マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)前半コラボ (しろっこ)
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EX回:第1話<嵐の向こう側>(改2)

司令と選抜された艦娘たちが乗った二式大艇は、南方へ向かう途中で嵐に翻弄されていた。そして……


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「このまま休暇扱いにしてほしいよな」

 

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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)

 EX回:第1話<嵐の向こう側>(改2)

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 いま私たちは二式大艇で飛行中だ。晴天だったら任務とはいえ楽しい旅になっただろう。

 

日本を飛び立って暫く、途中に立ち寄った台湾までは航路は平和そのものだった。

 

 ところが今から1時間ほど前になると天候が急変した。今も機外ではドーン! ゴロゴロ……という轟音が続いている。

 

「ひえぇ」

当然、これは比叡の叫び。

こいつ鎮守府ではトップクラスの実力を持つくせに肝は細いんだ。

 

 しかし腹の底に来るような雷鳴だ。気候が違うということもあるだろう。

機体は上下に大きく揺さぶられ腹が浮くような気持ち悪い感覚に何度も見舞われた。

 

「OHHH」

そのたびに金剛も訳の分からない雄たけびを上げる。

 

 当初は姉をなだめる元気も残っていた比叡だったが今では、すっかり青ざめ意気消沈だ……他の艦娘たちは落ち着いている。

 

「ぽいーっ!」

いや。落ち着きの無いのがもう一人いた。私はチラッと振り返る。金髪を振り乱した夕立だ。

 

 顔面蒼白な金剛姉妹と夕立……その形相は凄まじくて、まるでお化け屋敷か?

 

「お前ら、そんな状態じゃブルネイに到着する前にバテてしまうぞ」

「ひえぇ」

「Ohh」

「ぽ……」

当然、聴く耳を持たない。私は肩をすくめた。

 

「ブルネイへはどのくらいで到着しますか?」

日向が呟くように言う。

 

「えっと……」

私が時間を頭の中で計算していると同乗している技術参謀が即答する。

 

「あと2時間半と言ったところだな」

「はい」

制服姿の彼女は軽く眼鏡を持ち上げつつ腕を組んだ。

 

「ただ、この荒天で多少の遅れは見込まれるな」

「……」

私は黙って頷いた。

 

 今回は海軍省から来た技術参謀と、本部が手配した操縦士付きの機体でブルネイへと向かっている。

 

龍田さんが思い出したように言う。

「前日から来られて、半日休息しただけで直ぐに出発って……参謀はタフですね」

 

眼鏡を気にしながら参謀は応える。

「フフ、良く言われるよ。だが女性だからと言って甘く見てもらっては困るからな。特に軍隊では、男女平等だ。油断すると足元を見られる」

 

その言葉に龍田さんは少し肩をすくめたようだった。

 

 体力といえば基本、艦娘は人間の比ではない。だがこの技術参謀も、その配下だろう二式大艇の操縦士たちも屈強そうに見える。

 

「へえ、中央に居ても、イロイロあるんだろうね」

何か分かったような素振りを見せる夕張さん。青葉さんもしきりに頷いている。

 

 それから秘書艦の祥高さんと、少し言葉を交わしていた彼女は私の隣の座席に戻ると、改めて声をかけてくる。

「今回は急な話だったが……驚いたか?」

 

「ハァ、さすがに」

私がそう応えると彼女は眼鏡の縁を押さえて微笑んだ。

 

「フフ、無理も無いな。着任して日が浅いお前に、いきなり海外遠征の命令だからな」

「……」

何となく私たちの会話を、周りの元気な艦娘たちも聞いているようだった。

特に秘書艦と日向、それに青葉だ。

 

 激しい雷鳴と雷光の中、彼女は続ける。

「お前は『量産型艦娘』の話は知っているか?」

「はい。先日、呉の監査官から、その件はチラッと」

 

彼女は頷く。

「それなら早い。何となく察していたとは思うが、今回の遠征相手は、まさにその『量産型艦娘』なのだ」

 

 私たちのやり取りに他の艦娘たちは、ざわついた。

 

すると青葉が手を上げる。

「あのぉ、何処かの実験施設では、もう実用段階に入ったとか?」

 

参謀は頷いた。

「そうだ。今日行くブルネイに、その大規模な実験施設がある」

 

日向が口を開く。

「司令は、ご存知でしたか?」

 

「いや……そもそも、こういうことは機密であるし、弱小な美保鎮守府には縁の無い話だと思って、あまり気にも留めなかった」

 

「そ、そ、ソレ、ホントですか?」

「何だ?」

私が振り返ると青白い顔をしながら金剛が叫ぶように言った。

 

「艦娘は量産化されるんデスか?」

「一応、出発前に説明しただろう?」

 

すると横から比叡が割って入る。

「き、聞いてませン!」

「ぽいっ!」

 

……呆れた。

「お前ら、海外遠征ということだけで、舞い上がって聞いちゃ居なかっただろう?」

 

『……』

全員無言か。図星のようだな。龍田さんと夕張さんが苦笑している。

 

「機長」

参謀は前の操縦士に声をかけた。

 

「この嵐の状況は?」

すると二人並んで座っている操縦士の一人が振り返って言った。

 

「はい、これは気象図には無いゲリラ的なものですが、まぁこの辺りでは珍しくない

一時的なものです」

「……だろうな」

何だ、参謀も分かっているのか。

 

すると赤城さんが窓の外を見ながら不安そうに呟く。

「でも、日本の嵐よりも激しいですね。この機体で大丈夫かしら?」

 

「何だ」

参謀が振り返る。

 

「お前は正規空母のくせに、南方のスコールは未体験か?」

彼女の鋭い眼光に晒された赤城さんだったが、さすが一航戦、まったく動じない。

 

彼女は黒髪を気にしながら答えた。

「いえ……ただ、ここまで激しいのはちょっと……」

 

すると参謀は席に戻って言った。

「まぁ、海上と空中では、また勢いが違うからな」

 

そんなやり取りの隣では、金剛と夕立が憔悴(しょうすい)しきった表情で座席に蹲(うずくま)っていた。いつもの二人からは想像も出来ないな。

 

 そのとき突然、機体が持ち上げられた。

 

……かと思ったら急激に下がる感覚があり激しい振動が機体を襲った。

「ぽいー!」

 

「うるさいな」

技術参謀が不機嫌そうに呟く。

 

その態度に私は少し冷や冷やした。

(頼むから参謀の前では皆、良い子で居てくれよな)

 

「Ohh……」

そんな私の意に反して金剛が怪しい唸り声を上げ始めたときだった。

 

急に周りが静かになり機体の外が青く明るくなった。

不穏だった金剛も、その雰囲気を感じてキョロキョロしている。

 

「お姉さま?」

直ぐに比叡が不安そうに近寄る。

 

「何ネ?」

彼女だけではない。急に別世界に来たような妙な印象を機内の全員が受けた。

窓際に座っていた艦娘たちは、外を覗いている。

 

「雲の外に出たのか?」

私もまた、近くの窓から外を見ようとした次の瞬間だった。

 

 ドーンという激しい衝撃波に続いて再び機体が激しく揺れる。

機外は再び嵐のように暗くなり機長が何かを叫んでいる。機内の全員が慌てて近くのイスや手すりに掴まった。

 

 静電気のような強い感じのビリビリした電流のようなものが機体全体を覆う。続けて機内にある金属類が帯電してバチバチと音を立て始める。

 

「ぎえええ!」

金剛の叫び声(日本語)。

 

「お姉さまぁ!」

比叡の異常な叫び声に私は思わず振り返る。すると、あろうことか金剛姉妹の被り物からも激しく放電が始まっていた。

 

「セント・エルモス・ファイヤー」

明暗を繰り返す機内で、わけの分からない単語を呟いている夕張さん。

 

「えぇ? わぁ本当ね、初めて見るわぁ」

これは龍田さん。

 この二人は、こういった妙な状況でもビクともしないな。

 

「キレイ……」

のん気な赤城さん。ビクともしないのは彼女も同様か。

 

『ギャー』

金剛姉妹は、お互いに指差しあって絶叫している。

被り物から一斉に放電している構図というのは、見方によっては滑稽だ。

 

しかし本人たちにとっては気持ち悪そうだな。

 

「あぁ、うるさいな……」

鬼のような形相で言った技術参謀のメガネからも見事な稲妻が出始めている。

 

「チッ!」

舌打ちすると彼女は、自分のメガネを外そうとした。

 

「あ痛!」

……そう言った彼女は慌ててメガネから手を離した。予想外に強い電圧のようだ。痺れたのだろうか? しきりに手を振っている。

 

「ぽ……!」

既に後ろに居る夕立の金髪は、すべて空中に拡散していた。いや、もはやこれは爆発と表現すべきか。案の定、恐怖で声が出ていない彼女。まるで恐怖映画だな。

 

「……」

赤城さんの黒髪も夕立同様、四方八方に爆発している。

 

 ところが彼女は、そんなことは一向に気にしないで一心不乱にボリボリと何か食べてる。さすが一航戦、強い。

 

私と目があった彼女は、すまし顔で菓子袋を掲げた。

「食べまふ?」

 

「いや、良い」

私は苦笑した。

 

……その空間が数分続いただろうか? 

 

 機体は突然、何かから解き放たれたようにフワッとした浮遊感に包まれた。

同時に下降する感覚があり、機長が慌てて操縦かんを起こしている。

 

「おええっ」

後ろからの声……夕立だな。

 

 機外は、再び明るくなっていた。今までとは違う場所へ移動したのか?

私は状況を確認しようと機長の問い掛けようとして、止まった。

 

(この機を主管しているのは参謀だよな……)

そう思った私は横の席を見た。

 

「あ?」

思わず声が出た……技術参謀が気絶していた。

 

(可愛そうに白目剥いているよ)

 

「……おまけに、若干のよだれも」

そう言いながら青葉さんが躊躇(ためら)わずに写真を撮る。

 

「おいおい、大丈夫なのか?」

さすがは記者というか、神経が図太いな。

 

「バレたら参謀に半殺しにされるわよ?」

龍田さんもホワホワと言う。

 

「平気、平気」

そのまま青葉さんは写真を数枚、連写している。

 

「どうなっても知らないわよ?」

珍しく秘書艦が口を開いた。その意外さには、機内の艦娘たちも、ちょっと驚いた感じだった。

 

日向が言う。

「秘書艦は参謀をご存知で?」

 

「ええ、私も横須賀に居たことがあるから」

祥高さんは微笑んだ。そうか、彼女はあっちの出身か。

 

「横須賀……ああ、中央ですね」

ファインダーを覗きながら青葉さんが相槌を打つ。

 

「参謀も美人さんですね」

青葉さんの言葉に私は改めて参謀の顔を、まじまじと見詰めた。

 

(……)

今までは怖いので直視出来なかったのだが、その眼鏡の下の素顔は確かに美人系だ。

 

「イイなぁ、美人は絵になるなぁ」

呟きながら撮影を続ける青葉さん。こうなると遠慮が無いな。

 

 やがて機体は、ゆっくりと降下を始めた。

 

「あれ?」

私は改めて窓の外を見た。

 

「あぁ、晴れましたね」

夕張さんも窓から目を凝らしている。いったいどうなってるんだ?

 

「ねえ、見て見て!」

誰かが叫んだ。

 

 よく見ると水平線の遥か向こうに陸地と、その海岸線に立ち並ぶ港湾設備らしき建物が見えた。

 

「あれがブルネイか?」

私の言葉に機内の艦娘たちも、いっせいに窓の外を見た。

 

「ついに来たのね……」

赤城さんが呟く。

 

 機体は徐々に高度を落とし、澄んだ海面が見えるようになった。

 

「わぁ、キレイ」

以外に無邪気な夕張さん。その横から静かな寛代も覗いている。

 

 海面の、ところどころには南国特有のサンゴ礁が散見される。

 

「やれやれ……」

少しホッとした私は改めて座席に深く腰をかけた。

 

 青い海は綺麗だけど、なぜか気が重い。そもそも到着前から疲れた。

 

「このまま休暇扱いにしてほしいよな」

そんなことを呟きながら私は座席で脱力していた。

 




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EX回:第2話<よぎる不安>(改2)

美保鎮守府の隊員たちが乗った二式大艇は何とかブルネイ泊地に到着した。しかし司令は不安が消えないのだった。


 

「着水の許可が下りません!」

 

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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)

 EX回:第2話『よぎる不安』(改2.2)

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 ここは紛れも無いブルネイ泊地の上空だろう。機長たちは何度も電探や地図で付近の島の様子などを確認している。

技術参謀も操縦席へ移動してイロイロ確認をしている。

 

「……暑いネぇ」

金剛が、だるそうな表情をして何かのファイルで扇いでいる。

 

「ホントですね、お姉さま」

比叡も汗を拭って言った。艦娘たちも長旅で疲れが出始めているようだな。

 

それに嵐が過ぎ去って急に太陽が出てきたから機内の気温も上がってきた。南国だから湿気もある。

 

私もハンケチで汗を拭きつつ手元の資料をめくった。

 

『ブルネイ泊地:公用語はマレー語で英語も可能』

……って? 

 

(日本語はダメってことか?)

 

私は姉妹で扇ぎながら風を送り合っている金剛たちを見ながら呟いた。

「やれやれ……いざとなったら金剛に頼るしかないのかなあ」

 

「ん?」

彼女は、こちらをチラ見した。

 

すると

「公用語ですか?」

 

いきなり青葉が斜め後ろから覗いてきた。振り返る間もなく彼女が私のファイルに顔を近づける……っていうか近いよ、お前。

「えっと泊地の中……鎮守府の敷地内なら大丈夫だと思いますよ」

 

「……あ、そうか」

なるほど彼女の言う通りかもな。

 

 改めて窓から外を見た。

機体はかなりブルネイの海岸に近づきガントリークレーンが見える。倉庫のような建物もあるから、そこが鎮守府だろう。

 

 しかし、さっきから同じ景色だぞ。

「あ?」

 

そこで私は気付いた。

「何を旋回し続けているんだ?」

 

私の言葉に秘書艦も頷いている。

「おかしいですね」

 

寛代も自前の電探を稼動させたようだ。じっと耳を澄ませるような仕草をしている。

 

「確かに変だな」

同様にして耳を済ませる日向も呟いた。

 

 気になった私は前の操縦席へ移動した。

そこには本部から技術参謀に従って操縦してきたパイロットと参謀本人が居る。

 操縦席は妙に緊張していた。何かトラブっているのか?

 

技術参謀が振り返る。

「司令……実は着水の許可が下りん」

「は?」

 

すると無線を担当している副操縦士も応えた。

「はい。先方からは『認識コードが一致しない』の一点張りで埒(らち)が明きません」

 

私は呆れた。

「なんだ? 我々が行くという情報が相手に伝わってないのか」

「分かりませんが」

 

私は一計を案じた。

「構わん、緊急信号を発信しろ」

「はっ?」

 

私の提案に技術参謀も直ぐに頷く。

「そうだな。こっちは日の丸付きの大艇だ。しかも軍本部からの直行部隊だ。それくらい相手も認識は出来ているだろう。誤認識信号如きで、いきなり撃ち落されはしないだろう」

 

「了解」

機長は副操縦士に目配せをする。彼はパネルを操作してマイクで何かを喋りながら緊急事態信号を送信したようだ。

 

暫くブルネイ上空で旋回を続けていた大艇だったが、程なく向こうから『受理』の信号が返ってきた。操縦席は安堵に包まれた。

 

操縦席に座り直した機長が言う。

「では着陸態勢に入ります」

「うむ」

 

機長は操縦桿を倒し機体は前に傾く。私と参謀は、その様子を確認した後、自分たちの席に戻ってベルトを締める。

 私たちの様子を見守っていた艦娘たちも順次、座席に戻ってベルトを締めた。機内から次々とロックする金属音が響く。

 

(あとは現地に降りるだけか……)

 

私は改めて二日前の出来事を連想していた。

 

 事の発端は一昨日、艦隊司令部からの指令文書だった。

それは今日訪問する『ブルネイ鎮守府(泊地)との艦隊模擬戦に参加するように』 ……との指示だった。

 

 私は訝(いぶかし)んだ。そもそもなぜ地方の弱小鎮守府が、いきなり海外なのか? しかも、この時期に。すべて分からないことだらけ。

 

……とはいえ軍隊で末端の部隊が、いちいち作戦の理由は考えない。上から来た命令には従順に従うまでだ。

 

そのときの大淀さんの顔が浮かぶ。

「参加する艦娘の名簿を本部に提出するようにと言われています」

 

「そうだな……」

私は、ちょっと考えて直ぐに机上にあった白紙に、さらさらと鉛筆で書きつけた。

 

遠征参加メンバー

 旗艦:金剛:Lev.18

二番艦:比叡:Lev.(改)60

三番艦:日向:Lev.(改)51

四番艦:赤城:Lev.(改)39

五番艦:龍田:Lev.(改)59

六番艦:夕立:Lev.(改)15

 

ほか、

祥高(秘書艦)

寛代(通信)

青葉(取材)

夕張(整備)

 

「こんな感じだ」

私は祥高さんに渡した。彼女はサッと見て、特に異議を唱えずに大淀さんに回した。

 

すると彼女の方が意外な表情をした。

「あの……お盆の参加者、そのままですか?」

 

「ああ、ここで今さら誰を選んでも五十歩百歩だろう? くじ引きをするよりも早いだろう」

 

 困惑した表情の大淀さんだったが意外にも秘書艦も同意した。

「そうですね、変に考えるよりも、お盆休暇のメンバーを中心にした方が気心が知れて良いでしょう」

 

「はい」

渋々といった感じの大淀さんだった。

 

私は説明した。

「遠征部隊は長時間、行動を共にするからね。私も寝食を共にした艦娘たちの方が、ちょっと安心だよ」

 

その言葉で、ようやく彼女も納得したようだった。

「承知しました。報告しておきます」

 

その後、艦娘たちに参加者を伝達しても特に異議は無かった。

 

「司令」

日向の言葉で私は現実に戻された。

 

「どうした?」

私が斜め後ろのを見ると彼女は言った。

 

「利根や山城さんが参加したがっていたようですが……」

 

私は応える。

「実家での騒動があっただろう? それに索敵と戦闘能力、性格などを総合すると、お前一人で利根と山城さん分になるからな」

 

「は……」

軽く頷いた彼女は少し恥ずかしそうな表情をした。だがそれは、お世辞ではない。遠征メンバーも人数制限がある。そこは臨機応変だ。

 

特に今回は金剛姉妹を入れたから、彼女たちを抑えてくれる落ちつた艦娘たちも必要だ。それが日向に赤城さん、龍田さんなのだ。

 

「着水」

機長が告知して直ぐに機体はブルネイ泊地近海の海面に降りる。ドンという軽い衝撃と同時に、窓には大きな水しぶきが上がる。

 

「ぽい!」

気分が悪いのか、大人しくしていた夕立が軽く叫ぶ。こいつも賑やかではあるが戦闘能力を買って連れて来たんだ。

 

龍田さんが窓の外を見て言った。

「あらぁ、お祭り?」

 

 私も窓から機外を観察する。

水面の向こうには岸壁があり、煉瓦造りの鎮守府本庁舎も見えた。同じ海軍だから基本的な造りは海外も同じだ。

 

「なんで屋台が?」

不思議そうに呟きながらも、ちょっと嬉しそうな赤城さん。君の目当ては食べ物か?

 

ブルネイの状況から技術参謀が推測する。

「模擬演習ってのは現地でのイベントの一環として行うらしいな」

 

「あは、それなら多少は気楽ですね」

私の思いを代弁したように青葉さんが言う。

 

 無線で交信していた副操縦士が振り返る。

「直接、接岸は出来ないようです。いま先方から内火艇が迎えに来ます」

「そうか」

 

続けて機長。

「許可も下りましたし、皆さんベルトを外して結構です」

 

機内はガチャガチャと金属音、そして安堵した空気が漂う。

 

……それでも私は、なぜか「敵地」に乗り込む変な緊張感が消えない。

 

「どうした? 司令」

技術参謀が問いかける。

 

私は応える。

「はい、同じ海軍のはずなのにずっと妙な違和感が……海外だからでしょうか?」

 

「……いや、違うな」

何となく彼女も同じ空気を察しているようだ。

 

「ちょっと警戒しよう」

「ハッ」

私は秘書艦に目配せをした。彼女も頷く。

 

 船が近づく水の音がした。内火艇か。直ぐに『ガコン』と言う音が響く。

「来たな」

 

すると日向が立ち上がった。

「全員、上陸準備!」

『はい』

 

私は言った。

「日向、初っ端から飛ばさなくても」

 

「いえ、私の性分ですので」

ちょっと、はにかんだ彼女。

 

「そうか」

 

私は思う。

(……お前も以前より変わったな。明るくなったか)

 

「んしょ!」

重そうなバックを持ち上げる青葉さん。

 

「レンズとか重そうだね」

私は言う。

 

彼女は軽く腕まくりをして苦笑する。

「最近、筋肉付いちゃってぇ」

 

すると龍田さん。

「そお? フットワークは相変わらず軽いけど」

 

「えへへ」

最近はムードメーカーな青葉さんだ。

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EX回:第3話(改2)<青い髪の少女>

ようやくブルネイ泊地に到着早々に巻き起こる騒動。そして、そこではすべてが異質に感じられるのだった。


 

「あの……緊急事態とは、この方たちでしょうか?」

 

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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)

 EX回:第3話(改2)<青い髪の少女>

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「ようやくブルネイ泊地に到着したんだな」

 私は自分に言い聞かせるように小さく呟いた。

 

窓越しに機長が何度か指を差して、外の者とやりとりをしている。やがて『分かった』といった感じの手ぶりを返していた。

 

その様子を見て不思議に思ったのだろう。

「何だ? 無線機の調子が悪いのか?」

 

問いかける技術参謀に副操縦士が応える。

「はい……嵐で一部、落雷で回路が故障したのかも知れません」

 

彼は片耳の無線機を外したまま計器類を指差して苦笑した。

 

「なるほど」

後ろの方で、そのやり取りを聞いていた私も技術参謀と顔を見合わせて肩をすくめた。

 

「ブルネイの許可が下りなかったのは……無線のせいか?」

私が言うと、参謀も軽く頷いた。

 

「その可能性はあるが……まだ油断は出来ないな」

 

 そのとき後部座席に居た寛代が何か呟き、秘書艦の祥高さんが顔を近づけていた。

 

「どうした?」

私は声をかけた。

 

祥高さんは代弁するように応えた。

「外にブルネイ側の艦娘が待機しているようです。私たちが扉を開けるのを待っているようです」

 

「そっか……寛代の無線は全チャンネルと通じるんだな」

私は直ぐ参謀の顔を見た。

 

彼女は「分かった」と応えると近くに座っていた日向に命令した。

「日向、開けてやれ」

 

「はっ」

それを受けた彼女はスッと立ち上がり、扉の留め金を解除する。

 

 一瞬、私の目を見てから日向は「開けます」と言い取っ手を回した。

ガバッという鈍い音と共に外気が入ってきた。南国らしい陽気と波の音、そしてまぶしい光。

 

「うわぁ、気温が高いわねぇ。それに湿気!」

夕張さんが鼻をクンクン言わせた。さすが技術屋らしい分析だな。

 

「そうですねぇ、やはりブルネイは南国ですよ」

青葉さんもカメラのファインダーを覗きながら記者らしいコメントを出した。

 

「あれ?」

直ぐ何かに気付き驚いたようにファインダーから目を離した彼女。

 

夕張さんも青葉さんと同じ方向を見て絶句する。

「え……五月雨ちゃん?」

 

 扉の直ぐ外側には先方の内火艇が横付けされていた。

その甲板の上には一人の青い髪の少女……紛れも無い。駆逐艦の五月雨が敬礼をしていたのだ。

 

私も言葉を失った。

「五月雨……量産型か?」

 

硬直している私をよそに龍田さんがスッと扉から外へ出た。

「良いわねえ、海よ」

 

マイペースな彼女だ。その言葉でハッと我に返る私たちだった。

 

(今回、遠征メンバーに美保の五月雨を連れて来なくて正解だったのかな?)

 

私は目の前の五月雨と、ほんの数日前、境港の夏祭りで寛代と並んで浴衣を着ていた彼女の姿をダブらせていた。

 

「どいてぇっ! ……ぽいっ」

「痛っ!」

いきなり後ろから跳ね飛ばされそうになった。金髪の……夕立か?

 

「Oh、ヘルプぅ」

続けて機内からは金剛。二人の艦娘は慌ただしく飛び出すと海に落ちんばかりの勢いで内火艇に飛び乗った。

 

 その反動で機体と内火艇が揺れて機体と船体の固定作業をしていたブルネイの艦娘が慌てている。

 

「おいっ」

ムッとした私が注意する間もなく彼女たちは甲板に腹ばいになって海面へ向かってゲロゲロやり始めた。

 

「あ……」

私と他のメンバーは唖然とした。

もちろん甲板上の「五月雨」も目を丸くしていた。

 

 呆れるやら恥ずかしいやら……

 

「誠に申し訳ない」

私も内火艇に乗り移りながら相手側に苦笑するしかなかった。

 

「いえ……」

五月雨は応えた。その困惑して恥らうような雰囲気が、まさに五月雨そのものだった。

 

「お前らなぁ」

私は照れ隠しのように美保のゲロゲロ娘たちに声を掛けた。

 

「それでも帝国海軍かよ? ……ったく」

 

 すると金剛が恨めしそうに振り返った。

「シット……船と空は違ぅ」

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歪んだ顔も可愛いが……美人台無し。

 

一方の夕立。

「電気で……痺れたっぽぃ」

 

 金髪の彼女は向こうを向いたまま弱々しく、いつもよりは高いオクターブ声で言った。

 

「はいはい。大変でしたね」

遅れて内火艇乗り込んできた秘書艦の祥高さんも苦笑していた。

 

続けて夕張が顔をしかめて声を掛ける。

「夕立? 髪の毛、汚れるわよ」

 

 突然の出来事に目を丸くしていたブルネイの艦娘たちだったが、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

 五月雨が改めて敬礼をした。

「ブルネイ泊地・第3鎮守府所属の駆逐艦、五月雨です。あの……緊急事態とは、この方たちでしょうか?」

 

「あ」

……そうだった。

 

 私の後ろから作戦参謀が小声で呟く。

「本来の認識コードが通用しないってことはブルネイは私たちのことも演習のことも知らない恐れがあるな」

 

「そうですね……」

(ここは一時的に遭難のフリをするしかないかな?)

 

私の意図を察した彼女は軽く頷いた。

 

 目配せをした私は直ぐに機内に引き返すと、まだボンヤリして座席に座っていた寛代に言った。

「寛代、作戦指令だ」

 

「……」

無表情だが、こちらを見て命令を待つ彼女。

 

私は声を潜めて続ける。

「お前は病気のフリをして現地の病院へ行くんだ。そして、この鎮守府の情報収集に努めよ!」

 

(本来、友軍を偵察するとは気が引けるが、何か異質な気配を感じる。これは私の直感だ)

 そんな思いが過(よ)ぎった。

 

「……」

無言で敬礼をした寛代。私の意図は伝わったらしい。

 

 彼女の手を引いて再び外へと戻った私は五月雨に言った。

「申し訳ないが急病人がもう一名だ。救護を頼みたい」

 

私たちを見た五月雨は微笑んだ。

「はい、直ぐに手配します。病気の方は前の幌の下へどうぞ。提督は、その後ろの席へ。到着した機体は港湾内に係留いたしますので機長はこちらの指示に従って下さい」

 

 てきぱきと、しかし淡々と進む。とりあえず私の受けた指令書の件は伏せておこう。まずは相手の出方を見てからだ。

 

「ありがとう」

私は五月雨に軽く頭を下げて礼を言った。その言葉になぜか彼女は、ちょっと驚いた顔をしていた。

 

 一同は改めて荷物を抱えて内火艇へと移動する。

病人役の寛代と半病人の金剛、夕立の荷物は日向や比叡、赤城さんが運んでくれた

 その間も五月雨は自分の無線でブルネイの司令部と連絡を取っているらしい。しきりに頷いていた。

 

 その状況を見ながら私は改めてブルネイの艦娘たちを観察した。恐らく彼女たちも量産型だろう。あどけない表情だから駆逐艦か。

 

 やがて五月雨は、私たちの作業が終わったのを見て言った。

「では宜しいでしょうか? 船を出します」

 

「ああ」

全員を乗せた内火艇は発動機を響かせながら、ゆっくりと出発した。

 

 嵐に翻弄され、ようやく到着したブルネイ泊地。

だが、どことなく異質な印象が拭えない。美保の艦娘たちも同様で、どこと無くソワソワと周りを見回している。

 

 他の船に注意しながら徐々に速度を上げる内火艇。そよぐ風が心地良い。

 

 だがブルネイの妙な雰囲気は泊地の港湾内全体からも感じられる。

 

 青葉さんと夕張さんも盛んに指差しながら何か話している。彼女たちの会話が断片的に聞こえてきた。

「ここには軍の実験施設もあるみたいですね」

「そうね。量産型の艦娘も実用化されているみたいだし……でも、それにしちゃ、あまり見ない機種が多いわね」

 

二人は改めてキョロキョロしている。

「やっぱり……ですよね?」

「でしょ?」

 

私は隣に座っている秘書艦に聞いた。

「君は、ここの第一印象を、どう思った?」

 

 彼女は、いつもの澄まし顔ではなく困惑したように応えた。

「はい。ここは本当に帝国海軍なのでしょうか……? という印象です」

 

「だよな」

そもそも、この内火艇からして変な雰囲気だ。

 

 今度は龍田さんと赤城さんの会話が聞こえる。

「船内の文字表示は日本語よ。外国製じゃないわね」

「でも……どこのメーカーかしら?」

「そうねえ。知ってる所と、そうでない所もあるわね」

 

 そんな私たちの不安と裏腹に鎮守府全体は明るい雰囲気で、お祭りムードで一杯。さっき上空からもチラッと見えたが内火艇で移動すると、さらによく分かる。

 

「屋台に人ごみ、それに浮かれた雰囲気……早い話、ここは『お祭り』なのか」

淡々と分析しながら呟く日向。それで正解だろう。

 

 急にバシャ! というシャッター音がした。青葉さんか。

 

すると振り返った五月雨が言う。

「申し訳ありませんが……港湾内の撮影は、ご遠慮願えますか?」

 

「てへっ」

【挿絵表示】

 

肩をすくめて私を見ながら舌を出している彼女。

 

私も苦笑して返事をする。

「まあ、友軍であっても遠慮すべきだな」

 

「はぁい」

 

(でも撮った写真は後から見せてもらおう。気になる機体や艦船が多すぎる)

 

 そんな私の思いをよそに、水面(みなも)を撫でている龍田さん。

 

「海が綺麗よぉ」

彼女は相変わらずマイペースだった。それが不思議と安心感を醸し出していた。

 




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EX回:第4話(改2)<策略とお祭り広場>

美保の司令たちは違和感を覚えつつも現地に「上陸」した。そこでは盛大な、お祭りが開催されていた。


 

「私が寛代の代わりに病人の振りをする」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第4話(改2)<策略とお祭り広場>

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 ブルネイ泊地の港湾部を順調に進む内火艇。

気温は高いし日差しも強い。だが、やはりここは南国だ。湿気は少なくて過ごし易そうだと私は思った。

 

「司令」

いきなり隣に技術参謀が座った。

 

(マズい、小言でも言われるのか?)

思わず緊張した。

 

 しかも彼女は周りを伺うようにして若干、身を寄せて来たので驚いた。

 

「まさか、あの……『南国式のご挨拶』ですか?」

どぎまぎしながら思わせぶりな台詞を言う私。

 

「なに誤解してんの? バカ!」

やや抑え気味ながら素っ頓狂な声を出した彼女は私の脇腹を小突く。

 

「痛ッ……失礼しました!」

思わず私も声を潜めた。

 

(あはは……相手は曲がりなりにも軍令部の参謀だぞ)

私は内心、苦笑した。

 

 彼女は艦娘ながら参謀だ。とても冗談の通用する相手ではない。そもそも並みの『女性』では無いのだ。

 

多少は手加減してくれたようだったが……それでも一瞬、私は自分の呼吸が止まるほど痛かった。

(イタタ……最近、運動不足だからな)

 

 そんな私の悶絶をよそに彼女は小声で話を続ける。

「あの寛代に偵察させるのは無理だ。それに、ここの様子は普通じゃないだろう?」

 

「はい」

……やはり彼女も察していたか。

 

船内に居る他のブルネイの艦娘たちを警戒しながら参謀は言う。

「私が寛代の代わりに病人の振りをする。良いな?」

 

(案の定、仕切ってきたか)

立場上、技術屋の血が騒いでるんじゃないか? とも思ったが上官でもあるし無駄な抵抗はすまい。

「では、お願いします」

 

「フッ、任せな」

得意そうな笑みを浮かべた彼女。艦娘とはいえ本部の参謀だ。男勝りだな。

 

私は彼女と反対側に座っていた祥高さんに声をかける。

「祥高さん、寛代に命令を」

「はい」

 

当然、私たちのやり取りを聞いていた彼女は直ぐに頷いた。秘書艦は普段は物静かだ。つい反対側に座っている参謀と比べてしまうな。

 

「あ?」

……ふと殺気を感じた。

 

 船の舳先(へさき)を見ると、そこから海面を覗き込んでいた金剛が恨めしそうに振り返っている。

【挿絵表示】

 

唇をかんで……何で、お前がそんな顔してンだよ? 

 

(別にイチャついているわけじゃないからな。だいたい、お前は色恋関連の感度が高過ぎだよ)

その鬼瓦のような表情に具合が悪いと思ったのだろう。比叡が近づく。

 

「お姉さま……」

金剛の背中を静かに撫でている。

 

「ああ、美しい姉妹愛ではないか!」

私はワザとらしく彼女たち姉妹に声をかけた。その一言で船内に漂っていた緊迫した空気が薄れた。何人かの艦娘は微笑んでいた。

 

 祥高さんは寛代に命令変更を伝えに行くのかな? と思っていたら彼女は、その場で考え込むような仕草をしている。すると、ちょっと間があって前の幌の下に座っていた寛代が首だけ振り返るようにして軽く頷いた。

 

(……あ、そうか)

寛代は通信に特化した艦娘だ。そして秘書艦である祥高さんも司令部だけが使う特殊な緊急周波数を持っている。当然ブルネイの艦娘たちには通じない。改めて艦娘は便利だなと思った。

 

すると黙って腕組をしていた技術参謀も頷いている。

(なるほど、彼女も同じ周波数を持っているのか……本部の参謀だから当然か)

 

「あーあ。こんなリゾートみたいなところで演習するよりゴロゴロしたいわあぁ」

 龍田さんの声。彼女は船べりから青い海面を片手で撫でている。時おり雫を垂らした手を上げて、きらきらと光る雫を見つめている。

 

 相変わらずマイペースな龍田さんだが……ふと私には彼女はブルネイの艦娘たちが今の極秘のやり取りに気付かないよう意図的に注意を逸らしたのかな? ……とも感じるのだった。

 

彼女は軽巡で駆逐艦の作戦指揮を執ることもある立場だ。特殊な周波数を持っている可能性は十分にある。

 

 その一方で赤城さんは、まだ煎餅みたいなのボリボリ真顔で食べている。

(それは美保から持ってきたのか?)

つい、どうでもイイことを考えてしまう。

 

(やれやれ)

この落差と言うか艦娘たちの個性の強さは独特だ。最近は慣れたが美保へ着任した当初は、この雰囲気で妙に疲れたことを思い出した。

 

 私が物欲しそうに見えたのだろう。赤城さんは急に私の方へ袋を突き出して言った。

「ひれい(司令)も食べまふ?」

 

「いや、良い」

私は苦笑して手を振った。

 

「うふ」

不思議な笑顔を見せて、再びブルネイの埠頭に向き直る彼女。

 

 最近、赤城さんって、ちょっと性格が変わったような気がするが……今まで猫かぶってたのだろうか?

(でも、ざっくばらんな赤城さんの方が良いけどね)

 

 改めて後ろのほうを振り返ると静かな艦娘……夕張さんも居たな。黙って本を読んでいるから全然、分からなかった。

 

よく見ると違和感……

「あれ? メガネかけているのか?」

 

そんな私の台詞に気付いた彼女は顔を上げた。

「最近、視力が落ちましたよ」

 

「そりゃ、ご愁傷様」

……てか、彼女の場合、職務に加えて凝り性だからな。

 

「開発も、ほどほどにね」

「ハァイ」

……軽いな。まぁ良い。これが『彼女』だ。

 

 船べりでは金剛だけでなく夕立も完全にダウンしている。せっかくの金髪が……オイオイ青い海面に流し素麺(そうめん)みたいに流れているぞ!

 

 私は立ち上がると彼女に近づく。流れる水面(みなも)と金髪素麺のコントラストが綺麗だなぁ。

 

「ぼいぽい……」

弱々しく顔を上げる夕立。

 

「まるで南国の貞子だな」

「貞子って誰? 彼女?」

「いや……」

説明し難いな。

 

 元気な艦娘……日向や祥高さんたちは機内でも、ずっと起きていたけど物静かだった。

(大人しい艦娘たちの方が環境の変化に強いのかな?)

 

そんなことを思っていたら、意外な反応があった。

「ブイ!」

 

振り返りながらサインを作る青葉さん。

(あ、こいつは例外か)

 

しかも性懲りもなく隠しカメラで港湾部を撮り続けている。

(……おいおい、そんな格好をしたら五月雨にバレるって!)

 

案の定、運転台に居る五月雨は少し不思議そうな顔をしてチラチラこちらを見ている。

 

(焦るなあ)

青葉さん……五月雨に注意されても諦めない根性はさすがプロだ。

 

 ほどなくして内火艇はブルネイ泊地の桟橋に到着した。

そこから少し離れた場所……岸壁から見える小高い丘のような場所には屋台や櫓(やぐら)が立ち並んでいる。既に、お祭りは始まっているようだ。

 

「お祭り……か」

私は呟いた。

 

「そのようですね」

祥高さんも応える。

 

 艦娘だけでなく現地の人もかなり出歩いている。今日はイベントで基地施設の主要部分を外部の一般の人たちにも開放しているようだ。

 

 美保のように埋立地でセコセコやるのとは違う。この敷地の広さとカラッとした気候。

 

「良いなあ、ここでは何でも出来そうだ」

思わず本音が漏れる。

 

 内火艇はエンジン出力を落としながら接岸する。

岸で待機していた他のブルネイの艦娘たちがロープを取り船体を引き寄せながらテキパキと固定作業を進める。

 

ブルネイのスタッフの艦娘……ほとんど量産型だろう。

「たくさん居るな」

 

 運転台から、どこかと交信していた五月雨。彼女は船体のエンジンが止まったのを確認しながら桟橋の艦娘に近寄って何か伝達していた。

 

何度か頷いた彼女は私たちに向き直ると改めて笑顔になって案内をする。

「皆さん、ようこそブルネイへ! 足元に気をつけて、どうぞ……」

 

「ありがとう」

それを受けて美保のメンバーたちも上陸を始める。

 

 改めて埠頭や広場の様子を見る。

屋台に人ごみ……チラホラと艦娘の姿も見える。

そして現地ブルネイの憲兵さん……ブルネイ軍ではなく帝国陸軍の連中の姿も確認した。私服でも、ちゃんと分かるぞ。

 

「ここなら、もうオッケーですよね?」

青葉さんは五月雨に半ば強引に確認をしている。

 

「……あ、はい」

ちょっと目を丸くしたような彼女。

 

その返事を待つ間もなく青葉さんは本来のカメラを取り出して直ぐに、あちこち連写し始める。

「イベントですよ。被写体だらけですねぇ」

【挿絵表示】

 

 

その様子に圧倒されつつも改めて無線で通信をしている五月雨。

 

直ぐに彼女は私に向き直って言った。 

「私たちの提督が皆様と直ぐに、お会いになるそうです。数分で参りますので……申し訳ありませんが、ここで、しばらくお待ちください」

 

「ああ」

私はハンケチで汗を拭いながら応えた。

 

直ぐに彼女は寛代を見る。

「病気の方は私が衛生隊までご案内致しますので、こちらへどうぞ」

 

すると技術参謀がワザとらしく表情を歪めて言った。

「この子は調子が戻ったらしい。スマンが私がちょっと……」

 

 意表をつく展開に、驚いたような五月雨。

 

私は取り成す。

「手間をかけるが……頼む」

 

「は……はい」

五月雨は慌てたように私たちに敬礼をした。技術参謀の階級章を見れば、彼女がかなりの上官だと言うことくらいは五月雨も分かるだろう。

 

「では……こちらに、お願いします」

「ああ……」

わざとらしく病人の振りをする技術参謀。意味ありげに私と祥高さんにウインクをした彼女は五月雨の後を軽やかに付いて行った。

 

(おいおい参謀様、それじゃヤバイって……もっと病人らしく歩いて下さいよ)

 

 それを見ていた夕張さんも腰に手を当てて呆れたように言った。

「あれで病人? 笑っちゃうわね」

 

「本当ねぇ」

いつの間に来ていた龍田さんも同意する。

【挿絵表示】

 

 

「あの人も、とっつき易いのか難しいのか未だによく分からないな」

私も本音が出た。

 

「参謀なんて、どうせ奇人変人が多いのよ」

龍田さん、それはストレート過ぎる意見だよ。

 

「この敷地内のどこかで突然、行方不明になったりして」

青葉さんも怖いことを言う。

 

日向が近寄ってきて言う。

「司令、私たちは本当に遭難者と思われているか?」

 

「多分……」

私は軽く腕を組んで応える。

 

赤城さんも不安そうに、こちらを見ているので私は言った。

「あの五月雨も何度も司令部と交信していたようだが、もし仮に疑われていたら直ぐに憲兵が動くだろう」

 

この言葉に祥高さんも頷く。私は続ける。

「だが監視も付けず、この場で我々に『待機』ということだ。今のところ問題ないだろう」

 

日向も、ようやく頷いた。

「そうだな」

 

「でも、ちょっとは遭難者っぽくしたほうが良いでしょうかね?」

カメラ片手に青葉さんがニタニタして言う。

 

私は応える。

「そこがまだ分からない。違和感は残るとしても最初の予定通り『模擬演習』という羽目になるかも知れない」

 

「えぇ?」

声を立てたのは比叡。

 

「あの嵐で大変だった上に直ぐに演習なんて無謀です!」

彼女は、まだ体調の悪そうな金剛を庇っている。

 

……そういえば金剛と比叡、それに夕立は、いつの間にか近くの簡易テーブルのイスに腰かけていた。

 

その隣の赤城さんも頷く。

「確かに。出来れば少し休みたいです」

 

君の場合は食べ過ぎだって。

 

「やれやれ……」

私は半ば呆れるようにして金剛姉妹と夕立が座っている丸テーブルの隣のテーブルに腰をかけた。

 

比叡は、相変わらず金剛の背中を擦っている。

「お姉様、しっかり」

 

「who next over ……」

金剛がテーブルに突っ伏したまま呟く。

 

「ポッ……」

これは夕立。金髪が爆発して鬼婆のようになっている。

 

 直ぐ側のテーブルでダウンしている金剛と夕立は、このまま様子を見るしかない。

 私は他の美保の艦娘たちに通信可能な範囲での一時解散を命じた。ブルネイの司令に挨拶をするとしても最初は私とここに居る艦娘くらいで十分だろう。

 

「では」

「遠慮なく……」

美保の艦娘たちは直ぐに、それぞれが適当なグループになって祭りの喧騒の中へ散っていった。

 

 周りは屋台が一杯だ。よく見ると明らかに、そこに立って調理したり売り子をしているのは艦娘たちだ。

 

艦娘の量産化がブルネイで実用化されたと聞いてはいたが、ここにいる艦娘のほとんどが量産型なのだろうか?

(……それにしては皆、調理の手つきが良いな)

 

「こういう技能って後付けで覚えるのだろうか?」

思わず呟く。

 

 私はつい一昨々日(さきおととい)の境港での、お盆祭りを思い出す。

 

「お腹が空きましたね」

他の艦娘たちとは違って、何処にも行かず、この場に残った赤城さんがボソッと呟く。もしかして燃料不足か?

 

「うん、確かに良い匂いだな」

時計を見ると、お腹が空く時間になっていた。

 

何気なくポケットをまさぐった私はハッとした。

「しまった!」

 

「?」

その場に居る艦娘たちが不思議そうな顔をする。

 

「私としたことが……お小遣い持ってきてないじゃないか?」

そういえば会計も兼任している祥高さんは寛代と行ってしまった。ここにはダウンした艦娘二人と比叡に赤城さんだけ。

 

「残念……」

赤城さんが妙に膨れっ面をする。

 

「スマン」

頭に手をやる私。

 

「毎日、司令部に詰めてるとな……金銭感覚が麻痺するんだよ」

言い訳のように呟く私。

 

「大丈夫です、我慢します」

ちょっと抑えたように言う赤城さん。怖い。

 

(いや、我慢と言われても……)

妙なプレッシャーを感じながら彼女を見て……膨れた赤城さんも可愛いなと、変なことを思った。

 

 ちょっと意気消沈した私たちは、ぼんやりと景色を眺めるだけだ。

 

 しかし暑い。季節は常夏だろうか? そもそも、ここの通貨って何だろうか? 円(yen)なのか?

 

 あれこれ、取り留めのないことを考える。龍田さんじゃないが、こういう陽気だと本当にゴロゴロして居たくなるよな。

 

 私は帽子を脱いで蒼い空を見上げた。やはり美保湾とは空の青さが違う。雲は湿気をたくさん含んでいそうだ。ああいうのが降り出すと大変だろうな。

 

 少し風が出てきた。椰子の木がサワサワと音を立てていた。

 

 




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EX回:第5話(改2)<ブルネイの提督>

お祭り広場の側で待機していた美保司令は、この泊地の提督に挨拶をする。しかし彼は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべていた。


 

「え……えええぇぇぇぇ~!?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第5話(改2)<ブルネイの提督>

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 軽い足音を響かせながら私のところに寛代が戻って来た。

そして袖を引っ張る。

「なに?」

 

「……」

ブツブツ言っているので分かり難いな。だが私は直ぐに察した。

 

「そうか……彼が来るか」

 このブルネイ泊地……いや鎮守府と言うべきか? その長たる提督が直ぐ近くまで来たようだ。

 

僅かな期間とはいえ彼の世話になるのだ。きちんと挨拶しよう。

「寛代、全員招集だ」

 

「……」

頷きながらブツブツと通信する寛代。

 

そして直ぐ近くで通信を受けた金剛と夕立たちが、もぞもぞと反応している……何かゾンビみたいだぞ。特に夕立は『貞子』にも見える。

「お前たちは無理しなくて良いぞ」

 

「はい」

比叡が代わりに応えた。

【挿絵表示】

 

 

 しかし二人とも、なかなか体調が戻らない。この暑さも影響しているのか?

 

 南国の気候だ。湿気が無くてカラッとして元気な人には良い感じだけど体調不良の者にはキツいだろう。

 

 数分と経たないうちに秘書艦の祥高さんと日向、それに龍田さんが私のところへ戻ってきた。

 

祥高さんは言う。

「青葉さんは夕張さんを連れてもっと取材したいとのことです」

 

「ああ、青葉さんは記者だからデータにも強いだろう」

それに今、病人の振りをした技術参謀が動いているとはいえ不安もある。

 

私は頷いた。

「それは許可を出しくれ」

 

「了解です」

我々の側としても夕張さんを補佐にして二人でこの鎮守府を、もう少し探索してもらおう……という魂胆だ。

 

私は立ち上がった。

「ブルネイの提督が近くに居られる。皆で挨拶に行こう」

 

「うー、▲☆……◎◆」

金剛は比叡に支えられてヨロヨロと立ち上がっている。

 

夕立には日向がサポートについた。

「ぽ……」

 

かなり具合悪そうだ。金剛も夕立も立っているのがやっとか。

 

「どうしようか?」

私は祥高さんを見た。彼女も困惑顔だ。

 

「この二人は休ませて私たちだけで挨拶に行こうか?」

「そうですね……」

そんな会話をしていたら広場の反対側に白い制服の男性が見えた。

 

「あれが……提督みたいよ?」

【挿絵表示】

 

龍田さんが呟くように言う。彼は、かなりラフな感じだ。

 

私は帽子を被り直して言った。

「私がブルネイの提督に挨拶してくる。金剛と夕立は、この場で待機」

 

 私は他の艦娘たちと共に広場の反対側に向かう。お祭り広場は賑やかだ。

 

「ブルネイというより……ほとんど日本の縁日ね」

赤城さんが言う。確かに……いろいろな艦娘の姿もある。

 

私は近くに居た艦娘を見て言う。

「えっと、あれは島風か?」

 

「いや違う。頭のウサギ耳は島風っぽいけど他の部分は金剛だ」

日向が分析する。

 

「あれも量産型なのか?」

うちの金剛が見たらショックだな?

 

 仮装行列のようなカオスっぷり。もはや旅の疲れと混沌さに私自身が混乱しかけている。やれやれ……私自身が艦娘との日常生活に、やっと慣れてきたばかりなのに、いきなり艦娘が大量に目の前に……。

 

 あの嵐から、おかしなことばかり起きた。そしてこの鎮守府の状況だ。

しかもお祭りで……もはや正常な判断を妨げる要素が多過ぎる。

 

 だが事実は目の前だ。ここは腹に力を入れよう。

 

「あ、あの……」

 私は、おずおずと声をかける。

 

 体格の良い相手も気が付いたようだ。すぐに直立してシャツのシワを伸ばすと敬礼した。

「美保鎮守府の提督殿でありますな。お会い出来て光栄です。私はこの鎮守府を預かる金城大将です。以後、お見知り置きを」

 

「え!」

思わず絶句してしまった。

 

(大将か?)

実は内地でも大将という立場の軍人には、なかなか出会う機会が無い。地方なら、なおさらだ。

 

(道理で……自由な雰囲気と人格の大きさを感じる)

妙なところで相手の指揮官の器に感心する。私の周りの美保の艦娘たちもザワザワしている。

 

 ただ挨拶もそこそこに大将は私を上から下までジロジロと見ている……何か気に触るようなことしたかな?

 

 続けて彼は私の後ろの艦娘たちも見て、ちょっと安堵したような表情を浮かべた。普通の鎮守府の人間と理解したようだが? ……それはまた妙な雰囲気だった。

 

 彼は思い直したように腕時計を見て言った。

「さぁ、時間もそろそろですから、会場に向かいましょう」

 

「へっ? 会場? なんの?」

一瞬、何のことか理解できない私。

 

彼は腰に手を当てて大きく笑った。

「ハハハ、今更何を仰いますやら。これから私の艦隊と貴方様の艦隊とで模擬演習を行うのではないですか」

 

「え……えええぇぇぇぇ~!?」

ある程度、予測はしていたが会って早々に言われると驚く。

 

 少し遅れて後ろの方から比叡の「ひぇええ」という叫びが聞こえた。艦娘たちの無線モニターが通じていたようだ。

 

 お前の恐れていた通りの事態だな。

 




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EX回:第6話(改2.1)<やはり会場へと>

ブルネイとの模擬演習になる状況に焦った美保司令は先方のイベントを潰すわけにもいかず葛藤する。


「はぁ、胃が痛む」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第6話(改2.1)<やはり会場へと>

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 お祭り広場で及び腰になっている私の腕をブルネイの大将は掴んだまま、ずんずん進む。

 

彼は近くを通りかかった蒼い浴衣の女性に声をかけた。

「大淀ぉ、この方々と同じ編成で演習やるから。招集かけといてくれや」

 

「はい」

敬礼をする彼女。

 

「え? 大淀さん……」

私は自分の目を疑った。ひょっとして、この人は量産型の大淀さんか?

 

 一瞬その彼女を見つめた私……確かに面影はあるが、ちょっと美保とは雰囲気が違うような。

 

「あふっ!」

舌を噛みかけた。ブルネイの大将は一瞬立ち止まった私を再びグイグイと引っ張る。

 

(ちょっと痛いんですけど)

……口に出せない。

 

到着早々、演習なんかしないだろうと甘く見てた。だから余計、焦る。

 

それに大将はガッチリした身体で艦娘並みの力強さ。有無を言わさない気迫(迫力)まで併せ持っている。

 

(美保の艦娘たちは私を助けてくれないのか?)

そう思って振り返るが、もはや誰も圧倒されて手が出せない様子。

 

オマケにうちの金剛と夕立たちは、一応付いて来て居るようだが……。

「おえっ」

【挿絵表示】

 

「ぽい……」

 

(あんな二人も演習に出すのか?)

万全な体調なら金剛に夕立は主力として十分な艦娘たちだ。しかし……今さら大将に『棄権します』なんて言えない。

 

 仮に、この状況下でそんなこと言ったらブルネイの全艦娘たちから総攻撃されて半殺しの目に遭いそうだ。

 

そもそも私たちの行列を見る会場の艦娘やお客さんたちの視線が期待の色に染まっている。恐らく私たちとの演習が今日のお祭りの目玉だろう。

 

(仕方ない)

私は歩きながら覚悟を決めた。

 

「こうなったら金剛と夕立には泣いて貰うしかない」

ここは軍隊、私も鬼になる。

 

「ぽい?」

不安そうに、こちらをチラッと見た夕立、そして比叡。

金剛は硬直した表情のまま。

 

 やがて演習会場と思(おぼ)しき砂浜に出た。キラキラ輝く水面。

その蒼い海を目の前にして双方の艦娘たちは手前の広い砂浜に徐々に整列していく。

 

『あー、あー、マイクチェック、マイクチェック』

 設営準備だろうか? どこかからマイクの声がする。

 

 砂浜の両側に設けられたひな壇や草むらに座り込んだ観客たちも徐々に増えていく。

 お祭り全体の高揚感が、さらに増していく感じだ。私も緊張が高まって心臓の鼓動が早まる。

 

「じゃ俺、ちょっと本部に顔を出すから失敬するぜ。ここで待っててくれや」

ブルネイの提督は軽く手を上げるとイベント本部らしいテントへと向かった。

 

 後に残された私たち。長い髪の毛をかき上げながら赤城さんも圧倒されているようだ。

「すごい盛り上がりですね」

【挿絵表示】

 

 

確かに……美保のみならず日本でも滅多に見られない騒ぎっぷりだ。

 

淡々とした日向も腕を組んで言う。

「模擬戦とはいえ、お互い艦娘だ。このご時勢の、お祭りイベントしては最高だろう」

 

「そうねえ……」

龍田さんも、ちょっと姿勢を崩して周りを見る。

 

「内地では報道とか反対派とかイロイロ煩い面もあるけど……ここでは、そんな心配も不要なのね」

意外に客観的かつ冷静な分析をする彼女。まるで青葉さんみたいだな。

 

 私も、さっきまでブルネイ提督に掴まれて痺れの残る腕を振って言う。

「世界中の海域は、ほとんど深海棲艦に牛耳られて彼らに対抗できるのは帝国海軍の艦娘だけと聞く」

 

秘書艦の祥高さんも頷いて補足する。

「ええ、だから今までは日本近海とそこに通ずる航路だけが維持されていますね」

 

「量産化……人類の夢」

いきなり寛代が鋭い台詞を言う。だが、それは紛れも無い事実だ。その夢が今、我々の目の前にあるのだろうか?

 

 だが私は意気消沈していた。未だ、ここブルネイの様子が分からない。それに本調子でない艦娘たちを駆り出す良心の呵責。

 それでいて相手の顔を潰してはならぬ、という板ばさみ。

 

「はぁ、胃が痛む」

すると寛代が私の背中に手を当て『大丈夫?』という目で私を見上げる。

 

「有り難う寛代。大丈夫だから」

この艦娘は意外なところで支えてくれるんだよな。ちょっと気が楽になった。

 

アナウンス席を見詰めていた日向が言う。

「この実況は戦艦『霧島』……それに解説は戦艦『武蔵』だ」

 

その言葉に美保の艦娘たちは改めて遠くのテントに陣取るブルネイの艦娘たちを見た。

 

「確かに……遠くからでも彼女たちの威圧感が凄いわ」

赤城さんが呟くように言う。

 

「あれが武蔵様か。正直、私も彼女を肉眼で見るのは初めてだ」

喘ぐように私は言った。

 

(いくら量産型とはいえ何て豪華なメンバーだ?)

 

「ここブルネイは艦娘の人材が豊富みたいですね」

祥高さんも感心して言う。

 

「これって、もしかしたら帝国海軍の未来像なのかしら?」

龍田さんも不意に予言めいた台詞を言う。

【挿絵表示】

 

 

「確かに……そんな印象も受けます!」

これは比叡だが。率直だな。

 

「もしそうなら深海棲艦に対しても十分な戦力が各地に配置できるようになるわけだな」

これは日向。相変わらず腕を組んで冷静な意見を言う。

 

(そうか。もしこれが未来像なら、わが帝国海軍の行く末はバラ色なのだろう)

 私は思わずホッとして苦笑いした。

 

(だが、それは何年後の話なのだ? そもそも、こんな未来にまで私は果たして生き残っているのだろうか?)

 

「あ、目まいが……」

 暑さと緊張と混乱。

油断すれば私自身も意識がどこかへ飛んで行きそうだった。

 

 金剛や夕立は既に地面にへたり込んでいる……可哀想に。そんな彼女達をよそに会場の盛り上がりは更に高まっている。

その間にも凛々しい武蔵様が解説を続けていた。

【挿絵表示】

 

 

(良いなぁ、あんな強い艦娘が、うちの鎮守府にも来ないかな?)

そんな妄想をする私が半分ボーっとしているとルール説明のアナウンスが始まる。

 

それを聞きながら繰り返すように呟く赤城さん。

「負けは全滅……または旗艦の撃沈?」

 

「いや、これは演習だ。それは轟沈判定のことだろう」

思わず反応する私。

 

(そうか、それなら弱い艦娘を先頭にして、さっさと終わらせようか?)

思わず不謹慎なことを考えてしまった。

 

「いかん、いかん。反省」

私は思わず独り言を言う。

 

『では、ただ今より10分間の作戦タイムとなります』

ブルネイの霧島さんのアナウンス。

 

「作戦タイムって言ってもねえ」

私は、渋々艦娘たちを招集した。

 

 盛り上がる演習会場とは裏腹にスローテンポでゾンビの群れのような我が艦隊だ。

 

「えーっと」

あまりにも突然の状況に呆然としたままの私。

 

 目の前にいるのは魂の抜けたゾンビ艦娘が2体(金剛と夕立)

ついで元気な4人(日向、赤城さんと龍田さん、強いて言えば比叡)

 

 とりあえず、うちの鎮守府では錬度も高いメンバー。秘書艦と寛代は今回は除外。もともと戦闘タイプではない。

 

 しかし長旅と変な嵐で疲れていることに加えて一時的な受け入れ拒否で焦ったこと。

 ついでに異質なブルネイの雰囲気での半ば強引な模擬演習か。

どう見ても勝ち目は無い。

 

「はあ」

また、ため息が出た。

 

「司令、私達は大丈夫ですから」

そう言うのは日向。それに同意するように頷く赤城さんと龍田さん。ついでに比叡。

【挿絵表示】

 

 

「そうだな」

まだ、この艦娘たちは冷静だ。この面々なら何とかなるだろう。

 

戦場とは常に修羅場だ。私も決意を固めた。

「改めて言うことはない。知っての通り演習は絶対に沈むことはない。思う存分に戦って欲しい。また相手は友軍であるが我々の知らない兵器や戦法でくる可能性もある。十分用心すること。以上だ」

『はい!』と応えた4名。

 

「精一杯やってくれ」

そうとしか言えない自分が情けない。許せ! 

 

 新兵器の気配がしたのは直感だ。

さっき感じた『未来』というキーワード。それが現実のものとなっている気がする。

 

 数分の作戦タイムは終了した。

 

実況の霧島さんが伝える。

「では提督、お互いに握手を……」

 

 再びブルネイの大将が近寄ってきた。そして互いに力強く握手をした。だが私はボーっとして成すがまま。

 

 こんな状態だから、かの大将は、また怪訝(けげん)そうな表情をしている。申し訳ない。

 

 せっかくのイベントなのに私がこんなことでは盛り下がってしまうな。反省、反省。

 

「では……演習、スタンバイです!」

霧島さんの掛け声で、砂浜から海へと向かう艦娘たち。

金剛や夕立も、艤装をつけて何とか立ち上がる……彼女たちも腹をくくったようだ。

 

 私はただ、彼女たちの後姿を眺めるだけだった。

寛代が珍しく手を振っていた。

 

 




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EX回:第7話(改2)<演習開始>

本調子で無い艦娘を抱えながら司令は演習を開始する。同時に、ここは違う時代なのだと痛感するのだった。


 

「……あれが司令の言っていた量産型艦娘たちね」

 

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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)

 EX回:第7話(改2)<演習開始>

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 既に広場を始め、ひな壇型の観客席や付近の海岸線に至るまで見物客で一杯だ。一部、報道機関らしい航空機も飛んでいるが、遥か遠くから様子を窺(うかが)っている。これはホントに一大イベントだな。

 

 ただ艦娘の火力は実際の艦船に相当するから海上での見物は一切制限されている。

 

 私と秘書艦はブルネイの五月雨に案内されて来賓席に座った。別の子が私たちに何かの器具を渡してくれる。それは通信機のようだったが、あまりにも小さい。今までに見たことのないタイプだった。

 

「これは?」

「インカム……ご存知ありませんか?」

ちょっと不思議そうな顔をした五月雨。

 

「あ……あぁ」

それでも一応は知ってるフリをした。通信器具らしいが初めて見る型だ。

 

「えーっと耳に当てて話すのかな?」

適当に着けてみたら五月雨が慌てたように言った。

 

「提督、反対です」

「え?」

思わず顔が火照った。恥ずかしい。

 

彼女は「失礼します」と言いながら遠慮がちに私の器具を付け直してくれた。チラッと横目で見ると美保の艦娘たちも苦笑していた。

私個人的には恥ずかしかったが、これがきっかけで場が和んで緊張が緩んだ感じだ。

 

「やれやれ……」

少し気が楽に成った私は秘書艦の隣の椅子に深く腰をかけた。

 

 五月雨は秘書艦を含めた他の美保の艦娘たちに言う。

「本日の中継は通常のラジオ電波でも同時に放送されています。チャンネルは複数ありますので各自で同調して頂ければ幸いです」

 

それを聞いてそれぞれ頭をひねるような素振りを見せる。同調か……艦娘は便利だ。

 

 ふと隣のテントを見るとブルネイの大将が居た。彼は始めっからインカムすら付けていない。

一瞬、あれ? と思った。

 

私は思わず五月雨に聞いた。

「彼……提督は着けないのか?」

 

 チラッと自分の指揮官を見た彼女は直ぐに笑顔で頷く。

「はい。提督はいつも私たちに全て任せて下さいますから」

 

「なるほど」

それを聞いて私は納得した。

 要するにブルネイ艦娘たちの訓練は十分だ。自主的に判断し戦うから彼はこの場では特に何もしない。状況を逐一聞かずとも全てを委ねる……そんなところか。

 

「彼は自分たちの艦娘を信頼しているのだな」

私が言うと彼女は恥ずかしそうな顔をした。この辺りの初々しい雰囲気は美保の五月雨と同じだ。

 

 このブルネイの様子を見るだけでも艦娘の量産型が実用化された事は紛れも無い事実だろう。そして不思議な事にこの五月雨に見られるように量産型は同じ型であれば容姿だけじゃない。性格までも似るらしい。

 

(量産型というのは、一種のクローンなのか?)

本当のところはよく分からない。そもそも艦娘や深海棲艦が現れて、彼らとの長い戦いが継続してながらも、我々人類にとって、まだ分からない事が多すぎるのだ。

 

 そんなことを思っているうちに私のインカムからも美保の艦娘たちの通話が聞えてきた。

『お姉さま! 大丈夫ですか?』

『Yes……海に出たら、ちょっと楽になったヨ』

 

これは金剛姉妹か。そうか、ちょっと改善したか。

 

続けて龍田さんの声。

『夕立ちゃんはどう?』

 

『うん……ちょっとイケそうっぽい』

健気に答える夕立。

 

……まだ海上で各自、海面や艤装などの様子を見ているようだ。

 

 しかしインカムだけではない。

改めて自分の居る来賓席の周辺の音響設備や通信機等の機器類を観察してみると全てが非常に小型だ。ワイヤレス技術が発達してコード類がほとんどない。

「やはり私たちは違う時代に来ていると考えて間違いないな」

 

「……」

まるでSF小説の世界だが……祥高さんは、そういう類の書物は専門外なのだろう。余り反応しない。

 

 なぜここに来たのか理屈は不明だが、そう仮定すると全て説明がつく。この鎮守府の様子や機械にも納得がいく。

 

 そもそも今、耳に付けたこの小型インカムにしても高性能だ。驚くほど小さな無線機でコードも無く軽くて感度は非常に良好。艦娘たちの交信もクリヤーに入る。これで指示も出せるようだが少々、勝手が分からないから今日は止めておく。

 

「では……演習、始めっ!」

ブルネイの霧島さんの掛け声を合図に浜辺に居たブルネイの扶桑姉妹が号砲を響かせて、いよいよ演習が始まった。会場全体から歓声が上がる。

 

 息遣いも聞こえるくらいに実況感度も良好だな。霧島さんの声が入る。

「おっとぉ両艦隊共に駆逐艦と軽巡洋艦が飛び出したァ」

 

「軽巡……龍田さんは分かるとして夕立よ、お前はあんなにゲロゲロやっていたのに、そんなダッシュして大丈夫なのか?」

私も呟く。

 

「夕立ちゃん、大丈夫?」

無線機越しに、うちの龍田さんも心配している。

 

「もぉ、ワカラナイっぽい。こうなったら前に出るっぽい」

いつもより、ちょっと声のトーンは低いけど、さっきより回復している。私はホッとした。さすが艦娘は現役の軍人だ。

 

 ちょっと不思議なのは、この通信機は私たちの艦娘のやりとりだけが聞こえることだ。

「なるほど敵(ブルネイ)の声は、うまく聞こえないようになっているのか」

 

 演習だからな。お互いの作戦が筒抜けになったら意味が無い。

 さて夕立の回復した声を聞いた私は安堵しつつ、改めて現況を検討し始める。

 

 仮にいま私より後の時代に来ているとして。先ず、うちの艦娘たちが相手の量産型艦娘の基本的戦闘能力を、どう見切るか? そこがポイントだ。

 時代の経過で艦娘たちの実装兵器が、どれだけ進歩したか? そして艦娘の戦法が具体的にどう変わったのか?

 

 うちの艦娘たちには申し訳ないが軍人としては非常に貴重な体験だ。あのオタク技術参謀は、どこに居るか分からないが彼女もコレは見るべきだった。

 

 演習は相手側の先制攻撃が始まる。いよいよか。するとインカムに無線が入る。

「あらぁ? 相手も私たちと同じなのね。まぁ……あれが司令の言っていた量産型艦娘たちね」

 

 龍田さんは意外と普通の反応だ。さすが沈着冷静な彼女らしい。

だが素っ頓狂な声が入る。

「な、何ぃ? あれって! ……私っぽい?」

 

夕立は相変わらず人の話を聞いていない。私は肩をすくめた。

「ま、お前は具合悪かったから仕方ないけどな」

 

独り言のように呟いた私に被さるように夕立の声。

「えぇ? 誰か何か言った?」

 

夕立に続けて龍田さん。

「あらぁ? あの声は司令っぽいわねえ?」

 

(そうか、インカム越しに私の声が届くんだよな……)

私は慌てて口をつぐんだ。

 

 しかし徐々に体力を回復しつつある夕立だがゲロゲロした直後で身体は不調な上に、自分と瓜二つの艦娘相手では、量産型と分かっていても精神的にまずいかも。

 

こちらの赤城さんと日向の声がする。

「行くわよ日向さん」

「はい」

 

落ち着いた彼女らは次々と艦載機を発進させている。そういえばこの二人の組合せは、かつて美保鎮守府港湾内での深海棲艦(大井・仮)との戦い以来だな。

 

 あのときは結構、敵を叩いたが果たして今日はどうなるか。この二人の頑張りが大きく戦果を左右しそうだ。

 

 




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EX回:第8話(改2)<龍田さん舞う>

ブルネイVS美保鎮守府の艦娘たちの演習が始まった。しかし、その裏で実はこんなことが……。


『ふうん……複雑な事情があるのね』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第8話(改2)<龍田さん舞う>

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 演習とはいえ模擬戦闘は激化してきた。

 

もちろん通常の演習なら美保湾でもよく見る光景だが今回のように他の鎮守府が相手となると初めてのことだ。

 

 しかもブルネイの艦娘たちが果たして、どれほどの練度か未だ見当も付かない。

 藪を突くような感覚……五里霧中というのか。

 

(あいつら大丈夫かな)

……と、口には出さずに心の中で思った。私もドキドキしてきた。

 

 だがここは演習相手の泊地だ。演習中は私も努めて平静を装わなきゃ。

 

 改めて艦娘たちの演習が行われている海上を見た。美保とブルネイの龍田さんと夕立が互いに先制攻撃を仕掛けている。

「まるで鏡を見ているようだな」

 

私が言うと秘書艦の祥高さんも応える。

「そうですね……ちょっと変な気分ですが」

 

彼女の口調に私は思わず振り返った。

「え?」

 

……祥高さんは微笑んでいたのだ。不思議に思いつつ私も改めて通信音声に耳を傾けた。

『あらぁ? そちらの夕立ちゃん、顔色が悪いわねぇ……もしかして本調子じゃないの?』

 

ブルネイから借りたインカムの性能が良いから接近戦になると相手の声も断片的に入ってくる。

 

『……』

美保の夕立は無言だ。どうやら混乱しているようだ。

 

その代わりに、美保の龍田さんが答える。

『この娘(こ)、量産型の艦娘を初めて見るから、ちょっとビックリしているのよ』

『あらぁ、ご愁傷様』

『あと、ここに来る途中で酔ったみたいなの』

『ふうん……複雑な事情があるのね』

 

 砲撃音と風切り音に混じってインカムから聞こえてくるダブル龍田さんの会話。私たちの目の前で模擬戦を繰り広げながらも実際の彼女たちは淡々としている。

 

 落ち着き払った二人。龍田さんらしい……といえばそうだが。

この状況での落差ぶりに私の頭はクラクラしてきた。だが聞こえる音声は事実だ。

 

 大勢の観客には分からない。恐らく大将自身も、まだ気付いていない……。

(或いは知っていながらも艦娘たちに任せているのか?)

 

 私が考えているとブルネイの龍田さんは、さりげなく武器を収めた。

もちろん演習の進行上は自分の体勢を整える振りをして、ごく自然に動いている。

『そんな相手に勝っても、盛り上がらないわよねえ』

 

彼女は美保の夕立から少し距離を取って改めて様子を観察した。

『吐かれて汚れるのも嫌だしぃ』

 

彼女は口を塞ぐ真似をして苦笑した。夕立のゲロゲロを警戒しているのか。

 

 他の艦娘たち……特にブルネイの彼女たちは、まだ本気ではないようだ。意図的に狙いを外しつつ『戦場』を演出していた。

 

 普通に観覧席から見ている限り艦娘たちの間で、そんな会話が交わされているとは想像もつかない。彼女たちは砲撃と回避を繰り返しながら激しく動き回っている。砲声と砲火。そして水柱と、それだけでも見応えある。

 

 美保の龍田さんが言う。

『私は絶好調だけど、同じ艦娘で戦っても披露するにはイマイチよね?』

 

するとブルネイの龍田さんは大きく頷いた。

『じゃあ……うちの夕立ちゃんとやる?』

 

彼女が長い武具を一回転させて海上で振り返ると、そこには美保と雰囲気の違う夕立が居た。

『強いけど大丈夫。寸止めも得意だから』

 

ブルネイの夕立は、お祭りモード満開で浴衣姿だった。それだけでも余裕……強さが滲み出ていた。紅(あか)い瞳の彼女は金髪をなびかせながら微笑んだ。

『夕立改2……お願いしますっぽい!』

 

私は冷や汗が出た。

「彼女……魚雷を素手で持っているぞ?」

 

「魚雷……顔」

寛代が呟く。

 

「なるほど魚雷なのにペイントしてあるな」

悪趣味というか。

 

 だが美保の龍田さんも余裕だった。

『あらぁ? 浴衣姿も良いわねえ夕立ちゃん……じゃ私も、ちょっと踊ってみようかしら』

 

彼女は微笑むと弾幕を上手に避けるように優雅な舞いを踊り始めた。

『ウフフ、戦士の舞いよ』

 

 それは気品すら感じさせる高貴なものだった。

もちろん観客にはポーズを決めながら激しく戦っているようにしか見えない。会場からは歓声と拍手が沸き起こる。

 

(役者だなあ)

私は感心した。

 

 美保の夕立を除く2対1の軽巡と駆逐艦娘たちは互いに激しく戦っているような「舞い」を演じている。それは見事な『演武』だった。『型』の美しさと『優雅』さ。生半可な技量では出来ない。

 

 ブルネイも美保も互いの艦娘たち(特に龍田さん)は普段から相当、鍛錬しているのだ。

 

 私は興味深く観察していた。

 

(この時代には艦娘が素手で戦う白兵戦や接近戦を意識しているのか?)

……そんな印象を受けた。或いはブルネイ独特の方針かも知れないが。

 

 普通に観客として見ても単なる演習よりは美しいフォームを見せる方が見栄えも良い。ショーとしても最高だ。

 

 美保とブルネイの艦娘たちは空砲を順次、海や空へと発射していく。大きな水柱や弾幕が周囲に幾重にも張られる。その衝撃波で爆音が響き水柱が林立する。凄まじく派手だ。海から吹く風で硝煙と水しぶきの潮の香りが会場にも漂ってくる。盛り上がる観客。

 

 漠然と見ていれば演習会場から聞こえるのは単なる砲弾の音だ。

しかし注意深く聞いていると拍子を取って一定のリズムに基づいて発射されているのが分かる。つまり海上で艦娘たちは、まさに『踊って』いるわけだ。

 

 お陰で今も体調が優れない美保の夕立の動きが鈍くても、それは戦闘に慄(おのの)いて立ちすくんでいるように見える。押してくるブルネイと防戦一方の美保。敵地とはいえ、これは盛り上がるな。

 

 その陰では相変わらず艦娘たちの会話が続いている。

『そろそろ、時間っぽい』

『ウフフ……いつでも良いわよ』

 

次の瞬間ブルネイの夕立は美保の龍田さんを見てニコリと微笑んで突っ込む。

『夕立、突撃するっぽい!』

 

『ふっ!』

龍田さん(美保)が翻りつつ突きを放つ。夕立(ブルネイ)は僅かに身体を捻り最小限の動きでかわしつつ、なおも懐深くに飛び込む。長い金髪が翻る。

 

その夕立の派手な浴衣と長髪のコントラストが南国の強い日差しに映える。まさに蝶の舞だ。

(うちの夕立もアノくらい凛々しくなれば良いなあ)

 

 インカムを通して聞こえてくる息遣いから龍田さんが3/4拍子から、4/4、4/8……変拍子でリズムを取っているのが感じられた。まだまだ余裕だな。美保だけでなくブルネイの龍田さんや夕立も互いに美保の龍田さんに呼吸を合わせてくれている。その余裕はさすがだ。

 

 しかし美保の龍田さんが、そんな高等な技能を持っていたのは意外だった。或いはブルネイの胸を借りて一緒に技量を上げているようにも見えた。いずれにせよ手に汗握る格闘となっていた。

 

 龍田さんも伊達に経験を重ねている訳ではない。日向とは違うタイプの「武人」だ。だから飛行機にも酔わなかったのだろう。

(艦娘って本当に底知れないものがあるんだな)

 

 しかし、この演習は貴重な経験になる。有り難い……私は胸のメモ帳をまさぐった。もし無事に日本に帰ることが出来たら彼女の鍛練も考えよう。

 

(そう言えば)

私は別の海上に目をやった。

 

「うちの日向は?」

水柱の向こうにブルネイの日向と向き合って……。

 

(あいつらナニやってるんだ?)

視線をずらすと、その近くに赤城さんペア。

 

(またあの二人まで何してる?)

 海上では、まだブルネイVS美保の艦娘たちによる激しい一騎打ちが続く。水柱の合間から見える彼女たちの距離は半間(はんげん)もないだろう。そこから拳打を繰り出すには腰や身体を捩るように回転を使って速度と力を乗せていく必要がある。日頃の鍛錬無しに決して出来ない動きだ。

 

『ぐっ……!』

誰かの声が伝わる。

 

白熱する実況アナウンス。

<あぁっとぉ、夕立さんの拳が龍田さんの右脇腹を抉るっ、相手の龍田さんの表情が苦悶に歪むっ>

 

会場が盛り上がる。お客さんたちは総立ちで熱狂だ。格闘技の会場みたいだな。

 

だがインカムからの音声は違っていた。

『どう? この表情。痛そう?』

 

『最高っぽい!』

やれやれ……私はひそかに肩をすくめた。

 

同じ音声が聞こえる秘書艦や寛代も微笑んでいた。彼女たちも事情は分かっているな。

(普通のお客さんたちは、この音声を聞いたら落胆するかな?)

 

 しかしプロレスも芸能界も、だいたい見物ショーの舞台裏なんて、こんなものだ。進行上に事故や間違いがあったらショー自体が成立しない。一種のビジネスだ。

 

(私個人としては、こういう古代ローマのコロシアム的なショーはちょっと苦手だけど)

でも一般の人が求める軍隊ってのはこういう肉体系だろう。そこは仕方が無い。演武も演習も大切なサービスだ。互いの艦娘たちも上手に演じている。

 

 特に神秘的な香りのする龍田さんが舞うと……神社への「奉納の舞」を連想してしまう。それだけの技量と精神性はあると思えた。

(龍田さん、つくづく見直したな)

 

日頃の、あの余裕ある態度には、こういう背景があるのか。それはまたアダルトな魅力だ。

 

ふと気付くと近くに座っていた寛代が、こっちを見てた。

「ごめんね寛代」

 

(今の妄想は訂正だ……)

そうだよ演習中だ。不謹慎は禁止。

 

 さらに私は青葉さんのことを思い出した。彼女がどこかで、この演習中の写真を望遠でも良いから撮っていてくれたら嬉しい。

 

(貴重な参考資料……期待しているぞパパラッチ)

私は妙に青葉さんに期待を込めるのだった。

 




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EX回:第9話(改2)<バトルの裏で>

模擬演習は見応えのあるものだったが……



「……大丈夫っぽい?」(小声)

 

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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)

 EX回:第9話『バトルの裏で』

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 演習は白熱している……ように見えた。インカムからは相変わらず淡々とした艦娘たちの通信が入っている。

 

 私は自分のインカムの送話口を跳ね上げると来賓用観覧席の近くに待機していたブルネイの五月雨を呼んだ。

「ちょっと君……双眼鏡はあるかな?」

 

「はい。少々お待ち下さい」

軽く会釈をしてから裏手に引っ込んだ彼女。

 

「本当に美保の五月雨とそっくりですね」

祥高さんの言葉に私も頷く。

 

「そうだね」

応えながら何となく祥高さんや寛代の量産型も居るのだろうか? と考えていた私。

 

数分と経たないうちに五月雨がコンパクトな双眼鏡を持ってきた。

「こちらです」

 

「有り難う」

私は双眼鏡を受け取る。

 

 その時、私は『おや?』と思った。

五月雨が一瞬だが私から目を逸らして恥ずかしそうな表情を見せたのだ。それまでの彼女は無表情だったので、よけい気になった。

 

「失礼します」

五月雨は双眼鏡を渡した後、私の席から少し離れた斜め後方の位置に立ち止まって待機している。

 

(そうか……彼女が私の『担当』か)

この艦娘はマジメそうに見えるけど『素』の性格は案外違うのかも知れない。

 

 艦娘は時おり人間臭い反応を見せることがある。それは美保でもブルネイでも同じなのだろう。

 

 そう思いつつ私は軽く双眼鏡をチェックする。形は今のものと、そう変わらない。ただ明らかにワケの分からない端子だらけだ。その他、謎のアイテムてんこ盛りだな。私の時代のシンプルなものとは大違いだ。

 

 試しに覗いてみる。どうやらブルネイのどこかと同期しているらしい、お天気マークや現地の計測データがイロイロ画面に表示されている。これは便利だ。

 

「良いなあ。これ一つ欲しいな」

そう呟いた次の瞬間、インカムからは激しい衝撃音と叫び声が伝わって来た。

 

「グッ!」

……という、何かを受け止めるような声。

 

「龍田さんか?」

私はハッとして顔を上げた。

 

直ぐに場内には大きな歓声が湧き起こる。

『ワー!』

 

慌てて双眼鏡を覗く。

「もう決着が付いたのか?」

 

 演習をしている海上には水しぶきで霧に覆われている。爆発の煙が幾筋も立ち上って見通しが悪い。

 

「タイミングを逃したな」

私は周りの観客の反応を観察しつつ場内アナウンスに耳を傾けた。

 

<ブルネイの夕立がハイキックで美保の龍田さんの頭部付近をヒット、転倒させたのか?>

実況の霧島さんが叫んでいる。

 

『……っぽい!』

霧や煙が晴れてきた海上ではその浴衣姿の『夕立』が得意げに決めのポーズを繰り出していた。

 

実況席も叫ぶ。

『決まったああぁぁぁ! 夕立のハイキックぅ』

 

「ハイキック?」

待て待て、相手は浴衣だぞ? どうすれば、そんな攻撃が可能なんだ? 

 

 会場にはブルネイの艦娘たちの「通常音声」が『中継』されている。

当然だが……演習は彼女たちの勝利に終わったようだ。

 

さすがに私は美保の艦娘たちが心配になってきた。しかし視界が開けず、まだ様子が分かり難い。

 

 その時、私のインカムに現場の生の声が伝わって来た。

『ねぇ……大丈夫っぽい?』

 

ブルネの夕立の声……その小さい声音(こわね)を聞いた私は直ぐに思い出した。

「そうか」

 

私は安堵した。

(裏事情があるんだった)

 

そう。この祭りの影では真逆のことが進んでいる。

まず美保の龍田さんが抑えた声で呟く。

『あぁーあ。ワタシ最近、あまり受身取って無いのよねえぇ。訓練不足で……久々に来たわぁ……でも大丈夫よ。意識はちゃんとしてるし』

 

彼女はは小声で続ける。

『直ぐに立つとバレちゃうから……ちょっとジッとしているわね。だから慌てないで頂戴」

 

『はい』

海上の現場からは相手の夕立と龍田さんの安堵するような吐息が伝わってきた。

 

バトルの真実を知るのは戦闘中の特殊無線を傍受できる一部の艦娘たちと通信担当。あとは私くらいか。

 

(お客さんたちは、知る必要も無いけどね)

 もちろん、お互いの艦娘たちも、このことは一切、口外しないだろう。

それは「政(まつりごと)」を司る者たちの不文律であり一種のマナーだ。

 

ブルネイの夕立が、こちらの方を振り返る。

『ねえねえ、会場……すごい歓声っぽい』

 

『うまくいったようねー。きっと提督も喜んでくれたわね』

午後の日差しを全身に浴びながら海上で手を振っているブルネイの夕立と龍田さん。

 

 私は観覧席で頬杖を付きながら思った。

演武とはいえ、ちゃんと相手を気遣いつつ見せ場も作る。その上で大将の顔も立てている。ブルネイ側の艦娘たちは量産型にしては要領が良い。

 

中心である大将を想う賢明で優しい艦娘たちだな。

(やはり日頃の指導が行き届いているのだ)

 

軍隊に必要な秩序が立っている。

(うん、本当に羨ましいな)

 

翻って今もなお艦娘たちに翻弄され振り回されている私は、まだまだ未熟者だと、つくづく反省。

 

 異様な熱気を感じてふと周りの観客席を見ると青葉さん並みの凄いカメラを持っている野郎(オトコ)どもが居た。彼らは『決定的な瞬間』を撮ったのだろう。満足したように鼻の穴を膨らませていた。

 

「……」

さらに視線を感じて振り返ると寛代が見ていた。あいつらと私が同類に見られているようで恥ずかしさと同時に、ちょっと言い返したくもなった。

 

「お前は私の『妄想監視係』か?」

すると彼女はニタリと笑って頷いた。

 

「……負けたよ、お前には」

私は肩をすくめた。

 

 この寛代という駆逐艦娘は不思議な子だ。空気のように無色透明かと思えばスパイスのように刺激を受けることもある。

 

(ちょっと他の艦娘とは違うよな)

思えば僅かな期間しか美保の艦娘たちとは接していない私だが、それでも異質なものは感じるのだ。

 

 それを言えば秘書艦も、ちょっと特異なものを感じる。

……ただ彼女の場合は時おり『押し』が強いだけで基本的に物静かだ。それが普通でない印象を打ち消して居るのだろう。

 

 そんなことを考えている間も会場は盛り上がっていた。

私は改めて双眼鏡で観客席を見た。すると歓声の中で左手の席に青葉さんと夕張さんが居るのが分かった。その青葉さんも、やはり大きなレンズのカメラを抱えて満足そうな顔をしていた。

 

「収穫あったようだな」

『はい、ばっちりです』

私の声に反応するようにこちらに視線を送る彼女。

 

「あれ?」

一瞬、驚いた私を見透かすように向こうの席からこちらにブイサインで手を振る青葉さんが見えた。

 

「そうか、このインカムの周波数はお前も拾えるのか」

『そうですね』

いつもの彼女の声が返ってくる。妙にホッとした。

 

 するとその隣の夕張さんが何か私の方向を指差して盛んに何か訴えているようだ。

【挿絵表示】

 

「何?」

 

彼女の視線の先……ふと双眼鏡を外して後ろを振り返る私は声を出す。

「あれ?」

 

 傍の椅子では秘書艦の祥高さんが居眠りをしていた。

さっき『物静かな艦娘』だと思ったが、こうなると、もはや存在感すら感じない。私は苦笑した。

 

「君は、こういうバトル系は興味ないんだな……それとも長旅の疲れが出たのかな? まぁ、お疲れ様ってか」

私が呟くと隣の寛代が、そっと祥高さんの腕にしがみついた。

その姿があまりにも自然に見えて一瞬、家族かと思えた。

 

「まさか……」

何か、その行動に不思議な法則性を感じたのだ。

 

(艦娘は全員、こうなのだろうか? それとも……)

 

 向こうの会場に座っていた青葉さんたちは立ち上がって移動を始めていた。その姿を見て私はふと、あの技術参謀のことを思い出した。

 

(そういえば彼女、どうしているだろうか?)

当然、医務室で大人しくはして居ないだろう。

 

 ……とはいえ演習会場にノコノコ顔を出すヘマはしないだろうし。

(どこで何やってる?)

 

私は、ちょっと心配になってきた。

 

 




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EX回:第10話(改2.2)<第2ラウンド>

美保鎮守府側の夕立が果敢にブルネイへ反撃を試みる。しかし見たこともない兵器に逃げ回る結果に。それはまたブルネイ提督の大きな疑念を生むことになるのだった。



(相変わらず微妙にズレているんだよな、お前は)

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第10話(改2.2)<第2ラウンド>

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 演習の、いわば『第1ラウンド』は終わった。

格が違いすぎる……最初からある程度は予想された結果だ。

 

 もちろん裏では、とても『平和的』に事が運んでいた。私が双眼鏡で海上を覗くと美保の龍田さんがブルネイの龍田さんに助け起こされている。

 

「どうなるのかな……これで終わりか?」

思わず呟いた私としては、さっさと終わって欲しい。そもそも初っ端から実力の差があり過ぎた。

 

 だが、物事はうまく行かないものだ。

『ぽいぽいぽーぃ』

 

(あれ? この声)

……と思う間もなく美保鎮守府の夕立が叫んだ。そして無謀にも猛然と立ち向かっていく。もちろん相手は浴衣を着たブルネイの『夕立』だ。

 

「おいおいマジか?」

今までずっと棒立ちだった美保の夕立は急に『やる気』になったらしい。

 

(相変わらず微妙にズレているんだよな、お前は)

やっぱりアイツは正真正銘の『バカ』だったのか? ……私の不安とは裏腹に会場は再び歓声に包まれて盛り上がる。まぁ『やる気』になっただけでも褒めてやるべきか。

 

『フフ……』

不敵に笑ったブルネイの夕立。やおら魚雷を発射するかと思いきや……

 

「え?」

驚いたことに彼女は魚雷を『投げて』いた。

 

『ぽいっ?』

美保の夕立が困惑するのも無理は無い。常識を逸した魚雷が滑空してくる。

しかも妙な迷彩(マーキング)が施されて……

 

『ちょ、そんなの反則っぽいーっ!』

彼女は血相変え180度ターンして逃げ出した。

 

私も空いた口が塞がらない。

(なんで魚雷が空中を飛んでいくんだ?)

 

あんなのが空を飛んで向かってきたら当然、逃げるよ。

 

『あらぁーすごい。あんな魚雷があるのね』

美保の龍田さんの呟きがインカムに入るが呑気過ぎるというか『彼女らしい』というか。

 

相手側の龍田さんはニッコリしながら小声で応えている。

『大丈夫よぉ、あれは単なる脅し……ちょっと作戦上、本隊から遠ざかって貰うから』

 

『おおっと! 龍田と夕立は相手の夕立をジワジワと敵戦艦群から引き剥がしに掛かる!』

実況も叫んだ。

 

『……巧いな。挟み撃ちの形を活かして敵主力から遠ざけている。何か仕掛けるつもりだぞ』

武蔵様の解説もヒートアップ。

 

 海上では相手の『空中魚雷』が美保の夕立の周囲に着弾し無数の水柱を林立させていく。ほぼギリギリで必死に着弾を避ける夕立。それは手に汗握る展開だが……明らかにブルネイの夕立は意図的に着弾を外している。

 

必死な形相で夕立は逃げ惑う。

『ぽいー!』

 

その直後を狙って次々と水柱が上がる。結果的に彼女は徐々に主戦場から遠ざけられて行った。

 

 私はふと観覧席に居る相手の提督(大将)を見た……やはり彼は美保鎮守府側の、あまりの弱さに呆気に取られているようだ。いや、それ以上に何か『疑い』の表情すら浮かべ始めていた。

 

 そうだよ。今回の演習だって恐らくブルネイの艦娘と互角の相手が本来居たはずだ。それが何かの理由で来られなくなって……そこに幸か不幸か私たちの部隊が入り込んだらしい。

 

「あ……」

大将が、こっちを見た。

 

(やばい!)

私は思わず目を逸らしてしまった。だが私の今の行動は余計に拙かった。

 

(彼の疑念を深めさせただけじゃないか?)

私は非常に焦り始めた。別に悪いことはしていないけど、こうなってくると針のムシロだ。もはやジッと座って居られない。

 

 だがしかし今、逃げ出したら余計に疑われる。夏なのに冷や汗が出た。さりげなく会場を見回すと憲兵さんも点在しているし。

「やば……」

 

つい、口走ってしまう。

この夏に境港の神社で憲兵に詰められた、あの嫌な緊張を思い出してしまった。

 

 しかし今さら逃げ出せない。こうなったら仕方ない。私は深呼吸をすると自分の不安を隠すように双眼鏡で再び海上を覗く。

 

「あれ?」

……ウチの金剛はまだ本調子じゃないのか? やたら小さく見える。もしかして蹲(うずくま)っているのか?

 

 その金剛の前にいるのは妹。

「おい、比叡? 何をやっているんだ?」

 

思わず呟く。その比叡はブルネイの金剛と比叡の前で両手を広げている。どういう事態だ?

 

私は慌ててインカムを下ろして通信する。

「おい比叡、いくら演習とは言っても実戦的なものだぞ!」

 

私も問いかけるが彼女には聞こえないのだろう。敵(ブルネイ)の前で両手広げ続けている。

 

(あいつ……)

私は境港の路地で私を庇(かば)っていた寛代を連想した。艦娘っていうのは状況によって人間以上に使命感に燃えるようだな。

 

「あれ?」

振り返ると寛代本人は祥高さんの膝の上に頭を乗せて熟睡中だった。

 

「寝てるのか?」

もちろん祥高さんもコックリと「船」を漕いでいる。いやこの二人……逆にこの緊張する演習会場の喧騒の中で、よく眠れるよなあ。

 

健気な比叡が居るかと思えば、龍田さんやこの二人のようにマイペースな艦娘もいる。この落差と緊張で私も混乱しそうだった。

 

 演習している海上では風向きが変わった。水柱の霧が視界を再び悪化させている。

 

私は急に独りで敵地に放り出されたような孤独感に包まれた。もちろん私も軍隊生活は長いから、様々な危機的状況は通過しているつもりだが、さすがに予測不可能な事態が積み重なると混沌としてくる。

 

そうやって一人で緊張している私の異常な雰囲気に気が付いたのだろう。ブルネイの五月雨が声をかけてきた。

「提督? どこか調子がお悪いのでしょうか」

 

「あ、いや別に」

私はインカムの送話口を跳ね上げて応えた。

 

それでも彼女は心配そうな瞳でこちらを見詰める。

「あの……何か冷たい物を、お持ちしましょうか?」

 

「あ、そうだね」

ブルネイの五月雨は親切だ。軽く会釈をして彼女は立ち去った。その心遣いにホッとした。

 

(五月雨か)

確か美保にも居たはずだ。今度、もし無事に日本に戻ったら調べてみよう。

 

突然、実況が叫んだ。

『み、見て下さい! ……アレ?』

 

観客は一斉に制空権争いが繰り広げられている上空を見た。私も再び双眼鏡を覗き込む。そこではブルネイの赤城さんと日向が放った瑞雲と彗星が各々爆撃体勢に入ろうとしていた。相手の瑞雲は水平爆撃、彗星は急降下爆撃か。

 

(まずいな)

演習とは分かっていても、この構図は絶望的な状況だ。

 

だが美保の比叡が健気に叫ぶ。

『お姉さまを、お守りしますっ!』

 

彼女は対空砲火を開いて迎撃を始める。そのとき蹲(うづくま)っていた美保の金剛も起き上がり歯を食いしばって共に反撃を試みた。

『Fire……』

 

いつもの覇気がない金剛。何となく砲撃も弱々しい。

(そうだよ、ついさっきまでゲロゲロやっていたのだから)

 

そのときインカムに美保の龍田さんの声。

『金剛さん比叡ちゃん、無理に反撃すると被害が増えるわ。相手の赤城さんたちも直撃は避けてくれるから、その場を動かないで!』

 

続けて美保の赤城さんの声。

『そうよ。ちょっと痛いかもしれないけど』

 

「あれ?」

魚雷の水柱に隠れて見え難かったが双方の赤城さんと日向は戦っていないのか? お互いに並んで状況を見ているようだが。

 

『私たちの司令の為にも、お願い』

日向の通信に思わずドキッとして冷や汗が出た私。

 

『私のことは、どうでも良い』

つい口走った。

 

『……』

何となく日向に伝わった感覚はあった。

 

元々勝ち目のない演習だ。ここは割切って上手に負けを演じてイベントを盛り上げる方がスマートだろう。その方が大将に顔向け出来そうだし。

 

 美保の赤城さんと日向は元々冷静な子達だ。それを悟ってブルネイの二人と上手く交渉でもして『停戦』に持ち込んだのかも知れない。ある程度イベントが盛り上がったら、さっさと停戦させる。それは一種の『作戦勝ち』だよ。

 

龍田さんの通信が届いたのだろう。爆撃機を落とそうと砲撃を加えていた金剛たちは急に砲撃を停止した。

『シット』

 

さすがに悔しそうな金剛。通信には入らなかったが何となく比叡が隣でなだめているような気配を感じた。

 

龍田さんが言う。

『判定が出るまで動かないでね』

 

それを受けて金剛姉妹が海上で抱き合って防御体制を取った次の瞬間だった。

彼女たちを覆うようにして無数の水柱が上がった。二人の姿が一瞬見えなくなる。激しい炸裂音と水柱……観客の目は釘付けだ。

 

だが私は別の緊張でガクガクになっていた。

「提督」

 

「あ」

振り向くとブルネイの五月雨だった。

 

「ミネラルウォーターです」

「有難う」

私は彼女が持ってきた氷水を飲んだ。これで少しでも落ち着けば良いけど。

 

「ごほっ、げほっ!」

緊張して吹いた。

 

すると彼女が優しく背中をさすってくれた。

「あの……大丈夫ですか?」

 

(さ、五月雨……)

さすがに声には出さなかったが思わず心の中で『君は天使か?』と思った。

 

「す、済まない」

やはり恥ずかしそうに微笑む五月雨。

 

「いえ……」

純朴そうな良い駆逐艦だな。絶対に帰ったら美保でも確認してみよう。

 

「げほっ」

 

 

 




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EX回:第11話(改2)<決着そして絆>

演習は一方的に「大将」側の艦隊が勝利した。しかし、あっけなさとは裏腹に様々な思惑が渦巻いていた。


「えぇ! 負けたっぽい?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第11話(改2)<決着そして絆>

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 自分の喉が落ち着いたところで私は再び海上に目をやった。

 

「演習はそろそろ決着するかな」

私は呟いた。

 

背中を擦(さす)ってくれていた五月雨も一瞬、その手を止めて海上を見た。

「そうですね」

 

 海上では激しい攻撃が続き幾重にも水柱の壁が生じている。

演習とはいえ凄い物量だな。

 

ブルネイの金剛姉妹は最初、連射しながら美保の金剛姉妹の至近距離を狙っていた。

だが私のインカムに時おり入ってくる音声では海上の戦闘シーンとは、まったく違った雰囲気だ。

 

『Oh! ソーリー』

『頭、下げて下さいねっ!』

それは実に奇妙な構図だった。

 

やがて攻撃が落ち着くとブルネイ側の金剛と比叡の姿が確認できた。

 

当たり前だが美保の二人と瓜二つだ……その金剛は攻撃を緩めるように腕を横に突き出した。

『もう良いネ! 今度はアウトサイドへ』

『はいっ、行きます!』

 

そのやり取りと同時に中心から外側に向けて再び水しぶきの壁を作るように砲撃が始まった。その迫力に観客は大喜びだ。

 

 私のインカムにも断片的に相手側の音声が入ってきた。

『イェイ! たまには一斉射もイイネ』

『お姉さま、でも慎重にお願いします。これから空母が動きます』

 

ふと見上げると瑞雲と彗星。

『No problem ヨ!』

 

何となくウインクをしながらブイサインを出す金剛の姿が連想できた。

 

『さ、今のうちに』

赤城さんの声だ。

 

陰で互いの赤城さんと日向が動き出していたのだ。

『Oh! 赤城?』

 

何となく、顔を上げたような金剛の声。水柱の裏側では美保の金剛が赤城さんと会話をしているのが聞こえてきた。

『さ、これを付けて……』

『これは?』

『特殊メイク。墨で体を汚してカモフラージュするの。でも大丈夫、服に付いても洗濯すれば落ちるから』

 

絶対に関係者以外には聞かせられないマル秘音声。衣装の心配をしてくれるとは赤城さんらしい。

『さぁ、私たちは外側の定位置へ』

 

『了解!』

後から聞えた声は日向か。

 

『後はよろしく』

『ありがとう』

『艤装も汚しておいてね』

雑音に混じって慌ただしく艦娘たちのやり取りが入る。

 

『これでフィニッシュ!』

恐らくブルネイの金剛だ。その直後に激しい水柱と轟音。まるで残弾全てを撃ち尽くすかのように。もちろん観客席の興奮もクライマックスに達していた。

 

……そして水煙が晴れた。その輪の中には美保の艦娘たちが大破していた。ボロボロになって抱き合っている金剛と比叡。さらに、よく見れば、その周りにも同様な赤城さんと日向……まぁ彼女たちは実際には戦っていない。同じようにカモフラージュしているだけだ。

 

 私もインカムの音声が無ければ、この状況下で美保の艦娘がブルネイの艦娘たちにボコボコにされたようにしか見えなかっただろう。

 

「……」

私の背中を擦ってくれていた五月雨が息を呑んでいる感じが伝わって来た。半分振り返って彼女を見ると両手で口を押さえている。

 

(心配してくれているのか? 五月雨)

何て健気な。

 

(……ああ、そうか)

特殊な周波数だから駆逐艦の彼女には、演習の艦娘たちの会話は伝わらないか。

 

 ただ彼女は本気で美保の艦娘たちを心配してくれているようだ。

何だか申し訳ない。

(……本当のことを言うべきか)

 

私は躊躇(ちゅうちょ)した。

(だが喋ったら、この真面目な子は別の意味で衝撃かな)

 

実況のアナウンス。

『こ、これは……?』

 

と同時に直ぐに本部席の判定官が双眼鏡で海上を覗いている。

彼は何度か頷(うなづ)くと手にした旗を高く上げた。

 

それを受けて実況も叫ぶ。

『美保鎮守府旗艦・金剛の轟沈判定が出ました! 我がブルネイ鎮守府の勝利ですっ!』

 

『しかし、これは呆気ない終わり方でしたねぇ。まさか航空機の爆撃で終わるなんて』

……その遥か向こうでも呆気に取られて立ち尽くしている美保の夕立がいた。

 

『えぇ! 負けたっぽい?』

ガックリとうなだれる夕立。それでも闘争心はあったんだな。

 

(偉いぞ、夕立)

ちょっと見直した。

 

 しかし意外に美保の金剛は粘った。演習の時間も予定よりも、かなり延長したらしい。

(やはり今回の旗艦は要領が良い赤城さんにしておくべきだったか)

 

 相手の武蔵様が、この演習の流れの解説をし始めている。それを感心して聞いている観客たち。流暢(りゅうちょう)な解説だが……もしや、この演習の裏の事情を知りながら敢えて違う内容を即興で解説しているのだろうか? 

 

私はインカムを外して武蔵様を見た。

「恐らく彼女は分かっているだろうな」

 

「あ、済みません」

私を介抱してくれていた五月雨は自分の手が疎かになったことを詫びようとした。

 

私は手を上げてそれを軽く制した。

「ありがとう五月雨……だいぶ楽になったよ」

 

その言葉に彼女は恥ずかしそうな表情を見せた。本当に純朴な子だ。

 

 水柱による水蒸気で視界が落ちている上に戦闘も終わったので観客の多くは海上を注目していない。座っていた人たちも立ち上がって屋台を覗いたり他のイベント会場へ移動し始めていた。

 

会場にもアナウンスが流れる。

『以上で演習イベントは終了いたします。皆様、ごゆっくりお祭りをお楽しみ下さい』

 

「では提督、私も失礼してよろしいでしょうか?」

五月雨の言葉に私もハッとしたように応える。

 

「あ、ああ」

彼女に双眼鏡を返して私は改めて海上を見た。そこではブルネイと美保の金剛姉妹たち4人が互いに抱き合って泣いている。身を挺して姉を護ろうとした美保の比叡の一途な姿に心を打たれたようだ。

 

 演習とはいえブルネイの提督に疑われるほど実力が違い過ぎた。それに今回はブルネイは美保と同じ艦娘をあてがって来た。ちょっと趣味が悪いというか……艦娘たちにとっても自分と同型艦を攻撃するのは葛藤があるだろう。そういう一連の想いが演習を終わって一気に緊張が解き放たれたようにも感じた。

 

 抱き合う艦娘を見て、この夏、境港の路地で深海棲艦に対し両手を広げて私を庇った寛代を思い出した。振り返ると、その寛代は相変わらず寝ていた。

 

私は軽く肩をすくめると改めて海を見た。抱きあう比叡と金剛の姿に私も、いろいろと考えさせられる。

 

(こういった行動こそが艦娘らしいのかも知れない)

彼女たちにしか分かり得ない絆や想い。それが艦娘が単なる機械ではない重要な証しなのだ。

 

 まぁ、美保の金剛や夕立は今回、本調子じゃなかった。それに演習冒頭の肉弾戦も美保の龍田さんが担当してくれて何とか形にはなった。

 

 お互いの龍田さんの機転によって今回のイベントが滞りなく回ったようなものだな。

もしこれが金剛や夕立だったらゲロゲロ地獄で大惨事。きっとイベントも台無しになったことだろう。

 

 ダブル赤城さんも、お互いに健闘を讃えあっている。また二人の日向同士も戦闘機を取り出して何かを語り合っている。

 

 ブルネイの夕立が美保の龍田さんの側頭部を気にしている。龍田さんの手を当てて心配そうな顔をしていた。でも龍田さんは『大丈夫よ』という雰囲気で笑っている。相手の夕立は強いだけでなく優しさも備えているようだ。素晴らしい。

 

 一方でブルネイの龍田さんが蚊帳の外に押し出されたような美保の夕立を呼びに向かっている。夕立は脱力して座り込んでいたが……直ぐに立ち上がると恥ずかしそうに頭をかいている。

 

(お前は無線を全然、聞いて居なかったんだろうな!)

やれやれ。真っ直ぐな性格も過ぎると問題だよな。

 

 さて、すべてが丸く収まったようだ。きっとブルネイの大将も水に流してくれるだろう。

 

私は、ゆっくり席を立つと向こうの席に座っているブルネイの大将の元へ向とかった。

 

 




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EX回:第12話(改2)<事態急変と>

ブルネイの提督に疑われた美保司令は誰も助けられない状況に追い込まれピンチを迎えた。しかし大淀さんが駆けてきて……。


 

「おい、お前何者だ?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第12話(改2)<事態急変と>

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 観覧席中央に居た私は、ゆっくりと席を立つと向こう側に座っていたブルネイの提督の元へと向かった。

 

「いやぁ、流石は大将、完敗です」

私はそう言いながら右手を差し出す。一瞬だが微妙な間があった。

 

(あれ、やっぱりまずいか?)

しかし提督も直ぐに私に握手をしてくれた。

 

(よし、これで、あとは逃げよう)

そう思いつつ私は手を離そうとした。

 

「あれ?」

思わず声が出た。

 

提督はニコニコしているのに私の手を掴んで離さない。しかも次第に力が入る。

「ちょ、ちょっと? 痛いのですが……」

 

彼は笑顔なのだが目が笑っていない。握手した手は、どんどん力が強くなる。彼は刺すような目つきで言った。

「おい、お前何者だ?」

 

 あれ? ……もしかしてお互いの艦娘たちが裏工作したのが気に入らなかったのかな? でも彼には彼女達の通信は聞こえていないはずだが。

 

 緊迫した空気が流れた。

……いや、これは私の素性を疑っているのだろうか? 何となく、そんな感じだ。

 

 しかし私だって、いち地方とはいえ鎮守府の提督だ。何を咎(とが)められる必要があるんだ?(いつも艦娘たちに振り回されているけど)

 

(そもそも妙なのはブルネイの鎮守府ではないか?)

そう思ったら急に強気になった。

 

 まだ開発段階の量産化艦娘を従えつつ現地陸軍の憲兵まで手なづけた挙句に南国で巨大な帝国を築いているようなのだ。

 

 しかもブルネイの艦娘たちは見たことも無い戦術を駆使し『空中魚雷』などの新兵器を使う。艦娘の量産化のみならず帝国海軍もまだ知らない新兵器を開発して独占するつもりではないか?

 

(疑うべきはむしろ、そちらではないのか!)

……と、心の中で叫んだ。やっぱり声には出せない。

 

 それでも私は負けじと握り返そうとする……が腕力ではかなわない。

 

 憲兵さんたちも私たちの不穏な空気に気付いたらしい。人ごみからジリジリと近寄って来る。嗚呼、ケンペイさんは苦手だ。冷や汗がどっと吹き出してくる。

 

(祥高さん! 寛代! まだ艦娘である、お前たちが申し開きをしてくれたら……)

私は半身振り返る。

 

「あれ?」

二人ともボーっとしてる。たった今、起きたのか。

 

(あちゃ!)

 そういえば美保の金剛たちは相変わらず海の上だ。こういうときこそ頼りになりそうな技術参謀は何処へ行ったのか? しかも青葉さんと夕張さんは、いつの間にか人ごみに紛れてしまった。

 

(万事休すか!)

もはやこれまでかと私が観念した、その時だった。

 

「ていっ、……とく……大本営からコレが!」

浴衣を着たブルネイの大淀さんが何かの文書を掴んで駆けて来る。

 

 彼は疑いの眼(まなこ)を向けたまま、いったん手を離した。その反動で姿勢を崩す私。

 

(あ痛ぁ)

口には出さなかったがジンジンと痺れる掌(てのひら)。思わず軽く振ってしまった。これは暫く痛みが残りそうだ……提督は万力(まんりき)人間に違いない。

 

その間に大淀さんが彼に書類を手渡した。この暑いのに浴衣で全力疾走して可哀想にゼエゼエ言っている。かなりバテたな。

 

その姿に私は美保の大淀さんを思い出した。そういえば彼女も四六時中、鎮守府内を走り回っていたな。

 

だが意外と美保の彼女は息を切らしている姿を見ない……何時も走っているから鍛えられたのだろうか。

 

 そんな私の妄想をよそに提督は書類を確認している。

私も遠目でチラッと見た。実は視力はソコソコ良いのだ。その書面には『緊急』の判が押印されていた。

 

彼は直ぐに『信じられない』といった表情を浮かべる。そしてもう一度その書類を反復するようにブツブツと読み上げた。

「なになに……えっと『予定していた美保鎮守府の艦隊は濃霧の為、航行が難しいと判断。内地へ引き返す』だと? どういうことだ」

 

彼が顔を上げると大淀さんは少し落ち着きを取り戻したように言った。

「はい。ですから、こちらの提督は人違いで……」

 

そう言いかけた彼女は、まだ息が苦しそうで全部言い切れない。

 

 ただ私は彼女の喘ぎぶりに勝手にドキドキしていた。いやいや今はそんな場合じゃないんだが。つい美保の大淀さんと比較する。当たり前だがヤッパ雰囲気は似ている。

 

「……」

提督は絶句した。

 

すると近くにいた艦娘の誰かが言う。

「勘違い、……ってか艦(かん)違い? あはは」

 

(誰だ? 今、言ったの)

ふと見ると……

 

「青葉さん……あ?」

美保ではない、ブルネイの彼女か。こっちの青葉さんも屈託の無い笑顔で私に微笑んだ。この子も似ているな。

 

 ただ提督は、その声でちょっと表情を緩めた。私たち周辺の張り詰めた空気も一気に解けた。

 

少しずつ私たちを取り囲んでいたケンペイさんたちも足を止めた。急に安堵した空気が漂う。

 

 だが私は、それまでの緊張と、この暑さで目まいがした。足元がふらつく。

 

「危ない!」

慌てて手を差し出してくれたのは、いつの間に戻ってきたブルネイの五月雨。

 

一瞬、意識が遠くなった。直ぐに気が付くと五月雨が私を支えてくれていた。お陰で私は地面に倒れ込まずに済んだらしい。

 

「大丈夫ですか?」

可愛らしい声で彼女は言った。

 

「ああ」

やや長身の私を小柄な駆逐艦が支えて居る。ちょっと情けない状況だ。

 

直ぐに私は恥ずかしさを誤魔化すように言った。

「有難う」

 

「いえ……」

それまで無表情だった彼女だったが、ここで初めて自然に微笑んだ。

 

 私は彼女に支えられるようにして立ち上がる。

振り返ると祥高さんに寛代は、まだボーッとしていた。

 

(……やれやれ、! お前らなぁ)

 

あまり期待していなかったが、さすがに呆れた。

「ボーっとしていないで、少しは助けてくれよっ!」

 

「……」

ダメだ。頭が回転していない。

 

 私は自分が司令でありながら、なぜ孤軍奮闘しているのか?

思わず分析してしまう。、

1)自らの統率力が不足している。

2)艦娘がマイペース過ぎる。

3)置かれた環境が特異過ぎる。

 

……止めよう。虚しい。

 

 こういう状況だとなおさら五月雨の優しさとの対比にブルネイの南国の空は無性に青く見えた。自分の身体の不調よりも精神的なショックの方が大きい。

 

 ブルネイの提督は浴衣姿の大淀さんに何か指示を出している。私たちの周囲の雰囲気も落ち着きを取り戻してきた。

 

大淀さんの指示で現地の艦娘たちは会場の備品などの方付け始めた。

 

 再び五月雨が呼ばれた。軽く会釈をした彼女は直ぐに提督の元へ。その後ろ姿を見詰めながら私は彼女が透き通るような青い髪の毛であることを改めて悟った。

「そっか……彼女は青い髪の毛だったな」

 

五月雨は大淀さんからも何か指示を受けていた。

 

 ちょうどその時、美保の金剛たちも演習から戻ってきた。

龍田さんが私と秘書艦に敬礼をする。

「ただいま戻りました」

 

「ああ、ご苦労」

私も敬礼を返す。ふと見ると金剛や夕立はバテバテだった。

 

『……』

無言のまま、それでも敬礼をする彼女たち。私は軽く頷いた。演習とはいえ戦闘直後だ。精神的ショックも大きいだろう。

 

 ブルネイの五月雨が私たちのところへ戻ってきた。

「では皆さん、こちらへご案内します」

 

「ああ……じゃ皆、行こうか?」

私たちは既に歩き始めていたブルネイ提督の後に続いた。

 

 少し歩きながら改めてブルネイの敷地内を見る。ガントリークレーンや巨大な倉庫、格納庫が遠くに見える。私に続く美保の艦娘たちも盛んに指を指して何かを話している。

 

(この泊地は広大な敷地を有するらしいな)

美保とは大違いだ。

 

 私たちは大きな鎮守府本館の中へと導かれた。廊下で、ふと立ち止まったブルネイの提督は私の元へ近寄ってきた。

 

思わず警戒する私。だがそれは杞憂だった。

「ハッハッハ、いやースマンスマン。どうにもコッチが早とちりだったなぁ」

 

 彼は廊下に響く豪快な笑い声と共に私の肩をバシバシと叩く。それも何度も……私も吹っ飛ばされそうになりつつも苦笑しながら我慢している。

(けどホントは痛い)

 

ブルネイ提督の豪快な雰囲気は武蔵か大和クラスのイメージだ。美保にはそんな立派な艦娘は居ないから想像だが。

 

私は痺れてきた肩を軽く押さえながら応える。

「ハハハ……、まぁ、これも良い経験ですよ」

 

完全な社交辞令である。さっきは掌で今度は肩か……そのうち満身創痍で倒れそうだ。

 

機嫌が良くなった彼は続ける。

「しかしまぁ、すげぇ偶然もあるモンだ。俺たちの本来の演習相手と全く同じ編成だったとはな」

 

「あ……」

それを聞いた私はハッとした。

 

(そうだよ)

彼の今の言葉で私は確信した。

理由は分からないが私たちは何処かの艦隊と入れ替わったに違いない。

 

 しかしこれは本当に単なる『偶然』なのだろうか?

 

だが私は常々『縁』はあると考えている。個人的に今回のことは『必然』に違いない。だが仮にそれが真実であったとしても今は提督には黙っておこう。余計ややこしくなる。

 

 そういえば美保の青葉さんと夕張さんが居ない。衛生施設で入院している技術参謀も、どうなっているのか。

(やれやれ、どいつもこいつもジッとしない連中だな)

 

 ただ彼女達が勝手にブルネイを徘徊するとしても。お祭り後のゴタゴタに紛れて何か情報を仕入れてくれるだろう。恐らく現地のケンペイさんたちも緊張が緩んでいる。

 

(ピンチはチャンスに……)

私は密かに、そんなことを考えながら歩いていた。

 

 




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EX回:第13話(改2.1)<提督とマスター>

ブルネイの提督(大将)が美保の艦娘たちに、ご馳走をしてくれることになった。ブルネイ司令部の長い廊下の先にあったものは普通の執務室だったが。


「ここからは俺は提督じゃあない」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第13話(改2.1)<提督とマスター>

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 これからブルネイの提督(大将)が皆に、ご馳走してくれる事になった。私が艦娘たちに伝えると歓声が上がる。

 

「もう、お腹ペコペコです!」

一番賑やかで余計な燃料を消費しそうな比叡が言う。

【挿絵表示】

 

 

すかさず日向が問いかけてくる。

「それは一連の騒動に関連しているのかしら」

 

「ああ。その他、お詫びも込めて、ということらしいな」

私は返した。

 

「ご馳走って何っぽい?」

髪のクセゲ毛を気にしながら夕立が言う。

 

それを受けるようにして龍田さんが祥高さんに聞く。

「ここには特別な食堂でもあるのかしら?」

 

「そうかも知れませんね」

微笑みながらも淡々と答える祥高さん。彼女もブルネイは初めてだ。知るわけが無い。

 

「青葉さん……」

「はい?」

思わず呟いた私に敏感に反応するブルネイの彼女。

 

「あ、いや……君じゃなくて美保の青葉さんなら何か情報を知っていたかかも知れないのだが今ここに居ないからなぁ」

つい頭を掻く私。

 

「あぁ、そうでしたか」

相変わらず屈託の無い笑顔を返してくる彼女。

 

 しかし落ち着いて周りを見ればブルネイ鎮守府(泊地)の本館を瓜二つの金剛や比叡がゾロゾロと歩く様はシュールだ。ここでは、まるで常識が通用しない世界のようだ。

 

(常識といえば、あの奇妙な嵐から全てが変になった)

そう思った私。そういえば、かなり落ち着いて、回りを観察できる余裕が出てきた。

 

 今後、わが軍でも艦娘の量産化が安定すれば、こういう光景も当たり前になるのだろう。現に、この未来のブルネイと思われる世界では既に実用レベルに達している。

 

美保の艦娘が極端に弱いとしてもブルネイの艦娘たちの実力は、この時代の平均的な鎮守府よりも遥かに上回っている印象だ。

 

 先ほど言葉を交わしたブルネイの青葉さんは歩きながら美保の艦娘にアレコレと取材していた。そんな彼女自身は、この状況に全く動じていない。さりげなく声を掛けながら、そよ風のようにサラリと人の間に入ってくる。そこは新聞記者らしい。

 

「青葉さんか」

見た目は同じだけど、やっぱり美保の青葉さんとは微妙に違うのか。

 

ふと後列を見ればダブル赤城さんが仲良く並んで歩いていた。

「提督のご飯が食べられると聞いて逃すワケには参りません」

「お腹空きました!」

 

どんな状況であってもこの二人が食べ物に敏感なのは、どこの赤城さんでも変わらない。さっきの青葉さんとは違って並んで立つ赤城さんたちは顔から雰囲気から全てが同じだ。もはや双子とも言える。

 

 しかし何分も、ずっと同じ廊下を歩いているな。

(この本館の建物自体が大きい)

 

これはきっと現地の土地や建設コストが安いのだろう。美保が小さくてコンパクトなだけに、こういった余裕のある造りが羨(うらや)ましい。こういう土地に居れば性格も大らかになりそうだ。

 

異様な気配に何気なく見ると双方の金剛に両軍の比叡が互いの『お姉様』をチェンジして、ほっぺたをスリスリしている。

「はぅあぁ、更に改装したお姉さまも凛々しくて素敵ですぅー♪」

「コッチのお姉様も昔を思い出すようで素晴らしいですぅー♪」

 

比叡は相変わらずマイペースだ。そして美保の金剛も、だいぶ体調が戻っているようだ。ブルネイの比叡が甘えても優しく受け止めている。そこは姉としての自然な振る舞いなんだな。

 

「す、すいません、ウチの娘達が」

祥高さんがブルネイの提督に頭を下げている。

 

しかし彼はニコニコして応える。

「あぁ、いやいや。喧しいのはウチもいつもの事さ。ただ同一の艦娘でも似ている所や似ていない所があるモンだと思ってね」

 

(確かにそうだ)

彼の観察眼には私も同意する。同じ艦娘であっても個性があって少しずつ違うようだ。それに経験値(スキル)や装備によっても各々違ってくるのだろう。

 

 美保の龍田さんが聞く。

「今日の演習みたいな状況って実戦でもアリなのかしら?」

【挿絵表示】

 

 

すかさずブルネイの青葉さんが応える。

「いや同じ艦隊で同時に同じ艦娘を二人を使うのは指揮系統に混乱が生じますから、ほとんどやりませんね」

 

「へぇ」

そこは納得した龍田さん。確かに現実的にスペアの艦娘が居たとしても運用面では混乱するから、あり得ないのだろう。

 

 私たちは、ようやく鎮守府本館の中央付近にある提督執務室の前にやってきた。提督が『ここだよ』という感じで指している。

 

「えー?」

まず比叡が驚く。

 

続いて赤城さん。

「ここって執務室?」

 

すると一方の赤城さんがヘナヘナと脱力して床に崩れ落ちる。座り込んだのは美保の彼女か?

 

「赤城さん、そんなに期待していたんだ」

苦笑した私は、へたり込んだ彼女に言う。

 

赤城さんは口を尖らせながら恨めしそうな目で私を見上げた。

「だってぇ」

 

ドキッとした……凄いギャップ。

(何だ? この可愛い反応は)

 

最近の彼女の反応は、まるで、お笑い芸人だ。

「おいおい、幼児返りか?」

 

少し前の赤城さんなら、もっと生真面目に返しただろう。

 

一航戦といえば以前、他所で見かけた加賀さんとも十分、釣り合うくらいに澄ましていたハズなんだが。

 

(日向と同じく私と彼女は、あまり『壁』を感じないから……余計にそう思えるのだろうか?)

 

だが提督は、そんな『お茶目』な赤城さんには目もくれず。

 

「さぁ、入った入った。」

皆を部屋の中に案内する。

 

その言葉で私もハッと我に帰る。

「ホラ、提督もあぁ言ってるから立ってくれ」

 

床にへたり込んでいる赤城さんに私は手を差し出した。彼女は一瞬、私の手を掴みかけて急に何かに気付いたような表情をする。

 

そしてサッと手を引いた。

「いえ……失礼しました司令」

 

赤城さんは軽く掌を立てて私の差し出した手を静かに否定した。

「独りで立てます」

 

少々、頬を赤らめながら彼女は生真面目な表情と硬い口調で応えた……このギコチナイほど上品ぶった雰囲気こそが、いつもの赤城さんだ。

 

(やれやれ、やっと平常運転に戻ったのか)

私は安堵した。

 

それを見ていたブルネイの赤城さんが苦笑しながら説明する。

「腹が減っては戦(いくさ)は出来ぬ……私たちは空腹になると、つい我を忘れてしまうんです」

 

「ああ、まったくだね」

私も赤城さんの性格は百も承知だ。今さら恥ずかしがることもないだろうに。見れば、さっきよりも真っ赤になっている。その不器用さが妙に可愛らしいよな、この子は。

 

「うふふ、司令はダメでも私なら恥ずかしがらなくて大丈夫でしょ?」

そう言いながらブルネイの赤城さんが改めて手を差し出した。

 

「ありがとう」

「良いのよ」

立ち上がった二人の赤城さん。

 

(ややこしい!)

 

 そんな私たちは行列の一番最後から提督の執務室に入った。

ここにいる全員が入っても余裕ある、大きな執務室だ。

 

だが広いとはいえデスクや書架など事務に必要なものしかない。

 

日向が心配そうに言う。

「ここで食事が出来るのか?」

 

「食器とか食材を他所から持って来るのかしら?」

これは龍田さん。

 

「確かに流しも何も無いが」

そう言いつつ私も首をかしげる。提督の意図が分からない。

 

金剛が言う。

「この部屋は広いデスが、お料理を持ってくるのデスか?」

 

それを受けて比叡も続けた。

「まさかSF映画とかに出てくるようなチューブとかブロックみたいな味気ない食事が出て終わりとか?」

 

私も苦笑した。

「そりゃ無愛想だな……しかし比叡、どこからそんな発想が出てくるんだ?」

 

「へ?」

なぜか詰まる彼女。

 

「あはは! 新しい比叡さんも休みの日には、やっぱアニメとか見てるんですか?」

突っ込んできたのはブルネイの青葉さん。

 

『え?』

二人の比叡が同時に驚きの声を上げて顔を見合わせる。図星か。

 

 しかしブルネイの提督は怪訝(けげん)そうな私たちには、まったく動じていない。

「はーい、その辺の壁とか家具とか触らないようにな」

 

彼は大きめの声で注意しながら何かを操作した。

 

するとあら不思議! 壁の資料棚がズズズと動き出して酒瓶が満載された棚に変わるではないか?

 

「Woo!」

美保の金剛が驚くのも無理は無い。床からはテーブルとソファが開口部からせり上がって来る。さらに提督の座るデスク周辺はシステムキッチンとバーカウンターに早変わり。

 

「ナニっぽい? これ」

驚く夕立。

 

「さぁ『Bar Admiral』へ、ようこそお客様! ここからは俺は提督じゃあない。この店のマスターだ」

 

「ここは、からくり屋敷みたいね」

さすが龍田さん、動じること無く笑っている。だが他の面々は度肝を抜かれた。

 

龍田さん以外の美保の艦娘たちは軒並み目を丸くして口をポカンと開いている。惜しい! 美保の青葉さんが居たらスクープだったのに。

 

「最新の執務室は、こうなってしまうのうか?」

日向の台詞に、すべてが込められていた。

 

 私たちは、ただ驚くばかりだった。

 

 

 




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EX回:第14話(改2.3)<司令の願掛け>

Bar Admiralにて司令と艦娘たちは驚いた。そこで様々な人間(艦娘)模様が展開する。


 

「あまり人には言わないんですよ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第14話(改2.3)<司令の願掛け>

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 私は一瞬、言葉を失っていた。この提督は、ただ者ではないと思っていたが、さすがにこの設備には度肝を抜かれた。

 

美保鎮守府の艦娘たちも口々に感嘆の声を上げている。

「WOO!」

「スゴイっぽい!」

「まさか執務室にバーがあるとはっ」

 

それでも秘書艦の祥高さんは落ち着いた口調で言った。

「しかもボタン一つで出し入れ出来るんですね」

 

すると龍田さんも感心したように続けた。

「まさかブルネイに、こんな素敵なものがあるなんてねぇ」

 

腕を組んで日向も補足する。

「そうだな。大艦隊を掌(つかさど)る指揮官には、このくらいの度量が必要なのだろう」

 

(なるほど確かにそうだ)

彼女の言葉に私も驚くよりも、この提督を見直すべきだと思えた。

 

 驚く私たちを尻目にブルネイの艦娘達は馴れた様子で各自サッと着席した。そしてブルネイの金剛たちが近くに座るよう私たちを手招きをする。

 

なるほど……といった感じで美保の面々も近くの席に着く。

 

 早速カウンターに入った提督は手馴れた手つきで準備を始める。その雰囲気は、この室内にも完全にマッチしていた。

 

彼は言う。

「さてウチの店にはメニューがないんだ」

 

「?」

私が不思議そうな顔をすると提督は微笑む。

 

「簡単に言うと、お客様の注文は可能な限り受けるって処だ。それが俺のポリシーなんだよ」

「なるほど」

それは、ある程度の調理の腕が無ければ出来ない芸当だ。

 

「さぁ、まずは何か景気付けに飲むかい?」

「……」

私はふと困った。実は私は、こういう類の店には、ほとんど行かない。

 

そこで制帽を脱いだ私は提督に返した。

「ご好意は有り難く頂戴致します。しかし申し訳ない、私は酒を飲まないのです」

 

「あらら、もしかして下戸?」

ブルネイの青葉が単刀直入に突っ込んでくる。

 

「うーん、なんて言うかなぁ」

私は頭を掻きながら返答に窮した。

そもそも私自身が、お酒を飲まないのだ。

 

特に美保鎮守府に着任してからは敢えて、そう言う席には招かれても断っていた。もちろん艦娘が多いから男女間での間違いがあってはいけない、ということもあるのだが。

 

すると提督はカウンターで食器類を動かしながら、ちょっと考えているような表情をしている。

「そうか……まぁ、好みもあるからな。だがウチは、ご飯物も作るから安心してくれ」

 

するとブルネイの金剛が口を開いた。

「司令は何かワケありですか?」

 

全員の視線が私に集まる。

(やはり言うべきか……)

 

私は軽く手を組んで提督やブルネイの艦娘たちの方向を向いて説明を始めた。

「実は私、願掛けで酒断(さけだ)ちしてましてね」

 

提督の表情が少し変わった。

「ほう」

 

私は軽く頷いて続ける。

「まだ新米の指揮官ですし部下たる艦娘たちが沈まないようにと」

 

そこで一呼吸をおいた。今までもハッキリと言わなかったが美保の艦娘たちは何となく悟っていたのだろう。しきりに頷いている。

 

私は苦笑しながら続ける。

「今どき、こんなことするのは正直、古めかしいですよねえ」

 

だがブルネイの艦娘たちは急に真剣な表情になっていた。なるほど彼女たちにも私の姿勢は理解できるようだ。

 

ちょっと気恥かしくなった私は言い訳のように補足した。

「軍人としてはチョッと恥ずかしいので普段、人には言いませんが」

 

すると提督は黙りこんでいる。

(あれ?)

よく見たら、さっきからこちらに顔を見せないようにしている……ひょっとして泣いてるのか?

 

だが今までの彼の行動から見て特に違和感はない。

 

(彼は情が厚いホットな男なのだろう)

……そんな印象は受けていたから。

 

少し場が静かになった。雑談をしていた艦娘たちも黙っている。

それは重苦しいと言うよりは少し襟を糺されるような雰囲気だった。

 

美保の赤城さんが静かに口を開いた。

「私たち、所属の違う鎮守府の提督と艦娘たちが、こうやって同じ場を通して交わるっていうのは……きっと貴重なことなのでしょうね」

 

それを受けて龍田さんも語る。

「そうね。やっぱり、この場は偶然ではなく何らの意図が働いたと……そう思いたいわ」

 

その言葉に一同は深く頷くのだった。

 

(龍田さんも私と同じようなことを感じていたのか)

私の一言で場が変わったことにも驚いたが、龍田や赤城さんなど艦娘たちも目に見えないものへの感性が備わっているのだと気付かされた。

 

(この場で私がそれに気付くことも予め予定されていたのだろうか)

それは目に見えない糸のようなものが私と艦娘たち、さらにブルネイの艦娘を通してこの地の提督とも結ばれていく……そんな不思議な感覚を覚えた。

 

「縁か……」

そういえばお祭りのことを「縁日」と呼ぶな。何気なく、そんなことを思うのだった。

 

 

 




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EX回:第15話(改2.1)<今(NOW)に乾杯>

せっかくのBar Admiralだったが美保司令は、お酒を飲まなかった。するとある艦娘も突然、決意するのだった。


 

「互いの鎮守府の発展と活躍を願って乾杯しよう」

 

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 EX回:第15話(改2.1)<今(NOW)に乾杯>

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 Bar Admiralでは少し、しんみりした空気が流れていた。

 

「あ、ちょっと拙かったかな?」

思わず呟くように私は言った。

 

(普通Barで酒断(さけだ)ちの話なんかしないよな)

 

それを打ち消すように提督は、こちらを振り返った。

「よし、わかった! 俺が今から最高の飯をご馳走するよ! さぁ、何でも好きな物を頼んでくれ」

 

その台詞が終わらないうちに奥の方に鎮座していたブルネイ鎮守府の艦娘たちから矢継ぎ早に注文が飛んできた。

 

私が酒断ちの話をしたばかりだと言うのにカクテルだのボトルだの、その内訳はアルコールばかりだった。

 

ブルネイの艦娘たちはBar Admiralに慣れているのだ。これには、さすがの提督も少しバツが悪くなったのか苦笑していた。

 

そして美保の艦娘たちは、その勢いに圧倒されたのか思わず小さくなっていた。

 

怒涛の注文が落ち着いたところで提督が言う。

「さて、新米君のトコのお嬢様方は何を?」

 

すると、それまで黙っていた美保の金剛が言った。

「NOW、テイトクが飲まないのに私たちが飲むワケには参りまセーン」

 

「え?」

この発言には、さすがに私も度肝を抜かれた。隣の比叡も、あたふたしている。

 

だがよく見ると金剛が、こっちを見てウインクをしていた。

(あ、なるほど)

 

『NOW』ということは『今だけ』なのだな。こう言うことには知恵が回るんだな。

 

だが勘違いした美保の艦娘たちは軒並み驚くと同時に頷いていた。

(おいおい)

 

私はチョット焦ったが……まぁ、この場に居る子たちには後で種明かしすればイイか。

 

ところが、その雰囲気に押されたのか日向が突然その場で立ち上がった。

「この日向も、たった今から酒断ちします!」

 

『……』

絶句というのはこういうときに出るものだ。

 

この発言に、その場の全員が驚いた。金剛宣言も衝撃的だったが、それを上回る爆弾発言だ。

 

日向といえば、このお盆に私の実家で酔い潰れて人格崩壊していたよな。

 

あの時は利根や山城さんに飲まされていたから仕方無いとはいえ、そんな彼女の姿を知る私に日向の決意は直ぐには信じられない。

 

彼女自身も勢いで言ったのだろう。少し下を向いて赤くなって居る。

(お前も一途なところがあるけど……まぁ一時的な熱病みたいなものだろう)

 

わたしは彼女の決意を軽く考えていた。

そもそも軍人は常に生死と隣り合わせの緊張感を強いられる。日常生活でも情報の秘匿義務など様々な規制も多い。娯楽や旅行にだって制限がある。

 

そんな中、お酒は数少ないストレス解消の手段だ。

だから美保鎮守府でも任務のない艦娘たちの個人的な時間にまで、それを嗜(たしな)む事への規制は無い。

(どこの軍隊でも、それは同じだろう)

 

それでも黙っている日向を見ていると少し心配になった。

「おい、お前は本当に、それで大丈夫なのか?」

 

彼女は私をチラッと見て恥ずかしそうに応える。

「はい」

 

「そうか」

もしこれが『今(NOW)』を懸命に生きる日向の本心からの決意ならば、それは尊重しよう。私は考え直した。

 

 このやり取りに、また提督は後ろを向いて感動しているようだ。

 

ちなみにブルネイ所属の、もう一人の日向は奥のテーブルでガンガンやっていた。既にビール髭も出来て、それを軽く拭っている。

 

そんな豪快な彼女に比べたら、うちの日向は、お酒に弱いのかも知れない。もっとも、こっちの日向みたいになっても正直、困るが。

 

 提督は、そんな日向や、お酒を飲まない雰囲気の美保の艦娘たちにノンアルコールのカクテルを作ってくれた。

 

続けて彼は隠し扉のような所から秘蔵品っぽいボトルを開けてグラスに注いでいる。

 

そして全員にグラスが行き渡ったのを確認すると自分もグラス片手によく通る声で言った。

「何はともあれ妙な出会いだったが、こんな貴重な経験も無いだろう。さぁ、互いの鎮守府の発展と活躍を願って乾杯しよう」

 

そこで一呼吸。

「乾杯!」

 

『乾杯』

……こんな素敵な「飲み会」ならお酒を飲まない私でも良いものだ。

 

「へぇ、ノンアルコールでも美味しいデスね!」

「ホントですね」

「……」

美保の艦娘たちもキャッキャとはしゃいでいる。

 

そもそも美保鎮守府のある境港市には歓楽街が無い。チョッと人口が多い米子に出るとしても彼女たちには自由な足(自動車の類)が無いのだ。

 

必然的に美保の艦娘たちたちは、ほぼ飲みに出る機会がない。強いて言えば晩酌程度だろう。

 

(艦娘の軍隊という特殊な状況とはいえ美保鎮守府の艦娘たちは果たして、これで良いのだろうか?)

ちょっと考えてしまった。

 

「司令、済みません。私のひと言であまり深刻にならないで下さい」

突然隣に日向が来た。もちろん素面(シラフ)である。

 

私も眉間にしわを寄せていたのだろうか? 逆に心配されてしまった。

「あ、いやこちらこそ済まん」

 

 私たちがゴタゴタしている間にも提督は冷蔵庫を開けて中を見ていた。そして軽く頷きながら長芋と明太子を取り出した。

「手早く一品作っちゃうから、それつまんで待っててな」

 

ブルネイの艦娘たちが「はーい」と返事をする。

 

 そのやり取りをきっかけに再び場の雰囲気が緩んで来る。指揮官のひと言というのは大きいものだ。

 

互いの鎮守府だけで、固まって座っていた艦娘たちも徐々に金剛や比叡を中心に積極的に席替えをし始めた。

 

こうなってくると、なおさら見分けが付かないが……それでも交流する彼女たちを見ていると感慨深いものがあった。

 

 オリジナルと量産型という、まったく同じ種類の艦娘でも鎮守府が異なれば微妙に「雰囲気」も違ってくるようだ。

 

普段、こちらが願っても軍令部や海軍省の命令がなければ艦娘たちが他所の鎮守府と交流する場は、ほとんどない。恐らく艦娘が量産化されたとしても、こういった機会は、なかなか無いだろう。

 

 それが、どういう偶然か海外の鎮守府との交流だ。しかも恐らく違う時代の艦娘と交流している。

 

これぞ千歳一隅のチャンス。二度と再現できない貴重な一瞬を過ごしているのだ。だが果たして、この何人がそれを悟るだろうか?

 

提督の一品は直ぐに出来上がった。カウンター越しに彼は呼びかけた。

「はい完成『長芋の明太子和え』だ。おいお前ら、誰でも良いから運んでくれ」

 

彼が言うとブルネイの龍田さんと美保の寛代が立ち上がって配膳をしてくれた。

 

速攻で手を伸ばしたのは、やはり双方の金剛だった。脚だけでなく手も速いのか。

「んー♪deliciousデース!」

「確かに、美味しいわぁ♪」

 

「ホント、美味しそうね」

金剛に続いたのは静かな龍田さん。彼女たちは、おいしそうに食べていた。

 

だが意外にも赤城さんが、その料理に直ぐ手を出さずニコニコしている。逆に怖いな。

 

「あ?」

つい声が出た。

 

赤城さんの傍で秘書艦の祥高さんが先方の青葉さんに料理の写真撮らせていたのだ。赤城さんは、それが終わるのを待っていたらしい。

 

しかし祥高さんは、このレシピを覚えるつもりだろうか?

直ぐに厨房の提督からの視線を感じたらしい彼女は言い訳のように応えた。

「あぁ、済みません。あまりに美味しそうだったので……うちの鳳翔さんに再現して貰おうかと思いまして」

 

「ほぉ、そうしてもらえると助かるな」

私も思わず反応した。

 

美保鎮守府の食堂も十分、美味しいメニューが多い。それは海軍の伝統だろう。鳳翔さんも頑張ってくれているが他所の鎮守府の「新しい風」が入れば、また艦娘たちも喜ぶに違いない。

 

軽く頷いた提督は言った。

「もし良かったらコッチ来る? 材料とか分量とか入ってきてメモした方が楽でしょうに」

 

「えぇ!? でもレシピを盗まれては困るのでは」

祥高さんは申し訳無さそうに言う。

 

「ハハハ、そんな大した料理は作ってねぇから。ただ呑兵衛が気ままに作ってる家庭料理? ……とも違うか。まぁそんな大層なモンじゃないから良ければおいでよ」

提督はニコニコして手招きする。

 

それを見た祥高さんも「それでは遠慮なく」と言いながら厨房へ入るとメモ帳を取り出した。その準備の良さに提督も、ちょっと驚いていた。

 

彼女は艦娘ながら提督代理を務めたこともある。基本スペックの高さに加えて食堂のメニューも気にかけてくれる気遣いが嬉しい。

 

そういえば本当に能力の高い艦娘は限りなく人間に近づくといわれている。彼女は、まさにその典型なのかも知れない。

 

 ただ不思議に思うことは、そもそも山陰の片田舎にある辺鄙(へんぴ)な鎮守府に、なぜ彼女のように優秀な艦娘が居るか? ということだ。

 

そういえば別の心配を思い出した。

(うちの青葉さんと夕張さん……それに技術参謀は、どこで何やっている?)

 

状況が状況だけに、新しい情報は全く入ってこない。さて、どうしたものか。

 

「はぁ」

私は小さくため息をついてドリンクを口にした。責任者と言うのは気が休まらないものだ。

 

あまり深刻な顔をすると日向が何か言ってくるかな? ……と思ったが、ちょうど彼女は寛代の陰になっていた。

 

(あ! そうか)

私は、その時、寛代の存在に気付いた。

この子なら口も堅そうだし、特殊な通信をして探してもらえば良い……。

 

 




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EX回:第16話(改2)<諜報活動>

提督が料理を振舞ってくれる陰で美保司令は技術参謀たちが諜報活動をしていることを知った。そして……


 

(私が軍人で無ければ、こんなことは)

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第16話(改2)<諜報活動>

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 Bar Admiralでは秘書艦の祥高さんがキッチンに入り込んで提督から、いろいろなレシピを教授されていた。

 

彼女も『食いつきの良いタイプ』だからな。ここぞとばかりに質問してメモを取っている。

 

 そういえば美保鎮守府の食堂は海が見えオープンデッキもある。そこだけを切り取れば普通の食堂だ。だが質素な雰囲気だから軍隊の施設感は拭い切れない。

 

 ブルネイも構内だけを見れば一般的な鎮守府の雰囲気だが、このBar Admiralに入ると全くの別世界が広がっていた。アダルトなムード満点で大人向け。そこは提督の人柄が反映しているのだろう。

 

 しかしBarでは落ち着いた雰囲気とは裏腹に艦娘たちが飲んだり食べたりしている。口も手も動かして会話に夢中だ。特に金剛と比叡が、よく喋る。

 

(ホントお前ら、底なし胃袋か?)

そういえば艦娘の武装は小さいのに威力は標準以上だ。だから彼女たちの胃袋も、きっと実際の船に準拠しているに違いない。

 

 だからこそ……だ。私は店内をチラッと見回した。

(青葉や参謀……ここに居ない連中を探索するのにも好都合だ)

 

 室内の賑やかな雰囲気から少し浮いて静かにしている日向と寛代。その横が空席になっていた。ちょうど良い按配(あんばい)だ。

 

グラスを片手に私は、さりげなく二人の側へ席を移動した。日向は軽く会釈をしたが寛代は石仏のようにボーっとしている。相変わらずだな。

 

私は周りを気にしながら寛代に小声で話しかけた。

「あの技術参謀と青葉さんたちが今どこに居るか……極秘の通信回線か何かで分かるか?」

 

寛代は黙って頷くと窓辺のほうを向いて聞き耳を立てるような仕草をした。日向は少し腰を浮かせて若干ブルネイメンバーたちの視界を遮った。

彼女は意図的に私と視線を逸らせているが、その口元は少し笑っていた。

 

(何て察しが良いんだ)

私はその機転に感心した。やはり戦艦になると気が利くな。

 

その傍らで寛代はブツブツと独り言のような会話を始めていた。誰かとつながっているらしい。

 

 提督は祥高さんにレシピを教えたり他の料理を作るのに夢中になっている。時折こちらをチラチラ見ているから私たちの挙動に若干、疑念を抱いている感もある。

しかし彼も料理に意識を集中しているから、それどころではないだろう。

 

(因果なものだ)

 私たち美保鎮守府メンバーが別の時代から来ているとすれば怪しい以上の立場だ。まだ何処と無く腹の探り合いをしている段階だ。

 

彼も私も互いに帝国海軍の軍人である以上、状況分析は不可欠だ。たとえ、それが友軍であっても……だ。

 

実は会話など相手から得られた情報に、あまり価値はない。自らの兵隊を使って調べてこそ本物なのだ。

 

 だが私も友軍に危害を加えるつもりは全く無い。そこは「大人」の対応だ。お互い本音は言わずとも適度に腹の探りあいをして上手く済ませたいものだ。

 

それはきっと相手(ブルネイ)も同じだろう。だから彼は祥高さんを厨房に招き入れてレシピを教えながらイロイロ聞き出そうとしているのだ。

 

だが祥高さんもホンワカしているようで案外ガードは固い。そう簡単に必要以上の情報は漏らさないだろう。

 

(私が軍人で無ければ、こんなことはしなかったな)

いつの間にか私自身も軍隊の指揮官としての行動パターンが染み付いてしまったようだ。

 

「ん?」

 ふと視線を感じた。日向か。

 

「それは避けられません」

彼女は意外なことを言う。まるで私の心を覗いているようだ。

 

思わず彼女の顔を見ると日向は言う。

「司令、この距離だと感情の動きが分かってしまうよ」

「そうだな」

 

さすがに戦艦になると感情面でも、かなり洞察の幅が広くなる。

「失礼ながら敢えて司令の欠点を挙げるとしたら、その優しさだね」

 

彼女の言葉に私は苦笑した。

「ああ、気を付けるよ」

 

そうだ、ここも最前線なのだ。私は感情を出さないように改めて注意した。

 

 やがて寛代は通信を終わった。それを見た日向は再び椅子に深く腰をかけた。今のところ、この部屋に居る他の者には気付かれていないようだ。

 

私は聞いた。

「あいつら今どこに居るんだ?」

 

「……」

寛代は無表情でボーっとしている。この艦娘は相変わらず直ぐに反応しないよなあ。

 

私が軽いため息をついてグラスを傾けると彼女はボソッと言った。

「工廠」

 

「えぇっ、まさか」

思わず大声を出してしまった。日向も少しビクッとしている。申し訳ない。

 

 私は慌てて提督を見たが……彼はレシピを教えるのに夢中で大丈夫そうだった。

 

そのカウンターの脇では提督の目を盗むように、うちの赤城さんが炊飯釜を抱えて直接食べていた。

 

(そうか君は最初からそれを狙っていたんだな)

いつの間に釜を「確保」したんだよ……ったく。

 

 彼女を筆頭に店内は、かなり無礼講の様相を呈してきた。そんな状況で周りが大丈夫そうなのを見た私は改めて小声で寛代に聞いた。

「工廠に居るのはウチの誰だ?」

 

「技術参謀と青葉、夕立」

今度の寛代はボソボソと即答した。

 

「なんだ全員揃って……ってか、参謀は何を出歩いているんだよ?」

『病人』のくせに。私は呆れて頭をかいた。

 

(ま、仕方ないか)

情報収集のためだ。どうせ彼女は出歩くだろうとは思っていたが。

 

(でも、よりによって相手(ブルネイ)の工廠に入り込むなんて)

そりゃ大胆過ぎる。友軍といえども、それはチョッと拙いだろう。

 

(まさか技術将校でありながら本当に諜報活動しているのか?)

「……ったく、何考えているんだ? あの参謀」

 

思わず寛代に向かって呟いてしまった。当然、彼女は無表情のまま。だからボヤくには都合が良かったのだが。

 

 日向には私の呟きに突っ込まれるかと思った。だが、だいぶ場慣れした美保の艦娘たちが大声で話したり出歩いたりしているのでBarは、とても騒がしくなっていた。これなら、そこそこ機密事項を話しても分からないだろう。

 

 カウンターを見ると提督は、うちの夕立の「提督さん、お肉食べたい」という自分勝手なリクエストにも丁寧に応えているようだ。申し訳ないな。

【挿絵表示】

 

 

「しかし」

私は腕を組んだ。

 

「参謀たち、まさかヤマシイことは、していないよな?」

また黙っている寛代にボヤいた。

 

すると意外にも彼女がボソッと応えた。

「大丈夫、してない」

 

「え! ……あぁ、そうなのか?」

私は驚くと同時に苦笑した。

 

「はは……ま、そうだよな」

曲りなりにも帝国海軍だ。

 

私はグラスの残りを飲み干すと、まだこちらをジッと見ている寛代に言い訳のように応えた。

「軍令部付きの参謀だ。人の道に外れるようなことはしないだろう」

 

すると急に何度も頷く彼女……変な奴。

 

 しかし、こんなに歓迎されている陰で私たちは一体、何やってンだろう? 良心が痛む。

 

「参謀は何しているのか知らないが、大丈夫なのか?」

思わず、また寛代に呟いた。

 

「悪いことをしていなくても他所の鎮守府で下手に彷徨(うろつ)いたら疑われるぞ」

「……」

今度の彼女は無言。

 

私は続ける。

「せっかく提督と良い関係が築けているのに……最悪、ぶち壊しだ」

 

「そうだね」

また前向きな反応をする寛代。この子の反応にちょっと驚く。

 

(へぇ寛代って意外にシッカリしているかも知れないな)

まさかとは思うが……ふっと祥高さんに似たものを感じた。

 

 しかし何か間違いでもあって未来の地で憲兵さんに捕まるのは勘弁して欲しい。私は不安を紛らわせるように目の前のグラスを一気に飲み干した。

 

「司令」

思い出したように今度は日向が口を開いた。

 

「どうした?」

私が顔を向けると彼女は少し周りを気にするように声のトーンを下げて言った。

 

「この場で寛代ちゃんに通信をさせたのは拙かったかも知れない」

「え? でも……」

私は少し焦った。その言葉に寛代も不安そうな顔をしていた。

 

それを見た日向は私たちを安心させるように微笑んだ。

「いや、通信が傍受されても友軍だから多少は大丈夫。ただ不慣れな外地で電波の発信は控えるべきかと」

「でも」

 

意外に寛代が食い下がってきた。

「寛代のはステルスモードだから」

 

「ステルス?」

何だ? そりゃ。

 

(極秘通信の種類だということは分かるが)

初めて聞く言葉だった。

 

すると日向はニコニコして返す。

「分かるよ寛代ちゃん。それを持っているのは美保では貴女と祥高さんくらいだ……あとは大和型の艦娘だけだね」

 

(私の気持を悟ったような説明調の台詞だな)

私をチラッと見た彼女は一呼吸置いた。

 

「まだこのブルネイに、どんな艦娘がいるか分からない。だから特殊無線でも油断は出来ない」

(さすがだ日向。お前の沈着冷静ぶりが心強い)

 

 彼女は少し視線を落として自分の腕を軽く撫でて言った。

「言って貰えば私の瑞雲という手もあったけど」

 

「あ……」

思わず妖精の『ハル』を思い出した。正直、あの妖精とは、あまり相性は良くないが能力は高い。

 

そこまで聞いて私は頭を下げた。

「そうだな、ちょっと早まった」

 

「……」

物静かな彼女だが『もっと私を認めてくれ』と言う主張を感じた。

 

 言い訳になるが駆逐艦娘は割と使いやすい。しかし重巡さらに戦艦級になるとホイホイと使う気になれない。いろんな意味で抵抗感が出てくるんだ。

 

 そうは言っても私は指揮官だ。

(複雑な感情を持つ艦娘でも一人ひとりの能力を十分に活用せねば責務怠慢だな)

 

 つくづく反省した。

 

 




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EX回:第17話(改2)<お山の大将>

日向と寛代に各地の鎮守府の説明をする司令官。しかし裏で進む心配事があった。


(あの技術オタクめ)

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第17話(改2)<お山の大将>

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「済まない司令、出過ぎた」

あまり表情を変えずに淡々と謝罪する日向。

 

「いや、良いよ日向」

私は空になったグラスを持ち上げながら言った。

 

「もっと君たち艦娘のことを細かく見ていかないと私もダメ司令官と言われそうだからな」

私がそう言うと日向は、ふっと寂しそうな顔をした。

このやり取りを見ていた寛代が首を傾げている。

 

私は二人を交互に見ながら、ゆっくり説明するように語り掛けた。

「人間は上に立つと急に性格が変わることがある。軍隊なんかは特に多い……これを『お山の大将』って言うんだ」

 

「お山の大将?」

寛代が口を開いた。珍しく食いつきが良いな。

 

私は頷いて続ける。

「自分勝手な指揮官ってことだ」

 

「ふーん」

寛代はソフトドリンクを飲んだ。そういえば、この子が飲食をしているところを見るのも珍しい。

 

彼女を見ながら私は言う。

「お前は美保鎮守府以外あまり知らないだろう?」

 

「うん」

素直に頷く寛代を見た日向も『あぁ成る程』といった表情を見せる。

寛代は日向より、かなり若いから経験も少ないようだ。

 

私は二人の顔を交互に見て続ける。

「各地にある鎮守府ってのは司令官や提督を中心とした独裁国家みたいなものだよ。温厚な指揮官もいれば、そうでない場合もある」

 

『……』

寛代と日向は、いつになく真剣な表情をした。

 

「ここブルネイだって例外じゃないだろう。だから幹部級の指揮官が互いに相手の基地を訪問するとなると互いに腹の探り合いが始まるんだ」

 

「ふうん」

相づちを打つ寛代。

 

「普通の会社組織なら、そんなことすればバラバラになる。でも軍隊は違う……締め付けるほど強くなっていくんだ」

 

「へえ」

寛代は単なる軍隊の豆知識を聞いている雰囲気だな。

 

だが寡黙な日向は、いつも以上に黙り込んで下を向いている。何か思い当たるのだろう。

 

私は詰襟のボタンを弛めながら改めて日向に言った。

「だから逆に鎮守府で遠慮無くモノを言ってくれる艦娘は貴重だ。私みたいな鈍い司令官には、とても助かる」

 

「ズズズ」

頷きながらジュースを飲む寛代。そんな砕けた反応にも、だいぶ慣れてきた。

 

日向は相変わらず下を向いている。それに気付いた寛代が心配する。

「どしたの?」

 

「いや、何でもない」

ちょっと固い笑顔を返す彼女。よほど嫌な思い出があるんだろう。

 

暗いムードを変えるべく私は日向を見て言った。

「慣れているってもな私だって、お前に指摘された後は落ち込むんだぞ」

 

「へえ、そうなんだ」

また寛代が反応した。

 

「ああ」

私は苦笑する。

 

「司令!」

急に日向が赤くなって口を尖らせた。

 

(あれ? ……珍しい)

普段の彼女は滅多に見せない表情だ。

 

「……悪い」

私は苦笑した。

 

だが今の反応で日向は緊張が解けたらしい。照れ隠しのような表情で腕を組むとポツポツと話し始める。

「……実際、大きい鎮守府ほど殺伐(さつばつ)としているところが多いからな。艦娘同士で、いがみ合うことも多い」

 

「なるほど」

私は頷いた。

(彼女ほどの実力者でも悩みは多いのだな)

 

そういえば鎮守府に絡む内容で日向の本音を聞いたのは初めてだ。

(軍隊では下手をすると内部批判になるからな)

 

失言一歩手前の今の内容に自分でも気付いたのだろう。彼女は取り繕うように微笑んで言った。

「確かに司令は私たち艦娘から見ても足りない部分は多い。それでも私は美保に来て良かったと思っている」

 

「……」

恥ずかしいな……何だか私も店内の雰囲気に火照(ほて)ってきたようだ。

 

今度は寛代が私たちの顔を交互に見ていた。

(この子には分からないだろうな)

 

日向と私は、下っ端の頃から同じ鎮守府の部隊に属することが多かった。

(これも何かの縁だろうか?)

 

……縁といえば、あの大井とも腐れ縁に近かった。彼女も日向に似て割りと直球でモノを言う子だった。

 

そして結局、彼女は舞鶴沖で芳しくない最期を遂げた。

(その点は私にとっても心の傷となっている)

 

一方の日向は何度も危ない橋を渡りながら生き延びた。豊富な実戦経験を持ちながら寡黙な彼女は、そのことについて公言する事は少なかった。

 

しかし何故か私に対しては淡々としながらも直言することが多かった。それは私が作戦参謀になってからも続いた。

 

そんな彼女も飾らない率直な性格だ。

(そういえば私と縁のある艦娘は素朴というかストレートな子が多いな)

 

私は、ふと何気なくカウンターでメモをしている秘書艦を見た。

(日向を、もうちょっとソフトな性格にしたら祥高さんになるのかな?)

 

そういう性格が私と相性が良いのだろうか?

 

「あら、竜田揚げ? それなら私が作ったのにぃ」

美保の龍田さんがクネクネしながら言った。彼女はもう酔っているのか?

マイペースな龍田さんは酒断ちとは無縁だな……まぁ良いけど。

 

「残念ながら竜田揚げではないよ。途中までは工程は一緒だけどな」

提督はフライパンを2つ用意して忙しそうだ。

 

日向は言う。

「そう言えば青葉たちが戻りませんね」

 

「青葉さんか」

私はアゴに手をやって呟いた。

 

日向も通信回線を開いているようだが、そこには感は無いようだ。

「寛代ちゃんが参謀に連絡してましたけど……本当に大丈夫でしょうか?」

 

「そうだな」

確かに調査するにしても時間が掛かりすぎだ。ある程度で見切りをつけて早々に切り上げるのがセオリーだろう。

 

だが艦娘とはいえ参謀は上官だ。その行動に関して私が何か言える立場ではない。それでも他所の土地だ。あまり危険な行動は謹んで欲しいな。

 

すると寛代が私の横腹をつついてきた。

「参謀が『安心しろ、うまくやる……』そう伝えろって」

 

「え?」

……っと思った。

 

私には寛代の、その言い方に、まるで参謀本人がそこに居る心地がした。

通信に特化した寛代だから、そう感じたのだろうか?

 

日向も苦笑している。

 

前から不思議な子だと思っては居たが今日は、なおさらだな。

「参謀は青葉さんの通信を使ったのかな?」

「いや」

「うまくやるって、何のことだよ」

 

「……」

寛代は無言。

 

(やれやれ良く分からんな)

急に無線封鎖したのか?

 

私たちのやり取りを見ていた日向は悟ったようにボソッと言った。

「参謀は何か掴んだようですね」

 

「そうか?」

美味しい餌(情報)でも見つけたのか? 確かに、そんな直感もする。

 

(あの技術オタクめ)

こりゃ厄介な予感だ。

 

今居る場所が工廠でオタク仲間の夕張さんも同行している。

(参謀はともかく残りの二人は好奇心の塊みたいな連中だからな)

 

そう思うと急にドキドキしてきた。

夕張さんは修理の為にと思って連れてきたんだけど、それも良し悪しだったな。

【挿絵表示】

 

 

そうこうしている間にも料理は進む。

「はい、お待ち!『チキン南蛮』だ。タルタルソースは好きな方をかけて味わってくれ」

 

汗をかきながら提督が大きな声で呼ぶ。

 

「美味しそう、ぽいっ」

リクエストしていた夕立がハフハフ言いながら噛み付く。

 

(お前は犬か?)

……ちょっとは遠慮しろよ。

 

でも艦娘たちは美味しそうに料理を味わっている。それを見る提督も嬉しそうだ。

 

一方の私は不安で食事が喉を通らない。

 

ややシリアスな雰囲気になった私たちとは対照的に周りの艦娘たちは笑顔で楽しそうだった。その歓声が、なおさら私の緊張感を高める。

 

やがて提督は厨房を片付け始めた。

(そろそろお開きか)

 

彼は言う。

「さて今日は、そろそろ店仕舞いとするか。新米君達も部屋を用意したからそっちで、ゆっくりと休んでくれ。風呂は自由に使ってもらって構わんからな」

 

(外の屋台村も大分片付いたようだな)

私も立ち上がると不安を隠すように深々と頭を下げて礼を言った。

 

「何から何まで、有難う御座います」

私の態度に提督は、ちょっと感心したような表情を見せた。

 

「いやいや困った時はお互い様ってね。しかも同業だ、また何かあったら何時でも尋ねて来てくれ」

「はい」

 

私たちが外に出ると五月雨が待っていた。

「ご案内いたします」

 

「あれ?」

一緒に食事をしていたブルネイの青葉さんが廊下で伸びている。

 

(酔い潰れたのかな?)

その傍ではブルネイの川内が「大丈夫だ」といった感じで盛んに手のひらを左右に激しく振っている。

 

なるほど訳アリっぽい。ここは大人の対応で見て見ぬ振りだ。そのままスルーしておこう。

 

美保鎮守府の艦娘たちも口々に挨拶をして店から出てきた。

「ご馳走さまでした」

「おやすみなさい」

 

その挨拶を見た提督が、店内で感心しているようだ。どうやら疑われてはいないようだな……私はホッとした。

 




☆☆☆ご注意!☆☆☆

この後17話以降は徐々に第一部、第二部を含めたシリーズ全体に関係する核心部分、すなわち「ネタバレ」が出て参ります。

前シリーズをまだ、お読みになっていない読者諸兄は、いったん読み進めるのは中断して第一部だけでも目を通される事をお勧めします。

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EX回:第18話(改2.2)<発覚>

<ご注意!>
この後18話以降は今までの2つのシリーズに関係する核心部分が出て参ります。
前シリーズをまだ、お読みになっていない読者諸兄は、その旨ご了承下さい。

では本編をどうぞ。
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Barを後にした提督は寛代から参謀たちが捕まったことを知って焦る。そして急きょ工廠へ向かうのだが。




「美保の提督殿。これは……どういうことだ?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第18話(改2.2)<発覚>

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「宿所は、本館の2階になります。ご案内いたしますので……」

五月雨が言いかけたときだ。

 

寛代が突然、五月雨に構わず話し始めた。

「参謀が確保された」

「えぇ!」

 

どうやら緊急無線を受信したらしい。

「場所は工廠」

 

それから私の袖を引いて呟くように言う。

「こっち……」

 

(あちゃ、ヘマしたな参謀!)

どうするんだ?

 

(あぁ大将は、きっと怒るぞ!)

これで憲兵さん出動か?

 

私はつい卒倒しそうになったが何とか踏みとどまった。

(ダメだだ。何とかしなければ!)

 

こんなところで倒れたら恥ずかしいどころの騒ぎではない。

私や共に居る艦娘が捕まるだけじゃないよ。

下手したら解体だ。

「とりあえず大将より先に手を回して事態を収拾させよう」

 

私は目の前の五月雨に言った。

「工廠はどこだ?」

 

「えっ ……えっと」

急に振られてシドロモドロになる彼女。

 

(ごめん、困らせるつもりは無いんだけど)

……私も美保の艦娘たちを護らないといけない。

 

そのとき廊下に居た川内が反応した。

「司令っ、私が案内します! ……五月雨、他のお客様を部屋まで、ご案内して」

 

「は、はい!」

取り敢えず敬礼している五月雨は、まだアタフタしている。

何だか分からないだろう……済まない。

 

落ち着いてテキパキと指示を出す川内。

「宜しいですか? 司令」

 

「頼む!」

私は彼女に声をかけた。

 

(しかし、この川内は、なかなか機転が利くな)

普段から、いろいろな事態に対処しているに違いない。意外に落ち着いた印象だから、きっと事務も時々やっているのだろう。

 

振り返ると他の艦娘たちは、まだ狐に摘まれたような顔をしてる。

お前ら、のん気だよなあ……仕方ないが。

(かろうじて日向だけは心配そうな顔をしているけど)

 

私は艦娘たちに告げた。

「お前たちは五月雨の案内で各自、宿所に入ってくれ。私は急用だ」

 

『了解!』

全員、敬礼した。

 

「こっちです!」

出口を示す川内の後を追って私はすぐに鎮守府の外へ出た。

 

振り返ると寛代も付いてきていた。

「寛代は戻れ!」

 

……だが彼女は無視して付いてくる。

(仕方ないな)

 

私たちは足を速める川内に必死に追いすがった。

夜のとばりが降りた屋外は南国らしくムッとする。

 

 少し走ると直ぐに大きな建物が見えてきた。さすがに敷地が広い鎮守府だけあって工廠も美保とは比べ物にならない大規模な建屋だ。全体は真っ暗だが一階の詰所で明かりが点いてる。

 

「こっちから入れます!」

妙に要領良く警戒もせず扉を開けた彼女。

 

その姿に私は、この川内は何か事情を知っているような気がした。

(ひょっとすると彼女も何か関係しているのだろうか?)

 

私は川内の案内に従って工廠の一階に入る。彼女に続き詰所に入って驚いた。技術参謀たちが椅子に座らされていたのだ。

 

思わず声が出た。

「参謀!」

「オウ」

 

(『オウ』じゃないよ……まったく)

だが……手錠はされてない。なるほど、だから気楽な返事が出来たのか。

 

彼女たちの前には『武蔵様』が腕を組んで立っていた。

何か尋問でもしていたのだろうか? 表情が険しい。

 

彼女は入室した私を認めると、こちらを見て言った。

「美保の提督殿。これは……どういうことだ?」

【挿絵表示】

 

 

「えっと」

帽子を取って汗を拭う。正直、私にも何か訳が分からない。

 

 改めて見ると技術参謀と青葉さん、それに夕張さんは壁際の椅子に並んで座らされていた。技術参謀は相変わらず平然としているが他の二人は、もう顔面蒼白だ。

(こんな修羅場、初めてだろう。可哀想に)

 

青葉さんは記者だから多少の場数は踏んでいるはずだ。それでも美保の二人は量産型とはいえ武蔵様の威圧感に圧倒されているようだ。

 

それが逆に全く動じていない参謀の図太さを際立たせている。伊達に軍令部で参謀やってるわけではないのだな。

 

遅れて寛代が入ってきた。すると技術参謀が急に表情を変えて叫んだ。

「寛代!」

「ママ!」

 

(はぁ?)

私と美保の二人は目を丸くした。

 

(ママって何のことだ。なぜ技術参謀が?)

そんな彼女の傍に寛代は駆け寄ると、すがりついた。

 

小さい駆逐艦娘を抱き寄せた参謀は明らかに母親の顔になっていた。

「来ちゃダメって言ったでしょ」

 

「まさか、親子?」

青葉さんが呟く。

 

それを見ていた武蔵様の表情が少し和んだように見えた。

「フン……参謀とやらの言ったことはウソではないようだな」

 

一体何が、どうなっているのか……参謀の娘が寛代?

 武蔵様は大きくため息をついた。

 




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EX回:第19話(改2)<美保計画>

なぜか美保鎮守府をかばう様な事を言う武蔵様。そして技術参謀は美保と意外なつながりがあった。


 

「『美保計画』も私が中心的に押し進めたのだ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第19話(改2)<美保計画>

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 武蔵様は言う。

「美保の提督殿」

 

「はい」

いきなり声をかけられて緊張する私。実は、こんな間近で武蔵様と相対するのは初めてだ。

 

彼女は言う。

「もし友軍でなければ……そして、お前たちが美保鎮守府でなければ私は迷わず憲兵に突き出していた」

 

憲兵という言葉に一瞬、ドキッとした。だが今は突き出されないようだ。

 

(それはなぜ?)

 

そう思っていると彼女は続けた。

「提督殿は、どこの出だ?」

 

(なぜそれを聞く?)

 

少しヘンだなと思いながら私は応えた。

「境港です」

 

すると急に武蔵様の表情が和んだ。

「そうか、ひと目で分かったぞ。地元の護りは、やはり地の人間が良いな」

 

「え?」

出身って、ひと目で分かるものなのか?

 

(それに私の顔を見るなり武蔵様が和んだように見えたが、これはどういう事だ)

私は緊張すべきなのか、どうなのか……少々混乱するな。

 

そんな私には構わずに彼女は続けた。

「提督のご命令で、その参謀を川内がずっと監視していた。到着早々に調子が悪いと言いながら病室を抜け出して鎮守府内を探りまわっていたが一体、何の真似だ?」

 

技術参謀が応える。

「だから私は省の技術将校だと」

 

そこで武蔵様の眼光が厳しくなった。

「将校が、なぜ改めて遠方の工廠を引っくり返すような事をするのだ?」

 

「それは……」

一瞬、返事に詰まる技術参謀。

 

だが直ぐに意を決したように続けた。

「信じられないかも知れないが私たちは過去から来た。そして私の使命は艦娘の量産化なのだ」

 

「えぇ?」

艦娘量産化の核心人物が今、私たちの目の前に居るのか。

 

しかし武蔵様は腕を組んだ。

「それは何度も聞いた……個人的には美保の連中は信じても良いのだが、お前と美保を結びつけるものはなんだ? それになぜ美保の連中を使う」

 

ここで一呼吸を置いた彼女は改めて親子を見た。

「お前と、この駆逐艦娘が親子だと本当に信じて良いのか?」 

 

ここまで聞いているだけで謎が謎を呼んで混乱してくる。

(つまり寛代と参謀は親子ってことか?)

 

私が悶々としている間に技術参謀が口を開いた。

「そうだ。私は艦娘だ……いや『だった』というべきかな」

 

「え!」

その場に居た全員、いや寛代と武蔵様を除いた私と艦娘は驚いた。

危うく卒倒しかけた私は、もう頭が限界に近い。

 

だがさすがに武蔵様は動じなかった。

「本省に艦娘の制服組が居るという噂は私も知っていた。だが、まさかお前が、その張本人だったとはな」

 

その言葉に私もハッとした。

(そういえば先日、美保に視察に来た、あの青年将校も同じことをチラッと言っていたな)

 

だが、それを聞いても私自身が信じられなかった。遠い中央でのことだから雲の上の話かと思っていたのだ。

 

先ほどより、かなり穏和な表情になった武蔵様は言う。

「その小さいのが、お前の娘か。そして今、その子だけが美保にいるわけだな」

 

その言葉に参謀が応える。

「そうだ。決して艦娘を軽視する訳ではないが、もし彼女たちが量産化されれば、この娘を戦乱に巻き込まずに済むかも知れない。私はただ、その想いを胸に単身、中央で開発を続けてきたのだ」

 

「なるほど」

武蔵様は長い髪の毛をいじっている。

 

寛代の顔を見つめながら参謀は続ける。

「それもやっと目処が立ってきた。だからオリジナルの艦娘を集中させる『美保計画』も私が中心的に押し進めたのだ」

 

(えぇ? そうだったのか)

これは初耳だった。いや機密事項ではないのか?

 

少し焦った私を尻目に技術参謀は話を続ける。

「いよいよ量産化も最終段階に入り、その実証実験を、このブルネイで行うつもりだった。しかし、ここに来る途中で謎の嵐に巻き込まれた。そして気がついたら、ここに居たわけだ」

 

「ふふん」

武蔵様は顎に手を当ててうなづいている。

 

寛代の髪の毛を撫でながら参謀は言った。

「ここが未来と仮定してだが……私の時代では艦娘の量産化もまだ不安定だ。特に魂の定着が難しい。だが、ここでは既に実用化されている時代ではないか!」

 

武蔵様意外の面々は、その気迫に押されるようにして無言だ。

 

彼女は続ける。

「だから、この技術を何とか過去に持って帰ることができれば量産化も完成して人類の深海棲艦への強力な切り札になる」

 

「それで、この記者と技師と一緒に調べていたのか」

武蔵様は眼光鋭く他の二人を見つめていた。

 

美保の艦娘たちは、武蔵様に見詰められるたびにビクついている……可哀想に。まるで蛇に睨まれたカエルだな。

 

傍で見ている私の頭の中は理解を超越して大混乱の真っ只中だ。それでも整理すると。

 

1)美保鎮守府は艦娘量産化のため

2)技術参謀の寛代を護りたい一念

 

……で、計画が進められていたのか。

 

技術参謀は補足する。

「もちろん、私の娘の為と言うのは動機の、ごく一部に過ぎない。わが国や世界の防衛のためにも艦娘の量産化は不可欠だ」

 

武蔵様は、黙って聞いていた。全員、無言だった。

 

参謀は改めて寛代を抱き寄せた。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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EX回:第20話(改2)<消し難き情熱>

武蔵は技術参謀に美保鎮守府を設置してまで艦娘を開発する動機について問いただした。その答えは……


 

「私は彼と共に戦い抜いたことを誇りに思う」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第20話(改2)<消し難き情熱>

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 技術参謀が説明した内容が、あまりにも複雑なので私も、いまいち分かっていなかった。

 

それでも何とか理解できたのは結局、美保鎮守府そのものが本省の技術参謀を中心に設置された実験的な部隊であることだ。

 

1)参謀は、もと艦娘である。

 (もちろん今でもそうだ。前線に出ないという意味だろう)

 

2)その娘が、ここに居る寛代である。

 (性格は正反対だ。父親に似たのかな?)

 

3)艦娘量産化の技術があと一歩で完成する。

 

4)その手掛かりがここブルネイに沢山あるということ。

 (そりゃそうだ。もしここが未来ならば)

 

 私は寛代を抱いている技術参謀を見ながら最近、美保鎮守府に姉妹を集め始めたのも、この人なのだろうかと思った。

もしそうなら日向の姉の伊勢も来ると良いが。

 

 姉妹といえば、ひょっとして祥高さんも、この人の姉妹だとか言い出すのかな?

(まさか、それは無いか。雰囲気全然違うし)

 

ただ技術参謀は私が最初、寛代を病院へ行かせようとしたとき自分が替わると言って身代わりになった。

 

あれは自分のほうが経験も豊富だからということもあっただろうが、やはり母親として娘に危険な任務を与えたくないという気持ちが働いたのかも知れない。

 

腕を組んで、しばし考え込んでいた武蔵様が顔を上げて技術参謀に問いかけた。

「一つ聞いて良いか? そこまでして娘を思う気持ちの元になるものは何だ? 私には、その情熱そのものが理解できないが」

 

軽く頷いて技術参謀は答えた。

「この子の父親は提督だったが深海棲艦との海戦で戦死した。部下である私を庇って……そんな悲劇は早く終わらせたいのだ」

 

 その場に居る全員の表情が変わった。武蔵様は真剣な眼差しになって言った。

「お前たちの事情は分かった。出来れば私も事を荒立てずに見逃してやりたい。だが私にも立場がある。分かってくれるな?」

 

技術参謀は「分かっている」と言った。

 

武蔵様は続ける。

「まずは、お前たちが収集した『目に見える』資料は全て返して貰う。あと、この件は提督には私から話しておく。川内も、そしてこの場に居る全員、この内容は一切他言は無用だ。国家的機密事項……分かるな?」

 

私を含めた全員に異論は無い。彼女は少し微笑みながら言った。

「私も甘いな。お前らが美保鎮守府で無ければ、こんなことはしないのだが」

 

(何か深い理由でも、あるのだろうか?)

 

私の想いに呼応するかの如く武蔵様は窓の外を見ながら呟く。

「私と最期を伴にした艦長は美保鎮守府のある山陰地方の軍人なのだ。彼は終わりまで責任を全うした高い志の持ち主だ」

 

そして彼女は、ゆっくりと振り返った。

「私は彼と共に戦い抜いたことを誇りに思う……だから忘れるな。消し難き大切な物ほど目には見えぬ。だからこそ永久に残り得るのだ」

 

その言葉を受けて、その場に居た全員が自然に敬礼を始める。もちろん武蔵様も同様だった。

 

 彼女の目に涙が光っていたのか?

 メガネレンズの反射か?

 

それは良く分からなかった。

 

だが過去と現在、そして未来が繋がった瞬間……私には、そんな印象を受けたのだった。

 

 




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EX回:第21話(改2)<艦娘たちの夢>

工廠でのトラブルは何とか解消に向かい武蔵に別れを告げて外に出た提督たちは思い詰めたような五月雨と出会う。



「願いは……かなう?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第21話(改2)<艦娘たちの夢>

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 それから椅子に座っていた3人は直ぐに立ち上がると武蔵様の指示に従って収集した資料を机の上に差し出した。

 

彼女は窓際に立ちながら返された資料をチラッと見た。

「それで全部だな?」

 

『ハッ』

青葉さんたちは返事をした。

 

武蔵様は軽く頷くと背を向けて工廠の窓の外を見た。

「今夜はもう良い、戻れ」

 

「はい」

私は軽く敬礼をした。他の面々も、それに続いて敬礼をした。

 

ホウっとため息を吐いた武蔵様は振り返らずに言った。

「……川内、五月雨がこの近くに居るはずだ。ここの皆さんを宿所に案内させろ」

 

「ハッ」

敬礼したブルネイの川内が「では」と言いつつ参謀たちを外へ案内する。美保の艦娘たちは「失礼します」と言いながら退出。

 

(結局、おとがめ無し、と言うことか)

 

全員が退出した後、私は最後に改めて武蔵様に軽く敬礼をした。

「では、これにて」

 

 艦娘に敬礼するのは正直いって妙な感覚だった。だが彼女には自然にそうさせるだけの威厳があった。

 

(武蔵様は量産型だが結局、艦娘は歴史的なものを加重させるのだろう)

私が、そう思っていたら彼女は振り返る。

 

「いきなり外地に来て大変だったな」

「……」

つい何も返事が返せなかった。

 

すると武蔵様が近寄ってきた。私は思わず緊張した。

 

だが彼女は微笑みながら言った。

「美保殿、失礼!」

 

(あ……)

と思った次の瞬間、武蔵様は半ば強引に私の手を取ると、そのまま抱擁してきた。

 

(絞め殺される!)

つい他の艦娘を連想してしまった。

 

(……わけないか)

私は苦笑した。

 

もちろん彼女は帝国海軍最強の艦娘の一人だから本気を出せば私なんて一溜まりもないが。

「人間の指揮官、まして他所の司令殿に失礼を承知で許して欲しい……」

 

「あぁ」

私もソッと抱き返した。

 

彼女の身体は、ふくよかと言うよりは筋肉質だった。それでも女性らしい柔らかは感じられた。

(艦娘は海を司る女性たちだから父性よりは母性が強いのだろうか?)

 

不思議と如何(いかが)わしい気持は微塵もなかった。彼女自身、艦娘という立場を越えた何かが突き動かしているのだろう。

 

そんなことを思っていたら武蔵様は口を開いた。

「これは立場を超えて古(いにしえ)の指揮官への私なりの報恩の気持ちだ」

 

「……」

私も、その山陰出身の艦長のことを想起した。

 

彼女は続ける。

「……かつて私は、この地から最後の出撃をした。だが、お前たちには、ここを新たな出発の地として欲しい」

 

「あ、あぁ」

意外な出来事の連続で思わず、しどろもどろになった。我ながら情けないことだが他の面々は退出していたので体面は保てた。

 

私はふと幼い頃、母親に抱かれた感覚を連想した。

(正直ハッキリと覚えては居ないが)

 

「お互い、為すべき事が多いな」

そう言いながら武蔵様はソッと私から離れた。

 

彼女は日向のような武人タイプだが、やはり内外共に大きなものを感じさせる艦娘だった。

 

「山陰の美保か……いつか必ず訪れようぞ」

「待っているよ」

最後には、お互い微笑みつつ敬礼をした。

 

そして私は部屋を出た。

 

 廊下は既に暗くなっていた。薄暗い常夜灯を頼りに私は外へ向かう。何だかんだで、すっかり夜も更けた。

(技術参謀の暴走で、すっかり疲れたな)

 

屋外に出ると、その参謀たちが待っていた。

「おぉ、来たな」

 

「最後に武蔵さんにダメ押しで詰められたんですか?」

余計なことを聞く青葉さんだな。

 

「まぁ……そんなところだ」

私は適当に誤魔化した。

 

「ひゃあ」

まだ先のトラウマが残っているのか青葉さんは素頓狂な声を出す。

 

「お疲れ様でした」

夕張さんが気の利いたことを言う。

 

私は頷いた。

「じゃ行こうか」

 

だが案内役の五月雨が妙に黙っていた。

 

「どうした?」

「提督……」

彼女は思い詰めたように私を見上げて言う。

 

「は?」

私は立ち止まった。

 

五月雨は決意したように言った。

「私も美保へ連れて行ってください!」

 

「は、はぁ?」

驚いた。開いた口が塞がらない……。

 

いや私だけでなく周りの艦娘たちも驚いた。

(どうして私の周りの艦娘たちは突拍子も無い行動を取る娘ばかりなんだろうな)

 

思いっきり引いた私は慌てて応えた。

「いや、急に言われても……な? 大将の意向とか、そもそも異動には軍令部の許可が要るだろう」

 

「そうだよ」

川内がカットイン。

 

「艦娘の意思だけで異動できる訳ないだろ」

【挿絵表示】

 

 

「五月雨よ」

いきなり背後から武蔵様が現れて一瞬ドキッとした。

私の前にいる五月雨もハッとしたようだが、そのまま黙っている。

 

武蔵様は、ちょっとため息をついた。だが、その表情は意外に穏やかだった。

 

そして少し微笑んで話し始めた。

「お前の気持ちも分からくはない。何しろ美保の連中はオリジナル艦娘だからな」

 

(そういうことになるか……全然、意識したことも無かったが)

 

彼女は続ける。

「だが我々は艦娘だ。希望を持つことは咎めないが、それ以前に軍人だ。お前の行動は軍として、あってはならない」

 

「……」

五月雨は下を向いている。

 

武蔵様は続ける。

「落ち込むな。もしお前が、その気持ちを持ち続けるならば、いつか必ず願いは叶う……私がそうだったから」

 

「願いは……かなう?」

五月雨は武藏様を見詰めて復唱している。

 

うちの艦娘たちも顔を見合わせているが……まぁ彼女等にはピンと来ないだろう。

 

そもそも艦娘の存在自体が軍人や艦艇の無念さ或は、夢や希望が昇華し具象化した存在だ。

 

武蔵様には、その自覚があるのだろう。

(それが無ければ、さきの台詞は出て来ない)

 

やはり大きい艦娘だ。

 

見れば五月雨の瞳から一筋の涙が流れた。それでも微笑んだ彼女は涙を拭った。

「……分かりました。有難うございます」

 

純粋な笑顔だった。艦娘でも、こんなに自然な笑顔が出るんだな。その初々しさは新鮮な印象だった。

 

五月雨の青く長い髪が月明かりを反射し南国の夜風にサラサラと流れる。本当に、この子は妖精みたいだな。

 

彼女は再び笑顔で私たちに一礼すると改めて敬礼をした。

「失礼しました、皆さん。改めて、ご案内致します」

 

そして彼女は私たちの先頭に立った。

 

私と美保の艦娘たちは、互いに顔を見合わせて頷いた。

「あぁ、頼むよ」

 

この鎮守府は、ちゃんと艦娘同士で支え高め合う関係が出来ている。

私も無事に帰還できたら美保鎮守府でも、そういった関係を築きたいと決意した。

 

綺麗な夜空に浮かぶ南国の月はダイヤモンドの如く明るい。

明日も晴れだな。

 

 




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EX回:第22話(改2)<ありがとう>

月の下で提督は五月雨の気持ちを確認してみる。そこで接待を担当する彼女の苦労を知るのだった。



「提督の優しさ、信じていますから」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第22話(改2)<ありがとう>

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 南国の綺麗な月が出ている。

それを見ながら私たちは工廠から鎮守府本館へと戻っていた。五月雨が先導し川内が私たちの横についている。

 

 技術参謀母子は久しぶりに会うのだろう。ピッタリ寄り添って歩いていて微笑ましい。寛代の問いかけに応える参謀は時々「母親」の顔になっていた。

 

(やっぱり親子っていいな)

しかし、それに比べるとうちの2人の艦娘は見るからに足取りも重そうだ。

 

青葉さんは収集した資料以外に身に着けていた撮影済みのフィルムも没収され結構凹んでいる。夕張さんも、いろいろな興味深い資料とか素材サンプルを確保していたらしいけど、それらもすべて正直に提出したようだ。

 

もしここが普通の海外の鎮守府ならば私たちの行動は決して悪いことではない。技術参謀だって自分の時代であれば海外でも帝国海軍の勢力範囲内で自分の権力(階級)をフルに発揮出来るはずだ。

 

 しかしここは時代が違う。

五十歩譲って技術参謀の威光が、この時代でも通用すると仮定しても彼女以外は、まったくの管轄外なのだ。

 

青葉さんや夕張さんの行動は所属違いの他所の鎮守府では決して許されるものではない。だから本人たちも良心の呵責があるのだろう。どんよりして無口だ。

 

(せっかくのキレイな月も誰も賛美する者が居なくて、もったいない感じだな)

ムードメーカーではない私も、この雰囲気に耐えられなくなってきた。

 

しかし百戦錬磨といった感じの、この二人の艦娘を慰めるなんて高等技術は私にはない。

 

そこで私は足を速めて先頭の五月雨に追いついた。

「ちょっと良いかな?」

「はい?」

 

月明かりに五月雨の笑顔が浮かぶ。大きな瞳が、やたらキラキラしている。

(やっぱり、この娘は元気なのが良いな)

 

私は続けた。

「君が私に言った美保に異動したいという言葉……なぜ、そう思ったのか気になってね」

 

笑顔だった五月雨は私の問いかけに少しマジメな表情になって考えた。

「うーん」

 

彼女は軽く握りこぶしを作り口先に当てる。

その表情が月明かりの淡い陰影と相まって年齢以上に神秘的に見えた。

 

五月雨のような駆逐艦娘は薄暗い月明かりの下で至近距離で見ると、その人口的な雰囲気と相まって神秘さが強調される。

「そうですね。私にもよく分からないところがありますが」

 

彼女は歩きながら思案している。可愛いな……当然、私はドキドキしている。そもそも艦娘は上官に忠実に従うという基本設定がある。

 

(提督という分不相応な立場を与えられた人間が勘違いして変な方向に走りそうだな)

私は勝手に苦笑した。

 

ただウチの日向に見られるように一部の艦娘は多少、反発することもあるようだ。特に戦艦級の艦娘ほど(今日の武蔵様もそうだが)自律して高度な判断をすることが多い。それが見方によっては「反発」と受け取られるのだ。

 

(五月雨は駆逐艦だから、そういう「反発」は無いはずだが)

 

ちょっと間があってから彼女は応えた。

「一番感じるのは提督が私に『ありがとう』と仰ったり、とても親切にして下さったからでしょうか」

 

「そうか?」

凄く持ち上げてくれるが自覚は全くない。そもそも計算で動くほど器用ではない。単に私が、まだ新人提督で不慣れなだけだ。

(この夏も含めて美保の艦娘に翻弄された結果だとも思うんだが)

 

五月雨は続けた。

「それに、この鎮守府には、たくさんの来客があるんです」

 

「へえ」

まぁブルネイといえば航路の要所みたいな位置だからな。

 

「私もよく接待をするのですが……ほとんどのお客様の態度が大きくて……あっ!」

急に五月雨は唇から手を離して慌てて頭を下げる。

 

「す、済みませんっ提督! ……私ごとき、とやかく言える立場ではないので、どうか忘れてください!」

彼女は何度も頭を下げて発言を撤回している。少し離れたところからブルネイの川内が呆れた顔をしている。

 

「あ、いや」

(私のほうがビックリした)

 

「大げさだな、大丈夫だよ」

私の言葉に彼女は苦笑している。

 

「あの先ほどの発言は取り消しで」

五月雨は祈るように胸の前で手を組んでいる。不安な顔で……

 

(嗚呼! そのウルウル目はやめてくれないか?)

本当に、お前を連れて帰りたくなるから。

 

もちろん彼女の言うとおり、この南国の来客は要職に就いてる連中ばかりだろう。こんな小さな艦娘が応対すれば大半の人間が高飛車な態度を取るだろう……可哀想に。

 

私は立ち止まると彼女の手を取って言った。

「大丈夫。そんなこと気にしないし、誰にも告げ口なんかしないよ」

 

「はい!」

五月雨は明るい表情を取り戻した。

 

「提督の優しさ、信じていますから」

そう言って彼女はギュッと手を握り返してきた。本当に……この子はカワイ過ぎる……だが私は自制した。

 

もしも参謀や美保の艦娘たちが居なかったら私は絶対に彼女を抱きしめていたに違いない。だが威厳を保った振りをした私は頷いて手を離した。

そして再び彼女と肩を並べて歩き始めた。

 

そのときは以後から妙な気配を感じた。「もしや?」と思って振り返る。

 

案の定、後ろを歩いている青葉さんが悔しがっている。

「嗚呼! カメラさえあれば……」

 

「何だ、今の私と五月雨のスクープを取り逃したってか?」

「……」

彼女は、よほど悔しかったのだろう。何度も地団太(じだんだ)を踏んでいる……リアルに地団太踏む人って初めて見た。そうか、青葉さんのフィルムは全部、武蔵様に没収されていたんだよな。

 

「くっくっ」

その隣では夕張さんが悶絶していた。

 

「肩で笑うなよ……一応恥ずかしいんだから」

私は言い訳をした。

 

「くっくっ、す、済みません」

でも夕張さんが悶絶して笑う姿も初めて見た。意外だ。

 

ブルネイの川内も「へえ」といった感じで腕を組んでニタニタしていた。

何だか良く分からないけど……まあ、愉しい方が良いよな?

 

ハッと思ったが技術参謀は見て見ぬ振りをしていた。彼女は大人だな。

 

 

 




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EX回:第23話(改2)<接待の苦労>

鎮守府本館の宿所に到着して艦娘たちは五月雨の案内で順次、部屋に入っていく。しかし司令は、なかなか寝疲れなかった。


(何となく寂しそうに見えたんだ)

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第23話(改2)<接待の苦労>

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 ちょっと悶着はあったけど私たちは数分で鎮守府本館入口前まで戻った。

 

「お待たせしました。直ぐ、ご案内します」

五月雨が中に案内する。

 

「はぁ、やっと着いたって感じだな」

私の言葉に夕張さんが頷いている。

 

「改めて、この泊地の広さを実感しますね」

青葉さんは落ち込みから回復したようだ。

 

(しかし疲れた。遠足の引率の先生の気分だな)

……さっさとベッドに倒れて寝てしまいたい衝動に駆られる。

 

ふと腕時計を見た。

「もう、こんな時間か」

 

技術参謀も口を開く。

「そうだな……先に入った連中は、もう寝ているだろう」

 

私は思わず心の中で(アンタラ等のせいだろう……)と呟いた。

 

それを察したのか参謀は言う。

「済まなかったと思っている。だが……」

 

何かを言い掛けて彼女は途中で止まる。そして頭(かぶり)を振った。

「いや止めよう」

 

それを見て私は(彼女は武人だな)と思った。言いわけは見苦しいと思ったのだろう。

 

「あの……宜しいでしょうか」

五月雨が言う。

 

「人数も少ないですから順番に、ご案内して宜しいでしょうか?」

彼女は不安そうに見上げる。

 

「構わないよ、そうしてくれ」

「はい」

彼女は急に笑顔になった。

 

「では皆さん、こちらへ」

五月雨に続いて私たちは建物に入った。

 

廊下を歩きながら私は青葉さんを振り返る。

「本当に、案内係って大変だよな」

 

彼女は直ぐ反応する。

「そうなんです。特に軍では序列が煩(うるさ)いですからねぇ。案内する順番で揉める事だってあるんですよ」

 

私は苦笑した。

「実感、こもってるな」

 

「あはは」

彼女も困ったような顔をして笑った。

 

「軍人は特に、ね」

背後からボソッと夕張さんが呟く。

【挿絵表示】

 

 

(君も負けていないな)

私は肩をすくめた。

 

「青葉様たちの、お部屋はこちらです」

五月雨は一階にある一室を示した。

 

「わあ、有り難う」

夕張さんは早速、五月雨の両手を取って、お礼を言った。

 

「オーバーだな!」

呆れたように私が言うと青葉さんが釈明する。

 

「だって尋問だけじゃなくてレアな武蔵様に威圧されて詰められたんですよ?」

「ああ、そうだったな」

応えながら私は逆の圧迫感……彼女から抱擁された感覚を思い出した。

 

「武蔵様は義理堅くて熱い艦娘だぞ」

私が言うと青葉さんはちょっと真面目な顔になった。

 

「まぁ、それは認めますけどね」

私たちのやり取りの間、五月雨は、ずっと待機していた。

 

それに気付いた夕張さんが促すように敬礼した。

「では夕張と青葉、一階にて休息いたします!」

 

それに続いて青葉さんも慌てて敬礼をした。

「では失礼致します!」

 

「ゆっくり休め」

私と参謀も敬礼を返した。

 

『はい』

それを見て軽く頷いた五月雨が案内を続ける。

 

「では、お二人は二階になりますので、こちらへ」

私たちは彼女と共に少し先にあったエレベーターの前へ。

 

「何だ?」

参謀が呟いた先を見るとエレベーターに張り紙がしてあった。それは、たどたどしい字体だった。恐らく艦娘が書いたのだろう。

 

(これはまるで小学生の字みたいだな)

私はそう思いつつ読み上げる。

「なになに、艦娘は使うな! ……か」

 

「あの……お客様をご案内をするときは良いんですけど」

なぜか言い訳のように説明する五月雨。

 

「分かっているよ」

「私は良いんだろう?」

 

ちょっとイジワルな顔で参謀が聞くと五月雨は一瞬、ビクッとした。

「はい……あの、大丈夫だと」

 

それを聞いた参謀は微笑んだ。

「悪かったな。私みたいなのは特例だ」

 

そして私たちはエレベーターに乗り込むと二階に上がった。二階の廊下の中央より手前が参謀親子の部屋だった。

 

「ごゆっくり」

私と参謀は互いに軽く敬礼をする。

 

「久しぶりの親子、水入らずの宿泊だな」

ふっと彼女は、そんなことを言いながら寛代と二人で部屋に入った。

 

 二階廊下の中央付近が私の部屋らしい。そこへ向かう際に五月雨から簡単な説明があった。

「提督のお部屋はゲストルームになっています。その両側には普通警備の者が入りますので今回は戦艦金剛様と比叡様でまず一部屋。その反対側には航空戦艦の日向様と空母赤城様が入られます」

 

「なるほど」

(私の部屋は艦娘がいる二部屋に挟まれる格好だな)

 

アレッと思った私は質問した。

「ちなみに龍田さんと夕立の部屋は?」

 

「お二人は一階になります。お強いですし」

彼女は微笑んだ。

 

「細かいな」

(なるほど、ああいう実戦系は階下になるのか)

 

私自身、提督になってから間が無いし外遊の真似事も初めてだ。こういう待遇には、ただ「へぇ」と感心するしかない。

 

五月雨はカードキーを取り出すとドアのロックを解除した。軽い電子音と共に閂(かんぬき)が外れるような音がした。

「ゲストルームは厳重だな」

 

「はい」

そして私は五月雨に続いて部屋の中に入ると自動で明かりがついた。まるでホテルだ。

 

ざっと部屋の中まで案内をした後、彼女は一礼をした。

「非常時の連絡は内線電話を上げて頂ければ当直班に通じます。明日は07:00の出発と伺っております。朝食は食堂にて06:00から準備致しておりますので明日改めて、ご案内します。以上……です」

 

五月雨は敬礼をした。よく頑張ったな。

 

「ありがとう。もう良いよ」

私が言うと彼女は少し恥ずかしそうな表情をしてから一礼をして部屋を出た。

 

彼女が入口の少し重たいドアを閉めると自動で施錠される音が響く。あとは静寂。

「やれやれ……」

 

子供っぽいかと思ったが私はフカフカのベッドに勢いよく飛び込んでみた。バフッという音と共に私は布団に沈み込む。

「うん幸せ」

 

バカみたいだが、そんな台詞を言ってみたかった……まさかこの部屋に盗聴器は無いと思うが、あったとしても構わない。

 

ベッドの上で身体を回転させた私は仰向けに天井を見詰める。空調が利いているらしく窓は閉まっているが快適だ。もったいない、分不相応な居心地の悪さを感じる。

 

(なぜ私は、こんな接待をされて提督としてここに居るのか?)

ふと自問してみたが上からの命令だ。考えても仕方が無いだろう。

 

それに、こういう経験は積極的にしておいたほうが今後、美保鎮守府にゲストを迎えたときにも多少は良い接待が出来そうだからな。

 

「この前迎えたのは若い作戦参謀だったから大して気を使わずに済んだよな」

自分を正当化するように私は呟いた。

 

ふと横を見るとツインのベッドだった。私は半身を起こして改めて部屋の中を見た。

(ケッコンして嫁艦がいる提督だったら奥さんと一緒に泊まるんだろうか)

 

しかし私には嫁は居ない。だから今夜は、この部屋に独りだ。ちなみに秘書艦である祥高さんは廊下の反対側に独りで泊まっている。

 

ケッコンしていなくても秘書艦を嫁のように侍らせている提督も居るらしいが、さすがにそこまでの根性も無いし関係もない。

 

普通なら、このまま寝ていただろう。しかし何かが心に引っかかって落ち着かない。

 

(何だろう、これは?)

そう思いつつ私は何気なく入口のドアを再び開けてみた。

 

「あれ?」

廊下の先の窓辺に五月雨がまだ居る。

 

(別に誰かと交信しているわけでもなさそうだが)

そう思ってジッと見ていると彼女は、気配を感じたらしい。

 

「あ」

といって振り返って私と目が合った。

 

「す、済みません。すぐに戻ります」

激しく頭を下げ慌てて、その場を去ろうとする。

 

そんな五月雨を私は思わず呼び止めた。

「あ、いや。ちょっと……」

 

「はい?」

彼女は、なぜか嬉しそうな……いや逆に困惑したかのような複雑な表情を浮かべている。一瞬、時が止まる。

 

私も、なぜ呼び止めてしまったのか?

(廊下で見た彼女の後ろ姿が、何となく寂しそうに見えたんだ)

 

これは言い訳だな。でも何か放って置けない気持ちになったのだ。

 

……ただ艦娘とはいえ今この時間に私の部屋に彼女を呼び入れたら?

それはつまり男性提督と夜の密室に二人っきりということになる。

 

(さすがに、まずい)

これが知れたら激しい誤解を招きかねない。いや、そういうのが発覚しても平気な人は良いが私には無理だ。

 

(うーん、どうしようか)

……と思っていたら急に向こうのドアが開いて日向が顔を出した。

 

「戻ったのか……司令」

ドアから半身、身を出している日向。とてもラフな……パステルカラーで少しフリフリの付いた寝巻きのような格好をしている。新鮮だ。

 

「なんだお前、まだ寝てなかったのか?」

取ってつけたように私は言う。自分でも何を聞いているのか良く分からない。

 

ただ彼女もまた取って付けたように答える。

「す、済まない……司令」

 

妙な会話だな。私は慌てて否定した。

「いや別に、解散後の各自の行動までは規制してないから構わないが」

 

お互い、やり場のない妙な雰囲気。誤魔化すように日向は言う。

「同室の赤城は、さっさと寝てしまってね……」

 

「そりゃ、さっきのご飯を食べすぎだよ」

そう言ってお互いに苦笑する。妙に噛み合わない会話だ。

 

私は廊下の五月雨を気にしながら日向に言った。

「そ、そうだ日向、実は相談だが……」

 

「ハッ」

直ぐに廊下に出て直立不動の姿勢を取りかけた彼女。だが自分が軍服ではなく寝巻姿であることに気付いて、あっと叫ぶ。

 

「司令……す、直ぐに着替えて来る!」

あたふたと自室に引き返していった。

 

(残念! そのままでも良かったのに……)

ダメか。

 

「ちょっと待っててくれ」

私は五月雨に言う。

 

「はい」

彼女は少し嬉しそうに答えるのだった。

つくづく艦娘が男でなくて良かった……私は、そんなことを考えていた。

 




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EX回:第24話(改2)<夜のGR>

廊下で日向に出会った司令は彼女と五月雨を部屋に呼び入れることにした。



 

「制服の方が良かっただろうか」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第24話(改2)<夜のGR>

※GR(ゲストルーム)

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「司令、待たせた」

直ぐに日向は着替えて出てきたようだ。背後でドアが開く音がした。

 

「休んでたのに済まないな」

私は振り返る。

 

「命令とあらば、別に気にする事は無い」

そこで驚いた。

 

Tシャツ姿のまま軽く敬礼していた彼女が居た。

(Tシャツ?)

 

てっきり日向は制服(軍服)で出てくるとばかり思っていた。

 

固まっている私を見て彼女怪訝(けげん)な顔をした。

「司令?」

 

日向は一瞬、考えたようだ。少し困惑した表情になった。

「済まない司令、制服の方が良かっただろうか」

 

「あ、あぁ。いや気にするな」

私は答えた。

 

「うっかり替えを一着しか持って来てなくてだな」

自分のTシャツを見下ろしながら言い訳のように呟く日向。

 

私も頷く。

「あぁ、久々の演習だったからな」

 

その言葉に初めて彼女は恥ずかしそうな顔をした。恐らく一着しかない制服は洗濯して干したのだろう。

 

日向と私がイマイチかみ合っていない対話を繰り返している間も五月雨は黙っていた。本当に大人しい子だな。

 

その大人しい彼女をチラッと見ながら日向が聞く。

「で、用件は何だ?」

 

「あぁ、このブルネイの五月雨が気になってね。君を交えて話が出来るかな? ……と思って」

「なるほど」

日向は淡々としている。

 

(青葉サンみたいにアレコレ詮索してこないから楽だよな)

 

私たちの妙な会話にも多少は慣れてきたのだろう。

五月雨も声を出した。

「あの……」

 

「あぁ、無理強いはしないが、ちょっと話を聞かせて貰いたいな」

私が言うと彼女は下を向いて応える。

 

「……はい」

 

「よし……じゃ、どうぞ、どうぞ」

私はゲストルームの重い扉を開けて二人を招きいれた。

 

「では失礼する」

「失礼致します」

日向と五月雨は軽く頭を下げて室内へ入る。

 

私は二人に続いて部屋に入る前に、念のために廊下を確認した。

 

(……どこにも青葉さんは居ないよな)

 

そして、ゆっくりと扉を閉めた。

 

改めて室内を確認してみると内装は地味でも派手でもない。あの大将らしい気配りが随所に感じられた。

 

思わず声が出る。

「小洒落た雰囲気だな」

 

日向もゆっくりと室内を見渡している。

「……そうだな、ちょうどさっきまで居たバーを、もう少しシンプルにしたような雰囲気とでも言うか」

 

(なかなか鋭い意見だな)

 

部屋の中央には、ゆったりした応接セットも備えられていた。

 

「自由に座ってくれ」

私は2人を促した。日向と五月雨は軽く会釈をしながら、それぞれ着席した。

 

五月雨は、こういう部屋にゲストとして招かれてるのは初めてらしい。ちょっと緊張して固くなっている。

 

いろいろ経験の豊富そうな日向が言った。

「そんなに緊張する必要はない。司令は、とても気さくな方だ」

 

「は、はい」

五月雨は恥ずかしそうに頷いて、ちょこんと座った。

 

「さて……と」

私は小さ目の冷蔵庫の中を開けてみる。

 

「中には、えっと……おつまみがイロイロと、飲料がたくさん……」

 

あまり飲食物には頓着しない私にとって名前も知らない物ばかりだ。

(ほとんど日本語じゃないし)

 

まぁ、大将のことだ。味は折り紙つきだろう。

 

冷蔵庫だけでなく小さなキッチン周りにも小棚があって珍しそうな酒が入っている。だが……私も日向もアルコールは飲まない。

 

もちろん五月雨も仮に飲んだとしても……私たちが勧める訳にはいかない。だから今夜はスルーだな。

 

(実際、今夜は会話が主だ。酒がなくても十分だろう)

 

それに明日も出発は早い。二日酔いなんて出来ない。

 

私があちこちチェックしているのを見てチラッとこちらを見た日向が立ち上がった。

「司令、私が準備しようか」

「あぁ、そうだね……じゃ飲み物と簡単なつまみでも」

 

「分かった」

こういうとき艦娘は助かる。私は日向と入れ替わるようにソファに座った。

 

 




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EX回:第25話(改2)<一つの船>

司令は大将への恩返しも含めて五月雨の行動の原因を聞いて見るのだが、意外なことに……


『目に見えない物ほど、永遠に残る……』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第25話(改2)<一つの船>

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私が五月雨の対面に座ると彼女は居心地悪そうにしている。

「あの、済みません。何だか私……」

 

「気にしなくて良いよ」

私は応える。

 

「私が勝手に君を呼んだんだ」

「……」

そんな澄んだ瞳で見詰められるとドキドキしてくるな。

 

だけど私自身、ちょっと意地悪をしてみたくなってきた。

「もっとも私は軍人だ。たとえ友軍であっても情報は生命線だから君から何か聞きだそうという側面も無いとは言えない」

 

「!」

この言葉に少し引いている五月雨。

 

「そう硬くならなくて良いよ」

私はソファに深く腰かけて言った。

 

「本当の所は君の後姿が寂しそうに見えたこと。それに『あの発言』も気になって……」

「……」

何も言わないが五月雨の感情が動いているのが分かる。

 

私は続ける。

「君に何か心配事があって、もし私でも手助できるなら大将……ここの提督への恩返しにもなる」

「……」

 

五月雨の表情が少し明るくなる。本当にこの子は量産化された艦娘なのだろうか?

【挿絵表示】

 

こういう姿を見ると艦娘が単なる機械だとか兵器という認識は誤っていると思わざるを得ない。

 

私はそんな気持も含めて彼女に説明する。

「海軍は一つのクルーだ。全員が同じ船に乗っているようなものさ。だから誰かの心配は他の皆の心配でもある」

 

「それ、なんとなく分かります」

五月雨は明るい口調で言った。

 

「そうか、それは良かった」

なぜか私もホッとした。彼女に説明をしながら自分でも妙に腑に落ちるのだった。

 

日向が飲み物とつまみ類を持ってきた。

「外国語は苦手だが……味はソフトドリンクだ。酒ではない」

 

「ああ、有難う」

日向は、それぞれの前に飲料を配って着席した。

 

「Tシャツとは、新鮮だな……」

私は、つい言ってしまう。

 

「は?」

「もとい。付き合って貰って悪いな」

「気にしなくて良い……私もこの子に少し興味が湧いた」

日向の言葉に五月雨が反応した。

 

私はそれを受けて口を開いた。

「五月雨……君の一緒に行きたいという発言には、ちょっと驚いたよ」

「済みません」

「いや……そもそも、ここでの勤務に何か不平や不満でもあるのか?」

私は単刀直入に聞いた。

 

「接待が負担なのか」

日向も気になるような表情をしている。

 

だが五月雨は激しくかぶりを振った。

「いえ、とんでもないです。皆さん良くして下さいますし武蔵さんのような、とても素晴らしい先輩も居られます」

 

「……だよな」

私はソファに座り直した。

 

ここは人間関係(艦娘関係)に問題があるような鎮守府ではないだろう。そんなギスギスした雰囲気は微塵も無い。

 

「ただ……」

グラスを見つめて五月雨は言った。

 

「提督……貴方とは何処かで、お会いしたような……うまく説明出来ないのですが懐かしい感じがしたのです」

「うーむ」

私はチョッと考え込んだ。

 

「美保にも五月雨は居たはずだが」

日向もボソッと呟く。

 

艦娘の個人的な体験や記憶がリアルタイムで他の艦娘に同期(シンクロ)するという話は聞いたことが無い。

 

美保鎮守府の五月雨がオリジナルの艦娘なのだろうか?

良く分からないが恐らく量産化してもそれは同じだろう。

 

私は自分でも整理するように口を開く。

「もちろん武蔵様のように、かつての艦船時代の記憶が艦娘の深層心理に定着しているらしいことは事実だが……」

 

二人の艦娘も黙っている。

 

少なくとも、かつて艦娘が出現する以前の時代に私は存在していない。

私の父親は空軍だったが彼だって先の大戦中は、まだ子供だったはずだ。

 

そのとき私には、なぜかあの武蔵様の台詞が頭の中で繰り返し再生される。

『目に見えない物ほど、永遠に残る……』

 

それは過去とか前世の記憶のことを指して言ったのだろうか?

あるいは現在でも楽しいことや哀しいこと……そういった感情は消し難いものだから、いつまでも残るのか?

 

グラスの氷が、溶けてカチャッと音を立てた。

 

 




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EX回:第26話(改2)<来訪者>

突然、部屋のドアがノックされ新たな来訪者が現れた。それは……。


「命を落としたとしても、口外禁止だ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第25話(改2)<来訪者>

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 その時、誰かが部屋のドアをノックした。

「こんな時間に誰だ?」

 

ふと嫌な予感がする。

「……まさか憲兵?」

 

「司令、考え過ぎだ」

私は苦笑した。彼女は冷静だな。

 

「司令、私が出よう。刺客という可能性もある」

そう言いながら日向は腰刀を手に立ち上がる。

 

(怖っ!)

私は驚いた。

「おいお前、それいつも持ち歩いているのかよ」

 

「ああ」

「そんなラフな格好でも?」

「当然だ」

私をチラ見しつつ入口の方へと向かう彼女。

 

(戦闘バカ?)

私の脳裏を、そんな言葉が過(よ)ぎった。

 

バカといえば美保の川内も、その部類かも知れない。だが日向は寡黙なだけに凄みがある。

 

「頼むから他所の鎮守府で流血惨事だけは避けて欲しい……」

私が聞こえよがしに言うと五月雨が目を丸くしていた。

 

「どちら様?」

刀に手をかけたまま入口で日向が小声で聞く。

その様子に私は、しまったと思った。

 

もし相手が、この部屋に私が居ることを知って尋ねてきたのなら、中から女性の声がしたら変な疑いを抱くだろう。

 

「……」

私の不安をよそに相手は何か答えたようだ。

 

日向は覗き窓から確認した後、振り返った。

「司令、技術参謀だが……どうする?」

 

そりゃ、答えるまでも無いだろう。

「入れてくれ」

 

「了解……」

日向はドアを開けた。

 

「ご苦労」

そう言いつつ入ってきたのは紛れもなく技術参謀だ。

 

彼女は日向が腰刀を手にしているのをチラッと見ても、まったく動じなかった。

ある面そういう物騒なものが彼女の身近には、常に在るんだろう。なにせ動く国家機密なんだから。

「スマンな司令。明日、発つことで打ち合わせをしておく必要があってな」

 

「ハッ。失念しておりました」

技術参謀もTシャツだぞ。女性ってのは臨機応変なんだなと妙に感心する。

 

そんな私の気持ちを察したのか彼女は言った。

「司令、もっと肩の力を抜け。疲れるぞ」

 

私は苦笑した。

(貴女に言われたく無い)

 

「よいしょっ」

彼女は空いているソファに腰を沈める。

日向は簡易キッチンで新しい飲みものを準備している。

 

「寛代がやっと寝てくれてな」

そういう彼女は母親の顔をしていた。

 

だがすぐに、いつもの参謀フェイスに早変わりした。そして敬礼をしようと立ち上がりかけた五月雨を制した。

 

「五月雨、本来ならお前た同席すべきではないが特別に許可する」

「はい」

「ただし、これから交わされる内容は一切他言無用。敵に捕まって拷問され命を落としたとしても口外禁止だ」

 

(おい、いきなりそこまで言うか?)

可哀想に五月雨は震えだしている。

 

それを見た技術参謀。

「嫌なら、退出しても良い」

 

(追い討ちをかけるなんて趣味が悪いな)

一瞬、部屋の空気が張り詰めた。

 

だが技術参謀は直ぐに柔らかい表情に戻った。

「スマンな五月雨。私の職業病だ……口外無用なのは事実だが」

 

そこで参謀は一呼吸置いた。

「お前は海軍を信頼しているのか?」

 

五月雨は、かすれたような声で答える。

「はい」

 

技術参謀は、深く腰をかけた。

「それなら良い。我々はクルーだからな」

 

それを聞いた五月雨は、急に明るくなって

「はい!」

と応えた。

 

それを見た技術参謀は笑った。

「良いぞ」

 

(何となく技術参謀って青葉さんに似てないか?)

私は、そんなことを思っていた。

 

きっと、この二人は諜報活動中も意気投合して情報収集していたのだろう。夕張さんも恐らく同類だし。

 

私は独りで苦笑した。

 




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EX回:第27話(改2)<策士>

明日、ブルネイを発つ打ち合わせを技術参謀と行う司令。しかし日向も五月雨も、眠気には勝てず……


 

「あいつは策士だぞ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第27話(改2)<策士>

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作戦参謀は言った。

「美保のお前たちは気付いていただろう。ここブルネイの鎮守府が妙だと言う事」

 

私は頷く。

五月雨は、きょとんとしている。

 

技術参謀は腕を組んだ。

「結論から言えば、ここは未来だ。我々は数十年先に来ている事は明らかだ」

 

五月雨は目を丸くしているな。無理も無い。

構わず参謀は続ける。

「いわゆるタイムスリップってやつだな。こんな現象は映画か小説でしかあり得ない。だが私は工廠で調査して、それを確信した」

 

(調査ではなく、諜報活動だと思うが)

そんなことを思った。

 

「……まあ良い、起きたことは仕方ない。問題は、どうやって帰るかという一点だ」

私は安堵した。

 

工廠をほじくり返したヤバイ話が出るのではないかと冷や冷やしていたのだ。

(余計なことは聞かないのが一番だ。国家機密かも知れないし)

 

私は、そんなことを思いながら意見を言ってみた。

「よくあるパターンとして、来た道を帰るという方法がありますが」

 

すると意外にも技術参謀はひざを叩いた。

「おぉ、それだよ! 良く分かっているじゃないか」

「え? ……やっぱり、そんなノリですか?」

 

彼女は腕を組んだ。

「もっと厳密に言えば、あの二式大艇の航路を逆に辿る。その際、あの時と同一の気象条件が発生すれば、まあベストだが」

 

私は昔見たSF映画を思い出した。あれは米国の空母がタイムスリップしてた。もちろんそれは艦娘ではない。ただ、その後で米軍の空母が我が国の戦闘機とドンパチやっていた。どういう経路であの映画ソフトを入手したのか忘れた。誰かが密輸したらしいが……あの通りになって欲しくないものだ。

 

私の妄想には構わずに彼女は続ける。

「気象条件に関しては、運次第だ。しかし日本と違い、この辺りは年中同じような気象条件だから、逆の航路を行けば、来たときと同じ現象が起きる確率は高い」

「なるほど。それは希望的ですね」

 

その時、日向が参謀のお茶を持ってきた。

「どうぞ」

 

「ああ、助かる」

互いに軽く会釈をして、お茶とおつまみを置いた彼女も空いたソファに座った。参謀も話して喉が渇いたのだろう。出されたお茶を一気に飲んだ。

 

それから改めて彼女は口を開いた。

「何が原因でこうなったかは分からん。ただ外的に同じ条件をそろえること。つまり同じ機体、同じメンバーで逆を行けば何かの引き金になって同じ現象が発現する可能性は、かなり高いだろう」

 

私も、こういった話題は好きなんだが既に五月雨はボーっとしていた。

ま、上(うわ)の空で聞いて貰った方が本人のためだろう。機密事項かも知れないし。

 

「ただ、ちょっと情報を調べて気にったのだが」

「調べた?」

嫌な予感がした。

 

「何だその顔は?」

「いえ……」

 

彼女は一呼吸置いた。

「この時代は情報網が発達しているようでな。ここの予定表から、この時代の省のデータベースまで、ちょっと侵入したら簡単に分かった」

「ちょ、ちょっと! 勝手に入ったんですか?」

「いちいち驚いた顔をするな! 気色悪い。だいたい省の基幹システムの設計は私だぞ? 軍のフレームなんて、そう簡単には変更されないからな。まぁ言ってみれば自分の庭みたいなものだ。パスワードくらいなら破るのは簡単だ」

 

「怖い人だ……」

技術オタク、いや「神」か。

 

なおも得意気に成る参謀。

「ふふふ面白かったぞ。この時代の私もまだ省に居るらしくてな……冗談で自分にメールを送ってやった」

「ちょっと、それはやりすぎでは?」

「なんだ?技術者の好奇心と呼んで欲しいな」

「付き合いきれません」

 

私に突き放された参謀は、ちょっと残念そうな表情になった。だが改めて眼鏡をかけ直した。

「気になるのは……司令も知っているだろう、ここに来るはずだった部隊も美保鎮守府であり時期も年代が違うだけで日付が符合しているという偶然の一致だ」

「ほう技術参謀もご存知でしたか?」

「当然だ。気持ち悪いくらいの偶然だな」

 

ここまで来てふと見ると五月雨も日向もウトウトしている。オタクな会話が続いているからな。

 

技術参謀もそれを見ると、急に雰囲気が変わった。

「寝たな……おい、もう少しこっちへ寄れ」

「変なことしないで下さいね」

「お前は馬鹿か? チョッとは学習しろ! あんなことも、こんなこともせんわ!」

「済みません。学習能力ゼロです」

「いいか」

 

技術参謀、小声になる。

「あの武蔵の言葉を覚えているか?」

「はい……目に見えない物という」

 

当てずっぽうだったが参謀は頷く。

「そうだ。あの言葉の如く、あいつは策士だぞ」

「というと?」

 

彼女は深呼吸をした。

「目に見えない物ほど永遠……これは要するに電子データを象徴した言葉でもある。あの時、返すように言われたモノはなんだったか、覚えているか?」

 

私は、ハッとした。

「返却した資料は全て『目に見える書類』だったとか……」

 

技術参謀はニタリとした。

「つまり、あいつは我々が取得した情報のうち目に見えない電子データや艦娘の脳内データについては一切、咎めないと暗に伝えていたのだ」

 

「ひゃあ、そうだったのですか!」

私は驚愕した。

 

だが技術参謀は、ひとこと渇を入れる。

「このくらい悟れ、ばか者」

「はい、済みません」

 

……しかし私を叱責しながらも参謀は嬉しそうな表情をしている。

「やはり帝国海軍のトップクラスの戦艦は根本的な志が違うよな。同性ながら惚れる」

 

「艦娘と参謀が同性?」

私は複雑な気持で呟いたが、参謀は何も言わなかった。

 

既に日向と五月雨はソファで爆睡中だった。二人とも寝顔は可愛いな。

まぁこんな時間だ。しばらく休んだら良い。

 

 




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EX回:第28話(改2)<暁の水平線>

技術参謀から怒涛の暴露情報を浴びせられて半ばダウンする司令。そして朝を迎えた。


 

「美保は特殊なところだ、少しは自覚しておけ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第28話(改2)<暁の水平線>

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 ふと窓を見ると、いつの間にか空が明るくなってきた。時計を見ると、もう4時を回っている。

 

軽くため息をついてから作戦参謀は言った。

「私もそろそろ部屋に戻る。お前も少しでも休んでおけ」

「ハッ」

 

彼女は立ち上がって窓の外を見た。

「今日はどんな事態になるか正直、予想できないからな」

 

私は敬礼した。技術参謀は特別職だが本省勤務であり元艦娘の実戦部隊だったらしい。下手したら階級だけでなく実力も大将より上かも知れないのだ。

 

 彼女は出口へ向かう。私も見送りで後に従った。

 

「あ、そうだ」

扉の前で部屋を出かけた彼女は急に立ち止まると私を振り返った。

 

「寛代のことだが」

「はい」

真剣な表情だ。

 

「イロイロ迷惑をかけるだろうが今後も頼む」

「ハッ」

参謀は珍しく恥ずかしそうな表情を見せた。

 

「私がこんな性格だからな。あの子は口数の少ない大人しい娘になってしまった……だが、お前には懐(なつ)いている」

 

「えぇ、それは成り行きというか偶然というか」

「フッ、それでも構わん」

彼女はアゴに手をやりながら私の顔を見詰めた。

 

そして意外な事を言う。

「お前は亡くなった私の亭主に雰囲気が似ているからな」

「は? ……あ、いや恐縮です」

 

ドアノブに手をかけた彼女は、また振り返った。

「それと美保の祥高だが」

「はい」

「あいつは私の妹だ」

 

「え! そ……」

絶句というのは、こういうときに出てくるのだと実感した。

 

だが私は思わず(全然似ていないのだが……)と思っていた。その考えを悟ったように参謀は続けた。

「真ん中の子は大人しくなるというが……あれも不器用でな。頑固で融通が利かないところもあるが、よく協力してやってくれ」

 

「はぁ」

驚いた私を見た彼女は、あれ? という顔をしていた。

 

「なんだ、もう気付いているかと思ったぞ」

「はぁ」

 

参謀は、ため息をついた。

「相変わらずだな、お前は」

 

ドアノブから手を離した彼女は腰に手を当てた。

「だが、よく考えてみろ。実験隊とはいえ単なる重巡が簡単に提督の代理をするわけ無いだろう。そもそも許可が下りないのだ」

「まぁ、仰るとおりです」

 

そこで彼女はニタリとした。

「だがな、そこは軍なれども同族故の縁故人事が通用するのだ」

「え?」

 

(軍隊で縁故人事なんて、そんなのアリ?)

私は苦笑した。

 

すると彼女は言う。

「疑っているか? だいたいお前の人事だって……」

 

勢いで何かを言いかけた参謀は一瞬、応接室の日向たちを窺(うかが)った。

 

大丈夫だと思ったのだろう。それから急に小声になって言った。

「関係者で密談して私が決めたんだ。美保は……そういう特殊なところだと少しは自覚しておけ」

 

「はっ」

さっきから凄まじい暴露情報だ。私の混乱にも拍車がかかる。

 

「じゃあな」

何も言えなくなった私を尻目に技術参謀は退出して行った。どこまでも男勝りの人だ。

 

「はぁ」

まるで魂でも抜かれたようにフラフラと応接室に戻った私は既に混乱していた。そのままソファに沈み込むとボンヤリと正面と左手に座っている五月雨と日向を見た。

 

(艦娘の寝顔なんて貴重だな)

そんなことを考えていた。だが混乱と睡魔で、それを堪能する気力も無かった。

 

私の邪心は「もったいない」と叫ぶが、いつの間にか意識を失った私はウトウトしていた。

 

「も、戻ります! 失礼いたします」

五月雨の敬礼で目が覚めた。時刻は4時半を回っていた。

 

「……あ、食事だな」

私が寝ぼけ眼(まなこ)で応える。

 

彼女は慌てたように言う。

「は、はい! 宜しければご案内しますが」

「そうだな」

 

私は軽く伸びをして立ち上がる。ふと見ると日向の姿は既に無かった。テーブルの上もキッチン周りも、すべてキレイに掃除されていた。

 

(さすが日向)

ぶっきらぼうに見えるが押えるところはキッチリしている。

 

 五月雨と共に私は廊下へ出た。

 

すると計ったように他の部屋の金剛姉妹に赤城さん、日向そして祥高さんたちも廊下に出て来た。

 

『おはようございます』

私に向かって敬礼をする。

 

私も敬礼を返しながら五月雨に続いて明るくなった廊下を歩いて行く。

 

「食堂は一階にあります」

「あぁ」

階段を降りると廊下で龍田さんや夕立と合流した。

 

 そのまま歩いていると夕立が窓の外を見て歓声を上げた。

「見てみて、すごくキレイっぽい」

 

窓の外は空がブルーからオレンジ色に鮮やかな諧調変化を見せている。

 

「キレイ」

「ほぉ」

赤城さんや日向が感嘆する。艦娘たちは窓辺に集まる。私も彼女たちに合わせて、立ち止まった。

 

 東の空は水平線に幾つもの雲がラインを描き、そこにまだ見えぬ朝日が当たって放射線状に灰色の旭日旗を描き出している。

 

「この世のものとは思えないな」

果てしなく美しい光景だ。

 

「こんなところで戦闘が行われてきたのね」

「信じられない」

龍田さんと夕張さんもしみじみと言う。

 

青葉さんは植え込みに片膝をついて風景や艦娘たちを連写している。

 

 確かに、この美しい暁の水平線の向こうには多くの犠牲が横たわっている。つまり今の平和は、その上に成り立つ血塗られた歴史なのだ。

 

そういった先人の志を受け止める覚悟無しに海軍の防人は務まらないだろう。もちろん艦娘たちも同様だ。

 

 だが私は彼女たちを信じている。無邪気に暁の水平線を眺めて歓声を上げるこの娘たちも単なる少女ではなく高い志を受け継ぐ現代の防人たちだ。

 

そもそも自然の景色に感動できる感性があることは、それだけ深い心情の世界を持ち合わせていることになる。

 

そんな彼女たちに、わが国と世界の運命が託されているのだ。そして私は彼女らを束ねる指揮官だ。

 

 艦娘だけでも人間のみでも、この重大な使命は全うできない。まさに私たちは一蓮托生だ。

 

それは美保鎮守府という特殊な場所であっても変わらない。むしろ私たちに課せられた期待の大きさを自覚してさらに前進していきたいと思った。

 

「司令」

祥高さんが時計を見ながら声をかける。

 

頷いた私は彼女らに声をかけた。

「そろそろ行くぞ」

 

『はい』

艦娘たちは返事をした。一人ひとりがとても輝いて見えた。

雄大な自然の前では人も艦娘も素直になるのだろう。

 

 そして海の向こうに朝日が顔を出した。

 

 




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EX回:第29話(改2.1)<旅立ちの朝>

司令たちはブルネイの鎮守府を出発する。早朝で寂しい見送りかと思っていたが、そこでは意外な事が起きるのだった。


 

「また飯が食いたくなったら、遊びにくりゃいい」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第28話(改2.1)<旅立ちの朝>

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「こちらが食堂です」

 五月雨に案内されて私たちはブルネイの早朝の食堂に入った。まだ朝早いから食堂は、がらんとしていた。

 

開口一番、感想を言う青葉さん。

「やっぱり広いですねえ」

 

「規模が大きいンだから当たり前よ」

夕張さんが呼応する。

 

五月雨が言う。

「済みません、早朝で配膳する者が居ませんので皆さんセルフでお願いします」

 

「あぁ」

私は答える。

 

そこにはパレットに山のように積んであるパンや紙パックの牛乳があった。

 

「アハァ、この雰囲気は何処も変わらないっぽい」

夕立が妙に感心している。

 

「では各自で自分の食べる量を取って下さい」

秘書艦の指示で美保の艦娘たちは近くの配膳テーブルに向かう。

 

 私は自分でパンと牛乳を取ると祥高さんと同じテーブルについた。

ほどなくして「相席するぞ」と言いつつ作戦参謀と寛代が来た。

 

「普通なら我々にはルームサービスとか、あるんだろうけどな」

参謀は言った。

 

「この方が気楽で良いですよ」

私は応えた。

 

ふと私は祥高さんが妹なのか改めて聞こうと思ったが参謀が特に何も言い出さないので黙っていた。祥高さん本人にも聞き難い。

 

 やがて朝食を終えた私たちは五月雨の案内で鎮守府の港湾部へと出た。

埠頭には南国の心地よい風が吹いている。

 

早朝の鎮守府全体は静まり返っている。賑やかだった昨日の秋祭りがウソのようだ。

 

寛代が何かをブツブツと呟き、それを技術参謀が聞いている。

「二式大挺は少し沖合で暖機運転をしているようだ」

 

「機体の担当も早朝から大変ですね」

さすが参謀付きの機体は違うな。

 

「当然だ……操縦士の報告では、すべて問題ないそうだ」

 

 私たちが、そんなやり取りをしていると向うから大柄な指揮官がやってくる。

 

早朝だからと丁重にお断りしたのだが大将が、わざわざ見送りに出てきてくれたのだ。恐縮だな。

 

 彼は私たちの近くまで来ると朝日を浴びながら敬礼して言った。

「こんな朝早くなモンでな。本来なら鎮守府総出で見送るべきなんだろうが……」

 

「いえいえ、そんな事されたら逆に気を遣いますから。このくらいがちょうどいいです」

私は応えた。

 

 彼の後ろを見ると大淀さんと昨日の演習メンバーが居る。それに若干、眠そうな川内だった。

 

(そういえば昨夜は、いろいろあったからな)

私は申し訳ないと思った。

 

 直ぐにキャッキャという声がして今回の演習メンバー同士……双方の金剛と比叡が4つ巴(どもえ)で艦娘の友情を暖めている。

「何やっても賑やかで、ややこしい連中だな」

 

私が言うと秘書艦も苦笑した。

 

 日向や赤城さん、それに龍田さんは、お互いに静かに会話している。

ブルネイの夕立は改2だから明らかに格上だ。美保の夕立は頭を撫でられて複雑な表情をしている。妙な構図だな。

 

 一方の青葉さん同士は、なぜかあまり交流してないな。先方の青葉さんは妙に膨れてるし。こちらの青葉さんは撮影で忙しい……。

 

 実はさっき先方の川内から未使用のフィルムが青葉さんに返却されたのだ。それは良かったのだが「記者同士」は競争意識が働くのだろう。あまり馴れ馴れしく、しないようだ。

 

 改めて同じ顔ぶれが双方に居る図式は不思議だ。違和感があるが、こちらの時代になれば当たり前なのだろう。

 

 私は頭を下げつつ大将に言った。

「今回は突然の来訪で申し訳なかったです」

「いや、いいさ。俺としても貴重な体験だったしな」

 

そう言いながら私たちはガッチリと握手を交わした。青葉さんは盛んにシャッターを切っている。

 

大将は続けた。

「それに、また飯が食いたくなったら、遊びにくりゃいい」

 

それを聞いて私は一瞬、考えから笑いが込み上げてきた。

「アハハ……かなり遠いと思いますけど」

 

(空間だけではない。時間も越えたんだ)

 

 日が昇るにつれて気温が上がり、風が出てきた。

 

パタパタという衣擦れの音に振り向くと技術参謀は、いつの間にか白衣を着ていた。

「何ですか? それは」

「私の普段着みたいな物だ……というよりは、私なりの礼服だな」

 

「はぁ」

この人の精神構造はやっぱり分からない。

 

その横には長い髪を風になびかせた寛代だ。相変わらず静かにしていたが受電したのか参謀に何か話しかけている。

 

頷いた参謀は全体に言う。

「そろそろ、出るぞ」

 

 埠頭からはブルネイの駆逐艦たちが敬礼をして内火挺への案内をする。こちらも準備OKのようだ。

「今日は……五月雨ではないようだな」

 

つい呟くと参謀は突っ込みを入れてくる。

「何か言ったか?」

「いえ」

 

「では全員、乗船だ」

「総員、乗船!」

秘書艦の祥高さんが指示を出し、日向が復唱する。

 

「ハッ、乗船開始!」

艦娘たちは一斉に内火挺に乗り込んでいく。私は大将に軽く会釈をして桟橋から船内へ。

 

「あれ?」

操舵手を見て、ちょっとビックリ。

 

「君は吹雪か」

「はっ、よろしくお願いします!」

吹雪は、どこへ行っても吹雪だな。

 

「頼むよ、吹雪」

私は少し微笑んで言った。

 

「は、はい!」

私は技術参謀と並んで提督席に座った。

 

「出します!」

埠頭のロープを外し内火挺のエンジン音が高まった瞬間だった。

 

「総員、敬礼!」

「あれ?」

 さっきの金剛だろうか? ……誰かの号令と共に埠頭に面した鎮守府の宿舎の扉が全て開け放たれる。そして中に居た200名を越えると思われる艦娘達がどーっと、駆け出して来た。

 

「見て見てぇ」

「わぁ、凄いっぽい」

船内の艦娘たちも振り返る。

 

ブルネイの艦娘たちは各自、宿舎の前や通路、それに岸壁にズラッと整列すると一斉に敬礼をした。大将を含めて鎮守府総員か?

 

「これは圧巻だ」

思わず感嘆の声が出る。

 

 私と技術参謀以下、挺内の美保の艦娘たちもそれに応えて一斉に敬礼をした。ブルネイの埠頭で朝日を浴びる艦娘たち。

 

「青葉さん良い写真を撮ってね」

「任せてください!」

龍田さんに言われた青葉さんは、そう言いつつ盛んにシャッターを切る。うん、それでこそ青葉さんだな。

 

整列する双方の艦娘たちが勢ぞろいだ。連合艦隊の歴史に残り得る名場面だ。

 

「あれ?」

ざっと見た感じでは武蔵様が見えない。

 

なぜか隣の参謀が口を開く。

「彼女は敢えて、こういう場に出て来なくても許される雰囲気はあるな」

 

「そうですね」

私は同意した。

 

「今日は良い天気ネ!」

金剛の声を受けた港湾部の水面が朝日を反射してキラキラと輝いていた。

 

 




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EX回:第30話(改2)<お花畑>

司令たちの乗った二式大挺は、ブルネイの海を離水した。盛大な見送りと共に……。


「うわぁ、お花畑っぽいー!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第30話(改2)<お花畑>

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内火挺で改めて隣の技術参謀に聞いた。

「なぜ白衣を着て居られるんですか?」

 

彼女は含みのある笑みを浮かべた。

「ふっふっふ、ベタだろう? こういうの。マッドサイエンチスト定番の衣装。そうだな、これは一種のロマンといえるな」

 

「はあ?」

いつの時代の文化だよ、それは理解に苦しむ。技術者には変人が多いというのは本当なんだな。

 

「お前、私を馬鹿にしているだろう」

技術参謀は凄んできた。

 

「いえ、決してそのようなことは」

思わず座席の上で逃げ腰になる。

 

ところが彼女は、にじり寄って来ると周りを気にしながら小声で言った。

「本当はナ、これは目眩ましだ。いくら私の方が階級が上でも違う時代だ」

 

「はぁ」

イマイチ良く分からない。

 

彼女は続ける。

「しかもここで、あの筋肉マンの提督に疑われたら『永遠のデータ』が水の泡だ。私が不満そうな表情をしているのも、すべて演技なのだ」

 

「はあ……それは凄過ぎますね参謀閣下」

私は半分呆れている。

 

だが彼女はニタリとして続ける。

「青葉と夕張だがな。あいつらの本体内に記憶エリアがあるのは知っているだろう?」

「はい」

 

私たちは青葉さんと夕張さんを見た。

参謀は言う。

「Sラムで容量は小さいし、本来は戦闘のGPSや残弾とか燃料消費ログ用なんだが……そこに今回のマル秘画像や文書データを突っ込んでいる」

「はぁ」

 

「もちろん私のエリアにも多少入れてあるんだが、こっちには、わざとダミー、つまり囮が入ってる」

 

私は頭を抱えた。

「む、難しいんですけど、それは要するに自分に目をひきつけて、いざとなったら嘘データで誤魔化すと」

 

「そうだ、だいぶお前も学習したな」

笑う技術参謀……これって褒められているのかな?

 

 やがて内火挺は二式大挺に横付けされた。機内からは副操縦士が扉を開けて敬礼をする。私たちは次々と乗り込んだ。

 

技術参謀に続いて日向が船内の最終チェックをして私に報告。

「異常ありません」

「うむ」

 

彼女に続いて私が最後に乗り込む際ブルネイの吹雪が敬礼をして言った。

「道中のご無事を祈っています!」

 

「ありがとう」

私は敬礼を返して大挺に乗り込んだ。

 

扉を閉めると機長が全員に確認をした。

「皆さんベルトは、よろしいですか?」

 

日向が確認して報告する。

「司令、大丈夫だ」

 

「あぁ」

それを受けて私は機長を見た。彼は頷くと「出します」と言い副操縦士と最終確認後、操縦悍を操作した。

 

腹に響く発動機の回転音と共に機体は、ゆっくり動き出した。その間に私は着席してベルトを締める。

 

数分、港湾内を水上走行した後に窓の外に水平線が見えてきた。

「外洋か」

 

海軍に身を置く者として、やはり海は良い。特に水平線が見えると気分が高揚してくる。それは水上艇に乗っていても同じなのだな。

 

ブルネイの管制班と交信をしていた副長が言う。

「では、出発いたします!」

 

主の発動機に点火され二式大挺独特な始動音が鳴り響く。

 

「もう終わりって、あっけないっぽい」

「ホントね」

夕立と夕張は率直な会話をしている。

 

彼女たちの言う通り、この数日間は慌ただしかった。

ブルネイに到着してからも緊張する場面も多々あった。

 

それも気が付けば、もう終わり。確かに、あっと言う間に過ぎ去ったな。

 

 それは時間を飛び越えたから感じるのか?

 それとも、ここがブルネイだから?

 

「そんなこと誰にも分からないよな」

苦笑した私は腕を組んで窓の外を見た

 

やがて大挺は滑らかに水面を滑り出した。すると急に埠頭の方から大きな歓声が聞こえた。

 

(見送りかな?)

そのときは特に気にも留めなかった。

 

次第に機体は加速して離水。心地良い発動機の音が響く。

間もなくブルネイの海を下に望む高度になった。

 

「ひと回り、しましょうか」

機長が気を利かせ機体を大きく鎮守府の上空で旋回させる。

窓の外の赤い太陽が、ぐるりと廻り橙(だいだい)色に染まる地上が窓から、よく見えた。

 

「ねえ、見てみてぇ」

夕立の声に皆が窓から下を見る。大勢の艦娘たちが鎮守府の至るところから帽子や手を盛んに振っていた。

 

朝日を浴びた色とりどりの艦娘たち。その揺れる様は、まるで……

「うわぁ、お花畑っぽい!」

 

まさにそれはブルネイの地に咲いた可憐な、お花畑だった。

 

「艦娘たちの一途な気持ちの結晶だな」

私が思わず呟くと

 

「うまいこと言うな」

……と、技術参謀。

 

(あれ? 聞こえました?)

ちょっと恥ずかしかった。

 

機体はブルネイ上空を大きく旋回している。ここから見える海や町並みが綺麗だった。

 

「もうちょっと町とか出たかったです」

「Yes!」

金剛姉妹の意見も、確かに言えてるな。

 

 やがて外洋に一番近い埠頭の外側に、ひときわ目立つ青い髪の艦娘が見えてきた。

「……あれは五月雨だな」

 

彼女もまた必死に手を降っていた。あの可愛らしい声が聞こえてきそうだ!

 

私も思わず返したくなったが……無理か。ここは、機内だもんな。

 

(まぁ気持ちだけ)

私は、小さく手を振っていた。

 

「五月雨ちゃあん、有難ぉお」

【挿絵表示】

 

大声で叫ぶ夕立。こんなときはストレートな彼女の性格が羨ましく思える。

 

機長からベルトを外して良いという指示が出た。直ぐに誰かが近づいてくる気配がした。

「司令ぇ」

 

慌てて振り返った。

「なんだ青葉さんか。変な声出すなよ」

 

私の言葉に彼女はニタニタしている。

「何だ? その目つき……もう写真は良いのか?」

 

青葉さんは口を開いた。

「あの娘、密かに連れて来ちゃったら、良かったんじゃないですか?」

 

「なっ!」

絶句した。

 

「……何を言うか? そんなこと出来る訳が無いだろう!」

「まーた、またぁー」

「こら! 上官を小突くなっ! お前の肘、痛いぞ!」

 

すると夕張さんも加勢してくる。

「そうですよ、千歳一隅のチャンスを逃しちゃいましたねえぇ、あんな良い子」

 

「お前ら、調子に乗りやがって」

私の言葉にはビクともしない二人。

 

そこで私は奥の手を出した。

「あんまり、しつこいと、二人が武藏様の前でビクついていたことを戻ってから皆にバラすぞ」

『あー!』

「それだけは堪忍してください」

 

急に、仰け反って態度を変えた二人。

(そうか、あれが切り札に使えるのか)

 

「What? いったい何事ネ」

金剛が聞いてくる。

 

「なんでもない」

適当に誤魔化した。

 

ただ、もう一人の当事者……技術参謀も微笑(ほほえ)んでいた。

(相変わらず寛代は無表情だが)

 

(その笑顔に救われるな)

それで、すべて良しとしようか。

 

私は、透き通る海を眺めながら思った。加速する機体の振動が心地よかった。

 

 




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EX回:第31話(改2.2)<外洋へ>

技術参謀は今回の計画について全員に説明をした。しかし話し終わる間もなく敵襲となる。


「この時代でも外洋は敵の勢力圏かっ!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第31話(改2.2)<外洋へ>

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 全員を乗せた二式大挺は問題なく外洋へと出た。そして安定して水平飛行を続けている。

 

夕立がニコニコして言う。

「天気が良いっぽい!」

 

「来るときも、こうだったら良かったのにねぇ」

龍田さんが受ける。

 

それを聞きながら私は、晴天は普通なら喜ばしいことなのだが参謀の期待には反しているなと思った。

 

「皆、そのままで聞いてくれ」

技術参謀が立ち上がった。

 

「今回の計画について発案者である私から説明をしたいと思う」

艦娘たちは彼女を注視した。

 

(あ、そうか)

今更気付いたのだが今回の演習そのものは、本来の時代でも彼女が主導していたンだな。技術参謀だからデータ収集とかも必要か。

 

一瞬、カメラを構えようとした青葉さんは、さすがに遠慮してメモの準備をしている。やはり彼女は興味深々だな。

 

青葉さんを一瞬見た参謀は特に咎(とが)めること無く話を続ける。

「大まかに言うと美保鎮守府の選抜隊がブルネイまで飛んで公開演習をする……というのが基本的な流れだった」

 

恐らく私も含めて全員が初めて聞く内容だろう。

(急に国家機密とか話すんじゃないだろうな?)

 

ちょっと心配になった。

 

「いずれ明らかになる内容だから敢えて伏せずに話そう。いまブルネイでは艦娘の量産化に向けた研究が進んでいる」

機内の艦娘たちは、ざわつき始める。

 

参謀は淡々とした表情で続ける。

「その詳細は追って司令からも説明があろう。私が言いたいのはそこではない。皆も気付いたと思うが、あの妙なブルネイの鎮守府のことだ」

 

艦娘たちは互いに顔を見合わせる。中には頷(うなづ)く者もいる。

 

「結論から言えば我々は時を超えた……つまり未来のブルネイへ来ていたのだ」

再び、ざわつき始める機内。タイムスリップという概念が艦娘たちは理解出来るだろうか?

 

「静粛に、静粛に……」

技術参謀が手を上げると直ぐに静かになった。

 

彼女は腕を組んで言った。

「客観的に見た事実がそうだ。特に実際に相手と演習をした者が一番良く分かっているだろう?」

 

彼女は金剛姉妹を見た。二人は盛んに首を縦に降っている。

「ケタ違いっていうンですネ」

「装備も凄かったですよ」

【挿絵表示】

 

 

これには誰も異論を挟む余地は無い……ていうか私は思わず口を開いた。

「参謀も見て居られたンですか? あの演習を」

 

「この時代はモニターシステムが発達していてな。私が最初に居た病室にも実況画面があって、お前たちの戦いぶりが手に取るように分かったぞ」

機内の艦娘たちは苦笑した。

 

彼女は私を見て笑う。

「ついでに言えば今と未来の戦術の違いもな」

「はぁ」

 

「さすが技術参謀。そこまで見ますか」

呆けた私ではなく意外に夕張さんが合いの手を入れた。技術屋仲間か。

 

軽く頷いて参謀は続ける。

「貴重な体験だったが……だが今、我々に急務なのは元居た時代に一刻も早く戻ることだ。それには……」

 

「来る!」

急に寛代が叫んだ。

 

「なに?」

次の瞬間。副操縦士が何かを叫んだ。

 

同時に二式大挺は進路を変え至近距離で何かが爆発。耳をつんざくような轟音と衝撃波で機体が激しく揺れる。

 

「奇襲っ、何かに掴まって!」

機長が叫ぶ。

 

ほぼ同時に全員が衝撃に備える体勢を取った。さすがは軍人、こういう事態になると反射的に体が動く。

 

爆音と振動。立て続けに爆破音と衝撃波が襲う。

「電探に感無し……敵はステルスか?」

技術参謀が呟(つぶやく)く。私にはチンプンカンプン。

 

二式大挺は左右に旋回を繰り返しつつ回避行動を取る。その度に機体は激しく傾き艦娘たちは必死に手すりや椅子につかまる。

 

近くのパイプを掴みながら技術参謀は言う。

「チッ、油断していたな。この時代でも外洋は敵の勢力圏かっ!」

 

私は命令する。

「動ける者は銃座へ向かえ!」

 

「はい!」

攻撃が弱まった瞬間を見計らってバラバラと艦娘たちは銃座へ走る。

 

攻撃作戦など立案していないからフル装備ではないだろうが、この機体にも最低限の武装はあるはずだ。

 

「ぽいっ、ぽい!」

訳の分からない台詞を吐きながら夕立も後部へ走っている。なるほど、あの子は非常時に萌えるタイプか……と思った。

 

私は窓の外を見た。やはり深海棲艦らしいのだが……その機体が数機、確認できる。

「単なる斥候か?」

 

私が呟くと別の窓から参謀も言う。

「速度重視、本格的な攻撃部隊ではないな」

 

間もなく後部から激しい機銃の発射音が響き機体が振動する。

「ぽいぃーっ!」

 

振り返ると後部の銃座で金髪を振り乱した夕立が敵機を狙っていた。

 

(絶対に、あいつは前の地上戦で病みつきになってる)

苦笑した私は境港市での地上戦を思い出した。

 

 




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EX回:第32話(改2)<艦娘の舞台>

外洋に出た司令たちは敵の急襲を受ける。必死に応戦し撃退するが、それは嵐の前触れに過ぎなかった。


「艦娘は常に戦いの舞台に立つものだ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第32話(改2)<艦娘の舞台>

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 幾度となく繰り返される爆破音と、すれ違う敵機。その度に機体は左右に傾き激しく振動する。

 

「前っぽい!」

後ろから夕立が髪を振り乱して叫ぶ。戦闘中はゲロゲロやらないんだな。

 

「承知!」

中央の銃座で構えていた日向が敵機を追いかける。直ぐに激しい爆発音。当然の如く一撃必殺だ。瞬く間に火ダルマとなった敵機は長い黒煙の尾を引きながら空中分解して海へ落ちていく。

 

「やったわぁ」

反対側の龍田さんも、いつの間にか既に一機、落としたらしい。空にはもう一筋の黒煙の帯が海へと向かっていた。

 

艦娘たちの活躍の前に相手も警戒し始めて距離を取る。

 

少し様子を窺(うかが)って攻撃の勢いが緩んだと思ったら寛代が言った。

「逃げるよ」

 

「そうだな」

残った敵機は何かの指示を受けたのだろう。一斉に反転して逃げ去っていく。

 

それを見ながら技術参謀が呟いた。

「こんな外洋に妙だな」

 

「は?」

私は相変わらず呆けている。

 

すると青葉さんが指を立てて解説する。

「最初の敵は武装がほとんど無い偵察機でしたけど。次に攻撃してきた戦闘機はどれも脚(航続距離)が短いんです」

【挿絵表示】

 

 

「なるほど、そりゃ確かに変だ」

 

参謀は腕を組む。

「どこかに敵の機動部隊が居るに違いない……厄介だな」

 

機長が叫ぶ。

「この高度では索敵されやすく危険です! 念のため海面まで高度を下げましょうか」

 

「あぁ、そうしてくれ」

私は応える。機長は警戒しながら高度を下げる。

 

「用心しろ、海上には敵の艦隊が居る可能性が高い」

技術参謀が叫ぶ。

 

副操縦士は双眼鏡を、また祥高さんや寛代は索敵を始めている。

 

私は言った。

「参謀は戦術も詳しそうですね」

「当たり前だ。戦術を知らずに開発など出来るか?」

「ごもっともで」

 

用心しながら機体を海面まで下げたが幸い海上に敵の艦隊は居ないようだ。

 

少し落ち着いた機内では次の攻撃に備えて態勢を立て直す。各銃座は交代し弾倉の補充や機銃の点検を始める。

 

「やはり手ぶらでは帰れないか」

参謀は意味深なことを言う。

 

「各員、警戒を続けよ」

私は命令した。

 

キレイな青空を見上げながら参謀はブツブツ言う。

「早く、あの嵐でも起きてくれれば良いのだが」

 

幸か不幸か今日は穏やかな天候だった。

 

「司令……最悪、このまま未来の日本まで帰るか?」

参謀は窓の外を見ながら冗談とも本気とも取れない台詞を吐く。

 

「うーん、何ともいえません」

私は苦笑しか出来なかった。

 

「ふん」

技術参謀は、ため息混じりの吐息と共に暑苦しい白衣を脱いだ。

 

そのまま彼女は座席に座ると交代した夕立を見ながら話し始めた。

「夕立は地上戦でも、なかなか優秀らしいな。境港市での戦闘の話、聞いたぞ」

「ぽい?」

「センスみたいなものだろう……今後もお前とは、いろいろやり取りしたいものだ」

 

意外にも技術参謀に褒められた夕立は、ちょっと恥ずかしそうな顔をした。 

 

顎(あご)に手をやって思案する参謀は言った。

「敵はブルネイの鎮守府を常に監視しているようだな。我々のように護衛も付けずに単独で飛ぶ機体なら、敵が見て要人が乗っていると考えても、おかしくはない」

 

私は応える。

「では……護衛を付けるべきだった?」

 

技術参謀は私を見ると肩をすくめた。

「それも良し悪しだ。逆に目立つからな。単なる連絡便や索敵任務程度に思わせたほうが無難だ」

 

そして彼女は笑った。

「だいたい我々は別の時代から来ているんだぞ。護衛も一緒に帰るのか?」

 

「はあ、そうでした」

私も笑った。

 

そのとき寛代が、何かを呟く。祥高さんが近寄って話をしている。

 

技術参謀も立ち上がると二人に近づいた。

「何か見えるか?」

「……空母、前方。複数」

 

寛代の返事に参謀は苦い顔をした。

「チッ……よりによって空母か。この位置では迂回も無理だ」

 

祥高さんも言う。

「逃げ切れない可能性もあります」

 

そのとき、機長が叫んだ。

「低気圧が接近、天候が急変しつつあります」

「なに?」

 

「気圧が下がっています」

比叡が言う。そうか戦艦の彼女は自前の気圧計を持っているのだろう。

 

赤城さんは操縦席から見える前方の空を指さした。

「前方に白い大きな雲の塊が見えます」

「南の海の積乱雲か……まずい感じだな」

 

私が言うと参謀も受ける。

「敵の機動部隊に悪天候か……悪いことは重なるものだな」

 

「それは、いつものことネ!」

突然、金剛がアッケラカンと言い放つ。なぜかその言葉に機内の全員が笑った。

 

日向も言う。

「そうだな、艦娘は常に戦いの舞台に立つものだ」

 

「フフ……確かに。それが兵士というものだ」

参謀もニタリと笑った。

 

彼女たちの言葉には妙に重みがあった。

そう、艦娘たちは常に戦いの場に実を置かざるを得ない宿命なのだ。

 

 




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EX回:第33話(改2)<いつか靖国で>

敵機動部隊が接近する中、司令は機内の艦娘たちを迎撃させるか否かという判断を迫られる。それは永遠の別れになる可能性があるのだった。


 

「司令。いつか靖国で……」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第33話(改2)<いつか靖国で>

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「言い忘れたが……」

技術参謀は言った。

 

「我々が元の時代に帰る一つの方法が来たときと同じ嵐に突入することだ。幸い前方には嵐が接近中だ」

機内の全員が前方の大きな積乱雲を見て息を呑んだ。

 

彼女は続ける。

「だが敵の空母機動部隊が接近中でもある。我々は新しい情報を何としても日本へ……我々の時代へと持ち帰らねばならない。そのため多少の犠牲が出ることも覚悟して欲しい」

 

私は、とても嫌な予感がした。

 

参謀は艦娘たちを見ながら淡々と続ける。

「戦艦と空母……そうだな。金剛は、まだ戦闘には不慣れだから比叡を出そう。そして補佐に日向。攻撃の主軸は赤城で。押さえは龍田というのはどうだろうか? 司令」

 

振り返った技術参謀は無表情だった。

 

私は振り絞るように言った。

「それは艦娘を盾にする、という意味ですか?」

 

「そうだが」

参謀の、あまりにも感情が見えない顔つきに私は思わず境港で出会った深海棲艦を思い出した。

 

「承服……致しかねます」

苦しい口調で応える。

 

しかし参謀は淡々と言う。

「これは、あくまでも提案だ。最終判断は現場の指揮官である、お前がすべきだ。私も強制するつもりは無いが」

 

(嘘を言うな……)

と思った。艦娘たちも固唾を呑んで、こちらを見ている。

 

参謀は続ける。

「我々の使命、今の状況……たった一機で敵機動部隊に立ち向かえるか? 早急に判断せよ。後出しで手遅れになるのは分かるな?」

 

「……」

それは痛いほど分かる。そして艦娘の犠牲も出したくない。

 

轟沈せずとも下手をすれば別の時代に取り残されるのだ。

過去ならともかく未来だから……実質的に永遠の別れと、なり兼ねない。

 

寛代が祥高さんに何かを伝え秘書艦も索敵範囲を広げたようだ。

 

一瞬の間があったが直ぐに頷いて報告をした。

「報告します司令、前方に敵影確認しました。敵空母2、戦艦2、駆逐艦多数。距離15000。また敵機の出撃を確認」

 

技術参謀が強い口調で叫ぶ。

「どうする司令。時間が無いぞ!」

 

「司令」

日向が声をかけてきた。

 

「私たちは艦娘です。敵が居れば戦う。それだけです。躊躇(ためら)わずに、ご判断を」

泣けるなら泣いてしまいたい思いだ。

 

「分かった」

私は、ようやく決断した。

 

「これより本機は迎撃作戦を行う。着水後、前方の敵機動部隊に対し我々は、比叡、日向、赤城さん、龍田さんで部隊を構成する、以上だ。準備かかれ」

『ハッ』

全員、敬礼をした。

 

海上で戦闘中の艦娘は最悪の場合そのまま置いていくことになるのだ。彼女たちは分かっているだろうが、ずっと無言だった。

 

私は機長に指示を出す。

「機長、着水を」

 

「了解」

応えた機長は低気圧が接近して、うねりの出ている海上へと、ゆっくり着水した。

 

ザザザという水の音と同時に水しぶきが上がる。水上に浮かんだ機体は鉛色の波間で大きく揺れていた。

 

窓の外の大きな波を見ていると、ふと舞鶴で敗北した作戦の悪夢が蘇る。あの時の敵は荒れる海の中を縦横無尽に攻撃してきた。恐らく今回の敵も海上からは探知できない潜水艦も引き連れているだろう。

 

だが私たちには潜水艦娘は居ない。まして今回は作戦立案そのものが初っ端から非情なのだ。

 

 ただ幸い、やみ雲な特攻作戦とは違って彼女たちは逃げ場の無い戦いをするわけではない。もし、この闘いで生き残れば……の話ではあるが別の時代、未来において生き続けることも可能なのだ。

 

(それだけが唯一の救いか)

 

 時間と共に海上は荒れてきた。

 

さらに天候が悪化すれば戦闘の結果に拘らず艦娘たちの回収も困難になるだろう。

 

「時間が無いぞ、急げ!」

技術参謀は急かす。

 

(分かってるよ!)

内心叫びつつ私は夕張さんと夕立に指示をして艤装を準備させる。

艤装は演習用の簡易型しかないが仕方が無い。各自、機内で装着する。

 

その作業を見ながら気象状況の索敵をしていた技術参謀が付け加えた。

「あの嵐だが様々な状況からして我々の帰還への扉となる可能性が高い。その場合は、どうなるか……分かるな?」

 

「……」

もちろん分かっている。

 

参謀は淡々と言う。

「我々は海上での交戦よりも帰還を最優先させる」

 

『……』

艦娘たちも黙っていた。

 

私は思わず出撃する一人ひとりの手を握ってまわった。みんな泣きそうだが我慢しているのが痛いほど分かる。

 

私が日向の手を最後に取ったとき彼女は言った。

「司令。いつか靖国で……」

 

それ以上、彼女の口からは言葉が出なかった。

 

私も涙が流れるのを防ぐために何も言わず手を離すと直ぐに命令を出した。

「迎撃隊、出撃せよ!」

 

『出撃します!』

夕張さんが扉を開けると荒れる外洋独特の潮の香りがした。強まった風と水しぶきが機内に入り込む。

 

「この潮の香りも、久し振りだな」

私は自分の緊張を誤魔化すように呟いた。

 

艦娘たちは髪や服を棚引かせながら次々と海上へと降りていく。私は扉の横で敬礼しながら一人ひとりを送り出した。

 

「来るよ!」

寛代が叫ぶと鉛色の雲の隙間に敵機が目視できる。

 

機長が叫ぶ。

「本機は退避します」

 

「了解!」

扉を閉めると機体は直ぐに加速して空中へと舞い上がった。

 

私は直ぐに窓から外を見る。海に降り立った艦娘たちが、あまりにも小さく見えた。そして直ぐに砲撃の灯が見えた。

 

「皆、死ぬな!」

私は窓から敬礼を送るしかなかった。

 

あとは湿気による曇りか涙だろうか? 彼女たちの姿が、ぼやけて見えなくなった。

 




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EX回:第34話(改2)<不憫(ふびん)>

美保の艦娘たちは荒天の中、敵機動部隊と交戦するが、あまりにも不利だった。


「相手の空母まで、なかなか届かないのね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第34話(改2)<不憫(ふびん)>

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 外は、更に荒れた天候になり風雨も激しくなってきた。

機内の艦娘たちは押し黙っている。無線は雑音が激しくて入りが悪い。

 

そして、さっきから金剛がブツブツと反応している。下で戦っている比叡と交信しているようだ。

 

最初は機外の風の音でよく聞えなかったが戦闘状況が芳しくないのだろう。次第に交信する口調が激しさを増してきた。

「そこ! Go! ……No、No! 引いてはダメ!」

 

他の艦娘も断片的に戦闘中の艦娘たちの無線を拾えるようで一喜一憂している。硬い表情の技術参謀も同じだ。

 

「艦娘たちは大丈夫なのか?」

つい私も軍隊の指揮官として相応しくない台詞を吐いてしまう。案の定、作戦参謀は怪訝(けげん)そうな顔をしていた。

 

 霧雨となった周囲の視界は悪く戦闘状況を肉眼で確認することは、ほとんど不可能だ。艦娘たちの無線を聞けない私だけが、まるで蚊帳の外に置かれている気分だった。

 

天候が悪くなるにつれて、この機体も振動が激しさを増す。水平飛行を維持するのも難しくなってきた。

 

機長が振り返って言う。

「司令、一旦上空へ退避します!」

 

「分かった」

このまま荒れた海域に留まっても得るものは少ないだろう。私は空中退避を許可した。

 

 機体が上昇して暫くすると空が明るくなってきた。直ぐに機体は真っ青な空の下に広がる雲海の上に出た。

 

「わぁ、明るいっぽい!」

感嘆する夕立。

 

 緊迫した状況は変わらないのだが青空の効果だろう。機内には少し安堵感が広がった。私も悶々とした気持ちが緩んだので椅子に座り直した。

 

ふとポケットに手をやって驚いた。

「あれ? インカムがある」

 

「はい?」

秘書艦が反応する。

 

「まずいな。ブルネイの返し忘れていたか」

「そうですか」

祥高さんと私は互いに顔を見合わせて苦笑した。

 

 だが、もしや? と思って頭に正しくインカムを装着してみた。

 

『……艦爆、右へ!』

「あ、赤城さんの声だ」

 

『龍田さん! 後ろから!』

「これは日向か」

 

『斉射ぁ!』

「比叡か……」

ときどき機内の金剛の声が被っている。意外に下で戦っている艦娘たちの声がクリヤーに入った。

 

「これが技術の進歩か」

だが敵の装備も私たちの時代より進化している。相手も、この程度の音質で交信してい戦っている可能性が高い。

 

同じ音声を聞いていたらしい参謀が言った。

「やはり押されているようだな」

 

「はい」

美保の艦娘たちが、どれだけ不利な状況で戦っているのかが伺えた。

 

「だが彼女たちの活躍で貴重なデータが持ち帰られたら決して無駄ではない」

「……」

相変わらず冷静な計算で動く人だ。

 

その間にも断片的にインカムに通信が入る。艦娘たちが不憫(ふびん)だ。

 

 機体は同じエリアを大きく旋回している。

敵も美保の艦娘たちとの戦闘に集中し、こちらまで迎撃してこないのは幸いだ。

 

戦闘に意識を向けながらも参謀は、周りの気候に注意している。

「あの『現象』が起きる気配は無いな」

 

彼女にも気象条件が分かるらしい。

 

「あれが発現すれば直ぐに旋回を中止して現象が活発化する方向を探りながら直進する」

参謀は説明する。

 

「はぁ」

私は生返事をする。正直、私は参謀の意向とは反対に発現して欲しくないと思っていた。

 

来たときの「あの」現象は、まだ起きてはいない。だがもし発生したらどうする?

 

この状況で下の艦娘たちを回収することは限りなく不可能……私は苦悶した。

 

『敵機が多い……何とかならない?』

赤城さんが弱音を吐くほど戦闘は不利な状況になってきた。もとより条件が悪いうえに勢力も違う。

 

『だめよぉ、あの飛んでくる爆弾とか……』

通信が途切れる。

 

『こいつら(駆逐艦)もウザい……』

これは比叡。

 

「そんなの蹴散らすネ!」

金剛が叫ぶ。こいつも自分が行きたいだろうに……もどかしそうだ。

 

『雑魚(ざこ)は私が相手になるわ』

龍田さんが、そう言いながら肉弾戦を展開中らしい。ときどき何かが激しく衝突し金属が擦れる音が混じる。

【挿絵表示】

 

 

『あの空母さえ叩ければ……』

搾り出すような日向の声。

 

『くっ、遠い……」

敵の迎撃と、この荒天下で赤城さんの航空機部隊も思うように攻撃が出来ないらしい。

 

「相手の空母まで、なかなか届かないのね」

夕張さんも呟く。

 

「チッ」

彼女だけでなく技術参謀もイライラしているのが分かる。どっちつかずな状況では待つ方も辛いものだ。

 

「こうなったら、残りの艦娘も出撃を……」

そう言いかけた私に技術参謀は首を振った。

 

「ムダだ。消耗戦になる」

「そりゃ……」

一瞬、切れかけた私だったが直ぐに口を閉じた。

青葉さんや夕張さんが、さっきから申し訳なさそうな顔をしていたのだ。

 

そう、二人は戦闘より情報や技術に長(た)けている。おまけにブルネイで収集した艦娘量産化のデータを持っているのだ。参謀としても二人を戦闘に出したくはないだろう。

 

 だが、このままで何もしないのは結局、見殺しではないか?

 

事情を悟った金剛が提案する。

「いっそ、このまま機体ごと、もう一度バトルフィールドに降りるネ?」

 

だが祥高さんが説明する。

「下の荒天では機体を安定させるのが精一杯、戦闘どころでは無いわ」

 

「シット」

珍しく握りこぶしで機内の壁面を叩いた金剛。その悔しさは分かる。

 

『雨が激しい……』

戦闘中の誰かの声が響く。

 

 そのときだった。ゴロゴロという雷鳴のような音が響いた。

 

「遠雷?」

それは妙な印象だった。

 

そのとき寛代が呟いた。

「敵艦隊に動きあり。何かが着弾した模様」

 

「着弾?」

私と技術参謀は、ほぼ同時に立ち上がった。

 

「着弾って?」

「どういうことだ?」

私たちは、思わず寛代のところへ駆け寄った。

 

 




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EX回:第35話(改2)<反撃と加勢>

苦戦する美保の艦娘たちの後ろから遠距離射撃で加勢する艦娘が現れた。そして、あの現象が……。


 

『当ててこい! 私はここだ!』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第35話(改2)<反撃と加勢>

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「どういうことだ?」

私は寛代に聞いた。

 

「別方向からの着弾あり、敵艦隊の陣形が急速に乱れている」

彼女は淡々と答える。

 

「どういうことだ?」

すると雑音に混じって、またゴロゴロという雷鳴のような音が聞えてきた。

 

私と技術参謀は思わず立ち上がり前方の操縦席へ駆け寄った。

「副長、何か分かるか?」

 

「敵の陣形が大きく崩れているのが分かりますが、原因までは……」

参謀の問い掛けに彼も困惑している。

 

「フム……現状、美保の艦娘たちは射程距離が足りず苦戦している」

「はい、彼女たちではないでしょう」

私が応えると参謀は振り返る。

 

「まさか援軍か?」

「いや、しかし、この悪天候でどこから……」

「射程距離にしても遠すぎだろう」

納得のいかない表情の技術参謀は窓の外を外を眺めるが悪天候で視界は悪い。

 

そのとき私のインカムに雑音に混じって聞き覚えのある声が入ってきた。

『私だ、待たせたな』

「え? まさか……」

 

「武蔵?」

参謀も反応する。

 

『お前たちの帰還する道筋は予め想定していたが何分、私の脚が遅くてな。済まない』

この声は間違いない。武蔵様だ。

 

「え?」

「まさか……」

武蔵様に絞られた青葉さんと夕張さんも機内で慌て始める。乗り込んで来る訳じゃないのにね。

 

私たちのやり取りを聞いたのだろう。海上の艦娘たちも武蔵様を探し始めている。

『え? どこ?』

 

『あ、あそこ……はるか後ろ』

美保の艦娘たちも驚くほどの遠方からの長距離射撃だった。

 

日向が呟く。

『これが噂に聞く46cm砲か』

 

『そうだ、この主砲の威力、味わうが良い!』

そう言いつつ武蔵様は再び斉射する。

 

その砲撃の威力は遠方であるにも拘らず上空の機内にまで響くほどだった。

 

「武蔵の主砲、伊達ではないね」

なぜか嬉々として呟く寛代。

 

秘書艦の祥高さんも状況を索敵して言った。

「敵の艦隊に着弾、もしくは至近弾が浴びせかけられているようです」

 

参謀は説明する。

「そうだな。武蔵の砲なら至近距離に着弾すれば駆逐艦程度は転覆するだろう」

 

「Woo! それは敵も驚くネ」

金剛も嬉しそうだ。

 

武蔵様の攻撃で美保の艦娘たちへの攻撃も緩んだらしい。

 

『今よ、反撃!』

赤城さんが叫んでいる。反撃のチャンスだ。

 

『斉射!』

比叡や日向も加勢する。

 

『死にたい船は何処かしら?」

龍田さんは、そう言いながら近くに居る敵の駆逐艦の掃討に専念しているようだ。

 

続けて無線に入る鈍い金属音。それだけ聞いていると怖いな……。

 

『私も加勢するよ!』

「あれ? この声は……」

 

『島風!』

下で誰かが叫んだ。

ブルネイの島風が武蔵様に付いて来たきたらしい。

 

『こいつが、どうしても来るって聞かなくてな。脚の遅い私に……』

武蔵様は恥ずかしそうに言う。

 

だが島風は気にも留めていないようだ。

『関係ないもん。5連装酸素魚雷! 続けて連装砲ちゃんも行っちゃってぇ』

 

武蔵様の砲撃と島風の魚雷攻撃で敵の主軸の勢いは、かなり削がれた。

 

ところが形勢が不利になったと見た敵の駆逐艦が捨て身の魚雷攻撃を赤城さんに仕掛ける。

 

『赤城お姉さま! 危ない』

比叡が叫ぶと赤城さんも気付いたようだ。しかし至近距離で回避できない。

 

「……!」

無線を聞いていた機内の艦娘たちにも緊張が走る。

 

直後、大きな爆破音……だが妙な感じだ。

 

赤城さんが叫んだ。

『武蔵さんっ!』

 

どうやら武蔵様が前に出て彼女を庇い魚雷を全身で受け止めたらしい。

『ふふ、大丈夫だ。数本くらいなら平気だ』

 

無線を聞きながら私は言う。

「いや平気だとは言っても魚雷の直撃だぞ」

 

参謀も返す。

「あぁ、普通の艦なら一撃で沈んでもおかしくないだろう」

 

『当ててこい! 私はここだ!』

無線越しに聞こえる啖呵。まさに凄まじい勢いだ。そこまで言いきれるのは武蔵様くらいだろう。

 

寛代が伝える。

「敵空母、沈没1、大破1。既に相手側の制空権は失われている。戦艦、大破1、中破1。駆逐艦被害多数。数隻は、既に沈没した模様」

 

あと、もう少し押していけば私たちの勝利だろう。

「艦娘たちも何とか回収できそうだ」

 

だがその期待は、あっけなく裏切られた。

 

「あれを見ろ!」

技術参謀が指差す方向に青白い雲……その中に妙な電光が飛び交っている。

 

「よりによって今、出現か!」

私は呻くように言った。

 

「司令、チャンスだぞ! このまま直進させろ!」

技術参謀は私に命令するが私は渋った。

 

「機長! まだ突入するな!」

その言葉に技術参謀は疑いの顔を向ける。

 

「何を言っている司令! 戻りたくないのか?」

「……」

私はただ無言で、その雲を眺めるだけだった。

 

 




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EX回:第36話(改2)<反抗>

謎の雷雲を目前にした機内では司令と技術参謀が対立していた。そして彼女は拳銃を取り出す。


 

「司令、私たちのこと、忘れないで……」

(一緒に帰るんだ!)

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第36話(改2)<反抗>

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「機長! まだ突入するな!」

私は咄嗟(とっさ)に叫ぶ。

 

技術参謀は私の言葉を疑った。

「何を言っている司令! 帰還できるチャンスだぞ」

 

それは無視して私は言った。

「機長、直ぐに海まで下りろっ」

 

機長は驚いたような顔で命令を受ける。

「りょ、了解。機種下げます」

 

何かを言いかけた参謀を塞ぐように私は操縦席の後ろに立つ。

 

 二式大艇は暗雲の中に突入する。激しい雨が機体に叩きつけていた。遠くから雷鳴も聞えてくる。ガタガタと揺れる機体の各部がギシギシと軋(きし)む。

 

「ぽいぃ」

夕立がキョロキョロしながら不安そうな声を出す。

 

本来ならば雨雲に突入するのは危険だが、私は敢えて降下させた。もう一刻の猶予も無いのだ。

 

「雲を出ます」

副長の報告と同時に急に視界が開けた。周囲は灰色の海面と薄っすらとしたモヤで満ちていた。

 

 私は胸ポケットに手をやる。案の定、あの双眼鏡も返していなかったが……反省する間もなく取り出して窓から海面を見下ろした。

 

揺れる波間に艦娘たちが見える。

何人かが、こちらを確認しているが手は振らずに敬礼をしていた。

 

『司令、私たちのこと、忘れないで……』

そんな声が聞こえたような気がした。

 

明らかに彼女たちは、この時代に残る覚悟を決めているのだ。

(絶対に忘れるものか!)

 

敵の勢力は弱まったが風雨が激しい。機体は大きく艦娘たちの上空を旋回し続けている。

 

技術参謀がイラつくように話しかけてきた。

「司令、さっきも見ただろう。最後のチャンスだ。すぐに上昇して、あの雷雲へ突入しろ。もはや彼女らを回収する時間は無いぞ!」

 

彼女は念押しして諭すように言うが私にそんなことは、どうでも良かった。

(絶対に皆、一緒に帰るんだ!)

 

「機長!」

大声を出した私に機長は、ビクっとした。

 

「直ぐ着水だ。艦娘たちを回収する!」

 

私の命令に技術参謀は反論した。

「おぃ、気は確かか? これを逃したら、次はいつになるか分からないんだぞ!」

 

私は無視して続けた。

「急げ! 機長!」

 

技術参謀も負けてはいない。

「司令っ、聞えないのか? これは私の命令だ。すぐに回収は中止、機体を雷雲へ向かわせろ!」

 

明らかに彼女もイラついている。だが私は他の艦娘たちに回収の準備をさせていた。

 

 ついに頭にきた技術参謀は、懐から拳銃を取り出した。周りの艦娘たちが悲鳴を上げる。

「司令、これは技術参謀としての命令だ。言うことを聞かないなら、お前の権限をこの場で剥奪する」

 

無表情で銃を構える技術参謀。凍りつく艦娘たち。私はそれでも無視して作業を継続させようとする。

 

「残念だな……」

そう言いつつ技術参謀は引き金を引く……と思った瞬間だった。

 

「えい!」

機長の掛け声と同時に発動機が唸り機体が急上昇する。

 

「なにっ?」

「敵襲か?」

参謀と私は慌てて近くのパイプにつかまる。

 

ほぼ垂直に近い傾き……こんな曲芸飛行みたいなマネをして大丈夫なのか?

 

「だぁっ!」

傾いた状態で前の方から寛代が、いきなり技術参謀に飛びかかった。

 

「なっ!」

驚く参謀と寛代は二人揃って機体後部まで吹っ飛ばされる。鈍い音を立てて拳銃も飛んで逃げた。

 

「ぽいっ!」

金髪を振り乱した夕立が拳銃に飛び付く。一瞬、パン○が見えたが、もはやそれどころではない。

 

一連の動きを確認した機長が機体を戻す。水平飛行と同時に参謀は寛代を引き剥がしにかかる。

「クッ、離れろ!」

「いやっ」

 

間髪を入れず金剛が飛びかかった。

「yhaaa!」

「やめろっ」

 

それまで様子を見ていた青葉さんと夕張さんも加勢する。

「ごめんなさい!」

「お前たちまで!」

 

艦娘同士とはいえ多勢に無勢だ。あっと言う間に技術参謀は取り押さえられてしまった。

 

「悪しからず!」

夕張さんが簡易ロープで手際よく参謀を縛った。

 

私は感心した。

「さすが工廠班、上手に縛るものだな」

 

この言葉に彼女は笑った。

「伊達に工廠付きやってる訳じゃありませんから」

 

「お前らっ! こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」

参謀はスゴイ剣幕で怒鳴っている。

 

(おお、怖い)

私以下、艦娘たちもチョッと引いた。

 

だが祥高さんが、なだめる。

「お姉ちゃん、落ち着いて……」

 

(『お姉ちゃん』なのか)

その呼称は意外だった。さすが姉妹だ。

 

すると、みるみる技術参謀の顔が真っ赤になっていく。

「だ、だまれ、うるさい!」

 

なるほど……その呼び方を人前で披露して欲しくないようだ。

 

「ひょっとして参謀の弱点見つけたかも」

青葉さんが私の背後で呟く。

 

そんな彼女の怒りと対照的に外の気象状況は落ち着いて来たようだ。

敵の残存部隊は、既に逃げ出している。今が艦娘たちを回収するチャンスだ。

 

私は改めて言った。

「機長、着水を」

 

「了解です」

親指を立てて命令を受けた機長と副長。やたら嬉しそうなだな……あ。

 

ふと悟った。

「さっきのはやはりワザとやったか、機長」

 

私の表情を見た彼は言った。

「寛代ちゃんがね……」

 

そう言って二人は笑っている。

 

「なるほど」

そういうことだったか。

 

縛られている技術参謀(母親)の横では寛代も親指を立ててポーズを決めていた。

 

カメラを手に青葉さんが構えている。

「はい、チーズ」

 

「やめろって……」

技術参謀、超ぉ真っ赤ですが、やや脱力気味かも。

 

(元々美形だし参謀も、ちょっと可愛いかも)

 

「しかし青葉さん、やることが大胆過ぎるよ!」

真っ正面からフラッシュ焚いて……。

 

「でもこの写真、鎮守府の御守りになるかも知れません」

彼女はファインダーを覗きながら言う。

 

「ヤメロ! 青葉……」

半ば諦(あきら)めたように呟く参謀。

 

当然、この状況で青葉さんが撮影を止めるはずが無かった。

 





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EX回:第37話(改2)<孤独な戦士>

技術参謀に反抗してまで艦娘の収容を強行した司令だった。しかし日向は言った「司令は……」


「部下のため最善を尽くす。それが理想だ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第37話(改2)<孤独な戦士>

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 機体は、ややうねりの残る海面に着水した。天候は徐々に回復傾向にあり空が明るくなってきた。私たちにとっては良いのか、それとも悪いのか。

 

 美保の艦娘たちは海上の一箇所に、まとまって待機していた。その近くには武蔵様と島風がずっと控えてくれていた。

 

 すぐに夕張さんがハッチを開けて艦娘たちを迎え入れる準備をする。

やがて比叡や日向、赤城さんと龍田さんが戻ってきた。多少ダメージは受けているが大破ではない。やはり武蔵様が加勢した効果は大きいな。

 

赤城さんが弱々しく敬礼をして報告する。

「司令……」

 

そう言いながら彼女の頬を涙が伝う。

「迎撃艦隊、小破2、中破2。全員、帰還いたしました……」

 

その先は声が小さくなって続かなかった。彼女は両手で顔を覆って泣き出した。肩を震わせる彼女に、私はただ「ご苦労」とだけ応えた。

 

だが急に日向がすごい剣幕でカットイン。

「司令は……馬鹿ですっ!」

 

「あ? 日向……」

怒ってるのか?

 

 でも、そういう彼女もボロボロ涙を流している。比叡も鼻水垂らして号泣しているし。

龍田さんは泣いてはいないが、必死に堪えている感じだった。

 

 私たちのやり取りを聞いていたのだろう。武蔵様が交信してきたらしい。私は夕張さんに促されインカムを装着した。波の音に混じって武蔵様の声が聞こえてきた。

『私だ、司令殿』

 

「今回は、本当に助かりました」

私は礼を言いながら窓の外に頭を下げる。

 

『フフフ……お前以上に私は馬鹿だぞ』

やはり聞いていたか。しかし武蔵様から意外に謙遜する、お言葉だな。

 

落ち着いた言葉で彼女は続けた。

『美保の司令殿……彼女たち艦娘の気持ちも案じてやれ。彼女らは本当に大海原で単身で闘っているのだ。その心細さは、いかばかりだろうか?』

 

それは正直、分からなかった。私は反省するように答えた。

「はい。肝に銘じます」

 

私の言葉で、なぜか武蔵様が微笑んだように感じられた。

『本来、艦娘如きが指揮官に上申すべき内容ではないのだが……だが私も今回、島風が居ただけで、どれだけ支えられたか?」

 

私はふと思った。

「その、島風はブルネイの命令で?」

 

すると武蔵様は笑ってから言った。

『立派な命令違反だが……』

 

その言葉に機内の艦娘たちがざわつく。

 

彼女は続ける。

『まぁ、違反と言っても待機命令も出ていない。それにブルネイでは、これも許されるだろう。あの提督は事情さえ話せば分かる男だ』

 

それは分かる気がした。

 

『艦娘とは、繊細な者たちなのだ』

窓の外を見ると島風がVサインをしていた。そうか、艦娘は闘いながら皆、心細かったか。

【挿絵表示】

 

 

 ふっと舞鶴での戦いを思い出した。彼女も新人を従えていたが、心の中は不安で一杯だったに違いない。

 

私は応えた。

「そうだな、私は馬鹿だろう」

 

ちょっと気まずい雰囲気になってきたので私は言い訳のように付け加えた。

「だが私は広瀬中佐を尊敬しているんだ。部下のため最善を尽くす。それが私の理想像だ」

 

その言葉に機内の艦娘たちも泣き出した。

 

私は続けた。

「まだ新人提督だ。あまり君たちの心情を汲み取ることが出来ない。まだまだ指揮官としては足りない」

 

「司令……」

そう言いつつ日向が私の手を握った。

 

一瞬、焦った私。

(ヤバイ?)

 

でも彼女は言った。

「司令……私も、広瀬中佐、勉強します」

 

(ああ、そっちか?)

 

「ひゅー」

誰かが口笛を吹く。見えると青葉さんだった。

 

「茶化すなよ」

私は照れ隠しのように言った。

 

他の艦娘たちも機内でそれぞれ抱き合っている。

 

「司令……」

私のところには赤城さんまで来て私と日向の手の上に彼女の手を添えた。

 

私は、彼女たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「提督!」

機長が叫んだ。

 

「急激に気圧が下がっています」

「なに?」

 

すると縛られている作戦参謀も呟いた。

「また……来るぞ」

 

「そうか、嵐がくるか」

機体も再び揺れ始めた。波が高くなってきたようだ。

 

 




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EX回:第38話(改2)<嵐へ発進>

再び高まるうねり。援軍を見送りながら司令たちは改めて嵐への突入を決意した。



 

「お前の判断は、正しかったかもしれない」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第38話(改2)<嵐へ発進>

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 かなり波が高くなってきた。

 

窓から外を見ると島風は手を振り武蔵様は敬礼をしている。

機内の皆も敬礼をした。

 

「ありがとぉ」

これは夕立だ。

 

その手がバシバシと私に当たるる。

「おい、私に当たってるぞ! 痛いって」

 

「ぽい?」

夕立と言えども駆逐艦だ。彼女の空手チョップは十分過ぎる威力だ。

 

 さらに波が高くなってきた。

 

「まさか……」

副長と機長が気象状況を確認して言った。

 

「嵐が……こちらへ引き返して来ます!」

 

技術参謀は縛られたまま呟く。

「あの嵐は意地でも私たちを、この時代から排除したいようだな」

 

「排除?」

金剛の言葉に比叡が応える。

 

「私たちが邪魔だから何処かへ行けっていうことですよ」

「フーン」

ホントに分かっているんだか?

 

私は命令を出す。

「全員着席。これより嵐の中心に向け突入をする」

 

『はい』

艦娘たちは敬礼して散らばっていく。

 

それから私は直ぐに技術参謀の縄を解いた。

「失礼しました参謀。どのような処分も、お受けしますが今は……」

 

「分かっている」

彼女はスッと立ち上がると、いったん操縦席に入って機長に気象状況や周りの状況を確認。

 

その後、着席してから話しかけてきた。

「この状況を脱するまでは、お前が指揮官だ」

 

「ハッ」

それを受けて私は機長に命令した。

 

「機長、離水だ」

「はい、発進します」

発動機の回転数が上がり機体は加速し始めた。

 

 窓から見下ろすと、うねりが出て白い波が立つ海上に武蔵様と島風の背中が見えた。手を振る島風と背を向けたまま手を上げた武蔵様がいた。

 

私は改めて窓から敬礼するのだった。

 

技術参謀は言った。

「私の印象だが、あの嵐は美保の艦娘たちが揃っていないと、うまく働かないようだ」

 

「はぁ」

根拠はよく分からないが、それは確かにそうだろうと自然に思えた。

 

「悔しいが、お前の判断は正しかったかもしれない」

参謀が軽く頭を下げた。

 

「恐縮です」

謙虚な彼女の姿は少々意外な印象だった。

 

参謀は外を見ながら呟く。

「予定調和か。やはり我々は元の場所へ帰るべきなのだ」

 

それを聞くと私も安心感を覚えた。

「はい」

 

予定調和だとすれば、元の時代に戻ることも必然に違いない。

 

あまり過剰な期待は禁物だが、無事に帰ることが出来るだろうという期待が高まった。

 

 思い起こせば突然放り込まれた異世界は、とても不思議な時間だった。

しかし、すべては必然であったようにも感じられた。

 

 機体は強い風を受け揺れつつも徐々に高度を上げる。

機内に緊張が走る。やがて機体は前方の積乱雲の中へと突入していった。

 

「しっかり掴まっていてください」

機長が叫ぶ。

 

一度通ってきた道とはいえ万が一の事も無いとは言いきれない。

 

 私は念のために技術参謀に聞いておきたい事があった。

「一つ伺っても宜しいでしょうか?」

 

「なんだ?」

彼女は腕を組んで難しい顔をしていた。

 

「なぜ……舞鶴ではなく山陰に実験の為の鎮守府を設置されたのですか?」

「ああ、それか」

参謀は、こちらを向き直ると案外機嫌よく答えてくれた。

 

「山陰は僻地だろう? 極秘の研究には、打って付けの環境なのだ」

この質問は聞いて欲しかったのだろうか?

 

だが地元出身者には複雑な回答だった。

 

(聞かないほうが良かったかも)

私は内心苦笑していた。

 

 やがて風雨が激しくなり機体の揺れが激しくなってきた。

 

「おぉえ」

あれは夕立だ。

 

絶対、お前は自分の名前に合ってないよな。

 




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EX回:第39話(改2)<艦娘の孤独>

再び嵐に突入した司令たち。しかし、あの現象はなかなか起きない。全員が押し黙る中で司令考え込むのだった。



 

「独りか」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第39話(改2)<艦娘の孤独>

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 機体は大きく揺れて外の風雨も激しさを増している。

雷鳴も轟(とどろき)始めた。雷光がきらめく度に悲鳴が上がる。

 

「ぽいぃ」

ただ金髪を振り乱す夕立にも次第に慣れてきた。

 

「きゃぁ、お姉さま!」

「Oh、比叡は怖がりネ」

いや……半分は甘えていると思う。

 

 そういえば来る時の金剛とは、うって変わって意外に落ち着いているな。何か感じた世界でもあったのだろうか?

 

 それを言えば、あの夕立の叫びも最初より、ちょっと静かになった。

そのためか? 技術参謀も来る時よりは落ち着いている。

 

……もっとも、さっきの捕り物があったから彼女も、いろいろ考えているのだろう。

 

「なかなか……起きませんね」

夕張さんが呟く。

 

 彼女の言うとおり私たちが期待している、あの謎の現象は、なかなか発現しない。嵐は激しさを増している。このまま飛び続ければ機体ごとバラバラになり兼ねない。そういう面では夕立の叫びも分かる。

 

 そんな緊迫した状況でも技術参謀は機嫌が良いらしい。なぜかニタニタしていた。だから相変わらず機内で賑やかなのは金剛姉妹と夕立ぐらいだ。あの現象が起きれば、この姉妹を中心に、さらに大騒ぎするだろう。

 

 姉妹と言えば祥高さんと技術参謀もそうだったな。

私は窓の外を見ながら、ふと祥高さんが「お姉ちゃん、怖い!」……と叫ぶ光景を想像して苦笑した。だが性格的に祥高さんが嵐を怖がる事態は、あり得ないだろう。

 

 美保では最近、姉妹艦の着任が多い。

日向にも、お姉さんがいる。普段から気丈に振舞っている彼女だが伊勢の話をすると、ふと寂しそうな表情を見せる。

 

 比叡には金剛、山城さんには扶桑さん……とどめに秘書艦の祥高さんと姉の参謀が再会した。

 

 他の艦娘たちの姿を見て日向も少しは寂しさを感じるだろう。以前も『お姉さん良いな』とか言っていた。

 

 もちろん艦娘の大半には最初に建造された『長女』的な子が居る。同じ設計で生まれた艦娘たちは自然と姉妹になる。

だが向こうに居る夕張さんや、美保にいる大淀さんには姉妹すらいない。

 

 未来のブルネイでは量産化に成功していた。武蔵様や島風などが、そうだ。それでも量産化された艦娘と、本当の姉妹とでは感じる世界は違うだろう。

 

「独りか」

私は呟いた。

 

 そういえば母が言っていた。私には姉が居たらしいが死産したらしいと。私は高校生になって初めて、その話を聞いた。

 

 正直ピンと来なかった。それまでは、ずっと一人っ子だと思っていた。

もちろん姉弟関係など私には分からない話だ。

 

 だが両親にとって何か思うところはあったのだろう。

 

境港で初めて艦娘と出会ったときの母親は、ごく自然に接していた。その姿に私は何となく違和感を覚えたものだ。

 

もっとも私の両親は二人とも軍隊関係だった。従って軍人である艦娘たちとも違和感が無いのかも知れない。

 

そして私が彼女たちと縁を持ったのも、何か因縁でもあるのだろうか?

 

 私は改めて機内を見渡した。

「ぽいぃ」

「ひえぇ」

 

鎮守府にいる限り艦娘は決して孤独じゃない。家族以上の仲間たち……そうあるべきだ。そう思えば、夕立や比叡だって可愛らしく思えてくる。(もちろん変な意味ではない)

 

 そう思いながら私は何気なく日向の方を振り返ってみた。彼女は頬杖をついて、無言で窓の外を眺めている。

 

時おり光る雷光に照らされ青白く光る横顔。その陰影は、まるで彼女の孤高さを象徴しているようだ。

 

日向は鎮守府の中でも、あまり感情を見せない。

 

武人だから? それとも性格か。

(お前は、いつもそうだな)

 

 お互いが単なる一兵卒で横並びだった頃には、あまり分からなかった彼女の感情。それが私が美保に着任してからは実に、いろいろなことがあったように感じるのだ。

 

 女性と付き合った経験が無い私にとっては普通の女性ですら謎めいている。それでも何となく艦娘が限りなく人間に近い感情を持つ存在であることは理解した。

 

 日向も然り。今回出会った五月雨もそうだ。

 

一見、威圧感するら覚える武蔵様だって実は、とても繊細な印象を受けた。島風もそうだが艦娘は大概、孤独な印象を受ける。外面だけでなく内面でも戦っているのだろうか。

 

 大海原の戦場だけではない。艦娘という存在自体が孤独なのか。

だから妙に、はしゃいでみたり、わざとバカなことをするのか。

 

「ぽ・ぽ・ぽぃ」

あの夕立も……それは孤独の裏返しか?

 

ふと、武蔵様の言葉を思い出した。

 

『フフフ……お前以上に私は馬鹿だぞ』

 

『美保の司令殿……彼女たち艦娘の気持ちも案じてやれ。彼女らは本当に大海原で単身で闘っているのだ。その心細さは、いかばかりだろうか?』

 

『……だが私も今回、島風が居ただけで、どれだけ支えられたか?』

 

『艦娘とは、繊細な者たちなのだ』

 

それを治めつつ戦い、かつ鎮守府の運営も行っていくべき提督業。それもまた簡単な事ではない。女性の感情も分からない私に果たして、このまま艦娘艦隊の司令なんて務まるのか?

 

……急に不安になってきた。

 

 広瀬中佐を尊敬していると豪語したものの私自身いまだに部下のために尽くし切れていない。理想と現実は厳しい。

 

技術参謀に刃向かった私自身、この嵐を抜ければ、そこで提督の立場から下ろされる可能性もある。

 

(いや提督解任は、ほぼ確実か?)

 

(ただ……それも良いかな?)

 

何気なく前を見ると……寛代が自分の座席から振り返って、こっちをジッと見ていた。

 

時おり光る稲光に彼女の長髪が陰影を際立たせている。それがまるで人の心を見透かす仏像のように見えてドキッとした。

「……」

 

「な、何だよ寛代?」

まさか私の心情を見つめているのか?

 

(提督を降りるかも知れないこと? それとも艦娘たちのことか……あるいは)

 

ただ寛代に気づいた技術参謀は言った。

「寛代、前を向いていなさい」

 

彼女が大人しく前に向き直った次の瞬間だった。

静電気の強い感じの妙な電流が機体全体を再び覆った。

 

そして機内の、すべての金属が帯電し一部はバチバチと放電し始めている。

「ぎえええ!」

 

「お姉さま!」

やはり、金剛姉妹が最初に騒ぐんだな。

 

……だが、この電気椅子みたいなビリビリは苦手だ。

 

「あれ?」

私は少し妙なことに気づいた。

 




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EX回:第40話(改2)<解放>

再び謎の空間に突入した司令たち。果たして、この空間から脱出できるのか?


 

「……我々の期待を裏切るなよ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第40話(改2)<解放>

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 妙なビリビリした電流が再び機体全体を覆った。機内のあらゆる金属部分から青白い放電が始まっている。

 

「ぎえええぇ!」

「お姉さまぁ!」

金剛姉妹の二人は揃って頭から青白い火花を散らしている。

 

 これが扶桑姉妹のように生真面目な戦艦娘だったら気まずくて大変そうだ。お互い場が持たないだろう。

 

 だが金剛姉妹だと多少は笑いが入るくらいが自然なのが救いだ。だから二人の大声での掛け合いも何となく板についてきた。

 

 その一方では龍田さんは余裕の表情だ。

頭に浮いている謎の円盤と自分の刀で器用に放電させている。そもそも、あの円盤は宿主に危害を加えない仕掛けらしい。

 

 このビリビリ現象が、ようやく起きたことは嬉しい。だが直ぐに驚く現象が起きた。一番派手な金剛姉妹の被り物からの放電が徐々に収まっていく。

 

「あれ?」

比叡が頭に手をやる。自分でも分かるようだ。

 

「やだ、気持ち悪いぃ」

これは夕立。あの金髪は相変わらず静電気で派手に爆発したままだ。放電は収まっても電通はあるらしい。

 

 気になって横の技術参謀を見る。すると彼女のインテリな眼鏡からは、やはり放電現象が起きていない。

(ひょっとして、この嵐は来るときと違うのか?)

 

 私の不安そうな雰囲気を察した技術参謀。こちらを見て言った。

「司令、どうした」

 

「いえ……来るときは金剛の被り物から激しく放電がありましたが今回はあまり無いようです」

 

「ああ」

彼女は頷く。

 

「私もアレは苦手だ」

「はぁ」

参謀はポケットからシートを取り出した。

 

「二度と恥は晒(さら)すまいと思い放電シールを作ってみた」

「ええ?そうだったんですか」

私は思わず来たときの青葉さんのスクープ写真を思い出していた。あれ、どうなったかな。

 

彼女は続けた。

「意外に効果があるな。まだ試作だが金剛姉妹にも念のために渡しておいたから、ほら……」

 

参謀が顎(アゴ)で指した先の金剛姉妹からも、まったく放電現象は起きていなかった。変な放電が起きないので金剛姉妹は直ぐに落ち着いた。やれやれ。

「おい司令……」

 

すると彼女は、いきなり改まったように声をかけてきた。

「はい?」

 

思わず振り向いた私に参謀は真顔で言う。

「いいか、人間は常に進歩するものだ。艦娘の私が言うと、ちょっと説得力に欠けるがな」

「はぁ」

 

彼女は指を立てる。

「だが私はケッコンをして人の血も受けて悟った世界は多い」

「……」

 

黙った私に構わず参謀は続ける。

「あの寛代もそうだ。人の生命力の神秘というものは限りが無い。人は不可能な現実や現状に甘んじ留まるべきではないのだ」

 

何かを諭されたようだ。

 

「ハッ」

思わず私は腰掛けたまま背筋を伸ばして敬礼をした。

 

「私だって偉そうな立場には居るが日々葛藤だ」

彼女は前を向いた。

 

「半分人間の血を受けて、それが増した。実に厄介だな人間と言うものは」

 

(これは独り言なのだろうか?)

私は考えてしまった。

 

「だが」

参謀は、こちらを向いて話しかけてきた。

 

しかし私の様子を見て直ぐに呆れた。

「おい、変に硬くなるなと言っただろう!」

「はっ、恐縮です」

「本当に進歩がないな、お前は……」

 

彼女の表情が少し緩んだ。

「まあ良い。それもお前の個性だ」

 

再び真顔になり表情が険しくなる参謀。

「だが司令、お前の立場は決して一人だけのものではない」

「はい」

 

彼女は機内を見回した。

「指揮官という立場には多くの人間や艦娘が連なる。それをもっと実感できるよう努力しろ。それもまた司令の重要なシゴトのうちだ」

「はぁ……」

 

「だから情けない顔をするな!」

いきなり叱責されてビックリした。周りの艦娘たちも驚いてこっちを見ている。

 

 ただ赤城さんも黒髪が空中で大爆発しているのだが本人は真顔で煎餅を食べ続けていた。

 

 参謀は艦娘たちの反応を見て再び表情を緩め肩をすくめた。

「まったく単純過ぎる。いや逆に考え過ぎか? お前は……」

 

「はっ、気を付けます」

実は『恐縮です』と言いかけて止めた。また怒られそうだったから(笑)

 

「まぁ、良い」

彼女は座席で大きく手を伸ばしてから頭の後ろに手を組んだ。

 

 まだ変な空間にいるにも拘らず余裕綽々だ……きっと参謀には脱出できる確信があるのだろう。その姿勢には何か安心感すら漂ってくる。さすがだ。

 

 それを見て私も正面を向いた。

あのブルネイの大将にも人格的に大きなものを感じた。同じように彼女もまた単にその位置に居るわけじゃないのだと思った。

 

 すると改めて思い出したように口を開く参謀。

「本省の青年将校が居ただろう」

「はぁ」

「あいつもお前を買っているんだ……我々の期待を裏切るなよ」」

 

その言葉に私はハッとした。

(いきなり言われた感じだが……)

 

 そして窓の外が突然、明るくなった。いつの間にか雷鳴は消え機体の振動も急に収まっていた。

 

「嵐から脱出したようです!」

「助かったのか?」

機内から艦娘たちの歓声が上がる。副長も思わず握り拳を突き上げていた。

 

前の席から寛代が振り返って私を見ていたが、その顔は珍しく笑顔だった。 

 

 輝く窓の外を見ながら参謀は言った。

「戻ったな、司令」

 

「ハッ」

私たちは、ついに解放されたのだ。太陽が眩しかった。

 

「ねえ、アレ見て!」

夕張さんが窓の外を指差して叫んでいた。その指し示す先の雲海には大きな虹の輪が出来ていた。

 

「わぁすごい、すごい!」

「虹って輪になるんですね……」

「美しいわぁ」

感嘆の声を上げる艦娘たち。

 

「幸先(さいさき)がいいな……」

参謀が呟く。

 

それを見て私も『本当に帰ってきたのだ』という実感が、ひしひしと湧いてきた。

 




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EX回:第41話(改2)<艦娘の帰還>

艦娘と司令は嵐を抜けて、ついに明るい太陽の下に出た。ここは果たして「現代」なのだろうか? 確認を急ぐ司令たち。


 

「戻ったのか? 私たちの時代へ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第41話(改2)<艦娘の帰還>

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 水色の空と蒼い海の間を飛び続ける機体。太陽が眩しい。

 

私は操縦席へ行くと機長に聞いた。

「現在地は分かるか? あと可能なら時間、いや年代の方が良いか」

「確認します」

 

続いて寛代を見た。彼女も親指を立てて『分かりました』と言う感じで頷(うなづ)いた。私は、そんな寛代の反応にホッとするのだった。

 

そのまま私は機内の艦娘たちに向けて言った。

「無事に嵐を抜けたようだ」

 

「まぁ」

「やった……」

艦娘たちは歓声を上げる。

 

私は制帽を脱いで続けた。

「元の時代へ戻ったはずだが確認中だ。取り敢えず皆には感謝しよう。本当に、よくやってくれた。有り難う」

 

艦娘たちは無言で微笑んだ。敢えて言葉が無くても気持は伝わる。

 

 その間にも機長たちは各所に交信を試みたり現在地の確認をしている。

その姿を見ながら私は、いったん自分の座席に戻った。

 

 ため息をついて制帽を脇に置くと隣から技術参謀が話しかけて来た。

「今回は記録に残さないつもりだ。報告書も軍事ログにも」

 

「ハッ」

それはそうだろう。理解し難い状況だ。

 

「下手に報告してヤブヘビになったら余計な仕事が増える」

彼女は肩をすくめた。私も苦笑した。

 

「だが当事者の一人でもある、お前には伝えておこう」

私が小さく頷くと参謀は小声になる。

 

「お前には私が、この時代の自分自身にメールを送ったと言ったろう」

「えーと」

(嫌な予感がする)

 

彼女は少し周りを気にして言った。

「実はメールだけでは詰まらんからな。あの時代の私自身と直接交信した」

 

「え?」

そりゃ、ぶっ飛び過ぎだろ!

 

だが参謀は上機嫌で腕を組んだ。

「あの時代は携帯端末から直接、音声通話が出来るらしい」

 

私は呆れた。

(想像を絶する悪さをしているじゃないか!)

 

やっぱり技術オタクだ。

 

まったく悪びれずに彼女は得意そうに言う。

「この時代でも美保鎮守府を選んだのは私自身だった」

「はぁ」

 

ニタニタした彼女は続ける。

「あの時代の『私』は私たちが時代を超えて『出現』したのを電探で確認したらしい」

 

「……」

私は絶句した。何だ、全て知っていたのか?

 

参謀は指を立てた。

「その上で未来の私は、この時代の美保の艦隊に適当な理由をつけて戻したそうだ」

 

「それは……」

それ以上は言葉が出なかった。戻された未来の私たちも可哀想なことだ。

 

(いや、待てよ)

私は考え込んだ。つまり未来の『私』も今回のことは知っていたわけか?

 

混乱しかかっている私を見ながら彼女は悟ったように続ける。

「そりゃそうだ。今回のことを私自身が覚えていれば、その年月日に予定調和的に指示をするだろう。もしお前と私の縁が未来も続いているならば当然、未来のお前だって私の意向に沿った動きをするはずだ」

 

「過去と未来の私たちが……」

(二人の指揮官が揃いも揃って何をやっているんだ?)

 

混乱する。

 

「ん?」

私は気づいた。

 

(もし、そうだと仮定して)

……その未来の技術参謀は、その前に一回は未来へ行ってたわけか。

 

(待て、待て)

私は額に手をやって考え込んだ。

 

(……その前の彼女は、一体どこから時間を超越する情報を得たんだ?)

いや、もし知らなかったとしても、この現象は繰り返されているのか?

 

(こ、混乱してくる!)

私は頭を振った。

 

SF的な発想は嫌いじゃないが考え込むと迷宮に迷い込みそうだ!

 

 私が混沌としている顔をしていると技術参謀は、ますます嬉しそうな顔をして言った。

「ふふふ混乱するだろう? だが、こういう多重構造的な時空の連続はゾクゾクするな。実に愉(たの)しいぞ!」

 

技術参謀は嬉しそうな顔をした。こっちは愉しくない! ……ったく。

 

 そのとき、前の操縦席で動きがあった。同時に艦娘たちも、ざわついている。何かの交信を捉えたようだ。

 

 私は聞く。

「戻ったのか? 私たちの時代へ」

 

寛代が振り返り親指を立てる。それを見た機内には歓声が上がった。

 

「戻った……ったっぽい!」

金髪を振り乱して夕立が叫ぶが既にロレツが回ってない。

 

他の艦娘たちも飛び上がって喜んでいる。

「やりました!」

「やったわねぇ」

(以下省略)

 

青葉さんは、その状況を盛んに写真機に収めている。

 

ふと誰かが私の肩に手を置いた。見上げると日向だった。

「司令」

「ああ、戻ったな」

 

「はい」

余計なことを言わなくても何か通ずるものがあった。本当に良かった。

彼女も安堵したような表情だった。

 

 続けて何か言いかけた日向だったが技術参謀がカットインして私に声をかけて来た。

「司令、操縦席に一緒に来い。ちょっと確認することがある」

 

「ハッ」

恨めしそうな日向に軽く手を上げてから私たちは操縦席の寛代のところへ行く。

 

参謀は言った。

「ここが行きと同じ場所であれば計画通り私たちの時代のブルネイでの模擬演習を執り行いたいと思う」

 

「ハッ」

「ただ艦娘たちの体調やメンタル面での問題もある。総合的な判断は指揮官である、お前に任せる」

 

「……」

「まずは私がブルネイに連絡をするから、その間に艦娘たちに演習が可能かどうか確認をしてくれ」

 

「ハッ」

私は敬礼をすると機体の中央部に戻り艦娘たちに問いかけた。

 




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EX回:第42話(改2)<それぞれの事情>

ブルネイで彼らが本来すべき演習のことと、その後の自由時間の確認をした司令。だが彼には残された時間が……。


 

「司令のバカ!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第42話(改2)<それぞれの事情>

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 私は艦娘たちに問いかけた。

「聞いての通り私たちは『現代』に戻って来たことは確実である。従って本来の私たちの目的であるブルネイの艦娘との公開演習を行う必要があるだろう」

 

ちょっと、ざわつく艦娘たち。私は続ける。

「ただ昨日からの出来事もあることだ。技術参謀より、お前たちの体調や気持ちも含めて計画の変更は考慮して頂ける」

 

この言葉で、ざわつきは止まり艦娘たちは安堵したような顔になる。

改めて全員が私に注目したので私は少しだけ間を置いてから続けた。

「公開といっても昨日のような、一般を巻き込んだ、お祭りではない」

 

なぜかガッカリしたような表情を見せる一部の艦娘。それは無視。

「……それに、これは演習だから多少の変更も可能だろう」

 

そこで龍田さんが呟く。

「せっかくブルネイに来たんだしぃ。アタシ水着も持ってきて居るんだぁ」

 

「なに?」

聞き捨てなら無い台詞……私は咳払いをするような振りをして聞いた。

 

「ちなみに全員、水着とか持ってきたのか」

 

一瞬、間があって艦娘たちが反応する。

「yes! 当然ネ!」

「み、南の島ですからっ!」

「泳ぎたいっぽい~」

(以下、省略)

 

「そうなると……」

私は、わざとらしい口調で言った。

 

「さっさと演習を消化して泳ぐか!」

機内は大歓声になった。

 

 早速、技術参謀に報告しようと振り向くと既に彼女は、こっちを見て親指を立てている。なるほど『OK』ということだな。

 

機長が言った。

「当機はあと20分で着陸態勢に入ります。識別コードも、すべて問題ありません」

 

それを聞いて、ホッとした……まあ、これが当たり前のことなんだ。

「機長、あとは任せる」

「了解」

 

(やれやれ)

ようやく肩の荷が下りた思いだ。私は自分の座席に戻ると詰襟のボタンを緩めた。

 

機内は艦娘たちの雑談で急に騒がしくなっていた。この「遊び」の要素が入ると突然、明るくなるのは少女らしい。

 

(もう既に一回、演習しているから息抜きというエサ(目標)も必要だろう)

私は、そんなことを思いながら窓の外を見ていた。

 

「あの、司令……」

急に後ろから日向が小声で聞いてきた。

 

「どうした?」

振り返ると彼女は視線を反らしながらモジモジしている。何かの病気か?

 

「あの……海水浴は部隊の公式行事になるのでしょうか?」

ナンだ……と思った。こういう杓子定規なところは彼女らしいが。

 

だが、ちょっと意地悪をしてみたくなった。

 

「そうだ日向。これは公的な予定だ」

わざと真面目な顔をして答えた。

 

なぜか固まる日向。

「なんだ? その硬直は。不都合でもあるのか?」

 

「いえ、その……」

彼女は赤くなっていた。目まぐるしいな。

 

「水着は、そのぉ……」

私は内心苦笑した。さすがに生真面目な彼女を、これ以上からかうのは可哀想だ。

 

「ごめん日向」

私は手を左右に振った。

 

「冗談だよ。海水浴は、あくまでも自由参加。演習後は各自、自由時間にする」

すると硬直していた彼女は急に安堵した表情に変わった。

 

だが直ぐに膨れっ面になった。

「……もう!」

 

(あ、日向が怒った)

珍しい。

 

「司令のバカ!」

とても静かな声で怒られた。それでも真っ赤になって両手で口を覆っている。そんな彼女の「変化」にクラクラ来た。

 

(まずいぞ!)

正直、自分の感情の揺れに私も焦った。

 

だが日向は続けた。

「司令、あの……その時間、何かご予定は?」

 

「いや、別に……」

ちょっと間を置いて私は続けた。

 

「多分、その頃には、もう司令ではないから」

私は正面を向き直って腕を組むと座席に深く腰かけた。

 

「……!」

変な殺気を感じて振り返ると驚愕の表情を浮かべた日向が座席から立ち上がっていた。

 

(あれ? まずかった?)

……でも隠したところで直ぐに分かる事だ。

 

しかし彼女の反応を見た他の艦娘たちも急にざわついている。

 

「司令? それは、どういうことですか?」

何かを食べていた赤城さんが聞いてくる。

 

「おい、口の周り……何か付いてるって」

私が指摘しても彼女は真顔のままだった。思わずため息を吐いた。

 

 




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EX回:第43話(改2)<認められません>

司令が解任されると聞いて動揺する艦娘たち。それを黙ってみていた技術参謀は彼を呼ぶ。


 

「バカさ加減もまた、この艦隊に不可欠なのだ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第43話(改2)<認められません>

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 私は呟くように言った。

「多分、もう司令ではないからなぁ」

「……!」

 

「司令? それは、どういうことですか?」

 

窓の外には浅瀬や小さな島が見えてきた。

 

しかし機内では私の言葉を受けて艦娘たちに不穏な空気が漂っていた。

 

艦娘たちは、もう直ぐ着陸だというのに、ほとんど立ち上がって、次々と私のそばに集まっていた……寛代と技術参謀を除いて。

 

「司令ぇ水臭いですよぉ、突然」

青葉さんが言う。さすがの情報通だが、この事態に少々動揺しているようだ。

 

「自分独りで思い悩まないでください」

これは祥高さん。彼女がこういう場で前に出てくるとは珍しい。

 

「いや、悩む以前に、さっきのアレだ」

私は頭に手をやって答える。

 

「短絡的に動いた結果だ。軍隊で上官に刃向かえばこういうことになる、それは分かるな?」

艦娘は互いに顔を見合わせている。

 

私自身は妙に落ち着いている。だが、わずかな期間でも苦楽を共にした仲間と、いとも簡単に別れても良いのか? ……という思いもある。

 

すると赤城さんが口の周りに何かをつけながら言う。

「私たちは……家族でしょう?」

 

その容姿と発言内容の落差に思わず噴出しそうになった。まるで葬式で笑いを堪えて悶絶するようだ。

 

「oh! シット。一連クタクタではナイですかぁ? コレは、おかしいヨ」

な……なぜ、お前が目に涙をためるんだ金剛? 

その意外さに貰い泣きしそうだよ。

 

今度は隣の比叡が続ける。

「司令! 一蓮托生っ、私たちは家族以上の関係ではないのですか? 独りで勝手にやめるって……許さない!」

 

(比叡、鼻水が出ているぞ)

真剣な彼女には悪いけど、こっちは違和感無いから笑えなかった。

 

「司令……」

あ、やばい。

 

振り返ると日向だ。

(こいつは苦手だな)

 

彼女は躊躇(ためら)うことなく私の手を握るとウルウルして言う。

「認められません……命令であっても」

 

(……い、痛い)

相変わらず、すごい力でプレスするなぁ。

 

(アマゾネスめ!)

そう思って彼女を見る。

 

だが、あまりにも悲しそうな表情なので、その例えが悪かったと反省した。

 

(それでも痛い!)

手が砕けるっ ……てか、もう堪忍してくれぇ!

 

 急に視線を感じた。見ると向こうから技術参謀が腕を組んで、こっちを見ている。

 

寛代は首をかしげて無線を気にしつつ、やはり振り返っていた。

 

「あの……そろそろ」

機長が着陸態勢に入ることを申し訳なさそうに告げる。

 

それを受けたように技術参謀は、大きくため息をついた。

「提督……いや司令」

 

私は日向の圧迫に耐えながら顔を上げる。

「はい」

 

「ちょっと、こっちに来い」

その言葉に私は日向を見た。だが、それでも彼女は手を離さなかった。

 

「……日向もう良いから離してやれ」

参謀の命令だが彼女は無言で首を左右に振っている。

 

 圧迫されて感覚が鈍くなってきた手に何か水滴が落ちたような気がした。

(お前……)

 

 泣いているのか。

 

私はふと、境港で彼女もろとも水路に落ちた時のことを思い出した。

 

技術参謀は再び、大きな声で急かす。

「早く来い!」

 

 機体は降下中だ。

 

参謀は焦ったように言う。

「ばか者っ……時間がないぞ!」

 

仕方無く私は強引に技術参謀の方向へ歩き出す。

 

日向は、それでも離さなかったが手が解けて直ぐに解放された。

 

私が技術参謀の前まで来ると彼女は言った。

「本当にお前は、進歩がない。何というかだな! ……ったく」

 

「申し訳ありません!」

確実に呆れているな。

 

だが彼女は表情を緩める。

「まあ良い。そういう裏表なき真っ直ぐなバカさ加減もまた、この艦隊に不可欠なのだ」

 

「はぁ?」

それは、ほめ言葉なのか? ……いや逆か?

 

参謀は、ちょっと怖い顔になった。

「歯を食いしばれ!」

 

「ハッ!」

私が気合を入れると同時に鈍い音がした。

 

(痛ったア!)

目の前に火花が散った。思いっきりビンタを食らわされた。

 

 危うく横飛びするところだった……いや揺れる機内では正直、少しよろめいた。

 

マジで倒れる寸前に祥高さんと日向が私の両脇を支えてくれた。

 

「あ、有り難う」

そうは言ったものの、かなり恥ずかしかった。

 

(でもやはり、いざという時に私を支えるのは、この二人なのだろう)

……そんな実感があった。

 

さすがの技術参謀も痛かったのだろう。自分の手をしきりに振って言った。

「痛ぅ……まあ良い。これでチャラだ」

 

「え?」

(もしかして軍法会議なしに無罪放免ですか?)

 

祥高さんと日向も顔を見合わせている。

 

「しっかり励め」

席に戻りつつ参謀は言った。

 

「バカ者め!」

それでも彼女は微笑んでいた。

 

「はっ」

思わず敬礼した。釣られるように祥高さんと日向も敬礼をした。

 

その光景は私の軍隊生活の中でも最も美しい敬礼の一つに成るだろうと実感した。

 

揺れる機体の操縦席から機長が叫ぶ。

「あと3分で着水します。全員、ご着席願います!」

 

「済まん機長!」

私たちは慌てて席に戻った。

 

 着席してから叩かれた頬に手を当ててみる。当たり前だがジンジンしていた。

(こりゃ腫れるぞ)

 

何となく腫れぼったくなった頬を摩りながら眼下を見る。

そこにはブルネイの群青の海面が広がり、機体の影を映していた。

 

 




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EX回:第44話(改2)<ブルネイ再び>

司令たちは再び……ブルネイの地に到着した。それは懐かしいというのだろうか? 誰もが妙な感覚に陥るのだった。


 

「お祭りやってないわよねえ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第44話(改2)<ブルネイ再び>

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 窓から覗く。大型クレーンが見えた。

 

「確か、あの辺りが鎮守府だったな」

思わず呟いた。

 

だが未来の自分の「記憶」を手繰るとは何だか妙な心地だ。

 

 二式大艇はブルネイの鎮守府上空を大きく旋回してから管制の指示に従ってゆっくりと着水、水しぶきが上がる。

 

操縦席からは警報も何も出ていない。今回のゴタゴタでは参ったが味方と認識されるのは当たり前のことだ。

 

 機内の全艦娘たちも前回で懲りたのか、みんな目を覚ましていた。

着水後、再び水面で加速をして埠頭へ向かう二式大艇。

 

「お祭り、やってないわよねぇ」

龍田さんは窓の外を見ながら楽しそうだ。まぁ今回は祭り以外の楽しみもあるからな。

 

 私も改めて窓から外を見る。時折、機体の横を通り過ぎる内火艇の向こうに煉瓦造りの鎮守府本庁舎がチラッと見えた。

 

懐かしい感じだが、よく見れば全部、新しい。割と最近、建てられたようだ。

 

それに埠頭のどこを見回しても屋台もない。そりゃそうだ。今回の模擬演習は、あくまでも我々の任務なのだ。

 

さすがの技術参謀も今回が実験ということもあってか、どことなく緊張している様子だ。

 

 副長と何か、やりとりをしていた機長が無線を外しながら言う。

「やはり直接、接岸は出来ませんね」

 

「そうだな」

返事をしながら私も未来のブルネイを連想していた。

 

「いま先方から内火艇が迎えに来ます」

「了解だ」

この辺りのやり取りは今回の面々は経験済みだ。不思議な感覚だ。

 

「出迎え?」

呟いた私はブルネイの五月雨を思い出した。

 

 やがて船が近づく水の音がした。ガコン……という鈍い音と共に内火艇が機体に横付けされた。機長は窓から何か指図している。これも変わらない。

 

気を利かせた日向が立ち上がって機長に目配せをしてから言った。

「開けます」

 

取っ手を引いた彼女。ガバットいう音がして外気が入って来る。

 

既に扉の直ぐ外には先方の内火艇が横付けされていた。その甲板上では私たちにとって懐かしい少女が敬礼をしていた。

「ブルネイ泊地鎮守府所属の駆逐艦『五月雨』です。お待ち申し上げておりました」

 

「おぉ、五月雨! 久しぶ……じゃなくて」

言いかけた私は慌てて訂正した。案の定、五月雨は目を丸くしていた。

 

(あぁ、バカ丸出し)

我ながら大失態だ。後ろの方からもクスクスという笑い声。まったく以て恥ずかしい。

 

怪訝そうな表情をする彼女を尻目に私は思わず後頭部に手をやって苦笑した。

 

すると青葉さんが飛び出してきて、ここぞとばかりに私たちを連写する。

 

「おい、こんなとこ撮るな! ……ほら彼女(五月雨)も困っている」

「あ、いやいや」

私の制止に青葉さんはカメラを止めた。

 

「ちょっとテストを兼ねて……ね」

悪戯っぽく舌を出した彼女。

 

やや気を取り直したように五月雨は言った。

「では……提督は、こちらの操舵席前、艦長席へどうぞ。機体は暫く係留いたしますので機長は無線の指示に従ってください」

 

てきぱきと、淡々と物事が進む。

 

(本当に変わらないんだな、五月雨は)

私は、なぜかホッとした。そこだけ変わらないものを感じたから。

 

私たちは各自、荷物を抱えて内火艇へと移動した。

 

 五月雨は無線で連絡をしていたが何度か頷いて合図を出した。やがて内火艇はゆっくりと出発した。

 

 当然ながらブルネイの港湾内は見事に変わっていなかった。

それに停泊中の艦船や各種の装備類も基本的に美保と同じだ。同じ時代だから至極、当たり前の話だ。

 

(まあ軍隊なんて、どこも変わらないよな)

 

 鎮守府全体は落ち着いていたが……美保の面々も最初は若干の違和感を覚えていたようだが直ぐに金剛姉妹を中心にワイワイ騒ぎ出す。

 

その光景を見ながら私は、これがいつもの「みほちん」だな、と思った。

 

 青葉さんは……隠しカメラか? お前も懲りないな。

 

何となく五月雨が気にしてチラチラ見ているが青葉という重巡相手だから少々遠慮している。

 

その遠慮がちな姿がまた可愛い。

 

 そのとき私は、あの武蔵様の台詞が頭の中に甦ってきた。

 

『目に見えない物ほど、永遠に残る』

 

(……あの武蔵様も、ここに居るのかな? いや、まだか)

 

ふと見ると龍田さんが海面を撫でながら雫を垂らして手のひらを見つめている。やることは相変わらず同じだなあ。

 

そして見上げると青い空と白い雲。やっぱり暑い。これも変わらないな。

 




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EX回:第45話(改2)<我々の時代>

また前回と同じように内火艇で桟橋へと向かう司令たち。外見は同じでも中身は前回とは違うブルネイ。改めて「現在」に生きることを実感する面々だった。


 

「やはり良いな、我々の時代は」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第45話(改2)<我々の時代>

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「司令……」

やっぱり私の隣に技術参謀が座った。

 

とはいえ今度は私の真横に、にじり寄ってくることも無く彼女は普通に空や港湾内を見ていた。

 

そして風に髪をなびかせながら言った。

「……やはり良いな、我々の時代は」

 

「そうですね」

同感だった。

 

未来へ行ったことは貴重な体験だ。しかし人には、それぞれ居るべき位置があるのだ。

 

技術参謀は視線は視線はそのままで続けた。

「お前の機内での行為だが……」

 

「はっ」

私は緊張した。

 

彼女は続ける。

「私の、すべて日誌からは消しておいた……以後、気をつけることだ」

 

「……」

私には返す言葉がなかった。

 

参謀は、こちらを見た。

「まだ司令としての経験も浅いことだ」

 

「ハッ、恐縮です!」

ふと見ると比叡と喋ってた金剛は急に、こちらを振り向いた。

 

(……?)

私と彼女の目が合ったが金剛は猫のようにニヤッと笑っただけ。微笑んだまま再び隣の比叡との会話を続けた。

 

……前みたいな、妙な『嫉妬光線』は送って来なかった。

 

(お前も、ちょっとは成長したんだな)

何となく嬉しかった。

 

その脇では赤城さんが、また煎餅(せんべい)をボリボリと真顔で食べている。そのギャップが何とも言えないな。

(それ、まだ残ってたんだ)

 

彼女は私に気付いて自分の煎餅は口にくわえたまま1枚持って私に差し出してくれた。

「たべまふ?」

 

「……そうだな、一枚」

今度の私は手を伸ばして受け取った。ちょっと小腹も空いていたから。

 

「うふふ」

首をかしげた彼女は自然な笑顔だった。その表情にも安心感があった。

 

ボリボリと煎餅を食べながら、ふと前を見ると夕張も居た。また静かに本を読んでいたから全然分からなかった。もちろん『非公式』なメガネも健在だ。

 

そんな彼女も私に気付いて顔を上げた。

「もう少しで、この本読み終えるんです」

「へぇ、そりゃすごい」

 

夕立も金剛たちに合流して笑っていた。その金髪は南国の風になびいてサラサラと空中を流れた。

(水面ではない……貞子にならなくて良かったな)

 

祥高さんは相変わらず、うつらうつらしている。

 

日向は……

(あ? どこだ)

 

声がした。

「司令、お隣良いですか?」

「あ、あぁ」

びっくりした。振り向くと脇に居たのか。

 

彼女はスッと技術参謀と反対の私の側に座る。ふと境港での山城さんVS日向のベンチでの不毛な戦いを思い出してしまった。

 

さっき機内で散々プレスされたからこれ以上は堪忍だ。だが今日の日向は落ち着いていた。

 

彼女は参謀を意識して言った。

「ブルネイでの研究は……思いのほか進んでいるのですね」

 

「そうだな」

技術参謀が応えた。

 

私は操舵室を見た。

(確かに、この船を操縦している五月雨は、まだ試作的なタイプだと思えるが……どうなんだろうか?)

 

すると急に技術参謀が答える。

「ここの艦娘たちは、ほぼ完成型に近い。あとは安定性だな」

 

「は?」

(安定性? なに)

 

そう思った瞬間ブルネイの埠頭が視界に入った。船内の艦娘たちも会話を止めて降りる準備を始める。桟橋からも先方の艦娘たちの姿や声が聞こえる。

 

そして五月雨が言う。

「到着いたしました」

 

埠頭から見える、ちょっと開けた場所が広場のようだ。残念ながら、お祭りはしていない。私たちは次々と荷物を持って陸に上がる。

 

五月雨は、また司令部と交信しているらしく何度も操舵室で頷いていた。

 

陸に上がった私は思わず憲兵さんが居ないか確認してしまう。

(今のブルネイに居るわけないよな)

 

私はホッと胸をなで下ろした。バカみたいだが。

 

やがて五月雨は通信を終わった。彼女は到着後の内火艇の引き継ぎを他の艦娘に任せると、こちらを向いた。

「私たちの提督がお会いするそうです。執務室までご案内します」

 

そう言った五月雨は先頭に立って歩き出す。私たちはゾロゾロと付いていく。

(もしかして、あの大将の若い頃が拝めるのか? いや、年代が違う。あり得ないことだが……両時代の差は何年あるのだろうか?)

 

それは分からない。

 

 歩きながら周りを見る。現代のブルネイ泊地は、まだ各施設がとてもキレイだった。多くの施設が設置直後らしい。艦娘たちも歩きながら、やたらキョロキョロ見回している。同じ事を考えているようだ。

 

彼女たちは瞬時に弾道計算をこなす能力はあるが時空を越えるという超常現象への感覚は理解出来ないだろう。

(時間旅行ってのは、いろいろとややこしい置き土産をするものだな)

 

ほどなくして鎮守府本館の建物に到着した。玄関ロビーから中に入る。いよいよ提督か。果たして、誰が出てくるのだろうか。

 

「いよいよ現地のテートクですヨ」

「前のゴツい方を思い出します!」

金剛と比叡の会話は誰もが同感だろう。かく言う私も、そんな想像をしていたから。

 

五月雨を先頭に私たちは鎮守府本館の2階へと上がる。私は彼女に聞いた。

「艦娘たちも全員、面会して良いのか?」

 

彼女は微笑んで応える。

「提督は、皆さんが遠方から来られたから全員と挨拶しますと仰られました」

 

「そうか」

(うーむ、まだあの大将かどうか何とも言えないな、この状況では)

 

だが五月雨の青い髪の毛を見ていると別の考えが出てくる。

(この五月雨は、あの未来の彼女と同一人物なのか? それとも「試作品」か?)

 

年代が違うから仮に同一人物だとしても私たちのことはまったく知らない。ほぼ別人と考えても良いわけだが……何か、あの五月雨とは違う感じがするのだ。

 

(……あとで、技術参謀に聞いてみよう)

内火艇で技術参謀が話していた『安定性』という言葉も非常に気になる。

 

「こちらになります」

五月雨の言葉と共に私たちは執務室前に立った。

 

(ついに来たか)

……チョッと、ドキドキするな。

 




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EX回:第46話(改2)<ブルネイ提督と技師>

ついに美保司令たちはブルネイの提督と出会う。そしてブルネイの技師も紹介された。



 

「駆逐艦は比較的安定しているのですが」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第46話(改2)<ブルネイ提督と技師>

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五月雨が執務室のドアをノックする。

 

「はい、どうぞ」

 

直ぐに落ち着いた声が聞こえてきた。

 

(あれ? 何処かで聞いたような声)

 

そんな印象だった。五月雨がドアを開ける。

 

私たちは促されて執務室の中に入った。ここの執務室も私たちには見覚えのある部屋だった……そこにはブルネイの提督が立っていた。

 

長身の男に私は見覚えがあった。

「お前か!」

 

「おっ、久しぶりだな」

海軍兵学校で仲の良かった奴だ。呼び名は『ブルネイ』とでも、しておこうか。

 

「懐かしいな」

「お前も、変わらないな」

私たちは、がっちり握手をした。

 

残念ながら現代のブルネイ提督は、あの未来の『大将』ではなかった。

だが私にとっては旧知の友との再会だった。

 

そんな私たちを見て艦娘たちは不思議そうな顔をしている。

(……そうか、旧友と言う感覚は彼女たちには無いよな)

 

「なんだ、知り合いか?」

技術参謀が声をかけてくる。

 

すると握手を解いたブルネイは彼女に敬礼をした。

「ハッ。兵学校時代の同期であります」

 

ちなみにブルネイの階級は私と同じ大佐だ。同期は、だいたい似たような出世をするんだな。

 

「そうか、それなら仕事もやり易いな」

参謀は笑った。

 

(……いや、これも意図的に同期を人事したのではないだろうか?)

そう思えたが、まあ良い。

 

彼は艦娘たちを見ると声をかけた。

「遠路はるばる、ご苦労さんでした」

 

金剛が「ow!」と小さい声を出す。

 

ブルネイは隣室の扉を開けた。

「艦娘たちも居ることですし隣の会議室へ移動してお話しましょう」

 

 私と違って、こいつは爽やか系だ。金剛や夕立は、どことなく目が輝いてる。私の友人だけあって艦娘への対応も基本、丁寧そうで少し安心した。

 

 会議室に私と技術参謀が並んで座る。その周辺に艦娘たち。反対側の机にはブルネイと小柄なスタッフ、そして窓際に五月雨が居た。

 

凛と響く声でブルネイは立ち上がって説明する。

「演習は午後からとなっています。多少、時間調整も出来ますが現状は予定通り14:00からで、よろしいでしょうか?」

 

「問題ないだろう」

技術参謀は私を見て私は艦娘たちを見る。彼女たちも頷いた。

 

ブルネイでの演習は未来で皆、一度経験している。実際、演習後の『バカンス』という「餌」のほうに意識が行っているので異論はない。

 

 さてブルネイの横に座っているメガネをかけた小柄な男。いかにも技術屋っぽい。そんな私の視線に気づいたブルネイは言った。

「彼が今回の我々側の技術担当です」

 

「よろしく、お願いします」

立ち上がった彼は頭を下げた。背は低く丸顔で童顔だが理知的な顔はしている。頭は良さそうだ。彼は『技師』と、しておこう。

 

技術参謀は彼に聞いた。

「試作計画も、ほぼ問題ないようだな」

 

「はい、普通に使う場合は、そうです」

 

(なんだ?)

技師が言う『普通に使う』という言葉に引っかかる。

 

こういう言葉にも敏感な青葉さんや夕張さんが少し表情を曇らせている。

もちろん単語として問題があるわけではないのだが……。

 

(艦娘も意外に敏感だからな)

私は、この技師は、まだ艦娘の扱いが不慣れなのだろうと思った。

 

彼は資料を見ながら続ける。

「やはりまだ戦艦などは不安定です。駆逐艦は比較的安定しているのですが」

 

(だから安定とか不安定とか、なんだ?)

気になる。あとで技術参謀かブルネイに聞いてみよう。

 

技師は窓際に立っている五月雨を指して説明した。

「あの五月雨タイプが最も安定します」

 

私は、その言葉が引っ掛かった。

(五月雨タイプが安定?)

 

つまり、あの娘は既に量産化されていたのか?

 

私が振り返ると、その五月雨と目が合った。彼女は直ぐに微笑んだ。

 

(……うむ、やはり艦娘は完全な「機械」でも無いようだが)

何か、複雑な思いだった。

 

 




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EX回:第47話(改2)<戦場より辛いもの>

お昼になり会議室で昼食をとる司令たち。そこでの艦娘建造の話題になったが、いろいろ疑問が湧いて考え込む司令だった。


 

「そうですね、生気が無いというか……」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第47話(改2)<戦場より辛いもの>

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 時間は、いつしか、お昼近くなっていた。

『ブルネイ』は時計を見て言った。

 

「もう……お昼か。昼食だな」

 

私は言った。

「昼食は、別に隊員食堂でも良いが」

 

だが彼は片手を上げた。

「移動も大変だ。この会議室で食べよう」

 

「あ、あぁ」

私は秘書艦を見た。彼女も軽く頷いている。

すると金剛姉妹たちが歓声を上げた。

 

(そうか……艦娘たちと席を並べて食事とは久しぶりだな)

私はふと、そんなことを思った。

 

「技術参謀は……?」

私は聞いた。

彼女は本省の上官なので同席しても良いのだろうか? と思ったのだ。

 

だが参謀は微笑んで言った。

「気遣い無用だ。午後の演習のことも含めて彼女(艦娘)たちとも、ざっくばらんに話したい」

 

「ハッ」

参謀の意向で、そのまま同席しての食事となった。

 

(これも通常はあり得ないことだな)

私はそう思った。恐らくブルネイも同じ気持だろう。

私たちが知る上官というものは、やたら格式張っている面々ばかりだったから。

 

 そう思う間もなく彼女は早速あのブルネイの技師の隣に移動すると、いろいろ打ち合わせを始めた。

 

(なるほど)

私は肩をすくめた。

 

(意外に技術参謀は、現場型の人間(艦娘)らしい)

 

私は指揮官同士ということでブルネイの隣の席に座った。

私の反対側の隣には祥高さんと、さらに日向が座った。

 

「失礼します」

ガタガタと音を立てて配膳ワゴンを押して入ってきたのはブルネイの駆逐艦娘たちだ。見ると吹雪、電、叢雲、漣……だな。

【挿絵表示】

 

 

ただ、やはり違和感がある。妙な感覚だが彼女たちは黙々と準備を始めた。

 

技術参謀が技師に聞いている。

「駆逐艦が安定しているとは具体的に?」

 

軽く腕を組んだ技師が応えた。

「筐体および精神状態が半年以上に亘り定常状態を保てます。ただ、それ以降はまだ不安定になる艦娘が多いです」

 

技師は頭をかいた。

「あくまでも日常生活レベルに限定で……実戦への投入は、まだ難しいです」

 

技術参謀も腕を組んで呟く。

「戦艦など最初から不安定というのは要するに安定期が短いということか」

 

技師は残念そうな顔をした。

「いま配膳しているこの艦娘たちは、ほぼ安定して短期間で建造できます。ただ最終的に不安定になる艦娘がほとんどで……難しいものです」

 

(そうか、まだこの時代では量産化は難しいのか)

配膳の吹雪たちは黙々と準備をしている。

 

(会話が、全く無い)

……なんだか寂しいというか雰囲気が暗い。ここでは彼女たちは単なる「機械」なのだろうか?

 

急に何かを思い出したような顔をした技術参謀が技師に話しかけた。

「切り札になるか試して見ないと分からんが新しいレシピ情報をいくつか持ってきた。午後から、それも投入してみよう」

 

「ほう、それは楽しみです」

技師は急に嬉しそうな表情になる。

 

(レシピって? 何だそりゃ?)

そろそろ付いて行けない話題だ。初めて聞く内容だ。まるで料理のような……。

 

すると私の表情を見たブルネイが話しかけてきた。

「レシピのことか? お前が知らなくて当然だ。その技術によって艦娘の建造技術がが確立されたんだ」

 

「失礼します」

そこで配膳の吹雪がカットインしてきた。口数がほとんど無いが仕事はしている。彼女は黙々と私たちの前に配膳をした。他の駆逐艦娘たちも意外と手際が良い。

 

「この艦娘たちが、量産型か」

私は呟く。

 

ブルネイも続けた。

「俺も最初は半信半疑だった。もちろん最初は悲惨だったよ。もう殺人現場のような……」

 

そこまで話した彼は少し表情が暗くなる。

「やめよう、食事時だ」

 

彼を見て私は思った。

(そうだよ、開発の現場なんて修羅場だ)

 

ましてや艦娘の「建造」なんて生半可なことではない。

 

配膳する艦娘たちを見ながらブルネイは言う。

「限られた命……そんな艦娘たちを見ているというのは正直、戦場より辛い」

 

 その呟きに私はハッとした。

そうか。不安定だから、ここの艦娘たちは、いつかは止まってしまう。それは人間で言うところの「死」のようなもの。

 

 艦娘たちは日常会話も出来るだけに、その日を突然、迎えることは辛いだろう。

 

 もしかしたらブルネイたちは意図的に艦娘たちに「情」をかけるのを避けているのだろうか?

 

愛着が湧かぬように……別れの辛さを味わう事がないように?

 

人から情を掛けられないと艦娘たちは本当に単なる機械になってしまうのだろうか。

(だから、ここの艦娘たちは一様に暗いのか?)

 

 そういえば兵学校時代のブルネイはリーダー的なスポーツマンタイプだった。草食系の私とは、まさに正反対だった……なぜか妙に気が合った。引っ込み思案の私に彼は休日には、よく声をかけて引きずり出してくれた。

 

お陰で私も見識が広がり何とか卒業できたようなところもある。

(今思えば感謝だな)

 

そんなブルネイが厳しい現実に翻弄されて以前よりも暗く見えた。

(辛いだろう)

 

……だが今の私に何か出来るだろうか?

美保の艦娘たちすら満足に管理できない中途半端な私に……。

 

(やめよう、こっちまで暗くなる)

 

そこで私は気になっていたことを聞いた。

「お前は、いつからここに?」

 

「ここの設置が半年前……その直後だ。ただ艦娘の量産化はそれ以前から別の実験室のような部署で続いてたらしい。不安定ながら、ある程度の形が生成できるようになってから、ここに移されたんだ」

 

「失礼します」

私たちの前に叢雲が、ご飯を盛り付ける。

 

(お米か、日本とはちょっと違うな)

 

何気なく呟いた。

「叢雲……美保にも居たかな?」

 

 しかし、この無表情な艦娘たち。何とか出来ないものかなあ。

 

美保から来た他の艦娘たちも、さっきから黙っている。

恐らく私と同じ違和感を感じているだろう。

 

祥高さんと日向が小声で話している。

「何か、違いますね」

「そうですね、生気が無いというか……」

 

そうだよ。これじゃ本当に単なる機械だ。

 

あの未来の艦娘たちと、この艦娘たちの異なる点は、やはり「感情」の問題かな?

 

『ゴス!』

「痛てっ!」

ブルネイが私の脇を小突いた。

 

「お前が悩むな! 午後の仕事をしっかりやってくれ。頼むぞ!」

「あ、ああ……」

慌てて彼を見た。笑顔か……いつもの元気なお前に戻ったのかな。

 

やがて配膳が終わった。駆逐艦娘がワゴンをまとめ整列した。

 

それを合図にブルネイは立ち上がって挨拶する。

「今日は遠路はるばる貴重な実験のためにここブルネイまでようこそ! たいした歓迎も出来ませんが協力して海軍の未来の為に実験を成功させましょう! ……では、お召し上がりください」

 

『いただきます』

美保の艦娘たちは、きちんと手を合わせて自然に掛け声をかける。微笑ましい。

 

配膳の艦娘たちは目を丸くして見ていた。

「頂きます」って所作を知らないよな。

 

この試作の艦娘たちにも喜怒哀楽があるんだ……なおさら複雑な思いになる。

 

 




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EX回:第48話(改2)<誰かが悪役に>

実験の実情を知るほどに苦しくなる美保司令。それは一部の察しの良い艦娘も同様だった。


 

「黙って止まっていく艦娘たちを見るのは辛い……」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第48話(改2)<誰かが悪役に>

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 配膳の艦娘たちは目を丸くしながらも私たちに敬礼して、いったん退室した……でも始終無言だ。叢雲や漣は知らないけど吹雪や電などは、もっと喋るはずだ。

 

(妙な感じだなあ……)

 

 ブルネイ提督と私、それに秘書艦と日向……この辺りは、ちょっと沈んでいた。艦娘は未来には量産化されるとはいえ、そこに至るまでの道のりは簡単ではないようだ。

 

(しかし、誰かが通らねばならない関門か)

 

 そんな私の違和感をよそに美保の艦娘たちは気にも留めずペチャクチャと喋りながら昼食を食べていた。

 

(艦娘製造の困難さや葛藤を全然、自覚していないよな、お前たち……特に金剛姉妹と夕立!)

 

 私の殺気を感じたのか金剛はチラッと、こちらを見ると舌を出した。

その仕草に私は少しだけ怒気が収まった。

 

 技術参謀と技師は、さっきからずっと話し込んでいる。いろいろ情報交換して実験の予定など調整しているようだ。この辺りは実務担当の参謀らしい、さすがだ。あの怖い技術参謀も辛い重責を担っている立場なのだ。

 

(そんな人を相手に私はバカをやったものだ)

非常に反省せざるを得ない。

 

「oh!艤装も、ちゃんとしたのがあるネ?」

金剛が声を上げる。演習の具体的な内容を技術参謀に聞いたようだ。

 

「今回は正確なデータが欲しい。幸いここは我々の時代だ。いつも使っている型の兵装だからブルネイのものを使っても調整は簡単だ」

技術参謀が説明している。

 

「未来のブルネイのリベンジですね!」

比叡も、やる気満々だな。

 

「相手の錬度は、どのくらいですか?」

旗艦経験の多い赤城さんが聞く。

 

技師が応える。

「不安定なので実は、ほとんど実戦経験がないのです」

 

その言葉に青葉さんと夕張さんは不安そうに顔を見合わせた。

 

技師は続ける。

「今日の午後、最初の部隊は戦艦と空母を出しますが赤ん坊のようなもの……反撃も出来ないと思います」

 

金剛が嬉々としている。

「これは腕が鳴るネ」

【挿絵表示】

 

 

「おい金剛、チョッと待てよ」

「what?」

私の言葉に振り返る彼女。

 

「反撃しない相手をボコボコにするんだぞ? ……分かるか」

「mh……」

言葉にならない反応。

 

(分かってない感じだな)

 

やたら明るい金剛とは裏腹に龍田さんと日向も顔をしかめていた。彼女たちも次第に演習の状況が分かりつつあるようだ。

 

技師は、また続ける。

「今日の演習は戦闘時の受容ダメージを計ります。お互いの艤装や身体の一部にセンサーを装着しますので遠慮なく戦って見て下さい。沈みませんし……」

 

それを聞いて私は、なおさら嫌な印象を受けた。

 

(もはや公開のイジメじゃないか? これは……)

だが軍隊だから仕方がない。私は肩をすくめた。

 

「不安定なので駆逐艦以外は、まだ外洋にも出られませんから経験値も維持できません。結果的に我々の研究は行き詰まってしまいました。ですから今回は渡りに船、とても貴重な機会なのです」

そう言いつつ技師は嬉しそうにスープを飲んだ。

 

(そりゃ、技術者は楽しいだろうけど)

聞けば聞くほど私は苦しくなってきた。他の艦娘たちは気にならないのか?

 

 金剛姉妹と夕立はワイワイやっている。でも日向と龍田さんは既に黙ってしまった。赤城さんは……両方を見て、困った顔だ。

 

向かいの席の技術に詳しそうな夕張さんも同じく深刻な顔になって青葉さんに何か耳打ちをしている。

 

私はブルネイに話しかけた。

「こんな実験、無意味ではないか?」

 

「現状は、そうともいえる」

ブルネイは応える。

 

「今までも建造は繰り返したが軽巡や重巡、空母から戦艦と大きくなるに従って建造された艦娘の感情や身体そのものが安定しない。結局、彼女たちの最期は悲惨なのだ」

 

一呼吸置いて彼は続けた。

「大きい艦艇ほど建造時の出現確率が低い上、資材消費量は大きく失敗も多い。だから普段は駆逐艦でしか実験出来ない」

 

「実験……って」

私の言葉にブルネイは語気を強めて言った。

 

「美保の戦艦や空母と戦うことで、やっと安定的なデータが得られるんだ! 分かってくれ」

さらに彼は食器をガチャンと置き、こちらに向き直ると真剣な表情で語気を荒げて言った。

 

「俺だってこんな役は嫌だ! ……でも仕方ないだろう、誰かが悪役になって割り切ってやらないと新しい道は開かれないんだ。だから軍人は黙々と……そうだろう?」

会場は静まり返った。

 

私は友人の言葉に頷くだけだった。

 

 だがハッとしたように彼は直ぐに頭を下げた。

「済まない、つい感情的になった。悪く思わないでくれ……俺もこれ以上は黙って止まっていく艦娘たちを見るのは辛い……」

 

「……」

私も何も言えなかった。ブルネイは既に辛いものを何度も見させられているんだ。いくら軍命とはいえ精神的に参るよな。

 

 さすがの比叡たちも少し大人しくなって黙々と食事を続けていた。

 

お昼のブルネイの日差しは強くなり窓の外には椰子の木が黒いシルエットを見せていた。

 

 




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EX回:第49話(改2)<艦娘は何処から>

美保鎮守府の艦娘たちもブルネイに居る量産型艦娘と少しづつ交流を始める。意外にも量産型の彼女たちにも普通の艦娘と同じ面もあるようだった。


「ししし、失礼します!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第49話(改2)<艦娘は何処から>

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 再び配膳担当の吹雪たちが来て食器を片付け始めた。

すると美保の金剛が積極的に声かけする。

「ブッキー(吹雪)元気ぃ?」

【挿絵表示】

 

 

ニコニコしながら少し屈(かが)んで吹雪の顔の前で手を振る金剛。

だが当の吹雪は、きょとんとした表情で硬直している。

 

すると比叡が後ろから声をかけた。

「お姉さま、量産型ですから……私たちのこと知っているわけ無いですよ!」

 

「あぁ、そっかぁ! それは残念だネ……」

金剛は、いつもと違う雰囲気に、ちょっと恥ずかしかったのだろう。珍しく頭に手をやっていた。

 

だが量産型の吹雪は比叡の顔をじっと見ていた。ふと、それに気づいた比叡は金剛と並んで吹雪の前で中腰になって微笑んだ。

「どうかしましたか? 吹雪ちゃん」

【挿絵表示】

 

 

「……え、あ……いえ」

ちょっと頬を赤くする吹雪。

 

(おや?)

これには私も意外な印象を受けた。量産型の彼女たちは今まで無表情だったから。

 

でも後ろから叢雲に小突かれた彼女は直ぐにハッと我に帰ったような表情になる。

「ししし、失礼します!」

 

ぎこちなく敬礼して一礼した吹雪。

 

「……」

呆気に取られたような金剛姉妹を尻目に彼女たちは食器を抱えてワゴンへ向かう。

 

それを見ていた赤城さんが微笑んで言った。

「あれは……いつもの吹雪ちゃんの感じね、何となく」

 

「うん、うん。吹雪チャンっぽい」

夕立も同意する。

 

(なぜ比叡に反応を?)

ちょっと疑問が湧いた。

 

「……どうも量産型ってのは掴みにくいな」

意外に技術参謀も呟いた。

 

 配膳の駆逐艦娘たちが一礼して退出すると雰囲気を変えるようにブルネイが声をかけた。

「打ち合わせは15分程度で、その後は演習準備だ。5分前には人を寄こすよ。俺も準備があるから……いったん失礼する」

 

 敬礼をしてブルネイと技師も退出する。急に会議室は静かになった。

壁の時計を見ると13時過ぎていた。

 

 私は揺れる椰子を見ながら考えた。

(休憩後、簡単な打ち合わせをして艦娘たちは演習の準備……という流れになるだろう)

 

だから昼食後、演習予定時刻の14時までは時間がある。

 

「よし皆、適当に座ってくれ」

技術参謀の声かけで各自は着席した。

 

「さっきの技師に午後の資料をもらった。まずは相手側のメンバーだが、えっと……」

彼女はチョッと間を置いて一覧を読んだ。

 

「比叡が2って……二人なのか?」

参謀自身が驚いていた。

 

だがそれ以上に比叡も目を丸くしている。

「えぇ! 私が……二人も?」

 

その反応を見ながら参謀は続けた。

「それに龍驤と龍田、伊勢と……何だこれは?」

 

呆れたような参謀。

「メチャクチャな組み合わせだな」

 

「伊勢……」

姉妹艦に日向が反応していた。

 

 夕張さんが補足説明するように言う。

「聞いた話では基本的に戦艦は出難いと言いますけど……それが一度出ると今度は連続して同じ艦が出現することも多いとか」

 

技術参謀も腕を組んで頷く。

「まあな。話は聞いていたが現場はこんなノリだろう」

 

「これが量産化……」

他の艦娘たちは戸惑っていた。

 

 未来のブルネイでは既に組織としての秩序があったから違和感が無かった。だが現代のブルネイの混沌ぶりは戸惑う。

 

「これが実験? やな感じ」

夕立がボヤく。

 

「我々は彼女たちを単なる機械と割り切るしかないのか」

【挿絵表示】

 

納得が行かない表情の日向。

 

龍田さんも呟く。

「これも戦場の狂気ね」

 

その言葉に私は鳥肌が立った。

軍隊は非情とはいえ艦娘の指揮官としては、やり切れない想いだ。

 

「量産型の基本的な性格は既存の艦娘と、ほぼ同一になるらしい。だが後天的な経験値や記憶内容は異なる。今日の相手は実戦経験の無い、まっ更な自分自身と考えて差し支えは無い」

技術参謀の淡々とした説明が続く。

 

赤城さんが呟く。

「想い出……か」

 

「やるせないな」

呼応する日向。

 

(そうか、今日の相手に伊勢が居るんだよな)

日向は当然、伊勢を知っているだろうけど私は初めて出会うのだ。

基本は同じ型の艦娘と言え、やはり妙な感覚だな。

 

「量産型はクローンに近いですがオリジナルから取り出す訳ではありません」

思い出したように祥高さんが言った。

 

すると技術参謀は真剣な表情で続けた。

「そもそも彼女たちの魂は、どこからやって来るのか? 私自身が言うのも変だが一切不明なのだ」

 

「それは艦娘や人知を超えたもの……ですか?」

【挿絵表示】

 

青葉さんが問い掛けるが反応はなかった。

 

間を置いてから技術参謀は再び書類に目を落として説明を続けた。

「演習の勝利条件もあるな……まず制限時間は30分」

 

その内容に未来の演習を思い出したのか艦娘たちは笑った。

他の内容は以下の通りだった。

 

・時間切れまでに旗艦を撃沈判定にするか艦隊を全滅させた方が勝ち。

・勝利条件のどちらも満たされていない場合、美保鎮守府の勝利となる。

・過度の攻撃、その他残虐な行為は禁止。

 

……未来のブルネイと瓜二つだった。

 

(これをずっとコピーして使っているんじゃないか?)

そんな思いも湧いた。

 

参謀は総括する。

「皆、一度経験もあるから心配はしてない。私からは改めて付け加えることも無い。演習だがケガに十分気をつけて戦ってくれ。司令からは何かあるか?」

 

振られた私は立ち上がった。

「2回目とはいえ自分自身と戦う者もいる。混乱する面もあるだろうが貴重なデータ収集の意義も大きい。無理を押し付けるようで申し訳無いが精一杯戦って欲しい」

 

「艦娘は戦う為に存在するから別に気にすること無いネ」

金剛は明るく応えた。

 

……だが言っている本人も何処と無く上(うわ)の空といった感じだ。そう言い聞かせて自分を納得させようとしているのか。

 

そのとき会議室のドアがノックされた。

「失礼します」

 

ドアが開いて五月雨が入ってきた。

「演習の、お迎えに上がりました」

 

「あぁ分かった……以上だ」

参謀は書類を閉じた。

 

「全員、起立!」

日向が声をかけて艦娘たちは起立した。

 

「よし、演習へ出動だ」

『はい』

私の命令に合わせて全員が敬礼した。

 

なぜか入り口の五月雨も敬礼をしていた。妙に可愛らしいな……。

 




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EX回:第50話(改2)<五月雨と吹雪>

会議室に迎えに来た五月雨への司令の反応に過剰に反応する艦娘と技術参謀。これには司令も困惑するのだが……。


 

「意外といけるんじゃないか? 量産化も」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第50話(改2)<五月雨と吹雪>

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五月雨は言った。

「演習に参加される艦娘の皆さんは一旦、工廠へご案内いたします。提督および、ほかの方々は埠頭の展望席へご案内します」

 

その案内を聞きながら私は感慨に浸っていた。

(現代の五月雨も頑張っているなぁ)

 

私がジッと見ているのを感じた彼女は、ちょっと驚いた表情を見せた。

「あの……何か?」

 

「……あ、いや何でもない」

私は直ぐに誤魔化した。

 

 だが、私を見た青葉さんや夕張さんが笑いをこらえていた。

技術参謀まで笑ってたので私は思わず指摘した。

「ちょっと、何で参謀まで?」

 

すると彼女は首を左右に振って言った。

「いや別に深い理由はないんだが……お前の行動が妙に笑いを誘ったのだ。クックッ」

 

彼女は顔が赤くなっている。そこまで笑うか?

 

 だが艦娘たちの中でも笑ったのは3人だけ。なぜか武蔵様に捕まって絞られたメンバーだな。見ると……寛代まで笑っていた。珍しいことだ。

 

(きっと未来の記憶がくすぐるンだろう。つくづく……時間の壁というのは厄介だな)

私は頭に手をやりながら自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 ブルネイの五月雨は、また困った顔している。一方の祥高さんや日向も不思議な顔してた。私は場の空気を変えるように五月雨に言った。

「済まないね……では案内を頼む」

 

「はい」

青い髪の少女が先導して私たちは部屋を出た。

 

 廊下にはブルネイの吹雪が待っていた。

「演習の皆さんは、私がご案内します! どうぞ、こちらへ!」

 

さっきよりも元気になったようにも見える吹雪だった。

(……気のせいかな)

 

日向は私に向き直ると敬礼した。

「では、これより日向以下、選抜隊は演習に参加して参ります!」

 

「了解! 頑張れ」

私も敬礼した。

 

 そんな私たちのやり取りを見て、やっぱり吹雪が目をキラキラさせている。まるで子供みたいな瞳の輝きだった。

 

(美保の艦娘がいると何かの相乗効果でも、あるのかな?)

そんな純粋な吹雪の挙動に技術参謀も興味深そうだった。

 

彼女は話しかけた。

「なんだ、私たちが面白いか? 吹雪」

 

「はい! ……あ、いえ、済みません! もう時間が余りないので……こちらです。急いで下さいっ」

あたふたする感じが、まさに吹雪だった。

 

(こうなってくると、いつもの美保鎮守府を彷彿とさせるものがある)

 

「意外といけるんじゃないかな? 量産化も」

私は腕を組んで呟いた。

 

その言葉に技術参謀も振り返って応えた。

「そうだな、ここまでは……な」

 

「ここまで?」

訝(いぶか)しがる私には構わず彼女は片手を上げた。

 

「じゃあ……私も演習の艦娘たちに付いて行くからな、後は頼む」

 

私の思いをよそに何かを隠すように彼女は演習部隊に付いて行った。

 

(気になることを言う参謀だ)

 

 演習は金剛姉妹と日向、それに赤城さんと龍田さんか。あとは技術補助の夕張さんと技術参謀だ。

 

「では皆さんは私がご案内します」

「あぁ、頼むよ」

残された祥高さんと寛代、それに青葉さんと私は五月雨の案内で埠頭へと向かった。

 

 




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EX回:第51話(改2)<不安な初陣>

海外での量産型艦娘との初戦。しかし司令は様々な不安が過(よぎ)るのだった。


 

「美保の艦娘との小手調べだな」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第51話(改2)<不安な初陣>

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 五月雨に案内されてた私たちはブルネイの埠頭に到着した。

 

 周りよりも少し高くなるように組まれた、ひな壇の上にはテントと折りたたみの椅子や机が設置されている。

今はちょうど無線担当が音声の調整をしていた。当然ここの機械類は各々の機器が太い有線でつながっている「現代」のものだ。

私は、ふと未来のブルネイを連想した。

 

するとカメラ片手に青葉さんが近寄ってきて言った。

「やっぱり『あっち』の方がスッキリですねぇ」

【挿絵表示】

 

 

私は彼女を振り返って笑った。

「ああ、技術革新というものは凄いな」

 

……『未来』と口にしないところは、さすが従軍記者だ。

 

 友軍とはいえ、ここ軍隊内だ。下手なことは口に出来ない。

私たちの核心を真綿に包んだような会話に、寛代は不思議そうな顔をしていた。

 

 私は正面の海を見た。

多少、雲は出ているが天候は晴れ。風がちょっとあるが演習に支障はないだろう。

 

 私たちがひな壇の脇まで来るとブルネイは既に端の席に座って資料を見ていた。

 

彼は私たちを確認すると直ぐに立ち上がった。

「おお、来たか。……どうぞ、こちらへ」

 

ブルネイは私より祥高さんたちを手招きした。

 

「秘書艦……艦娘だよ」

私はワザとムッとした表情で言った。

 

「分かってるよ。でもレディだからな」

彼は笑った。

 

「失礼します」

祥高さんは彼に出された椅子に座る。

 

彼は学生の頃から女性には優しかった。

(お前らしいな)

 

 本来なら彼のように女性の扱いが上手な指揮官が美保鎮守府のような艦娘部隊を率いるべきではないだろうか?

ふと、そんなことを思った。

 

すると後ろから小突かれた。見るとやっぱり寛代だ。

「……」

 

「分かってるよ」

そうは言ったものの私自身、何か分かったわけではない。

だがこの艦娘に無言で見詰められると、つい背筋を伸ばしたくなるンだ。

 

(この子も将来は秘書艦のようになるに違いない)

私は苦笑した。

 

 青葉さんがカメラを抱えてブルネイに確認する。

「あのぉ、私は従軍記者ですが、差し支えない範囲で撮影は可能でしょうか」

 

「ああ、構わないよ」

彼は当たり前のような顔で応えた。

 

「もっとも記者さんの期待する良い写真が撮れるか……分かりませんけど」

 

その台詞に思わず私は突っ込んだ。

「なんだ、思わせぶりなことを」

 

「……」

彼は肩をすくめただけだった。

 

「では私は動くので椅子は良いです」

そう言いながら青葉さんはバッグを下ろして撮影の準備を始める。

 

 私は祥高さんの隣……ブルネイの直ぐ横の椅子に座った。

指揮官である私たちと秘書艦が一列に座り、その前に寛代を始め、他の艦娘たちが座った。

 

ブルネイは時計を見た。

「そろそろだな」

 

彼は無線担当を見る。

すると雑音に混じって無線機が艦娘たちの声を拾い始めた。

「GO!」

 

『行きます』

 

「ぽいぃ」

 

「行くでぇ」

 

聞きなれた声と初めて聞く声も混じる。

(相手の艦娘だろうか?)

 

寛代を始め、祥高さんも耳を傾けるような素振りを見せて反応している。

そうか彼女たちは美保鎮守府の艦娘たちの無線は拾えるんだよな。

 

ブルネイが言う。

「俺たちの艦娘は今までの『不完全レシピ』だ。おまけに、まともな艦娘相手の実戦は初陣」

 

「え?」

思わず聞き返した。

 

「まぁ……最初はとりあえず美保の艦娘との小手調べだな」

 

「そうか……」

ブルネイも不安そうだが私も不安だ。

 

何しろ私たちは未来の「演習」の敗北の記憶も新しい。その状況下でブルネイの試作量産型の艦娘たちを相手にするわけだ。

技術参謀やブルネイが盛んに量産型艦娘には問題があるようなことを繰り返す。

 

もっとも手練(てだれ)の艦娘と素人の艦娘を同時期に相手に出来るのは貴重な経験だ。

これは美保にとって良いことか……。

 

「美保鎮守府にとって……」

そう呟きながら技術参謀を連想した。

 

そういえばこの演習を企画したのは彼女だ……タイムスリップは偶然だとしても、こういう状況は彼女が仕組んだのだろうか?

 

(まさか……)

ふと隣の祥高さんを見たが彼女は無線を傍受しているらしく、ジッと水平線を見ていた。

 

やがて秘書艦の視線の先……遠くの海上に艦娘たちの航行する姿が見えた。

 

 ほどなくして埠頭に、吹雪に案内された技術参謀と補助の夕張さん、ブルネイ側の技師もやってきた。

技術参謀と技師は各々、無線機に近い前列に着席した。何か会話をしながら彼らは双眼鏡を取り出している。

 

「わぁ」

歓声を上げたのはブルネイの吹雪だ。

 

案内係であることを一瞬忘れてワクワクするような表情で演習を眺めている。

そんな感じは、まさに「吹雪」だ。だが彼女も量産型だ。

 

「……」

何気なく隣のブルネイを見ると彼は海上ではなく吹雪を見詰めている。

 

なぜか不安そうな視線を送っているのが気になる。

(私の考え過ぎだろうか……)

 

 




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EX回:第52話(改2)<空しい勝利>

初陣の艦隊相手に手加減をした美保鎮守府。だが相手は素人同然で、ほぼ圧勝で終わるのだった。


 

「ウチは死にとうないっ!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第52話(改2)<空しい勝利>

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 私は腕を組んだまま呟いた。

「私たちの旗艦は今回も赤城さんだな」

 

「……」

秘書艦の祥高さんは軽く頷いている。

 

青葉さんもカメラを微調整しながら呟く。

「金剛さんも昨日の演習で、ちょっと懲りた面もあるようですから」

 

「あぁ、まぁ適任だろう」

私は自分に言い聞かせるように言った。

 

それから視線を海の上に転じた。

「ただ問題は相手側だ……」

 

 とりあえずこちらも比叡と夕立以外は微妙な相手であっても、うまくやってくれそうな面子だが。

 

(初陣とはいえバランスや錬度から言って、こちらも本気を出し難い)

 

 最初はお互いが様子見的に、間合いを縮めている。

 

まずはブルネイ側の比叡が相次いで砲撃を開始する。砲撃音が響き海上に水柱が立ち上がる。

 

 だがこちらの艦隊は直ぐに回避した。

「狙いは正確だな」

 

「そうですね……でも、やはり機械的な戦闘パターン感は否めませんが」

撮影を始めつつ青葉さんが呼応する。

 

こちらの日向と赤城さんは、余裕すら感じられる。

 

 次いで相手の龍驤と伊勢が航空機を発艦させた。脇の無線機からは若干の雑音に混じって、相手の交信音声が入る。

「空母機動艦隊、出撃するでー!」

 

「さあ、迎撃するわよ」

 

「あれ?」

こちらの赤城さんや日向は相手をチラッと見ただけで特に動かない……と思ったら、いつの間にか上空に航空機を待機させていていた。

 

上空を確認し、出遅れたことに気づき慌てふためく龍驤。

「ふぇえ……これはマズいでぇ!」

 

だが自分の航空機が発艦中で急に身動きが取れないようだ。

 

「ちょっとまずったな……どうしよう」

まだ艦載機の少ない伊勢は直ぐに発艦を停止して回避にかかる。

 

 それを見ていた赤城さんはまず龍驤への急降下爆撃を実施する。

 

「あっかーん! ちょっちピンチすぎやー!」

自分が狙われていることを悟って焦りまくる龍驤。

 

しかし、この艦娘……。

(美保にはまだ居ない子だが、うるさい奴だな)

 

美保鎮守府に来ないことを祈りたくなった。

 

 相手のダブル比叡は龍驤に気を取られていた。その隙に美保の龍田さんと夕立は高速で外側から大きく回り込んで雷撃を開始した。

 

「あ!」

……と、向こうの比叡が気づいた時には遅かった。大きな水柱が立った。

 

「演習とはいえ魚雷直撃か」

思わず声が出た。

 

 見ていて心が痛む。

 

 なぜか私は、あの武蔵様を思い出した。彼女は何本も魚雷を受けてもビクともしないだろう。

 

 だが比叡級では魚雷一発でもダメージは大きい。

何処と無く、全てが隙だらけだ……まぁ初陣では仕方ないが。

 

(油断しすぎだぞ)

 

「ひええええ~~~!」

幾重もの水柱に包まれる比叡。

 

 水蒸気が晴れると、ボロボロになった比叡が立ちすくんでいた。

一隻が大破か?

 

 さらに、こちらの金剛と比叡が相手の残りの比叡へ向けて砲撃を開始する。逃げ惑う別の比叡。

 

思わず美保の金剛が叫ぶ。

「No! あまり動いちゃダメねぇ」

 

「演習だからっ! お願い!」

同じく、こちら側の比叡の声。

 

しかし相手を諭(さと)しながら砲撃する構図というのも妙だ。

 

 美保の艦娘たちは既に未来のブルネイで模擬戦は経験済みだ。

その為か、意外に手練なのだ。

 

もちろん砲撃の外し方も、絶妙ではあるが、いかんせん相手が素人過ぎる。もはやブルネイの、もう一人の比叡は恐怖にかられて逃げることしか頭にない。

 

 一方、また別の声が無線に入る。

「いや、ちょっと……ごめんなさい」

 

「伊勢っ、逃げるな! そんな……大丈夫だから……」

この声は日向か? 逃げ惑う伊勢にだろう、必死に叫んでいる。

 

(そうか、初顔合わせで量産型とはいえ、いちおう姉妹だよな)

伊勢型は、そうだ……私はそんなことを考えた。

 

 一方の龍驤も逃げ回っている。

「ウチは死にとうないっ、死にとうないんや!」

 

もはや半狂乱だ。

 

「だ、誰もそこまでは……演習だし」

さすがの赤城さんも戸惑っていた。だが急に攻撃も止められない。逃げる龍驤の周りには、いくつも水柱と火柱が立ち上る。

 

「嫌や~!」

声が通るだけに、余計に悲壮感が強調された。

 

 弱い者いじめ……というより、もはや拷問に近い。

相手が深海棲艦ならまだしも同じ艦娘で、この反応は攻撃するほうが辛くなってくる。

 

海上は水柱と砲撃の煙で視界が悪くなっていた。

 

 埠頭で見ていた吹雪も、ただオロオロしている。もはや彼女も、どう対処して良いのか分からない状態だ。一方の五月雨は両手で顔を覆っていた。

 

(いったい何なんだ? これは)

 

これほど見ていて辛い演習があったか?

 

 ブルネイや技師、それに技術参謀までが苦虫を潰したような表情だ。

既に誰もが無言になっている。

 

 やがて渋い顔のブルネイが技師にささやいた。彼は頷くと無線担当に指示していた。

 

 直ぐにブルネイは私たちを振り返った。

「美保の艦娘たちが我々の旗艦を撃沈した。既に勝負はあった……演習はこれまでだ」

 

 あっけない……いや、空しい勝利だ。

私は、胃が痛くなってきた。

 

 




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EX回:第53話(改2)<艦娘:最後の炎>

演習は終わったが艦娘たちの戦いは、まだ終わっていなかった。そして技師たちも戦い続けるのだ。


 

「どんな艦娘たちも最後の炎が消えるまでは皆、限界まで輝き続ける」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第53話(改2)<艦娘:最後の炎>

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 辛い演習が終わった。誰も何も言わない。

海上も埠頭でも沈黙が続いていた。

 

 やがてブルネイが口を開いた。

「美保には済まなかったな……だがな、開発の現場なんて、こんなもんだよ」

 

「そうか」

私は修羅場というと戦場のイメージしかなかった。

 

彼は海を見ながら言う。

「俺も自分がなぜ、ここに居るのか……ときどき分からなくなることがある」

 

そして自分に言い聞かせるように続けた。

「だが軍人は何も考えずに任務を全うするだけだ」

 

そうか。彼も悩んでいるのだ。

 

(しかし、この任務は、お前にしか出来ない)

私は、そう思った。

 

 頭が良いとか知識があるとか、そういうものじゃない。

道を切り拓くためには誰かがリーダーシップを取って、まとめて行かなければ続かない。ここはきっと、そんな鎮守府なんだ。

 

(開発の現場といえば……)

私は腕を組んでジッと海を見詰めている技術参謀を見た。

彼女だって例外なく無数の修羅場をくぐり抜けているのだろう。

 

(これもまた戦場なのか)

 

そのとき、急に無線が反応した。

『しっかりして!』

 

(この声は、赤城さんか?)

 

『うちは……まだ生きるんやぁ』

えっと、龍驤か?

 

『……』

雑音だけになった。嫌な予感だ。

(まさか?)

 

再び無線に反応があった。

『No! unbelievable』

『なぜ? どうして』

 

(金剛と比叡……どうした?)

 再び沈黙。

 

急に寛代がポツポツと話し出す。

「龍驤と比叡2号が、いま機能停止した」

 

「停止って……?」

私が不意をつかれた顔をしていると声がした。

 

「ひとことで言えば絶命だよ!」

ブルネイは吐き捨てるように説明する。

 

「……」

私には何も言えなかった。彼の、そんな表情は初めて見た。

 

 海を見ながら技術参謀が淡々と付け加える。

「量産型は精神が不安定だ。感情が過剰に高ぶるとな……錯乱して結局は潰(つい)えてしまう」

 

寛代が彼女に寄り添う。参謀は続ける。

「だから検体を長く使うためには感情的な起伏は避けるようにするんだ」

 

「そうか、それでこの鎮守府の艦娘は……」

【挿絵表示】

 

言葉が続かない。

 

あの無表情に見えた艦娘たちたちは自分で押さえ込んでいたのか?

(……何という辛い現実だろうか)

 

「形は作れるがな……心は、まだ難しいのだ」

技術参謀は寛代を軽く抱き寄せた。

 

「自然の理(ことわり)に切り込むのは簡単ではない」

その呟きの意味は良く分からない。

 

すると反対側の技師が補足するように話し出す。

「感情に関わるメモリーというかバッファーが不足する感覚です。艦娘はロボットではないので単純に部品交換ができませんし建造は一発勝負なのです」

 

 うーむ、ますます分からん。

 

すると彼は少し明るい表情になって続けた。

「でも今、技術参謀が持ってこられた新しいレシピで建造中ですから」

 

時計を見たブルネイは立ち上がって言った。

「戦艦は駆逐艦よりも寿命が短い。だが最後の炎が消えるまで、どんな艦娘も皆、限界まで輝き続けるんだ。そんな一途な彼女たちの姿を見るのは辛い……今は新しいレシピの結果に期待するばかりだ」

 

彼を見てい無線係はブルネイの合図に軽く頷くと整理をはじめた。

技師も書類を集めて鞄にしまっている。

 

ブルネイは帽子を取った。

「少し取り乱して悪かった。今日の予定は、これで終りだ……ちょっと地下に下りるが艦娘たちに声をかけるなら一緒に来るか?」

 

「あぁ当然」

私は頷いた。ブルネイは微笑む。

 

 私は改めて思った。ここは地下にも埠頭があるのか。

 

 




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EX回:第54話(改2.0)<姉妹と想い>

演習が終わって戻ってきた艦娘たちは量産型艦娘を心配している。自由時間も彼女たちと過ごしたいと希望するがブルネイは……。


 

「はい。本当の姉ではありませんが、しばらく側(そば)に居てやりたいのです」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第54話(改2.0)<姉妹と想い>

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 ブルネイの地下埠頭。艦娘は、ここから出撃や帰還するらしい。まさに絵に描いたような秘密基地だが敵の目を欺くには理想的だ。

 

今回、大破した比叡と伊勢、龍田は無事に確保された。

しかし、もう一人の比叡と龍驤は内火艇で『収容』された。

 

『比叡』は、こちらの金剛姉妹が支えながら地下埠頭に上がってきた。伊勢と『龍田』は幸いほとんど無傷だった。

 

量産型艦娘たちは全員、恐怖で青白い顔をしていた。彼女たちは毛布を羽織られて椅子に座って震えている。

 

ブルネイは一人ひとりに「ご苦労」と声をかけていた。

 

 艦娘には先人の魂が宿ると言われているが量産型については不完全故(ゆえ)だろうか? 普通の艦娘に見られるようなタフさがほとんど感じられない。

 

「やるせないな」

私は思わず呟いた。これが新しいレシピで少しでも改善されることを切に願うばかりだ。

 

それに彼女たちも仮に戦わずとも果たしていつまで生きられるのか? それすら分からないのだ。

 

(なんとも不憫だ)

 

「司令……ご相談が」

艤装を解いた日向が私に話しかけてくる。ちょっと思い詰めた表情だ。

 

「今日はもう自由時間ですが……差し支えなければ『姉』と過ごしたいのですが」

彼女の視線の先にいる伊勢。彼女はコーヒーカップを持ちながらガタガタと青白い顔で震えていた。

 

私は思わずブルネイを見た。彼は黙って頷く。

 

それを受けて私は日向に言った。

「事情は分かっているよな?」

 

「はい。本当の姉ではありませんが、しばらく側(そば)に居てやりたいのです」

 

「分かった」

私が許可を出すと日向は珍しく微笑んだ。

 

「感謝します」

そう言って敬礼した。

 

「ごめんなさい日向ぁ、面倒かけるね」

ベンチで震えながら伊勢は見上げて言った。

 

「問題ない、伊勢」

日向は微笑む。

 

この二人は本当の姉妹ではない。だがそのやり取りで安堵した空気が流れた。

 

すると急に背後から声がした。

「司令、アタシも良い?」

 

振り返ると龍田さんが、もう一人の『自分』の手を取っていた。ブルネイの量産型か。

 

(うむ,何となく別の龍田さんのほうが大人しい印象だな)

 

私は先ほどよりは落ちついてブルネイの顔色を伺った。

 

彼は改めて頷いて言った。

「OKだ。龍田も比叡も、みんな美保の姉妹たちと過ごすべきだろう。全員許可する」

 

「素敵っぽい」

思わず夕立が小躍りしていた。

【挿絵表示】

 

 

直接、お前には関係ないのだが……そのストレートさは夕立らしい。

 

「お前の『2号』がこの場に存在していなくて本当に良かった」

思わず言ってやった。

 

「ぽい?」

私の想いが理解できず首をかしげる夕立。

 

「いいよ、深く考えるな」

私は打ち消すように手を振って肩をすくめた。

 

 聞くと日向たちは『量産型姉妹』の面倒を見るという。

 

許可も出ているから後は任せよう……赤城さんと夕立その他、現場を見学していたメンバーは取り敢えず敬礼をして地下を出た。

 

 私たちは廊下でブルネイの吹雪とすれ違った。

彼女は感動した表情を浮かべた。

「す、すごいです赤城さん……私も、あんな風に強くなりたいです!」

 

「そうね。頑張ってね」

正規空母は微笑んだ。

 

「はい!」

笑顔を返す駆逐艦。

 

だが、はしゃぐ吹雪を見た赤城さんは複雑な表情を浮かべていた。

 

(吹雪さんは駆逐艦。すぐ逝くってことはないわよね……)

 

そんなことを思っているのだろうか?

 

(……いや、そういうのは縁起でもない)

私は思わず自分の考えを否定した。

 

(絶対に、そうあって欲しくない!)

純粋にそう感じた。

 

そんな私に赤城さんが歩きながら話しかけて来た。

「つらいです司令……運命には抗(あらが)えないのでしょうか」

 

「そうだな。私も辛い」

なぜか赤城さんを前にして本音が出た。

 

もし、ここが公的な場でなければ彼女と二人で抱きあって泣き出していたかも知れない。それほど胸の詰まる一時だった。

 

 

 

 

 

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EX回:第55話(改2.0)<お節介な助け船>

艦娘たちの自由時間後の行動を伝達し各艦娘たちの予定を確認する司令。しかし自分自身の行動予定が未定で右往左往する。


 

「じゃ司令! ほらっ、早く。行きますよぉ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第55話(改2.0)<お節介な助け船>

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私は時計を見た。

いま15:30で、18:30までは自由時間だ。

 

改めて寛代に言った。

「全体に18:30の5分前には会議室に集合するよう伝達してくれ」

 

「……」

黙って頷いた彼女はブツブツと通信を始める。

 

私は付け加えた。

「それまでは各自、何しても自由だが移動が伴う場合は予めどこへ行くのか必ず一報を入れるように」

 

チラッとこちらを見ながら寛代は続ける。

 

数分と経たないうちに次々と艦娘たちの報告が戻ってきた。

寛代が応対していたが直ぐに祥高さんが逐一横でメモをしてくれた。

 

(こういうとき無線装備の艦娘は便利だなぁ)

つくづく思う。

 

秘書艦がまとめてくれた状況によると以下の通り。

1)金剛姉妹たちと龍田ペア、夕立は海水浴。

2)伊勢と日向は海岸通りを散歩。

3)赤城さんと夕張さんは市場で買物をして戻る。

4)青葉さんは市場とか海岸周辺の艦娘を取材兼状況報告。時間があったら歴史遺産取材。

5)祥高さんは寛代と買物。

 

「え?」

5番目の項目を見た私は秘書艦を振り返った。

 

祥高さんは応える。

「私たちも予定を立てました」

 

「ああ、そうか」

別に否定する理由もない。

 

そういえば祥高さんは艦娘たちに、きちんとお小遣いも配っていた。

さすが抜かりが無い。

 

(……あれ? 私は貰ってないぞ)

まぁ良いか。

 

「司令は今後どうされますか」

秘書艦の問い掛けに私は少し考えて応えた。

 

「私はインカム装着しながら適当に巡回ってところだな」

「分かりました」

「まあ2、3時間なんて、あっという間だろう」

「そうですね」

祥高さんもメモをしまう。

 

私はインカムを調整しながら言った。

「今夜の夕食はブルネイ提督が慰労をかねて食事に招待してくれるらしいな」

「はい」

 

私はふと思いついて寛代に言った。

「そのことも艦娘たちに通知してくれ」

 

「……」

相変わらず無言で頷く。

 

秘書艦が言った。

「ブルネイの提督が料理を?」

 

私は笑った。

「別に彼自身が調理するわけではなさそうだ。さすがに現代に『Bar』はまだない」

 

冗談が通じなかったのか祥高さんはキョトンとしてた。

 

私は誤魔化すように苦笑した。

「何事も、ご褒美は必要だな」

 

そこでやっと理解したのか彼女は少し微笑んだ。

「そうですね……では、これをどうぞ」

 

秘書艦は私に封筒を差し出した。

「経費です」

 

「あ、そうか」

半分諦めていたけど、やっぱり嬉しかった。

 

でも内容を改めながら、ふと思った。

(そうか、私のは『経費』になるのか)

 

思わず監査を連想した。これじゃ自由勝手に使う気にならないな。

 

「では、確認事項は以上で宜しいでしょうか」

祥高さんの言葉でハッとした。

 

「そうだね」

 

彼女は敬礼した。

「では、只今より祥高並びに寛代の2名、無線回線を開いたまま休息に入ります」

 

寛代も無言で敬礼をしている。

「うむ」

 

私も敬礼をし互いに鎮守府のロビーで別れる。

 

「さすがに制服は暑苦しいな」

彼女たちの後ろ姿を見送りながら呟いた。

 

そこで部屋に戻って緩い格好に着替えた。

 

「ポロシャツしかないけど」

まあ仕方がない。

 

窓から見える青空が綺麗だ。

「自由時間なんて想定外だったからな」

 

 再びロビーに降りた私は鎮守府の事務員に聞いた。

「この近くに海水浴場はないのかな」

 

すると担当の事務官の女性(日本人)は苦笑した。

「この国には、そういう習慣がありません」

「え! そうなのか」

 

すると隣の男性事務官(日本人)が言う。

「それでも鎮守府の前の国道を15分くらい走れば山の向こうに砂浜はありますよ」

 

続けて女性。

「鎮守府前の大通りからバスも出てますけどタクシーを捕まえたほうが早いかも知れません」

 

「バスにタクシーねぇ」

最近乗ってない。オマケにここは外国だ。

 

兵学校でも習った片言レベルの英語なら多少話せる。

 

しかし不慣れな土地だ。

(そもそも行った先に艦娘が居なかったらアホみたいだぞ)

 

私がモソモソしていたら事務官が簡単な観光地図を出してくれた。

「その気になれば歩いても行けなくは無いです」

 

「ま、マジで?」

思わず反応する。

 

「気分転換に散歩も良いですよ。ここは暑ささえ気をつければ治安も安定していますから」

「ああ、そう」

 

それでも私がカウンターで行き先が決まらないで悶々としていたら後ろの現地スタッフが言った。

「ワタシ買い出し行くから山向こうの砂浜、寄りまス」

「はぁ?」

 

彼は片言の日本語で続けた。

「すぐ、すぐネ」

 

そこに行けば確実に艦娘がいるのだろうか? 分からない。

 

私は肩をすくめた。

(寛代たちと一緒に行動していれば艦娘の居場所も簡単に分かったのにな)

 

失敗した。

艦隊の指揮なら直ぐ出来るんだが私的な行動になると躊躇するものだ。

 

そこに来たのが青葉さん。

「あれ? 司令、まだ居られたんですか?」

「いや、ちょっと……」

 

彼女は微笑んで言う。

「何処かへ行かれます?」

「その予定で……」

 

青葉さんは頷いた。

「じゃあ行きましょう。私も随伴して、よろしいですか?」

「ああ。助かる」

 

私の何気ない一言に彼女は反応する。

「助かる?」

 

「いや、べつに」

私は首を振った。

 

つくづく自分の度胸の無さに嫌気が差す。

(こんなんだから、未だに単身なんだろうな)

 

……関係ないか。

 

「なにか仰いました?」

「いや」

 

「ふーん」

青葉さんは怪訝(けげん)そうな顔をした。

 

『行きますか?』

後ろから来たスタッフが英語で言った。

 

彼女も英語で即答する。

『あ、お願いします!』

 

そして直ぐに私を振り返る。

「じゃ司令! ほらっ、早く。行きますよぉ」

「ああ」

 

やっぱり青葉さんはフットワークが軽い。

彼女の好奇心旺盛で、お節介な性格は、こんな時には助かる。

 

 

 

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EX回:第56話(改2.0)<海岸へ向かう>

ブルネイ鎮守府スタッフの運転するワゴン車で海岸へ向かう美保司令と青葉。だが司令には戸惑うことばかりだった。


 

「記者は、どんな環境でも強いね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第56話(改2.0)<海岸へ向かう>

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 ブルネイ鎮守府の正面玄関脇にある駐車場に白いワゴン車が停められていた。

 

「はい、こっちね、こっちよ」

片言の日本語で現地スタッフが手招きする。彼は『運転手』と呼ぶことにしよう。

 

私と青葉さんはワゴン車の横のドアから乗り込んだ。彼女は、いつもの大きなバッグを持っていた。

「重くないのか? それ」

 

「あぁ、慣れてますから」

平然とした感じの青葉さん。だいたい私の知り合いのカメラマンも重い機材を軽々と持ち上げる。映像関係の人たちって、みんな力持ちだよな。

 

運転手さんが言う。

「出発します。ブレーキ気をつけて」

 

「は?」

……と思う間もなく車は出発する。

 

そして鎮守府から大通りへ出る直前で前に、つんのめるくらい急ブレーキを踏んだ彼。危うく舌を噛みかけた。参るな。

 

「砂浜は、直ぐよ。待っててね」

彼は微妙な日本語を操るが意味は通じる。

 

「頼む」

「アイアイサッサー」

 

(……それは、よく分からんぞ運転手さん)

私は苦笑した。

 

ヤシの木や南国っぽい背の高い木々がたくさん立ち並ぶ幹線道路。

日本よりは交通量は少ないとはいえ加速をつけながら突っ走るワゴン車。

 

(だいたい海外の人ってのは、ものすごい勢いで、ぶっ飛ばすんだよな)

 

急に彼は大声で言った。

「私、日本人尊敬してます。木村知事、大好きです」

 

「……誰だ? キムラ知事」

(あれ、どこかで聞いた覚えがあるよな……兵学校の授業だっけ)

 

すると青葉さんが言う。

「東亜戦争の際にブルネイを統治した軍の関係者ですよ。彼のお陰で、ここも親日派が多くて、わが国の鎮守府が設置が容易になったと言われるくらいです」

 

「へえ、さすが従軍記者だな」

 

すると首を傾けながらウインクする青葉さん。

「現地へ赴く際には、必ず下調べ。これは記者の常識ですから」

 

「やめろ、その行動は……知らない人が見たら誤解するって」

私は慌てた。

 

「そうね、ワタシの父も尊敬してたヨ」

前の運転席から声。

 

(ごめん運転手さん、歴史は苦手なんだ)

 

 そうこうしているうちにワゴン車は山を越えて長い海岸線に出た。

青葉さんが車内からカメラを構えている。

 

「あ、砂浜ですね」

確かに日本の海岸のように人が居るわけではない。綺麗なのに閑散としている。

 

「どこデ停めます?」

「ああ。適当なところで良いよ」

 

私が言うと青葉さんが割り込む。

「ダメダメ、見晴らしの良い所ぉ、あの駐車場で、お願い」

「アイ、シスター」

 

ワゴン車は海の見える駐車場に入った。私たちはそこで降車した。

 

「ジャ、ワタシ軍のシゴト、あルから」

手を振りながら陽気に立ち去る彼。妙に疲れた。

 

でも、さすが青葉さん、陽気に手を振る。

 

そんな彼女の姿を見ながら私は言った。

「記者は、どんな環境でも強いね」

 

「え?」

大きな目をさらに見開いた彼女が振り向く。

 

「いや、なんでもない」

 

「さてと。先ずは写真を撮ってから」

既に、何枚か撮影してる。

 

「……皆を探しても良いですか?」

撮り終えるや否や、こっちを向く彼女。

 

髪の毛が風に舞って日の光を反射していた。一生懸命撮影している青葉さんの姿は、とても輝いていた。正直、彼女にはドキッとさせられる瞬間が何度かあるな。

 

【挿絵表示】

 

(これでも従軍記者兼、艦娘なんだよな。信じられないけど)

 

「司令?」

私が無反応なので、ちょっと怪訝(けげん)そうな目をしてこちらを見る彼女。

 

「聞いてます? 司令……さっきから」

「……あ! ごめん。良いよ」

ちょっと上の空だった私は慌てて応える。

 

「はぁ……」

少し大きく肩でため息をつく青葉さん。

 

(あれ? 怒るかな)

……と思いきや急に悪戯っぽい表情になった。

 

「へへ……司令って私服だと全然、締まらないんですね」

「は?」

「イイ・ケ・ド!」

また謎めいた反応を……どうして彼女は普通の人とは違う言動で人を惑わすかな。

 

彼女の青い髪の毛が風になびいてサラサラとストップモーションのように見えた。まさに、きらめく瞬間だ。

(これが青葉さんらしい輝きなんだろうな、きっと)

 

「じゃあ、海へ行きましょう!」

「あ、ああ」

彼女も仕切るタイプだよな。

 

とりあえず『艦娘の人口密度』が高そうな海岸通りから長い砂浜へ降りてみる。

 

「あ、居た居た!」

……急に大声。瞬く間に青葉さんは索敵を完了したのだ。

 

波打ち際で艦娘たちがキャッキャッと、はしゃいでいるのが見えた。さすがに水着ではないが。その近くに座って喋っているのはダブル龍田さんだ。

 

「おーい!」

「うぁ、ビックリした」

青葉さん……

 

「いきなり大声を出すな」

横にいる私の立場も少しは考えて欲しい。

 

直ぐに向こうの艦娘たちも気付いた。

 

「ぉーぃ」

こちらに手を振ってくれた。彼女だけでなく艦娘たちは皆、楽しんでいるようで、私は安心した。あの演習でショックを受けたのではないかと心配だったから。

 

「テイトクー!」

「おや?」

妙に爽やかな笑顔の比叡が……。

 

「あ、2号の比叡ですね」

青葉さんの説明で私はハッとした。

 

「あれ? あいつは大破じゃ無かったのか」

「彼女も元気になったようですね」

 

私は肩の荷がおりたような気がしてホッとした。

「そうか」

 

 

 

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EX回:第57話(改1.5)<武人再び>

海岸で艦娘たちと出会った司令。そこでは龍田さんから諭されるのだった。



 

「心がズタズタになって……でも私たちは」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第57話(改1.5)<武人再び>

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 私と青葉さんが近づいていく。

「あれ?」

 

龍田さんが立ち上がって『比叡2号』に何か説教のようなことをしている。やがて遊んでいた艦娘たちは全員が私に向かって敬礼をした。

 

私も敬礼を返してから龍田さんに聞いた。

「龍田さん、比叡2号が何か?」

 

「あぁ、先ほど司令を大声で呼んだ事を、ちょっと注意してたの。規律は大切よぉ」

さすが龍田さんだ。

 

実は私は全く気にならなかった。比叡2号も反省したらしく頭を下げる。

「提督、失礼しました! 何も分からないもので」

「あぁ、そうだね。以後、気をつけて」

「はい!」

 

やっぱり量産型の比叡は美保のオリジナルとは少々、性格や雰囲気が違う。未来のブルネイの艦娘たちは皆、強いうえに気配りもできる良い艦娘たちばかりだった。

 

だが量産型は建造された直後だから軍の規律も何も知らなくて当然だ。比較するのは酷だが。

 

(しかしテストとはいえ演習も戦術も何も分からない状態で、いきなり彼女たちを闘わせたのか?)

いくら急ごしらえの部隊とは言え酷い話だと思った。

 

もちろん艦娘には『先人の記憶』という建造直後から本能的に知識が備わった者も少なくない。量産型にも同じ傾向は在るかも知れない。だが個体差もあろう。

 

比叡2号は『不完全レシピ』の産物ともいえる艦娘だ。不備だらけで生まれざるを得ない宿命的な悲しみを感じてしまう。

 

だが彼女たちは艦娘だ。軍隊に居る以上は戦わざるを得ない。そこは少々、やりきれない。

 

どこから持ってきたのか砂浜で椅子に腰かけた龍田さんが落ち着いた様子で私に話しかけてきた。

「司令、アタシが言うのも何ですけど……試作も含めて私たち艦娘には必要以上に気を病まないで下さいね」

 

「あ、そう?」

私、やっぱり考え過ぎかな?

 

ドリンクを飲みながら彼女さんは続ける。

「何事も急に完成することは無いから」

 

そして龍田さんは少し傾いてきた太陽を見ながら言った。

「血の滲(にじ)むような苦労をして、心もズタズタに引き裂かれて……それでも私たちは、ひたすら耐え、越えて強くなると思うの」

 

「……」

返す言葉もない。

 

彼女は元気に遊びだした金剛姉妹を見ている。

「でも司令には艦娘ではなくて、もっと大きなことで悩んで欲しいわ」

 

「え?」

いきなりスゴイことを言うな。

 

不意に龍田さんは不敵な笑みを浮かべた。

「フフ、きっと昔の艦長か世話になった提督の『記憶』の受け売りだと思うわ」

「……やっぱり、そういう記憶があるんだ」

 

私の言葉に彼女は微笑んだ。

「だからアタシ細かいことは気にしないの。やるときは全力で。楽しむときにも悔いが残らないよう精一杯、楽しむだけ」

 

「龍田さんは身体も精神も武人なんだな」

オリジナル艦娘は深いぞ。私も心して備えないとダメだな。

 

するといつの間にか青葉さんが顔の前に指を立てて左右に振る仕草をしている。

「え? なに」

 

「だ・か・ら、司令は考えすぎちゃダ・メ」

「はい、はい。わかりました」

龍田さんも青葉さんも大人でございますね。

 

「そういえば日向と伊勢はどこ行ったかな?」

確か海岸を散歩とか言ってたけど。

 

そのとき青葉さんが索敵した。

「ほらあそこ日向と伊勢ですよ」

 

「噂をすれば影だな」

私は振り返った。

 

 

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EX回:第58話(改2.0)<生命の輝き>

日向と伊勢に出会った司令は元気そうな試作型に安心する。だが青葉さんの様子が少し、おかしかくなっていた。


 

「生きてるからこそ泣きもする」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第58話(改2.0)<生命の輝き>

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 砂浜に沿った道を日向と伊勢が並んで歩いていた。量産型とはいえ平時に伊勢に出会うのは初めてだ。

 

(伊勢か……確かに日向と雰囲気は似ているが、よく見ると、やっぱり違うな)

そんな、当たり前のことを思った。

 

二人は私の前まで来ると、まず伊勢が敬礼した。

「提督、日向にはいろいろ、お世話になりました! 本当に感謝します」

 

そして深々と、お辞儀をした。敬礼を返しながら私は応える。

「いいよ、そんなに最敬礼しなくても」

 

顔を上げた伊勢は、とても清々しい顔をしていた。

「お前の身体、もう大丈夫なのか?」

 

「はい! あの時は何も分からなくて、ただ恐怖ばかりで……でも今はこんなに素敵な妹と一緒になって私、とても嬉しくて」

 

そこまで一気に答えた彼女は感極まって目がウルウルしていた。

 

「え?」

まさか泣くのか? 少しビックリした。

 

「す、すみません。あれ? 別に泣くところじゃないですよねぇ」

伊勢も慌てて涙をこらえている。

 

「おっかしいなぁ。何処か故障しているのかな」

照れ隠しのようにブツブツ言いながらも結局は、ボロボロと涙がこぼれていた。

 

伊勢は恥ずかしそうに、溢れ出す流れる涙を必死に拭っていた。その姿は、まるで普通の少女そのものだった。 

 

私も艦娘とは永らく接しているが彼女たちが自然に泣く姿を、あまり見たことが無い。もちろん感情的になる子は何人も見たが、それとこれとは微妙に違う。

 

「伊勢……ほら」

見かねた日向がハンケチを取り出した。

 

「あ、悪りぃ悪りぃ。やっぱ、あたしってダメな、お姉ちゃんだよね」

日向のハンケチで顔をぬぐう。

 

天真爛漫な姉と沈着冷静な妹か。

「姉妹だけど、やっぱ艦娘も微妙に違うものなんだな」

 

私も独り言のように呟いた。双子でなければ違って当然か。

 

そういえば美保にも祥高さんと技術参謀という月とスッポンのような……いや失礼。天と地みたいに落差のある姉妹も居るからな。

 

(もっとも、あれは特例か)

私は心の中で苦笑した。

 

「鎮守府から町へは今日、初めて外出したんです私。ココは良い所ですね」

落ち着いた伊勢は言った。

 

伊勢型航空戦艦の一番艦。本当は彼女の方が、お姉さんだ。しかし量産型で建造されて間もないとはいえ日向のほうが、しっかりしている印象を受ける。

 

「そうだ! 今夜はうちの提督が、ご馳走してくれるんですよね」

「あ、ああ……」

急に話題を変えてきてビックリした。

 

「美保の皆さんが来なければ、あり得ないことですね」

ニコニコしている伊勢。

 

(大丈夫か?)

私は彼女の感情の起伏に心配になってきた。

 

「伊勢。ちょっとハイになってないか?」

私の顔色を察した日向が、やんわりとセーブする。

 

「あ、ごめんなさい。調子に乗ってたね、私」

妹の意図は直ぐに察するんだな。さすが姉。

 

そんな伊勢の肩に手を置きながら日向が言った。

「では司令、もうしばらく伊勢と散策をしてから定時までには戻ります」

「分かった」

 

「はい、失礼します!」

ちょっとワザとらしく伊勢が私に敬礼する。

 

私も、ちょっと微笑みながら敬礼を返した。

 

傾いた夕日を浴びた二人は、砂浜を並んで歩いて行く。それを眺める私と青葉さん。建造の時期は違うとはいえ、さすが姉妹艦。並んで歩くと、やはり様になる。この2人は、とても良いペアに成りそうだ。

 

伊勢のオリジナルは、あまりよく知らないが試作型艦娘も意外に良い娘だな。

 

ただ残念なのは、この伊勢も「不完全レシピ」の申し子。その寿命が、いつまでなのか分からないことが不憫だ。

 

「はあ」

思わず、ため息が出てしまった。

 

「シ・レ・イ!」

急に改まった言い方をしてくる青葉さん。

 

「なんだよ、急に」

「もしかして、もしかして……泣いてません? えぇ」

【挿絵表示】

 

勿体ぶった言い方をする。

 

「ば、ばかを言うな!」

 

(あれ?)

変だ。否定したとたん涙が出て来そうになる。焦る。

 

「泣く訳ない……」

そう言いながら私は慌ててハンケチでごまかす。

 

そんな私を見て一瞬フフンと鼻で笑ったような青葉さんだった。

だが急に周りを確認するような素振りをする。

 

「……?」

水辺にいる金剛姉妹や龍田さんが、こちらを見ていないことをチェックしたようだ。

そう思ったら青葉さんは急に私の背中に回って頭を押し付けてきた……。

 

(何をするんだ?)

彼女の意図を図りかねる私。

 

青葉さん、その姿勢のまま、語り始めた。

「別に良いんですよ司令。本当は……泣きたいのは私。済みません、ちょっとだけ背中お借りします」

 

「ああ……」

彼女は積極的で、精神的にもタフだから涙なんか見せないと思っていた。この行動は意外だ。

 

「変でしょ? 私」

「……」

 

搾り出すように続ける青葉さん。

「いろんな現場で見聞きしていると不意に胸が一杯になるんです。いえ、以前は、こんなこと無かったんです」

 

「……」

「もう誰にも見せたくないのに、すごく、すごく泣きたくなるんです。済みません司令」

 

(やっぱり何年も艦娘として生きてると感情みたいなものが成長するってのか……)

伊勢姉妹にも、それは感じた。青葉さんも、そうなのか。

 

「いや良いよ。お前も、いろいろ無理させていると思うし」

私は応えた。

 

すると青葉さんが反応する。

「司令!」

 

「うわっ」

急に声の調子が変わったぞ。

 

「お願い……何も言わないで下さい」

急に声を下げてボソボソと言う彼女。

 

(気のせいだろうか)

背中で青葉さんが咽(むせ)び泣いているような。

 

(いつも人を煙に巻くような言動が多い青葉さんも普通の女の子なんだ)

何故か、安心した。

 

提督という位置は、いろんな物が見える。だから多くの人(艦娘)の中心に立って命令するだけでなく時には受け止めることも必要だ。

それはまるで荒野に直立するスタンディング・ストーン(礎石)だ。

 

組織の要として、惑わず、国家存亡を賭けて戦うんだ。だから言葉が少なくても、そこに居るだけでも良い。そう感じていた。

 

 数分くらいだろうか? しばらく背中でジッとしていた青葉さん。やがて、そっと背中を離れて背後でハンケチで顔を拭っていた。

 

「失礼しました司令! 充電完了です」

青葉さんは餌飼いになると改めて敬礼した。

 

それは、いつもの悪戯っぽい表情ではなく普通の少女のような素朴さを感じる表情だ。

 

「良かったな」

「はい! 司令、私も一蓮托生でガンバリますから」

「バカめ」

「へへっ」

舌を出した青葉さん。その反応に、ふと寛代を連想した。

 

(また壁が一つ消えて、こういう会話が出来るようなったんだな)

そんな印象を受けた。

 

「おーい!」

大声で海辺に向かって手を振る青葉さん。

 

そして急に言った。

「私も水浴びしてきます! これ、よろしくぅ」

 

彼女はカメラバックを私に押し付けて走り出した。

「お……」

 

まさに、有無を言わさない。でも、それは信頼の証か。

向こうの艦娘たちも手を振っていた。青葉さんは合流して一緒に戯れている。

 

「そうだな。生きてるからこそ泣きもするし、笑うこともあるよな」

傾いた夕日を反射させた海がキラキラと眩しく見えた。それは艦娘たちの生命の輝きを象徴しているようにも感じられるのだった。

 

 

 

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EX回:第59話(改1.5)<未来の贈り物>

海岸通りにブルネイの提督がやってきた。旧交を温める二人。そこで美保司令は旧友が既婚者であることを知った。



 

「レシピ情報、あれはすごい」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第59話(改1.5)<未来の贈り物>

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 傾いた夕日をキラキラ反射させた海が眩しく見えた。

 

私は重いカメラバックをそっと地面に置くと、そのまま砂浜に腰を下ろした。

 

向こうの水辺では金剛姉妹を中心に艦娘たちが遊んでいる。龍田さんたちは二人で話し込んでいた。

 

「おお、ここか、やっぱり」

後ろから声をかけてきたのはブルネイ提督だった。彼はまだ制服だった。

 

「よく此所が分かったな」

「連絡を貰ったからな」

その言葉に私は、あの運転手を思い出した。

 

私は彼に詫びた。

「悪いなぁ……お前は、まだ勤務中なのに、こっちは遊んで」

 

「気にするな。はるばる本土から来て、そっちこそ大変だろう」

ブルネイ提督は私の横に腰を下ろした。

 

「どうだ? 彼女たちは」

彼は艦娘たちのことを心配しているらしい。

 

「ああ、あの量産型も含めて、みんな元気そうだよ」

私は波打ち際で遊ぶ彼女らの影絵を眺めながら答えた。

 

「そうか、それは良かった」

そういえばブルネイ提督は学生時代からイケメンで女性にも優しかった。彼らしい気遣いだなと思った。

 

「はぁ」

(……ため息?)

それは意外だった。こいつに似合わない。

 

すると帽子を取った提督は言った。

「俺にも娘が居てな。まだ小さいんだが艦娘たちを見ていると、どうしても他人事ではない気持ちになるんだ」

 

「え? お前、結婚してたのか。知らなかったぞ」

好奇心が湧く。

 

「で、相手は? まさか艦娘……なわけないか」

「ここ、ブルネイの人なんだ」

 

それを聞いて、あれ? と思う。

(確かここの鎮守府が設置されたのが半年前で、こいつの着任もその頃で)

 

……で子供がいる?

「計算が合わないぞ」

 

私が複雑そうな顔をしているのを見て彼は言う。

「なんだ? その顔は。俺は東南アジアを転々としているんだ。ブルネイは二度目の着任で提督になった。うちのと出会ったのは、その前だよ。ただ最初の頃は、まだ正式な鎮守府じゃ無かったが」

 

「なんだ、そうか」

(鎮守府着任前は、ここに居ない……って早合点した)

 

まあ、こいつの場合イケメンな上に語学堪能で要領も良いからな。

 

(いつか奥さんに会ってみたい。美人かな?)

そう思って彼を見るとブルネイ提督の表情も少し緩んでいた。

 

彼は続ける。

「技術参謀の持ってきた例のレシピ情報、あれはすごいらしい」

「そうなのか?」

「技師が狂喜していたよ。俺には良く分からんが専門的な目で見ると建造開始した時点で、ある程度分かるらしい」

 

私は頷いて心で思った。

(未来の情報だから、やっぱりというか当然だけど)

 

彼はメモを見ながら続ける。

「そこで今回は戦艦が2、正規空母が1、あとは軽巡に重巡だ。問題なければ明日の朝の演習は建造された彼女たちが相手になる」

 

それを聞いて私はちょっと引いた。

「戦艦に正規空母って? ……急にすごいのが出始めたな」

 

だがブルネイ提督は平然としていた。

「なんだ? 錬度は美保のほうが高い。そっちだって金剛に比叡は戦艦だ。正規空母の赤城だっている。もともと基礎データ収集のための演習だ。互角ぐらいがちょうど良いだろう」

「それは、そうだけど……確実な艦種はまだ分からないか?」

「小さいのは確か、もう建造が終わっていたが……天龍だったかな?」

「よりによって天龍か」

 

しかも今度は未来のブルネイから仕込んだ『完全レシピ』だから手ごわそうだな。

(ウチの龍田さんにも、あとで言っておくか)

 

ブルネイ提督は時計を見た。

「そろそろ戻っても良いだろう」

「ああ。そうだな」

 

私はポケットにインカムが入っているのを思い出した。それを装着すると艦娘たちに、そろそろ引き上げるように指示を出した。

 

『了解デス』

金剛の返事が返ってきた。

 

それを見たブルネイ提督がちょっと驚く。

「それ、すごいな小さくて。本土は,そんなに技術が進んでいるのか?」

 

「あ、まぁ……」

そういえば、これは元々は未来のブルネイからの備品だ。でも説明しにくい。

 

苦し紛れに私は言い放った。

「明日の演習が終わったら、やるよ」

 

「良いのか? お前の私物か」

後ろめたいが、あくまでも『返す』とは言わない。

 

「あ……まぁ、そんなところだ。役立ててくれ」

ややこしくなるから、そういうことにしておく。時代が違うとはいえ返してしまえば私も少しは気が晴れる。

 

「そっか。それは技師が喜ぶな。お前、昔から小物が好きだったよな」

「いや、別に」

本当は嫌いではない。だが最初は此れだって逆さまに付けてた。

 

徐々に艦娘たちが戻ってくる。私は改めて確認した。

「そういえばどうやって鎮守府に戻る?」

 

ブルネイ提督は言う。

「お前は、歩いてきたのか?」

「いや、送って貰った」

 

彼は言う。

「迎えのトラックが来てくれるから皆、乗れるだろう」

 

「トラック?」

軍用車か。

 

海岸の方から金剛姉妹に龍田さんペア……向こうから日向と伊勢も来る。

 

「ありがとうございました!」

量産型の伊勢が頭を下げている。

 

「司令、どうも」

青葉さんもカメラバックを抱え上げた。

 

「人数点呼……問題ないか」

日向が報告をする。

 

「では駐車場へ」

みんなでブルネイ提督の案内でゾロゾロと駐車場に行く。そこで少し驚いた。派手なトラックが停っていたのだ。

 

しかも明らかに軍用ではない。荷台がオープンになっていて意外にしっかりした座席が付いている。

 

おまけに赤城さんと夕張さん、それに祥高さんと寛代までが既に座っていた。

「ここから、このまま行くのか」

 

すると聞き覚えのある声。

「はぁい、お待たせネ」

 

「あ?」

運転台には、さっきの運転手さんだぞ。

 

どういうことだ?

 

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EX回:第60話(改1.5)<美保さんヨロシク>

演習初日の夜、ブルネイ提督は美保のメンバーを夕食に誘ってくれたが迎えの車は派手なトラックだった。


 

「食事はホテルではないよ。心配するな」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第60話(改1.5)<美保さんヨロシク>

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 その派手なトラックに屋台みたいな飾りがついていて、その荷台にオープン座席だ。運転台には陽気な運転手さん。

 

ブルネイ提督は勝手を知るように彼にに『ご苦労』と言って私たちを振り返る。

「予定通り、これから艦娘たちと夕食会だ。別に美保の隊員たちは改めて鎮守府に戻る必要は無いよな」

 

「そうだな、多分」

(それでも一応、聞いておくか)

 

私は艦娘たちを振り返った。

「ちょっと早いが、これからブルネイ提督の主催する夕食会となる。このトラックで直接、会場へ行くが、お前たちブルネイの鎮守府に戻る必要ないな?」

 

「問題ないデス」

「はい、ありません!」

「無いわよぉ」

「構いません」

判でついたような同じ答えだ。やっぱり聞くまでも無かった。

 

それを見ていたブルネイ提督は大きく頷(うなづ)くと微笑んだ。

「よし、それでは全員、乗車せよ!」

 

『了解!』

艦娘たちも笑顔で敬礼する。ノリが良いな。

 

あの運転手さんは『はい、はい』と言いながら素早く荷台の後ろに回ると扉を開いて後ろから乗り易い簡易型の踏み台を置いてくれた。妙に手馴れている。

 

「oh! コレはステップね。貴族みたいデス」

金剛が、はしゃいで乗り込んでいる。

 

「これはグッドアイデアですね」

青葉さんも、こういう珍しいものには目が無い。カメラでカシャカシャと盛んにシャッターを切る。踏み台や乗り込む様子を撮影だ。

 

彼女たちが乗り込む姿を見ながら私は、あれこれ考えていた。

 

この国はイスラムの国。海辺は良いとしても何処かのホテルとか食堂だと艦娘たちの露出が多い服装はマズく無いかな?

 

それに宗教的な服装の心配以前にホテルとか食堂に、このトラックで乗り付けるのはヤバくないか。いくら陽気なブルネイ人でもビックリしそうだ。

 

人間の姿をしていても艦娘は軍人。しかも、これだけ大挙して押しかけるとなれば場所も限られる。あまり不特定多数が出入りする場所は無理だろう。それでも乗りつけるとしたら、どこかの大衆食堂でも借り切るのかな。

 

ほどなく全員が乗車し終えた。もちろん私たちに合流していた量産型の比叡や龍田さん、伊勢も一緒だ。

 

「よし、全員乗ったな」

ブルネイ提督は主催者だけあって張り切っている。彼は運転手さんに目配せをする。

 

「はい、はぁい」

そう言いつつ運転手さんは荷台の扉を持ち上げてロックをする。さっきの踏み台はトラック後部の下回りに、キチンとはまる場所があるらしく即、収まった。

 

ブルネイ提督は荷台の艦娘たちに声をかけた。

「このまま走って15分くらいだ。大丈夫だとは思うが途中で転げ落ちるなよぉ!」

 

それを聞いた艦娘たちは一斉に笑っている。ブルネイ提督は、こういう軽妙なところは昔からうまい。

 

「……で、私は?」

「お前は前の座席、俺の隣だ」

「あ、そう」

「早く乗れ」

「あぁ」

……よく考えたら私はポロシャツだが。良かったかな?

 

「出しまぁす」

私たちが乗り込むと運転手さんは手馴れた手つきでトラックを発進させる。

 

荷台からは賑やかな歓声が聞こえる。艦娘たちが盛り上がっている雰囲気が伝わってきた。

 

私はブルネイ提督に、さっきから疑問に思っていることを聞いてみた。

「おい、今夜はどこで食べるんだ? 彼女らの服とか大丈夫かな……その風紀的に」

 

彼は私の心配を察したように言った。

「食事はホテルではないから心配するな。この運転手……俺の義理の兄なんだが彼の縁者のところへ行くんだ」

 

「運転手さんって、お前の義理の兄さんなのか?」

思わず驚愕する私。

 

運転手さんは、こっち向いて陽気に手を上げる。

「美保さん、ヨロシクです」

 

いつの間にか私は『美保さん』になっていた。まぁ間違いではないが。

 

しかしトラックの後ろの艦娘たちを見ると、まさにサーカス団だな。

 

(軍隊なんて一種の曲芸団みたいなものだ)

私は心の中で苦笑した。

 

トラックは夕日に照らされたブルネイの町を走り続ける。こうしてみると我が国もそうだが世界各地、ここブルネイでも陸の上は平和そのものだ。

 

だが、いったん海に出れば貿易航路は敵に分断され艦娘がいなければ自由に海へ出ることすら不可能だ。今なお人類は国家間で、まともにやり取りすることすら難しい状況なのだ。

 

 

 

 

 

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EX回:第61話(改1.5)<海行かば艦娘>

トラックに乗り込んだ美保司令とブルネイ提督。そこで司令は意外な話を聞くのだった。


 

『私たちも頼られる時代になるんですね!』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第61話(改1.5)<海行かば艦娘>

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 トラックは幹線道路を走る。傾いた陽で街は赤く染まっていた。

「夕日がきれいだな」

 

するとブルネイ提督が切り出す。

「10分も走らないうちに渡船場に付くから手短に話す。今日これから行くところは義兄の親戚が経営する食堂だ。ただし船上なので、その旨は含んでおいてくれ」

 

私は目を丸くした。

「渡船……あれか? ブルネイの水上集落」

 

提督は頷いた。ブルネイは初めてなので見たことは無いが噂は聞いたことがる。東南アジアによくみられる水上集落だ。

 

彼は続ける。

「知ってるだろうが艦娘は世界の軍や公安、治安関係者には注目されている」

「あぁ」

「だが我々はレシピも含め基本的な艦娘建造のノウハウは公開できない」

「そうだな」

 

彼は一呼吸置いた。

「だが例えば、ここブルネイのように鎮守府のある泊地では深海棲艦との戦いの合間に現地の治安維持活動への協力も検討され始めている」

「……」

 

あまりにも突然すぎる話だ。提督は腕を組んだ。

「特にブルネイは、わが国の皇室とも縁が深い。治安維持協力の第一号として政府内でも検討されている」

「……」

 

困惑した表情の私を見た彼は笑った。

「とりあえず状況だけは理解してくれ」

 

私はその表情を見て、ようやく口を開いた。

「水上……だよな?」

 

彼は頷く。

「そうだ。敢えて船上で、しかも関係者だけ。ブルネイの政府や王立軍、警察関係者がやってくる。そこに美保の艦娘たちも同室願うつもりだ」

 

「えっ?」

整理がつかない上に意外な提案に私は驚く。

 

彼は続ける。

「急で悪いが、ブルネイ側も切羽詰まっているんだ。それに伊勢や日向、龍田あたりは接近戦にも強いだろう。万が一には先方のSPの支援をする可能性もあるから、それは伝えておいてくれ」

 

もう私は脳内がぶっ飛ぶ寸前だったが取り敢えずインカムを取り出すと理解できた範囲で艦娘たちに伝えた。

『了解デス 』

 

いつもの金剛に続けて意外な反応が続く。

『いよいよ、私たちも頼られる時代になるんですね!』

『まぁ王立軍が来るの?』

『護衛、承知。伊勢も大丈夫だ』

 

彼女たちが偉いと思うのは、こういうぶっ飛びそうな内容でも、しっかり受け止めてくれることだ。特に今回の遠征メンバーは実戦経験も豊富なだけに腹が据わっているのだろう。そういう点は安心できる。

 

やがてトラックは大河に面した桟橋に到着した。

 

「ハイでは皆さン降ります」

運転手さんは手際よく降車の準備をする。

 

日本では派手にしか見えない艦娘たちも、ここブルネイの熱帯地方では意外に街の雰囲気に溶け込んでいた。彼女たちの端正な顔立ちと相まって、まるで民族衣装をまとった団体に見えるから不思議だ。

 

そんな彼女たちを見ていて、ふと感じた。

(もともと艦艇である彼女たちは海を越える存在だ。日本というちっぽけな国だけに留まっては、いけないのだろう)

 

だが、このイスラムの国ブルネイでは、さすがにこの出で立ちでは難しい場所も多いだろうが。

 

運転手さんは携帯で何処かに連絡を取っている。パッと見は人の良いオジサンにしか見えないが電話をしているときの目つきは鋭い。恐らく諜報員だろうと察した。

(人は見かけによらないものだな)

 

曲がりなりにも海軍の提督ともなれば中将以上が多い。だから、きっとブルネイ提督の奥さんも、それなりの身分の人で、相応の場で提督と出会う縁があったのだろう。

 

やがて2隻の渡船ボートが桟橋に横付けする。

 

それを見た運転手さんは、急にもとの明るい笑顔に戻る。

「サァ、皆さん。遠慮なく乗って下サイ!」

 

艦娘たちも、まさか自分たちが改めて船に乗るとは思っていなかったようで口々に感嘆の声を上げた。

「Woo! カワイイネ」

「きゃあ! お姉さま押さないでっ!」

「あらぁ、優雅ねえ」

「……勝った」

 

最後の日向のセリフが、いったい何を意味するのか謎だが。

 

私たちは二手に分かれて乗船した。ブルネイ提督は慣れているのだろう。その義兄の親族らしき人と何度も目配せをしている。当然、敵ではないが妙な雰囲気だな、こういうのって。

 

「では皆さン、出しますヨ!」

あの運転手さんが声をかけると船は、ゆっくり桟橋を出発した。大きな川には無数の船が行き来している。

 

「ああ、ここは水の都なんだな」

私は実感した。

 

 

 

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EX回:第62話(改1.5)<水上集落へ>

司令たちはブルネイの水上集落へと向かう。そこは独特の雰囲気だった。


 

「女の子って言うのは親が思う以上にしっかりしている」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第62話(改1.5)<水上集落へ>

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桟橋を出発したボートは一列になって河を進んでいく。

 

「やっぱり船はイイネ」

「あぁ! お姉さま押さないでったらぁ!」

服装から言動から、金剛と比叡は相変わらず賑やかだ。隣の大人しい比叡2号が別人のように見える。

 

「ホント優雅ねえ」

「夕暮れっぽい」

龍田さんと夕立は、いつも通りマイペースだな。そして龍田2号は、とても静かだった。

 

「フッ……勝った」

(だから日向は一体、何に勝ったつもりなのか引っかかるんだが)

 

「うん、そうだねえ」

隣にいる量産型の伊勢が相槌(づち)を入れる。

 

彼女には、それが分かるらしい。

(さすが姉妹だな)

 

私は正規空母を見た。

「しかし赤城さんは、だいたい静かだな」

 

何気なく声をかけると彼女は何かをボリボリ食べながら反応する。

「そうですか?」

 

指揮官の前で何かを食べるというのは普通なら失礼に当たるのだろうが、私は気にしない。

 

隣に座っている夕張さんが解説する。

「これね、屋台で買ったんですよ。味は大雑把ですけど、こちらは何でも安いですよね」

 

「そうだな」

この二人も独特だった。

 

2隻のボートは時おり猛スピードで通り過ぎる他の高速船をかわしながら河を進んでいく。やがて水上集落の一角に近づいた。

 

私は言った。

「水上集落って間近で見るとゴミゴミして、まるで要塞みたいだな」

 

「でも絵になりますね」

青葉さんは盛んにシャッターを切っていたが急に硬直した。

 

「ん?」

何事かと見ると、その桟橋には既に何隻か軍や警察関係っぽい船舶が停泊している。そして強面(こわもて)のお兄さんがこちらを睨んでいた。

 

「はは……さすがに、あのお兄さんたちにカメラを向けるのは気が引けるな」

しかし彼らも私たちの先頭に立つ運転手さんの顔を見ると急に態度を変えて会釈をしている。運転手さんは意外に顔が広いようだ。

 

桟橋に到着すると向こうから関係者っぽい男性がロープを投げる。

運転手さんは、また笑顔に戻る。

「はいボート降りたら行きますからネ。足元に気をつけてネー。時々穴が開いていて落ちますから」

「穴……?」

 

すると日向が呟く。

「艦娘なら落ちても大丈夫」

 

「えぇ? 嫌ですよ、さすがに」

夕張さんが笑う。

 

「はい迷子にならないように付いてきてね」

そう言いながら運転手さんは、そそくさと行ってしまう。身体の大きさにそぐわず意外に早足なのだ。絶対に諜報員だな。

 

「oh、wait! 待って」

「はぁ、はぁ、早いですね!」

高速の金剛姉妹がこの有様だ。

 

案内役の運転手さんの表情や行動の落差がすごい。まぁ妙な日本語でも片言で会話してくれるだけ有り難いが。

 

一番遅れている龍田さんは仕方ない気もするが私は他の子に声を掛けた。

「夕立に夕張さん! 遅すぎだって」

 

その夕立は弱々しく叫ぶ。

「仕方ないっぽい」

 

「はぁ、はぁ! 腕力なら自信あるんだけどなあ」

工廠娘も足腰は弱いのか。

 

でも私たちが運転手さんを見失うと寛代が『こっち』とか言って指差して案内してくれるから助かる。さすが索敵娘。その指差した方向に慌てて付いて行く私たち。

 

艦娘たちは自前で無線とかレーダーを持っているから良いけれど。生身の人間である私は迷ったら大変だ。実際、何度も危うく置いてかれるところだった。

 

考えてみたら、こういう迷路みたいなところの方がVIPや要人にもカモフラージュになるのだろう。そう思うと外のホテルとかレストランよりも、はるかに安全といえるか。

 

なおブルネイ提督は、さっきからスイスイと付いて行っている。奥さんが、ここの出身だからかな? 妙に慣れている感じだ。

 

 やがて、ちょっと大き目の建物の中に案内される。その入口には自動小銃を構えたお兄さんが数人、護っていた。そして運転手さんの姿を見ると案の定、会釈をして道を開けてくれた。

(本当に、この運転手さん……何者?)

 

私たちは照明で照らされた明るい廊下を行く。

「さっきも話したが、今日はブルネイの政府、王立軍、警察関係者が来る」

 

ブルネイ提督は通路を歩きながら私に説明した。

「彼らは食事はせず話だけして帰る予定だ。お祈りの時間は避けるらしい。俺としては明日の打ち合わせがしたいんだがな」

「あ、そうか。明日は視察もあるか」

 

突き当りの扉をブルネイ提督が開ける。

 

そこには、この水上集落に、こんな空間があったのか? という広いスペースが広がっていた。天井からはキラキラした豪華なシャンデリアが下がり壁には絵画。大きなTVとホワイトボード。そして大きな机がある。

「適当に座ってくれ。直ぐに相手も来るだろう」

 

金剛たちが大きく目を見開いている。

「wow、意外ネ」

「すごいですね」

 

「……です」

珍しく比叡2号も目を丸くして驚いている。確かに、外観と中身の落差には驚きだ。内装も、かなり豪華だ。

 

各自それぞれ腰をかけていく。私が座るとブルネイ提督は並んで座った。帽子を取った彼は、ちょっとホッとしたような表情をした。

 

だいたい全員が着席した頃合いを見て運転手さんが言った。

「じゃ、呼びますネ」

 

「お願いします」

「え?」

提督が運転手さんに敬語? ……年上なのだろうか。その彼は、軽く礼をしてから廊下へと出て行った。本当に謎めいた人だ。

 

「知っての通りブルネイ鎮守府では今まで、ずっと艦娘の開発を続けていた」

直ぐにブルネイ提督は艦娘たちに目をやりながら続けた。

 

「だが試作品は失敗続き。現地政府から艦娘を見たいと言われても、ずっと誤魔化してきた。だが、さすがに限界か……と思っていた矢先の今回の演習だ」

それを聞く艦娘たちも初めて聞くであろう話に少し驚いている。

 

提督は続ける。

「これも何かの縁なのだろう。お前には感謝しているよ。助かった」

「なるほどブルネイも、いろいろ大変なんだな」

 

彼は改めて艦娘たちを見た。

「我々の試作量産型では、とても不安定で安心して見せられなかっただろう。でも美保のオリジナルの艦娘たちなら、まったく問題ないな」

 

「いや」

(別の意味で問題大アリだと思うんだが……)

 

ちょっと引いた表情の私を見て提督が言う。

「なんだ? 深刻な事案でもあるのか?」

 

「まぁ、見るだけなら……」

私は苦笑した。我ながら意味不明の返事だった。でもブルネイの人たちにとっても艦娘が興味の中心なんだと理解した。

 

彼は続ける。

「最初に先方から打診があったときは難しい文書でね……うちの奥さんと義兄に翻訳してもらって、やっと分かった」

 

「ふむふむ」

青葉さんが相槌(あいづち)を打つ。メモを取っているが、この情報は公開するなよ?

 

提督はアゴに手をやった。

「彼らは、もう量産型艦娘が実用化されていると勘違いしているらしくてね。世間一般には艦娘すら知られていないのに量産化のことまで知っているとは驚いたよ」

 

「そりゃ確かにすごい」

私は感心した。青葉さんも「へえ」と反応する。

 

「日本では陸軍も警察も全然無関心なのに海外は進んでいるなあ」

そう言いながら私は、あの運転手さんを連想した。なるほど情報戦に長けているのは深海棲艦だけではない。このブルネイも例外ではない、ということか。

 

「正直、最初は軍事協力から治安維持まで小難しい文書が続いていたが肝心の艦娘に、まともなのが居ないからウンとも言えない」

 

彼は苦笑した。

「それが逆に相手には俺というか帝国海軍が渋っていると勘違いされたらしくてね。人員の協力やら鎮守府運営でのいろんな利便を図ってくれたよ」

 

なんだか海外の部隊も大変だ。青葉さんと夕張さんも互いに目配せをして頷きあっている。提督も続ける。

「まあ、こういう小さな国では有りがちなんだろう。しまいには『見るだけでも良いから……』って話になった。そうしたら今回の演習だ。笑えるだろう」

 

「なるほどねえ」

彼が言った『渡りに船』は、心から実感したのだろう。

 

私は口を開いた。

「しかし正直、私だって艦娘のことは良く分からない。こんな状態で良いのだろうか?」

 

「そんなに気にするな。俺も娘を持って分かったが女の子って言うのは親が思う以上にしっかりしているし、いろいろ気を遣ってくれるもんだ」

「そうか」

人間と艦娘を比べること自体が無理があると思うが妙に納得した。

 

「フーン、やっぱりそうネ!」

いきなり金剛が自慢げに胸を張っている。

 

(お前に気を遣われた経験はないが……)

まぁ赤城さんとか祥高さんあたりなら人間の女性に近い気遣いが出来るかも知れない。

 

そう思っていたら部屋をノックする音。

(いよいよ、来たか?)

 

「はい、どうぞ!」

ブルネイ提督は答える。皆、一瞬、緊張する。

 

 

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EX回:第63話(改1.6)<要人たち>

ついにブルネイの要人たちと司令と艦娘たちが接見する。だがブルネイ側も一筋縄ではいかない人たちだった。


 

「強くて、美しければ、それで良いんじゃ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第63話(改1.6)<要人たち>

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「失礼シマス」

(あ、日本語?)

 

……そう思う間もなく礼服の人達や軍服組、さらに警察官らしき人たちが続々と入ってきた。

(上官と部下の組み合わせで各々2名ずつだな)

 

さらに日系の通訳一人と女性の秘書官(美人系)、彼らの番後に、あの運転手さん。

 

提督から話を聞いてたとはいえ実際、この人数を見ると圧倒される。通路の外に数名の武装した護衛官がチラッと見えた。だが彼らは入室して来なかった。

 

そして提督は直ぐ立ち上がるとブルネイの要人たちに敬礼をした。私も慌てて立ち上がって敬礼。私の近くに居た艦娘たちも軒並み敬礼している。

 

(ポロシャツというのは望ましい格好ではないが)

あまりにも場違いな自分の様相に恥ずかしくて顔が火照りそうだった。そんな私の気持ちには関係なくブルネイ側も順次、敬礼をした。

 

(現地の言葉だろうか?)

自分たちの名前と所属を名乗っているようだ。直ぐに通訳が、それぞれの所属と階級、名前を説明してくれた。今回やってきたのは提督から聞いていた通りブルネイの政府(王宮)と王国軍、それに警察(公安)関係者だった。軍隊や公安関係は日本でも同じ職種はよく見る人たちだから何となく馴染みもある。それに各機関の上級官僚だということも雰囲気で分かる。

 

(しかし王室が出てくるとは驚きだ)

私は一層、恥ずかしく感じていた。

 

ブルネイ提督は言った。

「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ、お掛け下さい」

 

「うむ」

頷きながらブルネイの要人たちも会釈をして席につく。彼らに遅れて私も腰を掛けた。

 

ふっと別の思いが湧いてきた。

(それにしても今回、演習だけでなく現地要人と合う羽目になるとは)

 

もともと私自身が鎮守府指揮官の位置に居ることが分不相応だと思っている。だから、こんな場に私が居合わせて良いのだろうか? そんな後ろめたい気持ちがつい出てきてしまう。

 

すると横に座っていた祥高さんが私の机に上に何かをくれた。

 

「気後れしては成りません。堂々としていて下さい」

そんなメモだった。私の不安な心を察知したのだろう。

 

(さすが秘書艦だ。ありがとう)

私は軽く頷くと、そのメモをしまった。悶々とした気持ちがスッと消えていくようだった。

 

そしてブルネイが仕切る。

(この後は通訳を交えての会話)

 

『本日は、わざわざお越し頂きまして感謝です。今まで諸事情があって、なかなか艦娘たちを披露できず非礼を、お詫びします』

 

それを受けてブルネイの公安関係者らしき男性が言う。

『言い訳でなく艦娘の詳細を聞きたい』

 

提督は少し焦ったように答える。

『ハッ。わが国の海軍の主力は基本的に軍艦ですが近年台頭してきた深海棲艦により、まったく無力と成っておりました。そこに、この艦娘たちが……』

 

『うーむ、すごいぞ、すごいなあ』

突然、声がした。

 

(今度は誰?)

振り向くと、例の男性。

 

(あぁ、ちょっと恰幅のいい別の王室関係の人か)

彼は感情が先走りそうなタイプだな。

 

『理屈はもう良い。強くて美しければ、それで良いな』

そう言いながら急に立ち上がった。

 

『おぉ! あの頭に王冠を乗せた高貴な雰囲気の彼女たちが王宮にはふさわしいのう』

(え?)

思わず彼の視線の先を見た。

 

……なるほど金剛たちのことか? 

(あいつらのどこが高貴なのか理解に苦しむが)

 

金剛姉妹の服装は紅白の巫女スタイルに金糸だから。

(まあ確かに頭のキンキラ金は王冠に見えるかなぁ)

 

見方によっては高貴とも言えるかも知れない。何だか妙な雰囲気になって来た。

 

『しかし具体的なスペックも知りたいところです』

今度は軍服を着た男性が割って入る。

 

いかにも彼は軍人だ。

(作戦参謀クラスって感じかな)

 

王宮関係の男性が立ち上がる……とりあえず彼は『王宮男性』としておく。

『いやぁ、すぐにでも来て貰いたいものじゃ』

 

彼は金剛たちに向かって近寄っていく。姉妹たちが引いているのが分かる。

 

『oh! ……マジですかぁ?』

さすが帰国子女、とっさに英語が飛び出すが、ブロークン過ぎるっ!

 

「お、お姉さま! ここは、穏便に……」

何かを察知した比叡が日本語でフォローする。

 

「オ・ン・ビ・ンって、ナニね?」

【挿絵表示】

 

身に迫る危険を感じながら、やや焦りと苛立ちを交えて日本語で答える金剛。こめかみがピクピクしている。

 

「いや、その……」

比叡も困っている。そうこうしている内に『王宮男性』は彼の射程距離内に金剛たちを捉えた。

 

さすがにブルネイ提督も、この状況には困惑し苦笑している。何しろ相手はブルネイの王宮の要人であり無下(むげ)に止めるわけにもいかないのだろう。

 

……かといって、このまま放置するわけにもいかない。板ばさみのような状況で彼も困っていた。

 

だが困惑しているのはブルネイ側の王室関係の人たちも同様。何となく、あたふたしている。

 

(だが正直、彼らも手出しできない状況だな)

私は妙にニタニタしてきた。

 

王室関係者らしい日系の通訳の男性も、そして美人系の秘書担当女性も困っていた。果たして、これはどうするべきか?

 

そう思っていたら急に一人の艦娘が立ち上がって『王宮男性』の手を取った。一同、ちょっとざわめいた。

『初めまして。私は艦娘の比叡と申します。私たちに注目して頂いて光栄です』

 

それは意外にも、あの比叡2号だった。しかもドコで覚えたのか英語だ。

 

大人しいだけの彼女だと思っていたが意外にも機転を利かせてくれたようだ。ブルネイ提督も驚いている。

 

私も含めた美保のメンバーも皆、ビックリしていた。でも彼女は、まだ『不完全レシピ組』のはずだが……意外に完成度が高いようだ。一種の隔世遺伝みたいな現象かな?

 

私がアレこれと疑問を感じている中で『王宮男性』はニコニコして比叡2号の手を取っている。

 

(さて、どうするつもりだ?)

私は自分の不安をよそに、興味津々だった。

 

 

 

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EX回:第64話(改1.5)<艦娘たちの想い>

ブルネイ側との話し合いの中で、まだ艦娘たちへの誤解が多いことを悟った司令たち。そして赤城さんが立ち上がった。


 

「血の通った「艦娘」という新しい人間だと認めて欲しいのです!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第64話(改1.5)<艦娘たちの想い>

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 思い出した。本物の戦艦『比叡』は何度か栄えある『お召し艦』の経験もあった。残念ながら美保の比叡には、そんな雰囲気は微塵もないが。

 

恐らくブルネイの量産型比叡(2号)には過去の歴史的な『記憶』が蘇っているのだ。控えめな性格だから、まだ世俗に染まっていないということか。

 

そんな比叡の姿を見て『王宮男性』は目を細めて嬉しそうだ。

『苦しゅうないぞ。美しさと強さは兼ね備えてこそ本物じゃ』

 

私と提督は思わず顔を見合わせた。

(何だ、彼は英語も分かるんだな)

 

それに『王宮男性』の言い分は分かる気もするが、よく考えたら意味不明だ。まぁそれは高貴な人に有りがちな『美学』なのだろう。

 

ブルネイは歴史ある王国だ。そして比叡に留まらず艦娘たちにも歴史がある。もしかしたら『王宮男性』と彼女たちは歴史的な何かが共鳴しているのだろうか?

 

気になった私は隣のブルネイ提督に小声(日本語)で突っ込んでみる。

「本当に強いのか?」

 

「あの試作型は正直、自信を持って、お勧めは出来ないな」

彼も肩をすくめて小声で答えた。それでも機転が利くだけ立派だ。

 

(やれやれ……要人相手は疲れるよな)

私は頭に手をやった。軍人にとっては肩が凝りそうな任務だ。

 

取り敢えず、この場は何とか収拾がついたようだ。一同にはホッとしたような安堵の空気が流れた。

 

あの美人系の秘書官も『王宮男性』に近寄って何か耳打ちしている。すると急に彼は思い出したような表情に変わって態度を変えた。

『そうじゃったな。この場は、いろいろ都合がある者たちが集っておった』

 

それを見た私は、またブルネイに呟く。

「上から目線だな」

 

「身分は高い人だから、そこは仕方がない」

提督も小声で呼応した。

 

「それに我々は、この国に駐留させて貰っているわけだからナ」

「それは分かるが」

他のスタッフたちも、ちょっと苦笑していた。

 

私たちの側に控えている艦娘たちも今のところ大人しくしているのが幸いだ。もっとも一番うるさそうな金剛や比叡が、いきなり『王宮男性』の先制攻撃を食らったわけだ。結果的には良かったのだろう。

 

その『王宮男性』は『失礼した』と言いながら自分の席に戻った。彼の隣にいた補佐官のような黒髪のイケメンの男性が椅子を出して座るのを補助している。今気付いたが彼も腰にサーベル(剣)を下げている。

 

(近衛兵か)

目つきも鋭いからSPも兼任した武官だろうな……私はボンヤリ考えながら見ていた。

 

『では、改めて艦娘の説明をいたしましょう』

咳(せき)払いをしてブルネイ提督が英語で話し始める。

 

『現在、世界各地の海域に深海棲艦が出没して以降、既存の軍艦や巡視艇などが、まったく太刀打ちできず海上航路が分断されて久しいのは、ご存知の通りです』

一同、頷く。艦娘たちも、この件(くだり)は知っているだろう。

 

『深海棲艦の出現とほぼ同時期に、わが国に現れたのが艦娘と呼ばれる彼女たちです』

提督は艦娘たちをチラッと見ながら続けた。

 

『普通の人間ではなく、かといってロボットでもない。それでいて艤装と呼ばれる武装を施すことで通常兵器の何倍にもなる兵力を有します。それまで、いかなる兵器でも、まったく対抗手段がなかった深海棲艦への唯一の切り札となっています』

 

『問題はだね……』

あのブルネイ軍の作戦参謀が手を上げた。

 

『どうぞ』

提督は発言を促した。

 

彼は続ける。

『まだ日本にしか、その艦娘たちが居ないという事実だ』

 

片言の英語だった。

『中東から東アジアへのシーレーンは日本のお陰で徐々に回復しつつあるが欧米は未だ陸路や空路に頼る現実だ』

 

『そうじゃな』

『王宮男性』も英語で話題に加わってくる。

 

『わが国は、ちょうど中継地点で、いろいろ協力しておるが、なぜ日本だけが艦娘を独占する? 貴国は優秀な工業大国だから、もう艦娘の量産化も出来ているんじゃろ?』

顔は微笑んでいるのだが言葉の端々(はしばし)に若干の不信感を滲ませている。場は再び微妙な空気に包まれた。

 

するとブルネイ提督は恐縮そうな顔をした。

『はい、仰る通りです。ですが決して独占しているわけではなく……』

 

彼は一呼吸を置いた。

『そもそも彼女たちは工業製品のような存在ではありません。ですから仰る量産化も、まだ研究中で、ここに居るのは日本から来たオリジナルの艦娘たちなのです』

 

『オリジナル? 艦娘は量産兵器ではないのか』

初めて知ったような顔で警察関係者がカットイン。この反応された言葉には美保の艦娘たちも顔をしかめている。

 

(そうだよな)

私自身も海軍の内外で何度も聞かされたセリフだ。もっとも日本国内での認知度は、まだ少ないのだが。

 

「よろしいでしょうか」

突然、赤城さんが挙手をした。これに一同、ちょと驚いた。

 

ブルネイ提督は「どうぞ」と言った。彼女は軽く会釈をして立ち上がった。

「私たちを兵器と見られるのは致し方ないと思います」

 

直ぐにブルネイ側にも通訳が入る。その様子を確認した赤城さん。

「そう……私たちの使命は、ただ単に敵を殲滅すること以外にはありませんから」

 

淡々と説明する。

「でも私たちには心があります。喜びや悲しみ……」

 

彼女の姿にブルネイの要人たちは一様に緊張していた。赤城さんの日本語が直接、通じなくても実際(リアル)の艦娘が自らの意思で立ち発言している姿そのものが、まず彼らにとって大きなインパクトらしい。

 

「そして国家に対する忠誠心だって陸軍や空軍に負けない自負もあります」

彼女の感情を押し殺したような冷静な語り口が逆に艦娘たちの無念な思いを滲ませている気がするのは私だけだろうか。

 

(いやブルネイ提督も複雑な渋い顔をしている)

そうだ。直接、艦娘と接している者には次第に分かるようになってくる。彼女たちの想いや疎外感、悲しみというものが。

 

赤城さんは続けた。

「誤解を恐れず言えば深海棲艦たち……『彼女』たちの苦しさも最近は少し分かるようになったと思います」

 

「あ……?」

私は、変な声を出して反応した。

 

(ちょっと赤城さん。いきなり核心部分へ急降下爆撃ですか?)

そう思ってブルネイ提督を見ると彼も一瞬、顔が青ざめていた。

 

彼女がいう『深海棲艦』とは、あの大井(仮)のことだと思うが……その意図が、このブルネイの要人たちに通じるだろうか? 現に彼らも少し、ざわつき始めている。だが私と提督の心配をよそに彼女は続ける。

 

「もちろん、わが国だけではありません。世界を救いたい助けたい! その想いはありますが」

赤城さんは凛としている。普段のボーっとした姿からは想像もできない。

 

「いま量産化も着実に前進しています。実用化されれば、もっとたくさんの人を護ることができるでしょう」

彼女の巍然(きぜん)とした態度にブルネイ側の要人たちも何か言いたいのを制して話を聞いてるようだ。

 

「でも忘れないで欲しい」

次第に赤城さんの声が震えてきた。

 

「私たちは単なる機械ではありません。血の通った『艦娘』という新しい人間だと認めて欲しいのです!」

ここまで言い切って赤城さんは顔を押さえて泣き出してしまった。

 

いや彼女だけじゃない。他の艦娘たちも泣いていた。でも龍田さんペアはジッと耐えているけど。

(無理するなって)

 

隣に居た日向が赤城さんの肩を抱くようにソッと着席させた。誰が悪いわけでもないが、この状況では男どもが『女子を泣かせた』状態だな。こうなると男性陣は何となく気まずい雰囲気に浸ってしまう。

 

すると女性秘書官が手を上げた。ブルネイ提督が発言を促した。

 

 

 

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EX回:第65話(改1.5)<深海棲艦の目的>

女性秘書官はブルネイの国情を話しながらも艦娘たちに理解を示してくれた。だが……。


 

『いや、済まないの。ワシも反省じゃ』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第65話(改1.5)<深海棲艦の目的>

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 ニコニコして立ち上がった女性秘書官は美人だった。彼女は言う。

『国務長官付きの秘書室長です。艦娘の皆さんが軍人だという認識はありますから安心して下さい』

 

単なる美人だけでなく非常に聡明で優しい語り口だ。英語でも良く分かる。

 

(なるほど天は二物を与えるんだな)

私は妙に感心した。

 

『私たちは貴方たちを責めているのではないわ。でも分かって頂戴。いま世界中が物流の分断で困っているの』

青葉は英語が分かるらしく、しきりに頷いている。他は金剛姉妹が要所要所で通訳をして一斉送信しているらしい。

 

『貴方たちだけに重責を負わせるのは酷だということは分かる人には分かるわ。でも世界には現実的に逼迫(ひっぱく)している問題がある。その焦る気持ちは、もう軍隊でも警察でも押さえ切れないから』

 

(……やはり国務長官付きともなると現実問題との擦り合わせだよな)

 

彼女は続ける。

『食料やエネルギー問題は死活問題だから、それは国家の存亡にも、かかわって来るの。軍事力に匹敵する重要な事柄だから理屈だけではもう、どうしようもない。政府にも止められない。国民の誰もが誰も命がけなのよ』

一同沈黙。ただ艦娘たちの、すすり泣きだけが聞こえる。艦娘たちに語りかける秘書室長が聡明で優しいだけに背後の深刻さが、なおさら身に滲みるのだろう。

 

(そうだ。今、世界が大変なことは誰も分かっている。艦娘だって感情があるから伝わるハズだ)

 

『……ごめんなさい。でも貴方たちの叫びを聞いて、よく分かりました。お互い言い難い事情もあるわ』

 

そこで彼女は微笑んだ。

『でも頑張って頂戴。貴女たち艦娘の気持ちを世界に訴え続けることも立派な使命なのよ』

 

赤城さんは泣きはらした顔を上げ何かにハッとした表情になった。それは隣に居た日向や他の艦娘たちも同様だった。

 

『はい……頑張ります』

意外にも片言の英語……蚊の鳴くような、それでいて決意のこもった彼女だった。

 

『良かったわ』

女性秘書官はニッコリすると着席した。美人には負ける。

 

(ああ、この場に技術参謀が居ればなあ……)

彼女は元艦娘で人間とケッコンまでしていて艦娘の代弁者としては最適だ。

 

(あ、ここに愛娘の寛代が居るじゃん)

そう気づいた私は彼女を見る。

 

(あれ?)

寝ている。だめか。

 

『ハッハッハ』

ビックリした。あの『王宮男性』か。

 

『いや、済まないの。ワシも反省じゃ』

恥ずかしそうに反省の弁を述べた彼。

 

でも悔い改めているのは彼だけでなく軍も警察関係者も同様に見えた。

 

(あれ?)

龍田さんも、ついに感涙か? ……後ろ向いて誤魔化しても分かるぞ。

 

『ただ、分からないのは……』

今度はブルネイ軍の武官だ。

 

『そもそも、あの深海棲艦の目的は何かね?』

この質問は誰もが抱える疑問だろう。

 

彼らは基本的に海上でのみ行動する。もちろん先日の境港の地上戦のように戦車など上陸作戦が可能な兵器も備えていることは分かっているが、まだ積極的に何処かを占領するという報告は聞いたことが無い。

 

そう思っていたらブルネイ提督が言う。

『その問題は唯一、敵との地上戦を経験し深海棲艦とも直接やり取りした経験をお持ちの美保鎮守府の司令に、お話いただきましょう』

 

『はい』

私はチョット焦った。

(こっちに振るのか?)

 

……だが考えれば当然か。

 

私が美保鎮守府に着任する際の敵の攻撃は特筆すべきものだ。実際、あれから鎮守府には関係各所から調査や視察依頼が相次いだ。

一時期、受付担当の大淀さんも手一杯になったくらいだ。

 

結局、海軍省のお達しで、以後すべての問い合わせは却下された。それからは平穏な日々が続いていたのだ。

 

私はポロシャツのまま立ち上がった。

『簡易な格好で大変失礼します』

 

一瞬注目が集まる。やはり半分呆れたような眼差しだが……仕方ない。私も腹を括った。

『正直、奴等の目的は我々にもハッキリしません。ただ私が直接、あいつらから聞いた限りでは、連中は公的な物への敵愾心(てきがいしん)……恐らく疎外感から来る既存国家体制への恨みのがあるようです』

 

一同は『ほおっ』と言う感嘆の声を上げた。私への見方が少し変化したようだった。

 

ちょっと間を置いた私。

『彼らには階級も組織も無いといってましたが……それでいて組織的な攻撃も仕掛けてきますから一種のテロ組織と見ることも出来ます』

 

『なるほど』

軍関係らしき男性が頷く。

 

私は続けた。

『あまり考えたくありませんが沈没した艦船や一部の艦娘が、その無念の思いから深海棲艦に変化するという説もあります』

 

『そうか……声明も何も出さないからなあ。厄介な連中だ』

警察関係の担当者が呟く。

 

そのとき外が急に騒がしくなった。次の瞬間バリバリという銃撃の音。

 

「機銃?」

……恐らくあの巡視艇だと思う。

 

「戦闘が行われている気配だぞ」

ブルネイ提督も立ち上がったが直ぐに頭を下げた。直後に遠くから爆破音と水柱が立つようなザバッと言う音と地響きが伝わってくる。

 

『噂をすれば陰、深海棲艦の連中か!』

誰かが叫んだ。同時に警察と軍の関係者は直ぐに銃を持って入口と窓へ向かう。

『王宮男性』は伏せて横のイケメンSPが彼を庇いながら拳銃を抜いて辺りをうかがう。

 

女性秘書官も身をかがめ、緊急の無線機で何処かに連絡をしながらベルトのホルスターから短銃を取り出していた。

 

私は直ぐに艦娘たちに命令を出した。

「警戒態勢! 接近戦が可能な者は抜刀せよ」

 

日向や伊勢、龍田さんが抜刀した次の瞬間、室内の電灯がすべて消えた。

 

「ひぇっ」

(誰の叫びか直ぐに分かるな比叡)

 

同時に屋外の各所から何度も爆破音が響いてくる。

 

私は間近に緊迫した敵意を感じた。

「これは……連中本気だぞ」

 

 

 

 

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EX回:第66話(改1.5)<眼下の敵>

突然、深海棲艦の襲撃を受けて混乱する会議室。司令は艤装のない艦娘の無力さを痛感させられるのだった。


 

「艤装が無ければ私たち単なるフネね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第66話(改1.5)<眼下の敵>

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 比叡が、どこからともなく探照灯を取り出して照らしだした。

 

「いつも持っているのかよ、それ!」

私が言うと

 

「えへへ」

比叡は舌を出した。

 

「まあいい、明かりがあるのは助かる」

 

『警備は何をしていた?』

爆音に交じって私たちに背後で悔しそうに叫ぶ警察担当。

 

『これが連中で……普通の兵器では抵抗不可です』

ブルネイ提督が説明している。

 

確かに深海棲艦相手では無理だろう。その間にも外では轟音と銃撃が続く。

 

『王国軍の担当保護、救出を最優先させてください!』

頭を押さえながら女性秘書官が叫ぶ。

 

(やはりあの男性は身分の高い人なんだ)

まさか深海棲艦の狙いが彼だとは思いたくないが。

 

「私も護衛いたします!」

ブルネイの比叡2号が立候補する。それを聞いて私は反射的に命令した。

 

「龍田さん! ブルネイの比叡と共に彼を保護して脱出だ!」

「了解」

美保比叡の探照灯に半身が照らされた龍田さん。刀を手にして、ちょっと不気味な笑みを浮かべた……怖いな。だが 彼女なら任せても大丈夫だろう。

 

ブルネイ提督も叫ぶ。

「ブルネイの龍田と伊勢は女性秘書官を保護し脱出、援護せよ!」

『了解』

 

女性秘書官も振り返る。

『感謝します!』

 

礼を言いながら彼女は盛んに無線で連絡を取っていた。だが、かなりノイズが多いらしく何度も聞き返している。

 

銃撃や爆破音は、まだ続いて次第に激しさを増している。敵の本体が近づいているのだろう。脱出するなら早いほうが良いが……船で大丈夫なのだろうか?

 

『我々は外へ出ます』

ブルネイの軍と警察関係者は様子を伺って順次、外へ出る。

 

最後に出ようとしていた警察官はチラッと私たちを振り返って言った。

『状況を確認。脱出可能な場合は直ぐに連絡します』

 

『お願いします!』

女性秘書官は短銃を構えつつ『王宮男性』を意識しながら答える。肝心の彼は大人しく床に伏せて動かない。

 

(生きているよな?)

いや案外、彼もこういう修羅場には慣れているのかもしれない。

 

改めて周囲を確認した。美保の艦娘たちは龍田さんと日向以外は、ほぼ丸腰だ。

 

「あぁ、しまったなあ」

夕張さんが悔しがっている。そういえば彼女も私も丸腰だ。

 

(せめて南部くらいは持っておくべきだったな)

 

ワンテンポ遅れて祥高さんが夕張さんに聞いている。

「今は秘密兵器はないの?」

 

「残念ながら……完全に休暇モードでした」

さすがの夕張さんも頭をかく。手持ちは無しか。

 

「せめて二式大艇が動かせたら……あれの機銃は艦娘仕様だから」

思い出したように呟く彼女。

 

それを聞いて私とブルネイ提督は顔を見合わせた。

「伊勢!」

 

「はい!」

ブルネイ提督に突然振られて驚く彼女。

 

「すぐに泊地司令部に連絡、美保の二式大艇を出させろ!」

「は……」

慌てた伊勢だったが私の同意を求めるように、こっちを見る。私は親指を立てて大丈夫だという指示を送った。

 

「了解」

直ぐに彼女は無線で通信を始めた。

 

その間にも外の爆破音や水しぶきの音が次第に近づいている。

 

金剛が呟く。

「悔しいネ。艤装が無ければ私たち単なるフネね」

 

フネ……その言葉で私は閃(ひらめ)いた。

「それだよ!」

 

「は?」

キョトンとした表情の金剛。

 

構わず私は続ける。

「フネだっ! お前たちは艤装がなくても普通に水に浮けるんだよな?」

 

「oh!」

金剛は合点がいったようだ。ブルネイ提督も『あ、そうか』という顔をしている。

 

だが祥高さんは直ぐに否定した。

「司令、それはあまりにも危険過ぎます。要人を……背負って渡るってことですよね?」

「そうだ」

 

「今は戦闘中ですよ!」

私たちの会話で、その場にいた他の艦娘たちも状況を理解したようだ。

 

「秘書艦……」

ここで日向が軽く手を挙げる。

 

「戦艦クラスであれば人間を背負うくらい問題はない」

【挿絵表示】

 

直ぐに伊勢も加勢する。

 

「そうそう、回避能力も普通の小舟の比ではないから」

 

「……」

祥高さんは黙った。伊勢型姉妹が淡々と言うのは説得力あるな。

 

そのとき寛代が鋭く呟いた。

「来る!」

 

こいつが『来る』っていうときは、だいたいロクなことがない。

 

「伏せて!」

寛代が叫ぶと同時に室内の全員が頭を下げる。次の瞬間、窓の外が明るくなり轟音が響き渡った。

 

ここは水上にあるはずの建物だが全体が大きく揺れてミシミシという異音と共に窓ガラスが割れた。室内にも無数の破片が飛び込んで来る。

 

『横の建物が破壊!』

誰かが叫んだ。

 

「……まずいな」

もはや、この場所に留まっていること自体が危険な状況だ。

 

「猶予はない! 盾になるものを持って艦娘を先頭に屋外へ退避! 電探がある者は警戒!」

私は叫んだ。

 

既に夜だ。暗闇で水上集落の入り組んだ場所ではゲリラのほうが圧倒的に有利だ。しかも連中には地場だ。地理も詳しいだろう。

 

「今回は油断したな」

私の言葉に提督も返す。

 

「まさかこんなところまで連中が嗅ぎ付けていたとは」

水上集落だから戦車は来ないだろうが、よく考えたら水上って事は深海棲艦の庭みたいなものだ。

 

まだ外からは爆音や射撃音が続いている。

「平和なブルネイの都で、この有様じゃ……あまりにも申し訳ないな」

「だが起きてしまったものは収拾するしかない」

 

ブルネイ軍や警察関係者は結局、戻ってこない。

「苦戦しているのか」

「とりあえず出よう。このままでは袋の鼠だ」

 

まずは日向がドアの外を窺(うかが)い安全を確認する。そして先に屋外へ出ると、扉を盾にしながら軽く手招きをした。

 

続けて壊れた机や椅子を盾代わりにしながら夕立、金剛、比叡、と続く。

 

寛代は索敵を継続。

「下……」

 

思わず全員が下を見る……そこでゾッとした。水中を赤い光を灯(とも)した黒いものが高速で通り過ぎたのだ。

 

冷や汗と同時に鳥肌が立った。これは、かなりマズイ。

 

 

 

 

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EX回:第67話(改1.8)<刺客>

敵の攻勢で急を要すると判断した司令は要人たちを緊急で脱出させようとする。次の瞬間、刺客がやってきた。


 

「痛くてしばらく泳げないわよ。水死しないでね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第67話(改1.8)<刺客>

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 夜の水面下を赤い光の筋が高速で通り過ぎた。

 

「もう真下に来ているじゃないか!」

冷や汗というより鳥肌が立った。これは、かなり拙い状況だ。

 

「敵も、まだ我々の状況は分かっていないはずだ!」

ブルネイ提督が叫ぶ。

 

「いざとなったら誰か要人をおんぶしてでも脱出する準備してくれ」

 

とりあえず『王宮男性』と美人秘書は最優先……とすると装甲があり足も速くて男性もお気に入りの金剛姉妹だよな。

 

「金剛、比叡!」

私は声をかける。

 

すると二人は予測していたように敬礼していた。

「yes! いつでもOKネ」

「お姉さまと一緒なら、どこまでも参ります!」

 

「よし!」

ホッとして嬉しくなった。やはり遠征は、この二人で良かった。

 

そのとき

『ハッハッハ!』

 

『王宮男性』が笑い出した。

『わが国民は、こんなことはしないが……テロリストとなれば話は別じゃの』

 

『……』

同意して良いか? だがこの状況で、この余裕……やはり、ただ者ではない。

 

付き添っているイケメン武官は、そんな冗談を聞きながらも、まったく動じず警護を続けている。その職務に忠実な姿も律儀で頼もしい。

 

改めて水上集落を見ると、あちこちで火の手が上がり逃げ惑う人々がいた。ボートで逃げようとして片っ端から雷撃され水上で泳ぐ人々……もはや大混乱だ。

 

赤城さんは悔しそうに言う。

「本当に……何も出来ない」

 

すると、あの女性秘書官が赤城さんの肩に手を置いた。

『戦場で八方塞がりは付き物よ。貴方のせいじゃなくて、今この場で自分が何ができるか? そこから未来へ繋げていくの。頑張って! 信じているから』

 

『はい!』

赤城さんは、さめざめと泣いている。

 

前線の緊迫感と揺らめく火災の炎に照らされた二人は異様なほど美しい。思わず鳥肌が立った。そういえば女性秘書官も長髪で、どことなく赤城さんに似ているな。

 

「来る!」

寛代が叫ぶと同時に水中からマスクをつけた黒ずくめの敵が二人、飛び上がってきた。通路へ着地すると同時に、こちらへ切りつけて来る。

 

直ぐ龍田さんと日向が応戦。比叡2号は男性を庇う。

 

「ひっ」

言いつつ伊勢は抜刀したが慌てていた。彼女には実戦経験が無い。

 

「あら、やるわねえ」

そういう龍田さん、長い剣を振り回して応戦する。

だが敵は身のこなしも素早く簡単にはいかない。向こうで戦っている日向も同様に手こずっていた。

 

『相手は手慣れね』

女性秘書官は、そう言いながら敵の背後から短銃で狙いをつける。

だが赤城さんが無言で、それを制止した。やはり卑怯なマネはしたくないのだろう。

 

すると女性秘書官は、ちょっと恥ずかしそうに銃を収めた。

 

それをチラッと見た龍田さん。敵と剣で押し合っていたが『はぁっ!』という気合と同時に相手をなぎ払った。敵の短剣が鋭い金属音と共に空中へ飛び去る。

 

一瞬ひるんだ相手に龍田さんは思いっきり剣を振り下ろした。

 

「グフ!」

鈍い音と共に打撃を受けた敵は水中へ落下。奇妙な雄叫びと共に水中へ沈んでいく。

 

それを見下ろした龍田さん、軽く額を拭ってニヤリとした。

「みね打ちよ。それでも死ぬほど痛いけど」

 

日向の相手は、それを見てちょっと怯(ひる)んだらしい。

 

龍田さんは、それを知ってか自分の剣を軽く確認しながら呟く。

「痛くて、しばらく泳げないわよぉ。水死しないでね」

 

(怖い……)

私は苦笑した。

 

その隙を突いて日向も刀を一振りした。

「ごあぁ」

 

図太い声を立てた敵は、そのまま後ろ向きに水中へ落下。

日向は表情を変えず刀を持ったまま祈るような仕草をして鞘に収める。

 

二人の活躍で、このエリアの流れが変わった。他の敵が少し後退する。

 

改めてブルネイ提督は言う。

「脱出するなら今だな」

「ああ」

 

そのときブルネイ側の警察担当者が駆け寄ってきた。彼の顔はススで真っ黒だった。

『はぁ、はぁ、申し訳ない!』

『大丈夫か?』

 

『王宮男性』が問い掛けると彼は息を切らしながら途切れ勝ちに報告する。

『我々の巡視艇は軒並み大破。援軍に駆けつけた水上警察のフネも破壊されました。軍関係も同様です』

 

『王宮男性』は金剛たちをチラッと見てから私たちに向き直った。

『……仕方ないのう』

 

女性秘書官も確認する。

『今のうちに退去されますか?』

 

男性は大きく頷いた。

『帝国海軍の事情も良く分かった。一日も早く、わが国への艦娘部隊の駐留と警備、防衛を切に願う』

 

何か、すごく威厳がある。

 

『ハッ』

思わず私とブルネイ提督は敬礼した。

 

『お嬢さん、こんな荷物で申し訳ないが頼むぞ』

笑いながら彼は、とても丁寧に艦娘たちに頭を下げる。

 

やはりオーラが違う。この人は普通の人でなく高い立場の人なのだ。

 

『了解です!』

二人揃って応えた金剛と比叡。頼もしい。

 

 

 

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EX回:第68話(改1.8)<渡河作戦>

艦娘たちによる水上集落からの要人脱出作戦が決行された。ほぼ丸腰で不安だったが、そこに心強い援軍が現れた。


 

「ここは私たちの泊地です。美保の先輩だけに任せられません」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第68話(改1.8)<渡河作戦>

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 辺りは硝煙や何かが燃えるような焦げ臭い匂いが漂う。

二区画ほど向こうからは何度も爆破音が続き火の手が上がっている。時おり火の粉が降って来た。

 

人々は逃げ惑い水上や水面あちこちから人々の叫び声や、うめき声が聞こえる。そして銃声と爆音。

 

しかし丸腰では何も出来ないのが歯がゆくて仕方が無い。そんな自分への無力感もある。

 

 ただ何だろうか?

 だが妙に血が騒ぐ。

 

ここは戦場、そして最前線。

軍人の本分を果たしたいという想いが募(つの)って何故か頬が緩む。

 

それはブルネイ提督も同様らしかった。思わず二人で目が合い苦笑した。

 

すると、あの『王宮男性』が口を開いた。

『お嬢さん、こんな『荷物』で申し訳ないが、頼むよ』

 

彼はは金剛たちに丁寧に挨拶をする。

 

『了解です!』

そろって応える金剛と比叡。頼もしい。

 

「私たちも対岸までの護衛に就かせて下さい」

比叡2号と龍田さん2号がブルネイ提督に申し出る。

 

「お前たち……丸腰だが、それでも良いか?」

振り返った彼は艦娘たちを心配して言う。

 

だが比叡2号はニッコリして応えた。

「ここは私たちの泊地です。美保の先輩だけに任せられません」

 

提督は大きく頷いた。

「よし、行け!」

『ハッ』

 

敬礼している。二人とも成長したな。こういう戦場でこそ真価を発揮するのが艦娘なのかも知れない。

 

(こんな有事に備えて日頃から鍛錬してやるのが司令の役割なのだ)

そう思わされた。

 

『王宮男性』は金剛が。そして、お付きの女性秘書官は比叡が背負うことになった。

 

それぞれ比叡2号と龍田さん2号が護衛に就く。念のため私は美保の日向と龍田さんも護衛に就けた。

 

「了解よ」

「承知」

この二人にも飛び道具は無く刀剣だけだ。それでも丸腰よりは良いだろう。いつも通り龍田さんは無表情に近いが日向は妙にノッている。

 

私と目が合った彼女は一瞬、微笑んだ。

私に似て、この状況に血が騒ぐのだろう。

 

ただブルネイ出身の量産型伊勢が不安そうだ。この状況に対して、どうしようか葛藤している雰囲気だ。

 

それに気付いた日向が声を掛けた。

「無理しなくていい、伊勢」

 

日向は私をチラッと見ながら応えた。

「ごめんよ、済まないねぇ」

 

私も無言で頷く。

(そうだ、無理しなくて良いよ、伊勢)

 

声には出さなかったが想いは伝わったのだろう。少しホッとした表情を見せる伊勢。日向もまた頷いた。

 

『では、行きます!』

流ちょうな英語で金剛が号令した。

まずは彼女ら金剛姉妹が水に降り立つ。

 

それを見たブルネイ提督が言う。

「そういえば間近で艦娘が水面に立つ姿は、あまりマジマジとは見たことが無い」

 

私は彼を見た。

「そうか? 私はあるぞ」

 

彼は少し驚いた表情。

「そうか?」

 

「ああ、美保の港湾内に敵が侵入されたことがあってね。そのとき艦娘たちが頑張って食い止めてくれた」

「なるほど」

私は北上さんの雄姿を思い出していた。

 

暗い海の上では金剛と比叡が、それぞれ『王宮男性』と女性秘書官を背負っていた。

「私としては、彼女らが人を背負っている姿の方が意外だ」

 

「なるほど、確かに江戸時代の河渡りのようだな」

ブルネイ提督が呟く。それは言い得てる。だが艦娘たちが完全に水面に立っているところが違う。

 

それでも恰幅(かっぷく)のいい『王宮男性』を背負って金剛が轟沈しないか一瞬、心配した。

 

でも普段、巨大な艤装を背負うだけあって、ちょっと大き目の男性くらいではビクともしないようだ……正直ホッとした。

 

念のため寛代が索敵する。しばらく耳を澄ますような格好をしていたが、やがて『オッケー』サインを出した。

「今なら大丈夫そうだな」

 

まず日向と龍田さんが先導するように水上を進んで様子を伺う。続けて金剛と比叡が後から慎重に進む。その両側を比叡2号と龍田さん2号が護衛する。彼女らは念のため護衛官からピストルを借りて簡易武装している。少しは安心か。

 

『王宮男性』と女性秘書官が艦娘の背中から軽く敬礼する。残された桟橋の私たちも一斉に敬礼をした。

「何とか無事に渡り切って欲しいものだ」

 

私たちの背後の水上集落からの災に照らされ紅蓮(ぐれん)に染まる艦娘たち。

 

(情熱の色なのか? 流された多くの血の色なのだろうか?)

一瞬そんな思いがよぎる。金剛たちは徐々に暗くなった河を進んでいく。

 

彼女らが出発した直後、私たちが居た会議室が攻撃されたらしく、いきなり背後から大きな轟音が響いた。反射的に振り返ると水柱が上がり建物が半分水没し始めていた。

 

私たちの周りにも水しぶきが降り注ぎ、あたり一面に無数の木片や紙くずが舞っている。

 

私は言った。

「ムチャクチャになってきたな」

 

ブルネイ提督は言う。

「だが、あそこが攻撃されたということは、かなり形勢は不利だな」

「しかし要人は脱出した。とりあえず間一髪というところか」

「俺たちも退避しよう」

「ボートはないし、どこへ逃げるんだ?」

 

彼は少し明るい表情を見せた。

「この水上集落はかなり広い。敵の攻撃も、この会議室周辺に限られている。住民たちも反対側へ避難し始めているようだ」

 

「そうか、それであの警察や軍の人たちは、誘導とか何かで忙しいんだな」

私は納得した。

 

「逃げまショ。こっち、こっち」

あの運転手が顔を出して手招きする。

 

私は周りを見渡した。このままでは敵が撤退するまでは水上集落への攻撃は止まないだろう。

 

改めて軍人として『他国であっても何とかならないだろうか?』と思う。

しかし具体的な武力がなければ何も出来ない。

 

そのとき河の向こうから聞き覚えのあるエンジン音……振り返ると暗い川の向こうに見慣れたシルエットが現れる。

「二式大艇だ!」

 

夜の水面を、そのまま2発のエンジンだけでボートのように進んでくる二式大艇。

 

「離水しないのか」

「艦娘が居なくて、あの武装も威力を発揮できないのでは?」

提督と私が会話していると機体側面の銃座から川面(かわも)に向かって機銃掃射を始めた。

 

ふと見ると私の横で寛代が何かをぶつぶつ言っていた。

 

提督が反応した。

「弾着観測射撃か?」

 

「そうか大艇の中に居る相手は技術参謀か!」

私も思わず口走った。

 

その言葉に不思議そうな提督。私は直ぐに応えた。

「ケッコンしたとはいえ技術参謀も艦娘であることには変わりない」

 

「なるほど普通の人間が撃つよりは、はるかに効果があるわけだ」

彼は頷いた。

 

「しかし艦娘とはいえ自ら機体に乗って前線までくるのか?」

「凄まじいよ、あの人は」

私も苦笑した。

 

「あれに五月雨と吹雪、電も乗っている」

思い出したように寛代が言う。

 

「あ? そうなのか」

その間も二式大艇は渡河している金剛たちを援護しながら攻撃を継続している。

 

機体には電探があるらしく、水面の着弾地点からは次々と火の手が上がり敵が片っ端から撃破されていく。まさに、なぶり殺し状態だ。

 

「機銃掃射っていうのは、あまり気分の良い光景ではないな」

弓ヶ浜で敵機に襲われたときのことを思い出した私は言った。

 

「戦場が好きな奴はいないよ」

提督は吐き捨てるように言った。

 

とりあえず大艇が援護していれば、かなり心強い。

(だが、大丈夫か?)

 

二式大艇を持ち出したのは良いが、あまり水上で長居して、あの機体を壊されたら日本に帰れなくなるぞ。

 

だが受電したらしい寛代が言った。

「無事に渡りきった」

 

「そうか」

私たちは安堵した。

 

やがて二式大艇は、いったん機銃掃射を中断して離陸体制に入った。

 

だがそのときだった。

「魚雷!」

 

寛代が叫ぶと同時に暗い水面を白い航跡が大艇目指して進んでいく。

 

「2本……いや、もっとあるぞ!」

大艇も気付いたのか慌てている気配だ。

 

「早く逃げろ!」

思わず叫んだ。

 

 

 

 

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EX回:第69話(改1.8)<潜水艦娘>

二式大艇に迫る敵の魚雷。万事休すか!その次の瞬間、大河に林立する水柱。果たして……?


「えっとぉ、私がやったのは、あっちね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第69話(改1.8)<潜水艦娘>

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「魚雷だ!」

「早く逃げろ!」

……だが、ほぼ斜め前方から狙われた二式大艇は間に合いそうも無い。

 

「万事休すか?」

そう思われた瞬間! ズドンという地響き。

二式大艇の直前で、相次いで水柱が上がった。

 

と、同時に反対側……魚雷を発射したと思われる方角でも水柱や火柱が上がった。

「何かが破壊されたようだが……いったい、何事だ?」

 

「司令!」

おや? 背後から急に、どこかで聞いたような声がする。

 

振り返ると水面(みなも)から顔を出したのは赤い髪をした艦娘だ。

 

「 はぁい! イムヤだよぉ」

水面で敬礼をする。

 

さすがに驚いた。

「あれ、168……わざわざ美保から?」

 

私は固い表情の彼女に改めて聞いた。

「お前の攻撃か?」

 

「えっとぉ、私がやったのは、あっちね」

彼女は今しがた発生した水柱を指差した。

 

「え? あっちか?」

二式大艇とは別の水上集落方面だ。

 

「おや? ……ってことは、もう一隻居るのか」

 

(でも、いま美保に所属しているのは、あとは『まるゆ』だけだ。

あいつが遠距離を航行してくるはずはないけど……)

 

私は半信半疑で聞いた。

「まさか、まるゆが?」

 

「あぁ、残念っ。ブー!」

イ168は、おどけた表情で腕を交差させ、頭の上で×印を作った。

 

 その直後、私たちの頭上を日の丸をつけた戦闘機が通り過ぎた。

やや、かん高い音を響かせ、あまり聞きなれない音。シルエットも初めて見るようだ。

 

日向が目を凝らして言った。

「あれは?」

 

「晴嵐」

赤城さんが淡々と応える。

 

「晴嵐って……」

「なんで試作機が飛んでいるんだ?」

 

 そのとき、ザバッという音を立てて浮上してきた潜水艦娘がいた。

振り返った私は思わず叫んだ。

「イ401?」

 

ブルネイ司令が言う。

「何かの資料で見たことはあった。たしか潜水空母だったかな」

 

「ピンポーン! マルぅ」

するとイ401は頭の上に腕を伸ばして、○印を作っていた。

 

(何だよ、こいつら軽いな……まあ良いけど)

 

「初めまして、イ401……しおいでぇす」

イ401はぎこちなく敬礼をした。何となく疲れたような顔をしている。

 

反射的に私とブルネイ司令も慌てて敬礼をした。

 

彼は聞いた。

「遠路はるばる、ご苦労だったな……お前は、どこから?」

 

「呉から……もぉ、遠かったよぉ。疲れた」

「そうか」

 

私は、軽くハイタッチをしている二人を見ながら頭の中で航路図を描いていた。

(イ168は山陰から迂回してきているはずだから、もっと長距離だよな……まあ、それは言うまい)

 

 私たちが話している間に二式大艇は水面を滑走して離水した。

それを確認した潜水艦娘たちは手を叩いて喜んだ。

「間に合ったね」

「さぁ、反撃だよ」

 

 二式大艇は水上集落の上を旋回すると、晴嵐と共に水面上に居る深海棲艦の掃討を開始する。

敵は逃げ惑う。奴等も対空攻撃は想定外だったらしい。

 

それを見ながらブルネイ司令は不思議そうな顔をした。

「おまえたちを呼んだのは誰だ? イ401なんて……」

 

彼は私の顔を見た。

「いや、美保鎮守府も知らないはずだが」

 

「技術参謀……いや将校」

びっくりした。

 

いつの間に背後に来ていた寛代が呟(つぶや)く。それを聞いて何となく合点がいった。

「要するに技術参謀か」

 

私は、あの青年将校を連想した。参謀から彼に指示が出て動かしたのだろう。

 

 寛代は続けて何かブツブツ言っている。リアルタイムで技術参謀と通信しているのか。

 

やがて彼女は報告する。

「河に居た深海棲艦を3隻轟沈。残りは外洋へ逃亡。敵の潜水艦も同様と思われる」

「技術参謀からの電文か」

 

さらに寛代はブルネイ司令の顔を見て続ける。

「ブルネイの鎮守府からは五月雨と吹雪、電まで勝手に借りた。ブルネイには事後報告で済まないが……だって」

 

それを聞いたブルネイ司令は苦笑した。

「はは。問題ありませんと返してくれ……それにしても、あの女性は凄いな」

 

「ああ、凄すぎだよ」

本人が居ないことを良いことに私は同意したのだが。

 

(あ、しまった!)

ハッとした。自分のすぐ側に寛代が居ることを忘れてた。

 

(聞こえてないよな)

焦って、冷や汗が出た。

 

だが彼女は相変わらずブツブツと通信をしていた。

 

(案外、彼女も存在も、誰かさんの差し金だったりしてね?)

そんなことを考えたりした。

 

 

 

 

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EX回:第70話(改1.3)<人々の想い>

被害を受けたブルネイの人たちを心配する提督たち。それは艦娘たちも同じだった。


「負傷って、どういうことだ!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第70話(改1.3)<人々の想い>

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「ゴメんナさいネ、食事出来なイ。ゼンブ流された。焼けまシた」

ブルネイの運転手さんが申し訳なさそうに頭を下げた。

 

いや、敵の侵攻を事前に防げなかったのだから申し訳ないのは逆に「こっちだ」という思いが湧く。

それはブルネイ司令も同じ気持ちだったらしい。

 

彼は言った。

「いや気にしないで下さい。軍隊なんて突発的なことばかりだから……それより水上集落の皆は無事なのか?」

 

(そうだ、それだよ)

私も心のなかで同意した。

 

軍人は、どれだけ攻撃されても構わないんだが民間人が巻き込まれるのが一番、心苦しい。

それは国境を越えて世界のどこへ行っても同じだと思う。

 

だが運転手さんは意外に陽気に応えた。

「あぁ大丈夫、ダイジョウブね。皆、逃げる早いから。家も、いっつも流サレるしネ。壊レたら、また作れば良イ」

 

「そうか……」

私たちは彼の笑顔に救われる思いだった。

 

「よかった」

斜め後方から声がした。振り返ると赤城さんだった。

 

 祥高さんや他の艦娘たちも同様な気持ちなのだろう。そんな雰囲気を感じた。

(そうだよ。艦娘たちだって私たち人間と気持ちは同じなんだ)

 

「デモね」

運転手さんは、ちょっと残念そうな顔をした。

 

「私モ艦娘たちに、この国に早ク来テ欲しいネ。今日、敵を初めて見タから。強過ぎるヨ」

彼は、あのブルネイの『王宮男性』と同じ内容のことを言った。

 

いや彼だけではない。この攻撃によって水上集落周辺のブルネイの人たち全員が同じ気持ちになったことだろう。

 

深海棲艦にとっては日本もブルネイも区別はない。私たち人類全体に対する敵愾心を持っていることだけは確かなのだから。

 

 そのとき寛代が無線を受けた。

「比叡より、ブルネイ警察や軍が、こっちにボートを寄こすって」

 

「そうか」

帰りの足は何とかなりそうだな。

 

「あとぉ」

珍しく寛代が止まらないな……と思ったら。

 

「龍田2号、負傷により搬送先を乞う」

とんでもない報告が入った。

 

「なに!」

これにはブルネイ司令が叫んだ。

 

「負傷って、どういうことだ!」

 

「……」

寛代は黙って即答しなかった。

 

(情報がないのか、それとも)

私は不安になった。

 

彼女が返答を待っていることを察したブルネイ司令は、少し慌てたように指示を出した。

「分かった……取り敢えず鎮守府へ移送させてくれ」

 

「了解」

敬礼をした寛代は直ぐに、どこかへ返事をしていた。

 

「スマン」

その場を取り繕うようにブルネイ司令は帽子を深くかぶり直した。

 

 彼は海上で、こちらの様子を見ていた潜水艦娘たちにも『ブルネイの泊地へ向かうように』と指示を出した。

 

「了解です」

不必要に明るく、おどけるように答える潜水艦娘たち。

 

(この娘たちは、何があっても変わらないんだろうな)

私は腕を組んだ。

 

さすがに疲れたのだろう。顔を水上に出しながら戻っていく彼女たちを見送りながら私は呟いた。

「海の中は地上とは別世界、ましてや夜だ……不安もあるだろう」

 

(敢えて陽気に振る舞っているのか……だから彼女たちの感覚までは責められまい)

そんな想いにとらわれた。

 

 やがて川には、あちこちで巡視艇やタグボートやら内火艇が盛んに行き交い始めた。

 

寛代が技術参謀のような口調で受電した。

「二式大艇は、そのまま泊地の埠頭へ向かう」

 

私は頷いた。

 

続けて彼女。

「技術参謀より……先に戻る。龍田2号は私が診る、だって」

 

「そうか」

今度はブルネイ司令が返事をした。

 

「技術参謀も心配しているのか」

私は思わず呟いた。

 

「来ました、来まシタ!」

ブルネイの運転手さんが夜の川に向かって大きく手を振る。

 

ほどなくして私たちの居る桟橋の前に、軍用の内火艇が横付けされた。

 

 

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EX回:第71話(改1.3)<挺身>

司令たちはブルネイ軍の内火艇で水上集落から岸へ戻る。だが艦娘負傷の知らせに一同は沈黙していた。


 

「ごめんよ、ごめん」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第71話(改1.3)<挺身>

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 私たちの居る桟橋の前に軍用の内火艇が横付けされた。

 

やや緊張した面持(おもも)ちながらキビキビとしたブルネイ軍の隊員が降りてきて敬礼した。

 

英語は駄目なのだろう、直ぐに日系の通訳が翻訳する。

「ブルネイ海軍です。日本の皆様を街の岸壁までご案内いたします」

 

私たちも敬礼した。ブルネイ司令も応える。

『帝国海軍ブルネイ泊地の司令だ。よろしく頼む』

 

多分、そのようなことを答えたに違いない。彼は現地語が喋れるんだ。

 

 私たちは彼らに案内され艦娘たちと共に内火艇へと乗り込んだ。全員が乗り込むのを確認して隊員がサッと確認した。合図と同時に船は桟橋を離れた。

 

「しかし龍田さん2号が負傷とは。大丈夫なのか?」

「……」

私の言葉に誰も答えない。

 

 もちろん心配しているのは私だけではない。ブルネイ司令も、そして艦娘たちだって。あの技術オタクみたいな参謀までが心配しているのだ。 

 

 船は夜の大河を進んでいく。時折、警察や軍関連の船とすれ違う。まだ川全体が混乱した雰囲気だ。 

 

 戦闘の最終的な状況がまったく分からない中で水上集落の各所で燃え盛る炎が私たちを赤く照らす。それが一層の不安を増すようだった。

 

船内の重苦しい雰囲気に耐えられなくなった私は、つい寛代が何か受信するのではないかと期待するのだが、今のところ陸での動きは無いのだろう。彼女も、ずっと黙っている。 

 

(ピピピ……)

そのとき、あのイケメン護衛官が何かを受信したようだ。彼は携帯受信機を取って、どこかと通話をしている。

 

やがて通信を終わった彼が片言の日本語で口を開いた。

「伝達を……戦況について」

 

ブルネイの司令は頷く。直ぐに通訳が入る。

「金剛さんたちが渡河中にも何度か敵の攻撃を受け、そのたびに回避と応戦を繰り返しました」

 

私は言った。

「やはり護衛をつけて幸いだった」

 

「また『王宮男性』たちに攻撃してきた敵を美保の龍田さんや日向さんがよく防ぎました」

(手練のあの二人なら心強いな)

事後報告ながら私はホッとした。

 

彼は続ける。

「ブルネイの比叡さん(2号)と龍田さん(2号)も、まさに身を挺して防いでくれました」

 

「……」

ブルネイの司令は黙っていた。私は返す言葉が無かった。

 

だが彼は呟くように言った。

「技師から聞いたが量産型の龍田さんは生まれつき武術の心得があったらしい」

 

「そうなのか」

艦娘とは奥が深いな。

 

「ブルネイの龍田さんは、同じブルネイの比叡さんを守ろうとして負傷しました」

「……」

緊張する一同。だが彼は続けた。

 

「幸い、轟沈は免れました」

その言葉に、場にいた一同から安堵のため息が盛れた。

 

「その後は美保の飛行艇の攻撃によって敵を押し返しました」

「なるほど」

私には技術参謀の顔が思い浮かんだ。

 

 続けて彼は微笑んだ。

「秘書官……あの女性が上陸後に直ぐに車を手配して龍田さん(2号)は秘書官と共に直ぐにブルネイの鎮守府へ搬送されました」

 

(彼女には、いろいろお世話になるな)

私はホッとした。ブルネイの司令も安堵している。

 

 私はふと寛代に聞いた。

「他の艦娘は、まだ現地の……岸に居るのか?」

 

「……」

やや間があってから寛代は黙って頷いた。

 

私は川面を見渡していった。

「まぁ、戦闘は終わっているし、このブルネイ軍の内火艇なら、さほど時間もかからないだろう」

「……」

 

こちらを見上げて指示を待つ彼女に私は伝える。

「私たちが到着するまで、美保の艦娘たちには待機するよう指示だ」

 

 彼女は黙って頷くと、ブツブツと通信を始めた。

 

 まだ船内には重苦しい雰囲気が漂っていた。実際には数分だったかも知れないが、その場の誰もが、実際より長く感じただろう。

 

「ごめんよ、ごめん」

暗い河を見つめながら船縁に寄りかかって呟く伊勢が印象的だった。彼女は量産型だからな。仕方がない。

 

「そんなに気を病むな」

ブルネイ司令も、彼女に近寄り肩を抱く。こういうことが自然にできるのが彼の特技だ。他の指揮官がやったらセクハラになるだろう。

 

そんなブルネイ司令に寄りかかって身を預ける伊勢。戦艦なのに、とても小さく見えた。

 

(なんとか支えてあげたいな、この娘も)

美保の日向とは経験値が違うとは言え、姉妹が逆に感じられる。

 

 私は量産型の彼女たちが不敏(ふびん)に思えた。

いきなり生まれ出て演習とは言え、直ぐに戦闘に参加させられたんだ。

(かと思えば息つく間もなく今度は実戦に近いゲリラ戦に巻き込まれた)

 

 ここが軍隊である以上は量産型であっても艦娘は兵士だ。能力の有無を言わさず戦闘に駆り出される彼女たち……その運命のイタズラを今は、ただ恨むしかないのだろうか?

(艦娘とは言え彼女たちの置かれた境遇は、あまりにも苛酷だ)

 

……だが厳しいが、これが現実だ。

軍隊である以上、配置された位置を死守する以外に選択肢はない。ポジションを外れること即ち死と同じだ。それが兵士の運命。指揮官とて例外はない。

 

「まともな人間なら、気が狂うな」

私は呟いた。対岸の街の夜景が、ゾッとするほど輝いて見えた。

 

(何のために私は、そして艦娘たちは戦うのか?)

 

私は船内の艦娘たちを見て、ハッとした。

(私たちは孤独ではない)

 

艦娘たちと指揮官……そうだ。鎮守府の隊員は、まさに一蓮托生なんだ。

このブルネイの伊勢のように一時的に躊躇したとしても誰も咎めはしない。足りない部分は、お互いに支え合えば良い。それが同志なんだ。

 

私の美保鎮守府への着任だって偶然ではないのかも知れない。お互い足りない者同志であっても。それが仮に指揮官と艦娘たちであっても何を躊躇(ためら)う必要があるだろうか?

 

お互いに壁を無くして、本音で心を通じ合わせること、それが一蓮托生だ。

(そう思えば私はまだまだ遠慮がある。むしろブルネイの司令を見習うべきか)

 

そんなことを考えた。

 

 やがて対岸の桟橋が見えてきた。

「テイトクぅ」

「司令ぇ!」

 

(比叡2号と金剛だな)

いつもは避けたくなる金剛の呼び掛けにも、なぜかホッとした。

 

(思わず大声で返事をしたい気分になるな)

さすがに理性が、それを止めた。私は苦笑した。

 

 だが直ぐに、こっちの船内から大声で艦娘たちが叫ぶ。

「オーイ!」

「ぽいぃ!」

 

青葉さんと夕立だった。この二人には遠慮なんて言葉は無縁だろう。

 

(軍隊として、或は美保の龍田さん的にも、彼女たちの行為は好ましくはないのだろうか?)

だが、その掛け声に俯(うつむ)いてたブルネイの伊勢も顔を上げた。

 

(いや船内だけじゃない)

敵に攻撃されて意気消沈していたような桟橋周辺の誰もが、艦娘たちに励まされるような気持ちになったに違いない。

 

「今夜、この場ではオッケーだな」

私は微笑んだ。

 

 出来るとか、出来ないとか、新しいとか、古いとか。そんなことは、どうでも良い。私たちは同志。そして艦娘と一蓮托生、それで良いんだ。

 

 手を振る艦娘たちが、とても輝いているようだった。

 

 

 

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EX回:第72話(改1.3)<傷心>

無事に対岸の桟橋に到着した司令たち。そこに金剛がいきなり飛びついてきて慌てたのだが……。


 

「もう……怖かったヨ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第72話(改1.3)<傷心>

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 やがてブルネイ海軍の内火艇は対岸の桟橋に接岸した。

 

『司令官、到着しました!』

『ご苦労……助かったよ』

ブルネイ司令と船内スタッフは恐らく、そんな会話をしている。

 

 船内と桟橋ではブルネイ軍人たちが慌ただしく接岸作業を進める。

 

だが先の戦闘では、こちらの岸にも着弾したのだろう。各所から煙が立ち上り焦げ臭いが鼻をつく。

 

「行こう」

「あぁ」

一瞬、ボーッとしていた私は彼に促され我に返る。反射的に日向たちを見ると頷いた彼女。直ぐに他の艦娘たちに目配せをした。

 

直ぐに艦娘たちが船内の中央に集まる。さっと点呼した日向が報告をした。

「司令、異常ありません」

「よし」

 

 やがて内火艇は接岸する。ブルネイ軍人たちが敬礼する中を私たちも敬礼し船を下りた。他の艦娘たちも続く。

 

「hey! 司令ぇ!」

おや? ……と思う間もなく、いきなり金剛が抱きついて来た。

 

「うわ!」

驚いて声を上げた。

 

(しまった!)

……と思ったが、後の祭りだ。味方ながらコイツも油断ならない。

 

さすが高速戦艦だ。人間である私が相手だから多少は手加減したのだろうけど。勢い余って危うく桟橋から二人で川へダイブするところだった。

 

「きゃああああ!」

両手を頬に当て、素っ頓狂(すっとんきょう)な悲鳴を上げる比叡。うるさい奴め。

 

 毎度のことながら日向や祥高さんは、呆気にとられて声も出ないようだ。

 

「ちゃあんす!」

とか言いながら青葉さんの容赦ない連写も始まる。フラッシュがまぶしい。

 

「お、おい!」

「だいじょうぶ、大丈夫」

「その、お前の安全圏は何処までだよ?」

ボヤく私。いくら艦娘とはいえ公の場で指揮官とイチャつく場面では、まるで示しがつかないぞ。

 

「もう……怖かったヨ」

その声にハッとした。しがみ付いてきた金剛は私の胸で泣いていた。そんな彼女自身もまた焦げ臭さと潮の香りに包まれていた。

 

(あ……そうか)

彼女の状況を理解した私は、自分だけが戦う普通の海戦とは違うことを再度、認識した。

 

特に今回は要人を背負っての不慣れな渡河作戦。いくら百戦錬磨の金剛でも、その不安や葛藤は大きかったのだ。

おまけに今回は彼女の目前で犠牲者も出ていた。

 

 両手が塞がった上の要心同行では下手に敵の注目を浴びるのは、ご法度だ。そんな状態で目前で起きる事態にも手だしすら出来ない。その歯がゆさと悔しさは如何ばかりだろうか?

 

 性格的に金剛にとって、ジッと耐えながらの作戦行動は拷問に近いだろう。それを越えた彼女を無下(むげ)に突き放すわけにもいかないか。

 

 だが私たちは軍人だ。規律は大切。実際、周りのブルネイの兵士たちは驚いているし、他の艦娘やブルネイ司令も苦笑していた。

 

「本当に、ご苦労だった……な?」

私は金剛の顔を覗き込むようにして彼女の両腕に手を沿えると、ゆっくりと引き離した。

 

「もう、良いだろう?」

「うっうっ……」

いつもは気丈に見える金剛の、こんな姿は初めて見る。やはり、この娘も根本的には普通の女の子だなと思う。

 

「おい」

「はい!」

私はそのまま、私たちの後ろで待ち構えていた比叡に声を掛けた。嬉々とした彼女、待ってました! ……とばかりに手を伸ばした。

 

 少しは抵抗するかと思ったけと金剛は、割と大人しく比叡にしがみ付いた。

 

(それならさぁ、最初っから比叡に行けっての)

私は内心、ボヤいた。

 

 直ぐにブルネイの比叡2号も来た。ダブル比叡が一緒に慰めていた。まあ比叡が二人居れば金剛の心の傷も早く癒えることだろう。

 

「報告します」

寛代や祥高さんから情報を受けていた日向はキビキビと敬礼をする。お前はマイペースだな。

 

私とブルネイ司令の前に立った彼女に私は頷いた。

 

日向は口を開いて淡々と報告する。

「渡河作戦中、ブルネイ鎮守府所属の龍田2号が比叡2号を庇って被弾。また、その後の敵の直接攻撃により負傷」

 

最初は落ち着いていたが彼女の目は次第にチラチラとブルネイの伊勢を見始めた。それが気になるのだろう。声の調子が不安定になった。

 

それでも平静を装った日向は報告を続ける。

「龍田2号は……轟沈は免れましたが大破状態。上陸後に直ぐブルネイ秘書官と共に鎮守府へ搬送されました。……以上です」

 

私も敬礼をした。

「分かった、ご苦労」

 

報告が終わると同時に日向は伊勢のもとへ駆け寄った。一人で立ち尽くしていた伊勢だったが近寄った日向にしがみ付くと泣き始めた。それまで何か押さえていたものが一気に噴出するようだった。

さすがの青葉さんも、その姿は写真には収めなかった。

 

そりゃ撮らなくても良いけど。

(私の場合は撮るのか?)

 

ただ苦笑するしかない。

 

「すぐに戻ろう」

ブルネイ司令が、あの運転手に合図しながら言った。

 

「リョーカイね。すぐ車、持って来るヨ」

変な敬礼をして彼も応えると重そうな体でドタドタと走って行く。

 

 私は翻(ひるがえ)って艦娘たちに指示を出した。

「我々も直ぐに鎮守府へ戻る」

『はい!』

 

続けて私の横に居たブルネイ司令が付け加える。

「今回は不慣れな中、皆よく頑張ってくれた。現地司令として心から礼を言う。ありがとう」

 

『……』

彼の言葉に皆の心には様々な想いが去来したことだろう。

 

ブルネイ司令は続けた。

「夕食は戻ってから鎮守府食堂に準備させる。以上だ」

 

『了解!』

艦娘たちは一斉に敬礼した。お腹も空いたが今はただ、落ち着きたかった。

 

 直ぐに、その場に来たときと同じトラックがやってきた。

「お待たせ!」

 

窓から運転手さんが手を振る。こんな状況でも彼の行動には何かホッとさせられる。

 

軽く点呼をして艦娘たちは荷台側へ、私たちは運転席側に乗り込んだ。

 

「出します!」

軽快な発動機の音とともにトラックは走り出す。

 

 川を振り返ると水上集落では、まだ火の手が上がり続けている。こちらの岸にも焦げ臭い匂いが満ちていた。

 

戦争とは言え、本当にブルネイの人たちには申し訳ない気持で一杯になった。

 

 

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EX回:第73話(改1.3)<コンゴーさん、ありがとう>

鎮守府へ戻る提督たち。ブルネイの人たちは深海棲艦の恐怖と同時に艦娘の素晴らしさも認識したようだった。


 

『コンゴーさん、ありがとう……』

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第73話(改1.3)<コンゴーさん、ありがとう>

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 ブルネイの夜の街、幹線道路をひた走るトラック。誰もが押し黙っていた。

 

ハンドルを握る運転手さんも、ちょっと口数が少なくなっていた。それでも彼は、やはり黙って居られない性分なのだろう。

 

「ホントに……艦娘に、期待しますヨ」

ポツポツと話し始めた。

 

「あぁ」

気だるそうにブルネイ司令も応える。彼の場合、奥さんが現地の人だから他人事ではないだろう。

 

私は後ろの座席をチラッと見た。だが重苦しい雰囲気が伝わってくる。艦娘たちも、ほとんど黙っているようだった。

 

「私の家族ネ、みんな無事。親戚も、ダイジョブね」

やや不自然な笑顔を作って運転手さんが言う。

 

「そうか、それは良かった」

ブルネイ司令も堅苦しい笑顔を作った。ただ私は、それを聞いて正直ホッとした。

 

「皆ね、艦娘に期待しテルって。ムラとか河で戦うの、見てタから」

なるほど。現地の人達は野次馬根性も旺盛なんだな。

 

「敵モ強いケド、艦娘モ強いネ」

「まあね……」

ブルネイ司令は、ようやく自然な笑顔に戻ったようだ。

 

私も自然に口が開いた。

「そう、それが艦娘の艦娘たる所以(ゆえん)でもあるし」

 

運転手さんがケタケタと笑った。

「ちょっと大きな嵐が来たくらいね。皆、大丈夫よ」

 

運転台には、少し明るい空気が流れた。

 

(アレだけの被害を受けながら、やはり水上生活をしているだけあって、たくましいな)

私は、そう思うのだった。

 

 十数分経っただろうか。やがてトラックはブルネイの鎮守府ゲートをくぐった。敬礼した衛兵も「大変でしたね」という。

「水上集落襲撃の知らせは、各所へ回ったようだな」

「そうだな」

 

私たちは頷(うなづ)いた。

 

ゲートで手続きをした後、トラックは鎮守府本館前の駐車場で停車した。

「お待たセ!」

 

運転手さんが直ぐに後ろに廻って踏み台を準備する。

 

 私たちがトラックを降りて点呼をしていると鎮守府本館から、あの女性秘書官がやってきた。

 

敬礼をした彼女に、私たちも敬礼を返した。

『英語……話せますか』

『あ、ハイ。ダイジョウブです』

 

何となく自分が金剛になった気分だ。

 

「……あれ?」

そう思う私の直ぐ隣に、いつの間にか金剛が来ていた。

 

「どうした?」

「……」

無言で彼女は自然に私の腕をつかんだ。金剛にしては珍しい行動だったが、まだ彼女自身、不安が残るのだろう。

 

女性秘書官は、落ち着いた声で報告を始めた。

『先ほどまで鎮守府の技術スタッフが龍田さんを診ていました。大破でしたが致命傷ではないので安静にしていれば良くなるだろう、ということです。今、衛生隊の病室です』

 

『いろいろ、ご迷惑をおかけしました』

ブルネイ司令が詫びると、彼女は首を振った。

 

『とんでもない。むしろ私たちは艦娘の導入を心待ちにします。彼女たちはワンダフォーです』

彼女は、とても素晴らしいものを見るような目をして言った。

 

『恐縮です』

ブルネイ司令は応えた。彼もまた誇らしく感じているようだ。その想いは私も同じだ。

 

……隣を見ると金剛は『フフン』と鼻息も荒く胸を張っていた。当然、つかんでいた手も離して、自分の腰に当てていた。

(いつものポーズか。やっぱり、お前は、それが良い)

 

すると女性秘書官は私たちに近寄ると金剛の手を取った。一瞬、キョトンとした表情を見せる高速戦艦。

 

秘書官は言った。

『貴方が乗せてくれた彼は王宮に戻る時に、貴方のことを何度も絶賛していましたよ、コンゴーさん。ありがとうって』

 

何かを答えようとした金剛だった。

『ウ……』

 

しかし言葉にならない。いや、それまで抑えていた物が一気に噴出したのだろう。感極まったように、また泣き出してしまった。

 

『コンゴーさん、ありがとう……』

女性秘書官も、そのまま金剛を抱きしめている。

 

(うーむ。美人がダブルで目の保養になる)

 

「あっ、青葉さん!」

「ハイ?」

慌てて反応する彼女。

 

私は激しく手招きをした。

「写真、写真っ!」

「あ、はいはぃ!」

 

 翌日の新聞の一面に、この美人たちの写真が大きく使われたのは言うまでも無い。軒並み追加印刷したとか、しないとか。

 

 

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EX回:第74話(改1.3)<吹雪2号>

点呼終了後、艦娘たちは解散した。提督たちは女性秘書官と別れた後、食堂へ向かう。そこには今日、活躍した吹雪が居た。



 

「私、敵を初めてやっつけたんです!」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第74話(改1.3)<吹雪2号>

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 ブルネイの夜は暑い。それでも日本ほど湿気が無いのが幸いだろうか。

 

私は点呼の後、艦娘たちに伝えた。

「今日は、これで解散。夕食は各自、食堂で摂るように。明日は午前と午後、各一回ずつの演習となるから十分に休養してくれ。詳細は各班長に伝達する。班長は今夜、21:00に本館会議室に集合。打ち合わせを行う」

 

そこまで言った私は一呼吸置くと艦娘たちを改めて見た。

「今日は、いろいろあって本当に、ご苦労だった」

 

その言葉で場には若干の沈黙が流れた。しんみりした空気を破るように龍田さんが手を上げた。

「司令ぇ、はぁい、質問ぉん」

「龍田さん、どうぞ」

 

マイペースな彼女は少し微笑みながら聞いてきた。

「お見舞いは? 龍田2号の……いいの?」

「そうだな」

 

私は直ぐに考えた。

(龍田さんは自分と同じ量産型の『彼女』のことが気になるだろう)

 

龍田2号が身を挺して皆を護ってくれたんだ。私は横に居るブルネイ司令を振り返った。彼は私が口を開く前に答えた。

「取りあえず経過は順調だと聞いているが」

 

それから一瞬だが考えるような表情を見せ時計を見ながら言った。

「まぁ艦娘の皆も、お見舞したいだろう。20:30までは許可を出しておく。ただし、あまり長居しないように」

 

それを聞いた美保の艦娘たちが一斉に笑顔になった。ブルネイ司令は気を利かせてくれたようだ。

 

「ありがとうございますぅ」

美保の龍田さんも深々と頭を下げた。

 

「良かったな」

私の言葉に彼女は意外なほど自然な笑顔を見せていた。少し不思議な感覚を覚えた。

 

 それから私は改めて艦娘たちに声を掛けた。

「他に質問は無いようだな。以上だ」

 

その言葉を受け日向が通る声で号令を掛けた。

「解散!」

 

敬礼と同時に艦娘たちはバラバラと散らばった。

 

……日向は直ぐに伊勢のところへ。

……金剛にはダブル比叡が駆け寄っていた。

 

そんな彼女たちの姿を見て思った。

(支えあう仲間とは良いものだな)

 

 私の後ろでカメラのフィルムを巻き取っている青葉さんも今日はいろいろ事件があったからスクープ写真が撮れたことだろう。私は声を掛けた。

「どうだ? 成果は上々か?」

「あっ……はい! とっても」

 

彼女は、いつもの悪戯っぽい笑顔ではなく拍子抜けするほど普通の『反応』だった。私は内心『あれ?』と思った……疑問を挟む間もなく青葉さんは恥ずかし気な雰囲気のまま応える。

「司令も……今日は、お疲れ様でした」

「え? あ、あぁ……お疲れさん」

 

(やや? これは青葉さんにしては珍しい台詞だな)

こんな気の利いたことを言う娘では無かったハズだが……。

 

彼女はカメラバックを抱えながら逃げるようにして立ち去った。私は、ふと砂浜で見せた青葉さんの『涙』を思い出していた。

(彼女なりに、いろいろ悟る世界があったんだろうか)

 

 そんなことを考えていたら少し離れていた女性秘書官が私たちに近寄って敬礼しながら言った。

『私も戻ります』

 

私とブルネイ司令も揃って敬礼を返した。

『今日は本当に、お世話になりました』

 

互いに敬礼を直ると微笑しながら彼女は言った。

『これからも貴国と末永い御付き合いを期待します』

 

その表情は鎮守府内の外灯に照らされ一瞬、龍田さんの如き表情に見えた。正直ゾクっとした。

 

 それから彼女は鎮守府の門を出ると、そのまま敷地外に迎えに来ていた政府専用車に乗り込んだ。軽く窓を開け再び私たちに敬礼しつつ走り去って行った。ここで、やっと肩の荷が下りた。

 

 ブルネイ司令も同じ心地だったのか、ちょっと伸びをしながら聞いてきた。

「『出来る女性』ってのは時々あんな感じだよな」

「あはは」

 

私も苦笑しながら言った。

「でもきっと、あの人も一筋縄では行かないタイプだろ?」

「そりゃ、政府の高官だからな」

「なるほどね」

 

そんな私たちの安堵した雰囲気を見た艦娘たちも徐々に散らばり始めた。鎮守府の本館、正面玄関前広場は急に閑散とした。

 

 ブルネイ司令は襟を直しながら言った。

「どうする? 一緒に執務室で食うか、それとも食堂が良いか」

「そうだな」

 

私が思案していると彼は続ける。

「ちなみに美保鎮守府での食事ってのは、どうなってる? お前も普段は執務室か」

「えっと、美保じゃ来客がなけれりゃ、やっぱ食堂だな。艦娘たちの様子というか、交流も兼ねて」

「へぇ、そうなんだ」

 

私の言葉を聞いたブルネイ司令は制帽を取って汗を拭った。

「俺はどうすっかなぁ。ここじゃ、まだ艦娘は数えるほどで試作品だらけだ。ちょっと引いてしまうってかぁ」

 

彼は制帽で顔を扇ぎながら観念したように言った。

「まあ、今日は一緒に食堂にするかな……」

 

私はポロシャツでラフな格好だから良いけど。こいつは、ずっと制服だから暑そうだ。

「試作品って言うのは正直、良く分からないけど、どうなんだ?」

 

私の言葉に彼は振り向いた。

「一番、安定しているのは五月雨だな」

「それだよ」

 

私は、いちばん気になっていることを聞いてみた。

「その『安定』って何だ? 本省の技術参謀も、よく使うんだけどな」

 

彼は軽く頷(うなづ)いた。

「技師によるとな、艦娘の心身のバランスってのが」

 

……彼が話し出した途中で向こうから量産型吹雪がやってきた。

「提督! お食事は、どうされますかっ」

 

走りながら敬礼をして言う。器用だな。

 

(この忙(せわ)しい感じは美保の吹雪と、ほとんど同じ感じってのが微笑ましいな)

そんなことを思っていると吹雪は私たちの近くで立ち止まった。

 

「美保司令と一緒に食堂で食べるよ」

ブルネイ司令の言葉を聞いた彼女は急に明るい表情になった。

 

「了解です! 直ぐに準備します!」

言うが早いか向きを変え、また走り去って行く。

 

「あの娘……美保に居る吹雪と雰囲気が全く同じなんだな」

私は思わず呟いた。

 

「はは、そうなんだ……」

ブルネイ司令は、そう応えた。だが私には彼が何かを言いかけて途中で止めたような不自然な印象を受けた。

 

「準備は直ぐ出来ると思うから俺たちも直接食堂へ行こうか。さっきの話の続きも食べながらしよう」

「あ、ああ」

彼に促された私は並んで鎮守府の本館へと向かった。改めてブルネイは敷地も建物も大きい。美保とは大違いだ。

 

 私たちが食堂に入ると先に食事をしていた艦娘たちが敬礼をしようと立ち上がる。私は反射的に手をあげて制した。

「いいよ皆、そのままで」

 

それを見ていたブルネイ司令は苦笑する。

「そうそう、こういうのがあるからな。正直ちょっと煩わしくてね」

 

「いや、けじめは大切だ。美保では既に無秩序になりつつあってね」

「ははは、そりゃ怖い」

そんなやり取りをしながら私たちは窓際の席に着いた。

 

さっそく吹雪が来た。

「直ぐ、お持ちします!」

 

……と言いながら奥へ入って行く。その姿を目で追いながらブルネイ司令は確認するように言った。

「あの娘、美保でもやっぱり、あんな感じなのか」

「ああ、そうだよ。それが何か?」

 

彼は椅子に深く腰を掛けて返す。

「いや」

 

その微妙な雰囲気に、やはり何か引っ掛かる。

「美保では、あの一生懸命さが『売り』になってね。宣伝広報部長としていろんな催しや交流活動の責任を持っているよ」

 

「……」

(あれ?)

彼は黙っていた。反応が無いな。

 

だが私は気にすまいとして続けた。

「他の艦娘と一緒に他の鎮守府にも表敬訪問したりして意外に人気もあってね」

 

私は思わず美保の吹雪の紹介やら自慢話をしていた。

 

「それは……」

ブルネイ司令が私の言葉を遮(さえぎ)るような感じで話し始める。

 

「あくまでも、それはオリジナルの吹雪の話だろ?」

「オリジナル?」

私は言葉に詰まった。

 

(それは、そうだが……。何で急に、そういう言い方をするんだ?)

 

私は改めて返した。

「いや、それはそうだが、ここの吹雪だって、ほとんど変わらなくて」

「違う!」

「へ?」

 

私は少し驚いた。いつになく真剣な表情のブルネイ司令。

 

「違うんだよ……」

彼は語気を弱めた。ちょうど、そのときだった。

 

「お待たせしました!」

噂の吹雪と、叢雲が私たちの食事を持ってきてくれた。

 

「配膳を自分でやらなくて良いのは楽だよなあ」

私は妙な雰囲気を紛らわすように言った。

 

相変わらず吹雪は元気だしニコニコしている。

(この、どこが美保の吹雪と違うって言うんだ? まぁ吹雪の横に居る無表情な叢雲も美保と同じ無表情な感じだけど)

 

私は内心で苦笑しつつ吹雪に話しかけた。

「今日は技術参謀と一緒に二式大艇に乗って大活躍だったね」

「えへへ!」

 

とても明るく笑った吹雪。

「私、機銃撃つのは初めてだったんです。でも意外に威力があって、もうビックリしちゃいました! そうそう聞いて下さい! 今日初めて敵を、やっつけたんです! 私ぃ」

「そりゃ、すごいね」

「はい!」

 

ここまで屈託のない明るい吹雪だ。

(美保の吹雪と、本当にソックリ同じだよ)

 

「私、これからもっ……」

そこで急に言葉に詰まった吹雪。

 

「ん?」

私が彼女の顔を見詰めていると突然、吹雪は気を失ったように、へたへたと床に倒れこむ。

 

「あっ」

次の瞬間、ブルネイ司令が立ち上がった……と思う間もなく彼は吹雪に駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か?」

ブルネイ司令が吹雪に手を差し伸べ何とか受け止めた。だが吹雪は硬直したように動かない。

 

その反応を見た彼は大声で叫んだ。

「誰か早く! 技師を呼べっ」

 

無表情な叢雲が弾かれたように奥へ走った。

食堂内で食事をしていた他の艦娘たちも立ち上がり場は騒然とし始めた。

 

「吹雪っ、吹雪ぃ!」

ブルネイ司令は大声で何度も呼びかけるが彼女はグッタリしたまま。

 

(いったい何が起きているんだ?)

私も立ち上がったが……なす術(すべ)もなく呆然とするばかりだった。

 

 

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EX回:第75話(改1.3)<もう一つの最前線>

一人の艦娘の『死』は美保の艦娘たちに大きな衝撃を与える。それは、もう一つの『最前線』だった。


 

「分からない。だが、そうはさせない」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第75話(改1.3)<もう一つの最前線>

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 騒然とする食堂内。周りの艦娘たちは立ち上がったり遠巻きにして不安そうに見ている。

 

「おい! しっかりしろ」

ブルネイ司令が吹雪を抱きかかえて何度も呼びかけているが、まったく反応がない。

 

 気が付くと私の横に日向が立っていた。目が合った彼女が呟(つぶや)く。

「配膳中に機能停止したようだな」

 

「やはり、そうか……」

それを聞いた私はフラフラと後ずさりした。

 

(やはりダメなのか?)

ブルネイの駆逐艦に何かが起きたことは分かる。だが何も対処出来ない自分が歯がゆかった。

 

このとき慌しい足音と共に数名が食堂に駆け込んできた。

「こちらです!」

 

「叢雲……」

日向が呟く。ブルネイの技師と工員だろうか? 彼女は数名を伴って駆けてきた。

 

「あ」

私は小さく声を出した。その後ろには技術参謀も一緒だったから。彼女は私をチラッと見て軽く頷(うなづ)いた。

 

 技師は、その場で膝(ひざ)まづくと周りに指示を出す。直ぐに何かの測定器具が準備された。

技師は、そのままブルネイ司令が抱く吹雪の様子を調べ始めた。

 

 だが一分も経たないうちに技師は首を振った。ブルネイ司令は残念そうに「そうか」とだけ呟く。

 

彼はそのまま、ソッと吹雪の顔を撫でるようにして瞼(まぶた)閉じた。重苦しい空気が食堂内に漂う。

 

技師が軽く手を上げると、後ろに控えていた工員たちが担架を吹雪の横に下ろした。後は戦場での作業のように機械的に処置が進んで行く。

 

「……」

制帽を拾ったブルネイ司令は、ゆっくりと立ち上がった。

 

さほど落胆するでもなく、かといって客観的でもない。複雑な表情をしている。

 

ずっと見ていた技術参謀も腕を組んだまま黙っている。いつの間にか寛代(かよ)が彼女の後ろに来て白衣にしがみ付いていた。

 

私はブルネイ司令に話し掛けた。

「駄目か?」

 

彼は帽子のホコリを払いながら応えた。

「ああ、そのまま機能停止。いわゆる絶命だな」

 

「そんな……」

その淡々とした言い方に私は抵抗を感じた。

 

「これが艦娘の最後の炎だよ」

彼は何かを抑えるように言った。

 

思い出した。

(そういえばこいつ前にも同じようなことを言ってたっけ。艦娘たちの最後の輝きって……)

 

すると腕を組んだ技術参謀が私を向いて話し始めた。

「新しいレシピの艦娘については今のところ順調だ」

「はい?」

 

唐突な内容に私は戸惑った。

「だが今までに製造された試作型の艦娘たちは、その末期には、こうなる」

「……」

 

受け止め切れない気持ちになった私は言葉を失った。だが彼女は続ける。

「最後には精神錯乱するか、この娘のように急に途切れる、どちらかだ。何度も言うが『形』は作れるが心は、まだ難しい」

 

そのときガタガタと大きな音を立てて声が響く。

「ほら早く」

「……」

 

ちょっと怖い形相の叢雲と、おとなしい電の二人が動かなくなった吹雪の手と足を持って、おもむろに担架に乗せて運び出すところだ。

 

「そっち持って!」

「……」

その二人の『吹雪』への雑な扱いには思わず目をそらしたくなった。

 

私の気分を察したらしいブルネイ司令が言った。

「済まないな美保。もうここでは、これが日常茶飯事。誰もが慣れっこになっていて寿命が尽きた艦娘にも、いちいち配慮しない」

 

……美保の艦娘たちは軒並み、泣き出していた。耐えきれずに数人が食堂から出て行ったようだ。

(私以上に彼女らのほうが衝撃は大きいだろう)

 

そう思いながら私はブルネイに言った。

「あまり、見たくない光景だな」

「ああ。だが、ここも戦場なのだ。お互いに感情を押し殺さないと、やり切れない」

 

そこでブルネイ司令は気を取り直したように言った。

「それでも幸いだったのは吹雪は最期まで『彼女らしかった』ことだな」

「そう……だな」

 

私は、そう応えるので精一杯だ。

 

 吹雪が運び出された後、技師が現場メモや機材を整理すると敬礼して食堂から撤収していく。

 

それに返礼したブルネイ司令は微笑んだ。

「いろいろ見苦しいところを見せて済まなかったな。だが美保メンバーには本当に感謝しているよ」

 

技術参謀も、やれやれという顔をして寛代の頭を撫でながら私に近寄ってきた。

「落ち込むなよ美保。これも一つの前線だ……よく覚えておけ」

「ハッ」

 

私は敬礼した。

 

彼女は意外に優しい笑顔をして私の肩を叩くと、そのまま寛代を連れて食堂の外へ出て行く。

 

改めて頭の中で彼女の言葉を反復してみる。

(そうか、これも一つの最前線なんだな)

 

なんとなく納得する気持ちになってきた。理不尽でも心を抑えるのも軍人の務めだ。

 

 やがて食堂は落ち着きを取り戻してきた。ブルネイ司令は時計を見て言った。

「間だこんな時間だな。まぁ座れよ」

「あぁ」

 

改めて着席を促されて私も再びテーブルについた。そこへ目を赤くした五月雨が来た。

「あのぉ、お食事……変えましょうか?」

 

直ぐにブルネイ司令が優しく返事をした。

「大丈夫だ。済まなかったね、五月雨」

「はい」

 

五月雨は少し明るい表情を見せた。そして一礼をしながら一歩引くと、よろよろと立ち去った。

 

 その後姿を見ながらブルネイは続けた。

「お前と吹雪を見て思ったが……」

「……」

 

私は無言でブルネイの顔を見た。彼は遠くを見るような目をして続けた。

「艦娘たちに構えて接するよりは、ごく自然に、やりたいようにさせるべきだったな」

「……」

 

その問い掛けには何とも返し難かった。それでも少し考えてから私は答えた。

「いや、でも私自身、果たしてそれで良かったのか? と思うな。結論は出せないよ」

 

ブルネイは穏やかに、しかし力強い口調で言った。

「だが、この悲しみもいずれ消えていくだろう。新レシピは順調だ。ここから新しい歴史が始まるんだよ」

「そうだな」

 

彼の自分に言い聞かせるような言葉には私も救われる心地だった。

(私たちの『未来旅行』は一つの戦場に『終止符』を打つ、きっかけになるのだ)

 

そこでブルネイの表情が少し変わった。

「ただ」

「あ?」

「美保の艦娘たちには、だいぶ衝撃だったらしいな」

「あぁ」

 

彼にも分かっていたか。

「ちょっと心配だな」

「……」

 

私は頬に手を当てて間を置いた。

(確かに、この展開には衝撃を覚えるかも知れない)

 

そのとき日向と並んで近くから見ていた伊勢がボソッと呟いた。

「あたしも、あんな風に、なっちゃうのかなあ?」

 

すると直ぐに腕を組んだ日向は応えた。

「分からない。だが、そうはさせない」

 

彼女の表情は硬かった。しかし決意は伝わってきた。

 

(気持ちは分かるぞ日向。その姿勢は、お前らしい)

 

……とはいえ実際、どうなのか? 

 

 正直、試作型の艦娘の寿命は分からない。まして彼女たちは不安定だ。

 

この伊勢や比叡2号たちが抱えるものは目に見えない時限装置のようなもの。その結果は私たちはおろか専門の技師にすら分からない。

 

「でも負けてはいけない」

私も呟いた。

 

(そうだ。最後の戦場は、まさに私たちの心の中にあるんだ)

 

 

 

 

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EX回:第76話(改1.3)<孤独な戦場>

司令や艦娘たちは落ち込んでしまい食事どころではない気持ちになった。しかし全く意に介さない艦娘も居た。



「分かってンだ……そこはキチンと理解してやれ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第76話(改1.3)<孤独な戦場>

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 さっき五月雨に『食事の換えは要らない』と言ったが実際、私は、すっかり食欲をなくしてしまった。

 

周りに居る美保の艦娘たちも私と同様で、かなり衝撃を受けたようだ。特に金剛姉妹や日向、龍田さんや赤城さん等の演習参加組は心配だ。

(これで3人目の試作型艦娘の『機能停止』を目の当たりにしたわけだからな)

 

……ところが、どういうわけか夕立だけは意外に平然としていた。だから彼女だけが今の時間、呉や美保から来た潜水艦娘たちとニコニコして話をしていた。

(夕立に潜水艦たち……あいつらは鈍感なのか? 何なのか)

 

果たして彼女が実際どの程度の衝撃を受けたのか? いまいち分からないな。

(だが、どうせならまったく衝撃を受けていないほうが、いくらか助かる)

 

これは乱暴な言い方だが駆逐艦は精神的な余裕が少ない印象だから、むしろ下手に反応されると厄介だと思うからだ。

 

 そんな夕立よりも青葉さんとか夕張さんの方が今回のダメージが大きそうだ。

(どちらも割と客観的な立場にいることが多いけどね)

 

考えたら青葉さんは報道関係の記者だ。つまり、さまざまな事件に遭遇して、それを客観的に報道するから精神的な強さが必要だ。

(それでも現場に居ながら『最近はいろいろ心に感じてしまう』……のだと砂浜で自分の気持ちを吐露してたよな)

 

そんな彼女の心に、また一筋の傷を付けたのではないか? ちょっと心配なのだ。

 

 夕張さんは技術的な内容には詳しいから、また別の観点からも試作型の艦娘について感じる世界が深いだろう。

(普段から、あまり多く話さないから彼女も、ちょっと心配だ)

 

 艦娘たちは少しずつ食堂から退出して行く。重い空気が通夜の席みたいで、やりきれない。

 

 ところが私の悶々とした心情とは裏腹に目の前のブルネイ司令はガツガツと夕食を食べていた。逆に羨ましさすら覚える。

「良いよなぁ、その食べっぷり」

 

私の呆れたような表情に彼は言った。

「『あんなことがあって、よく食べられるな』 ……って思ってンだろ?」

「図星だ。スマン」

 

恐縮する私とは裏腹に少し笑顔になったブルネイ司令。

「別に良いさ。俺だって……」

 

彼は窓の外に視線を移して続けた。

「こんな冷静っていうか。割り切れる自分が怖い」

 

「ああ……」

お前の気持ち、今はよく分かる。

 

再び視線を私に向けたブルネイ司令。

「そう、お前も分かるだろう? 軍隊の指揮官……司令という立場だと人(艦娘)の生死ぐらいでは、いちいち感情を動かしてられない」

「……」

「毎回、感傷的になってたら、こっちが倒れるからな。『心の防護壁』……って。そんな自分も、どんどん国家の『戦闘機械』になりつつあるんだよ」

 

彼はふと悲しい表情を見せた。私は静かに頷く。

「そうだな」

 

それは否定しない。私も彼も同じ気持ちなのだ。

 

「正直怖いけどな……」

視線を落としたブルネイ司令は再び押し込むように食べ始める。

 

「戦場の狂気か」

指揮官になると誰もが直面する気持ちだ。江田島の任務過程でも、そういう授業があった気がした。

 

(私だって軍隊に居る以上、そして生き延びて居れば……いずれは、そうなっていくに違いない)

鳥肌が立つ想いだ。

 

 そのとき向こうから『キャッキャ』と笑いながら食事をしているの潜水艦娘たちの姿が目に入った。さきの夕立も一緒に笑っている。

 

それを見ながら私は呟いた。

「でも艦娘たちに特攻だけは、させたくない」

 

手を止めたブルネイ司令は言う。

「あのイ401たちも、そうだ。決して今日の事件に対して鈍感なわけじゃない」

「え?」

 

驚いた私に彼は遠い目をして続ける。

「俺も潜水艦……実物も艦娘も扱ったことあるけどな。アレってのは独特なんだ」

「……」

「潜ってしまえば艦の外は真っ暗で高気圧で脱出も出来ん。その密閉された空間で『いつ何処から突然攻撃されるかも知れない』……っていう不安と孤独。それを耐え抜いて来るんだぞ」

 

彼は一息ついて諭すように言った。

「ましてや艦娘の潜水艦だとな、それを直接肌で感じンだよ。分かるか?」

 

私は少し硬直した。

「スマン……潜水艦は経験ないし。美保には潜水艦娘も少なくて」

 

ちょっと釈明をした。彼は気に留めずに続けた。

「ああ、そうらしいな。だったら、この際、覚えとけよ」

 

ブルネイ司令は噛み締めるように、そして一気に言った。

「潜水艦は単独行動が多い。そして特殊な隠密行動も少なくない。それでいて通信は届きにくい。現場の状況が目まぐるしく変化する中で自分で判断することを迫られるんだ。だから軍隊でも結果的に扱いにくくなる連中が多いが。でも彼女たちなりに必死に全力を尽くてんだゾ。あいつらだって決して他人事とか無視とか好きで反抗してるわけじゃない。分かってンだよ……だから、そこんトコはキチンと理解してやれ」

 

「あ、ああ……」

その気迫に圧倒されたが彼自身も自分に言い聞かせている感じだ。

 

 私は再び向こうの席を見た。その癖のある潜水艦娘たちと、すんなり打ち解けられる夕立か。そんな彼女たちを見ていて私は気付いた。

(あいつ(夕立)って実は全部分かって敢えて知らないフリ、傷ついてないフリをしているのか?)

 

 そういえば彼女は私の実家の墓参もしてくれた『仲』だったな。

そう思った瞬間、夕立がこっちを向いた。

「ぽい?」

 

(相変わらず感度は高いな、この娘は)

頭のリボンも揺れてるし……ま、お前はやっぱ『夕立』だ。そんな彼女を見た私は思わず軽く敬礼をした。

 

一瞬不思議そうな顔をした夕立だったが、

「ぽい!」

 

直ぐに敬礼を返してきた。とても真面目な顔……あ、でも少しだけ微笑んでるか。

(やっぱり夕立は、すべて悟っているのだろうか?)

 

そんな彼女に気付いた他の潜水艦娘たちも揃って敬礼をしてくれた。お互い真面目な顔で座ったままの敬礼……妙な光景だな。

 

 それからは何事も無かったように敬礼を直って互いの机に向かう。妙ではあったが重苦しい食堂内が少し和んだ雰囲気に変わった。

 

「不思議だよな、彼女たちって」

「そうだな」

 

(ああ、やっぱり彼女たちは、どんな事があっても変わらない『何か』を持っているんだ)

そういう『土台』となる不動の艦娘たちが居ること。それが艦娘を擁する鎮守府として重要なことだろう。

 

(少しだけ……ホンのチョッとだけでも彼女たちと通じ合えたのだろうか?)

素直に、そんな想いが湧く。

 

 軍隊は普段の生活の中から少しずつ互いの心の距離を縮め信頼感を増していく……それは艦娘であっても同じことなのだ。

 

 そんな私たちをブルネイ司令は微笑みながら見守っていた。

 

 

 

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EX回:第77話(改1.3)<度胸と艦娘>

司令はブルネイ司令と結婚やハーレムの会話をした。食事を終わると負傷した艦娘の見舞いへと向かった。


 

「美保鎮守府は『ハーレム』だっていう噂があるぞ?」

 

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 EX回:第77話(改1.3)<度胸と艦娘>

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 食堂で私は、とっくに箸が進まなくなっていた。だがブルネイ司令は、さっさと自分のご飯を平らげてしまった。

 

「お前、食わないのか? もったいないなぁ……良いか?」

とか言いながら彼は私のご飯にまで手をつけ始めた。

 

「どうぞ」

「じゃ、遠慮なく」

 

(あぁ、鎮守府の提督たる者は、こういう貪欲な姿勢が必要だよな)

そう思わずには居られなかった。

 

ひとしきり食べ終わった後で彼は言った。

「よかったら一緒に龍田のお見舞いに行くか?」

「ああ。『2号』だね」

 

そういえば彼女は身を挺して皆を護ったのだ。

(本当に頑張ってくれたんだよな)

 

時計を見ると既に夜の8時は回っている。夕立や潜水艦娘たちも引き上げて食堂は閑散としていた。

 

「今くらいなら、もう艦娘たちの見舞いも一通り終わった頃だろう」

ブルネイ司令の言葉に『なるほど、そうか』と思った。

 

(確かに、皆のお見舞いが落ち着いた頃に行くのが良いよな)

提督連中が早々に顔を出したら周りに、いろいろ気を遣わせる。

 

ブルネイ司令は水を飲んでから言った。

「よし、行くか」

「あぁ」

 

私たちは立ち上がると衛生棟へ向かった。

 

 通路を歩きながら私は気になっていることを聞いてみた。

「お前の、その度胸ってのは、どこから出て来るんだ?」

 

度胸なんて性格みたいなものだから聞いても仕方が無いかも知れない。だが艦娘相手に鎮守府を指揮する私は、もう少し度胸が必要だと思ったからだ。

(何よりも、こいつは私より図太い)

 

「……度胸? うん、どうかなぁ」

彼はチョッと考えてから言った。

 

「単純には説明できんが結婚が大きいな」

「ケッコンか」

私は肩をすくめた。

 

(こりゃ次元の違う世界だな)

 

「さらに言えば……」

ブルネイ司令は間を置いて続けた。

 

「結婚して子供が生まれたことも大きい。実際うちにゃ女の子が居るが艦娘に対する意識も、その子が生まれる前後で変わったな」

「なるほど」

いわれてみると、そうかも知れない。

 

確か彼は前にも言ってた。

『艦娘たちを見ていると、娘を思い出す』 ……って。

 

(もっとも、こいつの場合は兵学校時代から活動的な奴だったが)

そんなことを歩きながら考えた。

 

(生まれつきなら、お手上げか)

 

 するとブルネイ司令は急にニタニタして付け加えた。

「あの本省の技術参謀だってナ、元艦娘でありながら『ケッコン』してから輪をかけて強くなったって噂だぞ」

「誰だよ、そんな図星のことを流布してンのは」

 

私も思わず苦笑した。

(……ただ確かに結婚して子供が居るってのは目に見えないが大きな条件なのかも)

 

ふと以前、境港で出会った深海棲艦を連想した。

(母は強し……か)

 

それに、自分の母親も……ある面、強いかも。

 

「……ンでさぁ、お前はどうなんだ? そろそろ身を固めないのか」

歩きながらブルネイ司令は急に突っ込んで来た。

 

「……そ、そんなこと! 考えたことも無いよ」

思わず返答に窮した。

 

「独身の提督って言うのは、あまり様(さま)にならないぞ。まして美保は『ハーレム』だっていう噂もあるしな」

彼は嬉しそうだ。やな奴。

 

「また、その噂話かよ……よその提督連中は、ふたこと目にはそれを言うんだな」

私は頭を掻いた。

 

(だいたい美保鎮守府がハーレムってのは間違ってるよ)

 

「実際どうなんだ? 艦娘だけの部隊ってのは」

彼は、やたら食い下がる。

 

「ハーレムっていうよりは……アマゾネスだよ」

そう言いながら思わず私は日向を思い出してしまった。済まない。

 

だがブルネイ司令はニタニタして続ける。

「まぁな。確かにアノ美保の戦艦連中は、ちょっと扱い難そうだな」

「何だ分かってるじゃないか?」

 

するとブルネイ司令は片目をつぶった。

「俺のほうが人生の先輩だからな」

 

(……だったら聞くなよ)

 

 やがて私たちは衛生棟に入った。衛兵が敬礼をする。そのまま受付で待っていると当直の担当官が出てきた。彼は直ぐに事情を察して無言で受付表を差し出した。直ぐに二人で用紙に記入をした。

 

私が記入しているとブルネイ司令が部屋を聞いた。

「彼女は2階かね」

「はっ、203号室になります」

 

私たちは記入を終えると、そのまま2階へとへ上がった。その廊下を歩きながら彼は言った。

「今までも、ここは試作型が中心で、ほとんど駆逐艦だ。で、たまに戦艦を建造しても不安定でね」

「うん、それは聞いた。『安定』の話だな?」

 

2階の通路を曲がった。ブルネイ司令は言う。

「今度の新しいレシピは、かなり安定しているようだ。技師いわく『ほぼ実用水準』らしい」

「なるほど」

(そんなに凄いんだ)

 

彼は続ける。

「……そう思うとな、俺もオリジナルに近い艦娘が来るってのは期待と不安と両方ある」

「なるほどね」

(その点だけは私が『先輩』になるわけだ)

 

そう思っていたらブルネイ司令は改まったように言うのだ。

「お前を見ていると正直、いろいろ参考になるんだ」

「そりゃ、どうも……」

 

意外に彼は真面目な表情だった。私は面映かった。

(あまり良い見本ではないと思うけどね)

 

『これは何の因果だろうな』……と、思わずには居られなかった。

 

 

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EX回:第78話(改1.5)<見舞いと顔合わせ>

武勲艦の龍田さん「2号」を見舞った司令たち。その後は明日の演習会議。そこで相手メンバーと初顔合わせをするのだが……。



 

「初めまして……皆さん」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第78話(改1.5)<見舞いと顔合わせ>

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私は扉が並んだ廊下の部屋番号を確認しながら進む。

「203号室……あった」

 

「龍田」と日本語で書かれた入り口の前でブルネイ司令が扉を軽くトントンと叩く。

「どうぞぉ」

 

(あれ? この声は美保の龍田さん)

一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。

 

「入るぞ」

そう言いながらブルネイ司令が先にドアを開けて病室内へ。

 

そこには二人の艦娘、ブルネイの「龍田さん2号」と美保の「龍田さん」が居た……ややこしい。

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、提督ぅ」

「すみません。わざわざ」

その「2号」のほうも「龍田さん」も喋り方が変わらない。

 

(まあ、当然か)

私は苦笑した。

 

「ご苦労だったね。経過は順調か?」

ブルネイ司令は帽子を取って声を掛けた。

 

「有難う御座います。本当に恐縮です、こんな者の為に」

ブルネイの彼女は美保の龍田さんより腰が低く丁寧だ。

 

「思ったより元気そうで安心したよ。早く治してくれ」

司令もホッとした表情を見せる。

 

「……」

すると龍田さん2号は軽く微笑んだ。その笑顔を見て私は何故か妙な違和感を感じた。

 

(……気のせいか?)

 

ふと気付いたのだが彼女は今まで何か書き物をしていたのか、ペンを持ち便箋を広げていた。

 

だが、ここには美保の龍田さんも居る。敢えて何を書いているのか立ち入って聞くことはなかった。

 

(初めての実戦記録か何かかな?)

軽く、そんなことを考えた。

 

(コンコン)

こんな時間に、誰かが扉を叩いた。

 

「はい」

思わず私が応える。

 

「失礼しまぁす!」

間髪を入れず良く通る声で挨拶をして入ってきた比叡……。

 

「2号か?」

思わず聞いた。

 

「はいっ」

このやり取りを見たブルネイ司令はニタニタしている。

 

「あらぁ、比叡ちゃん」

美保の龍田さんが、まったりとした声を掛けた。

 

「す、済みません。遅くなりましたっ!」

敬礼しながら恐縮する比叡2号。

 

「良いのよぉ、来てくれただけでも嬉しいわ」

龍田さん2号も、声を掛けた。

 

「あなた一人ぃ?」

「はいっ……あ、いえ」

比叡2号が何かを答える前に後ろから声がした。

 

「私は初めてナンだからさぁ、先に行かないでよぉ」

ブツブツ言いながら現れたのは美保の比叡だった。彼女は病室に司令官が二人もいるのを見て慌てて敬礼をした。

 

「ハッ、失礼しました! ……遅くなりましたが、お見舞いに参りました!」

この子も相変わらずである。

 

「ご苦労」

私も軽く敬礼をした。

 

 気が付くと室内に艦娘の同一艦が二人・二組揃っている状況になった。

 

(理屈は分かっていても調子が狂うな)

目眩(めまい)を起こしそうだ。

 

【挿絵表示】

 

 

窓際でニタニタしながら見ていたブルネイ司令は、軽く咳払いをすると私に目配せをしながら言った。

「では我々は、これで失礼するよ。比叡も、あまり長居しないように」

 

「はい!」

彼女は改めて敬礼をした。ブルネイ司令に促されるようにして私たちは退出する。

 

 衛生棟の廊下に出ると彼は言った。

「今夜、21:00から本館会議室で明日の打ち合わせだ」

 

その言葉に私もハッとした。

「あ……そうか。着替えないと」

 

だがブルネイ司令は笑いながら言った。

「別に良いよ、そのままで。簡単な打ち合わせだから」

 

「済まないな」

そんな会話を交しながら私たちは建物の出口へと向かう。

 

 私は今日の出来事を思い出しながら言った。

「あの龍田さん、ほとんど丸腰で身を挺して渡河部隊を防御したんだが……ま、元気そうで良かった」

 

「そう……だな」

ブルネイ司令は半分、上の空な表情で生返事をした。

 

(何か別のことを考えていたのか?)

私は別に気にも留めなかった。

 

 やがて21:00少し前になった。

会議室にはブルネイ司令と私、そして美保の部隊班長の金剛と日向、本省の技術参謀が参加していた。

 

時計を見てからブルネイ司令が、ゆっくりと立ち上がって話しを始めた。

「今夜集まってもらったのは明日の演習の打ち合わせのためです。ご存知のように技術参謀がお持ち下さったレシピにより当研究所での艦娘の量産化も、ようやく目処が立ちました」

 

その場で軽く「おぉ」という全体の反応と共に拍手が湧いた。金剛と日向も顔を見合わせて微笑んでいた。

 

(へえ、そこまで進んだのか……)

私も肩の荷が軽くなった心地になった。

 

(ただ、それが艦娘たちにとって果たして良いことなのか?) 

今の私にも、よく分からない。

 

 そんな想いをよそにブルネイ司令は続けた。

「明日の対戦相手も準備完了してます。そこで今夜は美保艦娘の班長も同席しているので、新しい艦娘との顔合わせを行いましょう」

 

『えっ!』

急な話だ。私だけではなく、その場の全員……金剛と日向も同時に驚いていた。

 

「マジですか?」

これは金剛。声がでかい。

 

(……そういえば、ブルネイの技師が居ないな)

その新しい艦娘を、彼が一緒に連れて来るのだろうか?

 

(トントン)

 

誰かが会議室のドアをノックした。ブルネイ司令はドアに向かって声を掛ける。

「いいぞ、入れ」

 

(ガチャ……)

そこに入ってきたのはブルネイの技師を先頭に量産化された艦娘たちだった。

 

(うわ、苦手!)

そのメンバーを見て一番驚いたのは恐らく私だろう……だが幸いなことに私が直接、彼女たちと戦うわけではない。

 

先頭の、長身の艦娘は言った。

「初めまして……皆さん」

 

 

 

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EX回:第79話(改1.3)<豪華な布陣>

ブルネイの新しい試作型の艦娘たちを紹介された司令は、そのメンバーを見て思わず硬直してしまう。


 

「なんだ、お前が美保の提督か?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第79話(改1.3)<豪華な布陣>

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入ってきた量産化されたブルネイの艦娘たち。そのメンバーを見て一番驚いたのは私くらいだろう。

 

「初めまして……皆さん」

まず中央に居たのが長身の扶桑さん。

その後ろから恥ずかしそうにチラチラ見ているのは他でもない!

 

「山城さんじゃないか!」

叫んだ私は思わず硬直した。

 

(ごめん、苦手……)

 

「どうした? 美保」

私の慌て振りにブルネイ司令が聞いてくる。

 

「あ、いや」

(いかん。今ので、余計に目立ってしまった)

 

何となく後ろの山城さんの視線が気になる。

 

「……」

扶桑姉妹が、こちらを見ながら何か、ささやきあっている。

『あれが美保の提督?』的な会話をしているのだろう。

 

試作型とはいえ苦手な艦娘が出現するというのは抵抗感がある。

 

(しかもこれは『未来レシピ』だから、もし完成型に近いとすれば、なおさら苦手だよな)

 

それでも幸いなのは私が直接、彼女たちの戦いを指揮しなくて済むことだ。

 

……と、ここまで考えた私だったが。

 

(ダメじゃないか!)

 

ブルブルと首を振って猛省した。

 

(軍の司令たる者が別の鎮守府とはいえ同志たる隊員たちを無下(むげ)に嫌っては!)

 

先行していたブルネイの試作型艦娘たちの性格が美保と微妙に違っていたように、この扶桑姉妹も、ちょっとくらい性格が違うかも知れないのだ。

 

(……それに期待しよう)

 

私は冷や汗を拭(ぬぐ)いながら自分に言い聞かせた。

 

 そんな私を訝(いぶか)しながらもブルネイ司令は彼女たちの前に立つ。

「まあ、美保の艦娘たちは、だいたい分かっているだろうけど」

 

そして振り返った。

「改めて紹介しようか」

 

ブルネイ司令の言葉を受けて扶桑姉妹も私語を止めてシャンと背筋を伸ばす。

 

横に立っていた技師が軽く頷き、手にした表を見ながら紹介を始める。

「えっと左から順に、戦艦『扶桑』と『山城』姉妹。そして正規空母『加賀』、軽巡『天龍』と『最上』です」

 

彼自身、初めて出会う艦娘も居るのだろう。念を押すようにゆっくりと語る。その紹介に合わせて、場の艦娘たちが順次、敬礼をしていく。

 

(ありゃ)

 

……山城さんに気を取られて意識していなかったけど。戦艦二隻に正規空母って豪華な布陣だな。

 

扶桑姉妹は大輪の百合の花のようだし、落ち着いている加賀は一航戦だ。赤城さんが意識しそうだ。

 

「なんだ、お前が美保の提督か?」

腕を組んだ『天龍』が、いきなり聞いてくる。

 

「ああ、そうだが」

私が応えると彼女はズイと近寄ってくる。一瞬、緊張する室内だったが『天龍』は私の手を取るように握手した。

 

「ヨロシクな! 提督!」

ホッとして場が和んだ。

 

「あぁ」

(この天龍は、美保と同じだな)

 

その隣に居た艦娘も近寄ってきた。

「ボク、最上です……ヨロシク」

 

そう言いながら彼……じゃない、彼女も手を差し伸べて握手をしてくれた。天龍とは違ってソフトな印象だった。

 

(それにしてもボクか……)

 

そう口癖だな。いちおうは『彼女』だ。

 

「ほぅ……」

と、吐息を漏らしたのが美保の日向。そういえば最上も確か『航空戦艦』……じゃない、『航空巡洋艦』だった。何か日向と近いところがあるのだろうか?

 

「では、美保鎮守府側の紹介をしよう」

ブルネイ司令が私に目配せをする。

 

「……あ、あぁ」

不意を突かれた。

 

「えっと、美保鎮守府は今日は班長だけが来ています。向こうから戦艦『金剛』と、航空戦艦『日向』です」

 

私が紹介するや否や金剛が指をブイの字にして言う。

「ヨロシクデース!」

 

【挿絵表示】

 

 

「よろしく」

続けて日向。しかし対照的な二人だな。

 

 日向が頭を下げた瞬間、ふっと向こうの山城さんの目がギラギラと鋭くなったような気がした……まさかね。初対面だし。

 

技術参謀が軽く咳払いをすると言った。

「やはり新しいレシピは思いのほか順調なようだな。明日の演習はとても期待が出来そうだ。全員、しっかり休養して備えて欲しい」

 

艦娘たちは敬礼。

 

 続けてブルネイの技師が説明する。

「明日は午前と午後の二回、演習を行う予定です。今日来ているメンバーが明日の午前。午後には今、建造中の重巡以下の艦娘を予定しています。バランスを見ながら変更する可能性もありますが」

 

さらにブルネイ司令が補足する。

「演習メンバーの調整が出来る午後には一般公開演習も予定している。なお予定には無かったが急きょ、ブルネイ軍と王室関係者が明日の午前中、視察に来る。これは非公式となっているので特に意識せず臨んで欲しい」

 

(なるほどね……)

 

やはり今日、深海棲艦に襲撃されたことも視察の目的にあるんだろうと私は考えるのだった。

 

 

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EX回:第80話(改1.5)<協力と対抗>

明日の演習を前に妙な緊張感が走る。そんな艦娘たちは世界から注目されつつあった。



 

「特にお前たち(艦娘)は不必要に見知らぬ者と接触せぬことだ」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)

 EX回:第80話(改1.5)<協力と対抗>

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ブルネイ司令は少し声を潜めた。

「実は非公式だがブルネイ軍は艦娘の導入を検討中なんだ」

「え?」

 

それは意外だった。彼は話を続ける。

「もし艦娘が量産化されたら世界は、どうなると思う?」

「あ、そうか」

 

手を叩いた私を見て司令は腕を組んだ。

「深海棲艦だけじゃない。人間同士でも軍事バランスが崩れる」

 

ちょっと深刻な空気が漂った。彼は話題を変えた。

「まぁブルネイ側も我々に海上護衛を頼り続けられない……ってとこだろうな」

「ふむ」

 

司令は改めて美保の艦娘たちを見渡す。

「明日は王室関係者も来る。くれぐれも失礼のないように」

 

即、反応する戦艦姉妹。

 

【挿絵表示】

 

「もちろんデース!」

「お姉さまは英国生まれですからバッチリですね!」

 

……妙な自信に満ちた金剛と比叡。本当に大丈夫か? この二人。

 

 技術参謀も付け加える。

「そこでだ。全員、今以上に情報漏えいに気を付けろ。特にシナが艦娘の情報を狙っているらしい」

「シナ?」

「そうだ」

 

 私と司令は顔を見合わせた。それは共産党政権が出来た頃から大陸で侵略を続ける覇権国家だった。

「あんな国が艦娘に興味を持っているとはな」

「厄介だな」

 

 ここで「オホン」と咳払いをした彼女。

「えー、午後には演習が一般公開される。シナ以外の各国スパイも入り込むだろう」

 

そして振り返った。

「特にお前たち(艦娘)は不必要に見知らぬ者と接触せぬことだ」

 

 ブルネイの技師も補足する。

「えっとぉ新聞社の取材もあるので機密保持ってことで昼からは駆逐艦中心で演習するかも……です」

 

それを聞いた私は珍しく反応した。

「へぇ。すると戦艦や空母を引っ込めて駆逐艦だけでやる可能性もありか。こりゃ青葉さんを一般席に出して逆取材させても面白そうだな」

 

つい乗ってしまった。それを聞いたブルネイ司令。

「そうだな、それも良いかも」

「え?」

 

……なに、その反応。

(半分、冗談なんだが)

 

「What? battleワ、午前中で終わり? ザンネンね」

「む、無念……」

金剛姉妹が意気消沈している。おいおい一体、何がザンネンだ?

 

「そうか……」

呟く日向。

 

私は思わず彼女を見詰めてしまった。

(なんで航空戦艦までが?)

 

 そこで私は慌てて訂正した。

「いや、まだ分からないだろ? 午後は様子を見るって話だ」

 

「そう……午前中が勝負なのね」

急にブルネイの山城さんが冷ややかにカットイン。その目つきは、やたら鋭かった。

 

【挿絵表示】

 

 

その視線が日向を狙っていた。

(ヤバい!)

 

でも日向は気付かないのか無視していた。

 

【挿絵表示】

 

 

「火花ですぅ」

ボソボソ唱えつつ青葉さんが絶妙なシャッターチャンスを収める。

 

【挿絵表示】

 

 

(冷たい戦争を煽るな!)

……ところが技術参謀までがニヤニヤし、ブルネイ司令は苦笑していた。

 

 私はハッとした。

(もしかして美保とブルネイがぶつかるように計ったか?)

 

今度はブルネイの天龍が腕をまくって言った。

「俺は午後もやるぜ! ……そっちにオリジナル龍田も居るんだろ? 腕が鳴るなぁ、おい!」

 

彼女が言った先の最上はマイペースに反応する。

「ボクは索敵を中心にやりたいけど演習じゃ使えないし。仕方がないなぁ」

 

妙に素直で可愛らしい。

 

……で、日向は山城さんを無視して最上に関心があるようだ。さっきからチラチラと彼女を見ていた。

 

 ここで金剛が尖がった声を出した。

「フフン! 私も負けないネー。朝はサッサと戦って、午後からはブルネイでティータイムね!」

「比叡もお供します!」

 

【挿絵表示】

 

 

「……おい、誰が休めって言ったよ!」

チッという舌打ちが聞こえたような……。

 

「遊びじゃないから演習が終わっても、ちゃんと見学しろよ」

脹れる姉妹。

 

 だが、そんな金剛姉妹の挙動を見ていた扶桑さんが不敵に言った。

「ふふ、私たちが居ればブルネイの勝利は見えたわね」

「そうよ、お姉さま。航空戦艦なんかに負けるものですか」

 

おい山城さん。それは明らかに美保の日向のことだろう? 名指しするなって。

 

 いったい、どうしたんだ……と思う間もなく金剛が反応する。

「What! ナニ言うね!」

 

「あらぁ、お気に触って?」

扶桑さんが目を細めて腕を組む。量産型艦娘とはいえ戦艦クラスは存在感がある……お互いにケンカを売るのは止めるんだ!

 

「能天気な戦艦に私たちは負けないってことよ」

「シャラップ!」

(やめてくれー)

 

 金剛も山城さんも挑発に乗せられるなって! 次第に険悪になる雰囲気だが技術参謀も誰も止めようとしない。

 

(あ……)

危うく前に出かけた金剛を冷静な日向が止めてくれた。

 

(やれやれ)

私はホッとした。

 

「技術参謀は戦闘データが欲しいですよね」

夕張さんが私の背後で囁く。

 

【挿絵表示】

 

 

「そうか」

(すると対抗意識を煽って激戦に持ち込む意図があるのか?)

 

 だがブルネイ司令は、ちょっとボーっとして……疲れたのか? また別の世界に意識が飛んでるらしい。

 

(ホントに大丈夫か? 明日は)

不安だな。

 

「あれ?」

ふと声が出た。いつの間にか日向が扶桑姉妹に立ち向かっていた!

 

「私は少なくとも貴方たちよりは足が速い」

「そ、それが何よっ! 私たちの火力は絶大らろよ」

……扶桑さん既にロレツが回っていない。

 

「艦隊同士の殴り合いならともかく今は航空機でも戦艦を沈めるくらい容易(たやす)い時代だ。主砲の火力に頼っても意味はない」

「キーっ、悔しい! 航空機くらい私だって……」

今度は山城さんが扶桑さんを止めていた。

 

日向は冷静に切り返す。

「偵察機? 貴方が飛ばす機体に能力があれば良いけど」

「……!」

 

ダメだ! 扶桑さんの顔が真っ赤になっている。

 

「もう止めよう」

私は振り絞るように指示した。その一言で場は若干、収まった。

 

 だが更に日向がボソッと追い討ち。

「時代は変わる。脚が遅いなら最前線は私たちに任せて後方支援に回るべきだ」

 

(日向! お前までどうしたんだ?)

このままでは明日、血の雨が降りそうだ。

 

 

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「みほ3ん」EX回:第81話<一航戦>

ブルネイと美保の艦娘たちが険悪になりかけたとき、ある艦娘がそれを止めてくれた。


「何だ?欲しいのか?」

「はあ・・・あ?」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第81話<>

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<<会議室:一航戦>>

 

さすがに、日向は自制しているが、代わりに金剛がまた掴みかかりそうな勢いだぞ。山城さんは、顔を真っ赤にして般若(はんにゃ)のような、恐ろしい形相で睨む。怖いよ~。

 

でも技術参謀は、止めるでもなく腕を組んでニヤニヤ・・・って、やっぱりアナタ、確信犯でしょ?!

 

「二人とも、いい加減になさい!」

とても落ち着いた声で、しかし凛(りん)とした声で呼びかけたのは、加賀さんだった。さすが加賀さん、クールな表情でビシッと決める。

 

「まったく、演習前から同士討ちのような事をして、恥ずかしくは無いのかしら?」

その青い服装が、彼女の落ち着いた雰囲気を、さらに強調しているようだった。加賀さんにたしなめられて、さすがの山城さんも日向も、シュンとして、大人しくなった。やれやれ、ホッとした。

 

そりゃ日向だって、落ち着いているほうだけど。加賀さんは、さらに輪をかけて、その言葉には重みがある。さすがは一航戦だな。

 

もし、この場に同じく一航戦の赤城さんが居たとしてもだ。果たして優しい彼女が、このゴタゴタを止められたかどうか?とても怪しいな~。

 

でも、本来は私たち提督のどっちらかが、止めるべきだったな。ただ私は、苦手な山城さんと日向のバトルでは、さすがに手が出なかった。もっとも、私ごときが制止しても、言うこと聞かないだろうけど。

 

<<会議室:耐性と圧力>>

 

「そのくらいで良いだろう。他に、何か伝達することはないか?」

技術参謀が仕切る。仮に、何か言うことがあったとしても、今のゴタゴタで、もはや報告する元気も失せたよ。ブルネイ司令も、なんだか急に疲れたような顔をして座っている。あいつ、大丈夫かな?さすがに、今のバトルでは参るだろうな。

 

・・・ただ、オリジナルの艦娘たちに、日頃から揉みくちゃにされまくっている私のほうが、多少は艦娘バトルの免疫もあるようだ。とりあえず大人しくなった山城さんや日向、金剛を見て、そう思った。別に、自慢にはならないけど。

 

そのとき私は、ふと潜水艦娘たちのことを思い出した。そこで何気なく、手を上げた。

「あの・・・」

 

「なんだ?」

技術参謀は、こっちを見た。

 

「今日、イ401たちが来ましたが、あれは誰かが呼んだのでしょうか?」

これが、チョッと気になっていたんだ。軍令部か?あの青年将校なのか?

 

「ああ、あれは私だ。私が青年将校を脅して、呉と美保から出させた」

何食わぬ顔で彼女は応えた。お、脅してって・・・ま、マジっすか?

 

「美保は潜水艦がほとんど居ないだろう。もともと遠浅の海岸が多いし、近海では使えないよな」

 

「はぁ、それは確かに」

 

「安心しろ。イ401は、演習が終わったら呉に戻る」

あ、それはチョッと残念かも。美保にくれないかな?

 

「何だ?欲しいのか?」

 

「あ、いや・・・その何というか」

 

「残念ながら、一時的に呼び出すくらいの圧力は可能だが、さすがに転属は私でも無理だ。・・・ただ明日は、連合艦隊司令部や情報部・・・青年将校も来る。直接交渉してみろ」

 

「はあ・・・あ?」

それを聞いてビックリした。明日は、艦隊司令部からも人がくるんだ。そりゃ、大ごとだな。

 

「他になければ、以上で終わる」

全員、起立して敬礼した。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「みほ3ん」EX回:第82話<夜のGR再訪>

明日の打ち合わせが終了し、多少火花を散らしながら分かれる艦娘たち。そして提督たちは宿所に向かう。


「あの・・・私もお力に成れますか?」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第82話<夜のGR(ゲストルーム)再訪>

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<<会議室:退出>>

 

打ち合わせが終わると、いちばん、しがらみの無さそうなブルネイ技師や加賀さんが先に退出する。二人とも、クールに立ち去る。それに続くのは、天龍だ。

「じゃあな」

 

彼女は、明るく手を振って退出。やぱり天龍らしい。その後に続いて、最上君が・・・。あれ?最上さんか。もう、どっちでも良いが、軽くペコリとお辞儀をしながら退出していく。やっぱりこの娘は、可愛らしいよな。

 

日向は、そんな彼女を見ながらニコニコしていた。でも扶桑姉妹がのっそりと退出していくのを見ると、プイと顔を背けていた。まるでケンカ相手のような山城さんも同様に、日向と反対側の壁を向いて退出していく。何だかなあ・・・。

 

いっぽう姉の扶桑さんは、まだ多少は余裕があるだろう。私たちに軽く会釈をしてから、ソッと退出して行った。この姉妹は、身長が高くて何かと目立つのに、どこか神秘的で、まるで霞か雲のような印象を受ける。

 

「十分休養しろよ」

そう言いながら、技術参謀も部屋を出ていく。へいへい。

 

そして最後には金剛と日向、そしてブルネイ司令だけが残る。彼は言った。

「本人には伝えてあるが、今夜の部屋割りは、夕立と夕張は1F、お前の部屋は・・・」

 

私は先回りして応える。

「私は2Fのゲストルーム。その両サイドが赤城さんに日向と、金剛と比叡か。向かいが祥高さんかな?」

 

彼は目を丸くした。

「おいお前、ここは初めてだろう?何でそんなに知っているんだ?」

 

・・・あ、しまった!知ったかぶりはマズかったか?

 

私は慌ててごまかした。

「だいたい、どこの鎮守府でも同じようなものだろう?」

 

「ふーん」

私とこいつの仲だから、さほど疑われはしなかった。ただ、多少は"変な奴"だと思われただろうな。そうだよ、艦娘と一緒に居ると、こうなるんだぞ~って。もっとも実際には美保の本館は、ここよりも小さいし。そもそも、ゲストルームすら無いんだけどね。

 

ブルネイ司令は制帽をかぶりながら言う。

「五月雨に案内させようとしたが、それなら大丈夫かな?」

 

「多分・・・」

私が応えるとブルネイ司令はドアを開けた。そこには既に五月雨が待機していたが、彼は彼女に部屋に戻るように伝えているらしい。それを見た私は急に言った。

 

「あ、でも念のために、案内してもらったほうが良いかな」

・・・何となく五月雨と話をしてみたい気分だったのだ。

 

「そうか?」

特に疑うでもなく、彼は応えると五月雨に何かを言った。彼女は、一瞬、困惑したような顔をしたが、すぐにうなづいた。

 

「では、お疲れ様」

 

「お疲れ~」

一応、二人で形ばかりの敬礼をしあう。親しい仲だが、軍隊に居ると、やはり節目には、これをしないと何となく収まりが悪いんだよな。

 

ブルネイ司令が退出すると同時に、五月雨が入ってきた。

「では、ご案内いたします」

 

「ああ、頼むよ」

私と金剛、日向は、五月雨の案内で歩き始めた。

 

廊下を歩きながら金剛は喋りだす。

「司令!ワタシ、明日は負けないネ~!もぉ~、ボッコボコにするヨ!」

 

鼻息が荒いというのは、こういうのを言うんだろうな。私は少し引いた。

「・・・あ、ああ。ほどほどにな。相手は一応、量産型だから」

 

「関係ないネ~。あの性格の悪さは、本物以上ネ!」

いつの間に、お前は山城さんを"陰険だ"と決め付けたんだ?それじゃ、いくらなんでも彼女が可哀想に思うが。

 

「私も負けない・・・」

日向が珍しく、決意を述べているぞ。もう、今日は皆、どうしたんだろうか?気のせいか、前を歩く五月雨が、オドオドしているようにも見える。ごめんね、怖いお姉さんたちで。

 

<<本館:夜のGR(ゲストルーム)再訪>>

 

そろそろ夜の10時だろうか。ブルネイの夜は、湿気が無いから意外に過ごしやすい。

 

建ててから間が無いブルネイの施設。どれも新しいペンキや建築資材の匂いがする。昨日まで居た、未来のブルネイと同じなんだな。これが旧いならともかく、目の前にある見覚えのある建物が、逆に新しいという現実は、実に奇妙な感覚にとらわれる。同じ思いは、艦娘たちも感じているだろう。金剛も日向も、どことなく違和感を覚えているような表情を見せる。

 

それでも、五月雨が案内するでもなく、金剛も日向も、サッサと2階へ上がると、ゲストルームの手前と向かいの部屋に迷わず向かった。

「あ・・・あの・・・」

 

五月雨が、ちょっと慌てている。そりゃそうだ。ゲストのはずの二人が、あたかも勝手知ったように自由に動き回っているのだから。私は彼女に詫びる。

「ごめんね五月雨。私たちは、チョッとわけありでね・・・」

 

「はぁ・・・」

ますます困惑した表情の彼女。ああこれは、青葉さんや技術参謀が、いつも私をチョッと高い位置から、からかうあの感じだな、きっと。

 

「じゃあ司令、グッナイ~」

金剛が自分の部屋の前で、ウインクをしながら敬礼する。余計だって、それは。

 

「ああ、お休み」

私も敬礼を返す。当然、ウインクはしない。

 

そして日向も言う。

「私も戻りますが。着替えて・・・今夜も、お付き合いしましょうか?」

 

「ああ、そうしてもらえると助かる」

さすが日向。私の"計画"を把握しているな。

 

「出来れば今夜も私、Tシャツが良いのですが・・・」

 

「もちろん、楽な格好で構わないよ」

私だって、ポロシャツだし。

 

「では日向、直ぐ着替えて参ります」

彼女は、軽く敬礼すると自室に入って行く。

 

私は五月雨に話しかけた。

「私の部屋で、ちょっと話さないか?その・・・今日あった出来事を報告書に整理したいのだが独りではまとまらなくて」

やっぱり取って付けたような理由をつける私だった。

 

「あの・・・私もお力に成れますか?」

 

「なれるよ」

 

驚いたような五月雨は、すぐに一礼をした。

「よ、よろしくお願いいたします」

 

すぐに日向が着替えて廊下に出てきた。

「司令、お待たせいたしました」

 

「ああ、休む時間なのに、済まないな」

そこで私は振り返った。今度は驚かないぞ・・・Tシャツ姿の日向。

 

「ま、・・・どうぞ、どうぞ」

私は、ゲストルームの重い扉を開けて、二人を招きいれた。その際、念のために廊下を再び確認した・・・どこにも青葉さんは居ないよな。よし、OK!GO!

 




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「美保鎮守府:第三部」の略称です。


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「みほ3ん」EX回:第83話<既視感>

未来のゲストルームと比べて、あまりにも地味な現代の室内。そして、歴史は再び繰り返す?


「もう憲兵は来ないよな」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第83話<既視感>

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<<本館:GR(ゲストルーム)内装>>

 

まずは私からゲストルームに入る。部屋の内装は、落ちついた雰囲気を通り過ぎて、もはや地味だ。・・・いや、軍隊だから、これで良いんだけど。部屋の中央には、かろうじて応接セットがあるが、これも極めて地味で無愛想。まあ、軍隊なんて無骨で、お役所仕事的なものだ。

 

あ~あ。これが未来になると、もっと小洒落た、良い雰囲気になるんだけどな~。まぁ仕方ない。

 

私の後に続いて入ってきた五月雨と日向。五月雨は、相変わらず緊張しているから、部屋の様子どころではない。でも、後から入った日向は・・・やっぱり、私と同じような反応をしている。

 

すぐに入り口のほうを振り返った彼女は、かろうじて設置されている小さなキッチンへ行くと、冷蔵庫や棚を開けて確認する。小棚には、お酒類はもとより、つまみも何も無いぞ。

 

まあ、ここも開設したばかりで、ほとんど接待も無いだろうし。ブルネイ司令も、艦娘開発のほうが主だから、気も回らないだろう。恐らく来客があっても、ほとんど技術畑の連中だろうから、こういう部屋すら使わないだろうな。

 

私たちが、部屋をチェックしている様子に、ちょっと違和感を覚えたのだろう。五月雨が不思議そうに聞いてくる。

「どうか、されましたか?」

 

「あ~、いや、別にね・・・」

つくづく、未来の記憶というものは厄介なものだな。

 

<<GR:食料調達>>

 

日向も、あまりにもモノがないので、呆然としている。だが、チョッと考えた彼女は、すぐに言った。

「司令、私の部屋におつまみや、飲み物がありますから・・・すぐに持って参ります」

 

私は直ぐに、その言葉の意味を悟った。

「え・・・?あぁ~。でも大丈夫か?それ、赤城さんの私物だろ?」

 

「大丈夫です。赤城さんは、もう休んでいますし、少しくらい彼女の備蓄から貰っても、私たちには十分すぎますから」

いや、その論理は、かなり乱暴だが。でも日向は珍しく、いわく有りげな表情で微笑んでいる。こういうとき、赤城さんの習性は助かるな。

 

「よし、食料確保遠征、出撃せよっ!」

私は司令権限で、GOサインを出す。赤城さん、ごめん。

 

「日向、確保してまいります!」

半分冗談だろうが、彼女は敬礼をした。

 

「・・・」

五月雨は、漫才のような私たちを見て、ちょっと固まっている。でも、未来を思い出すなあ~。

 

その時、誰かが部屋のドアをノックした。

 

<<GR:再びの来訪者>>

 

「もう、憲兵は来ないよな~」

私は半分笑いながら言う。日向も微笑んでいる。そして今日は刀など持たずに入り口のほうへ向かう。

 

日向は、そのまま躊躇することなくドアを開けた。廊下の相手と何か会話をした後、彼女はそのまま外へ出て行った。入れ替わりで入ってきたのは、やっぱり技術参謀だった。日向と同じく、Tシャツだなぁ~。

 

「おお、提督。やっぱり集まったか」

そう言って五月雨をチラ見してから部屋を見回している。

 

「殺風景なものだなぁ、現代は」

そう言いながら彼女は空いているソファに腰をかける。技術参謀は、続けて私の姿をまじまじと見詰める。

「今日の提督はポロシャツか。かなり力が抜けたな」

 

「恐縮です」

 

今度は五月雨を見詰める技術参謀。

「お前は、五月雨だな」

 

「はい」

五月雨は、いきなり当たり前のように入室してきて、"現代"とか、妙なことを言う技術参謀に、驚いているだろう。

 

「同じ五月雨だよな・・・当たり前か」

 

「はぁ・・・」

困惑する五月雨。

 

「・・・」

そのまま技術参謀は、黙っている。別に怖い表情をしているわけではない。なんと言うのかな・・・。恐らくは、時間を越えた既視感のような、不思議な感覚を味わっているのだろう。それは、私も同じだし、日向も美保の艦娘たち全員が感じているに違いない。不思議な体験だ。

 

「ふふふ」

急に笑い出す彼女。

 

「理屈で分かっていても、やはり不思議なものだな。時間旅行というのは」

その感想は、私も同様だ。

 

「・・・」

黙って、ただ緊張する五月雨。ごめんなさい、いつも君を強引に、巻き込んでしまうよな。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第84話<安全な集会>

技術参謀から艦娘や、わが国を取り巻く敵対勢力について話を聞いた提督は驚く。しかし間近にも"敵"が・・・。


「司令・・・あんまり・・・一言、仰って戴ければ・・・」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第84話<安全な集会>

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<<GR:安全な集会>>

 

「技術参謀、今夜は五月雨や日向が同席していてもまったく問題ありませんよね」

私は前回のこともあり、ちょっと不安になったので念押しで聞いてみた。

 

彼女は微笑みながら応えた。

「もちろんだ。だいたいさっき、あの用心深い日向でさえ丸腰で私を出迎えたんだぞ。この集まりだってお前、特に目的は無いだろう?明日の打ち合わせもとっくに済んでいるしな」

 

「左様です」

さすが参謀には私の魂胆は見抜かれていたか。

 

「?」

五月雨は私たちの会話を聞いた時点で早くも混乱している。そう、軍隊においては目的なく集まること自体あり得ない。ところが本省の役人で規律にうるさい立場の技術参謀までが今夜フラフラとこの部屋に来たことも不思議だよな。

 

・・・で、その不思議な彼女は言う。

「私自身不思議なのだ。まあ未来へ行ったこと自体が奇跡だが。もしあれが無ければ艦娘量産化はあと数年遅れていただろう。そうなっていたらもう私は倒れていたかも知れん」

 

まさか?タフそうな参謀が?

「なんだ、その顔は?」

 

「はっ済みません」

 

彼女はソファに深く腰かけた。

「私だって艦娘ではあるが超人ではない。だがな結婚して私もいろいろ変わったのだ。それに加えて一連の出来事・・・」

 

ちょっと考え込むようなしぐさをして再びこちらを見た彼女はボソボソと言った。

「少し前の私なら今朝お前が私に反逆した時点で即、射殺していたかもしれない。私も甘くなったものだよ」

 

マジですか?それは恐ろしい。ちょっと鳥肌が立った。

「艦娘とはな、ある面冷酷だ。目的に徹しているからな。だが言っただろう。私は結婚して子供が生まれて変わった。余裕というのかな?多少は他人を許せる気持ちが芽生えた」

 

それは良かったです。お陰で命拾いしました。

 

<<GR:敵対勢力>>

 

技術参謀は続ける。

「武蔵にも言ったがな。私は寛代が生まれて、なおのこと艦娘量産化を急いだ。だが正直言って私の身体もかなりボロボロだ。独り身で中央で無理をしすぎた・・・。おまけに美保鎮守府設置にも反対意見は根強いのだ。また艦娘そのものへの反対意見も、未だに政府内にある」

 

「それは初耳です」

 

「四面楚歌・・・つらいものだぞ。身内であるはずの海軍省内ですら反対はあるのだ」

彼女はふうっとため息をついた。

 

「今は深海棲艦への唯一の戦力が海軍だけだからな。だが陸軍も必死に敵の情報を集めて対抗兵器の研究を進めている」

 

陸軍と聞いて私は夏のことを思い出した。

「そういえばお盆で墓参したとき美保の陸軍が必死に深海棲艦の残骸を集めていました」

 

彼女は顔を上げる。

「そうだろう。陸軍を甘く見るな。連中もかなり研究が進んでいて独自に艦娘に近いアンドロイドも出来つつある。それだけじゃない。例のシナだ。あそこも、艦娘もどきのロボット部隊を研究している。だから明日は警戒しろというんだ」

 

「それは知りませんでした」

 

「お前は・・・何も知らないな!まったく・・・もっと陸軍や国際情勢にも目を向けろ。山陰といえども深海棲艦だけが敵とはいえないのだ」

 

「あ・・・」

気がつくと五月雨が白目をむいている。眠いよな~こんな話。だがこの娘も、かわいそうな立場なのだ。少しでも慰められたらなと思って連れてきたんだが・・・。

 

そんな五月雨を技術参謀も見詰めた。

「私はな、この娘のような艦娘を無数に見てきた。特に寛代が生まれてからは実験とはいえ試作型の艦娘が生まれては消えていく姿はもはや見るに耐えんのだ」

 

私はブルネイ司令を思い出した。あいつも似たようなことを言っていたな。

 

「だからこそ未来のレシピは希望なのだ。あの武蔵には本当に感謝しているよ。見逃してくれたのだから」

武蔵様か。彼女にはレシピからその後の戦闘支援まで・・・あまりにも世話になった。彼女とは不思議な縁があるのだろうか・・・。

 

その時、部屋のドアを開けて日向が戻ってきた。

「あれ、日向?」

 

<<GR:食べ物の恨み>>

 

だが彼女は一人では無かった。

「し、失礼します・・・」

 

後ろから付いて来たのは・・・赤城さん?

 

日向は頭を下げる。

「済みません、司令」

 

そんな彼女を見て私は悟った。ははぁ~さては・・・作戦失敗か。一応手に食べ物類を抱えてはいるが。彼女は言う。

「失敗しました」

 

やっぱり。黙って持ち出すことは難しかったか。でも、よくみると日向が顔を赤くしている。なんだか可愛いなあ~・・・もとい。

 

日向が申し訳無さそうに報告する。

「司令の命令だとか土下座したりあらゆる手を尽くしましたが。赤城さんは許してくれませんでした。結局皆で一緒に食べようと提案したらようやく・・・」

 

真っ赤な顔をした彼女はそこで止まる。やっぱり泥棒みたいなマネは、ダメだよな。赤城さんの頬は紅潮し目はウルウルしている。

 

「司令・・・あんまり・・・一言仰って戴ければ・・・」

ああ食べ物の恨みは怖い。

 

「ちょ・・・」

ああ!私が言い訳をする間もなく赤城さんの頬からは一筋の涙が流れ落ちてしまった。だめだ~!それがたとえオツマミ確保が理由であっても女性の涙には弱い。

 

「す、済まなかった」

私はあわてて頭を下げた。せっかく赤城さんがあまりお目にかかれない私服で来たのに、それを堪能するどころではなかった。そのとき五月雨は騒ぎで目覚ましたようだが。周りの状況にまたビックリしたような顔をしている。もう修羅場だな。

 

「ふははは」

技術参謀は笑い出した。

 

「まあ良いではないか赤城。我々はクルーだ。司令が勝手な判断をしたことは許し難いことかも知れんが私に免じて許してやれ」

まあ命令を出したのは私だ。勢いとはいえ赤城さんには悪いことをした。

 

私は改めて赤城さんの方を向いて立ち上がると頭を下げた。

「赤城さん申し訳ない。この通りだ」

 

すると日向も同様に頭を下げる。

「私も・・・申し訳なかった」

 

赤城さん、こんどは逆に困ったような顔をする。

「いえ司令そんな・・・私もこのような目的があると知っていれば別に・・・てっきり日向さんが勝手に持ち出すのかと・・・」

 

「私、司令の命令だと言ったのだが・・・」

日向はボソッと何かを言いかけた。私が小声で"おい!"と、制止して彼女は慌てて口をつぐんだ。・・・幸い赤城さんの耳には入らなかったようだ。相変わらず私たちは漫才やっているな。

 

「さあさあ、すべて水に流して。いろいろ持ってきてくれたんだろ?まずは皆でつまもう~」

微妙な空気だったが技術参謀が仕切ってくれたので助かった。

 

「・・・はい」

良かった。赤城さんが笑顔になった。ひたすら浮いていた五月雨も赤城さんにつられて笑っている。そうだよ皆で笑おうぜ。私たちはクルーなんだから。

 




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「みほ3ん」EX回:第85話<ケッコンの光と影>

技術参謀が語るケッコンとリコン。そして深海棲艦をも含む壮大な仮説に、提督たちは愕然とする思いだった。


「実はな、私のケッコンは非合法だったのだ」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第85話<ケッコンの光と影>

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<<GR:赤い飲料>>

 

赤城さんと日向は二人で簡易キッチンの前で、おつまみや飲料を袋から出してチェックしている。赤い色の着いた飲料の容器を見ている赤城さん・・・まさかそれはアルコールじゃあ無いよね?

 

私と日向は飲まないけど・・・赤城さんが匂いをかいでいる・・・どうやらお酒じゃなくて、ソフトドリンクのようだ。

 

赤城さんと赤いドリンク・・・そういえば彼女のTシャツの柄も赤い文字がプリントされている。情熱の赤かな?赤城さんけっこう"熱い"人だと思う。でなきゃ、あんなに食べ物に"固執"はしないだろう~。

 

そう思いながら私も少し喉が渇いてきたな。まだかなあ~と思っていたら

 

「おい!喉が渇いたな~。適当な飲み物を早く出してくれ」

技術参謀が催促をした。

 

「はい、ただいま~」

赤城さんが応える。確かに湿気がない分喉が渇くのかな?この部屋には空調も入っているし。ちょっとバタバタして取り急ぎ3人分の飲料を日向が持ってきた。

 

「おう、待ってたぞ!」

技術参謀って声だけ聞いているとオッサンかと思ってしまうんだよな。まぁ中央で女性で、しかも艦娘でありながら独りで渡り合っているだからそのくらいの度胸が無いとやっていられないよな。

 

<<GR:技術参謀の想い>>

 

「なんだ?提督。私、何か変か?」

私が見詰めていることに気づいた技術参謀。

 

「いえ・・・参謀もご苦労されているなあと」

 

「ふっ」

・・・と言いながら彼女は一気にグラスを飲み干す。

 

「ぷあぁ~渇きに効くなあ~・・・スマン!もういっぱい頼む!」

 

「はぁ~い」

赤城さんが長い髪を後ろに垂らしながら、にこやかに応える。彼女の機嫌もだいぶ直ったようだな。

 

日向は索敵機のごとく何度も往復して、おつまみやら飲料のおかわりやら運んでいる。でも普段から航空機の運用をしているから、こういうこまごましたことも苦じゃないんだろう・・・。

 

「艦娘といえども一つの命。それを人間の手で作り出すというのは本当はやってはいけない事なのかも知れない」

突然技術参謀は語りだす。

 

「私がお前を買っているのは実力とか能力ではない。艦娘との親和性だ」

急に私に振られてちょっとビックリした。

 

「その親和性とはナンでしょうか?」

 

「私も理論では分からん」

あれ?がっくり来た。

 

「理論や理屈ではない。だがお前と艦娘は拒否反応が少ない。お前も知っている通り嫌がる提督だって少なくないんだ」

 

「はあ、それは経験的に分かりますが」

 

「以前青年将校が美保に来たときに、お前が艦娘との相性が良いと話していたはずだ。それは戦果とか理屈ではない」

よく知っているな。

 

「恐縮です」

私は頭をかいた。褒められているのかナンなのか・・・。

 

「そんなに卑屈になるな。艦娘に関してはもっと自信を持て」

技術参謀は私に笑顔を見せた。何かホッとした。

 

<<GR:試作型五月雨>>

 

彼女は五月雨を見ながら続ける。

「未来でお前が五月雨を気にしていただろう。私もこの娘は気になっていたのだ。そして現代の五月雨は試作型であり不安定な要素を抱えている」

 

「・・・」

五月雨は黙って私たちを見詰めている。

 

「ふ、そんなに恐れるな五月雨。私はな元艦娘であり、お前たち・・・試作型の気持ちを思うと胸が締め付けられる思いなのだ」

 

「はい」

 

「資料を見たが、お前は試作型の中でも一番完成度が高い。それは性格や寿命そのほか多くの特性となって現れる」

 

「・・・・」

五月雨は、黙っていた。確かに、この娘は試作型とは思えない。まるで普通の艦娘のような印象だ・・・まさに安定感が強い。

 

「お待たせ~」

ここで赤城さんと日向が、おつまみを持ってきた。

 

「ご一緒しても・・・良いですか?」

 

「ああ構わん。そうだ、これから話す内容はお前たちにも聞いて欲しい内容だ。特に航空機を運用するお前たちにはな・・・」

彼女は赤城さんと日向を見て言った。

 

「はい」

「はっ」

赤城さんと日向も着席した。

 

<<GR:ケッコンの光と影>>

 

技術参謀は私のほうを向いた。

「私はケッコンしているが最近、法律が変わって軍人に限り艦娘とのケッコンが許可されたことは知っているな」

 

「はあ・・・何となく」

 

「実はな私のケッコンは非合法だったのだ」

 

「・・・・」

これは驚きの事実だ。聞いていいのだろうか?

 

「安心しろ。これを聞いたからといって国家の治安や安全保障とは無関係だ。私は結局超法規的に・・・軍事的な内容が伴うという口実でねじ込んだ。その後に艦娘とケッコンしたいという機運が軍部でも高まり国防法の一部として法改正された」

 

「はあ・・・」

ふと見ると五月雨はまたウトウトしている。技術参謀もそれを見ながら続ける。

 

「だがな。ケッコンは簡単ではない。案の定・・・勢いでケッコンしてその後リコンする例も出てきた」

 

「はあ・・・」

 

「ケッコンはお前には他人事かも知れないが、よく聞いて欲しい。そして艦娘運用の参考にしてくれ」

 

「はっ」

 

「お前は艦娘がリコンしたら、お互いに普通に生活できると思うか?」

 

「えっと・・・済みません、どういうことでしょうか?」

 

技術参謀は怒るでもなく真剣な表情のまま続ける。

「リコンした人間・・・男性はそのままだ。しかし・・・」

 

私は、ただならぬ気配を感じ始めた。赤城さんと日向もまさに固唾を呑んで聞いている。

「リコンされた艦娘は、ほぼ100パーセント人格崩壊するか数日後に倒れて、そのまま絶命する」

 

『え!』

これには私だけでない。その場に居た全員が驚愕した。

 

「ふふ似ているだろう・・・試作型と」

 

ウトウトしていた五月雨も驚愕した声に反応して目覚めた。そして私たちのただならぬ気配に目を丸くして・・・そしてそれまでの眠気が吹っ飛んだようだった。

 

私はふと疑問がわいた。

「失礼ですが、参謀のご主人は・・・」

 

「ああ戦死した。だが事故や戦死の場合は大丈夫なようだ。リコンではないからな・・・もっとも夫婦が死に別れる苦痛は別に艦娘でなくても同じだろう」

 

「はい」

離別の苦痛と悲しみ。そう考えると、そうなるのか。

 

技術参謀はまた深刻な表情で語り始めた。

「絶命したほうが幸せだ。生き残っても正気が無い・・・人間で言えば廃人同様になる」

 

「・・・」

全員、無言になった。

 

「これはあくまでも噂だが・・・リコンした艦娘の一部が正気を失ったまま入水自殺を図って・・・」

 

赤城さんが、かすれたような声で言う。

「まさか・・・?」

 

「そうだ。死に切れなかった者が深海棲艦になるという噂・・・だがあくまでも噂だ。確認した者が要るわけではない」

技術参謀は再びグラスを口につけた。氷がカチャッと音を立てる。

 

「それにケッコンした例はまだ数えるほどだ。実際、深海棲艦の数はもっと多いからな。仮に事実だとしてもホンの少数だろう」

 

私はなぜか、あの深海棲艦(大井・仮)を思い出した。まさか・・・ね。

 




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「みほ3ん」EX回:第86話<福音>

提督は技術参謀の熱い思いを聞くにつれ、自分の足りなさ、不甲斐なさを感じるのだった。


「それは・・・とても光栄なことです」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第86話<福音>

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<<GR:技術参謀の想い>>

 

技術参謀は言う。

「軍部はリコンによる艦娘の障害と言う事実を隠したがっている。もっとも、実例は数えるほどしかないから、まださほど軍部内での影響は少ないといえるが」

 

それは、あまりにも深刻な内容だったので誰も何もいえなかった。

 

彼女はグラスの底を眺めながら続ける。

「ただ、この事実を悪用して軍部の法律を改正しさらに艦娘の追い出しを図る勢力が居ることも事実だ・・・中央はな、そんな連中ばかりだぞ」

 

ああ、まさに本物の魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界なんだ。

 

そこで私は気になったことを聞いてみた。

「あの・・・以前美保に来た青年将校は、お仲間なんですか?」

 

技術参謀は少し明るい顔になった。

「ああ。数少ない、いわば同志だな」

 

「なるほど・・・」

やはり中央で生き残るのも大変なんだろう。権力闘争とか、あるんだろうだな。

 

「だからこそ・・・」

技術参謀は声を強めた。

 

「艦娘量産化の完成度が高まれば、こういう悲劇は二度と繰り返さなくても済むんだ」

 

『・・・』

全員無言だった。国家機密ではないとは言うものの艦娘に関わる者たちにとっては国家機密に匹敵するような内容だった。気のせいか五月雨は少し震えているようにも見えた。

 

そんな彼女を見た技術参謀は優しく声をかけた。

「恐れることはない五月雨よ。お前たちの事を心配し支えようとする者ばかりだよ、ここは」

 

五月雨はちょっと安心したようだ。

「はい・・・」

 

私はまた口を挟んだ。

「しかしレシピを入手した今では艦娘建造のことはもう何も心配することも無いと思いますが」

 

ところが技術参謀は急に険しい顔になった。

「お前はやっぱりバカ者か?・・・今後のことではない。試作型として作られたこの娘たちのことを案じているのだ!」

 

「あ・・・」

私は思わず五月雨を見つめた。彼女はちょっと悲しそうな表情をしていた。本当に私って配慮が足りないよな。自分でもバカ者だと思う。心なしか他の艦娘たちが呆れているようにも感じられた。反省。

 

<<GR:キー(鍵)>>

 

技術参謀は続ける。

「ただ私が五月雨に注目するのは試作型でありながら安定していること。ここに何かまた別の鍵があるように思えるのだ・・・」

 

技術参謀はそう言いつつテーブルの上のつまみに手を伸ばした。それを合図のように他のメンバーも次々と手を伸ばし始める。赤城さん一応、遠慮していたんだね・・・。

 

ようやく食べ物にありつけた赤城さん気が緩んだのか話し始める、

「ではもちろんその鍵が分かれば試作型だけではない。深海棲艦にも対抗策か根本的な解決策が見出されるかもしれないのですね」

 

「ああそうだ」

答えた技術参謀の言葉に一同は目を見張った。それはあまりにも壮大なビジョンであるがすべてが解決できる、まさに"福音"のような内容でもあった。

 

ここで今度は急に五月雨が話し始めた。

「私が・・・鍵ですか?」

 

彼女の反応に一瞬意外な顔をしていた技術参謀だったが、すぐに言葉を返した。

「そうだ。それが分かればいま残されている"試作型"の艦娘たちをひょっとしたらもっと延命させることも出来るかもしれない」

 

五月雨は応える。

「そうですか・・・私が何かのお役に立てればいいのですが・・・すみません自分ではなぜ安定して居るのかまでは分かりません」

 

技術参謀は微笑んだ。

「そういう姿勢はありがたいよ五月雨。でも私が言っていることは別に強制でも何でもない。それに正直お前が直ぐに分かる話ではないだろう。いいさ、いま分かる範囲で・・・」

 

そのやり取りを見ながら、ひょっとしたら五月雨のこの純粋さ。そして他人にひたすら仕えようとする謙虚な姿勢が良いのかな?とも思えた。

 

それはまさに彼女の艦名の如く。初夏の五月雨のように静かにそして断続的に降り続けるような長い雨。"長い"・・・これが何かを象徴しているのかな?まあ、おバカな私が悩んでも解決できるものでもないか・・・。

 

「実はな、この美保の提督はな、お前のことがとってもお気に入りみたいなんだぞ」

突然笑いつつ、からかうように技術参謀が突っ込んでくる。

 

「え?・・・いやそんな・・・」

私は意外な突っ込みにどぎまぎして思わず否定。反射的に斜め向かいの日向を見た。ひょっとしたら彼女が気分を害するかなあ~って・・・でも日向はまったく気にしていない。あれまアちょっと残念な気分。

 

赤城さんもニコニコしている。もっとも彼女の場合は話の内容よりもおつまみを食べられることのほうが嬉しいかな?

 

「それは・・・とても光栄なことです」

五月雨はちょっとお顔を赤らめて下を向いてしまった。いやそんな大げさだよ。私は大した男ではないから。逆に私のほうが赤面したいくらい恥ずかしかった。技術参謀も人が悪いよな~あんな言い方をするなんて。

 

改めて日向を見ると彼女は意外にも嬉しそうな顔をしてこっちをチラ見していた。彼女もなんとなく余裕というか以前とは性格が変わったのかな?

いやお互いにいろんな局面を通過して人間性に幅ができるのかな?とも思えるのだった。

 

<<GR:お開き>>

 

その後は適当につまみながら差し障りの無い会話が続いた。

 

結局、赤城さんから提供されたおつまみや飲料は全部平らげた。でも赤城さんも一人で食べるよりは全員で喋りながら食べるほうが美味しいと少しは感じてくれただろう。ずっとニコニコしていたし。

 

最後はあまり延長することも無くその日のうちにこの不思議な"集会"は、お開きとなった。明日の演習もあるし司令に無許可で長時間、五月雨を留め続けても問題だからね。

 

全員を廊下で見送ったあと私は改めてGR(ゲストルーム)の中を見た。そういえば今夜の私はいったいどこで寝るんだっけ?

 

ちょっと確認して直ぐに分かった。この部屋だけは二部屋続きなのだ。隣に寝室や浴室トイレがある。あれ?謎の和室付きコーナーもあるぞ。そういえば前回は一晩中喋って気がついたらソファで寝てたからなあ。

 

私は隣で軽くシャワーを浴びてから着替えてベットに入った。本当に久しぶりにまともに寝られると思った。

 

明日も頑張らなきゃ・・・おやすみなさい。

 




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「みほ3ん」EX回:第87話<再会・白い海>

提督は、再びあの"茶髪の艦娘"の夢を見る。だが彼女はいつもの夢とは違っていた。そして事件は起きた。


「お願イ!私の名前ヲ、もう一度・・・」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第87話<再会・白い海>

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<<不明:日本海>>

 

気が付くと私は冬の日本海に居た。そこはあの・・・忌まわしい"白い海"だった。

 

"茶髪の艦娘"が出てくるかと思って思わず身構えたが・・・いや海は静かだった。確か吹雪いていたはずの海上は、まだ強い風にあおられて多少白波が立っているが、さきの激戦時よりはかなり落ち着いたようだ。

 

いつのまにか雪は止んでいる。鉛色の空には切れ目が出て冬特有の水色の青空と徐々に傾いていく夕日に照らされたオレンジ色の雲がぼんやりと空全体を覆っていた。

 

だが・・・改めてよく見ると雲の反射で黄色く照らされた海面上には無数の残骸が・・・駆逐艦の部品と思われる浮遊物が散乱していた。そうか、ここはやはりあの"現場"なのか?

 

仮にそうだとしたら、あまりにも痛々しい光景だ。いやその原因を作ったのは私自身ではないか?そう思うと目を背けざるを得なかった。

 

ふとそのとき私は自分の真横にあの"茶髪の艦娘"が立っているのを認識した。彼女は私が先ほど見ていた同じ日本海を見つめていた。

私が必死に名前を思い出そうとしていると彼女が口を開いた。

「みんな、よく戦ってくれました・・・」

 

海面を見つめたまま淡々とした口調で呟く艦娘。その声にも聞き覚えがある。

 

「そうだな・・・」

意外なほど落ち着いて私は相槌(あいづち)を打ちながら再び海面上に目をやった。そこにはさっきと何ら変わらない光景・・・ただ無数の残骸があるだけだ。

 

風はまだ強い。時おり遠くから飛ばされてきた小さな雪が宙を舞っている。西の空は徐々に赤みを増しそれと共に青空の面積が広がる。天候は回復しているようだな。

 

いま隣にいる"茶髪の艦娘"こそ私が出撃命令を出した舞鶴の艦隊の"旗艦"だろう。ところがこの空間ではどうしても彼女の名前が思い出せない。だめだ、今何かを言わなければと思うのだが言葉が出ない。別に私の心情は抑圧も恐れもないが・・・。

 

<<冬の日本海:再会>>

 

そのとき急に隣の女性が話しかけてきた。

「作戦参謀・・・」

 

「あ・・・ああ」

ドキッとした。その呼称は舞鶴に居た時のあの"作戦"実行当時の私の階位・・・。間違いない、やはりこの女性は?

 

ハッとした私は再び彼女のほうを見る。彼女もこちらを見ていたがその目は決して私への恨みとか批判するものではなかった。すべてが終わった後の虚無感かちょっと空(うつ)ろな感じの目だった。

 

だがその瞳の奥には悲しみの色が感じられた。

 

いやそれはただ夕日に染まった空色に彼女の瞳が反射していただけかも知れないが。

 

再び彼女は口を開いた。

「最期にひと言だけ・・・」

 

私は少し身構える。でも彼女は微笑んだ。

「貴方の声が聴きたかった」

 

その瞬間、北風が彼女の髪を撫でサラサラと流していく。

 

「・・・済まない」

今の私には、ただそれだけしか言えない。歯がゆい。

 

「・・・」

彼女は黙っていた。

 

【挿絵表示】

 

しばらく時が流れたと思う。目の前の冬の日本海の映像だけは時を刻んでいて夕日は既に宵(よい)の水平線の向こうへ沈もうとしている。

 

「最初は、何もワカラなかったの・・・」

再び彼女が口を開いたが少し発音がおかしくなっている。いやな予感がするぞ。鳥肌が立った。

 

「デモ・・・アナタと一度、神社で再会しテ・・・少シ思い出したのニ・・・」

彼女を見ると視線を遠くに向けながら両腕を押さえ震えを抑えるようにして苦しい表情を浮かべている。

 

次の瞬間、彼女は両手を夕日に差し伸べて言った。

「分かラナイ!」

 

夕日に叫んだ彼女の頬に涙が伝う。これはきっとまずい状況だ!しかし今の私に果たして何が出来るのか?

 

彼女は涙を流しながら再び私のほうを向いた。その表情は必死だ。

「お願イ!私の名前ヲもう一度・・・」

 

泣いている彼女を目の前にしてなぜだ?まだ思い出せない私。ああ自分のバカさ加減に呆れるよ!事態は深刻なのに!

 

「オネガイ・・・」

彼女は哀しい表情で再び私に手を差し出す・・・私は何も思い出せず、思わず彼女を抱きしめた。

 

・・・が、しかしそれでも何も出てこない。

 

「済まない・・・思い出せない」

私はそう答えるのが精一杯だった。

 

彼女もそっと私の背中に手を回した。もしかしたらこのまま彼女に?

 

・・・もし彼女が深海棲艦なら艦娘の腕力に匹敵するだろうから私如き、今この瞬間にでも簡単にひねり潰せるだろう。

 

だがもし今彼女が私を絞め殺しても構わない。そんな思いが湧いた。

「すまん・・・」

 

だが彼女は応えた。

「イイノ・・・マタ会えるから・・・」

 

その言葉に私はハッとして思わず上体を離して彼女の顔を見た。意外にも笑っていたが・・・徐々に彼女の映像は薄くなっていく。

 

「マタ・・・アエル・・・」

そのとき強い風が吹いて一瞬、目の前が真っ白になった。

 

「ワタシには・・・ワカルの・・・」

 

<<GR:ベッドの上>>

 

「ハッ!」

気がつくと私はブルネイ鎮守府のGR(ゲストルーム)のベッドの上だった。窓の外は薄っすらと明るくなっていた。

 

「朝か・・・」

あれは悪夢なのか何なのか?・・・ただ不思議と脂汗はかいていなかった。私は大きくため息をついた。

 

そのとき誰かがゲストルームのドアを、やや激しく叩いている。

(ドンドン!)

 

「司令、大変です!」

それは祥高さんの声だった。何か起きたのだろうか?

 




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「美保鎮守府:第三部」の略称です。


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「みほ3ん」EX回:第88話<静かな別れ>

未明に祥高さんから、龍田さん2号の事を聞かされて驚く提督。そして直ぐに衛生棟へ向かうのだが・・・。


「完全に燃え尽きたのね・・・」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第88話<静かな別れ>

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<<GR:緊急事態>>

 

私がドアを開けるとそこには秘書艦の祥高さんが立っていた。まだ夜も明けていないのに何事だろうか?悪夢ではないが今しがた見ていたリアルな夢の余波でまだ少しボーっとしている私。

 

しかし祥高さんは、ただならぬ気配だ。

「朝早くから申し訳ありません司令。しかし緊急事態です!」

 

いつもは沈着冷静な祥高さんにしては珍しいな。

「なにごとだ?」

 

「龍田さん2号が・・・」

祥高さん少し詰まる。

 

「・・・死にました」

 

「え?」

いきなりのショッキングな報告に私は完全に眠気が吹っ飛んだ。祥高さんっていつも突然なんだよな。しかし龍田さん2号って昨夜ブルネイ司令と共に見舞いに行った時には割と元気そうだったが・・・。

 

変な夢に続いて・・・この現実も悪夢の如きだな。こうもショッキングなことが続くとパニックを起こしそうになる。エイッと腹に力を入れ呼吸を整えた私は、まずは事実を冷静に受け止めようとした。

 

目の前の祥高さんも少々動揺しているらしい。だがさすがは秘書艦だ。彼女なりに必死に感情のブレを抑えようとしている。

 

祥高さんは続ける。

「ブルネイ司令が病室にいらっしゃいます。このたびの件は私たち美保には直接的には無関係な状況ですし司令にも参加要請は出ていません。しかし事実共有のため任意参加が認められています。いかがなさいますか?」

 

「参加する。着替えてから直ぐに行くと伝えてくれ」

私は即答した。

 

「了解。重巡祥高は司令参加の意向伝達のため先に病室へ参ります」

 

「頼む・・・あと金剛と日向にも事実は伝えてくれ」

私は祥高さんに敬礼をした。彼女も敬礼をしたあと回れ右をして廊下を去っていく。私は直ぐに自室へ戻ると手早く身支度をした。西の空はかなり明るくなっていた。

 

<<衛生棟:病室>>

 

制服に着替えた私は直ぐに衛生棟へ向かった。早朝のブルネイは意外に冷える。私は衛生棟の受付を済ませて階段を上がって病室へ向かう。夜の衛生棟というのはなんとも言えない雰囲気があるな。

 

やがて龍田さん2号の入っている病室へ来た。ノックをして中に入ると既に祥高さんと金剛、日向も着ていた。私が入室するのを見たブルネイ司令は立ち上がる。

 

「済まないな、朝早くから・・・」

ブルネイ司令は申し訳なさそうに詫びる。その傍には技師が居るがもう何もする事が無いようで工具箱やテスターを脇に置いたまま黙って立っていた。

 

「いや艦娘のことだからな・・・」

そう言いながらこれはいつもの私らしくない台詞だなぁ~と自分で思った。

 

「龍田さんが・・・逝ったのか?」

私が聞くとブルネイ司令はうなづいて一枚の便箋を示した。

それは昨夜見舞いをしたときに龍田さん2号が書いていた便箋・・・もしかしてこれは単なるメモではなく"遺書"だったのか?

 

私は便箋を受け取るとおもむろに開いて中の文面を見た。ついびっしり書いてあるのかと思ったが・・・そこにはわずか数行の文字のみ。本文に当たる部分にはただひとこと"アリガトウ"とだけ書いてあった。

それは龍田さん2号が手書きしたたどたどしい筆跡。それでも何か・・・胸に迫るものを感じた。

 

私から便箋を受け取った金剛は日向と共にその便箋を覗き込んだ。金剛は頭(かぶり)を振りながら呟く。

「シット・・・」

 

「・・・・」

日向はただ黙っていた。

 

<<病室:静かな別れ>>

 

「最期は・・・比叡2号が一緒に居たらしい。しばらくとり止めの無い会話をしていたらしいが比叡2号が席を外したホンの僅かな時間にその書き置きを残して静かに絶命したようだ」

ブルネイ司令が淡々と報告する。その場に全員が黙って聞いていた。そういえばその比叡2号が居ないな・・・。

 

ブルネイ司令は続ける。

「技師によると死因はケガのためか寿命なのか正確には分からない。ただ状況から見ると苦しんだ様子は無かったようだ」

 

それを聞いて私は少しホッとした。誰かを責める類のものではないな。確かに龍田さん2号の顔は微笑んでいるようにも見えた。まるで寝ているような・・・。

 

「失礼します・・・」

その時病室に美保の龍田さんが入ってきた。彼女も既に2号の死は悟っているようだった。2号の亡骸(なきがら)を見つめながら龍田さんは呟くように語り始めた。

「便箋を渡したのは私なの・・・でも2号チャンも・・・なんとなく自分の死期は悟っていたみたい」

 

はあぁっ・・・と龍田さん小さなため息をついた。

「私も感じていたわ・・・でもこれは避けられない道。2号チャン誰とか何かを恨むのではなく自分で受け止めて旅立ったのね」

 

龍田さん2号に近寄ると、そっと頬に手を当てた。

「ホントに私を見ているようで・・・でも貴女は私じゃない、唯一よ。精一杯生きて完全に燃え尽きたのね・・・」

 

それ以上龍田さんは何も言わなかった。ただ2号の顔を見ながら必死に感情が高ぶるのを押さえているようだった。直ぐに彼女の肩が小刻みに震え始めた。どうしても涙は抑えられないようだ。龍田さんでも・・・耐え切れないことがあるのだな。

 

そのとき再び病室のドアが開いて寛代が入ってきた。

「居ない・・・」

 

「なに?」

 

「比叡2号、居ない?」

 

「え!」

直ぐに技術参謀が続けて入ってきた。

 

「おい、比叡2号が、どこにも居ないらしいぞ!」

えっ!一緒に居たんじゃないのか?

 

嫌な予感がした。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第89話<失踪>

比叡2号の失踪に、騒然となる龍田2号の病室。すぐに美保とブルネイ合同の捜索隊が組織される。


「あの娘は、意外と考え込むタイプのようだから」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第89話<失踪>

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<<病室:失踪>>

 

直ぐに技術参謀が続けて入ってきた。

「おい、比叡2号がどこにも居ないらしいぞ!」

 

「えぇ!」

ブルネイ司令ではなく私のほうが驚いた。なにしろ"比叡"と聞くとつい美保のオリジナルの方を連想してしまう・・・彼女が失踪するということ自体あり得ないからなあ。

 

やっぱり艦娘って量産化すると性格違ってくるのかな。妙なところに感心した。

「あの比叡(2号)は龍田さん(2号)の死を見て何かショックでも受けたのか?」

 

私が言うとブルネイ司令も応えた。

「そうだな・・・あの娘は意外と考え込むタイプのようだから」

 

それを聞いて、ますます美保の比叡とは違うタイプだぞと思った。

私は振り返って聞いてみる。

「寛代、比叡2号の探索コードは無いか?」

 

彼女は窓辺で耳を澄ますような格好をしていたが・・・反応無さそう。首を左右に振っている。

「さっきまでは分かったけど・・・」

 

なるほど遠くなると難しいか。まあ~大海原とは違ってここは街中だもんな。技術参謀が続ける。

「ずっと探索は続けているが河べりの方角へ向かった事しか分からん」

 

私は提案する。

「手分けして探そう。とりあえず会議室に艦娘を召集してはどうかな」

 

「それで良い」

ブルネイ司令も異議は無さそうだ。

 

私は直ぐ寛代に言った。

「寛代、すぐに艦娘たちに伝達を・・・」

 

「もうやっているよ」

技術参謀が応えた。さすが素早い対応だ。

 

ブルネイ司令が技師に確認をする。

「あの比叡は数値的にはどうなんだ?安定しているのか?」

 

技師が応えた。

「そうですね・・・結局今残っている比叡と伊勢、この二人は五月雨の次くらいに数値が安定しています。その分、戦闘には不向きなのですが」

 

「へえ・・・そうなんだ」

思わず反応してしまった私。血の気の多さと試作型艦娘の寿命と何か関連があるのか?

・・・しかし艦娘にも性格とか個性があるのは興味深い。量産型といいながらこのムラ(個体差)が彼女らが単なる工業製品ではないことを示しているともいえよう。ふと見ると日向は少し微笑んでいた。きっと伊勢のことを考えているのだろうか。

 

「そうか・・・あいつは・・・」

彼女はそんなことを呟いていた。

 

<<会議室:探索作戦>>

 

早朝の会議室には美保の艦娘とブルネイの新造艦が集まった。強制ではなかったがブルネイ側は山城姉妹に加賀さん、天龍さん、最上と伊勢もいる。ほとんど揃ったな。

 

美保側も金剛に比叡、赤城さん、日向、龍田さん、夕立。また夕張さんと祥高さん、寛代に青葉さんもいる。こっちも全員いるな。

 

ブルネイ司令が作戦概要を説明する。

「早朝から申し訳ない。知っての通りブルネイの比叡が行方不明だ。恐らく龍田の死にショックを受けたものと思われる。比叡の探索は以下の要綱で行う」

 

ブルネイ司令は壁の地図を見ながら鎮守府を中心にエリアを区切り二人ずつペアで割り振っていく。なお航空機が運用できる正規空母に航空戦艦、そして最上は鎮守府本館の屋上から航空機での探索を実施する。

伊勢は自由参加だったが自ら志願したようだ。いっぽう同じ試作型でもある五月雨たち駆逐艦娘はメンバーから外された。

 

非常事態ではあるがこれだけの艦娘たちが一斉に作戦行動に出るのはめったに無いことだろう。なかなか壮観だ。

 

私は補足説明を行う。

「私とブルネイ司令で南北のエリアを周回する。発見次第近い者が現場へ急行する。それぞれ秘書艦または相当艦を補佐につける」

 

ブルネイ司令が続ける。

「午前中は演習もあるからあまり時間も労力もかけられない。短時間だが07:30でいったん捜索は打ち切る。後は状況次第だ」

 

突発事態ではあるが予定のスケジュールもこなさないといけない。鎮守府を束ねる司令の辛い立場だな。

 

「質問がなければ、すぐに作戦開始だ」

ブルネイ司令の命令に全員が敬礼をした。作戦開始だ。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第90話<探索開始>

美保とブルネイの艦娘を総動員して、比叡2号の探索作戦が開始された。果たして時間内に見つかるのか?


「チッ、お前か!」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第90話<探索開始>

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<<鎮守府本館:探索開始>>

 

艦娘たちはさっと退室するとキビキビと散らばっていく。

 

ブルネイ司令は自らの補佐艦として試作型の電を連れ鎮守府の北方面へと出発するようだ。鎮守府の北側はエリアが広いので彼は自ら軍用車のハンドルを握るらしい。さっそく大人しい電を連れて車庫のほうへ向かった。

 

私は祥高さんとペアで鎮守府の南側を担当する。しかし考えてみれば私はこの鎮守府周辺の状況が分からない。ザッと聞いた話では私が担当する南側は比較的エリアが狭いらしい。そこは路地が多いため原則的に徒歩で移動する必要があるようだ。

 

しかし不慣れな土地だ。立場上指揮官になるとはいっても初めての土地で失踪者を探すなんて・・・艦娘とは違って地図システムも持っていない私は下手したら自分自身が"失踪"しかねない。さすがに軍隊の指揮官がそれでは恥ずかしいよな。

 

随伴する祥高さんも一応重巡だから電探も持っている。地図情報も寛代から貰ったと言ってたが現場の判断をするのは指揮官だ。私がこの辺りの地理を感覚的に分かっていなければ際どい。まして私は海軍だ。地上探索は正直得意ではない。

 

・・・という長ったらしい理由をつけて私はいったん屋上に上がって鎮守府周辺の様子を見ることにした。祥高さんは特に反対もせず大人しくついて来た。ごめんね・・・君を信じないわけではなく私も可能な限り鎮守府周辺の状況は掴んでおきたいんだ・・・と内心言い訳。

 

空母系の艦娘たちは早足で鎮守府本館の階段を駆け上がっていく。私たちもその後に続いて屋上へと向かう。

 

<<鎮守府本館:屋上>>

 

艦娘たちに続いて私たちは一番後に屋上に出た。そこには空母系艦娘が揃っている。これはこれで一種の機動部隊だからな。何となく迫力がある。

 

美保には一隻しか居ない正規空母が赤城さん。そこにブルネイの加賀さんが加わって二人揃うだけでも何か非常に頼もしいものを感じる。加賀さんといえば昨夜の扶桑姉妹と日向の対立の際には彼女の一喝が効いた。それを見て彼女の性格はかなりキツイんだろうという印象を受けていた。

 

でも今朝こうやって赤城さんと二人で軽く打ち合わせをしながら大弓をつがえて探索の準備を進めている姿を見るとさすが一航戦同士だなと思わせる。レシピがあるとはいえ量産型とは思えない完成度だ加賀さん。美保にくれないかな~。

 

そんな一航戦の二人に比べるとかなり地味な印象を受ける日向と伊勢だが。日向は妖精"ハル"を伊勢に見せている。いっぽうの伊勢にも妖精が居るようで小さいのを日向に紹介している。ちょっと気になったので私は二人に近寄ってみた。

 

「チッ、お前か!」

なんだ?いきなり妖精の声がした。見ると境港で見たあいつがいた。

 

「なんだ妖精"ハル"かよ」

私は上から目線でわざとぶっきらぼうに応えた。相変わらず口が悪いな、この妖精は。

 

「悪かったな"オレ"で」

"ハル"も負けじと腕を組んで睨み返してくる。小さいのに生意気な奴。"売り言葉に買い言葉"って言うのはこういうのを言うんだろう。

 

「こら!司令になんという口を利くんだ」

やや慌てて日向がたしなめる。

 

「良いよ別に」

私は笑った。・・・そう正直言ってこういう相手が一人くらい隊員に居ても良いかなと最近は思ったりもする。艦娘すなわち異性ばかりだと変に気を遣うし。

 

「・・・」

ふと見ると伊勢の妖精がこっちを見ている。この妖精は大人しそうだな。私はその妖精に声をかけてみた。

 

「初めまして。私は美保の司令だ。よろしくな」

その妖精はやや上目遣いに私を見上げながらぺこりと頭を下げた。艦娘もいろいろだけど妖精もイロイロだな。

 

「済みません~提督ぅ。私もまだこいつと付き合いが短くて~」

伊勢が申し訳無さそうに言う。

 

「良いよ。上手に使って早く慣れてくれ」

私は応えた。

 

「了解~」

伊勢はポニーテールのリボンを揺らしながら敬礼した。何となく少し明るくなったかな?この娘も。

 

<<鎮守府本館:朝の風景>>

 

私は改めて鎮守府周辺の景色を見た。夜明け前のブルネイの町並みは透明感があってとても美しかった。向こうに王宮の建物も見える。少し先にキラキラと光る水面(みなも)がある。よく見るとそれは大河であり、あの水上集落も見える。ただ遠目にも昨夜の戦闘でかなり被害を受けた状況が確認できる。

 

こんなに美しい場所で深海棲艦との戦闘が行われたとはにわかには信じられないことだった。出来れば戦争のない平和な時分に観光でのんびり訪れたい土地だと思う。

 

早朝のブルネイは気温も低く適度に風もある。特にこの屋上に上がると見晴らしの良さと相まって感動的ですらある。

 

雲の切れ間から朝日が差し込み街がくっきりと明暗のコントラストを反映させている。

 

「わぁ~すごいなあ~」

あの最上が偵察機の準備をしながら、ふと立ち止まって感嘆の声を上げる。このボーイッシュな娘は美しい自然の景色に対する美的感性もあるようだな。

 

「ホント、キレイですね・・・」

私の後ろに居た祥高さんも感動している・・・そういえば美保に居るときから彼女とは事務的な会話しかしていなかったな。

 

「そうだね」

ちょっと振り返りつつ私も同意した。もしトラブルがなければ、このままここで景色を眺めていたいくらいだ。

 

「これより探索部隊、発進します」

大弓を持った赤城さんが朝日を浴びながらこちらを見て報告する。凛々しいな。

 

「了解」

私は軽く敬礼をして応えた。

 

やがて屋上に居た艦娘たちは一斉に探索機を発進させた。その機体は軽快なエンジン音を響かせながら次々と早朝のブルネイの大空へと飛び立っていく。

やがて昇ってきた朝日に照らされて探索機はキラキラと輝いた。それは、まるで地上から飛び立った流れ星のようにも見えた。

 

艦娘はこの時代に現れた希望の星たちなのかも知れないな・・・ふとそう思った。

 




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「みほ3ん」EX回:第91話<相変わらずバカ>

提督は探索作戦の南方面指揮官として祥高さんと共に鎮守府の外へ出る。そこで改めて彼女を意識するのだった。


「・・・何か?」

 

「いや・・・」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第91話<相変わらずバカ>

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<<鎮守府本館:朝の風景>>

 

鎮守府本館の屋上では空母の艦娘たちが探索を開始している。探索機からの無線が徐々に入り始めたがまだ特に大きな動きはないようだ。

 

「私たちも行こうか」

私は祥高さんに言った。

 

「はい」

私たちは朝日を浴びて探索を続ける艦娘たちに軽く敬礼をして再び階段へ。階下へと下りながら私は腕時計を見た。現在朝の6時過ぎか。すぐに私たちは地上階へ到着。そのまま本館から屋外へ出る。

 

鎮守府の敷地内からも周りのブルネイの街が朝日を浴びて黄色く染まっていく様子が見える。街は時間と共に少しずつ動き出している感じだ。その雰囲気を感じながら私は再び比叡2号のことを考える。あと90分で発見できるかな?

 

ただブルネイの街そのものは小さい。比叡2号だってこの辺りの地理に詳しいわけでもない。よほどの事がなければ意外と早く発見されるのではないか?そんなことを考えながら私たちは鎮守府のゲートへと向かう。

 

ゲートの詰め所に私たちが近づくと二人の衛兵が敬礼をする。作戦のことは既に伝わっているようだな。念のために私は衛兵に聞いてみた。

「比叡・・・今朝方艦娘が出て行ったのは何時ごろかな?」

 

事務所にいた衛兵が記録簿を見て答えた。

「4時過ぎくらいですね・・・何か思い詰めているような印象を受けました」

 

「ありがとう」

・・・やっぱり心配だな。

 

門のところに居たもう一人の衛兵が銃を下ろしてゲートを開けてくれる。私は念のために拳銃を持っていることを確かめそのまま徒歩で外へ出る。

 

<<ブルネイ市街:朝>>

 

そういえば祥高さんはさっきから静かだな。作戦とかになると押しが強いから私としては苦手なタイプなのだが。普段は意外と静かなようだ。彼女は大東亜戦争末期型の中では最も後期のタイプの重巡だが特に姉妹艦があるわけではない・・・あウソだ。技術参謀が祥高さんの姉妹艦になるんだっけ。

 

今まであまり意識していなかったけど祥高さんの制服は大淀さんのそれとほぼ同じデザインである。白を基調として青いアクセントが入っている。大淀さんと違うのは微妙に大人しい感じがするデザインだということ。スカートの丈も長めだしスリットも入っていない。それがまた彼女の安定感みたいなものを強調させているように思える。

 

まあ彼女が技術参謀の妹だということが分かった今では制服や本人の性格以外の血統的なものもあるのだろうなぁ~とも思う。もっとも艦娘に関して果たして人間で言うところの"血統"とか"遺伝"なんてあるのだろうか?・・・それは正直良く分からない。

 

だいたい姉妹艦とか言っても顔かたちが違いすぎるよな。そもそも技術参謀と祥高さんだって顔だけでなく性格も段違いで・・・

 

「どこから参りましょうか?」

私が妄想に耽っていたらいきなり祥高さんにカットインされて驚いた。

 

「あ、そうだね・・・」

そうは言われてもこの辺りの地理が分からないから正直どうしようもない。

 

「とりあえず正面の大通りから・・・河のほうへ直進しよう。無線が入るように気をつけながら」

苦し紛れに応える。

 

「了解です」

敢えて敬礼はせず歩きながら応える祥高さん。

執務室で見る彼女さんは屋内のせいもあって威圧感があるのだけど。こうやってアウトドアで間近に見る祥高さんは意外に小さく見える。まだまだ艦娘って分からない事だらけだなあ~。

 

「・・・何か?」

考え事をしながら彼女を凝視していたら怪しまれた。

 

「いや・・・」

相変わらずバカだな私は。こんな私でもブルネイの朝日は優しく降り注いでいた。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「みほ3ん」EX回:第92話<祥高さんも涙>

探索を続けるブルネイと美保の艦娘たち。だが提督はつい妄想に耽ってしまい祥高さんにたしなめられる。


「司令が倒れると、本当に周りが迷惑するんです!」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第92話<祥高さんも涙>

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<<ブルネイ市街:探索>>

 

ブルネイの市街も夜明けと共に徐々に賑やかになってくる。ふと見上げると時おり私たちの上空を艦娘たちの偵察機が飛んでいるのが見える。

 

「空母機動部隊だけでなく扶桑さん姉妹も偵察機を出しています。今のところ目立った発見はないようです」

祥高さんが無線を受けて逐次報告してくれる。扶桑姉妹が偵察機と聞いて昨夜の山城さんと日向のバトルを思い出してしまった。扶桑さんも山城さんも準備をすればきちんと偵察機は飛ばせるんだよね・・・。

 

そう思いながら私たちは大通りから路地へ入り緩やかな下り坂をどんどん歩いていく。恐らくこの先に河があるのだろう。小さい路地を歩いていると祥高さんが急に無線を聞き直している。もしかして比叡を発見したのだろうか?

 

「・・・そうですか直ぐに沈みましたか。分かりました。司令には私から使えておきます」

祥高さんは通信を終わった。比叡発見の知らせではないようだ。

 

彼女は少し立ち止まって私のほうを向いた。

「赤城さんの偵察機が水上集落脇の河で深海棲艦のものと思われる潜望鏡を確認しました。残念ながら敵は偵察機に直ぐ気付いたようで潜航してしまったようです」

 

「そうか・・・念のため寛代にも知らせて技術参謀に伝えてくれ」

私は祥高さんに指示を出した。

 

「了解」

すぐに彼女は連絡を取っている。

 

私はふと昨夜見たあの"茶髪の艦娘"の夢を思い出した。以前の"悪夢"であれば私はきっと思い出したくもなかっただろう。だが今はさほど嫌悪感を覚えない。なぜだろうか?その理由は良く分からない。

 

ただあの"不思議な彼女"はあの夢の中で私たちと同じように成長しその怒りや混乱といった感情も時と共に徐々に整理されているのではないか?そんな思いがした。

 

<<ブルネイ市街:お疲れ?>>

 

「・・・司令どうかされましたか?」

ふと我に返るとまた祥高さんに呼びかけられていた。なんだか最近こういうパターンが多いぞ・・・大丈夫かな?私。

 

「司令お疲れでしょうか?」

祥高さんが心配してチョッと覗き込んでくる。彼女は割りとショートヘアなんだがその髪の毛が私の顔に触れるほどの距離だった。

 

いかん、またドキッとした。

どうも艦娘は女性型だから何気ないしぐさでもいちいちどぎまぎしてしまう。私も初心(ウブ)な中高生か?・・・と呆れてしまう。

 

「いやそういう訳ではないが・・・あまりにも最近は突発的な事が立て続けに起きるものだからねえ~」

私はまた半分苦し紛れに応えた。最近ホント言い訳ばっかりしている。

 

「そこに公園がありますから少し休みましょう」

祥高さんは私の手を引いて強引に公園に引っ張り込む。この押し(引き)の強さは彼女ならではだよな。

 

「わ、分かったから・・・」

何となく日向を連想した。彼女も結構強引だったよな。

そうこうしているうちに私は公園のベンチに"強制着陸"させられた。何だろうね、この強引さは。

 

「司令は私たちの中心ですから、もっと身体をいたわって下さらないと。もし倒れたら私たちも困りますから」

祥高さんが言い訳のように話しかけてくる。

 

「ああ済まないね」

何で私が謝るんだ?言いながら自分でも良く分からない。

 

だいたい昨夜の私は変な夢は見たけどよく寝たんだ。体調が悪いわけでもない。私がちょっと妄想に耽っただけですぐに体調が悪いと決め付けられるのも不本意だよな。

 

「司令が倒れると本当に周りが迷惑するんです!」

いきなり立ち上がって強い口調に変わった彼女。いったいどうしたんだ?彼女の強引さと私の事情は関係なく判断してくる態度にさすがの私も、ちょっとムカついた。

 

「倒れるって言ったって私はそんなに・・・」

ここまで言って私はハッとした。彼女が目に涙を・・・うわぁ~それだけはやめてくれ~!

 

<<ブルネイ市街:祥高さんも涙>>

 

目に涙を溜めた彼女の姿とさっき彼女が発した「司令が倒れると周りが迷惑する」という言葉に私も思わずボロ負けした舞鶴海戦を思い出した。そうだよアレも結局、当時の舞鶴提督が倒れたから私が不慣れな指揮をして艦隊を全滅させたんだ。

 

そこまで連想すると急に"私が悪いぞ。艦娘には心から済まなかった"・・・という思いが湧いてきた。反省の気持ちが出てきた私は心を入れ替えて彼女に向き直ると素直に頭を下げた。

「申し訳ない。この通りだ・・・そうだね。ちょっと休むよ」

 

今回は真剣に詫びた。それで気が済んだのか彼女も脱力したように私のベンチの隣に腰をかけた。

「いえ・・・司令、私の方こそ出しゃばってスミマセンでした」

 

彼女も落ち着いたのか頭を下げてきた。何となくわけ有りかな?

「はい。司令の舞鶴のお話は伺っていましたが私にも似たような経験があったのでつい・・・」

 

ここで彼女は胸が詰まったのか、いったん会話を停めて何かを堪えているようだった。だがポツポツと語り始めた。

「私がかつて戦っていたとき・・・提督が戦闘中に亡くなったことがありました」

 

「えっ?」

いきなり核心的な話だな。

 

「そう提督にトラブルがあったというよりはある艦娘を庇(かば)って亡くなったんです」

あれ?艦娘を庇って?どこかで聞いたような話だが。

 

「戦闘中に指揮官がいなくなるとその部隊は大混乱に陥ります。もちろん通常はすぐに代役が立ちますがそのときは立てなかったのです」

え~っと誰の話だっけ?

 

「立つはずの代役も立てない。それほどまでに艦隊は形勢が不利でした」

やだな・・・舞鶴の海戦を思い出してしまう。

 

「その提督が庇ったのは私の姉である技術参謀です。彼は姉の夫でもありました」

あ~それそれ。その話だよ・・・って、あれ?

 

「え~~~!」

思わず叫んでしまった私。あの~祥高さんアナタのその思い出話のほうが倒れるくらいに衝撃的なんだけど。

 

その時艦娘の放った偵察機が上空を横切って行った。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「美保鎮守府:第三部」の略称です。


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「みほ3ん」EX回:第93話<姉妹の過去>

強引に公園のベンチに座らされた提督は、そこで祥高さんから技術参謀姉妹の過去を聞くようになるのだった。


「私だって、普段はボーっとしてますから」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第93話<姉妹の過去>

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<<市街地の公園:姉妹の過去>>

 

「え~~~!」

思わず叫んでしまった私。祥高さんは彼女と技術参謀の過去をポツリポツリと語り始めた。

 

「私と姉が前線に出ていた頃はまだ普通に人が乗る艦船が作戦行動を共にすることが多かったので事故もたくさん起きていました」

それは本当に初期の頃だな・・・私が学校を出てしばらくした頃かな?

 

「事故当時私も同じ作戦行動を取っていましたがその場には居合わせていなかったので詳しくは分かりません。ただ姉は妊娠しながらも無理して戦っていました」

それはかなり無茶な・・・。

 

「いえ姉はとにかく強かったのです。戦闘のセンスがあるというか。だから副官の立場でずっと戦っていました。そんなとき彼女の夫・・・当時の提督が亡くなるという事故・・・いえ事態が起きました」

そんな大きな事態なら記録に残っていそうなものだけど初耳だな。

 

「そうですね。もともと姉の結婚も非公認でしたし当時の軍部も姉とその提督を快く思っていなかったと言います」

なるほどねえ~。法整備されたのはその後だからな。

 

「はい。法整備は当時昇進したばかりの青年将校がかなり骨を折ったと言います」

で戦闘の話だけど・・・

 

「ほぼ負け戦でした。艦隊は半数以上が轟沈。恐らく提督が生き残っていてもあまりの戦果ゆえに降格か解任された可能性が高いともいわれています。彼が姉を庇ったから被害が増えたという陰口や批判もありました・・・」

分かるな~その立場。私の場合は新人だったからお咎めがなかったようなものだもんな~。

 

「亡くなった提督も艦娘の地位向上のために尽力していましたしいろいろ無理をしていたようです。そういう姿を見ているので提督にもあまり無理はして欲しくないです」

ごめん。いろんな事情があるんだな・・・。

 

「はい結局は姉も大破。何とか一命を取り留めたような酷い状況で・・・上からは引退しろという話(勧告)もあったようですけど前線には出ないという条件で中央に留まって艦娘の地位向上のためにあの青年将校と共にかなり努力したようです・・・いえ今でも"戦って"います」

なるほどあの青年将校も只者ではなかったのか。

 

「そうですね・・・明日もこちらに来るようですし」

あ、そうだったね・・・何となく親近感が湧くようになったな。

 

「姉はその頃から寛代を私に預けて単身で頑張っています」

しかしこんなに饒舌(じょうぜつ)な祥高さんだとは思わなかった。内面はとても熱い人(艦娘)だったんだな。

いやあの技術参謀もそうだし思い出せば青年将校だって十分熱い。ぬるま湯みたいな自分がちょっと恥ずかしくなった。

 

「いえそんなことはないです。私だって普段はボーっとしてますから」

いやそこは信じられないんですけど。

 

そこそこの時間彼女の話を聞いていたがまだ比叡2号を発見したという連絡は入らない。

「そろそろ動こうか」

 

「はい」

私たちは立ち上がった。そのとき祥高さんは無線を受信したようだ。

 

「はい秘書艦です・・・発見しましたか?場所は・・・わかりました。すぐに向かいます」

ついに発見したようだな。

 

「司令見つけました。ここから遠くありません。川べりです」

祥高さんは方向を示した。

 

「分かった。すぐに向かおう」

私たちは公園を出て発見場所へ急行した。

 




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「みほ3ん」EX回:第94話<確保>

比叡2号を探していた提督は、ついに彼女を発見して安堵した。


「サンキュー・ベリマッチ!」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第94話<確保>

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<<川べり:発見>>

 

私たちが公園を出て5分も立たないうちに川べりの別の公園があった。

 

「あ、あそこに・・・」

走りながら祥高さんが指差した方向に比叡2号は居た。最悪の事態も想定していた私はホッとした。

もっとも艦娘の場合は入水自殺は出来ないのが不悶でもあるが。

 

「え?」

なぜか祥高さんが敏感に反応する。

 

「いや・・・」

私は誤魔化した。不謹慎だった。

 

よく見ると比叡2号の横に長身のはっきりした顔立ちの男性が・・・

あれ?何処かで見たようなというか昨日の"王宮男性"のSPじゃないか?

彼とはあまり言葉を交わしていないが・・・片言の英語は通じるかな?

 

私は彼の傍まで行くと敬礼しながら英語で話しかけた。

『昨日はアリガトウございます・・・日本海軍の美保鎮守府提督です』

 

彼は比叡2号をなだめていたがこちらを向いて言った。

『おお助かりました。この艦娘英語はダメなんですね。同じ型のもう一人はナチュラルに話されていたのでてっきり大丈夫かと・・・』

 

私は思わず詫びた。

『申し訳ない。この艦娘・・・比叡は日本生まれなので・・・あいや、この娘はブルネイで出生していますが・・・』

 

くそう英語だと自分で何を言っているのか訳が分からなくなってくる。

だが彼はにこやかに微笑んだ。

『事情は分かりますよ。とにかくあなたたちが来て助かりました。とても深刻な顔をしていたので心配して・・・言葉は通じないのに』

 

『私たちもこの娘を探していて・・・本当に助かりました』

あれ?祥高さんがカットイン。貴女も英語話せるんだ。私の驚きは無視して彼女は比叡2号に日本語で話しかけた。

 

「比叡さん・・・戻りましょう」

祥高さんが話しかける。抵抗するかと思った比叡2号だが意外にも祥高さんの顔を見ると急に目をウルウルさせて祥高さんに飛びついた。

 

私はその姿を見て美保の比叡を連想した。そしてこの娘はもう大丈夫だなと思った。

 

それは、SPの男性も同様に感じたようだ。

『大丈夫そうですね・・・安心しました』

そう言って彼は立ち上がった。よく見ると彼はトレーニングウエアを着てランニングをしていたようだった。

 

私は改めて礼を言って詫びた。

『本当に感謝します。ご迷惑をお掛けして申し訳ない』

 

彼は首を振って応えた。

『いえいえこれも何かの縁でしょう・・・私で良かったとも言えますし』

 

彼は意味ありげな言葉を使った。そうだよな。もしこれが変な人に捕まっていたらそもそも艦娘なんて軍事機密だから。まずかった。

オマケに比叡を鎮守府から出してしまったことも今後は注意すべき事項だ。

 

『有り難うございました』

比叡2号をなだめながら祥高さんが頭を下げた。それを横目で見ながら、私も慌てて頭を下げた。

 

『あ、有り難うございました』

いろんな意味で確かに彼が確保してくれて良かったといえる。

 

そう思っていると、彼は微笑みながら付け加えた。

『わが国と貴国の今後の関係を象徴しているのかも知れませんし・・・では私はこれで失礼します。また今日お会いするでしょうし』

 

あそうか。今日は演習だよな。そう思っていると彼は手を振りながら爽やかに立ち去った。

そのとき、祥高さんにしがみついていた比叡2号が、突然顔を上げて・・・涙でくしゃくしゃになってはいたが彼の方を向いた。

 

「サンキュー・ベリマッチ!」

いきなり大声で手を振ってお礼を言ったのだ。彼は振り返って笑顔で手を振ってくれた。

 

なんだかあまりにも爽やかな情景で苦笑してしまった。

 

 

 




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「みほ3ん」EX回:第95話<お説教>

祥高さんに"お説教"されて、シュンとなる比叡2号だったが、祥高さんが意外にも・・・。



「なにか?」

「えっ・・・いや」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第95話<お説教>

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<<川べり:お説教>>

 

"王宮男性"のSPを見送ったあと祥高さんは"さて"と言う感じで比叡2号に向き直った。

 

あ・・・これは説教が始まるかなと思った。それは比叡2号も感じたのだろう。今までのの明るい笑顔が消えてシュンとした表情に変わった。

 

祥高さんは腰に手を当てて静かに比叡2号に話しかける。

「比叡さん、どれだけ大変なことをしたのか分かりますよね」

 

うむ。祥高さんの表情はいつも通り。話し方も普通なんだが傍から見ていても静かな威圧感がある。十分に怖い。いやこれは私も避けたいな。

「はい・・・ごめんなさい」

 

比叡2号は素直に頭を下げている。それを見て祥高さんもそれ以上は

何も言えなくなったようだ。

「・・・本当に・・・ねえ~」

 

実は祥高さん比叡2号が少しは反発すると思ったのだろうか?肩透かしを食らったような困惑したような表情を浮かべている。それを見て私も思わず苦笑してしまった。

 

しかしこの比叡2号は素直だな。美保の比叡だったら絶対に反発するか他人事のように呆けているかどっちかだな。試作型とはいえ量産型の艦娘もオリジナルに劣らず奥が深いと思う。

 

そのとき祥高さんが無線を受信したらしい。彼女は"あっ!"と何かに気付いて慌てた表情をした。

「ごめんなさい・・・全艦娘に告知。比叡2号発見、繰り返す。比叡2号発見。現在探索中の機体および艦娘部隊は直ちに撤収せよ」

 

いつもなら自分がやるべきことをウッカリすっ飛ばしてしまったようだ。今度は祥高さんかなり慌てている。あはは。いつもは沈着冷静な彼女が妙に慌てている様はやや滑稽だが。

思わず私は彼女の慌てぶりに腕を組んでニヤニヤしてしまった。だがそれに気づいた祥高さんちょっと不機嫌そうな顔をした・・・あヤバイ。

 

「なにか?」

今度も彼女の表情はいつも通りなんだがその口調には鋭いものがある。

 

「えっ・・・いや」

蛇に睨まれたカエルとはこういうのを言うのだろう。一瞬そこに技術参謀が立っているような気持ちがした。いやマジで怖いです。

 

"別に貴女をからかうつもりじゃありませんから"・・・そう思った瞬間彼女の表情が少し変わってイライラも収まったようだ。いやはや冷や汗が出た。比叡2号はキョトンとしているし。

 

祥高さんはやや憮然として報告を始める。

「ブルネイの司令からも了承の連絡が入りました。艦娘たちは撤収を開始しています」

 

「ああ分かった。了解だ」

私は慌てて敬礼した。やっぱり祥高さんって技術参謀の妹なんだよな~と改めて痛感した。こういう凄みがあるからコネだけでなくても鎮守府の提督代理も務まるんだろうな~と妙に感心した。

 

「あ・・・」

彼女はここでまた何かを受信したようだ。しばらく誰かとやり取りをしていた祥高さん。

 

やがて通信を終わると私に報告する。

「寛代から入電、あの女性秘書官が今から鎮守府に向かうそうで私たちが今いるこの公園のそばの大通りを通過するようです。良かったら乗せますよとのことです。どうされますか?」

 

「そうだな・・・大通りまでは10分くらいで戻れるかな?」

 

一瞬周りの状況を確認していた祥高さん、恐らく計算したのだろう。ちょっと間をおいてから応えた。

「そうですね・・・10分あれば十分です」

 

「よしでは彼女の言葉に甘えさせてもらおう。演習もあるから僅かでも時間が惜しい」

 

「了解」

敬礼した祥高さん返信を開始する。思うにあの女性秘書官、比叡2号発見の知らせを受けて何か情報収集をしたいのだろうな。もちろんブルネイ軍と我々日本軍は友軍関係にあるからそれは当然の行為だろう。あの秘書官も判断が速い。さすがだ。

 

その間私はベンチに座っている比叡2号に近寄って改めて声をかけた。

 




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「みほ3ん」EX回:第96話<ブルネイの"比叡">

提督は比叡2号が"脱走"した理由を問いただすが、彼女が泣き出してしまい、祥高さんに"イジメ"と勘違いされる。


「何、イジメているんですか!」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第96話<ブルネイの"比叡">

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<<川べり:泣かせた?>>

 

その間私はベンチに座っている比叡2号に近寄って改めて声をかけた。

「大丈夫だったか?」

 

彼女はちょっとビクッとした感じだったがまた頭を下げた。

「す、済みませんでした!」

 

「心配したよ・・・やっぱり龍田さんが亡くなったことが原因か?」

正直この質問はどうかとも思ったが時間もないし単刀直入に聞いた。

 

「ウッ・・・」

案の定彼女は詰まったような表情を見せた。やっぱりこの質問はまずかったかな?と思う間もなくまたボロボロと涙が流れる。

 

うわ!女性の涙には弱い。しかしこの比叡2号は美保の比叡と違ってメンタル面が弱いのか情に脆(もろ)いのか?

 

「ちょっ・・・司令!何イジメているんですか!」

すぐに祥高さんが振り返って、突っ込みを入れてくる。

 

「あ、いやいやいやぁ~決してそんなつもりではない!」

急に突っ込まれて舌がもつれた。でもさっきの件もあり私なりに祥高さんにはいつもより強い口調で反論したつもりだったが。やっぱり妙にドギマギする弱腰の私。ダメだなあ~弱い。

 

その間にも比叡2号は滂沱(ぼうだ)の涙を流しているし。すごい形相で迫り来る祥高さんにさらに腰が砕ける私。だが彼女が迫ると同時に比叡2号は叫んだ。

「私、王宮の人たちを護りきれなくて龍田さんに庇ってもらって・・・それで龍田さんあんなんなっちゃって・・・何だか怖くなって」

 

ときどきしゃくり上げながらも彼女は言い切った。それを聞いて祥高さんも私へ突っ込もうとしていた勢いが弱まった。それを聞いて安堵した私は微笑みながら彼女の肩に手を置いた。

「大丈夫だよ比叡2号。龍田2号は決して昨日の戦闘が原因で死んだわけじゃないんだ。お前だって昨日は十分に働いてくれたよ。もしそうでなかったらさっきの王宮SPの彼がお前を助けてくれたと思うか?」

 

ボロボロと涙を流して震えている比叡2号はちょっと首をかしげた。

「そ、そうなんですか?」

 

<<川べり:ブルネイの"比叡">>

 

すぐに祥高さんも私の隣に来て言った。

「そうよ大丈夫。あなたは良くやってくれたわ。あの女性秘書官だって貴方たちのことを褒めていたじゃない」

 

「比叡2号・・・いや比叡。もうお前は立派なブルネイの"比叡"なんだよ」

正直後半の私の言葉は半分自分でも訳が分からなかったが比叡2号は明るい顔になって立ち上がった。

 

「はい。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした!比叡2号はこれからブルネイの比叡として精一杯生きて頑張ります!」

そう言いながら彼女は敬礼した。朝日がその頭の黄金色のパーツをキラキラと反射させている。それはまるで本物の王冠を被っているかのような雰囲気をかもし出している。この娘はこの地にあってこそ輝くのかも知れないな。

 

そのとき祥高さんが無線を受けた。

「寛代からです。女性秘書官がそろそろ私たちの近くに到着するようです」

 

「ああ、待たせたら悪いから早く行こう」

私は2人を促した。私たちは川べりから緩やかに傾斜して坂道になっている小路を早足で駆け上がり幹線道路へと向かった。

 

ブルネイの日差しは、徐々に強さを増していた。今日もいい天候に恵まれそうだな。

 




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「みほ3ん」EX回:第97話<信頼と笑顔>

提督たちは、たまたま立ち寄ったと称するブルネイの女性秘書官の軍用車に便乗して、ブルネイ泊地鎮守府へと戻ったが・・・。


『もちろん・・・ほかの艦娘の皆さんも素敵ですよ』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第97話<信頼と笑顔>

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<<大通り:ブルネイの軍用車>>

 

大通りに出ると、さすがに人や車の往来がある。ブルネイの場合は、ほとんどが観光客だ。祥高さんにしても、比叡2号も、日本だったら目立って仕方が無い服装だが、幸い、ブルネイのような土地では、うまく溶け込んでくれるから助かる。

 

それを言ったら私の海軍の制服だって、全身真っ白なんて、日本だったら目立つよな。もっとも、美保鎮守府のある境港に関しては、意外と溶け込む。あそこは港町だから、海洋関係の人間は、しっくり来るんだ。

 

そんなことを考えていたら、すぐにブルネイの軍用車がやってきた。女性秘書官は今日、オープンな軍用車なんだな~と思った。私たちの目の前で停車した軍用車から、あの女性秘書官が出てきて挨拶をする。当然、英語である。

『おはよう御座います。こちら方面に外出しておられると伺いましたので、わずかな距離ですが、お迎えに上がりました』

 

そうは言うが、当然、単なる迎えではないだろう。この女性が、ブルネイ政府の中で、どの辺りに位置しているのかは不明だが、明らかに、比叡2号脱走のことを知ってすぐにやって来たに違いない。知らせたのは、あのSPの男性だろうか?小国とはいえ、ブルネイもしっかりした中枢機関で構成されているようだな。

 

私は何食わぬ顔で、お礼を言った。

『助かります。よろしくお願いします』

 

美人秘書官は言った。

『私は後ろに座りますので・・・提督と秘書の方、ご同席願えますか?』

 

『わかりました』

祥高さんが応える。日本に比べれば、さほど交通量は多くないが、私たちは手早く軍用車に乗り込んだ。比叡2号は、助手席。運転するのは、恐らくブルネイ政府関係者のスタッフだろう。軽く会釈をしてきた。

 

<<軍用車:信頼と笑顔>>

 

すぐに軍用車は出発する。秘書官は続けた。

『短時間ですので、簡単に報告します。私たちの海軍も今朝、領海内で深海棲艦を確認しました。いまのところ、相手も敵対行動は取っていません。ただ、今日の演習は、彼らに監視されるか、最悪、攻撃を受ける可能性があります』

 

『なるほど・・・』

少し考えて、私は祥高さんに言った。

 

『祥高さん、寛代に言って、技術参謀とブルネイ司令にも伝えてくれ』

 

『了解』

私の命令を受けて、祥高さんは直ぐに、無線で連絡をする。常に連絡が取れるというのは、艦娘の便利なところだと常々思う。

 

『あと・・・』

もう間もなく鎮守府に到着する距離に来たとき、女性秘書官は付け加えた。

 

『比叡さんも、いろいろあったと伺っています。そちらの状況も、差しさわりのない範囲で、私たちにも共有して頂けると助かります』

急に核心的な内容になったな。そこまで、信頼されたとみて、良いのだろうか?

 

私は応えた。

『それは、今後の我が国との軍事協力を見越して、と・・・理解して宜しいのでしょうか?』

 

女性秘書官は、微笑んで応えた。

『それは否定しません。敢えて、正直に申し上げますと、王宮関係者・・・私たちの国の王子と、あのSPの彼が、とても比叡さんのことを、心配していたのです。・・・分かりますね?この事実が意味する内容は』

 

『はい。光栄です』

私は笑顔で返した。後姿で顔は見えないが、助手席に座っている比叡2号は、きっとわけが分からずポカンとしていることだろう。

 

ここまで信頼され、また心配されるとは・・・。比叡2号、いや、ここブルネイの艦娘たちは、なんて幸せなんだろう。

 

私の思いを察したのか、女性秘書官は付け加えた。

『もちろん昨夜、先陣を切って渡河した金剛さんや、ほかの艦娘の皆さんも素敵ですよ』

 

そう言って笑う彼女の笑顔は、なんとも美しかった。裏表がない、日本人には見られない、とても"自然"な笑顔だった。

 

ただ、この秘書官は、どことな~く祥高さんに近い感じもする。要するに、美人なんだけど、とても"出来る"タイプだ。

 

私のような凡人だと、近寄りがたい雰囲気があって結局、憧れだけで終わってしまいそうなんだよな・・・まあ、それが普通だろう。

 

そう思っていたら、気のせいか、隣に座っていた祥高さんが、私のわき腹を小突いたような気がした・・・。

ただ、あまり強くなかったのと、ちょうど軍用車が揺れたので、結局、どっちなのか分からなかった。祥高さんも、別にそれ以上は突っ込んでは来なかったので、彼女の真意は分からずじまいだが。

 

私は何気なく、彼女のほうを見た。特に変わった雰囲気はない。気のせいかな?

 

やがて、ブルネイ泊地の鎮守府ゲートが見えてきた。既に、政府や軍関係者が到着しているようで、少し車の列が出来ていた。

 

私は何となく、未来のブルネイの"お祭り"を連想してしまった・・・同じイベントだもんな。

 




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「みほ3ん」EX回:第98話<艦娘たちの絆>

無事に比叡2号と提督は、ブルネイの鎮守府へと帰還した。そこでは艦娘たちが総出で出迎えていた。


「良いものですね、艦娘たちの絆」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第98話<艦娘たちの絆>

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<<鎮守府入口:艦娘たちの絆>>

 

私たちはブルネイ泊地の鎮守府ゲートの車列の最後尾につけた。すぐに、衛兵が駆け寄ってきたが、ブルネイ政府関係の車だと悟ると、さっと敬礼をした。女性秘書官と私たちは、その場でいったん下車した。

 

彼女は、英語で言った。

『今日の演習が、滞りなく行われるよう、祈っています』

 

『ありがとうございます。精一杯、取り組ませて頂きます』

私も改めて敬礼しながら応えた。気付くと、祥高さんと、比叡2号も敬礼している。女性秘書官も、ピシッと敬礼をした。板についているな、さすがだ。

 

私たちは徒歩でゲートに向かい、チェックをした。ふと見ると、ゲート内の鎮守府本館前の広場には、他の艦娘たちが、比叡2号を待っていた。そこには、ブルネイ側の山城姉妹だけでなく、美保側の金剛やオリジナル比叡、日向や伊勢もいた。私は内心、"お前たち、演習準備は良いのか?"と思った。

 

しかし彼らの後ろには、あの技術参謀も立っていた。それを見て、私は、"ああ、これが艦娘たちの絆なのかな?"と思わざるを得なかった。比叡2号は、すぐに金剛や、美保の比叡たちに包まれた。

 

やはり金剛が、先陣を切って、比叡2号の頬に手を当てて、確認するようなしぐさをしている。

「Oh~、ダイジョウブね?」

 

その隣は、美保の比叡。

「心配しましたよ!」

 

「ごめんさい・・・」

比叡2号は、申し訳無さそうに頭を下げるが、安堵したような表情だった。

 

その周りには、ブルネイや美保の艦娘たちがいる。昨日は、いがみ合っていた山城と日向も、何事も無かったように同じ場にいる。それは、ホッとする光景であった。もっとも、この二人に関しては、また演習とかになれば、対立するかもしれないけど。

 

とはいえ、この場に集まったほとんどの艦娘たちにとっては、量産型や試作型、あるいはオリジナルといった区別はないのだろう。ただ純粋に"艦娘"というだけで、すべての壁がなくなるように感じた。

 

その関係については、私ごときが口をはさむものではないとも思う。いや、むしろ私自身が鎮守府の提督として、もっと積極的に彼女たちの輪の中に、入っていけるように切磋琢磨すべきだろう。

 

正直、女性(異性)は苦手なのだが、それを越えるべき使命は感じた。

 

<<鎮守府入口:始動>>

 

「良いものですね、艦娘たちの絆」

まるで、私の心中を察するかのように、祥高さんは私の隣で呟く。

 

「そうだな」

そういいながら、ふと見ると、ブルネイ司令も出てきている。彼の姿を見た技術参謀は、手を叩いて注意を促す。

 

「よし、もうそれくらいで良いだろう。知っての通り今日は演習だ。すぐに準備に取り掛かれ!」

 

『はい!』

艦娘たちは、一糸乱れぬ・・・とはいかなかったが、全員がその場で敬礼をした。そして、すぐに演習準備の為に、各自が散らばっていく。

 

ブルネイ司令が私の隣へ来た。

「いろいろ心配をかけてすまなかったな」

 

「いや、慣れているから気にしていないよ」

私は半分本気、半分冗談で応えた。

 

「フッ、お前も艦娘に揉まれて、少しは強くなったか」

彼は笑った。私も笑った。ただ、彼の言葉を聞いて改めて、そうだな、私が艦娘たちと出会い、美保鎮守府へ着任したことは、いろいろな意味があるのかも知れないなと、思わざるを得なかった。

 

少し風が出てきたようで、広場にある掲揚台の日本とブルネイの国旗が、朝の風をうけてバタバタとはためいていた。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「みほ3ん」EX回:第99話<未来へ>

ブルネイ司令と未来について語り合う提督。多くの艦娘で溢れる鎮守府・・・それは、実現できる未来なのだ。



「いずれは200名を越える艦娘たちで・・・」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第99話<未来へ>

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<<鎮守府入口:未来へ>>

 

ブルネイ司令は続けた。

「比叡2号が意外に早く見つかったからな。そういえば言い忘れていたが、食事は各自で時間調整して取ってくれ。演習は10時から。30分前集合として、それまでは食堂も開けておくから、美保の艦娘たちにも利用してもらってくれ」

 

「了解だ」

私が応えると、彼はちょっと周りを気にしながら、声を低めた。

 

「あの女性秘書官、何か言ってたか?」

やっぱり、気になるよな。

 

「大丈夫だ。むしろ、我々のことを心配してくれていた」

私が答えると、彼はホッとしたような表情に変わった。

 

「そうか~。いや、朝いちからブルネイの政府や軍、警察関係者まで来るし。おまけに本土からは連合艦隊司令部や情報部とか、陸軍省の連中まで来るんだ。正直、いろいろ気を遣うんでねえ~。あの秘書官は何言ったかって、気になってたんだ」

 

「そうか、お前も大変だよな~」

私はそういいながら、鎮守府内を見回した。

 

「ここは美保よりキャパが大きい。いずれは200名を越える艦娘たちで溢れ返る時代も来るんだろうな・・・」

思わず私は、遠い目(未来の目)をしながら、呟いた。私の傍に立っている祥高さんも何気にうなづいている。そうだよ、ここには"未来"があるんだ。希望の地、そして約束の地、ブルネイだ。

 

ブルネイ司令も、それを聞いてまんざらでもないようだ。

「そうだな・・・オレも、そうなることを願っているよ。もっとも、そうなるまで俺がここに居るかどうかは分からんがな」

 

彼の言葉を受けて、私も返した。

「それはお互い様だな。司令官の位置なんて、上からの一言でどうにでもなる。一般兵士よりも、危うい立場だよな」

 

私たちは、お互いに笑い合った。

 

<<鎮守府入口:準備状況>>

 

「じゃあ、オレも接待やプレスの応対があるから、あとは演習会場で会おう」

 

「オウ!」

そう言いながら私たちは、敬礼をして別れた。彼の後姿を見送りながら、私は祥高さんを振り返って言った。

 

「美保の艦娘たちの準備状況は、どうかな?」

 

祥高さんは、メモ帳を取り出して確認している。

「全員、順調なようです。技術参謀も、ブルネイと私たちの両方の面倒を見て下さっていますし」

 

「そうか、それなら安心だな」

 

「特にトラブルもないようです。寛代ちゃんも、ずっと技術参謀に付いているようなので何かあれば、直ぐに連絡が入るでしょう」

 

「朝食の件も、伝わっているかな?」

 

「はい。金剛さんと日向さんで二班に別れていますから、それぞれ調整しながら摂るように連絡しています」

 

それを聞いて、私は呟いた。

「すべて・・・順調か」

 

あの女性秘書官が話していた、深海棲艦の動きは気になるが、こればっかりは臨機応変に対処するしかない。

 

「どうされますか?司令。朝食を摂りますか?」

祥高さんが確認してきた。

 

「そうだな・・・特に問題がないようなら、そうしようか」

 

「了解」

私たちは、食堂へと向かった。

ブルネイの陽射しは、南国らしい強さを増していた。いよいよ今日は、演習だ。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第三部」の略称です。


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「みほ3ん」EX回:第100話<改めて美保とは>

提督は秘書艦と共に、朝食を取るために食堂へ向かう。その道すがら、美保や先達、艦娘に想いを馳せる。


”人にも、艦娘にも、事情はある。”

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第100話<改めて美保とは>

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<<本館内廊下:改めて美保とは>>

 

私と祥高さんは廊下を並んで歩きながら、食堂へと向かっている。窓から入る朝日は、まぶしいと言うか、南国特有の強さがある。当たり前の話だが、この日差しは未来も現在も、まったく変わっていない。

 

ブルネイの鎮守府は以前(未来)にも感じたのだが、とにかくすべてがキングサイズだ。もっとも比較する基準が私のいる美保鎮守府だと言うのが、そもそも違っているのだろうけど、ここではすべてが開放的でノビノビして、うらやましく思う。

 

だがそれは、あくまで個人的な感想だ。それが即、不平や不満につながるのではない。むしろ山陰と言う中途半端な土地に、後付的に開設された鎮守府。そこが艦娘という特殊部隊を中心に組織され量産化という特命を帯びている特殊事情を鑑みれば、美保のコンパクトさは必然性があると理解できる。

 

だが正直、着任当初の私は何も分かっていなかった。すべて五里霧中で手探りだった。

 

今回のブルネイへの演習と、それに先駆け突発的に発生した"未来旅行"は、結果的に私の美保鎮守府への理解を深めてくれた。

 

美保鎮守府を設営するまでの人々の苦労。そこに関わる艦娘たちの想い。それらが、いかに凝縮された鎮守府であったか?

 

およそ軍人に不向きな私が、この特殊な鎮守府へ着任したことも、何か計り知れない因縁を感じる。地元でもあるし。

 

だが私は決して優秀な軍人ではない。艦娘の心を掴むことは、女性とまったく縁遠かった私には一生涯、解決出来ない問題かもしれないし。

 

それでもお互いが軍人ゆえ、艦娘たちも必死に支えてくれる。その使命感と志に対しては私も命がけ応えていきたい。

 

指揮官としては不足だらけだが一人の人間として、そこは引き下がるつもりはない。それが一蓮托生だ。

 

<<本館内廊下:一蓮托生と事情>>

 

私はふと技術参謀の夫(提督)について想いを馳せる。恐らく彼も同じような気持ちだったに違いない。まして彼の時代は、まだ艦娘に対する認知も不十分な上に環境も整っていなかった。

 

一蓮托生……そして非合法とはいえ妻となった技術参謀(艦娘)を護るため自ら犠牲になった彼の後姿。何も分からない私にとって彼の行為は賞賛こそすれ、とても真似のできるものではない。

 

だが彼の気持ちは何となく分かる。そういう背景を考えれば、あの技術参謀の、どこか日本刀で切り付けられるような研ぎ澄まされた鋭利な感覚は理解できるのだ。その娘、寛代が美保にいることも、そして、妹である秘書艦、祥高さんも。

 

人にも艦娘にも、事情はある。

 

そこまで考えたら、”あいつ”を思い出した。最近も夢に見た、あの"茶髪の艦娘"こと”深海棲艦(大井・仮)”だ。

 

最近の私は、しつこく夢に出て来る"茶髪の艦娘"は、大井に間違いないだろうと思っている。"茶髪の艦娘"なりに私に対する恨みもあるだろう。そして僚艦を護れなかった責任感で今も苦しんでいると思う。

 

だが最近、徐々に"茶髪の艦娘"の印象が変わってきた。それはちょうど私が美保に着任した時期と一致する。また私自身が艦娘に対する理解が深まるごとに、"茶髪の艦娘"の印象も、変わってきている。

 

夢の中の"茶髪の艦娘"が大井である可能性は高い。しかしそれが何度も美保にやってきた現実の”深海棲艦(大井・仮)”と同じなのか?正直その確信はない。

 

だが、夏祭りの件もあるし、もしかしたら……?という想いは拭えない。

 

「そろそろ食堂です」

祥高さんの言葉で、私は現実に引き戻された。

 

「ああ」

私は応えた。祥高さんは、少し微笑んでいた。

 




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「みほ3ん」EX回:第101話<秘書艦の話>

ブルネイの食堂に着いた提督たち。そこで秘書艦、祥高さんが自分のことをポツポツと話し始める。


「姉が……ああいう人ですから」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第101話<秘書艦の話>

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<<食堂:混雑>>

 

食堂は結構、混雑していた。入場許可証をつけた外部の人間も多い。今日は、視察も来るからな。ブルネイだけでも政府関係者や、軍、警察関係者。わが国からは、連合艦隊司令部やら情報部、陸軍や空軍まで来るらしい。あとはマスコミ関係だな。

 

でも、こういう雰囲気は久しぶりだ。未来のブルネイでは完全に、お祭りだったが、今回も一種のお祭りだ。さすがに、ここまで大規模なものになると、美保のような地方の小規模な鎮守府では、なかなか味わえない。

 

とはいえ私が美保に着任してから、まだそれほど経っていない。それでも何年も過ぎたような気持ちになる。やはりそれは、あの艦娘たちの成せるわざなのだろう。

 

ふと見ると、電や叢雲、漣たちが配膳している。こういう細々した作業は駆逐艦は得意だ。

私は祥高さんとセルフカウンターから食事を選び、席を探していたら、電が近寄ってきた。

「こちらがあいています。案内するのです」

 

「ああ、ありがとう」

この娘は、やっぱり電だな。私たちは、窓辺の空いている席に案内された。そこは、指揮官専用のエリアらしく、左右には勲章をぶら下げたブルネイの軍人や警察関係者が座っていた。私たちは彼らに軽く会釈をして着席した。

 

「こういう雰囲気は久しぶりだよ。ここは都会だし、今日はイベントだからね」

私は祥高さんに話しかけた。彼女は微笑んでいたが、どこか上の空のような雰囲気があった。何かあったのだろうか?

そんな雰囲気もあって、私たちはしばらく、無言で食事を続けた。私はあまり口数は多くないが、それでも上官と部下が二人で向かい合っているのに無言というのも妙だ。私は何か、話題はないかと考えていた。

 

<<食堂:秘書艦の話>>

 

でも、ちょっとしてから祥高さんが、思い詰めたような表情で切り出した。

「司令は信用して良いと思いますので、今日はお話しておきます」

 

「はぁ?」

私は心臓がドキドキした。だいたい、この人は突然、凄いことを言うタイプだよな。何とかして欲しいけど。

 

私は反撃も込めて、冗談めかして言った。

「なんだい?軍事機密じゃないだろうね」

 

だが彼女は、ほとんど表情を変えずに続ける。

「いえ……申し訳ありませんが、私の個人的な内容です」

 

「ほお」

こういう場合は、どういう相槌を打つんだろうな。

 

「司令とは今後も一致して敵と戦うべきだと思いますし、ある程度、私の生い立ちというか、素性を知って頂いたほうが、よろしいかと思いますので」

 

「まあ、そうだね。一蓮托生って奴だ。でもそれは、私なんかに話しても良いのかな?」

 

「はい。姉は直感で司令を選びましたが、申し訳ありません。私はずっと司令の様子を見させていただきました。そして、司令は指揮官としても、また人間としても信頼できる御方だと思いましたので」

 

「それは有り難いね」

 

「あの人見知りをする寛代も、司令には懐いています。また、司令のご両親も立派な軍人の家庭。まったく問題ないです」

 

「相変わらず慎重なんだね」

 

「姉が……ああいう人ですから」

それを聞いて私は苦笑した。

 

「これから話す内容は、私と姉しか知りません。個人的な内容ですが軍事機密にかかわる部分もある可能性が御座いますので、出来れば……」

 

「分かっている。秘密は守るよ」

私の言葉に、彼女の顔に初めて笑みが浮かんだ。その安堵の表情とも取れる変化に、私はなぜか、あの"茶髪の艦娘"を連想したのだった。まさかね。

 




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「みほ3ん」EX回:第102話<秘書艦の告白>

秘書艦の告白で、提督は朝食どころではなくなってしまった。


「はい……姉以外ですと、司令が初めてす」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第102話<秘書艦の告白>

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私の言葉に笑みを浮かべた祥高さんだった。彼女の笑顔を見るのは別に、今が初めてではない。しかし思い起こせば確かに今までの笑顔には、ちょっと不自然な感じがあったかも知れない。

 

だからなのか?今見る彼女の笑顔は本当に”笑って”いた。そう思った瞬間、あの"茶髪の艦娘"を連想したのだった。

 

<<食堂:秘書艦と深海棲艦>>

 

私の思いを察したかのように、彼女は語り始めた。

「あの深海棲艦(大井・仮)のことを思われていますか?」

 

図星である。彼女の感度の高さは相変わらずだと思いながら私は謝った。

「ああ、済まないね」

 

秘書艦を見て敵を連想するとは、我ながら恥ずかしいと思ったのだ。ところが彼女は、なぜか軽くうなづいていた。

「そう思われても不思議ではありません。私がそうでしたから」

 

一瞬その言葉の意味が分からなかった。”私がそう”という言葉の意味が分からない。だが彼女は、私の疑問にもすぐ答えてくれた。

「分かりませんよね。済みません、言葉が足りませんでした。私は深海棲艦でした」

 

「ごほっ!ごほっ!」

むせた。思わず珈琲を吹いた。相変わらずの奇襲攻撃だ。食べかけの朝食が一部、珈琲で被弾した。

しかし、どうしてこの人は、こう突発的なんだろうな~?

 

え……?しかし考えてみると、もし彼女がそうだったとすると、技術参謀は姉妹では……ないのか?

 

「いえ、参謀は実の姉です」

彼女は補足した。

 

「姉の夫……義兄でもある提督が亡くなった海戦で、私も沈んだのです」

 

「うぐっ」

さっきから爆弾発言の連打で、もはや、まともに食事が出来ない。私は慌てて水を飲みながら、もう食事を続けるのは止めることにした。

祥高さんは、私の悪戦苦闘ぶりは、まったく気にせずに淡々と語り続けている。ただ、その凄まじい経験が、今の彼女を形作っているのだと言うことは、いやと言うほど理解できた。

 

<<食堂:告白>>

 

「しかし……」

私はハンケチで口を拭いながら応えた。

 

「提督も倒れ、君も沈み、技術参謀も危なかったと言うのは、よほど凄まじい海戦だったのだな」

 

「はい。恐らく義兄の戦死以外の戦闘記録は、軍の公式記録文書にも残っているはずです。その後の海軍の戦術を変更させる、一つのきっかけになったとも言われる特筆すべき激戦でした」

ポツポツと語る祥高さん。その語り部のような口ぶりが逆に戦闘の壮絶さを連想させて思わず鳥肌が立った。

 

「私は沈んでから、気がつくと深海棲艦の巣のような場所へ行きました。周りは恐らく僚艦と思われる、もともと艦娘だったかのような深海棲艦で満ちていました」

うう不気味だ、想像したくないな。思わず私の舞鶴沖を思い出す。

 

「そこでは、指導者のような深海棲艦がいて、しきりに我々帝国海軍に対する敵愾心を鼓舞していました。特に私たち艦娘が、どれだけこき使われ、搾取されているか?そこから人類全体への恨みを煽っていました」

まるで、どこかの独裁国家みたいだな。

 

「現実、彼らと手を組もうとする人間の独裁国家もあると聞いたことがあります。ただ……」

ここで、初めて祥高さんは言葉を詰まらせた。泣くか?と思わせたが、彼女は強かった。そのまま話を続けた。

 

「私は、彼らの主張する気持ちも分かるけど、恨みだけでは争いごとは永遠に解決できない。彼らの言うことは何か違う。そう、私は納得できなかった。私の居場所はここじゃない。そう思った瞬間、私は大破した状態で海上に戻っていました」

だから……祥高さんって強いんだ。私は納得した。

 

「その……沈んで戻るまでの内容は、今まで誰にも話していないんだ」

 

「はい……姉以外ですと、司令が初めてす」

 

「分かった」

何か、敵味方、そして時空を越えた歴史的な、形容しがたい重いものが圧(の)し掛かってくる感覚にとらわれた。だが、それを今まで彼女は、たった一人、山陰の僻地で背負っていたのだ。そういう艦娘たちの重荷を私が共に背負っていく。それもまた一蓮托生だろう。私はようやく、残りの珈琲に口をつけた。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第103話<3人の魔女>(改)

祥高さんの話を通して、彼女の姉妹艦が3隻あることを知った提督だった。彼女たちは優秀だったが、しかし……



「”三人の魔女”と敵からも恐れられたそうです」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第103話<3人の魔女>(改)

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<<艦娘:心のつながり>>

 

その”重い告白”を聞いた後、やはり祥高さんの表情が少し、明るくなったような気がした。それが仮に私の思い込みであっても、艦隊司令として当然の責務だろう。

特に相手は艦娘という特殊な戦士だ。いつも私は”アマゾネス”と揶揄(やゆ)してしまうが、わが国を命がけで護る兵士に変わりはない。その一人ひとりに個性があり、事情があり、そして、掛け替えのない実力を備えている。少なくとも、数々の修羅場をくぐり抜けて生き残り、美保と言う地で私と出会っているのだ。

そんな彼女らに対して、私も全力で対し、受け止め、支えられる所は、しっかり支える。協力し合って、わが国だけでなく世界の防壁となるべきだろう。

 

しばしの間、そう考えていた私を、祥高さんは黙って見つめていた。いつもなら”どうかしましたか?”と、突込みが入るところだろうが、今日の彼女は、黙っていた。だがそれは、いつもの仏頂面ではなく、何か”人間臭さ”を感じさせた。ふと私は、艦娘とは私のような”人間”との交流によって、彼女たち自身の感情の深さもまた、変わっていくのかもしれない。いや、それは我々も同じだろう。艦娘の一挙手一投足を見ていると、ふと、人間らしいのは果たしてどっちなんだろうか?そう思うこともあるのだ。

 

「しかし、いったん沈んで、よく”再浮上”できたね」

私は聞いてみた。

 

「はい。そこは単なる艦船と違う、艦娘の特徴かもしれません」

 

「というと?」

 

「感情のない艦船は、物理的に沈めば再浮上はあり得ませんが、艦娘が轟沈する理由の多くは、外的な負傷以外に、精神的・感情的なダメージに拠るところが多いです」

 

「ああ、それは何となく分かるな」

 

「ですから……」

ここで急に祥高さんは間を置いた。そして少しうつむいて、ポツリと言った。

 

「司令と艦娘との心のつながり、心の距離の近さが大切だと思うんです」

そう言いながら彼女は、珍しく恥ずかしそうな表情を見せた。ドキッとした。何度も言うが、この艦娘は、すべてがサプライズだよ。まあ、これもこの娘の個性か。

 

私はふと思った。

「そのとき君は敵とは相容れないという強い想いがあったと思うが、それだけで”海上”に戻れたのか?」

 

「いえ……」

彼女は何かを思い出すように続けた。

 

「私だけでは戻ることは出来なかったでしょう。共に戦っていた姉と、妹の強い想いもあったと思います。実際、私が気付いたときは、私の名を呼ぶ妹の腕の中でしたから……」

 

「はぁ~」

この”はぁ”は、呆れたのではなく、感心しているのだ。ただ軽薄な私には、この程度の相槌しか出てこないのだ。この軽薄さゆえに舞鶴で私は、あの娘を護り切れなかったのではないか?そうも思えた。

 

<<艦娘:幻の”祥高型”>>

 

私は聞いた。

「君には、妹もいたのか……いったい何人、姉妹がいるんだ?そもそも君は”何型”なんだい?」

 

思わず単純な質問が出た。彼女は少し微笑んで言った。

「私たちは……いえ、私が最初に義兄と横須賀で出会いました。自覚はないのですが、私はなぜか戦果だけは出すタイプでした。ある日、司令から同型艦が居ないかと聞かれ、呉にいた姉を紹介。姉は呉から転属して、私以上の戦果を出しました」

 

「なるほど」

 

「もともと姉は私以上のセンス、実力の持ち主でしたから、すぐに当時の司令……亡くなった姉の夫に気に入られました。やがて佐世保に居た妹も呼ばれて、3人揃って改修されました。この改修は3度に及び、かなりの予算が使われたそうです」

 

「3回って、要するに改三か?」

 

「はい。度重なる改修では革新的な兵器も実装されました。結局、艤装本体や兵器の開発で、戦艦並みの開発費がつぎ込まれたそうです。義兄は計画書の名前を変えたり、いろいろ手を回して、かなり強引に計画を進めたという話を姉から聞きました。あ、これも絶対に内密でお願いします」

 

「ああ……」

 

「私たちの性能は恐らく現在でも帝国海軍だけでなく世界最高水準でしょう。自分で言うのも変ですが、現役時代は、あまりの強さに”三人の魔女”と敵からも恐れられたそうです」

 

「ふむ」

 

「でも3姉妹が同じ鎮守府に居たのも良くなかったのかも知れません。結果的に、敵は作戦を立ててまで、ある日突然、全面的な集中攻撃をかけてきたわけですから。そして姉は、あの戦い以降、表には出なくなりました。私も”出戻り”みたいな状態でいったん大湊へ、その後に山陰の美保に転任。妹は特に落ち度は無かったのですが、二人の姉が凄まじいですから軍部でも敬遠されがちになってしまい、今では、ほとんど前線からは退いています」

 

「もったいないね」

 

「もし今でも義兄が生きていたとしても、状況は変わらなかったでしょう。海軍も改3予算の件では陸軍や野党からの予算の追及を恐れて、公の場では、私たち姉妹のことは意図的に伏せられています。ただ一部では私たち姉妹のことは”祥高型”と呼んでいるようです」

 

「幻の”祥高型”か、確かどこかでチラッと聞いたことはあるな」

 

「今では関係者以外は、ほとんど知られていないと思います。あの未来のブルネイで使われたいくつかの兵器の初期型は、私たちにも実装されていました」

 

「本当に?」

 

「はい。恐らく大和型にも匹敵するとされた性能に比例して、実戦での運用コストもそれなりに高かったのです。今後、私たちのようなタイプは二度と運用されないとも言われています」

 

「でも結局、海軍は直ぐに巨大な大和型を2隻も作ったんだよな」

 

「そこは、上層部の派閥争いがあったようですが、私には分かりません」

 

「まあね。知らないほうが良いよ」

そう言いながら私は未来の武蔵のことを思い出していた。現代の彼女は呉だったかな?イ401辺りに聞けば知っているんだろうけど。攻撃力の強い艦娘は心の芯も強いんだな。

まあ、現代の武蔵とは面識もないし敢えて聞く必要はないか。

 

そのとき、私の背後から誰かが声を出した。

「お!ここに居たのか祥高!」

 

「あ!」

そう応えて祥高さんは立ち上がった。

 

そして手のひらで私の背後を指しながら彼女は言った。

「司令、妹です」

 

振り返った私は、そこに立っていた”妹”を見て驚いた。

「え!」

 




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「みほ3ん」EX回:第104話<作戦参謀、再び>

秘書艦の”妹”と出会って、驚く提督。それは彼がよく知った艦娘だった。その”お付き”の女性もまた艦娘だったが……。


「あの、とても……誠実な御方だと思います」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第104話<作戦参謀、再び>

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「司令、妹です」

祥高さんが指し示した先に立っていたのは、本省の”あの”作戦参謀だった。

 

<<食堂:作戦参謀再び>>

 

「し、失礼ながら……」

私は、あまりにも衝撃的な事実に少々混乱気味だった。その”妹”が作戦参謀だったことも驚きだが、それ以上に驚いたことがあった。

 

「お前も、私が”男”だと思い込んでいただろう」

(そう、それです!)

 

「ふっ」

そう言いながら作戦参謀は空いた席を引いた。すぐに、お付きの艦娘だろうか?大人しそうな艦娘が椅子を支えた。ショルダーバックを空いた席に置いて作戦参謀は着席した。すぐに”彼女”はメガネを指先で持ち上げてから話し始めた。

 

「別に男と思われても構わん。ほぼ百パーセントの男どもは私を艦娘どころか”女”とも思わんからな」

いや、その雰囲気、声音(こわね)、話し方、すべて男だよ。

 

私の独白を無視するかのように、彼女はお付きの艦娘に指示する。

「私は珈琲で良い。お前も好きなものを頼め」

 

「ハッ」

敬礼をしてカウンターのほうへ向かう艦娘。どこかで見たことがあるな。私の目線に気付いたのだろう。作戦参謀は言った。

「あの艦娘か?あれは羽黒だ。よく気のつく良い艦娘なんだがな……」

 

羽黒か。以前居た艦隊で見たな。作戦参謀が言うとおり確か重巡でありながら、ものすごい気が弱い艦娘だった。

当時の私ですら心配に思ったものだ。だが、ここに居るということは、まだ無事だったわけか。

 

「頭の良い娘だからな。参謀として育てている」

制服組の艦娘は、まだ居たんだな。

 

<<食堂:姉妹>>

 

作戦参謀は、祥高さんに言った。

「久しぶりだな姉さん」

 

あれ?さっきは”祥高”だったのに、今度は”姉さん”?私の表情にづいた作戦参謀は言った。

「相変わらずの”ばか者”だな、お前は。表では私のほうが階級が上だから呼び捨てにするが、ここでは姉妹だ。そのくらい悟れ」

 

いや、その話し方、技術参謀そっくりなんですけど。そういえば技術参謀と作戦参謀は、どっちともメガネかけている。真ん中の祥高さんだけが視力が良いんだな。

 

「そうだな。姉貴は技術屋、私は作戦屋だからな。いつでも大海原に出られる姉さんとは違って視力は落ちるよ」

なるほど……もう、独白を読まれるのは慣れてしまった私。

 

「これでも最近、視力が落ちてるのよ」

ちょっと新鮮。祥高さんのタメ口。……そうか、艦娘とはいえ姉妹だもんな。兄弟が居ない私には、ちょっとうらやましい。

 

すると作戦参謀、突然私のほうを向いて言った。

「お前のその気持ちは、ちょっと悲しいな」

 

「はぁ?」

思わず声が出た。

 

「艦娘を単なる兵士としか見ていないのか?お前は相変わらずだな~」

その言葉で、鈍い私も悟った。

 

「いえ、私ごときがそんな……」

私は思わず否定してしまった。だが作戦参謀は、急に優しい表情をした。ドキッとした。

 

「いい加減、悟って欲しいよ。お前には……もっと、前に出ろ」

そう呟くように言った彼女だった。

 

<<食堂:羽黒と私>>

 

やがて戻ってきた羽黒が珈琲を机に置くと、作戦参謀はいきなり彼女の手を掴んだ。

「……!」

 

当然、羽黒は驚いた表情で固まっている。作戦参謀は今度はいきなり私の手を掴んだ。そして、そのまま強引に羽黒と私を握手させたのだった。

「え……」

 

「あの……」

羽黒は立ったまま真っ赤になってしまった。いや、それは私も同じかもしれない。そういえば、艦娘と握手なんてほとんどしていないな。

 

すまし顔で作戦参謀は言った。

「羽黒、この男は美保鎮守府の司令だ。どう思う?」

 

「えっ……」

 

突然握手させられて、そのうえ感想を求められて羽黒も大変だなと思った。彼女は恥ずかしそうに小声で答えた。

「あの、とても……誠実な御方だと思います」

 

「まぁな。それだけでは、まだダメなんだがな」

そう言いながら作戦参謀は両手を離した。私と羽黒はなぜか、しばらく握手したままだった……が、やがてお互いに”ハッ”として、その手を引っ込めた。

 

可哀想に羽黒は、さっきよりも真っ赤になって、その場に立ちすくんでいる。私もそうだが、この艦娘も男性と握手なんて、ほとんどしないのだろう。

 

「座りなさい、羽黒」

作戦参謀が指示する。

 

「……はい」

真っ赤になったまま、空いた席にゆっくりと座った羽黒。着席した後もずっと、うつむいている。

 

「この娘は、お前と違ってとても敏感でな。いや敏感過ぎるのかも知れん。だから私は前線から退かせた。この敏感さが、もっと良い方向で開花すれば良いんだが……」

意味ありげなことを呟く作戦参謀だった。そんな彼女が見上げる窓の外には、真っ青な青空と緑の椰子の葉がきれいなコントラストを見せていた。それは鈍感な私と敏感な羽黒の姿を象徴しているようにも感じられた。いや、美保ならば祥高さんと私になるのかな。

 

ふと見ると、祥高さんと作戦参謀は、穏やかな表情をしていた。不思議な感覚だった。

 




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「みほ3ん」EX回:第105話<艦娘と未来と>

作戦参謀に、美保鎮守府の今後も含めて檄を飛ばされた提督は、身が引き締まる想いだった。


「くれぐれも姉を頼む」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第105話<艦娘と未来と>

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<<食堂:艦娘と未来と>>

 

作戦参謀は言った。

「朝いちで、いろいろゴタゴタがあったようだな」

 

「はい」

 

「量産型の比叡か……分かっているだろうが、量産型であろうがなかろうが、艦娘たちの気持ちも十分に酌んでやれよ」

 

「はい」

 

「量産化の目処も立ったようだし、今後、量産型艦娘も増えるだろう。だが彼らは決して工業製品などではないことは分かっているな?」

 

「ハッ」

そこで私は思わず敬礼してしまった。

 

作戦参謀は少し微笑んで続けた。

「私はこれから連合艦隊司令部と一緒に、ブルネイの武官と会わないといけない。今回は日本だけでなく、各国からもプレスが来ている。実質的に艦娘が世界にアピールされる第一歩になるだろう」

 

「はい」

 

「艦娘が世に認知されれば、法律やら環境整備で、もっと大変になる。姉貴のケッコンでは法改正だの裁判だの、本当に大変だったが……まあ、やり甲斐はある」

 

「……」

これには相槌の打ちようがないな。

 

そこで、やれやれといった感じで、頭をかいた作戦参謀は言った。

「作戦参謀としては、秘書艦と一致協力して美保鎮守府の使命を果たしてくれることを望むが。あと、いち艦娘としては……」

 

そこで、急に私の顔をじっと見つめた彼女。意外と澄んだ瞳で見つめられて、私はちょっとドギマギした。

「くれぐれも姉を頼む。美保は、まだ小さい鎮守府だが、お前たちの支えになってくれるような、しっかりした艦娘も居るはずだ。彼女たちと、よく協力して頑張ってくれ給え」

 

「はっ」

そうか、姉妹揃って美保のために、艦娘の選抜とか、いろいろ手を回してくれているんだよな。そう考えてた私は思わず頭を下げた。

 

「ありがとう御座います」

 

「バカ者。お前のためにやっているわけはない」

 

「はあ」

やっぱり私はバカだよな。

 

そこで珈琲を飲み干した作戦参謀は、立ち上がった。

「じゃ、行こうか、羽黒」

 

「はい」

 

「姉さんも元気で」

 

「アナタもね」

 

やがて軽く手を上げて、立ち去る作戦参謀。羽黒も軽く会釈をして、作戦参謀の後を付いて行った。

 

祥高さんの昔話といい、妹である作戦参謀といい、なんだか、嵐が通り過ぎたような印象が残った。

もはや全然、朝食をとった気分ではなかった。

 

「驚かれましたか?」

祥高さんが聞いてくる。

 

「ああ、まあね」

祥高さんと一緒に居ると、何が起こっても不思議でないよな。

 

それにしても祥高さん姉妹って言うのは、本当に強烈だな。一人でも凄そうだけど、これが3人も居たら、そりゃ敵も恐れるだろう。

武蔵とどっちが強いんだろうか?ふと、どうでも良いことを考えてしまった。

 




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「みほ3ん」EX回:第106話<”開かれた”海軍>

”開かれた”海軍、特にファンクラブの話をすると、やはり秘書艦はちょっと引くのだった。


「私は良いけど、あいつ、ブルネイ司令はどうするんだ?」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第106話<”開かれた”海軍>

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<<食堂:”開かれた”海軍>>

 

「ちょっと済みません」

突然、無線を受信したのだろう。祥高さんが、どこかと交信を始めている。

 

「はい。そうです……はい、はい」

これは艦娘の大きな特長だろう。特にここブルネイのように、遠方にある鎮守府や、作戦地などでは、無線がいつでも使えるというのは便利だ。しかも、艦娘の無線は軍用だから、基本的にスクランブルもかかっている。傍受もされにくい。

ただ、それを良いことに、作戦中に好き勝手な雑談をしている艦娘も、少なくないという。まあ、そのくらいは大目に見よう。

 

「はい、了解しました。ありがとうございます」

祥高さんは、通信を終わったようだ。すぐに私に報告をする。

 

「司令、0900からの記者会見には、司令も参加するようにとの指示が出ました」

 

「あ、そうなんだ。やっぱり」

私のこの反応に、彼女はちょっと意外な顔をした。

 

「司令、予想されていたのですか?」

 

「ああ、最近の本省は、”開かれた海軍”を目指しているらしいからね」

 

「そうなんですか」

 

「ああ。まあ私も正直、人前に出るのは苦手なんだが、それも司令部の命令だろ?」

 

「はい、そのようです」

 

「今回は、中央から連合艦隊司令部の要人たちも来ているからな」

 

「では、なおさら拒否は出来ませんね」

 

「ああ。そもそも記者会見とかも苦手だけど、軍命なら仕方ないね」

私は、水を飲んでから続けた。

 

「最近、都会のほうでは艦娘も徐々に認知されているらしい。呉とか佐世保のような大きな鎮守府で開催される地元との交流イベントでは、積極的に艦娘をアピールしているようだし。中には、特定の艦娘のファンクラブも出来ていると言うよ。一部では、鎮守府がそれを公認しているとか」

それを聞いた祥高さん、明らかに引いている。

 

「そんなの、本当に良いんですか?姉や妹は、絶対に反対しそうです」

私は彼女の反応を見て、そうだろうなと思った。

 

「”開かれた海軍”とか言うが、軍人としてはどうなんだろうね?まあ、上の制服組の考えることは分からんよ」

 

「司令……」

突然、祥高さんが懇願するような眼をした。私は想像して答えた。

 

「大丈夫だよ。美保ではファンクラブどころか、お祭りすら開ける状態じゃないし。仮に余裕が出来ても、私は認めない」

 

「そうですか」

彼女はホッとしたようだった。ただ、美保鎮守府の艦娘の中には、そういう”アイドル”まがいのことが好きそうな艦娘も居るだろうな。いろんな艦娘がいるから。私も今は否定したけれど、将来は分からない。

 

気を取り直すように、時計を見ながら祥高さんが言った。

「いま0840ですから、そろそろ身支度をしたほうがよろしいですね」

 

「そうだね。そろそろ行こうか」

私も応えて立ち上がった。

 

<<GR(ゲストルーム):伝達事項>>

 

本館のそれぞれのGR(ゲストルーム)に戻って、私は手早く身支度を整えた。そのとき、内線電話が鳴った。受話器を取ると、五月雨だった。

 

「五月雨です。失礼いたします。司令に伝達事項が御座います」

相変わらず、きびきびしているな。

 

「なんだい?」

 

「艦隊司令部から追加事項として、記者会見及び、演習観覧中は、秘書艦を同伴するようにとの事です」

 

「は?」

一瞬、わが耳を疑った。だが、艦隊司令部からの通達なら仕方がない。やれやれ……。

 

「分かった」

想像するに、マスコミへの露出を機会に、”艦娘(秘書艦)=女性もいる=ソフトイメージ”を、アピールしようという魂胆ではないだろうか?まあ、国民の信頼やイメージも大切だから、仕方がないよな。

 

だが、私はちょっと疑問がわいた。

「ちょっと質問してもいいかな?」

 

「何でしょうか?」

 

「私は良いけど、あいつ、ブルネイ司令はどうするんだ?」

 

「はい」

五月雨は、ちょっと言葉に詰まっているようだ。

 




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「みほ3ん」EX回:第107話<会見会場へ>

いよいよ記者会見の時間が迫る。提督は秘書艦の勲章や参戦章に驚き焦る。だが、もう後戻りは出来ない。


「お気に障るようでしたら取ってしまいましょうか?」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第107話<会見会場へ>

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<<GR:司令部の意向>>

 

連合艦隊司令部が、”開かれた海軍”を目指すのは理解できるとしよう。謎のファンクラブも、時代の要求と思えば仕方がない。

ただ、現在のブルネイは、まだ艦娘も試作段階で、まともな艦隊が編成されているわけではない。そういう状況下での演習のプレスへの公開だ。

 

私は半分、好奇心から五月雨に聞いただけだった。ただ内心では、ブルネイ側は、あいつ一人だけで記者会見するのかな?と思っていた。だから五月雨が言葉に詰まっているのが、不思議にも思えた。

 

……とはいえ、もう時間もないし、五月雨を問い詰めるつもりもない。私は、言葉を続けた。

「あ、別にいいよ。そんなに重要なことでもないし」

 

「……」

黙っている五月雨が、ちょっと気になる。だが、そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。きっと祥高さんだな。

 

「はい、今行く」

私はそう答えるとスマン、切るからねと言って内線を切った。すぐに自分の制帽をつかんで、入り口の扉へ向かった。

 

<<GR:艦娘の階級>>

 

「司令、私です」

その声を聞く間もなく私はドアを開けた。やはり祥高さんだった。あれ?軍服が違う?彼女が着ていたのは、青っぽい制服に階級章。

 

「あ、これは取りあえず持って来ていた礼服です。まさか、本当に使うとは思いませんでした」

彼女は、自分の制服を見ながら答えた。実は私も今まで、まったく意識していなかったのだが彼女は私と同じ階級だったんだ。まあ、提督代理が務まるんだから当たり前か。

 

あまり上下関係が、うるさくない艦娘部隊だが、こういう公式の場に出るときには改めて普段、何気なく接していた相手の艦娘が、実は凄い階級だったという言うこともあるわけだ。これは今後、艦娘部隊内での一つの弊害になるかも知れないなあ~。気をつけよう。

 

そして驚くのは、彼女の胸に光っている数々の勲章と戦歴だ。別に疑っては居ないが、さっき彼女が食堂で話していた”魔女”というのは、まったくウソやハッタリではなかったのだ。

こういうタイトルへの執着や対抗意識はないけど、さすがに”艦娘”と肩を並べるとなれば、男性の私としては、ちょっと焦る。

 

私だって、十数年も海軍に居るから多少の勲章や参戦章くらいは持っている。でも私と彼女では見れば見るほど、数とレベルが、あまりにも違いすぎた。いや普通の人はワカラナイだろうけど、関係者が見れば明らかに、彼女が”ただ者ではない”ことが分かる。祥高さんって、普段は大人しいし、そんなに強そうに見えないんだけど……こんなスゴイ彼女を隣に並べては、ハッキリいって立つ瀬がない私だった。

 

そんな私の焦りを感じたのか、彼女は言った。

「あの~、そんなに大したことはないですし、もし、お気に障るようでしたら全部、取ってしまいましょうか?」

 

私は慌てて首を振った。そんな失礼なことは出来ないって。

「いやいやいや、そんなことをする必要は全く無い。そのままで行こう」

 

我ながら、恥ずかしいくらいの狼狽振りだが。

 

<<本館:記者会見会場へ>>

 

私と祥高さんは、並んで廊下を歩き始めた。私は彼女に聞いた。

「美保の艦娘たちは、各自準備を進めているのかな?」

 

「はい、そのようです。あ……」

言いかけて、突然祥高さんは、言葉を濁した。何となく、言いにくそうな目で私を見上げている。

 

「良いよ、遠慮なく言ってくれ」

もう彼女と付き合う以上は、サプライズの連続だろうが何だろうが、慣れるしかない。私も男だ、司令官だ。腹をくくるぜ。

 

そんな私の決意を見たのか、彼女も続けた。

「青葉さんはプレスの一員として、記者会見席のほうへ座ります」

 

「あ……、まあ、当然そうだよな」

知った人が向い側に居るとはねえ~。やり難いけど……もういいよ。納得するよ。私は苦笑した。まったく連合艦隊司令部も、トンでもない事をしてくれるよな~。やれやれ。

 

会見場は、本館のホールに臨時に設けられるようだ。近づくに連れて、廊下も人が多くなり、がやがやとした、賑やかな雰囲気になってきた。マスコミ関係者、カメラマン、取材記者、軍人、ブルネイの人や日本人、その他の外国人、多種多様な人たちで満ちている。

 

向こうから、ブルネイ司令が声をかけてきた。

「おう!美保、早くしろ!始まるぞ」

 

「ああ、済まない」

私は、声を上げた。彼は、五月雨を伴っていたが……彼女も、いつもと違う軍服を着ていた。私はそれを見て、一瞬で状況を悟った。

なるほど、彼女が臨時的に、ブルネイ司令の”秘書艦”を”演じる”わけだ。五月雨が言い難そうだったのは、こういう訳だ。

さっきの私と同じような、気後れするような気持ちを彼女は味わっているのだろう。

 

彼の傍には、五月雨だけでなく、いかめしい顔をした日本の高官も居た。他にも、政府関係者らしい要人たちも取り巻いていた。いよいよ、始まるんだな。さすがに私も緊張してきた。

 

こうなると、今までその戦歴などを見せ付けられる感じもしていた傍らの祥高さんが逆に、”敵陣の中の同志”という感覚に変わってくるから不思議だ。やはり友軍というのは、戦地(敵地)でこそ、あり難い者なのだなと、改めて実感させられた。

 




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「みほ3ん」EX回:第108話<記者会見>

ブルネイ演習のための記者会見が始まり、提督は緊張と妄想が入り混じった思いになった。


”相変わらず美人だよな。いかん、妄想禁止”

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第108話<記者会見>

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<<記者会見:女性秘書官>>

 

記者会見会場には、既に多数のマスコミ関係者が集っている。さすがブルネイ、日本人はほとんど居ない。会見は基本的に英語だろう。聞こえてくる言葉も日本語ではない。

 

会見席には既にブルネイ司令と五月雨が着席し、他にも日本とブルネイ両国の政府要人らしい人物や軍関係者が座っている。作戦参謀も既に着席している。なるほど、彼女が会見するのか。

ブルネイ司令は、私たちを”早く、こっちに座れ”という感じで手招きした。私たちは少し慌てて着席した。

 

司会を担当するらしい日本人の政府関係者が脇の演台から英語で会見を始める旨を告知。一斉にフラッシュが焚かれ、記者たちは前方に注目する。会場にはテレビカメラも居るな。単なる軍事演習なのに、これはいったい何事だろうか。そのテレビカメラは私たちの席も写している感じがする。直接インタビューされるよりは良いが緊張するな。

 

記者席の後ろの別席に……あれ?あの"王宮男性"が座っている。脇にはイケメンSPも立っている。やはり彼らは政府関係者なんだな。ただ直接、表には出ないのだろう。そしてあのブルネイの女性秘書官が、最初に演台に向かってきた。

彼女はやはり、ブルネイ政府の役人だったか。さすがに長官では無さそうだが意外に政府中枢の人物だったのだな。失礼な対応していなかったかな?と思うと、ちょっと冷や汗が出た。

 

彼女は演台の直前で、私たちに視線を合わせると、ちょっと微笑んだ。思わずゾクッとした。相変わらず超美人だよな。いかん、妄想禁止。

 

彼女は正面の演台で軽く会釈をしてから記者たちに向かって流暢な英語で喋り始めた。まずはブルネイと日本の良好な関係に基づく軍事協力の必要性。そして深海棲艦の脅威に対する艦娘の必要性と今後、ブルネイ政府が日本海軍との密接な協力関係を深めていく意向であること。同時にそれはブルネイ政府にとっても安全保障面でのメリットが多いこと。さらにそれがブルネイ周辺国家にとっても、また東南アジア地域全体の安定性にも寄与することなどが語られた。

 

直ぐに記者たちから質問が飛ぶ。まずは地元記者が指名されて起立。彼は昨日の水上集落への謎の攻撃について質問。それが深海棲艦によるものなのか、テロリストによるものなのかが問われた。

 

女性秘書官は、昨日の攻撃は現在調査中であり、何も分かっていないと応えた。ただ今回、超法規的に艦娘たちが即応したお陰で、住民への被害が最小限に食い止められブルネイ政府としても感謝の意を表したいと付け加えた。

 

直ぐに彼女は私たちに向かって振り返ると、深く一礼をした。思わず私やブルネイ司令は、その場で会釈で返した。そのとき会場のフラッシュが焚かれ、テレビカメラが彼女と私たちを注目した。緊張するな~。

 

会場が少し落ち着くと記者席から、たくさんの挙手が上がった。秘書官が指名しシナの記者が立った。

彼は憮然とした表情で、艦娘は戦力であり日本がその技術を独占することは、東南アジア地域への脅威になる恐れがあるのではないか?またブルネイ政府は艦娘の技術力の供与を受ける予定はあるのかと質問した。

 

女性秘書官は、艦娘はまったく脅威ではなく、即応性や運用コストを考えると、ブルネイのような小国にとってメリットが多く重要な抑止力となること。そして日本政府はブルネイや周辺国家と良好な関係を保っているため、決して脅威ではないこと。また技術力の供与もブルネイにとっては必要性は乏しく、想定していないことが説明された。

併せて彼女は、むしろ軍備を拡張しながら他国を威圧し、かつ技術協力を申し出てきながら、奪うばかりの某国は、日本を見習うべきだと釘を刺した。シナの記者は最初よりもっと憮然とした表情になって着席した。

 

女性秘書官、上手に逃げた上に、見事に反撃したなと思った。

 

<<記者会見:作戦参謀>>

 

いったん質問が打ち切られ、次に演習の概要について説明される。この時間は、あの作戦参謀が前に立った。彼女は、今日午前中は艦隊の航行披露と射撃。午後は、駆逐艦を中心とした模擬戦だと説明した。

 

午前中は関係者のみ。午後は一般の見学者も加わるため、安全に留意して、ある程度、抑え気味に実施されることなどを説明した。

 

記者からは、演習場所が陸地からさほど距離がないことについて、質問があった。質問をしたのは西洋の記者。彼は、そもそも艦娘自体を知らないようだった。

 

すぐに作戦参謀が、部屋の前方、壁側のドア付近に立っていた羽黒に合図を送った。羽黒は部屋の電灯を暗くしてスイッチを操作、前方にスクリーンを下ろした。

 

「艦娘についてご存じないかとも多いと思います。わが国で運用されている艦娘について、簡単な実戦映像をご覧頂きましょう。通常の艦船よりもコンパクトでありながら、敵に十分通用する威力があることをご確認ください」

 

そこに映し出された動画には、見覚えのある海が映る。遠方に高い山が見えるけど……あれれ?明らかに日本海というか、この映像は美保湾ではないか?嫌な予感がするな。

 

するとそこに金剛と比叡が並んで進んでいる映像が出る。他の艦娘が海上から撮ったのだろう。時々画面がブレる。やがて金剛が「ファイヤー」と叫んだらしく、大きな火柱と水しぶきが前方に発生した。続けて後方の比叡も斉射。

カメラは画面をそのまま左へ移動させると、恐らく深海棲艦だろうか?はるか遠方の海上にあった黒い艦船が一瞬で火ダルマとなった。

 

その映像に、会場はざわついた。確かに、初めて見る人には信じられない映像だろうし、少女にしか見えない艦娘が敵を一撃する映像は、インパクトが大きい。

 

再び会場が明るくなり、まだざわつく会場を尻目に、作戦参謀は再び羽黒に合図を送った。羽黒は、廊下側のドアを開けて、誰かを手招きする。

 

まさか……。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第109話<金剛暴走>

会見会場に金剛たちが入って来ると、会場はざわついた。そして金剛は変な英語で喋りだす。


『金剛でぇす。皆さんとお会いできて嬉しいでぇす』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第109話<金剛暴走>

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<<記者会見:金剛暴走>>

 

羽黒が廊下側のドアを開け、手招きして入ってきたのは、まさに今見た映像に映っていた金剛本人だった。そして比叡は、二人である。

 

会場は、もっとざわついた。盛んにシャッターが切られ、テレビカメラもすべて注目している。あのシナの記者も、目を丸くしている。そういえば青葉さんに聞いたが、このシナと言う国では密かに艦娘のような兵器製造を目論んでいるらしい。この記者もその情報は持っているだろう。だが、我々海軍ですら、ようやく量産化の目処が立ったんだ。シナの記者の驚くさまを見れば、彼らの開発段階が、まったくお話にならないレベルだということが伺える。

 

少し会場が落ち着いてきたところで、作戦参謀が金剛に目配せをした。すると金剛と比叡たちは、演壇のそばまで歩み寄る。会場は一瞬のうちに、静まり返った。羽黒がマイクを持ってきた。それを受け取った金剛は、軽く礼をする。なぜかスポットライトが当たる。頭のアンテナが、キラキラと反射して、まさに王冠だな。

 

やがて彼女は流暢な英語で喋りだした。

『金剛でぇす。皆さんとお会いできて嬉しいでぇす』

 

……なんだよ、その語尾の変なのは。帰国子女だから英語力は当然あるとしても、日本に着てから変な癖まで身についてしまったようだな。容姿端麗、戦闘能力もピカイチなのに、その喋り方で損をしているよ、金剛は。

 

彼女の後ろで見ている作戦参謀も、ちょっと呆れたような顔をしている。羽黒は、一人で勝手にオロオロしている。だが二人の比叡は、まったく気にせず、むしろ胸を張って誇らしげにしている。漫才か?

 

テレビカメラが中継しているが、これって、日本にも流れるんだろうな~。まあ彼女の変な英語は、中継を見ている日本人には分らないだろうから良いとしても、”日本海軍代表”みたいな映像だからな。欧米人には苦笑されるだろう。

 

……と、いろいろ考えている間にも、金剛は好きなことを喋りまくっている。放っておくと、歌いだしそうだ。さすがに暴走状態になってきたので、作戦参謀が強引にカットインして、中断させている。やっぱり漫才になっている。

 

『シット』

やはり、恨めしそうな目で作戦参謀を睨んでいる金剛。おい!公的な場で、その態度は止めろって……手遅れだけど。

 

ただ幸か不幸か、記者たちは金剛の不遜な態度はまったく気にせず、とにかく質問したがっている。盛んに挙手をしているが、作戦参謀は言った。

『申し訳ないが時間がありません。彼女たちについては、演習現場で、その実際の姿を見ることで、ご了承下さい』

 

だが、記者たちは収まりそうもない。恐らく金剛よりも、その隣に居る二人の比叡が気になるだろう。同じ艦娘が二人居るということは、察しの良い者なら直ぐ気付くはずだ。量産化の目処が立っていると。特に、シナの記者は、意地でも質問をしようと必死だ。

 

<<記者会見:クールダウン>>

 

不穏な空気が漂いそうになったとき、後ろから笑い声が聞こえた。会場は一瞬のうちに静まり返った。あの"王宮男性"だった。

『皆さん、あのように申しております。時間も御座いません。ここは私の顔に免じて、堪えてやって下さい』

 

会場は、一気にクールダウンした。その場の空気を一気に抑える力。それでいて、威圧感はない。さすがである。

 

やがて司会者がいったん閉会を宣言する。司会者は、最後に短い質問でしたら、お受けしますと伝える。先程のような勢いは無かったが、多少手が上がった。

 

そこで司会者が指名したのは、他でもない、青葉さんだった。周りの記者たちは彼女が艦娘だとは、思わないだろう。今日の彼女は、いつものラフな格好ではなく、カッターシャツにネクタイと言ういかにも記者風のスタイルだったから。

 

以前の彼女だったら、この場で質問に立つと聞いたら私も焦ったことだろう。だが、今の私には、不思議と彼女に対する信頼感があった。なぜだろうか?

 

祥高さんも言っていた、心の距離。本当にそういうものがあるのか知らないが、あの浜辺での彼女との交流の時間が、大きかったように思えた。

 

そして、立ち上がった彼女は、意外にも英語で喋りだした。

『日本から参りました、ジャパン・ネイビープレスの青葉と申します。美保鎮守府の提督に質問です。防人としてこのたびの演習に参加されての抱負と言いますか、感想をお願いします』 

 

<<記者会見:美保鎮守府から一言>>

 

指名されて、羽黒が私のところへマイクを持ってきた。実は、私自身、青葉さんに質問されても、あまり驚かなかった。何となく、来るような予感はしていたから。

 

マイクを受け取って立ち上がった私は、下手くそな英語で答えた。

『今回、演習に参加するために日本から参りました、美保鎮守府司令です。実は、今回参加するに当たって、様々な困難やトラブルがありました。でも、何とか今日と言う日を迎えることが出来て、良かったと思います。この演習は、たくさんの人たち、ブルネイや日本の人たち、そして何よりも、艦娘たちの努力によって支えられています。単なる軍事演習とは思わないで、彼女たちの心意気、気持ちを少しでも感じて、汲んでいただければ幸いです。関係各位、そして、この場に参加している皆様にも、心からお礼を申し上げます。ありがとう御座いました』

 

あれ?なぜこんなに舌が回るんだ?一言のつもりだったのに……自分で不思議に思えた。

 

頭を下げている時間は一瞬だったと思うが、私には凄く永く感じられた。そして、頭を上げると同時に、拍手が起こった。先陣を切ったのはやはり、あの"王宮男性"だった。隣のSPも、あのブルネイの美人秘書官も。

いや、金剛や比叡、祥高さんやブルネイ司令までも、全員が拍手をしている。会場の記者たち、シナの記者までもが拍手している。ちょっと恥ずかしくなった。やがて、記者たちは次々と起立して、全員が拍手をしてくれた。

 

よく分からないが、とにかく丸く収まったに違いないだろう。ホッとした。

 




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「みほ3ん」EX回:第110話<会見終了>

記者会見は無事に終了した。そして三姉妹たちが提督の元に駆けつけてくる。だが……


「あの金剛がなければ満点だったがな」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第110話<会見終了>

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<<会見終了:三姉妹>>

 

正式に会見終了がアナウンスされ、記者たちも席を立ったり電話をかけたりしている。

 

私もホッとしていると、隣に居た祥高さんが珍しく話しかけてきた。

「司令、とても良かったです」

 

「ああ、ありがとう」

すぐに、ブルネイ司令が、席を立って私に手を差し出してきた。

 

「おう、良くやったな。俺に指名されたら、どうしようかと思っていたんだぜ」

 

「いや、まぐれだよ」

 

「まぐれなもんか、お前の飾らない気持ちがストレートに伝わってきたぞ。オレ的には、合格点をやっても良い」

 

「そう言ってもらえると助かるな」

 

「オレだけじゃない、最後は記者たちも総立ちだったじゃないか。あれが一番の証だよ。軍人なんて、飾る必要はない。むしろ、世界に向けて、わが海軍と艦娘への第一印象は、高まったと思うぞ」

すぐに、作戦参謀と技術参謀までやってきた。

 

まずは作戦参謀が口を開いた。

「意外と良かったな」

 

「恐縮です」

 

「あの金剛がなければ満点だったがな」

 

「反省します」

 

「まぁ、良いじゃないか」

技術参謀も、声をかけてきた。

 

「しかし、あのシナをガツンとやった秘書官、最高だったな~」

 

「姉貴も、そう思うかい?あれは痛快だったな」

 

「そうね。ブルネイと日本の関係が、ずっと良好であることを願うわね」

珍しく祥高さんが加わる。やはり姉妹だからかな?

……ふと気付いたが、ここに居るのはまさに”祥高型”三姉妹だ。秘書艦の言うことが正しければ、まさに世界最高水準の重巡が一挙に揃っているわけだ。何ともいえないものがあるな。

 

「五月雨も、うまく収まっていたな」

私は脇のブルネイ司令と五月雨に話しかけた。五月雨は恥ずかしそうにうつむいた。

 

それを見ながらブルネイ司令が応えた。

「まあな。だがお前の秘書艦様のほうが目立ってくれたからな。かえって良かったよ」

 

それを聞いて、祥高さんは会釈をしながら微笑んだ。

 

「ちぇっ、私も今からでも現役復帰すれば、勲章の一つや二つ、もらう自信があるんだがな」

作戦参謀が悔しそうに呟く。

 

「まあ、それを言うな。だいたい我々の艤装は廃棄されているだろう。そもそも燃費も悪いしな」

技術参謀が苦笑する。

 

「だけど姉貴、大和や武蔵だって五十歩百歩だぜ。同じ燃費なら、コンパクトな我らのほうが……」

そこで何かを察知したのだろう。作戦参謀は口をつぐんだ。私も今、気付いたのだが、すぐそばに、あのシナの記者が居たのだ。

 

「こういう話は、また今度にしよう」

技術参謀は、話題を変えた。

 

「そうだね」

作戦参謀も、大人しく従っている。私たちの気配に気付いたのだろう、そのシナの記者は、すぐに立ち去っていった。やはり油断ならんな。

 

<<会見終了:次官と秘書官>>

 

直ぐ私たちのところに海軍省次官が来た。彼はまず、私に握手を求めてきた。

「君が美保の提督か。話には聞いていたが、意外に……いや、失礼。実に良くやってくれた。あの演説は素晴らしかったよ」

 

「恐縮です」

 

「だが本番はこれからだ。演習のほうも、しっかり頼むよ」

 

「了解です」

 

彼は、作戦参謀を振り返った。

「作戦参謀、ではブルネイ武官との打ち合わせに行こうか。そろそろ時間だ」

 

「了解です」

直ぐに次官と作戦参謀、羽黒は連れ立って退出する。入れ替わるようにして、あのブルネイの女性秘書官が来た。

 

彼女もまず握手を求めてきた。私も今は妄想抜きで、しっかりと握手を返した。

 

『やはりあなた方は素晴らしい。今後も期待しています』

彼女の笑顔を至近距離で見ると、クラクラしそうだ。

 

『いえ恐縮です。私は艦娘たちの気持ちの上に立っているだけですから』

精一杯で答えた。

 

『その謙虚さゆえに、あなたたちの軍は輝くのだと思います。演習も期待しています』

 

『ありがとう御座います」

直ぐに彼女は、向こうに居る”王宮男性”を見た。彼も遠くから、手を上げてくれた。その場に居た帝国海軍関係者は、全員が一斉に敬礼をした。彼も敬礼を返してくれた。良いな、こういうのって。

 

直ぐに女性秘書官が立ち去ると、ブルネイ司令も「じゃあ、会場でな」と言って、五月雨を伴って去っていく。

 

私も祥高さんに言った。

「私たちも行こうか」

 

「はい」

 

「金剛たちは、もう準備に入っているな?」

 

「はい、比叡たちと、埠頭へ向かいました」

 

「分かった」

私たちは、会場を後にした。

 

<<廊下:青葉さんと>>

 

私たちが廊下に出ると、青葉さんが来た。彼女はちょっと、おどけるように敬礼をした。

「司令~、良かったですよ」

 

「お前に言ってもらえるのが、一番嬉しいな」

今は、本当にそう思った。

 

「え?……えへへ」

青葉さんは、いつものように、悪戯っぽく笑いながら舌を出した。

 

祥高さんも言った。

「あなたの質問も、良かったみたいですね」

 

「そうですか?いやぁ、まさか当てられるとは思っていなかったんですが正直、何も考えていなかったんです。でも、司令の顔を見ていたら、スッと、質問が出ました」

嬉しそうに答える青葉さん。良い感じだな。

 

「私、今回一緒にブルネイに来て、本当に良かったと思うんです。いろいろあって……こういう時間が、ずっと続いて欲しいって思うんです」

青葉さんが生き生きしている。彼女は、南方のほうが、性(しょう)に合っているのかもしれないな。

 

「お前が元気そうなのが、一番だよ」

私は何気なく言ったのだが、青葉さんは急に真っ赤になってしまった。あらら……。

 

「その……はい。嬉しいです」

青葉さん、下を向いて固まってしまった。可愛いところあるよな~青葉さんって。私は思わず、祥高さんと、顔を見合わせて、苦笑した。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第三部」の略称です。


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「みほ3ん」EX回:第111話<演習会場へ>

鎮守府を後にした私たちは、艦娘たちの案内で、演習会場へと向った。提督はいろいろ考えた。


「そうですね、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第111話<演習会場へ>

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<<廊下から外へ:電と漣>>

 

「提督……あの」

こちらの電がやってきた。

 

「ああ、電か」

 

「会場まで、ご案内いたします」

 

「君が案内係?」

 

「は、はい。よろしくなのです」

電か……今頃、美保の電は、何やっているんだろうな~。私はふと、電を思い出していた。

 

「まずは行こうか」

私たちは、電に案内されて、玄関へ向かった。

 

歩きながら電が説明する。

「会場は、埠頭になります。お車でご案内します」

 

玄関前に軍用車が止まっていた。私は運転手を見て思わず呟いた。

「漣?」

 

「はい、よろしくです」

ハンドルを握りながら、敬礼する。

 

「では、提督と秘書艦は、後ろへどうぞ」

電が私たちを促す。

 

「ああ、頼む」

 

「よろしくお願いします」

これは祥高さん。なんだか、最近雰囲気変わってきたよなあ~。と、思ったが、いかんいかん。油断すると妄想モードに入りそうだ!

 

「どうかされましたか?」

やっぱり、車に乗り込んでから祥高さんが聞いてきた。

 

「ああ、いよいよ始まるんだなってね」

 

「そうですね、よろしくお願いします」

彼女は会釈をした。

 

「ああ、よろしく頼むよ」

私も、会釈しながら制帽を被りなおした。

 

「行きます!」

漣はシフトレバーをチェンジした。

 

 ドルルル!

 

軍用車は、出発した。

 

<<ブルネイ市街:軍用車>>

 

軍用車は鎮守府正面ゲートから出ると、ブルネイ市街を走り出した。

改めてみるとブルネイは、いかにも南国である。本当に、この国とわが国が良好な関係を保ち続けて欲しい。いち軍人が心配することではないが、それは心から願うことだ。

私だけではない。この国の国民も、わが国の国民も。そして艦娘たちにも、そう思って欲しい。

軍人だから好戦的な人間ばかりではない。平和を愛するからこそ、戦うべき防人は必要なのだ。たとえ誤解されようが、後ろ指を差されようが、日本の、ひいては世界の平和のためには軍人が楯にならなければならない。

 

やがて外に大きな水辺、川が見えてきた。日本では考えられないほどの大河である。今日はここで演習を行う。艦娘でなければ、考えられない場所だが、逆にこれこそが、まさに艦娘ならではの演習会場だ。

 

会場周辺は水の上も含めて、ブルネイ軍の船やヘリが行きかっている。午前中は関係者のみとはいえ、マスコミ関係者や一般の見物人が入り込まないようにするためだ。もちろんシナをはじめとした軍事スパイにも気を付けなければならない。

私は技術参謀の言葉を思い出していた。艦娘たちも世間知らずが多いから。そういう国際情勢やスパイ対策もしていくべきだろう。青葉辺りは、大丈夫だと思うけど。

 

「もうすぐ到着です」

漣が言った。

 

軍用車は、埠頭の入り口に到着する。多くの軍用車やVIP専用車、そしてやはりマスコミ関係や一般の野次馬たちが群がっている。私たちは検問所から、ゲートを通過して中に入った。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第112話(改)<真の護身と艦娘の使命>

駐車場に到着した提督に、漣が護身銃の確認を求める。やはり緊張するのだ。そして祥高さんは言うのだった。


「それが、もうひとつの君の使命だよ」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第112話<真の護身と君の使命>

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<<埠頭:会場到着>>

 

埠頭のゲートを通る際、マスコミのカメラや記者が凄かった。いわゆるパパラッチみたいなのも居るんだろうか?いや、ここはブルネイだからな。そういうスキャンダラス系は少ないだろう。ましてや今日は軍事演習だ。政治的な記者やメディアが多いだろう。青葉さんが居れば詳しそうだけど。

記者に混じって、各国の軍関係者、端的に言えばスパイも居るな。アジア系の顔も見える。まあ、ブルネイは東南アジアの要衝だから当然だろう。

 

そんな喧騒を通過して入ったゲートの中は静かだった。私たちの車はMPの誘導に従って、埠頭内を進んでいく。空を見れば天候は申し分ない。

 

電や漣、祥高さんは、ときどき無線を傍受するらしく首を傾(かし)げるような仕草をする。埠頭内を移動している際に、電が助手席から私たちを振り返って言う。

「準備の進捗は順調なのです。美保のお二人にも、特に問題がなければ直ぐに会場へご案内するのです」

 

私は祥高さんを見た。彼女は大きくうなづいて答える。

「了解です。美保やブルネイの艦娘たちもスタンバイOK、そのまま会場まで案内をお願いします」

 

「了解なのです」

すぐに電と漣は、軽くやり取りをした。

 

漣はそのまま進行しMPの指示に従って軍用車を所定の位置まで進めた。やがて駐車場が見えてきた。既に何台もの軍用車、公用車が停まっており、私たちは、誘導員の案内に従って、開いた場所に停車させた。漣は、振り返って私たちに確認をする。

「艦隊司令部からの確認事項がございます」

 

「なんだい?」

 

「あの~お手数なのですが~」

そう言いながら、申し訳無さそうに漣は続ける。

 

「お2人は~護身銃は~、お持ちでしょうか?」

私は思わず胸のホルスターに手をやった。南部はまだ入っている。

 

「私はあるよ。君は?」

祥高さんに確認をする。

 

「はい、護身用というより戦闘用のものがあります。ちょっと旧式ですけど、作動はOKです」

祥高さんも答えた。

 

「了解です。では降車したあと、いったん確認してから、会場へご案内します」

漣はいったん敬礼。私たちはそれぞれ、降車した。電が私たちを後部に案内し、漣はそれを確認の後、エンジンを切った。

 

<<埠頭:護身銃>>

 

私たちのところへ来た漣は、ちょっと低い声で言う。

「あの~、念のため~、護身銃の作動確認も~、お願いします」

 

このものの言い方は、漣らしい。私はちょっと美保の漣を連想し懐かしさを感じながら、南部を取り出した。同じく自分の銃を取り出している祥高さんに話しかけた。

「やはり外地での演習ともなると、物々しいんだね」

 

祥高さんも、銃を取り出ししながら応える。

「そうですね。今日受信している無線やデータから見ると、マスコミに公開したことを含めて司令部もかなり警戒しているようです」

 

「まあね。シナも来ているし」

私はさっき柵の外に、それらしい人物を何人か確認していた。

 

「深海棲艦がアジアの某国と関係を持っているという噂も、司令部が警戒している一因のようです」

祥高さんは黙々と自分の銃をチェックする。彼女の銃は確かに旧型だが妙に威圧感がある。例の彼女の”艦娘時代”の擬装そのものなのだろうか?

あれはきっと私には片手で持てないくらい重たいんだろう。私は境港で夕立や日向が振り回していた銃を連想した。あれは最新型だったが、祥高さんの旧型銃だって、それなりのものだろう。そりゃ怖いなんてもんじゃない。直撃されたら人間なんて一撃で消し飛ぶぞ。それを想像した私は、ちょっと冷や汗が出る。

 

「某国ねえ……ややこしいな。まあ、仕方がないか」

私は自分の南部をしまいながら言った。

 

「そうですね、大きく公表されましたから」

祥高さんも、その”武装”を脇にしまう。

しかし彼女も国際情勢や安全保障面の話題にもきちんとついてくる。秘書艦は、やはりこうであって欲しい。たまにというか、ほとんどの艦娘は、ちょっとそっち系は弱いよね。やっぱり日本に帰ったら、教育しなきゃ。

 

そんな私たちの傍では、漣と電も自分たちの”装備”の銃を確認している。やはりこの娘たちが、いざという時には私たちの盾になる。それを彼女たちは当然の任務としか思わないだろう。しかし艦娘たちが身を挺して私たちを護ろうとする姿は、いつ見ても胸が痛む。

 

しかもこの娘たちは、ごく最近建造され配属されたばかりだ。ただ任務に関する事実情報をインプットされ、それを黙々とこなすだけ。艦娘は普通の人間ではないし、まして軍人だ。私たち指揮官が不要な同情は持つべきではない。

 

とはいえ、出来ることなら、この埠頭で彼女たちが発砲するような事態にならないことを祈るばかりだ。まあそれ以前に海上にも艦娘をはじめ、ブルネイの艦船や警備艇も待機している。もし深海棲艦が来ても直ぐに彼女たちが動く事態には、ならないだろう。

 

ああダメだな~私も。つい人情的になってしまう。時には非情にならねば。

 

「司令」

祥高さんに促されて私はハッとした。そうだよ、この祥高さんの落ち着き払った態度は、すぐボーっとして妄想の世界に行ってしまう私には大切な”お目付け役”みたいなものだ。

 

「ああ、済まない」

私は応えた。

 

「では、参りましょうか~」

漣が先導して、私たちは歩き始めた。

 

<<埠頭:真の護身、君の使命>>

 

祥高さんと並んで歩いていると、彼女は言った。

「司令、あまり気に病まないでください。私たちは貴方のためなら、自分の命は何でもない。それは他の艦娘たちも同じです」

 

「……」

私は何も言えない。彼女は続ける。

 

「特に私は秘書艦ですから美保の中で最後まで生き延びる義務があります。そして私は、あなたを生き延びさせる使命があります。これは、あなた個人のためではありません。司令という公的な位置があるが故なのです」

 

「ああ、分かっている」

やっとのことで、私は応えた。

 

「申し訳ありません。分かりきったことですが出しゃばりまして」

彼女は言った。

 

ふと、私は立ち止まり改めて彼女を見詰めて言った。

「いや、良いんだ祥高さん。ときどき、そうやって私に釘を刺してくれ。それが、もうひとつの君の使命だよ」

 

あ~!またやってしまった。案の定、彼女は真っ赤になってしまった。

すぐに前を行っていた漣が振り返り、後ろから来ていた電は、固まって困惑している。ごめんね君たち……私は、苦笑するばかりだったが、直ぐに言った。

 

「行こうか、祥高さん」

 

その声で、彼女は答えた。

「はい、司令」

 

ああ、良かった。彼女はニッコリしている。そんな彼女は、以前よりも笑顔が自然になったよな。

私たちは再び歩き始めた。先頭の漣も後ろの電も、私たちを見て何かを感じたかのようにニコニコしていた。

 

そうだな。お互いに信頼しあうからこそ一蓮托生なんだ。それが本当の護身であり、ひいてはわが国の防衛へとつながる。私たちは帝国海軍、日本の防人だ。

また艦娘たちに教えられたようだな。

 

そんな埠頭から見える水面(みなも)も、キラキラと輝いていた。今日は演習日和だ。

 




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「みほ3ん」EX回:第113話<最高指揮官>

提督たちは、見学場所の建物に入る。そこでも、何度も関門を通過しなければならなかった。


「VIPから信頼されているとの判断ですね」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第113話<最高指揮官>

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<<埠頭:見学場所>>

 

やがて私たちは、埠頭の脇にある建物に案内される。3階建てのこじんまりとした建物だ。漣が言う。

「午前中は、こちらから演習を見学します」

 

「見学……?」

微妙に違う気もしたが敢えて突っ込むのは止めた。漣だからな。

 

「では」

と言って、私たちが建物に入ろうとしたら、衛兵に制止された。彼らは何かIDカードがどうのこうの、言っているらしい。漣は英語は苦手らしく、ちょっとあたふたしていた。しかし彼女は、すぐに何かを悟ったような顔をして、脇のポーチからカードを取り出して振り返った。

 

「す、済みません!これ~忘れていました!」

そう言いながら漣は、私たちにIDカードを配る。ローマ字で刻印された名前を確認する……間違いないな。肝心なものを忘れていたんだな~ったく。

 

電がカード見ながら、それでも不安らしく、恐る恐る私にカードを見せて聞いてくる。

「良く分からないのですけど、自分の写真のカードでOKですね?」

 

「そうだよ」

私は確認してから彼女に返した。電も自分の名前のローマ字くらいは読めるだろうけど、基本的に英語はダメで、不安になったンだろうな。

 

私たちは改めて自分のカードを持つと、衛兵に確認してもらってから建物に入った。

 

「では、参りましょう」

漣がメモを見ながら先導する。私たちは小さいロビーから階段を上がっていく。

 

2階に着くと、正面の大きな扉の前に、やはり衛兵の立っている部屋がある。私たちはそこでまたチェックを受ける。今度は、身体検査もあった。艦娘に考慮したのか知らないが、衛兵の片方は女性だ。彼女は手際よく、艦娘たちのボディ・チェックをする。衛兵が何か英語で言っている。また漣と電があたふたしている。すぐに祥高さんが近寄って応対する。

 

やがて祥高さんが二人に説明をした。

「私たちの銃を、念のために預かるので、タグを付けて下さいって」

 

「タグ?」

漣が首を傾げる。

 

「これよ」

そう言いながら祥高さんは、衛兵が差し出したカゴから紐のついた紙切れを4枚取って私たちに配った。

 

<<見学場所:最高指揮官>>

 

「これに名前を書いて。ボールペンはありますよね。なかったら貸します」

彼女は自分の紙切れに記名をしながら言う。

 

「あ~、貸してください」

これは漣。

 

「日本語でも良いのでしょうか?」

電がまた不安そうに聞いてくる。

 

「自分のものだと分かれば良いので、大丈夫です」

さすが祥高さんは、てきぱきとして場慣れしているな。やはり経験があるのだろう。

 

やがて衛兵は、一つ一つの銃を確認しながら丁寧にカートに納めていく。祥高さんの銃は、彼らも初めて見るタイプらしく、衛兵は祥高さんと何か、やりとりをしている。恐らく保存時のセーフティの確認だろう。

 

私も銃にタグをつけて渡そうとすると、衛兵は英語で言った。

『提督、あなたは預けなくて結構です』

 

『あ……そうか』

私は、うなづきながら、銃を再びホルスターに戻した。

 

「え?そうなんだ」

漣が不思議そうな顔をして呟く。

 

祥高さんが説明する。

「美保の最高指揮官であることと、恐らく中にいるVIPから信頼されているとの判断ですね」

 

中にいるVIP?何となく想像はできる。

しかし、こういう扱いの違いを見ると、やはり司令官と言う位置の大きさ、責任の重さを改めて確認せざるを得ない。

 

やがて、衛兵が扉を開けてくれる。やれやれ、やっとのことで、中に入れるのか。

 




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「みほ3ん」EX回:第114話<ドイツ海軍>

演習本部となる会場には、国際色豊かな軍人が揃っていた。その中にドイツ海軍が居た。


『今回は、その艦娘も一緒に?』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第114話<ドイツ海軍>

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<<演習本部:2F>>

 

私たちは、部屋の中に入った。中には大きなスクリーンと、椅子。そして既に8割以上の関係者が集っていた。

 

まだ開始時間まで間があるようで、数人が立ち話をしたり、しきりに外部と電話をしている。電話?……そういえば日本では、まだ携帯電話はさほど普及していない。もっとも、軍人は電話よりも無線だけどね。

 

ブルネイ……といっても、実質はブルネイに駐留する日本軍との合同演習なのだ。私自身、海外まで来て演習するのは、初めてだ。

 

「お~い、ここだ!」

ブルネイ司令が手を上げて近寄ってくる。手に何か持っているぞ。

 

「これを着けろ」

菊の造花のコサージュのような物を、私の胸に着けられた。

 

それを着けてブルネイ司令は、私を小突いた。

「おい、しっかりしろよ!」

 

「ああ」

そう言われて、ハッとした。良く考えたら私も主催者の一人なんだよな。もっとも運営実務担当は、ほとんどブルネイ側と、艦隊司令部および、海軍省の本省の方でやってくれている。私は本当に、ただ居るだけ。

 

まあ、艦娘の引率とか、様子を見ているだけだよな。あとは、何かあったときに、代表者として立つくらいか。

そう思うと、さっき演説しただけでも、ちょっとは”働いた”気になる。改めて、ホッとするな。

 

そこに五月雨がやってきて艦娘たちに言う。

「提督と秘書艦以外の艦娘の皆さんは、後ろの席になります。場合によっては立ち見になるかも知れませんが、ご理解をお願いします」

 

「分かりました」

祥高さんが応えながら、振り返る。漣も電もうなづいている。

 

周りを見ると、ブルネイの関係者以外に金髪の人間も居る。腕にハーケンクロイツの腕章?……ああ、ナチスも居るんだな。やっぱりUボートで来たのだろうか?

すると、その隣の黒髪だけど濃い顔の外人っぽいのが多分イタリアだな。意外に、この演習は大きく注目されているんだな。

 

私の挙動を見ていたらしい祥高さんが言う。

「噂では、ドイツやイタリアにも艦娘がいるそうですね」

 

「そうなのか?良く知っているな」

 

「妹から聞きました」

 

「ああ、本省にいれば、そういう話も耳に入るか」

 

私は、ドイツ軍人を見ながら言った。

「彼らに聞けば、すぐ分かるだろう。後で聞いてみるか」

 

「そうですね」

 

<<演習本部:ハーケンクロイツ>>

 

すると、向こうのドイツ軍が私たちに気付いたらしく、二人のドイツ人が何かささやきあった後、こちらへと向かってきた。私よりも、横にいる電や漣が震えている。

 

「おい、怖がるなよ。同盟国だぞ」

思わず、たしなめる私。

 

「なのですが……ちょっと怖いのです」

 

「ドイツですからねえ~」

何だよ漣、その言い方は。だったら逃げろよ。

 

「でも~ちょっと興味はあるんです~」

まるで青葉さんだな、漣。そういえば青葉さんはどうしているかな?

 

「午後から、合流する予定です」

祥高さんが応える。

 

「なるほど」

私が応えると間もなく、私たちの前に二人のドイツ軍人が立った。うん、見るからに軍人だぞ。何となく制服が格好いいな。

 

二人が敬礼をする。私たちも敬礼で返す。

『ドイツから参りました。英語ならOkですか?』

 

『はい。さほど得意ではありませんが』

私は苦笑する。

 

『大丈夫。私たちも英語は苦手です』

そう言って、お互いに笑った。ちょっと場が和んだ。艦娘たちが恐れるほど、堅物でも無さそうだ。そこは同じ海軍だからだろう。

 

『ほう……』

背の高いほうが、祥高さんを見て言った。

 

『失礼ですが、あなたたちが艦娘ですか?』

 

すぐに祥高さんが応対する。

『重巡”祥高”と申します。よろしくお願いします』

 

そういうと、二人は握手をしている。すぐに彼は続けた。

『実はわがドイツ海軍にも艦娘が居ましてね。ただ、数が少ない。貴国のように多数で運用される、そのノウハウをぜひ知りたいですな』

 

なるほど。ドイツにも艦娘がいるんだ。

『聞けば、ほぼ量産化は目処が立ったと伺いました。それはわが国としても実に心強い限り。これで制海権を得られます!』

 

深海棲艦に苦しむのは世界共通なんだな。急に世の中が見えるように感じた。

 

『今回は、その艦娘も一緒に?』

祥高さんが、あまりにもピンポイントな質問を彼らに投げ掛けた。見事だ。彼は言う。

 

『ええ。ただ、戦艦は目立ちますから……』

そこで彼は、急に周りを気にしたように声を潜めた。

 

『あなたが美保の司令だから、特別にお伝えしておきましょう。我々は今回、Uボートの艦娘を同伴しています』

これは驚いた。しかし彼の態度にあるように、これは機密事項だな。改めて、司令の位置の大きさを実感する。

 

『艦娘の彼女は、さすがに疲れて、今は休んでます。でもこれを機会に貴国の艦娘とも、交流させてやりたいと思いましてね』

 

『ほう』

その言葉に驚いたのは、私だけでは無かった。祥高さんも同様だった。

ドイツ人と言うと、もっと堅いと思っていたけど、意外にそうでもないのかもしれない。

 

 

 




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「みほ3ん」EX回:第115話<総統閣下と艦娘>

ドイツ海軍と談笑して、急に親近感が湧いた提督。すると艦娘も打ち解け始める。


『とても艦娘をお気に入りで……』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第115話<総統閣下と艦娘>

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<<演習本部:総統閣下と艦娘>>

 

今度は背の低いほうが話しかけてきた。

『これは私の個人的な構想ですが、いずれは日本海軍にも協力頂いて艦娘を増やし、ドイツ海軍を強化したいと考えます』

 

『ほう』

それは、遠大な構想だな。

 

『そうなれば……』

今度は背の高いほうが続ける。

 

『わが国の総統もお喜びになりますし、それ以上に、貿易の再開でドイツ国民の暮らしが、もっと豊かになります』

総統?そうか、ドイツではまだ、総統が健在なんだな。かなり高齢だと思うが。

 

『実は総統閣下が、とても艦娘をお気に入りで……』

小さいほうは、そう言いながら妙にニヤニヤしている。それを聞いて私たちは、また小さく笑った。何だか笑顔になると急に彼らに親近感が湧いた。不思議な感覚だ。これも艦娘のメリットなのかも知れない。

しかし、あの硬そうな総統が艦娘をお気に入りとは……まあ、分からなくもないが。

 

改めてみると、きっちりしたドイツ軍の服を着ているのに二人の背は、高いのと低いのとで、まさに凸凹コンビだ。でも二人とも、意外に気さくそうで、ちょっとホッとした。

 

場が和んだからだろうか、漣が興味深そうに話しかけてきた。

「あのぉ~、ドイツの艦娘も居るのですか?」

 

そうか~、漣は英語はダメなんだよな。機密はストレートには漏れないとしても、艦娘のことを言うべきか?どうしたものかな?私は判断に迷ったので、祥高さんに聞いた。

「祥高さん、どうしようか?」

 

「そうですね」

彼女は、ちょっと考えてから言った。

 

「話しても問題ないでしょう。彼女たちはブルネイ所属ですし、美保の艦娘たちも含めて一般との接点は、ほとんどありません。私から説明しておきましょう」

 

「頼む」

漣たちへの対応は祥高さんに任せて、私は再びドイツ軍人を振り返った。

 

<<演習本部:艦娘の威力>>

 

『実は私も美保に着任して日が浅いものですから、まだまだ手探りですよ』

私は、言い訳も含めて言った。

 

『ははは』

急に背の高いほうが笑った。

 

『それは私たちも同じですよ。艦娘というのは恐らく日本が一番早く出現し、その後、ドイツにも現れたと思います』

 

『なるほど、そうなのですか』

 

『さっきイタリア海軍とも話をして、ローマにも艦娘が居ることを知りました。ただ、お互い機密と言うほどでもないのですが、やはり数が少ない。情報も少なくて運用そのものが手探りなのです。今回演習があると聞いて、こちらから強引に押しかけたようなものです』

なるほど、ドイツもイタリアも、苦労しているんだな。

 

『ご存知でしょうが、あの艦娘たちの威力というものは計り知れません。総統閣下が、お気に入りというのは、そこにも理由があります。深海棲艦の脅威もありますが、それを軽く凌駕する力。もし量産化が実現できれば……』

ここで彼は再び、声を潜めた。

 

『我々枢軸国と、かつての連合国との、今のこう着状態を、再び切り崩すことも可能です』

このときの彼は、まさに獣のような鋭い目つきになった。この発言はオフレコだな。

だがこれが彼個人の考えなのか、ナチスあるいは総統閣下の思惑なのかは分からないが、そういう危ない情報を率直に話してくれるとは、信頼されたものだな。

 

彼も言ってはならない事を話した自らを反省したのだろう。一度、制帽を取ると苦笑いをして言った。金髪がきれいだ。

『あなたは不思議な人だな。私もこんなことを話すつもりは無かったのですが、なぜかあなたを前にすると、何でも話したくなるのです』

 

すると、背の低いほうも腕を組みながら続けた。

『恐らく、あなたのそういう性格が、美保鎮守府の提督という位置を与えたのでしょう。うん、そうに違いない』

 

そういいつつ彼は、メモ帳を取り出してさかんに記録している。

それを見ながら、もう一人が続けた。

『あなたと出会えてよかった。今は艦娘に関する、どんな情報でも欲しいのです。今後もあなたとは、長いお付き合いをお願いします』

 

『こちらこそ』

私たちは、再び握手をした。

 

やがて時間になったのだろう。扉が開いて、女性秘書官と”王宮男性”とイケメンSP男性が入ってきた。

いよいよ開始だな。

 




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「みほ3ん」EX回:第116話<ライト・ブリッツ作戦>

海軍省事務次官が前に立ち、演習作戦の概要を英語で説明し始めた。提督は初めて概要を知った。


『わが帝国海軍の誇る艦娘を披露いたします』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第116話<ライト・ブリッツ作戦>

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<<演習:作戦概要>>

 

扉が開いて、女性秘書官と”王宮男性”とイケメンSP男性が入ってきた。ざわついていた室内は急に静かになり、それぞれ自分の席へと戻っていく。

 

『時間のようですな。ではまた、お会いしましょう』

ドイツ軍人は軽く敬礼をして立ち去った。一瞬、ナチス式の挨拶をするかと思ったが、さすが海軍、決まりきった型に、はまらない自由さがある。

 

さて、私の席はどこかなと思っていたら、五月雨が私と祥高さんを前方の袖の席へ案内してくれた。やっぱり私たちは前の席になるのか~。そしてブルネイの漣と電は、後ろのほうへ行く。

 

やがて司会者席に日本人が立った。彼はマイクを調整すると英語で挨拶をする。

『日本帝国海軍省事務次官です。このたびはブルネイにおける演習作戦に、ご参加いただきまして御礼を申し上げます』

 

帝国海軍省の役人か。ずっと雲の上の存在だと思っていた。これも美保鎮守府と艦娘のお陰だと思うと、感慨深いものがあるな。

『本、演習作戦名は”ライト・ブリッツ(軽い電激戦)”。ブルネイの領海・領土防衛を前提とした射撃訓練及び艦隊行動の披露を目的としております。特に深海棲艦だけでなく、仮想敵国も含めた領海侵犯行為への警告射撃演習。そして領土への上陸を図る仮想敵への防衛火力誘導、即ち着弾観測射撃を実施いたします』

 

あ、そういえば私も演習内容は全然知らなかったぞ。まあ、機密事項ってことかなあ。

でも英語だと何割かは、分かりにくい部分があるな。事務次官はさらに続ける。

『今回は特に、わが帝国海軍の誇る艦娘を披露いたします。大きく分けて午前中は戦艦を中心とした射撃訓練、午後は駆逐艦を中心とした艦隊行動を披露いたします。特に午後は、一般への公開も予定しております』

 

ああ、最後の説明で、ようやく概要が分かった。うちの金剛や比叡、日向は午前中になるんだ。着弾観測射撃をするってことは、赤城さんも午前中かな?

でも午後には駆逐艦の艦隊行動って事は、ほとんどブルネイの艦娘になるのだろうか?うちは夕立くらいで、まさか寛代が出るとは思えないし。

 

<<作戦概要:不穏>>

 

事務次官は続ける。

『一部、報道されましたので、ご存知の方も居られるかも知れません。演習作戦が発表されてから直ぐにシナが激しくわが国に抗議、作戦の中止を要請してきております。わが国は外交ルートを通じて、この作戦はシナとは一切無関係であり、あくまでも深海棲艦への対抗処置であること。またブルネイとの友好を図るためだと説明致しました。しかしシナは、この作戦を実施した場合、実力行使をもって阻止するという警告をしてきております。ももちろん、わが国としては一切応じるつもりは御座いません』

 

なんだ?それは。初めて聞いたぞ。何だか面倒だな。でも正直言って、ブルネイがシナの威圧に困惑しているのは、以前からあることだ。わが国を始め、周辺国家が演習をするたびに、シナが文句を言うのも、いつものことだから取り立てて珍しいことでもない。

しかし実力行使という表現は、ちょっと珍しいな。いつもなら遺憾である~程度で終わるんだけどね~。

 

ここで私は鳥肌が立った。

いやだな、何事も無ければいいのだが。

 




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「みほ3ん」EX回:第117話<未来への演説>

女性秘書官に続いて王宮男性が演説をした。それは日本とブルネイ、そして艦娘たちの未来を見据えた、希望的な内容だった。


”今、人間同士で争っている場合ではないのだと”

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第117話<未来への演説>

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<<女性秘書官:ブルネイ海軍概要>>

 

やがて、あの女性秘書官が演台に立った。彼女は参加者へのお礼とブルネイ海軍の概要について簡単な説明をした。

 

しかし驚いたのは、そのブルネイ海軍の規模だ。さほど大きくないのは聞いていたが、兵員は700名程度。戦艦や空母は保有せず、巡視艇部隊などが中心。ほとんど軍隊と言うよりは国土防衛、それも沿岸警備的なものだ。海賊くらいなら相手に出来るだろうけど、国防のためとしてはあまりにも弱い。

 

昨日の深海棲艦の攻撃は規模が小さかったにも拘らず、ブルネイ軍としては、ほとんど対処し切れなかった。

 

もし敵が本気を出して、美保に来たレベルの半分でも大挙して襲ってきたら到底、太刀打ちできないだろう。

 

まだ現代のブルネイは隣国との関係が良好だからいい。しかしもし仮想敵国とされるシナが本格的に海を渡ってきたら、想像するだけで恐ろしいことになる。深海棲艦に仮想敵国と、とても手が回らない。

 

ブルネイのような小国が、わが帝国海軍との提携を模索すること。

特に”艦娘”に注目するのは至極、当然の流れだろう。

 

<<王宮男性:演説>>

 

続いてSP男性を伴って、”王宮男性”が登壇する。今まであまり明るい場所で彼を見ていなかったから分からなかったが、やはり王族なのだろう。とても気品のある顔立ちだ。

重ね重ね私のような者が接して無礼が無かったか?と思うと、冷や汗が出る。ただこれも、美保鎮守府と艦娘の取り成す縁なのだろう。

 

彼はきれいな英語で話し始めた。

 

『本日、このような小国へ集った皆様に厚く御礼申し上げます。わが国とこのたびの演習について、ひとこと、申し上げます。

いま深海棲艦により、東南アジアだけでなく世界の安全保障が脅かされております。わがブルネイのような小国にとっては、自国防衛も不十分な中で、これは深刻な問題です。

 

昨日私は、初めて深海棲艦の脅威に接しました。恥ずかしながら改めていま、世界の海が彼らに制圧されている現実に目を覚まされたのです。

しかし国境とは人間が地面に自分勝手に引いた一本の線に過ぎません。ところが海には国境はない。一つなのです。人類共通の財産ともいえる海が不当に占領されている現状を見た場合、もはや地上での無用な争いは止めるべきでしょう。

 

しかし残念ながら我々が対抗すべき相手は、海だけではないのです。近年、この地域において突出した軍事力を行使する国家が現れております。彼らは深海棲艦の脅威の陰に隠れるようにして、この地域で様々な問題を引き起こしております。人類に対する明らかな敵意を持つ深海棲艦だけではない。同じ人間でありながら、なぜ我々は争わなければならないのでしょうか?

 

今、世界は狭くなったと申します。経済や防衛など、一国だけで存立できると考えるのは時代遅れです。我々は訴えたい。今、人間同士で争っている場合ではないのだと。

 

我々にも、自国を護る権利が御座います。明確な脅威に対しては、抵抗する義務が御座います。この小さな国で我々が選択した道は、同盟国日本との協力です。そして、昨年度よりわが国への帝国海軍の駐留を要請。さらに様々な検討を重ねた結果、新しい戦闘システムの導入を決断いたしました。この実現のために奔走された、関係者各位の皆様には心から御礼を申し上げます。

 

私はかねてより長い伝統と、高い精神性に裏付けられた日本の文化に敬意を持っております。わが国が日本帝国海軍と協力して防衛に努める理由もここにあります。

また日本には、物事を小さく簡潔にしながら、すべてを包括させる伝統文化が御座います。

そう、皆様は既にご存知でしょう。あの小さな艦娘たちを。まさに彼女たちが、わが国のような小さい国には、最適な防衛システム足りうるのです。

 

私も今回、初めて彼女らに接し、そしてその活躍を間近で体験いたしました。もちろん強力な戦闘能力もメリットかもしれません。しかしそれ以上に私が期待しているのは、その志です。彼女たちと接して私はすぐに分かりました。女性であっても、その精神は男性と変わらない。いやむしろ純粋な分、男性よりも崇高であるとさえ思えたのです。これが日本に伝わる武士道なのかもしれません。

 

ただ武力によって自国を守るだけではない。共に手を取り合って防衛し、共に成長し発展できる。そのような未来を感じたのです。私は日本帝国に期待をしています。両国が防衛だけでない、未来へ向かって共に発展できることを祈っております。

 

長くなって申し訳御座いません。この演習を通して、両国の発展と、我々の理念に賛同する国家がさらに増えていくことを祈念致します。ありがとう御座いました』

 

感動的な演説は終わった。まるで国家元首のような演説だった。礼をした彼に、会場からは割れんばかりの拍手が送られている。

 

何度も礼をする彼を見て私は深く反省した。彼の方が艦娘と接した期間が短いにもかかわらず、艦娘たちの本質を良く捉えている。やはり上に立つ者は、普通の人が見えない部分まで見えるのだろう。

 

私はふと隣の祥高さんを見た。彼女もこの演説に感動しているようで盛んに拍手している。私も彼女たちと共に、成長していかなければならないなと改めて思わされた。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第118話<午前の演習開始>

いよいよ午前中の演習が始まる。提督は他の武官たちの反応を見て、急に艦娘たちが誇らしく思えるのだった。


「驚くのは、まだ早いよな」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第118話<午前の演習開始>

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<<作戦参謀:開始説明>>

 

感動的なブルネイの”王宮男性”の演説の後、作戦参謀が前に立つ。

恐らく、この会場のほとんどの参加者は彼女を”男性”だと思っているだろう。いや艦娘たちだって勘違いしているに違いない。私は一人そう思いながら腕を組んで見ていた。

”彼女”は前に立つとOHPを使って解説をする。眼鏡がキラキラ反射している。相変わらずだな、あの眼鏡は。そのOHPの直ぐ脇には羽黒が資料を抱えて座り、解説に合わせてシートを変更していく。

 

作戦参謀は話し始める。

「帝国海軍作戦参謀です。午前の概要を説明いたします。午前は主に艦隊行動。仮想敵国シナが当ブルネイ周辺地域へ力づくで押してくる場合と、逆にゲリラ戦に出てくる場合を想定いたします。まず午前中は彼らが力で押して来る場合を想定した艦隊行動を行います。特にブルネイ周辺の海岸線。地形的には遠浅海岸や砂浜への敵の上陸作戦を想定します。索敵や戦闘機による攻撃を実施。さらに敵から上陸艇で強襲された場合のピンポイント爆撃及び着弾観測射撃、さらに敵艦船への戦艦による砲撃および上陸した敵への艦砲射撃を実施いたします」

 

仮想敵国シナなんて、絶対に外部には出せないよな。しかし作戦参謀は相変わらず早口だ。もっとも”王宮男性”の演説が長引いて演習開始予定時刻が15分以上も超過していることもあるのかな。

その早口に合わせて羽黒が必死にOHPシートをチェンジしている。それでも間違うことなく交換しているのは、さすがだ。

 

会場の参加者たちも必死でメモを取っている。ブルネイ司令も隣で必死にメモっている。私は既にメモは脱落。でも隣の祥高さんがメモ帳にミミズのような字で書きなぐっているから、それで良しとしておこう。

 

もっとも彼女は音声記録機能も持っていたはずだから、いざとなれば、そこから再生して……甘いかな?

ちょっと横を見ると、ブルネイの五月雨はボーっとしている。一応、彼女も音声ログは録れるだろうけど、それ以前にメモを取るという習慣が、まだ身に付いていないだろう。そもそもこういう場が初めてなんだろう。思わず未来のGR(ゲストルーム)で技術参謀に、機密だと言って散々脅されたことを思い出してしまった。彼女って、不思議とこういう場に同席することが多いんだな。

 

<<作戦参謀:演習開始>>

 

作戦参謀が羽黒に何か耳打ちした後、説明を続ける。

「この会場からは直接、演習の模様をご覧いただけます。また前方のスクリーンにはテレビカメラによる中継映像も流します。OHPのスクリーンには作戦概要の図式を表示しておきます」

 

やがて羽黒がどこかと交信したらしく作戦参謀にOKという合図を送る。

作戦参謀は、言った。

「ではこれより午前の演習を開始いたします。参加艦艇は美保側より旗艦金剛、比叡、赤城、日向。ブルネイ側からは扶桑、山城に加賀、最上、伊勢。また取材艦として青葉、取材補助及び連絡担当、寛代です」

 

もう艦種は飛ばしての案内だな。寛代は姿を見ないなと思ったら、こんなところに居たんだ。

しかし現在の美保では当然あり得ないが、一般的な鎮守府でも、これだけの大型艦が一気に出撃することはない。一種のデモンストレーションか。

 

既に数名の武官たちは窓際に立って双眼鏡を覗いている。私は遠慮してモニターに映し出される艦娘たちを見ていた。

 

やがて艦娘たちが沖合いに展開して動きが止まった。作戦参謀が説明をする。

「まずは偵察機による索敵を行います」

 

画面は望遠でちょっとボヤけているが、日向と伊勢が合図をして瑞雲を飛ばしている。作戦参謀が補足する。

「彼女たちは航空戦艦ですが偵察機は戦艦の艦娘にも搭載可能です。艦隊編成と作戦内容、総合火力を見ながら選択できます」

 

既に武官たちは、通常の艦艇と比べて余りにもコンパクトな艦娘の構成に驚いているようだ。ブルネイ司令が話しかけてきた。

「驚くのは、まだ早いよな」

 

「ああ」

このとき私は、急に艦娘たちが誇らしく思えてきたのだった。

 




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「みほ3ん」EX回:第119話<艦娘を連れて>

演習が始まり、カンムスと言う言葉が、会場内に飛び交う。これは国際語なのか?


『私はイタリア海軍の者です』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第119話<艦娘を連れて>

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<<演習開始:カンムス>>

 

モニター画面は望遠で、ちょっとボヤけているが、日向と伊勢が合図をして瑞雲を飛ばしている。作戦参謀が補足する。

「彼女たちは航空戦艦ですが偵察機は戦艦の艦娘にも搭載可能です。艦隊編成と作戦内容、総合火力を見ながら選択できます」

 

ドイツとイタリアの軍人たちも、しきりに双眼鏡で海上を見ている。武官どうして何か会話しているが、残念ながら、ドイツ語とかイタリア語は分からない。

ただ、時おり「カンムス」と言う単語を使っている。艦娘と言う用語も、日本語が世界標準になるのだろうか?それは不思議な感覚だな。

 

ボーっとしていた五月雨は、漣と電に誘われて、窓際へ向かった。最初は、漣と電に五月雨の制服の事を聞かれているらしく、五月雨は恥ずかしそうな顔をしながら説明をしている。その姿は、本当に普通の少女だ。

 

やがて外を見ながら、瑞雲がどうのとか、へえ~とか、感心したような顔をしてお互いに、うなづいている。そうか、彼女たちは、訓練中の艦娘の無線が聞けるんだよな。おい、くれぐれも訓練の邪魔をするな~。

 

ブルネイ司令が私の隣に来て、話しかけてくる。

「あの娘たちは、安定しているようだな」

 

「あ、ああ」

そうか、あの艦娘たちは、試作量産型だったな。その言葉を聞くまで忘れていた。

 

「技師が言うには、やはり駆逐艦娘は、かなり安定しているようだ。出来れば、彼女たちには、なるべく長生きさせてやりたいな……」

やはりこいつには自分に娘がいるからだろうか?軍人としては微妙な発言だ。でも学生時代から、面倒見のいい奴だったから、こいつが、そう言う気持ちは分かる。

 

「お前がうらやましいよ」

頭の後ろに腕を組んで彼は言った。

 

「なんで?」

 

「美保鎮守府では、そういう心配はしなくていいだろ?」

 

「ああ、まあそうだけどな……」

いや普通の艦娘だって、いろいろ大変だよ。でも反論はしなかった。昨日からのゴタゴタで、私も彼の苦悩が少しは分かるようになったから。

 

<<イタリア武官:やはり艦娘を>>

 

『失礼』

ちょっと訛りのある英語で背後から話しかけられた。振り返ると、イタリア海軍だ。また背が高いな。

 

『日本の提督ですね?私はイタリア海軍の者です』

ブルネイ司令と私は起立して、それぞれ握手をした。さっきまで窓際に居たと思ったが、いつの間に……でも、二人居たはずだが、一人だな。それを察したのか彼は言う。

 

『相棒は、窓から外の様子を見ています。あの、窓際に居る女の子たち、艦娘ですね』

 

『はい』

ブルネイ司令は答える。

 

『おお!』

彼は、初めて祥高さんを認めたような顔をした。彼は背が高いから、視界に入らなかったのか?

 

『これは失礼!もしかして、あなたも……?』

 

祥高さんは立ち上がって、握手をした。

『美保鎮守府所属、重巡”祥高”です。今は秘書艦です』

 

『Woo~、素晴らしい』

何となく、金剛を思い出した。

 

『ドイツから聞いてますよね、彼らは艦娘を連れてきていると』

彼はニコニコしながら言う。

 

私が答える。

『はい、そのようですね。今は休んでいるとか』

 

急に彼も、周りを見回すような格好をする。それから小声になった。

『ドイツにも言いましたが、私も連れて来ています、艦娘』

 

『え?』

思わず私は、ブルネイ司令と顔を見合わせた。

 

『ドイツも事情は同じようですね~。我々もそうです。とにかく情報が欲しい。せっかくですから、連れてきましたよ』

 

『はあ……』

何とも言えないが、逆の立場だったら、私たちも同じ行動をしていただろうな。そう思うと、同情できる。

しかし、艦娘同士は、どうやって会話するのだろうか?ちょっと興味が湧いた。

 




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「みほ3ん」EX回:第120話<外交官なのか>

索敵演習が始まると同時に、提督の元にイタリアの軍人が話しかけてきた。海外武官への応対。これも大切な使命なのだ。


「軍人には、苦手なジャンルだな」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第120話<外交官なのか>

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<<演習:索敵>>

 

そうこうしている間にも、演習は粛々と進んでいる。作戦参謀は、途中から英語で解説を続けている。

『いま索敵を行い、敵を発見しました。艦娘たちが飛ばした索敵機は片手でも持て居る程度のコンパクトさです。このサイズであれば、相手が通常の艦艇の場合、ほぼ発見されません。ただし、相手が深海棲艦であったり、同じような艦娘の索敵機であれば、すぐに発見されます」

 

会場からは、驚嘆の声が上がっている。確かに、あの索敵機のサイズは驚異的だよな。それ以前に艦娘自体がコンパクトであるが。でも作戦参謀は、艦載機の妖精の説明を省いたな。でも、この場でそこまで説明するのは面倒だし、時間も遅れているからな。分かる人には、いずれ分かることだ。

 

『私もね、艦娘のサイズに可能性を感じるのです』

なんだ、ビックリした。イタリア、まだ後ろに居たのか?頼むから私の肩に手を乗せるのはやめてくれ。重たい。

 

『能力は通常艦艇と同じかそれ以上。運用は容易。惜しいのは、まだわが国には数が居ないことですネ』

 

『そうですか』

 

『量産化も魅力ですが、同盟国として、お互いに駐留することも考えて頂きたい思いますヨ。ほとんど日本にお願いすることになりますけどね~、ははは』

この馴れ馴れしい感じは、やっぱり金剛そっくりだ。それでも相手はイタリアの軍人だ。追い払うわけにも行かない。金剛が、ここに居ると思って我慢するか。

 

『ブルネイへの日本軍駐留と言う前例が、もうココにあるわけですから。イタリアはちょっと遠いですが、その気になれば、すぐ実現できるでしょう。よろしくお願いですヨ』

 

『はあ……』

私の一存で決められる話では無いだろう。私としては、ただ苦笑するだけだ。

 

『そうだ、ブルネイの担当者にも、話を聞きたいですネ~』

そう言いながら、”チャオ”と言いつつイタリアは離れて行った。肩が軽くなった。

 

<<演習:外交官なのか>>

 

私が肩を回していると、ブルネイ司令が話しかけてきた。

「イタリア人は、みんな、軽いんだろうな~」

 

「知らん」

 

「俺も今日は、いろんな人から、あれこれ聞かれて疲れる。ま、演習の制服組なんて接待係みたいなもんだからなあ」

 

「そうなのか?」

 

「あ、そうか」

ブルネイ司令は、改めて気付いたような顔をした。

 

「お前はまだ経験が浅いんだったな。そうだよ、海軍の海外組なんて、そんなもんだ。だいたい、今日は秘書艦を連れて来いって言うのも、他の武官への受け狙いもあるんだぞ、きっと」

 

「やれやれ~軍人には、苦手なジャンルだな」

私は椅子に深く腰をかけた。

 

「そういうな。海軍で上に立つようになれば、外交官みたいなことも、しないとダメなんだぞ」

 

「了解」

私は、冗談交じりに敬礼をした。

 

「司令も大変ですね」

ずっと黙っていた祥高さんが話しかけてきた。

 

「思っていた以上にね。未来の方が、のんびりしていて良かったな~」

私は苦笑した。

 




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「美保鎮守府:第三部」の略称です。機体が小さいのでほぼ、発見されない。
ただし、相手が通常間の場合。これが深海とか、艦娘だと、発見される。


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「みほ3ん」EX回:第121話<編隊と姉妹>

日向たちの索敵の後、赤城さんたちによる艦載機の攻撃演習が始まる。艦娘たちが、ちょっと誇らしくなった提督だった。


”姉妹艦は一緒に居たほうがいいのだろうか?”

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第121話<編隊と姉妹>

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<<演習:正規空母>>

 

作戦参謀は、演台で解説を続ける。

『続いて、発見した敵に対する空母艦載機による攻撃を実施します。もちろん航空戦艦である日向や伊勢でも攻撃は可能ですが、今日は、わが海軍の誇る正規空母2隻による攻撃を披露いたします』

 

そこで、赤城さんと加賀さんがモニターに出てきた。この二人が出てくるとモニター画面でも独特の緊張感が漂う。だてに一航戦ではない。加賀さんも量産型だが堂々としている。レシピは上手くいっているな。

 

作戦参謀は続ける。

『この正規空母は、コンパクトながら通常艦艇と同等か、それ以上の打撃力を持ちます。状況によりますが通常の艦艇から艦娘への攻撃は、やはり艦娘という”標的”が小さいため、発見が困難です。仮に発見しても照準があわせづらく、艦娘自身による攻撃回避も容易です。ただ先程と同様、同じ艦娘や深海棲艦からは、容易に攻撃され得ます』

 

それを聞いて思ったのは、ブルネイに対する仮想敵国シナだ。彼らが通常兵器でこのブルネイに攻めてきた場合、迎え撃つブルネイ側に艦娘部隊がいれば、どうだろうか?平時の運用面だけでなく有事の際の防御および反撃と言う観点から見ても、かなり有利だ。なるほどブルネイ側が私たち海軍の艦娘部隊の駐留を希望し、その導入に積極的な理由も分かる。

 

やがて作戦参謀は”失礼”と言いながら、どこかと交信を始めている。相手は艦娘だろうか?しかし、その姿を見ても、この会場にいる武官たちは、彼女が艦娘だとは思っていないだろう。通信しているとはいえ、その姿は、超小型の無線機で通話しているようにしか見えないから。

 

もっとも彼女が艦娘と分かれば、後から質問攻めにも合うだろうし。何となく作戦参謀自身も、そういう応対は苦手そうだ。どことなく敬遠しているような印象もある。

 

そうこうしているうちに、作戦参謀は再び演台に戻る。

『空母と連絡が取れましたので、攻撃の前に、この会場の近くまで艦載機を廻します。皆さんの目で実機の勇姿を、どうぞご覧下さい』

 

勇姿とは、よく言ったものだ。そして私自身、妙に艦娘たちが誇らしく感じられるのも事実だ。

 

普段は赤城さんを始め、艦娘たちには散々振り回されているにもかかわらず、なんだか不思議な気持ちだな。一種の親心ってことか?

 

<<演習:編隊と姉妹>>

 

やがて編隊を組んで、艦載機がやってきた。普通の艦載機よりはエンジン音は小さいが、それでも編隊を組みキラキラ光る海上を飛翔してくる艦載機は、何ともいえない迫力だ。埠頭の手前で機体を回転させながら二手に分かれた編隊は、次々と上昇し反転していく。そのたびにキャノピーがキラキラ光る。

 

ブルネイの担当官をはじめ、各国の武官たちは一様に感動している。またブルネイの”王宮男性”と女性秘書官は、何か会話しながら何度も頷いている。

 

作戦参謀が続ける。

『では続けて演習用の擬似艦艇(標的)へ向けて、艦載機による攻撃を実施します。彼女たちが得意とする急降下爆撃をご覧下さい』

 

はるか海上に張りぼての”艦艇”が浮かんでいる。上空へ到達した艦載機の編隊は、そこへ目がけて次々と反転し急降下を開始する。距離はあるが、突入する艦載機のヒューという風切り音が聞こえてくる。

 

『小さくても運動能力や上昇能力、さらに攻撃力、どれを取っても通常の艦載機に引けをとりません。またあの風切り音は、敵が上空を確認しても、その小さな艦載機を確認しにくいため、相手に与える心理的な恐怖感と威圧感は、敵陣に混乱とパニックを引き起こします』

作戦参謀は妙に嬉しそうに言う。私はそれを聞きながら美保湾で先月、急降下爆撃を行った赤城さんを思い出していた。

 

モニターには、ズームアップで赤城さんが映し出される。長い髪が海上でたなびいているが、彼女自身は微動だにしない。凛々しいな。

 

そういえば、美保湾の戦闘での赤城さんも凛々しかったな。夜戦の時には、逃げようとする敵を黙って見逃す優しさもあった。そんな人間臭い対応は、普通の”空母”には到底、出来る芸当ではないだろう。

 

人間臭いと言えば日向にも散々、人間的に引っ掻き回されたよな。もっとも、ここには伊勢がいるから、彼女もちょっと落ち着いた感じがある。

 

私は何気なく、隣に居る祥高さんを見た。そうか、やはり艦娘というのは、姉妹艦同士なるべく一緒に居たほうが良いのだろうか?赤城さんと加賀さんも、同じ一航戦、一種の姉妹みたいなものだ。

 

そう思うと、ドイツやイタリアが、艦娘を連れて来たのも、艦娘同士が引き合ったのかも知れないな。そんな思いも湧いてきた。

 

 




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「みほ3ん」EX回:第122話<艦娘の噂>

演習は粛々と進んでいる。そして技術参謀は、海外の艦娘に興味を持ったようだ。


「急降下爆撃が得意と言うのも、因果なものだな」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第122話<艦娘の噂>

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<<演習:命中>>

 

やがて、赤城さんと加賀さんの艦載機は標的へ向かって次々と爆雷を投下する。張りぼて艦船は、水柱と火花に包まれて、木っ端微塵になっていく。会場からは、おおと言う歓声が上がる。やはり皆、軍関係者だからな。ああいう情景は、血沸き肉躍るって奴だ。イタリアなんか飛び上がっているし。でもドイツはジッとして双眼鏡を覗いたままだ。この辺は国民性かな?(本人たちの性格も大きいと思うけど)

 

動かない標的に向かって、赤城さんと加賀さんの艦載機が大挙して攻撃を加えたわけだから、その攻撃力も半端ない。標的周辺の海は、水柱と爆煙で一時的に視界が悪くなっている。結果は明らかだけど、あれが晴れるまで、しばらく演習は中断かな?

 

会場も、そんな雰囲気になり、ちょっと間が空きそうだ。作戦参謀も、それを察したのか、言った。

『では、結果が明らかになるまで10分間、休憩にいたします』

 

会場は、ちょっと弛んだ雰囲気になった。再び、軍人たちは他の軍人と意見交換をしたりしている。モニターを見ると、赤城さんと加賀さんは互いにうなづきながら、艦載機の回収準備にかかっている。

 

そういえば美保では、私はほとんど演習とか立ち会っていないな。着任して間が無いから仕方がないが、戻ったら訓練メニューとかもチェックしていかないといけないな。そう思っていたら、技術参謀がやってきた。

 

<<演習:艦娘の噂>>

 

「おい、ドイツとイタリアの武官と話しをしていたな?」

相変わらずの単刀直入振りだな。

 

「ハッ、両国とも、艦娘が居ると聞きました」

私は立ち上がって直立で答えた。近くに居たブルネイの担当官が驚いている。

 

「ああ、知っている。連れて来ているんだろう?」

なんだ、少しは驚くかと思ったら、さすが情報が早いな。

 

「これはいい機会だ。私たちも滞在を少し伸ばして、海外の艦娘もじっくり見てみたいな」

 

「はぁ」

 

「なんだ?その言い方は!お前は関心がないのか?」

 

「失礼しました!関心あります!」

怒られるかと思ったが、意外に技術参謀の表情は穏やかだった。

 

「お前たちが疲れているのも分かるが、めったにない機会だということは理解して欲しい。私だって艦娘だ。同じ艦娘で、しかも海外勢となると非常に興味があるのだ」

まあ、その気持ちは分かる。私も出来れば、会ってみたいし。やはり艦娘同士は、引き合うのだろうか。

 

私はイタリアに聞いたことを伝える。

「そういえばイタリア軍も、わが海軍との提携について、とても関心を持っていました」

 

技術参謀は、うなづく。

「そうだろう。そう考えて当然だ」

 

そうこうしているうちに標的周辺海域は、かなり視界が改善してきた。数人の武官たちは、窓際に寄って双眼鏡を覗いている。その様子を見ながら技術参謀は言う。

「あの二人のことだ。命中して当然だろうな」

 

「そうですね」

 

「あいつらが急降下爆撃が得意だと言うのも、因果なものだな」

 

「はぁ?そうですか」

 

「何でもない。独り言だ」

そう言いながら、技術参謀は窓際へ向かった。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
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「みほ3ん」EX回:第123話<破壊と映像>

第一次の演習は無事にクリヤーした。続けて、次の演習が始まる。


「へえ、海軍も努力しているな~」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第123話<破壊と映像>

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<<演習:目標破壊>>

 

やがて数分経つと、モニター画面にも攻撃目標(張りぼて)周辺の様子が見えてきた。

だがほとんどの武官たちは、双眼鏡で海面を見ている。技術参謀も窓際に並んで、双眼鏡を覗き込んでいる。そして数人は、早くも感嘆の声を上げ始めている。

 

作戦参謀は腕を組んでモニターを見つめていたが、艦娘からと思われる無線を受信した後、マイクを取って説明を始めた。

『現地からも報告が入りました。目標物は完全に破壊されました』

 

説明と同時に、武官たちは拍手をする。感嘆の声も上がっている。艦娘という少女たちが模型のような飛行機で、作戦行動に則って目標物を破壊したと言う事実が、何ともいえない感動を与えているのだろう。少なくとも、美保鎮守府の司令である私自身が感動しているから、そう思える。

イタリアの武官が喜んでいるのは当然として、その側にいるドイツの武官も、ちょっと興奮したように、武官同士で会話をしている。

 

ただ意外と言うべきか当然なのか、作戦参謀や技術参謀それに私の隣の祥高さんは、さほど興奮はしていない。まあ、仕方ないけどね。むしろブルネイの駆逐艦たちが、キャッキャと喜んでいる姿が可愛く思えた。

 

作戦参謀は説明する。

『もちろん、これはあくまでも演習であります。実際の攻撃は、もっと大規模かつ複雑な状況も想定されます。しかし艦娘という存在の有効性を、少しでも感じて頂ければ幸いです』

 

その点については誰も文句はないだろう。現実問題としてはドイツやイタリアも心配していたようにその能力よりも運用面だ。特に艦娘は兵士であり、武器であり、何よりも少女なのだから。

 

<<演習:映像配信>>

 

ちょっと落ち着いた頃、作戦参謀は説明を始める。

『今までは、上陸前の仮想敵への攻撃演習でした。続きまして岩場や小島、また海岸線へ上陸艇で強襲された場合のピンポイント爆撃及び着弾観測射撃を実施いたします。川の中州に岩礁があります。そちらに仮想敵の目標物を設置してあります』

 

モニター画面には望遠で、その中州の岩礁を映し出しているが、かなりボヤけている。作戦参謀は再び、どこかと通信をしていたが、それを終わると羽黒に何か指示をした。それから、また説明を始める。

『別の角度からの映像をつなぎます。多少、ブレるかも知れませんが、ご了承ください』

 

やがて、さっきよりは、より鮮明な画像が来た。ただ、時々画面がブレたり静止したりする。そのとき、同じ無線を傍受していたらしい祥高さんが、私に伝えてきた。

「青葉さんが、ハンディカメラで撮っているようです。それを伝送しているとか」

 

「へえ、海軍も努力しているな~」

私は妙に感心した。しかし、青葉さんも、本来は取材なのにモニター撮影まで請け負って大変だな。

 

私はふと気になって祥高さんに確認した。

「青葉さんの直ぐ傍に、寛代もいるんだよね?」

 

「そうですね」

祥高さんは答えた。

 

「本当は寛代ちゃんの通信システムのほうが、映像の伝送能力が高いようですが、ビデオカメラをつないで送信すると、電圧が足りなくなるようです」

 

「へえ~」

技術的なことは良く分からないな。

 

「やはり重巡の青葉さんのほうが、総合的な発電力が高いですし、揺れる海上でカメラを構えるのは寛代ちゃんには無理ですね。重たいですし」

 

「なるほど」

確かに、あのビデオカメラを担いで揺れる海の上での撮影なんて、寛代には無理だな。そこは経験も技術も体力もある青葉さんのほうが適任だ。私はふと、あの美保湾の映像も青葉さんが撮ったのかな?と想像した。

 

しかし、青葉さんも器用と言うか、忙しいな。

 




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「みほ3ん」EX回:第124話<艦娘の能力>

演習は順調に続き、第二段階にはいる。今度は索敵だが、珍しく比叡が索敵に入った。


『錬度によって、索敵能力に大きな差が出ます』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第124話<艦娘の能力>

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<<演習:艦娘の能力>>

 

映像では川の中州の岩礁に敵の上陸艇を模した車両が2台ほど置いてある。ただ、そこは岩場だ。青葉さんのカメラからは現在、敵が2台居ることが分かるが、これが岩の陰になれば、まったく見えなくなるだろう。従って目視や電探では、なかなか分かりにくい。こういう状況だと、まさに索敵機がモノをいう。

 

作戦参謀が解説をする。

『戦艦”比叡”と航空巡洋艦”最上”の艦載機から索敵を行います。なお、ほとんどの戦艦や巡洋艦は基本的に索敵機を搭載することが可能です』

 

今回は美保とブルネイ、双方からバランスよく演習させているな。ブルネイのボーイッシュな最上は航空巡洋艦だったのか。作戦参謀は続ける。

『艦娘には索敵機の搭載が可能とはいえ、ただ乗せたら直ぐ運用できるわけではありません。やはり各艦に個性があり、それぞれに向き・不向きがあります。また各個体の錬度によって、索敵能力にも大きな差が出ます。この点は普通の艦船、いや兵士と変わりありません』

 

会場からは笑いが起きた。それは当たり前のことではあるが、艦娘=単なる兵器と考えていると、誤解しやすいことだ。つまり艦娘に装着可能な武装であれば単純に付け替えれば直ぐに運用できると思いがちだ。しかしそれは違う。もっとも、これは私自身が最近まで勘違いしていた内容だ。

作戦参謀が言うように、艦娘自身は普通の兵士と何ら変わらない。極めて”人間的”に扱わなければならない。だから、個性を見極めて、装備も選ばないといけないのだ。

ただ逆に言えば、うちの日向のように索敵能力が高い場合は、鍛錬によって限界を超える。オーバースペックとも言うべき領域まで、その能力を高めることも可能なのだ。

 

能力か……ふと隣に居る祥高さんや、その三姉妹は、いったいどのくらいの錬度なのか?少し気になった。もちろん今は全員、最前線からは退いているから、感覚的も鈍っているかも知れない。だが一度身に付いた技能というものは、そう簡単に落ちるものではない。ましてや彼女たちは、れっきとした艦娘だ。何か底知れないものを感じるのは私だけだろうか?

 

もっとも祥高さんは、美保鎮守府の所属であるし、私が聞いたら、ある程度は教えてくれそうだけど。

でも上と下の二人の姉妹は、私が聞いても、”余計なことを聞くな”とか、”お前で試してやろうか”と凄まれそうで嫌だな。それに、さっきの記者会見の後で”私たちの艤装は、もう廃棄されただろう”と言っていたし。もし前線に出る機会があったとしても現実的には、無理だろうな。

 

<<演習:比叡と最上>>

 

私があれこれ考えている間に、比叡と最上は、相次いで索敵機を射出する。

「いきます!」

 

「いくよ!」

そういえば比叡が索敵機を飛ばすところは初めて見たな。すると金剛も出来るわけだ。演習でもなければ、艦娘たちの実戦に即した姿と言うのは、なかなか拝めるものではない。そう思えば貴重な体験だ。

こちらからは、敵の上陸艇を模した車両が見えるが、比叡と最上には、まだ見えていない。彼女たちにとっては本当に演習になるわけだ。ただ比叡は、ほとんど索敵経験がないからな。ちょっとまごついている感じがある。その点、試作量産型とはいえ、もともと航空巡洋艦である最上のほうが、本能的に索敵能力は上になるようだ。すぐにに川を見渡して中州の岩礁を発見、そこへ索敵機を向かわせた。

 

「発見しましたね」

祥高さんが話しかけてくる。

 

「ああ、そのようだね」

最上の嬉しそうな表情がモニターに映し出されている。するとカメラが切り替わり比叡の顔を映し出す。案の定、ちょっと膨れっ面をしている。おいおい、変なところで意地を張るなよ~。

再び最上のモニター画面に変わる。彼女は比叡に向かって、手を挙げ何かを呟いている。恐らく無線で交信したのだろう。再び比叡に画面が切り替わると、彼女は脹れたまま進路を反転した。

 

ここで作戦参謀が説明に入る。

『索敵機自体で攻撃をすることも可能ですが、実際には専用の攻撃部隊を組むことが多いです。また、今日はこのまま戦艦による着弾観測射撃を行います』

 

比叡が撃つのかと思ったが、彼女はいったん下げられるようだ。なるほど、だから脹れていたのか~。そりゃ、索敵でも何でもいいから、成果は上げたかっただろうな。

次に戦艦というと、扶桑・山城姉妹になるのだろうか?

 




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「みほ3ん」EX回:第125話<艦砲射撃>

戦艦娘たちによる攻撃演習が始まったが、金剛が妙な動きをするのだった。


(多分、ファイヤー!だろう)

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第125話<艦砲射撃>

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<<演習:扶桑姉妹と金剛>>

 

作戦参謀が説明する。

『続きまして戦艦による着弾観測射撃を行います』

 

モニター画面には、やっぱり扶桑・山城姉妹が映る。申し訳ないが、この二人は、ちょっと苦手だよな~。私の場合、美保への着任時に山城さんから艦砲射撃の雨を受けたというトラウマもあるし。

もちろん、こっちの山城さんはブルネイの試作量産型だから、美保の山城さんとは違うんだけどね。そうは言っても艦娘だからな。無縁と言う訳でもない所が微妙なところだ。

 

そういえば、うちの金剛が出ていないな~と、思ったら、別のカットに映った。こっちは多分、青葉さんのハンディカメラの映像だろう。この引いた画像で、扶桑・山城姉妹の後ろから付いてきている金剛が確認できた。

しかしなぜ、あいつは距離を取っているのだろうか?あの金剛だからな。スタンドプレーか何かを狙っているような気がしてならない。やめてくれよな~、海外の武官たちも見ている演習だぞ~。

 

ふっと、未来のブルネイを脱出するときの武蔵様を思い出した。まさか、金剛の射程は武蔵様ほどではないはずだが……。

だいたい金剛にしても比叡にしても、意外としつこいと言うか、執念深いところがあるよな~。量産化されたら多少は性格も丸くなってくれれば良いんだけどね……

 

でもブルネイの比叡は、ちょっと性格違うよな。未だに、艦娘というのは良く分からん。私ですらこんな状態なんだから、ドイツやイタリアの苦労が偲ばれるよ。

 

<<演習:砲撃開始>>

 

やがて青葉さんのハンディカメラは、再び最上を映し出す。彼女は盛んに指示を出しているようだ。

埠頭から狙っているビデオカメラからは、扶桑さんと山城さんが何か、打ち合わせなのだろうか?二人で話し合っていて、なかなか砲撃を始めない。

 

この会場でも、微妙に間が持たない空気が流れる。索敵能力に長けた最上が、変な指示を出すとは思えないし。こっちの扶桑姉妹は、ちょっと慎重なのだろうか?

そうこうしているうちに、青葉さんカメラが再び金剛を映した……と思ったら、あれ?金剛が急に加速して全速力で突っ込んでくる。

最上の無線は、全員に聞こえているだろうから、別に金剛が発砲してはいけないと言うわけではないが、金剛が妙に”距離”を取っていたのは、こういうことなのか?

 

間合いを詰めた金剛は、扶桑姉妹のやや後ろで静止して、手を振りかざし何かを叫んだ。

(多分、ファイヤー!だろう)

 

すぐに金剛の左右からは、砲撃の火柱と水しぶきが上がる。画面が少しブレる。会場のモニターは、埠頭のカメラに切り替わる。引きの画でも、金剛の砲撃の火柱は目立つ。何をやっても派手な奴だな。海上のカメラが、扶桑さんたちの、慌てたような表情を捉えている。ちょっと微妙な画だよな、これは。作戦行動としては、バラバラの典型じゃないか?

 

モニタースクリーンの前を見ると、解説を中断していた作戦参謀は、やはり苦虫を潰したような渋い表情をしている。カメラは金剛の表情を捉える。案の定、こいつは不敵な笑みを浮かべているぞ。

 

でも、埠頭の会場に居るブルネイの漣や電たちは大はしゃぎで喜んでいるし。もう~、勝手にしろと言いたくなってきた。

 

だが、ふっと思った。未来の演習だってお祭りだったんだし。これは一種のエンターテイメントだと思えば、意外に良いのかも知れないな。

 

そう考えたら、金剛はエンターテイナーとしては一流なのかもしれない。ものは見方、捉え方なんだろうな……




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「みほ3ん」EX回:第126話<無線通話>

金剛の”暴走”で煽られる扶桑さんたち。だが意外にも演習会場は穏やかなムードだった。


「そうですね、最初は怒っていました」

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第126話<無線通話>

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<<演習:連射と真面目>>

 

金剛の砲撃につられるようにして、慌ててた扶桑さんと山城さんも砲撃を開始している。羽黒さんが必死に双眼鏡で各艦の着弾を確認しているが、海上の戦艦娘は3人とも、ほぼ連射しているから着弾観測どころではない。

一瞬、着弾誘導するはずの最上の映像が映ったが、もはや戦艦娘たちに無視されていて、なんだか海上でオロオロしている。ちょっと可愛そうだ。

そんな様子を見ている作戦参謀も、苦虫を潰したような表情をしている。でも意外と、会場は穏やかなムードだ。むしろ艦娘たちの乱射を愉しんでいるようにも感じる。

 

そういえば欧米人は割とフランクで、冗談が好きだと聞く。この会場でも、いま一番、演習の様子に”受け”ているのはイタリア勢だ。あの長身のイタリア武官は、もう手を叩いて喜んでいる。

ドイツ人も一般的には日本人と同じくらい真面目そうだ。この会場に来ている二人の武官も、はしゃいでは居ない。ただ意外と金剛の暴走にも理解を示している印象は受ける。長身のほうは、あごに手を当てながら、ちょっと微笑みつつ武官同士で会話をしている。

ホストでもあるブルネイ関係者は、どうなんだろうか?イスラム教徒は真面目そうだけど、あの”王宮男性”にしても秘書官にしても特に気分は害していないようだ。SPのイケメン男性も、単に真面目なだけではない印象を受ける。彼も特に怒っている素振りはない。(SPだから感情を表さないのは当然か)

 

この演習での金剛の”エンターテイナー振り”は、幸いにもミス・マッチではないようだ。特に海外勢には受けている。

 

それに引き換え日本人は生真面目だな。軍隊組織では、なおさらか。

作戦参謀は本省にいるだけあって、もろに真面目っぽいし。技術参謀も、どちらかと言えば真面目な方だろうけど、今回に関しては、さほどでもなさそうだ。腕は組んでいるが、金剛の暴走も、ニヤニヤして見ている。何しろ寛代の親だからな。ちょっと変わっているのかもしれない。

 

演習といえども、いくらかは、お祭り的な要素もあるのだろう。そう思えば金剛のおちゃらけ振りだって、意外と彼女自身の心の余裕から来る”本当の強さ”なのかも知れない。

 

<<演習:無線通話>>

 

作戦参謀は何度か無線連絡をしている。その無線が終わると、今度は羽黒さんと何か打ち合わせをしている。

やがて再び演台に戻った作戦参謀は言う。

『大変お待たせしました。少々見苦しい箇所がございましたが、戦艦による砲撃が終了いたしました。また、視界が晴れるまでの間、10分程度の休憩といたします』

 

……戦艦による砲撃ねえ~。もはや着弾観測どころでは無かったな。作戦参謀が下がると、すぐに武官たちは雑談したり席に戻って珈琲を飲んだりしている。さっきよりは、かなりリラックスムードになっている。やっぱり、あの金剛の”暴走”によって意外と、演習会場全体の場が和んだような気もする。

 

気が付けば、もうお昼に近い。予定よりもかなり遅れているよな。作戦参謀は何度か本省の次官や、ブルネイの政府担当者と話をしている。やはり午前の演習メニューは、これで時間切れかな?

 

【挿絵表示】

 

ちょっと間が空きそうなので、私は祥高さんに話しかけた。

「君はいろいろ演習中の艦娘たちの通信を傍受していたと思うけど、どうかな?艦娘たちは何か演習以外のことを話していたかな?」

 

「そうですね……」

ちょっと考えるしぐさをして、彼女は答えた。

 

「目立ったのは、午前中は参加していなかった天龍さんでしょうか?彼女の”早く出させろ”という声と、それをなだめている龍田さんの会話が良く聞こえました。駆逐艦娘たちは、だいたい大人しく見ていたようです。あとは潜水艦娘たちが、演習メニューに入っていないことに文句を言っていました」

 

「なるほどね~。もっとも潜水艦娘は、臨時で来ているだけだから仕方がないだろうけど」

やはり艦娘たちは裏で、いろんなことを会話している。何となく未来のブルネイでの演習会場を思い出すな。あの時は完全に、お祭りだったけど。艦娘たちは演習しながらでも、いろいろ会話していたよな。

 

こういうとき、あの”インカム”があると便利なんだが、さすがに電池が切れた。あれは多分、充電式なんだろうけど、バタバタしてたから、もう放置している。夕張さんに見てもらえばよかった。

 

「あのブルネイの扶桑さんたちは、金剛に出し抜かれて怒ってなかったか?」

ちょっと気になることを聞いてみた。

 

「そうですね、最初は怒っていました」

やっぱり。

 

「でも、あのブルネイの加賀さんが、比叡2号や龍田さん2号のことで、私たちに迷惑をかけたでしょ?と、諭してくれました。それで、かなり落ち着いたようです」

 

「へえ~」

あの加賀さん、やっぱり美保に欲しいな……無理か。

 




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「みほ3ん」EX回:第127話<いったん休憩>

戦艦による二つ目の演習も無事に終わり、午前の部は一区切りが付く。そして、この物語も……。


『海軍による昼食を、ご準備いたします』

 

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「艦これ」的「みほ3ん」

 EX回:第127話<いったん休憩>

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<<演習:午前の部・終了>>

 

既に金剛や扶桑さん、山城さんたちは砲撃を停止している。青葉さんのハンディカメラが金剛さんを映す。彼女は誇らしげにブイサインをしている……って、おい!思いっきりカメラ目線じゃないか?やめろ、恥ずかしい!

その後ろからは、ちょっと不服そうな山城さんの視線が痛い。

 

数分も経つと徐々に、中州の岩礁があった辺りの視界が晴れてきた。モニター画面では最初、埠頭からの望遠カメラによる映像だったが、明らかに岩場は原形をとどめていない。若干ぼやけているその映像を見ても、攻撃の凄まじさを物語っている。

続いて岩礁の正面から回り込んだ青葉さんからの中継映像が来た。当然、2台の車両はおろか、それが停まっていた小さな砂浜まで消失している。

 

その映像を見て、多くの武官たちは驚嘆の声を上げた。金剛、扶桑姉妹という、今となっては若干旧いタイプの艦娘ではあるが、それでも、戦艦の威力を感じざるを得ない。

それ以上に、通常の艦船よりも圧倒的に小さな艦娘という存在が、どれだけの威力を発揮するか、この演習だけを見ても実感できるだろう。

 

改めて私は、良くもまあ~山城さんの艦砲射撃の中を生き延びたものだと思ってしまった。戦艦娘の直撃弾を受ければ敵の戦闘機など、ひとたまりも無いわけだ。

 

やがて作戦参謀が前に立って説明を始める。メガネがキラリと光る。

『午前中には、他の演習も計画しておりましたが、残念ながら時間切れとなりました。もうお昼となりますので午前中の演習はこれにて、いったん終了いたします』

 

会場からは脱力感と同時に、もっと見たいという残念な想いが混じった雰囲気で溢れた。

 

『オブザーバーである長官が退室されます。全員、敬礼!』

作戦参謀の案内で、室内の全員が立ち上がり、退室しようとする”王宮男性”に向けて、敬礼をする。彼もまた私たちに向かって敬礼を返してくれた。そして軽く手を上げながら、SP男性と秘書官を伴って退室した。

 

いろいろあったが、これで午前の部は終了か。

 

<<演習:午後の予定>>

 

すぐに、演台に羽黒さんが上がる。

『これからのスケジュールをご案内します。午後の演習は、14時からを予定しております。それまでの間は、休憩時間となります。こちらで休まれても結構ですし、この建物の横の広場では、ささやかですが日本海軍による昼食をご準備いたします。また、いったん埠頭から町へ出られても構いません。簡単な周辺地図もご準備していますので、ご希望の方は私かスタッフまでお声をおかけください。お預かりした銃器類は、いったんお返ししますので随時、受付横へお立ち寄りください。午後は、もうお預かりすることはありませんので、よろしくお願いします。返却の際には、お渡ししたタグとIDカードのご提示を、お願いします。休憩中の緊急連絡先は、次の周波数まで……』

 

たどたどしいが長い内容を、ちゃんと英語を喋っているぞ。感心だ。作戦参謀に鍛えられているんだろうな。

すぐにブルネイ司令が五月雨と共にやってきた。

「すまんが、俺は次官やブルネイ側と会食せにゃならん。お前は、こっちに残って適当に応対してくれないか?」

 

ちょっと驚く私。

「適当って、私でも良いのか?」

 

「当たり前だ。お前、美保鎮守府の司令だろ?それに、あの演説で、相当顔が売れたから大丈夫だよ。あれ、世界に中継されたらしいぞ。町を歩いたらサインせがまれるかもな!」

そういう問題ではないだろう、とも思ったが、応対については司令と言う立場上、当然の義務だ。

 

「分かった。精一杯やるよ」

 

彼は祥高さんを見ながら続ける。

「いざとなったら、そちらには百戦錬磨の立派な秘書艦だって居るわけだ。貴重な”戦力”だぞ。もう少し、大切にしてやれ!」

 

「そうだな……」

私も祥高さんを振り返ったが、彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をした。”戦力”とは、うまく言ったものだ。確かに彼女が居れば、実際の戦闘でなくても心強い。

 

「頼んだぞ。じゃ、行こうか」

彼は横に居た五月雨に声をかけて、退出して行った。

 

未来の演習のイメージが強くて、現代でも同じようなものかと思っていたが、やはり現代のブルネイは違った。ここでは未来と違って、まだ基盤整備もこれから。まさに発展途上だから、それなりの苦労と覚悟も必要だ。ちょっとボンヤリしすぎていた自らを反省した。

 

「司令、行かれますか?」

祥高さんが確認してくる。

 

「そうだね。下に降りようか」

 

「はい」

 

「そうだ、あのブルネイの漣と電にも声をかけよう」

 

「はい、では私が呼んで来ます」

 

「頼む」

駆逐艦娘たちのところへ向かう祥高さんを見ながら、ふと思った。

 

今までは私も新人司令で、何も分からずに彼女には押される一方だった。しかし、そもそも司令と秘書艦こそ一致協力すべきだ。それが艦娘を中心とした鎮守府の在り方なのだ。

 

この瞬間からでも、私から一歩前へ出る努力をしていくべきだな。それが美保鎮守府や海軍のために、そしてこの国とわが国の未来へつながっていくのだ。

 

「連れてきました、行きましょうか」

祥高さんが、漣と電を伴って、戻ってきた。

 

「ああ、行こうか」

そのとき、漣が私に敬礼した。

 

「司令、お昼からもよろしくお願いいたします」

まだ早いよ、と言いかけて私は思い直した。そして彼女に返礼した。

 

「よろしくな、漣」

 

「は、はい!」

ちょっと不意を突かれたような漣と、その姿を見て慌てて、一緒に敬礼する電。

 

「よ、よろしくなのです!」

その姿は、とても可愛らしかった。祥高さんも、いや、その周囲に居た全員が微笑んだ。周りを笑顔にしてくれる不思議な力。これもまた艦娘たちの魅力だと思えるのだ。

 

 




-------------------------------------------
★「艦これ」的「みほ3ん」EX回はここで完結します。★
--------------------------------------------
理由:
1)少々長期化して、執筆者も管理しにくい。
2)本来はコラボで開始し設定も継続しているが、前面に共演の場が出てくる機会が少なくなった。

このため、いちど区切りを入れることにします。
すぐに後編としての「艦これ」的「みほ5ん」を始めます。タイトルは変更する予定ですが、物語はまったく同じです。
よろしくお願いいたします。

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※これは「艦これ」の二次創作です。
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