Medal of Honor Silver Star (機甲の拳を突き上げる)
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プロローグ

さて、にじファンから移転してきましたが・・・・・・頑張って完結させないとな


2001年 アフガニスタン紛争

 

9.11事件後の有名な出来事である。多くのアメリカ軍の方々がアフガニスタン向かいその命を散らしたことにまずご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

 

 

ある山での戦闘、CH-47『チヌーク』の中にはアメリカ陸軍第1大隊第75レンジャー連隊救出部隊とアメリカ海軍特殊作戦部隊Navy SEALs Tier 1 Operatorが乗っていた

 

救出任務を終えレンジャーは3人を失い、SEALsも1人の英雄を失った。その英雄の名はラビット、取り残された仲間の為にヘリから飛び降り、捕虜となり重傷を負うも生きることを諦めなかった勇敢な兵士である

 

「・・・・ラビット」

 

ヘリの床に寝かされたラビットの傍に座るNavy SEALs隊員、ラビットが何時も身に着けていた幸運のお守り(『ウサギの足』と呼ばれる幸運のお守り)を手にしているのはNavy SEALs隊員のプリーチャーである

 

彼は取り残されたSEALsの1人であり、救出に来ていたレンジャー連隊のダンテ・アダムスとジムパターソンと共に捕虜になっていたマザーとラビットを救出した。アダムスはお守りを哀しい目で見ながら握りしめていた

 

「・・・・このままじゃ終わらせねえ」

 

同じNavy SEALs隊員、ブードゥーが言うと

 

「・・・・あぁ、終わらせねえよ」

 

プリーチャーが顔をあげて言った

 

航空支援にやってきた空軍の戦闘機F-16が山を爆撃してる中、なにやらコックピットが慌ただしかった

 

「おい、目の前のは積乱雲じゃないのか?」

 

ヘリの操縦をしていたパイロットの1人が隣のパイロットと何やら話をしていた

 

「だがレーダーには何も反応がないぞ」

 

その様子に疑問を抱いたレンジャー連隊のパターソン軍曹がコックピットに近づいた

 

「おい、どうした?」

 

パターソンがパイロットに話しかけると

 

「目の前に積乱雲が発生していまして、それがレーダーに反応が無いんですよ」

 

それに頭をかしげたパターソンは

 

「回避できるのか?」

 

そう尋ねるがパイロットは首を横に振り

 

「ダメですね、目の前の積乱雲が大きすぎ、回避不可能です」

 

それを聞いたパターソンは顔を顰めながら

 

「墜落は勘弁してくれよ」

 

そう言うと

 

「まかしてください軍曹、無事帰還してみせますよ」

 

パイロットが笑いながら言うと、パターソンはそれを信用し機内の兵士に内容を伝え、全員がシートベルトを装着し後ろのハッチが閉じた

 

ヘリはそのまま積乱雲の中に突入に激しく揺れながらも飛行していたが、いきなり“ガクンッ!”と大きく揺れると、けたましい警報音が響いた

 

「クソッタレ!操縦が!?」

 

コックピットの方でパイロットが悪戦苦闘しながら操縦桿を操作していたが

 

「メーデ!メーデ!こちらブラウラー04!操縦不能!操縦不能!墜落する!」

 

パイロットが大声で無線に叫びながらヘリが横回転しながら落ちていき、それによる強烈なGで機内にいた全員がブラックアウトした



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1話 異国

「がっ・・・・・クソ」

 

そう呻きながら体を起こしたのは第75レンジャー連隊所属のダンテ・アダムス特技下士官だ。強烈なGでシェイクされた頭はかなりキツイみたいだ

 

「起きたかアダムス」

 

頭を押さえながら声の方を向くと、パターソンがいた

 

「・・・・・・軍曹、無事でなによりです」

 

自分の上官が無事なのにとりあえずホッとする

 

「あぁ。俺らだけじゃなく皆無事だ・・・・ヘリもな」

 

パターソンもアダムスが無事だったのに安心したが

 

「そうです・・・・・ん?ヘリも?」

 

アダムスのパタ-ソンの言葉に疑問を感じた。ヘリが無事であると言うことだ。回りを見回してみたが機内には破損がなかった

 

「記憶違いで無ければ墜落していたはずですが?」

 

今も頭に感じる痛みはGによるものであり、意識が途切れるその前まではヘリが墜落するのを感じていたのだから

 

「外を見てみれば分かる」

 

頭痛で痛む頭を我慢しながら立ち上がりヘリの機内から外にでると・・・・・・そこは目の前一杯に広がる緑だった

 

「・・・・・・」

 

アダムスは目の前の光景に一瞬思考が飛んだ。それもそのはずだ、彼らが先程いた場所はアフガニスタン。荒野の大地と雪が積もった高い山ぐらいしかない国にいたはずが、目の前の光景は輝く緑の絨毯に生い茂る木だからだ

 

「ここは・・・一体」

 

突然の状況に言葉がでないアダムスだったが

 

「分からん。GPSも反応無し、今パイロットが無線で呼びかけている所だ」

 

「GPSに反応なし!まさかそんなはずが!?」

 

GPS・・・正式名所はグローバル・ポジショニング・システム、これは宇宙へと衛星を上げ、そこから受信した電波で受信地点を正確な3次元位置が得られるのである。アメリカはGPS衛星を少なくとも20以上もあり、現在地が分からないはずが無いのである

 

「事実だ、ヘリに積んでるGPSはイカれていない。配線等を調べたが異常は無く壊れていないのに繋がらない。何回も試したがな」

 

アダムスは無理やり納得し回りを見渡すと・・・・・あり得ない顔をした。彼らが乗っていたヘリ、CH-47D『チヌーク』の特殊作戦用の改造されたMH-47Dに乗っていたのだが・・・・・その隣に『チヌーク』が2機並んでいた

 

その2機からも何人か外に出ており大半が見知った顔だった。何故なら彼らの野戦服についてある紋章が自分と同じ『第75レンジャー連隊』のものだった

 

「おい!」

 

近くにいた仲間に声を掛けると

 

「ダンテ!お前もいたのか」

 

アダムスが声を掛けた相手は同僚であるバージル・マコイッツ伍長だ

 

「確かお前たちはムジャヒディンのキャンプ破壊に行ってたんじゃ?」

 

「ああ。そしたら何か目の前に積乱雲が現れたとか何とかで、操縦不能になり墜落していって目が覚めたらここだったんだ」

 

それに驚いた表情をするアダムス

 

「お前たちもか。俺達も作戦後帰還中に積乱雲に突っ込んで墜落、さっき目が覚めるとここだ」

 

ネルソンが何やら考え込んでいた

 

「・・・・偶然にしちゃ出来過ぎてないか」

 

「お前もそう思うか?・・・・・俺もそう思っていたんだ」

 

二人は座り込み考え込んだ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

皆が状況確認をしている中、ある一角は静かに黙祷していた。それはNavy SEALsの隊員達である

 

「・・・・すまないラビット。お前を祖国に帰すのは難しそうだ」

 

マザーはすまなそうにラビットに言った。彼らはGPSが届かないと聞き、ここはかなり遠い国の田舎・・・・・つまり死体を保存する方法が無ければ施設も無い。故にラビットは此処に埋めるかも知れないと言うことだ

 

「せめて嫁さんにはちゃんとこれを渡す」

 

プリーチャーはお守りを見ながら言った。・・・・・・・・すると

 

「う・・・・ん」

 

今の声にSEALs隊員達は固まった。なぜなら今の声は間違いなく

 

「う~~ん、あれ?ここは・・・・」

 

横になって死んでいたはずのラビットが上体を起こしたのだ。それに隊員達は口をあんぐりさせていた。ラビットは回りを見回し

 

「隊長・・・・自分は助かったのですか?」

 

ラビットがマザーに尋ねると

 

「メ・・・・メディーーク!メディーーク!急いで来てくれ!」

 

マザーがそう叫ぶとそこにいた全員がマザーに注目し、メディックが急いで駆け寄った

 

「sir!どうしましたか!」

 

突然大声で呼ばれ、緊急事態であると感じメディックに緊張がはしる

 

「こいつ診てくれ!」

 

マザーがメディックにラビットを診た結果

 

「健康な状態ですよ」

 

と診断された

 

「隊長、一体なにが」

 

ラビットがマザーに尋ね、情報を聞くと

 

「そうですか・・・・・一度死んだのですね自分は」

 

ラビットはそう言うと立ち上がった

 

「今の自分は生きてますんで大丈夫ですよ」

 

そう笑って見せた。その表情に安心した表情をした面々だった

 

するとプリーチャーがラビットに肩を回し

 

「これのおかげで生き返ったかもな」

 

と言いながらラビットにお守りを渡した

 

「かもしれませんね」

 

と笑うラビット達だった

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

パターソンはヘリのコックピットに近づきパイロットに声を掛けた

 

「どうだ繋がった?」

 

パイロットは首を横に振り

 

「いえ、まだです」

 

パイロットは再び無線に向け

 

≪こちらブラウラー4、どうぞ≫

 

≪ザーーザーーザーー≫

 

聞こえてくるのは砂嵐の音だけであり、周波数を変えながら

 

≪こちらブラウラー4、誰か聞こえないのか!≫

 

諦めが表情に出てきていた・・・・・その時に

 

≪ザーーこ・・ザーーープ・・ザーー聞こ・・ザーーー≫

 

無線から砂嵐の音に混じって声が聞こえ、それにパイロットは周波数を必死に合わせ

 

≪こちらブラウラー4、聞こえるか!どうぞ≫

 

≪こちらガンシップ06、聞こえるぞ≫

 

無線からはっきりとした声が聞こえパイロットとパターソンに気力が戻る

 

≪ブラウラー4よりガンシップ06へ、そちらの現在位置はわかるか?≫

 

≪いや、GPSが壊れたのか現在地は不明。森の上空を飛行中≫

 

その声から数秒後、どこからかヘリのローター音が聞こえてきて、パターソンが上空を見ると・・・・3機のアパッチとブラックホーク1機が現れた

 

≪こちらガンシップ06、いま目の前の居るのが君たちか?≫

 

≪そうだ、会えて嬉しいよガンシップ06≫

 

アパッチとブラックホークが着陸すると飛んできた方向からエンジン音が聞こえ、兵士達が銃を構えるとM-ATVバギーに乗った4人にM1A1エイプラムス3両、M2ブラッドレー3両にM1126ストライカー3両、HMMWV(ハンビィー)4両、M939トラックが5両現れ兵士達は唖然としていた

 

部隊の一番階級が高い人物が集まり情報交換を始めた

 

「アメリカ陸軍第1大隊第75レンジャー連隊のゲンリー・フォード少尉以下100名」

 

「アメリカ海軍特殊作戦部隊Navy SEALsのTier 1 Operatorマザー大尉以下4名」

 

「アメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊のTier 1 Operatorパンサー大尉以下4名に他6名の10名」

 

「アメリカ陸軍第4機械化歩兵師団第25アルファー小隊のダニエル・マクレイン曹長以下12名だ」

 

「アメリカ陸軍第4機械化歩兵師団第32アルファー小隊のジョン・ブレムナー中尉以下27名」

 

「アメリカ陸軍第7機械化歩兵大隊第22ストライカー小隊のバニング・フォスナー中尉以下25名」

 

「アメリカ第22海兵隊遠征隊第16チャーリー小隊のドミニク・フラガ少尉以下16名」

 

「アメリカ第3海兵遠征軍戦闘工兵大隊ブラボー小隊のトニー・ジャクソン少尉以下40名」

 

「アメリカ陸軍第1大隊第2航空連隊のブラッド "ホーク" ホーキンス大尉以下6名」

 

彼らは『チヌーク』の中に集まり他の兵は武器等の確認や見張りをしていた

 

「まず自分達は情報部がムジャヒディンがいるキャンプ破壊の任務で向かっているいる途中で嵐に遭いここに来ました」

 

ブレムナー中尉がそう説明すると

 

「俺達と一部のレンジャー以外は全員施設破壊に向かっていたと」

 

マザーが確認をするかのように言うと

 

「俺達は違う任務だが、基地をでて数時間後に砂嵐に襲われここに来た」

 

パンサーがそう説明し

 

「あのトラックの中身は?」

 

マザーが親指でトラックの方を指すと

 

「2両が弾薬、1両が食料、2両が工兵輸送、内一台がデリック装備です」

 

ジャクソン少尉がマザーに説明し

 

「ヘリの方はどのぐらい飛べる?」

 

パンサーがホーキンスに確認をとると

 

「『アパッチ』と『ブラックホーク』に2機の『チヌーク』補給をし終えたばかりだから安心してくれて構わないが、もう1機の『チヌーク』は少々心持たないな」

 

全員が考え、意見を交わし合いしてると

 

「やはり偵察を出すべきですか・・・・」

 

フォード少尉がマザーに言うと

 

「ここが何処か分からんし下手に動けん・・・・・となると」

 

マザーはパンサーの方を向き

 

「我々で偵察か・・・」

 

「それが妥当だな」

 

マザーとパンサーは頷き皆の方を見ると

 

「無線はオープンのままにしておく、もしかしたら本部と繋がるかもしれん。我々が偵察に行っている間はホーキンス大尉にまかせる。目的地は此処から見える風車まで向かう、町があるかもしれないしな」

 

マザーがそう言い立ち上がると会議が終了した。Tier 1 Operatorの面々が装備を確認しお互いに点検し終えATVに乗ると風車めがけて駆けていった



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2話 介入

いや~テスト期間中は時間さく余裕ないですなw


ATVがエンジンを吹かせ道を走り風車を目指している。

 

しかしそれが走る道の両側にはのどかな自然が広がり、武骨な軍用車などおおよそ不釣合いな光景だ。

 

「のどかな所だな・・・・・・」

 

ATVを操縦するデルタフォース隊員、デュースがそう言うと

 

「まったくですね。川の水なんか透き通ってて、ここからでも魚が見えますよ」

 

後ろに乗っていたSEALs隊員のラビットが、どこか呆気にとられたような返事を返した。

 

他愛のない会話をしながら川沿いを走っていると

 

「止まれ」

 

唐突に無線機から野太い声が響き、2人を我に返らせる。デルタフォース隊長のパンサーからだ。

 

M-ATVが全車停止すると、全員が車両から離れながら武器を構え、全周警戒のフォーメーションをとった。

 

すると周囲には、微かにだが硝煙の臭いが漂い、全員の警戒心が更に上がる。

 

パンサーが警戒しながら、爆発したらしい3輪自動車に近付く。

 

「珍しいな、3輪自動車か・・・・・・トヨタでもジゼルでもない」

 

アフガニスタンのような紛争地域にすら4輪駆動の自動車が走るなかで、3輪タイプを現役で使っている所などよほどの片田舎なのだろう。

 

「パンサー」

 

デュースがパンサーの方に近歩み寄ってきた。その手にはいくつかの空薬莢が握られており、それらは日光を浴びて鈍く光っていた。

 

デュースはその薬莢の一つを、パンサーの胸の前に突きだした。

 

それをパンサーが受け取ると同時に、デュースは怪訝そうな声を挙げた。

 

「7.92mmなんてソマリア以来ですよ。しかもこいつを造ったのは、東ヨーロッパ帝国連合兵器工廠・・・・・・いったいどこです?」

 

ヨーロッパに存在する国家の大半はNATO加盟国で、その国軍で使用している小銃も、その大半がNATO基準の5.56mm弾か、或いは旧式の7.62mm弾である

 

ナチス・ドイツ時代の遺物である7.92mm弾を生産している工場は、確かに存在する。だが彼は「東ヨーロッパ帝国連合兵器工廠」などという工場も、また「東ヨーロッパ帝国連合」などというイカレた名前の国家も、世界各国の軍隊を知りつくした彼ですらまったく知り得なかった

 

彼は自分の知り得ないテロ組織にそのようなものがあるのだと考えたが、それにしても妙な話だった。

 

「それだけじゃないぞパンサー、こいつも妙だ」

 

続けざまにマザーがパンサーに見せたのは、同じく空薬莢だった。

 

先ほどまで見つめていた薬莢をポケットにしまい込み、パンサーは差し出された空薬莢を受け取った。すかさず底部を覗きこむと、これは7.5mmと言う珍しい口径だった。

 

「ガリア国営兵器工廠?そんな国ヨーロッパにあったか?」

 

マザーとパンサーは眉を顰め、頭を捻らせて考えを巡らせたが、やがてパンサーは向き直って、

 

「考えても埒が明かん、先に進もう」

 

と、部下を見回しながら声をあげた

 

パンサー達がATVに戻ろうとした時、重く響く聞き覚えのない砲声が響いた。その音を聞いた全員が、その場で伏せながら周囲を警戒する

 

そしてデュースの目に映ったのは、目的地である風車が、爆発で砕け散る瞬間だった。砲弾が命中したのだと、デュースにはすぐ分かった。

 

砲弾が直炸裂した爆音と共に、風車が倒壊する音がデュース達の所まで聞こえてきた。

 

≪ブラウラー4、こちらマザー。今撃ったのはお前らか!≫

 

無線でマザーが大声を上げながら確認すると

 

≪いや、此方は撃ってない。風車が破壊されたのはこちらも目視した。ヘリを出してもいいが、何処の国かも分からず戦争介入はまずい≫

 

もし不穏に戦争に介入すれば、アメリカとの国際問題になるかもしれない・・・・・だが

 

「マザー!一般市民が巻き込まれているかも知れません、救出を!」

 

ラビットがマザーにそう言う。ラビットには6人の子と嫁がおり、この事態を見過ごせないのだろう

 

≪ブラウラー4、現在本部との通信が繋がらず指示もない。いま優先されるのは現場の判断だ、戦争に巻き込まれ涙を流す人々を見捨てるのは栄えあるアメリカ合衆国1市民として軍人としても見過ごせぬ事態だ!≫

 

マザーは振りむきラビット達の方をみると

 

≪これより民間人救出に向かう≫

 

無線を聞いたSEALs、デルタ隊員は共に口元に笑みを浮かべ、覚悟ある漢の表情を浮かべる。

 

≪ブラウラー4了解。何時でも航空支援を出せるようにします、援軍は?≫

 

≪先ほどの砲撃は、迫撃砲か戦車の可能性がある、M1と1個小隊を頼む≫

 

≪ブラウラー4了解、アウト≫

 

マザーは無線機を直し、

 

「よし、行くぞ!」

 

男たちはATVに跨り、壊された風車目指して駆けた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

   アメリカ軍特殊作戦部隊「AFO ウルフパック」、デルタフォース

 

 

町に着いた時には既に銃声が響いており、マザー達と二チームに別れて民間人救出にあたったが、奇妙な事実に隊員は当惑していた

 

民家を一つ一つクリアリングしているが、取り残された人はおろか、未だ敵らしき存在も発見できないのだ。我々は罠に誘われたのか?隊員の顔に緊張が走る

 

皆が自然と警戒を強めながら進んでいると、離れた場所に2階建ての民家を発見した

 

「次はあの家だ」

 

パンサーが指さしながら指示すると、隊員は一定の間隔を保ちながら周囲を警戒し進み、民家に到着した。

 

「デュースと俺は内部、ダスティーとベガスは周囲を捜索しろ」

 

ダスティーとベガスは頷き、周囲を捜索しに行った。パンサーとデュースは、家に静かに侵入した。

 

「俺は2階を探す」

 

パンサーは足音1つさせずに階段を上り、デュースはHK416を背中のマウントに掛け、サイドアームのMk.23を取り出した。

 

デュースは一部屋ずつクリアリングしながら進んでいく。

 

≪パンサー、武装した人を発見した。数は3、1時方向≫

 

と、無線からベガスの声が聞こえた。どうやら ″人〟 を見つけたらしい。

 

≪そのまま待機、確認する。デュースはそのまま捜索≫

 

≪了解≫

 

デュースが捜索を再開しようとすると、部屋の奥から物音が聞こえた。彼は一気に警戒心を高め、足音と周囲に注意しながら進んでいく。

 

すると銃声が響いた・・・・・・デュースがすぐさま身を隠し、状況を確認しようとすると

 

≪野郎っ!民間人を撃ちやがった≫

 

無線からベガスの報告が聞こえ、その声色から怒りが漏れていた

 

≪・・・・・・エネミーコンタクト≫

 

パンサーが無線で武装した3名を『敵』と判断した。デュースも一階の捜索を再開する

 

すると奥からは話声が聞こえてきた

 

「なんだこのババァ・・・・・・ガキを孕んでやがるのか」

 

「・・・・・・めんどくせぇ、まとめてぶっ殺してやらぁ」

 

男の声が二つ聞こえた。

 

男達の会話が英語だと分かって安堵したが、言っている事が尋常ではなかった。会話の内容から危険な状態だと理解し、再び身体を緊張させ、足を速め移動する。

 

彼は移動しながら、その手に握られたMk.23の銃口にサプレッサーをねじ込む。

 

彼がそうしている間も、確実に状況は悪化していた。

 

「やめてください」

 

唐突に、若い女性の声が聞こえた。

 

「おい、見ろよ。こいつ、ダルクスの布を巻いてやがる」

 

「どおりで油臭いわけだ。ババァにダルクス人に・・・・・・ここは豚小屋かってよ!」

 

男達の興奮した声の後に、再び物音が聞こえた。

 

これはただ事ではない、・・・・・・。デュースはドアの前に到着するが早いか、そこから静かに様子を窺た。・・・・・・そこからは小銃を構えた小さな少女と、男が2人、彼女を睨んで向き合っているのが側面から見えた。

 

男達は胸甲のような古臭い防具を身に纏っており、その手には旧式の小銃が握られている。

 

「この家から出て行ってください」

 

少女は男達に銃を向けながら、気丈な声で立ち向かっている。

 

無線からはパンサーが援護位置についたらしく、≪ステンバイ・・・・・・ステンバイ・・・・・・≫と聞こえてくる。

 

「銃を下ろせ、ガキが扱えるシロモノじゃねぇ」

 

男の一人が旧ドイツ軍のそれのようなサブマシンガンを構えた。

 

「どのみちダルクス人だ・・・・・面倒だ、殺せ」

 

男達が引き金に指を掛けた瞬間、デュースの脳裏に焼き付いた記憶がよみがえった。

 

・・・・・・助けたかった、しかし助けられなかった、一人の少女の姿が。

 

その瞬間、デュースの身体は彼の意識を離れ、無意識に動いていた。偶然にもパンサーからのゴーサインが響いたのは、ほぼ同時だった。

 

少女の近くのドアから突然現れたデュースに、男達は反応できなかった。

 

彼らのうちの一人は、デュースの存在に気付く前に頭を撃ち抜かれた。デュースのMk.23から放たれた45ACP弾は、男の被っていたヘルメットを容易く貫通し、その内の頭蓋にめり込んだ。

 

サプレッサーを付けていたので銃声が響かず、彼はどこから撃たれたかすら分からなかった。

 

もう片方の男は倒れる相棒を振り返ると同時に、デュースは彼の脇腹にも銃弾を撃ちこんだ。

 

撃たれた男は仰け反りながらもデュースに銃を向けようとしたが、続けざまにもう一発撃ち込まれ、もんどり打って倒れる。デュースはそのまま男達に素早く近寄ると、いまだ呻いていた一人の後頭部に、一発撃ち込んで苦痛から解き放ってやった。

 

室内に鈍く静かな音が響き、静まり返った。

 

「エネミークールダウン、クリア」

 

デュースが我に返った時には、全て終わっていた。

 

彼は状況の把握にしばらくの時間を要したが、状況を把握すると、 ″ 敵 〟 の排除を無線で伝えた。

 

≪ターゲットダウン、クリア≫

 

≪クリア≫

 

≪クリア≫

 

無線からも仲間の声が聞こえた。どうやら排除したらしい。デュースは少女の方を向き、

 

「怪我は無いか?」

 

言いながら微笑もうとしたが、顔は緊張した仏頂面のまま動かなかった。

 

突然の出来事で呆気にとられていた少女も、彼の言葉にハッと正気に戻り

 

「あ、ありがとうございます・・・・・・あなたは?」

 

「さぁな、しがない兵隊さ。恐らく君の敵ではない」

 

と、弛緩してきた顔の筋肉を出来る限り緩ませて笑うと、

 

「イサラ!マーサさん!」

 

部屋のもう一つのドアから若い青年が現れた、突然現れた青年に、デュースは反射的に銃を構えたが、

 

「兄さん!」

 

後ろの少女が青年に歩み寄るのを見て、引き金から指を離した。

 

「イサラ!無事だったかい!」

 

「はい、この人が助けてくれました」

 

少女はデュースの方を向くと、青年もデュースの方を向いて

 

「妹を助けてくれたありがとうございます。僕はウェルキン・ギュンター、こっちは妹のイサラ」

 

ウェルキンに促され、イサラは頭を下げる。

 

「イサラ・ギュンターです。先程はありがとうございます」

 

と、ウェルキンが入ってきたドアからパンサーが現れた。

 

「デュース」

 

突然現れたパンサーに、ウェルキン兄妹は驚いているようだ。

 

パンサーのほうも2人に驚いたようで、2人に銃口を向けながら、部屋の状況を確認して眉を顰める。

 

「その二人は?」

 

「民間人のようです」

 

すると部屋の奥から呻き声が聞こえ、その場にいた全員が声の方を振り返る。

 

「マーサさん!」

 

テーブルの陰に隠れるような形で倒れていた女性にイサラが駆け寄る、デュースとパンサーは顔を見合わせた。

 

「妊婦か!?」

 

「臨月なんです、たぶん産気づいています」

 

イサラは女性の状態をみると、神妙な顔でウェルキンを振り返った。

 

「・・・・・・兄さん、納屋の方へ」

 

ディースがダスティー達と合流し納屋に向かうと・・・・そこには戦車があった。

 

その形状は、彼らがアフリカで見かけたフランス軍のそれによく似ていたが、古めかしいリベットや設けられた視察孔など、細部がところどころ違っていた。

 

なによりその車体を染めていた青い塗装は、これまで彼らが見たどのような車両よりも異彩を放っていた。

 

戦場で見かけた趣味の悪いスカイブルーとも違う、迷彩効果を考慮したかのような青だ。

 

イサラが戦車に乗り込むと、聞き慣れないエンジン音と共に、エンジン部分の外側のでっぱりが青白く光りだした。

 

座学でしか見た事のない、放射性物質の放つ光、・・・・・・チェレンコフ光放射にそっくりだった。

 

冗談じゃない、・・・・・・デュースは恐ろしくなってウェルキンに聞いた。

 

「まさか・・・・・・これで妊婦を運ぶのか?」

 

「はい、そうです」

 

ウェルキンが肯定とばかり頷くと、パンサーが大声をあげた。

 

「バカ野郎!妊婦乗せて戦車戦しにいくバカが何処にいる!?救援を呼ぶから、ここから脱出しろ!」

 

「仲間がいるんですか!?」

 

驚いたウェルキンが素っ頓狂な声をあげる。

 

「あぁ、すぐ迎えヘリをよこす!まってろ」

 

パンサーは無線を取り出して呼び出した。

 

≪こちらウルフパック1、民間人を3名保護した。一人は妊婦だ、『ブラックホーク』は出せるか?≫

 

≪こちらブラウラー04、GPSがイカレていて、其方の位置が確認できない。LZ(ランディング・ゾーン)でスモークを焚いてくれ≫

 

≪了解した、アウト≫

 

パンサーはウェルキンの方を向き、

 

「おい、このあたりでヘリが着陸できる広場はあるか?」

 

と彼に問いかけたが、何を言っているのか理解できないらしく、ちんぷんかんぷんな顔をして、

 

「ヘリって何ですか!?」

 

戦車の駆動音に阻まれないよう、大声で聞き返してきた。

 

「ヘリコプターだ!知らないのか!?」

 

「しりません!どこの地名ですか!?」

 

パンサーは、どんなところだよと内心呆れながら、広場は正門前にしかないと言われ、そこに向かう事にした。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

   アメリカ軍特殊作戦部隊「AFO ネプチューン」、Navy SEALs

 

マザー達は町の中を捜索している最中に、敵を思しい集団と幾度か交戦していた。

 

その統制された動きから、集団がよく訓練されているであろう事が推測されたが、問題はその装備だった。

 

「奴らの持っている武器、アフリカで見た事がある・・・・・・そうだ、旧ドイツの物に似てなかったか?」

 

「あぁ、まさか連中はネオナチか?」

 

隊員は小声で会話しながらも周囲を警戒しながら、皆で民家の壁に張り付くように進んでゆく。ラビットが角から確認しようとすると、野太い声が聞こえてきた。

 

「ダルクス人か、こいつら」

 

「とっとと殺すか」

 

何事かと急いで確認すると、娘を抱き守ろうと伏せている女性に、″敵〟が銃を向けていた。

 

その姿は、同じ″父親″としてのラビットの逆鱗にふれた。

 

「コンタクト!」

 

ラビットは叫ぶと同時にM4を構え発砲、その声に気付いた時には既に一人は体を数発撃ち抜かれていた。

 

「なっ・・・」

 

銃声の方向を向いた時には、敵兵はす既に琴切れていた。SEALs全員からの集中砲火で、体を蜂の巣にされたのだ。

 

「クリア!」

 

ラビットが叫ぶと、全員が急いで母親達の傍に向かい、周囲を警戒する。

 

「奥さん怪我はないか?」

 

ラビットが声を掛けると

 

「あ、ありがとうございます。貴方達は・・・・・・」

 

「説明は後で、今は避難を」

 

言いながら、ラビットは母親に手を貸して起こしてやる。と、母親の胸に抱かれている少女が、目には一杯の涙を溜めていた。

 

ラビットは彼女にやさしく微笑みながら、小さく震えるその頭を撫でてやった。

 

「もう大丈夫だ、怖い人はやっつけたよ」

 

少女はラビットの方を向き、不安げな目をラビットに向ける。

 

「ほんと?」

 

「あぁ、本当さ。さぁママと一緒に安全な所に行こう」

 

ラビット達が母親と子供を安全な所に移動しようとした瞬間だった。

 

「戦車だ!」

 

男の叫びが聞こえた。その声に驚きながらも、マザーは落ち着いた声で母親に話しかける。

 

「奥さん、あの家でじっとしていてください。すぐ迎えにきます」

 

「わ、わかりました」

 

マザーが比較的壊れていない家に連れて行き、その場を離れようとした途端・・・・先ほどの少女が、ラビットのズボンを掴んでいた。その顔は涙で濡れ、ウサギのぬいぐるみを片方の腕で抱いていた。

 

ラビットはその場にしゃがみ込むと、

 

「また怖い人たちが来たから、やっつけてくるね。ちゃんと迎えに来るから、いい子にしてるんだよ」

 

微笑みながら少女の頭を撫でた。

 

「ぜったい?ぜったいむかえにきてくれる?」

 

少女は涙を流しながら問いかける。その身体は、不安げに小さく震えている。

 

「あぁ、絶対だ。だからママから離れちゃダメだよ」

 

少女はズボンから手を離し、ぬいぐるみを抱きしめ頷いた。

 

ラビット達は急いで現場に向かう。彼らがそこで見たのは、大きな門を攻撃する戦車と、それをたった3人で、土嚢で出来た簡易陣地で防衛する兵士の姿だった。

 

「コンタクト!」

 

マザーが叫ぶと、全員が先程の鎧を着た兵士に発砲。

 

その姿を驚くように見ている簡易陣地にいる3人を横目に、マザー達は簡易陣地に向かい走り陣地内に身を隠した。

 

「おい!ここの隊長はだれだ!?」

 

マザーが3人に大声を上げて問うている間も、ラビット達は応戦していた。

 

「わ、私です!」

 

身を潜めながらマザーに走り寄ってきたのは、まだ20にも満たないような女性だった。

 

身形と雰囲気から察するに、おそらく新兵だろう。

 

「名前は!?」

 

「アリシア!アリシア・メルキオットです!あなた達は!?」

 

マザーはアリシアの大声を聞きながらも、迫りくる敵から銃口を外さない。

 

「俺達は・・・・・・しがない兵隊さ!少なくとも嬢ちゃんらの味方さ!あいつらは一体何者だ!?」

 

マザーは飛んできた銃弾に、壕に体を隠しながら聞いた。

 

「帝国兵ですよ!そんなことも知らないで戦っているんですか!?」

 

アリシアが驚いた顔をして叫ぶ。

 

「どちらにしろ俺達の敵だ!応戦しろ!」

 

アリシア達も応戦しはじめ、徐々に態勢を持ち直してきたが・・・・・・まだそこには戦車がいた。

 

戦車はマザー達に目もくれず門に砲撃、門が崩れはじめた。

 

「あぁ・・・門が」

 

アリシアは悲痛な声を出したが、

 

「まだ壊れてない!そんな声上げてる暇があるなら撃て!」

 

マザーの大声が響き、我に返って射撃を続けた。

 

「ラビット、ランチャーだ!やれ!!」

 

マザーの大声に、ラビットは即座に身体を起こし、M4の下部に付いているM203“グレネードランチャー”を発射した。

 

拍子抜けするような音をさせて飛んで行ったグレネードは、白く薄い煙の尾を引いて戦車の足元に着弾。同時に、発射音からは想像できないほどの爆発を起こし、そのキャタピラを引き千切った。

 

「ナイスだ!ラビット!」

 

動きを停めた戦車から脱出した兵士を、マザー達は容赦なく撃ち殺していく。

 

と、不意に後方から駆動音が響き、マザー達は身体を強張らせた。

 

「後方に駆動音!」

 

マザーは叫びながら、駆動音の方向に銃口を向けた。

 

「アリシアー!」

 

駆動音と共に聞こえた男の声に聞き覚えがあったのか、アリシアは頭を上げ声の方を向く。

 

先ほど撃破したそれとは違うシルエットの戦車が、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。

 

「ウェルキン!それって戦車!」

 

アリシアは戦車に驚きながらも喜びの声を挙げたが、戦車の上に乗っていたパンサーが、近寄ってきた帝国兵を撃ち殺し、

 

「感動の再会は後にしてくれ」

 

言いながら飛び降りた。デルタ全員もそれに続き、戦車から飛び降りて走る。

 

≪こちらトマホーク01、町に到着。指示を待つ≫

 

無線から声が響く。友軍の戦車が到着したようだ。

 

パンサーがすかさず命令する。

 

「トマホーク、敵戦車だ!レーザー照射する、やってくれ!」

 

≪了解≫

 

無線から返答の声が響くのを聞くが早いか、パンサーが命令する。

 

「デュース!これで戦車をマーキングしろ!」

 

デュースはパンサーから手渡されたレーザー照準器を手に、大通りに出て戦車にレーザーを照射した。

 

≪目標確認、攻撃する≫

 

守っていた正門を壊しながら現れたのはM1A1エイブラムス、米軍の主力を担う、世界最強の戦車である。

 

突然現れた巨大な戦車に、帝国戦車は急いで照準を合わせるが既に遅く、

 

「照準よし!」

 

「撃て!!」

 

先にエイブラムスの120mm滑腔砲が火を噴き、砲弾が正面装甲で炸裂した。

 

帝国戦車は大爆発を起こして四散、その破片は周囲の兵士を見舞い、二次被害を生みだした。

 

随伴していたパターソン軍曹率いる第75レンジャー連隊1個小隊が即座に周囲に展開し、LZ(ランディングゾーン)を確保、スモークを焚くが早いか、すぐに『ブラックホーク』が現れて着陸した。

 

『ブラックホーク』見たウェルキン達は、まるで宇宙人でも見たように呆気に取られていた。



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3話 義勇軍

「よし、撤収するぞ!」

 

戦闘を終え、民間人の救出作業を開始したアメリカ軍面々。突如現れた空飛ぶ箱舟こと、『ブラックホーク』輸送ヘリの姿に皆が目を奪われ、

 

「空を・・・・飛んでいます!!」

 

と空を見上げたまま動かなかったイサラに、口をあけて唖然とするアリシア。

 

米軍の救出した人数は結構なもので、『ブラックホーク』1機では足りず、無線で『チヌーク』を呼び出した。

 

『ブラックホーク』では妊婦と数人の民間人を野営地まで運び、次に飛んできた『チヌーク』にラビット達が迎えに行った母親達とアリシア達の自警団、SEALs達が乗った(その時ヘリに乗るのが初めてなアリシア他数名は、まるで子供のように興奮していた)。

 

そして残されたエーデルワイス号を、M1と随伴歩兵、ATVが先導した。

 

≪こちらトマホーク1、聞こえるか?≫

 

ウェルキンはいきなりの無線に驚きながらも、張りのある元気な声で返答する。

 

≪は、はい。聞こえます≫

 

無線機から聞こえる声は、これまで彼が聞いたどのような無線音声よりも、遥かにクリアな音質だった

 

≪そちらのコールサイン・・・・・・では分からんかな・・・・・・そうだ、君の戦車の名前は?≫

 

≪名前ですか?この戦車はエーデルワイス、エーデルワイス号です≫

 

≪エーデルワイス・・・・・・いい名前だ。これから君をエスコートする、離れずついて来てくれよ≫

 

M1を先頭に、エーデルワイス、ATVの順番に並んだ車列は、ひとまず安全と思われる野営地点に向かった。

 

 

 

 

野営地に着くと、工兵が戦車やヘリなどの簡易点検を、衛生兵がナイチンゲール宜しく負傷者の手当てを、ラビットが先程助けた少女をあやしたりなどせわしなく動き回る中、帝国軍に占拠された町を、アリシアとウェルキンは悲しげに見つめていた。

 

「よう、こんな所でなにしてんだ?」

 

2人が振り向くと、そこにはデュースがいた。ふと見ると、その両手には数本のドリンクが握られている。

 

「ほらよ」

 

デュースは2人に飲み物を投げ渡し、彼らと同じく町の方を眺めはじめた。町はそこらかしこから黒煙が上がり、所々に翻る帝国の国旗と共に風に揺られていた。

 

「・・・・・・これからどうするんだ?」

 

野営地の方に戻りながらデュースが聞くと、ウェルキンが答えた。

 

「ランドグリーズに向かおうと思う、いまの状況なら、召集令が出ているはずだから」

 

「召集?」

 

デュースは思わず首を傾げた。ウェルキンが言うに、ここはガリアという中立国で、小学校から大学までの教育機関では、軍事教練が必修科目になっているらしい。

 

そして国民民兵制度なるものも存在し、有事の際には一般市民男女問わず、すべてが義勇軍として召集されるのだという。

 

「永久中立国か・・・・・・スイスみたいもんか」

 

デュースはウェルキンの話を聞いて、同じ中立国であるスイスを思い浮かべ言葉を漏らした。それが聞こえたのか、ウェルキンが首を傾げる。

 

「スイスって?」

 

隣にいたアリシアが同じく首を傾げながら聞くと

 

「俺達の知っている国に、ガリアと同じような国があってな。そこがスイスって名前なのさ」

 

「へぇ~」

 

アリシアが思うところがあったのか、目を丸くして頷いた。そうしながら歩いていると、野営地に到着した。

 

「ウェルキン」

 

思い出したように、デュースがウェルキンの方を向きながら声をかける。

 

「君の事を隊長達が呼んでいてな。俺が向かえに行ったのもそのためなんだ。ついて来てもらえるか?」

 

ウェルキンは頷いてデュースについて行くと、一機の『チヌーク』の前に着いた。そこには武装したレンジャーが銃を手に警備しており、彼らはデュースの姿を認めると敬礼した。

 

デュースもそれに返すと、レンジャーの一人が、肩越しに親指で後ろを指さした。

 

「中でパンサー達が待っている」

 

ウェルキンは導かれるまま『チヌーク』の中に入ると、各部隊の隊長が集まっていた。その中にいたパンサーが立ち上がる。

 

「自己紹介がまだだったな。アメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊「AFOウルフパック」隊長、パンサーだ。階級は大尉」

 

彼が自己紹介すると、ウェルキンは慌ててガリア式の敬礼を返した。まさか将校だとは思いもよらなかったのだろう。

 

「じ、自分は、ウェルキン・ギュンターであります!」

 

ウェルキンはガチガチに体を固まらせており、緊張のせいか、声も絞り出したようなものになっていた。

 

「楽にしてくれていい。我々は違う国の人間だからな」

 

緊張して体を固まらせたウェルキンを見たパンサーは、どこか懐かしさを感じながら笑みを浮かべた

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

楽にしろと言われても緊張が抜けないウェルキンは、畏まりながら指定された席についた。

 

「さっそくで悪いが、まず我々の質問に答えてほしい」

 

パンサー達の質問は、基本的にはデュースが聞いたのと変わらなかったが、彼らの質問は、この国の現状や外交、そして内政などにも及んだ。

 

「なるほど・・・・・・ガリアは現在、帝国と呼ばれる連合と戦争中で、国境に近かった君達の町、ブルールに攻め込んできた帝国軍と君らの自警団が交戦していたところに、我々が現れた、と」

 

フォスナー中尉が、ウェルキンの回答を簡略化して述べると、

 

「はい・・・・・・ところで、僕からも質問があるんですがよろしいですか?」

 

大学で幹部候補教練過程を履修していたウェルキンは、その場の空気に慣れたのか質問を返す。

 

「・・・・・・なんだ?」

 

「あなた達は、アメリカという国の軍人だというのは分かりました。ですが僕は、アメリカという国を見たことも、また聞いたこともありません」

 

ウェルキンはパンサー達を真剣な表情で見つめながら続けた。

 

「あなた達は・・・・・・何者ですか?」

 

その場に不気味な沈黙が流れた。ウェルキンの額から頬へ、一滴の汗が流れ落ちる。

 

沈黙を破ったのはマザーだった。

 

「・・・・・・このことは他言無用でお願いする」

 

「マザー!」

 

咄嗟にパンサーが咎めるが、マザーは続ける。

 

「今の状況ではしかたない。ウェルキン君は質問に答えたんだ、こちらも答えなければフェアじゃない」

 

マザーはパンサーを諭しながら皆を見回すと、ウェルキンに向き直って続けた。

 

「我々は別の世界・・・・・・異世界とでも言えばいいのか?そこからきた」

 

マザーの言葉はとても衝撃的だったのか、ウェルキンは口を開けたまま固まった

 

「・・・・・・」

 

どんな内容だろうかと覚悟していたウェルキンだが、遥か斜め上を行く内容の回答に、思考が停止した。

 

「まぁ、いきなりこんなこと言われれば、俺達でも迷わず精神病棟をオススメするさ」

 

マザーが言いながら嘆息すると、周囲の人間も同じ考えだったらしく、同じように溜息が漏れた。

 

「だが話に聞くところこの世界、最低でもこの国や帝国、連邦などには、ヘリコプターなんていう航空機は無いんだな?」

 

話を振られ、思考が回復すると

 

「・・・・・・飛行船などはありますが、こんなものは見たことがありません」

 

記憶から探し出すかのように考えながらウェルキンが言う

 

「更に言えばこの世界の主な燃料はラグナイト鉱石だそうだが、俺達の戦車やヘリ、車は、ガソリンという液体燃料で動いている」

 

マザーが言うように、未知の燃料にオーバーテクノロジーと呼んでも過言ではない技術、正規軍顔負けの洗練された行動、極めつけは国の情勢や、主な国家の場所を知らないことである。この事から導き出された答えは・・・・・・

 

「本当にこの世界の人では無い・・・・・・と?」

 

「信じてくれ、としか言えないな」

 

ウェルキンは少し考えた後、

 

「分りました。信じます」

 

マザーの目を見ながらはっきりと頷いた。

 

「そうしてくれると助かる。だが最初に言った通り、この事は他言無用にお願いする。もし外部に漏れるようなことがあれば・・・・・・」

 

マザーはウェルキンを睨む。眼光だけで撃ち抜きそうなぐらい鋭い視線を浴びせながら、彼はさらに続けた。

 

「我々は、君を殺さなくてはならなくなる」

 

発せられる気迫にウェルキンは冷や汗を流し、唾を飲み込む。口の中が渇くのを感じながらも、

 

「はい」

 

マザーから目を逸らさずに頷いた。

 

「・・・・・・いい目をしてるな」

 

マザーから先程の気迫が消え、その顔に笑みを浮かべた。

 

「あんだけ脅してやっても目を逸らさないとは、いい根性してるぜ。どうだ、俺の部隊にこないか?」

 

笑いながらウェルキンの背中をバンバン叩くと

 

「待ってくださいよ大尉、彼は戦車兵みたいんで自分の部隊が適任でしょ」

 

戦車小隊のマクレイン曹長が会話に参加する。突然の談話に混乱するウェルキンの肩に、手を置いたのはパンサーだった。

 

「みな君を信用したのさ」

 

パンサーが顔に笑みを浮かべながら言うと、ウェルキンはホッとした表情になった。

 

「だが、信頼はしていない」

 

ウェルキンは不思議そうな顔をしてパンサーを見る

 

「信用と信頼は違う。俺達は兵士だ、仲間を信用しないと戦争などできん。同じ部隊に来ると信用から信頼に変わる」

 

パンサーは談話するマザー達や、外にいる民間人達と会話するデュースやラビットを見回し、ウェルキンの方を向いた。

 

「何故なら皆、仲間の背中を守ると言う行動で示しているからだ。信頼を勝ち取りたければ行動で示してくれ、俺は期待してるぞ」

 

パンサーはそう言いながら、デュースの方に向け歩いてゆく。

 

「はい!頑張ります!」

 

パンサーの背中にウェルキンが元気に答えると、パンサーは片腕を上げてそれに応えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

簡易会議の結果、米軍の目的地はランドグリーズへと決まり、ひとまずは腹ごしらえとなった。そうして皆で晩飯を食べだしたのは良いが・・・・・・あまりに酷いレーションの味に、ウェルキン達の顔はみるみる青ざめた。

 

中にはその場で悶絶する者すらいる。何人かが「何故これを食べられるのか」と聞くと

 

「もう・・・・・・なれたよ」

 

問いかけられた兵士達は遠い目をしていた。

 

そして早朝、一行は帝国軍に発見される前に移動を開始した。『アパッチ』の各種センサーや目視で周囲を警戒しながら進んだのも幸いして、

 

一行はこれといった障害もなくランドグリーズに到着した。しかし・・・・・・

 

「止まれ!」

 

一行は到着するが早いか、警護する衛兵に銃口を向けられた。ウェルキンが説明すると、衛兵は民間人とウェルキン達の身柄は保障すると約束したが、

 

「貴様らは何者か!?」

 

米軍へ対する対応は変わらなかった。

 

「待ってくれ、俺達は流れの傭兵だ。ブルール近郊に野営してるところ、戦闘に巻き込まれてな。民間人を攻撃していた帝国軍と交戦、ここに義勇軍があると聞いて雇われにきた」

 

と、マザーが苦し紛れに説明するも、

 

「黙れ!戦車を多数所持し、飛行船をもつ傭兵がどこにいるか!!」

 

と、空から降りてきたヘリに唖然としていた衛兵は、やがて向き直って怒鳴り散らした。周囲には野次馬が人だかりを作ったが、銃を持った衛兵に接近を阻まれていた。

 

「だが、それらが味方になると言っているんだ」

 

「黙れと言っとるんだ!!」

 

衛兵の反応に、米兵達は諦めに近い感情を抱いた。

 

自分達は正規軍だが、命令ではなく自己判断で民間人を救助し、ここまで護衛してきた。もう少し優遇されても良いではないか。だがもし自分たちが衛兵の立場なら、所属もはっきりしない正体不明の連中を、あっさりと味方に引き入れる事は考えられない。

 

なにより彼ら自身、このような待遇を受けたのは始めてではなかった。

 

「貴様らか、流れの傭兵というのは」

 

数十名の兵士を連れて現れたのは、鼻の下にプロペラ髭を蓄えた中年太りの男だった。

 

「わしはガリア中部方面軍総司令官のダモン将軍だ」

 

マザーはダモンの身体から漂う雰囲気で、この男は無能だと感じた。

 

「ハッ!そうであります、閣下!」

 

だが彼が軍人である以上、相手がいかなる人物であれ、将官には敬意を払った態度を取らねばならない。

 

彼はそう考える前に、気をつけの姿勢をとって大声で答えた。

 

「貴様らが流れ者で、我々の側につきたいという事はよく分かった。ここで立ち話もなんだ、君らをわが兵舎に招待しよう」

 

手のひらを返したような対応の切り替えに、マザーを含め、米兵達は何が起こったか理解できなかった。

 

そして同時に、彼らはダモンの無能さに感謝し、温かい食事と寝床にありつけるかもしれない期待に心を躍らせた。

 

 

 

 

「うむ、あの空飛ぶ乗り物だが・・・・」

 

ダモンは駐機された『チヌーク』や『アパッチ』、『ブラックホーク』を眺めると神妙な眼差しで答えた。

 

「あれは戦力としては如何ほどになるのか?」

 

マザーは即座に答える。

 

「あの機体は、自分の考えるところでは、一機で精鋭戦車一個連隊程度かと」

 

マザーの言葉にダモンは胡散臭そうな表情をした

 

「あれ1機で一個連隊と同等など・・・・・信じられんな」

 

精鋭戦車一個連隊・・・・・・この規模程の戦力が僅か1機と同等であるとは到底信じられなかった

 

「お言葉ですが閣下、これらは空を自由に飛べる他、対戦車用兵器を装備しております。空に向けて砲弾を撃てない戦車はいい的です」

 

マザーの説明を聞くと、無能の脳味噌でも空を飛ぶ兵器がいかに強大かを理解するに足りた

 

「ふむ・・・」

 

ダモンは顎に手を当て考えていると

 

「貴様らがわしの私兵になるのであれば、雇ってやらんでもないが?」

 

ダモンの提案は魅力的だったが、マザーの心は既に決まっていた。

 

「お断りします」

 

自分の提案を断られ、元々沸点の低いダモンの怒りは、即座に頂点に達した。

 

「き、貴様等!だれにそんなこっと言ってるのか分っているのか!・・・・・フン、まぁ良い」

 

しかし彼は急に怒りを窄めると、下品な笑みを浮かべながら更に提案した。

 

「わしの下に入れば有効に使ってやれるし、給金や勲章もタンマリ出してやるぞ?」

 

ダモンはマザー達はあからさまに買収しようとしたが、マザーも負けずに

 

「お言葉ですが閣下、我々一同は義勇軍に志願すべくこちらに参りました。義勇軍に志願する以上、この地を我が祖国としてガリアを守る所存です。しかしながらそれは、決して貴方だけを守るためではありません」

 

とダモンの眼を睨みながら真剣な表情で答え、更に続けた。

 

「・・・・・・交渉が決裂したの場合、我々は帝国の軍門へ下る覚悟もできております」

 

マザーの言葉に、兵士、そしてウェルキン達は言葉を失った。

 

空を自由に移動できる乗り物に、恐らくガリアや帝国のそれをも凌駕するであろう性能を持つ9両の戦闘車両、そしてそれらを操る完全武装の兵士240名が、ただでさえ劣勢のガリアに牙を向けるというのだから。

 

ダモンは顔を真っ赤にしてマザー達を睨み、マザー達も怖気づくことも無く睨み返している。何か物音がすれば、それをきっかけにして銃撃戦でも始まりそうな、まさに一触即発の状態だ。

 

「ダモン将軍」

 

ダモンの後ろに立っていたメガネの女性士官が、長く不気味な沈黙を破った。

 

「彼らは義勇軍に志願すると言っておりましたが、ここは小官にお任せ頂けませんか?」

 

しかし脳天に血が昇りきっているダモンは、まったく聞く耳など持たずに怒鳴り散らした。

 

「やかましい!こいつらは帝国のスパイだ!衛兵を呼べ!!」

 

マザー率いる米軍将校達は、ダモンの言葉に内心呆れ果ててしまった。

 

やはり交渉には無理があったのだ。これではアフガンとまったく同じだ、と。

 

しかし女性士官は、顔色一つ変えずに淡々と続けた。

 

「しかし閣下、彼らは傭兵と聞き及びました。傭兵にならず者が多いのは事実ですが、この現状で帝国に雇われていないのは不自然です。先ほどの発言は、傭兵らしい彼らなりの交渉術では?」

 

女性士官はメガネをクイッと上げ

 

「それにもし、彼らが義勇軍に編入されたならば、兵力不足の我が軍としては好都合と考えます」

 

ダモンは苦虫を噛み潰したような顔をして、ドカドカと足音を立てて帰っていった。

 

彼が部屋のドアを叩きつけるように閉めて出ていくのを見届けると、マザーはわざとらしく大きな溜息をついた。

 

将校達も緊張が解けたのか、溜息をついたり顔を見合わせていた。

 

「私はエレノア・バーロット。義勇軍第3中隊長、階級は大尉だ」

 

先ほどの女性士官がマザーに自己紹介をした

 

「やっとまともに話せる相手がきたか」

 

マザーは更に大きく溜息をついた。しかし今度のそれは、周囲に安堵を与える為のものだ。

 

「部屋を待たせてある、付いて来てもらえるか?」

 

バーロットがマザーに促し、彼はそれについて行こうとしたが、ふと思い至って立ち止まった。

 

「待ってくれ。その前に確認したい」

 

バーロットが立ち止まり、こちらを振り向くのを確認したマザーは、周囲を一瞥してから尋ねた。

 

「俺達を雇ってくれるのか?」

 

バーレットは口元に笑みを浮かべながら

 

「そのために部屋を用意したのだ。詳細な確認が必要だろう?」

 

その言葉にマザーは白い歯を見せて笑う

 

「言葉の通じる相手で助かった。俺はマザーだ。ところで、あいつらは何処に向かわせればいい?」

 

窓の外を指さした。そこには250あまりの米兵が、兵器の周りで思い思いの仕草に耽っていた。

 

「彼らは兵に案内させる」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「詳細な設定はこれでいいか?」

 

ダモンとの交渉決裂から数時間後、マザーとバーロットは、用意された部屋で給金や配属諸々の確認、部隊構成などを話していた。

 

「あぁ、それと無理な相談だが、良いかな?」

 

必要書類と契約書を読み終え、サインする前にバーロットに相談を持ちかけた。バーロットは何も言わずにおり、沈黙を肯定と受け取ると

 

「俺達に独立して動ける権限をくれないか?」

 

「・・・・・・理由を聞こう」

 

バーロットがマザーに問うと

 

「俺達は傭兵だ、義勇軍の中にも俺達を快く思わない連中がいるかもしれない。突然背中を刺されるのだけは避けたい。それに俺達を監視するなら、団体ごと監視したほうが好都合じゃないのか?」

 

バーロットはマザーの言葉に耳を傾けながら

 

「もちろん其方の指示に従う。だが此方も、貴女がたを制限する権限が欲しい」

 

この権限はいわば軍から離れ独自での戦闘行動と撤退等の権限をくれと言っているのだ。普通の軍人なら嫌な顔をするものだが、それに対しバーロットは顔を顰める等の表情ではなく沈黙を継続させていた

 

「そうだな・・・・・独立遊撃部隊にでもできないか?」

 

考え込み・・・・数分たつと、バーレットがソファーから立ち上がり窓の外をみると

 

「ダモン将軍対策か?」

 

マザーは頷き

 

「この国にきてブルールでは世話になった。彼らやそんな人達のためならいいが・・・・正直、ヤツの指示には従いたくない。俺達も、ダテに長く生き延びてないからな」

 

肩を竦めながら言うと

 

「基本的には、義勇軍の一員として命令に従ってもらうが構わないか?」

 

「あぁ、構わない」

 

バーレットはソファーに戻ると

 

「次の問題は、弾薬か・・・」

 

ガリアで使用されている小銃弾は7.5mmだが、米軍の使用するそれは5.56mmと7.62mm弾で、戦車のエンジンやヘリのエンジンをラグナイト仕様に変え、戦車砲もガリアで一般に使用されている重戦車ですら75mmなのが

 

M1エイブラムスは120mmと、それこそ規格外のものであり、帝国軍の誇る世界最強の重戦車ですら、その口径は88mmなのである。

 

「小銃の弾を今すぐ造っても、前線に届くのに3週間・・・・・・それも工場が動いてくれれば、の話だ」

 

マザーが溜息つきながら言い

 

「それに戦車砲も付け加えるとなると・・・・・・もはや絶望的だな」

 

バーレットも溜息をついた

 

「・・・・・・だが方法が無いわけではない」

 

マザーはバーレットの方を向くと

 

「あなた達が戦果を挙げれば、上が動いてくれるかもしれない」

 

マザーはしばらく考えていたが、数秒も経たずに立ちあがって、

 

「了解しました。義勇軍第3中隊独立遊撃隊、拝命いたします」

 

バーレットにアメリカ式の敬礼を披露して見せた。

 



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4話 春の嵐

やっとテスト終わって、そのあと直ぐにサバゲー言ってきたが・・・・・・身体中が筋肉痛でヤバイ・・・・・・


マザーが作戦室にいるのは異世界にきて2回目の戦闘のブリーフィングにためである

 

ウェルキンは少尉となり第7小隊を率いて、重要拠点であるヴァーゼル橋奪還の足掛かりの為に西岸河川敷の敵拠点制圧を終え3日後のことである

 

元々ヴァーゼル橋は首都ランドグリーズの街道が通る道で正規軍が防衛していたのだが帝国軍にあっさり敗北、そのまま尻尾を巻いて逃げたのである

 

「中尉、もういたのですか」

 

作戦室の椅子に座って考えていると、ウェルキンが入ってきた

 

「あぁ、今回が義勇軍に入って初めての戦闘だからな。遅れる訳にはいかん」

 

マザーが肩を竦めながら言い、ウェルキンはマザーの目の前に座った。その後も各小隊長が集まり

 

「よぉ、ウェルキン」

 

ウェルキンの友人で義勇軍第1小隊隊長であるファルディオ・ランツァート少尉である

 

「お疲れ様です、中尉」

 

フォルディオはマザーに敬礼しながら挨拶をした。彼は傭兵扱いである米軍を嫌っていなかった。王手1歩手前のガリアに参戦し、友人であるウェルキンと町の人々を無償で助けてくれたのを聞いて会ってみたいと思っていた

 

実際に会ってみても話しやすくフレンドリーでダルクス人だからと差別しない広い心にファルディオは好印象を抱いていた

 

「お疲れさん、今回はでかい任務になりそうだ」

 

マザーもファルディオに敬礼した

 

「でしょうね、今回は重要拠点であるヴァーゼル橋の奪還。第3中隊の作戦目標であり、敵も首都攻略の重要拠点でしょうし」

 

そんな会話をしているとドアが開き

 

「全員そろっているか?」

 

と、言いながらバーロット大尉が入ってきた。小隊長全員とマザーは椅子から立ち上がり敬礼をした、バーロットも敬礼をし中央の椅子に座ると立っていた全員が着席した

 

「第7小隊の働きにより西岸部敵拠点を占拠。陣地を構え、攻勢の足掛かり得ることができた。これより正規軍ヴァーゼル防衛大隊と共同で[春の嵐]作戦を開始する。我が義勇軍は本作戦の先陣を切る形でヴァーゼル橋を渡り、東岸敵本陣制圧にかかる」

 

するとファルディオが手を上げ質問する

 

「大尉、ヴァーゼル橋を渡るには敵橋頭保を突破しなかればなりません。正規軍からの援軍や物資供給などの支援はあるのでしようか?」

 

バーロットの顔が若干渋り

 

「・・・・・・正規軍は我らが橋頭保を攻略した段階で攻勢を開始するとのことだ」

 

その答えにファルディオは驚いた表情になり

 

「そんな・・・・・・俺達を捨て駒みたいに扱いやがって・・・・・・」

 

苦虫を噛み潰したような表情をするファルディオに

 

「気持はわかる。私も兵士時代には同じことを感じていたわ」

 

昔を思い出すみたいにバーロットが言うと

 

「だけど、時に無茶や無理を承知で作戦に臨むのが軍隊というものなのよ」

 

マザーはそれに同意した。特殊部隊Nevay SEALsとしてTier 1 Operatorとして上から何回も無茶な任務を言われたが、それを成功させ、仲間に為にヘリから飛び降りるなどもやったことがあるのだから

 

自分達の境遇はバーレットを信用できると信じ、話した。最初はもちろん奇異の目で見られたが、説明するとちゃんと筋が通っており、思いのほか頭が固くなかったのかすんなり信じてくれた

 

「しかしファルディオの意見も一理ある。我々だけで、あの橋頭保を突破するにはどうしたものか・・・・・・」

 

皆が頭を捻るなか

 

「バーレット大尉」

 

マザーが手を上げた

 

「自分に案があるのですが・・・・・・橋付近の偵察に行ってもよろしいでしょうか?」

 

「自分もよろしいですか?」

 

マザーに続きウェルキンも言うと

 

「橋の偵察・・・・・・?あぁ、構わないが」

 

ウェルキンとマザーは席を立ち、バーロットに敬礼すると部屋をでた

 

「お前も何か案があるのか?」

 

マザーが歩きながらウェルキンに聞くと

 

「うん、まさか中尉にもあるなんて」

 

すると前から一人の女性が現れ

 

「ウェルキン!」

 

その女性はアリシアだった

 

「どうしたんだい?そんな慌てて?」

 

ウェルキンが不思議そうな顔をすると

 

「ウェル・・・・・・ギュンター隊長!隊員同士が口論を起こしているんです」

 

アリシアはマザーがいるのを見てウェルキンの呼び方を改めた

 

「ほっておけ、新人同士じゃよくあることだ」

 

新人同士が口論しあう場面はSEALsでもよくある光景であり、そこから喧嘩がおき殴りあい、独房で入るというサイクルで結束を固めるのだ

 

「そんな無責任じゃ!?」

 

アリシアがマザーに反論しようとするが

 

「でも、お互いの意見をぶつけ合うことで結束力が強まることもあるし大丈夫じゃない?」

 

ウェルキンもマザーと同じ考えでアリシアが唸っていると

 

「と、とにかく!同じ隊員どうし衝突しているのを見過ごす訳にはいきません!ご同行おねがいします」

 

アリシアがウェルキンの腕を掴み引きずっていく。その姿にマザーは苦笑いしながらついていくと

 

「どかしたんですかあれ?」

 

ラビット達SEALsが引きずられるウェルキンを見てマザーの聞くと、ついてくるように言い、SEALs全員がついて行った

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

現場に到着すると赤みがかった茶髪の女性がイサラの胸倉を掴んでいた

 

「やめないか!」

 

その状況を見たウェルキンが走ってむかうと、女性は鼻を鳴らしイサラの胸倉をはなした

 

「何をしてるんだ」

 

「見てわからないのかい?このガキだよ。なんでこの部隊にダルクス人が紛れ込んでいるんだ」

 

その言葉にマザー達が眉を顰める

 

「こんな不吉で油臭せぇ奴と戦えるか!こいつらは何もしない疫病神なんだよ!」

 

流石にその言葉にラビットが介入しようとしたがマザーに止められる。近くにいたデュースとダスティーがその場を見て近づくと

 

「隊長さんよぉ、俺達はダルクス人と一緒ざ戦えねぇんだよ。それになぁ実践経験のないボウズの言葉になんか誰も聞きやしねぇよ」

 

古参兵らしいガタイのいいオッサンが言うとデュース達も眉を顰める

 

「おい、何があったんだ」

 

デュースがラビットに尋ねると

 

「人種差別だよ、ただの風説でしかないものなのに・・・・・・」

 

ラビットは拳を握りしめる。あの時、保護した母親から聞いたダルクス人の迫害。ダルクス人の災厄なんて誰も見たこともない風説に皆がよってたかって迫害をしていると聞いた時は耳を疑った

 

アメリカでも黒人を差別していたが、軍ではそんなことをしなかった。もし、していたら上官に殴られ独房行きだ

 

さらに新人の隊長だからと指示に従わないと古参兵の態度に

 

「アホか、お前らは」

 

マザーが介入した。SEALsとデュース達も今のやりとりに怒気を浮かべていた

 

「あぁ、誰だてめぇ」

 

おっさんがしかめっ面でマザーの方を向いた

 

「ダルクス人がいるから戦えない、新人だから指示に従えない・・・・軍隊なめてんのかお前等、まだ訓練中の訓練生のほうがよっぽど有能だ」

 

「なにっ!」

 

女性のほうが突っかかると

 

「命令違反に上官侮辱罪、立派な軍法会議ものだ。俺が上官なら今すぐにでも殴り倒して独房行きだ」

 

マザーが睨みながら言うと女性の方は言葉をつまらせた

 

「誰だかしらねぇが、使えない隊長じゃこっちが困るんだよ。それに知らないのかダルクス人の話を?」

 

おっさんは頭を掻きながらマザーの方を見た

 

「しらんな、そんなガキのような話。風説でしかない馬鹿げた話を信じ込みダルクス人だからと迫害し見下す・・・・・・実にくだらない」

 

マザーはイサラの方をみると

 

「彼女はこんな小さい身でありながら、あんなデカイ戦車を1人で整備していた。普通ならもっと人数が必要だろうに・・・・・・」

 

すると女性が

 

「ふんっ!ダルクス人の油臭さお家芸じゃないか」

 

と鼻で笑いながら言うが

 

「それが有能な証拠だ」

 

マザーは女性の方を睨みながら見ると、女性は背中に冷や汗が流れた

 

「油臭いと言うことは、それだけ真剣に作業に取り組んでいると言うことだ。整備兵が油臭くなかったらサボっているのと同意義だ」

 

正論を言われ黙ってしまう女性

 

「さらには戦車の操縦まで出来るときた。1人で整備し即その場で戦闘に参加できる。これが有能じゃなく何になる」

 

女性からオッサンの方を向くと

 

「あんたは古参兵なんだろ、なら軍隊がどんなものか知っているはずだ。どんな理不尽な命令でも実行しなければならない。それこそ、その場で糞を出して食えと言われてもだ」

 

あまりにも極端の例に米兵達をのぞく全員の顔が青ざめた。そしてマザーはオッサンを睨みながら

 

「なぜ助け合わない、なぜ話し合わない、同じ部隊なのだろ、信頼しる仲間・・・・・・いや家族のはずだ。それをガキのような言い訳で何もしないのは訓練生以下の無能だ」

 

その言葉にムカついたのか、オッサンはマザーをにらみ

 

「知ってるようなことを言うな、戦場にでたことがない新人が。いいか、戦場ではな経験がものを言うんだ」

 

オッサンの言葉にマザー達は吹き出し、大声をだして笑った。その態度に当然怒り出すオッサン

 

「何がおかしい!」

 

「いやなに、まさか俺達を新人扱いするとはな・・・・・思わず笑っちまった」

 

マザー達の笑いがおさまると

 

「特殊作戦部隊でありTier 1 Operatorである俺達から見ればお前等は新人以下だ」

 

オッサンは眉を顰める

 

「アフガンで山岳地帯での攻防、僅か4人で敵拠点での救出に敵航空基地の占拠・・・・・・数え切れないほどの無茶な任務をしたな」

 

マザーの後ろからデュースが1歩前に出て

 

「敵拠点に侵入しトラックをマーキング、敵のど真ん中で狙撃し味方の援護、そこからの脱出・・・・・・その他いろいろしたな。それでもまだ新人あつかいするか?」

 

オッサンと女性が疑わしい目でマザー達をみてくる。だが、これらは全て事実だ。上からの無茶な作戦を成功させる彼らは特殊部隊でも選び抜かれたTier 1 Operatorなのだ

 

「俺にこんな可愛い子が疫病神なんかに見えない。どちらかと言うと勝利の女神じゃねぇか?」

 

デュースがイサラの頭を撫でると、イサラは若干頬を赤らめた

 

「それにまだ文句があるなら・・・・・・」

 

拳を鳴らしデュースはオッサンを睨む

 

「俺が相手してやるよ」

 

すると後ろからダスティーにラビット、ブリーチャーやブードゥーもデュースの横に並ぶ

 

「待ってくれみんな!」

 

するとウェルキンが間に入り込み、オッサンの方を向いた

 

「僕の指揮がそんなに信用できないのなら賭けをしよう」

 

ウェルキンは笑いながら

 

「48時間以内に橋を奪還する。それが出来なければ隊長を辞退する」

 

それにマザー達は関心し、アリシアとイサラは驚いた表情をし、オッサン達も驚いた表情をした

 

「そのかわり作戦が成功したら僕の指示にしたがってくれるかな?」

 

ウェルキンはいかにも普通に言うと

 

「がっはっはっは!」

 

オッサンは笑いだし

 

「おい、今の言葉・・・・・・二言はねぇな?」

 

「もちろん」

 

オッサンの問いに即答するウェルキン、マザー達は今回の作戦は楽しくなりそうだと笑っていた

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「よく考えたな、こんな無茶なことを」

 

流石のパンサーもこの作戦には苦笑いだった

 

その作戦とは川を戦車で潜り渡り切ると言うのだ。イサラがエーデルワイス号に耐水処置を施し、数分間だけ潜れるようにしたのだ

 

その作戦にくわえ独立遊撃隊こと米軍は第7小隊と共にデルタと第75レンジャー連隊2個小隊に加え橋の正面にM1エイブラムス1両にM2ブラッドレイ1両、40mmグレネードに12.7mmのチェーンガンを積んだストライカー1両にNevay SEALsのレンジャー3個小隊を投入している(1個小隊15人)

 

そして対岸にいる帝国兵を轢き殺しながら見事上陸に成功した。ハッチからウェルキンが上体だけ外にでると

 

「渡河成功、作戦開始!」

 

信号弾を空に向け発砲、そして空中で光った

 

「合図よ!皆!」

 

アリシアがそう叫ぶと

 

皆がボートに乗り込む・・・・・・木で出来たボートに、さらに手漕ぎだ

 

「・・・・・・なぜ軍なのにゴムのボートが無いんだ?せめてエンジンはあってもいいだろ」

 

ベガスが愚痴を零しながら漕ぐと

 

「文句を言うな、俺も十分驚いてる」

 

ダスティーも必死に漕いでいた。そして対岸にボートが着いき、皆が坂へ走ろうとした

 

「GO!GO!GO!」

 

その時にはデルタもレンジャーも既に走りだしており、軽々と坂を上り

 

「コンタクト!」

 

パターソン軍曹の部隊であるアダムスがそう大声でいい、1人を撃ち殺し、パターソンも1人撃ち殺していた

 

「クリア!」

 

アダムスが言い、近くの家の壁に張り付きながら進んで行く。その時にやっと第7小隊の面々が坂を登り切っていた、アリシア他隊員はレンジャーとデルタの動きに脱帽し、オッサン・・・ことラルゴもその動きに驚きを隠せなかった

 

 

 

   アメリカ軍特殊作戦部隊「AFO ウルフパック」

 

 

 

土嚢で出来た簡易陣地に隠れている帝国兵の1人の頭が撃ち抜かれた。それに驚いていた帝国兵だが、そう思考しているうちに2人も撃ち抜かれ、地面に身を伏せるが残りの2人も背中に2発づつ撃ち抜かれ、身を悶え僅かに出た頭を撃ち抜かれた

 

梯子を使い家の屋上でM110を構えたデュースとその護衛であるダスティーが狙撃したのだ

 

≪エネミークールダウン、クリア≫

 

≪支援感謝する、進むぞ≫

 

パターソン軍曹の分隊がその簡易陣地の中に隠れる、すると梯子を誰かが上る音がし2人が構えると

 

「あら、先客がいましたか」

 

第7小隊狙撃兵のキャスリンである

 

「いや、丁度いい、俺はパンサーの援護をする。ダスティー、彼女の観測主を頼む」

 

「了解」

 

ダスティーが頷くとキャスリンが狙撃位置についた

 

≪デュース≫

 

無線からパンサーの声が聞こえた

 

≪目の前の2人を片づけろ≫

 

パンサー達の目の前に2人の突撃兵がいた。デュースが1人の頭に照準を合わせ、引き金を引く。マズルフラッシュを起こし、回転しながら弾は目標めがけて飛翔し、ヘルメットの鉄板を用意に撃ち抜き、頭蓋骨に穴をあけ、脳を抉りながら貫通すると突撃兵は琴切れたように膝を付き倒れた

 

もう一人に照準を合わせ、スコープを覗くと綺麗にHS(ヘッドショット)を決められらていた。撃たれた方向からして隣のキャサリンじゃない、それを一瞬で思考し飛んできた方向を見ると・・・・・ガリアの狙撃兵がいた

 

≪よし、進むぞ≫

 

パンサーの声が無線から聞こえ、デュースは意識を集中させた

 

「移動する」

 

ダスティーはがそう言うと、デュースはすぐさまM110を背中のマウントに掛け、MP5RASを構え梯子の下と周り警戒した

 

「クリア」

 

デュースが先に降り銃を構え警戒し、次にキャスリン、ダスティーと降り移動を開始した。途中キャスリンと別れ狙撃ポイントに到着、デュースがMk.23に持ち替え音を立てずに梯子を登っていく

 

登り切る手前で屋上を確認、敵狙撃兵が1人いた。デュースはゆっくりと屋上に登り切り、Mk.23 をホルダーに戻すとナイフを取り出した

 

相手は気付いて無いみたいでスコープを覗いており、デュース足音を注意し近づき・・・・・口を塞ぎ喉を掻っ切った

 

当然の出来ごとに暴れることも足掻くこともできず命を刈り取られた狙撃兵をどかし

 

≪エネミークールダウン、クリア≫

 

無線で下にいるダスティーに伝えると、梯子を上ってくると同時に

 

「キャァァァァァッ!」

 

甲高い悲鳴が聞こえその方向を見ると足を撃ち抜かれたガリア軍兵士が倒れていた。いまこの場にるのは自分たちか第7小隊のどちらかであり、すぐさま第7小隊の隊員であることを理解した

 

周りにいる帝国兵を片づけ始め、ダスティーが横に来ると

 

「救助に向かう!援護を頼む!」

 

「了解」

 

デュースは急いで梯子を降りるとMP5RASを持ち、彼女の場所まで走りだした。彼女が倒れている場所は激戦区であり、あちらこちらと銃弾が飛び交ってた

 

それでもデュースは瓦礫に身を隠しながら素早く彼女の元に走り、滑り込むようにスライディンングして彼女の元に到着すると襟を掴み味方の方へ引っ張った

 

「ひっぱらないでくださいまし!」

 

「そんだけ喋れば十分だ!応戦しろ!」

 

デュースはMP5RASを数発ずつ撃ち、無駄弾を使わないように慎重かつ迅速に敵兵を葬っていく

 

「メディック!」

 

大声をだし叫ぶとレンジャーの分隊が近くの土嚢に滑り込み、MINIMIの2脚を立て、土嚢の上に置くと援護射撃を開始する

 

建物の上からダスティーの援護もあり、弾が切れる前に土嚢の陰に隠れれた

 

「運ぶならもう少し優しくお願いいたしますわ!」

 

そんなこと騒いでいたがデュースは無視し、傷の状態を見た。弾は貫通しているが、結構な量の血が出ており、このままでは危険だ状態だった

 

「メディック!治療を!」

 

メディックが医療用品の中から止血剤と止血パット、包帯をとりだしたが・・・・・・女性はどこからかラグナイトが入った容器を取り出しその光を浴びると、傷口が塞がった

 

そのぶっ飛んだ光景を目の当たりにしたデュースと衛生兵は言葉すらでないほど驚いていた

 

「でも、助けてくれたことには感謝しますわ。私はイーディー・ネルソンですわ」

 

と、言ってまた突撃をかまそうとしてるところを赤みがかった茶髪の女性・・・・・・ロージーに止められていた

 

 

 

  アメリカ陸軍第1大隊第75レンジャー連隊、パターソン分隊

 

 

 

船で上陸、奇襲をし優勢な状態で始まっていたが、流石に時が経つにつれ持ちなをしていき、今パターソン分隊と第7小隊の面々は機甲部隊と対峙していた

 

土嚢に隠れた兵士と目の前の中型戦車に顰めた面をしていたラルゴだが

 

「アダムス!あの戦車をつぶせ!」

 

「Yes!ser!」

 

アダムスが背中のマウントにMINIMIを掛けるとM72LAWの射撃準備に取り掛かった

 

「なんだそれ?」

 

ラルゴはアダムスが準備していたLAWを不思議そうに尋ねると

 

「本当は対人用だが、この時代の戦車なら対戦車用のロケット砲さ。後ろに立つなよ、火傷じゃ済まないぞ」

 

ラルゴはこんな細いので戦車を倒せる訳が無いと内心鼻で笑っていた

 

準備が出来たアダムスは土嚢から僅かに身を上げ、LAWを構え、発射

 

LAWから放たれたロケット弾は秒速145Mの早さで飛来していき中型戦車の車体に突き刺さった

 

突き刺さったまま何も起こらなくラルゴは"やっぱりな"と思いながら文句を言おうとしたその瞬間、戦車やが爆発した。砲塔の部分が真上に飛び、火柱が上がり、爆発した戦車の破片で土嚢に隠れていた帝国兵は破片の散弾をモロに食らい絶命した

 

その威力に唖然としたラルゴに

 

「ウ~ラッ!命中だ!」

 

ガッツポーズをし、叫んでいた

 

「よし拠点確保しにいくぞ!アダムスは援護、ヘルナンデスにイバラは俺に続け!」

 

アダムスは空になったLAWを捨てMINIMIを構えた。破片の散弾で大体が死んだが、まだ複数残っていたが、M16A4やMINIMIに蜂の巣にされ

 

≪こちらパターソン分隊、敵拠点を占拠した!≫

 

大胆かつ冷静な動きをする米軍にラルゴは自分の言った言葉は間違っていたと渋々認めていた

 

 

 

  アメリカ軍特殊作戦部隊「AFO ネプチューン」、Navy SEALs

 

 

 

作戦開始から15分経過したころから橋の向こう側から帝国兵の悲鳴などが聞こえてきており、無線からも

 

≪敵戦車撃破!拠点制圧にかかる≫

 

順調なのか声にストレスを感じていなかった。目の前にいる橋頭保には大多数の戦車が配置されていたが

 

「座標軸よし!」

 

「撃てっ!」

 

120mm滑腔砲が敵戦車めがけて飛来し、そのまま敵戦車車体部分に命中、そのまま貫通し後ろにいた兵士に着弾。兵士は跡形もなく爆散し、戦車も爆発、破片が、周りにいた兵士を巻き込み2次被害をくりだした

 

橋の端から端では帝国戦車の射程外だが、米国が誇る戦車M1A1では近すぎる程の距離であり外すことなどあるはずがない

 

その様子をみていた第1小隊の隊長であるファルディオに小隊全員が舌を巻く光景だった。自分達が苦戦をしいられてきた帝国戦車に、それも5台もあった戦車を一方的に蹂躙しているのだから

 

「・・・・・・すごい」

 

その時のファルディオの表情は・・・・・・笑っていた。その圧倒的な性能、攻撃力、機動性に兵士達の強さに希望を見出していた。敗戦寸前にきた帝国すら手足の出ない傭兵、こんな強ければ名が売れているはずだが、全くの無名。さらには空を飛ぶことが出来る兵器を所持し怪しさがでかすぎるが、ファルデイオはそれを無視出来る程の高揚感が占めていた

 

「トマホーク1、前進しろ!」

 

≪トマホーク1、了解。前進する≫

 

M1エイプラムスは前進しながら装填手が弾を込め、砲手が座標を合わせる。敵戦車が撃ってきたがそれを避わし

 

「撃てっ!」

 

砲弾が敵戦車に命中、今度は貫通しなかったが、戦車は爆発、破片が帝国兵を襲う。残り1台となった中型戦車は後退を始め、それにM2ブラッドレーとストライカーが前進し、随伴歩兵も前進し始める

 

敵戦車が撃った砲弾はM1エイプラムス砲塔正面に命中した。だが、その砲弾は弾かれ川の中に落ちた。その光景は帝国兵には悪夢に見えたのだろう、攻撃をやめ撤退しようとしたが

 

「逃がさん!座標軸よし!」

 

「撃てっ!」

 

M1エイプラムスの砲弾が敵戦車に命中、そのまま爆散した。周りに帝国兵はいなく、撤退していたが・・・・・・ストライカーが時速70kmもの速度で追いかけ、40mm擲弾砲を撃ち込み帝国兵の体がバラバラになり、吹き飛ばされただけで逃げようとする帝国兵を12.7mmのM2重機関銃でミンチに変えていった

 

その後も米軍歩兵が橋頭保を占拠した

 

そしてウェルキンら第7小隊とデルタが敵本拠点を占拠、[春の嵐]作戦は第7小隊、米軍共に死者を出さず成功に終わった

 




う~ん、なかなか感想が増えないな・・・・・・些細な感想でも要求でも批判でもいいので感想ください!それだけでもうp主は嬉し過ぎて失神してしまいますw

Medal of Honorをやった人なら分かると思いますが、MP5を使った隊員は本来MP7でしたが、弾の互換性、銃事態が2000年に仮採用でドイツ軍に採用された最新鋭の銃であることから、アメリカの特殊部隊でも採用してるPDWであるMP5に変えました。


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5話 1日

"春の嵐作戦〟は負傷者を出すものの死者は無く勝利した

 

自分達の他に負傷者は数多くおり、衛生兵はそれらを見て回っている

 

今回の作戦で部隊をまかされていたマザーはラビット達と死者に敬礼をしていた。死者が出なかったのはアメリカ兵と共に行動していた第7小隊と第1小隊だけであり、他の小隊は当然の如く死者がでていた

 

死体を一ヶ所に集められ布を被せられているが、その死体を見た時に新兵が数多くいる第7小隊はその場で嘔吐する者もいた

 

祖国の為にその命を散らした兵士達に敬意を示していると、後ろからウェルキンとファルディオが来てマザー達と同じく死者に敬礼をした

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

敬礼をし終えたファルディオがマザーの方を向き礼の言葉を言った。その表情は真剣であり、マザーもその表情を見て聞き返さず黙っていた

 

「あなた達はこの国の人間じゃないのに、この国の為に戦ってくださり・・・散っていたった皆に敬意を表してくれました」

 

それにマザーはフォルディの方からガリア兵が集まり勝利に喜んでいる方を見た。それにつられファルディオとウェルキンもその方を見た

 

「祖国の為に命を張って闘った勇敢な兵士に敬意を払うのは当然だ。礼を言われることじゃない」

 

マザーはそう言うが

 

「それでも・・・・・・それでも礼を言わせてください」

 

ファルディオが礼をしながら言い

 

「僕も礼を言わせてください」

 

ウェルキンもマザーに礼を言った

 

「中尉達が奮闘してくれたおかげで多くの命が救われました。もし中尉達がこの戦線に加わっていなければ負けていたかもしれません」

 

それには言い過ぎだとマザーが言おうとしたら

 

「そのとおりだ」

 

声の発言主はバーロット大尉だった。マザー達はすぐさま敬礼をすると

 

「いや、楽にしていい。今回はギュンター少尉の作戦が功を奏したようね。はじめての作戦で、よくやったわ」

 

バーロットがウェルキンに称賛の言葉を言う。そしてマザー達の方を向くと

 

「あなた達の活躍は聞てるわ。先陣をきって拠点を占拠したそうね、よくやってくれたわ」

 

マザーは笑顔浮かべながら

 

「任務を遂行しただけです」

 

と答えていた。その一方で

 

「・・・・・・何て奴だ、本当に戦車で川を渡っちまうなんてよ」

 

地べたに座り込んでいるラルゴが呟くと

 

「ここまで上手くいくとわね・・・・・・正直驚いたよ」

 

傍にいたロージーも呟いていた

 

「それに・・・・・・」

 

ロージーがある方向を向くとラルゴも同じ方向を見た、そこにはアメリカ兵が談話しながら鹵獲した銃を見ていた

 

「まさかあそこまで凄いなんて・・・・・・あいつらの話は案外嘘じゃないかもね」

 

戦場での彼等の動きは義勇軍どころか正規兵なんかより戦場を熟知していた

 

「俺は何回か特殊部隊を見たことはあるが・・・・・・その部隊よりいい動きをしてたな」

 

ラルゴも彼等の動きには舌を巻くほどであった。銃弾が飛び交う中で恐れずに簡易陣地まで走り、的確に敵兵に銃弾を当て、互いの背中を守る、これらをいとも容易く行動する彼等は相当な訓練を積んできたと感じていた

 

そんなラルゴ達の気も知らずに

 

「随分古い銃だな・・・・・・だがセミオートマチックのライフルだな」

 

1人のレンジャーが鹵獲したライフルを見ながら言うと

 

「確か時代的に今は第2次世界大戦の少し前ぐらいだから、俺達の爺さんが使っていた頃の銃だな」

 

SEALsの隊員も同じライフルを見ており

 

「だがここら辺はヨーロッパだろ?主力はボルトアクションだと思ってたぜ」

 

周りにいた1人が感想を述べ

 

「聞いたことの地名もあるし、見たこと無いからな・・・・・・やっぱ別の世界なのだな」

 

などと話していた。そんな様子を見ていたラルゴ達に

 

「あなたたち!約束通り、ウェルキンを隊長と認めなさいよね!」

 

強く言ったのはアリシアだった

 

「チッ、しょうがねぇな」

 

ラルゴは今回の作戦でウェルキンの実力を見られて渋々だがそこまで嫌な顔をせずに了承し、どこかへ歩いて行った

 

「隊長のこと認めてやってもいいけどさ、アタイ達はダルクス人まで認める気はないよ」

 

ロージーはそう言うと何処かに行ってしまった

 

「ちょっと!もう・・・・・・」

 

アリシアが何か言おうとしたが、その時には既に背を向けていた

 

「アリシアさん、いいんです。馴れていますから」

 

傍にいたイサラは怒っていたアリシアをなだめた

 

「でも・・・・・・いつかダルクス人と皆が分かりあえる日が来るのを願っています」

 

目をつぶりながら願うよう言うと

 

「大丈夫ですよ、人はそこまで愚かではありません」

 

イサラが振り向くとそこにいたのはラビットだった

 

「人は何かしら区別をつけたがる生き物です。しかし、そんな物に囚われない人だっています」

 

顔に笑みを浮かべながらイサラの頭を撫でると

 

「必要なのは諦めないことです。自分から歩みよれば必ず手を取ってくれる人がいます」

 

するとイサラの表情が柔らかくなり

 

「はい。ありがとうございます」

 

その様子を見ていたアリシアも笑みを浮かべていた。すると、いきなりフラッシュと共にシャッター音が聞こえた

 

「ハーイ!お取り込み中すみません。GBS記者のエレットです」

 

カメラを片手に眼鏡をかけた金髪の女性がおり、腕には"GBS〟と書かれた腕章が巻かれていた

 

「ギュンター隊長!初めての作戦で目の覚めるような作戦でしたね」

 

ウェルキンの写真を1枚取るとメモ帳らしき物を取り出しインタビューをし始めると

 

「はい、今回は隊員達の活躍と仲間達の働きのおかげでヴァーゼル橋を奪還することができました」

 

笑顔でインタビューを受けていた

 

「この戦いを通じてギュンター隊長なりに感じたことはありますか?」

 

再び問い掛けてくると

 

「感じた・・・・・・そうですね・・・・・・」

 

ウェルキンは何か考える表情をすると

 

「橋と言うのは道と道を繋ぐ人々の生活にはなくてはならないものです。僕も第7小隊の中で、皆の心と心をつなぐ橋のような存在になりたい・・・・・・そう、思います」

 

その様子を見ていたマザーは心の中で

 

「(天然かどうかしらんが、オフィシャルなコメントをすらすら言うとは・・・・・・中々策士だな)」

 

などと考えていると

 

「そうですか、それに・・・・・・」

 

エレットはウェルキンの方からマザーの方に視線を向けた。それに嫌な予感を感じたマザーが早々に退散しようとしたが

 

「あなたが例の傭兵団の隊長さんですね!」

 

近寄ってくるエレットにマザーは内心舌打ちをした

 

「噂は聞いていますよ!砲弾を弾き返す装甲をもった重戦車に、空を自由自在に動き回る未知の飛行船など!是非お話を聞かせて欲しいのですが」

 

やはりそこを聞いてきたなと思いながらも

 

「スマンが、これらの情報は重要機密でな、そう簡単には教えることはできない」

 

するとエレットの表情はますます好奇心に満ちた表情になった、しかし

 

「他の情報を言うつもりは無い、我々の商売道具の情報を簡単に口にしたら此方の価値が下がるのは目に見えている」

 

喋らないことを明確に表現するが、エレットも中々食い下がらないから

 

「聞きたいことがあるならバーレット大尉に許可を貰ってからにしてくれ」

 

そう言い立ち去ろうとすると

 

「最後に1つだけ聞かせてください!」

 

まだ聞いて来るとは見上げた記者魂だと思いながら振り向くと

 

「なぜそれだけの戦力持って置いて、敗戦寸前のガリアについたのですか?」

 

これは記者としてガリア国民の1人として当然の疑問だった。敗戦ムードが強く、王手一歩手前のガリアに傭兵がついてもメリットが少なければデメリットが多い状況で博打みたいな行動をしているのか

 

「その戦力があれば帝国でもそれなりの地位が貰えるほどなのに、なぜガリアについたのか教えてください」

 

再度聞いて来る問いに対してマザーは

 

「・・・・・・ただの恩返しさ」

 

そう言うと皆の所に戻って行った

 

「あ・・・・・・いったいどんな恩を受けたのかしら?」

 

そう疑問が残るエレットだった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

"春の嵐作戦〟から数日がたち、アメリカ軍が駐屯している義勇軍第3中隊の専用格納庫では忙しそうに皆が動いていた

 

「砲弾の数はどうだ!」

 

戦車長が格納庫の中で戦車の整備をしていた。だが、彼らは戦車兵であって整備兵ではない。整備にしても限度があり、いつまで動かせるのか不安があった

 

「まだ大丈夫です!しかし、駆動系やエンジンに手が付けられませんよ!」

 

戦車の中でチェックをしていた兵士がいうと

 

「まだ数回しか戦闘していないから大丈夫だ」

 

戦車の外で破損部分がないかチェックしてると

 

「しかし、電子系統が何時までもつか分かりませんよ!」

 

特に問題なコンピューターは、変えの部品が殆どなければ、現地調達がほぼ不可能に近い状態である。もし不備がでれば生死を共にした戦車を破棄しなければならなくなる

 

「確かにな・・・・・・もしもの時は覚悟をしなければならんな」

 

もし戦闘中に自動照準にブレがでたらマニュアル操作になり、激戦の最中ならそれが命取りになる可能性もある。中にいた兵士達もその現実に息を飲んだ

 

「いまその心配をしても仕方ない。そんなことにならないようにしっかりとチェックしろよ」

 

戦車長がそう言うと戦車の中から返事が返ってきた

 

「・・・・・・フィルターの方もまだもつな。おい!坊主共!」

 

戦車長が外でエンンジや武装を真剣に見ていた技術者らしき青年2人に声をかけた

 

「は、はい!」

 

眼鏡を掛けた青年は思わず声を出して姿勢を正し、隣にいた頭にゴーグルを掛けている青年も同じく姿勢を正した

 

「見るのはいいが、下手な所は触るなよ。大尉達の要請だからと言って弄ってみろ、戦車砲の的にするからな」

 

凄みを効かせながら言うと、2人は冷や汗をダラダラ流しながら返事をした

 

「だが、整備兵がいなければ部品も燃料もないからな・・・・・・お前達の力を借りる以外に方法が無いのも確かか」

 

そう言い、簡易点検に戻ろうとすると

 

「でも・・・・・・凄いです」

 

眼鏡な青年がそう言うと、戦車長が振り向いた

 

「まったく見たことも無い技術に素材、ラグナイト燃料(ラグナリン)じゃなくて未知の液体燃料!機動も口径も規格外って言っても過言じゃない性能なんですから!」

 

後半から興奮しながら言っていると、冷静になったのか恥ずかしそうな表情をするが

 

「まったく、なんで技術者はこんな奴らばかりなんだかな」

 

戦車長が笑いながら2人をみると、砲塔部分をポンッと叩いた

 

「だが、その技術者のおかげで俺達は生き残っているんだからバカにできんな」

 

すると2人の固い表情が幾分かやわらいだ

 

「エンジンの方はどうにかなるのか?」

 

真剣な表情で尋ねると

 

「今は何とも言えません。これほどまで技術が違っていると難しいのは確かですね」

 

眼鏡の青年が答えると

 

「駆動系もガリアのと全然ちがうんスよ、整備しようにも部品の互換性も合わないし、中もコンピューター制御なら0から造らないといけないのも問題っス」

 

ゴーグルを掛けている青年も付け足すように言う

 

「そうか・・・・・・そう言えばまだ名前を聞いて無かったな」

 

戦車長が聞くと

 

「僕はクライス・チェルニーです」

 

クラウスは律義に頭を下げ

 

「俺はリオン・シュミットっス!」

 

敬礼しながら言うと、戦車長や中で整備していた戦車兵とも親睦を深めた

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

イサラは目の前の物を真剣に観察していた。その観察している対象はヘリコプター、この世界に無い空を自由に掛ける乗り物である

 

「そんなに興味があるのか?」

 

声を掛けながらイサラに近づくのはパイロットのホーキンスだ

 

「はい、空を飛ぶだけでも凄いのに色々の種類がありますから」

 

そこには『アパッチ』はもちろん『ブラックホーク』に『チヌーク』もあるのだから仕方ないと言える

 

「まだ飛行船しかないからな・・・・・・興味が沸くのも分かる」

 

ヘリを見ていたホーキンスがイサラの方を向くと、なにやらメモ帳に熱心に書いていた。それをホーキンスがみると何やら見たことのある絵が描かれていた

 

「これは・・・・・・複葉機?」

 

そうメモ帳の1ページ全体に描かれていたのは複葉機であり、その形は座学で習った有名な2人、あのライト兄弟が造った複葉機に酷使していた

 

「ふくようき?」

 

イサラはホーキンスの言葉に興味を示した

 

「あぁ、主翼が上下に2枚あるから俺達の世界では複葉機と呼んでいた」

 

それを聞くとイサラはメモ帳をジッと見た

 

「それは君が考えたのか?」

 

こんな少女が飛行船しかない時代で、複葉機の構造を考えたならまさしく天才であるとホーキンスが思っていると

 

「いえ、これは父の絵です」

 

少し目を輝かしながらイサラが答えた

 

「たしかベンゲル・ギュンターだったか?」

 

ホーキンンスが尋ねると

 

「いえ、ベンゲル・ギュンターは義父です。私の父と母は幼いころに事故に遭って亡くなり、義父が私を養女として引き取ってもらいました」

 

それを聞いたホーキンスは申し訳なさそうな表情をし

 

「・・・すまない、不躾な質問だったな」

 

あやまるが、イサラは

 

「気にしないでください。2人とも私の大切な父ですし、兄さんやマーサさんも一緒でしたから」

 

どこか幸せそうな表情にホーキンスはホッとした

 

「しかし、君の父親は凄いな。この時代でここまで設計図を完成しているとはな」

 

イサラからメモ帳を見せてもらったホーキンスは改めてそれを実感した。まだライトフライヤーが発明されていない状況で、数年・・・もしかしたら数十年先の技術を構築した人物に敬意をもった

 

「はい。私の父テイマーは『エーデルワイス号』を自ら設計し、造ったのですよ」

 

その事実にホーキンスは驚いた。他の小隊や正規軍で使用されている戦車を見たが、素人の目からみても造りがまるで違うのが分かっていた。戦車小隊のダニエル曹長から聞いたが元の世界でもこの時代じゃ規格外の戦車だと聞いた

 

「まさか、あの戦車を造ったとは・・・・・・天才とは君の父親のことを言うのだろうな」

 

これは誇張な表現ではなく純粋に心から思ったことだった

 

「私もそう思います」

 

イサラは自分の父が褒められたのが嬉しかったのか、笑顔で答えた

 

「だが君も天才だ」

 

メモ帳を返すとホーキンスがそう言った

 

「え?」

 

イサラは何のことか分から首をかしげると

 

「このメモ帳を見たが父親の文字かな?それは設計図のところまでだった、そこからの基礎理論を書いたのは君だろ?」

 

メモ帳の前半部分はテイマーの文字だったが、中盤からは殆どイサラの文字だったのだ

 

「1人でここまで出来てるなら、もはや天才の領域だと俺は思う」

 

ホーキンスの褒め言葉にイサラは顔を若干赤らめながら

 

「いえ・・・・・・私は」

 

否定しようとすると

 

「謙遜することはない、君は十分天才さ」

 

親が造った戦車を1人で整備、改良し、運転もできる。そして、親が残した設計図から基礎理論を構築した頭脳はもはや天才といっても過言ではなかった

 

「そうだな・・・・・・おい!ギークボーイ!」

 

ホーキンスが周りを見回し、ある兵士の呼んだ

 

「どうされましたか、大尉殿?」

 

呼ばれた兵士は敬礼し、尋ねると

 

「これを見てくれ、どう思う?」

 

ホーキンスがメモ帳の絵の部分を見せると

 

「すごく・・・・・・複葉機です・・・・・・」

 

ギークボーイはその絵をマジマジと見てると

 

「これはライトフライヤーに似ていますねこの露出した骨組みに、機体前方にある昇降用の前翼と後方にある方向用の後翼、ワイヤーによる動翼の制御が可能にした・・・・」

 

1人でペラペラ喋っている彼の名はジャック・エメリッヒ。AK-47をNATO基準の5.56×45mm弾を撃てるように造り変え、ユニバーサルボルト使用に魔改造した張本人であり、これを見た仲間から「ギークボーイ(オタク野郎)」と呼ばれていた

 

「しかし大尉殿、これは一体・・・・・・」

 

メモ帳の書いた本人を訪ねようとすると

 

「これは彼女の持ち物だ」

 

親指でイサラを指すと、ギークボーイはイサラに近寄り

 

「ここの計算は・・・・・・」

 

メモ帳の計算式の部分を指差しながら言うと

 

「なるほど・・・・・・じゃぁ、ここの部分は?」

 

イサラも話が通じる相手が出来て嬉しいのか・・・・訳の分からない話になっていき、ホーキンスは苦笑いしていた

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

整備は戦車やヘリなどの乗り物だけではなく、銃も必要なことである。レンジャーやデルタなどが自分の銃をクリーニングしていた

 

その近くには第7小隊の面々もいた

 

「それにしても、いろんな銃があるね」

 

ウェルキンは、その場にある銃の種類に驚かされていた

 

「まぁな、これらは俺達の相棒であり命を預けるものだからな」

 

デュースがクリーニングしながら答えると

 

「訓練生時代に教官に言われたよ、銃は女と同じだってな。大事に優しく扱えば振り向いてもらえるが、乱暴で雑に扱えばそっぽ向くなんてな」

 

M110のクリーニングが終わると既にクリーニング済みのHK416を持った

 

「それに、レイルにアクセサリーを付けると喜んでくれるなんて言ってたな」

 

マガジンを抜いてあるHK416のACOGを覗き、ピントを合わす

 

「へぇ~、でもその銃ってライフルでもないし、サブマシンガンでもないよね?」

 

アリシアがHK416を見ながら言うと

 

「これはライフルとマシンガンの中間に当たる銃で、俺達はアサルトライフルと呼んでる」

 

デュースはアリシアにHK416を元に説明をし始めた

 

「アサルトライフルの特徴はフルオートとセミオートに切り替えることができ、どんな戦況に対応できるようになっている」

 

左側にあるセレクターを動かす

 

「飛距離は物によるが、こいつは約600mまでの目標に当てることが出来る」

 

次にデュースはハンドガードのアンダーレイルに付けているフォアグリップを握る

 

「これにはピカニティー・レイルシステムが標準装備されてあって、これに色々なアクセサリーを付けることで戦闘をしやすくしている」

 

レイルの説明をしていると

 

「そのレイル?アクセサリー?よく分からないのが付いていらっしゃいますわね」

 

デュースの説明に参加していたイーディーが首をかしげながら言う、話の聞いていた第7小隊のメンバーに首を傾げているのが多いことに気付き

 

「実際に見てみれば分かる。これにはライトやグリップ、光学スコープにレーザーサイトなんかが取り付けられるが・・・・おい、ダスティー!」

 

HK416についているアクセサリーを見せながら説明し、近くでM4をクリーニングしていたダスティーに声を掛ける

 

「あいつが持ってる銃にはグレネードランチャーが付けられている。あれは個人携行火器の威力アップを目的として造られたものだ、ああ言う物も取り付けられことができる」

 

偵察兵や突撃兵の皆さんが頷いていると、向こうの方で青白いい光が見えたので、その方向を見てみる・・・・・・そこでは支援兵がラグナエイドの実践をしており、傍でみていたヘルナンデス等の衛生兵達の顔が青ざめた

 

無理も無い・・・・・・なぜならその光は座学でならったチェレンコフ放射光にそっくりなのだから。その光景を見ていたデュースも顔を顰め

 

「本当に大丈夫なのか・・・・・・あれ?」

 

実践されていたラグナエイドの光景を指差しながら言うと

 

「大丈夫・・・・・・とは?」

 

ウェルキンが不思議そうに聞くと

 

「いや・・・・・・体に害とかはないよな?」

 

それを聞くと、ウェルキンは笑いだし

 

「大丈夫だよ、むしろ色々なエネルギーの役割を果たしたり、傷の治療効果もあるから、いいことづく目じゃないかな?」

 

その言葉を聞いても、チェルノブイリの話を聞いたことのあるアメリカ兵達にとっては簡単に馴れることは出来ないとデュースは思っていた

 

そう思っていると、肩を叩かれ振り向くと・・・・・・黒い前髪が左目を隠した女性、マリーナ・ウルフスタンがいた

 

「あぁ・・・・・・あの時のスナイパーか」

 

"春の嵐作戦〟の時に簡易陣地の1人を撃ったスナイパーであるとデュースは気付いた

 

「あれ・・・・・・」

 

マリーナが指差したのは、クリーニングをし終えたM110だった

 

「あれがどうかしたのか?」

 

M110を指差した理由を聞くと

 

「あれ・・・・・・欲しい」

 

その言葉にデュースは納得した。狙撃手である彼女に俺達のスナイパーライフルは魅力的ではあるなと思っていた

 

「スマンが、あれはやることは出来ない。そうだな・・・・・・パンサー!」

 

デュースはパンサーを呼び

 

「彼女にM24を貸しても構わないか?」

 

そう尋ねると

 

「大丈夫なのか?」

 

パンサーが近づきながらデュースに聞いた。なにが大丈夫なのか他のメンバーには分からなかったが

 

「大丈夫だ、俺が保障する」

 

するとパンサーは少し考えたあと・・・頷いた

 

「少し待っていてくれ」

 

クリーニングを終えた銃を持ち、何処かへデュースは行った。10分後、戻ってきたデュースの手には先程とは違う銃が握られていた

 

「これがお目当ての物だ」

 

武器庫から持ってきたM24をマリーダに渡した

 

「これはM110とは違いボルトアクションだが、最大射程は800mに弾も5.56mと違い大口径の7.62mで威力も保証できる」

 

実際に構えてみると、気にいったのか口元に笑みを浮かべており

 

「狩にも使えそう・・・・・・」

 

そう言うと

 

「狩猟用の民間モデルを軍事モデルに改造した銃だからな、使いやすいと思う」

 

デュースがM24を返すように言うと・・・・・・マリーダは物欲しそうな表情をする

 

「それは俺個人のじゃなくて、俺達の備品だからあげることはできない。その代わり、武器庫で俺の名前を言ったら貸すように頼んでおいたから我慢しろ」

 

それを聞くとマリーダは渋々だがM24を返した

 

「他にもスナイパーライフルがあるが、話を聞くか?」

 

少し落ち込んだ表情をしていたマリーダの表情が明るくなった

 

「・・・・・・お願い」

 

その話は他の小隊メンバーも興味をもち、またデュース先生の講義が始まり・・・異世界での1日は過ぎていく



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6話 野菜

ガリア義勇軍第3中隊訓練所では今日も声が上がっていた

 

「こぉらっ!蛆虫共!もっと声を出して走れ!」

 

歩兵重装備にガリアン-1等の銃を持ち走っているガリア義勇兵はヘロヘロになりながらトラック走っている中、教官である『鬼軍曹』のあだ名を持つ眼帯をした男カレルヴォ・ロドリゲツは今日も声を張り上げる

 

「なにをチンタラ走っている!奴らを見習え!」

 

軍曹が言う奴らとは・・・・いわずと知れた

 

「フーア!」

 

戦闘を走っている1人が声を上げると

 

フーア!

 

後ろを走っている皆が大合唱のごとく声を上げる

 

そう、アメリカが誇る第75レンジャー連隊のメンバーに加え

 

「マリーンコ!」

 

その後ろ走るのは海兵隊もレンジャーに負けず大声を出して走る。彼等も歩兵重装備に銃を持ち走っているが、義勇兵の外側を誰もへたることなく走っていた

 

「奴らに出来てお前達に出来ないはずがない!さっさと走れ!」

 

そう言い聞かせ走らせるが、片や厳しく過酷な訓練を受けたレンジャーに海兵隊、片や最近集められた新兵の集まりでは明らかに錬度が違い酷な話である

 

そんな男達と第3中隊の面々が走っている最中でも状況は変化する

 

会議室に召集されたのは、AFOの両部隊に第7小隊の下士官達だった

 

「あーあ、腹減ったぜ、ったく、こんな昼飯時に召集なんてよ・・・・・・どこ行ったんだ、隊長はよ」

 

ラルゴは会議室に椅子に座りながらグチをこぼしていた

 

「街まで出かけているみたい。それにしてもラルゴはお腹が減るとすぐ機嫌悪くなるんだから・・・・・・」

 

目の前の席に座っていたアリシアが咎めるように言うと

 

「ギュンター少尉の外出許可を出したのは私だ。だから今回は許してやってくれ」

 

上座の席に座っているバーロット大尉がそう言うと

 

「了解しましたよ、大尉殿」

 

降参したように手を上げる

 

「まぁ、分からんでも無いがな」

 

マザーは笑いながら

 

「彼女の作る食事は美味いからな、愚痴を言いたくもなるだろ」

 

アリシアとアメリカ兵の食事当番のメンバーが共同で食事を作った時に、アリシア特製のパンを食べた時は全員から好評だったのだ

 

「そうですね、アリシアが作ったあのパンは絶品でしたし」

 

ラビットも笑いながら言うと

 

「あの時は皆が喜んで食べてくれて、こっちも嬉しかったですよ」

 

その時の光景を思い出したのか、笑顔で答える

 

「パン屋で働いていたのか?」

 

ブードゥーが尋ねてみると

 

「ブルールでパン屋に住み込みで働かせてもらってたの」

 

それを聞いてブードゥーは納得したように

 

「なるほど・・・・・・そりゃ旨い訳だ」

 

と頷いた。だが、アリシアの表情が笑顔から非想というか同情的な表情になり

 

「それに・・・・・・あれを食べてると思うと・・・・・・可愛そうになって」

 

アリシアが指すアレとは・・・・・・アメリカ軍が違う意味で誇るレーション・・・・・・あの"食べ物に似た何か〟と呼ばれるほど・・・・・・クソ不味いMREレーションである

 

「あれってなんだい?」

 

何もしらないロージーが聞いてみると

 

「知らない方が幸せさ・・・・・・あれはな」

 

いくら改善されているとはいえ、あのレーションの味に馴れてしまったメンバーは遠い目をしていた

 

「遅れて済みません!」

 

会議室のドアを開けて現れたのは肩で息をしているウェルキンである。その様子からみて走ってきたのが分かる

 

「急に呼び出してごめんなさい。作戦会議を始めるから座りなさい」

 

大尉に言われるままウェルキンは空いてる席に座ると、アリシアが水の入ったコップを渡した

 

「ありがとう」

 

その水を飲み干したのを見ると

 

「最近、市場の食品価格が高騰しているのわしっているかしら?」

 

大尉は話をし始めた

 

「そいえば、軍の食堂で働いている方が野菜の値段が高くなったと言っていました」

 

イサラが思い出したかの用に言うと

 

「食料生産地、特に野菜の生産地からの輸送経路を帝国に抑えられたのが原因よ」

 

原因の説明をしていると、音を出しながら立ち上がったのは

 

「なんだって!?」

 

ラルゴだ

 

「野菜って言われてもなぁ・・・・・・いまいち危機感がわかないね」

 

ロージーは野菜が不足していて何が問題なのかそこまで理解できていない様子だが

 

「お前、野菜の力を舐めるなよ!」

 

それに反発するかのようにラルゴがロージーに詰め寄る

 

「な、なんだい!急に!」

 

ラルゴの気迫にロージーは驚きながらジリジリと後退していく

 

「野菜の中にはな、体を作るための栄養素がたっぷり詰め込まれてんだ!子供の成長を助ける役目もするし、人間の体は野菜で造られてると言っても過言じゃねえんだ!そもそも野菜嫌いな子供が多いのは野菜の本当のおいしさを知らないからだ、何よりいのは自分で育てた野菜を食べさせるのが・・・・・」

 

ロージー相手に演説みたくラルゴが述べているが

 

「・・・・・・現在、ヴァーゼル近郊にある村が帝国の部隊に占領されている。この村は先程の通り食料輸送経路における要所の1つ、第7小隊と貴方達に帝国部隊の排除を頼みたい」

 

それをスルーし説明を続ける大尉

 

「敵の数は?」

 

詳しい情報をマザーが尋ねる

 

「歩兵の数は少ないようだけど、戦車が確認されている」

 

その情報に対し

 

「なら第7小隊だけで十分ではないのですか?」

 

パンサーが疑問を口にする

 

「その程度の規模ならエーデルワイス号のある第7小隊だけでも鎮圧が可能のはずでは?」

 

歩兵の数が少ない、これは敵の規模は1個小隊もしくは分隊程度の数に対し、第7小隊だけではなくアメリカ軍も出すのは過剰戦力とも言える話だ

 

「中尉達を呼んだのには理由がある。その村には避難できなかった住民がおり彼等を巻き込まないよう今回の作戦では戦車を出さず、少数の歩兵にて隠密かつ迅速に遂行しなければならない」

 

それを聞きパンサー達は呼ばれた理由を理解した

 

「貴方達はこういう任務のスペシャリストと聞いたわ。だから、今回の作戦に参加してもらいたい」

 

パンサーはそれを了承した

 

「しかし、そうなると我々だけでいいのでは?」

 

今回の任務は迅速に敵を排除する必要があり、それゆえに少数精鋭が好ましく敵兵に発見されれば増援を呼ばれ厄介になる。パンサーは自分達が呼ばれた理由は分かった、しかし第7小隊のメンバーを呼ぶ理由はなにか?それを考えていると

 

「第7小隊を呼んだ理由は対戦車兵に信頼できる人物がいるのと、ギュンター少尉に現場で作戦指揮をとって貰うため」

 

パンサーの考えが分かったのか、大尉が第7小隊を呼んだ理由を話した

 

「え!?僕がですか?」

 

ウェルキンは自分の名前を言われて驚くと

 

「この作戦は第7小隊が主導でするものである彼等にはサポートに徹して貰う、戦車が使えないからと後方で待機しとくのは指揮官としてあるまじき発想よ」

 

大尉の説明にウェルキンが納得し、作戦の概要を伝え終わると

 

「よっしゃ!帝国の野郎共に野菜の恨みを思い知らせてやるぜ!」

 

なにやらラルゴはやる気十分なのだが

 

「食べ物の恨みじゃないのか・・・・・・」

 

1人ツッコミをいれるデュースだった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

夜も深まり深夜のヴァーゼル郊外、村を占拠し巡回をしている帝国兵がいた

 

「うぅ・・・・・・寒いな、トイレトイレ」

 

春と言えど、まだ夜は寒い。そんな時期に尿意を感じた帝国兵が草陰に隠れて用を足そうとしていた

 

「ふぅ・・・・・・」

 

間にあったのか、草陰に隠れて用を足していると、突然倒れた

 

「エネミー、クールダウン。クリア」

 

暗闇に隠れ気配すら察っすることをさせずに目標を沈黙させたのはラビットである。今回の作戦ではAFOウルフパックでは無くAFOネプチューンが任務に就いた

 

「よし移動するぞ」

 

ラビットと共に敵地に侵入していたブードゥーが次の狙撃地点へ移動する。その間にウェルキン達が先を進む

 

「帝国の野郎共め、野菜の恨みを思い知らせてやる!」

 

隠密行動をしているのにもかかわらず、ラルゴは声を上げて言う

 

「静かにしろ、増援を呼ばれたらどうする!」

 

声のトーンを落してマザーが注意すると、ラルゴは申し訳なさそうに謝る

 

「えっと・・・・・・今回の作戦は敵の後ろ側に込んで戦車を破壊するのよね?」

 

ウェルキンの護衛として連れてきたアリシアが作戦の自己確認するかのように聞くと

 

「そうだ、今回の作戦はいわば潜入任務だ。敵に気付かれることなく目標を破壊する、これが鉄則だ」

 

マザーがそう言いながら移動していく

 

≪マザー、戦車を発見した。数は2≫

 

無線からブードゥーの報告が入り、マザー達は物陰に隠れた

 

≪場所は?≫

 

マザーが戦車の現在位置を確認をする

 

≪バリケードの後ろだ。丁度後ろから回り込めばトップアタックができる≫

 

その報告に考えることなくマザーは

 

≪なら予定通りだ、ブードゥーとラビットは其処から援護しろ≫

 

作戦に変更の無いことを伝えると

 

≪了解マザー、ここで援護する。アウト≫

 

ブードゥーからの無線が切れる

 

「俺が先行する。ブリーチャー、お前は最後尾で警戒しろ。俺が合図するまで撃つなよ」

 

切れると同時にマザーが指示を出し、移動を開始する。壁を這うように移動し、なるべく足音を鳴らさないようにして移動していると曲がり角に着いた

 

マザーが角から僅かに頭だけ出し、前方を確認すると・・・・・・2人の帝国兵が焚火の近くで暖をとっていた。それを見て、マザーは身を戻し無線を入れる

 

≪前方に2人、やれ≫

 

無線で指示を出し、確認のため先程の用に僅かに身を出すと、帝国兵の1人が頭を撃ち抜かれて倒れていた。傍にいたもう1人の帝国兵が目の前で仲間が突然狙撃され、思考に一拍の空白ができた

 

そして、仲間が撃たれたことを認識し、非常事態だと思った時には既に永遠の眠りにつかされていた

 

≪エネミー、ダウン。クリア≫

 

無線から排除完了の報告がきた

 

≪了解、移動する≫

 

マザー達は再び移動を開始する。壁沿いに進んでいると少し開けた場所があった、壁に身を隠しながら覗きこむ様に確認する・・・奥には坂道があり、そこから回り込むことが出来ると。だが、そこには見降ろす形で造られた機銃座があった

 

坂道に行くまでに土嚢で造られた簡易陣地や、壁などで身を隠せる場所はあるが、機銃座を破壊もしくは無力化することには前に進むのは困難である

 

≪こちらマザー、前方に機銃座を発見した。そこから狙えるか≫

 

無線で機銃座の無力化を要請すると

 

≪いま移動中だ、少し待ってくれ≫

 

ブードゥー達が別の狙撃地点に移動中であり、その場で周囲を警戒する。だが、じっと待つのが苦手なのか・・・ラルゴがそわそわし始める

 

「・・・・・・少し落ち着け。いまラビット達が狙撃位置に向かっている」

 

そわそわしているラルゴにブリーチャーが注意するが

 

「だがよ・・・こんな所でもたついてんなら、俺が銃座を破壊するぜ」

 

そんなに戦車を破壊したいのか、それとも野菜の為なのかは不明だが、さっさと前に進みたいのは嫌と言うほど伝わってくる

 

「それで爆発音が聞こえ帝国兵が増援呼んでみろ、さらに野菜が手に入らなくなるぞ」

 

そう言われると、ラルゴも大人しくするしかなかった

 

「その鬱憤は戦車にでもぶつけろ」

 

フォローを入れてから周囲の警戒に集中すると

 

≪こちらブードゥー、狙撃位置に付いた≫

 

狙撃地点に到着した報告がはいる

 

≪前方の銃座に1人、排除しろ≫

 

すぐさま無線で敵の無力化を要請する

 

「ラビット、見えるか?」

 

M110のマウントに取り付けてあるナイトスコープから目標を覗く、暗闇な広がる中でそのスコープ内は黄緑に見える、そこから目標である銃座の帝国兵を見つけ照準を頭に定める

 

ナイト・ビジョンで目標を確認しているブードゥーが小声で「やれ」と言う。その声の聞き1秒も満たない時間で引き金を引く、銃口に取り付けられたサプレッサーがM110の銃音と閃光を軽減させ遠くにいる帝国兵はその音に気付くはずがなく、被っていた鉄のヘルメットごと貫通し排除に成功した

 

マザーは無線で要請した後に機銃座の方を確認すると、ラビットによって頭を撃ち抜かれた帝国兵が前のめりに倒れるように落ちた

 

≪排除完了≫

 

ブードゥーがマザーに報告する

 

≪よし、こちらと合流しろ≫

 

すぐさま無線でマザーは指示を出す

 

≪了解、合流する≫

 

マザーの指示に従い、ブードゥーとラビットは森の中を進む。機銃座を無力化によりマザー達も先を急ぐ

 

周りを警戒しながら進み、坂道を登り切ると森の中を移動していたラビット達と合流した

 

建物に近くに身を隠す、目の前には偵察兵と対戦車兵が見張りに立っていた。マザーは無線を使わず、ブードゥーとブリーチャーにハンドサインを送る

 

ハンドサインの指示に2人は頷き、足音を鳴らさないよう慎重に敵兵に近づく。その手には銃ではなくナイフが握られている、敵兵はなにやら話している様子だったがそれが命取りになった。突然口を押さえられ、驚きにより体が硬直、抵抗する暇も無く後ろに倒され、後頭部の激痛で意識がはっきりするが、その時には喉にナイフを突き刺されていた

 

ブードゥー達がナイフで敵兵の息の根を止めると、それを見ていたマザー達がすぐさま前進する

 

「ラビットとブードゥーはウェルキン達と周囲を警戒、ブリーチャーとラルゴは俺と戦車を無力化する」

 

マザーからの指示に皆が素早く行動する。ラビット達がウェルキンとアリシアと共に周囲を警戒し、残りが戦車の撃破に向かい戦車の上をとった。マザーはラルゴの方を向き

 

「やれ」

 

と簡素に伝える。それにラルゴは口に笑みを浮かべ

 

「くらえ!帝国野郎共が!野菜の恨みだ!」

 

叫ぶように言いながら対戦車槍をラジエーター向けて発射。それは狂うことなくラジエーターに命中し爆散した

 

目の前で戦車が爆発し、後ろにいたもう一台の戦車の中では恐らく何が何だか分らなくなっているのか、すぐに動きださなかった

 

それを見逃すはずがなく、再装填したラルゴはラジエーター目がけた発射。見事戦車を破壊した

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

村を奪還し、離れた所で待機していた第7小隊のメンバーが村に入り事後処理を行っていた

 

「よしっと、これで野菜不足も解消されるね」

 

直接戦闘はしなかったが、敵に気付かれてはいけないと言う精神的に疲労していたウェルキンは少し休んでいた

 

「おう。俺の実家はな、農園を経営してたんだよ。だから今回のことも他人事じゃないきがしてなぁ」

 

隣にいたラルゴも一緒に休んでおり、今回の作戦に執着した理由を喋りだした

 

「小せぇ頃から収穫や出荷作業の手伝いしてたから、野菜に囲まれて育ったんだよ。野菜はよ、本当に優秀な食べ物なんだぜ?摂れば摂るほど健康になれるんだからな」

 

そう言うラルゴの表情は穏やかだった

 

「僕もそう思うよ。野菜は他の食物では補えない栄養も多い。それにさ、野菜を食べることは体に自然の力を取り込んでるのと同じだと思うんだ」

 

ウェルキンは真剣な表情をしながら

 

「野菜ってさ土壌や日光に微生物などの自然の力を直に受けて育っているだとろう?それを食べるってことは、自然の力を直に取り入れてるってことになるんじゃないかな」

 

その説明にラルゴは

 

「・・・・・・はっはっは!!そんな大層な野菜の解釈、始めて聞いたぞ!」

 

声を出して笑った。それはバカにした笑いではなく嬉しそうな笑いであった

 

「・・・・・・なぁ隊長。つまんねぇ話かもしれないが聞いてくれるか?」

 

笑っていたラルゴの表情が少し憂いに満ちた表情になった

 

「俺はよ、潰れちまった実家の農園を立て直して野菜専門の農園を作りたいと思ってるんだ。いつも槍をぶちかましてるムサイ男が野菜作りなんて・・・・笑っちまうだろ」

 

ウェルキンに背を向け照れたながらも言うと

 

「そんなことはないさ」

 

ウェルキン達の方に歩いてくるのはマザーだった

 

「スマンが話を聞かせてもらった。お前の野菜に対する情熱は本物だ、そんな奴が作る野菜なら美味い筈だ」

 

笑顔で白い歯を見せながら言うが

 

「ただ、戦争中でそんな話をするのは止めておけ、そんな話をして次の日に死んだ奴を見たことがある」

 

そう言うとウェルキンとラルゴの表情が引き攣ったような表情になる

 

「それはそうと、ウェルキン」

 

マザーがウェルキンの方を向き

 

「鹵獲した機銃座だが、あれは俺達が貰ってもいいか?」

 

親指でその方向を指すと、そこではラビット達と支援兵が機銃の状態を確認していた

 

「いいけど、何に使うんだい?」

 

それを了承するが、何に使われるのか疑問に思ったウェルキンが聞くと

 

「なに、見てからのお楽しみさ」

 

マザーは、そう笑いながら機銃の方に向かう。それに首をかしげるウェルキンとラルゴであった



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7話 クローデンの森

長い間放置していて申し訳ありませんでした、就活や卒論や課題で精一杯で……何とか年内にもう一度上げれたのが嬉しい限りです。


線路が引かれ二つの塔と城壁のような堅牢な壁がそびえ立つギルランダイオ要塞。その1室に4人の男女がいた

 

「ヴァーゼル橋が、ガリアの狗共に奪われた。防衛部隊には腑抜けしかおらんのか?」

 

短く切りそろえられた金髪に眼鏡を掛け厳格な風格の老人。その胸には数々の勲章を誇らげに着けているこの男の名はベルホルト・グレゴール、北部ガリア方面侵攻部隊指揮官である

 

「皇帝陛下の威光を汚しおって、役立たず共め!」

 

その表情には明確な怒りを浮かべている

 

「戦車であの川を渡ったらしいな……。敵さんもなかなか面白い戦法を使う」

 

机の上に足を乗せ揺り椅子のように椅子を揺らして、髭を生やし声がとてもダンディーな男の名はラディ・イェーガー。南部ガリア方面侵攻部隊指揮官である

 

「定石では考えられない野蛮な戦術だ。所詮は下賤な民兵の集まり……偶然の勝利だろう」

 

眼鏡の位置を戻しながらガリア義勇軍の勝利を認めない発言をするが

 

「身分の差だけで戦争に勝てるのなら……あんたらもよっぽど楽だっただろうにな」

 

イェーガーの的を射た言葉にグレゴールは押し黙った

 

「それに妙な傭兵の話も聞いた」

 

ニヤけた顔をしながらイェーガーが言うと

 

「ハイエナ共に何ができる、帝国の前では塵芥同然だ!」

 

グレゴールが刺し殺すような視線でイェーガーを睨みつけるが

 

「戦車の砲弾を弾き返す装甲に重戦車が一撃で葬られる火力。従来の戦車とは異なるタイプの兵器を目撃した情報もはいってきている。これは到底無視できるような情報とは思えんな」

 

こればかりは無視できないのか、イェーガーの表情も真剣な顔つきになっている

 

「……」

 

グレゴールも事の重要性は理解できているが、プライドが邪魔し苦虫を噛み潰したような表情をしている。すると、沈黙を続けていた一人の女性が椅子から立ち上がった

 

「問題は反抗しようとしているガリア軍勢力をいかに押し戻すかだ」

 

その女性の名はセルベリア・ブレス。中部ガリア方面侵攻部隊指揮官である

 

「そうだな。奴さんもヴァーゼル橋奪還を好機として中部ガリアに戦力を傾けるだろう」

 

それに同意するイェーガーは今後の展開を予想し、口にする

 

「マクシミリアン殿下、如何致しましょう」

 

セルベリアが頭を下げ尋ねる。その人物はマクシミリアン・ガイウス・フォン・レギンレイヴ 、帝国の準皇太子でありガリア方面侵攻部隊総司令官でもある

 

「燎原の火は、消さねばなるまい。小さな炎であるうちにな」

 

そうゆっくりと言うと椅子から立ち上がり、セルベリア達がいる机の上座にくると全員が立ち上がる

 

「ガリア軍を押し戻すには、中部侵攻軍の戦力増強が必要だ……。それには、クローデンからの補給路を 磐石にする必要がある……」

 

マクシリミアンは戦略図を見ながら指示を出す

 

「グレゴールは中部部隊を立て直した後、引き続き北部ガリアの進行を進めよ」

 

次に別の場所にえと駒を置くと

 

「余はバリアス砂漠に向かう。セルベリアは余の共をせよ」

 

セルベリアは指示を聞くと頭を下げ

 

「喜んで、わが身は殿下の為に存在します」

 

そして最後の駒はクローデンへと置かれる

 

「クローデン補給基地の防衛と補給線の維持は、イェーガーに命ずる。既にガリア軍が派兵している可能性もある、急ぎクローデンへ向かえ」

 

それにイェーガーは頼れる風格を出しながら笑みを浮かべ答える

 

「あぁ、任せておけ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

生い茂る草木は緑の色を輝かせ、まさに『自然』と言えるこのグローデンの森

 

その森の中を進軍する集団がいた。その集団はガリア義勇軍第7小隊とアメリカ軍の姿だった。何故こんな森の中にいるのかは数時間前にさかのぼる

 

ヴァーゼル橋を奪還し、帝国軍に打撃を与えガリア軍の戦線が上がったことにより中部戦線が最前線となった。その前線は正規軍が奪還作戦を開始しており、義勇軍はまたも正規軍の尻拭いへと駆り出された

 

帝国側の中部戦線へと補給物資の補給路を寸断するためグローデンの森の中にある補給基地へと進行するためダモン将軍が率いる正規軍が行ったところ、逆に反撃に合い壊滅的被害を被った

 

それにより上層部は戦果を挙げる義勇軍第7小隊と独立遊撃隊“アメリカ”へと白羽が立ったのだ

 

アメリカ軍も“春の嵐”作戦とは別の部隊で作戦に参加し、武装も戦車(M1A1エイブラムス)ではなく歩兵戦闘車(M2ブラッドレー)1両にハンヴィー2両の構成となっている。メンバーを変えたのはモチベーションの維持のためローテーションを組んだのだ

 

「しかし、こうも草木ばかりだと方向感覚が狂いそうだ

 

ハンヴィーを運転しているダスティーが周りの風景を見ながら呟き

 

「だが、その分敵に気付かれることなく接近できるのは好都合だ。」

 

隣の助手席に座っていたパンサーがそう言う。先頭にエーデルワイス号にブラッドレー、ハンヴィーと隊列を組み、その周りに歩兵が護衛している

 

「しかし、あの銃座をあんな風に取り付けるなんざ思いもつかなったぜ。」

 

パンサー達が乗っているハンヴィーの隣を歩いていたラルゴは前を走っているハンヴィーに取り付けられている重機関銃を見ていた。元々非武装だったのを鹵獲した重機関銃との互換性を合うように改造したのだ

 

「そんなに意外か?」

 

銃座についているデュースが尋ねると

 

「あぁ、長年戦場にいたが、こんな武装した車は初めて見たぜ。」

 

そう雑談しながら進んでいると、エーデルワイス号が止まり、中からウェルキンが出てきて休憩するよう指示をだした。

 

皆が一息ついている所、ウェルキンだけが地面に注視しながら何かをさがしていた

 

「どうしたの、ウェルキン?」

 

それを不思議に思ったのか、アリシアが声をかけるが、集中しすぎて声が届いてないようだ

 

「……あったぞ!」

 

何かを見つけたか、それをアリシアに見せた。その手の平には小さく黒い丸い物体があった

 

「なにこれ?」

 

指さしながら尋ねると

 

「クローデンヒゲナガヤギのフンだよ」

 

探しながら答えるが、アリシアはフンを投げ捨て、表情は怒りへと変化し怒鳴る。その様子に皆が苦笑いを浮かべる

 

「ウェルキン、何かあったのか?」

 

パンサーが近づき尋ねると

 

「中尉、ここを見てください」

 

ウェルキンが手招きするとパンサーを含め近くにいたメンバーが集まる

 

「ん?草が踏まれた跡があるな」

 

生い茂る草の中、不自然に草が倒れている場所があった

 

「なるほど……獣道か」

 

パンサーは納得したような顔になる。草が踏まれている場所は踏み固められたような道となっている

 

「そうです、獣達は移動に適したコースを探し出してそこを通り道としています。道ができるぐらいの獣が行く先は水場や餌場などがあります」

 

それがどういう意味かを悟ったダスティーは

 

「そうか、基地を作るなら近くに水源を確保しておきたい。ようするに、この獣道を伝って行けば……」

 

その答えにウェルキンは笑みを浮かべ

 

「そう、この近くに補給基地がある可能性が高い。全員気を引き締めて……」

 

喋っている途中に突然茂みがガサガサと音をたて動いた。その音に皆が茂みへと銃を向ける……そこから現れたのは

 

「子……ブタ?」

 

茂みから出てきたのは兵士ではなく羽の生えた子ブタだった

 

「ブタに……羽が生えている……だと」

 

現れたブタの姿が余りにも予想外でアメリカ軍の面々は唖然となった

 

「羽が生えている分ただのブタではなさそうだな」

 

頷きながらパンサーが言うが、どういう意味かは誰も分からなかった。近づいてきた羽ブタをアリシアが抱き上げる

 

「きみ。どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」

 

話しかけている間にベガスが奥の方を見に行くと

 

「これは……」

 

何かを見つけたのか、その場で十字を切ると戻ってきた

 

「奥でブタの死骸があった、死因は流れ弾だろう。恐らくそいつの親だろうな、死んでから相当たっている」

 

そう報告するとアリシアは哀しい目をしながら羽ブタの頭を撫でた

 

「きみも家族がいなくなっちゃったの?ひとりぼっち?」

 

尋ねるが羽ブタは唯ちいさく鳴くだけだった

 

「……アリシア、一緒に連れて行くかい?」

 

ウェルキンの言った言葉にアリシアよりもパンサーの方が驚いた

 

「……正気か?」

 

戦場に動物を連れて行く、これは鳴き声や行動次第では此方の存在がバレ、奇襲の効果がなくなってしまう恐れがある。これに対しパンサーが厳しい表情で尋ねる

 

「僕たちは義勇軍です、誰だって隊員になる資格はあります」

 

何時も通りの笑みを浮かべながら答えるウェルキン。数週間だが、戦場を共にし、同じ飯を食った仲なので、ウェルキンがこういう性格なのは承知していたパンサーは溜息を吐きながら

 

「指揮権はそっちにある。勝手にしろ」

 

そういいパンサーはその場を離れた。

 

「悪く思わないでくれ、パンサーも仲間の事を思って言っているんだ」

 

デュースがフォローを入れる

 

「大丈夫、わかっているよ」

 

どうやらウェルキンもパンサーが心配して言ってくれているのを理解していたみたいだった

 

「良かったね!今日からきみも第7小隊の仲間だよ」

 

自分のことのようにアリシアが喜ぶと、羽ブタも鳴き声を上げた。その鳴き声は先程のにくらべ嬉しそうだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

       AFOウルフパック

   

 

帝国軍補給基地周辺は鳥が囀り、いたって平和そうだった。そう、まるで嵐の前の静けさの様に

 

≪戦車確認、数は1。門には対戦車兵に地雷が設置されています≫

 

レンジャーの1人が報告する

 

≪こちらパンサー、了解。裏道を通り奇襲を仕掛ける。正面で派手に暴れてくれ≫

 

裏道の方から進行するのはデルタと第7小隊の隊員数名。正面には機甲部隊と主戦力による攻撃をしかける所だ

 

「よし、行くぞ」

 

パンサー達は静かに進んでいく。少し進んだ所に小屋らしき建物があり、警戒しながら近づくと

 

≪ウルフパック、こちらヘルドッグ≫

 

ヘルドッグ……彼らは同じくこの世界へと飛ばされてきたアメリカ海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)である

 

≪そちらに対戦車砲があるらしい。確認できるか≫

 

下からの要請に、小屋を回り込むように進むと、土嚢と対戦車砲、それを構えている兵士と、護衛の兵士の2名がいた。それを確認すると

 

≪こちらウルフパック。対戦車砲を確認、これより破壊する≫

 

無線で報告すると

 

≪ヘルドッグ了解、迅速に頼む≫

 

返事がくると、デュースとダスティーにハンドサインで指示をだす

 

(コンタクト、2名、前方、始末しろ)

 

それに頷くと、アサルトライフルをしまいハンドガンを取り出しサプレッサーをつけた。小屋から土嚢へと進み、敵兵2人に近づく

 

 

     Potential『暗殺技能』『隠密行動』

 

 

敵兵二人は何かされてと自覚する前に始末された

 

「エネミー、クールダウン。クリア」

 

排除完了を知らせると小屋から出てきたメンバーが周囲を警戒する。その間にデュースがバックパックからC4爆弾を取り出し設置する

 

「設置完了」

 

全員に知らせると、皆がある程度離れたら起爆スイッチを押した。その爆発力によって対戦車砲は粉々に破壊された

 

≪こちらウルフパック、対戦車砲を無力化≫

 

無線にて破壊成功の報告をする

 

≪こちらヘルドッグ、助かったこれより攻勢にでる。そちらは後方から仕掛けてくれ≫

 

≪ウルフパック了解、派手に暴れてくれ。アウト≫

 

パンサーが皆の方を見る

 

「敵はこっちの存在に気付いているだろうが、正面に殆どの人員を送っているだろう。少ないからと舐めてかかるな、気を引き締めていけ」

 

そう喝を入れると、第7小隊のメンバーは冷や汗を流すがウルフパックの面々は落ち着いて汗も流さない。このような状況など日常茶飯事だった彼らに焦りなどない

 

「よし、行くぞ」

 

再び進行する。途中に敵兵を見つけるが発見される前に排除していく。下では激しい銃撃戦をしているのか、砲撃と銃声が轟いている。そのおかげか、多少の物音を隠してくれた

 

裏口につくと、見張り台にスナイパーが2人いた。パンサーとデュースがそれぞれ片方ずつのスナイパーに照準を合せる。

 

 

    Potential『鷹の目』(パンサー)

 

 

合図と共に発砲、見張り台の2人は排除された

 

あまりにもの手際の良さについてきたイーディーは唖然としている

 

「ちょっと、アリシアさん。あの人たちいったい何者ですの?ただの傭兵には見えませんわ」

 

小声で隣にいたアリシアに尋ねると

 

「う、う~ん、私もよくわからないけど……でも同じ仲間ってことは確かよ」

 

笑みを浮かべながら言うとイーディーも頷き

 

「そうですわね、(わたくし)も助けてもらいましたし、信用できるのは確かですわ」

 

そう喋っていると

 

「お喋りはそこまでだ、そろそろ侵入するから静かに頼むぜ」

 

ベガスが喋っている二人に注意すると、二人はバツの悪そうな顔をした。その後すぐにパンサーから侵入の合図がでて、基地内へと侵入した

 

 

 

       アメリカ海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)

 

 

一方正面では

 

「エネミーダウン!」

 

まさに“戦場”だった

 

「照準よし」

 

「ってー!」

 

ウェルキンの合図と共に徹甲弾が敵戦車へと命中し爆散した。戦車の後ろからハンヴィー2台とM2ブラッドレー現れ、制圧射撃を行う。ブローニングM2の12.7mmに鹵獲した重機関銃、25mm機関砲が火を噴く。近くのバリケードに隠れていた対戦車兵に向けられ2人の敵兵はミンチと化した

 

「援護する。地雷撤去を頼む!」

 

リーコンの隊員が支援兵の前に膝付き援護する

 

「隊長!」

 

戦車の陰に隠れながら敵兵を射殺しているアメリカ海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)・ヘルドッグ隊長、ジョー・ラミレス中尉が声の方を向く

 

「どうした!」

 

マガジンを交換しながら要件を訪ねると

 

「あちらに獣道を発見しました!恐らく敵基地の側面に回り込めるはずです!探索の許可を!」

 

隊員が指さした方向には確かに獣道があった

 

「許可する!2人でいけるな!」

 

激戦となっている正面で他に行ける人員は無い僅か2名で敵基地の側面を攻撃しにいくのだが

 

「問題ありません!やってみせます!」

 

 

    Potential『威力偵察』

 

 

2人の隊員にはやってみせるという気迫があった

 

「……グラハム!こいつたちについていけ!」

 

近くでMINIMIを掃射していた隊員、グラハムが声を上げてこっちにきた

 

「いいか、行くなら絶対に成功させろ!失敗はゆるさん!そして、生きて戻ってこい!これは命令だ!わかったなっ!」

 

大声を上げて隊員に喝をいれる

 

『ウ~ラッ!』

 

3人の隊員は銃声に負けない大声で返事をする

 

「撤退!」

 

「クソくらえ!」

 

「2-1!」

 

「撤退クソくらえ!」

 

そう叫ぶと3人の兵士は獣道へと突っ込んでいった

 

「地雷撤去完了しました!」

 

支援兵がそう叫ぶ

 

「よし!行くぞお前達!陸軍(アーミー)共に後れを取るな!」

 

ラミレスが言うと、残りの海兵隊共が声を上げて正面へと進行する

 

海兵隊(マリーン)共に遅れるな!帝国共に目に物見せてやれ!行くぞ!」

 

第75レンジャーも負けずとエーデルワイス号と共に基地内へ進行する

 

 

       AFOウルフパック

 

 

既に補給基地内へと侵入しているパンサー達は少ない敵兵と激戦の真っただ中だった

 

「右から2人!」

 

 

    Potential『対人攻撃の極み』

 

 

デュースが右から来た2人を撃ち殺し、パンサーが目の前の敵兵を排除すると、隣の物陰から敵兵が現れるが

 

 

    Potential『連続行動』

 

 

すぐさまホルスターからハンドガンを引き抜き撃ち殺す。少ないと言えど、やはり基地と言うことで人数は多い

 

 

    Potential『中距離戦闘技術』

 

 

集団できた敵兵をダスティーがM4下部に装備しているグレネードランチャーで吹き飛ばす。戦車もあり、不利かと思えるが……突如として戦車が爆発した

 

パンサー達が敵兵を引きつけている間に、第7小隊のメンバーが戦車の後方へと回り込みラジエータ目がけて対戦車兵がラジエータの破壊に成功したのだ

 

敵兵達がアリシア達の方に行こうとすると、パンサー達とは別の方向から撃たれた。その方向には迷彩服を着て、ヘルメットには星条旗のワッペンをつけている海兵隊だった。側面からの攻撃が成功しパンサー達の援護に回れたのだ

 

後方からはエーデルワイス号とブラッドレーの駆動音が聞こえ、作戦終了とおもいきや、ベガスは逆の方向を向いていた

 

別の駆動音が聞こえた気がしたので、その方を向いた……そして現れたのは……戦車だった

 

「エネミータンク!インカミン!」

 

ベガスが叫ぶ、第7小隊はその意味が分からず声の方向を向くがアメリカ軍の兵士は直ぐに意味理解し、近くの第7小隊のメンバーを引っ張り物陰に隠れた

 

そして砲撃音が響く、砲弾は真っ直ぐ飛んでいき……エーデルワイス号に直撃する。車内に激しく揺れイサラは悲鳴を零した

 

「損害報告!」

 

ウェルキンが急いで状況を確認していく

 

「 出力よし、放熱状況よし、油圧若干不良・・・・・・!正面装甲中破!」

 

イサラが状況報告をしていると驚いた表情になった、一撃でエーデルワイス号の装甲を持って行かれたのだ

 

「履帯の損傷は軽微、攻撃は可能ですがもう一度攻撃されたら持ちません!兄さん!」

 

イサラはウェルキンの方を向き指示を仰ぐ

 

「前進を継続!支援兵は直ぐに装甲の修理を!イサラ、無茶を言うけど被弾する際には当たり所を選んでくれ」

 

そうとう無茶な要求をするが、イサラは頷き前進する

 

「おいおい、今の砲撃で中破程度だと、確かに相手の戦車は規格外だな」

 

増援にきたのはイェーガーが乗る重戦車ヴォルフである。通常の重戦車よりも大口径の主砲をもち、装甲も従来の比ではない

 

「だが、あの兵士の動き……明らかに実戦なれしてやがる」

 

イェーガーが注視したのはアメリカ兵達の動きだ、戦車がきた途端に物陰に隠れたのを見逃さなかった

 

「あれが例の傭兵団か、こりゃあ相当の腕利き揃いだぞ」

 

相手の出方を伺っていると、倉庫から火の手が上がった

 

「この森はガリアの自然遺産だそうじゃないか、こんな所で火の手があがって森に燃え移っては大変だな~」

 

などと笑いながらいうと

 

「よし、お前達!速やかに撤退だ。装具も忘れるなよ、急いで逃げたと思われたら癪だしな」

 

そうして火消をするガリア兵達をしり目に帝国軍は撤退した

 




さて、こうも更新が酷い状況ですが、頑張って完結させようとおもっています。見捨てずに見てくだされば幸いです。

感想、指摘などのお待ちしております。一言でも書いてくれれば作者は泣いて喜びます。また更新が遅れるかもしれませんが、皆様よいお年を(・ω・)ノ


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8話 情勢

今回は戦闘後と言ううことで短めになってしまいました・・・すいません(;ω;)

最後にアンケートをとっているので、なるべく参加してくれるようお願いします。


「おい!早く水を持ってこい!」

 

グローデンの森による補給基地奪取に補給路寸断は成功した。だが、帝国兵が倉庫や司令部に火を放ち、自分達の逃走時間を稼ぐ遅延戦術を取られ逃げられてしまった。

 

さらに、周りの森はガリアの自然遺産とされており、上からも成るべく森に被害が出ないように言われている。その森に火が付けば、この時代の消化方法では この森一帯はたちまち焼野原と化してしまう。

 

そうならない為には迅速に火を消す必要があり、そこを帝国に突かれ、まんまと相手に策に嵌ってしまった

 

「川からと井戸から水を汲んでくるんだ!一人ずつじゃなくバケツリレーで運ぶんだ!」

 

ウェルキンもバケツに水を汲みながら指示をだす。その列の中にはアメリカ兵の姿もあり、第7小隊全員と大半のアメリカ兵は消化に尽力を注いでいるが、残りのアメリカ兵は周囲の警戒に当たっていた。この状況で襲われる危険性があると判断したパンサーの指示だった

 

そのパンサーも今はバケツの水を火にかけて鎮火作業に勤しんでいる。

 

火の手が大きくなる前に消せたおかげか、30分程で鎮火はできた。司令部は丸焼けとなったが、倉庫の方は火の回りが遅かったのか、半分ぐらいの物資は無傷のまま手に入った。

 

しかし、パンサーとウェルキンの表情は曇ったままだった。パンサーは司令部を焼かれたことによる機密書類などの奪取に失敗し、相手の遅延戦術による鮮やかな撤退ができる敵将、これからの行動方法と作戦に思考を巡らしていた

 

ウェウキンも同じようなことを考え、森が焼かれそうになった自分の力不足に、相手の判断により一歩先を行かれた戦術に感服と同時に悔しさを感じていた。

 

しかし、2人は直ぐに思考を切り替え、今の問題の解決を急いだ。

 

「ダスティー、被害報告」

 

今回の戦闘による被害状況を確認する。

 

海兵隊(マリーン)にレンジャーは負傷者が多数出ているが、死亡者はいない弾薬の消費量も予想の範囲内だ。試作で開発した火薬とラグナリンで作った手榴弾も性能的にも扱い易さの面からみても良好だ」

 

その報告を聞いてパンサーは頷く、被害が出たものの死亡者は0、試作品の手榴弾の性能も安全性も問題なしと言う報告は嬉しい誤算であった。

 

今回の戦闘は小さくとも基地襲撃であったので死亡者は出るとパンサーは考えていた、それに死亡者が無しと言うのは戦力の低下はなく、逆に試作段階である手榴弾が良好なことで今後の戦力の増強へと繋がる。敵は逃がしてしまったが、任務自体は成功し敵の補給線を断つことはできた。これで上層部は納得してくれるであろうとパンサーは考えた。

 

「ウェルキン、そっちの状況はどうだ?」

 

自分の部隊の状況は把握し、ウェルキンの方を訪ねる

 

「こちらは戦車が被弾しましたが、戦闘には支障ありません。ケガ人はいましたが、死者は0、倉庫に会ったのは食糧とラグナイト燃料に弾薬が約2ヵ月分に銃は重機関銃合わせて40丁ほどです。流石に前線補給基地なだけあって物資が豊富ですね」

 

ウェルキンの報告にあった物資、これでも焼け残った倉庫から取り出しただけでこの量なら全部あればどれほどの量になっていたか……パンサーは改めて帝国とガリアの物量の差を身に知った。

 

物量では負けているが資源が豊富にあるのが唯一の救いであった。今もラグナイト鉱石を使った燃料を戦車やヘリに使えるよう調査してもらっている。部品は今使っているのより多少は劣るが、無いことはなく部品交換もできる。燃料と弾薬、この2つが揃えば航空支援が頼めるようになり、戦闘がかなり楽になる。

 

だが、問題があった。最大の障害となっているのがダモン将軍であった。最初の申し出を断ったのをまだ根にもっているのか、弾薬生産の邪魔をしてくる。

 

上流貴族であって、発言力も大きい。唯一の救いなのがダモンの無能であることであった。無能である故に、何がアメリカ軍にとって致命的になるかを理解できないおかげで今は弾薬生産の邪魔だけですんでいる。

 

最大の敵が帝国軍ではなく味方の筈であるガリアであるとは……戦争にならないとパンサーは考えていた。

 

「パンサー!」

 

考えを纏めていたパンサーにデュースが走って近づいてくる。その手には焼けた一枚の紙が握られていた。

 

「これを見てくれ、司令部の瓦礫に埋もれていた一枚だが……」

 

その紙を受け取り内容を見た。半分ほど焼かれていたが、その内容の中にはバリアス砂漠と言う単語があった。

 

「ウェルキン、バリアス砂漠とはどこにある?」

 

紙から顔を上げ、ウェルキンに尋ねると

 

「バリアス砂漠ですか、ここから南に行った所にあります」

 

突然聞かれたことに頭を傾げるが

 

「その砂漠には何があるんだ?」

 

そこにある物など1つしかないかの様に直ぐに思い浮かべ

 

「古い遺跡があるだけですが……いったいどうしたんですか?」

 

パンサーは手に持っていた紙をウェルキンに渡す、それを見るとウェルキンはパンサーと同じような疑問を感じた。

 

「本当にバリアス砂漠と言う所には遺跡しかないのか?」

 

顔を上げたウェルキンはパンサーの方を向くと

 

「そのはずです、少なくとも僕は遺跡以外に何かあると聞いたことがありません」

 

それにパンサーは少し考えた後

 

「これは大尉に報告する必要がありそうだな……」

 

ウェルキンは頷くと

 

「でも、どうしてバリアス砂漠なんかに……あそこはラグナイト鉱山も無いし戦略的価値はないはずなのに……」

 

そう呟きながらウェルキンが考え込むと

 

「それを上に聞く必要がありそうだな。よし!撤収するぞ!」

 

その言葉と共に基地へと撤収する。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

義勇軍の中にあるアメリカ軍が使用している格納庫の中にはクライス・リオンといった整備士にマザーやパンサーといった尉官達が集まっていた。

 

その中央には剥き出しになっているエンジンと青白く光る液体があった。

 

「ここにあるラグナリン燃料はラグナイト鉱石を液体化したのを蒸留の過程で得られる留分を集めたものです。提供していただいた燃料を分析してみた結果、ここにあるラグナリン燃料と性質が限りなく近いことが分かりました」

 

クライスが燃料の説明をすると、尉官達が黙って聞く

 

「ここにあるエンジンは現ガリア軍主力の戦車のラジエーターを改造してラグナリン燃料を使用する方式に変えました。リオン」

 

リオンの名前を呼ぶと、リオンは頷きラグナリン燃料をエンジンに入れ、離れた所にあった機材を動かし始める。マザー達もクライスと共にリオンの後ろに立つと、リオンはレバーを上げる。

 

すると、エンジンは青白く光らずに(・・・・)エンジンが動きだし鼓動を響かせる。

 

「このように、ラジエーターを光らせることなく動かすことができます!」

 

エンジンの鼓動に負けないようクライスは叫びながら言う

 

「それは俺達の戦車にもつかるのか!」

 

マザーが大声で聞くと

 

「はい!貸していただいたラジエーターにて始動してみた結果、無事に動きました!まだ走行試験をしてないので分かりませんが戦車に乗せても大丈夫です !」

 

そう叫ぶと、クライスはリオンの肩を叩きレバーを下げるようジェスチャーで指示をだす。それに頷きリオンはレバーを下げた。

 

「ですが、注意点もあります」

 

マザー達の方を向きながら言うと

 

「使っているのがラグナイト鉱石であるので爆発には弱く、対戦車槍一発でも直撃したら大爆発し戦車がバラバラになってしまいます。あと、試作品と言う ことでまだ十分なデータが取れていないので何が起こるか分かりません。あまり無茶な運転は禁物です」

 

それを聞くとマザー達が顔を見合わせる

 

「それで何処までが無茶な範囲なんだ?」

 

戦車兵であるマクレイン曹長が尋ねと

 

「ラジエーターを全開で長時間走行させると、どうなるかは僕達にも想像がつきません」

 

それを聞くとマクレイン曹長は苦笑いをする

 

「でも出力は従来のより遥かに上っス。よほどの戦況じゃない限り大丈夫だとおもっス!」

 

リオンがサムズアップしながら答えると、マクレイン曹長はあきらめたかのように溜息を吐いた

 

だが、それは戦車のみではなくヘリにも使えるということで、燃料の心配は解消されたのは大きいポイントであった

 

「しかし、ラグナリン燃料は抽出方法も難しく量も少ないです。それに、ラジエーターの改造にも時間が掛り、ノウハウも分かっていません。従来のラグナイトを使ったラジエーターが安価で量産性も高いので恐らく正規軍はこれに見向きをしないはずです」

 

なぜそんなことを言うかというと、マザー達が自分達の秘密をバラし彼等をこちら側に引き込んだのだ。最初は驚いた表情をしていたが、最後に脅しを入れて言うと2人は冷や汗を流しながら苦笑いをしていた。

 

「そうか、手間を取らせたな」

 

そう礼を言うと

 

「いえ!この技術が画期的な方法です!従来ではラグナイトを液体化しただけのを使用していましたが、これを蒸留したのを使うことによって、さらに純度の高いラグナリンを……」

 

と一人で興奮し喋っている姿に苦笑いしながらも、ここまで尽力を尽くしてくれたことに感謝した

 

「で、砲弾や銃弾の方はどうだ?」

 

パンサーが尋ねると一人で興奮をしていたクライスがクネクネ動かしていた体をピタッと止まった。何故か背中が猫背となり

 

「銃弾の方は上層部も皆さんの活躍に応えて生産してくれるようですが、砲弾の方はかなり渋っています」

 

それを聞くと「やっぱりか……」と皆が思った。上層部はアメリカ軍が離反若しくは寝返るを恐れているのだ。

 

ガリアだけでは歯がたたなかった帝国軍に突如として現れた正体不明な傭兵団、その実力は帝国が誇る戦車を一蹴りに倒してしまう程の規格外な戦車を保有

し、その団員達は恐ろしいほど錬度が高い。恐らくガリアでどの部隊が一番強いかと言われると間違いなく例の傭兵団であると答える。

 

現に上層部はメディアを使って市民に傭兵団の活躍を大々的に報道しこちらに引き込もうとしている。だが、マザー達はそんな誘いに乗るはずもなく全て断

っている。このままでは傭兵団が帝国側に付いてしまうと恐れた上層部が規格の違う銃弾を生産し始めた。

 

しかし、力を持ちすぎることを良しとしないこともあり、主力と言える戦車の砲弾やロケット弾の生産を渋っているだ。ある程度は提供して此方側に誘い込む算段であろうと考えていた

 

「まったく、上はどこも同じか……」

 

そうパンサーが溜息を洩らしながら言うと、マザー達も溜息を洩らした。

 

「恐らくダモンの奴が邪魔しているんだろうな」

 

マザーがそう呟くと

 

「あいつ、また勧誘しに来ていたぜ。そんな暇あるんだったら戦略学の勉強でもしろってんだ、自分の部隊を壊滅的にしといておきながら……」

 

怒りを露わにしながら言うのはラミレス中尉だった。フォース・リーコンと言う厳しいと言う言葉すら生温い地獄を仲間と共に突破した彼は仲間意識が高く、自分の部隊を壊滅しときながらヘラヘラ笑っているダモンが許せずにいた。

 

「と、とにかく、いつ生産許可がおりてもいいように設計図と分量は把握しているので直ぐにでも作り始める準備はできています」

 

励ますかのようにクライスが言うが、生産許可が下りない限りその考えは絵に描いた餅であった。

 

「バーロット大尉も上に進言すると言ってくれている。弾薬も節約しているおかげで、まだ余裕がある。それが無くなるまでに何とかするしかないだろ」

 

マザーがそう言い、今後の目的を確認した。

 




前回の内容で戦闘中にポテンシャルを入れましたが、これはゲーム内では発動をするで小説の方でも取り込んでみました。もし、読みにくく邪魔だったり、リアルの軍隊がそんな変なのを入れるのを許さないと言う人が少なからずいるかもしれないのでアンケートをとります

A.ポテンシャルはあってもいい

B.ポテンシャルは邪魔である

A.Bどちらかを入力してください。その時に一言感想くれると嬉しいです

*もし作者がいらないなorいるなと思ったら入れるかもしれませんが、なるべくアンケートの内容に従って書くようにします。


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9話 バリアス砂漠 前篇

投稿が遅くなって申し訳ありませんでした・・・


とある森の中、あたりは暗闇が覆い、空には宝石を敷き詰めたかのように星が輝いている。

 

その森の中で光を発し、人の声が聞こえてくる。その場所では焚き火やランプの光が漏れており、近くには戦車に車と乗り物があり、その傍では様々な服を着た兵士がいた。

 

集団による迷彩効果を起こすACUや砂漠地帯などで迷彩効果を発揮する3CなどのBDU(バトル・ドレス・ユニフォーム)、青い戦闘服、黒の戦闘服とここの集団だけで様々な服を着ていた。

 

その一角は他の所と雰囲気が違っていた。そこには机に地図を広げ、無線機などの資材が置かれており、その場には独立遊撃隊(アメリカ軍)に第7小隊と各部隊の隊長格と数人のメンバーがいた。

 

「情報によると帝国兵はバリアス砂漠東部に陣取っているとのことだ、俺達はここの遺跡を経由していくルートをいく」

 

地図に小石を置きながら進行ルートの説明をしているマザーはそのまま説明を続ける

 

「なんでも遺跡に出入りする帝国兵を確認したとのころだ。奴さんらが何を狙っているのかはしらんが、この遺跡に何かあることは間違いない。本隊が東側から戦闘をしかけ注意をそらす間に俺達は遺跡の探索だ。何か質問は?」

 

一通りの説明を終えると質問が無いかを聞く。すると

 

「部隊の配置はどうする予定ですか?」

 

口を開いたのは黒い戦闘服を着て肩にはNo.7と書かれていた

 

「遺跡周辺の敵を排除した後に、遺跡を第7小隊からの調査メンバーを送る。デルタは調査メンバーの護衛。他は周辺の警戒だ」

 

No.7が頷くと、マザーは他に質問が無いか聞く

 

「遺跡側にいる部隊の規模はどのくらいだ?」

 

その質問をしたのはダスティーだ

 

「敵の規模は精々2個小隊程度だと予想される。こちらの戦力なら撃破は容易いだろう」

 

そう言い、他に質問する気配が無いのを感じると

 

「なら、以上だ。だが、まだ話はある」

 

マザーは地図のある場所を指さした。そこは目的地である遺跡がある場所だった

 

「奴さんらが何故戦略的価値の低いここに出向いたのかが不明だ。資料を見たがここは古代ヴァルキュリア人の遺跡だそうだ」

 

マザーは手に持っていた資料をNo.7の方に机の上を滑らすように投げる。それを受け取ったNo.7は中身を見る

 

「こんなのに何の興味があるかしらんが、帝国の高官でもさらに高い奴がこの遺跡に向かっているとのことだ」

 

資料を見ているNo.7に今ある情報を説明する。資料を見終えたNo.7が顔を上げるのを見て

 

「率直にお前の意見を聞きたい。ネームレスなんざのクセの多い連中を率いているお前から見てこの場所に何があると思う?」

 

No.7……彼の名はクルト・アーヴィング。なぜ彼等ネームレスと呼ばれる部隊がいるのかと言うと、話は基地出発まで話をさかのぼる

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

マザーはバーロット大尉がいる司令部まで来ていた。バーロットの手にはある資料を手にしていた

 

「……中尉、この資料をどこで?」

 

バーロットの声はいつもの凛とした声だが、その声の中には威圧が含まれていた

 

「此方で独自に……としか申せません」

 

その威圧をモノともしない様子で答えた。彼らはただ黙って命令を受けて戦場に向かっているわけではない。最終目的は本国であるアメリカ合衆国への帰還である。ガリアだけに帰還方法を任せる筈もなく、自分達でも帰還する方法の情報を集めていた。幸いに情報収集能力を持っている人間は少なくなく、帝国を圧倒する強さ、死傷者の増加を防ぎ、短時間で戦線を押し上げているという異常な戦果を上げ、それの報酬は莫大な物であった。その報酬の中にはガリア(こっち)に引き込む意図があるだろうが、そんなことをマザー達は既に予想しているが口に出して言ってこない分無視していた。

 

その資金から金を握らせ情報を聞き出したり、()()()()()()をおこない情報を()()して貰ったりしていた。その情報の中であったのがネームレスの情報である。

 

ネームレス……正式名所は422部隊と言う名で、ガリアにおける懲罰部隊である。軍規違反者や刑事犯および個人的な事情により自ら志願した者で構成される。だが、本来は特殊技能を持つ隊員や後方撹乱、破壊工作、諜報、人質救出などの危険度が高い任務をこなす特殊部隊であった。そのため素性を隠すように全員名前を剥奪され番号で呼称される他、戦闘服は黒を基調としたものとなっている。

マザーはその部隊に目を付けたのだ、今回の作戦は何か嫌な予感がする……そんな胸騒ぎがするマザーは少しでも戦力を確保しようと考えていた所、諜報系統を担当していたダスティーに相談した所、ネームレスへとたどり着いたのだ。

 

「……これがどういう意味かわかっているのか?」

 

バーロットは更に威圧を強めた声で聞いた。これは正規軍の中でも幹部以上の者しかしらない情報であり、無論義勇軍の傭兵部隊が知っている筈のない情報である。なぜなら彼等ネームレス部隊の活動記録、参戦記録、その他の軍の記録は一切記録されていないからだ。バーロットも先の戦争で共同戦線を張った所以でネームレス部隊の存在をしているのだから、内心驚きと内部情報を何処まで知っているのかと言う懸念を抱いていた

 

「我々は我々にできいることをしているにすぎません。自分達で情報を掻き集めるは至極当然のことでは?」

 

マザーは堂々とした佇まいで答えた。独自に行動することを許さており、義勇軍で、しかも傭兵と言うことで情報部からの情報は中々伝わってこない。恐らくダモンが邪魔しているだろうが、マザー達は独自の情報網を形成している。そのことは叩き上げで今の椅子に座っているバーロットも承知しているであろう

 

マザーの様子からこれ以上口を割ることができないと思ったのか、バーロットは溜息をついた

 

「……それで、この部隊をどうしたいのかしら?」

 

資料を机の上に置き、肘を付いて手を組み尋ねる

 

「この部隊をお借りしたい」

 

概ね予想通りの返答にバーロットは再び溜息を吐いた。ネームレスは一応正規軍扱いであり、こちらは義勇軍、いわば指揮系統が違うのだ。正規軍の応援要請はダモンの耳にも入るだろうし、それを妨害してくるであろうと考えると中々骨の折れるであろう

 

「理由はなに?」

 

この部隊を借りると言うのだからそれ相応の理由がなければならない、その理由を聞くと

 

「今回の作戦にて向かうバリアス砂漠、そこでの有事の際の対処が理由です」

 

その返答にバーロットは唖然とした。この作戦は戦略的価値の低い所にいる帝国軍が何をしているかを調べにいく、その場所には帝国が求めているラグナイト鉱山は無く、もし帝国軍が新たにラグナイト鉱山を見つけているのであれば奪われる前にそれを確保するのが今回の任務であった。

 

「そこに駐留しているのは精々2個小隊程度。第7小隊と独立遊撃隊の両隊が行くのに、そこへネームレスをも参戦となると過剰戦力もいい所よ」

 

とバーレットが思ったことを言う。情報部が仕入れた情報にそう書かれているのだ

 

「情報部からの情報を疑っている訳ではありません。ですが、帝国軍の高官がわざわざ砂漠まで足を運ぶでしょうか?」

 

情報の中にあったのは部隊の規模だけではなかった。僅かにだが、帝国軍高官がバリアス砂漠に向かっているとの情報もあったのだ。誰が向かっているかは分からないが、軍の高官が向かっているという事実にバーロットはマザーの言いたいことに気付いた

 

「ラグナイト鉱山ではなく別の何かを狙っている……ということ?」

 

それにマザーは頷いた

 

「奴らが何を狙っているのかは分かりませんが、あそこには何かがある。そう思えてならないのです。もしもの時にその何かがあって対処が遅れたら中隊全体に被害が及ぶ可能性があります」

 

だからネームレスを貸して欲しい。その意味を理解したバーロットは少し考えた後に

 

「……分かった、こちらで何とかしよう」

 

その言葉にマザーは表情には出さなかったがほっと胸をなでおろした

 

「何もないことを祈るけど……もしもの時は頼むわね」

 

その言葉に敬礼で了解の旨を表した

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

そのやりとりがあり、今にいたっていた

 

クルトは顎に手を当て、遺跡の場所を見ながら考え込んでいた。その様子をその場にいる皆が見ている

 

「この場所は古代ヴァルキュリア人の遺跡と言うことから、ヴァルキュリア関係なのは明白です。だが、なぜヴァルキュリアの遺跡を狙うのかは憶測の域をでません」

 

クルトの言う憶測はマザー達も同じ考えであるものだった。それは古代ヴァルキュリアの古代兵器、いわゆるオーパーツを狙っているのではないかという考えだ。この考えの他にも考古学者が遺跡を調べに来ているという考えもあるが、どれも憶測の領域をでないのだ

 

「……今は考えても始まらない、とりあえず今日はここまでだ。各部隊休息を充分に取らせておけよ、明日は長くなるぞ」

 

このままでは埒があかないと判断したマザーは解散するよう言った。メンバーが己の部隊へと戻ろうとするなか

 

「No.7」

 

呼ばれたクルトが振り向くと、そこにいたのはダスティーだった

 

「どうだ、一戦していかないか?」

 

その手に持っていたのはチェスの盤だった

 

「……あぁ、構わない」

 

クルトは踵を返すと、誰もいなくなった簡易本部の椅子に座ると、ダスティーも反対側の椅子に座りチェスの準備を始めた

 

周囲に話し声で賑わっている中、一角だけコツ、コツと何かを動かしている静かな音が響く。2人は何も喋らないまま(ピース)を動かしていく

 

すると、ダスティーがクルトのナイトを取ったところで口を開いた

 

「……さっきのブリーフィングでいった憶測、あれは何かしらの兵器だと思うか?」

 

それを聞いたクルトはビショップを前へと動かすと

 

「その可能性はあるが、軍にいる研究者が遺跡を調べにきている可能性もある」

 

ダスティーはポーンを前進させると

 

「それは俺も同じことを考えたが、態々こんな最前線の所にくると思うか?」

 

今回の戦場となるバリアス砂漠は第3中隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)の活躍によりガリア軍の前線を上げられ、今ではバリアス砂漠らへんは最前線となっていた

 

「さらに、そこにいる部隊は僅か2個小隊程度の規模。軍の高官が来るにしちゃ部隊の規模が余りにも小さすぎないか?」

 

そう言われると、クルトも顎に手を当て考え始めた。高官と言うことから恐らく中佐以上のクラスが来ている可能性が高い。もしラグナイト鉱山の発見による視察ならば、最前線という命の危険を冒してまで来る理由になるだろうか?更に、資源なら北部の方で充分に確保しているはずであり、わざわざこちらに来る必要性があるのだろうか?高官がくるにも関わらず駐屯しているのは僅か2個小隊、護衛の部隊がいると言う報告もない

 

「つまり、ラグナイト鉱山や単なる遺跡の調査ではなく……」

 

ダスティーのクイーンがクルトのルークを食らう

 

「もっと別の……隠されている何かを狙っている」

 

ダスティーの言葉にクルトの頬に冷たい汗が流れた

 

「そう、マザー達は考えている。今の戦況とバリアス砂漠の戦略的価値から見て、高官が来るなんてことはよっぽどの事があるか只の物好きのどちらかだ」

 

クルトもダスティーの言葉に同感しながら、チェスの駒を進める

 

「だが、敵の罠と言う可能性は?最近第7小隊と独立遊撃隊の両隊が前線を巻き返しているのは敵の耳にも入っている。これ以上の快進撃を止める為に両隊を嵌めるという可能性もある」

 

それにはダスティーも同意見だった。快進撃によるガリア軍の士気の上昇、前線の巻き返し、帝国軍の士気の低下、帝国軍から見れば第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)の存在はまさしく悪夢に等しいものであった。そこで、その快進撃を続ける部隊を叩くことでガリア軍の鼻っ柱を圧し折り、士気の低下を狙ってるとも考えられた

 

「その線も有力候補の1つだ、待ち伏せ(アンブッシュ)してこちらを潰しに来るかもしれない。その時はこちらから攻めて相手を潰す、頼りにしているぞ」

 

ネームレスは想定外の事態の対処を目的として呼ばれた。そのことは既にクルトの上司であるラムゼイ・クロウ中佐から聞かされていた。その時にガリアで最も噂されている義勇軍第3中隊所属外人部隊……独立遊撃隊(アメリカ軍)の事を聞いていた。敗戦確実と言われていた状況にやってきた中規模の傭兵団、その保有する戦力は小さな国一個分の戦力と言われ、帝国の重戦車の砲弾を弾き返す装甲に一撃で葬る大口径の主砲。空を自由に駆ける兵器に重武装を装備した装甲車を保有している。その傭兵の錬度は危険な任務を幾度となくこなしてきたネームレスをも超える錬度と噂されていた

 

帝国や連邦が保有していない兵器を多数所持している、それを聞いたクルトはどんな集団なんかと思考を巡らせていたが、実際に会って話をしてみると少なくとも此方の敵ではないと言う印象だった

 

「だが、もし遺跡から出てきたのが兵器なら……」

 

ダスティーのポーンがクルトの陣地の最奥のマスへと置かれた

 

「戦況が覆るかもしれないな……」

 

チェスのルールではポーンが相手の陣地の最奥のマスまで行くと他のピースへと昇華することができる。その意味を理解するクルトだが

 

「……それでも」

 

クルトのクイーンがダスティーのナイトを食らう

 

「俺達は勝つ」

 

その眼と声には熱く揺るがない確固とした信念をダスティーは感じた。長年特殊部隊にいて、数多くの兵士を見てきたダスティーだが、ここまでの信念を持っている兵士は数える程度しか知らなかった

 

「それと……チェックメイト」

 

クルトのクイーンと昇華したポーンがダスティーのキングを捉えていた、どこにも逃げ道はない……いわゆる“積み”の状態だった

 

「負けか……いや、楽しかったよ」

 

一局だけの対戦だったが、お互い思っていることと信用できるかが分かったのだから2人とも上々なことだった

 

「クルト~」

 

丁度チェスが終わった時にクルトを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見ると赤と銀の珍しい髪色をした女性がいた

 

「探したよクルト。食事の時間なのにどこにもいないんだから」

 

そう言って近づいてくると、クルトの陰に隠れたダスティーを見てあっ!という表情をした

 

「……いい勝負だったNo.7」

 

チェスの駒を片付けたダスティーは盤を手にし席を立った

 

「次の勝負を楽しみにしてるぞ」

 

そう笑みを浮かべながら言うと、クルトも席をたつ

 

「こっちも楽しかった」

 

次の勝負、つまりお互い生き残ろうと言う意味を分かったクルトは笑みを浮かべながら答えた。ダスティーがクルト達に背を向け自分の部隊に戻っていくと、クルトもリエラと共に自分の部隊へと戻って行く

 

「……あれが噂の傭兵?」

 

共に戻っていたリエラがクルトに尋ねる

 

「あぁ、チェスをしていた」

 

そういうとリエラの表情には不安が浮かんでいた。素性の分からない傭兵団に噂と相まって不安に思っていると

 

「大丈夫だ」

 

突然クルトがそう言い、リエラは目を丸くした

 

「彼らは信用できる」

 

そう言い切ると、不安な表情を浮かべていたリエラの表情が安心した表情になる

 

「うん。いこ、クルト」

 

リエラはクルトの手を握って部隊へと戻っていった

 




一応ネームレスの時系列としては既に第7小隊と共闘しており、リエラと皆がある程度仲良くなっている設定です。


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9話 バリアス砂漠 後編

バリアス砂漠の東側にある遺跡周辺、そこには多数の銃を持った兵に複数の戦車がいた。そして、そこに立てられていた旗は双頭の鷲が描かれた……帝国軍の国旗であった。

 

帝国兵は今さっきばかり来た高官にざわめきが満ちていた。上からの指示で整列して待っていたが、車から降りてきた人がまさかあれほど(・・・・)の人物だとは思っていなかったのか、整列して道を作っていた兵士の顔が引きつり冷や汗を流しながら敬礼していた。

 

高官が遺跡に入って姿が消えてから、兵士達は体からどっと力が抜けていた。護衛に選ばれるんじゃないかと皆が思っていたが、高官がそれを断り副官と思われる銀髪の女士官と共に遺跡へと入っていった

 

ホッと一息を吐いて、警戒と言う名の駄弁りをしていた。その場にいた帝国兵達は気が抜けており、それが……彼らの命取りだった

 

轟音が空に響くと、彼等の後ろにあった戦車が爆発したのだ。完全に意表を突かれた帝国兵はパニックに陥っていた。その時、一人の兵士が見たのは遠くから迫ってくる3台の戦車だった

 

「初弾命中!」

 

エイプラムスに乗る砲手が報告する。3,000mをも超える遠距離からのアウトレンジ攻撃を可能とする高度な射撃統制装置(FCS)を積んであり、有視界戦闘では既に敵を捕らえ有効射程内と言える

 

装填手から装填完了の報告がくる。砲手が次の戦車へと狙いを定めていると、戦車が始動し始めているのかラジエータが青く光っていくだが、まだ停止している状態では恰好の的である

 

「照準よし!」

 

「てっー!」

 

戦車長の号令と共に120㎜の砲口から火を噴いた。走行しながらの砲撃であったので目標から狙いが外れたが、地面に当たった衝撃と爆音で一帯の帝国兵は吹き飛ばされたり、耳を手でふさいで転げまわったりしていた

 

敵陣地は壊滅的被害と指揮系統の麻痺によって大混乱となっていた。その状態を見逃すはずが無く、エイプラムスを追い抜き陣地へと強襲をしかけたのはエーデルワイス号とネームレスの戦車『ブレイヴ』である

 

第7小隊はこれまで森や市街地戦闘などで、戦車の機動性を充分に生かせない戦場ばかりであった。だが、バリアス砂漠では、障害となるのは岩ぐらいで広大な大地はまさに戦車の独壇場であった。その図体から思えないような高機動で敵戦車の砲弾を避け、こちらの砲弾で敵戦車を葬る姿は陸戦の花形に恥じない戦果だった

 

ネームレスの戦車『ブレイヴ』も勝に劣らない性能であった。ガリアでは珍しい中量級型タイプの戦車であり、速度、起動と申し分ない性能である。敵の脇腹を突くように突撃し、攪乱するような動きに、隙を見せたらすぐさま隙を突く姿はエイプラムスの戦車長が見事と思うほどだった

 

敵戦車が全部破壊されるころには、陣地にいる帝国兵は3方向から攻撃されたアメリカ軍、第7小隊、ネームレスに成す術もなく敗北した。

 

敵陣地を壊滅させ、帝国兵も死んだか逃げたかで辺りにはいなくなっていた。一応警戒のためレンジャーが見回りの任についていた

 

≪HQ、こちらエコー。敵影は見当たらない。オーバー≫

 

警戒をしている部隊から本部へと定時連絡がくる

 

≪エコー、こちらHQ。了解した、引き続き警戒にあたれ。オーバー≫

 

≪HQ、こちらエコー。引き続き警戒にあたる。アウト≫

 

無線の通信が切れる。HQにいるラビットは敵影が見当たらないことにホッとした。死者数を数えた結果、大半の帝国兵が死亡してるのが確認できた。逃げたとしても恐らく10数名程度、こちらの戦力は3個小隊規模である

 

腕時計をみると、もう10分程で警戒している連中が戻ってくる時間であると確認すると辺りを見回した。既にウェルキン等の調査隊は遺跡に向かっており、エイプラムス、エーデルワイス号、ブレイヴと3台の戦車が並んでいた。その戦車の上でラルゴやロージや戦車長達がスイカを齧っていた

 

「ハ~イ、少しいかしら?」

 

声を掛けられ振り向くと、眼鏡を掛けカメラを片手に持った女性、ラビットはラーゼル橋での戦いの後に一度会ったことのある女性、イレーヌ・エレットであった。彼女はバーロット大尉から直接許可をとり従軍記者となっていた

 

「どうしましたか?」

 

エレットに要件を訪ねると

 

「いえ、ちょっとお話をと思いまして。1枚いいですか?」

 

カメラを掲げると、ラビットは首を横に振った

 

「もう少しすると見回りしている部隊が帰ってくるので、そっちの方でお願いします。で、話とは?」

 

写真を断ると、本題に入った

 

「いえ、貴方がたが前にいた所はどんな場所だったのかなと思いましてね」

 

ガリアにはアメリカ軍は傭兵団として味方に加わったとされており、そのことはアメリカ軍の皆が知っていることであった。そこで前にいた戦場を知りたがる人物がいるとしても不思議ではないと考えたラビットは

 

「わかりました、ですがここでは熱いですから」

 

ラビットは戦車で出来た影を指さした。その意味が分かったエレットは頷き、戦車の方に向かった。戦車の影につくと話始めた。航空戦力と機密事項の所は隠しながらも話始めた。山岳戦での攻防、潜入のことなどアフガンでの戦いを順番に話って言った。

 

「なるほど、では砂漠での戦闘も初めてではないと言うことですね」

 

ラビットが語ったことを手帳にまとめるエレット。ラビットの話に興味津々なのか、食いついてくる

 

「あの日も今日の様に暑い日でしたね……」

 

思い出すかのようにあの時の戦闘を思い出していると

 

「……よくもまぁ、これだけの土地を焼き払ったものだね」

 

突然ロージがそう呟いた

 

「ここの砂漠は大昔にダルクス人が邪法の力とやらで年ここにあった都市を焼き払っていううじゃない。いったいどうやって焼き払ったんだろうね?」

 

エーデルワイス号の上でロージがそう言うと

 

「でもイサラは歴史的根拠のない風説といってたけど?」

 

話が聞こえていたエレットが返事をする

 

「あいつら、昔からラグナイト堀の仕事とかやらされてるだろ?アタイらも知らない怪しいラグナイトの技術とかしってんだよ、きっと」

 

そうぶっきらぼうに言うと

 

「それこそないな」

 

話を聞いていたラビットがそう言った

 

「なに?」

 

戦車の上で寝転がっていたロージが体を起こした。その表情には不満が見て現れている

 

「ダルクス人がバリアスを焼き払ったなんて歴史的根拠以外にもありえないと言い切れるよ」

 

そう言い切ると

 

「なんでだい?」

 

そう不満そうな顔をしながらロージ聞いてくる

 

「仮に焼き払ったとするとダルクス人が黙って迫害されているはずがないからだよ」

 

その返答にロージとエレットは首を傾げた

 

「1個の都市を焼き払いこれだけの大地を砂漠にするほどの力を持っていれば、ヴァルキュリア人がいない今、黙って迫害されるはずがない」

 

ラビットはウェルキン達が向かった方を眺めると

 

「それに、それ程の力を持っているならヴァルキュリア人も一方的に勝てたはずがないし、その力を危険視してダルクス人を根絶やしにすると思う」

 

それを聞いたエレットとロージは納得し、納得してしまったロージは反論できずに不貞寝をし始めた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

一方遺跡の方では第1小隊と合流したファルディオと共に古代ヴァルキュリア遺跡の中へと進んでいた

 

「遺跡の中だと聞いたが、意外と明るいものだな」

 

護衛チームの隊長であるパンサーが遺跡の中は暗闇だと思いっていたが、壁から青い光が発光し、薄暗いが見えない程ではないことに驚いていた。だが、その光はやはり青白いものでヤバイ物(チェレンコフ)見えて仕方がないのはいつものことで、いまだに慣れずにいた

 

「この遺跡自体がラグナイト含有率の高い石で作られていますから。明るいのはそのためです」

 

パンサーの疑問をファルディオが答えてくれた。この世界の歴史書は英語と同じ文字で書かれており、歴史書を呼んで知識を取り入れていたパンサーは古代ヴァルキュリア人の遺跡があることは知っていたが、中がこうなっているとは思いもしなっかった

 

「うわぁ、遺跡の中にこんな場所があったんだ……」

 

アリシアが遺跡の中をキョロキョロ見回しながら言うと

 

「びっくりしただろ?俺も初めてここに来たときは随分と驚いたものさ」

 

そう笑いながらファルディオが説明していく

 

話をしながらある程度進むと道が無くなっており、目の前の壁には螺旋状の壁とその周りに文字が刻まれたリングみたいなのがあった

 

「ファルディオ、なんだこれは?」

 

パンサーが壁に書かれている見たことの無い文字尋ねる。ファルディオは大学で考古学を専攻しており、ヴァルキュリア関係の遺跡に強い関心を持っていると聞かされたことがあった

 

「それは古ノーザン文字です」

 

護衛チームが興味もしめしたのか全員がその壁に書かれている文字を見た

 

「これに書いているのは読めるのか?」

 

ベガスが碑文を見ながら尋ねると

 

「あぁ、大学で去年に習ったからね」

 

ファルディオが碑文の文字を見て少し考えた表情になると

 

「……おおむね、ヨーロッパに古くから伝わる『ダルクスの災厄』についての記録だな」

 

古ノーザン文字を指でなぞる様に解読していく

 

「かつて、ラグナイトから力を引き出す技を得たダルクス人は、地上を我が物にしようとし、邪法のちからで100の都市を焼き払い、100万の人と家畜を殺した。この地も、ダルクス人によって焼かれた都市の一つである……とある」

 

書かれている碑文を読み解いていき、ベガスは気になった所があった

 

「ダルクス人の……邪法の力?」

 

その邪法の力とは何を指しているのかと考えている内もファルディオは話を進めていく

 

「そんな古代ヨーロッパ史に忽然と現れたのが、『ヴァルキュリア人』達だった。ヴァルキュリア人は青く輝く聖なる槍を手に取りダルクス人達に戦いを挑んだという。属に言う『古代ヴァルキュリア戦争』だ」

 

古代ヴァルキュリア戦争……パンサーは歴史を調べる時にそのような言葉を見たが、それは唯の神話でしかないと思っていた

 

「それ絵本で読んだことあるけど、お伽話じゃなかったの?」

 

アリシアも同じ考えだったのか、ファルディオに尋ねると

 

「この遺跡をはじめ、ヨーロッパ各地にはヴァルキュリア人が存在した痕跡は数多くある。民族考古学においては、ヴァルキュリア人は実在した……という説が最近有力なんだ」

 

歴史の勉強をしているなか、デュースとダスティーはその話を聞きつつも、おかしいと思っていた。遺跡に入ってからブリーフィングンで聞いていた高官おろか帝国兵の姿すらない。先程潰した陣地には高官らしき人物が見当たらず、先に遺跡に入られていると考えてい

 

「パンサー」

 

ダスティーがパンサーの肩を叩く

 

「どうもここはおかしい、帝国兵の姿は1人も見当たらず、ここに入ってから無線の調子がおかしくなっている」

 

パンサーは直ぐに自分の無線を確かめると、通じてない訳ではないが、ノイズが出ていた

 

≪HQ、こちらパンサー。無線チェック、オーバー≫

 

すぐにパンサーは無線の状況をたしかめる

 

≪パ…ザザ…サー、こちらマザーだ。とこ…ザザ…ころで、ノイ…ザザ…が入るが聞こえるぞ、オーバー≫

 

≪マザー、こちらパンサー。引き続き遺跡の探索を行う、アウト≫

 

無線を切り、辺りの様子を伺うと螺旋状の壁に目がいった。ファルディオ曰くヴァルキュリア人の力の象徴であると言っており、今はアリシアが調べていた……すると、突然と螺旋の壁に穴が開いた

 

その決定的瞬間を一部始終見ていたパンサーとダスティーにデュースは度肝が抜かれた。アリシア自身も突然壁が無くなり、口をパクパクしながら驚いていた

 

他のメンバーも気付いたのか、さっきまであった壁が無くなっているのに驚きを表していた

 

「アリシア、何かしたのかい?」

 

ウェルキンが直ぐに近寄って安否を確かめながら尋ねる

 

「わからない……手をふれたら扉が勝手に開いて……」

 

アリシアも今だ状況が把握できていないようだった。護衛チームは空いた壁の奥に何もいないか、警戒しながらライトを照らしていた

 

「バリアス遺跡に深部があったとはな、これは歴史的発見だぞ!」

 

ファルディオは考古学を専攻した人間として輝いた目をしていた

 

「どうする?進むのか?」

 

パンサーが警戒しながらファルディオに尋ねると

 

「もちろんだ!」

 

嬉しそうに頷いた。パンサーとデュースが先頭にダスティーとベガスが後方に付いて警戒しながら進んでいく。辺りはさっきの所よりも暗く、レイルに付けていたライトで前方を確認しながら進んでいく

 

すると、出口なのか、明るい光が目の前に見えてきた。暗い道から抜けると

 

「……なんだここは」

 

デュースとファルディオが同じ声を上げた。目の前には巨大な螺旋の柱があり、その下へと螺旋階段が続いていた。すると、ファルディオが先に進み壁にライトをあてた

 

「こ、これは……そんな……」

 

驚いた様子にデュースが前方を警戒しながら尋ねる

 

「ここにも碑文か、なんて書いてるんだ?」

 

だが、ファルディオは驚いた様子のまま固まっていた

 

「い、いや……この文字は俺にも読めないな」

 

ファルディオが驚いたままでいると、足音が聞こえてきた。その足音にパンサー達が一斉に足音の方へ銃口を向ける。そこから現れたのは白を基本とした格式高そうな服をきた短髪の男と、銀色の髪と黒い帝国軍の服、螺旋状の槍を持ち、そこから強調されている巨大な胸が特徴の女性だった

 

「ほほう……ここに訪れているものが他にもいるとはな」

 

男性は目の前にいる人物達を見た。その中で4人だけ装備と雰囲気が全く違いことに気づき

 

「貴様らか……例の傭兵と言うのは」

 

その4人が報告で聞いた傭兵団の傭兵であると認識した。だがパンサー達は沈黙したままで銃を構えているままだった

 

「どうやってここまで来たか知らぬが、この神聖なる場所に貴様らは場違いだ」

 

そのまま通り過ぎようとするが

 

「動くな!」

 

デュースが声を上げて止まるように言う。銃口は男性の眉間を捉えており、女性が庇おうととするが、男性がそれを手で止めた

 

「……ん?お前……まさか、マクシミリアン!」

 

ダスティーが驚いた表情をしながら言った。その声に他のメンバーも驚いた

 

「まさか……敵の司令官だと」

 

銃を構えたままデュースも驚いた声をだした。帝国軍の高官であるとは聞いていたが、まさか司令官クラスの人間が来ているとは思いもしなかったのだ

 

驚いた様子を気にすることなく再びマクシミリアンは歩きだした。そのままパンサーの隣を通ろうとした時、行動にでた

 

M4を基軸に腕の関節を決めたパンサーがマクシミリアンを地面に押し倒した

 

「殿下!」

 

すぐさま女性がマクシミリアンを助けようとしたが、デュースが女性の腕の取り、一本背負いのような方法で地面に叩きつけた。地面に背中から叩きつけられ、肺の中の酸素が出されて、体が硬直している間に女性をうつ伏せにさせて腕の後ろに回した

 

「くっ……離せ!」

 

女性が暴れるが

 

「動くな、動くとこいつの頭に風穴があくぞ」

 

パンサーがグロッグ17Cの銃口をマクシミリアンの側頭部に当てていた。それを見た女性は抵抗を止めた。デュースとパンサーは2人の両手を後ろに回しハンドカフで拘束した

 

≪HQ、こちらダスティー。敵高官と副官らしき女性を拘束した、オーバー≫

 

2人を拘束したことを無線で連絡しようとしたが

 

≪ザザ…き…ザザ…じ…ガガ……≫

 

無線からノイズが酷く、何を言っているのか分からなかった

 

≪HQ、こちらダスティー。ノイズが酷くて聞こえない、オーバー≫

 

再び無線を使うが、今度はノイズしか聞こえなかった

 

「ダメだパンサー、ノイズが酷くて使い物にならない」

 

無線の状況をしらせると

 

「……直ぐにこの遺跡から出て、部隊と合流。その後直ぐに本隊と合流だ。それで構わないな」

 

パンサーは拘束し立たせたマクシミリアンを立たせて指示をだす。それにウェルキン達も頷いた

 

「妙な真似はするなよ」

 

デュースは女性の後頭部にグロッグ17Cを突きつけたまま言った。マクシミリアンはベガスが見張り、来た道を戻る。途中、螺旋の壁が全員出ると閉まったことに若干驚きつつも出口付近に近づくと

 

≪こちらマザー、誰か応答しろ!≫

 

突然無線からマザーの声が響いた

 

≪マザー、こちらパンサー。どうやら遺跡の奥では無線が使えなかったみたいだ、オーバー≫

 

パンサーが無線で応答すると、無線からマザーの溜息が聞こえた

 

≪とりあえず無事でなり寄りだ。状況を頼む≫

 

仲間が無事なのにホッとしたマザーは直ぐに状況の確認をする

 

≪遺跡にて敵高官と副官を拘束した。どうやら……≫

 

無線で連絡を取りながら出口に付いた瞬間……

 

「セルベリア」

 

アクシミリアンが女性に名前を呼んだ

 

「御意に!」

 

すぐさま返事を返し、体が蒼い炎の様なものに包まれた。それにデュースは驚き、体が一瞬硬直してしまった。直ぐにセルベリアを取り押さえようとするが

 

「はっ!」

 

掛け声と共にハンドカブが千切られ、衝撃波でデュースと同じく取り押さえようとしたダスティーが吹っ飛ばされた。そのままダスティーが持っていた槍を拾い、マクシミリアンの方へ向かう

 

パンサーが銃を構えるが衝撃波の余波で咄嗟に顔を庇い、ベガスは余波のなか銃を構えようとするが、既にセルベリアがマクシミリアンのハンドカフを引きちぎり身を確保していた。

 

起き上がったデュースとダスティーはM4を構えるも、セルベリアがマクシミリアンの身を抱き上げ、岩山へと()()()。ここから何十mもある岩山まで跳躍したのだ

 

その光景に唖然となるメンバーだが

 

≪おい!一体何があった!≫

 

無線からマザーの声が聞こえハッとなる

 

≪拘束していた捕虜が逃走した!副官の女が蒼く光りだしたら飛んでいきやがった!≫

 

ダスティーが無線で情報をつたえる、マザーはそんなバカなと言うが

 

≪直ぐにそっちと合流する、戦闘準備をしといてくれ。アウト≫

 

そう言うと無線をきる、幸い負傷者はいなく、飛ばされたウェルキンやアリシアも無事の様で、ベガスもファルディオの無事を確認した

 

メンバーは部隊への合流を急いだ

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ウェルキン達が急いで部隊へと戻る。部隊と合流した時には、まだ戦闘は始まっておらず皆が戦闘準備をしていた

 

「突然中尉の仲間から戦闘準備するよう言われたが、何があった?」

 

所々装甲のような物を付けた黒い戦闘服を着たクルトと後ろに赤と銀の珍しい髪色の女性……リエラが立っていた

 

「敵高官と副官を拘束していたが、拘束具を引き千切り逃走した。恐らく部隊と合流しこちらに攻めてくるはずだ」

 

遺跡で起こった状況を手早く説明すると、クルトは直ぐに思考をめぐらせ、無線機を使って部下に指示をだす

 

「高官は敵司令官のマクシミリアンだった。恐らく後方に大部隊がいる可能性が高い」

 

さらに得た情報を言うと、クルトは驚いた顔をした。パンサー達と同じく司令官とは思わなかったのだろう、無線で更に連絡し指示をだす

 

すると、後ろから駆動音が聞こえ振り向くとエーデルワイス号に乗ったウェルキンがハッチから顔をだしていた

 

「中尉、バーロット大尉達の本隊に連絡を入れておきました」

 

現状を本隊に連絡を終え、戦闘準備も整えた。無人偵察機があれば敵の規模が分かるのにと頭の片隅で考えたが、無い物を強請っても現状を打開できないと考えを切り捨てた

 

すると、なにやら地鳴りが辺りに響き始めた。辺りを警戒していると……岩陰から馬鹿でかい何かが出てきた。ウェルキンは直ぐに戦車の中に戻り、クルトやパンサーといった歩兵は岩陰や地面にできた溝に体を隠した

 

岩山と同等の高さを持ち、馬鹿でかい図体に全身を覆う鋼鉄、至る所に機関銃が配備され、前面には2門の砲門、その上にはさらにデカイ大砲を積んだこの超大型戦車の名はゲルビム

 

その図体に圧等されながらも、パンサーは直ぐに大声で指示をだす

 

「物陰から身を出すな!機銃座に穴あきチーズにされるぞ!」

 

その指示に続きクルトも大声で仲間に指示をだす

 

「対戦車兵は機銃座を狙え!他の兵科は機銃が全部壊れるまで身を出すな!」

 

歩兵に指示を出している間にも戦車は動き始めた

 

≪いいか、絶対に正面に出るな。このエイブラムスなら耐えれるかもしれんが、お前達の装甲では一撃で潰される。側面から機銃を狙って歩兵の援護だ!俺はラジエータを探す!≫

 

エイブラムスの戦車長がウェルキンとネームレスの戦車長であるNo.6……グスルグに指示を出していた。エーデルワイス号とブレイヴが側面に回り込んで機銃を潰す間にエイブラムスは正面に躍り出た

 

正面下部にある2門の砲は340mmのラグナイト砲であり、いくらアメリア軍のMBT(メイン・バトル・タンク)であるエイブラムスといえども耐えれるかどうか怪しい物である。だが、当たってヤバイのなら避ければいい話である。規格外と言われるエーデルワイス号よりも何倍もの出力と機動力を有し、主砲じたいも120㎜の劣化ウラン弾である

 

「撃ぇー!」

 

戦車長の号令と共に劣化ウラン弾が340mmラグナイト砲めがけて飛んでいくが、回避行動しながらの攻撃ゆえに目標からブレて前面装甲に着弾する。その威力はケルビムを揺らす威力であった

 

「被害報告!」

 

ケルビムの戦車長がこのゲルビムが受けた被害を聞くと

 

「正面下部の装甲小破!」

 

その報告に敵戦車長は唖然となる。このケルビムにダメージを負わせたのだから。豪華な椅子に座っていたマクシミリアンもこの報告には驚く、ケルビムの正面装甲は新型戦車である『ヴォルフ』の砲弾ですら弾き返すのだから

 

「正面装甲に傷を負わせるだと……」

 

マクシミリアンの頬に冷や汗が流れる。決して侮っていたわけではない、イェーガと部下からの報告を聞いていた傭兵団の戦車の凄まじさを聞いていた。だが、それはこの世界での恐ろしさであり、別の世界で何世代も先の技術で造られた戦車にはその常識が通用しなかったのだ

 

これほどの力を有していたのかと、マクシミリアンは拳を強く握りしめる

 

「他の戦車は無視して構わん、目の前の戦車の破壊を優先しろ」

 

マクシミリアン直々の指示であった。ケルビムがエイブラムスに釘付けの間に歩兵は遺跡の方へと移動しながら随伴歩兵と戦闘をしていた

 

7(セブン)!そっちに2人いった!」

 

レンジャーのアルファ分隊であるダンテが敵兵の位置を叫ぶ。それに反応してクルトが手に持った機関銃を掃射する、一人は撃ち殺したが一人は岩陰に隠れてしまった

 

「俺達が先行してあのデカ物の様子をうかがってくる。何人かついてこい」

 

マザーがそう言いラビットと共に岩山の方へと向かう

 

「アルフォンス、彼らについて行ってくれ」

 

クルトが肩に11と書かれた太った金髪に指示をだした

 

「了解した」

 

アルフォンスはそのままマザー達を追いかけた。岩山の上からマザーはケルビムの戦闘の様子を見ていた、対戦車兵と戦車のおかげで殆どの機銃座を破壊できているようだが、進行は止まらず占拠していた第1拠点が踏み潰されていた

 

「……11、本隊と無線をつなげるか?」

 

共についてきたアルフォンスが担いでいる無線機で本隊と連絡がとれないかきくと

 

「問題ない、直ぐに繋げるさ」

 

背負っていた無線機を下すと周波数を弄り……受話器をマザーに渡した

 

≪バーロット大尉、こちらマザー。聞こえますか?オーバー≫

 

≪聞こえるわ、そちらの状況を≫

 

受話器からバーロット大尉の声が聞こえると、今の状況を話し始めた

 

≪現在、敵大型戦車と交戦中。みたことのない車種から恐らく新型だと思われます。敵歩兵は少数ですが、大型戦車の進行を食い止められない状況です。オーバー≫

 

≪その大型戦車はギルランダイオ要塞の防衛線を踏み砕いた城塞攻略戦車・ゲルビム。そちらに援軍を送りたいのだけど謎の女兵士に手が付けられない状況で第1小隊とも合流ができていない。どうにかして進行方向に障害物があれば動きが止まるはずだわ。どうにか耐えて頂戴≫

 

あの大型戦車の詳細と本隊の状況に攻略方法が分かっただけでも収穫だった

 

≪了解です、なんとかしてみせます。アウト≫

 

通信を切ると、受話器をアルフォンスに手渡すと

 

「7に連絡だ、遺跡の出っ張ってる柱や破片をゲルビムの進行方向に倒して足を止めろとな」

 

マザーがそう言うとアルフォンスは笑みを浮かべて頷き、直ぐにクルトに連絡を入れる。その間にラビットとついてきたマリーナが狙撃の準備にはいる。ラビットは使い慣れたM110だが、マリーナはアメリカ軍から借りたM24を構えていた

 

下では帝国兵の数が大分少なくなり、イーディが突撃しようとしてり、それをデュースが首根っこを掴み瓦礫へと引っ張り身を隠す

 

「なにするんですの!」

 

イーディが引っ張られたことに怒ってると

 

「敵前に突撃かますなんて死にたいのか、ここから身を隠しながら撃て」

 

そう敵が隠れている所に銃を構えながらデュースが言う。その一部始終をスコープで見ていたラビットは内心ひやひやしながら見ていたが、岩の後ろに隠れている帝国兵の頭に照準を合せ、引き金を引く。銃弾は見事帝国兵の頭に命中し、事切れた人形のように倒れた

 

次の標的を探していると爆発音が聞こえた、その方をみると地面から生えるようにあった遺跡の残骸が道を塞ぐように倒れていた。そして、その方向に向かうゲルビムの姿も

 

「ふん、その程度でゲルビムを止めたつもりか。主砲用意、瓦礫ごとガリア兵を吹き飛ばせ」

 

マクシミリアンの指示で、主砲である340㎜ラグナイト砲が発射される。それは砲弾ではなく、青白いレーザーのようなものだった。瓦礫に弾着すると、その瓦礫が粉微塵に吹っ飛び辺りに衝撃波が襲った

 

「くそったれ!何て威力だ!」

 

ダスティーが悪態付きながら主砲の威力に冷や汗をながす。これがもしエイブラムスに直撃したのなら一撃で破壊されるだろうと考えていた

 

戦車兵たちも主砲の威力に悪態を吐くしかなかった、だが

 

「兄さん、あれを見てください」

 

イサラがウェルキンにゲルビムの上を見るように言った。そのまま上を見るとゲルビムが青い光を放っていた、それは他の戦車兵の他に岩山に陣取っていたマザー達も確認していた

 

「あんな所にラジエータがあったのか」

 

マザーは下にいるパンサーにラジエータの場所を伝えた。クルト達や第7小隊のメンバーがどう攻めるか考えている所、パンサーは無線機の受話器を取った

 

≪ベース、こちらパンサー。CAS要請、繰り返すCASを要求する。オーバー≫

 

パンサーが無線で繋いだのは基地にいる味方であり、CASとはClose Air Support……近接航空支援の要請だった

 

≪パンサー、こちらベース。了解、どうぞ≫

 

≪ベース、こちらパンサー。座標F(フォックトロット)ー5、目標は敵大型戦車、ロケット攻撃を希望、オーバー≫

 

≪パンサー、こちらベース。確認する、座標F(フォックトロット)ー5、目標は敵大型戦車、ロケット攻撃、オーバー≫

 

≪ベース、こちらパンサー。その通だ、攻撃後も滞空にて援護を求む、オーバー≫

 

≪パンサー、こちらベース。これより実行する、到着予定は10分後、アウト≫

 

通信を切ると、基地内が慌ただしくなる。外には既に2機のアパッチが離陸準備をしており、先程の座標と目標を伝えている。パイロットがアパッチに乗り込むとローターが回りだし辺りの木が風圧で揺れていた

 

≪ガンシップ01、離陸する≫

 

1機目のアパッチが離陸していくと、2機目もそれに続く

 

≪ガンシップ02、離陸する≫

 

2機目のアパッチが1機目のアパッチに続くように離陸し、作戦空域へと飛んで行った。飛んでから約8分、辺りには砂漠が広がり、穴の開いた岩山がみてきた

 

≪ガンシップ02、相手は相当のデカ物の様だが見えるか?≫

 

ガンシップ01が02に無線でゲルビムが目視できるか尋ねると

 

≪いいえ、まだ見えないわ。いったいどんな戦車なのかしら?≫

 

02の操縦士が辺りを見回すが、それらしき影が見当たらない。すると

 

≪ガンシップ01、こちらパンサー。まだ到着しないのか!≫

 

無線からパンサーの怒鳴り声が響く、次の瞬間無線から爆音が響いた。目の前で青い閃光が走るのが見えた

 

≪パンサー、こちらガンシップ01。青い閃光を目視で確認、すぐに目標に到着する。オーバー≫

 

≪ガンシップ01、こちらパンサー。了解した、目標を発煙筒でマークする。そいつにトップアタックを食らわしてやれ。アウト≫

 

通信が切れて数秒後に赤色の煙が見えた。すると、全長が100m以上もある戦車の上に発煙筒が見えた

 

≪こちらガンシップ01、目標を確認。攻撃を開始する≫

 

そう通信を入れた後に、発煙筒の周辺に青色に光るラジエータを3つ確認し、それめがけてロケット弾が勢い良く飛んでいく。2機のアパッチによるロケット弾の飽和攻撃により3つのラジエータは吹き飛んだ。さらにロケット弾の威力と弱点がかさなりゲルビムは完全に沈黙した

 

地上にいたクルト達ネームレスは傭兵団である独立遊撃隊(アメリカ軍)が飛行兵器を持っていると聞いていたが、あれ程の戦闘力とは夢にも思わなかったのだろう。今までなすすべもなかったゲルビムが一瞬で起動停止したのだ

 

「あれは……いったいなんなんだ」

 

クルトが喉からひねり出すようにパンサーに尋ねると

 

「ヘリだ」

 

そう短く答えた。クルト達も驚いてはいたが、ゲルビムに乗っていたマクシミリアン自身が一番驚いていた

 

「なんだ!一体なにが起こったんだ!」

 

敵戦車長が急に起動停止したかを確認していると

 

「分かりません!突然上部のラジエータが3つとも吹き飛びました!」

 

その報告にもはや唖然とするしかなかった

 

「ばかな……まさか飛行兵器だと」

 

アパッチが飛んでいる姿を見たマクシミリアンは信じられないものを見たような表情し呟いた

 

このままゲルビム内を制圧しにいこうとした……が

 

≪こちらガンシップ02、北東から増援を確認≫

 

アパッチからの通信で帝国兵の増援が報告された

 

「殿下……直ぐにお迎えにあがります」

 

増援の先頭にはセルベリアがおり、その手には螺旋状の槍と盾をもっていた。すると、セルベリアの身体か蒼い炎に包まれる

 

「総員!ガリア軍を殲滅しろ!」

 

セルベリアの号令と共に帝国兵が勢いよく突撃してくる……が

 

≪ガンシップ01、こちらパンサー。02と共に増援を叩け。ただし、武装はチェーンガンのみだ。オーバー≫

 

パンサーがアパッチによる増援殲滅を指示する

 

≪パンサー、こちらガンシップ01。了解した増援に攻撃を開始する。アウト≫

 

セルベリアと共に突撃してくる帝国兵だが、空から駆動音が聞こえ見上げた。そこには自分達に向かってくるアパッチの姿があり、一方的な虐殺が始まった

 

アパッチのチェーンガンであるM230は30mmの機関砲であり、歩兵が来ている戦闘服など紙切れ以下にしかならない。砲口から放たれる30mmの砲弾は毎分625発と脅威の連射速度であり、わずか数十人しかいない帝国兵が反撃をする余裕も悲鳴を上げる時間も無くバラバラになった

 

唯一そこから逃れたセルベリアが槍をアパッチに向ける。何かしてくると予感した01、02のパイロットは直ぐに回避行動をとる。すると、セルベリアの槍からまるでレーザーの様に青い閃光が空を切った

 

その攻撃にパイロットは驚いた。まさか人があんなものをぶっ放してくるとは思わなかったのだ。パイロット達が怯んだ隙にゲルビムに向かおうとしたが

 

「ああああああああああああ!」

 

雄叫びを上げながらセルベリアへと突っ込む一人の黒髪の少女が身の丈以上もありそうな銃の下部についている大剣を振り下ろした。それをセルベリアは槍で難なく受け止め弾き返す。弾き飛ばされた少女は空中で体勢を立て直し再び突っ込もうとしたが

 

「よせ!イムカ!」

 

後ろからクルトが少女……イムカを押さえつけた

 

「離せ!」

 

イムカがクルトの拘束から逃れようとしていた……だが、セルベリアが2人に槍を向けてレーザーを放とうとしたが、それは目の前で爆発した爆風で遮られた

 

「援護しろ!機銃は弾幕を切らすな!」

 

パンサーが指示を出しながら、セルベリアにM4下部についているグレネードランチャーを発射する。セルベリアの目の前の地面に当たり、爆発を起こす。その爆発地点へM249、M240が一斉掃射し弾幕を張る

 

その間にクルトとマザー、ブードゥーの3人で暴れるイムカを引きずって岩陰に隠した。それを見計らってアパッチ2機が爆煙に向かってチェーンガンを掃射する

 

だが、煙の中から無傷のセルベリアが一直線にゲルビムへと向かう

 

「殿下!」

 

セルベリアがゲルビム内に入ると、中の兵士が機密情報など書かれた書類を燃やしていた

 

「セルベリア、この結果を元にマーモット計画を修正せねばならぬな」

 

そう言いゲルビムから脱出していく。本隊の残存勢力と合流し帝国軍は浮足立って逃げていく

 

「逃げるな!戦列を立て直せ!」

 

マクシミリアンの逃げる時間を稼いでいるセルベリアは逃げる帝国兵に命令するも、逃げていく。そしてエーデルワイス号の主砲がセルベリアに砲撃する

 

「はっ!」

 

だが、その砲弾は槍で弾き飛ばされた

 

「せ、戦車の砲弾を弾き返されちゃったよ……」

 

アリシアがそう言うと、ウェルキンもクルト達もデュース達全員がその光景に唖然とした。今思えばグレネードの至近弾に機銃の弾幕、チェーンガンを食らって傷一つないこと自体がおかしかったのだ

 

「あれが件の傭兵か……あの戦力はマクシミリアン様を脅かす存在になる。それにガリアにも骨のある部隊がいるようだな」

 

セルベリアはそのまま踵を返すと

 

「全軍撤退!マクシミリアン様を傷つけるな!」

 

帝国軍の残党とセルベリアは撤退していった

 




3のクルトや他のメンバーの喋り方がこれでいいのか不安だな……てかイムカって17だし少女って年齢……まぁ、19歳でも少女言い張ってるキャラいるし大丈夫かw

誤字脱字や感想をお待ちしております。


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10話 経過

バリアス砂漠からの激戦から帰ってきた第3中隊の各小隊は整備をしていた。その中で頭を悩ませる整備兵がいた

 

「これは……どうしましょう」

 

エイプラムスを見たクライスがそう呟く。エイプラムスの前面装甲は砲撃の食らった跡がくっきりと残っていた。ケルビム相手に囮役を徹していただけであって、340mmラグナイト砲の直撃を食らっていた

 

その衝撃はエイプラムス内が激しく揺れ、戦車長は死を覚悟したほどだった。だが、エイプラムスの装甲はそれを耐えてみせた。これを目の当たりにしていたケルビムの砲手に報告を聞いた車長とマクシミリアンは声がでなかった

 

その1発意外は掠り後があるものの、直撃弾はなかった。しかし、掠っただけでも側面装甲の傷の跡が大きく残っているあたりその威力の凄まじさが伺えた

 

「この戦車の前面装甲をここまで傷つけるなんて……いったい相手はどんな兵器をつかってきたのですか?」

 

クライスが隣にいるエイプラムスの車長に聞くと

 

「馬鹿でかい戦車だった。あれは動く要塞って方がいいかもしれん」

 

ケルビムの大きさは全長が20mを超え、エイプラムスの2倍以上の大きさであった

 

「……これはもうダメだな」

 

車長が言うとクライスは驚いた顔をした

 

「なぜですか!確かに損傷を負っているものの、前面装甲はまだ帝国戦車の砲撃に耐えられるはずです」

 

実際エイプラムスの複合装甲は帝国戦車の主砲である76mm砲では弾き返すことができ、損傷しているエイプラムスでも弾き返すことはできる

 

「確かに装甲は修理と改修すればなんとかできるかもしれんが、内部機器はそうはいかん」

 

それにクライスはハッ!となった。エイプラムスの制御は全てコンピュータであり、精密機械の塊である

 

「あれの直撃でかなり衝撃があった。俺は戦車の中で一瞬気を失った、それだけの衝撃をくらって内部機器が無事であるとは思っていた。ここにある部品では完全修理はむりだろしな」

 

エイプラムスの内部を整備しようにも、専門の整備兵がおらず部品も規格が違い、作ろうにも技術力が違い過ぎてほぼ不可能なレベルである

 

「で、でも!まだ壊れたと決まったわけじゃ……」

 

クラウスがそれでもと食いつくが

 

「いや、さっきダメージチェックをした時に壊れたと箇所が見つかった。射撃統制装置(FCS)等の戦闘の時に必要となる箇所は無事だったが、壊れた箇所がある物に乗って戦うことはできない」

 

そうきっぱりと車長が言うと、クラウスは自分の拳を強く握りしめた。自分の力の無さを感じてかは分からないが、指が白くなるまで握り締めていた

 

「お前には感謝してるよ」

 

突然の言葉にクラウスは顔を上げた

 

「お前がもう一人の坊主と夜中までこいつ(エイプラムス)の整備と改修に尽力を注いでくれていたのはしっている」

 

車長の顔は怒りや悲しみの表情ではなく、穏やかな表情をしていた

 

「正直ここまでもってくれるとは思っていなかった。ここにきて何時までこいつに乗れるか不安だったが、お前達のおかげで今まで乗ってこられた」

 

その言葉は感謝の言葉。整備をしてくれたクラウスに対しての心からの礼だった。だが、それでもクラウスの表情は晴れなかった。クラウスの心は戦車を直すことの出来ない自分の不甲斐無さに嘆いていた

 

「そんな顔をするな。最後まで戦場で戦えたんだ、文句はない。それに、無事な部品を他の戦車に使って修理することができる。こいつは無駄になる訳じゃないんだ」

 

そう笑いながら車長はクラウスの背中を叩いた。前面・側面装甲や内部機器に損傷はあるものの、無事な部品も多々あるので他の戦車が損傷を負った時に共食い修理をすることができる、これは重要なことだと考えていた

 

「その悔しさは次に生かしてくれ、こんだけの部品があればちょっとしたある程度の損傷は修理できるはずだ」

 

格納庫に鎮座しているエイプラムスを見ながら車長が言った

 

「……はい」

 

クラウスは声に力が無かったが、目指すものが見つかったような目をしていた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦車で出来事の最中、射撃場に各部隊長達がいた。彼等が手に取って直に確かめているものがあった……それは銃弾である

 

「やっと完成したのか」

 

ホーキンス中尉がそう言いながら目の前にあるM4やM16に使われる規格、5.56×45mm弾を確かめていた

 

「既にクラウスが実射試験をして確認してるッス!80発試射した所、暴発は0、銃を借りて試したところも弾詰まりはなかったッス!」

 

リオンが説明すると、試射を試して問題が無かった事にホッとしていた。目の前に並んでいるのは5.56㎜以外に7.62mmと12.7㎜もあった

 

「この2つも試したのか?」

 

フォード少尉は2つの銃弾を手に取り聞くと

 

「そっちも大丈夫ッス。試射数は少ないですが動作に問題は出てないッス。あと、ご希望通りその3つは徹甲弾となっているッス」

 

それを聞いてフォード少尉は満足そうに頷いた。7.62mmと12.7mm、一部の5・56mm弾を徹甲弾とした理由は、この世界では重装歩兵がまだ存在しており、通常弾では弾かれる恐れがあるのと、装甲車や戦車に対抗するためである

 

装甲車はともかく戦車には決定打とはならないが、ダメージを与えることができる。さらにラジエータを破壊する際に使う弾数を軽減できるのも強みであった

 

「でも、砲弾はまだ少し時間が掛るッス。上層部の人達が作製の許可をだしたそうなんですが、一部がまだ反対してるみたいなんス」

 

彼等は溜息を吐いた。その一部と聞いて彼等には思い当たる人物は1人だけだった。ガリア中部方面総司令官のダモン将軍である。肩書きなら実に素晴しいが、中身は腐った無能であった

 

下手に権力を持ち、無能の癖にプライドは誰よりも高いと救いようのない馬鹿であるダモンが邪魔しているのだろうと誰もが思った。大半の人間がダモンにおべっかを使う中、義勇軍のバーロット大尉と独立遊撃隊(アメリカ軍)がダモンに従わないのがよっぽど気に食わないのだろう

 

「まさかここまで邪魔をしてくるとは……あいつを甘く見過ぎたか?」

 

マザーがそう溜息を吐きながら言う。本来なら不敬罪や上官侮辱罪なんかが適応されそうだが、誰の事を指しているのかを隠しているのと、ここには信頼の置ける人物しか入れない基地内なので問題なかった

 

「銃弾は生産されるようになり、砲弾も時期に生産されるだろう。問題は今回の戦闘で被害を被った戦車だ」

 

パンサーがそう言うと、他のメンバーの顔を真剣な表情になる

 

「ケルビムから食らった砲撃は340mmラグナイト砲だった。あれ程の直撃を食らって動いて反撃したのは驚いたが、どこかに重大な損傷を負った可能性が高い」

 

340mm……戦艦の主砲並かよ、と呟く声が聞こえる中、その直撃を食らったエイプラムスが動いたことの驚きと、戦力低下が免れないことに頭を抱えた

 

「あの砲撃から生き残って反撃するほどの彼等が死ななかったのは幸運だった。もし戦車に損傷が見つかった場合は、共食い修理用に残し、無傷の戦車を使用しようと考えている」

パンサーの提案は実に理に適っている。壊れた戦車は無事な所だけを取り出し、他の戦車の修理部品にあてることは此処で朽ち果てるわけにはいかない彼らにとって最善の手段と言ってよかった

 

「だが、トマホーク1の乗員はどうするんだ?」

 

トマホーク1、損傷した戦車のコールサインだ。マザーがそう尋ねると

 

「予備の乗員にする。戦車を借りるのも考えたが、あれほどロートルの戦車を動かすにも訓練が必要だ。それに、エイプラムスと同じ感覚で動いて死ぬ恐れがある」

 

エイプラムスの高機動性と重装甲に慣れてしまっているのが大きな問題だった。仮に重戦車に乗ったとしてもエイプラムスの装甲も機動力も無く、対戦車兵にやられる可能性が大きかった

 

パンサーも今だ死人が出てないこの奇跡に近い状況をなんとかして維持する為の決断だった

 

「俺は問題ないと思う、なんだったら戦車兵同士でローテーションするのもありかもしれない」

 

賛同の声を上げるホーキンス中尉。彼も死人を成るべく出さないように思っており、これはこの場全員が言えることだった

 

「では、戦車に重大な損傷が見つかった場合は共食い修理用の部品とする」

 

その決定案に皆が頷いてる中、話についていけないリオンは1人銃弾を弄っていた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

大きな黒いトラックと隊舎が見えるこの場所には正規軍の青の戦闘服ではなく、黒の戦闘服に数字が書いてあるワッペンが特徴の兵士、ネームレスがいた

 

その場所へと一人歩みを進める者がいた

 

「すまない」

 

声を掛けられたのは肩にNo.6と書かれた黒髪の男だった

 

「……何の用だ?」

 

明らかにガリアの正規軍と毛色が違うと感じたが、肩の星条旗と服装で独立遊撃隊(アメリカ軍)の人間であると悟った

 

「No.7がどこにいるかしらないか?」

 

声を掛けた人物はダスティだった。クルトを探しに来たと言うと

 

「……うちの隊長においそれと合せるわけにはいかないんだ」

 

No.6……グスルグが明らかに警戒しながらダスティを睨みつける。その様子から周りのネームレスが集まってきた

 

「なら、こう伝えてくれ。チェスの続きはまた今度だと」

 

ダスティの言葉にグスルグは不審に思いながらも

 

「……ここで待っていろ」

 

そういいグスルグはクルトのいる場所へと向かう。その間ダスティはネームレスに囲まれたままだった

 

「クルト」

 

クルトの部屋のドアがノックされ、グスルグが入ってきた

 

「どうかしたのか?」

 

机の上で手動の粉挽き機でスパイスを調合していたクルトがグスルグの方を向いた、そのベッドの上にはリエラが座っていたが

 

「いや、お前に会いたいと言う人物がきている」

 

それにクルトは疑問に感じた、自分に会いに来る人物なんて心当たりが全くないからだ

 

「だれだ?」

 

一体誰が来たのかと聞くと

 

「遊撃隊の人間だ。『チェスの続きはまた今度だ』と言えば分かると言っていたが……」

 

その言葉に該当する人物がいた。遊撃隊の人間でチェスをした人物なぞ1人しかいないからだ

 

「今どこにいるんだ?」

 

クルトが机の上を片付けて、椅子から立ち上がる

 

「あ、あぁ。入り口の方だが」

 

それを聞くとクルトは部屋から出ていく。その後をグスルグとリエラが慌てて追いかけた。クルトが入り口の方に向かうと人だかりができていた

 

「よう、No.7」

 

その人だかりからお目当ての人物が見つけ、声を掛ける。それと同時に囲んでいたネームレス達がクルトの方を向いた

 

「なんの用だ?」

 

クルトがダスティの方に歩くと、人だかりは海が割れたかのように道が出来ていた

 

「バリアス砂漠での戦闘についてだ、少々お前の意見が聞きたくてな」

 

ここに来た要件を言うと

 

「……こっちだ」

 

クルトがついて来るようにジェスチャーし、それにダスティが付いて行く

 

付いて行った場所はネームレスの食堂であり、その入り口にはネームレス達が中の様子を窺っていた

 

「意見と言うのは、あの女兵士についてか?」

 

あの戦闘で態々ネームレスの本拠地まで来て尋ねたいことと言ったら、クルトはあおのことしか思いつかなかった

 

「そうだ、あの銀髪の女兵士だ。お前はアレをどう見る?」

 

ダスティは単刀直入に聞く

 

「……正直分からない。あれが帝国の探していたモノなのか、そうでないのか」

 

少し考えた後に正直な感想を言う

 

「あの女を最初に目撃したのは古代ヴァルキュリア遺跡の奥でだと聞いた。見た時はあんな青い炎を纏ってはいなく、敵総司令官であるマクシミリアンと一緒にいたそうだ」

 

女兵士……セルベリアに付いてダスティが情報を公開していく

 

「うちのチームが2人を拘束し、連れ帰ろうとして遺跡出口に付いた瞬間にあの状態になったそうだ。その後はお前の見たとおりだ、銃弾が効かないは、ランチャーも効かない、30mmの掃射にも無傷でいると化け物みたいな女だ」

 

そう笑いながら言うと、クルトは口に手を当て考え始める

 

「……彼女がヴァルキュリア人……とでもいいたいのか?」

 

古代ヴァルキュリア人の遺跡から出てき、銀髪で赤目、青い炎を身に纏い、手には螺旋状の槍を手にしている。まるで伝承通りの姿だとクルトは思った

 

「俺達もヴァルキュリア人関係の書物を調べたが、見事に姿形が一緒であるのとは思った。が、それに行きつくのはまだ早計だと考えている」

 

ダスティの言葉をクルトは真剣に聞く

 

「もし彼女が伝説のヴァルキュリア人なのだとすると、余りにも噂が無さすぎる。あれ程の容姿と力だ、戦場に多々出没しているのならもっと正規軍の中に噂が流れていなければ可笑しい、それに帝国側も士気向上のプロパガンダとして宣伝するはずだ」

 

それにクルトは同意できる部分もあった。あれ程の力を持ちながら噂が少なすぎ、帝国側にも大々的に存在をアピールしていないことは不自然と取れた

 

「……あの遺跡で何かしらの切っ掛けを見つけ、初めて覚醒したのではないか?」

 

ヴァルキュリアの力を目覚めたのがバリアス砂漠の遺跡ならばこの不自然差にも辻褄が合うとクルトは考えた

 

「俺達もそれを考えたが、それにしては妙に力の制御が上手過ぎないかと思っている」

 

もし初めて力を使ったのがバリアス砂漠の戦場ならば、もっとバカスカとレーザーを撃ってきてもおかしくないのだが、力をセーブして接近戦に挑んだり、あまりレーザーを撃たなかったりと制御が出来ていることから今回が初めてという考えに否定的だった

 

「……もしかしたら、使いたくても使えないのではないだろうか?」

 

ふと、クルトがそう言う

 

「マクシミリアンは王族で準皇太子だ。もしヴァルキュリアの力を持っていると知られると本国に持って行かれると考えているかもしれない。あれ程の力を手放すのはかなりの痛手となる、だから使いたくても使えない状況なのではないか?」

 

その言葉にダスティは考えさせられる。クルトの言うことは的外れではなく、むしろ的を射た回答なのかもしれない。あれ程の戦力を本国に取られるのは避けたい事項のはず、大々的な戦闘ではなく局地的な戦闘でしか投入できない。それならば不自然差の辻褄も合う

 

「ふむ……ありがとう参考になった。戻って調べるとする」

 

ダスティが席を立とうとすると

 

「待ってくれ、聞きたいことがある」

 

クルトが席を立とうとしているダスティを止める。それにダスティは再び席に座った

 

「あの巨大戦車を撃破した、飛行兵器……あれはいったい何なんだ」

 

飛行兵器……きっとヘリの事を指しているに違いないと考える

 

「あれはヘリコプターという航空機だ。その中で戦闘様に特化したのがお前の見たやつだ」

 

説明を聞き、クルトの頬に冷や汗が流れる。彼等が飛行兵器を持っているのは聞いていたが、あそこまでの戦闘能力を持っているとは夢にも思っていなかった。空からロケット弾や機関砲を装備し、その力は巨大戦車や増援部隊を一蹴りにするほどである。下手するとまだ力を隠している可能性すらある

 

「……あれは人が造った物なのか」

 

クルトは絞り出したように聞くと

 

「そうだ、それにあれは量産モデルだ」

 

それを聞き、クルトは目を見開く。あれがワンオフ機ではなく量産型だと言うのだからだ

 

「それじゃ、また来させてもらうぞ」

 

ダスティが席を立ち、ネームレスの食堂から出ていくと、飴を噛み砕くような音が食堂に響いた

 



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次回作予告……できたらいいなぁ

タイトル通り、次回作の予告です
まぁ、これを完結しないと書けないから何時になるかはわからないけどw


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― この出会いは偶然だった ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が皆を引っ張っていけるか不安なんです……」

 

「君が何を目指してかは分からない。だが、君が人一倍にもっている勇気が道を切り開いてくれる」

 

 

 

                   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― 祖国に忠を尽くした亡霊 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の本当の姿が……真実を知られるのが怖いんだ……」

 

「自分が犯してきた罪は消えない。だがそれでも前に進むしかない。私もお前と同じ人殺しには違いないのだ」

 

        

 

                   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――― 自分の命に換えて核から祖国を救った英雄 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いろんなことを考えてましたが……貴方にまた会えて嬉しかったです」

 

「あの時に救えたのは私だけの力だけではない、彼等がいたからこその結果だ。だが、私も君の元気な姿を見れて嬉しく思っている」

 

 

 

 

                   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――― 数多くの紛争に参戦した歴戦の戦士 ―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の言ってることは綺麗事かもしれない……でもこの国を……父と母が愛したこのクロスベルを守りたいんです!」

 

「君の言った言葉を綺麗事と捉えるのかは人それぞれだ。君が諦めなければそれは綺麗事ではなく、現実となる」

 

 

 

 

                   

 

 

 

                   

 

 

 

 

 

 

―――――――――――― どんな不利な戦場でも活路を切り開き ―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェルヌ製やラインフォルト製のライフルもいいのですが、最近はZCF製のも捨てがたいんですよね」

 

「ラインフォルト製のは高威力に射程と精度がいいが、装弾数が少ないな。ヴェルヌ製は装弾数も威力も申し分ないが、射程と精度が問題だな。ZCF製のはいい性能だが値段が高い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― 任務を確実に遂行する ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が一体何に悩んでるかは知らない、君が何者かなんて興味はない……だが、女性がそんな顔をしてるのを黙って見ていろと隊長には教えられていない」

 

「スコットさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― 彼等は亡霊(ゴースト) ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼等を先に行かせ、自分は足止めですか……貴方の行動には感服しました。死を覚悟して挑む……貴方のような戦士と戦えるのは私の誇りです。ですが、我々相手に勝てるとお思いですか?」

 

「たとえ倒せなくとも、時間を稼ぐことはできる。それに、ここで死ぬ気などない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――― 彼はそれを率いる亡霊(ゴーストリーダ) ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったい君は何者だい?君みたいな人は報告にはいなかったはずだけど」

 

「知る必要はない、お前を拘束する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― アメリカ陸軍第7特殊部隊 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《空の女神》エイドス!?そんなもの何処にいる!?全ては七曜教会によるまやかしだと何故気付かない!?」

 

「しらんな、とりあえずキーアは返してもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――― ゴースト部隊隊長 階級は大尉 ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は一体何者だ」

 

「クロスベル警察、特務支援課及びゴーストリーダー……スコット・ミッチェルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――― 彼の戦いが新たに幕を開ける ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、次回もクロス物の予定です
作品はゴーストリコン・アドバンスウォーファイター2×零・碧の軌跡です

元々戦ヴァルにGRAW2の主人公であるスコット・ミッチェル大尉が主役の予定だったのですが、戦争は個人ではなく大部隊で戦うものであると、アドバイザー(友人)から指摘を受けまして、当時はまっていたMedal of Honorにスポットライトが当たりました

ミッチェル大尉のかっこよさはゲームをプレイした当時に強く感銘を受け、いつかクロス小説の主役にしたいと思っていました。そこで、大好きな英雄伝説シリーズに目を付け、零と碧の軌跡をプレイし、ゴーストリコン・フューチャーソルジャーをプレイして、これとクロスさせようと考え、次回作の案が決定しました

まだできるかは不明ですが、書きたくて仕方ないのはたしかですねw(先にこっちを完結さあせないと……)


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11話 森林の包囲網

戦闘が終了し、首都ランドグリーズへと帰還している途中だった

 

「おい隊長、流石に偵察の帰りが遅くないか?」

 

エーデルワイス号の前にウェルキンやラルゴといった分隊長クラスの人間が集まっていた。アメリカ軍の方も暗視ゴーグルやナイトスコープを使い辺りを捜索している

 

「……この辺りに敵兵がいると考えた方がいい」

 

パンサーがウェルキンに近づき忠告をした。偵察班が行って既に1時間、戻ってくる気配がない。帝国兵にやられた可能性がでてきていた

 

「分かりました。皆!直ぐにでも動ける準備をしといてくれ」

 

部下に指示を出すと、ウェルキンは崖の方へと近づいた

 

「……なにか見える?」

 

アリシアも崖の方に近づく

 

「いや……ここらはガリア軍の勢力圏のはずなんだが」

 

そういい、ウェルキンは目を凝らして見渡した

 

「そこにいたら狙い撃ちされる危険があるぞ」

 

デュースがウェルキン達のいる場所が危険だと注意を言いに来ていた。その後にはイーディの姿もあった

 

「アリシアさんも、こんな危ないところより安全な所にいた方がいいですわ」

 

イーディもアリシアのことが心配だったのか、デュースに付いてきたのだ。4人が戻ろうとしたが

 

「ん?」

 

ラルゴが何かを見上げた。そこから何かが落ちてくる音が聞こえてきた。その音にデュースは気付き、咄嗟に近くにいたイーディを庇った。その瞬間、ウェルキン達がいた場所に爆撃がおこった

 

ウェルキンとアリシアが悲鳴を上げ、4人が崖の下へと落ちて行った

 

「兄さん!」

 

何が起こったのか理解できたのか、イサラが爆撃のあった崖に駆け寄るが

 

「馬鹿野郎!どこ行くつもりだ!」

 

駆け寄るイサラをラルゴが引き留めた。崖の場所は爆撃によって大きく穴が開いていた

 

「お前が行ったら誰が戦車を動かすんだ!誰が戦車を護るんだ!」

 

その言葉にイサラは思いとどまったが、その表情は不安で一杯の様子だった

 

「敵襲だ!」

 

レンジャー隊員が叫ぶ。その声に紛れ銃声が響いてくる。戦力はストライカーとガリア製のジープ、エーデルワイス号があるが、ウェルキンを含む4人が行方不明で戦車は使い物にならない状態だった

 

「……しかたない、一時撤退するぞ!」

 

帝国兵がどの規模でいるのかが把握できない今の状況で応戦すれば、包囲殲滅される可能性がある。先に安全を確保してから捜索に移るべきだとパンサーは判断した

 

「しかたねぇ……第7小隊!後方に撤退する!」

 

ラルゴもこのままでは不利になると思っており、直ぐに撤退するよう指示を出した。だが、イサラだけがウェルキン達が落ちた方を見て固まっていた

 

「おい、イサラ!いくよ!」

 

ロージーが声を掛け、ようやくイサラは戦場から撤退した

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

気を失っているウェルキンの耳に何かが聞こえていた

 

「……い……り……」

 

それが人の声であるとぼんやり理解しながら目を開くと、ぼんやりとだか人の姿が見えた

 

「おい、しっかりしろ。大丈夫かウェルキン」

 

なるべく声を抑えながらウェルキンに声を掛け続けていたのはデュースだった

 

「だ、大丈夫……そうだ、アリシアは!」

 

落ちた時の記憶が戻ってきたのか、一緒に落ちたアリシアの安否を確認しようとすると

 

「……う……ん、ウェルキン?」

 

隣で意識を取り戻したアリシアを見てウェルキンは胸を撫で下ろした

 

「イーディも一緒に落ちてしまったが、命に別状はない」

 

ウェルキンは直ぐ近くに寝かされているイーディを見た後に、デュースの方を向いた。その時にデュースが頭から血を流しているのに初めて気が付いた

 

「デュース!頭から血が」

 

驚いた声を抑えながら言うと、デュースも頭に手をやり血が出ているのを確認した

 

「恐らく爆発したときの破片で頭を切ったんだろ、問題ない」

 

何事も無かったかのようにイーディを起こしに行った

 

「おい、起きろ」

 

肩を掴み、揺さぶると気が付いたのか徐々に目を開き始めた

 

「あ……う……なんで私はここで……そうでした!わた……むがっ!」

 

自分に起こった状況を思い出したのか、大声を上げて驚きそうになったのをデュースが口を塞いで止めた

 

「この辺りには帝国兵もいる。だから大きな声をだすな、分かったか?」

 

囁くような小声で言うと、イーディは頬を赤らめながらも首を縦に振った。デュースが口から手を放したのをみて、頭から血が流れているのに気が付いた

 

「デュースさん、頭から血が」

 

イーディは直ぐにポーチからラグナエイドを取り出し、治療しようとする時に自分がデュースに庇われたことを思い出し、ドギマギしながら治療した

 

「助かった」

 

治療してくれた礼を言うと、顔を赤らめながらソッポ向いた

 

「あ、貴方には助けられましたので!これはそのお礼です……ッ!」

 

ツンデレ発言をしたと思ったらイーディは太腿を抑えた

 

「怪我をしたのか、見せてみろ」

 

デュースが直ぐに治療しようとしたが

 

「こ、この程度我慢できますわ」

 

痛みに堪えながらも、笑みを浮かべながら大丈夫だと言い張るイーディ。今の状況は直ぐにでもこの場を離れなければならないのは十分承知だったデュースは

 

「ウェルキン、この辺りに恐らく帝国兵が迫っているはずだ。直ぐにこの場を離れるぞ」

 

そういうとウェルキンは頷き、アリシアに肩を貸しながら立ち上がった。アリシアもどこか怪我をしたみたいだった。デュースもイーディに肩を貸して立ち上がらせるとそのまま歩く手助けをした

 

「すまないが先頭を頼む。この辺り地形はまだ完全に把握できていない」

 

HK416を片腕で持ち上げ、この辺りの地理に詳しいウェルキンに道案内を頼んだ。

 

「わかった、頑張ってこの包囲網を抜けよう」

 

それに頷き、ライフルを構え警戒しながら進む。その後を、足を引きずりながらアリシアが続き、後方をデュースが警戒した

 

「デュースさん、私も一人で歩けますわ」

 

足を引きずりながら自分で歩くアリシアを見て、自分も一人で歩けると言うが

 

「2人も足を怪我した奴が一人で歩いたら直ぐ帝国兵にみつかってしまう。それに……かなり痛むんだろ?」

 

イーディが先程からずっと怪我をした太腿を抑えたままだったのを見逃していなかった。下手したら骨折をしていると考えていた

 

「ここで動けなくなるぐらい悪化したら、俺達は全員死ぬことになる。だから、黙って担がれていろ」

 

そう言うとデュースは再び辺りを警戒し始めた。全員死ぬことになる……これは誰もお前を見捨てないと言ってるのと同意義であり、男性にこんな力強い言葉を言われたのが初めてであるイーディは嬉しく思いながらも黙って担がれることにした

 

するとウェルキンが腕を振り下ろした、これは伏せろというハンドサインである。全員その場に伏せると目の前から話し声が聞こえてきた。帝国兵が話をしながら何かを探しているようだった

 

数は4人、デュースはその場にイーディを寝かせ、銃を構えた。ウェルキンも同様に銃を構え何時でも撃てるように準備をしていた。だが、今の状況が夜なのが幸いし帝国兵達はデュース達に気付くことなく過ぎ去っていった

 

すると、何かが発射するような音が響いた

 

「この音は……榴弾砲か!?」

 

戦車長であるウェルキンが音の正体を見破った

 

「わたし達を狙っているのかな?」

 

アリシアがどこを狙っているのかを聞くと

 

「いや、それにしては狙いが甘いな。恐らく砲撃であぶり出すつもりなんだろう。注意していれば着弾位置は予想できるから、爆発の予想範囲内に気を付けて進もう」

 

弾道計算ができるウェルキンがいて心底助かったと思うデュースを余所に、アリシアが何かを見つけていた

 

「ねぇ、ウェルキン……この光ってるの、何?」

 

アリシアが見つけたのは、目の前を飛ぶ光の玉だった

 

「これは……ヒカリムシだ。体内に発光器官をもつ、ホタルみたいな虫だよ」

 

目の前を飛んでいるヒカリムシを見て、ウェルキンはあることに気が付いた

 

「待てよ……ヒカリムシは動物の排泄物が主食だ。だとすると、獣道が近くにあるのかもしれない」

 

その言葉にデュースは何と幸運なのかと本気で思った。獣道は動物が通る程度の狭い道で、草木が生い茂る場所である。夜と草木で姿を隠しながら進めるのは正に幸運だった

 

デュースは担いでいたバックパックから暗視ゴーグルを取り出し、辺りを見回した。すると道の外れに別の道を見つけた

 

「ウェルキン、あっちだ」

 

デュースが方向を示し、前進すると獣道が目の前にあった

 

「こんな暗闇の中で、よく見つけたね」

 

いくら月明かりや星の光があるからといって、ここは森の中で肉眼では殆ど見えないほどの暗闇である

 

「こいつのおかげさ」

 

暗視ゴーグルをトントンと指で叩きながら獣道を進んでいく。ある程度進むと、先程の道から見えない位置で一旦休憩することにした

 

「ん?この草は……いいぞポニセーラだ」

 

何かを見つけたのか、ウェルキンは嬉しそうな声をした

 

「どうした、ウェルキン」

 

何を見つけたのかを訪ねると

 

「捻挫や打ち身に効く薬草なんだ」

 

それを聞いてウェルキンがそういうのにかなり詳しかったなとデュースは思った。今の間にイーディの怪我の具合を確かめておこうと怪我をした部分を触診した

 

特殊部隊であるデュースが医療系の知識もあり、幸いしてイーディの足の骨が折れていないことにホッとした。だが、歩けないほど強く打ったのだから酷い打ち身であることには違いなかった

 

「茎と葉の部分をすり潰して、と……アリシア、足に塗るよ」

 

怪我の状態を確かめている間に、薬草をすり潰し、塗り薬を作っていた

 

「ちょっと……しみるけど……なんだか、足の痛みが少し引いたみたい。ありがとう、ウェルキン」

 

即効性とは恐れ入るなと思いながらもデュースはメディカルキットからガーゼと包帯を取り出し、足を固定するよう言って渡した。ウェルキンから塗り薬を貰うと

 

「薬を塗るが……どうする?」

 

流石に女性のズボンを脱がす程にデリカシーが無い訳が無く、自分で塗るか他人に塗ってもらうか聞くと

 

「ぬ、塗らせてあげても構わなくてよ」

 

顔を真っ赤にして、ソッポ向きながら言うが

 

「そんだけ元気なら自分で塗れるな」

 

塗り薬をイーディに手渡し、デュースは先の様子を偵察しに行った。イーディは文句をブツブツ言いながらウェルキンとアリシアのイチャイチャした光景を見て、一人で寂しく薬を塗った

 

休憩を終え、イーディの太腿が良くなったのか、手で押さえるほどではなくなっていた。先に進んでいくと橋の前に2人の帝国兵が警備をしていた

 

「ウェルキン、イーディを頼む」

 

イーディをウェルキンに渡し、草陰に隠れるように指示をだす。デュースは暗闇を利用し、暗視ゴーグルと言う最大の武器を使用しながら静かに近づく

 

相手の視界に入らないギリギリの位置でナイフを取り出すと、遠くにいる方の帝国兵に投擲する。投擲されたナイフは首筋に命中し、その場に倒れた。倒れた音で何事かと音のした方を向いた瞬間にバックチョークをする。首を絞められたことによって帝国兵が足掻くが、その場で首の骨を折られた

 

2人の帝国兵を無力化すると、死体からナイフを回収し、ウェルキン達のいる場所まで戻った。デュースが無事なのにホッとしながら先へと進む

 

橋を渡っている最中にサーチライトを発見し、見つからないように進んでいくが、目の前に厄介な配置がされたった。一つの道にサーチライト2つと帝国兵2人、帝国兵を排除するだけなら簡単なのだが、死体がサーチライトに見つかれば増援が呼ばれる

 

そこでまたしてもデュースの出番だった。元々こういった隠密行動が主な任務であるデュースは場馴れしていた

 

まずは道が二つに分かれている場所で別々に行動する時を狙い、サーチライトが過ぎたのを見計らって射撃。銃口にサプレッサーを装備しており、音と閃光に気付かれることなく排除できた。死体は音が出ないよう支えながら草むらに隠し、もう一人方も合流地点で待ち伏せし、背後から口を押え、喉をナイフで掻っ切った

 

死体を隠し、イーディに肩を貸し、サーチライトに気を配りながら誰一人欠けることなく戦域を突破した

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

帝国兵が探し回っていた戦域から抜け、そこそこ歩いた所に偶然山小屋があった

 

「こんな所に山小屋がある……少し休ませてもらおう」

 

ウェルキンの提案にデュースは賛成した。デュース自身はまだ体力にも余裕はあるし、夜通しで歩き続けることもでき、まだ安全とは言える場所ではなかった

 

だが、暗視ゴーグルのバッテリーも長時間使い続けたせいで残りの残量が心配であるし、なにより3人の体力が限界だった。夜通しで行軍する訓練などうけているはずがなく、女性の2人は負傷もしている

 

この状態で夜道を進み続けるのは危険であると判断していた

 

「そうだな。これ以上は2人にも負担になる」

 

そう言い、4人は山小屋に入った。ウェルキンは途中で拾った薬草を取り出し、それを見たデュースは残りの包帯とガーゼもウェルキンに渡した

 

バックパックを下し、枕代わりしてイーディを横にする

 

「しかし、ウェルキン。その薬草の知識は一体どこで?」

 

ウェルキン自身が昆虫に詳しいことは知っていたが、薬学系の方まで詳しいとは思っていなかった

 

「昔、よく父さんと山に行ってね、その時に色んなことを教えてもらったんだ。薬草はその時に知ってね、後は専門書なんかを読んで覚えたんだ」

 

その勉強熱心な所に感心しながらも、ウェルキンから包帯と何かが塗られたガーゼを渡された

 

「このガーゼに塗ってあるのは湿布代わりになる薬草なんだ、これを付けておけば少しは楽になるはずだよ」

 

戦車兵もだが、衛生兵も向いてるんではないだろうかと思いながらイーディの傍に近寄る

 

「すまないが、これを巻くからズボンを脱いでくれ」

 

流石に一人で包帯を巻くのが苦手なのか、イーディは一人でやらずズボンを脱ぎ始めた。ズボンを脱ぐと、太腿の所が赤く腫れており、先程のポニセーラの塗り薬を塗り、その上から湿布代わりのガーゼを当て、包帯で巻いた

 

作業が終わるとイーディは顔を真っ赤にしながらズボンを上げた。チラリとデュースの顔を見るが平然とした表情をしており、それにムッとしたのか

 

「乙女のあられもない姿を見ておいて、その態度は失礼じゃなくって」

 

どこか怒りながら言うが

 

「なにバカなこと言っているんだ、治療行為をしただけだろ」

 

余裕綽々と言う姿に、余計怒りを感じながら

 

「それとも何か、そういうことを期待していたのか?」

 

そうニヤつきながら言うと、イーディはムキーッ!と言いながらデュースをポカポカと殴り始めた

 

「まったく!デュースさんはデリカシーがありませんわ!」

 

腕を組んでプイッとソッポ向いてしまった

 

「すまなかったって、確かにデリカシーがなかったな」

 

そう笑いながら謝る。その姿を横目で見ながら

 

「……戦いの時と随分雰囲気が違っていらっしゃるのですね」

 

落ちた場所から、この山小屋までデュースは帝国兵をほぼ1人で排除してきた。それ以外でも会話や警戒する時の態度、敵兵を見つけた時の眼付きの鋭さ、全てが今と違っていた

 

「今はなんだか……フレンドリーな雰囲気なので」

 

今のデュースは先程の鋭い感じではなく、親しみやすい感じであり、さっきとはまるで別人のようであった

 

「あぁ、それは俺の中で切り替えをしてるからだ。年がら年中あんなに集中していたら疲れてしょうがない」

 

そう言い、微笑ながらイーディの髪を撫でた。その手にはグローブをしておらず、まるで大事な物を撫でるかのような手付きだった

 

「今はもう休め、幸い毛布は人数分ある」

 

毛布が置いてある所から人数分の毛布を取り、一枚をイーディの上に被せた

 

「お前達も寝れる内に寝て置け、見張りは俺がしておく」

 

ウェルキン達にも毛布を渡し、寝るよう言った。その言葉通り、会話を中断して2人は横になり、イーディも目を閉じた

 

時間的に2時間が過ぎた頃……小屋の中では静かに寝息だけが聞こえ、見張りをしていたデュースも座って目を閉じていた

 

すると……砂を踏むような音でデュースは一気に目を覚ます。すぐさま傍に置いていたHK416を手に取り、窓の近くの壁に張り付く。窓から覗くように外の様子を窺うと、帝国兵が1人この小屋に向かってくる姿が見えた

 

デュースは直ぐにウェルキンを起こした

 

「起きろウェルキン、敵だ」

 

なるべく外に声が漏れないように言い、体を揺らす。眼を覚ましたウェルキンに状況を説明し、次にイーディを起こす。ウェルキンは直ぐにライフルを手にし、アリシアを起こした

 

足音が段々と近づく中、デュースはイーディを、ウェルキンはアリシアを庇うように銃を入り口の扉に構える

 

そして……扉を開けて帝国兵が入ってきた。だが、帝国兵はその手に持っている銃を構えなかった。それを不審に思いながらも銃の照準は帝国兵の眉間を捉えている

 

帝国兵は足を擦る様に近づいてくる

 

「止まれ!」

 

デュースが停止するように声を掛けると

 

「あ……う……」

 

呻き声を上げ、倒れた。いきなり倒れたことに3人が驚いている中、デュースは冷静に近づき、銃を蹴って遠ざけてから確認をした

 

すると背中に弾痕があった

 

「この帝国兵……傷ついているのか?」

 

ウェルキンも帝国兵に近づき、状態を確認した。撃たれた痕は4つある

 

「たすけ……て……」

 

絞り出したような声で帝国兵は助けを乞うた

 

「ウェルキン!手当を!」

 

アリシアは直ぐに帝国兵の手当をしようと、ウェルキンにも手伝うよう頼む。それに頷き手当をし始めた

 

デュースもバックパックから予備の医療品を取り出す。敵ではあるが、助けを求める……いわゆる降伏してきたとも取れ、正規軍であるがゆえ、降伏してきた者を撃ち殺すような真似はしなかった

 

「……どう?」

 

アリシアが手当をしているデュースに尋ねる

 

「ダメだ……肺を貫通し、出血も多い。手遅れだ」

 

首を横に振り、助からない事を教えた。傍で見ていたアリシアとイーディは悲痛な表情をしている

 

「苦しい……助けて……か……あさん……」

 

傷の痛み悶える帝国兵は救いを求めて手を伸ばす。デュースは一息で楽にしてあげようか迷っていると……伸ばしていた手をアリシアが握った

 

「う……母さん……」

 

帝国兵は激痛で朦朧とした意識の中自分の母を呼んでいた……すると

 

「もう大丈夫……母さんはここにいるよ。安心して……ね?」

 

アリシアは手を握りながら帝国兵の頭を、子供を撫でてあげるかのように優しく撫でた

 

「かあさん……」

 

最後に母を呼び……息を引き取った。握っていた手が力なく落ちる、その光景にアリシアとイーディは涙を流した。その表情は悲しみに包まれていたが

 

「彼の顔をみろ」

 

そう言ったのはデュースだった。涙を流している2人は死んだ帝国兵の顔をみた

 

「先程まであんなに苦痛を浮かべていたのに、今は驚くほど穏やかな表情だ」

 

その表情は母の腕の中で抱かれた子供のように穏やかな表情をしていた

 

「アリシア……君は君にしかできない方法で彼を助けたんだ」

 

ウェルキンの言葉でアリシアは泣いた。ウェルキンが胸を貸し、その中で泣いた

 

「何もできなかったと思うな。前は最後まで彼の安否を願っていた、それは大事な事だ」

 

アリシアと同じく悲痛な表情をしていたイーディをデュースが本心の言葉を言う

 

「……デュースさん」

 

イーディはデュースの胸で泣いた。デュースはただ抱き締めてあげることしかできなかった……そして夜が明ける

 

小屋の外に死んだ帝国兵を埋葬し、その上に彼が持っていた銃を刺し、ヘルメットをその上に掛けていた。その目の前でデュースは十字を切った

 

3人もその傍で祈りを捧げた

 

「……あたしね、ガリアの人達の命を奪った帝国がずっと憎いと思ってた。でも帝国の兵士だってあたし達と同じ人間で、同じように守りたい人がいるんだよね」

 

祈り捧げた後、アリシアがポツリ、ポツリと思ったことを述べていく

 

「あぁ……そうだね」

 

ウェルキンがそう頷く中、デュースはその考えは難しい問題であると思っていた。帝国は侵略者だからそうとは言えない……と言えないこともないが、彼らも人であり愛する家族がいる同じ人間なのだ。この問題の答えは出そうにない難問だと思っていた

 

「戦争が始まって、そんな当たり前のことも忘れていましたの……この方も戦争が無ければ、家族と……もっと一緒にくらせていたのかもしれませんわ」

 

力の無い表情でイーディが言う

 

「……ねぇ、ウェルキン。わたしね……家族がいないの。生まれた時から孤児院育ちで、両親の顔も名前も知らないんだ」

 

アリシアが自分の過去の体験を言う

 

「そう、だったのか……」

 

それになんて言葉を掛ければいいのか分からずにいた……が

 

「でも、それもいいかもいしれないね。家族が……大事な人がいなければ、分かれる悲しみを感じずにすむかもしれない」

 

その表情は笑みを浮かべているが、とても悲しいそうに

 

「一人ぼっちも悪くないかも!……なんてね」

 

そう言い笑った。笑っているのに、とても悲しんでいるとウェルキンは感じていた

 

「……アリシア、君はひとりぼっちなんかじゃないだろ?僕もイサラも……小隊の皆も、今はアリシアの家族じゃないか」

 

だからウェルキンはそれを否定する

 

「みんなが……家族?」

 

その言葉にアリシアの心が揺れ、眼を見開いた

 

「あぁ。僕が父さん、アリシアが母さん、ロージーにイサラが娘で……ラルゴは……お爺ちゃん!なんて考えてみたらどうだい?」

 

そう心からの笑みを浮かべて言うと

 

「あら、でしたら私はアリシアさんの姉ですわね」

 

イーディもアリシアの家族であると言い

 

「なら俺達はご近所さんか?まぁ、この場合は友達という間柄になるがな」

 

デュースも笑いながら言う

 

「ぷっ……そんなこと言ったら、ラルゴに怒られるよ!」

 

そう言いながら笑う。その笑みは先程の悲しい笑みではなく、嬉しさからくる笑みだった

 

「よくケンカもする家族だけど、ケンカするほど仲がいいって言うだろ」

 

確かに、ロージーとイサラにイーディがいれば騒ぎには困らないだろうなとデュースは思った

 

「だから、もう一人ぼっちとか言わないこと。分かったね?」

 

遠回しの告白に聞こえるな……と思うイーディとデュースであった

 

「うん……ありがとう」

 

だが、アリシアの笑みが心からの笑みであることに嬉しく思っていた……だが、それも長く続かなかった

 

突然、茂みから足音が聞こえた。デュースは反射的に音の方向にイーディを庇いながらHK416を構える、ウェルキンもライフルを茂みに向ける

 

その茂みから出てきたのは……銃を構えた数人の帝国兵だった。その真ん中には明らかに階級の高い人物……恐らく指揮官であろう。お互いが銃を構えたまま緊迫した空気が辺りを包む

 

その内、一人の帝国兵が先程埋葬した場所に近づく

 

「このヘルメットと銃はフリッツの……!」

 

帝国兵の声は驚きに満ちていた。黒服の男性がウェルキン達の目の前までくる

 

「……お前達が埋葬してくれたのか?」

 

何を聞くのかと思ったら、埋葬してくれたかどうか……おそらく埋葬した彼は部下だったんだろう

 

「……ああ」

 

ウェルキンが肯定する

 

「小屋の中に治療した跡があります」

 

小屋の中を調べていた帝国兵が状況を報告する

 

「……なぜ、敵国兵の命を助けようとした?」

 

当然に思う疑問を聞いてくる

 

「彼はうわごとで母の事を言っていた」

 

銃を構えたままのデュースが答えた

 

「僕達は敵同士かもしれないけど、同じように故郷には家族がいる家族がいる者として見捨てられなかったんだ」

 

本心の言葉をウェルキンは口にする

 

「フリッツは……母親思いのやつなんです。今度の休暇は旅行に連れて行くって……」

 

銃の構えを解いた帝国兵が指揮官に耳打ちする。構えを解いたことで、デュースとウェルキンも銃の構えを解いた

 

「……お前には家族がいるのか?」

 

指揮官がそう……訪ねてくる

 

「あぁ、妹がいる……それに……小隊の隊員達という大事な家族もいるよ」

 

相手の眼を見て、胸を張って堂々と答える

 

「そうか……俺にも妻と娘がいる。お前と同じようにこいつら隊員も家族のようなものだな」

 

緊迫した空気が解かれていく

 

「フリッツを……家族を葬ってくれて感謝する。彼もきっと礼を言っているはずだ」

 

この場にはガリア軍、帝国軍ではなく、家族として、一人の人間として礼を言った。すると砲弾が撃たれる音と、銃声が響いてきた

 

「次は戦場で会うことになるだろう」

 

その表情は家族としての顔ではなく、帝国軍指揮官としての顔だった

 

「お前達とは……ゆっくり話をしてみたかった」

 

そう名残惜しそうに言い

 

「それでは失礼する」

 

指揮官が踵を返し、帝国兵達もそれに続き去っていった

 

「よし、俺達も戻るぞ」

 

デュースが3人の方を見て言い、4人は部隊と合流を急いだ

 



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12話 7月事件

デュース達が急いで合流しようとして移動していると、次第に銃声が鳴らなくなってきた

 

川を挟んで、エーデルワイス号とストライカーが見える位置までくると、既に戦闘が終わっていた

 

合流し話を聞くと、ウェルキン不在のため戦車が使用できない状況だったが……ストライカーがあったのが帝国兵の運の尽きだった

 

ストライカーに装備されている武装は105mm戦車砲。2世代型の旧式戦車の主砲だが、この時代では明らかに規格外の砲である。さらに自動装填装置により連射を可能としていた

 

保有砲弾数は20発程度とかなり少ないが、1発で戦車を破壊できるので、1台しかなかった帝国戦車と榴弾砲は高機動で動けるストライカーの餌食となった

 

エーデルワイス号を狙う対戦車兵も一個小隊規模のレンジャーとデルタフォースを前にして狙える状況ではなく、時速70km以上で迫りくるストライカーの重機関銃の前になすすべもなく蜂の巣にされていた

 

目の前で戦車が守っていた壁も、持ってきていたC4により爆破。その勢いでレンジャーが雪崩込み、本拠地を占拠、作戦終了という流れだったらしい

 

この短時間でと驚いていたが、驚く前にウェルキン達、第7小隊のメンバーは無事に再開できたことを喜んでいた

 

デュースの方も心配はしてくれたが、生きて戻ってくると確信していたパンサー達だったので、はしゃぐ程ではなかった

 

ある程度の報告を終えると、首都ランドグリーズへと帰路をとった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

森林の包囲網を抜けて基地に戻って数日、中隊の指揮官室にパンサーとマザー、ファルディオの姿があった

 

「今回なにで呼ばれたのかしってるか?」

 

マザーが隣にいるファルディオに尋ねる

 

「いえ、俺には検討がつきません。他の小隊長を呼んでいない所を見ると、俺達に用事がありそうなのですが……」

 

ファルディオも何で呼ばれたのか知らなかった。するとドアをノックする音が聞こえ

 

「ウェルキン・ギュンター、入ります」

 

入ってきたのはウェルキンであった

 

「君も呼ばれたのか」

 

入ってきた方を見て、パンサーが声を掛けた

 

「中尉達に……ファルディオもですか?」

 

中にいた人物を見て、なんで自分が呼ばれたのかを考えていると……

 

「四人共、非番の日に出頭してもらってすまないわね」

 

椅子に座っていたバーロット大尉が口を開いた。多大な戦果を上げ、数多くの戦場に投入されて戦って、休みを貰っていた第7小隊と独立遊撃隊、偶々非番であった第1小隊の隊長のみが呼ばれていた

 

「実は、コーデリア姫主催の晩餐会に私とあなた達が招待されたのよ」

 

その言葉に4人は愕然とした

 

「え?どうして、僕たちが?」

 

晩餐会なんかに御呼ばれされる理由が分からないウェルキンが尋ねると

 

「ヴァーゼル橋奪還以来の義勇軍の活躍をお認めになってくださったらしいわ」

 

確かに第7小隊の活躍は義勇軍ならず正規軍の士気を上げるほどの活躍をしているから分かる……だが

 

「しかし、自分達が呼ばれる理由が分からないのですが?」

 

マザーが自分達も晩餐会に呼ばれた理由が分からなかった。恐らくその晩餐会には政府・軍高官に、貴族といった上流階級の人間も呼ばれているのだろう。その中で、たかだか傭兵にしか過ぎない自分達が呼ばれるなんてありえないことだと考えていた

 

「確かに傭兵である貴方達が呼ばれるのは極めて異例なことだけど、帝国を圧倒し、死傷者の増加を防ぎ、短期間で戦線を押し上げているという戦果をお認めになってくださったらしいわ」

 

独立遊撃隊が上げた戦果はまさに異常であり、第7小隊並みに士気の向上を担ってくれていた。正規兵の中には傭兵と言うことで快く思わない連中も少なからずいる、逆に義勇兵の方は各々が笑みを浮かべ、快く受け入れてくれていた

 

その人の温かさが、知らない地で戦い続けるアメリカ兵にとって不安な気持ちの救いとなっていた

 

「こんなことは初めてだと思うけど、出てくれないかしら?コーデリア姫直々のご指名なのよ」

 

それに又しても愕然とする。軍高官が自分たちの抱き込みの為に参加させるのかと考えていたら、まさかの国のトップ直々のご指名だった

 

「そちらから1人選んだ人物か、貴方達2人でもいいわ。少なくとも代表と言える人物を1人出してちょうだい」

 

こればかりは軍高官のお誘いを蹴り続けてきたマザー達も無視できるはずがなく、どうしようかと悩んでいた

 

「晩餐会は明日、ランドグーズ城で催されるの。私と一緒にいきましょう」

 

もう行く事が決定し、誰かを選抜(生け贄)しなければならない

 

「はぁ……堅苦しい場は苦手なんですけど……」

 

ウェルキンは頭を掻きながら苦笑いをした

 

「何言ってるんだ、ウェルキン。姫に拝謁できるなんて、滅多にない機会だぞ!」

 

ファルディオはどうも乗り気の様だ

 

「ガリア公ランドグリーズ家の一族には古のヴァルキュリア人の血が流れているという。つまり、コーデリア姫もヴァルキュリア人かもしれないんだ。その姫に直接会えるんだぜ!」

 

伝説のヴァルキュリア人かもしれない姫に会えるのは考古学者としても楽しみのようだ

 

「まぁ、確かに……」

 

同意はするものの、ウェルキンは余り乗り気ではなかった。マザー達は完全に乗り気ではなかった、絶対に高官共が勧誘してくるに違いないと思っているからだ

 

「晩餐会には、儀礼用の軍服を着用するのを忘れないようにね」

 

バーロットがウェルキン達にそう言うと

 

「貴方達用に儀礼用の軍服を用意させましょうか?

 

一応、マザー達の状況をしているが、儀礼用の服を持っているとは思っていなかった

 

「いえ、結構です。自分達のを持っているので」

 

パンサーはバーロットの提案を断った。もし、ガリア軍の礼服なんて着て行ったら面倒なことになるのは火を見るより明らかだった

 

「貴方達は礼服をもっているの?」

 

提案を断ると言うことは、そういう服を持っていることになるが

 

「えぇ……まぁ……一応は」

 

どこか歯切れが悪いが、バーロットはそれを着てくるように指示をだし

 

「では明日、ランドグリーズ城で合流しましょう。用件は以上よ」

 

面倒なことになったなぁ……と持っていると

 

「やれやれ……明日はバードウォッチングに行きたかったんだけどな」

 

ウェルキンがそう呟く。自国の姫より鳥かよ、とマザー達は思った

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

溜息を吐きながら、アメリカ軍が駐留している基地のゲートに近づく人がいた。その男は青い礼服をきて、装飾が施された帽子をかぶっている

 

「なんで俺なんだ……」

 

その人物はパンサーだった。陸軍用のブルードレスユニフォームをビシッと着こなし、黒いネクタイを締め、制帽を被っている。その制帽も尉官用にチンストラップが金で出来ており、兵科を表す帯は歩兵のライトブルーである

 

エポレットに中尉の階級章を付け、部隊を表す三角の稲妻に、剣というデルタフォースの部隊章が肩に付けられていた

 

この礼服は装備品が入っていたトラックにBDUと一緒に入っていたのだ階級章はあったが、部隊章が無く、このまま行こうとしたが何時の間にか作られていたデルタフォースの部隊章が縫い付けられていた

 

さて、何故パンサーが選ばれたのかと言うと。独立遊撃隊の責任者は3人おり、一人はパンサー、一人はマザー、もう一人はアパッチのパイロット、ホーキンスだった

 

ホーキンスは副官の立場なので除外され、パンサーかマザーが行くかで討論になり。髭ずらのマザーよりマシなパンサーが選ばれた

 

当人は大分反対したが、多数決で決められたせいで強く言えず、当日に髭を剃り、身嗜みを整えたらイメージがガラッと変わった

 

デュースとダスティにからかわるも、睨みつけることしかできず、今に至る

 

「大尉!」

 

ゲート付近でガリア製のジープの運転手を務めるレンジャーがいた。そのレンジャーの服装はBDUであったが

 

「今は中尉と呼んでくれ」

 

本来の階級は大尉だが、独立遊撃隊となった時にガリア軍では中尉として扱われていた。故に階級章も中尉だった

 

「失礼しました、中尉殿」

 

そう笑いながら言うと、パンサーは助手席に座り

 

「早く行くぞ」

 

運転席にレンジャーが乗るとゲートが開く、そこから車が発進し、ランドグーズ城に向かった

 

ランドグリーズ城に付き中に入り、目的の場所まで行くと

 

「あら中尉、時間通り……」

 

集合地点にいたバーロットがパンサーを見ると驚いた顔をした。髭を剃り、身嗜みを整えただけでここまで違うのかと

 

「……どこか可笑しな所がありますか?」

 

驚いたかをしていたので、何処か不味い箇所があるのかを聞くと

 

「いえ、正直ここまで見違えるとは思ってなくてね」

 

別にパンサーの何時もの格好が汚いのではなくて、バーロットと会う時は戦闘準備をした格好で会うことが多く、何時も髭を生やしていたのだか仕方ないと言える

 

「それが、貴方達の世界での礼服なのかしら?」

 

陸軍用のブルードレスユニフォームをつま先から頭まで見ると

 

「まぁ、そんな所です」

 

そう苦笑いしながら言うと

 

「お待たせしました」

 

扉から生きたのはウェルキンだった。ガリア軍の礼服を着て、しっかりと制帽も被っている

 

「あら……ウェルキン、見違えたわね」

 

バーロットはウェルキンの姿をみて、感想を述べる。ウェルキンもアリシアに手伝ってもらったと他愛ない話をしていると

 

「よう、ウェルキン。今日はバッチリきまってるな」

 

ファルディオも到着し、全員が揃った

 

「お、ファルディオ。珍しく帽子をかぶってるじゃないか」

 

ウェルキンが驚いたかのように言うと

 

「あぁ、軍隊の帽子ってやつはデザインが気に入らなくて敬遠してたんだが……今日ばかりはそういう訳にもいかないしな。まぁ、姫に拝見する為に我慢するさ」

 

デザインが気に入らなく溜息をこぼし、パンサーの方を見ると

 

「中尉もバッチリきまってるじゃないですか」

 

ブルードレスを初めて見たファルディオは異文化交流みたく珍しさを感じていた。するとカメラのシャッター音とフラッシュが光った

 

「ハーイ!皆さんお揃いのようね!」

 

カメラを取ったのはエレットであった

 

「お前もいたのか、晩餐会の取材か?」

 

新聞記者である彼女がいてもおかしくは無いなと思いながらパンサーが尋ねると

 

「もちろん!今夜の晩餐会には、『連邦』の大使も招待されているんだけど……どうやらその裏には、ガリアと連邦が同盟を締結しようという動きがあるのよ」

 

エレットがなにやらきな臭いことを言うと

 

「ふむ……ガリアはどの国とも同盟を結ばない中立主義を国是としている筈だが……」

 

国の主義を破ろうとしているのではないかとファルディオが言うと

 

「コーデリア姫の摂政である宰相・ボルグの意向が大きく影響しているのは間違いないわね」

 

宰相・ボルグ……まだ若い姫の代わりに政治を任されている人物である

 

「姫が若年なのをいいことに、今の国の政治はボルグを始めとする貴族たちが牛耳ってるの。今のコーデリア姫は、ハッキリ言ってボルグの操り人形みたいなものよ」

 

別の世界でも国のトップに腐ってる奴はいるもんだな……と、パンサーは感じていた

 

「そろそろ時間よ。行きましょう」

 

バーロットと共に5人は晩餐会の会場に向かった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

先程のエレットの話……あれは事実であった

 

晩餐会の会場に到着し、最初は様々な視線をパンサーに向けられていたが、そんなこと気にもせずにいた

 

するとコーデリア姫の挨拶が始まり、そこまでは良かった。だが……宰相・ボルグ、いかにも腹に一物ありそうな人物であった。その隣にいた男が姫の挨拶が終わると、一人拍手をした

 

「連邦の大使としてガリア公国を訪問できた事は私の至上の喜びとする所であります」

 

この白髪の男は連邦の特命全権大使、ジャン・ダウンセントである

 

「ラグナイト資源に富み、東西の中央に位置する帰国は、まさにヨーロッパの要所!我が連邦は貴国と手を取り合い、帝国を打ち砕くとしましょう!」

 

いかにも……なことを言っているが

 

「フン……そのヨーロッパの要所を自分たちが押さえたいだけだろう」

 

ファルディオの言う通り、この国の資源と富を狙っているのは明白であった

 

「連邦とて、ヨーロッパ統一を目論む軍事大国……気に食わんな」

 

そう呟くように言うと、含みのある挨拶だな……とパンサーは感じずにいられなかった

 

「我々が手を組めば帝国など恐るるに足りません」

 

まるでパフォーマンスをするかのように大使が言うと

 

「帝国を打倒し、このヨーロッパ全土を我がガリアと連邦のものとしようではないか!」

 

宰相・ボルグが高らかに言うと、ダモンを始めとするガリア将兵は拍手をした

 

「(ヨーロッパ全土とは……随分物騒な事を口走るな)」

 

パンサーは拍手をせず、内心はボルグが連邦に個人的な繋がりがあるのではと睨んでいた

 

「俺達は他国に攻め込みたくて戦っている訳じゃない」

 

ファルディオの呟きには怒りが滲み出ていた

 

「故郷と、そこで暮らす人達を守りたいだけなのにね」

 

そう悲しい表情をしながら賛同できないなとウェルキンも呟く

 

すると宰相と大使が「両国の輝かしい未来を!」と高らかに言い、乾杯をする

 

「……チッ!」

 

するとファルディオは舌打ちをしてその場から去ろうとした

 

「……どうかしたのか?」

 

去ろうとしたファルディオをウェルキンが心配そうに声を掛けると

 

「質の悪い茶番劇を見せられて胸ヤケがしてきた……俺は先に帰るよ」

 

そう言い、この場を去った

 

「茶番劇なのには同意だな」

 

今まで黙っていたパンサーが宰相と大使の方を見ながら言う

 

「『我がガリア』に『両国の輝かしい未来』か……これは果たして誰に言ってるのだろうな」

 

明らかに国を思っての言葉ではないなと確信に近い何かがあったが、あえて口にしなかった

 

「しかし、姫に呼ばれてここまできたが……当の本人は心ここに非ずみたいだしな……」

 

パンサーの視線はコーデリア姫に向いた。挨拶では「心からの喜び」と言っていたが、そんな風に思ってるようには見えず、明らかに無理をしているのが伺えた

 

すると、コーデリア姫とパンサーの目と目が合った。服装が明らかに違うから見つけやすかったのだろう。だが、すぐに俯いてしまった

 

そこから晩餐会を楽しめる筈もなく、軍の高官からの誘いを全て聞き逃し、宰相と大使がパンサーの方を見ながら何かを言っているのを確認しながら一人、ワインと少量の食事を取った

 

ようやく晩餐会も終わり、パンサーとウェルキンにバーロットは帰路についていた

 

「まったく、とんだ晩餐会だったな」

 

パンサーの表情はまったく嬉しそうになく言いながら歩き、それに2人が苦笑いしていると……バーロットは誰かとぶつかった

 

「あっ……」

 

ぶつかった相手の無事を確認しようとして固まった。それはバーロットだけではなく、ウェルキンもパンサーも愕然とした表情をしている

 

「……」

 

それもそのはずである。なにせ、ぶつかった相手はコーデリア姫のあったのだ

 

「こ、コーデリア姫!」

 

ウェルキンが驚きながらも相手の名前を言い

 

「し、失礼いたしました!お怪我はありませんでしょうか?」

 

直ぐに傷が無いかを調べる。国のトップに何かあったら一大事なのだから

 

「……大丈夫です」

 

まるで機械のように言う

 

「申し訳ありませんでした!無礼をお許しください」

 

バーロットは深々と頭を下げ、謝った

 

「よいのです。気を付けてお帰りなさい」

 

コーデリア姫は首横に振り、去ろうとした……だが

 

「コーデリア姫、姫は連邦と同盟を結ぶことに、賛成なのですか?」

 

突然ウェルキンが質問を投げかけた

 

「ギュンター少尉!?突然何を言いだすのだ?」

 

バーロットは驚く。たかだか義勇軍の少尉が国のトップに質問を投げかけるのだから仕方ないと言える。だが、この問いはパンサーも気になった。明らかに乗り気ではなく、傀儡となっている姫の考えはいかほどのものかと思っていたのだ

 

「……申し訳ありません。失礼なことを言っているのは十分わかっています。ただ……今日の晩餐会を見ていたら姫の意志が無視されているようなきがして……」

 

失礼を承知で理由を言う

 

「……」

 

コーデリア姫は俯いたままだった

 

「……わたくしは若年の身、国政は摂政のボルグにまかせています。このガリアの地、そしてヴァルキュリアの血統を守ることが、わたくしに課せられた宿命……宿命を守るために、わたくしの意志は必要ありません」

 

それはまるで自分は傀儡のままで十分であると言っているみたいであった

 

「……守るためにこそ自分の意志が必要なのではないのですか?」

 

黙っていたパンサーが口を開く

 

「パンサー中尉!」

 

まさかパンサーも意見を言うとは思っていなかったのかバーロットは驚いた

 

「姫は自分の宿命を守る為に自分の意志は必要ないと仰いました。ですが、私はそれを守るためにこそ強い意志が必要なのだと思います」

 

パンサーはコーデリア姫の目を見ながら言う。コーデリア姫も驚いたような表情をしている

 

「今は傭兵の身なれど、このガリアを自分の祖国と思い、守る意思があります。姫は国民とその宿命を守る為に自分を貫き通す意思こそが必要であると私は思います」

 

その言葉に驚いた表情のまま固まっていると

 

「……このような失礼なことを言い、申し訳ありません。どうか無礼をお許しください」

 

パンサーは制帽を取り、深々と頭を下げた。それに気づいたコーデリア姫はあわあわとし始めた

 

「あ、頭をお上げください」

 

先程の人形のような無表情ではなく、人としての感情が顔に出ていた

 

「……あなたの名は?」

 

目の前の人物が一体何者か……それは服装とさっきの言葉で分かっていた。だが、この人の名が気になった

 

「義勇軍第3中隊隷下、独立遊撃隊所属デルタフォース隊長、パンサーです」

 

パンサーは敬礼しながら答えた。デルタは国が存在を隠している部隊であるが、今ここではその制約は関係ないので答えた

 

「……私はしきたりに従って生きることしか知りません」

 

その表情はとても悲しい顔をし

 

「それでは、ごきげんよう……」

 

また、人形のような無表情になり、この場から去った

 

「コーデリア姫……」

 

ウェルキンとパンサーは去って行った方向をじっと見つめていた

 

「……聞こえるか?俺だ。今、『ブツ』は一人だ。実行するぞ」

 

連邦大使がどこかに連絡をしている

 

「作戦どおり、装甲車を待機させておけ。『ブツ』を奪いしだい、そちらに向かう」

 

そういい通信を切った

 

「それでは私はこれで、おやすみウェルキン、パンサー」

 

バーロットはまだ用事があるのか、駐車場で解散することにした

 

「はい、お疲れ様でした」

 

パンサーも別れの挨拶をしようとしたら

 

「ま、待てーっ!待たんか、バーロット!」

 

聞きたくもない声が聞こえ、その方を向くと駄モンが此方に走ってきていた。だが、その表情は珍しく焦っていた

 

「バーロット、一大事だ!こ、コーデリア姫が誘拐されたのだ!」

 

その言葉に、3人は目を見開いた

 

「何ですと!?」

 

余りに衝撃的なことにバーロットも慌て始める

 

「どうやら、連邦の大使が犯人らしい。奴め、連邦のスパイだったのだ!」

 

既に犯人に目星はついていたようだ

 

「……姫を『保護する』という名目で人質にとり、ガリアを連邦の保護国とする。秘密条約や威圧外交で勢力を広げてきた連邦らしいやりかたね」

 

冷静さを取り戻したバーロットは状況と相手の目的を見抜く

 

「しゅ、出動だ!バーロット、急いで姫を奪還してこい!」

 

正規軍ではなく義勇軍に頼む辺り、どうかとは思うが。それより姫の護衛は何をしているんだと思いながらも、パンサーに直ぐにジープに積んでいた無線を用意する

 

「わかりました。ギュンター少尉、パンサー中尉、すぐに部隊を招集せよ!」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

パンサー達が胸焼けする茶番劇を見ている頃、第7小隊とアメリカ兵達は共に食事をしていた

 

第7小隊の隊舎の隣が独立遊撃隊の隊舎であり、戦場を共にすることが多いことから親睦があった。そういうことで、久々の休暇なので一緒に食事をすることになった

 

コンロを並べ、肉や野菜を用意し、バーベキューの準備をしていた。久々のバーベキューにアメリカ兵達は皆歓喜していた、警備の為に基地内にいる兵士には悪いが、心から楽しませて貰おうと思っていた

 

バーベキューが開始すると、皆が各々に肉を焼き、或は串に刺す作業をしたり、異文化交流に笑みを浮かべる姿があった。その中でもラルゴ特性・野菜の乱れ串に驚いたり、アメリカ兵が芸をしたりと戦時中とは思えない賑やかであった

 

アリシア特性のシナモンパンが披露されると、挙ってそれをほうばった。その喧噪の中には燥いでる姿だけではなく、いい雰囲気の者からお悩み相談所みたいな所があった

 

「こんなにはしゃいだのは久しぶりですわ」

 

イーディが木のそばに腰を下ろし、手にアルコール……とはいかず、ソフトドリンクを手に離れた所から第7小隊のメンバーとアメリカ兵達が笑っている姿を見ていた

 

「久々のバーベキューだ、サプライズとしてはこれ以上の物は無いだろうさ」

 

その隣にはデュースの姿があった。その手にはビールの入ったコップを持っており、その横にはビンもあった

 

「このまま私の快進撃で帝国との戦争も終わらせてみせますわ!」

 

自信満々に言う姿に、デュースはこれまでの活躍を思い出して苦笑いをした。だが、イーディが言葉だけでは無く強くなるため、部隊の足を引っ張らない為に人一倍努力をしているのを知っていた

 

ここまで自分自身を信じれるのも努力家故にかも知れないと思っていると

 

「そういえば、デュースさんは何か夢でもありますの?」

 

突然聞かれたことに、デュースは考えてはみるが

 

「夢か……特に無いな。戦場から生きて祖国に戻ることが今の目標だな」

 

軍に入りたての頃は確かに夢を持っていたが、特殊部隊員となり、場数を踏んできたデュースは夢という不確実なものより、現実的な目標を立てるようにしていた

 

「そうですか、私には大きな夢がありますわ!」

 

イーディの表情は笑顔で輝いていた

 

「この戦争を終わらせて!世界一の女優になることですわ!」

 

立ち上がり、デュースの方を向きお嬢様笑いのポーズをしながら高々と宣言する。その姿にポカーンとなった後、デュースは腹を抱えて笑った

 

「な、何が可笑しいのですか!?」

 

突然笑いだしたデュースを見て怒るが

 

「ハハッ……それは確かにデカイ夢だな」

 

ここまで自信家な人間なら確かに女優向きの性格だなと思い

 

「じゃぁ、未来の大女優に」

 

ビールの入ったコップを向けると、イーディは座り

 

「ガリアを救いに来た兵士に」

 

2人は乾杯し、中身を飲み干した

 

「……ところで、デュースさん。今、お付き合いしておられる女性は……その……」

 

イーディは顔を赤くし、髪の毛を弄りながらモゴモゴ言うと

 

「いや、今付き合ってる女はいないな」

 

女性と付き合った経験はそこそこあるが、職業故に長続きした試がなかった

 

「で、でしたら……その……わ、わたく……しと」

 

何処か嬉しそうな表情をし、恥ずかしそうに何か言おうとした。が、無粋にもこの光景の覗き見している連中をデュースは見つけた。それに気づいたのか

 

「よう、お二人さん。随分と仲が良さそうじゃねぇか」

 

笑いながらデュースをからかいに来たのはマザーであった。2人の様子は全員が見える位置であり、女性陣はその光景にドキドキしながら見ていた

 

「なんだ、マザー。俺をからかいに来るくらいなら自分の部下をからかいに行けよ」

 

デュースの視線の先にはラビットが複数の女性と会話していた……しかしその会話内容は

 

「それで、ギュンター君の好みがどんなものかを知りたくて……」

 

第7小隊の女性隊員であるユーノ・コレンが尋ねると

 

「ウェルキンみたいな性格なら、本や栞なんかが良いかもしれないけど、虫眼鏡やスケッチブックなんかも良さそうだね。その時にスケッチ用のペンなんかも添えてプレゼントするといいよ」

 

性格上、何が好まれるかを考えてラビットが答えると

 

「私……これが戦争なんだと分かってはいるのですが……この手で人を殺すのが……」

 

俯いた様子で自分の本音を語るスージー・エヴァンス

 

「その気持ちはよくわかる……僕も初めて人を殺すときは体が震えたよ。でもね、自分を大事な人を想像して欲しい。その人を守る為に……その人が泣かない様にするために引き金を引くんだと心に決めたんだ」

 

ラビットはスージーと目線を合しせるようにし、自分の本音を言う

 

「これはとても難しい問題かもしれない。でも、自分の大事な人を……隣にいる友人を守る為にと思えば、きっと君にも勇気が出るはずさ」

 

親身になって心の問題を一緒に考える。それに俯いていたスージーの表情は和らいでいた

 

「はい……お話を聞いてくださってありがとう御座いますわ、ラビットさん」

 

その表情はどこか恍惚とした表情に見えなくもない。するとラビットが胸ポケットから家族の写真をとりだして、彼が家庭をもっているのに気づく。スージーは最初それに落胆するものの、何故か何かに燃える表情になり、ラビットの傍に近寄った

 

「アイツはどっちかと言うとお悩みの相談だしな」

 

マザーは自分の部下の光景を見て、苦笑いすると……サイレンが鳴り響いた

 

そのサイレンで片付けや談話をしていた全員が動きを止める

 

「これは……緊急出撃のサイレンですわ」

 

イーディがサイレンの種類を思い出すと、既にアメリカ兵達は走っていた。酒を飲んでいた者も、女性に迫られていた者も、そんなの関係なく隊舎に戻り戦闘準備をする

 

≪ウルフパック1より通信。緊急事態、緊急事態発生。戦車、装甲車、歩兵戦闘車を出撃、最低限の兵士を残し各隊出撃されたし≫

 

スピーカーより流れる通信兵の報告が隊舎に伝えられる

 

≪場所は市外入口、繰り返す市外入口にてウルフパック1と合流せよ≫

 

情報が終えると、戦闘準備を整え、銃を持った兵士が分隊ずつに出撃していく

 

「まさか、初めての戦場が首都内とはな……」

 

ラグナリンで動くように再設計されたラジエーターを積んだ、戦車……コールサイントマホーク02が発進する。それに続き40mm擲弾銃を装備したストライカーにM2ブラッドレーも発進する

 

第7小隊も戦闘準備を完了させ、出撃していく

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

パンサーとウェルキンに合流した後に移動しながら情報が通達される

 

《現在、連邦大使がコーデリアを拉致し兵員輸送装甲車を奪い逃亡。港にて船を連邦へと逃げるみたいだ。この区域は近衛連隊によって封鎖されている、銃を持っている人間がいたら、そいつは敵だ。既に発砲許可が出ている》

 

全部隊が装甲車を追い、区域へと突入する

 

《だが、装甲車は破壊するな。繰り返す、装甲車は絶対に破壊するな。それ以外なら何をしてもよいと近衛連隊の指揮官からお墨付きをもらっている》

 

区域に入り、各部隊が展開していく

 

《何人かは倉庫の屋根へと上り、状況を報告。絶対に装甲車を逃がすな!》

 

通信を終えるとデルタも行動に移る

 

「さぁ、港まで急げ!そこから船にのって、国外脱出だ!コーデリア姫、狭い車内ですが今しばらくのご辛抱を」

 

連邦大使が運転手に指示を出した後、捕えられたコーデリア姫の方を向いた

 

「……」

 

コーデリア姫は連邦大使を睨んでいた

 

《こちら、アルファ分隊。敵とコンタクト、奴らガリア兵の姿をしている》

 

屋上に上ったレンジャーの分隊が状況を報告。その後に銃声が響いた。狭い路地を進む戦車は上からの指示に従い進んでいる

 

《こちら、バイパー分隊。敵兵3名排除。近くに駆動音あり、場所はB-3》

 

次は海兵隊の方から報告が入る。人数に物を言わせた人海戦術は効果てき面であった

 

《こちら、ロージー。目標を視認したよ!進路はA-2からA-3に移動、右折した》

 

とうとう目標を捉えた。銃撃戦が激しくなるも、鎮圧されるのは時間の問題でもあった

 

《トマホーク02、進路をF-4からC-4に向かい左折しろ。それで正面は抑えられる》

 

トマホーク02はF-6地点からF-4へと移動しいいく

 

《エーデルワイスはそのまま直進しC-2にて待機、ブラッドレーはC-5を固めろ》

 

装甲車が港へいち早く向かおうと速度を速めるが、目の前に戦車が現れた

 

「あの赤と白に星のマーク……義勇軍の傭兵部隊の戦車です!」

 

運転手が目の前に現れた戦車の側面に書かれた星条旗を見て、焦りの声を上げた

 

「晩餐会に呼ばれていた傭兵の部隊だと……ガリア軍最強の部隊……厄介な連中がきやがった。迂回して別ルートを取れ!」

 

大使も冷や汗を流しながら指示をだす

 

「……パンサー中尉」

 

コーデリア姫がパンサーの名を呟く。装甲車が進路変更するが

 

「目の前に第7小隊の戦車です!」

 

既に状況は絶望的であった

 

「義勇軍の精鋭部隊……何としてでも!船着場へ急ぐんだ!」

 

もう指示なんて出せるレベルでは無くなっていた、外で聞こえていた銃撃音も次第に少なくなっていき、追い込まれていると理解できるのだから

 

右折し、真っ直ぐ向かおうとする。だが、目の前の通路にM2ブラッドレーが現れ、後方にはストライカーが道を塞いだ

 

《追い込みました、仕上げをお願いします》

 

無線からは屋上のレンジャーが状況を報告。既に倉庫の屋根にいた敵兵は排除済みで、大半の屋根にレンジャーが配置していた

 

するとコンテナの陰に隠れていたパンサー達が装甲車に向かう。ダスティとベガスがラジエーターを狙い撃ちし、破壊。作戦終了である

 

「ほら!キリキリ歩け!」

 

装甲車内にいた大使と兵士を拘束し、連れて行く

 

「コーデリア姫!お怪我はありませんか!?」

 

救い出したコーデリア姫をウェルキンが怪我など無いか確認する

 

「……大丈夫です」

 

その言葉にウェルキン達は胸を撫で下ろす

 

「しっかし、お姫様ってのも大変だねぇ。ガリアの国を一身に背負ってさぁ」

 

ロージーが呆れながら言うと

 

「こら、ロージー!お姫様にむかって、いくらなんでも失礼だろうが!」

 

ラルゴが注意するが

 

「いえ、よいのです……そのかたがおっしゃる通りですから。ヴァルキュリアとして、このガリアと共にいきるのが、わたくしの宿命なのです……」

 

淡々と答えるが

 

「……それは逃げではないでしようか?」

 

コーデリア姫の後ろから現れたのはパンサーだった。部下の3人もその後ろにいた

 

「えっ?」

 

目を見開き、驚いた声を上げる

 

「姫が言う『宿命』……これがどれ程の重荷なのかは私には分かりません。ですが、それを理由に自分が『意志』を持つことから逃げていませんか?」

 

コーデリア姫の正面に立ち、眼を見て話す

 

「おい!パンサー!お前まで何を言い出すんだ!」

 

パンサー物言いにラルゴが注意するが

 

「この国の人達は、皆強い意志をもっています。帝国に追い込まれた状況にめげず、必死に祖国を取り戻そうとする『意志』。それを支えようとする人達の『意志』を私はこの目で見ました」

 

自分達を受け入れ、共に戦うことを誇りに思ってくれる人達がいる。見知らぬ異世界に飛ばされ、心が擦り減っていた彼等にとってはこれ以上になり救いであり、確かな『意志』を感じた

 

「困難が立ちふさがっても……それを前にしても進み続ける『意志』こそ……人が持ち得る『意志』なのではないでしょうか?」

 

堂々とした立ち振る舞いで言い切ると、コーデリア姫の表情は悩みに満ちていた

 

「姫は宿命を背負ったヴァルキュリア人なのかもしれません。昔から伝わる定めや仕来りも大事なのも分かります。ですが、自分の人生を生きようとする『意志』を捨てるのは間違っています」

 

言い切ると、ラルゴがパンサーの肩を掴む

 

「おいパンサー、いい加減にしねぇか!」

 

これ以上は見逃せないのか、力ずくで止めとしたが

 

「……あなたの言われるとおり、わたくしは知らず知らずに逃げてきたのかもしれません古えからつづく血統の中で、自分がどう生きるべきかを、考えることから」

 

パンサーの言葉に何か感じる物があったのか、コーデリア姫が語り始める

 

「真っ直ぐに自分の考えを話せる貴方を、恐れずに自分の『意志』を貫く貴方を、とてもうらやましく思いました。 わたくしも、もう一度……考えてみたいと思います。自分の『意志』で」

 

その表情は人形のような無機質なものではなく、何かを決めた表情になっていた

 

「……姫ならできます。国民に出来て姫に出来ない通りなど無いのですから」

 

そう僅かに笑みを浮かべながらパンサーは言った

 

「あいがとうございます。パンサー中尉」

 

心から礼を言うと、お腹が鳴った

 

「あうっ……」

 

突然の事にコーデリア姫は顔を真っ赤にする。それを見たパンサー達は笑みを浮かべ

 

「だれか、食べ物を持っていないか?」

 

パンサーが周りを見て聞くと

 

「さっき焼いたシナモンパンがあるわよ!」

 

アリシアが先程のバーベキューで作ったシナモンパンを持っていた

 

「どうぞ、コーデリア姫」

 

パンを1つ取ると、コーデリア姫に渡した。貰ったパンを持つと、それを食べた

 

「はじめて食べましたが、とても美味しいですね」

 

その顔は花が咲いたかのような笑みだった

 

「彼女のパンは、本当に美味しいですからね」

 

ウェルキンが頷きながら言うと、周りも笑いながら同意した

 

「よし、ではランドグリーズへ帰還するぞ!」

 

パンサーが撤収準備をするように指示をだす

 

「すみませんが、姫。余り乗り心地はよくないですが……」

 

先程無線でハンヴィーを持ってこさせてた。後部座席に乗せようとパンサーは手を差し伸べた。コーデリア姫は笑みを浮かべ、その手を取りながら後部座席へと乗った。その隣にパンサーが乗り、運転席と助手席にダスティとベガスが乗る

 

デュースは一人歩きであるが、イーディと一緒なのを見たパンサーが苦笑いをして、そのまま走って付いてこいと意地悪をする

 

デュースが文句を言うが、それを無視して

 

「よし、出発だ!」

 

第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)はランドグリーズへと向かった

 




今日が誕生日でまた歳を取ってしまったな......

そんなことは置いといて、今回のコーデリア姫の説教は無理やり過ぎたかなと不安です......そこら辺やそれ以外の事でもって感想お待ちしてます


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水着回

大分みじかいです……


コーデリア姫の拉致を防ぎ、ガリアから傭兵に勲章を授与すると異例の連続を叩きだすことになった

 

そんな彼らがいる場所は

 

「今日は絶好の海水浴日和だな」

 

そう、焼けた砂浜、広がる青い海、風にっのてくる潮の香、ギラつく太陽、彼等はいま海にきていた

 

正確には姫の救出にて活躍した第7小隊と独立遊撃隊が緊急招集を受けた。その内容が、これまでと今回の頑張りの褒美に特別休暇が言い渡された

 

そして、コーデリア姫からランドグリーズ大公家御用邸の敷地にあるプライベートビーチの使用許可を得られたのだ

 

故に一帯にはゴミ1つなく、他の人間は誰1人といなかった

 

「いやぁ、あの姫様も粋な計らいをしてくれるじゃねぇか」

 

砂浜にシートとパラソルを用意していた男たち、その中でマザーが地平線を眺めながら嬉しそうに言った

 

「まったくだな、海へ遊びに行くなんてご無沙汰だったしな」

 

ブードゥーもマザーの横にならび久々の海で遊ぶのにワクワクしていた……のだが

 

「いや~、さすがプライベートビーチなだけあって綺麗だなぁ。こんなに自然が残されている海辺は貴重かもしれないぞ」

 

ウェルキンが地平線を見ながら嬉しそうにする。水着が個性的なのはまだいい……だが戦車でビーチにくるのかよとエーデルワイス号を見ながらアメリカ兵達は思った

 

なんだかんだで、皆がおもいおもいに楽しんでいると

 

「あの……ウェルキン……」

 

ウェルキンを呼ぶ声……その声に男共が振り向く

 

「おおおおお!」

 

そして雄叫びである。海にきてならではのお目当て……それが女性の水着姿である。最初に現れたのはアリシアだ

 

「この水着……ロージにすごく薦められて、思わず買っちゃったんだけど……ちょっと、あたしには大胆だったかも……」

 

その水着姿は白のビギニ。彼女の魅力を十二分引き出していた。男共が、ウェルキンをアリシアの真ん前に突きだして、その様子を生温かく見守っていた

 

「う……うん。すごくいいと思う……よ」

 

ウェルキンはアリシアの水着姿に見とれて、テレながら水着姿を褒める

 

「本当に!」

 

アリシアがウェルキンに詰め寄る。その光景を冷かしながら見守っていると

 

「……そう!シロツバサカモメみたいで素敵だよ!」

 

その言葉に場が固まる。ウェルキンが指さした方向にはカモメが飛んでおり、その褒め方は無いだろ……とアメリカ兵達は落胆しながら溜息をはく

 

「シロツバサカモメ……白が鮮やかでいいよね」

 

まさかの会話続行である。既にそんなウェルキンの性格に慣れたんだなとアメリカ兵達が勝手に解釈をしていると、ビーチボールがウェルキンの頭に直撃する

 

「なーに、デレデレしてるんだよ!隊長さん!」

 

飛んできた方向を見ると、また男たちが声を上げる。その人物はロージでありワンピースタイプの水着にサングラスを装着していた。その後ろから女性陣が現れる

 

ビギニにセパレート、ワンピースにスク水と種類は様々だが、全てが美女・美少女でありアメリカ兵達は歓喜の声を上げながら指笛などを鳴らしていた

 

「期待通りの反応だな」

 

それを遠目で見ていたデュースとパンサーはその光景をみてわらっているが、その反応に女性陣が尻込みをしている様子だった

 

流石にそこまでは見逃せないと、騒ぎを落ち着かせるために向かおうとすると

 

「あ~らここに、な・ん・て!素晴らしい筋肉が集まっているのぉ~!」

 

アメリカ兵の集団の中から体をクネクネさせてブーメランパンツを履いたヤン・ウォーカーが出現した

 

そして、ヤンが傍にいたレンジャーとマリーンの尻を撫でて、掴む

 

「おうふ!」

 

そんな誰得な声を上げるレンジャー隊員とマリーン。そして、その光景にその場が凍りつき、次に狙われるのではという恐怖が伝染し、彼等は背中に怖気が走った

 

「総員退避!」

 

誰かが叫ぶ。その声と同時に全員が其々に別々の方向へ逃げる。無論、尻を掴まれたレンジャーもマリーンも逃げていた

 

「あ~ら、逃がさないわよ!」

 

さすが対戦車兵だけであって、その筋肉は本物であり、足の速さが凄かった

 

「こっちにくるな!あっちにお前好みのがいるぞ!」

 

指さした方向に逃げている集団があり、その中に好みのがいたのか獲物を変更する

 

「うわぁぁぁぁ!俺に近寄るなぁぁぁぁ!」

 

迫りくるヤン(オカマ)に叫び声を上げて逃げる。その中で、一人が砂に足を取られてこけた。直ぐに逃げようとしたが……背中に粘り付く様な視線とそれに対する拒否反応がおこる

 

恐る恐る振り向くと、最高の笑顔で両手をワキワキしているヤンの姿があった。倒れたマリーンの新人が必死に後ずさる

 

「やめろ……くるな……頼む、こないでくれ……」

 

その目は半泣きであり、恐怖に歪んでいた。身体つきは良く、粘り強い性格の彼はマリーンでも期待の新人であった……故にヤンの標的にもなっていた

 

「あなたも、い・い・お・と・こ」

 

そうウィンクしながら言うヤンを見て新人は

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

その叫び声が虚しく響いた

 

「……」

 

その一部始終をみていたパンサー達は心底あそこに行かなくてよかったと思っていると

 

「デュースさん……」

 

ゲッソリとした気分のデュースが振り向くと、そのゲッソリした心が癒された

 

「ど、どうですかしら……」

 

そこにはスカイブルーのビギニを着たイーディが顔を赤らめて立っていた

 

「あぁ……お前がいてくれて本当によかったよ……」

 

デュースが心の奥底から感謝し、イーディの姿を見たパンサー達も癒された気分になった

 

「な!あ……う……」

 

まるで愛の告白かと勘違いをするイーディ。無論、デュースはそんなこと微塵も考えていない

 

「あ、あたりまえですわ!この私が着ているのですから!」

 

強がりを言いながらお嬢様笑いのポーズをする

 

「そんなことより、泳ぎに行きますわよ!」

 

デュースの手を引いて、イーディは海へと駆けだした

 

その様子を見た後に、マザー達の特殊部隊メンバーがラビットの方を見る。そこにはスージーに言い寄られながらも、若い隊員たちの悩みを聞いたり、そのついでに一緒に遊んだりと随分楽しそうだった

 

レンジャー達がホモォ…(ヤン)に追いかけられているのに。まぁ、そんなことしるかとマザー達もビーチバレーをしている若い隊員達に混ざりに行った

 




本当は7月事件に混ぜようと思ったのですが、思いのほかに長くなって別々にしました


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13話 ファウゼン解放戦

薄暗く、山の中にチラホラと見える電灯。その中に居住用の建物が並ぶここは、ガリアの工業都市・ファウゼンである

 

工業都市と言う名の通り、高い生産能力を誇りガリア国内の生産の大半を賄っていたが、ここを帝国軍にとられてからガリアの生産能力はガクッと落ちていた

 

その帝国軍の勢力圏内であるファウゼンの入口付近を巡回中の帝国兵がいた

 

「たく、ここまで油臭くて堪らないぜ」

 

悪態をつきながら、相方に同意を求める。最近はガリアが巻き返しをしているが、あれ(・・)があるかぎりここは攻められないと油断していると

 

「おい、どうし……」

 

まっても返事が返ってこないから振り向いた。そこには地面に倒れている相方と、血がベットリと付着したナイフを持った見たこともない装備をした男の姿だった

 

一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、直ぐに緊急事態だと理解しライフルを男にむける。だが、向けようとした瞬間に何かで首を絞められた

 

「……!……!」

 

締め付けを緩めようと足掻くが、首の肉に食い込んで取れず、叫ぼうにも首を絞められて声が出ない。動脈も絞められ頭に血が行かずに、帝国兵は白目を向いて失神した

 

2つの死体は、谷底へと投げ捨てられた

 

《エネミー、クールダウン。クリア》

 

無線で連絡をすると、後ろから駆動音が聞こえてくる。岩陰から現れたのは第7小隊とトマホーク02を主力としたデルタ&レンジャー部隊だった

 

サイレントキルをしながら前方の偵察をしているのはレンジャーのスナイパーチームである。近くにあったトロッコに乗り目の前にいたスナイパーを消して、射撃ポイントにスタンバイする

 

《こちら、スナイパーチーム。射撃ポイントに到着、指示を待つ》

 

無線連絡が入ると

 

《こちら、ウルフパック1。敵スナイパーを排除し待機せよ》

 

指示を出した後にパンサー達が前進を開始する。狙撃ポイントにいるレンジャーは居住区域の上の崖に陣取っており、まだトロッコにいた仲間がやられたことに気付いていない

 

手前の1人に照準を合せ、引き金を引く。飛翔した弾丸はヘルメットを貫通し即死させた。次弾装填の為にコッキングレバーを引く、チャンバーから弾き飛ばされた空薬莢が煙を上げながら地面へと落ちた

 

サプレッサー付きのM24は音も閃光も軽減され、撃たれたことに他の帝国兵達が気付いていない。その後に2人の狙撃兵を排除すると、遠くにある橋から帝国戦車の砲門が見えた

 

「やばっ!」

 

直ぐにスナイパーチームはその場から離れる。下へと降りていく途中に帝国戦車から榴弾が発射され、先程までいた地点に着弾した。

 

《おい!大丈夫か!》

 

その光景にパンサーは急いで無線を繋いだ

 

《大丈夫です!前方に敵戦車!数は1、居住区域に突撃兵2を確認!》

 

スナイパーチームの無事と、状況の報告が入る。直ぐにエイプラムスが橋の上まで行き敵戦車に砲口を向け、エーデルワイス号が突撃兵のいる地点に榴弾の照準を合す

 

敵戦車と突撃兵を片付けるが、目の前にサーチライトがあった。そして橋の所にも対戦車地雷が設置されており、突破するには時間が必要だった。故に歩兵のみでの殲滅戦に切り替える

 

破壊した戦車のある橋を渡ると、敵兵がトロッコの前にいたのでこれを排除。第7小隊の突撃分隊とデルタが同行し、目の前の橋に陣取っている対戦車兵と戦車の後ろをとる

 

突撃分隊が上の敵兵を排除している間に、デルタが戦車の背後に周り、ダスティとベガスが対戦車兵を排除。デュースがラジエーターにラグナイト爆弾を設置してタイマーを起動させる

 

岩陰に隠れて爆発するまで待つ。そして、時間が来ると敵戦車は大爆発を起こして撃破された

 

戦闘を終了させ、下にあるダルクス人の協力者がいるという収容所まできた。その中にはボロ雑巾のように使かわれているダルクス人達がいた

 

「なんてこった……」

 

その惨劇にラルゴも息を飲み、冷や汗が流れた。ロージーがベッドの柱に隠れていた女の子に近づくと、女の子は逃げてテーブルにいたダルクス人の背後に隠れた

 

「なんだ、お前さん達は……どこから入ってきた?」

 

頭にダルクスの伝統的な布を巻き、片目を閉じた男が問う

 

「俺達はガリア軍の者だ。ここに義勇軍の協力者がいると聞いて来たんだが」

 

パンサーがそう言うと、男は安心したように溜息を吐いた

 

「……驚かすなよ、俺がその協力者だ」

 

男が椅子から立ち上がり、顔を合わせた

 

「ザカだ、よろしく頼むぜ」

 

ザカはウェルキンと握手すると

 

「で、お前さん達は?」

 

パンサーの方を向いて何者かを尋ねる。正規軍でも義勇軍でもない格好をしているのだから仕方ないと言える

 

「俺達は独立遊撃隊の人間だ」

 

その説明でザカは少し驚いた表情をする

 

「あんたらがか……噂は此処まで届いてるぜ。曰くガリア軍が最精鋭揃いの傭兵集団を雇ったと」

 

そう言い握手しようと手を伸ばす、それにパンサーは応じて握手した。すると、ザカは女の子の頭を撫でながら大事な話があるからと寝るように言った

 

その姿をロージーが何かを思いながら眺めていると

 

「あの子の両親は酷い拷問をうけてね……」

 

そこから先は察せた。この場にラビットがいなくて、ある意味よかったとデルタの面々は思った。この話を聞けば、彼の逆鱗に触れることになるからだ

 

「よし、作戦の話に移ろう。こっちに来てくれ」

 

暗い話はここまでとして、ザカは作戦の話をする

 

「ファウゼンの向上地帯は、渓谷に沿う形で低層と高層に分かれて広がっている」

 

テーブルの上に地図を広げて、指をさしながら説明する

 

「帝国の装甲列車は高層に張り巡らされた線路を相呼応して、砲撃をしてくるはずだ」

 

地図の上の線路をなぞる。ここに攻め込めない理由の1つである装甲列車の存在は基地内のブリーフィングでも知らされていた

 

「こちらの攻撃が届かなければ、手も足も出ないな……」

 

ウェルキンが射程圏外からのアウトレンジ攻撃に頭を悩ませると

 

「そこで、こいつの出番だ」

 

ザカがある物を取り出した。四角い鉄の塊でタイマーが付いている

 

「ラグナイト爆弾だ。帝国の連中の眼を盗んで少しずつ材料を集めて造った物だ」

 

爆弾……そこから導きだせる答えは1つだった

 

「線路の爆破か」

 

答えを当てたパンサーにニヤリとしながら首を縦に振る

 

「そうだ、鉄橋にこいつを仕掛けて、その上に装甲列車が来た時に……ボンッとな」

 

手で、爆発するジェスチャーをする。確かにこれならば装甲列車を谷底に落せる

 

「爆弾の設置はオレに任せてくれ。お前さん達には帝国の防衛部隊の駆逐と爆弾の起爆を頼みたい。俺が設置して退避したら爆弾に銃撃して鉄橋を爆破するんだ」

 

ザカの説明を聞き、ウェルキンは頷く

 

「設置しに行くときには俺達から護衛チームをだす」

 

鉄橋に行くまでの護衛をレンジャーの部隊に任せようとパンサーは考えていた

 

「お前さんの所から出してくれるなら、こりゃ安心だな」

 

噂に聞く部隊の実力を目の前で見れるといい、笑った

 

作戦時間まで休憩をしていると、ザカとロージーの話し声が聞こえてきた。歌の話をしているかと思えば、ダルクス人が何故ダメなのかと聞く

 

「この世には色んな人種がいる。それぞれ特徴があって、ひとりひとり違って。人間も歌と同じように、それぞれに良さがある……オレはそう思うよ」

 

そう笑って言う。強いな……そう思いながら黙って聞くパンサー達

 

「それぞれに良さがある……か。そうよね」

 

アリシアもどこか嬉しそうに言うと

 

「カブトムシって世界中には1300種類もいて、その種類の数だけ特徴があるんだよ。人間もそれと同じだと思う」

 

その言い分はどうかと思うが……実にウェルキンらしいなと思っていた

 

「おまえさん……はーっはっはっは!いやぁ、面白い奴だなぁ。人間と昆虫を同じ土台で考えてしまうなんて!」

 

虫の話にザカは笑う。変わった男だな……と思うなか、面白い男であるなとも思っていた

 

「あんたらも、仲良くやっていこうぜ」

 

座って目をつぶり休憩をしているパンサー達の方を向いて笑いながら言うと

 

「ダルクスの人間は物を作るのが得意とらしいな。お手製の爆弾の威力、楽しみにしておくぜ」

 

ダスティが顔を上げ、笑みを浮かべながら答える。その笑みは侮辱や差別などに使う見下した笑みではなく、友に向けるような笑みだった

 

「おう、威力はお墨付きだ。任せといてくれ」

 

ザカも笑みを浮かべて答えた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

夜が明け、日が昇る……作戦開始の時間となった。両部隊が行動を開始し、鉄橋が目の前に見える位置にまで接近していた。だが、そこに行くためには配置されている帝国兵を排除する必要がある

 

「隊長さんよ、1つ頼まれてくれねぇか。まず北西にある橋を爆破して欲しいんだ」

 

ザカがウェルキンに橋を爆破してくれと頼む

 

「そうすれば、敵の増援を食い止められるし、そのスキに俺は鉄橋まで近づくことができる」

 

敵の増援が止められるのは重要であると言うことで、目標が北西の橋にとなった

 

「分かった、爆破の方は頼むぞ」

 

一緒に聞いていたパンサーがそっちの仕事をこなせと励ますと

 

「まかせとけ、この日のために入念に下調べはしておいたんだ」

 

ここで仕事をしていて、入念に調べ、地理に詳しい彼なら問題ないと判断する

 

「それに、そっちの護衛も随分優秀そうだしな」

 

レンジャーからの護衛チームはジム・パターソン軍曹率いるチームで、その実力はお墨付きであった。今彼等は武器の最終チェックをしている

 

「彼等なら問題ない。作戦開始だ」

 

パンサーの声と共に作戦が開始された。目の前の橋を進んでいくと装甲列車に各拠点にいる帝国兵に橋を防衛する戦車などの大部隊がいた

 

「ふん!汚らわしいガリアの狗共め……この『エーゼル』を……ここを守る私に勝てると思っているのか」

 

装甲列車『エーゼル』に乗っているベルホルト・グレゴールが作戦開始をしたガリア軍の動きを見ながら言う

 

「280mm榴弾砲用意!」

 

その声を聞き、帝国兵たちが急いで準備にかかる。すると、グレゴールが様子を見ていた望遠鏡にガリア軍の戦闘服とは別の服を着た集団がいた

 

それがガリアの雇った傭兵部隊であると気付く。そして、クローデンの森から帰ってきたイェーガーが恐ろしく場馴れした熟練の兵であると言っていたのも思い出す

 

「……たかが、傭兵のハイエナなんぞに恐れることなど無い」

 

驕っている訳ではない、ただ……この世界の基準で考えていたのだ

 

「風は北西に60m、空気は乾燥している」

 

橋を進む中、スナイパーチームが橋の上から敵兵を狙っていた

 

「撃て」

 

観測手の合図に狙撃手が引き金を引く。すると、土嚢に隠れていた突撃猟兵の頭が風船のように破裂した

 

狙撃手が持っている銃はM24ではなくM82A1……対物ライフル(アンチ・マテリアル・ライフル)である。土嚢程度では銃弾を防げるはずがなく、そのまま貫かれたのだ

 

まさか橋の上からの狙撃なんて考えてもいなかった帝国兵はあせる。この場所は渓谷で、風が強く狙撃には難しい場所で、よっぽど命中精度の高いライフルが必要になる。更に、土嚢越しに撃つ殺されたことからかなりの大口径で、対戦車ライフルで撃ってきたのかと訳の分からない状態になっていた

 

北西の橋に主戦力が進み、そちらを警戒している隙に爆破チームが橋を護衛している戦車の後ろをとる。傍にいた対戦車兵を撃ち殺し、それに気付いた戦車が砲塔を向けるが

 

「アダムス!やれぇ!」

 

アダムスがもっていたM72LAWが敵中戦車のラジエーターに直撃、爆散する。その光景をみたザカがあまりに衝撃的な光景に笑みをこぼす

 

「はじめてみた武器だが……凄まじい威力だな!」

 

対戦車槍みたいなゴツイ武器でなく、小さな筒からあれ程の威力がでるなんて予想もしていなかったのだろう

 

「まぁな、それで次はどっちだ」

 

使い捨てのLAWをその場に捨てると、M249を手に持ちザカに道を聞く

 

「あぁ、こっちだ」

 

進もうと思ったが、その時に爆音が響く。装甲列車から撃たれた榴弾砲が自分達のいた橋に命中し、大爆発を起こした。既に橋を渡り切っていたスナイパーチームはその威力に冷や汗を流す

 

だが、再装填と照準には時間が掛る。順調に作戦が進んでいると誰もが思った……だが

 

「チッ!」

 

ロージー達の突撃分隊が目の前の陣地に弾幕を張られて手間取っていると、レンジャーの一人がM4に付いているランチャーで陣地を吹き飛ばす

 

「GO!GO!GO!」

 

陣地を吹き飛ばしたのを見て、レンジャーの分隊長がロージー達に前進しろと言う。すると突撃分隊が前進する中、側面から帝国兵が現れてロージー達を攻撃し始める

 

それをレンジャーが応戦するが

 

「あう!」

 

足に銃弾が掠り、突撃兵のリィンが転倒する。転倒した場所を装甲列車の榴弾砲が狙っているのに気付いたレンジャーが

 

「カバーしてくれ!」

 

そう叫び、リィンの元に走りだす。それに分隊全員が弾幕を張り、援護する

 

「大丈夫か!?」

 

全速力で走り、リィンに肩を貸す

 

「大丈夫、銃弾が掠っただけです」

 

足から血が流れてるものの、当たっては無かったので血の量も少ない。急いで目の前の吹き飛ばした陣地に向かおうとするが、レンジャーが装甲列車を方を見ると……榴弾砲が放たれた瞬間だった

 

その音にリィンも顔を上げ、その表情は絶望に染まっている。そして、レンジャーは腹を括り

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

リィンの両腕を持ち、一回転させてロージー達がいる陣地に投げた

 

「痛っ!」

 

背中から地面に落ちたリィンは声をだすが、何が起こったのか一瞬分からなかった。

 

「逃げろ!ロバート!」

 

名前を呼ぶ声に、リィンは投げられた方向を見る。そこには、投げた格好のまま笑っているレンジャーの隊員が……榴弾に巻き込まれた

 

その光景はリィンやロージー達、レンジャーの分隊は目を見開いたまま固まった

 

《榴弾着弾、状況報告》

 

パンサーが榴弾が着弾したことによる被害の状況確認の無線をいれていた。他の部隊に負傷者なしだが、ロメオ分隊の隊長が無線機を取り

 

《……こちらロメオ分隊、ロバート伍長がKIA。繰り返す、ロバート伍長KIA」

 

その連絡に、銃を撃っていた者、マガジンを交換していた者、先に進もうとした者全てのアメリカ兵が固まった。無線から聞こえたKIA報告、KIA……つまり戦死者が出たのだ。この世界に来て初めての死者が出たのだ

 

その衝撃に固まっているが、戦況はまだ続いている。銃撃音を聞いたアメリカ兵達が動きを再開した

 

ロメオ分隊は目の前で文字通り吹き飛ばされたロバート伍長の場所を越え、ロージー達がいる陣地へと向かう。そこには茫然としたリィンの姿があったが、それを無視して先に北西の橋に向かい

 

「フラグアウッ!」

 

分隊長がラグナイト製フラググレネードを橋に向かって投げる。その爆発で、橋は吹き飛んだ

 

《こちらロメオ分隊!北西の橋を破壊!》

 

目標を達成し、後は鉄橋に爆弾を設置し起爆するだけとなった。ロメオ分隊が陣地へと身を隠しに行くと、リィンがまだ立ち直っていなかった

 

「いつまでそうしている!ここは戦場だぞ!」

 

分隊長がリィンの両肩を揺らす。リィンの目には涙が溜まっており

 

「あそこで……私が撃たれなければ……」

 

自分を責めるような発言をするが

 

「そんな考えに意味はない。ロバートはレンジャー隊員だ、死を覚悟で戦場に来ていた」

 

いくら精強なレンジャーであろうとも撃たれれば死ぬ人間であり、前にいたアフガンでも戦死者は決して少なくなく、今まで誰も死んでいなかったこの状況が異質なのだ

 

「そんな所で泣いている暇があったら銃を持ち帝国兵に向かって撃て!」

 

そう言うと、ロメオ分隊が先に進む。その後をロージー達突撃分隊も続き、その中には表情は暗いがリィンもついてきていた

 

「おい!まだか!」

 

ザカが爆弾を設置している最中、パターソンの分隊が帝国兵と応戦中であった。設置が完了するまでその場を動けなく、アダムスがM249で弾幕を張るが、その多さに参っている

 

「くそ、まだいやがるのか!」

 

ヘルナンデスが帝国兵の頭を撃ち抜き悪態をつくが

 

「よし!完了だ!」

 

ザカの報告にアダムス達は「やっとか」と感じていた。実際は1分ぐらいであったが、その1分は銃撃戦では10分以上に感じていたのだ

 

《ザカだ。爆弾の設置が完了した。退避したら銃撃で爆破してくれ》

 

無線で爆破設置完了の報告が入る。狙撃ポイントで援護していたスナイパーチームが、爆破用の狙撃ポイントへと向かう

 

その間にアダムス達が急いで退避する。ある程度離れて、大きな岩の後ろに隠れると

 

《いいぞ!爆破してくれ!》

 

パターソンが無線で退避を報告。そのまま爆破を頼むと、狙撃手がM82で爆弾を撃った

 

「何だ今の爆発は?」

 

グレゴールが北西の橋が爆破した頃、爆発音の原因を聞いた

 

「はっ!どうやらガリア軍が北西の橋を爆破した模様です!」

 

部下が状況を報告する

 

「何だと?小賢しい真似をしおって!」

 

明らかにグレゴールの表情が険しくなる

 

「よし、作業リフトの電源を入れろ。偵察兵を向かわせ、性格な状況を報告させるのだ」

 

それが無駄に被害を大きくすると思う筈もなく指示をだす

 

「いかに足掻こうが、この装甲列車に攻撃は通じぬ。じっくりと嬲り殺しにしてやろう」

 

そう言うが、望遠鏡で戦況をみると此方が不利なのは一目瞭然だった。戦車砲も対戦車槍も弾き返す装甲の戦車に、帝国兵が殺され前線が後退していっている

 

その前線にいるのが件の傭兵であり、その錬度はイェーガーの言う通りだった。望遠鏡を握る手が強くなる中、偵察兵が状況を確認するために前線へと行くが、その途中で上半身と下半身が泣き別れする光景をみた

 

その他にも頭が破裂したり、上半身に風穴を開けて倒れたりする偵察兵の姿にグレゴールは対戦車ライフルでの狙撃と判断し、狙撃兵を探す

 

狙撃兵がいた所には傭兵が800m以上離れた位置から対戦車ライフルで狙撃する姿があり、こちらが見た時には物陰へと移動していた

 

その錬度、その度胸、傭兵と言って侮ればこっちがやられる。ハイエナと言って馬鹿にしたが、奴らはまるで大きく翼を広げた鷲のような強さを誇る兵士であった

 

「(イェーガーの言う通り……傭兵と侮れる相手ではない)」

 

冷静な判断でアメリカ軍が最も恐ろしい相手と認識し、榴弾の標的を変更しようとした時には既に遅かった

 

「な、何だ、この振動は!?状況を報告せよ!」

 

突然、装甲列車が揺れ始めたのに驚き、状況確認をすると

 

「わ、わかりませんが……鉄橋が……鉄橋が崩れています!」

 

部下もかなり驚いており、報告する声も震えていた。報告が終えると、帝国兵は叫び声を上げながら落ちていく

 

「な、なぜだ!この装甲列車は、帝国の威信そのもの!帝国の威信が崩れることなどあってなるものかっ!」

 

装甲列車が落ちていく中、グレゴールは必死に今の状況を否定する

 

「やつらか……奴らのせいなのか!」

 

グレゴールの脳裏に浮かぶのはアメリカ兵の姿であり

 

「傭兵風情が帝国の脅威になるなどと……なるものかぁぁぁぁぁぁ!」

 

その怨念を含んだ叫び声と共に装甲列車『エーゼル』は渓谷へと落ちて行った

 

「あばよ、グレゴール……」

 

落ちていく様を見て、ザカが呟いた

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

装甲列車を渓谷に落とし、一段落したと思ったら、中隊の方からダルクス人収容所に火が放たれ、辺りが火の海であると報告してきた

 

それに驚いた両部隊は急いで収容所に向かうが……そこには焼け焦げた収容所しか残っていなかった

 

「どうして……こんな事を……」

 

あまりにも悲惨な光景を目にしてアリシアは茫然として呟いた。他のメンバーも同じく、その悲惨さを目の当たりにして悲痛な表情をしている

 

戦争を経験しているアメリカ軍は民間人が虐殺される光景は見たことがある……といっても納得できるはずもなく、悲しみよりも怒りを露わにしている

 

「こんな建物に無理やり押し込めて……火を放つなんて……どうして……」

 

茫然な表情から悲痛な表情へと変わり、火を放った理由が全く理解できなと嘆く。するとロージーが焼け焦げた収容所に近づき……ある物を見つけて茫然とする

 

それは女の子が持っていた人形であり、そこにあることから既に女の子は焼け死んだのだと理解できた。それを見たパンサー達が民間人の……それも年端もいかない女の子を殺した帝国兵に明確な怒りを露わにしている

 

「まだ10歳にも満たないような……女の子を殺すのかよ」

 

拳を握りしめ、怒りが口から洩れるかのように言うデュースに

 

「もはや人間じゃねぇ……ウジ虫以下だ」

 

同じくブチ切れているダスティも呟く

 

「こんなことしやがった奴は誰だ!あたいがとっ捕まえてぶち殺してやる!」

 

ロージーも完全にブチ切れしていたが

 

「やめておけ……」

 

それを嗜めるように声をかけたのはザカだった

 

「……なんだって」

 

人形を握りしめ、ロージーが睨みつける

 

「やられたらやり返す……暴力には暴力……それじゃぁ、争いは終わらない」

 

ザカは焼け跡の中へと進む

 

「例えダルクス人だという理由で迫害されようが、俺達は誇りを持って生きている。俺達は……報復しない、それがダルクス人の生き方なんだ」

 

その胸には決して消えない真の誇りがあるようにザカが言う

 

「ダルクス人の……生き方……」

 

ロージーは再び人形に目を向ける。言いたいことは分かる。だが、それで何人の人が納得できるのだろうかとパンサーが思っていると、ザカが焼けた柱を持ち上げる

 

「憎しみを抱いても、報復しても……誰も救われない。自分に出来ることを、ひとつずつ確実にやっていくしかないんだ」

 

そう言い焼けた柱を退ける。再び柱を持ち上げようとした時に、誰かの手が見えた。ザカが顔を上げると、アダムスが反対側を持っていた

 

「退けるんだろ、早く上げろ」

 

そういい持ち上げると、ザカも持ち上げる。それを見たレンジャーが全員動き、瓦礫を退けていく。その中にはパンサー達やイサラもいた

 

イサラが持ち上げようと頑張っていると、ロージーが持ち上げるのを手伝った

 

「ロージーさん……」

 

その姿にイサラが驚き

 

「ロージー、ありがとう」

 

ザカは感謝の言葉をいった

 

「生存者がいるかもしれない!みんな手伝ってくれ!」

 

それを皮切りに、ウェルキン達も瓦礫の撤去作業に加わっていった




ここまで読んで頂きありがとうございます

昨日、やっと新型PSvitaを購入しましたwこれでゴッドイーター2の発売日が待ち遠しんですが……メモカ高すぎじゃね?

32GBの買おうかと思ったら普通に6000円超えや5000円超えばっかで、唖然となりましたよ。妥協して16GBにしようとしても3000円代だし、ソニーさん頼むから独自規格でもいいので値段下げてくださいよ……これじゃvita購入者が増えないはずだよ


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14話 慰霊

今回もかなり短いです


ファウゼン解放後、両部隊が基地に戻った翌日……彼等は墓地にいた

 

ロバート伍長が吹き飛ばされた付近で残っていたのは、破損したヘルメットと片腕のみだった。あの榴弾で、身体の一部が残っていることが奇跡である

 

ロバート伍長の片腕が入った棺桶の上に、星条旗を広げたロメオ分隊と、棺桶の頭の方に第75レンジャー部隊の隊長であるフォード少尉がいた

 

初めての死者で、祖国(アメリカ)に持ち帰ることが不可能なこの状況……故に自分の祖国と思い、戦っているこのガリアの地に埋めることになった

 

葬儀に参列しているのは、隊舎のパトロールを残したアメリカ兵士に第7小隊の全メンバーに加えて、第1小隊といった基地にいる第3中隊のメンバーも参列している。助けて貰ったリィンに幼い故によくしてもらったアイシャ、長い付き合いであったアリシアにイサラが涙を流していた

 

ロメオ分隊とフォード少尉は数少ない礼服を着用している。そして、レンジャー隊員の4人がボルトアクションライフルを手に持っていた

 

完璧な葬儀とはならないが、せめて安らかに眠ってもらいたく、可能な限りアメリカ式の葬儀を行っている

 

葬儀屋の店主も、独立遊撃隊の人間と聞くと格安で高級な棺桶を用意しってくれ、花屋の主人も葬儀用の花を用意してくれた

 

人種も国も違う人間なのに、ここまでしてくれることにアメリカ兵達は感謝をしていた

 

そして、葬儀が開始される。キリスト教徒であるアメリカ兵が持参している聖書の一節を読み、各部隊長に分隊長が弔辞を述べる。その時にアメリカ兵達は全員敬礼をし、それにつられて第3中隊のメンバーも敬礼をする

 

聖書の祈祷を言うなか、少し離れた場所にいるレンジャー隊員の一人が

 

「レディ」

 

声を出すと、4人のレンジャー隊員が空に銃口を向ける

 

「ファイア」

 

その指示と同時に、空へ空砲を撃つ。それに続き、2発、3発と撃つ。撃ち終わると、号令と共に控え銃をして直立する

 

4人が身体と並行になる様に銃を持つ。そして、ラッパ手が永遠の別れを告げる為に奏する

 

最後の祈りの終えると、星条旗を三角形に折りたたまれていく。綺麗に折りたたまれた星条旗は分隊長に渡される

 

本来ならば折りたたまれた国旗は遺族に手渡されるはずだが、遺族はこの世界にいない。だから、分隊長が元の世界に戻った時に遺族に手渡すのだ

 

そして、分隊の仲間が棺桶に金属でできたレンジャーの部隊章を棺桶の上に置く。その上から拳で叩き、張り付ける。分隊全員がそれをすると、レンジャー全員が一言ずつ語りかける

 

「お前はレンジャーの誇りだ」や「親御さんにお前の活躍をしっかり報告してやる」など一人一人が別れの言葉を掛ける

 

すると、ウェルキンが棺桶の前までやってきた

 

「僕からも……いいですか?」

 

真剣な表情でフォード少尉に尋ねると、フォード少尉は静かに頷いた

 

「あなたの勇気ある行動のおかげで僕の仲間は無事生き残ることが出来ました。ブルールから今まで守ってくれて、このガリアを自分の祖国の様に愛してくれた」

 

一言ずつ噛みしめる様に言い

 

「第7小隊の皆だけじゃなく、他の小隊の皆や民間人の人達も救ってくれて……」

 

そして、その眼から涙が零れる

 

「本当に……ありがとうございました!」

 

涙を流しながら敬礼をする。その言葉、その眼差しは感謝と敬意を表したものであると誰もが思った

 

「わたしからも……」

 

その後にアリシアが続き、ラルゴ、ロージーと第7小隊のメンバーも別れの言葉を言った。特にイサラやアリシアといったブルールからの付き合いがある人達は涙を流し感謝の言葉を言った

 

「最後に……」

 

黙って見守っていたバーロット大尉が前に出てくる

 

「コーデリア姫より伝言があります」

 

言われた人物の名前に皆が驚く。国のトップから傭兵の1兵士に言葉があると言うのだから

 

「自分の命を捨ててまで民の命を救ってくださったのには感謝しきれない。どうか安らかに眠れんことを……とだ。それと」

 

コーデリア姫からの伝言を言い、懐から勲章を取り出した

 

「これもコーデリア姫からの贈り物だ」

 

その勲章はファウゼン解放戦従軍章……ファウゼンの解放へと導いた者に送られる勲章だ。これは第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)の為に作られた勲章である

 

「よう。俺は、あんたの仲間に守ってもらった身だから言える……あんたほどの兵士が俺達の同胞を救ってくれてありがとう」

 

その言葉はザカが言ったものだ。ファウゼン解放後にザカは義勇軍へと入隊し、第7小隊の戦車兵と配属されたのだ。その時に傭兵であるアメリカ軍から戦死者が出て、葬儀をすると聞き、参列していた

 

アダムス達に護衛してもらったからこそ、ロバートも同じ部隊の人間で高い錬度を誇る兵士であると感じていた。そしてダルクス人であるリィンを自分の命に代えてまで救ってくれたと聞いた時も驚きと一緒に感謝の気持ちでいっぱいになった

 

貰った勲章を棺桶の上に置き、棺桶は穴の中へと埋められていく。祖国では無いが、人の思いを胸に安らかに眠ってくれ……最後までフォード少尉はそう願った

 

棺桶が埋められた場所に墓石が置かれ、その前に花束と破損したヘルメットが置かれていた……そして、墓石にはこう書かれていた

 

 

 

          Robert surface

             SSG

         United States Army

         75th Ranger Regiment 

 

 

 

と、書かれていた。2階級特進し、2等軍曹へとなっていた。たとえ元の世界に帰れなくても、彼がいたという事実を書き残すのだ……



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15話 悲しみを越えて

野原が広がり、森が傍にあり、戦争中でなければピクニックにでも行きたくなるような場所に、そこそこ大きな建物があった

 

まるで洋館のような建物であり、どこかの貴族が住んでいるのではないかと思うぐらい洒落た家であった。しかし、その屋上には似付かない人影があった

 

そう、帝国兵の見張りが立っているのだ。その帝国兵の見張りをスコープ越しに覗いている兵士の姿があった

 

「ラビット、お前は右を殺れ。俺は左を殺る」

 

丘へと昇る坂道の草むらに隠れている2人のスナイパーはマザーとラビットである。ラビットは息を止め、見張りの頭に集中し、そして引き金を引く。放たれた弾丸が見張りのこめかみを貫き、見張りが事切れた人形のように崩れ落ちた

 

もう1人はそれに気づく事無くマザーに撃ち抜かれ、死んでいた。

 

《こちら、マザー。見張りを排除した》

 

無線で連絡すると、下の草むらから4人の人影が現れる。それはパンサー達デルタだった。洋館の正面玄関にいる見張りは既に殺された後だった

 

側面の窓に張り付くと、マザーたちシールズも裏口に周る為に移動する。そして、正面玄関にはウェルキンを含む4人の第7小隊がいた

 

何故、こんな所にいるかと言うのはブリーフィングにまで遡る

 

中隊の会議室に呼ばれた、マザーとパンサーにウェルキンはバーロットの雰囲気がいつもとは違うと感じていた

 

「諸君らには特別な作戦を遂行してもらう。内容は、帝国軍に捕らえられた人質の解放だ」

 

よばれた理由と今回の作戦の内容に可笑しな点はなかった。だが、不自然に感じたのはいつも彼女の後ろにいる筈の副官の姿が見えないことだった

 

「今回は、私の独断で部隊を動かさせてもらう。司令部にも上申していないが、私が全責任を持つ」

 

それにはマザーとパンサーが顔を顰めた。軍の兵士を私事で使うと言うのだからだ

 

「司令部に届けずに、ですか?いったい、どうしてです?」

 

ウェルキンが理由を尋ねると

 

「質問は許可しない。私の言うとおりに行動してくれればいい」

 

バーロットは理由を話さない、それには流石に納得がいかないと

 

「俺達は大尉に返しきれない恩があるから、手伝うのも吝かではない。だが、理由を言ってくれないとどの部隊が適しているか判断できない」

 

マザーが作戦に参加する事態は問題ないが、その理由を話すよう求める

 

「……敵となる帝国部隊は、ファウゼンの敗残兵だ。郊外の洋館に武装して立て籠もっている。そして……ダルクス人の収容施設に火を放った部隊の可能性が高い」

 

その情報にパンサーは眉を動かす

 

「作戦の目的は、人質である民間人の全員救出。そして敵国兵を全員、拘束もしくは……殺害すること」

 

マザーはその様子に少し驚きを感じている。あの冷静沈着であるバーロット大尉が怨みを言うように殺害しろと言ってきたのだから

 

「……」

 

ウェルキンもその様子に驚きを隠せなかった

 

「敵部隊の隊長の名は、ゲルド……ヨルギオス・ゲルド」

 

その名を吐き捨てるかのように言う

 

「第一次ヨーロッパ大戦時にわが軍を虐待し殺害した男だ。遠慮は無用だ」

 

その言葉の節々から怒りを感じ取れていた

 

「……ゲルドだと?おい、まさか……」

 

その場にいたラルゴがその名前に反応する。だが、バーロットは部屋から出て行った

 

そんなブリーフィングがあり、彼等は人質救出の為に少数精鋭が好まれると判断し、シールズとデルタの共同に決定したのだ

 

《こちら、マザー。準備よし》

 

マザー達が裏口に到着した連絡が入り

 

《こちら、パンサー。準備よし》

 

待機しているパンサーも連絡を入れる

 

《こちら、ウェルキン。準備よし》

 

突入班の全部隊が準備完了なのを確認し、バーロットが突入指示を出す。すると、裏口にいたプリーチャーがドアに後ろ蹴りをして吹き飛ばし、窓からはダスティが肘で窓ガラスを割る

 

いきなり屋敷内が騒がしくなり、銃撃まで聞こえてきたのに上の階の部屋に立て籠もっているゲルドがしきりに焦る

 

「な、なんだ!何が起こっているですか!」

 

人質である少女や人質達を盾にしながら、傍にいる部下に怒鳴り散らす

 

「なにがあっても私を守るんです!」

 

そんなことを大声に出しているのだから、場所など直ぐに特定されていた。部屋のドアにパンサーとベガス、隣の部屋の壁にデュースとダスティが爆薬をセットして待機していた

 

その間にマザー達が屋上に上がり、下にえとロープを垂らす。そのロープで部屋の2つの窓に其々配置する

 

《こちら、マザー。突入準備よし》

 

その連絡が入ると、行動にでる

 

「ブリーチン!」

 

パンサーの掛け声と共に爆薬を起爆。ドアの近くにいた者が吹っ飛び、壁の近くにいた者が吹っ飛ぶ。更に窓からも侵入してきて、もはやゲルドは混乱の極みであった

 

それは彼の部下も同じで、突然の出来事に反応できず、全て排除される。ゲルドもブードゥーに拘束されていた

 

「ほら、もう大丈夫だから」

 

人質となっていた子供や大人をマザー達が確保していた

 

《こちら、ブードゥー。ゲルドを拘束した》

 

デュースが無線で連絡する。中に人質がいるのに爆発物で突入できたのも、ブードゥーが先に部屋の中を偵察し、帝国兵の配置と人質の確認を済ませていたからだ

 

彼等を敵に回した時点で、ゲルドは既に詰みだった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「貴様がゲルドか……民間人を戦闘に巻き込むことは、条約違反だが?」

 

ゲルドは後ろ手に拘束され、膝立ちの状態だった

 

「お、お許しください!故郷に帰りたい一心で、やったのです。人質はもちろん、いずれ解放するつもりでした。本当です、信じてください」

 

白々しさを感じながらも、必死に謝るゲルド。だが、部屋の中で人質達を盾として扱っている姿を確認していたことから、ここで逃せば人質を殺される可能性が高かった

 

「黙れ!貴様のような奴の言うことが信じられるか!間違いなく貴様は、人質を殺していたはずだ!」

 

もはや聞く耳など持たないというぐらいに怒鳴りつける

 

「それに、ファウゼンでダルクス人収容所に火を放つよう命令していたことも確認している」

 

それにゲルドは焦り始める。その姿は自分が犯人ですと言っているみたいなものだった

 

「貴様が……」

 

ラビットが拳を握りしめて、ゲルドを睨みつける。デュースから話を聞いていたラビットは小さな女の子がいるのも構わず放火したのを聞いており、今回も女の子を盾として扱っていたゲルドに飛び掛からん雰囲気である

 

さらに、デュースやダスティといった他の面々もゲルドを睨みつけ、拳を鳴らしている。いつでも殴り殺す準備が出来ていると言わんばかりに

 

針のムシロの状態であるゲルドは冷や汗が止まらなく、キョロキヨロしている

 

「貴様は、裁きを受けなくてはならない。ヨルギオス・ゲルドを銃殺刑に処す!」

 

ホルスターから拳銃を取り出し、ゲルドに向けたバーロットにその場の人間がぎょっとする

 

「ば、バーロット大尉!捕虜を勝手に裁判にかけ処罰することは禁じられています」

 

ウェルキンがバーロットを止めようとするが

 

「構わん!私自らが処刑する。全責任は私が取る!」

 

今にも撃ちそうなバーロットはウェルキンの言葉を聞こうともしなかった

 

「そんなことをしたら大尉は解任されてしまいます!」

 

アリシアも必死に止めようとするが

 

「それがどうした!私は、この男を殺すために生きてきたのだ!私がフレデリックにしてあげられるのはそれしかない……それしかないのだ!」

 

引き金を引こうとした……が、ラルゴがバーロットにビンタを食らわした。それにバーロットが唖然とする

 

「やめるんだ……エレノア」

 

ラルゴは真剣な表情でバーロットを見ていた

 

「ラルゴ……どうして?どうして止めるの!?この男は、フレデリックを殺したのよ!私たちの……かけがえのない仲間を!」

 

止めたラルゴに食いかかる

 

「無残に、虐待されて死んだフレデリック……あなたは悔しくないの?可哀想だと思わないの!?」

 

それは誰にも言わなかったバーロットの本音であった

 

「もちろん、悔しいさ。俺だって、この手でこいつを殺してやりたい」

 

バーロットの思いをラルゴは否定しない……だが

 

「フレデリックはそれを望んでいると思うか?お前が罪に問われることを、望んでいると思うか?」

 

親友で共に戦った戦友だからこそフレデリックが何を望むかが分かるように言う

 

「あの頃……3人でよく話したよな?平和で、安心して暮らさるガリアを作ろうって。フレデリックはきっと……今でもそれを、望んでいるはずさ」

 

昔を懐かしむように悲しく微笑ながらいうラルゴ

 

「ラルゴ……」

 

バーロットは憎しみに満ちた表情でなくなっていた

 

「お前が軍隊に残ってきたのは、こいつに復讐するためじゃない。今、ここで……未来へ歩き始める自分を取り戻すためだったのさ」

 

その言葉を聞いてバーロットは泣いた

 

「うぅ……うわぁぁぁっ!」

 

今まで背負ってきた後悔と憎しみが溶けていくように涙を流す

 

「泣くなよ……エレノア」

 

ラルゴが涙を流すバーロットを慰める

 

「俺でよかったら……これからもずっと……見守っててやるからよ」

 

まるで愛の告白のように慰めの言葉を掛ける

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ヒヒヒヒヒ……やっと味方の陣地に戻ってこられましたね」

 

帝国に占拠されているギルランダイオ要塞の前にゲイドがいた。最低限、人道的な扱いを受けていたが、階段転げ落ちたり(・・・・・・・・)足を滑らせたり(・・・・・・・)とアメリカ軍に護送してもらっている際に不幸な怪我をしている以外は無傷だった

 

「一時はどうなることかと思いましたが、ガリア軍も甘い、甘い」

 

顔に青アザを付けながら呟き、門の前まで行くと

 

「止まれ!何者か?」

 

門の警備をしている帝国兵に止められる

 

「ヨルギオス・ゲルド大尉です。捕虜交換で、解放されて戻ってまいりました」

 

帝国式の敬礼をしながら名乗ると

 

「……貴様が、ゲルド大尉か。ダルクス人以外の民間人を人質にとったそうだな」

 

その兵士は上級兵士であり、現場ではゲルドより上の人間であった

 

「さらに一次大戦においては、捕虜を虐待した罪で禁固刑に処せられた。間違いないか」

 

ゲルドの罪を並べていく

 

「え、ええ……しかしそれは、昔のことで……」

 

いきなり自分の罪を再確認されたことに戸惑っていると

 

「総司令官のマクシミリアン殿下は軍規に厳しい。今回の件、ことのほかお怒りだ」

 

総司令官の怒りをかった……これがどういう意味かゲルドでも分かった

 

「貴様はこれより軍法会議にかけられる。厳しい刑も覚悟しとくんだな」

 

それを聞いたゲルドが焦る

 

「そ、そんな!」

 

まるで信じられないという表情をしている

 

「連れて行け!」

 

上級兵士の傍にいた帝国兵がゲルドを拘束する

 

「や、やめろ!放せ!」

 

ゲルドはそれに抵抗するが、無意味である

 

「いやだ……死にたくない!俺はまだ、死にたくないんだー!」

 

無様に足掻くその姿は、まさに滑稽であった……もしかしたアメリカ兵に私刑されていた方がマシだったのかもしれない

 




さて、マルベリーを期待されていた人は申し訳ありません

すぐにマルベリー戦を書こうと思ったのですが、この断章は唯一CQBが書ける話なので、現代戦でCQBのスペシャリストがいるのだから書かなくては思いまして……

なるべく早めにマルベリー戦を書くよう努力します


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16話 マルベリー攻略戦

「うむぅ……」

 

会議室にてマザーは頭を悩ませていた。そこにはウェルキンとアリシア、ラルゴといった下士官にラビット達の姿もある

 

頭を悩ませているのは今回の作戦である。目標はガリア北部海岸地帯であり、そこは遮蔽物のない砂浜に切り立った断崖に挟まれた進行ルートを通る必要があった

 

断崖には機関銃座が備えられており、十字砲火が容赦なく降り注ぐのだ。遮蔽物のない砂浜では足を踏み入れただけで穴あきチーズか挽き肉の出来上がりである

 

これにはマザーもオーバーロード作戦のオマハビーチみたいになると考えていた

 

「スモークはあるんだが、数がな……」

 

戦車に積んであるスモークディスチャージャーやスモークグレネードは確かにある。だが、それは数が限られており、ディスチャージャーに関しては1~2回しか使えない

 

「あそこを突破するのにはスモークか銃座の破壊しかない……迫撃砲を使うか?」

 

トラックに積まれていたムジャヒディンの陣地破壊用の迫撃砲がある。だが、弾数も少なく生産には時間が掛り、優先度が低いから使用は控えていた

 

「そうだな、機銃陣地破壊に最適ではあるしな。弾数も今まで使ってこなかった分、余裕もある」

 

プリーチャーの提案にマザーが頷き、その案で行こうかと思ったが

 

「あの!」

 

それにイサラが待ったを掛けた

 

「私に考えがあります」

 

席を立ち、マザーとウェルキンの方を見ながら言う

 

「今開発中のモノを実用化できれば犠牲者を出さずに進めます」

 

どうにも開発中の何かに相当自信があるみたいだ

 

「次の戦闘までに間に合うのか?」

 

当然、次の海岸線の戦いに間に合うのが条件である

 

「はい」

 

イサラが力強く頷く。内気な彼女がここまで自身満々に答えるのだから、相当な秘策があるのだとマザーは判断した

 

「いいだろ、その開発物に期待させてもらう。こっちもスモークと迫撃砲も準備しておく」

 

迫撃砲には榴弾と照明弾が合わせて60発あるが、発煙弾が一発もないのが悔やまれるなと思いながらマザー達が会議室から出ていくと

 

「まってください」

 

後ろからイサラが呼び止める

 

「どうしたの?」

 

ラビットがイサラに尋ねると

 

「これを」

 

イサラから手渡されたのは手作りの人形であった

 

「本当は皆さん全員に渡したかったのですが、人数が多くて……ですから、今回一緒に行くラビットさん達だけでもって」

 

人形は4つあり、それぞれに手渡された

 

「これはお守りみたいな物か?」

 

ブードゥーか人形を見ながら尋ねると

 

「それは精霊節に渡す贈り物です」

 

精霊節?とマザー達が疑問に思うと、イサラが説明してくれた。何でもガリアに住んでいる妖精や精霊達が愛を交わす日とされており、好きな人や大切な人に贈り物をするのが習慣となっているらしい

 

「なるほど、バレンタインのようなものか」

 

マザーが納得したように頷くと

 

「バレンタイン?」

 

それにイサラが首を傾げる

 

「こっちの世界の精霊節みたいなのと思ってくれればいいよ」

 

ラビットが軽く説明をする。それに納得したイサラは

 

「その人形は、ダルクスに伝わるお守りなんです。一緒に戦ってくれるラビットさん達にお渡ししたくて」

 

その贈り物を自分達にまでしてくれることに感謝しながら

 

「ありがとう。大切にさせてもらうよ」

 

ラビットがそういい、マザー達も各々に礼を言って隊舎に戻っていった。その傍ら……

 

「デュースさん、これをどうぞ」

 

満面の笑みを浮かべたイーディがデュースに包装された箱を差し出していた。一緒に歩いていたダスティ共々なにごとかと頭を捻っていると

 

「明日は精霊節なので、今日プレゼントするのですわ!」

 

精霊節の説明を受けて、納得した2人。ダスティがデュースを冷やかしながらも礼を言って受け取るデュース

 

「いま見ても?」

 

この場で箱を開けてもいいかと、尋ねると

 

「もちろんですわ」

 

いつも通り、自身満々に答えるイーディに苦笑いしながら箱を開ける。その中にはカップケーキが入っていた

 

「本当はチョコケーキを作りたかったのですが、食材が不足がちな今の状況ではそれが精一杯でしたので」

 

笑顔から申し訳ない表情へとなるイーディ。だが、デュースはカップケーキを1つ取り出し、食べる

 

「……美味い」

 

その一言。その一言でイーディの表情が180°逆転する

 

「しかし意外だな……てっきり料理なんか人任せなんだと思ってたが」

 

イーディの性格から家庭的な事は苦手かと思っていた

 

「そんなことありませんわ。最近はよくアリシアさんとパン作りをしたり、お菓子作りなんかもしてますわ。それに、料理は女性の嗜みですもの」

 

それは当たり前だと言わんばかりに言う。そして、彼女が人一倍の努力家であることを思い出す。ダスティにあげてもいいかと尋ね、許可をえる

 

「……おぉ、これは美味い。こんな美味い菓子は久々だ」

 

ダスティもカップケーキの出来に舌鼓を打つ。デュースも何か渡そうかとしたが、あいにく今は渡せる物は無かった

 

「すまないが、お返しは作戦後でいいか?」

 

それにイーディは頷き

 

「では後日に。楽しみにさせてもらいますわ!」

 

そうスキップでもしながら帰るかのような上機嫌で隊舎に戻っていた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

そして翌日。離れた所に戦車を隠し、フォース・リーコン隊員が断崖の状況を偵察していた

 

《こちら、スカウト・チーム。断崖の両側に機銃座を確認、まるでノルマンディーみたいだ》

 

無線からの報告が入る。その声は若干強張っており、それだけ機銃陣地の配置が厳しいものだと判断できる

 

「今回はエーデルワイスに加えて俺のシャムロックもある。派手に暴れ回ってやるぜ」

 

この戦闘にはエーデルワイス号、エイブラムスに加えてガリア軍19式軽戦車『シャムロック号』もあった

 

「イサラ、例の開発物は?」

 

マザーがイサラの方を見ると

 

「はい、既に出来ています」

 

実物の砲弾を机の上に置く

 

「これは煙幕弾です。爆風や時間経過で消えてしまいますが、これを使えば安全に進むことができます」

 

その報告にマザー達が驚く

 

「そんなのを完成させたのか」

 

これで、スモーク兵器を使う必要性が減ることは嬉しい誤算である

 

「では、先方はエーデルワイス。側面は俺達とシャムロックで固める、いいな?」

 

大体な配置と攻略法を指示し、作戦が開始される

 

先行して進むエーデルワイス号に機銃が集中して降り注ぐ。だが、流石に戦車の装甲は貫けないが後続の歩兵には脅威である。そして、エーデルワイスから海岸を進行方向に煙幕弾が放たれる

 

突然、煙幕が目の前に現れたことに驚く機銃陣地にリーコン隊員が迫撃砲の照準を合せる

 

「右に40、仰角25」

 

目標までの距離と角度を計算し、指示する。一人はその通りに動かし、もう1人は砲弾の準備をする

 

「準備よし!」

 

角度の設定が完了し、榴弾を持った兵士が砲の中に入れる。そして、角度を合していた兵士が引き金を引いた。何かが跳ねるような音と共に飛んでいく、そして重力に従い落ちていく。その落ちていく先には機銃座があり着弾。その音からは予想もしない爆発をして機銃座を吹き飛ばした

 

その威力に驚いた顔をする第7小隊のメンバーだが、対戦車兵はもう一つの機銃座を煙幕の中から破壊する

 

その勢いに乗って海岸を突破する

 

「お前達!海兵隊の底力を見せてやれ!」

 

フォース・リーコンの隊長であるラミレス中尉が大声を出して、敵の陣地へと走る

 

「ウ~ラ!」

 

それに続くように他の隊員達も走る。1人が前方にスモークを投げ、そこに目掛けて走る。その姿には第7小隊のメンバーは唖然とした後に、追いかけていく

 

いくら軍隊といえど、子供や女性といったメンバーが約3分の1のいる第7小隊にはこの勢いが無い訳ではない。だが、選抜され鍛え抜かれた武装偵察隊(フォース・リーコン)を前にしてはその勢いに飲まれるのだ

 

「エネミーダウン!」

 

エコー分隊の一人が目の前の陣地にいる対戦車兵を撃ち殺す。だが、その陣地は抵抗が激しく中々反撃できない状態だった。グレネードを投げ込もうかと思った時に後ろから駆動音が聞こえた。その方向からシャムロック号が現れ、徹甲弾で陣地を吹き飛ばす

 

「撃て!撃て!」

 

これを好機としたエコー分隊長が指示をだし、自分も帝国兵に向けて撃つ。分隊が陣地から無理やり吹き飛ばされた帝国兵を撃ち殺す

 

「助かった!」

 

シャムロック号の装甲を叩き、感謝する

 

「すまないが、随伴してくれ!これより先は抵抗が激しそうだ!」

 

ザカがエコー分隊に随伴するよう頼む。さきほどから対戦車兵の攻撃が集中しており、先に進むのが難しかったのだ

 

「了解した!よし、行くぞ!」

 

シャムロックを基軸とした機動部隊が敵の前線へと攻撃を仕掛ける

 

「あいつらに後れを取るな!」

 

他の分隊もそれに続き、エイブラムスとエーデルワイスに随伴している第7小隊も前へと出る

 

「弾種、煙幕。てっー!」

 

ウェルキンの指示を出し、煙幕弾が抵抗の激しい箇所に放たれる。目の前の機銃トーチカからの攻撃が弱まり、持っていたSMAWをトーチカに向けて発射。命中したのか大爆発が起こる

 

命中したのに喜びながらロケット弾コンテナを取り換える。すると目の前から敵重戦車があらわれる

 

「エネミータンク!インカミン!」

 

一人が叫ぶと、即座に伏せた。すると頭上を通り越して、後ろの断崖に当たる。それを見たリーコン隊員は直ぐに無線を入れる

 

《こちら、ゴルフ分隊!敵重戦車を確認、排除してくれ!》

 

対戦車兵器はまだあるが、極力使用を控えるよう言われている。だからこそ目には目

 

《こちら、トマホーク02。了解した、直ぐ片付ける》

 

戦車には戦車である。無線を入れた分隊の斜め後方からエイブラムスが道を進んで現れる。エイブラムスが重戦車の正面を向くと、装填完了した重戦車が撃ってきた

 

だが、何かにぶつかる大きな音と共に砲弾が弾かれる。まさか重戦車の砲撃を弾き返されると思っていなかったのか、慌てて後退するが

 

「目標捕捉!」

 

「てっー!」

 

既に捕捉されていた重戦車はエイブムスの砲弾を正面から食らい、一撃で撃破された。それを見た帝国兵は信じられない表情をしながら後退していく

 

「よし!いくぞ!」

 

目の前の脅威が排除され、前進あるのみである

 

「大分進んだな」

 

帝国軍の拠点と敵戦車を撃破し、残すは後退して籠城の構えをする帝国兵と断崖に出来た機銃陣地、恐らくいるであろう敵戦車を残すのみであり、その機銃陣地の近くの陣地にいるマザーが言う

 

「あの砲台は厄介ですね」

 

携行の対戦車兵器はあるが、トーチカの破壊や陣地破壊でそこそこ使用しており、迫撃砲はまだ後方にある。迅速的かつ効果的に行う為に、トーチカの破壊をすぐに行いたい所であるとラビットは考えていた

 

「なら俺達の出番だな」

 

すると、その後ろからラルゴが率いる対戦車兵達が現れる

 

「あの機銃陣地の目を潰すことは出来ないか?そしたら後は俺達に任せな!」

 

その自信は長年戦場にいた経験からくるもので、信用に値するものとマザーは判断する

 

「俺達がスモークを機銃座の目の前に投げる。そしたらお前達は陣地の方へ走れ、歩兵は俺達が排除する」

 

その提案にラルゴは頷いた。マザー達は今もっている有りっ丈のスモーク・グレネードを投げる。4人分のスモークの濃度が凄く、機銃座からは下の様子がまるで見えなかった

 

「GO!GO!GO!」

 

身軽なマザー達シールズが先に走り、陣地に身を隠し、帝国兵を排除する。目の前には拠点を守る2台の戦車がいた

 

「撃て!撃て!撃て!戦車までの道を作るんだ!」

 

4人は帝国兵を必死に排除していく。後退してきた帝国兵もいて数は多い。だが、任されたのだから、それを確実にこなす

 

「フラグアウッ!」

 

ラルゴ達の到着に合わせて、フラグ・グレネードを投げて陣地と帝国兵を吹き飛ばす

 

「すまねぇ!後は任せな!」

 

ラルゴがマザー達に礼を言い、それにサムズアップして返事を返した

 

「いくぞ!野郎共!せっかく作ってくれたチャンスを無駄にするなよ!」

 

対戦車槍を構えながら戦車に接敵する。そこには女性も含まれているがそんなもの関係ない。今あるのは戦車をぶっ潰すという熱意だけである

 

戦車も機銃を撃つが、そんなもので彼等を止められる筈がなく

 

「ぶちかませっ!」

 

ラルゴの合図と共に一斉に対戦車槍が放たれる。数の暴力に戦車の装甲が耐えきれるはずがなく、2台の戦車は爆散した

 

最後の拠点を占拠したのはラルゴ達、対戦車兵だった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦闘を終え、各部隊の被害を確認と現場での修理と治療を行っていた

 

前回の戦闘でレンジャーの1人が戦死、今回の戦闘ではいつも以上に気を引き締めて挑んだ結果、重傷者はいるものの命の別状はなく、死亡者は0であった

 

その結果にホッとするマザーは今回の被害者数などの確認に回っている。その中、エーデルワイス号の点検をしているイサラにロージーが話しかけた

 

「……これ、約にたったよ」

 

そういいながら取り出したのは、イサラが作ったお守りの人形である

 

「その人形……もってくれたんですか?」

 

最初渡した時は強く拒否されたが、いま彼女が持っているのに驚いていた

 

「アンタがお守りだって言ったんじゃないか。人形のお返しをしなくちゃな、何でも欲しい物を言ってみなよ」

 

ロージーがイサラに礼を言っている光景を周りにいるメンバーが珍しそうな顔をし、ウェルキンとアリシアはその光景を温かく見守っていた

 

「そうですね……私、ロージーさんの歌が聴きたいです」

 

笑みを浮かべながらイサラが欲しいものを言う

 

「え?アタイの……歌?」

 

その返答は予想外だったのか、驚いた表情をする

 

「はい、歌が好きだって仰ってましたよね。ロージーさんの歌、聴いてみたいです」

 

改めてロージーの歌が聴きたいとイサラが答える

 

「わかった……約束するよ」

 

それに頷いて了承する

 

「イサラちゃん」

 

すると、後ろからラビットとブードゥーがやってくる

 

「これのお返しを聞いてなくてな、何でも好きなのを言ってくれ」

 

ブードゥーがイサラから貰った人形を取り出して笑いながら言う。すると、ラビットがロージーの手にイサラの人形を持っているのに気付いた。その目線に気付いたロージーが慌てて隠す

 

「……昔、僕の祖国でも差別がありました」

 

ラビットがポツリと言う。それにロージーはラビットの方を向いた

 

「肌の違いで差別をして、迫害の歴史がありましたし、いまでもそういう団体がいます」

 

祖国であるアメリカで起こって、現在も続いている問題を話す

 

「その時に一人の男性が立ち上りました。彼の名はキング牧師」

 

ラビットの言葉にその場の人間が耳を傾ける

 

「彼は徹底した『非暴力主義』を貫き、彼はどんな困難にも負けず、そして法の上でおける人種差別を終わらせることができました」

 

それにはダルクス人であるイサラやザカが驚いた。まさか、差別を非暴力で勝利した人物がいるなんて聞いたこともなかったのだから

 

「僕にも様々な友人がいます。……人に手を差し伸べるのは難しいかもしれない、だけど差し伸ばされた手を取るのは難しくはないと思います」

 

そういいラビットはロージーが持っている人形を見た。ロージーも人形に視線を向け、イサラの方を向いた。そこには優しい笑みを浮かべたイサラがおり、ロージーの表情は憑き物が落ちたような表情であった

 

その光景を見てラビットはよかったと思ったその時、首筋が疼いた。これは戦場で走り回ったラビットが得た勘のようなものであり、アフガンでも何回か首筋が疼いたことがあり、嫌な予感がする時によくおこった

 

ラビットはすぐに当たりを見回す、すると視界に太陽光が反射する光が見えた。咄嗟の判断であった……イサラの手を引き、自分の後ろに倒す。そして……銃声が響いた

 

その銃声が止むと、ラビットは地面に倒れた。その光景を見たロージーは信じられないモノを見たような表情だった

 

「スナイパー!」

 

すぐに状況を察したブードゥーは大声で叫び、ラビットをエーデルワイス号の陰に隠した

 

「ラビットさん!ラビットさん!」

 

ラビットの下敷きになっていたイサラは状況を把握し、ラビットを揺する。だが、ラビットはピクリとも動かない

 

「メディック!メディィィィィック!」

 

ブードゥーが衛生兵を呼ぶ。イサラは動かないラビットを涙目になりながら必死に揺さぶる。その間にも銃声は聞こえていた

 

「ラビットさん!目を開けてください!」

 

その場にはスージーや第7小隊のメンバーが護衛として集まっていた

 

「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

その銃声の中、イサラの悲鳴が響いた

 



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17話 ブルール奪還戦

帝国の増援部隊を文字通り殲滅し、いそいで基地に戻った翌日

 

アメリカ軍が滞在している隊舎の食堂にて

 

「いやぁ、あれは焦あせったね」

 

普通にラビットが食事をしていた。結論から言うとラビットは死んでいなかった。スナイパーの銃弾は防弾プレートにて殆ど威力を失い、狙撃銃だからこそ貫通したものの、何時も身に着けている『兎の足』の金具で銃弾が止められていたのだ

 

だが、撃たれた反動で後ろに倒れ、イサラが持っていたスパナに後頭部が直撃。撃たれたショックと後頭部の直撃により気を失っていただけであった

 

メディックが状態を見た時に血が流れていないのにすぐ気づき、ただ単に気絶しているだけと分かった。だが、周囲は慕われているラビットが撃たれたことに阿鼻叫喚となっていて報告が遅れていたのだ

 

「まったく、もうあんなことは勘弁してくれよ」

 

対面に座ってるブードゥーが溜息を漏らす。実際、アフガンの戦闘でラビットが徐々に死んでいく様を見ていた親友の彼からしたら心臓が止まるかのような出来事であった

 

「だけど、あの時庇わなかったらイサラちゃんは撃たれてたぞ」

 

ラビットが言うことは最もである。あの時、ラビットが咄嗟に庇うことが出来なかったらイサラは急所を撃たれて死んでいた。そしてそのショックは瞬く間に義勇軍に広がり、士気の低下は免れなかったであろう

 

「だからって、お前が死ぬ必要があるってことじゃないんだぞ」

 

ブードゥーが真剣な表情でいう。ラビットがもし死んでいたら、彼を慕っている第7小隊の隊員やアメリカ兵達にもショックを受けることは間違いなかった。アメリカ兵達は既にレンジャー隊員が1人死んだことに大きなショックを受けているのだからこれ以上は看過できないことになる

 

「わかっよ、なるべくこういう無茶はしないって」

 

プレートのポテトを食べながら言う。無論、無茶をしないなど言えない、彼等は特殊部隊の人間なのだから無茶な行動しかしないと言っても可笑しくないのだ

 

「はぁ……とりあえず、お前の無事に」

 

そういい、ブードゥーは傍に置いてあるビンビールを持つと、ラビットもビールを持ち、無事の生還に乾杯する

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「これより作戦会議を始める」

 

義勇軍基地の会議室。そこには第3中隊の小隊長達とパンサーの姿があった

 

「パンサー中尉、負傷した隊員の容体は?」

 

ラビットが死んだという噂が義勇軍に流れ、第3中隊の人間は驚き、それを確かめようと情報収集していたぐらいだ。実際、ラビットが目を覚ましたのは基地に搬入された翌日であり、死んだように寝ている姿をみて噂が本当であったと勘違いした者もいた

 

「問題ありません、大事をとって今回の作戦からは外しますが」

 

無事なのと、アメリカ軍の士気低下が見られないことを確認し

 

「では、これより次の作戦を伝える。今回、私は攻略目標をダモン将軍に上申し許可を得た」

 

バーロットがあのダモンに上申するほどの場所とはパンサーが思考を巡らせる

 

「わが義勇軍の次の攻略目標は国境周辺の都市・ブルールとする」

 

その発表に会議室がざわめく。特にウェルキンが一番驚いており、パンサーも少なからず驚いている

 

「中隊はブルールを包囲。第7小隊と独立遊撃隊には街中心部に突入し、風車塔広場を占拠してもらう」

 

ブルール……そこは初めてウェルキン達と出会った思い出深い地であり、この世界に足を踏み入れた最初の場所でもある

 

「この作戦は穀物の生産と酪農が盛んであるブルールは、収穫時期を控え、この拠点を奪還できれば工業生産に続き食糧不足も好転できると考えている」

 

今のガリアが攻勢に転じているが、戦線が広がるにつれ食糧不足が目立ってきていた。だからこそバーロットは(ガリア)が優先度を低く見ているブルールの奪還を上申していた

 

「帝国軍のブルール防衛部隊には中規模な戦車部隊も確認されている。十分に気を付けてくれ」

 

第3や第4小隊の隊長から激励をもらうウェルキンとパンサーはこの作戦を確実に成功させる熱意を持っていた

 

「できました!」

 

場所は変わり、アメリカ軍の格納庫ではクライスとリオンがエイブラムスの作業をしていた

 

「なんとか間に合ったか」

 

トマホーク02の戦車長が確認をしていた

 

「焼尽薬莢ですか?これほどの技術は今のガリカ工廠では実現不可能ですからね。なんとか自動排莢装置を付けれましたよ」

 

そう、エイブラムスの主砲である120mm滑空砲は撃てば薬莢が焼けて無くなる焼尽薬莢を採用しており、この技術は今のガリアどころか帝国、連邦でも無理だと言われていた。そこで通常の薬莢を自動で排莢する装置を付ける必要があった

 

渋りに渋っていた上層部もやっと120mm徹甲弾を作り始めていたのだ。威力は劣化ウラン弾に比べて格段に落ちるが、それでもその大口径の砲弾なら通常仕様の重戦車までなら一撃で破壊可能な規格外である

 

「撃った後の空薬莢はここの坂になっている部分を滑る様に移動して、砲塔後部から自動的に排出されます」

 

戦車内でクラウスが実際に空薬莢で実践してみせる。そこにはパイプを半分に割ったような形のを、滑る様に移動して、薬莢の重さで開くハッチから外に排出され、自動的にハッチがしまった

 

「素晴らしい、これで薬莢の問題と砲弾の問題も消えたな」

 

車長は実に上機嫌で答える。砲弾も残り半分ぐらいまで減っていたし、2台による全力出撃は後3,4回が限度だったのだ

 

「それは……よか……たで……す」

 

説明が終わり、クラウスはフラフラしながら車内で倒れ、寝た。3日間の徹夜作業でモノにしてくれたのだから仕方ないといえる。車長じゃクラウスを担ぎ、外にでた

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ついに……ブルールに戻ってきたな」

 

戦車の上から壊された家屋を見ながらウェルキンが呟く。初めて異世界で戦闘し、初めて異世界の住人にであったこの場所

 

「ブルールを脱出してから、5ヶ月ぶり……」

 

あの日から経過日数、それをアリシアの言うと「もう、5ヶ月になるのか……」とレンジャー隊員の一人が呟いた

 

この世界に来て5ヶ月、元の世界に戻る手がかりを得れずにいるまま既に半年近く経過していたのだ。何人かのアメリカ兵士はこの世界に骨を埋めることになると考えており、既に1人はこの地に眠っているのだ

 

「でも……戻ってきました。このブルールに」

 

イサラは再びこの地に戻ってこれたことには違いないと感じていた

 

「あの日、お前と会ったのが5ヶ月前とはな……時が経つのは早いな」

 

ダスティがウェルキンと出会ったあの日の事を思い出している

 

「あの時は焦ったぞ、イサラが帝国兵2人に銃を向けてたんだからな」

 

デュースがイサラを救ったあの場面の説明を聞いて、アリシアは驚いた

 

「イサラ、そんな危ないことしてたの!?」

 

まさかウェルキンの家まで帝国兵が乗り込んでいたとは思ってもみなかったのだ

 

「その時に、デュースさんが助けてくれましたので。でも、その時は銃を持った不審な人にしか見えませんでしたけど」

 

それを聞いて周りが笑い、「そりゃないぜ」と苦笑いをするデュース

 

「さぁ、お喋りはここまでだ。そろそろ作戦時間だ、各員チェック」

 

パンサーが腕時計を見て、時間なのを確認。各員の武装のチェックをするよう指示する

 

「取り戻すんだろ、お前の故郷を」

 

ウェルキンの方を見ながらパンサーが言うと、ウェルキンは力強く頷く

 

「これより作戦を開始する!第7小隊、出撃する!」

 

号令と共にウェルキンが戦車に乗り込み

 

「行くぞ!ロバート伍長の雄姿を忘れるな!」

 

レンジャーが総出で出撃しており、アルファ分隊隊長のフォード少尉も号令をだす

 

「フ~ア!」

 

その号令にレンジャー全員が返事をする。こうして戦いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

 

「スナイパーを確認!10時の方向の屋根の上!」

 

既に街の中で戦闘が始まっており、そこには帝国兵の狙撃手が多数陣取っていた。レンジャー隊員の1人がランチャーを狙撃兵がいる所に向けて発砲、狙撃手のいる屋根の上で爆発がおきた

 

「スナイパー排除!」

 

その報告と共に、突撃猟兵へと昇格した第7小隊の突撃分隊が進行する。大通りにはエーデルワイス号とエイブラムスが共に進行している

 

「目標捕捉!」

 

「てっー!」

 

トマホーク02から120mm徹甲弾が発射される。風車塔の前に陣取っている戦車を破壊するが

 

《前方に対戦車地雷を多数確認。その場で待機してください》

 

支援兵からの無線連絡がはいる。戦車が足止めを食らっている間に脇道から攻めるが、その脇道に陣地を構築し帝国兵が防衛に徹する

 

「撃て!撃て!応戦しろ!」

 

チャーリー分隊が倒壊した家屋に身を隠しながら、陣地に攻撃をする。ガリア軍の前線と帝国軍の前線とがぶつかり合い、混戦となっていた……だが

 

「エネミーダウン!」

 

ブラボー分隊の1人が帝国兵を排除する。市街戦はレンジャーの訓練で嫌と言うほど訓練し、実戦もこなしてきた。相手がゲリラ戦法ではなく、正面からの殴り合いな分、錬度の高いアメリカ軍の方が有利であった

 

「フラグアウッ!」

 

陣地に向かってラグナイト製手榴弾を投げる。土嚢で出来た陣地は吹っ飛ぶが

 

「シット!塹壕まで掘ってやがる!」

 

手榴弾を投げたレンジャー隊員は吹っ飛ばされた陣地の後ろに塹壕で出来た陣地の2段構えに悪態をつく。だが、これで立ち止まるような彼等ではない

 

第7小隊の迫撃槍手が塹壕の場所にえと照準を合す。その間の援護にブラボー分隊と偵察兵、突撃兵が援護をする。そして、迫撃槍が弧を描くように飛んでいき、塹壕にへと命中した。塹壕内に隠れて応戦していた帝国兵はラグナイトに吹き飛ばされたか焼かれて排除された

 

「よし!いくぞ!」

 

ブラボー分隊が先に行き、それに続く形で第7小隊のメンバーも続く

 

「エネミーダウン、クリア」

 

デュースが壁際に隠れていた帝国兵を後ろから銃で撃ち抜き、その音で気付いたもう一人の喉にナイフを突き刺し、切り裂いて排除する。ハンドサインで来るようサインを出すと、角に隠れていたパンサー達とアリシア、イーディといったメンバーが出てくる

 

「イーディ、あの陣地にいる敵兵を排除できるか?」

 

デュースが角の斜め先にいる陣地に隠れながら応戦している帝国兵を指さす。そこは帝国兵の拠点であり、できれば土嚢を壊さずにそのまま防衛用に利用しようと考えていた

 

「問題ありませんわ」

 

イーディはその問いに問題ないと頷く。前なら傍にある死体に驚き、狼狽え、敵兵に反撃されるものならパニックに陥っていた彼女も今では立派な兵士となり、この程度では動揺しなかった

 

角からイーディが飛び出す。目指すは拠点の陣地であり、走ってくるイーディに帝国兵が気付く。それをデュース達が援護をするが、イーディを狙って撃ってくる。しかし、その程度の攻撃では彼女は止まらない

 

「くらいなさい!」

 

マシンガンの下部に付いている火炎放射器を薙ぎ払う。突撃猟兵となったイーディは火炎放射器装備のマシンガンを使うことができ、それにより陣地を破壊せずに帝国兵だけを排除したのだ

 

「拠点、占拠しましたわ!」

 

帝国の旗からガリアの旗へと変わり、陣地にへとデュース達が向かう。すると

 

《こちら、デルタ分隊。目の前の敵の抵抗が思ったよりも激しい!こちらの迫撃槍も弾切れで身動きが取れない、援護を要請する!》

 

無線から苦戦している分隊の援護要請がはいる

 

《こちら、パンサーだ。目標地点は?》

 

敵が陣取っている場所を聞くと

 

《場所はX(エックスレイ)-13だ!》

 

無線からは軽機関銃の発砲音を響かせながら場所を位置を言う。地図を確認すると、ちょうど家を挟んだ向う側である

 

《こちら、パンサー。ここからなら支援砲撃ができる。その場に待機しろ》

 

デルタ分隊に指示を出し

 

「アリシア、あの家の左の窓の方にライフルグレネードを向けろ。着弾地点は家の向う側の約5mだ」

 

アリシアが持っているライフルにはライフルグレードが付いており、軽迫撃砲の様に上に向けて撃ち、弧を描くように着弾するのだ。丁度、帝国兵のいる地点はライフルグレネードの射程圏内で、狙い撃ちできるのだ

 

パンサーの指示する通りにグレネードを構え、左の窓より少し左よりに撃つ。気の抜ける音と共に宙へと飛んでいき、家を屋上辺りで重力に従い、落ちていく。家の反対側へと落ちていき、着弾音が響いた

 

《こちら、デルタ分隊。支援感謝する!》

 

どうやらグレネードが命中したようで、無線から連絡が入った

 

「よくやった、次に向かうぞ」

 

命中させたことを褒め、プランBのルートを進んでいった

 

支援兵による地雷撤去作業が終了し、これを機に一気に敵本陣にへと攻勢を仕掛ける

 

「GO!GO!GO!」

 

アルファ分隊のフォード少尉が突撃指示をだし

 

「オーダー発令!各員、一斉に攻め込むんだ!」

 

ウェルキンがオーダー『一斉攻撃』を発令する。進行方向にスモーク弾を撃ち込むのも忘れない。視界が塞がれて、一気に攻め込もうとした時、そのスモークが榴弾で吹き飛ばされた

 

何事かと思うと、本拠地から敵重戦車が一台現れた。ハッチを開き出てきた人物を見て、ウェルキンやデュースといった一部の人間は驚いた。その人物はあの指揮官であった

 

「私は帝国軍ブルール防衛部隊、隊長のエルンストン・バウアー大尉だ」

 

ハッチから上半身を出して、名を名乗る。バウアーを屋根や建物等からアメリカ兵が狙う、するとエーデルワイス号のハッチが開き、ウェルキンが出てきた

 

「僕はガリア公国義勇軍第3中隊所属、第7小隊長のウェルキン・ギュンター少尉です」

 

ウェルキンの姿を見て、バウアーはやはり、と笑みを浮かべた

 

「その戦車長はやはり君だったか。風車塔の上から君らしき姿が見えたな」

 

そのまま雑談でもしようかのような声色だった

 

「私は君に一騎打ちを望む。既に我々には抵抗する戦力と意志は無い。だが、このままでは終われん」

 

しかし、それがとって変わるかのように軍人の表情になる

 

「なぜです!ここで殺し合う必要などありません!」

 

既に降伏すると言うのに最後まで戦おうとするバウアーに何故かと問う

 

「我が戦車兵には臆病者などいない。私と共に帝国と兄弟肉親の為に死ぬ!誰も犬死させん」

 

隻眼の眼光がウェルキンを貫く。その眼、その姿勢、その意義、バウワーが一歩も引かないとウェルキンは悟った。アメリカ兵がどうするのかとバウアーを狙いながら汗を流す

 

「……わかりました。お相手します」

 

そして、決闘が始まる

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「みろ、マイヤー。あれがガリア軍最精鋭の『規格外』だぞ」

 

帝国重戦車改『ティーガーⅡ』に乗るバウアーは正面にいるエーデルワイス号を見て笑っている

 

「笑っている場合ですか、大尉。相手はあの『規格外』ですよ」

 

装填手のクルツが焦りながら言う。帝国兵はエーデルワイス号を『規格外』と言われていた。その機動、装甲、火力、どれをとっても従来型とは規格外であり、そこから取られていた

 

「なに、相手は『化け物』じゃない」

 

『化け物』とはエイブラムスの事を指している。砲弾を弾き、一撃で重戦車すら葬り、軽戦車並かそれ以上の機動力をもつそれは帝国から見れば『化け物』であった

 

「それに、俺達には総司令官殿から頂いたこれがある」

 

バウアーは明らかに装飾の違う砲弾を叩いた

 

「これならば、あの『規格外』でも仕留めきれるはずだ」

 

そうニヤリと言い

 

「いくぞクルツ、しっかりと俺の指示について来い」

 

その眼には負けると言う気弱な考えなど微塵もなく、勝利することしか考えていない……まるで戦車の色と合わさり、黒騎士と言えよう

 

「了解、地獄までついていきます」

 

彼等は既に死を覚悟していた

 

 

 

「兄さん、来ます」

 

操縦席に乗り、真剣な表情をしているイサラが、相手の戦車が仕掛けてくるのを感じた

 

「あぁ、相手は改良型の重戦車のようだ。直撃するようなら、無茶を言うけど場所を考えてくれ」

 

ティーガーⅡが従来の帝国重戦車ではないことに気付いたウェルキンは、その戦闘力が把握できていない

 

「イサラ、敵の側面に回り込む。だけど側面ではなく、それに対応して動いてきた所を榴弾で狙う」

 

ウェルキンが考える戦法を話す。それに頷き、先に動き出した。動き出したエーデルワイス号に反応し、ティーガーⅡも動き出す

 

ウェルキンの予想通りに動き、速度で勝るエーデルワイスが側面に回り込み、それにティーガーⅡが反応した所を

 

「今だ、てっー!」

 

榴弾を発射させる。狙いと予想が重なり、見事に命中……したはずだった

 

「なに!?」

 

ウェルキンが驚いたのはティーガーⅡの損傷の少なさだった。あそこで直撃していれば履帯が切れるか、少なくとも大きな損傷を負う筈なのだ

 

「恐らく咄嗟に後退して、損傷を減らしたんだと思います」

 

イサラが相手の操縦手の腕に冷や汗を流す。ウェルキンも相手の戦車はこれまで相手にしてきた戦車の中でも上位に入る強さであると確信する

 

「いいぞ、マイヤー。よく避けた」

 

榴弾を履帯にへと撃たれ、咄嗟に後退したマイヤーを褒める。ウェルキンの戦法が足を狙ってくる戦法であると気付き、顔を顰める

 

「若いのに戦いを理解してるな。だが、此方も情け無用だ!火力特化型特殊榴弾装填!」

 

弾種の指示を出し、クルツが即座に装填する

 

「ファイヤー!」

 

バウアーの指示と同時に榴弾が撃たれる。撃ってきたのが榴弾だと分かり、直ぐに回避しようと動くエーデルワイス号。だが、その予想は裏切られた

 

通常の榴弾とは遥かに比べ物にならない威力と範囲で車体が揺れる

 

「くっ!何かあると思って通常より早めに避けたけど、これほどまでとは」

 

その榴弾の威力にウェルキンは顔が強張る。相手は改良型で何をしてくるかが分からない状況、回避を早めに行ったが、損傷を負ってしまった

 

「装甲に損傷小、履帯、油圧系共に無事です。ですが、あれを直撃しては履帯や熱量でラジエーターが耐えれません」

 

イサラが被害の確認を行い、装甲以外の被害が無いことを報告。そして、その榴弾の威力を分析していた

 

「そうだね、それに通常の砲弾も厄介だ。それに注意しながら攻撃をしていこう」

 

ウェルキンは直ぐにティーガーⅡにへと近接戦を仕掛ける

 

「あれを回避しただと!」

 

特殊榴弾の煙の中から、エーデルワイス号が出てきて、その損傷の小ささにバウアーが驚く

 

「恐らく、警戒して早めに回避行動をとったんでしょう。相手もなかなかやる」

 

マイヤーがイサラの操縦技術を褒める

 

「そんなこと言ってる場合ですか!あの榴弾の後1発でカンバンですよ!」

 

クルツが褒めるマイヤーに言う。今のを合わせて4発消費しており、この状況が拙いと言うが

 

「ならその1発射で俺達がヴァルハラへ送ってやる!」

 

突っ込んでくるエーデルワイスを睨みながらバウアーが言う

 

「それに、こいつが重戦車だ。近接戦でも遅れはとらん!」

 

ティーガーⅡもエーデルワイスに近接戦を挑んできた

 

「敵戦車、急速に近づいてきます!」

 

イサラが突っ込んでくる、ティーガーⅡを報告する

 

「く、予想が外れたか。射線から回避するんだ!」

 

次も榴弾でくると読んでいたウェルキンが予想が外れ、直ぐに回避行動を指示する。だが、回避行動をする前にティーガーⅡが発射してきた

 

その距離と速度に命中すると思ったイサラは、ハンドルを切る。徹甲弾が正面装甲を削りながら逸れていった

 

「なんだと!」

 

その回避行動にバウアーが冷や汗を流しながら叫ぶ。絶好のタイミングで撃ったにも関わらず避けられたのだ

 

「いかん!回避しろ!」

 

マイヤーに叫ぶも、エーデルワイスが徹甲弾を発射。回避行動が遅れてしまい、戦車が揺れる

 

「正面装甲中破!」

 

マイヤーが被害報告をする

 

「なんて奴だ……だが、負けはせん!クルツ!特殊榴弾装填!」

 

中破程度では止まらず、虎の子の一発を装填する

 

「マイヤー!相手を攪乱させろ!僅かな隙にこいつをブチ込むぞ!」

 

その指示通り、エーデルワイスの側面に回り込もうとする。多少の装甲を犠牲にして速度を上げたティーガーⅡはエーデルワイスにそう後れを取らない

 

まるで円を描くかのような軌道をする2台の戦車。両方共に、短期決戦を考えていたため、相手の僅かの隙を窺っている。先に行動を起こしたのはティーガーⅡであった。車体ごとエーデルワイスの方に向けようとした、それにイサラが反応して回り込もうとした

 

だが、それがフェイントであると気付くのに遅れた。正面を向いたかと思うと、側面を向き、ティーガーⅡがエーデルワイスの側面を捉えた

 

「情け無用!ファイヤー!」

 

バウアーが発射の指示をだし、特殊榴弾が発射される。だが、イサラが滑らすようにエーデルワイスをティーガーⅡの正面に向け、全速力で突撃をする

 

それでは間に合わず直撃する、そうバウアーは思った。自分から榴弾にへと突っ込むのだからだ……しかし、バウアーはエーデルワイス号の性能を過少評価してしまった

 

榴弾が着弾し、辺りが大爆発をする。その煙の中から、正面装甲と側面装甲が焼け焦げたエーデルワイス号が突っ込んでくる

 

「確かに威力は凄まじい。けど、撃つ瞬間に足を止めるのを待っていた!」

 

被弾覚悟で突っ込んだのも、装甲には外付けの追加装甲をしている改良型のエーデルワイスなら耐えれると信じていたのだ。そして、追加装甲を犠牲にして榴弾に耐えたのだ

 

「いかん!回避だ!」

 

直ぐに動きだすも、エーデルワイスは側面を通り抜け、後ろを取った

 

「てっー!」

 

徹甲弾がラジエーター目がけて発射される。動き出すのに遅れたティーガーⅡはそれを回避できずに直撃した

 

ティーガーⅡは履帯が吹っ飛び、爆発寸前である

 

「……見事だギュンター少尉」

 

無線からバウアーの声が聞こえる

 

「バウアー大尉!早く脱出してください!」

 

爆発寸前の戦車から脱出するよう言うが

 

「無駄だ、クルツもマイヤーも既にヴァルハラへと逝った……私も既に手遅れだ」

 

無線から所々咳き込む声が聞こえる

 

「残った奴らはせめてでも寛大な処置を頼む」

 

最後の願い……同じ部隊の部下のことだった

 

「……必ず約束します」

 

そうウェルキンが答える

 

「そうか……では俺もヴァルハラへ行かせてもらう。……部下の埋葬、感謝してるぞ」

 

それを言い切ると、ティーガーⅡが爆散した。その光景にウェルキンは敬礼をして敬意を表した

 




さて、次回は最大の戦場であるナジアル会戦ですね

それを投稿するのが少し遅れるかもしれんので、ここで報告しときます。

感想、誤字報告など気軽にしてくれると嬉しいです


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18話 ナジアル会戦 前篇

明けましておめでとう御座います

投稿が遅くなり申し訳ありません……


ブルールの奪還に成功した義勇軍第3中隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)はナジアル平原に集結している帝国軍に対抗するため正規軍と共にナジアル平原にいた

 

ガリア、帝国の主力部隊がナジアル平原に集結し、この戦争の命運を決める会戦の火蓋が切らんとしていた

 

「将軍!先程から申し上げているように作戦変更を進言します!」

 

ナジアル平原ガリア軍司令部には主力部隊の各部隊の隊長が集まっており、バーロットが机を叩き立ち上がっていた

 

「帝国軍との兵力の差を考慮すると、ガリア全軍に総攻撃を命じるのは無謀です!」

 

戦車の質も兵力の数も帝国の方が上で正面からのぶつかり合いは此方が不利だと言っていた

 

「防衛拠点を中心に兵力を集中させ、迎撃態勢を整える方が……」

 

バーロットは防衛戦に周るべきだと言っていた。防衛戦なら重武装や土嚢などで身を隠しながら戦うことができ、数に劣るガリア軍にも勝機があった。攻撃側は防衛側を潰すのに3倍の兵力がいるとされており、数と戦車の質で劣るガリア軍ではこれが最適な戦術であると言えた……だが

 

「せっかく敵が一箇所に集まってくれたのだ。この機会を逃すわけにはいかん!」

 

ガリア中部方面総司令官のダモンが最高司令官であり、ここに集まった帝国軍を一網打尽にすべきだと考えていた

 

「この戦いに勝利すれば、ガリアから帝国軍を撃退することができるのだぞ!」

 

ダモンの言い分にも一理あった。各所で撃破では時間もかかれば此方にも損害がでてくる。資源は帝国の方が有利なのは一目瞭然であり、長期戦ではなく短期決戦の方が好ましいのも事実であった

 

「しかし、強固な陣地を突破するには我が軍の兵力は少なすぎます!」

 

この考えは相手より自分の兵力が勝っているか、質が勝って壊滅的被害を受ける覚悟で攻め込むしかなかった。質は同等、量は下、ガリア軍にはダモンの作戦を遂行できる可能性が余りにも低かった

 

「兵力が足りなかったら徴兵でもなんでもして連れて来い!」

 

主力部隊の兵力が少ないから別の場所でとってこいというダモン

 

「将軍は我が国の兵士達を無駄死にさせるおつもりですか!?」

 

無駄に正面からぶつかり合えば此方の兵が無駄に死んでいくとバーロットが主張するが

 

「いま攻めずして、いつ攻める!?何が何でも勝たねばならぬのだ!」

 

何が何でも突撃したいと主張するダモン

 

「ガリア軍全部隊を集結して総攻撃だ。多少の被害は厭わん!」

 

ダモンが最高司令官としての権限を使い、総攻撃の命を出した

 

「……」

 

司令官の決定に逆らえるはずがなく、バーロットは睨みつけるだけしかできなかった

 

「臆病風に吹かれている暇があったら寄せ集め共に喝でも入れてこんか!」

 

戦力と情報、戦況がまったく読めてないダモンはただ突撃することしか考えておらず、怒鳴るだけであった

 

「……分かりました。最前を尽くしてみます」

 

バーロットは拳を握りしめ、そう言うしかなかった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

司令部で言い合いをしている頃、第7小隊とアメリカ軍は後方支援に回っていた

 

これはダモンからの命令であり、戦果を挙げ続けている両部隊への嫌がらせか何かは分からないが最高戦力を後方で遊ばせていた

 

「まったく……何を考えているんだかな」

 

ブードゥーが弾薬や医療品を確認しながら呟く。トラックに積まれている物資の管理がアメリカ軍の与えられた命令だった。第7小隊は女性が多いことから食事や治療の方に回っていた

 

「そう言うな。作戦がどうなるかは分からないが、俺達が前に出ずに済めば死なずにすむ」

 

同じくチェックリストを見ながら確認をしているマザーがブードゥーを落ちすかせる

 

「まぁ確かにそうだな……あいつが突撃なんて言わない限りはな」

 

溜め息をつきながらブードゥーが言う。総軍突撃なら自分たちが駆り出されるのは目に見えている

 

「流石にあれが馬鹿だからと突撃は言わないだろ。ここで突撃するもんなら全滅は免れないぞ」

 

ガリア主力部隊の4割が最低でも死ぬことになるのだから、そこまで馬鹿げた作戦は行わないはず……とマザーは信じたかった

 

「そうだな、全滅するのならどんな馬鹿でも突撃なんてするはずがない。兵力も此方が劣っているのだからな」

 

戦力と状況を見れば突撃をするなんて正気の沙汰ではない行動なのだ

 

「ここでまともな指揮官なら防衛に回るだろうな。攻勢よりも少ない兵力で対応できるし、悪戯に兵士が死んでいくリスクが低くなるんだからな」

 

そう言いながら、再びチェックリストに目を向ける。指揮所にはバーロット以外にもダモンの息が掛かっていない将校も少なからずいれば、息の掛かった将校も悪戯に兵を失えば自分の立場を危うくなるのだから突撃はしないだろうとマザーは考えていた……だが

 

「マザー!」

 

食料の物資を確認していたラビットが慌てた様子で現れた

 

「何があったラビット」

 

その様子からただ事ではないと感じ取ったマザーとブードゥーが真剣な表情になる

 

「先ほどバーロット大尉より通達がありました……どうも最悪の事態のようです」

 

ラビットもまるで戦闘中かのような真剣な表情で言うと、マザーも冷や汗が流れる

 

「すぐにウェルキン達とブリーフィングを行う。大尉とウェルキンを指揮所に呼ぶんだ!」

 

マザーの指示を聞き、ラビットは直ぐに走って行った

 

「マザー……もしかすると」

 

同じく冷や汗を流すブードゥーが先程の会話通りなのではと思っていると

 

「まだ決まった訳じゃない、帝国側に何かあった可能性もある。とにかく、俺達も急ぐぞ」

 

マザー達も急いで指揮所へ向かった。指揮所にはマザー達シールズとラミレス中尉率いるフォース・リーコンの分隊長、ウェルキン達が集まっていた

 

「大尉、貴女には恩があるがこの作戦には反対だ」

 

ラミレスが大尉の申した作戦に異議を唱えた

 

「兵力が劣っている此方が正面からぶつかり合うなんて正気じゃない。どれだけの兵士が死んでいくと思っているんだ」

 

バーロットの口から帝国軍の正面から拠点を確保しに行くと聞いた時は全員が耳を疑った程だ

 

「これは司令官が下した命令なの。貴方達には申し訳ないけど、ここの砲撃拠点を落とせれば兵の被害が抑えられる。だからこそ貴方達にこの作戦を成功してもらいたい」

 

バーロットがこの作戦に賛成しているはずがないと皆が知っている。少しでも被害を抑えるために無茶な任務を言い渡すしかなかったのだ

 

「まさか全軍による突撃を命令するとは……いったい将軍は何を考えているんだ」

 

マザーが恨むかのように言う

 

「私も拠点防衛で迎え撃つべきだと進言したのだけど……力及ばずだったわ、ごめんなさい」

 

頭を下げるバーロット、彼女もまたマザー達と同じく苦汁を舐めさせられた1人なのだ

 

「大尉のせいではありません、問題はこの作戦を決行した将軍にあります」

 

頭を上げるようマザーが言う。バーロットもダモンの被害者であることはしっている

 

「それに、拠点攻略の算段は考えています」

 

マザーの言葉に皆が注目した

 

「今回の作戦に必要な速さです。時間が掛かれば掛かるほど此方が不利になる、いかに素早くこの砲撃陣地を制圧するかが鍵となってきます」

 

砲撃陣地から放たれる榴弾は歩兵どころか戦車にも大打撃を与えかねないだからこそ一刻も早くこの陣地を制圧する必要があった

 

「ラビット、ベースに連絡だ。アパッチを全機出撃させろ」

 

戦車と歩兵と戦闘ヘリ、これを使った素早い制圧作戦……アメリカ軍のメンバーは何をするかが大体予想できたが、ウェルキン達の方は何をするか分かっていない様子だった

 

「大尉、今の戦況は?」

 

既に先遣部隊が戦闘を開始している頃であり、少しでも情報が必要であった

 

「あ、あぁ。どうもバリアス砂漠で現れたヴァルキュリアらしき姿が確認されている。そのため此方の被害も大きい」

 

ヴァルキュリア……あのスーパーウーマンが出てきているのかとマザーは思考を巡らせる

 

「……なら、そのヴァルキュリアが来る前に制圧するとしましょう」

 

その言葉にウェルキン達が驚く、身体能力が馬鹿げているヴァルキュリアが来る前に陣地を制圧するというのだ

 

「作戦名は……ブリッツ・クリーク」

 

マザーが言う作戦名にアメリカ軍の面々はやはりと思い行動に移す。ウェルキン達は何が何だかわからない様子だった

 

「ウェルキン、この作戦にはお前達の力も必要だ。存分に働いてもらうぞ」

 

マザーが笑みを浮かべながらウェルキンに言う。それにウェルキンはただ頷くだけであった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

砲撃陣地を前に第7小隊とアメリカ軍が展開している。周囲にヴァルキュリアの姿はなく、平原東部で暴れまわっているとの報告だった

 

ここら一帯には榴弾によるロケット攻撃が飛んでくるので戦車は通常なら使わない筈であった。だが、この場にはエイプラムス2両にエーデルワイス、シャムロックに加えM2ブラッドレイも2両ある

 

さらに、その後ろには準備万端のアパッチ3機が待機している

 

「中尉、この一帯はロケット攻撃が飛んでくるので戦車での進軍は不可能です!」

 

ウェルキンがマザーに歩兵のみでの進軍を進言するが

 

「大丈夫だ、それに歩兵には重要な役割がある」

 

腕時計を見ながらマザーが答える。そして無線の受話器を手に取ると

 

≪こちら、マザー。ラミレス、状況は?≫

 

≪こちら、ラミレス。準備は万端だ、いつでも進撃できる≫

 

左翼を担うフォース・リーコンの確認を終え、右翼の第7小隊+シールズの編隊が待機している。戦車もヘリも準備よし、あとは作戦時間まで待つのみだった

 

「……時間だ」

 

腕時計の長針が作戦時間に来た、マザーが再び無線のスイッチを入れ

 

≪各ユニットに通達、作戦開始≫

 

作戦開始の合図が出された。アパッチ3機がエンジン音を響かせローターが回転していく、回転数が徐々に増えていき空へと舞い上がる

 

≪ガンシップ01、こちらマザー。敵拠点とロケット砲台、榴弾砲を優先して潰せ。全て潰したら掃討に周れ、ヘルファイアは2発まで許可する≫

 

≪ガンシップ01、了解≫

 

アパッチが敵砲撃陣地目がけて飛翔していく。塹壕に隠れていた帝国兵は唖然とした表情でアパッチが通り過ぎていくのを見ていた

 

そして、敵陣地にある榴弾砲及びロケット砲を目視で確認した

 

≪ガンシップ01、目標を確認。攻撃開始≫

 

無線で報告し、安全装置を解除する。それに続きガンシップ02、03も安全装置を解除、ガリア戦記で最も素早い作戦の火蓋が切って落とされた

 

アパッチ3機によるロケット弾での飽和攻撃、固定砲台でしかない榴弾砲と帝国兵はなすすべもなく爆殺されていく。これに対抗して帝国兵が空に向かって銃を撃つが、距離がありすぎて届かなく、高速で飛翔するアパッチに当てることすらできなかった

 

数分も掛からない内に榴弾砲とロケット砲が瞬く間に全滅していた

 

≪マザー、こちらガンシップ01。砲撃陣地を破壊≫

 

無線で報告をいれると

 

≪マザー了解。すぐに戦車部隊を突撃させる≫

 

そう言い、戦車部隊に無線を入れる

 

≪戦車部隊、こちらマザー。敵砲撃陣地の破壊に成功。カーニバル開始、繰り返すカーニバル開始≫

 

無線で突撃の合図がでる。それを聞き、4台の戦車と2台の歩兵戦闘車両が走り出す

 

≪ガンシップ01、これより戦車破壊に移行する≫

 

アパッチ3機が方向を変え、陣地内にいる戦車の破壊に周った。突然空から敵が現れ、砲撃陣地が破壊され、正面から戦車、空からの攻撃、指揮所の破壊により帝国兵は指揮できる人間がおらず混乱の極みでいた。さらに

 

≪まるで七面鳥撃ちね≫

 

とガンシップ02が30mm機関砲を撃ちながら言うように、まともな動きの出来ない帝国兵は只の的にすぎなかった。それを確認したマザーが

 

≪ラミレス、こちらマザー。作戦は順調、これより進行を開始する≫

 

ヘリによる空襲、戦車による突撃、残されたのは歩兵による拠点制圧であった

 

≪ラミレス了解、進行する≫

 

左翼のフォース・リーコンと

 

「よし、塹壕内にいる帝国兵を掃討し、拠点を確保する!」

 

マザーの号令と共に右翼の第7小隊とシールズが敵陣地に進攻を仕掛けた

 

塹壕内で頭を抱えている帝国兵は恐怖に怯え、悪い悪夢かなにかだと思いたかった……だが、悪夢はまだ続く。ガリア軍の歩兵を突撃してきており、頭を出して撃とうものならブラッドレイの餌食にされ、そもそも塹壕内でも空から見える位置にいればアパッチに挽肉にされる

 

もう帝国側には戦車も榴弾も士気もない、詰みであった。大した抵抗もできるはずもなく塹壕内にいた帝国兵は掃討され、生き残りはいなかった

 

それに対し、第7小隊とアメリカ軍の被害はほぼ0であり、圧勝であった

 

ブリッツ・クリーク……日本語訳では電撃戦と言われるこのドクトリンのおかげである。電撃戦とは言わば奇襲である。制空権と機動力のある戦車が必要不可欠であり、帝国に航空兵器がなく此方に航空兵器がある時点で制空権が確保されていたといえる

 

航空部隊による近接航空支援との連繋の下で相手の陣地防御に対して機甲部隊に縦深突撃を実施させ、直ちに敵の側面から歩兵による拠点制圧をしたのだ。このように機械化された戦闘部隊の優位である高い機動力を駆使しながら、戦いの主導権を掌握し、無線で味方との連携が必要不可欠であった

 

さらに、この電撃戦の内容を帝国側が全く知らないことも重要であり、知られていたら奇襲は成功しなかった。全ての条件が整っていたこの戦いは勝つべくして勝ったと言えた

 

「まさか……こんなに早く拠点が制圧できるなんて」

 

ウェルキンも、この素早い作戦に驚きを隠せなかった。電撃戦は名前通り稲妻の如く素早い戦いであるのだ

 

「なんだと……」

 

セルベリアが到着したが、その時には全ての拠点が制圧されていた

 

「馬鹿な……わが陣が食い破られていただと……それにしても早すぎる、ここの部隊はそこまで脆いはずが……」

 

そしてセルベリアの目に映ったのは星条旗……独立遊撃隊(アメリカ軍)のシンボルであった。この部隊がいるならこの速さも可笑しくはないと思えて仕方ないセルベリアは舌打ちと共に見つかることなく撤退していった

 

「しかし、ヴァルキュリアが来る前に終わってよかったよ」

 

安堵しながらウェルキンが言うと

 

「どうだ、なんとかなっただろ?」

 

この作戦の立案者であるマザーが笑いながら言った

 

「えぇ、まさかこんなに早く制圧できると思ってもいませんでしたよ」

 

そういうが、この作戦には航空戦力が必要不可欠なのだがな……とマザーは内心でそう言

 

「そうだな……しかし」

 

マザーは平原東部の戦場を見た、そこにはヴァルキュリアによって破壊された戦車が数多と転がっていた

 

「あれがヴァルキュリアの力か……」

 

双眼鏡の取出し見回してみるが、友軍の屍が殆どであった

 

「これは酷いな……ほかの戦線は大丈夫なのか」

 

マザーがそう呟き、ウェルキンも他の戦線を見ながら

 

「拠点の制圧には成功したけど、味方の被害が甚大だな……」

 

この戦いで勝てたのは、この戦線だけの可能性すらある状況だった

 

「拠点を維持することは困難だろう、後方部隊に支援を頼もう」

 

振り向き、後ろにいたアリシアに言う

 

「はい!隊員達を集合させます」

 

アリシアはそれに頷き、同意見のマザーも集合さえようと無線で連絡を入れた

 

……その時、一発の銃声と共にアリシアが倒れた

 




vita買ったのもあってGE2や蒼き鋼のアルペジオを全話見て嵌まって漫画全巻揃えたりレポートしたりで投稿に時間が掛かってしまいました

まだ忙しい所なのですが、少し時間ができたのでまた細々と書いていこうかと思っています。次の投稿も遅れるかもしれませんが、ご容赦願います

誤字報告や感想もお待ちしております


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18話 ナジアル会戦 後篇

エーデルワイス号の傍、空に響く銃声、一瞬の空白、誰もが何が起こったのか分からなかった

 

「……え?」

 

その声と共にアリシアが倒れたことから事態が動き出す

 

「スナイパー!」

 

マザーが叫び、アリシアをエーデルワイス号の陰に隠す。マザーの声を聴きM110を持ったラビットとM4でスナイパーを探すブードゥーとダスティー

 

戦車から飛び降りたウェルキンがアリシアの身を案じていた

 

「いったい何処から撃ってきたんだ」

 

スコープで敵スナイパーを探すラビットが汗を流しながら必死で探す。まだ狙っているのなら必ず何処かにいるはずだと思いながら

 

アリシアが撃たれた所をガーゼで抑えながら止血をする。いま衛生兵が向かっていると無線で連絡が入るが、マザーは別のことを考えていた

 

「(何故アリシアが撃たれたんだ?戦車長であるウェルキンが身を出していたのに、それを無視した。敵の狙いは小隊長であるウェルキンではなく一兵士に過ぎないアリシアであるということなのか?)」

 

考えが頭の中を駆け巡っていたが、一先ず置いといて行動に移すべきだと判断する

 

「ウェルキン、直ぐに撤退するぞ。ここは危険だ、アリシアも搬送しなけりゃならん」

 

そばでアリシアが撃たれたことに狼狽えているウェルキンを揺さぶる

 

「アリシア!」

 

まだ狼狽えているウェルキンだが、マザーが一発殴る

 

「落ち着け!ここで騒いでも様態は悪くなるだけだ!すぐに兵を集め後方に撤退するぞ」

 

殴られたことで幾分か落ち着いたのか、ウェルキンは頷き撤退の準備をし始める。マザーもアリシアを衛生兵に任せ、撤退の準備をし始めた

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

野戦病院に着き、アリシアはベッドに寝かされていた

 

「アリシア……」

 

ウェルキン達第7小隊の面々がアリシアの病室で辛い表情をしていた

 

「アリシアですが、幸いに急所をはずれ命に別状はありません。けれど、重傷には違いなく今だ意識不明の状態だそうです」

 

野戦病院の外で待っているマザー達だが、ラビットがアリシアの容体の情報を仕入れ、報告していた

 

「そうか……ラミレス、お前のとこが偵察した時には帝国兵の姿はなかったんだな?」

 

共にいたラミレス中尉に尋ねると

 

「あぁ、この区域はチャーリーとホテルの分隊を偵察させていた。家の連中が見落とすとは思えないのだがな……」

 

それはマザーも同意見だった。フォース・リーコン……海兵隊武装偵察隊といえば海兵隊の中で最も厳しいと言われるほどの訓練をする部隊だ。それも戦場に出たことのないルーキーではなく幾度の戦場を生き抜いてきた兵士だ、絶対とは言えないがその彼らが偵察で敵兵を見落とす可能性は低いと言えた

 

「帝国の特殊部隊かもしれんな……だが、問題は何故アリシアが撃たれたかだ」

 

いまの問題はアリシアが撃たれたのもあるが、敵の狙いである

 

「何故、敵の狙撃兵が小隊長であるウェルキンを狙わなかったかだ」

 

帝国兵の間でも『規格外』と呼ばれる戦車『エーデルワイス号』を持ち、常勝し続けている第7小隊の小隊長であるウェルキンがいたにも関わらずだ

 

「敵が小隊長をアリシアと思った線は?」

 

敵が小隊長を間違えたのではないかとラミレスが言う

 

「いや、その可能性は低い。ウェルキンは戦車に乗っていたし、敵にも小隊長が誰なのかの情報は回っていても不思議じゃない。敵が小隊長ではないと知っていながらアリシアを狙撃した可能性が大きい」

 

ダスティーが今の状況と情報で判断する。ダスティーが独自の情報網で敵の中隊長レベルなら直ぐに顔と経歴の情報を仕入れられる。帝国の情報部がここまで有名な義勇軍の小隊長の顔と経歴を知らないのは少し不自然と言える

 

「なら、なぜ彼女は撃たれた?こう言っちゃなんだが、あの場で価値のない彼女が撃たれる理由が俺には思いつかない」

 

ラミレスの言った価値のない、あの戦場ではある意味正しいと言える。彼女は怪我人を治す衛生兵であれば、まだ狙われる理由も分かる、だが一偵察兵にすぎないアリシアが狙われるのなら、傍にいたマザーの方が貫録もあり狙われる対象になりやすそうだったのにだ

 

「……敵ではなく味方の可能性は?」

 

ふとダスティーの言った言葉にこの場の空気が下がる

 

「味方に?そんな馬鹿な、彼女は誰かに嫌われるタイプじゃない」

 

真っ先に反対意見を言ったのはラビットだった

 

「いや、可能性としてはあるかもな」

 

ダスティーの意見が外れてないと言ったのはラミレスだった

 

「いまやガリア軍の代名詞といえるのが義勇軍であり、第7小隊だ。彼らの活躍を好ましく思わないのは?」

 

そう尋ねるとマザーが忌々しそうな表情をしながら

 

「正規軍か」

 

それにラミレスが頷く

 

「そうだ。義勇軍が活躍をする中、正規軍の活躍はそこまで聞かない。義勇軍ばっかりが活躍してるから上から嫌味や何やらを言われ、その怒りの矛先が」

 

ブードゥーも舌打ちしながら嫌そうな顔をして

 

「第7小隊、しいてはウェルキンに向けられた……って訳か」

 

そこまで言われて後の行動は分かる。ウェルキン本人ではなく副官であるアリシアが狙われ、第7小隊への嫌がらせと憂さ晴らしと言う線が見えてくる

 

「な……何だって!」

 

野戦病院からウェルキンの驚く声が聞こえ、それに驚いたマザー達は急いでアリシアの病室に向かった。そこでは衛生兵に肩を掴み問いただすウェルキンの姿がった

 

「それじゃぁ……アリシアは味方に狙撃されたというのか!?」

 

肩を強く握り問いただすウェルキン、それに焦った様子の衛生兵が慌てると

 

「落ち着けウェルキン!」

 

ブードゥーとラビットが掴んでいた腕を離させ、ウェルキンを抑える

 

「すまないが、詳しく聞かせてくれないか?」

 

マザーが衛生兵に改めて話してもらうよう言う、それに衛生兵は頷いた

 

なんでも、アリシアの体内から取り出された銃弾はガリア製の新型狙撃中のようで、銃弾も一般には渡っていない新型狙撃銃用の特殊な弾丸だと言うのだ。そしてこれらから味方に撃たれた線が最も強いと確信できる証拠になった

 

「しかし、何故こんな身元が特定されやすい銃で撃ったんだ?」

 

マザーが摘出された弾丸を見てポツリと言った。後ろ弾をするにしても量産されているモデルではなく、出回っていない新型狙撃銃の、しかも特殊弾頭なんてもので撃ったのか?これでは犯人特定など簡単に出来てしまうのも関わらずに

 

「なぜだ……なぜ、アリシアが味方に撃たれる必要があるんだ!?」

 

味方に撃たれたのが相当ショックだったのか、ウェルキンは声を荒げる。それを何とか落ち着かせようとするラビット達。10分後、なんとか落ち着かせたウェルキンと共にマザー達も自分の部隊へ戻って行った

 

……そして夜が更けた頃、アリシアの病室に誰かが現れた。アリシアの傍に近づき、蒼い宝玉が埋め込まれた白い螺旋状の物体を傍に置いた。すると、宝玉が輝きだし蒼い炎がアリシアを包む。アリシアが起き上がる、その髪は銀色に輝き、眼は真紅に染まっていた

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

翌日、司令部が再び総攻撃を仕掛けるという寝言をほざきだし、再びナジアルで両軍がぶつかり合う

 

それを聞いたマザーは、これは不味いと無線でレンジャーへの救援要請を入れるレンジャー50名を乗せたチヌークが戦闘前に到着し合流、総勢74名のアメリカ兵がナジアルに参戦した

 

そして戦いの幕が開け……ガリア軍が劣勢を強いられていた。帝国の物量に加え、その先頭にはヴァルキュリアであるセルベリアの姿もあり、ガリア軍の士気はガタ落ちであった

 

「ガリア軍に告ぐ!今すぐ武器を捨て降伏せよ!さもなくば……ナジアルは血に染まる大地に化すだろう!」

 

セルベリアがヴァルキュリアの矛先をガリア軍の方に向け降伏勧告をする。それに伴い帝国兵が雄叫びを上げる

 

それを目の当たりにしガリア軍が瓦解するまで秒読み段階になったその時、異変がおきた

 

「お、おい……あれを見ろ」

 

ガリア兵の1人が声を震わせながら後ろ指差したそれに釣られ他の兵士も後ろを向くと信じられない光景があった。そこにいたのは……アリシアだった

 

「そ……そんなバカな!」

 

ウェルキンが戦車のハッチからアリシアの姿を見て信じられないと思った。いや、ウェルキンだけではない、第7小隊の面々やアメリカ兵達も自分の目を疑った

 

「俺は夢でも見ているのか……昨日撃たれた筈のアリシアが……あれじゃまるでヴァルキュリアじゃないか」

 

ブードゥーも唖然とその光景を見ていた。アリシアが蒼い炎に包まれ、髪が銀色になり、目が深紅に染まり、その手には螺旋状の槍と盾を持っているのだから

 

「それなら俺はお前と同じ夢でも見ているのか……帝国側にいるヴァルキュリアと瓜二つじゃないか」

 

ラビットが何とか漏らすように言う。この光景を受けいれるには余りにも現実とかけ離れすぎていた

 

アリシアはまるで幽鬼のような足取りで前へ前へ歩き、その表情は虚ろとしていた

 

「貴様もヴァルキュリアだと言うのか」

 

セルベリアはアリシアを睨み付け構える

 

「ヴァルキュリアは2人もいらぬ……消えろ!」

 

そう言い、セルベリアはアリシアに襲い掛かった。跳躍からの降り下ろし、通常の人間なら反応することも出来ずに塵となっていただろう。だが、アリシアはそれを紙一重で避けて見せた

 

「なっ!?」

 

セルベリアの表情が驚愕に染まる。直ぐにアリシアを睨み付け横に一閃、だがそれもアリシアは跳躍し避け、空中で体制を直し着地する。更にそこへセルベリが仕掛ける……すると、アリシアの目が輝きだし槍を抱きしめる。槍の部分が鋭く飛び出した

 

迫りくるセルベリアの攻撃を弾き、避け、唾迫り合いになる。アリシアの槍はまるでレイピアの用に細いにも関わらず、セルベリアの槍を難なく受け止める。そして、セルベリアは力負けし弾き飛ばされる

 

「おのれっ!」

 

槍が蒼く輝き、地面へと振り下ろす。それは衝撃波となりアリシアへと一直線に襲い掛かる。それをも跳躍で避け、空中で回転し始める、その遠心力を使った突きをセルベリアに繰り出す。防御するも

 

「うわああああっ!」

 

難なく吹き飛ばされ、セルベリアはヴァルキュリア状態を解除させられた

 

「ば、バカな……」

 

相当なダメージだったのか起き上がれず、その場で気絶した

 

アリシアはフラフラと歩き始めた。敵重戦車が傍に来て攻撃をしようとしたが、アリシアが重戦車に槍を向け、蒼いレーザーが重戦車を貫き爆散した。そしてまたフラフラと歩き始め、今度は攻撃を仕掛けてきたトーチカがアリシアの攻撃で吹き飛んだ

 

「あれは無意識でしているのか?近づいたり攻撃の意思を見せたりした者に反応しているのか?」

 

今のアリシアの攻撃対象が不明のままだが、このままじっとしている訳にはいかない

 

「俺たちとリーコンが敵本拠点を制圧しに行く、M1(エイプラムス)M2(ブラッドレイ)2両はついてこい。レンジャーとM1はウェルキン達と共にこの場からアリシアの隙を伺え、あれだけ出鱈目に攻撃していたら力尽きるはずだ」

 

状況を判断し、マザーは素早く指示を出す。目の前のアリシアは今だ暴れまわってり、近づかないように進軍し制圧に向かう。岩肌が段差になっている所があり、そこに沿うように進んでいるとマザーが停止の合図を出した。丁度斜め上に砲台トーチカと対戦車砲が配置されており、このままでは狙い撃ちされる格好であった

 

C4でも投げ込んで爆破しようかと考えていた……すると

 

「マザー!」

 

ラビットの叫び声が聞こえた。マザーが反射的に声の方向を見るとアリシアの槍が此方を向いて、蒼い光が集まりだしていた

 

「伏せろー!」

 

その声と共に、歩兵はその場に伏せ、M1やM2は死を覚悟した。だが、蒼い閃光はマザー達ではなく目の前に陣取る砲台トーチカと対戦車砲を貫いた。その衝撃波はマザー達にまで届き、衝撃に備えた

 

衝撃波が通り過ぎ、マザー達は体を起こす。そしてアリシアの方を見ると此方を見詰めていた。マザー達歩兵は冷や汗を流しながら何時でも動ける体制をとり、車両部隊も回避運動できる用意を整えていた。だが、アリシアは踵を返し反対方向にフラフラと歩いていく

 

「助けて……くれたのか?」

 

ラミレスが呟くように言う。意識がないであろうアリシアが自分達の脅威を排除し、無差別に攻撃していたのにも関わらず、見逃してくれた。恐らく本能で敵ではないと判断したのかと思うマザーだが

 

「道は切り開けた!このまま一気に敵本拠点を制圧するぞ!」

 

目の前の障害が無くなった今が好機だと考えたマザーがアリシアのことを一先ず置いておき、制圧に向かう。殆どの帝国戦力をアリシア1人で片付けただけあって抵抗なしに敵本拠点を制圧した

 

≪ウェルキン、こちらマザー。本拠点を制圧した≫

 

マザーからの報告に一先ずホッとするウェルキン。後はアリシアを……と思った矢先異変が起こった。アリシアが身に纏っていた蒼い炎が徐々に消えていき、手から槍と盾を落とし炎も完全に消え、髪と目の色も元に戻るとその場に倒れた

 

「アリシア!」

 

倒れたアリシアの元に駆け付けようしたウェルキンが衛生兵だったが、後方から爆音が聞こえた

 

「な、なんだ!?」

 

その音に振り向くと、そこから大型戦車と共に帝国兵が現れた

 

≪戦場の北と南から大型戦車が接近中!気をつけろ!敵の挟み撃ちだ!≫

 

無線からバーロットの警告がくる。アリシアが倒れている地点は南側の戦車から狙える位置であり、このままだと殺される危険性があった

 

「拠点は囮で、僕達を誘い込んだのか!」

 

ウェルキンが敵の罠に嵌ってしまったことに気付き、どうするべきかと思案を巡らせていると

 

「ウェルキン!彼女の元に向え!」

 

レンジャーの隊長であるフォード少尉がウェルキンにアリシアを救出するように言う

 

「大型戦車はM1で破壊できる!彼女までの道は我々レンジャーが切り開く!」

 

その言葉と共に他のレンジャー隊員も返事をする。その後直ぐにレンジャー隊員達が土嚢を盾に防衛陣地を構成していく

 

≪敵大型戦車は燃焼弾を発射できる。燃焼弾は広範囲に強力な炎を撒き散らし、土嚢に隠れても食らってしまう。注意するんだ≫

 

大型戦車の兵装を教えたバーロットとの無線が切れる。レンジャー達はカールグスタフM3を2門用意していた、だがこの無反動砲の口径は84mmであり、大型戦車を撃破することはできなかった……だが

 

「RAAWSは砲門を狙え!他は敵兵の排除!エコー、フォックスロットは彼女までの道を確保だ!」

 

装甲がダメなら別の個所を狙えばいいだけの話だった。正面からなら砲門を狙い、そこを潰せば如何に強力な燃焼弾であろうとも無力化できる。そして、エコー分隊とフォックスロット分隊に道を作るよう指示もだす

 

4分隊による制圧射撃により、帝国兵は反撃が中々できず、戦車も急いで燃焼弾を撃とうとしたが、レンジャー達に時間を与えすぎていた

 

「ファイヤ!」

 

2人の砲撃手が砲門に向けて発射、同時ではなく交互に撃つことで当たる確率を上げる。大型戦車もじっとしているわけでなく、動いているので1人目の砲弾は違うところに命中してしまう。だが、2人目の砲弾は砲門に命中し砲が半ばから爆発した

 

砲撃ができなくなった戦車は砲塔についている機銃で攻撃しようとしたが……砲塔が動かなかった。一発目に当たった弾が砲塔部分に直撃、旋回機能を潰していた。目の前の大型戦車はうすのろな棺桶と化していた

 

「よし!M1を突撃させろ!」

 

カールグスタフは履帯を狙い、もう一つは機銃や覗き窓を狙う。殆ど攻撃能力を持たない戦車を無視し歩兵を優先していく

 

「リローディン!」

 

土嚢に隠れ、マガジンを変える。その間に傍にいる人が援護に回る

 

「OK!」

 

マガジンチェンジを終え、再び攻撃を開始していく。M1がレンジャー達の前に出る、そのまま前進し大型戦車を通り越し背後を取る。近づいてくる帝国兵は砲塔上部にある重機関銃を操作し蹴散らす

 

「目標捕捉!」

 

「てっー!」

 

車長の掛け声と共に120mm徹甲弾が発射される。目標はラジエーターであり、至近距離で外れることがある筈がなく大型戦車は爆散した

 

≪敵大型戦車を撃破!≫

 

M1のトマホーク03が戦車破壊を無線で報告すると、北の方でも爆発が起こった

 

≪こちらトマホーク02、こっちも大型戦車を撃破。これより歩兵の掃討に移る≫

 

北の敵戦車を撃破し、帝国兵の掃討に移り始めていた

 

≪こちらウェルキン、アリシアの回収に成功しました!≫

 

倒れたアリシアの回収も成功し、敵戦車を2両とも撃破を完了し作戦成功した。そして、このナジアル会戦はヴァルキュリア同士の戦闘という歴史的な出来事と共にガリア軍の勝利で幕を閉じた



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19話 ギルランダイオ要塞

義勇軍基地、ウェルキンの小隊長室にマザーやパンサーといった面々が集まっていた

 

そこで喋るとなく無言で椅子に座っている。ここに集合をしていた理由は唯1つ、アリシアが味方に撃たれたことだ

 

「隊長、失礼します」

 

すると扉がノックされクライスが部屋に入ってきた

 

「クライス……もしかして頼んでいた調査の結果がでたのか?」

 

報告を聞くために部屋の全員がクライスに視線を向ける

 

「はい。先日お預かりしたこの弾丸ですが……弾丸の形状、刻印から、ガリア軍で開発中の新型狙撃銃の弾丸と断定されました」

 

その報告はある意味予想通りと言えた。なんせ衛生兵ですら見分けられるほど希少性の弾丸であるのだから。衛生兵の話はマザーからパンサー達にも伝えられていた

 

「そうか……やはりアリシアを狙撃した犯人はガリア軍の中にいるのか……」

 

ウェルキンもこれは予想内だった様子だった。まだ量産が決まってない新型狙撃銃なら数も少ないだろうし、兵器庫からの貸し出しの際の記録があるはずだから特定は簡単だろうマザー達は考えていた

 

「それで、持ち主は割り出せたのか?」

 

いったい誰が撃ったのかを訪ねると

 

「……はい……それが……」

 

クライスはその人物を言うのを尻込みしていた

 

「……誰なんだ?」

 

ウェルキンが再び強く問いただす

 

「……はい。事件前夜、ランツァート少尉に貸し出したとの記録が残っていました」

 

その答えに、この部屋にいる皆が驚いた表情をした

 

「ファルディオがだと!?何かの間違いじゃないのか?」

 

デュースが聞き尋ねる。ファルディオとは第7小隊の面々に続いて仲の良かった1人であった。傭兵である自分達を快く接してくれ、同じ戦場で戦った信用できる人物であった

 

「戦車長に狙撃銃を貸し出すのは珍しいことなので、兵器庫の者もしっかりと記憶していました。それに、この狙撃銃は軍内に2丁しかありません。1丁は兵器庫で管理されているのが確認済みです」

 

これは疑いようのない事実であった。2丁の内1丁が兵器庫に、残りはファルディオが借りたと言う事実、そこまで少ないのなら記憶の間違いの可能性も低いと言えるのだ

 

「それに、残りの狙撃銃もランツァート少尉に貸し出したまま返却されていないとのことでした」

 

そうクライスが言い切り、部屋は重い沈黙に包まれた

 

「ファルディオが……まさか……」

 

信じられない表情で絞り出すように言うウェルキン

 

「……なら、直接問いただしてみるしかない」

 

椅子から立ち上がったパンサーが言う。いまだ、ファルディオが撃ったことが信じられないのなら直接聞きに行こうと言うのだ。それに頷き、パンサー達はファルディオの部屋に向かった

 

ファルディオの小隊長室に来たが、生憎の留守であった。パンサー達は無断で入り込み部屋を見回った

 

「ヴァルキュリア民族の研究……人類的見地からみたヴァルキュリア人……これは、ヴァルキュリアに関する資料か」

 

本棚の近くの机に置かれていた本をデュースが取り、題名を見ていた

 

「ん……ファルディオのメモだ……」

 

ウェルキンはファルディオの執務机の上に置かれた本に挟まれたメモを見つけた。そして……その内容に目を見開いた

 

「アリシアを、覚醒させなければならない……」

 

そう呟き、その声にデュース達がウェルキンの方を向いた。ウェルキンはメモに書かれた内容を見ていき

 

「ファ、ファルディオ!」

 

何時もでは考えられないような怒りを含んだ怒声を上げ、部屋を出ていった。マザーがその内容が書かれたメモを拾い読み上げていく

 

アリシアを覚醒させなければならない。それが、苦悩の末に出した私の結論出る。そもそもの契機は、彼女達と共に訪れたバリアス遺跡の出来事だった

 

バリアス遺跡の奥の間、ヴァルキュリア人だけが入れる聖域である。だが彼女は、事もなげにその扉を開いた。彼女の身体の中にヴァルキュリア人の血が流れているからこそ、扉は開いたのだ

 

(中略)

 

バリアス遺跡はダルクス人が大地を焼き払ったと言う偽りの歴史を後世に広め、真の歴史であるヴァルキュリア人達戦闘民族がダルクス人を滅ぼし大地を焼いたのだと言うのを一族のみに伝える巨大な碑文なのだ。そこに記されたヴァルキュリア人の力……その恐ろしさに、私は慄然とされた

 

それと同時に、こうも考えた……この力を、帝国との戦争に使えないかと。それ以来、私はヴァルキュリア人について調査と研究に没頭し、ある真実にたどり着いた

 

このヨーロッパには非常に僅かだがヴァルキュリア人の血を引く人間がおり、それを気づかずに一生を終えていく。だが極稀に力を覚醒する者が歴史上に現れることがある

 

彼らに共通しているものは……みな一度、死に瀕する重傷を負っていることだった。生命が失われる程の傷を受けた時、彼らの中の『血が』覚醒し、数千年前から身体の中で眠っていた力が目覚めるのだ

 

そして、高度に精製されたラグナイトの武器を手にしたとき……戦闘民族・ヴァルキュリア人が再び歴史に姿を現す。私は大学の考古学研究棟の倉庫からヴァルキュリの盾と槍を持ち出した。ヴァルキュリア人の生命の力はラグナイト原子に未知の反応を及ぼすようだ

 

ナジアル緒戦で、わが軍は敵のヴァルキュリアに壊滅的打撃を受けた。もはや、迷っている時間はない……私は狙撃銃を借り出した。そして、アリシアを撃ち……その手に盾と槍をもたせた……しばらくは、苦悩にさいなまれた。親友の恋人とこの手で撃ったのだ

 

そして、傭兵なのに私達の為に戦ってくれたあの人達を裏切る行為だったのだ。だが……今は確信している、これでよかったのだと

 

「これは……とんでもないぞ」

 

アリシアが撃った真実を知り、それを知ったウェルキンが飛び出していった……これから言えることは

 

「まずい!急いでウェルキン達を探すぞ!」

 

マザーがそう言い、急いでファルディオの部屋を出た。途中でガリア兵士を見つけ、ウェルキンはファルディオのいるバーロットの元にいる情報を得た。そして、急いでバーロットのいる中隊長室に向かい扉を開けた。そこにはファルディオを殴り胸倉を掴むウェルキンの姿があった

 

「アリシアの力がなかったらガリアは確実に負けていただろう。アリシアが……ヴァルキュリアがいれば、それがガリアを守る切り札となるんだよ!」

 

祖国を守るため、大国に挟まれた小国を守るためにヴァルキュリアという抑止力が必要だと主張するファルディオ

 

「……違う!強い力を持った所で戦いは終わらない。相手はそれ以上の力を持とうとするだけだ!」

 

それに反対するウェルキン。強い力は争いを生み、より多くの人を殺す力を生み出すだけだと主張する。二人の考えは真逆で平行線を辿っている。その時、バーロットが机を叩いた

 

「そこまでだ。2人の言うことは、多分どちらも正しく……そして、どちらも間違っている。私にも……その答えは分からない」

 

2人の主張はどちらも理があり害もあった

 

「しかし、いかなる理由があろうとも仲間を撃った罪は重い。軍規に基づきファルディオには逮捕監禁を命ずる。そしてウェルキン、私闘を行った罪で独房24時間収監の処置にする」

 

二人とも軍規を背いた罰が言い渡される。その光景をただ見ることしたできなかったマザー達は自分たちの無力さに拳を握りしめることしかできなかった

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

あの出来事から数日後、第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)に作戦を伝えるべくブリーフィングが行われていた。その目標がギルランダイオ要塞であった

 

ギリランダイオとはガリアと東部ヨーロッパを結ぶ交通の要所として中世より関所が置かれた要害の地である。その要塞は帝国のガリア戦線総司令部が置かれ、文字通り『帝国の最終拠点』であった

 

どう考えても1個小隊と傭兵に任せるような任務ではなかった

 

「今回はいったいどんな作戦なのですか?」

 

パンサーがバーロットに尋ねると

 

「うむ……まだ詳細な指示は私の所にも降りてきていないのだが……」

 

上司であるバーロットが作戦概要をしらなかった……そして作戦指揮所に現れたのは

 

「心配するな、バーロットよ。わしが自ら作戦を伝えにきてやったぞ」

 

ダモンであった。その場にいる誰もが嫌な目でダモンを見た。ダモンの突撃で大多数のガリア兵が死に、アメリカ軍にもレンジャー3名、フォース・リーコン2名が戦死していた。そのせいでアメリカ兵は無能な突撃を命じたダモンを目の仇にするほど憎んでいる者もいるほどだ

 

「将軍閣下……わざわざご足労いただき恐縮です」

 

バーロットが敬礼し場所を譲った

 

「ナジアルでの義勇軍中隊の働き、誠に見事であった。そこで今回は、栄誉ある要塞攻略の先鋒を義勇軍中隊に与えよう」

 

パンサー達は耳を疑った。僅か1個中隊と遊撃隊に要塞攻略をして来いと命じているのだから

 

「作戦はこうだ。要塞へは、物資運送用の線路が通じておる。その線路に、爆薬を満載した車両を走らせ要塞正面を爆破するのだが……義勇軍には、爆薬列車を正門まで走らせる為に線路上のスイッチを切り替えてきてもらいたい」

 

さらに要塞正面にある線路の切り替えスイッチを押して来いと言ってくる

 

「敵の猛烈な戦火を掻い潜っての任務……先鋒というより、決死隊ではないでしょうか?」

 

バーロットは回りくどく死んで来いと言ってるのではないかとダモンに尋ねる

 

「ブハハハ!何を言う、勇猛で命知らずのお前たちだからこそ出来る仕事ではないか!この戦いに勝利すれば、ついにガリアから帝国軍を駆逐することができるのだぞ」

 

ニヤニヤしながら死んで来いと言うダモン。パンサー達の堪忍袋の緒が切れる寸前であるが、何とか抑える

 

「将軍、よろしいですか?」

 

パンサーが手を挙げる。ダモンがそれに頷く

 

「この作戦の重要性は充分すぎるほど理解できました。ならば、この作戦は正規軍からの砲撃要請などの援護は期待してもよろしいので?」

 

榴弾砲かロケット砲による砲撃支援はできるのかと尋ねる

 

「何を言うかと思えば……」

 

またニヤニヤしながらパンサーを見ると

 

「そんなもの必要ないであろう、お前達みたいな勇猛な兵士なら己の力のみで攻略できるだろ?ブハハハハ!」

 

堪忍袋が逃げ出した

 

「それと、この作戦後にお前たちが持っているヘリコプターだったか?あれはガリア軍が接収する」

 

その言葉にパンサー達4人の堪忍袋がズタズタに引き裂かれた

 

「……それは本気で言ってらっしゃるのですか?」

 

相当ドスを気さえた声でパンサーが尋ねる

 

「ナジアルで見せた作戦……じつに興味深かった。あの作戦にはそっちにあるヘリコプターが必要と分かってな、それとも……わしらに刃向う気か?」

 

どうやらナジアルの戦闘で勝利したことで相当図に乗っていることと、あまりの怒りで逆に頭の中が冷めているパンサーは思った

 

「お待ちください!将軍!それでは契約違反となります!」

 

バーロットが将軍に詰め寄る。バーロットと交わした契約には一切此方の兵器に手をださないと書いており、これはガリア軍最高司令官からの署名もされてある

 

「だまれ!バーロット!これは中部方面軍総司令官である、わしの命令だ!お前達は黙ってわしの命令を聞いていればいい!」

 

そういいきるとダモンは去っていく。デュースやダスティー、ベガスの手がホルスターに伸ばされており、いつでも射撃可能だったがパンサーに止められ、その場には重い空気が漂っていた

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

夜が更けた頃、ギルランダイオ要塞の機銃陣地や戦車に近づく黒い影があった。デルタ・フォースとシールズである

 

作戦決行の前夜に彼らは要塞に忍び込んでいた。死んで来いと言われ死ぬつもりなど端から無いく、脅威となる重機関銃座や内部にある戦車にC4を設置している

 

今回の作戦にはありったけのC4を用意しており、アメリカ軍基地にあるC4は必要最低限程しか置いていなかった

 

要塞外壁にある銃座に周囲を警戒しながらC4を仕掛けるデュース。この作戦はデルタが内部の重要施設に爆薬設置し、シールズが外にある線路の切り替え器に細工をしていた

 

どちらも危険すぎて特殊部隊でもそう簡単にできる任務ではない。だが、彼らはアメリカの国家指揮最高部直轄のTier 1 Operatorと呼ばれる特殊部隊であり、どんな不可能な任務もこなしてきた古強者である

 

機銃座の陰に隠れ、サーチライトが通りすぎるのを確認したデュースは無線のスイッチを入れる

 

≪こちらデュース、要塞右側の銃座、砲座にセット完了。これより燃料庫に向かう≫

 

できるだけ声を抑え、デュースは自分の範囲での設置を終え次の場所に向かうと連絡をいれ

 

≪こちらベガス、左側も完了だ。これより弾薬庫に向かう≫

 

反対側も設置し終えたベガスが弾薬庫へ向かう

 

≪こちらダスティー、車両に設置は75%って所だ≫

 

戦車などの戦闘車両に設置しているダスティーも順調だった

 

≪こちらウルフパック。ネプチューン、状況は?≫

 

パンサーがマザー達に連絡を入れる

 

≪こちらネプチューン。1つ目の切り替え機は完了、2つ目は……今完了した。これより3つ目に入る≫

 

無線では切り替え機の方も上手くいっているみたいだった。サーチライトの数が多い分、切り替え機の方が危険度が高いが、よくやってくれていると思っていると

 

≪パンサー、アレ(・・)の準備は?≫

 

ふとマザーがパンサーに尋ねる

 

≪問題ない、ちゃんとくすねている≫

 

そう伝えるとマザーは満足そうに頷いた

 

≪しかし、目標は本当にくるのか?≫

 

マザーは目標が現れるか疑問に思っていると

 

≪くるさ、奴はこの要塞ともう一つの狙いなんざ直にわかる。作戦に集中しろ、アウト≫

 

パンサーは無線のスイッチを切り、次の目標へと足音を鳴らさずに進む

 

その頃デュースはラグナイト燃料が置かれている施設にC4をセットした後に第1集合ポイントに向かおうとした時、一つだけ装飾が豪華な扉に、話し声が聞こえていた

 

「・・・・・・リアの「最後の炎」……軍を「消滅」……」

 

会話内容は全部聞こえないが、重要そうな単語から周囲を警戒し盗聴する

 

「……「鋼鉄の鎌」作……戻るぞ……」

 

若い男の声の後に

 

「何だと!?……とう、マーモットを!?」

 

そこそこ歳のとったダンディーな声が聞こえ、単語だけだが内容を覚えていく

 

「……れるガリアの……腹を切り裂く……」

 

どうも物騒な単語ばかりで、これは最重要だと判断したその時、角から帝国兵の巡回が来た。デュースはいつものグロッグではなくサプレッサーが取り付けられたMk.23を抜き頭に一発撃つ。デュースがいたことすら気づき驚いた表情をしたが最後、崩れ落ちる帝国兵をデュースは受け止め音を出さないようにし、死体を隠すため引き摺っていった

 

「……ん?」

 

先ほどまで指揮所で話していたラディ・イェーガーが壁の方を見る

 

「どうした?」

 

マクシミリアンがイェーガーの見ている壁の方を向く

 

「いやなに、今誰かいたような気がしてな。唯の気のせいさ」

 

イェーガーが口元に笑みを浮かべ肩をすくめる。それにマクシミリアンは興味を無くし、最後の準備に取り掛かっていた

 

死体を焼却炉の中に入れ、燃やし証拠隠滅をする。すぐにこの場を離れ集合ポイントに向かう、今からでは集合時刻に少し遅れる時間であった

 

「……おそい」

 

集合時間から10分が過ぎ、ポイントで待機しているウルフパックとネプチューン。C4の設置に切り替え機の細工も無事に終え、出来る限り死体を出さないようにした。すると5時の方角から物音が聞こえ、パンサー達が木やその場に伏せて身を隠す

 

「ブレード」

 

パンサーが相手にギリギリ聞こえるぐらいの声で言うと

 

「ケイオス」

 

デュースの声と共に合言葉が返ってきた。それに一息つき、パンサー達が警戒を解く

 

「何をしていたんだ」

 

合流したパンサーがデュースに尋ねる

 

「燃料庫に設置後、指揮所と思わしき所である作戦の会話を聞いた」

 

それに他のメンバーも耳を傾ける

 

「全ての会話ではなく要所だけだが、「最後の炎」、軍を「消滅」、「鋼鉄の鎌」作戦に「マーモット」、そしてガリアの腹を切り裂く。恐らく敵の反撃作戦ではないかと考えられる」

 

その内容にメンバー全員が思考を巡らすが

 

「とりあえず、この場を離れ本隊と合流するぞ」

 

パンサーの指示通り、ここは一応帝国軍のギリギリ警戒地域の中であった。それに頷きウェルキン達本隊と合流すべく移動を開始した

 

翌朝、ギルランダイオ要塞の前に構える第7小隊と独立遊撃隊。目の前には土嚢を積み上げ、戦車や榴弾砲が固めていた

 

「敵は迎撃、榴弾、戦車といったありとあらゆる方法で……」

 

ウェルキンが作戦開始をしようとした所をパンサーに止められる

 

「どうしたんですか?」

 

なぜ止めたのか不思議そうに尋ねると

 

「なに、デカイ花火でも上げようと思ってな」

 

その意味が分からず首を傾げるウェルキンだが、パンサーがある物を取り出す。透明のカバーを開き、赤いボタンを押した。その瞬間、大爆発音が起きた

 

目の前に陣取っていた戦車などの戦闘車両が次々と爆発していき、傍にいた歩兵も爆発に巻き込まれていた。それに留まらず、要塞外壁の機銃座が次々と爆発していき、それは要塞内部でも起こっていた

 

「なんだ!何が起こっている!」

 

司令官であるセルベリアが突然の出来事に混乱し、部下に調べさせていた

 

「戦車部隊!榴弾砲が爆破!機銃座に砲座も爆発!」

 

調べてきた帝国兵が今起こっている状況を報告すると、また大爆発が起こる

 

「あの場所は……マズイ!弾薬庫だ!」

 

そばにいた帝国兵が爆発した場所を見て声を上げ、さらに同じ場所で大爆発がおこり、銃声も聞こえてくる。弾薬に引火した証拠であった。更にセルベリアの近くでも爆発がおこり

 

「あそこは燃料庫!」

 

帝国兵が悲痛な叫びで言い、ラグナイトの引火し大惨事。2柱の塔の内、1つが爆発に巻き込まれ倒壊した

 

その光景を見たウェルキン達は唖然とし

 

「きたねぇ花火だ」

 

そうデュースが感想を漏らした。それは特大の花火であり、要塞から帝国兵の阿鼻叫喚の声が聞こえてくる

 

「さて、フィナーレだ」

 

マザーが取り出し、スイッチを入れる。すると切り替え機の信号が赤から青に全て変わり、正門前で閉じてあったシャッターも開いた

 

「ウェルキン、大尉に連絡だ。爆弾列車に突撃させろと伝えろ」

 

ありのまま起こったことをウェルキンが報告すると心底驚いた様子だったバーロットは爆弾列車を突撃させ、正規軍に連絡を行った。爆発列車が線路を爆走し、正門に正面衝突する。正門が爆発し倒壊する

 

「よし、突撃だ」

 

パンサーの指示通りにレンジャー部隊とストライカー2両にエイプラムスが突撃。少し遅れ第7小隊も突撃した

 

「う……ぐ……」

 

火の海の中、瓦礫に埋もれたセルベリアは朦朧とした意識の中、走馬灯のような者を見ていた。もう顔も覚えていない優しかった父と母の思い出……そして実験体として弄くりまわされラグナイトの光しかない部屋の苦しい思い出……自分を助けた人には見捨てられ、この火の海に焼かれ死んでいくだろうと

 

「……いやだ」

 

それは無意識だったのだろうか、口から言葉が零れた

 

「もう……1人は……いや」

 

目から涙を流し、深く傷ついた心は助けを求めた……そして、それは訪れる

 

「おい!誰かいるか!」

 

奇跡とは人が起こすものである。一人の男の声が聞こえた、朦朧とした意識の中、視線だけを声のした方に向ける。それに気づいた男達は急いでセルベリアの元に向かう

 

「大丈夫か!?すぐに助け出してやる!」

 

男達はセルベリアの上に積まれていた瓦礫を持ち上げ、セルベリアを引き摺り出す

 

「おい大丈夫か!しっかりしろ!」

 

そこでセルベリアが見た男はデュースだった。ギルランダイオ要塞をほぼ無力化したデュース達に帝国兵は次々と降伏、今は帝国兵の生存者を探していたのだ

 

「あ……あ……」

 

喉がカラカラで言葉が出なかったが、セルベリアは涙を流して自分を救ってくれた男に手を伸ばす。抱きかかえていたデュースはその手を握り

 

「安心しろ、もう大丈夫だ」

 

そう語りかけた。その言葉にセルベリアは嬉しそうな表情をして気を失った。すると、パンサーの無線に連絡が入る

 

「目標が接近、行動開始だ」

 

フェイズ1からフェイズ2への移行の合図だ。デュースは水筒の水を少しずつセルベリアに飲ませ表情が和らいだ後、黒い遺体袋に入れた

 

「おぉ!このギルランダイオを落としたか!」

 

ジープに乗って現れたのはダモンであり。爆発に巻き込まれ瓦礫が散乱しているギルランダイオに掲げられたガリアの旗を見て笑う

 

「将軍、ここは危険です」

 

要塞から出てきたパンサー、ダスティー、ベガスがダモンに近づく

 

「お前達か、あのヴァルキュリアはどこにいる」

 

ダモンは髭をなでながらパンサーに尋ねる

 

「ヴァルキュリアは、まだ確認しておりません。恐らく瓦礫の下かと」

 

パンサーがそう伝えると

 

「嘘をつくな!ヴァルキュリアがこのギルランダイオにいることはしっている!さっさとヴァルキュリアを連れてこい!」

 

そう激怒しながら怒鳴る

 

「お言葉ですが、将軍。生存者の確認をしていますが、未だヴァルキュリアの姿を見たものはいません」

 

その怒鳴り声を涼しげに受け流し答えるパンサー

 

「黙れ!あのヴァルキュリアが死ぬはずがなかろうが!貴様!もしやヴァルキュリアの力が欲しく隠しているのだな!」

 

ダモンはパンサーを指さし怒鳴る

 

「とんでもありません将軍。あの力は我々では扱いきれません」

 

表情を変えず淡々と答えると

 

「黙れ黙れ黙れ!わしの命令がきけんのか!わしは総司令なのだz」

 

ダモンが怒鳴っているその時、一発の銃声が空に響く。銃声の音が消えると同時にダモンは地面に伏した。その頭には銃弾で出来た風穴ができていた

 

「スナイパー!」

 

パンサーが叫び、近くの障害物に身を隠す。ダモンの付添いで来ていた正規兵も物陰に隠れ震えていた

 

≪ダモン将軍が狙撃された!繰り返すダモン将軍が狙撃され死亡した!≫

 

その無線の内容に同様が走る。腐っても鯛な中部方面軍総司令官であるダモンが撃たれたのだから

 

≪レンジャーは辺り一帯を捜索!まだスナイパーが近くにいるはずだ!見つけだせ!≫

 

パンサーの指示にレンジャーが当たりを虱潰しに捜索する。だが、見つかったのは爆破された狙撃銃のみであった。それ以外の痕跡は影も形もなかった。狙撃手捜索は打ち切りとなりパンサー達デルタとレンジャー部隊は義勇軍と共に基地に戻り、ダモンが連れてきた正規軍はダモンの副官を頭にギルダランダイオ要塞に残った

 




ファルディオのメモは長々と書いても面白くないと思い省略と簡略化させてもらいました。全部見たい人はゲームをやるかニコニコ動画で上がっているのでそちらを参考にしてください。

イサラ生存、セルベリア生存、ダモンを狙撃で暗殺……この小説でやろうと思ったことは大抵はできた。後はデュースをどおうするかだけですな

あと4~3話で完結か……ゴールが見えてきたな


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20話 乙女の盾

まだダモンが要塞に到着する前、デュースはパンサー達と別行動を取り、先にセルベリアを担いでウェルキン達と合流していた

 

木陰に簡易ベッドを作り寝かせると、アリシアが様子を見に来ていた

 

「この人が……」

 

ベッドで寝ているセルベリアを見てアリシアが呟く。ヴァルキュリアとしてセルベリアと戦った記憶が残っていたのか複雑そうな表情をする

 

「彼女に見覚えが?」

 

アリシアが知っている風なのにデュースが尋ねる。デュースはセルベリアがヴァルキュリアであると知らず、マザー達からアリシアがヴァルキュリアになり戦った話は聞いていた。それから銀髪で赤目の女性であると報告を聞いており、セルベリアも若しかしたらとしか考えていなかった

 

「うん……」

 

頷いただけで話そうとはしなかった。デュースも無理に聞こうとはしなかった。すると、セルベリアが声を漏らしゆっくりと目を開いていく

 

「起きたか」

 

セルベリアが目を開き、体を起こした。その後辺りを見渡し状況を確認する。それを見たデュースが水筒に手を伸ばしセルベリアに渡す

 

「……そうか、私は」

 

自分の置かれた状況を理解し、デュースが手渡した水筒を無視してアリシアの方を見る

 

「お前達に敗れるとは……これも運命なのかもな。マクシミリアン様にご命令された最後の命令を全うできずに、こんな醜態を晒すとは……」

 

セルベリアは自嘲気味に笑う

 

「あの……最後の命令って」

 

アリシアがおずおずと尋ねると

 

「……ガリア軍の主力部隊を道連れに自爆だ」

 

下を向いたままセルベリアは答えた。それにアリシアは手で口を塞ぐ

 

「笑え、唯一お側にいれたヴァルキュリアを打ち砕かれ、マクシミリアン様から用無しと捨てられ、死ぬことも叶わず無様に捉えられ……傑作ではないか!」

 

セルベリアは笑う。その笑い声も泣き叫ぶようにしか聞こえないにも関わらずだ

 

「……気はすんだか?」

 

それをデュースはキッパリと言った。それにセルベリアは顔を上げる

 

「とにかくこれを飲んで休め。まだ本調子じゃないだろ」

 

そういい再び水筒を渡すが、それはセルベリアの手で弾き飛ばされた

 

「貴様ら傭兵に何がわかる!実験動物のように毎日体を弄られ!そこから救ってくださった人から捨てられた気持などわかるまい!」

 

セルベリアはベッドから立ち上がり涙を流し叫ぶ、それを無表情で聞いていたデュースは

 

「俺はお前ではないからそんなものしらん。お前の縛る物が無くなったのなら自由にすればいいだろ」

 

雁字搦めであったセルベリアが自由になるなら問題ないだろうと思っていたデュースであったが

 

「マクシミリアン様のお役にたてることこそが私の生きる理由であり存在意義だったのだ!私は何を理由にして生きていけばいい……私には何もないのだ……」

 

膝から崩れ落ちたセルベリアは茫然とした表情をして涙を流し続ける

 

「生きるのに理由が必要なのか?」

 

その言葉に下を向いていたセルベリアはデュースの方を向く

 

「そこらの虫を見てみろ、こいつらは何かを理由に生きているか?こいつらは生きると言う本能に従って生きているぞ」

 

指差した所にアリがおり、それがせっせと動いていた

 

「何もないと言ったが、逆に言えば何でもできると言うことだ。それに、帰るべき場所があるのも辛いものだ」

 

帰る場所があるのに辛いと言う意味がセルベリアには理解できなかった

 

「俺達は今でこそ傭兵だが、帰る祖国もあれば家庭を持っている奴もいる」

 

デュースの言葉にセルベリアは先ほどの乱れっぷりが嘘のように静かに聞いていた

 

「だが、祖国に帰りたくても帰れない。愛する家族を一目見ることなく死んでいった戦友がいる。これは戦争だからお互い様といえるが……」

 

下を向いて喋っていたデュースがセルベリアと目線を合わせる

 

「お前に分かるか?昨日一緒に食事をした奴が次の日にはいない、祖国の地で眠りたくても眠れない者の苦痛がお前に分かるか?」

 

睨みつけるように言う言葉にセルベリアはたじろぐ。セルベリアにはマクシミリンにしか興味を持っていなかったもあり、戦友……というものが分からなかった

 

「それに生きる意味がないなら見つければいい」

 

なにげなくデュースが言う

 

「生きるだけなら飯くって寝れば問題ない。だが、生きる理由ってのは確かに難しい。俺は生きて祖国に戻ると言う理由があるが、祖国にいたころは任務を成功させて仲間とビールを飲んで熱いシャワーを浴びるぐらいが理由だった」

 

なんとも軽い理由にセルベリアは唖然とし、アリシアは苦笑いをする

 

「そんなに生きる意味を知りたいのなら世界中周って探してみろ。お前は自由なのだから」

 

何か思うことがあったのかセルベリアは黙ってしまった

 

「私はね……家族がいなかったの」

 

するとアリシアがセルベリアに話しかける

 

「孤児院で育って、両親の顔も名前もしらなかった。私は1人ぼっちだった……だけどねウェルキンが……あ、ウェルキンていうのはこの第7小隊の隊長でね、君は1人ぼっちじゃない、僕もイサラも……小隊の皆も、今はアリシアの家族だって言ってくれた」

 

セルベリアは黙って話を最後まで聞く

 

「その時は本当に嬉しかった……私は1人ぼっちじゃない、皆がいるんだって分かったの。その時からかな……ウェルキンへの気持ちが強くなったのは……」

 

胸の前で手を握り、本当に嬉しそうに言うと、アリシアはセルベリアの手を握る

 

「私はアリシア・メルキオット。あなたは?」

 

そう満面の笑顔で名前を尋ねると

 

「……セルベリア、セルベリア・ブレスだ」

 

セルベリアの表情が笑みに変わる

 

「アリシア、彼女の容体はどうだい?」

 

ウェルキンがストライカーの陰から現れる。その場の様子からセルベリアの無事を確認する

 

「もう大丈夫そうだけど……どう?」

 

セルベリアに体の状態を尋ねると

 

「大丈夫だ。私はヴァルキュリアだ、傷の回復も早い」

 

そう答えた

 

「そうか、よかった。所でさっき虫の話をしていなかったかい?」

 

いきなり尋ねるウェルキンにデュース達は呆気にとられ、笑った

 

「まったくウェルキンは……ただの気のせいよ」

 

目じりの涙を拭いながら笑うの堪えるアリシア

 

「人間1人じゃ生きていけないと言うし……いろんな人と接してみるのもありじゃないか?」

 

デュースは飛ばされた水筒を広い、飲み口を拭くと、中身があるのを確認してセルベリアに渡す。それをセルベリアが受け取り、水を飲む

 

「……そうだな」

 

水筒をデュースに返す。セルベリアの顔は、もう先程までの悲痛な様子が微塵も感じられないほど穏やかであった

 

「旅に出るのならお前にも付き合ってもらおう。私を救い旅を薦めたのもお前だ、責任を取ってもらおう」

 

セルベリアが意地悪そうに言うと、デュースはバツが悪そうな顔をする

 

「デュースさん、どこですn」

 

その時、デュースを探していたイーディがセルベリアと仲良く話すデュースの姿を見て一気に不機嫌になる

 

「デュースさん!」

 

ズカズカとデュースの方に歩いていき、デュースの手を引き、自分の方に向ける

 

「何を鼻の下を伸ばしてデレデレしていますの!」

 

それを皮切りにイーディがデュースに文句を言うが、その光景が面白くないのかセルベリアが段々と不自然になっていくその時……無線が入った

 

≪ダモン将軍が狙撃された!繰り返すダモン将軍が狙撃され死亡した!≫

 

無線からパンサーの声が聞こえ、その内容に皆が固まる。そして直ぐに騒がしくなった

 

「ウェルキン、直ぐに兵を集めて警戒させろ。まだスナイパーがいる可能性がある。セルベリアは俺と一緒に来い」

 

デュースが直ぐに指示を言うとウェルキン達が動き出し、デュースもレンジャーと合流を急いだ

 

スナイパー捜索の結果は見つからず仕舞いで終わり、帰路についている最中バーロットから無線が入る

 

≪たった今、ランドグリーズから緊急入電が入ったわ!正体不明の巨大兵器が、クローデンの森を突破しランドグリーズへと向かっているそうよ!≫

 

それはハンヴィーや輸送トラックに積まれていた無線からも聞こえ、座って寝ていた奴も飛び起きるぐらいの出来事であった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

クローデンの森の崖の上を走行するハンヴィーとストライカー。その巨大な兵器を確認し横並びに走っていた

 

「でけぇ……」

 

その巨大さにデュースの口から感想が漏れる。全長142.5m、全高35.8m、全幅35.2mと規格外にも程があった。並んで走るストライカーと比べても全長が約20倍、全高は約12倍、全幅も約11倍もあり、正面に主砲2問は800mmと戦艦ミズーリの主砲406mm砲の約2倍の大きさであった

 

「あれは……マーモット!」

 

デュースの隣に座っていたセルベリアがその巨大兵器の名を言う

 

「帝国でマクシミリアン様が極秘で造られていた陸上戦艦だ。あれを使ってガリア軍の首都に突撃するつもりだ」

 

セルベリアの説明を聞き、デュースは前夜に聞いた男達の会話を思い出す

 

「鋼鉄の鎌……マーモット……ガリアの腹を切り裂く……そういうことか!」

 

全ての単語の結び付きが今分かった所で意味は無かった。ともかく、バーロットから言われた作戦を遂行するのが先決だと切り替えた

 

バーロットが言うにはギルランダイにいる主力部隊はナジアルでの損失が余りにも大きく、通常の半分程度しか兵員がおらず、目の前には帝国の部隊が現れたことで身動き取れないとのことだった。そこでモーモットを枯れ谷へと誘い込み、首都防衛大隊が設置した地雷原地帯へ誘い込み、地雷と首都防衛大隊の総火力をマーモットにぶつけるとのことだった

 

第7小隊と独立遊撃隊は囮となり、谷へ誘い込むのが任務であった。基地にいるフォース・リーコンとブラックホークで先に帰っていたマザー達も動き出しており、全兵力を動かせる準備をしていた。さらに航空支援としてアパッチ2機が此方に向かっているとの報告があった

 

「側面にある砲台は此方を狙えん、此方から上の機関砲と下の砲台を狙い、下の部隊を掩護する!」

 

パンサーが無線で他の部隊に指示を出す。崖の下では第7小隊とエイブラムスがマーモットを追いかけていた。2両のストライカーには105mm戦車砲と40mm擲弾砲を積んでおり、装甲側面にはシュルツェンを装備し至る所に追加装甲を施し、20発前後しか積めなかった砲弾も追加弾倉を取り付け70発前後まで持ち運び可能となった。速力は若干落ちたものの、整地では90km以上をキープしている。40mmの方も同じくガリアン改修をおこない防御能力を高めている

 

105mm徹甲弾がマーモット上部の37mm機関砲を目標に発射、初弾命中し3基の内1基を破壊した。だが、それに反撃をし始める機関砲を狭い道ゆえに避け切れずに直撃を食らう。追加装甲のお蔭で損傷は軽微だが、このまま直撃弾を食らい続けるわけにもいかなかった。上でマーモットも気を引いている内に、下ではマーモットを追い越し崖の近くに置かれているラグナイトボックスを目指していた。誘導方向とは違う方に行かれては作戦失敗である

 

エイブラムスとエーデルワイス、シャムロックにタンクデサントしていたレンジャーが先行し、ラグナイトボックスまでの道を確保する

 

「コンタクト!11時の方向、数は2!」

 

先行していたジム・パターソン軍曹率いる分隊が待ち構えていた少数の帝国兵を見つけ、銃撃戦となる。だが相手は突撃猟兵と対戦車猟兵のみであり

 

「敵兵2名、排除!」

 

排除は直ぐに終わった。すると彼等の後ろをアリシアが駆けていき、誘導方向とは違う方の崖の近くに向かい、傍にあったラグナイトボックスを撃つ。ラグナイトボックスは時限式であり、衝撃を加えるとタイマーが動く仕掛けであった。それを二つ起動させると、急いでその場を離れ誘導方向に向かう

 

ラグナイトボックスからアリシアが離れると、爆発が起こる。その爆発で崖崩れが発生し、道が岩で塞がれた

 

「よし!次のポイントに向かうぞ!」

 

その崖崩れを確認したパターソンは次のポイントへと向かう。戦車3両はマーモットの下を走り回っており、上から榴弾砲が降ってくるので気を抜けない状態だった。だが、攻撃せずに目標ポイントまで連れて行くのみだったので、まだ回避に専念できる分マシであった

 

すると、空から音が聞こえてきた。アパッチがランドグリーズ方面から飛んできたのだ

 

≪なんて馬鹿でかさだ≫

 

ガンシップ01がその大きさに冷や汗を流す。幸いか上に対空兵器などは装備さえれておらず、歩兵もいない

 

≪ガンシップ01、目標を確認。攻撃開始≫

 

上部甲板を狙って2機のアパッチがロケット弾を発射する……だが

 

≪うそ!なんて硬さなの≫

 

そのロケット弾が直撃するが、装甲に皹1つ入らなかった。余りの硬さにガンシップ02の驚きの声が無線に流れる。ならば、とラジエートを直接攻撃しようとマーモットの後部へ回り込むが

 

≪……ッ!≫

 

ガンシップ01が咄嗟の判断で上昇する。すると、ガンシップ01がいた所に重機関銃と機関砲の十字砲火が飛んできた。これはラジエーターの直接攻撃が不可能だと判断し、崖の上で戦っているストライカー部隊の援護に周る

 

そして下の戦車と歩兵は迫ってくるマーモットを背に目標地点まで走る。幸いにマーモットは、その巨体故に非常に足が遅く轢かれる心配はないが、長距離榴弾砲があるので気は抜けなかった。第2爆破ポイントに到着するとアリシア達が起爆に向かい、パターソンの分隊が敵兵排除に向かった

 

起爆も銃を撃つだけなので直ぐに終わり、帝国兵も非常に少数なので手こずることなく排除されていた。そして、爆発と共に崖が崩れ第2ポイントも完了し、目標地点に到着した

 

≪こちらアルファ分隊!目標ポイントの到着、指示を待つ!≫

 

ストライカー部隊はその報告を聞き、マーモットから離れレンジャーが達のいる目標地点に向かう

 

≪アルファ分隊は近くの岩陰に隠れ待機、ガンシップは一度補給に戻り再出撃の準備をしろ≫

 

ハンヴィーで指揮をとるパンサーがアパッチを下がらせ、レンジャーを待機させる。目標地点に到着すると、首都防衛大隊の戦車隊が砲撃しており、多数の対戦車地雷と共にマーモットを砲撃する。だが、その装甲に傷一つと付かず側面にある副砲で戦車隊が全滅してします

 

「くそっ!あれだけの砲撃を食らわしても止まらねぇのか」

 

岩陰に隠れ状況を見ていたラルゴが悪態をつく。既に谷から平野に抜けられる寸前であり、この戦力ではなすすべもなかった。パンサーもアパッチ3機を損傷覚悟でラジエーター破壊に向かわせるか本気で悩んでいると

 

「おい、あそこに人がいねぇか!?」

 

ラルゴはマーモットのいる方を指す。それにつられ、皆が見ると確かに人がいた

 

「だれだ、そんな馬鹿は!」

 

デュースが双眼鏡を覗き、確認すると……絶句した

 

「あれは……アリシアじゃないか!ヴァルキュリア化してるぞ!」

 

そこにいたのはヴァルキュリアと化したアリシアであり、それに皆……特にウェルキンが心底驚いた表情をする

 

「……まさか!」

 

するとセルベリアが何かに気付いたのかハンヴィーから身を乗り出す

 

「アリシアを止めろ!奴は……自爆してマーモットを止める気だ!」

 

それを聞き、ウェルキンは戦車から飛び出して走り出す

 

「アリシアッ!」

 

なりふり構わずアリシアのいるマーモットの方へ駆ける

 

「ごめんねウェルキン……さよならも言わずに、だまって出てきちゃって」

 

眼前へと迫ってくるマーモットを見ながら、1人ウェルキンへの謝罪を口にする

 

「あれから、ずっと考えてったの。なんであたしがヴァルキュリアなんだろ……って。ヴァルキュリアなんかじゃなかったら、みんあと今まで通りに暮らしていける……って」

 

アリシアは手に持ったヴァルキュリアの槍をマーモットに向ける

 

「でも……今なら分かる。あたしの力を使えば、マーモットを止められる。あたしの命の炎を燃やせば……故郷やガリアの人達を守ることが出来る」

 

そして、アリシアを包む蒼い炎はしだいに大きくなり、輝きを増していく。そのまま足を進めマーモットへと向かう。雨霰と降り注ぐ砲弾がアリシアを襲い、その爆風で走っていたウェルキンが吹き飛ばされる

 

「うわぁーっ!ぐっ……アリシア!」

 

泥だらけになりながらも、ウェルキンはアリシアの名を叫ぶ。砲弾が直撃したかと思えたが、盾で防ぎ、無傷だった

 

「あたしは……ヴァルキュリア」

 

目が真紅へと輝き、その言葉を皮切りに駆ける。砲弾を避け、全速力を持ってマーモットに接敵し

 

「こんなものーっ!」

 

ヴァルキュリアの槍を投擲する。それは音速を超え、レーザービームの如く飛翔していき、マーモットの機関部を貫く

 

「あたしは……ヴァルキュリア……もう……みんなと一緒には……」

 

その手に残った盾を離し、呟く

 

「いられない……」

 

目から涙を流し、命の炎を燃やし、止まったマーモットを道連れにしようとする

 

「まさか……あの蒼い炎は!」

 

マーモットの中にいたマクシミリアンは冷や汗を流し焦る

 

「やつめ、自らの命もろとも、コノマーモットを葬り去るつもりか!ええい、取り舵45度!全速で離脱しろ。急げ!」

 

マーモットは再び機関を再起動させ、この場から逃げようとする。それを睨み付けるアリシアだったが

 

「アリシア!」

 

その声に驚き、振り返る。そこにいたのは泥だらけになりながらも自分を追ってきたウェルキンの姿だった

 

「ウェルキン!来ちゃダメ!帰って!ヴァルキュリアの力を使えばマーモットを倒せるの!」

 

アリシアは必死に帰るよう言う

 

「あたしが死ねば、たくさんの人が助かるのよ!」

 

そう泣き叫ぶ……だが

 

「ちがう……違う!」

 

ウェルキンはそれを正面から否定する

 

「そんな破壊の力でかったって、それは本当の勝利じゃない!本当の勝利は、僕達が、自分たち自身の力で掴み取らなくちゃダメなんだ!」

 

アリシアの命を犠牲にした勝利など、本当の勝利ではないと叫ぶ

 

「ウェルキン……」

 

アリシアは悲しい表情をし、顔を背ける

 

「でも、あたしにはヴァルキュリア人の血が流れてる……あなたとは違うのよ」

 

自分の体に流れるヴァルキュリアの血が、隔てる壁になると泣く

 

「確かに、君は僕達と違う能力を持っている。だけど……アリシアは、アリシアじゃないか」

 

そんなもの関係ないとウェルキンは語る

 

「明るくて、優しくて、パン屋になるのが夢で……それは変わってないだろ?」

 

それにアリシアは顔を上げる

 

「ヴァルキュリアであっても、君は君なんだ。彼女だって一度はそれを理由に死のうとした、だけどデュースが彼女を救い、彼女は救われた。ヴァルキュリアだからって、それを理由にする必要なんてないんだ」

 

その必死の語りかけにアリシアはウェルキンの方を向く

 

「ウェルキン……」

 

その眼には涙を流し続け

 

「僕は、君を守る。かけがいのない君を……きっと守ってみせる」

 

ウェルキンはアリシアの目をじっと見詰め

 

「アリシア……僕は、君を愛している」

 

愛の告白をする。それにアリシアの目は大きく見開いた。ウェルキンは戦闘服の胸ポケットに入れていたコナユキソウを手に取り

 

「アリシア……戦いが終ったら、一緒に暮らそう」

 

コナユキソウを結び指輪のようにすると、アリシアの左手の薬指にはめた

 

「僕はずっと、君と一緒にいたい」

 

それにアリシアは泣きながら笑みを浮かべ

 

「ウェルキン……」

 

愛しき人の名を呼ぶ。そのまま2人は見つめあい……キスをした。すると蒼い炎は二人を包み込み、渦を巻きながら天へ上ると、緑の粒子になって2人ぶ降り注いだ。まるで祝福するかのように……

 

「おーおー、お暑いね、お二人さん」

 

その声に反射的に振り向く2人。そこにいたのはハンヴィーに乗ったデュースと助手席に乗るセルベリアだった。2人の顔をニヤニヤしていた

 

「たく、ここは戦場だぜ。見せつけてくれやがって」

 

そう言うと、アリシアとウェルキンの顔が真っ赤になる

 

「アリシア……」

 

セルベリアがアリシアの方を見ると

 

「おめでとう、お前は自分に素直に生きていいんだ」

 

笑みを浮かべて言う。それにアリシアは再び涙を流す、その涙は悲しみではなく嬉しさで流す涙だった

 

「おら、お二人さん乗りな。生憎、ブライダルカーとはいかないが、まだ終わってない」

 

その言葉にハッとなりウェルキンとアリシアは急いでハンヴィーに乗り込む

 

「合流したら覚悟していおけ、なんせ愛のプロポーズを音声付きで全部見られてたんだからな」

 

そう、ハンヴィーに搭載されている無線のスイッチを入れており、ウェルキンの告白は全員に知られていた。更に、双眼鏡で見ていたのもあって完全にバレている

 

アリシアは顔を真っ赤にし俯き、ウェルキンは苦笑いしながら合流をいそいだ

 




緑の粒子がコジマ粒子に見えた人は少なからずいるだろ……

セルベリアの説得シーンが無茶じゃないかと少し不安ですな……しかし、こんなダダ甘なのを書くとはな……砂糖吐いて悶絶しそうになったよw

さて問題は、デュースを元の世界に戻すか、このまま残すか……ちょいと読者の方々の意見も聞いてみたいので、感想に書いてくだされば幸いです


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21話 最終決戦 前篇

これ以上ないラブロマンスを繰り広げたウェルキンとアリシアはデュースが運転するブランダルカーと言う名のハンンヴィーで部隊と合流した

 

その時のからかわれ様と言ったら凄まじいものであった。第7小隊の面々はもとい、その場にいたレンジャーに加え、無線で聞いていたフォース・リーコンや戦闘車両部隊の面々が無線で祝いの言葉を投げかけるほどだ

 

そんなこんなで、無線からのお言葉にアリシアが顔を真っ赤にしながらも先に行ってしまったマーモットを追いかける。いくら足が遅いからとはいえ、結構な距離まで離されており、ペダルをめいいっぱい踏み込んで急ぐ

 

そして時間が掛かりながらもなんとかヴァーゼル橋前までついた

 

「やっとヴァーゼル橋か、あのデカ物は首都に辿り着いてしまってるかもな」

 

目の前のヴァーゼル橋はランドグリーズまで一直線であり、目と鼻の先だ。そこまで来たのにマーモットの姿が見えないと言うことは既に乗り込まれている可能性があるとダスティーは考えていた

 

「とにかく、このまま前進だ。あそこにはマザーやラミレスの部隊がいる、問題ない」

 

首都の近くにある義勇軍基地にはエイプラムスが1台壊れてるとはいえ、戦闘可能なのが2両にブラッドレーが2両、ヘリはチヌークを合わせて7台ある

 

「……!ヴァーゼル橋手前に、帝国軍が布陣しています!」

 

するとアリシアが前方に帝国軍の兵が陣取ってるのを確認する

 

「あの部隊は、イェーガー将軍の戦車隊だわ。厄介な相手ね」

 

バーロットが陣取っている戦車隊がどこの部隊かを識別する

 

「イェーガー……あのグローデンの森に出てきた奴か」

 

パンサーが目の前の戦車隊を睨み付ける。グローデンの森で帝国の補給基地を占拠しにいった時に出てきた試作重戦車に描かれたマークを思い出す

 

「おいでなすったな、ガリア義勇軍に傭兵の皆さん。恨みはねぇが、ここを通す訳にはいかん」

 

帝国軍試作改良型重戦車・ケーニッヒヴォルフの上に座りながら目の前にいるガリア軍の旗とアメリカ軍の星条旗を見る

 

「わが故国・フィラルドが独立を取り戻すには、マクシミリアンの力が必要だ」

 

例え犬呼ばわりされてもな。そう言い、戦車の中へと入る。守ることだけを考えてか、かなり堅牢な構えであった。このままでは時間が取られ、消耗するのが目に見えていた。すると、パンサーは無線機を取出し

 

「お前達に構っている時間など無い」

 

そう言うと無線のスイッチを入れた。いくら待っても攻めてこないガリア軍にイェーガーは不振に思い始めた

 

「奴ら、首都が陥落されるかも知れんと言うのに何故攻めてこない」

 

マーモットが刻一刻とランドグリーズに攻め込んでいる中、まったく手を出してこないガリア軍。イェーガーは嫌な感じがすると思っていると

 

≪将軍!報告にあった飛行兵器が接近してきます!≫

 

部下からの報告にイェーガーは舌打ちした。ナジアルやバリアス砂漠でその姿を見せた飛行兵器、傭兵の兵器と聞いたときは驚いたが、その武装は重機関銃とロケットであると情報があった。そう……その情報しかなかった(・・・)

 

「戦車は建物の陰に隠すよう通達しろ。直線的な攻撃しかできないロケットなら、この重戦車部隊の装甲は貫けない。屋上にいる奴には身を隠すように言え」

 

無線手にそう伝える。建物の陰に戦車を隠し、身を乗り出していなかったら問題ないとイェーガーは考えていた。それが彼の敗北の原因と知らずに

 

≪ガンシップ03、目標を確認。指示を≫

 

目の前にいる敵戦車を見つけたアパッチがパンサーに指示をこう

 

≪ウェポンオールフリー、繰り返すウェポンオールフリー。直ぐに目の前の戦車を排除しろ≫

 

パンサーは全武装の許可を出す。それはアパッチ本来の力を示すものであった

 

≪ガンシップ03、了解。攻撃を開始する≫

 

そこからは一方的な虐殺であった。南西の方角から戦域に突入してきたアパッチはヴォルウ特殊装甲型を捕捉する。シーカーが作動し、マーカーがヴォルフと重なりLOCKの文字が表示された。そして、赤い発射ボタンを押し、ヘルファイアが飛翔していく

 

自分に目がけて飛んでくると思ったヴォルフが建物と建物の間に隠れる……それが自分で逃げ道を無くすと知らずに。まっすぐ飛んでいくと思ったヘルファイアが跳ね上がり、空へと飛んでいく。それに何事かと見上げるイェーガー、ヘルファイアが空に向かっていくかと思ったら、次には地面目掛けて落下していた

 

それはヴォルフの隠れた建物を間へと向かっており、気づいたヴォルフは急いで全身する。しかし、それを追いかけるように追尾していく。決して逃れることのできない地獄の炎、それはヴォルフを捉え、直撃した。装甲が厚いのが自慢なヴォルフお特殊装甲型も上部装甲を狙われるとは考えてもおらず、その薄い部分を狙い撃ちにされ一発で破壊される

 

その光景を一部始終を見ていたイェーガーは

 

「逃げ回れ!絶対に足を止めるな!」

 

戦車へ逃げるよう言う。建物の間に隠れていた重戦車が飛び出すように逃げる。だが、それは自分から標的になるようなものであった。その姿を捉えたアパッチがシーカーを作動、LOCKするとヘルファイアが飛んでいく。トップアタックをするヘルファイアは地上を走る重戦車を追尾していき……破壊する

 

すると、屋上にいた帝国兵はアパッチに攻撃を開始する。頭を上げた帝国の狙撃兵の頭が撃ち抜かれる。屋上で銃を構えていたマリーナがM24のボルトを引く、そこから飛び出した空薬莢が地面へと落ち、金属が弾く音を鳴らす

 

帝国兵がいた屋上の周りには既に第7小隊とアメリカ軍が配置しており、頭を上げるのを待っていたのだ。さらに、上空から30mm機関砲が降ってきて、対戦車砲も対戦車兵も突撃猟兵関係なくひき肉へと変えていく。ヴォルフと重戦車がやられたのを見たイェーガーは何とも言えぬ顔をしていた

 

「あの飛行兵器には追尾してくる兵器がつんであったとはな……それに驕らず、兵への配置も行っていた。その配置も見事なもんだ、頭を上げたら最後って訳か……グレゴールとセルベリアが負けたのも頷ける」

 

そう呟き、イェーガーはハッチから身を出した

 

「総員につぐ!この場から撤退し、脱出しろ。ここで無駄に命を散らす必要もない」

 

そう大声で言うと、帝国兵があわて始める

 

「お前たちは、あの最精鋭たる義勇軍と傭兵に勝てるのか!ここで無駄死にせず明日へ生きろ!これは命令だ」

 

イェーガーはそう言うと笑う。すると帝国兵も何かを感じることがあったのか、銃を下していく。だが、まだ油断できないと屋上ではアメリカ兵がイェーガーを照準に捉えている

 

すると、イェーガーが戦車から出てきて、手を挙げながら大通りまで歩いてくる

 

「俺達の負けだ!部下達には寛大な処置を望む!」

 

それを見たバーロットはどうするべきか考えていると

 

「大尉、ここは先に進みましょう」

 

パンサーがそう言う。バーロットが何故かと聞くと

 

「ここで彼らに時間を取られていては手遅れになります。今は無視して進むべきかと、敵の戦力も大半を失い、抵抗の意思も見られません」

 

そう言われ、バーロットが少し考えたのち

 

「分かった。ここに第2小隊を残し、我々はランドグリーズへと向かう!」

 

そう指示をだす。ケーニッヒヴォルフはその場で破壊され、義勇軍はランドグリーズへ向かう。すると、イェーガーの前にハンヴィーが停車する

 

「イェーガー」

 

そこにはセルベリアの姿があり、イェーガーは心底驚いた表情をした

 

「セルベリア!お前、生きていたのか!」

 

指さしながら聞くと

 

「あぁ、この男に救われてな。お前はこれからどうするんだ?」

 

セルベリアがデュースの肩を叩き、尋ねる

 

「俺はもう帝国に戻るつもりはない」

 

イェーガーは腕を組み、セルベリアを見ながらいう

 

「俺は故国・フィラルドの独立を取り戻す為に、マクシミリアンの力に賭けた。軍事力さえあれば、国を取り戻せる……軍事力こそが、国を守る力だろ思っていた」

 

壊れたヴォルフを見ながら心の内を言う。その言葉にはデュース達も思う所があった、軍事大国であり世界の警察と自称するアメリカ合衆国。自分たちが正義だと疑わず軍事介入や軍事力を示すことが多々とあるのだ

 

「だが、俺はガリアの連中の前に敗れ去った。そして、気づかされたのさ。故郷を、共に暮らす仲間を、慈しむ気持ち……やつらの心こそが、国を守る力なのだと」

 

どこかスッキリとした表情でいうイェーガー。実際に戦ったのはグローデンの森だけだが、その時以降戦火を挙げ、国にだけでなく自分自身にも忠を尽くすガリア義勇軍が少し羨ましく思っていたのだ

 

「俺はフィラルドへ行こうと思う。お前はどうするんだ?マクシミリアンの元に行くのか?」

 

そう尋ねると

 

「いや……私は旅に出ようと思う」

 

そう言うとイェーガーは感心した表情をする

 

「私はマクシミリアン様に捨てられた……だからこれからは自分が生きる理由をさがしてみようと思う」

 

セルベリアもこれまでの余裕のない氷のような表情でなく、実に人間らしい感情を表にだした表情をしていた

 

「そうか……それもいいだろう。お前も今まで見たなかで、一番いい顔をしているな!」

 

笑いながら言うと、セルベリアが助けたと言ったデュースの顔を見る。まだまだ若いにも関わらず1流の兵士の風格をしているとイェーガーは思った

 

「あのセルベリアがな……さて、俺はもう行く。マクシミリアンの奴によろしく言っといてくれ」

 

そう手をあげ、イェーガーは歩いていき、デュース達はランドグリーズを目指す

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

義勇軍が急いでランドグリーズに向かっている頃、既にマーモットは首都ランドグリーズに到着し、そのまま突撃してランドグリーズ城へ攻め入っていた

 

廊下の先にある謁見の間、そこに一人の男が入ってきた。その男は白い鎧と兜を被ったマクシミリアンであった。コーデリア姫の目の前にくると胸に手を当て、頭を下げた

 

コーデリア姫の謁見を賜り、光栄に存じます。私はマクシミリアンと申す者、御城下にいささか乱暴に参上つまった段はご寛容いただきますよう」

 

そういい頭を上げる、するとコーデリア姫の傍にいたボルグが前に出ると

 

「さすがは名将の誉れ高い、マクシミリアン殿下!電光石火の国境線突破、感服の極みです!」

 

マクシミリアンが攻め入ったたことを賞賛していた

 

「連邦と結ぼうとした直後に手の平を返して、わが帝国に内通とはな」

 

その様子を無関心に思いながら言うマクシミリアン。ボルグは密かに帝国と内通していり、ガリアを売る算段だったのだ

 

「これもガリアを安泰ならしめんための決断!小国が生き残るには、大国の庇護が必要不可欠。わがガリアは、無条件降伏を受け入れ帝国の属国となりましょう」

 

ガリアの為なら仕方いと言うボルグ。勝手に無条件降伏を受け入れ、更に帝国の属国になるとまで言い始めた

 

「そのかわり、約定どおりにこのボルグをガリアの統治者としてお認め頂きたい」

 

とうとうその口から野心が漏れた、この男には忠誠も愛国心も初めから無かったのだ

 

「フフフ……余はガリアに帝国ごときの属国となることを求めぬ」

 

それをマクシミリアンは鼻で笑い、祖国である帝国を『ごとき』と言い放った

 

「このマクシミリアンが大公として即位し、ガリアは新しい国として生まれ変わるのだ」

 

その顔に笑みを浮かべて言う。それにボルグは焦り始める

 

「な、なんですとっ!」

 

その内容にボルグがどういう訳なのかを聞こうとするが無視され

 

「そして、この城に眠る『ヴァルキュリアの聖槍』の力をもって……ガリアは大陸最強の国家となる」

 

その言葉にコーデリア姫が驚き顔を上げる

 

「あなたは、なぜそれを!?」

 

マクシミリアンのしる秘密、それを知っていることに驚いていた

 

「コーデリア姫、貴女には余の妃となってもらう。ヴァルキュリアの末裔であるランドグリーズ家の血統は、大陸の王となる余にふさわしい」

 

大陸の王となり、ヴァルキュリアの末裔であるコーデリアを娶ると言い出した

 

「ヴァルキュリアの末裔……あなたはその血統を利用しようというのですね」

 

コーデリア姫が睨みながら言うと

 

「いかにも。ヴァルキュリアの威光と権威は、この現代においても衰えてはおらぬゆえ」

 

それを肯定する。するとコーデリア姫が目を瞑り、僅かに下を向く

 

「……では、あなたにお見せしましょう、わが血統の……真実の姿を」

 

玉座から立ち上がり、頭に被っていた物を脱ぐ。そこにあったのは……黒い髪であった。それにボルグは驚きの声を上げ、マクシミリアンも予想外という顔をした

 

「わたくしはヴァルキュリア人ではありません。ダルクス人なのです」

 

コーデリア姫はヴァルキュリア人ではなくダルクス人であったのだ

 

「い、いったいこれは……どういうことだ!」

 

その余りにも衝撃的な事実にボルグが混乱していた

 

「教えましょう、真実を」

 

そしてコーデリア姫は歴史の真実を語り始めた

 

数千年前、大陸を支配しようとしたヴァルキュリア人がガリアの地に侵入してきた。先住民であったダルクス人達はヴァルキュリアに抵抗した、しかしラグナイトの力を使うヴァルキュリア人はダルクスの都市や村を焼き払い、ダルクス人達を追い詰めていった

 

その時、ダルクスの有力な豪族がヴァルキュリアに寝返り、ダルクス人は敗れ、ヴァルキュリア人に支配されたのだ。その後、ヴァルキュリア人は歴史を書き換え、大地を焼いた罪をダルクス人になすりつけた。その裏切ったダルクスの末裔こそがランドグリーズ家だったのだ

 

ヴァルキュリア人に協力した見返りに、コーデリア姫の先祖はこの地の統治を任された。自らをヴァルキュリアの末裔の称し、同胞であるダルクス人を迫害していった

 

「これが……全ての真実です」

 

本当の歴史がどうだったのかを言うと

 

「民の不満をそらす対象を作ることで政体を安泰にする……為政者の常道だな」

 

ダルクスが迫害された理由は最もなことだとマクシミリアンは言う

 

「わたくしは、この真実に悩みました……偽りの姿で国民に接することを苦しみました。その苦しみから逃げるために考えることと意志を放棄してきました。しかし、ある1人の兵士と出会い、わたくしはその過ちに気づかされました」

 

コーデリア姫の脳裏に浮かび上がるのは、自分を説教してくれたパンサーの姿であった。コーデリア姫はマクシミリアンの眼前まで迫る

 

「ヴァルキュリアの血統に縛られて生きることでなく、自分の意志で生きていくこと……それが、わたくしのなすべきことなです」

 

マクシミリアンの前で堂々と啖呵を切る

 

「ならば余の妃となればよかろう……」

 

それでもマクシミリアンは余裕の態度を崩さない

 

「いいえ、ガリアを守るため……わたくしも戦います」

 

コーデリア姫はナイフを抜き、マクシミリンに構え突き刺そうとするが腕を掴まれる

 

「フフフ……ガリアの国の婚約は随分と物騒な形式をとるのだな」

 

その腕を捻り上げられ、投げられる。するとマクシミリアンはボルグの方を向く

 

「そして……貴様のような状況によって主を裏切る輩も信用できん。新たなガリアに、この男は不要だ」

 

懐から取り出した拳銃でボルグの頭を撃ち抜く。その光景を見たコーデリア姫は口元を押さえる

 

「さて、コーデリア姫。そなたには婚姻契約書に署名してもらわねばならぬ」

 

そういい、コーデリア姫に近づこうとしたマクシミリアンだが、突然謁見の間の壁が爆発する

 

「コンタクト!」

 

その声と共にマクシミリアンに銃撃が飛んでくる。咄嗟の判断で転がって避けたマクシミリアン、そこから現れたのはマザーが率いるシールズであった。パンサーからの通信でマーモットが向かっていることからブラックホークでそのままランドグリーズ城に潜入し、気を窺っていたのだ

 

ボルグを撃ち殺し、関心が完全にコーデリア姫に向いた瞬間を狙って爆破突入をしたのだ

 

「貴様らは!あの傭兵共か!」

 

突然現れた傭兵に驚きながらも、コーデリア姫を確保しようとするが、足元に銃弾を撃ち込まれる

 

「今のは警告だ、次に動くと永遠に王にはなれないぞ」

 

話の一部始終を聞いていたマザーはマクシミリアンの狙いを知っており、それにマクシミリアンは苦虫を噛潰したような顔をする

 

「お怪我はありませんか?」

 

ラビットが急いでコーデリア姫を確保、自分の背に隠し、徐々に後退していく

 

「あなた方は……パンサー様達の」

 

その姿と特徴的な印、星条旗を目にしてパンサーと同じ部隊であると気づく

 

「お助けに参りました」

 

そうマザーが言うと扉からマクシミリアンの親衛隊が入ってくる。それらと銃撃戦になり、マクシミリンは逃げていく

 

「報告!敵傭兵団が、このランドグリーズ城に向かってきており、我が方苦戦しております!」

 

逃げてきたマクシミリアンに帝国兵が報告を言うと

 

「報告!内部にて近衛大隊が出現!激しい抵抗にあっています!」

 

あまりにも想定外の出来事が起き、マクシリミリアンも情報を整え、状況を把握していると

 

「報告!ガリア義勇軍がヴァーゼル橋を突破!イェーガー将軍の防衛隊が敗走!義勇軍はこのままランドグリーズへと進撃中との模様!」

 

さらに想定外の出来事にマクシミリアンは振り向く

 

「なんだとっ!」

 

さすがにこの状況が不味いと思ったその時、全周波数でラジオが流れ始める

 

その内容がガリア義勇軍と独立遊撃隊がヴァーゼル橋を突破し、首都ランドグリーズを解放のため進撃中。更に城を奪還せんとして独立遊撃隊の別動隊の活躍をエレットが放送していた

 

これにガリア軍全体の士気が上がり始め、国民にも希望が残されていると言い、国民が絶望から希望を持ち始める

 

「やむ得まい、余自ら出撃する。マーモットの準備はできているな」

 

マクシミリナンが後退を余儀なくされたことを悟り、マーモットへの後退を決意する

 

「は!準備はできております」

 

その報告にマクシミリアンが口に笑みを浮かべながら急いだ

 

マーモットのエンジンが始動し、徐々に後退していく。だが、それはランドグリーズ城の塔を引き連れてだ。塔を抜き取ったかのように引き摺り出しながら後退する。塔が外壁を崩しながら傾いていき、その中から現れたのは巨大なヴァルキュリの槍であった



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21話 最終決戦 後篇

「マーモットを視認!距離およそ4000!」

 

アリシアが後退しながら進んでくるマーモットの姿を報告する

 

「あれは……ヴァルキュリアの槍?」

 

双眼鏡を覗いてみると、マーモットに巨大なヴァルキュリアの槍を積んでいた

 

「いやな予感がするな……部隊をマーモット正面から側面に回り込め」

 

パンサーが部隊に指示を出すと、ウェルキンも同じ指示をだす。そのままマーモット正面から移動しているとセルベリアが巨大な槍を見つめているのに気づく

 

「どうした?」

 

デュースが尋ねると

 

「いや……あそこにマクシミリアン様がいると思うとな……」

 

セルベリアは複雑な表情をしていた

 

「なんだ、会いに行きたいのか?」

 

その問いにセルベリアは首を横に振る

 

「確かに私はマクシミリアン様に救われた。だが、捨てられたいま、私は自分の意思で動こうと思う」

 

そう言い、笑みを浮かべる。大丈夫そうだと判断したデュースはそれ以上何も言わなかった。すると、マーモットが動きを見せる。斜め上の向いていた槍が水平になっていき、蒼く輝きだす

 

「な、何をする気なんだ!」

 

尋常じゃない様子からウェルキンはハッチを開き確認する。その光は更に膨張していき……発射された

 

それは一直線に大地を焼き、目の前に進撃中であったガリア正規軍を文字通り消滅させ、山に穴を開けた。余りにも衝撃的な行動に驚くのを通り越して茫然とするしかできなかった

 

「……なんなんだ、あの威力は」

 

その威力は舌を巻くほどだが、ここで止まる訳には行かなかった

 

「ウェルキン!さっき話した作戦通りにいくぞ!」

 

パンサーが伝えた作戦とは、前の戦いでアリシアが貫いた場所を集中的に狙いマーモットの動力を奪う。停止した所に歩兵で内部を制圧し、マーモットを無力化するのだった

 

すると空からローター音とエンジン音が近づいてきていた。空には7機のヘリに、地上からはエイブラムス2両にブラッドレー2両と海兵工兵隊を乗せた輸送トラックまで来ており、アメリカ軍の総戦力が集結した

 

ブラックホークとチヌーク3機が地上に降りてきて、兵員を下す……すると

 

「パンサー中尉!ご無事ですか!?」

 

なんとブラックホークからコーデリア姫が下りてきた。それにパンサー達が心底驚く

 

「こ、コーデリア姫!なぜ戦場に!」

 

普段は冷静なパンサーもこの予想外には驚いていた

 

「お邪魔化もしれませんが、わたくしにもみなさんの援護をさせてください。わたくしも、戦いたいのです。わたくしの故郷を守るために」

 

そこには初めて会った人形のような姫はおらず、祖国を守りたいと心から願う1人と統治者がいた

 

「ならば祈ってください、我々の勝利を」

 

パンサーがそういうと、アメリカ兵たち笑って言い出す。こんな美人の為に戦えるのなら本望だと……その言葉にコーデリア姫は涙を流す

 

≪全ユニットにつぐ!これより作戦を開始する!戦車や装甲車は歩兵の盾になれ!ヘリは機銃座を潰し、損傷部に猛攻を加えろ!≫

 

無線で作戦開始が通達される

 

「いくぞレンジャー!我々が道を切り開くんだ!」

 

フ~ア!とレンジャーの返事し、フォード少尉の合図と共に進軍

 

陸軍(アーミー)に遅れるな!我々は海兵隊でも選別された最精鋭だ!その力をコーデリア姫に見せつけてやれ!」

 

ウ~ラ!とフォース・リーコンが返事し、ラミレス中尉と共に進軍する

 

≪ガンシップ02と03は機銃を破壊しろ≫

 

アパッチ2機が側面にある機銃座を破壊しに行き、ガンシップ01が損傷部分にロケット弾を浴びせる。さらにチヌークとブラックホークがドアガンで上にいる歩兵を攻撃していた

 

「目標をロック!」

 

戦車の陰に隠れていた工兵が手にしているのはFGM-148ジャベリンであった。ミサイルが右動作冷却部目指してトップアタックをする。冷却部が壊れたことによりプロペラの動きが止まる。損傷部が壊れたおかげで、マーモット内部への道ができており、続々と兵士が進撃していく

 

左動作冷却部のラジエータを見つけたレンジャー隊員がそこに乱射する。ひどく脆いその部分はたちまち壊れ、左のプロペラも停止する。2つの冷却部が壊れたことでラジエータが停止し、聖槍に供給していたエネルギーがなくなり、聖槍を包んでいた力場が消えてなくなった

 

≪よし!あの槍の先端を破壊するんだ!≫

 

ウェルキンが無線で聖槍の先端を破壊するよう指示を出す。するとガンシップ01が先端の前でホバリングしてロケット弾を撃つ、しかしダメージは与えているが相当固くて壊れない

 

≪ならば≫

 

シーカーを作動させる。熱源を持った聖槍の先端をロックオンすることができ、ヘルファイアを発射する。流石にヘルファイアの直撃には耐えられなかったのか罅がはいった

 

「よっしゃっ!」

 

マーモット内部へ登ってきていたラルゴが先端めがけて対戦車槍をブチかます。さらに罅が入りあと1歩であった

 

「これで最後だ!」

 

次弾装填したジャベリンが発射、ミサイルが先端へと直撃する。すると先端の光が消えて、マーモットが完全に沈黙した

 

「よし!敵陸上戦艦を撃沈!繰り返す!敵陸上戦艦を撃沈したぞ!」

 

ウェルキンの報告に皆が歓喜の声を上げた。これほどの巨大な戦艦を仕留めたのだ。まだ敵がいる可能性があり、Tier 1 Operatorの両部隊と第7小隊がマーモット内部に突入する。他の部隊は周辺の警戒をしていた

 

「よし、機関部を爆破するぞ」

 

パンサーが銃を構えながら、エレベーターを探していると

 

「そうはいかぬぞ、義勇軍に傭兵の諸君」

 

突然マクシミリアンの声が響き、辺りを警戒する。すると周りから柱が出てくると、正面からマクシミリアンが上がってきた。その腕にはコードで繋がれた槍と盾を手にしながら

 

「帝国の技術の粋をもって作り上げた、この人造ヴァルキュリアの盾と槍……その力を、諸君らにお見せするとしよう」

 

人造ヴァルキュリア……いかにも不穏な単語が出てきたと思っていると

 

「もうやめて!なんでそこまでした戦う必要があるの!」

 

アリシアが叫ぶ、もうこれ以上戦う必要など何処にもないと言わんばかりに。それをマクシミリアンが見下していると

 

「殿下!」

 

セルベリアがマクシミリアンを呼ぶ

 

「セルベリアか……余に助けられた恩を踏むにじり、ノコノコと出てきたか」

 

忌々しそうにセルベリアを睨み付ける

 

「だが、丁度いい。セルベリアよ、この者らを巻き込んで自爆せよ。これは命令である」

 

淡々と言うマクシミリアン。それに体をビクッと震わせるセルベリア

 

「わたしは……」

 

体を震わせながら言いよどむセルベリア……だが

 

「何を勘違いしている」

 

デュースがHK416の銃口をマクシミリアンに向ける

 

「捨てておきながら、なに飼い主面しているんだ。セルベリアは貴様の所有物ではない」

 

既に引き金に指を掛けており、何時でも撃てる態勢であった

 

「その命令は……聞けません」

 

セルベリアは体を震わせながらもマクシミリアンを見る

 

「私は……生きる意味を知りたい。与えられたものではなく、私自身が生きると心から思えるものを見つけるまで……死ねません」

 

はっきりとマクシミリアンの命令を拒否した。その言葉にデュースは笑みを浮かべ、他の者も笑みを浮かべていた

 

「そうか……ならばここで余が直々に殺してやろう!」

 

周りの柱が青く輝きだし、マクシミリアンを包み込む。完全に白目を向き、声にエコーがかかっていた

 

「余は帝国に復讐し、それを手中におさめる方法を探し出し、それを見つけたのだ!」

 

それはその姿を見てわかる

 

「それが、ヴァルキュリアの力だというのか……」

 

人を辞めてまで、その力にしがみ付く執念には感服するなとパンサーやマザー達は思っていた

 

「兵士が戦場で銃弾を交わしながら戦う戦場はいずれ終わりを告げるだろ、それがこのヴァルキュリアの力だと言うのだ!」

 

マクシミリアンが機械の槍を向けてくる。そこからエネルギー弾が飛んでくる、障害物の陰に隠れながら状況を確認していると

 

「……ッ!あの柱だ!あの柱を狙え!」

 

マザーは柱がマクシミリアンとを光で繋いでいるのを確認し、柱を壊せばヴァルキュリア化が解けると考えた

 

≪ガンシップ、こちらパンサー。マーモト上部の青い柱を攻撃してくれ。なお、反撃が予想される、十分注意してくれ≫

 

そう無線で伝えると、偵察をしていたアパッチ3機が戻ってくる。それに気づいたマクシミリアンも上空に撃つが、連射にも限りがあり、十数発撃つと、腕を下げた

 

その間にアパッチ3機のヘルファイアが発射され柱を破壊した。するとマクシミリアンの包む青い光が弱まりだした

 

≪いまだ!迫撃砲を撃て!間違えても此方に当てるなよ!≫

 

ダスティーが無線で下のレンジャーに迫撃砲の支援要請を送る。下で準備をしていたレンジャーが迫撃砲の弾を入れ打ち上げる。重力に従い落下していき、見事マクシミリアンのいる場所に命中した。するとマクシミリアンがそのダメージに怯んだ

 

「ぐぅっ!」

 

ひるんだ所に一斉の銃撃を浴びせ、さらにマクシミリアンのいる場所にベガスがスモークを投げ込む。これによりマクシミリアンの目と防御を潰し一方的に攻撃をする

 

「撃て撃て撃て!銃身が焼付くまで撃ち続けるんだ!」

 

マザーのいう通りTier 1 Operatorはおろか、一緒に上ってきた第7小隊も十字砲火を浴びせる

 

「イーディ!」

 

デュースがイーディを呼ぶと近づいてくる

 

「いいか、俺が合図したら持っている手榴弾を全て投げろ」

 

手榴弾を投げ込んで一気に片を付けようとしたが、煙が強制的に晴らされた

 

「いいだろ!出力を限界まで上げて相手をしてやる!」

 

更に柱が出てきて、出力を上げていく。それに耐えきれずに盾が吹き飛び、マクシミリアンの青い炎が禍々しくなる

 

「くそ!また柱が出てきやがったか!」

 

壊れた柱が戻され、新しい柱が出てきたのだ。すると一番奥の柱が銃声と共に壊れた。売ったのはマリーナであった

 

「銃撃で壊れるのか」

 

それに気づいたマザーが直ぐに上のアパッチに連絡しダスティーも迫撃砲に再び支援要請をいれる。アパッチの30mmが残り2本の柱を撃ち壊し離脱、迫撃砲が撃ち込まれその攻撃にとうとうマクシミリアンは槍を杖のようして体を支えた

 

マクシミリアンを包んでいた青い炎はほとんどなく、僅かに覆っている程度であった

 

「イーディ!」

 

その声と同時にデュースが飛び出し、イーディも飛出す。弱り切ったマクシミリアンに手榴弾を持っている分すべて投げ込み、障害物に身を隠した。爆発音と共にマクシミリアンの呻き声が聞こえる

 

「これで最後だ!」

 

弾を持ってきた海兵隊が狙いを定めなおすレンジャーの迫撃砲に入れて打ち上げる。その迫撃砲が留めとなり爆発後にマクシミリアンは膝をついた。既に虫の息であり、白目だった眼も元に戻っていた

 

「バカな……ヴァルキュリアの力を得た余がなぜ負ける」

 

自分が負けたことを未だに信じられない様子だが

 

「その力に頼った時点で、お前の負けだ」

 

銃を担ぎながら、その理由を言うデュース

 

「おのれガリアどもめ……」

 

もう瀕死のマクシミリアンにウェルキンとアリシアが近づく

 

「降伏するんだ、アシミリアン!」

 

降伏勧告を言うが

 

「フフフ……降伏だと?貴様たち……忘れたのか……ヴァルキュリアは、その命と引き換えに巨大な破壊の炎を燃やすことができることを……」

 

壊れた柱が再稼働し、マクシミリアンを包む。自爆してウェルキンを道連れにするつもりであった

 

「もはや余の望みはかなわぬ……ならば……ガリアよ!荒野と化すがいい!」

 

雄叫びを上げ、命を燃やし爆発する……かと思えたが、突然柱の供給が止まり、マクシミリアンのヴァルキュリア化が解かれてしまった

 

「な、何だ!なぜ止まったのだ!」

 

突然のエネルギー停止にマクシミリアンは焦りの声を上げ、ウェルキン達も何事かと辺りを見回す

 

「それはな……動力源を破壊したからさ」

 

声が聞こえた方を全員が向いた、そこにいたのは独房にいるはずのファルディオだった

 

「ファルディオ!何故ここに!」

 

そこにいるファルディオの姿にラビットが驚きの声と共に理由を聞く

 

「ランドグリーズからマーモットに潜入したんだが……動力源を破壊するのに手間取っちまってな」

 

ここにいた訳を話すと、ファルディオはマクシミリアンに飛び掛かる。まともに動けないマクシミリアンの背後を取り、裸締めをする

 

「き、貴様!何をする、放せ!」

 

必死に抵抗をするも、まともに体が動かず抵抗らしい抵抗はできなかった

 

「すまんが……放すわけにはいかない!」

 

すると、ファルディオが一歩、また一歩と後ろに下がっていく

 

「……ッ!やめるんだ!ファルディオ!」

 

ファルディオの意図に気付いたブードゥーが叫ぶ。ファルディオの後ろには巨大な穴があり、そこにマクシミリアンを道連れに落ちるつもりであった

 

「ウェルキン……アリシア……中尉達……理由はどうあれ、俺は仲間を撃ってしまった。その罪ほろぼしを……しなければならない……」

 

重い罪を犯した自分が敵の大将と心中することが贖罪であると言う

 

「放せ、放さぬか!」

 

心中する気など更々ないマクシミリアンは叫ぶ

 

「俺とあんたは、力のみを信じた者同士……大人しく舞台から去ろうぜ」

 

もう穴まで目の前と迫っていた

 

「お前の罪滅ぼしに俺たちが付き合う通りはない。そんなに罪を償いたいなら生きて軍法で裁かれろ」

 

マザーが死にゆくファルディオに言う。するとファルディオは微笑みを浮かべ

 

「貴方達には本当にお世話になりました。傭兵で風当りが強かったでしょうに……それでも、ガリアの為に此処まで死力を尽くしてくれました。だからこそ自分が恩返しできるのは今だけです!」

 

自分を心配して言ってくれたのだとマザーの本意を理解していたファルディオがマザー達に感謝を言い、決意が変わらないことを示す

 

「じゃあな、ウェルキン……アリシア……幸せにな。そして……中尉、俺が元の世界への道を開きます!」

 

そういい、穴へ身を投じた

 

「うああああああああ……!」

 

マクシミリアンの叫び声と共に落下していき、その叫び声も小さくなっていく。そして、落ちて行った穴から何かが響いてき、ラグナイトの青白い光が天へと伸び、爆発した

 

その爆発はマーモットを揺らすほど大きく、その場に立っていられないほど揺れていた。その爆発により、穴から飛び出てきた機材や骨組みが一緒に舞い上がりウェルキン達へ降り注ぐ

 

爆発の場所に近かったウェルキンがアリシアを庇い、それ以外も各々の安全を確保しようとしていた。他の場所でも爆発がおき、火の手があっている

 

「くそ、ウェルキン達が!」

 

ラビットがウェルキンのいた方を見ると炎の壁に閉ざされていた

 

「ウェルキン!アリシア!無事か!」

 

パンサーがウェルキン達の無事を確かめるべく声を掛ける。すると無事なようで、声が返ってくる

 

「甲板は火の海だ。もうそっちには行けない!皆は先に脱出するんだ!」

 

ウェルキン達がいる場所に行こうにも火の手がそれを邪魔し、その勢いは人が強行突破するのも不可能なほどであった

 

≪レイブン1!救出に向かえないのか!≫

 

ダスティーがブラックホークにウェルキン達の救助要請をだすが

 

≪ダメだ!火の手が強すぎて近づけない!≫

 

ウェルキン達を飲み込むかのような勢いの炎に近づくのは余りにも危険であり、助けにいけなかった

 

「皆、先に脱出するんだ!」

 

すると、ウェルキンが先に逃げるように言うが

 

「バカヤロー!隊長たちを置いて、脱出できるか!そんなことしたらイサラに顔向けできねえだろ!」

 

ロージーが反対する。自分の隊長であり戦友であり頼れる仲間を置いて逃げるはずが無いと言うが

 

「ここでじっとしていても全滅してしまう!いいか、これが最後のオーダーだ!脱出せよ!……パンサーさん、後はお願いします!」

 

小隊長の命令といい、この場で最も冷静に指揮ができるであろうパンサーに任せた。それにパンサーが歯軋りをするが

 

「……全員この場から脱出する。急げ!」

 

そう言うと、全員がどれほど悔しい思いをしているかを察することができ、食い縛り、拳を握りしめながらマーモットから退艦していく

 

「甲板にいるのは危険だアリシア、艦橋に登ろう」

 

まだ死ぬつもりなどなく、この場にいるのは危険であり、少しでも火の手が弱い所に逃げようとする

 

「うん、わかった!ウェルキンと一緒なら、あたし、何も怖くない」

 

それに頷くアリシア。彼女また死ぬつもりなどなかった。ウェルキンは頷き、艦橋へと急ぐ

 

マーモットは大半を火の海に包まれ、上へ上へと逃げてたウェルキン達も等々追い詰められた

 

「ダメだ……もう脱出する方法がない……」

 

流石に手詰まりになり、ウェルキンにも諦めが浮かんでいた

 

「アリシア……」

 

ウェルキンはアリシアの方を向き

 

「うん……」

 

アリシアも覚悟を決める。すると

 

「アニキーっ!」

 

若い男の声と共にエンジン音が空に響く

 

「ウェルキン!あれ!」

 

アリシアが指差した方には複葉機の姿があった

 

「あれはっ!」

 

エーデルワイスから身を乗り出していたイサラが驚く。あれは紛れもなく自分とリオン達と共に造った飛行機だったのだ

 

複葉機はマーモットと平行になるように飛ぶ

 

「時間がない……飛び移ろう!」

 

ウェルキンはアリシアの手を握り締め

 

「うん!わかった!」

 

アリシアも手を握り返す。そして……2人はマーモットから飛んだ。機体を傾け、翼にしがみ付いたのを確認しマーモットから離脱していく

 

マーモットに積んであった聖槍が壊れ始め光が飛び出る。すると……マーモットの真上に黒雲が現れ、所々で雷がはしり……マーモットに稲妻が落ちる。その直撃に聖槍は砕かれ、マーモットが爆発した……と誰もが思った

 

しかし、そこに出来たのは黒い穴であった。突然の出来事に皆が混乱し何事かとおもっていると

 

≪こちら、ラングレー空軍基地。聞こえるか!?≫

 

突然無線に声が入った。そして、その名前にアメリカ兵達は動揺を隠せなった。ラングレー空軍基地はバージニア州にある空軍基地の名前だ

 

≪こちら、アメリカ軍特殊作戦部隊「AFO ウルフパック」所属、パンサーだ!≫

 

すぐに無線に応答すると

 

≪パンサー、こちらで観測した謎の力場の発生地点に多数の友軍を確認できる。説明されたし≫

 

無線からは謎の力場……おそらく目の前の黒い穴ではないかとパンサーが直観で感じた。それは他のアメリカ兵も同様であった

 

「……目の前の穴がアメリカ本土の繋がっている可能性がある。もしかしたら違うかもしれんが……俺は進む、お前たちはどうだ!」

 

パンサーが周りにいるアメリカ兵に声を上げて聞くと、全員が頷く。祖国に帰れるかもしれない状況に躊躇う余裕などなかった

 

突然の出来事で第7小隊の面々は混乱中だったが、アメリカ兵達が手短に別れを言っていく。別れの言葉に驚きながら、別れの時が来たのだと理解した。ラビットやブードゥーを慕っていた者や、他に世話になった人たちが目に涙を浮かべながら別れを言う

 

それに頷いたパンサーが穴へ向かうよう指示を出す、それに伴い半場がむしゃらに穴へ突撃する。するとデュースの袖を引っ張られ、振り向いた。そこに居たのは不安な表情をするイーディとセルベリアだった

 

「あ、あの……これは……」

 

どこか否定する言葉を言うが、袖を離さなかった。行って欲しくないと体現しているものであり、セルベリアも今にも泣きそうな顔をしてデュースを見ていた。詳しい事情をしらないセツベリアだが、自分の目の前から消えてしまうと本能で察したのだ

 

イーディからの好意はデュースも嫌ってなく、むしろ嬉しいと思っていた。この世界に来て、祖国に戻ると言う一心で戦って、イーディと話したり触れ合うことで救われた自分もいることを感じていた。最後の決断を迫られ……そして

 

「パンサー、俺はここに残る」

 

決断を下した。それにパンサーが振り向き、親友であるダスティーや仲間のベガスが驚くように振り向く

 

「まだ基地には武器やトラックなどがある。あれを破壊しないと、技術がガリアに渡り、戦争を仕掛けると思う奴が出てくる可能性がある。まだ、あの技術は早すぎる」

 

武器もトラックの車の技術などは何世代も先の技術であり、この技術がガリアに全て暴かれてしまうと大きな技術の進歩となるだろう。だが大きな進歩は戦争を呼び、増長し、争いを生む

 

「そうなったら俺たちの責任だ。それを起こさないために、あれらを爆破する必要がある」

 

その言葉にパンサーが黙って聞き

 

「本当に残るのか」

 

デュースは部下であるが、子供ではない。軍人であり国の所有物であるが一人の人間としての決心を反対する必要などなかった

 

「あぁ」

 

それに正面から頷くデュース。それを見たパンサーは踵を返した

 

「元気でやれよ、お前は俺の最高の部下だった」

 

そう言い、パンサーは穴へと向かう。ダスティーはデュースと抱きしめあい、最後の別れをする

 

「お前は俺の相棒だ。どこにいようと親友だ」

 

別れの挨拶を済ませると、ダスティーは離れる。ベガスとも最後の別れをし、デュースを除いたアメリカ兵達は穴を潜り、そして……最後の1人が潜ると穴は何もなかったかのように消え去った

 



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エピローグ

祖国に戻れたパンサー達は直ぐに軍の参謀本部に呼ばれた。謎の力場が突然と消え、そこにいたのはパンサー達のみであり、3ヵ月間行方不明となっていた彼らが現れ軍内部は大混乱したのだ

 

パンサーやマザー達といった国家指揮最高部直轄が理由を聞かれた。そこでアフガンからガリアであった事実を述べた。最初は馬鹿にしているのかと怒られ、正常でないと判断されたが、戦車のラジエーターやガリアから持ってきたラグナイト手榴弾や医療用ラグナエイドの実践をおこない、更に写真などを見せた

 

写真や実物の証拠に上層部も驚き、整備士の証言でエイプラムスやブラッドレー、アパッチに謎の液体燃料が使われ、ラジエーターにも未知の技術があると報告された。

 

すると上層部はアフガンからガリアへ飛ばされた状況を詳しく報告するよう言ってきた。謎の燃料とはエネルギー不足の解決に繋がり、手榴弾や医療にも使えるとことから何とかガリアがある世界への接点を捜し、再び繋がろうと考えていたのだ

 

しかし、彼らはその状況など知るよしもなかった。積乱雲や嵐に巻き込まれ、気絶している間に飛ばされたのだから説明のしようがなかった。それでも証言の元、なんとかしようと上層部が行動に出るが、これは別の話である

 

アメリカに戻ってきた彼等は数日の休暇の後に戦死者がでた部隊は家族に報告と勇敢であったことを伝えた。彼等は異世界の地で祖国に戻るため死力を尽くし、友を助け、数多くの人達を救った功績によりMedal of Honor(名誉勲章)Silver Star(銀星章)が授与された

 

だが、マザーやパンサー達の姿は既にアメリカになかった

 

某国のカフェでラビットとプリーチャーがチャイを飲みながら誰かを待っていた。すると1人の男が彼等の前を通り過ぎる

 

「あれが目標だ、いくぞ」

 

プリーチャーがカップを置き、椅子から立ち上がると、ラビットも頷き立ち上がる

 

彼等の戦いは終わらない、この世界に戦場がある限り彼等はそこに立ち続ける

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

首都ランドグリーズから離れた郊外。そこには多くの銃火器や弾薬が積まれていた

 

「これで全部か……」

 

基地から持ち出したアメリカ製の銃火器を積み上げたのを見てデュースが呟く。恐らく……いや、二度と目にすることはできないであろうと

 

「準備はできたか?」

 

セルベリアがデュースの方に歩いてくる。その手にはクライス特性のラグナイト爆弾を持っておいた

 

「あぁ……」

 

静かに頷くデュース。自分の祖国の品の見納めである

 

「さぁ、さっさとやってしまおう」

 

セルベリアからラグナイト爆弾を受け取り、最後のC4の傍に置く。これで誘爆し、跡形もなく吹き飛ぶ計算だった。設置し終わるとデュースとセルベリアは傍に置いてあったトラック乗り込む

 

「あら?終わりましたの?」

 

助手席に座っていたイーディが尋ねる。このトラックも物資運搬用のアメリカ製トラックであるが、この世界で生きていく為には足が必要であり、有効活用することにしていた

 

「あぁ、準備を終わらせてきた」

 

先にセルベリアが入り、運転席にデュースが座った

 

「ちょっとセルベリアさん!場所を交代してくださいまし!貴女、行もデュースさんの隣でしたでしょ!」

 

デュースの隣に座るセルベリアに指差して言うが

 

「ジャンケンで負けたのはお前だ。諦めろ」

 

どこか勝ち誇ったように言うセルベリア。そこから口喧嘩に発展していき、デュースは苦笑いをする

 

この世界にデュースは残った。敗北寸前のガリアを救った傭兵部隊であることから、コーデリア姫直々に表彰を受け、勲章を賜り、ガリアの永住権と軍での大尉相当の立場を与えられた

 

軍部は反対しようにも、ダモンやボルグ亡き今、貴族と繋がりのある上層部の発言は著しく低下し、軍人畑の実力主義の上層部はデュースの力を高く評価しており、コーデリア姫の考えに賛同であった

 

第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)は国の救った英雄であると報道しそうになったが、コーデリア姫がそれを止めた。これは別れる前に交わしたパンサーとの約束であり、パンサーの思い出と姿を胸に秘め約束を守った

 

更にコーデリア姫は、自分がヴァルキュリア人でなく、ダルクス人であることとランドグリーズ家の歴史の真実を国民に公表し謝罪した。国民には大きな衝撃を与えるが、多くの人達から支持され大公に即位した。

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

デュースがエンジンを掛け、道を進んでいく。ここまでマスコミに追われ、軍上層部の人達か多くの勧誘を受け、ぐったりする思いをしていた。しかし、誘いを断り有事の際には軍人として戦うことを約束し自由に生きることにした。ある程度離れると、デュースがトラックから降り、銃火器の方を向く

 

「……」

 

無言のまま見詰めた後、ポケットからスイッチを取り出し……押した。爆発音と共に火柱と爆炎が見え、銃声が空に響いていた。それにデュースは敬礼し、トラックに乗った

 

「よかったのか?あれほどの武器弾薬を、あれらには相当の価値があるのだぞ?」

 

セルベリアはデュースが爆破した武器弾薬のことを聞く。数世代先の技術の塊なのだから言いたいことデュースも分かっていた

 

「あぁ、あの技術力は今の時代には高すぎる。それに……必要なものは残しているさ」

 

そうトラックの荷台の方に視線を向ける。荷台にはデュースの愛銃であるHK416やその弾薬。M203の弾やカールグスタフなどの少ない銃火器が食料とイーディのお土産と共に乗ってあった。このトラックのエンジンもクライスとリオン特性のラグナイトを燃料にできるエンジンを積んでおり、その燃費性も従来に比べかなりよくなってるとのことだった

 

「さて、道案内は任せるぞ」

 

イーディとの約束で実家に向かうことになっていた

 

「えぇ、母と父に挨拶しないといけませんからね!」

 

そうセルベリアの方を高笑いするポーズをしながら言うと、セルベリアはムッとなり、また言い合いになる。喧嘩するほど仲がいいと言うと思いながらデュースはトラックを走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                            Fin

 



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あとがき

 

このMedal of Honor Silver Starを最後まで読んで頂き本当に感謝します。

 

思えば、小説家になろうから書き始めること約2年の歳月を費やしてきました。途中で更新が止まり、ダレて諦めようかと思ったことも多々ありました。ですが、そんな自分を支えてくださったのがコメントくれた読者の皆様でした

 

時には励ましてくれ、時には指摘をしてもらい、時にはアイディアを貰い、多くの感想は100件を超えました。感想だけでなくお気に入り数が250件を超え、多くの人に見てもらったのが心の支えとなりました

 

もし、感想や見てくれた人がいなければ、自分は5話もいかずに逃亡していたと思います。コメントをこれ程沢山いただき、コメント以外にもメールでの励ましや感想をも頂いて本当に嬉しく思いました

 

今の今まで自分を支えてくれた方々にこの場を借りて深く感謝を申し上げます。

 

 

さて、少し本編の補完を加えていきますと、ファルディオがアメリカ軍の方々が別の世界に来たと知っていた理由は、聡明な彼ならアメリカ軍が持っている武器・兵器等が自分達のみならず大陸でも全く違う技術で造られ、それが余りにも高性能なのに傭兵でいる時点fでおかしいと思いマザー達に問質していました。更にアメリカに帰る方法も知っていたのは、文献資料の中にそれらしき記述があったからです

 

 

今後の続きも気になるかたもいるでしょうが、そこは自分達の妄想で補完して頂きたく思います。理由はそういう考えをもってくれれば、小説として書きたいと思う人達が出てくると思うからです。自分もその1人でしたから

 

恐らく書いてみたいと思った人も、少しでもそんな思ういがある人は是非書いてみてください。最初は不安なのは全員が同じです。自分も最初の作品を書いたときは書き方が分からなく、セリフ書きに書いて友人にボロクソに言われました。それが悔しくて次に書いたのを高校の先生に見られ「ポエムかこれは?」なんていわれた時は本気で落ち込みましたwですが、そう言ってくれた人たちがいるからこそ、今こうして最後まで書けたのだと思います。差し出がましいかもしれませんが、多くの人が書いたのを見て読んで楽しむことこそが重要なんだと思います。どうせタダなんだし楽しんだもの勝ちですぞw

 

次回作はこんな戦争物でなくモダンファンタジー物になりますが、それでも見ていただければ幸いです

 

以上でこの小説は完結です。多くの感想・指摘・提案や見てくださった方々に再びお礼を申し上げます。



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