪にどうしても惹かれ、年相応の可愛らしさというか、その儚さに庇護すべき存在として印象づけるだろう。…ほんの少しでも彼女と相対すればそれはありえないと誰もが意を共にするだろうが。

それでも神でも嫉妬する美しさだよ…。それこそフレイヤを筆頭とした美の神と同じレベルの容姿ではないだろうか。

 

「それじゃあ、上の服を脱いで────」

 

はたと気づく。そういえばここにはベル君もいたはずではなかったか。彼女もそれに気がついたようで先程彼がいた場所に目を向ける。

 

「二人ともどうかしたんですか?」

 

ベルくーーーん!?駄目だ、彼は一切気づいていない。ああ、そっか、彼の中でこれは既に"儀式"として確立しているんだ。最初はともかく、二度目のステイタス更新からは恥じらいもなかった。でも今は女の子が対象になっているのにベル君がここにいるのは不味いのではなかろうか。

 

そんな僕の思考を知ってか知らずか、彼女はイタズラする時に浮かべる笑みをベル君には見えないように浮かべ────あ、これは嫌な予感。

 

そして、彼女は態と目立つように────おもむろに服を脱ぎ出した。

僕は叫びたかった。とにかく彼女のとんでもない暴挙を止めようとして、だができなかった。

余りにも美しかったのだ。ほんのわずかに覗けた彼女の腰、曲線美が。

ああっ!?そ、そんなところまで見せるのかい!?

 

 

自然と息を呑む音が二つ。

 

 

 

 

 

 

 

ん?二つ?………まさか。隣を見るとベル君が顔を真っ赤にしながら正常に生態機能が稼働しているのか心配になるほどの汗を流していた。もう、もうっ、本当に君ってやつはああああああ!!!

 

そう言っている間にも彼女は服を捲りあげて、そしてベル君に綺麗な流し目で言い放った。まったく、そんな技術どこから拾ってきたのか。

 

「も~、ベルお兄ちゃんったらカリオストロのどこ見てるの?お兄ちゃんのへ・ん・た・い・っ☆」

 

変態って…ベル君にそんな事言ったらどうなるか分からない君じゃないだろう!?

ああっ、ベル君がぶるぶる震えて…

 

「うわああああああああんっ!!」

 

そりゃ、そうなるよ。ベル君純粋に生きてきたのに急に変態のレッテル貼られちゃあね…。ベル君、強く生きるんだ!!

 

「くくっ、ホントベルは何度弄っても飽きねえな。よーっし、邪魔はいなくなったな。ヘスティア、早くやってくれよ」

 

「…………」

 

「おい、ヘスティア?」

 

「…本当にベル君を狙ってないんたね?」

 

「狙ってねーって言ってんだろ?…まあ、ベルが俺様に惚れちまったら別だけどな」

 

な、なにを言い出すんだ!ベル君だぞ!女の子に夢見てるベル君だぞ!?こんな理想の女の子の猫を被ってる女の子に惚れるなんて…………ありえそうだ。いや、素を知ってるからそれはないか。精々顔を赤くする程度かな。もし初対面が猫かぶり状態なら彼女の素を知った時のベル君はかなりショックになっていただろうなぁ。

 

「顔真っ青になってるぞ。だが仕方ないよなぁ、なんたってカリオストロ可愛いしっ☆」

 

ぐっ、これまた否定できないのが悔しいぃ!!いや僕は胸は勝ってるし!ってそうじゃなくて。

 

「あー、もう!ほらほら恩恵するから!」

 

「いやん、私に跨って何するつもりなの?ヘスティア様のえっちー☆」

 

「ちょっと黙っててくれないかな!?」

 

美の神と同レベルという事はその肢体で神でさえ魅了できるということなのに…フレイヤ達はともかく下界の子たちが下手に晒していいものじゃないことを分かっているのだろうか。無駄に面倒くさそうな子達や神を釣ることになりそうだから用心してくれよ。

 

ぐっと我慢して神の血を彼女の綺麗な背中に垂らす。その時に一瞬ピクッと彼女が動いたが…なんか得したというか、この先見れないような姿に妙な優越感がする。そういう姿を普通にしてれば本当に可愛いと思うんだけど。ベル君が意識しちゃいそうだから僕としては良いことなのだろうか。

血を広げていくとさらにピクピク反応して可愛いというか…今だけは美少女スキーなロキに賛成しないこともないかな。

 

「おい、ま・じ・め・に・や・れ!!」

 

「あ、うん。ごめんよ」

 

フンと彼女がそっぽを向いた。一抹の寂しさが何処からか溢れてくる。こんなものをロキは毎回感じているのだろうか、メンタルがすごく強くなってるだろうな、あいつ。

 

なんだかんだで可愛いところもあるし、彼女とは何気にうまくやっていけそうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が僕にもあったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼女のステイタスを見た瞬間、僕のSAN値がやばくなった。ああ、お腹痛いぃ…




最初ヘスティアの所でシリアスっぽい雰囲気くら一気にシリアルにしてみました(笑)

ステイタスのかっこいいものが思いつかない。そのままでもいいでしょうかね?それで時間かかるよりは進めたほうがいいと思いますし。



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8話

キミとボクのミライ買いました。資金に余裕できたので。今更感半端ないっすけど。

さあジータちゃんお着替えしちゃいましょうねー。
ついでに次のエイプリルフールはカリおっさんとウロボロスも着替えちゃいましょうねー。
え?カタリナ?…さすがにその歳でその服は見苦しいですネェ、カタリナ中尉ィ…

あ、今回ちょっと独自解釈含むと思うのでタグ追加します。


ーーーーーーーーーー

カリオストロ

 

Lv.1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

 

《魔法》

 

【コラプス】

・速攻魔法

・一定確率で対象の耐久低下

【アルス・マグナ】

・特殊魔法(ウロボロスがいない場合、発動不可)

・籠めた魔力の多寡によって大幅に威力が変化

 

《スキル》

【】

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「…このステイタスはいい方なのか悪い方なのか」

 

「何言ってるのさ、魔法が既に二つあるんだから良いを越して異常だよ」

 

何言ってるんだ、この子は…。しかし表情は困惑で満ちており、本気で言っている事が伺える。うーむ、どうも僕達神に関する事の知識だけ世間知らずというか。

実際、恩恵を与えてすぐに魔法が使えるようになった子もいる。だが、それは大抵一つだし二つというのは聞いた事がない。充分に恵まれていると言えるだろう。

特に一つ目の速攻魔法なんて瞬時に撃てるということだろう。彼女の気質的に一人でダンジョン行く場合もあると思うから役立つのは間違いない。最も、最初の内は絶対に一人で行かせるつもりはないけど。あー、でもドラゴン君が一緒なら別に…。

 

「というか、テイムモンスターがいないと発動できない魔法なんて初めてだよ」

 

「まあ、ウロボロスは特殊だからな」

 

彼女がそれにドヤ顔で同意し、その膝上にいるドラゴン君がキシャーッと鳴く。モンスターと人間がここまで仲のいいのも見た事がない。小型のテイムモンスターなら軽い触れ合い程度ならなくも無いが、その影響がステイタスにまで表れるとなればこれも異常としか言えない。ステイタスはその子の人生の歴史から功績ーーー経験値(エクセリア)を抜き出し、表す。つまり魂のレベルで繋がっているということだ。

こんな現象が起こっているのは彼女の特殊性にも問題があるが、このドラゴン君の頭がいいのが一番大きいだろう。

 

間違いなくこれを公表したら面倒臭いことになる。魔法の詳細部分は後日消しておこう。

 

 

 

 

 

だが、信じられるかい?これまだ序の口なんだぜ。

 

 

「んんーー?」

 

あ、これ気づかれたかも。オワタ。

 

「なあ、ヘスティア」

 

「なんだい?」

 

普通に対応しているように見えるだろう?実は声がメチャクチャ震えてるんだ。

でも顔には出さないよ。なんたって僕は神様だからね。下界の子達に威厳の無い姿は見せたく無いのさ。既に色々と手遅れ?さあ、なんのことか知らないなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんっか、スキルの部分消した跡みたいなの、ないかな〜?☆」

 

 

…ウボァー

 

 

 

「さ、さあ?僕は知らないよ」

 

というか、まずさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

《スキル》

【絶対☆少女】(グラティアエ)

・状態異常及び神の恩恵以外の神の干渉を無効化する

・肉体の不老化

・自身が偶像化され、信者が一人増える毎に各アビリティ補正+1(現在1人)

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

スキル一個の癖に豪華すぎるだろとかいいたいけども。やっぱりまずはね。

 

 

 

 

ーーーこんなのどうやって公表しろっていうのさ。

 

 

懇切丁寧に問題点を教えるとすると、まずスキル名がピンポイントでNGなんだ。

 

グラティアエの意は”美と優雅を司る女神達”。そしてグラティアエは主に美女神への一種の敬称というか称号のようなものとして用いられる。

 

美女神達はその容姿から下界の人間だけでなく、神達にも優遇されやすい。となると次第に傲慢になっていきそれは神の間でも隔絶を生むことになった。

勿論、そんなことは許されるものではないが肝心の男神達は骨抜きにされて使い物にならない。

だが、女神達も美女神達の美への執着心とその傲慢さは嫌というほど知っており、あまり関わりたくもないし反発して目をつけられ美女神お得意のしつこさで追いかけ回されるのも勘弁なのだ。

 

なら、形だけでもこっちが謙る方が楽なんじゃないのってことで女神達が分類化された。

 

それでその傲慢だけど無駄に綺麗な女神達をグラティアエとし、それとそれ以外の女神に分けた。

ぶっちゃけそれは大成功した。グラティアエに分類化した女神達の間では同類で仲良くなるものもいれば、同族嫌悪ってやつで喧嘩になる場合もあったが、既に彼女達からすれば僕達は路傍の石ころに過ぎないので無駄に突っかかられることもなくなったし。

中にはフレイヤみたく普通にグラティアエじゃない女神と仲良くなる特異な美女神もいたけど。

 

 

ま、そんな経緯があって美女神にとっての敬称。僕達普通の女神にとっては程のいい風除けになる言葉なわけだけど。

 

 

その称号が人間につけられたら美女神達はどう思うだろうか。

 

 

…想像するだけでめんどい。

 

 

スキルはその子の性格とかが表れやすいけど、これはその性格をそのまま写したわけじゃなさそうだよね。

 

だって彼女何気に周り見てるしねぇ。あいつらは周りなんて見ずに好き勝手やるから。だから彼女の性格を考慮すると、今の美女神の美への否定からくる挑発の言葉なんじゃないかな。スキル内容は神への否定だし。

 

 

その美女神にまで反抗する心意気は評価するけど今はしまっちゃおうねー。不老だとか、信者だとか、僕はもう知らないよー、疲れたよー。

 

「ま、今はいいか。つーかヘスティアどうした?一瞬で10年は老けた顔になったぞ」

 

誰のせいだと思ってるのさー。でも僕もう疲れたから何も言わないよー。あと君達にとっての10年は僕達には1000年相当だからねー。

 

「んー、問題ないさー。それよりベル君と交代してくれよー。今の僕にはベル君分が必要なのさー癒しがほしいよー」

 

「なんだそのオレ様が癒しじゃないみたいな言い方。ったくしょうがねーな。呼んできてやるから服整えとけよ」

 

「ばっちりさー」

 

 

癒しにはなれないよー。少なくとも今の君じゃー。

 

それにー、たぶん魔法の【アルスマグナ】から派生して僅かに見えたドラゴン君のステイタスは気のせいじゃないと思うしー。

 

レベルが二桁台とかわけわからないよ、ははっ。

 

 

はぁ…ベル君早く来てくれないかなぁ。

 

 

 

 

***

 

 

ヘスティアもまだわかりやすいな。ステイタス確認の時に困惑のオーラがひしひしと滲みでてたぞ。

 

とはいえ、年齢はあっちの方が上だし。それにヘスティアのファミリアだからな。極力あいつとベルの方針に口を出すつもりはない。ヘスティアが言う必要が無いと感じたなら、今は気にしない方がいいだろう。

 

んで、なんでベル連れてきてヘスティアがベルを抱きしめたあとオレは部屋の外に強制退出されたんだか。

ま、ステイタス更新の時にそんなことさせるんだからベルがレアスキルかレア魔法をもってるからだと思うけど。

これも今はあまり関与せずでいいか。入ったばっかの団員に話すことでもないしな。本当にこっちが知りたけりゃヘスティアも渋々とはいえ教えてくれるだろう。

 

つーかなんでベルはヘスティアの胸を強調する抱きしめ方で動揺してんだ。

やっぱりスレンダーで柔らかそうな曲線美のいい美少女がいいだろ。付け加えると金髪の。

 

 

ん、なんか煩いなベル達のいる方。微妙に部屋から怒気が漏れている。恩恵貰うまでは扉越しに怒気なんざ感じとれなかったのにここまで感覚が鋭敏になるもんだとは、正直舐めてたな。神の力ってやつもいつか調べてみるとしよう。

 

怒ってるのはヘスティアだろうな。ベルが怒る姿なんざ想像できない。

ほー、あいつらの痴話喧嘩の内容面白そうだな、覗いてみるか。

さて、どれどれ…

 

「いっ!?」

 

「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる。君もたまには一人で羽を伸ばして、寂しく豪華な食事でもしてくればいいさっ」

 

扉に近づいた途端、急にドアが開いて思いっきりぶつかったにも関わらず、ヘスティアは気づいた様子もなく一方的に言い放ってオレが痛みで悶えてる間に去っていった。

あ、あの野郎、覚えてろよ…!!額に的中して痛かったんだからな!ベルといいヘスティアといい額に攻撃して傷ついたらどうする気だ。ウロボロスの餌にするぞ。

 

というか、ヘスティアとか完全にオレの事忘れてるだろ。会話の内容的に。…屈辱だ。それも含めて今度報復してやる。

 

 

ヘスティアへの報復内容を考えている最中、扉に近づいてくる足音が一つ。ああ、そういえばベルがまだいたな。

 

「あ、カリオストロ…」

 

あ、ってお前な。お前もオレの事忘れてるわけないよな?な?

 

「はぁ…で、なんであんなヘスティアは怒ってんだ?」

 

「それが僕にも分からなくて…」

 

おいおいお前ハーレム目指してんだろ?そんなんで大丈夫かよ。まさか無自覚ハーレム系の鈍感主人公じゃあるまいし。ったくこの…

 

「この甲斐性なしが(ボソッ」

 

「!?」

 

おや、体を震わせてどうした。ベ・ル・おにーちゃん☆

 

「で、ヘスティアは自分で飯食いにいったらしいがオレ様とベルはどうすんだよ?」

 

「えっと、僕はある店の女の子に夜食べに行くって約束してて…カリオストロもくる?」

 

 

''女の子と約束”というシチュエーションが嬉しいのかベルは上機嫌でそう言った。オレにとってベルが女の子と約束というのは意外だった。今もオレを誘うのに遠慮がちだから余計に。あ、でもその約束をベルからしたとは言ってないか。

 

「どうせ、女の子から約束を押し付けられた感じだろ?」

 

「…ど、どうしてそう思うの?」

 

 

え、だってーーー

 

 

「ベルってヘタレじゃん」

 

 

ベルは崩れ落ち、そして泣いた。




グラティアエは本当はもっと一部の女神に限定されるらしいです。それの意味が使えそうだったので使わせてもらいましたけど。

さあ、次回と次次回はベート君の出番!色々酷いことになると思うのでお楽しみに!

いつも使ってる変換用のキーボードがアプリの関係で使えなくて遅れるかもですけど…


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9話

ちょっと遅れましたかね?ハロウィンのカリオストロでないんですか?って言われてつい妄想が捗ってつい番外編のハロウィンを書いちゃってまして…そっちは現在15%くらいですかね。きりのいい所までいったら投下しようと思ってますけど。

…なんか投下はクリスマスになりそうだなぁ。そうなったらクリスマスのおっさん書きたくなって、その次は正月、その次は節分(鬼はウロボロス)以下無限ループ。


ベルが項垂れながらもポツりポツりとその経緯を語り出した。

 

全ての始まりはオレとダンジョンで出会う前のこと。早朝から零細ファミリアであるベルはダンジョンに潜ろうとこの廃教会からダンジョンへの道中、一人の少女とぶつかってしまった。

そして、その時に運悪く飯を食べていなかったベルの腹が鳴り、その少女がそれを哀れんで弁当を恵んでくれたらしい。ぶつかった際に落ちた魔石も拾ってもらったためその好意を無碍にもできず、ならば代わりの条件として今夜自分が働いている店に食べに来て欲しいとのこと。

なんというか、(店員の女の子が)逞しいな。それにベルよ、たまたまぶつかった少女にさえ食べ物を恵んでもらう惨めな気分はどうだ?ちょっとお姉さんに話してみようか。

 

「うぐっ…お、美味しかったよ!」

 

「なんだそのおもいっきり取り繕った答え」

 

ベルもオレの罵倒に慣れてきたか?由々しき事態だ。早急に対策を考えないと。ベルは弄ってナンボの愛玩動物なんだからさ。

 

「ま、お前が素直に美味しいって思った店にオレ様を誘ったのは褒めてやろう」

 

「う、うん」

 

あまり褒めないオレが褒めた事でベルは無邪気に笑う。だけどなお前の話聞く限りじゃ結構立派な店らしいじゃねえか。

 

「このヘスティアファミリアに、オレ様の分の飯の代金まで払うような金、あんのか?」

 

その言葉にベルは一瞬固まり、顎に手を当て、上を見て、下を見て、財布を見て、廃教会の全貌を見て、そして大量の滝汗を流して逡巡しつつも言い放った。

 

「…ない!」

 

「開き直るな阿保」

 

「へぶっ!?」

 

こいつ、やっぱりこうゆうノリに慣れてきたな。誰のせいだ。…オレか。

 

…純粋無垢で初心な少年を私色に染めるなんて、やっぱりカリオストロは罪な美少女だねっ☆

 

なーんて言ってる場合じゃないよなぁ。

 

 

ま、こういう時は大抵ウロボロスに頼ればどうにかなるってもんだ。

 

「ウロボロス。もし金銭があるならここにぜーんぶ吐き出しちゃえっ☆」

 

「いやいや、さすがにそれはできるわけ」

 

「無い、と言い切れないのがウロボロスの凄いところでしょっ?」

 

「………」

 

 

押し黙るな。もうちょいなんか、こう、反応しようぜ。

かくいう俺が一番戸惑ってるけども!だって現在進行形で大量の金が出てるもん。

 

廃教会の部屋に小山ができるくらいにはな。

 

いやーおかしいなぁ。どう見てもウロボロスの全長よりも多い量だぞ。これほどの金、入りきるわけが無い。

 

『キシャー?』

 

唖然として見ているオレ達の反応に、正しいことをしているのにこれで合っているのか?というウロボロスの戸惑いの声が上がる。あ、悪い続けてくれ。

 

これいったいいくらあるんだ。オレじゃなかったらとても美少女がもっていていい量の金貨じゃない。荒くれ者にとってカモがネギ背負ってくるようなもんだ。

 

 

「全部で1億5165万4124ヴァリス…!!」

 

「なんでそんな数えるの早いんだよ!?」

 

「あはは…、ほら、1ヴァリスでも多く稼がなきゃっていつも思ってるから」

 

本当に今までどんな生活してきたんだこいつら…。

 

予想以上に財産はあったわけだが、この後にしたい買い物もあるしな。買う物は安物とはいえ、金が多いに越した事は無い。

 

三十万くらいは手元に置いとくとして…あとは、どうするか。

 

ファミリアに寄付するか?

 

ベル達がある程度の貧乏生活なら放置するつもりだったが、聞いてる限りじゃかなりこいつらの生活やばそうなんだよなぁ…。

ま、眷属としてファミリアの一員の義務として渡せばいいか。ベルとヘスティアは甘いから絶対そういう名目でじゃないと渋る。だからと言って今大量の金渡したらこいつらの労働意欲が心配になるし…ってなんでオレがここまでこいつらのこと心配しないといけねーんだ。おいウロボロス、その素直になれない子供を見るようなな眼差しやめろ。

 

「何はともあれ、これで金は大丈夫だろ。ちゃんとエスコートしてね、ベルお兄ちゃんっ」

 

「…かしこまりました、お姫様」

 

む〜っ、どっちかっていうとカリオストロはぁ、女王様の方が好きかなっ☆

 

理由?私に言わせないでよ、恥ずかしいっ☆

 

 

 

さあ、れっつご〜う!

 

 

 

 

おや、疲れきった顔してどうかしたかベル。あとな、女の子と二人でデートする時は多少強引にでも手を繋ぐべきだ。

 

カリオストロは手を握らせてあげないけどねっ☆

 

 

 

 

 

*******************

 

 

メインストリートにヘタレなベルにダメ出ししつつ出て行くと、既に外はとっぷりと日が暮れ、夜の街へと移り変わっていた。

この道はダンジョンから帰ってきた冒険者向けの店や見世物が栄えており、道の端には魔石灯もあるため廃れて寂しい様子もなく、むしろ豪快すぎる音を鳴らす楽器隊もいたりして非常にうるさい。耳が痛くなりかけてその楽器隊の近くでわかりやすく、されど可愛く耳を塞ぐフリをすると申し訳なさそうな顔でデレデレしつつ他所へいってくれたけど。

やっぱりこの体便利ダナー。普通に歩いてるだけでも男どもは一瞬オレ見て惚けてるし。女は…なんか兄と一緒に出かけてる妹みたくみられて正直堪えた。責任の半分は外面上だけニコニコしてるオレのせいかもしれないが、よくみろ。こんな情けなさそうな男がオレの兄とかねーよ。

ちなみにその時のベルはオレが血の気の多い冒険者と何か騒動を起こさないかハラハラしていたけどな。

するわけないじゃん、そんな無作法者にに付き合うほどこの体安くないし暇じゃないっつーの。

 

 

こんな感じで楽しみつつ、時に女の生温かい視線に辟易としつつ目的地の『豊穣の女主人』に着いた。

外面は結構デカイ。店をチラッと見ると従業員は色んな種族の女性だったためか酒場の中では割と全体的に小洒落ている。

ほんの少しベルくらいの男は入りにくそうな雰囲気もあるが、ここの女将から滲み出るオカンなオーラと内装が木造なのもあって慣れればかなり寛げそうないい店だと思う。

まあ、田舎育ちらしいベルはそれでもガッチガチに緊張してるけど。

 

オラ、もっとしゃんとしろ。美少女の尊厳を失わないように周囲の目がない事を確認して、速さに重点を置いた蹴りをベルに叩き込んだ。ベルは急な攻撃に体をよろけたが、たたらを踏みギリギリ倒れる事を回避した。チッ。

 

「うわっ!?とっ、とと。な、何するのさ!」

 

「軽く押したつもりが、まだ恩恵に慣れてなくてつい力んじゃった☆ゴメンね?」

 

うわ言のように「嘘だ、嘘だぁ…」と言うが知らん。突っ立ってるお前が悪い。今ので新しい客が来たのに気づいたようで一人の店員が近づいてくる。

 

「ベルさん、きてくれたんですね!」

 

「…はい、やってきました」

 

銀の髪と眼を持って、柔らかく微笑んで話しかけてくるこの少女は美少女と言えるだろう。

というか、美少女率がこの酒場は多い。鼻を伸ばしている男性客も少なくない。まあ、確かに猫人やエルフがメイド服っぽいのを着ていたらここの常連となるのもわからなくもない。色んな系統の美少女がいるここは男の一種の楽園なんじゃねーかな。うん、やっぱり美少女は全人類の夢だよな。

というか、偶然でこういうとこの娘と出会うとか意外とベルはハーレム要素持ちなのか?

 

「あれ?そちらの方は…」

 

「あ、同じファミリアの人です」

 

「ベルと同じファミリアのカリオストロでーすっ、よろしくね☆」

 

今のオレの鏡みたい。頬に手を当て、軽くウインクしている姿はきっと最高に可愛いと思う。

ん、なんだぁ?人の顔見て呆然として。顔赤いわけでもないから見惚れたってわけでもなさそうだし。

 

「…ッ!?はい。私はシル・フローヴァといいます。よろしくお願いしますね。カリオストロさん」

 

呆けた顔からまたニッコリと笑って何事もなかったかのように握手を求め、オレがそれに訝しみつつも応じると先ほどまでの良質な町娘に完全にもどっていた。

妙に取り繕うのが上手いな…。あれは何か腹に一物隠し持ってそうだ。それの大小はともかく。

証拠があるわけでもないし初対面相手に憶測で測るのはやめるか。

とりあえず、未だ他の大人達の視線に晒されガチガチになっているベルを案内されたカウンター席の隅に押し込む。

すると、ある程度(主にベルが)落ち着いてきたことを察してドワーフの女将が話しかけてきた。

 

「へえ、あんたらがシルの知り合いかい?冒険者を連れてくると言ったからどんなのが来ると思ったら随分可愛らしい子達じゃないか」

 

「そうだろう、そうだろう、オレ様は可愛いだろ」

 

あっ、いけね。隠してたのについ反応してしまった。

 

「あっははは!!そっちがあんたの本性かい?こういう場所では自分を曝け出してじゃんじゃん飲み明かせばいいのさ」

 

「…そうかよ」

 

なんだろうな。圧倒的なオカンのオーラの前では色々やり辛いよな。こっちが何かしても笑って弾き飛ばすようなあっけらかんとした姿勢がオレにはキャラ的にキツイんだが…。

 

「シルには大食いって聞いてるからね!!すぐにこの店の上手い料理をたらふく食べさせてあげるよ」

 

「えっ、あの、まってください!?大食いってなんのことで…」

 

ベルの静止の声もなんのその。すぐに厨房で料理を作り始める。

やっぱりああいうタイプは美少女モードではダメだよなぁ。そういうのも含めて生温かい目で見られそうだ。オレが期待してる反応とは間逆の反応しかしない。ま、素の状態としては嫌いじゃないんだけどな。たまにはあのオーラに触れたくなるし。

 

 

 

 

その後、料理のお金関係でうんうん言ってるべるをシルと共にイジリ続けること数分後、大量の料理が並べられた。

ついでにエールも女将が高笑いしつつ普通に置いていた。それと女将の名前はミアお母さんと店員が読んでいたが、お母さんはオレ的に恥ずいのでおばちゃんと呼ぶことにする。

 

「あー、フルーティーなコクの深さがやっぱりいいなエールは」

 

「か、カリオストロもお酒は飲めるんだね」

 

「まあ、人並みにはなー」

 

グイッと一気にエールを流し込む。「あれ?僕の中の美少女ってなに…?」とベルが自問自答しているがそういう反応のベルを見たいがためにこういう飲み方をしているのはご愛嬌。ちゃんと他の客がオレを見てる時は

「このお酒、アルコールつよーいっ。カリオストロ酔っちゃったかも☆」

とやってるので問題ない。

 

ミアのおばちゃんは爆笑してたけどな。オカンには勝てない(確信)




どうでもいい話ですけど、カリオストロとアーミラしかSSRキャラいないのになんで武器のSSRがドラゴンスレイヤー3連続なんですかねぇ?(半ギレ)
ドラゴンスレイヤーの突破の星の数がしゅごい
無課金なんだ、早くSSRキャラでてぇ…

あとなんか今回の話し詰め込みすぎた気がするのでちょくちょく書き直すかもしれません。


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10話

ベート君の”俺をツガイにしようぜ”演説が長すぎて早く埋まったから投下。あれ?今頃ベート君ボコボコにしてた筈なのにおかしいなぁ…

次回は徹底的にやるから、どうか…許してください。



この身体、酒は元のカリオストロが愛称で”カリおっさん”と呼ばれるのが納得できるくらいには強かった。

酒類を飲めるのはありがたい。酒は大人が羽目を外せる物の代表的なものだ。ストレスとかたまったらまた飲みあかそう。だが、酒の肴が無性に欲しくなるのはちょっとな…。

そういうのはベルに渋々ながらも押し付けておいた。

「我慢せずに食べればいいのに」って無責任な事いいやがって。こっちにも美少女としての意地ってもんがあるんだ。

くそっ、ベルなんかに焦らされるとは…。

 

「ロキ・ファミリア御一行様のご来てーん!!」

 

猫耳メイド服の店員がそう言った瞬間、店の雰囲気が変わった。この店にいる冒険者らしき様相の者が全員店の入口をジョッキ片手に見ていた。先程までの喧騒の残滓さえ残らずどこか緊張した面持ち。

その様子に疑問を感じたオレはベルを見るが、ベルも一瞬固まったのち、冒険者達と同じように入口を何かが来るのを待ち望んでいるかのようにじっと凝視していた。

 

ロキ、ロキ、どっかで…。

 

あ。あれだ。最初にオラリオに来た時、最もデカかった建物。その建物に高々と掲げられていた旗。

それが確かーー

 

 

「邪魔するでー、ミア母ちゃん」

 

 

 

ーーー道化師の紋様だったか。

 

 

あの赤髪の肩ぐらいまでのポニーテールがファミリアの主神、ロキだろうな。

確かに顔が人懐こそうな笑みを浮かべ、細目でどこか人を小馬鹿にしたような面相は道化師の名と違わない。

いや、だが、あれは…お、男か?露出多いし女か?胸がなーーーいや、ある!僅かに、ほんの僅かだが確かにある!!

 

くっ、人を見抜く力はあると思っていたが、ここまでオレを手こずらせるとは流石道化師だな。

 

「あ、アイズさん…!!」

 

突如ベルが呆けながらもはっきりと呟いた。

ああ、そういえばベルがゾッコンな奴もここにいるんだっけか。ベルは正直分かりやすい。だからその目線を追った。

その先に居たのは金髪金眼のボーッとした無表情な少女。雰囲気で分かる。あれはド天然だ。雰囲気がこう…ぽ、ポワポワ?している。うまく表現できないが、蝶々を見つければ今にもそれにフラフラとついていきそうと言えばわかるだろうか。あんなボケーッとしているのに間違えられたのかオレは……。

まあいい、確かに見た目はアイズ・ヴァレンシュタインも美少女だから文句は言わないでおいてやる。

 

次々とロキ・ファミリアの面々が入ってくるが。あの巨大な館がロキ・ファミリアのものだと確信した。

 

確かに、強い。

 

ウロボロスの存在感には遠く及ばないし、それと常に共にいるオレを驚嘆させるほどでは無いが、今まで出会った冒険者とは格が違う。なるほどな、これが第一級冒険者か。

オレ単体で挑むなら錬金術や魔導書で徹底的な仕込みをして地力でようやく互角ってところか。

さらに向こうは魔法もあるだろうから、それを発動された瞬間オレは詰む。ウロボロスがいるからそうはならないと思うが。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんな御苦労さん!今日は宴や!飲めえ!!」

 

乾杯、の言葉と共に振動が起き続いてジョッキ同士のぶつかる音が鳴り響く。

 

『酒が足りんぞ、もってこい!』『料理もないぞ!!』

『肉だ、肉!!』『久しぶりのご馳走だ、味わいつつかっこめ!!』

 

うるさ…。あっちはどうやら完全に宴会モードのようだ。冒険者達もロキ・ファミリアの話に耳を傾けつつ、自分達の身内で静かに話し始めた。ロキ・ファミリアの話に耳を傾けているのは遠征でモンスターの話などをしているため、情報を仕入れようとしているからだろう。抜け目ないな。

とはいえ、まだ駆け出しのオレ達にダンジョンの下層の話なんざ必要ない。そのレベルに至った時にはその生態系も既に変化しているだろうし。

 

当分ロキ・ファミリアと関わることもないだろう。さて、オレも身内での騒ぎに戻るか。

 

「ベル。…おい」

 

「あ、アイズさ…」

 

こりゃ駄目だ。完全に向こうに気がいってやがる。重症だな。ったくめんどくせえ。

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

ロキ・ファミリアの全体的に灰色着色の狼人の男が急に大声で騒ぐ。

あいつ、煩いな。さっきから無駄に周りを見下す発言をしたかと思えば、アイズにそれと比較して自分がどれだけいいかの繰り返し。あれだろ?好きだけどどうしても素直になれないから遠回しに自分が優良物件だと言ってるヘタレだろ?

それに、服も小悪そうな服してるが俺に近づくなみたいな感じで、一人でかっこつけてる恥ずかしいやつなんだろ?

 

「帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の五階層で始末した時のトマト野郎の!」

 

 

その言葉にベルがビクリ、と体を硬直させた。がたがたと手が震え、落ちそうになるフォークを強く握る。

…また、面倒ごとの予感。

ロキ・ファミリアの面々が苦渋の表情をしつつも口を挟まないため、調子に乗ってさらに狼人は続ける。

 

「いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際に追い込まれてよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって、かおをひきつらせてやんの!」

 

兎、か。…ああ、なるほどそういうことか。隣には真っ赤になって、今にも血が滲みそうなほど手を握りしめているベル。つまり、あいつが言ってる冒険者はベルってことだ。

 

「ベル」

 

「ッ!!な、なにムグぅっ!?」

 

適当にフォークに巻いたパスタを勢いよくベルの口に突き込む。

 

「早く食え。余らせるつもりか?金がもったいねーだろうが。」

 

それを聞いて少しずつ、パスタを咀嚼していく。ゴクリと呑み込んで、オレがなぜこうしたのか気づいたのかハッとした顔になりおずおずと遠慮がちに言いだした。

 

「カリオストロ…あ、ありがとう」

 

「…うっせ、お前が早く食わねえと飯はウロボロスの腹行きだぞ」

 

「…うん」

 

…なんかメチャクチャ気恥ずかしいぞこれ。あー、くそ。エールだ、冷えたエールを寄越せ!!

 

「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうあよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ」

 

いい加減空気を読めクソ野郎!緑髪の麗人の女エルフが嗜めるが、それにも反抗してまだ続ける。

一部の冒険者も、その狼人の言葉に同調して口を塞ぎつつ密かに笑う者も現れた。

それによって一度落ち着いたベルもまた気落ちし、僅かに顔が翳っていく。

 

「なあアイズ、あのガキと俺ツガイにするならどっちがいい?」

 

これだけオレに心労負わせておいて、結局行き着く所は其処なのか駄犬!?

てめえのヘタレを繕うためにオレに手間かけさせんな!

幸いアイズ・ヴァレンシュタインはそれをあっさりと断った事でそれなりに溜飲は下がった。あれは良い美少女だ。

というか、気付け駄犬。お前にだけ彼女が敬語なことといい、どう見ても避けられてるだろうが。

ロキ・ファミリアの女性陣はツガイという子を産む道具のような扱いに嫌悪の視線を向けているため、全体的に悪いファミリアというわけではないようだ。

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ。…じゃあお前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」

 

 

 

 

 

「ーー雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

 

 

 

ギリッと歯軋りし、椅子が蹴飛ばされる音がして、振り向くが既にベルの姿は店頭に小さい背中しか見る事が出来なかった。

チッ、抑えきれなかったか。

 

 

誠に遺憾だが、あの駄犬の言う事は正しい。力の弱い者は力の強い者にただ奪われるだけ。弱肉強食、それは世界の真理だ。特に如実に実力の差が現れるレベルというものが存在する冒険者達にとってそれはより強いものとなっている。

さらに、アイズ・ヴァレンシュタインはレベル5であり、その分妬み辛みは多い。そのそばにレベル1というベルがいれば格好の的だ。

 

だが、人間とは考える生物だ。そんな下半身的な思考回路だけでどうにかできると思うなクソ野郎。

それに、ベルが目指すのは弱者が強者を踏み越える英雄の道だ。

 

足元、掬われるぞ駄犬。

 

 

まあ、その前に。あの駄犬は”ヘスティア・ファミリア”のベル・クラネルを貶した。

なら、同じ”ヘスティア・ファミリア”のオレが制裁を与えるのも当然だよなぁ?人間は一定のコミュニティを作って生きる。そしてそれを犯されたなら徹底的にぶっ殺すのが人間の性。

 

あと、犬っていうのは人間よりも弱肉強食の中で見るなら下位だ。つまり、

 

 

ーーー黙って犬は人間様に伏せしとけ。

 

 

残っていた料理をウロボロスをこっそりと出して流し込む。ちょっと雑で悪いが今度美味いものをあげるからウロボロスには許して貰おう。

 

「ミアおばちゃん、勘定」

 

「はいよ。…ああ、修理代は要らないよ。冒険者同士の争いで壊れるなんていつものことさね」

 

「なんだ、分かってたのかよ」

 

「伊達に何十年も生きてないよ。それに、いつも争いを止めるのは身内の冒険者かあたしのオタマだからね。争いごとのスイッチなんてすぐわかる」

 

それに、とミアおばちゃんは続ける。

 

「そんな金もらうくらいならウチの常連になってくれた方がいいよ」

 

…ほんとどうなってんだこの店。全員強かすぎる。

 

「じゃ、品のなってない客は調教しないとな。オレ様の通う店にあんなのがいたらオレ様まで品位を疑われる」

 

「あんたも大概だねえ…」

 

最初喧嘩吹っかけてきたのは向こうだしな。ったく、ベルだけが貶されるならともかく、”オレのファミリアの団長”が貶されてるんだから仕方なくファミリアの一員の義務として重い腰を上げてやるんだ。後でベルはオレに泣いて感謝しろ。だからミアおばちゃんとウロボロスその生温かい目やめろと。

 

 

さあ、駄犬。躾の時間だ。

 

 

それじゃ、ウロボロス。威圧おーんっ☆




ベート君いじりに興が乗ったら早く投下する…かも?


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11話

空の青さを見つめていると見知らぬ彼方へ帰りたくなる

空の青さに吸われた心は遥か彼方に吹き散らされる

果てだ

ここは空の果てだ

遂にたどり着いた厳かに神秘の奉られる股間にいま

始まりの風が吹いていた


ーーーぐらぶるっ!第143話ユグドラシル・マグナ編第4コマより抜粋



豊穣の女主人は、再び冒険者達の酒盛りをする声で覆われていた。ほんの数瞬前まで、ロキ・ファミリアの幹部が騒いだり、まさかのこの店で食い逃げが起こるというイベントはあったが別段騒ぐほどの事でもなんでもない。

オラリオでは数年前まで、ファミリア間の抗争など日常茶飯事で常に命の危険と隣り合わせだったのだ。強者はこのオラリオから世界中にその名を轟かせ、弱者はその強者に虐げられ嗤われ秘めた夢を容赦なく壊されるーーそんな世界だ。

 

目に見えて虐げられることこそなくなりはしたが、その風潮は今でも変わらない。いずれ英雄に至る器だろうがいま力がなければ、何を語ろうとそれはただの哀しい妄言となり下がる。

 

 

だからこそ、この場にいる誰も力の無い少年の事など気に留めたりしない。そもそも、その少年に現実を見せてしまったのはオラリオでも最高峰の実力を誇るロキ・ファミリアだ。もし、この酒場で起こった事柄を全て把握していたとしてもその少年を慰めるくらいのことしかできなかっただろう。ましてや、正面切ってそのロキ・ファミリアに喧嘩を売るなど誰にもできはしない。

 

 

ーーたった一人の蛇龍を従える美少女を除いて。

 

 

 

 

 

ベート・ローガは困惑していた。ピリピリと肌が警戒し、自身の狼耳が何かを察知したかのようにピクリと動く。ありとあらゆる身体の器官がどんなに小さな周囲の情報でも逃さないように鋭敏化していく。

 

この挙動は本来、ベートにとっての戦場であるダンジョンで無意識に行われているものだ。

 

己が最強へと至るために、誰も寄せ付けない高みへいくために、最高の戦場で最高の死に方をするために、自分が死なないように身につけた技術。それを、自分の本能が無意識に発動させていた。つまり、自らの命を脅かす存在がここにいることに他ならない。

 

 

高位の冒険者ほどやっかみは多く、そして狙われやすい。

 

 

だがーーここまで真正面から威圧されたのは初めてだった。ベートはその気質ゆえに敵を作りやすい。自分が一人の時に何度か不意打ちされた事はあったが、ここにはフィン達レベル6の冒険者もいるのだ。個人的な恨みなら一人の時を狙えばいいし、ロキ・ファミリア全体への恨みならこんな真正面から敵対するような馬鹿はいない。

 

(どこだ…どこにいやがるっ!?)

 

そのくせ真正面から喧嘩を売りながら未だに姿を見せる様子はない。ベート達を威圧してきているといっても、それは微弱なもので、それに気づいたのはロキ・ファミリアのレベル5以上の冒険者達のみ。ファミリアの末端の者達にまで迷惑をかけないよう視線だけぐるりと辺りを見回した。

それでも敵が見つからないことにベートは内心で舌打ちし、同じく周囲を警戒していたらしいフィンと目が合った。 団長である彼の判断はーー静観。フィンはただ苦笑を漏らすだけだった。

フィンには危険を察知する特殊な指がある。それでも彼が何もしないというのなら、ここは従うべきだろう。そう判断し、頭の片隅にその敵の事は追いやった。

 

 

(まあ、この程度の威圧しか出せねぇようなやつなら酒で酔って調子にのっただけだろ。いつか徹底的にーー)

 

ブチ殺す、と言葉は繋がれなかった。

 

先程よりも圧倒的に巨大化した圧力。警告レベルだったそれは、人類の死を想起させるまでに肥大化し、この酒場にいる冒険者達の心を支配していく。

 

(何だってんだ、これは……!?こんなもの、深層でだって感じたことはねェぞ…!!)

 

ベートの認識も弱者から強者へ向けるものへと改変されるていく。己の格下から、格上。そして未知な領域に踏み入れている敵に最大限の警戒をする。

既に喧騒で溢れ返っていた酒場は静まり、酒で顔を赤くしていた冒険者の顔は真っ青で、ウエイトレスもいつの間にか酒場の厨房へと引っ込んでいた。

あまりの変わり様にいっそ盛大に笑ってやろうかとも思ったが、更に濃密になっていく威圧に盛大な舌打ちをした。

 

(ふざけんな。こんなのーーあの猪野郎以上じゃねぇか…!!)

 

これほどの敵ならば、とフィンの方を見る。が、目を細めてこそいるがまだ指示を飛ばす様には見られない。

更に際限なくーー地面に縛り付けられたような重みが増した。並の人間なら既に気絶していてもおかしくないほどの圧力には冒険者とはいえ限界だったのだろう。レベルの低い冒険者達から呻き声のような悲鳴が聞こえた。

 

「ひッ!?あ、…あぁ!!」

 

ガタガタと顎の筋肉が痙攣し、大量に滲み出た脂汗が頬を伝って床に滴り落ちた。

一瞬で自分を殺せるほどの存在の重圧が押し付けられているのだからそんな情けない姿を晒しても無理はない。むしろ未だにフライパンでよっ、ほっ、と言いながら料理しているミアが異常なだけだ。

 

そして、ベートが己を奮い立たせようとした時、カウンター席の方から靴底と床の擦れる音がした。こんな重圧の中歩いて行けるのは神力を解放した神。もしくはーーそれを発生させた人物だけだ。

一人、また一人と無意識にその人物の方へ視線を向けていく。

 

 

ーーそれはあまりにも異様な光景だった。

 

 

そこにいたのは金色の髪の少女。容姿は美少女揃いのロキ・ファミリアの面々から見ても最高峰と自信をもって言えるだろう。もしロキ・ファミリアにいれば主神であるロキが土下座し、無いに等しいプライドを投げうって喜んで囲うレベルと言ったほうがわかりやすいかもしれない。

ベートでさえ、自分が懸想しているアイズに似た金糸の髪に一瞬見惚れ、いまもかかっている重圧を忘れてしまうほどだ。

だが、その少女の周りを赤い蛇龍が回っていた。可愛らしい少女が凶悪なその蛇を従えている光景は、普段奇怪なモンスターを倒している冒険者から見てもあまりにも異質。

そしてーー少女の宝石のような紫の瞳がベートに向けられた瞬間、ベートだけに(・・・・・・)重圧に加え、殺気が解き放たれた。

殺気を向けられているベートも、殺気を向けられていない他の冒険者も現実離れした光景に忘れていた事実を思い出す。ーー彼女がこの空間の支配者であることを。

 

少女が歩みを止め、ベートをじっと見つめる。不意に少女が年相応の無垢な笑顔でベートに呟いた。

 

 

ーーーー怖いの?

 

 

一文字ずつはっきりとそう唇が動いていた。ベートにはしばらくその言葉の意味が理解できなかったが、ゆっくりと頭の中でその言葉を咀嚼し、思考する。

 

(怖いだと?そりゃ一体ーー)

 

少女の視線はベートだけに向けられている。ならば先程の問いはーー自分へのものではないのか。

 

(どうしてーー俺の手が震えてやがる!?)

 

理解したくはない。こんな年端もいかない少女に自分が劣っていることを理解したくなどない。だがーーベートもレベル5の冒険者なのだ。強者と弱者の違いなど本能で理解している。

 

少女は笑っていた。無垢な笑顔ではなくベートを圧倒的な格下に見て、嘲笑っていた。殺せるものなら殺してみろ、逃げたいなら逃げろと言わんばかりにベートを挑発する笑みだった。

 

 

(クソがッ!!んなこと最初から分かってるに決まってんだろーー俺がテメェに劣ってるなんてことは!!)

 

 

そして、ベートは逃げなかった。

 

恐怖して精一杯逃げて、そして震え縮こまっている自分の姿など、ベートには認められない。

自分より強い敵に出会い、恐怖して助けを請うぐらいなら冒険者になどならなければいい。英雄になるなんて愚かな夢を語らなければいい。

だがーー強くなりたいならば、勇気を振り絞って運命に抗ってみせろ。

ここで逃げたならーーきっと、もう二度と最強になどなれない。

 

だからーーー

 

(そこまで言うならーーーせめて一泡、吹かせてやるッ!!)

 

わずかに動き出したベートに皆の視線が移る。ベートは一度大きく息を吐いて、蛇龍と少女の元へ駆け出した。

 

 

 

恐怖を振り払うように咆哮し、一歩踏み締めるごとに加速していく。

 

(まだだッ!まだ足りねェ!!)

 

見た目は少女だが、そんなことは関係ない。もし一瞬でも気を抜けばただ貪られる。

さらなる高次元の速さを求め狼の如き唸り声を上げる。そしてーー更に加速した。

ロキ・ファミリアの面々がその速さに、今までのベートとは一線を画した姿に目を見張った。

 

少女を中心に蛇龍がとぐろを巻いている。何重にも回転する蛇龍の間から少女を攻撃することはできない。蛇龍の回転に巻き込まれ体が擦殺されて死ぬのがオチだ。

 

 

(あのトカゲごと吹っ飛ばす!!!)

 

 

ならば回転する蛇龍ごと蹴り飛ばしてしまえばいい。蛇龍の腹に狙いを定め、跳躍し更に威力を高める。

 

そして、ベートは気づいた。少女の口がーーー三日月型に歪んだのを。

 

(なんだ。今更何をするつもりだ……!?)

 

既に目標との距離は詰めている。あと一秒もしない内にベートの蹴りは炸裂する。もう間に合う筈もない。

だがーー既に手は打たれていた。

 

 

酒場の全ての視線を集めている少女ーーーの上空で一冊の本から淡く、錬成光が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?……ッ!?お、………ふぅっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その錬成により店の床から木柱が生え、そして無残にも哀れにもーーーベートの股間を貫いた。

 

 

 

 

 

「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

 

 

股間を押さえつつ崩れ落ちていくベートが見たのは、各々の股間を押さえる男性冒険者と、不憫な目でベートを見るロキ・ファミリアの女性冒険者。

 

 

 

 

 

 

そして、にっこりと笑っているのに何故か黒い陰が見える金色の美少女だった。





前に書いたベート君がかっこ悪すぎたからかっこよく書いてみた。もう直さない。これが作者の全力なんや…

次回の調教お楽しみに〜今回は触りだけでしたので



※以下作者のトチ狂った言葉が続くので注意














あああああああヴァンピィちゃん可愛いいちっちゃなおててちっちゃな翼が可愛いよおおおおおおお!!くんかくんかぺろぺろすーはーすーはーけんぞくぅ!!俺、ヴァンピィちゃんのけんぞくぅ!!フェイトエピソードで同じ声が二つあるとおもったけどヴァンピィちゃんの方が甘えた声ですごく興奮するよおおおおおお!!!スープ!ヴァンピィちゃんのおいしいスープ!!!俺もヴァンピィちゃんの作るスープ大好きぃ!!!!…え?カリおっさん?ああ、ごめんなさい!!カリおっさん可愛い!!ソイヤッソイヤッソイヤッ!!!ええい、ヴァンピィちゃんとカリおっさん属性違うけど両方メイン行きじゃあああああああ!!!
ロリ!!ロリ!!(21)!!おっさん!!おっさん!!おっさん!!ああああああああ戦闘ボイスカリおっさんとヴァンピィちゃんの声が連続で聞こえるううううう!!萌え死ぬううううううう!!!なんでジータちゃんはボイスないんじゃああああああああああああ!!!


追記


\ クラリスちゃんが最カワ!!/


…子孫丼ができるな!!



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12話

なんか異様に前回の話だけ感想とお気に入りが多かったんじゃが…あとベートくんからベートちゃんおめでとうの声も。

そうか…つまりそういうことなんだな。



ベート君を美幼女化しろと!!



しませんけどね。…………たぶん。あ、あとグラブルやってないとわかりにくいネタが…(宣伝)


「お、おごぉぉ……」

 

オレは内股になって床に四つん這いになりつ悶え苦しみ続けるわんちゃん(ベート)を見て内心でこう思った。

 

 

ーーわあ☆凄く綺麗に決まったね!!カリオストロ大満足☆

 

 

いや、まさかあんな綺麗に決まるとは…。うーむ、なんだ、こう。…その部分がないから余り同情できないんだよなぁ。勿論男だった時の記憶はあるが、記憶としてあるだけでその感覚は結構綺麗さっぱりなくなっているというか。おそらくこの身体に女になったことへの抵抗感が少なくなるように仕掛けてあるんだろうな。

 

「ぐぅぅぉぁぁぁぁ…」

 

……流石にやりすぎたか?覇気が一切無くなってプライドお構いなしに股間を手で押さえ続ける姿を見ると、妙に哀しくなってくる。そうすることが目的だったはずなのに。

 

それはそれとして、何故股間を狙ったのか疑問に思う人もいるだろう。

 

それはひとえに錬金術の特性に起因する。

 

等価交換に則れば様々な現象を起こすことができるのは言うまでもない。それ相応の知識が必要となるため、詠唱を知っていれば発動できる簡易な魔法があるから余り広がっていないようだが。

様々な現象を起こす点は魔法も同じと言えるだろう。ならば錬金術と魔法の違いは?

 

それは万能性と魔力を使用しないこと、そして詠唱が要らない点だ。

 

万能性という面は言うまでもない。それに今言いたいのはこちらではないため省く。

 

重要なのは”魔力を使用しない”事と”詠唱が要らない”という事。ダンジョンを例外としてどんな場所でも魔力無しで使える。これはかなり大きい。ド派手な魔法を使えば魔力で感知されるし、詠唱なんざ行えばこれから魔法を使うと相手に知らせるようなもんだ。だがそれを必要としない錬金術はどこからでも不意打ちできる。真正面から相対している時に背後から、頭上から、真下から。いくらでも攻撃できる。

 

だが冒険者というのは神の恩恵によって耐久力が底上げされている。どうにも木柱や石材をがむしゃらにぶつけるだけでは心もとない。

 

なら急所を狙ってみるか。頭は特に五感が多く気配に敏感で無理。鳩尾は真正面すぎて気付かれるから駄目。心臓は振動でダメージを与えられるかもしれないが、辿り着くまでに威力を削がれる。

 

ならあとは首と男性の局部しかない。

 

 

だったら後者を選ぶのは当然の帰結だろ?だってそっちの方がおもしrーーーダメージがありそうだからな。それに男の象徴である部分がこんなんになったら、ほら…精神的にも、な?

 

 

「ぬぉぉぉぉ…」

 

 

その結果がコレだよっ☆全く、天才美少女錬金術師のカリオストロの考える事は天災すぎて困っちゃう☆

 

 

「おーいっ、大丈夫?」

 

「ハッ……これ…を、見て…そう思えるの、なら…テメェの頭は……腐って、やが……」

 

荒い呼吸をして、目が血走っている。だいぶ苦しそうだが、まだ反骨心があるようだ。

 

もーっわんちゃんの癖に生意気な。カリオストロぷんぷんっ☆

 

これはまだ調教せねばなるまいて。調教、調教…。そもそも調教って何をすればいいんだろうな。身体はカリオストロだろうと、何千年生きていたわけでもないしそういった知識まで十分にあるわけではない。

ここはグラブルキャラを参考にしてみるか。調教…女王…それらの単語を聞いて思い浮かべるのはカジノの支配者クリスティーナか?

戦闘中でも、よくモブで出てくる猪みたいな荒くれ者を尻に敷いている。ぐらぶるっ!でも鞭とかでビィを調教したりしていたな。

まあ、クリスティーナを手に入れるにはカジノでジャックポットでも当たらないと到底無理だから諦めたが。

 

 

とりあえず形から入るとするか。クリスが片手に持つワイングラス…は……

 

『最後に五階層で倒したトマト野郎の!』

 

…ふむ。敢えてワイングラスにトマトジュースを入れておくか。

 

「フーッ、フーッ…」

 

まだ息が荒いがわんちゃんが少しは落ち着いたようだ。あれ程の惨劇を起こしたオレが怖いのか遠巻きに見ている人々は、ベートを眺めながらいろいろ準備しているオレを見て”まだ何かやるのか”と”もう勘弁してやってくれ”という視線を向けていた。

 

なら、その視線には応えないといけないよなぁ?

 

ウロボロスがわんちゃんに巻きつき、わんちゃ…ああもう犬でいいや。犬を四つん這い姿勢のまま固定する。

 

「テメェ、まだ……何、か…する、つもりかよ…」

 

およ、それが分かってるのに特に強い反応を示さないとは…いやただ単にその気力がないだけか?つまんねーなおい。

 

まっ、そんなことはお構いなしにやるんだけどっ☆

 

「えーいっ☆」

 

「ぐえっ」

 

オレは四つん這いになっている犬にそれなりの勢いをつけて座った。別に特別なことはしていない。したのはちょっとだけ重力操作してかかる圧力を強くしたぐらいだ。

それによって犬の腹部が圧迫されて、更に拘束していたウロボロスがぐるんぐるんととんでもないスピードで巻きつきながら回転する。

結果はーー

 

 

「@JP¥%☆♪♨︎&#B〆ーーーー!!?」

 

 

まあ、そうだよな。腹部圧迫され、ウロボロスの速さの摩擦にアソコが巻き込まれたんだ。ただじゃいられないだろうな。でもこれで満足してもらっちゃ困る。逆らったらどうなるかっていうことを更に深く理解させるためのちょっとした余興なんだからさ。やっぱり犬にはいけない事をしたらこうなるってのを覚えさせとかないとな。

 

カヒュー、カヒューと前よりも更に荒い息になって既に虫の息だ。残念ながら今のところ悦んでいる様子はない。まあ、今のところ飴と鞭どころか鞭の3連続みたいなもんだからな。

ああ、そうだ。鞭はどうしよ。…ウロボロスの尻尾でいっか。だけど、ただ尻叩くだけじゃつまんねーな。よし、犬の頭にワイングラスを置いて…と。

 

尻尾のこのしなりを完全に把握して…鋭く振り切るッ!!

 

 

「キャイィィィンッ!?」

 

 

 

……………………………え?

 

何今の声すっごく面白い。下から「殺せ‥誰でもいいからとにかく早く殺してくれ‥」って聞こえるが、まあどうでもいい。

周りの視線は「いや、あのもう色んな意味でお腹いっぱいなんでそろそろ‥」って感じだが、それもどうでもいい。

 

こんなに面白い機会を逃すなんてありえねー。さあ続き続きー。

 

「あ、そうそうあんまり暴れんなよー。暴れたら頭の上にあるトマトジュースが顔にかかっちゃうからね☆

 

 

ーーーじゃ、犬のようにキャンキャン啼いてくれよ?」

 

 

「……はっ?ちょっおいまっーーー」

 

 

ほーら、鳴けー。啼けー。

 

 

 

*****

 

 

おかしい、とベートは思った。そして、どうしてこうなった、とも。

あれ程の覚悟をして臨んだ闘い。自分が自分であるために勝てるはずのない相手に単身突っ込んでいった。この威圧感に恐れ、その場所に憧れた。

 

己の一撃がかの龍に傷一つでもつけられたのならば、敗者として勝者に喰らわれその一部となって生きるのもありではないかと、あのプライドの高いベートが思ったのだ。

 

ここが己の死地でも構わないと。

 

それが何故ーー

 

 

「ほらまた尻が下がってる。ったく根性ねえな。この駄犬がッ!!」

 

 

こんな風に四つん這いにされ、何が悲しくてこんな幼い少女に尻を叩かれねばならないのか。

 

自らの主神であるロキならばこれもまた美少女からのご褒美と受け取るだろうが、生憎とベートにそんな性癖はない。

 

 

「キャイイインッ!?」

 

 

「わふぅぅぅぅっ!!」

 

 

「クゥ〜〜〜ン!!」

 

 

こんな叫び声をあげていても…重ねて言うが、そんな性癖は微塵たりともない…ハズなのだ。

 

(クソッ、最初にコイツを見て一瞬でもアイズ(天使)と思った俺が馬鹿みたいじゃねえか。そんな可愛らしいもんじゃねえ。こいつは天使の皮を被った…悪魔だ)

 

ベートはただひたすら後悔する。どうしてこうなってしまったのかと……ジンジンと痛む股間と妙な熱を持ち始めた自分の尻にも気を配りながら。

 

(ここにはアイズもいるってのに…)

 

敗者である事は受け入れても、やはり男の矜持というものがある。幸いリヴェリアがアイズの目は塞いでいるようだが、耳はリヴェリアの二本の手では塞ぎきれない。そのため音声だけ聞こえているアイズの頭の上には大量のクエスチョンマークが浮かび上がっていた。やはりアイズは天使だ。

だがそれもいつまでもつか分からない。思わずこの空間を創り上げている少女を睨む。しかし、それがいけなかった。

 

「ホント、ヘタレで甲斐性なしでヒドイ勘違い男の癖に威勢だけはいいな、っと」

 

「ギャン!?」

 

物理的にも精神的にも鞭でぴしゃりと容赦なくはたかれた。理不尽。

というか勘違い男とか甲斐性なしってなんで会って一時間くらいの少女に言われなければいけないのだろうか。

 

 

そもそも、何故会って一時間でこんな状況に陥っている?

 

 

ああもう本当に訳がわかんねぇ。これがレベル5のベートの頭が下した結論だった。

 

(それにしても、こいつなんつー叩き方をしやがる…)

 

鞭の叩く位置、ベートの叩かれる尻の場所。鞭の強弱、角度。何一つとして同じ叩き方はない。だが叩く事にいつどこにどのくらいの強さでやればよりヨクなるのかを理解し、まるでベートを楽器のように扱い悲鳴(嬌声)を上げさせる。

その痛みが尻からくる熱さが、この少女こそが自分の奏者であると言っているかのようでーー

 

「ワ・ン・ちゃ・ん・っ☆」

 

「犬」

 

「この駄犬がっ!!」

 

ーーああ、そうだ。自分が躾けられているような。物分かりの悪い犬を忠犬に改造させられているような。そんな不思議な感覚が駆け巡る。

 

(あ?俺は……犬、だったか?いや、犬じゃ…ない?)

 

一から自分を作り変えられている感覚に、ベートは混乱しこのシチュエーションに酔う。現実逃避と言ってもいい。

 

(じゃあ、俺は…なんだ?俺はなぜ、ここにいる?いや、そもそもーー)

 

 

 

 

 

「俺ってなんだ」

 

 

そしてーー

 

 

(俺は、俺は、オイラは…俺は…………オイラってなんだ…?)

 

哲学的な疑問とともに謎だらけな悟りをベートは開いた。

 

「んー、なんかやり辛いな。何かが邪魔っつーか」

 

唐突にカリオストロが鞭打ちを中断しているが、思考に没頭し現実逃避しているベートは気づいていなかった。逆にここで不用意にベートが動けば頭の上にあるワイングラスからトマトジュースが溢れるので幸いというべきなのかもしれないが。

 

「あー。尻尾があったんだな。そういえば。獣人ってのも調べてみるのも面白いかもしれねーな。」

 

そういってカリオストロがベートの尻尾に触れた。尻をあれほど叩かれたからか触れた瞬間過敏に反応しベートの身体全体がビクリと一際強く痙攣した。

それによって頭の上にあったワイングラスが落ち、トマトジュースがベートの頭に直撃しトマトの芳醇な香りが場を包み込む。

そしてそれと同時に、ベートの尻尾からブチリと何かが引っこ抜かれた感覚がした。

 

全員がそれを見て唖然とした。

カリオストロの手には、ベートの尻尾の毛が何十本も握られておりーー

 

 

ーーベートの尻尾の一部が禿げていた。

 

ロキファミリアの一部からは余りの悲惨さに口を手で覆い、元凶であるカリオストロでさえ予想外だったのか目をぱちくりと開いては閉じを繰り返している。

 

(ハゲ…)

 

その事実がベートに重くのしかかる。

 

(俺の…オイラの尻尾がハゲ…)

 

何度もその言葉を心内で反芻する。しかし、現実は残酷でありやはり毛は無かった。さらにいえば禿げた場所は尻尾の先端部分に限りなく近く服で隠すこともできない。なんというかもう色々詰んでいた。

 

「て……テヘペロ☆」

 

尻尾が禿げた事実と、それが悪意100%ではないたまたま起こってしまった事故であり、あまつさえその元凶にさえ気遣われている。それが何よりもーーーベートの心を虚しくさせた。

 

(毎日、丁寧にブラッシングをし続けたのに…、アイズがいつもふりたいと言ってもできるようにし続けていたのに…)

 

そんな哀しみに暮れつつも、「やっちまったぜ☆」というような顔をしている少女にベートは声を荒げなかった。

 

なぜなら、彼女こそが強者で自分が敗者。だから何をやっても許される。

 

 

(ああーーーこれが、弱肉強食か)

 

 

ほんの少し、自分のファミリアの低レベル冒険者にくらいは優しくしてやろう。ベートはそう決断し、目から二筋の綺麗な涙が零れ落ちた。

 

 





これ後半調教なんだろうか…?ピュアな作者にはワカンナイナー。



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