提督に会いたくて (大空飛男)
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春休み編
私、来ちゃいました!


それはあまりにも唐突すぎる出来事だった。

 

今思えば、なぜこんなことが起きたなんて理解できるわけもないだろう。それは本当に突然で、俺の頭を混乱させた。

 

だってそうだろう。本来この世界でいるはずがない。存在しないであろう人物が、俺の目の前に飛び込んできたのだ。空想と現実の世界を飛び越えることなどできるわけもないと、脳内にインプットされている現代人であれば、だれもがそう思うはずだ。

 

しかも、その人物は眠りから覚めた俺にこういってきたのだ。

 

「私…提督に会いたくて、来ちゃいました」

 

黒と言うよりは青みのかかった髪色に、控えめさを感じさせる淡い緑の着物服。たれ目ではあるが、見つめられると引き込まれるような瞳の持ち主で、当然顔も和を感じさせつつ整っている。それに俺は、彼女が住まうその世界で、結婚を仮約束した人物で、慕っていなかったといえば嘘になるだろう。

 

そう彼女は、航空母艦蒼龍は何の音さたもなく、俺の目の前に現れたのだ。

 

 

 すがすがしい朝を迎えた俺こと七星望は、天井を見上げて目が覚めた。

 

 今日は休み―と、言うよりしばらくは休みだ。大学が春休みという長期休暇により、行かなくても良い。バイトはやっているが俗に言うバイト戦士ではなく、それ程シフトが入っているというわけではない。自由な事が出来るほどの金は十分に稼げているからだ。

うちの大学は春休みが二月の上旬から始まって、約二か月間もある。これは地元でうちの大学だけで、それこそ地元の友人たちからはうらやましがられていた。まあその分夏休みが遅いわけで、その際にはこちらがうらやむのだが。

 

身を起こし、よくあるアニメ的テンプレで体を伸ばす。実際この行為は自らの眠っている体を起こすわけで、ある意味エンジンをかけていると、個人的には思っている。

 

「おはようございます!」

 

ふと、横から声が聞こえてきた。声量からして女性の声だ。俺は条件反射的に、返事をする。

 

「ああ、おはよう。今何時?」

 

まだ寝ぼけている状態で、俺はぼーっと正面を眺めながら、横の人物に聞いてみた。体を伸ばしても目が覚めないのは、某オレンジ色の猫のせいだろう。いや、ちがうか。

 

「えーっと。現在ヒトマルマルサン(10:03)ですね。ちょっと遅い起床ではないでしょうか?」

 

「は?いっつもこれくらいだろ」

 

と、俺は再び言葉を返すと同時のことだった。

 

―あれ?聞きなれない声だな。若い女性の声。若葉ではない?

 

妹、七星若葉の声ではないことを俺は悟ると、横に振り返る。するとそこには見慣れたような、見慣れていない様な女性が、正座をしてにっこりと笑顔を作ってきた。

 

「…は?おめぇ誰だ?」

 

初対面であろう相手にこの言葉を投げかけるのはどうかと思うが、よく考えてほしい。この人物は勝手に人ん家の俺の部屋に入ってきている。それはどう考えても住居不法侵入罪に問われること間違いなしだ。むしろ真っ先に叫ばなかった俺をほめてほしい。

 

「え?私ですよ!蒼龍!航空母艦蒼龍です!」

 

どうやら彼女の名前はコウク・ウボカ・ン・ソウ・リュウさんだそうだ。んなわかないだろ。冗談だ。

 

「…お前は何を言っているんだ」

 

「何って!えっ!?昨日私たち、結婚カッコカリしたじゃないですか!」

 

「はっ?それはゲームの蒼龍をって…え?」

 

俺は刹那的に、昨日の寝る際何をやっていたのかを思い出す。

そういえば、確か『艦これ』をやっていて、蒼龍と確かに結婚カッコカリをしたはずだ。その際満足感に浸ったまま明日を迎えようと床に着き、だれにもそのことを話してはいない。嬉しさに満ち溢れてはいたが、同時にレベリングで体力がそこを尽きたこともある。

 

「はっはは…。いやいやいやいや。さすがにそらねーべ!?」

 

俺は笑いを含みつつ、片手を振りながら言う。マジでこんなことあるわけない。あったとしたら自慢どころの騒ぎではない。

 

「どうしてへんな訛りになってるんですか…?」

 

苦い笑いをこぼし、蒼龍と思わしき人物は俺に言う。確かに蒼龍がもしこの場にいるならば、こう返しても違和感はないだろう。

 

「じゃあ蒼龍モドキに質問いいっすか?」

 

「モドキってなに…まあはい。どうぞ」

 

あきれ顔で蒼龍は俺の問いに答えようと、聞く姿勢を取る。

 

「なんで君はここきたの?ほかにも立派な提督さんいるでしょ」

 

俺のど直球であろう質問は、おそらく寝起きだからだろう。いや、俺はもともと気になったことを直球で聞くことが多いから、素なのかもしれない。

 

すると、蒼龍は瞳を閉じると胸に手を当てて、すうっと息を吸いこんだ。

 

「私…提督に会いたくて、来ちゃいました。それだけの理由じゃ、だめですか?」

 

一文一文、心を込めて言う彼女の思いに嘘はなさそうに見えた。女に騙されることが多い俺でも、これくらいのことはわかる。某うんたら神拳はつかえないけど。

 

しかしながら、そういわれても信じることができないのが俺の性分だ。何事にも甘い言葉には裏がある。俺はこれで騙される。

 

「お、おう…。それはうれしい事だ。うん。でもさ、やっぱりほら?信じられないわけで。何か証拠になるものないかな?」

 

若干申し訳なさそうに俺は言うと、蒼龍はえーっとと言いつつ口を開いた。

 

「まずあなたが最初に着任したのは、佐世保鎮守府でしたね。でも、人事異動で大湊警備府へ。その後、資材をバンバン溶かして戦艦を狙っていたけれど、大体が扶桑さんと山城さん。その後、戦艦に縁がないと判断したのか私たち空母が出やすいレシピを回してみたところ、私が誕生しました。私はあなたにとって初めての空母で、いつも頼って頂いてましたね」

 

まるで資料を読みだすかのように言う蒼龍に俺は感心しつつ、過去の記憶と照らし合わせてみた。するとどうでしょう。まったくピタリと一致ではないですか。

 

「すげえ…てかよく覚えてるな。いや、まあ間違いなくお前を頼りにしてて…」

 

「はい。いつも声かけてくださいましたよね。がんばれーとか、おつかれさまーとか」

 

言われるとすごく恥ずかしい。画面に語り掛ける奴なんて痛い子の象徴ではないですか。

 

「でも、私たちはそれが励みになってたんですよ?ほら、初霜ちゃんと島風ちゃんがよく大破して、悔しがってましたよね?暴言はそれこそ言ってたと思いますけど…まあ私たちには聞こえていないと思ってますでしょうし、それは仕方なかったと思います。それよりも、作戦が成功してくだされば一緒に喜んでくれましたし、怒られると思った作戦でも、『そういうこともあるさ』って励ましたりもしてくれて…いつしか私は、あなたに想いを寄せるようになってしまったんです」

 

はぇー。ここまで言われると俺も何も言えないじゃん。むしろそれでも何か言ったら、ある意味男が廃るよね。

 

「…よし。わかった。ともかく会う目標は達成できたね。これからどうすんの?」

 

その言葉に蒼龍は「えっ」と言葉を漏らす。

 

「…え、いやあの。どうしましょ…」

 

この子平成の世に来る際、なにも考えずに来たらしい。アホの子なのだろうか。そう思える描写というか、雰囲気を醸し出してはいなかったはずだ。俺の記憶が正しければ。

 

「戻れねぇの?てか、どうやってきたのよ」

 

「あ、それは明石さんが発明した機械を使って!」

 

おいおい、明石そんなもの作れるのかよ。各国の学者が聞いたら目ん玉飛び出すぞ。かんむすのちからってすげー。

 

「じゃあさ、俺が今からパソコン開いて、明石に頼めばいいんじゃね?俺の声聞こえるんだら?」

 

寝起きの自分でも名案を出したと思う。しかも、先ほど蒼龍が言ったことが嘘か誠かを突き止める二重のトラップだ。

 

「パソ…こん?あ…なるほど。はい、お願いします」

 

若干不思議そうな表情をして蒼龍は言ったが、そこは特に気にしなくてもいいだろう。

とりあえず、俺は机の上にあるパソコンを点けると、しばし起動を待つ。うぃぃんと機械的音が部屋に響き、パソコンが立ち上がっていく。

 

「これ…凄いですね。提督はやっぱりお金持ちなんですか?」

 

「ちゃうちゃう。まずこんなのだれでも持ってる。あと、俺は自転車売るマンだよ。バイトだけどね」

 

「へぇ…提督は提督業以外にも自転車屋さんを運営しているんですね」

 

いや、バイトって言ってるじゃないか。そもそも蒼龍にバイトって言って通じているのかわからない。さっきもパソコンをたどたどしく言っていたし、ひょっとすると彼女はマジでWW2の記憶しか持っていないのだろうか。

 

「あ、提督!ぱそこん明るくなりましたよ!って…うわぁ…!?絶景へと広がる窓なんですかこれ!」

 

蒼龍はスタート画面の壁紙を見て、驚きとワクワク感伝わる声を出す。これ写真だから。唯のデータ集合体だから。ここから南国の島いけないから。あ、今思ったけどウイ◯ドウズってそういう事なの?

 

とりあえず俺は「そうだね」と軽く受け流すと、インターネットを開いて艦これを開いてみる。するとやはり、蒼龍が騒ぎ始めた。

 

「かーんーこーれ。始まるよ!だって!吹雪ちゃんかな?」

 

「そうかな?知らんけど」

 

声量違うだけなんじゃないですかねぇ。と、突っ込みたいがそれは野暮だ。彼女が存在している以上、中のひとなんて存在しない。いいね?

 

さて、プカプカ丸が消えていよいよ、艦これが開く。すると、俺は刹那的驚きと、納得感に包まれた。

 

まず、秘書艦にしていた蒼龍が画面に現れない。と、いう事はつまり編成画面にもいないわけで、第一艦隊には旗艦だけが空白となっていた。そのほかの飛龍やら初霜改二はいるんだけど、彼女のいた位置は空白になっている。

 

―やべぇ。これマジだよ。蒼龍だけすっぽり抜けてるよ。

 

これで、彼女が画面の中から出てきたという確信を持てた。つまりそうなると、明石に問いただしてみる必要がある。

 

俺は明石を旗艦にすると、もはや羞恥心などドブに投げ捨て、問いただしてみた。

 

「明石?聞こえるかい?」

 

しばし沈黙が続く。と、いうか返事が来ない。完全に痛い子だよこれ。蒼龍にどういうことだと横目で促すと、彼女は「あれおかしいなぁ」と苦い笑いを浮かべて首をかしげる。

 

「蒼龍ちゃん。君嘘ついたの?おじさん悲しいわぁ」

 

「そ、そんなわけないです!声!声を聞く方法とかないですか!?」

 

つまりそういう事かと、俺は明石をクリックする。すると。

 

『はいー聞こえてますよー』

 

やっべぇマジだった。俺の声ダダ漏れだよこれ。パソコンにマイクが内蔵されてるからなのか?

 

「え、本当に聞こえてるのか?…じゃあ俺が言ってみた事を復唱してみてくれん?」

 

俺はとりあえずそういうと、何を言うか考える。

 

「あいうえお」

 

クリックしてみる。

 

『あいうえお。って言いました?』

 

おお、マジだよ。本当に聞こえちゃってるよ。エジソンが蓄音機発明した時くらい衝撃的な気分になったよ。どういう原理で聞こえてるかは解明してないけど。

 

「えーっと、蒼龍をそっちの世界?に戻す事は出来るの?」

 

再びクリックする。

 

『あー。その…実はその機械…ああ、コエールくん壊れちゃいまして。復旧には時間がかかりますねー』

 

ホエールだかコエールだかよくわからない機械が壊れているらしい。ベタベタな起動のショックによるものだろう。憶測だけど。

 

「だ、そうだ」

 

蒼龍に振り返り、俺は半場ヤケになると、意地悪な顔をしてみた。

 

「えぇ…。明石さんどういう事なんですか!」

 

俺のマウスを奪い、蒼龍はカチリとクリックする。

 

『どうもこうも、私言いましたよね?試作段階だからどうなっても知らないって。まあ蒼龍さんがそっち行けたのなら、ある意味成功ですねー』

 

「大成功だねぇ。とりあえず間宮さんあげる」

 

編成画面にすると俺は給のボタン。そう、間宮さんボタン(伊良湖ボタンでもある)をクリックする。すると明石が編成画面で輝いた。

 

『うわーい。ありがとうございますー』

 

「あーちょっと提督!もったいないですって!明石さん以外皆さんピカピカですよ!やる気に満ち溢れてましたよ!」

 

たった1人のために間宮さん使った事に、蒼龍は叫ぶ。無理も無い、彼女たちにとって間宮さんのデザートは至福の時だからだ。おそらく。

 

「まあ、また大本営(運営さん)から貰えばいいんじゃね?」

「そんなに簡単に貰えないじゃ無いですか!あー羨ましいなぁ」

 

そこまで残念がるのか。いったいどれだけ美味しいんだ。間宮さんのデザート。

 

「ともかく。そっちの世界に帰れない以上、お前どうするの?」

 

「どうしましょ…」

 

そうは言う蒼龍だが、彼女は俺の事をちらちらと見てくる。なんだよ、素直に言えよ。と、言うか察しがついたわ。

 

「はぁ…。とりあえず家に居候すればいいんじゃ無いかな?ちょち家族説得してみるからさ」

 

「え!良いんですか!?」

 

目を輝かせていう蒼龍に、俺は苦笑いを浮かべる。むしろこうするほかいないだろう。仮にも結婚の約束してるわけだし。性能上げるために仕方のなかったことだったけど。

こうして、俺の春休みは早くも、波乱万丈を迎える事になりそうだと、内心溜息をついた。




どうも。大空飛男です。
主役の名前から察してくださる方は喫煙者ですかね?そう。主役の名前である『七星望』も、七星=セブンスターで、望=ホープです。ああ、ちなみに私未成年者ではなくちゃんとした成人でありますので、どうかご安心を。
さて、内容はまさしくあらすじにも書いている通りです。完璧に酔った勢いで構想を練って、自己満足のためだけに書きました。おそらく本来の私が書く作品を見たことある方は、『同じ人じゃないだろう!』と言いたくなるほど、行き当たりばったりで書いています。まあ、匿名ですのできっとわからないとは思いますけど…。

さて、次回は気が向いたら投稿します。それではまた!


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着替えたり、ドライブします!

あいにく家族は全員どこかに出かけているようで、先ほど騒いでいたのは聞かれなかったらしい。俺はとりあえず箪笥とクローゼットから、蒼龍が着られそうな服を取り出す。

 

俺と蒼龍の身長は、大体15センチほど違う。俺の身長は175センチのはずだから、おおよそ160センチくらいだろうか。まあ女学生の平均的な身長くらいだね。

 

しかしそうなってくると、やっぱり俺の服は少々ぶかぶかだと思う。妹の服はそれこそ着れるだろうけど、勝手に借りたらギャーギャー喚かれ、罵倒されこと間違いなしだ。女子高生は異常。

 

「うーん…。やっぱり大きいだろうけど、我慢してくれ」

 

異常なる女子高生の妹に文句を言われないためにも、やはりこうするほかはないだろう。俺の体臭が匂うかは知らんけど、我慢してもらう必要がある。

 

「…提督の服を着るんです?」

 

蒼龍は箪笥から引っ張り出す服を受けつつ、不思議そうに声をかけてきた。

 

「そーだよ。そんな着物で外で歩いたら、目立つだろう。俺だけがお前の…航空母艦蒼龍の提督をやっているわけじゃねぇんだ」

 

「え?どういうことですそれ?」

 

ああ、そうか。彼女はほかにも『蒼龍』がいることを認知していないらしい。確かに自分と同じような顔がいると知ったら怖いだろうさ。ドッペルゲンガーに会うと殺されるって話も、聞いたことあるしね。って、ダブった艦はどう思っているのだろうか。これ以上の詮索はいけないか。

 

「気にすんな。とりあえずちょっと待っててくれ」

 

俺は吟味した服を蒼龍から受け取り、それ彼女の前に並べた。彼女は物珍しそうに、それを眺める。当時なかったような生地も多いしね。

 

「これに着替えるんですか?」

 

「まあ、少しの辛抱だ。それに着替えたら出かけるぞ」

 

その言葉に、蒼龍は「えっ」と驚いた顔をした。

 

「ずっと俺の服じゃ嫌だろ。しま○らにいって、お前の服を買うんだよ」

 

安い服を買うと言ったら、まずしま○らでしょう。ほかにも『ユニ○ロ』とか『macho○se』とかあるけど、とりあえずはしま○らでいいと思う。女性服が多いしね。

 

「いや…その。でも…」

 

それでも若干戸惑う蒼龍に俺はため息をつくと、頭を掻いた。

 

「あー。金のことなら心配するんじゃねぇよ。こう見えても貯金はある。給料日は明後日だし、ここらでパッと使うのも構わねぇんだわ」

 

 手持ち資金は三万あるし、大量には買わないはずだ。愛車の『CX―5』を転がしていけば時間もそうかからないはずで、特別気に病む必要はない。ちなみにこのCX―5。愛車とはいうものの、親との兼用だ。ほぼ俺のものになってるけど。

 

「ほらさっさと着替えた着替えた。俺は下に降りてるから、終えたら声かけてくれ」

 

俺はそういうと、下へと降りていく。女性の着替えが長いのはおそらく艦娘でも共通のはずだ。降りてくるまで、テレビでも見ているか。

 

「あっ…。提督の匂いだぁ…」

 

蒼龍が何かぼそりとつぶやいたような気がしたが、気にしないとくか。

 

 

 

 

俺がしばらく撮り貯めしている時代劇を見て待っていると、蒼龍が二階から降りてきた。言い忘れてたけど、俺の部屋は二階にあるんだよね。あと、隣には妹の部屋がある。

 

蒼龍はうちの間取りを物珍しそうに見ていたようで、リビングに入ってきてもそれは継続していた。人の家をジロジロと見るのは、あまり良くないんじゃないですかねぇ。

 

「んーきたか。ちゃんと着れたか?」

 

ガキじゃああるまいし。と、言いたいところだろうが、やはり心配になるだろう。そもそも彼女たちは、洋服を着るという習慣が薄いはずだ。日本は昭和初期まで和服を着ることが当たり前だったはずである。

 

「ど、如何ですか?似合います…?」

 

蒼龍は着替えた服をもう一度おどおどと見て、俺へと聞いてくる。その仕草、良いですね。

 

とりあえずどんな服かを説明すると、まずだぼだぼのTシャツは体のラインをくっきり見せて、細みのズボンも蒼龍の腰から下をなんとか映えさせている。ジージャンが男勝りな印象を引き出して、和服な蒼龍とは違う印象を受けるだろう。女性の武器をふんだんに使用しているその姿は、地元の男たちを虜にしそうである。結論を言うと、色々驚異的な姿だ。

 

「まあ似合ってるんじゃないか?男服だけど。ようわからん」

 

冷静と言うか無関心に装ってはいるけれど、地元の男たちはさておき俺も虜にされているのは言うまでも無いよね。そら男ですもん。ムラムラするのも仕方ないのん。

 

「あはは…随分と大雑把な言い方ですね。でも、私は気に入っていますよ。提督ってこういう…わいるど?チックな服がお好きなんですね」

 

「んー。ワイルドというか、機能性に特化した服が好きかな」

 

今時の大学生が着るようなチェック柄とかは好きじゃないし、清潔感漂う白が基調のお洒落な服も、若干チャラオ感漂う黒を基調とする服も、総じて好きでは無い。革ジャンやミリタリージャケットなどの、渋い感じが好きです。はい。

 

「ところで…何を見ているんです?」

 

蒼龍は俺の隣に座り込むと、テレビに映った時代劇を物珍しそうに見る。ちょうど、殺陣が始まったくらいだ。

 

「あれ?お前テレビ見ても面白い反応しないのな。てっきりまた、中に人が入ってるとかベタベタな反応すると思ったが」

 

パソコンを見てあれだけ驚いていたのに、テレビを見て驚かないのは如何いうことか。

 

「むー。流石に私も映像はわかりますよ。随分と映像が綺麗ですけど…。映写機は何処にあるんです?机の下?」

ああ、そういうことね。確かに作戦会議とかに映写機を使っていそうだ。もっとも、そんなものは無い。机の下を覗き込むんじゃない。

 

「まー、これはおいおい説明するとして、そろそろ行こうか。しま◯ら」

ソファから立ち上がると、俺は蒼龍の肩を叩く。とても華奢な肩だ。女性らしい。

そもそも艦娘とて、やはりというべきか普通の女の子と変わりないからね。そもそも弓道もとい弓術に、余計な筋肉はいらないはずだ。むしろムッキムキな蒼龍なんて考えたくもないけど。『漢これ』じゃねぇんだ。

 

「えぇ!!今良いところですよ!ほら!賊が成敗されて!」

 

途中からしか見てないのに、この子もう取り込まれてるよ。時代劇の魅力に。まあ大学生の俺も時代劇好きっておかしいとは思うがね。でもこれが面白いから仕方ない。そこ、昭和臭いとか言わない。

 

「まあ鬼平カッコ良いよね。でも、帰ってきてからでも見えるから。その為の録画なんだ」

 

「録画?え、これ録画されてるんです?」

 

こちらへと振り返り、蒼龍は問う。もういちいち説明するのめんどくさい。俺は現代世界ガイダンスマンではない。

 

「そそ、ほら行くぞ」

俺は車のキーを指で回しながら、玄関へと向かっていく。蒼龍もそれに続いて、俺の後ろへと着いてくる。そういうところ、可愛らしい。

 

「あ、そうだ」

 

唐突に思い出して、俺は蒼龍へと振り返る。蒼龍は不思議そうに「え、なんですか?」と言葉を返してきた。

 

「服逆だぞ。それ」

 

「えぇ!?もっと早く言ってくださいよぉぉ!」

 

顔を真っ赤にして、蒼龍はリビングまで戻っていく。彼女には申し訳ないことをしたが、正直この反応を待っていた。やったぜ。

 

 

 

さて、なんだかんだ俺たちは車へと乗り込み、しま○らへと出発をした。

CX―5はディーゼルエンジンで、一五〇〇キロの車体をぐいぐい引っ張っていく。整備されていない悪路も問題なく走れる強い力は、運転をしている気分を高揚させてくれる。おまけに電子機器も充実し、エアコンは言うまでもなく、ナビやオーディオ機器も充実している。あ、ステマではないです。あくまでも個人の感想です。

 

と、まあこんな高性能な車にもちろん蒼龍は反応しないわけもなく、運転中であるにもかからわずあれこれ聞いてくる。子供じゃないんだから。

 

「ここにもテレビついてるんですか!?それに椅子もふかふかですね!私が鎮守府でつかっていたベットよりも、断然いいですよこれ!」

 

助手席のシートをぽんぽんと叩いて、蒼龍がはしゃぐ。控えめな性格だと思っていた認識は、どうやら違うようだ。

 

「そうかいそうかい。それはよかったね」

 

しかし、そんな蒼龍の言葉を返すのも、だんだんと楽しくなってきた。人に教えることは昔から嫌いではない俺だもの。長年剣道をやっているけども、中学高校と教えるのには評判も良かったし、将来は教師にでもなってみようか。

 

「それで、この曲はなんですか?」

 

「ん?ああ、これか?」

 

俺は目線を背けず答えると、信号に引っかかり次第。スマフォを取り出した。

 

「ジャズだよ。しらない?って、知らないか。ジャズはニューオーリンズ発祥の米国黒人が誇るソウルミュージック。魂の音楽だ。まあお前の記憶からしたら、敵国の音楽…か」

 

「ああ、アメリカさんの。うーん、私はもう敵国とは思ってないですね。私たちの敵はあくまでも深海棲艦ですから」

 

え、そうなの?艦娘ってもう連合軍に恨みを持っていないのか。まあ蒼龍だけの意見だし、何よりうちの蒼龍の意見か。すべての艦娘は、どう思っているのだろう。

 

ちなみに余談だけど。ジャズはWW2時に、禁令や自主規制により鳴りをひそめていたそうな。しかしひそかにレコードとかで、聞いたりもしていたらしい。蒼龍乗員には、そんな人いなかったのだろうか。

 

「そっか。まあジャズを嫌いにならなくてよかったよ。ジャズはいいものだ」

 

「私もそう思います。今初めて聞きましたけど、金管楽器の力強さを感じれます!」

 

「そうそう。人によって感じ方は様々だけど、俺はそこにひかれて、ジャズが好きだね」

ひょっとして蒼龍は、割とハイカラな性格なのかもしれない。保守的観点にとらわれることなく、良いもの悪いものを自分の意思で感じれることは、いいことだと思う。

 

「おっと、信号変わったな」

 

俺はアクセルに若干の力を加え、再びタイヤを転がす。すると蒼龍は子供っぽく「はっしーん!」といいはじめた。やっぱりこいつ、根は駆逐艦並みのガキなのだろうか。それとも車に乗ってテンションあがってるのか。どっちだ。

 

「そうだ。蒼龍」

 

「はい?」

 

運転に集中しつつも、俺は蒼龍に言葉をかける。

 

「服が買い終わり次第、メシでも食いに行こうか。ちょうど昼時になるだろうし」

 

現在時刻は一一時二〇分。しま○らで服を見て、購入するころにはちょうどいい時間になるのではないだろうか。家族と蒼龍が面会する間に、いろいろと教えておきたいこともある。

 

「お、お食事ですか!?い、いやーその。うれしいなぁ。えへへ」

 

まさに照れているといわんばかりの行動、しゃべり方。たまらないな。このかわいい生き物。俺の気分、高揚しっぱなしだよ。

 

「よし、じゃあさっさと買い物済ましちまうか」

 

俺は内心ニヤつきを隠しきれていないが、もうどうもでいいや。

 




どうも、セブンスターです。
まず、どうしてこんなにお気に入り増えてるの?いや、正直ものすごくうれしいんですが、同時になぜだと混乱しております。だって酔っ払いクオリティですので…。まあ、楽しんでいただけているならば、万歳ですけどね!
さて、今回ジャズがどうこう出てきましたが、私も好きなんですよね。ジャズ。酒を飲むときや、コーヒーを飲むときなんかよく聞きます。まあ、有名どころとかしらないにわかくんですけど。つまり望も、にわかです。はい。
つぎにCX-5が出てきましたが、これはマ○ダの車です。てか車名出してる時点でだめかもしれない。マジステマではないです。

今回は少々短かったですが、急きょ仕上げたので仕方ないと思っていただければ幸いです。あくまでも不定期投稿ですので!


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お洋服、買います!

しま◯らへと到着した俺たちは、車から降りる。蒼龍はじっとCX—5をを見ていたが、俺の呼びかけに応え、すぐさまこちらに寄ってくる。

 

「ここがしま◯らだ。気にいる服があると良いな」

 

まあ、蒼龍が如何いう服を選ぶかわからんけど、気に入る服はあるだろう。まさかいまさら和服しか嫌とは言うまいね。

 

「おっきいですねぇ…車から見た景色も大きな建物いっぱいありましたし、ここが提督の住む世界なんですね」

 

物珍しそうにしま◯らを見る蒼龍はそう呟く。確かに鎮守府付近には、マンションやデパート、ショッピングモールやスーパーなんてないだろうしね。仕方ないね。

さて、早速だが、俺たちはしま◯らへと入店した。蒼龍が自動ドアに驚いたのは言うまでもない。察しろ。

 

軽快な音楽の流れる店内は、ここを『お店』と再認させてくる。正直こういうBGM、好きじゃない。せめて普通なJPOPを流せば良いんじゃないですかねぇ。

 

「うわぁ!服がいっぱいありますよ!しかも、どれも可愛いのばかりです!」

蒼龍は乙女スイッチが入ったのか、黄色い声を上げる。俺は見つけれないわ、乙女スイッチ。そもそも男だし、なによりやる気スイッチも、まだ見つかってねぇよ。俺のはどこにあるんだろう。見つけてみろよ。

 

「あまりはしゃぐなよ?恥ずかしいわ」

 

「女の子が服を見てはしゃぐなと言われても、無理ですね!」

 

いや、何自信満々に言ってるんだお前。って俺も軍払い下げ店でテンションフルマックスになるのと同じか。まあ可愛いし、仕方ないから許しちゃう。

 

「あ、提督!この服みてください!」

 

蒼龍はそう言うと、Tシャツコーナーから1着を取り出す。なんかリアルなカエル書いてあるんですけど。なんでこんな服女性コーナーにあるんだよ。怖えよ。大学のとある友人が見たら、発狂間違いなしだ。

 

「かえるさんですよ!」

 

「かえるさんって…カエルは『さん』付けする程身の程高くねぇだろ」

 

子供かよ。君、正規空母ですよね?おそらく駆逐艦共(主に第六駆逐隊)でもさん付けしなさそうだ。あ、諏訪大社関係者の方はマジすいません。私の氏神は多度系列です。

ともかく、そんな少し子供っぽいのが蒼龍の可愛いところなのかもしれない。てかギャップスゲェな。もう蒼龍にお淑やかイメージ抱けないわ。

 

「で、そのかえるさんTシャツが欲しいのか?」

 

幸いこのコーナーにあるTシャツはかなり安い。個人的にはこんなかえるさんTシャツを着てほしくはないが、蒼龍の趣味なら仕方ないだろうか。後々更正したいけど。

 

「いや、流石に女の子がこんな服着ていたら嫌じゃないですか?」

 

わかってるならなんで聞いたんだよ。突っ込んで欲しかったのか?面白そうに笑うって事は、確信犯か。

 

「えーっと、どれにしようかなぁ」

 

蒼龍はウキウキ感もろに滲み出しながら、店内を歩いていく。俺は出しっぱなしのかえるさんTシャツをたたみ、蒼龍へと着いて行く。

少し歩くと、蒼龍は足を止めた。彼女の目に留まったのは、清楚感漂う白を基調にしたワンピースだ。フリル付き。

 

「かわ…いい」

 

乙女スイッチフルスロットルじゃないですかーやだー。

 

「これにするか?」

 

「え?あ、いや…飛龍なら似合うと思いますけど、私には似合わないかも」

 

いやいや、そんなことない。君は女子力高いから。きっと似合うから。あと飛龍ってもそういうの好きなのか。正規空母は乙女が多いな。うん。

 

「まあ…お前がそう言うんなら仕方ないか…」

 

でも、強要はしない。俺の趣味を押し付けるほど、強情にはなれない。他人の意見を尊重し、糧にすることも重要だ。

 

「これよりもっと、動きやすそうなのはないかなぁ」

 

再び歩き出す蒼龍。割と細かいところにこだわりあるらしい。

それからまた暫く歩くと、再び蒼龍は歩みを止めた。今度はなんだろうか。

 

「これ…提督のこれと同じ生地ですか?」

 

蒼龍がジージャンをぱたぱたと動かして手に取ったのは、俗に言うホットパンツだ。やばいな、これはこれで似合うに決まってる。

 

「これにしようかな…」

 

しかし待ってくれ。ただでさえ女の武器を惜しみなく発揮しているのに、これに着替えると鬼に金棒。龍に翼を得たる如し。弁慶に薙刀、蒼龍にロング。最後は違う。でもそれくらい凶暴じゃないか。

 

「うーん。だがそれね、今の季節は少し寒いぞ。今は長ズボンが良いだろうね」

まあ先のことを踏まえても、蒼龍の体のことを考えると体に悪い。それに、女性は体を冷やしてはいけないと妹は言っていた。だから身の凍るような冬にストーブを独占されたけど、仕方ないよね。うん。

「そうですか。じゃあこんな感じの奴、ないですかね?」

 

蒼龍はそう言うと、俺のズボンをぽんぽんと叩く。ああ、そういう細身なズボン、気に入ったのね。

 

「店員に聞いてみるか。すいません」

 

片手を上げて、俺は近くの店員に声をかける。眼鏡をかけた、地味っぽい女性だ。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

愛想よく笑顔を作る店員だった。地味っぽいと言うのは失言だったな。

 

「えーっと、彼女が似合うような細身のズボンを探しているんです。何かないですか?」

 

「はい。えーっと失礼ですが歳は幾つですか?」

 

年齢…しまった。俺は彼女の年齢を知らない。おそらく高校生から大学生の半ばくらいだとは思っているが、実際はどうかわからない。まさか俺より年齢が高い訳ではないだろうが。あ、着工日から考えると…これ以上いけない。

 

「えーっと…」

 

蒼龍もどう答えればいいか、俺へと助け舟を求める。さすがに迂闊に答えるほど、アホの子ではないらしい。

しかし、このまま黙っていると怪しまれる。年齢をスラスラ言えないと、何かおかしいと思われるのは当然だ。

 

「…おまえ、確か19だっけ?」

 

「え、あ、そうですね。はい!」

 

俺の素早い機転に蒼龍も合わせる。店員は「19歳ですか。ではこちらの方にございます…」と、品物を探し始める。

 

「どうして19に?」

 

店員に着いて行きながら、蒼龍は小声で俺に質問をしてくる。まあそうだよね、気になるよね。

 

「あー。お前の着工時、昭和9年だっただろ?それに十足した。それだけ」

 

その意見に蒼龍は「なるほど」と納得するように頷く。ちなみにこれを通したら、蒼龍は一一月二〇日が誕生日になるね。まだまだ遠い。

 

「あ、これなんかどうでしょう?」

 

店員は足を止めると、俺たちにミルク色の細身ズボンを取り出す。なるほど、これは普通に、良いかもしれない。

 

「わあー!これも素敵ですねぇ。でも、これ長門さんが似合いそう…」

 

確かに奴なら、これを着こなすに違いない。個人的長門には、女性用のスーツが似合うと思う。凛々しいし。

 

「長門に似合うのは分かるけど、お前にも十分似合うと思う」

 

「あの…」

 

俺と蒼龍の会話に、店員が割り込んできた。

 

「もしよろしければですけど。私が似合いそうな服を持ってくるのは如何でしょう?」

 

しま◯らってそんなサービスもしてくれるのか。それは心強い。俺には女服、よくわからん。

 

「お店の方にわざわざ選んで頂けるのは嬉しいですね!お願いします!」

 

蒼龍も乗り気だ。それなら俺は、文句を言えない。言わない。

 

「はい!では早速、お持ちしますね!」

 

あんたもやる気十分ですね。まさか声かけられるの待ってたな?蒼龍は着せ替え人形じゃないんだぞ。色々な服を着る蒼龍もぜひ見たいけど。

 

「どんな服持ってきてくれるんでしょうか?私ワクワクしてます!気分が高揚します!」

 

この言い回し、加賀にもろ影響受けてるよ。まあカッコ良いんだろうね。あいつ、女性受けも良さそうだ。

 

「お待たせしました!」

 

お、来たみたいだ。なにやら藍色の洋服を持ってきたな。

 

「これなんて絶対似合うと思います!イマドキの服で、人気も高いですよ!」

 

「うわぁ!私これ欲しいです!可愛いです!」

 

ツインテをピコピコと揺らして、蒼龍は小さく跳ねる。お前の反応の方が可愛いわぼけぇ。

 

「この服はカーゴリボンワンピースです。お客様は青や緑などのおとなしい色を感じることができましたので、大人しさを武器にする女性にはもってこいです!あとブーツを履いてみると、彼氏さんも虜ですよ!」

残念だったな。すでにイチコロ、もう虜。

 

「ふむふむ。なるほど!これなら提督も満足ですよね?」

 

ワンピースをじっくり見ていた蒼龍は俺に振り返り、目を輝かせる。うおまぶし。

 

「提督?え、提督?」

 

おい、店員困惑してるぞ。しまったな。提督と公然の場で言われるのは色々まずい。社会的に。

 

「ごほん。こら蒼龍。公然の場でも舞台の役で呼ぶんじゃない。普通に望と呼んでくれ」

 

個人的によくこんな嘘思いついたと思うよ。そろそろ頭が回ってきたな。

 

「え、提督は提督ですよ?」

 

「うん。わかった。もうそれで良いわ」

 

とりあえずこう言えば、蒼龍のみが痛い子と思われるだろう。すまぬ蒼龍。社会はそれほど、温かい目で見てくれないんだ。

 

「はぁ…?それで提督!どうです?私に似合うと思いますか?」

 

蒼龍はワンピースを手に取ると、身に付けるように肩まで上げて、くるりと一回転する。ちくしょうあざといな。だがそこが良い。

 

「うん。十分似合うな。まあ素足が半分ほど出ちまうが、それはタイツとか履けばなんとかなるやろ」

 

ところで店員さん。なんでそんな微笑ましい顔して俺たち見てるんです?恥ずかしいのでやめてくだち。

 

「店員さん。あと適当にTシャツと、タイツも揃えてあげてください。先ほど言ったブーツもあるなら、お願いします」

 

「わかりました!少々お待ちくださいね!」

 

もはや店員さんもノリノリだ。残念女子ばかり相手にしていたのだろうか?俺、失礼な奴。

 

「試着室を借りて、とりあえず買い次第着替えちまおう。早速あの服、着たいだろ?」

 

「もちろんです!あ、でも…」

 

元気よく返事を返してきたが、蒼龍は急に俯いた。何か変なこと言っただろうか。

 

「ん?どうした」

 

「いや…。ちょっともったいないなって」

 

「服は着ることに意味があるんじゃないですかねぇ。勿体ないのは、着ないことだぞ」

 

なんのための服だろうか。確かによそ行きの服とかはそんなに着ないとしても、あんなもの普通の洋服だ。着なければ意味がない。

 

「あ、いや。そういうことじゃなかったんですけど。まあ良いです!早く着たいですね!」

 

そういうことじゃないって、どういうことだ。俺には彼女がわからない。

 

「はい!ご所望のものをお持ちしました!」

 

店員が絶妙なタイミングで割り込んできた。これではどういう意味かを、問いただせない。まあ詮索するだけ野暮かね?

 

「…ああ、ありがとうございます。これ全部いただきますんで、着て帰ってもよろしいですか?」

 

「あ、どうぞ。って、その前にバーコードとか取っておきますね」

 

ポケットから店員ははさみを取り出すと、バーコード類を切り始める。さすがは服屋。手際良いな。

 

「はい。どうぞ!」

 

店員は蒼龍へと服を渡す。受け取る蒼龍はたいそう嬉しそうで、ほくほく顔だ。そんなにその服が気に入ったのか。

 

「じゃあ私、着替えてきますね!」

 

そういうと蒼龍は、先ほどの店員に連れられてきた店員2に連れられ、試着室へと向かっていく。まさか…おおよそ理解してたのか?この店員。

 

「では、お会計に行きますかね」

 

「わかりました。こちらです」

 

俺と店員はとりあえず、レジへと向かう。

レジへと着き切り取ったバーコードを並べて、店員は一つ一つ読み込んでいく。ピッピッと音を鳴らし、ゼロの数も植えていく。

 

「二万八千円になります!」

 

…。え?そ、そんなに?しま○むらは市民の味方じゃないのかよ!って待ってくれ、店

員。そんなやってしまったみたいな顔をするな。金はある。あるぞ!

 

「あー少々予想した金額と違ったみたいでしたね。まあ、これで」

 

俺は財布から三万円握りしめ、ドンとおきたい衝動に駆られつつ、おもむろに置く。まあ一般的に見れば、彼女に買う服の料金が足りなかったって、格好がつかない。くっそださい。

 

「二千円のお返しですね!ありがとうございました!」

 

店員はにっこりと笑顔を作って、俺へとお釣りを返す。そのスマイル。デビルスマイルにしか俺には見えんぞ。

 

ともかく信じたくないが、レシートを確認してみる。全体的にそこそこ値が張るものばかりのようだ。特にブーツ。なぜ金額を確認しなかった俺。浮かれすぎたのだ。

 

それから店の出入り口で蒼龍を待っていると、彼女はうれしさを体からふわふわと出しているように、俺の目の前に現れた。もうこの時点で、魅力爆発してる。俺の心にクレーター空いちゃってる。

 

 「お待たせしました!どうです?似合いますか?」

 

 いわゆるモデルのようなポージングを蒼龍はしてくる。さらに俺に追い打ちをかけてくるのか君は。もう俺の自制心。背水の陣だよ。

 

ゆったりとしたワンピースに黒タイツ。ブーツは足の長さを強調し、まさにモデルと言っても過言ではない。まあ正規空母勢って、みんなモデルみたいな体系だよね。美人でスタイル良いって、完璧じゃないですか。おまけに和服姿だし。あ、今の蒼龍は違うけど。

 

「さっきも言った通り似合うよ。やっぱり蒼龍は、青色も似合うね」

 

「あはは…。青色は加賀さんだと思いますけどね。でも、ありがとうございます!」

 

加賀はあいにくそんな格好に合わんよ。俺の観点だけど。あの人がワンピースとか来てる姿、ちょっと想像できない。あ、でもそれはそれで、ありかもしれない。俺の心、揺れまくり。

 

「さて、行きますかね。そろそろ腹も減ってきたところだ」

 

「同感です。私、おなかと背中がくっつきそうです」

 

「おいおい。もうお金も少ないし、たらふくくわせれねぇぞ。まあ俺、車取ってくるわ」

 

某赤い正規空母の人よりは食わんと思うけど、蒼龍も立派な正規空母。俺の財布がゴーストタウンにならなければよいが…。

 

俺はそんな思いをはせ、とりあえず走りだしたのだった。

 




どうも、センブスターです。
現在絶賛爆走中で書いていますが、さすがに一日五千文字付近を毎日はつらいと感じてきました。まあ、いけるところまではいくと思います。
あ、サンマイベ始まりましたね。いまごろポッポちゃんがかわいそうなことになっているのだろう。そうであろう?

では、また不定期後(一日後?)に!


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昼食です!

車に乗り込んだ俺たちはとりあえずしま○らを後にして、手前の通りを走っていた。

 

蒼龍に買った服による大ダメージを受けた俺は、飯を安上がりで済ませようと考える。確かこの通りに、ファミレスがあったはずだ。ほら、おもにイタリア料理を扱うあの店。割とよく行くし、飯もまずくはない。

 

 「それで、どんな料理を食べに行くんですか?」

 

 考え付いた矢先に聞いてくるとは、さすが蒼龍。感がいいな。シックスセンスかなんかか?それとも空腹センサーによる反応か?

 

 「あー。イタリア料理を食べに行こうとね。結構おいしいんだ。ファミレスだけど」

 

 「ふぁみれす?ってなんですか?」

 まあわかるわけないよね。いちいち説明しないと。

 

 「正確に言うとファミリーレストラン。日本語に直すと家族食堂。安くてうまい飯が食える。庶民の味方」

 

 なるほどと、蒼龍は理解したようだ。ぶっちゃけ昭和初期にはどんな店とかがあったかしらねぇけど、なんとなく察せる描写が頭に浮かんだのだろうか。

 

 「しかしイタリア料理ですかー。あっ!その端っこの方から使うんでしたよね?」

 

 蒼龍は手前の空間をテーブルに見立てて、わりと端っこの方からナイフとフォークを取るであろうしぐさをする。べつにイメトレしなくても十分食っていけるぞ、あそこ。金持ちなんてあそこよりもっと高い店行くわ。うらやましいわ。

 

 「まあ、そこまでマナーを求められてはねぇな。せめてナイフとフォークの持ち手くらいは覚えておいて損ないけど」

 

 「え、でもイタリアさんとかローマさん。イタリア料理を食べるときは肝心だって…」

 

 「地元民こわ。ちかよらんとこ。そこまで庶民に求められても困るわ」

 

 テーブルマナー発祥はイタリアの貴族らしい。あいつらもまさか本来は貴族だったとか。ローマとか特にローマしてそうだしな。皆ローマは心にある。ローマもY字に立ってくれないですかね。これ以上は怒られるわ。

 

 「そういえば、提督。その…しゃらしゃら?してる生地の服。なんでずっと着てるんです?着替えてこなかったんですか?」

 

 あ、そういえば寝間着のジャージを着たままだった。上はそれこそウインドブレーカーを着ているけども、さすがに格好着かないね。中学か高校のいきってるヤンキーだねこれ。

 

 「あー。まあいいんじゃね?俺は常に動きやすさと機能面を重視しているんだ。だからこの服も、一種の戦闘服なのだ!」

 

 動きやすいことも機能面も優秀なのは真実だ。嘘ついてない。

 

「おお!さすがは提督ですね!いついかなる時でも戦えることを心がけるなんて、私尊敬しますよ!」

 

蒼龍は目を輝かせて言う。やめろ。戦ううんぬんはまるっきり嘘だよ。面倒だっただけだから。無垢な顔で俺を見るな。そんなこと考えたことないわ。平和ボケ絶好調だわ。

 

「ふふふっ…嘘ですよね?」

 

「こっの!わかってんじゃねーか!」

 

なんか俺、蒼龍に遊ばれてる気がする。

 

 *

 

 

 さあ着いた。店内に入り、カラランと音がする。

 

 「いらっしゃいませー。お二人ですか?」

 

 「はい。あ、喫煙席…って」

 

 そういえば蒼龍も居るんだった。ついつい無意識に、いつもの感じになってしまったな。

 

「蒼龍。お前煙草の煙大丈夫だった?」

 

「え、ていと…じゃ、なかった。望さん煙草吸われましたっけ?」

 

お、早速間違えずにいえたぞ。先程、あらかじめ車で話したことを実践できてるようだ。

 

「うん。嫌ならやめるけど?」

 

「大丈夫です。煙草とは違う煙で慣れてます!」

 

ちょっと誤解招く発言に聞こえるけど、たぶん硝煙のことを言っているんだろう。断じて怪しい煙とかじゃない。店員には悪い意味で聞こえていそうだけど。そこまで一店員が詮索しては来ない。聞いたら失礼だ。

 

「では、喫煙席でよろしいですね?」

 

「はい。お願いします」

 

俺の受け答えに店員は「こちらです」と案内してくれる。幸いというか、喫煙席は空席だらけで、ほかの煙に蒼龍を汚される心配はないな。まあ煙草、最近は排除傾向にあるから。吸う人少ないんだろうな。かなしみ。

 

座席へと座り、俺と蒼龍はメニューを見る。蒼龍はおそらく山ほど食いたいだろうから、一番安いドリアにしておこうか。

 

「決まったか?」

 

煙草を取り出すと、俺は火をつけながら聞いてみた。蒼龍はメニューをじっと見て、黙り込んでいる。

あ、吸っている煙草は俺の苗字を英語訳したやつ。タールは7。狙っているわけじゃない。この味が好きだからだ。話のネタにはなるけどね。

 

「ん~。迷っちゃいますねー。望さんはどれにしました?」

 

「俺はこれ、ドリア。安いしうまいし一石二鳥。まあ他のも頼むけど」

 

あとはチョリソーとかプロシュートとか頼もうか。あれ、これ逆に値段嵩むんじゃ…。

 

「私もこれにしようかなぁ」

 

「量が少ないぞ?いいのか?もっとがっつり食べたいだろ?」

 

昼にはがっつり食べるのを控えている俺だが、蒼龍はきついはずだ。仮にも正規空母だし。大食いキャラではないにしろ、相応の量を求めるだろう。

 

しかし、そう思った矢先。蒼龍は頬をふくらませた。

 

「むー。私、そんなに食べるように見ます?」

 

「え、食べないの?」

 

「もお。私は赤城さんほど食べませんよ。それに、資材と言っても艤装が必要とするわけでして。食事は食事ですからね?」

 

なるほど。つまり君らは普通の食生活をしているというわけなのか。赤城以外。蒼龍公認したし。

 

「いや、そういう事情とは知らなかった。まあ俺たち提督はあくまでも君らを画面越しから指示しているわけだし…鎮守府の日常がどうなってるかは、知らないんだ」

 

「そうでしたね。私たちもそれは同じでした…あはは」

 

双方違う世界の者同士、違うものが見えてくる。それはどこか不思議だが、嬉しい事ではないだろうかね?俺はそう思う。知らないことを知るのは、心躍ることだ。

 

「で、何にすんのさ」

 

「じゃあ私はこれで!」

 

蒼龍が指さしたのはキャベツの入ったペペロンチーノだ。わりと辛いけど、大丈夫なのだろうか。彼女はもう少し、洒落ている物を頼むと思ったのだが…。そう例えば、アラビアータとか。ってこれも辛いわ。こっちの方が辛かったわ。でも洒落ているでしょう?え、思わない?

 

「あ、ワインもあるんですか?」

 

メニューをぱらぱらめくる蒼龍は、どうやら酒に目が行ったらしい。

 

「昼間から酒飲むのか?俺はドライバーだから必然的にのめんぞ」

 

飲酒運転はマジダメ絶対。ドライバーの基本だし、人としても基本。これを守らない奴は、クズだろうよ。

 

「でも隼鷹さん。お酒をお昼から飲みますよ?あと、憲兵さんたちはお酒飲んで運転するときありますし」

 

おい憲兵。人としてクズだったのかよ。最低だわ。あ、ここは平成の世だから、君らの手は届かないぞ。フハハ言いたい放題。

 

「あいつはいろいろ終わってるから。ただののんべぇだから。憲兵はしらん」

 

俺の言葉に、蒼龍は「ですよね」と苦い顔をする。まあ、こういう顔するよね。俺の地元友人が昼間から酒飲んでた時も、こんな感じの顔をしたと思う。因みにもちろんそいつも、飲酒運転はしないぞ。奴はドライバー意識高い。

 

その後蒼龍は、サイドメニューにサラダを選ぶ。トッテモヘルシー。女の子だねぇ。いわくサラダから食うと太りにくいらしい。そう考えるとますます乙女だわ。

 

ちなみに俺は、蒼龍の予想外の発言によりドリアからカルボナーラと変更。サイドメニューはチキンを頼んでみた。チキンは蒼龍が欲しがったら分けれるしね。

 

「じゃあ注文しよか。ぽちっとな」

 

店員呼び出しボタンを押すと、しばらくして店員が駆けてくる。このボタンの正式名称、なんだろ。

 

「お待たせしました。ご注文は?」

 

店員は電子機械を片手に、俺たちへと注文を聞いてくる。

 

「ドリンクバーはお付けしますか?」

 

選んだメニューを注文する中、店員は俺に目線を合わせてきた。必ず聞いてくるよね。これ。

 

「あ、お願いします。二つで」

 

「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい。お願いします」

 

俺がそう言うと、店員は再び来た道を戻っていった。わりと忙しそうだ。人が少ないのかもしれない。

 

「さて、飲み物取りに行くかね」

 

「え?店員さんに頼むんじゃないんですか?」

 

「おう。ここはセルフサービスという名の、自分で取りに行ってこいスタイルだ。飲み物は自由に選べるぞ」

 

毎回思うけどセルフサービスってサービスなの?俺はこうとしか思えないんだけど。仕事効率は確かに上がるだろうけど。

 

「どんな飲み物があるのかなぁ?」

 

とりあえずドリンクサーバーまで歩き、コップを手に取ると、それを蒼龍に手渡した。俺は慣れた手つきで、コーヒーを入れる。砂糖やミルク入れない。ブラックこそ嗜好。人それぞれだとは思う。

 

「て…望さん!この『りあるごーるど』ってなんですかこれ?」

 

定番な事聞いてきたな。じゃあ定番な答えで返してみよう。

 

「きいろいえきたい」

 

「きいろいえきたい?」

 

復唱しましたねぇ。いいですねぇ。まあ予想ついてた。ついカッとなって言わせた。どこもいかがわしくなはず。違う液体を想像した奴は表出ろ。俺も出なきゃ。

 

「飲んでみればわかる」

 

「わ、わかりました…」

 

蒼龍は若干戸惑い気味で言うと、コップを置いて、じっと待つ。

 

「…いつ出てくるんですか?」

 

押すボタンみえないんですかねぇ。ちょっと抜けてるのか、やっぱり。

 

「ここ押すの。はい」

 

ピッと音が響き、リアルゴールドが出てくる。うん、きいろいえきたい。まだいうか。

 

「はい。どうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

蒼龍は律儀に両手でコップを持つと、俺を待つ。俺も待たせまいとソーサーは持たず、席へと戻った。

 

さて、蒼龍は初リアルゴールドを口へと運ぶ。べつに恐る恐る運ばなくてもいいんじゃないか?まあ飲んだことないから怖いのはわかるけど。

 

「…あの。なんか…不思議な味ですね」

 

うん。普通の反応したよ。てか率直すぎる感想だわ。

 

「栄養ドリンクみたいなもんだしね。嫌いだった?」

 

「いえ、ちょっと不思議な味でびっくりしました。得に感想思いつかなくて…」

 

「まあいちいち変な感想を期待してはいないさ」

 

人間だもの。と、付け加えるのは我慢した。この言葉便利すぎ。

 

「望さんは香りからして珈琲ですね?」

 

「ああ、コーヒー好きなんだ。レポートや文献課題をやるときの、強い味方だよ」

 

そういって、俺は珈琲を口に運ぶ。やはり苦味が強いな。そこが好きなんだけども。

 

「ふふっ…イメージ通りだなぁ」

 

すると蒼龍がにこにこと笑みを浮かべ、唐突に呟いた。イメージ通りってのはどういうことだろうか。

 

「ん?珈琲飲んでる姿がか?」

 

「はい。望さんは珈琲がよく似合う方だと思っていました。煙草を吸うことももちろん。ひげも濃いですし、私が予想していた通りですよ。男らしくて、素敵な方です」

 

「は、はは。照れるわ…」

 

照れるどころの騒ぎじゃない。体が熱くなってきたわ。まったく、うれしいこと言ってくれるじゃないか。マジ恥ずかしいわ。

 

「いやな、別にかっこつけてやってるわけでもないし、だからと言って意識しているわけでもなかったわ。煙草は課題のストレスから。珈琲は趣味。ひげは直ぐ生えてきてね、剃るのがめんどくさいだけなんだ」

 

「そうなんです?まあそれでも、私の理想通りですから!」

 

くそ!お前さらっと恥ずかしいこと言いすぎだろ!これじゃ俺が攻略対象みたいになってるじゃないか。飛龍もたいへんだろうよ!

 

「そ、そうかい。まあお前の理想から外れないように頑張るかな」

 

「ふふっ。大丈夫ですよ。もうすでに理想ですから」

 

まだいうか。もう勘弁してくれ…。照れと恥ずかしさで死んでしまう。

 

 

それから俺たちは運ばれてきた料理をだいぶ片づけ、ほぼ帰宅ムードとなっていた。結局は蒼龍の食いっぷりもよかったよ。なんだかんだ言って、チキンも大体食われたし。

 

「ふう、おいしかったですね。ごちそうさまでした!」

 

蒼龍は手を合わせ、食い終わったことをアピールする。俺が言うのもなんだけど、お粗末様でした。まあ奢ったのは俺だから、言うべきか?

 

「あ、そうだ蒼龍」

 

満腹感に浸っている蒼龍に、俺は思い出したように声をかけてみる。

 

「はい」

 

口元をナプキンで吹いて、蒼龍は返事を返す。

 

「一息ついたら、いったん家に帰るぞ。家族に事情を説明しない限り、家にはおけないと思う」

 

おそらくは、もう帰ってきただろう。妹のSNSで帰宅報告も確認した。と、言うことは送迎をしている母親も帰ってきているわけで、家族二人は確実に家にいる。親父はたぶん、ゴルフに行ってる。

 

「つ、ついに望さんのご家族と…。失礼のないようにしないと…」

 

うわ。ベタベタな反応したよ。勘違いちゃんだよ。

 

「まあさすがに結婚を約束したとはいえんよ。だから彼女ってことで紹介するけど…」

 

「え?あ、はい。わかりました…」

 

やはりというべきか、蒼龍も理解をしたようだ。ごめんな。残念そうな顔はしないでくれ。

 

「あの…提督」

 

―ん?わざわざ提督と言うのか。何か重要な話だろうか。

 

「なんだー?」

 

俺は聞く姿勢を保ちつつ、煙草に火をつける。息を吸うように煙を吸引し、それを吐き出した。灰に入れないのは、いわゆる金魚と言うやつだぞ。

 

「その…言うタイミングを逃していたので今聞きますけど。私のこと、どう思ってます?」

 

「うーむ。どうって?」

 

「私、こっちに来るとき、もうすぐにでも結婚できると思っていました。でも、それは私の早とちりみたいな感じで…。この指輪、仮初の約束なんですよね?」

 

そういって、蒼龍はカッコカリ指輪を見せてくる。うーん。まずいなこれは。

 

「あー。ちょっと長くなるけどいいかな?」

 

「はい」

 

蒼龍は姿勢を正し、俺の話を聞く体制になる。やっぱり根は真面目なんだな。

 

「あくまでも俺の軽はずみ的行動だったのかもしれない。所詮は済む世界が違うと思っていたからね。だけど、こうして会話し、一緒に食事をし、俺も考え方が変わってきたよ。そう、今の運命の人はお前なんだ。だから結婚まではまだ無理だけど、一緒に生活をしていこうさ。だから以降。お前以外とは仮契約しないよ。ぜったいだ」

 

すらすらと表情を変えずに言ったが、やっぱり恥ずかしい。遠まわしの告白だからね。まあ仮契約しているのは蒼龍だけだし、もとから他とするつもりなかったのは確かだ。

 

だけど、蒼龍はそれで満足だったのかもしれない。恥ずかしさ紛れに煙草を吸引していると、俺の左手を手に取ってきたのだ。それは優しく、蒼龍の温度を感じれる。

 

「はい…。はい!約束ですよ!いつまでこちらに居れるかわからないですけど…。それまでは私の運命の人としていてください!」

 

ああ。もう言い逃れはできないな。こう言ってしまえば、俺の彼女はこいつだ。

 あとの障害は…俺の家族だ。うちの家族は…言ってしまえば融通が利かないんだ。

 

 




どうも、セブンスターです。
とりあえず一日おきの投稿続けます。セブン、がんばります!(榛名感

あ、あとがきはこれだけです。感想とかもどんどんくれたらうれしいなぁ(´・ω・`)


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家族会議と、艦娘の声です!

6000文字まで行ってしまった…。


家族会議と言うものをご存知だろうか?

 

名前の通り、家族で話し合うことである。ただの日常会話ではなく、何かの取り決めをする際にはこの名前が合うはずだ。それは旅行先の取り決めであったり、時には一人に対し、説教を片っ端から行うのも、一種の家族会議である。

 

で、まあなんでこんな話をしたのかというと、俺と蒼龍は今その家族会議中であるからだ。おふくろと妹だけならこんなことにはならなかったものの、不幸にも親父がゴルフから帰ってきて、ここまで発展してしまった。

 

ちなみに家でこうして家族会議が開かれたのは、ずいぶんと久しぶりだ。中学生時代の頃にヤンチャしており、その時はよく開かれたけど、高校に上がると同時に俺がおとなしくなると、めっきり行われなくなった。つまりうちで開かれる家族会議は、大体俺の所為。

 

「ふーむ。つまり蒼柳さんは、しばらくうちに居させてほしいということなのかね?」

 

重圧的な態度で、親父―七星賢人は蒼龍へと問う。

 

ちなみに蒼柳とは蒼龍のことだ。彼女には蒼柳龍子と言う偽名を使ってもらっている。安直な名前だが、頭文字を取ることであだ名を『蒼龍』と呼べるのは、割と良い案じゃなかろうか。

 

「はい…。先ほども言いましたけど、私は養女としてとある家族に養って頂いていましたが、そちらの家族問題で家を出ることになってしまって…。あまりにも突然すぎて、一人で住む用意もできず…望さんに声をかけていただきました」

 

養女と言うのも、俺が急きょ考え出した嘘だ。蒼龍は身寄りのない子として育ち、そのまま真面目に育ったという設定にしている。しかし実際艦娘って、人間なのか機械なのかよくわからないよね。今俺の横にいる蒼龍は普通の女の子だけど…。

 

「かあさん。どう思う?」

 

親父は腕を組み、おふくろ―七星朝日へと問う。

 

「私は…あまり良いとは思わないわねぇ。第一、望に彼女が居たことなんて、初めて知ったわ。時代遅れの顔してるのにねぇ」

 

おい、それはどういうことだ。確かに昭和に生まれればイケメンとか言われたことあるけどさ。かつらも似合うとか言われるけどさ。実の息子にそれはひどいんじゃない?

 

 「うーむ。若葉はどうだ?」

 

 「わたしは賛成かなー。だって龍子さんともっと話して見たいしー。にいちゃんの彼女初めて見たし」

 

 よく名前が出てくるが、改めて妹の七星若葉は、どうやら賛成してくれるようだ。割と鬱陶しい妹だけど、こういう時は俺の味方をしてくれる。兄妹の絆は、割と深い。

 

「一応補足しておくけどさ、蒼龍とは…あー龍子とは付き合いが長いんだよ。もう三年は続いているんだよね」

 

艦これが始まったのはちょうどそれくらいだったはずだ。それも初期のころに出会ったし、まったくと言っていいほどの嘘はついていない。

 

「俺はそんなお前の浮いた話は聞いたことない。かあさんにも若葉にも言ってなかっただろう?そういう話を少しでも耳に入れていたのなら、まだ話は変わるが…。今日初めて『俺の彼女を紹介する』と言われても、いまいちピンとこない」

 

くそ。やはりいつもの正論でねじ伏せる行動に出てきたな。この人のいいところでもあるし、悪いところでもある。

 

「俺の性格はわかってるだろ?言いたくなかったんだよ。茶化されるからな。第一こんなことになるなんて、俺も思っていなかったさ。でも、かわいそうとは思わないのか?」

 

「…思わないわけが無いだろう。龍子さんはとても気の毒だ。だがな、まだ何回か面識があったら信用できるものの、今日初めて出会った他人をいきなり家に置くことはできないだろう?常識的に考えろ」

 

でたよ。親父お得意の『常識的に考えろ』。あんたの常識なんてしらねぇよ。って、まあ今回は常識的に考えてぐう正論だけど。

 

「常識的じゃないのは重々承知。だけど急すぎたんだ。そもそも、おいおい紹介しようとは思っていたけどさ」

 

「まったく。だからお前はバカなんだ。いつも物事の先を見据えて生きろと俺は言っていただろう?何のために剣道をやっている?」

 

確かに剣道は二手、三手を見据えて技を繰り出す必要もある。先を見据えれないものは、負けるといっても過言ではない。だけど、それは今と関係がないはずだ。なんでも結び付けれると思うなよ。俺は身を守るために剣を学んでいるんだ。

 

「ところで…龍子ちゃん。あなた歳はいくつなの?」

 

俺と親父のいらだちをなだめるかのように、おふくろが蒼龍へと話を向ける。

 

「一九歳ですね」

 

「あら…まだ成人ではないのね。それは私ちょっと心配かも」

 

 そういって、おふくろは親父へと目線を向ける。さすがの親父も未成年と聞けば、顔を歪めた。

 

「その身なりだが、成人ではないのか…。一人で放り出すのは、確かに危ういといえば危うい」

 

さすがはおふくろ。親父の心が少し揺らいだぞ。

 

「だが…やはり信用ができない。まず、龍子さんはなぜ息子にひかれた?それが一番わからんのだ。そんな美人なら、うちの息子じゃなくてもいいはずだ」

 

またか。あんたもか。どうしてうちの両親は俺にひどいことを言うんだ。確かに自慢できるようなイケメンではないですよ。むしろ厳ついって評判の顔ですよ。時代劇で言う切られ役的な顔ですよ。だけど、それでもひどくね?実の息子ディスりすぎじゃね?あ、切られ役の方は、割とあこがれてます。

 

さて、そんな俺のことはさておき、蒼龍は親父の問いかけにさも当たり前のように言葉を返した。

 

「それは決まっています。優しいところです。私がひどく落ち込んでいた時も、元気を出すように声をかけてくださいました。普段は口使い荒いですけど、時に見せてくれるそんなところに、私は惹かれました。この気持ちに嘘はありません!」

 

「あ、ああ。そうかい。…なあ望、お前騙されてるんじゃないのか?違うか?」

 

蒼龍。お前の天然ジゴロっぷりに親父、ハトが豆鉄砲食らったような顔してるぞ。蒼龍すげぇ。いろいろと。

 

「うーん。騙されてないと思う」

 

「そうか。いや、そうだとしてもな…」

 

親父はさらにうなり始めた。この人もなんだかんだ言って情の熱い人物なんだ。おそらくそんな持ち前の情が、一家の大黒柱を揺らしているのだろう。

 

「そういえば、龍子ちゃんは学生さん?」

 

「あ、はい。奨学金で頑張ってます」

 

「あら、たいへんねぇ。ふふふ…望が早く就職すれば、楽になるわ」

 

おふくろ。ど直球で言すね。それ、要するに結婚認めたってわけだよね?そんなに俺に彼女ができたことがうれしいか!

 

「え、あっ…はいぃ…」

 

まあ、さすがの蒼龍も感づくよね。顔を赤くして、小さくなってしまった。

 

「信用できん。いったい望はどんな魔法を使ったんだ…」

 

親父。俺じゃないけど蒼龍が魔法を使ったんだ。いや、明石か?

 

「…まあ、見たところ悪い子でもなさそうだし。何より愛想もいいな。うーむ」

 

「お父さん。いいじゃありませんか。責任はすべて望が取ると言っているのですよ?」

 

「まだ望も二十一歳だ。とても責任を取れる年齢ではない。だが…」

 

親父は言葉をいったん区切り、再び口を開く。

 

「そうだな。一つ条件を出す。それを飲めば、置くことを許可してやる」

 

「なんだよ。その条件って」

 

切りのいいところで区切ってくる親父に少々苛立ちつつ、俺は催促をした。

 

「まあ待て。いいか龍子さん。ひと月二万…この七星家にお金を納めなさい。いわゆるこの家に住む『家賃』。それが条件だ」

 

なるほど。確かに相応の…いや、むしろとんでもなく良い条件だ。だが、蒼龍はバイトができない。いや、そもそもこの世界の、日本人としての証拠や証を何も持ってはいない。彼女はこの世界で、本来存在しないからね。

 

―まずいな、どうしようか…。

 

「わかりました!」

 

え、蒼龍。今なんと?

 

「その条件をのませていただきます。それだけですもんね?」

 

そういって、蒼龍は頭を下げる。おいおい勝手に話を進めてはまずい。金のことはどうするんだ。

 

「そうか。飲んでくれるんだな」

親父も待ってくれ。蒼龍と話をさせてくれ。って、この人に事情説明してないし。積みましたわ。

 

まあこうして、何とか蒼龍は七星家の居候になることができた。

 

どうやら本心は、親父もおふくろも信じたかったみたいだ。だが、あえて親としてのメンツで、蒼龍に言い寄ったと見える。いつもなら融通が利かないが、あっさりしすぎて予想外だ。

 

しかし、蒼龍が俺の決定を待たずに口を開いてしまった。なぜそうしたかはわからないが、もしかしたら何か思い当たる節があったのかもしれない。さて、どうしたものかな。

 

 

とりあえず家族会議を終えた俺と蒼龍は、自室へと上がった。

 

若葉とおふくろに質問攻めをされていた蒼龍であったが、割と難なく返せていたようだ。ただ、おふくろに昭和臭いといわれたことは、正直ドキリとした。

 

「ふう。何とかなったね」

 

椅子に座り、俺のベッドに腰かけている蒼龍へと声をかけた。

 

「あはは…思っていたよりやさしいじゃないですか。みなさん」

 

「まあね。なんだかんだ言って、やっぱり家族だし…って、蒼龍にはわからないことか。すまん」

 

艦娘の家族事情はどうなっているのだろう。いや、そもそも彼女たちに家族という概念は何だろうか。しかし結婚の意味は分かっているようだし…。

 

「大丈夫ですよ。私の家族は、鎮守府のみんなと提督ですから」

 

ああ、そういうことなのか。俺も含まれているのかと言う疑問はさておき、鎮守府の皆をも家族と思っているのなら、それはそれで寂しくないのかもしれない。

 

「あ、そうだ。艦これやらなきゃ」

 

今日は蒼龍に付きっ切りだ。艦これを触る時間はほとんどなかった。デイリーだけ終わらせて、とっとと寝てしまおう。今日はすこぶる疲れてしまったぞ。

 

「あっ…私。作戦に参加できないじゃないですか!ど、どうしましょう!」

 

え、今更それに驚くの?遅くない?まあ蒼龍が居なくなったことは痛手だけど、轟沈ではないからダメージはない。むしろプラスに働いている。

 

俺はパソコンを立ち上げると、読み込みが終わりパスワードを打ち込み次第。すぐに艦これを開いた。さすがに二回目は、蒼龍もかーんーこーれとは言わなかった。

 

「さーて、まずは任務だな」

 

俺は任務画面を開き次第、出撃の任務にチェックを入れようとする。すると。

 

『あ、提督。今日は蒼龍さんとお出かけでしたか?』

 

…。は?え、大淀さん何を言っているんですかね?

 

「へぇ。任務を受け付けるとき、こうなっているんですねぇ。なんか新鮮です」

蒼龍が俺の後ろから、画面を見てくる。ちがう。もっとおかしいとこあるでしょ。

とりあえず大淀さんは先ほどの言葉以外何も言わない。まあ仕様上そうなってるから仕方ないね。とりあえず出撃の任務を選択しよう。

 

「蒼龍がいないし。代わりにだれを旗艦にしようか…」

 

「任務に合わせればいいんじゃないですか?またオリョールに出撃するんですよね?」

まあそうだよ。一番それが消化に楽だし…。と、言うわけでゴーヤを旗艦にしてみる。

 

『てーとくぅ!もうオリョール行きたくないでち!』

 

幻聴だ。聞こえないぞゴーヤ。次はイムヤを入れなければ。

 

『うわあああああ!やめて!司令官の鬼いい!』

 

こっちがうわぁだわ。こう聞こえるとすっげぇ罪悪感だわ。てか俺そこまでクルージングやってないだろ!

 

「提督…ちょっと潜水艦の子たちかわいそうじゃないですか?」

 

くそ!聞こえるようになった途端俺に文句を言ってくるようになりやがって!

 

「あーうん。やめよか。そうだレベリングをしよう。3-2-1でレベリングだ」

 

蒼龍が居なくなった枠は加賀を入れればいいはずだ。加賀は手に入れたのが割と後だったし、致し方ないレベルになっている。

 

とりあえず騒がしい潜水艦たちを外すと、育てる候補の如月を旗艦にしてみる。改二まではまだまだレベルが足りない。

 

『蒼龍さんずるいわぁ…。私も司令官のおそばに居たいもの…』

 

お前もかよ。お前もそういうこと言っちゃのか。

 

「ごめんなさいね。私も提督に会いたかったもの」

 

『まあいいわ…。私よりも蒼龍さんの方がお似合いだもの…』

 

ありがとう如月。お前いいやつだな。

 

さて、次は一軍たちだ。飛龍、武蔵、霧島、初霜、叢雲…この5人が最も育っている。武蔵はあいにく燃費が恐ろしいほど悪いの言うまでもないよね。今回は入れないとして…。って、いつもの癖で入れてしまった。変えないと。

 

『提督よ。私を外さないでおくれ。燃費が悪いのは大和型だからな、仕方ないだろう?』

 

「…俺の心って常に聞こえてるの?蒼龍?」

 

なんで俺の心読んだようなセリフ吐くんですかねぇ。武蔵さん。

 

「あー。その…武蔵さんもかわいそうですね」

 

うん。なんかごめん武蔵。外してしまおう。武蔵の『おーい』と言う声が聞こえた気がするが、空耳だ。聞こえない。

 

「で、加賀を入れてっと…」

 

『蒼龍。あなた戦場を放棄してラブロマンスなんて良いご身分ね』

 

うわぁ…。この人直球だよ。加賀さんは加賀さんだよ。イメージ通りだよ。

 

「す、すいません加賀さん!」

 

蒼龍は画面越しから頭を下げる。加賀こわ。

 

『まあいいけれど。私がしっかり働けばいいもの、あなたの分まで。もう帰ってこなくていいわ』

 

あの…もしかして一軍に入れてなかったこと、割と悔しかったんです?ちなみに赤城は、まったく育てていません。ごめんね、赤城。

 

「さて、次はと…」

 

お次は霧島を入れてみる。こいつらの反応。なんだか楽しくなってきた。

 

『そっちのマイク感度は大丈夫みたいですね』

 

マイクチェックにこだわりすぎじゃないですかねぇ。霧島さん。

 

さて、お次は叢雲…。

 

『ふんだ!そっちに行けなかったこと、別に悔しくないわよ!あんたなんか知らないんだから!』

 

ぐうツンデレ。絵にかいたようなツンデレ。ぶれない叢雲さんに笑いがこぼれるわ。ちなみに俺はロリコンじゃなくてね。君はストライクゾーンから外れているぞ。可愛いけど。

 

『提督…その…私も見てみたかったです。外の世界。どんなところなんでしょう』

 

初霜は控えめだなあ。ロリコンじゃないけれど、初霜はかなり好き。妹みたいじゃん?リアル妹の若葉と比べて、ぐう天使。

 

「さてと…最後は…」

 

蒼龍の次にレベルの高い飛龍。彼女は現在結婚手前レベルで、迷わなかったと言えば嘘になる。実は蒼龍の次に出た空母は、彼女だったのだ。割とマジです。嘘じゃないです。

 

『…蒼龍。私に相談しなかったのはなんで?』

 

艦隊に入れたとたん。冷たく低い声が聞こえてきた。すっげぇ怒ってらっしゃる?

 

「飛龍…ごめんなさい!」

 

『ちょっと悲しいわ。うれしいのはわかるけど…せめて相談してほしかった…』

 

「でも…きっと飛龍は止めてたでしょ?危ないからって!」

 

蒼龍、感情的になっていけない。相談しなかったのは、さすがに悪いと思うぞ。

 

『当り前じゃない!だってもし…もしそのままいなくなっちゃったら…私悲しいもの』

 

「飛龍…」

 

ぎゅっと胸元を抑えて、蒼龍はベッドへ座り込む。これ以上、聞きたくないのか?

 

『でもいいの。いいのよ。あなたは幸せをつかみ取ったもの。命を顧みずにだけど…成功したなら、それでいいと思うな』

 

「あ…飛龍…ありがと!うん。本当にごめんね!」

 

二人とも、なんだかんだ言って仲がいいな。ほほえましい。両者は良い理解者なんだろう。

 

『あ、提督。装置が直り次第私もそちらに向かいますね。いろいろと教えてください!』

 

うん。いいよ。いいですとも。まあ帰れる保証もできたらの話だ。さすがに二名も、家には置いておくことはできないし。

 

「よし、じゃあ出撃しますか。キス島に」

 

その後、キス島の3-2-1を完全勝利で納めると、即座に撤退をした。即時撤退をしたことによる艦娘たちからの非難の声が聞こえてきたのは、もはや言うまでもないよね。

 

 

 

 

 

 




どうも、セブンスターです。
なんとか間に合ったー。一日投稿まだまだできそうです。
さて、今回ちょっとした裏話を。
実はこの話、家族会議をメインにする予定でしたが、あまりにも内容が重くなりそうなので、除きました。私がこの話を書く理由として、第一に『楽しんでもらいたい』ですので、従来よく書いているシリアス系統をできるだけ省かせていただきました。現実的に考えるとどうしても小難しい話になってしまうんですよ。私は…。

さて、この調子で明日も頑張ります。明日じゃなくなったら、あらかじめ謝ります。すいませんでした!

※追記
親父の賢人は煙草のKENTから、母親の朝日はWW2前の口付け煙草のあさひからです。


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三時のおやつです!

蒼龍が家に来てから数日が経った。

 

時が経つにつれ、蒼龍はうちの家族と仲良くなってきたのは言うまでもない。もともと蒼龍のコミュニケーション能力が高いこともあり、直ぐにでも打ち解けれたのだ。妹は蒼龍と恋愛トークに花を咲かせたり、母親は蒼龍に似合う服を選びに行ったりもする。親父は会社から帰ってくると俗に言うスイーツを買ってきたりと、見事な愛されっぷりだ。俺がいる意味なくね?てか受け入れた途端、皆さん優しくしすぎじゃね?

 

と、まあそんな感じで自信をなくしそうな俺だが、なんだかんだ言って蒼龍は俺と行動することが多い。最近はゲーセンデビューを果たしたり、日課の素振りやランニングに付き合ったりと、俺が行う事を積極的に参加してくれるのだ。

俺の趣味なのに、合わせてくれるのはありがたい。てか、蒼龍はそれが当たり前と思っているようで、むしろ楽しんでやってくれている。どうやら彼女は趣味を共有したい女性らしい。

そして今日も、ランニングに付き合ってくれている。以前は付近の道を走る程で済ましていたが、蒼龍が参加する事となり、もう少しだけ距離が追加された。蒼龍に地元を紹介できるいい機会ではあったが、何より艦娘だからかしらんけど、涼しい顔してついて来るんだもの。多少は意地を見せないと、格好がつかないじゃん。

 

「ふう、やっとついた…づがれたぁ」

俺は家の近くまで戻ってくると足を止め、息を整える。日課ではあるものの、陸上部のように走り慣れている訳ではない。と、言うかもともと走る事は好きではなかったりもする。あくまでも走る理由は、試合継続能力を長くするためだ。

 

「もお。だらしないですよ?それでも男の子ですか?」

 

ランニングウェアの蒼龍は、ころころと笑う。うーむ。その服も随分と魅力を引き出していますねぇ。色々と体に悪い。特に下の方。てかそんな重そうな物二つ持ってるのに、良く疲れないね、君。

 

「はあ…はあ…あ、あいにく俺は軍人じゃなくてね…。まだ学生なんですよね」

 

こんな事しか言えない自分が悔しいわ。情けないわ。結局鍛錬しても、民間人はこの程度なんですよ。てか、俺の鍛え方がまだまだ甘いのか。

 

「ふう、私も走ったらのど乾いちゃいました。取ってきます?まだ素振りあるんですよね?」

 

いろいろと付き合ってくる蒼龍だが、素振りには参加しない。あくまでも蒼龍は見ているだけで、俺がやる鍛錬だ。まあ見ていてくれるだけでやる気は出るもんだ。それと彼女の主な武は弓術だからね。素振りをする必要は全くない。

しかし、そういえば弓術の鍛錬、彼女は怠っていいのだろうか。場合によっては買ってあげないとな。出費が嵩む。

 

「ん。お願い」

 

「わかりました!」

 

元気よく蒼龍は答えると、家へと入っていく。俺も家の敷地に入り次第、あらかじめ庭に置いておいた素振り棒(普通の木刀よりも太く重い、素振り専用の棒)を手に取り、振りを始めた。

 

それからしばらく素振りをし続け、やっと最後の一セット。蒼龍がたまに「頑張ってください!」と声をかけてくれるので、まったくもって辛くない。腕は痛いけどね。

 

「97…98…99…100!だあ!」

 

よし。ついに目標の100本の3セットが振り終わった。

俺はこういうところだけ真面目に剣を納め、帯刀の動きをする。剣道家ならわかると思うけど、これって割と癖になるよね。え?ならない?

 

「お疲れ様です!」

 

そういって、蒼龍は立ち上がると俺にタオルを渡してくれる。まあそれほど汗をかいてはいないんだけども。俺は昔から、あまり汗を掻かない体質なんだよね。

 

「アクエどこ?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

ランニングウェアと来ているといい、蒼龍は俺の専属マネージャーのようだ。中高とこういうマネージャーが居たらなぁ。悪女みたいなやつしかいなかったわ。

 

「そういえば望さん。ずっと気になっていたんですが」

 

「なんだー?」

 

俺はアクエを飲みながら、返事を返す。しかしキンキンに冷えたアクエ。運動後にはたまらない美味しさだ。走り終わってからじゃなく、それを我慢してなお素振りをやり遂げ、その後に飲むのがたまらなくうまい。

 

「台所の上にある、あのミルって使っていないんです?」

 

ミル。ああ、珈琲のミルのことか。そういえば最近豆が切れて、ドリップ珈琲を飲んでいなかったけ。あいにくうちのは電動ミルじゃないから、手間なんだよね。

 

「いや、最近使ってないだけだね。そうだな…」

 

俺は腕時計を見る。ちょうど時間は2時を指しており、出かけるにはいい時間帯だろう。

 

「蒼龍って珈琲好き?紅茶の方がいい?」

 

聞いておいて何だけど、紅茶ってやはり金剛姉妹のイメージ強すぎるわ。だからと言って蒼龍が紅茶好きじゃないってわけじゃないだろうけど。やはりそういう先入観刷り込まれてるわ。

 

「えーっと。私は珈琲の方が好きですね。紅茶も嫌いではないですが…どっちかっていうと珈琲がいいかも」

 

おー珈琲がいいのか。俺と純粋に趣味が合うことはうれしい。珈琲淹れれるんだろうか?もしよければ、ご享受してあげたい。

 

「そうか。じゃあ買いに行くか?ついでにケーキも買ってくるか」

 

蒼龍のために服を買いそのまま財布の氷河期となってしまったが、給料日と同時にそれは温暖期へと変わってゆとりがある。なお、先月は繁忙期ではない故にそこまで稼げず、五万円ほどだった。ちなみに大学生にしては、割と少ない。

 

「ケーキもですか?そんな、わざわざケーキまで買って頂けるなんて…」

 

もじもじと嬉しそうに体を動かす蒼龍だが、どうやら何か勘違いしているようだ。俺は自分の楽しみのためにケーキを買いたいのだ。珈琲を飲むときは、割とこだわりたいのが俺の性分である。

 

「…よし、じゃあ買いに行きますか」

 

俺はそういうと、素振り棒を方に担ぎ、家へと入っていった。

 

 

CX―5を走らせて行きつけの珈琲ショップで豆を買うと、次に洋菓子店へと向かった。

珈琲店の話は、まあ蒼龍が珈琲の名前に翻弄されていただけで、特に面白いことはなかったとさ。ただ、なぜかキリマンジェロをうまく言えてなかったのは、少々可愛かったけど。

 

カラランと、扉を開き、洋菓子店へと入っていく。実は、この洋菓子店には珈琲を買う以外にももう一つ目的があってきたのだが…。

 

「お、いたいた。おい神杉」

 

神杉こと神杉康介は商品を並べていたところだったが、俺の言葉で振り返った。この男は中学高校と、同じ剣道部に所属していた同期である。ちなみにどちらも副部長を務めていた。現在パティシエになるべく、高校から洋菓子店へと入り、修業を積んでいる。

 

まあ、目的ってのはこいつ。今後会うであろう友人たちはなんといってもキャラが濃く、なおかつ初対面でいきなりそんな奴らと合わせるのは、変な意味で警戒してしまう恐れもある。そこで、まだ普通を装っているこいつとなら、普通に話せるのではないかと思ったわけ。

 

「おお、七星。いらっしゃいませ」

 

「よせ。気持ち悪いわ」

 

「じゃあ何度でも言ってやるよ。いらっしゃいませ。いらしゃいませって殴るのやめろ。俺はまだ勤務中だぞ!」

 

こいつは昔からあおる癖がある。まあ一種のなれ合いだ。だからこの軽く殴るのもまた、なれ合いだ。

 

「ところで…その子だれ?」

 

どうやら後ろでこそこそしている蒼龍に目が行ったようで、神杉は苦笑いを浮かべた。

意外と人見知りなんだろうか、蒼龍は。初めにこいつに合わせて、やっぱり正解だったかも。

 

「ん?ああ、俺の…その、彼女だよ…」

 

その言葉に、神杉は一瞬にしてにやりと顔を歪ませる。

 

「んんん?よく聞こえませんでしたねぇ。もう一度行ってくれます…ってだから殴るな!さっきより強いから!」

 

今度は割と力を込めて殴ってみる。自業自得だ馬鹿野郎。

 

「で、いつの間にお前彼女できたのさ?」

 

「うーんと、まあ前から?」

 

あえて言葉を濁す。こいつの母親と俺のおふくろは仲が良いから、たまに話題が漏れることがある。それはなんとしても避けなければならない。

 

「そ、まあいいわ。で、ちゃんとお客としてきたのか?冷やかしなら、俺もお前をあおるぞ?」

 

等価交換というやつか?今度は本気で殴るぞ。まあ俺にもその場合は非があるか。

 

「今回はちゃんと買いに来たさ。オススメあるか?珈琲に合うやつがいいんだが」

 

その言葉に神杉はレジへと入り、ガラスの商品展示台に両肘を置くと、説明を求めてきた。

 

「その珈琲。苦味が強いのか?それとも酸味か?」

 

「苦味が強い奴だ。まあ今回はいつも飲んでるやつとは違い、ちょいと苦味は薄いな」

 

「そうか、じゃあアップルパイだな。まあ定番だけどよ、濃厚な甘みを引き出すのは、やはり苦い珈琲だね。どうよ?」

 

確かにいい選択かもしれない。ごくごく普通の合わせではあるが、王道ともいう。つまりこれに、間違いはないのだ。

 

「その…出来立てですか?」

 

蒼龍は俺の後ろから顔をのぞかせて聞く。おまえ、そういう所こだわるんだな。わかるけど。

 

すると、こいつの唯一うらやましい部分である甘いイケメン面を緩め、蒼龍へと優しく声をかけた。

 

「はい、そろそろ焼きあがるころですよ。お嬢さん」

 

「やったぁ!楽しみですね!」

 

心底嬉しそうに蒼龍は俺の手に抱き着いてきた。お前の甘いマスク、効かなかったみたいだぞ、ウハハ。てか、やわらか。どこがとは言わないけど。

 

「…よかったな。七星。いいこじゃん」

 

お、お前ちょっと悔しいのか?その顔は、悔しがってるな?フハハ、イケメンは死ね。慈悲はない。まあ見せつけに来たわけではないけど。

 

「ありがとよ。じゃあアップルパイを二つくれ。それとショートも二つ」

 

「あいよーちょっと待ってな」

 

そういって、神杉は厨房へと消えていく。

 

「んふふー。お友達さんのケーキ。楽しみですね」

 

「ああ、腕前を拝見させていただくかね」

 

 

さて、アップルパイとショートケーキを買い、家に帰るとすでに三時を過ぎていた。まあ少々遅くはあるが、それは仕方ないかもしれない。

 

俺は早速ミルを取り出す。少しだけ埃被ってるが、仕方ないか。

まず珈琲豆を目分量で入れると、それをミルの中へと入れる。大体一回挽いて一人前の量だから、二回挽かないと。

 

レバーを回し、ごりごりと音が鳴る。この挽く時間が、ドリップ珈琲のいいところだ。至福の時間ともいえる。電動ミルでは味わえない、手挽き独特の感覚だ。

 

「いい音ですね。どこか落ち着きます…」

 

蒼龍も、この至福の時間がわかるか。うん。いいことだ。

 

カラカラと音がすると、それは挽き終わった合図だ。引いた豆が溜まる引き出しを開けると、ふわりと珈琲独特の香ばしい空気が部屋に流れる。

 

「はぁ…上品な香りですねぇ…」

 

スンスンと、蒼龍は鼻を動かし、気持ちよさそうに机へと伏せる。ちょうど俺も、同じことを思っていた。

 

そして、この香りをさらに引き立てるのが―

 

「さて、ドリップしますか」

 

俺はドリップペーパーに挽いた豆を入れると、そこにお湯を少量淹れた。いわゆる蒸らすのだ。この蒸らしを行うと、さらに香りが部屋を包み込む。

 

 

大体二分ほどたち、次はお湯を入れる。大体『の』の字を書くように入れるのがコツだ。トクトクと引いた豆が小さな音を出し、ポトリポトリとサーバーに珈琲が滴る。

 

それから数分後、一人分の珈琲ができた。香りは芳醇で、早く味わいたいものだ。

 

「あの…私も、やってみていいですか?」

 

「ん?ああ、構わないよ?」

 

何事にも挑戦したがる蒼龍。これが、俺色に染めるということなんだろうか?

 

ともまあ、初めてにしては繊細に作業をこなし、挽いた豆の蒼龍は匂いを嗅ぐ。

 

「ふあああ…とろけそうな香り…私幸せすぎて死んじゃいそう…」

 

そこまで?まあ自分で挽いてみると、感じ方も変わるんだろう。そういえば俺も最初挽いたとき、あまりの上品な香りに驚いたものだ。

 

そんなこんなで、何とか蒼龍は珈琲を入れることに成功した。自分で入れただけあって、もう香りをかいだだけで幸せさが伝わってくる。やはり、珈琲は偉大。飲みすぎには注意だけど。

 

「じゃあお待ちかねのアップルパイを出そうか」

 

俺は袋からケーキ箱を取り出して、おもむろに蓋を開ける。するとどうだ。アップルパイの甘い香りが珈琲の香りと合わさり、何とも言えない幸福な気分に包まれる。もうさっきから、いろいろと幸せすぎるわ。

 

「うわぁ…おいしそう!」

 

「うん。だが味はどうだろうか?」

 

さっさとケーキ用に用意した磁気にアップルパイを乗せると、それぞれ自分の前に置く。

 

「じゃあいただきます」

 

「はい!いただきます!」

 

俺と蒼龍は手を合わせると、同時にアップルパイを口へと運んだのだった。

 




どうも。セブンスターです。
またもやギリギリでしたね。ちょっと今日はリアルで忙しくて、小説を書く時間がかなり遅くなってしまいました。本来であればこの話、もう少し文量を増やしたかったのですが、逆にカットする始末になりクオリティが落ちてしまいました。本当にすいません。

さて、お待ちかね?の元ネタ回ですが、今回『神杉康介』と言う人物が出てきましたね。これは、愛知県産安城市のお酒である、神杉から取っています。
また、彼は地元メンツと言う今後出す予定のメンバーです。この地元メンツは、全員愛知県産のお酒の名前からとっています。

どうかご期待を。それではまた!


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夕飯の支度です!

今回は蒼龍視点の実験を兼ねています。みなさんのイメージを崩さなければ良いのですが…。


『なあ提督よ。私はどうすれば射撃が上手くなるのだろうか』

 

武蔵の愚痴に、俺は少々うんざりしてきた。

 

もう二時間はこいつの愚痴に付き合ってる気がする。最近艦娘達と意思疎通ができるようになったことで話し相手になるのも増えてきたけど、こうした愚痴を聞かされることもしばしばだ。以前は大井に、北上の素晴らしさを熱弁された。きつかった。

 

しかし、武蔵さんはこういう人だったの?あの自信満々の武蔵は何処へ?凛々しい姉御肌の貴女はどこへ行ったの?まあ貴女よく外しますけど、だからってそこまで落ち込むことなの?

 

あ、ちなみに蒼龍は今おふくろと買い物に行ってる。珍しく、おふくろが買い物に付き合わせたかったようだ。まあ何故かはわからんけど、曰く花嫁修行がどうとか。気が早えよ。

 

『なあ、聞いているのか?私は大和型なんだぞ?』

 

ああ、そうですか。そうですね。まあプライドがあるんだろうけどさ、そんな重そうな艤装つけてれば俺は仕方ないと思うよ?ワンパンに賭ける感じは好きなんだけどさ。

 

『私は提督の期待に応えたい。どれだけ貴重な資材を投資して私を造ったんだ?そう思うと私は…』

 

そう思ってくれてるのか、それはちょっと嬉しいな。実際3回目くらいの大型で出てきたんだけども。あ、自慢じゃないです。大和が本当は欲しかったんです。おのれ、とある友人。カッコカリまでしやがって。

 

『私もそちらに行けば、体を提督に売っても良いくらい申し訳ないのだぞ!』

 

その気持ちはこちらとしてもある意味申し訳ないけど、第一に自分の身を大切にしてください。タイプではあるけど、後が怖いんです貴女。なんか黒スーツのスッゾコラーとか言いそうな人たち来そうなんで。本当身を大切にしてください。

 

「そこまでしなくていいです」

 

『だが!じゃあどうすれば良いのだ?まさかもっと何かを!』

 

「十分役に立ってますんで、武蔵さん超頼もしいんで、どうか自信を持ってください」

 

まあ射撃当たらなくても、その存在感だけで安心感と信頼感あるんですよね。蒼龍には勝てないけども、長年的な意味で。

 

『じゃあ私をどうして何時も艦隊に入れてくれないのだ!頼りにしているのではないのか!?』

 

まーたこれか。もう誰でも良いから変わってくれよ…

 

 

私、蒼龍は今、近所の「すーぱー」と言う大きなお店に来ています。ていと…じゃ、なかった。望さんのお母さんと共に、夕食の準備の為です。それにしても、このすーぱーは色々な食材が集められて、どれも美味しそうに見えてしまいますね。

 

「龍子ちゃん。そのジャガイモを取ってくれる?」

 

「あ、はい!」

 

袋詰めされているジャガイモを、私は手に取ります。ゴツゴツしていて、力強さを感じ

ますよね。ジャガイモ。

 

「ありがとう。そういえば、龍子ちゃんは料理ができるの?」

 

「え、私は…」

 

無かった訳ではないです。でも、その際には必ず誰かがいた気がして…。バレンタインの時は飛龍と一緒だったし、1人で料理をしたことはなかったと思います。

 

「その…誰かと一緒ならですけど…」

 

「あら、1人で料理を作らないの?じゃあ、今度教えてあげるわ。男の胃袋を掴むのは、基本中の基本よ?」

 

熱弁するお母さんに、私は思いました。そうなんだと。でも確かに、一生懸命作った料理を望さんに褒めてもらえれば、嬉しいかも。

 

「そういえば望さんの好きな料理って何ですか?」

 

私はまだ、望さんの事を何も知らない。提督としての望さんは優しく頼れる人であると思うけど、実際はどういう生活をしているのかも知らなかった。だからこそ、今この世界にいるうちにでも、もっと色々なことを知りたい気持ちでいっぱいなんです。

 

「そうねぇ。良く食べに行くのは隣町のラーメン屋さんだけども、家庭料理で好きなものは、おそらくハヤシライスじゃないかしら」

 

「へえ、カレーじゃないんですか?」

 

「うーん。まあカレーも好きだと思うわ。でも、ハヤシライスの方が好きって言っていたような…」

 

望さんは、色々とハイカラチックな気がする。珈琲と言い、服装と言い、私が思い浮かべていた現代の人とは、少し違うのかな。と、言うか。私の考えが少し古いのかも。

 

「まあでも、高校生の時はガッツリ食べれる物が好きだったみたいね。カツ丼とか。きっと部活で凝ってりと絞られて、終始お腹が空いている状態だったのかも」

 

望さんは長年剣道をやっていると言っていた。それほど疲れるスポーツなんだろうか。ちょっと軽視していたかも。でも、確かに腕は憲兵さん並みに太いし、今の細身だけどガッチリしている体型は、剣道の賜物なのかな?

 

「望さんは何時から剣道を?」

 

「あら。聞いたことないの?あの子は幼稚園の年中さんからやっていたわ。まあでも、本格的に武として打ち込んだのは、中学生からね」

 

本格的な武はさておき、それって今まで人生のほとんどを、望さんは剣につぎ込んできたって事だ。だから、素振りをしている望さんは、少し別人に見えていたのかもしれない。何かに打ち込むあの人の顔は、何時もよりカッコ良く見えちゃう。惚気かな?この話。

 

「龍子ちゃんは、何かやっていなかったの?」

 

えーっと。どう答えればいいんだろう。さすがに空母やっていますとは言えないよね。この世界じゃ、おかしい子って思われちゃう。でも、やっぱり嘘は言えないし…。

 

「あ、私は弓術をやっています」

 

「まあ、だから望の気が合ったのかもしれないわね。同じ武の競技を行う者は、ひかれあうって望も言っていたわ」

 

そうなのかな?私と望さんは同じ武の道を歩んでいるからなのかな?まあそれはさておき、と言うことは、望さんはほかにも武術を行う友人が居るというわけだ。まだその話を、私は聞いたことがありません。一度会ってみたいなぁ。どんな人なんだろう。それとも、どんな人達かな?

 

「うーん。しかし今日はどんな夕食しようかしらねぇ。最近残り物とかで、そろそろ真新しい料理を作りたい気分だわ」

 

残り物とは聞こえが悪いと思いけど、冷蔵庫の中の残り物、という意味です。お母さんは、まるで魔法でも使ったかのように、そういう品物でもおいしい料理を作ってくださるんですよ?比叡さんも見習ってほしいです。本人の前では、言えないけどね。

 

「あ、でしたら」

 

私はふと思いつきます。そうよ。先ほどの会話からして、望さんが喜ぶ料理を作れる絶好の機会じゃない。

 

「ハヤシライス。つくりません?」

 

「ああ、確かにいい案ね。よーし、じゃあ私張り切っちゃうわ」

 

にこにこと笑顔を作って、お母さんは言います。なら、私も張り切らなきゃ!

 

「手伝います!いろいろと教えてください!」

 

「ええ、いいわよ。むしろ手伝ってくれるのは、うわしいわぁ」

 

さらにお母さんは、笑顔を私に向けてくれました。そうと決まれば、あとは食材探しです!

 

 

「教えてくれ有馬。俺はあと何台自転車を整備すればいい?ラチェットは…何も答えてくれない」

 

 目の前にある軽快自転車の前で、俺は愚痴を漏らす。さすがに搬入日は、つらいものがある。ラチェットも、キコキコと答えるだけだ。人語喋れ。だからと言って日本語以外はダメだ。

 

 現在、俺はバイト中だ。武蔵との会話はあれからもう二時間くらい続けたが、さすがの武蔵もすっきりしたらしく、『すまない提督。こんな私を許してくれ』と、いつもの凛々しい感じに戻っていた。やっぱり貴女はそうでなくちゃ。

 

「七星さん。それは僕も聞きたいですよ。あ、もう閉店時間ですね」

 

バイトの後輩である有馬は、そういいつつも手を動かし続ける。ひょうひょうとしているのにやることをしっかりやる男が、こいつだ。

 

「あー。やめだやめ。あとは明日の人たちに任せよう。どうせ今日中には終わらねぇんだ。俺は閉店作業をして、煙草吸ってくるぞ」

 

そういって、俺はラチェットを放り投げる。道具は大事にしなければならない?しるか。店の備品なんだ。

 

「そうっすねぇ。僕も金数えますわ」

 

「おう、頼むわ。しかし総計30台。よくやったと思うぜ?」

 

搬入員が来たのは、店が終わる二時間前。スポーツ車合わせて60台ほどであったが、つまり俺たちは双方で15台の整備を終わらせた。新車だから整備されているんじゃないの?と思うだろうが、甘い甘い。いわゆる仮組をされているだけで、実際は搬入された店舗で整備をするというシステム。どこの自転車店も同じというわけではないけどね。

 

さて、閉店作業が済み次第、しばらく煙草を楽しんでいると、有馬が金を数え終わったのかシャッターの隙間から出てきた。店内での煙草はさすがにまずいから、外で吸っているんだよね。

 

「七星さん。先月の給料何に使いました?」

 

「え?なんでそんなこと聞くんだ?」

 

唐突な話題に戸惑う。と、言うかそれは人に教えることではない気が。

 

「僕は先月事故ったんで、すっげぇ金むしり取られましたわ。いやー痛い出費ですね」

 

そら、お前歳に見合わず外車乗ってるからだろ。しかも結構レトロな。

 

「俺は…まあいろいろだな。メシ代とか、携帯代とか…」

 

「まあそんなもんすよねぇ。はあ、繁忙期じゃないと、つらくはないけど金に苦労しますわ」

 

それは一理ある。蒼龍にもっと服とかを買ってやりたいが、あいにく今月は一着ほどしか買ってやれなさそうだ。

 

「っと、電話だ」

 

ポケットから、提督ならば歌えて当然らしい、軍艦行進曲が響いた。しかし有馬は提督業をやってはいないが、口ずさみ始めた。さすが、ミリオタ。

 

「はい、もしもし」

 

『あ、七星望さんのお電話でよろしいですか?』

 

声からして、蒼龍だ。わざわざ電話してくるとは珍しい。と、言うか俺の直通電話なのに、いちいちこんなこと言わんでもいいような気がする。可愛い。

 

「どうした蒼龍?」

 

『あ、その…いつ帰ってこられるんですか?』

 

改めて聞く鈴のような声。外じゃうるさいな。俺は灰皿に煙草を押し付けると、シャッターをくぐり、店の中へと入る。正面通りが国道だから、交通量が多いんだよね。

 

「んー。そろそろ?大体30分くらいってところかなぁ」

 

ガララと、唐突に音が響く。おそらく、有馬がシャッターを完全に締め切った音だろう。あとから、鍵をかける音も聞こえてきた。

 

『そうですか!あ、早く帰ってきてください!私、望さんの大好物、作ってみました!』

 

その言葉に、俺は目を見開いた。え、まじ?大好物はいろいろあるけど、なんといっても蒼龍の手作り食える。そんなんダッシュで帰るに決まってる。

 

「おお、それは早く帰らないとね」

 

『はい!温めて待ってますから!』

 

その言葉を最後に。電話が切れる。有馬は二階に上がっていたのか、すでに帰り支度を済まして降りてきた。

 

「誰からだったんです?」

 

「ん。ああ、家族だよ。家族」

 

「へえ、そういえば飯食いに行きません?今日は七星さん奢ってくださいよー」

 

有馬がへこへこと頭を下げていってくる。そんな彼に、軽くこぶしを入れる。

 

「うご…ひでぇっすよ…たまには奢ってくださいよ…」

 

「今日は用事がある。また今度な」

 

 

さあ車を飛ばして帰った俺の家。腹を空かした俺を待っていたのは、ハヤシライスでした。

 

「うまそうじゃないか。これを蒼龍が作ったのか?」

 

エプロン姿の蒼龍と、おふくろ。あ、おふくろは眼中にないです。いつもの過ぎて、目に留まりませんでした。しかし蒼龍のその姿は、またいろいろと想像させてくれるね。もう罪な女ですこと。

 

「私だけじゃないんですけども…」

 

苦笑いを漏らしつつ、蒼龍は言う。ああ、つまりおふくろと共同作業したというわけね。なるほど。おふくろうらやましい。

 

「龍子ちゃん。いろいろ頑張ってくれたのよ?味わって食べないと、私があんたをどつくから。覚悟しなさい」

 

言われるまでもない。味わって食べるに決まっている。

 

さて、俺は椅子に座り手を合わせる。うん。普通にうまそうだ。おそらく比叡なら、これが暗黒物体のようなものになってるであろうが、蒼龍だから安心だ。比叡、料理の腕をあげなさい。

 

 さて、まずは一口。うん。ほのかに香るワインが口に広がり、あとから濃厚なデミグラスソースの味が押し寄せてくる。

 

「おいしいな…うめえ!」

 

箸が進むとは、こういうことを言うのだろう。俺が使ってるのはスプーンだけどね。それでも、スプーンが止まらない。

 

「おや、このジャガイモ。なんがでかいな」

 

「あ、それ…私が切りました。ちょっと大きかったですね…」

 

照れくさそうに、蒼龍は頬を掻く。いやいや、そういうのを待っていたんだ。この瞬間を待っていたんだ。ダメじゃないかお約束を忘れては!

 

「うん。でかいけどジャガイモ好きだし、いいや」

 

ジャガイモってうまいよね。蒸しただけで普通に食える。塩やバターがあれば、なお良し。あ、マヨネーズは嫌いなんです。すいません。

 

「これで、龍子ちゃんも大丈夫ね。素質あると思うわ」

 

おふくろはほほえましいと言わんばかりの笑顔を作る。さすが母親、過去の女の子。そういう乙女的なことわかるんですね。口に出したら怒られそう。

 

それからまあ、蒼龍のハヤシライスを堪能しましたとさ。作りすぎてしまったらしいが、別にすべて食べても構わないだろうよ。

 

 今回。なんか聞いたことあるような言葉多い気がするが、気のせいだろう。

 




はい。どうもセブンスターです。
今回は前書きに書いた通り、ちょっとした実験回です。蒼龍視点を入れてみたり、いろいろとネタを仕込んでみたりと、やりたいようにやってます。まあその分、ちょっと話の内容が薄くなってしまったような…。え?いっつもそう?
さて、今回「有馬」という男が出てきましたが、こいつにはあまり設定が無いです。しいて言えば、バイト先の後輩の名前を一文字変えただけですね。

では、今回はこの辺で、また明日。(もう明日投稿するの確定みたいになってますね…


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地元の友人さんたちです! 上

またもや実験回。上・下に分ける予定です。
※タイトルに「上」をつけるの忘れていました。すいません。


今日は絶好のお出かけ日和。二月後半なだけあって、既に太陽も春の匂いを感じる事ができる。え?どんな匂いかって?春になればわかるんじゃなかろうか。

 

しかし、まあそんなお出かけ日和であるにもかかわらず、俺と蒼龍は家の中でグータラしている。今日はバイトもないし、まさにTHE暇なんだよね。

 

「この漫画の次巻何処ですか?」

 

蒼龍は本棚で漫画を探す。どうやら書道家が島流しされる話が気に入ったらしい。自分らしさってなんだ。俺は俺らしくってか。わかるかな?

 

「あー多分若葉が持っててるな、勝手に」

 

「え、どうしましょう」

 

やはりまだ妹や親父、お袋の部屋には勝手に入る事を躊躇するらしい。親父は割と怒るが、妹とお袋の部屋には勝手に入っても問題ないと思う。第一、俺のいない間に漫画が消えている事は良くあるし。

 

「取ってくるわ」

 

まあでも、これも次第に慣れていけばいいと思う。おそらく蒼龍は親しい仲にも礼儀ありと、言葉を胸に刻んでいるのだろう。

俺は椅子から立ち上がると、妹の部屋へと入る。お、あったった。机の上に置いてあるな。

 

「はい、どうぞ」

 

「わーい!ありがとうございます!」

 

嬉しそうに、蒼龍は漫画を両手で受け取る。そんなに気に入ったんだろうか?

 

それからしばらく、まあのんびりと本を読むふけっていると。

 

てーてっててってーと、妙に耳につく音楽が部屋に響く。某異能生存体が聞けば、発狂するあの赤肩マーチだ。蒼龍の入れた珈琲は、甘い。

 

「わあ!?なんですか急に!?」

 

蒼龍は身をはねてきょろきょろと慌てる。相変わらずリアクションが面白いな。

普段は軍艦行進曲である俺の着メロだが、この曲はとある友人たちに割り振っている着メロだ。この曲に見合うような、悪友たちでもある。

 

「もしもし」

 

俺は驚き続けている蒼龍にニヤけつつ、電話に出る。

 

『HQ!HQ!こちら國盛!七星!聞こえているか!』

 

いきなりこれである。やはり彼奴らのうちの1人。國盛康清だ。相変わらず、意味不明な

ご挨拶をしてくる。

 

「こちらHQ。要請は許可できない。現状の戦力で対処せよ。通信終わり」

 

そう言うと、とりあえず携帯を耳から離す。すると、少々慌てたような声が聞こえてきた。

 

『おいおい待て待て。ちょっと待て。うそうそ冗談。電話を切るな!』

 

「いちいち面倒なんだよ。で、なんかようか?無いなら切る」

 

もう一度電話を耳に当て、俺は聞く。すると國盛は、ため息をついた。

 

『全くよぉ〜。折角飲み会をしようと声かけてるのに、それは無いんじゃねぇ?』

 

飲み会か、そういえば最近やっていなかったな。

 

「いいね。いい酒でも入ったんか?」

 

『おう。お得意さんが数本持ってきたんだ。一本譲ってもらえたし、丁度いいなと』

 

こいつの家は老舗の和食屋だ。かなり繁盛しており、その人気も高い。わざわざ全国各地から、この店に顔を出しにも来るのという。ちなみにいわずと、その味は素晴らしい。

 

「で、場所は?まあ大体わかるけどな」

 

彼もとい、こいつを含むあのメンツがこのような話を持ち出すという事は、80%の確率で集合場所は決まる。

 

『雲井家に集合な。時間は9時くらいからか、まあ洋画でも見ながら、飲み明かそうぜ』

 

やはりそうか。中学の悪友、雲井浩壱と雲井健次の家だ。

 

「了解。じゃあその時間に、俺も向かおう」

 

『おうさ。ところでよ…』

 

國盛は唐突に、言葉を途切らせた。どうしたのだろう。

 

「どうした?」

 

『ああ、いやな。統治の奴が意味の分かんねぇこと言っててな』

 

意味の分からないこと?統治とは國盛と同じく中学で友人となった、菊石統治のことだ。こいつはメガネをかけている優男だが、言語が割とエグイ。とは言うものそこまでぶっ飛んでいるわけでもなく、意味の分からないことを言うような男ではないはずだ。

 

「どういうことさ?」

 

『しらねぇよ。なんか出てきたの一点張り。とりあえず来るとは言っていたけどよ』

 

出てきた?何が出てきたのだろう。正直言っている意味が俺にもわからない。

 

『まあともかく、雲井の家で詳しく聞けばいいか。それじゃあまた夜にな』

 

俺が「おう」と返事を返そうと口を開くころには、すでに電話は切れていた。まあ、そもそも電話をすること自体も珍しい。普段はSNSで来れるかどうかを聞くだけだし、相当その酒がいいものだったのだろう。口頭で伝えたくなるほどにね。

 

「誰からだったんです?お友達ですか?」

 

蒼龍が漫画から目を離して、不思議そうな顔をする。

 

「ああ、まあね。ちょっと夜に飲みに行くことになった」

 

「夜にですか?えーっと、いつお帰りに?あ、そもそも帰りを考えますと、車を運転できないのでは?」

 

いや、帰るつもりはなかったんだけど…。大体飲み会をする時は雲井の家で夜を明かすことが多いし、おそらく歩いて行くとも思う。

 

「うん。だから車は使わないよ。歩いて行くからね。ついでに泊まっていくだろうし」

 

それを聞いて蒼龍は困惑した顔をする。

 

「そんな!じゃあ私も連れて行ってください!いい子にしますから!」

 

「いや、なに言ってんのお前?いい子にするしないは別として、男ばかりのむっさいとこだぞ?行きたいか?」

 

奴らはごつく屈強な男たちだ。それに蒼龍が加われば、いろいろと気まずい気分になると思う。主に蒼龍が。

 

「私、望さんと離れたくないですもん!」

 

お、おう。そう言ってくるか。そういっちゃうか。くそう、反則だぜ。そんな寂しそうな目をされては、連れて行くしかないじゃないか。

 

「…ったく。わあったよ」

 

まあ奴らのことだ、どうせ暖かく迎えると思う。意外と紳士的なんだよね。まあ殴る蹴るはされるだろうさ、じゃれ合いだけれども。

 

 あいつらの暴力は、じゃれ合いでも相当痛いのだが…。

 

 

雲井の家は大体歩いて三十分と、意外に遠い。もともと住む区域が違うこともあり、それは仕方ないよね。

 

 歩くのがしんどいと思っていた俺に対し、蒼龍は夜のウォーキングだと考えていたようで、それはそれで楽しんだようだ。まあ夜は夜でいつもとは違う街並みを、体験できたことが新鮮だったらしい。

 

 「それで、どんな人なんですか?雲井さんたちは」

 

 雲井家付近までたどり着き、蒼龍が聞いてくる。うーむ。なんといえばいいだろうか。

 

「あー。まず雲井兄弟は、双子なんだ。とりあえず会えばわかるさ」

 

「双子ですか?すごいですね」

 

 すごいことなのだろうか?まあ確かに、奴らは阿吽の呼吸如く、連携がすさまじいのは確かだ。

 

中学の頃に聞いた話だが、喧嘩で彼らは見事な連係プレーを見せ、当時同じ学年を牛耳っていた一派から最も恐れられていたという。そもそも中学の時から頭一つ分大きかった奴らは、まさにア○ンとサム○ンのようだった。ボディビル!

あ、ちなみに俺はどちらかというと、そんなやつらとのグループに属さず、のらりくらりとしていましたとさ。そもそも、そういう面倒な奴らとつるむことが嫌いだったしね。でも以前聞いた話では、道場で同学年の部員をボコボコにしていた俺が鬼神のごとく恐ろしく、故に認められてはいたんだと。ハッハハ、そんなバカな。悪い噂だと思う。

 

さて、そんなくだらない昔話はさておき、俺は雲井の家のインターホンを鳴らす。すると、しばらくしてヌっと、巨漢の男が出てきた。

 

「おう、よく来たなぁ。って…その後ろの子、だれでぇ?」

 

例えるなら、彼は仁王像だ。身長190以上もある巨体はまさに巨人。おまけに岩を切り出したようなごつく厳めしい顔は、到底堅気と思えない。彼こそが雲井家の長男、雲井浩壱だ。

 

「へぇ!?あ、あ、あのの!わたわたしは!」

 

蒼龍相当ビビってるねこれ、まあそうだわ。こいつ長年付き合ってきてるけども、怖すぎるもん。魔除けに使えそうだもん。てか艦娘までビビらせるって、お前なんだよ。

 

「あーこいつは蒼龍。事情は中で説明するさ」

 

「ふーむそうかぃ。おいぃ健次ィ!まーた新しい仲間がふえたぜぇ!」

 

浩壱が、奥にいる弟の健次を呼ぶ。またとはどういうことだ?と、まあ憶測を立てていると、またもやどすどすと聞こえそうな巨体の男が顔を出す。

 

「おお?これもどういうことですかえ?七星くぅううん?」

 

先ほどの浩壱よりはまだ優しい顔をしているが、それでも威圧感は変わらない雲井家次男、雲井健次が低い声でうなる。まさにこいつらは、生きた阿形像と吽形像なのだ。この二人のことを、俺の同期は通称ヘルブラザーズと呼ぶ。

 

「の、のの望さぁん…ここってヤクザの事務所なんですかぁ!?私売られちゃうんですかぁ!?いい子にしますって言ったじゃないですかぁ…!」

 

 蒼龍、お前さすがにそれは失礼だぞ。こいつらこんな形だけど、実際はそんな怖い奴らじゃないんだ。浩壱は以前出てきた神杉には劣るものの、趣味は料理でスイーツも作れる。健次はなんだかんだ言って情にも熱いし、以前は子猫を保護しようと奮闘していたくらいだ。まあ総じて言えることは、顔が怖い人ほどいい人なんだよ。おそらく。確証はない。

 

 「んん?七星ィ。女の子を泣かせるとは感心しねぇぜぇ?」 

 

 ほら、紳士筆頭浩壱が俺に刃を向け始めたじゃないか。あと俺の所為でないてるんじゃねぇ、お前の顔がこえぇからだわ。

 

「あー。これは人間シャチホコの刑ですわ。おう兄者!ひっさびさに望を生贄にしようぜぇえ?」

 

うん。こいつらはいい奴なんだ。ほんとだよ?僕嘘つかないよ?こいつら言動が怖いだけだから。実際はやらないから。俺には。

 

ともかくビビりまくってる蒼龍を後押しすると、雲井家へと入る。うわぁ、蒼龍のビクビクとしている体の動きが伝わってくるよ…。だから言ったのに…。

ちなみに、俺たちが酒を飲み明かす場所は基本的に一階の和室だ。おそらくいくつもの様に、酒がすでに封切ってあるだろう。

 

 まあそんなこんなで蒼龍をなだめていると、この家では少しおかしい若い女性の声が聞こえてきた。彼らに女兄弟はいない。この二人の怖さがどこに行ったのかと思えるほどの、優男面の三男がいるくらいだ。名前は忘れてしまったけど。

 

「あれ?この声どこかで」

 

蒼龍はどうやら、この女性の声に反応したようだ。俺は正直心当たりないのだが、どういうことなのだろうか。

 

と、そんなことを思っている間に、襖を雲井兄弟が開く。彼らのせいで前が見えない。お前らでかすぎなんだよ。

 

「オイィ!キクボー!おめぇと同じ境遇の奴がきたぜぇ?」

 

キクボーは菊石統治のあだ名だ、しかし同じ境遇とはどういうことなのだろうか。

 

「ヘァァ!?七星おめぇも!?」

どうやら統治は蒼龍を見て、目をまんまると見開いてしまったようだ。無理もない、奴も提督だからな。おそらく感じ取ったのだろう。彼女が蒼龍だということを。

 

しかし、俺もまた驚きで絶句をしていた。そう。同じ境遇とはつまりそういうことで、統治もだったのだ。

 

彼の隣には、夕張型一番艦である夕張が、ちょこんと座っていた。

 

 




どうも、セブンスターです。相変わらず遅くなり申し訳ない!

さて、今回も濃いキャラがいくつか登場しました。彼らが以前に記載した「地元メンツ」です。以前にも話した通り、もちろん苗字はすべてお酒になっております。
さて、次に読者様たちも驚いたでしょうが、夕張が現代に来ちゃいました。まあ友人に書いてくれと言われたので、いわばゲスト出演的な感じですね。まあ蒼龍だけですと話がワンパターンになってきてしまう可能性もあると、実験的な意味で追加してみました。今後話に関わってくるのかは、皆さまの反応次第でしょう。

さて、今回のネタですが言わずと地元メンツの酒です。
「國盛」は愛知県半田市のお酒。
「雲井」は愛知県愛西市のお酒。
「菊石」は愛知と言えばトヨタ!豊田市のお酒です。

では、今回はこのあたりで!明日はもしかしたら、投稿できないかもしれません!




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地元の友人さんたちです! 下

改めて、匿名を解除しました。


 「いでで…あー。じゃあお前も、気が付いたら夕張がいたってわけか?」

 

とりあえず酒を飲みながら、俺は統治へと聞く。てっきりうちの蒼龍―いや、うちの鎮守府だけが、そういう特殊な立ち位置になってしまったと思っていたのだが…。

 

 ちなみに当然。俺は人間シャチホコの刑に処された。そのせいで背中がギリギリと締め付けられるように痛い。

 

人間シャチホコの刑は、わかりやすく簡単に言うと、二人版キャメルクラッチだ。背中から双子二人が上半身と下半身を逸らせるという恐ろしい技で、中学時代はよく統治がその刑に処されていた。なぜかは知らん。今回は久々に俺がやられたが、蒼龍があわあわとしつつ、必死に止めようとしてくれた。もし止められず継続されていたら、俺はブロッケン○ンのようになっていたかもしれない。とは言うが、赤い雨はできないです。ベルリンの。それはジュニアだったか?

 

「まあね。いわく、会いたくて意味わからん装置を作ったところ、来れちゃったらしい。さすがは夕張だと思ったよ」

 

それで納得できたのお前?順応力高いっすね。しかし、まあ明石と同じようなこと言ってるな。どうやら統治の場合、夕張が会いたくて自作したみたいだけど。いやぁ、技術屋って恐ろしいわ。てか、それで片づけられるのか?

 

「で、いつ頃来たんだ?俺は確か、三週間前だったけど」

 

今思えば、蒼龍が来てもうそれなりに経っているな。思い返せばいろいろと大変だったが、すでに思い出の一ページになり始めている。とは言うもの、まだまだ思い出は始まったばかりだが。

 

「マジで?俺はおととい。ひょっとすると俺らだけじゃないのかもしれねぇ」

 

「その可能性はあるな。俺らだけが特別じゃあないとは思う」

 

正直先にも言っているように、俺だけが特別だと思っていた。しかし統治にも夕張が来たとなると、やはり特別というわけではなさそうだ。俺ら以外が特別じゃないのは、おかしいと思う。

 

しかしその場合、提督にはそれぞれのカッコカリした艦が現実世界に来ているということか?いや、そうだったら今頃SNSで大騒ぎになってるに決まっている。それが瞬く間に広がって、それこそ世界大戦規模にまで発展してしまうかもしれない。だが現状そうなっていないのは、意味が分からない。

 

「あのぉ…」

 

俺と統治の会話が弾む中。蒼龍が申し訳なさそうに割り込んできた。隣には、夕張も居る。

 

「私たちも、お酒飲んでいいですか?あの人たちがあれだけ楽しそうに飲んでると…」

 

先ほどからゲスな笑い声が聞こえてくる。おそらく奴らは次の処刑方法を話しているのだろう。奴らはあくまでも優しいが、そういうえげつない話題にはとても興が乗る。恐ろしい。

 

「俺はまあいいと思うよ。蒼龍はワインが好きなんだよね?」

 

以前の某イタリア料理のファミレスでワインについて興味を示していたしね。おそらく、蒼龍は洋酒が好きなんだろう。そこは俺と合わないかな。

 

「おお?蒼龍はワインがすきなのかァ?」

 

すると、すでに顔が真っ赤になった健次が、蒼龍に言い寄ってきた。おい、さすがにお前らでも、蒼龍に手を出したら許さんぞ。

 

「は、はいぃ…。ワインが…好きですね」

 

びくびくしつつ、蒼龍は愛想笑いを作る。しかしそんなことなど気にもせず、健次は腕を組みガハハと豪快な笑いを漏らした。

 

「ダッハハハ!そうかえそうかえ!じゃあとびっきりのワインをあけてやろうじゃあねぇか!なあ兄者!」

 

 声をかけられた浩壱も、「おうおう!」と豪快に笑う。こいつらは毎回酒が入ると笑いが止まらなくなるんだよね。つられて俺らも、笑ってしまうんだけども。

 

 健次はいったん和室を出ていくと、数分後に酒瓶を手に持ち、戻ってきた。透明な瓶の中には赤ワインとは少し違う、液体が入っている。

 

「これはよぉ。いちぢくでできたワインだ。とっておきだから今度のさくらまつりまで取っておこうとおもったが、新しい仲間を迎えるためにあけてやらぁ!」

 

いちぢくで作られたワインか、珍しい。まあ何とも甘くて甘くうまそうだな。地元の特産物の一つにいちぢくがあるし、特産物を生かして売り出そうと考える酒もあるんだな。

 

「わあ!おいしそうです!早速飲んでもいいですか?」

 

蒼龍は目を輝かせて、いちぢくワインの釘付けになる。本当にワインが好きなんだな君。俺は悪酔いしちゃうんだよねぇ。日本酒は全然のめるんだけども。

 

「かまうこたぁねぇ!どんどんのめのめ!おら、そこの控えめなねぇちゃんもよぉ!」

 

 控えめなねぇちゃん?…ああ、控えめってそういうことか。確かに蒼龍と並ぶと一目瞭然だね。統治もその言葉に感づいて、くくくと抑えつつ笑ってやがるし。

 

「なぁ!?それセクラハですよ!訴えてやるんだから!」

 

夕張も当然感づき不服そうに頬を膨らませ、健次に文句を言う。と、まあそんなことを言いつつ、コップにワインを注いでもらっているんですけどね。

 

「甘いにおいがしますね」

 

すんすんと、蒼龍はワインの香りを楽しむ。珈琲の時ほどではないにしろ、幸せそうな顔をしているな。ちょっと嫉妬しちゃうかも。

 

「ったりめぇでぇ!なんたっていちぢくだからよ!」

 なんでべらんめぇな口調になってんだ。お前は江戸っ子ではないだろう。まあそういう口調が似合うような体型はしているけども。

 

蒼龍と夕張は、それぞれ両手で律儀にコップを持ち、ワインを口へと入れて行く。と、言うか蒼龍は飲み干してしまったぞ。酒強いのか?

 

「ふぁあ…すごい甘いですねぇ…」

 

ふわふわとした口調で、蒼龍はゆっくり感想を述べる。うっとりとした表情は俺にとっていろいろとグッとくるものがあるが、まあ今回は我慢しよう。しかし俺も飲んでみようかな。チャンポンはしたくないんだけども。そこまで言うとさすがに気になる。

 

「俺もくれよ」

 

コップを差し出し俺はねだってみる。すると、健次は酒瓶を抱きしめ激しく首を振った。

 

「おめぇにはやらねぇ!やらねぇからな!ウワァァァアア!」

 

「おい!なんでや!」

 

そんな血相抱えたように言わんでもいいだろう。キャラぶれまくってるじゃねぇか!

 

「いいかァ?七星。これはな、女性に似合うワインなんだ。お前には合わんだろう?そもそも鏡で顔を見てから言うんだ」

 

ポンと肩に手を置き、浩壱が絶妙なタイミングで会話に割り込んでくる。つまり俺はおっさんが顔だから、ワインが似合わねぇと言いたいのかこの筋肉達磨は。

 

「まあいいんでね?俺たちはこれで」

 

統治は苦笑いをしながら、日本酒を掲げる。まあしょうがないか、このワインは蒼龍と夕張専用と考えておこう。

 

すると騒がしい俺たちに誘われた如く、襖が開いた。あのもじゃもじゃテンパは間違いない。國盛だ。

 

「ういーっす。なんだよぉ。おめぇら騒がし…!?ウオァアアアアアア!?」

 

國盛はうつむいた顔をあげ次第、蒼龍と夕張に目が行ったようで、まるで溶けるかのように地面へとぶっ倒れた。おいおい、酒瓶持ってるんじゃねぇのかよ。そのいい酒がおしゃかになったら、どうすんだよ。

 

「ど、どうしたんだキヨ!キヨ!キヨォォォ!」

 

駆けよって統治は、國盛のあだ名である『キヨ』と叫ぶ。どこぞの片目の傭兵が死んだような風に言うんじゃない。とりあえずダンボールにそいつを入れておけばいいと思う。

 

「美女たちがいる。俺にはまぶしすぎる。まぶしすぎるんだウワァアアアアアアア!」

 

うつむいて死んだように國盛は倒れているが、地面から声が聞こえてきた。こいつが一番やかましんんじゃねぇのか?蒼龍と夕張は顔を見合わせ苦笑いしてるしね。

 

「うーむ。しかしなぜ美女が二人もこのむさい場所へ?」

がばっと起き上がり、國盛は一瞬にして胡坐をかくと、首を傾げる。相変わらず体幹が素晴らしいなお前。そんなこと俺にはできんわ。

 

「あーついてきた。俺に」

 

「あ、俺もそんな感じだわ」

 

俺と統治は声を合わせて言うと、國盛は顔を歪ませた。

 

「ハァ!?何言ってんだおめぇら。おめぇらいつから女と関係持ったんだ?」

 

その言い方はちょっと誤解を招くのでやめてくれ。蒼龍も顔を赤くしてるんじゃねぇ!

 

「うん。でもさ、出てきたんだわ」

 

統治が酒を口に運び次第、つぶやくように言う。俺も同じような意見だし、「そうだよ」と便乗をしてみた。あ、ホモではないです。

 

「ハァア?おめぇら頭いっちゃったのか?そんなわけねぇだろよ。で、お嬢さんたちの名前は?どこから来たの?」

 

心底あきれたように國盛は肩をすくめると、俺たちでは話にならないと思ったのか蒼龍達へと声をかける。蒼龍にはアイコンタクトで、本名でOKと伝えてみた。

 

「えーっと、蒼龍。航空母艦蒼龍です。大湊警備府から来ました」

 

「夕張です。ブイン基地からきましたー」

 

「ホァア!?!…えーっとマジ?え、どういうこと?え、え?」

 

顔を引きつらせ、國盛は俺と統治へと振り返ってきた。まあうん。そらそういう反応するわ。俺がお前の立場なら、間違いなくそういう顔すると思う。

 

「どうもこうも、理由はわからん。まあなんていうんだろうか、霊的力とかじゃねぇの?」

 

まあテレビから出てくる妖怪や霊かよくわからん物もいるんだし、こいつらが出てきたのはそんな類なんだと思う。こいつらに失礼な気もするな。

 

「じゃあなんで俺は出てこないんだぁ!」

 

そういえば、お前も元提督だったな。今は何をやっているんだ?惑星探査か戦車でも動かしてるのか?

 

「ともかくだ。うらやましすぎて素っ裸で走りたいくらいだけど、つかまりたくもない。とりあえず新しい仲間が増えたことに乾杯だな」

 

なんだかんだ言って、ヤスも受け入れれたらしい。まあこいつらは総じてサツや市役所にチクることもないだろう。それほどこいつらは、信頼ができるんだ。

 

「さぁて!気を取り直してこの酒を開けるぞ!これはなぁ!」

 

いつものハイテンションなヤスに戻り、俺たちはそのまま、夜通し騒ぎ立てたのだったとさ。

 

 

夜が明け、新しい朝が着た。

 

本日もお日柄良くというべきなのか。俺たちの帰路は、雲一つないまさに快晴よろしくの青空が広がっていた。

 

「いい天気だなぁ。すがすがしい朝だ」

 

俺はそんな天気を体に浴びて、改めて酔いがさめた気分になる。そもそもチャンポンしまくったけどそこまで酔ってない。と言うか無意識にセーブをしていたかもしれない。

 

「ふふっ…のぞむさぁあん」

 

耳元でささやかくかのように、蒼龍の寝言が聞こえてくる。意識なくてもまだ甘えてくるのか…。たまらねぇけど、ちょっと疲れを感じてはいる。

 

「はぁ…まったく飲みすぎだよこいつ。今度からは少しセーブしてほしいわ…」

 

言うまでもなく蒼龍は飲みすぎにより、そのまま寝てしまっている。まあいちぢくワインから酒が進み、俺と同じくチャンポンをしまくっていたしね。夕張はそれこそセーブしていたが、蒼龍はいわゆる甘え上戸で、飲めば飲むほど彼女の枷がはずれ、俺にべたべたとくっついてきた。さすがにあれだけ甘えられると、俺の自制心が崩壊寸前であったことは言うまでもない。雲井達の家にいたことが、俺の最期の砦となっていたな。

 

「ふふふっ…ううん…あれ?」

 

しばらく歩いていると蒼龍が目を覚ましたのか、俺の背中から起き上がり、周りをきょろきょろとし始める。

 

「おはよう。酔い覚めたかー?」

 

「ひやぁ!?の、望さんの背中に!」

 

蒼龍は気付き次第、あばれ始める。おい、アスファルトに落ちたいのかお前は。とりあえず落ちないよう、必死に蒼龍を支える。

 

「…私眠ってたんですか?」

 

「そうだよ。覚えてないか?昨日のこと」

 

その声かけに蒼龍はしばらく無言だったが、じわじわと体が震えはじめ。再び俺の背中で暴れ出す。いてて、背中を叩くな。

 

「恥ずかしぃ…死にたい…望さんすいません…忘れてくださいぃ…」

 

おうおう、ずいぶんと可愛い声で言うな。照れすぎてもはや消えそうな声になってるぞ。まあ、ちゃんと聞き取れてるさ。

 

さて、それから蒼龍は自分で歩くと言い張り、地面へと下してやる。できればもっと彼女の温かみを感じたかったが、さすがにそこまでは強要できない。

 

「どうだった?あいつらは」

 

しばらく歩きそろそろ家へと着きそうな頃、俺は空を見上げながら蒼龍へと問う。なんだかんだ言って、奴らのことをどう思ってくれただろうか、なんだかんだ言って親友たちだし、ひどい言葉は聞きたくない。

だが、彼女は笑顔でこう言った。

 

「みなさん。本当に面白くて、いい人達だったと思います!」

 

「そうだな。またあいつ等と、飲みたいか?」

 

「はい!あ、でも…」

 

蒼龍は再び恥ずかしそうに顔を赤らめ、明後日の方向を向く。

 

「今度はちゃんとセーブするようにしますね。望さんだけならともかく、みなさんに見られるのは、やっぱり恥ずかしいですし…」

 

俺は一向に、構わんのだけどね。

 

 

 




どうも。セブンスター改め、大空飛男です。これが、私の本来の名前ですので、改めましてどうかよろしくお願いします。

さて、まず第一になぜ匿名を外したの?と、聞きたい人が多いと思いますので、あらかじめ説明します。それは、純粋に匿名を使うことがの逃げと感じたからです。やはり酔いのクオリティとは言いつつも、私が作り出したこの話。それを恥ずべき意味はないと感じました。むしろ作品に誇りを持たないといけないとも感じ、匿名を外したというわけです。

また、感想の方もありがとうございます。今後の参考にさせていただきますね。

それでは、また明日!



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剣術指南です!

うわぁああああああ!時間過ぎちゃったよぉおおおおお!すいませんでしたぁああああああ!


 「盗賊改めだ!神妙いたせぇ!」

 

 テレビの向こうでは、羽織袴すがたの役人たちが賊を成敗している。今回出てきた賊は、残虐非道の盗め(つとめ)を働き、それに腹を立てた長官が殴り込むという話だった。

 

「いけー!そんな奴らやっちゃぇー!」

 

蒼龍は今まさに捕り物で盛り上がりを見せる中、自らもハイテンションになっている。先ほども非道なる描写を見て、蒼龍は息をのんで見守っていし、おそらく彼女の湧き上がる胸糞悪い思いが、この取り物で一気に解放されたのだろう。

 

「まあこいつらは久々のクズどもだったねぇ。役者さんすげぇわ」

 

最近時代劇をみて思うのが、今の俳優とは比べ物にならないくらい上手いことだ。某ダンスグループのドラマは本当にひどかったし、もはやお遊戯会レベル。その他もろもろアイドルグループを使ってやるドラマと比べると、もう雲泥の差があるよね。さすがに比べるのも失礼か。

 

「はぁ…面白かったぁ…」

 

心底満足そうに言う蒼龍。まあ時代劇のいいところは、最後のスッキリ感だよね。これを求めて、俺は見ていたりもする。

 

「さーて。じゃあ次は…っと」

 

俺はそういって、リモコンを手に取る。今度は何を見ようか。鬼平はこれで全部見終わったし、次は刑事ものでも見ようか。

だが蒼龍はうつむき、もじもじとし始める。どうしたのだろうか?

 

「トイレか?行って来いよ」

 

とりあえず思いついたことを言ってみる。ってうお、殴ってくるな。冗談だよ冗談。

 

「どうしたのさ?」

 

「そのぉ…望さんって剣道をやっているんですよね?」

 

まあ蒼龍にはもう何回か言ってるし、すでに知っているはずだ。こうして探ってくる意図が見えない。ましてや恥ずかしがるように聞くことでもないはずだ。

 

「そうだよ。だから?」

 

首を傾げ、俺は問う。すると蒼龍はがばっと顔を上げて俺の目をまっすぐと見てきた。

 

「あの…私も、私にも剣道を教えてください!」

 

ああそういうことか。つまり。

 

「はっはーん。影響されたな?時代劇に」

 

 

まあ断る理由もないもんで、とりあえず自室の木刀と倉庫の奥にしまってあった妹の竹刀持ち出し、俺と蒼龍は草履へと履き替えると、外に出た。さすがに家の中で竹刀を振ることは狭くてできないし、何より家に傷をつけてしまう。それでネチネチ言われるのは、なんとしても避けたい。

 

外へと出た俺に対し、蒼龍は竹刀をせがんできた。早速持ちたいのか。

 

「はい」

 

「ありがとうございます!」

 

蒼龍は笑顔で竹刀を受け取ると、いったん各部位を見まわし、竹刀を構えて見せた。うん。「どうですか」と得意げな顔をしてるけど、早速手の位置が違うぞ。

 

―とりあえず、振り方だけでも教えるかな。

 

まず、俺が手本を見せるように木刀を構えてみる。お、左手と右手の位置が違うことに、気が付いたみたいだな。慌ててる姿は、初心者そのもの。まあ仕方ないけど。

 

ちなみに木刀は本来、日本剣道形と呼ばれるいわば演舞のような物に使われる。幕末から明治にかけて木刀で練習試合のようなことをしていたともいうが、あれはかなり危ないです。ともかく喧嘩とかに使う木製の棒ではないんですよね。まあ知ってるだろうけど。ほかにも木刀は小判型の柄だから、実は持ち方のコツをつかむためにも使えたりする。

 

「まず振ってみる。見ていてくれ」

 

俺は振り上げると同時に息を吸い、振り下ろすと同時に息を吐く。まあ基礎中の基礎だけど、こうした一連の動作の積み重ねが、勝敗のカギを握ったりするんだよね。

 

「こうですか?」

 

蒼龍もおれと同じく大降りに振り上げると、勢いよく振り下ろす。まあうん。ありきたりな間違いを犯してるな。それじゃあ畑を耕しているだけだぞー。

 

「蒼龍。いいか?右手は添えるだけなんだ。こんな感じ」

 

俺はつば止め付近を包み込むように持ち、先ほどと同じ動作を繰り返す。剣を持つ原則として、芯になる左手をへそのあたりに置かなければならない。いわゆる正中線から外れないように振り上げる必要があり、必然的に右手に力が入らなくなるんだ。

 

「すぅうううはぁあああ。こう…です?」

 

さすがは艦娘だろうか、早速俺の言いたいことが分かったようだ。正中線から外れることなく、まっすぐと振り下ろすことができている。

 

「うん。そうそう」

 

「おお…なるほど…。弓術とはまるで使う筋肉とかも違いますね。興味深いです」

 

まあ弓術は弓術で難しいと思う。そもそも弓術と弓道じゃ、まるで違ったりするらしいけど。

 

「とりあえず十本振ってみてくれないか?」

 

「はい!望先生」

 

おおう。そう来たか。まあ先生と呼ばれるのは実のところ慣れているけど、あくまでもそれはガキどもだけであって、同じような年代の奴には言われたことないな。とくに蒼龍なら、なおさらいろいろと考えてしまう。

 

「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…」

 

え、なにそう数えるの?いち、に、さんの方が気合入るんだけど…。まあ人それぞれなのかな?

 

「やーっつ、ここのーっつ、とう…はい!どうでしたか?」

 

なんというか、特に問題はなかった気がする。ゆっくり振っていることもあるだろうし、気にしつつ振っている様子も見受けられた。よし、ならば次は。

 

「じゃあテンポを速めてみようか。見ててくれ」

 

俺は肩から腕を上げ、そのまま体を落としつつ、振り下ろす。実のところ、剣は腕で振るものではない。肩から振り上げて、肩から下すものなんだ。

 

「わかったかい?」

 

「うーん。何が違うかわからないです…」

 

まあそうだよね。素人に解れと言うのは酷だろうさ。

 

「よし、じゃあね…」

 

「ひゃっ!え、いきなりどうしたんです?」

 

どうやら二の腕付近を持ったことで、驚かせてしまったようだ。でも振りの動作を覚えさせるには、これが一番わかりやすいんだよね。うん。ところで、ふにふにしてるな。そういえば二の腕って胸の柔らかさと―あー、これ以上はいけない。

 

「いいかい?こうして上げて…」

 

俺は蒼龍の腕をゆっくりと動きのガイドをしつつ持ち上げていき、そのまま振り下ろさせる。へっぴり腰であるのは致し方ないとして、せめて振り下ろしだけでもマスターさせてやりたい。

 

「どうだ?わかったか?」

 

「…はいぃ…それどころじゃないですけどぉ…」

 

顔を赤くして、蒼龍はつぶやく。うーむ、下心なくやったけど、今になってちょっと意識し始めてきちゃったな。いかんいかん。

 

「さっきの動きを思い出しつつ、勢いよく振ってみろ」

 

「はい!…やぁ!」

 

ひゅんと、風を切る音が聞こえる。まあ目いっぱい振った感じだけど、形はそこまで崩れていない。まあどうしても右手が力んでしまうみたいだけど。初心者じゃよくある光景だね。

 

「うん。もうちょっとだ。意識して数本振ってごらん」

 

「わかりました。…やぁ!やぁ!やぁあ!」

 

ひゅんひゅんと風を切り、蒼龍は竹刀を振り続ける。もうちょっとなんだよなぁ。呑み込みが早いから、だんだんと楽しくなってきたな。

 

「右手は添えるだけだ!それと、腰をもっと落としてみろ」

 

「はいぃ!やあ!やあ!やあー!」

 

だんだんとうまくなってきたじゃないか。艦娘の理解力と言いセンスといい、末恐ろしいぞ。

 

「それまで!うん、だいぶよくなったじゃないか!」

 

「えぇ?そうですか?望さんみたいに綺麗な振りをできていないです」

 

そんな自信なさげに言わなくてもいいじゃないか。俺と蒼龍とではキャリアが違う。初めてにしては十分にうまい振りなんだ。

 

「そうだなぁ…ちょっとくっつくぞ?」

 

「へっ?あっ…」

 

とりあえず下心やスケベ的な考えは一切捨て、俺は蒼龍を後ろから覆いかぶさる。そして右手左手それぞれを蒼龍の手の甲の上に置き、説明を始めた。

 

「右手はこう。グーじゃなくて、ぞうきんを絞るように持つんだ。まあたとえだから、

実際はそこまで力を加えなくてもいいぞ、左手もただ握るんじゃないんだ。いいか?」

 

「は、はい!その…近いです…よぉ…」

 

おい!意識をしないようにと心がけていたのに、そういうから俺も意識しちまうんだよぉ!蒼龍の女性らしい甘いにおいを、じかに感じる。このまま抱きしめてやりたい。だが、今は先生をやっているんだ。よこしまな気持ちは、武に失んだ。

 

「うぐぐ…俺も恥ずかしいんだ。まあでも我慢してくれ。綺麗な振りをしたんだろう?」

 

「で、ですけど…」

 

「ほら、こうやって上げて…」

 

すうっ息を吸い込みつつ、静かに竹刀を振り上げる。

 

「だいたい頭頂よりも少し剣先を後ろに傾けるんだ。そして腕からじゃない。肩からこう息を吐くように…」

 

息を吐き続け、俺と蒼龍は同時に竹刀を下していく。うおお…振り下ろすと同時に、蒼龍の髪の毛が近づいてきて…。

 

「う、はぁ!?」

 

ついに恥ずかしさが我慢できず、俺は蒼龍から離れてしまう。また蒼龍も膝をついて、はあはあと息を付く。

 

「そ、そんな感じだぁ…はぁ…」

 

俺も腰が砕けるように地面へと腰を下ろす。これだけ急接近したのは、蒼龍が来てから初めてだ。ずっと自制心を抱えて接してきたが、もういま目の前にいる蒼龍がいとおしすぎてたまらない。

 

「の、望さぁん…」

 

蒼龍も頬を赤くしながら、うっとりとした瞳で俺へと振り返る。ああ、もうたまらなく愛おしい。愛おしすぎる。今からダッシュで、抱きしめてやりたい。

 

「ど、どうした蒼龍…。振り方…その…理解できたか…?」

 

しかし、俺は男だ。まだ一線を越えてはだめなんだ。高鳴る心臓を締め付けるように俺は抑え、ゆっくりと立ち上がった。

 

「も、もう一度…いいですか?よく…わからなっかったので…」

 

ま、また?今日はいつになく積極的に言ってくるな。落ち着け、俺は先生なんだ。平常心を持て、あくまでもわかりやすく…わかりやすく…教える。

 

「ほら、じゃあもう一度だ。立って」

 

腰に手を当て、照れた表情を隠すように、うつむきつつ言う。蒼龍はそんな俺を見て、立ち上がろうとする。だが。

 

「あっ…あ、あはは…。なんだか腰が…抜けちゃって…」

 

「お、おう…大丈夫か…?」

 

俺は手を伸ばして、蒼龍の手を取る。

ああ、蒼龍の手のひらって、こんなにすべすべしてるのか。逆に、俺の手のひらは、どう思ったんだろう。マメにマメを重ねて厚くなり、分厚く硬くなってしまったこの手のひらを…。

 

「その…望さんの手のひら、たくましいですね」

 

うっとりとした瞳で、蒼龍は見上げながら言ってきた。ああ、もう駄目だ。ワレ、カンラクス…。

 

と、その刹那だった。

 

「あああああ!にいちゃんと龍子ちゃんがイチャイチャしてるぅ!ひゃー!見てられねぇ!このリア充めぇ!しんでよーもお!」

 

唐突に、若い女性の声が聞こえてきた。俺たちは即座に手を放し、それぞれ反対の方角を見る。

 

この声は聴き間違えるわけもない、我が異常なる女子高生の妹、WA☆KA☆BA☆DA。やろう絶妙なタイミングで帰ってきやがって…。

 

「はーああ。私も恋とかしてみたいわー。そんなあまーい恋をさあ」

 

「…おめぇ彼氏いただろうに…フッたのもお前だったけどな」

 

「はぁ?うざいんですけど。あいつの話しないでよ。と、まあ私は家に入るから、お続きをどうぞーっと」

 

そういうと、妹は玄関へと入っていく。

 

「そのあの…ひゃぁあああ…はずかしいよぉ…」

 

蒼龍は顔を両手で隠し、顔を真っ赤にしている。俺もそうしたいわ。マジ死にたいくらい恥ずかしいわ。

 

それからしばらく俺たちは無言だったが、ちらりと同時に目線を合わす。

 

「家、入りますか…」

 

「そ、そうだな…」

 

俺と蒼龍はそれぞれ竹刀と木刀を手に取ると、家の中へと入っていったのだった。




どうも、トビオです。
まず最初に、昨日中に投稿できずもうしわけありませんでしたぁああああああああああ!マジ謝罪します。心からお詫び申し上げます。

しかし、ああ…一日投稿ここでついえてしまったか…本当に残念極まりないです。みなさん楽しみにしていたはずなのに…。あ、うぬぼれならすいません!
と、まあ本気で謝罪申し上げます。それとさらに、明日ももしかしたらバイトの関係で日をまたいでしまうかも…。

さて、今回はかなり砂糖多めにしたつもりです。また、剣道を教える描写が数多くありますが、私は体験した技術をそのままかいたつもりですので、間違っている場合があるかもしれません。ちなみに蒼龍にくっついて教えた方法は、わりと剣道では普通だったりします。ああやって動きをガイドすることで、体で理解させようとするんですね。

では、また今度お会いしましょう!さようなら!


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★自転車修理です!

なんなんだろう。すごいよくわからない話になったような…


 おふくろに買い出しを頼まれた俺と蒼龍は、スーパーを後にして駐車場を歩いていた。すでに日は落ち始めの黄昏時。だんだんと日が伸びていることが、どこかワクワクさせる気分になる。

 

黄昏時には、いろいろな思いが巡る時間だ。

 

例えば、今日も仕事が終わり、やっと職場から解放されること。まだ遊びたいのに、もうそろそろ親に怒られるから帰らなければならないこと。これから夜が始まるんだと言うこと。様々だ。

 

まあそんなお前はどうかと聞かれれば、純粋に夕日がきれいだと思うことだろうか。高校生の時には部活をさぼり、わざわざ夕日を取りに行くために自転車で、総計二四キロくらい走ったりもした。今思えば、馬鹿だったと思う。スポーツバイクならまだしも、俗にいうママチャリで、よくやった方だろう。

 

「あ、望さん!一番星ですよ!」

 

蒼龍が茜色に染まった空を指し、俺を見てくる。日に照らされた彼女の顔は赤みを帯びて、その笑顔もまぶしく見えた。

 

―ああ、やっぱりそうか。俺はもう本心で、今蒼龍に惚れているんだ。

 

彼女が俺の前に現れ、付き合い始め一か月。どうやらもう、俺は後戻りできないらしい。最初は本当に楽しければいいやと思っていたけど、もう彼女は近くにいるだけでうれしい存在になっている。

 

「わっ…なんですかぁもう」

 

俺は無意識に、蒼龍の頭の上に手の平を置いていた。さらさらとした蒼龍の黒髪を感じながら撫でると、蒼龍も心なしかうれしそうな表情になる。すなわち、蒼龍も俺に心を許しているということだ。もっとも最初から言っていたことであったが、おそらくあの時は俺を「提督」として見ていたであろう。だが、今は一人の異性として、俺の事を見てくれているんだと思う。

 

さて、蒼龍をなでなでしながら歩いていると、もう車の前までついてしまった。ちょっと名残惜しく感じるが、家に帰ってでもそれはできる。

 

「うし、開けるぞ」

 

俺は蒼龍の頭から手を放すと、彼女も名残惜しい表情をしてくれる。まさに込み上げるいとしい気持ちと多少の罪悪感をまとめて胸に押し込めて、俺はフライトジャケットのポケットから車のカギを取り出し、トランクから鍵を開けた。

ピッピッと、車が開錠される。俺は片手でトランクを開けると、野菜や果物などの食材がパンパンに詰まった袋を、破れぬようにおもむろに入れた。

 

また、蒼龍もそれに乗じて、パンやお菓子などの軽い食材の入ったレジ袋を入れる。俺は両方持つつもりだったけど、蒼龍が持ちたいとせがんできたんだよね。まあ断る理由もなかったし、そのまま持たせましたとさ。

 

「さて、積み終わったな。さっさと帰るかーっと…。電話?」

 

ジーパンから軍艦行進曲が流れていることに俺は気が付くと、スマフォを取り出し、電話に出る。

 

『あ、にいちゃん』

 

若葉だ。どうしたんだろう。俺にかけてくるとは珍しいこともあるもんだ。

 

「どうした?珍しいな」

 

CX―5にもたれかかり、若葉へと問う。蒼龍には先に助手席へと乗っているように促し、若葉の返事を待つ。

 

『いやーあのさ。修理に来てくんない?自転車の』

 

「あ?なんだよ。壊れたのか?パンクか?」

 

『そうそう。ほんと嫌になっちゃうんだよね』

 

車が走るうるさい音が聞こえることから、おそらく歩道を走行中にパンクをしたのか。まあ幸いにも、この車には自転車のパンク修理キットを入れてあるし、修理しに行くのは無理ではないけどね。あ、ちなみになんで自転車用のパンク修理キットが入っているのかというと、たまに折り畳み自転車をこの車へと乗せて、遠出する。今度は蒼龍を連れて、出かけるのもありかな。

 

「んーわかった。近くのコンビニまで取り合えず歩け。幸い俺と蒼龍は今買い出しに行ってたし、近いんだわ」

 

運がよかったな我が妹。もし家だったら、自力で帰ってこいと言っていたぞ。そもそも駅の駐輪所に置きっぱなしで、満足に整備を受けに行かないのが悪い。

 

『はーい。あ、独り言だけど。女の子にパンクした自転車を押してあるけってひどいと思うなぁ』

 

そういい残し、若葉は通話を切る。おのれ、嫌味を言いやがって。仕方ないだろうに。

ともかく俺はスマフォをポケットに入れると、運転席のドアを開く。

 

「あー蒼龍。ちょっと向こうの交差点にあるコンビニに行くけど、いいかな?」

 

「え?あ、はい。わかりました」

 

 

どうやら俺たちの方が早くコンビニへ着いてしまったらしい。車を駐車場へ止め、あたりを見渡すが妹の姿はなかった。

 

「店はいるか」

 

俺と蒼龍は車から降りると、コンビニへと入る。ててててててーと、某緑のコンビニBGMが聞こえてきた。これを聞くと、ああファミ○だなぁと実感するよね。

 

まあそれから俺はブラック珈琲を、蒼龍はカフェオレを買い、再び外へとでる。すると、絶好のタイミングで、妹が黒色の自転車を引いて歩いてきた。

 

「あー!二人ともずるい。私も何か買ってよ」

 

「と、言うと思いまして、望さんは若葉さんにこれを買っていましたよ」

 

おい、何かってに渡してるんだ。まあ、渡すつもりだったし構わないけど。

 

「それで、どっちがパンクを?」

 

見た感じ、後輪パンクだろうな。後輪は最も重さが伝わるし、何より空気も抜けやすい。おそらく妹はこまめな空気入れをせず、そのまま乗り回していたのだろう。あれだけ空気は一週間。最低でも二週間目には入れろと言っているのに。

 

「後ろ。なんかよくわかんないけど、パンクした」

 

「うわぁ…べっこべこですねぇ。べっこべこ」

 

蒼龍はパンクしたタイヤをふにふにと押して、驚いた表情をしている。まあエアがないと、そんなふうに情けない姿になるんだよねぇ。タイヤって。

 

「あのなあ…。俺はいつも空気はこまめにって言ってるだろ?タイヤチューブは消耗品なんだ。三年くらいが目途で、もって5年。お前はそれを、一年でだめにしちゃってる。まったく…」

 

「はぁ?意味わかんないし。だって安物の自転車じゃん。これ」

 

確かに一万円弱の自転車で、変速機もついていない。だが、だからと言って扱いがひどいのは感心できない。大事なのは、その自転車を長く持たせることなのだ。たとえいい自転車を買ったとしても、このように雑な扱いでは宝の持ち腐れだったりする。

 

「とりあえず、修理にとりかかるか…」

 

「お手伝いします!」

 

それはうれしいけど、手とかすごい汚れるんだよね。蒼龍のそんな繊細なガラス細工のようにきれいな手を、黒ずんだ油で汚したくはない。

 

「あーじゃあトランクの端っこにある工具箱持ってきてくれるかな?」

 

「了解!」

 

意気揚々と蒼龍はトランクへと向かい、端においてある青色の工具箱を手に持つ。しかし、少し重いのだろう。「よいしょよいしょ」と声を出し、工具箱を運んできた。可愛い。

 

工具箱を開けると、まず俺は作業手袋を装着する。手のひらがゴムになってて使いやすいんだ。おまけに少し小さいサイズをつけているから、なおフィットする。

 

まずはプライヤーと呼ばれる、いわばペンチみたいなやつで、ナットキャップを外す。そこからラチェットでナットを緩め、慣れた手つきで両側を外す。

 

「へぇ…望さん自転車を解体できるんですね」

 

「そら、まあ自転車屋だし。これをやれないと働いていけないよ」

 

とはいうもの、ちょっと得意げな気分になる。まあ特別誇れるようなことではないけどね。何よりパンク修理くらい男はできて当り前じゃなかろうか。と、まあ昔は言われていたんだが…時代は変わったらしい。

 

「さーて、タイヤを外すぞー」

 

まずチェーンを緩めると、クランクのチェーンを外す。そのあと後ろのチェーンをも外し、あとはブレーキなどを外していく。

 

「それちゃんと直せるの?直せないとか言われても困るんだけど」

 

おまえなめてるだろ。さすがに2年近くもバイトをしていたら、いろいろ覚えるわ。

 

「まあ見てなって。よいしょっと」

 

俺はタイヤレバーと呼ばれるタイヤをリムからめくる道具を使い、タイヤを外していく。ちなみにリムと言うのはいわば鉄の部分で、タイヤの形状を保ってる円状のパーツ。スポークというまあ骨組みと合わさって、タイヤが完成してるわけなんだよね。

さて、じゃあチューブの状態をって…おうおう、これも典型的なパンクの仕方だな。

 

「若葉。お前ひょっとして段差を無理に超えたか?」

 

「うん。だから?」

 

「あー。たぶんそれが原因だな。ただでさえ空気が入っていなかったのに、さらに無理な衝撃。チューブのライフはゼロ。OK?」

 

まあよくあるパンク。通称リム打ちと呼ばれるものだった。これなら穴の付近に鑢をかけ、その上にゴムのりとパッチを貼れば、防ぐことが可能だろう。

 

「そういえば、望さんのバイト先ではどんな方が?」

 

家のバイト先には、かつて紹介した地元メンツたちのようなマッスルどもではない。いたって普通の、だけど全員癖がある。そんな感じだ。

 

「あー。まず店長の飯島さん。次にミュージシャンもやってる杉浦さん。俺の高校時代の後輩でもある有馬。化学系の大学に通っている桑田くんに、真面目が取り柄の生井さん。こんな感じかなー」

 

「みなさん同い年なんです?」

 

「いや、有馬と桑田くん以外はみんな年上。いろいろと教えてくれて、頼れる人達だよ」

 

店長の飯島さんは特にすごい人で、ひどい売り上げだったうちの店を一気に各店舗で一番の売り上げをたたき出したほどの手腕を持つ。しかしそれでいて厳格ではなく優しい人で、みんなから理想の店長としてあがめられてもいるらしい。

 

「今度行ってみても、いいですか?」

 

「まあ、そのうちな。きっとみなさん。自転車トークばかりするけど」

 

特に生井さんは、ロードバイクの大会で優勝を勝ち取れる人だ。以前は坂道くんとか言われていたけど、あいにくその元ネタがわからない。しかし、それでいてあまり筋肉ないのって、どういうことだろう。鍛え抜かれた、細身の筋肉だということなのだろうか。

 

「…前から思ってたんだけどさ」

 

俺と蒼龍がバイト話でまあ盛り上がっていると、若葉が唐突に口を開いた。

 

「にいちゃん。進路ってどうするの?まさかそこで働くつもりなの?」

 

 

とりあえず若葉の自転車修理を終わらせた俺たちは、それぞれ分かれることになった。ささすがに直したのに自転車を転がさないのは、もったいない気もする。いわゆる試乗点検で、治ったかどうかも確認してもらう必要があるし、断じてトランクに積むのが面倒だったわけではないです。はい。

 

―しかし…進路か。

 

俺は運転しながら。若葉に言われた言葉を思い出す。

大学二年。まあ新学期には三年だが、そろそろ考えなければいけない時期なのだろう。大学の友人たちも次第にそういう話をし始めて、ガイダンスにも出たりしているが、それでも皆は何の職種に着くか迷いに迷っているようだ。

 

「…望さんは、どんな職に就きたいんですか?」

 

それが答えれれば、苦労はしないさ。だけど、現実は甘くない。今つけるような職を、俺はまだ理解できていないんだ。

 

「わからねぇなぁ…」

 

こういうほかないだろう。まだ決まり切っていないのに、自信満々に言うことはできない。もしその職に就けなくて同情されるのは、なんとしても避けたいしな。

 

「うーん。あ!じゃあ、どんなことがやりたいんです?絵を描きたいとかありますよね?」

 

「ふへへっ…蒼龍。お前まるで進路相談の先生だな」

 

以前、こんなことを誰かに言われたような気もする。どのような人物であったかは覚えていない。定かではない。だが、確実に俺に何かを教える立場であったことは、わかっている。

 

「そ、そんな!私は…」

 

「いや、いいんだ。どんなことか…そうだなぁ」

 

頭の引き出しをすべて開けるように、俺は何か言えそうな単語を引っ張り出す。そして一つだけ、小さいころから掲げていた目標を思い出した。それは誰もが夢見る、まさにガキだからこそ言えたことだろう。

 

「正義で裁くこと…かな?」

 

思いついたことを俺は無意識に口走ってしまった。言ってからはっと、恥ずかしさが込め上げる。

 

「正義ですか?」

 

蒼龍は割と真面目に言葉を受け入れたようで、真剣に聞き返してきた。だが、さすがに動機が子供だ。某戦隊ヒーローじゃないんだ。

 

「ああー、ごめん忘れて。くさい言葉。はーいやだいやだ」

 

 恥ずかしさを紛らわすように俺は言うと、ふうと息をつく。

 

「ま、目標が無いわけじゃないんだよね…。だけど俺にその夢は、敷居が高すぎるんだ…」

 

その言葉に蒼龍は何か言いたげな表情をしたが、何かを察したのか表情を変え

 

「もう、この話はやめにしますか。暗くなっちゃいますね」

 

と、話を切り上げたのだった。

 

 

 




どうも、トビオです。
はい。宣言どおり、日付をまたいでしまいました。バイトの休憩時間の合間にもちまちまと書いてましたが、圧倒的に時間が足りませんでした。すいません!!
さて、今回の話はいろいろとよくわからない話になっていると思います。正直、ちょっとネタ切れを起こし始めているかもしれません。やばいよやばいよ。

と、言うことで次回から再び不定期と言うことにさせていただきます。まあ一週間に一度は確実に上げたいと思っていますので、どうかご理解をいただけるようにお願いします。

それでは、また次話で!


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★プラモデルつくります!

題名通ガンプラおよびガンダムネタが多く書かれておりますので、わからない方は「まあそういうのがあるんだなぁ」程度に思っておいてください。
また、最初の方にはちょっとしたプラモデルの小技も書いてあります。一応安易な説明が書かれていますが…。


パチリと、ニッパーでランナーを切った音が響く。

 

ランナーから切り落としたパーツのバリを、俺は鉄ヤスリで削り表面をなめらかにする。バリの残ったパーツなど、俺のモデラー美学に反するからね。

 

まあおおよそわかるとは思うけど、現在俺と蒼龍はプラモデルを作っていた。

 

事の発端は、汚くなった部屋を掃除している最中、蒼龍が積んでいたプラモデルを見つけたからである。彼女は見つけ次第「なんですか?これ」と俺に聞いてきて、俺はまあ説明するがてらかつて作ったプラモデルを見せていたら思いのほか話が弾んで、こうして2人で作ることになったわけ。

 

まあ昔からプラモデルを作ることが趣味ではあったんだけど、最近忙しくて作る機会がなかったんだよね。素組み(塗装もせず、ただ単に組む事)派では無い俺は塗装とかにもこだわる訳で、いつも時間がかかり過ぎちゃう。あ、因みに積んでいたプラモデルはガンプラだ。最近色々熱かったよね、ガンプラ。次元覇王流とか。

 

「むむむ。なかなか奥深いですね。プラモデルって」

 

蒼龍は真剣な表情で、ランナーからパーツを切り落とす。今回蒼龍はとりあえず俺が作るのを見てみたいと言っていたので、アシスタントを任せていた。因みに蒼龍が作って欲しいと渡してきたのはマラサイ。積んであった中で、なんか気に入ったらしい。かっこいいのは認めるが、目を止めれる様な機体では無い様な…。

 

「望さん。でもこんなにパチパチ切っていいんでしょうか?説明書通りに作らないのですか?」

 

黙々と切ってる蒼龍は、俺に問う。まあ、説明書通りに作るのもアリなんだけど、作り慣れてたらいらないんだよね、説明書。大体どういうパーツかわかっちゃうし。

 

 

「まあ加工とかパーツ全て切り取っておけば楽なんだよね。とりあえず今回はただ組むだけだけど…や〜っぱり気合い入っちゃうんだよ」

 

ともかく素組みだけでも、せめてスジ彫り(装甲などのつなぎ目を針などでなぞり、削る技法。モールド彫りとも言う)やモナカ(パーツの繋ぎ目を接着剤で合わせて無くす技法。合わせ目消しとも言う)をやりたくなってしまう。完成度が高ければ高いほど、作った時の達成感も凄いしね。

 

「そういえば…私はこの「まらさい」が気に入りましたが、望さんはどんな機体が好きなんです?」

パチパチとパーツを切りながら、蒼龍は問う。お、気になっちゃう?そうだなぁ。

 

「ジム・ガードカスタムかな」

ヤスリがけを満遍なく行い答える。盾本体とか言ったやつ、ガベゲロビに焼かれてしまえ。

 

「へぇ。どんな機体なんですか?名前からしてゴツゴツしてそうです」

 

「うーん。ゴツゴツというか、ただでっかい盾持ってるジム。でも、それがかっこいいんだ」

 

いくつもの複合金属を重ね合わせたガーディアンシールド。男のロマンが詰まってる。設定では一年戦争時最も生存率の高い機体だったとか。わかる人にしかわからない。

 

「私はまだがんだむをよくわかって無いですから、もっと気にいる機体がいるのかなぁ」

 

まあそもそも女性がガンダムに興味を持つって相当だとは思う。艦娘は案外背負ってるものが機械だから興味を示しやすいのかもしれないけど、どうせ明石とか夕張とか、メカに強い奴らが主になると思う。つまり総じて言うと、蒼龍がガンダムに興味を持つことに純粋な驚きを感じている訳。

しかも、積んであるプラモには一角獣やライオンを象ったチート機体や、羽に細身の関節金ぴかガンダムとか、粒子をばら撒く俺がガンダムだ機体とかあったのにもかかわらず、マラサイを選ぶ蒼龍に多大ないるセンスを感じるわ。

 

「俺も聞きたいけど、なんでマラサイを選んだんだ?かっこいいけどさ」

 

「かっこいいのも確かですけど、やっぱり頭の兜が気に入りましたね!それと籠手も渋いですし、何処か武士って感じがします!」

 

なるほど。つまりマラサイにどことなく漂う和を感じ取ったという事か。と、なればイフリートシリーズも好きそうだ。わかる人にしかわからないネタばっかり。

 

「よいしょっと。これで全てパーツ切り終わりましたー」

最後のパチリと言う音を響かせ、蒼龍は床から元俺のベッドへと腰掛ける。現在俺はまあ床で布団を敷いて寝てるのだ。一緒に寝ることはありませんでした。さすがに自重しています。

 

「さてと、とりあえずモナカが必要なパーツはあらかじめ組んでおいたけど、くっつくのに時間もかかる。よければプラモデルでも見に行くか?」

 

まあモナカの事を考えると本来三日くらい

 

「あ、行ってみたいです!私の気にいる機体、あるかもしれません!」

 

「まあ全ての機体が出てるとは限らんけどね。それなりに多いから、気にいる機体も見つかるんじゃないかな?」

 

車を走らせ、俺たちは近くの家電量販店へとやってきた。

 

本当は模型屋やおもちゃ屋の方が良いんだけども、家電量販店は品揃えが豊富で、定価よりも安くなっていることが多い。まあそんな家電量販店が増えてきて、模型屋やおもちゃ屋が廃れていってるのは、事実だったりもする。だから本当は、それらの店に行った方が良いんだよね。寒い時代になったもんだ。

 

さて、店の中へと入った俺たちは店内の軽快なBGMを体に受けつつ、プラモデルコーナーへと向かっていく。途中蒼龍が円盤みたいなお掃除ロボットを不思議そうに眺めていたが、まあそれは触れないでおこう。

 

「うわぁ。いっぱいあるんですねぇ。プラモデルって」

 

蒼龍は早速ガンプラコーナーまで歩いていくと陳列棚を見下ろす。確かHGシリーズは200機くらいあって、MGシリーズは260機くらいある。まあMGはリメイク版も多いから若干多いけど、実際はHGの方が種類が多いんだっけか。

 

「望さん、このえっちじいとえむじいの違いはなんですか?大きさしかわからないです」

 

早速その違いについて聞いてきたか。折角だし教えてあげよう。と、その前に。

 

「え?なんだって?MGと何G?」

 

「その、えむじいとえっち…」

 

復唱して蒼龍は感づいたのだろう。顔を真っ赤にして、ぽこすかと俺を叩いてきた。初心だなぁ。

 

「はいはいごめんごめんって。ちょっとからかっただけだって」

 

「しょーもないからかい方やめてくださいよー!もう!キライ!」

 

あらら、拗ねてしまった。頬を膨らませて、不機嫌さをアピールする蒼龍も可愛い。ほっぺ突っつきたいな。

 

「はい。それでまずHGだけど正式名称はハイグレード。まあ約12cmの大きさで、さっきのマラサイもそう。手軽に作れて、コレクションしやすいキットだね」

 

初心者入門にもオススメで、パーツ数の割に稼働域も高かったりする。また旧キット(過去に作られた色分けされてないガンプラ)と違って接着剤はいらないし、何より色分けされていることも大きい。

 

「じゃあ…えむじいとの違いはなんですか?」

 

むすっとした調子で、蒼龍は問う。まだ不貞腐れてるよ。

 

「あー。MGはマスターグレード。大きさは18cmくらいで、HGより大きいんだ。その分細部まで再現されてて、こだわりがある人はこのキットを買う人が多いね。コレクション性はHG。精密性と再現率を求める人はMGって感じかな」

 

もちろんMGはその分高いんだよね。HGが600〜2000円くらいが目安の値段だが、MGは2000〜5000円くらいとなかなか値がはる。

 

「って、機嫌なおしてくれよ」

 

まだまだむすっと頬を膨らませている蒼龍。可愛いけど、ちょっと面倒だ。

 

「じゃあ、撫でてくれてら許します」

 

俺はどうしようかと心の中で唸っていると、蒼龍が解決策を提示してきた。いや、まあそれは構わないんだけど、周りの目がね。近くにはガキどももいるし、ちょいときつい。

 

「後でで良いかな?」

 

「嫌です。いま、ここで」

 

おいおい強情なやつだな。意地になってるぞこれ。

 

「はぁ…じゃあまあ…」

 

このままではラチがあかないので、とりあえ優しく撫でてやる。しかしまあ、綺麗な髪だ。

 

「んふふ、良い気持ちです。気分が良くなりました」

 

どうやら許されたようだ。撫でると機嫌が良くなるスイッチがあるらしい。乙女スイッチの亜種だろうか。

 

「あー!にいちゃんとねえちゃんイチャイチャしてるぅ!ひゅーひゅー!熱いねぇ!」

 

案の定、キッズが俺たちのことを冷やかしてきた。最近のキッズは部をわきまえない。おのれキッズ。照れるからやめろ。

 

「はぁ…それで、HG?MG?どうするの?入門ならやっぱりHGだと思うけど」

 

「わかりました!じゃあそうですねぇ…」

 

蒼龍は棚の前でしゃがみ込み、じぃっとパッケージ箱を見つめていく。因みに今日はズボンを履いている蒼龍。ラッキースケベなどない。いらない。

 

「あ!これはどんな機体でしたか?」

 

そう言って蒼龍はアンクシャの箱を指差す。色合いが気に入ったのだろうか。確かに色合い、君と被るね。

 

「アンクシャ。ガンダムUCっていうタイトルに出てきたやられ役。かっこいいけどやられ役」

 

「やられちゃうんですかぁ…。可愛いのになぁまるくて」

 

可愛い?何を言っているのこの子。どこが可愛いんだ?可愛いというかかっこいい部類に入る気がするぞ。蒼龍の思考が、俺にはよくわからん。

 

「あ、じゃあこれは?」

 

今度リックドムⅡの緑か。お前絶対色で選んでるだろ。

 

「それもやられ役。てかなんでそんな微妙な機体をチョイスするんだチミ」

 

「うーん。とりあえず可愛かったり強そうな奴選んでます!」

 

リックドムⅡが可愛いかどうかは知らんけど、なんという曖昧な選び方だ。ってまあ蒼龍も俺がたまに見ているガンダムを横で見ているだけだし、仕方ないか。

 

「それじゃあこれはどうでしょう!」

 

次はギラ・ズールか。まあこいつはいいキットだった印象あるし、初めてのキットにしては十分かな。てか蒼龍はジオンスキーなのかな。

 

「やっぱりやめます。ちょっとビスマルクさんやプリンツちゃんを思い出しますし」

なるほど。まあ確かにジオンはドイツ軍がモデルだったはず。だからあの二人を思い出すのも、なんとなくわかるな。ちなみに連邦は、フランス軍がモデルだとか。

 

「かわいいか…んじゃあこれは?」

 

そういって、俺はアッガイのキットを手渡してみる。ガンダムのアイドルと言えば、まずこいつでしょう。

 

「あー。うん。なんかエイリアンみたいですね。熊型エイリアン?」

 

そういう発想はなかった。てかエイリアンってなんだよ。頭の形状だけしか判断してないやろ。

 

「これはどうです?強そうですよ」

 

 

ドーベンウルフとはまたまたコアな奴を…。いや、すっげぇ好きだよドーベン。ジオン系機体ではトップレベルに好きだよ。でもそいつ、わりとマイナーなんだよねぇ。

 

「ドーベンか。まあいいんじゃないか?劇中でもかなり頑張ってた機体だし、弱くはないよ。てか強い弱いで判断するの?」

 

「はい。だって強い方がいいじゃないですか。それにこのどーべんうるふ、顔の赤いところが可愛くないですか?」

 

赤いところ固定なの?てかなんだろう。この女子高生はとりあえずかわいいとか言ってればいいんじゃね的ノリは。蒼龍が本当はいくつか知らないけどさ。あ、ひょっとして若葉に変なこと吹き込まれたのか?

 

「それでいいの?」

 

「そうですね。この機体が気に入りました。早速買いに行きましょう!」

 

蒼龍はドーベンウルフの箱を抱えて、鼻歌交じりで歩いて行く。やれやれ、やはり女はよくわからないな。

 

一応俺も陳列棚をすばやく一通り目にすると、先走った蒼龍を追いかける。あいつはお金、持ってないからね。

 

 それからしばらく歩くと、蒼龍がある一角の陳列棚を食い入るように見ていた。あの棚は…。

 

「軍艦の棚…か」

 

これこそ興味を持たないのは、無理な相談だろう。そもそも彼女たちは空想の機械ではなく、実在した兵器を模しているからね。いわばあそこに並んでいる船の数々は、すべて知り合いのようなものだ。一部を除く、海外艦以外ね。

 

「気になるか?軍艦」

 

「あ、望さん…」

 

肩に手を置くまで気が付かなかったらしい。蒼龍はあたふたとして、ドーベンウルフをぎゅっと抱えた。

 

「…自分のプラモデルが、気になるのか?」

 

言うまでもなく、蒼龍が食い入るように見ていたのは、まさに航空母艦『蒼龍』であった。それなりにでかい奴で、お値段も張る。

 

「えへへ…気になるというか、懐かしいなって」

 

「なるほどね…。罰当たりだと思うか?」

 

実は、前々からこれは思っていたことだ。仮にも日本を守るために華々しく戦った船たちで、後世に残された俺たちは一つ一つに敬意を表さなければいけないだろう。だからこそ、このようなキットは存在していいのかどうか、俺にはわからない。

 

「…むしろ私はうれしいですよ。本当に」

 

だが、蒼龍から帰ってきた言葉は、意外にも称賛に価した言葉だった。

 

「むしろ、私たちがこうしてかつて戦ってきたことを忘れられてしまうのが、怖いですね。一番悲しいのは、忘れられる事…だから、それを形として残そうとしてくれることは、純粋にうれしいかなって」

 

「蒼龍…。ああ、そうだな。その通りだ」

 

死とはすなわち、存在そのものを忘れ去られることだと言う説がある。だが、こうしてどのような形でもその存在が確立していれば、それはいまだ生きているのかもしれない。だからこそ、蒼龍はこうしてここにいるのだ。

 

「あっ…望さん…」

 

俺は思わず、蒼龍を撫でてしまった。俺にとってこれは、もう愛情表現の形の一つなのだ。そもそも好きな奴じゃないと、こんなことできるわけが無い。

彼女もまた、それをわかっているのだろう。安心したような、また落ち着いたように目をつむりながら、ただ撫でられている。

 

「あー!まーたにいちゃんとねえちゃんがいちゃいちゃしてるぅ!お熱いこったー!あはは!」

 

だが、そんな俺たちの空気を、さきほどのキッズがぶち壊してきた。俺たちは言わずと、気まずい雰囲気になる。このクソガキ、いいタイミングで沸いてきやがったなぁ?

 

「こら!見ちゃいけません!おほほ…すいません…」

 

すると、キッズの親らしき人物がキッズの口元をふさぎ、キッズを陳列棚の一角へと引きずっていった。親もちゃんとキッズを見ていてください。迷惑です。いろいろと!

 

「あ、はは…さっさとドーベン買うか」

 

「そうですね…あ!」

 

気まずい空気を打開すべくさっさと購入しようと俺は蒼龍に提案したが、蒼龍は何かを思い出したかのように、声を上げた。

 

「望さん!これ買いましょうよ!」

 

そういって、蒼龍は先ほどの『航空母艦蒼龍』を指さす。

 

「え、えぇ…。いやまあその…俺軍艦苦手で…」

 

軍艦系はガンプラなどと比べ物にならないほど手間と時間がかかる。おまけに難しいったらありゃしない。基本筆モデラーの俺には、ずいぶんときついキットなのだ。

だが、蒼龍はお構いなしに、俺に言い寄ってくる。

 

「いいですか?苦手は克服することができるんですよ?そんな器用じゃないとか、難しそうとかじゃダメなんです。何事も挑戦ですよ!ちょ・う・せ・ん!」

 

なにいっぱしのモデラーみたいなこと言ってんだこの子。と、まあ的を射ているので宮の字も出ないですはい。

 

「うごご…わかったよ…。ウォーターラインシリーズ(軍艦系の定番キットシリーズ。船底がない)でいいよね?」

 

 と、まあこんな調子で、蒼龍のキットを買いましたとさ。

 

 

 

 




どうも、飛男です。
今回は割とやらかした作品に。わからない方はちょっとつまらない話だったかもしれませんね。それはすいません。ちょっとやってみたかった話でしたので。
しかしまあ国民的アニメなガンダム。多くの人が興味を持ってはいると思うんですよね。つまり、望もそんな類です。

では、今回はこのあたりで、また今度!


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アルバイトします! 上

予想外に多くなりそうだったので、分けます。

※國盛のあだ名をキヨに変えました。


三月の週初め、未だ寒さが残っているが、徐々に暖かくなる時期だ。牡丹雪は冬の終わりを告げるらしく、つい最近降ったとこ。因みに牡丹雪って、春の季語らしい。

 

そして、ついにこの時がやって来た。俺と蒼龍は和室で正座をして、親父と向かい合っている。

「では、お納め下さい」

 

茶封筒に入られた2万円を、蒼龍は滑らすように親父へと渡す。いかにも厳格そうな雰囲気を放ちつつ親父はそれを受け取り、中身を確認した。

 

「確かに受け取った。来月もよろしく頼むぞ」

 

そう言うと親父は立ち上がり、さっさと自分の部屋へと戻っていく。どうやらその二万円は、後日おふくろへ渡すのだろう。着服する事無いのは、明白だ。

 

「き、緊張しましたぁ…相変わらず、望さんのお父さんは怖いですね…」

 

蒼龍は相変わらず、親父が苦手らしい。まあ、あの人は基本無口だし付き合いにくいとは思う。だけど、地味に蒼龍のためなのかスイーツやお菓子を買ってくる事が多くなったような気もする。たぶん気を使ってるんだろうけど、意味をなしてないみたいだ。ドンマイ親父。

 

さて、働く事が絶望的であった蒼龍が何故金を用意できたのか。それは数日前へと遡る。

 

 

「そう言えば蒼龍。どうやって親父に金を払うんだ?」

 

日曜日。週に一度通っている道場の帰りに、俺はふと思い出したので聞いてみた。

 

因みに蒼龍は俺の練習姿が見たいとかで、一緒についてきた。いわく勇ましかったとか迫力があったとべた褒めされて割と困惑の色が隠し切れなかったんだけども、まあ嬉しく無いのと言われれば嘘になる。

 

あ、道場とは言っても大それたものじゃなく、実際は市役所内の道場。それに休日の朝だからか年配者が多いんだよね。勿論若い人もいるけど、最年少は意外にも俺。要するに大人向けの道場で、それはまあキッズたちとの迫力とはダンチだと思う。ちなみにキッズたちは、また別の日だとか。

 

「いえいえ!そんなことしなくても…。一応あの時はその…勢いだったんですけど、もう決めている事があります」

 

おいおい、やっぱり行き当たりばったりな発言だったのか。しかし、もう決めているということはやっぱり当てがあるのか?

 

「決めたこと?…まさか春を売るとか無いよな?」

 

春を売るってまあ隠語っぽく言ったけど、要するにあれです。いかがわしい類です。

 

「そ、そんなこと…!違います!私はそんなに安い女じゃないです!そ、そんな女に見てたんですか…?」

 

かなり不服そうに蒼龍は言う。もちろん断じて見ていない。まあ流石に思わずというかまあ無頓着な発言だったが、少しでも胸糞悪くなるような内容は彼女の口から聞きたくなかったんだ。でもそれで、蒼龍が危険な仕事に手を出さない事はわかった。蒼龍には悪いけど怪我の功名だろうか。

 

「そんなわけないさ。むしろ一途だと思ってる。あくまでも一番遠そうな可能性を言ったに過ぎんさ。しかし、前からアテがあるみたいだが、そのアテってなにさ?」

 

正直どこからそんな自信が出てくるのだろうか、それこそ本当に、春を売るとかしか考えられない。

 

「その、あの着物を売ろうかと思いまして…」

 

「着物って…。まさか最初に着てきたあの着物をか?」

 

「はい。今の私には不要ですし、何より売って家賃にした方が、それこそ皆様のためになると思うんです」

 

確かにそれは個人財産だし、売れなくはないだろう。だけど、あれって着物に分類していいのか?そもそも着物って、そこまで高額で買い取られなかった気がする。聞いた話では十万の着物が千円ぽっちで買い取られるとかザラらしい。ピンキリではあるらしいが。

 

「…一応俺は噂でしか聞いたことないけど、着物はそこまで高く売れないみたいだぞ」

 

「え!?で、でも…あれ新品同様なんですよ?望さんに会えるかもって、わざわざ特注して作らせましたし!」

 

そういう問題じゃ…って。ん?ちょっと待て。特注?それに新しく特注って。

 

「待って。ってことはあれ、何着か持ってるわけ?」

 

 いつも画面越しで着ている服じゃないというわけだ。いやでも、どう見ても同じ服な気がする。何が違うの?

 

「あ、はい。一着物ではありませんね。戦闘用は戦闘用に、日常用は日常用にあります。着てきたあの着物は、正装用のかなりいいやつです」

 

なんかとても残念な話を聞いたような気がするぞ。しかしまあ、確かに同じ着物をいつも着ているには綺麗過ぎだよね。て、言うか艦娘達の服ってそんな風に分けられてたの?普段着もあれなの?

 

「さて、それはさておき…着物以外の案はないのか?」

 

 「…ないです。えーっとあのぉ…本当に高額じゃないんですかぁ?」

 

 情けない声を出すなよ。しかしまあこれで蒼龍が根拠なしに持っていた淡いアテが消えてしまった。さて、どうするか。

 

「あ、そういえば」

 

唐突に、俺はかつて聞いた愚痴を思い出す。そうだ。いるじゃないか。頼れる奴が。

 

「何か妙案が!?」

 

 食いつくように、蒼龍は俺へと聞いてくる。

 

「まあ妙案かどうかは奴次第…かな」

 

 

 

 とりあえず、思い立ったら吉日。俺はコンビニへ車を止める。まあ蒼龍を待たせるのも申し訳ないし、とりあえず肉まんを買っておいた。おいしそうに食べるところを実況してあげたいけど、あいにくそれどころではない。おそらく奴は、今昼休憩だからだ。時間が惜しい。

 

俺は肉まんを渡し次第、喫煙所へと向かうと煙草を取り出し、電話をかけた。テゥルルと数回呼び出しの音が耳元で聞こえる。

 

 『もしもしー。なんだよ突然、今昼休憩中なんだが』

 

 案の定、電話主の國盛康清―キヨは休憩だったらしい。これは好機だ。

 

「すまんすまん。ちょっとお前にしか頼めないことでな」

 

「え、俺にしか?何だよ。気味が悪いな」

 

頼みたいのにそれはひどいんじゃなかろうか。まあこんなよくわからん電話をこいつにするのも、初めてだったりするしね。

 

「あー実はさ、蒼龍の件なんだ。ちょっと相談したいことがあってね」

 

『え、俺に?』

 

「うん。お前にしか頼れないと思う」

 

その言葉にしばらく國盛は無言であったが、ある程度経って口を開く。

 

『…わかった。下着の色だな。蒼龍に似合いそうなのは…』

 

何かわけわからんこと言い始めたぞ。さっきの間は何だよ。部屋にだれもいないことでも確認したのか。てか相談がなんでそれに結びついたのかがわからない。思春期の高校生じゃねぇんだぞ。

 

「お前は何を言っているんだ。そんなことお前に聞かねぇよ死ねよ」

 

『ひでぇ!ちょっとふざけただけだぞ!』

 

真面目な話するって言ってんのになんでふざけるんだ。こいつもやっぱり相当大物だ、ある意味。

 

「まあ話を戻すけど、蒼龍にはいま金が必要なんだ。つまり、お前の家で数日働けないだろうかと思ってな…」

 

『金?何だ?何に使うんだ?さてはイチャコラ資金か!なら聞く耳を持たないからな。アーアーキコエナーイ。リアジューカエレー』

 

こいつはワンテンポに一回はふざけないと生きていけねぇのか?どうしたのこいつ。以前はもっとまともだったはずなのに。

 

「お前久々に防具もって市役所に来い。俺が指導してやろうか?」

 

『あ、すいません。ほんっともうしません。だから胴をわざと外さないでください。あれ痛かったんだぞ!マジで死ぬかと思ったんだぞ!』

 

中学時代のトラウマをぶり返してやった。実はこいつも中学時代の剣道部同期で、よく試したい技の実験台になってもらったんだよね。もちろんその際不完全な技も多かったから…あとはわかるね。

 

「はぁ…。で、どうなんだ?雇えそうなのか?以前人手不足って嘆いてただろ」

 

『うーむ。とりあえず何にその金を使うんだ?割とそれをおしえてもらわんと、説得が難しいと思う』

 

どうやらキヨは納得し、説得することにまで話を飛躍させてくれたらしい。そういうところは、割と融通が利く。

 

「あー。実は親父にな、蒼龍がうちに住む代償として家賃を求めたんだ。まああの人も鬼じゃない。家賃は月二万にしてくれたんだが、何分親父は蒼龍の事情を知らん。だから、金の件で困ってるんだ」

 

『なるほどね。しかしまあ、お前が持てばいいんじゃないのか?金回りは著しく悪くなるだろうけど。それこそ愛さえあれば関係ないだろ?』

 

確かにその案も無いわけではない。だが、これは最終手段だ。おそらく蒼龍は、断固拒否をするだろう。勝手にこの世界に来て、なおかつ家賃を払わせるなど、それこそ蒼龍は嫌がるはずだ。着物を売ると決断したのだって、結局は俺に迷惑をかけないようにだろう。そう思うと、胸が痛くなる。

 

「それじゃダメなんだ。おそらく蒼龍は、負い目を感じちまう。この世界に来る際に着てた着物を売るとまで言い始めたくらいだし、金は何とかして自分で処理したいんだろう」

 

『…。わかった。そこまで言われちゃ俺もちょっと意地を見せてみるわ。とりあえず吉報を期待してくれ、説得は任せろ』

 

そういって、キヨは電話を切る。こいつはまれに、こんな男気を見せることがある。ただのおふざけ野郎ではないんだ。

 

「とりあえず、接客関連はあらかじめ教えておくかね」

 

内心キヨに感謝しつつ、俺は灰皿へと煙草を押し付けたのだった。

 

 

 

それから数日後。キヨの説得が功を成し、蒼龍は数日間の短期アルバイトを行える事となった。曰く、働きぶりによっては、正式なアルバイトとしても迎えてくれるそうだ。友人だとはいえ、此処までしてくれるのは心底ありがたい事だと思う。

 

しかしまあ、よくこんな魔法が使えたもんだ。蒼龍は経歴が一切無いしそれゆえに履歴書も出してない。老舗和食屋なのにもかかわらず、経歴一切不明の人物を雇うのは相当なものだよね。まあキヨ曰く、色々と冗談を交えたようだが…。

 

「似合うじゃないか。やっぱり蒼龍には、和服だな」

 

しかしまあそんな事はさておき、一応キヨの家ー「国盛亭」の制服は和服となっている。小豆色の町娘的印象を受ける落ち着いた可愛らしい着物だ。これはこれでアリだと思うけど、まるで別人みたいだ。

 

「えへへ、ありがとうございます。なんだか鳳翔さんになった気分です!」

 

たしかにあの人は、まさにその服が似合うと思うね。蒼龍も髪型変えれば、かなり近くなるのでは?より美人が引き立つ筈だ。だが、そうなると俺にとってもう高嶺の花だ。おそらく、二人で並ぶと俺が足を引っ張ってしまうだろうさ。

 

「…でだ。なんで俺も働く事になったん?」

 

実は蒼龍だけじゃなく、俺も板前っぽい格好をさせられていた。なんでも蒼龍を雇う条件に、俺もつき添わなければならないとか。まああくまでも蒼龍が正規のアルバイトとなれば話は変わるらしいが、なんだかんだ言って経歴がないのは、不安らしい。仕方ないね。

 

「いいやん。にあうぜ?流石道を続けている人間だな。様になってる」

 

「関係ないと思うんですが」

 

ため息が出る。まあ自転車屋はまだ繁忙期を迎えていないし、ヒマだといえばヒマだった。そもそも無理を言ったのはこっちだし、恩を返す意味で労働力となるのはいた仕方ない。

 

「私も似合うと思います!なんかこう…包丁をすぱぱぱって動かして、大根を切りそうです!」

 

そんなアニメ的な事出来るわけありません。そもそも刃筋が追いつきません。

 

「あら。貴女が蒼龍ちゃん?」

 

さて俺たちがくだらない雑談をしていると、キヨのおふくろさんが階段から降りてきた。如何やら店の準備が済んだらしい。

 

「へぇ、美人さんねぇ。七星君も隅に置けないじゃない!」

 

痛っ。おばさん叩かないでください。反応に困ります。

 

「でも大変ねぇ。事故で昔の記憶がほとんどないらしいじゃない。でも愛の力って凄いわ。七星君の事だけは鮮明に覚えてるんでしょう?ロマンチックねぇ」

 

何を言っているんだこのおばさんは。キヨは一体何を吹き込んだんだ?なんか俺がいない事をいい事に、無茶苦茶な事吹き込んだような気がする。ってキヨも俺の肩に手を置くんじゃねぇ。なに得意げな顔してんだ。

 

「ともかく、母ちゃん。七星も色々と思い出させようと努力してるんだわ。なあ?七星、蒼龍?」

 

「あ、ああ。そうです」

 

「は、はい。その通りです」

 

とりあえず話は合わせておく。まあウチのおふくろと、キヨのおふくろさんはあまり接点もないし、ばれる事は無い。はず。

 

「じゃあ蒼龍ちゃんには接客をやってもらうわ。色々な方とお話すれば、きっと記憶も戻っていくんじゃ無いかしら?敬語はある程度使えるみたいだし、きっと大丈夫ね!」

 

随分とアバウトじゃないですかね。老舗なのに、それでいいんですか?

 

「七星。おめぇは俺と一緒に皿洗いだ。皿は割ったらもちろん弁償だぞ?」

 

キヨが俺の肩を再び叩き、言う。 ああ、やっぱり皿洗いやらされるのね。なんとなくわかってました。




どうも、飛男です。
今回やっと、家賃についての話が出ましたね。まあ本来はもう少し先延ばしにしたかったのですが、逆に早いとこ片付けたほうがいいと思いました。あ
さて、次に蒼龍がついにアルバイトに手を出したようです。実際は履歴書うんぬんで雇用が面倒ですが、中には履歴書いらずのバイトもあるそうです。私はやった事ありませんけど、いかがわしかったり怪しいバイトでも無いらしいです。

さて、今回はこの辺りで!また後日にお会いしましょう。


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アルバイトします! 下

おまけに主な登場人物紹介を入れておきました。


―蒼龍視点―

 

私は、まず女将さんに店の前の掃除を任されました。

 

掃除ができないとお思いですか?ふふっ、私、こう見えても掃除は良く執務室や自室、たまに廊下とか、鎮守府にいた時はそれなりにやってしました。ですので自信はあるんです。

 

箒を使いさっささっさ。近くの落葉樹なのかな?その木から落ちた落ち葉は面白いようにちり取へと入っていきます。ところでこの木、なんの木だろう。

 

あ、因みに望さんは、今力仕事を任されています。板前長―キヨさんのお父さんに、瓶ケースを運ぶように言われたそうです。望さんは力もちですので、大丈夫でしょうね。

 

「あら、だいぶ集まったわねぇ」

 

しばらく私、落ち葉を履いていますと、女将さんが顔を覗かしてきました。女将さんは店内掃除をしていたそうですが、もう終わったのかな?

 

「こんな感じで、いいですか?」

 

「ばっちぐーね。落ち葉は集め次第、裏のごみばこへと捨て頂戴。綺麗になったかどうかは、あなたの判断に任せるわ」

 

「わかりました。あと気になるとこが幾つかありますので、そこも履いておきます」

 

私はそう言うと、集めた落ち葉を回収していきます。だいぶと女将さんは言ってましたが、そこまで落ち葉は散っていないようで、小さな山ができたくらいです。いつも掃除をしているんでしょうね。

 

さて、集め次第私は店裏へと向かいます。ゴミ箱はどこでしょうか。しまった。どのゴミ箱かを聞くべきでした。

 

すると、ガチャリと裏口が開きます。そこから出てきたのは、キヨさんでした。瓶ケースを持っているということは、おそらく裏口へ置くためでしょう。裏口の近くには、瓶ケースも積み立てられてました。

 

「あんれ?蒼龍どったの?」

 

キョロキョロしていた私に、キヨさんは声をかけてくださいました。慣れない私を、気遣ってくれたと思います。

 

「すいません。どこに落ち葉を捨てればいいかわからなくて」

 

「ああ、その銀のゴミ箱。それ燃えるゴミ用だからね。あ、鎮守府にそう言う習慣ってあったの?」

 

「いいえ、なかったです。とは言うもの、基本燃えるゴミに分類される物は、畑の肥料とかに使われてました」

 

「へぇ。七星から聞いたことあるけど、昔の日本はリサイクル国家だったらしいね。その名残なんだろうか?いや、そもそも艦娘って、どの時代に分類されるんだろう」

 

キヨさんは瓶ケースを積み上げながら、私へと聞いてきます。でも、時代ってなんだろう。

 

「わからないです…」

 

「え、あ、そう。じゃあいいや。なんか明かそうとすると消されそうだし」

 

やばいやばいと、キヨさんはつぶやきつつ店へと戻って行きました。消される?何を消すんでしょうか。電気?

 

 私はそんなキヨさんを不思議に思いつつ、鈍い光を放つ鉄色のゴミ箱へと落ち葉を捨てます。中身は…いうのは野暮ですね!

 

「さて、じゃあ次は何をすればいいか、おかみさんに聞いてみなきゃ!」

 

私は言葉に出して意気込むと、店の中へと戻っていきました。

 

 

 

 時刻は昼頃、店内は騒がしさが増し、客が大勢入ってきたとわかる。あと2時間ほど、この騒ぎが続くと思う。

 

そんなことはさておき、かちゃかちゃと音を鳴らし、俺は皿を洗う。

 

家で皿洗いはやるけど、いざこういう場でやると本当にそのやり方がっているのかすごい気になる。洗剤はどれくらい使うのかとか、どこまでさらに力を入れて磨くとか、まあ様々。今のところ怒られてないし、できてはいるのかな。

 

「おう七星―。どうさ。進んでる?」

 

キヨが声をかけてきた。お前接客に行ったんじゃないのか。

 

「なんだよ。いま俺は皿と格闘中だ」

 

「格闘してもいいけど割るなよ。割ったら弁償。一枚高いぞ」

 

うお。そうなのか、さらに気を付けて洗わねばな。確かに和食屋って、一枚の皿が高いとか聞くな。万単位?

 

「で、まあ声かけたのは…あ、ほら」

 

どうやら茶化しに来たのではないらしい。俺の肩を叩き、キヨは明後日の方向を指さす。そこに何があるのかと俺が振り返ると。

 

「女将さん!生姜焼き定食2つです!あ、注文ですかー?少々お待ちください!」

 

そこには仕事に一生懸命取り組む蒼龍がいた。こんな蒼龍、まあ見たことない。愛想よく笑顔を振りまき、着物効果ゆえかツインテをぴこぴこ動かし、より一層かわいらしさが引き立っている。もちろんそんな蒼龍をみて見惚れている客も多いなあれ。

 

「いいな…」

 

思わず俺も小さい声でつぶやく。いつもの蒼龍よりも二倍近く、魅力が増しているのだ。そんなの言葉が漏れるに決まってる。國盛亭の制服が着物で、本当に良かった。感謝してる。

 

「ああ、いいよな…」

 

肩に手を置きながら、キヨもつぶやく。むしろあの蒼龍を見て感銘の言葉つぶやかないのは、男じゃない。オカマだ。それかホモ。

 

「蒼龍ちゃん!3番さんのお料理運んでちょうだい!」

 

「はーい!ただいまー!あ、いらっしゃいませ!今混雑しておりますので、そこにお名前ご記入お願いします!」

 

てきぱきと仕事をこなす蒼龍は、まるで昔からここで働いているような印象を受けるだろう。まだ今日初めてのバイトだ。艦娘ってホントなんでもできるのだろうか。てか蒼龍が特別なのか?金剛とかこういうことできなさそう。

 

と、俺たちが遠目で蒼龍を見ていると、視線に気が付いたのか、嬉しそうに小さく手を振ってくる。接客で忙しいのに、俺にも気遣ってくれるのか。ほんと出来る女やな。もう抜けてるとか言えない。

 

「お前ほんとうらやましいわ。しねぇ!」

 

キヨもその意図を気が付いたのだろう。俺を罵倒してくる。ウハハ、どうだ悔しいか。お前にも手を振ったとは思うけどな。

 

「ちょっとキヨと七星君手が止まってる!さっさと仕事に集中しなさい!」

 

「げ、じゃあ俺も接客行ってこよかな」

 

おふくろさんに注意されたキヨは逃げるように厨房から店内へと出ていく。俺もこのつもりにつもった皿をきれいにせねば。

 

出来れば店が終わるまで、蒼龍を眺めたいんだけどなぁ…。

 

 

さて、まあこんな感じで時は過ぎ、午後三時。客足もついに途絶え、店の中はあわただしさがなくなる。

 

キヨとおふくろさんは仕込みをするとかなんかで、板前長と一緒に厨房で作業をするそうだ。俺と蒼龍は、その間、まあ客がいない間に店内を軽く掃除することを命じられた。俺は地面の箒掛け、蒼龍は机の水拭きと、散らかった座布団の整頓だ。その間蒼龍の着物姿を拝見できるのは、役得だね。ウハハ。

 

「ふう。まあこんなことかな」

 

塵取りをトントンと叩いて、砂埃や食べカスを端へと寄せる。箒で掃くのは楽なもんだ。それこそ俺は、よくバイト先で行っているしね。

蒼龍はまだ作業中であるが、すでに掃除の後半戦を迎えている。それなりに余裕の表情だ。

 

「しかし…すごいお客さんの量でしたね。私びっくりしちゃいました」

 

ふと、水拭きを行いながら言う蒼龍。それにしてはずいぶんと捌けていたよね。きみ。長く旗艦を家の艦隊でやってたし、これくらい何のそのなのか?ちがうか。

 

「まあねぇ。キヨんちはマジで人気あるから。メシもうまいし値段もそこそこ。地域だけに限らずいろいろなところからお客が来る。すごいわほんと」

 

地面を履いて俺も答える。固定客はもちろん口コミにより集客もできているとか。なお店紹介のサイトでもべた褒めされてたし、これは友人として鼻が高い。

 

「そういえば、蒼龍はこうして働くのは初めてだよな?」

 

こうして。って要するに一般的に社会の歯車の一つになって働くってことだ。彼女は戦争でしか『働く』ことを知らない。いや、働くというより『戦う』か。

 

「はい。新鮮ですね、本当に!」

 

嬉しそうに言う蒼龍。そうだよな。戦争なんかより、こうして働くことの方が、楽しいはずだ。客の笑顔をじかに見れることは、やりがいを感じるとも思う。でも、だからと言って、戦争反対とかは言わないけど。

 

「そうだ。もし、ここ以外に働くとしたらどこがいい?」

 

ふと、純粋に気になった。艦娘として生きるのではなく、普通の人として生きるなら何をやりたいんだろうか。むしろ蒼龍だけに限らず、そう言う道もあっていいはずだ。

 

「えーっと。あまり考えたことないですね…。あ!神杉さんみたいにお菓子を作るのが楽しそうです!それと動物を世話するのもいいかも…。それと…」

 

動物の世話となると、動物園やペットショップの店員かな。以前食い入るように動物特集のテレビ番組を見ていたし、ペットや動物が好きなんだろう。俺は犬が好きなんだけど、蒼龍は何が好きなんだろうか。

 

「あ、でも…」

 

それから、いろいろと考え込んでいた蒼龍だったが、ふと言葉を発する。どうしたのだろう。

 

「その…奥さんって、職業に入るんですかね?えへへ」

 

照れくさそうに言う蒼龍。奥さんって要するに主婦のことだな。確かに入るんじゃなかろうか。専業主婦と言う言葉もあるし、社会の歯車として動いていることも確か。いや、社会の歯車を支える潤滑油のような物か?と、言うか。そういう事を言っているんじゃないな。これは。

 

「じゃあ…俺はそんな奥さんの料理や笑顔を楽しみにしつつ、仕事に励むんだな。どんな職業に就くかはしらないけど」

 

「職業はさておき…まあ、そういう事じゃないですかね?ふふっ」

 

 

さて、それから夕食時のピークが訪れ、それを乗り切った俺たちは店じまいをしていた。夕食時にいつもより多く客が来たそうで、どうやら蒼龍効果があった様子。いわく美人な店員がいるとかなんかで、一目見ようと来たものも居たそうな。

 

「今日はお疲れさま!どうだった?ウチでのバイトは」

 

キヨのおふくろさんはすでに作業を終わらせたらしく、厨房からカウンター席へと顔を出す。

 

「いろいろと勉強にさせていただきました!本当にありがとうございます!」

 

箒を抱えながら、蒼龍はキヨのおふくろさんへと頭を下げる。

 

「自分も、自転車屋とは違うバイトで、新鮮でした」

 

「そう。よかったわ。それで、記憶はどう?何か思い出せそう?」

 

ああ、そういえばそういう設定だったな。蒼龍もそれに気が付いたらしく、俺の方へと苦い笑いを見せる。

 

「ダメ…っぽいですね。やっぱり何かしらのショックがないといけないみたいで」

 

瞬時に俺は機転を利かせた。こんなような事を言っていれば説得力あるだろうさ。

 

「そう…。でも、今は今の蒼龍ちゃんでいいじゃない。素直でいい子でしょう?前はどうだったかおばさん知らないけど」

 

まあ元からこういう性格なんですよね。と、付け加えようとしたがやめよう。そしたらかえって、怪しまれる危険がある。本当は記憶が戻っているんじゃないかって。

 

「はい。まあどちらの蒼龍も魅力的ですけどね」

 

「そう。さーて。じゃあ採用の件だけど。今日から正式アルバイトに雇用するわ。今後ともよろしくね。蒼龍ちゃん」

 

やはり採用してくれたようだ。まああれだけ動けるのであれば、店の戦力として十分に活躍できるしね。しかし、そうなると俺との時間も少なくなるが…まあそれは、仕方ないか。

 

「はい!えっとその、これからもよろしくです!」

 

そういって、蒼龍は頭を下げる。お金の件に関しては、これで何とかなるだろう。ちなみに振込先は俺の口座だけどね。

 

【おまけ】

 主な登場人物の紹介をしていなかったので、ここで追加しておきます。

 

~地元メンツ~

七星望  (ななほしのぞむ)

男性 二十歳 175㎝  

愛煙者 好きな銘柄:セブンスター アメリカンスピリット ホープ

剣道家 歴史学科で江戸時代の民間芸能を学ぶ ブラックコーヒーを好み、またお茶にもうるさい。

自転車屋でバイトしている。整備士免許を取ろうと考えている。好きな機体はジムガードカスタム

 

蒼龍(蒼柳龍子) (そうりゅう・あおやなぎりゅうこ)

女性 年齢不詳 160cmくらい

好きな食べ物:おはぎ アップルパイ 珈琲。弓術を使える(あたり前) 動物が好きでぬいぐるみが好き 何事にも興味を示すことが多い。 望の父親が苦手。 車を運転してみたいらしい

好きな機体はドーベンウルフ

 

國盛康清 (くにもりやすきよ)

男性 167㎝

老舗和食店『國盛亭』の息子。 家を継ぐことを考えている。 頭によくタオルを巻く。 定期的にネタを組み込んでくる。 写真では金髪だがテンパ 額がこの年で後退してきていることを危惧している。好きな機体はスターゲイザー

 

雲井浩壱 (くもいこういち)

男性 189㎝ 阿形像 とある世紀末覇者のような顔をしているが北斗神拳は使えない スイーツや料理が得意。 リンゴをたやすく握りつぶすほどの相当な腕力を持つ。威圧感はまさにカタギではない。好きな機体はヒルドルブ

 

雲井健次 (くもいけんじ)

男性 189㎝ 

吽形像 とある世紀末外道のような雰囲気だが兄同様北斗神拳は使えない。酒をこよなく愛する。米俵を片方の肩で担いで運ぶことができる。重火器や兵器が大好き。処刑方法をよく提案する。割と控えめな性格。 好きな機体はゴールドスモー

 

菊石統治 (きくいしとうち)

男 178㎝ 

家は町工場 うどん屋でバイトする。エグイことをよく言う。酒はそこまで強くない。花鳥風月を愛でることが多い。好きな機体はイフリート改

 

夕張 (ゆうばり) 

女 年齢不詳 

夕張市の申し子ではない。兵器大好き。自らコエールくんモドキを開発できる。現代に来てからは人に役立つものを作る。自らの設計者をあがめ、尊敬している。

 




どうも、飛男です。
今回はまあ前回の残りみたいなもんなので、内容は少し薄いかな?と、言うかうまくまとめれなかった気もします。ですが、こんなもんです。特にイベントはありません。

さて、今回おまけと言うことで登場人物紹介を入れておきましたが、どうでしょうか?実は彼ら、一応イメージ像があるのですが…さすがに作品名を入れるとねぇ皆さまが抱いている印象を崩してしまうかもしれませんので、入れませんでした。若干二名、わかりそうですがww。

では、今回はこのあたりで、また不定期に!


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さくらまつりです! 上

今回の話はあらかじめ二つに分けることを考えていました。



三月もいよいよ終わりを迎える。外を見れば風に揺れる木々が桜を咲かせ、完全なる春の訪れを感じさせてくれる。

 

そんな中、俺は大学のオリエンテーションに出ていた。まあ、簡単に言うと大学3年へと上がる、説明みたいなもの。こうした説明を1年2年と受けてきたとさ。

 

 タルい説明をくだくだと受け、教授達の説明も終わり、やっと解散になる。後は時間割り、と言うか取得する単位の教科を決める時間がやってくる訳だ。通称履修申告って言うんだけど、一学期に取れる単位には制限があって、その制限は合計24単位。いっぺんに50とか、単位が取れないんだ。

 

それで、うちの大学はパソコンからその申告を行う。だからこそ、あらかじめ大学の友人達とその申告内容を決めておくことが多い。友人と同じ授業を受けることにより講義が面倒になってサボる際、出席の偽造とかを行える。割とそう言う奴が大学には多いんだ。

 

で、蒼龍は今何をしているかって?実は今日、別行動中なんだ。俺も後から合流する予定だけど、地元で毎年開催される桜祭りに、いつものメンツと一足先に盛り上がっている筈だ。

「おい、七さん。それで何を取るんだ?俺はこれが楽だと聞いた」

 

大学内の友人グループ。通称大学メンツのまとめ役とも言える長谷川祐蔵が、俺に声をかけてくる。それに乗じて、他のメンツも集まってきた。

「そうだなぁ…とりあえずそれは取るとして…」

 

彼奴ら今頃、どうしているんだろうなぁ。

 

頭上にはこれでもかっ!と言いたげなほど桜が咲き乱れて、まるでトンネルの様に奥まで続いています。その他にも屋台が香ばしい匂いを漂わせ、私のお腹を刺激します。

 

「蒼龍さん、ついてきてます?」

 

夕張ちゃんが声をかけてきました。屋台に見とれていたわけではないんですが、そう見えちゃったみたい。私ってそんなに、食いしん坊に見えるのかなぁ。

 

「大丈夫。でも美味しそう。これだけ色々あると、やっぱりお腹がすくなぁ」

 

「まあそれはわかりますけどねー。でも、早く行かないと、統治さん達に何か言われますよ?」

 

統治さん含む地元の友人さん達は、一足先に設営作業を行うため、場所取りに行ったみたいです。あ、でも健次さんは私達のボディガードとして、若干後ろからついてきているみたいですね。確かに艤装のない私達は、ただの女の子ですし、心強いです。でも、逆にあの人が、すごい目立っているんですが…。

 

「もう少し、もう少しだけ見て回りましょ。折角来たんだもの。健次さんも、いいでしょう?」

 

私は一歩後ろにいる健次さんに声をかけました。彼は若干困った顔をしましたが、「まあいいべ」と変な訛りで答えます。どうしてみなさん、変な訛りを交えるのでしょう。

 

「はあ、まあ健次さんそう言うならいいんですけど、やっぱり罪悪感ありますね。私だけでも戻ろうかなぁ」

 

顎に人差し指を当てて、夕張ちゃんはつぶやきます。あ、そう言うことなのかな?

 

「ふふっ。夕張ちゃん、統治さんの事大好きなのね。一緒にいたいんだ?」

 

「なっ!私はただ、罪悪感に駆り立てられてるだけです!…まあ大好きなのは否定しませんが」

 

顔を赤くして…夕張ちゃんは可愛いですね。一緒にいたい気持ちは、痛いほどわかるもの。早く望さん、戻ってこないかなぁ。

 

「かぁあ…苦いコーヒーが欲しい。うごご、苦いコーヒーが…」

 

健次さんは頭に手を当てて、唸り始めました。怖い顔をさらに歪めていますけど、もう慣れました。

 

「ああ、もう良いです!私も一緒に回りますよ!統治さんなんてしーらないっ!」

あ、夕張ちゃんが照れ隠しをし始めました。もう少しいじりたいですけど、流石にやめとこう。

 

「じゃあまず、向こうに行ってみましょう?金魚すくいとかありそうです」

設営地とはまるで逆の方角に、幾つか水槽を設置している屋台があります。おそらく祭りといえば定番の金魚すくいとかありそう。私、結構得意なんですよね。金魚すくい。

 

「わかりました。健次さんも頭を抱えてないでいきましょう?」

 

「あ、ああ。だがその前にブラックコーヒーを買わせてくれ。もう砂糖は勘弁なんだよぉ〜。ブラックコーヒーも甘くなりそうなんだ」

 

さっきからこの人は、一体何を言っているんだろう。

 

 

 

数十分の話し合いの末、履修申告の内容も大方決まり、大学メンツは各々散っていく。俺もさっさと帰ろうとバッグに便覧や説明用紙などを片付けていると、一人の男に声をかけられた。

 

「七さん。ちょっち良えかえ?」

 

独特ないいまわしであれど、まるで違和感がない貫禄の持ち主。この男は大学メンツの一人である、大滝尚助だ。俺と同じく、武道家でもある。因みに、俺はこいつに艦これを勧められたんだ。つまり、割と古参な俺よりも、さらに先輩に当たる提督。

 

「なんだ?ちょっと急いでるから手短に頼む」

 

こいつとの会話は毎回ワッと盛り上がり、一時間二時間は簡単に過ぎ去って行く。だが今回は先約がいるし、一刻も早く祭りへ向かわないといけない。蒼龍が寂しがってるはずだしね。

 

「ああ、わりぃわりぃ」

 

そういって大滝は誤ると、しばし間をおいた。

 

「あーじゃあ手短に話すが、お前はファンタジーを信じるか?」

 

…えっ、は?なんか突拍子もないことを言い始めたな。だが、こいつはそんなおかしい事を言うような奴ではないし、何か意図があるはずだ。

 

「ど、どうしたんよ。そんなこと聞いて」

 

「ハハッ、まあ突拍子すぎたか…。だが、詳しく語ることはちょっと出来なくてな。それでも答えて欲しい。お前はファンタジーを信じるか?」

 

「信じるかって…おめぇ…」

 

信じない。と、以前の俺なら言ったかもしれない。そもそもファンタジーといえども対象になるのは山程あるじゃないか。魔法だったり、勇者がどうこうだったり、神様がどうこうだったりとね。

 

だが今の俺は、そんなファンタジーを体験してしまった。そして今では、そのファンタジーが中心として回る生活をしている。だから俺は―

 

「信じるだろ。まあ信じないといえば、信じられなくなるだろ?なら信じた方が、面白いじゃねぇか」

 

と、いつも通り軽く言葉を返してみた。

 

…って、まさかお前。

 

「そうか。そうだな。そうに決まってら。ありがとよ」

 

大滝はそう言い「じゃ、俺も帰るわ」と手を振りながら講義室を出て行った。

彼奴、まさか。いや、そうだとしたら…。これは大変な事が起きてる気がするな。

 

 

健次さんの頼みでブラックコーヒーを買った後、私達は「向こう側」へと歩き、色々なお店を回りました。特に金魚すくいは、楽しかったですね!やっぱりあちらの世界同様、金魚すくいは熱が入ります。

 

「蒼龍さん、流石に取りすぎですよ。金魚すくいのおじさん、すごい顔してましたよ」

 

私が取った金魚は20匹程でしたが、流石に持ち帰ることはできないので、二匹にしていただきました。でも夕張ちゃんの言う通り、取っている際の私を見て、おじさんが顔を青白くしてましたね。やりすぎたってほどでもなかったんだけど…。

 

「正直、あんなに取るやつアニメの世界だけだと思ってたわ。蒼龍すげぇぜ」

 

健次さんは笑いながら、私を賞賛してくださいます。望さんがいたら、どんな反応をしたんでしょうか。やっぱり、褒めてくれるかな?

 

「で、蒼龍それ食べるの?」

 

「え、金魚をですか?」

 

なにか、健次さんが意味わからない事を言ってきました。食べるわけないじゃないですか!私はむうと、健次さんを睨んでみます。

 

「おおう…冗談だよ冗談。夕張が食べるんだもんな」

 

「えぇ…なんでそこで私に振るんですか。健次さんいい加減にしてくださいよ…」

 

私達二人にどやされて、健次さんはちょっとしょぼくれた顔をします。怖い顔でもわかるほどで、ひょっとして笑いを取ろうとしてくれたのかな?そう思うと申し訳ないです。

 

それからしばらく歩いて、私達は設営地へと着きました。わあ、既に設営は終わってるみたいで、統治さん、浩壱さん、キヨさんは、お酒を開けて、ツマミを食べています。

 

「ああ、おきゃーり。随分と遅かったな?」

 

少し顔が赤くなっている、統治さんが迎えの言葉をかけてくれました。この人も、変な訛りを使ってる…。もしかしてこの地域では普通の訛りなのかな?

 

「あはは、ちょっと珍しくって、色々な場所を回っていました。すいません」

 

「まあ、いいんでね?それより七星からの伝言。もう少しかかるってさ。何でも渋滞に引っかかったらしいで」

 

スルメイカをしゃぶりながら、浩壱さんが言います。実は浩壱さんだけはどうもまだ怖いんですが、そろそろ慣れてきそう。でも、渋滞ですか…許せませんね!渋滞!

 

「あ、蒼龍さん。金魚どうします?木の枝とかに掛けておきます?」

 

 夕張ちゃんは金魚が気になっていたようで、声をかけてきます。たしかにどうしよう、でもかわいそうだなぁ。こんな窮屈な袋に入れたままなのは…。

 

「あー。死んだらむなしいし、金魚とりあえずこの桶に入れとけ」

 

そういって、國盛さんが桶を取り出してくださいました。金魚たちよかったね。しかしその桶、何のために持ってきたんだろう。

 

「さあて、そろそろ弁当開けるかね。七星の分は、まあ少し残しておけばいいだろ」

 

キヨさんがそういうと、彼は紙袋から重箱を取り出します。ふたを開けると、そこには多くの食材がパレードを行っているかのように、きらきらと輝いています。どれもおいしそう!

 

 「望さん早く来ないかぁ…」

 

 やっぱり望さんがいないと、寂しいですね。

 

 

うごご。いったい何時になったら動くんだ。この渋滞。

 

あとどれくらいで着くのだろう。まだまだ時間はあるけど、あいつらのことだ。今頃もう食っているに違いない。オリエンテーションがこれほどにまで憎く感じるとは思いもよらなかったな。

 

カーナビを見ると、渋滞予測時間は一時間ほどらしい。うーむ。二時間半くらいには着くだろうか。まったくやってられねぇぜ。

 

「くそ…こうなるなら電車で行けばよかったな…。」

 

と、まあ俺がうなっていると、スマフォがピロリンと音を鳴らす。おそらくメールだ。最近メールを使う概念が薄い時代だし、音とかを一切買えてなかったな。

 

「しかしメール?だれだ?」

 

あいにく俺はメールアドレスを他人には教えてない。つまり、何かしらの手段を使って、俺のアドレスを知ったということだろう。ちなみにPC用アドレスを使っている。

 

「迷惑メールだったらなおイライラするだろうなぁ…」

 

まあこんなことをぼやきつつ、メールを開いてみる。すると。

 

「?すまりかわ。すでシカア…なんだこれ」

 

意味不明なメールだった。件名なしだし、なにこれ。

 

「ふへっ。…なんかイラつくより逆に笑うわこんなん」

 

失笑してしまった俺は、なんかもうよくわからないテンションになってるな。と、そうこうしているうちにもう一通がきた。今度はちゃんとしてるな。

 

「ぎゃくよみ?…ああ、あああ!なるほどなるほど!」

 

先ほどの文章を逆から読むと、「アカシです。わかります?」だ。つまりこれは、明石からのメールだろう。って、え?

 

「明石からメールきたの?迷惑メールじゃないの?」

 

しかし、先日の『俺の声聞こえる現象』もあるわけで、もう疑うことができなくなってきてる。と、言うわけで。

 

「どうしてメール送れるの?っと」

 

メール返すと、またメールが届いた。

 

「デンポウにサイクをしたケッカ。セイコウしました?すげぇなお前ほんと」

 

明石って何者なんだろう。すると、連続してメールが届く。

 

「ジツは、アカシねっとわーくで、こえーるくんが一部リュウシツした恐れがある?…あっ」

 

明石ネットワークってなんだ。って、そんなことはいいとしてつまりコーエルくんの技術が一部流出した可能性があるってことだ。と、考えるとすべて合点がいった。

 

「そうか…つまりハマ○を登録した友人に対して、明石の技術が流出したってわけか…」

 

つまり、そう考えるとほかにも影響を受けた知り合いは確実にいそうだ。地元のメンツや大学メンツ。そしてオンラインゲーム仲間まで…。

 




どうも、連日投稿の大空飛男です。

次回で春休み編?は終了します。次々回からは大学編へと突入する予定です。

さて、最後に少々意味深な一文があったはず。そう、まだまだ現代に来た艦娘はいそうです。しかし大筋は蒼龍と望のお話しですので、深く考えないで読むことをお勧めします。

では、今回はこのあたりで、おそらく明日には、次回が投稿できるかな?


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さくらまつりです! 下

今回、戦闘描写?があります。まあ現実世界なので、どちらかというと喧嘩描写でしょうかね?


重箱を開けて、もう二時間以上は経ったでしょうか。お話に華を咲かせて、もう中身は殆ど残っていません。

 

あ、望さんの分は、既に他の容器へと移してあります。その容器はくーらーぼっくすと言う魔法の箱に入っているそうなので、腐る心配は無いそうです。むこうの世界では、冷水や氷で冷やしておくのですが…。くーらーぼっくすは保温効果があるようで、常時冷たいんですって。

 

「それでよ。その時のキヨの顔ってば…思い出すだけでも笑いがとまらねぇクッカカカ!」

 

浩壱さんは豪快に笑いながら、昔話をしています。皆様よくそんなに、失敗談とか恥ずかしい話とかを陽気に話せるのでしょうか。正直すごいなぁ。

 

「あの時はまあやばかったな。だって、ガッチガチにサポーター巻いてたら手がパンパンに腫れてやがったもん。そら驚いた顔するわ」

 

苦い笑いを漏らして、國盛さんは言います。どれだけ腫れていたんだろう。

 

「そういえば、夕張って普段どうしてるんだ?蒼龍の話も気になるけど、まずそっちも気になるな」

 

國盛さんが華麗に話題を変えてきました。あ、それ私も気になりますね。

 

「え?えーっと…」

 

言うかどうか、夕張ちゃんは迷ってるみたい。でも、代わりに菊石さんが答えました。

 

「ああ、こいつうちの機材を使って何か作ってるよ。何でも人に役立つ物を作りたいらしい。な?」

 

「あはは…まあその、今まで兵器しかいじった事なくて。この世界に来た時、兵器以外にも着手しようかなと」

 

へぇ。すごいなぁ夕張ちゃん。私は何をやっているのかと言われても、何も言えない。ちょっと敗北感が湧き上がってきちゃう。

 

「お、もしそれが成功して特許を取れば、お前らウハウハじゃん。じゃあ前祝いに俺たちにヴィンテージワインを買ってくれよ!」

 

ぐへへと怪しい笑いを浮かべながら、健次さんが言います。ちょっと気が早いんじゃ…。

 

「ばーか。気が早えよ。それに特許申請しても、それが大ヒットするかわからんだろ」

 

やっぱりそう答えますよね。でも、大ヒットすれば同じ艦娘として鼻が高いかも。

「あ、私ちょっと、お化粧直してきますね」

 

つまりはお手洗いです。私も少々、お酒を飲んでいまして。あ、でもセーブはしてますよ!望さんがいないと、なおセーブします。だって、他の方に迷惑かけたく無いですし。

 

「あー場所わかる?なんなら俺らが付いて行こうか?」

 

浩壱さんと、健次さんがのそりと立ち上がります。うわぁ、二人が並ぶと本当に威圧感凄いですね。

 

「いえ、大丈夫だと思います。場所さえ教えてくださえば」

 

「一応俺らは七星にボディガードを任されているんだけど…まあ大丈夫かなぁ。そこの林に階段がある。その階段を下ってすぐにあるはずだ」

 

顎に手を当てて、浩壱さんは心配そうな顔をしてくださいます。でも、流石に着いてこられるのは恥ずかしいですし、ごめんなさい。

 

「ありがとうございます。じゃあちょっと、行ってきますね」

 

 

さて、化粧室で手を洗い。私は外へ出ます。あとは、来た道を戻るだけですね。

 

あ、向こうは田園地帯なんだ。後ろを振り返ると、のどかな景色が広がっていました。稲穂が無いのが少々残念ですね。それと、右側の一部分に広がるのは普通の畑かな?ともかく、心穏やかになりますね。

 

と、私が和んでいる時でした。

 

「おやぁ?お姉さん一人?」

 

ふと、私は声をかけられました。そこには、髪の毛を茶色にしたり、金色にしたりと、見るからにおかしい格好の人たちが居ます。顔にもなにか鉄のようなものをつけていますし…望さん達よりは少々幼い顔立ちですけど、私に何か用なのでしょうか?

 

「えっと、なにか?一人ですけど」

 

私が質問をし返すと、おかしな人たちは顔を見合わせます。

 

「いやね?ちょっと寂しそうにしてたから、俺たち気になっちゃって声をかけたわけ。どう?これから一緒に遊びに行かない?」

 

ああ、私が一人だったから声をかけてくださったみたいです。優しい方達ですね。でも、ちょっと怪しい?なぜニヤニヤとしているのでしょうか。

 

「ご好意は嬉しいですけど。私、お友達と来ていますので。ごめんなさい!」

 

申し訳ない思いで、私は三人に頭を下げました。すると、おかしな人たちは私へと寄ってきます。あれ?断ったはずなのに。どうして私を取り囲んで…。

 

「そんなん放っておけばいいじゃん?俺たちと遊んだ方が、きっと楽しいと思うけどなぁ」

 

う。近くへ寄られて初めてわかりました。この人たちきっと酔ってます。お酒臭い…。

 

「いや…その…ごめんなさい!」

 

私は三人のおかしな人のうち、一人を突き飛ばして階段へと向います。あの人たち、やっぱり少しおかしいです。

 

どさりと、一人が大げさに倒れます。すると、その人は叫び始めました。

 

「ああああああ!いってぇえええ!腕がぁあ腕がぁああ!」

 

え、そこまで強くは押していないはずなのに。もしや打ち所が悪かったのでは…?やっぱり酔っていて、体が思うように動かなかったのかもしれません。

 

「だ、大丈夫ですか!」

 

思わず、私は彼の元へと向います。本当に苦しそうに、うずくまっています。

 

「おい、大丈夫か?あーお姉さんこれは折れてるね。どうしてくれよう」

 

金髪のおかしなひとは、身内が苦しんでいるのにニヤニヤと笑いを浮かべて言います。

 

「う、病院。病院に連れて行ってくれ…」

 

苦しんでいるおかしな人は、途切れ途切れに言います。そうだ、浩壱さんと健次さんを連れてこれば、この人を運べそうです。

 

「わ、私。知り合いを呼んできます!」

 

急いで、私は走り出そうとしました。でも、茶髪のおかしな人が、私の腕をがしりと掴んできました。

 

「おい、あんた逃げる気か?俺らの友達が苦しんでいるのに」

 

そ、そんな。でも、あの二人を呼んでこれば運んでくれるはずですし!

 

「大丈夫か?立てるな?あんたも一緒についてきてもらうぞ。落とし前はしっかり払ってもらわねぇと」

 

もう、言い逃れは出来ないです。私が、私がこの人を怪我させてしまいました。だから、私はついていくことしかできません。

 

望さん。迷惑をかけてしまい、ごめんなさい…。

 

 

それから私たちは、駐車場へ向かいました。彼らはどうもバイクでお祭りに来たらしく、3台バイクが止まっています。

 

「あのぉ…大丈夫ですか?本当に、申し訳ありません…」

 

「あ、ああ…くくっ。もう大丈夫ですよ」

 

え、今笑った…。と、私が思うと同時でした。苦しんでいた顔に鉄をつけている人は、ニヤリと笑みを浮かべて、何事もなかったかのように痛がるのをやめました。

 

「ごめんねぇ。聞き分けないからこうして連れてきたわけ。これで、人の目もぐんと減ったね、じゃあ行こうか」

 

私…騙された!?そんな、酷いです!

 

「あ、やっ。離してください!最あなたたち最低です!」

 

「ッチ!いい加減いうこと訊けよ!」

 

パシリ。と、乾いた音が駐車場へ響きます。痛っ。頬がジンジンと痛いです。

 

「お、おい。ちょっとやりすぎだぜ。流石に殴るのは…」

 

「うるせぇ!この女が言うこと気かねぇのが悪いんだよ!」

 

無理矢理なのに、無理矢理ここまで連れてきたのにそんなことを…!理不尽にもほどがあります。

 

「まあいい。ほら、おとなしくサイドカーに乗ってくださいよ。もう殴ったりしませんから」

 

鉄をつけたおかしな人は、わたしを無理矢理サイドカーに乗せようとします。

 

「嫌です!離してください!」

 

懸命に振り払おうとしますけど、すごい力で私の手首を握って、離そうとしません。

 

そう、抵抗は無意味に近いです。この人たちの力に、私は勝てるわけが無いんです。艤装をつけていない私は、ただの女の子…。解体されて、ただの女の子に戻った子たちと変わらないんです。ですから、男の人にこうして強引にされてしまえば、負けてしまうんです。

 

叫ぼうとしたら、口元を押さえられました。せめて艤装があれば…と、頭によぎります。でも、私は空母で、実はそれほど力があるわけでも無いんです。それに、艤装を使って仮にこの人たちを振り払っても、艦娘が一般人に暴力を振るったと言われそう。もう、どうしていいかわからない。

 

助けて。と、私は強く願いました。もちろん、言葉にしない限り、私の声は届くわけありません。でも、せめて、せめて願いが届けば…。

 

と、その時でした。

 

プッーっと、車のクラクションが盛大に響きます。何が起きたのでしょう?

 

瞑っていた目を開けると、そこには見慣れた青色の車がありました。CX—5。そう、望さんの車です。

 

「なんだぁ?このふざけた車は。おい!降りてこい!」

 

金髪のおかしな人が、叫びました。相当怖い顔をしてます。

 

少し間が空いて、CX—5のドアが開きました。そこから出てきたのは言うまでもありません。望さんです。いつもより怖い目付きですが、フライトジャケットにジーパン。何処か飄々としているけど、力強さを内に秘めている。まさしく望さんです。

 

「君たち、なにしてんの?」

 

望さんは御立腹なのか、若干顔を上にして見下すように、低い声で彼らに聞きました。

 

届きました。願いは、届いたんです!

 

 

ふと考えを変え、駐車場に車を止めに行ったのは正直幸運だった。やっぱり路駐なんてするもんじゃ無いな。こうした事を、俺は見落としていたかもしれない。

 

まさにジャストタイミングだったか?蒼龍は見た感じクソガキ共に誘拐されそうだった。おそらくあれは、高校を卒業してすぐの、調子に乗っているキッズ共だ。

 

「嫌がってるだろ。離してやったら?」

 

あえて、他人のふりをする。こうする事で、蒼龍との接点が無い、つまりただの通りすがりのいきった奴だと思われる筈。念のため、蒼龍にウインクをしておく。意図に気がついてくれたのか、俯いたな。よしよし。

 

「はぁ?おっさん何なの?もしかしてヒーローにでもなるつもりですか?」

 

へらへらとキッズがなにか言ってるな。おっさんじゃないけど、まあいいや。ともかく醜いその面を直したらどうだ?

 

「まあ、俺は通りかかりのおっさんだよ。ヒーロー願望なんてないけどね。でも、駐車の邪魔なんだ。さっさとその子を置いて、帰ったらどうだ?」

 

「はぁ?なんでおめぇの言うこと聞かなきゃならないわけ?むしろおめぇがどっかに止めれば?」

 

まあ正論だな。現に他の場所も空いている。

 

はあ、聞き分けも無いし、自分たちが最強だと思ってる痛い子たちだ。そろそろ現実を見せてやろうかな。

 

「そういう事言っちゃうか。穏便に事を運ぼうと思ったけど、こりゃダメっぽいな。じゃ、まあ言っちゃうけど…君らのその行為、すべてドライブレコーダにおさめてあるんだよね。頭悪そうだけど、どういう意味かわかる?」

ドライブレコーダって、まあ要するに万が一の事故に備えて前方を録画する機械のこと。つまり、先ほど奴らが蒼龍を無理矢理リアカーに乗せようとした場面が、ばっちり映ってる。で、これを警察署に提出すれば、彼らの人生はここでゲームセットって訳。

 

お、流石に理解してるみたいだな。酔っていたのか、仄かに赤みがかった顔は、若干色を失い始める。

 

「あ、そうだ。君達お酒飲んでるよね?それでバイクに乗ろうとしたの?あーそれ、飲酒運転をしようと思ったのかなぁ?まあ、未遂だし証拠にならないけど」

さらに顔が青ざめ始めたぞ。未成年云々はまあ注意だけだけど、それに加え飲酒運転のなれば話は別。まあ所詮、キッズなんてこんなもんだ。

 

「まあわかったら帰った帰った。あ、その子を置いてね、いい加減離してやったら?」

 

三人は顔を見合わせて、話し始める。しかし相変わらず、蒼龍の腕を握ったままだ。強情な奴らめ。その汚い手を放してくれませんかねぇ。蒼龍が穢れちまう。

 

「うるせぇな…うるせぇ!うるせぇうるせぇ!てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ?」

 

「へ!そ、そうだぜ!ヤキ入れてやるよ!」

 

どうやら後先を考えない馬鹿共だったらしい。仕方ない、ちょっと懲らしめてやるか。

 

「あーそうですかい。俺も渋滞やハンドルキーパー任されてイライラしてたんだ。ちょっと運動させて貰うわ」

 

俺の中にある、試合のスイッチが入ったらしい。

 

 

 

軽快な音楽が遠くで聞こえてくる。戦闘BGMにしては小さいかな?

 

キッズたちはファイティングポーズを構えて「かかってこいおらぁ!」とか「ビビッてのかぁ?」とか言っているが、いたって引け腰。どうやら喧嘩慣れをしていないと見た。そもそも現代で喧嘩をするなんて、考えもしなかったのかもしれない。まあ、やる人はやってるんだろうけど。

 

自分で言うのもなんだけど、俺は試合のスイッチが入ると人が変わる。と、言うか武道家なら誰もがそうなる筈だ。達人クラスの武術家は、常にスイッチが入っているらしいけど、残念ながら俺はそこまで達してはいない。あれはもう人間離れしてる。

 

で、まあ俺は腰を落とし、ジーパンのポケットに手を入れている。つまり手は出さない事を表しているんだけど、向こうは気づいているのかな?

 

そう、俺は、殴る蹴るなんてするつもりは無いんだよね。もともと武器を使う武道だし、だからと言って武器を使うのは罪が重くなる。他にも、まあ理由はあるんだけども。

 

「くうう…なめやがって!」

 

金髪のキッズが殴りかかってくる。ああ、やっぱりだ。動作の大きいテレフォンパンチで、当たると思ってるのかね?まだ中学生の竹刀運びの方が速いぞ。それは見下しすぎかな?

 

俺はあえて左前へと体を運び、いなす。ま、竹刀じゃないし当然か。金髪はそのまま勢いあまり体勢を崩す。

 

そんな金髪の足元を、軽く払ってやった。お、案の定正面から倒れたな。痛そうだ。足払いと言う名の禁則技を、昔あえて練習したのが功を成したな。なんでって?趣味さ。

 

「いってぇ…いってぇよ…」

 

うめき声をあげ、金髪は顔を抑える。鼻血が出てるし、どうやら敵意は無くなったらしい。

 

「おいおい、なに勝手に転けてるの君。大丈夫?」

 

まあ一応、余裕を見せておく。ぶっちゃけ久々な経験だし、きわどかったかも。避けるのがね。

 

さて、残りは二人。っておや。さらに引け腰になってるね。どうして喧嘩ふっかけてきたんだろう。さっきの勢いはどこへ行ったのやら。

 

「逃げたかったら、逃げてもいいぞー」

 

さらにずかずかと歩いて行き、俺はキッズたちへと向かっていく。

二人は再び顔を見合わせ、どうやら今度は逃げる事を選んだらしい。蒼龍の手を離し次第、キッズたちは一目散に階段を駆け上がっていく。

 

って、まあもうそろそろ、彼奴らが来る頃だろうね。

 

「いってぇな!前向いて歩けよ!」

 

蒼龍のへと歩み寄る最中、 階段の方向から叫び声が聞こえてきた。あ、来たみたいだ。

階段を見上げると、出口はなかった。いや、出口が無いように見えるだけで、巨体の男が三人。出口をふさいでいた。あいつらも酒入ってるけど、むしろ厄介になるんだよね。

 

「んんんん?君たちがぶつかってきたんでしょう?俺たちは階段を下っているんだよ?前向いてないと下れないよねぇ?んんん?」

 

受ける方だったらすげぇうざいだろう。健次が首をかしげて、なめ腐ったように言う。だが、その顔は笑ってない。むしろ威圧している顔だ。

 

「いってェなァ。おめェらこそどこ見て歩いてんだァ?指詰めたろか?」

 

浩壱は恐ろしい顔をさらに歪めて、もはや阿修羅像のようになる。ああ、酒が入って真っ赤になってるし、まるで閻魔大王だわ。

 

そう。まああいつ等っていうのは浩壱、健次、統治の事。車から出る際、あらかじめSNSを飛ばしておいた。ちなみに統治はどちらかっていうと、保険要員。こいつはガチンコに向かないけど、精神的な攻撃には適してる。

 

「あー。これは言いがかりですね。って君たち何腰を抜かしてるの?…ああ、そういう事ですか。あーわかりますわ。兄貴たち顔怖いからねぇ。どうしますこいつら、コンクリートで固めて海に捨てちゃうます?あ、僕はブタの餌にするのがいいと思いますけどね」

 

 ぎひひと、いつになくゲスな笑いを漏らし、統治は言う。

 

もう会話がきな臭い方向へと広がり始めているね。まあ隣の市にはそういう方たちもいますし、その手のたぐいだと思っちゃうだろうねぇ。

 

「あ、あ、あ…その…」

 

キッズたちもう会話できないようで、口をぱくぱくと開けているみたい。見えないけどなんとなくわかる。

 

「で、どけよジャリ共。今回は見逃してやらァ。二度と顔見せんじゃねェ!」

浩壱の鬼面よろしくの一喝に、キッズたちはよろよろと立ち上がり、「ウワァァァァ!」と退散していく。ご愁傷さま。

 

 

さて、パツキンキッズもどうやら別の方角へ走っていったようで、何とか事は収まった。まあストレス発散できたかどうかと言われれば、微妙なとこ。

 

「大丈夫か?立てる?」

 

俺はしゃがみ込み、蒼龍へと手を伸ばす。よく見ると、頬が若干腫れているな。まさかあのキッズども暴力を振るったのか。しまったな、もう少し痛みつけておけばよかった。

と、まあそんな考えをよぎらせていると、蒼龍は目元をジワリと涙で濡らし、俺へと飛びついてきた。その勢いに、俺は思わず両手を地面に着く。

 

「うおっ!おいおい。…まあ、大丈夫そうか」

 

ひたすらに俺の胸に顔をうずめ、フライトジャケットをぎゅっと握りしめてくる。怖かったんだな。早急に発見できて、本当に良かった。

 

「遅いですよぉ…もう。許さないですから。怖かったんですからね」

 

さらに密着するように蒼龍は体を縮こませながら言う。こんなの、抱きとめるしかないじゃないか。俺は思わず、蒼龍の背中へと手を伸ばし、ぽんぽんと優しく叩いた。

それからまあしばらくして、階段から三人が降りてきた。にやにやと顔を歪めているな。どうやら相当スッキリしているらしい。

 

「まったく、おめぇらってやつは。もし俺が駐車場に止めなかったら、本当に危なかったぞ」

 

危なかったというか、取り返しがつかなくなりそうだった。そこらは少々、こいつらに物申したいところがある。あれだけ目を離さず護衛を頼むと言っていたのに。

 

「…まさかトイレの際を狙われるとは思いもよらなかった。すまん七星」

 

俺の憤りを感じたのか、先ほどのにやつきなど一切捨て、浩壱と健次は頭を下げる。まあ、内心罪悪感もあるようだし、とりあえず蒼龍が無事だからいいや。

 

「ま、今度からはマジで頼むわ。これからも俺が一人で行動しなければならないこともあるしな」

 

ぱんと両ひざを叩いて俺は立ち上がると、腰に手を置いて息を吐く。なんだかんだ言って、こいつらは頼れるし、信頼もしているからね。できれば失望させないでほしい。

 

「え!またどこかに行っちゃうんですか?そんなの嫌です!」

 

しかし俺がそういい次第、蒼龍は俺の腕をつかみぎゅっと抱き寄せてくる。子供じゃないんだから。と、言いたいところだけど今回ばかりは仕方ないかな。

 

「まあ、蒼龍が無事でよかったということでいいか。さぁて、さっさとメシを食わせてくれ!腹ペコペコなんだぞ!」

 

やっとこれで飯が食える。正直試合スイッチが入っても、こればかりはどうしようもなかった。腹が減っては戦ができぬとは、まさにこの事だろうさ。できたけどね。

 

「よし、じゃあ戻るかね。あー他人の不幸で飯がうまいってな。ウッハハハハ!」

そういって健次たちは階段を昇っていく。ほんと相変わらずだ。今回ばかりは、同意せざるを得ないけどな。

 

それからしばらく階段を上っていると、俺の腕をつかんではなさない蒼龍が、口を開いた。

 

「どうして、殴ったりしなかったんですか?」

 

蒼龍は少々納得がいっていないらしい。まあ、そうだよね。できれば俺も顔の形がわからなくなるほど木刀でボコボコにしたかったさ。でもね。

 

「あー。実は道のスポーツなど格闘技をやっている人間は、喧嘩にそれを使ってはいけないルールがあるんだ。だから、手を出すことはできなかった。ああして、事故を装う事くらいしかできないんだ」

 

「じゃあ、何のために望さんは、武道をやっているんですか?」

 

何のためにか。昔は理不尽な暴力に対抗するためだった。だけど、今は違う。

 

「自分を立派な、男に育てるためかな…。だから、ごめんな」

 

こんなことを聞いて、蒼龍は怒るだろうか?いや、そんなはずはないか。その言葉を聞いた蒼龍は納得したように笑いかけてくれたもの。、

 

「…そうですね。でも、もうそれは成し遂げてると思いますよ?少なくとも、私にとってはですけどね」

 




どうも、大空飛男です。
連続投稿継続なう!ってまあ明日はどうなることやら。ぶっちゃけこの話はすらすらと書く予定出したし、案の定すらすら書けました。
さて、今回皆さまが気になったはずなのはズバリ【戦闘シーン】でしょうか。そもそも日常系な感じであったのに、戦闘シーンはどうかと言う方もいるかもしれません。その点は申し訳ございません。
実は…まあいやはや、私は戦闘シーンを書くのも大好きで、思わず凝って書こうとしてしまいます。まあ今回はかなり抑えたつもりですが、難しかったでしょうか?いや、むしろ簡単すぎて逆に解らなかった!?と、いろいろと考え込んでいます。
さて、次回からは『大学編』へと突入します。と、まあ大学編ってのはあくまでもそう区切ってあるだけで、実際は何編か決めてません。おそらくこのままいけば、大学編になるでしょうが…

さて、今回はこのあたりで。次回の不定期後(不定期ってなんだ(哲学))にお会いしましょう!


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春学期編
大学へ行きます!


今回から、春学期編がスタート。そのため地元メンツから、大学メンツがメインを貼っていくと思います。


桜は相変わらず満開で、家の外へ出ると春の土臭い香りが鼻を突いてくる。

 

既に寒さも弱体化し、暑くもなければ寒くも無い、ぬるいような温度であった。そろそろ冬用のコートから、春用の衣服を出さなきゃね。

 

「お弁当は持った?あ、蒼龍ちゃん髪の毛跳ねてるわよ。ほら、女の子なんだからちゃんとしないと」

 

おふくろは外まで出てきて、蒼龍の髪をとく。春の日差しで髪の毛は艶やかに光を孕み、見るものを魅了すると思う。蒼龍の髪質は、実に綺麗だ。

 

「あはは…ありがとうございます。って望さんもボサボサじゃないですかぁ」

 

蒼龍は俺を見上げ、髪の毛を指摘してくる。いや、まあどうでもいいんじゃ無いだろうか。だって男だし。え?ガサツだって?

 

「ほら屈んででください。私直しますよ?」

 

「えぇ…いいじゃん別に。そんなお洒落に気を使うのは面倒だしよぉ」

 

とは言うもの、俺は屈んで、蒼龍に髪をといて貰う。優しい手つきでやってくれるから、少々心地よいな。っておふくろ。そんなほほえましそうに見るんじゃない。恥ずかしいわ。

 

「これでよしと。どうです?」

 

鏡が無いし、どうと言われてもわからん。まあ頭に感じる微妙な違和感は、確かに消えたけどね。

 

「さあて、じゃあ行きますかぁ」

 

「はい。行きましょうか!」

 

空を見上げて、俺たちはつぶやく。空は雲一つない青空が広がっていて、清々しい気分とさせてくれる。スカイブルーは、いい色だ。

 

長いようで短かった怒涛の春休みは終わりを迎え、俺の大学生活が今日から再び始まろうとしていた。もちろん、蒼龍と共にね。

 

 

幸いにも道は混んでいない様子で、すいすいと大学へ向かうことができた。自転車で上ると確実に足に乳酸マシマシとなりそうなほど急な坂を、CX-5自慢の馬力で駆け上がり、立体駐車場へと到着する。

 

ちなみに大学までの道のりは、混んでいないとおおよそ三十分。今季は一コマ目の授業を取っていないし、それこそ先ほどの時間で行けるけども、問題は帰宅事だろう。帰宅ラッシュ真っ只中に引っかかって、確実に一時間はかかってしまう。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

さて到着し次第、俺と蒼龍は車から降りる。蒼龍はもう車には慣れた様子で、はしゃぐことはなくなった。うるさくなくなったのは安全面的にいいんだけども、ちょっと寂しいのは事実。まあ、これも時の流ってやつかね。

 

「あの、望さん」

 

後部座席からエースのリュックを取り次第、俺は車に鍵を閉める。その一連の動作の内に、蒼龍が声をかけてきた。

 

「どうした?」

 

「今日はお祭り何ですか?すごい車の量ですけど」

 

どうやら蒼龍は立体駐車場に並ぶ車を見て疑問を覚えたようだ。うん、まあ確かにそう思えるかもしれない。少なくとも二十台はあるし。下と上の数を数えると、相当なもんだ。

 

「あー。いやさ、うちの大学って、わりと車で通学する奴が多くてね。確か教授の車も

あったはずだけど、このほとんどが生徒の車だと思うよ」

 

「え!?生徒のですか!?いったいどれだけの生徒が…」

 

蒼龍は驚きを隠しきれない様子で、立駐をきょろきょろと見渡す。

たしか記憶が正しければ、家の大学は総勢一万人とちょっとはいるらしい。地元ではそこそこ有名な大学。とはいうもの、某東京の大学とか某京都の大学と比べればかなりの差があるけどね。でも学科によってはそれなりの学力を持つ奴らも通うらしい。まあ、機械や電子系の学科が、主なんだけども。

 

「ん?蒼龍。そういえば今日、ツインテじゃないんだな」

 

朝から気になっていたが、蒼龍は珍しく髪を下していた。まあ、それはそれで和風美人。絵にかいたような大和撫子を体現しているようで、満足ではある。事実なんだけどね。しかし、やっぱり物足りない。蒼龍はツインテで、なんぼだと思う。

 

「えへへ、いめちぇんと言うやつです」

 

くるりと一回点をして、蒼龍はアピールをしてくる。くそう。可愛いな。むしろあざといわ。

 

「そうか。まあ似合ってるぞ。そんなお前にまた悪い虫がつかないよう、いっそう顔をしかめておくか」

 

むっと顔を歪め、俺は歌舞伎のようにポーズを取る。蒼龍はそれを見て苦笑いを漏らしたが、気にしない。気の済むまでやらせて。

 

まあ、あの事件以来。俺は理解し、心に決めたことがある。

 

艦娘は、本来守る側の人間たちだ。向こうの世界では凛々しく戦って、国民的スターであることは間違いないはず。

 

だが、この世界に来てみればどうだろうか。艦娘はただの女の子となってしまう。だからこそ俺は蒼龍を女として、守られる側として見るなければならないんだ。まあずっと思っていたことなんだけども、あの事件以来より一層その決心がついたわけ。

 

「さてと、じゃあ行こうか。俺の所属する学科は、そこにあるんだわ」

 

立駐を出て直ぐに見える建物が、俺の所属する学部のメイン棟だ。その学部の中をさらに細かく分けると、俺は歴史学科に属している。つまり、文系なんです。はい。

 

「わかりましたー!行きましょう!」

 

蒼龍はそういうと、俺のフライトジャケットをつかんでくる。まだ引っ付きたいのか。オナモミ(くっつき虫)かお前は。ま、嫌じゃないけども。

 

 

緩やかな坂を上り、周りが木々で囲まれている我が棟へと向かう。実は以前、この棟は少数の短期大学生が集まる棟であったらしく、さらには女短大でもあったから、割とおしゃれな建物となっている。さらには木々で壁を作るように囲まれていて、在学生の一部からは、DQNモドキと歴史オタの隔離施設と言われてるらしい。ひどいわ。

 

で、そんな事は良いとして俺と蒼龍はラウンジへと入っていく。現在は一コマ目中であるために、ラウンジの人数は少なかった。

 

「あ、なんだか懐かしいです」

 

どのような反応をするかなと楽しみにしていたが、蒼龍は意外にも懐かしみ始めた。え、なんで?

 

「懐かしい?どういう事さ」

 

「鎮守府内にも、食堂はありますよ。ここまで綺麗ではないですけど」

 

へえ、鎮守府ってこんな憩いの場もあるのか。軍事施設だし、もっと堅っ苦しいと思っていた。

 

「えーっと、とりあえず色々と説明したいから、座ろうか」

 

俺は蒼龍に座るよう促す。聞き分けの良い蒼龍は、すぐに椅子へと座った。

 

と、そんな事をしている最中、講義室方面の出入り口が騒がしくなる。ああ、そうか、講義一回目だし、説明だけで終わるんだな。大学の講義って、割と自由だったりする訳よ。

 

人混みの中に、一際でかい男が見えた。恐らく長谷川だろう。と、いう事は他のやつと一緒の可能性も高いな。

 

「くらっちー!ここだここー!」

 

とりあえず、席を探している長谷川に声をかける。奴のあだ名はくらっち。長谷川祐蔵の「蔵」から来て、くらっち。ミッション車のクラッチとは違うぞ。半クラとかないです。

 

「おー七さん。なんだ来てたのか。随分と早いな、お前二コマ目からだろう?」

 

くらっちの言う通り、俺は基本、講義開始時間の10分前に大学へ着くよう、時間調整をしている。だからこうして、一時間以上も早く来た事は、殆どなかった。まあ、それが普通だとは思う。

 

「七さん、おっすおっす!」

 

くらっちと一緒に行動していた、木村哲誠もいたようだ。相変わらず陽気な挨拶。こいつ特有の「いつもの」って奴。しかしこの二人が一緒だって事は、教職の授業を受けていたらしいな。彼らは、立派な教員を目指している。

 

「教職か。大変だな」

 

「全くよぉ〜。マジでタルいのなんの。もうタルタルですわ」

 

木村はだるそうに体を動かし、相変わらず独特な言い回しで答える。タルタルってなんだよ。

 

「…ところで、そのお嬢さんは誰だい?まさか口説いていた最中?あーこれは妨害しますわ。治安乱れますわ」

 

木村はオーバーなリアクションで俺を茶化してくる。まあそう見えるだろうね。以前も言ったように、俺には浮いた話がこれっぽちもない。

まあこいつらも信頼ができる。だがら、教えても問題はないはずだろうさ。と、言うわけで…。

 

「なあお前ら。ファンタジーを信じるか?」

 

と、聞いてみた。

 

 

「話は大体わかったわ。要するに七さんが、頭おかしくなったって事か」

 

蒼龍との出会いを簡潔に説明し終えると、まず飛んできたのはこの言葉。ひどいわ。ってまあぶっちゃけ仕方ないとは思うけどさ。だって、バリバリファンタジーだし。妄言に等しいだろうし。

 

「望さんは嘘ついていません!私、大湊警備府からきましたもん!」

 

引きつった笑いを浮かべている二人に、蒼龍が俺をフォローしてくれる。ありがとよ。やっぱり蒼龍は良い子だね。俺が強要したように見られるんだけどね。

 

「あ、でも声質はマジで近いな。俺提督だったし、わかるわかる」

 

言う木村。こいつも以前は提督をしていた男で、やり込みが半端なかった。恐らくその間に蒼龍もこいつの鎮守府事情ではドロップしているだろうし、声を聞いていない事もないはず。あ、ちなみに木村は駆逐艦大好き提督で、要するにロリコン。

 

「うーむ。声が似ているとしてもなぁ。何か決定的な証拠を見せて欲しい」

 

腕を組み、くらっちは指摘をしてくる。まあぐう正。しかし、あいにくパソコンは持ってきていないし、蒼龍だけがすっぽり抜けている事を見せれない。どうしたものか。

 

「とりあえず、実体はあるよね。その豊満な胸とか、特に。3Dだね」

 

えらく真面目な顔つきで木村は言うが、内容と顔があってない。こいつの特技だ。ふざけてるだけ。

 

「あ、そうか。じゃあ蒼龍が蒼龍である事をわからせれば良いんだな?」

 

一番分かりやすい方法があるじゃないか。俺は席を立ち、棟内部のコンビニへと向かう。

 

「買ってきた。蒼龍、今からツインテに変えてみてくれ」

 

コンビニで髪留めを買ってきた。蒼龍といえばツインテ。イメチェンをしているから分かりにくかったんだろうが、元の蒼龍の髪型となれば、一目瞭然のはず。

 

「あ、はい。そのぉ。髪留め持ってはいたんですけど…」

 

そう言って、蒼龍はポケットから髪留めを取り出した。先に言ってくれよ。無駄な出費だった。って、聞いてないし自業自得だったな。とほほ。

 

「じゃあ、髪を留めますね」

 

蒼龍は慣れた手つきで、髪を留めていく。その一連の動作はまあ絵になる。と言うか見惚れる。現にくらっち木村は、関心したような声を出してるし。

 

「はい。出来てますよね?」

 

ぴこぴこツインテの蒼龍が帰ってきた。やっぱりこっちの方が、俺は好き。

 

「おお…マジだ。蒼龍じゃん!」

 

「俺も画像でしか見た事ないが、これま間違いないだろうな」

 

木村とくらっちは、それぞれの感想を述べる。くらっち、画像でしか見た事ないのは、当たり前じゃね?

 

「やっとわかっていただけましたか。ふふっ良かったです」

 

ニコニコと笑顔を向けて、蒼龍は言う。とりあえず信じてくれたみたいで、良かったよ。

 

「あーじゃあ、とりあえず自己紹介させて貰うよ。俺は長谷川祐蔵。みんなから「くらっち」って呼ばれてる。よろしくな蒼龍」

 

くらっちは蒼龍に手を向けて、握手を求める。蒼龍は俺をみて判断を仰いできたが、俺が頷くと、蒼龍は嬉しそうに握手を交わす。

 

「じゃあ次、私の番ですな。木村哲誠。あだ名とかはないけどね。これから盛り上げていくから、まあよろしく!」

 

木村も蒼龍に握手を求める。今回は蒼龍も自分の意思で、握手を交わした。

 

「しかし、まあこれから楽しくなりそうだ。後の五人も、早く来ると良いのにな」

 

椅子にもたれて、くらっちは言う。俺ら大学メンツは、俺を含む八人で行動する事が多い。まあさらに篩にかけると六人。部活とかで忙しいんだよね。後の二人は。ともかく、あとは五人に紹介をすれば良いだろうさ。

 

 講義終了のチャイムがラウンジに響く。どうやら一コマ目は終わったらしい。休憩時間は15分で、その間に講義室へ向かわなければ。

 

 「そろそろ行きますかー。次の講義タルそうだなぁ」

 

 俺は椅子から立ち上がり、体を伸ばしつつ言う。たしか世界の歴史と日本の歴史を照らし合わせる講義だったはず。この手の授業は人数も多いし、蒼龍が混じっても問題はないはずだ。

 

 「あ。あそこにいるのみっくんじゃね?」

 

 木村がはっと気が付いたように、自販機の方へと指さす。あのでかい図体にヘルブラザーズに後れを取らないほどの強面は、おそらくメンツの一人である相模宏文だろう。

 

俺たちはそれぞれリュックやバッグを持つと、何かを買おうとしているみっくんへと声をかける。

 

「よう、みっくん。何買うの?」

 

「おー七さん。それにみんな…って、うお!誰だその美人は!俺は知らんぞ!」

 

こいつもまあベタな反応を示してきた。

 




どうも、大空飛男です。
昨日はゼミや部活で忙しく帰りが遅くなってしまい、間に合いませんでした。楽しみにしていた方はすいません。連日投稿、またもや途絶える…。

あとハーメルンを開いてみたらすごいお気に入りと観覧数が増えていてビックリ。ランキングにも乗っていたようで、驚きでした。皆さま本当にありがとうございます。

さて、前書きにも記していた通り、今回から大学編です。ですからまたまた、新キャラが増えていくと思います。彼らもモデルがいまして、個性的な奴らばかりです。物語をどう面白く料理させてくれるか考えながら、書いていきたいと思います。

では、今回はこのあたりで、また不定期後!


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大学の日常風景です!

 

「なるほど。つまり彼女は、艦これの世界から来たと」

 

講義がある教室へ移動する中、相模はうんうんと頷きながら俺の簡潔に纏めた説明を聞き、納得した様子だった。まあくらっちと木村も承認したし、相模も納得できたのだろう。

 

「ああ、申し遅れたね。俺は相模宏文。みんなからみっくんって言われてるよ。相模の『み』からとって、みっくん。まあ呼び方は好きにどうぞ」

「はい。みっくんさん。よろしくです!」

 

蒼龍はニコニコと笑顔を見せ、相模もといみっくんへと言う。その破壊力は凄まじいようで、みっくんは照れ臭そうに、「あはは、これはすさまじいな」と笑いを漏らした。早くも蒼龍の魅力に取り込まれた奴一名。

 

「お、そうそう。みっくんはくまさんって呼ぶと喜ぶぞ。ねえ?くまさんっ…ていてぇ!」

ニヤニヤと相変わらずのテンションで木村が言うと、みっくんに蹴られる。まあみっくんは、森のくまさんそのものを体現したような男。顔つきはそれこそ厳ついが、心は暖かく気さくな性格の持ち主。

 

「ったく。お前何変なことを…」

 

「え、くまさん?くまさんですか?なんだか可愛い響きですね!」

 

蒼龍は木村の冗談を間に受けたようで、くまさんと復唱する。みっくんは普段であれば、反論するだろうけど、なぜか今日は反論をやめてしまった。お前、満更でもなくなったな?

 

「えーっとここだっけ?講義室」

 

俺はそんな三人の会話を聞きながら、講義室番号を見上げる。23番室。二階の3番室という意味だ。他の講義室と比べ、ふた回り程大きいのがこの3番室系のセールスポイントだろう。無駄にだだっ広いと評判でもある。

 

「うん、そうだ。じゃあ入ろうか」

 

くらっちは頷き、ガチャリと扉を開く。中には既に大勢の人物が集まっており、ざわざわと騒がしがしい。基本こういうところは、高校と変わらない。

 

そんな中、後ろの席にいつものメンツが揃っているのがわかった。向こうもこちらに気がついたようで、大きく手を振ってくる。

 

「ヘイ!セブンスター!グッドモーニング!って…その美人は誰だ!?」

 

英語もといルー語を使い俺を呼んだのは、メンツの一人である酒井輝一だ。セブンスター言うなし。恥ずかしいわ。まあ好きな銘柄はそうだけどさぁ。あ、ちなみに彼奴は、英語が苦手らしい。映画の影響を割と受けてる洋画好きの男。

 

しかし、もう説明するのが面倒だな。と、言っても蒼龍の首に名札をかけておくわけにもいかないだろう。まあ蒼龍と書いた名札を首に着けていても、わかるわけない。むしろ変態プレイだわ。だから酒井を含む他の三人にも、面倒さを押し殺し、説明を始める。

 

「嘘だぁ。マジかよ。でも他の三人も認めてるんだし、まあ信じるわ」

 

パイロットサングラスをクイと指で押し、酒井も認める事を承認する。順応力が高いのは、こいつの特技だ。三人がいなかったら信じなかったの?お前?

 

「っと、じゃあ自己紹介だな。俺は酒井輝一ってんだ。よろしく蒼龍!」

 

酒井の陽気な挨拶に続き、他二人も続いてくる。

 

「あー。佐島武彦。みんなからはたっけーって言われてるよ」

 

「沢田慎之介。あだ名はしんちゃんって言われてる。よろしく」

 

それぞれは自己紹介を行い蒼龍も「みなさんよろしくお願いします!」と、頭を下げる。その礼儀正しさに関心したのか、三人は「おぉ」と声を漏らす。

 

「席空いてるか?五人分」

 

「もち。ちょい退くから待ってちょ」

 

たっけーは席を立ち、その間に俺と蒼龍は中央の席へと座る。が、他の三人が座ろうとすると、たっけーはあえて座り直した。

 

「くらっち達は前にどぞ、ほら、酒井退いてあげて」

 

どうやら、たっけーは何かしらの意図があるようだ。くらっち達もそれになんとなくだが賛同して、酒井が座る席へと移動した。

 

「で、どうしたのたっけー。急にそんなこと言い始めて」

 

その意図が気になったらしく、しんちゃんがたっけーへと問う。皆も気になるのか、たっけーへと視線を向けた。ぶっちゃけ、俺も気になる。

 

「いや、くらっちとみっくんはでかいだろ?蒼龍は学生じゃないし、バレると流石にまずい。だからさ、お前達が壁になってくれるといいかなって。そうすればバレる可能性も、低くなると思わない?」

確かにこいつらは二人は縦と横に広いから、肉壁にすれば蒼龍と俺は影になる、まあ俺は授業ノートとか取らないといけないけど、蒼龍は生徒じゃないし、黒板が見えなくても支障はないんだよね。流石学科内3位の頭脳を持つ男だ。先を見据えている。だが。

 

「…まあ純粋に蒼龍と隣が良かったんだけどさ。色々聞いてみたいし」

 

どうやらたっけーのその発案は、割と邪な気持ちから来ていたらしい。3位の頭脳を、無駄に使ってるんじゃねぇよ。

 

 

 

 

 

さて、講義を終えて昼休み。 相変わらずあの教授の話は長い。まあ単位を取るのは割と簡単だったりするけど、とことん気の済むまで話してくる。つまり講義時間いっぱいまで話すのは、言うまでも無いよね。

 

そんなまあ鬱陶しい教授の講義であったが、蒼龍は割と講義を真剣に聞いていたらしい。昼休みであるにも関わらず、未だに講義用に刷られたプリントを興味深そうに眺めている。

 

「勉強熱心だなぁ。そんなに面白かったか?」

 

俺は弁当を食べながら、蒼龍へと問う。あ、この弁当はおふくろが作った奴。若葉の弁当のついでに、俺のも作ってくれるわけ。まあ、割とありがたい。

 

「あ、はい!基本軍事知識とかしか教え込まれませんでしたし、こうしてこの国の歴史を知っていくのは、面白いですね!」

 

まあ、確かに艦娘はまともな教育を受けていなさそうだ。歴史もとい社会とか特にね。だから、こうして知っていくのはいい事なのかもしれない。

 

「お待たせー。学食並ぶのしんどいわぁ」

 

くらっちはそう言いつつ、お盆を机へと置いて、ゆっくりと座る。

 

うちだけではないと思うが、学食は毎日長蛇の列ができる。まず食券を買うこと自体がしんどくて、これもまた長蛇の列ができている。つまり総じて言うと、並ぶのだるい。

 

「まああらかじめ買うことが一番だね。どうしてそれが、わからない奴が多いんだろう」

 

得意げに、くらっちは並んでいる列を見て言う。確かに言われてみれば、そうだよね。

 

「よいしょっと。まああれだよ、コミュ科の奴らは何も考えていないって事。一部は違うと思うけどな」

 

 木村も料理を受け取ることに成功したようで、くらっちの隣へと座る。お前さらっとひどい事言ってるぞ、コミュ科の方。本当に申し訳ありません。この馬鹿に変わって謝罪します。

 

「へぇ。学食ですか。おいしそう~」

 

蒼龍が目を輝かせて、二人の学食を見る。蒼龍はやっぱり食いしん坊なのかなぁ。

 

「やらねぇぞ!たとえ蒼龍だとしてもやらないからな!」

 

木村は学食に覆いかぶさるようにして、蒼龍に言う。子供か。

 

「木村。服のひもが、ラーメンに入ってるぞ」

 

「え!?ああああ!?ヒモ独特の布っぽいダシが取れてしまったぁあ!よくも蒼龍!」

 

相模の突っ込みに、木村は過剰反応を示す。まあ、自業自得と言うか、なんというか。

 

「えぇ、私の所為じゃないですよぉ!そもそも、私には望さんのお母さんが作ってくださったお弁当がありますし」

 

「は?それ、先に言おうよ。僕泣くよ?いいの?きっとすげぇうるさいよ?超迷惑になるよ?いいの?」

 

だんだんとテンションに拍車がかかり始めた木村。うるさいと自覚してはいるらしい。まあ木村は、やかましさの塊のような男だ。

 

「おぃおぃ~。お前ら元気だねぇ?俺なんてカップ麺食ってるのに…。カップ麺食ってると元気がそがれていくんだぜぇ?まじファッキン」

 

輝一は乾いた笑いを浮かべ、カップ麺を啜る。カップ麺食べなきゃいいんじゃないですかねぇ。まあ、順応性が高すぎるせいで、いろいろな趣味に金を使ったお前が悪いな。

 

「はあ、お前らとしゃべると疲れるな。俺はちょっと煙草吸いに行ってくる。蒼龍。ついてこい」

 

そろそろヤニが切れてきて、俺は煙草が無性に吸いたくなってきた。蒼龍も「はーい」と言って、席を立つ。

 

「いやぁ七さん。蒼龍を喫煙所に連れて行くとかないわ…」

 

しんちゃんが顔を引きつらせて言う。まあ言いたいことはわかる。むしろ俺も連れて行きたくはないけど…。

 

「いや、私望さんと離れたくないですし…」

 

と、まあこういう事なんだ。するとしんちゃんは

 

「あ、はい。ノロケですか。おかえりくだしあ」

 

と、言ってきた。うん。しんちゃん。なんかごめんな。

 

 

 

 

 さてさて我がパラダイス喫煙所。愛煙家にはたまらない場所。

 

 俺は早速ポケットから、アメスピを取り出す。たまにはセッタじゃあなく、こっちも吸いたくなるんだよね。アメスピは長く吸えるし、相対的に見てお財布にも優しい。煙草を吸わない方がお財布にやさしいとか、言うんじゃない。

 

 オイルライターを着火すると、俺は煙草を吸い、火をつける。息を吸いながら煙草に火をつけると、火が浸透しやすいんだよね。知らない人はやってみるといい。あ、未成年はやってはダメだぞ?

 

「あ、いつもの煙草じゃないんですね。そちらの匂いの方が、好きかも」

風下に立つ蒼龍だったが、どうやらセッタではないことに気が付いたようだ。アメスピの方がいいのか。これを期にアメスピメインにするのも、悪くないかもな。

 

「へぇ。アメスピに変えたのかい?七さん」

 

まさに唐突の声に、俺は前にジャンプし距離を取る。そして振り返ると―

 

「ったく…大滝か。脅かすんじゃねぇよ」

 

ふふふと笑う、大滝がそこにはいた。奴は先ほどの授業。さぼったらしい。

奴が指に挟んでいるのは、おそらく赤マルだろう。とあるアニメのキャラに影響されたというが、吸っている姿は風格宛らだ。

 

「今来たのか?」

 

「ああ、ちょっとした用事でね。それより…」

 

大滝は蒼龍へと、一瞬ギラリと怖い瞳を向ける。蒼龍はそんな目を見て、思わず足を一歩引いてしまった。

 

「航空母艦蒼龍がなぜここに?」

 

一発で蒼龍を見抜いたようだ。やはり、歴戦の古参提督だけはある。

 

「よくわかったな。さすがは横須賀提督」

 

「まあな。伊達に古参張っているわけじゃねぇ。しかしお前も…」

 

と、大滝は何かを言おうとしたが、すぐに言葉を区切ってしまった。いや、もう遅い。

「お前も」と言うことは、やはり、こいつのところにも艦娘がいるのだろう。以前に明石から送られてきたメールの内容が正しければ、こいつの鎮守府にもコエールくんのデータが流出した可能性は、十分に高い。こいつとはよく、某一㍍四方のブロックを積み上げるゲームで、マルチプレイをしている。

 

「逆に聞くが、お前のところにも艦娘がいるのか?」

 

「…ああ、まあな」

 

やはりそうか。これで三人目だ。しかし、だれがこちらに来たのだろう。可能性があるとしては、以前コスモとなんたらの力で結婚カッコカリしたらしい、那智だろうか。すると。

 

「ふふふ。那智だと思ったか?うちに来たのは、鳳翔だ」

 

と、俺の考察を見抜いてきやがった。少し悔しいな。

 

「え!ほ、鳳翔さんが!?」

 

大滝の言葉を聞いた蒼龍は、思わず声を上げる。すると、ほかの喫煙者たちが、不思議そうに蒼龍に視線を向けた。蒼龍はとたんに恥ずかしくなったのか、俺に張り付き縮こまる。

 

「しかし鳳翔がねぇ…いや、まあお前の風格には似合うな。おっさん」

 

「おいおい、お前が言うなよ。おっさん」

 

俺たちは同時に、笑みをこぼす。奴も俺と同じ武術家で合気道を行っている。故にいろいろと、馬があうんだよね。

 

「あ、えーっと大滝さん?が遅れた理由は、鳳翔さん関係ということですか?」

 

そんな俺たちの空気に割って入るように、縮こまっていた蒼龍が飛び出してくる。

 

「ああ、そうだな。っと…自己紹介がまだだったか。俺は大滝尚助。よろしく蒼龍」

大滝は煙草を持っていない左手で、握手を求める。蒼龍もそれに答え、握手を交わしたのだったとさ。

 




どうも、大空飛男です。

今回も主に更新された登場人物の紹介回みたいな感じです。そして最後に鳳翔の存在も明らかになりましたね。さてさて、どう絡んでいくのやら。

では、今回はこのあたりで。あ、コミュニケーション学科に所属している方がもしいるのであれば、もう一度この場で謝りたいと思います。申し訳ございません。木村のモデルになった奴が、そんなことを言っていたのが悪い!


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大学案内です!

なんというか、中盤は物語性のかけらもない話題になっている気がする。


 さて、次の講義が始まった。

 

 まあ例に漏れず、第一回目の講義は授業概要を説明するだけで終わりそうだ。どうせキャンパスサポートと呼ばれる在学生専用の支援サイトで、授業内容は確認済み。

 

 と、携帯が震える。どうやらメールが来たらしい。

 

 『おヒマですか?』

 

 うん。明石からだな。とりあえず「暇だよ」と打ち込んでおく。

 

 『よかった。ジツは、ツウシンシセツをチョウサしていたところ、わかったことがありますので、ごホウコクしようと思いまして』

 

 わかったことか。おそらくコエール君流出事件だろう。いろいろと気になるので、とりあえず答えるよう促す内容を送っておく。

 

『まず、コエールくんが流出した先ですが、チュウブチクにニケン。キュウシュウにイッケン。カントウにニケン。キンキにイッケンです。ゲンザイカクニンできているのはこれだけですが、まだフえる可能性があります』

 

 あー。おそらく今述べた地域、全員知り合いがいるだよね。以前某1㍍四方のブロックを積み上げて建物を作るゲームをやっていた際、一緒にやろうと知り合ったオンゲー友達だ。彼らとはハ○チでサーバーを共有し合っている。

 

 まあ中部の二人は、おそらく菊石と大滝だろうが、あとの奴らにも真相を確かめる必要がある。まったく、運がいいのか悪いのかわからねぇな。ほんと。

 

 さて、とはいうもの実際コエールくんの情報が流れたとして、果たしてコエール君が作られたかどうかが問題だろうね。情報が流れたとしても、そのオンゲーの友人たちの持つ明石がコエールくんを作るかわからない。もしかしたら兵器にしか興味のない明石もいるだろうし。

 

 「はぁ…でも割と大問題なんだよなぁ」

 

 もはやこれは、世界の常識を意図しないで塗り替えてしまっている。そう思うといろいろと、恐ろしくて仕方ない。

 

 「え?何が大問題なんですか?」

 

 隣でもくもくとノートに文字を書いていた蒼龍が、俺に問う。どうやら蒼龍は、今後授業を聞くための練習として、概要を大まかにノートへ記しているらしい。しめた。これは今後楽になるぞ。ってさすがにクズいな俺の思考。

 

 「ああ、コエールくんだよ。菊石や大滝の元に情報が流出したらしいから、夕張と鳳翔がこっちに来ちゃったんだとさ」

 

 「え、じゃあ鳳翔さんや夕張ちゃんが来た理由は、やっぱり明石さんがやらかしちゃったからなんですか?」

 

 「まあそうらしい。とんでもない大発明なのにそれを誤って流しちゃうところが、明石らしいというかなんというか…」

 

 きっと修理とか工作機械とかを整理している最中に流しちゃったんだろう。うちの鎮守府。なんかドジな奴が多い気がする。島風もはしゃぎすぎてよく大破するし、武蔵は張り切りすぎて砲撃外すし、叢雲はなんかツンデレだし。初霜は天使だし、よくわからん。

 

 『あ、それとロウホウです。テイトクのデンブンコードを、ほかのこたちにもおしえておきました。これで、たくさんコミュニケーションがとれますね!』

 

 わざわざ教えるって…おま、何やらかしてるの?また武蔵から愚痴メール飛んで来たらどうするの?もう勘弁してくれ。あ、でも初霜や飛龍とかから来るのは、少しうれしいかな。

 

 「と、言うわけで説明は以上です。皆さまお疲れさまでした」

 

って、そうこうしているうちに説明が終わったようだ。なんというか、時がたつのって早いもんだね。

 

 

 

 

 長いようで短い説明が終わりをつげ、講義室から俺と蒼龍はメンツと共に出ていく。

今日はこれですべての講義が終わりを迎えた。この曜日は2コマ目と3コマ目しかとっていなくて、非常に楽。大学は割と、こういう時間割が多いんだよね。

 

 さて、では家に帰ろうか。やりたいことはいろいろあるし、今日ばかりは帰宅ラッシュにも引っかからない時間帯に帰れる。つまり家でのんびりとできるのだ。

 

 「ヘイヘイ七星!どこへ行くんだい?」

 

 だが、俺ののんびり計画は崩されそうだ。酒井が肩を組んできて、俺を静止させてきた。なんだよ。俺は家に帰って艦これしたいの!

 

 「どうしたよ。どこへって駐車場だけど」

 

 「帰る気なのか!?おいおいミセス蒼龍に、この素晴らしき我らの大学を紹介しないのかよ!」

 

 ミセスって、おまえは何を言っているんだ。素晴らしい大学かどうかはさておき、ミセスは結婚している女性を指すことを知って言ってるの?あ、結婚カッコカリしてるか?うむ、そういわれると結構うれしいけど。

 

 しかし大学紹介か。確かにあらかじめ教えておけば、今後もし一人で行動しなければならなくなるとき、迷わずに済むかもしれない。まあ以前のようなキッズたちはこの大学にはいないし、チャラ男は大体彼女持ちのはず。最悪ナンパされても、全力断るように進言しておけば、それ以上突っ込んでくる傲慢な奴もいないはずだ。

 

 「七さん。俺はそれに賛成するね。やっぱりこの大学を知ってもらうのはいいと思う。今後蒼龍が出れない講義もあるし、何よりゼミだってその類のはず。輝一の言っていることは間違いじゃないさ」

 

 たっけーが横から進言をしてくる。仕方ない。じゃあ行きますかね。

 

 「蒼龍。どうする?」

 

しかし結局俺が決めるよりも、蒼龍の意思に委ねてみる必要がある。本人が嫌がれば、行く意味も無いだろうしね。まあ、どうせ。

 

 「もちろん行きたいですね!ぜひいろいろと教えてください!」

 

 そういうと思ったよ。好奇心旺盛だなぁ。

 

 「じゃあまずどこに行こうか」

 

 「とりあえず、メインストリートを一周しようぜ。大まかな棟は、これでわかるだろ」

木村の提案に、皆は了承する。確かにメインストリートは、大学を移動する重要な道だ。大体の棟にアクセスする道でもある。

 

 「じゃあそうするか。よし、だれがついてくるん?」

 

 俺の問いにくらっち、木村、酒井、たっけーが手を上げる。

 

 「俺はパス。部活がある」

 

 「俺もバイト。あー惜しいことしたなぁ」

 

 相模としんちゃんは、どうやら用事があるらしい。まあ仕方ないね。で、大滝はというと。

 

 「俺は直ぐにでも帰らないといけない。人を待たせてるからな」

 

 やっぱりね。どうやら鳳翔のもとに、少しでも早く帰りたいらしい。

 

 

 

 

メインストリートには、たくさんの人がいます。さすがは大学内最も重要な道ですね。でも、大勢の人はメインストリートを下っています。みなさんは下の方で講義があるのでしょうか?

 

 「どうして、みなさんは下って行っているんです?」

 

私の問いに、酒井さんが答えました。

 

 「ああ。さらに下っていくと、バスがあるんだ。七星や木村は車で通学してるけど、大体はこうして大学のバスで最寄りの駅に帰る奴が多い。他に自転車を使うやつも結構いる。以前七星も、ロードバイクだったよな?」

 

 「そうだな。車に一応、積んであるぞ?」

 

ロードバイクって何でしょうか。私が不思議に思っていると、望さんが補足してくれます。

 

 「あ、ロードバイクって自転車のスポーツカーみたいなやつね。時速30は余裕に出る」

 

 すごい自転車ですね。私の記憶が正しければ、自転車ってそこまで出ないと思います。パンクとかもしやすくて、歩くよりはマシな乗り物でしたね。

それから私たちも人波に逆らわず、下っていきます。あ、トンネルがある。

 

 「ビルの下に、トンネルがありますよ!」

 

 「あれは、12号館だな。いろいろな学科の生徒が、多種多様な講義を受ける。俺も今期は、あそこの棟で受ける授業を取ってるよ」

 

 どうやら決められた棟で学生さんたちは講義を受けるというわけではないそうです。移動が大変そうだなぁ。

 

 「あ、じゃあこの建物は何でしょうか?」

そういって、私は直ぐ隣の棟を指さします。棟の下には何か看板があって、『虎視眈々館』と書いてありますが…。

 

 「ここは虎視眈々館。つい最近できた棟だねー。てか今期から解放されたホント真新しい館。学生支援課とか、キャリア支援課とかあって、まあなんて言うんだろう。高校で言うと職員室みたいなもん?かな」

 

 「職員室とはちょっと違うだろ。どっちかっていうと…なんだろ。良い言葉が思い浮かばねぇ」

 

 くらっちさんとたっけーさんはあーだこーだと意見を述べ合います。つまり、学生にとっていいことをしてくれる棟なのでしょうか?

 

 「あ、そうだ。この上には結構高いがウマイメシが食える店がある。今度行ってみたらどうだ?」

 

 得意げに、酒井さんは言います。どうやら行った事あるみたいですね。酒井さんは新しいもの好きなんでしょうか。と、言いますか情報が早いのでしょうかね?

メインストリートをしばらく歩いて、私たちは右へとそれました。正面には大きな建物が立っていて、学生さんたちが出入りしています。

 

 「あそこは図書館。うちの学科ではかなり重要な学科だったりもする。参考文献とか結構あって、よく課題を終わらせるのに使ったりするね」

たっけーさんは、苦い顔をして言います。どうしたのでしょう?

 

 しかし、図書館ですか…。うちの鎮守府にも確かに図書館はありましたが、軍事用語の資料集や各兵科の教本ばかりしかありませんでした。いったいどんな本があるのでしょうか。望さんの部屋には漫画や小説ばかりしかありませんし、ちょっと行ってみたいかも。

私がそんなことを思っていますと、望さんが肩を叩きました。

 

 「また今度行こうな。今日は、とりあえずいろいろ見て回ろう」

どうやら行きたい思いが、顔に出てしまっていたみたいです。ちょっと恥ずかしいですね。

 

 さて、それからいろいろな棟を回ります。ロボットの研究をしている34号館に、食品の栄養を研究する11号館。スポーツ治療法を研究する、43号館もありました。本当にいろいろな学科があるようで、みなさん教えるのにちょっと頭を抱えています。

 

 「なあ。うちの学科ってこんなに多かったのか?」

 

 「しらねぇよ…。しまったな、全部の棟を紹介する必要なかったか…」

 

望さんとくらっちさんは、腕を組んでうなっています。あはは…なんかちょっと罪悪感。

 

 「あの…もういいですよ?たくさんの学科があるみたいで、どこも面白そうでしたし!」

 

私がそういうと、二人は私に顔を向けます。えぇ…なぜそんな負けねぇぞって顔してるんですか?

 

 「いやいや、まだまだいろいろ教えるところがある。おい、行くぞみんな」

 

 くらっちさんがそういうと、みなさんも「おーう…」と元気なく答えます。

 

 なんというか…みなさんごめんなさいね。

 

 

 

 

 今思えば、蒼龍に重要な棟だけ消化すれば良かったわ。一応、なぜか使命感が沸き上がり、蒼龍にはすべての学科と、どのような棟かを教えることができた。さすがにしんどい。うちの大学って、本当に学科多くないですかね…。

 

 さて、それから解散し、俺と蒼龍はCX-5を走らせ、家へと帰った。さすがの蒼龍も歩き疲れたようで、眠そうな顔をしている。

 

 「ふう。今日は大変だったなぁ」

 

 早く帰れると思っていたが、時計を見ればもう7時。夕飯の時間だろう。まあさすがに腹も減って帰りにラーメン屋へと行ったから、夕飯は出てこない。そうおふくろにもSNSでメッセージを送っておいた。

 

 「ラーメンおいしかったです。また行きたいですね」

 

 蒼龍は眠そうな顔をしつつ、満足そうにおなかを撫でる。俺も撫でてみたいけどいいですか?あ、ダメだよね。

 

 「それにしても、大学ってすごいところですね。私、びっくりしましたよ」

 

 「そうだねぇ。まあ大学で培ってきた知識が、いろいろな社会の歯車になって動いていくんだ。だからすべての学科は、無駄じゃないんだろうさ」

 

 どのような学問でも、必ず何かしらの力を持っている。社会の歯車を動かす、重要な役割をだ。

 

 「さて!腹も落ち着いたし、艦これをやろう」

 

 「わかりましたー。ふふっ、飛龍にお話しないと」

 

 俺は布団から起き上がり、机へと向かう。また蒼龍もベッドから立ち上がり、俺の横へと座りこんだのだった。

 




どうも、飛男です。
今回でまあ大学編の下準備は終わります。次からはまあいっそう緩やかに、日常にあるどうでもいい話題をネタにしていきたいと思います。

さて、望君の大学はいろいろと自由が利きそうではありますが、モデルにしているうちの大学が、まさにこんな感じです。他の大学がどうなっているかわからないですから、大学ってこんなところなんだと安易に思わない方がいいかもしれませんね。

さて、今回はこのあたりで。明日明後日と学祭の関係で投稿するのが難しいかもしれませんので、ご了承ください。と、いうか、今日はこれともう一本。投稿したいですね。できるかなぁ?

では、さようなら!


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携帯電話買います!

5月にもなり、桜など影も形もなくなった。代わりに生い茂るのは、新緑の葉。

 

俺たちは車を走らせ、ドライブを楽しんでいた。蒼龍は車に乗ることが好きみたいで、運転するこっちとしてもうれしいことだ。蒼龍のおかげで、俺も車を運転することが楽しくなっている。

 

さて、そんな初々しい葉を愛でる季節に、おふくろがつぶやいたある唐突な言葉から話題が始まった。

 

「うーん。確かに携帯は必要になってくるよなぁ」

 

 俺は運転をしながら、思い出すようにつぶやく。この先間違いなく必要となるアイテム携帯電話。電話はもちろん、手軽なメールもできる現代技術の優れもの。

 

でも、だからと言って蒼龍にスマフォを持たせるのは少々抵抗がある。SNSなどを使い、もし蒼龍のつぶやきが思わぬように拡散をして大事になれば、ネットの海は広く、素早い。瞬く間に蒼龍がこの世界に来てしまったことが広がっていき、もう収集がつかなくなるはず。最悪な事態になれば国籍不明による国外追放だって考えられそうだ。

 

「携帯って望さんがもってるスマフォってやつですか?私もほしいですね!」

 

新しいもの好きな蒼龍にとって、ずっと目に留まっていた物だっただろうね。おそらく触ってみたいと言い出せなかったのは、俺が肌身離さず持っていたからだと思う。まあ触らせてみたいとは思っていたけど、やはり怖いよね。

 

「うーん。蒼龍にはまだちょっと早いかもなぁ…。だって、使い方まるでわからないでしょ?」

 

「あはは…まあそうですね。でも、使っていけば覚えます!」

 

―その間に問題を起こすことが怖いんだよえねぇ。

 

 と、俺は心の中でつぶやく。さすがに本人の前で言うと、拗ねられそう。

 

 しかしゼミや蒼龍の出れない授業の際、時間厳守な蒼龍であれど、講義が時間通りに終わらない場合もあれば、ゼミだって授業時が過ぎても、一時間もオーバーすることもある。つまりそういう時のことを考えると、やはり蒼龍には携帯を持たせてはおきたい。

 

「あ、そうか」

 

ふと、俺は思い付いた。そうだ。あの手があるじゃないか。

 

「どうしました?」

 

「蒼龍。ちょいと聞くけど、やっぱり携帯はほしいか?」

 

俺の問いかけに蒼龍はしばし意図を読もうと俺に視線を送ったが、目線を外し、うつむく。

 

「ほしいですけど、私にはやっぱり早いかもしれませんね。いつまでも私、わがまま言えませんもん」

 

 わがまま?わがままを言っているような覚えはとんと思いつかないが、何か勘違いをしていそうだ。俺はははっと笑い飛ばし、口を開く。

 

「早いなら、練習用の機種を買えばいいな。携帯は何も、スマフォだけじゃないんだ」

 

「えっ!?」

 

俺の言葉に、蒼龍は嬉しそうな声量で言葉を漏らした。

 

 

大通りへと道を変更した俺は、しばらく走り、携帯ショップへと車を止めた。俺が初めて携帯を持ったのは高校時代で、この店で買ったことを鮮明に覚えている。周りの奴らはみんな携帯を持っていたし、やはりあこがれは持っていたものだ。結局部活で使うことになったから、親としてはもう少し待ちたかったそうだけど、買うことになったんだ。

 

俺の年代は携帯を持つこと自体、高校生でも早いと言われていた。だが、最近の子供たちは小学生でも持っているようで、驚きを隠しきれない。中にはタブレットを持っているキッズも見たことがある。時代は変わったと、老いを感じた。

 

「わぁ…。いっぱい携帯電話がありますよ!」

 

蒼龍は店内にある様々な携帯電話を見て、目を輝かせる。最近はどれもこれもがスマフォばかりだ。やはりあれはもう置いていないだろか。

先ほどからあれと言っている物品こそ、ガラパゴス・ケータイだ。通称ガラケーと言われるこの携帯は我が日本から独自を遂げた携帯で、島国から独自の進化を遂げたということで、このような名前が付いたとか。どうでもいい知識だね。トリビアだと思ってくれればいいさ。

 

「すいません。ガラケーはもう置いていないのでしょうか?」

 

目を輝かせてうろうろしている蒼龍はとりあえず置いといて、俺は店員へと聞いてみる。割と美人な店員だな。泣き黒子が魅力的な女性。店もあいにく空いていて、待ち人も少ない。

 

「え、ガラケーですか?」

 

店員は少々困惑をした顔をする。うむ、やっぱり時代はスマフォなんだろうな。ガラケーを求める客など、そうそう居ないんだろう。残念。

 

「一応、あるにはありますよ」

 

とりあえず座るように促され、俺は店員の座る前の椅子を引く。

 

「はい。ガラケーの契約となりますと、現在のプランはこちらの二点になります」

 

そういって、店員はタブレットから料金プランを映し出す。さすがはガラケー。料金プランの一か月間が、スマフォに比べてかなり安い。おそらくネットの規制も掛けるから、値段はスマフォの三分の一くらいではないだろうか。うわぁ、すげぇ安い。

 

「蒼龍、ちょっと来い」

 

俺はスマフォのサンプル品をいじっている蒼龍に手招きすると、店員の持つタブレットを見せる。店員の顔は何かを察したのか、俺に対してにこりと笑顔を見せてくる。もしかして彼女に携帯を買ってやる太っ腹な男だと思われたのだろうか。残念だったね。あいにく料金は蒼龍のバイト代から引かせてもらうよ。って、蒼龍はほとんど金を使わないんだけどね。なんでもほしいものが特にないらしいので。

 

「どっちがいい?」

 

タブレットに映し出されている携帯は、青色の薄型携帯とピンクの少々ゴツイが画素数の高いカメラを搭載した携帯だ。軽さを取るか、カメラを取るか。どちらもなかなかセールスポイントが高いし、これは蒼龍の好みでわかれるだろう。

 

「むむむ…そうですね」

 

蒼龍はタブレットをにらみ、しばしうなる。彼女の人生初めて持つことのできる携帯機器だ。さすがの蒼龍も容易に決めようとは思わないらしい。そういえば俺も、迷ったものだ。

 

「望さんはどちらがいいと思います?」

 

正直、もう予想していなかったと言えばうそになる。おそらくこの場合、俺が選んだ方を蒼龍は選ぶだろう。数か月付き合ってきて、彼女はそういう娘だとわかった。自分の意思を全面に押し出せないらしいのだ。割と妥協するようなことが多い。

 

「自分で決めな。記念すべき最初の一台だぞ?」

 

「え、でも…」

 

困惑をした表情を、蒼龍はする。そうだ、迷うんだ。迷いに迷って、自分の一番良いと思った選択をするんだ。それに後悔してはいけないぞ。

しばらく沈黙が続き、蒼龍はタブレットを眺め続ける。さすがに店員もしびれを切らしたのか、「お好きな色などで決めてはいかがでしょうか」と、意見を促す。

 

「そうですね…うん。でも…どちらの色も素敵だなぁ…」

 

店員の言葉により、さらに迷いに迷う蒼龍。個人的には青色の方が似合うと思うが、ピンクもある意味捨てがたい。俺まで割と、真剣に悩み始めたぞ。まさかこんなことになるとは思わなんだ。

 

 

あれからさらに時間をかけた蒼龍は、ピンクの高性能カメラが付いた方を選んだ。どうやら最大の決定打は、女性らしい可愛さを求め、ピンクを選んだらしい。まあ高性能カメラがついていることすなわちこれから写真も撮っていくだろうし、どんな写真を撮るのかが楽しみでもある。

 

「んふふー。ふふっ」

 

助手席でガラケーを見つめ、蒼龍はたいそう嬉しそうだ。そこまで喜んでくれると、付き添ったこっちもうれしいものだ。

 

「あ、望さん!早速メールを打ってみてもいいですか?」

 

店から出る前、蒼龍にはあらかじめ俺のメールアドレスと電話番号を教えておいた。まあ自分の名前が最初に入っていないと、少し納得できないこともあったけど、何よりも一切のアドレスや番号が入っていないのは、少々かわいそうではあるからね。

 

「ん、いいぞえ」

 

「やったー!えーっと…ふふふ」

 

喜びを露わにした蒼龍は、早速かたかたとボタンをプッシュし始める。この音、懐かしいな。

 

「えーっと。あ、い。ま。た、ち、つ、て…」

 

連続してボタンを押すタイプではあるので、覚えきれていない蒼龍はぼそぼそと打ち込んだ言葉を復唱している。それもうどんな内容を送るかわかっちゃうな。

 

「か。っと…送信!」

 

カチリと送信ボタンを押して、蒼龍は俺ににこにこと笑顔を向けてくる。満足そうな顔だ。どれ、ちゃんと遅れてるか確認をしないと。

 

信号が赤になったのを見計らい、俺は瞬時にメールを確認する。お、届いてる届いてる。

 

「なになに…『いまとこにむかつているのですか』か…。ん?」

 

何かよくわからない文章が送られてきた。一瞬くずし字の訳かと思ったが、蒼龍がそんな難しい文章を送ってくるわけない。蒼龍に意味を問おうと横目で見ると、蒼龍はわくわくとしながら、俺を見つめている。どうやらこの問題を解かなければならないようだ。

 

…あ、そういう事か。

 

「『今どこに向かっているのですか』か、なるほどなるほど」

 

つまり、蒼龍は濁点や小さい『っ』などの打ち方がわからないのか。確かに携帯などを触ったことが無い人間が、最初にやりそうなミスでもある。

 

「だ。とか。じ。とかの打ち方がわからないんだな?それは左下のキーで濁点があるところを押すとできる。試しにやってみな」

 

「はい。えーっと…『た』に濁点っと…あ!できました!見てください!」

 

「おー。よかったな。小さい『っ』とかも『つ』を打ち込んでそのあとそのキーを押すと、できるよ」

 

「わかりました。えーっと…」

 

再び打ち込んだ文字を復唱する蒼龍。そして出来上がると、また見せてくる。

 

「どうです?これで私も、携帯マスターですね!」

 

ふふふと笑い、蒼龍は満足そうに携帯を見せびらかしてくる。ちょっと調子に乗るといけないので、釘を刺しておこう。

 

「ふふふ…甘いぞ蒼龍!まだお前は携帯の覇道の麓に立っているのだ!」

 

「え!な、なんですって!」

 

わざとらしい反応するなぁとか思ったけど、割とガチっぽい。携帯の覇道なんてねぇよ。でもまあ、まだまだ使いこなせてはいないわけなんで。

 

「まだまだ英文や記号を使いこなせてはいない!それができなければ、マスターとは言えないのだ!」

 

「そ、そんな!まだそんな隠し要素があったなんて!」

 

雷がバックで落ちたような感じで、蒼龍は驚きの声を上げる。すごいおかしいテンションですはい。あ、かみなりなんで。いかづちではないです。

 

 

それから一週間後。蒼龍には家族もちろん、地元メンツ、大学メンツ、明石にメールアドレスを教え、多くの奴らとも連絡が取れるようにしておいた。まあ俺ばっかりじゃあつまらないだろうし、何より蒼龍には早い段階で携帯を使いこなせるようにしたかったんだよね。

 

「っと、メールだ」

 

かーんーこーれっ!っと、まあ最初に聞こえてくるゲームのあの声が、夜空に響く。現在俺はベランダで、タバコを吸っていた。部屋では煙草の匂いがこびりつくので、一応マナーの一環として外で吸っている。ちなみにこのサウンドは、艦娘達のだれかから来るメールに割り振っている。わかりやすいとは思わない?

 

「おや、飛龍からか。珍しい」

 

メールは飛龍からであった。あいつめったにメールをよこしてこないのに、どうしたのだろうか。とりあえず内容を見るべく、俺はメールを開いた。

 

『テイトク。ソウリュウにケイタイデンワとよばれるモノをカってあげたのですか?』

 

どうやら蒼龍は、飛龍に自慢をしたっぽい。そういうところ、ちょっと子供だな。あくまでも憶測なんだけども。

 

とりあえず「まあね」と送ってみる。すると、すぐに返事が届いた。

 

『ワタシもホシイです。コエールくんのシュウリがオわったら、ゼヒにです!そのときによろしくおねがいします!』

 

なるほど。どうやら飛龍はうらやましくなったらしく、俺にメールを送ってきたようだ。まったくこいつも、可愛いところあるよな。

 

「わかったよ。もしこっちに来れたらな。っと…」

 

まあコエールくんの修理状況はわりと絶望的らしく、復旧させるのにはまだまだ時間がかかりそうだと、明石からは報告を受けている。しかし、直る可能性は十分にあるわけで、これからもう一人は増えると予想しておいた方がいいのかもしれない。しかしその場合、どうすればいいのだろうか。蒼龍と同じように扱えることは、できないかもしれない。

 

「…もうそろそろ、独り立ちの時期なのかなあ」

 

俺は吸引した煙を吐きながら、苦い顔をして夜空を眺めたのだった。

 




どうも、飛男です。
3日間投稿できませんでした。学祭に引っ張り出され、集客目的に私物の軍装備を着け、大学を練り歩く始末に。楽しかったですけど、純粋に疲れました。なので頭が回らず、話が少々適当になっているかもしれません。

さて、本日よりそろそろ学業が忙しくなってきて、今までのように投稿ペースが速くできない可能性があります。一応説明に書いた一週間以内に投稿をしたいとは思っていますが、最悪それすらも超える始末になるかもしれません。

それと、安易に始めたこの作品ではありましたが、皆さまの暖かい評価や感想などで火が着いたようで、今後は以前投稿した話にもいくつかテコ入れなどをしていき、力を入れて書きたいと思います。それ故に投稿スピードが遅くなるかもしれませんが、ここまで来たなら良い作品にしていきたいと思いますので、どうか応援していただけることを切に願います。

ではまた、不定期後に!


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ペットショップに行きます!

「知ってるか七さん」

 

講義中。ノートを取っている俺に、みっくんが唐突に声をかけてきた。

 

「なんだね。私はノートをとるのに忙しいのだよ」

 

この講義の教授は何かとすぐ書いてはすぐ消す、典型的に嫌らしい講師だ。おまけに授業内容はイマイチわからん事で有名で、テストではノート持ち込み可能なのが唯一の救い。だからこそ、見落とす訳にはいかないんだよね。

 

「いや書きながらで良いから」

 

みっくんは苦笑いを漏らしながら言う。まあとりあえず、横耳で聞いておこう。

 

「実は駅の近くに、ペットショップが出来たんだよ。色々と動物もいるみたいだし、今度行ってみたらどうだ?」

そう言えば、以前工事をしていたところがペットショップになったと聞いていた。割とでかいペットショップだし、最近のブームの象徴のような建物なのだろう。ミーハーとも言うべき?

 

「で、それをなんで俺にいう訳?」

 

「おいおい、惚けても無駄だぞ。蒼龍。動物が好きなんだろ?」

 

そのみっくんの言葉に耳を疑い、俺は彼に振り返る。確かそんな事彼に一言も言っていないはずだ。なぜ蒼龍が動物好きなのを知っているのだろう。

 

「何故知ってるんだお前」

 

「え、だって本人から聞いたし」

 

あ、そうか。そう言えばみっくんのメアドも、蒼龍は知っているはずだった。恐らく適当に話している際に、蒼龍が教えたのだろう。ちょっとそのメール内容気になるけど、流石に其処まですると、蒼龍を『管理』しているようになってしまう。だから、蒼龍を信じるしか無いよね。まあみっくんに限って無いとは思うけど。蒼龍も彼は対象外みたいな事を言っていたし。ドンマイみっくん。君のベアーフェイスがいけないのだよ。

 

 しかしペットショップか。まあ今日はこの講義で終わりだし、バイトもない。最近は行っていなかったカフェにでも蒼龍を連れて行こうかと思っていたが、ペットショップの方が安上がりで済みそうだ。おそらく自販機のジュースで、蒼龍も満足するだろうし。

 

「そうだなぁ…まあ行くか。お前も来るの?」

 

「いんや。俺は部活。まあ二人で楽しんできーやー」

 

手首を軽く振って、行かないことを表す。何気に気を使って言ってくれたらしい。まあそういう所あるんだよねこいつ。

 

「ところで…七星。首輪を買うのか?」

 

「は?」

 

にやにやとしながら言うみっくんに、俺は目が点になった。何を言っているのかわからんし、どういう意図で言ったのかもわからん。

 

「え、どういうことだ?うちに犬も猫もいないけど」

 

「あ、いや…ごめん。ちょっと意味わからん事俺も言ったわ」

 

言った本人もどうやら意味が解らなかったらしく。途端に口をふさいだ。無意識のうちに意味の解らない言葉を発するとか、君洗脳でもされてるんじゃないのか?

俺がジト目でみっくんを見ていると、みっくんは急にうつむいて、言葉を発した。

 

「…ごめん。他人に性癖を押し付けるんじゃなかったな」

 

どうやらこいつは、変態だったらしい。

 

 

「わぁ!広いですね!」

 

蒼龍はペットショップを見渡し、大いにはしゃいでいる様子だ。

 

講義が終わり次第、俺たちはペットショップへと向かった。当初はカフェに行くようなことをそこはかとなく蒼龍には言っていたために、行先を変えるといった時は少々不満を漏らしたが、それがここだと解ったとたんにこのありさまである。

 

「ホームセンターと一体化したペットショップだからね。つまり半分が日曜大工系の物」

 

「そっちもちょっと気になるなぁ。後で行ってみましょ?」

 

にこっと首を傾げ、笑顔を振りまきながら蒼龍は俺に言う。久々に破壊力のある笑顔を見たな。もう慣れたと思ったが、やはり威力は絶大。心がドキドキ轟沈しそう。

 

「う、うむ。じゃあ行ってみようか」

 

蒼龍を直視できないので、顔をそらして俺は言う。なんか敗北感。

 

それからペットショップエリアまで歩く。途中蒼龍が犬用のぬいぐるみを手に取ってかわいいかわいいと連呼していたが、本体がいるところまで待てないのかと同時に思う。

 

「あ!望さん望さん!ほらほら!かわいいかわいい!ねこちゃん!わんちゃん!うさぎちゃん!」

 

ついにショーケースのようなガラス張りの部屋に入れられた犬猫を見て、蒼龍はぴょんぴょんとはねながら俺の腕を引っ張る。時津風かよ。まあ、どうやら心がピョンピョンしているらしいな。あ、私は緑の着物を見た和風美人なあの子押しです。やかましいわ。

 

「ほーらわんちゃん。かわいいですねー。うふふ」

 

蒼龍は子犬にメロメロ状態で、ショーケースへと走っていく。おお、はやいはやい。

 

「蒼龍。柴犬が好きなのか?」

 

最初に蒼龍が向かったのはザ・日本犬の柴犬。小麦色の毛並みが特徴で、俺も一番好きな犬でもある。義理堅く飼い主に忠実と聞く。

 

「はい!私、柴犬大好きなんです!触り心地がふさふさしてて、こう…あの…飛龍みたいなんですよ!」

 

 …。は?何言ってるのこの子。姉妹艦のことを犬の呼ばわり?わりとエグイこと言ってるような気がするんだが…。

 

「あ!飛龍がわんちゃんというわけではなくて…そう!わんちゃんみたいに可愛いんです!だから飛龍は、可愛いんですよ!」

 

必死にフォローしてるけど、まあ要するに飛龍は犬みたいで可愛いというわけだ。うん。じゃあお前は何だろうな。胴長じゃないけど、ダックスフント?

 

「わかったわかった。お、俺はこいつも好きだぞ。えーっとヨークシャテリアだったか」

 

サラサラな直毛を持つイギリス生まれのわんこヨークシャテリア。どこかお上品な感じで、知的な表情がまた可愛らしい。さすがは紳士の国イギリスだ。関係ないか。ちなみに寒がりだと聞いたことがある。

 

「ああ!その子もかわいい!んふふー。蒼龍ですよー」

 

ヨークシャテリアはかりかりとショーケースをひっかくように前足を動かし、蒼龍の細く美しい指に反応する。ついに自己紹介をし始めたなこいつ。犬に自己紹介の意味はないんじゃなかろうか。

 

俺はヨークシャテリアに夢中となっている蒼龍を置いといて、ほかの動物を見に行く。犬も好きだけど、鳥やハムスターも好きだったりするんだよね。そこ、似合わないとか言わない。どうせおっさん顔ですよ。某FPSのプライ○みたいな顔とか言われたよ。結構うれしかったけど。

 

「あははぁー。ハムスタァかわいいなぁ…お、ひまわりの種を上げれるのか。って…あまりあげちゃいけなかったような…」

 

まあ俺は某めちゃ愛で動物博士みたいに詳しく知らないし、とりあえず我慢ならんので一つ上げてみる。ハムスターは一生懸命口に種を押し込め、数秒うろうろした後、地面に潜っていった。

 

「なごむなぁ…」

 

ハムスターのちまちまとした動きに、俺はもう虜だ。小学生の頃からこの動物が相当好きで、飼いたいと親に泣いてねだったこともある。まあ、とあるアニメの影響だったんだけどもね。

 

「…雪風を思い出すな」

 

だが、今となってはこんな思考しか働かない。雪風がもしこっちに来たら、とりあえずひまわりの種を与えておけば済みそう。歪んだ偏見ですはい。

 

「あ!望さんネズミですか!ネズミを見ると雪風ちゃんを思い出しますよね!」

 

ネズミってなんだよ。て、いうか蒼龍お前もかよ。お前もそういっちゃうのか。ちょっと雪風かわいそうになってきたわ。あいつだって人間なんだぞ!おなじ艦娘なんだぞ!と、先ほどまでの自分に盛大なブーメラン。

 

「ちょこまか動いて可愛いですね。あ、お値段もそんなに高くない…」

 

ハムスターのケージに貼ってある値札を見て、蒼龍は驚きと関心を示す。

 

「あ、言い忘れていたけど。うちはペット禁止なんだ。仮に飼おうとしても、家族に相談しないといけないよ」

 

それを聞いた蒼龍は「えぇっ!?」と言葉を漏らした。まあ言ってなかったし、当然だろう。これだけペット好きなのに飼えないのは、生殺しのような物だろうね。

 

「う、うう…そんなぁ…私、お父さんを説得するのできないとおもいます…」

 

俺もそうだったからね。ちょっとひどい言い方だけど、蒼龍じゃあ絶対に無理な気がする。でも一応家族としているわけで、聞いてくれなくもなさそうな気がするんだが。

 

「…わかりました。じゃあしばらく見ています…」

 

少々落ち込んでしまった。うーむ。申し訳ないな。でも言っておかないと、勝手に飼いそうなんだよねぇ。ペットは勢いで買っちゃいけないだろうし。何より命を扱うからね。

 

「ここにいるとつらくなるか?どうせなら一緒に工具でも…」

 

「いや、いいです。ここでこの子たちを見て満足しますので」

 

そういう考えに行きついたか。ま、俺もそうだったし、とりあえず放置しておこう。まあ、女の子が工具を見ても、楽しくはないだろうしね。一部を除いて。

 

 

それから工具をいろいろとみて、必要なものは買いそろえる。六角レンチは数本紛失していて、購入は近々しなければならなかった。主に5ミリと6ミリが消える。なぜだろう。

 

また、アウトドアナイフも切れ味が落ちてるので、研がなければと砥石も買う。研ぎ方は割と練習していて、切れ味を落とさずむしろ向上させるほどの技術は身に着けた。

 

蒼龍はおそらくまだペットを見ているだろうし、俺は先の二点を購入し次第、外に出てヤニを補給しに行く。相変わらず良い香りの煙が俺を包み込み、満足となる。今日の煙草は、ピースだ。

 

「おーい。蒼龍。そろそろ帰るぞー」

 

さて、蒼龍から離れて2時間後、そんなこんなでいろいろと満喫をした俺は、そろそろ夕食の時間も訪れるし、帰らなけれならない。ペットを飼禁止令により落ち込んでいるところの蒼龍には悪いが、ここは何とか穏便に済ましたいものだ。

 

「あっ!望さん!」

 

先ほどの落ち込みが嘘のような声に、俺は思わず「えっ」と顔を上げる。すると、そこには蒼龍が、子犬と戯れていた。

 

「あっ、なめないで。ふふっ。もぅ」

 

どうやら蒼龍は、我慢できずに店員へ触らせてもらっていたようだ。その何とも幸せそうな蒼龍に、俺は思わずスマフォのカメラをオンにする。撮らねば。パシャりと。

 

「で、これはどういうことだ蒼龍」

 

「え、あ。ずっと子犬たちを眺めていたんですけど。店員さんが声をかけてくださいまして。触ってみませんかって」

 

やはり予想は的中したらしい。まあ触るだけならタダ。一種の冷やかし行為だけど、まあ店員から声をかけたみたいだし、大丈夫だ。

 

「望さんもどうですか?ヨークシャテリア」

 

そういうと蒼龍はヨークシャテリアを俺に突き出す。ああ…そんなつぶらな瞳で俺を見ないでくれ。可愛い…抱きしめたい。

 

「うぐぐ…。しかたねぇなぁ…」

 

その後、さらに一時間戯れたのは言うまでもない。そして、家に帰るころには、夕食が片づけられていましたとさ。

 




どうも。飛男です。
今日は投稿できました。まあ水曜日にゼミがありまして、それを超えてしまえば肩の荷が下りた気分です。明日明後日は、まあ何とかかけるかな?約束はできませんが、頑張りたいとは思います。
さて、今回はペットショップ編。ネコ好きの皆さまには申し訳ないですが、ネコの描写が少なかったですね。すいません。
また、艦娘を動物に例えた描写がありますが、完璧に私の独断と偏見で決めてます。「それはちがうよ!」と言いたい方はいるでしょうが、あくまでも望の感性ですので。正しいというわけではないです。

では、今回はこのあたりで。さようなら!


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映画館に行きます!

昼休み。相変わらず長蛇の列が食堂には出来ており、ガヤガヤと喋り声がラウンジへと連続して響く。

 

「それでさ。その時の店長は瞬く間にクレームを処理したんだよね。あの人すげぇわ」

 

俺はバイトであった出来事を皆に話しながら、話題を盛り上げている。うちの店長はいわばスーパー店長。かつて売り上げ低下をしていたうちの店を、各店舗最高売り上げを叩き出せるほどの店まで成長させたのだ。マジですごいと思う。

 

「はぁーすげぇな。何歳くらいなん?」

 

学食のハヤシライスを食べながら、しんちゃんは関心したように聞く。

 

「三十代前半だったな」

 

「まだ若いのに良くやるわ。うちなんて赤字ギリギリ回避がしょっちゅうだぜ?まあ最近やっとあったかくなってきたけど、冬の時なんて誰がアイスを買いに来るんだよ」

 

しんちゃんは某アイスクリーム店でバイトをしているらしい。確かに寒い時期にアイスなんて食いたく無いわな。こたつでダッツは贅沢だ。

 

「へーい!セブンスター!」

 

俺としんちゃんがバイトークで盛り上がっていると、学食の長蛇な列から離脱することのできた酒井が、机にがちゃんとお盆を置く。どうやら奴が買ってきたのは、カレーらしい。

 

「おー酒井。やっと解放されたか」

 

「全くなんだよ毎日毎日。もう少し円滑に動いてくん無いかね。列がヨォ」

 

それには同意せざるを得ない。良い加減あのとりあえず並ぶシステムどうにかならないものだろうか。品目別に分けるとかさ。

 

「あ、カレーですか?私カレー好きなんですよね」

 

先ほどまで授業プリントとにらめっこしていた蒼龍が、美味しそうに目線をカレーへと向ける。

 

「ははーん。海軍カレーというやつか。一度食べてみたいねぇ」

 

スプーンをくるくると回し、酒井は答える。たしかにこいつは以前から、海軍カレーを食べていたいと言っていたな。そういうレーションもあったと思うし、買えば良いのに。そういう意味ではないか。

 

「あ、ところでセブンスター。お前に良いものをやろう」

 

「良いもの?なんだよ」

 

酒井はバッグを弄り、何かを探し始める。こいつが良いものと言うと、ミリタリー関係のなんかだろうか。以前はエアフォースマークが描かれたシガーケースをくれたし。割と期待が高まる。

 

「ほい。これ」

 

そう言って、酒井が俺に渡したのは紙切れだった。ミリタリーものではなかったらしい。ちょいと残念。

 

「サンキューって。これ映画の前売り券か?」

 

渡された紙切れは、チケットだった。最近CMでたまに見る映画で、なんとなく見たいとは思っていた。

 

「いやさ、実は彼女と行くことを約束してたんだけど、どっちが買うか言うのを忘れてたらしい。で、案の定ダブってしまったわけよ。だからこのチケットが余っちまって、お前と蒼龍で行ってこいや」

 

あらら、それは残念だったというか御愁傷様というか。まあタダで映画を観れるのは大きいし、随分と久々に巨大なスクリーンで観れる。洋画だけど、蒼龍は気にいるかなぁ。

 

そんなことを思っていると、蒼龍が俺の肩をつかんでひょっこり顔を出し、映画のチケットを見てくる。

 

「あ、これCMで見たことあります!見たいと思っていたんですよね!」

 

お、どうやら蒼龍も乗り気らしい。と、なればありがたく頂戴しなければならないな。

 

「そうか。じゃあ頂くわ。サンキュー」

 

「おう。楽しんでこいや」

 

酒井は頷くと、カレーにスプーンを運び始めた。

 

✳︎

 

休日。車を走らせて、俺と蒼龍は映画館へと向かった。あいにく地元には映画館が無いもんで、20kmくらい離れた場所まで行かなければならない。

 

ちなみに道のりの際、俺がかつて通っていた高校がある。私立高校だったけど、設備がそこまで良くなかったと言う悲しい学校だった。片道14kmの道程は辛いものだったな。

 

さてそんなことはさておき、立体駐車場に車を止めると車を降り、俺たちは映画館へと入っていく。ショッピングモールと映画館が一体化したここは、いつも賑わいが凄い。

 

「薄い暗いですね。人も多いですし」

 

「そうだなぁ。はぐれるなよ?」

 

まあ休日だし仕方ないだろう。とりあえず映画上映まで時間もあるし、先にショッピングモールの方へ行くのも悪く無いかもしれない。

 

「あ、あのスクリーンに、映画紹介の動画が写ってますよ」

 

蒼龍が指をさす上の方には、CMなどで使われる映画情報が流れている。俺たちが見る予定のスパイ映画に、恋愛系の映画、アニメ映など様々な情報が流れている。毎回思うけど、この手のPVは見ていると楽しくなってくると言うか、ワクワク感凄いよね。ついつい足を止めて、見入ってしまうわ。

 

「いろいろな公開しているんですね。あ、戦記物でしょうか?米国の戦車が写っています!シャーマン中戦車かな?」

 

よくわかったなと言いたいところだが、それは置いといておく。この発言からして、やはり米国を蒼龍はもう恨んでいないようだ。いや、もしやそ恨みが深海棲艦にすり替えられているのだろうか。ついつい考えてしまう。

 

そう考えると、今回の見に来た映画にその様な描写があったのか気になる。一応現代のスパイアクションだろうから、WW2の話は出てこないと思うが…。

 

「へぇ…陸ではこんな事があったんだ…。あ、でもこの時もう私—きゃっ!」

 

蒼龍が呟いているその時、唐突に短い悲鳴をあげた。蒼龍はそのまま尻もちをつき、地面へと手をついた。

 

「蒼龍!ちょっと、あんた!」

 

ついカッとなり、俺はそのまま走り去ろうとした男の腕を、がしりと掴む。さすがに謝らないのはおかしい。男は40代くらいのおっさんで、サラリーマンらしい顔つきだ。大人であるならば、なお謝るのが普通だろう。

 

「あ、すいません!こちらの不注意で!申し訳ありません!」

 

リーマンらしき人物は蒼龍が倒れた事に気がつかなかったらしく、すぐさま謝ってきた。まあ悪気は無い様で、一刹那に湧き上がった怒りが引いていく。おそらく休暇中に取引の電話かなんかが掛かってきたから、慌てていたっぽい。

 

「いてて、あ、大丈夫ですよー。私もぼうっとしてましたから。そちらも大丈夫ですか?」

 

笑顔を作り、蒼龍は大事が無いことをアピールする。おっさんは数回頭をさげると、またまた急いで映画館から出て行った。

 

「全く。大丈夫?立てるか?」

 

「はい、大丈夫です。あ、ありがとうございます」

 

差し出した俺の手を掴んで、蒼龍は立ち上がる。しかし立ち上がっても、手は握ったままだ。

 

「ん?どうした?離さないの?」

 

「いやぁ…その…またぶつかられて尻もちをつくの嫌ですし、これだけ人がいて逸れるのも嫌です。だから握っててもいいです?」

 

確かにそれは名案だ。これだけ人がいると、人波にのまれた際にはぐれてしまう。理にかなった理由だ。口実ではない。しかし、蒼龍の手は冷たいな。それも細い指がなんともか弱い印象を受けさせる。

 

「まあそうだね。じゃあ繋いでおくか」

 

頬を掻いて、俺は言う。頭では納得できても、やっぱり恥ずかしいのは当たり前だ。自分で言うのも難だが、初心な気がする。

 

「はい!お願いしますね!」

 

蒼龍は笑顔でそう言うと、俺の手を強く握ったのだった。

 

✳︎

 

ショッピングモールで時間を潰した俺たちは、いよいよ上映場へと入館した。

あらかじめポップコーンやらコーラなどの飲料水を買っておいて、準備は万端。昼過ぎからの上映でもあったし、昼食も食べ終わった。故に上映中に空腹となる事も無いだろう。

 

椅子に座り、スクリーンには宣伝やら上映案内などが流れている。その間、蒼龍がどうしても欲しいと言って買ったパンフレットを見ながら、たわいも無い話をする。

 

「しかしなんで、パンフレットが欲しかったんだ?内容を見ればそれで終わりだろ」

 

個人的に、映画のパンフレットを買うのは無駄だと思っている。今からその映画を見るんだから、わざわざ金を払って予習みたいなことをする意味は無いのでは無いだろうか。そもそも初めて見るその初見差が楽しいものであって、勉学とは違う。

 

「いやーその、思い出ですよ。思い出」

 

パンフレットを見ながら、蒼龍は言う。思い出か。確かにその映画の興奮を思い出すために、パンフレットを見るのは悪く無いかもしれない。人間の記憶なんて曖昧で、割とその興奮を直ぐに忘れてしまうしね。

 

「なるほどねぇ。まあ、お前の稼いだお金だし、何に使っても構わないよ。だからと言って使いすぎるのはダメだからな?」

 

「わかってますよぉ。子供じゃ無いんですから。あー、早く始まらないかなぁ」

 

うずうずと体を動かして、蒼龍は言う。この上映前の待ち時間は妙にドキドキ感と期待感が湧き上がってくる。CMで断片的に映像をみされては、あのシーンはどうなのか、何が起きているのかを知りたくなるのは当然だ。

 

それから数分後、ついに『ビー』っとサイレンが鳴り、室内が暗くなっていく。映画開始の合図だ。

 

「始まりますよ!始まりますよ!」

 

きらきらと輝きを発する様な蒼龍のテンションに、俺は軽く静かにする様釘をさす。日本の映画館は視聴中静かにするのが普通で、それが当たり前となっている。アメリカではむしろ一緒に騒ぐのが普通らしいけど、少々考えられないな。

 

しばらくは先ほどチケット売り場で見た様な映画宣伝が、巨大なスクリーンに流れた。お、ヤクザの爺さん七人が頑張る話は、割と面白そうだ。最近任侠映画、やらないよねぇ。

 

映画の宣伝が終わり、ついに本編が始まる。導入部分から早速人が逝ってしまった。割と生々しいが、蒼龍は大丈夫だろうか。ちょいと気になり、彼女に目線を向ける。

 

「あれ?あそこを撃たれても簡単に絶命しないはず…。当たりどころが悪かったのかな」

 

なんか割と物騒なことを言い始めている。忘れてた、こいつはやっぱり艦娘だったんだ。

 

一通りの急所や弱点を叩き込まれているのだろう。そう思うと、俺とはある意味違う世界の人間であったことを痛感させる。所詮俺は、平和なこの世に生まれた成人になって間も無いガキなんだ。

 

さて、それからしばらく映画を見続ける。ちょうど主役の二枚目外人が、ヒロインを助け出したシーンだ。この流れから行くと、ラストは黒幕を倒すかんじだろうか。

 

「いいなぁ…私もあんな風に助けられたいや」

 

うっとりとした瞳で、蒼龍はぼそりと呟く。まあ現実は映画の様にうまくいかないのが普通だ。俺だったら数十回は死んでるだろう。まあ死んで生き返ってを繰り返せば、それこそよくあるチートになれるだろうけどね。以前ハリウッド化した某小説も、そんな話だった。

 

「…あ、あ、イチャイチャしてます。ひゃー」

 

蒼龍は二枚目外人と美人ヒロインのラブシーンを、手のひらで顔を隠して恥ずかしそうにする。あれほどじゃ無いけど、俺たちだってあんな感じに見られてると思う。やっぱり思い返すと恥ずかしいものだ。

 

✳︎

 

最終的に俺が予想した通り、主役の組織にいるスパイが倒されて幕が下りた。米国の映画だし、この手の結末はいわゆるありきたりだ。

 

だが、蒼龍はそんなテンプレ的展開を知らない。どうやら組織の中に敵がいたことを予測できなかったのか、未だに驚いた表情をしている。

 

「まさか組織内に裏切り者がいるとは思いませんでしたね!ドキドキがまだ止まりません」

 

「あ、ああ。うん。そうだね」

 

うーむ。早い段階からわかってしまっていたから、共感が出来ない。スパイ映画や戦記物は割と見ている所為で、初々しい気分にはなれない。

 

「また来たいなぁ。今度は恋愛映画も見てみたいですね。望さんは何を?」

 

また違うガンアクション映画を見たいが、確かに恋愛系の映画は見たことが無い。初々しい気分なり蒼龍と共感しあえるのは大きいな。

 

「俺も恋愛系の映画かな。あまり見たこと無いし、楽しめそうだ」

 

 

 




どうも飛男です。ここ2日と多忙で小説が投稿できませんでした。申し訳ありません。

さて今回は映画の話です。最近はDVDやブルーレイの普及で映画を映画館で見ない人が増えてるとか聞いたことがあります。ですが、やっぱり映画館で見ないと迫力が伝わって来ませんよね。特にガンアクションは発射音や爆発音が体に響くほどでなければ、その威力と破壊力は伝わりにくいと思います。その威力を大音量で聴くことで、さらなる迫力が伝わるのでは無いかと思います。

では今回はこの辺りで、また不定期後!


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鳳翔さんに会います! 上

今回は二部作です。上はちょっと今までのまとめ的な内容があります。


学部棟喫煙所。シャレオツな格好をした輩や、お年寄りの聴講生達が煙を楽しむ中に、俺と大滝もそこでヤニを補給していた。もちろん蒼龍も一緒だが、わかってると思うけど彼女は煙草を吸わない。さすがに副流煙を吸引してしまうので申し訳ないんだけども、蒼龍は硝煙などで慣れてるから相変わらず大丈夫だと言っている。何とも健気というか何というか…。遠回しに禁煙を促されている気がする。

 

「今日も一日乗り切ったなぁ。この解放感がたまらない」

 

「えぇ?望さん殆ど寝てたじゃ無いですかー。大丈夫なんですか?そんな事で」

 

蒼龍の言う通り、大半寝ていました。どうしても睡魔には勝てないんだよね。人間だもの。この言葉便利。

 

「まあそんな七さんの為に蒼龍はノートを取っているんだろう?」

 

大滝の言葉に、蒼龍は「そうですけどぉ」と不服そうに言う。やはり頼られてばかりなのはあかんらしい。ちょっと反省しないといけないかな。

 

「ふう。じゃあ俺は先に帰るわ。どうせお前、車だろ」

 

一足先に煙草を吸い終えた大滝は、吸い殻を指で弾いて見事に灰皿へと入れる。すげぇ。

 

「今日は暇だし、家まで送るぜ?」

 

おととい昨日とバイトが入っていたために、今日は休みだ。いつも暇そうに見えてるのは、たぶん気のせい。そもそもバイトのことを語るのは、つまらないと思う。ただ接客して書類を書いて、整備をするだけだもの。蒼龍がいれば、また変わるんだろうけど。

 

「お、まじか。それはありがたい。早めに帰りたいしな」

 

喜ぶ大滝は、同時に「あっ」と何かを思いついたかのように声を出す。

 

「どうせなら、鳳翔に会っていくか?今頃家で、夕飯の支度をしてるはずだしな」

 

「え!会わせて頂けるんですか!?やったー!わーい!」

 

えらくテンションを上げて、蒼龍は言う。やめなさい。目立つから。あーほら、シャレオツマン達が不思議そうに見ているぞ。と、言うか会わせてくれるって叫んでる事は、つまり大滝が会うことを許していないとでも思っていたのだろうか。だから会いたいとか言わなかったのね。

 

しかし鳳翔か。うちの鎮守府ではあまり印象が薄い艦であったが、蒼龍達にとっては母親的存在の艦娘だ。あれ、つまり俺は蒼龍の母に挨拶をしに行くようなものなのでは…。

 

「鳳翔にもお前のことは話してるぞ。その時は何も言わなかったが…どうなるんだろうな」

 

そんなことを俺が思っていると、大滝に肩を叩かれこう言われた。

 

娘さんをくださいとか言わないけないような…。いや、でもそもそもカッコカリだからまだその時では無い?何かと不安が、俺の体を駆け巡った。

 

大滝を後部座席へとのせ、俺たちは大学を出た。数キロ車を走らせた先に、大滝の家はある。

 

大滝は寮での一人暮らしだ。実家から出たかったらしいが、何よりも言えることは独り立ちを早めにしたかったのだと言う。仕送りやバイト金でやりくりして、生活することで社会に馴染んでいきたかったのだろう。

 

要するに大滝は、ある意味運が良かったみたいだ。俺や統治の様に親を説得する事などしなくても良いのは大きい。さらに鳳翔はお艦と言われる様に家事全般は容易にこなせるし、まるで新婚生活の様だろう。羨ましく無いわけが無い。

 

「ただいま帰りました。鳳翔さん」

 

車を停め次第、俺たちは大滝の家へと入っていく。そして大滝は玄関を開けると、疲れた様な声で言う。

 

「あ!おかえりなさいませ提督。…そちらの方はどなたでしょうか?」

 

割烹着の下にいつもの着物を着た鳳翔は、大滝に笑顔を見せる。しかし俺の存在に気がつくと、打って変わって不思議そうな顔をした。

 

「あ、七星望です。大滝とは友人でして、家にお邪魔させて頂きました」

 

「ああ、あなたが七星さんですか。提督がいつもお世話になっております」

 

鳳翔は俺のことを理解すると、深く頭をさげる。その礼儀正しさは、何というか旅館の女将に通じるものがある。

 

「七星さんがいるということは、つまり…」

 

思いついた様に言う鳳翔に答えるが如く、蒼龍が俺の後ろから顔を出す。

 

「鳳翔さん!鳳翔さん!私ですよ!蒼龍です!」

 

「まあ蒼龍ちゃん!久しぶりね。元気にしていたかしら?」

 

二人は俺と大滝を押しどけると、両手を重ねてぴょんぴょんとはねだした。なんともまあ女子らしいというか、可愛らしいというか。大滝もそれを見て、険しい顔を緩ませているな。

 

てか鳳翔さんそんな年じゃないでしょう。と、言いたいところだが口に出すと殺されそう。そもそも年を取るのだろうか、艦娘って。もしやずっとこの容姿のままなのだろうか。

 

「いつからこちらにいらして?私は三月の初めからです!」

 

「そうなんですか?私は二月の下旬です!望さんがちょうどお休みをもらった時期でして!」

 

「まあ!大体同じ頃に来たようですね!しかしなぜ私たちだけ…」

 

跳ねるのをやめ、鳳翔は不思議そうに首をかしげる。そうか、彼女たち―大滝たちはなぜ艦娘がこうしてこっちの世界に来れたのかを知らないのか。

 

「え、それはあか―むぐう!むー」

 

蒼龍がうっかり漏らしそうだったので、とりあえず口をふさぐ。こいつらにまだ話せるか否かは俺が決める。信じていないわけではないけど、この事項は胸の内に秘めておいた方がいい気もするんだ。てか、やめろ。かむな。いたいわ。犬かお前は。

 

「ふふっ。七星さんと蒼龍ちゃんは本当に仲がよろしいのですね?」

 

「え、あ、あはは…そうですね!」

 

 鳳翔の困惑した様子であれど微笑みを崩さない姿勢は本当に感心する。この人のような器の大きい人間になりたいものだ。だからと言って性転換するわけではないぞ。

 

「むー!むー!」

 

蒼龍がじたばたとし始める。おっと忘れていた。離してやんないと。

 

「もう!何なんですか!急に口を押えて!」

 

「あーあはは。ごめんな蒼龍ちょっと手が滑って」

 

笑いながらごまかそうとしたが、蒼龍の拳が俺の頬へと突き刺さった。

 

「いってぇ!」

 

さすがに口を押えたのは、悪かったかな。

 

 

さて、大滝の家へと入り数分。鳳翔は夕飯の準備が終わっていないらしく、台所へと戻っていった。しかし、すぐにこちらへ戻ってきて、熱いお茶を俺たちへと置いてくれる。なんてできた人なんだほんと。

 

「なあ蒼龍。機嫌を直してくれよ。さすがにさっきはやりすぎた。すまん!」

 

「もお。望さん最近私のことを雑に扱ってる気がします。ひどいです本当に」

 

お前も俺が提督だってことを忘れているような気がするんだけども。まあ、もうそういう垣根を通り越しているとは思っているけどね。この世界に来た艦娘に、上下関係なんていらないと思う。

 

「悪かったって。うーむどうしたもんか」

 

ぷいっとそっぽを向けて怒っている蒼龍に、俺も腕を組み解決策を考える。こうなった女性は個人的に手が付けられないとは思うが、さすがに今回は俺が悪い。

 

「はぁ。おめぇらほんと人前でもイチャイチャしてんな。恥ずかしいとか思わねぇの?」

 

大滝がそんな俺たちのやり取りを見て、ため息をつく。うぐぐ、イチャイチャしている自覚なんかないんだけども。そう見られているのか。自覚すると恥ずかしくなってくるが、もう慣れた。

 

「私はもう知りませんから。それより大滝さん。一人暮らしってどんな調子でしたか?」

 

「え?ああ、うん。いろいろと面倒だよ。今は鳳翔さんがいるから自由な時間も確保できてるけど、家の掃除から家事全般。おまけに課題を片づけなきゃいけないし、自由な時間なんてほとんどなかったさ。でも、どうしてそんなことを?独り立ちしたいのか?」

 

ふむふむと関心しながら聞いている蒼龍に、大滝は聞き返す。おいおいそこまで口元を抑えられるのが嫌だったのか。これは本格的に縁をきられるんじゃ…。

 

「いえ。ちょっと気になりまして。一応鎮守府での生活時は寮生活でしたけど。自由時間が豊富でした。私の場合、その自由時間を自主訓練や趣味に使っていましたね」

 

どうやら独り立ちをしようとは思っていなかったらしい。よかった。俺の思いすぎだったみたいだ。

 

「でだ。七さん。お前はなぜ艦娘がこちらの世界に来たか知っているらしいが」

 

「なに?なぜそう思った?」

 

急にその話に移行されたために、俺は若干面食らう。まあ、思い返せば鳳翔の言葉から蒼龍の受け答えに、俺が口元を抑えたのは墓穴を掘ったようなものだったかもしれない。

 

「…まあそうだな。うん。やはり語るべきかもしれない」

 

俺は一つ息を着いた。この際だから、こいつには語ってもいいだろう。むしろ被害者だろうし、理由を語っておいた方が後々楽だろう。

 

「あー。まず最初。艦これの世界はサービスが始まったと同時に向こうは向こうで世界があるらしい。まあ詳しくはわからんけどね。明石がそんなことを言っていたよ。で、始まりはどうやらうちの明石がへんな装置。『コエールくん』なるものを作ったそうで、それを使って蒼龍がこっちの世界に来たみたいだ」

 

「こえーるくん?まずそこから意味不明だ」

 

大滝が苦い顔つきでつぶやく。まあそうだよね。俺も意味不明だから。そもそも今思ったけど、コエールくんってネーミングセンスどうかしてるわ。もうちょっとマシな名前無かったのかよ。

 

「まあそれは置いといて、とりあえず蒼龍はそれを使ってこっちの世界に来たそうだ。な?蒼龍」

 

まだふてくされている蒼龍に、わざとらしく話題をふる。蒼龍は「そうですよ」となんだかんだ言って、返事をくれた。

 

「俺の鎮守府はそれからいろいろな奴と話ができるようになった。武蔵は自分を悲観的に見ているし、叢雲はツンデレ。最近じゃ如月が誘惑してきたりと、まあ様々。ともかく会話ができるようになったんだ」

 

大滝は納得するような、でもどこか腑に落ちないような顔で、頷き続ける。俺もどうしてこうなってしまったのかは、説明できない。おそらく育て方の問題だったのか?

 

「まあ、ここからが本題だけど。明石曰くそのコエール君の情報が俺とネットワークを共有した奴らに感染をしたらしいんだ。で、お前以外にも菊石の家に夕張が来た」

 

「なるほどな。明石ウイルスか。って言い方悪いな」

 

自分で言っておいて、大滝は申し訳ないように頬を掻く。いや、今度からその名称を使わせてもらおう。

 

「しかしそうなると、お前やばくないか?俺や菊石だけならまだしも、オンゲ仲間にも確実に感染してるってわけじゃないか。何か情報を得てないのか?」

 

「いや、正直聞いていないし、最近オンゲすらしていなくてな。蒼龍といろいろと過ごしているうちに、こうして時が経っちまった」

 

「そうか。まあそれは帰ってから聞いてみるといいな。で、二次被害は起きるのか?もしそうなったら、世界中は大混乱だ。ネズミ算式に艦娘が世界に現れることになるぞ」

 

確かに言われてみればそうだが、今の今までゲームの女の子―艦娘が出てきたなど話題がニュースやネットに出ていないので、以前も語ったように二次被害はないと見える。それにオンゲの仲間たちに感染したとしても、そのオンゲ仲間もどうにかして隠しているのだろう。

 

「二次被害はないと言ってもいいな。第一、明石からそんなことは聞いてないし、言わなかったってことはないんだろう。可能性は捨てきれないが」

 

俺はそう返事をすると、再び深呼吸をした。要するに語り終えたことを表しているから、大滝も「なるほどな」と理解したことを表す。

 

「ともかく、大変なことになったのはわかった。これ以上深く考えると、いろいろと課題が沸きあがってきて、外に出れなくなりそうだ」

 

その意見には俺も同意せざるを得ず、「そうだなぁ」と言葉を漏らす。しかしさっきから蒼龍がちらちらと俺を見てくるが、どうしたんだ?

 

「どうした蒼龍」

 

「いえ。私が語ろうとしたら怒ったくせに。自分が語るときはすらすらと語るんですね」

 

ああ。そうだな。相当罪悪感が込み上げてきた。

 

「本当にごめんな。でも、これは割と容易に言えることじゃないし、俺から語りたかったんだ。だから本当に、悪かった」

 

深く頭を下げ、俺は謝る。すると蒼龍は「はあ」と息をついて、俺に視線をよこした。

 

「私も後々考えれば迂闊でしたよ。でも、口元を急に抑えられたのはびっくりしちゃいまして。まあそこまで深く謝られると、もう私も許すしかないじゃないですか」

 

どうやら許してくれたようだ。どうやら口元を抑えられたことが、蒼龍にとっては驚きの行動だったのだろう。今度からそういう事を、ちゃんと意識しなければ。

 

「まあ、ちょっと嬉しかったのもあるんですけど…」

 

最期に蒼龍がぼそりと何かをつぶやいたが、俺には鮮明に聞こえなかった。

 

 




どうも、飛男です。

さて、今回はいろいろなまとめと、蒼龍の不機嫌バリバリ回でした。え、解決が簡単すぎる?まあそうですねぇ。

今回はこのあたりで、また不定期後に!


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鳳翔さんに会います! 下

蒼龍とまあ仲直り?をした俺は、大滝に夕飯を食っていくことを提案されて待つことにした。正直鳳翔さんの手料理を食べれるのは嬉しいと言うか興味を惹かれるというか。ともかくおふくろにはメシを食っていくとSNSで飛ばしておいた。

 

「私鳳翔さんのお料理を食べるのは久々です!」

 

まあ蒼龍の場合はうちにいる鳳翔の手料理の事だろうな。まあ人は違えど、人格は変わらない。要するにパラレルワールド的なんだろう。

 

「…ちょいとお前ら、鳳翔を見てみろ」

何気無い話を蒼龍と俺がしていると、唐突に大滝が小声で言う。なんだろうかと俺たちは顔を見合わせて、大滝の近くへと寄る。

 

大滝の位置から鳳翔をみると、丁度気分良く料理を作っているところが見えた。割烹着姿に淡い桃色の着物が映える彼女は、まさに大和撫子だろう。

 

「お、見えた。な?いいだろう?」

 

何が見えたのだろうか。俺と蒼龍は再び顔を見合わせて、大滝へと何かを問う視線を向ける。そんな視線を大滝は理解したのか、俺と蒼龍の肩を寄せて顔を近づけた。

 

「わからんのか?うなじだよ。うなじ。他にも…お、ほら。今の動作。髪をかきあげるあの姿もたまらないとは思わないか?」

 

熱弁をしてきたぞこいつ。ってまあ言われてみれば確かにグッとくる。鳳翔さんは色々と女性の魅力を感じさせてくれる人だな。

 

「わ、私もやってみようかな…女の私でも、鳳翔さんの姿はグッときちゃうかも」

蒼龍も生唾を飲んで、熱心に鳳翔を眺め始める。蒼龍はそのままでいいと思うけどなぁ。ちょっと抜けてるところや、幼いところが、俺的には一番グッときている。まあでも、大人びた事をする蒼龍も良いだろうし、なんか迷うぞ。

 

「蒼龍はまずそのツインテをやめなければならないんじゃ無いのか?最近その髪型以外見たこと無いんだが」

 

最近は他の髪型にするのがめんどくさくなったのか、蒼龍はツインテを貫き通している。いやまあ俺的にはそれが一番似合うと思うし、蒼龍はそうでなくっちゃって思えてもくる。

 

「あのぉ…あまりジロジロ見られると恥ずかしいです」

 

どうやら鳳翔は俺たちの視線に気がついたのか、照れた表情で振り返ってきた。うお、照れた顔もスッゲェ美人。蒼龍も大滝も、おもわず「おぉ」と声をあげてるし。

 

「ああ、いや。すまないな。お前がいてくれると、やはり嬉しいよ」

 

大滝は後頭部手を当てて、照れ臭そうに言う。すると、鳳翔はふふっと小さく、可愛らしく笑う。

 

「ふふ、そうですか?私、こちらに来た甲斐がありましたね。旦那様」

 

なんという強烈な一撃なのだろう。大滝も流石に堪えたのか、顔を赤くして俯いた。俺と蒼龍も何かと恥ずかしくなり、鳳翔から目線をそらした。お前らもイチャイチャしてるやんけ。

 

「そ、それよりあと少しでおゆはんできますよ!皆さん、準備をしてください!」

 

あとから鳳翔も恥ずかしさがこみ上げてきたのか、顔を赤くして料理を作る作業に戻る。うむ。色々と眼福だったな。

 

「むう。さすが鳳翔さん。私も色々と見習わないと」

 

蒼龍は関心深そうに頷き、言葉を呟く。蒼龍がもう少し成長すれば、未来は鳳翔の様になるのかもしれないな。

 

 

 

 

夕食はまあ何とも趣を感じる和食であったが、素材の質を最大限に高めた様な味で、しつこくも無ければ薄くも無い、何とも美味と言わざるをえなかった。

 

「食器片づけます。ほら、蒼龍もやるぞ」

 

「はい!えーっとこのお皿は…」

 

ごちそうになったからには、手伝いをしなければならないのが普通だ。俺と蒼龍はとりあえず皿を重ねていく。家ではよくこうして流し台へ持っていくので、作法は間違っていないはず。いや、家だけなのかな。

 

「いえいえ。どうかお二人は座っていてください。ここは私だけでやりますので」

 

鳳翔はそんな俺たちを静止させるように、俺と蒼龍の手のひらを優しくなでる。なんというか、鳳翔の手のひらはすこしかさかさしていて、より一層おかんであることが分かった。こんな若い顔つきなのに、手だけは年季が入っている。本当に感心するよ。

 

「俺もやるぞ鳳翔。七さん。その皿をよこしてくれ」

 

「そ、そんな!提督に手を煩わせるわけには!」

 

「いや、今日はやらせてくれ。こいつらはお前だけの客人じゃないだろ?俺たちの客人じゃないか」

 

そういって、大滝は鳳翔に有無を言わさず、流し台へと食器を運んでいく。そんな彼を見て、鳳翔は胸元でぎゅっと手を握っていた。ああ、こいつらもなんだかんだ言っていい雰囲気だな。奴らしい男の見瀬方だなぁとは思う。

 

「あ、えっと。お二人はそこでくつろいでいてください。私も片づけてきますので」

 

大滝の向かった方向をうっとりとした目線で見ていた鳳翔は、はっと我に返り次第、俺たちにそういってくる。まあそうさせてもらおう。彼らの言ったことは正しいし、ここは大滝の顔を立ててやらねば。

 

「わかりました。蒼龍、しりとりでもして時間をつぶそう」

 

「へぇ?しりとりですか?じゃあわたしから…しりとりの「り」から…りんご!」

 

一瞬困惑した蒼龍であったが、すぐに了承をしてくれた。まあ鳳翔にくつろいでいる姿を見せる名目でしりとりを選んだわけだが、どうやら鳳翔はそれで納得したらしい。彼女はふふっと笑いをこぼすと、食器を持てるだけ持って、そのまま流し台へと向かって行った。

 

「うーん。…いい雰囲気ですねぇ。あの二人。あ、力士!」

蒼龍も感づいていたらしく、二人が流し台へ向かうと、ほほえましそうにつぶやく。俺もそれには当然同意だ。うんうんとうなづいて、とりあえずしりとりを続けた。

 

さて、それから数十分後。俺が蒼龍に定番の「り」攻めを行って苦しめている中、食器を洗い終えたのか二人が戻ってきた。何かを話していたようだけど、聞き取れてはいない。

 

「えぇ…また「り」ですかぁ…。えーっと。うーんと。りんご酢!」

おおう。そう来たか、じゃあ「す」か。えーっと。

 

「お前らしりとりしてるのか。なんつう子供っぽいというか…っと。そうだ、ちょっと煙草が吸いたくなってきたし、七さん行こうぜ?」

 

大滝は俺たちに苦笑いを見せると、唐突な提案をしてきた。まあ確かに食後の後にヤニは補給しないといけないな。煙草を吸う人ならわかると思うけど、たまらなくうまいよね。

 

「おっけ―あ、蒼龍。ストロベリー。はい。次も「り」だからねー」

 

とりあえず蒼龍の番にしておいて、俺は大滝と一緒に玄関へと向かう。一応室内での煙草はダメらしい。大滝曰く、玄関の前で吸わなきゃいけないとか。

 

「ひどいですよぉー!英語とかずるいです!えーっと…り…り…」

 

蒼龍の泣きごとが聞こえたが、まあそんなことは放っておき、俺と大滝は外へと出ていった。

 

 

お二人が外へ出ていくのを見送ると、私は再び考え込みます。

 

望さんは「り」が最後にくる言葉ばかりを使ってきて、私はもう大混乱。頭の中にある用語を必死に絞りだそうとしても、もうつきかけてます。そもそも望さんは英語はもちろんスペイン語やドイツ語まで使ってきて、知っている量の言葉が違いすぎるんです。こんなの負け戦さじゃないですかぁ。

 

「うーん。り…り…」

 

声に出したところで、私の頭には何も浮かんできません。これはお手上げするしか無いです。

 

「ふふっ。蒼龍ちゃん。やっと二人っきりになれましたね」

 

私が唸っていると、鳳翔さんが不意に笑いかけ、声をかけてくださいます。二人っきりって、…何故でしょう。

 

「えっと、どうされましたか?」

 

「私達艦娘同士、二人っきりでお話ししたかったの。ダメだったかしら?」

 

ダメのわけがありません。私は首をふるふると横へ降って、その事をアピールします

 

「よかった。えっとじゃあ、七星さんとこれまでにあった事を教えてくれないかしら?私ずっと、気になっちゃって」

 

「そ、そんないきなり言われても」

 

とは言う私でしたが、誰かに聞いてほしいと言った思い無いわけではありません。だって、自慢したいもの。私の自慢の提督で、自慢の恋人。のろけになるのは当たり前ですけど、話したくなるのは、恋する乙女の性なんです。

 

「えーっと。それじゃあ遠慮なく…」

 

鳳翔さんもにこにこと私に笑顔を見せてくれていたので、話しやすかったです。まず最初の出会いから、望さんから様々な人と出会えたこと、時折見せてくれる小さな気遣いから、ガラの悪い方々に絡まれた時に助けてくださったこともすべて。私は語りつくしました。

 

ふと時計を見ると、50分は経っていました。まだまだ語り足りないですけど、流石に自重をします。一方的に話すのは、聞いている相手も疲れてしまうはず。

 

鳳翔さんは私が語り終えるのを確認すると、微笑ましそうに頷きます。そして、口を開きました。

 

「…貴女は七星さんの事を、本当に慕っているのですね」

 

「そんなの当たり前ですよ。私はゆくゆく、あの人と一緒になりたいです!」

 

「そうですか。ふふ…そうですか」

 

鳳翔さんはどこか満足そうに、納得した様に言葉を復唱します。ちょっと恥ずかしさがこみ上げてきました。

 

「本当によかった。蒼龍ちゃんは理想の提督に出会えたんですね」

 

「え、どういうことですか?」

 

純粋な疑問です。だって、鳳翔さんはこんなプライベートな事を深く詮索してこない方です。うちの鎮守府にいる鳳翔さんはまさしくそうでしたしね。

 

鳳翔さんはしばらく黙り込みます。そして、俯いていた顔を上げると、口を開きました。

 

「私は、心配だったんです。貴方が想っていた提督とは違う方だったのでは無いだろうかと。少なくとも私は、大滝提督を見た際にイメージしていた方とは少々違いましたしね。今ではむしろ…あの性格の、ありのままの提督が好きですけども、その様なすれ違いは起きると思います。ですから、蒼龍ちゃんはどうだったかなって。そう思いました」

 

確かに艦娘のみんなは、自分の命を託しているこちら側の提督の事を毎日妄想しています。どんな人だろうと、身長は高いのか低いのかとか、すでに既婚者かどうかとか、様々です。私はイメージに合致していた方でしたので、むしろ予想が当たって嬉しかったですけど、こちらの世界へに来て予想と違った提督を見ると、多少は残念な気持ちになってしまうかも。

 

「でも、その様子じゃ大丈夫そうですね。よかった。きっとあの方は、蒼龍ちゃんが思っていた通りの方だったのでしょう。それも、今なおそのイメージを崩さない様に努力している…ちょっと羨ましいな」

 

ころころと笑うと、鳳翔さんは一息つきました。そして私の目をまっすぐと見つめます。

 

「あの人に、貴女を任せられそうです。一応貴女の義母として、私は了承します」

 

ああ、そういうことだったのですか。私はすべてを理解しました。

鳳翔さんは大日本帝国初の空母。すなわち私達空母型艦娘にとっては例に漏れず、母親の様な存在です。つまり、私の事を母として、心配してくださったのです。

 

そう考えると、話しやすかったのも頷けます。のろけ話なのに鳳翔さんは頷いてにこにこと暖かく聞いてくださいましたし、そののろけ話の中で私が想う望さんへの気持ちも聞き取ってくださったのでしょう。

やっぱり、この方には頭が上がりません。私は心にこみ上げてくるものを感じて、思わず鳳翔さんを抱擁しました。

 

「あっ。ふふっ…。蒼龍ちゃんはやっぱり、甘えん坊ね」

 

✳︎

 

煙草を吸う予定だったが、大滝は自販まで歩こうと言い始め、なおかつそこで話し込んでしまった。約一時間も俺たちは家を空けていたわけで、鳳翔と蒼龍を家へと残してしまったのは、悪いことをしたと思える。てか大滝がどう考えても外へ出ている時間を稼いでいた様に思えたが、まあ気のせいだろう。

 

まあ待たせてしまった事は悪いと思い、自販機で四人分の飲み物を買うと、俺たちは家へと戻った。どうやら鳳翔と蒼龍も二人で話し込んでいたっぽいし、待ったと感じなかったのかもしれない。ちょいと罪悪感から解放される。

 

「しかし二人とも何を話していたんだ?気になるわ」

 

俺は鳳翔と蒼龍に顔を向け、聞いてみる。女子トークを詮索する事は良く無いらしいけど、ついつい聞きたくなるのは仕方ないだろう。蒼龍は俺の想い人でもあるんだしね。

 

「ふふっ。内緒です」

 

しかし、蒼龍と鳳翔は口を揃えこう言ってくる。うーむ。そう言われると余計気になってしまう。でも、ウインクしながらそう言われると、まあいいやと思っちまうじゃねぇか。

 

「さてと、もうこんな時間だし、そろそろ帰ろうか。明日も大学あるしな」

 

「そうですね。あ、鳳翔さん!」

 

俺に続いて蒼龍も立ち上がると、何を思いついたかハッと鳳翔へ顔を向けた。

 

「また、来てもいいですか?」

 

それを鳳翔に言うのかと思ったが、鳳翔はにっこりと笑顔作り、口を開いた。

 

「ええ。提督。よろしいですよね?」

 

「俺は構わんよ」

 

蒼龍は二人に「ありがとうございます」と頭をさげる。まあ家主である大滝も了承した様だし、いいのかな。

 

それから大滝の家を後にした俺たちは、駐車場の車へと向かう。すると、蒼龍が何かを思い出した様に、「あっ」と言葉を漏らした。

 

「思いつきました!理性です!さあ、望さん次は「い」ですよ!」

 

まだしりとりを続けていたのか。しかし「い」か。い…い…」

 

「Ich liebe dich…あ、「ヒ」になっちまった。いや、まあ俺の負けでいいや」

 

「えぇー?またわからない言葉を…どういう意味ですか?」

 

ついつい先日習った言葉を使ってしまった。まあテストとかあったし…って。まあ意味合い的にまんざらでも無いんだけども。

 

「うーんそうだな。きっとビスマルクやプリンツ、あるいはマックスやレーヴェにでも聞いてみるんだな」

 

 

 




どうも、飛男です。
今回もまあ色々と確認回。次からはまたほのぼのとした日常を描いていくつもりです。
さて、最後の言葉「Ich liebe dich」ですが、まあ大学では英語以外の言葉を習わないといけない故に、望が思いついた言葉でした。これは例に出した艦娘を見ればどこの言葉かは一目瞭然でしょうね。しかし、念のために意味合いは伏せます。調べてみてください。

では、今回はこの辺りで、また次回!


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床屋さんに行きます!

最期は少し、シリアスになっています。


「そういえば望さん。ずいぶんと髪の毛が伸びましたね」

 

土曜日の夜。バイトから帰ってきた俺は、リビングで取り貯めした時代劇を見てくつろいでいると、蒼龍が俺の髪の毛をいじりながら聞いてきた。引っ張るな、やめなさい。

 

「あー。そういえばもう三か月くらい切ってないなぁ」

 

「三か月もですか?まあ確かに望さんと出会ったあの日から換算すると、それくらいは経ちますね」

 

言われてみれば、もうそれくらいたってるのか。長いようで、割と短いもんなんだな。

 

「そうそう。お前と会うちょっと前に髪の毛切ったばかりだからねぇ」

学校が休みになるということで、家にいることが多くなる。もちろん外に出て遊んだりもするけど、相対的に見ると家にいる方が多いはず。俺は髪を長くすることが大嫌いだから、休みに入った瞬間にバッサリと切ってしまった。 いわゆるスポーツ刈りにしてしまったわけ。

 

「私、髪の短い望さんの方が好きですし、髪の毛とか切りに行ったらどうです?」

 

「そうさなぁ…。あ、蒼龍。俺の財布取って」

 

キッチンの隣にあるテーブルの上に、帰ってきた際に放り投げた財布。取りに行くのも面倒だし、蒼龍に頼んでみる。嫌とは言わない蒼龍は、さっさと取ってきてくれた。

さて、財布の中身を確認すると1万円に小銭が少々入っていた。まあそろそろ六月に入るし、金銭面的に余裕はある。

 

「ふーむ。じゃあ明日、切りに行こうかな」

 

「早速ですか?あー。私はどうしようかなぁ」

 

蒼龍はぴこぴこツインテをいじりながら、迷うようにうなる。確かによく見ると、蒼龍の髪の量も増えているな。まあ艦娘も人間だし、当然か。

 

「まあどうせなら一緒に行けばいいんじゃない?わざわざ別の日に切りに行く必要ないでしょ」

 

「そうですねー。あ、でも私床屋さんとかいったことなくて」

え、行ったことがないのか。それは結構驚きだな。まあ向こうの世界では艦娘は極秘とかかもしれないし、好き勝手に床屋とかいけないのかもしれない。てかそもそも外に出ることすら許されていないとか考えると、やっぱり同情心が沸いてきてしまう。

 

「へぇ。じゃあどうやっていっつも髪の毛を切っているんだ?」

 

「妖精さんですかね。あの子たち、なんでもできますから」

 

妖精さんってすげぇ。つまり毎回ただで髪の毛を切ってもらえるということだ。っていうか装備以外にも妖精さんって現れるのか?また新たなる疑問が生まれてしまった。

 

「それで床屋だけどさ、おそらく俺の行きつけの床屋に行くだろうけどいいかな?」

 

「いいですよ。むしろどこに床屋さんや美容院があるかも知りませんしね」

 

まあそうだよね。そもそも床屋や美容院って、利用するとき以外ほとんど目に入らなかったりもするし、気にしない人も多そうだ。

 

「明日が待ち遠しいですねぇ。私、最初お風呂入ってきますね!早く明日を迎えたいんで!」

 

蒼龍はそういうと、リビングを出て行って風呂へと向かった。え、覗くかって?中学生や高校生じゃないんだから、そんなことはしないさ。まあ、そういう欲望は片隅にあるけど。

ともかく、俺も今日は早く寝るとしよう。

 

 

日曜日の朝。大学へと行く時間より少し遅めに起きた俺は、軽く体を動かすためベランダに出ると、素振りを行う。これは日課っていうわけではないけど、気が向いたらやる感じ。

 

「おはよう」

 

素振りを終えた俺は、一回へと降りてリビングへと向かった。すでに蒼龍が朝食を食べていて、おいしそうにパンを食べていた。

 

「あ、のぞむひゃん。おひゃようございます」

 

くちをもごもごして、蒼龍は言う。口の中に物を入れてしゃべるんじゃない。

 

「おう、おはよう。俺もたべよっと」

 

キッチンにある食パンを取り出し、まな板の上で簡単にトッピングをする。お好み焼きソースをかけてチーズを上にのせれば、ピザトーストモドキの完成だ。あとは、オーブントースターで焼くだけである。

 

「あ、それおいしそう。私も食べたいなぁ」

 

口元にジャムをくっつけて、蒼龍は言う。子供かな?と、まあティッシュを取り出して吹いてあげる。

 

「あ、ん。ありがとうございます。えへへ、恥ずかしいですね」

 

もうだいぶ見てきたとはいえ、やはり蒼龍の笑顔を見るとぐっと気持ちが高ぶってくる。あと、俺もだいぶ大胆になってきて―

 

「あっ…何ですか?」

 

ついつい、撫でたくなってしまう。さらさらとした髪の毛は手になじみ、リンスの甘いにおいが巻き上がる。その香りに俺はさらに、愛おしくなってきた。

 

「おはよー。って、朝からイチャイチャしないでくれない?邪魔」

 

俺と蒼龍のムードに毒されたのか、若葉は心底鬱陶しそうな顔で俺をにらんだ。指摘されれば恥ずかしくなるわけで、とたんに俺は手を引っ込める。また蒼龍もうつむいて、顔を赤くしてしまった。

 

「そういえば兄ちゃん。床屋に行くならお母さんが声かけてくれって」

 

唐突に思い出したのか、若葉は食パンにバターを塗りながら、口を開く。どうやら耳に入っていたようだ。

 

「なんで?」

 

「いや、お金は出すからって。龍子ちゃんの分も」

 

それは羽振りのいいことだと言いたいところだが、蒼龍の分までだすとはどういう事だろう。仮にも居候の身だし、そこまでしなくていいはずだと思うけど。でもそれをするってことは、要するに家族と認めた訳なんだろう。

 

「まあ、ありがたくいただいておこうかね。蒼龍もそれでいいかな?」

 

「えっと、その。本当によろしいんでしょうか…?」

 

なんだかんだ言って、蒼龍は申し訳ない様だ。義理堅いというかなんというか、つまりはもう家族の一員として見られていることを、理解できずにいるらしい。

 

「いいんだよ。お前はもう家族ってことさ」

 

「家族…ですか?」

 

キョトンとした目線で蒼龍は俺を見る。しかし、すぐに顔を緩ませて、笑顔を作った。

 

「もう、家族なんですね!私たち!」

 

「ああ、そうだよ。俺たちはもう家族だ」

 

俺はそういうと、もう一度蒼龍の頭をなでる。今度は蒼龍も気持ちよさそうに、されるがままとなった。

 

「はぁ…もうやだ私。あまあますぎて口から砂糖出てきそう」

 

若葉はうえっと吐くようなしぐさをすると、食パンをオーブントースターへと入れたのだった。

 

 

さて、庭掃除をしていたおふくろに声をかけ、散髪代を頂いた俺たちは、本通りに車を走らせた。すこし道なりを進み、交差点をまがるとその床屋がある。

名はフジタ散髪と言う店で、ずいぶんと年季が入った店だ。そんな店だけど、もう10年近くは通っている。つまり俺が、十歳の時からだ。

 

この床屋にはいろいろとエピソードがあって、語れば長くなる。だが、総じて言えることは地元特有の温かみを持った床屋で、チェーン店のような店ではない。たまにはサービスをしてくれたりもしてくれて、個人的にも評価は高い。ただ一つ言えるのは、値段も高い。

 

「ここが行きつけの?ちょっと古臭いですね」

 

関心をした様子で、蒼龍はフジタ散髪を見る。むしろお前がいた世界の建物に似ていると思う。と、言うか昭和からやってる床屋らしいし、古臭いのは当然だろ。

 

「でも、木のぬくもりっていうの?そういう温かみがあって、俺は好きだね。だから十年も通っているのさ」

 

「へえ。まあ私もこういう庶民的な感じのお店が好きですね」

 

蒼龍も庶民的美人みたいな顔をしているから、なんとなくそんな雰囲気を楽しめるんだろう。バイトで使う着物の制服も似合っているし、やっぱり町娘、看板娘的な感じが蒼龍は一番似合う。その点鳳翔は旅館の女将で、飛龍はなんだろうか。良いとこの嬢ちゃん?そう考えると蒼龍もそんな感じな気もする。

 

さて、かららんと鈴の音が響き、俺と蒼龍は店の中へと入る。床屋のおっちゃんは絶賛他人を散髪していて、忙しい様子だった。

 

「あら、いらっしゃい望君。三か月ぶりだね」

 

活発そうな床屋のおばさんが、いつも通り迎えてくれた。知人でファーストネームを呼んでくれる数少ない人だったりもする。親父もここに通うからってこともあるんだろうけど。

 

「はい。お久しぶりです。おじさんが仕事終わるまで、座ってますね」

 

「ええ、お願いね。ところで…」

 

おばさんは蒼龍のことを見て、不思議そうというか、なんとなく察したように聞いてくる。

 

「俺…ああいや、僕の彼女ですね。名前は…」

 

「蒼柳龍子と言います!」

 

俺が言う前に、蒼龍は名乗り頭を下げる。もうだいぶ、この偽名に蒼龍も慣れたみたい。即興な名前ではあったけど、まあよかったかな?

 

「蒼柳龍子ちゃんね。よかったじゃない望君。可愛い彼女さんができて!」

 

おばさんはからからと笑いつつ、俺の背中を叩いて言ってくる。このノリは、國盛のおふくろさんと変わらない。気さくな感じの人だからね。

 

「おお!望君いらっしゃい。ごめんよ、待たせて」

 

ある程度先客の髪を切り終えたらしく、おじさんは髭剃り用のクリームが入った器を混ぜながら、俺へと声をかけてくれた。確か以前に聞いた際、四十代後半と言っていたけど、髪は茶髪で整えられたひげを生やしている、若々しいおっさんだ。理容師の人って、おしゃれというかファンキーな感じの人が多い気がする。

 

「いえ、待っていませんよ。どうかお気になさらず」

 

「おう。あ、利代子。先に望君の髪を洗ってあげて」

 

おばさんの名前を呼んで、おじさんは髭剃りクリームを塗るための筆のようなもので、空いている椅子を指す。床に垂れているけどいいのかな。

 

「はいはーい。じゃあ望君。空いている席にすわってね」

 

確かおばさんも、理容師の資格を持っていると聞いたことがある。まあ理容師の嫁になったんだし、結婚してから取ったのかもしれない。ってそんな憶測は置いといて、俺は奥の端から二番目の席へと座った。いつも使う席が、ここなんだよね。

 

「じゃあ髪の毛洗いますよー」

 

それから俺は、されるがままに髪の毛を洗われた。

 

 

さて、俺の髪の毛もだいぶ切られたころ合いだ。すでに先客の人はかえって、現在蒼龍がその席に座っている。

 

シャキシャキとはさみが髪の毛を切る音が聞こえる。さらば我が髪の毛。伸びすぎた君がいけないのだよ。とか、まあ落ちゆく髪の毛を見ながら、心の中でそうつぶやく。

 

「ねえ、望君。あの子彼女かい?」

 

髪の毛を切るのにひと段落着いたおじさんは、俺にヘヤスタイルを確認しつつ聞いてくる。

 

「はい。そうですね」

 

「いい子を見つけたねぇ。まあ昔みたいに鋭い気が消えたからかな?」

 

おじさんは、俺が中学高校と剣道部に所属していた時期を知っている。その時の俺は曰く冷酷なオーラと鋭い目つきを持っていたらしい。おそらくおじさんはこれまでに多くの人の髪の毛を切ってきているわけで、そういう人の持つオーラや気迫を感じ取るのが、うまいんだと思う。

 

「さあ、どうでしょうね。あまり気にしたことないです」

 

そっか。と、おじさんは言うと、再び髪の毛を切り始める。

一方蒼龍はおばさんに髪の毛を洗われていて、ずいぶんと気持ちよさそうな声を上げている。まあわかる。床屋で髪の毛を洗われるのは、ずいぶんと気持ちいものだからね。

 

「それにしても、龍子ちゃん不思議ねぇ。ところどころに、燃えたような髪の毛があるわ」

 

「え?」

 

おばさんから聞こえてきたその声に、俺は思わず声を出した。

 

燃えた髪。それはやはり彼女が戦場にいたことを表している証拠だ。正直気が付けなかったのは、盲点と言える。

 

「燃えた…髪ですか」

 

蒼龍は気持ちよさそうな声から、トーンが一つ落ちたと声が聞こえてくる。それもそうだ。髪の毛は女の命ともいえる大事な部分だし、それが痛んでいれば傷もつく。

 

無意識から発せられた言葉だが、これは蒼龍の心に大ダメージを与えてしまったのではないだろうか。俺はそう思うと、フォローを入れようと口を開こうとした。

だが、蒼龍がそれを阻むかのように、先に口を開いた。

 

「えへへ、それはきっと、料理で失敗しちゃったときのでしょうね。あはは、私ってドジなんで」

 

嘘だ。絶対に違う。だが、彼女の持つ爆弾を踏んでしまったとおばさんに悟られないように、あえて笑ってごまかそうとしているんだ。

 

「そうりゅ…ああいや、龍子…」

 

俺は彼女を横目で見ながらつぶやく。できれば面と向かって、フォローをしてやりたいんだ。

 

「フジタさん。私の髪の毛、焦げ臭いですか?」

 

洗われるがままにつぶやくその言葉。それはすなわち硝煙の臭いや、鉄の焼け焦げた匂いがこびりついているかを聞きたかったのだろう。どれだけ髪の毛を洗っても、落ちない戦いの、鉄の臭い。俺はついに、胸に込み上げて来るものを感じ始めていた。

 

だが、またもや俺は、言葉をさえぎられる。今度はおばさんが、口を開いたからだ。

 

「うーんそうねぇ。あまり感じないわ。龍子ちゃん、どこか火山とかにでも行ってきたの?」

 

「え?いや、違いますよ。ほら、髪の毛って焦げると嫌なにおいがするじゃないですか。料理で盛大に失敗して、火の粉が飛び散っちゃったんですよ。それで、まだ匂いが残っちゃってるのかなって」

 

その返事を聞いて、俺は微かに安堵ができた。

 

言葉こそ当たり障りのないトーンではあるが、俺にはわかる。それは、戦場の臭いが消え始めたことへの、微かな喜びを含んでいることを。

 

「よし、望君あとはもう一度髪の毛を洗うだけだね。で、龍子ちゃん。その焦げた髪の毛、ぼくがきちんと手入れしてあげるよ」

 

おじさんはシャキシャキとはさみを動かして言う。

 

それを聞いた蒼龍は髪の毛をおばさんに拭かれつつ―

 

「お願いします!」

 

と、心底嬉しそうに言ったのだった。




どうも、ちょっと投稿ペースの落ちてきた飛男です。ごめんね。

さて、今回はほんのちょっぴりシリアス?を入れてみました。まあ戦場でこびりつく臭いは、なかなか消えないと言いますからね。特に硝煙の臭いとか、艦娘ならばもろに受けてそうです。

次回はゼミの話になるかも。また癖のある奴らが出ますので、覚悟していてくださいヾ(⌒(ノ-ω-)ノ

では、今回はこのあたりで、さようなら!


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国籍と戸籍です!

今回は短いです。また、蒼龍は今回出番がありません。


水曜日には昼休みが終わると、次の講義はゼミとなっている。

 

 

うちのゼミは主に江戸時代の農民制度や暮らしを専門としていて、例えば寺子屋とかの教育制度に、物流云々、さらには各地元農民特有の暮らしに、民間芸能の発展など、様々な見方から江戸時代を解いていくってかんじかな。民間芸能はまあ民俗学にもあてはまって、さしずめ歴史的民俗学ってかんじかな。ここまで聞いてきて眠くなったなら、たぶん理系。

 

ちなみに、うちのゼミは五人しかいない。つまり蒼龍がちゃっかり講義を受けることができないんよね。だから今までは学生証を渡して図書館で待ってもらっていたけど、現在は大滝の家に任せることにした。鳳翔と毎週会えることは、蒼龍にとっても良い気分転換になるかな?

 

「おいーっす」

 

おなじゼミ生である木村と一緒に、俺たちの使うゼミ室へと入る。すでにほか三人は部屋にいて、ホワイトボードに何かを書いていた。

 

「あ、七星に木村。おっすおっす、遅かったね」

 

そう言って出迎えたのは、おっとりとした顔が特徴の井関萩典だ。こいつも木村と同じく、おふざけに徹する事が多い。しかし勉学はかなり優秀な男。人は見かけによらないってこのことだと思う。

 

「おーっす。二人とも何してたのさ」

 

パソコンをいじりながら、ゼミのまとめ役的なポジションの岸井敬太も声をかけてくる。こいつは井関よりもさらに優秀で、その実力はたっけーに並ぶほどだ。そんなたっけーをライバル視しているのかって聞いたことあるけど、全くだと言っていた。競争心がないのは、現代っ子の特徴。

 

「いや、飯とか食ってた。あと、蒼龍を大滝の家に送ってた」

 

一応、ゼミのメンバーは蒼龍が艦これの世界から来たことは全員知っていて、周りに公言しないことも約束している。きっかけは岸井が俺といつも近くにいる蒼龍は誰だと聞いたことが始まりで、口が固いことを前々から知っていたし、思わず喋ってしまった。でも見込んだ通り、今の所みんなは漏らしていない様子。まあ口を滑らせたところで、おかしい奴と思われるだけなんじゃないだろうか。と、最近思い始めたり。

 

「まあそうか。蒼龍はここに来れないしね。高杉さんの事だから許しそうだけど」

 

このゼミの教授は高杉さんという。あ、下の名前は忘れました。正直どうでもいいよね?

 

で、その高杉さんは結構年いってるんだけど、かなりノリがいい。酒が入るともう無敵。手が付けられない。まあそんな教授だからぶっちゃけ特別に蒼龍をゼミ室に連れてくる事も出来そうではある。でも、あくまでもこの人は教授であり、大学の関係者だ。もし蒼龍が無断でこの大学にいることをバラしたら、色々とまずい。どうまずいのかは、まあわかるでしょう。

 

「不確定要素だしねー。まあ賭けはしないさ」

 

「いい判断だと思うよ。無謀な賭けはどこぞの誰かさんみたいに金をスるだけだし」

 

にやにやと岸井は言う。あ、これくらっちの事を言っているんだろうなぁ。あいつパチンコスロット大好きで、よく金をスってるらしいし。でも勝つときは十万くらい勝てるらしい。その可能性はいったい何パーセントなんだろうね。

 

「ところで横川くんは?いないみたいだけど」

 

5人の目のゼミ生である、横山甚平の姿が見えなかった。彼はゼミの中で一番物静かであるが、学科内のやんちゃな奴らとつるんでいるよくわからない奴だ。俺より勉学ができるのは確かだけど、いつものほほんとしている。彼の纏う空気は本当にふんわりしていて、なんか和む。

 

俺の問い掛けに萩典は「あー」と言葉を伸ばして、答えてきた。

 

「彼はね、たしか体調不良で早退したはずだよ」

 

「まじか、まあそれなら仕方ないか」

 

人間だれしも、体を崩すことはある。俺も馬鹿だけど風邪はひくしね。馬鹿は風邪をひかないって言葉は、どこから来たんだろうか。そもそも、馬鹿だと風邪ってひきやすいような気もするよね。あ、馬鹿だから風邪をひいたことがわからないってことなんだろうか。

 

「ところでさ、前から思ってたけど…蒼龍がもしばれて、面倒なことになったらどうすんの?キミ、何か対策立ててるの?」

 

岸井の純粋なる疑問に、俺は思わずうぐっと口をごもらせた。

確かに言われてみればそうだ。今までばれないからやってきたが、もしばれたらその時はどうするべきだろう。蒼龍は本来この国にいない人間だし、警察ざたになったらそれこそ前々から危惧していたように取り返しのつかないことになる。国外追放されるとしても、彼女はどこに帰ればいいのだろう。彼女が生まれた国は、紛れもなくこの国なのだ。

 

「まったくだわ。何かいい案ない?」

 

「いやぁ俺に聞かれても困るし、そんなのあるわけないじゃん。そもそも、彼女艦これの世界に来たんでしょ?何かそっちの世界でできないの?」

 

その発想はなかった。確かに画面を超えるくらいの兵器を開発した明石も居るわけで、そう考えると戸籍や国籍を取ることなんて簡単すぎるんじゃないのか?どうしてそんなことを俺は気が付かなかったんだ。明石なら何でもできそうだ。

 

「岸井お前やっぱり天才だな?おう天才。もしうまくいけば、今度ジュースおごってやる」

 

「いや、君が馬鹿なだけじゃないかな?ジュースはもらうけどさ」

 

岸井はあきれたようにそういうと、メガネをくいっと上げた。

 

「あの、俺。今まで何もしゃべれなかったんですけど」

 

最期に木村が、何とも言えない顔でつぶやいた。

 

 

「えー?蒼龍さんの国籍と戸籍登録ですか?」

 

蒼龍を拾い家へと帰り次第、俺は明石を旗艦にして早速聞いてみる。まあさすがに明石もそこまではできないだろうけど、ダメ元で聞いておきたかったんだよね。

 

「そう。蒼龍をこの世界に人間として認可されるために必要な物。むりそう?」

 

『あの…提督。私の事、便利屋だと思ってません?さすがに私はできませんよ』

 

まあそうだろうね。さすがに個人情報の増設みたいなことはできないだろうさ。そもそも国はそういう事しっかりしているだろうし、抜け穴なんてなさそうだ。

 

「ごめんよ。これだけのために旗艦にしちゃって」

 

『え?あ、はい。まあ私はできないって言いましたけど。よかったんです?』

 

…え?つまりお前はできないけど、ほかの奴はできるってこと?ちょっとまて、そんな簡単に行くわけないだろう。コエールくんを開発した我が自慢の鎮守府とはいえ、さすがにそれは…。

 

『きっと大淀さんならできると思いますよ。あの人情報面には強い方なんで』

 

どうやらうちの大淀は、凄腕ハッカーだったらしい。いや、んなわけあるか。でもメール回線の件を詳しく聞いた際、大淀の名前は確かに浮上していたし、まさかとは思うけどそのまさかなの?

 

「ちょっと大淀に変えてみるわ」

 

俺は明石から大淀に旗艦を変えてみる。実は、今回初めて大淀を旗艦にした。…と思う。

 

「大淀、聞こえる?」

 

『はい。感度良好です。聞こえていますよ』

 

透き通るような声である彼女は、まるでオペレーターみたいだ。話がそれるけど、『あなたならできるわ』とか言ってほしい。でも金髪じゃないから、効力は半減するかな?

 

「う、うん。あのさ、大淀もしかして蒼龍の戸籍や国籍をどうにかできちゃうとか…そんなわけないよね?」

 

俺はおそるおそるクリックをして、大淀の返事を待った。つもりだけど―

 

『え?あ、はい。お任せください。時間はかかると思いますけ―』

 

「はいアウトぉおおおおおおお!」

 

思いのほかすらすらと答えやがった。ちょっとまて、そんなあっさりなの?もうちょっと溜めると思ったわ。いや、お前マジで情報戦とかできちゃいそうだな。最近偉大なるなんとかーとか言っている奴らに、サイバー攻撃できそうじゃん。

 

「はぁ…。これまでどうして俺は、お前にその事を聞かなかったんだろうな」

 

頭を抱えて、俺は言う。今までどうにかして蒼龍を公然の場へとバレないようにしてきたつもりだけど、そんなあっさり終わるとは思わなかったわ。いや、てか普通できるわけないわ。艦娘ってホントなんでもできるな。

 

『あ、今私たち艦娘は、なんでもできるかと思いました?私にもできないことはありますよ』

 

おまけに心を見透かされたようなことを言われるし、ひょっとして一番艦娘で怖いのってこいつなんじゃ…。さすがは裏ボスと言われたことだけはあるな!このネタわかる奴は古参だな!たぶん!

 

「あーうん。で、時間ってどれくらいかかる予定だ?」

 

『はい。計算上ですと、約4日ですかね。正確に言うと、国籍と戸籍情報にアクセスして、その偽装工作に1日。反映されるのに3日と言う事でしょうか。お先に聞かせていただきますけど、蒼龍さんの偽名、生年月日や出身地、家族構成などはどうなさいます?特にないのなら勝手に決めさせていただいて、後日蒼龍さんのメールアドレスに送らせていただきますが』

 

なんかもうどうでもよくなってきた。とりあえず偽名は蒼柳龍子で年齢は19歳。出身地はここら辺で、住所は家に。誕生日は蒼龍の着工日をつかって、11月20日だろう。あとは大淀さんに任せておけばいいと思う。

 

「とりあえず詳しいことはメールで送るよ。それにしてもお前すごいね。間宮さんを上げよう」

 

恒例の間宮さんを、大淀にあげてみる。さっそくぴかぴか光り始めて、嬉しそうだ。

 

『わっ、もったいないですよ…。私はその…職務を果たしたまでですので…』

 

そんな職務はない。と、言うかむしろ職権乱用だわ。ぶっちゃけこのことがばれたら、罪をほのめかした罪に問われるだろうけど。ってそう考えると、いろいろと俺の人生がまずい。

 

「なあ、念のために聞くけど…うちのネットワークを使ってやるとかじゃないよね?」

 

『あ、その点はお任せください。こちらではこちらのネットワークを使わせていただきますので。おそらく国に特定される心配もないと思います。お任せください』

 

高揚した言葉で言う大淀の、得意げに言う顔が目に浮かぶ。正直このこ、割とタイプだったりもした。当初はね。

 

「なんか…すっげぇ事解決しちゃったなぁ…」

 

現状最も頭を抱えていた問題が、いとも簡単に解決してしまった。いったいどうやるんだろう。気になるけど、これ以上の詮索はいけない気がする。それこそ国に消されかねん。

 

まあ、俺は文系だし、そんな呪文みたいなことを大淀に教わっても、わからないだろうけどね。

 

 




どうも、飛男です。
しばらく割と真面目に書いていましたが、今回は初心に帰り、無心で書いてました。明石もすげぇ奴なら、大淀もすごい奴というなんとあいまいな理論。つまり、この話は深く考えない方がいいと思います。まあ、国籍戸籍ってすごい重要ですし、取得をするのも大変なんですよね。おそらく蒼龍がそれらを取ることは、ほぼ現実的に考えると無理だったでしょう。たぶん。むしろ良い案があったら、教えてください。

次回はちょっとバトルチックになるかも?未定ですけどね。

では、また次回にお会いしましょう。


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カラオケに行きます!

これがヤリタカッタダケーシリーズ。


おふくろの命により、庭の掃除を行っている俺と蒼龍は、一通りの仕事を終えて、現在休憩中だった。

 

すでに5月の末。もうそろそろ雨降りだらけの6月がやってきてしまう。雨は嫌いなんだよね。運転はしにくいし、電車も込み合う。自転車でどこかへ行くこともできないし、総じて好きじゃない。俺は快晴、頭もからっからに晴れが好きだ。

 

「草取り終わりましたー」

 

蒼龍は少々疲れ気味に、ゴミ袋を持ってくる。草取りは得意とか言っていた割に、ずいぶんとタルそうだな。こう見えて俺は、草取り大好きだったりする。変な思考とか言わない。

 

「お疲れ。俺も枝切り終わりそう」

 

そういって、バチリと余分に伸びた木の枝を切り落とす。家には数本木があるんだけども、これが所かまわず伸びて困ったものだ。家の敷地内を出て歩道まで伸びるのとか、人様の迷惑になるから、いっそのこと木ごと切ってしまいたい。そして、秋には見惚れる観賞用の小さな紅葉を植えたいものだ。

 

「わあ、だいぶたまりましたね。枝さんかわいそう」

 

枝にさん付けするのはどうかと思う。たまに蒼龍は物に対して「さん」付けをすることがあるんだけども、これがなぜかが理解できない。育ての問題?

 

「うーん。まあこれだけ伸びるとさすがに邪魔だしね。適度に切るもんだよ」

 

「それもそうですけど、どこかのびのびと生やして上げたいものですよね」

 

とはいう蒼龍だが、最近我が日本の森は人の手が加えられていることが多いんだよね。それこそ人工林とか自然林とか名称があって、詳しくは知らないけども一切手のくわえられていない原生林はもうだいぶ減ったと思う。それこそ、富士山のふもとにある青木ヶ原樹海の奥の方とかくらいだろうか。あ、これテストに出ません。雑学だと思ってね。

 

「しかし、もう五月も終わっちゃうね。もう少しで6月だなぁ」

 

首を鳴らして、俺は見上げる。青く広大なこの空は、いつしか夏に近づいている。空を見ただけで、どんな季節かって割とわかるよね。冬は澄んでいて、夏は夏っぽい感じ。いみわからんか。

 

「そうですね。6月…ですね」

 

俺がどんな返事をくれるかなと蒼龍の言葉を待っていると、思いのほか暗い声が聞こえてきた。え、なんでだろう。

 

「え、どうした。そんな声を落として」

 

「そ、そんなことないですよ!でも、6月ってそんなに好きじゃなくて」

 

艦娘にも好きじゃない季節があるのか。まあ、確かに人間だしね。そんな気分もあるさ。

 

「ああ、よかった。俺と一緒だな。てっきり腹ペコで暗いのかと思ったわ」

 

にやにやと俺は口元を歪ませて、いじわるを言ってみる。すると蒼龍は「もー!」と声を上げて、俺をぽこすかと叩いてきた。いてて、ちょっと強い。

 

「まあまあ、っと…電話だからやめろって」

 

某赤肩マーチが流れ出したということは、おそらく地元メンツのだれかだ。とりあえず蒼龍に叩かれつつも、電話に出る。

 

「もしもし」

 

『あ、私夕張さん。いま町工場に居るの』

 

なんか意味わからん電話がかかってきたので、とりあえず無言で切る。すると、再び電話がかかってきた。

 

「もしもし」

 

『いや、切るなよ。夕張ちょっとしょげたわ』

 

「いや、しらねぇよ。なんでそんな都市伝説的ノリを俺に求めたんだ」

 

電話の主は、統治だった。おそらく夕張に携帯電話を使わせてみたのだろう。しかし國盛ほどはっちゃけてはいないので、許しておこう。

 

「で、何の用だ?」

 

『どうせ暇だったんだろ?雲井と國盛を連れてカラオケ行こうぜ』

 

「暇じゃなかったけど、久々に行くのもアリだな。蒼龍、どうする?」

 

先ほどから叩いていた蒼龍だったが、なぜかそこから俺の背中を撫で始めた蒼龍に、俺は聞いてみる。

 

「え?なにがです?」

 

「カラオケだよ。カラオケ。あ、ってもわからんか…?」

 

カラオケが流行ったのはいつからだったか知らない。だが、戦後であったことは確かのはず。つまり蒼龍がカラオケという文化を知っているか否かは、とんと検討がつかない。

 

「からおけ…?空の桶がどうかしたんです?」

 

やっぱりそう返してくると思った。ともかく知らないようだし、軽く説明をしてみる。

 

「風吹けば桶屋が儲かるの桶じゃなくて、カラオケ。簡単に言うと歌う場所」

 

このたとえでわかったかどうか知らないけど、蒼龍は「なるほど」と、手のひらをぽんと叩いて頷く。ちなみにこのことわざ、いろいろと諸説があるとか。はい、関係ないね。

 

「ぜひ行きたいです!あ、でも私、わかる歌あるかなぁ…」

 

首を傾げ、蒼龍は言う。まあ確かに、俺が普段聞くような曲しか耳に入れていないだろうし、その他が歌う曲がどんな曲かを知らないだろうね。そういう場合、カラオケってしらけるんだよなぁ。

 

「やめとく?」

 

「いや、行きます!せっかくですし、みなさんの歌声を聞いてみたいですね!」

 

「と、言うわけで蒼龍は行くそうだ。夕張は連れて行くのか?」

 

俺は再び電話に耳を戻して、統治へと問う。対して統治も夕張に聞いてみるらしく、耳を外して間をあけた。

 

「行くってさ。わかる歌あるかなぁ…?」

 

統治もどうやら、同じ疑問点にたどり着いたようだ。

 

 

集合は一時頃で、駅前へととりあえず集まった。

 

今回蒼龍はおめかしをしたかったのか、白を基調としただぼだぼ?なシャツに少々色の薄いのスカートと、何ともイマドキのオシャレな感じに服装に着替えてきた。対して俺は、いつものフライトジャケットにジーンズ。いい加減ほかの服をお披露目したいところだけど、これが一番気に入ってる。あ、でもワッペンはベルクロ式だから、第306飛行隊仕様に変えてきた。イーグル好きなんだよね。日本で生産を認められた戦闘機だし。まあ、結論は服に特に変わりはない。

 

「蒼龍似合ってるね。そのバッグはおふくろに?」

 

蒼龍が持ってきた肩掛けバッグは、エナメルっぽい素材でできた藍色のバッグだ。あまり持ってきたところを見たことが無くて、正直珍しい。

 

「あ、これは若葉ちゃんからオススメをしてもらって、買ってみました。可愛いですよね?」

 

体を左右に動かして、蒼龍はバックを揺らしてくる。うむ。似合っているね。別のところも揺れてるけどね。はみ出ないのが悔しいもんだ。公然の場では勘弁だが。

 

「おーい!待たせたな!」

 

唐突に声が聞こえてきて、俺と蒼龍はその方向へと振り返る。すると、ヘルブラザーズ事雲井兄弟と、その間に國盛が手を振って歩み寄ってきた。こんなことを言うのもなんだけど、雲井兄弟に挟まれた國盛は、捕獲された宇宙人如く身長の差があって、何ともむなしい。

 

「おう。後は統治と夕張か。ってあいつらどうやって来るのかな」

 

「さあね。たぶん車じゃない?」

 

最近統治は免許を取ることに成功したらしく、車を運転することにはまっているらしい。あいつの運転する車は乗ったことないから、今度乗ってみたいもんだ。

そんなありきたりな会話を全員でしていると、一台の車が駅の駐車場へ入るのが見えた。オレンジ色のつややかな車体に、可愛らしい小ささ。前面には小さくSの文字が書かれている。

 

「あ、あれ最近CMでやってるス○キの車種か。えっと名前はなんだったか」

 

浩壱が腕を組んで、車名を思い出そうとする。えっと、確かハスラ―だったか。俺も割とあれは気に入ってて、CX-5が手元になかったらほしいとは思っていた。

ハスラーが駐車をすると、そこから二人の影が見えた。統治と夕張だ。

 

「すまーん。遅れたわ」

 

「すいませんね。ちょっと切りの良いところで終わらせたかったもので」

 

統治と夕張が、申し訳なさそうにこちらへと歩んでくる。夕張の恰好はオレンジ色のつなぎで、どこかで見たことあるような服装だ。水色のつなぎじゃないので、セーフ。

 

「蒼龍さんお久しぶりです!その服かわいいですねぇー。私ったらこれしかなくて」

 

あははと、夕張は照れくさそうに笑う。すると、統治が補足説明を入れてきた。

 

「いや、夕張これでいいとかいうからさ。他にも服あるんだが」

 

「いいじゃないですか。私、あんなフリフリした服とか似合わないですもん!」

 

統治、おまえそんな服を夕張に進めていたのか。ないわ。ちょっと引くわ。センスを疑うわ。

 

「おいおいまて!俺が進めたんじゃねぇぞ!」

 

どうやら声に出てしまったらしい。まあ、仕方ないよね。

 

 

カラオケ店へと入店した俺たちは、とりあえず全員部屋へと入る。幸いにも大きな部屋を取ることができて、巨漢3人が居ても窮屈さは感じなかった。存在するだけで圧迫感はあるんだけども、まあそれは彼らの個性だ。なお、店員がヘルブラザーズの顔を見てビビッていたことは、言うまでもないか。

 

「さぁて!望!一発目はヤマトだ!歌うぞ!」

 

國盛に肩を組まれたが、あいにく俺は乗り気だ。俺も立ち上がって、流れてくるリズムに乗り、歌い始める。

 

テンション爆上げ状態の俺たちを見て、ほか蒼龍と夕張を除く他三人は外へ出て行ってしまった。あいつら、俺らが歌い終わる前に、飲み物を取りに行くつもりだろう。あ、世代が違うとか言わない。こう見えても、まだ二十代。

 

「夕張ちゃん。宇宙空母ソウリュウはないの?」

 

「いやー。宇宙空母ブルーノアはありますけど、宇宙巡洋艦ユウバリもないんで、ないんじゃないですかね?あ、でも宇宙駆逐艦ゆきかぜはあるみたいですよ」

 

蒼龍のよくわからん質問に対し、夕張もコアな答えで返してきた。あいにくブルーノアは、しらないわ。

 

さて、歌い終わるとお次は浩壱のターンだ。なんでも奴はそれなりに歌が詳しくて、いろいろと歌える。

 

彼がチョイスしたのは、昭和の名曲、壊れかけのレディオだ。俺もこれが大好きで、歌えるは歌えるけど、さすがに昭和臭いので歌いません。

 

「浩壱さんの低くて渋い声が、またマッチしていますねぇ…」

 

 蒼龍はわりと心地よさそうに、浩壱の歌を聞いている。うぐぐ、何だこの敗北感。じゃあ俺も、そういう歌をせめて見ようじゃないか。

 

 続いて統治が歌い始めたのは、雪の進軍だ。某戦車アニメでも取り上げられたこの曲は、WW2で一時期禁止になったそうだ。それでも、ひそかに歌われていたとか。

 

「あ、私もこれは知っています!ゆきーの進軍、氷を踏んで―」

 

蒼龍も夕張も、楽しそうに歌い始める。どうやら統治は、彼女たちがわかるような歌をチョイスしたらしい。空気の読める男統治。これはいい選択だな。ところで、これって陸軍の歌だった気が…。この際なんでもいいの?

 

「ふふふ、じゃあ次は俺だぁ!」

 

そういってマイクを手に取ると、流れ始めたのは聞き覚えのあるテンポ。あ、やっぱり歌わねば!

 

「万朶の桜かえっりの色―♪」

 

「花は吉野に嵐ふくー♪」

 

「大和の男子と生まれなばー♪」

 

さすがは陸兵器大好きマンである健次だ。歩兵の本領。これも彼女たちがわかる歌だね。

 

「陸軍ばっかりじゃないですか!でもあきつ丸ちゃんとまるゆちゃんが居れば盛り上がりますねー」

 

うん。たしかにあいつ等ならガチで歌いそうだ。陸軍だしね。まるゆが拳を聞かせて歌い始めたら、お笑いするだろうけど。あの声で歌うところ、想像できない。てか、わりと陸軍海軍の艦娘って、仲いいんだ?

 

さて、皆で合唱しながら歌い終わるとお次は俺の番。最初は國盛が入れたマジンガーだからね。俺が入れたんじゃない。

 

「じゃあ俺だな。まあ、お二人もいることだし、これを歌うしかないでしょ」

 

まあわかると思うけど、俺がチョイスしたのは軍艦行進曲。また軍艦マーチとも言うね。

 

「まーもるも攻めるもくーろがねのー」

 

俺が歌いだすと、蒼龍もマイクを健次から貰って、一緒に歌い始める。

 

「うーかべるその城ひーのもとのー♪」

 

まさかデュエットするのが軍歌とは。いや、まあ狙ってはいたよ。正直に言うけどさ。でも、恋人同士が軍歌をデュエットするってどうよ。

 

「ばーんりーのーはどうをーのーりこーえてー♪」

 

でも、蒼龍は心底嬉しそうに、楽しそうに歌っている。まあ彼女が楽しいなら、俺は満足なんだ。だから俺も、自然と心が躍って、たまには目線を合わせながら、気持ちよく歌うことができた。

 

「ふう。えへへ、望さんもりっぱな帝国海軍ですね!」

 

「いやー。その、恐れ多いよ…」

 

蒼龍のべた褒めに照れる俺。そんな俺の肩に、すうっと手のひらが置かれた。

 

「俺らの前でイチャコラですかね?ちょっと外出ようか」

 

あかんやつやこれ…。シャチホコまたされちまう…。てか、マイク渡したのはお前だろ健次ぃ!

 

と、俺が健次にチョークを決められそうなときだった。ふと、テレビ画面に見慣れた題名が目に入ったような気がした。

 

「あ、わたしだ」

 

蒼龍は椅子から再び立ち上がると、マイクを構える。すると同時に、デデン!デデデデ!と聞きなれた音楽が流れてきた。

 

「これ、どこかで聞いたことあるねぇ」

 

俺はチョークをかけられつつ、とぎれとぎれに言葉をつなぐ。ぴょ~ろ~ろ~と演歌っぽい感じで曲が流れはじめて、やっとわかった。ああ、そうか。一応カラオケに入ってるけども!

 

「二航戦蒼龍!唄います!加賀岬!」

 

お前が歌うんかーい!と全員の突っ込みが、部屋の中に響いた。それだけの話でしたとさ。

 




どうも、飛男です。
これがヤリタカッタダケーです。一応軍歌系の歌詞をちょろっと載せてますけど、全部じゃないから大丈夫なはず…年代的にも著作権切れてるはず…。もし問題があったら、メッセージをください。変更します。

あ、最後にバトルチックにすると言いましたけど、おそらく書く意味と言うか需要がないかもと思って書きませんでした。もし要望があれば、書きますけどね。

では、今回はこのあたりで。また不定期後に。


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旅行話です!

6月4日。ついに6月となり、途端に雨が降り出す始末。俺と蒼龍は駐車場まで傘を使い、車へと乗りこんだ。

 

「6月になったとたんこれかよ。はー。雨は嫌いなんだよなぁ」

 

何回も言っているこの言葉。蒼龍も同意するように頷くが、いつものように蒼龍らしい返しは見られない。

 

6月に入り、蒼龍はずっとこの調子だ。どこか上の空で、なおかつ表情を偽っているところがある。さすがに数か月も付き合っていれば本心で見せていない表情はわかってくるし、なんといっても恋人同士としている以上、なおさらそれはわかってしまう。

 

―マジどうしたんだよ。よくわからん。

 

内心の思いと言えばこれだ。いつも通りにしてくれないと、俺も調子がくるってしまう。

 

「蒼龍。今日のノート取ったか?俺寝てたから取ってないんだわ」

情けないように笑いながら、俺は蒼龍へと聞く。すると蒼龍は顔を上げて、苦笑いをした。

 

「あ、すいません。私も実はとるのを忘れていて」

 

「な、なんてこった…」

 

あららと言ったアクションを起こし、俺は手のひらを顔に当てる。

だが、さらに困惑もした。普段蒼龍は学ぶことが楽しいのか、もくもくとノートを書いていることが多いのだが…。それに甘えている俺はダメな奴だね。

 

とりあえず家に帰ろうかと、俺は車を発進させる。幸いにもくだらない話をしていたおかげなのか霧雨となってきて、視界が若干悪いだけだ。

それからしばらく家へと帰る道を進む。同時に、沈黙も続いていた。

 

―ヤバイ。なんだこの気まずさは…!

 

いつもならば蒼龍から何か話題を振ってくることが多く、それに乗じて話が弾むことが多い。まあ話しながら運転するのって結構危険ではあるんだけど、だいぶ車にも慣れているし、前後左右の不注意は怠らないけどね。車校で習ったことをそのまま実践してるだけだけども、割かし真面目だと驚かれることが多い。なぜだろう。地元が道路世紀末だからか?

 

―なにか話題を振ってやらないと…うーむ。えーっと。

 

前方に集中しながらも、俺は何か話題が転がっていないか頭の引き出しを開け閉めする。ゼミのことを離してもつまらないだろうし、だからと言って昔話をするのももう飽きただろう。ガノタトークは蒼龍がそこまで詳しくないから弾まないだろうし。あ、そういえば夏休みとかどうしようか。これにしよう。

 

「なあ、蒼龍。どこか旅行してみたいところとかある?」

 

俺の言葉に、蒼龍は窓から振り返り「えっ?」と理由を求めてくるような顔をした。逆にそういうふうに見られると、困る。

 

「あー。いや。実は8月に入るとうちは夏休み。つまり長期休暇なんだ。だからさ、この際どこか旅行にでもどうかなと」

 

ちょっと早すぎる話題かもしれないが、楽しみを先に作っておくことで話題を弾ませる寸法だ。旅行話とかをして盛り上がらないことは、あまりないしね。問題はいざ行こうって時、どうするかなんだけど。

 

「旅行…ですか。そうですね…」

 

蒼龍はいつもの顔に戻ると、うなりながら腕を組む。どうやら気まずい雰囲気は消え始めたみたい。

 

「私、歴史的建物とか見てみたいですね。あ、あと富士山とかも行きたいです!それと…」

 

会話に拍車がかかり始めたか、蒼龍はおそらく心ウキウキさせながら行きたいところをピックアップしていく。ちなみになぜか、海辺の行先はない。たぶん彼女が艦だからなんだろうけど。

 

「よーし、いけそうなところを、帰ったら探してみるかね!」

 

調子が戻ったであろう蒼龍に俺も自然とワクワクしてきて、制限速度ぎりぎりを保ちつつ、車を自宅へと走らせた。

 

 

 

 

家へと帰り次第。俺と蒼龍は部屋へとこもった。パソコンに表示される旅行の行先を探しつつ、時には艦これを交えて、まあいつも通りのんびりとし始める。

 

ちなみに蒼龍は、自腹でサーフェスを買ったらしい。そのときはまさかパソコンを買ってくるとは夢にも思わなくて、抜け穴を使われたと思ったけど、あいにく蒼龍はただ興味を持っただけであり使い方などまるでわからない様子。まあ俺以外の家族は大体ネットサーフィンをするくらいだし、SNSとかすることはない。だからこの際むやみに個人情報をばらさないように蒼龍に念押しをして、自由に使わせてはいる。

 

「へぇーいいなぁ。あ、望さん。京都とかどうです?私一度、行ってみたかったんですよ」

 

タッチパネルを指ではじきつつ、蒼龍は関心深そうにページを見る。

 

なるほど。京都は以前に足を運んだが、まさにいい意味で古き都だった。歴史学を学んでいる俺にとっては歓喜するものばかりだったし、神社仏閣巡りが地味に趣味でもあった俺は、清水寺ではしゃぎまくり、伏見稲荷で内心のワクワクを体に出していた。あ、念のために言うけど、はしゃいだとはいえむやみに大声を出したりとかはしていないぞ。ただ一観光客として、楽しみました。

 

 あと、京都には実家が旅館経営をやっているオンゲーの友人もいたりして、地元民特有の地理勘で様々な場所を教えてもらうこともできた。今度そいつに蒼龍を見せたいもんだ。

 

「京都はほんとよかったね。提督仲間もいるし、また行くのも悪くない」

 

「あ、一度は行ったんですね。私も日ノ本に生まれた女子として、一度は行くべきところだと思っています!」

 

まあ日本に生まれたからがどうとかはいいとして、ともかく日本人なら一度は行くべきだとは思う。やっぱり文化遺産を体で感じることは、良いことだしね。

 

「そういえば比叡もいわば京都出身のような物なのだろうかね?」

 

「え、何でです?」

 

「いや、だって比叡山あるじゃん。比叡山延暦寺とか有名だろ?」

 

蒼龍は俺の言葉になるほどと、拳をポンと打つ。まあだからと言って比叡に京都弁しゃべられても困るんだけどね。ひえーどす。うん。盛大に微妙。

 

「あ、そうなると金剛さんは大阪か奈良県民で、霧島さんは鹿児島県民ですね!」

 

まあ艦名由来でそうなるんだけども、英国生まれとか言って関西弁バリバリの金剛や、薩摩示現流を使う霧島なんて見たくないわい。英国生まれの金剛やねん!チェストー!うん。これも盛大に似合わない。いや、霧島は似合うか?武闘派らしいし。性能的に。

 

「お、ここはどうだ?伊勢神宮。まあ泊まりで行くところではないにしろ、天照大神を

祭っている最高クラスの神社だ。ここも日本人なら、一度は行くべきじゃないか?」

 

さて、旅行トークに戻り、天皇陛下も毎回訪れる由緒正しき神社。いや、神宮だ。毎年大晦日はまるで神宮に缶詰されてるんじゃないかっていうほど人々が集まって、新年の願掛けをしに来る。俺が住むこの地も、大晦日に車を飛ばせば行けなくはない距離なんだけど、さすがにあれだけ人間がいるともはや人間濁流。蒼龍と一緒に行ったら迷子になること間違いなさそうだ。あと言うまでもなく、航空戦艦の伊勢の由来はここ。いいんじゃない?

 

「神社仏閣巡りってことですか?私もいろいろお願いしたい事ありますし、いいかもしれません」

 

「へぇ、何をお願いすんの?」

 

椅子にもたれかかり、地べたに座る蒼龍へと問うと、蒼龍は顔を赤くして、画面へと目線を向けた。

 

「な、なんでもいいじゃないですか。そ、それより富士山ですよ、富士山!」

 

今度は日本一高い山。フジヤマだ。はい、富士山ですね。ここも一度家族と旅行に行って、満点の富士山を見れた記憶がある。そのときは超幸運で、富士にかかる雲が一切なかったんだよね。山頂まで晴れ渡っていたし、地元民曰くあまりないとか聞いた気がする。総じて言うと、その美しさに圧巻され、感無量。ただその美しさに見とれていたね。

 

「富士山もよかったねぇ。なんといっても日本一だからねー。もし行くときには、絶景を拝めるといいね」

 

「なるほど。山の天気は変わりやすいですからねー。海もなかなか、融通が利かないですけど」

 

艦娘に言われると、なんか説得力がある。海も山も、大自然の驚異になりかねないしね。

 

「あー!どれも行きたいですねぇ…。早く夏が待ち遠しいです!」

 

俺の布団にごろごろと寝そべり、蒼龍はサーフェスを抱えながら言う。俺の布団をめちゃめちゃにしやがって。あとスカートだから、下着が見えそうで見えない。生殺しだ!

 

「あっ!み、みました?」

 

どうやら俺の視線に蒼龍は瞬時に気が付いたようだ。お約束かな?まあ、とりあえず知らん顔知らん顔っと。

 

『…なあ提督よ。なぜ東京の名前が出てこないのだ?』

 

目線をそらしてやり過ごそうとしている最中、唐突にハスキーな女性の声がして、思わず椅子から転げ落ちそうになる。そういえば艦これをつけっぱなしだった。おそらくマイク越しから、俺たちの会話が聞こえてきたんだろう。

 

「武蔵ぃー脅かさないでくれよ」

 

最近武蔵を旗艦にしていることが多い。なぜかって?よく艦隊に入れてくれってどこか寂しそうに言ってくるもんだから、押し負けてとりあえず旗艦に置いているわけ。まあ、旗艦にするだけなら資材も食わないし、彼女は普通に美人だから、映えるんだよね。

 

『それはすまなかった。盗み聞きをするつもりはなかったのだがな。しかし、日ノ本を象徴とする東京が入っていないのはおかしいと思ってな』

 

そういえば武蔵の艦名の由来って、武蔵国からだったね。だから東京押しをしてくるんだろうか。まあ東京を下って神奈川には横須賀港もあるわけで、提督ならば一度は行くべきところではあるだろうさ。ちなみに米艦もいるわけで、最近ではアーレイ・バーク級がいるとか聞いたっけ。

 

「でも、武蔵さんの言う通りですね。東京を候補にあげるのをすっかり忘れていました」

 

『まったく。なっていないぞ。蒼龍もおっちょこちょいな奴だ』

 

ふふっと得意げに笑いながら言う武蔵に、俺と蒼龍は苦笑いを漏らしたのだったとさ。

 

 

 

 

まあこうした旅行トークで、蒼龍もだいぶ元気を取り戻したように見える。

 

―しかし、なんであんなに暗い顔をしていたんだろうかねぇ

 

風呂上がりに牛乳を飲んでいた俺は、頭の中でつぶやく。一番手っ取り早いのは直接本人に聞くことだろうけど、そんなヤボなことは聞くわけにもいかないさ。

と、まあそんなことを思いつつ、俺は二階へと上がっていく。まだレポート課題が残っているし、今日中に終わらせたいものだ。

 

「ふう、いい湯だったわー」

 

ガチャリと扉を開き、俺はつぶやく。だが、いるであろう蒼龍の返事は帰ってこなかった。

 

「あり?蒼龍―って、もう寝てるのかよ」

 

時刻はまだ日を跨いではいないのだけど、蒼龍はすでに布団の中ですやすやと寝ていた。電気を切らずに寝るとは…。まあ、寝れなくはないんだけどね。

 

―そういえば。蒼龍の寝顔ってあまり見たことなかったけ。

 

思い返せば、同じような時間帯にいつも寝ていたために、彼女の寝顔を見ることはそうそうなかった。どれ、覗いてみよう。

 

「ははっ、気持ちよさそうにねてんなぁ」

 

すこやかにと言う感じだろうか。すうすうと寝息を立てている蒼龍は、思わずいたずらしてしまいたくなるほどに穏やかな顔つきをしている。

 

「よっし。俺は今日も早く寝てしまおう。さっさと課題を片づけるぞー!」

 

俺はそういうと、椅子へと座り、キーボードを打ち始める。

だが、俺はこのとき見落としてしまったんだ。蒼龍が一瞬、苦しそうに表情を歪めたことを。

 




どうも。今日中に書き始めて直ぐに書き終えてしまった飛男です。酒を飲んで寝ようと思ったら、思いのほか筆が進んでしまったという。

さて、そんなとは置いといて今回は明確に日付が記されていますね。それに蒼龍の様子の変化を見れば、まあ次回はなんとなく予想できるかもしれません。もし答えが出ても、言わないように。

また、本文にオンゲー仲間の描写が出てきましたが、彼は読んだ人ならわかるでしょう。紛れもなく奴です。え?誰かって?誰でしょうね。

では、今回はこのあたりで。また不定期に!


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過去に分かれたこの世界

あらかじめここで伝えます。故に、あとがきはありません。

この話は言わずと分かるでしょうが、あくまでもフィクションです。実際の人物や団体、組織とは何の関わりもありません。私の妄想を形にしただけです。

また、読者様が求めた話にはなっていないかもしれません。


 

 

気が付くと俺は、焼けた鉄の空間へと立っていた。

 

まず最初に思うことは、ここはどこだろうかだろう。記憶もあいまいで、自分が何者なのかも把握できていない。

 

「ごほっ!ごほっ!なんて煙たいんだ!」

 

無意識にむせたと同時に、ここが煙たい空間だということが分かる。

火事か?そう憶測を立てると、ふと俺の存在を認識できた。俺の名前は七星望。大学生だ。

 

そうなると次に思いついたのは、家が火事だという事。だけど、周りを改めてみると、生活感あるような場所ではなく、何かの通路のようだった。

 

―なんだここは。狭いし、パイプとかがむき出しになってる。それに…。

前方を見渡すと、火の手が上がっているのが見えた。つまり、この場所が燃え盛っていることに間違いはなさそうだ。そして奥には、確実に何かの空間があった。

 

―火事かなんだか知らないけど、取り残されている人がいるかもしれない!

 

まず思いついたのは身の安全だったけど、それより人命救助の使命感に駆られてしまった。それに、仮にそこに人がいなかったとしても、窓などから脱出できるのではないだろうか。そう思い付いたんだ。

 

俺は姿勢を低くしながら、火事となった場合の対処方法を思い出すと、服の裾で口元を隠した。自然と苦しくはないんだけど、いつ一酸化炭素中毒になるかもわからないし、こんなところで死ぬつもりもないからね。

 

ずるずるとからだを引きずるように移動していくと、すぐに入口へとたどり着いた。あれ、こんなに短い距離だっけ?と、わずかに疑問が沸き上がったけど、この際どうでも良い。

 

空間へと入り立ち上がると、俺は目を丸くした。だってそうだろう。目の前に広がる景色は、どこかの指令室のような場所だったからだ。手前に見える窓からはだだっぴろい海を一望できで、ビルの一室か何かだと思ったけど、それにしてはえらく狭い。

 

「なんだよここ…どうなってるんだよ!」

 

毒つくように、俺は叫び散らした。これでは仮に窓から飛び降りて脱出しようとしても、待つのは死。それに、仮に飛び降りて死ななかったとしても、どちらにせよ臓器破裂などで長くはもたないだろう。

 

「は、ははは…わけわかんねぇ…」

 

扉があったであろう部分に、俺はずるずると体を滑らせて、腰を抜かす。

まったくわけがわからない。そもそもどうして俺はこんなところにいるんだろうか。周りに広がる空間は何かの攻撃を受けたようにボロボロで、絶望的な風景だった。

人命救助をしに来るなど、わけのわからない思いを起こすんじゃなかった。でも、逆の道に行こうとも思わなかった。なぜか、ここに来なければならない気がしたんだ。

 

「ごほっ…ごほっ…」

 

俺が絶望して、そのまま目をつむろうとした時だった。微かに、誰かのせき込む声が聞こえてきた。

 

―こんな場所に、だれか居る!?

 

俺は砕けた腰に喝を入れ、再び立ち上がった。そして微かに声が聞こえた場所をよく見るとそこには黒色の服を着た人物が、何かしらの機器へともたれかかっていた。各部位にやけどを負っていて、素人でもわかるほどに重傷だ。

 

「あなたは…?だ、大丈夫ですか!?」

 

その人物へと、俺は声をかける。だが、男は何もしゃべらない。体をゆすって状態を確認しようと思い立ったけど、刹那的に金縛りにかかったような感覚を受け、その場にたたずむことしかできない。

 

―体が思うように動かない…?煙を吸いすぎたのか?

 

疑問を打ち立てても、答えは帰ってこない。俺は、ただその人物を眺めることしかできないんだ。

 

「ふふっ…ふはは…」

 

俺が体に言うことを聞かせようと、無理やり動こうとする中。ふと、かすれた声が聞こえてきた。

 

「怖くねぇぞ…蒼龍。俺がついているさ」

 

そういって、男は床を撫で始める。

 

―蒼龍…?あっ…。

 

男の言葉を聞き、俺はすべてを理解した。今、俺は航空母艦蒼龍のブリッジに居るのだと。そして、この情景は日本の主力空母4隻も失った、あの海戦最中であること。

 

―そうか、そういう事だったのか蒼龍。お前が…お前があんなに落ち込んでいたのは…。

 

俺は理解からさらに派生して、蒼龍がなぜ6月が嫌いなのかも理解をした。

6月5日に日本軍が大敗を喫したミッドウェー海戦。この日、蒼龍は大打撃を受け、その後に海底へと引きずり込まれてしまった。米軍爆撃機であるSBDドーントレスの急降下爆撃を受けて深刻なダメージを負い、のち機関停止。日本空母のダメコン能力の低さから災いし、総員退去をせざるを得なかったんだ。

 

―ああ…俺はなんてバカなんだ!なぜこのことを俺は思い出せずにいたんだ…!!

 

ぎりりと、俺は奥歯を噛んで悔いることしかできなかった。彼女の提督でありながら、俺は最も重要な日を思い出せずにいたんだ。それだけじゃない。日ごろからミリオタだのなんだの言われたところで、結局は現代っ子。平成の世で薄れゆく戦時の記憶の中、一般人は戦争など過去の災難な事だと認識し、ただ平和だけを望み、ボケ始めている。結局俺もその類の一人だったんだ。

 

だから俺は、自分を殴りたいと思った。罰したいと思った。この湧き上がる自分の憎悪を、一気にどこかへ当たり散らしたくなった。

 

―待てよ…?じゃあこの人は…!?

 

だが、湧き上がる感情の中に微かながら残っていた冷静さから、俺は黒服の男を再び見返した。もちろん本人にあったことないし、ましてや写真でも白黒でした見たことない。だけど今起こっていること。この情景。そして何より、この方から発せられた言葉から、俺は容易に推察ができた。

 

「柳本柳作艦長…?」

 

返事は帰ってこない。だが、まるで愛しい生娘のようにブリッジの床を撫でるこの方は、間違いなく柳本艦長だ。

 

「艦長!」

 

俺がそんな柳本艦長を見つめている最中。急に後ろの方が騒がしくなる。水兵の恰好をしたガタイのいい男たちが、俺の後ろに現れたんだ。だけど、俺には全く気付いていない様子で、俺は再び理解をした。見えていないのか?ああ、そういう事だったんだ。これは夢なんだと。

 

「艦長!お迎えに参りました!」

 

ガタイのいい男たちは、柳本艦長を取り囲むようにして、説得を始める。だが、俺はこのあと柳本艦長が起こす行動を知っている。

 

「何だ!お前は!」

 

柳本艦長は立ち上がるや否や、声をかけた男を殴り倒した。鈍い音が、サイレンとどろく艦内に響く。

 

「ぐぐっ…何も…何も艦長もろとも艦と同じく死ぬことはないでしょう!」

 

その後、男たちは必死に柳本艦長を説得したが、それを艦長は断固拒否した。火の手が激しくなる中、ついにガタイのいい男たちは帰れなくなると悟ったのか、しぶしぶブリッジを出ていってしまった。

 

「お前ひとりを、おいてはいけねぇんだよ…!」

 

男たちが見えなくなりしばらくすると、ぼそりと柳本艦長はつぶやいたが、俺ははっきりと聞こえた。この方は、蒼龍をまさに我が子のように思っているんだ。

そしてついに、柳本艦長はあの行動にでる。

 

「蒼龍万歳!蒼龍万歳!蒼龍万歳!」

 

まだこれだけの力が残っていたの?と、思えるほどの轟くような声。それはブリッジだけでなく、蒼龍全体に響いたはずだ。

俺はその声を聞く刹那、急激にめまいと立ちくらみがした。どうやら、ここで俺はご退場のようだ。

柳本艦長の勇ましく叫ぶその姿が目に焼き付いたまま、俺はついに、目をつむってしまった。

 

 

 

 

「うぐ…っは!?」

 

眠りから意識が覚醒すると、目の前には薄暗い風景が飛び込んできた。わずかに白みを帯びた天井であることから、ここは家であることを理解できる。

 

「夢…だったんだよな?」

 

布団から体を起こすと、俺は手のひらを見た。剣道などでできたマメがあるだけの手のひらで、鉄の臭いや煤の汚れなどはない。やっぱり夢だったんだ。

 

「だよな…当たり前だよな…」

 

ふう。と、俺は息を漏らして、ベッドに寝ている蒼龍を見る。だが。

 

「あれ…蒼龍?どこだ…?」

 

はっと俺は嫌な予感がして、布団から飛び起きた。だいぶ暗闇にも慣れてきた目で部屋の隅々まで見渡すが、蒼龍の姿はない。

ベッドの中に手を入れると、蒼龍のぬくもりは感じられなかった。つまり布団からでて、何時間も立ったことを意味する。

 

「馬鹿野郎…!出かけるときは俺に声をかけろって!」

 

俺が頭を抱えてつぶやいた刹那だった。微かに頬を突く、風を感じた。

窓を見ると、レースのカーテンが風になびいてることが分かった。いつもならば不用心だし、窓を閉めて寝ているはずなのに、空いているのは明らかにおかしい。つまり、蒼龍はベランダに居るのだろう。

 

「そうか!」

 

俺は外にいることに確信を持つと、窓を開け次第、ベランダへと出た。

 

―いた…。蒼龍がいた!

 

雨も上がって、月が顔を出している空を見上げながら、蒼龍は両手を合わせている。蒼龍の夜空を見る瞳は微かに潤んでおり、泣いていることが分かる。

 

「蒼龍!」

 

真夜中であるかどうかなど知る由もない。俺は蒼龍の名を呼ぶと、雨に打たれ冷え切ったベランダの床をふみしめて、蒼龍へと近づく。

 

「あ…望さん」

 

蒼龍は祈りをやめると、後ろで手を組んだ。瞳の涙をぬぐって少々照れくさそうな顔をしている姿は、いつものお茶目で、愛おしくて、俺の大好きな蒼龍だった。

 

「まったく…何してんだよ?」

 

そんなことわかっている。だけど、俺はあえてそう質問をした。蒼龍は再び月を眺めると、ぼそりと言葉を返してくる。

 

「黙祷していたんですよ。私の家族たちに」

 

「家族?」

 

「ええ。お空に居る私の家族にです」

 

やはりかと俺は頭に手を置く。おそらく蒼龍は、この日になってすぐさま、布団から出ると黙祷をし続けていたのだろう。

 

「そうか。まあ…邪魔して悪かったな」

 

「いえいえ、そんなこと…!むしろ起こしてしまって申し訳ないです」

 

笑顔を見せながらも、蒼龍は申し訳なさそうに言う。むしろ謝るのはこっちの方なのに。黙祷の邪魔をしてはいけなかったんだ。

 

「…望さん。今日が何の日か、わかります?」

 

それからしばらく月を眺めていた蒼龍が、問いかけてくる。もちろん、痛いほどわかったさ。その現状を見たし、それを見て初めて思い出した自分を罰したいほどにね。だけど俺は。

 

「あーいや。わからないな」

 

と、返事をする。もちろん悪意があるわけじゃない。だけど、おそらく蒼龍は、自分の口から言いたいから、こんなことを質問してきたんだ。

 

「そうですか。えーっと…」

 

蒼龍は再び俺を見返すと、今度は手前で手を組んだ。

 

「今日は…6月5日は…。私が沈んだ日です」

 

笑顔を見せて、蒼龍は何のためらいもなく言う。俺を気遣っているのかどうかは分からなけど、その笑顔は本心で笑っていないことはわかる。悲しさを押し殺した、悲しい笑顔だってことくらい、俺にでもわかるんだ。

 

「…そうか。そうだったな」

 

だから俺も、さも忘れていたかのように言う。言い訳なんてしたくない、つい先ほどまで忘れてしまっていたことだからね。だから、本当のことを言ったまでなんだ。

 

「…俺も挨拶をして、いいのかな?」

 

「え?」

 

驚いたように、蒼龍は目を見開く。だが、俺は蒼龍の返事を待たずに、彼女の隣まで歩むと、月を見上げた。

 

「まあ、なんだ。俺だって日本人なんだ。関係ないはずがない。それに俺はお前の恋人なんだし、家族にはあいさつしなきゃ。だからつまり…俺も他人事じゃなくなったってわけ」

 

たかが大学生の青二才だってことは、十分に解っているつもりだ。蒼龍を俺に任せてくれなんて大口叩く立場じゃないと思ってもいるし、天に居る彼女の家族たちだって、到底許すとは思えない。

 

だけど。運命のいたずらか、はたまた神の気まぐれか、こうして蒼龍は俺の目の前に来てしまって、俺は任されなきゃいけない立場になった。だけど、その覚悟はもう十分すぎるほど養ったつもりで、その意思を戦場で散った英雄たちに、伝えなければならない。

 

俺はその場両手を合わせると。黙祷をする。

 

―柳本艦長。それに蒼龍乗員のみなさん。現代に生きる非力な大和男子の私ではありますが、彼女のことは任せてください。こんな大口を叩ける身の程ではないことは重々承知ではありますが、決死の覚悟は持ち合わせているつもりです。彼女がこの現代で迷わないように引っ張っていき、共に歩んでいきたいと思います。

 

「望さん…」

 

ぼそりとつぶやく蒼龍。そして彼女はもう一度、天へと黙祷を捧げたのだった。

 

 

その後しばらく黙祷を捧げていた俺たちだったけど、蒼龍は思いが伝わったであろうと、肩を叩いてくれて、部屋へと戻ることにした。

 

いざ部屋へ戻ると、何とも言えない空気になるのは明白だった。お互いがお互いを意識し合っていて、まるで初心な中学生みたい。

 

「なあ」

 

「あの!」

 

勇気を振り絞って俺は口を開くと、蒼龍も同じ気持ちだったのか言葉が被ってしまった。あるあるだけど、いざこうなってしまうとさらに気まずくなる。

 

「の、望さんからどうぞ!」

 

「いやいや、お前から…」

 

と、俺は途中で言葉を切る。男からいう方が、セオリーと言うものだ。それについ先ほど、俺はこいつを引っ張っていくと決めたじゃないか。

 

「…いや、じゃあ俺から言わせてくれ」

 

すうっと俺は息を吸って、覚悟を決める。こんなこと言ったこともないし、ましてやこんなふうに人を思った事がない。そう。初心な―ではなく、俺は初心その物なんだ。

 

「あー蒼龍。以前お前に渡した仮の婚約指輪。覚えているか?」

 

「え?あ…はい」

 

蒼龍もつぶやくように言葉を返すと、俺が何を言いたいのか悟ったようだ。だけど先走らず、ただ頷く。

 

「正直に言う。俺はお前を、ただ性能を上げるために渡した指輪に過ぎなかったんだ。だけど、お前はこの世界に来てしまった。最初は驚きと困惑でいっぱいで、お前に仮の婚約指輪を渡したことが、こんなことになるとは思わなかった」

 

ゆっくりと言う俺の言葉に蒼龍はただ「はい」と返事をする。

 

「だけどな。俺は次第に…お前のことが好きになってきた。もともと好きだったけど、そういう好きじゃない。本当に愛おしく感じるほどの、好き。パートナーであり続けることでの、好きだ」

 

一旦間をあけて、俺は再び声を絞り出す。

 

「だけど、今はそれよりもさらに高まって、同時に理解もできた。今から言うこの言葉に偽りはないし、本心だ」

 

表情は見えないが、蒼龍の「はい」と言う返事は、確かに涙ぐんでいる。

 

「愛しているよ蒼龍。カッコカリなんかじゃない。本当に、心底…。だから今後、共に人生を歩んでいこう。…ダメかな?」

 

俺の言葉に、蒼龍は答えるかのように抱きしめる力を強くする。

 

「もちろんです。望さん…。いや、もうさん付けなんてしません。望…」

 



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その後です!

今回はいわゆる誓い後の話です。これで、大学編は終了とさせていただきます。



次の日。と、言うよりも今日の朝。俺たちはいつの間にやら寝てしまって、気がつけば遅刻ギリギリになるまで寝ていたみたいだ。珍しくヨガ教室に行っていなかった母親に起こされなければまずかっただろう。俺と蒼龍はダッシュで着替え、車を大学へと走らせた。

 

「だいぶ眠そうな顔してんなぁ。お前たち」

 

何とか遅刻をしないで開始時間の5分前には講義室へたどり着き、いつものメンツの近くへと座る。すると、真っ先にくらっちから声をかけられた。どうやら寝起きで来ました感がひしひしと伝わってくるらしい。

 

「なんだ?ついにハッスルしちまったの?ついに卒業したの?」

 

立ち上がり腰を前後に動かし、早朝からいきなり飛ばしてくる木村は、とりあえずシカトしておく。まあ、どうなったかどうかは別として。聞いてくる質問が思春期真っ盛りの高校生だ。頭の中フラワーガーデンかよ。

 

「昨日はちょっと夜遅くまで起きる始末でね。いろいろとあったんだよ。なぁ蒼龍」

 

「あはは…はい。そうですね、望」

 

いつも通りの会話風景をしたつもりだが、くらっちと木村が驚きと疑問を浮かべたような顔をする。いったいどうしたんだ。って、まあ気が付くか。

 

「あっれ?なんか会話に違和感があるような気がするぞぉ」

 

「お、奇遇だな。私もだ」

 

腕を組んでその疑問の答えを見つけるがごとく、木村とくらっちは唸りはじめた。

 

「なあ蒼龍ちゃんや。七さんのことを呼んでみてくれ」

 

「え?望をですか?えーっと」

 

蒼龍は木村の無茶ぶりをされて、困ったような顔をする。と、言うか今言ったよね?だからなのか、木村はさらに首を傾げた。

 

「あんれ?おっかしいですぞぉ?んー?私の気のせいですかな?んー?」

 

「これはもう一度聞く必要がありますねぇ。とりあえず、蒼龍。どうぞ!」

 

首を数回カクカクさせている木村を無視して、くらっちは蒼龍へと促す。とりあえず蒼龍は恥ずかしそうにもじもじし始めて―

 

「の、望…」

 

と、まあ何とも可愛らしい上目使いな声で言ってきた。そんな蒼龍が見せた行動に、絶命勝利。FATAL.K.O.―と、まあWIN蒼龍パーフェクトな感じで俺は思わず顔に手を当てて、恥ずかしさと熱くなった顔を隠す。

 

「…いやさ。さっきからずっと呼び捨てで言ってたじゃん。なんでそんな気色悪い聞き方するんだよ」

 

横でスマフォのゲームをしていたたっけーが、あきれたように言ってくる。相変わらず冷静さを失わない、グループ内ただ一人の男だ。

 

「七さんのこんな表情を見ていじりたかった。後悔はしていない」

 

「ああ、俺もだ!」

 

二人はぐっと親指を立てて、きらきら笑顔でたっけーへと言う。こいつらはいろいろと連携力高くて、なんか腹立つ。

 

「まあ、それはわかる。ヤっちまったか?ん?」

 

冷静さを失わない男たっけー。二人にの意見に同意し、悪乗りし始める。いい加減にしろや。

 

「まあさ、昨日まで『さん』付けだったのに呼び捨てにするなんて、なんかあったとした思えないんだよね。うん。ほら例えば、二人の距離がぐっと縮まったとかさ。そこんところどうなんですかね?」

 

しんちゃんも会話に入ってきて、蒼龍へと問う。まあ蒼龍は口が堅いと思うし、今日のことは言わないだろうさ。てか言いふらすようなことじゃないだろうし―。

 

「えっとですね。私と望は、今日から結婚を前提にお付き合いすることになったんですよ!」

 

と、思っていた時期が私にもありました。おーい、なに普通にばらしてんるんだ蒼龍。まーたこいつらに、俺をいじる餌を与えてしまったわけなんだぞ。地元メンツじゃないのがせめてもの救いだけどさ。

 

「へぇ、やったやん七さん。これで七星家の血筋は途絶えることなくなったやん。少し早いが、記念にこれを進呈しよう」

 

そういってしんちゃんは、財布から彼のバイト先である31と書いた某アイスクリーム屋の無料引換券を蒼龍へと渡す。さりげなく宣伝じゃねーかこれ!

 

「わー!私一度食べてみたかったんです!やったぁ!あ、望の分はないんです?」

 

そこで素直にもらっておけばよかったものを、蒼龍は俺を気遣うという良妻的な発言する。まあそれを聞いたくらっちと木村とたっけーがニヤニヤししないわけもなく、俺に何とも言えない視線を向けてくる。

 

「お熱いですね。あーこれはお熱い!七さんと蒼龍の近くに卵を置くと、卵焼きできるくらい熱いですわ。卵焼きたべりゅうう!」

 

「熱いし甘いしで、もうカラメルできるじゃないですかー、べっこう飴できるじゃないですかーやだー!こうなったら砂糖をお前らに降りかけるわ、ほれほれ」

 

木村はあの軽空母の宗教に入ったようなこと言い始め、くらっちはどこからかシュガースティックを取り出し、少量中身をつまんで俺と蒼龍にかけてくる。

 

「おい!おめぇらやめろ!人様に迷惑だろ!」

 

「きゃー!やめてくださーい!」

 

こうして大学メンツの奴らには、盛大に祝えてもらえましたとさ、祝ってんのかこれ?

 

 

 

 

講義中。蒼龍はいつも通りの感じでノートを取り始め、黙々と授業を受ける姿勢を取っている。横腹をつつきたいとか、太ももと触りたいとか、まあ昨晩に一線を越えたもんだから、今まで自重してきたあらゆる欲望を、今ここで発散したいと体がうずく。

 

おそらく蒼龍もそうなんだろう。先ほどからちらちらと目線を送ってくるが、逆に俺は気が付いていないようにスマフォをいじり、向こうからの誘いも耐えていた。双方が承諾しているのに、公然の場という最大の壁阻まれているのは、いささか悔しいものだ。

 

「ん?メールだ」

 

 そんなこんなで俺と蒼龍のガマン大会が始まっている中、唐突にメールが入ってきた。

差出人は明石。件名には『復旧の目途』と書かれていることから、なんとなく察しがついた。

 

『コエールくんのセッケイズをミナおしてみたところ、いくつかフグアイのハッケンにセイコウしました。おそらくこのブブンをカイリョウしていけば、ソウチのアンテイカができるとおもいます』

 

ついにコエールくんの修理が始まるらしい。しかし設計図まで取っていたということは、つまり設計図が流出したってことを言いたかったのか。まあその点は、統治や大滝の所持する明石に聞くべきなんだろう。アカシネットワークか何だかしらんけど。

 

「ついに直るのか。今後楽しみだな―っと。送信」

 

ぶつぶつと書いた言葉を復唱しつつ、俺は明石へとメールを送る。するとしばらくして、メッセージが返ってきた。

 

『ええ、やっとですよ。ワタシもいきたいですそちらに…。でも、ワタシだけじゃありません。ヒリュウさんも、ムサシさんも、ハツシモちゃんも、ムラクモちゃんも、カガさんも、キヌちゃんも、キサラギちゃんも…。みんなみんな、テイトクにアいたいです!ですから、ゼンリョクでなおしますね!マッテテください!』

 

盛大なラブコールを送られて、少々戸惑う俺。そんな俺を見て蒼龍はしびれを切らしたのか、スマフォの画面をのぞいてきた。

 

「あ、これって明石さんからです?そっかー。みんなも、提督に会いたいだろうなぁ」

 

「そ、そんなに俺って魅力的なの?まあ、蒼龍と一緒になることを口頭で伝えられる、良い機会だろうな」

 

ぼそりと周りに聞こえないように俺は言うと、蒼龍は聞き次第、顔を赤くした。まあそういうベタな反応するとは思ったが…。蒼龍は本当に、そういうところが乙女だな。

 

「っと、連続してメールか」

 

ブーブーと自己主張激しいバイブレーションをするスマフォに視線を戻すと、再びメールを開く。やっぱり先ほどと変わらず、明石だった。

 

『ところでテイトク、昨日はおアツかったでしたね。よくみえなかったですけど、コエはきこえてきましたよ。かっこよかったです!』

 

…ん?んん?何をおっしゃっているのだろうか。いやいや、ちょっと待て。どうしてそのことを知っているんだ?あの機械オタクの淫ピ髪は。

 

「待て待て、なんで知っているのかっと…」

 

少し間が空いて、再びメールが届く。

 

『だって、シレイマドをつけっぱなしでしたよ?そのときヤカンケイカイチュウのニンにツいていたワタシとオオヨドさんで、ニンそっちのけでみてましたー』

 

指令窓をつけっぱなし…?あ、そういえば課題が終わって、そのままオフトゥンインしてしまったような気がする。つまりずっとそのまま、スリープモードになっていたのか。と、いうかスリープ状態でも向こうには見えているってこと?新たなる発見だけど、ナンテコッタイ。

 

まあ任務放棄してガッツリ見られていたらしいので、お叱りメールとあるかないかわからないけどグランド10周を任じておいた。どうせ何言ってるのかとか言われそうだが…。と、再び返事が届く。

 

『えぇぇぇ!?ま、まってくださいよぉ!アヤマりますってぇ!』

 

思った以上の抗議メールが届いた。ついでに大淀にも、明石とは違う訓練メニューを送っておいてやろう。

 

こいつらは総じてインドア派だろうし、だいぶ辛そうだなぁ。俺も少しは、悪いけどね。

 

 

 

 

さてさて、講義も終わり、自宅と帰った。

 

自宅へ帰る途中、礼儀というか報告しなければならない相手というか…。俺たちは大滝の家に行き、鳳翔へと挨拶を行った。その際、鳳翔は終始笑顔を絶やさず、俺たちを祝福するように見てくれて、何ともこそばゆい気持ちでいっぱいだった。

 

家族間のSNSを見ると、どうやら妹は塾で帰りが遅くなるらしく、おふくろも友人との枯れた女子会(・・・・・・・)に行くという。どうせ親父の帰りはいつも遅いし、つまりしばらく蒼龍と二人きりである。

 

「んー!今日も大学疲れましたね!皆さんも祝福してくれて、私とてもうれしかったです」

 

蒼龍はソファーの背もたれに両手と顎を乗せ、ニコニコ笑顔を作りながら俺を見てくる。まるで餌を待つ犬が前足を椅子に掛けているようで、また何とも言えない愛くるしさを体現している。

 

「そうだねぇ。まあ、あいつらはきっと祝福してくれると思ったさ。なんだかんだ言って、悪い奴は一人もいないしね」

 

「あとは地元メンツの方々ですね。どんな反応するんでしょうか?」

 

まあ基本的には祝福してくれるだろうけど、またなんだかんだ難癖つけて俺をいじってくるに違いないだろう。奴らとは相当付き合いも長いし、大学メンツに負けじと祝福してくれることに間違いはないだろうけど。

 

「…なあ蒼龍」

 

「はい?何でしょうか」

 

「どうせなら…さ、名前だけじゃなくて、普段の…飛龍や夕張なんかとしゃべるような…そう、敬語じゃなくていいぞ。ずっと思っていたことだけど、やっぱりおかしいと思うんだ」

 

蒼龍は言わずとそういうところは礼儀正しくて、これまでずっと敬語だった。だけど、もう敬語じゃなくていいと思う。その敷居は、今日、完全になくなったんだから。

 

「えっと…そ、そうですね。じゃないや、そうね。うん。ごめんね?」

 

たどたどしくも、敬語を直そうとする蒼龍。砕かれたしゃべり方をされると、こちらとしてもやっぱりまだ気恥ずかしかった。

 

「は、はは。まあいいや、徐々に直してくれや。さて、じゃあ珈琲入れるか」

 

「で、ですね。うん。でも、できるだけ努力しますね」

 

お互いに笑い合うと、俺は戸棚から珈琲セットの一式を取り出す。

 

「…ねえ、望」

 

「ん?なんだ?」

 

ミルの中に豆を入れる最中、蒼龍は唐突に口を開く。彼女を見ると、俺を愛おしそうに、うっとりとした視線を向けていて、完璧に不意を食らってしまった。

 

「ど、どうした」

 

途端に顔が赤くなり始めて、熱くなってくる。その気恥ずかしさに耐えきれず、俺は思わず作業に没頭しようと、目線をそらしてしまった。ヘタレと言われても、これは仕方ないな。

 

「いや、何でしょうね。今日は年に一番嫌な日だったけど、それも今日で少し変わったなって思って…」

静かに、澄んだ声で、蒼龍は俺を見ながらつぶやいてくる。

俺が、彼女にとって最悪な日を、塗り替えれることができたのだろうか。そんな実感はないけど、蒼龍にとってはまさにそういう事が言いたいんだろう。自分の沈んだ日であり、同時に愛を誓われた日だと。

 

「そ、そうかい。まあさ、そう思ってくれるなら俺はうれしいよ。俺も今日この日は、特別な日になったことに変わりはないしね」

 

「ええ、ずっとこんなふうに、幸せが続けばいいのに」

 

ふふっと笑い、蒼龍は俺に笑顔を見せてくる。当たり前だ、ずっと続けるさ、この幸せな日を。だから。

 

「じゃあそんな日に乾杯と行こうじゃないか、ほら蒼龍。珈琲入れたぞ」

 

「ありがとうございます。ふふっ、では…」

 

俺と蒼龍はコーヒーカップを軽く当て、チンと音を鳴らした。

 

 




どうも、今回は少々投稿感覚が空いてしまった飛男です。まあゼミの論文構想発表会が近くていろいろと忙しいので、次回も遅くなってしまうかと思います。

さて、今回はまあ前作のその後回です。それと同時に、大学編は終わりを迎えます。もう少しいろいろ書けたかな?とまあ反省する点が多いですけど、次回の描写に合わせるためには、ここで切る必要がありました。次回からどうなるかを、ご期待ください。

では、また次回に。あらかじめここで言っておきますけど、次回から一話完結からストーリー性が濃くなってくると思います。


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夏休み編
夏休みに突入です!


今回から、夏休み編!今後コラボなども展開していきたいと思います!


 時が経つの早いやいものだ。現在は夏真っ盛り。だから俺も絶賛夏休みを謳歌中…と、言うわけではないんだよなぁ。

 

 実は俺が通っている大学の夏休みは、8月に入り始まる。どこの大学もそうかと言われると解らないんだけども、とりあえず大学生の夏休みは少々遅い。小学校から高校までは7月の下旬から入る所が殆どだろうし、必然的に8月までそんな彼らが羨ましく思えてしまう。まあ、俺も変わらずその道は通ってきた訳で、その際大学生だった人達は、バカやっていた俺を見て羨ましがってたんだと思う。

 

まあ、厳密に言うとテストがだいたい7月の最後の週にある事が多くて、必然的に講義をフルにとっていると8月になるだけって話。実際は最後の週に入ってある程度テストを終えると、7月中に休みになるやつもいるけどね。

 

「ああー。やーっとこれで俺も夏休みだぁ」

 

テストが終わり、俺は机に伏せていた状態から、顔を上げる。この講義のテストはえらく簡単なくせに、テスト時間が終了まで帰ってはいけないと教授に釘を刺されてしまった。おかげで爆睡、いい夢見たね。

「そうだな。まあ、おれは後一コマ講義があるけど」

 

隣に座っていたくらっちが、荷物をまとめながら言う。えらく不服そうで、なんか申し訳ないわ。おそらく教職関連なんだろう。

 

「と、いうことは木村もか。一緒にメシ、食いに行けねぇな」

 

このテストが終わり、ちょうど昼を迎える時間になる。俺や後ろにいる大滝、しんちゃん、たっけーなどはこれで終わりだけど、木村とくらっちはここで別れなければならない。

 

「まあ気にすんなよ。むしろお前は早く蒼龍を迎えに行ってやんな。最近テスト三昧で、大学に来る際は殆ど大滝ン家だろ?」

 

あいにく蒼龍は学生証も持っていなければ、第一にこの大学の生徒ではない、つまりテストを受けても意味ないし、なおかつテストの監視員が学生証についている写真と受験者を照らし合わせてくるから、必然的に受けさせれない。まあ、蒼龍が受けた講義でマメに取っていたノートは、結局俺が使わせてもらったんだけど。

 

「そうだ、七さん。夏休みは旅行とか行くのか?」

 

俺もさっさと帰り支度を済まそうと、プリント用紙をバッグに詰め込んでいると、 後ろからたっけーに声をかけられる。

 

「ん?まあ予定はあるけど、どうしてさ?」

 

「おいおい、忘れたとは言わせねぇぞ、夏休みどっかに行こうって言ったじゃないか」

 

後からみっくんが、肩を掴んで俺に言う。しまった、正直あまり覚えていない。多分蒼龍のことで頭がいっぱいだったんだろう。女にうつつを抜かしすぎるのは、良くないか。

 

「スマンスマン。で、どこに行くつもりなんだ?」

 

「一応、予定は島根さ。去年は伊勢神宮だったし、次は出雲しかないだろ!」

 

出雲か、そういえば在学中神社仏閣巡りをしようとか言ってたしな。しかし出雲は縁結びの神様云々だったし、蒼龍と絆を深めるためにはちょうどいいかもしれない。って、また俺は蒼龍第一に考えてしまってるな。いかんいかん。

 

「いいんじゃないか?恋愛成就云々じゃなくて、歴史学を学ぶ俺たちにはもってこいだしな。でも、それなら京都でもよくね?」

 

一応気を利かせて京都を提案したが、みっっくん達は顔を見合わせて、呆れた顔をした。

 

「いや、分かってねぇなぁ。今回は七さんと大滝の為なんだぜ?」

 

大滝は「あ、俺も?」と自らを指差す。お前には鳳翔がいるじゃないか。って、そんなことより俺らのためって…。俺や大滝が蒼龍達とまあイチャコラするであろうに、それを見て不快に思わないのだろうか。

 

「いいの?本当に出雲で。俺、蒼龍とイチャコラしまくるよ?ずっとお前らの前では我慢してきたつもりだけど、解き放っちゃうよ?」

 

「うーん我慢できてなかったと思うんだけどなぁ。ま、それは良いとしてむしろ好都合だわ。ふふふ…どうやっていじってやろうか。くらっち、たっけー、みっくん、しんちゃん、酒井…あ、お前は彼女いるな除外。とりあえず四人はちょっと来て」

 

木村が憎たらしい笑いを浮かべて、俺、酒井、大滝を除く五人で円陣を組み始める。酒井は「お前らヒデェ!ファッキン!」と大声を出すが、まあそんなことよりもオメェら、それが狙いか畜生!

 

まあ、でも素直にそこまで考えてくれたと思えば、純粋に嬉しさと恥ずかしさがあるね。友人って本当に、ありがたい存在だ。

 

 

 

 

 

さて、木村とくらっちと別れ、その後結局飯を食べに行く話はお流れとなり、俺は大滝と共にこいつの家へと向かう事にした。まあ言わずと、蒼龍を迎えに行くってわけ。

 

「ただいま鳳翔」

 

「お邪魔しまーす。蒼龍、待たせたね」

 

俺と大滝はそれぞれ言葉を発し、家の中へと入る。すると、エプロン姿な蒼龍と割烹着姿の鳳翔が出迎えてくれた。あいにく裸エプロンとかじゃないけど、むしろ普通のエプロンの方が、俺は好きだね。

 

「お二人ともおかえりなさい。今ちょうど、蒼龍ちゃんと一緒に昼食を作っていました」

 

おお、まさにグットタイミングだったか、鳳翔さんと蒼龍が作る料理。うむ、自然とよだれが垂れてくる。

 「ん。そうかい。じゃあ頂こうか。七さん、お前はどうする?」

 

 「聞くだけ野暮だぜ?俺もご馳走してほしいに決まってるじゃないか」

 

 「まあそうか。とりあえず立ち話も何だし、上がろうぜ?」

 

大滝と共に短い廊下を伝い、リビングへと入る。相変わらず鳳翔は気を利かせてくれて、俺と大滝に冷たい麦茶を置いてくれる。キンキンに冷えた麦茶は、この時期殺人的に旨いもんだ。

 「あ、そうだ」

 

 「ん?どうした」

 

 「いや、以前明石がコエールくんの修理が進み始めてるって言っただろ?あれ、そろそろ完成しそうらしい」

 

数日前、来るべき夏イベに備えるべく、潜水艦達を説得してクルージングをしていた際、武器を強化しようと明石を旗艦にした時だった。

 

『もう少しで完成しそうです。その、わたし…がんばりました!』と、あからさまに褒めてもらいたそうな声で俺に言っていた。一応労いの言葉をかけてはおいたが、いざ修理が済んだらと考えると様々な不安が湧き上がってくる。

 

そもそも、良く考えてみればそんな装置で本当に蒼龍がこちらに来れたの?と思えるほどだし、今更だけど恐ろしくてたまらない。

 

「へぇ。じゃあお前の鎮守府はこっちとあっちを行き来できるようになるってことか。うちの明石は、あれ以来興味がなくなってるらしいしなぁ。とりあえず鳳翔がこっちに行けた事を確認するだけで、満足出来たらしい」

 

少々残念そうに笑いながら、大滝は言う。そっちも装置は壊れたままってことか。

 

ちなみに、以前明石に問い詰めたが。『三次被害』―要するにうちの鎮守府からではなく、ほかの鎮守府に流れたコエールくんが、再びほかの鎮守府に流れることはないらしい。つまりオリジナルコエールくんには何かしらのギミックがあるらしいけど、そこまで解明はできていないそうな。まだまだ隠されたギミックがあるとは、末恐ろしいな。

「まあさ、うちは鳳翔が来てくれるだけで満足だけどな。お前だって、蒼龍が来てくれただけで満足だろう?」

 

「だね。でも、他の奴だってこっちの世界を見たいだろうし、来れることは良いんじゃないのかな」

 

「それはそうだ。こっちの世界は平和だからな。存分に羽を伸ばせるだろうし」

 

ぜひとも、戦いで疲れた彼女たちの翼を休めてやりたい。以前はゲーム感覚でそんな考えはみじんも湧き上がらなかったけど、いまは提督としてそれくらいの配慮をしなければと思える。彼女たちは、紛れもなく向こうの世界で生きてるのだから。

 

「とりあえず、受け入れる覚悟だけは持っておけよ。最悪、押し寄せてくるかもしれねぇぞ?」

 

うっははと笑いながら、大滝はお茶を飲む。他人事だからって笑い飛ばしやがって…。てか、もしそれだけドカンと来られたら嬉しい反面、心底困っちまうな。明石に贈られたラブコールのメンツが来たら、もう家族に言い訳つかないことになるぞ。

 

と、こんな感じで大滝と話し込んでいるうちに、いつの間にやらちゃぶ台には蒼龍と鳳翔が料理を並べ始めていた。言い方悪いけど相変わらず和食だったけど、俺は和食派だ。特に問題はない。むしろ、うれしいね。

 

「それじゃあみなさん。準備はよろしいですか?」

 

鳳翔と蒼龍はそれぞれ席に着くと、鳳翔が俺たちを見渡して、声をかける。

 

「では、いただきます」

 

いただきまーすと、俺たちが声をそろえて言う。小学生の時、こんなことやったっけか。

 

 

 

 

昼食を食べ終わり、一服がてら4人でたわいのない話をした後、自宅へ帰ることにした。

 

とくにやることもないし、だからと言ってどこかに寄り道するのも、今日はなんかいいや。そんな気分だから仕方ない。

 

「見て見て望!ほら、鳳翔さんにいろいろと料理のレシピを教わりました!」

 

運転をする中、助手席でメモ帳を開くと、蒼龍は俺に嬉しさふわふわにじみ出し、俺へとその中身を見せてくる。ワンポイントアドバイスとか可愛らしい絵が描いてあり、何とも蒼龍っぽい感じのノートだ。嫌でも、蒼龍ってこんな絵を描いたっけか。

 

「へえ、その絵もお前が?」

 

「いやいや、実はこれ、鳳翔さんが書いた絵です!かわいいでしょ?」

 

イ級らしい楕円形の生き物に吹き出しをつけ、セリフのようにアドバイスを書く。マジで簡単レシピ本なんかのマスコットキャラクターみたいで、なかなか面白い。鳳翔さんはあれに加えてさらに絵心もあるとは、どんだけ超人なんだよ。てか、イ級って敵だよな?あいつらにとってはドラ○エのスライムみたいなもんなの?

 

「あ、そういえば蒼龍が描く絵を見たことないな。どんな絵を描くんだ?こんな感じのイ級とか描くのか?」

 

「いやー、私絵心ないんですよねぇ。あ、でも猫は得意ですよ!」

 

そういって、蒼龍はすらすらと猫を描いていく。こういう時ってアニメやマンガだと、えらく斬新なネコが出来上がるだろうけど…果たして。

 

「はい、できた!」

 

と、見せてきたのは斬新差とは程遠い、どこかで見たことあるような猫だ。ほら、白くて鼻が黄色いあの猫だよ。そう、こんにちは子猫だよ。

 

「いやー。それは猫だけどさ、キャラクターだよね?」

 

「私これ結構好きなの。ほら、リボンとかかわいいじゃないですか?」

 

まあ若葉もチビガキだったころはめっぽう好きで、誕生日に俗にいうキャラ絵が描かれたケーキを頼んだほどだったしな。女の子には人気があるんだろうよ。女の子には。まあ、食べる際には切られるわけであって、泣き叫んでいたのは今でも覚えている。ちなみにこの話を若葉にすると、蹴られる。男の象徴のあれをね。悶絶不可避。

 

「あ、望。メールが来ましたよ?」

 

俺が若葉の泣きじゃくる様子を思い出しにやにやしていると、サイドブレーキの隣にあるくぼみに入れた俺の携帯を手に取る。最近蒼龍はスマフォの使い方も、慣れてきた。

 

「あ、明石さんからだ。読み上げます?」

 

あいにく信号には一回も引っかからない始末で、スムーズに運転できている。まあドライバーの心得として運転中に携帯をいじるのはいけないし、ここは任せよう。

 

「よろしく」

 

「はい、えーっと『コエールくんがやっと直りました!今から稼働テストを行いますから、いい報告を期待していてくださいね!』ですって」

 

おお、ついに治ったかコエールくん。これでやっと、コエールくん事態の研究もはかどるだろうな。しかし、そもそもどんな形をしているんだろう。案外、最近はにこにこしないあの動画サイトのテレビ的マスコットキャラみたいなかんじかな?んなばかな。

 

「やったぁ!これで行き来できるようになりますねー!私もいろいろこっちに持ってきたいものありますし、早く家に帰りたいなぁー」

 

そ、そうか。まあまた戻ってくるからいいけれど、そう聞くと寂しい気分になっちまうな。って、ん?いや、俺が向こうに行くことって、できるんだろうか。

 

「じゃあ飛ばすか。法定速度ギリギリでな!」

 

俺はそういうと、絶妙なアクセル加減でCX-5を加速させる。これでも道路世紀末県に生まれた男だ。伊達にドライビングテクニックは培ってきてねぇぞ!

 

「いやー。うそでもそこは、法定速度とか無視して~みたいに言ってほしかったなぁ」

 

愛想笑いを浮かべ、蒼龍はつぶやくのだったとさ。

 

 

 

 

おそらくおふくろはヨガ教室に行っているようで、若葉は夏期講習中だろう。つまり家には誰もいないわけで、気楽なもんだ。

 

車庫に車を入れると、俺と蒼龍はCX-5から出た。そんな長距離乗っていないけれど、体を伸ばして窮屈さから解放される動作をしてしまった。ちなみに蒼龍も、俺と同じく体を伸ばしている。

 

「到着っと。よし、じゃあ家に入るか」

 

俺と蒼龍は家の敷地内に入る門を開くと、ポストに何か入っていないかを確認して置き、玄関の前へと立ち、扉を開く。

 

ぎぃっと鉄製のきしむ音が聞こえると、俺と蒼龍は玄関へと入り、そのまま家へと上がる。

 

とりあえず、家族がいない今がチャンスだろうか。そんな大人数は呼べないけど、一人二人くらいは大丈夫そうだ。

 

「…ねえ望。いま家にだれもいないよね?」

 

そんなことを考えていると、蒼龍が唐突にきょろきょろし始めた。え、なに?いないけどどうしたんだ?

 

「いや、なんか人の気配しません?」

 

言われてみれば感づくのが人間だろうかね。俺もそんな気がしてきて、警戒心のスイッチが入った。

 

「蒼龍。一回家から出て、車に乗ってろ。俺が見てくる」

 

「え、でも…!」

 

「大丈夫だから。心配すんな」

 

現状安全確認ができているのは、車だけだ。俺は蒼龍に笑いかけると、有無言わさずCX-5のキーを投げ渡す。そしてひっそりとおふくろとおやじの寝室を開けて、庭での鍛錬用においてある木刀を手に取った。

 

蒼龍が心配そうにしつつ、しぶしぶ玄関から出ていくのを確認すると、俺は五感すべてをフルに回転させた。あいにく六感までは、まだ覚醒していない。そもそも現代人では、無理に等しい。

 

リビングには人の気配はしない。と、いう事は二階か?一瞬若葉が夏期講習をさぼって家に居るのだろうかと考察がよぎったけど、自転車がなかったはず。つまり、若葉は家にいない。

 

と、いう事はおふくろが俺の部屋に入って掃除でもしているのだろうか。いや、それはないはずだ。俺と蒼龍が返ってきたことが分かればあの人のことだ。「おかえりー」と大声で叫んでくるだろう。腕時計を見るとヨガ教室に行っている時間なのは間違いないだろうし、それはない。

 

次に思い当たるのは親父だけど、まずありえない。あの人は平日、帰りは確実に遅くなる。それに俺の部屋に入る意味も無い。あの人は、意味のないことをする人ではない。

 

 ゆっくり、ゆっくりと俺は階段を上がっていく。自然と呼吸が荒くなっているのはわかるけど、何のために俺は剣を学んできた?こういう場合に鉢合わせたとき、対応するためだ。基本、銃じゃなければ怖くないし、そもそも本物の刀を、冗談だったけど向けられたこともある。

 

 階段を登り切ると、いよいよ俺の部屋の前だ。いつも何の考えもなく開いているドアだけど、今回ばかりはいつになく、硬く閉ざされているような感覚に陥る。

 

「ふう…よし」

 

深呼吸をして息を整えると、俺は木刀を確認するように握りなおす。

 

―勢いが肝心だ。ここはタイ捨流を思い出せ…。そう、一気に扉を突き破って、制圧する!

 

覚悟を決めた俺は、扉を勢いよく開くと同時に、渾身の飛び込みを見せた。木刀をまるで畑を耕すように大振りに構え、室内にいるであろう人物にとびかかる。

だが、その怒涛の突進は、地面に杭を指すように踏みとどまった。

 

「うわぁ!!び、びっくりしたぁ!」

 

「なっ…えっ…あっ!?」

 

俺は中にいた人物を確認して、改めて理解する。

 

そうか。さっきメールで来たじゃないか。コエールくんは治ったんだと。なら、今更だけど俺がいない間に来る可能性だって、多い考えられるじゃないか。

 

「あの…提督よね?」

 

「…あ、ああ。そうだぞ。あーっと」

 

俺は木刀を力なく下すと、顔を赤くして言葉をつなげる。

 

「よ、よく来たな飛龍。まさかお前が来るとは思わなかった」

 

俺の目の前にいるのは、航空母艦飛龍であった。

 




どうも。卒論構想発表会が終わって解放された飛男です。ああ、世界はなんて素敵なんだ…!

と、まあおふざけさておき。今回から夏休み編です。またふざけたことを、書いていけたらいいなぁと思います。

さて、前書きにも書いた通り、このこの章は三次創作として展開していったほかの方々とのコラボを企画しております。「えぇ…コラボかよぉ」と思う方は申し訳ありません。一応、何かしらの記号をつけて、区別はしたいと思っております。加えて、それらの作品を読んでいない方でも、楽しめるような作品を書いていけたらいいなと思っております。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう!


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◎番外編 わたしが来た経緯ですよ?

あまりにも投稿期間が空いてしまうとあれなので、急きょ番外編を書かせていただきました。コラボに関しては、もう少々お待ちください。


時は巻き戻り数時間前の事。

 

ここ大湊警備府は夏を迎えましたが、地域の特色として、今頃梅雨が来る感じ。とくに霧も立ち込めることが多くて、まだまだカラっとした夏の空は、見えないかも。

 

そんな中、久々に晴れを迎えたこの大湊鎮守府で、私こと飛龍があちら側に来る前に起きた、大湊警備府内での艦娘達それぞれの話です。

 

 

 

まず事が起きたのは、前日でした。

 

「飛龍。なかなか上達したわね。さすが、練度が高いだけあるわ」

 

隣に居るのは加賀さん。たまたま射に来たところ、先にいた感じです。練度自体はわたしより低いけど、純粋に射の腕はこの人の方が上なんですよね。さすが、私たちの先輩だと思います。

 

「そうですかねぇ?いつも通りな気がしますけど」

 

「そういうものなのよ。いつも通りの鍛錬が、確実にあなたを上げているのだから」

 

わたしの意見に対し、加賀さんは冷静に答えてきます。すっごい真面目なところは、私にはない魅力だと思います。まだ会った事ないけれど、提督はこういう人は好みに入るのかな?まあでも、蒼龍を選ぶくらいだし、真面目な人は好きじゃないのかも?いや、でも蒼龍も提督の前じゃ真面目にしてるしなぁ…。

 

 「何かしら?私の顔に、何かついていて?」

 

 そんなことを思っていると、不思議そうに加賀さんが聞いてきます。無意識に見つめてしまっていたみたい。恥ずかしいのかな?

 

「いえ。あ、そういえば加賀さん。加賀さんって向こうの世界、興味あったりします?」

 

とりあえず気まずくなるのを避けるように、私は加賀さんに質問を投げかけます。最近もっぱら向こうの世界の話題で持ち切りなんですよね。まあ加賀さんのことだし、どうせ「ないわね」とか言って、むしろ怒られそうな気がします。でも、意外にも加賀さん。考え込み始めましたね。ちょっとびっくり。

 

「そうね。正直な話、行ってみたいわ。だけれども、私にはその資格がないもの」

 

「資格?え、資格ってあるんですか?蒼龍はそんなもの持っていなかったと思うけど…」

 

向こうの世界に行くために、何かしらの資格がないとダメなものなの?だって、行きたいと思うなら行けばいいと思うし。あ、でも作法とかは身に着けておいた方がいいのかも。まあなんだかんだ言って、コエールくんが直ったらの話だけどね。

 

「…そう。少なくとも、貴方にはあると思うけれど」

 

「えぇ?加賀さんにはなくて、私にはあるもの…?あ、元気の良さですかね?」

 

少しふざけてみると、加賀さんは露骨にむっとした顔をします。え、何か私変な事いったかな?って、ふざけてる時点で変な事かぁ…。

 

「頭に来ました。私はもう上がります」

 

むっとした表情のまま、加賀さんは弓道具をしまい始めます。えぇ…そこまで…?

 

「えっと、あの、ごめんさない。悪気は…」

 

「…いいのよ。元気がないのはそういう性格だもの。でも、わからないようだからこれだけは言わせてもらうわ」

 

そういうと加賀さんは、顔をきりっとさせて、口を開きます。

 

「その資格を持っていてもなお、それを無知のように接するのはやめた方がいいと思うわ。私はもう大人だから我慢できるけれども、駆逐艦の子や軽巡洋艦の子はそうじゃないと思うもの」

 

そういうと、加賀さんは弓道場から出て行こうとしました。本当に解らないんだけれども…。もしかしたら、練度のことを言っているのかな?

 

私が考え込んでいると、出て行く加賀さんを止めるかのように、一人の艦娘が弓道場へ顔を出します。あ、あの人は…。

 

「あら、武蔵。どうしたのかしら?」

 

加賀さんの言う通り、その一人の艦娘とは大和型戦艦の武蔵さんです。いつもむっとした表情で強面な印象を受けますが、今回はなんか違う…。と、言うか、少しうれしそう?

 

「ああ、加賀。それに飛龍もいたか。他は…いないのか?」

 

「ええ、私と飛龍だけだったわ。珍しいわね、貴方がここへ来るなんて」

 

少々驚いたような声で、加賀さんは言います。確かに戦艦の艦娘にはまるで縁のない場所ですしね。

 

武蔵さんは腕を組むと、得意げな顔をしながら口を開きました。

 

「ふふっ…実はいいニュースを持ってきてな」

 

 

 

 

私、初霜はいま自室へといます。

 

正確に言えば、初春型のみんなの自室…そう、つまり共同部屋になります。基本、姉妹艦はこうして同じ部屋で共同生活を命じられるんですよね。

 

でも、いまこの場に居るのは初春姉さんだけです。もちろん子日姉さんや、若葉姉さんがこの鎮守府に着任していない訳ではないです。正確に言うと、現在二人は遠征に行っているんです。よく睦月型の方たちと、遠征任務に行かれるみたいですからね。

 

「しかし、暇じゃのぉ。初霜や」

 

初春姉さんは二段ベッドの上で、ごろごろとしています。私は読書をしているために暇というわけではないですけれど…。ですが無視するはどうかと思うので、返答を答えます。

 

「そうですね。初春姉さんも読書とかしてはどうですか?」

 

私の趣味の一つは、読書なんですよね。今読んでいるのは、桃太郎と鬼、どちらが鬼かってお話の本です。興味深いですよね、この方の作品。

 

「うーむ、気が進まん故、しとうないのう。そもそも、私は早く実戦へ出たいのじゃ!」

 

最近になってやっと初春姉さんは改二になったと言うことで、本格的な作戦に出たいとうずうずしているみたいです。正直な話、やっぱりどれだけ強くなったのか、姉さんも気になるんでしょうね。私もその気持ちは、わかります。

 

「提督も向こうの世界では学生さんだと聞きます。ですから、忙しいんでしょうね…」

 

「むー。いっそ、こっちに来てしまえばいいのにのう。初霜もそう思わぬかえ?」

 

もし提督がこちらに来たら…毎日見ることができるのでしょう。いや、それだけじゃなくて、もっと間近まで寄り添うこともできます。それはある意味夢のような話ですけれども、提督の気持ちはどうなんでしょう。きっと、こっちに来たら困ってしまいそうです。

 

「…初春姉さん。私、やっぱり提督は向こうにいるからこそ、提督だと思います」

 

「そうかや?むう、確かにそうかもしれぬのう。でももし来たら、嬉しくないのかや?初霜は?」

 

それはうれしいに決まってます。本当は面越しではななく、実際に面と向かって、話し合いたいですから。相談事もしたいですし、少しは甘えてもみたいですし…。なんというか、お兄さんみたいに、頼ってみたいですから。

 

「んふふ。おぬし、いま提督が来たら兄上みたいに接したいと思ったじゃろう?」

 

私がそんな妄想を膨らませていると、初春姉さんが確信を突いてきました。思わず恥ずかしくて、顔が厚くなってきちゃいます。

 

「な!そ、そんなわけ…ないですよぉ…」

 

「ふふっ。かくさんでもええ、隠さんでもええ。実を言うと、わらわもそう思っておるからのう」

 

それを聞いて、私は思わず驚いちゃいました。私の他にも、そう思っている人がいるなんて。

 

「初春姉さんもですか?」

 

「うむ。まあ、提督の嫁さんは蒼龍殿だからのう。だからせめて、義妹としての座を狙う駆逐艦は多いと聞く。まあ正直な話、一番近いと思うのはおぬしと叢雲殿かと思うのじゃが。どうなのかのう」

 

叢雲さんは私よりもかなり先輩の駆逐艦です。なんでも、提督が着任してから初めての艦娘が、彼女だったとか。私はそんな叢雲さんと比べるとまだまだ新米かもしれませんが、同じ駆逐艦として、負けたくない気持ちは持っているつもりです。いわゆる、ライバルですかね。

 

「でも、そんな話があったなんて、私知りませんでした」

 

「まあ、なんだかんだ言ってみな提督を信頼しておるからの。それにほれ、ほかの提督と違って、ウチは特殊じゃからな。その信頼も厚くなるというわけじゃ」

 

確かにそうでしょうね。提督は本来、会話できないはずの存在。それなのにウチは、提督と直接コミュニケーションが取れるわけで、なおかつ提督は優しい故なのか、私たち艦娘のアフターケアも、しっかりとやってくれます。例えば、ねぎらいの言葉や、時には叱ってくれたりと、様々です。

 

「早く、直るといいですね。コエール君」

 

「うむ、そうじゃな」

 

私と初春姉さんがそういうと同時に、廊下が騒がしくなり始めます。どうしたのでしょう。

 

「遠征の姉さんたちが帰ってきたのでしょうかね。私、ちょっと見てきます」

 

ベッドを降りると、私はそのまま部屋から出ようと、扉を開きます。すると、他駆逐艦の皆さんが、何やらあわただしく、走り去っていきました。

 

「あの!何があったんですか?」

 

たまたま通りかかった雪風さんに聞いてみると、雪風さんはにこっと満面の笑みを浮かべて、こういいました。

 

「こえーるくんが、直ったみたいです!」

 

 

 

 

コエール君が直ったことは、昼時には瞬く間に鎮守府内に広まった。

 

発信源はこの私、武蔵だ。本日の早朝、明石からいち早く聞き、こうして広めることにしたのだ。なぜかって?そうだな、鎮守府内ではこの半年の間、毎日のように向こう側の世界についての話題が飛び交っているからな。本当ならば隠すべきなのだろうが、隠しているのがばれて、暴走してしまう可能性も捨てきれないと思ってな。だからこそ―

 

「うむ、みな集まったようだな!」

 

こうして、集会を行うことにしたというわけだ。右端から駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、と、艦種順に並んでいる。

 

ちなみに言い忘れていたが、私は秘書艦ではない。あくまでもこの鎮守府を、取り仕切る役回りと言っておこう。現在の秘書艦は提督と珈琲談義に花を咲かせていたグラーフだったか。ともかく、現在我が鎮守府に置いて、秘書艦はほとんど機能してない。ああそうだ、秘書艦にならねば、提督と会話のキャッチボールができないからな。秘書艦でなくとも、一方的に言葉を編成時に発することができるが、それでは提督と会話をすることはできない。

 

「ムサシ。そろそろ始めよう」

 

グラーフがせかしてきた故、私は息を吸う。そして、マイクに向かって声を発した。

 

「諸君、昼休み前にこうして呼び出したりして、すまなかった。だが、ここで明確に伝える必要があったからな。聞いている者もいるかもしれないが、あらかじめ言っておく!コエール君の修理が、工作艦明石の手によって修理をし終えた!」

 

私の言葉に、それぞれ関心をした声が上がる。どうやらなんだかんだ言って、皆向こうの世界には興味を持っているのだろう。

 

「明石が言うには完全に修理が終わったそうだ。だが、まだ私個人としては明石に申し訳ないが、少々信頼をしていない。そこで、果たして本当に向こうの世界へ行けるか、テストをしたいと思っている」

 

以前のコエール君は、試作段階故に暴走し、破損したのだと明石は言っていた。そして今回、その不具合は解消されたことで、安定化を果たすことに成功をしたという。だが、それでも何かしらの不備が起きるのは機械としてあり得る話だろう。だからこそ、向こうへ行けるか否かの実験を行い、その被験者を募ろうと考えたのだ。

 

「もちろん向こうの世界に行って、帰れる保証はできない。それでもなお、このテストに参加をしたいものは、手を挙げてくれ!」

 

とはいうもの、おそらく上げない者が大半であろう。艦娘には全うすべき任がある。深海棲艦を倒すという使命。それこそ、私たちが存在している意味なのだ。

 

だが、それでも例外はいる。その例外を、私は把握しているつもりだ。

 

現に4名ほど、手を挙げた。

 

「手を挙げたものは、前でてきてくれ」

 

私がそういうと、手を挙げた者たちは素直に前へと出てくる。もし上げるとすれば、こいつらだと思ったが、やはりそうだったようだ。

 

「ふむ。初霜、叢雲、そして龍鳳と飛龍…。やはり、お前たちか」

 

龍鳳を除けば、私が着任する前からここにいる奴らだ。提督との付き合いは長いだろうし、何より彼女たちも、相応の想いを注がれているからな。しかし、龍鳳が手を挙げたのは、純粋に意外だった。だが、彼女も提督に熱を注がれていたと言えば、そうだったかもしれないな。

 

「ほかにいないのか?」

 

念のため、私は再度確認をする。だが、この4人以外は上げる様子を感じられなかった。まあ、本当は手を上げたい者もいるだろうがな。向こうの世界は我々艦娘にとって、様々な魅力があふれている。だが、それでも自分のプライドやポリシーを持っている者もいるはずで、資格がないと割り切っているのだろう。

 

「よし、では4人に告げる。このあと、すぐ工廠まで来るがいい。他の者たちは、解散!」

 

こうして、コエール君のテスターは募られたというわけだ。

 

 

 

 

数分後。手を挙げた私こと飛龍を含む、叢雲ちゃん、初霜ちゃん、そして龍鳳ちゃんは、工廠へとやってきました。

 

「来たか。では明石、説明を頼む」

 

私たちが来たことを確認すると、武蔵さんは明石さんへと説明を促します。明石さんは「はい」と短く声を発すると、バインダーに挟まれた資料を読み始めました。

 

「まず、今回テストしていただく方は一人だけですね。コエール君の安定化を図るため、一人を送る事でクールタイムを設ける設定にしています。大体クールタイムの時間は約2か月から3か月くらいを予定していますね。その間、さらなる改良をする予定です。今回送ることに成功すれば、そこから改良の余地はいくらでもあると思いますので」

 

ふむふむ、つまりこの4人の中で、誰かひとりと言うわけね。と、言うことは決める手段は簡単。王道的に、公平な決め方があるわ。

 

「そこで、じゃんけんを行うことにする。あくまでも公平に行うため、負けたものは素直に負けを認めるように。いいな?」

 

武蔵さんの言葉に、私たちは「はい!」と返事を合わせました。この勝負、負けるわけにはいきませんね!

 

「まずくじ引きで相手を決めよう。うむ、先ほど作っておいたからな。これを引いてくれ」

 

そういうと武蔵さんは、どこからかひもを取り出してきました。ふむふむ、これを引けということですね。とりあえず、右端の奴をとっ。

 

「よし、全員決めたみたいだな。では、引いてみろ」

 

くじを引くと、先端には赤色が付着していました。えっと赤色はというと…。

 

「あ、飛龍さん。同じですね!私、負けませんから!」

 

そういうのは、龍鳳ちゃん。彼女も赤色のひもを持っているし、間違いなさそうね。

 

「私も負けないわ!私にはいかなきゃならない理由があるもの!」

 

私も先輩がいもなく意気込んでいます。だって、私は向こうに行かなきゃならない理由があるのだから!

 

「よしっ!では各自じゃんけんをするように!」

 

武蔵さんの合図で、私と龍鳳ちゃんは目を合わせました。今思えば、龍鳳ちゃんはいい子だし、可愛いし、人を引き付ける魅力も持っていると思います。だからこそ、提督もどこか力を入れて、訓練に付き合っていたのかもしれないわね。

 

「行きますよ!さーいしょはグー!じゃーんけーん!」

 

そんなことを思っていると、龍鳳ちゃんにタイミングの主導権を握られてしまいました。でも、だからと言って、勝ち負けがどうこうなるとは限らないわ!

 

「ぽん!…あっ」

 

そして放たれた、グーとチョキ。どうやら勝てたみたいです。まあ、龍鳳ちゃんって割と出す手を、わかっちゃうんだよね。正直な子だから。

 

「ああ…負けちゃいました…。残念です…」

 

がっくしと肩を落として、龍鳳ちゃんは悲しそうな顔をします。あはは…なんか罪悪かんすごいや。

 

「うむ。勝ったのは飛龍のようだな。まあ、龍鳳は軽空母だし、仕方のないことだ」

 

「いや、それ関係ありませんよね?でも、その、勝っちゃいました。あはは」

 

武蔵さんとよくわからないやり取りをしていますと、喜びの声が聞こえてきました。どうやら、駆逐艦の子たちも終わったみたい。

 

「やりました…!うう…やりましたー!」

 

勝ったのは、初霜ちゃんみたいです。ぴょんぴょんとはねて、その喜びを体で表しています。たいして負けた方の叢雲ちゃんはというと。

 

「ふ、ふん!べつに悔しくなんてないわ!今回は勝ちを譲ってあげるわよ!」

 

あいかわらずでした。まあ、まだ駆逐艦の子は子供なので、やっぱり悔しそうな顔は隠しきれていないみたい。叢雲ちゃん、俗にいうツンデレってやつだし、本当は行きたかったんだろうなぁ。

 

「そちらは初霜の勝利か。うむ。叢雲よ、気を落とすな」

 

「…別に気を落としてなんかないわよ!ただ、まあ今回はいいかなって思っただけよ!」

 

「そうか。それはすまなかったな」

 

あはは、武蔵さんもやっぱりわかってるみたい。叢雲ちゃん、ドンマイってやつだね。

 

「さて…次に初霜と飛龍だが…。覚悟はできてるか?」

 

武蔵さんは一つ息を吸うと、私たちに準備をしろと促します。うん、私は大丈夫ですね!まあでも、唯一気掛かりなのは、相手が初霜ちゃんだってことだなぁ…。駆逐艦だし…。

 

「私、大丈夫です!飛龍さん!負けても恨みっこなしですよ!」

 

ぐっと力を入れて、初霜ちゃんは意気込みを見せてきます。まあ負けても恨みっこなしと言いましたし、私も価値を譲る気はなかったしね。

 

「ええ、お互いね!じゃあ行くわよ!さーいしょはグー!じゃーんけーん…」

 

ぽん!とお互いが言うと、あいこにはならず、決着がつきました。私はチョキ。向こうは…。

 

「…あっ」

 

パーでした。私が勝っちゃいましたね。

 

「…お、おめでとうございます!はい…!」

 

一瞬悔しさを押し殺した顔を見せましたが、初霜ちゃんは笑顔で私を祝福してくれました。ごめんね。さっきよりも罪悪感が大きいや。

 

「決まったようだな。では、飛龍。明日のヒトマルマルマルに(午前十時)、工廠へ来てくれ。お前も早く、提督と直に会いたいだろう?」

 

武蔵さんはにやりと口元を歪ませて言います。こういうところは、本当に気が利く人なんだよなぁ。私も見習いたいや。

 

ともかくこうして、鎮守府対抗。向こうの世界へ行きたいかじゃんけんは、幕を落としたのでした。

 

 

 

 

さて。そして迎えた約束の時間。私は荷物をリュックサックへと詰め、工廠へと足を運びました。

 

その間。私と蒼龍の部屋にいろいろな艦娘達が足を運んできました。あ、言っておきますけど、蒼龍はいまいませんからね。念のため。

 

で、やってきた艦娘は球磨型の皆や、じゃんけんに参加した初霜ちゃんたち、ほかにも提督用に軍服を手直しした加賀さんや、菊紋の入った黒い箱を持ってきた武蔵さんなど、多くの方がお土産として私に託してくれました。

 

「あー。やっぱり本当に向こうへいけるんだぁ…。あ、髪とか乱れてないよね?服もどうかなぁ…」

 

私はそんなことをつぶやきながら、ガラスに映る自分の髪の毛を整えてみます。まあ、つまりは緊張感を紛らわそうとしてるんですけどね!

 

「なにをしてるんだ?」

 

そんなことをしていると、唐突に横から低い声をかけられて、思わずびっくり。体がびくりと跳ねてしまいました。

 

「む、武蔵さん。脅かさないでくださいよ…」

 

声の主は、武蔵さんでした。まあ、艦娘で女性すら魅了できそうなかっこよく凛々しい声は、この人しかいませんけどね。

 

「別に脅かしてなどいないのだが…。まあ、いいか」

 

若干腑に落ちないような顔で武蔵さんは言うと、そのまま二人で工廠へと入っていきます。すると、すでにコエール君の準備をすましていた明石さんが迎えてくれました。

 

「あ、どもー。その荷物も一緒にですか?」

 

「ええ。そのつもり。あ、もしかしてダメだったり…?」

 

「いや、大丈夫ですよ。その荷物がダメだったりしたら、きっと服もダメですからねー。いっそ裸で転移してみます?」

 

あははーと冗談で言ってくる明石さん。裸は提督の前だからと言っても、さすがに恥ずかしい…。でも、提督は提督で、面白い反応してくれそう。

 

「さて、まあそんなことはいいとして、早速テストをしてみましょう。すでに提督には、そのことは伝えておきましたので」

 

行きなり来たらそれはそれで、提督困っちゃうだろうしねー。でも、蒼龍はいきなり向こうへ行ったんだし、案外受け入れてくれると思うけど。

 

「じゃあ、私はどうすればいいの?コエール君の前に立ってればいいの?」

 

「はいー。後はこっちでやるんで。後は目をつむっておいたほうが、良いと思います」

 

「え、どうして?」

 

「ものすごいフラッシュ…はい。光が発生するんですよ」

 

あーつまりそれをまともに目に受けちゃうと、目に相当な負荷がかかっちゃうってわけね。なるほど。

 

「わかりました?じゃあいきますよー?準備いいですかー?」

 

割と早い催促だけど、まあコエール君の前に立つだけだし、それもそうかな。

 

「ええ、いいわ。さあ、世界を超えて見せるわよ!」

 

変なテンションになっちゃってる気がするけど、気にしない気にしない。だってそれくらい、緊張とワクワクが、体の中で渦巻いているもの!

 

「ではいきますよー。よいしょっと」

 

ガコンと音がしたと思うと、機械的な音が室内に響きます。そして刹那。まばゆい光がカッと押し寄せてきて来ます。

 

「提督によろしく頼むぞ!飛龍!」

 

最後に武蔵さんの声が聞こえたと思うと、一瞬体が軽くなって。そのまま意識が途絶えました。

 

 

 

 

 長いようで短い意識の途切れから、私は覚醒しました。どうやら無意識に、座り込んでいたようです。

 

「え、これだけ?うーんもうちょっと痛いとか思ったけど…」

 

そんなことをつぶやきながら、私はきょろきょろとあたりを見渡します。ちゃんと、向こうの世界に来れたのかな…?

 

「うん。間違いなく、宿舎内…というわけではないわね。て、言うか部屋汚いなぁ」

 

洋服が室内に散らばっていて、本だなの本は隙間に積みあがっているというありさま。それにクローゼットの中には、皮でできた俗にいう皮ジャンだったり、何に使うかわからないスプレー缶などがあります。

 

「ふう、まあとりあえずついたってことかな」

 

私が一つ息をついて、状況を確認すると、遠くの方からガチャリと音が聞こえてきました。

 

「おお?提督かな?…とりあえず、待っておこう」

 

胸がどきどきと高鳴っているのは分かります。画面越しではなく、本人に会える…。そんな思いを胸に、私はベッドへと腰かけながら、胸元を押えます。

 

ですが、しばらくたってもこの部屋のドアは空くことなく、提督は顔を見せません。

 

「あれ…?もしかしてここ、提督の部屋じゃないのかなぁ?」

 

見るからに提督の私物っぽいものが置いてありますけど、ひょっとして弟さんの部屋とかかな?いやでも、確か提督には妹しかいないわけで…。

 

私は居ても立っても居られず、立ち上がります。すると、その刹那。

 

バンッ!と、扉が開いたと思うと、男の人が木刀らしきものをもって、突撃をしてきました。

 

「うわぁ!!び、びっくりしたぁ!」

 

まさに一瞬の出来事だったので、私はその場で硬直をしてしまいました。でも、その男の人も、こちらに気が付いたのか、床を踏み込んで、その場に踏みとどまります。

 

「なっ…えっ…あっ!?」

 

その男の人は、目をまんまると見開くと、すぐに考え込むしぐさをし始めます。短く切った髪の毛に、若干の無精ひげ。彫が深いけど日本人の顔つきで、右目の上には切り傷のあと。そう、この人は…!

 

「あの…提督だよね?」

 

 私の無意識の問い掛けに、提督は「…ああ、そうだぞ」と返答をくれます。

 

「あーっと…」

 

提督はそうつぶやいたと思うと、一つ息を吸って、私に目線を合わせてきました。

 

「よ、よく来たな飛龍。まさかお前が来るとは思わなかった」

 

こうして私は、こちら側の世界へと送られてきたのでした。

 




どうも、飛男です。
まずコラボ前なのにしてるんだ?と、お思いの方が多いと思いますので、軽く説明をここでしておきたいと思います。
実はコラボ先の方、要するにたくみん氏が現在多忙の身でありまして、私も就活が始まりあまり煮詰まった打ち合わせができていないのです。まあ煮詰まった打ち合わせと言えば聞こえはいいですが、実際は主に展開方法などについてなので、時間をかけての作品向上と言うわけではないですね。私個人としては、もっと上げていきたいですが、コラボですので、そこは誠に勝手ながら暖かい目で見ていただけることをお願いします。

それと、今回はある意味での実験回です。
今回最後まで読んでいただいた方(まああとがきまで見てくれていると言うことは、最後まで読んでくださってると思いますが…)は気が付いたでしょうが、艦娘の一人称視点として、武蔵と初霜が出てきます。これは、今後の展開に関係した、ある意味での実験でありました。これからも、番外編と言うことで様々なことを書かせていただく可能性があると思います。
私は所詮しがない物書きですので、こうして実験を行うことで経験値を蓄えているというわけです。そして、どのような結果になるかは、まあそのとき次第でしょうけどね。

では、今回はこのあたりで。また次回?お会いしましょう。


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来た理由ですよ?

※補足説明
飛龍と蒼龍は同型艦ではなくそれぞれ独立した艦です。しかし、それは軍縮条約破棄時に自由な設計にする事こそが出来るようになったからで、当初同型艦として作られるはずでした。つまりこの作品の場合、腹違いの姉妹の様なものと取っていただければ幸いです。


車の中に隠れていた蒼龍を電話で呼ぶと、すぐさま玄関が開く音がして、階段を駆けあがる音が聞こえてくる。

 

「飛龍!」

 

蒼龍は先程の俺と同じように扉を勢いよく開くと、目の前にいる飛龍を見て、目を輝かせた。

 

「わぁ!本当に飛龍?いや、見間違えるはずもないわ!飛龍も来たのね!」

 

「ふっふっふ…わたしも来たわよぉ〜!提督と蒼龍に会いたくて仕方なかったもの!」

 

二人はそう言うと、直ぐに抱き合った。おーう。俺が逆に邪魔者見たいだ。

しばらく喜びを分かち合うようにぴょんぴょんと跳ねあっていた二人だったが、気持ちが収まったのか二人は息を吐いて、静まる。

 

「まあ、誰か来ることはわかってたけど、流石に俺がいない時に来られると困るな」

 

以前。いや、蒼龍が来た時は、寝ている最中だったけどが俺がいた時だ。まあ飛龍がうちの物を何か盗むとかは考えられないけど、一応念の為ね。やっぱり画面越しでは何回もあっていたとしても、リアルであった事は今日が初めてだし。

 

「いやぁ…すいませんでした。でも、使えるなら使いたいじゃない?」

 

ふむ。どうやら飛龍は最初の頃の蒼龍と比べて、だいぶ砕けて話してくるな。まあフレンドリーなことには越した事ないし、これでいいか。

 

「それで、他の奴は?武蔵とか初霜とか、あいつらもこっちに来たがってたじゃん?」

 

この二人は、明石を除いて、よく会話するからね。その度にこっちに来たいと言っていたから、飛龍と一緒に来るかと思ったが…。

 

まあ、そんな事を考えてながら飛龍に問うと、飛龍は得意げな顔をしてきた。

 

「じゃんけんで勝ったのよ」

 

「じゃんけん?」

 

「そう。コエールくんは一人づつしか送れないのよ。それで、わたしが勝ったって事。どぉよ?」

 

あ、ハイ。まあ要するに飛龍はじゃんけんで勝ち残って、こっちに来る権利を勝ち取ったという訳だ。だからと言って「どぉよ?」と自慢されても困る。これはこれで、可愛らしいけど。

 

「じゃあ後に、武蔵と初霜は来るってことか」

 

「そうね〜。あ、でもそれは随分先かなぁ」

 

うーんと顎に人差し指を当てて、上を向く飛龍。どういうことだ?情報が少なスギィ。

 

「実はね。コエールくん、一回こっちに艦娘を送ると、数ヶ月間クールタイムがあるみたい。だから、数ヶ月に一人しか、こっちには来れないみたいよ?」

 

なるほど、言われてみればどんな原理か知らないけど、別世界から俺のいる世界に送ってくるんだ。膨大なエネルギーを使うに決まっている。まあクールタイムが無くてバコスコ送られても困るだけだし、それはそれで良いか。しかし、安心に思う反面、残念な話でもあるね。

 

「ところで飛龍。いつもの服じゃないんだ?」

 

蒼龍が飛龍の着物を見渡しながら、話を切り出す。言われてみれば、黄色を基調にした長着に、ミニスカも真っ青な正規空母勢特有の、短い袴というかスカートのようなものではない。くすんだ黄色に緑をちりばめた、まあいいところのお嬢さんチックな着物姿だ。顔を見れば一目でわかるけど、後ろ姿なら若干飛龍ではないように見えるかも。

 

「ああ、これ?ほら、以前蒼龍が電文でくれたじゃない?いつもの服だと目立つって。だから、買っちゃったの。この着物」

 

 裾をもってひらひらと、飛龍は着物を見せてくる。うん。どう見ても活発な村娘。

 

「いいなぁ~私も欲しいかも」

 

「でも蒼龍の着てるその服も、わたしはうらやましいかな~。あ、これ提督がプレゼントしたんです?」

 

蒼龍はだいぶこっちの世界になじんできただけあって、最近はめっぽう現代風な服を着る。今日着ているのは白を基調にした服で、清楚系女子って感じ。どうやら夏は、この手の服を攻めていくようだ。まあ、俺が似合うからって買ってあげたんだけども。

 

「まあね。似合うだろ?」

 

俺が着ているわけじゃないけど、自慢したくなるのは仕方ない。そもそも蒼龍自体が、自慢できる美人妻みたいなもんだし。

 

「うん。似合うと思うわ。蒼龍は肌が白いからねぇ。わたしはこういうの、似合わないんだよね」

 

「いや!そんなことない!飛龍だって絶対に合うよ!ね?望!」

 

うん。女子の似合う似合わない大会が始まったぞ。俺はとりあえず、相槌を打つだけでいいかな?

 

「そういえば飛龍。ずいぶんと荷物を持ってきたみたいだな」

 

このまま似合う似合わない大会を開催してはらちが明かないので、ふと目に入ったオリーブ色のバッグに対して質問を投げかける。おそらく飛龍が持ってきたらしく、ずいぶんとパンパンになっているな。夜逃げしてきたみたいだ。

 

「あ!そうそう。提督にみんなからお土産があるんですよ!」

 

飛龍はそういうと、バッグをごそごそとあさり始める。お土産?まあ純粋にうれしいけど、お土産って表現はどうだろうか。

 

「はい!まずはこれですね。加賀さんから、提督服です!」

 

包まれた布をめくると、そこにはマジ物の純白な提督服が入っていた。

そういえば以前、メールで加賀に「提督。身長と丈。教えてくれないかしら」と、来たような気がする。そうか、あいつ今後こういう時のために、あらかじめ仕立ててくれたのか。さすがはデキル女やな。

 

「ああ、ありがとう。まあこれを着る機会は、無いかな」

 

「そうなんです?えーっとじゃあ…次はこれかなぁ。大井ちゃんからですけど」

 

え?大井?あいつ俺に何かくれるほどやさしいというか、気が利く奴だったの?てっきり北上だけを見ているかと思っていたけど…。

 

「はい。どうぞ」

 

と、飛龍が言って渡してくれたのは割と大きな箱。それを開けると、球磨型達をデフォルメっぽくした、可愛らしい小さなぬいぐるみが入っていた。材質は安価な生地を使っているようで、中身は触感的に綿っぽい。

 

なぜこれを送ったかと、まるで意図が見えなかったが、箱の裏には『私たちもちゃんと育成してネ!』と、それぞれのイメージカラーらしき色で書かれていた。実際大井と北上しか、育ててなかったし、ちょっと反省してしまうな。

 

「しかし、大井って案外手芸が得意なのか。それにこれは、球磨型みんなからなのかな?」

 

「はい、たぶんそうですね。みんな頑張っていろいろと作ってたみたいですよ」

 

そう聞くと、まあずいぶんと照れくさいもんだ。それだけしてくれるってことは、つまり信頼されてると思っていいんだろう。

 

しかし初期勢だった俺は、言い訳にしたくないがそれ故に仕様がわからず、沈めてしまった艦もあった。要するに一部を除いては怨まれているだろうとは思っていたわけ。でも、こうして色々と俺に対して送ってくれるし、許してくれているのだろうか。

 

「お次はこれですね。武蔵さんからです」

 

それを見て、俺は目を見開く。飛龍に渡されたこの武蔵の贈り物は、先程の手作り感の様なものではなく、黒塗りの高そうな箱だったからだ。箱には菊紋が入っていて、なんとも仰々しい。

 

「えっと、これは…?」

 

「さあ、開けてみては?」

 

中身が分からないのか。って、箱の両端に『封』って書いてあるし…なんか俺なんかが開けてはならない気がするぞ。身の程的に。

 

まあでも、せっかくあの武蔵がくれたんだ。とりあえず封を切って、開けてみる。すると。

 

「あ、これあかんやつや。俺、これがばれたらブタ箱行きだ」

 

中身は装飾の施された拳銃と短剣でした。形状からして南部小型拳銃だろうね。まあ武蔵らしい贈り物だけど、銃刀法と言うものがこちらの世界にはあってだな。まだ短剣は刃渡りがアウトだけど、なまくらにすればまだセーフだと思う。でも、流石に拳銃はあかんわ。

 

「あー飛龍。実はこの国に銃刀法と言う法律があってね。警察から所持の許可が下りてないと、拳銃や刀を所持することはできないんだよ」

 

「あはは…まあそうですよね。なんとなくわかってはいました。でも、隠しておけばばれないんじゃない?」

 

そういう問題じゃないです。所持してることが罪なんです。まあでも、武蔵がどういう思いを込めてこれを贈ったのかは知らないけど、嫌がらせのために送ってきたとは思えないし、売ることや届けることはできないしなぁ。とりあえず、これをどうするかは追々決めれば良いや。SNSや公然の場で銃を持ってるって言わなきゃ良いんだし。気持ちだけ受け取っておこう。

 

「さて、お次は…」

 

その後、飛龍は様々な贈り物を渡してくれた。

例えば第六駆逐隊のガキンチョ共は絵や編み物なんかを贈ってくれて、グラーフ筆頭のドイツ勢はドイツ語で書かれた本を贈ってくれた。まあ読めなくはないけど、ファシズム感漂ってるから怖い。で、金剛姉妹達は紅茶セットを贈ってくれて、総じて言えることは皆俺の事をなんだかんだ想ってくれている様だった。提督である以上、それは普通というか、付き合い上の贈り物をかもしれないけど、純粋に嬉しいことには変わりないよね。

 

「以上ですね。あとは、わたしの私物ですねー」

 

あれだけパンパンだった飛龍のリュックは、やっとリュックらしい形に戻る。私物って言っても、何を持ってきたんだろう。

 

「あ、そうだ提督。わたしも提督に渡さないといけないものが」

 

そう言って飛龍は再びリュックの中身を漁り始めると、四つ折りの紙を取り出す。

 

「今日からこの世界にいる間、わたしはこう言う設定になってます。あ、蒼龍も見て」

 

俺と蒼龍は、飛龍に言われるがまま、渡された書類に目を通す。

 

名前は飛田龍美。出身は蒼龍と同じくで、どうやら双子の姉妹と言うことにしているらしい。まあ確かに髪質や顔が多少違うだけで、双子であることには変わりないだろうね。また、蒼龍と同じ孤児院で育ったけど、引取りの都合上離ればなれとなってしまったそうで、名字が違っているらしい。割と作りこんだ設定だと思ったけど、そうしたほうが自然かもしれない。

 

「まあわかった。あー。じゃあ飛龍には申し訳ないけど、親父やお袋、また友人以外の公然の場では飛田さんっていうから。流石に龍美って呼び捨てにすると、二股かけてるみたいで嫌だし」

 

そらそうだろう。浮気というか不倫というか、二股をかけるのは人間的にどうかと思っちまう。俺は断じて、そんなことをしたくはない。

 

だが、飛龍はそんな俺の発言にニヤニヤし始めて、俺にすり寄ってきた。

 

「え、わたしは別に構わないですよぉ〜?一応見極めにきましたけど、場合によっては蒼龍から奪っちゃおうかなぁ?ねぇ、の・ぞ・む・さ・ん?」

 

「はぁ!?ちょ、ひ、飛龍!言って良い冗談と悪い冗談があるわよ!私許さないから!」

 

飛龍の唐突な発言に、蒼龍は頬を膨らませて怒り始める。まあそうだわな、どうせ冗談でやってきた事だろうけど。てか、飛龍はそんな蒼龍の反応を見てニヤニヤしてるし、これは確信犯ですわ。

 

「うそうそ。かわいいなぁ蒼龍は。まあだから、見極めにきたんだけどね」

 

「え、見極め?」

 

ほおを膨らませていた蒼龍は、不思議そうな顔になる。表情が豊かだなぁ。

 

「やっぱりそっちは、嘘じゃないってオチか」

 

まあ、蒼龍の妹に当たる飛龍が、容易に俺と蒼龍の交際を認めたとは思えない。つまり飛龍がこちらに来たかった理由は、まさにこれだったんだろう。

 

「ええ、嘘じゃないわ。鎮守府ではその話題で持ちきりなのよ?みんなロマンチックとか言っていたけども、やっぱり姉妹として見極める必要があるじゃない?だから、じゃんけんに負けるわけにはいかなかったのよ」

 

つまり飛龍はそれが妹としての責任だと思っている様で、果たそうとしているらしい。確かに明確な血のつながり(実際はどうか知らないけど)は飛龍だけだし、家族であることは確か。だからこそ他人とは違う、いっそう厳しい目線で見る必要があるんだろう。

 

「そうか。まあ努力するさ。お前にも認めてもらわないと、こっちも目覚めが悪い」

 

とりあえず見極められるのは、良しとしよう。普段通りの生活をすれば良いと思うし。何より蒼龍を想う気持ちに、嘘偽りは存在しない。きっとそれが、飛龍にも伝わってくれるはずだ。

 

「しかし、見極めるのはいいとして、お前はどこに住むつもりなんだ?まさか家とはいうまいね?」

 

正直、蒼龍をこのうちに置くこと自体が意外だったのに、さらにもう一人来ちゃいましたじゃ厳しいものがある。せめてどこかの宿に泊まらないと、家が回らない気がする。

 

「え、そのつもりですけど。いやぁこの家にいないと見極めれないですし、何言ってるんですかぁ提督は、あはは」

 

飛龍は後頭部に手をやって、カラカラと笑いはじめる。こいつもこいつで、どうやらこの先のことを見据えていなかったらしい。

 

「いいわけねぇだろぉぇええ!言ってることは間違ってないけども、ちょっとは家のことも考えろよ!」

 

「そこを何とか!お願いしますよぉ!」

 

何とかって言われても、どうにもできないんですけど。極論だけど、俺が所持する家ってわけじゃないし、親父が大黒柱なわけだし…。

 

「あの…望。居候の身なのは分かってるけど、私からもお願い。だって飛龍一人を、どこかに止めれないじゃない!もし何かあったら…」

 

うぐぐ、蒼龍までそんな切羽詰まったような顔をされても困るんだが。いやぁ…これは。その…。

 

「わかったよ!わかった!ちょっと頭をフル回転させて考えてみるから!」

 

とりあえず何か説得力があって、家にいなければならない理由を考えないとな…。

 

先が思いやられる。いや、ほんとに。

 




どうも、それなりに遅くなった飛男です。
今回は飛龍の登場から、贈り物ラッシュに、理由など、大まかにまとめればこの三つでした。次回もこの流れが、続く予定です。

では、また不定期後に!


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お洋服買いますよ?

最期の最期で、力尽きました。うまくまとまっているといいですが。


さて、いろいろ試行錯誤してきた俺だが、そうこうしているうちにおふくろが帰ってきてしまった。しかし、策はすでに立ててある。

 

とりあえず今ここで飛龍がばれてしまうのはまずい。そこで蒼龍におふくろの気をひかせる役割を任せ、なんとか飛龍を連れて家から脱出する事ができた。

 

車に乗り込み、飛龍を後部座席へと座らせると、蒼龍も後から車へと乗り込んでくる。

 

「飛龍を迎えに行くと、伝えておきました。信じてくださったみたいで、作戦成功です!」

 

とりあえず外出する理由として『蒼龍の妹を迎えに行く』と、蒼龍にはおふくろに伝えてもらった。まあ外出する際にわざわざ言いにはいかないんだけども、時間を稼ぐ口実にはなるし、いわばこの発言は、無意識に刷り込まされていた、おふくろの記憶を呼び覚ます布石にもなる。

 

そもそも。蒼龍は以前から自分に妹がいることを口にしていた。実際はその時に飛龍がこっちに来ることなんてわかるわけがなかったし、詳しくは伝えていなかったそうだが、その地道に刷り込ませてきた記憶が、今回の作戦でカギとなりそうだ。

 

蒼龍は助手席に乗り込むや否や、表情をキラキラさせ、俺へと報告をしてくる。ああ、撫でて欲しいんだな。子犬みたいだ。ぽいぬじゃないけど。

 

「ふふっ…えへぇ…」

 

撫でられるたびに、蒼龍はこうしてとろける様な表情になる。と、なれば俺も我慢ができず、頰っぺたとか、首筋とか触りたくなってくるんだよねぇ。だけど。

 

「ゴホン。いちゃいちゃしてないで、とりあえずどこに行こうか決めましょうよ!」

 

一つ咳払いをして、飛龍が釘を刺してくる。うおーう。見事なまでのお邪魔虫。まあ、確かにお前の言っている事は正しいな。

 

名残惜しそうにしている蒼龍の目線を感じつつ、俺は車を発進させる。とりあえず着物も良いけど、私服も買ってあげなければ。

 

「あー蒼龍。すまんけど俺の財布の中身、確認頼む」

 

蒼龍ははーいと声を出し、蒼龍に手渡した手持ちバッグを開くと、財布を取り出した。

 

「ひい、ふう、みー。3万円と、千円札が2枚。あとは小銭はごちゃごちゃしてますね」

 

ふむ、三万二千弱くらいか。これで、飛龍の私服も買ってやる事ができる。以前蒼龍が来た際もこうして買ってやった事が、今ではとても懐かしく思えるな。

 

「お買い物にいくの?」

 

飛龍が運転席のシートから身を乗り出し、俺へと聞いてくる。

 

「飛龍の私服を買いに行くんだよ。流石に着物一着じゃダメでしょ」

 

「心配しないで飛龍。私も少しは持ってるわ。二人で合わせれば、この夏を乗り切れる服くらい、パパッと買えちゃいそうね」

自分のバッグを開いて、蒼龍も財布を確認する。彼女も、お金を持ち歩く様になったのは、この世界に完全に馴染んだ証拠だろう。よかったよかった。

 

「え、わたしも持ってるけど?」

 

と、そんな事を思っていると、飛龍も名乗りを上げてきた。え、まじで?

 

「い、いや。持ってたとしても使えないだろう?どうせ向こう側のお金でしょ?」

 

しかし今思えば、向こう側のお金をってどんなものだろうか。一円札とか、百円札とか円と銭で構成された通貨だろうか。時代背景的にそんな感じするけど、実際は違うかもしれない。

 

「うーんどうかなぁ。えっと、確かにリュックに…。あ、ありましたよ!」

 

そういって飛龍が取り出したのは、なんと金の延べ棒だった。ビカビカ光ってらっしゃる!?

 

「まてまて!それは金だけども、お金じゃないだろ!ってそれ本物?」

 

鈍い光を放つその延べ棒は、見た感じ偽物じゃないーと、思う。少々小さめだけど、換金すればいったいどれほどの値段がつくのだろうか。考えただけでも恐ろしい。

 

「ね?持ってたでしょ?これなら文句ないじゃない?」

 

「あー飛龍。とりあえずそれは使わないでおこうか。ちょっと換金しに行く勇気がない。てか、なんでそんなもん持ってきたんだよ」

「え、だって向こう側の通貨は使えないじゃないですか。だから、向こう側で稼いできたお金を、金にして持ってきたわけ。金なら多少上下しちゃうけど、いいじゃない?」

なるほど、そういう理由なら確かに納得がいく。たとえ通貨は使えなくとも、金そのものの価値は確実に高いからね。頭の良い発想ではある。

 

「あーそういう手もあったなぁ。私も向こうに戻って、金にしちゃおうかしら」

 

蒼龍もその発想はなかったと言わんばかりに、若干の後悔を顔に浮かべる。お前までもか、やめてくれ。

 

「とりあえず飛龍。その金は追々換金するかしないかを決めるとして、今日はとりあえず俺らに頼ってくれ。流石に今日明日にでもできる様な代物じゃないと思うし…」

 

そもそも換金するためには、証明書とか必要になってくるだろう。まあ、それらはどうせ明石や大淀がなんとかするだろうけどね。つくづく便利な奴らだなと、再認しましたとさ。

 

 

車を走らせしばらく。とりあえず以前と同じ様に、しま○らへと到着をした。

 

以前。というか蒼龍が来て初日の際には、現代のファッションや流行に驚いていた蒼龍であったが、今回は以前とは違った見方で服が見れるはず。というかあの時以降行ってないわけじゃないから、今は蒼龍の方が、配置とかも詳しそうだ。

 

 飛龍がしま○らまで向かう際に、現代におけるさまざまな建物を見て驚きを隠しきれなかったのは言うまでもない。ともかく質問攻めを受けたが、運転に集中をさせてくれる用に蒼龍が大体答えてくれて、助かった。つい半年くらい前はお前が聞く立場だったのにな。

 

「へぇ。ここがこの世界の洋服店なのね。いっぱい服が並んでいるけど、試着とか出来るのかな?」

 

きょろきょろと店内の服を見渡して言う飛龍。その目は言わずと興味津々だ。だけど、お前も割と注目の的になってるぞ、着物だから。

 

「もちろんできるわ!行こ!飛龍!ほら、望も!」

 

蒼龍は得意げに言うと、彼女に手を引かれ、俺と飛龍は連れられる。

 

「ほら、可愛い服いっぱいでしょ?」

 

目的地に着いたのか彼女はつき次第、商品を手に取ると蒼龍はそれを体に当てて、飛龍へと見せる。また以前のカエルの描かれた服とか選ぶかと思ったが、流石にそんなおふざけはしなかった様だ。ちょっとばかり姉っぽく振る舞いたいのだろうかね。

 

蒼龍が手に取ったのは、淡い黄色のワンピース。薄地のノースリーブになっていて涼しそうだ。飛龍は手渡しされると、体に当てた。

 

「うーん。どう?似合いますかね?」

 

飛龍はこちらを見て、俺へと聞いてくる。どうやら女性以外の意見が欲しいと見た。

 

「似合うと思うけど…飛龍ってやっぱり黄色が好き?」

 

「え?あ、いや。まあ好きですけど、他の色も好きですねー」

 

 「ふむふむ、じゃあこれなんとどうかしら?」

 

俺と飛龍のやり取りに対して、蒼龍はすぐさま違う服を取り出してくれる。今度は白い普通のシャツだが、それに加え、ホットパンツまでも手に取った。

 

「あ、それいいかも!動きやすそうで」

 

どこか懐かしい組み合わせだと思ったら、そういえば以前、飛龍の方が似合うと言っていた記憶がある。まあ確かにこれはこれで似合いそうだよね。と、言うか飛龍はボーイッシュな感じで攻めるといいのではないだろうか。

 

「なあ蒼龍。飛龍はもう少しこう、活発な感じの服が似合うんじゃない?」

 

と、提案をしてみる。しかし、蒼龍は首を傾げた。

 

「そうですかねぇ?いや、私は可愛い感じの服が似合うと思うなぁ。一応手に取ったこの服は似合うと思うけど」

 

「そこんところ、飛龍はどうなんだ?」

 

意見が分かれてしまった。ここは本人に何を求めているか聞いてみよう。

 

「そうですねぇ。可愛い服も好きですけど、わたしには似合わない気が…。いやだってわたし、ひらひらのついたこういう服とかに合うと思います?」

 

そういって、飛龍は適当に取った服を、体へと当てる。いや、十分似合ってるんだよなぁこれが。どうやら艦娘達は、自分がいかに魅力的なのかを気付いていないらしい。飛龍は蒼龍ほどではないにしろ、出る所出てるし、男を魅了するには十分な素質を持っているからね。って、こういうロリータ?チックな服は駆逐勢の方が似合う気もする。

 

「私は似合うと思うけどなぁ~。だって飛龍は可愛いし」

 

「えぇ?わたしより蒼龍の方が可愛いじゃない?女の子っぽいオーラバンバン出てるし!」

まーた始まった。どちらが可愛いか口論。女子ってみんなこんな感じなんだよなぁ。

 

「あーともかく。好みの押し付け合いはなしにしようぜ?とりあえず飛龍は自分で好きそうな服を選んできてくれ。自分で選んだ方が、納得できるだろう」

 

蒼龍は少々不服そうな顔をしたが、まあ理に適ってると思ったのか、承諾した。飛龍もそれに賛成なのか「はーい」と言って、俺たちから離れていく。

 

と、言うわけで蒼龍にも、各自一時解散と言っておいた。まあ俺も、飛龍に似合いそうな服があったら、覚えてはおこうかな。

 

 

 

 

提督と別れた私たちは、各々に散らばった。とりあえず、わたしはわたしで、似合うと思う服を探してみよう。

 

「とはいっても、この量はなぁ」

 

このお店はなかなか広い。鎮守府ほどではないけれども、代わりにこちらの世界の服がたくさん合って、どれも目移りしちゃうわけ。個人的には提督も言っていたように活発に動けそうな、そうだなぁラフっていえばいいのかな。そんな感じの服が好き。でも、蒼龍が来ているような、女の子っぽい服だって、着てみたいのが本音だったりもする。

 

「それにしても、やっぱり着物は動きづらいや」

 

正直、蒼龍も大丈夫なら私も大丈夫!と、思っていた。だけど、この世界はそんな融通が利かないそうだ。細かいとこを指摘するのは、どの世界の日本人でも同じことなのかも。

 

「あの、お客様。御困りですか?」

 

わたしが周りを見ながら選別していると、唐突に横から声をかけられた。誰かな?

 

「え、わたしですか?」

 

「はい。着物姿のあなたですよ」

 

声をかけてくれた女性は、メガネをかけた地味っぽい人だった。着ている服からして店員だと思うけど。

 

「何かお探しの物はございますか?よければ力になりますよ?」

 

「えっと…」

 

できるだけこちらの世界に来たら、提督と蒼龍。そして提督の家族と以外はあまり

関わるつもりがなかった。だからこうして声をかけられると、ちょっと困っちゃう。

 

「じゃあその…動きやすそうな服を探しているんです。あ、でも御洒落な感じがいいです」

 

まあでも、せっかく声をかけてくれた人だし、頼ってみるのもいいかもしれない。そこで私は、このメガネの人に頼ることにした。

 

メガネの人は胸元を叩くと、「私にお任せください!」と、威勢よく言う。そこまで気合を入れることなのかなぁ?

 

「じゃあまず、こちらの方に…」

 

とりあえずメガネの人に導かれ、私は店内を歩いて行く。そしてしばらく歩くと、先ほど蒼龍に連れられた場所へとたどり着いた。

 

「え、ここですか?」

 

「はい。例えばこれです」

 

そういって、メガネの人は服を取り出します。へえ袖が無い服ねぇ…確かに涼しそうだし、動きやすそう。

 

「こちらに、こうして…薄地のパーカーを着せると…。どうでしょうか?」

 

なるほどね。確かにこうすれば、動きやすそうだし、おしゃれにも気を使ってる感じ。後これにさっき蒼龍が選んでくれたホットパンツを合わせると、完璧じゃないかな?

 

「へぇ…これもいいなぁ。ぜひ参考にさせていただきますね」

 

「はい。ところで…あちらの二人とは、知り合いなのですか?」

 

ふと、メガネの人は向こうへ目をやる。そこには提督と蒼龍がいて、アクセサリーを選んでいるようだった。二人の楽しそうな顔が、ちょっと妬けちゃうな。なんだかんだ言って、二人とも一緒に行動してるじゃない。

 

「ええ、まあ…そうですよ?それが何か?」

 

「いや、以前接客させていただきましてね。ちょっと気になりまして…」

 

「へぇ。そのとき、二人はどんな感じでしたか?」

 

わたしの問い掛けにメガネの人は、うーんと考え込むしぐさをする。そしてしばらくして―

 

「こちらまで和やかにさせてくれるほど、ほほえましい感じでしたよ」

 

 

 

 

さてさて、しばらくして俺を含む三人は合流を果たした。

 

まあ正確に言うと、途中に蒼龍と合流してその後飛龍と合流した感じ。飛龍は買い物かごにパーカーやノースリーブのシャツなんかを入れていて、それなりに満足のいくものが選べたらしい。ちなみに蒼龍はと言うと、今回何も持っては来なかった。どうやらいい服は見つからなかったっぽいな。

 

「どうよ?いろいろ見つけてきましたよ。これとこれを合わせると、良い感じだと店員さんが言っていましたし、わたしはこれが欲しいかなぁ」

 

ノースリーブにパーカーを重ねて、それを自分の体に当てる飛龍。うん、店員に聞いたのは、良い判断だったかもしれない。今までで一番しっくり来ている気がする。しかし、おせっかいな店員もいたもんだな。着合わせの良し悪しをも教えてくれるとは。

 

「しっかしお二人とも、何かを一緒に選んでいたようですけど、何を選んでいたんです?あ、ひょっとしてお揃いのアクセサリーとかです?」

 

にやにやと笑みを浮かべて、飛龍は茶化してくる。む、そういうなら、こっちもこっちで早めに見せてやるかな。

 

俺は蒼龍に目線で促すと、蒼龍は頷いて、飛龍へとあるものを手渡した。

 

「え、なんです?これ」

 

ゆっくりと飛龍は手に取ると、不思議そうに眺める。シルバーでできた羽のネックレスだ。男物っぽいと言われればそうかもしれないが、しま○らにおいてある以上、女性にも使えると思う。つまり、男女どちらでも使えるんじゃないだろうか。

 

「それ、飛龍に似合うかなって」

 

「え、わたしに?」

 

「おう。まあ俺は服とか詳しくないし、とりあえずアクセサリーとかを選ぼうと思ったら、それこそ偶然蒼龍と鉢合わせてね。どうせなら一緒に選ぼうと思ったわけ」

 

まあ実際マジの話で、蒼龍の場合は服がダメならアクセサリーは選んであげたいと思ったらしい。結局一緒に選ぶことになって、飛龍の「飛」から、羽のアクセサリーがしっくりくると俺たちは合致した。

 

「え、えっと…あはは。うれしいですね。お二人が選んでくれましたし、じゃあこれもお願いしていいです?」

 

後頭部に手を置いて、照れくさそうに飛龍は言う。俺と蒼龍は声を合わせて、「もちろん」と、返答を返したとさ。

 

 

 

 

その後着替えた飛龍を車へと乗せ、俺たちは家へと帰る。

それからおふくろに事情を説明することになり、しばらくして親父も帰ってきた。

 

「…え、また一人増えたの」

 

親父は帰るや否や、いきなり切り出された話題に困惑の色を示した。

 

「ああ、飛田さんは龍子の…生き別れた姉妹らしい。で、まあ施設の関係上、携帯で連絡が取り合えるようになって、こっちに会いに来たそうだ」

 

「はい。飛田龍美です。お邪魔しております」

リビングで座っていた飛龍は立ち上がり、親父へと頭を下げる。親父は「ああ、あなたが…」とつぶやき、たどたどしく頭を下げた。

 

「それで、親父。飛田さんから折り入ってお願いがあるらしい」

 

「ん?お願い、こちらにできることがあるならば、できる限りやらせていただきますけど」

 

へりくだった言い方で、親父は言う。ちょっと気味悪い。

 

「そ、それはうれしいお言葉ですね!えーっとその、大変ご迷惑をおかけることを承知の上ですが、しばらくこの家にいさせてはもらえないでしょうか?」

 

まっすぐと親父の目を見て言う飛龍。やっぱりこいつは、それなりに肝が据わっているらしいな。さて、親父はどう返すか。

 

「…。えっと、それはいつ頃までかな?」

 

何時頃か。まあしばらくって言っても幅広い。蒼龍のように半年か、あるいは短期ホームステイのように二週間くらいか。

 

「そうですね…。この夏が終わるころまで…ではだめでしょうか?」

 

飛龍の言葉に、親父はむっと顔を歪める。

 

「…ずいぶんと長いですね。そもそも、なぜ飛田さんは家に泊まりたいのですか?」

 

重圧的な雰囲気となった親父は、おもむろに椅子へと座る。厳つい顔が、さらに歪んでいるな。

 

だが、飛龍は引け越しではなく、あくまでも親父の目を見て真っすぐと口を開いた。

 

「勝手な理由ですが、わたしは姉の龍子とずいぶんと離れ離れになっていました。それからしばらく、龍子と連絡が取れませんでしたが、施設でお世話になった方に、連絡先を教えていただきました。そこからしばらくは通信などで連絡をとりあってましたが、やっぱり私たちは姉妹です。会いたくて仕方なかったのです。そして、わたしも夏休みを頂き、龍子も夏休みを頂けると聞きました。だから、夏だけ…ひと夏だけは、一緒に過ごしたいのです!」

 

 その言葉から、しばらく沈黙が続く。おふくろはしびれを切らして親父に耳打ちをしようとするが、親父はそれと同時に息を吐いた。

 

「わかりました。良いでしょう。ですが、あいにく寝る場所が望の部屋、あるいは若葉の部屋になってしまいますが、よろしいでしょうか?」

 

え、意外とあっさり決めたな。親父どうした?

 

「やったぁ!やったね!ひ、龍美!」

 

と、そんな疑問を打ち消すように、蒼龍が飛龍へと抱き着いた。おいおい、危ないな、ちょっと噛みやがったぞ蒼龍。

 

「うん!龍子!これでしばらく一緒だね!」

 

飛龍もそれに乗じて、二人は抱き合う。まあ二人が幸せそうで、何よりだ。

 

だが、俺は幸せにはなれなさそうだと、次の発言で理解する。

 

「まあ、飛田さんの金銭面は、望が補えるだろう?なぁ?」

 

「え、ちょ、まっ」

 

親父の唐突すぎる恐ろしい発言に、俺は一気に苦い顔になる。ちょ、まてまて!

 

「彼女の面倒は、自分で見る。男として当たり前だろう。だから、彼女の妹の面倒も、見なきゃダメだろう」

 

「横暴だろぉおおおお!」

 

この夏は、楽しい夏になりそうだ。財布は、今年一番の寒気なりそうだけどね。

 




どうも、約一週間もかかってしまいました。卒論発表会が終わったと思ったら、今度はゼミ課題により江戸時代の役職『座頭』を中心とした史料調べることに、やってられねぇ!

さて、今回はその為か構成が甘いです。一週間も待たせてこれかい!と思った方は申し訳ありません。一応、飛龍が七星家へと滞在するのは完結に済ませるつもりでしたが、その前の話が長くなりすぎました。ついでに、2話のオマージュ的な感じにもなりましたね。成長した蒼龍と、新たな文化を知る飛龍。そんな感じがおぼろげなテーマでしたね。

次回から、一話完結系に戻るかと。
それでは、また次回。


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お散歩して、参拝しますよ?

今回の話は、若干マニアックな話が出てきます。要するに地元史なんで、わかる人にはわかるネタかもしれません。


早朝。太陽が昇り始め、薄明る光が窓から差し込む時間帯。もちろん寝ているのは言うまでもないけど、俺は揺すられる感覚を覚えて目が覚めた。

「提督!もう朝ですよ!ほら、起きてください!」

 

この声は、間違いなく飛龍だ。こんな時間にいったいどうしたというんだ。

 

「はぁ…?まだ5時じゃないか、起きるのにはまだまだ早いぞぉ…」

 

そう言って、俺は再び布団を被る。ふと横を見れば、蒼龍もまだ寝ているようで、この家で起きているのは俺と飛龍だけらしい。

 

「なーに言ってるんです?この時間帯は普通起きる時間帯です。ほら、起きてください!」

 

そう言うや否や、飛龍は俺の布団をガバッと剥がした。なんつうベタな事を…。

 

「だー!そっち側の普通はそうかもしれないけど、こっち側の普通はだいたい寝ている時間なの!返せ!僕のオフトゥンを返せー!」

 

「あぁ、めっ!ほら、さっさと着替えてくださいよぉ。私、着替えるまでここを動きませんから!」

 

飛龍はそういって俺に取られまいと、布団に包まりそのまま座り込む。剥がそうとするが、ふてくされた顔をしながら、強い力で布団を握っているようで、一向に剥がれる気配がしない。ミノムシかお前は。

 

「こんのやろお…。ったく、少し動いたら目が覚めたじゃないか…。ほんと、まったくよぉ…」

 

昨日は夏休み最初の日ということで某戦車ゲーをやっていた為、床に着いた時間がえらく遅かった。まあ、だいたい2時くらいだったか。ともかく三時間くらいしか寝てないわけで、目覚めたのはいいけど体が相当だるい。俺はエジソンよろしく、約三時間寝れば大丈夫時な体じゃないんだ。

 

 とりあえず文句を言いつつ着替えを取り出し、ふと飛龍の方を見る。彼女は俺の布団にくるまったまま、もぞもぞと動いていた。何をしているんだこいつは。と、思った刹那―

 

「ふふふっ、提督の匂いがしますね」

 

飛龍は唐突につぶやいてきた。どうやら姉妹揃って、匂いフェチらしい。男特有のにおいを嗅いで、何が楽しいんだか。まあ男が女性の臭いが好きなのと、同じ理由なのだろう。極論なのは、わかってる。

 

「…あの、着替えるんだけど」

 

そうだ、普通に会話していたから思わず指摘し忘れるところだったけど、着替えるってことは即ちパンイチになるからね、飛龍には出て行ってもらわないと。しかし。

 

「え。あ、はい。どうぞ」

 

 などと、彼女は意味の解らないことを供述しており、俺はハトが豆鉄砲を食らったような気分になってしまった。

 

「どうぞ?いや、どうぞじゃないでしょう。出て行ってください」

 

「出て行ったら、また寝ちゃいますよね?見張ってないと」

 

布団にくるまったまま、ドヤ顔をして言う飛龍。いや、寝ないから。さっき体が目覚めたからって言ったから。ああ、蒼龍助けて。この子常識が通用しないの。

 

「いやいや、お前何言ってんの?」

 

「気にしないでください。私、大丈夫なんで」

 

「お前が大丈夫でも、俺が大丈夫じゃないんだよぉ!」

 

 よく女性の着替えをのぞき見しようとするのは聞くけど、堂々と女が男の着替える姿を見るなんて聞いたことが無いぞ。てか、大丈夫ってなんだよ。何が大丈夫なんだよ。

 

「あのぉ…うるさいんですけどぉ…」

 

俺と飛龍の激しい口論が繰り広げられている中、聞きなれた声が耳へと入った。声の主は言わずと蒼龍で、どうやら起こしてしまったらしい。

 

「…二人ともなにしてるの?」

 

目元をこすりながら言う蒼龍。まだその声は、寝ぼけてるようだ。

 

「あの、助けて」

 

「んー。えっ?」

 

俺のSOSに、蒼龍は目を見開いて、状況を把握したのだった。

 

 

 

 

「いやーごめんごめん!怒らないでよ蒼龍!冗談だって!」

 

あははと笑いながら、飛龍は陽気に謝ってくる。結局、蒼龍に怒られた飛龍は俺の着替えを見ることなく、外へと出されたのでしたとさ。

 

「もう。飛龍は仮にもお客さんなんだからね!それに、望をからかわないで!」

 

ぷんすかと起こる蒼龍。ほおを膨らませて起こるところがやっぱり可愛いのは、もはや周知の事実だろう。だけど我慢はできず、思わず突っついてしまう。

 

「あっ、もう。なんですか?望まで私をからかうの? もー!」

 

蒼龍は仕返しのつもりなのか、俺の頬を軽くつねってきた。もっとも、手加減してくれる優しいつねりで、正直その痛みすら心地良い。

 

「しかし!朝のウォーキングはやっぱり気持ちがいいですねぇ~。そう思いません?」

 

体を伸ばして、飛龍は声を出した。唐突に話題を変えてきたなお前。まあ確かに悪いものじゃないけどね。むしろ清々しい気分にさせてくれるのは、確かだ。

 

飛龍が俺を早急に起こした理由として、どうやら町の紹介がてら、ウォーキングをしたかったらしい。どうせなら日課のランニングをする際に、付き合わせて紹介したほうが手っ取り早いと思ったが、飛龍が楽しそうで何よりって感じか。

 

「どこまで歩くつもりだ?あ、てか、どれくらい歩きたいわけ?」

 

ともかく立案者は飛龍だし、彼女の判断に任せた方がいいはずだ。さすがに町の隅々までとか言われたら困るけど、こいつもそこまでは求めていないはず。

 

「えーっと、気の済むまでですかね!」

 

にこっと笑いかけ、飛龍は言う。そうですか、気の済むまでですか。それってどこまで歩けば気が済むんですかねぇ。せっかくこんなに朝早く起きたのに、ただ歩くだけじゃ時間ももったいない気がするぞ。

 

「あーじゃあさ、目的地決めようか。気の済むまでだと、ぶっちゃけ俺たちはつまらんからね」

 

さすがに二十年近く住んでいる町だからね。なにより毎日のようにここらを走っているし、すでに見慣れた景色になっているのは言うまでもない。蒼龍だってもう、見飽きているはずだ。

 

「そうです?じゃあ、何処にします?私良く知りませんから、ご自由にどうぞ」

 

俺と蒼龍は、それぞれ明後日の方角を向いて考え始める。目的地を決めようと言ったのはいいけど、それを何処にするかまでは決めてなかったな。

 

「あ、じゃあ、あそこはどうかな?」

 

はっと思いついたように蒼龍は言うと、俺と飛龍へにっこりとと顔を向ける。どうやら良い場所を思いついたようだ。

 

「んーどこだ?」

 

「神社ですよ!神社!」

 

 

 

 

蒼龍の案は早速採用され、俺たちは雑談を交えつつのんびりと歩き、近くの神社へと足を運んだ。

 

家の氏神であるその神社は、三重県に大社がある神社で、つまりは分社の一つと言うわけ。どうやら結構昔からあるらしく、鳥居や階段はずいぶんと苔むしているのが印象的だろう。

 

「わあ、長い階段!神社って感じで、この階段が結構好きなんですよね」

 

俺たちは鳥居の前で一礼をすると、くぐってすぐに見える長い階段を見て、飛龍が歓喜の声を上げる。良いところに目が行くね。俺も神社によくあるこの長い階段が、割と好きなんだ。

 

「私、ここ来たの初めてだなぁ。望、ここはどんな神様がいるの?」

 

階段を見上げていた蒼龍は、ふと俺に聞いてくる。しかし、居るか。まあ、別れた霊体がいるんだろう。

 

「えっとね、確か蛇らしい。あと、ここは俺たち地元民にとって大切な場所でもあるかな。地元で最も大きい、毎年秋に行われるの祭りで、武術を民間芸能へ変換させた演武を行う場所にもなってるんだ。まあいわゆる奉納演舞で、神社の前で舞うことで神様へその演武自体を奉納して、厄を払うと言われているそうだ。他にも火縄銃を使った鉄砲隊―あ、変な解釈しないようにあえて言っておくけど、空砲を発砲して無病息災をねがったりもする。まあ地元民にとっては、なじみ深い神社だねー」

 

実際、演武は小さいころから見慣れたことだけど、毎回見るたびに心がワクワクする。何よりも大胆な動きは当然迫力があって、一つ一つの行動に意味があったり、知れば知るほど面白いんだよね。

 

まあだけど、俺の説明に対して蒼龍と飛龍はただ「へ、へぇ~」と言葉になっていないような、微妙な返事をしてくる。

 

「え、つまらなかった?」

 

「いや、何を祀ってるかを聞いただけですし…」

 

とはいうもの、申し訳なさそうな笑みを浮かべる蒼龍。まあそういわれればそうなんだけども、やっぱり概要とか説明したいじゃない。地元史って、割と面白いんだけどなぁ。

 

「演武って言われても、私たちあまり興味が無いからなぁ。だって艦娘だし。特に私たち空母で、剣とか槍とか使わないから」

 

確かに飛龍の言う通りだ。お前たち弓術だもんね。と、なれば流鏑馬とかは興味があるのかな?いや、まず艦娘は馬に乗れるのかなぁ。でも訓練を積めば、早い段階で乗れちゃいそうだ。センスがよさそうなのは、間違いないだろうし。

 

「ま、まあそうだね。ほら、ともかく本殿へ行こうぜ」

 

とりあえず微妙な空気となってしまったので、俺は語ってしまったことを後悔しつつ、我先にと階段を登り始める。後ろの二人は少し距離を置きつつ、着いてくる形で登ってきた。

 

さて、何とか階段を上り終えると、正面に見えるのは古びた本殿。その少し離れた位置には苔むした手水舎があり、またまた少し離れてお守りを売る別棟もある。総じて言えることは、よくある神社の風景だ。ちなみにさっき長々しく説明してたけど、演武を行うのはあくまでも本殿前で、神楽殿のような場所で行うというわけでな無い。

 

「おお。なんというか、ザ・神社って感じですね」

 

飛龍たちも階段を上り終えたのか、きょろきょろと敷地内を見渡して、率直な感想を述べてくる。ザ・神社ってなんだよ。まあ、言いたいことはわかるけどね。

 

「さて、まずは手を清めようか。やり方はわかるよな?」

 

正直な話、艦娘達は神社に参拝しに来るんだろうかと疑問が沸き上がった。海の近くには当然、海の神を祀る神社があるだろうけど、彼女たちに御参りと言う行為が教えられているのかは知る由もない。だからこそ、湧き上がらない方がおかしいと思う。

だが、飛龍は腰に両手を当てると、自信満々に言葉を返してきた。

 

「当り前じゃないですか。常識ですよ。じょ・う・し・き。もちろん蒼龍も、わかるよね?」

 

「まあ、さすがに知らないと日本人じゃないよね…」

 

さすがにこういう作法は、鎮守府でも教えられているのかな?まあ、そういう事で、俺たちは早速清めの作業に取り掛かる。

 

まず右手に柄杓を持つと、手水舎にたまった水を汲み、左手を静かに清める。次に左手に持ち変えると、今度は同じように右手を清める。次に口も清めないといけないから、再度右手に持ち替えて左手に水を受けると、口へと運び、軽くすすいだ。

 

チラリと横目で見ると、蒼龍も飛龍も同じように作法をこなす。さすがにこの二人がやると、絵になるね。大和撫子万歳。

 

さて、そんなことはさておいて、最後にもう一度左手を水で清めると、柄杓を伏せる形で元へと戻す。あいにく白いハンカチは持っていないから、致し方なくガラ付きのハンカチで拭った。こればかりは、仕方ないと思ってほしい。

 

「よし、ちゃんとできてるじゃないか。いわく地域によって作法が若干違うと聞くけど、どうやら共通した作法だったね」

 

俺も聞いた話でしかないけど、地域ごとで若干この作法は異なるという。実際はどうか知らないけどね、さすがに調べたことはない。

 

「そうなんです?私が教わったのは、これですねー」

 

「うん、私もー。望も一緒だったし、細かいことはいいじゃない」

 

そうだね。神道に通ずる方々には申し訳ないけど、深くは追及しないでおこう。さて、お待ちかね?の本殿参拝と行こうじゃないか。

 

「えっと、確かできるだけ左側を歩かないといけないんだっけ?」

 

飛龍の問いに、俺は「うむ」と頷く。

 

「そうだね。中央は神さまの通り道なんだ。俺たちが通っていいような場所ではないと、思っていた方がいいかもね」

 

 さすがに混雑時とかは妥協しなければならないけども、基本はそういわれている。小さいころそれで親父に怒られたっけな。「畏れ多いぞ望っ!」ってさ。

 

 「あ、鈴がありますよ。鳴らしてもいい?」

 

 上につるしてある鈴を見て、蒼龍は目を輝かせて俺へという。どうぞご自由に。鳴らすのは誰でも良いだろうし。

 

 ガラガラと音が響き、俺たちは静かに賽銭箱へと銭を投げ入れる。できるだけ音を立ててはいけないんだけども、どうしてもなっちゃうのは、是非もないよね。

銭が入ることを確認すると、俺たちは二拝二拍をこなす。

 

―どうか三人共々、ケガや病なく過ごせますように。

 

俺は願い事を心の中でつぶやくと、最後の一拝を深々とこなす。本来は願い事をするのではなく、日ごろの行いを報告するのが望ましいとか聞いたことあるけど、それはいったん置いておく。欲深い願いではあるけど、神様が答えてくれることを、今は望むだけだろう。

 

 

そう、望だけにね。

 

 

 

 




どうも、最近深夜投稿が多いな飛男です。課題は突っ返されました。トホホ…。
今回はまあ冒頭こそギャーギャーとわめいていますが、後半は少々真面目な内容となってしまいました。一応私が理解している手水舎の作法や参拝の作法を記述していますが、本文でもある通り地域で若干の違いがあるそうです。詳しくは私も調べてはいませんけどね。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう!


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★武術ですよ?

久々の黒星回です。あらすじにも注意書きがありますが、コアな内容になっておりますので、飛ばしても構いません。

それと、途中何を書いているかわからなくなってきました。スランプかなぁ。


互いの技をぶつけ、剣が乾いた音を散らす。

奇声に似た高い声が響き、地面をバシリと踏み込む音も、また重く伝わってくる。

 

私たちは現在、道場にいます。望の練習風景を見たくて、飛龍と一緒についてきました。

 

道場には、総勢20人がいます。それぞれ皆さんは「たれ」と呼ばれる防具に、所属の県と名前の書かれたネームプレートのような物をつけて、判別することができます。

 

まあでも…。そんなものを見なくても、望は一目見ればわかりますけどね。え?恋人だからって?もちろんそれもありますけど、望はこの道場において一人しか使っていない、特別な流派を、使っているのが答えです。

 

「イヤァー!」

 

望の声が、道場に響きました。同時に稽古相手の方も、声をあげます。

小さい動作で放たれた面が、望に向かっていきます。剣道界では通称『刺し面』と呼ばれる技らしくて、素早い人ではコンマ何秒の世界で竹刀が降られるそうです。

 

それに対して望は、道場で望しか持っていない、短い竹刀を使います。望もまた小さい動作で、体を動かすと同時にして、擦るように『刺し面』をいなしました。そして、同時に右足を前に出します。

 

刹那。バシンという音が道場に響きます。他者の面打ちに負けないくらいの音は、右手に持たれた竹刀から発せられます。

 

そう。望はこの道場で唯一、二刀流を使うのです。

 

「はえー!二刀流って片手でもあれだけの音を出せるんだぁ」

 

私の横で見ていた飛龍が、窓の桟を強く握りながら言いました。どうやら興奮しているようで、体がうずうずとしています。

 

「私も初めて見たときは驚いたなぁ。そもそも、二刀流の剣士って、あまり見たことなかったし。剣道に二刀流があること自体、知らなかったなぁ」

 

望から聞きましたが、二刀流は大学生からでないと使えないそうです。高校生までは、上段までしか許されていないとか。その上段でさえも、中学生までは使えないそうです。

 

理由はよく知らないそうですが、考えられる理由として、団体戦において引き分け要員として使われるのが、非スポーツマンシップ行為だからだそうです。まあ、あくまでも望の憶測なんで、本当かどうかは知りませんけど。

 

「でも、提督しか二刀流は居ないんだね?どうしてだろう?」

飛龍は不思議そうに、きょろきょろと道場の中を見渡します。 私も初めて見たときは、望に同じ質問をしたなぁ。上段はそこそこいるけど、二刀は望しかいないもの。

 

「えっとね。望は高校生の時、左手を負傷したそうなのよ」

 

私も聞いただけだけども、望が高校一年生の頃。上達する為、とにかく竹刀を振っていたようで、筋肉痛など顧みず、ひたすら剣を振り続けていたみたい。ですが、さすがに左手にガタがきちゃって、そのまま中段で構える事ができなくなってしまったようです。

 

「え?だから二刀流になるの?」

 

「うーん、そこからね。ほら、今ここの方々は左上段を使っているじゃない?でも、望は左手を壊してる。だから右手を主体にした、右上段をコーチに勧められたそうよ?」

 

右上段は、いわば二刀流の基礎になる構えの一つだそうです。一般的な左上段と違って右手から竹刀を放ち、高い威力とリーチを誇ると聞きます。

 

「あ、そっかぁ!二刀流は右手に長い竹刀を持って、左手に短い竹刀を持つから、自然と練習が出来たってことね?」

ひらめいたように、飛龍はポンと掌を叩きました。どうやら理解できたみたい。

 

「そういうこと。あと高校生の時には既に、コーチから二刀流に変えるように勧められてもいたみたい。そして練習の合間を縫って、二刀流の練習もちょっとはしていたそうよ?」

 

飛龍が納得して、再び窓から練習風景を見ようとすると、既に竹刀の音が鳴り止んでいました。道場の方々は皆上座側を向いて、面を外し始めます。

 

「では、10分休憩を取りたいと思います。礼ッ!」

 

上座側に座っている初老の人が声をかけると同時。上座側に向いている方々は一斉に礼をしました。どうやら、休憩時間のようです。

 

 

 

 

面紐をくるくると巻いておくと、俺は腰を伸ばしつつ道場を出て行く。

 

しかし疲れたもんだ。夏の練習は言わずとキツくて、普段は発汗が良くない俺でも、汗の量がハンパない。まあだけど、その汗をかくのが気持ちいんだよね。

 

「おーい七星くん!ちょっと待ってくれよ!」

 

俺がタオルで汗を拭きながら歩いて言うと、疲れた顔つきでおっさんが駆け寄ってきた。名前は平沼さんと言って、稽古相手になってもらうことが多い。背丈体格と同じようで、打ちやすいのが理由だったりする。

 

「あ、すいません。早く水が飲みたくて」

 

「いやぁそれはわかるよ。じゃあ行こうか」

 

平沼さんもタオルで汗を拭きながら、外に設置してあるウォータークーラーまで歩いて行く。ちなみに平沼さんは、ものすごい汗の量だ。胴着がびしょびしょになっている。

 

「あ、望お疲れ様!」

 

ウォータークーラーまで歩いて行くと、ポカリを持った蒼龍が待っていた。そういえば外から見ていたっけ、集中して気がつかなかった。

 

「おや、蒼柳ちゃん。まるで七星くんの専属マネージャーだねぇ」

 

はははと笑い、平沼さんは茶化してくる。 まあマネージャーっぽい事をしてるのは、間違いないけど。こうしてポカリを差し入れてくれるし。

 

「ていと…じゃないや。えーっと、七星くんすごい!二刀流を使うなんて!」

 

飛龍は目を輝かせて、俺に称賛の言葉を投げかけてくれる。まあ高校時代の延長が、そのまま本格的に、打ち込むようになっただけの話なんだけどね。剣道だけに。うん、滑った。

 

「んっ…。それにしても汗臭いや。七星くん、こっち来ないで?」

 

先ほどまで目を輝かせていたのに、飛龍は近づくや否や、うげっと顔を歪めて言う。まあそんなことを中学時代から言われ慣れてるし、気にならない…けど。

 

「ははは…。まあ剣道は蒸れるからね。臭いのは許してくれるとありがたいかな」

 

そんな飛龍の失礼な言葉に、平沼さんは苦笑いを浮かべる。初対面の平沼さんにまで被害をこうむってしまったから、正直申し訳ない。

 

「それにしても、以前は蒼柳さんだけだったけど、こちらの活発な娘は初対面だね」

 

「はい。私の妹です。名前は飛田龍美って言うんです」

平沼さんの言葉に、蒼龍は代わって自己紹介をした。飛龍はまあ言う手間が省けたと、うんうんと頷く。

 

「へぇ。確かに似てるねぇ。あ、双子さん?僕、双子を始めてみたなぁ」

 

「割とこの市にはいるそうですけどね。自分の友人にも、男の双子がいますよ」

 

まあ言うまでもないけど、雲井兄弟のことだ。そういえばあいつらにも、飛龍を紹介していなかったな。後に紹介しに行かないとな。話を合わせるために。

 

「はあ…それにしても、私うずうずして来ちゃったなぁ」

 

じっくりと俺と平沼さんの姿を見ると、蒼龍は唐突につぶやく。何にうずうずしてきたんだろう。

 

「あ、あはは…。すいません。私も…いや、私たちも一応武道はやっていたんですよ」

俺と平沼さんの表情を見て、蒼龍はハッと気が付いたように理由を述べる。ああ、そういう事か、合点がいった。

 

「あ、そうなんだ。何をやっていたんだい?」

 

「弓術ですね。段位とかは持ってないんですけど」

 

愛想笑いのような表情の蒼龍に、平沼さんは感心したような声を上げる。たぶん平沼さんは弓道のことを思い出しているんだろうけど、違いますからね。言わないけど。

 

「そうかぁ…弓道かい。僕らとはまた違う武だけども、立派な武だね」

 

「あっ…。ありがとうございます!」

 

蒼龍は深く感激したように、頭を下げる。弓道とは少し違う武なのだけれど、それでも弓と矢を使う武だ。多少の相互は、関係が無い。

 

「しかし、どうせなら弓道場に行けばいいんじゃないのかい?近くにあるんだし、もったいないじゃないか」

 

その言葉に「えっ?」と、蒼龍は俺に顔を向けてきた。え、近くに弓道場があるって…聞いたことないんだけども。

 

「いや、ほら。金城公園には弓道場が最近できたじゃないか。最近と言っても三年前くらいだけれども。もしかして、蒼柳さんは地元出身じゃないのか」

 

城金公園は、さくらまつりが行われたあの公園だ。実はかなり広くて、草野球や少年野球の練習を主にやっている野球場、少年サッカーチームがよく練習しているサッカー場がある。しかし、それ以外にも弓道場ができたなんて、これっぽっちも知らなかった。ちなみに城金公園は、これでも市内では二番目に大きい公園だ。一番大きいのは、新緑公園と言う場所で、市内の森がそのまま公園になったような場所。

 

ともかく、三年前は入試の準備とかもあってゴタゴタしていたし、そもそも弓道をまったくもって知らない俺にとって、興味のなかった話でもある。故に調べることなく、地元には弓道場が無いって言い張ってしまった。灯台下暗しとは、まさにこのことか。

もっと早く知っていれば、蒼龍も訓練を怠らずに済んだだろうに。まあ現代にいる以上は、発揮する機会がほとんどないだろうけど。

 

「はっはは!なんだ、七星君も知らなかったのかい?じゃあ良い機会じゃないか。道具はいいものじゃないけど貸し出してくれるだろうし、蒼柳さんは昔の感覚を思い出すくらいなら、十分にできるんじゃないかな?」

 

笑いながら言う平沼さん。教えてくれたのはありがたいんですけども、先ほどから蒼龍が苦い笑いでこっちを見てくる。いや、マジで知らなかったんです。地元だからって調べを怠っていたんです。はい。

 

「まあ、機会があれば行ってみるといいよ。そろそろ休憩時間も終わりだね。行こうか七星くん」

 

そういうと平沼さんは、道場の方へと歩いて行く。後に残るは、蒼龍のため息だった。

 

「まあ。望はそういうところあるよね。私も調べなかったし、お互いさまかな」

 

「うん…その、面目ない。ともかく、今日見に行くだけでも行こうか」

 

蒼龍は「わかりました!」とにこやかに言うと、再び飛龍と共に、窓の方へと歩いていった。

 

 

 

 朝の練習も終わり、昼頃。とりあえず飯は家に帰ってから食べるとして、俺たちは平沼さんに教えてもらった弓道場へ足を運ぶことにした。

 

ちなみに飛龍には汗臭いと言われないように、シャワーは浴びておいた。まあ火照った体を覚ますために水のシャワーを浴びたおかげで、ずいぶんと気分もさえている。剣道後の冷水シャワーは、本当に気持ちがいい。

 

「ほら、着いたぞ」

 

とりあえず入りやすい、下の駐車場に俺は車を止める。本日は日曜日なだけあって、家族連れも多い様だ。公園に近い場所は大体埋まっていて、少々遠い場所に止める羽目になった。

 

車を降りると、飛龍と蒼龍はそれぞれ体を伸ばす。俺も車に鍵をかけると、二人の肩を叩いて進むように促す。

 

「あっ…ここ」

 

そんな中。蒼龍がふと言葉を漏らした。彼女の見る場所は、バイクの駐車場だ。

 

「数か月前か…。まあ、あの時は本当に大事に至らなくてよかったな」

 

「ええ。あの時、望さんが来てくれなかったら、どうなっていたことやら…」

 

しみじみと思い出すように、俺と蒼龍はその場所を見る。おそらく蒼龍にとって、現代は思った以上に危険な場所であることを、再認識させた場所だろう。あちらの世界ほど、単純ではないということも。

 

一方、まあ当たり前だろうけど、飛龍は状況を把握できず、俺たちをきょろきょろと見始める。

 

「え?なに?あの場所はなんなの?」

 

「いや、なんでもないさ。ほら、行こうぜ」

 

説明するのも面倒だし、今度は蒼龍と飛龍の背中を押して、前へと進むように促した。おそらく蒼龍だって、これ以上思い出したくないだろうしね。怖い思いをしたし。さっさと目的地へと足を運ぼう。

 

駐車場から公園内へと入るための階段を俺たちは上ると、以前さくらまつりの際に場所取りをしていた場所を通り、さらに奥へと進んでいく。

 

途中に公園内の地図があったから、念のために場所を確認しておく。先ほど平沼さんに改めて場所を教えてもらったけども、あくまでも大まかな場所で、詳しくは向こうもわからなかった。まあその説明で大体の位置は分かったんだけども、やっぱり念には念を入れないと。

 

「あーここにあったのか。以前あった、人気のない喫茶店がつぶれたわけね」

地図には喫茶店があったであろう場所に、白いテープで上書きされ、弓道場と記してあった。確かに横に長い喫茶店だったし、改装して弓道場にするにはもってこいの場所だったとは思える。

 

さて、場所が分かればこっちのものだ。後は軽く歩いて、5分くらいで弓道場へとたどり着く。蒼龍と飛龍を見ると、少々汗ばんでいて、妙に色っぽく感じた。眼福じゃ。

 

「んっ…いま的に中る音が聞こえましたね」

 

そんな蒼龍を見ていると、熱さゆえに少々前のめりになっていた姿勢を、ゆっくりと起こした。確かにスパンと、音が聞こえた気がする。

 

「あ、本当だ。誰か射ているのかな?」

 

飛龍と蒼龍は一度顔を見合わせると、そのまま道場の仲へと入っていった。俺も一歩遅れて、彼女たちについていく。

 

「うわぁ…きれいな人だなぁ」

 

彼女たちに追いつくと、その視線の先には、長い黒髪を持つ、女性の姿があった。つややかなその髪質は、見る物を魅了するであろう。まあ、蒼龍だって負けてないんだけどもね

 

まあそんなことはさておき、その女性はこちらに気が付いておらず、静かに矢を射るモーションに入る。まさに流れるようで、無駄のないその動きは、一枚の絵画のようだった。

 

「はぁ…すごいなぁ。あれだけ軸がぶれないなんて。私たちも見習わないと」

 

ふんふんと飛龍は感心するように、小さく声を出す。俺には弓道のことなんてさっぱりだ。剣にしかいきてなかったもの。

 

「…ねえぇ飛龍。あの人誰かに似てるよね。えっと…」

 

「赤城さんじゃない?でも、艦娘には見えないかなぁ。だって、艦娘っぽくないじゃない?」

 

まあ確かに赤城には似てる気がするが、あくまでもそっくりさんだろう。俺にも最近になってわかるようになったけども、艦娘特有の雰囲気を持っていないんだよね。言葉では説明できないんだけども、艦娘には彼女らが持つ特有の魅力があるんだ。だが、目の前の女性にはそれが無い。スター性は、どちらかというと持っていそうだけども。

 

 

 

 

さて、それからしばらく俺たちは黙ってその女性を見ていたが、どうやら一区切りついたようで、その女性は「ふう」と、息をついた。そして、やっとこちらに気が付いたようで、にこやかに笑顔を見せてくれた。

 

「あ、どうもこんにちは。えっと、今日は二時まで私の貸し切りになっていたはずですが…」

 

「え、そうなんですか!?あ、その…すいません」

 

どうやら貸し切りのところ、勝手に入ってきてしまったようだ。そのことに気が付かなくて、俺たちは思わず頭を下げる。だが、女性は「お気になさらず」と、軽く答えてくれた。

 

「その…とってもきれいな動作でした!私、純粋に尊敬します!」

 

女性が答えて直ぐに、蒼龍が率直な感想を述べて、話を切り出す。純粋無垢なその言葉に、女性は照れくさそうに頬を掻いた。

 

「あはは、ありがとうございます。ひょっとして、あなたたちも弓道を?」

 

「はい!まあ、まだ…未熟なんですけどね。その、動作が我流のようなもので…」

 

蒼龍もまた照れくさそうに、たどたどしく答える。まあ厳密に言うとお前らは弓術だし、我流と言葉をあやふやにしたのは、良い判断だと思う。

 

「我流ですか。えっと、良い師に巡り合えるといいですね。我流は良い射を行えないので…」

 

まあ正論じゃなかろうか。俺だって剣の話だけども、いろいろと師に巡り合ってきて、最近やっと『武』としての剣を理解し始めたところだ。良い師に巡り合わなければ、限界があるのは間違いないとおもう。

 

「いつもこうして射を?」

 

蒼龍と女性の二人だけの世界となっていたので、飛龍もその中に割って入る。あ、これ俺ボッチじゃ。

 

「いつもじゃないですけども、基本休みはこうして射にいます。えっと、あなた方はここに来るのが初めてで?」

 

「はい。その、最近こちらに越してきたので…。存在を知るのに、時間がかかってしまいました」

 

「まあ。じゃあ、今日からここを利用しようと?」

 

「そうですね。あ、もしかして関係者の方ですか?」

 

あっと蒼龍は気が付いたように、女性へと問う。しかし、女性は小さく首を振った。

 

「いえいえ。私も利用客ですよ?ただ、よく通っているだけですので」

 

確かに貸し切りをできてしまうくらいだし、相当の常連さんなのは確かなんだろう。ひょっとして俺らが知らないだけで、この人は弓道界において相当な有名人だったりして。

 

「あーなるほど。そうだなぁ。私たちも今後、通わせてもらうことになると思いますけど、よろしいです?」

 

「それはもちろん!私、あまりお友達とかいなくて…。これも何かの縁ですし、よろしければこれを期に、お付き合いを始めませんか?」

 

にこやかに笑みを崩さず、女性は言う。そんな美人なのに友達とかいないんですかい…。

 

「はい!もちろんです!あ、お名前を聞いてもよろしいですか?」

 

「ああ、申し遅れましたね。私は南雲明日香と申します。今後、よろしくお願いしますね?」

 

ふふっと、楽しそうな笑みを南雲さんは作る。ん?南雲…?

 

「南雲さんですか!ん、南雲…?」

 

蒼龍は彼女の苗字を復唱するや否や、やはり記憶に引っかかったような顔をする。しかし、すぐさま表情を、元に戻した。

 

「えっと、どうしました?」

 

そんな蒼龍の表情を見逃さなかったのか、南雲さんは不思議そうな顔をした。

 

「い、いえ。ちょっと聞き覚えのある苗字だなと。まあ、気にしないでください!」

 

まあ人違いというか、同じ苗字なだけだろうね。それにしては、赤城に似てるんだけども。

 

 




どうも。唐突一週間ペースになってきてしまった飛男です。
どうやらスランプですかね…。うまく文章をまとめれてない気がします。ですが、一週間以内は守りますので、ご安心を。

さて、今回は題名の通り武道関係の話でした。まあやりたいことの一つで、純粋に望が使う流派を書きたかったわけですね。ちなみに二刀流は、本当に剣道でありますので、空想上の話ではありません。余談ですが、私も現在練習中だったりします。

では、今回はこのあたりで。また次回!


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旅行話、掘り下げますよ? 上

書いているうちに多くなってしまった。正直5000文字って、少ないと思うの。


昼食を食べ終わった俺たちは、のんびり自由に過ごしていた。俺は艦これ最中で、蒼龍と飛龍は漫画を読んでいる。中でも蒼龍は、昨日本屋で買った深紅の稲妻が帰還したらしいマンガを黙々と読んでいて、どうやらドはまりしたらしい。ガノタトークの幅が、広がりそう。ちなみに飛龍が読んでいるのは、以前も紹介した書道家島流し漫画だ。

 

「それにしても…」

 

実は今更ながら、飛龍が来たことにより、俺は多大なる損害を受けていた。

 

正確に言えば俺ではなく、鎮守府に…と、言った方が正しいだろうか。どうやらコエール君は彼女を飛ばしてくる際に、各資材を大量に消費していたのだ。その数は二万ほど。

 

そのため、現状どれもカツカツ状態になっている。日ごろ資材を貯めないのが裏目に出たんだよね。てか、そんなことで使うとか思わないじゃん。しかもうちの艦隊は、主に空母メインとして運用しているから、ボーキサイトがグロ画像よろしく悲惨な状況に陥ってる。

 

「お、終わったか」

 

そのためにも、のんびりとしたこういう時間は、主に遠征を回す羽目になっている。どうやら朝のうちに出していた遠征が終わったようで、鎮守府窓の右上に、それを伝える文章が出てきた。鎮守府窓ってこれも今更だけど、艦これの画面の事。

 

「おお、大成功。みんな頑張ったなぁ」

 

演習にちょくちょくと組み込んで、人員をキラ付けした甲斐あった。まあ、気まぐれのキラ付けだったけども。普段は面倒だから、やらない。

 

とりあえず艦娘達にねぎらいの言葉をかけるため、先ほど帰ってきたメンバーをそれぞれ、旗艦にすることにした。今回帰ってきたのはボーキ輸送任務だったから、駆逐艦たちばかりだ。

 

『朧。がんばりました。あ、この蟹も頑張りましたよ』

 

まず初めに、朧を旗艦にする。夏グラに変わっているから、バケツの中にいる蟹も一緒だ。余談だけど、朧って結構あったんやな。どことは言わないけど。

 

「そうかー。カニも頑張ったのかー。えらいぞーカニー」

 

『あ、朧もほめてくださいよ…。蟹はただ、ウロウロしていただけなんですよ?』

 

ちょっぴり不服気に、朧が言ってくる。冗談で言ったのに、蟹に嫉妬する朧は、まだ子供だな。しかしウロウロしてただけって、まったく頑張ってないじゃないか。おい、仕事しろよ。ちょこまか動いて、元気付けでもしてたのか?蟹。

 

「冗談冗談。朧も頑張ったな。えらいぞー」

 

まあ当然朧もほめるわけで、朧は「えへへ」と嬉しそうな声を出した。こういうあまり聞いたことのない艦娘の一声は、やっぱり新鮮さを感じる。

 

「じゃあ、また今度ね。他の子も言葉をかけないと」

 

『はい。提督、また今度に』

 

そういって、朧は旗艦から外された。正直な話、旗艦から外す際の艦娘達は、一部を除いてどこか悲しそうにしてくる。ちょっと罪悪感あるけども、こればっかりは仕方ないかな。

 

「さてと、次は…」

 

こうしてほかにも、不知火に文月、綾波と、全員にねぎらいの言葉をかける。不知火は相変わらず不服そうに言葉を返したけど、いざ褒められると喜びを隠しきれていなかった。一方、文月も相変わらずのんびりとした口調で喜びを表して。皐月はボクッ子口調なのは言わずもがな。ともかくこいつらが、総じて愛くるしいのは確かな事。ロリコンではない。

 

「さてと、艦これはいったん終えるかなぁ。どうせ連続遠征は、こいつらに負担もかかるし、ほかの奴に変えるだけ変えときますか」

 

以前の潜水艦勢のようにぎゃーすく言われるのは耳が痛いので、とりあえず控えの駆逐にして、再びボーキ遠征に出しておく。システム的に疲労とかないけど、気持ちの問題だと思うんだ。時にはガマンも、必要だけどね。

 

「あ、職務お疲れさま。どうだった?」

 

蒼龍は漫画を本棚に戻したついでか、いつの間にか俺の横に立っていて、結果を聞いてきた。やっぱりなんだかんだ言って自分の所属する鎮守府だし、気になるんだろう。

 

「うん。朧、不知火、文月、皐月が頑張ってくれたよ」

 

「へぇ。あの子たちも、ずいぶんとうちの鎮守府にいますよねー。あ、もしかして私より先輩!?」

 

全員ではないけれど、数人は確かそうだった気がする。特に蒼龍や飛龍が来る前―ともかく始めて間もないころは、ちょくちょく実戦にも出ていたはずで、今思えばかなり懐かしい。

 

「そうだねぇ。朧なんて特に古参だった気がするぞ。ここ一年くらいは実戦に出してすらないけど、不服とか多かった?」

 

 やっぱり初期勢は強い艦娘が来てしまえば、必然的に後方支援となってしまうことが多いだろう。それ故に、不服となるのは間違いないはずだ。

 

 だが、蒼龍は「うーん」とつぶやくと、俺に視線を戻した。

 

「そんなことなかったです。適材適所だから仕方ないと言っていましたね。なんだかんだ言って、大人なのよ、あの子たち」

 

そう思ってくれているのなら、良いんだけどね。やっぱり実戦に出たいとは思うだろうけど、実力的に遠征勢になってしまうのは仕方ないと割り切ってくれるのは、純粋にありがたいもんだ。でもやっぱり申し訳ないし、今度は気分転換目的で、簡単な実戦にでも出してやろうかな。

 

「ん…?あ、提督。スマフォが震えていますよ」

 

そんなこんなで蒼龍と話していると、漫画を読んでいた飛龍が、布団に置いていたスマフォこっちに渡してきた。どうやらマナーモードになっていたようで、バイブレーションだけに終わっていたらしい。彼女がいなかったら、気づかなかった。

 

「はいはい。っと、もしもし、お待たせしました」

 

とりあえず誰からかかってきたかわからないので、敬語を使って通話に出る。飯島さんだったり、平沼さんだったりしたら、失礼だろうし。

 

『おー、七星。出るのおせぇよ』

 

どうやらかけてきたのは、菊石だったようだ。変な気を使っちまったと、心の中でつぶやく。

 

「ごめんごめん。マナーモードになってて気がつかなかったんだわ。で、何の用だ?」

 

電話をかけてくるってことは、何か直接言いたいんだろう。それにしても、後ろで相変わらず工場の機械音がうるさいな。

 

 『ああ、今後の旅行について話し合おうと思ってね。ほら、大人数だろ?いろいろと安くなるプランとか考えないと』

 

 「あー確かになぁ。野郎共だけだったらカプセルホテルとかでもいいんだけども、さすがにこれだけの人数だと大変だわな」

 

 大学メンツの方はさておき、地元メンツだけでもフルに行けるとすれば六人になる。それに蒼龍たち艦娘も加わるわけだから、かなりの大人数になるのは間違いない。

 

『そうそう。だからさ、近々話し合おうってわけ。いつ空いてる?』

 

「今日でも大丈夫だぞ、やることなかったし」

 

『んーわかった。こっちは今日無理だから、また後日連絡するわ』

 

そういうと、統治は電話を切ったようだ。俺も耳からスマフォを離すと、息をついた。

 

「誰からだったんです?」

 

電話が鳴っていることを伝えた故か、飛龍は俺の両肩をつかんで聞いてくる。蒼龍も気になるようで、俺から説明されるのを待っているような感じだ。

 

「ああ、菊石から。旅行の件でね」

 

その答えに蒼龍は「あー」と声を出すが、飛龍は首をかしげてしまった。まあ分かれっていうのが無理な相談。

 

「俺の友人だよ。とりあえず、飛龍を紹介するには良い機会かもしれない。あ、そういえば蒼龍もこんな風に、奴らに紹介したっけか」

 

初対面の時の蒼龍は雲井兄弟にあれだけビビっていたが、果たして飛龍はどうなるだろうか。楽しみだ。

 

 

 

 

 家の地元は夜の11時頃、交通量が極端に減ってくる。家の地元はいわば大都市のベッドタウンで、帰宅ラッシュの時刻はとうに過ぎているからね。それこそ歩道には、酔っているらしいサラリーマンが、帰宅のために歩いている姿が見られるくらいだ。

 

今日は珍しく、車で奴の家まで行くことにし。何時もは歩いて雲井の家まで行くんだけども、今日は酒を飲まないこと前提に考えて、車を出したわけだ。

 

まあどうせ、蒼龍と飛龍は飲んじゃうんだろう。だからこそ、俺は平常心を保っていないといけない。言わずと蒼龍とはもう一線を越えてもいるから、酒が入ってしまったら、枷が外れることは間違いない。親しい中にも礼儀ありと言うように、奴らにはそれなりの配慮もしなければならないと思う。

 

 さて、車を奴の家に止めると、玄関のインターホンを鳴らす。しばらくすると、扉が開いて、奴が出てきた。

 

「おーう。待ってたぜぇ?」

 

出てきたのは浩壱だったようだ。どっしょっぱから厳つい面を持つ男が出てきちまったな。おそらく蒼龍はもう慣れた顔だろうけど、飛龍の方は…。

 

「あ、初めまして!私、飛田龍美と申します!」

 

奴が出てくると、飛龍はにこやかに挨拶をした。これは驚いた。てっきりビビるかと思ったが…。ちなみに、たいして蒼龍はまだ慣れないと言わんばかりに、若干恐ろしそうな顔をしている。毎回こいつと会う時、最初こうなんだけども、いい加減慣れたらどうだろう。

 

しかし、飛龍の行動は予想外だ。奴を見てもまるで動じず、『飛田龍美』を演じることができている。まあ、こいつらの場合は演じなくてもいいんだけども、初対面であるにもかかわらず動じないのは、相当肝が据わっているかもしれない。

 

「…ア、ハイ。って、なんで七星と一緒にいるんでぇ?その飛田さんがよぉ。見たところ…あんたも艦娘か?」

 

「え、あ、その、えっと。ていと…じゃないや。七星君どうしよう?」

 

独特のエセ江戸っ子っぽい言葉の浩壱に、むしろ飛龍は自分が艦娘であることを見破られ、驚いてしまっている様子だ。かなりドスが聞いている声なのに、飛龍はマジで怖いもの知らずというか…。もしや出会ってすぐに、浩壱の持つ根のやさしさでも感じているんだろうか。

 

「あー飛龍。こいつは大丈夫だ。こいつはこっちの事情を知っている。平沼さんや、ウチの家族とは違う」

 

「あ、そうなんですか。おかしいと思いましたよ。完璧に一般人を演じていたからさ!」

 

完璧かどうかは知らんけど、一般人を装えていたことは確かだ。飛龍はこう見えて、かなり頭が切れる艦娘だと、再認識をしなければならないな。さすがは、たった一人反撃をした艦だ。

 

「統治は?自転車が無いし、まだ来てない感じ?」

 

「ああ。だが、キヨは来ているぞ。ハートフルタンクストーリーのブルーレイを見た

かったらしいから、早く来たそうだ」

 

ハートフルタンクストーリーってまあお察しの通り、戦車道とか言う武道らしきものをやるあのアニメ。キヨは海から、陸へと鞍替えした男だからね。俺も一歩間違えれば、陸へと鞍替えしていたかもしれない。まあ結果は海が好きだし何より小さいころから蒼龍に限らず、空母と艦載機が好きだった。でもアメリカ戦車…すなわち陸も好き。ただ優先順位が違うだけだ。

 

「ともかくお邪魔するぜっと」

 

そういうと、先に蒼龍と飛龍を雲井の家へと入れると、俺は煙草を取り出す。今日はウインストンの6ミリ。セブンスター、アメリカンスピリットと続いて、三番目に好きな銘柄だ。

 

「二人に行っといてくれ、酒とか飲んでも構わねぇって。俺は一服してから、勝手に入るから」

 

なぜ入らないのかと一瞬不思議に思っていたであろう浩壱は、納得するように声を出すと、「うぃ」と返事をくれる。

 

「ふうー。さてと、全員が来るまでは、とりあえず気長に待つかねぇ」

 

 

 




どうも、年末の大掃除に追われている飛男です。
まあ要するに、投稿ペースが遅いのはこの理由だったりします。いらない小説やマンガを片づけたり、趣味のサバゲー用品を手入れしたり…まあ様々ですね。
今回は上下です。下には、コラボをほのめかす文章があるので、読む際には注意されたし!と、あらかじめ警告をしておきます。

さて、今回はこのあたりで。次回は早ければ明日にでも投稿する予定です。
それでは、また次回!


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旅行話、掘り下げますよ? 下

活動報告にも記述していますが、いろいろあって予告通りに投稿できませんでした。もう一度この場で、お詫び申し上げます。


それから二本目の煙草が半分燃えたころ合いだった。奥の曲がり角から見たことある人物が二人、自転車に乗って現れた。遠目でもわかる、統治と夕張だ。

 

二人は運転手を統治、キャリアには夕張と、これ見よがしに二ケツ(二人乗りの事)をしていて、後輪に多大なる負荷をかけている。工場のそだちの男が、なぜ物を大切にしないのか…。知っている人は多いと思うけど、ニケツは自転車の寿命を縮めるんだよね。特に後輪の消耗率が著しく早くなってしまう。事故は…自己責任ってか。やかましいわ。

 

「おーう。待ってたぞ」

 

煙草を指で挟んだまま、俺はその手を挙げて統治たちへと軽い挨拶を贈る。奴らもこっちに気が付いたようで、自転車で近付きつつ、夕張が手を挙げてきた。

 

「お待たせしましたー。統治さんを手伝ってたんですよ」

 

夕張がそういうと同じくらいに、ちょうど俺の目の前へと自転車が止まる。統治は最初に夕張を自転車のキャリアから下すと、その次に降りる。レディファーストってやつか。いや、違うけどね。降りにくいだけだろうけど。

 

「あーまた家族関係か。お前も大変だねぇ」

 

「んだ。今日はたこ焼きを作ってきた。あ、余った奴持ってきたから、あとで分け合いながらダベるか」

 

今更ながら統治は、学生でありながら半場主夫に片足を突っ込んでいるような男だ。この場合なんというんだ?主子?とりあえず、料理や家事はお手の物。女子力が違う意味で高いやつ。まあ誤解されないように言っておくが、俺たちに準じてやっぱりこいつも、言うまでもなくおっさん。よく言っても、おじさん。

 

「おうおう、さっさと入ろうぜ。夕張乗せて漕いできたから、壮絶にのどが渇いてる」

 

「ほうほう。恋した奴を乗せて漕いできたってか―おい!叩くなよ!」

 

俺のくだらないダジャレにシバきを入れるように、統治は軽く叩いてくる。夕張はそれを見て苦笑いをこぼしていたが、まあいつものノリだ。

 

「お邪魔しまーすっと」

 

そんなやり取りをしつつ、俺と統治、そして夕張は雲井家へと入る。そしていつもの和室へと入ると、統治は荷物を下ろし始めた。

 

「あんれ?そういえば七星荷物は?」

 

「車のなカーってか」

 

さすがに愛想が尽きたのか、統治は「あ、ソッスネ」と軽く受け流して、自分の荷物を開け始める。なんか今日俺、ダジャレがさえてるな。ふふふ、いい気分だ。

 

「ねえキヨさん。じゃあこの戦車は?」

 

顎鬚を軽くなでながらそんなことを思っていたら、ふと飛龍の声が耳に入ってくる。どうやらキヨと飛龍、そして蒼龍は、棒ハートフルタンクストーリーを視聴しているようだ。

 

「んーこれはドイツのヘッツァー。かわいいだろ?」

 

「あー!確かグラーフがヘッツァーの模型を部屋に飾ってたっけ。海軍だけど、可愛いから持ってるとか言ってたなぁ」

 

ふんふん頷いて、飛龍は絶賛マウスに踏みつぶされている、ヘッツァーを見つめる。

グラーフがそんなコアな趣味だとは、衝撃の事実だ。グラーフってもしや機械フェチなのでは…?なんかクールなイメージだったが…。今思えばうちの鎮守府って普通とは違う、ちょっとズレた奴が多いんだろうか。

 

「お前ら何盛り上がってるんだよ。ほらキヨ、さっさと旅行話するぞオイ」

 

俺がキヨの肩を叩いて言うと、キヨは「んだ」と返事をして、部屋の少々端にある長机の前へと正座をし、俺も奴に続く。

 

「さてと。候補はいろいろあるんだよな?」

 

まず切り出したのは、キヨだ。座って早々、会話の梶を取っていくつもりらしい。まあいつもは俺の役割でもあったりするが、今回は楽をさせてもらおう。

 

「ああ、以前蒼龍と話したが…京都、奈良、伊勢、諏訪、出雲ってとこだな。いろいろと調べてはみたぞ」

 

「わーお。恐ろしいほど歴史バリバリな感じやな。さすが歴史学科。って、以前京都に行ったじゃん」

 

俺が案を出すや否や、統治が茶化してくる。まあ言われてみればそうだけどね。と、言うか歴史学科になったことで、数多くの歴史的建造物を、この目で見てみたい衝動に駆られているのは、間違いないだろう。京都は最近言ったけどもう一度行きたいし、奈良は小学生の時に修学旅行で行ってはいるけども、その際は案の定子供だったから特に何も感じず、この歳になって改めて見直したい気分ではある。

 

「うーむ。近場に絞れば伊勢、京都か。伊勢は神宮以外に何があるんだ?」

 

浩壱が腕を組み、移動経緯を考える。まあ車で行くことになれば、こいつの車と俺の車を使うことになるだろう。正直、車で行く方がお金も浮くし、できればそうしたい気もする。

 

「京都は車で行くのはよくないらしい。確か、駐車スペースが無いそうだ。それに俺と七星と健次は以前行ったからね…。あ、伊勢は在来線を使う場合、京都より安いぜ?」

 

「だよなぁ。まあ伊勢で決まりかなぁ…?」

 

移動面と資金面、そして人員面を考えると、伊勢にするのが妥当かもしれない。伊勢神宮へと行き、近場で食べ歩きした後、のんびりと旅館で過ごし、温泉で疲れを癒す…。おおよその流れてしてはこうなるだろうし、ジジババ臭いのは置いといて、充実した旅行を行えることは間違いないだろう。

 

こちらの意見は早々にまとまり始める。だが―

 

「私京都がいいなぁ」

 

と、俺の後ろからそう声が聞こえてきた。この声は、飛龍だ。

 

「え、いや。なんで?」

 

統治が飛龍に問うと、飛龍はうーんと考え込むしぐさをする。そして、さも当たり前のようにつぶやいてきた。

 

「いや、普通京都でしょ?」

 

少々理解に苦しんだ統治は、あからさまに口元を歪ませて、「はっ?」と言わんばかりの顔をする。まあ正直、俺も今回は統治に同意せざるを得ない。飛龍の普通って、なんの普通なんだろうか。艦娘として?と、言うか、もう順応してるよこの子。

 

「…あーうん。旅行で京都は王道だと思うよ。いや、でもさ伊勢だって悪くないと思うぜ?」

 

普通すなわち王道のことだと解釈した統治は、納得するそぶりを見せつつ、伊勢のリスペクトを行う。しかし、飛龍は「えー」と嫌がった口ぶりだ。

 

「そもそも、私たちそこまで内地を回った事ないんですよね。それにどうせなら、京の都を見て見たいじゃない?」

 

確かにそういわれれば、彼女たちは海に面している日本しか見たことないはずだ。彼女たちは言わずと艦だし、艦娘になったとしても、任務のために結局海に出ていることが多いはず。つまり艦娘達は、観光名所に足を運んだことがほとんどないと言うことだ。

 

「いや、でも伊勢神宮だって内地じゃないか。港があるのは確かだけど、と、言うか京都だって舞鶴があるだろ?何が違うん?」

 

「舞鶴は京都ですけど、京都の観光地よりずいぶん離れてません?」

 

飛龍の的確な指摘に、統治は「あー」としか言うことができないようだ。まあ京都は第二候補みたいな流れだったし、いいんじゃないかな。

 

「夕張、蒼龍。お前たちはどうなのさ?伊勢と京都」

 

統治は自分の判断だけでは決めかねたのか、某ハートフルタンクストーリーを見ている蒼龍と夕張へ質問を投げかける。二人は一度考え込むしぐさをすると、蒼龍が最初に口を開いた。

 

「私は京都がいい!ほら、私も飛龍と同じで、京都の風景は見て見たいし」

 

どうやら蒼龍は、飛龍の意見に便乗したらしい。と、言うか同じような考えだったのかもしれない。以前話した際にも、京都を第一に行きたいとか言っていたし。

 

「うーむ。そうですね。私はみなさんが決めたほうで」

 

一方夕張はどちらにもつかずと言った意見を出してくる。すると、統治は大きなため息をついた。

 

「はーでたよ。いいか?ここはお前の意見が欲しいんだよ。どちらかを選んでくれ」

 

そういうや否や、夕張は「あはは、やっぱり」と言葉を漏らし、再び考え込む。

 

「私も京都ですかねぇ。あ、いや。飛龍さんと同じで、私も内地はあまり見たことないですし、それこそ、ここら辺が初めての内地の風景でしたしね」

 

夕張の意見を最期に言えることは、艦娘達は皆、京都に行きたいらしい。どうやら艦娘達は、京都に何かしらの憧れを持っているようだ。まず最初に京都を選ぶところが、またなんというか…。

 

「あ、そうじゃん」

 

ふと、記憶の片隅にある引き出しを開いて、思い出したように俺は言う。俺の予想が正しければ、京都にいかなければならない理由があるじゃないか。

 

「あのさ、みんたくにまた会いに行けばいいんじゃないか?」

 

みんたく。彼は以前話した、オンゲー友人のことである。以前俺、統治、健次で京都へ遊びに行ったとき、いろいろと案内してくれたのはこの人物だ。年齢は俺らより二つほど下で、最近は浪人生として勉強に追われていることから、あまりオンゲーに顔を出さなくなってしまった。

 

「それはまあいいと思うけどさ…。みんたく、確かあいつ…絶賛浪人生じゃねぇの?」

 

苦い顔で、健次がくぎを刺す。彼が浪人生なのは、俺、健次、統治が知っている情報で、健次は健次なりに彼を心配しているのだろう。ちなみにキヨと浩壱はあまりオンゲーには顔を出さないため、知らない。

 

「うん。話にはちらほら出るけどさ、そいつ。でも、だからってなにさ?」

 

キヨは話の意図が読めないのか、若干眉をひそめて言う。確かに奴の素性を知らないと、話も見えては来ないから仕方ない。

 

「まあ話を聞け。奴は実家が…。そう、旅館なんだよ。だからさ…」

 

ここまで言って、俺、健次、統治を除く全員も理解をしたようで、それぞれ小さく言葉を発する。つまり彼に頼めば、もしかしたら格安で旅館に泊まれるかもしれない可能性があるのだ。

 

しかし実際は、現実的に考えて厳しい相談だろう。彼は何度も言うように浪人生で多忙の身。おそらくそれ故に、この頼みは淡い期待に終わってしまうはずだ。しかもオンゲーの友人であるため、面と向かって話しているこいつらのような友人関係とは、多少違うことも明白で、そうやすやすと値下げをしてくれるとは思えない。

 

「まあそう考えると、いいかもしれない。だが、浪人生でオンゲの友人。そううまくいくか?俺はそう思えないんだけども」

 

まあ案の定、キヨは俺の考え通りのことを指摘する。実際は連絡しなければわからないし、連絡を取ったとしても、多忙故で返事がいつ帰ってくるのかもわからない。

 

「そうだなぁ…とりあえず、いつ頃にするかが重要だと思う。奴が連絡をくれる日程の猶予が欲しい」

 

「わかった。そうだな…。猶予としては、今日から一週間はどうだろう?俺らにとっては夏休みに入ってまだ間もないけど、普通に考えると休みの中盤に差し掛かっている人間が多いはずだ。それに、日程としてお盆休みと被るから、結果的にほかの旅行先の宿が取れなくなっちまう」

 

キヨは冷静に分析して、そういってくる。まあキヨの意見は正しいし、俺は「了解」とその意見に賛同する意を見せる。正直できるだけ早くいきたいのは間違いないし、早速明日の朝には、みんたくに連絡を贈っておこう。

 

「よし、じゃあそれで行こう。それでもし良い返事が期待できなかったら、伊勢と言うことにするか。艦娘達の諸君も、それでいいかい?」

 

どうやら艦娘達も仕方ないと判断したのか、キヨのまとめに対して三人一致で、同意をするようにそれぞれ返事をする。

 

こうして、艦娘達と行く初めての旅行先は、伊勢か京都となったのだった。個人的には艦娘達の意見を尊重したいんだけどもね。




どうも、今日から講義が始まってタルい気分な飛男です。

今回もまあぐだぐだな感じで話が進んでいきました。もうどうせなら、こんな感じのゆるいグダグダしている方が、みなさんものんびりとみられるんじゃないかなぁと思ってみたりと、絶賛試行錯誤しています。展開が早すぎるのも良くなければ、グダグダしすぎるのも良くない。その配分ってすごく難しい。

ところで今回、前々から引っ張っていたオンゲー民の一人が出てきました。と、言うか名前が出てきましたね。おそらくコラボは、このような流れで行われていくと思います。しかし、京都民で旅館持ち。おまけに『みんたく』。おそらく最初のコラボは、このキーワードからしてわかってしまうかもしれませんね。

では、また次回に!


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図書館にいきます!

久々の蒼龍回。本を読むって、素晴らしい。


「あ、そうだ。図書館にでもいくか」

 

月曜日の朝。もぐもぐとトーストをかじっている飛龍と、珈琲を飲んでいる蒼龍がいる中、俺はふと思いついたように言う。

 

ちなみに本来バイトが入っている曜日なんだけども、今日はシフトに入れず、あいにくの休みとなっている。そう、いつも休みってわけじゃないんだよ。まあ正直夏休みだから思う存分遊びたいのだけれども、遊ぶにはやっぱりお金はいるし、結果的に働かないといけないんだよね。親のすねをかじることも、恥ずかしながら稀にあるけど。

 

「図書館…ですか?」

 

マグを口元からはなし、蒼龍は復唱するように問う。ちなみに彼女の持つマグカップは、最近彼女へプレゼントのために買ってきた、せとものだ。どうでもいいか。

 

「そう。ゼミで出された課題を消化するためにね。どうせなら一緒にどう?もちろん、飛龍もさ」

 

とりあえず先日に『みんたく』へと、旅行に関してのメッセージを贈っておいたし、あとは旅行の際に、気掛かりとなりそうなものを取っ払うだけだ。やっぱり後めたい物などなく、心底旅行は楽しみたいものだし、できる限りのことは済ましておきたいのは、性格だろうか?

 

そんな思いを孕んだ俺の提案に、蒼龍と飛龍は顔を見合わせたが、すぐにこちらへと顔を向ける。

 

「私は大丈夫です。図書館には一度行ってみたかったですし」

 

「あー私はパスかなぁ。図書館に行っても面白くなさそうだし」

 

興味を示すように返事をする蒼龍と、面倒そうな顔をして返答する飛龍。双子であれどどこか対照的で、それぞれの個性と呼べる、性格があらわになっている気がする。

 

「でも飛龍。自分の知識を高めることは、いいことだよ?知識があれば、自然と戦闘能力も上がってくると思うし」

 

そんな飛龍に対して、蒼龍は諭すように言う。しかし、飛龍はうげっと顔を歪ませて、かるく手を振った。

 

「あー勉強なんてしたくないかなぁ。それこそ体を動かすことは好きだけど、頭を動かすことはあまり好きじゃないしねー」

 

なんだろう、このスポーツ馬鹿的な発言は。確かに飛龍は活発なイメージで、運動とかは得意そうだけど、これじゃあまるで授業中に寝ている野球部員のようなものだぞ。

 

「じゃあもう一度聞くが、図書館にはいかなくて、家にいるんだな?」

 

「え、そのつもりですけど。何か?」

 

改まって言う俺に、飛龍は何かしらを企んでいると感じたのか、若干口元を歪ませて聞いてくる。ふふ、その憶測は的中しているぞ。

 

「そうか、ようし。じゃあな…。あ、おーい!かあさん!」

 

たまたま庭を通りかかったおふくろに、俺は大声で声をかける。おふくろは「はいはい」と草履を脱ぎ次第、こちらへパタパタと駆け寄ってきた。

 

「なにさ。草取りで忙しいんだけど」

 

どうやら庭に敷いてある芝生の草取りを行っているようで、俺は好都合だと、口元を歪ませた。

 

「ああ、草取り大変でしょ?そんな母さんを見て、家に置いてもらっていることにありがたみを感じている飛田さんが、恩返しのため、かあさんの手伝いをしたいそうだよ?」

 

唐突に面倒ごとを与えられ、飛龍は「はぁ!?」と声を上げる。しかし、かあさんはそんなこと耳に入らなかったらしく、満面の笑みを浮かべ、飛龍の手を取った。

 

「本当!?なんていい子なの…!じゃあ早速、朝ごはん食べ終わったら庭に来てちょうだい!あ、帽子をかぶった方が、良いわよ?日射病になったら大変だもの!」

 

おふくろは一方的に飛龍へというと、そのまま嬉しそうに庭へと戻っていく。飛龍には悪いがつい来ずに暇を持て余すのなら、家の手伝いをしてもらえばいい。

 

「ちょっと!提督ひどくない!?なんで艦娘の私がそんなことを…!」

 

もちろん、飛龍は猛反発をしてきた。むうと頬を膨らませ、抗議の目線を投げかけてくる。こういう怒り方は、どうやら蒼龍と同じようだ。さすがは姉妹。

 

「だって、体を動かすことが好きなんだろう?なら、手伝ってくれてもいいじゃないか。それにおふくろ、あんなにありがたそうにしてたし。日ごろの恩返しとしてだな」

 

そういわれれば、飛龍は返す言葉が無いらしい。飛龍は飛龍なりに、家に感謝はしているようで、一理あるかもしれないと、内心納得してしまったのだろう。

 

「わかりましたよ。はい、わかりました!こうなったら草を抜きまくってやるんだから!」

 

飛龍はそういうや否や、コップに注がれていた牛乳を飲みほして、そのまま二階へと上がっていった。おそらく、帽子を取りに行ったのだろう。たぶん、俺のをね。

 

「あはは…これも、適材適所…なのかな?」

 

そんな飛龍を見て、蒼龍は苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

 

 

今回足を運んだ図書館は、地元にある小さい図書館ではなく、県立の図書館だ。ここならば、県の権力―いわば県力(今考えた造語)を使って様々な本を貯蔵しているだろう。

 

ちなみに言わなくていいかもしれないけど、ゼミ課題として出されたくずし字の書状から読み取るに、江戸時代に存在した当道の官位であ『座頭』がかかわっていることまでは分かっている。おそらく座頭市と聞けばピンとくる人が多いだろうが、要するに目が見えな人のこと。なお、座頭は盲人階級の中でも最下層の官位だという。ちなみに、当道界にも新兵のような扱いを受ける、初心とよばれるものもあるとか。うん、すごくニッチな話題だ。

 

ともかく、この座頭の資料は誠に残念ではあるが、地元の図書館にはなかった。そこで、こうして県立図書館へと行く必要があったわけ。

 

と、まあこんな感じで難しく伝えてはいるんだけども、実際それどころではなかった。

 

「わぁ…すごい大きなビルがたくさん…!何回建てなんだろう!あ、おいしそうなクレープ屋さんもある!それと…あそこは何だろう?あはは!」

 

うん。言わなくてもわかると思うけど、絶賛蒼龍はテンションダダ上がり状態に陥っている。きゃーきゃーとわめいて、正直こっちが恥ずかしい。

 

県立図書館は面倒なことに都心にあって、地元のような田んぼがちらほらある古めかしい感じは一切せず、最新の建物やおしゃれなカフェなどが、まさに乱立している状態だ。

 

「蒼龍。頼むからそんなにはしゃがないでくだち。こっちが恥ずかしいでち」

 

回りの目をきょろきょろと気にしながら、俺は蒼龍の横耳へ語り掛けるように言う。しかし、現在ダダ上がりテンションの蒼龍には、もう誰も勝てない。

 

「何言ってるんですか!あ、わんちゃんだー!やっぱり都会のわんちゃんはどこか御洒落ね!」

 

もっさもさのプードルをみて蒼龍は俺の言葉など一切耳を傾けない様子だ。そもそもこのテンションは図書館へ行くために、電車に乗ったところから始まって、その時からまるで子供の用にはしゃぎまくっている。おまけに彼女の着ている服装にも難があって、Tシャツ一枚とハーフパンツと言う、まさに夏候の恰好。蒼龍は言わずと世界一可愛いから、見る男すべてを魅了してしまう。おうてめぇら、何見てんだァ?

 

「あーもう!ほら、いくぞ図書館!遊びに来たわけじゃないんだ!」

 

俺は蒼龍の腕を無理やり組んで、そのまま図書館へと歩き出そうとする。しかし、図書館方向とは逆のベクトルが働いて、なかなか前に進むことができない。逆ベクトルをかけているのは、言わずと蒼龍だ。

 

「あ、ほら、その、課題は今日じゃなくてもできるじゃない?今日はそんなこと忘れて、遊びましょ?」

 

蒼龍壊れる。お前そんないい加減な奴じゃないだろ!いけない。俺がここは筋を通さなければ…。

 

「そんなニートみたいな事言うんじゃない!いいか?それが一番やらない人間の典型的なパターンだ!物事をさっさと終わらせるのが、人生で成功する人間だって、世論ではいうだろーに!」

 

「それはそれ。これはこれです。ね?行きましょ?」

 

そんなカンカンに照り付ける太陽がカスに思えるほど、輝いている笑顔を振りまきやがって…うごご。いや、だめだ。ここは絶対に譲れない。

 

腕を組んでも一切動かないので、今度は蒼龍の両肩に手を置いて、俺は深く息を吸い込む。

 

「よっし!わかった!わかったぞ蒼龍!課題を終えたら、俺が知ってる珈琲のウマイ店に行こう。それでいいな?」

 

妥協に妥協を重ねて、俺は蒼龍に言い聞かす。すると、テンションダダ上がり蒼龍はそれに承諾したようで、少々頬を膨らませつつ、「もう、仕方ないわね!」と、偉そうに言ってくる。くっそ、それでも可愛いから許せるんだよぉぇえ!

 

こうして、周りのほほえましく、時には残念そうな目線をかいくぐり、図書館へ向かうべく蒼龍を連れて、街道をしばらく歩いた。途中通った店の数だけ、蒼龍はその分騒いだが、もうどうにでもなーれ。

 

「やっとついた…タルイわぁ…」

 

そして数十分後。やっとの思いで県立図書館へとたどり着くことができた。最新の建物が並ぶ中で、この区画だけまるで時代に取り残されたような、昭和初期を匂わせるコンクリートの建物だ。

 

蒼龍はそんな図書館を見て、先ほどのテンションが落ち着いたのか、感心するような声を漏らす。

 

「わあ、なんか懐かしい感じだなぁ」

 

「懐かしい…。あ、そうか、この図書館古いし、お前らの世界はこんな感じの建物が多いってことか」

 

「そうですね。うん。こんな感じの建物が多いです」

 

まじまじと見つめるその瞳には、どこか安心したような雰囲気を感じ取ることはできた。あれだけテンション上がっていたけど、あれはひょっとしたら、驚きとわずかな不安を孕んでいたかもしれない。そう思えば、やはり自分が生きていた世界のような、古めかしい建物を見れば、どこか安心させてくれるものなのだろう。

 

「うん。よし、入るか」

 

「ええ、図書館は静かにっ!!…ですね!」

 

分かっているならいいんだと、俺はそんなことをつぶやきながら図書館へと入っていく。蒼龍もその少し後に続いて、同じくして図書館へと入ったのだった。

 

 

図書館の中は外見に相反して、クーラーの利いた過ごしやすい温度となっていた。このほんの少しだけ肌寒さを感じるのが、今更ながら夏だなぁと感じさせてくれる。

 

「わー涼しいなぁ。あれ?あの人」

 

蒼龍が言葉通り、涼しさを体いっぱいに感じようと体を伸ばしていると、唐突に目線が手前の方へと向けられる。俺もその目線をたどっていくと―

 

「お?岸井じゃないか。うは奇遇だなぁオイ!」

 

ゼミ生の一人、岸井が受付のカウンターにいたのだ。あのメガネ、間違いない。

 

「やあ、七星。それに蒼龍。本当奇遇だね」

 

思わぬ人物に出会ったもんだ。とりあえず、俺たちはカウンターへと前へと歩む。

 

「こんにちは岸井さん。相変わらずメガネが輝いてますね!」

 

「お、おう。ありがとう。って、そこ褒められてもうれしくないなぁ。てか、蒼龍なんかテンションおかしくない?」

 

苦笑いを浮かべながら言う岸井。うん、さっきまではっちゃけ女子高生バリのテンションだったから、まだその余韻が残っているのかもしれないな。

 

「で、課題でもやりに来たの?馬鹿なのに」

 

笑いながら岸井は毒を吐いてくる。こいついっつもそう。と、言うことで俺も軽く岸井を叩く。

 

「うん、まあご明察の通り、こうして課題をやりに来たわ。そういうお前は?」

 

しかし、なぜ岸井がカウンターにいるのだろうか。岸井も課題を出されていて、図書館にいること自体は不思議ではない。だが、カウンターにいると言うことは、図書館関係者になっていると言うことだ。

 

「いやバイト。学芸員過程の一環としてね。要するにインターンシップみたいなもんだよ」

 

確かに岸井は、学芸員になるべく特殊講義を受けている。なるほどな。納得納得。

 

「うし、じゃあ早速その図書館員岸井くんに頼みたいけど、『日本盲人史』を探してるんだけど、ある?」

 

「へいへい、ちょっとまってねっと…あ、あったあった」

 

岸井は検索用に設置されているであろうパソコンを見ながら、見つけ次第そうつぶやく。割とこなれているのを見ると、おそらく夏休みに入ってすぐには初めていたようだ。

 

「えっとね。二階、和図書コーナーの歴史棚。番号は1200/50だね。メモるからまって」

 

そういうと、岸井はすらすらと鉛筆で番号を書いてくれた。気が利くな。

 

「はい、どうぞ。借りるときは、二階にも貸し出しのカウンターがあるから、そこで借りるといいよ」

 

「へいへいどうも。今度ジュースでも奢ってやるよ」

 

「お金ないのに、無理しなくていいよ」

 

「そうだけどよ!そこは素直に受け取れよ!」

 

俺が掠れたような声で叫び笑いあった後、俺と蒼龍は岸井に別れを告げ、二階へと上がっていく。そして、言われた通り和図書コーナーの歴史棚へと足を運んだ。

 

「あ、ありましたよ?これですよね?」

 

しゃがみこんで番号をたどっていると、どうやら蒼龍が見つけてくれたようで、俺へと手渡ししてくれる。

 

「ありがと。よし、じゃあ俺は社会人席で課題に取り掛かるけど、蒼龍はどうする?」

目当ての本が見つかれば、あとはササッと資料を読み取ればいい。そこから使えそうな情報と写真や文書の写しをパソコンに打ち込めば、おのずと問題が解き明かされていくもんだ。

 

「そうですねぇ。あ、じゃあ私は館内を回ってみます。もしかしたら、見たい本とかあるかもしれませんし」

 

「そうか。じゃあ俺は社会人席の17番にいるから、悪いけど用があったら来てくれる?」

 

こうして、俺と蒼龍はいったん分かれることになった。

 

 

望と別れた後、私は歴史棚へと残っていました。

 

歴史棚は年代順に棚が分かれていて、古代から現代まで、数多くの本があります。その数は膨大で、二階の4分の1程を、締めているみたい。

 

「へぇ。第二次世界大戦を論じた本も、いろいろあるんだぁ」

 

様々な角度からみた、第二次世界大戦時の事を論じた本があります。でも、今の私には関係の無い話ですね。だから、この周辺にある本は、見るつもりが無いです。

 

近世期のコーナーまで足を運んだ私は、特に目的もなく、本の題名を見ていきます。幕府批判の本や、それに対して幕府の政策を褒め称える内容の本もあって、先ほどの現代史と言い、歴史は様々な観点から研究されているんだと、思わせてくれます。

 

それからしばらく本の題名を見歩いていると、一つ気になる本を見つけました。

 

「生類憐みの令に関する本かな?」

 

題名は『徳川綱吉を解く』と言う本です。艦娘の私でも知っている、江戸時代の将軍ですね。それを解くという事は、やっぱり彼がいかに変な将軍だったということを、論じているのでしょうか?

私は早速その本を手に取ると、パラパラと流し見していきます。すると、思いがけないことが記されていました。

 

「綱吉は、誰よりも将軍であった…?え、何でだろう」

 

思わず気になっちゃって、しっかりと読むことにします。ふむふむ。

 

概要を簡単に説明しますと、彼が生類憐みの令を発令した根底には、『生き物全てを将軍の管轄下に置いて、保護する』事だったそうです。また、悪法で民を苦しめたと言われていますが、それは発令をしても、殺生が一向に減らなくて、いわゆる罰則を与えざる得なかったからだそうです。そう考えると、実は綱吉っていい人だったのかも。望とよく見る『水戸黄門』だと、悪役みたいな感じに描かれていたけれど、それは違ったのかもしれませんね。

 

「面白いなぁ。歴史って」

 

思わず私は、つぶやいてしまいます。望も熱中するわけですね。

その他にも、私は様々な本を読みました。美男子として描かれる事が多い源義経は、実はブサイクだったとか、ペリーが直接浦賀湾に乗り込んで来なかったのは、日本が誇る和弓の射程距離ギリギリに止めていたからだとか、本当に色々です。

 

「勉強になるなぁ…」

 

ついには私も社会人席を借りちゃって、思わず読みふけってしまいました。分厚い本から薄い本まで、様々な本を読んだけれども、どれもとても勉強になりましたね。

 

「あれ?蒼龍。なんで社会人席に座っているのさ」

 

私が3冊目の本を読み終えたとき、唐突に横から声をかけられました。振り返ると、そこには望が、不思議そうな顔をしています。

 

「えへへ、私も思わず夢中になっちゃって、借りちゃった!」

 

「おいおい、さっきまで何処かで遊びに行こうとか言ってた子は、誰だったっけな?ははっ」

望は笑いながら、私へと言います。確かに、先程の私は周りが見えていなかったのかも。反省反省。

 

「そういう望は、どこに行くの?」

 

「ん?ああ、課題が一通り終わる目処が立ったし、お前を呼びに行こうと思ってたところ。だから、ちょうどよかったな」

 

え、そんなに時間が経っちゃった?夢中になりすぎて、時計を見る事も忘れちゃってたみたい。

 

「それ、なんか借りてくか?3冊まで借りれるからね。あ、でも俺はこれを借りて行くから、あとは2冊だけか」

 

望は先程読んでいた『日本盲人史』を見せながら、そう言います。折角だし、借りちゃおうかな。

 

「うん。じゃあこれをお願い!」

 

私はそう言って、一冊の本を手渡しました。望はそれを見て、苦い顔を浮かべます。

 

「え、なんで徳川綱吉?」

 

「いいじゃないですか!綱吉はいい人なんですよ!あ、ひょっとして知らなかったです?」

 

熱弁する私の発言に、望は「うそだぁ」と顔をします。むーこれは教えてあげないと!

それから、望が本を借りてくれると、私たちは図書館を後にしました。そして、約束してくれたカフェに行って、綱吉について熱く語っちゃいました。

 

また図書館に、行きたいなぁ。




どうも、クッソ久々の次の日投稿を果たした、飛男です。コラボの話は、もう少し先になるでしょうね。
今回は黒星をつけていませんが、結構マニアックな話題かもしれません。また、今回の内容に出てきた数多くの説は、あくまでも数多くある仮説の中の一つであり、真実だとはまだ言えません。相応の資料が見つかって、それを証明できなければ、仮説は仮説のままですからね。その仮説を立証するのが、論文です。

では、今回はこの辺りで、また次回お会いしましょう。



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バイトの話ですよ? 上

またまた文字が多くなりそうなので、上下で構成します。
あと、今回の話は飛龍回になります。


夏特有のすがすがしさを誇る、青く広がる空の下で、自転車を漕ぐのはやはり気持ちがいいんだろう。そんなこの時期だからこそ、ロードやらマウンテンやらと、スポーツ車に手を出す人が多いのは言うまでもない話だ。おまけに学生たち大喜びの夏休みとくるもんだから、どこか遠征に行こうとか、自転車で県内を回るとか、琵琶湖を一周したいとか、まあ様々な目的も、自然と生まれてくるはず。

 

「ありがとうございましたー」

 

そんな一人であろう、高校生がスポーツ車を購入していき、店を後にした。これで今日売れた台数は、スポーツ車が5台と、電動自転車が2台。一般の軽快自転車が8台と、まあ大忙しだ。

 

ここまで言って、大まかに察しがついただろうけど、俺は現在バイト中だ。夏はさっきも述べたようなことから、スポーツ車入門生が多く、プチ繁忙期が断続的に続くから、絶好の稼ぎ時でもある。

 

ちなみに、蒼龍も今日はバイトだ。以前と変わらず、ずっとキヨんちでバイトをしている。なんでもキヨ曰く、蒼龍がバイトを始めてから、売り上げがさらに伸びたとか。蒼龍のかわいさは言わずもがなで、それ以外に接客に関してかなり気が利くらしく、絶妙なタイミングで茶を進めたり、食器を片づけたりするのだという。俺のことじゃないけれども、鼻高々。

 

「しかし、売れますな。これで成績も上がりますかね?」

 

ちょうど客足が途絶えたので、連続接客から解放された俺は体を伸ばして、店長の飯島さんへと問いかける。飯島さんはパソコンをいじっていたが、こっちへ顔を向けると、眉をひそめた。

 

「うん。上がるけど、やっぱりまだまだだねぇ。港店が相当つよいわ!」

 

店舗の売り上げランキングを見ているようで、飯島さんは微妙な顔をしている。港店は安定してトップの売り上げを誇る店舗で、以前港店の連続一位記録を塗り替えたスーパー店長である飯島さん的には、納得がいかないんだろう。

 

「はえー。これだけ頑張っても、まだそこまで上がってないんですか。さすがに自分も、整備疲れましたわ」

 

今回シフトが一緒だった、バイトの一人である杉浦さんが、げんなりとした顔で言う。この人は俺より年上で、ミュージシャンを目指している夢追い人だ。純粋にあこがれる。

 

まあ俺も整備はできるけど、今日は接客と書類メインで、整備にまで手を回せなかった。それこそ飯島さんと杉浦さんで整備をしてはいるんだけども、せめてあと一人は欲しい様子。

 

「すいませんね。俺、接客ばっかりで」

 

「いや、むしろよく捌いてると思うよ。こっちも整備に集中できて、気が楽だわ」

 

杉浦さんはそういいながら、ピットの隅に置いてあるお茶を飲む。家のバイト先でいいところは、気兼ねなく飲料水が飲めることだ。もっとも客がいる状態だと、休憩室とかまで行って飲まなければならないんだけれども。

 

「あ、もう十二時かぁ。そろそろ休憩だけど、どっちが行く?俺はさっき行ったから、杉浦くんかほっしーだけど」

 

ふと時計を見た飯島さんが、そう聞いてくる。先ほど飯島さんは三十分だけ休憩に行ったから、あとは俺と杉浦さんだけだ。ちなみに『ほっしー』って俺の事。

 

「自分はまだ新車整備残ってるんで、七星さん行っていいよ」

 

杉浦さんはそう答えながら、購入された新車の整備をする、まさに凄腕テクニックを行っている。まあ腹も減ったし、ここはお言葉に甘えるとしよう。

 

「じゃあお先に失礼します」

 

店舗専用の制服を脱いで言うと、俺はそれをたたみ始める。そんな時だった。

プルルと、電話のなる音が店内に響いた。ちょうど近くに立っていたのは俺だったから、優先順位的に俺が取らなければならない。まあ電話対応だけだし、すぐに終わるだろうと、俺は電話を手に取った。

 

「はい、お電話ありがとうございます。サイクルショップアミーゴ。担当の七星でございます」

 

決められたセリフのように、俺は電話対応を行う。すると、予想外な人物の声が聞こえてきた。

 

『あ、提督がでた』

 

「ん?え、飛龍?」

 

聞き間違えるはずもない。家に居候している飛龍からだ。思わず素の声が出てしまい、飯島さんと杉浦さんが不思議そうな顔をしてくる。バイト中であるにもかかわらず、素の状態で対応してしまったので、純粋に『え、なに?』と思ってしまったのだろう。

 

「ごほん。な、なんだよ?今バイト中だぞ?電話するなら携帯にでもかけろよ」

 

とりあえず事情を後で説明するとして、こっそりと、素のままの状態で聞いてみる。そもそも、正式な対応をしたら、飛龍が茶化してくるのに間違いない。まあ茶化してくるだけなら良いのだけれでも、それで話が進まないのは、純粋に店とほかの客に迷惑だ。

 

『えーなによ。私はお客として電話をかけたのよ?それが客に対する覚悟なの?』

 

若干いやらしい口調で、飛龍は言う。そう来たか。お前えなぁ…そっちが喋りやすいように接してやってるのによぉ。

 

「あー、じゃあこうか?それで、どうされましたか?」

 

『やっぱり駄目。うん、なんか変な気分…。やっぱり普通の口調でおねがいします』

 

まともにやったらこれだよ。やるだけ無駄だったな。まったく。

 

「で、えっとですね。自転車がパンクしちゃったんですよ』

 

どうやら普通に利用するために、電話をかけてきたらしい。

飛龍には移動手段として、俺が高校時代に使っていた軽快車を貸している。もっとも約4年前の自転車だもんだから、もはやぼろぼろなのは言うまでも無くて、ガタが来てしまったのだろう。

 

「あーやっぱりか。でも、そんなの帰ってからでもいいじゃん。なんで電話してきたんだ?」

 

それだけなら俺だって自分で直すことだってできる。以前妹の自転車だってわざわざ修理キットで直したわけで、普通なら家で直してもらおうとでも考えるはずだ。

 

『いやー。その、奥さんに買い物を頼まれちゃいまして、それでひとっ走りしてこようと思ったら、このありさまなわけですよ』

 

なるほど、つまり外出中にパンクをして、身動きが取れない状態らしい。それならば仕方ないか。

 

「うん、まあどうせ近くのスーパーだろ?ここまで歩いてこれると思うけど」

 

家がよく利用するスーパーとこの店舗は近い。最近ベッドタウンではよく見かける、スーパーとドラッグストア、そして本屋と三つの店舗が隣接した場所で、家の店舗はそんな区画のおまけのような感じで建てられた場所。まあ客入りも悪くない、絶好の場所でもある。

 

『はい。だから今から向かうんで、あらかじめ連絡をと思いまして。少々お待ちを!』

 

そういうと、飛龍は電話を切ってきた。と、言うかどうして飛龍は携帯を持ってるんだ?

 

「誰からだったの?妙に親しいじゃない?」

 

電話を終えた俺に対し、飯島さんが問いただしてくる。まああれだけなれなれしく話していたんだし、不思議に思うのは仕方のないことだ。

 

「あー、知人っす。訳あって、家に居候していて…」

 

「え!?マジで!?ほっしーも大変なことになってるんだねぇ。うん」

 

飯島さんはおそらく勘違いしているであろう、おちょくるような声で言うと、にやにやとパソコンの前へと戻っていく。まてーい。

 

「…七星さん。なんかその、頑張ってください」

 

苦い顔と微かに憐れんだような瞳で、杉浦さんは言ってくる。ああ、なんかもうめんどくさいや。

 

 

 

 

それから五分後には、飛龍が店内へと入ってきた。引いてきた自転車にはかごに山ほどの食材が入っている。肝心のパンクはどうやら後輪のようで、ベコベコになっていた。

 

「あーこれはひでぇな」

 

とりあえず俺は飛龍の元まで行くと、引いてきた自転車の状態を見定める。まあ一般的なパンクのようだが、すでにタイヤもすり減っているし、変え時ではあるかな。

 

「いやー、まさかパンクしちゃうなんて思ってませんでしたよ」

 

「パンクした人だれもが言うセリフやな、それ。ちょっとまってろ」

 

とりあえず飛龍から自転車を借り受けると、俺はピットまで引いてくる。杉浦さんはいまだ新車整備をしているし、修理するのは俺くらいしかないかな。

 

「あちゃー後ろか。めんどくさいなぁ」

 

するといつの間にか、パソコンの前に立っていたはずの飯島さんが、自転車の状態を確認しに来た。腕を組んで、苦い顔をしているのは、おそらく俺に変わってやってくれるつもりなのだろう。まあ本来は休憩中だし、ありがたいかな。

 

「へぇーていと…ああいや、七星くんの働き先ってこんなふうになってるんだ」

 

俺に後ろからついてきた飛龍は、物珍しそうに店内を見る。まあ自転車ばっかりしか置いていない、ただに自転車屋ですよっと。てか、いい加減使い分けに慣れなさいな。

 

「あ、君が噂の。僕、店長の飯島って言います。よろしく」

 

自転車を見ていた飯島さんだったが、飛龍の声に反応したのか、目を合わせ次第挨拶を交わした。同時に杉浦さんも立ち上がると、「自分、バイトの杉浦です」と、同じように声をかける。

 

「どうもー。えーっと、飛田です。よろしくお願いします」

 

「はい。飛田さんだね。どうぞ今後も、うちの店をごひいきにしてください」

 

なんだかんだ言って営業に向過ぎつけてくるのは、さすが飯島さんと言ったところか。しかし、飛龍はなんだか微妙な顔をしていて、純粋にどう反応すればいいか困っているようだ。

 

「ところで、飛田さんとほっしーは、どんな関係なんだい?」

 

ふと、唐突に飯島さんが、飛龍へと問う。まあ俺の所持艦!と言うわけにもいかないし、だからと言って俺の彼女の妹とも、なんとなく言いずらい。と、そんなことを思っていると、飛龍が口を開いた。

 

「私は七星君の、恋人ですよ?」

 

…は?いや何言ってんのこいつ。

 

「え?あれ?ほっしー前の彼女は?ほら、あの黒髪の。って、飛田さんもか。ん?双子?あれ?」

 

飯島さんと蒼龍は面識があるし、どうやら理解に苦しんでいる様子だ。なにをトチ狂って、こいつは爆弾発言をしたんだ。てか、どうしてそんなこと言ったんだ?

 

「いや、今も続いていますって!てか、このバカが変なこと言っただけですって」

 

「えー!馬鹿ってなんですか!馬鹿って!冗談に決まってるじゃない!じょ・う・だ・ん!」

 

プンスカとなぜか逆切れして言う飛龍。いや、冗談でも誤解の招くような発言すんなよ…。てかマジで飛龍の思考回路が読めねぇな。

 

「なんだ冗談なのか。まあ、ほっしーは双子の姉妹をひっかえとっかえするようなヤリチ○とは違うよな?おじさん信じてるからね?」

 

「ええ、その通りです。てか、よく女性の前でそんなこと言えましたね。勇者か」

 

おそらく悪ふざけで言ったつもりだろうけど、適格に下ネタを挟んでくるのはさすが飯島さんだわ。

 

「さて!それどうです?直りそうです?」

 

ぱっと話題を買えるように、飛龍は自転車の方を見ながら言う。こいつもこいつで何かと唐突すぎるんだよなぁ。

 

 「あーはい。うーん。とりあえず直せそうですけど…中を開けてみないことにはわからないのがパンク修理でしてね。とりあえず、お時間いただくことになります」

 

 以前も話したけれども、パンクはいろいろな種類があって、場合によっては修理パッチで直せないこともある。まあ俺が自分でやる場合は直ぐにでも終わらせれるけど、言うまでもなくこれが商売だとそうもいかない。そこでこうして多くの時間をもらったうえで、修理に取り掛かる。仮にパッチで治らなかった場合、チューブの交換。あるいはタイヤとチューブの両方の交換が必要になってくるからね。もっとも、その場合は断りの電話を入れるのが、ウチのやり方だったりもする。

 

「そうですか。うーんどうしようかなぁ。この食材。歩いて帰ってもいたんじゃいそう」

 

「じゃあ七星君、家まで送ってあげたらどうだい?ちょうど休憩だし、少しの間なら店舗にいなくてもいいよ?」

 

「え、大丈夫ですか?」

 

今は昼時だし、客足も途絶えて飛龍だけだけれども、午後になればドドっとお客が来る可能性だってある。ただでさえ3人でもつらいのに、2人だけなら相当つらいはずだ。

 

「うん。気にしなくていいよ。場合によっては予約制にすればいいのさ。じゃん!」

 

そういうと、飯島さんは自慢げに何かの紙を見せてきた。どうやら先ほどからパソコンをいじっていたのは、何かしらの表を作っていたからだったらしい。

 

「あ、わかりましたよ?つまりそこに、順番を書くというわけですな!」

 

杉浦さんが察したように言うと、飯島さんがそんな杉浦さんに向けてビシッと指をさし、「正解!ハワイ旅行へご招待!」と、まあこの人特有のノリで返事をする。

 

「えっと、なんか大丈夫そうっすね。ありがとうございます」

 

このノリになると飯島さんはちょっぴり面倒なので、とりあえずお言葉に甘えようと思う。俺は自転車かごに入ったレジ袋を取り出すと、飛龍へと催促をかけた。

 

「うし、じゃあいこまい。では、少々離れまーす」

 

「あ、はい。じゃあお二人ともお願いします!それではー!」

 

俺と飛龍はそれぞれそういうと、店舗を後にしたのだった。

 




どうも、遅刻してしまった飛男です。
言い訳と言いますか、現在課題のレポートや試験も始まって、いろいろ忙しいです。次話は直ぐに投稿したいですが、実際どうなるか…ともかく。遅刻についてはすいませんでした。

さて、今回は今までうやむやだったバイトの話です。まあ、単純にキャラをバンバカ出すのは愚策だと思っていましたが、本当に少ししか出ないキャラではありますし、ここはもう出しちゃおうかと思ったのが理由でした。

では、今回はこのあたりで、また次回!


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★バイトの話ですよ? 下

専門的用語などが出てきてしまったために、黒星回。例のごとく、まあそういうものがあるんだなと、感じてもらう程度で結構です。


飛龍を車へとのせ数分。自宅までもうすぐのところで、俺はふと思い出した。

 

―そういえば、飛龍と二人っきりになることって、これが初めてだよな。

 

夏休みが開始と同時に来た飛龍。いつもならば蒼龍となりにいて、三人で和気藹々と話すことが多かったし、なんだか新鮮な気分だ。

 

「え?なにか言いました?」

 

どうやら心のつぶやきが、口に出ていたらしい。飛龍は再度聞き取ろうと、若干顔を近づけてくる。

 

「いやな、お前と二人っきりって…今が初めてだなって」

 

俺の言葉に、飛龍はきょとんとした顔をするが、すぐににやりと口元を歪ませる。

 

「えぇ?何ですかぁ?意識しちゃいます?」

 

まあ意識していないと言えばうそになる。もっとも、今でこそ一番―と言うより愛しているのは紛れもなく蒼龍だが、彼女がこちらに来て魅力を再認識する以前は、飛龍だって相当好きな艦娘ではあった。彼女も同じくして初期に着任してくれて、家の鎮守府を蒼龍と共に引っ張っていったからね。

 

しかしながら、蒼龍の方が最初に着任して、初めて使った空母でもあって、また彼女の容姿の方が好みだった。本当にただそれだけに、当時は蒼龍を選んだに過ぎなかった。こんなことを蒼龍に聞かれれば、きっと怒られてしまうだろうが、本当にそうだったからどうしようもない。

 

―もし、俺が飛龍を選んでいたら、どうなっていなのだろうか。

 

こうしたifの考えが起きてしまうのは、ある意味では必然的だろう。もし飛龍を選んでいれば、こちら側に来た艦娘が飛龍になっていたとは限らないはず。そもそも、蒼龍は俺に恋心を抱きそれが爆発して、こちらへと来たわけで、飛龍の場合はそのような感情を抱いていないと思うし、こうして来ることだってなかっただろう。

 

「っと、赤か。…うーん、意識はしてないさ。ただ、新鮮だっただけだよ」

 

信号で止まった俺は、純粋にそう言い放った。最初はただ単純な理由だったけれども、今はもう蒼龍を愛している。この歳でこんな大きなことを言えないのは分かってるけど、それでも蒼龍を思う気持ちは、だれにでも負けないつもりだ。

 

「へぇ。つまんないの」

 

流すような返事をした俺に対して、飛龍は聞こえるような小言で言う。すまないね。

 

「うーん。でも、私はちょーっと意識しちゃうかなぁ」

 

「えっ」

 

純粋に驚きと疑問ゆえに、思わず言葉が漏れる。しかし、飛龍は俺がほのかに抱いた言葉にならない疑問など、直ぐに笑い飛ばした。

 

「そりゃ、だって提督ですしね。なんだかんだ言って失礼な事できませんし」

 

「ああ、そういう事ね。てか、どの口さげて言うんだお前は。さっき爆弾投下してきただろーに」

 

つい先ほどバイト先で彗星の急降下爆撃よろしく問題発言をしてきたのに、こいつは何を言っているんだろう。もしや純粋に、面白いギャグだと思って言ったのだろうか。今後いろいろな人物に会うことを考えると、先が思いやられる。

 

「えー、でもあれは、場を盛り上げるためですよ。だからほら、店長さんや、バイトさんだって私と打ち解けれたと思いますし」

 

言われてみれば、普通に初対面であるにもかかわらず、気兼ねなく喋れていたような気もする。そう考えると、飛龍は人の心に入り込む能力が、高いのかもしれない。

 

「あ、でも冗談って言い続けると、いつか真実になるそうですよ?えっへへーことあるごとに言い続けちゃおっかなー」

 

ふふーんと生意気そうな顔で言ってくる飛龍。前言撤回。ただこいつは、俺をあおりたいだけなのかもしれない。それがただ、良い方向へ進んでいるだけなんだろう。

 

「ちょ、おまえなぁ…。まったく、冗談はよせよ」

 

そういって俺は、飛龍の頭をぐしぐしともみくちゃにする。あ、以前蒼龍が言っていたけれども、言われてみれば、柴犬っぽい感じかも。

 

「あ、ちょ、めっ!やめてくださいって!もー!」

 

ぐしぐしと動かす手を必死にどかそうとする飛龍。こういうところは蒼龍に似ているんだけれども、飛龍の場合は力が結構強い。てか、痛い。

 

「っと、動き始めた」

 

信号が青に変わったので、俺はアクセルを踏み始める。

 

「冗談…ね」

 

運転を再開すると同時に、外を見ていた飛龍が何を言ったような気がしたが、いまいちうまく聞き取れなかった。

 

 

 

 

さて、飛龍を自宅へと置いたのはいいが、携帯を確認すると飯島さんからメッセージが届いていた。

 

内容はいたって簡単だ。先ほどの自転車が、修理だけではどうすることもできないのだという。パンク以前にクランクにガタが来ていたことや、スポークが数本折れていたこと、ほかにもさまざまな部分にガタが来ていて、修理をしても新車が買えてしまうほどひどいらしい。まあ高校時代はかなり無茶をさせていた自転車で、ガタが来るのは仕方のないことだと思う。

 

そこで、いっそ新品に買い替えてしまおうと、俺は思い立った。以前車に乗せていたロードバイクは、あいにく蒼龍がバイトへ向かうために使っているし、そもそも買い物云々ではいろいろなものを乗せるため、スポーツ車では酷な相談だ。だからこそ、軽快車は必要と言えば、必要になってくる可能性が高い。

 

「と、言うわけで、新しい自転車買わせてもらいますわ」

 

バイトに戻ると、俺は飯島さんと杉浦さんに事情を話し、先の自転車を廃棄することにした。いろいろと思い出の詰まった自転車ではあるが、家に持ち帰っても乗れないのならゴミになるだけだしね。ここは致し方ないだろうさ。

 

「おっけー。でも新車整備は、今予約されている自転車の整備が終わってからになると思う。だから結構時間はかかると思うけど、いいかな?」

 

まあ仕方のない相談だろう。まあさすがに今日中にはできるだろうけど、できてもちょうど夕方ごろだろうか。俺の上りは5時だし、その時刻までに整備が終わればいい。

 

「だ、そうだ。それでいいか?」

 

「まあ仕方ないでしょう。じゃあ、選びに行きますよ!」

 

飛龍はワクワク感秘めた顔で、俺に言う。新しい自転車を買うってのは、やっぱり心が躍るだろうね。

 

「うん。行ってらっしゃい。良いのあったら、俺か誰かを呼んでくれればいいから」

 

とりあえず書類だけは簡単に書いておこう。と、言うか飛龍はいま居候の身だから、家の住所を書くことになるのか?それはそれで楽だけれども、どうも違和感というかなんというか…。

 

俺がそんなことを考えながら、保証書を取り出そうとすると、飛龍が俺の服をつかんできた。

 

「ん?どうした?」

 

「いや、七星君は店員だよね?接客しないと」

 

さも当たり前のように、飛龍は俺へと催促をかけてくる。服をぎゅっとつかんで、いることから、どうやら譲る気持はないらしい。

 

「あのな、俺は付きっ切りで接客するほど暇じゃないの。書類書かないといけないの!」

 

別に接客業である以上、当たり前と言えば、まさに当たり前のことだ。しかし、彼女はあくまでも知り合いで、また接客だからと言って付きっ切りになる訳にもいかないからね。どうしたものか…。そんな思いを胸に抱きつつ、何とか言い聞かそうと頭を働かせると、ふと飯島さんが口をはさんできた。

 

「いや、ほっしー。ここは飛田さんに接客してあげたら?」

 

「え、でもこいつは…」

 

「いいのいいの。こっちはこっちでいろいろとやっておくから、思う存分自転車を選んであげなはれ!まあぶっちゃけ、今のところお客さんいないし、がっつり接客できるのは今しかないじゃん」

 

親指をグッと立てて、飯島さんはニカッと笑いかけてくる。空気を読める店長だが、変なところで気を使わないでほしいんですけどぉ。

 

「ほら、店長命令はぜったいですよ?行きましょうよー」

 

「わかった。わかったから。じゃあ、すいません飯島さん。他のお客さん来たらそっちも対応しますんで!」

 

俺は一応飛龍の接客に依存しない意思を示すと、彼女に連れられるがままになった。

 

 

 

 

こうして飛龍を接客することになった俺だが、取り敢えずこれも仕事のうちと考えて、全うすることにした。逆に考えれば知り合いを接客するんだから気持ち楽な仕事だけれども、まあそれで給料を貰うのはいと申し訳ない気持ちだ。

 

「それで、飛龍はどんな自転車が欲しいんだ?」

 

まず、飛龍がどの様な用途に使うかを考え、欲しい自転車の大まかなイメージを聞いてみる。結局は買い物に使う為の物だろうけど、例えばギアの有る無しや、ライトの種類。カゴはどの様なタイプが良いだとか、ノーパンクタイヤ(通常は空気の入ったチューブがタイヤの中にあるが、ノーパンタイヤはスポンジの様なものが代用されている)など、軽快車にも様々な種類がある。そこから大体は、値段とこだわりで、選ぶ人が多い。

 

「私はそうですねぇ…。出来れば頑丈な奴が良いんですけど」

 

なるほど、頑丈な奴か。と、なればステンレスで作られたフレームに、ローラーブレーキ(歯車の様な物を噛み合わせて、従来のブレーキよりも精度が良いもの)を搭載したものが良いだろう。

 

「そうか、じゃあこれはどうだ?うちでは売れ筋なんだが」

 

お勧めしたのは、ステンレスフレームにオートライト(従来のライトよりも前輪の抵抗が少なく、暗闇で反応するライト)搭載、さらには先のローラーブレーキに、キャリア付きの自転車だ。値段的にも2万5千円ほどのお手頃で、繁忙期には飛ぶ様に売れたりもする。

 

「おー、なんかごつごつしてますね。 なんかザ・自転車って感じがします」

 

そう思うのは勝手だけれでも、事実こんな様な自転車ばっかりなのが、軽快自転車だ。特色のフレームや高価なパーツなどを使う自転車は、それこそスポーツ車や、某石橋製の商品だろう。

 

「これにするか?」

 

むむっと先の自転車を眺めている飛龍に、俺は声をかける。性能的にも申し分ないし、何より頑丈さを求めるのであれば、これが一番だろう。

 

「うーん。これ、色って何があります?」

 

「色か。えーっと。赤、緑、青、かな。ほら、このポップに書いてあるだろう?」

 

自転車のカゴに金具で止めてあるポップを指差しながら、俺は言う。一応こうして分かりやすい様にはしているんだけれども、飛龍を含め、お客さんって案外気がついてくれないんだよね。改善案でも提出してみようか。

 

「おー、こんな所に。…なんか仲間はずれにされてる気分だ。はは」

 

「ん?なんでだ?」

 

唐突に意味深な発言を飛龍がしてきたので、俺は首を傾げてしまった。つまり何が言いたいんだ?

 

「いやほら、赤は赤城さん。青は加賀さん。緑は蒼龍だけれども、オレンジがないから…」

 

つまり、自分のパーソナルカラーの様なものを言っているのだろう。確かに飛龍はオレンジや黄色と、明るい色のイメージだ。この自転車の配色にはそれがないから、そんな考えが過ぎったんだろう。

 

「あー。それはなんつうか…ドンマイっつうかなんというか…」

 

こういう時、どう接して良いのかが、いまいちわからない。取り敢えず何か言葉をかけてやりたいが、良い言葉が思いつかないのが俺クオリティだったりする。まあでも―

 

「ふふっ、別に拗ねてないですけどね。気にしないでください」

 

「え、あ、そう?じゃあ良いんだけれども」

 

にひっと悪戯っぽい笑みを浮かべる飛龍。また俺を、からかいたかっただけなのかもしれない。こういう意味深なからかい方は、やめて欲しい。まあ、許してまうけど。

 

「でも、色はこだわりたいですね。オレンジ色ってありません?」

 

色を拘るとなると、選択肢が限られてきてしまうのも、自転車購入時には良くあることだ。特にオレンジ色など、割と珍しい色を選ぶとなると、さらに絞られてしまう。

 

「オレンジ色かぁ。えーっと、確か」

 

だが、うちの会社はそれを見越して、数多くの色を作っている。例えば車種名が違っても、自転車に使われているブレーキやサドル、さらにはフレームといわゆるマイナーチェンジを行われた商品が結構ある。台数を多く作って、それが売れ残った場合、マイナーチェンジを行うことで新商品として売り出すのは、割と普通のことだったりすんだよね。

 

「お、あったあった。これなんてどうよ?さっきの商品とは若干違うけど、オレンジ色だぜ?」

 

先に紹介した自転車のパーツが、若干違うものを飛龍に紹介してみる。すると、飛龍はそれを真っ先に見抜いたのか、興味深そうな顔をした。

 

「え、これさっきと同じじゃないんですか?」

 

「よく見てみ、サドルが茶色になってて、カゴが網目状になってるだろう?まあさっきの無骨さをおしゃれに変えてみましたって商品。俗っぽい故かあまり男性には売れないんだけども、女性は結構買ったりするね」

 

「あー、確かに男の人がこれに乗ってたら、ちょっとかっこ悪いのかもしれませんねぇ」

 

納得する様に、飛龍はまじまじと自転車をみる。先ほどよりも食い付きと言うか、目の輝きが違うというか、気に入った様だ。

 

「それにするか?」

 

「ええ!これにするわ!」

 

こっちを見て、飛龍は深く頷いた。あとは整備と、書類を書けば、お終いだ。

 

 

 

 

それから数時間後、まさにバイトが終わる5時頃に、飛龍が購入した自転車の整備が終わった。飛龍は整備が終わるまで待ってもらうわけにもいかなかったので、すでに家へと帰っている。

 

CX—5へと自転車を乗せ、家に帰る頃には蒼龍も帰宅していた。新車を下ろしてそれを見た蒼龍は、純粋に羨ましそうな顔をして、「いいなぁ」と、つぶやいていた。お前には俺のロードを貸してるんだし、まあそこは我慢してくれ。

「ふー。今日もタルかったなぁ。3時くらいにまたどどって来たんだぜ?飛龍と入れ替わりだったから、ほぼ立ちっぱなしだったわ」

 

自室に戻るや否や、ベッドでくつろいでいた蒼龍と、俺の布団を我が物顔で座っている飛龍へと簡単に語った。双方はそれぞれ表情を見せてくれたが、まあ総じると「お疲れ様」と物語ってくれている。

 

「あー艦これやろ。パソコンスイッチオン!」

 

バイトの疲れから変なテンションで、俺はパソコンのスイッチを入れる。蒼龍も艦これによる俺の仕事ぶりが見たいのか、折りたたみの椅子を持ってきて、隣へと腰掛けた。

 

パソコンが立ち上がると、ふとピロリンと音が聞こえる。この音はー

 

「お、みんたくからメッセージが来た」

 

ついに、奴から返事が来た様だ。メッセージの文章を、つづらせてもらう。

 

『その日予約取ったよ。8名4部屋でいいかな?ちなみにこの日、珍しく予約がまだはいってないから、貸し切りかも。なお金の方は聞いてみたけど…ちょっとだけなら安くなるかな…。まぁ、あまり綺麗な旅館じゃないけど、のんびりできると思うしおたのしみに!あ、手続きの書類は後日送ります』

 

とのことだった。まさか貸し切りになる可能性に加え、予約まで取っておいてくれたとは…。まあこれで決定したも同然だけれども、もしお流れになったら、キャンセル料はこっちで払えばいいだろう。

 

「このメッセージからして、旅行は京都で決定ですか!?」

 

当然隣にいた蒼龍も反応したようで、目を輝かせながらそういってくる。これでやっと、決定したようなもんだし、相当嬉しいんだろう。

 

「ああ、まあ後は地元メンツにこれを伝えればいいだろうね」

 

その後、地元メンツにメールを送ったが、8人すべては承諾したと返答が帰ってくることになる。こうして、旅行の行先は京都へと決まったのだ。

 

 

 

 




どうも、テストと課題に追われている飛男です。
今回は、自転車回!といっても商品紹介やパーツ紹介などが多く目立ちますね。実際軽快車っていわゆるママチャリ、銀チャリ、ケッタと、まあ高校生やおばさんとかが乗ってる自転車のことです。まあ細かく区分けするとまたややこしくなるので、今回は大まかに軽快車と呼ばせていただいています。

次回は京都編への準備回を考えております。そろそろコラボ先との話も、煮詰まってきましたしね。

では、また次回にお会いしましょう!


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デパートへ行きます!上

あまりにも投稿期間が開いてしまうとあれなので、上下に分けて投稿。


旅行先が京都に決まった後日。朝食を取り終えた俺たちは、リビングでヒル○ンデスを見ているときのことだった。

 

 「そうですよ!これ!これ!」

 

 すっかりと休日続きでぐーたらしはじめ、ぼけっと番組をみていた俺とは対照的に、じっくりと見ていた蒼龍は唐突に声を上げた。どうしたんだろうか?

 

「旅行前に、私こういう店に行ってお洋服買いたいんですよ!」

どれどれと体を起こし、俺もじっくりと番組に目をやる。どうやらファッションデザイナーとモデルが洋服を着合わせして、戦っているようだ。と、言うことは…。

 

「ああ、デパートね。なるほどなるほど」

安値で洋服を売っているような店とは違い、かなりお高めの服を売っているデパートは、総じてファッションセンスの良いと思われる服が置いてある。まあ実際俺はそういうのに疎いから、よくわからないんだけれども、おそらく若葉から蒼龍くらいまでの層には受けるんだろうなぁ。って、蒼龍は年齢不明なんだけれども。

 

「わたしも行ってみたいかなぁ。もう草取り嫌だし。服選びなら純粋に見て見たいし」

 

飛龍もどうやら乗り気なようだ。と、言うか以前やらせたおふくろの手伝いを踏まえて、行きたいとはっきり意思表示をしたんだろう。学習したな、こいつめ。

 

「でもさ、いつものしま○らとかユニ○ロとかじゃダメなの?」

 

「旅行だからこそ、良い服を買いたいじゃないですか!あと、そこいらはみんな見飽きちゃいましたし」

 

さすがは御洒落にうるさい女の子だろうか。基本男は、洋服屋とかに行っても、見飽きたとか思わないからなぁ。あ、一個人の意見です。

 

「でも、さすがに俺は出せないぞ…?いや、だってこういうところの服、高いし」

 

「さすがに出してもらおうとは思ってないですよ?だって、私そのためにバイトしてるじゃない!」

 

ふーんと得意げに言う蒼龍。半年前と比べて、本当にこの世界になじんだなぁ…感心するよほんと。いっそ蒼龍のヒモになりたいわぁ。いや、冗談だけどね。

 

「ふむ、じゃあ問題ないかぁ。あ、でもいくらくらいあるんだ?」

 

蒼龍は「えーっと」と言いながら、指折りで数え始める。

 

ちなみに言い忘れていたけれども、蒼龍は俺と口座を分けたから、蒼龍が稼いだ分は移動させた。携帯料金だって蒼龍の口座から引き落とされるようになったし、俺の財布事情の問題は、残すところ飛龍の存在だけだろう。あと、蒼龍はちょくちょくお金を出しているみたいで、そのたびに服が増えているような気もする。あれ、ちょっと心配になってきたぞ…。だが。

 

「はい、確か30万円とちょっとですかね。貯金の中身は!あ、でも財布の中は5千円くらいしか…あはは…」

 

蒼龍からは予想外の金額が発表された。え、ちょっとまて、俺より全財産多くない?

 

「え、ちょ、ま。そんなにもってたの?」

 

いつの間にそれだけ稼ぐようになったんだろうか。いや、まて。ひょっとしてキヨの家だけでは飽き足らず、危ない仕事にまで手を出したんじゃ…!?

 

「ええ、だって、基本そこまで使わないですからね。お洋服だって基本、安い物を狙って買っていますし」

 

なるほど。確かに言われてみれば、蒼龍が大きな買い物をしたのって、サーフェスだけだった気もする。服や小物だって安いものを重点的に買っているのであれば、自然とそれくらいは溜まっても不思議じゃないだろう。

 

「あははっ!提督は蒼龍よりもお金持ってないのね!本当にそれで蒼龍を養っていけるの?―っていたいいたい!」

 

厭味ったらしく行ってくる飛龍に対して、俺は飛龍のぷにぷにな頬を、軽くつまんだ。おめぇのせいでもあるんだっつーの!お前もどこかにバイトしろや!

 

「まあまあ。ともかく、これなら大丈夫よね?そんなに多くは買うつもりありませんし、純粋に行ってみたい気持ちも大きいし」

 

ともかく、蒼龍はデパート自体に行きたいらしい。まあここまで言われては、致し方ないかな。それに俺が買いに行くわけではないし、最悪車を出してついてくだけでいいだろう。

 

「ん、わかったわ。で、飛龍はどうすんだ?お金ないだろうに」

 

あくまでも飛龍が持ってるのは金であって、お金じゃないしね。換金しようにも、明石も大淀もそこまでやるのはよくわからないそうで、今のところはただの鉄くず状態だ。本当にどうしよう、あれ。

 

「わたしはそこまで興味ないから、いつもの場所で適当に買いますかねぇー。あ、もちろん提督が許す範囲ですけれども…」

 

「ん。じゃあお前も見るだけだな。あと、買うのはいいけれども、その分ちゃんと家事とか手伝えよ?」

 

「わかってますって!じゃあ早速行きましょうよ!」

 

飛龍は立ち上がり、催促をかけてくる。一方蒼龍は。

 

「…望から買ってもらえるって、今考えたらプレゼントってことかな。そう考えると、うらやましいかも」

 

などと、小声でつぶやいていた。うーん、乙女心ってよくわからんな。

 

 

 

今日も売り上げ絶好調!と、いうべきだろうか。都心にある某デパートは、いつも通り混雑をしている様子だ。

目的地は五階の洋服コーナー。一応そこに蒼龍が気になっているブランドがあるそうで、そこへと向かうことにした。はぐれないように二人の手を引いて、何とか五階まで上がっていく。

 

「はぁぁぁ。しかし、何とかたどり着けたなぁ」

 

五階まで上がるや否や、俺は適当なベンチへと腰を掛ける。体力的問題で披露したわけじゃなくて、精神的にまいってる感じ。

 

「だらしないなぁ。それでも提督なの?運転くらいでへこたれるなんて」

 

「まあまあ、私たちは乗ってきただけだから。ともかくお疲れさま。少し休憩したら、行きましょう?」

 

飛龍の喝に対し、蒼龍はなだめるように言う。まあ飛龍の言いたいこともわかるよ?君たちはなんだかんだ言って軍人だしね。肝も据わっているはずだ。でも、これが普通な道のりなら、俺だって疲れはしないさ。

 

なんというか、俺の住んでいる県は、都心へ行くにつれて運転が荒くなっていく傾向がある。いわゆる地元走りなんだけれども、それが度を越しているからか、以前なんかのスレで見たけれど「道路世紀末」と言われていた。

 

以前もこんなこと言ったような記憶があるけれども、大まかに説明すればそれだけ事故が多いってこと。ちなみにもう一方の方にある、世界的車メーカーがある市も、かなり道路が世紀末化している。だから総じてこの県は、ドライバー的にはあぶなく、注意深く運転する必要があった。もっとも道路が世紀末なだけで、普通に住む場合は住みやすいとおもうけど。

 

「あ、ところで蒼龍はどんな服…じゃない。どんなブランドを見に来たんだ?」

 

しかし、まさか蒼龍からブランド云々と言葉が出るとは、本当にずいぶんなじんだものだ。おそらく異常なる妹の影響なんだろうけども、ともかくこの先ブランドにこだわりはじめる蒼龍を、見たいとは思わないのが本心だったりもする。

 

「えーっと、若葉ちゃんから聞いたんだけど…」

 

やっぱり若葉の仕業だったか。まあイマドキの女子高生だし、蒼龍が影響されるのも必然か。蒼龍の方が年上だと思うけど。

 

「双子のアイドルが立ち上げたブランドらしいですよ。ちょっぴりわいるど?というか、ぼーいっしゅな感じの服が多いみたい。それこそ、飛龍も似合いそうなブランドかなぁ」

 

「へぇ。まあ蒼龍も似合うと思うぜ?と、いうか俺はボーイッシュな感じの服をきた女の子も好みだね」

 

いや、ほら、なんかボーイッシュな感じってそれはそれで魅力的というか、特に蒼龍みたいな絶世の美女がボーイッシュな服を着ていたら、いろいろと込み上げてくるものがあるでしょう?と、まあ単純に俺の好みかもしれんけど。

 

「いいねぇ。わたしもついてきてよかったかも。あ、でも買えないからなぁ…」

 

ぱっと一瞬明るい顔をした飛龍だったが、すぐにうむむとうなり始める。うーむ、なんというかすごい罪悪感。換金できたら、好きなだけ買ってくれって感じだけれども。それができないから、致し方ないね。

 

「しょうがないなぁ。どうしてもっ!って服があったら、私が買ってあげるよ?でも、ちゃんと借は返してよね?」

 

さすがはお姉さんと言うべきだろうか。蒼龍はしぶしぶ引き受けたような顔をして、片腕を腰に置いた。とくに『どうしてもっ!』って言い方がまた良いね。久々にグッときた。

 

「いいの!?じゃあそのときはお願いね!」

 

 目を輝かせて、飛龍は言う。うむ、なんだかんだ言って、飛龍も妹なんだろうかね。普段はみられないというか、職務をしているときには見られない一面だなぁ。

 

「ははっ。よっし、じゃあ行きますかね。回復したぞお!」

 

俺はそういうと飛び跳ねるがごとく、ダイナミックに体を起こす。

 

「わかりました。あ、えっと、まずは館内案内の地図を探しましょう!」

 

指を立て、気が付いたそぶりを見せる蒼龍。まあぶらぶら回って探し回るよりも、手っ取り早いしね。

 

 

 

 

館内案内の地図ってのはだいたいエスカレーターの近くにあるわけで、ベンチから発ってすぐに見つけることができた。上がってきた際に確認しておけばよかったけど、あいにくそこまで頭が回らなかったと言える。とにかくつかれたもんだから、座る方を優先してしまった。

 

「おお、ここね」

 

しばらく地図通りに歩くと、目的地に着き次第飛龍が声を出した。エレベーターを上がってすぐのところにあったから、そっちを使った方が良かったのかもしれない。今更なんだけれどもね。

 

「じゃあ早速選びましょ?ほら、望。ね?」

 

そういって、蒼龍は俺の腕に抱き着いてくる。久々に抱き着いてきた蒼龍の抱擁は、なんというか男をダメにする素養が備わっていて、思わず顔がほころんでしまった。しかしそんな俺に対して、飛龍何かが気に入らないのか、何事もない自然な動作で、足の小指を踏んできた。

 

「いってぇ!あんだよ!」

 

「あ、ごめんなさい。うっかりふんじゃったみたい」

 

あははと笑いながらごまかす飛龍。まったく、イチャコラしているのが気に食わないのがわかるが、暴力というか地味な嫌がらせはよくないと思うぞ。

 

「もう、飛龍ったら!望は仮にもあなたの提督なのよ?少しは敬意を払ったらどう?」

 

むーと怒ったように頬を膨らませて、蒼龍は飛龍を指摘する。

 

「だから謝ってるじゃない?あ、あれ見てよ二人とも!」

 

すぐさま話題を買えるように、飛龍はマネキンに対して指をさした。白いワンピースを来たマネキンで、野球帽のような帽子をかぶっている。いわゆるモデル立ちをしているようで、蒼龍達の目は関心をしているようだった。

 

「これが今風の立ち方なのね…」

 

なにか勘違いしているようにも思えるけど、まあこうしたポージングをすることで服の良し悪しを分けるとも思う。こう体が動けば、どう見えるのかとか、見方を変えればマネキンとて面白いものなのかもね。女性にとっては。

 

「おふくろや若葉いわく、こうしたマネキンの服装を、マネするのも悪くないそうだ。参考にするといいかもしれん」

 

確かにマネキンって、割とセンスのいい着合わせをしている気がする、俺も言われて気が付いたけど、その手に詳しい人が、服を買ってもらうために試行錯誤して着合わせるんだから、合わないわけが無いだろう。ファッション雑誌とかも参照していけば、今はやりの服や着こなし方がわかるしね。

 

「あ、これなんてどうだろう?」

 

蒼龍は気になる服を見つけたようで、それを手に取った。どうやら薄青のノースリーブシャツで、いたってシンプルに見える。

 

「少々ごわっとしてますけど…似合うと思う?」

 

胸元に服を当てて、蒼龍は上目づかいで俺を見てくる。何を着ても似合うんだから、いちいち聞かなくてもいいぞ。と、まあこういうやり取りもカップルならではなので―

 

「うん。似合ってるよ。あと細身のデニムズボンを合わせれば、魅力が引きたてられそうだな」

 

「あ!それ私も思った!よーし、じゃああっちのズボンを持ってきてと…」

 

薄青に合わせるとしたら、やっぱり白色だろうか。そんなことを思っていると、今度は飛龍が俺の服を引っ張ってきた。

 

「どう?これ、私はこんな感じの奴が好きかなー」

 

そういって、彼女は縦しまのブラウスを胸元へと当てる。なかなか似合うもんだから、思わずまじまじと見つめてしまった。

 

「いいじゃん?まあ、それを買ってくれるかどうかは蒼龍次第だな」

 

「あ、うん。そうなんですよねぇ…。もうちょっと念入りに考えてみよう」

 

うんうんと頷いて、飛龍は次なる服を探しに行く。一瞬こちらをチラリとみてきたような気がしたが、まあ気のせいだろう。

 

「あ、望!あったよ!」

 

蒼龍がぱたぱたと駆け寄ってきて、今度は白い細身のズボンを腰へと当てる。うん、これだよこれ。モデル体質な蒼龍には、ピッタリな着合わせだ。

 

「おお、いいじゃないか!あ、どうせなら試着してみたらどうだ?」

 

店内の端には、試着室のようなところが見える。と、言うか公衆電話のが置いてあるような狭い部屋に、白いカーテンがかかっているし、間違いなく試着室だろう。

 

「わかりました!じゃあいこっ!」

 

「お、おう。ってひっぱるなよ。ははっ」

 

手を引いて、蒼龍は俺を試着室へとリードし始める。新しい服を着れるだけあって、テンションもダダ上がりのようだ。

 

「じゃあ、着替えてみるね」

 

そういうと、蒼龍はシャッとカーテンを閉じる。待つ間俺も暇なもんで、とりあえず近くの椅子へと腰を掛け、スマフォでもやろうかな。ぐだおのイベントを周回しなければ。

 

と、そんなことを考えていると、蒼龍が顔だけ試着室から出してきた。

 

「…覗いてもいいですけど、周りの目線。気にしてね?」

 

「いや、覗かねーよ!」

 

蒼龍は俺のことを、何だと思ってるんだろうか…。そこまで性欲を、爆発させているようには思えないんだけれども。

 




どうも、かなり投稿間隔があいた飛男です。
理由は活動報告に書いてある通りです。彼は話数をもう少々稼ぎたいみたいですので、どうかお待ちを。

そのためのつなぎとして、こちらを上下とさせていただくことにしました。「いい加減コラボしろや!」と、言いたい方もいるでしょうが、物事には段階があるので、どうかそれまでお待ちいただけることを切に願います。

では、今回はこのあたりで、また次回お会いしましょう!


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デパートへ行きます!下

次回から、コラボです。なお、次回の投稿日は未定にさせていただきます。


蒼龍が試着室へ入ってから数分。ぐだおの一戦がちょうど終わるころに、シャっと音が聞こえ、蒼龍が姿を現した。

 

「どう?似合うかな?」

 

似合うも何も、蒼龍は何を着ても似合うんだよなぁ強いて言うとすれば、彼女の補給タンクは大きい故、少々胸元がきつそう。まあそれが何とも色っぽいというか、なんというか…。またタンクだけではなく、腰回りも張っているもんで、大人の女性っぽさもアピールできているんだけれども、童顔だもんだから一見アンバランスだ。またそれが目を惹かせるというか、ともかく色っぽくて可愛いのでした。

 

「うーん。やっぱり着合わせもいいな、こう夏っぽい感じで。でもさ、なんだからきつそうだな。主に九九式艦爆が」

 

にやりと俺は笑みを浮かべながら言うと、蒼龍は顔を赤くした。ふへへ。

「もー!男の人ってやっぱりここに目が行くのね!こっちはむしろ大きくて肩がこるのに!」

 

そうらしい。実際男にはわからん悩みだろう。男の場合かわからんけど、肉体的な悩みなら腰が痛くなる。主に、力仕事でね。大和男子は強い子なのだ。

 

「ははっ。ごめんごめん。で、まあもう一回り大きいサイズがいいんじゃなかろうか?」

 

胸元が言うまでもなく張っているので、今後のことを配慮するのであれば、やはりもう少々大きいサイズを選ぶのがいいだろう。そちらの方が仮にまた成長したとしても、買いなおさなくて済むはず。つまりお財布にも優しい。

 

「むー。まあ、一理あるけど…これ以上大きいサイズあるのかなぁ?」

 

もっともらしい事を言ったけれども、実のところ言ってない理由がもう一つある。それはまあ蒼龍持ち前の、魅力的なボディが強調されてしまうからだよ!見る物振り向く美しさ故なのはまあいいんだけれども、いやらしい目線で見られるのは少々気に障る。色ボケしてると思うけど、普通じゃないかな。

 

「どうだろうなぁ。あ、その服サイズなに?」

 

蒼龍は再び試着室を閉じると、えっーとと言葉を漏らしつつ、タグを探し始める。おそらく取り外してないだろうから、試着室の中にいる彼女はブラだけなんだろうか。って、何を想像しているんだ俺は。どこの高校生だよ。思春期真っ盛りかよ。この歳になってもまだ終わってないんだろうか。

 

「ありました。Mって書いてありますね。そう言われてみれば、少々小さいかも」

 

「だな。よし、ちょっち待ってろ。聞かなくとも、置いてあるかもしれない」

 

先ほど蒼龍と一緒に見た、あそこの陳列段に置いてあるはず。と、言うか飛龍はどこ行ったんだろうか?

 

「うん、蒼龍。取ってくるがてら、飛龍を確保してくる。それまで待っててくれ」

 

「はーい。あ、私もついて行った方がいい?」

 

何気なく聞いてくる蒼龍だが、一人で置いて行かれるのが寂しいんだろうか。いや、さすがにそれはは考えすぎかな。うさぎじゃあるまいし。

 

「いや、すぐ戻るからいいよ」

 

そう伝えると、真っ先に俺は商品棚へと向かった。

 

 

 

 

「お、ここだ」

 

蒼龍が選んだ服の陳列棚を見つけ次第、俺は商品棚へと戻すべく、服をたたみ始める。ちゃんと店のたたみ方を見て、まあササッとたたんでしまおう。

さて終えるやいなや、Lはどこだろうかと探し始める。すると、ふとしゃがみ込む人影が見た。

 

「あ、飛龍」

 

顎に手を当てて、ふーむと言いたげな悩ましい表情をしながら、飛龍は商品棚を見ている。欲しい服が山ほどあるけれども、どれに絞ろうと思っているんだろうか。ともかく、その顔は女子特有の服選び厳選の顔をしている―と、思う。実際女子じゃないから、わからないんだけれどもね。とりあえず何かを考え込む、そんな顔をしていた。

 

「おう飛龍。良い服あったか?」

 

とりあえず、声をかけてみる。飛龍は近づく俺に気づいていなかったのか、びくりと身をはねると、驚いた顔でこちらを振り返った。迂闊というか、うーんいかんね。実戦では命取りになりそうなんだが。

 

「う、その、あー。うん提督。いろいろあって迷っちゃいますねぇ。安かったら、パパッと決めちゃうんですけど」

 

何かを言おうとしたようだけど、それをすべてひっくるめたように、あははと愛想笑いを漏らす飛龍。なんか釈然としないというか、何か間違った事でも言ったのだろうか。と、言うかやっぱりなんだかんだ言って、がっつり選んでるんじゃないか

 

「うん、まあそうだろうね。ともかく、良い服あったら試着室まで持ってきいや。そこにおるで」

 

とりあえずこうやって声をかけておけば、決まり次第試着室へと来るだろう。そうすれば蒼龍と入れ替わりで試着できるはず。そうしたほうが、実際手っ取り早いからね。

 

「うし、じゃあ戻るわ」

 

 声をかけたので試着室へ戻ろうとすると、不意に飛龍は立ち上がって、「まって」と服をつかんできた。うお、なんだよ。

 

「あー、あのね。蒼龍が決まってからでいいけれど、わたしとも一緒に選んでほしいかなー。やっぱり男の人の意見聞きたいから」

 

なるほど、確かに言われてみればそうかもしれない。若葉も服に関して意見を聞いてきたりするし、男性の意見も聞いておきたいんだろう。でも俺って、ファッションセンス無いんだよねと、毎回思うんだが。

 

「よし、わかった。んじゃあこれ、蒼龍に届けてくるから。その間に決めておくと、意見を言いやすいかな」

 

そういうと、飛龍は嬉しそうな顔をする。単純というかなんというか、ダメとは言わんだろ普通。よっぽど急いでいる場合を除いてさ。

 

「じゃあこう少しここで見てますね。よーし。えーっと」

 

意気込む飛龍を置いて、とりあえず俺は蒼龍が待つ試着室へと戻ったのだった。

 

 

 

 

さて、蒼龍は持ってきた服を試着し終えると、早速お披露目をしてくれた。

 

先ほどよりも胸元に余裕ができたというか、そんなに圧迫感は見受けられない。要するにばっちりサイズが合致したようで、蒼龍もどこか満足そうな顔をしている。

 

 「やっぱりLだったな。うんうん。それなら普通に似合ってると言い切れる」

 

 「でも、望は強調してる方がいいんでしょ?」

 

ふふっと笑いながら、蒼龍はいたずらっぽく言ってくる。こっちから言うのは構わないが、こうやってカウンターを受けると、困惑するのが俺だったりする。まあ言わずと、何とも言えない表情で、俺は頬を掻いた。ちょっと悔しい。

 

 「おほん。それはいいとしてだ。俺は飛龍の服も選んでいかなきゃいかん。一人で買えるよな?」

 

 「あ、はい。もしかして飛龍迷ってました?服」

 

 「そーだねぇ。やっぱり一着だけと限定しちゃうと、迷っちゃうのが女の子じゃないの?」

 

 自宅にある飛龍の服と、今展示されている服。その着合わせを考えると、やはり迷ってしまう。と、いうかそれが普通だと思うし、今回は蒼龍の買い物は、割とレアケースな気もする。実際俺だって、ミリタリーショップへ服を探しに行くとき、自宅の服を思い出しながら選ぶしね。こればっかりは、男女共通の話題だ。

 

 「どうせならもう少し買ってあげる服を、増やしてあげてもいいかなぁ…」

 

 「そうだな。俺も出せるだけは出すよ。…なんかすまん。金が無くて…」

 

 正直バイト歴長い俺が初めて半年くらいの蒼龍に負けるってどうよ。実際日数的に俺より入ってないはずだし、時給だって蒼龍の方が安い。これが性格ってやつなんだろうなぁ。

 

 「そ、そんな!だって望は、最初私のことも面倒見てくれたし、今は飛龍だって面倒を見てるじゃない!それに、外食だって基本ご馳走しちゃうし、私だってやっぱり少しは…」

 

 「みなまで言うな。男は魅せなきゃいけない時だってあるんよ。ふふっ一度言いたかった。かっこいいだろ?」

 

 「…そういわなければ、きゅんと来たのに。なんか残念」

 

 蒼龍には苦笑いを浮かべられたが、金が無いからって彼女に借りるのは、さすがに男として廃っちまうからね。ちょっと恥ずかしいこともあって、こうとぼけたけど、これは譲れない。そもそも蒼龍や飛龍はなんだかんだ言って向こうの住人。この世界に居れる間は、俺が無理をしなきゃいかん。大学生なりにだけどね。

 

 「うーん。それで破産したら、元も子もないとわたしは思いますけどねぇー」

 

 俺が内心カッコつけていると、後ろからどぎつい言葉が突き刺さってきた。言わずとその声は飛龍の物で、振り返ると彼女はあきれ顔で、両手にシャツを持っている。

 

 「…そう思うなら、おじさんバイトしてほしいんだけどぉ。飛龍さん」

 

 「うーん。わたしお嬢様設定だし。不思議がられちゃうじゃない?おじさまやおばさまに」

 

 にひひといたずらっぽい笑みを浮かべ、飛龍は言う。おのれ、その設定にしたのは間違いだったわ。悪用しやがって!

 

 「それで飛龍。一緒に選ばなくてよかったのか?わざわざこっちまで服を持ってきてさ」

 

 さっきはあんなにうれしそうだったが、なぜか考えが変わったようで、こちらへと来たようだ。手っ取り早くはなったが、どういうことだろうか。

 

 純粋な問い掛けに一瞬飛龍の顔が陰ったような気がしたが、何事もなかったように明らかな、愛想笑いを作った。

 

 「ほら、やっぱり蒼龍も一緒にと思いましてね。どう二人とも?」

 

両手にシャツを持ち、飛龍は見比べてほしいのか商品を器用に見せてくる。双方落ち着いた色で、片方は黒の半そでのシャツ。もう片方は、鼠色のワイシャツのような服だった。

 

 「へぇ。センスいいな。って、俺はよくわからんけどね。俺の感性からそういっただけ」

 

 「いえ、でも両方ともおしゃれじゃない?私は普通に可愛いとおもうけど」

思わず俺と蒼龍はべた褒めしてしまったが、実際飛龍に似合いそうな、かつ彼女の個性を生かせそうな服で、センスがいいのは間違いないだろう。

 

 「どぉよ。私はセンスに自信があるもの!でも、やっぱりどちらかってのは決めかねちゃって」

 

 これは悩むわけだ。と、言うわけで俺と蒼龍は顔を見合わせると、うなづいた。

 

 「じゃあ、両方買おうじゃないか。今回は特別の中の特別だ!」

 

 「え、いいの!?やったぁ!じゃあ早速、レジへゴー!」

 

 嬉しさのあまりか飛龍は飛び跳ねると、そのままウキウキ感を出しながらレジへと先陣を切っていく。俺と蒼龍もそれに続いて、歩き始めた。

 

 「んー!早く着たいなぁ。がまんがまん!」

 

 ぎゅっと服を抱えながら言う蒼龍。どうやら彼女は旅行へ行くと同時に、初めて着るようだ。正直今ここで来てもいい気がするけど、それをやらずに我慢するのが、女の子のこだわりというやつなんだろうかね。俺は正直、わかりかねることだけれども、実際どうなんだろう。

 

 「それにしても、あと三日だな。俺も一年ぶりに、あいつに会いたいかな」

 

 一年前にも京都には行ったけれど、やはり遠くの友人に会えるのは限られてくる。所詮一年とは思うかもしれんけど、体感的にはやっぱり久しいと感じるだろう。

 

 彼はいったい、この一年でどう成長したんだろうか。そして、蒼龍と飛龍を見て、どう反応するのか。はしゃぐ二人を見守る立場にあるけれど、内心俺だって、楽しみでしょうがないや。

 

 

 

 

 

 朝の陽ざしは気持ちいものだけれども、夏場のすがすがしい日光は、この時期特有の良さだ。昼間から午後にかけてはまさに暑いと言わざるを得ないが、それでも午前八時ごろはまだまだ気持ちがいいと思う。

 

 待ち合わせはキヨの家だ。駐車場も広いし、何より高速を乗るにあたって最も距離が近い。まあ結局ほかの市まで走らせなきゃいけないから変わらないと言われればそうかもしれないけどね。

 

 まだ開店をしていない國盛家の駐車場へと車を止めると俺と蒼龍、後部座席に乗っていた飛龍が、それぞれ車から降りた。

 

 「俺たちで最後だったか?」

 

 すでにヘルブラザーズ、菊石夕張ペアはそろっていて、キヨも荷物を店の前へと置いている。皆それぞれ個性ある服を着ていて、見て飽きないだろう。特に―

 

 「キヨ、お前なにその服。陶器でもつくりにいくんか?」

 

彼はなんというか、頭に白い手ぬぐいを巻き、じんべえ姿の、陶器職人のような恰好をしていた。いくらお前んちが和食処だと言って、その恰好はどうなのさ。

 

 「ふっはは!やっぱり七星だってそういっただろ!着替えてくるなら今だぞキヨー!」

 

 どうやらほか四人もキヨの服装を見てそれぞれの意見を述べたようで、俺も同じような意見を言ったらしい。

 

 「いや、お前らはじんべえのすごさをわかってない。と、言うか京都だからこその恰好だろ!」

 

 拳を握り力説をするキヨ。お前、京都の人はみんな着物や着流しを着てるとでも思ってんのかよ。と、いうかたとえそうだとしても、どう考えてもその恰好は浮くわ。しかし。

 

 「わー!キヨさんかっこいい!望だって胴着を着てこればよかったのに」

 

と、おっしゃる蒼龍さん。うん、お前もそんな考えだったのね。そして次に―

 

 「うん。これは提督の戦術的敗北だね。てか、その恰好はやっぱり京都へ行くのにふさわしくないとおもうなぁ」

 

 うんうんと、飛龍もキヨの奇抜なファッションをカバーする。そんなにアロハシャツは、いかんですか。そうですか。

 

 「イマドキはこういう格好なの。てか、結局みんな好きな服着てるようなもんだろ。得にヘルブラザーズ見て見ろよ。どこの世紀末だよ。はちきれんばかりのポロシャツにムッキムキの腕。マジで怖いわ」

 

 ヘルブラザーズは肉体派よろしくスポーティな生地のポロシャツに、ジーパンと言った服装だ。特に威圧感が増したのは、髪の毛を切ってきたのかツーブロックになっている健次だろう。みんたくが見たら、またビビりそうだ。以前もこいつを見て、ビビっていたし。ってお前ら、言うや否やマッスルポーズをとるんじゃない。

 

 「さて、ゴリラ共とじんべえマンはほっといて、だれがうちの車に乗るんだ?」

 

 家のCX-5は何分乗れる人数が多いのだけれども、これらすべての人数を乗せるには若干座席が足りない。それに窮屈だと長い道のりだしだるいこともある。そこで、俺の車とヘルブラザーズの車を出すことになっていて、二台の車で京都へと向かう予定。これならば、みな快適に行けるだろう。ちなみに、ヘルブラの車はマーチで彼らの図体にはまったくもって似合わない。マーチがかわいそうなレベル。

 

 「あー俺は夕張と一緒に乗る予定だし、ヘルブラの車に乗るわ。だからじんべぇマンがそっちだろうな。妥当だろ」

 

 なんだかんだ言って夕張と離れたくない菊石のようなので、俺も問題ないと返事をする。と、言うか三人の意見聞いてやれよ。

 

 「おう、わかった。じゃあよろしく、蒼龍飛龍」

 

 と、言うわけでキヨが乗ることになった。蒼龍も飛龍も、よろしくお願いしますと、返事を交わす。実際運転するのは、俺なんですけども。

 

 「よし、じゃあ持ち場も決まったわけだし、京都へと出発しますかね」

 

話もまとまったので、俺はパンパンと手のひらを叩いて言う。すると、菊石とヘルブラが「まてまて」と意見を申し立ててきた。

 

 「何だよ。決まったから行けるじゃん」

 

 「いや、まだ京都旅行出発の挨拶が終わってないぞ七星。ほら、とっというんだよ、あくしろよ」

 

 え、なに。なんで俺が言うことになってるの?って、一斉にみな、目線を向けてくるな!

 

 「…はー。わかったわかった。ごほん」

 

 とりあえず言わないとブーイングの嵐が飛んできそうなので、断腸の思いで(大げさ)で息を吸った。

 

 「えーじゃあその。みなさん、本日はお日柄もよくー」

 

 「それ長くなるやつだろ!てか何だよその入り方!校長先生かよ!若者らしくないわ!」

 

 ヤジを飛ばしてくるヘルブラと菊石。ったくこいつらマジ腹立つわぁ。

 

 「あー!わーったわーったって!じゃあ、とりあえず…。おめぇら!京都へいきたいかー!」

 

 時代を感じる番組の掛け声をまねて行ってみると、皆は一斉に「おー!」と声を上げる。

 

 こうして、京都への旅が始まるのだった。

 




どうも、飛男です。
前書きにも書きましたが、次回からコラボの予定です。とは言うもの、彼らが大々的に出てくるのは次々回かもしれません。双方いろいろと、予定を合わせておりますので。

では、今回はこのあたりで。それと、感想評価共々、ありがとうございます。励みになりますので、感謝しております!


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コラボ1:京都へ行きます!

長らくお待たせいたしました。京都編。そしてたくみん2氏の作品である「旅館大和においでやす」のコラボ第一回目になります。

※今回は一万文字ほどで、普段よりもボリュームがあります。


さて、住まう市を離れ、隣の市へ向かうといざ高速へ乗り込む。

 

ここから京都までは、ノンストップで進めばだいたい2時間ほどで着くらしい。まあまだ活気あふれる若者なんだけど、高速催眠現象とか気分的な疲れとか、様々なことを考慮すればもう少し時間はかかると思う。因みにお得な情報はなんだけど、通常料金ではそれなりに高いのだけど、ETCを使うことで多少は安くなるとか。おそらく人権費を含まない値段なんだろうから、お金のない学生にはずいぶんとありがたいことだね。と、言うか電車を使うよりも、こっちを使った方がやはり正解だったかもしれない。

 

「んふふ~ジャズは心が落ち着きますねぇ」

 

助手席の蒼龍は心地よさそうな顔をしながら、内蔵スピーカーから奏でられる金管楽器の音を楽しんでいる。確かに言うまでもなく心落ち着くし、個人的にもリラックスをしながら運転ができるんだよねぇ。恋人同士が好みの音楽を共通できるのは、やっぱりいいことなんじゃなかろうか。

 

まあでも、それを共有できないものはいるわけで、実際後ろの方々は、割と暇そうな顔をしているだろうね。

 

「あー私はロックな感じの音楽がいいなぁー。ねぇ?キヨさん」

 

そういって、飛龍はキヨへと話題を振る。まったく子供かよ。ジャズの良さがわからんとは…。と、まあ俺もただ好きなだけなんだけどもね。どう好きかと聞かれれば、深く答えれないにわかくんだったりするし。

 

「いんや、俺は好きだね。まあでも、せっかくの旅行だし、もっとアゲアゲな音楽にしようぜと言いたいのは分かる。だから、間を取ってラジオを聞くのはどうだ?」

 

キヨの提案は、良い判断だろうね。ラジオなら多種多様な音楽が流れるはずだし、加えて最近の流行も耳に入る。でも問題は、気が散るんだよねぇラジオって。ニュースとかは別だけれども、商品紹介とかは本当につまらない。あくまでも、個人の意見だけど、わかってくれる方は多いはず。

 

「蒼龍どうする?変えて良いなら変えといて」

 

正直この際、俺もどうでも良い。結局俺は聞き流すだけだし。と、言うわけで蒼龍に判断をゆだねてしまおう。あくまでも運転に集中しているし、聞き入ることはないからね。

 

「まあここは二人の意見を尊重しましょうかね。えっとこうして…ってあれっ?」

 

ぴっぴとカーナビをタッチして、蒼龍はラジオへと変える。割と助手席へと乗っているけれども、操作をたまにしくじり、あわあわとするところはやはり蒼龍というべきか。ともかく横目で見てて、危なげなんだけどもちょっぴり心がほっこりとする。でも、いい加減慣れようか。

 

やっとの思いで蒼龍がラジオへと変えると、陽気な男性の声が車内に響く。どうやらラジオ特有のお便りコーナーをやっているらしく、電話をつなぎながら、会話を行っていた。

 

「そういえば私、こっちの世界でラジオ聞くの初めてかも。むこうのとは違うなぁ」

 

飛龍は興味深そうにつぶやく。まあ平和な国だからこそ、こんなバカけたトークが出来るんだろうね。しかし、向こうのラジオも聞いてみたい。どんなことを放送しているんだろうか。

 

そのまましばしラジオを流していると、気になる話題が耳に入ってきた。

 

『最近の若者では、第二次世界大戦時の船をモチーフにしたゲームが流行っているそうですねぇ。いやー、世の中わからないものですな!』

 

これはつまり、『艦これ』のことを言っているんだろう。まあ、向こうにはいわゆる『世界』が存在しているんだけれど、あいにくそんなことを知っている人間は、世界的に見てもほとんどいないだろう。それこそ、一握りか。

 

「そういえばキヨさんって、提督なんでしたっけ?」

 

そんなラジオトークの話題から思いついたのか、ふと飛龍が、キヨへと問う。キヨは生憎元だけど。

 

「まあね。正確に言えば『元』だったかな。実際、俺は陸の方が好きなんだけど。でも、最近は復帰したよ」

 

意外な言葉に、俺も純粋に驚きが、顔に出たはず。以前は「飽きたわ」とか言っていたのに、どういう風の吹き回しなんだろう。

 

「復帰されたんです?」

 

俺も蒼龍にはたびたび言っていたんだけども、それゆえか蒼龍は黙っていれず、口にした。俺もなぜかは気になるし、耳を傾けてみる。

 

「…ああ、なんというかさ…蒼龍達に出会って、俺も放置していた鎮守府が気になっちゃったんだわ。と、言うか悪いと思ってな。あれだけ親身になって皆と接していたが、急にいなくなるなんて向こうは寂しいはずだろ。それに、むこうに世界があるってわかっちまったんだしな、たとえ声は届いてなくとも、サービスが終わるまで、付き合っていくつもりだ」

 

事実こうして蒼龍や飛龍がいるんだから、向こうに居るキヨの鎮守府メンバーだって、血が通っているんだろう。そう考えれば、自分の飽きで顔を見せなくなってしまうことは、必然的に面目ないと感じてしまうはずだ。特にキヨは義理や人情がなんだかんだ言って深い奴だし、そのまま放置ってわけにもいかなかった。そのはずだ。

 

「そうですかー。それで、皆はなんといってたんです?」

 

バックミラーでふと見れば、飛龍はキヨの言葉に感心したのか、言い寄っていた。それに対し、キヨは若干身を引きながら、答える。

 

「お、おう。そうだな…久々に迎えてくれた雷は、俺の母になってくれる存在と感じたよ」

 

その言葉に対し、まあ言わずと周りの空気は凍り付いた。せっかくいいことを言ったのに、それで台無しだわぼけぇ!

「お、お前加賀さんが好きだって言ってなかったけ?」

 

「うん。好きだよ。でも、母にはなれなかったな」

 

つまりどういうことだよ。と、いうか加賀の方も十分母性がある気がするんですが。、あ、いや。彼奴は愛人寄りか。…全国の加賀さんファンさん。ごめんなさい。個人の意見です。と、言うか偏見です。

 

「うげ、キヨさんってまさかロリコンだったの?」

 

先ほど言い寄っていた飛龍は打って変わって、まさにうげっと身を引いた。俺が隣でも、そうなるわ。

 

「ふふっ…俺の目標…と、言うかあこがれの人は、通常の三倍を好む人だからな」

 

不敵な笑いを浮かべながら、キヨは言う。その人同時にマザコンでもあるんですよね。つまりキヨは、幼女で母性の強い人が好みなの?それってただの変態じゃねぇか!ロリコンでマザコンっていろいろと終わってるじゃねぇか!

 

「うーん。その言葉どこかで聞いたような…。それに通常の三倍って…」

 

蒼龍はうーむと腕を組んで考え込む。まあそうだろうね。だってお前、以前俺と一緒に見てたしね、元ネタ。長門なら石ころ押し返せるんじゃないですかね。

 

「ともかくだ。これからも細々と続けていくつもりさ。雷と…いや、あいつらと一緒にな。ま、こっちに来られたらそれはそれで困るけど。コエール君なるものが無いとダメなんだろう?うちには無いと思うし、少々残念ではあるが…」

 

キヨは俺とハ○チを繋いだこと無いし、感染しろってのが無理な相談だろう。それに、ハ○チを繋いだとしても、確実に流出するとは限らないだろうし。明石だって対策を施しただろうし。

 

「でも、キヨさんの声も、きっと届いてると思うなぁー」

 

そんな事を思っていると、蒼龍は懐かしそうな口ぶりで口を開いた。

 

「私だって、毎回望に声をかけてもらってたもの。きっとその時、望は聞こえてないと思っていたけれど、私には…私たちには確実に届いていたもの。だから、きっとキヨさんの声も届いていると思うなー」

 

今思えば恥ずかしいことだったかもしれないが、同時に良かったと思える行為だったかもしれない。現にそうした何気無い独り言が、俺と蒼龍を結んでくれたしね。ただのイタい奴だけれど。日本には言霊というものがあってだな…。ともかく聞こえていないと分かっていても、言葉には力があるとか思うじゃない。

 

「あー。私も良く言われたなぁ。なにやってんだお前はとか、バカやろーとか。まあ被弾して戦闘できなくなったら、バカやろーって言いたくなるだろうしねー」

飛龍は俺の突かれたこく無い事をニヤニヤと言う。そら人間だし、ふと言いたくなりますわ。でもはい、反省しています。そういうところは、今後気を使います。

 

「はは、なんかそう言われると、いずれ雷がこっちに来てくれるかもしれないな。毎日、ママとか言ってるしな!」

 

ウハハと笑いながら、キヨは嬉しそうに言う。…お前には悪いけど、それはさすがにドン引きだわ。

 

 

 

 

それからしばらくして、ヘルブラザーズの方からSNSが届いた。

 

言わずと分かると思うけど、俺は運転中で手が離せないから、蒼龍に読み上げてもらった。内容は曰く、腹が減ったからパーキングスエリア(以下PA)によりたいとのこと。まあ俺もトイレに行きたかったし、個人的によりたいという願望もある。なんかPAって、ワクワクするよね。

 

「望。PAってなに?」

 

蒼龍は不思議そうな顔で、俺へと答えを求めてくる。恒例行事というか、これにも慣れたね。

 

「えーっと、PAってのは、簡単に言うと高速道路にあるお店だね。規定とかはないけど、だいたい15kmおきに設置されてるらしい」

 

ちなみにPAの他にサービスエリア(以下SA)と言う施設が存在あるが、明確な線引きはないみたいだ。だけれどもSAの方は大きく、PAは規模が小さいものを指すのが一般的らしい。それでもSAよりも大きなPAもあるみたいだし、ずいぶんといい加減な通説だったりもする。

 

「あ、そういえばこの先にでかいPAあったよな。たしか長嶋PAだっけ」

 

地図を見れば、まさに次のPAにその名前があった。長嶋って言うことは、遊園地とかあるレジャー施設を思い浮かべるが、ここもその一環なのかもしれない。

それから数キロ車を走らせると、標識にPAの文字が見えた。すでにヘルブラカーには連絡が行っているはずで、CX-5はPAへと入っていく。

でかでかとした駐車場へ俺はCX-5を止め、外へと出る。次いで蒼龍と飛龍、それにキヨもそれぞれ出てきて、俺を含む全員は体を伸ばした。キヨ、お前もか。

 

「んーやっぱり長時間の運転はタルいなぁ」

 

そんなことをつぶやきながら、俺は全員に目を合わせると、店の方へと歩くように促す。

 

「お疲れさま。あとどれくらいで京都に着くの?」

 

蒼龍は俺と並んで歩きつつ、俺の顔を覗き込むように聞いてきた。ぐっと体を前に出すその仕草は、彼女の着る服とマッチして、かなり魅力的。うん、やっぱりデパートまで買いに行った甲斐あったね。

 

「そうだなぁ。ちょうど中腹くらいか?」

 

カーナビに記されていた情報では、ちょうどこのPAが真ん中だったはず、つまり先ほど言った15km感覚で設置されているPA、SAを考えると、京都まであと半分だと言うことだ。

 

「まだ半分もあるのねー」

 

「そうだなぁ。まあ正直ここまで長距離運転をしたことが無いから、ちょっぴり心配だったけど、ここまで来れれば気持ち楽だね」

 

正直今日この日まで高速道路に乗ったことは、自動車学校以来だったりする。まあそこまで遠出することが少なかったし、遠出と言っても、県を数個跨ぐような場所へは、行ったことが無かったり。

 

しかし、あの頑固な親父が良く許してくれたもんだ。最初この話を切り出したときは何かグチグチと文句や否定的なことを言われ、最終的にうやむやにされ、やめさせてくるかと思ったが…。あの人曰く、『若いうちにそういうこともやっておくべきだな』と、何時に増して珍しく、許可をくれたからね。今でも内心、驚いてはいる。やはり蒼龍と飛龍効果が、大きかったのかもしれない。

 

それからPAの店前でヘルブラ達と合流すると、朝食を取ることにした。できるだけ軽いものを食べようと思ってはいるけれど、PAの売店って結構おいしそうなものが並んでいるし、ついつい食べたくなってしまうよね。牛串とか夏場では見ないけど肉まん豚まんとか。ともかく嫌な言い方をすれば、お金を落としてくれるように頑張っていると言うことですね。はい。

 

さて、そんなお金云々のことはいいとして、俺たちは入るや否や、フードコートで適当に席を取ると、総勢八人は食券を買うことにした。先頭は俺から始まり、蒼龍、飛龍と後の5人が続いている。

 

とりあえず俺は、このPAで名物だという伊勢うどんのセットを頼んでみた。個人的には地元名産のきしめんが麺の種類だと好き。でも、あくまで地元品だし、ここには置いていないだろうね。悲しみ。

 

「あ、望うどん頼んだんだ。じゃあ私もそれにしよー」

 

食券を買い終わると続いて蒼龍が買うことになるが、彼女も俺に便乗してか同じものを頼んだ。別にそこまで一緒にしなくてもいい気がするんだけど。こうしたことが、蒼龍にとっては恋人らしいことだと思っているのかもしれない。ピュアというか、なんというか。

 

 しかしながら、そんな蒼龍の行為に神様が微笑んでくれたのか、俺とほぼ同時に料理を受け取ることができたのは、まさに幸運だったのかもしれない。と、まあ同じものを頼めば、それもそうか。

 

「さてと、じゃあ先に食べてますかな」

 

俺と蒼龍以外はあいにく違うものを頼んでいた故に、少々料理が出るのにズレが生じているようだ。受取場に居る飛龍の視線を一瞬感じたが、特に意味はないだろうと、蒼龍へと視線を向ける。

 

「では、いただきますか」

 

「はい。いただいまーす!」

 

初めて口にした伊勢うどんは、どことなく麺が堅かった。

 

 

 

 

さてさて、早々に朝食を食べ終わった俺と蒼龍は、長嶋PAをぶらぶらと歩くことにした。

 

飛龍を待とうとはしたのだけれど、彼女は「二人でどこかへ行ってきなよ」と、変なものでも食ったの?と言いたいほど気の利いたことを言ってくれたので、今に至るというわけだ。

 

「お土産屋さんですねぇ」

 

蒼龍の目に入ったのは、どうやらPA特有の土産物コーナーだ。まだまだ京都へのたどり着いてはいないのだが、ついついと目が行ってしまうのは商品陳列の作戦に、まんまとはまっている証拠だろうね。悔しい。

 

「あ、これおいしそう」

 

「あーそれよく見かける奴だ」

 

信州土産としては定番だろう、リンゴのハイ〇ュウ。確かにおいしいんだけど、小さいころよく信州方面へ旅行へいったからか、食い飽きているんだよねぇ。てか、ほんと東海三県のSA、PAにどこでもあるな。

 

まあでも、蒼龍は食べたことないだろうし、道中のおやつとして買っておくのもいいかもしれない。こうしたトラップ、本当にずるいもんだ。

 

「たべたいなぁ…その、私買ってきてもいいですか?」

 

やはりというべきか、蒼龍は目を輝かせて俺へと言う。どうぞ、ご勝手に。まあでも。

 

「いいけど、京都へ着いて、欲しいもの買えなくなってもしらんぞ」

 

「あはは。そ、それは困るなぁ…うーん。でもおいしそうだし…」

 

じーっと箱を見つめる蒼龍。うごご、やめてくれ、その仕草は俺の財布を緩めてしまう。

 

「…俺も久々に食ってみようかなぁ。よし、じゃあ買うかぁ」

 

と、蒼龍の思惑通りになるのがこの俺である。まあ600円くらいだし、まだ慌てるような金額じゃない。今の俺に盛大な先ほどの俺から盛大なブーメランがとんできそう。

 

「い、いや。さすがに申し訳ないというかなんというか…。あ、じゃあこうしましょう!」

 

蒼龍はひらめいたように言うと、肩掛けバックから財布を取り出して、300円を俺の手元へと渡した。

 

「割り勘ってやつです!」

 

にこっと笑顔で言う蒼龍。確かに妙案だろうけど、これは男としてどうなんだろうか。いや、でも蒼龍がそうしたいというなら、素直に行為を受け取っておくべきか…。うーむ。

 

「…いや、こうしよう」

 

と、俺は蒼龍に百円玉を手元へ渡す。

 

「俺が四百円だすから、蒼龍は二百円ね。くっそ小さい見栄を張らせてくれい」

 

蒼龍は受け取った百円玉を確認して顔を上げると、俺に対し苦笑いを送ってくれた。

 

「もーそういうところが頑固なんだから―。ま、でもそれを立てるのも、恋人のつとめね。わかりました!」

 

なんだかんだ言って、くだらない俺のこんな行動を笑う蒼龍が、なんともありがたい。本当に自分で言うのもなんだけど、良い恋人だと思うよ。

 

「んん…?あれって」

 

蒼龍を見ながら和やかな気分になっていると、蒼龍が俺の奥を、何かを見つけたように横から見越した。何だろうかと俺も振り返ると、そこには―

 

「…足湯?」

 

 

 

 

確かに、見た限りこれは足湯。木造の浴槽らしき場所に張ってあるお湯といい、間違いないだろう。

 

「ふつう、PAには足湯があるんですか?」

 

若干苦笑いに、蒼龍は聞いてくる。変に誤解はするよね、やっぱり。

 

「いやいや、まさか。むしろ珍しいわ」

 

これは後でわかったことだけれど、どうやらこの長嶋PAにはこのように足湯が設置されているらしい。一風変わったこの設備は、PA利用客の間で人気だという。確かによくよく考えれば、長嶋には温泉施設もあるし、PAにこうした設備があってもおかしくないのかもしれない。

 

「どうします?せっかくだから浸かってみます?」

 

「そうだなぁ。うん、そうしようか」

 

なんかこうした施設があると、使わなければもったいないと思うよね。と、言うわけで京都へ行く前だけれども、浸かってみよう。しかし夏場なので、ぶっちゃけ季節感ないなぁ。

 

もわもわと立ち込める湯船に俺と蒼龍は足をいれる。人肌より少々暖かい温度が足へと伝わってきて、まさに気持ちが良い。だが、同時に熱い故に汗ばんでもきそうだ。

 

「ああ…気持ちがいいですねぇ」

 

和やかな顔をして、リラックス感マシマシの蒼龍は、つぶやくように言う。足湯でこれだから、温泉に入ったらどんな反応をするんだろうか。ま、みんたく曰く混浴ではないらしいので、見ることはかないませんけどね。残念。

 

「いやー正直足湯を使ったのって何年ぶりだろ。下呂へ旅行に行った小学生の時か?」

 

小学生の頃は、今思えばよく旅行へ連れて行ってくれたものだ。家こと七星家は割といろいろな場所へと旅行するからね。グアムで銃を撃ったこともあったなぁ。あ、射撃場でね。

 

「下呂ですか。いいですねぇ。下呂も行ってみたいです」

 

蒼龍はひょっとして温泉好きなんだろうか。いいよねぇ温泉。赤城や加賀も好きそうだし、空母勢は全般好きそうだ。そう考えると、風呂が長いのも納得できる。ひょっとして入渠所って、スーパー銭湯のような娯楽施設なのかもしれない。

 

「でも、バケツって何のためにあるんだろ…」

 

「え?なんです?」

 

どうやら思った事が、口に出てしまったようだ。とりあえず「いや、こっちの話」と、ごまかしておいた。って、別にごまかさなくてもよかったかもしれない。

 

それから5分ほど湯船に足を浸けていると、店の方から聞き覚えのある声が耳に入った。

 

「おおん?七星と蒼龍じゃねぇか」

 

「おほー。こりゃお二人仲良く、リア充してますなぁ。んんん」

 

厳ついエセ江戸っ子口調の浩壱と、隣には健次だった。こいつらも、おそらくこの足湯が目に入ったんだろう。

 

「どこにいるかと思えば、先に浸かってたのか。かぁー先越されちまったなぁ」

 

がははと笑う浩壱。口ぶりからして、どうやらここに足湯があることを知っていたらしい。こいつらはこういう穴場的な場所を、探しては利用する抜け目ない奴らだ。来たからにはめいっぱい楽しむのが、モットーらしい。

 

浩壱と健次は俺たちの真正面へと腰を掛けると、まさに顔つき通り「うぃ~」とオッサン臭い声を出す。気持ちいのは分かるが、正直周りの目が痛いし、恥ずかしいからやめい。

 

「しかし…あと半分だな。みんたく、元気にしとるかねぇ」

 

懐かしみを含んだ声で、健次がつぶやいた。確かに去年は高校生で、進路は大丈夫だろうとか言っていたのだけれど、冬に彼から「浪人なう」とネットスラングでいう「草生える」で報告をしてきた。だが、それから夏に入りたて―7月ごろには旅館へと就職したとかいっていたもんだから、奴もいろいろとあったと思われる。てか、大学はどうしたんだ。

 

「自暴自棄になって旅館へ行ったとは考えられんしなぁ。何かあったとしか思えねぇ」

 

「まあ、とりあえず会えばわかるさ。それに、確かめたいこともあるからねー」

 

以前も話した通り、奴には高確率でコエール君の設計図が流れたと考えられる。だがそうなると一つ気掛かりなのは、なぜ奴がそれを報告してこないのかだ。まあ俺や統治、それに大滝と同じく面倒ごとを起こさないためだろうけどね。そもそもこっちも念のため報告を控えていたし、お互いさまと言えばそうなのだけれども。

 

「確かめたい事…ああ、なるほどな。まあ、向こうがそうじゃなかった場合、伝えない方がいいだろうよ。ばれる可能性は、無きにしも非ずだが」

 

俺の言葉に合点がいったのか、いつになく真面目な顔つきで言う健次。地元メンツは、基本根は真面目な奴ばかりなんだよね。まあ、大学メンツもそうなんだけど。

 

「ともかく、あってみなきゃわからねぇな…。うし、そろそろ行こうか」

 

と、俺は立ち上がろうとする。正直そろそろ、熱くなってきた。

 

「もう上がるんです?」

 

若干名残惜しそうに蒼龍は顔を向けてくるが、今は夏だし、そこまで長居する意味ないよね?

 

だが、再び店の入り口方面から聞きなれた声が聞こえてきた。まあ言わずと統治と夕張、それに飛龍なんだけどね。おそらくもう少しだけ、浸かってなきゃいけなさそうだ。

 

 

 

 

さて、なんだかんだで長嶋PAから発った俺たちは、京都東ICを降りて京都へ入ることができた。約一年ぶりの京都だ。しかし、以前は京都駅で目的地到着だったが、今回は車。そう、ここからが本番―と、言うか道のりはまだ続く。

 

みんたくが勤める旅館は、源義経が幼少期の頃―牛若丸に剣を教えたとされる天狗を祀った某神社方面で、ここからさらに一時間半くらいはかかる。つまり詳しく言うと、ここでやっと半分なのだ。

 

あーだこーだと文句を言う飛龍をなだめつつ、CX-5は京都の街並みを走りゆく。蒼龍はそんな歴史的景色を見て目を輝かせている様子で、早くこの街並みを歩きたい様子だった。

 

それから町を抜け、しばらく進むと山が続くことになる。向山と竜王岳の間を進んでいき、鞍馬山の近くまで来た。そして―

 

「やっと着いたな」

 

ついに、目的地の旅館へとたどり着くことができた。旅館名は『都』と言うらしいが、都より離れてるんですけどそれは。と、まあそんな疑問を浮かべつつ、駐車場へと入っていく。すると、2人の人影が見えた。

 

「あれがみんたくさんです?」

 

助手席の蒼龍が、その二人に対して指さした。どこか童顔だが、眉毛がきりっとしていて、メガネをかけてもなおなかなかに整っている顔立ち。まさしくみんたく―本名、北大路拓海の姿だ。町を抜けて「もうすぐ着く」と連絡しておいたから、待っていてくれたんだろうか。

 

「ああ、あいつがみんたくだよ。俺と同じく、奴も提督業をやっているからな。くれぐれも自分の身分。明かすなよ」

 

何度も言うように、彼も提督だ。みんたくも蒼龍や飛龍のように、俺とハ〇チでつないだ以上、だれかが来ている可能性はあるだろう。だが、現状それがわからない故、蒼龍と飛龍の身分を明かすわけにはいかない。とりあえず蒼龍はポニーテールにダテメガネ。飛龍には帽子を深くかぶるようにと、変装をさせてはいるが…。できるだけ、みんたくに悟られないようにしなければな。

 

「わかりましたー。それにしても、なんか提督よりもかっこいいですねぇ」

 

「まったくなぁお前は…。まあでも、それは認める」

 

飛竜と、そんなやり取りをしている矢先、拓海もこちらに気が付いたのか、隣の女性へと何かを指示を出したようだ。女性はあわただしい様子を見せて、フロントへと入っていく。まあ手を煩わせるのも悪いし、早いところ荷物を下ろしてやらないと。

 

旅館のフロント前で車を降りると、みんたくが駆け寄ってきた。旅館の従業員が着る羽織姿の彼は、割と汗を掻いている。おそらくそれなりに長く、外で待っていたのだろう。

 

「おう、久々だなみんたく」

 

「いやーほんとですわ。そっちも元気そうっすね~。しかし、連絡が来てからそれなりに時間がかかったみたいですけどぉ?」

 

どうやら予想通り、長らく外で待っていたようだ。とりあえず「すまねぇ」と誤っておく。まあ京都へ車で来るのは初めてだし、割と迷ったんだよね。交通量も多いし、軽視してなかったと言えば嘘になる。

 

「まあ、いいですけど。仕事なんで。とりあえず、荷物はあの台車へと乗せてください」

 

みんたくもとい拓海はそういうと、先ほどの女性職員が持ってきた台車へと指をさす。就職して一か月ほどだろうけど、なかなか板についてきているらしい。感心感心。

 

しかし…あの作業員なんか見覚えがある気がするな。えりあしで結ったツインテールに枠の太いメガネ、おそらく女性用の従業員服であろう着物姿ではある。京都在住の知人はそれこそ拓海だけだから知り合いと言うわけではない。どちらかというと彼女の姿はどこか偽物のような…。そう、彼女にすべてがなじんでいないように思える。

 

「あの、どうしました?」

 

若干引きつった顔をして、拓海が声をかけてくる。おそらく、仕事を早く終えたいんだろうと思い、窓ガラスを叩いて中にいる蒼龍、飛龍、キヨを呼び出す。

 

「んー。気持ちがいいですねー!自然豊かで、気持ちがいいです」

 

蒼龍は車から出るや否や、周りの景色を見まわした。一時間半近く車の中にいたんだから、そう思うのは必然だろうね。それに加え山に囲まれているんだから、より一層それを感じることができる。

 

「…あれ、この声どこかで」

 

ふと、隣の拓海から独り言が聞こえてきた。やはり、さすがは提督か。蒼龍の声に違和感を覚えたようだ。

 

「うっし、荷物下すか。えっと、龍子ちゃんと龍美ちゃんは俺が出す荷物を受け取ってくれ。七星、さっさと下すぞ」

 

そんな若干の焦りを孕んでいると、助け舟如く先に車のトランクを開けたキヨが指示を出してきた。まあ的確ではあるし、反論する意味も無い。とりあえず言われた通りにすべく、それぞれ持ち場へ着くと、バケツリレーの要領で荷物を下ろし始める。正直蒼龍と飛龍は見ているだけでも良いと言いたいが、それは承諾しないだろうね。彼女たちの性格的に。

 

「あの、手伝いましょうか?」

 

すると、先ほどの女性職員が蒼龍へと声をかけてきた。この声もどこかで聞いたことある。やはりこの女性は…と、思った刹那だった。

 

「…あれ?その声…もしかして大和さん?」

 

ふと、蒼龍が振り返るように女性職員を見ると、その女性職員も心底驚いたような顔をした。

 

「えっ…?蒼龍さんですか?」

 

鈴の音候の声を聞き、やはり、俺の抱いた違和感は間違いじゃなかったと確信した。そして同時に、拓海のところへコエール君が流出してしまったことも、これで確認することができた。

 

この女性職員の正体。それは、かの有名な超弩級戦艦である「大和」だったのだ。

 

 




どうも、就活マンの飛男です。
今回からコラボです。コラボ先であるたくみん2氏とは時間の合間を縫って、現在構想を進めております。ですので更新はゆっくりになっていくと思います。
一応、それぞれの作品だけでも楽しめるように構想を練っているつもりですが、両者の作品を見ることで、面白さも倍増するように作っております。つまり両者の作品で、描かれなかった部分が、保管されていく感じですね。

それと、今回は正確な文字数10764文字ですが、次回からはこれほど多くないと思います。今回はコラボ一発目と言うこともありまして、ボリュームを多くして見たんですよね。まあ、本来私の書く作品って、大体一万文字は超えるんですけどwえ、聞いてない?

ともかくまあいろいろあると思いますが、どうか難しく考えず、気軽に読んで下さることを期待します。それでは、また次回に!



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コラボ2:八坂神社へ行きます!

コラボ回2話目。特殊な概念や、宗教的な話をしているかもしれません。


取り敢えず拓海の元に大和がいるとのがわかったが、俺たちはあくまでも旅行に来ている訳で、経緯を聞くのはまた後にすると、その場の空気で決定した。要するに、取り敢えず空気読んでおこうって訳。

 

そんなこんなで邪魔になる荷物を旅館へ置かせてもらい、俺たち一行が向かう最初の目的地となったのは、祇園四条方面だ。旅館から最寄である鞍馬駅で電車に乗り、文字通り祇園四条まで向かうことになった。

 

「はー。電車ってやっぱり窮屈ですねぇ」

 

祇園四条の出口から出るや否や、解放されてせいせいしたような口ぶりで、飛龍はぼやく。そこまで乗っていないような気もするが、艦娘たちにとって「電車」と言うものは堪えるようだ。蒼龍は以前あれだけ楽しそうだったのに対して、飛龍を筆頭に夕張と大和も、割と疲れたような顔をしている。艦娘に現代人が勝てるもの、ここにあり。

 

因みに、俺含めいわゆる「いつものメンバー」総勢八人に加え、京都旅行中はみんたくが加わることになる。拓海曰く現在旅館は貸し切り状態で、人手が足りているらしい。加えて女将にもなにかしら言われたようで、この二日間は彼らが京都のガイドさんをやると言うのだ。旅館の運用ってそんなもんでいいのか?もっと厳しいかと思っていたんだが…。まあ高級旅館では無いし、そこまでのスキルと言うか、厳しさは必要無いんだろうか?

 

「それで、清水寺に行きたいのに何故祇園四条で降りるん?京都本線の表を見ると、清水五条の方が近いと思うけど」

 

統治は不思議そうな顔をしながら、みんたくに説明を求める。事実、統治の言う通り目的地である清水寺寺まで行くなら、清水五条で降りた方が早いのだ。

 

そもそも何故目的地が清水寺になったのかと言うと、まあ言うまでもなく艦娘勢が口を揃えてここへ行きたいと言ったからだ。特に蒼龍の押しは強く、「絶対に行きたいです!」の一点張りだった。彼女らは艦娘だし、イコール向こうの世界では修学旅行とかも無い訳で、まあここまで言われれば、行くしかないじゃ無いか。と、いう訳。

 

「えっとですね。まあ確かに清水五条で降りた方が近いと思うんやけど、祇園さんから清水まで行く方が、良いと思うんすわ」

 

「つまり、八坂神社から清水まで歩こうって話か」

 

拓海の言葉に合点がいった俺は、納得するように言う。確かに八坂神社も、行く価値がある場所だ。それに、清水までの道のりはそれこそ古き良き街並みで、蒼龍達も確実に喜ぶだろう。

 

「それに、いろいろな店に寄りながら清水までいくのは、京都の魅力をじかに感じると思うんですよね」

 

 まあ、一種のお土産通り見たいな感じなんだけどもね。それでも景観を崩さないように、歴史を感じさせてくれるような建物が連なってるし。最近の建物でも、有名どころで言えば、某青色のコンビニが景観を乱さぬべく、木目色になってるしね。

 

「まあとりあえず歩こうぜ、旅は寄り道してなんぼだからな」

 

取り敢えず歩き始めようと提案して、いざ八坂神社へ向かうことに。ここからまっすぐ行けば、すぐそこだしね。

 

先遣隊は蒼龍達艦娘が行くらしい。見るものすべてに目が行くようで、遠目で見るとなんつう微笑ましい光景か。と、まあ俺と拓海意外の男陣も、割と関心した声がちらほらと。ともかく京都の町並みは、それだけ歴史深いって感じなんだよね。

 

「ところでセブンスターさん。彼女達はどんな経緯でこちらに?」

 

拓海とそんな彼奴らを見ながら並列して歩いていると、不意に声をかけられる。っと、いきなりだな。いや、今だからこそ聞けるのか。

 

「うへ、気持ち悪りぃなぁ。普通に七星って呼んでくれよ。んで、そうだな…」

 

取り敢えずこいつに語っても問題はないだろう。同じ穴のムジナ。要するに奴も共犯者のようなものだ。それに仲間は多い方が良いし、理解者も多い方が良い。赤信号みんなで渡れば怖くないって言うし。

 

「なんつうか、明石のコエールくんなるものにより、こちらへ来ることが出来たんだと。蒼龍は純粋に、惚気っぽいが俺に恋して。飛龍は曰くそんな俺と蒼龍を見極めるためとかなんとか言ってたけど、なんかそんな感じしないというか…。ま、こんな感じだわ」

 

「え、『そんな俺と蒼龍』って事は、相思相愛なん!?あーないわー」

 

にやにやと卑しい笑みを浮かべ、拓海は茶化してくる。取り敢えず空手チョップを打っておこう。鈍い音が、俺の手に響く。

「イッテェ…。で、まあ、俺もそんな感じだったと思いますわ。でも、うちの場合は大和の他に長門と陸奥とー」

 

そのメンバーから察するに、なんとなく他は予想がついた。

 

「金剛、榛名、比叡か?」

 

どうやら当たっていたようで、拓海は驚いた顔をしながら「なんでわかるん!?」と声を上げた。いや、お前からよく聞いてたし。おそらく拓海自慢の戦艦ガン積み大艦巨砲主義第一艦だろう。戦艦の時代は終わったのだ。今は空母の時代じゃよ。

 

「で、そのメンバーが全員来る予定だったそうです。来られたらたまったもんじゃないわほんまにさぁ」

 

確かにそれだけ来られたら、うちの場合顔面蒼白だろうよ。どうやって家族に説得すれば良いんだろうか…。むしろ一人暮らしを強いられるレベル。うちの第一艦隊の場合はすでに蒼龍飛龍が来てるから、残すとこ初霜、叢雲、武蔵、大井って感じか。強いて置けるのは、叢雲と初霜くらいだな。うん。大きさ的に。と、言うか大井はないな。レズだと思うし。でも、喋ってみると過剰な程ではなかったというか、ただの親友としてか見てなかったような気もする。あ、うちの場合なんだけどね。

 

「まあでも、結局来たのは大和だけだったと。あれ?そういうお前らは相思相愛じゃないん?」

 

大和だって何かしらの意図があってこちらへと来たはず。その意図を考えるとしたら、拓海に恋して来たのが妥当だろう。まあ純粋にこっちの世界のメシを食いに来たとか、いわゆるクールジャパン文化に目がいったとかもあるけど、そんな薄い覚悟でこっちへ来たのは少々考えにくい。

 

すると拓海は、何やら意味深な顔をしながら、答えてきた。

 

「いやぁ、よくわからんのがマジな話っすわ。逢いたかったからとしか聞いてないし」

 

うーん。蒼龍の場合はケッコンカッコカリをしている故に、逢いたくて来た訳だ。だが、拓海はの場合まだ大和とケッコンカッコカリ出来てないらしいし、付き合いも長いと思えない。つまり拓海が首をかしげるのもわかる話。

 

「まあ、なるようになれとしか言えないなぁ。でも大和は今の所親しいのはお前くらいしかいないわけだろう?なら吊り橋効果というか、想い人になる可能性は十分にあるんじゃ?」

 

右も左もわからない状況下で、誰かしら知り合いと会えば自然と安心感を覚えるもんだ。要するに拓海は、大和の止まり木になってやれば良い。そうすれば自然と、大和も特殊な感情を抱いていくだろう。あくまでも人間の心理的な事から憶測してるだけなんだけどもね。

 

「望ー!つきましたよー!」

唐突に蒼龍の声が聞こえたので、その方角を見ると、俺と拓海以外のメンバーは八坂神社の象徴的建物の一つ、重要文化財の西桜門の前にいた。どうやら思いの外、早くたどり着いたようだ。

 

「おーう!…取り敢えず合流しようか」

 

「そっすね。行きましょう」

 

俺と拓海は顔をわせて言うと、小走りで合流へと向かった。

 

 

八坂神社は、牛頭天王もとい素戔嗚尊(以下スサノオ)を祭神にしている神社で、京都にあるこの八坂神社は八坂社系列の総本社だ。拓海がちらりといったように、通称祇園さんとしても呼ばれるこの神社は、社伝によると六五◯年代に高句麗から来た、とある人物により創建されたとされる。元々は祇園社とか言われてたらしいけど、慶応四年の神仏分離令により八坂神社と改められたらしい。つまり名前は似てるけれども、某ガ〇キャノンとか言われている神様とは、縁がないです。はい。

 

因みにこれは余談なんだけども、牛頭天王とスサノオは同一神と見られてるらしく、スサノの妻である櫛稲田姫命のや、スサノオの子供である八柱御子神とかも祀られている。正直ちんぷんかんぷんな人が多いだろうから、こんな堅苦しい説明は一部の方には申し訳ないけど、これで終わり。取り敢えず来てみてぱっと見で受ける印象は、赤い、でかい、すごい神社って感じだろうか。なお同県内にある、まさに赤い神社は、今日行かない。

 

「おお、こんなに大きな神社初めて来ました!」

 

飛龍は桜門を通ると、キョロキョロと周りを見渡して言う。実際神社仏閣に興味が薄い人物って、こういうリアクションだろうしね。と、言うか飛龍はマジで極端な奴だな。

 

「感想それだけかよ。ま、いいけどさー」

 

もう少し博のある感想が欲しいところだけど、元の提督同様脳筋飛龍ちゃんには期待しない。まあ正直なところが、良いんだけどねぇ。と、言うか、大和や拓海を除くその他も、そんな感じのリアクションしてるんだけども…。脳筋しかいねぇ!?

 

「望、ここは何を祀ってるの?」

 

対して知識に貪欲蒼龍ちゃんは首をかしげて聞いてくる。蒼龍は自然とこうした建造物や、そのルーツに興味を持つようになってきて、嬉しい限りだ。ただ行きたかっただけではないと、今では思える。

 

「主祭神は…有名どころと言えばスサノオだね。日本神話じゃ、スターの一人ともいえるかな?」

 

「えっと…正式名称は素戔嗚尊でしたっけ。意地悪なイメージがある人…あ、神様ですけど」

 

思い出すように顎を人差し指で抑えながら、蒼龍はつぶやく。そこまで勉強しているのか。感心感心。やっぱりサーフェスを買った事で、いろいろと調べて戦い以外の知識も身に着けているんだなぁ。って、意地悪なイメージ?バチが当たりそうだ。もしかして『老いたる素戔嗚尊』のことを言っているんだろうか。そういえば蒼龍に、青空文庫を進めたような気がする。ちなみに作者は、クッソ有名な賞にもなってる人。

 

「はは、まあ意地悪というか、あれは一種の試練というか…まあでもそうだね、正式名称はそれであってる。有名な話と言えば、スサノオはそのとき生贄になりそうだった櫛名田比売を文字通り櫛に変えて髪に指して、八岐大蛇を退治したんだ。その際にゲットしたのが、三種の神器の一つの草薙剣。ちなみに八岐大蛇を倒した際に使った武器は、十拳剣って言われてるよ」

 

 「うげ…私まったくわからないや…。でも八岐大蛇って、頭がいっぱいある蛇でしたよね?」

 

 ジト目交じりの苦い顔で飛龍はぼやき、ついでに質問してきた。まあうん、八岐大蛇は文字通り八つの頭に八本のしっぽが着いたバケモノ。よくゲームやマンガに出てくるよね。

 

「うん、そうだけど。なんだよ、それは分かるんだな」

 

「だって、八岐大蛇自体は有名じゃない?強そうなイメージあるし。でもオリハルコンの像で封印されていたんでしたっけ?」

 

 飛龍の持つ知識がえらく偏ってマジでよくわかんねぇ。そういえば飛龍はダイ大とかロ〇の紋章とかも読んでいたし、そっから八岐大蛇の知識を得たのかもしれない。あ、わかる人は割とオッサン。ア〇ンスラッシュとか、王者の剣とか知ってる人は、特にオッサン。

 

「相変わらず小難しい話してやんの。で、参拝しに行かねぇの?もうみんな行っちまったぞ?」

 

どうやら二人と話し込んでいるうちに、ほかのメンバーは敷地内のどこかへと言ってしまったらしい。キヨは律儀に待っていたようで、こうして声をかけてくれたようだ。

 

「そうですね。飛龍、現代ではパワースポットって概念があってね?こうして勇猛、力強いスサノオのパワーを分けてもらいましょう?ほら、三人とも行きましょう!」

 

そう言って、蒼龍は飛龍を引いて敷地内の奥へと歩いて行く。神社に行ったからといって強くなれる訳でもなければ、何かしらのパワーを得られる訳でもないのにな。パワースポットって正直どうなのさと、思うのが本音。日本の神様はそこまで万能ではないというか、色々と偏ってるんだけどもね。こじつけでギャーギャーと騒がれたら、騒がれた神様は迷惑な話だろうさ。

 

「…まあでも、今日だけはそんな流行りにあやかろうかな」

 

「ん?どうした?」

 

独り言で呟いたつもりが、どうやら隣のキヨに聞こえてしまったらしい。取り敢えず「何でもねぇよ」と言っておくと、俺も敷地内を進んでいった。

 

西桜門から八坂神社へ入ると、少しだけ回る形で本殿まで行かなきゃならない。まあその間鳥居とかがあって、少々大きな石像があったりして、初見の人は飽きないだろう。そもそもこうした巨大な神社に行ったことがない人は、見るものすべてに驚きと内に秘めた何かしらの湧き上がるものが、出てくるはずだ。

 

「私、今何故かとってもドキドキしてるんです」

 

だからなのか、蒼龍は胸を押さえながら、本堂へ参拝する為に並んでいた。隣には勿論俺がいるんだけども。

因みにだけど、本殿は西桜門のように赤色ではなく、木色漂う建物になっている。

 

「総本社ってのは大体そうなるんじゃないかな。以前長谷川達大学メンツでお伊勢さんに行った時、全員が内宮へ入った途端、一言も口を開かなくなった。本殿を参拝するまでね」

 

いわゆる全員が賢者モードのように、悟りを開いたんじゃないかという程、心が落ち着いていたと思う。

「あはは、それはさすがに信仰心が強すぎるんじゃないですかね?」

 

蒼龍は多分、俺が話を盛り上げる為に言った嘘だと思ってるんだろうけど、割とマジな話だったりする。ここもそうだけど、総本社ってのは本当に独特の雰囲気があって、畏るんだよね。むしろそうなるのが普通だと思ってる。

 

「ともかく、総本社はそれだけ神聖な場所だって事だ。ま、此処は何処か落ち着くと言うか、口が開いちゃうんだけど」

 

スサノオは逸話通り豪快な人だから、天照大御神のように畏まることを求めていないんじゃなかろうか。しかしそれでも、独特の緊張感と、根底にある敬意が、体の中を駆け巡ってはいる。

 

「そういえば七星。八坂神社はどんなご利益があるんだ?俺、お前ほど詳しくねぇから」

 

後ろで飛龍と一緒に並んでいるキヨが聞いてくる。えっとなんだったか。

 

「確か、厄除、商売繁盛。縁結びだったか。ちょっと曖昧だわ」

 

商売繁盛ってそれこそ稲荷系だと思うんだけど、以前リサーチした記憶ではご利益にあった気がする。俺は基本、神社へ行くと、その社の神様に挨拶をしに行くだけだからなぁ。ご利益に関連は、二の次だったりする。

 

「なんかさ、提督って神主みたいな事ばっかり言ってるよね。と、言うか大本営の言葉みたい」

 

飛龍はニヤニヤと茶化してくる。まあ神主と言うか、神道が好きなんだけども…。と、言うか大本営と同じ?どゆこと?

 

「あー飛龍、その事はあまり言わない方がいい気がするなぁ」

 

すると蒼龍が、飛龍に釘を刺した。やばい、唐突過ぎて話についていけないぞ。

 

「おいおい、なんかそれすっげぇ気になる。大本営って言うと…?」

 

「うーん気になります?…まあいいかぁ。えっとですね、大本営曰く妖精さんは神の使いって言われてるんですよ」

 

妖精さんって言えば、装備や武装に着いてるあの妖精さんだろうか。って、艦娘達が言う妖精さんって、それくらいしかないか。

 

「へぇ、そっちの世界では、そう考えられているのか」

 

「はい。どこから来たのか、どうやって現れたのか不明なのよね。神様の使いと今のところ、言わざるを得ないんだって」

 

そういえば、向こうの世界の話ってこうやって聞くのは随分と久々な気がする。と、言うか基本的向こうの世界の文化や相違点を、まだよくわかっていないな。

 

「あ、あともう少しで参拝できますよ?」

 

どうやらこうして話し込んでいる内に順番まであと少しの様だ。さてさて、どんな事を素戔嗚尊に話そうか。楽しんでくれれば、良いのだけど。

 




どうも、就活忙しいマンの飛男です。何とか投稿することが出来ました。
今回はちょっとした経緯を触れて、あとは八坂神社の説明でしたね。一応正しいと思いますが、若干の違いがあるかもしれません。もし違いがあれば、メッセージで個別に送ってくれると助かります。
では、今回はこの辺りで、また次回お会いしましょう!


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コラボ3:清水寺までの道中ですよ?

一か月ちょっきりの投稿。理由はあとがきに記述します。

※コラボの数字を振り忘れていました


本殿での参拝をし終えた俺たちは、しばらく境内を回ったあと、清水寺へと向かう為に足を進めることにした。

 

因みに八坂神社は本殿以外にも様々な祠があるので、各自がそれぞれ行くべきと思う場所へ参拝をしに行った。例えばキヨは刃物神社へ行って料理関連の事を祈っていたし、艦娘達は館娘たちで、美御前社へと足を運んでいた。

 

美御前社は、祭神に市杵島比売神(いちきしまひめのかみ)多岐理比売神(たぎりひめのかみ)多岐津比売神(たぎつひめのかみ)と、美を象徴する神が祀られている。オメェら十分美人さん何んですがねぇ。と、一般ピーポー候の感覚で言いたかったのだが、女性は美に貪欲だし、現状を満足していないのだろう。しかしそれはあくまでもガサツ系男児な私個人の意見であって、女性の目線とは程遠いーまさにチンパンジーと人間くらい違うものである。つまりよくよく考えてみれば、飛龍以外は皆それぞれ恋人持ちであるし、そういう観点からさらに自分を美しく見せたいのだろうと、見方を変えれば容易に想像がつく。すなわちこっちも嬉しい向こうも嬉しい、WinWinな考えかもしれない。

 

「もうみんな集まったか?」

 

そんなこんなで参拝する場所が済んだため、待ち合わせの場所に指定しておいた舞殿の近くに各々は集まってくる。見た感じ、拓海大和ペアも例に漏れず、全員いる様子だ。

 

「皆さんいるみたいですよ?じゃあ歩き始めます?」

 

どうやら飛龍も同じく、人数をかぞえていたらしい。二人で数えて欠員がいないとわかれば、問題はないだろうさ。気が利くね。

 

こうして清水まで京都の町並みを観光しつつ、いざ向かう事になる。距離は一駅分くらいだし、一時間はかからないだろう。もちろん、寄り道しなければの話なんだけども。

 

まあそう言うのも、こうした道のりは言うまでもなく、お土産通りの様なもの。日本が誇れる伝統的な工芸品はもちろんのこと、観光目的できた外人に買わせようとしているのか、ローマ字で書かれたユニークグッズなども各店舗には並んでいて、もちろん修学旅行では定番の木刀なんかも置いてある。つまりこうした土産物に足を取られるというわけだ。

 

「望。これって剣道でも使える木刀なの?」

 

蒼龍はふと木刀に目が行ったのか、それを手に取とると、身長さゆえに俺の顔を見上げて聞いてきた。うーむ、ないと思うけど、振り回しそうで怖い。

 

「まあ、たぶんね。だって以前連れて行った剣道具店でも、この印あっただろう?まあ安物だけど、段審査とかでも使えるはずだよ。俺は使わないけど」

 

実際京都とかで置いてある木刀や小太刀は使えないこともない。第一こうして蒼龍にも言うように、その手の店で売っているしね。グレードは低いんだけども。

 

「へぇ…お土産なのに?と、いうか望の木刀は安物じゃないってこと?」

 

「わからないな。昭和初期の奴だからね。俺の木刀は、いわば爺さんの形見なんだ。だから、当時そこまでの値段じゃなかったとしても、今では値段のつけることが出来ない代物」

 

七星家は、実は代々剣道家の家系だったりする。親父は爺さんに反発して中途半端にやめたんだけども、それでも有段者。それに爺さんが現役時代に剣道をやっていた頃は、GHQによる武道改正の前だったけど、それでも三段を保持している。当時の事を考えれば、それなりには活動していた現われにもなるだろう。なおかつ、爺さんは当時も数少ない二刀流の使い手だったそうで、婆さんにそれを聞いたときは、何と誇らしかったか。

 

「じゃあ、代々あの木刀は受け継がれているんですね。まるでおとぎ話みたい。でも、そういうの私は好きかなー。だって…って、あっ!」

 

何か加えて蒼龍が言おうとする途端、彼女が発した驚きの声と同時に、俺は後頭部付近に淡い衝撃が加わった。なんというか、小突かれた感じだ。こんな幼稚いことをするのは、あいつしかいない。

 

「おいコラァ飛龍!!何すんじゃワレェ!!」

 

後ろをふりかえると、そこにはやはりというべきか、飛龍がにこにこと悪戯っぽい笑みを浮かべて、木刀を肩へと掛けていた。うすうすというか、おそらくこいつは振り回してくると思いました。予想的中したわ。

 

「んっふふー。一本とれちゃいましたねー」

 

悪気なく、むしろ得意げに言いやがる飛龍。念のためだが、後ろからは有効打じゃないんですよねぇ。と、まあ言うだけ理解せず無駄だと思うので、黙っておく。

 

「まったく。商品で遊ぶんじゃないよ。子供かお前は」

 

「えぇ~?負け惜しみですかぁ?」

 

「じゃねぇよ。俺も子供に巻き込むな。つうか常識的に考えてくれ…目立つだろ?」

 

まあ無駄とは言うもの、現代社会で生活するにおいては最低限のマナーだってある。多少向こうの世界との相互があるとしても、こちらにいるのは事実。そればかりは守らなければならないだろうよ。

 

「えー。わたし目立ってもいいけど…って、それはまずいか。あはは」

 

だが、飛龍はこうしてあまり反省の意識を見せない。なんか最近、飛龍がかまってちゃん化してきているような…。と、言うかよくよく考えてみると、飛龍ってこうしたちょっかいをかけてくることが多い気がする。

 

「飛龍さぁ。お前さびしんぼなの?」

 

もしやと思いつつ、呆れながら、かつ冗談交じりに俺は聞いてみる。まあどうせ笑いながら何言ってんですかとか言いそうだけどもね。と、言うか寂しがりやって大体こう言うと思う。

飛龍は俺の言葉に一瞬「えっ」と顔色を変えたが、すぐににやりと口角を上げてきた。

 

「何言ってんですか?そんなわけないじゃないですかー」

 

やはりというべきか、俺の思った通り否定をしてきた。それも小ばかにしたような表情で。しかし、刹那的に見せた、確信を突かれたかのような表情。素直な飛龍らしい、本心を隠しきれないミスだろう。

 

「まあ、そうだよな。エネルギッシュなお前がそんなわけないよな」

 

「そ、そうですよ。私はどっちかっていうと、傍観者ですからね。そう!二人を見極めるための!」

 

うんうんと頷きながら、力説をする飛龍。もうそうおっしゃっている時点で自分が寂しんぼだと自白しているようなもんなんですけどもね。と、言うか力説をしている時点で、余裕が無いように見られるって、わからんのか。

 

「あはは…墓穴掘ってると思う。飛龍」

 

そんな事を思っていると、横で同じくあきれ顔の蒼龍が、ぼそりと飛龍の確信を付いてきた。蒼龍にも、いとも簡単に感じられてるね。まあ、姉妹だし分かるもんなのか。

 

「ぼ、墓穴掘ってない!私は真実を言ってるだけよ!」

 

せっかく小さく蒼龍が口にしているのに、それを聞き取っちゃうこと自体がもう失敗。うん。ちょっとかわいく見えてきてしまったぞ、飛龍。

 

「はーわかったわかった。ちゃんと寂しんぼ飛龍ちゃんも構ってあげますか」

 

やれやれと俺は大げさに肩をすくめると、飛龍はきーきーと文句を並び立ててきた。

 

「むきー!だから違うって言ってるじゃない!日本語分かれー!提督のばーか!」

 

いじる側からいじられる側へ、立場逆転してますやん俺たち。飛龍は蒼龍をいじるのが楽しいとか言っていたけど、俺にとっては飛龍の方が、弄りがいがあると思うなぁ。

 

 

 

 

さてさて、しばらく歩いて皆がまだかまだかとぐずりだす頃。先ほどまで通っていた道より明らかなくらいにぎわいを見せている、坂道へと出た。そう、ここが清水坂。このまま登って行けば、待ちに待った清水寺へとたどり着くことができる。

 

目的地が見えてこれば、自然と気分も踊るもの。先ほどまでぶーぶーとどことなく文句を並べていた夕張や飛龍は、先ほどの態度はどこへ行ったのやらと言ってやりたいほど、早く登ろうと催促をしてきた。

 

「ほら!何ぐずぐずしてるんですか!目的地はすぐそこですよ!」

 

そういうや否や、我慢の出来ない夕張に手を引かれ、統治を合わせた二人は俺たちよりも一歩前に出る感じで、先陣を切る。

 

「そんな急いだって、清水寺は逃げていかないぞ〜」

 

そんな事を言いつつ、満更では無い表情を、統治は浮かべる。先程まで俺と蒼龍飛龍のからみばかりを紹介してきたけども、この二人は二人で随分とまあイチャコラしていたんだよね。二人の絡みは言うならば、何というか兄弟のそれに近いのかもしれないが。

 

しかし、夕張は何時もよりも何処か瞳を無邪気に輝かせていて、なんだかんだ言って軽巡って子どもなんだろうなぁと思わせられる。中学生くらいなんだろうし、それは当たり前で、まあぞんぶんに旅行を楽しんでくださいって感じかな。

 

「うん、もう我慢ならねぇ。やはり統治は爆死すべきだろう。なぁ兄者」

 

「むう。この俺とて、もはや奴に容赦はせぬ。どう処刑をしてやろうか…フハハハ…」

 

俺が和みながら二人を見ていると、別の二人こと、統治にだけ風当たりの強いヘルブラザーズが並列して歩いていました。たぶんうらやましいとは思ってないんだろうけど、統治が女の子にああしていちゃつかれると、一般ピーポーとしていじりたくなるっつうこいつらの性なんだろう。わあこわい。

 

「俺も協力するぜ!お二人さんよぉ!俺も雷ママに甘えてぇのによ!」

 

と、加えて如何わしいことができる母を求めるキヨまでもが、参戦をしようと口を挟んできた。面白くなって参りました。

 

まあ、あらかじめ言っておくけども、統治とこいつらは幼児の時代からの幼馴染だし、中学時代から絡むようになった俺とはまた扱いが違っているんだろう。つまり、自然と抜け駆けのように恋人ができた統治を、いじり倒したいのだ。あ、でもたぶんこいつらは心の底で、祝福をしているんだろうよ。それを口に出さないのが、こいつらのポリシーなんだ。俺も十年近く付き合ってれば、わかるもんだ。こいつらの内心をね。

 

「ね、ねぇセブンスターさん。あの三人がなんかどす黒くてまがまがしいオーラ出してるんやけど、あの人たちホンマカタギなんやろか?」

 

ひきつらせた顔で、拓海が俺へと聞いてくる。まあ拓海は怯えてしまうだろうなー。まあたぶんカタギじゃないかなぁ。と、いうか人ごみの中でそんなオーラ放つもんだから、自然と流れゆく人々避けてますがな。

 

「おらにもわかんねぇ。ただ、奴らはどこぞの野菜人ではないことは確かだ。スッゾコラーとは言わないし」

 

そんな超人みたいなやつらではなければグラサンかけた量産型クローンとも違うからね。黒いオーラが見えるのも、目の錯覚だと思います。はい。きっと夏のせいだね。うん。

 

「本職も顔真っ青なくらい怖いんやけど…」

 

「て、提督!私も怖いですよぉ!」

 

どうやら大和もおびえているらしい。拓海の隣でガクブルを決め込んでいるようだ。俺の隣で苦笑いしている蒼龍は、もうさすがに慣れようで、以前のように携帯のバイブごとくに震えてはおらず、飛龍も相変わらずと言わんばかりの顔になっている。だが大和はこうしたこいつらを始めてみるもんだから、バイブレーションに加え、女性の割に高身長なのに、縮こまって、少々似つかない。ちなみに、そうした大和のいろんな意味で止まり木になっている拓海が、何かに気が付いて少々顔を赤らめたのは、これもたぶん夏のせいだということにしておこう。

 

それから苦笑いを俺たちは浮かべながら、おそらく後方のオーラを肌身で感じつつも夕張に連れられている統治を先頭に、ヘルブラザーズとキヨに着いて歩いていると、飛龍が何かに気がついたのか、「ねえねえ」と俺の服を引っ張ってきた。

 

「なんだ。うまそうなものでもあったか?」

 

にやりと口角を上げていう俺に、飛龍はむっと口をとがらせつつも答えた。

 

「わたしのこと、食いしん坊だと思ってない?まあ…それはいいとして、あのお店、なんかもすっごい人がいるんだけど」

 

確かに飛龍の指す方向に目を寄越せば、その店は普通の店に比べて、かなり客の出入りが多い。何かイベントをやっている訳ではないようだが、何故出入りが多いのかは看板を見れば一目瞭然であった。

 

「ああ、あそこは八つ橋売ってる店やね。本家西尾八つ橋の、清水店」

 

俺が答える前に、拓海が口を開いた。まあ、こうした説明はこいつに任せたほうがいい。修学旅行で京都清水寺まで出向けば、一度は見た事があるはずのこのお店。お土産に八つ橋を買うとなれば、大体の確率で寄ることになるだろう。

 

と、まあ相手は艦娘だ。以前も言っていたように、修学旅行など彼女らにはない。飛龍はもちろん、蒼龍や大和も、不思議そうに首を傾げた。

 

「八つ橋って、なんです?食べ物ですか?」

 

そこからかと、思わず俺と拓海は「えっ」と声を漏らす。かの有名な八つ橋を知らないとは、やはり耳を疑ってしまう。

 

「あ、えっと。私たちって、きっと大和さんもそうですけど、基本内地の土産物や特産物って、あまり知らないの。基本的には基地内の食堂や、間宮さんの作るお菓子しか口にもしないし…」

 

蒼龍が驚きを浮かべる俺たちに対して、補足説明を入れてくれた。なるほど、そんなシステムもとい規約があるとは、なんと不自由というか、束縛されているのだろう。正直年頃の女の子たちだと思うのに、かわいそうなものだ。

 

「…そうかい。じゃあうまいもんをめい一杯楽しまねぇと。なぁ、みんたく」

 

「そうっすね。勿論、セブンスターさんのおごりやと思うけど」

 

にひひと笑みを浮かべていう拓海を、俺は軽く小突く。「あいた」と声が聞こえたが、気のせいだろう。うん。




どうもお久しぶりです。飛男です。
一か月ぶりの投稿ですね。一応、多作品をこっそり投稿してますが、あれは筆が乗ったら書いていこうという作品です。
さて、まず就活ですが、続いています。内定もいまだもらえず、危機感を覚える始末。せめてひとつくらいは、早めにとっておきたい…。
次に、PCが壊れました。一応リカバリディスクなどにより復旧させましたが、かなり時間がかかる始末。大変でしたね。
以上が、遅れた理由です。これからもこのようなことが多くあるかと思いますので、どうかご理解をいただけるようによろしくお願いします。


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コラボ4 清水寺です!

警察官の試験が終わり、今回は思いのほか早く書き上げることができました。


坂を登りきると、朱色の門が迎えてくれる。ここが清水寺最初の見どころ、仁王門だ。

 

これまで通り歴史を簡単に述べると、応仁の乱時に焼失したんだけど15世紀に再建をされ、平成十五年に解体修理を行って今に至ると言う。鮮やかな丹塗りの為か、赤門とも呼ばれているとか。

 

「うわー。またおっきな建物ですねー!」

 

まず最初に聞き取れたのは、飛龍の関心であった。相変わらず率直な感想だが、小学生くらいの子供なら良くある言葉だろう。あ、いや、別に飛龍が小学生並みの知識しか無いとは言ってないんだけども。

 

「まあ、デカイよなぁ。詳しい大きさは知らんけど、サナリィ製のガン◯ムくらいはあったはず。って、わかりにくいか」

 

後で調べてわかったことだが、幅が約十メートル、奥行き五メートル、棟高約十四メートルらしい。サ○リィ製のフォーミュラさんより若干小さいくらいだが、それでも元となっている15世紀時の技術でここまで作れるのは、本当にたいしたもんだと思う。門だけに。

 

しかし、俺たちは仁王門だけを見にきたわけでは無い。その奥がメインだ。

 

早速俺たちは仁王門をくぐる。すると、その途中に夕張が顔を横に向けた途端、クスクスと笑い始めながら、統治へ示すように指をさした。

 

「あはは!あの木像って、なんか浩壱さんと健次さんに似てません?ほら、あの顰めっ面とか特にー!」

 

「あーそうだねぇ。だってこの木像に命を吹き込んだのが、こいつらだし…って、あだだだだだ!しぬ!しんじゃううう!」

 

統治が同意するや否や、浩壱と健次はまさに水を得た魚のように、満面の笑みで関節技を統治に決め始める。思わずつぶやいたんだろうけど、今のこいつらにそんなこと言うとこうなる未来しか見えなかっただろうに。加えて、付属のキヨが腹パンを決める始末。お約束なんだよねぇ。これ。

 

まあ夕張が言ったこともあながち嘘では無いんだよね。毎度まいどヘルブラザーズを言葉で表す際に最も適してると思うのが、この仁王門の左右に置かれている開口阿形像と、閉口吽形像だ。京都最大級の仁王像で、阿が那羅延堅固王(ならえんけんごおう)と吽が密迹金剛力士(みっしゃくこんごうりきし)。両者はその大力により、清水寺を警護しているんだと。つまり俺たちにとって、ヘルブラは友でもあり、守護像でもあるんだよ。

 

「でも、確かに夕張ちゃんの言う通り似てるかも。強そうですし」

 

どうやら蒼龍も、夕張の言葉に同意を示すらしい。と、言うかこいつらをお前に紹介する時、そういったような気がする。阿形と吽形って。

 

「おいおい、命が惜しく無いのか蒼龍?あいつらに聞かれたら…」

 

とはいうもの、さすがに蒼龍に対しては、関節技を決めようとはしないけどね。ヘルブラザーズ。統治だからこそ、できること。なお俺にも、できること。

 

 

 

 

まあ一言で言えばくだらないやりとりがあったにせよ、いよいよ入場券を買って次に向かうのが、お待ちかねの本堂だ。おそらく恒例化している、清水寺の歴史をつらつらと説明していけば埒があかないので、取り敢えず今回は止めておく。気になる方は調べてね。

 

ともかくまず清水寺に来たのならば、まず足を運びたい場所あるはず。そう、清水の舞台だ。決死の覚悟を表す際に使用する言葉で有名だが、実際は文字通り演舞を行ったりもするらしい。いわゆる奉納演舞というやつで、古典から現代音楽まで様々奉納されるという。まあ今回はそんなイベントなどやってはおらず、代わりと言ってはなんだけど日本人をはじめヨーロッパ系やアジア系、アフリカ系などの多国籍のバーゲンセールが行われている。さすがは世界的にも魅力高いと言われる京都だけはあるよね。

 

「おおう…これは衝撃的な光景だね…」

 

飛龍はそんな異様な光景に、思わずたじろぐ始末。そういえば蒼龍もそうだけど、艦娘たちにこうした外人が集う場所を見せたのは、初めてな気がする。八坂神社はあいにくそこまで多くはなかったし、ここまで道中にすれ違う外人たちを見てきてるはずだけど、それでもこれだけの人数は見たことがないだろう。

 

「ひとまずは本堂で涼みますかね。たぶん、靴脱いで上がれるからくつろげると思うんやけど。どう?」

 

「あーそれはいいっすねー。正直歩き疲れていないといえば、うそになるしな」

 

統治は拓海の提案に乗るようで、夕張とともに本堂の中へと向かおうとする。後に続き、ヘルブラにキヨ、そして飛龍も、それぞれ人ごみ気にせずずんずんと前へ進んでいく。

俺もついて行こうと歩みを進めようとしたが、ふと気服の裾を引っ張られる間隔を覚えた。なんだろうかと俺は蒼龍を確認すると、彼女はびくびくとして周りをちらちらと警戒しており、硬直をしてしまっているらしい。おそらくこうした人ごみの多い―かつ外人多数の場所ゆえに、自然と湧き上がった防衛本能により、無意識に俺の服をつかんでいるのだろう。小さい子供が初対面の人物と出会う際、母親の陰に隠れようとするそれに近い。

 

「どした。怖いのか?」

 

ぽんと蒼龍の頭に、俺は手を乗せる。すると、それでやっと気が付いたのか、蒼龍は自らのつかんだ手を見ると俺に苦い笑いを向けてきた。

 

「あ、あはは。ちょっと怖い…かな?」

 

俺を見上げながら、蒼龍はそう言った。別に外人とて、とって食やしない。刺激をしなければ、愉快な人たちだからね。特に米国人とか「ハハハ!ジョークだぜっ!サムソン!」みたいなノリだし。え、偏見が入ってるって?

 

「うーん。じゃあ、手をつなぐか?それとも、俺の服の裾をつかむか?」

 

どちらかといえば―まあ予想通り蒼龍は俺の手を取ってきた。ギュッと力んでいることから、やはりまだ怖さはぬぐいきれてはいないようだ。若干の敗北感というか、情けなさがこみ上がる。

 

「ははっ、俺じゃ頼りないか?」

 

「ま、まさか!そんなことありません!」

 

ぐっと力を込めて、蒼龍は俺の言葉に反発をした。うむ、そう思ってくれるなら、俺も答えれるように頑張らなければ。しかし素になると、蒼龍ってなんか敬語に戻っちゃう事あるな。

 

「よぉし。どうせなら―」

 

こうなれば、いっそ思い切った行動に出てやろう。俺は蒼龍の手を放すと、瞬時に腕を組んだ。

 

「わっ!?何を」

 

「こうすればはぐれない。離れない。ついでに密着しているから、お互いを感じやすい」

 

自分でもなんつう恥ずかしいこと言ってんだろうとか思うけど、むしろ今までこうしたことを自重して、やらなかったのがおかしいよね。蒼龍も驚きを含んだ表情で俺を見てきたが、すぐに愛おしそうな表情になった。今まで人前じゃやらなかったし、蒼龍から俺に抱きついてきたことはあったものの、こうして俺からやることはなかった。つまり、自らがリードされて、満足感と安心感を抱いたのだろう。

 

「じゃあ私は…こうします!」

 

すると、今度は蒼龍が俺の腕に、べったりとくっつく感じで抱きついてきた。歩きにくそうとかはさておき、こうすればより一層、密着して離れることはないだろう。

 

ともかく舞い上がってしまったので、その場のノリで清水の舞台へと先んじて足を運ぶことにした。まあ、あいつらは本堂で涼んでるはずだしね。しかし、釘など一切使っていないのに、がっしりとした柱で固められたこの舞台は、いったいどれだけの人間が踏みしめていったのだろうか。それを耐え抜いているのには、男として憧れてしまう。こんな清水の舞台のような、屈強な男になってみたいものだ。

 

「うわぁー!すごいなぁ…まさに絶景ね!」

 

蒼龍は清水の舞台へ立つや否や、俺の腕をつかんだまま、清水の舞台から見える景色の感想を述べた。

 

確かに絶景だろう。夏特有が緑は艶やかに広がり、歴史的建物が遠方に見える。そして何よりも、目を輝かせて遠くを見渡している蒼龍が加われば、なんというか胸の高鳴りが収まりきらない。まさに画竜点睛だろう。蒼龍が加わる事で、この情景は完璧となったんだ。服装と言い立ち姿と言い、どれをとっても非の打ちどころがないしね。ゆえに、思わずそんな彼女をスマフォでパシャリと一枚収める。

 

「あ、写真とってーもー!」

 

シャッター音に気が付いたのか、若干の恥ずかしさをはらんだ声で、蒼龍は俺を見ながら笑顔を振りまいた。その笑顔は誰もが虜になりそうなほど魅了的で、俺は自然と頬が緩む。周りの人間などおらず、俺と蒼龍だけの空間のように、そう思えてならない。

 

だが、そんな俺たちに水を差すように、唐突に肩を叩かれた間隔を覚える。振り替えると、そこには飛龍が、腰に左右両手を当てて立っていた。

 

「提督なにしてるの?涼みにいかないの?」

 

「おっ?おおう、飛龍か。びっくりしたわ」

 

若干不機嫌そうにいう飛龍に対し、俺は言葉を返す。先ほどまで夕張やキヨ達と話していたはずだが、気になってこっちに来たのだろうか。というか、本堂で俺たちの事を待っていたのだろう。だからこそ、飛龍が不本意ながら呼びに来たのかもしれない。正直なところ、完全にのぼせ上っていた。周りが見えていなかった。

 

「まったくなによー。二人でそんないちゃいちゃしてさー。見せつけてるの?」

 

にひひと口角を上げて、いやらしい目つきで厭味ったらしく飛龍は言う。イチャイチャと言われればまあ確かそうなんだけどもね。しかし、見せびらかしているというわけではない。こう、自然な流れで、こうなってしまったんだ。そう、自然にね。

 

「うーん。一言くらい声をかけとくべきだったか。俺の不注意というか…悪いことしたわ」

 

「私もその、あまり話を聞いてなかったし…完全に私たちのミスね」

 

俺と蒼龍は顔を合わせながら、苦い顔を見せ合う。

 

飛龍はそんな俺達の行動にどこか呆れた顔をして、一つ息をつくと再び腰に手を当てる。なんか申し訳ないな本当。

 

「あ、どうせなら此処で自由時間にしたらどうだろう?」

 

良い機会だし、一旦ここで自由行動を提案してみる。自分勝手な提案なのは十分承知なんだけども、わざわざ清水周辺を小学生如く団体行動で動くのは、何というか動き辛いと言うか…。ともかく、楽しめない気もする。

飛龍は「えっ」と、唐突な俺の提案に困惑したような顔をする。まあ当然といえば当然だ。

 

「集合時間はそうだな…4時半くらいで良いだろ。一時間半くらいかな?あいつらに伝えといてくれるか?」

 

「あ、はい。…あの」

 

急にもじもじとしだす飛龍。どうしたんだろうか、トイレにでも…って、そんなベタベタな事では無いはず。おそらくこれは、何か物申したいのだろう。

 

「どうしたの飛龍?」

 

言いにくそうと見たのか、助け舟を蒼龍が出す。流石はお姉ちゃんと言うべきだろうか。暫く飛龍はそんな蒼龍を若干前かがみになりつつじっと見ていたが、何かの踏ん切りがついたのか、姿勢を正す。

 

「うん、やっぱり何でも無いです!わかりましたー。後でさっき見た八つ橋ってやつ、おごってよ?」

 

飛龍はそう言い残すと本堂の方へと駆けていく。あの間は何だったんだろうか。

 

「…なんつうか、追い払ったみたいで罪悪感あるなぁ…」

 

厳密に言えば、追い払ってしまったんだろう。正直、俺って今ひどい事をしたような気がする。途端にそう思うと、罪悪感が湧き上がった。

 

 

 

 

わたし、飛龍は提督に言われた通り、本堂にいる雲井兄弟を始めとする皆さんに、自由行動を提案されたと報告をしました。

 

何か文句を言うだろうなぁと思っていたけれども、キヨさんや雲井兄弟、それに統治さんは顔を見合わせて苦い顔をするだけで意外にもすんなりと、唐突な提案であるにも関わらずに承諾する意思を見せました。唯一、「めっちゃ唐突やね」と言葉を返したのは、拓海さんペアだけでした。

 

さて、自由行動になったのは良いのだけど、提督と蒼龍に合流するのは、やっぱり気まずい雰囲気になっちゃうと思う。だって、なんだかんだ言って二人は恋人同士だし、もう邪魔するわけにもいかないじゃない。流石にやり過ぎて、提督に嫌われるのは避けたいし。

 

だから私は、一人で歩いています。統治さんと夕張ちゃん、拓海さんと大和さんと、恋人同士で行動しているし、キヨさんと雲井兄弟と一緒に行くのは、ちょっぴり気が引けちゃうと言うか、そこまで親しいわけでもないしね。

 

「とは言うもの、艦娘一人だけで行動させるのって、どうなのかなぁ?」

 

あれだけ、他人に悟られないようにしないとと提督は言っていたのに、ここに来て一人で行動させるのはどうかと思う。まあ提督は私の性格故に信頼はしているんだろうけど、流石に私だってどうしようもなくなったら、バレちゃうと思うし…。

 

まあ、最悪他人に変な事されたら、ぶん殴っちゃえば良いかな。こう見えて私、腕っ節には自信があるんですよ?え、根拠?まあ、私の元提督は武闘派だからかな。

 

「あ、ここ…清水寺の下なのね」

 

行く当てもなくただのんびりと観光しながら歩いていると、いつの間にか清水の舞台からちょうど下のあたりまで来ました。舞台を支える柱は屈強そうで、力強さを感じます。

そのままゆっくりと見上げていくと、清水の舞台から顔を出していたり、手すりにもたれかかっている人達が見えてきました。あ、あそこにいるのって…。

 

「提督と蒼龍、まだあそこに居るんだ」

 

二人がチラッと、体をはみ出して話し込んでいる様子が目に映りました。おそらく、話に夢中になってるみたい。観光にきたんじゃないのかなぁと、ぶっちゃけちゃうと思う。

 

「でも、楽しそうだなぁ」

 

私も混ざりたい。そう思うのは、やっぱりまだ諦めきれていないという事です。だって、私も本当は、提督に思いを寄せていたんですから。

 

提督は、二人目の空母として私を建造してくれました。導かれたように、二航戦が最初に揃ったという事です。まさに運命だったんでしょうね。私たちの出会いは。

 

まあ、だからこそ蒼龍と同じく、私もそれなりの愛情を注がれたと言えば間違いないと思う。私達はほぼ同時に練度も上がっていって、提督のパートナーになってもおかしくないくらいの付き合いもあったと思う。それこそ提督が私を選ぶか、それとも蒼龍を選ぶかで、鎮守府内で議論にもなったくらいだったし。

 

でも、提督は蒼龍を選んだ。まあ、理由を考えれば当然だと思うし、何よりも蒼龍だってずっと提督が好きだって言っていたし。おまけにその想いのあまり、こっちに行ってしまった事もある。私はそれ程の覚悟はなかったし、そんな考えも湧き上がらなかった。

 

私は全てにおいて、蒼龍に敗北をしていたんだと思う。だから、気持ちの整理だって、早く済んだわ。でも…。

 

「やっぱり、諦めきれないじゃない。提督は、私だって思った通りの人だったし」

 

私がこっちに来た時も、なんだかんだ言って懸命にこっちの世界にいられる環境を作ってくれた。こっちの世界で苦労しないように、学生なのにも関わらずお金だって出費してくれる。いきなり押しかけてきたのに、私に対して本当に色々してくれてると思う。

 

見極めに来たとは言うものの、本当はもう認めてる。だって、私が本当にこっちに来た理由は、私も提督に会いたかった。それだけだった。願わくば、私を選ばなかった理由をもう一度、その口で伝えて欲しかったんです。

 

私は、提督と蒼龍に向かって弓矢を構える動作をした。もちろん弓矢は持ってないわ。ただ、その一連の動作を、あの人に向けているだけ。

 

「第一次攻撃隊。発艦…って、あはは。何をしてるんだろ。私」

 

意味のない行為。私の潜む気持ちを、艦載機に乗せて発艦したかった。でも、きっと届かない。届いても、着艦する事はない。艦載機たちはきっと私へと再び着艦し直すと思う。大きな傷を負って。

 

息をついて、私は射る動作をゆっくりと解きます。周りの視線を感じるけど、この際どうでも良いや。私は何事もなかったかのように、歩き始めます。するとー

 

「へーい彼女。何をやってるんだい?」

 

聞き覚えのある声を聞き、私は声の方向に振り返ります。そこにいたのはキヨさんと、雲井兄弟達でした。にやにやとしている事から、一部始終を見られてしまったみたい。

 

「あっ、もしかしてみてました?あははー恥ずかしい」

 

「ばっちし見てたな。てか、七星達と一緒じゃないのか」

 

不思議そうに言うキヨさん。そう思うよね、基本は。

 

「いえ。ほら、二人きりの方が絶対良いと思うし。私が行ったらお邪魔じゃない?」

 

確かにと思ったんでしょう。彼らは顔を見合わせて、納得したような表情になります。

 

「てェ事は、俺たちと同じく独り身チームだなァ。ぐっははは!」

 

豪快に、浩壱さんが笑います。ちょっと自虐っぽいけども、それを笑い飛ばすかのように、気持ちの良い笑い方です。それに続いて、キヨさんと健次さんも、おかしそうに笑います。

 

「どうせなら飛龍殿も一緒に如何ですかな?今から某共、茶を楽しみに行く次第。女子は甘いものに目がないのは自然の摂理というものでして」

 

顎に手を当てて、独特な言い回しをしながら、健次さんが提案をしてきました。キヨさんはそんな健次さんに「武士かよ」と突っ込みを入れます。

 

「え、良いんですか?」

 

「まあ断る理由はないだろ。むしろ、こっちが提案したんだ。問題はお前が如何するかってことだな」

 

そう言われれば、こちらも断る理由はないですね。むしろ、誘ってくれたこと自体は、普通に嬉しいですし、何よりも提督抜きで、提督の話とかを聞いてみたい気もします。

 

「じゃあ、決まりですね行きましょう?」

 

そういって、私はみなさんを扇動しようと歩きます。あ、でも。

 

「それで…どこにお茶をしに?」

 

思わず早とちりで、行動してしまいましたね。

 

 




どうも、飛男です。今回、前回と比べればそれなりに早く投稿できました。
冒頭でも書きましたが、警察官の試験も終わり、今週は説明会も少なかったゆえに、自然と筆が乗りました。
さてさて、今回は上下に分けての投稿になります。本来であればひとつにまとめる予定でしたが、またいつ投稿できるかわからないと判断いたしましたので、分けさせていただきました。と、いうかぶっちゃけ、これくらいも文字数のほうが読者の方々も気軽に読めるのではないだろうかと、考えた故でもあったりします。
さて、今回はこのあたりで。また次回!


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コラボ5:本心を、ぶちまけますよ?

飛龍とキヨ、そしてヘルブラザーズがメインな話です。内容的に、説教じみているかも知れません。
と、言うかコラボ要素が、どんどん薄く…


わたしはキヨさん達に連れられ、茶屋へと向かいました。

 

茶屋なだけあってか、テーブルはありません。代わりに赤色の布がひいてある長椅子がたくさん。私達は向かい合う様に座り、付近に置いてあるお品書きを見始めます。

 

「あの、私最低限のお金しか持っていないんですけど…良かったんです?」

 

実は、私はもし迷った時の事を踏まえて、提督にホテルまで帰ることができるお金を頂いています。まあ迷うわけないじゃんとは言ったけれども、提督はやっぱり過保護なとこがあって、「いや、持っておけ。これは命令ね」と強要をされました。こんな時だけ提督ぶるはんて、ちょっぴりずるいですよね。

 

「あ、そうか。そういえば七星に電車代しか貰ってないんだったか。まあ飛龍、俺が奢るから気にすんな」

 

キヨさんはそう言って、親指をグッと立ててきます。キラリと光る歯を見せてきて、なんかナイスガイ感を漂わせてきました。

 

「いやァ…待てキヨ。ここは俺が奢ろうじゃねェか。バイト戦士を舐めんじゃねぇ」

すると唐突に、浩壱さんがずいっと名乗りを上げます。奢っていただくこと自体ありがたいですし、それが誰にと限定して奢ってほしいなんて、わたしに決定権ないけど…どうして挙手を?それに、名乗りを上げたのは浩壱さんだけではありません。

 

「いやいやいやいや。待て待て兄弟。ここは某に奢らせてほしい」

 

 なんと健次さんまでもが、名乗りを上げてきました。皆さん、顔に似合わず優しいんですね。そういう法則でもあるんでしょうか?顔が怖いと優しい人が多いっていう。

 

「なんでお前らがでしゃばってくるんだよ。俺が払う。OK?」

 

「OKっ!…って、言うわきゃねぇだろぉ!?俺はあいにく大佐じゃねぇんだ」

 

「兄者はどっちかっていうと鬼軍曹やね。貴様らは三等兵以下のクズどもだ!とか言うから。あー口悪いですね。奢るのはいと似つかわぬ事。此処は某、英国紳士並の謙虚且つ礼儀を重んじるこの某めがですな…」

「言わねぇよタコ勝手に決めつけんじゃぁねぇ。そもそも英国紳士は、『それがし』とかいわねぇ。それにお前は何が紳士だァ?どっちかというと筋肉ゴリラじゃねぇか。筋肉モリモリマッチョマンの変態ダロォ?ショッピングモールで大暴れでもするきか?」

 

「もちろんです。紳士ですから」

 

 えぇ…なんでこんな事で張り合ってるのこの人たち。優しさの押し付け合いなの?それとも、お金を無駄に払いたいだけ?私男の人の思考、よくわかんない。と言うかこの人達がよくわからない。

 

 でもなんかこの人たちが、こんなくだらないことで言い合うのを見ると、なんかおかしい気持ちになっちゃう。思わずくすりと、笑っちゃいました。

 

すると、キヨさんがそんなわたしの笑みを見逃さなかったのか、ヘルブラザーズに手のひらを向けると、私を見てにやりと口を開きます。

 

 「ふへへ、笑った笑った。さっきからずっと心ここにあらずって感じだったからな。まあ良かった良かった」

そう言うと、キヨさんと浩壱、健次さんは拳をお互いに叩き合い、何かしらの喜びを現し始めます。ひょっとして、私を笑わせてくれる為にやってたの?ますます良く分からないなぁこのひとたち。でも、純粋にうれしいかも。

「ま、今回は変わらず俺が奢るとして、決まったか?頼みたいやつ」

 

あ、やっぱりキヨさんが奢るみたいですね。さっきのやり取り、本当なんだったの?

 

「じゃあ私、お団子セットがいいなぁ。5本付いてますし。って…あ、別に食いしん坊って訳じゃなくてですね!」

 

やっぱり女の子だし、食べ過ぎとか思われるのは嫌。蒼龍にも女子力っていう能力を上げろとか言われるし…。

 

まあでも、そんな事思われるどころか、彼らは私の予想を遥かに超えてきました。

 

「じゃあ俺、お団子10本」

 

「俺も俺も」

 

「某も同じく、其に致す候。あとくずもちとあんみつと…」

 

え、何?要するに私が食いしん坊じゃないって言いたいの?それとも、普通にそれだけ食べるのが当たり前なの?このひとたち、なんか色々と提督と違いすぎるっていうか…。

 

「じゃあ店員呼ぼう。スイマセーン」

 

本当に頼む気みたいですね。うわぁ、夕ご飯とか大丈夫なのかなぁ…?

 

 

 

 

さて、店員に驚きと困惑の表情を植えつけた彼らだけど、なんとかオーダーが通ってお団子が来ました。長椅子の上にはこれでもかって程の、お団子の山。ほんとすごい量、35本もある。おまけにくずもちやら、あんみつも置いてあって、軽くパーティーみたいです。和菓子パーティですね。

 

「じゃあいただくかね。神に感謝して…。滅びゆくものの為に…」

 

キヨさんがそう言うと、浩壱さんと健次さんも同時に「滅びゆくものの為に…」と言います。え、なにこの人たちこわい。

 

後でわかった事ですが、どうやら地元メンバーの皆さんは、お酒や宴会をする際には、最初にこう言うんだそうです。なんとも罰当たりと言うか…ブラックジョークらしいですけどね。これが5年も続いているそうなので、定着してしまったそう。

 

 それからもぐもぐと団子を食べ続けて、数分。あれだけあった団子が、あと三分の一くらいになったときの事でした。

 

「ところで…飛龍さ。声かけた時、七星達を見上げていたよな?」

 

キヨさんが串を咥えながら、何気なく私に問います。うげ、ばれてたのかな?

 

「え、どうしてです?」

 

「そらおめぇ。俺達だって奴を見てたからな。末永く爆発しろってよ。で、歩き始めようとした最中、オメェさんが奴等に射るポーズをしていた所を目に入れたんだよ。方向的に、七星たちだと理解したんでェ」

 

続けて言う浩壱さんの言葉で、私も理解出来ました。つまり、彼らは自分たちが見ていた方向と同じ方向に視線を送っていたと、わたしを見て思ったそうです。でも、普通は清水の舞台を支える柱を、見ていると思わないのかなぁ?

 

「ま、飛龍が七星たちに混ざりたいのは、遠目でもわかった。…やっぱり寂しかったんか?」

 

そう思われるのが、普通かもしれませんね。私はあくまでも、提督の受け持つ鎮守府から来た艦娘ですし。でも、やっぱりどこかそれは否定したい気持ちになって…。

 

「あはは、そんなわけないじゃないですか。だって、私としても二人はお似合いだと思いますし。邪魔しちゃわるいじゃない?」

 

わたしはいつもの調子で言ったつもりでしたが、三人は顔を見合わせました。

 

「嘘は身を滅ぼす。飛龍殿は嘘を付いておられるなァ」

 

「えぇ…。いや健次さん、なんで分かるんですか?」

 

一応図星なんで、ちょっぴり抵抗するように聞き返します。すると、次に浩壱さんが口を開きました。

 

「だってよォ。おめぇが奴等を見上げていた際、なんだから悲しそうと言うか…うむ。寂しそうな表情だったのは、明白だったんだぜぇ?それに、矢を射るポーズを取ったのが物語っている。普通公然の場で、そんなことはしねぇ」

 

確かに、反論できません。私の表情から行動の意図まで読み取っていたとは…鋭い洞察力を持っているみたいです。流石にこれ以上抵抗するのも無意味な気がしてきて、私はため息をつきます。

 

「ふう…。ええ、そうですよ。寂しいというか、悔しい気持ちもあるんです。だって…私だって…どうして私じゃ駄目だったの?」

 

ぎゅっと拳を握って、私はうつむきます。言いたいことは山程ありますけど、それは彼らに言っても意味は無いでしょう。

 

すると彼らは察したように、それぞれ考え込むような仕草で息を吐きます。

 

「まあ、ンなことだろうとは思ったが…。おのれ七星。罪深き男よォ」

 

若干顔をしかめて言う浩壱さん。それに続いて、キヨさんや健次さんも、うんうんとうなづいています。

 

「ふーむ。しかしながら、それ故とて七星は理解しておらぬ次第。して、奴の性格上、気づくのは相無理な話ですなぁ」

 

「あいつはその、被害妄想なところがあるしな。と、言うかチキンだ。蒼龍だって最初に会った時には、苦労しただろう」

 

健次さんとキヨさんは、提督を冷静に分析します。確かに、二人ともある程度はいっているはずなのに、どうしても奥手というか、遠慮し合っている感じ。もどかしい気分になるのは、それ故なのかもしれません

 

「じゃあ、どうすればいいと思います?どうやったら提督に気づいてもらえると思います?」

 

とは言うもの、なんとなくはわかっているつもりなんですけどね。だって、あの人の性格上、湾曲した考えはかえって理解してもらえないと思いますもん。

 

三人は私の質問を受けると、次第に苦い顔になっていきます。と、言うか困惑した表情…。ひょっとして、的確なアドバイスが思い浮かばないからでしょうか?

 

しばらくの間考え込んでいましたが、三人はちらりとお互いの顔を見ると、浩壱さんが口を開きます。

 

「…まあよォ、俺たちはなんともいえねェなぁ。ただ、これだけは言えるんじゃねぇか?オメェは自分に素直になること…それが一番の近道だろう。ま、一番の険しい道でもあるがな」

 

やはり、浩壱さんもそうする他ないと言いたいそうです。キヨさんも健次さんも、口を揃えて「そうだろうなぁ」と言います。

 

「七星はむしろ、そうじゃないと駄目だな。あんな不真面目そうなやつだが、素直にかつ説得力のある意見を好む性格だ。遠まわしの意見は、遠回し通りの意味で捉えることが多い。猪突猛進な考え方なんだよ。だから、昔は色々と衝突もあったさ」

しみじみと思い返すように、キヨさんは言います。ちょっと気になりますけど、今その話じゃないですね。

 

「…素直ですかぁ。うーん、やっぱりこう、尻込んじゃうなぁ。結果、わかってますし」

 

「なら、諦めつきやすいんじゃねぇのか?今のオメェは、どこか期待しているんだろう。だが、かなわねぇ期待なんざ捨てちまうのが一番だ。長引けば長引くほど、そう言うもんは辛くなる。生きることに希望するのはまだいい。だが、恋愛に希望するのは特にだろうな。淡い期待は、自分を傷つけていくだけだろう。傷だらけの龍にでもなる気か?それは女に似合わねぇ。男が背負うもんだ」

 

説得力ありすぎですよ…浩壱さん。的確な答えは、ある意味強力な凶器ですもん。でも、その方が私らしいのかもしれない。

 

「そうですね…うん。なんか勇気をもらえました。浩壱さんって、顔に似合わず優しいんですね」

 

「ん?俺はいま褒められたのか?けなされたのか?」

 

微妙な顔をして、浩壱さんは首をかしげます。まあ、すこしばかりの照れ隠しでした。ごめんね浩壱さん。

 

「お、そろそろ時間が近いな。さっさと団子、食っちまおうぜ」

 

時計をちらりとみたキヨさんが、話を区切るように催促をしてきます。いいタイミングですね。

 

「えっと、わたしもう少し、お団子頂いてもいいですか?5本は少なかったみたいです」

わたしが照れくさそうにいうと、三人は顔を見合わせて、にやりと笑顔を作ります。

 

「やっぱり飛龍殿。食いしん坊なんですなぁ。正規空母は基本そうらしいと見た!」

 

「もーそんなことないですってばぁ!」

 

健次さんの言葉に、わたしは反論をします。でも、それは笑いが引き起こし、自然と心も暖かくなりました。

 

 

 

 

約束の四時半。拓海と大和ペア、統治と夕張ペアと合流し、清水正面の鳥居であとのメンバーを待つ。キヨとヘルブラザーズは行動を共にしただろうけど、飛龍はどうだったのだろう。一人で行動していたと思うと、かなりの罪悪感がこみ上げてくる。おまけに飛龍は気が強いほうだけど、変な外人とかに絡まれていなければいいが…。

 

「心配?飛龍のこと」

 

隣で同じく遺りのメンバーを待つ蒼龍が、俺へと聞いてくる。どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 

「んー、そりゃあね。そもそも一人にしてしまったのは俺の所為だし…」

 

「ま、大丈夫だと思うけどね。飛龍は私より、強いから」

 

それは腕っ節の方なのか、それとも精神のほうなのか。まあどちらにせよ、飛龍のほうが実質的に性能面では上だろう。そういう意味で、蒼龍は言ったのかもしれない。もっとも、艤装がなければ意味が無い気もするけど…。

 

と、そんな不安が俺の中で渦巻く中、統治が「おっ」と言葉を漏らす。清水の舞台方面の道を見ると、巨漢二人に甚平の男。そして真ん中には飛龍が見えてきた。どうやら、四人で行動を共にしていた様子。下手な心配は、しなくても良かったかな。

 

「おまたせしました~。いやーお団子美味しかったなぁ」

 

腹を擦りながら、飛龍はにこにこと笑顔を振りまいて言う。その行動は若干変な誤解を生みそうだ。え、思わない?

 

「うーむ。俺たちはもうちっと食いたかったんだがなァ」

 

「せやね。某、食い足りぬ~」

 

巨漢二人は若干不服そうだ。と、言うかこの四人で、茶屋に行っていたのか。飛龍に最低限の金しか持たしていなかったが、もしや奢らせたのか?

 

「あ、心配すんな七星。俺が好き好んでおごってやった。だから後で払うとか言うんじゃねぇぞー」

 

キヨが寄って来るや否や、俺の肩を叩いて言う。まあそういうことならその好意に甘えてしまおう。しかし、いくら食ったんだろうか。

 

「しかし、充実したお話も出来ましたし、後は実践だけですね。皆さん改めてありがとう御座います」

 

飛龍はそう言うと、キヨとヘルブラザーズへと頭を軽く下げる。一体何の話をしていたんだろう。まさか俺にエグいいたずらとか考えていたんじゃ…。何となく、悪寒が走った。

 

「さて、皆さん集まりましたね。これからどうします?自分は土産廻りがええと思うけど」

 

全員が集まったことを確認し次第、拓海が若干大きい声で、会話の舵を切る。もう夕飯まであまり時間が残されていないし、良い采配だ。年下だが、そういうところはしっかりしているんだろう。

 

「おみやげですかぁ…いいですねぇ」

 

目を輝かせ、蒼龍は拓海の提案に乗っかった。まあ、俺もその提案には乗るつもりだったし、ちょうどいいな。

 

「私も賛成ですかねー。あ、統治さんもでしょ?」

 

「異議なしやね。んじゃぁ、まず清水坂の土産物屋でも回ろうか」

 

夕張に話を振られた統治も、賛成の様子。他の面々も、「そういうことなら」と話に乗っかった。

 

「じゃあ行きましょうかね。あ、そんつぎは四条に行きましょう。大体7時くらいに旅館へと着けば、一服したしたあとご飯って感じですし」

 

ちゃんとそういうところまで、計算をしていたようだ。さすがは旅館づとめといったところだろう。

 

こうして、俺達は土産を買いに行くべく、清水を後にしたのだった。

 




どうも毎度お久しぶりです。飛男です

今回は最初おふざけ、中盤からが少し重い話となっております。キヨやヘルブラザーズの本心を此処で述べますと、純粋に修羅場な感じにしたくなかった。って感じですかね。あくまでも一歩引いて物事を見ている輩で、見える視野も広い。そんな感じで書かせていただきました。

で、今回も前回からそれなりに間が空いてしまいましたね。まあ、就活は勿論の事、そろそろ卒論も本格的に手を出さなければならなくなり、じっくりと書いていける時間が少なくなってきました。次回もいつになるかわからないですが、最悪本日から一ヶ月以内には投稿したいと思っております。故にいつもどおり不定期になりますが、どうかよろしくお願い致します。
では、また次回にお会いしましょう!



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コラボ6:夕食です!

一か月間投稿。そろそろ忙しさもおわるかな?

すいませんがあとがきは省かせていただきます。
明日に追記するかも?


さて清水を後にした俺たちは、まず清水の坂で土産を見つつ下っていき、四条へと向かう電車へと乗り込む。そして歩むがままに四条を堪能して、気が付けば時刻19:30。このままでは夕食に間に合わないと悟り、旅館へと再び電車に乗ることに。

 

そして、20:00。何とか旅館へとたどり着けた。ひとまずは夕食にありつけそうだだけど、予定の時間より少々遅れてしまった。

 

「しかし、おかみさんには感謝しないとな」

 

そう、実はその点に関しては問題ない。拓海曰く、遅れることを見越し、あらかじめ女将さんに遅くなると伝えていたらしい。手際がいいね。

 

正直な話、旅館とか9時には夕食が閉まると思うけど、貸切だからこちらの都合に合わせてくれるとの事だ。が、そこまでサービスしてもらってもいいの?というのが俺の本心。旅館の裏事情とかよく知りませんけどね。考えたくもないが、黒いのでは?この旅館。

 

ちなみにそんな拓海は旅館へ帰るや否や、俺たちの部屋分けを聞きに行くべく、受付の中へと入っていった。おおよそあいつに任せっきりなのは、奴がそうしたいと言ったからだったりする。断じて俺たちが面倒だからという訳ではない。いや、ほんと。

 

「はー、歩き疲れましたねぇ。足が棒みたい」

 

飛龍はそんな事を言うと、ぼふっと勢いよくロビーのソファーへと腰掛ける。それに続き、皆はそれぞれ座り始めた。

 

「望は座らないの?」

 

タイミングを逃した俺に、蒼龍は不思議そうに問う。まあ、タイミングの事もあるけど、別段疲れているわけではないし、何より座ると暫くそこから動きたくなくなるのは、誰もが共感してくれるはず。どうせすぐ移動するんだし、立ってる方が良い。いつもの腕組みスタイルで、突き通しておく。偉い立場ではないのに、エラそうにする感じ。割と痛いがクセを直すのは難しい。

 

そんな俺のどうでもいいクセの事はいいとして、拓海が来るまで暫く本日の観光地を振り返り和気藹々と話に花を咲かせつつ、盛りあがりがクールダウンし始めたタイミングで拓海が戻ってきた。バインダーに挟まれた紙っぺらに、数本部屋の鍵を持っているし、どうやら振り分けがわかった様子。

 

「はい。では振り分けの発表します。まず統治さんと夕張さんは201号室、七星さんとキヨさんは202号室で、次にそうりゅ―あ、いや。青柳さんと飛田さんは204号室。ヘルブラザーズは―」

 

「は、はい!ちょ、ちょっと待ってください!」

 

つらつらと言う拓海に対し、蒼龍が手を上げて止めさせる。そんな蒼龍の行動を拓海は予測していたのか、「振り分に納得いかないんでしょ?」と言葉を返した。

 

「え、ええ。どうして望と一緒じゃないの?」

 

「まあ、男は男。女子で別れて欲しいそうですわ。でも、どうしても奇数どうしですし、青柳と飛田さんは仕方なく…。それに念のため…」

 

念のためって、何を言っているんだろう。まあ、どうせいかがわしい事を踏まえてだろうが…。って、そこまでサカってるように見えるの?大学生は性欲の塊だとでも思われているの?男子中学生、高校生じゃねぇんだぞ。

 

「そんなぁ…。まあ、仕方ないかぁ…」

 

心底残念そうな表情な蒼龍。まあ、仕方ないよね。確かに振り分けを任せたのは、こちら側だし。もちろん俺も残念無念の思いだが、いまさら変えてくれなどと因縁をつけるが如く言うのはマナー的によくない。我慢しよう。

 

「じゃあ、夕飯は三十分後になると思います。割と時間がこっちも押してるので、こればっかりはかんにんしてほしいっす」

 

「まあ、予定を狂わせたのは俺らの暴走もとい、わがままだったからな。本来であれば夕飯抜きなところを、お前のおかげで食える。それくらいは従うさ」

 

土産選びでこんなに時間を食うとは思わなかったよ正直。まあミリタリーショップがまさか四条にあるとは思わなかったし、こっちの情報収集不足だった感もある。今思えば、明日の帰りでもよかったかもしれない。反省しなければ。旅館の事情がどうあれ、時間をずらしてくれたのには、本当に感謝かな。

 

 

 

 

時がたつのは早いもの。と、いうかむしろ時間が少ないくらいだ。振り分けられた部屋に行き、荷物を部屋に置き、そうこうしているうちに三十分など刹那のように感じる。

幸いにも全員遅れに対する罪悪感があるのか、迅速かつ手際よく、荷物の整理やら部屋の確認などを済ませた。目まぐるしい活躍を見せたのは以外にも艦娘たちで、さすがは規律を重んじる軍属なだけはある。彼女たちから見習うことは、まだまだありそうだ・

 

 「こんなところでお食事なんて、私初めてです」

 

 さてさてそんなこんなで移動を開始。蒼龍には向こうの世界でこういう経験はなかったのだろうかと思いつつ、俺たち一向は座敷に通された。艦娘たちは蒼龍だけに限らずみな感激したような顔で室内を見渡していて、察するに高級料理店での食事経験は艦娘にはないと結論付ける。室内は床の間に掛け軸がかかっており、花が活けてある。畳の匂い鼻を突き、雅というべきであろうか。いや、そもそもここは高級旅館だし、この一言は間違いか。ただ、拓海のおかげで安く泊まれているだけだし。

 

「さてはて、お味を拝見させてもらおうかね。どれも良い品を使ってると見える」

 

先ほど運ばれてきた目の前に広がる料理の品々を見て、こういうときだけ玄人っぽく振る舞うのがキヨという男である。と、いうかそもそも玄人に片足を突っ込んではいるので、にわかというわけではなさそうだが。趣味はプラモデル作りとかなんだがね。こいつ。

 

「お待たせいたしました。ビールと焼酎です」

 

襖が開いて、従業員が顔を出してきた。少々小柄―というよりはかなり小柄な女の子というべき彼女は、いそいそと俺たちの前へ酒を置いていく。

 

「こりゃあいいなぁ。うへへ、酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞぉーっと」

 

ヘルブラザーズは酒が置かれてゆくのを見て、どこかで聞いたことのあるような曲を口にする。うん、君ら大好きだよねその歌。

 

「さーて!お酒も並び終わったし、早く食べましょ?料理が冷めちゃうじゃない!」

 

花より団子と言葉が似合うだろう飛龍が、料理に向けて目を輝かせながら言う。こういうところは、割とかわいいとは思います。はい。

 

「では、いただきますか」

 

俺がそういうや否や、皆はそれぞれ手を合わせて料理に手を付け始める。素人目で見ても、どれも艶やかというべきなのか、料理が輝いて見えて、何とも旨そうだ。

全員もそれぞれ手を合わせて料理に手を付け始める。豪華絢爛ともいうべき品々の数々に、みな夢中の様子。

 

大雑把に御品書きを説明すると、造りに鮎の塩焼き。吸物に季節の天ぷら、小鉢に白滝そうめん。そしてメインディッシュは、丹波牛のステーキといったところか。丹波牛とか聞いたことないんだけど。と、まあ東海方面出身の俺であるが、後で調べてみると結構有名だったらしい。一頭一頭じっくりと匠が育て上げ、その中からさらに厳選し、今食べているものが残るという。農業もとい酪農など、そうしたものは残念ながら俺は疎いが、一つだけ言えることは感謝。ただそれだけではないだろうか。

 

「のぞむー。はい」

 

と、そんな思いを馳せつつ料理を楽しんでいると、隣に座る蒼龍がにこにこと笑顔を俺にふりまき、スッと俺へ向けて何かを差し出そうとする。これは俗にいう…!

 

「アーンって、やつですかな?蒼龍」

 

「ふふーん。ええ、そうです。と、いうかやってみたかったですね。はい」

 

今までやらなかったのに、こういうところでなぜやろうとするのか。自宅だと、若葉ににらまれるから?いや、それとも家族そのものに見せたくないのか?ともかくこいつらの前でやらないでほしい。後々いじられる。もうお婿にいけない。うん、何を言っているんだおれは。

 

「うん、じゃあいただくわ」

 

まあうれしくないわけがないので、俺はされるがまま口を開き、蒼龍の箸運びにより料理が口の中へと入っていく。うん、うまい。

 

「はぁ…。ほんとはぁ…ですねぇ二人とも」

 

そんな俺たちを見て、あきれ返ったかのような―もう呆れ尽きた顔つきで飛龍がぼそりと聞こえるようにつぶやいてくる。うん、言いたいことはわかる。だが、蒼龍はそうしたいと言っているんだし、俺も抵抗する理由はないからね。毒見させているわけでもないだろうし。

 

「なんだぁ飛龍ちゃんよぉ?オメェも望にしたいってか?」

 

ぐへへとそろそろ酒がまわってきていることがわかる浩壱は、にやにやと若干赤くなった顔をゆがませて言う。

 

「うーん、そうですね。今後の事も踏まえて、やってみようかなぁ?」

 

すると、飛龍も悪乗りをしたのか、蒼龍に向かってにやりと口元をゆがませる。ああ、やっぱりからかいスイッチが入ったご様子でしょうかね。

 

「だーめ!だめ!練習ならそこのじんべえさんとやったらどう?」

 

「甚平さんって俺の事?ねえ、とうとう名前でも呼んでくれなくなったの?」

 

そんな飛龍に対して呆れたようにいう蒼龍に、キヨが不服そうに反応を見せる。キヨ、お前はそういうキャラ付され始めてるんだよ。察しろ。

 

「えー。なら自分でたべますー。まったく、蒼龍は冗談が通じないわねぇ」

 

飛龍はそういうや否や、グラスに入った酒をごくごくと飲み干した。と、いうかさっきから気になってはいたが、飛龍は酒のペースがなんだか早いような気もする。以前の蒼龍はかなりきわどい状態―性格がおかしくなったゆえに、また介抱しなければならないのかと嫌な予感が走る。

 

「酒は…ほどほどにしないとな。こわいこわい」

 

さすがに急性アルコール中毒になられても困るので、飛龍に何気なくやめるように独り言を俺はつぶやく。だが―

 

「誰のせいだと思ってるのよ…」

 

と、小さな声でそう聞こえてきた。

 

 

 

 

料理も美味ゆえか結構速いペースで進み、ふと周りも見れば食べ終えた様子。時刻を見れば9時半を過ぎたころ合い。約一時間で済んでしまったようだ。まあ飯を食いながらべらべらと本日の振り返りパート2なんかやってれば、酒と合わさり食事が進むのは間違いないと思う。

 

「あーおいしかったなぁ。うーん。ふへへ…」

 

だいぶ満足が行った様子の飛龍をはじめ、艦娘たちも表情には堪能した様子が見受けられる。強いて不服そうな顔をしているのはヘルブラザーズくらいだが、奴らの事だ。どうせ酒がたりねぇ!もっと寄越せ!的な何かだろうし、放置しておけばいいだろう。

 

さて、飯が食い終わればここにはもう用はない。俺たちはそれぞれ靴やらぞうりやら下駄やらを吐き、外へと出た。

 

「しかし、食事の際に酒を飲んじまったし、これは風呂に入るとぶっ倒れるフラグだな」

 

正直な話、今日の疲れを湯水に溶かしてしまいたいのは理解してもらえるだろうが、厄介な事にアルコールが入ってしまっている。すなわち風呂もとい温泉に入れば体中にそれが回り、ぶっ倒れること間違いなし!―とは言い切れないせよ、危ないのは明確だろう。特に実のところ、俺はそういう経験がないわけではなく、二の舞にならぬよう全員にくぎを刺しておく。

 

「そうですね。でもシャワーは浴びたいなぁ。かなり汗かきましたし」

 

それもそうだろう。京都は盆地で、夏はクソ熱いことは地理を真面目に習っていればわかるはず。一応食事前に数人―女性陣はシャワーをささっと浴びたようだが、もう一度、今度はゆっくりとシャワーを浴びたいだろう。

 

「じゃあ、ここらでいったん解散だな」

 

「せやな。じゃあ夕張、俺たちは部屋に戻ろうか。PCに写真を転送しないと」

 

何故俺たちはダメで統治達は許されたのが疑問でいっぱいではあるが、同室である統治と夕張は近くの階段から二階へと上がっていく。それに乗じて、ヘルブラザーズは「売店で酒を買ってくる」と言い残し、その場を離れていった。

 

「私たちも上がりましょ?シャワー浴びたいし」

 

どうやら蒼龍は酒の事もあり、また汗ばんでしまった様子。今回自重していたように見えたが、体が火照るのは仕方がないだろう。飛龍も結構酔っているようで「はぁーい」と呂律がまわっているかいないかきわどいラインで返事をした。

 

「おいおい、大丈夫かこいつ。うーん、俺はちょいと二人の様子を見つつ、部屋へと戻る。七星もくるか?」

 

こういう時はけっこう気の利く、キヨらしい反応を見せ、飛龍の近くへと歩み寄る。足取りがふらついている飛龍に対し、ついにぼけっとしている飛龍に対し肩を貸し始めた。

 

「だから言ったによ…。疲れにも酒は効くんだよ…。よし、んじゃぁ俺も肩を貸すわ」

とりあえず飛龍に俺も肩を貸して、俺とキヨはいっせいのと足取りをそろえて歩いていく。蒼龍も心配そうについてきて、エレベーターへと向かったのだった。



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コラボ7:拓海さんの相談です!

就活終わりました★


酔っぱらった飛龍を運び終えた望は、そのままキヨさんと一緒に煙草を吸う為、外へと出て行きました。室内で吸っても構わなかったんですが、酔っぱらった飛龍への配慮かと思うと、まああの人らしいと言えばあの人らしいかもしれません。もうちょっと一緒に居たかったけど、会おうと思えばいくらでも会えますしね。隣の隣なんですし、お部屋。

 

「あ、そうだ。お土産とか整理しないと」

 

気を取り直して、先ほど購入したお土産の袋へと手を伸ばします。家族は勿論の事、望のお友達―大学の方々やゼミの先生、バイト先の方にも買ったので、わかりやすい様に整理をしといたほうが、良いかと思います。

 

「えっと、まずこれは家族の方々に…。それでこれは大滝さんのだったかな?えっとそれで…」

 

ごそごそと音を立てて、私は望がつぶやいたり口にした言葉を思い出して、分け始めます。誰か忘れてる人、いるかな?

 

「うーん?なんのおとぉ…?」

 

そうこうしているうちに、敷布団でごろごろしていた飛龍が、気がついた様です。むくりと立ち上がったと思うと、またバフっと布団へと座り込みます。

 

「お土産の整理かな?それより飛龍、飲み過ぎだよー。全く着物もはだけちゃってさぁ…」

 

お食事へいく前に浴衣へと着替えていたのですが、もう色々とはだけそうになってます。飛龍はいっつもこう。お酒に飲まれると、こうしてグータラになっちゃうの。

 

「えへへぇ…ねー蒼龍」

 

和やかな笑顔をしながら、飛龍は私へと声をかけてきます。

 

「どうしたの?眠いの?別に寝てもいいわよ」

 

「ぶー。私を早く寝させて、なにするつもりなのー?こっそり部屋を抜け出して、提督の部屋にでも行こうとしてるの?」

 

口元を尖らせて、飛龍は言います。そんなわけない―こともなかったかも…。いやでも、流石にそこまでぐいぐいは行く気がないかな。はしたない女の子とか、思われたくないし。あ、でも恋人同士に、そういう遠慮っているのかなぁ…?いまいち線引きが分からないや。

 

「そんなわけないじゃない。酔っ払いの扱いが面倒なだけよ」

 

私は呆れた様に言いましたが、飛龍はにこにことしながら「ほんとかなぁー」と惚けた様な声でつぶやきます。

 

「ねーそうりゅー」

 

再び飛龍が、のほほんとした感じで私へと言葉を投げかけてきます。完全に酔っ払いの姿ですね、典型的過ぎると言いますか、典型的だからこそ、面倒なんですが。

 

「はいはい。なんですか酔っ払いさん」

 

とりあえず、お土産の仕分け作業をしつつ、私はそっけなく返事をします。

 

「んー、蒼龍はさぁ…。本当に提督の事愛してるぅ?好き?大好き?」

 

何気ない、酔っ払いの言葉のように聞こえますが、どういう意味で聞いたんだろうと、思わず詮索する思考がよぎりました。でも、結局酔っ払いの無意味な質問だと思いなおしました。

 

「んー。大好きだよ?と、いうか一生一緒に居たいかな。なーんて、思ってもいるわ。この先どうなるかはわからないけど、時間というか、なんというか…許す限りはずっと一緒に居たいかな」

 

私の素直な思いです。本当にこの先どうなるかはわからないけど、それでもずっと、一緒に居たいんです。きっとあの人は、運命の人なんだなって、あの夜から、ずっとそう感じていました。

 

「そっかぁー。うん、そうだよねぇーやっぱり。うんうん」

 

なんというか、本当に飛龍は酔っているの?と、思いたくなるくらい納得したような、かつ意味深な口ぶりで言葉を返してきます。ひょっとして飛龍がこっちに来たときに行っていた事の、確認なのでは…?

 

「飛龍?あなた本当に酔ってるの?」

 

と、振り返って彼女へと問いましたが、その様子は火を見るよりも明らかでした。うん、ぐでーってしていて、顔は室内のオレンジライトに照らされていてもわかるくらい、赤い頬をしています。

 

「ねーそうりゅー」

 

でも、再び、三回目の問いかけを飛龍はしてきます。私は「はいはい」とそっけないように答えましたが―

 

「わたしさぁー。提督と二人っきりではなしたいんだけどー。いーいー?」

 

 

 

 

 

「やれやれ、やっと一服できるな」

 

飛龍を運び終えた俺は、旅館の外にある灰皿へと足を運んだ。満点の星空に煌々と暗闇を照らす月は、やはり良いものだよね。あ、照月の事を言ってるわけではないんだけども。

やっぱり酔っ払いと蒼龍の前で吸うのは少しばかり抵抗があって、まあ下の階層へとわざわざ降りて、いっそ外で吸ってこようと思ったわけ。これならば、文句は言われない筈。特に飛龍とか。酔っ払いの相手は御免だね。

 

ちなみにキヨはと言うと、別れた後に飲み物を買いに行くと言い残し、同じく一階のロビーまではともに行動をしていた。途中、ヘルブラザーズも居たし、そいつらと合流をしたんだと思う。

 

「ん・・・。メールか」

 

スマフォがブブッと揺れた感覚を覚えたので、ポケットから取り出すと電源を入れる。見れば明石からのようで、何かしらの進展があったと、件名が記されている

 

『コエールくんですが、クールタイムがもう少しで終わりそうです。と、いうか思っていた以上に装置が安定していた様子で、予定が早まった感じですね』

 

とのことだった。おそらく明石の事だし、コエール君をかなりのペースで把握してきているんだろう。となればまたこっちにくる艦娘とかも出てくるわけで…少々苦笑いがこみ上げてきた。どう説明すればいいんだよ。

 

「あんれ?七星さんじゃないすか」

 

そんなこんなでメールを眺めていると、ふと声をかけられる。声から察して、思った通り拓海だった。仕事はどうしたんだろうか。方向からして、道路側から歩いてきたようだが…。

 

「あ、いま休憩中です。サボってなんかないですよ!?で、そういう七星さんは?」

ああ、どうやら怪しんでいるのが顔に出てたらしい。まあ、普通はそう思うよね。

 

「あー。キヨが下に用があったみたいで、ついでについてきてここで待ってる感じ。どうせ暇だしねー」

 

特に用事もないし、その場の流れで友人について行くってのはある話だと思う。拓海も納得いったのか、「あー」と声を上げた。

 

「今夜は、月が綺麗ですね」

 

月を見上げ、拓海はそうつぶやく。現地人からしても、今夜の月は美しいらしい。…だが。

 

「おまえ、それ意味わかって使ってる?」

 

思わず突っ込みたくなった。いや、ほら、月が綺麗ですねってそういうことですよね。

しかしまあ、拓海は「フェ?」と首をかしげた。ああ、やっぱり知らないみたいだ。ホモかと思った。

 

「あーこういう時はこうだろう。“月は出ているか!?”だ」

 

意味深なにやつき俺は拓海に見せると、拓海もまた理解したような表情となる。

 

「ああ。えーっと…“は?”」

 

「お―“月は出ているかと聞いている!”ってな」

 

俺たちはにかっと笑いをこぼす。まあ、わかる人にはわかるよね。元祖髭ガンダム。

 

「まあそれはいいとして、今日、楽しかったですか?」

 

おいおい、せっかくフォローっぽいことをしてやったが、特に反応なしか。まあいいさ。

 

「そら、まあな。楽しくないなら俺はその場で口にすると思う」

 

「あーそういえばそういった方ですよねぇ。七星さんって」

 

「そりゃどういう意味だよ」

 

そう返答した俺だったが、笑いがこみ上げてくる。そして拓海も、つられて笑った、

 

「そういうお前は?大和と一緒に出掛けれて楽しかったんじゃないのか?まあ、いつもの事かもしれんが」

 

こんなこと質問するのもヤボだが、少し気にはなる。男だって恋愛話は興味があるからね。女々しいとか言わない。

 

だが、拓海は「えーっと」と考え込むしぐさをすると、口を開く。

 

「うん、今日が初めてでしたね。まあ仕事の関係で行く機会がなかったですし、京都人って別に毎日清水とか行きませんしねー」

 

正直以外だった。まさかそんなドライというか、お熱くない関係なのか…。もしや熟年夫婦っぽい感じ?と刹那的によぎったが、そんなわけない。いや、むしろ年齢的におかしいだろう。

 

「じゃあさ、俺たち抜きで…お前と大和の二人で行こうとは思わんの?」

 

「えぇ?まあそら行きたいですけど…そもそもどう接すればいいのかなぁと」

 

ちょっと待ってくれ。どう接するだと?なんか、会話がかみ合っていないような気がしてきたが…まさか?まだまだ分からないが…。

 

「どうって、普通に接すればいいじゃないか。艦これやってた時みたいにさ」

 

とは口にした俺だけども、さりげなく恥ずかしいこと言ってる気がする。うん気にしない。

 

「いや、普通に接する方法が、よくわからないんですよ。そもそも女子とかかわりもあまり持ったことないですし」

 

「ハァ?そんなくだらない事気にしてるのか。考えるだけ無駄だ、むだ。とりあえず、友達みたいに接して、徐々に親睦を深め、恋人らしいことをしていけばいいじゃないか」

 

「そんな、恋人だなんて…」

 

照れくさそうに、言葉を返す拓海。これで確信が付いた。おそらく、拓海はこっちになぜ大和が来たのか、理解していなかったらしい。確かに拓海はケッコンカッコカリレベルまで大和を育ててはいなかったが、こっちに来たんだ。意味合いをかみ砕けば、わかるはずだろう。

 

「まあその…。俺も憶測なんだろうが、なんで大和がこっちの世界に来たと思ってる?まあ、お前に会いたくて来たってのも理由だろうが、そうした行動原理はおそらく大和がお前にホの字なんじゃないのか?」

 

「えっ…」

 

絶句する拓海。こいつはひょっとして朴念仁なのだろうか。それなりに顔も整ってはいるし、女子との交流がないとか言っていたが、それが原因な気がする。あ、俺は中学からおひげが濃かったしおっさん顔なんで、そんなこととかまったくと言っていいほどありませんでしたがね。チクショー!

 

しかしまあ、てっきり相思相愛な感じで、もうそれなりに進んでいたと思っていたが…まさかこんなところで重大な問題を聞かされるとは思いもよらなかった。

 

「…まあ時が解決してくれるだろうさ。後は、お前次第だろう」

 

とりあえずこれくらいしか、俺が言える事はない。むしろ、これ以上首を突っ込むのは、それこそヤボな気がしてくる。

 

「じゃ、じゃあ…自分は…」

 

拓海が何かぼそりと言いかけた途端。俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この声は聞き間違えるはずもない。

 

「望ー!ここにいたのね!さがしたよぉ…」

 

そう声を出して、俺の近くまで走り寄ってくるや否や、蒼龍は息を整え始める。酒が入った状態での小走りは、地味にくるよね。

 

「で、どうしたー?飛龍は寝ちまったか?」

 

はははっと笑いながら俺は言うが、蒼龍が顔を上げた途端、どこか真剣というか意味深な顔をこちらへと向けてきたことにより、笑うのを止める。

 

「はあはあ…。ふう。えーっとね、その…飛龍が望に話があるって…」

 

 

 

 

俺は蒼龍に言われるとすぐに、飛龍と蒼龍の部屋へと小走りで向かった。

あらかじめ蒼龍には、彼女らの部屋カギを受け取っているし、すぐに部屋へと入れる。だが、彼女らの部屋の前で、足が止まった。

 

―なんだ?二人だけで話がしたい?いったいどういう要件だ?

 

心の中でそうつぶやく。蒼龍の真剣みをおびた顔からして、おふざけで読んだわけでもないだろう。そう思うと、これまでの自分を振り返りたくもなる。

―そういえば、飛龍がこっちに来た理由は『見極めに来た』だったか。つまり、本日その結果を伝えようとしているのか?

 

正直忘れかかっていたことだが、これまでどこか飛龍に対して負い目を感じていたのは、これが原因だろう。だが、それ以外だとしたら?

 

「本人に聞いてみなければわからんよな…。百聞は一見にしかずとも言うしな」

 

と、まあ覚悟を決めた俺は、一つ深呼吸をすると、部屋の扉を開いて中へと入る。

 

「おーい、飛龍。きたぞー」

 

しかしなぜか萎縮しているようで、声が小さくなってしまう。いや、まて俺。なぜ緊張している?そもそも、これまでの事を振り返ってみても、蒼龍に対して何もひどい仕打ちはしていない筈だ。つまり、いい結果を期待すればいい。だが、なぜこうしもこの部屋へと入るのが怖いんだ?

 

部屋の中は、薄暗くオレンジ色のランプで照らされているだけのようだ。寝ているのか?と、頭にはよぎったものの、そんなわけはなかった。

 

「あ、来たんだ。提督」

 

まぎれもなく、これは飛龍の声だ。蒼龍と似ているが、やはり聞き分けれる。これは飛龍の声。間違いない。

 

「おう、で、話ってなんだ?蒼龍に一人で来いとか言われたけど…酒に付き合えとかじゃないよなァ?」

 

まあいつものノリで、若干ふざけたように言葉を返す。すると、飛龍もまた「うーん、その手もあったねー。あ、どうせならそこのお酒開けちゃいましょ?」

 

飛龍の指さした方向には、確かにビール缶が置いてある。どこで買ったんだ?いつの間に?と疑問がよぎったが、それを飛龍が解決してくれた。

 

「ああ、それキヨさんが買ってきてくれたんだー。と、いうか頼んだのよ」

 

「おまえなぁ…さっきまで酔いつぶれてたくせに。どういう回復力だよ。俺なら今日は飲む気にならんくらいだったのに」

 

げんなりしたように俺は言うと、飛龍は「艦娘は強いのよ」と、得意げな顔をした。

 

「ま、座ってよ。私が出した結論。聞きたくない?」

 

やはりか。と、俺は納得をする。そして同時に、ついに来たかと決心を固めた。




どうも、飛男です
就活も終わり、今期の抗議も終了しました。おそらく今日から、更新速度も速くしたいと思います。
さて、今回は飛龍が酔ってたり、拓海がいろいろといってたり…と言った回でしたね。
拓海の言葉などは、たくみん2氏自身の提案のもとに書かせていただいたものです。いわく、たくみん2氏はここから始まるとかなんとか…まあ、真相は彼の小説に期待ですね。
次に今後の設定および展開についてですが、活動報告で書かせていただきます。一応、結構思い切った?話を考えており、そのアンケート的な書く予定です。
最後に宣伝じみてしまいましたが、割と迷っていることです。どうかよろしくお願いします。
それでは、また次回に!


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コラボ8:本心の叫び

ついにこの回がやってきた感じです。うまくかけているか、わかりません。



部屋の奥へと私たちは移動し、向かい合って座ります。机の上にはビールと灰皿とが置いてあるだけで、他は何もありません。

 

「で、改めて聞くが…話ってなにさ」

 

いざ向かい合って、提督の顔をまっすぐ見ていると、提督がそう切り出してきました。どこか探るような視線を向けている彼は、私が何を言いたくて呼んだのか、いまいち把握しきれていない感じ。まあ、しかたないよね。だって、これは私がずっと秘めていた思いの、整理なのだもの。ここでわかっていたら、提督はどれだけ察しのいい人なのかしら。でも、そんな様子は、影も形もないですけどね。

 

「ふふっ…なんだと思いますー?」

 

私はあえて、まだ酔いが残っているようにふるまいます。と、いうか私は酔っていませんでした。ええ、運ばれた時からずっと。ただ、こうした機会を作るための、お芝居だったんです。

 

私たち艦娘は、普通の人間とはやっぱり多少肉体の構造が違うんです。簡単に言うと、頑丈なんですよね。ですから、あれくらいのお酒では酔わないんです。まあ、蒼龍はそれでもお酒が弱いから、ある程度飲んじゃうと酔っちゃうみたいだけど。

 

「…わからない。と、いえばうそになるかもね。あれだろ?見極めについてだろ?」

 

やっぱり、そっちは覚えていましたか。もちろん、私も忘れてはいません。むしろ、そこから発展したような―いえ、こじらせてしまったようなものだから。

 

「うーん。五十点かなぁ」

 

私はともかくそう答えます。すると、案の定提督は目を見開き、驚いた表情になりました。

 

「え、違うの!?じゃあいったい…」

 

「えーっとねー。うん。じゃあ正直に言うね。私、提督の事、好きなの」

 

その言葉に、提督はぽかんとすると、口元をゆがめて困惑した表情になります。

 

「…まじで?」

 

「ええ、マジです」

 

すると提督は、どこか納得したような、それでも信用できないような、難しそうな顔をしました。

 

「でね。それを踏まえて質問するけど、どうして蒼龍をえらんだのかなーって」

 

ずっと聞きたかった。直接、本人の言葉で。

 

でも、たとえ、どう言われようと、私はすべてを受け入れるつもりです。

 

「…うーん。正直に言うべきだろ?」

 

「もちろん!ショックなんて受けませんよぉー?まーよっぽど無茶苦茶な理由以外ならですけどねー」

 

「そうか。うん…」

 

提督はそういうと、腕を組んで瞑想するように黙り込みます。少しの間沈黙が続きましたが、ついに提督は口を開きました。

 

「蒼龍が、初めての空母だったから…かな。それは、お前もわかってるはずだよね。言い訳なんてしない。うん、そんな安直な理由だったよ…。でも、それほどにまで、彼女の存在は新米提督だった俺にとって大きかった。それに、育てていく…いや。もうこうした言い方はよくないな。そう、一緒に訓練をしていくうちに、好きになっていったんだ」

 

そうでしょうとも。私たち空母は、新米の提督からすればそれはもう驚いたと思います。艦載機を発艦して、これまで使用していたような駆逐艦や軽巡洋艦とは違い、場合によっては一瞬にして壊滅させる戦闘能力。

 

そして、その役を最初に見せたのが、蒼龍だった。たったそれだけの理由で、提督の受けた衝撃は蒼龍へと向いてしまった。

 

「でも、私は二人目でしたよ。それも、たった数日の違いだったじゃないですかー?」

 

「そうだよねぇ…。でもね、運え…ああいや、大本営から指輪を渡されて、お前たち二人どちらかを取るかと迫られた。そして悩んだ挙句、やっぱり蒼龍かなって。もちろん重婚って手段もあった。だけどゲーム的に…うん、これはどうしようも言い換えれないな。ケッコンカッコカリでお前たちの性能が上がるとしても、個人的にそれは許せなかった。選ぶなら一人しかないと思ったからね。だからさ…」

 

「そう…そうよね、…初めて出た空母で提督に衝撃を与えた蒼龍を、必然的に選んだ…」

 

先回りした言葉を私は口にすると、提督は黙ってうなずきます。ああ、そんな顔をしないでください。私は…あなたを攻めているわけではないの。

 

でも、口では言えません。だって、本心はそうしてほしかった。私を選んでくれなかった、罪悪感を抱いてほしかった。だから…

 

 

「ほんと…単純すぎますよぉ…。私が最初なら、選ばれたのは私だったんでしょ!!ねぇ!」

 

 

私はついに、大声を出してしまいました。だってそうじゃない。そんなの納得できるわけない。私だって、選ばれる資格はあったはずなのに!!

 

大声を出したことで、提督も目を見開き、すぐに真剣な表情になります。室内には静寂が続いて、それはとても長く感じました。

 

そんな長い静寂の中、提督はすうっと息を吸うと、ついに口を開きます。

 

「…わからないよ、そんなこと。でも…でもな、あの時の俺はうれしかったんだと思う。彼奴が着任してくれてな」

 

提督はそういうと少し間を開いて、言葉を続けます。

 

「…だってさ、同じく提督をやっている友人たち…そう。俺に艦これを進めた大滝に、運命的な出会いを夕張と果たした統治。そいつらとは違って、俺はずっと駆逐艦や軽巡洋艦ばっかりだった。もちろん駆逐や軽巡を馬鹿にしてはいないぞ。でも、蒼龍が来てくれた事に、俺はうれしさがこみ上げたんだ…。ゲーム的に、俺を支えてくれるヤツが来てくれたとね…」

 

 だんだんと、提督は苦しそうに言葉を並べていきます。そうですよね。だって私たちは、本来ここにいるはずもない存在。“艦隊これくしょん”と言うゲームの、キャラクターなんですもん。たとえ向こうに世界があるとしても、提督はそんなこと知りもしなかった。いや、それがこちらの世界の常識で、提督もその常識に沿っていただけなのだから。

 

「でも、今は当然ゲーム的に考えることは、もうしていない。何はともあれ、お前たちは向こうの世界で生きていて、生活をしているんだからな」

 

「はい、それはわかってますよ?提督は蒼龍がこの世界に来てから、積極的に声もかけてくれるようになりましたし、コミュニケーションも欠かさず取っていましたもん」

 

単純な理由だとは思うけど、蒼龍が来たことでその認識が確実に固まったんでしょう。いや、認識せざるを得ませんよね。

 

「はあ、まあ選んだ理由はわかりましたよ。納得できないですけど、仕方なかったんでしょうね。だから、しぶしぶ納得します」

 

とはいうもの、私の心の中には、まだ引っかかりが残っています。ここまで聞いて理解できたのは、すでに提督と蒼龍の間に入り込むことは、できなかったんだということ。悔しいけど、これも運命なのかもしれない。考えるほど、私もわからなくなってきました。

 

「あのさ…じゃあ俺からも質問なんだけどいいかな?」

 

「はい、なんですか?」

 

抑えはしましたが、まだ高圧的な声量で私は答えます。ずんずんともどかしく、言い聞かせれない、納得できない気持ちがくすぶっているからです。でも―

 

「…もし俺がお前を選んでいて、お前はこちらの世界来ようと思ったのか…?」

その、提督が発した言葉に、私は思わず「えっ」と声を詰まらせます。

 

私なら、どうしたんだろう?蒼龍と同じ行動が、できたのかな?

 

蒼龍は、前日から行動を起こしていました。明石さんはコエールくんが完成したことを私たちに伝えてきた。あの時蒼龍は目を見開いていたけど、私は半信半疑で、同時に怖かった。この世界へと行ける方法ができたにもかかわらず。私はその方法を試そうと思わなかった。

 

それに明石さんは確かに言っていた、『成功するはず』と。でも信用できなかった。今思えば、いつもの失敗作じゃないかとも、思っていた。どうせいけるはずもない。どうせ成功するはずもないと、かってに決めつけてもいた。

でも、蒼龍はどうだったの?成功するかもわからない装置に対して、ただ提督に会いたくて、その一心で、危険だとわかっていても装置を使用した。明石さんが残してきた、過去の失敗例も顧みずに。

 

おそらく蒼龍は、可能性があるならばそれが砂の一粒ほど小さい確率でも、試したかったんだと思う。それにあの子、指輪をもらった時に、ずっと泣いていたもの。ただうれしくて。ただうれしすぎて。そのとき私は、悔しかったけども、何となくわかってもいた。

そんな蒼龍を思い出して、改めて自分に問いかけてみる。私に、そんなことができたのかな?

 

答えは、ノーだと思う。だって、私はそこまでの勇気はないもの。だから、こうしてずっとこんなことを聞く機会を、逃してきたんだと思う。それに命の危険を冒してまで、こちらの世界に来たいとは、それこそ向こうの常識的に思わなかったとも思う。提督とは会うことができない存在―向こう側の人間なのだと、そう決めつけていたはず。

 

「…どうでしょうか。わからないけど」

 

でも、悔しい思いがまだ勝ります。だから、こうしてうやむやに言葉を濁しました。

しかし、それは無駄な抵抗でしょうね。提督は優しい顔で、口を開きました。

 

「まあそうだな。でも、結果論になっちゃうけど、蒼龍は俺に会いに来てくれたんだ。俺がどんな人物かも、あまり把握できてはいなかったはず…。それでも、クサいことしれないけど、あいつは愛を信じて俺の下へと来たんだと思う。普通失敗するはずの装置を使ってでもね。その原動力は、自分の保身よりも、ただ会いたい一心だったんだろう。もし同じ立場に立ったら、俺はそんなことできなかっただろうさ、まあ今なら俺もできると思うけどね。だって、俺はあいつと一緒に生きていきたいから…。蒼龍は、あの時からそんな覚悟だったのかもしれないな」

 

聞けば聞くほど、そして思い出せば思い出すほど、私は引っかかりは消えていき、納得していく。ひどく残酷な結果だけれども、私は覚悟も想いも、すべてにおいて負けていたんだと。私は入り込む余地どころか、提督に持っていた好意すら、蒼龍には負けていたんだ。うん、まさに完全敗北だったんだ。

 

「あ、あはは…なーんだ。私って、いろいろ中途半端過ぎたんだ…。恋は盲目とは言うけれど、私は盲目になれていなかった。私は、ただケッコンカッコカリ止まりで、満足しようとしていたんだ…」

 

自分の気持ちも理解ができた。私は結局、世界の常識にあらがうことを考えつかなかった。もし、私が蒼龍ほどこの人を愛していたら、同じ行動ができたかもしれない。でも、たとえ同じ練度だったあの時でも、私はそう思えなかった。同じように愛情を注がれていたとしても…。

 

なら、私はもう何も言うことはできない。むしろ、私のやるべきことも、もう納得ができた。

 

「…飛龍。とても残酷なことを言うけど、俺はお前の気持ちに答えることはできないかな。たとえお前にどう思われようと、気持ちが変わることはないんだ。ただ、それだけかな」

 

最後にゆっくりと優しく、偏屈させず真っ直ぐに提督は言います。はい。もう言わなくても、わかっています。私には、あなたと一緒になる覚悟は、蒼龍と比べて足りなかったんです。

 

「…はい。そうですよね。わかってました。でも、はっきりさせておきたかった。ずっとうやむやだったから、変に不快感が募っていったの。でも蒼龍にも提督に対しても、恨みや妬みを持ちたくなかった。だからこれで、もうそんな気持ちを持たずに、済みそうですね…」

 

ジワリと目元が熱くなり、私の頬に涙が伝わります。悔しい気持ちがいっぱいだったけど、同時に私はうれしい気持ちにもなりました。もう、二人に複雑な気持ちを持たなくてもいいんだ。二人を心から応援できるように、なることができるんだ。

 

これが、私が本当に見極めたかったこと。二人が釣り合うのではなく、私がこの人に釣り合うかどうかと言うこと。それが、私がこの世界に来た理由だったのかもしれない。

 

「…その、涙拭けよ」

 

すっと、提督はハンカチを渡します。私はそれを受けとって目元を拭きますが、やっぱり涙は止まりません。でも、この涙が大きくあふれてしまう前に、私は言うことがあります。

 

「ありがとね…。うん、でもこれで見極めるかどうかの結論がまとまりましたよ」

 

その言葉を聞いて、提督は姿勢を正しました。それでも緊張しているのでしょう。そんな雰囲気が彼にはあります。

 

「二人の交際を認めます。ですが条件があります」

 

「条件…?」

 

提督は言葉を復唱して、ゴクリと唾を飲んだようです。真剣なまなざしで聞く姿勢は、どんな条件でも飲んでやると言った、覚悟の表れなんでしょう。

 

「はい。蒼龍の事を、ずっと、永遠に、愛してあげてください。艦娘としてではなく、一人の人間として…簡単ですよね?」

 

にこりと私は、涙ぐんでいる顔を懸命に直しました。提督はその言葉に対し、自信を持った声量で―

 

 

「まかせろ」

 

 

と、短く言葉を発しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

長い様で短い夜は終わり、翌朝が訪れた。

 

飛龍が伝えた気持ちは、やはりというべき感覚だった。でも、俺にだって問題はある。俺は彼女の気持ちをなんとなくわかっていても、答えることが怖かったんだ。俺はどうしようもない、チキン野郎なんだなと、言われなくてもわかっている。でもいざこうした状況下になっちまうと、判断を下すのはとても難しい事なんだと、改めて痛感をした。

 

「あー、ラノベの主役ってさ、案外大変なんだろうな」

 

そう口にした俺は、現在旅館の朝食を取っている。女性陣はいわずと朝が色々大変らしく、キヨと統治、そしてヘルブラザーズとともにいる感じだ。

 

「んー?絶賛それを謳歌しているお前がなに言ってんだ」

 

統治はそういういと、苦笑いを見せてくる。ああ、やっぱりそう見られてたのね。うん。

 

「まあ死んでくれ。よろしく。でだ、昨日は飛龍となんか話したのか?」

 

するとキヨが、唐突に話に割り込んできた。なぜ、こいつがその事を?

 

「まあ、話したけど…なんで?」

 

俺もいつものノリで返すが、キヨはヘルブラザーズと目線を合わせると、頷いた。

 

「ま、その様子だと飛龍は色々と伝えれたみたいだろうな。結果は言わずとわかってるが、お前のだらしなさが招いた結果だろう?直せよそういうとこ」

 

そのキヨの言葉にヘルブラザーズも頷きを見せる。色々と疑問が募るけど、とりあえず概要がなんとなくわかっている様子だ。俺はひとまず、「せやなぁ」と、返事をする。

 

「なんでお前らが色々知ってるかわからんけど、とりあえずケジメはつけたさ。飛龍もおそらく…いや。確実に納得してくれたと思う」

 

「…そうか。ま、ならよかったよかったという事で。これで飛龍も、心置きなくこっちの世界を楽しめるんじゃねぇか?」

 

キヨはそういうと、「さて、この話は終わりだ」と話を区切った。もしかして、飛龍はあらかじめこいつらに持っていた気持ちを語ったんだろうか?そういえば、あいつと一度別れた機会があったな。おそらくあの時だろう。なんか、こいつらには色々と迷惑をかけていたのかもしれない。

 

「すまんね。こっちの問題だったのにさ」

 

やはりいうべきだろう。俺は申し訳ない一心で、頭をさげる。

 

「おいおいぃ?その話はもう終わりだって言っただろうがァ。今日は伏見稲荷に行くんだろぉ?申し訳ねぇと思うなら、そこでなんか奢れや!」

 

にやにやと浩壱が何時もの調子で言うと、健次も便乗し「せやせや!それがしお酒がいい!」とだんだんと鬱陶しい調子に戻ってきた。

 

「はぁ…俺の財布はもう焼け野原だよ…早く給料日来てくれ…」

 

俺は頭を抱え、情けない声を出す。いや、もうまじお金がないんですよ。飛龍と蒼龍両方に使うお金は、大本営から出て欲しいくらいですわ。経費として…。

 

「お待たせしましたー」

 

と、そんなこんなでダベっていると、早速粧してきた蒼龍たちが入ってきた。朝の準備って、まあこういう事ですよね。綺麗になりたいのが、女性の性ですし。だからって厚化粧って感じもしない。すっぴんメイク?ってやつだろうさ。

 

やっときたのかと思いつつ、俺は近くにあった茶を口に運ぶ。が、それは迂闊な行為だったのかもしれない。

 

 

「望くん!おっはよぉー!」

 

 

元気よく聞こえてきたその声に、俺はおもわずブホォとお茶を口から吐き出す。理解が追い付かない。えちょ、昨日の事があって、それなの?

 

「うわぇ!?きたねぇぞてめぇ!なんてことしやがる!!!!」

 

焦るように椅子から飛ぶように立つキヨ。すまんとはおもうが、あの不意打ちは流石に卑怯だ。

 

「ゲッホ…。わ、わりぃ…、てか飛龍!」

 

俺はとりあえずキヨに平謝りすると、声の主であるー言わずとわかるであろう飛龍に顔を向けた。

 

「昨日の…じゃないか、昨晩のしんなりとした気持ちどこ行ったんだよ!なんかギャップありすぎて笑えてくるわ!あと、望くんはやめろ!」

 

迫真の訴えですよこれ。いやだって昨晩からして、飛龍落ち込んでると思うじゃん!今日どうやって接しようかとか割と困ってたのに、どういう心持ちしてんだ飛龍は…。

 

「えー?だってもうはっきりしたじゃない。だから落ち込む必要なんてないでしょ。それに私がなんと呼ぼうが勝手じゃん。蒼龍だって許してくれたよ?ね?」

 

随分とはっきりしてますねぇ…。からからと笑いながら言ってるし、うそじゃなさそうだ。蒼龍も苦笑いをしながら「まあいいんじゃない?」と聞こえるようにつぶやいたし、まあいいのかもしれないが…。と、蒼龍の様子だと、昨晩の事は把握しているらしい。話す手間が、省けたみたいだ。

 

「ま、そういう事よ!あ、義兄さんって呼んだ方がいい?」

 

「そういう問題じゃ、ないです。むしろ呼ぶなや。呼ばないでください。そっちの方が恥ずかしいわ。少しは考えて物を言いましょう」

 

と、まあドライな感じに接しているが、飛龍のこの元気さには救われたといえる。今後どう接していこうか、真剣に悩んでいるうちに朝を迎えたくらいだし、おかげで寝不足ですわ。それに飛龍も心の整理がついたのか、いつにも増して元気さが有り余っている感じだ。正直、こんな調子の方がこいつらしい。

 

「じゃあ望くんで決定だね!はいけってー!」

 

そう言うと飛龍は「じゃあ私たちもご飯食べよー!」と言い、朝食を取りに行った。言い忘れてたけど、朝食はバイキング形式だから、料理は運ばれて来ないんだよね。

 

 

こうして、飛龍のギクシャクしたような行動はなくなったと言える。呆気ないようにも思えるけど、飛龍はそう言う性格なんだろう。それはどこか、自分と似ているような気もする。まあ、気がするだけなんだけども。確信は、ないからね。

 




どうも、飛男です。
今回は早く投稿できましたね。このペースが、続くと良いですが・・・。

さて、今回飛龍の気持ち整理回です。いろいろとくすぶってた飛龍の気持ちが爆発し、そして鎮静された…そんな感じでしょうか。
私も書いていて、飛龍に感情移入しまくりでした。ゆえにかなり悩みに悩んだ感じです。そんな話なのに投稿間隔がこれほどまで短いのは、おそらく一か月以上前から練りに練った話だったからです。文章に移すとまた雑さが出てきましたが、友人の力も借りて、なんとかこうした結果が導き出せました。
おそらく、この話に納得できない方が多いかもしれません。それは申し訳ありません。
そして、この話はのちへとつなげます。飛龍のこの納得は、今後の展開へとつなげます。

では、今回はこのあたりで。ありがとうございました。


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コラボ9:伏見稲荷です!上

さて、てんてこ舞いな朝食も食べ終え、俺たちは自室へと戻っていく。

 

今日の行先は、伏見稲荷。商売事をやっている人間であれば、必ずと言っていいほど聞いたことがあるよね。他にもいなりこんこんと、稲荷を題材にした漫画とかあったような…。

 

ま、そんなことはどうでもいいや。ともかく、俺とキヨは荷物をまとめて外へと出る。先に出立の用意を済ませたヘルブラを発見して、その後蒼龍と飛龍、統治と夕張とも合流。地元メンツご一考は、一階のロビーへと階段を下っていった。

 

チェックアウトの時間は十時なんだけど、一つ勘違いしないでほしいのは、俺らは別に夏休みだけれども、世間一般では学生を除いてそうではないんだよね。つまり、車で行くとどぎついと評判の京都の道路状況を難なく進むためには、早めに出て間違いはないと思う。込み込みな道路を走行するのは、やっぱりしんどいし、だるい。

 

そのことをあらかじめ拓海に伝えておいたのが、好を成したのかな?チェックアウトをすると同時に、従業員が数名集まってきた。わざわざお見送りなどと、なんというか変にリッチ感覚えるというか、ぎょっと驚いた。

 

「あーっと…一晩ありがとうございました。おかげでいい思い出ができましたよ」

 

俺は軽く頭を下げると、おかみさんらしき人物も頭を下げ返した。

 

「いえいえ。これも私どもの誠意でございます。どうかまた、ごひいきに…」

 

まさにTHE女将といった感じだろう。なんかむずむずしてきたので、他の連中にも頭を下げるように促す。

 

「あらあらまあ」ふふふと、口元を隠して女将は笑みをこぼす。なんというか、こういう方が京美人ってやつなんだろう。御歳はそれなりの様だけど、自然と美人に見えてしまう。

 

「…ところで話は変わりますが、本日はどちらに向かわれるのですか?」

 

と、そんなことを思っていると、女将が唐突に話題を持ち出してくる。まあ答えても問題はないし、俺は難なく口を開いた。

 

「えーっと、今日は伏見稲荷に参拝しに行こうかと思っとります。ICが近いので、ついでのような物なんですが…」

 

俺もつられたわけではないけれど、女将の微笑みにこたえるかのように、後頭部に手を当てて笑ってみる。すると、女将は「まあ」と言葉を漏らすと、奥の方で大和と縮こまっている拓海に手招きをした。

 

「ちょっと、拓海。来なさい。それに、和さんも」

 

二人は呼ばれた通りに女将の元へ来ると、女将は再び顔をこちらに戻し、微笑んだ。

 

「では、本日もこの二人をお貸しします。よき思い出を、お作りになってくださいまし」

 

「え、ですが…旅館運営に支障はないのでしょうか?」

 

どうせこの場のノリなら、自然とこう答えるだろうさ。ともかく俺は首をかしげて聞いてみる。すると、女将はふふふと再び笑い始めた。

 

「問題はありません。むしろ、お客様にこの京を楽しんでもらうのが、私どもの総意でございます。ですので、どうかお気になさらず」

 

あー。まあそういうことにしておこう。女将が問題ないとも言ってるし、実際そうなんだろうが…。もしや拓海と大和って、あまり戦力になってないんじゃ…。

 

「えーっと、じゃあまあ今日もよろしく拓海。あと、やま…あーいや。和さんも」

 

「へえ…まあ、そういうことなんで。よろしく頼みますわ」

 

若干下手に出るように、へこへことしながらそういう拓海であったが、女将の視線を感じたのか、急にシャキッと体を起こした。女将、結構鋭い目線を向けたしね。接客態度としては、なってないから。知人であってもさ。

 

「よし、じゃあ行こうか。っと…そうだ。車どうすんの?お前と和さんを、載せるスペースないんだけど」

 

まあ言わずもがな。それもそのはず。この旅行は8人で来たわけで、二台の合計乗員は9人なわけ。つまり必然的に大和か拓海のどちらかが乗れなくなってしまう。さてどうしようか。

 

「あーそれは大丈夫です。自分も車あるんで」

 

と、拓海の言葉で悩む手間が省けた。まあそれならいいんだが…。てか、そもそもどちらか一人載せたとしても、帰りは電車でお願いとか酷すぎじゃないか。

こうして俺たち一行は、旅館を後にした。いろいろとあった旅館であったが、やっぱりまた来ようと、胸の内にそんな感情が、湧き上がった。

 

 

 

 

さて、そんなこんなでいざ伏見稲荷へ。旅館からはおよそ一時間の道のりで、左へ右へとカーナビの示す方向へと進んでいく。

 

そして、俺たちが京都へ入ったIC付近。ついにその聖域が見えてくる。

 

「赤い鳥居がきれいですねー!」

 

身を乗り出し、きゃっきゃとはしゃぐ飛龍。しつこいようだけど、もう元気満々な自分を取り戻しているようだ。で、こいつが言っているのは、駐車場まで進む際に見えた、鳥居の事だろうね。

 

さて、稲荷駅のすぐに近くに、駐車場はある。俺とヘルブラ、それに拓海の車は駐車場へと入っていき、それぞれ駐車をすると、境内へと入っていった。

 

「みんな集まったようだな」

 

集合場所は境内に入ってすぐの自動販売機―と、いうより最初に停めた拓海がすでにそこで待ってた―ので、そこへと集合をした。八坂神社でも集合場所を決めてどうとか~みたいに同じことやったなぁとか思いつつ、俺は全員を目で一周するように見る。うん、誰も漏れずってかんじ。

 

「よーし。全員でここらを見て回る―ってもうそれはいいな。よし、ここから自由行動でいいだろ?」

 

全員でツアー如く進むのもいいんだけど、伏見稲荷は山に登るこそ意味がある!ってな俺の思い込みもあって、自由に行動した方が動きやすいのでは?と、まあ完全自己判断で提案をする。皆がどう思っとるかは知らないが―ないしはもうそれでいいんじゃないかといった空気も流れている訳で、その意見は容易に通った。ま、だが…

 

「俺、一緒に来た意味なくないすか?っても、あまりいなりさんを紹介する自信はなかったんですけどね」

 

と、拓海からの一言。もうこいつ、ただ案内とかこじつけた実質サボリと化してますね。給料これで出てるなら、タダ取り野郎じゃねぇか。まあ別に案内してくれなくとも、正直俺もいなりさんに一年前には足を運んでいるし、記憶も新しい。だからこそ、まあ自由行動を提案したわけなんだけども。

 

「私は望についていこ。うん、それしかないよね!」

 

蒼龍はにっこりと俺に笑顔を向けて、ぱたぱたと寄ってきた。鳥じゃないです。草履の足音です。ってまあもはやいつもの―と、いうかそれが普通というか必然になってきている。ちなみに稲荷山にあるスポットを一年前と同じく、ぐるりと一周しようと思っているが、まあ蒼龍は艦娘だし体力面は大丈夫そうだな。

 

「うーん。私はヘルブラチームと行こうかなぁ」

 

で、問題の飛龍はというと、意外にもそうつぶやいた。当のヘルブラは予想外だったんだろうね、目をぎょろりと見開いて、驚きを隠し切れない様子。その顔やめーや。主祭神の宇迦之御魂大神が、びびって恩恵与えてくれなくなったらどうすんだ。キヨとか間違いなく痛手どころ騒ぎじゃないぞ。

 

「あれ?ダメでした?」

 

そんな顔を見て、飛龍は不思議そうに、かつ無邪気にヘルブラへと問う。いや、まあ当の本人がその様子だし、気にしなくてもいいんじゃなかろうか。

 

「ふむ、ダメとは言わんですぞ。だが、食べ歩きになると思うがよろしいか?」

 

「あ、私は大丈夫です。望君。お金カンパしてー」

 

俺は大丈夫じゃないです。勝手に決めないでください。でも、だからと言って蒼龍に払わすのもアレだし、結局出さなきゃいけない法則。

 

「わぁったよ。はい。2000円でいいだろ」

 

「わーい。あ、ちゃんと返しますよ?いつか!」

 

二千円をもらうや否や、ヘルブラと統治夕張ペアそして飛龍は「じゃあ行ってきまーす」と歩み去ってしまった。どうやら車内であらかじめ決めていたな、彼奴ら。てかまたもや出費か…。もう飛龍が持ってきた金塊、換金してもいいんじゃねぇかなぁ。明石か大淀に偽造書作ってもらってさぁ…。

 

「あー、あいつらは行っちまったけど、拓海たちはどうすんの?」

 

ともかく気を取り直して、残りの拓海ペアとキヨに問いかける。すると、拓海はなぜか挙手をして、口を開いた。

 

「自分と大和も、行きたいとこあるんでここでいったんはぐれますわ。…蒼龍。俺頑張ってみる」

 

と、最後に小声でつぶやくと、拓海は大和の手を引き「行こうぜ」とはぐれていった。うん、蒼龍と昨日なんか話してたらしいし、ガンバレって感じかな。

 

「じゃ、キヨは俺についてくる感じか?」

 

残りのキヨにそう問うと、キヨは二つ返事で「おう」と口にした。まあこいつは此処こそこの旅行の本番だろうな。

 

「うし、じゃあいこうかね。久々に登るぞ!」

 

と意味もなく意気込んでみると、蒼龍もつられて「おー!」とあざとく合わせてきた。

ぐうかわいい。

 

 

 

 

本殿からさらに奥を歩いていくと、まず俺たちを出迎えてくれるのは連なる赤き鳥居。ここから稲荷山へと入っていくワームホールである。いや、うそですけどね。あ、鳥居の数は数えるだけだるいから数えません。でも、千本鳥居と言うし、千本ではなかろうか。詳しい方には、ぜひ教えてもらいたい。拓海は知らなさそうだし。

 

「な、なんかいざ間近で見ると吸い込まれそうになりますね…」

 

若干驚いた様子の蒼龍だが、まあそれはわかる。実際俺も最初見たときはそうだった。誰もが通る道。通り道だけにね。

 

「ありがたいと感じるのは俺だけか」

 

キヨはそういうが、こいつは異常なだけじゃないかと釘を刺しておく。やっぱり初見は驚くはず。と、いうかキヨも初見のはずだろうに、驚きを見せないのはさすが商人と言うべきだろうか。

 

「しっかし、まあそんな異空間っぽいところが、外人には受けるらしいぜ。ほら、パシャパシャと記念撮影してらぁ」

 

俺が目線を寄越した方角には、おそらく白人系の外人がイエーイイエーイと言いながらのんきに写真を撮っていらっしゃる。罰当たりだと思うけど、これも文化の違いというやつだろうし、日本だって今では割かしそういう文化にとらわれないのが、ブームみたいなもん。そういう文化にある程度は適応しなければ、時代遅れと言われる世の中なんだよね。

 

「え、私も撮りたいかなーとか思ってましたけど…」

 

と、蒼龍の申し訳なさそうな一言。うーん。ここは断腸の思いで決断を迫られる場面かもしれない。思い出を取るか、文化を取るか。

 

「うーん。ま、いっか。ちゃんと失礼しますとか祈っておけば、うかさま…ああいや、神様だって許してくれるだろ」

 

まあ神様だって鬼じゃない…はず。と、言うことでまあ許してしまった。そこらへんに詳しい方は、申し訳ありません。この子の代わりに謝ります。

まあ、そんなこんなでしばらく鳥居ワームホールを歩いていくと、やっと広い空間へと出ることができた。

 

「わーかわいい!って…なんですあれ?」

 

まず千本鳥居を抜けると出迎えてくれたのは、大量の狐の顔。稲荷大社特有の絵馬なんだよね。それにしても、いつみても多い。

 

「ん…あれ、なんか狐っぽく…」

 

そういって蒼龍がとてとてと歩んでいくと、一つの狐絵馬を手に取った。俺もキヨも難だろうかと近寄っていくと―

 

「ぶほぉ!な、なんだこれ!」

 

思わずふいてしまった。だれだよ。狐の絵馬を某ギャンブル漫画の顔みたいにした奴!いや確かに長い顔ですけども、此処に書くものなん?ちゃんと上の方に、「ざわ…」とか書いてあるし。いらぬこだわりですよ!はい。

 

「えーっと、これって好きな絵をかいていい感じなんですかね?」

 

苦い顔で蒼龍は聞いてくるが、その表情的に微妙なラインだとは分かってる様子。実際どうなんだろうね。諏訪の方では、カエルの方や、紅白の巫女さんとか書いてある絵馬とかあるらしいけど。

 

「あ、おい七星。あれはなんだ?」

 

と、いまだ先ほどの絵馬の面白みを拭えなさそうににやにやしてるキヨが、その流れのノリで聞いてきた。指を指す方向的にあれは…。

 

「ああ、おもかるいしか」

 

稲荷大社ではまあ有名な観光スポットの一つだよね。おもかるいし。とりあえず絵馬も見終えたし、あそこへ向かおう。

 

「わー。石にみなさん集まって、なんか楽しそうですね」

 

わらわらと人々が社らしき場所を囲み、石を持ち上げたり下したりしている。蒼龍はそれが気になるのか、つま先立ちをしては、つま先を下してくいくい動いている。

 

「よし、俺たちもやってみるかね」

 

そうと決まれば、思い立ったら吉日。俺たちは統一性が取れてるのかとれてないのかわからん順番に並んだ。

 

「おもかるいしって、何をするんです?」

 

並んでいる途中に、恒例のなぜなに蒼龍を行ってきた。おそらくこれがキヨなら自分で調べろタコとか厳しいことを言うだろうが、蒼龍ならば説明せざるを得ない。

 

「石灯篭の前で願い事をしてな、そのとき感じる重さが自分が予想していたものよりも重かったらかなわず、軽かったらかなうっていう一種のまじないみたいなもんだね」

 

日本人は本当にこういうの大好きな人種なんですよね。昔から占いは、重要な物だったけど、今では本当に願掛け程度みたいなもん。

 

「あ、順番来ましたね」

 

蒼龍はそういうと、俺が教えたとおりに灯篭の前で何かしらのお祈りをし、灯篭の頭においてある石を手に取る。そして、息を吸うと当時に、持ち上げる―

 

「お、おもっ…!」

 

うっと蒼龍は短い呻きを上げると、すぐに元の場所へとおいてしまった。

 

「だ、大丈夫か?」

 

流石にどこか痛めたかもしれないと心配になる。久々に見た蒼龍のつらそうな顔。いや、初めてか?

 

「思ったより、重かった…」

 

しょんぼりとした表情で言う蒼龍。何を願ったんだろうか?何となくはわかるが…そうだとしたら、縁起がないような気がする。

 

「あー、うん。所詮願懸けだよ願懸け。願いってもんは自分で掴み取れってね」

 

とりあえずこんなことしか言えない俺が情けない。だが、蒼龍にはそれでもうれしかったのか、俺に笑顔を見せた。

 

「そうよね!うん、そうよ。次は望の番だよ!」

 

蒼龍はそういうと、すすっとその場所から横へとそれた。さて、俺はどんな願いをかけようか。まあ、言わずと蒼龍と同じになりそうだけどね。




どうも、飛男です。
いろいろ活動報告とかでちらほら言ってましたが、主軸はこのお話でございます。

さて、今回は再び旅行話。伏見稲荷のお話です。
ちょろっとわかれば、「ああ」となるようなネタがちらほら回ですが、まあいつもの温度で書いた感じ。まあ本当にそれだけなんですけどね。
では、今回はこのあたりで。さようなら!


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コラボ10:伏見稲荷です! 中

投稿が遅くなり、申し訳ございません。


おもかる石の結果を若干引きずりながらも、俺たちは次なる目的地へ向かうべく、歩みを進める。何度も言うが、所詮はまじないの類に過ぎないから。うん、過ぎない。

 

因みに、最後のキヨはというと、あいつの事だからまた「クッソ重テェ!」とか叫びやがるかと思いきやそうでもなく、むしろ「あ、軽くね?」と奴のキャラにしては珍しいことをつぶやいていた。いったいどんな事を願って持ち上げたんだろうか。商売繁盛かな?いや、でもこのにやにやとした顔つきを見ると、そうではないっぽいが…。

 

さて、そんなキヨの事などどうでも良いいだろう。おもかるいしから歩いてしばらくするとまず、一発勝負に掛ける際、参拝した方がいいとか言われている熊鷹社が見えてくる。ここもかなりの異空間っぽさが漂い、非日常な景色を求めるなら、個人的にはお勧めの場所。

 

次に三つ辻から鳥居のトンネルをひたすら上り続けると、三徳社に。そして少し上ると、やっと小休止ができるであろう、四つ辻に到着をした。

 

「おおー!これは絶景ですね!」

 

四つ辻に上がるや否や、俺たちの目に飛び込んできたのは、稲荷山から見る正面の京都だった。それなりに山を登っただけあってか、やはり相応の景色を拝むことができる。疲れがすべて吹っ飛ぶわけではないけど、多少は登って価値があるなぁと実感できるんじゃなかろうか。

 

「ヒィ、ヒィ。ちょっと休憩したいんですが」

 

と、ここ顔を歪めて汗だくのキヨが、しんどそうに手を挙げて意見してくる。まだ山の中腹なんですけど。大丈夫か…?

まあ、そんなキヨのように体力のない人のためなのかはわからないが、四つ辻を上がってすぐに、この稲荷山にはベストマッチな茶屋が二軒ある。まさに古き良き建物というべきだろうか。年季の入った木製の建物で、なんとも味がある。こういう建物を見るとわくわくしてくるよね。あ、しない?

 

とりあえずキヨのクールダウンを兼ねて、その風情ある茶屋で休憩を取ることに。しかし店内には入らず、茶屋の外に置いてある床几に腰を掛け、お品書きを確認。あんみつやら冷えた甘酒など、夏にはうれしいものが取り揃えてある。冬だとまた、商品が変わってくるのだろうか?

 

「あ、ラムネがある!私これにしよっと」

 

数ある品物の中から、蒼龍が目を輝かせ他のはラムネだった。いいねぇラムネ。このくそ熱い京都にはもってこいの代物じゃないか。のど越しに伝わる炭酸が、心地よいピリピリさを感じさせてくれ、気持ち涼しくなるよね。

 

「じゃあ、おれもそれにするかなぁ。あーキヨは?」

 

「俺もそれで…ってか、二本で頼むわ…」

 

いくら山の中といっても、やはり夏特有の熱気にやられてしまっているキヨ。それなりにごつい体格のくせに、あまり体力はないらしい。過去はそうでもなかったような気がするんだけど。まあ、アークスに力を入れ過ぎてるからなぁ。

 

「んじゃあ買ってくるわ」

 

と、茶屋へと入っていき、ささっとラムネ注文。どうやらビンをそのまま出してくれるようで、待ち時間などはいらなかった。

 

さて戻ろうとすれば茶屋の店内から、床几に座る蒼龍がちょうど見えている。それもそのはず、店へと入る入口すぐの、床几に腰を掛けているからだ。

 

しかし、ここで良く注視すべきであると論じたい。そう、境内の神秘さというか、現世から若干逸脱してる景色と蒼龍がマッチして、えらく見ごたえのある一枚になっているのだ。

 

客はちょうど蒼龍とキヨしかおらず、かつキヨは入り口側壁ではないため見えないから、その景色は蒼龍が独り占めしている様子。若干火照った感じに頬もほんのり赤く、何とも夏美人。そんな蒼龍を見ると、真夏に見かけた美人のお姉さんに惚れる、子供の気持ちが痛くわかるはずだろう。

 

それに乗じ、ここからは私的な感性になるが、蒼龍の汗ばんだ際の甘い香り。髪から感じる彼女特有の香りを思い出す。するととたんに胸がドキドキし始め、見惚れてしまいそうになる。いかんいかん。平常心平常心。

 

しかし、このままこの絶景を見逃す訳には行かないのが、俺の性格だろう。思わず、こっそりとスマフォを取り出して、ぱしゃりと一枚。今思えば、俺はこんな風に旅行を楽しみたかったかもしれない。京都に溶け込む蒼龍を、唯々記録に残したい。

 

さて、くどいとも思えるほど満足したことだし、ラムネのビンを両手で四本つかみながら、ちょっぴりいたずらしてやろうと、こっそりと蒼龍へ近づいてみる。蒼龍は景色に見とれているのか、気づいていない様子だ。よしいける。

 

「ハイ、ラムネもってきたぞ」

 

と、言いつつペタリと蒼龍の頬にラムネを当ててみた。

 

刹那―やはりというべきか、蒼龍は「ひゃん!」と、聞いただけで心奪われそうな愛くるしい声で、跳ねるように床几から立ち上がった。

 

「も、もぉ!何するんですか!」

 

「うははは、役得ってやつだな。冷たくて気持ちよかっただろ。ほれ」

 

思わず笑みがこぼれつつ、俺は蒼龍にラムネを手渡す。蒼龍は少しむすっとしつつもまんざらでもないらしく、「まあ、気持ち良かったけどぉ…」と言葉を漏らし、ラムネを受け取った。

 

しかし、いい反応いただけましたなこりゃ。これだけでも、稲荷山登った価値があるんじゃなかろうか。

 

え、それならいつでも、拝めるじゃないかって?ここでやるから意味があるだろうに。

 

「むー。お返し!」

 

と、内心ほっこりしている刹那に、蒼龍も俺の頬にラムネをぴとっと当ててきた。ひんやりとは言い難い、ピリッとした冷気に滴る水滴、そしてキンキンに冷えた瓶をもろに受け、びくっと体が跳ねる。

 

「お、おまっ…返してくるとは思わんかったわ…」

 

「ふふっ。これでお互い様でしょ?」

 

いたずらっぽく笑う蒼龍には、もう何もいうことはありません。むしろ、お返しされたことで、それはそれで心地が良い気分。完全に周りに糖分をまき散らしている気がする。

 

「かぁ~。おめぇらここぞとばかりにいちゃいちゃしやがってよぉ…」

 

そして案の定、糖分のくどさにやられたキヨが、けだるそうな一言。俺と蒼龍は「ははは…」と我に帰り、立ったままその場でラムネの蓋を開いた。

 

正直、キヨの存在を少しの間忘れてました。なんかごめん。

 

 

 

 

キヨは無事復活した様で、体力ゲージ行動は行動活動領域まで達したそう。お前はなんかのバトルロボかよと突っ込みを入れたい。ででんでんででん。

 

まあキヨも動ける様になったし、もはや長居は無用—と、言えなくも無い場所ではあるけど俺達一行は、時計回りの道なりを進む事とした。ここからはただただ再び歩き続けることになるけど、先ほどと違う点は木葉の密度。いわゆる緑生い茂る木陰道なので、先ほどのようにキヨもダレる確率は減るはず。寧ろ境内のこうした道ほど、雰囲気と相合致して、自然の風が心地よく歩くのが苦では無くなるだろう。

 

さて、その木陰道が続くルートは、続々と社が絶ち並び、観光しがいがあると思う。眼力社、御膳谷、薬力社、長者社など、社はそこまで大きく無いにしろ、何れも祀られているのは有難い神様がばかりだ。ここで一つ一つ念入りに参拝していけば、願いの内、一つを一柱の神様が叶えてくれるかもしれない。まあ、実際は神様の気まぐれだろうから、望み薄ですが。

 

と、まあそんな感じで、これから見え行く社を楽しみに歩いていると、本道から数分ぶりに朱色の鳥居が並ぶ社が見えてきた。あれは何社だったか?

 

「えーっとあれは…あ、大杉社か」

 

ばさりと地図を開き、俺はその名を確認する。しまったな、ここを忘れていた。どんな恩恵をいただけるんだろうか?

 

実際、俺も全ての神様がどんな恩恵を下さるのか、全て把握している訳が無い。なんたって八百万ですからね。あ、単純に八百万人いる訳じゃなく、要するに大まかな数字であり、その数がわからないって事。よろず屋とか、そういう語源からきてるはず。

 

「うーん。やっぱり不思議な感じがするなぁ。異世界の入り口みたい」

 

稲荷大社は先んじて言ったが、外人人気理由としてその異空間さにあると言う。まあこの朱色の鳥居群は見方と思考をファンタジックにさえすれば、まさに新世界の入り口と繋がる場所の様。鳥居を抜ければそこは別世界と、考えざるを得ない。

 

「そうだなぁ。高天原にでも続いている鳥居道が、あるかもねー」

 

だが、ファンタジックな思考よりも、神の住まう世界―高天原に続いていると考えるのが、俺の思考。と、いうかそう考える人が多そうだ。あくまでもなんの根拠も無い、妄言ではありますが。

 

「また望はそんな難しい言葉をー。って、私が無知なだけなのかなぁ…?」

 

ちょっと抜けてるというか、それが普通の思考なのかよくわからない事を言う蒼龍。

 

正直、一般人の何れだけが高天原を知ってるかわからない。つまりそれを知ってるのが当たり前と考えるのは、凝り固まった考えかもしれないな。

 

「安心しろ蒼龍。俺もわからんわ」

 

キヨまでもそういうか。うーん凝り固まった脳みそをほぐさなきゃいけないのかもなぁ。

だけれども、艦娘はそうした勉強はしないのだろうか?向こうの世界が日本のどの時代かわからないが、戦前、戦中なら勉強していてもおかしく無いとは思う。少々疑問が浮かび上がる。

 

「まあ高天原は神界だし、俺たちゃ行けないだろうねぇ」

 

そもそも行ったところで何もできないでしょうね。むしろ、行って何するんだ?神様に直接何かお願いでもするのか?神様はそんな便利な存在じゃないんだよなぁ。

 

「あ、じゃあその高天原じゃなくて、異世界に繋がってたら行きたいとか思う?」

 

あくまでも「異世界」押しをする蒼龍。高天原云々よりは、そっちの方が楽しい会話かもね。

 

「んー。例えばどんな異世界?」

 

「そうそう!モンスターとかはスライム状の生き物や、丸い体のコウモリとか!魔法はメラメラした炎の魔法とか、バギバギした風の魔法とかー」

 

「それ以上はいけない」

 

そろそろ怒られそうなので、あえて蒼龍の言葉を俺は遮る。今のはメラゾー○ではない。メ○だ的な。某龍なクエストの大冒険ですね、はい。

 

しかし異世界か。最近流行ってるよね、異世界。俺も中世期レベルの異世界行って、大儲けしたり、現代の知識を生かして圧制者に革命起こしたいわ―とは思わない。ま、実際そう上手くは行かないのが世の中の摂理ってもんだろうしね。そもそも、怪しいヤツだとしょっぴかれるのがオチだろうに。ああいうのはファンタジーだから、面白い。

 

それはさておき、そもそも俺にとっては蒼龍達の住む向こうの世界が、もはや異世界なんですけどね。そもそも現代に艦娘なんて、存在しませんから。どんな謎技術を使ってるんだよっと。全否定の様に聞こえそうだが、こうして現代に存在してしまってるんだから、決して謎技術では無いんだろうね。解明出来ませんが。

 

でもそう考えると、やはりそんな謎技術があるであろう異世界には行ってみたい気もする。ぶっちゃけると魔法とか、呪文とか、獣人とかだって見てみたいし。

 

「んー。まあ行きたいかもねぇ。俺も獣人っ娘とか見てみたいし。亜人種と触れ合ってみたいし」

 

亜人種ってなんかいいよね。理由とかは大いにあるが、やはり犬耳とか最高ですわぁ。

 

「え。そ、それはやっぱり困るかも…。異世界で…サキュバスでしたっけ?ああいうのに望を取られたくないですしね…」

 

蒼龍はそういって、苦い顔をする。いや、まあ心配しなくても俺はお前にゾッコンなんですけどもねー。…ってあれ。でもたしかサキュバスって…。

 

「あーれ?サキュバスって確か、夢でその人物が理想としてる女性を映し出すんだったよな…ってことはつまりよぉ」

 

どうやらキヨも同じ考えにたどり着いたらしい。つまりサキュバスが映し出す女性は―

 

「蒼龍になるな。うん。あれ?俺は夢を見せられてるのか?蒼龍サキュバスなの?」

 

と、言った結論に至るわけ。しかし、蒼龍はそれを聞くと、ぶんぶんと首を振った。

 

「ちーがーうー!私はそんなのじゃないもん!って…待って。それって結局うれしいことなのかな?これ」

 

むうと反論する蒼龍だが、思い直したのか首をかしげたのだった。




どうも、一か月ぶりくらいですね。飛男です。
今回は結構間が開いてしまいましたね。すいません。
今回は久々?のイチャイチャ回。一度書いてみたかった。夏のこんな感じの風景を。
では、今回はこのあたりで。またまた不定期になるかと思いますが、気長にお待ちください。


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コラボ最終話:伏見稲荷です! 下

コラボ、最終回です。


さて、そんなこんなで調子で進んでいった俺たちは、薬力社、御劔社と周り、頂上の一ノ峰まで順に進んでいった。

 

頂上の一ノ峰は言わずと稲荷山の最高峰で、標高は二三三メートルほど。ここは末広大神と崇める信仰があるけど、かなり前から続く信仰だとさ。長ければ長いほどいいってわけではないけどね。

 

末広社の参拝所も例に漏れず参拝を行うと、右手にあるおみくじを引き、その結果を楽しんだ。ちなみに俺は、末吉でした。蒼龍とキヨは、同じく大吉。何故だ。

 

まあ所詮おみくじだからと思うだろうけど、ここ末広社のおみくじはかなり当たると評判だったりする。それでも信じないとか言いたいが、金運に指摘を受け、さらに恋愛も気を抜くななどの事を書かれているもんだから、これが見事に合致してむしろ怖いくらいだ。気をつけよ。

 

おみくじの結果をまあ胸に刻んだ俺たちは、残すとこ下るだけ。ここからは特に記することは無く、ニノ峰の中社神蹟、三ノ峰下社神蹟とスムーズに下っていき、再び四ツ辻にたどり着く。

 

ここで再び小休止。今度ばかりはキヨは勿論、俺も少々ばててしまった。まあ再びあの茶屋で今度はキンキンに冷えた麦茶をいただき、数十分滞在。空腹は最大の調味料というが、極限に追い込まれた際の水分は、たまらなく美味い。もう殺人的。

 

こうして俺たち稲荷山登山組は、正午を跨いで二時頃には下まで降りることができた。結構時間を取ったが、下の食べ歩き組は何をしていたんだろうか。

 

「あ、いました!あそこあそこ!」

 

少々疲れが溜まっている状態な俺とキヨとは対照的に、まだまだ元気いっぱいな蒼龍が指をさす。流石は艦娘ですねぇ。おじさんつかれちった。

 

ともかくヘルブラ達を見つけたので、そちらへと合流する。どうやら奴らは奴らで、麓の茶屋で楽しんでいたらしい。

 

「おーう。もどったかぇ?どうだった?山登りは?」

 

統治がずずっと湯呑を口に運びながら、聞いてくる。茶を飲むときだけ、こいつはジジ臭い。なお、隣にいる夕張もほんわかとした顔をして、お前ら老父婦かよと突っ込みを入れたくなる。

 

「ま、充実した山登りだったよ。な?蒼龍」

 

「そうねー。いい運動になったと思うかなー」

 

腕を十字に組んで、ぐいぐいと体を伸ばす蒼龍。まだ運動したりないのか?それとも、クールダウンのための柔軟体操だろうか?と、いうか胸をぐいぐいと強調しているが、おそらくわざとではないんだろうね。あざとい。

 

「俺は糖尿病になりそうだったわ。もしなったら訴えるからな!本当だぞ!」

 

まだまだダルそうなキヨであったが、こういう時だけ元気よく見せてくる。お前は日頃の私生活からくるだろ糖尿病。断じて俺のせいではないし、蒼龍のせいでもない。

 

「あー。まーたお二人お熱くしてたんですかぁ?いやー青春してますねぇ。夏は二人の距離を縮めますねぇ」

 

にやにやといつも通りの口調で飛龍が茶化してきた。もうこいつは本格的に立ち直ったようだが、かえってうっとうしさ倍増。少しはこたえてるかと思ったが、むしろひどくなってやがる。しかも、飛龍の後ろにはヘルブラもにやにやしてるんだもの、飛龍は新たなポジションを獲得したっぽい。煽り隊って言うね。泣きたいね。

 

「あー、もうだるいわお前ら…。蒼龍、こうなったら見せつけてやろうか。もう気を使わなくてもいい気がしてきた」

 

「え、えぇ…は、恥ずかしいよそれは…」

 

こうなったらいっそ!と、いった投げやりな提案だったが、蒼龍は苦笑いを浮かべながらそれに乗ろうとしなかった。まあ、はい。そうですよね。俺も同意見なんで。

 

「あ、そういえば拓海は?姿が見えないけど」

 

一緒に行動していたと思っていたが、どうやら違ったらしい。思い返せば蒼龍に何かを頑張るような事を言っていたような気がするが、ひょっとして一歩踏み切ろうとしているのだろうか?

 

「ああ、あの二人はいま買い物中だと思うぜェ?もといそう言って、俺たちから一旦別れたしなァ」

 

くいくいと咥えた団子の串を加えながら、浩壱は腕組みをして言う。その様子は時代劇に出てきてもおかしくない雰囲気だが、役は盗賊の頭領だろうね。盗賊改だ!神妙にいたせぇ!とか言いたくなる。

 

まあ妄言はさておき拓海の話に戻すが、これは予想的中だったらしいな。外とか二人っきりで出かけた事ないとか言ってたし、二人の進展に今後期待しよう。

 

「さてと、まだどこか行く予定はあるか?俺らも少し休憩してから、今度は下を回ろうと思ってたしよ」

 

これは山から降りてくる際、三人で話し合った結果からの発言だ。山登りも良かったし、残りは土産を買うのみだろう。あ、俺はあくまでも回るだけです。強いて言うならば、神札を買うくらいだろうさ。他にも御朱印を頂くかも。

 

俺の問いかけに浩壱達は、それぞれ首を横に振る。どうやらおおよそは見てきたらしい。まあ山登りに費やした時間分、こいつらは下を見ているはず。下を回るくらいならそれの三分の一くらいで充分事足りる。

 

「ん。そうか、じゃあ改めて聞くけど、キヨと蒼龍どうする?見て回るか?」

 

「私はもちろん行きたい!お土産見たいし!」

 

すぐに答えたのは蒼龍。本当女の人は土産を見て回るのが好きなんだろうなぁ。

 

「俺も行くわ商売繁盛の縁起物。何か売ってるといいが…」

 

と、言うわけで再びこの三人で下を回る事となった。

 

 

 

 

さて、その後も特に記する事もなく、ただ純粋に土産を見て回った俺たちは、目について気に入ったものを数点買った程度。約一時間のうちに下を回り終えると、再び茶屋で寛いでいるヘルブラ一行と合流を果たした。お前ら入り浸るなよとは言いたい。

 

周りの雰囲気は、もうそろそろ撤収しようと言った感じ。俺もそれには同意見。ひとまず今回の旅行は、もう十分堪能できた。

 

「よし、じゃあ名残惜しいがそろそろ行こうかね」

 

パンパンと俺が手を叩くと、全員は同意する意見をそれぞれ述べ、順々にその場から立ち上がる。

 

「もう帰ります?」

 

すると、先程までいなかった拓海がいつの間にやら現れて、そう口にしてきた。どうやら俺たちが回ってる間に、合流を果たしていた様だ。気づけば大和もちゃっかり拓海の隣へと立っていて、距離が何処か縮まっているところを見ると、拓海が試みた事は、うまく行ったのだろうね。たぶんだけど。

 

「そうだな、そろそろ帰らないと日が暮れちまうし、運転にも支障が出るかもしれない。あんがとな、昨日今日と」

 

「いえいえ、そんな。これも仕事ですから。まあ…仕事としては少し申し訳ない気もするんやけど…。もう少し勉強する必要があるかもしれねえっす」

 

まあ拓海は正直道案内役みたいになってたし、観光地の要所は趣味で俺があらかじめ調べたり、そもそも予備知識を持ってたから説明役を取られてたからね。学ぶことも多かったのかもしれない。今度何処かへ旅行するときは、地元に詳しい人と行ってみたいものだ。

 

「でも、こっちもこっちで感謝してますわ。その、色々と気付かされましたしね」

 

そう言うと拓海は、大和ににこっと笑顔を見せる。また、大和もそれに応じ、美しく微笑んだ。

 

「はー。おめえらも砂糖が増してやがるぜ。良かったよかった」

 

二人の場合、拓海が年下で大和が年上の構図だろうが、それはそれでお似合いな感じだと思う。姉さん女房ってやつだが、大和は何処か抜けている節があるそうで、立場が逆転しているところが、何とも特異で面白い。

 

「そや、セブンスターさんと蒼龍に渡したいものがあるんですよ。感謝の意ってヤツですね」

 

「うわ、気持ち悪。お前らしからぬ発言だな」

 

拓海とはネットで知り合ったとは言うもの、それなりに付き合いが長いし、何か奢って欲しいだの何だの言うことが多かった。年下だしまあそれはいいのだが、今回いきなりのこんな発言。そら気持ち悪いと感じるはず。ギャップありすぎて怖い。

 

「こっちは純粋な気持ちなんですよ?それをそう反応されると泣けますわぁ」

 

しくしくと泣き真似をして言う拓海。確かに決めつけすぎるのはよくないだろう。その泣き真似には拳を入れたくなるんですがね。

 

「うん。わかった。ありがとよ。で、何をくれるんだ?」

 

「あーもうあげる気なくなりそうですわぁ。もっと感謝の意を述べてほしいですわぁ」

 

まてまて立場が逆転しているぞ。おかしいな、お前が俺に感謝の意があるから何か上げるんじゃなかったのか?あれ?なにこれ?

 

「わかったわかった。アーすごいありがたいわぁ。ありがたすぎて殴りたいわぁ」

 

こぶしをバシバシと叩きながら俺は言うと、拓海は「冗談つうじないなぁ」とにやにやしながら言う。ああ、もういいです。結局いつものコイツです。

 

「じゃあこれ、ありがたく受け取ってくださいな」

 

まだいうかと言いたいが、拓海が俺にくれたのは白い紙袋に包まれた、小さな長方形状のものだった。お、これはひょっとして。

 

「お守りか?まあ伏見稲荷のお守りは買わずじまいだったし、マジありがたいわ」

 

「へへん。俺だってそういう時はまじめに選びますよ。好きでしょ?セブンスターさん」

 

確かにいいチョイスだ。神札や御朱印はそれこそ漏れなく頂いたが、お守りはそれこそ買わなかった。まあ理由はお察しの通り、お金の問題なんですけどね。高いんだよねぇ。そこ、神札の方が高いとか言わない。

 

「あ、まだ中身は見ないでくださいね。ちゃんと家に帰ったから、見てください」

 

そういうと、拓海は「じゃあ僕、蒼龍にも渡してきますわ」と言い残し、ささっと蒼龍の元へと走って行った。

 

「あ、えっと。せぶんすたーさん」

 

後を追おうとした大和が、ふと俺に、面と向かって口を開いた。どうしたんだろうか。唐突に。

 

「その、今後も提督と、仲よくしてくださいね?」

 

そう、大和はどこか苦笑いで言う。ひょっとしてさっきの絡みがいがみ合いにでも見えたのだろうか?

 

「ま、それは当たり前って感じだぞ。正直な話、俺はあいつが好きだ」

変な意味ではないのはわかるだろう。なんだかんだ言ってこうして用意してくれるあたり、本心的には律儀な性格なんだろう、拓海は。なんだかんだ言って、どこか憎めないやつなんだよね。

「はい!じゃあ、私も後を追います!」

そういって、大和はその場から拓海の方角へと駆けていく。

その途中、大和が何もない所で足を引っ掛けて、盛大にこけたが、まあそれもいい思い出になるだろう。ただ一つ、色は拓海と彼女のこれからを占うように、ピンクでしたがね。

 

 

楽しかった―とは言えるかわからないが、総じていうとやはり楽しかった京都旅行も、伏見稲荷で拓海と別れを告げ、終わりを迎える。

 

今思えば、たった一日なのに長く感じた。楽しい事なら早く時は過ぎると言うけれど、今回の旅行は言ってしまうと濃厚な一泊二日だったよなぁ。

 

「望?どうしたのぼっとして、危ないよ?」

 

助手席の隣で、蒼龍が心配そうに聞いてくる。おうおう、いかんいかん。今は運転中。高速に乗ってるんだし、下手すりゃ大事故じゃすまないな。

 

「いや、大丈夫。ちょっと考え事をね。ほら、俺の顔は運転集中マンさ」

 

そういって、俺はきりっと顔を凛々しくする。あ、したつもりです。蒼龍はそれを見て安心してくれたようで、くすっと笑いを漏らしてくれた。

 

「ねえ、二人とも寝ちゃってるよ?キヨさんとかよだれ垂らしてるし」

 

どうやら、キヨと飛龍は気持ちよさそうに夢の中らしい。そういえばどことなくかわいらしい寝息と、おっさん臭い寝息が聞こえてくる。バックミラーでふと後ろを見れば、飛龍とキヨがそれぞれもたれ掛るようにして寝ている。なんというか、今回の旅行で地元メンツと飛龍が仲良くなれたのは、うれしいことだったりするね。

 

「あ、そういえば、拓海さんからもらったお土産…お守りだよね?これ」

 

「まあそうだろうさ。その形からして、間違いはないだろう」

 

お守りを買えばわかると思うけど、こうして白い紙に包装されて手渡されるよね。それも、手触り感から高そうな。

 

「ねえ、開けてもいい?」

 

俺が許可を出す前に、蒼龍はびりりとお守りの封を開けていく。まあ、あいつに言われた通りその場では開けなかったが、何か意味があったんだろうか?

ふとそう考えが過ぎるうちに、蒼龍は封を開け終えたようで中身を取り出した。するとその刹那、蒼龍は「ふぇ!?」と愛くるしい声を漏らした。

 

「ん、どうした?」

 

「あ、あの…。望、あの…これって…。安全の『安』に、産まれるの『産』で、何て読むかわかるよね?」

 

ん?安全の『安』に、産まれるの『産』…?そう脳内で復唱し、その意味が合致した途端、俺は盛大にぶほっと吹いた。

 

「安産じゃねーか!あいつめ!このやろう!まだ気が早いわボォケェ!」

 

うん、出産を安全に行うべく願いを込めたお守りですね。江戸時代とかは今みたいに医療技術とか発達してなかったからね。神頼みするよね。うん、じゃなくて。

 

蒼龍を横目で見れば、そりゃあもう噴火しそうな勢いでぷるぷると震え、顔が真っ赤。どうやら拓海は、盛大な時限爆弾を用意していたらしい。何がいいやつだよ。やっぱりやつはやつだった。どこか憎めないとかもう言えないわ。

 

「の、の望のやつも開けよう!うん!」

 

そういうと、蒼龍は真っ赤な顔をしながら、先ほど預けた俺のお守りをおもむろに開けたようだ。その様子を横目で見つつ、蒼龍は中から少し取り出すと、一番上には『安』の文字が見える。

 

「ハァ?あいつ俺にまで安産を押してけくんのか!?なに?ちゃんとたどり着けって?バカじゃねぇの?あいつ何、下ネタに生きてんの?」

 

そらもう、俺も大声で叫びますよ。てか、そんな洒落たギャグを運転中にかまされるとは思っていなかったわ。あいつ今度会ったらヘルブラにシャチホコの刑に―

 

「あ、まって望。あはは…これ、安全運転だ」

 

そういって、蒼龍は苦笑いをしながら俺へと手を引きつつ見せてくる。ああ、それなら安全に家までたどり着けますね。うん、なにが安全運転だ。お前のせいで事故りそうになるわ。と、言うかだからあいつ、その場で開けるなとか言ってたのか。むしろ家に帰って開けろってことだったのか?てか、大和がどこか意味深に言ってたことは、これを意味してたわけ?

 

「はあ…なんか一気に疲れが押し寄せてきたよ…」

 

ともかく、こうして俺たちの京都旅行は、本当に終わりを告げる。いや、最後の最後で拓海の盛大な嫌味を受けたが、まあそれも思い出に―できるわけないんだよなぁ。




どうも、飛男です。
またまた一か月後の投稿となってしまいましたね。まあ、卒論も残すとこあと二か月以内でありまして、追い上げをかけている感じ。小説は行き詰った合間のうちに書いており、ずいぶんと遅くなっています。とか言って、新しい話も書いてたりしてますが…。
ともかく、これで京都編(コラボ)は終了とさせていただきます。最後の最後であんな終わり方ですが、まあそれが望と蒼龍らしいかなとは思っています。

次回の投稿は、ひょっとすると一か月を過ぎる可能性がございます。一応不定期更新としておりますので、どうかご理解いただけるようお願いします。

では、また次回にお会いしましょう!


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★ハンター始めます!

そういえばゲーム回ってやってないよな。とか思いつつ、最近まで身内で流行っていた某ゲームのお話。落ちはまあ、稀にあるよねと共感できるかな?


まだまだじりじりと夏らしい太陽が照りつけ、もうたまらん。早く冬が来ないかなーと恋しくなってくる。まあどうせ冬になれば、夏が恋しいとか言うんだけども。

 

俺はいつもの素振りを終え、一つ「はぁ」と息を漏らす。外でやりたくなくとも、外でしかできないんだよなぁ。家の中でできる奴とかは、たぶん縦に長い家なんですかね。

 

さてそんなこんなで家の中へと戻る。シャワーの前に、まずは蒼龍がいつも入れてくれる、ポカリが楽しみだ。シャワーを浴びてからは、アイスを食べますからね。冷水を浴びる前にポカリで水分補給をして、浴び終えた後にあの真ん中で折れる名称よくわからんチューブ状のアイスを楽しみ、冷房ガンガンに効いた部屋でクールダウンをする。いやあたまらんほど贅沢ですな。

 

「で、その贅沢は少しばかり減ってしまうわけだ」

 

リビングへ戻ると、蒼龍と飛龍はテレビにくぎ付けになってましたとさ。悲しいね。何を見ているかと思えば、半年以上前に録ってた、金曜ロードショウでいやっつうほど良くやってる、子供名探偵活躍劇。飛行機運転できるし、ハワイで親父から銃仕込まれてるとは言うもの、小学生だから反動的にうてねぇだろとか、よくそれだけ体幹維持できますねスケボーとか出てくるあれですよ。最近の小学生はすごいね。いったい何藤何一なんですかね。

 

「蒼龍さんや、ポカリは入れてくれないんですかね?」

 

ちょっぴり嫌味っぽく俺が言うと、やっとこさ気が付いた二航戦。蒼龍はあははと乾いた笑を漏らすも、許してしまうが男の性。まったくとつぶやいて、セルフポカリに着手する。

 

「それ面白いかー?」

 

キッチンでポカリを入れている最中、聞こえるように俺が言うと、二人は声をそろえて「おもしろーい」と返答する。うん、まあ一般的に見慣れてる歳だから俺はあれだが、初めて見る奴もとい艦娘にとっては、誰でも楽しめそうだしな。朝潮型とか第六とか好きそうだ。

 

「あーいいところでCMだー。CMとか鬱陶しいよね!そう思わない?」

 

どうやら熱狂ブツ切してくる憎きCMくんが、彼女らの視聴を阻んできたようだ。まあCMはうっとおしいとは思うが、それがないと放送できないことを、彼女らは知らない。

 

「てか、CM飛ばせばいいのに」

 

そういいつつ、俺は飲み終えたポカリを冷蔵庫へしまう。さて、そろそろ肉体のオアシス、シャワーへと向かいますかね。

 

リビングと一体化している和室兼仏壇付近から俺はバスタオルを適当に手に取ると、そのまま鼻歌混じりに浴室へと向かおうとした。すると―

 

「お、おおお!?」

 

蒼龍が、少々珍しいトーンの感銘を受けた言葉を上げ始めた。俺はなんだと、テレビの方へと顔を向ける。

 

「すごい…!やってみたい!」

 

テレビに映るCMを見て声を出しているようで、二人は先ほどと同じようにくぎ付け状態。で、肝心のCM内容は―

 

『一狩り行こうぜ!』

 

 

 

 

後日。俺はヘルブラから某携帯ゲーム機を借りてきた。あいつら双子だし、二台同時に買い揃えることが普通だから、ちょうどよかったと言える。蒼龍ならまだしも飛龍の分まで本体を買うのは、流石に辛すぎるわ。旅行で金を使い込んだからね。仕方ないね。

 

「借りてきたぞ〜。あいつら心良く貸してくれたな」

 

自室へ戻ると、飛びつく様にやったあと各々本体を受け取る。まあ心良くとか言いつつ、実際は「ごおくえんになりますローンも可」とか某漫画の豚の侍もどきみたいなことを言ってきたがね。友人間ではよくやる軽口。

 

そんなことを思いながら、俺は3人分のゲームカセットを袋から取り出した。CMでは定価4000強くらいだったが、今はお安くなっていた。あ、カセットって言いかた、古かったりする?

 

ちなみに、買ってきた場所は某藍色っぽい外装のあの店。ゲームを売るならゲ○。結構高く買い取ってくれるよね。あくまでも個人的な感想ですけどね。ステマじゃないです。

 

「わーい!早速やりましょ!で、どうやってやるの?」

 

蒼龍は受け取るや否や、本体をキョロキョロと見渡す。まあ、そうなりますよね。今の今まで、こうしたゲーム機触ったことないですもんね。

 

説明する場面はカットという事で、まあ教えるのに思考錯誤しながらも何とか起動まで漕ぎ着けた。じゃぎぃんとか音を立て、有名なあの曲が流れる。ててててー。

 

「まずはキャラメイクだな。ニューゲームってのをAボタンで押してみろ」

 

蒼龍飛龍は言われた通りボタンを押すと、画面が変わったことに「おぉ」と声を漏らす。ほんと可愛い奴らめ。俺たち一般人には普通に思えることが、此奴らにはえらく新鮮なんだなぁと毎回思うよね。

 

「引き継ぎとかありますけど。これは?」

 

「無視無視。普通に作ってしまえ。前作のデータとかないでしょ」

 

二人はなるほどと各々理解して、先へと進めた様子。ちなみに俺は前作の4Gをプレイしていたので、引き継ぎました。今やってるシリーズは、Xですね。わかるよね?わからない人は、カ○コンのモンスターをハントするゲームですね。もう答え言ってるよね。

 

さてはて、此処で思うのがキャラメイクの拘りだろうか。キャラメイクを行う際、プレイヤーは様々な事を思いメイキングをするだろう。

 

例えば俺は、自分の生き写し方式。4G時代に髪の毛を染めて茶髪だったから茶髪にして、生まれつきの茶色い目、髭を生やしておっさんを俺は作り上げている。まあおおよそはこうしたスタイルでプレイする方が多いと思う。

 

つぎに、ネカマ方式。まあ男の場合だから女性はネナベ?方式になるのかな。ともかく、自分の性別の対象となる性別にする人。まあ特に公言するつもりはないけどね。理想の女性を、キャラメイクで作るんだとキヨがよく言っていたし、そう言う意味もあるんだろう。

 

そして最後に、ネタキャラ方式。えらく素頓狂なキャラを作ったり、めちゃクソごついおっさんかと思えば、声だけ可愛いキャラとか、まあともかくいるだけで笑いこみ上げるキャラを作る方だ。ヘルブラはよくこういうキャラを作り、狩猟妨害をやっていた。こう、笑いを堪えさせる的な意味で。

 

で、此処まで説明しておいたが、彼女らは何を作るんだろうか。完成したら見せ合うという事で、二人のキャラメイクが終わるのを待っていると、ほぼ同時にできた!と声をあげた。

 

「じゃあまず俺からだな。はい。」

 

そう言ってトップバッターの俺は、二人にゲーム機の画面を見せる。キャラは特に変わりなく、現在黒髪に戻ったから黒髪にし直したくらいだろうか。

 

「名前はセブンスターっていつも通りすぎません?キャラクターもそんなパッとしないというか…なんかつまらないなー」

 

へへっと舐めた様な笑いで、飛龍はいう。うるさいわ。ずっとこうやってきたんだよ。

 

「じゃあ、次は私かな。はい」

 

次に見せたのは蒼龍。緑っぽい髪の毛にツインテ。顔は女性プレイヤーらしい顔つきで、まあ言ってしまえば自己投影型だね。ただー

 

「名前が『さうりう』とかになってますけど、それは故意ですかね?」

 

「違うよ?でも直し方わからないし…まあいいやって感じ」

 

そういえば蒼龍って『さうりう』っても呼ぶらしいね。まあなんだかんだ言って、名前は特に気にしないらしい。まあ身内だけでやるんだし、別にいいか。

 

「じゃあ最後にわたしね!ふふふー期待してもいいわよ!」

 

「えらい自信だなおい」

 

自信満々に見せてきた飛龍の画面には、まず女性ではなく男性が立っていた。えらくごつい顔に、まっくろな黒の肌をしたキャラクターだ。だがそんな事はどうでもいい、最もあかんのは名前にあった。

 

「お、おう…『たもんまる』とか…マジかよ。と、言うかあの人って肌こんなに黒かったの?えっ?」

 

「いや?黒くなかったですよ。でももっと多聞丸を強そうにしてみたかったから!」

 

それが一番ガングロムキムキおっさんですか。ひらがな名だが、うん、確かに強そうだ。でも人種変わってますやん。日本人じゃないよねその肌の色。

 

と、まあこんな感じで、俺を含む3人のキャラメイクが完了した。これから三人の狩猟生活が、幕を開けたのだ。

 

 

 

 

さて二人はチュートリアルも終えたようで、二人を集会所へ呼んでプレイ開始。とりあえず手ごろなクエストに行こうと提案し、青色のクマを狩猟することにした。

 

ステージは渓流。村名の木やキノコ類などが良く取れる場所で、このステージがでたシリーズではよくドキドキするキノコを採りに行ったもんだ。そう、狩猟前のドキドキノコチャレンジ!…やる人いるかな。

 

「で、今回は熊を狩ります。まあ昔は鳥竜族のでっかいやつとかだったんだけど、今はこいつが入門中の入門かなー」

 

昔懐かしい、ドスなんたら系のモンスターたち。このシリーズでは復活した奴もいるけど、結構リストラされたりもしたよね。サードからはよろしく青熊さん。

 

ちなみに俺は、大剣とかまあ言ってしまえばありきたりな装備を使う事が多い。本職は双剣だけど、まず大剣で進めてある程度装備が揃ってきたら、双剣で難敵と戦うって感じ。短い剣で当たるか当たらないかのギリギリを楽しむんだよね。ま、俺の事などどうでもいいか。

 

それで気になる二人が使う武器だが、二人ともそりゃあもちろん弓―って訳でもなく、飛龍は太刀で蒼龍はなんとハンマーだった。何故ハンマー?

 

「だってハンマーカッコよくないですか?当てたときの音が気持ちいし、こうぶおんぶおんって感じが職人肌って感じだし」

 

との事で、蒼龍はハンマーを選んでしまった。ええ、確かにハンマーは強いと思いますよ。スタン取れますしね。ただ、今作でその役は、ある新システムによりいらない子になってしまったんだよね、ハンマー。泣けるぜ。

 

ともあれクエストを受注し終え、いざ渓流へ。俺たち一行は出立をし、ローディング画面に入る。

 

画面が一瞬暗転したかと思うと、ぱっといきなりベースキャンプが写り込んだ。その出来事に、蒼龍飛龍は「おおっ」と声を出す。

 

とりあえず支給品は二人に渡しておこう。自慢じゃないが、このシリーズはそれなりにやり込んでいた時期がある。今回はサポート役にでも回ろうと、ボウガンで来たし。

 

「とりあえず、チュートリアルで学んだ事を実践してみるといい。二人だったら多分あれくらい余裕だって」

 

まあ一人ならまだしも、三人で挑むしね。もはや採取し終えてからでも、十分勝てる相手だしなぁ。

 

それから俺たちは各々採取をし終え、青熊なんざ難なく倒した――と、思う時期が私にもありました。

 

先んじて言うけどさ。そりゃあ俺たち現代人――特に二十代超え三十未満の年齢は、こうした携帯ゲームを至極やり込んでたりする訳でありまして、本体そのものの操作性に慣れている訳でありますよ。

 

だが、彼女らは艦娘であって、そうした物に触れる機会なんてなかった訳で、スピードを求めるこうしたゲームとの相性は―

 

「わぁあああああ!?応急薬どこぉおおおお!?」

 

「あれ、私、何処でぶんぶん振り回してるの?」

 

そらまあ最悪でした。飛龍はガチャガチャとアイテム欄に混乱していて、蒼龍は訳も分からんところでハンマーをぐるぐる。そして終いに、画面中央に表示される無慈悲な「〜が力尽きました」の文字。青熊さんにぼこぼこにされるハンター。結構新鮮。見るのは初めてかもしれない。

 

「つ、強すぎない?これ上級者向けじゃない!」

 

力尽きてぶーたれる飛龍。まあそうかもしれないな。でも、入門用モンスターなんですよね。

 

「と、言うか望君遠くから攻撃とかずるい!近くで戦ってよ!」

 

ボウガンに剣士と同じ立ち位置で戦えとおっしゃるか。結構近づいて、有効射程にいましたよ俺…。そうはいってもわからないし、わかってくれなさそうだ。ボウガンチキンって印象は、昔から拭いにくい。

 

まあこうして結局、初めての狩猟クエストは蒼龍がまたトンチンカンな場所でハンマーを振って、見事に青熊さんの突進に狙われてしまい、失敗となった。蒼龍はとりあえずハンマーをぶんぶんしたいのだろうか?本人はいたって楽しそうだが、回しているとき。あははーとか笑ってるし。

 

とりあえず俺も、ボウガンではどうやら許されないようなので、大剣を取り出しいざ二戦目へ。だけれども、一度苦手意識を持つモンスターって、これがまあ結構厄介になる。心のどこかで苦手だわとか思っていると、ずっとそれを引きずる訳でありまして、鎧竜さんや爆鎚竜さんとかはいまだに苦手だったりする。

 

つまり何が言いたいのかと言うと、蒼龍と飛龍はその状況下に陥ってしまったわけ。やればやるだけ応急薬などのアイテムは、結構スムーズに使えるようになってきているが、今度のぶち当たる壁は、まあモンスターの動きだろう。俺はそれこそ落ちないが、蒼龍飛龍はもうぼこぼこ死んでしまい、十回目を迎えてしまった。マジ?

 

「あのガバッ!ってする奴、私嫌い。ハンマーじゃ避けれないもん…」

 

そう、苦言を漏らす蒼龍。あのだいしゅきホールドは結構うっとおしいよね。わかる。と、言うかうすうす思い始めたが、蒼龍ハンマーあってないんじゃ…。

 

「わたしはぶんぶん殴る奴嫌い!太刀じゃ納刀間に合わなくて…ああもう!」

 

今度は飛龍が、うがあと叫ぶ。飛龍も飛龍で、太刀があまり合ってない様だ。

 

「今思ったけどさ、おめぇら使う武器、あってないんじゃない?」

 

その言葉に、蒼龍と飛龍は「えっ」と同時に声を漏らす。そもそもその武器二種とも、どちらかというと太刀は中級者で、ハンマーは上級者武器なんですよ。まあ好きな武器を使ってくれいスタイルだったが、ここまで来ると片手剣からやってみた方がいいと思うよね。

 

「…でも、かっこいいじゃない太刀」

 

「うん。ハンマーもかっこいいよ?」

 

どこか認めてはいるっぽいが、やっぱりあきらめきれない様子。うん、わかるよ。その気持ち。好きな武器使いたいよね。

 

「でもさ、同じ武器ばっかり使うのもいいけど、やっぱりほかの武器も使ってみるといいと思うぞ。たとえば片手剣とか、大剣とか、あと近接攻撃じゃなくて遠距離攻撃のできる弓とか」

 

「ああそっか。そうよね。やっぱり慣れ親しんだ武器が一番かも」

 

どうやら蒼龍は、ハンマーから弓へと変えてくれるそうだ。軽く弓の手ほどきでもして、ささっとこの青熊を倒してしまおう。

 

「わたしも…まあ弓にしよ。近距離で戦うの、苦手かも」

 

飛龍も意外に快く意見を飲んでくれた。と、言うか言われてみればそうか。空母勢は基本、近距離で戦わないのかもな。

 

そんなこんなで、弓の簡単な手ほどきと有効射程概念を教えたところで、いざ十一回目へ。いい加減青熊さんも、うんざりしてそうだ。「なんでお前ら、ワイたおせへんの?」とか言ってそう。

 

まあ先ほどと全く変わらず、俺は彼女らに支給品を全部上げ、先んじて青熊さんのいるエリアへと直行する。

 

メタボ確定なほどはちみつ食ってる青熊さんは、いつにもまして大きい。あ、これ王冠狙えるかもな。と、言うかはちみつ食ってる熊さんとか、黄色い方がいいんじゃないですかね。深くは言いませんよ?消されそうだし。

 

「ほーらペイントだ。くせぇだろ?」

 

ぱちゃって感じでペイントを青熊に当てると、向こうもこちらに気が付いたようで突進をしてきた。まあ、当たるわけないですが。

 

ズバズバ切ってる間に、蒼龍たちも合流をする。二人は息の合うような弓展開に、ほぼ同時に青熊へと攻撃を開始した。流石は空母。映えますね。

 

さてここで先ほどと違うのは、ヘイトがおおよそ俺にのしかかってくるわけだ。まあでも、軽くいなしてしまおう。余裕です、年季が違いますよ。なに青熊程度で大口叩いてんだ俺。

 

此処からは、もうスムーズな狩猟状態。二人の息の合ったコンビネーションは流石で、俺も軽快に熊さんと戦うことができる。先ほどのように、太刀にこかされるわ、ハンマーに吹っ飛ばされることはもう無い。もっともまれに弓がヒットして、ひるんでしまうがね。

 

「あ、足引きずってます!これってもしかして!」

 

そうですその通りですよ蒼龍さん。十一回目にして、やっとこさ足を引きずりましたよ。あとは、たたみかけるのみだ。

 

エリア移動をした青熊を追走。青熊は最後の意地を見せるようで、大きく体を見せようと立ち上がる。

 

まあだが、そういうところが隙なわけでして、俺は大剣をぶち込んでやった。青熊はたまらずひるむも、更なる攻撃モーションに移行する。

 

さてはて、もはや青熊の命は風前の灯だと言っていいだろう。横目で蒼龍と飛龍を見れば、真剣に画面へ向き合っているも、どこか瞳には倒せそうな希望を灯して、自然と笑顔になっている。

 

「よし、これで止めだ!」

 

なんて青熊なんぞに俺も思わず、テンションが上がってきて、そう叫んだその刹那だった。

 

「ぎゃあ」

 

全員の機器からその音が聞こえたかはわからない。だが、その声が響いたと同時に、俺が大剣を振る間もなく、唐突に画面が引いて「目的を達成しました」と出てきた。ん?何が起きた?

 

「あれ?私弓撃ってないよ?」

 

「わたしもだけど…あれ?」

 

二人もどうやら、止めを刺してはいなかったようだ。あっ、これはもしかして。

画面をよく見れば、薄紫の鳥竜種のザコくんが、堂々と青熊の死体のすぐ近くで「ぎゃあぎゃあ」とわめいている。あ、あ、っはい。

 

「うん。どうやらコイツが、青熊くんを倒したらしい」

 

「ええええええええええ!?」

 

蒼龍と飛龍はたまらず、叫びを上げた。まあうん。あれだけ白熱してたのに、最後はこのクソザコくんが倒しちゃったもんね。

 

このゲーム。たまにこういう事があるから、面白い。

 




どうも、飛男です。
なんかこう、卒論をやっていたら唐突に書きたくなってきて、書いてしまった。なおかつ新連載もこっそり始めたし、もう大丈夫か俺…とか思いつつ、投稿しました。

さて、今回のお話はなじみ深いといえば深いでしょうあのゲームを題材としたお話です。おそらく、あともう一話分くらい、書こうかなとか思ってます。需要がないなら、これで終わりますが。
そもそもまえがきでも書きましたが、そういえばゲーム話って書いてないようなとか思い立って書いたわけでありまして、まああるあるとか思っていただければ幸いかなーとか思ってます。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

ちなみに、今後の投稿は不定期ですので、思いついたら書いていくスタイルにします。


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交差編
鎮守府に帰りますよ?


これにて、夏休み編は終了となります。


さて、八月も終わり九月。夏休みもあと少しとなっていた。どうして夏休みってすぐ終わってしまうん?

 

約一か月半の休みから現実に引き戻してくるように、本日は秋学期オリエンテーション。春学期と同じくまーた下らん話――とは言い難いけどともかく聞くこ事に関しては退屈な話をされ、だいたい四十分ほどで終了を迎えた。いやまじ、なんでこれだけの為にわざわざ来なきゃいけないんですかねぇ。メールとかでいいじゃん。

 

「あー秋学期かぁ。講義が始まるのかぁ」

 

机に突っ伏したくもなりますよ。なんたって結構この期間、人生において重要じゃん?ともかく必要単位を取って、さっさと就活や卒論の準備に取り掛からないといけないわけですよ。いやー今の時期にやらないといろいろまずいとか聞きますしね。遊び過ぎた。

 

「おう七さん。授業決めをさっさと行いましょうや」

 

隣の席に座っていたくらっちの掛け声と共に、まばらに座っていた席を立ち、いつものように集まる大学メンツ。とは言うものくらっちや木村はすでに単位が四年に上がれる単位まで保持しているので、あまり講義は取らなくてもいい感じらしい。ずりぃわーうらやましいわーとか言いたいですが、まあ講義中寝たり他事したりと単位を落とした俺が悪いですね。はい。

 

「とりあえずさぁ、まずこれでしょ?で、これと…」

 

そんなこんなで取る講義の選別を行う俺達。もう三年後半にもなるので、どの教授が当たりかはずれかは、なんとなくわかるようになってくるよね。あの先生は話が超絶つまらないとか、好き勝手話してるだけのオ○ニー教授とかね。ともかく厳密な選別により要領よくやっていけば、この先御の字だろう。たぶん。

 

さてはてあらかた決まりそうになった頃合い。ふとピリリリと携帯が鳴った。自宅用の着信的に、言わずと家からかかってきたらしい。今のところの大学在籍中、こんなことはなかったと思う。いや珍しいこともあるもんだ。

 

「ゴメン、ちょいと電話でる。とりあえずそれで決まりでいいね?」

 

そういって、俺は講義室から外へと出た。その際後方から「せやねー」とか聞こえてきたので、もはや決まったも同然か。いよいよもって秋学期始まる感じに、少しげんなり。

 

「あーはい、もしもし」

 

『飛龍だよー。いま時間ある?』

 

電話に出てみれば、元気っ子ぽい感じの声。この声は名乗ってるように、家に待機している飛龍からだ。まあうん。彼女、結局携帯買いませんでしたからね、もちろん彼女が帰る時期的にいらないってこともあったけどさ、あいつは蒼龍よりもやらかしそうなので買わなかったのが本音。前者の理由を話せば納得してくれたので、まあ良しでしょう。

 

「ん。あるよ。なにさ」

 

しかしまあ、飛龍がわざわざ電話をかけてくるのはずいぶんと久々だろうか。いや、待てよ。と、言うか初めてかもしれないな。以前はバイトの定員として出ただけだったしね。

 

『えっとね。帰ってきたらちょっと話したいことあるからさ、いい?』

 

「わかったわ。あー…気が重くなりそうだが、またぶっちゃける感じ?」

 

『いやー。それはもう伝えたのでないですよー。まあ電話だとアレなんで、切りますねー』

 

そういうと飛龍は、ブツリと電話を有無言わさず切ってしまう。面と向かって話したいことか。なんだろう。ツラ貸せやとか?イヤないか。俺は彼女にどんな印象を持ってしまっているんだ。

 

ま、そんなことはとりあえず後回し。俺は電話を切って室内へ戻ると、くらっちたちは話に花を咲かせていた。どうやら、どこかメシを食いに行こうと言った内容である。まあなんつうか恒例行事なので、いわゆる『いつもの』と言うやつです。

 

「ところでみっくんは吉牛派ですかね?す○家派ですかね?ここで重要なのは、紅ショウガが乾いてるかそうでないかが肝心なんだよなぁー」

 

話を引っ張るのは木村のようで、牛丼トークに盛り上がっている。まあ大学生ってこんな話ばっかりですよホント。変なこだわりを開示してくるわけですよ。あ、私はす○家派ですね。紅ショウガうまい。

 

「お前らさぁ、また牛丼食いに行くわけ?蒼龍行に言ってたからな?牛丼じゃなきゃいいなぁーとか。木村お前、牛丼の貴公子みたいに見られてるぞ?」

 

蒼龍は現在図書館で待機中。まあ時間をつぶしてくれている。これは先ほどオリエンテーション行く前の運転中での話で、木村=牛丼マン的なイメージを蒼龍は持っているとの内容から来ている。と、言うか春学期中、話に出なかっただけで結構この面子で、牛丼を食いに行っている。うまいんだけど、継続的に食うと味覚もなれる。

 

「あーそうやってまたボクが丸いからって牛丼扱いするー。このわがままボディを否定するー。いやいやこのボディ、さわり心地は蒼龍の豊満さに負けないですからね?わかります?さわります?」

 

はい、また木村のスイッチが入ったらしいうっとおしい絡みが発動しましたね。とりあえず全員、くるんじゃねぇホモとか言って、軽く流しておく。

 

「まあ、ともかくさ、すまねぇが俺はちょいと用事ができちまってね…すまんが今日はなしで頼む。代わりに残り少ない夏休み――とは言ってもあと3日くらいの間に行きましょうぜ」

 

そう提案すると、他メンツは「まじかー」と言いつつも手を振り送り出してくれた。ああ、そういえば蒼龍メシ食うの牛丼以外は楽しみにしてたな。あとで飛龍もつれて、三人でどこかへと行くか。

 

 

 

 

さてさて、運転中に蒼龍からどうだったと聞かれたので、あたりさわりのないような会話をし、自宅へと帰った。ちなみに木村の牛丼貴公子の話をしたところ、蒼龍は案の定苦笑い。木村の扱いって、結構かわいそうに思えてきた。まあ彼がそういう性格なので、自業自得なんですけどもね。奴は騒がしさ一個大隊レベル。それは言い過ぎか。

 

「ほーい。飛龍帰ったぞー」

 

そういいつつ自室をガチャリ。中には飛龍が、某ゲーム機と格闘中であった。彼女らそれなりに上達して、今では上位行けたくらい。轟龍トラックに引かれたりもしてたけど、まあうまくなりましたよ。

 

「あ、おかえり―。うん。じゃあパタリと」

 

飛龍は某ゲーム機を折りたたむと、今度は俺の布団へとダイブして、足をバタバタさせ始める。ぼふぼふと埃やらなんやらが飛びまくり、少しむせそう。てかお前は子供か。

 

「ちょっと飛龍ー。布団散らかるからやめなよー」

 

苦い声で蒼龍は言うと、飛龍を布団から引きはがそうとぐいぐいし出す。ああもう、なんだこれ。

 

「で、だ。飛龍さんよ。わざわざ電話しておいて、何さ?」

 

このままだと飛龍と蒼龍のゆるやかなキャットファイトが勃発しそうなので、話やすくするべく声をかける。すると蒼龍に引っ張られるのを抵抗していた飛龍は、「あっそうだ」とかさも今思い出したように言い、力を緩めた。その拍子で、引っ張る蒼龍がバランスを崩し、しりもちをつく。

 

「もう!飛龍!」

 

と、ぷんぷんしている蒼龍はいいとしてだ。飛龍は通称女の子座りをしたまま、俺の方へと顔を向けた。

 

「えーとね。話したいことっていうのは、そろそろかなーとか思ったのよ」

 

そろそろ?何がそろそろなのだろうか。女の子がグロッキーになるアレ?いや、それわざわざ俺に言う意味ないしな。てかデリカシーが俺には欠如してるな。うん。でも、彼女らの戦没日ももう過ぎたし、うーむ。

 

「わからないのー?しょうがないなー。ほら、明石さんのメール。覚えてない?」

 

そういえばと、俺は納得がいった。明石から最近来たメールに、俺達は確かに関心の声を漏らしたもんだ。

 

明石曰く、コエールくんはやはりと言うべきか、思いのほか安定してくれたのだという。なんでも飛龍を送っての数か月間、向こうの艦娘がこちらに来たいと言った要望が殺到し、明石は暇があればほとんどをコエール君に消費していたらしい。そして、研究中に偶然見つけた装置の法則性から、その性質を見出し、なんとクールダウンの速度を調節できたようだ。いわくクールダウンモードとか言うらしい。モード選択できるのかよ。

 

いやあ、ともかくうちの明石は優秀だなぁ。そこまでレベル高いわけではないのに、向こうはそれなりに懐いてくれているよう。なんか申し訳ない。

 

「…と、なるとそろそろ帰るってことか。…えらい唐突だな」

 

「え、帰っちゃうの飛龍!?そっか…」

 

俺と蒼龍は、言葉を発したけど、おそらく思ったことは一緒だろうさ。さびしいってね。まあそろそろだとは思ってたけども、どうせならもっと前に言ってほしかったとは思う。

 

「そんな寂しそうな顔しないでよー。蒼龍はともかく、望君はなんかキモイ」

 

キモイってお前な。しんみりしてる最中、そうちゃちゃを入れるんじゃあない。

 

「で、まあ、もう私の役目というか、目的は果たしたからね。ほかの子にも、代わってあげなきゃいけないんだよね」

 

そういうと、飛龍はにっこりと笑顔を見せてきた。

 

「私が最初にきて、望君は蒼龍以外にぶれないことが知れたから、たとえほかの子が来ても、きっと心動かないでしょ?」

 

まあ、彼女の言う通りではある。確かに飛龍が来た際、どこか心の内が揺れたと言えば揺れたが、それは飛龍が特殊だったにすぎないしね。そして現に、京都の旅行でいろいろぶちまけられたけど、俺も俺で気持ちの整理ついた。なんというか贅沢極まりない話。

 

「…ひょっとしてそういう目論見があって、最初に来たってことか?」

 

「んー。もちろんじゃんけんで勝てたからだよ?でも今思えば必然だったのかなーって。それこそ、神様が勝たせてくれたのかもね」

 

飛龍が最初の頃と比べて代わったと言えば、こういう所だろうか。完全に認めている感じで、いっそう友人のように接してくる。そう思えば、飛龍は飛龍で、蒼龍とは違う居心地の良さを感じる気もするし、彼女はいわばそういうポジションに落ち着いたのだろう。

 

「ん。まあそうかもな。それでいつ帰るんだ?まず明石に連絡しないといけないだろ?」

 

「あ、それはもうやっておいたよ。勝手にパソコン使わせてもらったから、きっと向こうは準備し始めてるんじゃないかな?一応、三日後にしておいたけど」

 

三日後か。ちょうど講義が始まる一日前になるな。まあ講義が始まって蒼龍はまだしも、さすがに飛龍までもを講義中に無断で入れるのはまずい気もしていたし、いいタイミングかもしれない。

 

「それとさ、望君に一つお願いがあるけど、いい?」

 

「お願い?」

 

「うん。加賀さんにもらった提督服あったでしょ?私が帰る前にさ、あれ着てよ」

 

 

 

 

思えば、飛龍と過ごした時間は、蒼龍と比べて明らかに少ない。それでも濃厚に感じることができたのは、夏休みだったからだろう。その間にいろいろありすぎて、酒を飲みだせばそれだけで酒の肴になりそうでもある。

 

帰ると告げてから三日後。ついにその日はやってきたわけだ。時刻は午前七時五十分。太陽が昇ってしばらくした時間で、まだ朝特有の日の光が家を照らしているんだろう。

 

「んー。なんか高校時代を思い出すな」

 

飛龍に頼まれたので、仕方なく提督服を着ているわけだが、今思えば高校時代の学生服とあまり大差ない気がする。しいていうなら質感とかだろうけど、着方とかはそこまで変わらない。ただ学生服特融のごわごわ感はなんかしなかった。あれ嫌いなんだよねぇ。

 

俺は着終えるや否や、こっそり洗面所へ向かって身だしなみをチェックする。まあどうせ着ることはもうないんだろうけどさ、なんか気になるわけですよ。大学生はおしゃれにも敏感なんですよ――ってわけでは俺に限ってないけどさ、最後に飛龍が見るリアルな俺の姿は、やっぱりかっこよく見せたいわけ。男が女性の前でかっこよく見せたいアレに近いわけ。

 

「ん…なにこれ」

 

と、まあそんなこんなでシワを伸ばすべく上着を着たままパンパンと叩いていると、胸元に違和感を覚えた。内ポケットに何か入っていたらしい。

 

「…お守りか。加賀もなんか、粋な計らいするねぇ」

 

見れば手作りのお守りで、中に何やら固い物が入っているようだった。質感からして石っぽい。あれか、パワーストーン的なにかだろうか。加賀もなんだかんだ、乙女だね。パワーストーンとか信じちゃうのかな。

 

さて、加賀の分析はどうでもいいので、身だしなみもばっちり決め込めれたし、またもやこっそり自室のある二階へと階段を駆け上がり、部屋に入る。すでに飛龍は用意が終えたようで、あの馬鹿でかいバッグを片手に持ち、初めて来た際に身に着けていた着物を羽織っていた。

 

「おー。なんか久々に見るなそれ」

 

「そうねぇ。って、望君も似合うなー。むしろ似合いすぎて逆にクスってきちゃう」

 

ふふっと言った感じで笑う飛龍。まあこの笑顔を見れるのも最後だし、俺もははっと笑っておこう。

 

「って蒼龍なに見惚れててるのー?何か言ったら?私の為もあるけどさ、蒼龍にも当然見せたいわけでしょ?望君は」

 

「あっ…うん。その…望…素敵です…は、はい…」

 

蒼龍はぼっとしていたのか、飛龍に声を掛けられるや否やそういって、顔を真っ赤にした。あーこれは結婚しよ。完全に結婚しよ。

 

「よし、まあこんなもんだ。ほら、ちゃんとホルスターには南部を刺したし、サーベルポーチにも小刀を指しておいた。完璧だろ?」

 

とりあえず着るだけだとアレなんで、付属についてきたガンホルスターとサーベルポーチにも、武蔵に以前もらった銃とかさしといた。自分で言うのもなんだが、今最高に決まってると思う。あ、いや、ナルシストとかじゃないですからね。こう、どうしてもそう思えてしまう訳でありまして。まあ総じて言いますとだって男の子だもん!

 

「うんうん、完璧。最後にその姿見れたのは大きいなー。ふふーん。みんなに自慢しちゃお」

 

飛龍はそううきうきとしながら言う。いやまあ、確かにレアでしょうね。軍装好きですけども、どっちかっていうと兵士の服装の方が好きですし、高官系の服は、着る柄じゃないとは思っていますし。

 

『あのー。一応私もみましたからね。司令窓で。確かにキマってますよ。で、そろそろこっちは準備できてますよーって、時報っぽく言います』

 

おっとそういえばつけっぱにしていたな。明石の少しばかりあきれたような声に俺達は我に返って、パソコンの画面に視線を寄越した。

 

「じゃあ明石、パパってやってくれ」

 

『わかりましたーじゃあ、コエール君、スイッチオン!』

 

明石はそういうと、別にカウントダウンするわけでもなく、スイッチを押したようだ。ぱぱっとやれとは言ったけども、もう少し猶予くださいよ。

 

さて、唐突に画面から明るい光が、ふわっと言った感じで溢れ始めてきた。へえ、こうなってるのかとか思いつつ、俺と蒼龍は飛龍に視線を向ける。

 

「飛龍。またみんなによろしくね!私は…もうちょっとこっちにいたいの。だからごめんね」

 

蒼龍はどこか申し訳なさそうに言う。まあそうだろうね。でも、俺ももっと蒼龍にはいてほしい。

 

「…じゃあ飛龍。元気でな。あーまあいろいろあったが、楽しかったよ」

 

そう、やはり面と向かって言うと恥ずかしいかなとか思いつつ、飛龍に声をかける。すると、飛龍はこちらへと目線を向けて、再び笑顔になった。

 

「もちろん私も!蒼龍とも一緒にこの世界で過ごせましたし、望君とは仲良くなれましたし。もう言うことないです!」

 

その瞬間、バッと光が強くなり。俺達は光に包まれる。こうして飛龍は、向こうの世界へ帰ったのだろう。そう、彼女の休暇は終わったのだ。再び艦娘として、俺の預かる大湊警備府で、奮戦激闘をしてくれるだろう。

 

だが、そう思った刹那―

 

「なッ!?あっ…」

 

急にぐわんと視界が歪み、俺は意識が遠のいていく。もっとも光で何も見えないけど、確かに今俺の視界は、なんというかぐにゃぐにゃして、朦朧としているようだ。

 

 

 

そして、薄れゆく意識の中、俺の耳にはある言葉が入ってきた。

 

 

 

『提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります』




どうも、飛男です。少しの暇を、友好的に使わせてもらいましたので、思ったより早くかけました。

さて、今回でまえがきにも書いた通り、夏休み編は終わりを迎えます。てか、もう十一月なのに何が夏休みだよって感じ。

さて、次章に移行しますが、まあ以前の活動報告で書いた通りになるでしょう。どうなるかは、お楽しみに。

では、また次回お会いしましょう!


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まあ、あり得なく無い話だ

新章突入です


ツンと、かぎ慣れない臭いが、鼻についた気がした。

 

とは言うけど、強力な臭いって訳ではないんだ。なんだろう。数年前にも嗅いだことがある。例えるなら、嗅ごうと思えば嗅げる臭い。体臭ではないぞ俺はそんなに臭くない!

 

で、まあ先んじて言いますけどね、まず俺の育ちはどちらかと言うと山だったりする。小さい頃はばあちゃんちに行くと、近くの野山を駆け回って、まあよく怪我とかしたもんだよ。つまり、この臭いが『磯』の香りだと気づくのに、少し間が必要だったわけ。

 

朦朧とした意識から不思議に思って、次第に意識が覚醒して行くと、俺は何かに突っ伏して寝ていることが分かった。尻元にも何かに座っている様な感覚を覚えるし、手のひらも同等な固い何かの感触。おそらくだけど机か何かだろうかと考えが行き着いた。あれ?と、なれば俺はゲームかなんかで寝落ちでもしてたか?でも着替えた記憶はあるし、朝日を浴びた様な記憶もある。なんか情報が混乱しているな。

 

取り敢えず上半身をおもむろに起こすと、目の前には見慣れない光景が飛び込んで来た。

 

軍艦色の壁紙に周りが囲まれ、床にはブルーのカーペットが、俺の周りに引いてある。部屋の奥まではカーペットが敷いてなく、代わりに木床が見えた。

 

「…あれ?何処ここ?」

 

まあ、ごくごく一般的な反応だろう。それで、後にだんだんと自分がなんでこんな所にいるのかと、考える様になる。

 

「えっとだ。えーっと、俺は朝起きたな。うん。で、蒼龍とおはようしたな。うん。で、飛龍とおはようした…ん?飛龍?」

 

考えが飛龍へ行き着いた瞬間、電撃が走る様に大まかな朝の流れを思い出す。でだ、此処までこれば、流石のバカでもある可能性にたどり着くはず。

 

「…ここは俺の部屋じゃない。つまりそういうことかぁ」

 

此処までこれば俺の頭も回り出す。まあ、確かにあり得ない話ではないだろうさ。そらあ飛龍を送り出すってことは、向こうの世界に送り飛ばせる事だって造作もないさ。つまり俺もそれに巻き込まれたって事ですね。

そう考えが行き着けば、この部屋がなんなのかもわかる。此処は執務室。俺がコーディネートした、書斎家具とか並べた執務室。

 

「はっははは。ああそうかー。蒼龍や飛龍が俺たちの世界に来たと思えば、今度は逆ですかー。俺がですかー。あはは」

 

変に笑いが込み上げてそう自分で口に出したが、かえって自分で口に出したことでずんずんと押し寄せる嫌な考えが、さらに脳を刺激した。

 

「いやいやかなり不味くねぇかこれ!?え、えっえっ」

 

真相にたどり着けば、こうもなりましょう。恐ろしい事実に直面した俺はSAN値チェックですね。いや、ダイスは降らないです。てかもはや一時的発狂不可避なんですよね。寧ろこんな非現実的な事が起きれば、常人なら発狂もんですから。しない奴は、きっと人間じゃない。精神力が。

 

「あーやべえよ…どうすんだこれ…」

 

頭を抱え、俺は思わず頭を抱えた。帰り方がわからずやべぇヤベェと言っている訳ではないんだなぁこれが。だってさ、帰り方はいたって簡単。コエール君を使えばいいわけ。

 

だが、よく思い出して欲しい。コエール君は安全装置よろしくクールタイムがある。今回飛龍はクールタイムが終えた事で、帰る事が出来た訳だ。いや、出来ているはずだが…。まあそれは良いとして、肝心なのはその時間なのです。

 

だって明日から、講義始まる訳なんだ。クールタイムは今回飛龍の件を考えれば、最低でも一ヶ月半くらいかかるわけ。うん、出席日数が壊滅するね。ゲームで人生が狂ってしまうとか聞くけど、これはなんて表現すればいいんだ?狂わされた?うまいこと言った?

 

「おふくろ、休学届け出してくれるよな…?うん、行方不明になる訳だし。いやいや行方不明って寧ろそれこそマズイだろ。どこ探しても向こうの世界じゃ絶対に見つけられねぇ。いわゆる二次元の世界に誘拐されたわけだろ?まず警察だってその考えに行き着くわけがねぇ…って警察…?いや、飛龍は帰ったと思うけど、蒼龍どうなった?あいつも艦娘だし、多分戻されてる筈だよな…」

 

一人虚しく。あーだこーだと唸り呟く俺。色々不安が多すぎて、だんだんと正常に判断ができなくなってる。そもそも蒼龍が何よりマズイかもしれない。

 

「って、まてよ…。そもそもなんでこっちに飛ばされた訳?巻き込まれたってそんな単純な理由ならコエールくんぶっ壊すわ。なんのひねりもねぇ。てかコエール君って、一人しか送り出せないとか前に飛龍が言ってなかった?」

 

そう考えが行き着いたと同時のことだった。ふと後ろからガチャリと、扉の開く音が聞こえて来た。

 

「あ…」

 

そして、少女の声が耳に入った様な気がした。

 

✳︎

 

私―叢雲は、朝食を終えてごちそうさまの手を合わせた後、ふと気になる事を思い出した。

 

「あ、そういえば今日の執務室の掃除って、誰だったけ?」

 

執務室の掃除は、基本武蔵の命令で行われ、シフト表が組んであるわ。私の他にも、武蔵、霧島、初霜、グラーフ、そしてこの私。まあそうね。基本は練度の高い第一艦隊に抜擢されるメンバーが掃除をおこなう訳。本当は蒼龍と飛龍も担当だったけど、二人は今いないのよね。だから代わりに加賀と龍鳳がなっているの。だから、複雑になってしまった訳ね。面倒だわ。

 

「さあ、どうでしょう?不知火は管轄外ですから、知りません」

 

まだ食事を取っている不知火はそう指摘する。まあそうね。彼女の意見は正しいわ。私もふとど忘れしてしまったのよね。あ、べ、別に何時もこんなに抜けてないわ!偶々よ!

 

「えっと…あ、グラーフ」

 

思い出そうとしていると、少し離れた席で赤城と加賀と一緒に共に食事をしている、グラーフを見つけた。グラーフはしっかりしているし、きっと覚えているはずね。

 

グラーフは私の声に気がついた様で、赤城達に断りを入れる仕草をすると、こちらに歩んで来た。

 

「どうしたムラクモ?お前から呼んでくるとは珍しいな」

 

お堅いドイツ特有の雰囲気こそ醸し出しているけど、親近感を持てる声で彼女は答えたわ。最初出会った時は厳格で取っつきにくいと思ってたけど、これが案外話してみるとすごく優しかったの。ドイツ艦の娘達はだいぶ日本に慣れてきたけど、彼女もいずれはコタツにくるまるのかしらねぇ?ふふっ、ちょっと笑いでた。

 

「…なぜ笑っている?私は理解できないのだが」

 

「あ、ごめんごめん。えっと、ちょっと今日の執務室掃除、誰がやるのかしら?」

 

私が笑いを誤魔化しつつ聞くと、グラーフは顎に手を当て少し考えた後、思い出した表情になる。

 

「そうだな。ムサシだ。確か今日の朝に確認した際は、ムサシだった。あ、だが、ムサシは今日忙しい筈だ。ヒリューが今日、向こうから帰ってくるらしい。ひょっとしたら繰り上がっているかもしれない」

 

あ、飛龍の帰りは今日なのか。まあ、繰り上がっている事が正しければ、まず私じゃないわ。と、なると初霜かしら。確か武蔵の次は、初霜だったはず。私はその次ね。

 

時刻はマルハチマルサン(8:03)。朝礼が始まるのはマルキュウマルマル(09:00)頃だし、私は部屋に戻ろうかしらね。

 

 

 

 

声の主は、バケツに雑巾などの掃除道具をもった可愛い可愛い初霜だった。第一艦娘発見ですね。ダーツとか投げてここに来たわけじゃないが。てか、小さな体で絶妙にバランスを保ってて、なんつうか危なかしいなおい。

 

と、言うかよくよく考えれば艦娘に遭遇してしまうのって、少しやばくないか?俺の影響力がどれだけあるかわからんけど、下手すら混乱をまねきかねない。そんな時に敵襲とかあったら、全員疲労マーク赤とか言うレベルじゃなさそうなんですけど。

 

「は、は、あわわわわわ」

 

今度は生まれたての子鹿の様にプルプルと震え出した。小さくカチャカチャとバケツとかが揺れて、その震えが小刻みに動いているとわかる。…なんか嫌な予感がする。てか、なんでこの子は執務室に来たんだ…?とりあえず声をかけてみよう。

 

「あ、あー。やあ初霜。今日はお日柄もよくーー」

 

そう俺が声をかけた瞬間だった。いや、声かけちゃ不味かったのか?何か初霜の糸が切れたのだろう。

 

「ひゃああああああああああああああああああああ!?」

 

大音量の可愛らしい悲鳴が室内に響いた。てか、おそらく庁舎全体に響いただろうね。初霜の声、高いからさ。

 

「だ、だあああああ!?叫ぶな叫ぶな!お、オレ。アヤシクナイ。オレ。アヤシクナイ」

 

何とか怪しくない様にわたわたと行動を起こしてみたが、初霜は俺を見るなりぱくぱくと口を動かしよわよわしく指で刺してくる。おい、俺は幽霊か何かか!ってまあそうも思うよな…。蒼龍が最初に来た時だって、変にびっくりしてたし。俺。

 

「…てか腰抜かしてんのか?大丈夫かよ…」

 

初霜は尻餅をついた状態。どうやら衝撃か何かで腰を抜かしてしまった様。その、まあつまりだ。見えてますよ初霜ちゃん。可愛らしいっすね。

 

目のやり場に困りつつ俺は初霜に歩み寄り、その場にしゃがみこむ。彼女は困惑したような驚いた様な目で俺の方を見て来た。

 

「ててててとててとていとく?な、なんで?え?何でです?」

 

「その疑問は俺が聞きたいんですよね。ともかく初めまして初霜。…いやに冷静になって来たぞおれ」

 

何でだろうね。俺もよくわからんです。おそらくだけど初霜を見て、なんかうがうが言わずしっかりしないといけない気持ちの整理がついたのかもしれない。こう幼子の前ではしっかりした様子を見せないと的な。これが初霜ですからね。なお男ならそう見せたくもなりますよ。

 

「とりあえず深呼吸しようか。ほらスーハースーハーと」

 

「すうううううはああ。すうううはああ。…あ、はい。その…」

 

やっと落ち着きを取り戻した様で、初霜の目に生気が戻ってくる。あら、割と単純。彼女はもう一度俺の顔をまじまじと見て来て、驚きを隠し切れない様子だが。

 

「うーん。何で初霜が執務室来たのかわからんが、ちょうどよかった。蒼龍と飛龍は何処だ?おそらく一緒にこっちへ飛ばされた様な気がするんだ。と、言うかその筈なんだが…」

 

いやさっきも言ったが飛龍がここへ戻るためにコエール君を使ったわけで、俺だけが此処に来たなんてとんでもないわ。流石に冗談だけじゃすまされない。

 

すると、初霜は首を傾げてしまった。まじかよ。

 

「えっとその…わからないです。と、言うかもし飛龍さんと蒼龍さんが戻って来てるならー」

 

と、初霜が言い切る前だ。数人の駆け足からなるドドドドと言った音が両耳に入ってくる。いやな予感がパート2。まあそうだろ。あの悲鳴を聞いて放って置くほど、この鎮守府の絆は浅くないと思う。てか、ある意味結束力は高いはず。

 

「あーうん。その前に初霜ちゃんや。俺一旦隠れる。いいか?ゴキブリでも出たとか言って誤魔化してくれ」

 

「え、でも皆さんに言った方が」

 

「いやいやいやいや。ともかく何もなかったと言ってね?ほとぼりが冷めたら武蔵を呼んでくれ。うん。あいつならおそらく理解度が高いから」

 

そう言うと、酷い仕打ちかもしれないが初霜を外へと出し。執務室の扉を閉めた。さてさて、何処に隠れようか。

 

「机の下しかねぇよなぁ…」

 

あいにくクローゼットとかはないので、書斎机の下に隠れることにした。此れで何とか凌げるはず…。

聞き耳を立ててみると、数人の一団は執務室の前で初霜に食い止められた様だ。「どうしたの?」とか「敵襲!?」とか言葉が飛び交っているのがわかる。

 

「てか情けねぇー。ここで勇ましく『私が来た!』とか言えたらかっこいいんだが」

 

それこそ後先考えない行動だがね。てかそんなカリスマは俺にはない。むしろあったら学生ではない。ヒーローにでもなれそうだわ。

 

「―――ネズミが―――ですので―――ビックリして―――」

 

ちらほらと初霜の嘘の言い訳が聞こえてくる。よしいい子だ。あとで頭をなでなでしてやろう。いや、おじさんに撫でられるのはいやだろうか…?ってそんな歳ではまだ無い!

 

「――ってえっ!?そ、そんなの別にいいです――ってあっ!?」

 

喜んでいたのもつかぬま。バタン!っと激しく扉を開く様な音が聞こえ、俺は内心びくりとする。

 

「ネズミめ!何処!能代が相手してあげるわ!」

 

あー能代が強行突破してきた。これはマズイ。ま、まあ能代ならまだ話が通じるはずだろう。混乱を招き入れないはずだろう。と思った矢先。

 

「執務室に入ってくるとは許さないわ…まず家族共々根絶やしに…って北上さん?はい、一緒に退治しましょうね?」

 

…あかん奴の声が聞こえますねぇ。あーれずれずしい彼女の声が聞こえますねぇ。てか軽巡率高くないすか?あ、奴らは雷巡か。

 

「だめよ。ここは譲れません。私が相手をするわ。あなた達は下がって」

 

うわぁ…。う、うわぁ…。青の似合う演歌歌手もとい正規空母も来やがった。ば、ばれないはず、ばれないはず…。

 

隙間から目を凝らして見ると、初霜があたふたとしながら三人を呼び止めようとしている。その奥には北上があくびをしながら三人の様子を見ているが…って、あ。あいつと目があったよな今。なんかにやけ出したぞヤバイ。

 

「ねー三人ともー。そのネズミが大きかったら如何するのー?」

 

にやにやとしながら言う北上に、室内に入った三人―まあ予測できると思うし明確にするけど、能代と大井と加賀は北上に振り返った。

 

「そ、それでも能代は倒します。むしろ害悪以外の何者でも無いですし」

 

「いやぁー。そしたら北上さん私を守ってくださーい」

 

大井はほんとに大井だわ。能代は意気込みよい姿勢を見ることができたけど、大井は何で入って来たんだよ。

 

「例え大きくても小さくても、此処を荒らすことには頭にきます。よって、問答無用で殺します」

 

加賀の声がそう聞こえると、如何やら室内を歩き始めたらしい。机の下から彼女の歩き回る足が見えている。ああ…もうだめですね。ばれるなコレ。

 

…なら、この際こうしてやらぁ!俺はしゃがんだ状態から机を倒そうと、勢いよく立ち上がる!出会いは第一印象が大事!って初対面じゃ無いが…。ともかく!

 

だが、非情にも机を薙ぎ倒し颯爽と登場する計画は不発に終わり、机の下で思い切り頭頂を強打する。ガコンとこう鈍い音が、室内に響いたでしょう。

 

「ごっ‥‥イッテェ!?そ、想像以上に重いのかこれ…」

 

まあ書斎机ですしね。例えそれなりにガタイの良い大学生が勢いをつけてもこの程度ですよ。

 

さてむしろ悪手な行動により引き起こったその音と俺の声に、全員が反応するのは当たり前。艦娘達はそれぞれ「えっ!?」とか「ひゃっ!?」とか声をあげて、驚いた様子だ。

 

そして、数刻沈黙が起こる。おそらく何が起きてるか理解出来ていないんだろうね。その隙に、俺は机の下から、這い出て立ち上がる。

 

立ち上がると、室内でへたりこんでいる加賀と大井に、壁に背中から張り付く様にしている能代。初霜はすげぇ申し訳なさそうにペコペコしていて、北上はにやにやとにやけヅラをしている。

 

「…あーうん。はい。提督です。隠れてました」

 

こうして、俺の存在は直ぐにバレてしまった。この先が思いやられる。ホント。

 




どうも、飛男です。予想以上に予定に余裕ができ、合間を縫って投稿できました。さてついに新章突入。以前書いた活動報告では此れを指していました。

まあその、言ってしまえば逆パターンに陥ったわけです。もっとも章を続いて同じ様な温度差が続くわけではなく、色々と展開していくつもりです。つまり温度差が、上下していくことでしょう。

今後の望がどうなるかご期待ください。そして、蒼龍もですかね。章タイトルが意味を連想させることでしょう。


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それは、衝撃だった

さて、改めて現状を説明しておこう。俺は執務室の書斎机の下に隠れていたけど、バレました。あっという間でした。

 

取り敢えずバレてしまったからには仕方ない。ここは冷静に切り抜けなければ。後が怖い。割と今は、頭が冴えているな。

 

「か、隠れてたって…。え、あの、本当に提督ですか?七星望提督ですか?」

 

「如何にもだ大井。七星望中将…になるよな。提督兼自転車屋バイト兼提督である」

 

大井は驚きのあまりか敬語で訪ねてくるので、親身に答えてみる。まあ敬語だけどどうせ敬いを見せてないだろう大井の敬語も、この場合はガチ敬い語と化している。

 

っと、初霜が泣きそうな顔になりながら此方を見ているな。まあ止められなかった事に負い目を感じちゃってるのかも。うん、気にしないでくれと軽くウインクしておく。自分でやっておいてなんだが気持ち悪りぃな。男のウインク。

 

「ど、どうして…?その身形と言い、本当の提督みたいじゃない!」

 

「いや、そらおまえ俺は本当の提督。…に、なるの?いやわからん。一応登録上、そういうことになる筈。間違いない筈」

 

一応適性検査とか受けないで気軽に登録してデータ上は軍属になってると思う。あ、検査は受けたか、対象年齢的な意味で。

 

「そう…。わかったわ。ようこそと言えば良いのかしら?」

 

すると加賀が、おもむろに立ち上がると、スカートもとい袴を軽く払い始める。いつもの調子の物言いから文字通り落ち着いたんだろう。そうなれば此奴は話がわかってくれる筈だ。うん、普通の加賀なら。

 

「わ、わかってくれればおじさん嬉しい。そういう事だからさ。とりあえず騒がないでくれ。混乱を招きたくない」

 

「はぁ?もう提督がいる時点で大混乱なんですけど。どう責任とってくれます?死んでくれます?」

 

あーこの雷巡。なんつうかよくいるヒス女子高生ですねぇ。イライラしますが、俺とて大学生で男の子。それくらいの嫌味を言われても動じないわけでして。

 

「責任?んー今は取れないからツケといて。で、大井みたいに混乱しない様、今ここでそう促したわけでありますよ。OK?」

 

予想外な返しを受けた様で、大井は「混乱してないし、別に気にしないわよ」とそっぽを向いた。つけは帳消しになったかな。物分かりが良くて助かる。

 

「の、能代はまだ混乱中です。本当の提督なら能代どう接すれば良いか分からないです」

 

「それはまあいつも通りでいい。てか変に気を使われる方が逆に気まずい。さて…」

 

話に一区切りつける様に俺は言葉を切る。おそらく彼女らに色々と語ったところで埒あかぬ。とりあえず話のわかる――そうだな、鎮守府の仮代表である武蔵が来てくれると助かるわけだな。

 

「あー初霜ちゃん。さっきも言ったけど武蔵を呼んできてくれないかなー。あ、あとバレちゃったのは俺が我慢出来なかったからだ。だから気にするな。一応命令ね?」

 

親しみやすい口ぶりで初霜に言葉を投げかけると、初霜は俯いてやはり何処か申し訳ないと感じていた顔から顔を上げ、「はい!」と元気よくいうとその場から駆けていった。うん。いい子だいい子だ。

 

「…提督。私質問があるわ。よろしいかしら?」

 

「んー答えられる範囲ならいいぞ。っと、北上さんや、すまんが執務室の扉を閉めてほしい。頼める?」

 

取り敢えずの現状、総計五隻の艦娘にバレてしまったわけで、これ以上執務室に来られると火の如く噂が広まりかねないし、変な尾ひれも付きかねない。ので、一時的に初霜を除いた四艦を一時的にこの部屋へ釘付けにしようと考えた。んー別に両手に花どころか手持ちいっぱいにお花畑レベルではありますが、残念ならがそういう感覚は今んとこあまりない。断じてホモではないぞ。

 

「ほーい。これでいいー?」

 

北上は案外素直に聞いてくれて、バタンと執務室の扉を閉める。案外って言い方失礼かもしれない。思い返せば北上、結構いいヤツなんだよね。

 

「ちょ、私たちを隔離してどうするつもりです!?まさか…最低なことを…」

 

「はい、大井くん黙って。自分、蒼龍一筋なんでそんな気は起きません。もう少し煽り力、頑張りましょう」

 

実際そうだから仕方ない。そらまあ艦娘って総じてべっぴんしか居ませんがね。あくまでも誘惑されれば危ないこともありそうだ。男ですもの。だが、まあよっぽどのことがない限りはになります。

 

「む、どういう意味それ?てかなんで『くん』付け!?私は女として見れないほどブスってこと!?」

 

なんだこの生き物。うんなんだこいつ。会話がバッティングセンターのボール射出機かよ。なんか何処と無く若葉に…あ、妹の若葉に共通する部分があるな。まさに大いにめんどくさい。てか北上もにやにやしてないでくれますかね。

 

「んなこと言ってねぇよバカ。だから何しねぇってことだよ。で、加賀。質問ってなんだ?」

 

「ええ、その服。私が仕立てた物?」

 

「いぐざくとりー。よく寸法教えただけでぴったり仕立てれたね。そうそう、これ加賀の趣味なの?それならすごいわ加賀藩百万年無税」

 

まあ寸法さえわかれば仕立てられるとは言え、実際に素人がやるとうまくいかないもの。だがこれが問題なく着やすい物だから、その腕はプロ並みってことになる。ガチ嫁入り修行でもしてんのか。

 

「やりました。褒められれば気分も高揚するわ」

 

そう言ってにやりと、加賀は大井に顔を向けた。すると、大井は何処かむっと表情をする。意図不明。何故むっとする必要なあるのか。

 

「あ、そういや大井も…そうそう。球磨型のみんなも御人形さん作ってくれてたな。ちゃんと部屋に飾ってるぞ。それにみんなの訴え、ちゃんと答えただろ?」

 

一応あの球磨型人形ズはプラモなどを飾るスペースを開けて飾っている。以前若葉が「それくれ」とか吐かし言い争ったレベルにまあ愛着がある。それにちゃんと、育てましたよ球磨型。練度的には平均40くらいですけど…。

 

「え、あ、ああ。そう?なら良かったですけど。姉さんたちにも教えるの大変だったんですよ?それに…ふふっ…聞いて驚いてください。あの人形御は守りとして使えますからね?私の場合、中に大井神社の御守りが…」

 

なんだか得意げに話し始めた大井だが、ふとピタリとそれをやめ、再びそっぽを向いた。へえ大井神社ってことはあれか、艦内神社に倣ってなのか。もしかしてわざわざ取り寄せたとか?と、なるとかなり手が込んでたりするかもしれないな。気がつかなかったけど。

 

「ってそうだ加賀。俺の胸元にこれが入ってたんだが、これも御守りかなんかか?」

 

そうだそういえば、服の内ポケットによくわからん御守りらしき物が入っていたんだ。加賀に聞こうと思ってたし、ちょうど良かった。

 

胸ポケットからその物体を取り出すと、加賀は表情を少し歪めた。

 

「え…?」

 

「え。じゃないだろー。加賀が入れたんじゃないのか?だってお前が仕立てたんだろこれ」

 

そういうも加賀の表情変わらず、むしろ顎に手を当て、首をかしげる。ん?

と、その刹那だった。再び扉ががちゃりと音を立て、そこから人影が現れた。

 

「…まさか本当だったとは。提督よ、待たせたな」

 

室内に入って着たのはいうまでもない。褐色肌に勇ましく麗しい顔つきの武蔵であった。

 

 

*

 

 

武蔵が来たことで、大井と能代、北上と初霜は一旦この場から省かれた。武蔵は彼女らに自分が良いというまで俺が来たことを他言無用とし、しばらく自室待機を言い渡していた。うーむ的確な指示なのか?で、初霜や能代は命令に従順故に良い返事で答えたものの、大井と北上は何処か不服そうにしながらも、渋々了解したという感じだった。

 

それから、俺は書斎机に備え付けの椅子に座り、武蔵と加賀が、机を挟んで俺の前に立った。おお、何ともこう提督っぽくなった感じ。

 

「…さて、改めて言わせてもらうぞ提督よ。ようこそ大湊警備府へ。まさか貴様から赴いてくるとは思いもよらなかった。丁重な出迎えもできず、申し訳ない」

 

そう言うと武蔵は深々と頭を下げる。いやいやいやそんな大それた存在でもないし、来たこと自体はともかく、むしろこんな感じで良かったんだ。

 

「おいおいやめろよ武蔵…さん。顔をあげてください」

 

しかしまあ言い方が悪いけど、生きている武蔵を肉眼でみると、これがガチめにカタギではない印象を受ける。何と言うんだろうか、纏う雰囲気そのものが隣町にいるはちきゅうさんのそれだ。下品と言われようと玉が縮こまるわ。

 

「なにを言うか、頭を下げるのは必然だ!お前は提督だからな!私は申し訳ない一身なのだ!どうか好きなように罰してほしい!」

 

ぴしゃりと威厳を放つ様に言う武蔵。うーん間違いだと思いたかった。俺が半年くらい前のときに抱いた印象が。てか、加賀も若干「えぇ…」みたいな顔してるし。

 

「な、なあ加賀。ちょっと」

 

俺はそう言いながら加賀を小さく手招きし、寄ってきた加賀に屈む様に促すと耳元で囁く様に聞いてみる。

 

「な、なあ。武蔵っていつもこうなの?」

 

すると、今度は加賀が耳を貸すように促してきた。

 

「見たことありません。寧ろ、私も少し驚いたもの。どうにかして」

 

武蔵を見直せば、まだ深々と頭を下げている。んーなんかこの。んーとりあえず何か言わないと。

 

「あ、あー。んーそのですね。自分、あまり歓迎されると逆に恐縮してしまって、気分がよくなくなるかもしれないっす。だから、こんな感じで自分は十分満足なんで。いやほんと」

 

とりあえずこうでも言わないと、この武蔵は腹でも切り裂きそうな勢いがある。何と言うか、いろいろ残念な感じなのだろうか。ウチの武蔵は。

 

「そ、そうか?ふふん、流石は提督だ。真の男は静寂を好むのだったな。この武蔵、その意図を気づけず申し訳ない」

 

んーなんか駄目みたいですね。まあ、武蔵は色々と間違った知識を持ってるっぽいが、納得した様だしこれでいいか。

 

「さて、非礼を詫びた矢先だが、一つ質問しても良いだろうか?」

 

「なんで俺が此処にいるってことだったりする?その質問。だったら答えは一つ。わからん」

 

まあ多分そうだろうなーとか思いつつ質問を先んじて答えると、武蔵は心底驚いた様な顔をして目を見開いた。

 

「な、何故わかった!?凄まじい洞察力を持っているのだなお前は!流石はこの武蔵の提督なだけはある。私は誇らしい!」

 

いやー武蔵さんなんなんだろうこの…この…。取り敢えず当たってたらしいし、まあ予想は誰でもつくよね。バカじゃない限り。

 

「あー何はともあれ武蔵さん。自分がなんで此処へ来たのかマジわからんのですわ。で、本日コエール君により飛龍が帰って来てるはずだけど、どうなってるの?把握してる?」

 

「ああ!無論だ。飛龍は確かにマルハチマルサン(08:03)に帰投。今頃は思い出話をラウンジで話しているだろう。一応簡単な身体検査を行なったが、どこも問題は見受けられなかった。五体満足健康状態良好。ただ少し、太っていたな」

 

「ご丁寧にどうもですわ。って彼奴太ったのか…まあ最近狩猟ばっかりだったしな。運動もせずに」

 

「なに!?提督は飛龍に狩猟を教えていたのか!?なるほど、この武蔵も是非ご教授願いたいものだ。天性の狙撃手は、狩猟でその才能を開花させると聞く。私も自慢の主砲を確実に当て必殺を狙いたいのでな。ここは是非是非と言ったところだ!」

 

「えーあー。うん、武蔵さん。まあその、そう言う遊びなんですわ。いわゆるボードゲームです。室内で行う危なくなくて誰でもできる奴です。だから射撃の腕は上がらないかと。あと改善したいとは思ってるんですね」

 

「当たり前だろう!…しかしまあ…そうなのか。ふむ…それは残念だ…」

 

しゅんとする武蔵。あ、やべぇちょっと可愛いとか思ってしまった。ギャップ萌えって奴か。恐ろしい。

 

と、言うか蒼龍も狩猟に熱中してたし、太ったのは当てはまるんだよなぁ。そら本人の前では言わないけどさ、拗ねるし。まあ、あの子の場合胸の方にも行ってましたけどね。増してましてね。抱きついてくるときにまあよくわかるんですわ。

 

「っと、そうだ。蒼龍も一緒だったろ?なら今すぐ呼んでほしい。これからの事を話さないと」

 

一応、数ヶ月は此処に滞在することになるだろうから、蒼龍との関係をどう進めていくかが結構重要だったりすると思う。まず出撃だけど、怪我するところは見たくない。だが艦娘はこっちに戻れば戦う義務が生じてくる訳で、特別扱いはできないだろう。加えて俺と蒼龍がこう恋人っぽい行為を見せつけると士気の低下も生じそうだし、信用も失いかねない。まあそれこそ俺と蒼龍の関係は鎮守府全体には知られてるそうだが、それでも見て不快に思う艦娘はいるはずだ。特に大井とか。こう、目障りだとか言ってきそうだし。

 

「さて、どうしたものかな…」

 

「ん…ちょっと待ってくれ提督よ。なにを言っているか理解できないぞ。飛龍を呼んでこればいいのか?」

 

キョトンとした様子で、武蔵はそう言う。いや、いま蒼龍って言ったよな俺。聞き間違えたのか?武蔵は。

 

「いや、蒼龍だよ蒼龍。一緒に帰ってきてる筈だろう?飛龍もまあ呼ぶのはありか…」

 

「…そのだな。提督よ。もしや勘違いしているかもしれない。いや、その様だから言わせてもらうぞ」

 

少し気を使った様な武蔵声に、俺は思わず「え」と言葉を漏らす。

 

「蒼龍は、こちらに戻ってきていない。うむ、確かにコエール君の目の前に立っていたのは、飛龍だけだったぞ」

 




どうも、飛男です。まさかの連日投稿が可能になるとはおもわなんだ。

今回もまあ導入って感じでしょうね。あと数話くらい続くでしょう。いつペースが極端に落ちるかわかりませんが。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。


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そういえば、居たな。

今回は少しばかり短め。


武蔵は、なにを言っているんだろうか。俺は思わず、呆けた様に「は?」と呟いてしまう。

 

「いや、だから蒼龍は一緒に帰ってきてはいない様だったぞ。少なくとも、私の目には映らなかった。おそらく同室に居た、明石と飛龍も同じだろう」

 

なにを馬鹿な。コエール君は艦娘を送り送れる装置の筈じゃ無かったのか?なら、飛龍ならまだしも、俺が送られるなんておかしい話になる。寧ろだ、蒼龍こそこちらに送られた方が筋も通る訳で、つまり俺が送られてるならば必然的に蒼龍だって送られてなければ、おかしい話だろ。

 

「う、嘘だよな?だってさ、蒼龍は艦娘なんだぜ?おかしいだろ来てねぇのは…」

 

「と、言われてもな…。現に私は見て居ない。可能性があるとするならば…。今回、提督の様に別室で送られ、今頃気を失って発見できずにいる…くらいだろう。まあだが、本来送られて来たものはコエール君の前に現れる筈だ。つまり、その可能性は限りなく低いだろう」

 

なんだよそれ…。なんだか変な笑いがこみ上げて来た。そんな俺をみてたからか、武蔵と加賀は心なしか心配そうな目線を向けてくる。

 

「いやでもさ、それおかしくねぇ?なんでじゃあ俺は執務室に送られた訳?」

 

「そうだな、それは謎だが…恐らく『本来そうした人物が居るべき場所』に送られた…と、ふと思い浮かんだ説をあげるしかないな」

 

「はは…。そっかそっか。ふーん。提督は確かに、執務室に居るべきだよな。ははは…」

 

やばいな。乾いた笑いしかでてこねぇ。結構ショックが大きいぞ。てっきり蒼龍だって一緒に来てるかと、普通思うじゃないか。むしろそうなれば、まだこの不安定な気持ちだって治ると思って居たけど、うん。キツイなーこの現状。

 

「あ、あははは。いやーそっか来てないのかぁ。残念だなぁ。お前達にも蒼龍との関係を見せれるチャンスだと思ったのになぁ」

 

俺はそう言って、無理に笑って見せた。そうだ陽気に笑い、余裕があるように見せなければならない。俺はどうあれ立場上提督だし、意気消沈している姿なんて見せれるわけないよな。それこそ士気に関わることだ。常に平常心で、俺に身を預けている彼女らに不安感をあたえちゃいけねぇわ。

 

「…本当に大丈夫?」

 

加賀は今一度、念を押して心配してくれている。無表情ながらも、少し言葉にはそれを感じさせる優しさがある。いいやつばっかりだ。ほんと。

 

「おうおう。だいじょーぶだいじょーぶ。加賀のそんな顔見ると元気出ちゃうね。おじさん男の子。其れだけでも色々元気になっちまう。で、まあそんな事は重要じゃない。むしろ今重要なことは、原因解明かもしれん。なんで俺がこっちにこれたのかって言うね」

 

「…ああ、そうだな。私はすまないがそうした話はわからん。明石に聞いてみるのほうがわかるかもしれない」

 

何処か微妙な顔をしつつも、武蔵はそう答える。まあそうなるよな。コエール君の管理及び、把握しているのは彼女くらいだろう。あいにく、うちは統治の様に夕張ラブどころか、夕張すらいないって言う。マジ運がない。

 

「あ…。武蔵、そろそろ朝礼が始まるわ。どうするの?」

 

壁に掛けてある鳩時計をみれば、八時五十分を過ぎた頃合いだった。確か以前蒼龍から聞いた話だと、九時から朝礼があるんだったか。

 

「ああ、そんな時間か。さて、提督よ。お前はどうする?」

 

どうするって言われましてもねぇ。此処は参加すべきなのだろうか?でも、いきなり朝礼の前で出て来て、「提督ですよ」って言うのも…。

 

「どうしようか?参加したほうがいい?」

 

結局他人に判断を仰いでしまう。正直今更だが、俺って提督向いてないんじゃねぇかな。感情の起伏が激しいとはよく言われるし。

 

そんな俺の様子を見たからか、加賀と武蔵は顔を合わせると、呆れたような顔をした。

 

「ふむ、提督よ。それはお前が決める事だ。厳しい事を言うようだが、こちらに来てしまった以上、お前は此処のトップだからな。指揮官としての自己判断は、重要だ」

 

その通りだ。武蔵の言うことは正しいと思う。誰かにそう言われないと、気持ちの踏ん切りがつかなかった。何処と無く苦言を述べてくれるのは、彼女らしい性格だね。こう言う時は、頼りになる。

 

「うん。ならこうしよう。どうせ隠しきれるわけもない。武蔵、お前は俺が此処に来たって事を、あらかじめ伝えてほしい。だが、此処が重要。大々的にじゃなくだ。あくまでも話の流れで、自然に、漠然とした感じで頼む」

 

「ふむ?それはまた如何してだ?そもそも提督自ら出て名乗りを上げたほうが、いいのではないか?」

 

「いや、それじゃダメだ。いきなり俺の姿をみれば、恐らく先々から言うように混乱する者も出てくるはず。つまりさ、その覚悟期間を作ってやるんだ。そうなれば、混乱も最小限に抑えれるはずだろ?例えば提督が来れる可能性が出来たとか、嘘をついてくれ。…まあ嘘をつきたくないなら、そっちに判断は任せる」

 

人にはある程度の事実を受け入れるために、時間が必要だったりする訳で、大きい話をすれば死に関係する事だったり、小さい事ならちょっとした失敗だろう。別に達観した事を言っているつもりはないんだけど、これは確信を持って言えると思う。

 

つまりだ。これから起こり得る「俺が来た事実」を艦娘達に受け入れさせる為、まず起きた事実を口頭で伝えて、後に自身の目で見せる。こうするだけでも、あらかじめ聞いた事で相応の驚きに対する耐性がつくはずだ。それこそ、死に関してのことじゃないし、長い時間だって、いらないはず。

ただ此処で重要なのは、少しばかり事実を暈すことにある。事実を暈せば、核心は持てずとも、もしかしてと言った、曖昧な事実を植え付けることができる訳。たぶんだけど。だって俺、心理学専攻じゃないし。経験談だし。

 

「どう?できそうかな?」

 

俺の案を武蔵は聴き終えると、武蔵は口元をにやりと動かし、口を開いた。

 

「当たり前だろう?私は大和型の二番、武蔵なのだからな!造作もない!それに、その嘘は必要な嘘で、誰も傷つかないだろう?なら、一肌脱いでやろう」

 

ビシッと言い放つ武蔵。こう言う時は、頼もしい言葉だろうさ。たまに見せちゃう残念な部分が勿体無いね。

 

「ははっ…もう既に脱いでるじゃん。とか、言ってみたり」

 

「い、いや!これはそのだな…こうした格好は、嫌いか?」

 

急にしおらしくいう武蔵。いえ、嫌いじゃないです。かっこいいと思います。だから武蔵さんは、自信満々の状態でいてください。さっきの威勢が、どこか行っちゃうから。

 

「ふふっ…。少しは提督らしい事を言えるのね。ま、そうでもしてもらわないと、困るのだけど」

 

加賀も言葉こそこう言うが、笑顔を見せる。俺の提案には、賛成のようだ。いい部下を持ったって感じだなぁ。

 

「ごほん。では、私たちはそろそろ向かう。何、心配するな。この武蔵に任せてくれ!」

 

そう言って、武蔵と加賀は執務室から出て言った。現時刻は十時まであと二分くらいなんですが、大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

さて、外からは武蔵の威勢がいい声が聞こえてくる。朝礼の真っ最中のようだ。一応聞き耳を立てておくけど、聞いている限りは順調そう。まああの感じなら、ポカはしないだろうさ。

 

「さて、現状を整理するかな」

 

ぎしりと、俺は書斎椅子にもたれ、天井を見上げた。

 

まず、なぜ俺が此処に来たのか。コエール君に何らかの理由で、巻き込まれたのだろう。だが、その巻き込まれには蒼龍は入っておらず、俺と飛龍だけがこちらの世界に来たことになる。あ、飛龍は戻ったことになるな。

 

で、その理由は現在不明。おそらく明石に聞かなければ、その解明はできないだろう。むしろ明石ですら把握してないような問題なら、どうなるんだろうか。いやいや、今は考えないほうがいい。おそらく悲観的に物事を考えてしまう。思考の邪魔だ。

 

しかし、その巻き込まれた理由が、どうしようもなく解明できない場合なら、素直にコエール君がクールタイムを終えるまで待つしかない。いや、だがコエール君は艦娘を送り送られの装置だ。艦娘が亜人とは言わないけど、ガチ一般ピーポーな俺にコエール君が使えるかが問題になる。と、なれば現代に変える方法は無い。此処で提督として、生きていくことになるのだろう。

 

「…悪く無い話ではあるけど。俺はそれを務めれるのか?本来提督は、こんな簡単になれていいものじゃないしな。それに、蒼龍と一生離ればなれになるのか?…メタい話、ドロップすれば会えるかもしれないが、それは俺の知ってる蒼龍なのか?青柳龍子の偽名を持つ、少しばかり抜けていて、可愛いものに目がなくて、大滝ん家にいる鳳翔の様な、良妻賢母を目指す俺の知っている蒼龍なのか?」

 

いや、それは違う。間違いなくそれは、蒼龍では無い。強いていうなら、航空母艦蒼龍としての蒼龍だ。もっとも、不思議なことに蒼龍と飛龍が、このところドロップや建造で出たことがないんだけどね。仕様なら、結構恐ろしい事になってる気がするぜ。

 

「はぁ…何でこうなっちまった?確かに此処は理想の世界だろうけど、俺の理想とはかけ離れちまった…」

 

やっぱり心的ダメージは大きい。どうにも、思考が、悲観的にばかり考えてしまう。いや、そらまあ何事もなくコエール君が直って俺に使用できるのであれば、おおよそ一か月くらいで帰れるわけで、それまで我慢しろと言われれば、できなくない。いや、やっぱりできない。ダメだわ。

 

そうやってしばらく呆然と天井を眺めていると、胸元で何か動いている様な感覚を覚えた。…と、言うかこれ虫とかってレベルじゃねぇな。ぼけっとしててこんなことまで気がつかなくなってるらしい。やばい感覚死んでる。

 

「うわわ、こしょばい。てか、なになになに!?」

 

一人さびしく、騒がしくなる俺。と、言うかどうやら、内ポケットの部分で何かが跳ねている様だ。ってどこぞの某パッションな芸人の様に胸元を叩くわけにもいかねぇよな…。古いか。今のキッズにわかるのだろうか。あ、もしパッションを注入して中の、仮称生き物君が潰れたら、きっとグロ画像ですよ。

 

とりあえず、内ポケットに手を突っ込んでみる。どうやら何かが硬い物体が、動いていた様だ。…ん?待てよ確かに内ポケットには…

 

「お守りが入ってるよな…加賀はマジで何入れたんだよ!」

 

パワーストーンか何かだと思っていたが…。ともかくそう叫びながらお守りを取り出すと、袋越しに何かがもぞもぞ動いている様だ。うわっ!気持ち悪っ!?

 

「え、なにこれ。エイリアンの卵とかじゃねえだろな…。エイリアンって…あ、この資料で潰せるかな…?最悪武蔵から譲り受けた、この南部拳銃で殺すしかねえ…」

 

艦これの世界でまさかのエイリアンに殺されるとかどんなお花畑設定だよ。ともかく意を決した俺は、手元でもぞもぞ動いているお守りを机の上に置いてみる。そして仮称二、もぞもぞ袋くんを注視して身構えつつ、何かを見切ったかのように、刹那的に丸めた資料で思い切り、ぶっ叩いた。室内に、バチリと乾いた音が響く。

 

「…お、なんか動かなくなったな。もしかして死んだ?」

 

こう、血とか緑の液体とか飛び散らなかったが、もぞもぞ袋くんはお静かになられた。今はシーンとして、動かない。

 

「…中身が気になるんだよなぁ。なんだこれ」

 

とりあえず何が入っていたのか確かめるべく、書斎机の引き出しに偶然入っていたハサミを取り出し、もぞもぞ袋くんの上の方を綺麗に切り開いた。 そして、切り口を下に向けると、何か黒い塊がぽろりと落ちた。と、その刹那―パッと何かが光ったと思うと、人の形をした物体―おそらく俺の感性では人形と言わざるを得ないような物が、横たわっていた。

 

「…小人?ってあっ…まさか」

 

そんな乏しい感性な俺だが、そういえばと思い出すと、横たわる人形らしき物を仰向けにする。うん、やはりと言うべきか見覚えのある顔だこれ。いや、まあ同じ顔だけど。

 

「妖精だコレー!?」

 

俺、妖精と遭遇。いや、遭遇って言えるのかこれ?

 




どうも、そろそろ卒論きつくて鼻血でそうな飛男です。

息抜きのような感じで最近は作業しているため、内容が薄いかもしれません。どうか許してください。何でもは、しません。

さて、今回はシリアス?八割、ギャクっぽい感じ二割でしょうか。当初はもう少し内容のある話を書いていたのですが、そういえばと思い出した設定があったために全面カット。一割くらいの状態から、書き直した感じになります。まあ個人的には、納得できたかな?

では、今回はこのあたりで。
最後にお願いですが、『文字の指摘、誤字脱字の指摘』は個人のメッセージでお願いします。確かハーメルン、そんな機能ありましたよね?

また次回お会いしましょう!


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なるほど、そういう訳か。

前回少なかった分、今回は少し多め


執務室の扉が開き武蔵と加賀、それに加え明石が姿を現した。どうやら朝礼は終わったらしい。まあそんなに長くやる必要も、ないだろうしね。朝礼って。

 

「…何してるのだ?提督よ」

 

そう武蔵が疑問を投げかけてくるのも、まあ無理はないだろう。現状の俺を見れば、そうもなる。何を隠そう執務室の床で、正座をしているのだから。

 

「見ての通り反省中です。ほら俺の目の前に、リトルフェアリー氏がお怒りでいらっしゃるでしょう?」

 

俺の前には、先程ぶっ叩いてしまった妖精が、頰を膨らませて地団駄をし、腕をぶんぶん振り回している。多分くっそお怒りなんでしょうが、それがイマイチ伝わらないし、むしろ可愛いとか思っちまうが、そう態度で見せるとさらにお怒りを加速させてくる。さっきそうなったから、間違いない。可愛いとか呟いたらこうなった訳だし。

 

「…何をしたのだ?妖精も此処まで怒ることは珍しい…と、いうか此処まで怒っているところは見たことないぜ?」

 

呆れた様に言う武蔵。え、そうなの?いやでも不可抗力だったと言うか、自衛本能といいますか…。と、いうか分かるわきゃねぇだろ。妖精とかそんな非現実的な生き物。てか非現実的な事ばっかり起きてるから説得力ないけどね。でも慣れろと?科学が蔓延ってる現代生まれの俺に?むずくね?

 

「…なあ武蔵。この怒りを御抑え出来る方法知らない?」

 

「いやまあ…怒らせたことがないものでな…。加賀、明石。何か知らないか?」

 

武蔵は後ろの二人にそう聞くが、加賀は首を横に振り、明石はにやにやしながら、「しりませーん」と答える。明石ぜってぇ知ってんだろお前。

 

「…何故怒っているか聞いて見たのか?」

 

「そらおま…ぶっ叩いたからだろうけど…」

 

と、言うか妖精さんって人語喋れるの?怒鳴られてもないし、小言も言われてないし。むしろぶっ叩いた際に叫び声も聞こえなかったし。

 

すると、武蔵は何かを察した様で、しぶしぶ書斎机においてあるメモ用紙を破り、鉛筆を引き出しから取り出すと、それを妖精さんへと渡した。成る程喋れなければ、筆談か。

 

「お、なんか書き始めた」

 

妖精は武蔵に一礼して、自分の図体よりデカイ鉛筆を器用に動かし、メモ用紙に何かを書き始める。

 

「えっとなになに…」

 

書き終えたのか妖精がばんばんとメモ用紙を叩き始め、俺に取る様に促して来たので、ひとまずそれを手にとって読んでみた。

 

「『いきなりたたくとか、ばか?あめだまくれたらゆるす』うん…全部ひらがななのね」

 

やはりと言うべきか…。いや、やっぱりそうだった。なんかごめんよ。ほんとわからんかった。と、言うか飴玉で許してくれるのか。やさしい。

 

「あー。誰か飴玉持ってる?」

 

「持ってるわけないだろう?…っとそうだ。以前叢雲が執務室の掃除をした際、机の中にドロップ缶を入れておいたとか言っていたぞ。楽しみを作っておくとか言ってたが」

 

「よしそれだ。ナイスツンデレ駆逐。今度ツンしてデレても気がつかないふりをしよう」

 

と、言うわけでまあ書斎机を探せば確かにサ○マドロップの缶が入っていたので、それを取り出し適当に飴玉を振って出し、それを妖精に手渡した。これで機嫌も直るだろうと安堵する。が、しかし。

 

「…なんかすげぇ不服そうな顔してるんだけど」

 

妖精はむむむと頬を膨らませて、じっと俺の方を見てくる。飴玉くれたら許してくれるって言ってましたやん。もしかしてドロップだから?いや、ドロップと飴玉の違いって何だ。英名か日本名の違いじゃんか。と、まあそんな事を思っていると、加賀がその答えを教えてくれた。

 

「その飴玉、白色よね?ハッカじゃないかしら。駆逐艦の子達、よく残すのよね」

 

「そんな子供じみた理由で不服になっちゃうのか。いやまあハッカは子供に人気ないですけどね」

 

まあついつい残しちゃうよね。ハッカ。子供の時はまあ苦手だった。と、言うか美味しくなかった。今は普通。

 

それでまあ、お子供じみた理由だが原因わかったので、ドロップ缶をガラガラ鳴らしてハッカ意外を取り出そうとする。しかし一向に他色のドロップは出てこず、俺の掌は一面ハッカだらけとなった。

 

「ハッカしかねぇ!どんだけハッカ嫌いなんだよ!ハッカに謝れ!」

 

「し、仕方ないだろう!私だって好きじゃないんだ!加賀も明石もわかるだろう?」

 

「なんで武蔵が反応するんだよ。てかあんたもドロップ食べてたアレか、場所知ってたし。しかもハッカは食べないと。イチゴ味とかばっかり食べたんだな。乙女やな」

 

「い、いや!メロンも好きだぞ!って何を言わせるんだ貴様は!」

 

なんか意外ですわ。と、言うかながもんじみてないかお前。彼奴もなんかこう、嫌いそう。

とりあえずハッカだけのドロップ缶だったので、妖精には後に用意してやろう。で、これ以上妖精を弄るのは話が進まないので、とりあえず置いておく。

 

「さて、妖精がいる理由だけど…この黒い塊から出て来た。なにこれ」

 

「いきなり話を切って来たな…まあ良いか。しかしふむ…それは何だ?石か?」

 

武蔵が机の上にある黒石に興味を持ち、目を寄越した際、ちらりと下を見れば、妖精もなんか空気を読んだらしく、ハッカ飴をしぶしぶ口に中入れた。おおう…何気に衝撃シーン何だが。丸ごと行くのか。

 

「…私が持ち主よ。それ」

 

妖精の衝撃シーンを見ていた最中に加賀がぼそりと口にした。言わずと知ってましたがね。

 

「だろうね。でさ、これは何?お前がこの服の中にお守りとして入れた事は分かる」

 

そう聞いてみると、加賀は少し言うのを躊躇する様な態度を見せたが、渋々といった様子で口を開いた。

 

「…それは私の…私の艤装の破片よ」

 

「は、破片?え、何で入れたんだそんなもん」

 

どういう事だ?それがお守りの正体ってわけか?いや、むしろ艤装の破片って…艤装って破片が出る物なの?

 

「もしや加賀よ。最初からこの事を狙って入れたのではあるまいな?」

 

何か深読みしたらしく、武蔵は若干むっと表情を歪め、加賀へと問いただす。だが加賀は首を横に振って、それを否定した。

 

「そんな訳ないわ。そもそも、それが原因とは限らないでしょ?…それは御守り。本当に御守りとして、入れたのよ」

 

「でも艤装の一部なんだろ?欠損してていいわけなの?それ」

 

ぶっちゃけ艤装の技術は謎技術故によく知らないが、欠損したら直すのが修理バケツとか妖精さんなんだろ。と、憶測はしていた。故にそうした破片は、修理とともに直るんじゃないだろうか。こう、謎パワーによる再生的な感じで。

 

「あー、欠損してても大丈夫ですね。ほら、空母の方々はそれこそ中破レベルにまでなると、発着の関係で戦えなくなっちゃいますが、他の艦種なら戦えていますよね?つまり、そうしたパーツは修理完了と同時に新品の様になるんですよねー。原理はそれこそ、妖精さんにしかわからないですけど」

 

意気揚々としつつ、明石はすらすらと答える。ふむ、解説ありがとう。つまり欠損していても、修理すれば問題ないと。たとえ欠損部位が残っていても、修理すればそれは単なる鉄くず同様になる訳だ。だからあんなに資材とか食ってるのか?

 

「ま、原理はわかった。でもよ、そうなるとなんでこの鉄くずに妖精が宿ってるんだ?と、言うかこの法被姿と良い、ねじり鉢巻といい…どこかで見たことあるんだが…なんだったか」

 

「…応急修理女神よ。その子」

 

加賀の言葉でやっと思い出した。ああ、そうだわ。全然使ったことないから、久かたにその姿を見たわ。ん、でも。

 

「応急修理女神?お前の艤装に応急修理女神が宿ったってことか?」

 

そう何気なく聞いたこの言葉だったが、加賀はどこか寂しそうな表情をして、ぼそりと呟いた。

 

「…そうね。もう三年を迎えそうだから、貴方は覚えていないかもしれないでしょうね。提督、貴方は以前、私を轟沈の一歩手前まで追い込んだことがある。その時に私を助けてくれたのが、この子」

 

「えっ」

 

その言葉に、俺は一瞬思考が停止した。それもそうだ。唐突過ぎて、その覚悟が追いつかなかった。

 

思い返せば、当時の俺は、現在の様に艦娘を大切に考えない時期が確かにあった。言うなれば、戦果に囚われた亡者だったわけだ。思い起こせば懐かしい、魔の2―4。其処を突破すれば一人前の提督だと、当時SNSや噂でそう言われたことが確かにあった。

 

即ちだ。俺はその一人前の提督の称号欲しさに、無理な行動をした。当時は大破撤退なんて情報がなくて、加賀以外の艦娘は全て平常だった故の行動だった。それに、おそらく当時の俺は百を得て一を失うことを考え、沈んでも致し方ない事だろうと、思っていたに違いない。それが最低の事だとわかっていても、当時の俺はそうしてしまった。

 

「か、加賀…その…」

 

俺は責められるのを覚悟した。たとえ戦績を残したとしても、今思えば後悔が残っただろう。今でもその事に後悔を抱いてしまったんだ。もはや加賀に上げる顔がない。

しかし、以外にも加賀は少し微笑み、首を横に振った。

 

「もういいのよ。もう過ぎたこと。それに、新人提督だった故のことよ。覚えていないのも分かっていたし、結果的にこの子に助けてもらったもの。当時は貴方に対して不信感を抱いたけども、今はもうないわ。むしろ、あの行動は当時の貴方を成長させた。そう思っているのよ。違うかしら?」

 

加賀の言う言葉は、おそらく本心からなのだろう。偽る表情をしているようにも見えないし、取り繕ったような言葉でもない。時間をかけて、出した結論のようだ。

 

それに、そういえばその際から俺は、大破撤退を心がける様にもした。同時期にそうした情報がちらほらと出て来たこともあって、反省して今に生かしたのは恥ずかしい過去だ。

だが、それでもこうした問題はきちんと解決したい。だからこそ俺は、口を開いた。

 

「いや、ちゃんと謝らせてほしい。…すまねぇ本当に…。痛かっただろう?苦しかっただろう?俺の未熟が招いた事だった。今後、絶対に強欲にはならないよ。戦果にね」

 

そういうと、加賀は少し呆れたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。

 

「もう良いのに。でも、そう言ってくれると、改めて提督を許す気にもなるわね。不思議な気持ちよ…。いいわ、許します。加えて、どうせなら言わせてもらうけど…もっと立派になって頂戴。まあ今のあなたなら、信頼できるけど」

 

「ああ、ありがとう。ははっ…なんかいきなり湿っぽい話になっちまったな」

情けないような表情をしているんだろうな、今の俺は。こう、顔が無理に笑おうとひきつっているのがわかる。

 

「さて…それで話を戻すのだけど、そのあと貴方は、当然私を入渠させた。艤装は修理に回されたけど、その際に私は艤装の破片を御守りとして持つことにしたのよ。それで、修理の際に変形したこの屑鉄を、私は持っていたわけ」

 

加賀も話を続けたいようで、聞く姿勢を俺は取る。ふむ成る程、経緯はどうあれ、そうして加賀は自らの艤装を御守りとして持っていたと言うことか。そうなれば、何故この破片に応急修理女神が宿っていたか、大よその答えが見えてくる。

 

「つまりだ。こいつはパーツとしての応急修理女神ではなく、分霊的な何かってわけか…」

 

妖精もとい、応急修理女神の分霊を俺は見る。彼女も俺を見つめ返して来たが、首をかしげた。あらかわいい。

 

「でも変なのよ…。その御守りを、私は現に御守りとして梱包して、貴方に渡すつもりだった。けど、辞めたはずなの。流石にまずいかと思って。…如何して服の内ポケットに入っていたのかしら?」

 

「ん…?ふむ女神よ。何か言いたそうだな」

 

俺と加賀が顔を合わせ、考え込むしぐさをしていると、ふと武蔵が妖精の動きに気が付いたようだ。武蔵は再び机へと脚を運ぶと、今度はメモ帳ごと持って、応急修理女神へと渡した。女神はメモ用紙の上をてくてくと歩いて鉛筆を動かし、文字を書いていく。

 

『わたしがはいりました』

 

と、ミミズの這ったような文が姿を現す。うん。意外にあっさり犯人が特定できたな。悪びもなく、普通に白状したな。

 

「ま、まさかあなたが…。でも私が持っていたころには、貴方が宿っていた事なんて知らなかったのだけど…それはどうして?」

 

加賀の質問に対し、女神は再び鉛筆を動かす。

 

『ずっとねてました。あとむこうのせかいにいけるときこえたので、いってみたかった。でもでれなかった』

 

そう女神は描き終えると、俺の方を見て再びむっとハムスターのように、頬を膨らませる。いやまあ、わるうござんしたね。てか、一般ピーポーはあんなもん着ないからね?コスプレになるからね?現代の世界じゃ。それに気が付いたの、ついさっきだからね?

 

「…つまりだ。俺がこっちの世界に来てしまったのって、こいつの所為なんじゃね?」

なんというか、色々と疑う要素がありすぎて困る。てか、決定でしょこれ。

 

「そこんとこどうなんですかね。明石さん」

 

「お、やっと私に話題振ってくれましたか。いやー忘れ去られてるのかと」

 

あははーと明石は能天気な様子で後頭部に手を当ててそういうと、「さて」と一つ咳払いをする。

 

「まあ大方答えに迫るような言葉が飛び交っていたので、結論から述べますと、おそらくご明察と言ったところでしょうか。まあ私も仮説の段階なので、確定とはまだ言えませんが、この仮説は極めて確信をついていると思います」

 

「お前も仮説の段階なのね。で、その仮説って?」

 

「ええ、まずコエール君が反応する存在…それは周知の通り艦娘に反応します。これは確定と言ってもいいでしょう。で、その判定基準ですが、おそらく艦娘に宿る御霊が関係していると思います。正確に言えば、艤装適正のあるヒューマノイドって感じですかね。私たちは、まあ純粋な人間ではないので」

 

すらすらと明石は言うが、その純粋な人間じゃないってのはどういう事だろうか。蒼龍や飛龍は、そんなことを言っていた記憶はないんだが…。とりあえず触れないでおこう。

 

「さて、それで私たち艦娘は要するにその艤装適正があるわけですが、ここでおかしいのは、提督が何故かコエール君の反応によりこちらに来てしまった。その理由は、まさしく妖精さんと、艤装の破片にあるでしょうね。妖精さんは普通、艤装や武装に宿る存在で、いわゆる御霊の分霊のようなものです。たとえ破片でも、どなたか妖精が宿っていれば、それは理論上艤装として分類されます。つまり、提督は艤装を装備して、且つこの世界で作られた服装と武器等を身に着けたことで、蒼龍さんや飛龍さんと同じような存在だとコエール君が誤認をしたんでしょう。そして、提督をこちらに召喚してしまった。ま、こんなところですかね」

 

途中から大学の講義を受けているような気分になったが、理解はできた。ねむくなったりはしてないぞ。つまり妖精さんの宿った破片を持ってたから飛ばされたってことだ。うん、かんたんダネ。

 

「…まあ妖精さんの所為ってことなんですかね。これ」

 

じとーって感じで、女神を見てみると、女神は口笛を吹く様子でしらばっくれた。こんのくそチビが…。かわいいのでゆるす。

 

「あーしっかしやらかしたなぁマジでさぁ…こんなことになるなら加賀には悪いけど、着なきゃよかったわマジで…。はぁー」

 

ため息も出ますよそりゃ。よかれと思ってやったことが、こうして取り返しの解かない事に飛躍してしまったわけですし。まあ数か月の遅れ―いや正確にはわからんけど、とりあえず行方不明による休校届けで、不幸な事故ってことで少しは大目に見てもらえるとは思うが…楽観視し過ぎだろうか?

 

「え、私たちは良かったですけどね。だって提督基本、私服しか見たことなかったですし、こうしてシャキッとした服装を着てる方が、やっぱりかっこいいですし」

 

そう明石はにこにこといいやがる。って加賀や武蔵も頷くなや。純粋に褒められるとこっぱずかしいったらありゃしねぇ。愛されてるって捉えて言いわけ?ライク的な意味でさ。

 

「はぁー。とりあえずどーっすかなぁ…。提督業やろうにも、俺ってば軍事的な事はプロと比べりゃ当然素人だぜ?そりゃあまあ現代でかじってはいたけどさぁ…」

 

「ふふ…そのためにこの私がいる。雑務などは任せてくれ。それに、何も指揮や書類整理だけが提督の仕事というわけではない。もっとも重要な事は、コミュニケーションだろう」

 

両手を腰に当てて、武蔵は堂々と言い放つ。んー要するに仲よくしろってことか?

 

「ま、やれるだけやってみますかね」

 

こうして、俺の鎮守府生活が始まるわけなのでした。まる。

 




どうも、飛男です。気ままに投稿継続です。

さて、今回もまたギャグ多めにシリアス少しって感じの構成になりました。2-4のくだりは、まあ実際にそういわれてた時期も確かにあったと思います。で、まあいやなことを思い出させてしまったのであれば、申し訳ありません。自分もその、被害者のようなものですので…。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。


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彼のいない世界です。

私―蒼龍はその事実を認められずにいました。

 

そう、それは今日の朝から起こった出来事です。望が、私の目の前から忽然と姿を消してしまったのです。

 

飛龍を送る為にコエール君が発したのでしょう。その光が室内を包み、それが薄らいで眼を開けれる様になってから、あの人はいなくなってしまった。

 

最初は、望は飛龍を見送ったから下の階に行ったと思い、私もそうと決めつけ何の違和感も持たずに、下へと降りて行きました。きっと飲み物でも飲んでいるのでしょうと、安易に考えていたのです。

 

でも、其処からでしょうか。私がこの違和感に気がついたのは。

 

「あ、姉ちゃん。おはよ。パンならいまトースターの中に入ってるよ」

 

まず最初の違和感は、若葉ちゃんから発せられた声でした。私はその言葉に耳を疑い、顔を驚かせます。

 

「え、いま若葉ちゃん。姉ちゃんって言ったの?」

 

「え、うん。姉ちゃんは姉ちゃんじゃん。何言ってんの?いつもそう呼んでるし?お姉さまとでも言ってほしかった?」

 

そう茶化してきますが、若葉ちゃんは何時も、私を龍子ちゃんと呼んでくれている筈です。それに勘違いと言った事もあり得ないでしょう。そもそも七星家に姉の存在はなく、望と若葉ちゃん、おじさんとおばさんの、四人の家族構成だったはずです。

 

「え、えぇ…。わ、若葉ちゃんにはお兄さんがいるじゃない。素敵なお兄さんが…」

 

「そうだねぇ。かっこいいお兄ちゃんがいれば、私も嬉しいけどねぇ。ま、夢の続きなら二度寝でやってよ。なんか今日の姉ちゃんおかしいよ?」

 

そう若葉ちゃんは私に対し気味悪そうに言うと、興味をなくしたようにもぐもぐと、パンを頬張ります。

 

「え、ええ?何?どうなってるの?望は…何処に?」

 

段々と、私は頭が混乱します。若葉ちゃんの、この自然と発した言葉に、嘘はないと感じてしまったのです。私は居ても立っても居られなくなって、家中を隈なく探し始めます。お風呂に、トイレに、親御さんの寝室までもです。

 

でも、望は何処にもいません。むしろ途中に、おじさんからは「どうした龍子?」とか、おばさんから「何焦ってるの?龍子」とか言われ、もう意味がわからなくなりました。それに、おじさんとおばさんは、まるで私が本当の娘のように、接してもきました。

 

「どこ…?何処なの…?」

 

それでも私は、望を探し始めます。今度は庭にも出て、車庫も車の中も、ともかく探します。全身に巡る、この嫌な予感が、認めたくない私の思いを突き動かしたからです。

 

「あ、そ、そうだ!電話…電話をかければ!」

 

そう思い立った私は、自室―と、言うよりは望の部屋へと戻り、携帯を取り出して電話を掛けようとします。でも、電話帳の一番上にある筈の望の名前は、まるで初めからなかったかのように、記されていません。

 

「どうして!?どうして無いの!?何で!?」

 

こうなったら、直接打ち込むしかないでしょう。私は望の電話番号を打ち込んで、電話をかけました。

 

数刻の間、プルルと電話のコール音が鳴ります。そして、ぶつりと応答する音が聞こえました。

 

「あ、もしもし望!?いま何処にいるの―」

 

応答したと思いましたが、私は聞こえてきた言葉により、思わずぶらんと腕を力なく降ろします。応答したと思ったのは、間違いだったのです。『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』と、そう聞こえてきたからです。

 

私は、その場でへたり込みました。何故なら、嫌な予感が当たっていた事を、突きつけられたからです。

 

そう。望はこの世界から忽然と姿を消してしまった。つまり私を置いて、向こうの世界へと飛ばされてしまったのだと言うこと。

 

「何かの間違いよ…どうして…?どうして私だけ置いて行かれたの!?」

 

部屋の中でうずくまり、私はぼそぼそとつぶやきます。だって、おかしいよ。あの人は、私を置いていくほど、薄情な人だったの?もしかして私に飽きて、飛龍と駆け落ちをするつもりだったの?そんなの、そんなのひどすぎるよ…。

 

私はだんだんと、だんだんと嫌な考えばかりに思考がめぐってしまいました。でもわかっています。望は、そんなことをするような人じゃないことを。

 

私は顔を上げました。そうだ。きっと何か事情があるに違いない。落ち込んでいても、何も始まらないんです。どのような理由であれ、私はそれを聞く必要があるでしょう。

 

「…そうだ。そうよ。なら望がやっていたように…」

 

私は顔を上げると、望が使っていたパソコンへと目を寄越します。でも、望のパソコンは、いつの間にか電源が切れていて、鏡のように私の姿を、映していました。

 

 

 

 

プルルルと電話が鳴ったのは、おそらく正午頃だろう。俺こと、菊石統治は、その時夕張と共に、先日特許申請を行った発明品に、手を加えていたっけか。

 

「あれ?統治さん。電話なってますよ」

 

夕張の声に、俺は「おっ」とつぶやく。スマフォの画面には、『蒼龍』と記されていた。

 

「おおん?珍しいこともあるもんだな。蒼龍からだぜ?」

 

そう、俺は夕張にスマフォを見せると、夕張も少し驚いた表情を見せた。何用かは、応答しなければわからないだろう。

 

「はい。菊石ですが」

 

そう返答すると、何故か蒼龍は『あ、あの…七星龍子ですけど…』と返してきた。最初耳を疑ったよホント。だってよ、七星の妹か?とか思わないか?こういう場合な。

 

「えーあー。何言ってんだ蒼龍?え、なに。籍でもいれたか?」

 

そう茶化してみると、なんとも可笑しなことに、『え、私がわかるんですか?』と返してきやがった。どうも、様子がおかしいと見える。

 

「そらわかるだろ。だって俺の携帯には『蒼龍』って登録してるの、お前も知ってるだろ?まあ使うことはないだろうとは思っていたが、なんだ?七星に何かあったのか?」

 

『え、あの…と、統治さん…今なんて?』

 

「ハァ?いやだから七星に何かあったって…」

 

『その七星って、その、望の事ですよね?あ、望が…七星望が、わかるんですよね!?』

 

嬉々揚々と言った声か。ともかく蒼龍は心底嬉しそうに、七星の名前を連呼してきやがる。んー。いたずら電話…ってわけでもないだろうな。やっぱりどうも、蒼龍の言っていることがおかしい。

 

「あたぼうよ。なんなら証拠だ。彼奴と知り合ったのは中学時代。あいつは剣道部で後輩同期、あまつさえ先輩にもその暴力的且つ豪快な剣技で恐れられていた奴で、同学年でも結構有名だったか。高校に上がった途端に良い師とであったらしく、それは一気に払拭。誠実で鋭い、スポーツとしてではなく、剣術として学ぶようになっていったらしい。あと重度のガノタで、好きな機体はジム・ガードカスタム、それとジムスパルタンだったか。あとそうだな…ぐっへへ。そうだ意外にもよ、幽霊とかホラーゲーとか、苦手で、ヘルブラの家で奴らがホラゲプレイしているとき、びくびくしてた結構ビビリなやつでなぁ…あの時のビビった顔がぐっへへへ、これが面白いのなんの―」

 

夕張に「ひどい事言いますね」と指摘されつつ、そう列挙してくとだ。急に電話越しから、『うううううう』と泣いているような声が聞こえてきた。なに?どういう事?おちょくりすぎたか?

 

「えっとだな…。なあ蒼龍。どういう事かきちんと説明してくれや。まずなんで泣いてるんだお前さんよぉ」

 

蒼龍の返答を待って数刻。涙交じりであろう声が聞こえてくる。

 

『望が…望がいなくなっちゃったんですぅ…。うう…それで、司令窓を開こうとしても、うう…わかんなくて…雲井兄弟の方々や、キヨさんに電話かけたら…私のことを七星龍子として認識してて…望のことを聞いたら『誰だそいつ』って言われて…もうダメもとで統治さんに電話をかけたら…ううううう。お、覚えていでぇええ…』

 

水をため込んだダムが決壊するが如く、蒼龍は大泣きをし始める。が、七星がいなくなったと供述する蒼龍に、俺は耳を疑った。

 

「な、何言ってんだ?七星がいなくなっただァ?それに、ヘルブラもキヨも、知らねぇってか?…は?え、あ、は?意味わからねぇ」

 

ともかく、これは一度会ってみなければわからない。蒼龍の事もそうだが、七星の事も気になる。あと、七星の存在を、ヘルブラやキヨが、知らねぇってのも、ちょっとおかしいぞ。そんなクソつまらない冗談を言う様な奴らじゃないからな。

 

「蒼龍。今から家来れるか?ってわかるよな家。ヘルブラの家の近くにある、町工場っぽいとこを見つけたら、そこなんだが…」

 

『ううう…はいぃ…わかりますげどぉ…』

 

どこぞの号泣会見をように、泣いていてちょっと何言ってるか聞き取りづらいが、一応家はわかってるらしい。

 

「よし。とりあえず家来い。パソコンをもってな。そうすればおそらく、色々わかるだろう」

 

そう言うと、俺は電話の電源を切る。何が起きたって言うんだ?司令窓って確か、艦これのブラウザの事だとは聞いたことあるが、なぜ彼女はそれを開こうとした?

 

「どうしたんです?蒼龍さんからなにか?」

 

どうやら考え込んでいたところを、夕張に不審に思われたらしい。と、言うか念のために聞いておくか。

 

「…なあ夕張。お前七星望って名前、誰かわかるよな?」

 

「え、何いってるんですか統治さん。蒼龍さんのお婿さんでしょ?あ、まだ気が早いか。あははー」

 

 

 

 

統治さんに電話をかけてから三十分すぎたあたりでしょうか。私は何とか、統治さんの家である、菊石町工場へとたどり着きました。

 

そういえば、統治さんの家へと来るのって、初めてだと思います。いつも集まる場所は、ヘルブラザーズさんの家でしたし、それが普通だったからですね。それも、今後どうなるんだろう…。

 

「おっす。来たな。ずいぶんと時間がかかったみたいだが…そういえば蒼龍。お前車運転できないんだったな」

 

そういいながら、統治さんは私を家へと入れてくれました。部屋に入ると、工廠とかで聞いたことのあるような、溶接をしているでしょう音や、何かドリルなどを回すような音も、かすかに耳へと入ってきます。

 

「こっちこっち。俺の部屋にカモン」

 

そう階段の上で統治さんは手招きをしてきます。いけない。今は関心してる場合じゃないのに。私は手招きに従い、階段を上っていきました。

 

統治さんの部屋は、望の部屋と違って綺麗に整頓されています。そういえば、望が依然言っていたけど、統治さんは綺麗好きなんだったけ。

 

「あ、蒼龍さんどうもー」

 

夕張ちゃんが、ベッドの上で正座しながら、手を振ってきます。え、もしかして共同ベッドだったり?望は流石に…とか言って分けたけど、ちょっとうらやましいかも。

 

「…念のために言うぞ。俺は地べたで布団敷いて寝てるからな。夕張にベッドを使わせてる。おまえんちもそうだろ?まさか七星の野郎、一緒に寝てるとかか?」

 

「あ、いえいえ。私も同じく、ベッドを貸してもらってました。あはは…」

 

どうやら思い違いだったみたいです。そうだよね。だって現代っ子は、結構奥手だって、望言ってたし。

 

「さてと…とりあえず座ってもらって構わんよ。むしろ、色々聞かせてほしいもんだ。七星に何があったんだ?」

 

私は、今日の朝に起こったことを、事細かに説明しました。本当は、大雑把に説明しても伝わるかもしれませんけど、気を紛らわせるために、そうするしかなかったんです。

 

「んんん…要するにだ。七星は向こうの世界に飛龍と共に、飛ばされたかもしれないってことか。…だが、だからと言ってなんでヘルブラや、キヨは七星の野郎をしらばっくれたりしたんだ?いや、むしろだ。蒼龍の事を、何故わざわざ七星龍子と呼んだんだろうかね」

 

メガネをくいっと持ち上げて、統治さんは疑問を投げかけてきます。私にもわからないですよ。むしろヘルブラさんもキヨさんも、まるで私を七星龍子と呼ぶのが、当たり前のようでしたし、私だって理解できてません。

 

「まあわからないよなぁ…。夕張、お前は何か閃かないか?」

 

「えーここで私に振ってきます?うーん可能性があるとするならば…」

 

そう、夕張ちゃんは腕を組み、頭をかしげます。そして、ものの三分ほど考えたあたりで、夕張ちゃんはハッと顔を上げました。

 

「お、何か閃いたのか?」

 

そういう統治さんですが、対して夕張ちゃんは、途端に顔をしかめました。え、どうして?

 

「…いや、もしかしたらですよ?今から仮説の話をします。いいですね?」

 

どこか険しい表情の夕張ちゃんの気迫に、私はおずっと身を引いちゃいます。でも、統治さんはそんな私の事をお構いなしに、「続けろ」と話すように促しました。ま、まだ心の準備ができてないのに…。

 

「蒼龍さんも、いいですか?」

 

そう思っていると、夕張ちゃんが気にかけてくれました。こうなったら、もう聞くしかない。その為に、こうしてここに来たんだもの。私はゆっくりと頷きました。

 

「はい。ではですね。まず本来あったものが無くなったら、別のもので代用しようとしません?たとえば軍艦の話ですけど、まずAの砲手がいるとします。Aの砲手が突然病に侵されて、Aの主砲が撃てなくなってしまった場合、代用として同乗している誰かをAとして立てますよね?つまり七星さんと、蒼龍さんが同じ家に住んでいて、七星さんが突然、この世界から姿を消してしまった。死とか、そういう問題じゃなくてです。七星さんの存在そのものが、消えてしまったわけですね。すると、世界は歯車をかみ合わせようと、七星さんの代用として偶然にも一番近い場所にいた蒼龍さんを、七星さんの代わりとして立てたんじゃないでしょうか?」

 

その、夕張ちゃんのあまりにも壮大な仮説に、私はポカンとしてしまいました。え、つまり、私は望になったってこと?

 

「…蒼龍。お前ヘルブラとキヨ、あと七星の妹や両親以外の誰かに、あいつの存在を確かめたか?もしだ。もし、夕張の仮説が正しかったとしたら、おそらくお前は七星の代わりとして、この世界に立たされてるんだろう。…だがまてよ?もしそうだとしたら…なぜ俺と夕張は、記憶が改ざんされてないんだ?」

 

その疑問は、私も抱きました。もし夕張ちゃんの仮説が正しかったら、おそらく統治さんも夕張ちゃんも、私の事を七星龍子として認識しているはずで、私の事を航空母艦蒼龍として見ないはずです。そうなると流石に、私もあの場から立ち直れなかったでしょうが…。

 

「うーん。要因としては、言い方が悪いですが世界にとっての不純物を抱えているからじゃないでしょうか?そう、たとえば私ですね。私は本来、この世界には存在しない存在で、世界のバグ?とでも言うんでしょうかね。そのおかげで、こちらに来れてますし。…でも、それはどうなんだろうなぁ…。そうなったら私以外は、覚えてないってことになるだろうし…」

 

「ひょっとして、統治さんが提督だからじゃないですか?夕張ちゃんの提督だから、その影響を受けなかったとか…私、メルヘンな事いってるかなぁ…?」

 

だんだんと自身が無くなってきます。でも、そうとしか考えられないじゃないですか。だって現に、夕張ちゃんもそんな統治さんに会いたくて、こっちに来てるわけですし…。

 

「いや、その説はもしかしたら当たってるかもしれません。むしろ、そう説明した方が、自然なのかもしれません」

 

「そりゃなんでだ?まさか俺、寝てる間に改造でもされたのか?ロケットパンチとか打てるようになってるのか!?」

 

そうおどけて見せる統治さんでしたが、夕張ちゃんは「黙っててくださいね」と冷たくあしらいます。あははーずいぶんと進展してるんだろうなぁこの二人も。

 

「まあ統治さんを改造はもちろんしてませんけど、ある意味ではそう解釈してもいいかもしれません。蒼龍さん、思い出してみてください。こちらの世界に来る際、どんなことを思いましたか?」

 

「え、それは…。の、望に会いたくてたまらなくて、ただ切に願ったかなぁ…?」

 

「やっぱりですか。もちろん、私も同じように願ってこちらに飛んできました。おそらく、それが要因でしょうね。まず大前提として此方に来る際には、次元の障壁を越えなければなりません。その為にもより確実にこちらへ飛ぶためには、こちらの世界の座標を指定しなければならないわけで、その座標指定者であるのが統治さんや、七星さんなわけです。つまり指定された人物は、すでに非現実的な何等かを受け、すでに現実の輪から外れてしまったのでしょう。たとえ、日常生活に支障がなくともです」

 

すらすらと説得力のあることを言う夕張ちゃんに、私はまたもやポカンとしちゃいます。あれ、私の方が年上だよね…あれ?あれれ…?

 

「ゆ、夕張ちゃんすごいね。そんなにも難しい事、すらすらわかるんだ」

 

「え、いやーあくまでも仮説による仮説ですけどね。そもそも証明にまでは、至らないわけでして、まだ本質を突いたとは言えないでしょうし…」

 

とは言うけど、夕張ちゃんはちょっと照れた様子を見せてきます。やっぱり褒められれば素直にうれしい年頃なんですね。

 

「ともかく、それを立証する必要があるな。俺はみんたくに連絡を取ってみるが…。蒼龍、お前は大滝…だっけか?そいつに連絡頼む。鳳翔がお越ししたって言う、七星の友人にな」

 




どうも。飛男です。不定期不定期。そんなわけで投稿速度がランダムですねw

蒼龍視点では、こんな感じになっています。いうなれば、望の存在が消えたことで、世界がつじつまを合わせようと記憶を改ざんした感じです。

もう少し望が鎮守府での立場を確立させてから投稿しようと思ってましたが、さすがにそれでは蒼龍ヒロインなのにどうなんだろとか思って、前倒しました。こっちもこっちで、動かすキャラの固定化が成されてく事になるでしょう。

それに今回は少し、中途半端な感じで切ってます。何と言いますか、おそらく霧のいいところまで書くと1万は確定的に超えると思ったんで、切れるとこで切っておいた感じです。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう!


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これから、どうするか。

だいぶ間が開いて申し訳ないです。


 統治さんに言われた通り、私は大滝さんへと連絡をします。三回ほどコール音が響き、四回目が鳴っている途中、ガチャリと耳元で音がして、渋い男性の声が耳に入りました。

 

『はい、もしもし。大滝です』

 

「あ、大滝さん!蒼龍…ですけ―あ、いや、七星龍子ですけど…」

 

そう私が答えると、暫し間が空きます。夕張ちゃんの憶測は、早くも勘違いにだったの?と疑問が過ぎった否や、低く笑い声が聞こえてきます。

 

『お?結婚おめでとうってことか?いやはや、まだ俺は気が早いと思うがね蒼龍。俺達だってまだ、そんな話は出てないのによ』

 

へっへっへと笑いつつも、答える大滝さん。そ、そう捉えちゃっいましたか。悪い気はしませんが…って―

 

「え、えぇ!?い、いえいえそんな。私たちもまだまだ、そんな話は出てないですよぉ!?と、言うかカッコカリならしてますけど…結局はまだ仮約束なんで…って、あ、でも仮からはもうやめようと、望には言われましたけどぉ…」

 

『あーわかったわかった。わるかったよ。途中からノロケ言われても困る。冗談だよ、冗談。まったくおっちょこちょいなやつだな。で、珍しいな、七さんからじゃなく、お前本人から電話をかけてくるなんて』

 

その口ぶりからして、大滝さんも望を覚えていたようです。これで夕張ちゃんの憶測は的中したのかな?でも念のため、確認したいと思います。

 

「あの、七さんって望の事であってますよね?」

 

『それ以外に誰がいる?あっれ?俺、お前の前で七星の事を、七さんって呼んでたよな?』

 

さも当たり前のように言う大滝さんに、私は思わず安堵の息を漏らします。そんなため息が大滝さんにも聞こえているので、やはりと言うべきか、彼は疑問を投げかけてきました。

 

『どうした蒼龍?七さんに何かあったのか?』

 

「えっと…そうですね。まず順を追って説明しますが…」

 

私は大滝さんに、現状起きてしまったことを伝えます。望がいなくなってしまった事。それに応じてか、望の存在と記憶が改ざんされてしまった事。でもこちら側へ来た艦娘によって座標指定されてしまった方は、記憶改ざんが行われなかった事。すべてを伝えました。

 

大滝さんはしばらく黙りこんでいましたが、やがて口を開きます。

 

『本当の事なのか?奴の言葉を借りると、地元メンツの奴らが口裏を合わせておちょくってる訳じゃないのか?』

 

「いえ、それはないと思います。私の事を七星龍子として認識しているみたいですし、第一に望の家族ですら、私を娘だと認識しているようで…」

 

『ああ、だからお前、そう名乗ったのか。ふむふむ、なるほどな』

 

意外にも冷静さを保ちつつ、大滝さんは理解しようとしています。いえむしろ、冷静になろうとしている様子かもしれません。彼の声量が、さらに低くなっていますし。

 

『ともかく、連絡を取ってみる必要があるだろう。PCを開いてみたか?』

 

「いえ、それがまだ…。と、言いますか望のPCが開かないんです」

 

丸に棒の刺さったマークを押しても、望のパソコンはうんともすんとも言いませんでした。電源もちゃんと刺さってますし、動かないはずはないのですが…。

 

『なに?…奴が向こうに送られた際に、壊れたのか?…じゃあお前のサーフェイスではダメなのか?ってそうか。そもそもログインすらできないのか。と、なると…』

 

そう言い残し、大滝さんは再び黙り込みます。司令窓を開くためには、パスワードとアカウントが必要でどなたのパソコンでも現状開けないですし、八方ふさがりの状態です。

と、そんなことを思っていると、大滝さんは「あっ」と言葉を漏らし、再び喋り始めます。

 

『そうか…その手段があるな。おい蒼龍。お前確かメール遅れたよな?鎮守府によ』

 

大滝さんのその言葉に、私もまた「あっ」と、言葉を漏らしたのでした。

 

 ☆

 

さてさて、間もなく昼食を取る時間帯へと突入をするが、いまだ外ではわいのわいのと駆逐艦やら、軽巡の訓練中であろう声が、執務室の窓を通じて聞こえてくる。

 

現在、俺は執務室で待機中の身。すでに加賀と武蔵は退室をしている。退室したのはもう、一時間ほど前になるね。ちなみに女神さんは何故か残っているけど、気を利かせ話し相手になる事もなく、机の上でお昼寝中のご様子。頰を指でつつくとまるでマシュマロを突っついているようで、まあ愛らしい事。噛みつかれそうになったのは、内緒の事。

 

それでだ、武蔵と加賀が退室し、俺が一人でいる理由はごくごく単純。出れないこともあるが、武蔵と加賀にある依頼をしたのが大きい。あ、明石は普通に帰ったけどね。

 

長ったらしいが、まず順を追って詳しく説明していく。

 

今後どうこの鎮守府で過ごしていくのかも決めたことだし、それをスムーズに行う為にもまず、鎮守府内に俺がリアル着任したことを全員に知らせる必要がある訳で、要するにそうしなければ、自由に動けないのは言うまでもない。しかしながら、サプライズ的なやり方はもちろん悪手だろうし、現状俺がいる事を知っている艦娘達に他言無用としているのも、混乱を招かない為だし、結果的にサプライズだとそれでは何のためなのかって話になる。そんな訳で武蔵にこう頼んでみた。

 

「武蔵。今度は昼飯時に、俺がリアル着任したことをどうにか全員に伝えてほしい。あくまでも、口頭だ。俺はついていかない」

 

昼飯時には、文字通り多くの艦娘が昼食を取りに来る時間帯。小学校や中学校みたいに一同集合することはないにせよ、多くの艦娘が一斉に集まる頃合いだ。おそらく俺が此方に来るであろうと言いった、憶測は既に広がりつつあるはず。それにうぬぼれじゃないけど他愛ない話のネタにもなっていると思う。まあ浸透してなかったとしても、その事実だけは朝礼に出席をした艦娘なら、確実に把握はできているわけだ。

 

もちろん、そんな数時間の内にと思うだろうけど、鎮守府はあくまでも閉鎖空間。つまり学校でウワサが広がる感じと、さほど変わりないはず。

 

そうしたことを踏まえて、今度は口頭で俺が着任したことを知らせ、多くの艦娘にその事実を浸透させる。朝礼からのスパンは言わずと短いが、それを聞いた艦娘の大多数は『朝礼でそう話したのは、朝からその準備行っていた』と言った憶測を、ぼんやりと立ててくれるだろう。そうなれば、無論その速さ故にどよめきは起きるにせよ、すんなりと受け入れる事が出来るのではないかと、考えた訳だ。

 

もちろん、あくまでも憶測からの進行だ。うまくいくかの保証はない。それに客観的に見れば結局御託を並べても、『急に提督が此方へ来た』と見えるのも、理解はしている。でもいきなり目の前に現れ、提督だと名乗るよりは、はるかに混乱も少ないはずだろう。

 

どちらにせよ覚悟期間は長い方がいいと思うが、俺自身の存在を数日の間隠し通すのは、武蔵や加賀や明石以外にも見られている事から、信用してないわけではないけど無理があるとも思う。だからこそ、思い切って来たことを明かしてしまえば、うっかり口を漏らすこともなく、今後起こる混乱も少ないはず。もう初霜のように、叫ばれるのも勘弁してもらいたいしね。かわいかったけどね。

 

これらの思惑を孕み、その意図を話すと武蔵は納得し、快く引き受けてくれてた。もっともこうしなければ、俺が自由に動けないこともわかっているはずで、それに彼女的にも最悪の展開には、ならないと踏んだのだろう。よき判断に感謝。流石は武蔵だ。

 

さて次に、加賀にはまた別の頼みごとをしてみた。おそらく順当にいけば、もうそろそろ顔を出す頃合いだろう。

 

と、まあそう思っていると絶妙なタイミングともいうべきか、執務室をノックする音が聞こえてくる。ノックの回数は二回、間を開けもう三回叩かれる。すなわち、俺が加賀に頼み、こう叩くよう指示を受けた人物だ。

 

俺は机を離れ、そっとカギを開ける。ガチャリと音が聞こえたからか、扉はゆっくりと開いた。

 

「早く入ってちょ。まだ、ばれちゃいけないから」

 

そう俺が言うと、薄黄色の着物に身を包んだ艦娘―まあお察しかもしれないが、飛龍が姿を現した。おおう、入るや否や表情はむっとしているな。

 

「…言いたいことはわかる。その、仕方なかったんだよ」

 

いきなりの謝罪から会話が始まるが、これが事実だからどうしようもなかったのだ。俺は確かに飛龍と約束を交わしたが、故意ではないにせよ、破ってしまった。

 

「…私もそこまで分からず屋じゃないけど、やっぱり少しはむっと来ちゃうから。これも、仕方ないわよね?」

 

そう言葉を交わすと、俺は書斎机の椅子へと戻り、飛龍はその前で腰に手を当てる。

 

「事情は聞いたか?加賀に」

 

「聞いたわ。その…にわかに信じがたいけど、きっとそうなのよね?結論的に、その子が望君を連れてきちゃったってことでしょ?」

 

飛龍はそう、女神さんに視線を向けていた。一方連れてきやがった当の本人はすやすやと健やかや寝顔で、よく眠っていらっしゃる。まあ悪意がないし、こいつの所為って決めつけるのも、おかしい話なんだが。結果的にそうだから致し方ない。

 

「まあそうなる。で、理解してると思うけどさ、俺、帰れんのよ」

 

「うん。わかる。どうするの?ここで永住しちゃうの?直接指示出すの?」

 

「しません。帰ります。でも帰れない。要するに手を貸して。一番の付き合い長いやつ、お前だろ」

 

「いやです」

 

「そうか。じゃあ泣くね。君にしがみ付き、わんわん泣く。おうぢがえりだぁいってな」

 

そう俺が答えると、飛龍は「気持ちわるっ」とつぶやき、どこかあきれたような、致し方ないかといったような顔をした。

 

「はあ…。うん。わかってる。わかってますよ?私が適任だってこと。加賀さんや武蔵さんでもいいと思うけど、あの二人もどこか抜けてるしね…。ホントわたしだよねぇ…」

 

ため息を交えつつも、飛龍は納得してくれた感じ。やはり向こうの世界で一緒に過ごしてきただけあって、すでに彼女とは提督と艦娘の域を越えているだろう。仲の良い友人のような感覚を覚えるし、それは向こうも同じの様だ。

 

「それで、何すれば良いわけ?それはちょっと思いつかない感じ。あ、ひょっとしてこっちの世界で蒼龍の代わりになってくれーとかだったら、全力で断るから」

 

「え、それは困るわ。文字通り蒼龍の代わりになってほしかったんだが」

 

「え、ホントに?的中?と、いう事は蒼龍と同じように、望君とイチャイチャするの?私いやだなぁそんなの。と、いうか望君そういう人だったの?ショックねー」

 

そうは言う飛龍だが、心なしか顔はにやついている。面倒くせぇよ。あと、その点に関しては俺も願い下げなんで。飛龍に魅力がないとはもちろん言わないけど、いうなればもう眼中にはない。まあ贅沢な事言っているのは自覚しているよ。ただ、此ればっかりは仕方ない。

 

「君は本当にあっぱらぱーなんだなぁ。僕がそうすると思う?手籠めにすると思う?君は一か月間、僕の何見てきたの?」

 

「そうですねー。見てきたものは、自分の姉と見境なくいちゃいちゃする砂糖生産機かな?結構な人に甚大な被害を与えるレベルだったなぁ」

 

「お前さぁ…」

 

なんだか頭が痛くなってきた。飛龍の野郎ヘルブラザーズと出会って煽りレベルが確実にランクアップしてますね。しかも見せつけて無いと言えば、きっとその際は無意識だが嘘をいう事になるだろうし。否定し辛いのも事実。マジ厄介ですやん。

 

「まあ…おちょくってくるのはとりあえずスルーするが、ともかく。蒼龍の代わりってアレだぞ?秘書艦の事言ってるんだぞ?解ってる?」

 

「もちろん。途中から理解したよ?ああ、そういう事かな?って」

 

ぶい。とつぶやき、飛龍は指でVの字を作る。俺はお前の手の上で踊らされてるんだな。すっげぇ悔しいので顔をしかめておこう。

 

「あははーごめんね。いいじゃない遊んだって」

 

「うん…もういい。面倒だから話進めるけどよ、昼飯時に俺が着任したことを、武蔵が口頭で伝える事になっててな。おそらく全員ではないにせよ、大多数はこれで知ることになると思うんだわ」

 

「ふんふん。それで?」

 

一度謝ったからか、もうおちょくってくる事はせず、結構真剣に聞く姿勢を見せる飛龍。最初からそうしてくれないですかねぇ。

 

「…うん。でさ、それで晴れて俺は、ここから動けるようになる訳。だから、そうなったら鎮守府を案内してほしい。秘書艦の仕事なのかはわからんがね、どちらにせよお前が適任者だろ?」

 

「ですね。いいですよ?むしろ、望君がこっちに来たら、私が秘書艦じゃないとダメだと思うし。こう、姉妹的にさ。姉を気遣う妹としてね」

 

どういう意味だ?姉妹的にっておそらく同型艦とかそういう類の話だと思うが、蒼龍を気遣うってのはよくわからん。

 

「なーんでそんな不思議そうな顔してるの?」

 

と、そんなことを思っているとどうやら顔に出ていたらしい。飛龍はわざとらしく、むっと表情を歪ませる。

 

「文字通り不思議だからですかね。気遣い?どゆこと?」

 

そう何気なく言うと、飛龍はため息を吐く。え、なに?俺変なこと言ってるか?

 

「うーん。まあそういう反応すると思ったけどねー望君は。でもそれなら、心配はなさそうかな。悪い所が、良い風に作用すると思うし」

 

飛龍の指摘に対し、ふと思い出したことがある。そういえば、以前二人っきりで話した時も、これが原因だったはずだ。

 

「え、ちょっと待って。つまりよ、俺に好意を持ってる艦娘が、他にもいるってわけ?」

 

「お、すごいじゃん望君。成長したね!」

 

バカにしてんのかコイツ。とか思ったが、まあ口には出さない。むしろ的中したので、苦笑いが込み上げてくる。

 

「うへぇ…マジかよ。自分で言うのもなんだが、いったい何に惹かれるんだ…?マジ理解不能。これまで俺、女子にはまるで人気がないような男だったのに。どういう事だ?」

 

「んー。まあアレじゃない?私や蒼龍は純粋に違ったけど、他の子が望君に好意を持ってる理由は、提督だからだと思うよ?」

 

そう指摘する飛龍に、どこか納得が行く。まあなんだ、巷で言う提督ラブ勢とか言うやつらだろう。そう考えるとこう、あれですね。すごく納得できるし、同時に厄介事が起きないことを、切に願うよ。ホントね。




どうも、飛男です。
卒論は提出できました。やりました。って、じゃあなぜこれほど投稿が遅れたのかは、解放されて遊んでました。すいません。グラブったり、柱をバキバキに折り曲げたり、惑星探索をしたり、狙撃銃で遊んだりと、まあいろいろやってました。

さて本編の話題にしますが、まず望視点の場面がかなり字の文だらけになっていますね。説明調になってしまい、申し訳ないです。ですがこうしておかないと、きれいにまとまらないなぁと思い、つらつら書いていくうちに、ここまで多くなってしまいました。

今度の投稿はおそらく年明けになると思います。ではみなさん、また次回お会いしましょう!よいお年を!


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どうやら、半々らしい

遅れながら、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
なお、瑞鶴は好きです。


時刻は既に昼を過ぎようとしている。武蔵が頼んだ通りに伝えてくれさえすれば、そろそろ自由行動できるだろう。しかし飛龍の口ぶりからしていわゆるラブ勢が顔を出すかなーと思っていたんだけど、案外そんなこともないようだ。

 

そういう所は礼儀として、ちゃんとしているのだろうかなと思いつつ、窓をボケっと眺めていると、飛龍にも伝えた暗号的ドアノックが聞こえてきた。おそらく武蔵か加賀のどちらかだろう。

 

「飛龍さんや、あけておやり」

 

「自分で開ければいいじゃーん」

 

飛龍は近くのソファで寝そべり、足を交互に上げ下げしながらくつろいでいる。キミこっちでもそうなのね。恥じらいもなくなってるってことは、アレだ。もう異性として見られてないんだろう。うれしいのやら悲しいのやら。微妙な気分。

 

まあどうせコイツの事だし動くつもりもないようなので、しぶしぶ扉を開けに行く。カギをガチャっと開錠すると、ゆっくりと扉が開いた。

 

「お、うまく行った感じ?」

 

誰かも確認せずに聞いたのは失敗だっただろう。中に入ってきたのは、大淀だったからだ。どうやら何かを伝えに来たっぽい様子。

 

「えっと、うまく行ったとは?」

 

「なんでもない。で、どうした?てかなんでノックの回数とか知ってるのさ」

 

そう聞くと、大淀は微笑みながら人差し指を立てた。

 

「武蔵さんから伝言ついでに聞きましたので。それで、それとは別件も報告しに来ましたので」

 

「へぇ。別件。もしや資材云々かんぬんとか?」

 

「いえ、その件に関しては気にしなくても結構です。そもそもかなりの量を備蓄してますからね。それに高速修復材も、それなりの量が備蓄済です。ですので、御気になさらず」

 

すらすらと言葉を並べる大淀に感心しつつ、とりあえず部屋へと入ってもらう。深読みしてアレだが、なんとなくおめぇにはまだ提督的な事するのは早いって言いたいのが察せるね。

 

今回は書斎机まで足を運ぶのが面倒なので、飛龍をどかしてソファへと対面するように腰を掛けた。飛龍がぶーたれたのは、言うまでもない。

 

「さて、本題に入る前に、一つ聞かせてください。存在をこんな早期に明かした理由は?」

 

そういえば大淀は、こっちに俺が来ていることを、武蔵に聞くまで知らなかったのか。おそらく驚いただろうが、まあ来れる云々の話が浸透して、どこまで驚愕を抑えれたのか、ある意味今後の参考として大淀から読み取れるかもしれない。

 

「んー。まずはじめにさ、驚いた?」

 

「ええ、とっても。ですが近々こちらにいらっしゃる事は朝礼の際に聞いていたので、早すぎではないでしょうかと、思ったくらいですね。混乱することは、ありませんでした」

 

絵に描いたような答えだなオイ。それはともかく、貴重な意見が聞けた。すべての艦娘がそう思っているかは当然違うだろうけど、割と頭の良いやつはこう捉えてるはず。うん。

 

「なるほどなぁ。で、理由だっけか?まあアレだよ。そもそも―」

 

後はかいつまんで説明をすると、大淀はふむふむと頷きながら、話を理解していく。

 

「なるほど。つまり今後の事を考えて、早急に事実を広めたと」

 

「そうそう。武蔵も加賀もこれには同意してくれてな、えっとそれで…うまく行ってた?」

 

少々ビクビクしながら聞いてみると、大淀は顎に手を当ててうなり始める。アレ?もしかしてマズッた感じ?

 

「まあその、きっと大丈夫だと思います。確かにラウンジは騒然としましたが、驚きのあまり混乱した様子はなかったと思います。いえ、むしろ提督が此方に来た割には、半分は歓喜の声で、もう半分は特に興味なしと言った所でしょうか。だから安心してかまわないと思いますよ」

 

おおう、そうだったのか。まあ武蔵が良くやってくれたと思っておこう。しかし歓喜の声を上げてくれたのって、どんな奴らだろう。ラブ勢は含まれるとして、他が気になる。

 

「うん。サンキューな。唐突だが…とりあえず今から外出しても大丈夫そうか?」

 

「え?ええ、きっと。もうあと十分ほどで昼休憩も終わりを迎えますし、邪魔さえしなければ良いと思いますよ。それと、本日休暇としている艦娘もいますので、そうした方とは普通に鉢合わせるでしょうね。別件はそのあとにしますか?」

 

「んーまあそうしてくれ。すぐ戻ると思うし」

 

別件ってのも気になるが、まずひとまず外に出たい。つうか休暇制度もあるのか。まあ月月火水木金金みたいな考えはもう古いとかなんだろうね。…ますます時代がわからんことになってるが。カレンダー執務室にないんだよなぁ。

 

「しかしまあ、やっと外に出れるわけか。なんかすげぇ長かったわ…」

 

「よかったね。で、どこ行くつもり?ひとまず案内はするよ?」

 

「そうだな。とりあえず」

 

飛龍の問いかけに俺はソファから立ち上がると、苦い笑いを思わず浮かべる。つうか、最初がコレってまあ何とも情けないが―

 

「トイレってドコ?」

 

 

 

 

「そりゃそうだよな…一階にあっただけでもマシか…」

 

とりあえず執務室から出た俺は、庁舎一階の端にある客間室の直ぐ近く、古びた男子トイレに行くことに成功し、階段付近まで戻ってきた。なお、当たり前だが飛龍はついては来なかった。むしろついてきたら全力で断るが。

 

しかし執務室から初めての外出がトイレってなんとも情けない。つうかまず、遠すぎる。執務室は四階の右端にあって、そこから一階まで下り、左端にある客間室の方向まであるかなきゃならないっていうね。そらまあ俺が来るまでは鎮守府なんてほとんどが女性なわけで、女子トイレしかないんだよね。無論ヤバイからって入るわけにもいかんし。もう四階にも男子トイレの設置、妖精さんに頼めないかなぁ?

 

「しかしまーた階段を上らなきゃならんのか」

 

目の前の階段を見て、思わずため息が出る。こう、学校の階段って地味に疲れるよね。あんな感じの気分。別に体力がないわけではないが、気持ちの問題。

 

「んー、つうか別件ってなんだろうか?」

 

階段に足をかけて、ふと思う。おそらく先ほどの大淀が話していた内容は、武蔵の件だろう。話の内容からして作戦成功なのは間違いないだろうが、大淀の反応を見ると歓迎と不歓迎の半々と言った感じだった。まあそうだよな。全員が歓迎するわけもないし。

 

「提督?」

 

と、そんなことを考えてる矢先に、ふと後ろから声を掛けられる。あ、やべぇ誰だろうか。

 

「あ、ああ。なんだ加賀か…」

 

振り返れば加賀が、腰に手を当てて立っていた。あぶないあぶない。普通に事情を知ってる艦娘で良かった。

 

「いや、ちょっとトイレに行っててな。お前は?」

 

「ああ、そういえば一階にしか、男子トイレはないわね。私は―」

 

加賀が話をつづけようとすると、加賀とは違う、別の女性の声が館内に響いた。

 

「あ、加賀さーん」

 

「ん、その声、瑞鶴か!」

 

「え、提督さん?提督さんなの?」

 

瑞鶴もどうやら俺を視界に入れたらしい。見下ろすのはなんか感じ悪いだろうし、ひとまず階段を下り、加賀の近くへと歩む。

 

「何の用?」

 

まず加賀が、瑞鶴に対して言葉を投げかける。しかし、読んだ割には瑞鶴は、大げさに肩をすくめた。

 

「いや別に?見かけたから声かけただけよ。それにしても、提督さんってどこにいるんだろうなーとか思ってたけど、庁舎のいたのね。へぇ間近でみると…」

 

そういって、加賀の近くまで合流した瑞鶴は、俺をまじまじと見つめる。いざマジマジとみられると、恥ずかしいな。提督服も、まだ着こなしてはいないだろうし…。

 

「ふうん。あんまりかっこよくないなー。なんと言うか頼りない感じ。蒼龍さんも見る目ないなー。眼科行った方がいいかも」

 

と、強烈な一言。わるうござんしたね。つうか俺の事はいいけど蒼龍を小馬鹿にするのは許せないなぁ、と内心思う。まあそんなことを言うと、大井ほどではないにせよ、キーキー言われそうなんで言わないですがね。

 

「フッ。そういうあなたも眼科へ行きなさい。顔はどうあれ、頼りないとは思わない事。彼はやる男よ」

 

内心不服感を抱いていると、加賀が急に鼻で笑い飛ばした。どうやら加賀は味方してくれるらしい。でも過大評価だと思うんですけどぉ。つうか信頼してくれてるのか?今後の事を見越して期待とか含んでるのか?むしろそれに押しつぶされそうなんだけどなぁ。

 

「はぁ?だって提督って言っても、結局は民間人上がりじゃない。そもそも海軍の方針で、美形じゃなきゃ採用されないんでしょ?」

 

そう突っかかる瑞鶴。異を申し立てるとこそこなんだ。いやまあ確かにそうだったらしいですね、旧日本海軍って。と、いうか美形じゃなくてすいませんね。どうせ老け顔おっさんですよ。

 

「…それもそうね。そこはあなたの意見を尊重するわ」

 

「あのー加賀さんもう裏切っちゃったの?ひどくない?つうか瑞鶴厳しくない?」

 

そろそろ物申したくなりますよ。つうか瑞鶴を見る限り、余り俺に対して友好的ではないらしいな。ああ、もしや大淀の言ってた、興味なし派の一人なのか?

 

「瑞鶴は恥ずかしがってるだけよ。たぶん」

 

そう加賀の言葉に、瑞鶴は若干身をたじろいだが、すぐに言い返した。

 

「は、はぁ?別に違うけど!だ、だいたいさ、こっちに来てどうしたいわけ?そもそも提督がこっちに来るとか何考えてるんだか!前代未聞よこんなこと?提督さんは向こうの世界でお茶でもコーヒーでも啜ってのんびり指示でもだしてればいいじゃん!こっちに来られると、いろいろ迷惑なわけ!風紀とか士気にも関係するわ!それに蒼龍さんも蒼龍さん!向こうの世界に行っちゃって、第一艦隊の席が空席になっちゃったじゃない!私の練度が上がるまで待ってよホント!」

 

瑞鶴のマシンガンのような意見に、俺はふと思う。途中私見が入ってるが、まあそれはどうでもいいとして、問題は俺がこっちに来たことに対しての純粋な不満と、蒼龍をある意味たぶらかして損失させた事に対する意思を、抱いていると言う事だ。

 

要するに俺が此方に来たことに対して興味ない派の中には、こうした不満を持ち、かえって怒りを孕んでいる艦娘もいる。そもそも此方に来たことで、良い思いをするだけとは限らず、おそらく今後もこうした事に対して、向き合っていく必要があるはずだ。武蔵の言っていたコミュニケーションとは、こうした意味もあるのかもしれない。まあ瑞鶴も表情からして加賀の言う通り照れ隠しっぽく悪意がない様子だが、事実そう思っているから、出た言葉の羅列だろう。

 

「ふむ、そうだな瑞鶴。俺はこっちに来ちゃいけねぇ存在だ。むしろ邪魔だよな、ありがとう。参考になったわ」

 

「なっ…そ、そこまで悪く言うつもりはないけど…でも風紀や士気にかかわるのは当然よ。と、言うかさ、加賀さんとはなんで妙に親しいわけ?」

 

ふと話題を変えてきたが、その指摘は確かにだ。不自然だわ。加賀もそういわれてハッとなってるし。

 

「わ、私たちは、提督と艦娘。上官に対して適切なコミュニケーションを取っているだけ」

 

ちょっと焦ったな加賀さん。まあ苦しい言い訳だと思うよ?うん。支援しよう。

 

「いや、ほら、俺と加賀って結構向こうの世界でも、窓を通じて会話とかしてたじゃん?まあだから、初対面って感じはしないわけよ」

 

「そうね。提督の制服をつくろったのも、私だし。私も初対面の感じはしないわ」

 

そう持ってきたか。確かにプライベートでこの服を繕ってくれたようだし、そうした話の帳尻合わせはナイス判断だ。しかし。

 

「え、いがーい。加賀さんも節穴だったんだ!こんな奴にその服を渡すのは、どうかとおもうなー」

 

まるで水を得た魚のように、瑞鶴は笑みを浮かべ、勝ち誇ったように言う。ああうん。瑞鶴の性格予想通りだわ。飛龍とはまた違う煽りスタイルをお持ちなようで。飛龍はヘルブラ仕込みだが、こいつは天性のあおり癖を搭載しているようで。

 

「頭にきました。提督、この七面鳥を叩いておいて、焼きやすくします」

 

「へぇ上等じゃない?私、前見たいに弱くはないわよ?不本意ながら、そいつの命で実戦は経験してるわ!」

 

二人はそういうと、何故かファイティングポーズを取り始める。おいおいキャットファイトはNGだ。目のやり場に困るんだあれ。てか瑞鶴の口ぶりからして、練度が一レベの際にも喧嘩した様子だなこれ。

 

「いやいや、いいっていいって。落ち着け加賀。瑞鶴も悪かったって。俺が目障りなんだろ?なら執務室に戻るから、二人とも矛を収めてくれって」

 

とりあえずこんな不本意な戦闘で両者中破とかになっても実にくだらないので、静止してみる。まあヒートアップしてるし無理かなーと思ったが、意外にも二人はこぶしを修めた。てか君ら女性なのにこぶしで殴り合おうとしちゃアカンでしょ。

 

「目障りってわけじゃないけど…それは命令?」

 

と、そんなことを思っていると瑞鶴はふとそう呟く。気迫漂う彼女に、俺は思わず一歩下がった。

 

「え、いや、提案…かな?」

 

「じゃあ止めません。ほら七面鳥構えなさい?」

 

すると、加賀がそう言い放ち、またこぶしを収めた瑞鶴ももう一度構えを取る。おいおいなんだそれ!自主的には止めねぇってことかァ!?

 

「あーまてまて!命令!これ命令!提督命令だ!」

 

再びおっぱじめそうだったので、急いで訂正をする。すると不服そうにも、彼女らはこぶしを下ろした。命令厳守なのか。なるほどね。

 

そういえば、以前明石と大淀が俺と蒼龍のやり取りを覗いてたとか言っていた際、罰としてグランド数周を命じたことがあったな。冗談のつもりだったがあいつらは阿鼻叫喚で、あれも正直命令調だから、結局やり遂げたんだろうな。つまり、俺の命令には絶対服従ってことになるのか?

 

「…あー瑞鶴。気を悪くしてるとこ悪いんだが、お前は俺が出した命令には絶対従う訳?」

 

そう何気なく問うと、瑞鶴は心底嫌そうな顔をした。

 

「…そら、まあね。一応提督さんは、私の上官に当たるわけだし…。私たち艦娘は、従わざるを得ないわけで…」

 

へぇそうなのか。なら、少しお仕置きだな。俺の事はいいが、蒼龍を小馬鹿にした件は忘れてねぇからな。それにある意味向こうの世界とこっちの世界の指示が通るかの、実験にもなるし。

 

「ふむ、なら瑞鶴よ。一航戦より練度が上で、なおかつ強いはずだよな?」

 

その言葉に、加賀は少々驚いた顔をして、瑞鶴は一瞬嬉しそうな表情になったが、すぐに平常心を装う顔となる。

 

「ええ、当たり前よ。私の方が強いわ」

 

自信満々に言う瑞鶴に、俺は思わずにやりと口元を歪ませた。

 

「おお、心強いな。なら、演習で単艦でも大丈夫だろ。命令だ。単艦で演習の相手をしてこい。いやー瑞鶴よ、期待してますよォ!そうだもんな、五航戦は強いもんな!」

 

「え、ちょ、ちょ待って!」

 

瑞鶴は先ほどの自信満々の顔から打って変わり、顔を歪めて制止させるように手を伸ばした。どうやら向こうで上位提督がやってくれる、有り難いが申し訳ない単艦放置は通用するらしい。しかもコイツの表情からして、キツイと来た。でも瑞鶴さんツヨイんでしょ?

 

「え、でも瑞鶴は頼れる艦娘だしなぁ。いやー瑞鶴を家に迎え入れれたのは正解だったな加賀!」

 

そう加賀に言うと、加賀もやっと意図を理解したようで、その処罰に満足が行っているようだ。にやりと思わずほころんでいらっしゃって、あくどい笑みである。

 

「そうね。私も期待しているわ。提督、そういえば九六式艦戦が多く余っているわ。瑞鶴の事だし、きっとあの子たちも素晴らしく扱ってくれることでしょう。どうかしら?」

 

「お、いいねぇ。瑞鶴の良い所見てみたいなー」

 

すると、瑞鶴はうぐぐと言ったように苦しい顔になる。そして腕を組み、言い放った。

 

「ええいいわよ!やってやるわ!やってやるわよ!そして私だって、第一艦隊に入れるくらい強いって所、見せてあげようじゃない!バーカ!」

 

瑞鶴はそういうと、庁舎の出入り口から走り去っていった。命令には逆らえないって言ってたし、しばらく単艦で相手するんだようなぁアイツ。まあかわいそうだが練度は上がるし、瑞鶴も強くなれるのは間違いないだろう。そう望んでいたのは、あいつだし。

 

「さて、戻るか。つうか加賀はどうすんだ?」

 

「私も実は、執務室へ向かうつもりだったの。ちょうどよかったわね」

 

こうして、執務室へと戻る事となった。

 




どうも、あけましておめでとうございます。飛男です。
今年のおみくじは大吉でした。いいことが起こるといいですよね。まあ、結局は願掛けというか、これからも気をつけろっていう暗示らしいですがね、大吉。

さて、今回はネタ回?です。瑞鶴ってかわいいですよね。こう、負けず嫌いで、美恵はってる感じが、私のイメージだと、こんな感じです。でも蒼龍がすきですまる

では、今回はこのあたりで、また次回お会いしましょう。


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驚きの、別件だ

さてはて、瑞鶴をいじり倒したしホクホク顔で執務室へと足を運ぶ。

 

幸運なことは、執務室に戻るまで瑞鶴以外には誰にも会わなかったことだろうか。庁舎ってひょっとするとあまり艦娘が寄ってこない感じ?と、言うか今は訓練中だからその所為か。

 

「ただいまースッキリだぜ」

 

「うげ、早速出たなデリカシーの欠片もなし発言。一応花も恥じらう女の子の巣窟なんだから、そういう発言控えてよ」

 

気持ちのいい気分で部屋へと帰れば、まずこの一言。言うまでもなく飛龍だが、弄ったつもりもなく純粋に言っているようだ。まあでも、失言だったと素直に認めるのはなんかシャクだし――

 

「花も恥じらう女子は大淀しかこの部屋にはいないからいいじゃん?」

 

と、少々ふてくされるように言ってみる。すると、飛龍はしたり顔を決め込んだ。

 

「ぷぷー。望君子供っぽーい。注意されたら素直に認めるのが大人だよー?」

 

コイツはどうしてこうも逆なでしてくるんだろうか。うん、無視だ。これも大人の対応の一つ。無視だ。しかしうーむ、飛龍がだんだんと妹に見えてくる。義妹ではあるんだが。

 

「ま、すまねぇ。今後気を付けるわ。確かに大淀には悪いしな」

 

一応非があるので、悪ふざけはこれくらいにしておく。大淀だってそう思ってるかもしれないし、飛龍はどうでもいいとして、早速一日目にして嫌われるのは嫌だしね。だが、大淀は首をかしげると、口を開いた。

 

「あ、私は気にしませんよ。男の人って、そういう事は平気で言うと思ってますし。むしろ、少しだらしない方が、私は好みです」

 

「え、なに?俺お前から見れば好みのタイプなわけ?」

 

「ええ、まあ。そこまで整った顔つきとは言いませんが、無精ひげを生やしてずぼらそうなところが、私は好きですね。まあ、タイプなだけで、恋愛には発展しないですが」

 

きっぱりとそう返してくる大淀に、少々苦笑いを浮かべつつソファへと腰を下ろす。続いて加賀もまた、俺の横に腰を掛けた。

 

「あれ?加賀さん、赤城さんと訓練してたんじゃ」

 

飛龍は首をかしげ、加賀へと問う。そういや加賀は飛龍に伝えた後、一緒には帰ってこなかったしな。メシでも食ってたんだろうか?赤城と一緒に。

 

「いえ、そもそも赤城さんとは今日一度も出会ってないわ。先に行ってと言ったのは、少し用事があっただけ」

 

「え、珍しいなー」

 

少々の驚きを含んだ表情で、納得するように飛龍は言う。どうやら赤城と加賀は、セットのように行動することが普通のようだな。容易に想像できるがね。

 

とまあこんな感じで、飛龍が割かし楽観的に加賀へと話しかけて完結したが、ふと加賀は飛龍を見つめた。

 

「ところで飛龍。聞きそびれていたのだけど、貴方変わったわ。なぜ?」

 

加賀がそう呟くように言うと、飛龍は先ほどのお気楽モードから、どこかハッと気が付いたような素振りを見せた。そして、すぐに表情を戻すと、今度は少々諦めたような顔をして、口を開く。

 

「んーアレですかねー。糖分を欲張るのは、よくないと思いまして、丸くなったんだとおもいます。まあ向こうの世界で過ごして、考え方も変わりますよ。それに、私はどうやらそこまで一筋ではなかったみたいですもんね?」

 

唐突に、話題つかめない女子トークだったが、飛龍はなぜかにひひと俺に向かって、いたずらっぽく笑う。いつも通りにしている様子だが、いつもの心底いたずらっぽさとは違う、そんな様子を今は持っている気がする。こう、同意を求めているが、真意は悟られたくない、曖昧な感じだろうか。

 

すると加賀もまた、ふふっと笑いをこぼした。

 

「そう。それはいい心がけね。兵士である艦娘が、過剰摂取で太ったりしたら大変よ。私は欲張らないことにしているけれど、貴方もそうするのかしら?」

 

加賀の問いかけに飛龍は少しの間考えたが、すぐに口を開く。

 

「ええ、まあ。そうします。むしろ、それを作る側に回りたいかなーって。その為にも、まずは切り抜けないといけない。ですかね」

 

独特の空気を持つ二人に、俺は首をかしげる。スイーツトークのように聞こえるが、そんな軽んじれるような話題ではない気がする。それに先ほどの飛龍の様子から、俺に対してなんとなく意味がつながっているような、いないような。

 

まあ、多くのファクターがちりばめられているから、飛龍が自分なりの答えを出し、それを加賀に伝えているのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

そう。おそらく、一度飛龍が向こうの世界へ行く前に、彼女らは何かを話したんだろう。そしてこの何気ない会話は、その答え合わせなのかもしれない。つまり、俺が知る由もない会話だし、これ以上詮索するのは野暮ってもんだ。

 

「さて、この話はこれでおしまい。いいですよね。それよりも望君、大淀ちゃんから別件の話、聞かなくていいの?」

 

「ん?ああ、うん。そうだな」

 

とりあえずそう曖昧に、言葉を返しておく。要するに空気呼んだ。えらいぞ俺。

 

「あーうん。それで大淀。別件ってのはなんだ?」

 

そう問うと、大淀は「はい」と返事をして、一枚の紙切れを俺に渡してきた。なんだろうかと紙切れに視線を向けると、その内容に俺は目を見開く。

 

「え、どしたの望君」

 

どうやら俺の様子が少し変わったことに、反応したのだろう。飛龍はそう言うと、俺の隣に寄ってきて、俺が持つ電報を見てきた。と、そんな中大淀が、口を開く。

 

「実は先ほど、コレが電報で届きまして…おそらく提督にとっては、重要なのでは?」

 

 

 

 

無論、言うまでもない。トイレを除きまずはじめに向かったのが、通信室だった。まあ見栄えしないのは仕方ないね。訓練視察とかは、もう少し先延ばしと言う事で。

 

先ほどの別件。おそらく言うまでもないかもしれないが、蒼龍からのメールだったわけ。その内容はむちゃくちゃで、所々言葉が繰り返されており、まあ文章として引っ掛かりを覚えた故に、要約すると「無事かどうか連絡が欲しい」との事だ。そこまで文章が崩壊していたのだから、やはり相当困惑している様子がわかる訳で、マジ見てて辛かった。

 

まあだからと言って、表情にも出さないし、大声で叫び散らすこともしない。飛龍ならともかく、やはりほかの艦娘たちに、そうした様子を見せるのは良くないだろうからね。

 

で、通信室は言うまでもなく古臭い通信機が列を成しておいてある。正直俺にはどう使うのかわからんし、何より何に使うのかわからん。ただ、これを使って連絡することはできるんだろう。小学生でももう少し、まともな感想を述べそうだ。

 

「で、メールを送るのは、どうやんの?」

 

「えっと、そこにタイプライターありますよね?それでカタカタとしますね」

 

大淀が指差す方向には、確かによく洋画で出てくるあのカタカタマシンくんが置いてある。えっと、PCみたいにローマ字で打つんだろうかね?なら、話は早いんだけど。

 

「お、普通にキーボードと変わらん感じなのか。これなら打てそうだ」

 

実際にタイプライターは、ガチキーボードと変わらない文字の羅列になっている。そういえば中学の友人が依然、タイプライターおよびキーボードは良く使う文字を中心に置いていて、打ちやすくなっているとか聞いたことあったっけ。ん?それはかな入力だったか?

 

「でも、タイプライターと違うのは、普通に文字を打つと、この画面に表示されるってわけだな?」

 

「はい、ご明察です提督。流石ですね」

 

現に、タイプライターの前方には、ケーブルみたいなのにつながれ古臭い白黒テレビみたいなモニターにつながっていた。あれだな、超級式パソコンだなこれ。

 

そういえば蒼龍が来て間もないころ、パソコンについて驚きの言葉を漏らしていたが、今目の前にあるこれが彼女にとってのパソコンだったんだろうか。と、なれば彼奴が驚愕していた事を、今度は俺が逆にカルチャーショック的な感じで受ける事になっていくのか…?確かに民俗学を学んではいるが、カルチャーショックの達人にはなれそうにないんだが。

 

「どうしました提督?」

 

「え、ああ。ちょっと考え事をな。それに、呑み込みが早いのが俺の特技でね。しかしなぁ…大淀さんに褒められると、なんか委員長に褒められてるって感じ。不思議だ。ははは」

 

と、笑ってごまかしてみる。彼女らにとってはこれが普通だし、数日間で慣れないと、この先やっていけなさそうだ。話の相互は、コミュニケーションを崩す危険もあるしな。

 

「え、えーっと。まあ私は委員長キャラですし。実際も雑務は好きですし」

 

大淀はそう言うと、少々照れくさそうに微笑みを浮かべた。ああ、やっぱりこいつかわいいよな。蒼龍の笑顔には、それこそ勝てないがね。まあ任務画面から引いてく際の微笑みは、かなり可愛いよね。

 

「お、そうかい。飛龍よりもお前を秘書にした方が、仕事とかはかどりそうだな」

 

「ちょっと、私だってまじめにできるよ?朝も思いっきりおふとんはがすよ?」

 

不服そうに飛龍がかみついてきたが、まあ適当に「はいはい」と流しておく。まあまじめなのかは意義を申すが、お前とは相性がいい。性格のね。だから外しはしないと思う。

 

「それにしても高校生チックにキャラ付けするならば、加賀さんは大和撫子な男子に人気な生徒で、明石はちょっと変わった工業系女子。武蔵は姉御肌な女教師って感じか。あ、武蔵は先生じゃねぇか」

 

何気なく言ったつもりだが、ふと横目で加賀を見ると、若干嬉しそうに口角を上げていた。実際に加賀先輩に変な子明石、大淀は委員長で面倒見がいいってこう、何つう理想的な学園生活が送れるんだろうねぇ。ま、現実はそんな子一人もいなかったし、むしろ男子クラスだったもんでホモはいましたね。童顔ホモが。

 

「え、じゃあ私は?んー予想は学園のアイドル!って感じかな?」

 

どこからそんな自信わいてくるんだオメェは。まあ事実美人だし、普通に誰もが振り返る美少女ではあるぞ?でも、素直に認めるのは調子に乗るので――

 

「いや、お前は犬だな。蒼龍が柴犬に似てるって言ってたし」

 

「えぇ!?なんか私の扱い酷いんですけどー!?それにさぁ、こんなかわいいワンちゃんいたら擬人化待ったなしだよ!?高校で一般ピーポーな望君の、悲しい妄想の産物として出てくるよ!」

 

悲しい妄想の産物ってなんだよ。つうかそう来るか。むしろオメェは軍艦の擬人化だろ?と、まあなんかアピールしてる飛龍は白けた目で見つめといて、さっさと視線をタイプライターに戻す。

 

「ヨーシじゃあ打ってみるか。おっと、そういえば返答はどこから帰ってくるんだ?」

 

「あー!無視するとかひどいー。ん?あ、もしかして擬人化わんわんの私想像しちゃった?」

 

そういって、飛龍はがくがくと肩を掴み揺らしてくる。なんだこいつ、子供かよ。子供か。

 

「あーもーうるせぇーよおめぇはよぉお。まだいうの?もう引っ張らなくていいからね?話進まないからね?よし、もうわかった。じゃあお前はクラスで一人は居るなんかすっげぇ元気でむしろうるせぇ奴で不良生徒とかにも気兼ねなく話しかけて一目置かれてるなんだかんだ言って憎めない教室内のムードメーカーな!だいたいそういうやつ黄色が似合うしな!はい、終り!」

 

そうマシンガンのように言い放つと、さっさと委員ちょ…じゃなかった。大淀に視線を向ける。飛龍が後ろで、「お、調子もどった」とか言ってるが、ひょっとして元気づけていたつもりだったのか?うん、まあなんかありがとよ。

 

「それで…えっと…ああ、返答ですよね?それは、そこから出てきます」

 

そういって、大淀はタイプライターの隣についている、なんかレシート出すような機械を指差した。さっきの電報と言い、まあこんな感じだよな。察しはついた。

 

「じゃあ早速打ってみるわ。えっとカチカチと…」

 

言葉に出さなくともいいだろうけど、まあその場のノリでカタカタとキーボードを叩く。エンターを押せばガチィンとか言うのが、癖になりそうだ。タタタッタ。タッーン的な。

 

「よしできた。じゃあこれを送信すればいいわけか」

 

「はい、送信はそのボタンですね。画面隣りの」

 

さっきの白黒モニター周辺をよく見ると、まあそれらしいボタンがあった。わかりやすいように、あえてこんな赤丸のおっきなボタンを付けたんだろうね。駆逐艦たちにもわかりやすいようにね。

 

「じゃあ押すわ。ぽちっと」

 

また擬音を発しながら、ボタンを押してみる。すると、白黒画面にノイズが入り、十秒も満たないうちにそれは収まると、画面にでかでかと「完了」と出てきた。ワーオなおわかりやすい。おとななれでぃでもできそうですね。はい。

 

「これでいい感じ?」

 

「ええ、これで大丈夫ですね」

 

そう大淀は言うと、隣の椅子へと腰を掛ける。ご指導ごくろうさまっす。

 

「さーて、返答が来るのを待つかね」

 




どうも飛男です。少々時間が開いてしまいましたね。
今回もネタ回。と、言い難い部分もありますね。望の内心は現在いろいろ渦巻いている感じです。
さて、短いですが今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。


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メールのやり取りです!

私たちは統治さんの家から移動し、現在カフェに腰を据えていました。理由は一つ。メールの届くのが遅かったこともあり、もしもの事を考えて大滝さんと相談するため、合流する予定でしたからです。そして、彼らを待つ中、ピロリンと私の携帯が音を立てます。

 

メールを送ったのは、昼に差し掛かる前でしたので、だいたい二時間くらい間が空いています。言うまでもなくその間は、ちゃんとメールが届いたかどうかだったり、向こうに飛ばされたショックでどこか怪我してたりとか、いやないやな方向へ思考が進んでいました。頼んだ料理も、全然喉を通りませんですし。

 

「ああっ…!メールですよ統治さん!」

 

でも、そんなマイナス思考もおしまいです。だって、メールが返ってきたんですから!まずその事に私は安堵して、自然と笑顔にもなります。

 

コーヒーをすすっていた統治さんも、「おっ」と声を漏らし、カップをソーサーへと置きます。

 

「うし、読んでみてくれ」

 

「はい、えーっと…」

 

統治さんに言われた通り、私は文章を読み上げていきます。

 

『コチラノゾム。ブジイきている。ゴタイマンゾク。ソチラはどうか?』

 

と、文章通りに読み終えて、私は顔を上げます。えらく簡潔な文章でしたが、それを聞き統治さんも、どことなく安堵したような表情になりました。

 

「ははっ、なんだよ。無事なのか。まあだろうとは思ったよ。で、それにしても、メールが届くのにこんな時間がかかるもんなのかね?」

 

「どうなんでしょう?飛龍にそんな話、聞かなかったけど…」

 

そう私はつぶやくと、夕張さんがもしかしてと口を挟みます。

 

「やはり他世界と通信を試みれば、タイムラグも起きるんじゃないですかね?まあ、憶測なんでアレですけども」

 

「いや、そういうお前の憶測は当たるもんだろ。俺もそうだと思うがね」

うんうんと統治さんは、そういいながら頷きます。あれ、でもそういえば―

 

「確か…以前飛龍とメールのやり取りしている時は、そこまで時間がかかりませんでしたね。うん。確かにかからなかったです」

 

「お、おう。そういう事早く言おうぜ…。夕張が適当な事言ったみたいに聞こえるやん」

 

苦笑いをしつつ、統治さんは言葉を返してきました。あはは、夕張ちゃんも若干居心地悪そうに、メロンソーダをストローですすってます。

 

「しかしまあ、こんなことならわざわざ大滝ってやつをわざわざ呼ぶ意味がなかったか。でも現状奴を覚えているのは、大滝だけだしな…俺達だけじゃ、深い相談はできないしな」

 

「そうですよ。そうした意味でも、やっぱり対策を練りあった方がいいでしょうねー」

確かに夕張ちゃんの言う通りかも。確かに統治さん達は心強いけど、さすがにもう一組くらいは相談相手がほしいですね。

 

それから、私もごはんが喉を通るようになってすぐです。かららんと音が鳴り、私に目線に大滝さん達を捉える事ができました。少し遅いような気もしますが、何かあったんでしょうか?

 

「あ、大滝さーん」

 

私は大滝さん達を呼ぶと、彼らは私たちに気が付きます。あ、鳳翔さん着物なんだ。

 

「ごめんごめん。遅くなった。ちょいと準備に手間取った」

 

そういって軽く謝ってくる大滝さん。すると、鳳翔さんがふるふると首を振ります

 

「いいえ。提督は悪くないわ。もう、素直に私が着付けに手間取ったとおっしゃればよいのに」

 

「ん?俺も財布がどっかいっちまって探してたぞ?それに待たせたのは、俺だったじゃねぇか」

 

「それは提督が見つけた財布をわざわざ家に置いていってしまうからじゃないですか。私、机の上に置いていたの、見てましたからね?」

 

「いいやそれは――」

 

来るや否や、早速熱々な展開を見せてくるお二人。統治さんと夕張ちゃん。なんと声を掛けようか戸惑ってるみたいだし。

 

「あーその!とりあえず座ってからにしましょう?それに、望から連絡来ましたし」

 

「む、そうなのか。…とりあえず座るか鳳翔」

 

「ええ。そうですね」

 

申し訳なさを押し込んで私は二人の会話に割り込みますと、二人もそう承諾して、大滝さんは統治さんの方へ、鳳翔さんは私たちの方へ座ります。

 

「しかしまあ、久々に見たな。えっと…」

 

座るや否や、大滝さんは統治さんへと目を向けます。あ、そういえばお二人、あまり接点といいますか、顔を合わせたことがないんでしたっけ?

 

「菊石統治。こんな形じゃああるが、改めてよろしく大滝」

 

「うむ、そうだな。よろしく菊石。さて、それで七さんからは何と?」

 

なんだか簡単なあいさつで済ませましたね。まあでも、数回あってますし、普通かも?

 

「えっと。あ、はい。これです」

 

とりあえず私は、机の上に画面を開いたまま、ゆっくりと置きました。大滝さんはそれを手に取ると、「ふむ」と唸って、再び置き直します

 

「んー簡潔すぎるな。本人かこれは?…まあいい。それを含め、返信を送れば良いだろうな。で、したのか?」

 

「いんや。まだだな。大滝達が来るまで、とりあえずやめとこうってしておいた」

 

「そうか。んまあ俺達ができる事ってったら、奴に聞くことの確認くらいか」

 

「そういう事。そうした意味で、待ってたわけ」

 

統治さんがそういうと、大滝さんは「なるほど」と考え込むしぐさを取ります。統治さんもまた、うーんと唸ります。

 

「よし。ひとまずこうしてみないか?七星にログイン情報を教えてもらう。そうすれば、奴とじかに話ができるんじゃね?本人確認にもなるし」

 

「それはそうだが、話すことが可能なんだろうか?奴は艦娘じゃない。秘書艦に置ける人物でなければ、会話が不可能じゃないのか?」

 

その指摘に、統治さんは「そうやん」と言葉を漏らし、面倒そうにため息を吐きます。

 

「んーじゃあやっぱりメールでやり取りするしかなさそうか。っとそうだ…この件に俺たちも噛んでる事は伝えたっけ?てかそもそも、七星の存在が一部を除いて忘れ去られてるって、教えたか?」

 

「あ…それ伝えてませんね…。まずはそれでしょうね」

 

私は言われるや否や、キーをカチカチと打ち込みます。

 

「ま、案外ショックを受けねぇかもよ?それに俺たちが付いている事が分かるだけでも、奴は安堵するはずだ。伊達に腐れ縁じゃねぇしな」

 

確かに私も向こうに飛龍がいると思うし、なんとか安心はできています。ですので望も、統治さんと大滝さんが存在認識をしてると分かるだけでも、安心できるでしょうね。

 

「他にはどうしましょう?向こうの状況も聞いていた方が良いのでは?」

 

夕張ちゃんの指摘に、大滝さんは頷きます。

 

「それもアリだな。しかし、あまりにも聞くことを書きすぎると、本質的に聞きたいことを見失っちまう恐れがある。そこんところ、吟味しねぇとよ」

 

「じゃあこの話はお流れにしますかね?えっと、じゃあなんだろー」

 

頬杖を着いてうーんと唸り、夕張ちゃんはメロンソーダを啜ります。そして空になると、「おかわり」と統治さんに強請りました。気に入ったのかな?メロンソーダ。

 

「えーっとではこれは如何でしょう?今後の蒼龍ちゃんの身振りとか」

 

鳳翔さんの提案に、統治さんが「それだ」と指をさします。

 

「それは確定だな。そもそも七星自身の記憶を持ってないヘルブラをはじめとする、キヨや大学メンバーとの関わり合いはどうすんだ?一応そのまま友人として付き合っていくのが、ある意味安全策じゃね?」

 

「そうした関係性は、大事にした方がいいかもしれない。大きなズレを起こしてしまえば、奴が向こうから戻ってきた際に、存在そのものがあやふやになる可能性もある。それを防ぐためにも、菊石の意見に俺も賛成だ」

 

「私も統治さんに賛成です。むしろですよ、そうしないとたとえ七星さんが此方の世界に戻ってきても、存在があやふやになって本当に消えてしまう恐れがあります。まあこれも…憶測なんですけどね。…蒼龍さんには酷かもしれませんが…」

 

自信無さげに言う夕張ちゃんですが、憶測ではなくむしろ、的中していると思います。でも、望がこれまでいろいろやってきたことを振り返ると、ちょっと心配ですね。

 

「…でも、やらなきゃいけないでしょうね。わかりました。だって、望に笑顔で帰ってきてほしいですし」

 

そうです。望の名晴れてしまったけど、帰ってこれる可能性がないわけではないですし、むしろ私が、帰ってこれる場所を確保しておく必要があると思います。それがきっと、私の試練なのかもしれません。

 

「えーっと。ひとまずはこんな感じですね。一旦送った方が、いいと思いますけど」

 

字数的にもそうですし、何より望も望でこっちの情報が知りたいはず。とりあえず安心させるためにも、先んじて送った方がいいでしょう。そんな私の意見に大滝さんと統治さんも賛同したようで、大滝さんが「じゃあ頼む」と決定したのでした。

 

 

返信が帰ってくるまでの間、俺は艦娘達――つまり通信室まで来てくれた奴らと、適当な会話をしていた。

 

「なるほどねぇ。艤装を装備すれば、お前らは力が数倍に跳ね上がると」

 

その内容は、どうして艦娘は深海棲艦と戦えるの?と、行った議題である。で、その答えは、すごく簡単に言うと「艦娘ぱわぁ」らしい。

 

「ええ、まあそんなとこ。厳密に言えば、艤装その物の力を、私たちが引き出す媒体になっているようなものだけど。だから艦娘は、人ではなく、ヒューマノイドとしての位置づけが正しいわ」

 

加賀の説明に、他大淀や飛龍も、うんうんと頷きを見せる。おら難しい事わからねぇべ。

 

「あ、提督。返信届きましたよ?」

 

腕を組みおそらく難しい顔をしているんだろうなーとか思っていると、大淀がレシートを出すマシンのような物体から紙を手に取った。おそらくまず俺から読ませるべきと判断したのか、取ってすぐに、俺へと差し出す。

 

「おう、サンキュー。えっとなになに…」

 

電報に目を通すと、まず安心したと蒼龍からの一言。そしてこの件は、大滝と統治に知らせたらしいと有るが、ふと疑問が過ぎる。

 

――あれ、ヘルブラやキヨとかには伝えてないのか?

 

と、思うや否や、読み進めていけばその答えが書いてあった。これは相当面倒な事になっているな…。うん。どうしようか…。

 

「なんて書いてあるの?」

 

やはり一か月は一緒にいただけあるのか、飛龍は俺が見せた表情の変化に気が付いた様子だ。俺は一つ息を吐くと、笑って見せる。

 

「いんや。これからどうするかーってな。こっちは大方決まったが、あっちはまだ決まってないからな。まあ大滝と統治が事情を理解したらしいし、蒼龍の事は心配ないかもね」

 

「んーホントに?心配無いの?」

 

「…嘘です。すごく心配。まあだからと言ってここでどうこうできないしな」

 

少しむっとした飛龍は何か言おうと口を開いたが、すぐに何かを納得したようで、口を紡ぐ。

 

「それに、向こうは向こうで俺が色々と指示を出す必要があるらしい。はー参ったな」

 

「たとえば?」

 

「んーそうだな。たとえば俺が戻るまでの間、大学へ出席をしてもらうとか」

 

その受け答えに飛龍はいやいやと首を振る。

 

「いや、さすがにそれはだめでしょ。と、言うか望君はゼミとかある訳で、本人じゃないと出席できないでしょ?いっそ蒼龍は、ずっと自宅で待機してもらった方が、いいんじゃない?」

 

確かに俺もそうさせたいが、それができない理由がある。ここであーだこーだ言うのも無駄だと思うし、正直に内容を告白するか。

 

「…まあそうだな。はぁ…うん。じゃあ言うけど、どうやら俺は、向こうの世界では居ない事になっちまったらしくてな。代わりに蒼龍が、俺の代わり立てされているらしい。夕張の仮説曰く、俺が向こうの世界に戻ればそれは何事もなかったかのように戻るらしいけど、すなわち生活にズレを生じさせちゃいけないと思うんだわ。だから酷かもしれないが、蒼龍は俺と重なることを、行う必要があると思う」

 

「そうかもしれないけど…って、は、はぁ?何其の御伽噺的な展開は?って、そうなると望君がこっちに来ているのも、御伽噺的展開じゃん」

 

まあそうなんだよね。提督勢誰もが羨むであろう時空越えの艦これ世界着任なんですから。だから今更何がおきても驚きはしないわ。驚きはね。

 

「…そもそも蒼龍が向こうの世界に来た時点で御伽噺だし、お前とこうして話してることも御伽噺ーーってそれはいい。つまりわかりやすく言うとだ。蒼龍は俺が常日頃行っていた通学やバイト、友人付き合いなんかも熟す必要がある。…当然酷だと思うが、蒼龍の事だ。恐らく…」

 

そう言葉を続けようとした際、飛龍が先に口を開く。

 

「うん。あの子の事だもん。熟そうとするだろうね。健気というかなんというか…」

 

健気すぎて涙が出てきそうになる。泣かないけど。それくらい心にグッとくるものがあるし、何よりこうした状況で何もできない自分が嫌になる。

 

「まあそういうわけなんだわ。だからいっそ蒼龍に全て任せると、伝えた方が良いのかもしれない。しかしそれは、逆にプレッシャーが掛かるだろう。だからある程度の指示はした方が良いと思った訳」

 

これだけ言えば、流石の飛龍も承諾せざるを得なくなったようだ。過保護なワンツーの俺たち。ついに決定を迫られる。

 

「それで?結局どうするの?私はこの件に関しては、口出しできないから」

 

加賀も催促をかけているようにも見える。まあこれだけどうするか否かを話していれば、そうも思うかもしれない。いや、逆に加賀にはその気がなくとも、俺がそう感じているだけなのかもしれないが。

 

「じゃあ指示を出すよ。でも出来るだけ、蒼龍ができる事…だけね」

 

こうして、俺はタイプライターを打ちこみ始めたのだった。

 




どうも飛男です。
約一か月…というか一か月ぶりの投稿ですね。お楽しみにしていた方は、お待たせしましたといった感じでしょう。
今回は双方のやり取りの試行錯誤を描いた感じでしょうか。

では今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう!


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最初の行先は、ここか

さて結局、蒼龍に頼む事は出来るだけ無理せず、極力その場の流れや必然性に合わせて動くように打ち込んで、メールを向こうへと飛ばした。

 

今度の返答はそう間隔が空く事もなく届き、特に否定的な意見も言わず了承した事に加えて、此方も言うなれば頑張ってとの内容だったが、これは憶測に過ぎないけど、恐らく向こうも色々と言いたい事がある様子が見える。だがそれを押し殺してただ簡潔に、且つ遠回しな愛の言葉も見受けられた。

 

「蒼龍…」

 

ぼそりと思わず呟くと、ポンと肩を叩かれ、振り返れば飛龍が微笑み此方をみていた。

 

「まあ一生会えない訳じゃないんだし。そう落ち込む事は無いと思うよ?それにメールだってできるじゃん。あと、望くんはカッコ悪くても男らしくしなきゃね。それが取り柄なんだから。さーて。じゃあ向こうに報告もして、とりあえずは一件落着なんだし、私たちは私たちでやるべき事をしないとね!」

 

「はあ…そうお前みたいにコロコロ気持ちを入れ替えれねぇんだよなぁ…」

 

とはいうもの、飛龍のこうした思い切りのいい行動は、ある意味見習わなければならない気持ちになる。そう。こんな所でいちいちうじうじしているのは、それでこそ俺らしく無い。俺もよしと声を上げ、席から立ち上がる。

 

「うん、んじゃあ気持ちを切り替えますわ。で、飛龍。早速だが鎮守府内の案内頼むわ。っと…加賀と大淀はどうすんだ?付いてくる?あ、忙しいなら良いけど」

 

「あ、ではこの後ちょっとした雑務がありますので、これで失礼しますね」

 

そう言って、大淀は一礼すると、通信室から出て行き、小走りをするような足音を廊下に響かせ、やがて聞こえなくなって行った。

 

「迷惑かけちゃってたか感じかな?んー少し罪悪感」

 

「いや、まあ大淀ちゃんの事だし、きっと本心は一緒に行動したかったと思うよ?ただ近づき過ぎるのは、良く無いと思ってたのかも」

 

そう何気無くいう飛龍だったが、なんか妙に引っかかるなその言い方。どういう事だろうか?

 

「え?どういうことかって?えーっと」

 

俺の視線に気がついたのか答えようとする飛龍だったが、ふと加賀がそれを遮った。

 

「いいじゃない気にしないで。それで提督。私も行くわ。…寧ろそのつもりで待っていたのだけども。そもそも、長期間私が貴方と行動してる意味、わからないのかしら?」

 

「えっ。んー監視とか?武蔵に頼まれて」

 

まあ異端分子なのは間違いないだろうし、そうした意味では適役じゃないだろうか?こう、セクハラ…は、するわけがないが、そうした事に関しての処罰は厳しそうだし。

しかし外れていたのか、加賀は一つため息を吐く。

 

「…まあそうした意味もあるわね。でも、真意は簡単よ。暇だから。ええ、私の練度はそこまで高くないもの。…とは言っても、いつでも第一線に出る覚悟は持ち合わせているわ」

 

少々意気込みを加賀は示してくるが、いまいちピンと来ないのが俺。その場においてはただ、「まあ暇なんだな」と返答をするしかなかった。

 

「じゃ、加賀はついて来ることとして…行くべきは比較的重要な設備や施設を回る感じになるのか?提督だし、それくらいの事はやっておきたいしな」

 

「んーそれは別にいいと思う。だってわからないでしょ?無理に提督っぽくしなくてもいいから、直感的に行きたいところでいいとおもう」

 

「そうなの?…うーんそうだなぁ」

 

そうは言うが、実際どのような施設があるのかいまいちわからないんだよね。だから重要施設を回った次にでも、目に入ったところに行こうと思っていたが…。それにしてもゲーム画面を思い返せば工廠と入渠があったが、さすがに入渠――いわゆる風呂場を見に行けはしないだろう。早速培おうとしてきた信頼を女子風呂除きで即刻ドブにぶち込む形になるだろうし。だからと言って工廠に行ったとして、コエール君と明石がいるのはわかっているし、それ以外は特に興味もない。大型建造なんかするつもりもないし。

 

結論を言えばまず見ておいた方がいい場所は無い。と、言うか思いつかない。じゃあ資材保管されているどこかとか言っても、大淀には気にするなと言われているし、無駄足に終わる。

 

「んー何があるかよくわからないし、地図とかない?パンフレットでもいいわ」

 

「地図はないなー。と、言うかパンフレットなんてあるわけないでしょ」

 

そういってあきれるような顔を見せる飛龍。まあ普通に考えればそうだよね。ここ軍事基地だし、おそらく中は一般公開されてないんだろうし。

 

「じゃあお前に任せるわ。流石に情報なさ過ぎてどこ行けばいいかわからん」

 

「そう?じゃあ…」

 

と、考えこむしぐさをして、「あ」と言葉を漏らし、顔を上げると、飛龍は行き先を告げるのだった。

 

 

 

 

飛龍に連れられ向かった先は、確かに俺と対面して付き合いのある飛龍であれば、此処なら楽しめるとだろうと思える場所だった。

 

「武道場ね…なるほどな」

 

「好きでしょ?ここも一応、艦娘たちが、あつまってるよ?」

 

武道場の看板には「水蓮館」と、まあどこにでもあるような名前が書いてある。どうも新築とは言い互いがそれなりに新しいようで、所々に装飾されたペンキが光沢を放っている。

 

道場である故か、掛け声と大きな踏込の音がこの建物を張り詰めた空気へと変えている。実際道場の近くに行けばわかると思うけど、この絶妙な雰囲気がまさに稽古場って感じだ。

 

「んー。好きっちゃ好きなんだが、こう…入るのには抵抗あるな」

 

「えー?なんで?」

 

眉を歪めて飛龍がそういうのはわかってた。まあでもアレだよ。確かに武道の歴は長いけど、言っても精々民間人に毛が生えた程度の強さなわけ。もちろん強くはなりたいし、実際に戦闘を経験している艦娘に稽古してもらうってのも、かなり為になると言うか、練習になる。むしろ贅沢だ。

 

でも、実際そうは思っても抵抗があるのは事実なわけで、歩を進めるのが遅くもなるわけで、思い切りがつかず立ち止まってしまう。

 

「うーん」

 

腕を組み唸ると、後ろから肩を叩かれる。飛龍ならおそらく背中を押すだろうから、ここは加賀だろうね。現に後ろを振り返れば、予想は的中していた。

 

「…無理に行かなくてもいいんじゃないかしら?嫌なら嫌。そう決定していくのも貴方の意志よ。そもそも提督は上に立つ立場。確かに私たち部下の事を見る必要はあるかもしれないけど、所詮はここで貴方が何か訓練を行う訳ではないわ。あくまでも部下の訓練を見守る事になるのだから、たまたま今日は行く気が起きなかった。それで済むと思うけど」

加賀は何かと俺の心を代弁した事を言うな。ひょっとしてコイツとも相性は良かったのかもね。

 

「あーうん。そうかもしれないね。でもさ、それって結局いつも気が進まなかったでも片付くよね?」

 

「…それもそうね」

 

すっぱり言ってしまったが、加賀も確かにと思った様子だ。実際そうした言い訳で、実行しないことだって多いのが人間なわけで、いつかじゃダメなんだと思う。だからここは、潔く足を踏み入れよう。

 

さて変な葛藤も終わっていよいよ道場の中へと足を運ぶと、まず目に飛び込んできたのは全員が胴着に防具で稽古と、まあ向こうの世界では見慣れた光景だ。違う所と言えば、剣と槍が半々くらいと言った感じで、中には小太刀っぽい武器や、薙刀を使う奴もいる。

 

「あっれ、今思えばこんなに近接武器使う艦娘っていたか?」

 

記憶の中では所持品的に伊勢や日向、天龍や龍田などがパッと頭に浮かんでくる。あと他には誰がいたっけか。

 

と、そんな感じで思考を巡らせてると、どこからか「はあ!?」と声が聞こえてきた。この声何処かで…ってまあだいたいの声は聞いたことあるけど、いうなれば聞きなれた声だ。

 

「ちょっと!アンタこんなところで何してんのよ!」

 

そう聞こえてくると。俺より小さい――まあこの鎮守府の中では一番身長が高いわけなんだが、ともかく小柄な防具姿の艦娘が槍を肩に担いで歩いてきた。

 

「えっと…あー」

 

しかし声だけではパッと頭の中には浮かんでこないわけで、思わずチラっとたれの名前を見ようとする。が、見るより前に彼女は面だれを掴み、面を引きはがすようにして顔を見せてきた。

 

「あ、叢雲」

 

「『あ、叢雲』。じゃないわよ!普通わかるでしょ?あんた何年付き合ってきてると思ってんのよ!」

 

ひゃーどぎつい。まあ確かに三年付き合ってきてるわけだし、なおかつ初期艦だもんなお前。まあそりゃあ怒りますわ。

 

「いやーごめんごめん。てかいいのか勝手に抜けて。相手が困ってるぞ」

 

まあ正直な話、叢雲とペアを組んでいたあれは…白雪か。白雪も剣術稽古…?まあ、それはいいとして、彼女は困ったように立ち尽くしている。叢雲も我に返ったように、「あ、ごめん」と小さく謝った。

 

絶妙なやり取りが終わったところで、急に上座から「やめー!」と声がかかる。あの声はわかるな、伊勢だわ。と、そんな伊勢が、こちらの方へと歩いてきた。

 

「もー提督。訓練止めないでよー。まあ丁度休みを取ろうかなって考えてたからいいけどさー。あ、みんな!休憩だよー!」

 

伊勢の叫び声と共に、他の艦娘達も個々に礼をして、数歩下がると面を取り始めた。すごく既視感漂う。むしろこれがもう常識なんだろ。

 

「あ、私も取ってくるから。ちょっと待っててね」

 

そういう伊勢はささっと上座近くへと戻り対面しているアレは日向だろう。彼女と一例をして、同じように面を外したのだった。

 

 

 

 

さて、改めてだが、俺達は道場にいる。で、道場にはパターンがあるのは、おそらく周知の事実だと思う。たとえば、剣道場と柔道場が一体化していたり、体育館その物を使用したり、ただの板張りで剣道場のみだったりと、そんな感じだろう。

 

それで何が言いたいのかと言うと、この水蓮館は1番目のタイプだ。俺達はそんな畳張りの柔道場に腰を下ろしていた。井草の香りは心地が良い。いやむしろ、へたっているようには見えないんだが。それは何故かと、叢雲に聞いてみる。彼女は「え」と言葉を漏らし、口を開いた。

 

「まあ、新品同様かもね。だって一部の艦娘しか使わないわ。それも自主練だし。それこそ伊勢とかやるんでしょ?」

 

叢雲の問いかけに、鉄製の水筒で給水していた伊勢は、それを床に置いて口を開く。

 

「うん。日向とやるよ。日向は強いから私すぐ負けちゃうんだけど」

 

「伊勢は弱いからな。なんなら提督。今からやるか?」

 

ぬっと日向は立ち上がり、ガバッと腕を広げてくる。確かに日向の豊満の胸に埋まれるのはいろいろ元気にはなるだろうが、帰ると後が怖いので遠慮しておく。てか普通に絞殺されそうなんだが。

 

「無理だから。柔道やったことないから。てか相手にならないから」

 

「まあ、そうなる…か。ふーむ、私個人の意見としては提督とスキンシップが取れる、いい機会だとおもったのだがな。残念だ」

 

ふふっと笑い、日向は腰を下ろす。スキンシップで死んだら意味ないでしょーが。流石に手加減してくれるとは思うけど。あ、日向の事をグリズリーか何かと勘違いはしてないよ。ほんとだよ。

 

「ところで叢雲。お前なんでそんな遠くにいるんだ?」

 

言い忘れてたけど、叢雲は俺達とは少し距離を置いて座っている。なんというか、避けている感じだ。

 

「別に?アンタの近くに居なきゃいけない理由でもあるの?」

 

「いや、無いけど…」

 

無難に近くにいるのが嫌なのだろうか?それともコイツ、近くにいるのが恥ずかしいから、距離を取っているとか?んーありえそうだけど、そのまま正直に言うのもアレだしなぁ。また怒鳴られるだろうしなぁ。

 

「あっ。そうか。なあ、叢雲。ひょっとして汗臭いの気にしてるのか?」

 

「え?」

 

きょとんとする叢雲に対し、俺は話を続ける。

 

「まあ気にすんなって。俺もそうした空間は慣れてるからさ。近くにいねぇと話してる感じしないし」

 

そこはかとなくそう言っとけば、向こうも恥ずかしいのを感づかれてないとは思うはず。うん。我ながらいい判断だ。

 

すると叢雲はすくりと立ち上がり、俺の近くに寄ってくる。まあ確かに汗は掻いてるからどこかふわりと彼女の香りが漂ってくるが――

 

「こんのヘンタイ!私がそんなこと気にしてるわけないでしょ!バカ!」

と、大声で叫ぶ叢雲は思いっきり蹴飛ばしてきた。あ、そっちの事でしたか。ばきぃとまあアニメチックに蹴られて、勢い余って後ろへと倒れこんだ。

 

まえが見えねぇとは言わないが、ファンタジーに描写するなればチラチラと星が見える気がする。鼻がジリっと熱くなり、そっと触ってみたらまあ鼻血も出てましたとさ。

 

「あ、鼻血…」

 

思わずつぶやくと、やれやれと言った感じで声が聞こえてくる。

 

「あー望君ってデリカシーないよね。普通気が付くと思うけど」

 

「…私も少し引いたわ。ごめんなさいね」

 

声の主は辛辣に意見を具申してくれる飛龍と加賀でした。ハイハイどうせ俺は無頓着で唐変木ですよだ。反省しますよだ。

 

「叢雲。角度が甘いぞ。仕留めるなら人中を狙ってだな…」

 

「ちょ、流石にそうまでして仕留めようとは思わないでくれ!悪かったって!マジ悪かった!」

 

日向の容赦ない提案には黙っていられませんわ。人中ってアレね。唇の鼻の間と思えばいいよ。なお正中線だから、人間の弱点部位ね。マメ知識。

 

「次そんなこと言ったら今度は水月を突くわ。いい?」

 

凄味のある口調で叢雲は練習用の槍を手に取って俺へと向けてくる。こわ。

こんなやり取りをしていると、思いおもいに休憩を取っていたであろう艦娘たちが、ちらほらとこっちに集まってきた。騒げばそらまあ気になって集まってくるよね。

 

彼女らは「提督だいじょうぶー?」とか「大丈夫ですか?」とか、まあ心配してくれているようだ。少しうれしいかな。ところで――

 

「うん大丈夫。でだ、たとえば三日月。お前近接戦闘得意だっけ?」

 

丁度目に入った三日月に声をかけてみる。彼女は「えっ」と自分が指名された事に驚いたようで、少々廻りを横目で見た後、口を開く。

 

「その、近接武装を主兵装として持っていなくても、訓練の一環としてやっているんです。睦月型の場合は私と菊月ちゃん、長月ちゃん、あと今日は来ていませんけど、水無月ちゃんが主に参加してますよ」

 

「うんうん。私と神通もかな。まー私たちはいうなれば丸わかりかもしれないけど」

 

三日月に続いて、近くにいた川内も答えてくる。なるほどね、まあいい訓練にはなると思う。つうかお前らはビジュアル的にそんな感じバリバリだからな。

 

「なるほどねー。まあ心身共に鍛えられることは確かだし、いい訓練なんじゃない?」

 

「うんもちろん!まー提督は私たちの事そこまで面倒見てくれなかったけど、イメージ変わった?ねえ?夜戦出してくれる?」

 

「ほ、本当に夜戦夜戦いうんだなお前。ギャグかと思ってたわ」

 

本当はシステム上言わされてるみたいだと思いますやん。でも本心だったんだなコイツ。そんな川内は「ギャグってなにさー!」と少々怒ってきた。それと同時に、周りも少し笑いが見える。お、これはコミュニケーションを取るのに成功したのでは?

 

だが、そんな和やかムードを、一喝で留めた人物が居た。

 

「オメェら!もう休憩は終りだろ!」

 

暴力的口調な持ち主と言えば、奴しか思い浮かばない。黒と紫を基調とした、あいつだ。

 

「ん、天龍か」

 

「おう、そうだよ」

 

自然と艦娘たちが道を開け、腕組みをしながら天龍が歩いてくる。後ろには龍田の姿も見えるが、ニコニコと笑顔を作っていた。まあ言うまでもなく、本心は笑ってないだろ。

 

「あーもうそんな時間だったのか。邪魔したな。よいしょっと」

 

何故か怒っている様子なので、荒波立てない様そそくさと退場しようとする意志を見せる。だが、天龍は一気に距離を詰め、胸倉をつかんできた。

 

「うおっ!?」

 

「そもそも何しにきやがった?ここはオメェがいた所みたいに平和じゃねぇんだぞ?さっさと向こうの世界に帰れよ!目障りなんだよ!」

 

そういって、天龍はこぶしを振り上げた。流石に唐突過ぎて反応できず、マズイと思ったが、こぶしが俺の顔面に当たる事はなかった。

 

「天龍。そこまでだ。こぶしを収めろ」

 

どうやら日向が天龍のこぶしを掴み、静止させていたようだ。俺の眼前に二人の手が震えているのが見える。

 

「チッ!離せよ。…もう殴ろうとは思わねぇ」

 

天龍はそういって、日向の手を振りほどく。日向はまだ警戒しているようで、俺の斜め前に立ち、間に挟まろうとしている様子だった。

 

「…あー目障りね。まあそうだよな。すまん」

 

そこまで言われちまえば、ここに居ちゃいけない気がする。確かに俺は世界が違えど民間人だし、なおかつここでコンサルタントとかできるような腕でもない。こうなる事を予測はしていたが、唐突すぎたな。

 

「みんな楽しかったよ。それにいい稽古風景だった。もう来るのはやめとくわ」

 

こう言う事しかできないかな、今は。これ以上逆なでするつもりはないし。天龍がなんであそこまで怒ってるのかわからんけど、武蔵が言っていたようにすべての艦娘が俺を歓迎してくれている訳じゃない事も、重々理解できた。瑞鶴と言い、天龍と言い、俺を軽蔑している艦娘も、確実に存在しているんだな。

 

「あ、ちょっと!」

 

言い切った後出入り口へ向かおうとすると、飛龍と加賀も後を追ってきたのだった。

 




どうもお久しぶりです。飛男です。
やっとこさ投稿できました。社会人となり数日が達、休日にちまちますすめ、本日書き終わった感じです。
今度はいつ投稿できるのやら。休日をうまい感じに使えば、今回のようなペースにはならないと思いますが…。まだまだ入社してばっかりなので感覚がわかりません。

さて今回はシリアスが多め?で、ギャクっぽさが少なめ?といった感じでしょうか。徐々にこんな感じが増えていくとは思います。もちろんギャグに極振りした回もあるとは思いますが。
では今回はこのあたりで、また次回お会いしましょう。


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少女の扱いは、困るもんだ

「うん。なんかゴメン。あそこまで天龍ちゃんが酷い反応するとは思わなかったからさ…」

 

どうやら飛龍は、自分が道場へ案内したことに負い目を感じているらしい。行く当てもない道中、唐突に彼女は口を開いた。

 

「気にすんな。むしろああした奴もいるんだなって。瑞鶴とは違うタイプだな。あいつは冗談交じりの本音だったけど、天龍は真っ向からの否定的本音?って感じ」

 

天龍は瑞鶴のような怒りのタイプではなかった。彼女には言葉に怒りがあり、呆れがあり、拒絶があった。そのすべてを含んだ口ぶりからして、彼女は俺に対しての嫌悪感は何かによって増大し、現在に至るんだろう。

 

「しっかしな…俺に問題があるんだろうけど、それが何なのかわからねぇ…」

 

理解はしている。俺だって敵を全く作らない性格ではない。人間誰もが好くような性格にはそうそうなれないのも、わかっているつもりだ。

 

だからと言ってそれでいいやと終えれないのも、理解している。

確かに、もし向こうの世界での話であれば、「それも仕方ない」で済むだろう。彼女はあくまでもゲームの中の住人で、差別化がされているからだ。

 

だけど、俺は現にここにいる。今まで円滑に回ってきた我が鎮守府にだ。つまり俺という異物混入により、支障が起こりつつあるだろう。つまり次第に連鎖的な瓦解が始まり、気が付けば取り返しがつかなくなる可能性もある。

 

そしてそれを防ぐのが、武蔵の言うコミュニケーションを取ることなのだ。せめて天龍や龍田には好かれなくとも、普通に接することのできるレベルに戻さなければならない。これは彼女らだけに限らず、俺を毛嫌いしている奴ら全員に言えることで、名ばかりの提督としての唯一の使命なのだろう。

 

「はぁあ…そんな聖人君子になれると思うのかよ。ついさっきまで軽んじてた俺がバカみてぇだ。まったく先が思いやられるな…。てか腹減ったわ…」

 

気が付けば、俺のお腹が愉快なメロディを奏で始めている。いや下しているわけではないが、純粋に昼から何食べてない――と、いうか朝から何も食べてない。

 

「んー?ぽんぽん痛いの?飛龍ちゃんに撫でてほしい?」

 

飛龍がにやにやとあおってくる。おめぇに撫でられるなら自分で摩るわ。てか腹が痛いわけじゃねぇっつうの。口にしてはいなかったが。

 

「そうね。じゃあ食堂へ行ってみる?間宮さんのことだから、すぐに作ってくれるわよ」

 

「おーいいね。ってそういえば間宮ってずっと食堂にいるの?てかそこに住んでるの?」

 

「いやいや、そんなわけないじゃない。間宮さんだけじゃなく、伊良湖ちゃんだっているよ?二人は交代制でシフトを回しているから、年中無休でもないし」

 

まあ二人しかいないのもどうだろうかとは思うがね。むしろ二人いればまかなえるってわけか?そう考えると補給艦勢はすごいと言わざるを得ないが。

 

「じゃあ次の目的地は食堂ね。もう昼食時ではないし、混んでもないと思う。私もお腹すいたしー」

 

そういって、飛龍が鼻歌を奏でながら前進していく。飛龍の姿勢を見習ったほうが今はよいかもしれない。まずは腹ごなしをして、考えてみよう。

 

 

 

 

さて、唐突だが、飯時で一番楽しい時間は何だろう。

 

大半の人は、食事をする時だと思う。確かに飯を食う時は楽しい時間だ。空腹を満たしていく実感がたまらないと思う人、どの料理から手を付けようかと思う人、ともかく様々のはず。

 

そんなお前はどうなのかと聞かれれば、『待ち時間』が楽しい時間だと言い返す。例えば写真や文字にある料理を注文したり、家内で漂ってくる料理の匂い。これらに言える楽しみ方の共通点は、想像力を掻き立てられる事。つまり想像してさらに、空腹を促進していき、最高の調味料を引き立てることにある。これが、俺の持論だ。

 

しかしまあなんでこんな回りくどい言い方をしているのかと言うと、俺のそんな密かな楽しみを、今現在棒に振らされているからだったりする。

 

「え、なに君ら」

 

思わず一歩引いた構えを取るのも無理はないだろう。現在の俺は、ラウンジに点々と居た駆逐艦の一部――と、いうか初春型のチビ達に、周りを囲まれしまったのである。

 

事の発端は、まずラウンジについて説明する必要があると思う。そのラウンジ内には、まるで児童館か何かかと言わんばかりに、点々と駆逐艦たちが屯っていた。曰くラウンジは、駆逐艦勢憩いの場になっており、仲良くやっている事が多いらしい。

 

それで、食券制であった為にひとまず気にせず買いに来て、間宮にそれを渡す。そして注文番号を頂き、待ち時間に飛龍らが花摘みか知らないがどこかへ行ってしまって、このありさまになったというわけだ。

 

「提督とお話ししたいのー。ダメ?」

 

「ええ、ダメですね」

 

「その意見は聞けぬな。提督よ」

 

子日の初動をいなしたが、続けざまに初春の意見具申。なんというべきであろうか、この様子はまるで、ヒーローのスーツアクターのおっさんがヒーローの衣装を着て休憩してたら、子供らに見つかった感じだろうか。俺はそんな気分だけど。

 

ちなみに初春型は、他駆逐艦と比べて何故かレベルが高い連中が多いのも事実だったりする。もともと大滝が「俺は睦月型を育ててる」と発言したのが始まりで、俺もそれに感化される形で身内では目立たなかったコイツら育てて行き、気が付けば一線を張れるくらいにまでになったのだ。だからこうして懐かれたのだろう。育ての親的な意味で。

 

「あのね、料理は静かに待ちたいタイプなの。わかる?」

 

「あははーへんなのー。わかんない!お話しして待ったほうがたのしーよ?」

 

「うん。お前IQ下がってるね。まあ子日はもともとたーのしーとか言っててもおかしくないような性格だもんね。うん。おじさんが間違ってたね」

 

「しかし提督よ。そうは言うが本心はうれしいのじゃろう?ほれ、こんなに美女に囲まれておるからな。ん?どうじゃ?」

 

今度は初春が妖艶な笑みを浮かべ、すり寄ってくる。警察もとい憲兵さんに見られたらしょっ引かれるなこれ。うん。つうかこんな展開ロリコンしか喜ばんでしょ。ぼくぁちゃいますよ。

 

「いや、全然。何も感じないね」

 

「およ、なぜじゃ?…ははーんそうか。いやはこれは失敬。しかしじゃ、男としてはうれしいじゃろう?」

 

「あのさぁ。君は話を聞いてた?ねぇのじゃロリさん」

 

「ん?聞いておったぞ。まあその意見は尊重しておらんがな」

 

初春は「ふふふ」と扇子を開き、小さく笑って少し下がる。どうやら自制したらしい。引き際がうまいのも、練度の証かもしれない。俺の扱いがうまいのは、練度の所為ではないと思いますがね。

 

「…まあいい。これもコミュニケーションの一環だな。うん。そう思えばいいや」

 

食事を取る前にこのドッと疲れが押し寄せる。まあ新しいものには目を引かれるとは言うけど、さすがに連続して続くのは疲労感がマッハだよ。転校生ってこんな気分なんだろうかね。特に田舎で人の出入りが少ない地域の転校生って。

 

「あ、あの…提督お疲れですか?姉さんたちのせいですか?」

 

と、初霜がおずおずと聞いてくる。この子はいい子すぎなんだよなぁ。丹精込めて育てえた甲斐あったというもの。なぜか親になった気分。

 

「うん。気にしなくていいよ初霜」

 

まあこんなかわいい子なら、頭を撫でたくもなる。これこそロリコンと間違えられそうではあるが。

 

そんな初霜はされるがままになり、嬉しい様子。ほとばしる小動物感。癒し属性感。

 

「さて、それで何用ですかね?アレですか?新しいおもちゃを見つけてご満悦シスターズですかね?あ、初霜は違うか。若葉もか?」

 

そういえば一切黙っている若葉。名前が妹とすっごくかぶる――むしろ同名。

 

「ん?私は純粋に提督の顔を見に来ただけだ。が、姉たちに逆らおうとは思わない」

 

「つまり姉たちに便乗してきたのか」

 

「そう取ってくれて構わない」

 

小さく笑みを浮かべる若葉。中立的な立場を取ろうとしているらしい。まあそんな感じだよね。君は。

 

さて若葉との会話から少し間が空く。いったい何しに来たんだと本気で悩みそうになった頃合いに、その間を埋めようとしてきたのは初霜だった。

 

「えっと、私から質問いいですか?」

 

どしょっぱが初霜なのに少々面食らったが、彼女にどこか甘くなる俺は、「なんだ?」と親しみやすい表情を作る。

 

「その…あの…答えにくいかもしれないのですけど…いいですか?」

 

「おう、なんだ?答えれそうなら答えるが」

 

そう返答してみれば、再びもじもじとし始める。え、なに?トイレ?と、まあデリカシー皆無な事を思ってみると、度肝を抜く言葉が返ってきた。

 

「では…その、義妹が増えたらうれしいですか?」

 

「んー。ん?え、ん?」

 

ちょっと何言ってるかわからない。妹って増えるの?いや、確かに家庭の事情で増えるのは良くフィクションではあるけどね。まあさすがに意外すぎて、理解が全く追いつかない。てかぶっ飛びすぎてね。うん。ね。

 

「ごめんね初霜。意味不明過ぎてちょっと俺困っちゃうかな。ハハハ…」

 

「なんじゃ初霜。積極的じゃのぉ。私ももうちょっと遠回しに聞くぞ。ん?」

 

長女さんが何か言っておられるが、要するにどういうことだろうか。いや、普通の人でも意味不明過ぎでしょ。この質問。

 

そんな感じで――まあそらそうだが、俺が首を傾げていると初霜が補足を入れ始めた。

 

「えっと、その…私は提督に精一杯育てられたと思います」

 

「うん。そうだね」

 

「提督には妹がいらっしゃるんですよね?」

 

「うん。君らの末っ子と同じ名前だね」

 

ここまでは理解できる。つうか普通の質問だ。当たり障りのない、普通の。

 

「だから私たちも、義妹になりたいんです」

 

「はいストップ。ちょっと待て」

 

止めると初霜はきょとんとした様子で、俺を見てくる。いやいやおかしいでしょその反応。

 

「そこ、それが理解できない。ちょっと飛んじゃったよね?今の質問」

 

「あ…その…ダメですよね。はい…」

 

聞き返すと、初霜はしゅんと肩を落とし、寂しそうな表情を見せる。おいおい待て。

 

「まって。なんで。なんで俺が悪いみたいになってるの?。なんで?え、俺が悪いの?」

 

「あー提督が初霜泣かしたー。ひっどーい」

 

困り果てている矢先に子日から背格好候の一言。思わず「ちょっと少し静かにしようね」と内心イラッと来たので言い放つ。学校の先生にでもなった気分。

 

「そうですよね…ダメですよね。私、失礼でした。すいません…」

 

「失礼とかいう問題じゃなくてね。誰でもこうなるからね?おかしいこと言ってる自覚ある?」

 

「ハア…提督は鈍感じゃな。初霜の厚意を理解できんとは。まるで氷じゃ」

 

頭の処理が追いついておらずカクカクになったPCのような気分でいると、初春があきれ顔でそうつぶやいた。

 

「厚意?なんで義妹になりたいことが厚意につながるんだ?」

 

そう初春に聞き返せば、初霜がはっとなったような表情となり、口を開いた。

 

「えっと…提督が困っているかと思いまして…私、力になりたいんです」

 

「あ、あーそういう。なるほどねー」

 

やっと理解が追いついた。ウサギに追いついたカメの気持だ。いや知らんけど。

先述したように初霜は初春型のこともあるし、うちの鎮守府では練度上位勢の一人でもある。加えて俺がこっちの世界に来て、それをいち早く知った人物でもあった。

つまり彼女は俺の慌てふためいた様子を見ているわけで、様々な要員が重なりそこから『何かしなければ』と思いが湧き出てきたのだろう。

 

「ん、まてよ、つまり…」

 

加えてふと思い返し、一つの考えが浮かび上がる。

 

おそらくこうしたアクションを取るのは、練度上位勢が持つ共通のプログラムなのかもしれない。プログラムと呼ぶにはいささか失礼ではあるが、そう仮称しといたほうがわかりやすいだろう。つまり練度イコール好意だとして、その練度の高い奴ほど、俺に対し親密に接してくる可能性が高い。裏を返せば、練度が高くない奴は、そこまで親しく接してこない可能性がある。現に先ほどあれだけイライラしていた天龍は、遠征番長として使用していたことが多く、練度は初期勢でありながら高くはない。むしろその割には低いといった感じだ。

 

さて、そんな考察はどうでもよく話を戻すが、初霜の場合好意が何故か湾曲し、結果が『妹』になってしまおうと考えたのか、いまいち理解しかねる。おそらく妹をチョイスしたのは、親しく接しやすい立ち位置になろうとした裏付け何だろうけど、もう少し違う考えにはいかなかったんだろうか。

 

「…なあ初霜。義妹じゃなきゃ嫌なのか?こんなこと言うのもなんかおかしい気がするけど、後輩とかじゃだめなの?それのほうがまだ自然じゃん?」

 

「え?え、えっと…」

 

何故か困惑をし出した初霜。どうやら妹となりたいのは、まだ何か裏がありそうだ。

だが、これ以上追及するのはやめておこう。どうせ初霜のことだし、義妹としての立場を悪用しようとはしないだろ。

 

「…ま、いいけどね。どうせこっちの世界じゃ、今度は俺が戸籍も国籍もないわけだし、逆にそれを利用すれば、初霜だって義妹と言い張れば、そうなるだろ」

 

「いいんですか…?」

 

「別に良いんじゃねぇの?まあだからと言って態度を変えることもしないよ?今まで通り、普通に接するとおもうよ?」

 

「はい!ふふっ…」

 

特に意味もない、ただ義妹と名乗ることを許しただけで、初霜は相当うれしい様だ。正直言ってよくわからん。

 

「ま、この判断を後悔しなければいいけどな…」

 

ともかく俺は、そう呟いてみるしかなかった。と、言うか早くメシは来ないものか。




どうも!お久しぶりです!飛男です!
社会人となり一か月がたち、少しだけ慣れてきた感じです。もっともまだまだひよっこのぺーぺーでありますがね。

さて、今回はまた望が困るような展開に、こんな感じで書いていくのも、後すこしですがね。一応構想場は、その通りに動いている感じではあります。

では今回はこのあたりで。なお、活動報告にも報告したいことがありますので、お暇な方は読んでいただければ幸いです。それではまた次回!


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信用する事。される事。

生存報告も兼ねての報告です


義妹も出来て、この先どうなるか予測がつかない。そもそも好いてくれるやつ、嫌ってくる奴の落差が、それなりに激しいことになっている。何を根拠にしているのだろうか。純粋にそりが合わないのかもしれないが。

 

そりが合う奴は、こうして嬉しそうにしているんだろう。初霜は俺の隣に座り、目があえば「どうしました?」と心底嬉しそうに笑顔を見せてくる。大体「なにも」と言葉を濁すと、彼女もまた「そうですか」と返答し、黙り込む。

 

横目で見れば、初霜はにこにこと座り、すこし体を揺らしていることから、機嫌のいい子供のように見える。俺がグッとくるような部分を知っているようで、なんだか悔しい。ちなみにこう男としてグッとくるのではなく、保護欲的にグッとくるヤツだがね。

 

「ええのう。特等席じゃな。私らは邪魔か?初霜」

 

体面に座っている初春が口を開く。その表情はまさにはしゃぐ妹を見る姉のように暖かい目であった。先ほどとは大違いな母性。その他初春型の面々もそんな表情なもんだから、愛されてるなぁと思ってみたり。

「…あれ?なになに望君。新しい彼女でもできた?」

 

そういう俺も愛されていると言えばそうだろうね。まあこんな事言う奴は一人しかいねぇ。大体お察しがつくので、シカトを決め込んでおく。すると彼女は無言で肩をつかみ、押し引きで揺らしてくる。ぐおんぐおん。

 

「だー!うっとおしいわ!なんだ!おめぇは男子小学生か!好きな子に構ってほしいからいじってくるアレか?お?こくごにさんすうせいかつどうとくでも学ぶかこらァ?」

 

「え?望君の事は好きだよ?だって面白いし、いじると」

 

「そんなことは百も承知。君がそういう子だってことも承知仕候だ。が、初霜を見てみろ。こんなにもおとなしい。すっごい良い子!お前より年下が、こんなにおとなしい。わー不思議!この落差は何だろー!」

 

引き合いに出されたことが意外だったのか、初霜は体を揺らすのをやめて、困ったように笑う。なんかごめん。

 

「えーだってスキンシップじゃーん。そこまで言わなくてもいいじゃーん。ほらほらーもっと揺らしてあげよーか?」

 

さらに勢いを強め、ぐおんぐおんと揺らしてくる。…稀に勢いあまって後頭部から当たるやわらかい感触は、おそらく気の所為だと思いたい。てかこいつ、故意的だろ。俺の困る姿を見たいんだろう。こんな事前にもやってきたろ。

 

「あ、あのー。あのー飛龍さーん…」

 

耳をすませばか細い初霜の声が聞こえてくる。流石にあわあわしはじめたようで止めようとしているんだろう。ほらやっぱり、いい子。ぶっ飛び発言さえなければね。

 

「きにしなーいの。こんな事いつもやってたから。それに望君は少しおいしい思いしてるもんねー?」

してやったりといった顔で、彼女は俺を見てくる。やっぱり故意かてめぇ。

 

「男子高校生くらいならもれなく夢にまで出てきて納まりが付かなくなるシチュエーションかもしれないがあいにく俺は君のお姉さんから寵愛を賜っていらっしゃるのでおいしくないです」

 

「わお、息も切らさずのろけてきたねー。私ものろけてみたいなー」

 

「たぶんお前がのろけてくるとサンダーボルト並みのガトリング如く口がガバガバに開き続けるだろうからNG」

 

そんなことないですーと飛龍が口にする。まあその後言い返してこないもんだから、飽きたのか。今回は結構早く引き下がったな。

 

と、その理由が分かったかもしれない。加賀が少々会話に入りにくそうな表情をしていたからだ。この絶妙な身内感は、さすがにどの艦娘も入れないだろう。

 

「もういいかしら?」

 

「はい。わたしは大丈夫ですね」

 

まてこら。俺は大丈夫じゃねぇみたいなこと言ってんじゃねぇぞ。

 

「そう。さて提督。飛龍と先ほど、今日行けそうな場所を決めてきたわ。だけど少々歩くと思う。まあ、遅めな昼食の腹ごなしにはちょうどいいと思うけど?」

 

「ん。あ、そうかい。わかった。どうする初春型のお前さんら。ついてくるか?」

 

ざっと見渡せば、乗り気そうなのは初霜くらいだろうか。初霜はそれこそうんうんとワクワクしているような表情ではあるが、他面々はどうもつかみどころのない、愛想笑いのような顔をしている。もしかして初霜に気を使ってでもいるのだろうか。

 

「んーまあ初霜くらいか?同行したいのは」

 

「そうじゃな。そんなに大勢で行っても邪魔なだけじゃろ。同行するのは初霜だけでよい。後で提督の反応を聞ければそれでよいからの」

 

そう言い残すと初春は立ち上がり「では私は部屋に戻る」とラウンジから去っていった。その他初春型勢も、後を追うように去っていく。

 

「よし、じゃあ決定だな。二人に任せるわ」

 

「そうね。それじゃあ行きましょう。最初は整備場ね」

 

加賀が立ち上がると、俺たちもまたそれに続き、後へ着いて行ったのだった。

 

 

 

 

あれから大滝さんと統治さんと別れ、時刻はすでに夕方を迎えました。七星家へと帰った私は、そのままお風呂へと入り終えて、夕飯を食べ終えると、ぼっとテレビを眺めています。

 

見ているのはもちろん時代劇――ってわけでもなく。奥さんが先客だったので同じく現代のありふれたテーマを掲げるドラマを見ています。内容は家族間のいざこざや、問題を家族で解決していくといった、そんな感じです。

 

「龍子。この俳優しってる?アンタと同じ年齢なんだよ?いい芝居するから、私ファンになっちゃったの。ほら、もしウチに男兄弟がいたら、こんな感じだったと思うわ」

 

画面に映るかっこいい俳優さんのことを言っていいるようですが、望のほうが…と思ってみたり。でも、それよりも男家族いたんだよ?って思いのほうが勝って、ズキリと胸が痛みます。

 

「…そうだね」

 

「なにその返事。つまらないの。よく『不細工でわるうござんしたね』とか言って…あれ?」

 

と、奥さんは頭にはてなマークが浮かんだみたい。やっぱり、ズレはあるみたいです。と、言うか望はこうやって子供っぽくふてくされるんだっけ。

 

奥さんは記憶のずれを感じた様ですが、それからなんの会話もなく、ぼっとテレビを眺めます。ドラマは中盤を終えて、終盤に入りました。

 

「あはは…なんかドロドロしてきた」

 

どうやら出張中の夫が若い女性にたぶらかされそうになって、鬼嫁な奥さんに成敗を受ける流れのようです。こういうコミカルな部分は、どこか時代劇に通じるものがありますね。

 

 でも、ふと私は考え込んでしまいます。向こうに行った望が、他の艦娘にこんな感じにたぶらかされてしまうんじゃないかと。

 

私は絶対にそうならないと言い切れます。そもそも、他の男性には魅力を感じないですし、何より望じゃないといけない。そんな言葉では説明できないような思考が渦巻いています。いわゆる艦娘にプログラムされた、システムのようなものなのでしょう。

 

 だから信じてます。心から信じてはいます。でも、それでもやっぱり、心の四隅で望を疑ってしまっている。

 

 だって、可能性がゼロとは言い切れないもの。望は向こうの世界に行って、どこか不安がっている部分もあると思います。もしその不安を癒してしまった娘が居たら、もしその隙をつかれて心が奪われてしまったらと思うと、考えれば考えるほど、不安になってきます。

 

「そうねぇ。まあでも、うちはこんな風にはならないから安心だわ」

 

そんな思いが渦巻いていると、奥さんはふと口にしました。

 

「え、そうなんですか?」

 

思わず敬語が出ちゃいましたけど、奥さんはふふんと笑って見せました。

 

「だって考えてもみなさいよ。あの人、そんなにカッコよくないじゃない。おまけに不愛想。剛毛。一日でも髭剃りサボればボーボーだし、まず頑固。融通も利かないし…そんな男、誰が好きになるの?」

 

「え、えぇ…」

 

 ちょっとひどい事言っている気がします。お義父さんは望が眼鏡をかけて、少し白髪が入って、老けたような容姿です。だから、私からしたらそこまで悪くないと思いますけど…。

 

「まあでも、アンタ考えてもみなさいよ。見ず知らずの女に言い寄られて、それが少し可愛いからって、ホイホイついていく。そんなの一家の大黒柱として、失格だと思わない?」

 

 確かにそれはあると思います。少なくとも結婚して、所帯を持って、それを養っていくための父親。そんな人物が少しの気の迷いで破たんさせるのは、やはり一家の大黒柱としては失格ですよね。

 

「それがわかってるから、あの人はそんなことしないと思うけどね。あの人は筋が通ってないと、認めないから。そんな性格な人が、浮気なんてそれこそ筋が通らないし」

 

 おっしゃる通り、お義父さんはそんな風に考えていそうです。今思えば、私にお金を入れればこの家に住むことを許したのも、お義父さんが持つ筋を通したかったのかもしれません。

 

「えっと…もし男兄弟が生まれていたら、その子は筋を通す人間になっていると思います?」

 

 私は気が付けば、奥さんに質問をしていました。望がお義父さんの血を引いているのであれば、きっとそういう性格な一面も持っているはず。現状は憶測になってしまうと思うけど、私は聞いてみたくなったのです。

 

「…そうねえ。まあそうなるんじゃない?若葉だって頑固だし、筋が通ってないと気が済まない性格じゃない?どうせなら私の血も受け継いで、陽気で人懐っこい性格にもなってほしいけどね。だって不平等じゃない。あのひとの血ばっかり受け継いでるなんて」

 

「あはは…そうだね」

 

思わず苦笑いをこぼしてしまいました。確かにそうですよね、お義父さんの血ばっかりじゃ、寂しいですよね。

 

「まあだから、私はきっと男の子も変わらないと思うなー。あんたもそうだし」

 

それでも奥さんは、ソファにもたれかかりながらつぶやきます。

 

「私も?」

 

おそらくですけど、奥さんの言う『アンタ』は望のことを指しているんでしょう。奥さんは続けます。

 

「そもそも自覚なかったの?アンタは昔から頑固で、好きな物にはとことん打ち込んだ。もちろん、能力の問題や諦めざるを得ないものは挫折していったものもあったけど、挫折しなかったものはなんだかんだ突き通して行ったじゃない。剣道だって、小さいころは辞めたいとか言ってたのに、今まで続けてきた。だからきっと、男の子が生まれたら、陽気で人懐っこくて、好きな物にはとことん打ち込んで、考えを曲げない頑固な子になったんじゃないかなーって。思ってみたり」

 

私は奥さんの言葉を聞いて、そういえばと気が付きました。

 

奥さんは憶測で言っているのでしょうけど、確かに望はそうなのかもしれません。好きな物にはとことん打ち込んでいましたし、自分のスタイルなんかも突き通していました。今に流されない自分が好きだと思うものを、突き通していた。服装もそうですし、珈琲一杯を飲むときだって、こだわりを持っていました。

 

そう考えてみると、私を選んだ理由も、そうだったのでしょう。私が初めて手に入った航空母艦で、何かの縁だと育てて下さって、二番手だった飛龍と同じような練度だったのに、私を選んだ。

 

私はどうかしていました。望が向こうの世界に行ってしまって、変に考えを巡らせすぎていたみたいです。望は私が初めて着任してからずっと信じてくれていた。だから向こうに行っても、ずっと信じてくれているはず。頑固でこだわりを突き通して、好きな物にはとことん打ち込む。そんな性格だってことは私もわかっていたのに、どうして不安がっていたんでしょう。

 

「ねえきっと。それはあってると思うな。私は」

 

奥さんに私は、そう答えました。すると奥さんもまた。

 

「だよね。なんか確信が持てるんだー。何故かね」

 

と、言葉を返してくださいました。

 

 

 

 

さて、加賀に整備場へと案内された俺たち一行は、ほかにも射撃場や宿舎、酒場に基地の出入り口など、一通りを紹介された。いろいろ驚きや発見も見られたし、また謎だった部分がすべて明るみに出たって感想か。まあ、説明すると長くなるので割愛するけど、簡単に言えば海自の駐屯地を少し古風に、WW2にある意味先祖返りした様子と言えば、わかりやすいかもしれない。

 

そしてついに鎮守府に来て、初日の夜を迎えた。執務室に机に突っ伏して、思い切り息を吐く。

 

「つかれたぁ…これからマジでどうなっていくんだろうなぁ」

 

「そんなの私もわからないって。そんな顔してたら駆逐艦の子が引いちゃうよ?あ、元からか。…よしっ。全部見返したけど、漏れはなし。まあ枚数もそこまで多くないし、当然かもだけど」

 

 飛龍はとんとんと、書類の端をまとめる。執務室に戻ったのは一時間前くらいで、先ほどまで業務してたんだよね。書類に判子を押すだけの簡単な仕事だったけど、これからはこんなちょっとした雑務も、こなしていく必要があるらしい。つうか何気にひどいこと言いまくってますね。泣きたい。

 

「わるうござんしたね。どうせ老け顔おっさんですよ」

 

「…それで、まあどうなるかって言われても、私だってなるようになれとしか言えないかな。だって、私だってそうだったし…って望君の場合は、意図しないでだもんね」

 

「そうなんだよ。それがオメェらと違うとこだよな。まあ普通に生きてる人間じゃ絶対こんな経験しないような事態だし、マジで予想がつかないわ」

 

少なくとも、蒼龍と飛龍はそれぞれ目的があって俺たちの世界に来た。だが、俺はそうじゃない。誰かに逢いたかったってのもぶっちゃけ言えばないし、誰かに真意を確かめようと来たわけでもない。要するにそうした目的意識を、今後作って行く必要はあるだろう。

 

「まあでも、おおよそのことは武蔵さんや、その他の雑務慣れした娘がやってくれると思うけどね。望君の提督としての業務は、正直ってそこまでないから」

 

まあですよね。今更、長年最高司令官が不在で動いてきた鎮守府だし、むしろそれがこの世界じゃ当たり前だろうし、大方何もしなくても円滑に動くのは目に見えてる。

 

「はぁ…提督とかじゃなくてさ、こう、友人みたいに全員接することはできんのかね?できれば苦労しねぇんだけどなぁ」

 

「んー。どうだろ。それに賛同してくれる娘もいると思うけど、お堅い頭の娘はきっと首を横に振ると思うなー。節度よく、適切な関係にありたいって思うんじゃない?」

 

まあそれもそうだろう。少なくとも社会に出ればほとんどが縦社会。それもここは色濃い『軍』といった特殊な場所だ。学生みたいなノリは、問答無用で通用しない部分も多いだろう。

 

「…まあでも、提督と艦娘の関係は保持したとして、それでも親しく接したいかな。俺には戦場で死んで来いなんて言えねぇぞ」

 

「画面越しでは、それに近いことをしていたのに?」

飛龍は珍しく、素に嫌味なく質問をしてきた。痛いところついてきたな。

 

「…ま、否定はしないさ。でもさ、面と向かって命じるのと、そうじゃないのは、明確な違いがあるとは思わない?」

 

「そうかもねー。だって画面越しの私たちって、それこそ半年より前はどんな時でも笑顔で引き受けていたように見えたんでしょ?」

 

「うんだ。だから罪悪感なんて沸いてこなかった。つうか、バッサリいうがゲームだからね。沸いてくるわけがない。感情も何もかも、作りものにしか見えないわけだし」

 

 実際のところ、これが事実であり真実だ。ゲームのNPCに対して、そう植え付けようとしているキャラクターを除けば、罪悪感など湧き上がるわけがない。例えばFPSの兵士だったり、触手が生えたゾンビだったり、立方体でできた動物たちだったり、そんな『向こう』の世界の住人や生物を殺すのに、特別な感情を抱くほうが難しい。

 

「そうした意味でも、やっぱり『この世界』の認識は変える必要があるかもしれないね。蒼龍や飛龍が俺が住んでいた世界に来たといっても、結局こっちとは無縁だとどこか思っていた節もある。だから、改めて向き合ういい機会なのかもしれない」

 

「ふーん。ま、特に何にも言うつもりはないけど」

 

飛龍は何か苦言したい様子に見えたが、案外あっさりとした返事をする。なんか逆に気持ち悪いな。

 

「ま、ともかく気張りすぎても仕方ないか。なるようになれとしか、言えねぇ。よし、ちっと時間は早いけど、今日は寝ようかなぁ」

 

鳩時計を見れば、時刻は一〇時三〇分くらい。日頃はもうちょい遅い時間に寝ているが、今日はとけるように眠りたい気分ではある。

 

「そう?と、いうかここで寝るんだっけ?あ、一緒に寝る?」

 

最後にふふっと悪い笑みを見せてくる飛龍。なんかもう返すのも面倒なんで、そのままシカトして後ろの押し入れから、寝具を取り出す。

 

「もーシカトしないでよー」

 

と、飛龍がわざとらしく怒る様子を見せてくる。

 

こうして、俺は自分の鎮守府での生活を始めることとなった。

 

だが、俺はやはりというべきか、楽観視していたかもしれない。

これから起こる、様々な試練に対する覚悟が、まるでなかったのだから。




どうも。お久しぶりですねぇ!飛男です。

役二ヶ月ほど投稿を開けてしまい、申し訳ございませんでした。仕事が忙しく、こうして書ける機会がなかったのです。
その間色々もがいていまして、その間にできたお話であります。リメイク版を考えたり考えてなかったり、少しの間何も考えなかったり、ともかく色々あった故に少し、文章にキレがないかもしれません。

次回いつ投稿することができるかわかりませんが、気長に待ってくださることを切に願います。
では今回はこの辺りで。また次回お会いしましょう!


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鎮守府生活の、第一歩だ。

お久しぶりです。今回は少し短いです。


鎮守府着任二日目は、すがすがしいとは言いにくい起床だろう。しっとりとした空気を肌身に感じて、不快感を感じつつ目覚めたからである。

 

まだ薄暗い様ではあるが、時計を見ればすでに早朝を迎えている事に気が付く。

 

とはいうもの、時刻は四時半といったところ。早朝というには個人的に早すぎる。もう少し寝てしまおうかと思ったが、どうも寝つけれそうにはない。いや、四時半ってそもそも早朝?深夜?どっちだ。

 

「ふぁーあ。まあいいや、変な時間に目が覚めちまったな。中途半端だ」

 

少し損した気分になりながらも、布団から体を起こす。昨日、寝る前に飛龍には――

 

『六時頃に起きれば、いいと思うよ。お寝坊には罰が待ってるからね。期待してるから!』

 

こう教えられていたために、この鎮守府内においても早起きだろう。期待ってなんだ?俺が罰せられるのでも見たいのかあいつは?

 

「つうか、本格的に始まるんだろうなぁ。ここでの生活」

 

そんなことをつぶやきながら、布団から身を出す。今日は何するかわからないけど、少なくとも朝礼には出なきゃいけないだろうし、何かしらの業務も開始されるはずだ。そう考えると少し憂鬱な気持ちになる。そもそもよく漫画でありそうなパターンではあるけどさ、俺みたいな民間人がいきなり軍事組織に組み入れられて、とんとん拍子に成功するなんてありえないでしょ。おそらく失敗を積み重ねていくんだろうなぁって重荷が、割とくる。

 

 まあくよくよしたって始まらないので、布団をたたみ終え、それを押し入れにしまうと、クローゼットを開いてみる。

 

「…もう一回これ着るべきなのかなぁ」

 

 純白に輝く提督服は、さらに俺をげんなりとさせる。いわば提督の証みたいなものだろう、この服は。そもそもこんなもの柄じゃないし、せめてもう少しラフな格好をさせてはくれないものか。それこそ、大淀や武蔵にでも聞いてみようかね。

 

 まあぶつぶつと言っても仕方ないだろう。とりあえず明石が用意してくれたインナー類や下着なんかはあるもんだから、それだけでも良しとする。つうか明石、なんでこんなもん用意できたんだろうか。

 

「まあ女性用の下着じゃないだけましだわ。ははは…」

 

それしかないからとか言われたらどうしようかと思ってた。特殊な趣味の方なら大喜びかもしれないが、俺はノーマルだ。アブノーマルではない。そうなっていたら最悪着回しだっただろう。

 

とりあえず仕方ないと割り切って、提督服にささっと着替える。しかしやることがない。さて、どうしようか。

 

「そうか、どうせなら散歩でもしてみるか。何か発見があるかもしれない」

 

要するに暇つぶしなんですがね。でも、少し憧れもあったりする。こんな時間に鎮守府を一人で歩けるなんて、ある意味では贅沢だし、洋画とかではよくありそうなシチュエーションだ。大体は走ってるけど。まあそんな作品の登場人物の一人となった感じで、探検してみることにした。

 

 

ふらふら歩き続けて、大体三十分くらいが経過しただろうか。腕時計なんてものはこっちに持ってきていないし支給もされていないので、明確な時間は体感時間からの計算である。そういえば明石が必要な物あったら言ってくれとか言ってたっけ。どうせなら何が頼めるかとか聞いてみよう。また後で。

 

さて、言うまでもないが大体の施設は施錠されている。つまり開いていないし開く気配もない。昨日尋ね歩いた施設をもう一度把握しあう名目で歩いていたものだから、特別訪れる気などなかったけどね。

 

ちなみに艦娘が寝泊まり生活している宿舎にも、鍵がかかっている様子だった。まあ当たり前だろうとは思うが、もしや俺が来たから鍵閉めるようになったのかと考えると、ちょっぴり気分が落ちる。俺、信用されてないのかなってね。

 

「おっ…まぶし」

 

港に出れば、大々的にゆっくりと昇りゆく太陽の日差しが、目に刺さる。目上を手で覆い光をカットすると、奥に数人の人影が見えた。

 

「おお?」

 

誰だろうかとまぶしいなりに目を凝らしていると、向こうもこちらに気が付いたのだろう。一人走り寄ってくるのが見える。

 

徐々に視認できるようになると、どうやら女子高生のようだ。いや、女子高生なんてこの鎮守府にはいないけどね、普通に艦娘だけどね。

 

「おーい提督ー。艦隊戻りましたー!」

 

確かこの決まり文句のようなセリフを言うのは――

 

「鬼怒か」

 

鬼怒はうちの鎮守府だと一番最初に練度がカンストした軽巡だ。指輪抜きの話だが。

 

そもそもどうして鬼怒を?と疑問を持つだろう。俺だって不思議。なんたってサービス開始付近の鬼怒は『コロンビア』をしているネタ的艦娘扱いで――今でもそうだけど――それ以外注目されることがあまりなかった記憶がある。それなのになぜか、摩訶不思議な、ともかくどうしてだろうと言わんばかりに、練度が爆上がりしていった。本当に今でもわからない。

 

と、そんな事を思い出していると、鬼怒は会話に不自由ない距離までたどり着く。軽く走ってきたはずだが、肩で息をしているあたり、疲れを感じることができる。

 

「おー出迎えしにきたの?良い所あるんだねー提督。見直しちゃったー」

 

「え、あー。おう、そうだぞ。遠征ご苦労」

 

まあそんなことないですがね。実際はただ散歩してただけなんですけども。つうか遠征君らが行ったことを把握してなかったし。誰が出した?大淀?武蔵?

 

「ふふーん。作戦大成功だからね。たーくさん燃料鋼材をゲットしてきたよ。どう?すごい?」

 

「すごいじゃないか。…しかし見直したっていうと、お前もあまりよく思ってない口か」

 

「え、なにが?」

 

頭にはてなマークを浮かべているような、不思議そうな顔をする鬼怒。こいつのことだから、何にも考えてない可能性のほうが高いかもしれない。

 

「あーいいわ。やっぱ」

 

「えー。気になるー。ねえー気になるんだけどー」

 

どこぞの黄色空母のように、腕をつかみぶんぶん振り回してくる。あいつの場合は胸を押し当ててきたりして俺の反応を楽しんでくるが、そこまで鬼怒はしないようだ。…別に下心なんてありませんがね。比較ですよ比較。おしいとか思ってないですよ。ええ。妻に誓って。

 

「…まあじゃあ聞くけど。俺がこっちに来て迷惑だったかって話よ」

 

「…え?普通うれしくないのかな?鬼怒はすっごくうれしいよ」

 

さもそれが当たり前だろうと言わんばかりに、鬼怒はすっぱり言い放つ。ちょっとうれしいが、喜ぶ顔は見せないでおこう。

 

「お、おう、そうか。ならいいんだ。…っと、他の奴らも来たか」

そうこう話していると、他の遠征組もこちらへと寄ってきたようだ。東京急行弐組なだけあってそこそこの練度を持つ艦娘で、つまり馴染みのある奴らである。

 

「提督、おはようございます!」

 

「おぉ~提督じゃないかー。江風さんをお迎えとは義理堅いねぇ~」

 

元気よく挨拶をしてくれたのは、朧と江風だ。そんな彼女に続いて、道場でも見かけた三日月や、遠征にはよく赴いている不知火に菊月も寄ってくる。

 

「提督…。おはようございます」

 

不知火は淡々とした姿勢で言う。いつも通りの様子だ。つんつんしているが、それが逆に愛らしいのが彼女の特徴だろう。

 

「うん。おはよ。そしてお疲れさまと言うべきか」

 

「いえいえ、これも朧たちのお仕事なので。むしろお仕事がない方が個人的には堪えてしまします」

 

なるほど、そういうとらえ方もあるのか。働いたら負けとかそういう考えもあるが、それは差別的な発言になってしまうけど裕福で充実した人間がいうことかもしれない。彼女らは人間でもあるが兵器でもあって、それゆえに使われないと不満がたまるのは、間違いないだろう。

 

「あれ…?じゃあなんでだ?」

 

思わず声に出る。じゃあなんで天龍はあんなにブチ切れてたんだろうか。あいつは遠征にもよく出るし、仕事がないわけではないはずだ。確かに出撃数は昔に比べ減ったかもしれないが、今ではすっかり遠征番長で、大きく貢献していると思うんだが。

 

「どうしました?」

 

不知火が俺の言葉に反応したようで、声をかけてくる。ふむ、どうしようか聞いてみるべきか…。

 

「んー。天龍ってさ、なんか不満とか持ってたりするのかな?」

 

一人で悩んでも仕方ないので、ともかく聞いてみた。すると全員、唸るようにして考え始める。

 

「鬼怒はわからないなー。なんていうか、いっつもおらおらーって感じだし、少し抜けてるし、悩みとか聞いたことないなー」

 

「朧もそんな感じです。と、言うか天龍さんとあまり話さないですね。その、昔はよく話したんですが、今は友達も増えましたし、一緒の遠征隊にも組まれないので」

 

「ええ、不知火も同じです。高練度組なので」

 

「んー江風さんはそもそもが運用違いでなぁー。ほら、大発積むし?」

 

鬼怒、朧、不知火、江風は純粋にわからないようだ。確かにレベルと艦種の関係上、彼女らは天龍と一緒に仕事になることは少ないだろう。基本は天龍龍田コンビでの遠征組に、鬼怒や朧といった高練度で構築された遠征組。おまけに鬼怒は必要時には前線に出るし、まず天龍とはかかわらない。

 

「…私もわからないですね。天龍さんはいっつもなんだかんだ優しいですし」

 

「記憶にはない…。この菊月…天龍と一緒することは多いが、遠征時はあまりしゃべらないからな…」

 

三日月と菊月も、彼女らとは同意見のようだ。正直この二名は燃費的にも天龍と一緒の任務に就くことが多いので、何か知っているかと思ったが…。

 

「あ、そう。まあいいや。すまんね、変な事聞いて」

 

「いや…司令官。別に構わないぞ…。その、私たちにも気軽に声をかけてくれるのは…うれしい…」

 

少し照れくさそうに言う菊月。そんなほとばしるうれしいオーラ出されても、これが普通じゃないのか?

 

「そう?じゃあ今後も気軽に話しかけるわ。いやー話し相手が増えるのはうれしいからね」

 

「…司令官には話し相手がいない…?ぼっちなのか?」

 

「ぼっちちゃうわ。ただ、安易に声をかけたら、拒絶されるのはさすがに来るものがあるからな」

 

そういうと、三日月が「あっ…」と何かを察したような顔をする。まあきっと、天龍事件のことを思い出したんだろう。要するにそういうこと。拒絶されたり、嫌がったりされるのはこっちとしても向こうとしても、嫌な思いしかしないだろうしね。

 

「よーし、じゃあ鬼怒は今度執務室に突撃するね!御菓子は持っていくから、お茶よろしくね!」

 

「図々しいねぇ君。まあいいけどよ」

 

こうして遠征隊とは気軽に打ち解けることができたが、結論を言うと収穫はナシだ。まあ散歩がてらに遠征隊と仲良くなれたのは、普通に収穫なのかもしれないがね。

 




どうも、飛男です。
こんかいも二か月開いての投稿ですね。リアルで忙しいので、許してください。
さて、鎮守府生活がこれで開始されます。いろいろ考えてはいますが、のんびり書いていくつもりです。

では、また次回お会いしましょう。


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ついに始まる、提督業務だ

ずいぶんと久々の投稿です。


遠征勢と別れ、適当に時間をつぶし朝食時間。とりあえず俺は、ラウンジへと足を運んだ。

 

すでに何十人もの艦娘が、わいわいと談笑をしながら食事を楽しんでいる様子が見えた。つうか多いな…こんだけ艦娘いるのか…と、まあ圧巻の光景だ。

 

「あ、提督さんおはよう」

 

と、後ろから肩をたたかれる。この言い回しは瑞鶴だ。ツンツンな様子はなく、普通に接してくるあたり、日をまたいで整理がついたんだろうか。いや、単艦演習で堪えたのだろうか?

 

「おう、おはよう。しかしすごいなこの量。昨日の夕方ごろとは大違いだ」

 

「そうでしょ?みんな提督さんが集めた…と言ったら少し失礼ないい方だけど、実際そうだからね。誇れば?」

 

確かに瑞鶴の言う通りかもしれない。提督業を始めて三年。ずいぶんと人も装備も集まった。それには彼女らの大きな功績もあって、逆に頭も上がらない。俺はただ、簡単に組まれたパターンから成る指示を出していたに、過ぎないのだから。

そのまま瑞鶴に連れられ、食券を買い、伊良湖から受け取る。今日の当番は伊良子だということなのだろうか。

 

「男の方って…大盛がいいんですよね?間宮さんから聞きましたよ!」

 

そう伊良子は言ってどばっといろいろ盛ってきた。朝から大盛はラグビー部やら野球部くらいの強靭な胃袋がないときついわ。と、いうか重いわ。

 

とは思うもの突っ込まず「あんがと」と感謝の気持ちを見せつつ受け取り、座席へと座る。まあ彼女は善意でやってくれたはず。それを無下にはできないのが俺の性格だからね。

 

さて手前には瑞鶴が座り、要するに向かい合わせで食うのか…と苦笑い。

 

「なに?私と向かいで食べるのは嫌?」

 

不服そうに瑞鶴はジト目でこっちを見てくるので、「いやいや」と首を振る。まあ純粋に、こんな経験全然ないから緊張するって事よ。蒼龍とはまた違う感じだし。でも瑞鶴はどっちかと言うと、友人と言うかなんというか、そういう目で見れない。まあ向こうもそう思ってるんじゃねぇかなぁと、解釈。

 

「あ、提督さん今日暇?実は…」

 

瑞鶴が何か言いかけた時、俺の隣にカタリと食盆が置かれる。静かな様子で席に着いたのは、加賀だ。

 

「おはようございます提督。本日は出撃の指令がありましたよね」

 

こう、露骨に瑞鶴の言いかけたことをつぶしにかかってきた。こわいなぁ。静かに言うあたりが、また怖い。と、いうかそんな予定勝手に組んであったのね。

 

「…なに?私はそんなことも知らなかったマヌケみたいな言い方してくるわけ?加賀さん」

 

はじまったというのが正しいのだろうか。つうか瑞鶴完全な言いがかりだよね。それ。

 

「さあ?それはあなたの想像次第よ。瑞鶴」

 

朝からピリピリした様子を見せる二人。なんで俺の近くでそんなことするんだよ気まずいだろ。

 

「隣、いいだろうか?」

 

居心地の悪さを感じていると、さらに横から声がかかる。この独特な凛々しい声は――

 

「グラーフか。いいよ。俺の隣でよければ」

 

「むしろそれがいい。深い意味はないが」

 

あくまでもキリっとした様子なグラーフ。かっこいいねぇお前は。そういうところは見習いたいぜ。男でもね。

 

「提督さん人気だねー。男前じゃないのにねー」

 

にやにやとした様子でいう瑞鶴。茶化すねぇ君。つうか事実だけど面と向かって言えば悪口だからね、それ。

 

「そうだろうか?私はアドミラールの顔つきは好きだ。サムライはこうした顔なのだろう?そうか…ズイカクとは好みが違うのかもしれない」

 

スパンと言い放つグラーフの言葉に、思わず照れくさくなる。侍っつうかまあ日本人男性特有の顔をしてますがね。しかし、そういうこと切り込む様にいうんだねグラーフ。かっこよすぎかよ。お前男に生まれたほうがよかったんじゃ。いや、これだからいいのかもしれない。

 

「五航戦の子は見る目がないもの。仕方ないわ」

 

加賀はふと怒りの燃料を投下するように、無表情でつぶやくように言う。瑞鶴がさらにムッとしているから、やめてくれよ…。

 

「ふむ…それは決めつけというものだカガ。人には誰でも好みがある。珈琲でも同じだ。浅炒りに深入り、苦みに酸味…。求めるものは違うのだ。人は、そういうものだと思うぞ」

 

あくまでもどっちつかずのグラーフだが、加賀も瑞鶴も何も言わなくなった。グラーフはそういう立場に落ち着いているのかもしれない。加賀と瑞鶴の衝突を抑える、そんな立場だ。これは向こうの世界からじゃわからなかったな。

 

「ところでさ加賀。出撃どうとかのことだけど、それ初耳なんだけど」

 

「ええ、だって私も武蔵に先ほど聞いたもの。あとで今日の予定を飛龍に聞くことになるだろうけど」

 

飛龍が今後秘書艦になるだろうから俺の予定を管理するのはわかる。でも加賀さんは聞く必要がないような気もするけどね。いわないよ。にらまれそうだし。

 

「じゃあさっさと食っちまうかね。しかし…重いなこれ…」

 

なんだかんだ言って、食べ切れそうではある。パンものならまだしも、ご飯物だから割と行ける。

 

ちなみに空母勢だけど、総じて全員大盛りだったりするが、深くは突っ込まないでおこう。食べる子は育つんだ。うん。瑞鶴はそうじゃないみたいだけどね。どことは言わないけど。

 

 

 

朝食後。執務室に戻り朝礼が終わるのを待ちつつ、女神さんを弄っていて数分後え、ようやく飛龍が顔を見せた。いうまでもなく、今日の予定を伝えに来たようだ。

 

つらつらと述べてい行くのはどうかと思うので、要点をまとめるとこうだ。

 

まず艦隊司令の見学。要するにまだ指示を出すには経験不足というかトーシローなので見てろとの事。

 

次に雑学の勉強。こっちに来ても学生の領分である勉学は逃れられないようだ。まあ、俺の為にわざわざ特別講師を香取と鹿島がしてくれるらしい。まだ会ったことないので、どんな性格をしているか、面と向かって見れそうだ。

 

最後にこれはどうなのかと思うが、射撃訓練らしい。え、艤装つけるの?いや、そんなわけはない。どうやら空母勢が弓道を訓練項目に入れているように、艤装ではない武器を使った訓練を行うのだという。剣術はどうあれ、日本で一般人が実銃を撃てる機会など、米国圏や御隣の国での射撃場で高い金を払うか、または猟銃免許等を取ってなおかつ長い長い検査を受けてやっとだとか、それくらいだ。ミリオタくんな俺にとってこれは期待感が持てる。

 

 

 

さて、そんなこんなでまず最初は艦隊司令。指令室は庁舎にあるらしく、一階の奥とのこと。

 

任務も鎮守府近海の哨戒。あくまでも触りとの事らしい。すでに大淀、武蔵は持ち場についているらしく。開いている席はあからさまな場所というべきだろうか、室内の中央にででんとマイクスタンドが置いてある指令席が、そこにはあった。

 

「これに、座る感じ?」

 

「そうだ。むしろどこに座るというのだ?お前は提督だぞ?」

 

武蔵は相変わらずに呆れ顔でいう。うん。そうだね。雰囲気的にはそこなんだよね。でもほら、座っていいのとか聞きたくもなるよ。

 

「まあ、鎮守府近海の哨戒任務です。別に気負う必要はありませんよ。そこで堂々と座っていて、言葉を投げかけてあげればいいんです」

 

優しい口調で、大淀はフォローの言葉を投げかけてきた。なるほど、こんな感じでってか。ついてきた飛龍も、「そうそう」と言葉を合わせる。

 

「じゃあ、失礼します」

 

座るや否や、武蔵が何をかしこまる必要がと表情をまたもや呆れる。すいませんねこういう時はあらよっととはいけないもので。

 

「よし、初めよう。第一艦隊、聞こえるか?」

 

武蔵がそう、彼女の持ち場にあるマイクに声をかける。通信機特有のクリアではない音声が聞こえてきた。

 

『こちら第一艦隊旗艦阿武隈。準備おっけーです』

 

「そうか。では提督の言葉がある。清聴するように」

 

そういって、武蔵がこっちに視線を送る。え、もうやるの?前準備もなく?何も考えてないんだけど。

 

「何を戸惑っている。早く言葉を投げかけてやれ」

 

「あ、はい。えっと、マイクの音量大丈夫?チェックしなくてもいいの?」

 

なれない動作でぼそぼそつぶやいていると、スピーカーからくすくす笑い声が聞こえてくる。

 

『提督、霧島さんみたいですねー。私的にはとっても面白いんですけど』

 

阿武隈がにやにやしている様子が思い浮かぶ。まあそんな子じゃないとは思うけど、やっぱりこう、笑われるとね。どうしてもそう想像してしまうのであって。

 

「きみねぇ…。俺はまだやり慣れてないの。わかる?俺民間人よ?本来。ま、聞こえてるならいいけど」

 

『はい。感度良好です。みんなも聞こえているみたいです』

 

ならいいか。しかし何を言おうか。要するに緊張をほぐしてやる程度の軽口が良いんだろうけど、そこまで頭の回転フルマックスなピカピカ頭ではないからね。どうしようか。

 

「あ、そういえば阿武隈って、まだ面と向かっては会ってないな」

 

『え?ええ、まあそうですけど…。私的に挨拶くらいは、機会があればしようかなって。鬼怒ちゃんには会ったんですよね?聞きましたー』

 

「おう、そうだな。アレだよな。面と向かって会うと、普段見慣れているのとは違う印象を受けるっつうか、新鮮で面白い。うん、改めてスゴイと思ったね」

 

『何がスゴイんです?…ともかくこの任務が終わったら挨拶しに行きますね?報告も義務ですし。ホウレンソウって奴ですよね?』

 

「ん。わかった。つうかそれビジネスマナーだぞ阿武隈。軍隊的にはどうなの?…ともかく、どうせならほかの隊員も連れてきて構わないよ。どうせ一人じゃ…いや、まあ飛龍がいるけど、とりあえず広くて居心地が悪いしさ」

 

『だってみんな!よおし、帰る楽しみができたね。みんなも意気込んでますよ』

 

ならよかったのかな?まあ大所帯で押し込んで来られても困るが、六人くらいで来てもまあ余裕だろう。

 

「飛龍、後でなんか菓子でも持ってきてな。これ命令」

 

「え、もー。命令とか言われたら断れないじゃん。職権乱用だよ?パワハラだよ?訴えるよ?」

 

不服そうにいうも、実際はそうでもないだろう飛龍の回答が返ってくる。さて、ではそろそろか。武蔵も視線で促してくるし。

 

「まあおしゃべりはここまで。怪我しないようにしてくれよ。健闘を…つっても近海哨戒だし、大方お前らなら朝飯前だろう。がんばってこい」

 

『わかりました!第一艦隊旗艦阿武隈、発艦します!』

 

阿武隈がそう叫ぶと同時に、ごううんと音声が響く。おそらく発艦時の音なのだろう。艤装ってすげぇ。

 

 

 

さて、もはや言うまでもないが、敵艦と会敵後の戦闘はあっという間に終わった。まあ、そうだよね。近海だしね。イ級チャレンジとかしないからアレだけど、少し同情の念も覚えるよね。

 

阿武隈達は帰還するとの報告をして、いったん通信は終わりとなる。思わず椅子にもたれ掛り、息を吐いた。

 

「どうした?別段なにも、疲れるような事はしていないだろう?」

 

武蔵が茶化すように、言ってくる。コイツ分かってるんだな。今の俺が念頭にある気持ちをさ。

 

「まったく。言わせんなよ。やっぱり初陣はどんな場所でも緊張するさ。轟沈は無いにしろ、彼女らが大きなダメージを負うところを想像すると、見たくない」

 

「それもそうだな」

 

同意するように、武蔵は言う。俺は少し間を開けて、「あとさ」と言葉を続けた。

 

「怖いねやっぱり。俺は戦闘には出てないけど、そうした怖さじゃない。俺が無知だから怖いんだよ。だからこそ、鹿島と香取の講義は、早く受けたくなったかな」

 

正直な話、通信から入る状況下の想像が全くできなかった。言ってしまえば専門用語の塊が列を成して、突撃をしてくる感じだろうか。

 

無論、わからなかったわけじゃない。少なくともミリオタと言うのだから、用語その物は理解が追いつく。だがそれでも、百聞は一見にしかずと言うように、生から成る戦闘の音声や緊迫感は、場数を踏まなければ慣れることはできないだろうね。そうした意味でも、練習艦勢の講義を受けるのは、軽々しく考えてはいけない様に思えたわけ。たかが近海だと思ってたけど、近海だからこそ掴めた気がする。

 

「ふむ、その意気だな。だからこそ、この機会を設けた甲斐あったというものだ。だが提督よ、落胆はしなくていいぞ。戦いは臆病なくらいが丁度いい。ある意味ではそうした臆病な気持ちも大切なんだ。臆病だからこそ、強くなれるのだからな」

 

意外にも優しい言葉を投げかけて来た武蔵。確かにそうかもしれない。剣術でもそうだが、臆病なほど、強くなる。それはある意味、死にたくないから強くなるとも、似たようなものだ。もっとも武蔵はグイグイ前へ行くタイプだと思ってたが、違うようだね。

 

「望君も私たちが大変だったってことに気が付けてよかったよかった。どう?敬う気になった?」

 

飛龍がここぞとばかりに、軽口を挟んでくる。正直言い返しにくい所を突いて来るから、ぐぬぬと黙ってしまう。腕を上げたな。

 

「さて、提督。時間が余ってしまったな。…まあ、ある意味では計算づくではあるんだが」

 

ふと、武蔵がそう切り出す。どういう事だろうかと、首をかしげた。

 

「つまり?」

 

俺がそう聞くと、武蔵は得意げな表情で、眼鏡を上げる。

 

「迎えに行ってみないか?彼女らを」

 




どうも、お久しぶりです。飛男です。
投稿にずいぶんと時間が開いてしまいましたね。申し訳ございません。リアルに少し変化が起きて、言ってしまえばすごく大変だけど新しい一歩を踏み出した。そんな感じでしょうか。
そのため、執筆そのものがうまくいかなかったり、考え込んだりと、苦労してしまいました。ここまで待ってくださった観覧者の皆様には、心からのお詫びを申し上げてたいです。

おそらく、また投稿は未定になると思います。ゆっくり時間をかけて、納得いけるように書いていきますので、気長にお待ちいただけることを切に願います。

ではこのあたりで。また次回お会いしましょう。


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だから船は、苦手なんだ

何か月ぶりになるかわからないですけど、久々に更新。


波がテトラブロックくんを激しい抑え込みで押しつぶすように、包み込んでは引いていく。どうでもいいけどテトラブロックってなんか好きだ。特に形が物言わぬ愛くるしさを感じさせる所とかいいよね。別に無機質に欲情するわけではないけど。

 

「風が気持ちいねー。やっぱり大湊の風は好きだなー」

 

隣で飛龍はそういうが、現世ではここに来たことがなかったりする。でもその意見には同意だ。夏になれば蒸し暑くジメジメしまくって寝苦しい毎日が襲い掛かる我が県と比べると、すっきりとした風と言うのかな。そんな感じだ。

 

さて、そんな日常風景の一コマを切り出したようなシーンはどうでもいいとして、こうして暇を持てあましている俺と飛龍だが、これでも人待ちだったりする。武蔵の提案を飲んで、港で待っているように言われてるんだよね。なんでも艤装を付けたのち、ここで拾っていくらしい。

 

 まだかなーと座り込み、自然な動作で煙草に火をつける。ふわりと舞うように副流煙が空へと昇っていくけど、アレは雲になるのだろうか。メルヘンチックな考えだが、結局悪いイメージが張り付いてしまっている煙草。体に害だし雰囲気悪いしで、それは結局ぶち壊されている。それでも吸うのは、アウトローに見せたい男のロマンもあったりする。

 

まだ来ないけど、時間がかかるのも無理はないかもしれない。大体予測は立っている。武蔵の大型艤装の装着や、牽引ボートの手配などを行っているんだろう。

 

つうか、酔わなきゃいいけど。問題はこれだ。

 

実は俺、船が得意ではない。いや、今更ながらだけど、船酔いはしょっちゅうだったりするわけで、吐いてしまう可能性も捨てきれないのが、怖いところ。提督なのに船酔いとか、海の男失格だ。まあ海の男じゃないんだけども。

 

不安が煙草の煙と共に、もくもくと盛り上がっては来るが、別の起点を利かせると、案外いい機会なのかもしれないとも思える。彼女らがどれくらいのパワーを持っているのか、一見できるからだ。画面越しだけの彼女らは、それこそすさまじいものであると予想は付くが、結局は肉眼で見ているわけではなく、そうした映像を見ているに過ぎないわけで、リアリティはまるでない。

 

思考を変えれば、なんだかわくわくしてきたぞと、数分後。波打つ音とは違う、海を斬るような水音が聞こえてくる。ぐりぐりと煙草を地面に押し付け、よっこいせと立ち上がる。

 

「待たせたな。提督よ」

 

ででんと効果音が付きそうな、自信が溢れだす武蔵。想定内ではあるが、隣にいる大淀とは比べ物にならないほど、厳つく重くらしい艤装だ。女子に装甲とはこれまたロマンがある。こればっかりはさすが大和型だなと言わざるを得ない。

 

「おほー二人ともかっこいいじゃん。やっぱり生で見ると迫力あるね」

 

武蔵の迫力がすごすぎるのもあるが、艤装の迫力は艦種に限らず圧巻する。まあ飛龍の艤装を見れないのは残念だけど、ともかく三次元の質感はと相まって現実味を帯び、とても空想上のものではないと再認識させられた。

 

「ふっふふ…そうだろう?かっこいいだろう?悪い気はしないぞ」

 

「そうですね。私もとてもいい気分です」

 

大淀と武蔵はたいそう喜んでいる。大淀はともかく、武蔵すらこうもはしゃがれては、ギャップがすごい。めっさ笑顔。こう凛々しい笑みとは違う、にひひと言った少女の笑顔だ。武蔵ってホント想像以上にかわいい子供なのかもしれない。いや、ウチの武蔵がおかしいのだろうか。

 

「そうだ。ねえ望君、二人の艤装どういうところが好き?」

 

キラーパスを投げてくる飛龍に、苦い笑いが漏れる。まあ、でも素直に感想を述べてしまおう。

 

「そうだなぁ…まず武蔵はでかいのがいいよね。もう規格外って感じだわ。人間サイズになっているとはいえ、さすが大和型だよね。迫力が違う。次に大淀はメカニカルな感じがいい味を出してる。大淀特有の優秀さがにじみ出てる感じ?」

 

「ほうほう、どう?二人とも?」

 

そう飛龍が言えば、武蔵と大淀も文句なしの表情をしてくれる。

 

「やるねぇって感じかな。うん、さすが蒼龍を落としただけあるね!」

 

ちょっとチョロすぎる気もするけど、どうやら合格点をもらえたようだ。すこしおじさん心配だなぁ。それに蒼龍を落としたとか、それはちょっとどうかなと思うけど、ともかく喜んでもらえて何より。まあ結構適当なところもあるが、純粋にほめちぎられている故に気分がいいんだろうね。武蔵は高らかに笑い、大淀はすっげぇ照れくさそう。

 

「っと、我々だけいい気分になっていては駄目だな。彼女たちが返ってくる。早く迎えに行かなければ」

 

当初の目的を思い出したのか、武蔵ははっとした様子だ。

 

しかし、そこで一つ、あれれと疑問が沸いた。

 

「あれ?牽引用のボートとかないじゃん?」

 

彼女らにボートを引っ張ってもらわなければ、俺は海に出れない。提督用の艤装なんてないだろうし、むしろつけたくない。…やっぱり、ちょっとつけてみたい。マスターなチーフみたいな装備とか、鉄男スーツとか、いいよね。

 

「え、望君は泳げばいいじゃん?」

 

「きみねぇ。彼女たちが帰ってきてるとはいえ、どれくらいあると思う?彼女たちまで何マイル?だよ?俺は水陸両用のロボットじゃないぞ」

 

俺は北極の基地に攻め入った灰色のカニだとかハイになったなんともないぜの海坊主ではない。つうか一つ目隊じゃないし。アンディとか叫ばない。うん、伝わるか怪しい。架空の空とか流れそう。わからない人は、調べよう。

 

「まったく飛龍。提督を茶化すのは辞めないか。彼は私たちの一応上官だぞ」

 

「そうですね。泳ぐのは人間では無理です」

 

武蔵と大淀はフォローを入れてくれる。わあいうれしい。武蔵の一応はちょっとしょげそうになるが、我慢だ俺。

 

ともかく、これでは行けなさそうだ。と、そんなことを思っていると、武蔵が俺に向かって、手を広げ始めた。

 

「ん?なにをなさっているので?」

 

「なにって、初めからこのつもりだったが」

 

ちょっと理解が追いつかない。視界情報から算出すると、飛び込んで来いと言っているような気もする。

 

「んー?え、だっこ?」

 

「ああ、そうだぞ」

 

「ボートとかで牽引すればいいじゃん?」

 

「それだと危険だな。大和型の馬力をなめないでくれ。まあ大丈夫、私なら安定して運べるぞ」

 

「うん。そうだとはおもう。だけどね、それは違うじゃん?」

 

「何が違うというのだ?…ああ、そういうことか」

 

やっとわかってくれたらしい。まあさすがにね。うれしい提案ではあるけどね。でも羞恥心がそれを押しとどめてくるわけで。

とか思っていたら、今度は手を広げるのではなく、すっと抱えるような形を見せてきた。

 

「こういうことだな?」

 

自信満々に言う武蔵。違うそうじゃない。

 

「ごめんどうしてそうなったのか君とは小一時間説教したい気分だよ。いやぁ…メルヘンな提案してきたねぇ?」

 

「じゃあどういうことだ!わからんぞ!」

 

ついに叫ぶ武蔵。大淀と飛龍に目を向ければ、大淀は満面の笑みでこっちを見ており、飛龍は笑いをこらえているようだ。こいつらめ…。

 

「ふひ…もう望君。仕方ないって。ひぃひぃ。うぷぷ…」

 

「いーやーでーすー。俺はそんな恥ずかしいことされたくないわ!俺はお姫様じゃないんだぞ!?それとはかけ離れた存在っつうか性別が反対だわ!どっちかと言えば王子様にも程遠い盗賊っぽい何かだわ!」

 

「何が嫌かわからんな…ほら、はやく来いよ。もう帰ってきてしまうぞ?」

 

提案に乗ったのは軽率すぎた。コイツやっぱり天然な娘だったようだ。初めから俺をこうして遠海に運び出したかったんだろう。羞恥心とかまるで考えずね。まあ悪気があったわけじゃないのはわかる。だが、無知は罪とも言うんだ。

 

 ともかく、まさかボートじゃなかったとは想定外だった。つうか俺を抱えていくって重くない?とは思うも、艤装で本人自体がパワーアップしているわけだし、そうした点ではいらない心配なんだろう。

 

 時間が押し迫っている。ここは行くしかないのか?いやいや、冷静に考えろ俺。それで茶化されるのも、さすがに今後滞在する期間を考えると苦痛の一言に尽きてしまう。

 

「んー。よし、望君」

 

と、決めあぐねていたその時、ふと飛龍が声をかけてきた。なんだよ、と振り返ると――

 

「そーい!」

 

何かを言うまでもなく、ばすっと両肩を押される。そして刹那的に、ふわりと浮遊感を覚えた。

 

俺今、飛んでるや。

 

そして、落下していく。

 

「おわあああ!?おまえぇええ!」

 

下手すら先ほど愛でていたテトラブロックに強打してもれなく死ぬんちゃうかと考えがよぎるが、その心配は必要ない。後ろには、武蔵がスタンバイしているからだ。

 

少々衝撃が走ったが、しっかりと抱えるように武蔵が俺をキャッチした。まるでラグビー選手が飛んできたボールをキャッチするように見えるが、結果的にあの抱っこに成ってしまう。石鹸の香りがふわりと横切った気がしたが、今は考えない。いや、ちょっと考えた。時間かかったのってそういうことだったのか?納得できたような気がする。

 

「大丈夫か提督よ?」

 

心配そうに、俺を抱え込む武蔵。あの抱っこをするのはあるかなと思っていたが、まさかされるとは思わなかった。男女逆転のこれとか誰得だよ。

 

「お、おう…。ってゴラァ!この飛龍てめぇ!」

 

もれなく始まる恋などなく、出てきたのはあのバカに対する怒りだ。

 

「だって早くしないとー。ねぇ武蔵さん?」

 

飛龍の驚くべき、いやマジ驚くべきすぎる行為に、流石の武蔵も苦い笑いを浮かべていた。なおその半面、大淀は笑いを隠し切れない様子で、くすくすと抑え込み切れない声が聞こえてくる。早速恥ずかしさが込み上げてきた。

 

「よし、提督もこの武蔵の手元に来たことだ。彼女たちを迎えに行こうか!」

 

先ほどの苦笑いからぱっと切り替えるように、武蔵は言う。いやいやマジでこのままいくのか。やめてくれ。

 

「せ、せめてお前の艤装の上にしてくれよぉ!」

 

俺の心からの叫びは、港中に響いたのだった。

 

 

 

 

結局だ。武蔵は偽装の上に、またがる形で乗ることを許してくれた。もっともそんなところに人間が乗る事なんて想定してないから、すっげぇ尻が痛い。つうか艤装の上にまたがる形で乗る提督とかなんともまあ滑稽と言うかあほらしいというか…。まあ出撃組に見られて終始精神的なダメージを受けるよりかは、まだ耐えれる。

 

しかしいざ乗り込んで――と言うのはおかしいかもしれない。跨り込んでが正解か。ともかく問題はそこじゃなくて、驚いたのはまったく揺れないということだ。武蔵の海上走行は、それほどにまで安定していて、ストレスフリーである。さすが大和型と言うか、大型の船を模しているだけはある。こうなると隼鷹とか豪華客船勢の乗り心地が気になるが、変な意味に捉えられそうだ。

 

「やっぱすげぇな武蔵」

 

そう口走る事しかできない。武蔵はそれを聞くと、腕を組んで得意げな顔をする。

 

「だから言っただろう?牽引ボートなどいらないとな。まあ人間をこうして艤装に乗せたことは初めての試みだが、思った通りに安定しているぜ?」

 

「うん、大淀の方でも下手すら安定するんじゃ?」

 

大淀もいうなれば軽巡。船としては十分に大きい方ではあるし、何より背負う艤装も大きい故に、酔いにくそうだ。

 

「試してみます?」

 

にっこりと笑顔を向けて大淀は言うが、俺は首を横に振って断る。まあ乗りたいわけではないからね。

 

「そうですか。あ、そろそろ合流できるのではないでしょうか?」

 

と、大淀が言うと、狙ったかのようなタイミングっで六つの影がこちらに迫ってくるのが見える。

 

「おーい!阿武隈達!迎えに来たぞ!」

 

武蔵が手をあげ、そう叫ぶ。けっこうな距離あると思うけど、六つの影は気が付いたようで、こっちに波を上げて近づいてくる。

 

「あれぇ?提督?」

 

先頭の阿武隈がふと気が付いたようで、武蔵の前で止まってみせた。

 

「よ、任務お疲れさん」

 

軽い挨拶のつもりだったが、阿武隈達には其れがいたく感激だったようで、わいのわいのと喜んで見せた。やっぱり影響力あるんだなぁと、変に権力を持った気分になる。

 

「ありがとうございますぅ!でも…なんで武蔵さんの上に乗ってるんですか?」

 

まあそら気になるよね。てなわけで淡々と言う。

 

「いろいろあった。結局こうなった。みんないいね?」

 

変な詮索をされては困る。故に強制的な言い回しでそう促した訳。これは命令に成るかどうか怪しいけど、とりあえずこれ以上深く突っ込むなよ?と意志が伝わったようで、彼女たちはなんとなくな様子で返事をした。よし、良い子だ。

 

さてはてそれはいいとして、やはり彼女らを見るとある思いがふと過ぎる。

 

「しかしまあ、お前たちを見るとまだ子供なんだなぁとは思うな」

 

阿武隈以下五名の艦娘たちは、どれも船形に即した姿をしていて、艤装を付けても何ら変わらない印象だった。それこそ艤装で大きく見えるかもしれないけど、やっぱりあどけなさが抜けきっていないと言うか、なんというか。とりあえず改めてこんな奴らを戦場に出してたんだなぁと、少し罪悪感のようなものが背筋を這い寄る感覚を覚える。

 

「もう、なんですか?バカにしに来たんですか?」

 

若干の言い回しでは、そう捉えるのも無理はないか。阿武隈は少し不服そうだった。

 

「いや、そんなつもりはないよ。改めて指示を出す重みを感じただけかな」

 

現に作戦最中は聞いていて他人事なのにまるで本人の様に緊張したし、実際今彼女らを見て改めてそう思った。これからこうした小さくともとてつもなく思い責任を感じていくんだなと。

 

「ふうん。いまさらな気がしますけど。でもまあ、知ってくれて私的には安心したかも」

 

「安心?」

 

どういう意味だろうか。阿武隈にそう言葉をそっくり返せば、だってと口を開く。

 

「私たちのこれまで、私たちの戦闘は、結果かしか見てなかったわけで、その努力とかそういうの、本当に知ってはもらえてなかったかなぁって思ってました。でも、これでそう思える様になってくれたのなら、私的にはいいかなって、そう思ったんです」

 

なるほどそういう事か。確かに作戦の失敗成功を重視していたのは否めないし、彼女たちの戦闘過程は、知る由もなければ知ることもできなかったわけで、彼女たちの努力や根気や負けん気は、本質的には知れなかった。

 

つまり、阿武隈はこういいたいわけだ。結果もそうだけど、努力も見てほしい。私たちがいかにして戦っているか、私たちがどうした気持ちで戦っているかと、そういう事だ。

作戦を成功させるためには、結局は努力をしなければならないわけで、それはすなわち練度に結びつく。だけども練度以外の努力も確実にあるはずで、そこを見てほしいのだろう。確かにこれは、失念していた気もする。

 

 また一つ、また一つとこの世界の本質を知ることができた。今まで画面だけで、彼女たちの本職の本質を染み込む様に理解できて来たわけだ。

 

「まてよ…つまり…」

 

ここでふと、俺は一つの考えが過ぎる。もしやそういう事か?と、この世界に来た理由に結びつくのではと。だが、それは他事が起きれば忘れそうな小さなものだった。

 

そう、他事が起きなければ。

 

「ところでぇ。提督私には載ってみないんですか?」

 

ニヤニヤとした様子で、阿武隈がふとそういう。意識が思わず、そっちにいった。

 

「いや、だから好きでここに乗っている訳じゃないんだって」

 

「ああ、そうだぞ阿武隈。私が大和型だから、提督は私の上に乗っているのだ」

 

それはちょっと違うよね武蔵。君がこれしかないとか言って、結局乗る羽目になっただけだよね?

 

「でも、私だって軽巡ですし、提督は乗っても私的にOKだと思うんですけど。だから交代しません?武蔵さん?」

 

「まて、そもそも俺はマスコットや置物じゃないんだぞ?テディベアとかと勘違いしてない?自分の足で帰れるなら、今すぐここから降りたいんだけども。まあそれが無理だと分かってるけど、だからってそんな電車を乗り換える様にコロコロ乗り換えたくもないんだぞ?」

 

「じゃあ最後に私に乗りましょうよ。ね?提督?」

 

「却下で」

 

ええいやですとも、こんな羞恥プレイをコロコロ変えられるのもたまったものじゃないですよ。はい。

 

だが阿武隈はまさかと言うべきか、驚くことに俺の足を引っ張ってきた。

 

「おい阿武隈!やめないか!」

 

「ウェイト、ウェイト!落ちるわボケ!やめろ!」

 

武蔵と俺の静止で促しているのに、それでもいいじゃないですかーと引っ張る事を止めない阿武隈。お前そんな奴だったか?つうか積極的すぎないか?引っ込み事案な気弱少女だとばかり思っていたぞ?改二になって自信でもついたのか?

 

ついに艤装から降ろされそうになり、武蔵が手を出し始める。だが彼女はいうなれば後手なわけで、なおかつ後ろ斜めから引っ張られている形なわけだ。彼女は片手でしか、俺を掴むことができないわけで、その姿勢も力の半分ほどしか出せない形だ。

 

ふと、ずりりと手が滑る。残念ながらラッキーな事にはならないのが俺のスタイルなわけだけども、その代りその手は武蔵の腕を掴む形に成り、武蔵は「ひゃっ!?」と世にも珍しい乙女っぽい声を発した。

 

「わ、わりぃ!?」

 

と、情景反射的に手を離す。そう、手を離してしまった訳だ。

 

次に俺の目の前に映るのは、水面だった。やあ水面。元気かいと?バカな事を思う頃には、俺は水面に叩きつけられる形で入水することになったのだったとさ。

 




どうもお久しぶりです。飛男です。
最近の忙しさに猫の手も借りたい勢いで、早数か月。何とかこっちを投稿することができました。正直な話、どうしようかなと悩んではおりましたが、また熱が高まったので執筆に至った感じですね。自分で言うのもアレですが、過去に書いたものをふとした拍子で見てみたら、それが火種になった感じです。
オリジナルに手を出してみたはいいですが、そっちが行き詰ったのもあります。もしどんな作品かなと気になったら、読んでいただけると幸いします。つうかうれしいです。

さて、本編の話になりますが、こうグダグダ続けているうちに全然話が進まないのが正直なところ。いっそここらでバビュンと進めてしまおうかとも考えておりますが、それは反応次第になるかもしれないです。コメントくださいとは言っておりませんが、ちょっと気になってはいますね。

では今回はこのあたりで。また次回にお会いしましょう。


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勉強は、苦手なんだ。

海に不幸にも入水した俺は、茶化されながらも鎮守府に戻ることができた。

 

海水ベトベト気持ちもがた落ち。いざシャワー。

 

一張羅な提督服は悲しいことに洗濯行きになるそうだ。

 

あのまま着続けていたらおっさんとまではいかないが、若い男の汗臭さがこびりついて取れなかったはず。臭いに敏感な若い女の子てんこ盛りの鎮守府では罵詈雑言が飛んできたに違いない。危ない所だった。

 

とはいえ着る服がないわけで、どうしようとかシャワーを浴びながら思っていれば、明石の声が水音に紛れて聞こえてきた。

 

「新しい服をもってきましたよー」

 

それはありがたいと反応を返すが、いや待てよ。昨日来たばっかりなのにどうして用意できたのかと、疑問符が頭に浮かぶ。嫌な予感がした。

 

「まさか君達が着るような、制服とかじゃないよね?そうなら絶対着ないし、もれなく単艦放置の刑だからな?わかってるよね?」

 

すると明石はしばらく沈黙。からのまさかぁと言った声が聞こえた。

 

「い、いやだなぁ、そんなわけないじゃないですかー。あ、サイズ違うかも知れないので確認してきますねー。あははー」

 

 どうやら予想的中だった。またもや危ないことになりそうだったよ。明石の逃げるような廊下ダッシュの足音が聞こえてくるし。なに?君おかしいでしょ?なんで女装させようとしてきたわけ?うちの艦娘はやっぱりあたまおかしい。治療モトム。

 

 まあ、ともかく、着る服がない状況下にどうしようもない。まさかすっぽんぽんで鹿島香取と授業とかもはや授業の意味合いがかわってきそうだ。と、再び悩ましい思いでシャワーを浴び続ける事はや数分。またもや明石がどもーと言ったノリで出現したようだ。

 

「サイズ確認したら、やっぱりこっちだなぁって思いましたよー。いやー危ない危ない」

 

 危ないって俺の今後の立場もあるし、自分の保身に関してだよね?と、まあ胸に言葉を押し留め、ありがとうと変わりに言っておく。まあ何かしら用意してきたんただろう。一抹の不安はあるのだけど。

 

 言い忘れてたけど、シャワー室もとい浴室は言うまでもなく男女兼用だ。正確に言えばそうじゃないんだけども。言うまでもないけど女性しかいないから、しかたなく兼用と言う名目で利用させてもらっているだけだったりする。とほほと思うが、鎮守府は女性社会だし、しかたない。うらやましいとか思う奴は、逆にその立場に置かれてしまえばいい。どうしようもなく落ち着けないぞ。

 

 着替えがあるとわかったし、もう長居は無用だ。シャワーを止めて更衣室に。パンツにシャツといった下着はまああるし、問題は羽織物だが、いったい制服から変わって何を持ってきたのだろうか。

 

 そうして着替えのかごを見れば、中には藍染めの長着袴が入っていた。うん。やっぱりおかしいよね。つまるところ洋服じゃなくて和服候でござそうろうだね。

 

「まあ…着れなくもないけどさぁ…絶対浮くよなぁこれ」

 

鎮守府に和服姿なんて正規空母勢と一部軽空母勢だけだ。そう考えれば浮かないとは言え、やっぱり気が進まない。つうか提督にあるまじき服装じゃん。

 

「でも、とりあえずは着るかァ。女装より数百倍ましだしなぁ」

 

こうして今日一日、長着袴の侍スタイルを強いられることになった。

 

 

 

 

さてはて、時間割通りだとお次は先ほども言った通り、鹿島香取の特別授業だ。時間割って言い方、すごく懐かしい。大学だとコマと言うんだよね。なんでだろう。

 

特別授業と聞けば講義する彼女らだけあって、こう、イケナイ授業を受けるようにも思えるが、そうじゃないのはもはや火を見るよりも明らかだと思いたい。彼女らはまあまともだといいけど。

 

 こうして指定先の教室へレッツゴー。意外にも教育棟とかそういうのではなく、庁舎三階が教育スペースと化しているようで、行ったり来たりの気分だ。

 

 どうやって入ろうかと思うも、結局は失礼しますと就活生のような動作で入室を決めた。出迎えてくれたのは、やはり鹿島と香取。先んじて到着してたのかと。そして、教室にポツンと一つ、寂しさを漂わせる懐かしい教室の机と椅子だった。

 

 「なんか、居残りでもさせられている気分なんだけど」

 

 寂しすぎるぞ教室。他の椅子机は掃除の時間如く、後ろにすべて並べられているわけで、無駄に広々スペースだ。長着袴に教室の椅子机、そして前には練習艦二隻と、まあなんともミスマッチすぎる光景でもある。

 

 そんな事など気にもせず、いやむしろそう仕込んだから反応しないのも仕方ないかと、二人はそれぞれ口を開く。

 

 「ご対面は初めましてですね。香取です。今日は二時間の間に、この国と今の状況を説明したいと思います。よろしくお願いしますね」

 

 にっこりとバブみを感じる微笑みを見せる香取。そういえばうちの鎮守府に加えてから、一度も接点がないはずの艦娘だったと思う。それこそドロップした際に、ひょっこり顔を見せたくらいか。

 

 さてお待ちかねであろう鹿島。鹿島は教卓に腰を掛けて、足組をして、香取と同じくにっこりのご様子。

 

 「私はそれなりに面識がありますよね提督さん。ふふ、よろしくお願いしますね」

 

 彼女もまあ天使のような笑みの事。さすがどっかの女王とか言われたこともあるね。

 

 第一印象は、二人ともイメージ通りと言うか、普通過ぎる。これまで出会ってきた奴らのズレがひどすぎたのもあるが、ひとまずは安心できそうだ。でも、それにしたって鹿島、マジでそういう店の人に見えるので、まだ油断はできないんだけども。

 

 「つうか、二人ともって贅沢だね。二人とも得意分野が違うとか?」

 

 教えるのは一人でもいいんじゃないかとか思うので、思わず質問を投げかける。すると二人は顔を見合わせて、苦い笑いを漏らした。

 

「いえ、その、そういうわけではないんです」

 

鹿島の言葉に、香取が申し訳なさそうに反応する。

 

「はい…確かに過多なのは重々理解しております。現に、本来は鹿島だけの予定でしたけども、その…香取も御目通りしたくて」

 

ちょろっとギャップを見せてきた香取。イメージと大きくかけ離れた、異様な光景だ。異様と言うのは失礼か、意外だな。

 

「まあそういうことね。確かに香取とは全然話さなかったし、いい機会かもね」

 

「はい。だから躾けようととおもいまして…」

 

一瞬聞き間違えたのかと思った。は?いや、まって、おかしい事言わなかった?

 

「ん?いまなんて言ったの?ちょっと俺、良く聞こえなかったかなー」

 

聞き返すと、香取は依然と申し訳なさそうな表情を崩さず、いけしゃあしゃあと口を開いた。

 

「はい。だから躾けようと思ったんです。香取も練習艦なので、ふさわしいとお見せしたかったので。鹿島ばっかりずるいじゃないですか。だから、わからせたいんです」

 

やっぱり問題の言葉は、一言一句同じだ。さーっと、血の気が引く感覚に襲われた。

 

「か、鹿島。この人おかしいとおもう、助けて」

 

鹿島に助けを乞えば、鹿島は苦笑いを漏らす。

 

「御免なさい。私でも無理です。これはむしろ、提督さんがいけなかったと思いますよ?」

 

「え、俺のせいなの?」

 

予想外な言葉にぽかんとしてみれば、鹿島が補足してくれた。

 

「香取姉ぇ、着任してから意気込んでましたもの。提督を一人前にするんだって。でも、提督は香取姉ぇをずっと待機状態にしてましたし、その意気込みが空回りしちゃったみたいで、必要とされたくなっちゃったみたいです」

 

「そんなの仕方ないじゃん!?何隻艦娘いると思うんだよ!そんな数百隻の面倒見切れるわけないだろ!俺学生だし!そもそも香取全然きてくれなかったじゃん!」

 

 事実そうなわけで、実をいうと俺は香取をイベントで手に入れることができなかったのである。その時期はめぐりあわせが異様に悪く、艦これを弄る機会がなかった事もある。

 

 そんなこんなであのイベントは、空振りに終わってしまった。今でももったいないことをしたなぁと思っているが、ともかくその後、香取はそのドロップ率の難易度や建造率の低さ故に、鹿島より遅く着任したことになってしまった訳だ。

 

 つまり、本来香取を育てていい期間を、鹿島につぎ込んでしまったことになる。特に女王ともいわれるその容姿に案の定ホイホイされた俺は、鹿島を育て練度は瞬く間に五十ほどになり、まあ育ってるかなと歯止めを付けれる程度になった。そう、いわゆる香取は結局鹿島が練習艦でいるからいいやと、育てることを諦めてしまったのだ。

 

 その結果が、これである。香取は再び笑顔を見せてきた。

 

「さあ、始めましょう提督?特別授業を。きっと、香取のことも、よくわかってくれるとおもいますので」

 

香取の鞭は、ぎりぎりと音をたたてしなっている。これはアレだ、笑顔でキレてるってやつだ。

 

「お、お手柔らかに…ね?」

 

そうぼそりとつぶやくが、それが無駄だということは、この二時間の間に痛いほどわかったのだった。

 

 

 

 

こうして二時間にも及ぶ、特別授業は幕を下した。

 

幸いにも香取の鞭が俺に振るわれることはなかったが、口答えや質問はその鞭にかき消された。少しトラウマになりそうだ。

 

しかしながら、不幸中の幸いというか、鞭の恐怖にスパルタ的要素が加わったことで、大体のことはすんなり染み込んだ。いや、鞭で染み込んだわけではないけど、こう、防衛本能が学習能力を高めたんだろうね。

 

 まずどこから話そうか。最初はやはり、世界観だろうか。

 

何を隠そう、この世界は俺の居た世界とは似て非になるものらしく、技術力も部分的に進歩しているようだ。詳しい年代は今の年代とそう変わらないと言うのが、ベストだろう。

 

次に艦娘についてだけど、これも明石が以前ちょろっと言った通り、一種のヒューマノイドだそうだ。

 

 艦娘の発端は、まず諸説あるらしい。卵が後かヒヨコが後かの違いみたいなもので、深海棲艦と艦娘の発生はほぼ同時期らしい。ただ、艦娘の発生事例の原初は、来たる深海棲艦に向けて、こっちの世界では現在公園と化している戦艦三笠だと言う。彼女は当時まだ警察予備隊だった自衛隊と協力し、いまの均衡を保つことに成功したそうだ。つまり大本営には、我らが運営さんが居る様に、こちらの世界では戦艦三笠が艦娘の大元帥として鎮座しているそう。

 

もうここら辺から、眠くなってきてた。寝れなかったけどね。

 

 ほかにもいろいろあるけど、おおよそ省いてまとめてしまおう。

 

今もなお戦いは続き、終わりない戦いを強いられているが、拮抗状態が長々と続いて、ゆったりとした戦争になっている。巻き返しはいよいよもって行われるが、まだその時ではない。そんな感じだろうか。

 

まあそこから割り出すと、今の俺に足りないところは指揮能力なのは変わらないようで、それを学ぶ時間はまだ許されている感じだろうか。いや、まあそれ以外にも粗を探せばいろいろ問題はあるとおもうけど、最優先事項は提督が提督である為に、どうしても必要不可欠な能力だろうね。こればっかりは後にまた、鹿島と香取がみっちり教えるらしい。

 

「あー憂鬱だ。また香取のスパルタを受けることを強いられるとはね…逃げたい」

 

 昼休み、朝食と同じ席に座り、ぐったりと机に突っ伏すことしかできなかった。相席には朝食組が再び腰を掛け、それぞれ食事を楽しんでいる。

 

なお、長着袴はいじられ済み。瑞鶴に。加賀、グラーフは割りと嬉しい反応してくれたので、またもや瑞鶴が浮いた感じだった。瑞鶴ちゃんかわいそう。自業自得だがね。

 

 「でも、それが提督なんだし割り切れば?提督さんただの置物に成りたいわけ?」

 

 「瑞鶴は辛辣だなぁおい。いやそうだと割り切ってるけどさ、どうしても気持ちは乗らないわけでさ…」

 

 「む?アドミラール。それはチマタでゴホウビというのではないのか?」

 

 グラーフが口をはさみ、ズレたことを言い始めた。ドイツ艦たちはどうやら間違った常識を誰かに教えられているらしい。誰だ。漣か?

 

 「グラーフ。お前は正しい日本を学んでくれ。クールジャパンは実際一部の人間しか受け入れられないんだ。いやこれはもうクールとかじゃなくてマゾヒストだわ」

 

 「そう…なのか。ふむ」

 

 どこか腑に落ちないようなグラーフだが、何を納得してしまっていたんだろうねキミ。

 

「そんなコトよりもアドミラール、ツギはシャゲキクンレンだな。サラトガがキョーカンになるそうだぞ」

 

サラトガか、確かに彼女は上手そうだ。こう、もってる艤装が某有名なサブマシンガンだしね。開く、撃てる。閉じる、撃てないと、某戦車映画のワンシーンを思い出す。マジものな虎1には感動したね。

 

「サラトガはそれこそ、最近一番伸び代があったな。うーん、香取みたいにおかしくなきゃいいけど…」

 

さっきの件はまあ妥協して自分が悪かったわけで、それに育成が関係してきたわけだ。だからこそ、サラトガみたいに最近ぼちぼちなレベリングをしていた艦の反応は確かに気になる。

 

多分、大丈夫だよね?と、大丈夫じゃなさそうなフラグを立ててみる。

 

朝食組は全員、何処か微妙な顔をしたのだった。

 

勘弁、してくれよ。




どうも、朝早くの投稿です。飛男です。
まず評価、お気に入り登録に感謝!まさか久々の投稿でこんなに伸びるとは思いませんでした。本当にありがとうございます。
そんな期待に答えたい!と、思ってはいますが、まだまだしばらくゆったりとした温度であと数話は物語が進行していきます。

また、今回の話では簡単な捏造設定が出てきましたが、はっきり言って無視でいいです。だって正しい世界観は、艦これにはないですがね。あなたの考えた設定が、あなたの艦これの世界観ですから。

では今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。


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