はじめの大和!! (パトラッシュS)
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RAUND1 出会い

実は平行してこっそりと構成を練っていました。





 

 

 鴨川はユキと猫田の乗る電車を見送った後、熱い拳と志しを胸に宿し、青い空を見上げる。

 

 戦後、日本が困窮し混乱していた時代。

 

 二度と拳が握れない身体となってしまってもなお、彼が胸の中で抱いたのはボクシングに対するさらなる情熱と熱意だった。

 

 いつか、自分の意志を継ぐボクサーを育てあげる。そして、約束を果たす。

 

 彼の新たなる夢の船出。

 

 

(見ていてくれ…ユキさん、そして、猫田…俺はきっと世界一強いボクサーを育ててみせる。この拳と魂に掛けて…俺たちの拳を後々に残せる奴らを…!その時は必ずもう一度会いに行く、それまで待っていてくれ…)

 

 

 彼は遠くなる機関車を見えなくなるまで見送った。切磋琢磨した友、そして、結ばれぬ事のない恋。切ない三角関係の狭間に揺れた余命少なき思い女が乗る機関車。

 

 様々な想いと踏ん切りとケジメをつけた彼は新たな夢へと羽ばたこうとしていた。

 

 

 

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 それから約5年後…。

 

 

 鴨川はある飛行機に乗っていた、飛行機に乗っていた理由はアメリカから東京へ、本場のボクシングというものを学び帰国する為だ。

 

 自分が独自で学んだ拳闘では限界があることを鴨川はアメリカ人ボクサー、アンダーソンとの戦いの中で学んだ。

 

 その時の代償で拳は砕け、ボクサーとしての生命が断たれた。

 

 彼は二年ほどアメリカのボクシングスタイルと選手の育成法、医療環境、そして、ノウハウを学び東京へと帰国する最中であった。

 

 

(…学ぶべきことは学んだ、後は己で道を切り開くだけだな…)

 

 

 静かに瞳を閉じ、機内の中で飛行機が無事に東京に着く事を待つ。

 

 熱い魂を胸に秘めて日本に帰り着くのを楽しみにしていた、これからが新たな自分のボクシング人生スタートになる。

 

 だが、そんな時だ、機内で異変が起こった。

 

 

「ただいまエンジントラブルにより!これより緊急の…!」

 

 

 そこから先は鴨川はよく覚えてはいない

 

 だが、確かな事は…

 

 彼の人生に大きな影響を及ぼすであろう出来事がこれから降りかかるということだけだった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 時代は変わり、20XX年

 

 

 世界は深海棲艦と呼ばれる新たなる脅威に対抗すべく、艦娘と呼ばれる少女達が現れ、互いに凄まじい戦いを日夜繰り広げていた。

 

 しかし、ただ、少女達が互いに殺し合うという残酷な事を望まない大衆の声もあり、その戦いも形を変えて大衆にも受け入れられるスポーツによる決着へと形を変える動きが活発化してきたのだ。

 

 そして、大衆にも受け入れられる互いにルールの中で戦いを繰り広げる事ができる物。

 

 そう、ボクシングである。

 

 

 艦娘と呼ばれる少女達は各鎮守府にあるボクシング育成所に所属し、階級別に身体を鍛え、深海棲艦とのタイトルマッチを行い勝利する事を目標にしている。

 

 もちろん、敵は深海棲艦だけではない。

 

 演習相手であるほかの鎮守府もそうだ、年に一度ある艦隊チャンピオンカーニバルでは艦娘同士の互いのプライドを掛けて戦う熱いタイトルマッチ戦が繰り広げられる。もちろん、そこには深海棲艦も参加可能だ、海外からの艦娘も参加を表明してくることも珍しくはない。

 

 艦娘と深海棲艦とのボクシングは国全体を挙げた大衆に向けての娯楽競技と化していた。

 

 

 場所はショートランド鎮守府。

 

 

 この鎮守府にはまだ提督、ジム会長と呼ばれるボクシング責任者が未だいない状況にあった。

 

 新たに艦娘の戦いの主流となったボクシングという風潮にボクシング経験の無い提督が指揮を取れずに辞めるという例が存在する。

 

 いままでとはまるで違うやり方で通用しない提督が鎮守府を辞任する。このショートランドの提督もまた例外ではなかった。

 

 

「…どうなるんでしょう…はぁ…」

 

 

 責任者、しいては総括する提督がいない艦娘は試合ができない。当然である。責任者、セコンドがいないとなればたとえ艦娘として生まれた彼女達にも命の危険性があるからだ。

 

 この艦娘、大和もまたそんな艦娘の一人であった。

 

 戦艦型の艦娘である彼女。戦時中、戦艦大和として誰もが知る栄光の道を彼女は華々しく飾っていた。しかし、現在は自慢の砲撃は必要がない。

 

 何故なら、ボクシングで勝敗が決まるからだ。

 

 

(わたしだって…砲撃戦なら…誰にも負けないのに…)

 

 

 大和はそう思いながら海岸を防波堤から座ったまま砂浜へと打ち上がる穏やかな波をジッと見つめる。

 

 自分の力が果たしてどんなものか…、ボクシングはどういうものなのかさえ、彼女はまだ知らない

 

 夕焼けに照らされる海岸は何処か寂しく彼女の目に焼き付いた。

 

 自分だけではない、鎮守府にいる他の艦娘だってきっとそうだ。彼女達はボクシングという競技によって居場所がない。

 

 もはや、戦争をし互いに命を削る戦いは既に過去のものとなっているのだから…、あの第二次世界大戦のように戦場を駆けて砲弾を放つことはない。

 

 夕焼けに照らされる海岸をジッと眺め続ける大和、すると彼女はあることにふと気がついた。

 

 

「……ん…?……何かしら…?…誰か倒れてる?」

 

 

 そう、海岸に横たわる人影。

 

 こんなところで寝ている変わり者なんていない、大和の中で考えられることは一つだけであった。

 

 それは、その人物はなんらかの原因でこの海岸に打ち上げられ、気を失っているという事。

 

 

「だとしたら、大変だわ!」

 

 

 大和は慌てたようにその場から立ち上がるとその人影に向かい駆けてゆく。その人物は身元もわからないが放っておけばまた波に攫われて溺れ死ぬかもしれない。

 

 できることなら、そんなことはしたくない、艦娘としての正義感が彼女を駆り立てたのだ。

 

 そう…これが、彼女にとって運命の出会いになるとは、この時は思いもしなかった。

 



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ROUND2 邂逅

二話連続になりますにゃしぃ


 

 

 

 場所はショートランド鎮守府。

 

 提督室にある寝室、その寝室で鴨川源二は横になり寝ていた。

 

 季節は梅雨入りぐらいだろうか、提督室から見える窓の外は晴れ渡り綺麗な青空が広がっていた。

 

 そして、窓を開けているからだろうか風通しが良く、チャリンと部屋に飾ってある風鈴が鳴る。

 

 

「ん…んぅ……」

 

 

 鴨川はボクシングを引退してもなお未だに残る筋肉が重い身体を少しだけ動かしゆっくりと意識を戻してゆく。

 

 …自分は一体どうしたのだ、あの飛行機に乗った自分は…。

 

 鴨川は取り戻しつつある意識の中で色々な事を考えて思案する。

 

 アメリカに渡り、ボクシングについて多く学んだ。未だに学び切れていない事もある。それに飛行機が確か…エンジンのトラブルにあって…。

 

 

「…あ、気づかれましたか?」

 

 

 だが、そんな彼が様々な事を考えている事とは裏腹に目を覚ました彼が初めて眼にしたのは可憐な桜の様な娘の顔だった。

 

 鴨川は突然の出来事に眼を丸くする。

 

 それはそうだろう、意識を取り戻した自分が眼にしたのは見ず知らずの娘。先ほどまで飛行機に乗っていた出来事とは遠くかけ離れ過ぎている。

 

 おまけに彼女からの膝枕と来た。

 

 鴨川は慌てた様にベットから上体を起こして辺りを見渡す。

 

 

「……ど、どこだ…ここは…俺は一体…」

 

「…あ、まだ動かれては!浜辺で打ち上げられていたのですから安静にしないと…」

 

 

 そう言って、鴨川に安静する様に促す娘。

 

 だが、鴨川は断じて冷静ではいられなかった。自分がこれから起こす事を考えるとそんな暇などないからだ。

 

 彼はボクシングで強いボクサーを作るという夢を叶えて、ユキとの誓いを果たすと決めた。

 

 早く東京に帰り、ボクシングジムを開かないとならない。しかし、目を覚ませば知らない場所に娘。

 

 彼は居ても経ってもいられなかったのだ。

 

 

「クソ!…こんなところで寝てる場合じゃねぇってのに!」

 

 

 彼はもう使えなくなったであろう拳をダンッとベットに振り下ろす。

 

 完治までとは言わないが、アンダーソン戦後時よりも拳は状態が良くなっている拳は勢い良くベットに叩きつけられ、先ほどまで鴨川が横になり寝ていたベットは激しく揺れた。

 

 そんな彼の様子を見た娘はあわあわとしながらも宥める様に彼にこう話し始める。

 

 

「冷静になってください!…えっと…」

 

「…あ…、あぁ…すまない…ちょっと熱くなってしまった。貴様は誰だ?そして、ここは…」

 

 

 鴨川はそう言って先ほどまで自分を膝枕していた宥める娘に向かい冷静さを取り戻してそう問いかける。

 

 冷静さを取り戻した鴨川の様子を見た彼女はとりあえず安心したようにホッと一息つき、彼にゆっくりと話し始める。

 

 

「えっとですね、あ、まずは自己紹介からですね!…私の名は大和と言います」

 

「大和…?」

 

 

 女性なのに変わった名前だと鴨川は感じた。

 

 女性なら華らしい名前が普通だ。この娘なら桜の花が似合うので桜とかいう名前かと思っていたのだ。

 

 鴨川は不思議そうに彼女が名乗る名前に疑問を抱きつつも自分も名乗らないと失礼であると感じゆっくりと自分の名前を明かしはじめる。

 

 

「…そ、そうか、大和か…、俺の名前は鴨川…鴨川源二だ。元拳闘屋で今はボクシングについてアメリカで学んで帰国している最中だったんだが…」

 

 

 鴨川はそこから先を言い淀むように考え込む。

 

 自分の事情を彼女に話したところでどうこうなるのかという事だ。見たところ、彼女は浜辺で打ち上げられていた自分を看病してくれた恩人だ。

 

 これ以上、自分に深入りさせるのも悪いと義理堅い鴨川は感じたのだ。

 

 するとその時だった。タイミングが良いのか悪いのかグゥと鴨川のお腹が鳴る。

 

 それを見ていた大和は思わずクスリと笑みをこぼして、鳴った腹を慌てて抑えた鴨川を見る。

 

 

「ふふ…では詳しい話は食事を交えながら話しましょうか?」

 

「…すまん…面目無い…」

 

 

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 ショートランド鎮守府食堂。

 

 

 鴨川は大和に案内され、食堂で食事を取っていた。

 

 彼に出されたものは意外とカロリーが少なく、体重もあまり左右されない健康的なスポーツ食だ。

 

 その事にまず、鴨川は驚かされたが、それ以上に驚かされたのが大和から聞いた話である。

 

 

「ぼ、ボクシングだと…!女が…!それに艦娘だぁ!」

 

「…ま、まぁまぁ、そうです、今話した通りですね」

 

「ここがまず、ショートランドだってとこも信じられんが…女がボクシングでそれも第二次大戦の戦艦や駆逐艦が女になって戦うだのときたらもう頭がおかしいとしか言えねぇよ」

 

「はぁ…、うーん…そうですよね?まぁ証拠としては海の上を走れるとかでしょうか?」

 

「…本当か…それは…、はぁ…まさかこんな迷い込んじまうとはなぁ…頭がどうにかなりそうだ…。」

 

 

 鴨川は大和が嘘をついているようにも見えなかった為に思わず非現実的な今の出来事に頭を抱える。

 

 ボクシングといえばすなわち男の戦い、互いに拳を競い合いどちらが強いかを証明する。

 

 だが、目の前にいる娘はそんな殴り合いとは程遠い華の様な娘だ。見る限り明らかに箱入り娘だと言っても差し支えないだろう。

 

 しばらく考え込み、鴨川はゆっくりと大和に向かいこう訪ねはじめた。

 

 

「…それで、ボクシングしてるってなら、もちろんジムもあるんだよな…?」

 

「もちろんです!…あ、今日はほかの艦娘のいますし!確か今、テレビで試合を見てるはずです」

 

「試合戦だぁ?…そんなのもあるのか?」

 

「はい!…えっと確か、今日は駆逐艦級の賞金戦ですね、深海棲艦とランキング9位の夕立との演習試合だった筈です」

 

「おいおい…」

 

 

 そう言って、鴨川は思わず苦笑いを浮かべ、笑顔を浮かべる大和にそう告げる。

 

 駆逐艦級というのはおそらく階級の事なのだろうと大体予想はつくが、まさか本当に女子ボクシングをテレビでやっているとは思わなかった。

 

 そして、食堂を後にした鴨川は大和に連れられジムにへと足を運ぶ。

 

 

 大和が先導し、連れらるがまま艦娘がボクシングをするために鍛えているというジムに入る鴨川。

 

 大和に連れらながらも、彼はジムを分析するように辺りを見回す。

 

 そこにあるのは綺麗に掃除されたジム。中にはそれなりの設備が整えられているし、ミットはもちろんグローブも綺麗なままだ。

 

 当然、サンドバッグやパンチングボールといった設備も備え付けてあり、環境としてはこの上ないほどに充実している。

 

 そんな中、大和は奥の部屋へと続く扉を開き、鴨川をそこへと誘導する。

 

 彼はゆっくりとその部屋へと足を踏み入れる。そこには大きな液晶のモニターがあり、大和以外の艦娘が3人ほどそのモニターに映し出される試合を観戦していた。

 

 

 《立ち上がりは両者慎重。どちらが先に仕掛けるでしょうか?》

 

 《おっと、ここで夕立が前にでるぅ!右ィッ!ここで、挨拶と言わんばかりの鋭いストレートが深海棲艦の右頬を鋭く捉らえたァ!》

 

「…フットワークが軽いな、駆逐艦はやっぱり」

 

「でも長門さん、あれは多分、まだ夕立ちゃんの本来のスタイルでは無いですよ?」

 

「だな、聞いた話じゃ、本来は本能で打ち負かすような野生の直感で戦うようなスタイルって話だったからな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 《おっとしかし深海棲艦も負けじと打ち返すゥ!…がしかし、これは虚しく空を切ったァ!そこに夕立が被せるようにカウンタァー!》

 

 

 そう言って、互いに試合の分析や動きを言い合い、現在、戦っている夕立の試合についてどうなっているのかを話し合う娘達。

 

 その話し合う様子を見ていた鴨川は神妙な顔つきを浮かべていた。

 

 この艦娘達はボクシングというものに関して実に冷静に分析し、互いに意見を交換している。

 

 向上心…、それもある。もはや、この環境と設備を見て鴨川は思わずこんな風に思った。

 

 

「…貴様らは…試合にはでらんのか…?」

 

 

 いや、気がつけば声に出ていた。

 

 モニターで夕立の試合を観戦していた艦娘達は一斉にその声のした方に振り返る。

 

 そこには見慣れない男性の姿。そして、その横には自分達と同じ艦娘である大和の姿があった。

 

 周りの艦娘から長門と呼ばれた娘はその声がした主に訪ねるようにこう声を上げる。

 

 

「…貴方は…?」

 

「俺の名は鴨川源二…。まぁ、少しだけ貴様らと話がしたい、時間をもらえるか?」

 

 

 それが彼女達と鴨川源二との邂逅であった。

 

 



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ROUND3 始動

とりあえず投稿ですねー、試合いつかな…(白目


 

 

 早朝、ショートランド鎮守府。

 

 

 時刻は朝7時半頃だろうか、朝早く、鎮守府に敷かれた道をひたすら駆ける人影が4つ。それを追うように一台のバイクが追い込みを掛けている。

 

 そう、その人影は彼女達、艦娘だ。

 

 その後ろから追い込みをかけるバイクに乗っているのは鴨川。彼は声を張り上げて彼女達を奮起させるように言葉を浴びせる。

 

 

「おらぁ!走れ!走れい!!ボクシングに必要なのは基礎体力だ!馬車馬の様に走るのが基本!さぁ!まだ距離はあるぞォ!」

 

「ふ、ふぁい!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

(鬼です…鬼が居ます…)

 

 

 ひたすら長い長いロードワーク。鎮守府にある道を鴨川からバイクで追われ彼女達はひたすら走る。

 

 身体の節々が悲鳴を挙げるが、それでも構わず走らされる四人。

 

 大和、長門、赤城、祥鳳は息を切らしながら必死に足を動かし、ペースを上げたり落としたりしながら駆ける。

 

 

「さぁ!ラスト直線だ!日本帝国海軍の軍艦である貴様らの根性!俺に見せてみろォ!」

 

「ひ、ひぃ…!」

 

「…まだ!まだよ!……!」

 

「もうちょっと!もうちょっとです!」

 

「…くっ…!こんなところで!…負けられるかぁ!」

 

 

 ラストの追い込みをかける鴨川の声に呼応するようにペースを上げて必死に駆ける四人。必死な形相で全力で目標であるジム前を目指す。

 

 そんな彼女達の様子を後ろから見ていた鴨川は少しだけ笑みを浮かべその様子を冷静に判断していた。

 

 それは彼女達の向上心と対抗心、そして、負けん気と根性。

 

 

(ほう…こやつら…意外と骨があるな…女と思って加減も考えたが…。様子見で現役の時の俺が走った距離に近いものを走らせた…しかし誰一人脱落しとらん。これはひょっとするかもしれんな…。)

 

 

 駆けて駆けて駆けまくる。足を鍛え、さらに無呼吸での打ち合いに負けない体力づくり、ボクシングに必要な要素がこの走ることだ。

 

 体力が限界を超えてさらに進化させる。

 

 努力という果てない積み重ねだが、それができるできないとでは明らかに選手としての完成度が違ってくる。

 

 

「よし!ロードワークが終わったら次は打ち込みだ!貴様らの拳の力を見る!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…も、もうですか…?」

 

「…さ、流石にきついな…これは…しかし!これで強くなるなら…!はぁ…はぁ…」

 

「はい!頑張ります!」

 

「…慢心しては…はぁ…はぁ…ダメね…げほげほ」

 

「よし!その意気だ!行くぞ!」

 

 

 そして、鴨川はジムの中に入った四人を引き連れサンドバッグのあるところへと連れて行く。

 

 

 彼は、この鎮守府に流れ着いた時に彼女達に

 話をしていた。それは、自分がこの鎮守府で会長を務めるという旨だ。

 

 ただ、女子ボクシングなんてものは鴨川も見たことはないし、何より、自分のスタイルが彼女達の成長に繋がるかどうかもわからない。

 

 

『貴様らの熱意は、先ほどのモニターを通して試合を見る姿勢でよくわかった。ならば、それを燻らせているのを俺は黙って見てはおれん…。戦いの場は俺が用意してやる』

 

『ほ、本当ですか!?』

 

『俺もそうだったからな…貴様らが強くなりたいのなら俺が指導してやる。そうだな…まずは基本的な構え方からだ』

 

 

 こうして、鴨川は本格的に大和達のボクシングの指導に立ち会う事になった。

 

 かつて、全盛期だった自分が戦争によってそれを不意にしてしまった。だから、そんな思いをさせたくはない。

 

 ボクシングができない辛さはよくわかるし、そして、何かの縁でかつて日本を護るために戦争を共に戦った艦が目の前にいる。

 

 そして、ボクシングを見て、トレーニングを自分達で考えて、いつか、自分がリングに上がり戦う事を夢見る彼女達の意思と熱意。

 

 それが鴨川の鉄の意志を持つ心を動かしたのだ。

 

 

 サンドバッグの前についた鴨川は大和、赤城、長門、祥鳳を呼びそこに並ばせる。

 

 

「今からそれぞれ拳を握りこのサンドバッグを思いっきり殴ってもらう」

 

「サンドバッグを…ですか?」

 

「そうだ、貴様らは独自で鍛えたという拳を見せて貰う。構え方とストレートの殴り方は先日教えたな?、それじゃ階級ごとに殴って貰おうかまずは…祥鳳、貴様からだ」

 

「え…?あ…は、はい!」

 

 

 祥鳳は鴨川に呼ばれ慌てた様にサンドバッグの前にグローブをはめて立つ。

 

 そして、先日、鴨川に教えられた様に拳を固めてギュとグローブに力を入れる。そして、自分で構え方を思い出しながらサンドバッグに対峙した。

 

 

「で、では行きます!はぁ!」

 

 

 全身の力を振り絞って、祥鳳は吊るされたサンドバッグに向かい渾身のストレートを思いっきりぶつける。

 

 腰、肩、腕、と力が込めらた祥鳳のストレートはサンドバッグを捉え、サンドバッグは大きく音を立て後ろに飛ぶ。

 

 

(綺麗なフォームだ、纏まっていてそれでいてストレートに無駄がない。体の芯も捉えている…がしかし、難点と言えばまとまり過ぎてるところだな、力は…割とあるのか?グローブの跡が残っている…)

 

 

 鴨川は冷静に祥鳳の拳を分析して、そう感じた。

 

 彼女の拳には無駄ない軌道と綺麗なフォームが備わっていて実に良いストレートだと言えるだろう。しかし、このストレートにカウンターは正直合わせやすいとも感じた。

 

 だが、特筆する点においては構えてから打つまでの動作が速く、回転も拳の破壊力も申し分ない。

 

 あとはこの娘の意思の強さとこれから磨いてゆく技術の問題だ。

 

 

「よし、良いものを持っているな…祥鳳と言ったか?貴様。」

 

「あ…はい、そ、そうです」

 

「…まぁ、合格点だ。次は…赤城、貴様だ構えろ」

 

「え…?…は、はい!…えっとこうですね」

 

 

 そう言って、赤城は支持されたように拳を握りしめてサンドバッグの前に立つ、その構え方は独特で亀のように両手を上げたガッチリとしたものだ。

 

 鴨川はその赤城の構え方に疑問を抱き、思わず質問を投げかける。

 

 

「ん…?それは…?」

 

「あ、ピーカブースタイルですね、私達は全員、インファイターなんですよ、私だけはアウトサイドのスタイルの両方できるのですがね」

 

「ほう…二種類のスタイルの使い分けが出来ると?…」

 

「えぇ、私の師匠の直伝で教えてくださったのです、それで…サンドバッグでしたよね?」

 

「そうだ、行け!」

 

「はい!では一航戦!赤城!いきます!はぁ!」

 

 

 赤城は拳に力を入れて思いっきりサンドバッグにそれをぶつける。

 

 そして、それを受けたサンドバッグは宙に浮くと激しく音を立てて揺れた。鋭い右に激しく揺れるサンドバッグ。鴨川は思わず息を飲んだ

 

 

(こいつ!…腕に無駄な力を入れずサンドバッグに鋭い右を入れやがった!しかも、早い上に強打!…なるほど、これは凄い逸材かもわからんな)

 

 

 鴨川は赤城の振るう拳を見てそう確信する。

 

 彼女の鋭い拳にはおそらく何者かの教えがあるだろうが、それにしても拳を握って打つまでの動作に基本に忠実に、そして、綺麗なまでの軌道がまるで弓道で的に矢を放つ様な一連の芸術的な動作を思わず思い浮かべてしまうようなそんなストレートだった。

 

 これに加えてさらにアウトサイドなボクシング展開もできるとなれば、逸材と言っても過言ではないだろう。

 

 そして、赤城のサンドバッグの殴り方を見た鴨川は次に待つ長門の方へと視線を向ける。

 

 

「次は…長門、貴様だ…」

 

「了解です。会長…」

 

 

 そう言って、拳を強く握りしめて構えを取る長門。

 

 そして、鴨川は静かにそれを見つめて観察する。この後、鴨川源二は彼が見た中でも忘れらない光景を二度目にすることになる。それは彼が求めるボクシングに近いもの…。

 

 彼はユキとの誓いを果たす道しるべとなるものだと…鴨川源二はその光景を見て思う。その一人が…彼女、長門という艦娘だった。

 

 



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ROUND4 天賦

さてさて、投下しますん


 

 その日は、ショートランドジム会長鴨川にとって忘れられない日になった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!はぁ!」

 

 

 長門から放たれた右ストレートは鴨川の教えた通りに腰の回転も腕の振りも、そして、角度も文句の付けようがないほど完璧なものだ。

 

 そんな彼女が放ったそれは小さく、鋭く、そして、何より豪快さが込められたものだ。芯に響くようなパンチ、それは、吊るされたサンドバッグの中央に吸い込まれるように入ってゆく。

 

 

 ズドンッ!と言う音に加えて、激しくサンドバッグが揺れ上空に舞う。その威力は類を見ないほどの衝撃でジム内に音が鳴り響いた。

 

 サンドバッグは音を立ててしばらく左右に激しく揺られたあと、ゆっくりとその動きを止める。

 

 長門が放ったストレートの後にはくっきりと拳の跡が残り、捻れていた。

 

 

(…な、なんという破壊力がある拳だ…!こんな拳を見るのははじめてだ…。くっきりとサンドバッグに跡が残ってやがる)

 

 

 鴨川は思わずその光景を見て驚きを隠せずにいた。

 

 その拳は…そうまるで自分が放った事のある鉄拳に近い。

 

 鴨川は見つけたのだ。逸材を…自分の教えたボクシングを体現できるボクサー。その一人が長門だった。

 

 

「見事なストレートだ…。基本に忠実、俺が教えた通りに力が伝わる様な電光石火の様な右だ。小娘」

 

「…は…はい!ありがとうございます!会長!」

 

 

 長門は嬉しそうに笑みを浮かべ、鴨川の賞賛を素直に喜んだ。

 

 彼女を含め、大和達は指導者がいない中で自分達で他の艦娘の試合を見て研究し、独自で様々なトレーニングをしてきた。

 

 例え自分達が試合ができなくても、いつか来るその時のために…。長門は鴨川のその言葉に自分達が今まで積み重ねていたものが無駄で無いという事を褒めてもらえた気持ちだったのだ。

 

 思わず彼女の右手には力が入る。これからこの会長と共に試合が出来ると考えると心が踊った。

 

 そして、もう一人の艦娘…。鴨川は最後にその艦娘の名前を指名し呼ぶ。

 

 

「…次は…大和、貴様だ」

 

「は…はい!…えっと…頑張ります!」

 

「それじゃ構えろ、そしてサンドバッグ目掛けて貴様の渾身を込めた一撃を俺に見せてみろ…」

 

「はい!大和!いきます!」

 

 

 そして、最後は…浜辺で鴨川が助けられた大和。

 

 彼女は最初にボクシングについて鴨川にこの鎮守府について話をした。自分達の事とこの鎮守府に会長がいない事。

 

 鴨川が最初に出会った艦娘。

 

 彼女は鴨川に言われた通りにサンドバッグの前に拳を構えてから、自分の拳を強く握りしめる。

 

 

(ん…なんだ…この娘から出る雰囲気は…)

 

「はあああああああああああああ!」

 

 

 大和は全身の力を使い、構えを取ったまま身体を捻り、渾身の力を込めた右をサンドバッグに向けて全力発射した。

 

 それは、例えるならば一連の動作がまるで砲撃のそれだった。

 

 大和が付ける分厚いグローブはまるでまっすぐ伸び、空気を切り裂くような錯覚をさせる。

 

 鴨川は彼女の身体から凄まじい程の力を感じる。これはまるで、そう、一撃で全てを無に返すに等しい、砲撃だ。

 

 大和が放った拳がサンドバッグに叩きつけられる。しかし、その拳が直撃した直後、空気が止まった。

 

 いや、止まったのではない。音が聞こえ無いのだ。

 

 

(…なんだ…と…音が聞こえない!…馬鹿な!)

 

 

 鴨川はその大和のストレートに思わず戦慄した。

 

 そして、その音が聞こえ無いまま、サンドバッグは激しく吹き飛び、そして、宙に舞ったサンドバッグは天井に激突し音を立てて下に落ちる。

 

 大和が放った拳がサンドバッグに直撃してからその20秒ほど経過した時だった。

 

 パァン!っという何かが破裂したようなものすごい炸裂音がジム内に響き渡った。

 

 

(……!まさかこいつが打った拳の音か!これは…今になってだと!)

 

 

 鴨川は慌てた様に大和が放ったストレートを受けたサンドバッグをすぐさま確認する。

 

 そのサンドバッグには穴が空いていた。しかもただの穴ではない。拳の跡がわかるようにくっきりと鮮明に残っているのだ。

 

 そして、その鴨川の確認したサンドバッグの穴が空いた箇所からは詰め物がポロポロと落ちる。

 

 鴨川は感じた。この拳は世界にも通用する可能性を秘めたものがあると。いや、これはまさしく天賦の才と言ってもいいだろう。

 

 一撃必殺、試合を根底からひっくり返してしまう拳。

 

 

「…大和…お前…この拳…」

 

「あ…あはは…す、すいません!提督!」

 

 

 大和はすぐに鴨川の言葉に反応し、頭を下げる。

 

 だが、鴨川はそんな大和を見ながら冷静に彼女のボクサーとしての能力について深く考えていた。

 

 

(腕の振り、速度、そして破壊力は類を見ないほど卓越している。これは本当に砲撃の様な一撃打だ…)

 

 

 そうまさに、言うならば砲撃。

 

 鴨川はそのストレートがいかに破壊力があるかという事を考えた。だが、逆に言えばこの威力を放つという事はカウンターを食らえばそれだけ己に大ダメージを受けかねないという事だ。

 

 

(下手すれば相手からのカウンターで命を落としかねんぞ…自分の拳がこれだけ強力な武器となるなら逆も然りだ。まさに諸刃の剣…)

 

 

 この渾身の右ストレートは試合であまり見せれない事を鴨川は感じた。もし、このストレートを研究され、タイミングを覚えさえすればそれはすなわち大和の選手生命に関わるからだ。

 

 だが、この右ストレートがこの艦娘。大和にとっての最大の武器。

 

 鴨川はこの右ストレートを見て、こう感じた。試合を決定する場面で彼女がこの拳を振るうに値する名前を。

 

 第二次世界大戦中に戦艦大和に積んである最大の火力と破壊力、そして、長い射程距離の砲台ちなんで

 

 鴨川は大和のその一撃を大和砲と名付けた。

 

 

「大和…その全力の右ストレート、あまり試合では見せるな、いいな? 使うのは試合を決める時とここぞという時だけだ。」

 

「? は…はい、提督!…ん?でもそれじゃ試合は…」

 

「別に右ストレートや左ストレートは使っても構わん、しかし、全力のストレートは避けろと言っておるのだ。その一撃、確かに化け物じみているし、まさに天賦の才に等しいが、貴様、それをカウンターでもらった時はどうするんだ?」

 

「…あっ…」

 

「そういう事だ、なにも、試合で手加減しろと言っているわけではない、それはとっておきにしておけと言っているのだ。わかったな?」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

 

 大和はその鴨川の言葉に素直に頭を下げて、お礼を述べる。

 

 ここの鎮守府にいる艦娘が赤城という例外を除いて全てインファイター、祥鳳も長門、大和には威力は劣るものの良いものを持っていると鴨川は感じた。

 

 サンドバッグによる各自の力量の分析はまさに成功だと言っていいだろう。

 

 

「さぁ!次はミット打ちだ!! 呼ばれたやつから来い!それ以外はサンドバッグを叩いた後、縄跳び三百飛びだ!…サンドバッグを叩く時は左ジャブのみ!いいな?」

 

 

 鴨川の指示に対して各自艦娘から素直で元気良い、はい!という返事が聞こえてくる。

 

 本格的に鴨川が率いるこのショートランドのジムと彼が指導する艦娘達が来るべき試合に向けて動き始めたのだった。

 

 



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ROUND5 指導者


※一応、WBK(ワールドボクシング艦娘協会)、

WBS(ワールドボクシングシップ)の略ですね、なんか違和感感じるかもですが仕方ないですね、笑

うんなんか良い団体名が思いつけば是非教えてください、

あと駆逐艦級の艦娘も応募したいと思いますので、要望があれば感想に頂けたらなと思います。

ではどうぞ!


 

 

 ショートランド鴨川ジム。

 

 

 彼女達艦娘達にボクシングを指導し始めて大体、四ヶ月ほど経った。きつい鴨川の指導に耐え抜き、彼女達は必死の思いで強くなるために努力した。

 

 ある時は胃のなかのものを吐き、ある時は倒れ、ある時は筋肉痛で歩くこともままならない日もあった。

 

 だが、身体もそれに慣れるように順応し、そして、日にちはいつのにか四ヶ月も過ぎていたのだ。

 

 ある程度のボクシングの技術もスタイルも肉体も出来上がってきた頃だった。

 

 鴨川は艦娘全員を呼び出してある発表をしはじめた。そう、ついに決まったのだ試合が。

 

 

「では発表する…。アジア戦艦級艦娘新人王トーナメントに大和の出場が決まった。そして、長門、貴様には東日本戦艦級艦娘新人王トーナメントの試合を組んだ。二人とも試合に向けてより一層努力するように、以上だ。」

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ提督、何故私と大和が違う新人戦に登録されているんだ?」

 

「…それじゃうちのジム同士でぶつかるだろう、別に当たるのは構わんがセコンドは今俺だけだ。そう考えると登録ができなくなる。そういう事だ」

 

「なるほど…」

 

 

 そう説明する鴨川の言葉に納得するように長門は頷く。

 

 しかし、大和が登録したアジア戦艦級艦娘新人王トーナメントはどちらかといえばレベルが1段階上がるトーナメントだ。

 

 世界から他の艦娘が出場することもある。下手をすれば大和が一回戦で負けるなんて可能性もあるのだ。

 

 別に東日本戦艦級トーナメントもレベルは高いのは間違いはない、しかし、あくまでそれは日本国内の戦艦級相手に戦う新人王決定戦であってアジア新人王とは明確な差があった。

 

 

(正直な話、大和が長門、どちらを出場させるか迷った。…しかし、破壊力の天賦の才は間違いなく長門よりも大和の方が上手だ。長門のポテンシャルは高いが…まだ奴は経験を積ませる必要がある…大和もそうだが…うむ…難しい問題だな)

 

 

 同じトーナメント登録ができれば良いが、先程の通りそれではセコンドは二人いる必要がある。

 

 鴨川は仕方なく今回のトーナメントを分けることにしたのだ。正直な話をすれば大和にも国内の新人王トーナメントで経験を積ませるのが先である。

 

 

(まぁ…例え負けようとも次に繋がればそれが幸いだ。まぁ…負ける気は毛頭ないがな)

 

 

 少しばかりトーナメントの発表に動揺していないかと心配になり鴨川は視線を大和に移す。

 

 しかし、どうやら鴨川の心配は無用なものだったらしい彼女は気負いするどころか逆に気合いが入ったように目を輝かせていた。

 

 この様子を見れば大和に心配は不要だと感じる。

 

 

(…どうやら試合できる嬉しさの方が勝ってるみたいだな、どうなることやら)

 

 

 鴨川は大和の様子に内心心配しながらも、安心感を感じ少しだけ笑みがこぼれた。

 

 しかし、こんなところでのんびりしている暇は無い、大会まで残り少ないのだ。できることをやらなければならない。

 

 

「よし!報告は以上!全員練習に戻れ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 こうして、鴨川ジムの新人王トーナメントに向けて更にジム内に気合がこもった練習の日々が始まりを告げた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから大体、二週間程日が経ったある日

 

 

 鴨川ジムの扉の前にある人物がこの場所を訪れていた。その格好は着物、礼儀正しそうな物腰に落ち着いた雰囲気の娘。

 

 しかし、その身に纏う雰囲気はどこか威圧感があり、只者ではない事を物語っていた。

 

 

「…なるほど、ここが…あの娘がいるジムね?…ふふふ、元気にしてるかしら?」

 

 

 そう呟きながら、彼女は鴨川ジムの扉に手を掛けてゆっくりと開く。

 

 もう数十年前になるだろうか、このジムには今まで来ていない。かつてはこのショートランドに所属していたが彼女は他の鎮守府に移籍する形でここから出て行った。

 

 そして、この度、彼女はこのショートランド鎮守府に戻ることにした。理由はある娘がこの鎮守府のボクシングジムに所属する事になったからだ。

 

 鴨川ジムの扉を開いた彼女はいろいろな想い出を思い出し、柔らかい笑みを浮かながらジムの中に聞こえるほどの声でこう告げ始めた。

 

 

「もし?誰かいらっしゃられますか?」

 

「ん…?誰だ?入門希望者か?」

 

「…あ…!…」

 

 

 その声がジムの中に響いた瞬間、振り返った艦娘の中で、1人サンドバッグを打っていたある艦娘の手が止まった。

 

 それは空母の赤城、彼女は嬉しそうに目を輝かせながら開いたジムの扉をまっすぐ見つめている。

 

 そして、赤城は扉を開き現れた娘を見てこう言いながら駆け寄っていった。

 

 

「お師匠様!待ってました!待ってましたよ!」

 

「あ、あら…、も、もう赤城ったらちょっと落ちつきなさい」

 

 

 すぐさま、駆け寄ってその艦娘に抱きつき嬉しさを露わにする赤城に抱きつかれた師匠と呼ばれる娘は苦笑いを浮かべそれを抱きとめる。

 

 その様子を見ていた鴨川は唖然とし、目を丸くしながら、彼女達の元にゆっくりと歩を進める。

 

 

「…ん?赤城、誰だこの娘は?」

 

「あ、…自己紹介が遅れました。私、鳳翔と言います。この娘達と同じ艦娘です」

 

「そうか、で?入門希望者か?」

 

「か、会長!知らないんですか!?鳳翔さんって言ったら…」

 

「なんだ?」

 

 

 先程、鴨川からミット打ちの指導を受けていた大和が会話に参加し、彼が鳳翔を入門希望者と言った事について慌てた様子で仲介に入る。

 

 そして、そんな大和に代わり、鳳翔に抱きついた赤城が誇らしげに彼女について鴨川に語りはじめた。

 

 

「会長!鳳翔さんといえば、元WBK世界軽空母級チャンピオンですよ!そして!同時に元WBS、世界軽空母級チャンピオンでもあります!」

 

「あらあら、やだわそんな昔の話なんて…うふふ」

 

「も、元世界チャンプだと?」

 

「そうです!日本の艦娘が成し得なかった前人未到の軽空母級二団体世界戦を制覇した軽空母級チャンピオンの方です!そして、私のお師匠でもあります!」

 

 

 そう話す赤城は誇らしげにそう鴨川に告げながら嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべている鳳翔をギュッと抱きしめている。

 

 だが、鴨川はそんな元世界チャンピオンである鳳翔が何故うちのジムに来たのか、それが疑問だったのだ。

 

 どうやら彼女は世界チャンピオンと言ってもこの鎮守府に所属している艦娘でないことは確かだ。今更、自分の指導を仰ぎに来た様子でもない。

 

 すると鳳翔は口を開いて、鴨川にこう話をしはじめる。

 

 

「…あ、それで、鴨川会長…でしたっけ?私がここに訪れたのはですね、私は六年前に現役を引退しまして、一年程、赤城達の一航戦のコーチをやっていたのですよ」

 

「…ほう?…赤城達の…それでボクシングスタイルも他の娘達より優れていたのか、納得がいったぞ、しかし赤城達?もう1人居るのか?」

 

「はい、もう1人は加賀と呼ばれる空母の娘の面倒を…。おっと話が逸れましたね? それで私がここに来た理由ですが赤城がデビューすると聞きましてこのジムでコーチを務めさせてもらおうかと…」

 

 

 鳳翔はにこやかな笑みを浮かべたまま鴨川にそう告げる。

 

 しかし、それならば納得がいかないこともある。それは何故今まで赤城のコーチをしていなかったのかという事。

 

 それについて鳳翔は鴨川に事情を柔らかい口調でこう話し始めた。

 

 

「そうですね、ここ数年ほどはコーチをしながらジムを渡り歩いていました。私は元世界チャンピオンなのですが、どうやらここの鎮守府の前提督から嫌われていたみたいで今まで鎮守府に近寄る事すら許されなかったのです」

 

「おかしな話だなそれは…」

 

「どうやら、艦娘である私がコーチをして指導をするのが気に入らないみたいで…。二年前に前提督がいなくなっても固執があると思いしばらくは顔を出すのを迷っていたのですが、先日、赤城から連絡がありまして」

 

「俺が…ジムで会長をやっていると?」

 

「そうです♪厳格な会長でとても厳しい練習をさせられているけれど人柄的にも良い会長だとお聞きして今回足を運ばせてもらいました♪」

 

 

 そう言って鳳翔はにこやかに笑みを浮かべたまま柔らかい手を出して鴨川の手にそっと添えてそう告げる。

 

 鴨川はそんな鳳翔の話を聞きながら今のジムの様子を考えて改めて思案していた。

 

 確かに自分のジムでは指導係が増えるのはありがたい。しかも、世界を経験した元世界チャンピオンだ。これほど優秀なコーチはいないだろう。

 

 加えて、指導してきた赤城についても詳しい。しかも、彼女と同じ軽空母の祥鳳の指導についても的確なアドバイスができるだろう。

 

 

(俺はあくまでもインファイトや自分に似たタイプのボクサータイプの指導には長けていると自負はあるがアウトサイドは完全に猫田みたいなやつが指導した方が絶対効果的だ。こんなありがてぇ話はねぇ)

 

 

 鴨川はいろいろな事を考え抜いた結果。

 

 コーチ、セコンドとして鳳翔を鴨川ジムの指導員に迎え入れる事に決めた。これで、鴨川自身の指導の労力やセコンドの負担がだいぶ減ると考えるとなお良い決断であると鴨川自身も納得した結果だ。

 

 鳳翔はその言葉を聞くと嬉しそうに微笑み、鴨川の手を握ってこう告げる。

 

 

「それじゃこれからよろしくお願いしますね♪会長♪」

 

「おう、こちらこそよろしくお願いする」

 

 

 



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ROUND6 スパーリング

 

 

 アジア艦娘新人王トーナメント

 

 

 よもや、アジア圏内だけでなく世界からも手練の新人艦娘ボクサーが参加を表明するトーナメント。

 

 大和はその試合を一週間前に控え、鴨川と共に相手選手のDVDを見ていた。最初は鴨川もDVDの使い方がわからなかったがそこは大和がわかっていた様子で今はプレーヤーを使い試合を見ている所だ。

 

 

「相手選手は戦艦ル級、なかなかの強者らしい」

 

「…戦艦ル級…」

 

「ボディブローからの崩しからストレートまでの動作。そしてその技のキレと破壊力から深海の破壊神と呼ばれている…これまでデビュー戦から3戦2勝、なかなかの勝率だ」

 

「しかし…黒星が一つありますね?」

 

「あぁ…これは、貴様もいずれ当たるだろうから教えておいてやろう、戦艦霧島。奴に黒星を付けたボクサーだ」

 

 

 鴨川は淡々と大和に戦艦ル級を倒した艦娘の名前を告げる。すると、彼女の表情が驚愕なものへと変わる。

 

 

「霧島…ですか…」

 

「聞いたことはあるみたいだな?そうだ、戦艦霧島…。そうこれまで4戦4勝の強者だ」

 

「彼女もこの大会に?」

 

「そうだな、ル級に勝ち、そして、二回戦を勝ちあがれば三回戦で当たることになるだろうな、とりあえず今はこいつだ」

 

 

 ひとまず、鴨川は一通り対戦相手の情報を大和に教えるとDVDに写る戦艦ル級を彼女に示す。

 

 彼女の相手は今はDVDに映る相手選手、相手選手に黒星を付けた霧島ではない。

 

 そう今回の目的はあくまでもル級のボクシングスタイルについて研究する事、鴨川はそれについての話を大和にし始める。

 

 

「…右ボディからのアッパー、そして、ジャブのフェイントからの強力な右ストレート、お手本のような戦い方だ」

 

「しかし、打ち合いになろうとすると避けますね?」

 

「…綺麗な逃げ方だ。下手な打ち合いは苦手なんだろう、しかし隙を見せれば詰められ、あの攻撃の餌食だ」

 

 

 そう言って、鴨川はジッとル級の攻撃パターンを見極めながら大和に説明する。

 

 決して、簡単な攻撃はない、戦艦というだけはあって破壊神の名に恥じない戦艦ル級は豪打、一撃を持っている。

 

 おまけに大和は今回がデビュー戦で経験が彼女よりも圧倒的に少ない。試合の雰囲気に呑まれてしまわないかという懸念も鴨川にはあった。

 

 

「それではこの一週間は、赤城とのスパーリングを挟みながら試合に慣れる事。そして、体力と肉体を徹底的に鍛え備えるぞ!いいな!」

 

「はい!会長!」

 

 

 こうして、鴨川と大和の長いようで短い、アジア新人王に向けての特訓は始まった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 スパーリング。

 

 実践を仮定した上での練習試合。

 

 大和は赤城とのスパーリングを試合に向けて身体を鍛えながらひたすら行なっていた。赤城にアウトサイドスタイルを中心に戦ってもらう対戦艦ル級との試合を仮定としたスパーリングである。

 

 だが、この試合である大和の欠点を鴨川は見つける事になった。

 

 

「どうしたぁ!もっと中に入り込まんか!」

 

「…くっ…!…えい!」

 

「…ふっ…」

 

 

 中に踏み込んだ大和の右は軽々としたステップを踏む赤城に難なくかわされてしまう。

 

 そう、大和の欠点とは遥かにボクサーとしての戦闘経験が足りないことだ。だからこそ、アウトサイドのボクサースタイルについていけない今の状況ができているのである。

 

 鴨川はそれを見て思わず顔をしかめる。おそらくは相手もある程度の戦闘経験を踏んでいる猛者だ。大和が試合をこなしていないところを必ずついてくる。

 

 アウトサイドボクサーを無理やりインファイトに持ち込むなんてのは中々出来ることではない、ましてや、経験が少ない大和なら尚更だ。

 

 

 

「右!来るぞ!ガードをしっかり固めろ!小娘!」

 

「は、はい!」

 

「赤城、わかってるわね?」

 

「…了解です!コーチ!ふっ…」

 

 

 

 その鳳翔とのやりのりの直後、ガードをしっかりと固めた大和の視界から赤城の姿が消える

 

 大和はその赤城の素早く、小さく纏まった動きについていけない、気がつけば右から…

 

 

「…くっ…はや!…ぐぅぅ!」

 

 

 ボディに右フックを突き刺されていた。

 

 しかし、大和はそれだけで根を上げるような軟弱な鍛え方はしていない、鴨川に会う前から彼女も身体は鍛えていたのだ。

 

 それに加えて、鴨川の特訓に耐えた彼女の腹筋は鍛え上げられている。並のフック一つでは折れない。

 

 

「この!」

 

「あぶっ!…ひぇ!?」

 

 

 大和のお返しとばかりに振り下ろされた豪腕ストレートが赤城の頬を掠める。

 

 素早く反応した赤城だが、空を裂くその凄まじいストレートを間近で見て思わず恐怖から声を上げた。

 

 だが、それだけで大和の反撃は終わらない、すぐさま体制を整えた彼女から電光石火のワンツーが赤城の顔面に向かい放たれた。

 

 しかし、赤城はこれが見えていたのか首を小さく振りグローブで大和のストレートの軌道を変えて最小限の動きでそれを躱す。

 

 だが、大和のストレートに手が触れた瞬間に赤城の表情が更に変わった。

 

 

(…っ痛ぅ…!…なんてストレート!?あんなの浴びたらひとたまりもないわ!?)

 

「赤城!!下がるな!!」

 

(そりゃ無茶ですよ、お師匠さん)

 

 

 赤城は鳳翔からの激に苦笑いを浮かべ、大和から間合いを取った後彼女の方へ振り返る。

 

 だが、その眼には退くなと言わんばかりに赤城を真っ直ぐに見据える鳳翔の目があった。

 

 つまり、大和の拳に退かないまま懐に入り込んでいけと告げているのだ。

 

 

「行け!小娘!畳み掛けろぉ!」

 

「はい!会長!」

 

 

 だが、彼女達のやりとりなど御構い無しに大和は鴨川の指示で真っ直ぐ赤城へと突っ込んでゆく。

 

 ピーカブースタイルの大和はそのまま赤城に向かい直進、そして、構えた右拳を思いっきり

 

 

「はぁ…!!」

 

 

 彼女のガードの上から右を突き落とした。

 

 ガードをしていた赤城はロープまで思いっきり吹き飛び、グッとその衝撃を耐える。

 

 ガードをしていたのか、はたまた素でダメージを受けたのかバカにならないほどとてつもない威力の拳だった。

 

 彼女の唇から血が滲み出る。

 

 

「ほら、言わんこっちゃないわ…早く行きなさい」

 

「…はぁ…結局そうなりますよね…今のは本当効きました」

 

 

 鳳翔の言葉に納得したように赤城は頷く。

 

 そう、わかっていた、ボクシングをやってる以上殴られるのは当たり前、全部の拳を捌けるわけは無い。

 

 だから鳳翔は敢えて飛び込み、赤城に大和の隙をついて打てと言っていたのだ。

 

 

(足に来ますねあの拳…ガードしてなかったら首から上が無くなってましたよ、ほんと…。ですが…)

 

 

 赤城は再びガードを突き出すように出して構える。

 

 だが、先ほどまでと彼女の雰囲気が一変していた。そう、彼女はまだ本来のスタイルを出していなかった。

 

 赤城はどうしたことか、突き出すように出したガードをその後ゆっくりと…

 

 

「さぁ…いきましょうか…」

 

 

 下げた。そう、彼女が取ったスタイルはノーガード。

 

 これには大和のセコンドについてる鴨川も目を見開いて驚きが隠せなかった。

 

 それはそうだろう。大和のような破壊力のある拳を間近で見ておきながらそれに臆するどころか目を据えてノーガードで立ち向かおうとしているのだどうみても正気の沙汰ではない。

 

 

(馬鹿な!正気か!階級が違う艦娘同士のスパーだぞ!ヘッドギアがあるといえど大和の拳の威力を考えれば壊れる可能性もある…!鳳翔!)

 

 

 鴨川は驚愕の表情を浮かべたまま、鳳翔を見る。しかし、鳳翔は何事もないように赤城を見つめるだけ、おそらく彼女も承知の上での判断なのだろう。

 

 静かな眼差しで赤城を見つめる彼女の姿を目視した鴨川はそこで悟る。この師妹関係にはとても言い表せないほどの信頼があると。

 

 

(…信頼があるのか…それほどまでの…。ならば何も言うまい…)

 

 

 だからこそ…鴨川は構える大和に向かいこう告げる。

 

 

「小娘!いけ!貴様!ガードを下げられておるのだぞ!」

 

「は、はい!」

 

(おそらく何かある…だが、このままの訳にはいかん…攻めなければ勝てないのがボクシングだ)

 

 

 鴨川は予想している事を承知の上で大和に攻め立てる様に促す。

 

 赤城の纏う空気が変わり、そしてスタイルも先ほどとはかけ離れたものだが、それは撃ちあわなければわからない事。

 

 大和は鴨川の言葉に従い。ガードを下げた赤城に向かい間合いを詰める。

 

 

「はぁ!」

 

 

 そして、容赦無く放たれる右ストレート。

 

 だが、次の瞬間、ストレートを放った彼女とセコンドにいる鴨川は信じられない光景を目の当たりにする。

 

 

「…ふっ…」

 

「…え?」

 

 

 パシンという軽い音。いつの間にか赤城は大和の懐に飛び込んでいる。

 

 下げられていた赤城の左手によって大和の右ストレートの軌道が変えられたのだ。

 

 いや、厳密に言えば赤城はガードをすべて下げたわけではない、少しだけ下に下ろしただけなのだ。

 

 

(なんだと!大和のストレートを片手で…!)

 

 

 これには鴨川も驚愕を隠せない。

 

 しかし、赤城のセコンドについている鳳翔は何事もなかった様に平然とした表情のままその光景を見つめていた。

 

 だが、それだけではない。力を込めた大和の右ストレートは空振り。そして、その瞬間、赤城の眼光が光る。

 

 

(…あの娘の本来のスタイル、それはガードをするのではなく敵の懐に入り込むノーガードに見せかけた超反射の受け流し。ガードを下げたのではなく相手の拳を弾くために特化したあの娘だけの戦法…そして…)

 

 

 赤城の握られた拳に力がこもる。

 

 鳳翔はその光景を懐かしむように見ていた。かつて、自分が面倒を見てきた2人の正規空母。愛弟子。

 

 そのボクシングはかつての自分を超えるかもしれない才能とそれができる天眼を彼女、それを一航戦赤城は持っていた。

 

 

(…これが…私の!!)

 

 

 彼女の握られた拳はストレートを外した大和に向かい真っ直ぐに突き抜ける様に飛んで行く。

 

 その光景を目の当たりにした鴨川はマズイといった表情を浮かべるが大和に声をかけるのは既に遅い出来事だった。

 

 パァン!と凄まじい炸裂音がリングの中で木霊する。

 

 次の瞬間には、ストレートの勢いに乗った大和の身体に合わせて赤城の綺麗な右ストレートが彼女の顔に突き刺さっていた。

 

 そして、次の瞬間、ガタン!と音を立てて大和の膝がリングの上で折れる。

 

 

「これが私の得意な鳳翔さん直伝の『流星カウンター』です」

 

 

 鮮やかに決まった赤城のカウンター。

 

 それを見て悟ったのか、鴨川は静かに瞳を閉じる。

 

 そう、それはこのスパーリングは完全に大和のKOだという事を理解していたからだった。

 

 

 

 



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ROUND7 大和の拳

 

 鴨川は膝をついて倒れた大和を見て勝負があった事をすぐさま悟った。

 

 それはただのカウンターを食らって倒れただけではない。右ストレートに右ストレートのカウンターを完全に合わされたからだ。

 

 利き腕同士のカウンター、立てるほうがおかしいのだ。

 

 

(…あの赤城のスタイルを初見で見抜くなど俺にも出来ん。なるほど、階級差があれどあのカウンターならば確かに関係はない…か)

 

 

 鴨川は冷静に今回、大和がダメージを負った赤城のカウンターについて冷静に分析する。

 

 

(あの赤城のカウンター、ストレートが伸びきり大和の顔に直撃した際、赤城は腰をさらに捻り込んで打っていた…。相手の懐に深い位置に飛び込まなければ出来ない芸当。なるほど奴がインファイトもできるのはそういうカラクリだったのか…)

 

「…信じられん、大和が…」

 

 

 冷静な鴨川の分析を他所にそのスパーリングの様子を見ていた練習メニューを一通り見ていた長門がその光景に唖然としていた。

 

 しかし、現実はご覧の通り、綺麗な赤城のカウンターが決まり、倒れたのは大和の方だ。

 

 その事実は変えられない。

 

 

(…仕方あるまいな、あんなものをくらえば倒れるのは必然。大和の拳自体相当な破壊力がある…それが何倍になって自分に降り掛かれば当然の結果だ)

 

 

 そう内心で倒れた大和を見つめ鴨川。

 

 これ以上のスパーリングはおそらく無理だろう。倒れた以上、大和が立ち上がる事はないはずだ。

 

 そう鴨川は思った。いや、その場にいた赤城も鳳翔も長門と祥鳳もそう思っていた。

 

 だが…。

 

 

「…ぐっ…うっ……」

 

「……なんですって!?」

 

 

 大和はゆっくりとその場に立ち上がってきた。

 

 その眼の焦点はあってはいないが、彼女はそうであってもゆっくりとその場に立ち上がって見せたのだ。

 

 鴨川もその姿を見て度肝を抜かした。

 

 

(…なんという執念、タフネスさだ……右と右のカウンターだぞ?!それにあの自分の拳の倍の威力だ…立ち上がれるはずが…)

 

 

 鴨川は唖然とした様子でそれを見ていた。

 

 毅然として立ち上がる大和の闘志。それには気高ささえ感じられる。

 

 だが、大和は拳を握りしめて口を動かしブツブツと呟いていた。

 

 

「……か…い……ちょうの……ミット……」

 

(……意識が朦朧としている筈なのに…)

 

「………練習……通りに……」

 

 

 大和の眼差しが光を灯す。その眼には光。

 

 それは、自分が今までやってきたことを出しきれてないから。

 

 まだ見せていないからだ。鴨川に、自分の持っている底力を…、可能性を。

 

 大和は握りしめた拳を構えて再び赤城に直進する。

 

 

(…やばっ!……)

 

「うああああああ!!」

 

 

 大和はがむしゃらに自分の拳を振るった。

 

 完全に不意をつかれた赤城はガードをしようとグローブを構える。

 

 だが…。

 

 

「拳は来ないわ!赤城!フェイントよ!」

 

(しまっ!)

 

 

 その時は既に遅かった。

 

 鳳翔の声のつかの間の出来事。完全にフェイントに不意をつかれた赤城は引っかかった。

 

 赤城の懐下に大和は潜り込むようにして入り込んでいる。

 

 

(意識が朦朧とした中でフェイントだと!?あいつ!自分で!)

 

 

 鴨川は目を見開いてその光景を見た。

 

 大和は鴨川の練習でフェイントなど教わってなどない。おそらく自分で考えた技だろう。教わらなくても以前から大和はトレーニングをしていたと鴨川に話していた。

 

 長年積み重ね燻っていたもの。それを大和は今、鴨川の前でやってのけたのだ。

 

 構えた大和の左拳が唸る。

 

 腕の筋肉が蒸気をあげ、ミシミシと音を立てて稼働する。

 

 まるでそれは突き上げる46cm砲。一撃必殺に等しい拳。

 

 

「ぁああああああ!はぁ!!」

 

 

 ズドォン!と凄まじい音がリングからジムのあらゆる場所に鳴り響いた。

 

 打ち上げられたのは大和の残る力を込めたアッパー。赤城の顔が上に突き上げられ血まみれのマウスピースが宙を舞う。

 

 そして、ボロボロの大和の横を通り過ぎる様にその身体はゆっくりとマットの上に沈んだ。

 

 そして…。

 

 

「……が……、」

 

 

 大和も声をこぼして、膝をその場についた。

 

 その光景に皆が声を失う。特に鳳翔は赤城があそこからやられると思っていなかったのか驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

(…あの娘のカウンターを食らってなお立ち上がるだけでなくてKOし返すですって!?そんな馬鹿な!?)

 

「赤城!!」

 

「大和!!」

 

 

 そして、すぐさま鳳翔は倒れた赤城を確認すべくリングの中に入り様子を確かめる。

 

 それと同様に鴨川もまたリングに入り、慌てて、すぐに大和に近寄った。当然だ、右に右のカウンターを浴びて立っていたのだ。身体に異常がないのかと心配にもなる。

 

 あくまで今回は新人戦に向けてのスパーリング。それで故障があればとんでもない。

 

 しかし、鴨川はそこでさらに驚愕の事実を目の当たりにする。

 

 

「おい!大和ぉ!小娘!おい!…な、なんだと!?」

 

 

 それは大和は既に気絶していたという事実だ。

 

 いつから気絶していたかは定かではない、だが、あの右のカウンターを受け立っていた時には焦点はあっていないように思われた。

 

 鴨川はその大和の戦う姿勢に思わず感服する。

 

 

(…既に意識はなかったのか!?いつからだ!?いや…それよりも、ないまま、フェイントを入れて無意識のままあんな拳を…、なんという奴だ…こいつは!?)

 

 

 大和のその根性と凄まじい気合。

 

 そして、積み重ねてきたものを彼女はセコンドにいる鴨川に可能性として示して見せた。

 

 その光景を見ていた鳳翔は笑みを浮かべ安堵し、自分の側にいる気絶していた赤城を無理やり起こそうと長門からもらったバケツの水をかける。

 

 

「……赤城起きなさい」

 

「…うぐ…頭が……」

 

「大丈夫ちゃんとくっついてるわ」

 

「あ、本当ですね」

 

 

 そう言って横たわったまま鳳翔の何事もないような言葉に笑みをこぼす赤城。

 

 そして、赤城は鳳翔に対して試合を見ていた時の状況を訪ねはじめる。

 

 

「…私は倒れたのですか?…」

 

「えぇ、綺麗なアッパー1発でKOよ」

 

「なるほど……ですね……」

 

 

 赤城はすんなりと今自分が横たわる状況に納得がいったのか静かに鳳翔の言葉に頷く。

 

 アッパー1発、それだけで自分は倒れたのかと普通なら思うのだろうが、この時の赤城は違っていた。

 

 鳳翔もそれはわかっている。

 

 

「赤城、貴女、最後首を捻ってかわしたでしょ?」

 

「…わかりましたか」

 

「…でも倒れた上にマウスピースが吹き飛んでいたわ」

 

 

 首捻り。それは拳自体の威力を緩和する為に使われる高等技術。

 

 しかし、それをもってしても大和の拳は赤城の頭を吹き飛ばし、彼女が咥えていたマウスピースさえ飛んでいく威力だった。

 

 そんなアッパーを食らえば倒れるのも納得してしまう自分がいた。それに…。

 

 

「…しばらく、足の方のダメージが大きくて少し立ち上がれそうにありません…」

 

「…鍛え方が足りないわね」

 

「面目無いです」

 

 

 足の芯に残るダメージ。

 

 階級が違うとはいえど赤城がこれほどダメージを受けるのは想定外の出来事だった。鳳翔は改めて大和の拳の威力に背筋が凍る。

 

 

(…もし、あのストレートがまともに入っていたらと考えるだけで肝が冷えるわね…)

 

 

 鳳翔は真っ直ぐに膝をついて気絶している大和を見つめる。

 

 赤城と大和のスパーリング。

 

 これは互いに有益であり、また、互いの弱点と可能性を知る良いスパーリングとなった事を鳳翔と鴨川は悟るのだった。

 

 



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ROUND8 デビュー戦

 

 

 戦艦ル級。

 

 戦歴はデビューから黒星一つのみの優秀なボクサーである。

 

 彼女はトレーナーと共にアジア艦娘新人王トーナメントに向けての調整を行なっていた。彼女の目標はただ一つ、自身に黒星をつけた戦艦霧島にリベンジマッチを行うためだ。

 

 

「シッ!…シッ!」

 

「ダメダ! テンポガオソイ! モットアゲロ!」

 

 

 そして、そのトレーナーには深海棲艦の中でも実力派ボクサーとして活躍しているタ級がトレーナーとしてついている。

 

 ジャブからリズムを上げていき右ストレート、さらにテンポを上げて左ジャブの連打。

 

 戦艦霧島と対戦した際、ル級は手も足も出なかった。試合内容は見事なKO負けだ。

 

 あの日から誓ったものがある。それは、リングの上で必ず借りを返すという固いリベンジの誓いだ。

 

 ここの深海棲艦のジムには鴨川のようなトレーナーはいない、自分達で考え、自分達で学び、自分達で強くなる、そういった方法で今まで艦娘達と拳を交わして来た。

 

 そう、今までは…。

 

 

「…どうだい、ル級の調子は?」

 

「ア! トレーナー!」

 

「イマノトコロハ、ジュンチョウナシアガリダナ」

 

「そうか、それは良かった」

 

 

 そう言って、提督帽を被る優しげな壮年の男性はにこやかな笑みを浮かべていた。

 

 彼の名は来島 宗一郎。

 

 元ボクサーの日本ランカー三位であり、鎮守府の提督をしていたのだが、ある出来事がきっかけで鎮守府を去る事になった。

 

 そして、鎮守府を去った彼が辿り着いた先が深海棲艦達が自分達で切り盛りしているこの鎮守府だったのである。

 

 現役の頃はアウトボクシングからインファイトまでこなす万能型ボクサーだったが、右目が網膜剥離を引き起こし引退。

 

 盛んになってきた艦娘でのボクシングの流行をより大きな形にする為、大本営がスカウトし、トレーナーという職に就いた。

 

 しかし、上記の様にある出来事から鎮守府のジムのトレーナーを辞任するに至る事になり、今は深海棲艦である彼女達のトレーナーを務めている。

 

 

「ル級、見ていたが足の踏み込みが甘い。そんな浅いスウェイバックじゃ間合いを詰められて連打を撃ち込まれるぞ」

 

「ウッ!…ハ、ハイ!」

 

「よし、ならミット打ちを再開する。私がミットを持つから打ってこい!」

 

 

 そして、再び、練習を再開しミット打ちをし始めるル級とトレーナーの来島。

 

 右ストレート、左ジャブ、指摘したスウェイバックを中心に彼から教わる通りに彼女はミット打ちを行う。

 

 ここのジムにいる深海棲艦達には夢があった。

 

 いつか、いつかでいい、今まで自分達だけでやってきた鎮守府でこうしてボクシングを教えてくれる来島に恩返しがしたいと。

 

 それは、ボクシングという形で返したい。ベルトを持って彼を喜ばせて上げたいとそう皆が思っていた。

 

 

 戦艦ル級との試合当日。

 

 大和は試合控え室で鴨川と共に軽いウォームアップを兼ねたミット打ちを行なっていた。

 

 今回が大和のデビュー戦となる。緊張で力んだ身体はなかなか解れない中、大和はこうして、ミット打ちを行なってる時がなんだか心が安らぐ気がした。

 

 だが、試合が始まればこうはいかない、鴨川はミット打ちをしながらも険しい表情を浮かべて拳を構える大和をじっと見据えていた。

 

 

「小娘、貴様、力が入りすぎだ。そんなパンチじゃ蚊も殺せんぞ」

 

「…はぁ…はぁ…、は、はい!」

 

「緊張しすぎだ、力を抜かんか。赤城とのスパーリングの意味がないだろう。…むぅ」

 

 

 困ったといった様子で鴨川は首を傾げていた。

 

 女性と接する機会など、鴨川には雪くらいしかいなかった。こういった状況下において、女性の緊張のほぐし方など鴨川にはよくわからない。

 

 なんと言葉を掛けてやろうか、なるべく、自然な言葉でほぐせればそれでいい。

 

 すると、鴨川はとりあえず無い考えの中で大和にこう声をかける事にした。

 

 

「試合に勝ったら、焼肉でも行くか」

 

「…え?」

 

「貴様のデビュー戦祝いだ。これくらいしか思いつかなんだが、ジムの皆と一緒に焼肉に連れてってやるよ」

 

 

 そう言って、鴨川は普段から険しくしていた表情を少しだけ和らげて笑みを浮かべる。

 

 普段から厳しいトレーニングをしてきた彼女達には何かしらのご褒美をそろそろ上げねばとは何度か思っていた。

 

 これくらいで大和の緊張が解れるのであればそれでいいと鴨川は思っていたのだ。

 

 

「…尚更負けられません! 焼肉!」

 

「現金な奴だな、まぁ、緊張がほぐれたなら良い、ほらミット打ちだ! こい!」

 

「はい!」

 

 

 拳にいい具合に力が抜けた大和の拳が鴨川が構えたミットを叩く。

 

 程よく身体が暖まってきた。先ほどまでガチガチだった拳も力が良いぐらいに抜けて綺麗にミットに入る。

 

 この感覚、そう、練習で繰り返してきたこの感覚こそが大和がデビューするリングの上でしめさなければいけないものだ。

 

 

「ふぅ…ふぅ…、…よし」

 

「覚悟はできたみたいだな、それじゃ行くぞ大和! 時間だ!」

 

「はい!」

 

 

 バシン! と両手に嵌めたグローブを付き合わせて試合前に気合いを入れる大和。

 

 相手は油断できないアウトボクサー、今回は赤城とのスパーリングとは違う本物の試合だ。

 

 燻り続けてきたものが内から湧き上がるような錯覚を感じる。脳内からアドレナリンが噴き出してくるような感覚だ。

 

 相手が待つリングに大和は鴨川から率いられて向かう。

 

 

「あ……っ」

 

 

 そして、大和はリングに向かう中、周りを見渡し思わず声をあげた。

 

 周りには艦娘の戦いを一目見ようと押しかけたすごい数の観客達の姿があったからだ。

 

 戦艦級のボクシングは見応えがある人気のある階級だ。そのKO率は85パーセント以上を誇る。

 

 戦艦級の壮絶な打ち合いを見に今日もいろんな鎮守府の関係者や一般人、スポンサーまでこの試合を見にきている。

 

 

「大和ー! がんばれよー!」

 

「ル級! 今日も頼んだぞ!」

 

 

 いろんな声が飛び交う中、大和は舞い上がりそうな感情をぐっと抑えて鴨川に先導されたままリングの中へと入る。

 

 対するル級は既にリングの中へと入り、落ち着いた様子でシャドーを繰り返し拳の調整を行っていた。

 

 それを見ていた鴨川は感心したようにル級をジッと見つめる。

 

 

(むぅ…流石に試合をそれなりにこなしてる事もあって落ち着いとるわ…、立ち上がりは要注意だな…)

 

 

 そう、デビュー戦の大和に対する鴨川の懸念はそこにあった。

 

 こうして、試合をするのが今日が初めての大和に対して一回霧島に負けてるとはいえ経験値を積んでるル級。

 

 この差は非常に大きい、立ち上がりに出鼻を挫かれればそのまま畳み込まれる可能性だってある。

 

 

「小娘…ゴングが鳴ったら1度、離れろ、立ち上がりが大事だ」

 

「………」

 

「?…大和? 聞いとるのか?」

 

 

 そう言いながら、反応がない大和に対して声をかける鴨川。

 

 すると、大和はまっすぐル級を見据えると鴨川のその言葉に対して左右に首を振りこう話しをしはじめる。

 

 その眼差しには大和の強い覚悟が秘められていた。

 

 

「会長…、ゴングが鳴ったと同時に私行きます!」

 

「…! なんだと…」

 

「…すいません、多分…、向こうがアウトボクシングなら尚更行くべきだって」

 

 

 その言葉を聞いた鴨川は思わず面食らったように目を丸くする。

 

 大和は舞い上がってはいなかった、それどころか冷静に立ち上がりを考えていたのだ。

 

 自分の長所は間違いなくインファイトでの殴り合いが持ち味だということを彼女は悟っている。

 

 だからこそ、鴨川の提案を敢えて大和は聞かず提案をした。しかし、鴨川にとってみれば大和のその言葉は実に嬉しいものであった。

 

 それは、デビュー戦くらいの緊張に押し負けない力強さを感じさせてくれたからだ。

 

 

「よし、貴様が思う通りやってみろ!」

 

「はい! 会長!」

 

 

 マウスピースをガッチリ噛み、力強く頷いて応える大和。

 

 握りしめられた拳に力が入る。そして、リング中央に移動する大和はル級と真正面から向き合うと軽く拳を付き合わせる。

 

 そして、コーナーに戻ると大和の記念すべきデビュー戦の試合のゴングがレフェリーの合図と共に…。

 

 

「ファイ!」

 

 

 今、鳴り響いた。

 

 アジア艦娘新人王トーナメント1回戦、大和VS戦艦ル級。

 

 果たして勝者に輝くのはデビュー戦の大和かそれとも経験を積んだル級か。

 

 そして、緊張感が高まる中、試合開始と同時に先に動いたのは。

 

 

「…シッ!」

 

 

 大和からだった、右手の鋭いストレートがル級の顔面目掛け飛んで行く。

 

 これにはル級も面を食らったように慌ててスウェイバックで間一髪のところでかわした。しかし、右頬には掠っただけなのにも関わらず跡が残っている。

 

 

『おぉと! 大和からの挨拶と言わんばかりの鋭い右ィ! 空を切ったというのに凄まじい音だ!』

 

「距離を取れ! ル級!」

 

「チィ!」

 

「逃すな小娘!」

 

「はい!」

 

 

 すぐさま距離を取ろうとするル級だが、大和は勢いのままル級との間合いを一気に詰める。

 

 そして、綺麗なワンツーをル級のガードの上から叩き込む、瞬間、弾けるような音がリングに響き渡った。

 

 

『おぉと! ル級のガードが弾け飛んだぁ!? 凄いパンチ力だ!』

 

「今すげー音したよな」

 

「おいおい、あんなのまともにもらったら堪んねーぞ…」

 

 

 会場の観客も実況席もその大和から繰り出されたワンツーにどよめいていた。たかだか、ワンツーのパンチをガードの上から叩き込んだだけにも関わらず軽くガードが吹き飛んでしまう程のパンチ力。

 

 戦艦級ならば、それも見慣れているものだろうが大和から繰り出されたそれは一見してスケールが異なるものだ。

 

 ル級もそれを受けた途端すぐに悟った。これはまともに受ければとんでも無い事になるということを。

 

 

「…クソ…っ!」

 

 

 すぐに、位置を取りながらパンチを繰り出し距離を取るル級。

 

 大和はル級から繰り出されたそれをガードで受け流しながら綺麗に捌いていく、だが、ガードをした大和の隙をついてル級は思惑通りの位置を確保することができた。

 

 立ち上がりから激しい応酬、観客の期待感はますます高まっていく。

 

 激しい打ち合いとKO劇が今日も見れるかもしれないという期待だ。

 

 大和のデビュー戦は上々の立ち上がりからこうしてスタートした。

 

 



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