オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~ (誤字脱字)
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~俺の嫁は狂ってる件について~

お久しぶりです祈願です

長い間、執筆していなかったのでリハビリで書きました
題材は、今期人気の高かったアニメから選択しました

リハビリしている暇があるならログホラ書けとか石を投げないで!
続けるかどうかは皆さんの評価次第にします
評価次第ではリハビリとして短編に変更します

そんな訳ありのリハビリ作品で良ければどうぞ


――――――――ユグドラシル

 

2126年当時の最先端技術を投入し日本のメーカーが発売した体感型 MMORPG。専用コンソールを使いゲームの中に『ダイブ』してプレイするネットゲーム。桁外れの自由度、クリエイト要素、そして「未知を既知とする事」 を目的とした斬新な作りから爆発的な人気を誇った

 

言わずもがな『ダイブ』するとは海や川に飛び込む事を示す言葉ではなく、ゲームの中に飛び込むと言う意味を持っている

つまり感覚や体感、動作に至るまでリアルのスペックが反映され、流石に痛覚は感じられないがよりリアルにアバターが自分の手足の様に動くと言う事だ

 

その事実を耳にした俺は、迷わず近所の百貨店に購入しに行った

然程ゲームに興味のなかった俺であったが、トレーナーや会長から「休む事も練習だ」と厳しく言われ不貞腐れていた俺にとって仮想模擬試合の出来るユグドラシルは身体を休める事もストレスも晴らせる絶好の場所だと判断したからだ

 

………あの頃の俺はユグドラシルに対して余りにも無知であった

さっそくスパーリングを行おうとして町を徘徊するガタイの良いプレイヤーに喧嘩を吹っかけログイン初日に運営から忠告メールを受けたのは良い思い出だ

 

「あの後、種族が人間の相手に対するPKはペナルティが発生するって知ったんだよな」

「どうしたんですか、李さん?」

「いや、なんでもない。それより今日の挑戦者は?」

「また何も対策してないんですか?……アウトボクシングを型にしたヒット&ウェイをスタイルにしています」

「遠距離攻撃を仕掛けてくる敵か……俺を倒したかったら第7位階魔法でも持ってくるんだな」

「またゲームに例えて……格闘家がゲームに夢中とか笑い話ですよ?」

 

如何にも「貴方には似合いません」とでも言いそうな顔で俺にローブを掛けてくるセコンド……コイツ、イメージトレーニングの大切さを知らないな?

 

「ゲームを馬鹿にするのは良くない。……ヘビー級のアレックスもユグドラシルで鍛えて優勝したのだからな」

「アレックス・サーストンが?……笑えない冗談です」

「いや本当だから!アイツ、『ファイトマネー全額課金してやったぜ!』って言ってたぞ!」

「はいはい、とりあえず目の前の相手に集中しましょうね」

「おい!信じてフガフガっ!」

 

人が話している最中だと言うのにマウスピースを入れてくるセコンド……おかげで少し舌を噛んだ

敵は味方にいるとはよく言ったモノだが、流石のウルベルトも味方に『悪』がいるとは言わなかったぞ?

俺の抵抗は虚しく無視され、セコンドに促されるままに入場口へと押し出される

 

『―――cm77kg!中国武術に多彩な技術を取り入れた生きる中国の歴史!!!!』

 

スモークが炊かれ先の見えないリングから俺の紹介をする実況の声が響く

……流石にこの場に立てば俺だって気持ちの切り替えは出来る

相手は全力で王者である俺を倒しベルトを奪いに来るのだ

 

軽くシャドーをして身体を揺らしていく………

仕上がりは悪くない、気分も上々! TVで見ているであろう仲間の為にも……今日の試合、勝たせてもらいますか!

 

気合は十分!後は敵を倒すだけだと言うのに――――

 

「あ、そう言えば…ユグドラシルのサービス終了も今日でしたね?」

「……………………………什么(なんだと)!?」

『赤コーナー!!!ミドル級チャンピオォォォォン!!!リィィィィ!ミンハァァァァ……い?』

 

俺は思わずマウスピースを落す程に口を開け驚きを露わにし、情けない入場を果たすのであった

 

 

 

 

オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~

 

 

 

 

時刻は23時51分!!!

挑戦者を1R47秒と言う短時間でリングに沈め、ただユグドラシルをプレイしたいからと言った理由で挑戦者を秒殺してきた俺は勝者インタビューそっちのけで自宅へと帰ってきたのだ

後で会長やトレーナーからドヤされる事は間違いないが俺はどうしても家に帰ってユグドラシルをプレイしたかったのだ

そもそも開幕直後に懐に入られただけで動揺する程、メンタルを鍛えられていないのならユグドラシルをプレイして出直して来い!六本腕の巨体が意気揚々に武器を振り回している中、懐にも入らずひたすら躱す事に集中すれば嫌でもメンタルが鍛えられるぞ!

 

あのまま勝者インタビューを受けていたなら間違いなく言っていたであろう言葉を心の中でぼやきながら急いでユグドラシルを立ち上げ、コンソールを付ける

ゲームのメイン画面が映し出されている間にメールBOXを確認すると俺の格闘家人生に尽力してくれた仲間からメールが届いていた事に驚きを露わにした

 

『御忙しい中すみません。お元気ですか?もしよろしければユグドラシルのサービスが終了するとのことですので最後に皆で会いませんか?ナザリック地下大墳墓でお待ちしています    Fromモモンガ』

 

「もも~!オマエってやつはーーーー!!!!!」

 

『茶釜』や『るし★ふぁー』なら兎も角、俺を仲間に誘ってくれ、今も尚、去っていった仲間の復帰を待ち続ける心優しいギルドマスターからのメールに俺はTKOをくらった気分であった

 

「すまないモモ!あんな雑魚の相手をする為に3ヶ月も放置しちまって!今行くから待っていろ!」

 

認証確認が済み、俺はユグドラシルへと『ダイブ』するが時間は刻々と過ぎていき23時58分―――よりによってログイン先はホームから遠く離れたアレックス達とパーティを組み、荒らしまわった廃ギルドの跡地の森林……即ちナザリック地下大墳墓域には間に合わないと言う事実

 

転移札を使えば間に合うか!?と思いストレージを漁るも運悪く品切れ状態、せめて一言だけでも言わなければと思いギルドマスターであるモモンガさんに《伝言(メッセージ)》を飛ばした

 

『モモ!对不起!迟到了(すまない、遅れた)!!』

『中国語!?…って李さん!てっきり防衛戦でログインできないと思っていましたよ!』

『あんな雑魚瞬殺だって!見ては…ないよな。ここにずっといたんだろ?』

『えぇ、最後ですしね?……李さんの試合を見れなくてすみません』

『気にするな、君の気持ちもよく分かるって……こんな事を言う俺もユグドラシルがやりたくて1RKOを狙いに行ったんだからな!』

『ハハ、ゲームがしたいからKOを狙いに行くって李さんらしいです』

 

音声の向こうから乾いた笑い声が聞こえるが、もはやユグドラシルをプレイするのが目的でKOを狙うのが常習犯となっている俺にとっては聞き慣れた笑い声であった

 

『……本当ならもっと早く来れたら良かったのですが、すみません』

『仕方がないですよ……李さんは今どちらに?』

『……「筋肉大好き同盟ギルド!ウホ!」の跡地。すまないが顔を見せに行くことが出来ない』

『そうですか……仕方ないですよ。私は最後に李さんと話せて良かったですよ?』

『………那是这边的对白(それはコッチのセリフだ)

 

男に向って事も無げに恥ずかしい言葉を言ってくる為、思わず中国語で返してしまったが感謝の割合では俺はモモンガさんに恩を返しきれない

始めは単なるイメージトレーニングの一環で始めたゲームがまさか、仲間の大切さや仲間と協力し達成する喜びを教えてくれるとは思ってもいなかった

これも全て俺を〈アインズ・ウール・ゴウン〉に誘ってくれたモモンガさんのおかげだ

 

『俺の格闘家人生は〈アインズ・ウール・ゴウン〉の栄光と共にあったと言える』

『李さん……』

『例えユグドラシルが無くなろうと俺はお前達を忘れはしない!今日勝ち取ったファイトマネーは全額運営に寄付してやりますよ!』

『はは、それでユグドラシルⅡが出来る事を待ち望みましょう』

 

ユグドラシルⅡか……確かに面白そうだ

俺はゆっくりと眼を閉じ、最大の感謝を込めてギルドマスターに感謝の言葉を送った

 

『あぁ……これで最後。再重新开始吧、尊敬的我朋友(また再開しましょう、尊敬する親友よ)

『え!?最後は日本語で―――――』

 

サービスが終了するのと同じタイミングでモモンガさんが、何か言っているけどこんな言葉、日本語じゃ恥ずかしくて言えませんよ

 

閉じていた眼を開き、生い茂る木々に目を遣ればユグドラシルがサービスを終了したことが……………

 

 

 

ってあれ?なんで目の前が生い茂った木々なんだよ!

というか俺の居た場所って自宅のマンションだよね!?コンクリートジャングルだよね!?なんでリアルジャングルに居るんだよ俺!?

 

脳裏によぎったのはモモンガさんと交わしたユグドラシルⅡ……『実はサービスは終了してませんwww』とか、『サービス終了すると思った?ねぇ、恥ずかし言葉を言った君ってwwww』とかドッキリがあるのかと思い身構えるが一向に運営から通達がくる気配がなかった

 

「おいおい、マジでどうなってんだ?まさか、アレックスが運営会社を買収して密かにユグドラシルⅡを作成していたって落ちじゃないだろうな?」

 

ワールドチャンピオンでもあり、筆頭株主でもあるアレックスならやりかねないと思うが、これはあまりにもリアルに近すぎだ

草木の臭いも肌を撫でる風もリアリティがあり過ぎて本当にユグドラシルの世界に来たように感じる

 

「アレックスもそんな事は一言も言ってなかったし、これはマジで意味が「ぎゃああああぁぁぁ!」ッ!悲鳴!?」

 

森の奥から響き渡る悲鳴に俺は思わず、ゆっくりと歩きだし声がする方へと林を抜けていく、声質から一刻の猶予もならない程緊迫した雰囲気が感じられ進みは歩くような速さから自然と駆け足へと変わっていった

リアルでも親交のあるリア充騎士に影響されてか自分の持つ力で誰かが救えるのなら救いたいと思うようになっていた俺は一片の恐怖もなく悲鳴を上げた者を助ける為に走り出した

 

暫くするとボンヤリと明かりが見え、鉄分と水気を含んだ臭いが鼻を刺激し始める

次第に焦る気持ちが高揚感に変わっていく事に気づかなかった俺は林を抜け――――

 

「ひ、ひぃ!た、たすけでッ!」

「誰が悲鳴以外を口にしていいって言ったかな~?…って、あらら~もう一人追加ですか~」

「…………ふむ」

 

拍子抜けというかなんというか、男が女に襲われていた

本来なら『リア充死ね!』と言って右ストレートをかましたい所だが、切羽詰まる男の表情から男女間の修羅場ではなくドロドロの殺人現場。……さしあたり俺は殺人現場に立ち寄ってしまった一般市民、悲鳴に誘われて呼び寄せられた野次馬と言った所か?しかし―――

 

「綺麗だ…」

 

頭上まで伸びきった木々に塞がれて今まで確認できないでいたが、俺の真上に広がる夜空はリアルではもう拝む事が出来ないとされていた光の海が広がっていた

 

「うふふ、綺麗だ~なんて私照れちゃう~……でもさぁ~、あんた今の状況分かってんの?」

「たすげてぐれ!俺はまだ「あ~アンタはもういいや」ッ!」

 

ブルー・プラネットさんが如何に自然の大切さや自然回復を熱弁していたのか今になってやっとわかる気がする

この美しい風景を見れば心が洗われ社会に囚われていた己が心を洗浄し細かい事など気にならなくなる程の幻想さを醸し出しているな

 

汚染が進み厚い雲で覆われしまったリアルの夜空と違いありのままの空に魅せられ感動に浸っていた俺に空気を裂くような音が近づいて来るのを感じ取った

 

それが顔を目掛けて一直線に向かって来る事に気づいた俺は反射的に顔を逸らした

そして見える一本の鉄と猫科の動物を思い浮かべさせる顔立ちをした女が驚きの表情で此方を見つめていた

 

俺と女の視線が重なり合い互いに距離を取る。

夜空に魅せられて忘れていたが、今この場は殺人現場。………しかも犯人がいる殺人現場だったんだよな?

 

「やっと気づいてくれた~、ひっどいよ~?口説いといてそのまま放置するなんて~?私悲しくって思わず楽しまないで殺しちゃったじゃな~い」

 

月をバックにクスクスと笑いながら鉄……あれはスティレットか?まぁ、RPGよろしく、これまたリアルでは拝む事の出来ない時代錯誤の武器を構えた女が俺に笑みを浮かべた

彼女の後ろに先程まで助けを求めていた人間が血を流しながら静かに横たわっているのを見るに殺されてしまったようだ

確かこういう時は「あぁ、×××よ。死んでしまうとは情けない」と言葉を掛けるべきだとペロロンチーノさんが言っていたな

 

「あぁ、見知らぬゴミよ。死んでッ!?」

 

ペロロンチーノさんの教えに則り言葉を掛けようとした俺は次の瞬間、得体の知れない衝動に駆られた

 

「あ…が…ああ…」

「うふん、やっと自分が置かれた立場がわかったのかしらぁん?……うふふ、やっぱいいわ~、恐怖に慄くその表情」

 

己が武器をぺロリと舐め淫気に満ち視線を送ってくるが、今の俺には玩具(かのじょ)が言葉を発する度に駆り立てられる衝動が強くなってしまうのを抑えきれずに身を震わせていた

 

「……い……ほしい」

「……あぁん?」

「……欲しい、貴様が欲しい!肌を血に染め髪を毟り取り、目玉を潰し!……貴様の全てを俺のモノにしたい!」

 

我慢できず己が欲望を口にしてしまう

俺はどうしてもあの玩具(かのじょ)を自分の手によってグチャグチャに犯したくて堪らないのだ

 

「……テメェ、自分が何言ってんのかわかってんのか?このクレマンティーヌ様が欲しいだって?ふざけんのも大概にしな!」

 

玩具(かのじょ)の表情が先程とは180度変わり怒気を含んだ笑みに変わったが俺には関係ない

あの白い肌を貪り、ハニーブロンドの髪を汚し、あの笑みを絶望へと変えたくて仕方がないのだ

本能が告げるままに一歩また一歩と俺を魅了してやまない玩具(かのじょ)へと無遠慮に近づいて行く

 

「ッ!へぇ~…なら見せてあげようじゃん、英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様の実力をよ!」

 

俺から発する気配がただ事ではないと感じたのか玩具(かのじょ)は、羽織ったマントを脱ぎ棄て、身が地に付くほどに屈め獲物を狙う野獣の様に俺を睨むと知らぬ言葉を口にし始めた

 

「〈疾風走破〉…〈能力向上〉…〈能力超向上〉………行くわ、よ!」

 

僅かに残る理性が、玩具(かのじょ)が俺と戯れる為に魔法で身体能力を上げていると理解を促してくる。

ユグドラシルでは見た事も聴いた事も無い魔法の為、警戒するに越したことはないのだが、今の俺は両手を広げ自身から飛び込んできてくれると言う玩具(かのじょ)を待ち望んでいた

大凡人間では理解できない思考だが、俺の本能が一刻も早く玩具(かのじょ)を抱きたいとワザと『隙』を作っている様に感じられた。そして……ミサイルの発射の様にスタートを切った玩具(かのじょ)に対し俺は拳を真っ直ぐに伸ばし―――

 

「〈流水加速〉…っ!つあああぁああぁぁぁぁ!」

 

回避すると予想できていた場所へと蹴りを放つ

案の上、俺の初撃を回避した玩具は伸ばした腕の脇を抜けて俺の死角に入り込んできた。

身体の性質上、伸ばした腕の腱と同じ側の足の腱は伸び、重心を支えなくてはいけない為、動かす事が出来なく武術において決定的な『隙』を生む事になるが……この身体と積み上げてきた技術があれば、その『隙』も無くせる

 

重心を腕とは反対の足に移し、支える必要が無くなった足で脇を抜けスティレットをこちらに構える玩具(かのじょ)へと蹴りを叩き込んだ

 

本来の力…理性がある状態で行えば一撃で仕留める事の出来る必殺であったが、本能に従っている現状、技の威力は期待できず、石壁を二枚しか貫通させることが出来ないような無様な結果になってしまった

 

「う……う…がはっ」

 

玩具(かのじょ)を叩き付けた事によって崩れ落ちる石壁に近づけば案の定、玩具(かのじょ)は息をしており、必殺になり得なかった事が確認できたが、蹴りを入れられた腹部からは折れたアバラ骨が突き出ており、吐血も止まらないでいた

 

……アバラの骨折、内臓破裂、頭部裂傷もしかしたら背骨も折れているかもしれない俗に言う虫の息

玩具(かのじょ)の中身は既に壊れて、治しようもない状態だが、奇跡的に外部の損傷は少ない

その奇跡が俺の本能を更に刺激し、玩具(かのじょ)ともっと遊べと強く訴えかけてきている

 

「う、うわぁぁ…あぁ…や、やめて…もうやめ…」

 

吐血し口周りを真っ赤に染める玩具(かのじょ)から救いの声が漏れるが、今の俺には欲望を加速させる興奮剤にしかなり得なかった

ゆっくりと手を伸ばし玩具(かのじょ)の髪を掴み上げ宙に浮かせると腰の辺りで拳を固める

 

「だ、だずげて…やめ、て…」

 

いまだに命乞いをする彼女に応える様に俺は腰に溜めた拳を玩具(かのじょ)の腹部に叩き付けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

本能が収まったのは彼女から漏れ出す興奮剤が聞こえなくなった頃合いであった

俺の両手は真っ赤に染まり、欲望の対象になっていた女性は口から大量の血と涎を垂れ流しピクピクと痙攣を起こしている

彼女の身を守っていた鎧は既に破壊され尽くされ、彼女の身を刻む刃として身体に埋め込められており、あの白く美しかった四肢は黒ずんだ紫に変わり無残にも捩れ曲がっていた

一番酷いのは腹部であり、色は紫を越して黒かった……

 

人間に与えてはいけない程の重傷、既に命が尽きても可笑しくないと言うのに彼女はまだ生きていた。……彼女の使った魔法の恩恵か?と思った矢先、謎は直ぐに解けてしまった

 

無造作に置かれた大量の空き瓶、そしてストレージにあった筈の〈上級回復薬〉が消えている事実

この事が意味する事は即ち……………………致命傷を与えながら自身の欲を満たす為に彼女を生きながらえさせたと言う事だ

 

脳裏に残る彼女の『殺してくれ』と言う要求が今となって頭に蘇ってくる

 

「糞が!……俺は格闘家である前に人として犯してはならない事をしてしまったのか!」

 

決して犯してはいけない領域に足を踏み入れる所かフルマラソンをしていた事実に途轍もない罪悪感と嫌悪感に押し潰されそうになるが…次の瞬間、淡い光が俺を包み高ぶった感情を抑え込んだのだ

 

「これは……〈精神作用無効〉の特殊能力か?はは……手に感じるものは、リアルだと言うのにこんな所はゲームのままだとはな!」

 

種族が人間から〈僵尸(キョンシー)〉になってから初めて、発現したスキルがこんな場面で現れるとは皮肉なモノだ。これではまるで俺が人間ではなく本当に内側まで〈僵尸(キョンシー)〉になってしまったようだ

 

「………ッ!」

 

赦しを請うにも俺は〈僵尸(キョンシー)〉。既に死んだ人間である俺は、どのように彼女に犯した罪を贖えばいいのかわからず、一思いに自身の命を絶とうにも精神が異常を満たしたと判断され〈精神作用無効〉の効果が発動する。

回数を重ねていくほどに冷静になっていく自身の身体に嫌気がさした瞬間、一筋の光が浮かび上がったのだ

すぐさまアイコンを浮かび上がらせ自分のステータスを確認していく

武術のイメージトレーニングとして始めた為にスキルは適当、スキル効果もイマイチわかっていないモノばかりだが俺は必死にあるスキルを探し………見つけ出した

 

「……許せとは言わん。これは俺の未熟さ故の結果……俺の罪だ。死を受け止め俺を恨んでくれても一向に構わん。……しかし、仮初の生であっても生きる事から逃げないと誓えるならこの指を……噛め」

 

四肢は動かない、恐らく首の骨も折れている為、顔を動かす事も出来ない彼女の意志を確認する為には些か卑猥ではあるが、彼女の口に指を入れるしかなかった

舌も抜かれており、すんなりと彼女の口に侵入した指を歯に当てる

彼女の意志を聞き逃さない様に全神経を指に集中させ……………応えた!

 

「……わかった。俺はお前を殺めた罪を背負い、お前を見捨てたりはしない」

 

力なく横たわる彼女を抱きかかえ、首筋に向い俺は牙を突き立てたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで~?僵尸(キョンシー)って言う化け物の本能が動かすままに私を犯し殺して剰え、眷属にしたってわけ?」

「……すまない、俺が未熟だったばかりに」

「ふ~ん……」

 

結論から言うと俺は本当に僵尸(キョンシー)になってしまったようだ

まさか死に体な彼女を同じ僵尸(キョンシー)として蘇らせる事に成功してしまったのだから言い逃れは出来まい

〈精神作用無効〉の能力が作用した事からスキルも同じ様に使えると踏んだ俺は彼女の意志を尊重すべく僵尸(キョンシー)のスキルである〈眷属作成〉を使用したのだ

 

空想の化け物である僵尸(キョンシー)も噛み付いたりして仲間を増やしていた事を再現したスキル、ゲーム時代では無用なネタスキルであることは否定できないロール専用のスキルだと思っていたが、今は素直に感謝しよう。……ありがとう運営!ファイトマネーは寄付しよう!

 

「しっかし、死んだって言うのに変わらないもんだね~……体温が下がった自覚も心臓が動いてない事も確認できるって言うのに、あんたの言う精神の狂化は感じられないし」

「……ない、のか?俺は今も狂化されている。男は虫けら程度にしか感じられなく女は己の欲を満たす道具にしか感じられん」

「ふーん…」

 

経緯はどうあれ僵尸(キョンシー)として蘇った彼女は今、自身の血を流し落す為に彼女の要望でもあった水浴びをしながら体に不具合が無いか確認してもらっている

 

しかし、精神には異常はないのか……

俺は、彼女を殺害してしまったような感情の高ぶりは、鳴りを潜めたと言うのに人間に対する心情に変化が見られるのだが?

 

………いや、まてよ?僵尸(キョンシー)である俺には〈精神作用無効〉の能力が備わっている。しかし、あの時は作用しなかったのは何故だ?

心の中では僅かながらも意識を保てていると言うのに体は本能に従う凶暴性……まさかと思うが、本物の僵尸(キョンシー)が月夜では凶暴になるのを再現して月夜限定で〈精神作用無効〉能力を無効にしているとでも言うのか!?………なんてことをしやがる運営!ファイトマネー返しやがれ!

 

「…なら私が変わらないのも道理ってわけか~」

「……なにを言っている?」

 

理不尽な運営の設定に頭を抱えていると水浴びを終えたであろう彼女がコチラヘと歩いて来た

考え込んでいたとは言え気配を感じ取れなかったとは俺も、まだまだ未熟!

振り返り彼女の精神が変化しない訳を聞こうとしたが……

 

「なっ!」

「んふふ、自己紹介がまだだったね?私は………クレマンティーヌ。人殺しと拷問が大好きなただの人間だった女よん。よろしくね、あ・な・た♡」

 

彼女の精神に変化の無い理由に驚き、そして―――

 

「ふ、服を着ろ!それとなんだその呼び方は!」

「え~?私をひん剥いて犯し殺した本人がそれ言う~?ウケるんですけど!それに~……お前の全てが欲しいって告白しておいてシラを切るとか……意味わかってんだろうな?」

 

何時ものふざけていた笑みを一転させ心にズシリと響く様な声を出してきた彼女に俺は今更NOと言えるはずがなかった

 

「っ!……好きにしろ!」

「うふふ、ダーリンやっさしぃ~!」

 

ケタケタと生まれたままの姿で笑う女……クレマンティーヌに抱き付かれたまま俺は深く溜め息を零すのであった

 

なぜユグドラシルが現実として存在するのか、俺と言う化け物がこの世界でどのような影響を及ぼすのか、分からない事が多すぎるが確実に言える事は……………

 

「………いい加減、服を着てくれ」

「えぇ~!……言葉ではそういうけど本当は好きなんでしょ?あ・な・た♡」

「ッ!」

 

コイツに振り回されながら、この未だ何処なのかも分からないこの地を彷徨う事は決定している様だ

 

 

END

 



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~俺も嫁も狂ってる件について~

ログホラ執筆の手が止まってしまったので息抜きにかきました

それでもいいよと言う寛大な方はどうぞ

※一部、変換されない漢字がありましたので当て字を使わせて頂きました
ご了承ください


オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~

 

 

 

早上好、你好、晚上好

現実世界ではリアル海王とかリアル白竜とか大層な呼び名で呼ばれていた只の武道家の李鳴海だ

一方は中国武術の頂点とも云える人物、もう一方は武道家と言うより化け物だが、前者は兎も角、後者は俺のスタイルが中国拳法であり化け物染みた強さから云われており、俺はリアル海王の呼び名の方が自分に合っていると思っていた……そう思っていたのだ

 

「ひ、ひぃぃ!ば、化け物!」

「た、助けてくれ!」

「……」

 

そう過去形になってしまったのだ。見た目は人と変わらぬと云うのにリアル進行形で化け物と呼ばれています……なんだかへこむ

もういっその事、開き直って白竜らしく漫画の世界だからこそ実現できる武術『導弾道』を試してみようと思ったのが10分前の俺。その成果が――――

 

火箭脚(フォジィェンキャク)!」

「ッ!」

 

思考錯誤の末、出来る様になってしまった

中国語でロケットを意味する鋭く速い蹴りは、最初に宙へと投げ飛ばした人間の胴体を貫き悲鳴もあげる暇も無く命を絶った

元人間として躊躇なく人殺しを行っている自分に違和感を覚えるが、武道家として未知の技術や拳法は、子供に新しい玩具を与える事と同義!

あれよこれよと技を出している内に違和感など気にならず意気揚々と群がる人間に新しい技術を試していた

 

俯沖爆炸機(フーチョンホンジャジー)

 

仲間の命と引き換えに大地へと降り注ぐ『赤い雨』に呆然とする人間を尻目に俺は空中で手を水平に伸ばし回転し始め、重力と回転力を合わせた人体では再現不可能な技を繰り出す為に真っ直ぐに落下していき―――

 

爆炸脚(ホンジャキャク)!」

「ッ!?」

 

唖然とする集団に叩き込んだ……もはや悲鳴も上げられまい。

中には盾を構えている者も居たが、ただえさえレベル差が激しい俺の一撃に、重力と回転力を加えた一撃に盾など無用で容易に人間達を塵へと還した

 

リアル海王と呼ばれるようになってからは色々な技法を中国拳法に取り入れ中国の歴史を更に昇華させる為に歩んだ武道家人生だが、人体の構造を無視した架空の武術を果して後世に残して良いモノだろうか?

いや、今は目の前の事を考えよう!架空の武術を使える俺がいる!それが歴史へと繋がるのだ!

 

「さぁ、まだ終わらんぞ!」

「ひぃぃ」

 

まだ試したい技は山ほどある。

陸奥園明流に北斗神拳。……キョンシーになってしまったのでどうだか判らないが、『気』と言う生命エネルギーを形に出来るモノなら流派東方不敗も試したいものだ

血の気の無い身体だが、熱く湧き上がる血にまだ残る人間に対して構えをとる、が……

 

「ダーリン~、終わったよ~」

「…………ほぉぉぉぉあたぁぁぁ!」

 

連れの終了宣言に冷静になった俺は、八つ当たりとばかりに大木に対し裏拳を叩き込んだ

周りの木を巻き込みながらも倒れる大木を横目に今回の成果が全くと云って良いほど何もないのに肩を落とした

 

最初は、いきなり襲ってきたコイツ等に話を聞こうとしたのだが、『導弾道』が再現できる事に気が付いたが最後………武道家としての血が抑えられなくなってしまい本来の目的を忘れてしまった

 

それに、まだまだ試したい技や技術が沢山あるというのに、最初の悲鳴の辺りから俺に立ち向かってくる奴はいなくなって鍛錬らしい鍛錬が出来なかった

 

「それより見てよダーリン!のっぺらぼう!」

 

二重の意味で落胆する俺を尻目に『上手く皮が剥せたんだ~』と嬉しそうに語るクレマンティーヌに視線を送れば四肢を削ぎ落とし、顔面のパーツさえも削ぎ落とした人間の顔を見せつけて来た、が………生憎なにも感じん!

 

『キョンシー』に成った事で未知の武術を習得する機会が出来たのは両手をあげて喜びたい事なのだが、人の尊厳、倫理など理性が伴う一般的な感情が欠陥してしまったのは頂けない

心の何処かでは犯してはいけない道と理解しているが、本能がソレを容認している何とも言えない状況なのだ

 

今のクレマンティーヌの行いは、俺には何も感じない行為だが、だからと言って今の状況を咎めない訳にはいくまい

 

「……クレマンティーヌ、食べ物で遊ぶんじゃない」

「えぇ~…それをダーリンが言う?意気揚々に練習台に使ってたじゃないの!」

「むぅ……人体相手の方が感覚が掴みやすい」

「これ以上強くなってどうするの?って言いたいわ~……あっ!これ、食べる?」

「……不需要」

「?……まぁ、私はた~べちゃお!動いたからお腹空いたし~」

 

そう言うとクレマンティーヌは、皮膚が残っている場所に爪を立てると一気に皮膚を削ぎ落とし剥き出しになった人肉に食らいついた

その行為が、食べやすいように海老の殻を剥く行為と同じ様に感じ僅かに微笑んでしまった

 

だからと言って俺も食べたいと言う訳ではない……純粋に食欲が湧かないのだ

男性型の「キョンシー」と女性型の「キョンシー」では趣向が違うらしく、俺は男を喰う気にはなれないのだ

 

「……いや、男を喰うとかゲイかよ」

「ん~?私は女の子も美味しくイタダケルよ?」

「………バイかよ。それよりコイツ等は「死ねぇぇぇ!」ッ!?」

 

な、なにが起きたか全くと云う程に理解はしていた!

俺とクレマンティーヌが話しているのをチャンスだと感じたのか暗闇に隠れていた人間がリアルで肩を落としてきたのだ!

……まぁうん、脅威に感じんと思って放置していただけなのでアル。HPも減ってないし気を抜いていたから取れたと云ってもいいだろう

 

「やったわ!」

「……」

 

ボトっと音を立てて落ちる右肩を他人の出来事の様に思いながらも俺に表面的にはダメージを与える事の出来た事を喜ぶ人間に意識が……いや、食欲が向いた

今まで片付けていた人間とは違い、声があからさまに高く、兜で顔を隠して判らないが、俺の本能が玩具だと伝えてくる

 

思わず口元が歪んでしまい、喜びを隠しきれずに俺は、落ちた腕を拾い玩具へと投げつけた

玩具も落とされた自身の腕を投げ飛ばしてくるとは予想していなかったようで反応が遅れ、切り払う事も盾を使う事も出来ずに避けるという行動を取るが……悪手

 

「っ!?」

 

避ける為に視線を俺から外したスキを逃す事無く、玩具に接近し手に持った剣を叩き折り、玩具の両手を拘束した

 

「くっ!放せ!」

 

いまだに抵抗する玩具ではあるが、2mを超す俺に拘束されては、思うように反撃する事も出来ない

出来る反撃も宙に浮いた足で力の入っていない蹴りを当てるくらいだ

とてもではないが、俺の行動に支障を来せるほどの威力は出来ないでいた

 

玩具を捕まえ後は、思う存分遊ぶだけなのだが、クレマンティーヌの時とは違い西洋鎧とも云うべきか肌と言う肌を全て鎧で隠した玩具は実に食べにくそうだ

 

手早くクレマンティーヌと同様、皮を剥けばいいのだが生憎、現在の俺は隻腕

皮を剥く事も出来ないでいれば、遊ぶことも食べる事もままにならない………最悪は皮事食せば良いのだが、クレマンティーヌで味わったあの絶望し助けを求める魅力的な顔は忘れられない

 

どうしたものかと思考を巡らせて……そして俺は思いついた。

手で駄目なら脚で皮を剥けばいいのだと!

 

思ったなら直ぐ行動!前回と比べある程度、自由の利く身体に指示を飛ばし俺は、彼女を一閃した

 

「……えっ?っ!?きゃぁぁぁ!」

 

一瞬、何が起きたか理解できないでいた玩具だったが、自分の実を守る鎧や兜が真っ二つに裂かれ、自身も裸になっている事に気づき悲鳴を上げた

 

俺のやった事はごく簡単。……足を蹴り上げ鎧と兜だけを破壊しただけ

脚を畳みながら振り上げる事で密着していても鋭い蹴りを叩き込めるこの技法は、体の柔軟性とバランス感覚を鍛えなくては習得する事の出来ない高等技法

 

決して皮を剥くための技法ではないのだが、プロ野球選手でさえハンマーが無ければバットで釘を打つ時代だ。……同じ様なモノだろう

 

「ん~ダーリンどうかしたの~?」

 

食事が終わったのかクレマンティーヌが干からびた残飯を引き摺りながら此方にやってくるが、事態を把握し呆れる様にタメ息を付いた

 

「ダーリン……一応戦闘中だっつーの。油断していていいのかな?それに女ひん剥いておっぱじめるつもり?………そんなにしたいのならいつでも私が相手になって……あぁ、そう言う事、ね」

 

干からびたモノを投げ捨て呑気に落とされた腕を俺に渡そうとしてクレマンティーヌは悟ったようだ……俺の瞳が玩具を性的な目ではなくヤる事を目的にしている事を・・・・・

 

…そうだ、俺は一刻も速く玩具で遊びたいのだ。……だから俺の腕を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っく!辱めを受ける気はない!やるなら殺してから「はぁ?なにいってんの?」なに!」

 

なにを勘違いしたのか一人で盛り上がっている食料を憐れみながらもその場から離れ私は、彼の腕を抱いた

 

「あんたさぁ~、もしかして犯されるって思ってんの?」

「っ!この状況を見て見ろ!鎧をひん剥き拘束する!男なんぞ腰を振る事しか考えていない猿の集まりだろうが!」

「猿ねぇ……そっちの方がよっぽどよかったのにねぇ」

「なに!?」

 

今の自分の立場が理解できていない頭の悪い食料は、私の云い様に怒りを露わにするけど、私は家畜並みの情が向いたかな?

 

「ねぇ、アンタ、名前は?」

「くっ!……クリス・ラインシュバイザー」

「そう………では、クリスちゃんに問題でぇす」

 

私は、クリスちゃんに見える様に彼の腕をフラフラと揺らした

 

「普通の人は腕を斬られたら血は出るでしょ~か?」

「なにを言っている。あたりま……」

 

揺れている彼の腕と斬られた場所に視線が向いたクリスちゃんは途中で言葉を失った

 

「んふふふ、気付くの遅い~…正解は『出る』でぇす!。夜で判りづらかったかなぁ~?」

「な、な、な」

「――――…マ…ーヌ、…の…を…せ」

 

血の気が引いて行くクリスちゃんを見ているだけで私もダーリンと一緒に遊びたくなってくるけど、ダーリンはもう我慢の限界みたいねぇ?

 

「次の問題でぇ~す!ダーリンの好物は何でしょうか?はい、正解は、女の子でぇす!それも良い声で鳴く」

「はぁ……はぁ…」

「――ク…マ…ティーヌ、…の…を返せ」

 

自分の置かれた立場がやっと理解できたのか息を乱し、恐怖で表情が固まっていくクリスちゃんって……かわぁいぃいなぁあ

 

「最後の質問でぇ~す………貴女に落とされたこの腕をダーリンに還すと何がはじまるでしょ~か?」

「お、おねがい…た、たすけ「時間切れ~」ッ!?」

「…―――クレマンティーヌ!俺の腕を返せぇ!!!」

「ッ!」

 

命乞いも意味を成さず、血の様に紅いダーリンの眼を見たクリスちゃんの股から黄色い液体が流れでる

……私も経験あるし、何度も見た事ある光景。なんで出るのか気になる所だけど、ダーリンに聞けば教えてくれそう。その為にも……

 

「正解は………猟奇的な殺戮で~す」

「い、い、いやぁぁぁあぁぁぁぁ!」

 

落された腕と切り口を重ねれば淡い緑色の光が発生し手に掛る重さが無くなったのがわかった。………すなわち、ダーリンの腕が元に戻ったと云う事

耳にすんなりと入ってくるクリスちゃんの悲鳴を聞きながらダーリンが折った大木に背を向けながら腰を下ろした

 

後からは肉が潰れる音や骨が折れる音、なにより心地よいクリスちゃんの悲鳴が休むことなく聞こえてくる

 

「経験者のアドバイス欲しい?「イギィ!」アドバイスは~「イ゛グゥ!」ダーリンが正気に戻るまで生き残る事ね~?「な、なんで!」ダーリンは優しいから「なんんで治るの!」罪悪感で生き伸ばしてくれるかもね~「こ、殺してぇ!!」…まぁ、ダーリンの気持ち次第だけど、同じ体験した「もぅ…いや…」仲だし私も説得に協力してあげるわ~「っっっ!!!!!」……知ってる?キョンシーって性欲と食欲が同じみたいなのよ?「い、イヤァァァァァア!!」だから私は~人を食べる度に~気持ちよくなるわ~…まぁ、普通にも出来ると思うけど、そこら辺の男って私、食べ物にしか感じないから私をを抱けるのはダーリンだけね~。って聞いてる?」

 

返事が、もとい悲鳴が聞こえなくなったので後ろを振り返って見れば中身が無くなったクリスちゃんが木に張り付けにされ、張り付けた張本人であるダーリンが、まだ鼓動を続ける赤いモノを食していた

 

「残念でした~。ダーリンハーレム計画失敗?ウケるんですけど!」

 

思わず笑いが込み上げ、肩を震わせてしまう

あの絶望に駆られた声…やっぱり、人を殺すのも拷問するのもたまんないわ~

 

――――――ぐしゃり

 

「あ……」

 

必死に笑い声を殺す私の耳にクリスちゃんの最後の悲鳴が聞こえた

その悲鳴が私の身体全体に快感を与え、息が上がり顔が火照っていく感じがした

 

「んふ、んふふふふ!たぁまんないわぁ~!ありがとう、クリスちゃん!とてもイイ悲鳴(デザート)だったよ~?」

 

んふふふふふふ!かい、かん………―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――…ん、ここは?」

「おっはよ~、目ぇ覚めた?」

「……クレマンティーヌ」

 

木々の隙間から籠れ落ちる日に、ほのかな暖かさと眩しさがこの身体を刺激してくる

ゆっくりと身体を起こして見れば傍らにはスティレットの手入れを行っていたクレマンティーネが猫科を思い出させる笑みを浮かべながら手を振り、微笑んでいた

 

「見張りをしてくれたのか……助かる。それであの後どうなった?」

「あれ」

 

スティレットで指し示す場所へ視線を移せば、乾燥し黒へと色を変えた血の絨毯と木に張り付けになっている干物?のようなモノが事の真相を現しているようであった

 

「思い出した?ダーリンが暴れておっしま~い」

「そうか」

 

キョンシーに身を落して数日、幾分か勝手が判ってきた身体とは云え毎度の様に女性を見て暴走するのはままにならないモノだな

 

「ってゆーかそれ、どうにかならない訳?毎度、暴れられたらこっちの身がもたないっつーの」

 

クレマンティーネの云いたい事もわかる

今までは上手く目撃者を排除し俺達の事を嗅ぎつけられなくして来ていたが今後、討伐隊や軍が俺を狩りに来た場合、おちおちと暴走して理性を失う訳には行かなくなってきてしまう

 

ステータスの差から暴走しても討伐隊や軍に負けるつもりはない………ただそれは俺一人の場合だ

今の俺には方崩しに嫁……いや、守ると約束したクレマンティーヌがいる

クレマンティーヌも人間の枠から逸脱した存在になったとしても大勢の敵を相手取るのは難しい

捕えられ俺を捕獲する為の餌にされるかもしれない

そう考えるとはやり暴走の克服は必須になってくる

 

手を組み、拳を作る際に最も邪魔にならない場所である右親指に付けた指輪を撫でながら自分のすべき事を考え……そして決意した

 

「……打開策はある。その為にも『ナザリック』へ向かう」

「ナザリック……ダーリンのお家?」

「俺の家ではないが、俺の帰るべき場所だ。……話を戻そう。そもそも俺の暴走は、スキルの中にある〈狂化:Ⅴ〉のせいだ。」

「…スキルはわからないけど、タレントみたいなモノ?」

 

思考面で聞いてくるが、なぜその口からタレントが出てくる?

俺は踊りも歌いもしないぞ?

 

「俺は武でしか語れん。………〈狂化〉は何もキョンシーの固定スキルと言う訳ではない。〈狂化〉は取得してから常に発動する常時発動スキルで本来なら攻撃力と防御力を上昇させ魔法詠唱のリタイムを遅くさせる効果がある。………〈精神安静化〉のスキルと複合すればデメリットが無くなるとウルベルトさんが言っていたが、キョンシーの伝承のせいで〈精神安静化〉のキャパを超えて暴走してしまった……のかもしれん」

「曖昧ね~…それで『ナザリック』?そこに行けばダーリンの暴走も止まる訳?」

「『ナザリック』と言うか、そこの主である俺の盟主に会えれば大丈夫だろう。彼ならば〈怠惰の指輪〉……精神異常を無効化する指輪を持っているだろう」

 

異形種に身を落せば初期スキルとして覚える為、アンデットのモモンガさんには必要ないモノだが……変な所に収集癖のある彼の事だ、予備の指輪位持っているだろう

 

親指に付けた『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を一撫でし、とりあえずこの場から離れようと腰を上げたが、眼を見開いて驚きを露わにするクレマンティーヌを見て足を止めた

 

怎么了(どうした)?」

「アンタって部下だったの!?うわぁ~…アンタみたいな化け物の主ってどんな奴よ~」

 

部下って…どちらかと云うと仲間と言ってくれた方が嬉しいのだが、モモンガさんがどんな人、か………

 

「……うさぎちゃん」

「はぁ?」

「真っ白で寂しがり屋な貴人。しかし、聡明な判断が出来、仲間想い……世界屈指の悪の組織として恐れられた『アインズ・ウール・ゴウン』のリーダーで俺達の頼りになるリーダーだ」

 

あのメールと外見から判断すると兎が一番ピンと来るな

 

「……たぶん最強の兎ね、その人」

「ふ、会えばわかるさ」

 

さて、虐殺した奴らの追っ手が来るかもしれん。はやくこの場を離れよう

今度こそ『アインズ・ウール・ゴウン』へ向けて足を進めようとして――――

 

「んでどうやって探すの?」

 

脚を止めた

 

「………」

「まさか考えなしで探すって云うの~」

「……云っただろ。俺は武しか語れんと」

 

ウルベルトさんやたっちさん、ぷにっと萌えさんと違い敵陣で暴れる事しか考えていなかった俺に砂山から宝石を見つけ出す事など不可能だ!

 

……………不可能なんだ

 

血が通っていない顔に冷や汗が流れる

ノープラン、無計画、無謀……嫌な言葉しか思いつかず一歩踏み出す勇気が湧いてこない

歩み出そうとする足が自棄に重く感じる

これが、未知への恐怖だというのか!?この生きる中国の歴史と云われた俺が!恐怖を感じているというのか!頑張れ俺!オマエはいつも逆境を戦って来ていただろう!

 

「Don't think. Feel!俺!」

「盛り上がっている所悪いんだけど、私に考えがあるわよ……聞く?」

拜托您了(おねがいします)!」

 

無策って無謀だよね!

孫子も言ってたアル!『彼を知り己を知れば、百戦して危うからず!』って!

意味知らないけど!

 

クレマンティーヌは徐に腰に付けたポーチから綺麗な装飾がされた首飾りを俺に見えるように取り出し指で回し始めた

今更だが、クレマンティーヌに新しい服か鎧を着せなきゃいけないな?

大きな布を腰のポーチで止めてローブっぽくしてはいるが、決して人前に出るような恰好ではない

俺と二人で行動していたから気にならなかったが、今後、町へ向かうのなら用意した方が良さそうだな

 

「実は、私ってば昨日襲ってきた連中のお姫ちゃんを殺してお宝を盗んだから追われてたんだけどある組織が私を庇ってくれるっていうのよ」

「……色々とツッコミどころ満載だが、まぁいい。それで?」

「近いうちにそれなりに大きな事を起こすつもりなんだけど……聡明な判断が出来る兎ちゃんは、気になって巣穴から出てくるんじゃないのかな?」

 

ふむ、探すのではなく探して貰うのか…

俺では思いつかないような逆転の発想!この李白の子孫(自称)にも思いつかなかった!

 

「それが一番のベストか……組織の名前は?」

「ズーラーノ-ン……秘密結社だよ」

「……ショッカーに改造されないよな?」

「はぁ?」

 

………ともあれ、ナザリックを探す為にアインズ・ウール・ゴウン以外の組織に所属する事を許して欲しい、我が盟主よ

 

END

 



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~俺も嫁と狂ってる件について~

何も変わりどころのない共同墓地に置いて、黒づくめのローブを纏った集団と血色が悪い――もはや血が通っていないかと感じる程、肌が白い男女が対面していた

 

こういう場面を映画や雑誌では、見た事あるモノだが実際に当事者として経験する事になろうとは、純粋に武術に打ち込んでいた事の俺では想像できなかったであろう

 

「お前がクレンティアの片割れ、か」

 

黒ローブの集団のリーダーらしき骨の様に痩せ干せた男……カジットが、おそらくクレマンティーヌの事を示しているであろう呼び軍名で彼女を呼ぶ

 

「ん~、その呼び名は好きじゃない…殺すわよ?」

「ふん、威勢が良い事だ。………それでそこの男は?」

 

まぁ、そうだよな

呼び掛けていた女に見知らない男が付いて来ているのだ、怪しく思うのは当然だろう

 

「李鳴海だ。訳あってクレ「私の旦那様だよ~」…よろしく頼む」

 

何事も初めが肝心、触り当らない紹介をしようとしたが、クレマンティーヌに遮られてしまった

しかも、また『旦那』だと云うか……

『守る』とは約束したが、それが人生を共に歩む一生なモノだとは思いもしなかったぞ?

第一、俺はよくてもクレマンティーヌが遊びで云っているのか、本気なのかわからない今、己が欲をクレマンティーヌにぶつけるのは却ってクレマンティーヌを傷つけてしまう

 

「貴様も訳ありと言う訳か……まぁいい、人手はあって困らん。使えなければ贄にするまでよ」

「……期待に応える働きはしよう」

 

勝手に勘違いして、従者を連れて墓地へ潜るガジットを見送りながらも『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の代わりに着けた『変化の指輪』を撫でた……無事に効果が発揮したようだな

拳を作る際に指輪は邪魔になる為、最低限の数しか拡張していない指輪装備数は3つ

『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と『変化の指輪』、それに今は無き『怠惰の指輪』が俺の本来装備するはずの指輪だ

 

「……いいわけ~?あんな奴の駒になって?」

 

カジットの姿が見えなくなるやクレマンティーヌは、不満げに顔を歪めるが、アヒル口に上目目線……ペペロン曰く『萌え』しか感じない仕草に俺は笑みを浮かべた

 

「下級アイテムで誤魔化しているとは言え、種族の判別も出来ぬ雑魚だ。……お前は虫が喚いているのを気にするのか?」

「そうね~……でも耳障りだわ」

「ふ、違いない。まぁ精々利用させて貰おう」

 

種族がら人間が下等生物にしか感じくなっている事もあるが、やはり自分より弱者の下に付くのは、いくら下等生物だとしても癪に触る………俺が目的を達した際には思う存分、潰してやろう。そう、月明かりの下、誓いを立てたのであった

 

 

 

 

オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~

 

 

 

 

「クレマンティーヌ、それとリー……ついて来い。計画を実行する為に最後の駒を取りに行くぞ」

 

ズーラーノーンに身を寄せカジットの駒使いとして過ごして数日、遂に計画は実行されるに至った。本来ならもっと早くに実行したかったモノだが、カジットが行う儀式にはそれなりの準備が必要なようで、儀式の材料、首飾りの解析等を行っていたおかげで直ぐには実行できないでいたが、カジットの言葉の通り儀式は最後のピースを残すのみになった

 

根っからの魔術師資質なカジットの体力や攫うにあって人目に付かぬよう一般的な馬車に偽装した魔術工房を馬で引きながら目的の人物が住まう町へと馬車を向ける

馬車の中ではカジットが儀式の最終調整を行っており、魔術に疎い俺とクレマンティーヌは工房から追い出され馬の引手になっていた

 

カジットの計画の最後の駒は、全てのアイテムを制限なく使用出来るタレントと呼ばれる特殊能力を持った少年が必要だとの事……

カジット曰く彼に、クレマンティーヌが盗んできた首飾りを使用させ魔力を増幅させ儀式を行うらしい。しかし――――

 

「ンフィーレア、か……歳いかぬ少年を道具に使うのは忍びないな」

 

本来なら関わる必要も犠牲になる必要もない只の一般人、それも少年を贄にしなくてはいけないのは、いくら下等生物だとしても武を嗜むものとしては気が引ける

重々しく息を吐きながらも手綱を引き、馬車を進める。

ここは、目的を果たす為に心を鬼にして望まなくてはいけないと踏ん切りをつけたというのに、隣に座るクレマンティーヌはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできたのだ

 

「どうした?」

「んふふ、いや~、殺戮に関しては右に出るモノはいないダーリンにも、まだそんな心が残っているんだな~って思って」

「顔に出ていたか?でも、勘弁してくれ。……俺は心から人を殺したいと思った事は一度もないぞ」

 

嘘だ~と笑みを浮かべながら否定するクレマンティーヌを尻目に俺は恩師であり師匠の言葉を口にした

 

「我ら武道家とは、生涯探究。武を磨き己が築き上げてきた功夫を後世に伝承していく人種だ。……歴史に於いては人殺しも行ってきたが、基本的には武を磨くためであり、自身の欲求を満たすモノではない」

「ふ~ん」

 

己を高め、身を武に捧げる。そして後世に伝える事が武道家としての誇りなのだ

そして武を昇華させる事が出来る後世―――子供を殺すのは本来の武道家にとってはあってはならない事なのだろうが、この身はその『誇り』さえも腐らせてしまっている

 

「丁度いい機会だから云っておく。……俺が暴走したら止めてくれ。あの俺は、己が欲求を満たす為だけに武を振っている武道家の恥だ。いくら理性が無かったと言い訳しようが、振るうのは俺の拳に違いない。無理を承知なのは理解しているが……頼む」

 

男のプライドなど関係なしに頭を下げる。俺にとってはプライドよりも武を穢す事の方がよっぽど耐えきれない事象なのだ

俺がいきなり頭を下げた事にクレマンティーヌは、軽く驚きはしたが、直ぐに「ダーリンの頼みじゃ仕方ないな~」と笑いながら了承してくれた

 

馬車を裏路地に止め、目的の少年の住まう家まで行き、鍵が掛っているドアノブを強引に破壊して中に入った

 

「ちわー、ンフィーレア君いる~?っていないね~」

 

部屋の中には灯りも人影もなく、どうやら此方が先に到着しただけのようだった

しかし、居ないのであればそれに越した事はない。侵入するより待ち構えていた方がリスクは少なくて済む

一見するに極普通の民家だ。入り口を塞ぎ逃げ道を断てば増援を呼ばれる事はない

クレマンティーヌとカジットに部屋の奥で待機してもらい俺は、玄関先に気配を消して待ち構えた………そして―――

 

「来るぞ……数は5だ」

 

気配を闇と同化し、家の中に入って来た5人組を観察する

先頭を歩く眼を隠した髪型の少年が、情報によると目的の人物。後に続く初心者装備で身を固めた如何にも冒険者な4人は、おそらく……護衛?いや、一介のタレントに護衛が付くとは思えない。何らかの理由で同伴しているモノ達だろう……運が無かったな……

 

「おばあちゃんは、いな「はーい、おかえりなさい」っ!?」

 

不思議そうに辺りを見渡していた少年であったが、家中からいきなりクレマンティーヌが姿を現した事に驚き後ずさる

 

「ずーっと待ってたんだから~、君を攫いに来たんだ~、どんなマジックアイテムでも使えるっていう君のタレントで、アンデットの大群をサモンして貰いたくて~」

 

玄関先で待機していた冒険者達は、異妙な騒ぎを嗅ぎつけたのか少年の元へ向かい、クレマンティーヌの姿を目視すると、自分の武器を構え臨機に備え始めるが―――危険予知までの行動、そして退路を断たれた事に気づいていない事を顧みるに雑魚だな

 

俺は、気配を消し冒険者の後ろへと回り込んだ

 

「お姉さんのおねがい。逃げられたら困っちゃうな~?」

「遊び過ぎた」

「カジット、目撃者はどうする」

「「「「ッ!?」」」」

「始末しろ」

 

いつの間にか後ろへと回り込まれていた事に、驚き武器を構えようとするが……遅い

俺は、懐から4枚の札を取り出し冒険者たちの額へと貼り付けていった

 

効果は直ぐに現れ、貼り付けられた傍から冒険者達は、力なく石像の様に硬直し、佇んでいるだけの肉塊へと変わった

 

「目的の為だ。すまない」

 

貼り付けた札は『フジュツシ』のスキルにある『コウソクフダ』

種族が『キョンシー』になった時にノリで習得したが、思いのほか利便が利いてLVを上げていたのだが、まさかここで使うとは思いもしなかった

 

指の一本も動かせず何が起きたのか困惑し、苦しそうに顔を歪める4人を尻目にクレマンティーヌは、手に持ったスティレットを揺らし始めた

 

「ん~ふふふ……最近、美味しいのがいなかったから迷っちゃうな~?貴方はゴツいから固そうだし、貴方はあまりそそらないな~」

「美味しそう?……あぁ、そういう事か、戦闘狂め。死体はアンデットに変えてやる。……好きにしろ」

 

クレマンティーヌの言葉に首を傾げたカジットであったが、クレマンティーヌのこれまでの行動から殺戮を楽しむ事の彼女なりの隠語だと思ったのだろう……しかし、俺から云わせて貰えば言葉の通りなのだけどな

 

「はぁ~い。じゃぁ……彼をメインで食べてからデザートに彼を食べよ。固そうなのとそそらない方はダーリンにあげるわ」

「……いらん」

 

スティレットの示した先には、弓使いの冒険者と幼い冒険者

弓使いは兎も角、幼い冒険者の命を摘むのは頂けない

クレマンティーヌを止めようと声を掛けようとするが、カジットがこの場に居る為、声を掛ける事が出来ない………割り切るしかないか

 

「ぐぁぁぁ!」

 

男の野太い声が部屋の中に響いた。見ればスティレットが男の腕を裂いていた

傷が広がるにつれて男の苦痛の悲鳴が大きくなるが、これほど大声を出されては周りに気づかれるのでは?と思いカジットに視線を向ければ魔法で音を遮断してあるとありがたくもない言葉を貰ってしまった

 

クレマンティーヌの食欲は抑えきれず、ガジットは、彼女の行為を黙認している。もはや止める事は出来ないとタメ息を零し、せめて幼い冒険者だけは安らかに命を摘もうとして一歩踏み出したが、クレマンティーヌが、殺すには関係なさそうなフォークを取り出したので足を止めてしまった

 

「クレマンティーヌ、フォークで何をするつもりだ?」

「うん?あぁ、ダーリンが前に云っていたじゃない?筋肉って云うのは筋肉繊維が束になったモノだって……だから~パスタみたいに巻けるかなぁ~って」

 

いや、だから巻くという発想は出ないと思うんだけどな?

確かにクレマンティーヌには、筋肉の仕組みとかは話したが、妙に首を傾げていたから理解できていないと思っていたが、ここで人体解剖を行うとは……その発想は無かった

 

一方、解剖対象に選ばれた男は顔を引き攣られ眼で先程、クレマンティーヌによって裂かれた腕に視線を送った後、ガタガタと震え始めた

 

「それじゃ~まっきま~す!」

「―――――ッ!」

 

声にならない叫びとはこの事だな

裂かれた傷口にフォークを刺されるだけでも激痛が走るというのに追い打ちをかけるように巻かれては想像も付かない痛みを味わう事になるだろう

 

溢れる血など気にもせずにフォークを回していくクレマンティーネ

時たま、強引に引っ張られた為に断切した繊維の音は、彼の悲鳴で掻き消され人外の身体を持つ俺の耳にしか聞こえてこなかった

 

上手く巻けたのかは知らないが、クレマンティーヌはフォークを引き抜く

最後にブチブチと千切れる音と共にフォークには血に染まった繊維が窺えた

 

「へぇ~…本当に巻き取れるんだ~……美味しそう」

「ッ!き、貴様、人食か!?」

 

そしてクレマンティーヌは、血に染まったそれを口に運び捕食した

流石のカジットも人食をするとは思ってもいなかった様で、顔を引き攣らせクレマンティーヌの行動に驚きを現していた

 

「ん~…やっぱり、パスタじゃなくて肉って感じかな~?……ダーリンも食べる?」

「いや「おい!さっさと殺せ!時間が押しているんだ!」……」

 

どんなに身を落そうと生きた人間のソレを食べるクレマンティーヌの行いに耐えきれなかったカジットは声を上げてクレマンティーヌに指示を飛ばした

 

「えぇ~まだ一口しか食べてないし~デザートも!というか……なに私に命令してんのよ」

「ふ、ふん!拾ってやった恩を忘れたかクレンティアの片割れめ!」

「……あぁ?」

 

一触即発

 

久方ぶりの食事を止められたクレマンティーヌは『キョンシー』としての狂化も相まってカジットに不満をぶつけカジットも舐められたくないのか強気に喧嘩を売っていた

正直、味方をするのならクレマンティーヌ一択なのだが、今は加担する事はよそう

俺は、クレマンティーヌの気がずれている内にデザートの方へと歩みを進めた

 

「すまないが、死んでくれ。……彼女に殺されるよりかはマシだろう」

「ッ!」

 

声も出せずに涙を流すデザートを横目に俺は、高ぶる気持ちを押さえながら拳を作った

 

 

 

 

……いや、なんで高ぶってんだよオレ

俺には、殺人の趣味も無ければショタの兆しも無いというのに、こんな幼い冒険者に興奮するなんて変態じゃないか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ!まさか!

 

「すまない!」

「ッ!」

 

俺は、握り込んだ拳を解き、彼の…いや、彼女の服を切り裂いた

そこには、僅かに膨らんだ胸部を晒で押さえつけている女体が現れた

 

「ッ!クレマンティーヌ!コイツは女だ!」

「え!?マジ?」

「糞がっ!」

 

今までは男だと思っていたから然程、暴走する兆しは少なかったが、彼女を女だと意識した瞬間、溢れる程の衝動が俺に襲いかかって来た

 

「撤収するぞ!」

「ッ!りょーかい!」

「な、なにを言っている!速く始末「黙れ!」ッ!?」

 

押さえていなければ、今にも喰らいつきそうになる本能を辛うじて残る理性で押し込み、クレマンティーヌに離脱するように伝える。

クレマンティーヌも先程、俺が伝えた事を汲んでくれたのか少年を抱えて撤収の準備にかかるが、カジットが制止の声を上げてくる

精神的にも余裕がない俺は、『キョンシー』の本能が赴くままカジットに〈絶望のオーラⅢ〉を叩き付けてしまった

案の上、Ⅰですら立つのがやっとだというのにⅡを飛ばしてⅢのオーラを受けたカジットはその場に泡を吹いて倒れた

 

操你妈!!(くそったれ)穿着手足!(足手まといが)クレマンティーヌ!先に行け!俺はゴミ虫を運ぶ!」

「えぇ、わかったわ」

 

地に倒れるカジットの片足を掴み引き摺りながら馬車に向った俺達は、目撃者を残してしまったが、なんとか目的を達成したのであった

 

 

END



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~俺の嫁が可愛い件について~

薄暗い共同墓地の地下に冷たく冷え切った水が飛沫を上げた

 

「ッ!」

「目覚めたか……ならばさっさと儀式を始めろ」

「わ、わかってるわい!」

 

案の上、水を被ったカジットは意識を覚醒させ、何が起きたのかと辺りを見渡すが、目の前に自分の意識を落させた化け物がいる事で事態を把握し立ち上がった

カジットの声色からは僅かばかりの恐怖感を感じまだ、『絶望のオーラⅢ』の影響が残っている事がわかるが、こちらとしても事態に気づかれる前に事を済ませておきたい

 

『スイミンフダ』の影響でまだ意識を失っている少年をカジットに投げ渡し俺は柱に寄り掛かり辺りを見渡した

相変わらず湿った空気が入り込んだ地下施設だが、数日前から儀式の準備をしていた事もあり、地下には巨大な魔法陣が描かれている

魔法や魔術に疎い俺には、巨大な落書きにしか見えないのだが、カジット曰く魔方陣は、器の様なモノで中身を入れる事によって形を成す……らしい

 

どれほどの規模の儀式になるのか判らないが、中身であるンフィーレア少年の魔力量を窺っても対した儀式ではないのだろう

 

預けた少年の衣服を何かしらの加護の掛った装備に着替えさせたカジットは、徐にクレマンティーヌに声を掛けたが―――

 

「クレマン「私はダーリンとデートってくるから無理~」な、ん…だと!?」

「ダーリンの魔法が効いてるからカジちゃん一人でも大丈夫でしょ?さぁ、いこっかぁ~」

「お、おい!」

 

拒否されたアル

いや、心境としては俺もカジットと同じで『な、ん…だと!?』と声に上げずとも顔で語っていたのだが、俺の心境などつゆ知らずクレマンティーヌは腕を掴み地下施設から連れ出して行ったのだ

 

「…どういうつもりだ」

 

湿った空気が入り込んだ地下から朱い月が顔を出す外に連れて来られた俺は、クレマンティーヌの行動を疑問に思い声をかけた

確かに俺があの場にいる意味はないだろうが、クレマンティーヌは儀式の最終準備とかやらでカジットの手伝いをする予定になっていた

急に予定を変更しては計画に遅延が出てしまう可能性がある為、早急に儀式に取り掛かる必要があるのはクレマンティーヌも判っていると思っていたのだが?

 

疑問の声をあげる俺に対しクレマンティーヌは、朱い月と同じく紅い瞳で俺を見つめながらゆっくりと口を開いた

 

「ダーリンには伝えてなかったんだけどさ~。首飾りの本当の名前って『叡者の額冠』って云うんだよね~」

「あれは……冠だったのか?」

「ダーリン、ファッションには疎そうだもんね~」

「……」

 

確かにファッションセンスが無い事は重々承知している

しかし、あんな金属糸と宝石が散りばめられた装飾品なんて誰が冠だと思うのだ!

どう見ても首飾りだろ!

 

「んで~…その額冠なんですねど~膨大な魔力を与える代わりに代償があるんだよね?」

「代償?……カジットは死ぬ事は無いと言っていたが?」

 

いくら化物に身を落した俺だとしても子供の命を蔑ろにする儀式には参加したくはない

心の底では、子供…いや、人間自体を下等生物だと思っているが、いち武道家として『本心』では否定したい事実なのだ

 

その事を含め、カジットには再三少年の命を摘む事はないか確認はしてある

しかし、俺は認識が甘かった事をクレマンティーヌの言葉で思い知らされてしまった

 

「死にはしないけど……自我の崩壊」

「なっ!?」

 

―――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!

 

「ッ!?」

「それに両目の失明かな?」

 

クレマンティーヌから告げられた思いもよらない事実が、俺の心を抉った瞬間、地下施設からンフィーレア少年と思われる悲鳴が辺り一帯に響き渡った

 

「私は~この身体になる前から人殺しとか拷問とか好きだったから何ともないんだけど、ダーリンって成りは兎も角そういうの嫌いでしょ?……特に歳いかない子供のとかの」

「~~~ッ!」

 

自我の崩壊……確かに生きてはいる。しかし、そんな事綺麗ごとでしかない!

知らずとはいえ、俺が未熟だったばかりに……また一つの命を奪ってしまった

身体の限界以上の力で拳を握り締めた為、骨が軋み割れ、割れた骨が肉を貫き夥しい異形な拳へと変化させていく

 

今、ンフィーレア少年は自我を失い、そして光を失ったと言うのに俺は血も涙も流す事の出来ない存在になってしまった事に嘗てない怒りを抱いてしまって―――――――――

 

 

―――――拳に暖かさを感じた

いつの間に俯いていた顔を上げて見ればクレマンティーヌが俺の拳を自身の両手で包み込んでいた

 

「ダーリンの事だから『目的の為』とかで踏ん切りつけるつもりだと思うけど……納得は出来ないでしょ?……見たくない事は見ない方がいいって」

「……謝謝」

 

なぜクレマンティーヌが俺を連れ出したのがわかった

俺達の目的を叶える為、もっとも良い手を考え、俺の信条も考慮し、でも通らなくてはいけない道を…犯さなくてはいけない罪を……逃げるのではなく対面する大切さをクレマンティーヌは俺に示してくれたのだ

 

俺は、クレマンティーヌの両手をそのまま引き、抱きよせた

 

「ッ!?……いや~、私って奥さんぽいことしたでしょ~?」

「……妻より先に恋人だろ」

「ッ!ねぇねぇ!今なんつった?ねぇねぇ!」

「ッ!二度も聴くな!恥ずかしい!」

 

俺の腕の中で喚くクレマンティーヌを尻目に俺は、よりいっそう強く彼女を抱きしめたのであった

 

 

 

 

 

オーバーロード ~俺の嫁が可愛い件について~

 

 

 

 

「壮観だねぇ~」

「確かにそうだが……」

 

クレマンティーヌが声をあげたのも仕方がない事だ

俺達の目下では、通常見る事の出来ない数百を超えるアンデット系モンスターが群れをなし町へと進軍してるいのだ

どうやらカジットの儀式は無事に成功し大量のアンデットを召喚する事が出来たのであろうが、俺として見れば大量の雑魚を召喚した程度で何の脅威にもなり得ない遊びに過ぎなかった

 

これがカジットの行いたかった計画だと思うと、落胆の方が大きいが、俺はそう思うだけで他は違うのかもしれない

 

「クレマンティーヌ」

「うん?」

「スケルトンを一体倒すのに普通はどのくらいの力量が必要なのだ?」

「ん~、私はそうでもないけどフツーの人は2人がかり、かな?」

「一人で突破するようであれば強者、か………ん?」

 

生前のクレマンティーヌは、レベル30程で英雄級の剣士と呼ばれていた

レベル10程度のアンデットに二人がかりなど、異常すぎる

彼女の言葉だけで、この世界の功夫が足りない事を感じさらに肩を落としたが、目の前で起きている奇怪を目にし思考が一旦停止した

 

「へぇ~、面白いのがいる」

「……ジャイアントハムスター、なのか?」

 

同じタイミングで声を上げたが、恐らく両者には決定的な違いがあった

クレマンティーヌは、雑魚の群れの中で無双する漆黒の鎧を身に纏った人物の力量に付いて面白がっているのだろうけど俺は、その上で飛行するモンスターに驚きを現した

 

ジャイアントハムスター

レベル30強の雑魚モンスターだが、ユグドラシルに登場するモンスター

この世界で初めて目にするユグドラシルに関連するモンスターだが、そのジャイアントハムスターが空を飛んでいるのだ

 

この世界で独自の進化を遂げたのかと心が躍ったが、ジャイアントハムスターの下でかの者を支えている術者を見つけ出し、一気に萎えた

生物進化は、人間の進化と同じく神秘的なモノであり、大切にしなくてはいけない事象だとブルプラ氏に云われていた俺は、神秘の瞬間を目に出来たのかと思っていたのにあんまりだ……

 

取りあえず、視線をジャイアントハムスターから外し鎧の男と術者の女に意識を向けたが、いつも見ただけで湧き上がる筈の衝動が無い事に俺は首を傾げた

 

「……鎧の奴は体格から男だとしても術者は女、だよな?」

「そうだけど~……ダーリン、興奮してないね?」

「変態みたいに云うな」

 

女性限定で湧き上がる殺人衝動が、なぜかあの術者には湧かない

距離があるとしても多少なりは反応を示す筈なのにまったくと湧かないのだ

 

今までそんな事は一度も無かったと言うのに、突然起こった現象に彼らが普通とは違う事を俺は本能的に感じた

 

「キナ臭い……カジットの所へ向かうぞ。時を見て俺も戦闘に加わろう」

「んふふ、りょうかーい」

 

あの武力の欠片もないカジットの元に彼らが辿り着いた場合、従者は兎も角あの男を押さえる術はないだろう

 

クレマンティーヌを抱きかかえ飛行(フライ)を唱えると、カジットのいる墓地へと向かった

カジットも異常が起きた事を察していた様で従者を連れて外で待ち構えていた

 

「なにが起きている!」

「冒険者二人と魔物一匹が此方に向っている」

「……なに?あのアンデットの大群を突破して来たとでも云うのか!」

「あぁ、わかっていると思うが奴らは『英雄級』だぞ」

「ッ!急ぎ『死の宝珠』を持ってくるのだ!」

 

従者にマジックアイテムを準備させているカジットを尻目に俺はクレマンティーヌに魔力を飛ばした

 

(カジットには適当な事を云って俺は控えに回る)

「え!?なにこれ?」

(伝言だ。頭で考えた事を魔力で相手に飛ばしている…らしい。やってみろ)

「えぇっと…(ダーリン、愛してる)」

(……もっと他の言葉はなかったのか?)

(ダーリン、だぁいぃすぅきぃ♡)

(……相手の出方が判らない以上、戦力は温存した方が良い。ピンチになったら呼べ)

(ちょっと無視とかないんじゃないのかな~)

(………我休息(勘弁してくれ))

 

クレマンティーヌから逃げるかのように建物の上へと登った俺は、いつでも撃って出られるように待ち構え、そして奴らはやって来た

 

対面早々カジットをバカと呼び、ココをどうやって突き詰めたのかと丁寧に教えてくれる奴曰く、クレマンティーヌが食事に使っていたフォークに付いた男の血から逆探してきたと……最近、クレマンティーヌも美食家になったので自身の使う食器に拘りを持つようになったのが仇となったか

 

そして奴は事云うにクレマンティーヌに対し一対一を望み『本気を出さない』と口にしたのだ

 

(うわ~……カチンときたわ~)

(………奴の功夫を見てみたい。人間だった頃(・・・・・・・)と同じ力で臨んでくれ)

(……はーい)「後悔しても知らないよ~?…じゃぁ、英雄の境域に足を踏み込んでいた私の力を見せてあげるよ!」

 

『能力超向上』『疾風走破』で一迅の風となったクレマンティーヌは、奴が振り下ろした大剣を『超回避』でいなすと肩にスティレットを突き当てた

しかし、男の鎧は思っていたより堅く貫く事が出来ずに、その隙を逃さないとばかりに振り下ろした大剣とは別の大剣で横に薙ぎられ距離を置かれてしまった

 

クレマンティーヌも全力で『武』を振るえば鎧など貫通させスティレットを突き立てる事が出来るだろうが、俺のオーダーを守り人間だった頃の力で『武』を振るっていてくれている。おかげで奴の功夫がわかり始めてきた

 

(……素人、か)

(そだね~、コイツは、肉体能力だけで戦ってきた木偶だね)

(功夫が足りない。鍛えればそれ以上の『武』を発する事が出来ると云うのに………才はあった。しかし、己を磨かなかった傲慢は頂けないな?)

 

もはや奴には何の期待も出来ぬ、俺が出るまでも無かったと離れた場所で戦闘を行うカジットの方へと視線を向けて見れば二体目のドラゴンを呼び出していた

 

(スケリトルドラゴン……第六位階以下の魔法を無力化する魔物だな)

(魔術師の天敵だけど、ダーリンはどう戦う?)

(ワンパンで終わり)

 

魔法が効かないのであれば物理で殴ればいい

生憎、俺は第七位階以上の魔法を習得していない為、スケリトルドラゴンに決定打を与える事は魔法では出来ない(・・・・・・・)が、自己強化魔法や装備次第ではワンパンでお釣りが出て来てしまう程の一撃を放つことができる

そんな雑魚が二体に増えた程度では時間稼ぎも殲滅も出来やしない

 

カジットも決めに来た事だし、クレマンティーヌにも決める様に伝えようとし―――奴の言葉と態度に違和感を覚えた

 

「……随分と余裕だな?」

「いや~、形勢を考えてもこっちが有利かな~って?カジちゃん相手に従者の方は相性悪いし~」

「ふっ……確かに魔法に対して絶対的な防御を誇るスケリトルドラゴンは、ナーベにとっては相性が悪いだろう」

「そだね~…なんなら加勢に行っちゃう?……まぁ、その場合は後ろからズブリだけど」

 

クレマンティーヌと戦闘を始めてから今まで奴に有利な展開は起きていない。だと云うのに奴の態度には余裕が、言葉には強者の重みを感じる

 

器に対し中身の純度が高い……いや、中身と器に差があり過ぎる!

まるで自ら呪縛をかけ、器に合わせているようだ!

 

相手の中身が未知数な脅威だと肌で感じた俺は、戦闘に参戦する為に足に力を入れたが――――

 

「いやはや、この一戦は色々と勉強になるな。武技と云うモノの存在。バランスよく攻撃する大切さ。だが……お遊びは終わりだ。ナーベラル・ガンマ、ナザリックの威を示せ!」

「ッ!」(ッ!)

「さぁ、決死の覚悟でかかってこい!」

 

奴の言葉によって思考が停止したのであった

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

奴の雰囲気が変わった

今までは俺の対応を試すかのように武技を仕掛け、時折笑みを浮かべながら戦闘を行っていた彼女の目が…雰囲気が……一変し猛獣と対面したかのような殺気と野生が溢れ出ている。彼女も本気になったと言う事か……

 

彼女には、短い期間だとは云え『漆黒の剣』のぺテルさんの腕を破壊した罪がある

命まで取られなかったのは良かった。あの程度の傷ならナーベの魔法でも怪しまれずに治療する事が出来たからな?

彼女にはナザリックで武技の研究の為にマウスにでもなって貰おう

 

両手の武器を構え直し、彼女の行動を促したが彼女は手に持ったスティレットを俺に向けて確認を取るかのようにもう一度、我が家の名を口にした

 

「へぇ~…ナザリックか~。その話もうちょっと聞かせてほしいなぁ?」

「ッ!ナザリックを知っているのか!」

「私が質問しているんですけど~?」

 

もはや戦う気はないとばかりに手に持ったスティレットを回し遊んでいるが、視線だけは相変わらず隙あれば喉元に喰らいつくとばかりにギラついていた

……相手は、経験豊富な剣士。レベル差があれど本気になった彼女に対し油断は禁物だな

いつでも変化が解けるように両手に持った大剣から手を放した瞬間、ナーベラルの方で眩い光が走った

 

「うわ~見た事もない魔法。カジちゃん死んじゃったわぁ~」

 

視線を向ければナーベラルの魔法によって倒されたスケリトルドラゴンの残骸と先程まで退治していたバカが消し炭になっていた

 

連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライト二ング)……第七位階魔法は知らなくナザリックは知っている、か…しかし、仲間のバカが死んだというのに彼女の態度に変化はなく、むしろ喜んでいる

ただ単に利害が一致していただけの関係だったと言う事か…

 

彼女の浮かべた表情について解析していると、目の前に空から降り立ったナーベラルが着地し俺に一礼をした

 

「アインズ様、こちらの片づけは終了しました。……このドブ虫も私が処理いたしましょうか?」

「まて、ナーベラルよ。コイツは、ナザリックについて何か知っているようだ。生かして捕らえるぞ」

「はっ!」

 

売名の為に引き受けた依頼だったが思わぬ収穫が出来たと、ナーベラルに奴の捕獲を命じたが奴は、自分が不利な立場になっていると云うのに危機感を抱いていない様だった

 

「さっきまでの威勢はどうした?掛って来ないのか?」

「いや~…アンタは兎も角、そっちの子は、今のままじゃ難しいな~、どうしよっかな?って」

「そうか…ならば安らかに殺し「だから旦那呼んだわ」は?旦那だッ!?下がれ!ナーベラル!」

「ッ!」

「火箭脚!」

 

僅かに聞こえた空気を裂くような音が人外の耳?に入り込んできたので、ナーベラルに下がるように命じた。そして、ナーベラルが俺の命に従い後ろへと下がった瞬間、彼女と俺達の間にミサイルが落ちたかのような爆音と衝撃が走った

 

舞い上がった砂煙で奇襲を仕掛けた奴の姿が見えないが、あの衝撃から察するに目の前の彼女よりも強者だと言う事がわかる

 

 

「くっ!まだ戦力を隠していたか!ナーベラル!対物理魔法!それと対魔法防御だ!」

「あ……あぁ…」

「どうしたナーベラル!」

「そ、そんな…まさか…」

「ナーベラル!「我为我们的信显示武的东西 (我は我が信の為に武を振るうモノ)」ッ!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた……

 

我们的拳头对血已经做染後悔無(我が拳は既に血に染後悔無し)

 

ナーベラルは相変わらず、驚愕しているが俺も同じだ

 

这样的话已经没有把停下的方法!( ならばもはや止める術はない!)

 

舞い上がった砂煙が、廻し蹴られた一閃によって掻き消され、中から見慣れた中国の拳法着『パオ』を戦闘に合わせ改造した服を纏った血の気のない男が姿を現した

 

武芸家李子鸣海!一手死对得上(武道家李鳴海!一手死合う)

「りーさん!?」

 

己の旗をアインズ・ウール・ゴウンに掲げ、共に戦い夢を追いかけた仲間……

ナザリック防衛隊長にして個人にして過剰戦力、現実ではマジで格闘家チャンピオンの俺の盟友………李鳴海が姿を現したのであった

 

 

 

 

END

 



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~兎も嫁も可愛い件について~

ご指摘にあった通り、誤字がないか確認していたら遅くなりました

これでも誤字があるなら……作者の学力的な問題です、暖かく見守ってください

お願いします


「リーさん!?」

 

先程までの威厳ある言葉使いが一転、現実世界(リアル)で良く耳にした若者特有の声に俺は一瞬、気が抜けてしまうが、初対面だと云うのに俺の名前を知っている鎧男の発言に警戒心を張り直した

こちらでは、無名である俺の名前を知っていると言う事は、奴は同郷のモノと考えるべきだろう

 

「……ユグドラシルに関わりのある人間だとみた!貴様の知り得る事は全て話して貰おう!……黙秘はするなよ?もはやこの拳は止まらんからな!」

「なに言っているんですか!俺ですよ!俺!モモンガです!」

「モモ…だと!?き、貴様!我が盟友の名まで知っているのか!」

 

コイツ!アインズ・ウール・ゴウンを知っている!?

いや、アインズ・ウール・ゴウンはランキング上位のギルド、知っていても不思議ではないが、今この場において我が盟友の名を口にするとは!

 

「いやいやいや、モモンガですよ!め、伝言(メッセージ)は…あれ?繋がらな…まさか!李さん!『狂化』してます!?」

「……俺の情報まで知っているのか!?くそ!これはまるで『ぷにっと萌え』氏の策略のようだ!」

 

現代の諸葛孔明とまで呼ばれたアインズ・ウール・ゴウンの軍師『ぷにっと萌え』氏

行動派の俺に進むべき道を示し、アインズ・ウール・ゴウンの歴史に貢献した偉人の言葉曰く『敵の情報を集めて叩くのは常識』を臭わせる戦略に俺の警戒心は天元突破した

 

「いつまで勘違いしているんですか!脳筋ゾンビ!俺ですよ!俺!」

「の、脳筋!?……盟友の名を騙り、剰え俺の侮辱までするとは…鎧男め、許さん!構えろ、クレマンティーヌ!本気で行くぞ!」

「……まいっか!よろしくね~ナーベちゃん」

「ッ!」

 

鎧男以外全員が、武器や拳を構える

従者の女は杖を、クレマンティーヌはスティレットとメイスを、そして俺は拳を握りしめた

一人だけ慌しく動揺している鎧男の様子は恐らく……演技だろう

自分は無害だと油断を誘い後ろから斬りかかる目論見なのだろうが……『ぷにっと萌え』氏から『行動する前に考えろ、脳筋』と有難いお言葉を授かった俺にそんな演技など通じん!

 

「参る!」

「え、え~!?やっぱり脳筋だ!?」

「縮地!」

「ッ!?」

 

縮地……『神仙伝』曰く100里を一瞬で縮めるとされる神術

100里を縮めるなど非現実的であり、、近年の日本武術では瞬時に相手との間合いを詰めたり、相手の死角に入り込む体捌きを、縮地と呼ぶようになった

ユグドラシルにも同様な一瞬で距離を詰めるスキルはあるが、この縮地は貴様が知っている縮地とは一味違うぞ!

 

相手の『虚』を付く縮地……すなわち相手の意識や緊張が抜けた瞬間を狙いスキルを発動させる縮地法!

ゲームでは画面越しな為に『虚』を付く事が不可能であったが、今の俺は不可能を可能にする!

判り易く気が抜けて『虚』を作った鎧男目掛けてスキルを発動させた

 

案の上、鎧男は突然目の前に現れた俺に驚愕し対応が遅れた

 

「覇ッ!」

「~~~ッ!」

「モモンガ様!?」

「余所見は頂けないなぁ?ナーベちゃん」

「ッ!」

 

バキリと鋼を砕く音が鳴り響き、鎧男は膝を着いた。

従者の女も俺達の相性が悪い事を感じ取り援護に入ろうとするがクレマンティーヌが行く手を阻んだ。本来ならクレマンティーヌの力量では、従者に及ばないのだが、鎧男のおかげで戦闘に集中できないでいるので足止めが容易に出来るようだった。しかし―――

 

「……良い鎧だ。本来なら我が拳は、お前の腹を突き破っていただろうに」

「~~ッ!」

 

痛みに悶絶している男に声を掛けるが、つくづく可笑しな男だと再確認した

身に宿る強者の雰囲気、身に纏う鎧も一級品の品物……だと云うのに男の技量は並以下

………ゲームが上手かった、と言うだけの一般人か?しかし、ユグドラシルは現実世界(リアル)の技量が、そのままゲームに反映される。だと云うのにコイツは……

 

「……考えても仕方あるまい。強固な鎧で身を守ろうと我が拳は鎧を打ち砕く!」

 

罅割れた鎧に手を当てながら立ち上がった男に対し俺は、自身の得意技を放つ為に、足を前後に開き、前足と同じ方の腕を前方に上げた

 

三体式と呼ばれる武術の構え、単純そうに見えるがこの構えから放たれる技のポテンシャルは群を抜いており、試合において俺もよく使用する構えだ

そしてこれから放たれる技は基本にして最強!『半歩崩拳、あまねく天下を打つ』と称賛された形意拳の達人の得意技!

 

その一撃は鎧などでは防ぎ切れるモノではない!

 

我们的拳头也打碎铁的一击!(我が拳は鉄をも砕く一撃なり!)

「鎧?……鎧って!」

「崩「これでどうだ!?」ッ!」

 

鎧男の周りにエフェクトが走った瞬間、俺は拳を止めた

寸止めする形になった崩拳の拳圧は、男を避けるかのように後ろへと流れていき墓石を薙ぎ倒し地を抉った

拳で男の顔は見えないが、衣服が手が、俺の知っている人物に酷似している事に俺は恐る恐る拳を下げた

 

「……モモなのか?」

「そうですよ!だからいったじゃないですか!」

 

朱い瞳が発光する骸骨の顏……盟友の姿がそこにあったのだ

 

「~ッ!桃!再来!能见感到高兴!(会えてうれしいぞ)

「ちょっ!?日本語でOK?」

 

思わず抱き付いた俺は悪くない

此方の世界に転移して数十日、やっと出会えた友との再会に俺は感情を爆発させた

所々、メキメキと骨が軋む音や「リーさん!折れる!折れる!」と云う声が聞こえるが知った事か!

 

「ん~、この人?がダーリンの云う兎ちゃん?」

「兎?」

 

どうやら最初からじゃれる程度(・・・・・・・)にしか戦っていなかったクレマンティーヌは、メイスを仕舞いながら此方と合流した

 

「あぁ、我が盟友のモモンガさんだ」

「兎って云っても骨……ねぇ、何のつもりかなぁ?」

 

モモンガさんの腕を軽くスティレットで叩きながら幻術でも作り物でもない本当の骨だと確認していたクレマンティーヌの首元に従者の杖が突きつけられていた

 

「この蛆虫が!至高の御方に対して何という口の利き方を!」

「はぁ~?ちょっと、ダーリンこいつ何なのよ」

「だ、ダーリン!?き、貴様!李様になんてご無礼な!」

 

自身がキョンシー(不死)である余裕か、俺が近くにいる為か知らぬが、現在進行形で命の危機に面しているというのに、顔を歪めるだけで然程焦っても緊張した面持ちも見せない普段通りの彼女の態度に俺は人知れず笑みを浮かべてしまう

 

(…どういう事ですか、リーさん?まさかとは思いますが―――)

(違う、決してやましい事はしていない。ただ、俺が未熟なばかりに彼女に迷惑をかけただけだ)

「(……あとで詳しく聞きますよ?)ナーベラルよ、控えろ。彼女はリーさんの従者だ」

「ッ!しかし!こいつは人間で!」

 

主であるモモンガさんが、下がるように命令していると云うのに何が気に喰わないのか必死に食い下がろうとするナーベラルという女の態度に俺は首を傾げた

 

(モモ、もしかして仲悪いのか?)

(いえ、彼女の忠誠心は本物ですよ?ただ、あ~…人間を快く思っていないだけで)

(……人間を?)

 

そう言えばカジットの事を蛆虫やら蠅とか呼んでいたからな?

おそらく俺と同じで人間を下等生物としか見えないのだろう

しかし、クレマンティーヌはキョンシーで…………あぁ、そうか―――

 

「クレマンティーヌ、俺の渡した指輪を外してくれ。モモと合流出来たし最早不要だろう」

「え~!せっかくダーリンから貰った指輪なのに~!」

「……新しいのをやるから外せ」

 

渋々、指輪を外したクレマンティーヌを見てモモンガさんとナーベラルは驚きを露わにし急ぎ俺に伝言(メッセージ)を繋いできた

 

(キョンシー!?……まさかと思いますが、罪って)

(そういう事だ)

 

ユグドラシルを長年プレイしていた知識もあり、俺が語った『罪』の内容を察したモモンガさんは、咳払いを一つすると威厳を持った声色でナーベラルに声を掛けた

 

「『変化の指輪』による種族の偽装、か……彼女は人間ではなくリーさんの同族だ」

「そういう事!よろしくね~ナーベちゃん」

「ッ!しかし、このキョンシーは李様の事をだ、だ、ダーリンと!」

「……まぁ、間違いでは無いな。訂正するとすれば恋人だがな」

「「リーさん!?/李様!?」」

 

先程までの威厳が何処へ行ったのか、素のままで驚きの声をあげるモモンガさんと俺に恋仲が入る事を純粋に驚くナーベナルの声が墓場に響き渡るのであった

 

 

 

 

オーバーロード ~兎も嫁も可愛い件について~

 

 

 

あの一件後、モモンガさんは今回の事件解決の立役者として『ミスリル』と呼ばれる一級の冒険者に昇進を果たした

事の始まりは、カジットだったとは言え俺達にして見れば黒幕の事実上ナンバー2であるクレマンティーヌと知らぬとはいえ繋がっていたので、マッチポンプに近い形になってしまったのだが結果が良ければすべて良いだろう

そして俺達が被害を与えてしまったンフィーレア少年だが、モモンガさんによって治癒され、後から聞いた話ではクレマンティーヌの(ぼうけんしゃ)も後遺症なく治癒されたそうだ

 

「冒険者……面白い仕組みだ」

「機会を見てリーさんもなってみますか?」

「それも一興……地位に興味はないが、またモモと一緒に冒険が出来るなら一見の価値はあるな」

 

強者二人の雰囲気に呑まれ道を譲る下等生物のモーゼを通りながらも、外で待っているクレマンティーヌとナーベラルと合流する為にも俺達はギルドを出た

いまさらであるが、今の俺の格好は普段と変わりないパオを着て顔も曝け出している

『変化の指輪』の効果で種族を人間に偽装している為、キョンシー特有の蒼白い肌も普通の人間と変わらず血が通っているように見えている

 

本来なら事件の関係者と言う事で、顔を隠したり先にナザリックに帰還するべきなのだろうが、モモンガさんが皆を驚かせたいとサプライズを計画したのでそれに乗る事にした

幸い俺は、クレマンティーヌの(ぼうけんしゃ)以外は顔を見られていない為、素の姿のままでいられるがクレマンティーヌは、ばっちりと顔も印象も残る行為をしている為、俺用に調達した大きいローブを頭から被っている

 

「しかし、モモはナザリックの主として善であっても、NPCと関わりのない俺が帰還した所でNPC達は喜ぶのか?」

 

『ザ・ニンジャ』が創造した『毒付きナーベラル』さえモモンガさんに聞かなければ思い出せない程、ナザリックにいるNPCに関心がなかった俺だぞ?

俺自身もNPCを作っていれば話は変わって来たと思うのだが……

 

「俺達…41人の仲間を至高の存在と崇める位ですから喜びますよ」

「崇めるとか……重いな」

「それは……はい」

 

2人して苦笑し、一方的にナーベラルに話していたであろうクレマンティーヌに声をかけ呼び寄せた

クレマンティーヌは、大きなローブから白い手を出し、手を振りながら応え此方に向って歩き始め、ナーベラルは俺に一礼してからクレマンティーヌの三歩後ろを付いて此方に向ってきた……ってなんで3歩後ろ?

 

「クレマンティーヌ様は、李様の奥方様になられる方、至高の御方に仕える私にとっては仕えるに値する御方ですので」

「ナーベちゃん、重いわ~……兎ちゃんもナーベちゃんと一緒じゃ肩が凝るでしょ~?」

「………それもナーベラルの美点だ。私は良いと思うぞ」

「ありがたきお言葉でございます」

(もしかしてナザリックのNPC全員がこんな感じなのか?)

(……えぇ、彼らの忠義心に応える為にもリーさんもよろしくお願いしますね?)

(う、うむ…)

 

威厳のある振る舞いなど礼に始まり礼で終わる武道家として難しい注文なのだが、ここまで『信』をおかれてしまったら彼らの期待に答えるしかないだろう

今後どのように接するか態度を改める必要があると頭を抱えていると、モモンガさんが人差し指を自身の口に添えた

 

「アルベドからの連絡だ(秘密にするんでよろしくお願いします)」

「了解した」

 

ヘルム越しではっきりとわからないが、きっとヘルムの中では悪戯を仕掛ける子供の様に笑みを浮かべているのだろうな?

 

しかし、アルベドが口にした言葉は、モモンガさんの笑みを一瞬にして吹き飛ばしたのであった

 

「アインズ様、シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました」

「………は?」

 

 

 

 

「シャルティア・ブラッドフォールン……ナザリック地下大墳墓第1から3階層守護者、種族は真祖のLV100、か」

 

ナザリックへと帰還したモモンガさんは、NPCの反旗を信じられないと疑っていたが、アルベドから話しを聞く限り事実だと知らされ、至急対策を練る必要があるとナザリックからとんぼ返りでギルドへと戻って行ってしまった

 

俺達もモモンガさんと共にギルドへと赴いても良かったのだが、クレマンティーヌの顏が悪い意味で知れ渡っており、迂闊にギルドへと足を運べなかったのでナザリックの自室にこもる事になった。

なぜ部屋に籠っているのかと云うと、シャルティアが反旗を翻した今、俺の帰還をNPC達が知れば彼らの意識がシャルティアから俺に向いてしまいシャルティアを二の次に考えてしまう可能性があるとモモンガさんに云われ、ナザリックとしてこの問題を正面から受け止めたいと考えるモモンガさんは、俺の帰還報告を遅らせた方が良いと決断したのだ

 

俺としてもシャルティアの問題は、万全を期して臨んだ方が良いと判断し、モモンガさんの指示に従い自室で身を隠す事にした

自室ならNPC達は、許可なく立ち入る事を禁じられている為、見つかる心配はないからな?

 

「真祖、かぁ~。神話に出てくる化物だと思っていたけど案外近くにいるんだね~?」

 

当然、俺がNPCに見つからないように姿を隠すにあたり、クレマンティーヌも俺の部屋で一緒に隠れる事になった。

彼女は、俺が書き写したシャルティアのキャラシートを部屋に設置されたソファーで横になりながら眺めているが、眼は真剣そのものだ

 

「お前達の常識では真祖は伝説級の化物なのか?」

「そだよ、昔の私じゃぁ手も足もだせずに殺されちゃう感じ?……人間でまともにやり合えるのって漆黒聖典の隊長ぐらいだわ」

「……漆黒聖典?」

 

初めて聞く単語に首を傾げているとクレマンティーヌは教えてなかったね?と云いながら口を開いた

 

「私が以前所属していたスレイン法国の特殊部隊。そんで~、その隊長は六大神の血を覚醒させた神人って呼ばれるアンチクショウだね~」

 

『スレイン法国』やら『六大神』とか、また新しい単語が出て来たが、クレマンティーヌの口振からは生前のクレマンティーヌ以上の技量を持った人物だと言う事はわかるが……アンチクショウって

 

「……要するに『スレン王国』が保有する最強の部隊の長と言う事でいいか?」

「『スレイン法国』、ね?………って、わたしぃ漆黒聖典についてダーリンに云ったっけ?」

 

先程とは逆にクレマンティーヌが首を傾げるが、俺は備えられたポットから烏龍茶を注ぎ、彼女に渡しながら質問に答える

 

「伝説の存在と渡り合える隊長が率いる部隊だ。部下の技量も高い事は誰でも想像できる。それに……クレマンティーヌも所属していたのだ。最強じゃなくては面白くないだろ?」

「んふふ~、ダーリンって口では愛想ないけど、私の事見てくれているんだね?」

「……今はその事よりもシャルティアだ」

 

恥ずかしくなり無理やり話題を戻したが、クレマンティーヌは生前、自身の力量を『英雄』と例えていた。そのクレマンティーヌさえ敵わないと云うシャルティアとタイマンを張れる漆黒部隊隊長……一手交わしたいものだ

 

「モモが言うには、第三者からの精神支配を受けた可能性があると云っていた。……しかし、シャルティアは精神支配を無効化にするスキルを持っている」

 

無効化なのに適応されている。可笑しな話だが現にシャルティアに精神支配が掛けられているわけで、この矛盾を解かなくては先には進めないだろう

 

「シャルティアちゃんのタレント以上のタレントかマジックアイテムを使ったんじゃない?」

「高位の真祖のスキルを無効に出来るアイテムやタレントが、この地に存在するのか?」

「ん~……あ!」

 

今度は、お互いに首を傾げたが、クレマンティームは思い出したとばかりに声を出した

 

「なにかあるのか?」

「『傾城傾国』……人々を救った神の残したモノ」

「ッ!?」

「スレイン法国の高位な人物しか所持する事を認められない聖骸布。これなら「操你妈(くそったれ)」!?」

 

傾城傾国……まさかこの名を聞く事になるとは思っていなかった

ユグドラシルに存在する全アイテムの中でも頂点に位置するアイテム、総数二百種類、それぞれが一点物であり、一つの所有が飛躍的な名声の向上に繋がるという。世界の名を冠する世界級(ワールド)アイテム!

一つ一つがゲームバランスを崩壊させかねないほどの破格の効果を持ち、この効果に対抗するには同格のワールドアイテムを所持するか、最高峰の職業ワールド・チャンピオンのスキルを使用することでしか防ぐことは出来ない厄介な品物だ

それがシャルティアに影響を与えているとは…!

俺は急ぎモモンガさんに連絡を入れた

 

(モモ!俺だ!シャルティアが精神支配された原因がわかったぞ!)

(え、リーさん?ちょっと待ってください。いま、シューティングスターを使ってシャルティアの洗脳を解除しますから)

(ッ!?)

 

シューティングスターだと!?

MP消費はせず、一日に使用できる回数が定められた魔法だが、位階を外れた位置にあるというだけありその効果は絶大。しかし、他の魔法にはない発動準備時間や発動不可時間、経験値ダウンなどの制限が加えられている……課金アイテム!?

確かアレはモモンガさんが、夏のボーナスを全て注ぎ込んで手に入れた『力』で、モモンガさんの本気度がわかるアイテムだが、その領域は超級魔法でしかなく、世界級(ワールド)アイテムには敵わない!

 

(早まるな!シャルティアのそれは超位魔法でも解けはしない!)

(「さぁ、指輪よ!シャルティアにかけられた全ての効果を打ち消せ!」」

「もも~~~!!!!」

 

俺の叫びは虚しく響き渡るのであった

 

 

 

深い歴史と神々しい威厳を感じさせる扉に背を預けながら俺は、ここにくるだろう盟友を持った

ここに入るには幾つかの条件が必要であり、クレマンティーヌはその条件を満たしていない為、部屋に残って貰ったが連れて来なくて正解だっただろう

いくら俺と懇意しているとはいえ、ここは『アインズ・ウール・ゴウン』の功績が眠る場所……容易に立ち入る事は出来はしない

 

「………来たか」

「リーさん、予定と違いますが?」

 

数人の気配を感じ瞼をあげれば呆れて息を吐くモモンガさんと、俺が帰還している事に驚愕する二人の女性

メイドの方は覚えていないが、白い服を来た女性は、錬金術師の子であるアルベドだった気がするが…違うか?

2人は俺の視線に気づくや膝を着き、頭を下げてきた

 

「至高の御方のご帰還、我々、ナザリッ「発言を許した覚えはない」ッ!申し訳ありません!」

 

シャルティアの事で気が立っていたとしても些か強く言い過ぎたかもしれないが、今は呑気に再会を祝している時間はない

視線をいまだ頭を下げ震えている二人からモモンガさんへと向け、俺達の会話が聞こえないようにモモンガさんに近づいた

 

「俺も行くぞ。世界級(ワールド)アイテム……『傾城傾国』が関わった以上、時間に猶予はない」

「えぇ、そうですね」

 

『傾城傾国』は、耐性・スキルを無視して精神支配できるという能力を持っており、今のシャルティアは『傾城傾国』の保有者からの命令待ちと、かなり危険な状態だ

何故かは知らんが、指示を行っていない為、自動反撃状態になっているが、俺達にとってはありがたい事で命令が発せられる前にシャルティアを回収すれば万事解決

だが、逆に命令を指定された後だと手遅れになるという時間との戦いになのだ

 

「シャルティアのスペックは確認した。近接戦を得意とするが、清浄投擲槍といった遠距離技も保有する万能タイプ」

「えぇ、ペロロンチーノさんシャルティアには並ならぬ愛情を注いでいましたからね?……おかげで最強の階層守護者ですよ」

 

シャルティアの創造主であるペロロンチーノ

アダルトゲームユーザーであり、『ぶくぶく茶釜』と姉弟であるアインズ・ウール・ゴウンに席を置く鳥人

彼の趣向嗜好の影響でシャルティアはペロロンチーノの理想の体現となっており、その事はペロロンチーノ限定と言う訳ではなく、茶釜も錬金術師も自身の創造したNPCになみならぬ愛情を注いでいた。……俺もNPCを創造していれば彼らの気持ちがわかったのだが、現状においてその感情は枷にしかならない

仲間達が残した存在、仲間が愛情を注いだ子共達。それだけでもモモンガが彼らを大切に思い擁護する理由になる。だからこそ―――

 

「聞こう……友の愛した子を殺せるのか?」

「ッ!?」

 

大切に思っているからこそモモンガさんは、盟友の子供であるシャルティアは殺せない

 

「わかっていると思うが、現在のナザリックには世界級(ワールド)アイテムの精神支配を解除する手段は一つしかない。」

「……わかっていますよ。一度リセットさせ、新たに蘇生するしかシャルティアを救う方法がない事は……」

 

苦虫を潰したかのように歯切れの悪いモモンガさんを見れば、頭では理解出来ているが、心中ではまだ割り切れないと手に取るようにわかった

何かを思い濁すモモンガさんは、顔を顰める〈白骨で判らない〉が決心ついたとばかりに顔を上げた

 

「もし俺がシャルティアに負けて死「だが、断る!」形式美ですけど早っ!?」

 

リアルで会った事は数える程度。しかし、共に冒険した時間は、計りきれない程に交流を深めた間柄だと云うのに盟友の一人で背負い込む癖は健在のようだ

 

「適材適所……ロールスキル中心のモモより、戦闘に特化……世界級(ワールド)対策も出来る俺の方が有利に事を運べるだろう」

「で、でもシャルティアには魔法も豊富で、距離を置かれたらお終いですよ!?そうだ!なら二人で!」

「二人で部下を叩くか?…支配者の言葉ではないな」

「………」

 

前衛と後衛が揃っているのだから、無理に一対一をする必要はないが、今の俺達の立場は支配者であり、彼女達の上司。

部下が見ている中で二人がかりなどカッコ悪いモノだ

 

「心配するな……対策はある」

 

確かに武道家としての心情として飛び道具や遠距離魔法は習得していない

『フジュツシ』のスキルで魔法は習得しているが、どれも遠距離魔法とは云い難いだろう。だが、習得していないだけでやりようはあるさ。それに―――

 

「俺に武術以外の趣味を与えてくれたペペの子の危機だ。恩を返すには十分だ」

 

武道家の道から外れてしまう戦闘をしてしまうが、恩義の前では武道家の心意気など紙にも等しい

俺は、盟友の子の為に一時期『武道家』としての闘争を捨てよう

 

その対価は――――身体で払って貰うぞ、シャルティア・ブラッドフォールン!

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 



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~兎と嫁が可愛い件について~

ごめんなさい


「暗き者は全て、汝より離れ去るだろう……でしたっけ?」

「……知らん」

 

どこからも繋がっていない独立した部屋。

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が溜め込んだ宝の数々と、運営資金となる金貨の山、武器、データが納められたこの部屋は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で転移してくるしか入室方法はなく、さらに奥に進むには非常に難解なパスワードを解かなければならない……『アインズ・ウール・ゴウン』の宝物殿

 

クレマンティーヌは、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を所持していない為、連れて来なかったのだが、他にも理由はある。……まぁ、連れて来なかった理由が不甲斐ないというのが一番だろう

 

「知らんって……まさか、あそこで待っていた理由ってパスワードを知らなかったからですか!?」

「………」

 

モモの言葉に俺は、力無く頷いた

言い訳をさせて貰えるのであれば、俺の役割はナザリックの防衛と敵拠点への強襲であってナザリックの管理ではない!

略奪してきた宝は、源次郎に渡していたし、防衛と云ってもここは、リングが無ければ入れない孤立した部屋……リングを奪われれば話は変わるが、俺が戦場に出ている限り仲間が倒される事は皆無なのだから宝物殿については知らんのだ!

 

「もしかしてクレマンティーヌさんを連れて来なかった理由って、これ以上奥へ進めなかったからですか?」

「ッ!なぜわかる!?」

「気づいていないと思いますが、リーさんって表情に出やすいタイプですよ?……勝手知る我が家なのに判らない事が不甲斐ないって言う感じですかね?」

「……………是」

 

だって情けないだろ?散々、ナザリックは俺の家だ!って言っておきながら勝手の知らない事があるって知られるのは!

 

「……笑いたければ笑え」

「私もうろ覚えで怪しかったのでお相子ですよ?それに……この先にいる奴は出来るだけ知られたくなかったので良かったです」

「この先は霊廟で特には………パンドラか?」

「えぇ、良く覚えていましたね?……んぅん、お前達は知っているか?パンドラズ・アクターを?」

 

ひそひそ話から一転、モモンガは支配者ロールに切り替え後ろを歩く二人へと問いかけた

 

「……宝物殿の領域守護者にして、私と同等の強さと頭脳を持ち……アインズ様の御手によって創造された者です」

 

『嫉』?妙にアルベドの言葉には棘を感じられたが、今その事を咎めても仕方あるまい

歩みを進め、パンドラがいるであろう部屋に差し掛かった部屋に居たのは――――

 

「「ッ!」」

 

大錬金術師であり、41の盟友の一人―――の形を模したパンドラズ・アクターが此方を出迎えていた

 

「何者です!いくら月日が流れようと創造主の姿を忘れた事はありません!」

「……アルベドよ、下がれ」

「しかし!」

「俺は『下がれ』と云ったのだ」

「ッ!か、かしこまりました」

 

自分の創造主である錬金術師殿の姿を模したパンドラズ・アクターに警戒するのは仕方がないと思い優しく肩に手を置き、下がらせたつもりだったが、どうも俺の機嫌を損ねたと感じたのか慄きながら後ろへと下がった

 

いかんせん、少し言葉が足りないと云われていたが、ここまでひどいものなかの?

 

「……そう畏まるな。俺はアルベドの創造主を忘れぬ姿に敬意を抱く。しかし、今は時間が惜しい。………パンドラ、その程度の猿真似で俺を留める事が出来ると思っての行動か?」

 

俺が問いかければ直ぐに、パンドラは蠅と蛸を足した様な姿の錬金術師殿から本来のタマゴ顔にドイツ軍隊をイメージした服装に戻り深々と一礼した

 

「失礼しました! 至高の四十一人の御一人にして武の頂点!李鳴海様……そして心よりご帰還を祝させて頂きます」

「よい、面をあげよ」

 

いまだに頭を下げるパンドラに表を上げさせ、挨拶もそこそこに今度またゆっくりと伺うと告げて更に奥へと進もうとしたが、モモンガさんから伝言が届き足を止めた

 

(リーさん、よく分かりましたね?パンドラのステータスを確認しているようには見えなかったですけど?)

(気配がまるで違う。錬金術師殿にしては陽気と陰気が少ないし、そもそもNPCには特徴的な気配があるから一発でわかる)

(………リーさんってリアルでダブラさんと会った時ってありましたっけ?)

(ない。が、画面越しでもそれとなく気配を感じる事はできよう)

(……人間辞めてますね?)

 

失礼な!中国武術を嗜むモノとして置いての気配を読む事は基本中の基本!

気配だけではなく殺気など感じられるようになっていなくては世界の頂には届きはしない

 

「それで、モモンガ様、李様。本日はどういったご用件でございますか? 不肖私でお役に立てることがあれば幸いなのですが」

 

伝言に気を掛けていたらパンドラに話しかけられてしまった

 

「あぁ、ワールドアイテムを取りに来た」

「んんぅん~!ワールドアイテム!至高の御方々の証!秘宝の数々が遂に力を振るう時が………来たと?」

 

物事を大げさに装うその態度、余程の自信家なのかそれとも性格なのか?……おそらく後者であろうが、なんだが大げさすぎないか?

現にパンドラを創造したモモが緑の発光をし続けている。今となっては良い思い出だろうが、あの時と比べ年も取った。………中々に痛い設定を付けたものだ

 

「……お前には話してなかったが、今後、私の名はアインズと呼ぶように」

「承りました。わたしの創造主、ん~アインズ様」

 

あぁ、また光った

 

「モモ、总觉得正厉害发光,但是可以吗(なんだか凄く光っているが大丈夫か)?」

「今は何を云っているか判りますよ。問題ありません、黒歴史を見せられているだけで……」

「いかがなさいました?」

「うぐっ!な、なんでもない。……いくぞ」

 

これ以上この場にいては、自身の精神が持たないと危惧に感じたのかモモンガさんは足早に霊廟に足を向けた。しかし―――

 

「いってらっしゃいませ、アインズ様!李様!そして……お嬢様方」

「お嬢様?……そのような軽々しい呼び方は慎むように」

「バラのように美しくも可憐な姿につい…「おい、ちょっとー、こっちに来―い!」」

「おい、モモ!」

 

度を超えたパンドラの言動に流石のモモンガさんも我慢の限界、もとい精神的限界を迎え恐ろしい壁ドンをパンドラに決めて必死に敬礼だけでも辞める様に言い包めるのであった

 

 

 

 

 

 

オーバーロード ~兎と嫁が可愛い件について~

 

 

 

 

 

「お前達はここで暫し待て……李さんもお願いします」

「「はっ!」」

「……了」

 

指輪を装備から外し、一人足早に霊廟に入っていくモモンガ

なんでも先に片しておきたいモノがあるとかないとか……お前は友達を家に招いた家主か!と云いたい所だが、俺もナザリックの主なんだけどな?

 

「李様、発言をお許しください」

「ん?あぁ、かまわん」

 

先程の遣り取りを引き摺っているのか畏まりながら俺に声を掛けてくるアルベド

モモ曰く、守護者の前では支配者ロールを徹底してほしいと云われたのだが、今の俺の態度はどちらかというと支配者ではなく気難しい上司……決してモモのような支配者と云うポジションにはなれていない感じがする

 

「この先には何があるのでしょうか?……アインズ様のご様子から余程大切な何かがあると思えます」

 

この先、か…

 

「…ワールドアイテムと『二十』のはずだが、俺にも盟主がなぜあんなに焦るかわからない…………………あっ」

「何か思い当たる節がございますか!?」

 

いやいや、まさかまさか!思春期のガキでもないのだ。そんな子供染みた理由で先に行くなど!……いや、どちらかと云うとモモはムッツリスケベだ。なくもないが、ユグドラシルにおいて、そういうジャンルは徹底して管理されていたし……まさか此方に来てから集め出したモノ!?……感性がアンデットに近づいたとも云っていたし、そっちの趣味の写真または映像か?

 

「李様?」

「あぁ、エロ本を隠している可能性がある」

「エロ本、とは?」

「女性の裸体が描かれている本だ」

「なっ!」

 

しかし、ズーラーノーンで活動していた時に『紙媒体』のアレを目にした事があったが、写真と云う記録媒体ではなく版画であった。記録媒体が発達した時代に生まれたモモが、たかが版画のエロでヌけるのだろうか?いや、その前に今のアイツに息子が付いているのか?

 

「と言う事はアインズ様の好みの女性が描かれているのですね!?」

「あぁ、おそらく…」

「ッ!?畏れ多くも先に行く許可をください!李様!」

「行くのは勝手だが、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』をメイドに渡しておけ、トラップのゴーレムが襲い掛かってくるらしいぞ」

「カシコマリマシタ!」

 

だが、付いていないとしても愛でる事は出来る。……もしかしたら俺の考え違いで実は、猫とか人間とか愛玩動物の版画なのかもしれない。だとしたら俺に見せてくれたっていいじゃないか!俺は大の猫好きだ!拳法の型になる程の俊敏性を持ち合わせた猫は偉大であり、師匠だって猫だけは絶対に喰わなかった!……今から追いかけるか?でもモモは来るなって云ってたし……というか―――

 

「クレマンティーヌって猫に似ているな?」

 

あの猫科を思い浮かべさせる目や、しなやかなボディライン、人をおちょくるような仕草……うん、総合的に考慮してもクレマンティーヌは猫科のキョンシーだな?

 

「どう思う?」

「申し訳ありません、クレマンティーヌ様と呼ばれる御方を私は存じ上げませんのでお答えする事が出来ません。それより……よろしいのですか?」

「ん?」

「アルベド様を先に行く許可を出されて?アインズ様は待機を命じられましたが?」

「許可……俺が出したのか?」

「はい、ゴーレムの存在も対処法も口にしていました」

「…………」

 

少しばかり考え事していた為、曖昧に返事を返していたが、まさかそんなやり取りがあったとは……俺も修行が足りないと言う訳か…

視線を霊廟の先に送るもアルベドの姿は既に見えなく、一寸先の闇からは「今行きます!アインズ様~!」と色を含んだ声が響き渡ってきたのであった

 

「……俺も先へ進む。お前はここに残れ」

「畏まりました。いってらっしゃませ」

 

モモンガには待つように云われたが、アルベドを先に行かせてしまった原因は俺にある

アルベドの弁明しなくてはいけないため、駆け足気味に先へと進んだのだが―――

 

「これは…」

 

霊廟の左右に広がって設置された旧友たちの像に足が止まってしまった

どれもこれもが、盟友達の全盛期の姿……

 

神器級や世界級など希少なモノから今ではドロップ率や製作方法が変化し製作し易くなった装備品など、各々の最強と呼べる装備品たちが俺に、共に戦場を掛けていた頃を思い出させてくれる様であった

 

「その様な事は……言わないでください!最後にお残りになられた、慈悲深きアインズ様……どうか、いつまでも私達の上に君臨して下さいますよう……心よりお願いいたします!」

 

思い出と感傷に浸りながらも一人、また一人と心にその姿を刻みながら歩いていると道半ばでアルベドが悲痛な声をあげモモンガに頭を下げていた

 

旧友の像のおかげでゆっくり歩んでしまったが追い付いたのなら良い、見た感じ勝手に先に行った事を咎められていない事も良い。だが……この状況は頂けない。

 

アルベドの声質から悲痛な思いが込められている

今し方、俺が出て行くのは空気が読めない。いや、場違いな雰囲気を感じた俺は気配を断ち、そっと傍観することを決めた―――

 

「……許せ。どうやら俺はお前に配慮が足りなかったようだ」

「い、いえ、そんな……」

 

頭を下げているアルベトの肩にそっと手を置き声を掛けるモモンガさん

それはまるで映画のワンシーンのようで、盟友達が見ているのであれば「モモンガさん、紳士ww」「イケメン骸骨w」「モモンガさんはヒロイン!異論は認めぬ!」等と騒ぎ立てるだろうと先程の像の影響もあってそう思い浮かべさせてくれた

 

「だが、判ってほしい。シャルティアはペロロンチーノさんが創造したナザリック最強の守護者。対策があるとしてもリーさんでも「阿保」アイタッ!?」

 

―――――が、モモンガさんの口から弱音が漏れた瞬間、モモンガ・ベスト・オブ・ムーヴィーは、気配を消したまま背後に回り込みその頭蓋骨に拳を叩き下ろした俺の拳によって閉幕したのであった

 

「空気を呼んで気配を消していたが、その言葉だけは云わせない。我が盟主よ……お前の眼の前にいるのは誰だ?」

「……武の頂点、我が盟友リー・ミンハイだ」

 

さほど強く叩いてはいないが、頭を摩りながらアルベドの前と言う事もあり、ロールプレイをしながら答えるモモンガさん

 

「そうだ。この俺がNPCに負けるとでも?はっ!笑い話にしかならん!いまお前がする事は盟主として俺の試合を王座に腰かけどっしりと見物するだけだ」

「………そうか、世話をかける」

不需要礼(礼はいらん)。主の間違いを正すのも俺の……いや、俺達の役目だ。そしてアルベドッ!」

「ッ!は、はい」

 

いきなり名前を呼ばれたアルベドは、若干だが目尻に涙を残しながらも下げていた頭を上げ、俺の呼び声に応え起立した

 

「ナザリック最高権力者であり、我が盟主であるアインズを心より慕う貴殿の気持ち……この李鳴海、確かに感じた!貴殿の『仁』に応えるためにも我が武術!我が叡智!『義』の心を持って応える事を誓おう!」

「ッ!」

 

例えただ一人の事を思って口に出た言葉だとしても五常の思想を感じられた

ナザリックにいる配下の皆が抱いている気持ち『NPC』としての設定ではないく、アルベド本人から『アインズに対する信愛の情』が感じられた。……信愛なのかどうだがわからないが、兎に角、俺の心に響き渡る思いであった!

 

ならば俺は己が欲を一時捨て、アルベドの気持ちに応えるためにも全霊を持ってシャルティアを殺す事だけを考えよう!

 

「アインズと共に俺の『武』を見ておけ」

「はい!ご武運をお祈りしております」

 

再び頭を下げたアルベドの瞳にはすでに涙は無かった

 

(なんだかんだ、リーさんも支配者ロールできてますね?)

(ん?なんのことだ)

(………素かよ、この人)

 

 

 

 

 

 

アインズの用事も済み霊廟を出た俺は、戦いの準備をすると言い残し再びナザリック地下9層ロイヤルスイートにある自室へと帰ってきた

部屋に入るなり、目に飛び込んでくるのは畳に天蓋付きのベッド、壁に掛けられた掛軸に絵画、洋風なソファにちゃぶ台………

何一つ、中国要素の無いこの部屋は、るし☆ふぁーやぺロロンチーノ、ヘロヘロの手によって作られている

もとより、武術の鍛錬の場としてユグドラシルをしていた為、娯楽遊戯の方に興味がなかったというのもあるが俺は壊滅的にプログラミングが出来ない

どのぐらい出来ないかと云うと誰でも出来る部屋の内装やスキル分け、しまいにはキャラクリエイトも出来ないのだ。

キャラクリエイトは、何度もランダム構成を繰り返しスキルは、武術家ぽいものを選択していた。そんな俺の部屋は取りあえず寝台が置いてあるだけの質素なモノだったので不憫に思ったのか三人が手を貸してくれたのだ

 

そしてそんな異空間な部屋で猫科を思い浮かべさせる女性は、ちゃぶ台に足を乗せながらソファに座って壁に掛けられていた筈のアダマンタイト製スティレットを弄っていた

 

「おっかえり~、どうだったぁ~?」

「アインズが兎だった」

「いつもどおりね~」

「あぁ」

 

兎とは愛くるしい容姿の割には獰猛であり、勇敢。そして寂しがり屋

アインズも同じく凶悪で英断をするが、本質は寂しがり屋

中国人である俺は師匠の影響か猫だけは食べなかったが、アインズの影響か兎も食すことを禁じようと心に決めながらも俺は霊廟での事をクレマンティーヌに伝えた

 

 

「『武』で応えるねェ~……それって結局はガチンコで戦いに行くってわけでしょ?」

「いや、家臣が五常の心を見せたのだ。ならば俺も欲を捨て武道家としてではなく『ナザリックのリー・ミンハイ』として戦うつもりだ」

「いや、それは心がけであって戦略でも作戦でもなし」

「……武道家としての俺では出来ない、ナザリックの俺だからする戦い方がある。」

「ふ~ん。ま、いっか」

「………それだけか?」

 

………なんだろうな

これから死地に向う俺に対する対応ではない気がする。今も手に持ったスティレットの方が興味が向いている様な振る舞い

互いに好意を抱く関係の筈だが、塩対応過ぎないか?

 

「べっつに~、ダーリンが負けるとは思っていないし、そもそも真祖の強さも上手く判らないもん」

「もんって……是更多的什么吗(もっと何かないのかよ)

 

思っていたよりも俺は、クレマンティーヌに気を掛けて欲しかったらしく、少し機嫌を害しながらクレマンティーヌに悟られぬように海賊が持ってそうな宝箱状のアイテムボックスから無骨な槍を取り出し布で磨き始めた

 

「ぷぷぷ、怪物が拗ねてやんの」

「拗ねてなどいない。それに刺すな」

 

だが、俺の心情など察しがついているとばかりにスティレットで俺の背中を刺しながらおちょくってくる。ただ突き差し、引き抜きの繰り返しで痛みもダメージが無いが、背中に突き刺さるスティレットの感覚は嫌にも感じるのでやめて頂きたい。……それにこんな所をNPCにでも見られようには即抹殺だぞ?

 

暫くの間、スティレットが肉を突き破り、内臓を貫く感覚と抜かれて直ぐに自己回復する妙な感覚を背中で感じていたが、不意にスティレットの冷たさとは正反対の温かさと重さを感じた

 

「……私が知っているアンタは、常に勝利を手にし、約束を破らない変わった怪物ってくらい。だから……私を置いて消えるとかは考えられないのよ」

「そうか………」

 

首元にスティレットが添えられているが、後ろから抱きしめる様に俺の背中に寄り掛かってくるクレマンティーヌの温かさを感じながら俺は師匠の事を思い出した

 

「『在死之中要求活(死中に活を求める)』」

「はぁ?なにそれ」

 

日本語が通じるから中国語も通じると思っていたが、通じないようだ

ならば過去に転移してきた存在達は皆日本語を習得しているモノになるのか?

 

………ふむ、どうも俺にそっち方面の考えは向いていないな

 

「我が師から頂いた言葉だ。助かる望みのない絶望的な状態の中であっても、なお、活路を探し求めるという言葉だ」

「へぇ~…マゾ寄りの言葉ね」

「……この言葉はクレマンティーヌそのものだと思っていたのだが?」

「え?うっそだ~!私ってば、根っからのドSだよ?」

 

背後にいるクレマンティーヌを正面に抱き寄せて、膝上に乗せると苦笑を浮かべながら言葉を続けた

 

「そういう意味ではない。必死に俺の暴力を耐え続け、命違えど『生』を勝ち取る活路を開いた……そういう意味なのだがな」

「あ~…なるほどね~、ま、普通の人じゃ精神がもたないもんね~………前言撤回するわ」

「だな?そして俺も言葉と共に幾度の戦いを勝って来た……今も、そしてこれからも」

 

クレマンティーヌを抱き寄せた

 

「………勝ってきてね?」

「あぁ、我が勝利はナザリックとクレマンティーヌに捧げよう」

 

この地に辿り着き数日、望んでいた強者は身内の者であり、武道家としては望まない試合になるだろうが、俺の信念は変わりはしない!

 

ナザリックに敗北はない!

 

 

 

 

 

 

―――――――――決戦の日は近い

 

 

END

 

 

 



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~俺と鰻がバトった件について~

遅くなり過ぎてすみません

休みが欲しいです、執筆時間が欲しいです

亀更新ですみません……


「…ねぇ、うさちゃん。ホントーに私もここで見るの?」

 

これから始まる李鳴海とシャルティアの死合を見守るにあたり、ナザリックで生活する上でも守護者との顔合わせが必須だとアインズが云うものだから、天岩戸(彼氏の部屋)から出てアインズに付いて来たクレマンティーヌであったが、早々に後悔する事になった

 

「クレマンティーヌさんの気持ちも判りますが、リーさんとシャルティアの戦域に入るのは危険すぎます。いざとなったらアウラとマーレが対処してくれますけど……」

「いや、違くて……ここの方が恐ろしいんですけど~?」

 

ボヤキながらも周りを見渡す

『神々しい』の一言では表現できない程の豪華な室内は百歩譲ってまだ理解できる。どれほどの価値があるか見当もつかない装飾が施された家具もまだ大丈夫。だけど……白いドレスを身に纏ったサキュバス、スーツを着た悪魔、その巨体から恐怖と威厳を感じさせる蟲王。彼ら彼女の存在だけは一生命として黙認する事ができなかった

 

自分の命程度、瞬時に奪う事が出来る絶対強者の存在にクレマンティーヌは生きた心地がしなかった。しかも、追い打ちを掛ける様にアインズの事を『うさちゃん』と普段通りに呼んだ瞬間には恐ろしい程の殺気が三者から飛んできたのだ

 

今からでも遅くない、引き換えし天岩戸(彼氏の部屋)で見守ると伝え、この場から立ち去ろうと後じさりするが、後退は許さないとばかりにスーツを着た悪魔が立ち上がった

 

「申し訳ありません、アインズ様。少しお時間を頂いても構わないでしょうか?」

「かまわん」

「ありがとうございます。では……そこの君、いま自分がいる場所が何処だかお分かりかね?ここは、アインズ様にリー様の死合を拝見する事が許された者だけが入室できる部屋なのですよ?ナザリックに席を置く者としてリー様のお姿を拝見したいという気持ちは判りますが、直ちに退出しなさい。それと…アインズ様に対し『兎』など無礼にも程があります」

「え、あ、え~と……」

 

口調は優しいモノで在ったが、煌めく眼光からは無礼者に対する明確な殺気が伴っており、殺気を叩きつけられたクレマンティーヌは、アインズに助けを求めようとしたが思わぬ所から救いの手が伸びて来たのだ

 

「ナザリック一の切れ者とも呼ばれる貴方が随分と視野が狭くなったものですね?」

「……どういう意味かね、アルベド?」

 

クスリと笑いをこぼしたアルベドは、視線をアインズに送り発言の許可を貰うと静かにクレマンティーヌの横に立ち並び肩に手を置いた

 

「彼女の種族は『キョンシー』ですわ。」

「ッ!まさか!」

(え、それだけ!?)

 

明確な説明がされると思っていた矢先、出た言葉は種族のみ

あまりにも内容のない理由にクレマンティーヌは、反射的にアインズに伝言を飛ばした

 

「(彼女達は、ナザリックの頭脳達とも呼べる存在ですから納得してください。私はそうしてます)……どうやら私が説明する必要はないようだな」

「「はっ!」」

 

先程とは一転、2人からの敵意や殺気は一気に消え失せ、特にデミウルゴスからは後悔の念、何故気づかなかったのだと歯を喰い縛ってもいた

 

「2人ダケデ納得サレテモ困ル。説明ヲ求メル」

 

しかし、一人置いて行かれたコキュートスだけが理解出来なくデミウルゴスに答えを求めた

 

「君がわからないのも無理もないさ、私も気付くのに遅れ恥ずかしい思いをしたよ。……アルベドが言う様に彼女の種族は『キョンシー』。アンデット系の種族であり、ナザリックに居ても何も不思議ではない種族だが………コキュートス、君はナザリック内で『キョンシー』に会った事があるかい?」

「ナイ。『キョンシー』ハアンデットノ中デモ特殊ナ種族。『武道家』ヲ極メ『札術』サエモ極メタ『人間』ガ身ヲ堕トシ習得ノ出来ルモノダ」

「そう、一度は『人間』でなければ習得できない種族。その特質性からナザリックには一人を除いて『キョンシー』の種族は存在しない。そう……至高の御方であるリー様を除いて!ならば考えられる答えは一つ。……彼女はリー様が御創りに成られた新たな眷属である「違うぞ、彼女はリーさんの嫁だ」な、な、なんと!」

 

デミウルゴスだけではない、この場にいる守護者全員に衝撃が走った

『嫁』…すなわち、伴侶。至高の御方に仕える守護者にとって至高の御方の嫁と云うポジションに付く彼女は、ナザリックの未来を照らす希望とも云える存在なのだ

 

もはやデミウルゴスは思考が止まり、アルベドはクレマンティーヌのポジションを自身とアインズに置き換えて悶え、コキュートスは完全にトリップした

 

「どうした、座らないのか?」

 

驚きの事実に取り乱す守護者を尻目にアインズはクレマンティーヌにも腰を下ろす様に促した

 

「……いや~、うさ――アインズ様は本当にここの支配者なんだなぁ~って」

「うさちゃんで構いませんよ?……さぁ、始まりますよ」

 

宙に浮かぶ鏡にはスポイトランスを携えたシャルティアに拳を鳴らしながら近づく武道家の姿が映し出されていた

 

「ッ!?李様、無用意に近づくなど!?」

 

衝撃の事実から逸早く復活したのは、やはりデミウルゴスであり、シャルティアに無防備で近づくリーの安否を心配して声をあげた。が、直ぐにアインズはデミウルゴスの心配事を払拭させた

 

「気配遮断だ」

「なん…ですと?」

「お前達は、相手が敵対行動を取っているかは、どのように判断する?」

 

アインズの問に、三人の中でも前衛職のコキュートスが冷気が籠った吐息を吐きながら応えた

 

「武器ヲ向ケル、間合イ二入ルナド色々アリマスガ一番ハ……敵意デショウカ?」

「あぁ、リーさんは相手に敵意を感じさせぬように気配を完全に遮断している……らしい」

 

最後の言葉は守護者には聞こえないようにこぼしたが、アインズは武道の心得もましてや前衛職でもない。リーから聞いた事をそのまま口にしただけであり、明確な証拠はありもしない。今度はアインズが助けを求める様に視線をクレマンティーヌに送れば彼女もアインズの要望を応えるべく口を開いた

 

「そだね~。修羅場を潜れば潜るほど気配に敏感になるし、勘の良い奴なら気配だけで相手が次にどう動くか判るね?上等な剣士とかは結局、相手の気配をどれだけ読み切れるかで勝敗が見えて来るモノよ。……ダーリンは、気配を消す事で敵意も殺意も隠して此方の出方を読めなくさせているみたいね」

 

クレマンティーヌの非科学的な説明に頷くのは武人であるコキュートスだけであり、他の面々は首を傾げた。

 

「しかし、そんなスキルなど聞いた事などありません。……李様がこの地で身に着けた武技と呼ばれるスキルの一種だとしても既に完成された李様が習得できるとは思えません」

 

暗殺者に似たようなスキルはありますが…と言葉を漏らすデミウルゴスに対しアインズは軽く笑いデミウルゴスの意見を否定した

 

「認識が甘いぞ、デミウルゴス……リーさんは、『人生常に功夫』と云う程の脳き……武芸者だ。彼にとって『限界』と云うモノは存在しない」

 

極致に存在する至高の御方……しかし、その成長を留まる事を知らない

頂点だと思っていた存在には更なる成長の可能性があると諭されれば驚きはあるモノの『至高の御方』ならば何処か納得が行くと頷くデミウルゴスは視線を鏡へと戻した。そして―――――

 

「始まるぞ……アインズ・ウール・ゴウン至高の一人、世界に認められた男の戦いが!」

 

僵尸VS吸血鬼―――第一回異種格闘技戦の火蓋が落とされたのであった

 

 

 

 

オーバーロード ~俺と鰻がバトった件について~

 

 

 

「シャルティア・ブラットフォールン……」

 

目の前に佇むのは我が盟友の子……しかし、その瞳には意思が感じられなく只の人形のように佇んでいるだけであった

 

「ペペは、お前にあらゆる最強の要素を注ぎ込んだと云っていた。……アルベドもそうであった様にお前も己の意志を持ち、アインズを支えていると思っていたのだが――――いや、そもそもの原因はワールドアイテムであり、簡易な行動を取らせた俺達だったな」

 

指を鳴らしながらも気配を断って近づく

本来ならこんなに拓けた場所で気配を断っても仕方がないのだが、正気を失っている相手には様子見としては調度良かろう

 

「攻撃行動を取るまで反撃しない……まさにNPCらしい」

 

彼女の攻撃範囲に入ったというのに反応はなく、真っ直ぐに手を伸ばしシャルティアの頬に手を当てながら顔を上げさせて見れば、やはり彼女の瞳には意思が無く悲痛な気持ちになってしまう

 

頬を一撫でし、俺は無心のまま拳を構えた

 

「出来るのであればペペの愛の結晶をNPCではなく、ありのままシャルティアで迎えて欲しかったが、暫くはお預けだな?…………崩拳!!!!」

「ッ!??」

 

岩を砕くような爆音と舞い上がる砂煙

放った拳の衝撃が地を砕き風を舞い上げ、直撃したシャルティアを砂煙を引き連れながら吹き飛ばした。……が拳から伝わっている違和感に顔を歪めた

 

「……防止了吗(防いだか)

 

初撃で終わるに越した事はないが、相手はナザリック領域守護者において最強。ガチビルドとスキルで構成された最高戦力。……引き連れていた砂煙が中にいるモノの翼によって一瞬にして晴らされた

 

真っ赤な鎧を身に纏い、翼を広げスポイトランスと呼ばれる神話級の武器を携えた真祖の吸血鬼が姿を現したのだ

 

「これはこれは李様!ご帰還を心からお祝いしますわ!」

「謝謝……俺からの帰還祝いだが、後ろに飛んだな?」

 

拳があたった瞬間に感じた違和感―――鉄の硬さと軽さ……槍を盾にしながら僅かに後ろに飛んで衝撃を上手く薙いだようだ

 

「えぇ、一瞬にして命が散りそうな程の恐怖が体全身を突き抜けましたわ!どうすればその様な威力が出るのか不思議でならない程に!」

「人体は水風船と同じだ。衝撃を人体に直接流す技術は他説あるが……功夫。この一言に限る」

「さすが……『脳筋プレイヤー』とペロロンチーノ様が称える御方ですわ!」

「……それは褒めていないからな?」

 

シャルティアが見せた技術はゲーム内には存在しない技法……おそらく出所は、ペペからだろうが、ゲーム内の行動しかとらないと云う概念は捨て置いた方が良いみたいだ。それに、功夫するまでも無く話を聞いただけで実践に使用出来るまで昇華するシャルティアの技量も上方修正した方が良いみたいだ

 

想像以上の強敵との邂逅に自然と頬が上がってしまった

……アインズには悪いが、機械染みた行動しかとらない相手とのつまらない戦いになると思っていたが、どうやら楽しめそうだ

 

「構えろ、シャルティア・ブラッドフォールン。アインズ・ウール・ゴウンが一人、『幽玄対極』李鳴海がお前を粛清しよう」

「粛清……あれ?私はなんで至高の御方に敵対を…?いや、違う。攻撃されたから…よく分かりませんが攻撃されたからには、李様を滅ぼす必要がありますねぇ?」

 

アインズ曰く今のシャルティアは指示待ち状態であり、剣を向けるモノに対し防衛として反撃する―――――もし『傾城傾国』の装備者が今の攻防を見ている筈なら反撃やら闘争など指示を出す筈だが、その様子は見られない。即ち近くにシャルティアを陥れた存在はいないと言う事だ

 

「術者が戻る前に片付けるべきか…………シャルティア!忘れていないと思うがあえて掲げよう!アインズ・ウール・ゴウンに敗北はない!」

「それは恐ろしいぃぃぃい!」

「来ッ!」

 

スポイトランスを俺に構え真っ直ぐに突撃してくるシャルティア

ランスの性質上、その行動は単純な行動であるが、使い手が達人級ならば簡易な攻撃は究極の一撃に昇華される!一般人なら身体に風穴を開ける事になるのだろうな?……一般人なら、な!

 

「府ッ!」

「ッ!?」

 

真っ直ぐに伸ばされたランスに対し俺は腕を回し突撃の威力を流しながらシャルティアの突撃を無効化し受け流した

避けるのではなく、無効化する。中国武術の歴史において奥義として名を残した技法『化勁』。相手の流れに乗り受け流すこの技法は、追撃にこそ真髄を発揮する!

 

「破ッ!」

「ッ!」

 

突撃を流されたシャルティアは、俺に後頭部を曝す結果となり、俺は流れに身を任せながら肘をシャルティアの後頭部に叩きこんだ

一撃で沈んでも可笑しくない衝撃がシャルティアに襲い掛かった筈だが、彼女もLV100の強者。無防備で衝撃を受けながらも踏みとどまり振り向き様にランスを向けてくるが………いかんせん、この間合いは俺のモノだ!

 

突き立ててきたランスを脇で挟み込み、固定する。伸ばされた腕は自然と脇腹を曝け出す結果となり、俺はシャルティアの脇を穿った

 

「っく!」

不让取得距离!(防いだか距離はとらせん!)

 

後頭部に引き続き、脇に重い一撃を受けたシャルティアは一旦距離を置こうと後退しようとするが、そんな事させるつもりは微塵も無い!

 

デカい図体を極限まで縮め、シャルティアの懐に込むと両手で顎をかち上げた

『龍頭』とも云える技であり、顎に衝撃を与え脳を揺らす技だが、それだけで終わる筈がない。そもそも、中国武術の技の多くは一撃で敵を仕留める程の威力は込められていない。中国武術の神髄は、中身に如何に衝撃を伝えるかであり、一撃の重さではなく連撃が本質なのだ

 

顎に始まり、脇、溝、金的と人体の急所に衝撃を伝え揺らしていく

生身の人間ならば既に倒れても可笑しくないほどの衝撃を受けたシャルティアの中身は荒れているだろう。だが、手加減はしない。俺はシャルティアにトドメを刺すとばかりに心臓の箇所に拳を突き伸ばした

 

「終わりだ、三歩必殺!!!」

「ッぅ!!え、エインヘリヤル!!」

「ッ!」

 

三歩必殺

俺が中国武術を更に昇華させるために、他武術を学んでいる際に『るし☆ふぁー』に再現してほしいと云われた技。なんでも、初見殺しであり、三段構え、画面が真っ白になる……らしいが、どないせいと?

武術で再現するには不可能だと伝えたのだが、俺の功夫はその程度なのかと煽られムキになって創り上げたのが、初撃が防がれても心臓・顎、鳩尾の3か所の急所に繋げる事が出来る俺流連撃『三歩必殺』である

 

顎に向けた拳を防ごうにも拳は回転を伴っているので威力は落ちぬまま心臓を穿ちハートブレイクを引き起こす。だからと云って心臓に向けた拳を防ごうにも拳は顎を貫く

心臓と顎を守り通したとしても三歩目で鳩尾を穿つ

 

『夫婦手』と呼ばれる前手も後手も攻撃にも防御にも使う現代空手の概念に基づき創り上げたこの技は、思いのほか使い勝手が良い技になったので試合にも多用していたが――――

 

「まさか身代わりを立てて防ぐか……この技で沈まなかったのはお前が初めてだ」

「それは光栄ですわ。でも李様に接近戦を仕掛けるのは愚策だと理解しましたわ……少し趣向を変えましょう」

 

必殺の一撃にエインヘリヤルは消滅したが、空に飛び距離を取ったシャルティアは、手を掲げ光の槍が作り出した

 

「清浄投擲槍!」

「…そうなるよな」

 

 

第二ラウンドの鐘は、シャルティアの手によって鳴らされるのであった

 

 

 

 

「流石ハ『武』ノ極致トヨバレル李様。見事ナ連撃ダ」

「そだね~、ダーリンって技の『入り』が早いからお終いだと思ったけど……なにあれ?」

「エインヘリヤル……シャルティアのスキルの一つでHPを消費し自身の分身を作るスキルだ。あの流れを断ち切るには多少のリスクを犯してでも離脱する必要があったみたいだな」

 

鏡に映されているのは上空からリーに向い清浄投擲槍を撃ち込むシャルティアの姿

高威力であり、リーさんの種族弱点を付く強力な攻撃だが決して連続で使う事はせずに他の遠距離魔法を交えてリーさんに距離を詰めさせないように戦っていた

 

「やっぱり、距離を取るよねぇ~?」

「遠距離戦は、リーさんにとっては鬼門だ。リーさんとリアルでも交流があったペロロンチーノさんがシャルティアにリーさんの弱点を教えていても不思議ではない」

「リアル?………例え李様が遠距離攻撃を不得手だとされても目暗ましに使用する事が出来るのではないでしょうか?」

 

確かに魔法が苦手だろうとシャルティアの集中力を削ぐ為なら手段の一つとして有効だ

でも、リーさんは混本的に『苦手』の意味が違うからなぁ~

 

「……李さんは距離を問わず『魔法攻撃』を習得していない」

「「「「ッ!」」」」

 

連れ添っていたクレマンティーヌさんも守護者と同じく驚いている

確かに一芸特化のプレイヤーはユグドラシルにも多くいたけどリーさんのそれはそれを遥かに超える

 

「種族的には成長の過程で三位階や五位階の魔法を覚えてきただろう。しかし、彼は課金アイテムを使用してまでも自身に『魔法攻撃』と云う手段を消したのだ」

 

憶えたとしても使わなければ良いだけなのに、スキル欄に『魔法攻撃』の4文字が書いてあるだけで、本来ならバットスキルを消去する為に使われる一個1000円もする課金アイテムを使ってでもスキル欄から『魔法攻撃』を消していた

 

『フジュツシ』であり、カンストプレイヤーでもあるリーさんが憶えたであろう『魔法攻撃』………最低でも数十万円は超えていたんじゃないかな?

 

「彼の生き方が魔法攻撃と云う選択肢を選ばせなかったのだ。……フジュツシとしてのスキルもステータス強化や妨害と云ったモノで攻撃に使用出来るモノは習得していない」

「……畏れ多くも、李様の『生き方』といかなモノなのでしょうか?」

 

理解できないとばかりに首を傾げながら訪ねてくるアルベド

至高と拝める存在の意外な弱点の理由が彼の生き方にあると云われれば不思議に思うのも頷けるが、おそらく彼の生き方を理解できるのは同じ武人であるコキュートスだけだろう

 

「彼は根っからの武道家と言う事だ」

 

 

 

 

 

「良く避けますわね?でも、まだ私の清浄投擲槍は限界に達していませんわ!」

「ぐっ!」

 

3mもの長大な戦神槍が、ガードしていた腕を貫きゴッソリとHPを削っていく

現実とは違い、自由に動き回る槍を捌くのは至難の業であり、初見の俺には功夫が足りない!

 

「それに…魔法攻撃は何も清浄投擲槍だけではありませんわ!エクスプローション!」

「ッ!」

 

だからと云って清浄投擲槍の軌道を見極めようと気を取られていれば炎属性の魔法の集中砲火を受けてしまう。……まったく、キョンシーの弱点である神聖属性と炎属性の魔法を中心に攻撃してくるのだから堪ったモノではない!

 

「ほらほら!もっと上手く避けなくては死んでしまいますよ?清浄投擲槍ッ!」

「ぬっ!」

 

それにこの槍は、MPを消費することで必中効果も付与でき見極めたとしても必ず当たってしまう

……予測不可能な攻撃を捌く行為自体は、第六感を鍛えられる良き鍛錬だと思うが、今は死合の最中……またの機会にして欲しいモノだ!

 

「グッ!」

 

必中効果が付与された清浄投擲槍は、回避した瞬間に方向を変え俺の脚へと突き刺さった

縫い付けられた足を強引に動かし槍を引き抜き、動きに支障が出るか確認するが、特に問題はなく痛みだけを感じるだけであった……つくづくこういう所はゲームなのだな

 

「鬼ごっこもお終いにしましょうか?」

 

しかし、足に痛みを感じている状況で動き回る事など出来ず、足を止めてしまったのが最後……シャルティアは手に清浄投擲槍を待機させながらあざ笑うかのように俺の目前まで降りて来たのだ

 

「……この年でごっこ遊びはやりたくないが、お前も随分とMPが減ったのではないか?」

「ご心配なく、李様のHPを削る程度のMPはまだありますわ」

 

此方のHPは、5割弱……対してシャルティアのHPは最初の連撃で削ったとは云え5割強は残っているだろうから五分五分。

MPに関しては俺が8割で、シャルティアは……どのくらいだ?

 

「マナエッセンス!……と粋がって使ってみたが俺には知識がないのでな?そのオーラがどのくらいのMPを残しているのか理解出来ん」

「あら?ではライフエッセンスも理解できないのですか?」

「……あぁ、敵に関しては殴っていればいずれ殺せる位にしか考えていない。もとより頭を使って戦う事は好まないのでな?」

「……流石『脳筋プレイヤー』ですわ」

「……お前、意味わかっているだろ?」

 

どちらにせよ流れはアチラに流れているのは確かだ

このまま戦闘を続けていても攻めに攻めきれない……ここは流れを変えるべく『ナザリックの李鳴海』で戦う事にするか……

 

「我!今一時期武道家を捨て敵に向う!師よ!お許しください!」

「ッ!?」

 

両手を撃ち慣らしこの地に存在しない師匠に謝罪し、俺はストレージから武器を取り出した

武器を取り出した事により、シャルティアに警戒されると思っていたのだが、俺の考えとは裏腹にシャルティアは眼を大きく見開き驚きを現しているだけであった

 

「…なにを驚いている」

「武道家であられる李様が武器を手にするとは驚きと落胆で……しかも、そんな無骨で大きいだけの槍で私の槍と戦うなど云いませんよね?」

「確かに比べ合うには魅力はない無骨な槍……だが、信念はいつ如何なる時も拳に宿る!そして武器も拳の一部となるのだ!」

「ならばその槍は「こう使うのだ!!」ッ!?」

 

 

豪―――ッ!

 

 

シャルティアは、一瞬なにが起きたのか理解できなかった

突然、黒い点が自分目掛けて有り得ないスピードで迫って来たので不浄化衝撃盾で防ごうとしたが、次の瞬間自分の左腕が無くなり夥しい血が傷口から流れ出していたのだ

 

いったい何が?いったい何が盾を貫通し自分の腕を引き千切ったのか?

突然迫って来た黒点の正体を確認するべく、敵前だというのに黒点が着弾した場所に目を向けて―――

 

「ッ!?」

 

―――――驚きを越えて恐怖を身に味わった

 

黒点の正体、自身の左腕を喰らいついた正体は……無骨な槍だった

なんのエンチャントも付加能力もない只の丈夫で堅いだけの槍、そしてそれは先程まで至高の御方が手に持っていた槍と酷似していた

 

恐る恐る槍から視線を外し、至高の御方に視線を戻せば……何かを投げた後の余韻が残る姿勢を取っており、手から煙が上がっていた

 

そして理解してしまった

あの槍は、あの御方が投擲したモノだと………

 

「な、な、な」

「何を呆けている。……弾はまだあるぞ?」

「ッ!?」

 

宣言するやいなや宙から夥しい数の武器が大地に突き立てられた

大剣や大槍、更には大盾。巨大な武器が大地に突き立てられ武器の針山となった戦場は云わば一種の魔境。

なぜその様な形なのか?なぜ突き立てられているのか?………魔境の主しか理解できず、しかしながら魔境の一端を肌身で感じたシャルティアはこれから起こり得る恐怖に氷付いた

 

「いくぞ!」

「ッ!」

 

横に刺さった大剣を引き抜くと構える事もせずに彼は、自分目掛けて投げ飛ばしてくる

ただえさえ『武』の頂点とも云える御人が付加能力で更に強化し、繰り出してくる投擲はもはや死神が迫ってくるようにしか感じられない

 

スポイトランスを盾に防ごうにも不浄化衝撃盾で防ぎ切れない一撃を武器を盾にしただけで防ぎ切れるとは絶対にありえない

結果は、先と同じく右手を持っていかれる。運よく防ぎ切れてもスポイトランスは武器としての役目を果たす事は出来なくなるだろう

 

自然と取れる行動は限られ空へと退避するしかなかったが――――

 

「甘いぞ!」

「なっ!」

 

―――――使い手の技量を見誤っていた

彼は、投げた武器を足場に自分より更に上空へと昇り上がると足場にした武器を手に掴み、身体を回転させ勢いを殺さずに武器を自分へ向けて投げ飛ばしてきたのだ

 

…………ありえない!

投げた武器を足場にする事も投擲した高速の凶弾に追いつく事も、ましてやそれを再び弾として使用する事も全てが常識外れだった

 

初弾を避けようにも避けた先で御方が待ち構え追撃を放ってくる。それが1つではなく2つ、3つと増えていけば冷静な判断など既に出来なくなっていた

 

「そ、その戦い方は武道家としてどうかとッ!思いますわ!」

「確かに武器を投げる戦い方は武道家として邪道にはいるだろう。しかし、今の俺は『ナザリックのリー・ミンハイ』としてここにいる。貴様を倒す為ならどんな手段でも使おう……それよりもそこにいていいのか?」

「ッ!」

 

変則的な追撃に精神的にも追い詰められていたシャルティアは、気付くのが遅れてしまった

自身が今いるのが、四方自由に回避できる上空ではなく、あと少しで大地に足が付くほどの低空にいることを………

 

しかし、時すでに遅し

―――上空から大量の武器が降り注ぎ、シャルティアを囲い逃げ道を塞いだ

左右を見渡しても武器に囲まれ逃げ出せず、下は大地が陣取り動く事もできない、ならば再び空へ逃げ様と翼を広げようとしたが……

 

「ッ!」

 

目視出来る程の力の奔流をその脚に宿した至高の御方が此方に迫って来たのだ。そして―――

 

彗星爆炸脚(リィゥシンホンジャキャク)!!!」

「ッ!き、キャァァァアァァァァぁぁ…!」

 

 

シャルティアを中心に光の柱が生み出されたのであった

 

 

END

 

 




次回

李『やったか!?』
も「ちょ!?リーさん!それって!!!」


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~俺が鰻を滅した件について~

「「「「………」」」

「ぷぷぷ、あんな威力で武器を投げられちゃシャルティアちゃんも流石に参っちゃうよね~?さっすがダーリン、常識外れもいいところだよ」

 

先程、至高の一人『李鳴海』が見せた物理法則なにそれ美味しいの?と云わんばかりの戦闘に一人、腹を抱えて笑うクレマンティーヌを除き、ナザリックの面々は驚愕した面持ちで事を成した存在を見つめていた

 

「……ユグドラシルで見た事も聞いた事もないスキルでしたが、あれはこの世界の武技と呼ばれる技なのでしょうか?」

 

他の守護者よりもいち早く驚愕から立ち直ったデミウルゴスが目の辺りにした光景を疑問に思いモモンガに伺いを立てるが、守護者と同じく驚愕を露わにリアルで顎の骨を落していたモモンガは取り急ぎ顎を元に戻し、咳払い一つ威厳を整えるとクレマンティーヌを一見したのちに口を開いた

 

「……いや、あれはリーさんがこの世界で編み出した技だろう。身体強化と投擲術のスキルを複合的に使用した、言うなれば『ナイフ投げ』の規模が大きくなったようなモノだ」

 

クレマンティーヌの反応からこの世界の武技ではないと判断し、李さんのスキル構成から検討が付くモノを憶測で伝えたが、おそらく想像通りなのだろう

 

「……スキルの複合使用。さすが至高の御方です。では最後の技も?」

「あぁ、そうだ」

 

あれはわかるとばかりにモモンガは大きく頷いた

脳裏に浮かぶのはリアルで見たリーさんの試合の数々。その中に先程の動きと酷似した技をフィニッシュブローとして使っているのを何度かテレビで見た事があるのだ………流石に地形を変化させるほどの威力は要していなかったが、彼の得意技とも呼べる技であったのだ

 

「アルベド、各守護者を宝物殿へ集めろ。シャルティアの蘇生を行う」

「はっ!」

 

鏡に映るシャルティアが光の粒子となって消えていくのを確認したモモンガは、もしシャルティアの洗脳が解けていない時の保険の為にも守護者を宝物殿に集め立ち会うように指示を出した。

そして、タイミングを見計ったかのようにこの戦いの立役者から伝言が届いたのだった

 

(モモ、終わったぞ)

(はい、すみません。嫌な役目を引き受けて貰って……)

(気にするな。ぺぺも我が子を好きに使われるより肯と答えていただろう)

(そうだと思いたいッ!!リーさん後!)

(なにッ!?)

 

俺の呼び声にリーさんは素早く臨戦態勢を取ったが、目の前で起きている現象に動く事が出来ないでいた。唐突に散って滅したと思われた粒子が逆再生の様に再び集まりだし、一つの形を作りだし、そして戦闘前となんら変わらない姿のシャルティアを創り上げたのであった

 

「蘇生アイテムだと!?(ペペロンチーノさん、どんだけだよ!)」

 

その現象に心当たりがあったモモンガは直ぐに原因を突き止める事が出来たのだが、ぺロロンチーノのシャルティア愛は、まさか完全回復の蘇生アイテムを密かに持たせるまでとは想像もしていなかった

直ぐに李鳴海のHPを確認し、アウラとマーレに第三者の存在を確認するように念話を飛ばした

 

「アインズ様!私を増援として行く許可をください!」

「……デミウルゴス」

「いくら至高の御方であられる李様であっても万全のシャルティアとの連戦は雲行きが怪しくなります!」

「………」

「アインズ様!ごけ「うっさいわね~、黙ってみていなさいよ」ッ!貴様ッ!」

 

自身の主である至高の存在の危機にデミウルゴスは声を上げてモモンガに救援の許可を求めるが思いもよらぬ人物からの横槍に『焦り』は『怒り』と変わり矛先を向けた

 

「李様の奥方となられるお方だと云うのに貴女は心配ではないのですか!」

「はぁ?心配にきまってんじゃん?でも、ここで行ったらアンタ……ダーリンに殺されるよ?」

「なっ!なにも知らない雑「その先は云ってはいけないわ、デミウルゴス」ッ!アルベド!」

 

幾ら至高の御方の伴侶とはいえ、アインズ・ウル・ゴーンにおいては新参者でしかないクレマンティーヌの云い様に眼鏡の奥に潜むダイヤモンドの瞳は輝きを増し、大事に思うからこそ湧き上がる暴言が口を過ぎようとした瞬間、アルベドが口を挟む事によって阻止される事になった

 

吐いた唾は戻らない

アルベドの介入により冷静に戻ったデミウルゴスは先程まで自分が崖の淵を歩いて来た事に気づき己の過ちを止めてくれた同僚に感謝すれど、想いは変わらなかった

 

「止めてくれた事には感謝するよアルベド。しかし!」

「言いたい事は判るわ。でも……李様は私に『武』を見せて頂けるとおっしゃっていたわ。ならば、私達はただ李様の『武』を見とどける事が成すべき事なのじゃないのかしら?」

「確かに李様が『見とどけろ』と仰ったのであれば私に異存はありません。しかし、出迎えの為に(・・・・・)傍で待たせて頂く事はできるのではないのかね?」

「それは……」

 

デミウルゴスの言い分に私の応える質問でないとモモンガに視線を移すアルベド

アルベドの意図に気づいたモモンガも頷き口を開いた

 

「デミウルゴス、お前の気持ちは理解できる」

「では!「しかし」ッ!」

 

許可が降りたと思い至急、リーを出迎える(援護する)人選を選抜しようと考えを纏めようとしていたデミウルゴスだったが、モモンガの言葉に思考は停止した

 

「お前の言い分……私には、リーさんが自分の足で帰還出来ぬように聞こえるのだが?」

「ッ!畏れ多くもそのようなことは!」

「よい。お前の危惧する事もわかる。……が、リーさんは、私にも王座で見物していろと云っていたのだ。ならばこれは、見せ物なのだよ?客が舞台に上がるモノではない」

 

王座に肘を付き、観戦する態度を崩さなないモモンガの様子にこの戦いを完全に至高の一人、李鳴海に任せていると悟った守護者たちは手に汗を握る思いで再び水晶へと視線を送ったのであった

 

(んで~本心は?)

 

そして守護者でもなければナザリックのモノでもない李鳴海の眷属であるクレマンティーヌは、モモンガの本心を確かめるべく周りに悟られないように視線は遠見の鏡に向けたまま念話を送った

 

(戦闘区域ギリギリにアウラとマーレがいますし、いざとなれば直ぐに転移出来る様になっていますよ?)

(ぷぷ、やっぱり心配なんだ~)

(えぇ、第三者……シャルティアに精神異常を掛けた術者の介入を警戒していますね)

(あれ?それだけ?)

 

随分とあっけない言い方をするモモンガにクレマンティーヌは首を傾げるが、モモンガだけは軽く笑みを浮かべ、守護者達にも聞こえる様に言葉を発した

 

「リーさんはまだ『抑止力』の力を振るっていない。デミウルゴス、ナザリック防衛班隊長にして最強の『盾』である『李鳴海』の力を見るがいい。お前の敬拝する至高の存在……その中でも一対一では敗北を知らない存在の力をな!」

 

困惑が渦巻くこの場に置いてただ一人、モモンガだけが友である李鳴海の絶対的な勝利を疑いはしなかったのであった

 

 

 

オーバーロード ~俺が鰻を滅した件について~

 

 

 

 

「……甦醒條款?(蘇生アイテム)

「?……我が創造主であるペロロンチーノ様から承ったものでしたが、至高の御方を相手取るのであれば出し惜しみしている余裕はありませんでしたわ」

 

光の中から戦闘前と変わらぬ姿で復活を果たしたシャルティアの様子を見るに完全復活のアイテム、それもMPやスキルまで全快で復活を果たしたと考えればぺぺがシャルティアに持たせたアイテムは伝説級のアイテムだと容易に想像できた

 

「それは光栄と答えれば良いのか?……しかし、勝敗が決したかのような云い様だな、シャルティア?」

「ふふふ、いくら『武』の極地とも云われる李様であろうと大きくHPを削られた状態で今の私に勝つのは難しい……いえ、不可能な事ですわ」

 

まぁ、確かに今の状況下でナザリックに置いて最強のNPCであるシャルティアを相手取るのは厳しいモノがあるが、逆に云えば相手の切札を使わせたと言う事になるがな?

流石のぺぺも蘇生アイテムを重複させて持たせはしないと思うが、念には念を入れて復活アイテムを無効にする技で仕留める必要がある………とすればあの技(・・・)を使う事になるか

 

俺は大きくタメ息を零し自身のHPの残量を確認した

 

「不可能、か……なぁ、シャルティア。俺の二つ名を覚えているか?」

「……『幽玄道士』。武道とフジュツシを極めたキョンシーが得られる称号でしたわね?」

「あぁ、そうだ。しかし、俺にはもう一つの二つ名がある」

「?」

 

自身のHPは既にレッドポイントに到達し、シャルティアはノーダメージ状態。

投擲に使用していた武器も彗星爆炸脚(リィゥシンホンジャキャク)の余波で吹き飛び、ストックの武器も底をついている。更には、敵増援の予兆も無ければナザリックからの増援の連絡も無い………完全に俺がアレ(・・・)を発動させると読んでいるな、モモ?

 

友の采配に感謝しつつも俺は笑みを零した

 

「俺は、この二つ名が嫌いでな?ごく一部プレイヤーには『運営の犬』と呼ばれたモノだ。ぺぺ曰く元ネタがあるらしいが、この話は貴様が帰ってからしてやる……『世界の抑止力(ワールド・ディターレント)』、それが俺のもう一つの二つ名だ」

「……『世界(ワールド)』?タッチ・ミー様と同じ『世界王者(ワールド・チャンピオン)』。と言う事はありえませんから、ウルベルト様の『世界の厄災(ワールド・ディザスター)』と同じ系統で?」

「しかり。ユグドラシルにおいて『世界(ワールド)』の名を掲げる職はどれも強力なモノだ。……喜べ、シャルティア。『世界(ワールド)』の中でも『世界王者(ワールド・チャンピオン)』に対するカウンターガーディアンの力を味わうのだからな………『永遠の闘志(ネバーギブアップ)』!」

 

スキルの発動と共に全身の力が抜け立っていられなくなる程の脱力感に襲われるが、一瞬にして力が巡り渡り、全身から緑のオーラが溢れだし地面をヒビ割る程の余波を生み出した

 

「この状態になった俺は……超越常识(常識を越える)!」

「何を云っているかわかりませんが……無駄な足掻きを!清浄投擲槍!」

 

湧き出るオーラを不審に思いながらも最後の抵抗と銘打ったシャルティアは、スキルを使用し遠距離から必殺の魔法を放ってくるが今の俺には、策も無しに貴重なスキルを使用する愚行とも云える攻撃に感じた

 

「覇っ!」

 

此方に迫る清浄投擲槍に対し俺は、清浄投擲槍と同等の力。そして速度を乗せて拳を解き放ち………清浄投擲槍を爆散させた

 

「ッ!?」

「何を驚いている?『矛』を持って槍を相殺させただけだろう?」

「攻撃魔法である清浄投擲槍を相殺させた?いえ!ただの物理攻撃で相殺するとはどういう事ですか!」

「深くは知らんが、パリィ?ジャスガ?……ようは同じタイミングで同等の威力の攻撃を打ち放てば相殺できると我が旧友ぷにっと萌え軍師殿から教え仕った」

「ぷにっと萌え様の教え!?な、ならなぜ最初からその技を使われなかったのですか!?」

「守護者において戦闘面では一線を越すお前の攻撃をいなす事は容易ではない。しかし、先の戦闘である程度の技は見極めさせて貰った。あとは同等の攻撃を繰り出せば相殺できよう……素人でも出来る簡単な技だ」

 

あれは良い鍛錬になった。

低位階から高位階までの魔法をランダムに撃ち込み同等の力でひたすら相殺し続ける。威力を見極める眼力に留まらず、力の加減、反射神経さらには数多の魔法を捌き切る為の不屈の精神力が鍛えられた。……鍛錬に協力してくれたぷにっと萌え軍師殿をはじめギルドメンバーには感謝の意しか浮かばない

 

「か、簡単?じ、自分が何を言っているのかおわかりでしょうか!それは理論上の話であって実際に出来るのとは話が違いますわ!」

「軍師殿にも『言ったの私だけど本当に成功させるんだ』とお褒めの言葉を頂いた記憶があるが……まぁ、第一条件として技量・力量全てを相手よりも圧倒しなくはいけないらしい……無論、職業柄『吸血鬼』より種族値の少ない『キョンシー』である俺には本来出来ぬ技だが――」

「ッ!『永遠の闘志(ネバーギブアップ)』」

「あぁ、術者のHPが15%を切り、敵エネミーとのHP差が60%以上。さらには武器の装備制限と一対一と発動条件が鬼畜仕様。……『世界(ワールド)』持ちに対し15%のHPなど消えかけの蝋燭に等しいが、その分の恩恵は計り知れない」

 

拳を握りしめればバキバキと骨や筋肉が悲鳴を上げ崩壊するであろう過剰な力。だが、人外となった我が身においては骨や筋肉は俺の期待に応えるべく歓喜の声を上げ、まだ行かないのか?いつでも用意が出来ている!と俺に訴えかけて来ている様だった

 

「自身の魔法攻撃力、魔法防御力、物理攻撃力、物理防御力を統括。再び任意的に振り直す事が出来る」

「なっ!?」

 

シャルティアが驚くのも無理はないだろう

割り振られた数値を任意的に変更するなどNPCからしてみれば神の行い。俺達プレイヤーにおいても極振りはいたが、ある程度のステータスを振らなければ後半で詰り本当の意味で強いキャラを造れずにリメイクする羽目になる。だが………俺は今この時、禁断の全振り。全てのステータスを物理攻撃力へと回したのだ

 

「『世界の抑止力(ワールド・ディターレント)』……バランスブレイカーと云われる魔法職『世界の守護者(ワールド・ガーディアン)』の対になる格闘職のバランスブレイカー。禁断の領域に踏み入れた我が力!その身に刻め!!羅ッ!!!」

「ッ!」

 

地面に向って放たれた拳を起点に蜘蛛の巣状に広がっていった地割れは、瞬く間にシャルティアの元まで伸びていき、滾り余った力は地面を割るだけで終わらずシャルティアを襲う『岩の牙』となって彼女に襲い掛かった。シャルティアは飛ぶことによって被害をこうむる事は無かったが、目下に広がる岩の牙が生えた野原に驚きを隠せないでいた

 

「な、な、なんですの!その力!この恐怖!その惨状は!」

因為是力量全樣子所以(力全振りだからな)?」

「ッ!やぁぁあ!…え?」

 

空にいると言うのに音も無く背後を取ってきた李に対してシャルティアは、スポイトランスを反射的に薙ぎるが、まるで小枝を掴むように片手で受け止められてしまった

STRは、種族値的にキョンシーを凌駕し先程までもこのランスでダメージを与えられていたと言うのにたった一つのスキルを発動させるだけで、これ程までにも差が生まれるのかとシャルティアは恐怖心を加速させた

 

「そ、そんなスキルは…」

「スキルなど使わなくとも間合に入れば槍の対処など容易なモノだ。……さて、朗報だ、シャルティア。今の俺は魔法防御、物理防御ともに『()』だ。その槍で突けば一瞬にして勝敗が決するぞ?……当たれば、な!」

「う、うわぁぁっ!」

 

第二ラウンドが始まって数刻、もはやシャルティアは正気ではいられなかった

まさかの『世界級』スキルから始まり、いや、無骨な武器を投擲道具として扱う未知のスキルもそうだ。彼女から見て常識から逸脱した李の技術にシャルティアのメンタルはゴリゴリッと音を立てて削られていった

 

槍を薙ぎれば流され、突けばジャスガされ、槍が駄目なら魔法で攻めようと距離を取ればスキルである『縮地』と彼の技術を複合させた『縮地』で背後を取られる

気付けば無傷であった自身のHPは李と然程変わらないまでにも追い詰められていた

 

「っ!?」

 

敵対し攻撃せよと云う絶対命令に従う反面、心に残るシコリと防衛本能が現状の打破の為にも『逃走』を訴えかけているがシャルティアは、結論的に彼から距離を取る事を選択し続けている。

しかし、彼からの攻撃は休む事を知れず、嵐のような拳と脚の連撃は絶えずシャルティアのライフを削っていき空前の灯、このままでは『敗北』してしまうという中………嵐は不思議となりをすましたのであった

 

このまま攻めれば勝敗が決まるというのに突然と距離をとり、左手で右手の拳を包み独自な構えを取った彼にシャルティアは更に困惑することになった

 

「正気では無かったとは言え、お前の離反は我が『武』を登り詰める糧となった。……感謝する」

 

『抱拳礼』……拱手とも呼ばれる相手に対し敬意や謝意をあらわす挨拶

それが解かれた瞬間、彼の両手に目視できる程の力が宿った。そして彼女は知る事になる……

 

「そして改めて名乗ろう。我が名は『李鳴海』!『世界の抑止力(ワールド・ディターレント)』にて、ナザリック大墳墓至高の一人!」

「あ、あ、あぁ……」

 

………本当の嵐はこれから来るのだと

 

这是毁灭你的人的名字(貴様を滅する者の名だ)!」

「く、くるなぁぁぁ!!!」

 

最後の抵抗とばかりに眷属たちを壁役として数多に召喚するシャルティアだが、彼から云わせれば冷静さを失った時点で勝敗は喫している

シャルティアの呼吸の乱れ、戦意の乱れ、錯乱とも云える状況下において意識の隙をつく事など彼にとっては朝飯前、壁役の眷属を擦れ違い様に滅し、勢いそのままにシャルティアの腹部に拳を押し当てた

 

「ッ!?」

睡觉(ねむれ)……時空裂断――爆裂拳(バオリィェチェェン)!!!」

 

ゼロ距離から放たれた翠色に色づいた力の奔流は、シャルティアを呑み込み消滅させるだけに終わらず時空を叩き割り、辺り一面を『白』へと替えたのであった

 




シャルティア戦闘に使用した投擲武器の数(参考資料)

無骨な槍×10(聖骸級)
幅広な槍×15(製作級)
無骨な大剣×10(聖骸級)
幅広な大剣×15(作成級)
手に持つと痛い槍×3(神器級)
燃えている大剣×3(神器級)
カジキマグロの剣×1(伝説級)
サーフボード×1(伝説級)
スプーン×1(伝説級)
ネギの剣×1(伝説級)
丸太×11(作成級)
スイカバー×1(伝説級)
えくすかりばー×1(神器級)

合計 72本



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~俺と嫁の生き方について~

最終話です


見渡す限り一面の黄金の海が広がっている一室において、ここナザリック地下大墳墓の主である死の支配者モモンガと跳ねる死体李鳴海、そしてナザリックを守護する階層守護者達が強張った表情で目下に広がる黄金を見つめていた

 

「ユグドラシル金貨5億枚。……準備は出来たぞ、アインズ」

「あぁ、これよりシャルティアの復活を行う」

 

主であるモモンガの声に守護者達は各々、これから行われる守護者の復活に対し、あるモノは武器を握りしめ、あるモノはステータス画面を広げ、あるモノ達は怒りと期待を胸に秘めながら目前の金貨を睨み付けていた

 

ナザリック勢が緊張した面持ちで金貨を見つめている中、いまいち緊張感に欠けているモノ達がいた………跳ねる死体李鳴海とその眷属クレマンティーヌだ

鳴海は、純粋に旧友が失敗するはずがないと言う絶対的な信頼と期待から、眷属であるクレマンティーヌは目の前の黄金から復活すると言う話しに対し現実味を持てず、むしろ生前の癖から目の前に広がる黄金の方へ興味が移ってしまっていた

 

「……ねぇ、ダーリン」

「なんだ?」

「これってダーリン達の世界の金貨だよね?」

「そうだ」

「ふ~ん」

 

徐に黄金の海から一枚の金貨を掬い上げたクレマンティーヌは、施された装飾を眺めたり、手で此方の世界の金貨と比べたり、重さを計ったり齧ったりして金貨の価値を計ろうとするが、出てくる答えは規格外という結果のみが浮かび上がってしまう

 

「……私も専門家じゃないから詳しくないけど、普通の金貨よりこっちの金貨の方が断然価値があるよね、これ?」

「俺も詳しくはないが、盟友の一人に詳しい奴がいた。ソイツ曰く『金の価値は1に純度!2に重さ!3にデザイン!』と言っていたのを覚えている」

「その3つともコッチの金貨が圧勝だよ、これ?……こっちの金貨にすると幾らくらいかな?」

 

クレマンティーヌから此方の金貨とユグドラシル金貨を受け取った李は、天秤の様に手を揺らし互いの重さを比べるが、苦い顔をしたままユグドラシル金貨を黄金の海に投げ戻し、此方の金貨をクレマンティーヌに返した

 

「……盟友の言葉を信じ重さだけで判断するのであれば、およそ二倍は違うはずだ」

「って事は単純にコッチの金貨にすると―――ッ!だ、だ、ダーリンもこの金貨いっぱい持っているの!?」

「………俺個人は然程持っていない。あったとしても4億程度。盟友である公爵に比べれば微々たるモノだ」

「いやいや!十分お金持ちでしょ!?」

「ウ、ウウン!!(あの~、リーさん?シャルティアを復活させて良いですかね?)」

「(ッ!すまない、モモ。)」

 

念話で話せば良いモノを直接、声にして話していたので復活の儀式を中断させていた様でモモから催促の念話が届いた。一言侘びを入れた李はモモの隣へと歩み寄った。

 

「(では……行きますね?)さぁ、シャルティアよ、蘇るのだ!」

 

モモの呼び声に応える様に積み上げられた金貨は融解し、本当の意味で黄金の海となって、うねりながら一ヵ所へと集まり出していった

 

「……ねぇ、ダーリン」

「なんだ」

 

クレマンティーヌ、うねる黄金を目の前に一言――――――

 

「あの子って金貨で出来てるの?」

「………」

 

生あるモノが無機物から産まれるなど変な所はゲームのままだな?と思いながらもクレマンティーヌに無言で答えを濁し、黄金の海が一ヵ所に集まり形を成した先の――裸体で横たわるシャルティアに視線を送った

 

「―――ん、ここは……」

「大事はないか、シャルティア?」

「え、ええ、なんともありませんわ」

「………アルベド」

 

身体に支障が出ているかどうかは、本人が一番よく分かる。

本人が問題ないというのであれば身体的には問題は生まれていない。質問を繰り返すモモと受け答えも出来ているようだが―――

 

「………ステータスに異常は見られませんわ」

 

アルベドに視線を送れば、シャルティアのステータスを確認していたアルベドは、笑みを浮かべながら蘇生が無事に成功し洗脳から解放された事を告げた

 

その言葉を気に守護者たちはシャルティアへ詰め寄ると非難の嵐を投げかけ始めるが、洗脳された記憶がないシャルティアとっては身に覚えのない非難に首を傾げるばかりであった

その姿がどうしても彼らの親と重なり、昔を思い出して自然と笑みを浮かべてしまうが、そのように感じたのは俺だけではないらしい

 

「……聖騎士、山羊の悪魔、タコ、軟体生物、娯楽の友」

「ッ!?」

「盟友達の面影を見たか?」

「……そうですね。」

 

そう、俺と同じ様にモモンガも守護者達に盟友の姿を思い浮かべていたのであった

ナザリックと最後まで共にしたモモンガにして見れば至高の存在は至高の宝であり、同時に旧友が残した守護者達も同じく至高の財なのだと感じさせてくれる

 

「俺は、今ほどNPCを造らなかった事を後悔した事はない」

「リーさん、不器用の前にアナログ派でしたからね?」

「絵で描こうにも意味がわからんと云われた」

「筆で書いたモノをレイアウトにするのにはタブラさんも頭を抱えていましたから」

 

互いに笑みを浮かべ、あの頃に思いを寄せるのはとても心地よいモノだが、俺はこの気持ちとは別のモノがふつふつと湧き上がっているのを感じていたのであった

 

 

 

 

「帰ったぞ」

「おっかえり~」

 

自室の扉を開けた先には、先に帰っていたクレマンティーヌが、ソファに横になり寛ぎながら俺を出迎えた

ただ横になっていたのではなく、部屋に飾ってあった武器を手に取り感触を確かめる様に眺めていた事からモモとの打ち合わせが思っていたより時間が掛っていた事が窺えた

同じ様にクレマンティーヌのソファと反対のソファに腰を下ろした俺は、改めてクレマンティーヌが弄んでいる武器を見るが、危険性もレア度も低く見栄え重視で飾られた武器だったので特に注意もせずに逆に武器の説明をしてやることにした

 

「筆架叉と言う二体一対の武器だ」

「へぇ~、なんか私のスティレットに似ているねぇ~?……コレもやっぱりヤバイの?」

「どちらとも刺突に特化した武器だからな。それは……確か聖遺物級(レリック)アイテムだったな?」

「あ~…もう一度聞くわ、それってヤバイの?」

「……右が第3位階魔法【ライトニング】を、左が第三階位魔法【フレイボム】を撃ち出す程度のモノだ」

「うわ~、やっば!………貰っても?」

「かまわん。」

「ダーリン、だ~いすき!」

 

満面の笑みを浮かべながら手に馴染ませるためにか何度か武器を振るう姿を見ていると一見危ない奴だと思われがちだが、彼女の笑みを見れば本当にうれしく思っている事が判り上げた此方側まで嬉しくなってしまう……だが、その武器が日の元で振るわれる事はないであろう

 

「………クレマンティーヌ、話があるのだが「私はアンタについて行くよ」ッ!?」

 

勝負事において一瞬の動揺は致命傷へと繋がる

だからこそ、精神面を鍛え余程の事では動揺しないように訓練していたつもりだが、話の内容を聞く前に答えを云われたのは初めての経験で正直……顔に出るくらいに驚いた

 

「珍しいもの見れたわ~!伝説級の化け物の驚く顔って。……これでも結構マジで好きなんだからダーリンの考えてることは判るよ?……私を守ろうとしてくれているんでしょ?」

「……無理に付き合う必要はない。ナザリックに居れば最高の待遇を保証するぞ?」

 

二つの筆架叉を器用に回しながら手に馴染ませ笑みを浮かべるクレマンティーヌの瞳には迷いが一切感じられなかった

 

「あはは、むり~!流石にココの人たちに比べれば私は、よわっちいけど人間相手に遅れは取らないわよ」

「それも、そうか」

 

大きく息を吐きながら俺もクレマンティーヌと同様に笑みを浮かべた

双星の意志は確認した。ならば後は君主に我が意志を伝えるのみ

それが一番難しいよな~と、これから立ちはだかる問題に天を仰いでいた時―――

 

「失礼します、李様。入室の許可を頂けないでしょうか?」

 

控えめのノックと共にアルベドの声が聞こえたのだ

 

「あぁ、大丈夫だが何か用か?」

「はい、シャルティアが李様との対面を所望しております」

「シャルティアが?かまわん、通せ」

 

まさかの来客に疑問を感じるが、別にやましい事をしている訳でもないので、特に何も考えずに招き入れたのだが、客人であるシャルティアは終始顔を伏せ、モジモジとドレスの裾を弄っているばかりで此方を見ようとはしなかった

排泄でも我慢しているのか?と思い声を掛けようとしたが、俺より早くアルベドが「至高の御方をお待たせするつもり?」と声をあげ、シャルティアに即した。すると、シャルティアは徐に膝を屈し頭を下げてきたのだ

 

「こ、この度は!私の不注意で至高の御方自らの手を使われる始末、改まって謝罪したく存じ上げます。つきましては私に罰を与えて頂きたく参上しました」

 

完全なる土下座である

生きている内に、これほどまで綺麗な土下座を見る事が出来ようとはと感心する一面、何故この場において土下座する必要があるのか理解が出来なく唖然としているとクレマンティーヌが俺の横腹を突き正気に戻した

 

「罰とは……どういう事だ?アインズから今回の件について詳細は聞いていないのか?」

「………いいえ、聞いております」

「ならば何故罰せなければならない?……今回の件は、世界アイテムの存在を視野に入れなかった我々のミスだ。……貴様に罪はない」

「で、ですが!」

「二度は云わん。……貴様を罰する事はない」

「ッ!………畏まりました」

 

この判断は、シャルティアに余計な罪悪感を与えない為にも今回の件に関しては俺達が原因であり、シャルティアに責任を負わせる事はしないとモモンガと前もって決めていた事で決定事項だったのだが、何故かシャルティアは納得していないように感じた

 

「ちょっとぉ~、ダーリンそれはないんじゃないかな~?」

「……なんだ」

 

俯くシャルティアを余所にクレマンティーヌは俺に背に覆い被さると頬を突き始めたのだ

 

「いやねぇ~?これは、ダーリン達のミスってことで終わらせる問題ではないのよ。部下であるシャルティア、ちゃん?の不注意で起きた問題でしょ?これを『自分達のミスです。貴女にミスはないです』で終わらすのはシャルティアちゃんが可哀そうだわ」

「だが、実際にそグフっ」

 

頬を突っついていた指が俺の口に侵入し言葉を塞いだ

あ、こら!下を弄ぶな!

 

「部下のミスは上司が取るってぇ云うダーリンの心意気はいいけど、こういうのは『ケジメ』が大切なのよ、『ケジメ』が。……それをシャルティアちゃんも望んでいんの」

「んぐ……そういうモノなのか?」

 

クレマンティーヌの指から解放されシャルティアに相違はないか確認してみれば言葉無くとも首が取れるのではないかと云う程に縦に振っていた。しかし、罰か……

体育会系出身者としては悪事を起こしたモノには鉄拳制裁と云う名のグーパン一発で許していたゆえに鉄拳制裁以外の罰し方を俺は知らない。……今世の俺のグーパンは制裁の域を超え消滅しかねない威力が出る為、今回はグーパンでは収まらないだろう

いや、シャルティアなら受け入れるかもしれないが、折角復活したというのに俺の手でまた殺しては意味もないし金貨5億枚が勿体ない。ユグドラシル金貨も有限であるのでナザリックの財を自分勝手な理由で消費する訳にはいくまい。……だからと言って手加減して手を下すのは相手にも失礼に当たる行為だ

 

「……己の手で下す罰とは難しいモノだ。拳以外の罰し方など俺は知らないし、故人の知識を借りようにも武則天の罰は罰と云うよりは処刑。手足を切り落とした後に酒壺に入れるなど部下にすることでもない」

「いやいやいや!ダーリンの知っている罰って怖くない!?普通は鞭打ちとか罰金とかだよ!?」

「鞭打ちなどシャルティアが喜ぶだけだ。罰金に関してもシャルティア自身がナザリックの財であり、求める物は既に貰っている。………むしろ給金を払っていないのにどうしろと?」

「あ~……、なら精神的に罰を与えて見たら?」

「精神的………第三欲求か?」

「そそ、シャルティアちゃんは女の子だから……期限が来るまでうさちゃん専用肉便器とかは?」

 

頭を捻る俺を見かねたクレマンティーヌがアドバイスをくれるが、どうもピンと来ない。そもそも、ぺぺの子を自らの手で陥れるのには抵抗があるし、モモが相手だとむしろ喜びそうに感じてしまうのだが………いや、なるほどそうか!

 

「与えるのではなく、禁ずるのもまた罰か……シャルティア!」

「はい!」

 

俺の声に背筋を伸ばし、話を聞き受け入れる体制となったシャルティアの強き瞳を見て俺の中に燻る罪悪感は消えた。ならば心置きなく罰を与えよう!

 

「俺からの罰は一つだ……今日から一か月間『性交』を禁じる」

「ッ!」

「自身が行うのは勿論、『性交』に関わる全ての行為を禁じ、己が職務を全うするように」

「そ、それは!ヤる事も見る事も行わせる事もですか!?」

「無論。……俺の意に異存はあるか?」

「あ、ありません!謹んで罰を全うします!」

「うむ。アインズからも罰を与える様に俺からも進言しておこう。……そしてアルベド!」

「えっ!あ、は、はい!」

 

まさか自分にも声が掛るとは思っていなかったアルベドは驚きながらも膝をついた

 

「守護者総統と云う守護者を管理する立場にありながら守護者の離反を許した管理不足に対する罰を与える」

「ッ!」

 

罰を受けるならシャルティア以外にも俺やモモも受ける対象だが、アルベドもその条件に当て嵌まっていると思い罰を執行する

 

「俺は、今の職務に傲慢していたのが原因だと考え、アルベトの守護者統括の任を解く」

「ッ!」

 

俺の言葉にこの世の終わりとばかりに顔を歪めるアルベドから何故だか殺気が漏れ始めたが、話はココで終わりではない

 

「……の、つもりだったが、霊廟で見せた『仁』の心、創造主を忘れぬ『信』の心を俺は評価し、職務を増やし管理能力を一から鍛え直そうと考えた」

「……ご配慮感謝します。して、その職務は?」

「今後、守護者統括の職務と兼任してアインズの秘書。アインズのサポートを徹底して行え」

「それはつまり――」

「今後、アインズの補佐をし「よ、よっしゃーーーー!」…聞いていないか」

 

殺気から一転、歓喜に打ち震えるアルベドの魂からの叫びは、至高の方の発言を遮った不敬にあたる行為だが、見ていて清々しく諌める気にはなれなかった。

逆にシャルティアは、歓喜に沸くアルベドを睨み付けながら血の涙を流していた

 

この件は終わりとばかりに大きく息を吸い、モモンガへとシャルティアの罰に対して念話を繋げようとした時、デミウルゴスが一歩前に出た後に胸に手をおいて二人と同じ様に膝をついた

 

「……一つ、よろしいでしょうか、李様。」

「どうしたデミウルゴス」

「畏れ多くも、私には李様がナザリックをお離れになると聞こえましたので」

「「ッ!」」

 

一を知って十を知る。

モモからデミウルゴスの事は聞いていたが、まさかこれほどまでに早く気づくとは予想外だな?

 

「よく分かったな」

「アインズ様を補佐するには同じ至高の御方である李様が最も相応しい。と云うのに、その職務をアルベドに任せると任命されては、歓喜で冷静さを失ったアルベドでは気づかなくとも私には判ります」

 

眼鏡の奥に輝く宝石のような眼からは、『恐怖』と『悲しみ』なにより『怒り』が感じられた。……恐らく『恐怖』と『悲しみ』は、俺がナザリックを離れる事に対して、『怒り』に関しては俺にではなく、俺を止められなかった自分に対して怒りを感じているのであろう

 

「デミウルゴス……貴様は、今からナザリックに離反しろと云われて出来るか?」

「出来る筈がありません!そのような考えすら抱いた事はありません!」

「なぜ」

「私は、我が創造主ウルベルト様からの命により、至高の御方が作られたナザリックを守護する事に誇りに思っております。それを…創造主の意を背くことはできません!」

「そうか……それが貴様の生き方なのだな?」

「はい」

 

打てば響くような返答

それほどまでに彼の中に曲げられないモノがあるのだと嬉しく思う反面、そこは『命』ではなく自身の『気持ち』で答えて欲しかったと思いながらも俺は自身の心の内を打ち明けた

 

「俺も同じなのだ」

「………」

「俺もナザリックに愛着も執着もある。俺の帰る家だとも思っている。……しかし、俺の生き方が安泰や停滞を拒むのだ」

「ッ!………畏れ多くとも教えて頂きたいのですが、その生き方とは?」

「武道家として己が『武』を後世に伝える事だ」

「ッ!?」

 

『武』を後世に伝える

武道家が積み重ねてきた長い『武』の歴史に俺も貢献したいのだ

そして、この世界の『武』を越えたいのだ

 

「それは…ナザリックでは出来ぬことなのでしょうか?」

「あぁ、俺は弱者に……人間に己が『武』を伝える」

「ッ!人間如きに李様の『武』を伝授されるとは……私には理解が出来ません!」

「ふっ……確かに今の俺も理解する事が出来ない。しかし、俺の心が弱者である人間に『武』を伝承し、強者に登り上げろ!と訴えかけているのだ」

「……」

「何も一世代で強者に成らなくとも良い。次の世代が更に次の世代に『武』を伝承し磨き上げる事で強者へと至る事を俺は望んでいる。だから俺は……旅に出る」

 

この世界の人間が生み出した『武』は存在するだろう。しかし、その『武』を俺が残した『武』が超えた時、俺は本当の意味で、この世界に勝ったと思えるのだ

だから、俺は―――――

 

「デミウルゴス。お前に言葉を送ろう」

「はっ!」

「Don’t Think. Feel!考えるな、感じるんだ………俺は俺の心が感じたモノを信じる。なに、絶縁した訳ではない、帰って来たら暖かいメシを用意して迎えてくれ」

「…はッ!ご帰還をお待ちしております!」

 

―――――世界に喧嘩を売りに行くのだ

 

 

 

 

光輝く太陽、青い空、風に靡く草木がゆっくりと時間を進めているのかと錯覚するほどにのどかな草原に一組の男女が歩みを進めていた

 

「絶好の旅出日和だ」

「そだね~?太陽の光が気持ちいいわ~」

「キョンシーならぬ言葉だが、確かに気持ちが良いな」

 

片方は何処かの民族衣装を思わせる旅装をした伊達男、片方は戦闘に支障が出ない様にアレンジした際どいスリットが目に入る男と同国の衣装を纏った色白の美女

傍から見れば異国出身の美男女のペアに見えるが、その正体は英雄の領域に足を踏み込み更には人間の領域を越えた美女。そして男は………その気になれば世界を拳一つで破滅させる程の武力を持った武道家なのだが、すれ違う人々はそんな化け物が農道をのんびりと歩いているとは夢にも思わずに、ただカッコいい男と美しい女が旅をしているしか感じられないのだろう

 

「モモを説得するのに時間を要したが、ようやく旅をする事が出来たな?」

「『私をおいて行くんですか!いや、私と一緒に冒険者をやる約束はどうしたんですか!?』ってうさちゃんって本当に兎ちゃんだったねぇ~」

「……冒険者『漆黒』との【同盟者】として事があれば合流する約束だがな?」

 

モモの云いたい事も判る。この件が終わった暁には2人もしくは3人で、まだ見ぬ世界へ冒険の旅に繰り広げようと語り合ったゆえに、彼に対する罪悪感は拭い捨てられない。

だが、冒険者として『未知への冒険』を語るモモとシャルティアの件を境に『武の発展』を目指し、旅をする事を決めた俺とでは目的が合わぬ相入れないモノになってしまったので、一緒に旅をする事は断念しお互いに譲歩できる折衷案を決めたのだが………俺には、もう一つ、モモと旅をする事を断った理由がある。

 

それは、クレマンティーヌと云う存在だ

生前は漆黒聖典の一員であり、なんかの秘宝をスレイン法国から盗み逃亡した裏切り者。

俺とモモが共に冒険すると云う事は眷属である彼女も同行する……即ち、追われる身の彼女と行動を共にすると言う事はモモが考える冒険碌に支障が出る可能性があると考えたのだ

モモも守護者達と違い、気軽に話し掛けてくるクレマンティーヌを気にいっている為、そのような些細な事など気にはしないと言うだろうが、俺としてはモモには、ややこしい事など考えずに純粋に冒険を楽しんでもらいたいという気持ちが強い故に折衷案として、冒険者チーム『漆黒』の臨時メンバーとして力が必要な時に合流する形に落ち着いたのだ

 

「……正直、俺としては、君にはナザリックに居てほしかった。いくら人外的強さを手に入れたとしても例外はある。クレマンティーヌと云う女性の存在を知る人間が死ぬ凡そ100年間はナザリックにいて欲しかった」

「100年って冗談……って訳でもないか」

「あぁ、なにも100年間部屋に籠っていろと言う訳ではない。ナザリックには娯楽施設もあるし、護衛をつければ外出もできる様に手配する予定だ」

「わぁ~、VIP待遇!」

「……まぁなんだ、責任を取ると云った事が良い意味でも悪い意味でも守護者達に知れてしまった故だが、ナザリックにおいて確かな地位と安全は確保されただろう。ナザリックで過ごす100年なんてあっという間だ」

「ふふふ、確かにダーリンの婚約者って事でチヤホヤされるし、豪華絢爛のお城のお姫様~って感じでダーリンと会う前までの生活が糞みたいに思う子供の頃に夢みた生活だったけど……肌に合わないのカナ~?やっぱり、夢は夢だわ。私はコッチの方が性にあってるみたいね?」

 

我が盟友達が作り上げたナザリックの娯楽施設は一生遊んでいても飽きぬ楽園であり、その楽園で最優遇の対応をされるのだ。ちょっとした大国の姫でも経験の出来ない生活が過ごせるというのに、金を捨てて銅を取る

薔薇色お姫様生活とは正反対の血と闘争の灰色生活に思いを馳せて武器を嬉しそうに打ち鳴らすクレマンティーヌの姿に俺の頬は吊り上った

 

「そうか……ならば何も言うまい。」

「そそ。帰る家だってあるんだし、新婚旅行だと思って気軽に行こうよ」

「……言っておくが遊びではない。モモが出した条件の一つにナザリックの敵となり得る組織、国の偵察がある。……油断せずに行くぞ」

「はいはい、わかってるわよ。そういう建前の修行の旅、でしょ?」

「む」

「最初の行き先は、カルネ村……うさちゃんが最初に出向いた村でしょ?」

 

当初は、シャルティアを洗脳した国であるステイン法国へと殴り込むつもりだったが、まだその時ではないようでナザリックの戦力を強化したのちに動く予定だとモモは言っていた……その為にも、確か蜥蜴人族を壊滅させると言っていたな?

チュートリアルでカルネ村を進めてきたモモに次の行き先は蜥蜴一族の集落を視察すると進言するのも悪くはないかもしれん

異世界の異種族がどのような『武』を身に着けているのか気になるからな?

 

未開の『武』の存在を知れるかもしれない、その『武』が我が『武』を更なる高みへと昇り上げてくれるかもしれない!そして、その『武』を――――

 

湧き上がる『武』に対する好奇心で胸が一杯になっていく

まだ知らぬ出会いに夢みて俺達は歩み始めたのであった

 

「さて、では行くぞ、クレマンティーヌ!ナザリックと武の発展の為に!」

「殺戮と凌辱をスパイスに、ね!」

 

 

END

 

 




あとがき
3年かけて完結。…もうね、本当にすみませんでしたと言う思いがいっぱいです
作者が、小悦を書き始めていた環境と今の環境が激変しているとは云え、待ったいてくれた読者に対し申し訳ない気持ちでいっぱいです………反省終わり

オーバーロードも三作目に入ります!今思うと一作目のクレマンティーヌに惚れ込んで書き始めた小説でしたが、完結できて一先ずよかったです!
最終話に関してはもっと詳しく書いて見たかったのですが作者の技量が足らなく至らない終り方になってしまいました!もっとモモンガの内面とか上手く書きたかった!
でもこれを糧に今後頑張っていこう!と思える個人の勝手な終わり方にしました!

長く書いても仕方がないので、最後に……
この終わり方を不快に思う方もいると思います。「白状過ぎ」とか「考えられない」とか
でも、李にとっての終わり方はこうしようと最初の段階で決めていたので後悔はしていません!作者の技量不足だと思ってください!

最後までありがとうございました<m(__)m>


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参考資料

作者が作品を書くにあたって使っていた設定です
最後のオマケみたいなものですのであしからず


名前/李 鳴海

 

二つ名/幽玄道士・世界の抑止力

 

・種族

キョンシー level15

吸血鬼    level10

自動人形  level 5 

 

・職業

道士    level15

仙人    level10

モンク   level15

ブオウ   level10

バシレウス level 5

府術士   level10

世界への抑止力level 5

 

 

 

名前/クレマンティーヌ

二つ名/元人類最強・人食姫

 

・種族

キョンシー LV2

人食鬼   LV2

 

・職業

ナイトLV8

軽戦士フェンサLV11

アサシンLV9

ストライカーLV3

府術士LV1

モンクLV1

花嫁LV3

 

人間LV31 眷属後LV40

 

 

 

 

・最強の抑止力『ワールド・ディタレント』

特定の条件をクリアし運営に認められると得られるクラス

ユグドラシルにおいて公式チートとされる『ワールド・チャンピオン』のカウンターガーディアンの役割を持っているクラスであり、ワールドの名を持つプレイヤーに対して能力が向上する

『世界の抑止力』と銘打ってある通り、取得条件が『ワールド・チャンピオン』に一対一で勝利する事である

ただし、『ワールド・チャンピオン』自体が上位プレイヤー3名と互角な戦力を持っている為に取得はかなり難しい

彼の場合、仲間の二人の伝手を借り、『ワールド・チャンピオン』9人全てと『手合せ』し、5人に勝利したので取得を可能にした

バランスブレイカ―と云われる魔法職『世界の守護者』の対になる格闘職のバランスブレイカ―

 

裏設定

※その『手合せ』は純粋な技量を比べる為、能力向上スキルや魔法攻撃を抜きにした純粋な自力勝負だったが……ステータスの差が激しいのに勝利を収める彼は可笑しい

※戦闘ログを運営が見て公式チートを宣伝している『ワールド・チャンピオン』が個人に負ける事を想像していなかった運営が急遽設定したクラス。誰がこんな馬鹿げた事を…と彼の個人情報を確認し、納得はした

※公式ではなく非公式な『手合せ』であった為、各ワールド・チャンピオンへのペナルティはなかった

 

 

・オンリースキル:永遠の闘志

自身の魔法攻撃力、魔法防御力、物理攻撃力、物理防御力を統括。再び任意的に振り直す

発動条件は、『HPが15%を切る』『相手とのHP差が60%以上』『一対一』『武装の解除』と厳しいモノとなっているが破壊力は一線を越えており、LV100のプレイヤーでさえ一撃でHPがレットゲージまで削られてしまう

 

 

・オンリースキル:森羅万象

対ワールド・チャンピオンのスキル

次元断層や次元切断と云ったオンリーワンスキルを無効化できるワールド殺しの能力であるが、通常の敵やプレイヤーに対してはダメージ軽減10%の能力しか持たない

 

 

・オンリースキル:太陽は、また昇る。

三度の強制復活を行い、蘇生する度に攻撃力・防御力が上昇するオンリースキル。

発動条件は、『一体多数』『対プレイヤー』『同LVまたは上位LV』『武装の解除』と不屈の闘志より緩い条件だが、使用し敗北もしくは逃走した場合、『世界の抑止力』の脱名、死亡5回分経験値ロストが発生する

 

 

 

・職業/バシレウス

種族『ヒューマン』または『エルフ』から異形種へチェンジ+LV95までに『攻撃・回復魔法無使用』で初めて就くことができるクラス

“かの王は拳一つで国を治め不徳を砕いた”…自然回復および付与能力の効力が向上するスキルを習得する

 




裏話
・実は初期のプロットはもっと凌辱していた
(途中で規定に引っ掛かると思い断念)

・実はシャルティア戦もえぐかった
(NPCに内蔵があるのか判らず断念)

・一度、アルベド殺してた
(なんか違うと思い書き直した)

・黒の剣も死んでいた
(折角のなので生かしたかったから辞めた)

・腸で縄跳びピョーン!
(作者がヤンデいたのが治った)


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