私はただのマサラ人です! (若葉ノ茶)
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前作見る時間がない方のための設定

軽い設定です。






 

 

 

 

 

ヒナ(相棒は色違いリザードン)

初期能力

・波動

・ポケモンの懐きやすさ

今作の主人公。前作メインキャラであった【サトシ】の妹。

初期ポケモンはリザードンとピチュー。リザードンは子供のころにミュウから貰ったたまごが孵化したときに出会った。ピチューはイッシュ地方で捨てられていたところにいた。スーパーマサラ人としての力は無自覚。アーロンの弟子でもあるため、波動の力は軽く使える。ヒビキやシルバーを一緒に抱えて歩くことぐらい簡単にできる程度の力の持ち主。

相棒であるリザードンは頼れる姉的な存在。そしてピチューはたまにツッコミ役でいろいろと苦労したりフォローしたりできる器用貧乏。

前作にて、アクロマの作り出した双子にいろんな意味でトラウマを刻まれている。そのため、リザードンやピチューは仲間や家族を傷つけるために攻撃したくない。守る意味で強くなりたいと誓っている。そしてこの事件が原因で、悪党は許すことができずにいる。だが攻撃を仕掛ける前にシルバーがいた場合、先に彼が暴走してしまうのではないかと心配してしまうぐらいは心に余裕があるはず。

 

 

 

 

ヒビキ(相棒はゾロアーク)

初期能力

・ツッコミ

・苦労人

今作のライバル。前作では憧れであったサトシの妹であるヒナにちょっかいを出したり苛めたりしていたせいでヒナの相棒でもあるリザードンの進化を促してしまった。その一件はある意味黒歴史。気になる子をいじめちゃう小学生的な思考だっただけのこと。

相棒であるゾロアークはイリュージョンを駆使したいたずらっ子。ジョウト地方時代、ヒビキを落とし穴に落とすのは当たり前。

一応マサラ人だが、トレーナーになるまでの四年間ジョウト地方にいたせいか、たまに別地方から来たトレーナーだと思われることもある。ツッコミと苦労人なのは主にシルバーが鍛えてくれたせいでもある。イリュージョンでヒナたちのフォローに回ったり、事件を解決するために手伝ったりと、何かとお人好しな面もある。

 

 

 

シルバー(相棒はチルタリス)

初期能力

・ポケモン知識

・暴走の破壊人

今作のライバル。前作ではジョウト地方の学校にてヒナやヒビキと出会った。ポケモンの知識はかなり持っているため、育成やバトル戦略に優れた行動をする。だがそのせいでチルタリスに過剰な攻撃能力を与えてしまったため、彼のポケモンによる【はかいこうせん】は文字通り破壊光線。前作にて大きな船が沈んだこともあるぐらい力は強い。ある意味サトシと似ている部分もある。

相棒であるチルタリスはシルバーと同じくボケ。はかいこうせんで何が起きても気にしない。勝てばいいんだ勝てば。

父親が元悪党の集団であったロケット団のボス。だが前作にてサトシが金儲けとポケモン収集を別の形で昇華させてしまったため、大発展した企業に変化した。そのせいで悪を望む新生ロケット団が誕生してしまった。シルバーはロケット団に悪しきイメージを植え付ける新生ロケット団を憎んでいる。そのため奴らが目の前で悪事を働いていたら問答無用ではかいこうせん。全部吹っ飛ばす勢いで攻撃を仕掛けるそれはまさに疾風怒濤。

 

 

 

 

サトシ(相棒はピカチュウ)

初期能力

・ポケモンマスター

・最強ではない最恐

今作ではボス的存在。いろんな地方を駆け巡る忙しい人。一応シロガネ山を家として過ごしてはいる。

前作にて、伝説ポケモンに対してポケモンではなく自分の拳で一撃必殺しちゃった経歴の持ち主。もはやこいつ自身が伝説ポケモンなのではないかと皆が疑っている。

様々なポケモンを育てて強くしているが、正直まだまだ限界が見えていない。新しい技があれば試して、自身でも新しく製作したりする。ポケモンマスターになったけど、トレーナーとして未熟な部分がたくさんあるのだと考えてはいるが、それはどうなのだろうかと妹たちは思っている。そしてポケモンマスターであるサトシには嫁と娘がいるらしいけど…????

いろいろと謎が多いトレーナーでもある…はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティナ(通称、ギラティナ)

初期能力

・変人

・伝説だけど伝説と言えない

今作では人間にもポケモンにもなるいつも通り変わらない変人な伝説ポケモン。というか出番はあまりないかもしれない。

サトシやヒナと同じポケモンがゲームやアニメ媒体だった世界から転生した。人間だった頃の記憶は忘れることはないけれど、サトシのせいでフラグがぶっ壊れることが多々あったため意味はない。

アーロンとは悪友。でもいつだって殴られる。ヒカリやポッチャマには呆れられ、シェイミとルカリオにはツッコミ入れられること多し。ヒナと共に旅をしていた時期も似たような感じだった。変人だけど孤独を嫌うため、わざとやることもしばしば。

昔、ポケモンとしての存在意義を突っぱねたことによって反転世界が崩壊しかけたことがトラウマとなっているため、世界崩壊の危機やディアルガやパルキアの喧嘩のせいで反転世界が汚れることを嫌う。というか激怒すること間違いなし。

まあつまり、伝説とは言えない伝説ポケモンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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カントー地方の旅路~幼馴染トリオは新人トレーナー~
プロローグ~マサラ人の妹は旅に出た~






かつて、平和に暮らしたいと願っていたはずの妹は旅に出た。


 

 

 

 

 

 

マサラタウンにはいろんなポケモンたちが生息する。それは誰もが遭遇するポッポだったり、コラッタだったり…そしてとても貴重だと言われている存在の伝説のポケモンだったりと様々だ。伝説であるポケモンたちはオーキド博士やケンジさんに姿を見せることはめったにない。それでも一目見ることさえ一生に一度あるかないかと言われるポケモンがたくさんいるこの森はとてもすごいと博士達はよく言っている。

凄いと思う博士たちがいる一方で、私としては毎回毎回やって来るポケモンたちに暇なのかと言いたいこともあった。

私に会うぐらいなら研究したいというオーキド博士たちに会ったらどうなのか…。それにこのマサラタウンには現在いない兄にも会いに行っているようで、いつも通り暴れているという話を聞くと少しだけ複雑な気持ちになる。

 

 

 

だがそれよりも、オーキド博士は滅多に会うことができない彼らに不満を抱くことなく…そして、伝説のポケモンたちが研究所にやって来ることを世間に何も言わないし伝えようともしなかった。そこが凄いと私は思う。四年前にマサラタウンを出た時に感じたのは、トレーナー達は伝説を見たという情報を心底羨ましがったり、自慢したりするのが多いと思ったからだ。だからこそ、ポケモン博士と世界で有名なオーキド博士が何もしないことに私は一番驚いた。

 

 

まあ、それでも実際伝説のことを言ってしまったらポケモンたちが怒って襲撃するか、逃げてしまうか…いや、どっちも行う可能性はあるかもしれないから止めて正解だとは思うけれど…。

 

 

でも、オーキド博士が兄に助けを求めたらポケモンたちを止めることはするかもしれないが、それでもやはり言った方が悪いとばかりに兄の相棒であるピカチュウから電撃ぐらいはもらうかもしれない。

 

 

妹の私としてはあまり見たくない光景だ。

 

 

 

 

「ヒナちゃん。本当にこの帽子でいいの?」

「うん。お兄ちゃんが初めて旅に出た時の帽子だから使いたいんだ」

 

 

 

「そう…分かったわ」

 

 

 

でも今はそんな想像でしかない考えを持たずに旅に出ようかと思う。

 

 

 

何年も前から決めていた決意。私はまだ兄のようになれるのかどうかさえ分からないし、これからもっともっと強くなるのかどうかも分からないけれど、それでも旅をしたいという気持ちは強かった。

 

 

 

少しだけ重たいリュックを背負い、師匠から貰った波動の石をはめ込んだリストバンドを着け、走りやすい服を着て部屋から出る。

――――――そして、母から貰った兄の帽子をかぶり、玄関の扉を開けた。

 

 

 

扉を開けた瞬間、外から入ってきた空気が私の髪を撫でるかのように風となって動く。その風を一身に受けて思わず目を細めた。春の暖かさのような風がまるで始まりの合図とでも言うかのように心地良いと感じたのだ。

 

もしかしたら兄もこんな気分で旅に出たのかなと思えたぐらいには、とても気持ち良い風。

 

 

懐にある2つのボールがゆらゆらと揺らめく。それはまるで私が楽しいという感情を感じ取り、同じ気持ちだよと伝えているようにも思え、小さく笑ってしまったほどだ。

 

 

 

私は今まで住んでいた家に…そして母やバリヤードの方を振り向き、帽子を深くかぶり直してから声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一話~最初の旅立ちは皆一緒~




トレーナーとして旅に出る始まりの一歩。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いていく速度はゆっくりと…でも少しだけ早く行きたいという気持ちを押さえて向かうのはオーキド研究所。

私は幼い頃から一緒だったリザードンとピチューがいるからポケモンは貰うことはできないけれど、オーキド博士にポケモン図鑑を渡される約束をしてもらっていたから旅の第一歩として向かっていた。

 

一歩一歩歩き、たまに立ち止まって小さなポケモンたちが私の前を通り過ぎるのを微笑ましく眺めながら…ようやくたどり着いたのは大きな建物の前。

その近くに立っていたのは、私にとって懐かしい姿。

 

 

 

「よぉヒナ!やっと来たか!」

「遅い」

「ヒビキにシルバー…?もうカント―地方に帰って来てたの!?」

「当たり前だろ!!前に約束したよな?次に会う時はトレーナーとしてだって!!」

「…ヒビキがそういって聞かなくてな。予定よりも早くマサラタウンに来たんだ」

「そっか…なんか待たせたみたいでごめんね」

 

 

ヒビキ達はカント―地方に来るのはもう少しだけ遅いという連絡を貰っていたから、まだ会えないと思っていた。最悪、来るとしたらジョウト地方に旅に出る時かなという気持ちもあったのだ。

だが、ヒビキとシルバーは四年前よりも少しだけ成長した姿で現れた。身長は伸びて私よりも上の位置だけれど、ヒビキは帽子とゴーグルをつけた姿は変わらず、そしてシルバーはその不機嫌そうな表情が変わらず…なんだか四年前のジョウト地方を思い出して私は笑ってしまった。

 

 

私が笑ったことにヒビキも思わずつられて笑っていて、シルバーは何も言わずに私たちを見ていた。

 

 

 

「ヒビキとシルバーはもう研究所に入ったの?」

「いやまだだ」

「どうせならヒナやシルバーと一緒に入ろうって思って待ってたんだ!早く行こうぜ!」

「え、ちょっと…」

「お邪魔しまーす!」

 

 

 

ヒビキが私やシルバーの腕を掴んでオーキド研究所の扉を開いた。オーキド研究所はいつもなら扉は閉まっていてインターホンを押さないといけないのだが、本日は旅に出るトレーナーが数多く集まると言うことで鍵はしまってはいない。

そしてそんな私たちを迎えてくれたのは、兄のポケモンではないフシギダネ達。

フシギダネ達はどうやら私たちがトレーナーとして自分を選ぶためにやって来たのだろうと思い込んでいるらしい。後ろからやって来たオーキド博士とケンジさんが困ったように苦笑していた。

 

 

 

『ダネ!』

『カゲェ!』

『ゼニゼニィ!』

「これこれ…彼女達はお前さんらを選ぶために来たわけじゃないぞ…」

「オーキド博士」

「ヒナ…それにヒビキ君にシルバー君か。もう君たちがトレーナーとなる日が来るとはのぅ…」

「オーキド博士…感慨深いのは分かりますが、早く図鑑を渡してあげないと可哀想ですよ」

「おお!そうじゃったな!」

 

 

 

オーキド博士がようやく思い出したかのような声を出して他の部屋に入っていく。それを見ながら私たちは未だにこちらに近づいてくるフシギダネ達と戯れた。彼らはおそらく次にやって来るであろう新人トレーナーに選ばれて旅に出る。ヒビキやシルバーがフシギダネ達を観察したり遊んだりする間に、次に向かう町はどうするのか話していた。

 

 

「次の町…やっぱりニビジムだろ?サトシさんが最初に挑戦したジムだし。トキワジムは最後に挑戦した方が良いっていう噂があるくらいだし…」

「噂っていうより…トキワジムはあまりジムとして機能してないみたいだから、やるんなら最後にした方が良いって聞いたことがあるよ?待っている時間が長いからその無駄な時間を過ごすよりも違うジムにいった方が良いって…」

「ならニビジムだ。今年行われるリーグは今までよりも開催時期が早まっているからな…バッチを集めるのはなるべく早い方が良い」

「よっしゃ!じゃあニビジムに決定だな!そこまでは一緒に行こうぜ!その後は別れて旅しよう!」

「俺はそれで構わないが…ヒビキ、貴様ちゃんとリーグ開催日までにジムバッチを集めろ。お前のことだから何か大切な時に間違ってドジをやらかすかもしれないからな」

「やらかさねえよ!やるとしたらお前だろアホシルバー!!」

「喧嘩はしない!!」

 

 

 

「「フグォッ!!」」

 

 

「ははっ…さ、サトシに似てきたねヒナちゃん…」

「そんなことないですよケンジさん。私は兄のようにはなれないです」

 

 

ヒビキとシルバーが懐からモンスターボールを取り出して室内でポケモンバトルをやりそうな雰囲気になったため、仲裁するために私は二人の頭上から拳を落とした。頭を殴られたことによってか、彼らは四年前と変わらずすぐに地面に倒れてしまったけれど、軽く殴ったからしばらくしたら起き上がるだろうと私はヒビキ達を放置して机に出されたお茶を飲む。

そんな私たちにケンジさんは頬を引き攣りながら声をかけてきたけれど、私は首を傾けてそんなことないと笑顔で言った。兄に似てきたとしたらそれはヒューマン型ポケモンとして有名になれるだろうから私は違うと思う。

フシギダネ達は私を見て何故か目を輝かせていたけれど、それはたぶん騒々しいヒビキ達を見て元気いっぱいのトレーナーに選ばれたいなという気持ちが強いからだろうと思い微笑んだ。

 

そんなことをしている間に、ヒビキ達は頭を押さえつつ起き上がりこちらを睨んできたため、私は師匠がいつもやっているように、にっこりと笑みを浮かべて喧嘩するなと注意しておく。そしたら何も言わなくなったから良かったと思った。

 

 

こんな大事な初日にトラブルを起こしたくはないのだから少しは落ち着いて待っていてほしい。願いが通じて良かったと思ったものだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「すまん…待ったか!」

 

「いえ、大丈夫です」

「ポケモン図鑑…!」

「…………」

 

 

オーキド博士が3つのポケモン図鑑を持ってやって来た。そのポケモン図鑑は今まで兄が旅して遭遇したポケモンのデータが入っている最新版であり、新しいポケモンを探すための役割も持っている。

トレーナーとなった誰もが持つその図鑑を、私たちはオーキド博士から貰い受けることができた。

そしてポケモン図鑑と共に小さな箱も貰い…その中には6個のモンスターボールも入っていた。

 

 

「ポケモン図鑑とモンスターボールじゃ。気をつけて旅に挑むのじゃぞ」

 

「はい。ありがとうございますオーキド博士!」

「ありがとうございました!」

「大事に使わせていただきます…」

 

 

 

オーキド博士やケンジさんだけでなく、フシギダネ達も一緒に見送ってくれた。

図鑑を見てヒビキはわくわくしたように笑い。シルバーはこれからどう行こうかマップを見て確認している。2人とも性格が違っていて…これからどんな旅になるのだろうかとニビジム以降の彼らの旅路を想像しつつ、私はトキワの森へ向かって歩きだした。もちろんヒビキ達も一緒に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

そんな私たちの頭上で、ホウオウが輝かしく空を飛びながら見送っているとも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話~新人には見えない3人組~






旅にトラブルや不満はつきもの。


でもまだ始まってすらいない。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっとゆっくり行こうって言ったよな!?」

 

 

 

 

 

そんなヒビキの叫び声が聞こえてきたのは、ニビシティの入り口前。

その声はとても凄まじく、数体ものポッポが驚愕して空から落ちてきたぐらいだ。でもヒナはそんなことは知らず、ただヒビキの声を聞いて苦笑しているだけだった。

ヒビキはマサラタウンからニビシティまでの道のりをゆっくりと楽しんでいこうと考えていた。

それは、最初の旅の始まりだからこそその気持ちを十分かみしめていきたいと言う新人トレーナーとしての考えであり、これから新しい仲間を見つけて捕まえ、強くしていきたいという気持ちもあった。だがそれをシルバーがチルタリスをボールから出してヒビキをくちばしで捕まえつつ空を飛んでしまったため無意味に終わる。もちろんヒナはシルバーに慌ててついていくためにリザードンを出して空へ飛んだため問題はなかった。…だが、チルタリスのくちばしで服を掴まれて不安定に空を飛ぶ気持ち悪い感覚とゆっくり味わえなかった旅の気持ちよさにヒビキは怒っていたのだ。

 

そして不満げなヒビキに鼻で笑って答えるのは事の原因を作ったシルバーだ。

 

 

 

 

「どうせ後でまたトキワジムに挑戦するんだ。その時じっくりと歩けばいいだろう馬鹿が。リーグ挑戦までの時間短縮のために飛んだだけだろう馬鹿が」

「馬鹿じゃねえよアホシルバー!!」

「ああもう…四年前とあまり変わらない喧嘩…あんたたちいい加減にしなさい!!!」

 

 

思わず殴ろうかというヒナの怒鳴り声によってヒビキとシルバーの口喧嘩は収まりお互いが顔を背けてニビジムへ歩き出す。その歩調は楽しげにマサラタウンから飛び出してきた今までと変わらず、ただ喧嘩するほど仲が良いという雰囲気をまとわせながら歩いているように感じてヒナは思わず笑っていた。懐にある2つのボールの内1つだけゆらゆらとヒナに同調するかのように動いた。もう1つのボールは呆れるかのように一度だけ揺れてそれ以降は何も反応はなかったが、それでもヒナと同じ気持ちなのは確かだと感じていた。

 

 

 

 

「行くぞヒナ!早くジム戦終わらせてシルバーとバトルしてやる!!」

「フンっそれはこっちの台詞だ。秒殺してやろうか…!」

 

 

 

「ああはいはい…喧嘩しないでニビジムに行くわよー」

 

 

 

このまま待っていたらまた喧嘩を始めてしまいそうな雰囲気にヒナは苦笑して彼らの間に入り、すぐにニビジムへ向けて歩き始めた。

もちろん、これ以上喧嘩するならば師匠がやって来たように物理的にでもとめようと思いながらも…。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ちわーッス!ジム挑戦に来ました!よろしくお願いします!!」

 

 

 

ニビジムの大きな扉を開けて、薄暗い中をヒナたちは進む。何も見えないその室内はニビジムがあるようには見えない。だが一瞬で明かりが付き、岩タイプ専用のバトルフィールドがヒナたちの目の前に広がる。それを見て嬉しそうに目を輝かせるのは真っ先にジムに入っていったヒビキ。そしてシルバーは周りを見て好戦的な目でどうバトルしようか考え、ヒナは近づいてきたジムリーダーでもあるジロウを見て笑みを浮かべた。

 

 

「ようこそニビジムへ!…そして久しぶりだね、ヒナちゃん」

「はい、お久しぶりです。約束を果たしに来ました」

「そうか…もうそんなに時間が経ったのか…」

 

 

 

 

ジロウはとても懐かしげにヒナを見て呟く。あのバトルの後から随分と時が過ぎたのだと四年前の出来事を思い出しつつ…ヒビキ達の方を見てにっこりと笑った。

 

 

 

「ヒナちゃんだけじゃない…君たちもよく来たね。さあ、誰から挑戦する?」

 

 

「はいはい!!俺がやります!!ヒナやシルバーのポケモン飛び疲れているだろうから休ませる意味で先に俺からやる!」

 

 

ヒナやシルバーよりも先に手を上げて叫んだのはキラキラと待ちきれないかのように目を輝かせるヒビキだ。ジム戦を誰から挑戦するのかという言葉が出るのをずっと待っていたかのように叫ぶその声にヒナは苦笑し、シルバーはため息をついてヒビキに譲った。

チルタリスやリザードンが飛んで疲れているという言葉は少々言い訳に近い内容だろう。

4年もの年月によってチルタリスやリザードンは成長し、ベテランのトレーナーが持つポケモンのように強くなっているのだから…。

 

 

 

そのヒビキの言葉に少々疑問に思ったジロウが声をかけてきた。

 

 

 

「飛び疲れている…というのは?」

「時間短縮のためにマサラタウンからニビシティまで飛んでもらっただけです」

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

ヒナ達は知らない。シルバーがジロウに向かって答えた内容は、普通の新人トレーナーは真似ができず、ベテランにならないとできないことだというのを…。ヒナだけならまだしも、シルバーまでもがポケモンの力によってマサラタウンからニビシティまでの長い距離を飛んだのだということに、ジロウは驚いたのだ。しかもヒナと一緒に来た彼らは新人トレーナーだ。ヒビキと呼ばれた少年以外の2人のポケモンたちがその空を飛んだ。しかも人を乗せて飛んだのだ。

その言葉にジロウはぐるぐると思考を巡らせていた。ヒナがトレーナーになる日は今日ではなかったか?こんなに早い時間でマサラタウンまで飛んできたのか?

 

 

「…なるほど、分かったよ」

 

 

 

――――――君たちが通常とは違うトレーナーなんだと…理解したよ。

 

 

 

ジロウは声に出さずそう呟いた。

 

 

 

ヒナ達は単純に、マサラタウンから空を飛んでやって来たと言う言葉に納得してくれたのだろうと考えてヒビキに無茶するんじゃないとアドバイスのような激励を込めた応援をしている。その言葉にヒビキは任せとけと頷き、ボールを取り出して今か今かと待つ。

 

ジロウは笑って、小さく頷いた。

 

 

 

「歓迎しよう挑戦者。俺はニビジムのジムリーダージロウ!岩タイプの威力、とくと味わうがいい!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「えーそれでは、ジムリーダージロウ対挑戦者ヒビキによるジム戦を行います。ジムリーダーの使用するポケモンは2体。挑戦者のポケモンがすべて戦闘不能になるまでバトル続行します…それでは、バトル開始!」

 

 

 

「行け、ハガネール!!」

『イワァァァアア!!』

 

 

「よし…いってこい、ゾロアーク!!」

『ガァァァァアア!!!!』

 

 

 

ハガネールとゾロアークがボールから出てきて睨み合い、牽制し始める。その奇妙な姿を見てヒナは観戦席から首を傾けて隣に座るシルバーに向かって言う。

 

 

 

 

「……ねえ、ゾロアークのあれって反則にならない?」

「リーグ戦やポケモンの特性でなかったらアウトだったろうな…だがあれはゾロアークのイリュージョンだ。ポケモンの技ならば問題はないだろう。まあさすがにバトルフィールド全体を変えるようなイリュージョンは禁止されるとは思うがな」

 

 

 

ヒナが疑問に思ったのはゾロアークの周りで水が発生しているように【見える】光景だった。まるで噴水のようにゾロアークの足元からあふれ出てきている水にハガネールは困惑し、ジロウを見てどうすればいいのか指示を待っている。

ゾロアークは悪戯に成功した時のように悪い笑みを浮かべて爪を研ぐような仕草をしてヒビキの指示を待つ。

その光景に、ジロウは冷や汗をかきながら笑っていた。

 

 

 

「なるほど…ゾロアークの幻影か。新人だというのに凄いな…ハガネール、それは錯覚だ!水はそこにはない!!」

『イ、イワァァアアア!!!』

 

「おっとすぐに抜けさせるつもりはねえよ!ゾロアーク、あくのはどう!!」

『ガァァアアア!!!』

 

 

 

ハガネールがあくのはどうにぶち当たり、あふれ出ているように見える水に沈む。ハガネールはじたばたとその水からはい出ようとするが、なかなか思うようにいかない。

ジロウはそれを見てヒビキがいつものようにやって来る挑戦者とは違うのだと実感し、バトルスタイルを改めて変えていく。

 

水に溺れているように【見える】ハガネールの姿に、ヒナは苦笑しつつも口を開いた。

 

 

 

「なんか…イリュージョンができるゾロアークって結構チートよね……?」

「いや、そんなことはない。イリュージョンはただの幻影…攻撃を食らっていると錯覚し、ハガネール自身がゾロアークのイリュージョンに嵌り、ダメージを食らうように見せかけているだけだ」

「え…それだとヒビキとゾロアークがやってることは意味ないってこと?」

「そうだ…イリュージョンによってただの【思い込み】でダメージを食らうが…それは逆に幻影だと分かれば食らったはずのダメージはなくなる…イリュージョンはやり方によっては便利な技だが、バトルによってはただ自身を疲れさせる不利な技にもなり得るな…」

 

 

 

 

その言葉をシルバーから聞いた瞬間、ハガネールが咆哮した。

 

 

 

地面をビリビリと揺れ動かし、照明をチカチカと点灯させるような強暴な咆哮によってゾロアークが一瞬怯み、イリュージョンが解けてしまう。

そして先程まで弱っているように見えたハガネールは元気に跳ね、ゾロアークを威嚇し跳ねた威力で転ばせていた。

 

 

 

それを見たヒビキは先ほどのジロウのように冷や汗を流し、好戦的に笑う。

 

 

 

 

「楽しくなりそうだなゾロアーク…」

『ガァァア』

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話~ニビジム挑戦と始まり~





ジムに挑戦するにあたっての不安







 

 

 

 

 

 

 

 

「ハガネール、叩きつけろ!!」

『イワァァアア!!!』

 

 

「ゾロアーク、そのままひきつけとけよ…!」

『ガァァア!』

 

 

大きく飛び上がったハガネールを見上げ、ゾロアークはヒビキの言うとおり何もせずそのまま立ち止まってハガネールを睨みつけていた。

ヒナはこのままだとハガネールの巨体に押しつぶされてしまうのではと思われたが、ヒビキがニヤリと笑ったことによってその考えは変わる。

 

 

「ゾロアーク、全部吹っ飛ばせ!ナイトバーストだ!」

『ガァァアアアアア!!!』

 

 

「何っ!?」

『イワァァアアッッ!?』

 

 

 

ナイトバーストによってハガネールは横殴りされたかのようにふっ飛ばされ、バトルフィールドにある大きな岩山にぶつかった。その威力はとても強く、反動もあるのかハガネールは立ち上がらない。むしろ目を回しているようにも見え、審判の手が上がった。

 

 

「ハガネール戦闘不能!」

 

「よっし!」

『ガァゥ!』

 

 

「戻れハガネール。ああ面白い戦い方をするね…度胸があって、なおかつ熱い戦い方だ…行くぞゴローニャ!」

『ゴロォォォオオ!!』

 

 

「……ゾロアークの【あれ】って無意識?」

「いや、おそらく意識してやっていることだろうな。ヒビキもバトルで有利に戦うための方法をよくゾロアークに教えていたから…【つめとぎ】もバトルの合間だが癖のように行っている」

「もしも審判とかが知ったら不正だって言われるんじゃないかな…」

「イリュージョンを含め、それも覚悟して行っているぞあいつは…だから馬鹿なんだ」

「ああ……」

 

 

ヒナとシルバーは観戦席からゾロアークが軽くつめとぎという技を行っていたことに対して話し合っていた。つめとぎという技はゾロアークの攻撃と命中率を一段階上げるものだが、ゾロアークはハガネールと睨み合った時、威嚇する方法として使うこともあり、ポケモンの技のようには【見せていない】。

まさにゾロアークのイリュージョンのように意識して見なければ分からない行動だ。しかもそれをヒビキは許容し、公式なジム戦でも行っている。ちょっと不正になるんじゃないかとヒナは心配しているが、シルバーはそうなるのであればイリュージョンを初っ端から行わないだろうと苦笑いだ。だから馬鹿なんだと言う言葉に、ヒナは苦笑しつつこれからのヒビキのバトルスタイルがどうなるのか少々心配になったのだった。

 

そんな話し合いをしているうちにジロウはゴローニャを出してバトルを始める。

 

 

「それでは、ゴローニャ対ゾロアークの試合開始!」

 

 

「ゴローニャ、じしんだ!!」

『ゴロォオォォオ!!!』

 

「くっ…ゾロアーク、いちゃもんとつじぎり!あと飛び上がれ!!」

『ガァァアッ!!』

 

 

じしんの威力は観戦席にも届き、ヒナたちはそれぞれ観戦席にある取っ手に掴まって揺れから逃れようとする。取っ手に掴まりながらもバトルフィールドを見ると、岩がじしんによって抉られ、割れているのが見える。ゾロアークはそのじしんによるダメージを負ったようだが、それでもまだジャンプしながらいちゃもんとつじぎりをするという技の二重ができたようだ。つじぎりによってゴローニャにダメージを負わせることに成功したが、ゾロアーク自身もゴローニャの技を受けてしまう。

ヒビキが行ったゾロアークの指示を聞いて、じしんの技がかなり大ダメージを負う可能性があるからこそいちゃもんをしたのかもしれないという考えと、飛び上がりながらつじぎりといちゃもんする少々サトシに似た強引なやり方にジロウは感心したかのように笑い、そして飛び上がっているゾロアークを指差して言う。

 

 

「隙だらけだ!ゴローニャ、ストーンエッジ!!」

『ゴロォォォッ!!』

 

「うっそまじかよ!!?」

『ガァァアアッ!?』

 

 

ストーンエッジは尖った岩を相手に突き刺して行うという技。通常は地面に立つ相手に行う攻撃技なのだが、さすがはジムリーダーといったところか、ストーンエッジによって尖った岩と岩が高く飛び上がったゾロアークに向かて伸びていき、折り重なるかのようにゾロアークに向かってぶつかる。ジャンプしたせいで躱すことができないゾロアークはそのストーンエッジの技をもろに受けてしまった。だが折り重なった岩からすぐに抜け出し、少々辛そうな息を吐くが、すぐに大丈夫だとヒビキに向かって鳴き声を上げ、次の指示を待つ。

 

 

 

 

「ゴローニャ、じしんだ!」

『ゴロォォォ!!』

「クッ…ゾロアーク、もう一度ナイトバースト!!!」

『ガァァアアア!!!』

 

 

じしんによって地面が抉れ、それを吹き飛ばすかのようにナイトバーストが周りに巻き起こる。まるで砂嵐かのように思えるその技と技のぶつかり合いは、しばらくした後収まり…そしてゾロアークが倒れたことによって終了の意味を持った。

 

 

 

「ゾロアーク戦闘不能!」

 

『ガァウ』

「…サンキューなゾロアーク」

『ガゥ』

 

 

「…え、もしかしてヒビキこれで終了?ゴローニャふらふらなのにもったいない…!」

「いや、そんなことはない。まだ一体いるからな」

「え…?」

 

 

ボールに戻されたヒビキのゾロアークを見て、ヒナはこのバトルはヒビキの負けで終わりなのかと言う。ゴローニャは今にも倒れそうなぐらいフラフラになっていてこれでバトル終了するのはヒビキにとって惜しいとヒナが言うのだが、シルバーが隣でそれを聞いて違うと首を横に振る。だが、シルバーがあと一体いるという言葉にヒナは首を傾けた。

何時の間にポケモンを一体捕まえたのだろうかと疑問に思ったヒナだったが、ヒビキが出したポケモンによってそれは解決する。

 

 

 

 

 

 

 

「お前にとっては初バトルだ…頑張れよ、ヒノアラシ!!」

『ヒ…ヒノッ!』

 

 

「ヒノアラシか…ゴローニャはかなり不利なポケモンだと思うが…どう戦うのか楽しみだ!」

『…ゴロォォ!!』

 

 

 

「ヒノアラシ…!?」

「ジョウト地方のウツギ博士から学校卒業の祝いに貰った3体のポケモンの中の1体だ」

「え、卒業の祝い?…ってことはシルバーも貰ったの?」

「ああまあな…後でジム戦で見せる」

「そっか。楽しみにしてるね」

 

 

「ヒノアラシ!お前なら大丈夫だ…できるぞ!!」

『ヒノォ…!』

 

 

 

 

「あと…あのヒノアラシって臆病な性格なのかな」

「ああそうだ。だが臆病な性格のせいか、素早さが通常よりも上回っているんだ…それにあのヒノアラシは今はバトルには向かないかもしれないが育て方によっては化ける可能性もある。素早さ特化したポケモンはサトシさんのポケモンやバトルスタイルを見れば有利に戦えることもできると知っているが、ダメージを与えることができなければスピードは無力に等しいかもしれん…だがあのヒノアラシは―――――」

「――――ああはいはい。ほらシルバー!観察してないでバトル見ようってば!!」

「…そうだな」

 

 

 

ヒノアラシにとってゴローニャがゾロアークとの戦いによってふらふらしていることが幸いなのか、あと一撃さえ与えれば倒れそうになっている。だがヒノアラシは身体をぶるぶると震えさせ、ヒビキの背に抱きついて隠れたいというかのようにしきりに後ろを振り返ってヒビキを見ている。それを見たヒビキは大丈夫だとヒノアラシに激励し、その声を聞いたヒノアラシは頑張るとでもいうかのように少々目を釣り上げた。

それでも迫力十分のゴローニャを見たらまた怯えたように身体を震えさせているが…逃げようとはしない根性はあるのかとヒナは笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「ゴローニャ、ストーンエッジ!…………何ッ?!」

『ゴォォォオッッ!!?』

 

「たいあたり!!」

『ヒノォォオオオオッッ!!!』

 

 

ゴローニャが繰り出したストーンエッジを見事に躱しつつ、素早い動きでゴローニャの懐までやって来たヒノアラシは、ヒビキの声を聞いてその速さのままたいあたりをする。

だが、ヒノアラシは泣き顔のまま怯えつつさっさとバトルを終わらせようとしているのか…ロケットずつきのように大きく飛び上がってぶつかったため、ヒノアラシも頭を押さえつつ痛そうに泣いている。

もちろんそんなヒノアラシの技はゾロアークの技によって大ダメージを負っていたゴローニャが耐えることなく倒れてしまった。

そしてヒノアラシは相手が倒れたのを見て我慢せずとヒビキに駆け寄り、ジャンプしてヒビキの顔に抱きついた。

 

 

 

 

それを見てジロウは笑い、試合終了の合図を出してからバッチをヒビキに渡したのだった…。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「うぉぉぉおジムバッチだぁぁああ!!!!」

「喧しいぞヒビキ!!」

「うるさい!」

 

 

「ブフォッ!」

 

 

ヒビキはヒノアラシに向かってお疲れと礼を言った後ボールに戻し…そしてジムバッチを手にした喜びを叫んでいた。その声を聞いてシルバーとヒナによって頭を殴られ撃沈したが…それでも喜びからか反撃することはなく笑っていたのだった。

 

ジロウはヒナとシルバーを見て次はどうするか聞く。

 

 

「シルバーが先でいいよ」

「いいのか…?」

「うん。シルバーが貰ったっていうジョウト地方のポケモンも見たいし!」

 

 

 

ヒナは笑ってシルバーに次のバトルを譲った。ヒナはヒビキがヒノアラシを出したのを観戦し、シルバーが仲間として迎えたポケモンをバトルで見たいと思ったことを正直に話す。ピチューやリザードンはやる気十分というかのようにボールをゆらゆらと揺らしているが、ジョウト地方のポケモンを見たいと言うヒナの言葉にその揺れは収まり、ボールごしに観戦しようと決めたらしい。シルバーやヒビキとはいつか戦う相手だからかもしれないが…それでもバトルできないという不満を言うことはなく、ヒナたちはシルバーに譲ることができた。

 

それを見たジロウは頷いて、シルバーに今から行おうかと声をかけたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「それでは、ジムリーダージロウと挑戦者シルバーによるバトルを始めさせていただきます。ジムリーダーの使用するポケモンは2体!挑戦者は使用ポケモンが戦闘不能になるまでバトルを続けられます…それでは、バトル開始!!」

 

 

「行くぞ、カブトプス!」

『カブゥゥウ!!』

 

「…バトル開始だワニノコ」

『ワニィ』

 

 

「へぇ…シルバーはワニノコを貰ったんだ」

「おいシルバーァア!!何やってんだカブトプスにはみずタイプのポケモンは効果抜群にならねえぞアホシルバー!!」

「喧しいぞヒビキ!!!」

「ほらヒビキ、バトルの邪魔になるから叫ばない!シルバーも怒ってるし…それに大丈夫でしょ」

「馬鹿ヒナ…あいつのことだから絶対にやらかすだろ…」

「……え、あ…でも…」

「4年前の惨劇を思い出せ」

「………うん」

 

 

ヒナが不安そうな顔をしている一方で、ヒビキは絶対にやらかすとばかりに遠い目をしてバトルを観戦していた。先程までバッチを手にしたことの喜びが嘘のように空気が重い。

そんな観戦席とは違って、バトルフィールドでは冷静にカブトプスを観察し、ワニノコは静かにシルバーの指示を待つ。

まるで冷たい水のような空気を纏う彼らに、ジロウは熱く燃えるように少々計画を考えず戦うヒビキとは違ったタイプだと考えて口を開く。

 

 

 

「カブトプス、シザークロスだ!」

『ガブゥゥウ!!』

 

「…ワニノコ、避けろ」

『ワニ』

 

 

ワニノコは一歩横にジャンプしてカブトプスのシザークロスを避ける。その行動はまさに熟練されたかのように動き、とても冷静に技を躱していった。通常のバトルでは避けろと言われてもポケモンはどう避ければいいのか分からず右往左往して結果ダメージを食らうのが一般的だが…シルバーのワニノコはどう避ければいいのか、何をすればいいのかまるで分かっているかのように動いているのだ。

 

 

「面白いね君のワニノコは…でもレベルがまだ足りないな!カブトプス、いわなだれだ…!」

『ガブゥゥウウ!!』

「ワニノコ、みずでっぽう」

『ワニッワッッ!?』

 

 

ワニノコはみずでっぽうでいわなだれを防ごうとするが、まだ十分育てきっていないためかいわなだれを抑えきれずにダメージを負い、フラフラとして一度は立ち上がろうとしたがすぐに倒れてしまった。それを見てシルバーは悔しそうな顔を見せず、ただワニノコに近づいて抱き上げ、頭を撫でた。

 

 

「まだお前を仲間に迎えたばかりだが…よくやった」

『ワ…ワニ』

「これからよろしくな」

『ワニワニ…』

 

 

ワニノコはバトルに負けて悔しそうだが、シルバーの優しい笑みを見て何も言わずに微笑んだ。シルバーならば己を鍛えてくれると思っているからだろうか…トレーナーとしての才能があるように見えるシルバーを見てワニノコは将来強くなるだろうなとジロウは考えつつも、シルバーがバトルフィールドから下がり、先程まで立っていた位置へ戻ってからワニノコをボールに戻す。

そしてシルバーがポケモンを出したことによってバトルは開始する。

 

 

 

 

「終わらせるぞチルタリス」

『チルゥゥ!』

「かなり強いなあのチルタリスは…気をつけろカブトプス!」

『カブゥゥウ!!』

 

 

「それでは、カブトプス対チルタリス…バトル開始!!」

 

 

 

 

「はかいこうせん」

 

 

 

 

バトル開始の合図とともに、シルバーは静かにチルタリスに指示を出す。その声に反応したのは幼馴染でもあるヒナとヒビキだった。

 

 

 

 

 

「えっちょっと待っっ!!?」

「やべえヒナ伏せろ!!」

 

 

 

 

『チルゥゥゥウ!!!!』

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

バトルフィールドが一部焦げて破壊されてしまった箇所が目立つのが見える。ジムリーダーや審判が引き攣った表情を見せるのが分かる。

チルタリスはあの後はかいこうせんによる無双を行い、まるでバトルとは言えない壮絶な行動をして見せた。

それはまさしく、ジロウが先程考えた水のような冷静なバトルスタイルという言葉を前言撤回させるほどの威力。そしてジムリーダーのポケモンを2体とも倒すほどの強さを見せてくれたのだ。

 

 

 

 

「しょ、勝者…挑戦者の、し、シルバー!!」

 

 

 

 

 

 

審判の引き攣った声を聞いて、観戦席の2人が我に返ったかのように叫ぶ。

 

 

 

 

「シルバーてめえこの馬鹿野郎がぁぁああ!!!」

「ちゃんとバトルしなさいよこの馬鹿ぁぁあああああ!!!!!」

 

 

 

「喧しい!!ちゃんとバトルしただろうがっ!!」

 

 

 

 

「「そんなわけあるかッ!!!!」」

 

 

 

 

 

少々微妙な空気のまま、ジロウはシルバーに勝者の証としてジムバッチを渡したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話~ジム戦と、それから~






始まりの旅と似たように…








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりすぎなんだよお前は!!」

「そんなわけないだろう…これでも手加減したが」

『チルゥ』

「手加減したのッ?!」

「んなわけあるか!!シルバーお前手加減なんて言葉はバトルじゃ使わねえだろ!!」

「何事にも本気で戦うのが俺のバトルスタイルだが…チルタリスのはかいこうせんはこんなもんじゃ済まないぞ」

『チルルゥ!』

「はかいこうせんを極め過ぎよシルバー!!」

「やりすぎたらいけないって博士に言われただろ!!もう少し考えて行動しろよ!!」

 

 

 

 

「ハハハ…ヒナちゃん達、喧嘩しちゃいけないよ」

 

 

 

 

やらかしたことの重大さに気づかない無自覚なシルバーにヒナとヒビキが怒鳴り声を上げて怒る。だがそれを見て喧嘩に発展すると感じたジロウが苦笑しつつも3人を仲裁し、ヒナを見つめた。

 

それを見たヒナはシルバーを見てまだ言い足りないというような表情を一度したがすぐに改め、そしてジロウを見て好戦的な瞳で見つめる。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 

 

面白いバトルを期待しているよと言葉に出さなくてもジロウはそう言っているのだと、ヒナはそう感じた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「お前後で覚えてろよ」

「フンッ上等だ。返り討ちにしてやるから覚悟していろ」

「はいはいヒビキとシルバーそこで喧嘩しない!バトルの邪魔になったら燃やすからね!」

 

 

 

「ハハッ…じゃあ、これよりジムリーダージロウ対挑戦者ヒナの試合を始めます。使用ポケモンは2体…それでは試合開始!」

 

 

 

観戦席から聞こえてくる口喧嘩にヒナはバトルフィールド越しから怒鳴り声を上げて喧嘩は止めろと叫ぶ。その声には何かやらかしたら燃やしてやると有言実行しそうな色を含んでおり…ヒビキとシルバーは少々不満そうにしていながらも口を閉ざしてバトルを観戦することにした。

それを見たジムリーダーのジロウや審判のサブロウが苦笑しつつもバトルを始めるために顔を引き締める。それを見たヒナも気持ちを切り替えてバトル開始を待つ。

 

 

「よし行くぞ…プテラ!」

『ギャァォオオオオッッ!!』

 

「プテラね…じゃあこっちは…いくよピチュー!」

『ピッチュゥ!!』

 

 

 

レベルが高く、とても強そうなプテラが出てきたことにヒナは笑みを浮かべて帽子をしっかりと目深に被り直し、懐からボールを手に取ってバトルフィールドに向けて投げた。ボールから出てきたのはいかにも気合十分なピチューであり、電撃をバチバチと地面に向かって放ちながら空を飛ぶプテラを睨みつけた。

睨みつけられたプテラも同じように威嚇する。その瞳はとても凶暴に見え、四年前のあの日バトルにいたならば絶対に怯えていたであろうピチューはものともしない。もちろんヒナも同じようにただ相手を見据えて勝ちに行くのを狙っているようだとジロウは感じていた。

 

――――――そしてしばらく沈黙の後、両者が口を開く。

 

 

 

「プテラ!いわなだれだ!」

『ギャァァアアアッッ!!』

「全部躱してプテラに10まんボルト!」

『ピチュ!』

「回転して避けろ!」

『ギャァォォオオ!!!』

 

 

地面のバトルフィールドが奇妙な形で抉れ、すべてがいわなだれとなってピチューに襲いかかる。それを見てヒナが指示を出し、ピチューはその通りに動く。

素早く動き、岩を避けつつプテラに急接近したピチューはすぐさま強暴な10まんボルトを放つ。だがそれは力強いプテラの竜巻にも似た回転によって避けられ、風圧を避けて大きな岩に潜り込むことによってピチューはダメージを防いだ。

ジロウが本気で来ていることにヒナも気づいていた。そしてピチューもプテラが手加減なくこちらに向かって勝つ気でいることに気づいていた。だからこそヒナはピチューを見て口を開く。

 

 

「ピチュー、でんこうせっかで接近!」

『ピチュ!』

「プテラ!接近したところを狙え!もう一度いわなだれ!」

『ギャァォオオオ!!』

「させないわ!ピチュー、てんしのキッス!」

『ピッチュ!』

 

『ギャッ…!』

「なにっ…!?」

 

 

「…ん?なあシルバー、てんしのキッスって何だっけ?」

「相手を混乱状態にする技だそれくらい覚えとけ」

「お前説明の後にいちいち一言余計なんだよ!」

「騒ぐなヒナがキレるぞ」

「マジ後で覚えとけ…!」

 

 

急接近してきたピチューに向かって攻撃を仕掛けようとしたプテラだったが、それをすべて素早く避けたことによって不発に終わり、そして逆に可愛らしいピチューに頬をキスされたことによって混乱状態に陥ってしまう。ぬいぐるみのような可愛らしさを表現してなのか、ピチューはそのてんしのキッスに何故かメロメロを発動させる時のようにウィンクをしてプテラを混乱させた。もしもプテラが雌だったならピチューの可愛さによってメロメロ状態にもなっていただろうなとシルバーは考える。

ヒナもシルバーと同じようなことを考えたのか頬をかいてメロメロを覚えさせたつもりはないんだけどなと呟き声を上げていた。

 

だがヒナはすぐに気持ちを切り替えて叫ぶ。

 

 

 

「ピチュー、あなたのショーを見せてあげて!」

『ピッチュゥ!』

 

 

「なっ…これはボルテッカー!?」

『ギャッ…ギャウ!』

「プテラっ!!」

 

 

「ピチュー、そのままでんげきは!」

『ピチュゥゥウ!!』

 

 

ピチューが走る方向に電撃の跡ができる。ピチューの身体全体が黄色く光り輝き、尻尾からはキラキラとした光が降り注ぐ。もしもここが薄暗く、そしてピチューが大きく空に向かってジャンプしたならば星空のように降り注いだだろうと考えるほど、煌びやかに駆け巡る。

それを見たジロウは混乱したプテラを何とか躱してもらおうとしたが混乱が解けていないプテラはそのままピチューに突撃され、もろに電撃を浴びて倒れてしまったところにヒナは欠かさず追撃を指示する。

その声を聞いたピチューはでんげきはをバトルフィールド全体に向かって行い、プテラを倒すことに成功したのだった。

 

 

 

 

 

「プテラ戦闘不能!」

 

 

 

「ありがとうプテラ…うん、本当に強くなったなヒナちゃんは」

『ギャァゥ…』

 

 

「よしやったよピチュー!」

『ピッチュゥ!』

 

 

ハイタッチをして喜び合うヒナ達を見てジロウは懐かしげに彼女たちを見て、そして腰につけてあるボールをバトルフィールドに向かって投げる。

プテラを出したのはジロウにとっての強いポケモンであり、どんな戦い方をするのかという期待で出したポケモンだ。もちろん勝つ気はあったが、それでも負けたとしても喜びの方が強く感じられた。あの時とは違って本当に強くなったのだと、そう感じたのだ。

 

 

 

「行くぞ、バンギラス」

『バンギャァァアアッッ!!』

 

 

「バンギラス…か…よし、ピチュー戻って」

『ピチュッ…!』

「トレーナーになって初のジム戦だしリザードンも気合十分だから…お願い」

『ピッチュゥ…ピチュ!』

「ありがとうピチュー……行くよ、リザードン!」

『グォォオオオオ!!!!』

 

 

 

ピチューがまだ戦えるよと気合十分にヒナに向かって鳴き声を上げるが、その声を聞いてヒナは申し訳ないような表情でピチューに向かってお願いを言った。ニビジムで戦いたいと思うのはピチューだけじゃないと言うこと、ずっと懐でボールがぐらぐらと動いてバトルしたいと言っているのだと話す。その声にピチューは納得し、分かったと声を出してボールに戻っていった。

そして現れたのは漆黒の身体をもち、頑丈そうな翼を優雅に広げて大きく咆哮するリザードンだ。

その声を聞いてバンギラスは強い奴が現れたと笑い、ジロウも同じくつられて笑みを浮かべた。

 

 

 

「それでは…試合開始!」

 

 

 

「バンギラス、かみなりパンチ!」

『バンギャァァァ!!!』

「そうはいかない!リザードン、かえんほうしゃ!」

『グォォオオオ!!!』

 

 

 

かみなりパンチを繰り出そうとしたバンギラスは向かってきた力強いかえんほうしゃを見て技を繰り出すのを止めてすぐに避ける。避けられた炎は岩にぶつかり、熱を持って岩が赤く燃えた。それを見たジロウはジムリーダーとして戦っているという意識を一瞬だけ忘れ、気分を高揚させつつバンギラスに向かって指示を出した。

 

 

 

「バンギラス、ストーンエッジ!」

『バンギャァァア!』

 

「リザードン避けて!」

『グォォオオオ!!!』

 

 

バンギラスのストーンエッジはまるでヒビキと戦ったゴローニャが繰り出したかのように空を飛ぶリザードンに向かって真っすぐ…そして大きく抉られて向かう。それを見たリザードンは翼を大きく広げて宙を旋回し、避けていく。だがいつまでたってもストーンエッジは止まず、避け続けていることに少々苛ついたリザードンの尻尾によるアイアンテールによって砕くことでバンギラスに向かって叩き落とした。それをバンギラスはストーンエッジによって防ぎ、リザードンを睨みつけた。

 

 

 

 

「さっきのチルタリスのようにちょっと暴れてみようか…バンギラス、はかいこうせん!」

『バンギャァァアアアア!!!』

 

「はかいこうせんなら…こっちは真っ向勝負よ!フレアドライブ!!」

『グォォオオオオ!!!』

 

 

「おいおい何やってんだヒナの奴!!?」

「サトシさんのように…ポケモンにとって苦手なタイプの技を真っ向から受けて反撃し、見事逆転することに成功したことがあるが…まあヒナなら平気だろうな」

「リザードンなら平気ってか!?んな無茶な…」

「現に4年前、俺のチルタリスのはかいこうせんをリザードンはお前とヒナを背中に乗せながら防いだことがあったぞ」

「おいはかいこうせんぶっ放して俺たちに当たったかもしれない自覚ありかこの野郎!!」

「煩いぞヒビキ、試合の邪魔だ」

「はぁ…お前まじ空気読め」

 

 

 

 

はかいこうせんに向かってリザードンは炎をまとわせながらぶつかっていく、そして口から吐いた炎を破壊こうせんに向けて放ち、翼をたたんでそのままの勢いでバンギラスに向かって突撃していった。

巨大な炎の塊となったリザードンに、バンギラスはなすすべもなく倒れてしまったのだった。

 

 

 

 

「バンギラス戦闘不能…勝者、挑戦者ヒナ!」

 

 

「やった!ありがとうリザードン!」

『グォォオ!』

 

 

バンギラスが目を回して倒れたことに対し、ヒナは喜んでリザードンに抱きついてありがとうと礼を言う。その声にリザードンは笑顔でヒナにすり寄って勝ったことを喜び合った。

そんな彼女たちを見て、ジロウはバンギラスを労わってからヒナに近づいて言った。

 

 

 

「ヒナちゃん、4年前に渡したあのバッチを持ってる?」

「はい…これです」

「それは貰うよ…君にはこれを渡そう…グレーバッチだ」

 

「ありがとうございます…ジロウさん!」

『グォォ…!』

 

 

 

少々古ぼけたグレーバッチをジロウに見せると、ジロウはヒナの手からそれを受け取り、そして新品のグレーバッチを渡した。小さな箱に入っているバッチを手にしたヒナはリザードンと顔を見合わせてから笑みを浮かべて…そしてジロウに向かってお礼を言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「グレーバッチ、ゲットよ!!」

『グォォオ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話~旅の始まりはいつも同じ~





旅の始まりはいつもトラブルがつきもの。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしニビジムに挑戦してバッチゲットしたし…おいシルバー!ポケモンバトルするぞ!!」

「ここではできるわけないだろうが馬鹿が…ポケモンセンターへ行くぞ」

「うるせえ分かってるよアホシルバー!さっさと行くぞこの野郎!!」

「アハハ…ありがとうございましたジロウさんにサブロウさん」

「いや、気にしなくていいよヒナちゃん」

「妹達が会いたがっていたけど…またこっちに戻ってくるんだろう?」

「はいもちろんです!それじゃあまた――――」

「―――――あ、ちょっと待って!」

 

 

ニビジムから駆け出し、ポケモンセンターへ向かって競い合うように走って行くシルバーとヒビキに苦笑して後を追いかけようとするヒナだったが、ジロウは小さく声をかけて引きとめた。

 

 

 

「ヒナちゃん、タケシ兄ちゃんの事なんだが…今ニビシティには留守でいないけど、今度おこなわれるリーグ戦にはポケモンドクターとして仕事で行くのが決定してるって話を聞いたんだ。タケシ兄ちゃんからの伝言だよ。【ポケモンリーグで待ってる】だって…」

「そう…ですか…分かりました!【リーグ戦に必ず出てみせます!】ってタケシさんに伝えてください!」

「ああ、分かった」

 

 

 

もう一度礼を言って、ヒナはポケモンセンターは向かってしまったヒビキ達の後を追って走り出す。その後ろ姿をジロウ達は懐かしそうに見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ヒナがジロウ達と話をしている間に、ヒビキ達はとっくにポケモンセンターへ向かって行ったらしく、走っていった後ろ姿は歩き出したヒナからは見えない。

だからヒナはヒビキ達が暴れていないことを願って急いでポケモンセンターへ向かったのだが、その出入り口にヒビキとシルバーが不機嫌そうな表情で立ち止まっていたため何かあったのかと首を傾けたのだった。

 

 

 

「どうしたの?」

「バトルフィールドがついさっき来たトレーナー達のバトルでぶっ壊されてて使用禁止だってよ」

「ニビシティで使用できるバトルフィールドはここしかないからな…わざわざ他の場所でやるぐらいならここで何もせず別れた方が良いだろうということにした」

「シルバーがな!」

「ヒビキは不満そうだが…ヒナはそれでいいか?」

「まあ私はどっちでもいいけど…ヒビキは大丈夫なの?」

「まあ俺が不満なのってどっちかっていうとシルバーが勝手に決めたことだし…それに、もっと強くなってからヒナやシルバーと戦いたいから別にいい」

 

 

 

シルバーはバトルできないことに関して不満そうだったが、わざわざ町はずれに行ってバトルを行うよりはこのまま別れて次に会った時にすればいいと話す。その声にヒビキは勝手に決めるなと少々不機嫌になっていたが、それでもシルバーの考えには同意していて、ヒナを待っていたのだ。

このまま三人で別れて、旅をしようということを――――。

 

 

ヒナは少しだけ寂しそうにしながらも、分かったと頷いてヒビキ達を見た。

 

 

 

 

「そっか…じゃあここでお別れだね」

「おう!次会ったときはバトルしようぜ!!」

「その前にバッチは集めておけ。リーグ戦の時期が大幅に短縮しているからな」

「分かってるよアホシルバー!」

「アホは貴様だろうこの馬鹿が」

「はいはい喧嘩しない!…じゃあ、またね」

「おう!またな!」

「…フン」

 

 

シルバーたちはそれぞれ行きたい方へと歩き出した。どのみち三人とも次の町であるハナダシティに向けておつきみやまには行かなければならないが、それでもヒナ達にはヒナ達のペースというものがある。

シルバーはニビシティで物資を調達してからチルタリスによって動くか…おつきみやまで修行をするかしたり、ヒビキはそのままおつきみやまに行くためゾロアークのイリュージョンによってウィンディに変化した姿の背に乗って超特急で向かったり…そしてヒナはというと、自分のペースでゆっくりとおつきみやまに登っていたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「トレーナー初の野宿って感じかな?」

『ピチュゥ!』

『ガゥゥ…』

 

 

 

 

おつきみやまの中間地点まで登ったヒナたちはそろそろ夜になるため、これ以上進むのは危険だと判断し、キャンプをするためそれぞれが動いていた。リザードンは火元を準備して小枝を集めて薪にしたり、ピチューはきのみや果物を集めてヒナに渡したり、そしてヒナは母直伝の料理やポケモンフーズを家でリュックにいれて準備した簡易調理器で作ってリザードン達と一緒に食べていた。そんな彼女たちに近づくのは、食べ物の良い匂いに釣られてやって来た野生のポケモン達。

お腹空いたーと警戒なくこちらに近づいて頂戴!とねだるその姿にヒナは苦笑しつつ、リザードンとピチューに頼んで葉っぱで作ったお皿でごはんを渡していた。

そのうち野生ポケモンたちがヒナの周りに増え、お腹がいっぱいになったピチューは通常よりも小さなサンドたちと一緒に遊んでいた。

 

 

『ピッチュゥ!』

『ギュウゥ』

「ピチュー!あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ!」

『グォォオオ!!』

『ピチュゥウ!』

『ガゥガゥ!』

『ギュゥゥ!』

 

 

 

『ピィ!』

『ピッピィ!』

『ゴルバッ!』

 

「はいはい、おかわりできるほどの分はないけど焦らなくても大丈夫だよ」

『ピィ…ッ!』

「文句は言わないの。ピィはもうご飯食べたでしょう?…そんなに食べたいんならきのみ集めたら作るけど?」

『ピィィ!』

『ピッピィ!』

『バンギャァ!』

「え、ちょっと待った野生のバンギラスっておつきみやまにいたっけっ!!?」

『バンギィ?』

『グォォ…』

 

 

野生のポケモンたちがヒナが言った言葉に反応してきのみを集めに向かう。その喜んだ姿の中には何故かおつきみやまには生息していないはずのバンギラスまでいてヒナは驚愕していたのだった。

リザードンはため息をついて見たことのあるバンギラスに頭を抱えた。ここで野生化しちゃったのねと呟く声は、ヒナには届かない。そんななかヒナはきのみを持ってきたピィたちの要望を聞くためにもバンギラスがこのおつきみやまにいるという事実を驚くのを止めて料理を作ることを決める。

 

 

「ご飯だけじゃなくってどうせならお菓子もいいよね」

『グォォ』

『ピィ?』

「ピィは食べたことないかな。いろんな味ができる美味しいお菓子。…ポフレの方が良いかな……ちょっと待っててね」

『ピィィ!』

『ピッピィ!』

『ゴルバァァ!!』

『バンギャァァア!!!』

 

「ねえリザードン…バンギラスが小さいピィたちと一緒にいても違和感がないっていうのおかしいかな?」

『グォォオ…』

「うんそうだね。考えるのはやめておこう…」

 

 

お菓子を作りながらも後ろで楽しそうに待つバンギラスたちの姿にヒナは隣にいるリザードンに向かって声をかけた。

バンギラスの頭に乗ったピィが楽しそうにまだかなと真下の頭を叩いて待っているのだ。そのピィの行動にバンギラスは怒ることなくむしろ一緒に楽しげに笑っている。そしてそんな彼の近くには他のピィたちやピッピ達…そして尻尾の先にはゴルバットやズバットが仲良く座っているかのように翼を折りたたんでいるのが見える。

強暴だと恐れられることがあるバンギラスが小さいピィたちと一緒にいる光景は違和感がなく…それどころかむしろ可愛いとさえ感じる姿にヒナは遠い目をして思わずリザードンに声をかけてしまったのだった。

リザードンは静かに首を横に振ってから小さく鳴き声を上げる。相棒の声を聞いたヒナは分かったと声を出し、すぐに思考を料理やお菓子作りに移したのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

集まってきていたポケモンたちのお腹が十分満足し、ヒナたちの周りで眠ろうとしていた状態の中、数体のポケモンたちがヒナ達に向かって帰って来たのだった。

 

 

「ピチュー遅かったね。もうちょっとしたら迎えに行こうと思ってたよ」

『グォォ』

 

『ピチュゥ…』

『ガゥガゥ…』

『ギュゥゥ…』

 

 

「どうしたの?」

『グォォオ?』

『ピィ?』

『ピッピィ?』

『ギャゥウ?』

 

 

ピチュー達の様子がおかしいことに気づいたヒナとリザードンはお互いの顔を見合わせてから優しく彼らに向かって声をかけた。ご飯を食べて眠そうにしていた他の野生のポケモンたちもどうかしたのかと声をかける。するとピチューは決心したかのようにヒナに近づいた。

 

暗闇の中で見えたのはピチューの尻尾だけだった。波動や気配でピチュー達が帰ってきたのを知ったヒナ達が見えたのはピチュー達の声のみ。だからこそ、気まずげにいう鳴き声にヒナたちは大丈夫だよと声をかけて…怪我をしていたらすぐに治療しようかとリュックを開いて待っていたのだ。

 

そして決心したかのようにようやく姿を見せたピチューに、ヒナたちは火の明かりによって何故こちらに近づいてこなかったのかを理解した。

 

 

 

 

 

『ピチュゥ…』

 

 

「……えっと…たまご?え、ポケモンのたまご!?」

『グォォオオ!?』

 

 

 

 

 

ピチューが持っていたたまごは、ピチューよりも少しだけ小さくて、それでも元気そうにゆらゆらと動くポケモンのたまごだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ゆらゆらゆらゆら




―――――やさしいこえがきこえる




ゆらゆら





――――――よんでるこえがきこえる







ゆらゆらゆらゆら…とたまごは動く。







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第六話~そのポケモン、バグではない~







生まれたポケモンはちょっぴり変な子。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらゆらと揺らめくたまごにヒナたちは驚愕し、そして困惑していた。

野生のポケモンたちの誰もが知らないと首を傾けるからだ。その反応と目の前にあるポケモンのたまごにヒナとリザードンは真剣な表情で呟く。

 

 

 

 

 

「もしかしてトレーナーが持ってたたまご…なのかな…?」

『グォォオ…』

『ピチュゥ?』

 

 

「というか…すっごく揺れてるんだけどもしかして生まれる?!」

『グォォ…!』

『ピ!?ピチュゥ!!』

 

 

たまごがゆらゆらどころではなくグラグラと揺れ始めてきて、なにか音が聞こえるような気がするヒナは首を傾けて呟いた。その声にリザードンとピチューは反応してすぐにたまごを温めようと近づく。そしてそんなリザードン達を見た野生のポケモンであるピィたちも一緒になってたまごの周りに集まって来た。

 

 

「大丈夫だよ。生まれておいで…」

『グォォ』

『ピチュゥ!』

 

 

 

グラグラと揺れ光り始めるその動きに、ヒナたちは本当に生まれるのだと分かり、たまごを撫でた。外の世界は怖くないよという気持ちを込めて…大丈夫だよと優しく言う。そしてリザードンが寒くないように尻尾の火を近づけた、瞬間だった―――。

 

 

 

 

「うっ…わッッ!?」

『グォォッ!?』

『ピチュゥ!?』

 

 

 

 

 

『ナッゾォ…?』

 

 

 

小さなナゾノクサが元気よくたまごから生まれてきた。

ちょこんと座って身体を傾けているナゾノクサがゆっくりと目を開けてヒナを見た。その幼い瞳にヒナたちは笑みを浮かべる。

ヒナは頭を撫でて、口を開いた。

 

 

 

「生まれてきてくれてありがとうナゾノクサ」

 

 

『ナゾ…ナッゾォ』

 

 

 

もじもじと身体を揺らめかせながらヒナの手にすり寄るその姿は何処かかつてのヒトカゲの姿を思い浮かべた。

 

 

 

「ナゾノクサ…ここで会ったのも何かの縁だし、まだ赤ん坊だし…私と一緒に旅しない?」

『ナゾォ…?』

「もちろん、野生のままでいいならここかナゾノクサが棲める場所でお別れするけど…」

『ナゾ…ナゾォオ!』

 

「そっか…ありがとう、そしてこれからもよろしくね」

『ナゾ!』

『グォォ!』

『ピチュゥ!』

 

 

 

まだ生まれたばかりで育ててくれる親らしきポケモンがいないため、ここに置いていくのは微妙かなとヒナは考えていた。もしも野生がいいのならばおつきみやまのポケモンたちに育ててほしいと頼み込むか、兄に頼んでナゾノクサが野生として暮らせる最適な場所へ送ろうと考えながらも…。

でもナゾノクサはそれらを選ばなかった。ヒナ達と傍にいて、仲間になることを選んだのだ。

だからヒナは笑みを浮かべ、リザードン達は笑って歓迎した。ヒナは一つのボールを手に取り、ナゾノクサに優しく当てながらも…。

 

そして捕まえたというボールの合図とともに飛び出したナゾノクサはヒナの膝の上によじのぼり、ヒナを見てからよろしくねと言うかのように一声鳴いたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

(ううむ…これは問題が多いかなぁ…)

 

 

 

生まれてからすぐにナゾノクサはヒナに懐いた。おそらく目を開けて最初に見たのがヒナだからという理由があるのだろうと考え、そしておつきみやまにナゾノクサはいなかったような気がするとヒナは遠い目をして考えていた。

たまごから生まれたナゾノクサはまだ赤ん坊で、育ててくれるはずの親がいない状態なのだ。ナゾノクサがいないと言うことは、やはりトレーナーがたまごを置いていったか…それとも捨てていったかのどちらかだろう。このままではいけないとヒナが考えていた時にそれは起きた。

 

 

 

『ピッチュゥ!』

「あ、こらピチュー!」

 

 

『ナゾ…ナゾォ!』

『ピッっチュゥ!!!?』

 

 

「うわっ…ピチューが宙を飛んだ…!?」

『グォォ…!』

 

 

ピチューがきのみを食べているナゾノクサに近づいて遊ぼうよと抱きつこうとしたら、ナゾノクサがピチューを見て半回転し、回し蹴りのような攻撃をした。

ポケモンの技に回し蹴りなんてなかったはずだよねとヒナは思わずリザードンに聞いて見るが、リザードンは何も答えずにいる。というよりも、答えられない。

ナゾノクサはオーキド研究所でよく見ていたが、回し蹴りなんて覚えていなかったはずだしピチューとレベル差が激しいのにピチューを一撃でノックダウンさせてしまうだなんてと混乱する頭で考えていたからだ。もちろんそれはヒナも同じく。

 

 

 

 

「よ、よし…ちょっとナゾノクサのレベルアップのためにも図鑑で技調べなきゃ…よね?」

『グォォオ…』

 

 

 

リュックの中から取り出したポケモン図鑑には、手持ちのポケモンの技を確認することができる。新たに仲間となったナゾノクサはまだ生まれたばかりだからあまり技を覚えていないはずだと思いながら開いて調べてみた結果。

 

 

 

 

――――ナゾノクサ くさ、どくタイプ

昼間は根っこの足を地面に埋めて動かないことが多い。夜歩き回ってタネをまく。

 

【すいとる】

【じたばた】

【くすぐる】

 

 

 

 

 

「あ、よかった…回し蹴りなんて技ないよね…ちょっとお兄ちゃんのポケモンのたまごからナゾノクサが生まれたのかなって思っちゃった…」

『グォォ…』

 

 

『ナゾォ?』

『ピ…チュゥ…』

 

 

 

安堵のため息をついてから、ヒナはナゾノクサを抱きしめてそろそろ寝ようかと声を出す。レベルアップはまた明日しようと考えて、夜を過ごしたのだった。

回し蹴りのようなことをやったのは、トレーナーになる前にイッシュ地方で見たズルッグのずつきのようなものかなと考えながらも…。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「このなかでナゾノクサと軽く戦ってくれるポケモンいるー?できれば手加減してくれるポケモンで!」

 

『ッッ―――――!!』

 

 

 

朝日が眩しくてとても気持ちのいい朝。

 

朝食を食べ終えてから野生ポケモンたちにヒナは片手を上げて話しかけた。その声に反応したのはたくさんのポケモン達。皆たまごから生まれてきた姿を見てとても嬉しかったのだろう…。でも、バンギラスのような本気で戦うポケモン達にはリザードン達が相手するとして、ナゾノクサにはバトルを覚えてもらうためにまずこうかいまひとつな水タイプから始めようと考えていた。

 

 

だからこそ、朝起きたら何故か近くにいたクラブに手を貸してもらってバトルを始めたのだが…。

 

 

 

 

「なんでこうなった」

 

 

 

『ナッ…ゾォ……』

『ゴキゴキッッ!?』

 

 

「ナゾノクサァァしっかりして!というかクラブのあわに一回当たっただけでやばいって思わなかったごめんなさい!!」

『グ…グォォ…!』

『ナッゾォ…!』

『ピチュゥゥ!!!』

 

 

 

半泣きの状態でヒナはリュックからきずぐすりを取り出しすぐに怪我を治しにかかる。クラブはうまれたてでも大丈夫なように手加減したぞと右往左往しているが、リザードンとピチューは気づかない。そんななかで、ナゾノクサはふらふらの身体のまま、リザードンの尻尾に近づこうとしていて…。

 

 

「こら!ナゾノクサは炎タイプが弱点なんだから近づいて触ったら危ないわよ!!」

『グォォオオオ!!!』

『ピッチュゥゥウ!!!』

 

『ナッゾォ?』

 

 

ナゾノクサは怪我の処置をしているヒナ達に可愛らしく身体を傾けていた。疑問に思っているようだと感じたヒナは膝の上にいるナゾノクサに弱点について教えていく。

 

 

「きみは草と毒タイプなんだから弱点はリザードンのような炎なんだよ?逆に水タイプは効果いまひとつで全然大丈夫なんだけど…わかった?」

『ナゾ!』

「うん全然分かってないねリザードンナゾノクサに尻尾近づけないでね!」

『グォォオオ!』

 

 

 

 

もちろんよ!と元気よく叫んで頷く相棒にヒナは少しだけ良かったと安心し、近くにいたコダックに誰もいない方を狙ってみずでっぽうしてほしいと頼んだ。その頼みを聞いたコダックは頷いて水を放つ。

そしてヒナはいまだにリザードンの尻尾に近づこうとしてピチューに身体ごと抱きかかえられて止められる姿に向かって話しかけた。

 

 

 

「ほらナゾノクサ!こっちが君にとって好きな水よ。炎は危ないからね!」

『ナゾ…?』

『ピチュ…』

『グォォ…』

 

 

 

ナゾノクサがヒナの言葉を聞いてピチューから降りてコダックの放ち続ける水に近づいた。

そして恐る恐る触ろうとして―――――。

 

 

 

『ナ、ナッゾォォ…』

 

 

「嫌がってる…だと…?!」

『グォォ…!?』

『ピチュゥ!?』

 

『ゴキゴキ…』

『ゴッパァァ』

 

 

 

ナゾノクサはコダックの放つ水を嫌がり、すぐにヒナに抱きついて触りたくないと身体を横に揺らす。オーキド研究所で見たナゾノクサは普通に水を喜んで身体全体で浴びていたのだが…たまごから生まれたナゾノクサが拒絶したことに対してヒナたちは驚愕する。

もしかして手加減してくれたクラブの小さなあわに一回だけ当たっただけでダウンしてしまったのはそのせいかとヒナは考え、これがバトルにも影響されたらどうしようかと悩む。

 

 

 

 

「炎を好んで水を好まない…かぁ……なんか逆さバトルとかで有利になれそうな気がする…」

『グォォ…』

『ピチュゥ…』

 

 

 

 

『ナゾォ?』

 

 

 

ナゾノクサはヒナたちの言葉が分からないようで、ただ小さく鳴いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 










ちなみにまだまだ秘密はある。






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第七話~ハナダシティにて現れた~






合縁奇縁






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁっと…着いたァ!!」

『ナッゾォ!』

 

 

 

おつきみやまの頂上にてピッピ達が一緒に遊ぼうよと言うとても魅力的な誘いを断り、ジムバッチ集めのために歩き続けたヒナ。

ナゾノクサがボールから外に出たいと言うためずっとだっこして歩いていたためか少々疲れてはいたが、それでもおつきみやまから下山してハナダシティの近くまでやって来ることができたのだ。ヒナの気分としてはある意味もうハナダシティに到着しているようなもの。

 

だが、ヒナたちの歩みを止める者たちがいた。

 

 

 

「ハッハァ!ここは名物ゴールデンボールブリッジ…はハナダジムのカスミさんの苦情で止めて急遽できた別名【おつきみやまの七人抜き】!!お前達にも挑戦してもらうぞ!」

 

「え、強制ですか…?」

『ナゾォ…?』

「当たり前だろう!そうでなければハナダジムに挑戦することは不可能!もう一度おつきみやまに戻るんだな!ハッハッハ!!!」

「はぁ…」

『ナゾ?』

 

 

テンション高く叫ぶ青年にヒナはため息をついて面倒そうに7人のトレーナーである彼らを見た。ゴールデンボールブリッジなんて名物があったのかさえヒナは知らないし、カスミから聞いたことがないためなんか妙だなと辛気臭そうに見ていたのだ。いきなりできたと言うのならばわかるが、それでも名物と彼らが言うため、嘘でなければ少々おかしいとヒナは考える。そんなヒナに抱きしめられているナゾノクサは彼女の顔を見上げてから身体を少々傾けて可愛らしく鳴き声を上げたのだった。

そしてヒナが何を考えているか知らない彼らはただただ早くバトルするのかしないのか決めろ!と叫んでいて、バトルをしなければ通すつもりはないのだなと分かり、仕方なく懐からボールを手に取った。

 

 

『ナゾ?』

「ナゾノクサはここで見ててね?…よし行くよ、ピチュー!」

『ピッチュゥ!』

 

 

 

ボールからピチューを出して電撃を軽く放ちながらも好戦的に彼らを見ることにより、試合開始の合図となった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「おめでとー!!」

「おめでとう!見事僕たち7人に打ち勝つことができたね!」

「はぁ…」

『ナゾッ!』

『ピチュゥ…』

 

 

 

彼らのポケモンを7人連続で相手したピチューが疲れもしないような声を出して苦笑する。ぶっちゃけ楽勝すぎでしょとピチューが思わず言いたくなるほど、彼らのポケモンは育ちきっていなかった。

しかもピチューはただ10まんボルトを行っただけで彼らのポケモンたちは倒れていったのだ。まるで倒れるのが当たり前だとでもいうかのような対応にヒナはますます疑わしい目で彼らを見て、そしてピチューはナゾノクサが何か問題を起こさないように守りつつ、ヒナたちの会話を聞いている。ナゾノクサは何もわからないようでまだ身体を傾けていた。ただ不穏な空気というのは親でもあるヒナから感じ取っているのか、少々居心地悪そうにしている。

 

何かトラブルが起きる前に退散した方が良いかもしれないと、ヒナは作り笑顔で彼らを見てから言った。

 

 

 

「あの…もうハナダシティへ行っても良いですか?ちゃんと約束通り7人抜きしましたし…」

 

「うんそうだね!でもその前に君のポケモンは全て置いていってもらおうか」

「抵抗すればどうなるか分からないぞ?」

「ナゾノクサはいらなくねえか?弱そうだ…」

「いや、ピチューがあそこまで強かったんだ。見た目だけで判断しない方が良い」

「おいまだボール持ってんじゃねえのか早く出せ!」

 

 

「嫌です」

『ピッチュゥ!』

『ナゾ…?』

 

 

彼らの手がヒナに伸びる前に、ピチューの電撃が降り注ぐ。だが彼らも結構やるようで、ピチューの電撃が身体に当たる前にカラカラが電撃を吸い取っていた。

恐らくひらいしんの特性を持っているのだろうとヒナは判断して、ピチューを見る。ピチューも電撃は効かないと理解したのか、小さな尻尾にあるまじき威力で地面に叩きつけ威嚇し始めた。

 

 

そして、やっぱり悪党だったのかとため息とつきながらも、襲ってきたからには捕まえてジュンサーさんに渡さないといけないと考え、すぐに思考をハナダシティに着くことから切り替える。

 

襲いかかってきた青年たちはピチューの強さをバトルを通じて分かったからか、不敵な笑みを浮かべてヒナを見ていた。

 

 

「ハッ!お前みたいなチビに何ができるっていうんだ?」

「帽子は古いが…その新品のリュックといいシューズといい……やっぱまだ新米トレーナーなんだろ?そのポケモンは親から譲り受けたのか?」

「ママのポケモン貰っちゃったんだー良いでしょーってか」

「ギャハハハそんな感じなんじゃねえの!」

「ほらほら早く渡した方が良いぜ?俺たちは組織で活動中なんだからな」

 

 

「組織?組織ってことはギンガ団とかプラズマ団とかそういう悪党の集まり?」

 

 

 

気色の悪い彼らから気になる言葉を聞いてヒナは思わず聞いていた。組織という言葉には4年前活動していたのを見た彼らのことを思い出したからだ。もっとも、4年前に活動していた組織は全て兄であるサトシの手によってその組織の在り方をを変えたか、叩き潰されたかのどちらかなのだが…。まさか今になって悪の組織とやらが再びできるとは想像しにくい。特にポケモンに対して乱雑に扱う悪を嫌う兄がいる限り。

だが彼らは【組織】という言葉を使ったのだ。それがヒナは気になっていた。

 

ヒナが聞いた言葉に、青年たちは悪どい笑みを浮かべて口を開いて言う。

 

 

「お?何だ知ってんのか?ハッハァ!俺たちはその中で最も悪に近い存在ロケット団の集団さァ!」

「ロケット団って…あれは悪党の集まりじゃないわ。ちゃんと国際警察やポケモンレンジャーに協力している立派な組織よ!」

「ギャハハハそんなの知るかよ!」

「そうそう!無駄なおしゃべりはここまでにして…さっさと終わらせようぜ」

 

 

 

7人のトレーナー達が7人抜きでは使わなかったポケモンを一斉に出して攻撃しようとしてくる。それを見てヒナは懐にあるボールを手にして投げようとした―――――――。

 

そんな時だった。雷鳴が地面に向かって降り注ぎ、襲いかかってくるポケモンたちの行動を停止させてしまうような轟音が響き渡るまでは。

その雷鳴を、ヒナは知っていた。一歩一歩まるで地獄の門が開くかのようにこちらに向かって近づく足音の気配を、ヒナは知っていた。

 

 

「まさか…」

『ピ…チュゥ…』

『ナゾォ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 な に や っ て ん だ ? 」

『 ピ ィ カ ッ チ ュ ゥ ? 』

 

 

 

 

「「「「「「「フボォォオッ!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

とたんに聞こえてきたのは、青年たちの痛そうな悲鳴と打撃音。彼らのポケモン達が雷鳴によって驚いていたが、すぐに乱入してきた人間とポケモンを見て警戒していた。

その警戒はすぐ無駄になるのだとヒナは知ってはいたのだが。

 

 

 

「お兄ちゃん何やってるの!?というか何でハナダシティの近くにいるの!?」

『ピチュゥ!?』

『ナゾ?』

 

 

「お兄ちゃんにもいろいろあるんだぜヒナ…とりあえず、いろいろ聞きたいことあるからてめえら覚悟しろ」

『ピィカァ』

 

 

「このチビのお兄さんってことか?」

「グッいきなり殴りかかりやがってふざけんじゃねえぞ!」

「おいお兄さんに世の中の悪ってもんを教えてやろうぜ!」

「ギャハハハ!それ良い案だな!チビのポケモンとあいつのポケモンで一石二鳥ってな!」

「安心しろよおにーさん?アンタのピカチュウはうまく使ってやるからさァ?」

「殴られた分もおかえししねえとな!!」

「チビ痛めつけるだけじゃ済まさねえぜハッハァ!」

 

 

 

 

 

「ああ゛?てめえら今なんつった?」

『ピィカ?』

 

 

 

 

あ、これ死んだ。

 

 

 

若干苛ついていた兄とピカチュウの様子が一変して、いまかなりブチギレてますとでもいうかのような表情になる。青筋を浮かべた額に、思わず土下座したくなるような凄みの効いたとても低い声。そして極めつけはピカチュウの強い電撃。

ヒナとピチューは思わず真顔になってこれから行うであろう兄とピカチュウの所行を見ないようナゾノクサの視界を覆うことに専念したのだった。

彼らが無事であるよう祈ったところでどうにもならないと知ってはいたからだ。

 

 

 

 

―――――――とりあえず、合掌。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ハナダシティの行く途中にある小さな道。そこには異様な集団がいた。

顔のパーツである目や口がまるで埋め込まれているかのように肌が赤く張り上げられ、頭をアフロのようにじりじりに焦がして泣きはらし正座する7人の青年たち。そしてその傍らにはポケモンたちが寄せ合って怯え震えているのも見える。

そんな彼らが見ているのは両腕を組み仁王立ちして笑う青年とピカチュウ。そしてその斜め後ろには顔を引き攣らせてナゾノクサに見せないようにしている少女とピチューの姿。

 

もしもここに何も知らない通行人が来たのなら、ピカチュウを肩に乗せている青年が加害者なのだと断言できるほどかなり可哀想な光景ができあがっていたのだった。

 

 

 

 

「す…ずびばぜん…グズっ…」

「ちょ、調子になってまじだぁ」

「おにいざんがまざかポケモンマズダーだなんでじらなくて…」

「グズ…妹さんとお兄さんに危害をぐわえるようなごどじでずいまぜん」

「俺達だだのバイドで組織でば下っ端の下っ端なんでず…」

「もう悪さばしまぜん…」

「ごべんざさい…」

 

 

「感情が足りねえ、もう一回」

『ピィカ』

 

 

「お兄ちゃんこれ以上は駄目っ!!!」

『ピッチュゥ!』

 

『ナゾ!ナ…ナゾ?』

 

 

 

 

 

ヒナとピチューの悲痛な声を真似して叫ぶナゾノクサは、何が起きたのか現状を理解せずヒナに抱きしめられつつも…ただ身体を傾けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




To be continued.







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第八話~それは、伝説と皆は言う~





ただし何を考えているか分からない。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…お兄ちゃんこの人たちどうするの?」

「……チッ」

 

 

「ヒィ?!」

 

 

兄が懐から取り出すモノが凶器か何かだと思ったらしい悪党たちは舌打ちの音によって緊張が限界突破に陥り、泡を吹いて気絶してしまった。兄は動かなくなった彼等を横目で見ながらも、懐から取り出した最新型のポケナビに連絡を入れているようだ。ナゾノクサが興味津々で兄のポケナビを見つめているのが見えて私はちょっとだけため息をついた。

 

 

何コールかの後、女性の声が聞こえてくる。

 

 

「おつきみ山のふもとにポケモン盗もうとした連中がいるからジュンサー呼んで来てくれ」

 

 

【はぁ?いきなり何言ってんの―――――】

 

 

ピッという機械音とともにポケナビの通信機能が閉じられ、女性の怒ったような声は聞こえなくなる。そして縄で縛った悪党たちを置いて私たちに近づいてきた兄に、複雑な表情を向けながらも口を開いた。

 

 

「今のって…カスミさん?」

「ああ、ハナダって言ったらカスミだろ?」

「いや意味わかんないから」

 

 

兄の言っていることは知り合ってばかりの人ならば理解できないと思う。

つまり兄は悪党を捕えてそのままにしておくことができず、かといって自分が捕えたと言えば兄の立場から考えて大騒ぎになると分かっているからハナダシティのジムリーダーであるカスミさんに後のことは頼んだと言ったのだろう。怒りっぽい所があるカスミさんだけれども、それでもちゃんと兄の言う言葉を理解してやってくれるはずだ。それでももう少し言い方ってものがあったんじゃないかと私は思う。

4年前ならもうちょっと言語力があったような気がするんだけどもしかしたらそれらは全てバトルの方へと流れていったのかもしれない。

 

 

「行くぞヒナ」

「行くってどこに?」

 

 

「面白い所」

 

 

 

何処だそこは

 

 

場所について聞いていても兄はちゃんと答えてくれない。ピチューは兄のピカチュウに話しを聞こうとしているけれど、ピカチュウもピカチュウあるまじき表情で苦笑して言葉をはぐらかしているようだ。でも兄が面白い所と言ったら本当に面白い所なんだろうと考えて私は素直に従った。

後ろにいた悪党はそのまま放置で…でも可哀想だから早くカスミさんが来れるようにとピチューに空に向かって電撃を放ってもらいながらも。

 

 

 

その後、ピチューをボールにいれた私は兄の横に行く。そしてそのまま…ちょっとだけ静かになる空気になりつつも、私は兄の向かう方向へと歩く。

兄は4年前とは違って喋ることが少なくなった。イッシュ地方に旅してた時は結構喋っていたのだけれど、カロス地方から戻る頃にはポケモンを見た時の子供っぽさは消えて口数が減っていたのを覚えている。…まあ、怒る時は容赦なく激昂してキレるし、感情とかも表情に表れて言葉も増えるからあまり変わってないようにも感じるけれど、こうして歩いて見ればやっぱり静かになったなと思う。でもそんな静かな空気は苦手じゃない。森の中で聞こえるポケモンの鳴き声や自然の音を聞きながら私たちは森の中を歩く。静かだからこそ聞こえてくる音に耳を傾ける。

 

 

そしてナゾノクサが楽しそうにはっぱをゆらゆらと動かしながら兄やピカチュウを見ているのに気づいて私は微笑みながら観察する。昔から幼いポケモンの世話をよくしていたピカチュウはナゾノクサの興味が自分に向いているという視線を感じたのか、私の肩に乗って抱きしめているナゾノクサに挨拶をしていた。ピカチュウの声にナゾノクサは反応して笑うように鳴く。ピカチュウ尻尾とナゾノクサのあたまの葉っぱが触れ合って楽しそうだなと思った。

 

 

それを見ていた兄が口を開いて私に聞く。

 

 

 

「そのナゾノクサはどうしたんだ?」

「おつきみやまでピチューが拾ってきたたまごから生まれたの」

「生まれたばかりか」

「うん。ちょっと変わってるところもあるけどね」

『ナゾ?』

『ピィカッチュ?』

 

 

 

変わっている所について兄は深く聞かず、ただ小さく頷いてそうかと呟く。ポケモンに個性があるのを兄はよく理解しているからこその声だなと私は理解しつつも、ちょっとだけ複雑な思いのまま兄に向かって言う。

 

 

 

「なんか微妙」

「……何が」

「まだ旅をし始めたばっかなのにいきなりラスボスに会った気分なの」

「だいたい合ってるな」

「…お兄ちゃんなんでこっちに来たの?山にいる皆は?」

「用事があって来た。山はフシギダネに任せてる」

「用事って?」

「聞くな」

「セレナさんは?」

「ポケモンパフォーマーの仕事」

 

 

 

兄はこの世界のトレーナー達の頂点…ポケモンマスターだ。今はシロガネ山に住んでいるが、それはポケモン達のためだと兄を良く知る皆が理解している。

ポケモンの組織機関によって話が来た当初、夢が叶ったと兄は笑っていたが、その表情はどこか悲しそうだったのを覚えている。ポケモンマスターはまだ夢への通過点に過ぎないのだとセレナさんは言っていたし、シゲルさんから聞いた話もよく覚えているからこそ、兄はうまく笑えずにいたと分かった。そんな兄にできることはあるのだろうかと私は思う。まだまだ新米トレーナーだからこそ、私はやるべきことをやらなければいけないのだ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

兄によって連れられた先にいたのは、キラキラと輝く石の塔。

 

見たことのない造形とハナダシティでそんなモノが作られているだなんて知らない私は驚いた。前にテレビでカロス地方特集でやっていたヒャッコクシティの日時計に似ていた。形ではなく、色や輝きが似ていたのだ。

日が当たれば、宝石の塔にもなりそうなほど綺麗だと感じた。

 

「こんなのがあったなんて」

「綺麗だろ」

「うん」

『ナッゾォ!』

「あ、こらナゾノクサ!!」

『ピィカッチュ』

 

 

ナゾノクサが私の腕から飛び降りて石の塔へ向かう。それを見て私は追いかけようとしたのだけれど、私の肩に乗っていたピカチュウがやれやれと言うかのようにため息をついて、ナゾノクサを追いかけて逸れるのを阻止して立ち止まられてくれたため大丈夫だと判断する。

ピカチュウにお礼を言ってからナゾノクサを抱き上げて、そして兄に向かって聞いた。

 

 

「お兄ちゃんこれってなに?ハナダシティの近くにこんなのあったらすぐ大騒ぎになると思うんだけど…」

「何だと思う?」

「え?」

「お前には何に見える?」

 

 

兄が言っている言葉の真意はつかめない。というよりも、教えてくれる気はないのだろう。兄はいつも何か大事なことはうまく隠す。だから私は石の塔を見上げて兄が聞きたい答えを考えた。教えてくれないのならば、自分で考えて答えを見つけなければいけないから。

石の塔はとても輝いていて宝石のようにキラキラとしている。周りにある樹木が違和感にならないほど綺麗にその場に収まる姿。それの雰囲気を、私は知っていた。つい最近見たその感情を、私は理解していた。

 

 

 

「ポケモン…というより、ポケモンのたまごみたい」

『ナゾォ?』

 

「…まあ、及第点だな」

『ピィカ』

 

 

兄は小さく頷いて微笑んでくれた。兄の言葉に私とナゾノクサは首を傾ける。ああいや、ナゾノクサは首がないから身体を傾けてると言った方が良いだろう。

兄はこちらに近づいて私の横に立ち、石の塔を見上げた。

 

 

「これが何なのか知りたかったらシンオウ地方に行ってみろ」

「ちょっと遠いけど…分かった」

「行くぞ」

「どこに?」

 

「ハナダシティ」

 

 

ジム戦あるんだろ?

 

そう言った兄の声に私は頷いて歩き始めた兄の後を追う。一度だけ後ろを振り返り、石の塔を見てからすぐに前を向いて歩いた。石の塔について兄は何も教えてはくれなかったけれど、シンオウ地方というヒントはくれたから行けばわかるかもしれない。シンオウ地方と言えば師匠は何してるかな。少しだけ懐かしく思いながらも木の葉の揺れる音を感じつつ歩いていった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここからまっすぐ行けばハナダシティだ」

「え、お兄ちゃん行かないの?」

「用事があるからな」

 

ハナダシティの近くで兄はここで別れようと言ってきた。その言葉に私は無理に引き留めようとはせず、分かったと頷く。兄がハナダシティに行ってトレーナーにでもあったら大騒ぎになると私は知っているし、兄は兄で用事があると言っているからここから先は別れて行動すると言う意味を理解した。

ちょっとさみしくなるけれど、ここから先は私の旅に戻るだけだから仕方ないだろう。そんな私に兄は小さく笑って近づいた。

その両手には何やら布の小さな袋を持っているのが見える。巾着袋にも見えるそれは、モンスターボールが1つ入るぐらいの大きさしかない。袋には片方がピカチュウのような黄色い色、そしてもう片方はリザードンのようなオレンジ色で染められていた。

何時の間に両手で持っていたのだろうと首を傾けている私に、兄は口を開く。

 

 

「どっちがいい?」

「えっと…」

『ナッゾォ!』

 

「こっちか…分かった」

 

 

私が戸惑ってどちらの袋を選ぼうか悩んでいたら、抱きしめていたナゾノクサがすぐさまこっちだ!とでも言うかのように鳴き声を上げてオレンジ色の方を選んだ。そのオレンジ色はナゾノクサにとって大好きな炎に似た色だったから選んだのかと私は考え、兄から受け取ったオレンジ色の袋の中身を覗き込んだ。

――――すぐにその袋を閉じて兄を見てから叫ぶ。

 

 

「何でこれ入ってるの!?」

『ナゾォ?』

 

「使いどころ間違えるんじゃねえぞヒナ」

『ピッカァ』

 

 

兄が言った言葉に私は何度も頷いた。これはしばらく出してはいけないものだ。ポケモンたちが触れない場所に置いておいた方が良いと考えてリュックの奥の奥までしまいこんだ私に、兄は帽子の上から頭を撫でた。

 

 

「またな」

『ピィカ』

 

「…うん、またね」

『ナゾ!』

 

 

 

兄がモンスターボールからポケモンを出して、どこかへ行ってしまうのを見届ける。急にきて急に去って行った兄だけれど、トレーナーとして上を目指していけばまた会えると考えて私はナゾノクサを連れてハナダシティへ走って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話~水の少女~








 

 

 

「待ってたわよヒナちゃん!あの馬鹿どこ!?」

 

 

「えっと…お兄ちゃんならもう行っちゃいましたけど」

「畜生逃げやがったってことね!」

「逃げたって言えるのかな」

『ナゾ?』

 

 

 

 

ハナダシティに着いてポケモンセンターに向かおうと歩き出す私に向かって走ってきたハナダシティのジムリーダーことカスミさんが怒った表情で兄が何処かと叫ぶ。もちろんもう兄はいないのでカスミさんは物凄く激怒していた。たぶん悪党をジュンサーさんに捕まえてもらうという面倒な仕事を押し付けられたせいだろうと私は一歩カスミさんから離れた。

八つ当たりはしないと思うけれど、カスミさんが怒ると怖いのはタケシさんや兄を通じて分かっているからだ。

だから私は少しだけ苦笑しながらもカスミさんに質問してみた。

 

 

「あの悪党達は捕まりました?」

「ええ…ええ、そうね。捕まったわ。私があいつから意味不明の連絡をもらって直々にね!」

「ご、ごめんなさい」

「あら、ヒナちゃんは気にしなくていいのよ。ハナダの外れで見た空に上がる雷撃ってヒナちゃんのピチューのお陰でしょう?ありがとうね、すぐに見つけることができたわ」

「そう…ですか…」

 

 

カスミさんに怒られることはなかったけど、兄と同様に私もある意味悪党達を捕まえて縛りつけてから放置したままだったので微妙な心境だった。…ま、まあちゃんと捕まったのならいいかと気持ちを入れ替えた。

 

「あの、カスミさん」

「何、ヒナちゃん」

「バトル…してくれませんか?あの約束を果たすためにも」

「っ!…そっか、そういえばヒナちゃんはトレーナーになったのよね。分かったわ!受けて立つ!!」

「ありがとうございます!!」

『ナゾ!』

 

 

ナゾノクサは私たちが何故気合いを入れた顔で叫んだのか理解していないようで、ただ私を真似して鳴き声をあげていた。

懐のボールがゆらゆらと揺れるのを感じながら、私はカスミさんとハナダジムへ目指して歩いた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「あらぁヒナちゃんじゃない!久し振りねぇ!!」

「サクラ姉さん、審判お願い」

「ジム戦するの?もうそんなに時が過ぎてしまったのねぇ…」

 

「感慨深い顔してないで、審判してよ!」

「はいはい、カスミってばせっかちさんなんだから」

「そういうことじゃないでしょう!!」

 

「ハハハ…」

『ナッゾォ?』

 

 

サクラさんはとても綺麗な顔でそんなに時間が経つのが早いだなんてと独り言を言っていたが、カスミさんのお陰で審判をし始めてくれた。

サクラさんの声が、ジムにあるプールで響き渡る。

 

 

 

「それでは、ジムリーダーカスミと、挑戦者ヒナちゃんによるバトルを始めたいと思います!勝負は1対1―――」

「―――2対2よサクラ姉さん」

「あらあら…勝負は2対2で行います。挑戦者の使用ポケモンが戦闘不能になった時点で負け。それでは、ジムリーダーからポケモンを出してください」

 

「私はもう決めてるわ!いくのよマイステディ!!」

『シュワッッッ!!!』

 

「スターミーか…なら私は―――」

『――ナゾ!』

「え?」

『ナッゾォ!!』

 

 

プールでスターミーを見たナゾノクサが私の腕の中で激しく揺れ始め、降りたいといってきた。だから降ろしてあげたら、なんとプールの足場となる場所に飛び降りたのだ。

どういう心境の変化なんだろうと思った。ナゾノクサは水が苦手で、プールなんて絶対に飛び込みたいとは思わないはずなのに。

 

 

『ナゾナッゾ!』

「もしかして…リザードンやピチューのようにバトルしたいの?」

『ナゾ!』

「中は水だらけだよ?怖くないの?」

『ナッゾ!』

 

 

ナゾノクサがやる気充分で答えるから、この場はナゾノクサがやりたいようにやらせてみればいいかなと思った。

ポケモンがやりたいと叫ぶのならば、私は止められそうにないからだ。

サクラさん達もナゾノクサが出ると分かったらしい。審判としての手が上がる。

 

 

「えーそれでは、スターミー対ナゾノクサのバトルを始めたいと思います!試合開始!!」

 

 

「スターミー一気にいくわよ!ハイドロポンプ!!」

『ヘアッッッ!!!』

「ナゾノクサ、右の足場にジャンプ!」

『ナ、ナゾ!!』

 

ナゾノクサがスターミーによって大きく発射された水に慌てふためき、右の足場にジャンプしてなんとかかわすことに成功した。

それでもやっぱりレベル差やバトル経験不足からくる動きの拙さは見て分かるレベルだ。私はなるべくナゾノクサが水を怖がらないように、そしてトレーナーとして出来ることをしようと拳を握った。

 

 

「ナゾノクサ、落ち着いて足場を見て移動して!スターミーに近づく!」

『ナゾ!』

 

「どうしたのヒナちゃん?私に勝つっていうのならそんなのんびりしていいのかしら?スターミー、なみのりよ!!」

『ヘアッッッ!!!』

 

『ナァ…ナゾォ!!?』

「大丈夫よ落ち着いて!ナゾノクサ、そのまま足場で上に向かって大きく飛んで!!」

『ナッッゾオ!!』

 

 

ナゾノクサが足場から大きくジャンプしたことによって、すさまじい勢いでやってきた波に巻き込まれずにすんだ。でも空中にいるのは変わらないため、私は慌てずにカスミさんとスターミーを見る。

 

 

「空中なら隙だらけよ!スターミー、れいとうビーム!!」

『ヘアッッッ!!!』

 

「ナゾノクサ、身体を左側に捻って回転!」

『ナッゾォ!!』

 

「なっ!?」

『ヘアッッッ!?』

 

 

空中で慌てずに私の声を聞いたナゾノクサは、れいとうビームを避けることができた。しかもれいとうビームをかわしたことでできた冷たく凍っていく空への道を恐れずにナゾノクサはそれを足場にしてしまう。

あれ、ナゾノクサって何タイプだったっけ?

 

 

「悩むのはあとよねっ!ナゾノクサ、そのまま走ってスターミーにすいとる!!」

『ナゾ!』

 

 

ナゾノクサが勢いよく氷でできた道を走ってスターミーに【噛みついた】…あれ、すいとるって噛みつく技だったっけ?

 

カスミさんは微妙そうな顔でそれを見たようで、苦しんでいるスターミーといまだに噛みついているナゾノクサに舌打ちをした。

 

 

 

『ヘァァアッッッ!!?』

 

 

 

「…すいとるというより、まるで【きゅうけつ】ね。スターミーそのまま放電しちゃいなさい!10まんボルト!!」

『ヘァッッッ!!!』

 

 

 

『ナッッゾオ!?』

「ナゾノクサ!!!」

 

 

すいとるでなんで噛みつくのかとか疑問に思わない方がよかった。ジム戦なのだからしっかりとナゾノクサに指示をしなければならなかった。

10まんボルトを直に浴びたナゾノクサは耐えれるわけもなく、足場でふらついてそのまま倒れたのだった。

サクラさんの声が、プールで響く。

 

 

「ナゾノクサ戦闘不能!スターミーの勝ち!」

 

 

 

「ごめんねナゾノクサ…私のせいで痛い思いしちゃったね」

『ナゾ…ナゾォ』

「…ありがとう」

 

 

 

スターミーによって私のもとへ運ばれたナゾノクサにすぐ近寄り抱き上げる。ナゾノクサは文句を言わず、私の言った言葉を聞いて笑っていた。泣かずに笑っていたのだ。大丈夫だといっているようにも感じて、私もちょっとだけ笑ってオレンのみをナゾノクサに食べさせてからボールの中へ入れる。

もう一度だけ、ありがとうとお疲れさまを言ってから、プールを見た。

 

私は懐からボールを出す。

 

 

 

「やっぱりここは…ピチュー、お願い!」

『ピィッチュウ!!』

「来たわね、ピチュー」

『ヘアッッッ!!』

 

 

「それでは、スターミー対ピチューのバトルを始めたいと思います!試合開始!!」

 

 

試合開始の合図と共に、雷撃がプール内を駆け巡る。私のピチューの10まんボルトと、スターミーの10まんボルトが放ち合いになったからだ。

10まんボルトはそのまま爆発して、黒煙をプールに撒き散らす。

 

 

「ピチュー、ボルテッカー!」

『ピィッチュウ!!』

 

「スターミー、れいとうビーム!!」

『ヘアッッッ!!』

 

「かわしてからもう一度10まんボルト!」

『ピィチュ!』

 

 

 

ボルテッカーで近づくピチューに向かってれいとうビームが放たれることなくすぐさまかわされる。そして10まんボルトを放ったピチューに、スターミーもお返しと10まんボルトを放った。このままだと長期戦になると感じた私は、黒煙があがるのを見てこっそりとピチューに向かって指示をした。

 

 

「スターミー、ハイドロ――っな?いつの間に!?」

『ヘアッッッ?!』

 

 

ピチューが黒煙から飛び出して近づいたことに気づかなかったカスミさんとスターミーが驚きの声をあげる。

その隙を狙って、私は叫んだ。

 

 

「ピチュー、10まんボルト!」

『ピィッチュウ!!』

 

『ヘァァアッッッ!?』

「スターミー!!」

 

 

スターミーはピチューの10まんボルトを浴びてそのままプールに落ちていく。プールが雷撃によって黄色く光った後、浮かんできたのは己の中心を点滅させたスターミーの姿。

サクラさんの声がプールで響いた。

 

 

 

「スターミー戦闘不能!」

 

「ありがとうスターミー…ゆっくり休んで」

『ヘアッッッ』

 

「よしピチューありがとう!」

『ピィッチュ!!』

「ふふっ!なんだか四年前に戻ったみたいね…でもあの時のように負けるつもりはないわ!いくわよマイステディ!!」

 

カスミさんが出したボールからでできた相手に、私とピチューは冷や汗をかいた。

 

 

 

 

『コッパァ?』

 

 

なにもわからないですというようにとぼけた顔。ピチューと似た黄色いボディ。

その恐ろしさを、私とピチューはちゃんと理解していた。

 

 

 

「手強いのきちゃった…」

『ピチュ…』

 

このあとのバトルが苦戦するのは嫌にも分かるため、私は気合いを入れるために帽子を深くかぶり直した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話~一歩間違えば負ける~

 

 

 

 

 

 

 

コダックという生き物は、何も知らずに初めて見たトレーナーからだとそのポケモンが強いという印象は感じられない。進化すれば成長は期待されるし強いかもしれないと思う人が増えるが、コダックよりもほかのポケモンを育てたいというトレーナーの方が多いぐらいだ。

黄色いボディにちょっと真面目そうには見えない顔、そしてぼんやりとした性格。とぼけた表情に騙されるトレーナーは数多く存在していることだろう。

 

そんなコダックを手持ちとして育て上げたカスミさんが恐ろしかった。

 

 

 

『コッパァ?』

 

『ピィッチュウ』

 

 

ピチューがコダックを警戒して睨みあげている。でもコダックはただ首を傾けているだけ。何も知らないトレーナーならただのコダックかと笑うだろうが、それはコダック自身の力を理解していないための事実。

 

私とピチューはカスミさんのコダックを見てごくりと生唾を飲み込む。サクラさんが両手をあげるのを今か今かと待ちわびた。

 

 

 

「それでは、コダック対ピチューのバトルを始めたいと思います。試合開始!!」

 

 

「ピチュー、早く終わらせるよ!10まんボルト!」

『ピィチュ!!』

 

「サイコキネシス!」

『コパァ』

 

 

ピチューの10まんボルトがコダックに向かって一直線に放たれる。

 

でもカスミさんは何も心配していないという表情でコダックに向かって指示をした。10まんボルトはコダックにとって弱点となるのに、それは大丈夫だと分かっているかのように。だがそれは現実となった。

コダックがサイコキネシスで自身へと向かってきた10まんボルトを操って止めたのだ。10まんボルトとして発せられた電撃の光が空中で止まる。バチバチと鋭い音と細かな光が当たるはずだったコダックの真上で止まり、そのまま空中を回っていた。

 

雷撃が呆気なく止められたことに、私とピチューは驚愕する。

 

 

 

「嘘っ!?」

『ピッチュウ?!』

 

「そのままお返ししちゃいなさい!」

『コッパァ』

 

 

電撃がサイコキネシスによってピチューへと向かって行く。ピチューが慌てて避けようと逃げているのに電撃はピチューの後を追い掛けるかのように動き回る。サイコキネシスによって意志を持って動くその電撃に、このままでは直撃してダメージを食らうと考えて私は口を開いた。

 

 

 

「くっ…でんげきはで躱して!」

『ピィッチュ!』

 

 

ピチューの放ったでんげきはによってコダックが操っていた雷撃に当たり、爆発する。それを見たカスミさんはただ笑って楽しんでいた。私たちはコダックの脅威に少々焦っているというのに、カスミさんはそれらすべてを楽しんでコダックに指示をしていた。そういうバトル好きな部分は兄に似ているなと感じながらも、ピチューに向かって口を開いて叫ぶ。

 

 

「ピチュー、一気に接近してからアイアンテール!」

『ピッチュゥ!』

 

「コダック、ハイドロポンプ!」

『コパァ』

 

「上にジャンプして回転!」

『ピチュ!』

 

 

ハイドロポンプがピチューに向かって迫ってきたが、それを躱すため上に飛び上がる。そのまま回転し、勢いをつけた状態でコダックの頭上にアイアンテールを放った。コダックはアイアンテールによってフラフラとしていたが、それでもダメージは少ないようですぐに顔を左右に揺らして意識をはっきりとさせ、一体何が起きたんだというような表情で周りを見ていた。

もちろんカスミさんはそんなコダックに仕方ないわねと言うかのように笑っていた。アイアンテールのダメージを与えられてもまだ大丈夫だとはっきり理解しているようだと分かった。

 

 

『コッパァ!?』

「大丈夫よコダック!なみのり!」

 

「こっちもなみのり!」

『ピチュゥ!』

 

 

コダックのなみのりとピチューのなみのりが激突する。プールの水が波によって極限にまで減っていき、そしてピチュー達が発生させた大波によってぶつかりあいプールからあふれ出ていく。頭上からシャワーとなって降り注いだプールの水が冷たく感じる。でも水浸しになってしまったという思いはなかった。ただ前を向いて叫ぶだけ。

 

 

 

「ピチュー、もう一度でんげきは!」

『ピッチュゥ!』

 

「コダック、サイコキネシスでお返しよ!」

『コパァ』

 

「でんこうせっかでコダックの後ろに回り込んで!」

『ピチュ!』

 

 

コダックが電撃に当たらないようにサイコキネシスを使うのは分かっていた。サイコキネシスでピチューに向かって電撃を操ると言うのならコダックにそれが当たるように後ろに向かえばいいのではないかと思ったのだ。サイコキネシスで電撃を操る方法はかなり難しいのではないか、ピチューの後を追っている電撃に当たらないようにしなくても隙が生まれるのではないかと考えた発想だった。

ピチューがすぐさまコダックの後ろに回り込んで操られている電撃を待つ。コダックはこの後どうしたらいいのかカスミさんを見ていた。カスミさんはただ、小さく微笑んでいた。

 

 

 

「甘いわねヒナちゃん!コダック、爆散させてしまいなさい!」

『コパァ』

 

「ええぇうっそぉ!?ピチュー逃げて!!!」

『ピッチュゥゥ!?』

 

 

コダックが操っていた電撃を広範囲に広げて爆発を起こさせていた。バチバチと光るプール内に爆発と黒煙が舞いあがる。私はとっさに手で顔を隠して爆発から身を守った。でも近くで起きたコダックにとってそれは自爆にも等しい行為なのではないかと思ったのだけれど、あのカスミさんがやることだから絶対に意味があると思ってピチューに逃げるよう指示をした。ピチューはスピードが速くすぐに逃げることに成功したが、それでもダメージを負ったようでちょっとだけふらついていた。

 

「大丈夫ピチュー!?」

『ピ、ピッチュ!』

 

 

『コパァ』

 

 

ピチューが力強く鳴き声を上げてコダックを見た。そして私もコダックとカスミさんを見た。爆発によってプールにわずかに残された水分が吹っ飛び、黒焦げを残しているほどの威力があったのだと分かるぐらい酷い有様になっていたのに、コダックの周りは爆発が起きずダメージも通っていないのだと理解できる光景―――真っ白な円が刻まれていた。

サイコキネシスを鍛え上げたらここまで強くなるのかと思えるほどの威力だ。

 

 

 

「さてヒナちゃん。ここからどうやって勝ってみせるのかしら?」

 

「とにかくやって見せますよ!!…ピチュー、痛い思いをすると思うけどそれでも頑張れる?」

『ピッチュ』

 

 

サイコキネシスによる防御と攻撃の鋭さは理解できた。電気技で攻撃しようとすれば跳ね返されることも理解した。だからこそこれからやることはピチューにとって少々ダメージを食らうやり方になる。でもそれしか方法がないと分かったから私は覚悟を決めた。ピチューも私の言葉を聞いて覚悟ができたと頷いた。

 

 

 

「ピチューもう一度でんげきは!」

『ピィッチュゥ!』

 

 

「何回やっても同じよ!コダック、サイコキネシス!」

『コッパァ』

 

 

 

でんげきはがコダックのサイコキネシスによって操られピチューに向かうのが分かった。サイコキネシスを使う間は他の技が使えないと言うことが分かっているから、コダックよりもスピードが速いピチューに向かって指示を飛ばす。

 

 

 

「今よ!コダックに向かってしがみつく!」

『ピチュ!』

 

 

「なっ?!」

『コパァ!?』

 

 

「そのまま10まんボルト!」

『ピィッチュ!』

 

 

『コパァァアア!!!』

「コダック!!?」

 

 

コダックの腹にしがみついたピチューは10まんボルトを放つ。直接電撃技を食らったコダックはダメージのせいかサイコキネシスで操っていた電撃を避けるようにすることができず、ピチューとコダックの腹に直撃する。ピチューは己の電撃を食らってしまったが、それでもまだ平気なようで電撃を放つのを止めない。コダックは痛みからか涙を流していた。

 

 

「コダック!そのままピチューをひっかいて叩きつけなさい!」

『コパァ!』

 

「ピチュー、耐えて!そのまま10まんボルトよ!」

『ピィッチュゥ!』

 

 

コダックは腹にしがみついているピチューに向かって鋭い爪でひっかく。そして痛みからか離れてしまったピチューを水がなくなったプールの床へ叩きつけた。それでも電撃は止まず、コダックにダメージを与えることに専念するピチューに頑張ってと私は叫んだ。

電撃とひっかくたたきつけるによる攻撃はやがて爆発を引き起こして攻撃が止んだ。

 

立ち上った煙が消えていき、見えてきたのはピチューとコダックが倒れている姿。

 

 

 

「両者引き分け!」

 

 

サクラさんの手が上がったのを見て、私は息をゆっくりと吐いた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

コダックの弱点が電気技でなければ倒れることはなかっただろう。ピチューが頑張って電撃を放ち続けてダメージを蓄積していなければ私たちが負けていたことだろう。ピチューが勝ちたいと気力を出し続け、コダックに向かって電撃技を放った。そのおかげで引き分けにできた。でも、一歩間違えていれば私たちはすぐ負けていただろう。

電気技を受けてもずっと倒れず怯まず攻撃をしたコダックの姿勢に感嘆するが、引き分けとなったからにはまたジム戦で相手するかもしれないと思った。

ピチューを抱き上げてお疲れさまと言い、ボールに入ってもらった。カスミさんやサクラさんに礼をして、ジムから出ようとする。

 

 

「ちょっと待ちなさいヒナちゃん!どこいくの?」

「えっと…引き分けになったのでもう一度挑戦するためにちょっと修行しようかなと…」

「そんなのはいらないわ。まあ、もう一度戦ってみたいって言う気持ちはあるけどね。はいこれ!」

「え!?これって……」

 

「ブルーバッチよ!ヒナちゃんの持ってる古いバッチと交換しましょう!」

 

カスミさんが私に渡してくるブルーバッチに、何でという疑問が沸き起こった。ジム戦をして勝つこともできず引き分けになったと言うのに、何故バッチを渡してくるのだろうかと。

でもカスミさんはサクラさんと顔を見合わせてから苦笑して口を開いて言ってくる。

 

 

「ヒナちゃん、4年前のあの時カスミはあなたに負けたのよ?」

「サクラ姉さんの言うとおりよ。あの時からブルーバッチを持つ資格はもうヒナちゃんにあったの。今回バトルしたのは私の我儘ってところね」

「カスミってばジムリーダーなのに本気で戦うんですもの」

「サクラ姉さんそれ言わないでよ!」

 

 

「えっと…」

 

 

手に持たせてきた新品のブルーバッチに困惑している私はカスミさんとサクラさんを見る。カスミさんとサクラさんは仲良く口喧嘩のようなことをしていたが、私の視線に気づき喧嘩を止めて言う。

 

 

「これはもうヒナちゃんのものよ。古い方のブルーバッチは…そうね、4年前の記念として私がもらっておくわ」

「ほらヒナちゃん。カスミがそう言ってるんだから受け取りなさい。その資格はあなたにはあるわぁ」

 

「あっ…りがとうございます!」

 

 

 

 

じわじわとバッチを持たせてくれた意味を理解した。ハナダジムに認められてバッチを渡してくれたんだと分かった。私は次第に笑みを浮かべてバッチをぎゅっと握る。

ありがとうと叫んだら、カスミさんとサクラさんは笑ってくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 







ハナダシティにはポケモンセンターがある。


そのポケモンセンターにヒナはいた。ジムバッチを貰った彼女はポケモンの体力を回復するためにこちらにやって来たのだ。
ポケモンセンターにいるのは彼女だけじゃない。他にもいろんなトレーナー達がジムに挑もうとやってきたり、バトルフィールドにてバトルしていたり宿泊したりと様々だ。


「ヒナさーん!ポケモンが元気になりましたよ!」

「はい!ありがとうございます!」

ジョーイの言葉にヒナはポケモンを受け取って礼を言った。そしてあいているバトルフィールドを見て考える。
誰もいないけれど中央で使われているバトルフィールドのように人気が全くなく、こっそりとバトルできそうな雰囲気が漂っているのが分かる。
何かをやっていても、どんなポケモンを出しても誰も気づかなさそうだ。



「あの…ジョーイさん、あっちのバトルフィールドって借りられますか?」

「ええ大丈夫よ!」


ジョーイの言葉によってヒナはその誰もいないバトルフィールドへ歩いて向かう。そしてボールから出した3体のポケモンに向かって口を開いて言ったのだった。




「ナゾノクサの特訓でもしよっか!」

『グォォ』
『ピッチュ!』
『ナゾ!』







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第十一話~少女はただ驚愕する~





やっぱりおかしい。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケモンセンターにて人が来なさそうなバトルフィールドを借り、懐にあるボールから3体の元気いっぱいなポケモンを出した。もちろんそれは、誰か相手のトレーナーがいてバトルをするというためではない。

 

 

「ナゾノクサができる技と弱点について知っておかないとね…」

 

 

ここはポケモンセンターだから多少の無茶は大丈夫だし、何かあればすぐに中止することもできる。

とりあえずやるべきことは、ナゾノクサの弱点について知ることと、どのような技を使うのかについてトレーナーである私が理解しなければいけないということだ。

ポケモン図鑑に表記されていた技は【すいとる】と【じたばた】と【くすぐる】という一般的なもの。でもジム戦ではすいとるが何故か【きゅうけつ】のような行動にでたため、動揺してしまった。だからこそ、ナゾノクサを傷つけないためにも知らなければならないと思ったのだ。

 

 

リザードンにはナゾノクサの相手をしてもらって。ピチューにはすぐ危険だと分かれば突入し、怪我を治せるようにと私の持ってるリュックごとありったけのきのみやきずぐすりを渡しておいた。必要になったらすぐにバトルフィールドに飛び出してもらって治療するためだ。

 

 

 

 

「よしやるよナゾノクサ!」

『ナッゾォ!』

 

 

 

ナゾノクサは笑って気合十分にジャンプしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

まずは炎が大好きだというナゾノクサに、本当に身体にも影響はないのか確かめてみる。水についても、今はできないが克服できるのかについて挑戦しなければならないだろう。カスミさんとのジム戦はナゾノクサがやりたいと言っていたからやったが、あの時は本当に怖かった。水嫌いなのにプールの足場に飛び込んだ度胸は凄いと感心したけれど。でも度胸だけで勝つことはできない。

 

 

ナゾノクサは何が楽しいのか、時々ジャンプをしたりリザードンの周りをうろちょろしたりして遊んでいる。リザードンは炎の尻尾がナゾノクサに当たらないよう注意しているが、怒ったりはしない。むしろ慈愛に満ちた表情でナゾノクサを見ていた。

このまま眺めていたい気持ちにはなるけれど、早く終わらせてハナダシティから出発しなければいけない。

 

 

 

「リザードン、ナゾノクサに向かって小さく炎を吐いて」

『グォォ!?』

「大丈夫よ!危険だと分かったらすぐに止めていいから」

『……グォオ』

 

『ナッゾナッゾ!』

 

 

リザードンは私の言葉を聞いてナゾノクサに向かってひのこよりも威力が弱そうな炎を吐いた。おそらくひのこや尻尾の炎と比べれば物凄く小さな火だとは思うのだけれど、それでもナゾノクサが炎に耐えられるか見るためには充分の出来。

リザードンはナゾノクサが傷つくのを恐れているみたいだけれど、本当に弱点が水なのか試さないとこの先のバトルが不安になるから仕方ないこと。私だってナゾノクサを傷つけるのは嫌だけれど、トレーナーとして水と炎の弱点が逆なのかどうか試さないといけないのだから。

そしてナゾノクサはそんな私たちの思いは知らずに、放たれた炎に自ら飛び込んでいった。

 

 

「無傷なだけじゃなくご機嫌?」

『ピッチュ?』

『グォォ…』

 

 

『ナッゾォ!!』

 

 

ナゾノクサは炎の周りでヒャッハーしているように見えるぐらいご機嫌だ。しかも火傷を負わず炎のダメージを負わず、むしろ絶好調といっていいかもしれない。リザードンは複雑な表情を浮かべていて、ピチューは怪我がないことに首を傾けている。

やっぱりちょっとおかしいけど、バトルの時には有利に働きそうだと思えた。この調子だとやっぱりナゾノクサは水が弱点になるのだろう。でもバトルする際相手のトレーナーは皆ナゾノクサの弱点が炎だと認識するだろうから弱点なしに見させることができるかもしれない。

まあバトルについては今後の課題として考えていこうかな。

 

 

 

「よしありがとうリザードン!次はナゾノクサの技について見ていかないとね」

『グォォ』

『ピッチュ』

『ナゾォ?』

 

 

ナゾノクサは放たれなくなった炎に、もうやめちゃうの?というようなつぶらな瞳でこちらを見たがすぐにリザードンの尻尾の炎に突撃して行ったため問題ないと思いたい。リザードンは嫌そうな顔もせずナゾノクサの好きにさせてるし――――うん大丈夫。

 

 

 

 

「まだ最初だからリザードンは技の回避。ナゾノクサ、リザードンに向かってすいとる」

『グォォォ』

『ナッゾォ!』

 

 

リザードンは翼を広げて飛び、尻尾の炎を浴びるナゾノクサから離れた。ナゾノクサは私の指示を聞いて、小さな口を大きく開けてリザードンに向かって走って行く。その様子はやっぱりジム戦で見た時と同じような【きゅうけつ】に似た行動。もういいよというまでナゾノクサは飛んでいるリザードンにジャンプして噛みつこうとしていた。

つまり、ナゾノクサのすいとるは噛みつかなければできない行動だと知ることができた。

 

 

「よし!じゃあ次はリザードンは避けちゃ駄目だよ。ナゾノクサ、くすぐる」

『ナゾ!』

『グォォオ…!』

 

 

リザードンが地面に降り立ったのを見てナゾノクサは意気揚々とくすぐりに向かった。くすぐるは相手の攻撃や防御を一段階下げるというもの。攻撃技ではないからリザードンも傷つかないため、わざと当たってもらったのだ。そしてナゾノクサがやったのは、頭の草を使ってリザードンをくすぐらせるやり方。これはくすぐると同じような感じがするから大丈夫かな。リザードンも笑いそうになってるし。

 

 

 

「よしオッケー!じゃあ次は―――――」

 

 

 

 

 

「―――――おい見ろ!リザードンがいるぞ!!」

「うわすっげぇ!!」

「始めて見た!!色違いのリザードン!!!」

「トレーナーってあんたか?!」

 

 

ポケモンセンターから走ってくる声が聞こえる。トレーナーが遠慮なくバトルフィールドに入るのが見える。

マサラタウンでたまに見かける光景が広がったことに、私とリザードンとピチューはため息をついた。ナゾノクサは何が起きたのか分からず身体を傾けていたけれど。

 

 

「来ちゃったかぁぁ」

『グォォォ…』

『ピチュゥ…』

『ナゾ?』

 

 

 

こんな状況になるかもしれないと思って、ポケモンセンターで人が来なさそうなバトルフィールドをわざわざ借りたと言うのに、面倒なことになった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

―――――色違いのポケモンとは、その名の通り通常のポケモンよりも色が違うのが特徴。あるトレーナーはそんなの気にすることはないと言い、ある人間は一種の個性だねと笑い、そしてある悪党どもにとっては金儲けとして利用されてしまうポケモン。

金儲けとして考えたりするだけでなく、大抵のトレーナーは色違いを見ればそれを欲してしまうのが特徴。ポケモン自身が弱いだの強いだのは関係なく、まず色の違う見た目が素晴らしいと叫ぶトレーナー達が多いのだ。

もちろんマサラタウンにいた時、誰かに守ってもらった時もそうだった。色違いだからという理由で狙う連中が多くいることに私たちは知っていたし、そんな奴等根絶やしにしてやろうかと思えるぐらい苛立っているのも現状。

 

 

 

「なあ俺のポケモンと交換してくれよ!」

「何ってんのよ!ほら私のニョロトノと交換して!」

「狡いよ君たちっ!!僕が先だったんだからね!!!」

「それよりもこっちだろ!」

「リザードンの色が黒いだなんて始めて見た!しゃ、写真撮らないと!!」

「触り心地はリザードンと変わらないのね」

「黒いリザードンってとっても素敵!ねえ交換しましょう!!」

「待て待て待て!俺が先だって言ってるだろ!!」

「ほら交換!ちょっと聞いてるの!?」

 

 

 

 

 

「自分のポケモンを安易に交換に出すってやつらはまずシルバーのチルタリスのはかいこうせん受けろ」

『ピチュゥ』

『グォオ』

『……ナゾォ』

 

 

色違いのリザードンを見ただけで今まで仲間として育ててきたポケモンを交換に出す連中は許さないと思えるのはこういった連中がいるせいだ。

いや、交換に出すことを嫌っているわけじゃない。兄のブイゼルのようにポケモン自身がそうしたいと思えるのならば交換に出しても構わないし、その方がポケモン自身の幸せになるのならば是非ともやってほしいと思う。

 

でも今やっていることはただリザードンの身体の色が通常とは違って真っ黒だという理由でポケモンたちを交換しようとする連中がいること。たぶんヒビキやシルバーもこのトレーナー達の反応を見れば嫌そうな顔で見るんじゃないかな。最悪自ら殴りかかったりするかもしれない。そのぐらいのことを、トレーナー達はやっている。

リザードンはトレーナー達に遠慮なく触られていて不機嫌になっていた。炎を吐いて触るなと言いたいのだろうけど、自分のポケモンを色違いと交換したいというトレーナーたちなのだからたぶん怪我をさせたらいろいろと面倒なことになるということも分かっていた。だからピチューがリザードンの頭の上に乗っていて、落ち着いてと慰めている。

私の周りにも交換してくれというトレーナー達が集まっていて、このままじゃいけないと理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

『ナゾ…ナッゾォ!!』

 

 

 

そんな時に聞こえてきたのは地響きとナゾノクサの怒ったような声。トレーナー達の悲鳴も聞こえてきて、まさかナゾノクサに危害を加えているのではと振り向いてみた。

見えてきたのは、ナゾノクサの足元が何か物凄い威力で割れたかのようにぐるりと円を描いてへこんでいる。そしてナゾノクサが足踏みをしているごとに円は深く、大きく広がっていった。まだ指示していなかった【じたばた】だと私は気づいてしまった。おそらくナゾノクサはトレーナー達が気に入らないのだろう。そして私たちに危害を加えそうになっているトレーナー達を見て、怒っているのだ。それが、地面の割れた現状に繋がった。

 

だから、思わず叫んだのは仕方ないこと。

 

 

 

 

「タケシさんとこのハピナスかッ!?」

 

 

 

タケシさんの手持ちであるハピナス。通称【怪力の申し子】

誰が名前つけたのか知らないけど、怪力に関しては納得できる。ピンプク時代からの怪力を自由に使い、ある時は一人では持ちきれない大木を軽々と抱え、ある時は自分よりも大きなポケモンを振り回して投げ飛ばし、またある時はカビゴンの背中が見たいと言うタケシさんの言葉を聞いて転がしたことのあるポケモン。ハッピーの時も凄かったけれど、ハピナスになったことで怪力はより力強くなったと聞いた。

え、もしかしてこのナゾノクサってそのハピナスに似たポケモン?怪力使えたりする?

 

 

 

「な、何だあのナゾノクサ!?」

「おいそこ行くな危ねえぞ!!!」

「くそ、ナゾノクサの近くにリザードンがいるから近づけねえ…!!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

そうだ。これはチャンスだ。今トレーナー達は皆ナゾノクサに集中している。だから私はピチューとリザードンに合図してすぐさま行動を開始した。ピチューはリュックを手に取り、リザードンはリュックを持ったピチューごと背中にのせる。そして私は不機嫌なナゾノクサを抱き上げてリザードンの背中に乗った。

誰がが待て!と叫ぶのが聞こえる。トレーナー達が手を伸ばすのが見える。でもそんなの構ってられない。

 

 

 

「飛んで!」

『グォォオ!!』

 

 

 

リザードンは翼を広げて空へ飛び立ってくれたおかげで、無事に脱出することができた。でもここで降りても意味がないような気がする。おそらく、色違いを交換してくれと叫んだトレーナー達が追ってくる可能性があるだろうからちょっと遠くまで行こうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話~地下通路の再会~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハナダからクチバへ行くには、通常は地下通路で行く人が多い。リザードンで空を飛んで一気に行った方が早いかもしれないけれど、トレーナーとしての旅だから地下通路から行こうと決めた。トレーナー達もそこまで追ってきてはいないようで、リザードンも飛び疲れてはいけないからさっさと行こう。ボールからでも外の景色は見れるみたいだし大丈夫。

 

 

そう思って私は地下通路を歩いた。

 

 

 

「フェスティバル?」

「そう!地下通路が開通した…えっと、10年だか100年だかのお祝いなんだって!」

「へ、へえ…そうなんだ」

「ええ!だからあなたも楽しんで!」

「うん。ありがとう」

 

 

10年や100年と大雑把に言われたけれど、つまり地下通路開通記念のお祭りということだ。

ハナダシティからクチバシティまでの道のりは長く、ただの通路として作られていたのだが、まさか私たちが来た時にトレーナー達が集うお祭りを開催していたとは思わなかった。

通路には屋台が広がっており、小さな子供から大きなトレーナーたちまでたくさんいる大きな道として機能していた。

 

屋台には食べ物がたくさん並んでいて、お菓子からごはんまで置いてある。美味しそうな匂いがしたと思ったらナゾノクサがボールから出てきて私の腕に乗り、食べたいとねだってきた。赤ん坊だからまだ物事の善悪や甘え方についてよく分からない部分があるため、本当ならここで厳しく育てるのならば我儘言っちゃ駄目ということを教えなければいけないのだが、ナゾノクサの瞳を見たら無理だなと悟る。

 

 

 

『ナッゾ!』

 

「しょうがない。ジム戦頑張ってくれたし…今回だけだよ?」

『ナゾ!』

 

 

屋台に置いてある食べ物に突撃しようとしたため私はそれを止めてちゃんと屋台でわたあめを買ってナゾノクサの口に近づけた。ナゾノクサはわたあめに警戒することなく口の中に入れてもぐもぐとさせている。それを可愛いなと思いながらも、後でピチューとリザードンにも何か買って一緒に食べようと決心して懐のボールを小さく叩く。

幼い時からずっと一緒にいるリザードン達ならば自らが入っているボールを小さく叩いたことで欲しいものがあればすぐに言ってという意味で私のいいたいことを理解する。だから屋台の前でゆっくりと歩いていって、ケチャップのついたオムライスがあればピチューのボールがぐらぐら盛大に揺れたり、きのみケーキの前でリザードンが小さくボールを揺らしたりするのを見て笑いながらあとで外に出る時に買おうと覚えておく。

ナゾノクサもあれが買いたい!これなぁに?と私に向かって鳴き声をあげていて、ちょっと楽しいと思えた。

 

そんな時だった。

 

 

【さぁーやってきましたまいりました!!地下通路記念のポケモンバトル大会ィィイ!!参加したいトレーナーはどしどし中央受付前で応募してくれよ!!】

 

 

 

「ポケモンバトル…ねぇ?」

『ナゾ?』

 

 

 

地下通路の端から端まで響き渡る大きな声にトレーナー達は反応した。あるトレーナーは自慢したいポケモンがいることをアピールするために参加したり、あるブリーダーは育てたポケモンがどのくらい強さを発揮するのかを確かめてみたいと挑戦したり―――そんなトレーナー達が大勢この地下通路にはいた。

地下通路はポケモンバトルをしても頑丈でポケモンをたくさん出しても隙間があるほど大きい空間でできている。だから大会が開かれたのだろう。

ちょっとだけ、面白そうだと思った。

 

 

 

「ナゾノクサ、バトルしてみたい?」

『ナゾ?…ナッゾォ!!』

 

 

ナゾノクサは大きな声で答えてくれる。そして私に向かって笑いかけ、頷いてくれた。リザードン達も、ボールをゆらゆらと揺らしてやってみたいと答えてくれる。

もちろん私も、バトルしたい。

 

「よし行こっか!ポケモンバトル大会!」

『ナッゾ!』

 

 

中央受付まではちょっとだけ遠いけど、でもまあ屋台でも見ながら行けばいいかと考えて私は歩いていった。ナゾノクサは私の腕の中で楽しそうに頭の草をゆらゆらと揺らしていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「お名前とポケモン図鑑をお願いします」

 

「はい!マサラタウンのヒナです!お願いします!」

『ナゾ!』

 

 

「―――登録完了しました。あなたはAブロックでの参加となります」

「分かりました」

『ナゾ?』

 

 

 

ポケモンバトル大会では、どうやらAからCまでのブロックごとに分かれてバトルを始めるらしい。まるでリーグ戦のような方式で――――かなり大勢の参加者が集まった大会ということなのだろう。

Aの札を渡された私は係りの人に呼ばれるまでどこかで時間潰そうかと思って歩き始めた。

 

 

「あれ、ヒナ?」

「ヒビキ?ヒビキもここにいたんだ!」

「おう!地下通路でポケモンバトル大会があるって話をマサキさんから聞いたからな!」

「マサキさん?」

 

「ポケモンを預けたり引き取ったりする通信機能を作り上げた人だぜ!」

「へぇ凄い!」

「クチバシティに向かうって言ってたから、もしかしたら会うかもしれねえな!」

「そっか。クチバシティかぁ…」

『ナゾ!!』

「ナゾノクサ?新しいポケモンゲットしたのか。俺はヒビキだ。よろしく!」

『ナゾナゾ!』

 

ヒビキはお祭りを楽しんでいるようで、帽子の上にヒノアラシのお面をつけ、手にはオレンチョコを持っている。でもすぐに手に持っている食べ物を食べてからナゾノクサの頭の草を優しく掴んで挨拶したら、ナゾノクサは楽しそうに笑って笑顔でよろしくと鳴いていた。

どうやらヒビキもバトル大会に参加するみたいで、結構上機嫌そうだ。

そんなヒビキの背後から、見覚えのある赤髪が見えたため私はすぐに叫ぶ。

 

 

「あ、シルバー!」

「え、シルバー!?お前もここに来たのか!!!」

『ナゾォ?』

 

 

私たちがシルバーの名を叫ぶと、彼はすぐに私たちに気づいたようでこちらに近づいてきた。不機嫌そうな表情だけど、雰囲気はいつもより楽しそうだから大丈夫かと判断して再会を喜んだ。道のど真ん中で話をするといけないからちょっとだけ移動して屋台がない道の端へ行く。

そしてヒビキはシルバーに向かって口を開いて言った。

 

 

「なあシルバー、お前もバトル大会に参加するのか?」

「ああ。このバトル大会では優秀なトレーナーが数多く参加すると聞いたからな。全国から優秀なトレーナー達がこの地下通路へ来ているらしいぞ」

「全国?!それは凄い」

『ナゾ!』

「それはともかく…ヒナ、ナゾノクサを手に入れたのか?ナゾノクサはラフレシアとキレイハナの二つの進化ができるポケモンだ。見たところそのナゾノクサはまだちゃんと育成していないな?ならばラフレシアとキレイハナのどちらかの進化を選ぶのかナゾノクサに聞いてさっさと育成方針を決めろ。ピチューのように進化したくないと言うのならナゾノクサとして強く育つきのみを使え。きのみは持っているか?ああそうだ簡易きのみプランターというものを父上から貰ったからやろう。おいヒビキお前もだ。ナゾノクサは草タイプだが、育成によってはフェアリータイプの技も覚えることができる。ドラゴンタイプにも力強い味方となるからそういう技も――――――」

「――――――ああああはいはい分かった!大丈夫よまかせて!!それにプランターありがとうねシルバー!!」

「プランターありがとうな!大切にする!それよりシルバーはどのブロックに参加するんだよ!?」

 

「俺はBブロックだが」

「おっしゃ俺もBブロック!!ニビシティでできなかったバトルしようぜシルバー!」

「ふん。どのくらい強くなったのか見定めてやろう」

「ヒナはBブロックか?」

「いや私はAブロック。もしもヒビキやシルバーとバトルするんなら決勝でかなぁ…」

「それに俺かヒビキのどちらかが負けなければ決勝でヒナとバトルできないということか。面白い」

「まあ何とかなるだろ!大会楽しんでお互い勝とうぜ!!」

「いいわよー!」

「フン…」

 

 

ヒビキが私とシルバーの片手を取り、地下通路の天井に向かって上げた。シルバーは不機嫌そうだがヒビキの手を振り払うようなことはしない。もちろん私もしない。Aブロックで勝ち抜いて決勝にいけるよう頑張らないとと思いながらも、私たちは気合いを出していったのだった。

 

 

 

 

「…あ、シルバーお前ニビジムの時のようにはかいこうせんぶっ放して終わらせるんじゃねえぞ!!」

「確かにそうね。シルバーのチルタリスのはかいこうせんで地下通路が埋まるから本気出してやっちゃ駄目だからね!」

 

 

「…チッ、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雰囲気としてはポケモンBW2のPWT(ポケモンワールドトーナメント)のシングルバトルな感じ。ただしその参加人数が多すぎてブロックごとに分けられた状態をイメージ。ゲームだと無駄に広いから人数はたくさん入るし大丈夫。


Q、なんでどこにでもある地下通路の開通記念に全国からトレーナーが来ちゃうの?


A、一言で言えばフラグです。



とりあえず続きます。






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第十三話~Aブロック 前半戦~

 

 

 

 

 

 

ポケモンバトル大会は、AブロックとBブロック、そしてCブロックの戦いに分けられる。Aブロックの参加者は勝ち抜いたトレーナーは次にCブロックで勝ち抜いたものと戦い、そして次に決勝となるBブロックで勝ち抜いたトレーナーと戦うことになる。

 

 

つまり、AブロックとCブロックに参加する者にとっては最も厳しい戦いになるのだ。Bブロックも一つのブロックで勝ち抜いたトレーナーとしか戦わないから若干難易度は下がると思われるかもしれないが、そんなことはない。シルバーの話だと戦歴があるトレーナーがAやCに比べてBブロックの方が多いという。つまり、どのブロックも難易度は同じということらしい。

 

 

そして始まったのが、中央の通路が大きく開けられたバトルフィールドとトレーナー達の戦い。

 

 

 

 

【それではァァやってきましたまいりました!ポケモンバトル大会Aブロックの挑戦だァァ!!!】

 

 

 

 

観客たちが司会進行者にあわせて歓声を上げる。その声を聞いてトレーナー達はそれぞれ手を上げて応える。私はそういうのはちょっと恥ずかしいからただ頭を下げるだけしておいた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

【それではぁポケモンバトル大会Aブロックの挑戦だ!今から呼ぶ挑戦者はバトルフィールドに集まってくれぇ!】

 

 

 

そんな司会者の声が私の名を呼び、バトルフィールドのトレーナーの立ち位置までやって来る。ナゾノクサはボールに入りたくないと拒否しているのでもちろん抱き上げたまま。

そして観戦している人の中にはヒビキとシルバーがそれぞれ焼きそばやりんご飴を手にして心から楽しんでいるようだと分かった。

 

 

「むぐ…頑張れよヒナ!グッゲホッッ!」

「汚いぞヒビキ。口の中にあるものを食べてから喋れ馬鹿が」

「うるせえよアホシルバー!」

 

 

「ほらそこ喧嘩しない!」

『ナゾォ?』

 

【おおっとヒナ選手、観戦席にいる少年たちと諍いを起こしているが大丈夫かぁぁ!?】

 

 

「大丈夫です問題なく!」

『ナゾ』

 

「ふふふッ僕と戦うんだ。その余裕なくしてみせるよ!!いくよブーバー!!」

『ブゥウウウ!!!』

 

『ナゾッ!!』

「あ、ちょっとナゾノクサ!?」

 

 

【おおっとメル選手の出したブーバーに対してヒナ選手はナゾノクサを選択ゥゥウ!!】

 

 

 

ナゾノクサがブーバーの炎に引き寄せられて私の腕から飛び出し、バトルフィールドの中央に行ってしまった。その行動はバトルする意味で行ったわけじゃなく、ナゾノクサが単に炎を浴びたいから飛び出しただけであって…でもそんなこと観客や相手選手は聞いちゃいないことだろうからもういいや。

 

「ナゾノクサ。バトルすることになるけど大丈夫?カスミさんとのジム戦みたいに痛い思いしても平気?」

『ナッゾォ!!』

 

 

「よし分かった。じゃあ頑張ろうねナゾノクサ!」

『ナッゾ!』

「ふっナゾノクサを選んだことを後悔させてやるよ!」

『ブゥゥウウ!』

 

 

ナゾノクサはブーバーの放つ炎を見てまるで楽しい遊具か美味しそうな食べ物が目の前に広がっているかのように目を輝かせている。でも相手選手やブーバーはナゾノクサが上機嫌な意味を知らない。それどころか好戦的なナゾノクサだと認識してバトルをしてナゾノクサを叩きのめしてやろうという余裕さえあるようだ。

ナゾノクサはまだまだ幼い子供でバトルに関してはやる気十分なようだがまあ何とかしてやっていくしかないと考える。とにかく、ナゾノクサが傷つかないように気をつけて行動しないとね。

 

 

【それではァァ!!ブーバー対ナゾノクサの試合を開始するぅぅ!!】

 

 

「ブーバー、一撃で終わらせるぞ!かえんほうしゃだ!!」

『ブゥゥウウ!!』

 

 

『ナッゾォ!!』

「あっちゃぁ…」

 

【おおっと?!これはどうしたことかッ!ナゾノクサが自らブーバーの炎の中に飛び込んでいってしまったぞぉぉ!!!】

 

 

「おい何をしているヒナ!ナゾノクサには炎は弱点!しかもまだ育成しきっていないだろうが!!!奴の言うとおり一撃でしとめられる可能性の方が高いぞ!!!」

「シルバーお前汚ねえ!!口の中のりんご飴全部食い切ってから言えよ!!」

「喧しいぞヒビキ!ヒナがここで負けてもいいのか!?」

「いや負けてほしくねえに決まってんだろ?!!でもここで俺たちが慌てても仕方ねえだろうが!!」

「正論だが苛立つ!この馬鹿が!!!」

「八つ当たりすんな!アホシルバー!!!」

 

 

観戦席が物凄く煩い。できればあいつらの近くに行って頭を殴りにいきたい。

でも集中できないからという言い訳はできない。リーグ戦に挑む目標をもっているのならなおさらだ。それにナゾノクサは炎を浴び続けているが、楽しそうに鳴き声を上げている。草タイプだからという考えを持っているシルバーたちから見れば、今現在ブーバーが放つかえんほうしゃによってナゾノクサは痛い鳴き声を上げて叫んでいると思っているんだろう。観戦席からはやくやめてあげてと言うような声も聞こえてくる。草タイプは炎に弱いから。しかもまだ進化していないナゾノクサだから。そんな先入観さえなければこんなにナゾノクサは楽しそうに揺らめいていると言うのに。

相手選手はシルバーたちと同じように思ったらしい。満足そうな声を出してブーバーに向かって言う。

 

 

「よしブーバー止めてやれ…さすがにナゾノクサが黒焦げの炭になるのは可哀想……っ何!?」

『ブゥゥウウッ?!』

 

「ナゾノクサ、楽しかった?」

『ナッゾォ!』

 

 

【おおっとこれは凄い!!ナゾノクサ無傷!無傷のまま生還!!しかも何やら楽しそうだァァ!!!】

 

 

 

「うわすげぇ!ナゾノクサが無傷だ!」

「どういうことだ…?ナゾノクサは草タイプのポケモン。力強いかえんほうしゃには一撃でやられてしまう可能性の方が強いはず。それにヒナは指示を出してはいなかった。ナゾノクサも何か変な行動はしてはいない。いや、炎にむかって突っ込むと言う無茶な行動はしていたがそれだけだ。まさかみがわりか?いやみがわりならばかえんほうしゃを一度でもかすればナゾノクサのレベルだとすぐに壊れるはず、まもるも同じ意味を持つだろうな…なのに何故――――――――」

 

「おーいシルバーさぁん!聞こえてますかぁぁ!?」

 

「いやナゾノクサはまもるも使ってはいなかった。技を使ってはない。ならば特性か?だが炎を無力にする技などもらいびしかないはず…ナゾノクサがそんな特性を…まさか新しい特性か?いやだがナゾノクサの生態についてはウツギ博士とオーキド博士の共同研究によって発表されたばかりだ。そんな大事な発表を覆す新種がいるなど―――――」

 

「だーめだこりゃ」

 

 

シルバーは長考に入ってしまったようでヒビキが耳元で叫んでも聞いていない。シルバーを呆れたような表情で見て肩をすくめてこちらを向く。でも私たちのやるべきことは変わらない。

 

 

 

「ナゾノクサ、ブーバーの動きを集中して見て!!」

『ナゾッ!』

 

「クッ炎をどうやって躱したのか知らないが、これならどうだ!ほのおのパンチ!」

『ブブゥゥウウ!!!』

 

 

「ジャンプして躱す!」

『ナッゾォ!』

 

 

ナゾノクサが私の指示を聞いてブーバーの動きをよく見て炎の拳を躱すように高くジャンプする。ブーバーがジャンプしたナゾノクサを追うように炎の拳を上に上げる。だが、ナゾノクサがブーバーの顔面に着地して拳の振り下げた位置を調節し、自滅させてブーバーから離れていく。

 

その炎の拳をちょっとだけ舐めていたナゾノクサに苦笑しながらも、私は口を開いた。

 

 

 

「ブーバー?!」

『ブゥゥゥウ?!』

 

 

「よしよしよくやったねナゾノクサ!」

『ナッゾォ!』

「でも敵なんだから好きな炎でも舐めたりしちゃ駄目だよ?お菓子じゃないんだからね?」

『……ナゾ』

 

 

「クッ炎が好き?意味が分からないことを言うな!ブーバー!だいもんじ!!」

『ブゥゥゥウ!!』

 

 

 

【大】の文字を書いた力強い炎がナゾノクサに向かって飛び出してくる。その炎はナゾノクサにとって攻撃の意味を持たず、むしろナゾノクサ自身の機嫌を上げるぐらいなので相手選手にちゃんと伝えた方が良かったかもしれないと思いながらも、私は口を開いた。

 

 

「ナゾノクサ!じたばたよ!」

『ナッゾォ!』

 

 

『ブゥゥウウウ?!!』

「ブーバー!!!」

 

 

 

ナゾノクサはわざと炎の中に飛び込みながらもブーバーに向かって直進し、その頭に向かってじたばたを発動させた。ポケモンセンターのバトルフィールドの地面にヒビを入れるほどの威力を持つナゾノクサのじたばたはブーバーを頭から地面へめり込ませる攻撃力をもっているようで―――それこそ、一撃でしとめてしまったのだった。

バトルスタイルに関してはナゾノクサはかくとうタイプだと思って接した方が良いかもしれない。ぶっちゃけ【すいとる】よりも攻撃性が高いと感じてしまった私は一瞬でそう考えた。この先のナゾノクサの成長によっては一体どんな風になるのだろうかと楽しみに思いながらも。

 

 

その後、ナゾノクサの一撃に周りが時を止めたかのように静かになる。そしてバトルが終了したのを認識し、爆発したかのような歓声が沸き起こった。

 

 

 

【なんということだ?!炎にも負けない草が勝ってしまったぞ!!勝者ァァ!!ヒナ選手とナゾノクサァァ!!】

 

 

「頑張ったねナゾノクサ!ありがとう!!!」

『ナッゾォォ!!』

 

 

「ブーバー、お疲れ様…いやまいったよまさか君が一撃で僕のブーバーをしとめるだなんてね…僕に勝ったんだから、優勝ぐらいは目指してくれよ」

「ええ、もちろんよ!」

「…応援してる。頑張ってくれ」

「ありがとう」

 

 

私たちは拍手して第一試合を終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

【――――――勝者ァァ!!進化してないのにポケモンが強いヒナァァ!!】

 

 

 

「進化してないとか余計な一言よね」

『ピッチュゥ』

 

 

 

私たちはその後、無事に第二第三と試合に勝利していった。ピチューがほとんどバトルに出ていて、リザードンが不満げにボールを揺らしているのでそろそろ出した方が良いのかなと思ったAブロックの決勝戦。

 

 

向かい合った相手トレーナーの表情は何かに怒っているよう。そして視線はシルバーに向けられていた。

 

 

 

「あいさつなんて必要はない!私はただこの男に勝つためにここまでやって来た!!」

 

 

指差した先にいるのは予想通りのシルバーの姿。

その様子に私とヒビキは焦った。次の決勝は私が出なければいけないのについ観戦者がいるところまでやって来て問い詰めてしまうほど。まさか相手トレーナーはシルバーの犠牲者ってことなのだろうかと。

 

 

「ちょっとシルバー何をやったの?!」

「そうだぜシルバー!!お前まさかついに犯罪でも犯したのか!?」

「おいまて貴様等。俺はあの悪党で屑で雑魚な偽ロケット団のように犯罪などやってはいない!」

「じゃあ何であいつお前の事怒ってんだよ!!?」

「何か無意識でやらかしたとかないの?」

「知るか!!!」

 

 

 

「知るか…だと?私はお前を倒すその時を夢見てきたというのに!お前は忘れただと?!」

 

 

 

なんかすっごく怒ってる。

シルバーは本当に何をやらかしたんだろうかとジョウト地方でずっと一緒にいたヒビキが頑張って思い出そうとしている。でも呟き声にはシルバー含めてヒビキ自身でもやらかしたことがある事実がいっぱいあったようで、私の肩に乗るピチューが呆れていた。

 

 

 

「忘れたと言うのなら思い出させてやる!!シルバー!私はお前に復讐するために旅に出たんだ!!!」

 

 

相手トレーナーは、怒り顔よりも笑った顔の方が似合いそうな可愛らしい少女。でも雰囲気が怒気に包まれていて恐ろしくなっていた。般若とかになれそうな鋭い怒りを、シルバーにだけ向けていた。当のシルバーはお前なんぞ知るかとばかりにヒメリビスケットを口にしているんだが、その様子にも怒っているみたいだ。シルバーと少女の間にいる私やヒビキが逆におろおろと慌ててしまうぐらい、温度差が激しかった。

少女は熱く燃えたぎる火山のようで、シルバーは冷たい氷が浮かぶ深海の海のようだと思えた。

 

 

 

シルバーに向かって指を指す少女は、大きな声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「私はクリス!私はお前を、決して許しはしないっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






クリスさんはハートゴールドソウルシルバーの女主人公をイメージ。
ただしコトネちゃんがアニポケで出ているので、名前はリメイク前のクリスタルの女主人公からとりました。世界には三人くらい似ている人間がいるらしいので(棒)


そんな女の子がかなり怒っている様子を想像して読んでください。

そしてまだ続く。








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第十四話~Aブロック 後半戦~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復讐をしたいと望む少女…いや、クリスはただシルバーだけを睨みつけていた。

憤怒と言えるようなオーラを放つ少女は、シルバーの前に立つ私やヒビキが邪魔だとこちらにも鋭い視線を向ける。それを見てヒビキが一瞬肩を揺らしていたけれど、すぐに取り繕い話しかける。

 

 

 

「クリス…だっけ?お前何でシルバーの事怒ってんだよ」

「うんうん。いきなり許さないって言われても私たちにはよく分からないし、それにシルバーもなんかどうでもいいって感じだし」

 

 

「……そうか。シルバー、貴様は関心がなかったということか。私のプライドを粉々にへし折った貴様にとって覚えなくてもいい程度のことだとそう言いたいのかッ!!」

 

 

 

クリスの燃えている復讐心に油を注いだような気がするけど、シルバーは本当にどうでもいいようで私たちの後ろで新たに買ったオレンパイを食べている。

なんか無関心気味なシルバーを守るかのようにして立っているのに、その関心のなさに苛立ってきた。ヒビキもクリスの苛立ちがよく分からないが、シルバーの表情を見てあいつ一回だけ殴られてもいいんじゃねえのと独り言を呟いている。私もちょっとはわかるような気がする。

 

でもクリスはそんなことを知らない。気持ちが高ぶっているのか、こちらに向かって指差してから叫ぶ。

 

 

 

「いいだろう!教えてやろう。その男が私に何をやったのかをっ!!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

―――――それは、ジョウト地方のワカバタウンで起きたこと。

 

 

 

 

 

ワカバタウンに生まれたクリスはウツギ博士の娘であった。いずれは父の手伝いができる優秀なトレーナーになろうと決心したクリスは学校に行き勉強していた。ポケモンのことをよく学んで答えをすべて言い当てていった。でもそれはウツギ博士が父親だから小さい頃にいろんな勉強をしたのだろうと皆に誤解されてしまった。お前なら当たり前の事だろうと言われてしまった。できないことがあれば「ウツギ博士の娘なのに」という理由で馬鹿にされた。だからクリスは必死に勉強した。ウツギ博士の娘としてではなく、ただのトレーナーの卵として生きるため、勉強していった。

 

七光りだと思われたくない。私は皆と同じトレーナーの卵なんだ!

 

クリスはこのままではいけないと分かっていた。博士の娘として生きることになれば皆自分自身を見てくれないと分かっていた。ただの【クリス】として見てもらう、そのためには実績が必要になる。博士の娘ならば難しい質問にも答えられるだろうと言われていろんなポケモンのタイプの弱点を答えさせられたことがある。きのみはどのフーズに一番効果的なのか宿題を出された時もノート一冊を使って書いて提出したことがある。人よりも数倍努力した。トレーナーとして学ぶべき答えをたくさん出していった。

成績を上げて【ウツギ博士の娘だから】優秀なのだという言葉を撤回させようとした。

 

 

――――そんな時に、ある課題が出されたことがある。

 

 

 

 

 

「…課題?」

「そうだ!ポケモンを一匹預かり、育成させるという学校の卒業に必要な課題だ!」

「ああー思い出した!確かあの時俺メリープ育てたんだっけな!」

「あ、もしかしてヒビキが育てたメリープってあのもふもふメリープ?」

「そうそう!課題って言ってもある程度の強さがあれば十分卒業できるんだけどな。そんで、シルバーは確かキャタピーだったっけ?」

「…ああ、だがキャタピーは早々に成長するポケモンだからな。育成に時間はかからない」

 

「そうだ。貴様はキャタピーをすぐバタフリーへと進化させ課題を終わらせた!その後の悪夢を私は忘れたことはない!!!」

 

 

 

クリスは課題にてホーホーを渡された。ホーホーは昼はよく眠り、夜に活動する夜行性なポケモン。夜行性にはどう育成すればいいのか図書館で本を借りてじっくりと育てようとした。まだ時間はあると考えてホーホーをポケモン広場に預けておいた。そして本を何冊も読みこれからやるぞという時にそれは起きた――――。

 

 

 

 

「――――貴様は、バタフリーだけじゃなく私のホーホーを育ててしまったんだ!ホーホーはヨルノズクに進化し、私の評価になってしまった。わたしは…私は自分自身の力で評価を勝ち取りたかったんだ!だが貴様は暇つぶしという理由でホーホーを育てたッ!挙句の果てには貴様が育てたと豪語せず私が育てたということになっていたんだ!!なぜっ…何故あの時事実を言わなかった?!私は何度も育ててないと言ったのに…シルバー貴様がそれを否定した!!!私が謙遜しているだけだと皆に言われた!!私はその事実が許せないッ!!」

 

「…あー」

『…ピチュ』

「それはシルバーが悪いな」

「というか、何でホーホーを育てたの?」

「ヨルノズクの進化を目の前で見たかっただけだ」

「じゃあ何で否定したんだ?」

「面倒だろうが」

 

 

「なっ?!面倒だとっ?!!貴様ァァァッ!!!!!!」

 

 

 

 

まさしく電光石火の勢い。トレーナーフィールドからぶっ飛んできたクリスが私たちを巻き込んでシルバーに掴みかかる勢いで殴りかかった。

私の肩に乗っていたピチューがクリスにぶつかりもみくちゃにされる。電撃を放ったりするけれど、クリスは止まらない。それどころか私たちが被害を受けダメージが重なる。シルバーが何気なく私たちを壁にしていて、やっぱり殴られるべきだと思ってしまった。でも勢いは止まらない。

 

 

 

 

 

「ちょっ痛っ!お、落ち着いてクリスさん!!」

『ピチュゥゥウ!!』

「ブッフォいってぇぇ!!おい落ち着けって!!」

 

 

 

【あーあーそこの選手たち。猛烈なショーは後でにしてさっさとバトルを始めてくれるかい?そこにいるボーイたち含めて棄権扱いになっちゃうよ】

 

 

 

「猛烈なショーじゃないから!!」

「おいクリスとやら。お前が暴れていると試合ができなくなる。やるのならバトルでだ」

「その言葉待っていたぞ!!貴様をバトルで叩きのめす!!その前にお前を倒す!!」

「ヒッ!」

『チュゥッ』

 

 

鋭い眼光がこちらに向く。ピチューがこわいかおされた時のように縮み上がり私の頭に抱きつく。私はピチューの身体を撫でながらもバクバクいう心臓を落ち着かせ、バトルフィールドにゆっくりと向かった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

私たちの行動はどうやら一種のパフォーマンスのような扱いで見られていたらしい。野次馬のような人たちが見ていたり煽ったりしていたのに気づかなかったけど、いつの間にか結構見る人が増えたなと思った。バトル大会以外にも向こう側ではコンテストバトルを繰り広げていたり、パフォーマンス大会をしていたりといろいろやっているから観客は少ないと思っていたのに…。

 

 

 

「まあ、仕方ないか…」

『ピチュゥ?』

 

 

【さぁちょっとしたトラブルという名の騒動もあったようだけど無事にAブロック決勝戦始まるよォォオ!!】

 

 

 

「シルバーに勝つ!あいつのプライドへし折る!!やるぞ、チコリータ!!」

『チッコォォ!』

 

 

 

「とりあえず勝ちに行こう。ピチューやるよ」

『ピチュゥ』

 

 

 

クリスが出したチコリータは可愛い外見とは裏腹にかなり興奮している様子だと見てとれた。ピチューは一瞬でチコリータがクリスのために勝ちにいこうとしているからやる気があるのだと分かって私を見た。でも私はため息をついてどうしようか考えてとりあえずピチューを出す。

 

 

この試合で勝っても負けても面倒な反応が来るのは分かっているからだ。

 

 

勝てばクリスがこちらに向かって来るかもしれないと予想するが、負ければシルバーやヒビキがキレてくる可能性もある。ヒビキはさきほどクリスが向かってきたときに勢いで殴られたことに苛立っているようだと分かったからだ。シルバーの頭を叩いてから応援するために叫ぶ彼らを見てため息をついた。シルバーは殴られた頭を手でおさえ、ヒビキに突っ掛かっている。…まあ、何とかなるか。

 

 

 

【それではぁぁAブロック決勝戦チコリータ対ピチューの試合を始めさせていただくぅ!!試合開始!!】

 

 

 

「チコリータたいあたり!」

『チコ!』

 

「でんこうせっかよ!」

『ピッチュ!』

 

 

チコリータが勢いよくピチューに向かってたいあたりを仕掛けてくる。でもピチューはすぐに私の指示を聞いてでんこうせっかでチコリータの後ろにいき激突した。ピチューに物凄い衝撃でぶつかったチコリータは地面にバウンドして倒れるが、やる気があるのか根性が凄いのか立ち上がる。だがクリスの表情はすぐれない。

 

 

「クッ…まだレベルが足りないか。育成途中なのが壁となったか…いやそれでもやれ!どくのこなだ!」

『チィッコ!』

 

「ピチュー、でんじはでどくのこなを飛ばして!」

『ピッチュ!』

 

「こうごうせいにはっぱカッター!」

『チコリ!』

 

 

ピチューがどくのこなをでんじはで吹っ飛ばしている間にチコリータはこうごうせいで体力を回復させた。でもここは太陽の届かない地下通路。そのせいか体力は少ししか回復していないように見え、そのふらつく身体を頑張って動かしはっぱカッターでピチューに向かって行動した。

全力で向かってくる相手には全力で返せ。それがトレーナーとして私のできる礼儀だろう。

 

 

 

「ピチュー、ボルテッカー」

『ピィッチュゥウ!』

 

 

『チッコォォオッ!!?』

「チコリータ?!くっ…私の負け…か」

 

 

【チコリータ戦闘不能ゥゥ!勝者はヒナ選手だぁぁ!!】

 

 

 

 

試合が終わった後、ピチューに礼を言ってからボールに戻す。

クリスの方を見ると、彼女もチコリータによく頑張ったなと労りの言葉をかけてからボールに戻していた。そしてこちらを鋭く睨み近づいてくる。

 

 

「お前…確かヒナといったな」

「ヒッ…はい」

 

 

クリスはこちらに手を伸ばして握手を求めた。鋭い眼光はそのままに、でも怒りや苛立ちは込められていない瞳で私を見る。

 

 

 

「私のチコリータはここまで頑張ってきたパートナーだ。でもお前のピチューは私のチコリータよりも圧倒的にレベルが上だった。優勝できるような強さにはまだ達してはいなかったと分かった。…ヒナ、それでもお前は私に全力で勝負をしてくれた。ありがとう」

「え、いや…トレーナーとして当然のことをやったまでだよ」

「当然のことができないあのむかつくクソ野郎よりはましだ。ヒナ、私と友達になってくれ」

「えっと…」

「いや、むしろ私と友達になれッ!」

「アッハイ」

 

 

 

 

 

拒否権ない感じですか。

微妙な心境で返事をしつつも、私たちは握手をしてAブロックの決勝を終了させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十五話~Bブロック決勝戦~







足りないのはどちらの力か。






 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、クリスさん」

「クリスでいい。それに敬語はやめろ」

「あ、うん。クリス…あの、それ止めない?」

「拒否する」

「そ、そう……」

 

 

ギリギリギリギリとポケモンバトル大会の参加賞であるピッピにんぎょうという名のぬいぐるみを小さな塊にしてやる勢いで握りしめるクリスにヒナは一歩だけ引きながら言う。クリスは嫌そうな表情でシルバーを睨み続け、苛立ちと八つ当たり気味にピッピにんぎょうを壊す勢いでぎゅっと握っていた。

もはや別ポケレベルにまで達している顔面崩壊のぬいぐるみにヒナは苦笑しつつ、観戦席からBブロックの戦いを見続けていた。

 

 

 

【勝者ァァシルバー選手ゥゥウ!!!】

 

 

 

「フン。この程度か」

『チルゥ』

 

 

 

「チッ、腹立つなあの顔は。だが実力があるのが現実…チッ!」

「アハハ…」

 

 

盛大に舌打ちするクリスはシルバーがチルタリスで勝利したバトルを見てついにピッピにんぎょうの中身の綿を飛びださせるほどの勢いで引きちぎってしまった。

それを見た周りの人やポケモンたちが悲鳴を上げてクリスから離れていく。Bブロックでシルバーが勝ちに行くごとに舌打ちや憤怒のオーラをにじませるので少々居心地が悪い。でもシルバーがこの試合で勝利したことで次がBブロックの決勝となるためちょっとだけ楽しみだ。

 

 

 

 

 

「ヒナ!応援するぞ!!ヒビキには是非とも勝ってもらわないとな!」

「そのボンボンどっから出したの?!!」

 

 

 

 

 

クリスがいつの間にか取り出した黄色のボンボンと鉢巻を私に渡してくる。クリス自身もボンボンと鉢巻を装着して応援する気満々だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

【さあさあ始まりましたBブロック決勝戦ンンンッッ!!】

 

 

 

 

司会進行役の男性が喋るとともに、観客たちから歓声が聞こえてくる。もちろん勝ち進んでいくごとに試合を応援してくれたクリスやヒナがこちらを見ている。何故かボンボンや鉢巻を身につけていて全力で応援していくためにまず形から入ったのかは知らないが。

 

それらを一身に受けたヒビキはボールを手に持ち対戦相手であるシルバーを見た。

 

 

 

「フン。俺が勝つ」

「何言ってんだ!俺が勝つ!!」

 

 

 

【Bブロックもなかなか熱い試合になりそうだねェ!さぁさ!両者一斉にポケモンを出してバトル開始と行くよ!】

 

 

「優勝するぞアリゲイツ」

『アリゲェェイツ!』

 

 

「よし勝とうぜヒノアラシ!!」

『ヒ、ヒノ』

 

 

 

ボールから出されたシルバーのアリゲイツは気合十分で歯をがちがちと鳴らして小さく威嚇していた。威嚇されたヒビキのヒノアラシは身体を震えさせて怯えている。でもヒビキのために頑張ろうと試合放棄しようとはしない。頑張って勝つためにバトルフィールドで身体を震えさせながらも覚悟を決めていた。

両者が立って司会進行役の合図を待つ。一瞬の緊張感の後、それは放たれた。

 

 

【それではぁぁアリゲイツ対ヒノアラシの対戦を始めさせていただくぅぅうう!!!!】

 

 

 

「アリゲイツ、みずでっぽう」

『アリゲェェイ!!』

 

「ヒノアラシ避けろ!えんまくだ!!」

『ヒ、ヒノォォオ!!』

 

 

アリゲイツがみずでっぽうを放ったのと同時に、えんまくがヒノアラシの周辺に盛大に撒かれる。黒煙がヒノアラシの身体を隠し、周りがちゃんと見えなくなる。アリゲイツは周りが煙だらけになっても慌てずシルバーの指示を待つ。シルバーは何も言わず、ただ黒煙で見えなくなった場所をじっと見つめていた。

ヒビキが笑って口を開く。

 

 

 

「今だ!かえんぐるま!!」

『ヒノォォ!!』

 

 

 

誰かが息をのむ。熱いせいで観客席から一歩後ろに下がる。そんな観戦者たちがいた。

ヒノアラシのかえんぐるまは周りにも炎を放ち、バトルフィールドを火の海にしてしまうような勢いでアリゲイツに向かって直進している。怯えなんて見せず、凄まじい速度でアリゲイツの腹めがけて炎の塊としてぶつかろうとする。

それを見たシルバーがアリゲイツに指示を出す。

 

「止めろ」

『アァリゲェェイ!!』

 

『ヒノッ?!』

「なっ!!?」

 

 

ヒノアラシが炎の塊になろうともアリゲイツは何の問題もないと言うかのようにその身体を掴み、腹で受け止めた。

ズゥゥゥンという衝撃音がバトルフィールドに響き渡っても、アリゲイツが少しだけ後ろへ退くぐらいの威力があったとしても、アリゲイツは涼しげな顔だ。

それを見たヒノアラシは怯え、掴まれたアリゲイツから逃げようと身体を捩りもがき始める。

 

 

「逃げろヒノアラシ!!」

『ヒ…ヒノっ」

 

 

「無駄だ、みずでっぽう」

『アァリゲェェエィ!!!』

 

 

 

「ヒノアラシ!!」

『ヒノォォォオオ?!!!』

 

 

 

アリゲイツから近距離でみずでっぽうを食らわされ、ヒノアラシはヒビキの近くまで吹っ飛ばされ地面に横たわる。審判が倒れたかと判断しようと思った瞬間に、ヒノアラシはフラフラな身体を気丈にも立たせようとしていた。

それをみたヒビキが拳を握りしめて必死にヒノアラシに向かって叫ぶ。

 

 

 

「大丈夫だおまえならやれる!俺を信じろ!!」

『ヒノっ…ヒノォォオオオオ!!!』

 

 

 

「ほう。面白いな」

『アァリゲェェイ』

 

 

 

―――――ヒノアラシの身体が光り始める。

進化が始まったのだと分かった観客たちは一気に大きな声を出し、歓声が沸く。シルバーはアリゲイツを下げ大人しくその進化を見守った。

光りの中で見える影にいるヒノアラシは…身体が大きくなり、炎が広がり、そしてマグマラシへと進化を遂げていた。

大きなくりくりとした目がヒビキの方へ向けられる。にっこりと笑って背中の炎を燃やした。

 

 

「…マグ…マラシ」

『マァグ!』

「っよし!行くぞマグマラシ!!大きくひのこを放て!!」

『マァグゥゥ!!』

 

 

「進化したことに対しての賞賛はしよう。だがバトルは別だ!アリゲイツ、マグマラシに向かってみずでっぽう!!」

『アァリゲェェイツ!!!』

 

 

 

マグマラシが広範囲で炎を放つのに比べ、アリゲイツは一点集中でマグマラシに向かって水を放射した。

炎と水はぶつかり合い、水蒸気を生む。だが、先程こうかはいまひとつなかえんぐるまを腹に受けたアリゲイツとは違い、マグマラシは近距離でみずでっぽうを受けた。その衝撃はダメージとして残り、元気いっぱいなアリゲイツの攻撃と比べ、進化したがフラフラなマグマラシの攻撃はやがて水に圧されアリゲイツの攻撃にぶつかり地面へと転がってしまう。

 

 

「マグマラシ!!」

『マ…マァグゥゥ』

 

 

こうかはばつぐんなみずでっぽうによって、マグマラシは目を回し、倒れてしまった。

アリゲイツは一度だけガチンッと歯を鳴らし、勝利は決したとシルバーが審判を見た。審判はすぐ手を上げて大きな声で試合終了の合図を司会進行役に向けて行う。司会進行役の男は頷き、マイクに向かって声を出して言った。

 

 

 

 

【勝者はぁぁあシルバー選手だぁぁ!!!】

 

 

 

 

「よくやったなアリゲイツ」

『アァリゲェェイツ!』

 

 

 

 

「俺の力は……まだ足りねぇのか…」

『マァグ…』

「マグマラシのせいじゃねえよ。進化してまで頑張ってくれたんだ。俺の力がないせいでお前を負けさせちまった…ごめんな」

『マグッ!マァグ!!』

「ああ、今度は負けねえ!」

 

 

 

両者とも、ポケモンを労り合う。そしてヒビキとシルバーはお互い握手をして、Bブロックの決勝を終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ここは地下通路の端っこに位置する場所。ポケモンバトル大会が開かれている場所より少しだけ離れている。

そこで響き渡ったのは少女の怒声。

 

 

 

「きぃぃぃさまぁ!!!何故シルバーに負けたぁぁああ!!!!!!」

「うぉッ?!いやいや俺もマグマラシも頑張ったから!!!お前だってヒナに負けてるくせに文句言うなよ!!」

「くそ正論だが腹立つ!!チコリータ!!」

『チッコ!』

 

「痛っ!おいやめろ葉っぱで攻撃すんな!というかシルバーもクリスも似た者同士かよ?!」

「「どこがっ!?」」

 

 

 

仲良く声をそろえた事に対し、シルバーは少々面倒そうな顔でクリスを見て、クリスは苛立ったような顔でシルバーを見た。ヒナが慌てたように両者の間に立って喧嘩しないように忠告するが、シルバーが舌打ちをしたことでクリスがチコリータを突撃させた。だがシルバーがヒビキを壁として後ろに下がったことでチコリータの攻撃をまた受けてしまう。

 

 

「ぐふぁっ!お前等いい加減にしろ!!!」

「そうだよ!喧嘩はしないの!!」

 

「ヒナ、こいつを完膚なきまでに叩きのめせ!バトルで良いからプライドを折れ!」

「フン!望むところだ」

 

「あーあーもう!」

 

 

 

―――――――わぁぁああああっ!

 

 

 

 

「……何だ?」

 

 

ポケモンバトル大会の観客席から大きな歓声が湧き立つ。今まで以上の興奮した声が聞こえてくる。ここからだと観客たちが邪魔でバトルフィールドは見えないため、何が起きているのかは分からない。

だが声だけは聞こえてきた。

 

 

 

「なあ聞いたか?!ポケモンバトル大会の決勝戦!バトルする順番を変えるらしいぜ?!」

「ああ聞いたよ。確か最初にAブロックの優勝者とBブロックの優勝者が戦うんだろ?」

「ああ!その後にCブロックとの戦い!!Cブロックのトレーナーの中にすげえのがいるんだって!!!」

「すげえのってだれが?」

「Cブロックの優勝候補者!」

 

 

 

 

「…ほう、なら俺とヒナのバトルはすぐに始まるということになるな」

「なんか先行きがすっごく不安なんだけど……」

「よしヒナ!その不安を全部シルバーに向かってやれ!シルバーなんて目じゃないぞ!!」

「いちいちヒナをけしかけんなよ!」

「煩いぞ敗者」

「喧しい!敗者め!」

「うるせぇぇ!!誰が敗者だこの野郎!!!それにクリスお前も敗者だろうが!!!というか仲良いな?!」

「「誰がだ!!」」

 

 

「アハハ…はぁ」

 

 

 

ヒナはため息をついてCブロックの優勝者が出るまでクリスたちの喧嘩を止めることに専念し、これからのバトルに不安を感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十六話~準決勝戦~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【さあさあやってきましたまいりました!!AブロックとBブロックの準決勝戦ンンンっ!!】

 

 

 

 

「頑張れよヒナ!シルバーっっ痛ってぇぇっ!!!」

「馬鹿を言うな!シルバーを応援するぐらいならヒナを応援しろ!!!」

「おま…お前いきなり頭殴んな!!!」

 

 

 

 

歓声が大きく聞こえてくる。ヒビキとクリスの声が聞こえてくる。

ヒナとシルバーはただ前を向き、お互いの顔を見た。これからやるバトルを全力で楽しみ、そして勝ちに行くという気概を二人はちゃんと持っていた。

ふと思い出したかのように、シルバーは声を出して言う。

 

 

 

「ヒナ、俺はチルタリスを選択する」

「え?」

「だからお前は<あいつ>を出せ。俺ははかいこうせんを出しても構わないぐらい全力で行くぞ」

「……うん、分かった。でもはかいこうせんやるんなら一応地下通路が壊れない程度には手加減してよ?」

「その時の状況による」

「はは…そうだね。シルバーとバトルするのって初めてだからいいかな…」

 

 

ヒナは笑って懐にあるボールを取り出した。シルバーが全力で戦いたいと望む強者を…相棒を選択したのだ。

チルタリスではかいこうせんを撃ったとしても大丈夫だと分かるそんな相手をシルバーは望んだ。だからヒナもその声に応える。

 

 

 

 

「いくぞ、チルタリス」

『チルゥ!』

 

 

「バトルに出せないでいてごめんね…やるよリザードン!」

『グォォオォォォ!!』

 

 

 

 

両者のポケモンの―――純白と漆黒の翼が大きく開かれた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おいあのリザードン…もしかして色違いか?」

「すげえ俺初めて見た!」

「リザードンの色違いって黒色なのね…欲しいわ…!」

「強そうだな…さすがAブロック優勝者ってか?」

 

 

 

 

 

観客たちの声が聞こえてくる。その声にヒナとリザードンが顔を歪めた。色違いだからという理由でこちらを見つめる視線と声はどうにも嫌悪しか湧いてこないからだ。もちろんシルバーとチルタリスも色違いという言葉とその観客たちの声には嫌そうな顔を隠そうともしない。不機嫌なまま睨み付けバトルの邪魔をするようならぶっ潰すという雰囲気を醸し出している。

もちろん観客席で聞いているヒビキもそうだ。奴らの声を聞いて文句を言おうと口を開いた…その時だった。

 

 

 

 

 

「喧しい!色違いなんてただ色が違うだけだろう!!そんなに欲しいなら自分のポケモンに絵の具かペンキでも塗りたくれ!!」

『チィコ!!』

「いや待て待て絵の具かペンキ塗ったらポケモンに悪影響なんじゃ……」

「ならポケモンではなくトレーナー自身が塗りたくって人間の色違いにでもなればいい!!」

『チコリ!』

「それはそれでどうなんだ?!!」

 

 

 

 

クリスが周りにいる連中に向かって怒声を上げ、頭上にいるチコリータが葉っぱをぶんぶん揺らして威嚇する。色違いだと騒いでいた観客たちがクリスの声を聞いて居心地悪そうにして静かになる。その姿にヒナとリザードンは思わず笑って、シルバーとチルタリスは鼻を鳴らした。

 

 

そして司会進行役の男が満足そうににっこりと笑みを浮かべてマイクを手に取り口を開く。

 

 

 

【それではぁあ準決勝戦を始めさせていただくゥゥウ!!】

 

 

 

 

「リザードン、ねっぷう!」

『グォォオ!!』

 

「チルタリス、りゅうのはどう!」

『チルルゥ!!』

 

 

 

炎と波動がぶつかり、激突した。

大きな衝撃波となって炎と波動が消し飛び、白煙を起こさせる。その威力は凄まじく、リザードンとチルタリスを一歩だけ後ろへ退けさせるぐらいだった。

 

ヒナとシルバーはお互い口を開けて叫ぶ。

 

 

 

「きりさく!」

『グォォ!』

 

「とっしんだ!」

『チル!』

 

 

 

大きな身体がぶつかり合い、切り裂く。チルタリスはリザードンによって身体を少しだけ切り裂かれ、赤く染まる。そしてリザードンは腹にとっしんを受けて身体が後ろに下がり、両手で衝撃を受けた腹を押さえてにやりと笑う。

どちらも同じくらいのダメージを与え、そして楽しんでいた。

 

 

 

「はかいこうせん!!」

『チゥゥゥウ!!!』

 

 

「かえんほうしゃ!」

『グォォオオオ!!!』

 

 

白い閃光と赤い火炎が激突し、爆発する。その威力は地響きを伴い、ポケモンバトルに適した環境を整えた地下通路に小さな影響を与えるぐらいだ。爆発による熱風が周りに発生し、黒煙を発生させる。だがそれらを消し飛ばすかのようにチルタリスとリザードンがお互いの身体をぶつけあう。

大きな身体から発せられる雰囲気に呑まれ、一種の緊張感があたりに包まれた。赤い色が飛び交い、2体の咆哮が空気をビリビリと揺らす。

だが、トレーナーはその空気に怯えることはない。か弱いポケモンたちが悲鳴をあげようとも、集中力は途切れない。

 

 

 

 

「フレアドライブ!!」

『グォォオオオオッッ!!!』

 

 

 

「ドラゴンダイブ!!」

『チルルゥゥゥウッッ!!!』

 

 

 

 

リザードンの身体が赤く燃え上がり、チルタリスの身体が青く燃え上がる。

二つの炎がぶつかり、そしてリザードンとチルタリスはお互いの攻撃によって吹っ飛ばされた。地面をバウンドしてもリザードンとチルタリスはゆっくりと立ち上がる。その身体にダメージを受けていても、傷だらけになってしまってもゆっくりと起き上がった。

 

だが、何かに気づいたシルバーが小さくため息をついて手を上げ、口を開いた。

 

 

 

「俺の負けだ」

『チル…』

 

 

 

シルバーが言った瞬間、チルタリスは地面に倒れ、目をまわしていた。一度は立ち上がったチルタリスだったが、それは気合いを入れていただけのこと。実際は戦闘不能な状態だったということだとシルバーは悟り、早々に試合放棄を決めていたのだ。

 

最初から最後まで緊張感のある戦いだったためか、周りは静寂に包まれていた。口を開かなかった誰もがその興奮を静かにかみしめている。

 

 

「ヒナがシルバーに勝ったぞぉぉ!!」

『チィコォオオ!!』

 

 

 

クリスが一度大きく手を上げて叫び、それをきっかけにして歓声が沸き上がったのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「チルタリス、よく頑張ったな」

『チルゥ』

 

「リザードン、頑張ってくれてありがとう」

『グォォ』

 

 

チルタリスは負けたことに関して少々悔しそうに顔を歪めていたが、すぐに気合いを入れてシルバーを見て頷く。そしてシルバーも頷き、チルタリスをボールの中へ入れたのだった。ヒナも同じく礼を言ってからリザードンをボールに入れる。

リザードンが勝ったことに対してヒナの周りに一度観衆がやって来る。あわよくば、色違いのリザードンに触れるかもしれないという考えを持った連中や、純粋に応援したいというトレーナー達がいた。だが、とっしんの勢いで突撃してきたクリスとヒビキによって吹っ飛ばされる。そしてその喜びの声とテンションが上がっている彼女たちによって人々は冷静になり、苦笑しながら居心地悪そうにゆっくりとヒナから離れていったのだった。

 

 

 

「よく頑張ったなヒナ!ざまあみろだシルバー!!」

「…その台詞はお前が俺に勝った時に言ったらどうだ負け犬」

「貴様っ!」

「ああはいはい喧嘩はやめろって!!」

「とりあえずここにいても邪魔になるから離れようよ!」

「いやその前にヒナお前もう次が決勝だろ!!頑張れよ!!」

「そうだヒナ。私やシルバーを負かしたんだからそのまま優勝しとけ!!」

「手加減なんてするなよ。俺みたいにな」

「お前はちったぁ手加減ってもんを知れよアホシルバー!!」

「アホはアホだからな!もっと言ってやれヒビキ!」

「馬鹿共が」

「「誰が馬鹿だ!!」」

 

 

 

「ハハ…まあうん、頑張るよ」

 

 

 

 

賑やかに言い合いし始めるヒビキ達を見ながらも、ヒナは司会進行役の男によって呼び出され、バトルフィールドへ戻っていったのだった。

 

もちろん、ポケモンを回復させてからだが。

 

 

 

 

 

 

【さあさあ次はァァいよいよ決勝戦だぁぁあっっ!!!】

 

 

 

 

 

―――――――そろそろ終わりはやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十七話~決勝戦~






これで最後の戦いとなる。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【この一戦で優勝者が決まる!!決勝戦だぁぁあ!!!!】

 

 

 

 

大きな歓声が湧き立つ。人々の興奮が高まっていく。その中心にヒナはいた。

決勝戦だからか、観客たちは数多く集まる。トレーナー達が連れているポケモンたちもこちらを興味津々で見つめている。そして、天井からぶら下がっている設置されたライトによって派手にヒナ達を照らしていく。いろんな色で照らされた決勝戦のバトルフィールドに、観客たちは集まっていた。

 

 

 

「おい押すなよ!」

「煩い。ヒナを応援できないだろうが!チコリータ、チョコポフレ食べる?」

『チコ!』

「ったく…」

「決勝戦はおそらくリザードンで勝負を決めるだろうな…リザードンは先ほどのバトルで疲労が溜まっているかもしれないが、それでもレベルは強い。一般的なトレーナーならば勝てるはずだ」

「でもよ、さっきCブロックに強敵いたって言わなかったか?観客が凄くて見れなかったけどよぉ」

「それが不確定要素ともいえるな。まあなんにせよ、これで優勝は決する…あと、今までと同じシングルバトルになるかどうか分からないがな」

「シングルじゃなかったら…ダブルバトルか?」

「ポケモンバトル大会の詳細を知らないのか。決勝戦はどのバトルになってもおかしくないと言っていたぞ。シングルでもダブルでもトリプルでも…もしかしたら6対6もありえたかもしれん」

「いやいや無理だろ。ヒナってそんなに手持ち居たっけ?」

「いないな。だからやるとしたらシングルかダブルか…もしくはトリプルだろう」

「まあそうなるよなぁ」

「ヒナ頑張れ!!」

『チコリ!!』

「お前等は相変わらずだな」

「喧しい!ほらちゃんと応援しろ!!!」

『チッコォ!』

 

 

 

ヒビキ達も集まって観客たちと同じように決勝戦を見ている。いまだ始まらない決勝戦だが、これからどうなるのか楽しみだと言うかのように話し合っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

【それではぁぁあ決勝戦の対戦相手の登場だぁぁあ!!!】

 

 

 

「……………」

 

 

 

「…うわぁ」

 

 

 

 

 

―――――なんか怪しい人がいる。

 

 

 

 

バトルフィールドに上がったヒナは相手トレーナーを見て一瞬動きを止めてまじまじとその姿を見つめてしまった。目深に被った黒いマント。そしてサングラスに偽物のような白髭。マントは身体全体を覆い隠し、体格がはっきりと分からないようになっていた。分かるのはマントからはみ出しているちょっとだけ長い黒髪だろう。白髭とは見事にあっておらず、それが余計に怪しさを引き出していた。

視認による波動はヒナは特定の人を探し当てることにしか教わっていないため、ルカリオやアーロンのようにはできず、彼がどんな姿をしているのかさえ分からない。でもはっきりと怪しい人物だとは分かってしまった。

 

 

 

【最終戦はダブルバトル!!それですべての勝利が決まるよぉぉお!さあ両者ともにポケモンを出してくれ!】

 

 

 

「ダブルバトルね…よし、リザードンにピチューお願い!」

『グォォオオ!』

『ピィッチュゥ!』

 

 

 

「……フシギダネ、ゼニガメ頼んだ」

『フッシィ!』

『ゼニゼェニ!!』

 

 

 

 

ポケモンを出した瞬間――――ヒナはその違和感に気づいた。

 

 

声だけを聴くとヒナよりも年上のような青年の声。でも少々声を誤魔化しているのかわざと低く声を出しているような感覚。そんな、違和感が彼にはあった。

 

 

 

「あの…どこかでお会いしましたか?」

「うぉっほんゴホン…君のようなトレーナーには会ったことありませんなぁ!」

「はぁ…」

 

 

 

わざとらしい、けれど何処か知っているような感じ。波動がぶれてよく見えない。マントで顔を隠して声まで変に誤魔化している。怪しさ満点なトレーナーなのに、居心地の悪さは感じない。でも、やっぱり変な感じがある。

 

違和感だらけのトレーナーだと、ヒナは思った。

 

 

『グォォオ…』

『ダネダネ』

『ピッチュゥ?』

『ゼニィ!』

『ピチュ…ピチュゥ!?』

『ダネフシ!!』

『グォォォゥ…』

 

 

 

ヒナ達とは違って、ポケモンたちは決勝戦で対戦相手だと言うのに何故か緊張感なく仲良く話をしているようだった。だが何故ゼニガメはフシギダネに蔓で叩かれているのだろうか。そしてリザードンは何故頭を抱えてため息をついているのだろうか。ピチューだけはやる気十分という感じみたいだ。でも、フシギダネやゼニガメもどこかで見たことがある気がする…というより、なんだか誰かさんのフシギダネとゼニガメに見えるんだけどマントの人は違うかな?いやもしかして?やっぱりよく分からない。ヒナは首を傾けた。

 

 

―――――マントを着た対戦相手が小さく微笑んだような気がした。

 

 

 

 

【それではぁぁリザードンとピチュー対フシギダネとゼニガメのダブルバトルを始めさせていただくぅぅ!!!試合開始!!!】

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「まずは先手必勝よ!リザードンかえんほうしゃ!ピチューは10まんボルト!!」

『グォォオ!!』

『ピチュゥ!!』

 

 

 

「ゼニガメ、てっぺき。フシギダネ、ゼニガメの前に出てまもる」

『ゼニ!』

『ダネフシ』

 

 

 

リザードンの大きな炎とピチューの電撃をフシギダネのまもるによって躱される。観戦者は「あのフシギダネまもる覚えているんだ」や「レベルが同じくらいってことか?いやそれよりも強いなあいつら」という声が溢れる。

ゼニガメがてっぺきをしているため、すぐにヒナは攻撃を切り替える。

 

 

「リザードン、きりさく!ピチューはてんしのキッス!」

『グォォォオ!』

『ピチュゥ!』

 

 

 

リザードンとピチューがまもるを解除したフシギダネとゼニガメに近づいてくる。このままだと攻撃を受けてしまうかもしれないというのに、彼らは余裕でマントのトレーナーを見た。

 

 

「ゼニガメ、フシギダネ。いばる」

『ゼーニィ!!』

『フッシィ!』

 

 

 

『グォォオッ?!』

『ピィッチュゥ?!』

「嘘ぉ?!リザードン!ピチュー!」

 

 

 

ゼニガメとフシギダネが接近した瞬間に同時にいばるを発動させた。いばるの攻撃によって混乱したリザードンとピチューはお互いポケモンではなく地面などを攻撃してしまっている。それに気づいたヒナが彼らの目を覚まそうとするが、混乱は続く。

 

 

 

「フシギダネ、せいちょう」

『ダネダネ!』

『ゼニ!』

 

 

 

 

「ヒナは負けるかもしれない」

「ど、どういう意味だよ?!」

「おいシルバー!貴様ヒナを愚弄する気か!!こんな時に…っ」

『チッコォ!』

「いや、ヒナもよくやってはいるが、マントの男の方が凄まじい。ちゃんとポケモンの技について熟知して攻撃している。攻撃だけじゃないな…ダブルバトルのメリットを最大限活かして行っているんだ」

「何だよそれ?」

「ゼニガメが防御力を上げている間にフシギダネが攻撃を防ぎ、今は混乱に乗じてフシギダネがこうげきととくこうを上げている。両方とも通常よりも強い力を出せる状態だ。しかも混乱しているリザードン達は分が悪い」

「つまり、対戦相手の戦略が上手だということか?」

『チィコ?』

「ヒナ…!」

 

 

 

フシギダネがせいちょうを発動し、ゼニガメがマントの男が何も言っていないにもかかわらずてっぺきを行う。それらを見てシルバーは息をのむ。ヒビキの背に冷や汗が流れる。ボンボンを持ったクリスがチコリータと共に頑張れと応援する。

 

 

 

 

「リザードン目を覚まして!!ピチュー頑張って!!」

『グォォ…ォォ!!』

『ピィッチュゥ…!』

 

 

「おっといけない。フシギダネ、ねむりごな」

『ダネ』

 

 

 

「リザードン!!!ピチュー…!!」

 

 

 

「フシギダネ、発動準備」

『フッシィ』

 

 

フシギダネがリザードンとピチューに向かってねむりごなを派手に落としたせいで、彼らは眠ってしまった。ちゃんとヒナの声を聴いて混乱から覚めようとしたと言うのにすぐに眠ってしまい、ちゃんとした攻撃ができなくなってしまう。その事実にヒナは焦っていた。このままではいけないと。

 

―――――だが、現実というのは無慈悲なもの。

 

 

「起きて皆!!!リザードン!!ピチュー!!」

 

 

 

 

「フシギダネ、ソーラービーム。ゼニガメ、ハイドロポンプ」

『ダネダネダネ…フッシィィィ!!!!』

『ゼェニュゥウウ!!!!』

 

 

 

フシギダネの黄緑色の閃光とゼニガメの水の放射がリザードンとピチューめがけて放たれる。リザードンとピチューはヒナの声も届かず、眠ったまま攻撃を受けた事により、受け身もとれずに倒れていった。

何が起きたのかヒナにはよく分からなかった。周りの観客も、進化していないポケモンだと言うのに何故あそこまで戦えるのか分かってはいない。

審判がゆっくりと手を上げてマントの男の勝利を示した。優勝したと言うのに、観客たちは静かなまま。司会進行役も異様な戦い方に何も言えないまま―――ただ、彼だけが動いていた。

 

マントの男がゼニガメとフシギダネに礼を言ってボールに戻す。そしてリザードンとピチューに駆け寄って彼らを強く抱きしめるヒナに近づいた。

 

 

 

「いつまでもレベル差でごり押しできると思うな。バトルはそんなに甘くない」

 

 

 

 

 

その声は、ヒナにしか届かないぐらいの音量だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「ヒナ、元気出せ!あれは仕方ない!!」

「あんなにも強い戦い方がある。状況によっては何もできずに戦える」

「シルバーお前ヒナに対して何かいうことはないのかよ…」

「ああ、お疲れ」

「それだけか!!?」

「いいのいいの…私は大丈夫だから」

 

 

ヒナは苦笑しながらクリスたちに向かって言った。そして準優勝者の商品であるゴージャスボールを手に取ってぎゅっと握りしめた。中には何も入ってはいないが、ヒナはボールを握りしめて決勝での戦いを思い出していた。

 

 

何もできなかったわけじゃなかった。

あの時、最初の攻撃の時点で彼らは手加減をしていたのだ。本気になれば攻撃をする余裕なんてない。そんな気迫をヒナは感じていた。

 

 

 

「まだまだ遠いなぁ…」

 

 

 

 

懐の中にあるモンスターボールがヒナの声を聴いてゆらゆらと揺れる。ボールは2つ、悔しいと言いたいような感じで揺れていた。ヒナはため息をついてクリスたちと共に歩き出していた。これからどうすればいいのか考えながら。

 

 

 

クチバシティへと向かって歩き出していた。

 

 

 

 

 

 

 








――――――青年は、地下通路から外に出ていた。


誰もいないことを確認してからマントを脱ぐ。そしてサングラスと白髭を取り、ゆっくりと息を吐いた。


「フゥ…熱くなかったかお前達」
『ピィカ!』
『だいじょぉぶ!』


青年―――――サトシは、笑みを浮かべて肩にのっているピカチュウとリオルを撫でた。撫でられたピカチュウは目を細めて嬉しそうに鳴き、リオルは短い尻尾を揺らしてもっとやってくれと手をすり寄せた。


「本気になっても、まだまだひよっこだな」
『ピカピ…』
『ひよっこ?あちゃものこと?』
「いや違うぜ」
『うーん?』


リオルが首を傾けて考えている間に、サトシは笑った。
ヒナはサトシと本気でバトルすることはない。一度だけマサラタウンにいた頃にやろうといってやったことがあるが、あの時はヒナは勝てると言う意気込みでやってはいなかった。

―――――本気で俺に勝てるとは思っていなかった。


負けるだろうと言う無意識の感情のせいで本気になれないヒナに、サトシは決勝で戦った。
リオルのおかげで波動の力を身につけたヒナを惑わすことに成功したため、ヒナはマントの人としてしか認識しない。そのため、バトルについてもヒナはちゃんと本気で行えた。

――――だが、まだまだ力は足りていない。



「あいつの戦い方は、リザードンとピチューの力技しかねえからな…」
『ピィカ』


リザードンとピチューは、幼いころにヒナと共に強くなろうとそれぞれが修行をして力をつけていった。そのせいである程度ごり押ししてもやっていけるとヒナは考えていたのかもしれない。これぞと言う時にナゾノクサを出さなかったのも、そのせいかもしれない。

…いや、ナゾノクサはまだ育成しきっていないみたいだったから問題はないか。



『そうだ!ますたー、りざーどんとぴちゅーきづいてたよ?』
『ピィカッチュ』
「ははっやっぱりか!」



サトシは笑ってバトル開始前のフシギダネとゼニガメの漫才のような話し合いを思い出していた。無理して別ポケのように見せかけていたが、リオルの波動はまだ彼らまでは届かない。だからこそ、ポケモンの言葉が通じるリザードンとピチューには気づかれていた。

でもまあそれで構わないとサトシは思っていた。
リザードンとピチューの強さにもつながるかもしれないが、現在求めているのはヒナの成長なのだから。



「楽しみだな…」



ヒナがこれからの旅でどうなるのか、サトシは笑って歩いていた。



――――――ホウエン地方に向かって、歩き出していた。







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第十八話~クチバシティにてやるべきこと~

 

 

 

 

 

「ナゾノクサを育成します」

『ガゥゥ』

『ピチュゥ』

『ナゾォ?』

 

 

 

 

クチバシティに着いてヒビキ達と別れたヒナは、町はずれにある森の中でボールからポケモンを出して言う。決勝戦で戦った試合を通してバトルの指示の仕方がちゃんとなっていなかった事やバトルスタイルが攻撃特化になっていたこと――――つまり、色々と改善点があることが分かったからだ。

変化球を加えた戦い方をしていたあの決勝戦を見て、もっとバトルの仕方を変えてみたいとヒナは思ったのだった。

 

 

そして、ナゾノクサを育成していきたいと言う気持ちもあった。いつまでもリザードンとピチューだけに頼ってはいられない。

 

 

 

「ナゾノクサ、これからバトルになるけど大丈夫?」

『ナゾ…ナッゾォ!』

 

 

ナゾノクサはやる気十分といった感じで笑っていた。その声にヒナは元気よく頷く。リザードンとピチューはそんな元気いっぱいなナゾノクサに微笑んでいた。

 

 

「というわけで、リザードンとピチューにお願いしてもいいかな?」

『グォォ?』

『ピィッチュゥ?』

『ナッゾ!』

 

 

「ナゾノクサとバトルしてほしいんだけど―――」

『グォォオ…』

『ピチュゥ!?』

「あ、もしかして嫌?」

『グォォウ』

『ピチュ』

 

『ナゾォ?』

 

 

リザードンとピチューが嫌そうな顔でナゾノクサを見た。おそらくはたまごから生まれたばかりのポケモンだからバトルをしたくはないのだろう。

そういえば、リザードンは前も炎を出すのが嫌そうだったし…よし止めよう。レベル差がありすぎるのも困りものってことで。それに嫌々やっても何も得することはない。リザードンとピチューのバトルによってナゾノクサが成長するならいいかもしれないが、やりたくないことをしても意味はないし、時間の無駄だ。

 

 

 

(まあ、あんなことあったらやりたくないのはわかるけどね…)

 

 

 

リザードンとピチューはナゾノクサが成長するならそれは良いと思っているけれど、自分の技で攻撃して重症になってほしくないのだろう。以前操られた時にヒナに向かって攻撃してしまったことがまだトラウマになっているリザードンやピチューのことを思えば、先程のお願いはしない方が良いかもしれない。

 

――――でも、私たちはもう大丈夫だから、ゆっくりと傷を治していこう。トラウマのせいで仲間とのバトルを嫌がっていては、前に進めないのだから。

でも無理やりではなく、いつかナゾノクサとでもバトルの練習ができるようになるまで、ゆっくりと待っていこうとヒナは決めた。

 

 

 

 

「やるべきことは…ポケモンバトルかな…」

『ナゾナゾ?』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「よし!野生のポケモン10連勝!」

『ナッゾォ!』

 

『グォォオ…』

『ピチュゥ!!』

 

 

野性のポケモンが私に向かって近づいてきたところをナゾノクサが攻撃していく方法を行った。

ナゾノクサが飛び出してきた野生のポケモンに噛みついたり頭上から地面に沈めたりをしていくうちにレベルが上がっているのだろう――――最初は何度か攻撃しなければいけなかったが、そのうち一撃で倒せるようになってきた。

しかも吸血もどきのすいとるによって体力も回復するため、ナゾノクサは元気いっぱいだ。そして周りの状況も酷い。もはや惨状と言ってもいいかもしれない。

ナゾノクサが攻撃するごとに地面が沈没する。ナゾノクサが走り出すと、地面が割れる。そして激突したポケモンは気絶し、木々は折れていく。

ちょっとした自然破壊みたいになってきたせいで、野生のポケモンたちがナゾノクサを恐れて逃げていく状況にリザードンは引き攣った笑みを浮かべていた。ピチューは笑って凄い凄いと言ったりしているようだったけれど。

 

 

 

「よし、よく頑張ったねナゾノクサ!」

『ナッゾ!』

 

 

 

周りの惨状を見て、喜んでいるナゾノクサに向かって私はにっこりと笑って言う。

 

 

 

「じゃあ逃げるか!」

『ナゾ?』

『グォォ…』

『ピチュゥ…』

 

 

 

この状況を誰かに見られたらジュンサーさんに通報され、すぐに説教されるだろう。というか間違いなくされる。ポケモントレーナーがバトルに熱中しすぎたせいで周りの建物や自然が破壊された場合、そのトレーナーの注意不足としていろいろと大変なことになるのは分かっているからだ。もちろんこの状況にするつもりはなかったけれど、ナゾノクサは手加減というものがよく分かってはいなかった。そして本気にならなければ一撃で倒せることはなかった。

つまり、まだまだ力不足だからこそ、こんな惨状になってしまったのだ。それに嘆くべきか笑うべきかは逃げてからにしよう。

 

苦笑するリザードンの背に乗り、私たちはクチバシティの町はずれ――――でもここよりも別の場所を目指して行った。

 

 

「よしいこうリザードン!そしてごめんねここに住んでるポケモン達!!いつか絶対直しに来るからね!!!」

『グォォウ…』

『ピチュゥ…』

『ナゾ?』

 

 

今の私たちには森を元通りにするような力はない。ポケモンたちを癒すことはしたが、それ以外のことは無力だ。だからこそ今度直しに来ると叫んでしまったが、一日もすれば野生のポケモンたちによって自然は復活するということを忘れていた。

 

 

今更だけどポケモンの生存力って凄い。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「よぉヒナ!リザードンに乗ってどうしたんだ?」

『マグ!』

「ヒビキ…いやちょっとナゾノクサのトレーニングしてたんだ」

『グォォ』

『ピチュゥ…』

『ナゾナゾ!』

「ふーんそっか!そういやぁこのナゾノクサって炎に強かったよな?何やったらそうなるんだ?」

『マグゥ』

「ハハハ…私にもよくわからないや」

『ナゾナゾ!』

 

 

リザードンが着地した場所には、ヒビキが近くにいた。ヒビキはちょっと不機嫌そうな顔で私に近づく。

 

 

「…そういえばシルバーはどうしたの?」

「あいつならジム戦!すぐ終わるっつって先に行きやがったんだ!!」

「そっか、マチスさんとのバトルかぁ。アリゲイツだとでんきタイプに弱いし……負けない…よね?」

「大丈夫だろあいつなら」

「ああうん。まあ根拠のない安心感はあるかな」

「むしろチルタリスのあのはかいこうせん見たら安心しかねえわ。バッチ取れなかったら鼻で笑ってやる」

 

 

そう言ったヒビキは、どうやらこの近くにいるポケモンをゲットしようとしてやって来ているようだ。マグマラシをボールから出してポケモンを探すヒビキはナゾノクサに興味津々といった様子で見つめていた。そんなナゾノクサはマグマラシの背中が気になっている様子。

私はリザードンとピチューに礼を言ってボールに戻し、ナゾノクサだけ出したままヒビキやマグマラシと向かい合う。

 

 

「あ、そうだ!ヒビキ、バトルしない?」

「バトル?」

「そう!私のナゾノクサの相手してほしいんだ!いいかな?」

「おう良いぜ!やろうかマグマラシ!」

『マグ!』

「よし頑張ろうねナゾノクサ!」

『ナッゾ!』

 

 

 

「――――ちょぉぉおおおっと待ったァァア!!!!!」

 

 

 

バトルしようという雰囲気の中、勢いよくやってきたのは地下通路で出会ったクリス。物凄い怒鳴り声を響かせながらやってきたせいか、近くにいたコラッタやポッポが怯えて逃げていくのが見えた。そしてこちらに近づいてからクリスは息を整え、私に向かって話しかけてきた。

 

 

「そのバトル、私も観戦していいか?」

「え、うん…いいけど」

「おいいきなりなんだよ」

「いきなりじゃないぞヒビキ!このナゾノクサはあのブーバーの炎に耐えることができた。それどころか無傷だったんだぞ!どうすればそんなナゾノクサになるのか私は見てみたい!」

「いやナゾノクサ生まれた時からこうだったんだけど…」

「それでもだ!いいだろうヒナ!!」

「あー……ヒビキ?」

「俺は構わねえよ。でも観戦するぐらいなら審判ぐらいはやれよな!」

「了解した!」

 

 

 

というわけで、クリスが審判をつとめるバトルとなった。

マグマラシが気合いを出した炎を見せたらナゾノクサが目を輝かせていて、それを興味深そうに見るクリスとヒビキ。

そして始まったバトル。

 

「それでは!マグマラシ対ナゾノクサの試合を始める!試合開始!!」

 

 

 

「マグマラシ、ひのこ!!」

『マァグ!』

 

「直進!」

『ナゾ!』

 

 

「え、ちょっ…やっぱりか!!!?」

『マグッ?』

「炎を好む草タイプか。本当に珍しいな」

 

 

ナゾノクサがわざとぶつかりに行ったのを見てヒビキ達は驚愕する。地下通路での戦いでも見せたその行動に信じられなさそうな表情だ。それでもマグマラシが見せた背中の炎に向かってぶつかり、炎を楽しそうに浴びているのを見れば信じざるをえないだろう。

ナゾノクサが背中に乗っているのを見てマグマラシは戸惑い、ちょっと泣きそうだ。進化しても臆病なのは変わらないのかな。

一時的にバトルを中断し、私はヒビキ達に向かってナゾノクサのことを説明した。

 

 

「この子、何故か炎が好きみたいなの。それで反対に水が苦手なんだ」

「何だそれ?!炎タイプかよ!!」

「弱点が反対になっているってこと?ならナゾノクサにとって弱点となる…氷なんかはどうだ?」

「よく分からないんだ。一応、カスミさんとのバトルで氷の道を難なく歩いたのは見たけど…」

「おい氷の道を平気で歩くナゾノクサって見たことねえぞ」

「嫌がることなく歩いたというのなら、氷も平気ということになる…のか?」

「うんもしかしたら…後でシルバーに確認してもらおうかなって思ってたとこなんだ」

「まあその方が良いかもな。あいつポケモンの事ならいろいろ知ってるしッッグホォォっぅ!!!」

「クソ!シルバーの野郎!!ムカつく!!!!」

「八つ当たりで俺殴んな!!!」

「ハハハ…」

 

 

『マァグ…!』

『ナゾ!!!』

『マァ…マグゥ!!』

『ナゾォォオ!!』

 

 

マグマラシとナゾノクサが戯れているように見えるが、ナゾノクサの行動にマグマラシが泣く一歩手前まで来てしまっていた。これはヤバいと思って私はナゾノクサを抱き上げる。すると、ようやく解放されたマグマラシはヒビキに向かって突撃した。腹にマグマラシがとっしんの勢いでやってきたことにヒビキはうめき声を上げていたが、ちゃんと受け止めて頭を撫でた。

クリスは、草むらから飛び出してきたポケモンに向かってチコリータを出して八つ当たり気味にバトルしている。

 

 

 

「ナゾノクサ、炎が好きなのはわかるけどやり過ぎは駄目よ」

『ナゾ!ナゾナゾ!』

「炎が好きならちゃんと欲しいって言ってから行動すること。突撃しちゃマグマラシが可哀想でしょ」

『……ナゾ』

「わかったらマグマラシに謝る。ヒビキもごめんね」

「いや俺は平気。マグマラシも大丈夫だよな?」

『……マグ』

『ナゾ!』

『マァグ』

 

 

 

 

この様子だとバトルはできないよね。まあ仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 







「そうだ。クリスはバッチ集めとかしてるの?」
「もちろんだ。バッチを集めれば世間から優秀だと認められることになるからな」
「じゃあお前もクチバジムに挑戦ってことかよ…」
「なにか文句でもあるのか?」
「いや別に」

「アハハ…とりあえずポケモンセンターにでも行く?宿泊の予約もしなくちゃ―――――」






「―――――――盗っ人ォォオオオ!!!!」



「はっ?!」
「何?」
「何かあったの?!」



「ちょっそこのトレーナー!!そっちに行きよった悪党捕まえてくれへんかぁ?!」



「んんっ?」
「悪党だってぇ?」
「何だかよく分からないけど…とにかく行こう!!」






:::::::::




コガネ弁誰か教えてください。






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第十九話~機嫌が悪いのがいけない~

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、イーブイは本当に不幸だった。そして機嫌がとても悪かった。

 

まず、親であるマサキが寝坊したため慌てて食事する羽目になり、満足に食べることができなかった。船でたくさん食べようと思っていたイーブイはマサキに早くしろと急かした。だが、クチバシティに着いた瞬間、船に乗るためのチケットを忘れ、わざわざ戻らなければならない事態が発生。機嫌が急降下していった。

戻ることでまた時間がかかってしまった。しかも地下通路がお祭り騒ぎなため行くこともままならず、地上からハナダシティへ戻らなければいけない。それにも時間がかかる。クチバに戻ってきた時、もうお昼になる頃だった。でもようやくこれでご飯が食べられる。イーブイはそう信じていた。そうしたら、今度はバックをひったくられていた。イーブイのモンスターボールが入った、バックを全部。

 

 

 

「ハハハハッ!全部いただいていくぜぇ!!」

「悪党ぅぅう!!!!」

 

 

 

 

『…ブイ』

 

 

 

この日、イーブイは最悪な出来事が続いていた。だから不機嫌かつ怒りが頂点に達していたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

森の中で聞こえてきた叫び声、その先にいた光景を見てすぐ追いかけはじめた。

 

走る走る――――木の枝を避け、動く足から逃げるポケモンたちを避け、逃げていく悪党を追い続ける。

 

 

黒服の男を見つけた瞬間、奴がロケット団だと分かったから私たちは走り続けているのだ。

ヒビキが走ることで乱れる息を懸命に整えながらも、悪態をついて叫んだ。

 

 

 

「もぉぉぉお我慢ならん!マグマラシ、ひのこ!!!」

『マァグ!』

 

「ぐっペルシアン防げ!」

『にゃぁん!』

 

 

ペルシアンが鋭い爪で炎を消し去り、そのまま奴らは逃げていく。

それを見て、このままだと逃げられてしまうと私は思った。だから奴らを止めるために懐からボールを取り出す。

ボールは熱く、ぐらぐらと揺れていた。

 

 

 

「ヒビキ、クリス!このまま追い続けて!私は上空から回り込んで捕まえるよ!!」

「おうわかった!気をつけろよ!!」

「囮は任せろ!」

 

私は逃げ続ける男と追いかけるヒビキたちから大きく横に逸れ、男に見られないよう走ったままボールを投げる。

 

「リザードンお願い!」

『グォオオオ!!』

 

リザードンに飛び乗り、翼を広げて大空へはばたく。そして黒服の男の目の前に炎を吐いて足止めし、着地した。男は逃げられないと思ったのか、バックを遠くの方へ投げて逃げようとする。

 

「男は任せろ!!ヒナ、お前は荷物をたのむ!!」

「わかった!リザードンお願い!」

『グォオ!!』

 

高く空へ飛んで行ったバックが地面に衝撃を受ける前に、リザードンの背中に乗ったまま荷物を掴むことに成功する。だが、荷物のチャックが開いていたのか一つのボールが放りだされた。ボールには何かポケモンが入っていると感じた。だから地面に落ちる前に掴まなければいけない。空を飛んでいるため後ろの方へ落ちていくボールに向かって私は叫んだ。

 

「リザードン!」

『グォオ!』

 

 

リザードンが空中で回転し、猛スピードでボールの方へ向かう。背中にしがみついたままボールを求めて手を伸ばし、掴んだ。

 

「あっぶないッ!!!」

『グォォ』

 

 

片手でキャッチしたボールを見てため息をついた私は、いつの間にか押してしまったようだった。そのボールの開口ボタンを…

 

リザードンの背中の上で小さな光が湧き上がる。そして私の膝の上に現れたのは小さな茶色のポケモン。

 

「え、イー…ブイ?」

 

 

『ブィイ……ブィィィイ!!!!』

 

 

目を鋭く尖らせたイーブイは、私を見た瞬間苛立ったように青筋らしきものを浮かべて―――――噛みついた。

 

 

「いったぁああああっ!!!!」

『グォォ?!!』

 

 

ポケモンが噛みついたのは初めてだった。頭の方をガジガジと噛まれ、血が滲んでいるように感じる。というか痛い!リザードンが異変に気付いたのかすぐに地面に着地したけれどイーブイは噛みつくのをやめない。むしろ痛みでリザードンの背中から転がり落ちても噛むのをやめない。

 

 

「やめてやめて痛い痛い!!」

『グォォ!!』

『ブィィイイ!!』

 

「おーい悪党捕まえたぞぉぉぉお?!!何やってんだよヒナ!というかなんでイーブイがいるんだよ?!」

「ほう、珍しいな…イーブイがここにいるとは…野生か?」

「クリスお前は冷静に言ってんじゃねえよ!」

「ねえお願い言い合いしてないで助けてってばぁあ!!!」

『ブィィイイ!!!!』

『グォォオ!!!』

 

 

リザードンがイーブイを私から離そうとして掴んで引っ張るのだけれど力強く噛みついているせいか離れない。むしろ血が派手に出てきそうで痛い。事の重大さに気づいたのかヒビキとクリスもやってきてイーブイを離そうとしてくれている。

 

 

『ブィイィ!』

「こりゃあ相当キレてる…というか珍しいな。ヒナがポケモンに懐かれていないだなんてさ」

「感心してる場合?!」

 

「む…これはダメージを入れるしかないか…チコリータ!」

『チッコ!』

「待ってやめて私の方が重傷になるから!」

『グォォ!』

『ブィィィイイ!!!!!』

 

 

 

―――――結局、その後バックを取られてしまった被害者が来るまで噛むのをやめなかった。

 

 

 

「シルバーでもいいからこの状況どうにかしてよぉおおお!!!」

『ブイブィィィイィィ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 



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第二十話~聖・アンヌ号~




一難去って、また一難。


 

 

 

 

 

 

「いやぁ助かったで!ほんまおおきに!」

「ええ、まあ…あの…お願いしますこの頭の上で噛みついてるイーブイをどうにかしてくださ痛い痛い!!」

『ブィィ!』

「あ、すまんなぁ!こらイーブイいい加減にせぇ!」

『ブィィ!!!』

 

 

 

イーブイの怒りは収まっていない。なんでイーブイが怒っているのかは知らないが、無理やり私の頭から引きはがしてくれたおかげで痛みから逃れることはできた。噛みつかれたせいでまだひりひりと鈍い痛みはあるけれど、それでも先程よりはマシ。

 

 

 

イーブイが男―――マサキさんの方に突撃し、腕に噛みついている。でもマサキさんは気にしていないようだ。むしろ苦笑しながらも、私たちを見て口を開く。

 

 

 

「ありがとう!姉ちゃんらのおかげでポケモンもチケットも無事に戻ってきよったわ!」

「はぁ…」

『グォォ…』

「そのリザードン格好ええな!…せや!せっかくやから姉ちゃんらも一緒に来る?」

「え?どこに?」

「何の話だ」

「…ってか、マサキさん俺のこと覚えてる?」

 

 

 

クリスと私が首を傾けている中、ヒビキは引き攣った顔を見せつつマサキさんに話しかける。マサキさんは目をぱちぱちと瞬きをしてヒビキを直視し、ようやく誰なのか気付いたかのように笑いかけてきた。

 

 

 

 

「ああ!なんやあの時助けてくれた少年やんか!ひっさしぶりやなぁ!」

「助けて…くれた?」

「ああ、マサキさんの家に向かったらいろいろと事件が起きてな…」

「事件とは何のことだ?」

「聞くなクリス…ポケモンが信じられなくなるぞ」

「本当に何があったの?!」

『グォオ…』

 

 

 

 

ヒビキが遠い目をしつつ宙を睨みつけている。その瞳には何も映ってはいない。いや、おそらくマサキさんと出会った時のことを思い出しているのだろう。何があったのか地下通路では話してはくれなかったし、今も話す気はないようだ。そんなヒビキのことや私たちに気づくことなく、マサキさんはイーブイを宥めつつ前へ歩き始めた。

 

 

 

 

「ほんならさっさと行こう!船に遅刻したら間に合わなくなる!」

『ブィィィ…』

「ふ…ね?え、船ぇ!?」

『グォォ?』

『ブィィィイ』

「機嫌治しいやイーブイ。船についたらたっくさん美味しいの食べさせたるからな!」

『……ブィ』

 

 

 

 

マサキさんがずんずん進む。私達が一緒に来てくれていないと分かると、イーブイをボールに入れてからヒビキとクリスの手を掴んで引っ張っていく。私も仕方なくリザードンをボールの中に入れてからついて行くことにした。

船、ということはどういうことなのだろうか。クチバシティに船があるのは知っているけれど、それは限定でしか入ることはできないプレミアものではないのか?

クリスが怪訝そうな目でマサキさんを見た。

 

 

 

 

「クチバで船…ということは、あのサント・アンヌ号か?」

「惜しいな姉ちゃん!これから行くのは新しくできた聖・アンヌ号や!」

「えっと…私たちがその船に乗っても大丈夫……なんですか?」

「当たり前やで!むしろ助けてくれた恩は返さんと気持ち悪くなる!それに、聖・アンヌ号はポケモンバトルや育成が主流の船やで!ワイの開発したシステムも取り入れてる画期的な船や!」

「ポケモンバトルや育成が…!」

「それはむしろ行く意味があるな!よしヒナ行くぞ!!」

「まあ…拒否権はない…よね?」

「ないだろ!ってか行くしかねえって!行くぞヒナ!!」

「よっしゃぁ!進むで!」

 

 

 

 

―――まあ、ナゾノクサの育成に役立てることができるのなら何とかなるかな。

ヒナは頭の中でそう考えながらも、彼らと共に歩いていった。船に乗った後に、ジム戦に行こうと思いながらも。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

聖・アンヌ号というのはポケモンバトルと育成を主に取り扱うトレーナーにとって娯楽の船である。船にはポケモン専用の機材がそろっており、修行してレベルを上げるも良し、スキンシップをとって仲を深めるも良し。ポケモンのバトル大会やコーディネーターによるパフォーマンス大会、そして交換やたまご交換会など実に様々なことが楽しめるようだと分かった。

船にはバトル専用のフィールドが完備されているのもあれば、人とポケモンがある程度一緒に過ごせられる部屋を個室で用意されている。

 

どうやら私達はそこで一泊することになったらしく、マサキさんの計らいによってそれぞれ専用の部屋に案内してくれた。その部屋はポケモンセンターで普段泊まる部屋とは違って大きくてきれいなものなのだけれど、どこか落ち着かない部分もある場所だった。

 

今現在は船のホールにいるのだけれど、そこにいたのは見慣れた赤髪。

 

 

 

 

「なんでシルバーがここにいるの!?」

「それはこちらの台詞だ。俺は父上の代理で来たからだが…お前たちは何故ここにいる」

「マサキさんを助けたお礼に決まっているだろうクソシルバーめ!!」

「貴様には聞いていない」

「なんだと!?」

「おい喧嘩すん―――グッホォ!?おい八つ当たりでチコリータ突撃させんなよ!!」

『チッコ!』

「あーもう…ほらみんな喧嘩は止めなさい!!」

「なんや賑やかやなぁ!」

「賑やかってもんじゃないですよ…っていうか、目立ってるし」

 

「というかシルバー…ジム戦は?」

「勝ったに決まっているだろう。ほら、バッチだ」

「うわ本当だ…マチスさんに勝ったんだね。おめでとう」

「ああ」

「くっそ…そのドヤ顔が腹立つ!チコリータぁ!!」

『チコリ!』

「いっでぇぇ!!やめろクリス!!」

 

 

ヒビキの痛そうな悲鳴があがり、チコリータのやる気満々な声が聞こえてくる。

それにため息をつく私と、呆れたような目で見つめるシルバー。面白そうな顔でチコリータを見ているマサキさんがいた。

 

ホールではパーティが行われているらしく、マサキさんに勧められて船で貸し借り可能な黒服ドレスを着てから参加している。

本当なら参加しなくてもいいらしいが、まあこれも恩を返すというマサキさんの声に断れなかったのと、ヒビキたちが楽しそうだという雰囲気を壊したくなかったから。パーティは誰でも参加可能だし、ドレスも無料で貸し借り可能だから良いかな。

 

 

 

「おい貴様。パーティーが終わった後俺とバトルしろ」

「ふん!望むところだ!お前を叩き潰してそのプライドを粉々にしてやる!!」

「そうできるといいな?むしろ俺に負けて逆上するような恥ずかしいことするんじゃないぞ」

「誰がするかだれが!くそ…チコリータ!」

『チッコ!』

「ぶふぉ!…だから俺に八つ当たりすんなって言ってるだろ!!!!」

「うんうん!元気なのはええことやで!」

「あはは…はぁ」

 

 

 

ホールに来ているシルバーもヒビキと似たようなタキシードを着てこちらを―――というか、クリスを睨みつけていた。リボンが多くつけられている赤服ドレスを着ているクリスもシルバーを睨みつけており、やっぱり喧嘩するほど仲が良いという言葉が似合う二人だと実感する。

 

 

――――そんな時だった。

 

 

 

 

 

【ポケモンパフォーマンスバトル大会!参加者全員には進化の石を一つプレゼント!そしてぇぇ優勝賞品にはなんとマスターボールを一つプレゼントだぁぁ!】

 

 

 

 

ホールに設置されたアナウンスから大きな声が鳴り響く。その声を聞いたのはホールにいるトレーナー全員だ。

 

 

 

 

「進化の石かぁ…ナゾノクサのために【たいようのいし】か【リーフのいし】は欲しいところ…かな」

 

 

パフォーマンスバトル大会ということは、ピチューが活躍し、楽しめる場に違いない。だから参加するのは確実だろう。参加すれば進化の石はもらえるから、無理に優勝しなくてもいいだろうし。ナゾノクサも進化したいという時が来るのを想定して念のために持っておくだけの話だし。

 

 

――――でも、ヒビキたちはそんなこと思ってはいなかった。

 

 

 

 

 

「「「マスターボール…だと!?」」」

 

 

 

「え、あの…みんな?」

「マスターボールがあれば捕まえることが不可能なポケモンを捕まえるのが可能だ…伝説が捕まえられるのなら徳はあるが…自然の摂理を乱さない程度のポケモンならあるいは…」

「すっげー強いポケモンに戦ってから捕まえる!」

「シルバーに勝てるポケモンだ。奴に余裕で勝てるポケモンを捕まえてやる!!」

『チッコォォ!』

 

「あんたたち自分のことしか考えてないの!?」

 

 

ちょっと呆れた。マスターボールに入れられたくないポケモンがいたらどうするつもりなんだか。というか、マスターボールだなんてものあっても意味ないと思う。ポケモンと人間の絆が必要なバトルにおいて、無理やり捕まえてきたポケモンだと勝つことは不可能に近いから。伝説だって無理やりバトルされたら抵抗するだろうし、最悪死に近い事件がおきるかもしれない。だから私はマスターボールは使いたくない。

 

トレーナーにとって最上級のボールと言えるのは、ただのモンスターボールなんじゃないのかなとは思うけれど、まあみんながみんなそうとは言えないよね。

 

 

 

「ヒビキたちがポケモンに嫌がる行為をするってわけじゃないのは知ってるけど…無理やり捕まえるのは駄目よ」

「分かってる!でもマスターボールってなんかかっけーだろ!」

「ふん…マスターボールさえあれば父上に貢献できること間違いなしだ。ヒナが心配するようなことはしないが、欲しいものは欲しいだけの話だ」

「あれは私がもらう!シルバーなんかに取らせてたまるか!!がんばるぞチコリータ!」

『チッコ!』

 

 

 

チコリータがぶんぶん葉っぱを振り回しつつ、みんなが気合十分な声をあげてきた。

 

そんな声を聞きながら懐でボールがゆらゆらと揺れるのが感じる。特にピチューのボールがガタガタとうるさく揺れている。だから、これから大会でどんな目に遭うのか不安が込み上げてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第二十一話~思わぬ再会~





ポケモンというのは多種多様。でもポケモンから見たらその種族のうちのたった一匹でしかない。







 

 

 

 

【さあやってきましたまいりました!ポケモンパフォーマンス大会の時間だぁぁ!審査員も含めて優勝を狙えるのはどこの誰だ!】

 

司会進行役の人の叫ぶ声がホール内に轟く。そして、照明が急に消え、三つのライトが点灯された。その場に座っているのは三人の審査員だ。

 

「元気いっぱいのポケモンたちがいてたのしそうですね」

「いやー好きですねー」

「どんなポケモンに会えるのかわくわくします」

 

ホール内の様子が変わっていく。それはいろんな意味で魔法のようだと感じる変化だった。

 

『ブィィ!』

「あ、こらイーブイ!勝手に出てきて悪い子やな!!」

『ブイブイ!』

「しゃあないなぁ…」

 

机の隅に食べ物が設置されていったせいか、マサキさんの手に持っていたはずのボールからイーブイが飛び出してきた。その様子に呆れたマサキさんが私たちから離れつつ、ホールの中心部分を見ている。もちろん私たちもその様子を見て、驚いていた。

 

ホールの足場が小さく崩れ、中央が大きく開いてバトルフィールドが展開されていく。壁が一気にバトル用の画面に変わっていく。照明が様々な色に変わり、壮大な音楽が聞こえてくる。ポケモンたちが注目していた。人間たちも注目していた。新しい船の機能を見て、皆が驚いていた。

まるでそのホールすべてがパズルのように、一度崩れてまた再生し、大きなホールがポケモンジムのような彩りへ変化したのだ。

 

 

「なにこれ…すごいっ…!」

「これは凄まじいな…さすが聖・アンヌ号といったところか…!」

「ふむ…ポケモンのための休憩どころを隅に用意し、食事や飲み物、木の実を壁際に設置されている。天井もバンギラス程度なら余裕で入るぐらい…か。はかいこうせんぐらいなら受け止めそうだな」

「ふざけんなあほシルバー!また船を沈める気かよ!!?」

「あの時とは違うんだから絶対にやめてよシルバー…あのチルタリスのはかいこうせんは普通とは違うんだからね!」

「……チッ」

「舌打ちすんな!!」

 

 

シルバーがやけに不機嫌そうな顔で私とヒビキを見つめている。でもそんな顔をしても私たちは絶対に前言撤回なんてしない。はかいこうせんで船が沈んだあの悲惨な事件を繰り返したくないし、四年も経っているからこそチルタリスの攻撃力は上がっているのだと理解しているからだ。

そんな私たちを見ていたクリスが首を傾けた。

 

 

「なんだ?チルタリスのはかいこうせんがどうかしたのか?」

「奴のはかいこうせんはもはや破壊兵器だ」

「文字通りの破壊光線だからね…船が吹っ飛ぶのが目に見えるかもしれない…」

「ほう!ならばそれを受けてたつ!私はシルバーより強いはかいこうせんを覚えてみせるぞ!!」

「やめろ!破壊神は二人もいらねえんだよ!!」

「ねえお願いこれ以上スーパーマサラ人の悲劇を起こさないで!!?」

「おいヒナ。あいつはマサラ人じゃないぞ」

「分かってるわよシルバー!クリスはスーパーマサラ人じゃないけど…違うけど似たようなこと起こさないでよ!!」

 

 

大会どころじゃないような怒鳴り合いに発展してしまったが、クリスもシルバーも私たちの考えをちゃんとわかってくれてはいない。そういうところが似た者同士だと思うんだけれども…それを言ったら怒られそうだから言葉を飲み込もう。

 

ヒナは【のみこむ】を覚えた!――――とかどっかのステータスに出てたらやだなぁ。

 

 

 

 

【さぁさぁポケモン参加者はホール内の船員に話しかけてくれ!すぐにエントリーを行うからね!!】

 

 

 

 

そんな言葉を聞いて、私たちが速攻でエントリーするためにどのトレーナーよりも動いたのは仕方ないかもしれない。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

【さー始まったポケモンパフォーマンスバトル!バトル形式は二つ行われる!バトルの勝敗はポケモン同士の勝ち負けとパフォーマンス力!トレーナーの力とポケモンの絆を発揮しなければ優勝は無理だぞぉ!!】

 

 

 

トレーナーとして集まった参加者は20人くらいだろう。少ないとは思うが、この船に集まっているのはかなり優れている人たちだと思うから警戒は怠れはしない。

 

 

司会者の男の人がまた叫ぶ。

 

 

【さてさて第一ステージはバトルだ!その後大きなフリーパフォーマンスに移ってもらうよ!!まず第一試合、シルバー対クリス!】

 

 

 

――――その言葉にある悲鳴が響き渡る。

 

 

 

「キタァァァァァッッ!!!!!!!私の時代だッ!!!!!」

「喧しいぞ貴様!」

 

「うわーあの二人って…ええー…」

「まもるか何かやっておいた方がいい絶対」

「ゾロアークってまもる覚えてたっけ…?」

「覚えられるけど覚えてねーんだよなぁ…この船に技マシンとかあったっけ…」

「覚える時間ないと思うしやめとこう…悲劇が怒らないようにアルセウスにお願いしておけばなんとかなる…と思う」

「…なあヒナ、全知全能の神だとしてもこの状況を何とかしてくれる願いを叶えてくれると思うか?」

「ぜんっぜん思わないね」

 

 

私とヒビキはため息をつき、いまだに騒いでいる二人に視線を注いだ。でもクリスもヒビキも早くバトルをしたいのかもうバトルフィールドのトレーナーが立つ位置まで来ていた。

 

 

司会進行役がそれを見て叫ぶ。

 

【このバトルでの勝敗は勝ち負けとパフォーマンス力!さー軍配が上がるのはどちらか!!?試合開始だぁぁ!!】

 

 

 

「行くぞチルタリス。優勝してマスターボールを手にする」

『チルゥゥ!』

 

「ふざけるな!あれは私の物だ!!プリン、すべてを蹴散らしてみせろ!」

『プゥリ!』

 

 

「あれ…プリンだ」

「あいつプリンなんてポケモン持ってたのか…まあ、チルタリスがドラゴンタイプなら、フェアリータイプが混ざってるプリンの方が有利……だよな…?」

「それを覆すのがシルバーですよヒビキくん」

「マジであのチルタリスが難関…っすねヒナさん」

「とりあえず…頑張ろうね」

「……おう」

 

このカント―地方で手ごわいライバルになるのはシルバーだろう。シルバーのポケモン知識と、その豊富なポケモン道具。シルバーの父がポケモンに関してシルバーに手を貸していること。そしてその知識を活かした育成が私たちにとって難関である。特にあのチルタリスは厄介すぎてつらい。

シルバーから貰ったきのみプランターがとても使いやすくて感謝してるぐらいだ。

 

おそらくクリスのプリンもそれを感じているのだろう。また育成途中なのがよくわかるし、圧倒的な強者に怯えているが頑張って見栄を張っているのも理解できる。

 

 

「前に進めプリン!チャームボイスだ!」

『プゥ…ププリィィィ!』

 

「コットンガードですべてを弾き返せ!」

『チルゥゥ!』

 

 

チャームボイスが大きな音盤となって形作られ、チルタリスに当たりそうになった。だがシルバーが指示した通りに動いたチルタリスが羽毛をさらにふわっふわにさせたことによってすべてを弾き返してしまった。…というか、コットンガードってそういう技だったっけ?また何か新技みたいなのになってないかな!?

 

 

『プリィッ!?』

「戸惑うなプリン!そちらが動かないのなら歌って眠らせてしまえ!!」

『プリィィッ!』

 

 

「ムーンフォース!」

『チルルゥ!!』

 

 

チルタリスの大きなムーンフォースが、歌おうとしていた小さなプリンの身体にぶち当たってしまった。そのせいでプリンは地面にバウンドしながら悲鳴を上げる。

 

 

 

『プリィィィッ!!?』

「プリン!!?」

 

「ふん…ドラゴンタイプの弱点を考慮したのは良い点だが…まだまだ成長が足りなかったな」

『チルルゥ』

 

 

 

「うわ…えげつな」

「フェアリータイプの技で攻撃するだなんて容赦ねえな…さすがあほシルバー」

 

 

私達が絶句するのも無理はない。それほどの屈辱とトラウマを与えようとしているんだ、あのバトルに全力なシルバーは。

 

気絶し、倒れてしまったプリンを抱きしめたクリスはシルバーを睨みつける。そんな光景はまさに悪党と被害者。どちらがどちらの役割なのかは言わないでおこう。

 

 

――――だが

 

 

 

 

 

 

【勝者はぁぁ!!クリスだぁぁぁ!!!】

 

 

「…ん!?」

「え…はぁ!?どういうことだよ!!?」

 

「何故だ!俺はちゃんとバトルに勝ったぞ!!何故負けになってしまうんだ!!?」

『チルルゥ!!!』

 

 

【いやーそういわれましてもねー】

 

 

 

シルバーが司会進行役に向かって怒鳴り声を上げる。もちろん私たちもびっくり驚愕な声を上げる。

それでも判定は覆すことはなかった。

 

 

 

 

むしろ、それで良かったらしい。

 

 

 

 

 

「プリンが小さな体を使ってチャームボイスを放ったあの可愛さはとても愛らしいですね!チルタリスの強い攻撃も見事でしたが一瞬で終わってしまったのが残念です」

「いやー好きですねー」

「プリンが負けてしまったのは大きな判定になるが…それでもちゃんとパフォーマンスとしての力を見せていた。むしろあの巨大なチルタリスに挑もうとする小さなプリンの姿がまるで劇団か何かに見えてしまったよ!イッツワンダフル!!」

 

 

 

 

――――そう、これはパフォーマンスバトルなのだ。

 

 

 

 

 

バトルの勝敗だけでは勝ち負けは決まらない。ポケモンのパフォーマンスで勝負が決まるような大会。ポケモンをどう美しく…あるいは格好良く、知的に、素晴らしく見せるのかがカギとなるバトルだ。それを怠り、ただバトルだけに専念してしまったシルバーは負けてしまうのは仕方ないことだといえる。

 

 

 

 

「勝った…のか?私は、あのシルバーに…勝ったのか!!?」

『プゥリ…?』

「よくやったぞプリン!あのチルタリスに勝ってやったぞ!!!」

『プゥゥゥ!!』

 

 

 

 

「くっ…」

『チルル……』

「…ああ、分かっているさチルタリス」

『チル』

 

 

 

悔しそうな顔をしているシルバーが、座り込んでプリンと抱き合っているクリスに手を伸ばした。

 

 

 

「なんだいきなり…」

『プゥリ?』

 

 

「いや、こういう勝負もあるものだと勉強になった…それだけは礼を言う」

『チルルゥ!』

 

「……ハッ。次は余裕で勝ってみせるからな!」

『プゥリ!』

 

 

 

クリスが立ち上がり、真正面からシルバーを見つめる。そして二人が手を握り締め、このバトルは終わった。良い感じで終わって良かったと思えた。

 

 

 

 

 

「はかいこうせんがなくてよかったな」

「まあね…いい勝負だったよ二人とも!」

「次はこうはいかない。必ず勝ってみせる」

『チル!』

「そうはいくか!!」

『プリィ!』

「喧嘩すんッぐっぉっ!?――おいクリス!!プリンにはたく指示すんな!!」

「ほらほら喧嘩しないの!!まったく…いつ仲良くなるんだか」

「「だれがなるかっ!!」」

 

 

「はぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて次の勝負はヒビキ対ヒナだよ!バトルフィールドにカモンっ!】

 

 

「よし!バトルだね」

「おう!次は俺の新しいポケモンで決めてやる!!」

「…新しいポケモン?」

 

 

バトルフィールドに向かって、トレーナーの位置にそれぞれ立っている私は首を傾けてヒビキを見た。ヒビキの手に持っているのは、真新しそうなモンスターボール。そのボールがガタガタと揺れて、そして一気にフィールド内に現れた。

 

 

 

「行くぞピジョン!!」

『ピジョォォオォオ!!!!!!』

 

 

 

「……ん?あれ?」

「どうしたヒナ!はやくポケモンを出せ!!」

 

 

「え、うん…いくよピチュー!」

 

 

『ピッチュ!…ピチュ!?』

『ピジョォ!!』

『ピチュピチュ!!』

『ピッジョォォォ!!!!』

 

 

「え、やっぱりピチューも知ってるの!?」

「…ん?なんだ?どうかしたかヒナ?」

「えっとね…うーん…これはやっぱり…」

 

 

 

なんか見たことのあるピジョンがいる。急かされたためすぐにモンスターボールを投げてピチューを出す。だがピチューも目の前にいてこちらを睨みつけているピジョンに何故か驚いていた。私も先ほど驚いていた。というか、絶対に会ったことがあるはず。

 

―――――見たことある顔だけど、お兄ちゃんのポケモンじゃないピジョン。

 

 

私は確信した。

 

 

 

 

「あの鋭い目つき…そしてピチューも見たことあるような顔………もしかしてトキワの森にいたポッポ!?」

『ピッチュゥ!!!』

 

 

 

「なんだよ知り合いか?じゃあなおさら頑張って勝とうぜピジョン!」

『ピジョォォォオ!!!!』

 

 

 

 

 

ピジョンはうるせえ絶対に勝ってやらぁ!というような勢いで両腕の翼を広げて私たちを威嚇し、咆哮をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 




小さなポケモン会話文




『ピッチュ!…ピチュ!?』
―――よしやるよ!……っていつぞやの目つきの悪いポッポ!?

『ピジョォ!!』
―――畜生変わってねえなァてめえ俺ァポッポじゃねえピジョンだ!!

『ピチュピチュ!!』
―――君、ヒビキのポケモンになったんだね!!


『ピッジョォォォ!!!!』
―――俺と同じように強さを求めて旅に出てるからなァ!!!!



まあこんな感じ





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第二十二話~これは訓練ではないよ~




怖いのは誰?






 

 

 

 

 

 

ホール内にて響く声は熱気に包まれていた。ある者は息を呑みこみながら。ある者は感心しつつ戦術を考えながら。

 

そしてまたあるポケモンは彼女たちのバトルを見つつ、食事を楽しみながら――――。

 

 

「さすがやなぁ…あの子、あのサトシの妹なんやて」

『……ブイ』

「かわええし、ポケモンも育ってる…イーブイ。後で謝らな」

『…ブイィ』

 

 

 

―――――このバトルはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

「ピジョン!つばめがえし!」

『ピジョォォォ!!』

 

「ピチュー!アイアンテールで受け止めてあげて!」

『ピッチュゥ!』

 

 

 

ピジョンの閃光がかった翼を受け止めたピチューが後ろに押し戻されつつ、電撃をバチバチと光らせて威嚇行動をとる。その電気に当たっていても、ピジョンは引くようなことはしない。鋭い眼差しに浮かぶのは勝利への貪欲な希望だ。このまま勝ちたいという、強さへの欲望だ。

 

 

それをヒビキは分かっていた。そしてもちろんヒナやピチューも負けるつもりはなかった。

 

 

「地面巻き込みながら10まんボルト!」

『ピチュ!』

 

「全部吹っ飛ばしつつ、たつまき!」

『ピッジョォォオ!!』

 

 

雷光と疾風が巻き起こり、爆発する。それでも二人は互いを見つめ合っていた。バトルに集中しながらも、笑いかけていた。これはただのバトルじゃない、パフォーマンスバトルなのだということもちゃんと理解できていた。

だから、すべてをぶつけつつ、審査員に良い評価が出るようにけしかけていく。

 

そんな中で、黒い煙幕の間から鋭い風がピチューの間を突き抜ける。それに容赦なく当たりそうになったピチューが避けつつも、ピジョンがいる方向を見つめた。

 

 

「ピチュー!ボルテッカー!!」

『ピッチュゥゥ!!』

 

「つばさでうつ!」

『ピッジョ!!』

 

 

「おお…これはすごいですね!」

「いやー好きですねー」

「こんなバトルを見られるだなんて…イッツグレイト!!」

 

 

光の刃と風の刃が再びぶつかり合う。その光景はまさしく幻想そのもの。誰もが息を呑む綺麗な光景であった。

 

 

 

「…ほう、あのピジョン…特性はするどいめか…?」

「あぁ?どう見ても普通のピジョンだろう!」

「ふん。貴様に言っても何も分かるまい」

「分かるに決まっているだろう叩き潰すぞ!!」

「やってみろ。…チルタリス」

『チルゥ』

「こいつを地面に沈めろ!プリン!」

『プリィ?』

 

 

 

――――観戦席で何かがあろうとも、二人の集中は途切れることはない。

 

 

 

 

「ピチュー!後ろに下がってわるだくみ!」

『ピッチュ!』

 

「へー珍しい技使ってんじゃん!んじゃあこっちはこうそくいどうだ!素早さを積み込め!」

『ピジョォ!!』

 

 

ピチューが後ろに下がって【とくこう】を強めるのならば、ピジョンは【すばやさ】を上げていく。どちらも真剣に、でもパフォーマンスになるように盛大に。

ピチューが可愛らしく審査員に向かって笑いかけながらもわるだくみを発動し、ピジョンは力強さをアピールしつつ翼を大きく動かしてこうそくいどうを行った。

二人は地下通路でのバトルを忘れているわけじゃない。ただ力のごり押しでどうにかできる相手じゃないと分かっているし、そういうバトルもあるのだとちゃんと理解していた。

 

 

 

「これで最後よ!!」

 

「望むところだ!!」

 

 

 

それぞれが最後の技を出そうとした――――瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「ここは我々新生ロケット団がハイジャック…いや、シージャックした!!バトルを止めろ!全員が人質だぞ!抵抗するなら弱いモノから殺していく!!」

 

 

その声はホール内のアナウンスから聞こえてくる。男の騒がしい声と、そして悲鳴のような恐怖に染まった声がする。ロケット団と言った声に反応し、それぞれがバトルを中断したところ、急にホール内に黒服の男たちが押し寄せてきた。

 

それを見て唖然とするのはバトルを行っていたヒナとヒビキだ。

 

 

「…はっ?…うわ…」

「え…やばくない?」

 

 

二人はとある少年を見た。クリスは黒服の男たちを睨みつけているが、隣にいた少年の異変に気づいて目を見開いた。

 

 

チルタリスは呆れていた。プリンはクリスに抱きつき怯えていた。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

何も言わない少年の顔は、綺麗に微笑んでいた。――――目が笑っていない状態で。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――――これやばいこれやばいこれ絶対にやばい主に船が沈没する元凶がやばい!!

 

 

 

 

「おとなしくしていろ!そしてポケモンたちや金目のものを出せ!ああもちろん大会の商品であるマスターボールや進化の石もだ!!」

「おいそこ!不要な動きをするな!」

「抵抗などをしたらアーボックの毒で殺してやるぞ!!」

 

 

 

ロケット団がホール内にいる。でもおそらく船のどこか他の場所にもいるのだろう。ポケモンを出しているのは順番が決まっているらしく。私達は運よく最後らへんでロケット団に渡さなければいけない。その時間に、奴を止めなければいけない!

幸いシルバーから遠い場所にいるから、私たちの焦りはわからないはず…だと思う。だから、その間に何とかしなければ。

 

 

「ヒビキ…シルバーを眠らせられる?」

「馬鹿なこと言うな今のあいつに手を出したら俺がぶっ殺されちまうだろ!!」

「じゃあどうしたらいいわけ!?あんな…お兄ちゃんが軽くキレている時のような感じで…もうあの惨状は見たくない!」

「お前だけじゃねっての!くそ…この現状がわからないようにできるには…どうすれば…」

「あ、ゾロアークのイリュージョンはどう?」

「…あ」

 

 

 

周りを監視されているため、ボールからこっそりとゾロアークを出すのは大変だった。でも何とか隙をついてできそうな気がする。だからこのままイリュージョンをして、ロケット団の皆を騙してしまえばいい。そうすれば惨状なんて起きずに終わってしまう。

 

 

そう、思っていた。

 

 

「おいそこ!何をやっている!」

 

 

「っ?!よしいまだゾロアーク、イリュージョン!!」

『ガァァ!』

「なっ?!くそ…おいヨルノズク!みやぶる!!」

『ホーッ!』

 

 

「え…!?」

「へへへッやっかいなことしやがって…!」

「おいあそこにいるピジョンもなかなかのレベルじゃねえか?」

「ゾロアークか!こっちじゃ珍しいポケモンになってんだ!よこせクソガキ!」

「ふざけんなこいつは俺の相棒だ!誰がよこすかよ!」

『ピジョォォ!』

『ガァァァ!!』

 

 

光に包まれていたゾロアークのイリュージョンを、ヨルノズクがすべて崩壊させてしまった。私達の最後の砦が、やぶられた。ロケット団がこちらを睨みつけてアーボックをけしかけようとしているけれど、それは怖くない。ピチューが攻撃に当たらないよう警戒してくれているし、ゾロアークもヨルノズクぶっ潰せば何とかなるというヒビキの考えを読み取って動こうとしているから問題ない。ただ欲しいのは時間だけだ。

シルバーの歩みを止める時間が欲しい。

 

―――でも無情にも時は進む。

 

 

 

「おいそこ!お前だよこのガキ!動くな!!」

 

「おいシルバー!?動いたら他のポケモンや人間に危害を加えられる可能性がある!やめろ!」

『プゥリ…』

 

「うわぁ動いちゃってるよこれヤバいよどうしよう!?」

『ピチュゥ!?』

「ヒナ…サトシさんが前にやっていたあの技覚えているか?」

「え?何の技?」

「あれだよあれ!!あれなら絶対にうまく弾くことができるはずだ!!」

「………ああ!分かった!」

 

 

一歩一歩と歩みを止めない彼が、隣に寄り添うチルタリスにある命令を仕掛けようとする。

それは、悪しきロケット団を潰すための行為であり、笑えないほどの威力のある破壊行為でもあった。

 

 

 

「チルタリス、はかいこうせん」

『チルゥゥゥゥゥ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「カウンターシールド!!!!」」

『『『――――――ッッ!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

一匹の白い竜の閃光と、三匹の大きな竜巻がホール内で繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 



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第二十三話~未来への筋道~



みんな、最初はそうだった。





 

 

 

 

 

 

「いやぁ…弁償事にならなくて良かったよねぇ…」

『ピィッチュ…』

「トレーナー資格剥奪だなんていう最悪の事態も防げたし万々歳だな…」

『ピッジョォォ』

『ガァァ』

 

 

「「それで何か言うことはないかな?シルバーくん?」」

 

「ひとつも見当たらないと思うのだが…?」

『チルルゥ?』

 

「だぁぁ!お前らがそんなんだからはかいこうせんが破壊光線になるんだよ!!」

「ちゃんと自覚すること!そしてちゃんと最悪の事態を考えておくこと!それが今回の反省点です!!」

 

 

ホール内の天井を見上げれば見えてくるのは清々しい夕日空。カウンターシールドによって、止めたはずのはかいこうせんが天井に突き刺さり、全てを破壊しつつ空に閃光が向かった証拠のあとだ。

 

船の人にやりすぎだとシルバーが怒鳴られた。けれどきっかけを作ったとはいえ、犯罪者たちを捕まえてくれたことに免じて処罰の対象にはならなかった。

ヒビキは冷や汗をかき、私もひやひやして――シルバーはもっと痛めつけてやりたかったと不服だった。

 

つまり、反省していないので説教が必要ということです。

 

「……チッ」

『チルゥ』

 

「ちゃんと反省するまでバトル禁止にするぞあほシルバーめ!」

「ちょっとやり過ぎてるし周りのこと見てない部分があるからちゃんと考えて行動してね?」

「……」

「…シルバー?」

「おいシルバー!」

 

「…分かった。つまり一点集中型を極めればいいんだな?」

 

「「そういう問題か!!?」」

 

 

この調子だと、恐らくシルバーは普通にまた何かやらかすかもしれない。そこは本当に兄に似ていてかなり不安だ。だから、はかいこうせん禁止を考えておかないと後が怖くなると思う。

 

でも、シルバーが理解しないとこの問題は解決しないんだよね。実際に危害を加えたのは――まあ、四年前の船とニビジムとこの聖・アンヌ号なんだけれども。

 

…やっぱり多いか。ちゃんと反省してもらわなきゃ。

 

 

「とにかく!シルバーのチルタリスによる影響を抑える方法をちゃんと考えないと駄目だからね!」

「はかいこうせんは一撃必殺として使っているからな…無理に決まっているだろう」

「だぁから!そんな硬いこと言ってるからいつまで経ってもチルタリスの攻撃による壊滅的被害が起きるんだろ!自覚しろよ!」

「シルバーのお父さんが困るかもしれないよ?だからちゃんと考えてね?」

 

「父上が…っ…分かった」

 

「え、マジで!?」

「本当に?本当に考えてるのよね」

「ああ。これからチルタリスのはかいこうせんをどうするかちゃんと考えておく」

『チルゥ?』

「チルタリス、これも修行だ」

『チ、チルッ!』

 

 

シルバーの父上に対する威力が半端ない。チルタリスは首を傾けて本当に我ははかいこうせんを極めなくて良いのだろうか?というような顔をしてきたけれどね。シルバーを説得できたなら大丈夫なはず。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そんなこんなで、進化の石もマスターボールも大会ごとなくなってしまった。石くらいは欲しかったからちょっと惜しいなと思いつつ、ナゾノクサと散歩にでも行こうと決心した。

 

船の中はあまり揺れることなく、ポケモン専用のきのみを貰ってあとでリザードンやピチュー、ナゾノクサと一緒に食べようと思いながら歩いていく。ホールではない場所。客室の廊下から、展望デッキへ。

 

 

『ナゾナゾ~』

「ナゾノクサ、気持ちいい?」

『ナッゾー!』

 

 

ナゾノクサが頭の上にある草を揺らしながら私に向かって笑いかけてくれた。私も微笑みながら、夕日を眺める。

 

――――ふと、下を見てみた。

 

「――――っ!」

 

「あれ…クリス?」

『ナッゾォ?』

 

 

展望デッキは二階部分らしく、その下に見える外のバトルフィールドで戦っているらしいクリスと知らないトレーナーの姿。クリスはチコリータで戦っていて、知らないトレーナーはストライクでやっている。

ナゾノクサもそのようすを観戦し、もっと近くで見てみたいとばかりにジャンプして促してきた。だから、展望デッキから階段を下って、バトルフィールドを近くで観戦する。

 

「チコリータ!つるのムチ!」

『チィィッコ!』

 

「ぐっ!?ストライク、切り裂け!」

『ストラァァイク!!』

 

『チッコォッ!?』

「大丈夫だチコリータ!お前ならやれる!もう一度つるのムチ!」

『チコ…チコリッッ!!』

 

『ストラァァイッ!!?』

「あぁ!?ストライクぅぅ!!」

 

つるのムチによって壁に叩きつけられたストライクが目を回して倒れる。そしてトレーナーがストライクの側に近寄り、そこでバトルは終了となった。

チコリータは葉っぱをぶんぶん振り回して勝利を歓び、クリスはそんなチコリータの頭を撫でる。ポケモンと人間の絆が現れているとても気分のいいバトルだ。

 

『ナッゾォ!』

 

「あ、ナゾノクサ!」

 

「む、ナゾノクサ?…ああ、いたのかヒナ」

『チィコ?』

「うんごめんね。なんか覗き見してて」

「いや、ポケモンバトルとはそういうものだ…だが、ちょうどいいな…」

「へ?」

「ヒナ、私とバトルしろ。それもあの色違いのリザードンとだ」

「……何で?」

『ナゾォ?』

 

私が首を傾けると、近くにいたナゾノクサも同じ動作をして草を揺らす。リザードンを皆が見ているここで出して騒ぎにならなければいいのだが、それをクリスは分かっているのだろうか?

 

「ここでリザードンを出す意味は?この船の…私の部屋に行けばリザードンを出してあげることができるし、バトルだって無理にしなくても…」

「お前の相棒だとヒビキから聞いた。だから戦いたい」

 

拍子抜けした。そうだ、クリスは色違いについて何も反応しなかったではないか。ポケモンにペンキでも塗って色違いにすればいいと怒っていたじゃないか。

 

少しだけ、色違いについてのトレーナーの反応を怖がってしまった自分を恥じた。そんな私にナゾノクサが元気出せとばかりに足元にすり寄り、懐にある二つのボールがゆらゆらと揺れる。リザードンのボールは出てきて騒ぎになっても大丈夫よ、と言うかのように大きく揺れていた。

 

クリスの目は本気だ。だから、全力を出さなければならない。私は頷いた。

 

「バトルとなったら…全力を出して戦うからね」

「もちろんだ!」

 

私とクリスがバトルフィールドの両側に立つ。私はボールを手に取り、クリスは側にいたチコリータをフィールド内へと行くように指差す。

 

「行っておいで!リザードン!!」

『グォォォォッ!』

「全てを出して戦うぞ、チコリータ!」

『チッコォォォ!』

 

漆黒の翼と、緑の葉っぱが揺れる。ナゾノクサがリザードンの炎の尻尾を見て近づこうとしたから慌てて抱き上げつつ、両者が睨み合う。これから熱いバトルが始まるかもしれない。

 

だが、バトルの熱気を冷ますのは、それを見た観戦者が大きく騒ぎとなって聞こえてきたせいだ。

 

 

「おい見ろよ!あのリザードン色違いだぞ!」

「うわぁすっげー!格好良い!」

「交換してくれないのかな…?」

「ポケモン交換所まで連れていったら交換してくれるぜたぶん!」

「絶対に交換してもらう!あのリザードン欲しい!」

 

 

本当に、これらの声が苛立つ。色違いだから価値があると思ってる馬鹿が多すぎてムカつく。

 

私とリザードンが嫌そうな顔をして、クリスとチコリータが攻撃でもするかの勢いで怒鳴ろうと――したときだった。

 

「あぁー!あっちに色違いのギャラドスが大発生してるぜ!!」

『グァァァ』

 

「え!?何々!」

「本当だ!海にギャラドスの色違いがいるぞ!」

「どいて!私が捕まえるんだから!」

「いや俺だ!」

「こんなところにいたら捕まえられない!早くいかないと!!」

 

急にドタドタと忙しい音を振り乱しながら走り去っていく観戦者のトレーナー達を見て呆気に取られる。周りを見ても色違いのギャラドスは見つからない。でも誰の仕業かはすぐに分かった。だから、バトルに集中できるはずだ。

 

「ありがとうヒビキ!」

『グォォッ』

「ふん、礼は言わないからな!」

『チコリッ!』

「いいからさっさとバトルしろよー?ゾロアークのイリュージョンが長く持つか分からないんだからな!」

『グァァァ』

 

「分かった…じゃあ、いくよ!」

「ああ!望むところだ!」

 

 

二人が睨み合う姿から、お互いが口を開き、指を指すことでバトルに変わっていく。

 

 

「リザードン、かえんほうしゃ!!」

『グォォォォッ!!』

 

「チコリータ!かわしてからはっぱカッター!」

『チィィッコォ!!』

 

 

「リザードンっ…リザードン?」

『グォォッ!』

「そっか、分かった」

 

 

炎を素早くかわしたチコリータが葉っぱを大量に出して、リザードンを切り裂こうと動く。でもリザードンはそれを避けようとはしない。あえて受け止めようとしていることに、私は気づいた。

 

 

「なっ!?…くそ、ダメージなしか!」

『チコリッ!チコチコ!!』

「…ああ、そうだな!悲嘆にくれている暇はない!全力でやってやる!チコリータ、つるのムチだ!」

『チィッコォ!!』

 

「…リザードン、かえんほうしゃ!」

『グォォォォッ!!』

 

つるのムチごと、リザードンの火炎がチコリータを焼ききる。そして爆風と炎が消えたあと、見えてくるのは倒れているチコリータと、まだまだ力を温存するリザードンの姿だ。

 

笑えないほどの力のごり押し。このままでいてはいけないバトルスタイル。でも、ここで全力を出すのなら…今の私にはそれが一番似合っていた。

 

「くそ、くそっ!」

『チコ…リ…』

「ああ、すまない…私のせいだな」

 

「あの…クリス?」

「…私はまだまだ力が足りない。ヒナとリザードンのような強固な絆も、バトルに勝つための戦略もまだ何も見つからない。これでは、シルバーにいつまで経っても勝つことはできない!」

 

 

 

そういってきたクリスの瞳には、強い後悔と希望があった。吐き出してくれた言葉を聞いて、私はあの時の事件でのクリスのことを思い出す。クリスは何もしていなかった。シルバーは犯罪者たちをいろんな意味で止めてしまい、私とヒビキは船の崩壊を微妙に止めた。クリスはただ見ているだけだった。見ていることしかできなかった。

彼女のポケモンであるチコリータとプリンはまだ育成途中でチルタリスより劣る部分があるから、だからまだ勝つことはできないのだと叫ぶ。

事件を見て思い知らされたのだと、そう語ってくれた。

 

 

 

―――でも

 

 

 

 

 

「んなわけねーんじゃねーの?」

 

 

悲鳴のような声で叫ぶクリスに向かって話しかけたのは先程までバトルを観戦していたヒビキだ。ヒビキが私とリザードン、そして抱きしめているナゾノクサに近づいて、ある種の境界線を主張する。

 

「お前はまだ弱いけど、それは俺も同じだった…弱すぎて、ヒナのリザードンに吹っ飛ばされたこともあった。でも、ヒナやリザードンも負けたことがあるんだ。誰もがみんな、強いってわけじゃないんだよ!」

『グァァァッ!』

 

「ヒビキ…」

『グォォ…』

 

思い出すのはマサラタウンでのあの喧嘩。イッシュ地方のあと、すぐにヒビキ達に苛められつつジムバッチを求めにいったあの旅路だ。

 

そう、誰もが強い訳じゃない。お兄ちゃんはどうなのか知らないけれど…うん、兄は例外としても、それでもみんな最初は弱かった。弱かったんだ。

 

ヒビキはそれを知っていた。あの喧嘩を、あのバトルを見て心に刻んでいた。強くなるために必死になって抗ったんだ。

 

「クリス…私たちは四年以上も前からポケモン達と関わっているんだ。だから、まだまだ始まったばかりのクリスとチコリータなら、すぐに強くなるはずだよ」

『グォォォッ!』

「そうだぜ!ヒナの言う通りだ!だから慌てて強くなろうとすんな!慌てたら意味なんてない。強さっていうのはポケモンと一緒に築いていくもんだぜ!」

『グァァァ!』

 

私たちの言葉を聞いて、クリスはチコリータを見た。チコリータは力強い目で頷いていた。

 

「…そうだな。私たちはまだ始まったばかり……なら、やるべきことをしてみよう。まだ弱いのなら、強くなれば良い!限界を感じない今なら、もっともっと強くなれる!」

『チイッコォォ!!』

 

「おう!その粋だ!」

『ガァァ!』

 

『ナゾナゾ?』

「…ナゾノクサも、もっと強くなろうね」

『ナッゾォォ!』

『グォォォォォッ!』

 

夕日の中、私たちは微笑みあった。笑いながら、この先の未来を夢見た。――マチスさんとの戦いで絶対に負けたくない。リーグ戦で絶対に負けたくない。

 

そう闘志を燃やすのは心のうち。

他の二人は何も知らず、ヒビキはゾロアークに笑いかけながら。クリスは私たちに微笑みながら口を開いた。

 

 

 

「…ヒナ、ヒビキ…ありがとう」

『チコチコ!』

 

 

夕日のせいか、クリスの頬が赤く染まっていたのだった。

 

 

 

 






「ははは!やっぱりアタリやわ!」
『……』
「なぁ、そう思わへん?」
『…ブイブイ』







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第二十四話~闇色に染まる~




彼女たちは、気づかない。






 

 

 

 

 

 

夜に紛れて、一人のトレーナーが船に降り立った。トレーナーの側には、一匹のリザードンがいた。いや、そのポケモンの背中に乗っていたのだ。

リザードンは他の人では育てきれないようなレベルの高さが感じられる。

人を翼で運べるほどの強さ、かつその強靭な尻尾の炎の強さと傷だらけな身体から見える修羅場の多さが普通の船員でも理解できた。

 

 

トレーナー…いや彼は、普通ならばこのような場所に来る人間ではなかった。でも来てくれた。だからこの騒動を終息してくれるだろう。船員たちは肩の力を抜き、密かに息をはいた。

 

 

 

 

「……」

『グゥゥ』

 

リザードンは静かにトレーナーを下ろし、トレーナーを見つめる。トレーナーはリザードンを見て頷き、ボールへ戻していった。

 

 

 

 

「お待ちしていましたよ!ささ、こちらへ。案内します!」

 

 

 

船員の言葉に頷いた男は、再び頷き、頭にかぶる帽子を深くかぶり直した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

深い暗闇の奥にある一室の部屋。そこは客である人間やポケモンの誰にも見つからない場所に隠されていた。何かがあったときに必要だと考えて設計されていたのだが、まさかすぐに利用することになるとは、と船長がため息をつく。

本来なら暴走したポケモンを一時的に冷静にさせるための大きな部屋。バトル用の部屋とは違い、ここは密閉された空間だ。窓もなく、扉はひとつしかない。そしてイワークでさえ余裕で入れる広い空間でもある。

 

そんなすべての騒動を闇に隠すかのような部屋に、大きな声が響く。

 

 

「だぁからぁぁ!話す気ないっていってるだろ!」

「それよりもあの赤毛のガキ出せ!あいつぶっ殺してやる!」

 

 

「貴様ら!今の自分の立場を理解してないのか!?」

 

部屋の中心に設置されている机を叩いたのは船長。その船長と向かい合っているのは新生ロケット団とかいうよくわからない犯罪者たちだ。

彼らはその言葉通り捕まえることができた。赤毛の少年――名前を、シルバーと言ったか。その子に救われた。警備体制の穴を見つけることに成功した船長たちが密かに感謝したぐらいだ。

まあ密かに感謝しなければいけないほどの騒動を起こし、ホールの天井に大きな穴が開いたが、解放間が増したと考えれば許せなくもない。

 

とにかく、一番解せないのは彼ら犯罪者のずさんな計画だった。ずさんというと、船長たちの無能さが明らかになってしまうが、あとから考えればこれは仕方ないことだと言えよう。これから気をつければいい。一度の失敗から学べばいい。

だから、犯罪者共の話が聞きたい。

 

 

「言え!貴様らの組織はなぜこの船を狙った!?この船を乗っ取る必要があるのか!」

 

「んなもんねーよ!ただボスの指令だっつーの!!」

「指令とはなんだ!話せ!!」

「じゃあ赤毛のガキ連れてきたら話してやるよぉ」

「くっ…ゲス共め」

 

 

にやにやと嘲る笑みを浮かべる黒服の男たちはただ、赤毛の少年をいたぶることしか考えていない。

少年はちゃんとしたこの船の客だ。だから、犯罪者共の言う通りには出来ない。でも話をしてくれないのなら意味はない。

 

この聖・アンヌ号には権力を持った客が多く存在する。もちろん強いトレーナーや珍しいポケモンを持った客もだ。だからこそ、たった一人の少年によって捕まったずさんな計画だとしても話を聞かなければならない。

この船が乗船するのは、盛大的ではなかった。誰にも知られずに楽しむことができる秘密の船旅のはずだった。

 

でも、犯罪者共は知っていた。そして一時的にだが、この船は乗っ取られた。だから、それがどうしてなのか知りたい。でも知ることが出来ない。八方塞がりだ。

 

 

――だが、

 

 

 

 

「船長!」

「おお…やっときたか!」

 

 

 

船員に連れられて来てくれたのは、一人の男。六つのボールを腰につけている帽子を深くかぶった男だ。

椅子に座っている犯罪者共は彼を見て一瞬赤毛の少年か確認し、違うとわかれば舌打ちをした。

 

 

「おいこんな弱々しいやつじゃねーよ!赤毛のガキだって言ってるだろ!!てか誰なんだよこいつ」

「こいつ誰なんだよ?ジュンサーのご家族?」

「ギャハハハ!じゃあポケモンもよわっちーのかね!」

 

 

蔑みと下品な笑みに、船長と船員たちが舌打ちして睨み付ける。

 

 

「口を慎め貴様ら!この人は――え?」

 

 

この男の偉大さを話してやろうとしたら、本人に手を上げられて止められた。話すなと仕草で伝えてきた。

 

思わず彼を見て、息を呑んだ。

 

帽子の奥に光る瞳には、冷たい闘志があった。いや、これは怒りかもしれない。まるで吹雪の中で見つめられているような錯覚のする極寒の瞳。赤い目なのに、とても綺麗だと思えた。

 

 

「……頼んだよ」

『フィィ』

 

 

男はボールからポケモンを取り出した。そしてそのポケモンに何かを命じ、犯罪者共の目を見つめた。

 

 

 

「ぐっ…!?」

「なに…しやがる…!!」

「てめえ…っ!」

 

 

『フィィィ』

 

 

ポケモンに見つめられた犯罪者共が次第に大人しくなっていく。何をしているのだろう。よくわからないが、それでもすごいと分かる。あのポケモンは見たことがあるが、こんなにもすごい力を持っているのか。船長は感心し、この異様な状況を見守り続けた。

ポケモンの瞳が大きく輝き、犯罪者共の目を曇らせる。

 

 

――やがて、男が口を開いた。

 

 

「何故この船を襲ったの?」

 

 

「…珍しいポケモンと金を取るため」

「ポケモンはブラックマーケットに売り出して、金は新生ロケット団のために使うつもりだった」

 

 

「新生ロケット団は何でできた?」

 

 

「悪を貫く人間はたくさんいる。その執念を認めてくれる組織がロケット団だった」

「サカキ様は善人に変わられてしまった。それをあの人は惜しんでいた」

 

 

「あの人って誰?」

 

 

「アポロ様だ」

「アポロ様は俺たちのことを分かってくれている」

「サカキ様がいつか戻られると願って行動している。俺らはアポロ様の助けになろうとしただけだ」

 

 

「…ボスの名前も、アポロって言うの?」

 

 

「…そうだ」

「サカキ様がいない今は、アポロ様が仮のボスとなる」

「アポロ様はサカキ様の代理だ」

 

 

 

 

「……ありがとう、エーフィ」

『フィィ』

 

 

 

エーフィの光っていた瞳が、輝きを失い闇に染まっていった。

その瞬間、犯罪者共は我に返ったかのような表情をする。そして目の前にいる男を睨み付けた。でも男は、何も恐れてはいなかった。

船員の誰かが、エーフィの力で喋ったんだと呟いた。でもそんな声も、男は気にしない。

 

男はまた、口を開いた。

 

 

「国際警察に連絡を…今喋った事実を全て話してください」

「わ、分かりました!」

 

船長がどこかへ行ってしまう。おそらく連絡をしにいくのだろう。

男は別の船員を見た。

 

「あと、ヘリか何かを…彼らをずっとここに置いていてももう何も意味はないでしょう」

 

「んだとっ!!」

「てめえ…あとで覚えてろ!」

「牢屋にいたとしても絶対に脱走しててめえを痛い目にあわせてやる!」

 

 

負け犬の遠吠えだ。男の実力を見た船員たちは、犯罪者共のことが哀れに思えた。でも、もう何をいっても始まらない。全ては話させた。あとは警察に任せるだけの話だ。

 

 

だが、男は微笑んでいた。真顔ではない、普通の笑みを浮かべて、騒ぎ立ててる犯罪者共には聞こえない声で言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね…娘達に手を出されるよりは何倍もいいかな…」

「む、娘たち…?」

 

船員たちは驚愕した。何もかもが不明で謎の多い男だった。でも事実がひとつ、伝わった。

この男には子供がいるのかと、驚いている。子供はどんな偉大な子に育っているのだろうかと、妄想を膨らませる。

 

 

――そんな時だった。

 

「てめえの名前はなんだ!!話してみろ!!!」

「絶対に見つけ出してぶっ殺してやるから名前を教えろ!!」

 

 

 

 

男が笑う。

それは、有名かつ最強と言われているポケモンマスターに似たような微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…僕はレッド……君たちとの勝負が楽しみだから、その時を待っているよ」

『フィィィ』

 

 

 

 

――まあ、勝負を楽しいと思うのは僕の息子かポケモンたちなんだけどね。

 

 

 

 

そう呟いた声は誰にも届かなかった。

 

 

 

 



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第二十五話~これからのこと~




強さはそれぞれ違うもの。







 

 

 

 

 

 

その場で偶然見たのは、きっと運命だったのかもしれない。

 

 

「レッドさん!?」

「…だれ」

 

 

真夜中の船で散歩なんてしていなければ、きっと出会うことはなかったはずの、トレーナー。

ポケモンマスターになるのを拒否し、ポケモンのことだけを信じて様々な凶悪事件を解決したとされる…いまや伝説のトレーナーだ。時には暴れるポケモンや人間相手に立ち向かう彼のことを交渉人と誰かが呼んでいた。

それほどまでにも凄い人なんだと、幼い頃にテレビに出ていたのを知っていた。何もかもが謎に包まれているけれど、ポケモンには優しいこの人の存在を知っていた。

 

でも、そんなトレーナーが何故船にいるのだろうかと、クリスは考えていた。でも、考える必要は今はなかった。ただ、これはチャンスだとそう確信していただけのこと。

 

 

「お願いします!私を弟子にしてください!!」

 

 

――自分の望むことただひとつ。ポケモンと一緒に強くなるために【現状】を打開したいということ。

 

「断る」

「え…?」

「僕は強くない…強いのはポケモン……」

 

でも、レッドはそう考えていなかった。

弟子なんて要らないと、そう言う言葉にはなんの躊躇いもない。それでも、クリスは諦めきれないでいる。ボールのなかにいるポケモン達でさえ、クリスの気持ちに反応してぐらぐらと揺れているのだ。だから、クリスは諦めるという選択肢はない。

 

「お願いします…私は、このまま進みたくない!強いのはポケモンだということは知っています。友人が…ヒナたちが全てを教えてくれた!現状で満足していては駄目だと分からせてくれた!だから私たちは強くなりたい!」

 

「…友人に…ヒナたちに教えられた?」

「はい!ポケモンは最初から強いわけではない…ポケモンと人間が一緒になって戦うということ。そして強さはまだ限界がないということを知りました!」

 

 

クリスは、ジョウト地方の学校にて、シルバーにポケモンの知識量と育成で負けた。全てにおいて自分が上なんだと無意識のうちに驕ったせいで負けたとあの新生ロケット団を止めてくれた三人の行動によって気づいた。

自分はまだまだ弱いんだと、分からせてくれた。

 

だから、このままジムバッチを求める旅をしたとして、何が変わるのだろうかと不安があった。一時は大丈夫だと思ったけれど、それはヒナたちだからできること。クリスは、自分自身の力に自信はなかった。

 

 

 

「私は強くなりたい!皆に認められるのではない…ポケモンと一緒に強くなって、皆に勝ちたい!」

「…勝つってどういう意味なのかわかってる?」

「ポケモンとの絆の強さの証です!!」

 

 

 

クリスが力強く断言すると、彼の帽子の奥深くから見えた瞳が笑ったように見えた。

 

 

 

「……ついてきて」

「え…っ!」

 

 

 

クリスから背を向けて歩き出すレッドの言葉が一瞬幻聴だと思えたのだが、彼はちゃんと待っていてくれた。強くしてくれる。熱い思いが込み上げてくるのを感じる。

 

 

 

「っ…ありがとうございます!!」

 

「礼はいらない…とにかく、荷物持ってデッキに来て」

「はい!!」

 

 

 

 

大きく叫んだクリスはすぐさま行動を開始した。走りだし、廊下を突き進む彼女の心はとても晴れやかだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

デッキに向かった彼女に待っていたのは鍛えられたリザードンと、レッドの姿。

そんな彼を見て、一瞬騒ぎたい気持ちを抑えたクリスは素直にリザードンの背に乗り、船から飛び離れていく。

 

 

 

(…ヒナたちに別れを言っておけばよかったな…シルバーはどうでもいいが)

 

 

 

遠ざかる船を振り返って見ながら、あの時に笑いかけてくれたヒナたちの表情を思い出す。

でももう後戻りは出来ない。強く吹き荒れる風を身体で感じながらも、クリスは心の中で絶対に強くなろうと心に決めた。

 

 

 

 

「あの、ここは?」

「……行けば分かる」

 

 

リザードンが降り立った土地は地面がでこぼことしていて、地面タイプが気に入りそうな環境だ。

レッドが前に向かって進むため、クリスもすぐに後を追って前へ歩く。

 

 

すると、地形がゆっくりと変化していき――前へ進むごとに、環境は樹木の生えた森に変わる。これもポケモンたちの力なんだろうか。クリスは気になりつつも、前へ進んだ。

 

 

すると――――

 

 

 

『―――――ッッ!』

 

 

「っ…なんだここは!?」

 

 

 

見えたのは、様々なポケモンたちが整備されているバトルフィールドのような場所で戦っている光景。トレーナーと共に戦うのは見たことがあるが、ここにはそんなものはない。でも、人工的に取り付けられた明かりがあった。その照明らのおかげで、夜だというのに全てがはっきりと見えた。

これは異様だ。クリスは息を呑む。ここにこそ、自分たちの必要な強さがあるのではないかとそう思った。

 

ふと、レッドが草むらからバトルフィールドのような場所へ向かっていく。クリスもその後を追いかけ、立ち止まる。いや、立ち止まるを得ない光景だとクリスは思った。

ポケモンたちがこちらを見ているのだ。訝しげな表情で…たまに首を傾けたり飛行タイプのポケモンが何処かへ飛び去ったりとなかなか圧巻ある光景だ。

でも、ポケモンたちのあの微妙な行動はレッドを歓迎していないのではないか。レッド自ら鍛えているわけはないのか。様々な疑問がクリスの頭の中でぐるぐると回る。

 

「あの…レッドさ―――――」

 

「――――何でここにいるんだ」

 

 

クリスの耳に聞こえてきたのは怒気を抑えた小さな声。声は後ろから聞こえてきた。振り向くとそこにいたのはまたもや伝説のトレーナー。なぜ彼がここに…いや、レッドが連れてきたから、彼に会わせてくれたのか。

彼―――サトシは嫌そうな表情を隠さずにレッドを見た。

 

「……」

「なあ、何でここに…そんな女の子を連れてきたんだ?」

「……大きくなったね」

「四年も経てば大きくなるわ!」

『ピカッチュウ?』

 

クリスの思考が完全に停止している間、いつのまにかやって来ていたピカチュウがサトシの肩へ飛び乗ってクリスの方を尻尾で指した。それを見たレッドはただ小さく声を出す。

 

「強くしてほしいらしいよ」

「…は?」

『ピカピカ?』

「ヒナの友達らしいし…それに彼女のポケモンの強さの理論が面白かったから連れてきた」

「…なんだそれ」

 

 

サトシはため息をついて奥で伺うポケモン達に他のバトルフィールドを利用するように仕草で促す。するとポケモン達はすぐにサトシの言うことを理解し、動き出した。クリスの思考が正常に働くようになるまで数十秒。その時間さえあればポケモン達の移動は完了する。

だから今この場にいるのはクリスとレッドとサトシ、そしてピカチュウだけだ。

 

「あの…え?まさかポケモンマスターに強くしてもらうってことですか!?」

「……嫌?」

「そんなことないですむしろ大歓迎!!」

 

「即答だな」

『ピイカァ』

 

サトシとピカチュウが呆れているというのに、クリスは何も気づかない。というよりもこれは凄いことになるんじゃないかと驚き戦いている。冷や汗が流れ、視線はあちらこちらに向かい、そして両手は震えている。

つまり、クリスはびびっていた。でも強くなりたい気持ちは正直ある。だからここで引いては駄目だと覚悟を決める。

 

そして盛大に土下座した。

 

 

「強くしてくださいお願いします!!!!」

 

 

「……おー…こんな綺麗な土下座見るのシューティー以来だな…」

『ピカァァ…』

「…現実逃避してる?」

「してねえよ。むしろあんたが来たことに現実逃避しそうだよ」

「……ポケモンマスターなのに?」

「ポケモンマスターでも、俺はただのトレーナーだ。だからお前の望む強さを手に入れられるかは分からねえぞ?」

 

サトシはピカチュウの頭を撫でながらクリスに問いかけた。だから、クリスは土下座したまま、話し始める。

 

「私の欲しい強さはポケモンと人間の絆!ヒナたちのような強さが欲しい!!だから…強くなりたいのでお願いします!!!」

 

「絆の強さ…ねえ?」

『ピィカッチュウ』

 

サトシとピカチュウがお互いの顔を見た。その行動こそまさしく信頼しあっていて絆が深いことの現れであり、クリスの望む強さだと思えた。

気の乗らないサトシに、レッドが軽く助言をする。

 

 

「サトシ……僕とのバトルしたがっていたよね…?」

「…あんたバトルは嫌いだろ」

「それでも…必要ならやるよ。大事な息子の我が儘だからね…」

「嘘つけ。俺の我が儘じゃなくて彼女の交渉に使おうとしてるくせに…だからあんたはいつまで経ってもクソ親父なんだよ」

『ピィカァ…』

 

「むすっ!?おや…えっ!!?」

 

クリスは驚愕した。むしろ目ん玉が飛び出るかと思う衝撃だった。伝説のトレーナー二人が、親子同士だと!!?確かにレッドは大人だ。でも二十代かそこらにしか見えない容姿をしているからそうは見えない。でも確かにレッドとサトシは似ていると思う。帽子を深くかぶりなおしたらそっくりだ。

 

 

「なあ、お前の名前はなんだ?」

『ピイカッチュウ?』

「えっ…あ、クリスです!」

「そうかクリス…なら、しばらくこの山で修行だな。でも期待はするなよ…俺がやらかしたら妹に叱られるのは目に見えているからな」

「い、妹に…?」

 

 

また、よく分からない単語が出てきた。妹がいるのか。ポケモンマスターの頭の上がらない妹とやらが。

質問して聞きたいという表情を浮かべるクリスに、レッドが口を開く。

 

 

「サトシにとっての妹……僕にとっての娘はヒナだよ」

「え…」

「なんだよ?ヒナから聞いてないのか?」

「聞かないのも無理はないよ……ヒナは僕と同じで騒ぎが苦手だからね」

 

 

 

「ええええええッッ!!!??!!?」

 

 

 

大きな声でクリスは叫んだ。そのせいで声が届く範囲にいるサトシのポケモンたちが苦笑し、野生の飛行タイプのポケモンが誤って地面に落下し、とある船の上のベッドで寝ている女の子が小さなくしゃみをしてリザードンに心配されていた。

 

クリスの思考は素早く加速する。

ヒナが交渉人とポケモンマスターの家族ということは、強いのは当たり前だったのか。いや、彼女は最初から強い訳じゃなかった。でも、もしかしたらヒナは凄まじい人間かもしれない。

クリスは頭を働かせて――――やがて諦めた。ヒナはただの友達だ。友達の家族が誰であろうとかまわない。そう考えたことに、サトシとレッドが気づいた。

 

「まあ、ヒナの友達としては根性あるみたいだし…やれることは教えてやるよ。さっきもいったように、妹に叱られないように手加減はするがな?」

『ピカピカ』

「っ…はい!お願いします!!!」

 

クリスはまた土下座をした。レッドは何も言わず、サトシは頬をかいて呆れていたが、それでも土下座しなければいけないと思った。

 

(ヒナ、ヒビキ…私はこれから強くなる。だから、また会おう)

 

心の中で呟いた声を噛み締め、サトシをまっすぐ見つめた。そしてサトシもクリスを見た。

二人の師弟としての関係は、まさしくその時に始まったと言えるだろう。

 

その様子を見ていたレッドは小さく首を傾けて口を開いた。

 

「…クリスは一番弟子?」

「いや、二番弟子」

『ピカピカッチュゥ』

 

 

 

一番弟子はハルカだ――――。

 

 

そう答えてくれたサトシの声が、森のなかに静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 







「親父はもう帰れ」
「…分かった。でも様子は見に来る……」
「ああ、そん時にバトルな」
「うん…楽しみにしてる…」
「あんたじゃなくてポケモンが…だろ」
「そうだね…じゃあまたね……」
「あ、あのっ!おやすみなさい!!」
「うん…おやすみ…」





・・・・・・・・・・





「えっと…今日は…?」
「とりあえず今日は寝るぞ」
「は、はい!」



――――ガッシャン




「あ?…あー」
『ピカピカァァ…』
「な、誰だ…!?」
「俺の嫁」
「え」





「サトシ?浮気して…っ!」


「どっかいっちゃったんですけど良いんですか!!?」
「すぐ帰ってくるから心配すんな。むしろ俺から離れろ危ないから」
「え?」



――――ギュゥィィィィッッ!!!



「サトシが浮気して私から離れるくらいなら私がサトシを殺して私も死んでやるんだからぁぁぁ!!!」




「どっから出したんだそのチェーンソー!!?」






続く…?





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第二十六話~厄介なる依頼人~



これはまだ、始まりだ。





 

 

 

 

 

それは、早朝の青空が広がるホールにて、バイキング形式の朝食をすませようとした時だった。

ヒビキが朝食用の自分たちに用意されたテーブルに様々な料理を持っていき、シルバーはポケモン用の洗練された特性フーズを選んで、私とヒビキのポケモン含めた手持ちたちにあげている。マサキさんは隣でイーブイにたくさんきのみを渡していて、眠そうにあくびしていた。ポケモンたちと共に食べているのは皆同じだ。ゾロアークがイリュージョンでリザードンの色を普通に見せているおかげか、騒がれることなく朝食を食べることができる。だから、おかしいと思う。

 

 

 

サンドイッチを食べつつ、私は周りを見渡して首を傾けた。

 

 

 

 

 

「あれ…」

『グォォォ…?』

「あ、ごめんリザードン…ちょっと気になることがあって」

『ピッチュゥ?』

『ナッゾ!』

「はいナゾノクサ」

『ナゾナゾ!!』

 

 

 

ナゾノクサにあげるはずのポフィンを手に取ったまま、周りを見ている私に対して首を傾ける手持ちたち。そんなリザードン達に首を横に振って大丈夫だと行動で示した。その後、また周りを探す。

 

でも見つからない。いるはずのトレーナーがそばにいない。いつもならシルバーに噛みついてくるあのクリスが、どこにもいない。騒ぎもなく静かすぎる空気がどこか居心地悪いと感じてしまう。

 

 

 

「ねえヒビキ……クリスはどこ?」

「んぐ…さっき聞いたら、用事があるみたいだから帰りましたーって船員の人が言ってたぞ」

「え、待って今海のど真ん中にいるのに帰ってったの!?」

「んーいや…夜中にヘリ出てたみたいだしそれに乗って帰ったんじゃね?」

 

 

「あぁ…そっか…帰っちゃったんだ…」

『ピッチュゥ』

「うん大丈夫。ありがとうピチュー」

『ピチュ!』

 

 

 

ピチューが肩に乗って慰めてくれつつ、呑気に笑うヒビキを見ながら、私は昨日のクリスのことを思い出していた。これから頑張ってやろうと決心した直後だった。これから、共に強くなろうと誓ったはずだった。だからなのだろうか。

 

強くなりたいから、船を降りたのだろうか。

 

 

 

「…また、会えるよね?」

「ポケモントレーナーなら会える…ってか、あのクリスはシルバーにいろいろと思うところあるみたいだし絶対に会うだろ」

「呼んだか?」

「呼んでねーよアホシルバー!」

「アリゲイツ」

『アリゲェイ!』

「ぶっほぁ!やめろ噛ませるな!ってかアリゲイツの歯ってなんでも砕くだろうから止めろよな!」

「安心しろ、手加減はしているはず」

『アァリゲェイ?』

「全然手加減できてねえんだよ止めろ!!!」

 

「あはは…」

 

 

 

 

いつもの光景だけれども、少しだけ寂しいと思うのはたぶんクリスがいないからだろう。

でも、ヒビキの言ったように、きっとまた会える。それを信じよう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

その後、あと半日で船を降りる時間になるお昼頃にそれは起きた。

 

 

 

 

「…はい?私たちに頼みごと…ですか?」

「せやせや!船の騒動見ててな、きっと自分等なら出来ると思うんよ」

 

 

 

 

マサキさんの言葉に思わず私たちはお互いの顔を見る。イーブイはボールのなかにいるのか、出てきてはいないが、ちょっとだけ怪しい雰囲気が漂ってきた。あの船の騒動を見て頼みごとをするだなんて意味がわからない。

だから経験則で考えると、たぶんこれは厄介ごとの予感なのだろう。

 

ヒビキが訝しげな目でマサキさんを見る。

 

 

「何スか?俺らに出来るって…?」

「ポケモンタワーにな、最近変な声が聞こえるようになったんやで」

「ポケモンタワー…ですか?」

「せや。咽び泣いてるような怨念が轟くような声…やな」

「ポケモンタワーってシオンタウンのあのポケモンのお墓がたくさんある場所だろ?幽霊とかの可能性ってないっすか?」

「なんだヒビキ、幽霊でも信じているのか貴様は」

「からかうんじゃねーよシルバー!マサキさんの話を聞いたらそう思うだけの話だろーが!」

「まあ…ポケモンタワーで聞こえる怨念って聞くと幽霊の方を想像しちゃうよね…」

「ヒナの言うとおりだ!」

 

 

 

 

「とにかく―――」

 

 

 

 

私とヒビキが頷きあっている間に、シルバーが何やら納得した声をあげてマサキさんを見つめた。おそらく、ポケモンタワーで頼みごとと聞かれて想像つくことを予想したのだろう。

 

 

 

 

「…つまり、俺たちにそれを調べてきてくれ…ということですね?」

「せやせや!いやー頼むわ!ほんま普通のトレーナーやと話しにならへんから…そういう怨念をぶっ壊してくれる存在がいたら助かるって思うたんよ!」

「ぶっ壊すっていったら大概がシルバーなんですけどね…」

「破壊兵器シルバー&チルタリスだからな…」

「ふん。貴様らの力が足りないだけの話だ」

 

 

鼻で笑ったような声をあげるシルバーに私は苦笑し、ヒビキは眉をひそめた。そしてマサキさんは笑っていた。私達の会話を楽しんでいるのだろう。喧嘩さえしなければ私達の会話は、世間的に見れば微笑ましいものだと思うから。

 

喧嘩にさえならなければ。

 

 

 

 

「お前ちょっとは謙虚ってもんを知っとけ!」

「四年も長く付き合っている貴様らに謙虚なんてものをしなくてもいいだろうが」

「おっまえ…言っとくが親しき友にも礼儀ありって言葉わかってるか?」

「正しくは親しき仲にも礼儀あり、だ。普段使わない言葉を無理して使うな馬鹿め」

「んだとあほシルバー!!ぶっ潰せゾロアーク!」

『グァァァ?』

「返り討ちにしろ、チルタリス」

『チルルゥ!』

 

 

 

案の定というかなんというか…嫌そうな顔をしたヒビキがボールからゾロアークを取り出し、シルバーがチルタリスを出している。

でもゾロアークは呆れたような表情をしている。チルタリスは忠実そうに、喧嘩であろうともシルバーの指示には従うと言った顔だ。

 

いつも通りの喧嘩であり、いつも通りのポケモンバトル。でも今はマサキさんの話を聞いている話だと言うのに、何をやっているんだか…。

 

 

 

「やめなさい!喧嘩はしないの!」

 

 

「「ブフォッッ!!」」

 

 

 

拳を握りしめ、二人の頭に直接振り下ろす。その攻撃にヒビキとシルバーは耐え切れず地面に転がってしまうが私は知らない。

ゾロアークはまたもや呆れ、チルタリスは微妙そうな表情。私もため息をついて頭を抱えた。

 

 

 

「まったく、いつもいつも喧嘩ばっかりして…」

『グァァァ…』

『チルルゥ』

 

 

「おー大したもんやな!」

 

 

 

頭に煙を出しつつ、両手で押さえているのは二人の馬鹿。

大悲惨なバトルを行おうとしていたヒビキとシルバーに唯一、マサキさんだけ笑っていたのが本当にすごいと思えた。

 

私は一度咳をしてから、口を開く。

 

 

 

 

「あの…シオンタウンってマサキさんの家がある場所じゃありませんよね?」

「おん。シオンタウンにな、知り合いのおっちゃんがおるんよ。そのおっちゃんに頼まれてなー。でも自分やと無理やし…イーブイたちの世話しなあかんし…」

「ああー…」

「ちゃんとポケモンタワーの問題解決してくれたらお礼もするでー!」

「はぁ…」

『グァァァ』

『チルゥ!』

 

 

 

お礼って何だろう。いやそれよりも、やっぱりこれは厄介ごとだったとため息をついた方がいいのだろうか。

チルタリスとゾロアークがやる気満々でそれぞれバトルの予感か!というキラキラとした目をしている。でもポケモンタワーはお墓が多い場所なんだし、派手にやるのはよくないと思う。…とりあえず、私がしっかりしないとね。

 

やがて、頭を押さえているヒビキとシルバーがゆっくりと起き上がり、ふらつきながらマサキさんを見た。

 

 

 

 

「痛つつ…お礼って何スか?」

「起き上がるなりソレかい!」

『グァァァ…』

「うるっせーな!ゾロアークもそんな顔すんな!ちょっと気になっただけだよ!」

「くっ…ヒナ……お前腕をあげたな…」

「シルバー、ポケモンがレベルアップしたみたいな言い方しないでよ」

「それで、礼とは何でしょうか?」

 

「あんたらねぇ…はぁ」

 

 

 

 

礼について深く聞くのはなんだかがめついような気がしたから聞かなかったのにある意味凄い。でもマサキさんは気を悪くした訳じゃなく、笑いながら話してくれる。

 

 

 

 

「ははは!礼っちゅーのはな…まあ、そん時のお楽しみやで!」

「お…たのしみ?」

「せや!まあシオンタウンにいるおっちゃんに話しとくわ。ポケモンタワーの一件が終わったらおっちゃんから礼貰っといで」

「わ、分かりました」

 

 

 

なんか、ちょっとだけ嫌な予感がする。幼い頃に鍛えた勘がざわざわし、懐にあるボールが揺れる。

 

きっと、その考えは間違っていないのだろうと、私はそう思っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

シオンタウンの一件について悩んでいると―――アナウンスから大きな声が船の中に鳴り響いてきた。

 

 

 

【さぁさぁ船旅最終日!今日は中断した大会の全てを結集した大きな鬼ごっこをしてもらうよー!】

 

 

 

 

 

「鬼ごっこぉ?」

「また騒動起きないでしょうね…」

「ふん。あのバトルだけではつまらなかったからな。いいストレス解消になりそうだ」

 

 

 

【さてさて!鬼ごっこに参加するものは皆、大穴のあいたホールに来てねぇぇ!】

 

 

 

どうやら、クチバシティにてジム戦をする前にまた何か大会をやるらしい。私たちはアナウンスの指示通りの場所に向かう。

 

するとそこにあったのは、バンダナを巻いたポケモンとトレーナーの姿。ポケモンは皆小さな身体をしたものが多い。

鬼ごっこをするらしいが、ポケモンも一緒に参加するのだろうか?

 

 

バンダナを手渡してくるスタッフに私は話しかけた。

 

 

 

「あのすいません…この鬼ごっこに参加したいんですが…詳しいルールって何でしょうか?」

「鬼ごっこに参加していただき誠にありがとうございます!ルールは簡単です!ポケモンと共に赤と青のチームに別れて、鬼ごっこをしてもらいます。バンダナは大会の参加権であり、チームの色分けとなりますので絶対にはずさないようにしていてくださいね!大会が始まる頃に赤と青のどちらかが捕まえる側と捕まってしまう側に決定します!その色のルールに従って、大会を楽しんでください!」

「はい、わかりました」

 

 

「では、大会に参加しますか?」

「もちろんです!」

「参加する方のポケモンは?」

「うーん…よし、お願いナゾノクサ!」

『ナッゾ!!』

 

 

 

 

ボールから出したナゾノクサを見て、スタッフがその片足に小さなバンダナを巻いた。そして私にもナゾノクサと同じ色のバンダナを渡し、微笑んでくる。

 

 

 

 

「あなたのチームは赤色です!大会が始まるまでの間、少々お待ちくださいませ!」

「はい。ありがとうございました!」

『ナッゾナゾ!』

 

 

 

ナゾノクサとお揃いのバンダナを片手に巻き付け、ホールの中心に行く。するとそこにいたのは同じく他のスタッフに話したヒビキとゾロアーク。そしてシルバーとアリゲイツだ。

ヒビキが私のバンダナの色を見て笑いかけてきた。

 

 

 

 

「お!ヒナは俺と一緒か!」

「うん。…でも、シルバーとは別れちゃったね」

「むしろその方が楽しめそうだ」

「いや暴れないでね?」

「…ふん。そろそろ青のチームの方に行くぞ」

「ちょっと待った!なあシルバー…お前アリゲイツにはかいこうせん覚えさせてないよな?」

「え…いやいやいや」

 

 

 

冷や汗が流れ出て、思わずシルバーを見た。シルバーは嘲笑った顔でヒビキを見ており、アリゲイツは首を傾けて歯を鳴らして笑っている。

あの、大丈夫…だよね?

 

 

 

「シルバー?」

「安心しろ。貴様らとの約束は必ず守る」

「安心できるか!!」

「ハッ!不安ならばさっさと俺を負かすことだな」

『アァリゲェイ!』

 

 

 

負けないという瞳で、シルバーが笑った。その目に、ヒビキがトレーナー心と負けず嫌いに火をつけたようだ。

 

 

 

 

「絶対に瞬殺してやる!頑張ろうぜヒナ!!」

『グァァァ!』

「いやこれバトルじゃないし、どっちかのチームは鬼役になるから瞬殺できるかどうか…」

『ナァッゾ?』

 

 

 

 

 

【さぁぁぁー!鬼ごっこを開始するよー!】

 

 

 

 

 

 

ナゾノクサが可愛らしく首を傾けた直後――――アナウンスが大きく鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

 








どこかの町の、どこかの室内にて。





『ビィィィ!!』
『ゴォォッストォォ!!!?』

――――ドゴォォォッッ


『…ふむ。これで何連戦目だ?』
『ミュゥゥ!』
『フォォォ…あのセレビィは自分の故郷に帰るつもりはないのか?こんなところでバトルをしなくても…』
『お前にだけは言われたくないだろうなダークライ。一応お前はシンオウ地方が故郷だろうが』
『ミュゥゥィ!』
『ふん…俺はこの地方が故郷だからな』
『ミュゥ?』


『ビィィィ!!!』
『ゴォォォォッッ!!!?』


―――ドゴォォォッッ!!



『はぁ…いつになったら終わるんだ』
『ミュゥゥ』
『フォォォ…まだ時間はかかるだろうな……』




『ビィィィッッ!!』





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第二十七話~開始までもう少し~



大会でのプロローグ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある事情にて、聖・アンヌ号に乗っていた少年は項垂れていた。

 

 

(厄日だ…)

 

 

何故こうなったんだろうか。ナナカマド博士に勉強になるからカントー地方に行ってみろと言われたときから厄日は続いていたのだろうか。それとも船のある大会に興味本意で出たからだろうか。少年は考える。

 

 

 

目の前の異様な状況を見つめ続けながらも。

 

 

 

 

「ゼニガメ部隊は船前方を、ヒトカゲ部隊は船後方!フシギダネ部隊は俺についてこい!」

 

「「「「「イエッサー隊長!!」」」」」

 

 

 

 

 

「いいか、目標は全員を捕まえることだ!それぞれ作戦通りに行動を進めろ!」

 

「「「「「「うおおおおおーー!!」」」」」」

 

 

 

 

ここは何だ。何処かの軍か何かか?

赤い髪の少年がアリゲイツを後ろに従えつつ、列になって並ぶトレーナーとポケモンの士気を高めていた。

 

少年は遠い目で彼らを見ていた。ボーッと見ていたせいだろうか、赤い髪の少年がこちらに振り向き、俺の存在に気づく。そして、その赤い瞳でじっと見つめてきた。

 

その目に萎縮し、大会での相棒になるマニューラを壁にしながら少年を見る。

 

 

『マニュゥ……』

「マニューラ、顔下げないで!」

『マニュゥゥ…』

 

 

マニューラが呆れたような顔をしているが無視。全然隠れきれてないけど大丈夫。

でも赤い髪の少年は引いている俺に容赦なく近づいてきた。

 

 

「おい貴様、そのマニューラはなんだ?」

「え」

「技は何を覚えているのか聞いている」

「え、あ…えっと、ちょうはつ、ねこだまし、こごえるかぜ、みやぶるだけど…?」

「なら貴様はイリュージョン対策用に俺と一緒についてこい」

「は?」

 

 

 

 

言われた言葉が理解できていない。何故、一緒に行かなければいけないのだろうか。でも周りは赤い髪の少年についていけとばかりの圧力とプレッシャーをかけてくる。様々なトレーナーから向けられる視線がまるでバトルしているときの好戦的なものが含まれた。何だここはバトルフィールドか?

 

 

いや、それよりも聞かなければいけない話が出来た。

 

 

 

 

「な、なぁ…【みやぶる】はゴーストタイプとかに対してノーマル技なんかを通りやすくするようなものだぞ?イリュージョンって…えっと、ゾロアやゾロアークの特性だろ?いくらなんでもみやぶることなんて出来ないはずじゃ…」

「それはゾロアークが通常のイリュージョンをしていたらの話だ」

「え?」

 

「奴のゾロアークは、通常の幻影よりもはるかに高難易度のイリュージョンを行う。別のポケモンに見せかけるのではない…バトルフィールドごとすべてを変えてしまう力を持っているんだ」

「…え?」

 

 

 

 

――――すまん。奴って誰だ?

 

 

 

 

そう聞けるような状況ではない。ナナカマド博士から教えられたことがある。イリュージョンとは人間やポケモンたちの視界を奪い取り、頭ごとその現実を塗り替える特性を持つのだと。だがその高等なイリュージョンを使うポケモンは少ない。というか、貴重種にもなり得る存在だろう。

人間やポケモンたちの現実を塗り替えるという力は、あまりにも無謀なことだからだ。

だからこそ、通常のイリュージョンではゾロアやゾロアーク自身の姿を別のポケモンに見せかける。それぐらいしか、イリュージョンとしての力は成功しないから。

 

 

 

赤い髪の少年が言うゾロアークは、そんな通常のイリュージョンではないと言うこと。そして貴重種たるゾロアークになるかもしれないと言うこと。

少年は唾をごくりと飲み込んだ。

 

 

 

「…本当に、みやぶるは効果ある…のか?」

「ある。奴のゾロアークのイリュージョンはあまりにも力強いからこそ、少し叩けばすぐに使えなくなるんだ。最強である幻想だからこそ、不意をつかれれば弱い。まあ貴様のみやぶるは言わば…ゾロアークにとって見ればねこだましと同じだろうな」

「そ、そっか…」

 

 

 

ちょっとだけ、興味をもった。例外でしかない力強いゾロアークのイリュージョンを見れるだけじゃなく、直接その特性を回避できるかもしれないのだから。

 

 

 

「そうだ、貴様の名前は?」

「え、今更?」

 

 

 

少年は苦笑しながら赤い髪の少年――――シルバーを見て、口を開いた。

 

 

 

 

 

「僕はコウキ。フタバタウンから来たトレーナーだよ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ええっと…現状を軽くまとめると…つまり、私たち赤チームは逃げる方で、青チームには無線が与えられている。見つかったら青チーム全員がその情報を共有して、逃げられない状況になった時点で捕まる…ってこと」

『ナゾナゾ』

「まあそうなるなぁ…」

『グァァァ』

 

 

ヒナたち赤チームの皆はそれぞれ自由勝手に動き回りかくれんぼのような感覚でいくトレーナー、ヒナたちと一致団結して戦おうと言っているトレーナーの二つに分かれて行動している。

 

これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からないため、誰もが不安になっていた。不安と言うより、勝つかどうかは分からず、負けても仕方ないかもと思っているのが大半だろう。

 

だが、ヒナとヒビキは違っていたようだ。彼女たちは何かを考えて、そして小さく相談事をしていた。

 

 

 

「シルバーだったらどんなことをすると思う?」

「破天荒なこと」

「なら、ルールぎりぎりのこと狙って捕まえに来そうよね…こっちもそれぐらいのことした方がいいのかな…」

「じゃあシルバーが予想できないグレーゾーンな。ちょっと聞いてくる。すいませーん!!」

 

 

 

え、何言ってるの君たち?グレーゾーン?これただの鬼ごっこだよね?

 

 

そんな一般人の視線を気にしないヒナとヒビキは困惑するスタッフから話を聞き取り、また相談し始めた。その声に注意して聞き取っているのは周りにいる赤チームの全員。

 

 

 

「鬼ごっこというより、群れバトルだと思った方がやりやすいかもしれないわね…」

「シルバーなら青チームの全員をまとめて利用してくる可能性も高いからな。群れと言うより組織バトルって感じだと思うぜ」

「ええそうね。あのシルバーならやりかねないわね…」

 

 

 

ちょっと待って。君たちの言ってるシルバーってトレーナーどんだけ凄いの?もしかして相手である青チームって統率がとれたチームになってるの?赤チームはまとまりがないからかなり不安になるんだけど。

 

 

胸のうちでぐるぐると渦巻く不穏の影。このまま逃げるだけでいいとは思えなくなる彼女らの言葉。気軽に参加できる大会だからやったというのが大半だった。負けても思い出に残るからいいかなと楽観的に思っていた。

 

――――でも、どうやら青チームは俺たちを瞬殺しに来るらしい。

 

一時間くらい逃げて遊べるのなら良い方だろう。だが、すぐに負けるというのはいくら楽観的に考えているトレーナーであっても嫌だった。プライドが犠牲になるようなことはしたくない。だから、負けたくない。

 

 

「な、なぁ…君たち、俺も何かできることはないかな?」

「あ、僕も!どうせなら勝ちたい」

「そうそう。負けるより勝った方が気持ちいいし、自慢にもなるし」

「私もやるわ!」

「よっしゃ!ここにいる赤チームだけでも勝とうぜ!」

 

「え?あの…」

「うわマジっすか!あざーっす!!」

「ちょっと、ヒビキ!」

「いいじゃねえかヒナ!戦う人数が多い方が有利になれるだろ!」

「ま、まあ…そうだけど…」

 

 

 

ヒナがちらりと周りにいるトレーナーたちを見つめる。ヒナは彼らがシルバーの犠牲にならないか心配になっていたのだが、周りにいるヒビキ以外のトレーナーたちはそうは思わない。

 

普通に人見知りしているのかと納得し、勝負するための作戦を立て始めた。

 

 

 

「本当に大丈夫なのかな…」

「大丈夫だって!あ、そうだヒナ…お前はこの作戦に参加しなくて良いからな!」

「え?」

『ナゾォ?』

 

 

どういうことなのだろうか。ヒナは首を傾けた。でも

ヒビキは変わらず、不敵の笑みを浮かべながらヒナを見つめた。

 

 

 

 

「俺たちがお前の囮になるってことだ!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

時間は進む。大会の始まりが近づき、それぞれが身構え始めた。

 

 

【さあさあ!大会参加者の準備はいいかなー!?】

 

 

 

聞こえてくるのはアナウンスで鳴り響く大きな声。その声を聞いた参加者たちがそれぞれ緊張し、合図を待つ。

一人は大きく鳴り響く鼓動を押さえながら、一人は抑えきれない闘争心をかきたてながら。そしてもう一人は、冷静に状況を把握しながら。

 

 

 

始まりの合図が鳴り響く。

 

 

 

 

 

【さあ聖・アンヌ号の鬼ごっこ大会の開始だぁぁぁ!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「テレポート!!!」」」」

『『『『ッッ――――!!!!』』』』

 

 

 

 

 

――――アナウンスが鳴り響いたと同時に、大きな慟哭が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 



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第二十八話~押してはいけないスイッチ~






鬼ごっこルール



赤チーム(ヒナ、ヒビキ)
・逃げる側
・バンダナを取られたらリタイア
・ポケモンの技使用はあり
・無線にて仲間チームでの連絡は使える
・勝利条件は、誰か一人でもバンダナを取られなければ勝ち
・敗北条件は、全員がバンダナを取られたら負け。



青チーム(シルバー、コウキ)
・追いかける側
・バンダナを取りあげるまで追いかける
・ポケモンの技使用はあり
・無線にて仲間チームでの連絡は使える
・勝利条件は、赤チームのバンダナ全部を奪い取ったら勝ち
・敗北条件は、赤チームのバンダナをひとつでも逃したら負け



共通ルール
・客室は使用禁止
・客が入ってはいけない場所は立ち入り禁止
・ルールが守れない場合は即座にリタイアとなる








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【さあ聖・アンヌ号の鬼ごっこ大会の開始だぁぁぁ!!!】

 

 

 

 

 

「「「「テレポート!!!」」」」

『『『『ッッ――――!!!!』』』』

 

 

大きな声が頭上から聞こえてきたため、ヒビキ達赤チームが即座に上を見上げる。そして見えてきたのはシルバー含めた数人のトレーナーがエスパータイプのポケモンを連れてテレポートし、奇襲してきたという事実。

 

開始同時に攻めてこられたせいか、動揺してしまいまともに動けずにいた数人の赤チームがシルバーらの青チームによってバンダナを奪われてしまう。

 

シルバーが不敵な笑みを浮かべた。ヒビキは歯軋りをして周りにいる赤チームに目配せをした。目配せに気づいた赤チームは、皆が頷く。

 

 

「瞬殺するのはこちらだ!ヒビキ!」

「っっ――負けてたまるか!赤チーム、作戦B決行!」

 

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

シルバー達に降りかかってきた閃光。それがフラッシュだと気づいたときは、もうバンダナの取られていない赤チームが全員逃げていた頃だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

(うっわぁ…えげつな)

 

コウキは先程までの戦いに戦慄し、これから怪我をしないようにアルセウスに祈っていた。

 

だがそんな祈りがアルセウスに届くわけもなく、先程から不気味に笑っているシルバーの隣で立ち止まっていた。シルバーは胸元に設置している無線で、仲間に連絡をとろうとする。

 

 

 

「あの…」

「ククク。ヒナはいなかったが…まあ、これから楽しめばいい。おいゼニガメ部隊!船内の近道となる部分を全て凍らせて防いでおけ!」

「いやぁ凍らせちゃったら船の人に迷惑になるんじゃ―」

「「「はっ!了解しました!!」」」

 

「それからヒトカゲ部隊!フラッシュしてくるポケモンにはすべて炎で応戦しろ!それかで眠らせてしまえ!」

「いやそれ大事じゃね!?」

「「「「「サーイエッサー!!!」」」」」

 

 

シルバーも仲間である青チームもみんな、コウキの声なんて聞いていない。コウキはマニューラの背で泣いた。マニューラは嫌そうな顔で逃げようとしてくる。その顔にも泣いた。

 

(逃げたい…)

 

もちろん逃げられるはずもない。コウキはマニューラとともに引きずられながらも、シルバーの隣にいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

「くそっ…ここにも氷の壁か…」

 

ヒビキが船の通路を塞いでいる氷の壁を叩き、舌打ちを溢す。それを聞いたのはヒビキと共に逃げてきた赤チーム数名。そのうちの一人がヒビキに話しかけてくる。

 

「な、なあ…今からでも遅くないし、迂回してみるか?」

「いや、駄目だ」

 

ヒビキが首を横に振って、壁の向こう側を見た。眉をひそめて思い悩む姿は断言した言葉と正反対だと赤チームの皆は思っているが、ヒビキの言っている言葉が正しいことも分かっていた。

 

 

「この通路は逃げ道に最適で、俺たちにとって必ず必要になる!迂回なんて出来ない…強行突破だ!」

『ガゥゥゥゥ!』

 

 

氷の壁に向けて指差したヒビキを見たゾロアークが、あくのはどうを放つ。氷はそれに耐えきれず、粉々になり、道が開けた。その先へ、ヒビキは歩き始める。

赤チームも戸惑いながら、ヒビキの後ろへ歩きだした。

 

ヒビキは歩きながら無線をつけ、話し始める。

 

「皆、位置についたか?」

「「もちろん!」」

「こっちはまだだ!少し待っていてくれ」

「わかった。でも早めに頼むぜ!」

 

「ヒビキ…やっぱり私も出た方が…」

「言っただろヒナ。俺たちが囮になるってな。だから気にせずお前は自由に逃げていてくれ」

 

ヒビキが無線から離し、歩くのに集中する。周りはとても静かだ。それはこれからの嵐の前兆なのだろうか。

 

斜め後ろを歩く赤チームの一人がヒビキに話しかける。

 

「ね、ねえ…もしも待ち伏せしてたらどうするの?」

「その時は受けて立つ!!」

 

 

そう言った瞳には、強い意思が秘められていた。

 

―――その瞬間、だった。

 

 

 

「見つけたぞ赤チーム!!」

 

 

複数の青色のバンダナをつけた青チームが曲がり角から現れた。

人数は5人。前に3人と、後ろに2人だ。見つけたと言ってはいるが、おそらく待ち伏せをしていたのだろう。

彼らの足元にいるポケモンは全員が水タイプであった。

 

彼らが一斉にヒビキ達へ向けて指示を出す。

 

 

 

「「「「「みずでっぽう!!」」」」」

『ッッ――――!!!!』

 

 

「ゾロアーク!」

『グァァァ!!!』

 

 

ゾロアークが赤紫色の閃光を走らせる。イリュージョンの前兆だと気づいたのは青チームの3人。

だが、ヒビキはそれだけに留まらない。

 

 

「全員、攻撃体制!!」

「「「おう!!」」」

 

「ゾロアーク、あくのはどう!」

『グァァァ!!』

「はっぱカッター!」

『キュゥゥ!』

「みずでっぽう!」

『ゼニィィ!』

「たいあたり!」

『ラッタァ!』

 

「なっ!?」

 

 

みずでっぽうを噴射した勢いを吹き飛ばし、赤チームがまとめて前後の青チームに攻撃を返す。逃げるのではなく攻撃をするという指示に戸惑った青チームが、動揺から復活したのは彼らのポケモンが赤チームによって戦闘不能になってから。

そして、負けたくはないと奮闘する彼らが赤チームのバンダナに手を伸ばすのを防いだのはゴースを手持ちにしている赤チームのポケモン。

 

「さいみんじゅつ!」

『ゴォォォ!』

 

「よし!」

『グァァァ!』

 

さいみんじゅつによって青チーム5人が眠りについた。そのすべては赤チームの作戦通りの結果であった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あーあー…聞こえてますかぁシルバー君よぉ」

「っ!?」

 

無線から聞こえてきたのは馴染みのあるもの。たまに苛立つこともあるヒビキの声だ。

赤チームと青チームの無線は別に分けられており、交じることはないはず。だというのに、その声が聞こえてきたと言うことは――――

 

「そうか。逃げなかったのか貴様は」

「正解だぜシルバー!」

「ふん…ルール破りめ」

「ルールは破ってねえぜ?ってか、ルールの中には追いかける方の青チームを戦闘不能にしては駄目だってこと言われてねえしな!」

「なるほど…グレーを突っ走ったか、ヒナと共に考えたんだな?」

「おう!それだけ俺たちが全力だってことだぜ?なあシルバー、お前ら青チームには負けたくないってな!」

「…ふん」

「じゃあな!俺たちは絶対に勝ってやる!」

 

ぶつり、と切れた無線の音に、シルバーはにやりと笑った。その顔に反応したのは近くにいたフシギダネ部隊と、隣にいるコウキだけ。無線からヒトカゲ部隊の声が聞こえてくる。ゼニガメ部隊は何も言っていないため、おそらくヒビキが取った無線はゼニガメ部隊からだろうと分かった。

 

いや、そんなことよりもシルバーの様子がおかしい。笑っている笑みをみて、足元にいるアリゲイツがつめとぎのようなことをして爪を研いでいる。

アリゲイツってつめとぎ覚えてないよな?え、覚えられたっけ?とは、コウキの呟き声。

 

 

 

「ふふふ…クッ…おい、聞こえているかヒトカゲ部隊」

 

「「「さ、サー!」」」

 

 

「ホールへ向かえ。おそらくそこにいる可能性が高い」

「「「サーイエッサー!!」」」

 

「フシギダネ部隊!貴様らは俺と共に展望デッキへ行くぞ!」

「「「サーイエッサー!!!」」」

 

 

「あ、え?…ぼ、僕は?」

『マニュゥゥ?』

「貴様らも俺についてこい!」

『アリゲェイ!』

「うぇぇぇ?!!」

『マニュゥゥ!』

 

 

引きずられていくコウキは冷や汗を流しつつ、このあとに待ち構えている衝突が少なく済むことを祈った。アルセウスにではなく、自分自身に。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「…見つけたぞ!」

『アリゲェイ!』

「えぇ…本当にいた…」

『マァニュゥゥ』

 

「待ってたぜ!青チーム!!」

 

 

 

シルバー達の前にいるのは赤色のバンダナをつけたヒビキら赤チーム。

見つけることができたのは、ただの勘。幼馴染みが勝負を挑んでいるのだから、広い空間を選ぶことは勘で分かった。そしてそれは見事に成功した。

でも、ヒナの姿は見えていない。もしかしたらホールにいるのだろうかとシルバーは思考の片隅で考えつつヒビキを睨み付けた。

 

 

「ここですべてを終わらせる!」

『アリゲェイ!』

 

「はっ!んなことさせるかよ!逃げるぞゾロアーク!」

『ガゥゥゥゥ!』

 

「ッッおい待て…クソ!フシギダネ部隊はここにいる赤チームを捕まえろ!」

「「「サーイエッサー!!!」」」

「うえっ!?ちょっと!!?」

『マ、マニュゥゥ!!?』

 

 

 

シルバーがコウキの手を引っ張りながらヒビキのもとへ急ぐ。シルバーの進む先を塞ぐ赤チームには、シルバーの仲間である青チームが捕らえようと動き、展望デッキは混沌と化していった。

 

でも、そのままシルバーは先へ進む。コウキの手を引っ張りながら、足元には彼らを追いかけるアリゲイツとマニューラがいながら。

 

 

――――そしてようやくヒビキが止まったのは、船の通路のど真ん中。様々な曲がり角がある、先程まで氷で覆われたはずの通路であった。

 

 

 

「逃がすか!」

『アリゲェイ!』

「うるせえ!俺は逃げる!ゾロアーク!!!」

『ガゥゥゥゥ!!!』

 

 

 

赤紫色の閃光をゾロアークの両手から放たれようとしてくる。その閃光に、シルバーがいち早く反応しコウキに向かって叫んだ。

 

 

 

「みやぶるだ!やれ!!」

「えっあ、おう!みやぶる!」

『マニュゥゥ!!!』

 

 

 

みやぶるによって白色の光が輝きだし、全てを見通す。光が消えた瞬間、見えてきたのはヒビキとゾロアークが曲がり角から逃げる姿。

 

 

 

「んなっ!?くっそ!!」

『ガゥゥゥゥ!?』

 

「はっはっは!逃がすかぁぁ!!」

『アリゲェイ!』

 

 

 

シルバーがコウキから手を離し、アリゲイツと共に走り出す。それはまさしくコウキの役目を終えた証し。コウキは苦笑しつつ、マニューラに労りを込めて頭を撫でた。

 

これでようやく解放されると、そう思ったのだ。

 

 

 

「はぁぁ…疲れた…」

『マニュゥ…ッッ!?』

「ん?どうしたマニューラ?」

 

 

 

マニューラが廊下の先を見つめている。じっと先を見て、何かをコウキに訴えている。

 

 

 

「まさか…?」

『マニュゥゥ!』

 

「へへへ、そのまさかだぜ!」

『グァァァ!』

 

「おいおいマジ!?」

『マニュマニュ…』

 

 

 

廊下の先にいたのは、先程まで逃げていたはずのヒビキとゾロアーク。何故ここにいるんだ。シルバーとアリゲイツが追いかけていったあの2人はまさか…。

 

 

「幻覚…だったの?みやぶるをしたのに?」

「あったりまえだろ!ゾロアークは日々成長してるんだぜ?あのロケット団の連中にみやぶるをされて以降、ゾロアークは絶対にやぶられないように鍛えたんだ!」

『グァァァ!!』

 

 

そう、ヒビキはあのあと半日かけて鍛え上げていた。みやぶるに怯んでイリュージョンが消えるような事態にならないように。ゾロアークは何度も練習し、まだまだ未完成ではあるものの、鬼ごっこにてみやぶるが前提で来ると分かっているからこそ先程のマニューラの攻撃に耐えられた。

耐えた上で、わざと破られた幻覚を見せてシルバーから離れた。こうすれば、奴はこちらに来ることはないと分かっているから。

 

コウキは頭を抱えて嫌そうな声を出す。

 

 

「結局意味なかったし!!」

『マニュゥゥ!!』

 

「ってことで、あんたには気絶してもらうぜ!」

『ガゥゥゥゥ!!』

 

『マ、マニュゥゥ!!?』

 

「うわ、マニューラ!!?」

 

 

ゾロアークのあくのはどうがマニューラに放たれる。それを見たコウキが目を見開いた。

ヒビキとゾロアークはコウキとマニューラを敵として見ている。だからコウキは叫んだ。

 

「ま、待ってくれ!僕とマニューラはもうこの大会を棄権するよ!だから倒さなくても大丈夫だ!」

「そんなの信用できねーっすよ!俺らはトレーナーだ!目と目があったらバトルは確実!そしてトレーナー同士のバトルは逃げることを許さない!ゾロアーク、あくのはどうだ!」

『ガゥゥゥゥ!!』

 

『マニュゥゥ!!!?』

 

「マニューラ!」

「逃げるなら、戦略立ててから逃げないとな!鬼ごっこってーのはそういうもんだ!でもあんたは俺らを捕まえる側。なら、俺を捕まえないと駄目だぜ!!」

「な…ぁっ…そ、それはそうだけど…でも、でも…」

 

 

 

トレーナーとしての暗黙の了解はある。それは、逃げてはいけないこと。

逃げることは、鬼ごっこで逃げる側になったヒビキにしかできない。

 

でもコウキは疲れていた。シルバーに振り回され、ヒビキにバトルを仕掛けられ、疲労が身体に回っていた。だから、逃げたいと思っていたのだ。

 

 

「ゾロアーク!マニューラを倒せ!」

『グァァァ!!』

 

『マニュゥゥ!!!?』

 

 

目の前で、マニューラが吹っ飛んでいく。まだ気絶するほどのダメージは負ってはいない。でも確実に痛みを蓄積していく。

コウキの命令を待っていたから、反撃はしなかったマニューラが、何度もあくのはどうを打たれ、傷ついていく。

 

『マニュゥゥ…ラァァ!』

「マニューラっ!」

 

 

 

疲れたと言っている場合ではなかった。このままでは負けてしまうのだ。

 

 

でも、僕は、

 

 

 

 

僕は――――

 

 

 

 

 

 

 

――――カチリッ

 

 

 

嫌な音が、コウキの脳内で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「…あれ?」

『グァァァ?』

 

 

ヒビキは妙な雰囲気を感じ取ってゾロアークの攻撃を止めた。今目前にいるのは青チームであるコウキと、マニューラ。

棄権すると言っている言葉は、信用できなかった。だから、攻撃した。それも全力で。トレーナーとして当たり前だった。だからマニューラに向かって攻撃した。

 

ヒビキにとって予想外なのは、コウキのマニューラがあくのはどうを何度も耐えられるほど鍛えられていること。そして、コウキの様子が一変したのに気づいて攻撃を止めてしまったこと。

 

 

「…まあ、いいか。ゾロアーク!」

『グァァァ!』

 

 

ゾロアークがあくのはどうを放つ。そして、マニューラに向かって、攻撃しようとする。

 

だが、あくのはどうをマニューラが足で蹴り飛ばした。呆気ないほど、簡単に。

 

 

「はぁぁッッ!!?」

『ガァゥゥ!?』

 

よく見ると、コウキがマニューラと同じようにふらふらと身体を揺らしていた。それはとても奇妙で気味の悪いもの。まるでシンクロしているかのような動きを見せて、2人がヒビキとゾロアークに向かって顔を上げた。

その顔に、ヒビキは驚いていた。もちろんゾロアークもだ。

 

コウキとマニューラの瞳は、獣のように瞳孔が開ききっていた。ふらふらと揺れる身体は、まるで糸に吊られたマリオネットのよう。

 

 

「なんで…え、はぁ!?」

『グァァゥ…!』

 

 

「…ふひっ」

『マニュっ』

 

 

 

 

 

 

 

――――ところで、シンオウ地方には【シンオウ三大悪】というのがあるのをご存じだろうか。

これらは、カントー地方の問題児と同じように、とある押してはいけないスイッチが隠されている。

 

 

 

一人は【シンオウの災害】として、よくバトルフィールドその他もろもろを破壊するシンジというトレーナー。

 

そしてもう一人は【シンオウの騒音】として、よく騒ぎを起こしつつトラブルメーカーであるジュンというトレーナー。

 

 

 

 

 

そして最後の一人が、【シンオウの変人】として知られている研究者かつトレーナーであるコウキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふひぃ…ふっひゃっひゃっひゃ!!!痛みなんて快楽に変えれば誰でも極上の道具になるんだよ!!!!ひゃひゃっぁあーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ殺してやるぁぁぁ!!!!!!!」

『マーニュゥゥゥ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

――――ドォォォォォッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!!!?」

『グァァァァァァッ!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

これは、コウキの押してはいけないスイッチをヒビキがその手で押した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 



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とあるタロー日記




フラグって何だろう…?
そう思いながら書いた。







 

 

 

 

 

 

 

 

○月×日

明日から新米トレーナーだ!!!

相棒はゼニガメにする!そして目指すはリーグ戦優勝だ!!!

 

 

 

 

 

 

○月○日

相棒となったゼニガメは戦闘狂らしく、よくバトルをする。これなら強くなるのも早いだろう

 

トキワの森で不思議なポケモンを見た。白くてふわふわしてそうなポケモンと、真っ黒のポケモンだった。凄まじいスピードでどこかへ行ってしまった。図鑑を開く余裕さえなかった。

 

ふわふわしたポケモンから「フザケンナァァ」という鳴き声を上げていた。もしかしたら新種のポケモンかもしれない!

トキワの森でしばらくこもってよう。新種に会えるかも!

 

 

 

 

 

 

○月□日

新種のポケモンには会えなかったけど、ポッポを捕まえることに成功した!

 

そのあと、面白いポケモン連れてる黄色い模様の帽子とゴーグルをつけたトレーナーとバトルした。負けたのに納得するぐらい強かった。たぶんベテラントレーナーだ。

面白いポケモンについて聞いたら、「ゾロアーク」というポケモンらしい。カントー地方にはいないとのことで、何処から来たのか聞いてみた。そしたらマサラタウン生まれだけどしばらくジョウト地方にいたとのこと。

ゾロアークはジョウト地方にいるかもしれないから捕まえてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

トキワシティに着いた!でもトキワジムは休業らしい。どうやらジムリーダーは会社の社長で、忙しいからしばらく休むんだと。しかも予約もできないみたいだ。

 

だからニビジムにいく!

 

 

 

 

 

○月△日

ニビシティに着いた。町に着いたのは夕方だったから明日からジムに挑戦する。

 

でもなんだかトレーナー達が騒がしい。何があったんだろうか?

 

 

 

 

 

 

○月×日

ニビジムが閉鎖されてた!!!!チクショウ!!!!だから騒がしかったのか!!!!!

だいぶ前にバトルフィールドを破壊したジム挑戦者であるトレーナーがいたって聞いたぞ

 

 

…くそ、そいつのせいでバトルできないじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

○月○日

ニビジムは諦めてハナダジムに行くことにした。

 

おつきみやまを登っていくと、なんだか大きな集団が何かやっていた。聞いてみると、つきのいしを手に入れるために岩を削っているみたいだ。だから俺も参加した。

一緒にやってたら、なんか変な服着た奴に話しかけられた。「ポケモンよこせ」とか「金儲けに興味ないか?」とか変なこと聞かれたので周りにいるトレーナーに助けてもらうことにした。するとバトルになったりジュンサーさんが来たりと大問題になった。なんでだよ。

 

ハナダシティにはジュンサーさんに送ってもらうことになったからまあ良しとする。

 

 

 

バトルには勝ったぞ!

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

ハナダジムがハナダ水中ショーに変わっていたチクショウ!!!

 

明日までショーをやるからジムはできないとロングヘアーの綺麗なお姉さんが言ってた。なのでゼニガメとポッポを休ませることにする。

 

 

 

明日は絶対にジム戦だ!!そして勝つ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

まけた

だめだった

一撃で吹っ飛ばされた

 

 

なんで?

 

 

 

 

 

 

 

○月×日

ゼニガメとポッポを特訓してたらカスミさんに話しかけられた。なんでも、「強さは悪くないけど、戦い方はできてない」らしい。

 

 

戦い方ってなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

(3日間の手記が抜けている)

 

 

 

 

 

 

 

○月○日

ハナダシティにずっといるのは駄目だ。ここにいても俺は何も変わらない。

 

 

だからもう一度旅に出る。

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

トレーナーとのバトルでゼニガメが勝った。でもこれはゼニガメの強さだ。カスミさんの言った戦い方は今でも分からない。

 

 

ポッポも頑張ってくれてるし、俺も頑張らないとな

 

 

 

 

 

○月△日

クチバジムもニビジムと同じ状況だったチクショウ!!!また閉鎖されてたよ!!!ジムぶっ壊されてたよ!!!

 

どんな奴がバトルフィールドを壊したのか聞いてみたら、赤髪でゴーグルをつけた女らしい。はかいこうせんで一刀両断だと。ふざけんな。マジふざけんな!

今日のバトルは負けた。

 

 

【赤髪でゴーグルをつけた女を許すな!!】

 

 

 

 

 

 

○月×日

クチバで特訓する。

 

よく分からないけど、ポケモンの強くする団体に入会してみないかと勧誘された。すごく怪しいが、戦い方を学べて、格段に強くなれるらしい。たくさんのトレーナーも入会しているのが分かった。

無料でできるみたいだからやってみよう。

 

今日のバトルも負けた。くそが

 

 

 

 

 

○月○日

ゼニガメがカメールに進化できた!!しかもバトル連勝した!!入会して正解だった!!

 

詳しく聞いてみたら、戦う方法を学ぶための知恵を授けてくれる女神様が強くしてくれたらしい。アレがそんな力を持ってたんだなって思った。

個別の部屋もくれたし、すげえ最高!!

 

カメールがなんだか不安そうで、ポッポも震えてるけど何でだろうか?でも戦いに強くなるためだから我慢してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

明日、皆の前でアポイント様?が来るみたいだ。

 

どうやら女神様の力を強くするとか。強くなるなら大歓迎だぜ!明日が楽しみだ!

 

 

今日のバトルも3連勝できた!4戦目で負けたけど、今までとは違ってやりがいがあるからスッキリする!さすが女神様!

 

 

 

 

 

○月△日

訂正、アポロ様だった。

 

力が強くなった女神様が凄い。ポッポがピジョンに進化したし、頭が軽くなった感じがした。いろんなバトルに勝てるって思えたんだ!

 

これなら俺もジムに勝てるし、リーグ戦も優勝できる!!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 

(2日間の手記がない)

 

 

 

 

 

 

 

○月×日

頭がふわふわして常にバトルの状況が分かるようになった。

カメールがカメックスに進化できた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月○日

ピジョンがピジョットになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

(3ヶ月間の手記がない)

 

 

 

 

 

 

 

 月 日

記憶がぽっかり消えてる。いつの間にか知らない部屋にいることも増えた。カメックスとピジョットの表情がなくなってる。まるで人形だ。俺が話しかけても無反応。一体何があった。

 

 

 

今は何時なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(××間の手記がない)

 

 

 

 

 

 

 月 日

おれが馬鹿だった。あんなの女神様じゃない。最大限の悪意が詰まった悪魔だ

 

 

このままだとカントー地方だけじゃない

 

 

皆がヤバイことになる

 

 

 

誰かに助けを呼ばないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

(以上の手記にメモが貼り付けられている)

 

 

 

 

 

 

【行方不明者タローの重要証拠となるもの。しかるべき場所に送り、処置を待て】

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十九話~決着?~

 

 

 

 

―――――やけに静かだ。

 

 

 

 

「アリゲイツ」

『アァリゲェイ!』

 

 

ホールのような大きな部屋。いや、部屋というより大広間に似ているだろう。ここから先は行き止まりだ。だからここに必ず奴らはいるはず。

大宴会などに使われそうな場所だと思いつつ、アリゲイツにみずでっぽうで周りを噴射して威嚇行動をとる。だが何の変化もない。それに思わず舌打ちをする。アリゲイツも不満そうに周りを睨みつけ、ガチガチと歯を鳴らしていた。ふむ、奴らに一杯喰わされたか。

通常のゾロアークならばこの程度の攻撃でイリュージョンを解くだろう。でもあいつのイリュージョンは【みずでっぽう】ごときでは無理だ。だから【みやぶる】などの力が必要だと言うのに。

 

 

 

「やはり、コウキを置いてくるのは失敗だったか…」

『アリゲェイ…!』

 

 

 

追いかけていく途中で消えてしまったヒビキとゾロアークのことを考えると、やはり背中が見えている間に手を打っておいた方が良かっただろうか。いや、あれはチルタリスのはかいこうせん程ではないが、船を破壊させる行為だ。また何か大事故を起こせば今度はこちらが責任を負う羽目になってしまう。

 

 

 

「仕方ない…アリゲイツ、戻るぞ」

『アリゲ……?』

「どうしたアリゲイツ?…ああ」

 

 

 

――――なんだ、そこにいたのか。

 

 

 

 

「みずでっぽう」

『アァリゲェイ!!!』

 

 

 

 

真っ直ぐ前を見た状態のまま、アリゲイツに技を指示する。指示した通りに動き、アリゲイツは天井に向かって水を放った。その攻撃によって、奴らは素直に降りてくる。

ヒビキやゾロアークでないのが少々残念だが、まあ裏ボスを相手にしているような気になれば問題はないだろう。

 

 

 

「さて、観念しろヒナ」

「無理に決まってるでしょシルバー」

 

 

 

天井から降りてきたのは無傷のヒナと少々嫌そうな顔をしているナゾノクサ。天井に隠れていたとはもはや普通の人間やめてるようなものだな…まあ、ヒナはそれを否定するだろうが。

それにナゾノクサは水が好きだというのに、この目の前にいるポケモンは炎タイプのような反応をして水を振り払おうとしている。通常の個体とは違うと分かる行為だ。興味はあるが、今は勝敗を決める時。

 

口を開閉させ、歯を鳴らし続けるアリゲイツに、不機嫌な顔で足をじたばたさせて床に亀裂を生じさせているナゾノクサ。怪力のナゾノクサといったところだろうか。見た目だけで判断してはこちらがやられるな。

 

 

 

「アリゲイツ、みずでっぽうだ!」

『アァリゲェイ!!』

 

「ナゾノクサ、右に移動しつつ接近!」

『ナ、ナゾ!』

 

 

軽く避けるナゾノクサの移動速度は通常よりも上と見た。なのでこちらも攻撃パターンを切り替えよう。遠距離攻撃なら遠距離で、近距離攻撃ならこちらも近距離で攻撃する。

 

 

 

「かみつく」

『アリゲェイ!』

 

『ナッゾ…!』

「大丈夫よナゾノクサ!そのまま何度も足蹴り!」

『ナ、ナゾォ!』

 

 

アリゲイツに噛みつかれたナゾノクサが口付近を何度も蹴り、反撃しようとしてくる。噛み千切る勢いで攻撃していたはずのアリゲイツだったが、ナゾノクサの蹴る威力が強すぎて口を離してしまった。離してもなお、両手で口元を押さえ、痛みに涙するレベルの威力か…。

 

 

 

「足蹴りとは、ポケモン技からかけ離れてないか?」

「ポケモンの可能性は無限大だよシルバー。お兄ちゃんの言葉を忘れたわけじゃないでしょ?」

 

 

ああそうだ。ヒナの兄であるサトシさんがよく言っていた言葉だ。

ポケモンとは常に成長する生き物であり、人よりも強くてたくましい。育てる人によっては土地を開拓してしまうほどの強さを持ち、マスターたる人間の考えによっては悪にも正義にもなる。何色にも染まる面白いポケモン。

いつもヒナは兄のような人外になりたくないと言っていたが、技という型に当てはめず自由に育てるのはまさしく兄の血が入っている証拠か。俺も強くならねばな。

 

 

 

「ナゾノクサ、すいとる!」

『ナッゾォ!』

 

「アリゲイツ、こわいかおでスピードを落としてやれ!」

『アリゲェイ!』

 

『ナ、ナゾ…!』

 

 

 

こわいかおで若干涙目になるナゾノクサ。怯えているようで、スピードも少しは落ちたようだ。すいとる攻撃も何故かかみつきに行こうとしていたからアリゲイツにダメージはない。これは勝てるか?

 

 

 

「大丈夫よナゾノクサ。アリゲイツをリザードンだと思ってみて!」

『ナゾぉ…』

「ほら、アリゲイツを炎だと思ってみて!炎がゆらゆらしてるのをイメージしてみるのよ!」

『ナゾナゾ!』

「ゆらゆら飛んでる温かそうな炎が綺麗でしょう?欲しいでしょう?」

『ナッゾ!!!』

 

 

 

ナゾノクサが目を閉じて必死に想像している。ヒナの言った言葉を頼りに、奴にとって【こうかいまひとつ】な炎をイメージさせようとしている。そんなのできるわけないだろう。いや、ヒナのことだからやるときはやってみせるか?

 

 

 

「…ふん、まあいい。これで最後だ!アリゲイツ、みずでっぽう!」

『アリゲェイ!』

 

 

「ナゾノクサ!炎がどっかに行っちゃうわよ!」

『ナァッゾォォォォ!!!!!』

 

 

――――ほのおくれですよぉぉぉぉ!!!!!

 

 

 

そんな言葉がナゾノクサから聞こえてきたような気がする。

目玉や舌が飛び出そうなほどの形相でアリゲイツをロックオンし、歯をガチガチと鳴らしながらかみつく。その強さや威力、そしてその形相を見たアリゲイツはみずでっぽうを中断させ、大パニックを起こしてしまう。

本当にやってくれるな。

 

 

 

「アリゲイツ、ナゾノクサを地面に叩きつけろ!」

『ア、アリゲェェェイ!!!』

 

 

 

頭に噛みついているナゾノクサごと地面に何度も衝撃を与える。それでもナゾノクサが離れない。むしろアリゲイツ側にダメージがいっているような感覚だ。

炎を求める執念が強いからダメージを与えられても揺るがないのか…?

 

 

 

「ならば…アリゲイツ!天井に向かってみずでっぽうだ!水のシャワーを奴に浴びせろ!」

「させないわ!ナゾノクサ、アリゲイツの顔に向かってじたばた!!」

「ふん。甘い!スピードが落ちたのを忘れたか!!」

 

 

 

アリゲイツの怖い顔の威力、そしてその追加効果によってナゾノクサの速さは下がっている。だからスピードはこちらの方が上だ!

 

 

 

「アリゲイツ!みずでっぽう!」

『アァリゲェイ!!』

 

 

『ナッゾォォォ!!?』

「ナゾノクサ!」

 

 

【じたばた】ではなく、かかと落としをしようとしたナゾノクサがそれよりも前に放ったみずでっぽうを嫌がり、ヒナのもとへ逃げていく。

このまま逃がすわけはない!

 

 

 

「バンダナを取るぞアリゲイツ!」

『アァリゲェイ!』

 

「っ!させないわよ!」

『ナァッゾ…』

「大丈夫。私がいるわナゾノクサ。さあ一緒に頑張りましょう!」

『…ナ、ナゾ!』

 

 

 

 

攻撃しようとしてくるポケモンに対してファインティングポーズをするヒナ。その横で必死に足をバタバタ動かすナゾノクサ。

普通の人間ならポケモンが戦意不能になった時点で逃げ出すだろうに―――むしろ奴はポケモンだけでなく自分でも戦おうとしているようだ。無自覚にもほどがあるだろう。これでヒナ自身が普通のマサラ人だと主張するとは本当に笑わせてくれるな。

 

 

 

「怪我はさせない程度に勝たせてもらおう!アリゲイツ!」

『アリゲェイ!』

 

 

「行くよナゾノクサ!」

『ナッゾォ!』

 

 

 

 

激突する――――そんな瞬間だった。

 

 

 

船をぐらつかせるほどの轟音。廊下まで続く扉が吹っ飛び、黒煙が撒き散らされる。その後に続くのは爆発音。炎が揺らめき、二つの大きな塊が廊下から飛び出してきた。どこかで見たような帽子が、黒煙から飛んできて、アリゲイツの近くに落とされる。

 

 

「…え、ヒビキ?」

「お、おうヒナ!悪いけどここは逃げるぞ!」

「いやどういうこと!?」

「あいつ相手にしてたら酷いことになるってことだよ!」

 

「あいつだと…?」

 

 

思わず後ろを見て納得。いたのは異様な姿をしたコウキとマニューラの姿。だがその行動は変人にも劣らないもの。

こちらを射殺すかのような視線。舌なめずりをして、どう食ってやろうかと考えている行為。変人というより、変態か?

 

 

「おい何をしている」

「ふぃっひひひひっ!!」

『マァニュッニュッニュッ!!!』

 

 

 

言葉が通じていないのか?最初に出会ったコウキとは違って気持ち悪いな。

 

 

「…どういうことだヒビキ」

「いやだから―――ってか鬼のお前に言うつもりねえ!」

 

 

思わず奴の頭に殴り掛かりそうになったが、ヒナがそれを止めて地面に落ちたヒビキの帽子を奴に渡す。

 

 

「ほら、私になら話せるでしょ!何があったのヒビキ!なんかあの人の目イっちゃってるんだけど…!」

「マニューラ攻撃したらこうなったんだよ俺にも何が何だかわかんねーっての!!!ってか逃げ道は!?」

「ないわよ!今あの人がいる廊下が逃げ道!」

「なんてこった!!!」

 

 

マニューラを攻撃したら?

意味の分からない言葉だ。ポケモンバトルでこうなるトレーナーがいると言うことか?まあ、トレーナーの中には個性的な奴が山ほどいるが…。

 

 

―――――目を離したのがいけなかったのだろう。

 

 

「うひひぃぃ…マニューラァ!」

『マァニュゥゥ!!!』

 

 

 

マニューラが最大火力の【つじぎり】を俺たちに向けて近づいてくるのが見えた。地面に何度も切った跡をつけていき、こちらに近づいてくる。その光景は、前にテレビで見たサトシさんのジュカインがリーフブレードで攻撃してきた跡のようなもの。スピードはないが、迫力がある。それに船の切られた痕跡を見る限り、奴の攻撃能力は高いだろう。

ここで鬼が仲間割れを起こしても意味はないと言うのに…あの野郎。

 

 

 

「くそ…アリゲイツ!」

『アァリゲェイ!』

「ああもう。シルバーに協力するわよナゾノクサ!」

『ナッゾォ!』

「うぇマジかよ!」

「マジです!ほら、あの人たち倒さないと逃げられないから仕方ないでしょ」

 

 

 

どっちみち逃がすつもりはない!だがこのまま自滅するよりマシだ!

 

 

 

「くっそ…ゾロアーク!」

『グァァァ!』

 

 

 

 

3体VS1体。一見すればこちらが有利に見えるが、マニューラの動きが不規則なせいで攻撃が当たらない。そういっている間に奴が近づいてくる―――――。

 

 

 

 

 

 

【ピンポンパンポーン!!鬼ごっこはこれにて終了です!さあバンダナ持っている逃走者はホールに来てねぇぇ!!】

 

 

「ウィっヒッヒッヒ!!!」

『マァニュゥゥ!!!』

 

 

アナウンスが鳴り響けど、奴は止まらない。というかこっちが負けかふざけるな。ヒナとヒビキを捕まえず負けになっただと?さすがに不完全燃焼だ。ふざけるな。本当に、ふざけるな。

 

 

「アリゲイツ、りゅうのまい」

『アァリゲイ!』

「もう一度りゅうのまい」

『アリゲイ!』

「もう一度だ」

『アリゲイィ!』

 

 

「え、ちょっとシルバー?」

『ナ、ナゾ?』

「おい落ち着けってシルバー…ってかおい!お前ももう終わったぞ!」

『グァァ!』

 

 

「うっひゃっひゃ!!」

『マニュ!』

 

 

 

怒りなんてない。胸にあるのは込み上げてくる冷たい衝動のみ。

 

 

「もう一度だアリゲイツ。りゅうのまい」

『アァリゲイ!』

 

 

「ねえ、ちょっと…シルバーってば!もう終わったんだよ!」

『ナゾォ?』

「おいお前!うっひゃっひゃじゃねえよ終わったっつーの!」

『グァゥ!!』

 

 

 

近づいてくるコウキに、恨みはない。負けたのは事実だろう。だから、これはただの八つ当たりだ。

 

 

 

「力を込めろアリゲイツ!!じたばた!!!」

『アリゲェェェィィ!!!』

 

 

 

ヒナのナゾノクサよりも威力の高い【じたばた】が船を大きく揺らし、廊下から押し出すようにコウキとマニューラのもとに放たれる。攻撃範囲が広く、床に亀裂が生じ、壁に大きな穴が開くほどのもの。

聞こえてくるのは悲鳴、罵声。それ以外は知らん。

 

 

 

後のことなんてどうでもいい。今あるのはこの気持ちを抑えることそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十話~腐れ縁は酷なもの~

 

 

 

 

クチバ湾の小さなカフェテリア。かなりお洒落な外観が人気の店にて―――ポケモン達が一瞬飛び上がるほどの叫び声が響く。

 

 

 

「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!」

『マァニュゥゥゥゥゥ!!!!』

 

「大丈夫っすよ本当!」

 

「いやでも…ほ、本当にごめんなさい!俺、ストレスが爆発すると完全にぶっ飛んじゃうみたいで…」

『マニュマニュ…』

 

 

 

ダイナミック土下座をしているのはあの奇妙な行動をしていたはずの人とマニューラ。冷や汗をだらだらと流し、今にも死んでしまいそうなほど顔が白い。

マニューラなんて爪で自害しそうなほどだ。

 

 

 

「いや、あなたはまだマシな方ですよ…問題なのはこいつなので」

「…ふん」

「おいシルバー!!今回は船の人が笑って許してくれたけどなぁ…また次なんてことあったら容赦しねえからな!!」

 

 

そう、船の人は笑って許してくれた。いや、笑ってと言うより引きつった笑いだった。あの新品だった船が今にも沈没しそうな中古品になってしまったんだから当たり前だよね。

というか、新生ロケット団なんて奴らを捕まえて一応の借りを作ってなかったら酷いことになってたはずだろう。私達の方がよく捕まらなかったと安堵するぐらいやらかしたんだシルバーは。

 

 

「シルバーもちゃんと反省しなさい!」

「そうだぜシルバー!土下座しろ土下座!!」

「ポケモンの技で船が壊れる程度の強度が悪いだけの話だ。俺はただバトルをしたのみだからな」

「ドヤ顔するな馬鹿!」

 

 

「ええっと…」

 

 

 

マニューラと一緒に土下座している人が苦笑して困っている。目の前で喧嘩されたら困るものよね…よし。

 

 

「あの、私ヒナって言います!あなたの名前聞いても良いですか?」

「ああうん。俺はコウキ…シンオウ地方から来たんだ」

 

 

コウキさんは土下座をやめ、私たちと対面している椅子に座って話してくれた。マニューラも近くにある椅子によじ登り、話に耳を傾ける。

 

 

「シンオウ地方からっすか!!何で?」

「休暇でこっちに…」

 

 

ヒビキがシルバーに噛みつくのをやめてコウキに興味をもつ。

シルバーはカフェテリアから出されたココアを飲んで優雅に過ごしているんだけど…あとで拳骨だからね。

 

 

「休暇っていうと、トレーナーじゃないとか?」

「俺はこれでも研究員なんだ」

「へえ!じゃあオーキド博士とか…シンオウ地方だと、ナナカマド博士と同じなんですね!」

「いや、あの人たちのような凄い研究をしているわけじゃないけど…まあね」

『マァニュゥ』

 

 

コウキさんは少し誇らしげな顔で笑っていた。マニューラも似たような顔で照れている。やっぱり手持ちだから同じような反応になるのね。

 

 

「…ほう」

 

 

シルバーが研究員という言葉に興味をもったのか、ココアを飲んでいたカップを机に置き、コウキさんを見る。

なんか嫌な予感がするけど大丈夫かな?

 

 

「休暇というと、何かの研究が一区切りついたとかか?」

「いいや、まだまだやるべきことはたくさんあるよ…なんせ、今のシンオウ地方は大騒ぎだからね」

「大騒ぎ?」

「ああうん。あ、そっか違った…大騒ぎといっても一部の人間たちだから気にしないで」

 

 

何かをはぐらかすようにコウキさんはコーヒーを口にした。マニューラでさえ視線をそっぽ向けているけど、何があったんだろう?

思わずヒビキやシルバーを見ると、彼らも興味津々といった顔で私を見た。

 

 

「あの…話しちゃいけないほどのことなんですか?」

「ああ、いや…その…」

 

 

「ヒナは、あのポケモンマスターであるサトシさんの妹だ。だから話してはいけないことなどないはずだが?」

「え、サトシさんの妹!!?」

『マニュッ!?』

「ちょっとシルバー!!」

 

 

反射的にシルバーのほうを見た。シルバーはコウキさんに見られないよう親指を上げてニヤリと笑う。本当にその顔面殴りたいんだけど。

あとヒビキ、あんたもよくやったって顔でシルバーの背中叩かないでよねまったく…。

 

 

「そっか…サトシさんの妹か…なら話しても大丈夫かな」

『マニュラァァ』

 

 

コウキさんはマニューラを見て独り言のように呟いていた。

これで責任を問われたとしても私は知りませんからね?いや、確かに興味はあるから…もしもの時はなるべく弁護するけどさ…。

 

 

「分かった話そう。だが、ここで話した内容は他言無用にしてくれ」

「わ、分かりました…」

 

 

神妙な顔で頷き、続きを話そうとする口をじっと見つめた。数秒ほど、戸惑っているのか何も喋らずにいたが、やがて話し始める。

 

 

 

 

「シンオウ地方には今――というか、現段階でアルセウスが統括しているような状態なんだ」

「アルセウス!?」

 

 

 

何故ここでその名前を聞くことになるのだろうか。アルセウスは、兄が唯一手を出すことのなかった存在だ。

どんな伝説であろうとも、神であろうとも殴りつけO H A N A S I(物理)をするのが当たり前の伝説のトレーナー。そんな兄を知るみんなの中であり得ないほど対等である、とても珍しい創造神。そのアルセウスがシンオウ地方統括とは一体どんな物騒なことになっているのだろうか。

 

ヒビキやシルバーも名前は知っているのか、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 

 

 

「実はギラティナが世界から忽然と消えてしまってね。代打で反転世界を収めるついでにと、シロナさん…つまり、シンオウチャンピオンと交流してこうなったってわけ」

「いや、意味が分かりませんというか、ギラティナは!?」

「アルセウスは何も話してくれなかったみたいだけど、どうやら彼の頼みで何処かへ行ってしまったらしい。おそらく別世界にいるだろうと、ナナカマド博士は考えているよ」

『マニュ』

 

 

「なんか規模が大きすぎるんですけど!!!」

 

 

 

ギラティナといえば、兄から聞いた私たちと同じ転生者だ。

そんなギラティナが世界から消えてしまったことを聞いて一瞬焦ったが、アルセウスが頼んだということは、何かしらの用事で何処かへ行ってるのだろう。世界は数多くあることを私はイッシュ地方で学んだから知ってるし…。

 

それで、ヒビキとシルバーは真剣な顔で何してるのかな?

 

 

 

「なあシルバー…ギラティナって確か」

「ああ。ジョウト地方で会ったな…本では伝説と呼ばれるポケモンだったが。なるほど、アレがそうか」

「あんなのが伝説で大丈夫かシンオウ地方!」

「いや、ギラティナは世界の裏側を管理するポケモンと言われている…つまり、全ての地方で関係するということだろうな」

「それヤバイなマジで」

「っって!ちょっと待って!ヒビキとシルバーは何でギラティナのこと知ってるの?」

 

 

 

ポケモンではなく人間の姿に擬態してヒカリさんやアーロンさんと共に旅に行くことが多いギラティナ。

人間の姿だから彼から話さなければ普通は気づかないはずなんだけど。

 

ところがヒビキとシルバーは微妙な顔で話してくれた。

 

 

「前にジョウト地方でポケモンが盗まれる事件が続出してさ…そんときに俺のゾロアークとシルバーのチルタリスも盗まれたんだ」

「あの頃はまだ育成途中だったからな。チルタリスがチルットの時にボールごと盗まれた」

 

「そ、そんなことあったのね…」

 

 

 

呆気に取られてしまった。

ポケモンが盗まれる事件なんてことに巻き込まれるヒビキもそうだが、シルバーも意外と兄と同じでトラブルメーカーよねぇ。

 

 

「それで?何でギラティナと出会ったの?」

「いや、俺もゾロアーク…というより、ゾロアを助けに行こうとしたら青い服を着たお兄さんと綺麗なお姉さんに出会ってさぁ」

「ヒナは知ってるか?ルカリオを連れていて、ギラティナをよく殴りつける人とポッチャマを連れてよく呆れていた人なんだが…」

 

「…うん、お兄さんの方は私の師匠だから分かる」

 

 

――――――師匠何やってるんですかぁぁぁぁ!!!

 

 

心の奥底で叫んでしまいたいほどの衝撃だった。アーロンさんとギラティナがその事件に関わってるのかぁ…なら、もう心配はなくなったも同じよね。ヒカリさんがいれば騒動の少しは収まったかもしれないから、うん大丈夫なはず。

というか、師匠って兄と同類の人だし…性格が似通ってるのかな。

 

 

 

「えと、つまり、ギラティナがポケモンに変化してしまうほどのことが起きたけど、アーロンさんのお陰でゾロアとチルットは助かったということね」

「おおそうだぜ!よく分かったなヒナ!」

「いやまあ…うん」

 

 

 

何も言えず乾いた笑みを無理やり浮かべて視線をコウキさんに戻した。コウキさんは何故か唖然として私たちを見つめているけど、何で?

 

 

 

「あの、どうしたんですかコウキさん?」

 

 

「い、いや…流石はサトシさんの妹だなって思っただけだよ」

『マニュゥゥ』

 

 

 

兄の妹だからって理由がいるようなことなのだろうか?

思わず首を傾けて考えるけど意味が分からない。というか、私は驚くようなことなにもしてないよね?ヒビキとシルバーを見たけれど、彼らは諦めろというかのような顔で私を見た。

 

 

 

いや、本当に意味が分からないから!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

カフェテリアでコウキさんに別れを告げ、来たのはポケモンジム。

 

 

…何故かジムの天井に見覚えがある穴があるんだけど気のせいよね。

 

 

 

「さて、誰から始める?」

「やっぱり俺からだろ!」

 

 

 

ヒビキが扉を開けて、「たのもー!」と声を出す。結構大きな声だから、ジム内にいたトレーナーやクチバジムリーダーは私達の方を見た。

クチバジムリーダーであるマチスさんは、声を出したヒビキを通り越して、私の方を見る。その顔は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「Oh!久しぶりだなリトルガール!」

「お久しぶりですマチスさん。えっと…今日はジム戦に来ました!」

「そうかそうか!ついに約束の時か!リトルガールもトレーナーになったんだな!!」

 

 

 

マチスさんはこちらに近づき、私の帽子越しに頭を撫でる。

なんというか、覚えててくれてとてもうれしい気持ちはある。でもヒビキの方をちらりと見ると、少々複雑そうな顔だ。

その顔を見たシルバーが問いかけてくる。

 

 

「どうしたヒビキ。いつもの憎たらしい顔はどうした?」

「憎たらしいってなんだよこの野郎。いや、まあ…いろいろあったことを思い出しただけ」

「いろいろ?何だ、何かやらかしたのか?」

「…聞くんじゃねえよ阿呆シルバー」

 

 

 

ヒビキの声にいつもの力強さはない。仕方ないことだとは思う。というか、こっちも複雑だ。終わったことだから何も言うつもりはないのだけれども…。

だってクチバジムに挑んだ理由って、ヒビキが私達を挑発したことがあったから。あの頃はヒビキも含めて私に対して反発しまくってたよね。うわぁすごく懐かしい気がする。リザードンやピチューの入ってるボールがゆらゆらと揺れているのも私と同じ心境だからなのかな。

 

当の本人は黒歴史ですと言いたいぐらい、マトマのみを食べたような変な顔してるけど。

 

 

 

 

「えっと…とにかく、最初はこのヒビキがジム戦するので、その後でいいでしょうか?」

「Oh!リトルガールのboyfriend?そこにいるRed hairの子は前にジムに挑戦してきたよな!」

「ボ、ボーイフレンドなんかじゃないっすよ!!」

「ヒビキ、からかってるだけだから真に受けないの」

 

 

 

HAHAHAと笑い声をあげるマチスさんに対して、微妙な顔のヒビキ。「赤い髪の子」と言われたシルバーは普通な対応してるのに、ヒビキってばなんか戦う前からテンション下がりまくってるけど大丈夫なのかな?

 

――――だが、マチスさんは不敵な笑みを浮かべてヒビキを直接見た。その視線はすべての生き物を硬直させるような、殺気に満ちたもの。

 

 

 

「俺は強いぞ。来るなら全力でかかってくることだな」

 

 

 

 

 

 

 

 









Q、ところで何でシルバーはコウキに敬語使わなかったの?


A、鬼ごっこに勝利してたら使ってたかもしれない。







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第三十一話~影響力は劣らない~

 

 

 

 

 

 

少々暗く、殺伐としているバトルフィールド。そこにいたのは気合いを入れなおすヒビキと、不敵な笑みを浮かべるマチス。

 

 

 

 

「えーでは!挑戦者ヒビキ対ジムリーダーマチスによるポケモンバトルを開始いたします!使用ポケモンは2体です!」

 

 

 

帽子を深くかぶるヒビキは深呼吸をし、ボールを見つめた。ボールはヒビキが手に持つ前からゆらゆらと揺れていて、『早く出せこの野郎!』と伝えようとしてくる。そんな元気な反応にヒビキは笑った。

勝つということは、このボールの中に入っているポケモンは使うことはできない。でもやる気十分勝つ気満々なポケモンを出さない意味はないのだと、テレビでよく見たサトシから教わったとヒビキは考えていたのだ。

 

 

だからこそ、緊張感がビシビシと伝わるこのバトルフィールドで、ヒビキは勝つことだけじゃなく楽しむことを胸に決める。

 

 

 

 

「行くぞピジョン!!」

『ピジョォォ!!!』

 

 

 

翼を大きく広げ、咆哮を上げるピジョンにマチスは笑った。

 

 

 

「へえ…ピジョンか。でんきタイプには弱いポケモンを出すとは、やけに自信があるようだな?」

「自信なんていくらでも出てくるっすよ!だってこいつの根性信じてますから!」

「ふっ!その根性いつまで続くのか楽しみだぜ!!―――行くぞ、エレブー!!」

『エレェェイ!!』

 

 

エレブーの身体から電撃を放ち、地面を軽く焦がしていく。その様子を見たピジョンは『なめんじゃねえぞゴラァ!』とでも言うかのように通常の個体よりも鋭い目で睨みつけた。

 

気合十分な二体の様子を見た審判は息を吸い、大きな声を上げる。

 

 

「それでは!エレブー対ピジョンの試合を始めます!試合開始!!」

 

 

 

「10まんボルト!」

『エレェイ!』

 

「でんこうせっかで躱しつつ反撃!」

『ピジョォォ!!』

 

 

 

雷撃を回避しつつピジョンがエレブーを嘲笑う。それほどまでにもスピードが段違いで違っていたのだ。10まんボルトでさえギリギリの距離でも躱せるんだぜ、とでも言うかのようにピジョンはバトルを楽しんでいる。もちろんそれはヒビキも同じだ。

 

だが、でんこうせっかの直撃を受けたエレブーはピジョンの挑発を軽く流しつつ、マチスを見た。マチスは誰もが怯える凶悪な笑みを浮かべつつ、小さく頷く。

 

 

「Heyリトルボーイ!お前はでんきタイプの恐ろしさというものを分かっちゃいねえな!」

「へ?」

 

「行くぞエレブー、でんげきは!」

『エレェェェイ!!』

 

 

「ちょっ!?」

『ピ、ピジョォォォ!!!』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あっちゃー…バトルで遊んじゃいけないっていうのに…ヒビキの馬鹿」

「ニビジムと同じようにやらかしてるな。さすがは馬鹿だ」

 

 

 

 

ヒビキの焦りようを観戦席から見ていたヒナとシルバーはため息をつく。

ピジョンは戦いに夢中になっていて、ヒビキはそれを楽しんでいる。そういうのはトレーナーによくあることだ。あのサトシでさえ、勝つためにバトルをするのではなく、楽しむためにバトルをすることが多かったのだから。でも、今はそういう時ではない。

バッチを貰うため、勝つために行うバトルなのだから。

 

ニビジムでもゾロアークと遊んでいたヒビキに二人は呆れていたのだ。

 

 

 

「ピジョンはやる気十分といったところだが、慢心があるな」

「スピードも速いし、エレブーがエレキブルに進化していないからとかかな?」

「まあそれもあるだろうが…だが、唯一の違いは遊び過ぎというところだろう」

「遊びすぎ…」

 

ヒナがピジョンを見た。ピジョンは焦りながらもそのギリギリの電撃を避けるという駆け引きを楽しんでいるように見える。身体にダメージがたまっていく【でんげきは】の余波が来たとしても変わらない。ホーミングされ狙われていたとしても、楽しむのを止めない。むしろヒビキの指示によって、エレブーにそのでんげきはを直接当てるように仕向けているほどだ。

避けきれなかったエレブーは自らのでんげきはに当たってしまい、ダメージが与えられた。

 

楽しみつつ、バトルに勝とうとするその根性はある意味感心するレベルだろうと、ヒナは心底思った。

 

 

「まあ、あれもある意味才能よね」

「俺ならキレて【はかいこうせん】を撃つ場面だがな」

「それもそれで大問題だからやめてよね!!」

 

 

ヒナの大きな叫び声がシルバーに向かって放たれたのと同時に、ピジョンのでんこうせっかとエレブーのでんげきはが衝突し、爆発した。爆炎と共に吹き飛ばされたピジョンとエレブーは左右の壁にぶち当たり、地面に倒れ込む。

両者とも近い位置にいたせいか、与えられたダメージはほぼ同じ。それ故に立ち上がることはなかった。

 

 

 

「え、エレブーとピジョン戦闘不能!よって引き分け!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ハッハッハ!!」

 

 

 

マチスの笑い声が響き渡るバトルフィールドにて、ヒビキは内心冷や汗をかきながら動くことのないボールを見た。中にいるのは傷つき気絶したピジョン。

他の二体であるマグマラシとゾロアークは元気づけるようにゆらゆらと懐の中で揺れていたが、ヒビキはそれどころではなかった。

 

 

(やっべー…引き分けになったのはグッジョブだけどこの後のこと考えてなかった!!)

 

 

 

 

でんきタイプならマグマラシやゾロアークでも対応できる。でも、どちらもでんきタイプに対しての有力な技はないに等しい。

もはや特攻あるのみだ。そうヒビキは決意し、あるボールを手に取った。

 

 

 

「ええい成せば成る!!行くぞゾロアーク!!」

『グァァァ!!!』

 

「ほう?ゾロアークか…そりゃあなんともRareなポケモンだな!」

「レアと言ってくれてうれしいっすね!でもこいつレア以上の希少価値あるみたいなんで油断大敵っすよ!!」

『グァァァゥ!!』

 

 

 

「そうかそうか!ならこっちはサンダースだ!」

『ギャァァァァ!!』

 

 

どんなに珍しくても、勝つ気で戦おうとするのがマチスのやり方だ。それはヒビキとは少々異なっている。

でも、ヒビキもここまでくれば本気で勝とうという気持ちが強くなる。たとえバトルで楽しんでいようとも、勝たなければ意味がないのだから。

 

 

 

「これより、サンダース対ゾロアークのバトルを開始いたします!試合開始!!」

 

 

 

開戦の合図が放たれた直後、ゾロアークの瞳が怪しく揺らめく。

バトルフィールドの照明はもともと暗い。天井に小さな穴が開いても同じだ。でもそれをより暗く見せ、霧のような白い煙によってフィールド内の状態が分かりにくくなる。

 

これがどういう意味なのか、マチスはよく知っていた。

 

 

 

「Oh!そういう意味での希少価値か…だが、俺やサンダースにソレがばれてもいいのかリトルボーイ!」

『ギャァス!』

 

 

「良いんすよ…それだけじゃないんだから!」

『グァァァ!!』

 

 

 

―――――言った瞬間、だった。

 

 

 

「ッ! 避けろ!!」

『ギャゥゥッ!!』

 

 

 

 

霧の中からものすごい勢いで鉤爪のような何かがサンダースの身体に襲いかかってきた。その鉤爪は幾多もの刃となって切り刻んで行こうとする。

それらを避けようと、先程のピジョンよりもはるかに速いスピードで動くサンダースはまさにどこにも当たらない雷鳴のようだ。

 

また、ゾロアークが竜巻を発生させてもそれは変わらない。

 

 

 

「くっそ…ゾロアーク!あくのはどう!!」

『ガァァ!!!』

 

 

「Okさせないぜ!サンダース、かげぶんしん!」

『ギャァァゥ!!!』

 

 

 

数十ものサンダースの影が現れ、紫色に輝く波動をすべて避ける。それに舌打ちしたヒビキがゾロアークを見て笑った。

ゾロアークも同じように笑い、サンダースを睨む。

 

 

「ゾロアーク、幻影攻撃!」

『ガァァ!』

 

 

ゾロアークの姿が揺らめいて消える。まるで空気に溶け込んだ霧のように、白く濃く見えなくなる。マチスがサンダースに電撃を指示するが、手ごたえは何もない。

 

途端に巻き起こったのは白い霧から発生した棘付きのイバラがサンダースに向かって巻きつく光景。棘がサンダースの身体に食い込み、肉を引きちぎろうとする。その痛みにサンダースは惑わされた。

 

 

『ギャァァァッ!!!』

「Oh サンダース!ワイルドボルトで回避だ!」

 

 

身体中に電気を纏い、イバラごと破壊していくサンダースだったが、イバラがすべて破壊されることはない。幻影により、イバラがサンダースの周りを囲っていく。ワイルドボルトの効力が消えても、イバラはなおも増殖する。その光景はまさに、サンダースにとって強固な檻となっていた。

 

ダメージは幻影によりゼロも同然だが、惑わされている最中はそれに気づくことはない。むしろダメージを深く負っているのだと【錯覚】する。

 

 

 

「これがイリュージョンの力ってわけか…excellent!」

『ギャゥゥ!』

 

 

 

「それだけじゃないっすよ!行くぞゾロアーク!」

『グァァァ!!』

 

 

 

薄く霧が立ち込め、イバラで満ちていたバトルフィールド内の様子が一変する。白煙はぶわりと消え去り、イバラは陽炎のごとく消えていく。そうして残ったのは小さく灯した照明と天井に開いた穴のみ。

 

何をするのだろうか。マチスは心を躍らせた。

 

 

 

「警戒しろサンダース!」

『ギャァァス!!』

 

 

「警戒なんてしても無駄っすよ!これは四年も前からずっと食らってたあいつの技!戦闘不能になっても立ち上がりめげないゾロアークの力だ!!」

『グァァァ!!!』

 

 

「what?どういう意味だ!?」

 

 

 

マチスが警戒し、サンダースのかげぶんしんをそのまま維持させている。だがヒビキとゾロアークの勢いは止まらない。

大きく口を開けているゾロアークから、何か光を吸収するように動きだし――――光の波動で打ち抜いた。

 

 

「はかいこうせん!!!」

『グァァァァ!!!!』

 

 

 

見えたのは閃光。一瞬でフィールド内を爆発させ、何もかもを吹き飛ばす力に変える。それは【かげぶんしん】でもって回避率を上げていても変わらず、すべての対象を攻撃していったのだ。

平たいフィールド内がでこぼこのものに変わっていく。地形が少しだけ変形する。

 

そんな攻撃でも、シルバーのチルタリスよりは攻撃力が不足していると、ヒビキとゾロアークは分かっていた。

だが、建物を破壊するほどの力がなくても、ポケモンを倒すぐらいはできる。

 

 

 

「へっ!俺たちの力思い知ったか!」

『ガァァァ!!』

 

 

 

 

「ふっ…そうだなリトルボーイ。お前たちの力にサンダースと俺が及ばなかったと言うわけだな」

 

 

 

サングラスをかけなおしたマチスを見た審判は、高らかに判定の声を上げた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

山道かと思えるほどでこぼこしているバトルフィールド。それらすべては焼き焦げていて、黒煙でさえ発生させている。チカチカと動いていたはずの照明はものの見事にぶっ壊れ、唯一の明かりとなっているのは天井に開いた穴のみ。

 

 

 

――――さて、これはどういう事態なのだろうか。

 

 

 

「ねえヒビキ。なんでゾロアークがはかいこうせん覚えてるの?」

「攻撃食らってるうちに覚えたんだ」

「フンッ…俺のチルタリスよりは劣っているがな」

「お前のチルタリスはいろんな意味で領域外なんだよ!!!」

 

 

 

ヒビキとシルバーが喧嘩しそうなので止めつつ、マチスさんを見た。マチスさんは普通に豪快に笑っている。バトルフィールドが半分破壊されたとしても気にしてないのかな。

 

 

「次はリトルガールの番だぜ?わかってるな」

「はい…わかってます」

 

 

これは再戦だ。だから全力で行かなければいけない。でもあの時とは違ってリザードンもピチューも強くなった。だから大丈夫なはず。

 

―――ああ、そうだ。

 

 

「ナゾノクサ!」

『ナッゾ!…ナゾ?』

 

「ねえヒビキにシルバー。ちょっとナゾノクサ預かっててくれないかな?」

「ああ」

「んーまあいいけど」

 

 

ボールから元気よく飛び出したナゾノクサをヒビキが抱き上げる。シルバーは何故かナゾノクサの草部分を観察しているけど…あんまりナゾノクサの不安になるようなことさせないでよ?

 

 

 

『ナゾォ…』

 

 

バトルに出れないと理解したようで、落ち込んだ顔をしているナゾノクサ。その頭を撫でつつ、私は安心させるように笑いかけた。

 

 

 

「私たちのバトルを見て、ナゾノクサに勉強してほしいんだ。だからヒビキ達と一緒に見ていて。そしていっぱい学んでね!ナゾノクサにはこれから活躍してもらわなくちゃいけないんだから!」

『ナゾ…ナッゾォ!!』

 

 

「ほう…ポケモンにバトルを見させて学ばせる…か。それもある意味ポケモンの為になることか?」

「はいはいシルバー、そんなとこで考え事すんな。お前は俺と一緒に観戦席な」

「フンッ言われないでもわかっている」

『ナゾォ』

 

 

 

少々不安だけど、まあバトルが始まれば喧嘩はしないよね?

 

 

―――そう考えながら、バトルフィールドに立った。

 

 

「使用ポケモンは二対二!交換はありです!それでは、挑戦者ヒナとジムリーダーマチスによるバトルを開始いたします!」

 

 

「Hey!俺の最初のポケモンはこのライチュウだぜリトルガール!!」

『ライライッチュゥゥ!!!』

 

 

 

 

ライチュウが出てきた瞬間、ものすごい勢いでボールがぐらぐら揺れ始める。リザードンもピチューも再戦したい思いは同じなんだ。ちゃんとバトルで勝ちたい思いは一緒なんだ。

 

その思いを糧に、このバトルに挑もう。

 

 

 

「行くわよ、ピチュー!!」

『ピィッチュ!!』

 

 

「あの時と同じポケモンで挑むその心意気…気に入ったぜリトルガール!」

『ラァァァァイ!!』

 

 

二人と二体が同時に睨み合う。ライチュウは尻尾をバシバシと地面に当てて、衝撃を与えている。その尻尾の威力は地面をさらに焦がし、放電しそうなほどの強さだ。ピチューは足を何度も踏みしめ、ほっぺに溜めている電気を無駄に放出しないよう心掛けている。

 

はやく、早く始めろ!そんな声が聞こえてきそうだ。

 

 

「そ、それでは…試合開始!!」

 

 

 

とたんに鳴り響いたのは雷鳴。指示をしていないのに両者は攻撃し合う。

そして黒煙と炎。電撃と電撃がぶつかり合い、爆発を引き起こしたのが見て分かった。

 

 

 

「ピチュー!アイアンテール!」

『ピィッチュ!』

 

 

「ライチュウ、メガトンパンチだ!」

『ライライ!!』

 

 

淡く光り輝く尻尾の先と、炎に揺れ動く拳が激突する。両者ともその攻撃の余波で二歩ほど後ろに吹っ飛んでしまったが、それでも戦闘意欲は高いままだ。

 

だからこそ、このままで良いとは思わない!

 

 

 

「ピチューてんしのキッス!」

『ピィッチュ!!』

 

 

『ラァイ…ッチュゥ』

 

 

混乱したライチュウが目をくるくる回しながら地面に倒れる。気絶したわけではないので、これでライチュウが戦闘不能になるわけではない。でも、これでいい。

 

 

 

「ほう!やるなリトルガール!」

 

 

 

マチスさんは不敵に笑い、懐から二つのボールを取り出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「ニビジムと同じ戦略で戦うつもりか?」

『ナッゾォ?』

 

 

 

シルバーが首を傾けるのと同時に、ナゾノクサも身体を小さく傾ける。その意味合いは似ているようで違うもの。シルバーにとってヒナの戦略はどうなるのか、バトルでどう有利に行動するのかを見てみたいのに対し、ナゾノクサは『なんであいつたおれてるですか?』と、技の解釈がよくわからずにいる。

 

ヒビキは両腕を頭の後ろで組み、笑った。

 

 

「混乱させたとしてもポケモンを交代されたら終わりだと思うぜ?ほら、現にマチスさんがライチュウからマルマインに代えて戦ってるし」

 

 

観戦席から見えてきたのはライチュウの代わりにマルマインが出てくる光景。マルマインはその巨体を生かし、転がりつつピチューにぶつかろうとする。

ピチューはマルマインの攻撃を何度か避け、地面が盛り上がっている部分にわざと衝突させていた。そして小さく笑ったのだ。

 

 

 

「交代…まさか、それを読んでいたのか?」

「どういう意味だ?」

「…それはヒナが教えてくれるはずだ」

 

 

 

シルバーが顎に手を当てて、バトルをすべて見逃さないようにじっと見つめる。騒ぎもせず、何も言おうとしなくなったシルバーに呆れたような顔をしたヒビキだが、こちらもヒナのバトルの行方が気になるのか観戦に集中する。

 

『ナッゾォォ』

 

 

唯一、ナゾノクサだけはヒナとピチューを応援するかのように、頭の上に生えている草をゆらゆらと揺らしてバトルを見ていたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「ピチューいい?一点集中よ!」

『ピィッチュ!』

 

 

ピチューはでこぼこのフィールドを利用してでんこうせっかで駆け巡る。その素早さは以前戦った時とはわけが違う。そう、マチスは実感していた。

次第に姿が見えなくなり、一つの線になりつつあるピチューの激しい動き。それに翻弄されるマルマインを落ち着かせつつ、声を荒げる。

 

 

 

「Goマルマイン!エレキボールだ!!」

『マァルゥゥゥ!!!』

 

 

「地面利用して防いでから急接近!!」

『ピチュ!』

 

 

凹凸の激しい地面を利用して放たれたエレキボールを躱す。そしてでんこうせっかのスピードのまま、マルマインの顔面へ接近していった。

 

目を見開き驚愕をあらわにするマルマイン。その目の前に向けてピチューは放つ。

 

 

「どくどく!!」

 

 

紫色の液体がマルマインに降りかかった。それは地面を少々溶かし、マルマインに激臭と鈍痛を引き起こすもの。時々マルマインの身体から嫌な臭いがしてくることによって、【もうどく】になったのだと思い知った。マチスは舌打ちを鳴らす。

 

 

「特攻だけじゃなくなったということかリトルガール!」

「そうですね!バトルの仕方は十人十色ですから!―――というわけでボルテッカー!!」

『ピィッチュ!』

 

『マァルゥゥゥ…!!』

「マルマイン!」

 

ボルテッカーによってマルマインは数センチだけ後退し、深い傷を負った。しかも毒状態のせいで体力は減る一方。その容赦ない攻撃の仕方にマチスはただ、感心する。

 

 

「これで最後よ!ピチューもう一度ボルテッカー!」

『ピチュ!』

 

「おっとそうはさせねえ!マルマインだいばくはつだ!」

『マァルゥゥゥゥゥ!!!』

 

「ちょっ!ピチュー攻撃解除してそのままジャンプ!!」

『ピ、ピチュッ!!!』

 

 

 

先ほどのゾロアークのはかいこうせんに似た大きな爆発と閃光が巻き起こされた。バトルフィールド内で激しい雷鳴が鳴り響き、発生した黒煙から吹っ飛ばされるかのようにピチューが宙を飛ぶ。

そのまま地面を数回バウンドし、仰向けに倒れるピチュー。ヒナは急いでピチューのもとへ駆け寄り、状態を見た。

 

ピチューは目を回し、身体のあちこちに焦げ目を残しつつ気絶していた。もちろんマルマインも同じだった。

 

 

 

「ピチュー、マルマインともに戦闘不能!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

――――自爆覚悟で【だいばくはつ】やるかな普通!?

 

 

 

そう叫びたい気持ちをこらえて、ピチューの入ったボールを撫でた。でもピチューからの反応はない。それは相当ダメージを負っているという証拠だろう。

 

 

「本当は…ピチューとリザードンの両方ともライチュウと戦わせたかっただけなんだけどね…」

 

 

交代させたのはライチュウとのバトルを皆でやるためのこと。でも、予想外なことが起きたためピチューは倒れてしまった。だからこれで最後の一手だ。

 

 

 

「行くよリザードン!あなたの本気を見せてみて!」

『グォォォォッッ!!!』

 

 

大きな地響きとともに漆黒の塊がボールから出現する。そして天井に向かって放つのはリザードンの気合十分な炎だ。そしてこちらを見つめ、しっかりと頷いた。

 

うんごめんね、最近バトルに全然出せてなかったもんね…。

 

 

「ハッハ!あのヒトカゲが進化したのか!」

『ライッチュゥ!!』

 

 

すでにライチュウをボールから出していたマチスさんは豪快に笑っていた。もちろんライチュウも同じように笑っている。

その表情は、決して私たちを油断しているわけじゃない。警戒はされているけど、楽しんでいるようにも思えた。

 

 

「それでは!ライチュウ対リザードンの試合を開始いたします!…試合開始!」

 

 

 

「かえんほうしゃ!」

「でんげきは!」

 

 

炎と雷撃が衝突し、四散した。やっぱりライチュウは強い。リザードンの炎と互角に見えて、ライチュウは本気を出していないのが手に取るように分かる。

 

 

「リザードン!ほのおのうずで閉じ込めちゃって!」

『グォォォ!!』

 

「でんこうせっかで避けろ!」

『ライッチュ!』

 

 

回避なんて絶対にさせない!!

 

 

「多重ほのおのうず!!」

『グォォォオォ!!!』

 

 

いくつもの炎の竜巻が地面を抉りつつ、ライチュウのもとへ接近する。大きくて強い炎の竜巻をでんこうせっかでよけきれなかったライチュウが、竜巻の中に閉じ込められた。

煙や焦げ臭いにおいが発生するけど、バトルフィールドではそんなのお構いなしでしょ?

 

 

「本気を見せてもらったぜリトルガール!だがそれでも俺たちを舐めるな!ライチュウ、ほうでんだ!!!」

『ライッチュゥゥゥ!!!』

 

 

耳をつんざくような大きな雷鳴が鳴り響く。目の前で明滅したかと思いきや、竜巻をすべて吹き飛ばすほどの衝撃ある雷撃を繰り出していった。

流れ弾のように、小さな電気をリザードンが浴びてしまうほどの勢いあるもの。まるでライチュウ自身が雷そのもののように見えてしまった。

 

竜巻から無事に解放されたライチュウは、拳を打ち鳴らし来いよというかのように挑発する。その表情は嘲りなど一切ない、純粋な闘争心だった。

 

 

「…うん。やっぱりすごいね…ね、リザードン」

『グォォォ!』

 

 

本当ならここから【えんまく】で防ぎつつ、細かく攻撃していく方がダメージが当たり、勝つ可能性が高いかもしれない。

でも、それは試合に勝ってバトルに負けたも同じようなもの。

 

本気でぶつかってくるなら、私たちもぶつかってみたい。そう思ってしまった。

 

 

「一撃に全てを込めようリザードン!」

『グォォォッ!』

 

「リトルガールがその気なら、俺たちも本気で挑まなくちゃだなライチュウ!」

『ライライッチュ!』

 

 

 

私のリザードンとマチスさんのライチュウが激突しようとしている。ピリピリとした空気に胸が切り裂かれるように痛い。早くなる鼓動が熱く、血の流れを直に感じ取れているようだ。

 

負けない。負けたくない。そんな気持ちがぶつかり合う――――。

 

 

 

「かえんほうしゃ!!」

 

「かみなり!!」

 

 

 

重々しい地響きがバトルフィールド内で炸裂した。黒い煙だけじゃない。本気で放った雷と炎が衝突し、竜が天に登るがごとく辛うじて残っていた天井を突き破り大きな噴火を巻き起こす。壁を破壊させ、暴風を起こし、何もかもを消滅させようとする技同士の衝突。

なんだか災害のようだと感じるけど、ここでバトルが中断させられたらたまったもんじゃないほどの威力だ。

 

 

もはや立つことも難しい状況の中、吹き飛ばされないように注意しながら踏ん張り、フィールド内の状況を見た。

 

 

 

 

 

 

『グォォォォォォッッ!!!』

 

 

 

 

――――激しい暴風が吹き荒れる中でリザードンが拳を突き上げ、勝利への咆哮と炎を空に放った。

 

 

 

それだけでもう、充分伝わった。あの時の思いが報われたのだと、私たちは笑いあった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ヒナの持っていたバッチを新しいものと交換する。再戦する約束は果たされ、見事勝利したからこそ与えられた名誉だった。

 

 

 

「マチスさん。本当にありがとうございました!」

「いや、こっちの台詞だぜリトルガール。それとバッチの交換に協力してくれてThank you」

「い、いえ!こちらこそ新しいバッチをありがとうございます!それと本当にごめんなさい!!」

 

 

 

思わずマチスに頭を下げるヒナに比べ、ヒビキは複雑そうな顔でそれを見ていた。

 

 

 

「おいヒビキ。ヒナは何故バッチを手にしていたというのに再挑戦したんだ?」

『ナゾナゾ?』

「さ、さぁー…」

「…おいヒビキ。貴様何か知っているんじゃないのか?」

『ナゾ!?』

「俺に聞かないでくれよ頼むから!」

「どういう意味だそれは?何かやましいことでもあるのか?」

『ナッゾォ!』

「あーあー!!!うるせえ!!」

「貴様の方が喧しい!!!」

『ナゾォ』

 

 

 

「ああもう!ちょっとあんたたち止めなさい!!」

「リトルガール」

「へ?」

 

 

相変わらず喧嘩する彼らを止めようと動くヒナに向かって、マチスが話しかけた。

 

その顔はバトル前とは違い、【穴ぼこだらけ】になり崩壊しきったクチバジムのようにとても清々しいものだった。

 

 

 

 

「これからどのジムにchallengeする気だ?」

 

「挑戦…ですか」

 

 

 

視線を斜め上に向け、考え事をするヒナ。だが、すぐに考えは決まったのか、にっこりと笑って答えてくれた。

 

 

 

 

「ジム挑戦の前に行かなきゃいけないところがあるんで、そこ行ってから考えます!」

 

 

 

 

 

 

 






バッチ取得数
ヒナ、3つ
ヒビキ、3つ
シルバー、3つ
全員、【ニビジム、ハナダジム、クチバジム】に勝利!



○●○●○●



さあこの話を読んだあなた!

次にタロー日記に出てきたクチバジムのお話をご覧くださいませ!






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第三十二話~奇妙なきっかけ~






しばらく続きを書かないといったな!それはこの話で最後だ!








 

 

 

 

「…ここが、ポケモンタワー?」

 

 

 

私達が来た場所はシオンタウンと言われる小さな町より外れにある高いタワー。

 

塔のように大きな建物は、薄暗くて不気味な雰囲気を醸し出しているみたいな感じ。リザードンとチルタリスに乗って一気に来たからまだ昼間だというのに、夕暮れのようにも見えてしまう。

 

 

 

「…なあ、マジでここに入るのか?」

「入るに決まってるでしょ。何がいるのか分からないけど…マサキさんの頼みはちゃんと聞かなきゃ」

「嫌ならさっさとシオンタウンに戻れ」

「うるせえ戻るかよ阿呆シルバー!!ほら、さっさと行くぞ!!」

「あ、ちょっと待ってヒビキ!」

 

 

ずんずん先を行こうとするヒビキ。扉さえ豪快に開けて、小走りのような状態で中に入っていく。

全く、もう少し慎重に行くっていう気持ちはないのかな?というか、ポケモンタワーはポケモン達のお墓なんだから騒いだら駄目だって…ああもう。

 

 

 

「シルバー。ヒビキを止めに行くよ!」

「…仕方ないな」

 

 

呆れたような顔でシルバーが歩き出してるけど…シルバーがヒビキを挑発したからああなったんだからね!!

 

 

 

「はぁぁ…」

 

 

 

前途多難とはこの事かもしれない。とにかく、ヒビキとシルバーが何かやらかさないうちに行かなきゃ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

ポケモンタワーの中に入ると、そこにあったのは並ばれたお墓と広い廊下。そして階段だった。お墓に手を合わせて泣いているトレーナー。花を添えてお墓に何かを喋りかけているトレーナー。たくさんの人たちが集まっていた。

 

でも、ヒビキは何処?あのちょっとの時間でどっかに行っちゃったのかな?

 

 

 

「おや、参拝客かい?」

「あ、ええと…はい」

 

 

話しかけてきたのは優しげな顔で笑いかけてくるおばさん。足元には鳴き声をあげず、静かに付き添っているカラカラの姿がいた。

 

 

「ん?もしかしてゴースかゴーストでも捕まえに来たのかい!それなら先に奥の間で手を合わせてから行きなさい。変なものに憑かれたくなかったらね」

「わ、分かりました」

 

 

捕まえに来たわけじゃないんだけど…でも、似たようなものかもしれないし、迷惑になるようなことをするかもしれないから必要かな。

そう思っていたら、横で話を聞いていたシルバーがおばさんに話しかける。

 

 

「手を合わせるだけでいいのでしょうか?」

「もちろんだよ。でも、心を込めてだね」

「そうですか、ありがとうございます…行くぞヒナ」

「あ、うん。あの、ありがとうございました!」

「いやいや、気にしなくていいんだよ。気を付けて行ってくるんだね」

「はい」

 

 

 

優しいおばさんに礼をして、廊下から先にある部屋に進む。扉を開けると、大きなステンドグラスが飾られていた。その手前には礼拝堂のような、立派な聖餐卓が置かれ。扉から聖餐卓までの間に椅子が綺麗に並ばれていた。

 

この聖餐卓で手を合わせれば良いのだろう。それも、これから何が起きるのか分からないから迷惑をかけてしまうかもしれないからすいません!と心を込めて。

 

 

「……」

 

 

 

横をちらりと見れば、シルバーが真剣に手を合わせていた。もちろん私も手を合わせて、謝罪込みで心を込めよう。

 

 

 

「…さあ、あの馬鹿を探しに行くか」

「うんそうだね」

 

 

 

先に突っ走ったヒビキを見つけて…それから変な悲鳴が聞こえると言う場所まで向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

―――向かおうと思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

『ヒナ!久しぶりだな!』

「あーうん。久しぶり」

『フシュゥゥゥ…旅に出て少し頼もしくなったようだな』

「そう…かな?」

『ミュゥゥ!』

 

 

 

現在、階段の天辺にある大きくて暗い部屋の奥に私とシルバーがいる。ヒビキを探し回っていたというのに見つからず、何故か目の前にいるのはミュウツーとミュウとダークライという異色のトリオ。

というか何でダークライここにいるの?

 

 

あと、シルバーの視線がとてつもなく痛いです。

 

 

「四年前と同じような状況だな…おいヒナ」

「ゴメン後で説明します」

「全部だぞ分かってるだろうな?」

「ハイ」

 

 

 

たぶん説教込みで話されそうな予感がする。リザードン達が励ますようにボールを揺らしてくれているけど、うん…大丈夫、ダイジョーブ。

 

 

 

「…ねえ、何で皆ここにいるの?」

『ああ。セレビィがジュプトル探しで溜まった鬱憤を晴らすために、悪戯し放題で皆を困らせていたゴースやゴースト達をぶっ飛ばしている真っ最中だ』

「どういうこと!!?」

『ミュッ!』

 

 

 

ミュウがあれを見て!と、指を指したのは部屋の一番奥。

黒いもやが霧のようにかかっていて見えにくいんだけど…え、待って…

 

 

「ねえシルバー。私の目は腐ってないよね?」

「ああ、正常だ」

「…ダークライ、あれって全部ゴースやゴーストなの?」

『…そうだ』

「ミュウツーは馬鹿かな?」

『おいどういう意味だヒナ!』

「うるさいミュウツーちょっと黙って」

『ッ! ヒナ!!』

「あーあー聞こえなーい!っというかあの状況作ったのってセレビィだけ!?」

『ミュゥゥ』

 

 

『レッビィィィィ!!!!』

 

 

 

 

セレビィは何故か身体の色がピンク色。そして技を駆使して無双している。逃げようとするゴースやゴースト達が技をまともに食らって、倒れ行く。

そして出来上がったのは黒いもやのような大きな山

なんだか可哀想な光景をみた気がする。

 

――あとこれ、マサキさんの言ってた悩み事ってセレビィのせいで出来たんじゃないのかな?

 

 

 

『フシュゥゥゥ…見よ、ゴースとゴーストがゴミのようだ!』

「無理して言わなくていいからねダークライ」

「…ピンク色のセレビィか。色違いの伝説は初めて見るが、なかなか能力も高そうだな。色違いとは個体値が高いポケモンが多いのか?」

「落ち着いてシルバー。そしてそのモンスターボールを離すのよ」

『怒りで力が勝っているんだろう。普段の奴なら俺よりも弱いな』

「黙ってミュウツー」

『ヒナ!?』

『ミュミュゥゥ!』

『っ! 貴様笑うな!!』

 

 

 

 

何だろう収拾がつかないや。というかツッコミが足りない。

 

ああもう、ヒビキ何処にいるのよ!!

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

気がついたらここにいた。

いや、【何か】に引っ張られてから、ここへ来てしまったんだ。

 

 

 

「小部屋?」

 

 

目の前にあるのは小さな机と窓のみ。横を見ても壁しかない。まるで誰もいない部屋かと思えるほど、閑散としている。

 

周りを見て気づいた。

明かりから避けるように影となった場所にいる、一人の女の子――というか、幼馴染み。

 

何であいつ白い服着てんだ?白い服というか、小綺麗なワンピース?

 

 

 

 

「なあヒナ。もしかして俺を驚かすつもりだったか?その手はくわねえぞ!」

 

「……」

 

「ところでシルバーはどうしたんだ?もしかしてあいつ、お化けが怖くて逃げたのか?」

 

「……」

 

「…ヒナ?」

 

 

 

何も喋らず、こちらをじっと見ているヒナが異様に気味が悪い。じっとこちらを見つめて、人形のように動かない。

 

 

――あれ?

 

 

 

「ヒナ、髪が長い…?」

「あら、やぁぁっと気づいたの?」

 

 

 

ようやく出した声はヒナと同じ。そして見た目もそっくり。

でも別人だ。

 

ヒナの髪の毛は肩までしかないというのに、目の前にいる女は腰まで伸ばしたロングヘアー。

まだヒナのリザードンが【ヒトカゲ】だった頃にしていた髪型にそっくりなんだ。髪型が違わなければ分からないほど、そのままの姿をしているんだ。

 

 

 

「…誰だ。ヒナの親戚か?」

「あいつのことなんてどうでもいいでしょう。あんなのと親戚なんて気持ち悪い」

 

 

 

蔑んだように笑う女。

 

 

その笑みを見て警戒心がぐんっと上がった。

ヒナを馬鹿にしている目が気にくわない。ヒナそっくりの姿でその笑みをしていることが気にくわない。

 

 

 

「てめえ、何で俺をここに連れてきた」

「一応の警告と、面白い話をするためかしらね?」

「はあ?」

 

 

女は影のあった場所から抜けて、白いワンピースをひらひらと舞わせながら俺のもとへ近づく。

 

 

「それは駄目」

「っ…」

 

 

懐からゾロアークの入っているボールを取り出そうとしたのに、女が俺の腕を押さえて笑った。

 

くそ、こいつ力が強い…!

 

 

 

 

「これから面白い革命が起きるわ。あなた達に誤解されて巻き込まれたくないから、私達は関与してないってこと、ちゃぁーんと、伝えてね?」

 

「あなた達って誰だ。伝えるって…ヒナにか?」

「さあ、それはあなたが決めることよ」

 

 

 

 

うふふっ、と妖艶に笑う女。

片腕はボールを取り出そうとした手を押さえ、もう片方は、俺の頬を優しく撫でる。

ヒナと同じ顔で変な表情をしているからか、何故か顔が熱いと感じた。

 

 

 

「おい頬を撫でんなってか、近い!!!!」

 

 

 

鼻がぶつかり合うぐらい接近した奴から必死に抵抗しているのに、女は面白そうに笑うだけ。

懐のボールがガタガタ揺れているのが伝わるけどどうしようもない。

 

女の息が肌に伝わった。くそっ…本当に近い、近すぎるだろ!!

 

 

 

「もう一つ、世界は交わろうとしている」

「はぁ?」

 

 

 

 

世界が交わるって何だよ!意味わかんねえよ!ってか近い!!!

 

 

 

「ふふっ」

 

「っ」

 

 

 

女は笑った。

でも、変な表情ではない。妖艶に笑うわけでもない。

まるでヒナ自身だと一瞬錯覚してしまうほどの微笑み。

 

あいつは、ヒナのように純粋に笑ったんだ。

 

 

 

 

「んなっ…っっっ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナそっくりの顔がさらに近づいて、睫毛がはっきりと見える位置にいることに気づいた。

 

 

 

 

柔らかくて暖かく――唇が何かに当たっているのに、気づいた。

 

 

ガタガタと揺れていたはずのボールが、唖然としたかのように、動きを止めた。

 

 

 

 

「ちゃぁーんと、伝えてね?」

 

 

 

 

小首を傾け、窓から外へ抜け出したヒナそっくりの女を追えなかった。

 

 

 

 

何も、出来なかった。

 

 

 

「あんにゃろ…っ」

 

 

 

 

何でキスしやがったんだ、ふざけんな…!!!

 

 

 

 

 

 

 



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第三十三話~変異と改変~





ごめんなさいこれだけは書きたかったんです…。







 

 

 

 

ゴースやゴーストたちの治療を終え、彼らに礼を言われつつ、どうやらセレビィを恐れているようで必死に逃げ去っていった暗い部屋。

 

 

 

 

「え、セレビィって異世界から来たの!?」

『ビィ』

『そうだと言ってるぞ』

 

 

ミュウツー翻訳のもと、頷いたセレビィに目を瞬かせる。

異世界と言ってもモンスターボールがない世界。都会という存在は全くなく、豊かな自然の中で人間とポケモンが共存し、まさしくNさんが望んでいた世界から来たそうだ。

 

それに、セレビィの性別がピンク色の身体に似合う女の子だそうで、かなり気が強く何度かミュウツーたちに怒っている様子が見てとれた。

ミュウツーやダークライは暇だから仕方なく付き合っていると言っていたけど――――ポケモンって気楽でいいねと思ったのは内緒にしておこう。

だからミュウ、こっち見てクスクス笑わないでね?

 

 

横で話を聞いていたシルバーが顎に手を当てて、真剣に考えている。

 

 

 

「別の世界というのは本当に存在するものなのか?」

「う、うん。一応はあるみたいだよ…ね、ミュウツー」

『泣き虫サトシの話は止めろ』

『ミュッミュッミュッ!』

『笑うなキサマァァ!!!!』

 

「ヒナ、泣き虫…サトシさんとは一体…」

「前にミュウツーがディアルガたちとの喧嘩に巻き込まれて別世界に行っちゃったことがあってね…そこでいろいろと世界が破滅しそうなお兄ちゃんを見た…というわけ。私も前に一度イッシュ地方にいた時、別世界から来たお兄ちゃんたちを見たことあるから嘘じゃないって分かるよ」

 

 

…ん?あれ、なんで唖然としてるのシルバー?

 

 

 

「お前…本当に一般人じゃなくなったな」

「それどういう意味よ!?」

『フシュゥゥゥ……諦めろ』

「いやシルバーの援護しないでよダークライ!」

 

 

私はただのマサラ人だって何度も言ってるのに、シルバーは悟ったような顔で聞き流すし、ダークライも同じ感じだし。

というか、なんかシルバーとダークライ仲良くなってない?

 

 

 

『ビィィ!』

 

 

―――ちゃんと私の話聞きなさいよ!

 

 

 

 

というかのように、セレビィが私たちの頭を軽く叩いた。ミュウツーは叩かれてやるものかと手で振り払ってたけど、ミュウが援護して何度も力強く叩かれている。

そんな光景に同情しつつ、私は満足げに微笑むセレビィに話しかけた。

 

 

 

「えっと…なんで異世界からセレビィがこっちに来たの?」

『ビィビィ』

『ふむ。どうやらジュプトルが関係しているらしいとのことだ』

「ジュプトル?」

『ビィィ!』

『【私の世界では彼は英雄よ!】…そういう意味で聞いたわけじゃないと思うぞ』

「英雄?」

 

 

シルバーが首を傾ける。

 

 

『レッビィィ』

『【ジュプトルさんは世界を変えたのよ。崩壊していく世界を動かしてくれたの】と言っている』

「えっと…つまり、そのジュプトルのおかげで世界が救われたから英雄ってこと?」

『ビィ!』

「ほう。ジュカインに進化できないレベルで世界を変えた英雄と言うことか。いや、進化できるが進化しようとしなかったのか?だとしたら技構成は一体…」

「シルバー、ジュプトル育成論についてここで考え込むのやめてね」

「……ああそうだな。考えるなら直接会ってからだ」

「それもそれでどうなの?」

『レビ!』

『【ジュプトルさんに会ったら教えてね!】だと』

「ええ分かったわ。でもなんでセレビィはジュプトルを探しにこっちに来てるの?」

 

 

何となく気になっていた。異世界のセレビィがジュプトルを探していると言うこと。英雄と呼ばれているらしいジュプトルに何があったのか、何故セレビィは探しているのか。

 

セレビィは私たちの周りをくるっと回って、話しかけてくる。

 

 

 

『ビィィ』

『【世界に突然穴が開いたの】だと?おい、それは俺たちも知らない話だぞ』

「ん?穴が開いた?それは物理的な穴なのか、それとも何かヤバいものなのか?」

『…詳しく説明してくれ』

 

 

ミュウツーがセレビィを睨みつけた。もちろんダークライもだ。

 

その後説明していくセレビィの話し声は長く、言葉が分かるミュウツーたちは険しい顔で聞いていた。ミュウは相変わらず楽しそうだけれども。

 

 

『…【世界と世界に穴が開いて道が作り出されたのよ。異世界への道がね。まだどうなってるのか分からないけど、ジュプトルさんはそれを調べるためにこっちに来たわ】といっているが…だからシンオウ地方が騒がしかったのか?』

『ビィ』

「え、シンオウ地方?」

『フシュゥゥゥ…ああ、何故かポケモンたちがパニック状態になっていた』

 

「なるほど。ヒナ、コウキが言っていただろう?あのアルセウス統括のことだ」

「ああ、あれね!!」

 

 

 

シルバーに言われて思い出したのはコウキさんの言葉。

ギラティナがどこかへ行き、アルセウスが反転世界を代わりに管理して、シンオウ地方を統括しているらしいこと。もしかして世界に穴が開いたのがギラティナ失踪の原因だったりするのだろうか?

というか世界に穴が開くってヤバくないのかな?いや、アルセウス達が動き出しているから大丈夫な気もするけど…。

 

 

 

「それで…なんでセレビィがジュプトルを探しに来たの?」

『ビ、ビィィ!レッビィ!』

『………』

『レビレビィ!』

「え、何言ってるのミュウツー?」

 

 

 

突然頬を赤く染めたセレビィが何かを叫んでいる。でもミュウツーは微妙そうな顔で何も言わず、ダークライは呆れている。そしてミュウは笑って…どういうことなの?

 

 

 

「ねえミュウツー、セレビィは何を言ってるの?」

『…いや、ツンデレ口調でジュプトルを心配しているだけ―――ブフォッ!』

『レッビィ!!!!』

「…ああ、今のは分かった。【誰がツンデレよ!!!!】…でしょ?」

『フシュゥゥゥ…ああ、ちゃんと合っているぞ、ヒナ』

 

 

 

小さな頬を膨らませ、顔を赤く染めているセレビィはなんだか恋する乙女のような気がする。たぶんジュプトルが心配で追いかけてきたんだろう。可愛い。

頬を赤くした状態でミュウツーをぶん殴った力は少々恐ろしいけれど、それでも照れ隠しにやったならかわいい。ミュウツーが殴られるだなんていつものことだし。

 

 

 

「…で?」

「え、どうしたのシルバー?」

「結局のところ、マサキさんが頼み込んできた原因である変な声はセレビィ達の仕業でいいのか?」

『なんだそれは』

『ビィ』

『ミュゥゥ?』

 

「あーっと…ここで咽び泣いているような声って聞こえてきたことある?」

『フシュゥゥゥ…今はもう聞こえないな』

『ああ、ゴースやゴーストたちはいなくなったからな。聞こえなくなったぞ』

「……ああ」

 

 

納得したような顔をするシルバー。思わずため息が出るのは仕方ないことだと思うけど。

 

うん。これで決定したね!

やっぱりセレビィ達の仕業だった!というかマサキさんこれ放っておいても大丈夫だったんじゃないのかな!?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

セレビィ達はそのまま一度シロガネ山にいるお兄ちゃんのもとへ行くと言って飛んで行ってしまった。その姿を見送ってから、ポケモンタワーの出入り口に戻る。

 

そこで見つけたのは見覚えのある後ろ姿。

 

 

 

「…あ!ヒビキ!」

「なんだあの馬鹿。怖くて逃げだしたんじゃないのか」

「こらシルバーそんなこと言わないの!ねえヒビキ、どこへ行ってたの?…ヒビキ?」

 

 

「…………別に、なんでもない」

 

 

 

こちらを決して見ようとせず、顔を俯かせているヒビキの様子がおかしい。シルバーの挑発にも乗らないのおかしいし、いつもの元気な様子でさえないのも変。

 

気のせいだろうか?顔色が信号のように赤と青と行き来してるみたいなんだけど…え、大丈夫なの?

 

 

「どうしたのヒビキ?具合でも悪いの?」

「…清めの塩でも買ってくるか?」

「え、呪われたの!?大丈夫ヒビキ?」

 

 

顔を覗き込もうとしたら避けられる。手を伸ばして肩に触れようとしたら拒まれる。ヒビキがここまで拒絶したのって小さい頃以来なんだけど。本当に何があったの?

 

 

 

「………………悪い。俺、もう行くから」

 

 

「は?」

「え、ちょっと…ヒビキ?!」

 

 

駆け出して行ったヒビキを追いかける私とシルバー。でもヒビキがゾロアークをボールから取り出して、イリュージョンで姿を消されてしまったことで見失ってしまった。

ボールから出た時のゾロアークの表情が、ニヤニヤした悪そうな笑みだったんだけど…何だったの?

 

 

「チッ…逃げたか」

「ヒビキ…どうしたのかな?」

「奴のことだ。腹が痛いだのゴーストたちに悪戯されて怖い目に遭っただの何かわけがあるに決まってる」

「…うん。それにしては表現がやけに辛辣だねシルバー」

「そうか?」

 

 

何かあったのは確定だろう。

でも当の本人には逃げられてしまったから聞くことはできない。

 

 

「…旅してたらいつか会えるよね?」

「だろうな。現に俺たちもニビシティで別れたというのにまた会えた。だから必ずどこかで会えるさ」

「ええそうよね」

「その時ははかいこうせんで逃げ道を防いでから直接話をきいてやるがな」

「そういう物理的な行動は控えなさい!」

 

 

ため息をついた私に、シルバーは何も言わず肩をすくめる。そして私が歩き出そうとしていた方向とは違い、真逆の道に身体を向けた。

 

 

「ヒナ、ここでいったん別れよう」

「え?」

「俺はもう一度あのポケモンタワーへ行ってゴーストを捕まえてくる」

「あー…分かった。でも無茶はしないでよ!あとはかいこうせんは駄目だからね!」

「…………ああ」

「その一瞬の間が怖いからやめて!」

「分かってる」

 

 

何度も頷いたシルバーを見てちょっとだけ安堵。やらかさないようにしてほしいから気を付けてほしいな本当に。

 

 

 

「じゃあまたな」

「うん。またねシルバー」

 

 

 

 

ひらひらと手を振るシルバーの後姿に、こちらも手を振って応える。

シルバーはポケモンタワーの中に入っていった。ゴーストを捕まえるために。

 

 

 

 

 

「…さて、バッチ集めに戻りますか!」

 

 

 

あとナゾノクサ育成よね!

 

 

 

そう思いつつ、歩き出した私――――の背中をひっかけるように何かが通ってきた。いや、飛んできた?

 

 

 

「っ?!」

 

 

 

 

真下を見るとシオンタウンが遠ざかるのが見える。帽子を斜めにし、真上を見れば大きなポケモンがいるのが見える。

突風のように吹く風が寒いと感じるのはなんで?なんで私は空を飛んでるの?

 

 

 

 

 

『ギャォォオォォォッッッ!!!!!!』

 

 

 

 

「なっ?!」

 

 

 

 

 

 

なんで私、オニドリルに運ばれてるのよ!!!!????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「キヒヒヒヒっ」

 

 

 

 

 

部屋の中で気味の悪い笑い声が響いてくる。その声はポケモンの鳴き声のように聞こえてくるが、実はそうじゃない。

 

 

 

 

「もうすぐ…もうすぐで完成だ…ヒヒッ」

 

 

 

 

 

何かを忙しく動かす手は人間の手。目をぎょろりと動かし、目の前にあるソレを見つめている。

 

 

 

 

「あとは、これを作動させるカナメが必要だなぁ…」

 

 

 

 

下卑た笑いを浮かべていた奴は、小さなテレビを見て興奮しだした。

 

 

 

映しだされている映像には、傷つき倒れている少女の姿がそこにあった。

服の上から斬り刻まれたかのような傷跡が酷く残っている少女。火傷や注射器の痕も残っているようでかなり酷い状態だ。

 

 

少女は必死に何かを見て、手を伸ばしていた。歩くことさえできないほどの傷を負っていても、諦めようとしない。

 

そんな少女が手を伸ばす先を見て、奴は笑っていた。

 

 

 

 

「もうすぐ…もうすぐだ ヒィッヒヒヒヒヒッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

伸ばした先には――――ジュプトルの石像があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

突然すぎた。というか、急になんだいきなり。

 

 

 

 

 

「どうもこんにちは」

「はぁ。こんにちは?」

 

 

 

 

こんにちはというか、こんばんはの時間帯じゃねえのか?

 

 

 

 

「あの…何の用でしょうか?」

「いえ実はですね…あなたの脳をいただきたいのですよ」

 

 

 

 

 

「は?―――――ッッッ!!!???」

 

 

 

 

 

ハメられたのはよくわからない形状の物。

 

 

奇妙な音と共に、明滅しだす視界と動かなくなる頭の中。

 

 

 

 

 

「これで、この町の殲滅は終えましたかね?」

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは奴の声。

 

 

 

 

「おやおや…あなたは天候を有利に動かすポケモン使いですか。これは良い頭脳が手に入りそうだ」

 

 

 

 

 

ニヤニヤ笑いだす声のあと

 

 

 

 

 

 

―――――何もわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十四話~暗躍とフラグと~



始まり、動きだした。






 

 

 

 

 

 

 

部屋の中はやけに静かだ。周りには机と柔らかなソファのみ。机には香りが良い紅茶が置かれていたが、男はそれを口にしない。

 

ただじっと、目の前にいるアポロを見つめているだけだ。

 

 

「世界は…今まさに改変されようとしていることを知っていますか?」

 

 

 

アポロは目の前の男に問いかける。

 

 

 

「この四年もの間、世界のいたるところで亀裂が入りました。数十年もの間に伝説が暴れたのですから仕方ないことでしょう」

 

肩をすくめるアポロが思い出すのは、あのポケモンマスターであるサトシが解決していったトラブルの数々。

伝説であろうとも殴り飛ばすその威力は、どうやら世界を歪ませてしまったのだろうと嘲笑った。

 

 

「亀裂は別世界への道を開き、新たな文化が舞い込もうとしているようですよ。昔々の…数百年前の歴史と似たようにね」

「歴史か」

「ええそうですよ。数百年前、世界は裏側を管理するギラティナと呼ばれるポケモンを自由にさせていた。遺跡によると、そのせいで一度、世界は崩壊しかけたとか」

「その話なら知っている…わたしはそこの出身だからな」

 

「ええ、そうでしょうね。あなたほどの男ならもしかするとギラティナに会っているかもしれない」

 

 

 

皮肉げに言われた言葉を男は静かに流した。否、どうでもいいとばかりに自嘲したのだ。

そして、アポロの目をじっと見て、何が言いたいのか視線で問いかけようとしてくる。

 

 

アポロは目の前に置かれた紅茶を飲み、ゆっくりと話し始める。

 

 

 

「亀裂は世界に新たな混乱を生みます。その混乱に乗じて私たちは動くのですよ」

「何故?」

「世界の改変を、私たちが操りたいからです」

 

 

操りたいと言った言葉に嘘はない。

今行おうとしていることも、トレーナーやポケモン達にとって予想外なこと。

 

新生ロケット団は脳を集めていた。トレーナーや手持ちであるポケモン達の脳。戦うための知識とその才能を奪い取り、手中にしている真っ最中。

 

それはまさに世界が変わろうとする革命だと、アポロは考えていた。

 

 

「私たちはあの憎いポケモンマスターを潰すために動いている。あなたも私たちと同じ被害者なのですから、一緒に協力しませんか?」

 

 

 

目の前の男はアポロの考えが分かったのか、頷いてから口を開く。

 

 

 

「…何をすればいい?」

 

「フーパと呼ばれるポケモンを捕まえてきてください。あのポケモンは様々な伝説を取り出すことのできる興味深いポケモン―――そのフーパの脳を取り出すには…外ではまだ難しいことですから、捕まえるだけでいいですよ」

 

 

アポロが内心で舌打ちをして思い浮かべたのは眼鏡をかけた奇妙な髪型をするアクロマという男。あいつは機械を軽量化することに興味はなかった。

軽量化すればどんな場所にいても脳を取り出すことが可能になるのにやつは拒否した。

 

だから、別の手段を考えているのだが、思ったようにいかない。

それが唯一、アポロの心を苛立たせた。

 

 

 

「フーパは今どこにいる?」

「シロガネ山…あのポケモンマスターがいる聖地です」

 

 

男は顔を歪ませた。それを見たアポロは軽やかに笑う。

 

 

「まともにポケモンマスターにぶつかってもらうつもりはありませんよ。今はまだ準備だけでいいです。合図を送ったらすぐに行動を開始してください」

「…合図とは何だ?」

 

 

ニヤリと笑ったアポロに、男は寒気がしたように錯覚する。

 

 

 

「大きな歯車をぶっ壊すだけの話ですよ」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

「何なのよもう!」

 

 

オニドリルがギャアギャア喚き、ヒナの背中を食い込ませようとしてくる。その勢いは止まらない。

もしかしたらヒナのことを餌だと思って狙ったのかと思えるほど、口から涎を出して鳴いているのだ。

 

 

『ギャォォォァァァ!!!!』

「くっ…リザードン!」

『っグォォ!!!』

 

 

懐のボールからリザードンが飛び出してきてヒナの身体を優しく掴み、オニドリルの身体に向けて強力な炎を放つ。

 

オニドリルが嫌そうな声を出してヒナを離した。リザードンがヒナを背中に乗せ、奴を睨み付けるが、オニドリルは諦めてないらしい。

 

 

「っ リザードン!かえんほうしゃ!」

『グォォ!!』

 

 

勢いよく出てきた炎に半分もの翼が燃やされるが、オニドリルは怒りでリザードン達の方へ突っ込もうとする。

 

それを見たヒナが笑った。

 

 

「えんまく!」

『グォォゥ!!』

 

 

勢いよく放たれた黒煙に顔を突っ込ませたオニドリル。そんな奴から猛スピードで離れていったヒナのリュックサックはボロボロになっていたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

――これは仕方ないことだろうとヒナは決意する。

 

 

 

 

「ヤマブキシティに行こう」

 

『グォォ』

『ピチュゥゥ…』

『ナゾォ?』

 

 

リュックサックがボロボロになってしまったから、ここから近いヤマブキシティになら何かあるだろうとの判断だ。

 

もちろん、旅に出るトレーナーが多いこの世界では、どんな町にもリュックサックを売る店は多い。

マサラタウンのような田舎であっても、町の人間に事情を説明すれば譲ってくれるくらい、必要不可欠なものとなっているからだ。

 

 

 

旅の必需品は全てなくなっていないけど、傷薬が数個消えていることにヒナは気づき、それだけで良かったと安堵した。

 

 

「これは裁縫道具が必要になるかなぁ」

『グォォ?』

「もしも山道とかで破けたとしても一時的になら大丈夫になるかなって思ってさ」

『ピチュゥゥ!!』

「うん。今度はちゃんと買うよ」

『グォォ』

『ナゾ!』

 

 

 

リュックサックに入っていた物を、何故か入っていた風呂敷に並べていった。

 

 

 

 

「バッチや図鑑がなくなったら大変なことになってたよね…はぁ」

『グォォ…』

『ピチュピチュ』

『ナッゾォ!』

 

 

 

 

もしも、バッチや図鑑がなくなったとしても、申請すれば問題はない。でも手続きが面倒だからやりたくない。

 

 

そう思いながら、ヒナは中身をもう一度確認していく。

 

 

 

「えっと、傷薬は2個、毒消しと麻痺直しは5個…図鑑とバッチはオッケー…あと、」

『グォォ』

 

 

リザードンに手渡された服に笑顔で受けとる。

 

 

「うんありがとうリザードン。服と下着と…えっと、モンスターボール――ん?」

 

 

 

 

 

何かいる。

 

 

並べてあったモンスターボールは何も入っていないものばかりだ。

 

なのに、1つだけ、何故かゆらゆら揺れている。

 

 

 

 

「…んん?」

『ナゾォ?』

 

 

 

ヒナとナゾノクサが同時に首を傾けた。

 

 

 

 

いつの間にボールにポケモンが入っていたのか…捕まえた覚えはないのに何でだろうか。

 

 

 

「開けてみようか…」

『グォォ』

『ピ、ピチュ』

『ナゾ』

 

 

 

 

 

ゆらゆら揺れているボールを小さく投げる。

 

 

 

開かれたボールから出てきたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

今はここにいないヒナにヒビキ。元気にしているか?

あ、シルバーはどうでもいい。

 

 

 

私はいつものように、元気に怯えているぞ。

 

 

ん?何で怯えているのかだって?

 

 

だって目の前で伝説と呼ばれるポケモン達を、師匠であるサトシさんが拳だけで地に伏せさせているのだから。

 

 

 

「んで?夜中、急に来て騒いだあげく、ゴローニャのいわなだれ連発によって野生のポケモンが半分埋まったことに対しての謝罪は?」

 

『ビィィ…』

『フシュゥゥ…すまなかった』

『ミュゥ』

 

 

『…ふん』

 

 

 

ああ、これは死ぬな。

 

 

 

「ミュウツーてめえは反省してないってことでいいんだな?俺のポケモンによる阿鼻叫喚行きで良いんだな?あ゛ぁ?」

 

 

『っ! す、すまなかった』

 

 

 

ああ、さすがに師匠のポケモン達による連続攻撃な【阿鼻叫喚】行きはミュウツーであろうとも辛いか。

まあ、私もあれは伝説でも死ぬようなものだって分かってるから素直に謝って良かったと思うけど…。

 

でも夜中に起こされたことに関しての八つ当たりはミュウツーで決定したも同じだな。

 

師匠って意外と横暴だから。

 

 

 

 

「ふふ。サトシってば楽しそうね」

「…そう見えますか?」

 

 

「ええ。だって私はサトシの妻だもの」

 

 

 

セレナさんは左手の薬指にある指輪を撫でて、幸せそうに笑った。

 

 

 

 

 






問題、モンスターボールには何が入っているかな?




答え、ポケモン






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ユウキ君とアチャモたん




ホウエン地方は平和なものである。







 

 

 

 

 

映像の中に映されているのは、純白のシーツを頭にかぶり、小さな幽霊ごっこをするアチャモたんの姿。でもそのシーツからふわふわで温かそうなお腹が見えているし、パーフェクトな魅力が隠れきれていない。

 

 

 

 

それが良い!

 

 

 

 

 

「はぁぁ…アチャモたん今日もきゃわゆい」

 

『チャモォ?』

 

「ああ!その小首傾けた姿もいい!そのまま止まって!写真撮ってネットに投稿するから!」

『アチャァ!!』

「ふぉぉ。アチャモたん今日も輝いてるよ!!!」

『チャッモォ!』

 

 

 

―――ふふん。私ってばかわいいでしょ?ネットにいっぱい見せて皆に私の素晴らしさを教えてあげなさい!

 

まるでそう言われているかのようだ。この小悪魔め!でもそれがアチャモたんの魅力なんだから断然いい!

 

 

「アチャモたん。目線お願いしまーす!」

『チャモ』

 

 

小首を四十五度傾け、目をキラキラさせながら羽をぶわりと膨らませる。さすが相棒!俺の心にグサッっと来るね!

 

そんな可愛らしいアチャモたんの魅力のせいで、カメラの連射が止まらなくなった。むしろ撮った写真すべてパソコンに送ってネットに俺のアチャモたんの素晴らしさを全部投稿してやろう!だからたくさん写真撮る!!見てろよネット住人ども!

 

 

 

『チャモォ!』

 

 

 

アチャモたんってば、くるりと一回転してウインクしたぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

「ふぉおぉぉ!その顔可愛いよアチャモたん!天使か君は!?」

 

 

 

あああああああああアチャモたん!小悪魔なんて言ってごめんね!君は天使だよ!!そのドヤ顔もかわいくて天使だ!!むしろ女神さま!!!

 

 

 

 

―――――ドタドタドタドタッッ

 

 

 

「あ、くそ…来やがった」

 

 

 

大きな足音のせいで良い気分が台無しだ。

 

 

ここで籠城したとしても、奴は己の手持ちを使って部屋の中に入ってくるだろう。アチャモたんが怪我しないように奴が来ることを想定し、鍵は開けっ放しだけれど、なるべく来てほしくはない。

でも来やがった。ドアを盛大に開けて俺のテンション急降下させやがった。

 

 

 

「ユウキくん!いい加減にするかも!」

 

「うるせーよハルカさん」

 

 

 

肩を怒らせ、ぷんぷんしているのは近所に住んでるハルカさん。

カチューシャのような大きなリボンを頭に着け、頬を膨らませているハルカさんは一般人から見れば10人が10人、可愛いと思える容姿をしているらしい。

 

16歳という若さなのに胸がかなり大きいし、スタイル良いし、性格も人懐っこくて明るい。それに誰もが憧れるプロのコーディネーターだから、たくさんのファンがつくのは仕方ないことだろう。

 

 

まあ俺はアチャモたんがいればそれだけでテンション上がるから全然魅力に感じないがな。

というか年上は論外なので俺の心に響かない。アチャモたんのようになってから出直せ。

 

 

 

 

「というわけで俺の聖域から出て行ってくれない?」

「何が聖域よ!自宅の部屋に引き籠っているだけでしょう!?」

「引き籠ってない!アチャモたんがバトル嫌いだからバトルできないように匿ってるだけだ!」

「それが引き籠ってるっていうのよ!」

 

 

『チャモォ』

「ふわぁ!アチャモたんその顔良いね!」

「こら!私の話聞きなさい!!」

 

 

 

ハルカさんうるせー!

 

アチャモたんが珍しく呆れたような顔でこっち見てるんだから写真一枚ぐらい撮らせろよ!

 

 

 

「もう!私の後輩なら外で活躍したらどうなの!」

「嫌だ!俺はここで一番を目指すんだ!!!」

「パソコンでアチャモたん日記を投稿してるだけでしょう!?」

 

「日記じゃない!アチャモたんの魅力を全世界に投稿しているだけだ!!」

「そういうのはコーディネーターとしてプロ活躍してから言いなさい!!」

 

 

コーディネーターになりたいという思いはあった。でもそれはポケモンの魅力そのものを最大限に引き出せる場だからこそ思えた夢なだけ。

夢とは淡く消え去る小さな願いのことだと俺は考えている。それに頑固コーディネーターになりたいって言っても、今は自宅からでもコーディネーターもどきのことはできるし。

ハルカさんに頭を叩かれたけど、俺は諦めないぞ!

 

だって―――。

 

 

「アチャモたんはバトル嫌いなんだから仕方ないだろ!!!」

 

 

そう、アチャモたんは【バトルが大っ嫌いなアチャモ】なのである。走った勢いで頑丈な本棚を壊しちゃうぐらい【やんちゃな性格】なのに、何故かポケモンバトルが苦手。いや、苦手というより大っ嫌い。

そういう厄介な部分があるポケモンを、俺はオダマキ博士からいただくことに成功した。

 

 

 

だから俺は外に出る意味はない。それでオッケー。

 

 

 

「ユウキくんが外に出たくないだけでしょう?嘘つかない方がいいかも!」

「う、嘘なんてついてないし…」

「はいダウト!!!」

 

 

 

ハルカさんが俺の頭を拳でぐりぐり抉ろうとしてくるんだけど、でも俺は諦めないから!

 

 

「アチャモたんの魅力がここから世界に広まるなら俺はこれでもいい!自宅で夢を掴んでやるんだから!!」

『チャモォ?』

「あああアチャモたんマジアチャモたん!!俺の嫁になってぇぇ!!!!」

『チャッモォ?』

「ふぉぉおぉぉ!!!!」

 

 

 

アチャモたん可愛い!マジ俺の嫁可愛い!!

俺の顔を覗き込もうとして上目遣いをする仕草がアチャモたんに似合ってる!可愛い!もう可愛いの代名詞はアチャモたんで決まりだ!

 

 

 

「ああもう…楽に夢を掴めるならそれでいいかも…でも、あなたの夢がただのトレーナーならの話よ!コーディネーターになりたい夢なら私が先輩として全部教えて上げなきゃなんだから家から出なきゃ絶対駄目!!」

「楽に夢を掴めるならそれでいいっていったじゃんか!!」

「トレーナーだったらの話よ!」

「じゃあ俺トレーナーになる!!」

 

 

「ふざけたこと言わないで!あなたはコーディネーターとしての才能があるのに……自宅からコーディネーターになるなんてことは絶対にできないわ!!それにバトル嫌いに関してもトレーナーの腕次第で克服することは可能よ!だから外に出なさい!」

 

 

 

 

大きな胸を揺らし、それを強調するかのように胸を張ったハルカさんがにっこりと笑う。

 

 

 

…けど、それってただ俺を外に出したいだけの話なんじゃないかな!!!?

 

 

 

 

「俺はここから外には一歩も出ないからな!自宅でアチャモたんと過ごしていくんだ!」

 

「…そう?」

 

 

 

ボールを掴んだハルカさんが、笑った。

 

 

 

 

「こういう時は…そうね。サトシのように お は な し しなきゃよね?」

 

 

 

 

ああああ俺の肩掴むなよ!

アチャモたんとここで天国築くんだから俺はここで過ごしたいんだ!!バシャーモ出して脅かすな!ポケモンマスターの名前出すな!!!

 

 

 

 

「俺は旅になんて出ないぞ!!ここでアチャモたんと一緒に過ごすんだぁぁあ!!!!」

 

 

「そういう生意気発言はマサト達のように旅に出てから言う言葉かも!!」

『バッシャァァ!!!』

 

 

 

『チャモォ』

 

 

 

 

アチャモたんの可愛い声が聞こえたというのに、ハルカさんのせいで台無しだ!!!

 

 

 

 

 

 

 



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第三十五話~謎は謎を呼ぶ~







「…この先、ヤマブキシティは通行止めです。申し訳ありませんがあちらの道を使い、迂回してからお進みくださいませ」




「そうですか。なら私たちはあちらの道を進みましょうかね」
「…あいつの指定した道じゃなくていいのか?」
「おや、観察不足ですねぇ…あんなの道じゃありませんよ」
「へぇ?」
「ふふ…さあ、我々は彼らの描く脚本を楽しむ観客となりましょうか」
「あー…酷かったら酷評してやるレベルの観客か?」
「その時は私が脚本を書きますよ…まあ」



「…この先、ヤマブキシティは通行止めです。申し訳ありませんがあちらの道を使い、迂回してからお進みくださいませ」




「…壊れた機械ほど不快なものはないですがね」
「ならアンタが治したら?」
「魅力的なモノだったら即行でやっていたでしょうね…きっと」
「ふーん?」



「さあ、行きますよ、クロ」
「へいへい。あんたについていきますよ…地獄の果てまでな」






「…この先、ヤマブキシティは通行止めです。申し訳ありませんがあちらの道を使い、迂回してからお進みくださいませ…この先、ヤマブキシティは通行止めです。申し訳ありませんがあちらの道を使い、迂回してからお進みくださいませ…この先、ヤマブキシティは通行止めです。申し訳ありませんがあちらの道を使い、迂回してからお進みくださいませ」





「本当に…気味の悪い、可哀想なモノだ」












 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから俺とセレナは山を降りる」

「は、はい」

「だからクリス、お前は一人で修行をしていろ」

「はい!……はい?」

 

 

クリスが首を傾けたことにニヤリと口角を上げた。それなりに驚かせるであろう計画は成功したと思えたからだ。

 

チコリータやプリンを両端に座らせ、クリス自身は正座した状態の前に仁王立ちするサトシ。

彼は一つのナイフを彼女の目前にある地面に突き刺した。

 

 

「…これからシロガネ山の下降まで一緒に向かう。その後クリスはこのナイフ一本で【ここ】まで帰ってこい」

「え、待ってください。もしかして一人でやらないと駄目なんですか!?」

「そうだ。ポケモンの力を借りずに一人でここまで帰ってこい。そしてチコリータにプリン、お前達はフシギダネ達と特訓な」

『チコォ!』

『プリィ』

 

 

 

「無茶ですよ師匠!だってこのシロガネ山にポケモンなしで登るだなんて…」

 

 

いくらなんでも無謀だとクリスはぼやく。シロガネ山のポケモンは山の過酷さゆえに力が強く、保護区として人が滅多に来ることの出来ない様々な難所が待ち受ける。

 

ポケモンの絆がなければ出来ないことを、ナイフだけで成功させろと言うサトシの言葉は無謀そのものだとクリスは考えていた。

 

 

 

「じゃあやめるか?」

「っ…それは」

「お前に足りないのはポケモンの絆だけじゃない。その事を学ぶためにこの修行をやろうと思ったんだが…やりたくないならここで何もせず待つしかないな」

「……」

「やる気がないなら旅に戻るという手もあるが。俺としてはここまで頑張ってきたんだから最後まで頑張ってほしいと思ってるぜ」

 

 

ふぅ…と、わざとらしくため息をつくサトシにクリスの頬が引きつる。

もちろんチコリータやプリンも立ち上がって『大丈夫っすよ!クリスなら出来る!』や『ここで気合いを見せなきゃ女として廃るわよぉ!』と、応援を見せた。

 

 

「…その修行は、私にとって必要……なんですよね?」

「そうだな。強くなりたいなら必要なことだ」

 

「…ってやる」

「なんだ?」

 

 

「やってやりますよ!!そしてシルバーよりも強くなる!あの野郎をボコボコにするまで私は諦めない!」

『チッコ!』

『プリィ!』

 

 

 

拳を振り上げ、高らかに叫ぶクリス達。

その表情に満足げなサトシは、後ろで見物していたゼニガメを呼び寄せ、共にニヤリと悪どい笑みを浮かべる。

ゼニガメがサングラスをかけて笑っているから、犯罪者のようにも見える笑みだろう。

 

 

 

「もしも俺よりも先にゴールしたなら、一つだけ褒美をやるよ」

『ゼニィ』

「褒美を…?」

 

 

「ま、それは帰ってからのお楽しみだな!クリスが俺より先に帰れる保証もねえことだし」

『ゼェニ』

「むっ…絶対に帰ってやる!」

『チコリ!』

『プリ!』

 

 

 

 

頬を膨らませたクリスに内心で笑いながらも、サトシは外へ行く準備を始める。

 

 

 

「…サトシ」

「おう」

 

「ねえ…この子も連れてく?」

 

 

 

「あぶぁ~」

『…ニャ』

 

 

 

近づいてきたセレナの傍には、二つの小さな生き物がいた。一つはセレナの肩に乗っている黒猫のような姿をしたポケモン。そしてもう一つはセレナが愛しそうに抱く赤ん坊。

 

その赤ん坊の頬を触り、笑いかけたサトシは首を横に振った。

 

 

 

 

 

「帰ってくるまでの間だけ母さんに預かってもらおう…留守番できるよな?」

「あぅぅ」

『ニゥ』

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「ヤマブキシティは山吹色に染まる大都会っていうの知ってたか?」

「そうなの?…私は山吹色っていうより、キラキラと夜景が綺麗で光り輝く大都会って印象があったわ」

「ま、確かに光り輝いてはいるな」

「ええ、でも…ミアレと似た感じ…なのかな?」

「シトロンの作ったタワーには負けると思うぜ」

「ふふっ…そうね」

 

『ピカピカァァ』

 

 

 

二人と一匹がいる場所はヤマブキシティの中心地にあるシルフカンパニー本社の入り口近くの路地。

その端っこにて、周りの人の様子を確認しながらセレナと会話をするサトシの様子にピカチュウは居心地悪く肩から降りて地面で伸びをしていた。

 

 

 

 

「…夜景といえばミアレタワーが一番…なのか?」

「あれは人の手によって作られているから…自然なら、ホウエン地方が一番かな」

「ああ。確かに…前に千年彗星が流れたときもあったんだが、星の量が半端なくて実際に落ちてきそうだったぞ」

「へぇ…じゃあ絶対に見なきゃ後悔するレベルの景色よね。サトシと一緒に見てみたかったな」

「じゃ、来世に期待だな」

「…その時は、一緒に見てくれる?」

「夜更かししないならな」

「もちろんよ!」

 

 

 

『ピィカピカァ』

 

 

 

猫のように両手で顔を洗ったピカチュウは、ピクリと尻尾を動かし、サトシの肩に乗った。

ピカチュウの重さが肩に加わった後、反射的にサトシがシルフカンパニーの入り口から入ろうとする男を見た。

 

奴の手には銀色に輝くアタッシュケースがあるのも確認。

 

 

 

 

「…さて」

 

 

 

先程とは違ってピリピリとした緊張感のある空気が二人と一匹にまとわりつく。

 

サトシが帽子を目深にかぶり、ピカチュウの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

「…準備はいいか?」

「もちろんよ。旦那様」

 

 

 

アタッシュケースを持つ男の後を追うように、サトシとセレナ、そしてピカチュウはシルフカンパニーの中へ入って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「…ナゾノクサ、とりあえず飛び蹴り」

『ナッゾォ!』

 

『キュゥゥ!!?』

 

 

 

全力で飛び蹴りをかましたナゾノクサに、またあちらも全力で避けている。

 

そして、『何をする!?』とばかりにこちらを涙目で睨みつけ、通常よりもはるかに身体の小さなポケモンにため息をつくヒナ。

涙目で睨みつけても可愛いだけで怖くなんてない。これを見た親ポケモンには怖いけど、きっと大丈夫なはずだとヒナは若干の楽観視をしていた。

 

まあ、ナゾノクサの飛び蹴りが当たってしまったとしても、ダメージはほぼないだろうからという予想も入ってはいる。

普通ならそんな行動はしないが、若干の戸惑いと混乱があったから仕方ないことだ。

 

 

 

 

「君、一体どうやってボールに入ったのよ…」

『キュゥゥ?』

 

 

 

ヒナの身体で抱きしめたらすっぽりと覆い隠せそうなサイズの小さなポケモン。

図鑑で確認しても、やはり通常よりもあり得ないサイズのポケモン。

 

 

 

 

――本当に、どういうことなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルギアが手持ちなんて何があってもおかしくないと思うの…」

 

 

 

 

 

 

そんな言葉を呟いた瞬間、ここよりも遠くにある何処かの島の通常サイズなルギアが小さなくしゃみを放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 











フラグを立てまくりですが、まだ解明はされませんよー。


現在進むべきプロローグは5つ。そのなかで4つは終わってます。

プロローグが終わるのはもう少しだけ先です。




そのあとは一気に進みますたぶん。




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カントー地方攻防戦~味方は敵に敵は味方に~
第三十六話~プロローグの終わり~







 

 

 

 

 

説明しよう。ルギアというポケモンは伝説の部類に属する珍しいポケモンである。サイズはとても大きく、人を数人余裕で乗せられるぐらいには巨大。

 

 

『キュゥゥゥ』

 

 

だが、今現在いるこのルギアは本当に小さい。まだ親元から離れきれていない子供ルギアに違いないとヒナは考えていた。

 

 

「うぅん…この場合ルギアがいるかどうか探した方がいい…よね?」

『グォォ』

『ピッチュ!』

 

「…空の上から探してみようか」

『ナゾ!』

 

 

『キュゥゥ!』

「もう…君がちゃんと帰れるようにしなきゃなんだからね?」

 

 

 

何故かヒナのかぶっている帽子の上に乗ったルギアは、偉そうな顔で『あっち行きたいから行け!』とばかりにヒナたちを誘導し始めたのだった。

 

 

「よし、リザードンお願い!」

『グォォオ!』

 

 

 

 

―――少しだけ冷たい風が吹いている上空。

ピチューやナゾノクサがリザードンの背中から森の真下を見つめる。

リザードンも飛びながら確認。もちろん私も。

ルギアは…なんかパタパタはしゃいでるからそのまま放っておこうかな。お母さんルギアがいればすぐ分かるだろうし。

 

というか

 

「ルギアどころかポケモンの一匹さえ見えないってどういうことなの?」

 

 

さっきはオニドリルいたよね?

 

全員が全員首を傾けている。ルギアは『知らないぞそんなもの!』というかのようにふんぞり返っていたけれど、今は偉そうにしている意味はないよ。

 

 

『キュゥ』

 

「やっぱり何かがあった?」

 

 

 

波動での感知も不可能。隠れているというより、何もいないと言った方がいいかもしれない。

 

オニドリルが急に襲いかかってくるのも、テリトリーに入ってきたから攻撃したと言うのなら分かるのに、そのテリトリー内かもしれない場所にオニドリルがいないのはおかしい。そもそも何故襲いかかってきたのだろう。

 

 

 

『グォォオ!』

 

リザードンの声に反応し、見えたのは何かの大群。まるで鳥が複数重なってできている生き物のようだと感じる。リザードンに指示をして傍に近寄ってもらい、見てみるとそれはポッポ達の群れが形を成して動いているのだと分かった。

ポッポの群れによって起きた風が轟き、小さなルギアが吹き飛ばされそうになるのを抑えるために頭から降ろして抱きかかえる。

 

 

「皆、何か違和感があるところがあったら言って」

『ッ――――』

 

 

私の言葉で小さく鳴き声を上げた三体と『仕方ないな』と言うような顔で頷くミニルギアに意識を逸らし、上空を見つめた。

空中を滑空したリザードンが現在いる場所はポッポの群れのど真ん中だ。上下左右すべてにポッポの姿が見える。所々に数体のピジョンやピジョットの姿も見えていた。

これは絶対に何かある。

 

 

「…トラブルが起きてる場所には何かある…よし、ポッポ達と一緒に行ってみよう」

『グォォ』

 

 

 

ここにいてもルギアのお母さんはいないし、探しても見つからない。というか本当に迷子かどうかさえ分からない状況かつボールの中にいつの間にかいたと言う違和感にフラグしか見えないのは仕方ないことだろう。

こんな小さくて偉そうなルギアに会ったことはない。ルギアもなんでボールに入っていたのか分かっていない。だから、何か別の意思によってボールに入ったと考えた方がいい。

私の知らないところで起きた意思だとすると、その先には絶対にトラブルが待ち受けているはず。

 

 

何かが起きると言うのは、小さいころから慣れている。…だったら、どうせならトラブルに自ら突っ込めばいいだけの話だ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

とある町にある一軒の飲み屋。

 

ゴーリキーによって運ばれてくる様々な酒と、ニャース達の踊りを肴に飲んでいた真っ最中。

俺が頼んだのはキャタピーの絵と【Reality】の変なロゴマークが描かれたビールジョッキ。友人が飲んでいるのはニャースの絵と【Fake】のロゴマークが描かれている。

天井の照明は蛍光灯で薄暗く、部屋の奥にあるステージのライトが眩しいくらい明るい。だが高低差があるステージ上のニャース達の踊りがとても綺麗に見えているため、文句はない。客も皆が「いいぞもっとやれー!」とばかりに野次を飛ばし、調子に乗ったニャース達からの【ネコにこばん】が舞い上がった。

 

 

 

 

 

「急にぶっ叩かれて襲われたぁ?」

「違う!急に家に入り込んできて眠らされたんだよ!!」

「うわそれは…ご愁傷様」

「うるせークソ野郎!!!!」

 

 

 

 

飲み屋に来た友人の顔は青ざめていた。まるで未確認生命体に遭遇したような顔だ。未確認生命体がポケモンの可能性もあるが、だとしたら友が上機嫌に話していたはずだから、幽霊か何かと出会ったような顔と言った方がいいだろう。

 

 

 

「眠らされたって…もしかしてポケモンを盗まれたり、金をとられたりしたのか?」

「いや、全然何も盗まれていなかった。キュウコンも無事だったし…」

「ああお前の相棒な…確か特性がひでりのキュウコンだったっけ?」

「そう、俺の自慢の相棒だ」

 

 

 

酒を飲み、木の実で作った浅漬けを食べながら話す。周りのざわめきが喧しいが、友人の声もなかなかうるさいので聞き取れない言葉はない。

 

 

 

 

「何も盗まれてないのに、なんで家で襲われたのかよくわからねーんだよなぁ…」

「んー、襲撃受けたんだし…引っ越したらどうだ?」

「もうとっくにしたっつーの!」

 

 

 

ガシャンッ!、とビールの入ったジョッキを机に置く友人の顔はとても疲れているようだった。

どうやらあのちょっぴり豪華なマンションからちょっぴりランクが下の家へ移り住んだらしい。かなりお金が必要だったろうに…一応、同情しておく。

 

 

 

「襲ってきた犯人の特徴とかは?」

「あーっと……確か、真っ黒だったのは覚えてるぞ」

「真っ黒?」

「なんか影みたいな…いや、影というより、闇色の…そう、ゲンガーみたいな色?」

「それ黒じゃなくて紫色じゃねー?」

「いや、黒だったよ」

「んー…」

 

 

ゲンガーの色違いか何かだろうか?いや、それならば先ほど考えたように友人が顔を青ざめるわけはないはず。

 

 

「ポケモンの仕業って可能性は?」

「いや、人の声が聞こえてきたような気がするから、多分人間の仕業だと思う…たぶん」

「はっきりと断言できないんだな…」

「急に眠らされたんだぞ!記憶だってあまりないし…!」

「それ絶対サイコキネシスか何か使われてるって」

「だよな!お前もそう思うよな!」

「おー」

 

 

 

ビールジョッキをおかわりするため、ゴーリキーを呼び出して頼んでおく。その間にも、友人はものすごい勢いでつまみとビールを口に運ぶ。

 

 

 

「…んで、ジュンサーさんに伝えたか?」

「言ったけど、被害はないから事件にはならないって…」

「もう一度言っておく。ご愁傷様」

 

 

『リッキー』

「お、サンキュ」

 

 

ゴーリキーが運んできたビールジョッキの中身を口に運んだ。冷たいビールが喉を通って胃へと運ばれる快感はたまらない。

その様子をものぐさげに見ていた友人が、ふと思い出したかのように声をかけた。

 

 

 

「そういえば、そのロゴマーク…の、頭文字を見たような気がする」

「んーっと…Realityだから…Rか?でもRのロゴって言ったらロケット団だろ。あの大企業の」

「そう!でも…ちょっとだけ違ったような…んん?」

「お前かなり酔ってんじゃねーの?」

「かもしれない…くっそぉぉ!ニャースたちよ俺に小判をくれ!引っ越したせいで金が足んないんだよぉぉお!!」

 

 

『『『ニャー!!!』』』

 

 

三匹のニャースが友人の声を聞いて飛び上がり、『まっかせてー!!!』とばかりに小判の雨を降らしていった。

 

というか、ネコにこばんの小判って飲み物代が払えるかどうかの金にしかならなかったような…まあ、友人が喜んで集めてるからいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「あの女まじむかつく…!」

『グァァ』

「ゾロアークお前そんな顔すんじゃねー!!」

 

 

 

口をごしごしと乱暴にふき取りつつ、先程あったあの出来事を忘れようと努力する。

ゾロアークがニマニマ笑っているのが憎い。あの女がしでかしたことが憎い。

 

初めてだったのにとか、ヒナと同じ顔ですんじゃねーとか――乙女が抱くような気持ちになる。

 

 

「くそ…くそ…今度会ったら容赦しない…絶対…!!!!」

『グァァァッ』

「笑うなゾロアーク!!!!」

 

 

奴のふさふさした胸部分に一発殴りつける。でもゾロアークは痛みを感じていないらしく、俺の手を掴んで怒るなよと慰めてきた。そんな笑ってる顔してなけりゃ怒んねーよ馬鹿!

 

「バトルするぞバトル!それでジム戦な!!」

『グァ』

 

 

あの真っ白な女に託された話はあったけど、あんなことしなけりゃヒナたちに話していたと思う。というか、革命とか関与していないとか意味わかんねえこと言いやがって…あの女本当にむかつく!

 

 

 

 

「今度会ったらイリュージョンで容赦なく……ん?」

『グァァゥ?』

 

 

 

 

「こんばんは。君のようなトレーナーを待っていたよ」

「は?」

『グァァ?』

 

 

 

 

 

 

 

言われた言葉のあと、奴の目がギラギラ光り輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

「世の中にはノーマルエンドからハッピーエンド…はたまたバットエンドやメリーバットエンドなどが存在するが――――君はどんな終わりが好きなのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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第三十七話~開戦の狼煙は上がらない~

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、突然だった。

 

 

建物内にて聞こえてくるのは、赤く点滅するサイレンと緊急事態発生のアナウンス。

何かが起きたのかは分からない。気づいたらサイレンが鳴っていた。監視カメラにはなにも写っていなかったというのにだ。

 

 

 

「何が起きている!?」

「侵入者がいること以外分かりません!」

「馬鹿者!それぐらい今起きている警報で分かる!それよりも肝心の侵入者を捕らえることを考えろ!!!」

「は…ハッ!了解しました!!」

 

 

 

男の言葉に駆け出していく部下の一人。慌てたように動き出す不甲斐なさに思わず舌打ちを一つ溢した。

監視カメラを写し出すはずのテレビ画面にはノイズしかない。それはつまり、侵入した奴が何処の誰なのか分からないという事実。何が目的なのだろうか。もしも目的が金ならばいくらでも出してやろう。それぐらいの儲けはあるのだから。

 

だが――――

 

 

「あれだけはなんとしても守らないと駄目だ!」

 

 

 

 

拳を握りしめ、カメラの復旧を急がせる男の顔には焦りが浮かんでいた。

 

 

 

彼が見つめる視線の先にある机の上にばらまかれた書類には、世界で今起きている異常事態が記されていた。その紙の上には一枚の写真がある。

 

 

 

 

「くそ!…こんなものがなければっ…」

 

 

 

 

写真に写し出されているものは、色とりどりに光り輝く、宝石のように綺麗で大きな石の塔であった。

その造形や色彩は、ヒナがサトシに連れられてハナダシティの近くで一度見た物に酷似していることを、唇を噛む男は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ、10まんボルト」

『ピッカ!!』

 

 

 

 

目の前にある閉ざされたシャッターが雷鳴によって叩き壊され、道が開く。

やるべきことはさっさと終えて次にいかなければいけない。そうしないと彼女だけじゃなく、皆を守れないことぐらいわかっているつもりなのだから。

 

 

「シルフカンパニーを襲っているのがポケモンマスターだなんて大ニュースになるよな、ピカチュウ」

『ピィカッチュウ…』

 

 

いや、ニュースどころか歴史に刻まれるかもしれない大事件だろうとサトシは考えた。なんせポケモンマスターはトレーナーの象徴。皆の代表として選ばれる存在が事件を起こしたなんて世間に知られれば大混乱に陥るかもしれない。

でもシルフカンパニーに襲撃者が来るかもしれないと言ったというのに、奴らが頑なに受け入れ拒否したのが悪い。最後の最後まで見守っていたが結局は襲撃を受けた。だから守らなければいけない機械のために、犯罪まがいのことをしても仕方ないとサトシは諦めている。もちろんピカチュウも、セキュリティは万全だから大丈夫だと嘲笑った社員たちに怒りを覚えつつ、反対する気にはならなかった。

 

 

 

 

「さて、そろそろか?」

『ピカァ?』

 

 

 

警報が鳴り止むことはない。シルフカンパニーが侵入者を阻もうとしても、内部に入ればこちらのもの。奥への行き方くらいは分かっている。だから最奥のこの場所へ難なく来れた。恐らく奴らもそうだろう。

 

 

 

「新たなる発明は次なる最悪を呼び起こす。それはつまり、世界崩壊の幕開けでもある」

『ピッカ』

「それに比べて、俺達が巻き込まれたトラブルなんてまだまだ軽いもんだよなぁ?拳一つで解決できるんだからさ」

『ピィカ?』

 

 

それはどうなんだろう?、と言うかのようにピカチュウの顔が引きつったけど、実際そうなのだから仕方ない。なお、アクロマの件は世界崩壊の危機とは別物として処理しているため、何の問題もないはず。

とりあえずアクロマはうっかり電気を浴びてコイキングの【はねる】で死ねばいい。そう、サトシは心から考えていた。

 

 

 

『っ…ピカピ』

「ああ。分かってる」

 

 

 

タッタッタ――と、足音が何重も聞こえてくる。おそらく複数の人間がここへ来ようとしているのだろう。

 

 

 

 

サトシがいる部屋のなかには閉ざされた扉が一つと、奥に置いてある大きな機械が一つ。カメラもあるが、どうやら機能していないようだ。おそらく奴らの攻撃によって壊されたか何か異変が起きたのか。

 

扉前にて足音が消える。そして数秒のち。

 

 

 

バタンッ

 

 

 

「よぉ、待ってたぜ悪党ども」

『ピィカァ』

 

 

 

 

どちらかと言うとサトシの顔の方が悪人面になっていたのだけれど、誰かがそれを言う空気にはならなかった。

 

サトシとピカチュウの目の前にいる男達は、部屋の中にポケモンマスターがいる現実に驚いていた。一瞬逃げ道を確認するため視線が別の方向を向いたことを理解し、口を開く。

 

 

 

「何で俺がここにいるのか、お前らは分かっているか?」

「……いや」

「なら一つ聞こう。何でこの機械を狙ったんだ?」

 

 

 

サトシとピカチュウが守るようにして立っている機械は、シトロンの発明品の一つであった。否、シトロンの発想とどう使うのかをシルフカンパニー等の会社が共同で開発した試作品にすぎないもの。

試作品だとしても、巨大な力になることをサトシ達は知っていた。

 

 

「ポケモン技の増幅装置…下手をすれば関係のない人間やポケモンにまで影響を受ける恐ろしい機械だ。てめえらはこれが狙いなんだろう?」

「……」

「沈黙は肯定と見ておくぜ」

『ピカピカ』

 

 

 

この機械が悪人の手に渡り、自由に使えたとしたら。

 

 

例えば、機械が発動中に【さいみんじゅつ】で眠らされたポケモンは、眠気覚ましを飲まされても起きることがない。ポケモンセンターにいって、専用の薬を飲まされ、一週間で起きることが可能となる。普通なら一日で回復するはずの技だと言うのに。

 

 

例えば、機械が発動中に【みらいよち】をしたとしたらどうなるのだろうか。もう結果は決まったも同じだ。技を避けることなんてあり得ない。必ず当たるように攻撃をするその行為はもはや予知を越えた何かになる。

 

 

そして、例えば、機械が発動中に【ほろびのうた】を歌われたら――もう分かるだろう、最悪の結末と言うものが。

 

 

 

 

それらを避けるためにサトシはここにいる。人やポケモンを救うために使う機械が悪用されないよう、守っている。

 

 

 

 

 

「お前らを捕まえるのは確定だ。逃げようとすんなよ。痛い目には遭いたくないだろう?」

『ピィカァ』

 

「…チッ。いいだろう。降参するよ」

「リーダー!?」

「アポロ様が言っていただろう。何かに阻まれ、逃げられないと分かれば諦めるしかないとな」

「そうですが…」

「まあそれにしてもだ。よく俺達がここを襲うと分かったな?」

 

 

新生ロケット団のリーダーと呼ばれた男が探るようにサトシを見る。サトシはその視線を真正面から受けとめ、にっこりと笑った。

 

 

 

「お前らなら分かっているんだろ?」

「ああクソ…分かっているよ…やっぱあれか」

 

 

 

ロケット団の男は何かを思い出すかのように苦い顔で天井を見上げる。

アレはサトシ達に密かに送ってくれた内容。新生ロケット団がこれから何をするのかが書かれた密書。彼女が一人でやってくれたから、サトシは新生ロケット団がこの機械を狙うことを知り、事前に動くことが出来た。

 

 

 

「知っているなら答えろ。彼女は何処だ?」

「…さあな、捕まってるんじゃねえのか」

 

 

 

床にあぐらをかいて座る男は不貞腐れた顔で答える。捕まったのなら、助けなければいけない。

世界に異常を起こすかもしれないと考えた彼女の独断で行動したことは自業自得と捉えても良いけれど、潜入捜査としては充分に活動してくれた。だから説教はしない。普通に救い出してやるだけの話だ。

 

 

電話を使い、アタッシュケースを追うセレナへかける。数コールの後、聞こえてきたのはセレナの元気な声だ。

 

 

 

「セレナ、アタッシュケースを奪ったら次の準備を頼む。カガリを救い出すぞ」

「分かったわ!」

「ああそれと…あの頑固眼鏡を動かさなきゃな…」

 

 

――お気に入りの部下であるカガリが捕まったんなら、あのマツブサの野郎も行動を開始するだろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

誰もいない静かなカフェにて、コーヒーを飲む一人の青年と、ジュースを飲む訝しげな少年がいた。

 

 

 

 

「いくつか、あなたの魅力をお教えしましょう」

「はぁ…」

 

 

 

 

少年――ヒビキは目の前にいる男に警戒をしていた。いきなり呼び止められて近くのカフェで話でもしようか、ああこちらの奢りだから好きなものを選ぶといい。そう言われるほどの何かをした覚えはヒビキにはなかった。

もしかしたら、奢る代わりに何か高いものを売ろうとする悪いやつなのだろうか。前に金色のペンキで塗られたコイキングが500円で売られていたという話を聞いたことがあるが、それに似た話をするつもりか。もしものことがあればジュンサーさんにでも話をしよう。そうヒビキは考えていたのだ。

 

 

目の前にいる男はヒビキに警戒されていることを気にせず、ニコニコと笑顔を絶やさず声を出す。

 

 

 

 

「まだまだ新人トレーナーであるあなたのことを私たちは気にしていました。もちろんあなたの友人であるヒナさんやシルバーさんもですよ」

「はぁ…」

 

 

 

知られていることに驚きはしない。トレーナーとなって旅をし、バトルをすれば有名になることが当たり前だからだ。

でも一番解せないのは、自分のことを詳しく知りすぎている男。ファンなら分かるが、ヒビキ自身はまだ新人。何の戦歴もないひよっ子にすぎない。

だから、トレーナーとしてバトルするわけでもなく話をする意味はあるのか?

 

 

 

 

「あなたの一番の魅力は、そのゾロアークにあります」

「それは、どういう意味だ?」

「あなたのゾロアークは通常の個体よりもイリュージョンの質が高い。ちょっとしたショックでその幻影が解かれるのは欠点ですが、磨けば強くなる」

「はぁ…」

 

 

つまりはなんだ。ゾロアークを交換してほしいということか?

 

 

 

「あの俺…ゾロアークを手放す気はないっすよ」

「ああいや、ゾロアークを譲り渡して欲しいわけではありませんよ」

「えっと」

「もちろん、交換してほしいわけでもありません」

 

 

微笑む彼は言った。

 

 

 

 

「あなたに少々協力をしてほしいだけの話ですよ。あなたのゾロアークの偉大なイリュージョンを使ってね」

「はい?ええっと…協力って何すか」

 

「なぁに、ちょっとしたサプライズの話です」

 

 

 

パチンっと指をならした男の背後から、複数の影が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ポッポの群れが移動した先に、何やら大きな建物がありました。

 

 

「天空の…城みたいな?」

『ガゥゥ』

『ピチュゥ?』

『ナゾナゾ!』

 

『キュゥゥ!!』

「いたたたたっ…落ち着いてミニルギア!」

 

 

興奮して私の耳を引っ張るルギアを制止し、ポッポの行く先を見た。

そこに広がるのは、古代の城かと思えるものが雲に隠れつつ浮かんでいる光景。ポッポの群れは違和感のありすぎる城の中庭に入っていき、土の上に降りて羽を休め始めた。

ポッポの群れにつられながら、私はリザードンに指示をして中庭へ向かう。

 

ポッポたちは私達が来ても何の反応もなく驚くこともない。むしろ来るのが当たり前というかのように、こちらをじっと見つめていた。でも、マサラタウンでよく見ていたポッポ達とは違って何の反応もないのだ。人形かと思えるような表情で見つめているだけのポッポたちに何故か寒気がした。

 

 

庭は花や草木が生い茂って、よく整えられている。まるでマサラタウンのポケモン研究所にある花畑のようにも見えた。

 

 

 

「何だろうここ…よし皆、ボールに戻って。リザードンはお疲れ様!」

『グォォ!』

『ピチュゥ!』

『ナゾナ!』

 

 

『キュゥゥ』

「君は…ああうん、そのまま外にいるんだね分かったわ」

 

 

 

 

まあ、ルギアはボールに入っていたからといって自分の手持ちとは呼べないし、命令もできないためここが危険かどうかさえ分からないから念のためにボールに入ってと言っても意味はない。

 

 

とりあえず、今はこの場所が何なのか調べてみようかな。

 

 

 

 

「カントー地方の上空にこんな城が浮いているだなんてお兄ちゃんが知ったらどんな顔するんだろ…」

『キュゥゥ?』

「ううん、何でもないよミニルギア」

 

 

 

 

中庭の左通路に大きな扉がある。中に入ることが出来るみたいなので、遠慮なく建物内部へ。

 

ドスッ――。

 

 

 

 

「いったぁ…!」

 

 

 

誰かに押し倒されたような鈍痛が身体に衝撃を与え、思わず目を閉じてしまう。

 

 

 

 

 

「……誰」

「いや、あなたこそ誰!?」

 

 

 

 

ゆっくりと目を開けて見えたのは、美少女だった。

 

 

 

 

「…ァハハ…まあいいや」

「へ?」

「…手伝え」

「はいぃ!?」

 

 

 

何を言っているのだろうか目の前にいる美少女は。何故か傷だらけの身体を隠すように、赤ずきんかと思えるフードをかぶって、アハハ、ウフフと笑っている。

小さいし可愛いから、私を押さえつけているつもりでも、逃げようと思えば逃げれる程度には力がない。だから警戒するほどの人間には見えないけど、普通の少女かと問われたら疑問に思う。ちょっとだけ、個性的な美少女というべきか。

 

彼女はこの城の関係者なのだろうか?

 

 

 

 

「はぁはぁ…んふふ…」

 

 

彼女が私の手を掴んで、口を開いた。

 

 

 

 

「…ボクには使命がある…やらないと……んっ…はぁ」

「使命があるって何?」

「……黙って、手伝え…拒否権はァ…ないよ!」

「う、うん…?」

 

『キュゥゥ?』

 

 

 

現状を理解していない小さなルギアが押し倒される私と美少女の胸に挟まれつつ、首を傾けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






細かな視点変更ってやめた方がいいかなぁ…(´・ω・`)





とりあえず簡単に説明



サトシ&セレナ
・シルフカンパニーにてアタッシュケースを奪うことと機械強奪の阻止のため、ヤマブキシティにいる。今回さっさと終わらせたが、本当ならミッションインポッシ(ry のような長時間映画な状況になっていた可能性もある。




ピンクセレビィ
・異世界から来たセレビィ。ジュプトルを探してシロガネ山に来たのに説教受けられて不機嫌中である。現在シロガネ山にいてクリスの様子を窺っている。




ミュウツー
・説教受けて一時的に瀕死状態。現在は怒りでレックウザ達に喧嘩売ってる。後でフシギダネにぶっ飛ばされる運命。




英雄ジュプトル
・どっかにいる。




クリス
・一人山登りinシロガネ山を開催中。ナイフ一本で山登りさせられてるさすが師匠マジ鬼畜。ポケモンたちも過酷な修行中。あとで上空に放たれるソーラービームを見て現実逃避する。




シルバー
・ポケモンを捕まえるためゴースト襲撃中。はかいこうせん禁止令を受けている。




ヒナ
・天空の城のラ○ュタみたいな状況。美少女に押し倒されてる。




美少女
・天空の城にてヒナを押し倒してる笑い上戸な赤ずきん。




ミニルギア
・何故かヒナのボールの中にいた小さいルギア。現在ヒナと美少女の胸に挟まれて息が苦しい状態。





ヒビキ
・どっかのカフェにて異変がががガガがガggggg








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第三十八話~集団に勝るものはない~


久しぶりに書きました。たぶん忘れている人が多いはずですごめんなさい。








 

 

 

 

 

 

「僕はカガリ…ただのカガリだよ…」

 

「カガリ…さん?」

 

「うふふ…それより、早く行こう」

 

「いやどこへ!?」

 

「あはっ!城の中に決まってるじゃないか!」

 

 

 

カガリがヒナの手を引っ張り、城の中へ行こうとする。ミニルギアはヒナの頭の上で落とされないよう掴んでおり、『ギャウギャウ』と小さな文句を口にしていた。

そしてカガリは時折傷だらけの身体が痛いのか、うめき声を上げて立ち止まり、何故か恍惚の表情を浮かべて「これは…仕方ないのぉ…大切なあの人の…ため…」と頬を赤くしている。その様子にヒナは若干引いていた。

一応怪我の手当てをするかどうかヒナがカガリに向かって聞いていたのだが、カガリは何も言わずに「これは必要な傷…僕の愛なの…」とよく分からないことを言っていたため、手当てをしないという言葉だけを受け取っておいたのだった。

 

 

 

「ええっと…あの、ここってどこなの?」

 

「ロケット団のアジトの一つ」

 

「ロケット団って…普通の企業の方のロケット団?」

 

「うふっ…そんなわけないから…」

 

「じゃあ悪い方のロケット団のアジトってこと!?でも…じゃああなたは…」

 

 

 

引っ張られていた手を逆に引っ張り、無理やり立ち止まる。

ヒナが警戒しているのは、彼女が悪い方の――――新生ロケット団とか言う連中のことだ。彼らの仲間だとしたら、これは罠になるかもしれないと考えていた。もちろん頭の上にいる小さな伝説のこともあるからこそ、ヒナの警戒心は高まる。まあ当の小さな伝説であるミニルギアは『キュッ』と鳴き声を上げて落ち着いていたが―――――それでも、懐にあるボールがぐらぐらと揺れ、何かあったら無理にでも出てやると意気込んでいた。

 

そんなヒナ達に対して、カガリはただただ微笑んでいる。

 

 

 

「言ったよ。僕は…ただの、カガリだって」

 

「え?」

 

「僕はどこにも属していない……僕は、一人…」

 

「あの…」

 

「あぁぁ!これは、僕がやらなきゃいけないことっ!あははっ…僕は、一人だけど…それは仕方ないことだから…!」

 

「ごめんなさいちょっと怖いからやめて。私が悪かったしもう警戒しないからその恍惚の表情止めてよ!」

 

 

下手をすればぶっ飛んだアクロマ並みの笑みを浮かべているようにも見える。そして何か闇を抱えているようにも感じたヒナは、とりあえずロケット団の一員じゃないということだけ信じることにした。何かあればその時に考えよう。そう決意し、再び歩き出す。

 

 

「……ここは…ロケット団のアジト…だけど、あはっ?私とあなた以外人はいないから…放棄されちゃったのかな」

 

「うぇ?!このどでかい城を捨てたの!!?」

 

「じゃないと見張りか誰か…うん、いるはずだよね…うふ」

 

「……じゃあなんでこの城は動いてるの?」

 

 

「知りたい?」

 

 

 

突然立ち止まったカガリが、ヒナに急接近する。近づいてきたカガリの顔に驚いたミニルギアが飛び上がって翼を何度か広げ、すぐにヒナの頭に落ち着く。

そんなミニルギアのことなど気にしていないのか、カガリがにっこりと笑ってヒナに向かって大きく口を開いた。

 

 

「ねえ、知りたい?何でこの城が動いているのか、知りたい?」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

厄日だとシルバーは心から思う。

 

面白そうな個性を持つゴースを捕まえることに成功はしたが、ヤマブキシティから外れた場所で開かれているよく分からない集団に巻き込まれたことで機嫌が急降下していたのだ。しかもその集団は宗教にでものめり込んでいるのかと言うほど、統一した動きを見せている。

ロボットのように四列で行儀よく動き、止まるときは止まる動きのせいで何度か前や後ろに並んでいる人間にぶつかっても、文句を言われないし、シルバーをいないように扱っているようにも見えた。

 

それがシルバーの機嫌を損ねる原因となっていたのだ。

 

 

その集団から離れようと動いても、前後左右の人間がそれを阻んで逃がそうとしない。まるでディグダの特性であるありじごくに嵌ったヒトカゲのようだ。この場合チルタリスで吹っ飛ばした方がいいのだろうかと一瞬考えはしたが、こいつらはあの新生ロケット団とかいう連中とは違うのだと考えを改める。

 

そう考えているうちに、集団が急に四散した。というか、何かの集会を開くような形で人々が四方に散っていったのだ。周りを見れば、ヤマブキシティの中心より少し左の位置にある、道路の中心地であった。突然現れ道を塞ぐ形で立ち止まっている集団に訝しげな表情を浮かべているヤマブキシティの人間がいることにシルバーは安堵する。

 

これでようやく離れられると思い、後ろを振り向いた。だが、そこにいたのは【やまおとこ】とも言うべき大きな体系をしたおっさん共。そいつらが「どこへ行くんだい?集会はまだ始まってもいないんだよ?」と言いながらシルバーの肩を掴んでくる。そもそも集会に参加していないと言うのに何を言っているのだろうかこいつらは。

 

―――そう考えていた時だった。

 

 

 

「ああっ!来たぞ!!」

 

「我らの新たなる力!強さの秘訣となるお人!」

 

 

 

周りにいる人間たちがテンションを上げて声高々に叫んだ。誰もが前の方に視線を向けている。そして見えてきたのは、見覚えのある閃光だった。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 

シルバーは咄嗟に頬を強く叩き目を塞いで身体を小さく伏せた。直感であの光を見てはいけないと分かっていた。ずっと昔から、学校に通っていた頃からたまに巻き込まれる形で悪戯の対象としてされていた頃の光に酷似していたからこそ、シルバーは絶対に目を開けようとはしなかった。

 

 

 

 

「強さとは一体何なのか、理解できるか?」

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。

 

 

 

 

「バトルで勝つのは強いモノだけ。そう決めたのは何処のどいつだ?そもそも、弱肉強食とはよく言うが…ポケモンマスターが絶対的な強者とは限らないだろう!俺達だってちゃんとした強さを手に入れることが可能だ!だからこそ、強さには限りがあるとは限らない!俺たちのポケモンにちゃんとした強さが存在しているのなら、俺達の手で育て上げてみせればいいだろ!バトルで勝つんじゃない、勝負で勝つのみだ!なあ皆、そうは思わないか!!?」

 

 

「ああそう思うぜ!」

 

「私たちのポケモンはちゃんと強くなれるもの!」

 

 

 

集団が少年の声に興奮したかのように賛同するのが聞こえてくる。何処から来たのか、野生のポケモンたちの鳴き声も聞こえてくる。

 

 

 

「強さには定義なんて存在しない!何をやったとしても、勝てば官軍負ければ賊軍だ!!どんな手を使ったとしても、ポケモンマスターに勝てるのならつまりそいつこそが最強だ!!!!」

 

「そうだぜ!強さなんて制限はねえ!勝てばいいんだよ勝てば!」

 

「ポケモンマスターに集団で挑んだとしても、俺達が勝てばあの男は最強じゃなくなるってことだ!つまり俺達の勝ちになるんだ!それこそ、俺達は最強になる!!」

 

 

 

 

ゆっくりと目を開ければ、予想していた悪夢が広がっていた。

 

 

少年が両手を広げて、上機嫌な顔で笑って叫ぶのだ。

 

 

 

 

「皆!俺たちのやるべきことは何だ!?」

 

 

《俺達は皆平等に最強なんだってことをポケモンマスターに知らしめる!!》

 

 

「そのためには何をすればいい!!?」

 

 

《ポケモンを強くする!!》

 

 

「そうだ。だからこそ、俺達は俺たちのやるべきことをやろう!!」

 

 

《オオ―――――ッッ!!!!!!》

 

 

 

興奮冷めやらぬこの光景は、もはや大パニックと言ってもいいほど異常だった。だからこそ、シルバーは心の底で熱を帯びたかのように怒りが湧き上がっていた。

 

最初の頃、訝しげに見つめていたはずのヤマブキシティの人間たちは集団の一人と化している。まるで何かに取りつかれたかのように、奴を見て雄叫びを上げている。野生のポケモンたちも皆、強くなりたいとでも言うかのように叫んでいた。咆哮を上げていた。その姿に怒りしかない。

怒りとある種の失望を抱いて、シルバーはモンスターボールを一つ放った。放たれたチルタリスが警戒の声を上げ、奴を睨む。いや、奴というより、奴の後ろにいるポケモンを睨んでいる。

 

 

あいつは今、何を言った?

 

 

何でここに居るんだ?

 

 

 

 

 

「ヒビキ!!」

 

「んー?何だよシルバー。お前もこっちに来てたのか。あ、違うか。俺たちが呼んだんだったな」

 

「っ…おい貴様、何をやったのか分かっているのか!?」

 

「普通に強さについて皆に話していただけだぞ?なあ皆!」

 

 

 

ヒビキの声に賛同し、拍手を送る者がいる。ポケモンたちがそれぞれヒビキを味方だというかのような仕草をとり、鳴き声を上げる者がいる。

これは何だ。イリュージョンというのは、ただ幻影をみせるだけのはずだろう。こんなのがイリュージョンなはずはない。

もしかしてこれは、イリュージョンがもたらした悪夢か?

 

いや、イリュージョンに慣れているチルタリスならばこれが幻影だとしたらすぐさま反応し、何かしらの抵抗をするはずだ。それに幻影の中にいるような直感は働かない。だからこれは、現実なんだろう。

 

現実でヒビキは皆に何かを仕掛けた。だから、皆が変になっている。おかしくなっている。

 

ヒビキ自身もおかしいと思ったが、それならば奴の態度か何かが変わるはずだ。だが変わらない。学校時代から共に過ごしてきたシルバーだからこそ、奴が本心からこの所業をやっているように感じたのだ。

 

 

 

「そういえば貴様はポケモンタワーの時から様子がおかしかったな。もしやその時から【こう】なりたいと心に決めていたのか?…ヒビキ、お前は悪に染まる気か?」

 

「はぁ?何言ってんだよシルバー!俺は悪になんか染まらねーっての!」

 

「じゃあ今やってるこれは何だ。貴様の後ろにいる連中は、誰なんだ」

 

 

 

 

ヒビキの後ろにいるのは、黒一色の服を着ている男達。そいつらは何も表情が変わらない。だがこちらが敵対するのならすぐ抵抗しようとするのだろう。その証拠に彼らの手にはモンスターボールが握られていた。

 

そいつらの服は見覚えがあった。

 

主に船で見た、抹殺すべき対象だ。

 

 

 

 

「……ヒビキ、お前…悪しきロケット団に入るつもりか?悪に染まらないと言うのなら、今お前がやっていることは何だ!!?」

 

 

「……なあシルバー。悪って何を定義すれば悪になるんだろうな」

 

 

 

 

急に何かを言い始めたヒビキにシルバーが眉をひそめる。

 

 

 

 

「悪は悪だろう」

 

 

「違う。悪なんて皆がそう思えば悪に染まるだろ?野生のポケモンが物を盗んで捕まったとして、腹が空いていたから仕方なく物を盗んだという事情で皆が可哀そうだと言い、悪じゃないと言えば悪じゃなくなる。逆に、皆が悪だと言えば悪になる!――――なあシルバー、今俺がやっていることは悪か?」

 

 

 

ヒビキだけじゃなく、黒服の男たちや周りに集まっている観客たちがシルバーを見つめている。

 

じっと見つめている目が並ぶ。目だけじゃない、その雰囲気も、シルバーだけを排他するような空気へ変わっていった。これは悪なんかじゃないと、皆がそう言い出そうとしている。この集団の中で唯一の敵はシルバーなのだと、皆がそう沈黙の中言っている。

 

チルタリスが集団の圧に押されて少々後ろに引き下がるが、シルバーは止まらない。むしろ怒りで燃え上がっていた。

 

 

 

「貴様が堕ちる気なら、こちらは容赦しない。たとえ世界で俺以外の連中がこの場を悪じゃないと叫んだとしても、俺はこれを悪だと叫ぶ!!ヒビキ、お前には失望したぞ!!だからこそ、敵として貴様をぶっ潰す!!」

 

 

「ははっ!やれるもんならやってみろよ!なあ、みんな!!」

 

 

 

 

 

観客や黒服の男達、そしてヒビキの手に持っていたモンスターボールが、次々と投げられた。

 

 

 

 

 

 

 



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第三十九話~愛に勝るものはない~

 

 

 

 

カガリの手によって連れてこられた場所は、大聖堂のような大きい一室であった。高い天井には透明なステンドガラスが使われているのか、青空がはっきりと映っており、時折ポッポが空を飛んでいる様子が見える。

両脇の壁には本棚が置かれており、天井付近の本が届くようにと梯子が設置されていた。

ヒナは部屋の中心にある大きな機械を目にした。機械は歯車や大きなネジが丸見えで、かなり大がかりな作りとなっているのがよく分かる。そのてっぺんには、コイルのような形をしているものがホエルオーほどの大きさで取り付けられていた。

 

その何なのかよく分からない機械に、ヒナは困惑する。

 

 

 

 

「…これは?」

 

「これこそが強さの証。強さの証明となる…原点…うふふ…」

 

「強さの原点?どういうことなの?」

 

「やってみれば分かる…あはっ!」

 

 

 

そう言ったカガリが機械のスイッチを押す。すると、コイルのような形をした部分から大きな音が鳴り響きだした。ポケモン技にある【いやなおと】のように、酷く不快かつ不協和音にも似た、耳障りな音がヒナと頭の上に乗っているミニルギアに襲いかかった。

 

 

 

「ぐっ…なに…っぅ…」

 

「大丈夫ぅ!あはは…すぐに、気持ちよくなるから…ね?」

 

 

 

あははっ、と笑うカガリが機械の出力をフルパワーにし出す。耳を塞いだヒナと両腕の翼で顔を埋めたミニルギアだったが、音は止まらない。

膝を地面につけ、息を大きく荒げているヒナがやがて両手を耳から離した。その振動によってミニルギアが地面に転がり落ちてしまうが、ヒナは何も反応しない。

 

その瞬間をカガリは待っていた。

 

 

 

 

「あはっ!これで君は…あの人の物…うふふ…」

 

 

 

 

恍惚の表情を浮かべたカガリが機械のスイッチを切り、顔を俯けているヒナの頭を撫でた。だが、ヒナは撫でられても何も反応をしない。

その反応こそ、機械がちゃんと動き、成功した証だとカガリは分かっていた。

 

 

 

「これで…あの人にっ…あは……褒めてもらえる…!」

 

『ギャゥゥ!!』

 

「ああ、そういえば…君はポケモンだから…この機械は通用しない…んだね」

 

『キュッ…』

 

「うふふっ…何が起きたって顔してるぅ!…君のご主人様はねぇ、この機械で…絶対君主となるべき大切なお方のために働けるよう導いてくれるの!」

 

『ギャっ!』

 

 

 

ミニルギアは先ほどまでの不快な音に物理的に嫌がっていたが、ヒナがこの音のせいで精神的に何かが起きたことを理解した。導くと言う言葉と、あの人の物という言葉により―――カガリが敵なのだと理解する。

身体をぶわりと大きく見せて、歯をギラリと鳴らし、精一杯の威嚇行為をするミニルギアにカガリは何の抵抗もなく近づく。

 

 

 

「珍しいポケモン…なら、あの人のために…あははっ」

 

『ギャゥ…!!』

 

 

 

ミニルギアが後ずさりをするが、カガリは一歩一歩前へ出て捕まえようとする。恍惚の表情を浮かべて、頬を赤らめ機嫌のいい顔でミニルギアに手を伸ばした―――――――。

 

 

 

 

「悪いけど、それは駄目だよ」

 

 

 

伸ばされた手を振り払い、ミニルギアを優しく抱える人影があった。

それは、先程機械に洗脳されたと思われたヒナであった。ヒナはカガリのことを睨みつけ、大きく一歩後ろに下がり体勢を整える。

 

 

 

「っ!?…何で…機械はちゃんと動いていたはずなのに…!」

 

「私は前に一度洗脳にかかったことがあるの!だからもう二度と洗脳にかからないし、リザードン達を悲しませないって誓ってるから絶対に精神を乗っ取らせたりはしない!!」

 

『ギャゥ!』

 

 

ヒナが手にしたボールの中から、鋭い殺気がカガリに伝わる。熱と電気が入り混じったかのような殺気だ。それ以外にも暴れたそうなポケモンも感じ取れたが、それでも彼女は笑っていた。

 

 

「あははっ…これで失敗…ううん失敗なんかじゃない…これは偶然起きたことだから…だからあの人に叱られはしない。大丈夫…」

 

「あの人って誰!?あなたはやっぱりロケット団の仲間なの!?」

 

「僕はロケット団なんかの一員じゃないよ。あの人は……あれ?」

 

 

 

カガリが不意に無表情になり、首を傾けた。

 

 

 

「あの人って誰だっけ?一番大切で、守らなくちゃいけなくて…それで、夢を叶えるために支えていた大切なあの人…誰?ねえ、誰だっけ…だれ?」

 

「お、覚えてないの?なら、何でこんな場所にいるのよ!」

 

「…この場所にいるのは、守らなくちゃいけないから。ここを守って、侵入者は導くか――――排除するかのどちらか」

 

「っ!」

 

 

「だから、さようなら」

 

 

 

 

カガリが取り出した胸元のポケットから出てきたのは、小さなスイッチ。それをポチッと押した瞬間、ヒナとミニルギアのいた真下の床が開いて空へ落下していった。

 

 

 

「んなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!???」

 

『ギャゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァッッ!!!!!!???』

 

 

 

落下していく一人と一匹に対して、カガリは手を振り姿が見えなくなるまで見送っていたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「…ヒナの声が聞こえたような気がする」

 

『ピィカッチュ?』

 

 

 

「いや、んなわけないよな。…さっさとセレナと合流しよう」

 

『ピッカ!』

 

 

 

町の中を歩くサトシとピカチュウ。一応歩いている最中襲いかかってくる奴らがいるため、電撃か物理攻撃を加えていき全て倒してから向かっているため非常に時間がかかっている。そのせいでサトシの背後には屍が点々と倒れている少々悲惨な光景があった。

 

 

 

「サトシ!!」

 

 

 

先を進んでいるサトシとピカチュウの目の前に現れたのは、セレナであった。

セレナがサトシに抱きつき、怪我がないかどうか無事を確認している。

 

 

 

「セレナ、平気だったか?」

 

『ピッカァ?』

 

「ええ、私は大丈夫よ。それよりもこれ!」

 

「ああ、良かった」

 

 

 

目前まで持ち上げたアタッシュケースを受け取ろうとした瞬間だった。

急にセレナが後ろに二歩ほど下がり、そのアタッシュケースを背に隠してしまったのだ。

 

 

 

「セレナ…?」

 

「サトシ、これはあの人にあげないと駄目なものなんだよ。だから私は、これをサトシにあげられない」

 

「………」

 

「ごめんねサトシ。でもあの人ならサトシのことも受け入れてくれるはずだから」

 

「そうか」

 

『ピカ』

 

 

 

セレナの様子がおかしい。

それだけじゃない、サトシにアタッシュケースを渡さず、あの人にあげないといけないと言うセレナの言動に不可思議な点が見られた。サトシが【あの人】とやらを知っているかのように話すセレナはまるでゾロアークのイリュージョンに引っかかったかと思えるほど偽物のように感じられるというのに、その姿も感情も――――そしてサトシとピカチュウ自身の直感から、これは全部本当の事なのだと理解する。

 

 

 

「…一つ聞くが、俺達の娘の名前は何だ?」

 

「ミヅキでしょう?」

 

「ミヅキは何処からやってきた?」

 

「シロガネ山に捨てられていたところを私たちが拾って養子として育ててるでしょ?…大丈夫よ、あの子もまだ幼いけれど、いつかはあの人のために強く支えることのできる人間になってくれるはず」

 

「はぁ…なるほどつまりはアクロマの野郎の仕業ってことか」

 

『ピィカッチュ?』

 

 

 

アクロマの奴がセレナに何かしたとは限らないんじゃないかとピカチュウは疑問に思ったが、人を――――というか、サトシの妹であるヒナを洗脳させたことがあるアクロマならば間接的にサトシに関わろうとしてくるかもという疑問もあった。

とにかく、セレナの様子がおかしいことは分かった。毎日見ている笑みを浮かべて頬を上気させつつも、「あの人のためだよ?」というのはおかしい。ピカチュウだけでなくサトシの手持ちたちもボールの内側から見て全員同じことを思った。サトシを第一優先しないセレナなんてセレナじゃないと。

 

 

 

「セレナ。あの人ってどこにいるんだ?何処に行けば会える?」

 

「大丈夫。すぐに来るよ」

 

「へぇ。そっか」

 

「うん…ほら、友達も皆来たからね?」

 

 

 

 

セレナがどこかを指差しサトシに見せたのは、手を広げて元気いっぱいに走ってやってくるカスミたちの姿であった。

 

 

 

「やっほーサトシ!やっぱりこんなところにいたのね!しかもあの人の邪魔をして!!」

 

「……一応憶測だか…あの人ってアポロのことか?」

 

「会えば分かるよ。そして理解できる」

 

「新手の宗教の勧誘かよてめえら。ってかシゲルお前里帰りしてきてるって聞いたけど何やってんだゴラ」

 

『ピッカー!!』

 

「ははっ、何をやってるかって?…君が素直にあの人のことを受け入れるとは限らないからね。だからこそ、僕たちがここに来たんだ」

 

「そうかよ」

 

「大丈夫よサトシ。私も最初は嫌な奴だって思ってたけど、全然そうじゃなかったんだからね!」

 

「…カスミ、ジムはどうしたんだ?」

 

「ジムなら今は閉鎖中よ。一度水中ショーをあの人が見て気に入ってくれてね。私達全員であの人のためにショーをしてる最中なの」

 

「へぇぇ?」

 

『ピ、ピカ…』

 

 

 

 

言動の節々から感じられる事の重大さにピカチュウは絶句した。もちろんボールの中に入っている手持ちのポケモンたちもだ。

そして、以前ハナダシティに行ったときはカスミは普通だったはずだとサトシは眉をひそめた。

 

カスミ以外にも、現役のジムリーダーが何人かいて、彼らに手を出した連中の犯罪の規模を察した。セレナだけでなくこいつらまでもが洗脳されていると言うことは、町の中の人間たちもやられている可能性が高い。下手をすればヒナも何か巻き込まれている可能性があるだろう。

数年前に起きたあのアクロマの洗脳によって機械人形のように動いたヒナの光景が目に浮かぶようだとサトシはため息をつく。その状況よりもこれは圧倒的に酷いだろう。なんせ表情も感情もすべてがいつもと変わらないからだ。言動は全然違うけど、接している雰囲気だけでまるで同じだと錯覚する。

 

――――そんな時だった。

 

不意に皆が両端に移動し、誰かが中心からこちらへやって来る。その姿は黒服を着て少々猫背のおっさんであった。

 

 

 

 

「やあ、久しぶりだな。ポケモンマスター」

 

「…お前は……誰だ?」

 

「ぐっ!俺はラムダだ!これでも新生ロケット団の幹部なんだぞ!」

 

「いや雑魚っぽいだろ。しかもご丁寧に俺に殴られるために来てくれたんだな?まあいいけど、さてピカチュウ」

 

『ピッカ!』

 

「いやいや待て待て!人質の数を見ろ!ポケモンマスターがうかつに攻撃なんてできるはずないだろ!!」

 

 

 

 

人質という物騒な言葉をラムダが叫んだとしても、セレナたちは何も反応しない。むしろ当然だと言うかのように、ラムダと並んで手助けをしようとボールを掴んでいる。その姿はまさしく【重症】であった。

 

 

 

 

 

「なあ知ってるか?叩いたら大体の物は直るんだぜ?」

 

「はい?」

 

「なら、生き物に対しても――――殴れば復活するんじゃねえのかあ゛ぁ?」

 

『ピッカッチュ!』

 

 

「ヒッ…!」

 

 

 

 

冷や汗をかき慌てはじめるラムダの姿は小悪党そのもの。セレナたちを洗脳し操っているようには見えない。むしろそのセレナたちに「大丈夫ですよ!私たちが支えます!」や「俺達がサトシを食い止めるからあわてないでくれ!」と慰められている様子はまさにシュールそのものだ。

 

 

 

 

「お、おおお前には嫁がいるだろう!!ほらここに、お前の嫁がいるぞ!!こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「あぁ?」

 

「あーんなことやそーんなことを目の前でさせちゃうぞ!今の俺なら何でも可能だぞ!それでもいいのか!?」

 

「………チッ」

 

 

 

 

握りしめていた拳を降ろしたサトシにラムダが安堵をついた時だった。

 

 

 

 

「セレナ!!!俺のことを愛してるならそのおっさんなんかより俺を優先しろ!!!!」

 

「サトシ…」

 

「優先しないなら俺のことが嫌いなんだと判断するぞ―――――――」

 

 

 

 

「そんなわけないじゃないサトシ愛してるッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

両腕を広げたサトシに突進し、思いっきり抱きしめたセレナ。サトシを精一杯抱きしめてもらいたかったのか、手に持っていたアタッシュケースを先程までセレナの隣にいたカツラの顔面にぶつけてしまう勢いで投げたのはいただけなかったが、まあ良しとしよう。

そう思いつつ、セレナの頭を撫でるサトシにピカチュウがため息をついた。

 

 

 

「サトシ…」

 

「大丈夫かセレナ」

 

 

「え、あれ…私なにやって…」

 

「セレナ、お前が第一優先するのは誰だ?」

 

「もちろんサトシに決まってるでしょう!」

 

「じゃあその次は?」

 

「私たちの娘よ!」

 

「よし、戻ったな」

 

「え?何の話…?」

 

『ピィカッチュ…』

 

 

 

愛の力って怖い。

 

ピカチュウは寒気で鳥肌ならぬ鼠肌を立てたが、それを押さえるかのように小さく電気を放った。

 

 

 

 

「なっ…無理やり洗脳を断ち切っただと…そんな馬鹿なことがあるか!!?」

 

「馬鹿なことをやり遂げるのが絆の力だ。どんな形でもな」

 

 

 

ニヤリと笑ったサトシの表情は、まさしく恐怖そのもの。

 

ラムダは焦り、サトシとピカチュウ、そして何が何だかよく分かっていないセレナに向かって指差した。

 

 

 

 

「あいつらを捕まえろ!!我らの祈願の為にも!!!」

 

《ああッ!!!》

 

 

 

「え?何…どういうことなの?」

 

「あいつらはただの敵だよセレナ。…そんでもって、捻じ曲がった精神をぶん殴って治さなきゃいけない奴らでもあるんだ」

 

『ピィカッチュ』

 

「敵…分かったわ」

 

「ああ。さて、暴れるとするか!」

 

『ピッカー!』

 

 

 

サトシが一度拳を鳴らした瞬間、彼の背後の―――――ヤマブキシティより町はずれの方で破壊光線の閃光が空高く打ちあがった。

 

 

 

 

 

 

 



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第四十話~現状確認をしようか~

 

 

 

 

 

電撃と雷光が宙を舞い、激突し黒煙を発生させていく。熱が地面や木々を焦がし、雲を突き抜ける大きな閃光が舞い上がる。時折地面が揺れ動き、野生の鳥ポケモンたちが恐怖のあまり逃げていくハイレベルなバトルの数々。

 

それらすべてをラムダは見ていたのだ。

 

 

「ハッ!…これが最強ということか」

 

 

ぞくりと震える身体に鞭打つように、今起きている光景を全て目に刻もうと瞬きを少なくする。

カスミたちは全員こちらの洗脳により、都合のいい駒として働いてくれているため、どんな言動をしたとしても絶対的味方として活躍してくれる。ちゃんとこちらを守ってくれる。

 

あのポケモンマスターの嫁に関しては計算外にも洗脳から解放されてしまったが、それでも熟練のトレーナーやジムリーダー、そしてポケモンマスターの幼馴染でありライバルだと明言するシゲルがいる。それとは対照的に、サトシだけですべてのポケモンに対応し、多数VS1になったとしても差はない状況。これこそが最強であるポケモンマスターの証明なのだと言うかのように、カスミたちに電撃一つで対応しているのだ。しかもピカチュウが劣勢になるか何かが起きればすぐさま懐にあるボールで対応するだろう。つまり、まだまだサトシにはいくつか戦うための手が残されていると言うことだ。そして、セレナのニンフィアによるサポートもあるせいで戦いは均衡していた。

 

圧倒的な数の戦力がこちらにはあると言うのに、やはりポケモンマスターは別格か。

 

 

「くっ…ここでポケモンマスターをこちらの手に収めればカントーとジョウトを全てこちらの物にできるというのに…!」

 

 

 

先程、ある特殊な洗脳をヤマブキシティ内で行ったという連絡を貰っていたため、ラムダはそれに引っかからなかったサトシに戸惑いと苛立ちを持っていたのだ。もしかしたら、あの洗脳の光を見ていなかったからかもしれない。それともやはりポケモンマスターだから洗脳が効かないと言うことなのか…!?

 

 

そう思っていた瞬間、ピカチュウの雷撃がラムダの頬を掠り、後ろの大木を焼け焦がす。ピカチュウとサトシがこちらをじっと見ていることに気づいた。お前さえ倒せばこいつらの洗脳をどうにかできるはずだろ?、と言われているように感じ、冷や汗が流れ出た。

 

このままでは、やられてしまう…!!!!

 

 

「すんません遅れました!!」

 

 

「ぐっ!いや、いいタイミングだ!!」

 

 

背後から飛び出してきたのは黒と黄色がアクセントの帽子をかぶった少年とゾロアーク。そいつはロケット団の洗脳の枢となる少年であった。これでポケモンマスターを洗脳することができると一瞬高揚したラムダであったが、それよりも背後から「ヒビキィィィィィィッッ!!!!!」や『チルゥゥゥゥゥゥッ!!!!!』という鬼をも殺しそうな鋭い殺気を放つ少年とチルタリスが来たことによって計画を瞬時に切り替えた。

ポケモンマスターの嫁が先程洗脳から無理やり解放された件もある。無理やりやることはないだろう。まだ他にやるべきことがあるのだから。

 

そう考え、大きく口を開いた。

 

 

 

「おいポケモンマスター!ここはいったん引いてやる!!だが今度会った時はお前を必ず洗脳し、俺達の部下にさせてこき使ってやるから覚悟しとけよ!!!」

 

「そういうのを負け犬の遠吠えっていうんじゃねーのかよおい」

 

『ピッカ』

 

「サトシの言う通りね」

 

『フィア』

 

 

「う、うるせえ!!よし行くぞ!!」

 

「ウィッス!やるぞゾロアーク!!!」

 

『ガァァ!!!』

 

 

瞬間、ゾロアークの目が光り、大きな闇が広がり始めた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

町で襲いかかってきた人間やポケモンたちは無理やり倒した。邪魔してくる連中は皆ぶっ潰して、ようやくヒビキの目を覚まさせるために動くことができる。

どこかへ向かって行くヒビキを追って、チルタリスと共に走り出したと言うのに、なんだこの闇は!!またあいつのイリュージョンか!!

 

 

「くそがッ!チルタリス、はかいこうせん!!」

 

『チルルゥ!!』

 

 

はかいこうせんを放ったチルタリスの姿が見えないほどの暗闇が広がっていたが、聞こえてきた大きな騒音と破壊音によって何かにぶち当たったことに気が付く。ヒビキに当たっていればなお良し。他の連中に当たっていたとしたら、運が悪いと言うだけにしておこう。俺の邪魔をした連中が悪いんだ。

 

だが、見えてきたのは鋭くて大きな雷光であった。

 

 

「なっ?!チルタリス!!!」

 

『チルッ!』

 

 

どうやらイリュージョンが解除されたらしい。見えたのはなぎ倒された大木と少々破壊されている家。そしてチルタリスのはかいこうせんを防御するためだけに使われた10まんボルトがチルタリスに掠った光景が広がっていた。

ただ10まんボルトに掠っただけだというのに、ビリビリと身体に痺れを受けたチルタリスが地面に伏せる。相棒として強く育成し、共に育ってきたチルタリスに対して、ただ掠っただけの電撃にこんなにもダメージを受けるだなんてと呆然としたが、その10まんボルトを放ったポケモンと、そのマスターである人間を見て納得した。

 

むしろまひ状態と重傷になっただけで済んで良かったと思えるほどだろう。そう思い、クラボの実とオボンの実をチルタリスに渡しつつ、話しかけた。

 

 

「…お久しぶりですサトシさん」

 

「ああ、お前は確かロケット団の…」

 

「はい。シルバーです。父上がお世話になっております」

 

「いや、気にすんな。それよりも大丈夫か?そのチルタリスの様子…俺のせいだよな、悪い」

 

「いえ、俺もはかいこうせんを全力で撃ちましたし……それより、あのヒビキの野郎は何処に行ったのか分かりますか?帽子とゴーグルをつけた男なんですが…」

 

 

そう質問すると、サトシさんは隣にいた女性を見てからこちらへ向き、首を横に振った。

 

くっ、やはりあの時のイリュージョンで逃げやがったか。

 

 

 

「あの…ポケモンマスターが何故ここに?やはりあの新生ロケット団とか言う連中を追うためですか?」

 

「ああ。そうだけど。そう言うってことは…お前は大丈夫な方なんだな」

 

「大丈夫な方とは?」

 

「それは―――――――」

 

 

 

 

「―――――お兄ちゃん!」

 

『ガゥゥ!』

 

「あ、ヒナちゃん!」

 

『フィア!』

 

 

サトシさんの声を遮るように聞こえてきた大きな声。上空に大きな影が生まれたため、よく見ればそこにはリザードンの背に乗っているヒナの姿があった。

そんなヒナを笑顔で迎えたのがサトシさんの隣にいた女性であり、サトシさんは少しだけ安堵しているように見えた。

 

 

「良かった…シルバーもいるんだね…」

 

「ああそうだがおい待てその帽子の上にいるポケモンはまさかのルギアか!?どうやって捕まえた!!?」

 

「うわ気づいた!?ごめん私もよく分からないうちにボールの中にいたからわかんない!!」

 

『ギャウ!』

 

「伝説ポケモン捕まえたのか。今日はお祝いだな」

 

『ピッカー!』

 

「ふふっ。じゃあ赤飯炊いておかないとね!」

 

『フィアァ!』

 

「ねえ待って分かんないうちに捕まったって言ってるでしょ!?だから赤飯とかいらないしミニルギアが私のポケモンとは限らないからね!!」

 

『ギャゥゥ!?』

 

「おいそのルギアものすごくショック受けてるぞ」

 

『チル』

 

「うわ傷つけるようなこと言ってごめんなさいルギア!…っというかさっきのあの大きなはかいこうせんってシルバーだったんだよね?そっちこそ何かあったの?」

 

「何だ、見ていたのか?」

 

「ちょっといろいろとあって飛んでいた時に急に見えたからね…だから何かあったのかと思って気になって…」

 

「いろいろあったってどういうことだ?そのルギアが関わってるのか?」

 

 

サトシさんがヒナの言葉に食いかかる。それに乾いた笑みを浮かべたヒナがリザードンと顔を見合わせた。リザードンはクラボの実とオボンの実を食べているチルタリスの横に立ち、先程まで広げていた翼をしまいながらも困った顔をしている。何を言えばいいのか分からないようだ。

 

 

「……ねえ、話が長くなるようなら落ち着いた場所で話さない?ポケモンたちも傷ついてることだし…ね?」

 

『フィア』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

「おい、今なんて言った?」

 

『ピィカッチュ?』

 

 

ヒナ達が向かった先はヤマブキシティのポケモンセンターだったのだが、その様子はおかしかった。

こちらを見る目は排他的であり、妙な威圧感が存在していた。通常のポケモンセンターの中はリラックスできるようにと常に音楽が流れているはずだったのだが、今ここに居るポケモンセンターは無音。

優しく出迎えてくれるはずのジョーイとラッキーは真顔で、その中にいるトレーナーたちもこちらを観察しているような顔でじっと見つめていた。

 

そんな中、サトシとピカチュウは額に小さな青筋を浮かべながらも口を開く。どうやら相当怒っているらしく、ピカチュウの赤い頬から電気がバチバチと放たれ、それを見たヒナがミニルギアを抱きしめながらもそっと後ろへ後退した。

 

 

「もう一度聞くぞ。今、何て言ったんだ?」

 

『ピィカ』

 

「お帰りくださいと言いました。あのお方の邪魔をすると言うのなら、私たちは容赦しません」

 

『ラッキー』

 

「ほぉぉ?それはそれは面白えな。この俺に対して、宣戦布告をするということか」

 

『ピィカッチュ』

 

「お帰りください。ここはポケモンを回復させる場所。ですがあなたたちのようなトレーナーと、そのポケモンを回復する意味はありません。ですので、何を言われようとも…何をされようとも私たちはあなた達を助ける意味はありませんよ」

 

『ラッキー』

 

 

 

こちらが邪魔をすれば必ず攻撃を仕掛けてやると言う意気込みを感じた。ポケモンセンターにいる全員が、公共機関としてのトレーナーが使用できるはずのもの全てを利用するなと言っているのだ。シルバーはそれに眉をひそめて舌打ちをし、ヒナはミニルギアに何かされないようギュッと胸に抱きしめた。

物理的に目を覚まさせようと思っていたサトシだったが、ポケモンセンターには何体かの重傷ポケモンが必ずいるはずだと思い直し、セレナの手を掴み建物内から出ることに決めた。無理やり連中の洗脳を解くことならできると思うが、それによってポケモンセンターの中にいる重傷のポケモンに何かあってはまずいだろう。

 

 

 

「…とにかく、話せる場所を探そう」

 

『ピッカ』

 

「それなら、このヤマブキシティはまずいと思います。先ほどヒビキの奴が新生ロケット団の奴らと一緒に何かをしているのを見ましたから」

 

「え、どういうことなの!?ヒビキが…新生ロケット団と一緒って…」

 

「あの野郎は裏切ったんだ。新生ロケット団と仲良くして……チッ!!」

 

「いや、そのヒビキも…おそらく洗脳されてるんだろう」

 

「洗脳って…もしかして私がさっき記憶を失ってたあれのこと?」

 

「ああそうだセレナ。お前も洗脳にかかって新生ロケット団の奴らと仲間になってたんだ」

 

 

その言葉にヒナとシルバーが愕然とし、やがて何か納得できたような表情になる。

 

 

 

「じゃあ…あのカガリって子も…」

 

「は?おいヒナ今なんて――――――――」

 

 

 

 

――――瞬間、大きな閃光が襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 



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第四十一話~現状は悪化中~

 

 

 

 

 

 

シロガネ山の頂上付近。傷だらけになり、太い木の枝を使って杖代わりにして山を登りきった少女がそこにいた。

 

 

「や、やっと…着い…たっ!!」

 

『ダネッ』

 

『チコォォ!!』

 

『プリッ!』

 

 

少女が倒れたまさにその時、フシギダネがつるのムチでチコリータとプリンが吹き飛ばされ、少女の腹に落ちていく。ぶつかった衝撃でうめき声を上げた少女であったが、チコリータとプリンが己のポケモンだと気づき、優しく撫でていった。

 

 

「お疲れさま…チコリータ、プリン…私は頑張ったぞ。お前たちも頑張ったんだろう…?」

 

『チ、チコリ…』

 

『プゥリ…』

 

 

ナイフ一本だけでここまで来るのに、少女―――――クリスはため息をついて先程までの苦行を思い出していた。

野生のポケモンたちには追われるわ、崖に落ちそうになるわで本当に死ぬかと思った。だが、確実にヤバいと言う局面では必ずファイアローやムクホークなどといった鳥ポケモンたちが助けてくれたため、自分一人でできること以外は手を貸そうとはしないのだろうとクリスは理解していた。この山を登りきるのは自分自身の力のみ。命に係わる事故などが起きないよう見張りはしていたけれど、大体は見守っていてくれていたのだ。

 

だからクリスは必ずやりきってやろうと気合を入れて登りきった。

ナイフに関しては、きのみを取り食べる際に使っていたが、それ以外は使用しなかった。ナイフは食事だけにしか使わない。ポケモンを傷つけるために使うようなものなんじゃないと登っている時に分かったのだ。まあ最初は走ってくるケンタロスの群れに対して恐怖でナイフを装備しかけたけれど、そのせいで余計に興奮したケンタロスによって吹き飛ばされたのは今となってはいい思い出であろう。

 

クリスは苦笑し、遠い目をしながら青空を見上げた。

 

 

「強くなる。強くなって見返してやる!!」

 

『チッコ!』

 

『プリ!』

 

 

『ダネダネ…』

 

 

一人と二匹が意気込みを口にしているのを見て、フシギダネは小さく苦笑し…そして柔らかく微笑んだ。

 

 

――――――そんな時だった。

 

 

 

 

「お、久しぶりだなフシギダネ!…サトシは来てないのか?」

 

『ダネ!?』

 

 

手を上げて爽やかに笑う青年にフシギダネは驚き近づいて行った。もちろんフシギダネだけでなく、クリス達を見守っていたはずのサトシのポケモンたちもだ。

 

 

 

「…誰だ貴様は」

 

「ああ、俺はタケシ!これでもポケモンドクターなんだ!」

 

「はぁ。そのポケモンドクターが何故こちらに…?」

 

『チコリ?』

 

 

「いやいや、ちょっとしたサプライズだよ」

 

 

 

 

――――そう言った瞬間、大きな機械が上空から出現し、眩しくて目を開けていられないほどの閃光が襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あはははは、私何をやらなきゃいけないんだっけ?

 

あーそうだよねリザードン。私はあの人のために戦わなくちゃいけないんだー

 

あの人って誰だっけ?やらなきゃいけないこと…

 

あ、そうだ。私はあの人を支えられるようなトレーナーになって強くならなきゃいけないんだよね

 

どんなバトルにも対応できるような強さを持ったトレーナーにならないとねー

 

だから、強くならないと

 

強くなってポケモンを皆進化させていっぱいいっぱい勝っていってたくさんのポケモンを集めてあの人のために戦わないといけないんだよ

 

 

私はあの人のために――――――――――

 

 

 

あれ、あの人って誰だっけ?

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ、10まんボルト!!」

 

『ピィカッチュゥゥゥゥゥッッ!!!!!!』

 

 

 

「いただだだだだっっ!!!!!」

 

 

 

 

大きな雷撃とともに頭がはっきりと目覚める。

少々髪が焦げて身体中が痺れてしまったが、おかげではっきりと視界がクリアになった。

 

 

私は今何を考えていた?何をしようとしていたの?

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん…?」

 

 

 

周りを見ると、私と同じように地面に座り込んでいるシルバーとセレナさん。そしてちょっとだけダメージを負ったリザードンとチルタリスとミニルギア、そしてニンフィアがいた。どうやらピカチュウが相当な手加減をしていたらしい。

そのピカチュウも何故か頭に大きなたんこぶがあるんだけど…何やったのお兄ちゃん…。

 

 

というか、兄だけが仁王立ちしているんだけど何で無傷なの?

 

 

 

 

「頭は大丈夫かお前ら」

 

『ピィカ』

 

「え、ええ…大丈夫よサトシ」

 

『フィア』

 

「電撃でちょっと痛い思いしたけど…一応大丈夫」

 

『ガゥゥ』

 

『…ギャゥ』

 

「……くっ…今のは…」

 

『チル…』

 

 

「洗脳だよ。俺以外の皆が、《あの人のため》とか口走ってたんだよ。だからまず先にピカチュウの目を覚まさせるために拳骨落としてから電撃を放ってショックを受けさせたんだ」

 

 

洗脳と言われてゾッとした。

カガリと一緒にいた城で洗脳をされた時には、頭がボーっとした程度で済んだと言うのに、今の洗脳の強制力はものすごく強かった。何も考えられなくなるほど…いや、新生ロケット団のために働かなければならないということしか考えられなくなるほど強い洗脳の力が働いていた。

 

耐性なんてあっても意味はないと思えるほどの力だったのに……

 

 

 

「待って…何でお兄ちゃんだけ洗脳受けてないの!?」

 

「ああ。あの人のためーとかそういうのは頭に直接叩き込まれたけどな…でも俺は誰かの下に付くつもりないから意味なかったってことなんじゃねえのか?無理やり俺を従わせるくらいなら、まず俺を倒して敗北を刻ませてからじゃねーとな」

 

「ああうんそうだねお兄ちゃんなら余裕で下剋上とかしそうだね」

 

「さすがサトシね大好きよ!!」

 

『フィア!』

 

「セレナさんはいつも通りだね!」

 

「ああ…流石ですサトシさん!」

 

『チル!』

 

「シルバーまでボケなくていいから!」

 

『グォォ…』

 

 

 

まあつまり、ピカチュウはお兄ちゃんに従ってるようなものだから洗脳を受けちゃったけど、お兄ちゃんを洗脳するにはまずバトルでちゃんと勝ってお兄ちゃんより実力が上だってことを刻ませなきゃいけないってことかな。そうしないと…もしもお兄ちゃんが洗脳されても余裕でボスとか直接殴り込みに行きそうな感じがする。

強いトレーナーと戦ってバトルして勝ちたいって思うほどバトル狂だもんねお兄ちゃんは…。

 

 

 

「とにかく、今の光は洗脳の光ってことだよね?」

 

「ああ…しかもその方角がシロガネ山からだった」

 

「待ってサトシ。ということは…」

 

「ピカチュウが洗脳にかかったんだから…あいつらも…フシギダネ達もかかってる可能性が高い」

 

 

 

言われた言葉にギョッとした。

 

 

 

 

「いやいやそれヤバいを通り越してまずい!!だってお兄ちゃんのポケモンだよ!?しかも絶対ミュウツーとかラティ兄妹とかレックウザもいるよね!?そうなると伝説も洗脳を受けてるってことになるだろうし…それにお兄ちゃんのリザードンとかジュカインとかもいるってこと?!それ絶対にまずいから!!」

 

「いやジュカインならボールの中にいるぞ。あとピジョットとルチャブルとガブリアスとワルビアルな」

 

『ピィカッチュ』

 

「あ、でもリザードンはいないのね…うぅ…これ本当にヤバい状況だなぁ…」

 

『グォォ』

 

「そうか?むしろリザードンが反抗期になった時のような状況だと思えば楽しいだろ。また教育のし甲斐がある」

 

『ピ、ピカピカチュ…』

 

「それもそれでどうなのよ!」

 

『グォォォ…』

 

『ギャウ?』

 

「格好良いわサトシ!大好きよ!」

 

『フィア!』

 

「セレナさん…」

 

『グォォ』

 

 

 

ため息をついた私に対して、リザードンが肩をポンッと叩いて励ましてくれることにちょっとだけ涙が出た。セレナさんとシルバーってなんか似てるところがあるから、お兄ちゃんに対してのツッコミを期待するならヒビキしかいない。だから私が頑張らないと…。

 

そう思っていると、お兄ちゃんが楽しそうに笑いながらも、ジャケットの内側にいるモンスターボールを見せてきた。確かに6つ(一つはピカチュウ用だけど)あるのが確認できる。懐の一番左にある、小さくなっているボールから微かにジュカインがこちらをじっと見つめている様子がみれたため、洗脳もなく正常だということが分かった。

 

それを見て、シルバーが首を傾ける。

 

 

 

「…ボールの中にいるポケモンは洗脳を受けないのでしょうか?」

 

「その可能性はあるな。だが、トレーナーが洗脳を受けている以上、無事な方のポケモンがそのまま正常でいる可能性は低い」

 

「私達みたいに、トレーナーが異常だと察知してポケモンが攻撃をしたとしても?」

 

「セレナ、洗脳を受けた連中は皆ただ一心に新生ロケット団の支えになるために働こうとするが、それ以外の感情や言動は変わらないんだ。素のままだと錯覚するぐらいにな」

 

『ピィカッチュ!』

 

 

 

ピカチュウがうんうんとお兄ちゃんの肩で何度も頷いている。

もしもそうだとしたら、ボールの中に入っているポケモンはただトレーナーの夢がちょっと変わっただけで、いつも通りだと思い込み、そして普通に付き従っていくかもしれない。言動も表情も…そして性格でさえ同じなのだから。

でも、攻撃でどうにか洗脳から解放されるなら、ここら一帯に電撃か何かの攻撃をすれば皆もとに戻るかもしれないっていうのはやばいかな。

 

まあそれをするなら、まず新生ロケット団をどうにかすることが先かな。

 

 

 

「だから……ヒビキはああなったのか…」

 

「…大丈夫、シルバー?」

 

「ああ、大丈夫だヒナ。むしろあの脳内に花畑でも咲かせている馬鹿の目を覚まさせるためにも、余計に新生ロケット団をぶっ壊さなければと思い直したところだ」

 

『チルルゥ』

 

「う、うん…そうだね。これは本気でどうにかしなきゃだよね…」

 

『グォォ…』

 

 

 

やる気満々なリザードンを見て、そしてちょっとだけ眠そうなミニルギアの頭を撫でる。ミニルギアはひんやりとしていてすべすべな肌のせいで、撫で心地が良い。目を閉じて何も言わずに撫でられているミニルギアの表情と。その感触に少しだけ心が落ち着いた。

 

 

 

「…ねえサトシ、私マサラタウンに戻ってもいいかな?」

 

『フィア?』

 

「ああ、そうだな。母さんなら問題ないように思うが…ミヅキが心配だ」

 

『ピィカ』

 

 

 

ボールからピジョットを取り出したお兄ちゃんが、セレナさんをピジョットの背に乗せるために手を掴み支える。ピジョットに乗ったセレナさんの後ろに乗る形でお兄ちゃんとピカチュウも座り、こちらを見た。

 

 

 

「ヒナにシルバー。お前たちも来てくれ。今ここで別々に行動するのは危険だからな」

 

『ピッカ!』

 

『ピジョォ!』

 

「うんわかった。リザードンお願い!」

 

『グォォ!』

 

 

お兄ちゃんに賛同する形でリザードンの背に乗り、シルバーを見た。だがシルバーはチルタリスに乗らず、何故か首を傾けている。

 

 

 

「…ミヅキとは誰だ?」

 

「あとで説明するよシルバー。私もミヅキちゃんのことが心配だし…ほら、早くチルタリスの背に乗って行こう!」

 

「あ、ああ…」

 

『チル!』

 

 

 

 

 



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ユウキ君とワカシャモちゃん


やっぱりホウエン地方は平和である。




 

 

 

 

 

ホウエン地方のとある町のとある家。

 

 

その家のキッチンにて、炎が飛び交っていた。

ただし家に燃え移らないようちゃんと調節されており、かつモモンケーキの表面を焼け焦がすように熱していく姿はまさしく新妻。アチャモたんだった時は可愛らしくて小悪魔だったけど、今は最上級の天使。たまに炎が壁を焦がすだなんてことあるけど、アチャモたんを貰った時に家の壁紙を全部炎ポケモン専用の防火材入りになったから炎上することはない。

むしろ俺にとって壁をちょっとだけ焦がして『あ、やっちゃった…』というちょっぴり反省した顔がまさしくキュート過ぎて心にくるね!ドジっ子可愛いよワカシャモちゃんまじワカシャモちゃん!!!!

 

 

 

 

 

『シャモ!』

 

「あああワカシャモちゃんマジ俺の嫁!いつもありがとうワカシャモちゃん!!」

 

『シャモシャモ!』

 

「うわぁその笑顔良いね!さっそくネットに投稿しておくよ!!!」

 

 

 

 

 

写真を連打する俺の姿を慣れたように斜め四十五度で可愛らしく笑ってくれるワカシャモちゃんが本当に天使だ!!

しかもワカシャモちゃんが焼いてくれたモモンのケーキは本当に美味い!!どうやら現在このホウエン地方のカイナシティのカイナ市場――――つまり、ショッピングモールにある場所で一時的にやっていたルカリオカフェの特番を見て、ポケモンでもお菓子を作れるんだとイマジネーションが湧いたらしい。

ワカシャモちゃんも進化して手足が動かせるので、自分で好きなお菓子を作って食べたいという願いを叶えるためたくさん練習して作ったもんな。最初は失敗ばかりで黒焦げが多かったけど、今はおかわりしちゃうほど美味すぎるもんな。

流石はワカシャモちゃん!本当に俺の嫁になってほしいぐらいだ!!!

 

 

 

 

 

「ワカシャモちゃん。炎のジャグリングお願いしまーす!」

 

『シャモ!』

 

 

 

 

 

カメラを構え、動画を撮影する俺に対して自信満々にフッと笑ったワカシャモちゃんが、片手に大きな炎の玉を発生させる。そしてそれを二~三個増やしていき、天井スレスレまで投げてはキャッチを繰り返す。まるで小さな炎の踊り子だ。

このジャグリングもお菓子の時と同じように失敗して天井に穴を開けるばかりか二階の床までぶち空けたことがあったよな。それでしょぼくれてしばらく布団に引き籠って本当に可愛かった。精一杯慰めたけど、俺としてはどんなに失敗してもワカシャモちゃんと別れない限り絶望なんてないし、怒ることだってしないんだから気にしなくてもいいのに…。でも、ちゃんと何度も練習してジャグリングを成功させたときは最上級の笑顔を見せて俺に抱きついてきたから一瞬ヘブンが見えた。俺本当にワカシャモちゃんを幸せにするって覚悟を決めたぐらいだ。

 

 

 

 

 

「はぁぁ…ワカシャモちゃんマジ愛おしいよ…」

 

 

 

首に水玉模様の青色スカーフを巻いているから、とてもキュートで可愛い。フリフリがたっぷりはいったレースのエプロンも付けてジャグリングしてるから本当に可愛い。もう俺だけのワカシャモちゃんだからネットに投稿したくないけど、全世界に自慢したい気持ちもあるから仕方ない。

たまにネットで「お前何でコーディネーターじゃねーの?」とか、「パフォーマンス力あるんだからデビューしちゃいなYO!」とか意味わかんねえこと言われるけど、俺はこのままで十分だ!!!

 

 

 

 

 

―――――ドタドタドタドタッッ

 

 

 

 

 

「いい加減にするかもユウキ君!!!!!!」

 

『バシャ!!!』

 

 

 

 

キッチンの机で先程撮っていた動画をパソコンで投稿していた時に来た邪魔者師匠。

俺はため息をついてハルカさんを見た。

 

 

 

 

「うるせーよハルカさん。ってか何がいい加減にするわけ?ちゃんとハルカさんの言った課題は完璧にこなしたんだから…逆に褒められてもいいはずだろ?」

 

「何が完璧にこなしたのよ!あなたのアチャモは進化したくないって願望がなかったから進化させてって言ったけど……一歩も外に出ないで進化させろとは言ってないかも!!…というか、どうやって進化させたのよ?」

 

「別に進化する方法ならいっぱいあるもんな。な、ワカシャモちゃん」

 

『シャモ』

 

 

 

ワカシャモがにっこりと笑って冷蔵庫から取り出されたあのお菓子を見せる。

それを見た瞬間ハルカさんの顔が面白いほど変わった。この顔はたぶんハルカさんのファンに見せたら「貴重な一面いただきました!」って言われるか、「ハルカさんがそんな顔するだなんて!?僕もうファンやめます!!」って絶望するかのどちらかだな。

 

そう呑気に思っていたら、ハルカさんが肩を振るわせつつ少々低い声で言ってくる。

 

 

 

 

「ちょっと待つかも…何であなたの家にこんなに大量のふしぎなアメがあるの!?私でもこんなに持ったことないかも!!!」

 

『バッシャァ!!』

 

 

「ネットって偉大ですよ。アチャモたんファンの皆さんにふしぎなアメの提供を呼び掛けたらものの見事にいっぱい集まりました。ちなみにバシャーモに進化できるレベルであります」

 

『シャモォ!』

 

 

「ネットなんてクソ食らえだわ!」

 

「ハルカさん今の言動絶対にファンの人に聞かせちゃ駄目ですよファンがいなくなります」

 

「コーディネーターになろうとしないユウキ君に言われたくないかも!!!」

 

 

 

ネット文化万歳。何か困っていることがあったらすぐに助けてくれるフレンドに万歳。助け合い精神って本当に重要だよね!!

というか、貴重なメガストーンとかならまだしも…ふしぎなアメならばバトルリゾートのバトルハウスにて連戦連勝してるフレンドのトレーナーがいるらしく、そいつから「そうかい…バトル嫌いなアチャモたんを進化させなければならないんだね。正直、アチャモたんの成長のためにはならないが…分かったよ、手を貸そう」と言ってくれたことによって大量のふしぎなアメをゲットすることができたのだった。だから細かく言えばバトル大好きなフレンドに万歳なのだ。

 

あ、今ワカシャモちゃんが『フフッ、進化するならバトルしない方法を選んでくれたマスターが大好きよ!それにこれが一番いいの!』と笑って言っているように感じて、ちょっぴりドヤ顔したワカシャモちゃんのことをカメラで何度も激写した。さっそくカメラで投稿しなければ…!!

 

 

――――と思っていたら、ハルカさんが俺の頭をギュッと掴んで真顔で言ってくる。

 

 

 

「そうね、分かったわ……ユウキ君は本当に家から一歩も出たくないってことがね」

 

「ようやく分かってくれましたかハルカさん。あの、頭が握り潰されそうなんですけど痛い痛いッ」

 

「あなたのお母様からも頼まれてるの!私はあなたを立派なコーディネーターにするために外に出すってことをね!だから絶対に私はあきらめないかも!!」

 

『バッシャァ!!』

 

「いやだから痛いって言ってるだろ握力ケッキングかいだだだだだだだッッ!!!!!」

 

「ニートを卒業させるために!ユウキ君をこのままミナモシティまで連れて行きます!!!バシャーモ、ユウキ君のワカシャモをお願い!!」

 

『バシャァ!』

 

 

「嫌だァァァァ!俺は絶対に家から出ないからなハルカさんの馬鹿ァァァァァッ!!!!!」

 

 

「本当にいい加減にするかも!!!!!」

 

 

 

 

 

『……シャモ』

 

 

 

ワカシャモちゃんは一声、面倒そうにため息をついた音が聞こえてきたと言うのに――――貴重な一面を写真に撮ることができないだなんて全部ハルカさんのせいだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十二話~反撃への第一歩~

 

 

 

 

 

 

マサラタウンという町は、本当に自然が町を飲み込んでいるかと思えるような大自然が広がっている。だからこそ、常時何かのポケモンの鳴き声か気配を感じることができる賑やかな町でもあるのだ。

 

それに通常の町ならば、人に慣れているポッポ達が子供たちと触れ合い、たまに現れるニョロモたちと一緒に遊んだり、森の中で探検し迷って大自然の怖さを知ることができるのが当たり前かもしれない。

そして、ポケモンと触れ合えると言っても、子供たちはまず親が持っているポケモンとふれあい、どう接すればいいのかを学んでから野生のポケモンたちと関わるようになるのだが―――――このマサラタウンでは、自然と共存して生きているために、野生のポケモンと関われるのはトレーナーとしての資格を貰ったものか、オーキド博士によってポケモンに触れてもいいと許可を貰った時しかありえないと、ここ数年のうちにそう考えられルールが定まってきた。だからこそ、幼い子供が野生のポケモンと一緒に遊べること自体本当に珍しいのだ。

 

なんせ自然が広すぎるからこそ、外に出て野生のポケモンたちと遊んで――――下手したら一週間か二週間ほど行方不明になるということはあり得るのだから。オーキド博士なんて自身の研究所にフィールドワークに行こうとして一か月間いなくなるということだってあるくらいである。そのためオーキド研究所の助手であるケンジさんがよく愚痴ったりしてシゲルさんをマサラタウンに連れ戻せないかと画策していたりするが、まあそれは割愛しよう。

 

だからこそ、幼い子供のうちに野生のポケモンと遭遇した時にどうやって対処していけばいいのかをちゃんと学ばないと、アーボックやスピアーに襲われて死ぬことになる。それほどまでにも野生のポケモンと近くて、たくさんのポケモンと共に生きる街だと言うのに…。

 

 

 

何でこんなに静かなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ああっそんな!」

 

 

 

 

 

マサラタウンの私達の実家の扉を開けて広がっていたのは、誰もいないもぬけの空な家であった。

それにセレナさんが泣きそうな声を上げ、二階や部屋の奥を探し回っている。

ピカチュウも何度か鳴き声を上げながら庭の方を探し、お兄ちゃんも周りを見て――――そして一度息をついてからセレナさんに呼びかけた。

 

 

 

「セレナ」

 

「ねえ、いないよサトシ。あの子がどこにも…お義母さまもいない。何で…」

 

「セレナ」

 

「お義母さまなら大丈夫だって思ってたけど…でも、今ここに居ないってことは…やっぱり…」

 

「セレナ!」

 

 

兄がセレナさんの両肩を掴み、額をコツンとぶつけて至近距離で言う。

 

 

「母さんが洗脳なんかに負けるような人じゃないだろ。それにミヅキの傍にはちゃんとニャビーがいる。あの子ならミヅキのことを必ず守ってくれる」

 

「………でも、もしも洗脳を受けていたとしたら」

 

「洗脳を受けていたとしても…あのニャビーがミヅキのことを放っておくわけないだろ。ずっとずっとあの子の傍で見守って来てたんだから」

 

「…うん」

 

「大丈夫だ。ミヅキとニャビーを信じろ。それに母さんはこの俺を産んでくれた母親だぞ?母さんも…ミヅキのことを守ってくれる」

 

「うん」

 

 

 

 

セレナさんを抱きしめ、慰めるように―――いや、元気づけるようにいう兄の言葉に何も言えなくなる。

大丈夫。兄は母親似なのだから、洗脳の効果が効かない兄と同じように母も絶対に洗脳を受けてはいないはず。それにあのニャビーもいるんだから大丈夫。

兄の言葉に勇気づけられたセレナさんは、浮かべていた涙を拭って「分かった。私も娘とニャビーを信じる。お義母さまのことも、ちゃんと信じるわ!」と自分に言い聞かせているかのように、宣言している。兄に言われても、やっぱり不安なんだろう。そして兄もそれを分かっているのだろう。セレナさんの頭を撫でて、大丈夫だと励ましていた。

 

 

そんな兄夫婦の会話に入れない私とシルバーは、とりあえずその場を離れて玄関で待つことにした。

 

 

 

 

「…ヒナ、ミヅキというのは誰なんだ?」

 

「私の姪っ子だよ」

 

「姪…はっ!?姪だと!!?」

 

「うん。まあ…いろいろと事情があるんだけどね。…私から見れば可愛い姪っ子だよ。ニャビー含めてね」

 

『ギャウ?』

 

 

 

首を傾けているミニルギアの頭を撫でながらも、空を見上げて思い出す。

何故そこにいたのか、何があったのかはわからないが…シロガネ山にて段ボールに入れられ、ニャビーと一緒に捨てられていた子供がミヅキであった。それをヨーギラスの子供たちを連れていたバンギラスが見つけ、兄の元へ連れて帰ったのがきっかけだったのだ。

まあその後ニャビーがミヅキの傍から決して離れなかったり、ニャビーの出身地であるアローラ地方に連絡をとって、ワケありの子供たちを守り育成する機関に預けようとしたらセレナさんの手を離そうとしないミヅキとアローラ地方から来た職員に向かって威嚇をし炎を放つニャビーがいたりといろいろと大変な騒動があったけれど―――――それらがきっかけで、今こうして私たちと家族になったんだ。

 

大丈夫。ミヅキはお兄ちゃんのダイケンキに全力の高い高いをやられて雲の上まで空を飛んでも泣かずにむしろ笑っているぐらい肝が据わってる赤ちゃんだから大丈夫。その後、ブチギレたニャビーとフシギダネによって制裁を下されたダイケンキなバトルがあっても、うたた寝をするような赤ちゃんだから大丈夫。

 

 

うん、大丈夫だよね…?

 

 

 

「…俺にはよく分からないが、あのサトシさんの娘ということならば…何も問題はないだろう。それにヒビキから聞いたが…お前の母親であるハナコさんも、かなり凄い人だと言うじゃないか。なら洗脳なんかに負けず、反撃すると思うぞ。だからそんな泣きそうな顔をするな」

 

「…うん、そうだね。そうだよね…大丈夫」

 

「ああそうだ。むしろ不安になるよりも、あの馬鹿なことをしでかしたヒビキをぶん殴る方法でも考えておけ」

 

「あははっ…分かったよ」

 

『ギャゥ!』

 

 

 

 

無表情で愛想のない顔だけど、ちゃんと気遣ってくれているというのは伝わった。だから、もう不安になるのは止めよう。お兄ちゃんだって大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫。

むしろこれからのことを考えないと。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

いろいろと落ち着いたセレナさんが私とシルバーを玄関まで迎えに来てくれて、ダイニングの方で椅子に座り、話し合う。

 

 

 

 

「この分だと…マサラタウンもやられてると見ていいよね…」

 

「ああ。野生のポケモンの音も、オーキド研究所から聞こえてくるはずのケンジのマリルリのハイドロポンプでさえないんだから…全部やられたと見ていい」

 

「そっか…ん?ねえ、新生ロケット団ってことは、本来の…つまり、シルバーのお父さんが経営してるロケット団は大丈夫なの?」

 

「父上ならばイッシュ地方に出向いているから、洗脳の件は平気だと見ていいだろう。ロケット団の運営は父上とサトシさんがあってこそだからな…まあ、不安な部分はないとは言い難いが…」

 

 

 

 

複雑そうな顔で舌打ちをしたシルバーに対して、兄が小さく頷く。

 

 

 

 

「そうだな。それもあるが……ヒナ、お前ヤマブキシティでカガリって名前を出したよな?」

 

「え?う、うん。そうだけど…」

 

「何処で会った?」

 

「上空にある大きな城で会ったよ。でも、洗脳されてるみたいな感じで、ずっと《あの人のため》って呟いてた」

 

「ヒナちゃん。上空にある大きな城って…?」

 

 

 

 

私はずっと抱きしめ、半分眠った状態になっているミニルギアに会った経緯と、大きな城に行ってからカガリによって城から落下し、リザードンによって無事に済んだ事情を全て説明する。

その話によって、セレナさんが真剣な顔で頷き、兄は難しそうな表情を浮かべ、そしてシルバーはちょっとだけ驚いたような顔をしてから苛立ちの舌打ちをまた一つ零した。

 

 

 

 

「大きな城?洗脳の効果がある機械が置いてある?何を考えてるんだあのコソ泥の新生ロケット団は…!!」

 

「お、落ち着いてシルバー!」

 

「ああそうだ、落ち着け。…でもまあこれでようやくシロガネ山からの洗脳の光が何で来たのかが理解できたな」

 

「ええ、そうね」

 

「へ?どういうこと?」

 

 

 

 

兄とセレナさんがお互いの顔を見合わせて頷いた様子に顔を傾けた。すると兄は簡単に説明をしてくれる。

 

 

 

 

「俺とセレナが山から下りてヤマブキシティにいた理由は―――ぶっちゃけカガリが関わっているんだよ」

 

「何で!?」

 

「カガリちゃんがね。マツブサさんの大事なキーストーンを新生ロケット団に奪われたからって理由で私たちと手を組んでくれたの。わざわざ新生ロケット団のアジトにまで乗り込んでくれて…それで、何かを盗み出そうとしてくれているって情報を教えてくれたんだけど…」

 

「カガリが既に洗脳されていて、かつその情報自体が囮だったと言うのなら、シロガネ山に連中が来たことに納得がいくな」

 

「それはつまり、サトシさん達を山から下ろすという名目が必要だったからですか?」

 

「そうだ。…シロガネ山はポケモンたちにとっての安息の場でもあり、優れたトレーナーが鍛えるための場所でもあり……そして、カント―地方とジョウト地方を結ぶ山なんだよ。そこを一気に奴らに奪われたとしたら?」

 

「……まさか」

 

「ああ。カントー地方だけじゃなく、ジョウト地方もヤバいってことになるな……まったく、ある意味してやられたとでも言うべきか…」

 

 

 

「サトシ…何か、楽しそうな顔してる?」

 

 

 

 

 

セレナさんの言葉を聞いて私とシルバーは兄の顔を見た。確かに兄はちょっとだけ楽しそうに笑っていたのだ。

 

 

 

 

「不謹慎で悪いが…新生ロケット団をどうぶっ潰すのか考えるのが楽しいんだ。新生ロケット団がやってきた所業には目を瞑っていられない状況だけど…今まで強くなってきた友達や俺の仲間、そしてたくさんの人間たちが敵になるんだから。正直、バトルだけでも楽しめるんじゃねーかなって思ってな」

 

「はぁぁぁッ!!?」

 

 

 

 

戦闘狂かこの兄は!?

ううん訂正しようずっと前から戦闘狂だった!!

それにしては不謹慎だよ!

 

大丈夫だと信じたいけどミヅキちゃんの件もあるんだからさ!!!

 

 

 

 

「あのねお兄ちゃん…皆だよ!みんな洗脳されたんだよ!?カスミさん達も、フシギダネ達も……それに、伝説のポケモンであるミュウツーたちも!…お兄ちゃんは、皆が…新生ロケット団で何か嫌なことされたり…傷ついてたりするんじゃないかって思わないの!?」

 

「知ってるか、ヒナ」

 

「え?」

 

「俺の友達も、俺のポケモンも……皆、癖が強いんだぜ?癖というか、全員ちゃんとした信念を持って生きてるんだ。だからこそ、例え洗脳を受けていたとしても―――プライドがボロボロになるような指令を受けたとして、素直に頷くとは限らない」

 

「でも…あのカスミさんがジムを休業中にしてるって時点でヤバいんじゃ…もしもいろいろとやりたくないことでもやらされるような強い洗脳を受けたりしたら……」

 

「そんなことになる前に、俺達が助けに行くんだよ。な?ピカチュウ」

 

『ピィカッチュ!』

 

 

 

何故こんなにも兄が自信満々に言うのかが理解できなかった。もちろんそれはシルバーもだ。

でも、セレナさんはちょっとだけ苦笑して、それでも兄の言葉にしっかりと頷いているのを見て――――私達にはない大きな経験を持つ兄だからこそ、根拠のない自信だとしても、大丈夫だと思い信じることができるのかなと思えた。

ポケモンとの絆を深く持っている兄だからこそ、いろんな地方を旅して様々なトラブルに立ち向かってきた兄だからこそ―――――この世界で最強と言われているポケモンマスターな兄だからこそ、根拠がなくたって信じ切ることができるんだと思う。ちょっと不安だけど、この兄がいるなら大丈夫なのかな。

 

だからこそ、これからぶっ潰しに行くであろう新生ロケット団に軽く同情してしまった。それはシルバーも同じなのだろう。しっかりと兄の方を見て頷いてから、口を開いて言う。

 

 

 

「……では、これからどうしますか?シロガネ山の拠点を奪われたと言うことでしたら、まずはシロガネ山へ向かいますか?」

 

「いや、それよりもまずはハナダシティに向かうぞ」

 

「ハナダシティ?」

 

「洗脳は機械でできてるだろ?だから、機械には機械で対抗してやろうぜ」

 

 

 

兄はピカチュウを小さく撫でてから、親指を下に向けてニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 



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第四十三話~別に嫌いなんかじゃないんだからね!~


私はコガネ弁がよく分からないです。ですので変な部分が多いかと思います。これ絶対におかしい!というセリフがありましたら指摘お願いします。






 

 

 

 

 

 

ハナダシティより少々町から外れた場所にある一軒の家。野生が出やすそうな場所だが、その家に住む人間は野生のポケモンとも何とか友好的に関わってきていたため、今までトラブルなんかは起きずにいた。

遅刻したり忘れ物をしてわざわざ戻る羽目になったりといろいろとその人間のせいでトラブルが起きると言うことはあったが、野生のポケモンとのトラブルなんて起こしたことはなかったのだ。

 

だからこそ、イーブイは目を白黒させていた。ボールの中で眠っていたところ、人間がイーブイをボールから出して、なんとみずのいしをイーブイに使おうとしているのが見えたのだ。

 

 

『ブ、ブイ…!?』

 

 

イーブイはまだ進化をするつもりはない。というか、何に進化をするのか選ぶ段階だからゆっくりと考えようと思っていたのだ。

その人間――――――マサキがイーブイの願う進化をさせてくれるかどうかはわからないが。それでも、進化を強要するということは今までしなかったはずなのに。

 

 

『ブイ…ブィィ!!』

 

「大丈夫やでイーブイ。身体の力抜いて…すぐ終わらせたるから…」

 

『ブイ!!?』

 

 

イーブイは部屋の奥の机の下に潜り込み、隠れる。身体の毛を大きく見せ、威嚇をして『こっち来んな!』とばかりに何度も鳴き声を上げる。

対するマサキは右手にみずのいしを持ち、左手はイーブイを狙って手を伸ばす。イーブイが思いっきり噛みついたとしても、右手にみずのいしがある限り何かのきっかけで石が当たって進化をしてしまうかもしれないとイーブイは攻撃できずにいた。

 

伸ばされた手が目の前に広がる。

 

 

もう駄目だと、イーブイが目を閉じたその時だった。

 

 

 

 

「10まんボルト」

 

『ピィカッチュゥゥ!!!!』

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」

 

 

 

マサキの悲鳴と、見知らぬ男とピカチュウの声。目を開けて見ると、マサキが黒焦げになっている様子が見える。そしてこちらを心配そうに見つめている少女がいる。

 

前に助けてくれたあの女が、こちらに手を伸ばして頭を撫でてきた。

 

 

「イーブイ、大丈夫?」

 

 

 

『…………ブィィィィィッ!!!!』

 

 

―――――助けに来るのがおっそいんだよこの馬鹿!!!!

 

 

 

イーブイは頭を撫でてきたヒナの手に向かって、八つ当たり気味に噛みついた。

当然その結果ヒナから痛みによる悲鳴を上げられたのが聞こえてきたけれど、イーブイは膨らんでいた毛がもとに戻るぐらいには安堵していたのも気付いていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

マサキさんがいるため、伝説のポケモンと言われているミニルギアにはモンスターボールに入っててもらい、マサキさん家を訪問した私達。

まあやっぱりマサキさんは洗脳にかかっていて、ものすごく大変な状況にあったのは理解できたけど、お兄ちゃんたちがいるから何も問題はなかった。

 

うん、一応…。

 

 

 

 

「ヒナちゃんがポケモンに懐かれないなんて珍しいね?」

 

「あはは…なんか私との出会いがイーブイにとって最悪らしくて…」

 

 

 

セレナさんが驚いたような声を上げたことに対して乾いた笑みを浮かべた。

 

でも、いまだにガジガジと噛まれている手は最初に頭に噛みつかれた時と違って血が滲みそうになるほどの力強いものではない。

このイーブイに嫌われるのはなんでなんだろうかとちょっと疑問に思うけど、噛みつきが手加減されているイーブイに苦笑するだけで済んだ。

 

その間にも、兄がマサキさんの胸ぐらを掴んでぶんぶんと揺さぶっており、シルバーがさっさと目覚めろとばかりにマサキさんにだけアリゲイツによるみずでっぽう発射が行われているのが見えた。マサキさん大丈夫なのかな…?

 

 

「ブッフォ!ぐっ…何やねん!!!」

 

「何やねんじゃねーよ」

 

「いっだ!!!」

 

「それで?洗脳は解けたみたいだな」

 

「…洗脳?」

 

 

マサキさんがパチパチと目を瞬き、周りを確認する。そして地面に転がっているみずのいしを見て、引き攣った笑みを兄に向けた。

 

 

「ど、どういう…」

 

「マサキさん。あなたは新生ロケット団に洗脳されていたんですよ」

 

 

兄とシルバーの説明により、自分が何をしたのかを察したらしいマサキさんが、顔を青くしながらも私の手を噛んでいるイーブイに近づいてその頭を撫で、「すまんイーブイ…」と言った。その言葉にイーブイがようやく噛んでいた手から離し、顔をフイッと逸らしつつ『ブイ…』と許してくれたようだった。

 

 

「そんで?俺に何をさせるつもりや?」

 

「よく分かったな」

 

「当たりまえや。一体何年の付き合いがあると思っとるん?」

 

「そうだな…とりあえず、機械を作ってくれないか?」

 

「機械ぃ?」

 

「ああ。洗脳を洗脳で上書きできるようなやつ」

 

 

 

 

ニヤリと笑った兄の顔をじっと見て、やがてマサキさんもニヤリと悪い笑みを浮かべる。何が伝わったのかはわからないが、マサキさんとセレナさんはちゃんと理解しているらしい。

 

 

 

 

「なるほどな…そら、俺にしかできんっちゅーわけや」

 

「そうだ。頼んだぞ」

 

「任せとき!」

 

 

 

早速とばかりに機械の方へ向かうマサキさんに対して、セレナさんが話しかける。

 

 

「モンスターボールに入れられているポケモンは洗脳が効かないわ。だからボールの中にポケモンを入れて…何かあったらすぐに攻撃して洗脳を解除してもらえるようにね?」

 

「おお!せやったらブラッキーに任せとくわ」

 

 

棚の上にあるモンスターボールの中にあるダークボールを取り出したマサキさん。その中には自信満々な顔で頷いたブラッキーの姿が微かに映っており、とりあえずまた洗脳の効果が出たとしても大丈夫だと悟った。

それを見て笑った兄が、隣にいたシルバーの頭を撫でつつも口を開いて言う。

 

 

 

「おし。んじゃあさっさと乗り込むか―――――」

 

 

『―――ブィ!!』

 

 

 

 

玄関を防ぐように、イーブイが立ちはだかった。

 

 

 

「どうしたのイーブイ?」

 

『ブイブイブイ!!ブィィ!!』

 

「…協力したいんやろ?この子は負けず嫌いやから…助けられた恩を返したいんや」

 

『ブィィ!』

 

「いだだだッ!!な、何?!」

 

「あはは。気に入られた見たいやな。ならそのイーブイはヒナちゃんに預けたるわ。大事に育ててくれへんか?」

 

「え?……ええぇ!!!!?」

 

 

いや急に何でそんな話になってるの!?

というかこんなにも腕を噛みつかれてるのに気に入ってるって意味が分からないし、全然気に入られたような顔してないよ!イーブイにあるまじき物凄い顔して噛みついて来てるよ!!

 

 

「普通はお兄ちゃんとかなんじゃ――――」

 

「あ、せや!ヒナちゃんがイーブイ貰うんやったら、君もやらなあかんわな!」

 

「はっ?」

 

「ああ、マサキ。それだったらお前が持ってるあれも渡してやってくれ」

 

「おお!ほんならこれとこれ、貰ってくれ。シルバー君やったら、ちゃんと大事に育ててくれるやろうし…」

 

 

 

シルバーが渡されたのは、二つの丸いモノ。一つはモンスターボールであり、その中には小さなイーブイが眠そうに目をパチパチさせているのが見えた。

 

 

 

 

「良いんですか…?」

 

「ええで!どっちみちヒナちゃんと君と…あとヒビキ君には渡すつもりやったからな!」

 

 

 

なんというか…こんなにもイーブイを渡して大丈夫なのかと言いたい。

でも、マサキさんもイーブイも何も問題はないように見えた。私の腕に噛みついてるイーブイはともかく、シルバーがモンスターボールから取り出したイーブイは眠そうに目を前足でこすりながらも、シルバーに近づいて『ぶいっきゅ』と鳴き声を上げ、足にすり寄ってきたのだから。

それを見てシルバーはフッと笑い、「宜しくな、イーブイ」とその頭を撫でた。頭を撫でられたイーブイは気持ちよさそうに『ぶい~』と鳴き声を上げて、大きなあくびを溢していた。

 

 

 

「というか、お前…まだイーブイをいろんなトレーナーにばらまいてんのかよ」

 

『ピカピカ?』

 

「ちゃうわ!変なトレーナーには渡さへんよう選んでるんやから、ばらまいてないで!!可愛いイーブイには旅させろ言うやろ!?」

 

「いや言わねーよ」

 

『ピィカッチュ…』

 

 

「でも良かったね。ヒナちゃんにシルバー君」

 

「はい。ちゃんと大事に育てます」

 

『ぶぃ~』

 

「わ、私も!…とりあえずこれ以上嫌われないように頑張ります」

 

『ブィィ!!』

 

 

腕をガシガシと噛んできているイーブイの頭を撫でたら、イーブイの力がちょっとだけなくなり、仕方ないなとばかりに噛むのを止めてくれた。その様子を見て苦笑し、このイーブイは素直じゃないのかなと思う。最初に出会った時からずっと不機嫌だったし、反抗期だった頃の兄のリザードンみたいな感じなのだろうか。でも、一応私の手持ちになるという言葉には頷いているみたいだし、兄もセレナさんも険しい顔で否定なんかせず、大丈夫だと頷いてくれたから信じよう。

 

手持ちになったからには、イーブイがちゃんと望むような強さを身に着けて育てていかないとね。

 

 

「よろしくね。イーブイ」

 

『………ブイ』

 

 

 

 

「……それで?この石は何ですか?」

 

 

シルバーの問いかける言葉に私は思わず顔を見上げた。シルバーが持っている石は、何か見たことのあるもので…。

 

 

「シルバー。それはチルタリスナイトっていうメガシンカ用の石なんだ」

 

「メガシンカ…前に文献で読んだことがあります」

 

「ああ。…だが、メガシンカするにはちゃんとしたキーストーンが必要だし、ある程度の修行だって必要だ」

 

『ピィカッチュ』

 

「……はい」

 

 

シルバーが力強く頷いた光景にため息をついた。これでヒビキかクリスが持つことになったらなんか大変なことになる気がする。

マサキさんが何で持っているのかはわからないけれど、兄がその石を見て驚いたようには見えなかったため、マサキさんが所持しているのは知っていたのだろう。セレナさんも納得したような顔をしていることだし。そもそもさっき兄が言った「あれも渡してくれ」って言葉はつまり、メガストーンを渡してくれってことなのかな。

 

 

 

 

「トレーナーとして旅に出ている以上、いつかはメガシンカできるようになるかもしれないから、持っていて損はないぞ。な、ヒナ?」

 

「あのね…私はキーストーンを貰ったとしてもまだ使うつもりないからね!お兄ちゃんから貰ったものは返そうと思っても返せないって諦めてたし!」

 

「何だヒナ。お前は持っていたのか?」

 

「う、うん…リザードナイトをね…」

 

 

 

 

最初にハナダシティに行こうとした時に兄によってプレゼントされたもの。それがリザードナイトYであった。たぶんもう片方のはリザードナイトXの方かなと思う。でも、ポケモンマスターである兄から貰ったものだからこそ、周りでメガシンカするようなトレーナーに会うまでは絶対に使わないと決めていた。メガシンカなんてまだまだ貴重なものなのだから、使う人間は限りあるというのに…ポケモンマスターの妹だから貰えるんだという反応を周りから貰いたくはなかった。これ以上の特別は必要なかった。私は私として旅に出ているからこそ、シルバーやヒビキがメガシンカの道具を手に入れたらって考えていたんだ。

一応貰ったものだけれど、今は持たされたとしても使うつもりがなかったからこそ、リュックの奥底に入れておいたと言うのに…。

 

だが、シルバーが呆れたような顔で私に向かって言う。

 

 

 

 

「何故もらったものを使おうとしないんだ?」

 

「え?」

 

「バトルをして、必要ならば使うのが戦略というものだろう。ヒナ、お前はバトル相手に対して侮辱をする気か?」

 

「う、ううん…侮辱なんてしない。でも、私なんかが持っていいもんじゃないから…」

 

「だが、メガシンカの石を貰ってもなお、使わないと言うことはそういうことだ。ヒナ、相手に対して同情するな。ポケモンマスターの妹だからと、謙遜するな。貴様は、他の人間が持っていない物だからと言ってひけらかすような性格じゃないだろう?貰ったものはバトルに勝つために最大限に使ってこそ、トレーナーというものだ。それをちゃんと理解しろ、ヒナ」

 

 

 

 

シルバーの言葉が心の中に浸透する。

私はポケモンマスターの妹だから、メガシンカの石を貰ってもあまり嬉しくはなかった。リュックの奥底にしまって、絶対に使わないって思っていた。

でもシルバーはそれは違うと私に教えてくれる。そんなのはバトル相手に対して侮辱しているのだと言ってくれる。

強くなるためにたくさんの知識を持っているシルバーだからこそ、その説教は何よりも重いものだった。

ふと、兄の方を見てみた。兄は真剣な顔で私を見ていて、シルバーの言葉に沈黙で返していた。だからこそ、リザードナイトをあげた意味がちょっとだけ分かったような気がする。

 

リザードナイトを使おうとしない私は…バトル相手だけでなく、兄に対しても侮辱をしていたのだろう。貰ったものを使わない理由が、ただポケモンマスターの妹だからという理由だったのだから…。

 

 

私の懐のボールがカタカタと揺れている。そのモンスターボールを全て撫でてから、シルバーに正面から向き合った。

 

 

 

「………うん。ごめんシルバー…それにお兄ちゃんも、ごめんなさい」

 

「フンっ。分かればいいんだ分かれば」

 

「いや。気にしてねーよ。どのみちまだ石は使えねーし…それに、いつか使う時が来るだろうからな」

 

『ピィカッチュ』

 

 

 

シルバーが顔を背け、兄とピカチュウが笑った。セレナさんが私の背中を叩いてくれた。

 

 

私はまだ、トレーナーにちゃんとなれていないような気がする。

 

 

 

「もっともっと…頑張らないと…」

 

『……ブイ』

 

 

 

珍しくイーブイが励ますかのように、私の腕を小さく舐めた。

 

 

 

 

 

 



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第四十四話~その頃、ある悪党たちは~

 

 

 

 

カツンカツン、と音が鳴り響く。

 

その音は、奇妙なほど静かな廊下から部屋に入ってきたために鳴り止んだ。

 

 

 

「おやおや。生気のない顔をして今にも死にそうですねぇ」

 

「……誰だ」

 

「ああ、失敬…私はただの研究者ですよ。そしてしがない評論家でもあります」

 

「…んで、俺はその助手ってわけだ」

 

 

 

助手には見覚えがあった。見覚えというよりも、自身の夢を叩き潰し、あの伝説ポケモンと呼ばれたギラティナによって作り上げようとしていた宇宙をかき消されたのだから。

そんな憎っくきポケモンマスターに似た顔でこちらに手を振る姿に思わず眉がひそめられる。だが研究者と名乗った男が口を開いた。

 

 

 

 

「ああ、彼はあのサトシくんに似ていますが、ただの助手でありそっくりさんなだけですから気にしないでください。まあ、置物と思えば結構ですよ」

 

「うわ、ひっでぇ!」

 

 

 

「……それで、何の用だ」

 

 

 

見覚えのない姿と、あの新生ロケット団が本来着ていなければならない服を着ていない様子から、彼らは連中の客か、不法侵入かのどちらかだと推測した。

だが、廊下からこちらの部屋に入って来る際に見えた廊下の光景は、ロケット団の下っ端たちが眠らされ倒れている光景だったため、彼らは不法侵入で間違いないだろうとも思う。そんな連中がわざわざこちらに来たんだ。何が目的だ。

 

そう思っていると、眼鏡をかけた男がにこりと愛想笑いを浮かべた。

 

 

 

「あなたは宇宙を創りだしたかったんでしょう?それも、新世界を」

 

「………」

 

「ですが、このシロガネ山にはあなたが望んでいた伝説ポケモンであるディアルガとパルキアはいなかった。もちろん、ギラティナとアルセウスも…ですが…」

 

 

 

確かに望んではいた。

一応はやるべき目的は果たしたが、何も新生ロケット団の連中に良いように使われるつもりはなかったのだ。だからこそ、虎視眈々と狙ってはいたが、目的のポケモンを捕まえ、もう一度自身の夢に挑戦すると言う目的は果たされることがなかった。その理由を、この男は知っていた。それに警戒の色を示す。

 

 

 

「私たちと手を組みませんか?」

 

「何…?」

 

 

急な問いかけに驚くが、男は想定通りだと眼鏡をかけ直した。

 

 

 

「カントー地方を制圧し、次にジョウト地方を全てこの手に収めてやろうという底深い欲望はとても心地が良い。ですが、そのやり方は優れませんね。たかが洗脳でポケモンと人間との絆が失われるわけはないと言うのに…」

 

「……」

 

「洗脳というのは、欲望だけで成功させるものじゃないですよ。ちゃんとその者がなりたいと思える自我を解放させて、私たちのやりたいことと洗脳される側のやりたいことの方向を一致させないとね」

 

「んー?それって難しくねーか?」

 

「君は黙ってなさい」

 

「うぇー…はいはい…」

 

 

サトシに似た少年が嫌そうな顔で舌を出して、男からプイッと顔を背ける。そして男は再び問いかけた。

 

 

「私は、サトシ君の限界というものを知りたい。彼に負けがあるのかどうかをちゃんと見てみたい。調べてみたいんですよ。あなたは…新世界を望むのでしょう?」

 

「…ああ」

 

「ならば、手を組みましょうか。あなたが望むのは新世界…ならば、新世界を作り出す可能性の高いサトシ君に関わりたい私と共に―――――新生ロケット団に新しい脚本を書き換えてやりましょう」

 

 

その言葉は虚言に等しいものだと思えたが。男は本当にそれを叶えてやろうという意思があった。

それに、確かにあのサトシを使って新世界が開けると言う可能性は十分あると納得できた。伝説ポケモンであるディアルガやパルキアに対して拳ひとつで黙らせたあの男なら―――――あのサトシを使って、新世界が築けるというのなら。

 

 

 

「……夢が、叶うのなら…手を貸そう」

 

 

 

新生ロケット団への信頼というのは元からない。もちろん、この男に対してもない。

だが、目の前にいる男もこちらに対して同じ思いを抱いているのだろう。利用し利用される関係だが、野望が叶うのなら悪くはない。だが、素直に利用されるつもりはない。

 

男は微笑み、そして優雅に口を開く。

 

 

 

 

「ああ、ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。私はアクロマ…そしてこっちの助手はクロですよ」

 

「…そうか。私はアカギだ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。ロケット団…いえ、ロケット・コンツェルンの会長、サカキ様」

 

 

イッシュ地方のとある場所にて、黒服軍団に囲まれている一人の男がいた。本来ならば男…つまり、サカキには数人の部下と共にイッシュ地方で商談をし終え、カントー地方へ戻るはずだった。だが戻る途中車を走らせていたのだが、その車にぶつかる形でゴローニャが複数襲いかかり、また車を止めて何があったのかと部下たちが出て行けば、突如現れた黒服の男たちによって昏倒され、ゴルバットやラッタで逃げようとしたら襲うとでも言いたげにこちらを脅していたのだ。野次馬もいない静かな道に車を走らせたのが悪かったのか、それともそれらも全て連中の計算通りなのか。

 

サカキは連中に向かって静かに威嚇している自身の手持ちであるペルシアンを落ち着かせながらも、帽子を脱いで目の前にいる以前の部下――――アポロを見た。

 

 

「何の用だ」

 

『ニャッ』

 

 

「つれないですね。これでも…あなたのことをまだ、尊敬していると言うのに…」

 

 

アポロが指をパチンッと鳴らすと、どこからともなく出てきたポケモンが両手にある大きなリングを解放し、扉を作り上げた。

そのポケモンをよく見れば、ある種の珍しいポケモンと呼ばれているフーパだと理解する。

 

アポロが解放された扉を指差し、にっこりと笑った。

 

 

「さあ、行きましょうか」

 

 

こちらには拒否権なんて何もない。それを理解したサカキがペルシアンを従えて扉の先へ潜り抜けた。

 

―――――そこにあったのは、ある意味想像していない光景だった。

 

 

「どうですか?いい光景でしょう!?」

 

 

「………」

 

『ニャァ…』

 

 

 

伝説と呼ばれているポケモンたちが、何かの大きなカプセルに入れられ眠りについている。その頭には機械がつけられており、近くにあるパソコンからデータが記載されていく。

その中央には、以前あのサトシと出会う前に行った実験で出会った、ミュウツーがいた。

 

 

「ふふふ…ここには、あなたが築いた悪しき遺産が眠っている!ですが、あなたが従えきれなかったミュウツーを私が洗脳することに成功をした!他の伝説ポケモンも、そして熟練たるトレーナーやポケモンたちでさえ、操ることに成功しましたよ!」

 

 

あははははっ!、と両腕を広げて笑い声を上げるアポロに、ペルシアンの毛が逆立つ。

これが、私の残してしまった悪しき遺産。アポロを含めて、自分が築き上げた悪を取り払い、なかったことにした結果がこれなのか。

サカキは心の中で苛立ちと自己嫌悪をもってアポロを見つめていた。表面は無表情かつ何も感情を見せようとしないほど冷静であったが、心の中は燃え上がっていた。

 

 

「どうですか?あなたが出来なかった悪を、私たちはやり遂げた。これを全て、あなたに見せたかった」

 

「…ほぉ」

 

「カントー地方は、もはやこの手にあると言っていい!どんな悪事をしても、もう許されるよう洗脳を施したんですよ!?……だから、もう一度一緒にやり直しませんか、ボス」

 

 

手を伸ばし、まるで迷子の子供かというかのようにこちらを泣きそうな目でじっと見つめるアポロ。

サカキはその手を振り払った。

 

 

「断る」

 

「なっ……何故ですか!?今や新生ロケット団には…カントー地方を制圧したと言っていいほどこちらの手の内にあります。そして伝説のポケモンでさえ、私たちのものだというのに…!!」

 

「サトシはどうした?」

 

「え」

 

「あのポケモンマスターを洗脳下に置かなければ、私は動くことはない。…いや、ポケモンマスターが洗脳されたとしても、今の私は動くことなんてするわけないだろうな」

 

「な、何故っ!!?」

 

 

 

ギョッとし、目を向いたアポロに対して、サカキは冷静に話し始める。

 

 

 

「あのポケモンマスターを甘く見るな。例え世界の全てを洗脳下に置いたとしても、ポケモンマスターがいる限りお前たちに牙を向き、襲いかかって来るに違いない。もし洗脳に成功したとしても…奴の上に立つ限り、攻撃をするだろう。あいつはそういう奴だ」

 

「……ふん。ですが!こっちにはもうシロガネ山という拠点をも洗脳下に置いたんですよ!?あのポケモンマスターの…手持ちのポケモンたちでさえ、洗脳することに成功した!あのポケモンたちとポケモンマスターをぶつけ合えば…」

 

「そういうことをほざいている時点で、もはや貴様らは敗北に等しいと言うものだ」

 

「なっ?!」

 

「それほどまでにも、あのサトシに勝つことは難しい。あいつは、常に上に立ち続けるか…上にいる奴らに挑戦し、勝ってみせようとするチャレンジャーな性格をしているからな」

 

 

 

サカキはため息をついて、そして自身の思いを打ち明けた。

 

 

 

「私はポケモンを金儲けの道具として扱ってきた過去がある。貴重なポケモン。貴重な物…すべてを金に換えてきた。だがそれだけならば誰にでもできるつまらないモノだろう?それを全てあのポケモンマスターが…サトシが変えてくれた」

 

「……ど、どういう…?」

 

 

「型に当てはめられるのがポケモンというわけでない。そして、洗脳ですべてを押し付けるものでもない。世界というのはまさしく幅広く、無限大に可能性が広がっているものだ。たかが貴重なポケモン、たかが貴重な物…そんなもの、別地方に行けば普通のポケモンや物と変わらない。だからこそ、今までの常識を塗り替えてできたものこそ新しい価値がある。ポケモンに可能性があると証明されている今、金儲けというのは、やり方次第で工夫できるものだ」

 

 

 

サカキの言っている言葉はまさしく今までと変わらないもの。だが、その方向性を別に変えて行動していると言うもの。サトシに出会って、世界の広さを知った。

もはや人の親という立場に立ってなお、世界にはまだまだ可能性があるのだということを知った。

 

だからこそ、サカキは狭っ苦しい世の中で生きていくつもりはなかった。型のはまらないトレーナーであるサトシに出会ったからこそ、可能性の幅を見出し、新しいモノの価値というものを知ることができた。その上で、今のサカキがいる。

 

それを、アポロは苦い顔で見つめていた。

 

 

 

「……ふん。やはり…変わりましたねあなたは…本当に、失望しました」

 

「何とでも言うがいい。私は世界の広さをこの目で見てきた。だからこそ、変われたのだ」

 

『ニャウ!』

 

 

ペルシアンが誇らしげな顔でサカキの足もとにすり寄ってきた。そんなペルシアンの頭を撫でながらも、アポロを見つめる。

 

 

 

「…サトシがいる限り、貴様らが負けることは確実だろう。以前の私の部下として忠告しておくぞ。…これ以上の悪事は、やめておけ」

 

「……無駄ですよ。私達に何を言っても止まれない!もう、取り返しのつかない位置まできているんですからね…!」

 

 

両手を広げたアポロが、泣きそうな顔で微笑んだ。

 

 

 

 

 

「サカキ様…いえ、サカキ。あなたには我々の野望を見届けてもらいます。私と同じ目線で、すべてを見てもらう!!」

 

 

 

 

反論は聞かないとばかりに、サカキとペルシアンが黒服の男たちに取り押さえられる。

ペルシアンはその襲撃に何度か抵抗するが――――対してサカキはただ流れるがままに目を瞑り、自身の息子の身を案じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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