Emotoin monster ~感情の舞い~ (夢見る座禅組)
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第1章 紅い空の願い事
第1話 夜間騒動


この度は本作をご覧いただきありがとうございます。
本作品は初投稿です。悪い箇所など、改善できる点などございましたら、是非ご感想欄にてコメントしてください。



 静かな森の中。静寂を生みだす漆黒の闇。

 夜空には半月が浮かんでいる。しかし背の高い木々のせいで森の中からはよく見えない。

 

 一人、その静寂を切り裂いて走る少年がいた。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁっ…クッソっ。なんなんだよ…!どうなってんだよこれ…!」

 

 少年は追われている。

 

 少年は必死に逃げる。

 

 ドスッドスッドスッ――

 後ろから大きな足音をたてながら何かが追ってきている。

 

 暗いせいで足元はよく見えない。後ろから迫り来る「何か」もよく見えない。いや、見る暇さえ無いと表現したほうが正しいのか。

 わかっているのは後ろから足音がすること。その足音から逃げなくてはならないこと。本能に従わなくてはいけないこと。

 

 いったい何から逃げているのかさえよくわからないのだが。

 

 死に物狂いで走り続ける。

 

「はぁッ、はぁッ…あ"ぁ!…はぁッ…」

 

 なぜ自分がこんなことになっているのか。突然、森の中におちて、尻もちをついて、そしてこれだ。

 

 なぜ、自分がこんな目に遭うのか。他にもこんな目に遭うべきヤツがたくさんいるだろうに。

 

「意味がわからねぇんだよ…ッ!」

 神様だか運命だかは、こんなヤツをいじめるのが楽しいのか。とんだ物好きだ。

 

 そんな鬼ごっこの最中。少年は木の根につまずいて転倒してしまう。

 

…ここまでか。

 

 後ろからの「気配」が近寄ってくる。その「気配」と間近で目があった。

 間近で観察してみると、狼のような顔に血走った目、獰猛な二対の牙がある。だが群れて行動する狼が一匹でいるはずがない。

 

 ご馳走を目の前にして興奮する、飢えきったその表情は「オオカミ」というよりも、「怪物」というのがふさわしいだろう。

 

 その飢えに飢えたウルフフェイスの「怪物」がご馳走を目の前にしてどこかに行くわけもなく、倒れた少年の腹部に牙を突き刺した。

 

「あ''ぁァァッッッ…!」

牙が刺さり、痛覚と本能が叫ぶ。

 こんな理不尽な仕打ち、体験したことがあるヤツは他にいるだろうか。いや、いてたまるものか。

 

―――消えろ。

ふつふつと、ふつふつと、血が煮える。

 

―――消えろ!

神と運命への恨みが我を忘れさせたが故の怒りか、恐怖を隠すために強がったか。

 

「…っ!…消えろ…消えろ…消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろっ!消えろーーーっ!」

 

 少年の叫ぶ。その咆哮によって衝撃波が発生する。同時にその「怪物」は蹴られた小石のように吹っ飛ぶ。そして叫んだ少年の下には小さいクレーターができあがった。

「あ''ァァ!アァッ!ああああぁぁぁぁ――……」

 そして、生命力を失ったかのように少年はその場に力なく倒れ、意識を失った―――

 

 

「~♪」

 場所は変わって、森上空。

 箒にまたがり、鼻歌交じりに夜空を飛ぶ魔法使いの少女がいる。

 霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)。人間にして魔法使い。騒がしい。

 

 白黒の魔法服に身を包んでいる。

「魔力」と、人間の魂が生まれながらに持つことのできる「霊力」を使用する人間。

 

「♪~…ん?騒がしいな?こんな時間に」

――今は夜だぞ?

 

 普段は静かな森のはずなのに、どうしてか今日は騒がしい。さっきは爆発音のような音も聞こえたし、土煙も上がっている。

 

「…!?」

 遠目ながらも、魔理沙は生い茂る木々の間に倒れた人影を発見する。

「た、大変だ!どーする?!えっと…そ、そうだ霊夢だ!霊夢んちだ!」

 

 「霊夢」とよばれる人物に助けを求めるために魔理沙はある場所へと急ぐ。

 

 

 再び場所は変わって、とある神社。この神社の鳥居には「博麗神社」と書かれている。本殿のうしろには、ひとつの家さながらの住居空間がある。

 

 そこを住まいとする、一人の少女がいた。

 

「ズズゥ~…ふぅー。月がキレイね…」

 

 名前は博麗霊夢。ケチ巫女。赤を基調とした一風変わった巫女服に、服とは別々の巫女服の袖を身につけている。袴ははいておらず、代わりにスカートをはいている。よくわからん。

 

 霊夢が縁側でお茶をすすっていたときだ。

「…ぃぃむぅぅぅ……れぇぇぇいむぅぅぅーーー!」

 箒にまたがって空を駆けてきた魔法使い、魔理沙がやってきた。

 

「何よ、騒がしいわね。あんたの説明では騒がしいって言われているんだから、少しは自重しなさいよね。」

 

「うるさいケチんぼ巫女!って、そんなことより――」

 

「『お茶を出せ』?そんなものはありません。」

 

「なぁんだー。ないのかー。…って、違ーう!けが人だぜ!倒れている人がいるんだぜ!」

 

「あー…けが人ねー大変大変。で、どこにいるの?毛ガニは。」

 

「毛ガニじゃなくてけが人な。そいつなら…」

 

「私をからかおうっていうなら、1000年後か、毛ガニをちょうだい」

 

「……忘れてきた…!けが人、おいて来ちまったんだぜ!ちょっと待っていてくれだぜ!」

 

とだけ言い残し、魔理沙は身を翻して魔法の森に向かう。

「やっぱり騒がしいわね、あいつは…。」

 

 

 しばらくして、魔理沙が帰ってきた。片手には少年を抱いて、もう片手で箒にぶら下がってやってきた。その少年は気を失っている様子。                                     

 

「…魔理沙が人助けをするなんて……!明日は空から槍でも降ってきそうだわ…」

 

「私を悪人扱いしないでほしいんだぜ!とりあえず、こいつにちゃんとした応急処置を頼むぜ。私は傷口を塞ぐ程度が限界なんだぜ…。」

 

「え、えぇ。」

 縁側にあがり、二人は居間に入る。霊夢があわてて布団を敷き、魔理沙がその飢えに素早く少年を寝かせる。

 

「じゃあ私はこれで失礼するぜ。あとはまかせたぜ、霊夢!」

 

 そう言って魔理沙は少年を寝かせた部屋のふすまを閉め、博麗神社を後にする。

 

「さてっと。とりあえず傷の処置と…」

 

 

―――あれ…?俺は…一体…何を…

―――さっきのは、夢なのか?

 少年は、ぼやける視界に入る情報を精一杯脳につたえる。

―――ここは…うぅん…ここは……

「俺ん家ちじゃねぇぇ!?――ゲホッゲホッ!?」

 

「あぁ、ダメよ。まだ傷は塞がっていないんだから。しばらくは安静にしなくちゃ。」

 一人の少女が少年に声をかける。

―――傷?

「あ…」

「あら、どうしたの?って、そりゃ驚くなって方が無理よね。ここは――」

「喰われる…」

「――え?」

「怪物…!狼…怪物に…ばけものに…喰われる…!喰われる…!喰われる!嫌だ!喰われる!!あァ!あ''ァァッッッ!!アァーーーーッッッ!」

 

――ッ!?な、なによ…この霊力は!?いや――魔力…!?

 

 少年が叫ぶと同時に、霊夢が顔をしかめる。

 

「え、ええっと……とりあえず落ち着けこらぁ!」

 瞬間、霊夢が少年のうなじにチョップをかます。

 

「あ''ァー!――ああっ!?うぁうっ…うぅ……」

 

 そうして少年は再び眠りの中に落ちる。

 

「あ、あっちゃー…ま、いっか。」

 

 博麗霊夢というものは、マイペースでおおざっぱである。「うるさいわよ!」




感想、アドバイスなど、心よりお待ちしております。


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第2話 忘れ去られた「もの」達の理想郷

小説って、難しいね。


―――あれ…?俺は…一体…何を…

―――さっきのは、夢なのか?

 少年はぼやける視界に入る情報をできるだけ脳につたえる。

―――ここは…うーん…ここは……

「やっぱり、俺ん家じゃねぇな…」

 

「あら、やっと起きたのね。」

 

「…あ!おいあんた!さっきの!俺けがしてるらしいのに何してくれるんだ!」

 

「うっさいわね!あなたがいきなり慌てるからいけないのよ!」

 

「悪いのは俺なのか!?」

 

「そうよ!あなたがいけないのよ!」

 

「あの状況を飲み込むほうがむずかしいだろうがっ!」

 

「「ああもう!!あったまきた!!」」

 

 

ホォゥゥー…

 どこにいるのか、二人の間にフクロウの鳴き声がする。外はまだ夜の帳が下りている。

 

「…い、いったん落ち着こうぜ。」

 

「…ええ、そうしましょうか。」

 

「なあ、あんた…あんたってのも、なんだ。名前は?」

 

「私は博麗霊夢。あなたは?」

 

「俺の名前は 鬼怒刈 悠(きぬがい ゆう)だ。よろしく、えっと…博麗さん」

 

「霊夢、でいいわ。苗字に加えてさん付けだなんてこそばゆいじゃない。私もあなたのことを悠って呼ぶわ。」

 

「そうか。じゃあ、改めてよろしくな、霊夢。」

 

「ええ。よろしく。」

 

「いくつか、質問していいか?」

 

「ええ。」

 

「えっと…まずここはどこだ?」

 

「日本」

 

「知らない場所に突然来てしまったから焦ったけど…そっか、日本なのか。もう少し、具体的に。」

 

「じんじゃぁ。」

 

「これはどういう状況だ?」

 

「見てのとーりぃ」

 

「俺の今のこの状況は一体?」

 

「さあ?」

 

「じゃああんたは何者だ?」

 

「ひと」

 

「…」

 

「…」

……

………

「そんなんでわかるかよ!?」

 

「私はあなたの質問に答えてあげただけじゃない!」

 

「もっと誰にでもわかるように言ってくれよ!」

 

「逆になんでこれでわからないのよ!?」

 

「普通分からねえよ!」

 

「こんなの誰でもわかるわよ!」

 

「常識的に考えてわからねぇよっ!」

 

「これが私の常識なのよっ!」

 

「テメーの常識はおかしいんじゃねぇのか!?」

 

「「ああもう、あったま来たー!!」」

 

 

「…」

「…」

 

「…はぁ。仕方ないわね。いい、一回しか言い直さないわよ?」

 

まず、ここは「幻想郷」っていう場所よ。幻想になったものや、忘れ去られた「もの」達が辿りつく場所なの。

 

「俺って、その『幻想』、とやらになったのか?」

 

 勿論例外もあるわ。たとえばあなたよ。あなたのように迷い込んでくる人や物もあるの。まぁ、人だったら基本的には「あっち」にかえしているわ。

「『あっち』って何のことだ?」

 

あー…面倒くさいわね!

「仕方ねぇじゃんかよ」

 

あっちっていうのはあなたのいた世界…というか、空間というか…まあそういうことよ。こっちでは「外界」とも呼んでいるわ。

 

それでね、幻想郷っていうのは「外界にとっての幻想」となることで、初めて存在できるの。

だからあなたたち側の人間に気付かれてしまったら、それはもう「幻想」では無くなってしまうでしょ?幻想郷はあなたたちから「幻想郷?そんなものないよ」って考えられているからこそ、幻想のままでいられるの。

 

…ちょっとわかりづらかったかしら?例えば龍、ドラゴンよ。これだと考えやすいんじゃないかしら?龍はこの幻想郷に存在するんだけど、なぜか知ってる?龍はあなたたちからすれば「そんなものはいない」って言われるでしょ?つまり、龍は幻想の中のものよ。そんなふうに、幻想郷っていうものはあなたたちには相手にしてもらえない話だから「幻想」となって、こうして存在しているのよ。

 

「その『幻想郷』とかいうこの世界は、日本にあるって言ったよな?」

「ええ。…といっても、ある山の一部よ?」

「じゃあ、どうしてこの世界は、こうやって存在できているんだ?日本の中にあるのなら誰か一人には気付かれたりするもんじゃないのか?」

 

そうね。でもこの世界は「この結界の外から気付かれる事の無い」という加護を受けた結界で覆うことで、その姿を「見つからないようにしている」の。だからこの世界は、あなたたちの世界では明るみに絶対に出ないようになっているわけ。そして、いまも「幻想」として確かに生きていけている…というわけ。

 

ちなみに、その結界を「博麗大結界」って言うの。管理者は二人いて、その一人が博麗の巫女である私なわけ。

 

「こんなのが巫女か」

「あぁ?」

「…あ、いや…じゃあ、なんで俺はここにいるんだ?結界があるなら迷い込むことすらできないだろ?」

 

二人で管理しているっていってもね、基盤とかを管理しているのは私なの。その結界は少し特別でね。

 

普通、結界やお札には、所有者の「ちから」が込められているの。人間なら「霊力」、妖怪種なら「妖力」、魔女や魔法使いなら「魔力」、神なら「神力」…みたいにね。あ、私はれっきとした人間よ?

 

私たちみたいに、生きている者が管理している結界なんだから、与える「ちから」もその日の調子によって変わってくるのよ。つまり、結界の放つ「ちから」も、管理者のその日の調子のよって変わってくるの。

「つまり…?」

 

つまり、あなたが迷い込むことができた理由は、「たまたま今日の私の調子があまり優れていなかった」っていうことじゃない?

「『じゃない?』って…」

「他にも、結界を破ったりすることだってできるのだし…」

 

「俺を疑っていると。」

 

「さぁ?」

 

「チキショー…腹は痛いわ、いきなり殴られるわ、挙句の果てには何か疑われるわ…厄日だな。」

 

「あら、大変ね。」

 

「半分はお前だからな?」

 

「あら、大変ね(棒)」

 

「少しは反省したらどうだ?」

 

「あら、た(ry」

 

「「………」」

 

「はぁ…もう寝ましょ…?」

 

「そうしてくれ…あんたの相手はどうしてか疲れる。」

 

「仕方ないから寝床は貸してあげるわ。」

 

「助かる。悪いな霊夢。」

「大いに感謝するといいわ、居候?」

こうして、騒がしい夜は静かに幕を閉じた。同時に騒がしい日々のプロローグが終わったということに、後の二人は気づくことになる。




感想、アドバイスなど、心よりお待ちしております。
半ば、焦って出したら、酷い出来になった気がします…。


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第3話 「霊夢先生と魔理沙先生による楽しい空中飛行レッスン」

めっちゃ間があいた…orz



 悠が幻想郷にやって来て最初の朝だ。

 昨日、ここの家主「博麗霊夢」と話した部屋に足を運んでみる。その部屋にはちゃぶ台の上に並べられた料理を口に運ぶ霊夢がいた。

 

「あら、悠。おはよ」

「あ、あぁ…おはよ…」

「…何よ?」

「いや、おはようってあんまり言ったことないから…何か、新鮮って言うか…」

「そうかしら?」

「意外とな。」

「ほら、あなたの朝食も作ったから冷めないうちに食べて食べて。」

「お、ありがとう。」

 

 霊夢のお言葉に甘えてありがたく朝食を頂くことにする。改めて朝の食卓を見回してみる。すると、大変驚愕の事実が発覚する!

 

「……」ワナワナ

「…今度は何よ?」

「マジか…!」ガクガク

「…何よ?」

「…朝飯が!」ブルブル

「が…?」

「たくさん…!」キラキラ

「そこ!?あと↑これ何よ!」

「…?」キョトン←これ

「だから何なのよ!」

 

 朝から賑やかな食卓であった―――。

 

 朝食を終えた二人は、ふすまを開いた居間にいた。吹き込んでくる穏やかな秋風が心地よい。

「悠、ちょっといいかしら」

「ああ。なんだ?」

「私、昨日の話のなかで『あなたたちの世界に送り返すことができる』っていったわよね。」

「あぁ、そういえば言っていたな。…そっか、おれのいた場所に戻って、元の生活に戻るわけだな?――元の、生活…?」

 悠が首をかしげる。つられて霊夢も首をかしげる。

「どうかしたの?」

「わからない…」

「…悠?」

「俺は…鬼怒刈悠は…どこの誰なんだ?…今まで何をしていた…?何も覚えてない…」

「まさか…断片的な記憶喪失…みたいな…?」

 

 ひとつの可能性を霊夢が指摘する。その指摘に申し訳なさそうな表情で悠が頷く。

 

「すまない…俺、自分の名前しか…覚えていないんだ…」

 

 しかし対照的に霊夢の表情は変わりはいない。

「ちょうどいいわ、悠。あなたを外界に送り返すのはもう少し先になるのよ。」

「…どういうことだ?」

 

 予定調和、計算の内…とでも言わんばかりの表情の霊夢。

「別に記憶喪失でなくてもしばらくはここ、幻想郷にいてもらう予定だったのよ。」

「どうしてだ?」

 

 悠の疑問ももっともな物だろう。霊夢が疑問に答える。

「幻想郷は『外界から幻想として認識されている』から存在できるっていうことは、説明したわよね?」

「ああ。」

「つまり、あなたが外界の住人に戻る資格は『幻想郷を知らない』ことなの。」

「…なるほど。いまの俺は確かに幻想郷の存在を知っているもんな。」

「そう。つまりは私たちのことを一切合切忘れて、ここに来る前のあなたに戻ってもらう必要があるの。」

「ふーむ…忘れる方法ってのは…流石にあるよな。俺以外にも迷い込んだ人間もいるんだろ?つまりはそういう人たちにやってきたことをするわけだな。」

「その通りよ。具体的にいうと、術をかけるの。術で今までの幻想郷そのたもろもろの記憶を抜き取って、抜き取られた空白の時間についてはあたかも日常生活を送っていたかのように錯覚させるわけ。」

「便利なもんだな。けど術をかけられて帰る側の人間の、友達とか知り合いとかのことはどうするんだ?いなかった間の出来事というか…しばらく音信不通なんだから、本人を錯覚させても回りが異変に気づくんじゃないか?」

「ところがどっこいなのよ。その術は周りの人間にも効果を撒き散らすの。周りの人は『昨日も悠に会ったし、一昨日も悠に会っている、今まで通りだ』と錯覚するようになるわけ。つまりわね、悠…」

 

「ん?」

「あなたは私の家に居候しているのよ?」

「…まあ、そうなるか。」

「つまり、私が主人(あるじ)よ!」

「…はい?」

「いい?私の命令には従いなさい!」

「確かにそうかもしれないが…どうしてそうなったんだ?何がどう転がればそういう解釈になる?」

「じゃあ、私は買い物に行ってくるから、留守番と落ち葉掃除しておいてね~」

「あー傷口が傷むーいやーこれは何もできねーなー」

「あら、怪我人は買い物には行けないわよね。それに誰かさんのせいで食料の減りが予定より早くなりそうなのよね。」

「…」

「というわけで、宜しくね!」

 

悠を負かしてから、霊夢は「空を飛んで」出かけて行った。普通ではあり得ない「空を」「飛んで」…。

「…チキショー」

 

 悠は、まだこの世界についてよくわかっていない。

 

 

 掃除を終えて、縁側で一服する悠。

「…ん?」

 

 空を見上げると、誰かが箒にまたがって空を飛んでいる。

「うわ!飛んでるし!こっちきたし!」

「お!復活したか!」

「喋った!?」

「喋るわっ!」

「ヤベェ…!なんだこいつは…!」

「人間だわっ!」

……

………

「友だなっ!」

「友だぜっ!」

ガシッ!っと、握手を交わす二人。ボケと突っ込みのポジションが確立した!

 

「まだ名前を言っていなかったな。俺は鬼怒刈悠だ。よろしく。」

「私は霧雨魔理沙だぜ。宜しくな、悠。」

「あぁ。」

 

再び握手を交わす二人。

悠は、さっきの疑問を問う。

 

「なぁ魔理沙?魔理沙はどうやって空を飛んでるんだ…?」

「え…いや、普通…に…?」

「普通に空を飛ばれてたまるかっ!」

「えぇ…」

「何なんだよ…この世界はどうなっているんだ…っ!」

「あぁ…まあ…うん…大変だなぁ…」

「魔理沙っ!」

「お、おう!?」

「教えてくれ!」

「任せろ!」

「なにをっ!」

「わかんないぜっ!」

「だよなっ!」

「だぜっ!」

「「ハーッハッハッハッハッーっ!」」

……

………

「空の飛び方…教えてください…」

「おう…」

 

 

まず、大事なのは「自分の中の力」を感じることだ!

「力?」

例えば、人間は霊力だぜ。

 

「…ん?」

「どうしたんだぜ?」

「その話、どこかで…あ、霊夢が言ってた。」

「……なあ?」

「ん?」

「霊夢は…今、どこにいる?」

「どこって…買い物に、行くって…」

「どうやって行った?」

「いや、普通に飛んで…」

「なんでその時点で驚かなかったんだぜ!?それに、普通に飛ばれてたまらんやつが『普通に…』って!」

「おぉ…」

 

ま、まぁ飛んでいるイメージが大事なんだぜ…。

まずは、「普通は飛べない」っていう思いを無くすことだぜ?

 

「何だよこの世界どうなってるんだよ…!」

 

…そういう世界なんだぜ。あたしもそこは苦労したんだぜ…。

そうだな…自分の体重を感じないように…とか。

 

「…地球には重力という物体を地球の中心に引っ張る力があって重力は地球上の物体全てにはたらいているから体重が無くなる事はない訳だから体重を感じるなということは無理だけどそうだ重力とは逆の力を生み出せることさえ…っは!?」

「…お前らの世界の科学力って、怖いな」

 

 

「とんでるいめーじ…とんでるいめーじ…よくわかんねぇな。もっと簡単にイメージが掴めたらな…」

「なんなら、あたしと飛んでみるか?」

「そりゃいいかもな。きっとイメージがつかめるな。」

「まずこの箒だがな!この箒はあたしが箒の種類によって空の飛び方が変わるって気づいて……!」

(あ、これスイッチ入っちゃったヤツだ)

 

……

………

 

「は、話が一向に進まねぇ…!」

 

 太陽は南の空高くに昇っている。

 

「えっと…?何の話だっけ?」

「何だっけ?」

 

「ふう。ただいま~。あ、魔理沙いらっしゃい。」

 

 空を「飛んで」帰ってきた霊夢。

「あ!そうだよ空を飛びたかったんだ!」

「それだぜ!」

「いや~スッキリ。」

「じゃあスッキリしたことだし帰ることにするぜ~。」

「おう。じゃあな。」

「また会おうぜ~」

 そう言って箒にまたがり、空を飛んでいった…。

 

「霊夢~腹減った~」

「あなた達、顔合わせは初めてのはずなのに何でそんなに仲がいいのよ?」

「イヤーなんか意気投合しちゃってさ~」

「へ、へぇー…」

「あ!空の飛び方を教えてもらうの忘れてた!」

「……」

「…霊夢さん」

「…はぁ。わかったわよ。お昼ご飯を食べてからね?」

「おし!さすが霊夢」

 

霊夢のご飯は美味しい。

……

………

あれから数日が経った。突然そういわれてもって思うかもしれないけれど…彼はお腹に穴が空いていたのよ?何でピンピンしてるのよ。しばらく危なっかしいことはさせられなかったわ。3日もしたらある程度痛みは引いたっていうし、秋は天候も崩れやすい…しばらく我慢してもらっていたわ。

 

そんなこんなで今日は悠に飛び方を教える日よ。

 

そうね、悠…イメージっていうのなら助走でもつけてみたら?あなたからは「力の気配」を感じるから素質はあるの。

「助走か…(マ〇オの三段ジャンプの要領かな?)」

そうよ、助走。

「ヨッ!ホッ!ホアチャァ!!」

 

あら、うちの神社よりも高く飛べたわね。並みの人間の跳躍力の遥か上よ。これは成功じゃないかしら?

「飛んだ…!飛んだぞ!れいぃううおぉぉ!!」

…前言撤回ね。ただ単に「跳んだ」だけだったみたいね。 ジャンプしたらそのまま落下するのよね。

「そんなのんきなこと言ってんなうぉぉぉぉ!!?!??」

このままだと死ぬわね。

「だからのんきなことヒィィィィィィィィィィ!だしゅげで~あ"ーーー!!」

このままっていうのも後味悪いし…面倒ね…

 

 

 そう呟くと空へと飛び、霊夢は悠を抱えに向かう。

 

「駄目だぁもうおしまいだ~!!…あ、霊夢?ありがとう!た、助かったー…」

「まったくもう…」

 

 霊夢にお姫様だっこされながら、悠は地上に無事生還を果たす。

 

「…(ウルウル」

「…」

 霊夢は悠の泣きそうな顔をじっくりと観察してから両手の力を抜いた。地面に尻で着地をする悠。

「グヘッ!」

「あら、ごめんなさい」

「な、なにするんだ!」

「あなたのつぶらな瞳にイライラしたの。許して♪」

「…」

 

「まあいいわ。次はもうすこし加減して跳ぶのよ?」

「あぁ、わかったよ」

それから空を飛ぶ練習は日がくれるまで続いた…。

 

 

霊夢が夕飯を作っている間、悠は濡れたタオルで体を拭いていた。今日一日の汗や先日の傷口を綺麗にしながら、今日あったことを振り返る。

「いってててて…ん~…霊夢が言うには『力』なんだよな。でも、実質『力』よりは『エネルギー』の方が近いかな~…」

 『力』とは、運動している物体の進行方向を変える、物体の状態を変える、物体を運動させるはたらきがある。

 そして『エネルギー』とは、他の物体を動かしたり、変形させることができる「能力」のこと。

 

 例えば、今日の自身の跳躍。あれは「上向きの力」をもった「エネルギー」に「霊力」を加えて上向きの力を増加させ、結果として上向きの力がより大きくなった、ということだ。

 

「要は、この世界で言う『力』っていうのは『体内生成できるエネルギー』を指しているってとこかな。」

 

『力』には他の意味もある。

身につけた能力・実力。それに加え、事を行う意気込み。気力。物理的だけじゃなくて、精神的にも作用できる。

「辞書の『力』という言葉をそのまま現実に引きずり出したみたいだな…魔理沙が『飛べないイメージを取っ払う』って言ってたし…そういうことなのか…」

 

 そうこうしているうちに晩御飯の時間になった。今日の夕食も霊夢のおいしい手作りごはん。悠が、ちゃぶ台を挟んで向かいに座る霊夢から「村のヒトに顔合わせをするから明日はお出かけだ」と言われ、遠足が待ち遠しい子どものようになかなか寝付けなかったということはまた別の話…。




チョット難しい、科学的なやつ。

「力」とは、運動している物体の進行方向を変える、物体の状態を変える、物体を運動させるはたらきがある。

そして「エネルギー」とは、他の物体を動かしたり、変形させることができる「能力」を指す。

力はエネルギーを必ず持っている。
力には「物体の状態を変える」ことができる『能力』(=エネルギー)がある。

つまり、エネルギー(=能力)を持っているから、力は物体の状態を変えることができる。

なので、悠君はその「エネルギー(能力)の大きさ」そのものを大きくできる、ということをイメージして跳んだわけですね。(=通常のジャンプする「力」の「エネルギー(=能力)をより大きくした」ことで、結果としてジャンプの力が大きくなった)

通常よりもエネルギーの大きさが大きくなるため、最終的な「跳ぶ」のに必要な「上向きの力」を大きくできたのですね。俺も何を言っているのかよくわからねぇ。

ご感想お待ちしております。
意外とヘンテコな表現が多いのでご指摘して下さいますと、主が発狂しながら白目を剥いてピョンピョンしながら喜びます。もれなく死にます。


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第4話 幻想の中の人間達

さて、どうしようか…

幻想郷の地理は、こちらのサイトの地図を利用させていただきました。
http://gakuyourou.web.fc2.com/text/text_map.html

あと、人里と博麗神社の間には魔法の森があるようですが、物語の便宜上二つに分けて、村と博麗神社との間に道を作ることにします。


「…結局、寝れんかった」

 遠足が楽しみすぎて眠れない幼稚園児の悠は、布団の上でふて寝をしていた。

 

「…辺りの散策でも行ってみるか。」 夜の気配は、もうじき顔を覗かすであろう太陽によって少しずつ薄れてきている。

 

「んぅ、んーーっ!朝はやっぱり気分がいいな。」

 一つ、伸びをしたのち、朝の冷えた風が頬を掠めるのに気を向けてみる。

 

「そういや、ずっとこの格好だな。」

 『幻想郷』と呼ばれる、この世界に迷い込んだときと、何一つ変わらない格好。

 

「せめて寝間着と私服がもう少し欲しいな。」

今度、買ってもらうか…。

 

 境内に出て、博麗神社の周りをよく見ると、木々に囲まれた場所にポツンと博麗神社があるだけ。どうやら山を整地して建築したようだ。周りの木々は赤や黄色に色づき、綺麗な紅葉を主張している。そのことから今が秋だとわかる。

 鳥居をくぐった所には階段がある。ここを下れば、人里とやらに行けるのだろうか。

 

「わ…すげぇ…」

 階段を下りようとした時、そこが『幻想郷』を一望できる場所であることに悠は気づく。

 

 まず階段を下りた先には森があり、そこを抜けた先に建物がたくさんある。どうやら、あそこが人里のようだ。

 

 太陽は博麗神社の後ろから昇ってきているから、ここは東なのだとわかる。

 

 北側には大きな山が見える。麓には…湖だろうか?

 

 現世ではなかなかお目にかかれない、自然豊かな土地だ。初めて見る光景に悠は感動する。

 

 早速、目の前の階段を駆け下りて森を走り抜ける。道はあるが、あまり誰も立ち入らないからであろう、お世辞にも綺麗とは言いがたい。だが、そんなことはお構い無し。

 

 息が切れるまでしばらく走っていると、森を抜けた。森の出口には少々大きめの建物が一つあった。建物の入り口に丸椅子があったので、少し休憩させてもらうことにした。しかし、何故丸椅子なのだろうか?パチンコでもあるとか?

 

「はぁっ、はぁっ、…。」

 息を整える間に、建物を観察してみる。

 その建物には「香霖堂」と書かれた看板が、建物の入り口の上に取り付けられていた。

 

「香…霖堂、か。はぁっ…。」

「見馴れない顔ですね。」

 

 しばらく椅子に腰掛けて休んでいると、一人の男性が現れた。声は低いトーンでありながらも、どこか暖かみのある声色だ。

 

「あぁ、勝手にすみません…」

「勝手に使ってくれて構いませんよ?休憩してもらうための椅子です。それより、よくこれが座るものだとわかりましたね?」

「え?いや、だって、普通の、何の変哲もない椅子ですよね?」

 

「香霖堂」の家主だろうか。髪は青白く、眼鏡を掛けている。服は黒と少しくすんだ青を基調とした服だ。彼は悠を見据えるかのように、悠の瞳を覗く。

 

「…フム。きみ、最近幻想郷にやって来た者だね?」

「よくわかりましたね。」

「ああ、この椅子はね、外界から流れてきた物なんだよ。それを椅子だと判断できるのは僕か、はたまた同じ『外界から流れてきた』君か…」

「はあ…。」

 

「あぁ、すまない。まだ名乗っていなかったね。僕は森近 霖之助(もりちか りんのすけ)。よろしくたのむよ。」

 

「俺は鬼怒刈(きぬがい)悠です。」

 

 右手を差し出された。握手をする。

 霖之助さんが口を開く。

 

「さっきの話だが、僕は『道具の名前と用途が判る程度の能力』の持ち主なんだよ。だから、それが「丸椅子」といい、座るものだと判別できた訳さ。」

 

「て、程度の能力…?」

 

「ああ、そうか。わからないよね。この世界には、人間は勿論、妖怪や神、魔法使いや魔女、妖精などが存在する。それぞれ霊力や魔力、妖力に神力といった『力』を持っている。ただ、殆どの人間、妖怪、妖精は大きな霊力を持たない。だけど例外もある。突出した力を持った人間や妖怪、妖精たち、その他にも「魔法使い」「魔女」「神」等々の秀でた力を持つ者は『特殊能力』を持つことができる。その『特殊能力』のことを幻想郷の僕達は『~程度の能力』と呼んでいるのだよ。ちなみにボクの能力は道具の名前と用途が判る程度の能力、だね。」

 

つまり、『程度の能力』というのは、この世界の能力の呼称の仕方のようだ。少し独特な呼び方だ。

 

「っと、そろそろ腹が減ったな。霖之助さん、自分はそろそろ失礼します。お陰でまた新しい発見ができました。」

「そうかい。またいつでもおいで。今度は開店時間にでも。」

「ええ。では。」

……

………

「ただいまー。」

 博麗神社へ帰ってくる。

「お帰りなさい。朝ごはんができているわよ。」

二人は本殿のうらの居住空間へ行き、朝食を食べ始める。

 

「悠、あなたどこへ行っていたのよ?」

「香霖堂っていう場所まで行ってきた。」

「っ!?」

 霊夢が大変驚いた表情で悠を見る。

 

「ど、どうした?」

「あなた、どこまで行ったのよ!?」

「どこって、香霖堂っていう場所まで森を通って行ってきた。」

「道中、襲われたりしなかった?」

「へ?」

「いい?この世界には危険な物がたくさんなのよ?妖怪だっている。今回はなにもなかったものの、次からは絶対に一人で出歩かないでね?」

「いや、でも…」

「いい?」

「お、おう。」

おしきられてしまった。

……

………

 

 朝食をとり、身支度をして二人は人里へ向かう。

 霊夢は飛べるため、悠を自身の手に掴まらせて運んでいった。

 

 ついさっきまでいた「香霖堂」を通り過ぎて、人里の前に降りる。

 

 悠たちの前には門があり、人が立っている。

「お疲れ様。」

「おう、嬢ちゃんか。と、後ろの坊主は?」

「外界から流れてきたのよ。怪我をしているから、しばらくは私の家で居候(いそうろう)。」

「鬼怒刈悠といいます。」

 

「ここは人の住まう村。あんたらは人間だから入れるのさ。ようこそ、人里へ!」

 

 門をくぐり中に入ると、一本の道が真っ直ぐ続いている。わきを見てみると、白菜や人参、大根などが並んでいる店がある。いわゆる八百屋だろう。少し向こうを見れば、カンッ!カンッ!と、甲高い音を鳴らしながら、鎚を使って打ち付ける音が聞こえてくる。鍛冶屋だろうか。

 

 村の中にいる誰しもが、楽しそうに、幸せそうに笑っている。

 霊夢は真っ先に八百屋さんへと向かう。

「おはようございます、おじさん。」

「おうおう、霊夢か。と、後ろの坊主は?ああ、霊夢も年頃の女の子じゃもんな。」

「バカ言わないで。彼は外界から流れてきたのよ。」

「初めまして。鬼怒刈悠です。」

「ワシは見ての通り、ここの店主じゃ。よろしくな。」

 

 さっきの門番といい、ここの店主のおじさんといい、みんな優しそうで気さくな人だ。

 そんなことを考えていたら霊夢はあっという間に買い物を終えていた。

「悠の日常品も買わなくちゃね。」

「そうだな。歯ブラシとか、そういう衛生的なものは最低限ほしいな。あと衣服か。」

「ええ、そうね。房楊枝(ふさようじ)なんて、どこで買えるんだったかしら。」

「ふ、ふさ…?なんだそれ?」

「ええと、あなたたちの世界でいう歯ブラシってところね。」

 

 話を聞くと、柳や灌木(かんぼく)の枝を十数センチに切ったものを煮て柔らかくし、さらに先端を叩いてフサフサにしたものらしい。なるほど、これも幻想なワケだな。

 

 荷物持ちの悠がいても両手が塞がってしまうほどに買い物をしたため、昼食もかねて一旦家に戻る。

 

 昼食を終えると、また家を出る。人里に行く前に悠は香霖堂に行きたいと話したため、これからまずは香霖堂へ向かう。霊夢曰く、香霖堂は「ガラクタ屋さん」だとか。

 

「いらっしゃ――って、霊夢か。と、それと、悠くんじゃないか。ようこそ、香霖堂へ。」

「どうよ悠?私が言った通り、ガラクタ屋さんでしょ?」

「ガラクタ屋さんだなんて失礼な!これは外界から流れてきた優れものの数々だよ!それをガラクタで片付けるなんて…!」

「霊夢と霖之助さんは知り合いなのか?」

「ええ、まあね。」

 

「あ、石油ストーブだ…」

「流石は外界から来ただけあるね。そうさ、これはストーブといって、灯油という油を使って炎を燃やし、暖めるための道具さ。あぁこれは非売品だよ?」

「電子レンジ…」

「これは電子レンジといって、電気という力を使って水分を含むものを暖めることができるのだよ。ああ、それも非売品だよ?」

「パソコンじゃん。」

「それはパーソナルコンピュータといって、いわば、外の世界の式神らしい。命令されたことをこなすことが出来るらしいが、どうやらこれも電気が必要みたいでね。あ、これも非売品だよ?」

 

…あ、あれ?ここの店って、売ってるものあるの?

「霖之助さんはね、ガラクタまにあっていうやつなのよ。」

「何がガラクタだ!この素晴らしさがわからないってのか、君は!?」

「わからないし、わかったところであなたみたいになるのも嫌だからわからないように努力するわ。」

 

「霖之助さん」

「ん、どうしたんだい、悠くん。」

「この洋服…」

「なんだい、その服を買ってくれるのかい?」

「悠、あなたってば見慣れない服に興味を持つのね。」

「これは外界の服のようだけど、誰も目をつけてくれなくてね。買ってくれるのなら安く提供するよ。」

「そもそも霖之助さんのお店ってお客さんは来るのかしら?現に売れる物も無いようだし。」

「何を言うか。この前はね、銀髪で、ちょっと変わったメイドさんがうちの店にティーカップを買いに来たばかりだよ?」

 

―――メイド?こんなところで?…なにか、嫌な予感がするわ…。面倒ね…。

 霊夢は、直感ではあるが、これから面倒事が起こるのではないかと思った。だが確信はないため口にはしない。

「なぁ霊夢、ちょっとここで衣服を買いたい。」

「――え!?あぁ、服ね?まあ、悠がそれでいいならいいけど。あ、霖之助さん、今日もツケておいてね。」

「またツケかい?硬貨の一枚ぐらい払っておくれよ。」

「いいじゃない、硬貨の一枚ぐらい。」

「いや、君が払うのは一枚どころか紙幣数枚なんだけど?」

「さ、悠、適当に服を選んでて。ワタシはもう少し食糧の貯蓄を買ってくるから。」

 

 そう言い残して霊夢は店を出ていってしまう。

 話によると通貨は現世のものらしい。

「…」

「…」

「…霖之助さん、いつか、返します…。」

「そうしてくれると、助かるよ…。」

 

……

………

 しばらくして、霖之助が妙案を思い付いたような顔で優に悠に話しかけてくる。

「あのさ、悠くん。」

「はい?」

「君さえよければだけれども、うちで働いてみないか?」

「はい?」

「あぁ、働くと言ってもね、ただ単に物を集めてほしいんだよ。」

「と、言いますと?」

「君は博麗神社に住んでいるって言ったよね?」

「ええ、まあ。」

「博麗神社は外界と幻想郷を隔ている結界のすぐそばにあってね、そこには『幻想となったもの』や、『外界から紛れ込んだ物』が近くに落ちていることがよくあるんだよ。」

「はい。」

「君にはそれを拾ってきてほしいんだ。」

「拾ってくるだけですか?」

「あぁ。なんでも構わない。あ、勿論それは僕が買い取るから、それをツケに回す。こういうことさ。拾ってくるものは何でも構わない。外界の進んだ技術はすごい。もっと、色々なものを見てみたいんだよ!」

 

「ええっと、例えばこういうのとかですか?」

 悠は、何故かポケットに突っ込んであった定規を取り出す。

「フム。定規だね…長さを計るもの…幻想郷にも存在するが、面白い定規だね。」

 

 悠が元居た世界にはある、普通の定規。プラスチック製だ。

 

「これは…引きやすいな!なんだい、つまりは早速売ってくれるのか?」

「ええ。持ってても使わないと思いますしね。」

「ありがとう!そうだな、500円で買おう!」

た、高っ!!100均で買ったやつですよそれ!いいのか!?

 

「さあ、あと『2万9500円』だ!はりきっていこうじゃぁーないか!」

 

…おいちょっと待てなんだよ、その莫大な借金は?空耳かな??んん?

「あ、今日も購入してツケに回したから3万1500円か。」

あ、増えた。空耳どころか増えた。

 

……

………

 外を見ると、辺りは夕陽で赤く染まっていた。同時に霊夢が迎えに来たため、今日のところは帰ることにした…。

 

夜…。

 悠は霊夢にあの莫大な「ツケ」について問いただすことに。

「あの、霊夢さんや」

「何?」

「霖之助さんの、あのツケはどうすればあんな額になるのです?」

「今までずっと貯めてきたからよ?」

「いやそんな偉そうに言われても…そこまで渋る必要があるのか?」

「私は妖怪退治が本業よ。事件があれば収入があって、ないとお金は減る一方。収入が確実に不安定な仕事をしてるのだもの。節約するのは当然よ?」

「なるほど、しっかり考えているんだな。」

「当然よ!」

 

 それにしても貯めすぎではないか、とか、節約どころか一銭も支払ってないじゃないか、とツッコミを入れたくなったが、ここはグッとこらえた。

 

「悠?明日は、幻想郷で生きる上で必要となるであろうことを教えるからね。」

「必要となるであろうこと?」

「ま、身の安全を守るための方法、かしら?」

「どういうことだ?」

「今日の朝にも言ったけど、力がさほど強くない妖怪や妖精は、本能のままに生きているからいつ襲われてもおかしくないの。だから、身を守るための方法よ。」

 

明日も大変そうだ。

 

~おまけ~

「さてっと…寝る前に歯を磨こうか。ずっと磨いてなかったんだよな。」

 

「……(シャコシャコシャコ…)」

「お、霊夢だ。霊夢も歯磨きか?…って、ん?あれ?」

「何よ、じろじろと。」

「いや、だって…」

「?」

「なんで俺のは超スーパー昔風歯ブラシでなんで霊夢のは現世でも売られてるやつなんだよ!俺もその歯ブラシの色違い使ってた!安くていいよなコノヤロー!」

 

「ああ、これね…。……あれ?…あなた…今さら房楊枝なんて使ってるの?プッ」

「霊夢がこれだっていうから買ったんだよ!騙されたこんチキショー!!」




わ、わ、誤字だらけやん

てか、悠くんは傷を負ったばかりなのになんでピンピンしてるんだよ…これどう言い訳すれば…


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第5話「霊夢先生と魔理沙先生による楽しい弾幕レッスン」

またしばらく空いてしまいましたね…申し訳ないです…


 昨日はしゃぎまくった悠は良く眠っている。昨日は一睡もしていなかったからだろう。

 

 夢を見ている。

「ん…」

 豊かな自然、青い空。

「うぅ…」

 どこまでも高く高く飛んでいく…自分。

「うぅ…」

 重力にしたがって落下していく。等加速度運動によってみるみる加速する。地べたが目前に迫ってきて、ついに―――

 

「うわおおぁぁぁぁっ!…あぁ…?」

 ついに目が覚める。

そうだ。ここは幻想郷。何もかもが刺激的な毎日の幻想郷だ。

 

「ゆ、夢…夢か…もう一眠り―――」

「起きなさいこのねぼすけ睡眠大魔王が!」

「ゴハァッ!」

 刺激(物理)は、いつだって唐突にやって来るものだ。

 その後すぐに居間まで行き朝食をとることにした。

「いってぇ…もう少し優しく起こしてくれないのか?」

「6回も呼び掛けてあげた優しさたっぷりの私に文句でも言うつもり?」

「あ、そうでしたか……」

 ぐうの音もでない。

 

「いや、もうこれ一種の才能じゃね?」

「起きてくれればどんな才能でもいいわよ。起きてくれればね。」

「悪かったって…」

 今日の朝食も霊夢の美味しい手作りご飯だ。

……

………

 今日も心地よい秋晴れに神社が照らされる。境内には心地よい風が通り抜けていく。

 

「昨日も言ったけど、今日は幻想郷を生き抜く上で必要になる身の守りかたを伝授します。」

 

「先生、早速その身の守りかたをお願いします。」

 

この前にも言った…というか、悠は経験済みよね?

妖怪…この世界にはそこら辺にウヨウヨいるの。

「あぁ…確かに経験したな。途中からの記憶がはっきりしないけどな。」

ま、その「妖怪」から身を守るってことよ。

――って、あら、魔理沙じゃない。

「よう霊夢!また遊びに来たぜ!」

ちょうどいいところに来たわね魔理沙。今から私にやられ…じゃなくて。「弾幕」の練習相手になってもらうわよ。

「やられることが前提なのが大変気に食わないけど…悠に見せるとか言うんだろ?任せろだぜ!」

 

「だ、弾幕?」

そうよ。とりあえず見ればわかるわよ。

 

「そうだ、悠。あれから飛べるようになったか?」

 

「…跳躍なら…出来るようになったんだけどな。」

 

「ちょっと見せてほしいんだぜ」

 

「あぁ…。」

悠大丈夫?またこの前みたいに力を込めすぎたりとかやめてちょうだいよね。

「ど、どうにかなるだろ?」

今度は助けないからね…

「だ…大丈夫…だと思う…」

「悠の命なんかより早く私の好奇心を静めてくれだぜー!」

 

そうね…とりあえず、神社の屋根の上に行ってみたら?

 

「よし…イメージだ…イメージ…イメージ…行くぞ!」

 

掛け声と共に悠が一気に跳躍する。でも前回みたいにがむしゃらに高く跳んだワケではなさそう。上達が早いのね。

「おお!いいカンジじゃないか!きれいに神社の上まで行ったな!なー霊夢?」

 

ええ、そうね。おそらくあなたには滑空は無理でしょうから、「跳躍」を極めたほうがいいかもしれないわね。

それに、これから私たちのする事…そこからの方が見やすいと思うわ。

 

「なぁ霊夢、そろそろ答えを教えてくれよ。」

ええ。悠にこれから教えることは…弾幕の出し方よ。

 

「弾幕の…出し方?」

「ま、見ればわかるぜ!」

 

じゃあ魔理沙、一回でも被弾したら負けってことで、模擬戦を始めるわよ。

「おう!いくぜっ…!」

 

「おう!いくぜっ…!」

 両者が一定の距離をとってから、お互いの準備を確認しあった後…。

 

「…!」

 悠は、驚いた。ただその一言につきる。何が驚いたかというと、

「マジで…弾幕じゃん…」

そう。本当に「弾幕」を出していた。

 現世でいう「弾幕」とは、敵の攻撃を防ぐため、たくさんの弾丸を飛ばすのを幕にたとえて、弾の幕、「弾幕」という。彼女らはまさにその名の通りに"弾幕"を張っていた。

 

 霊夢がお札らしきものをただひたすら魔理沙に投げつけているのだが、ふところからお札を出しては投げつけ、また出しては投げつけ…どこにそんな大量にしまっているのか気になるほどの数だ。

 3枚ずつを指で挟んで計9枚を投げる。指から離れた3組の札の束は、規則正しく扇状に展開して魔理沙に向かって行く。右手のあとには左手で投げ、すぐ右手でお札を掴んで投げつけ、その後左手でも同じことをする。それを繰り返して魔理沙を決して近づけさせない。まさに弾幕だ。

 

 一方で魔理沙は、初めて会ったときと同じく箒にまたがり、空中を飛び回りただひたすら霊夢の弾をかわす。ものすごいスピードだ。札の弾幕も相当なのに、それを回避しつつ、霊夢を中心に、円を描くようにぐるぐると回りながら攻撃の機会をうかがっているようだ。

 

「そんなもんか霊夢。まだまだワタシはイケるぜっ!」

 魔理沙が挑発に出る。まだ出せるのかよ。

「当然じゃない。私だって回避の練習とかしたいもの。こんなところで本気なんて出さないわ。」

「言ってくれるぜ…!ならお望み通りこっちからも行くのぜ!」

 

 防戦一方だった魔理沙が動く。

「す、すげぇ…!」

ガトリング・お札の次は魔方陣と来るものだから悠はまたしても驚かされる。

 トップスピードで霊夢の周囲を滑空する魔理沙の前と後ろに、1つずつ黄色の魔方陣が展開される。それらは両方とも霊夢の方を向いている。

「いくぜ霊夢!」

 魔理沙がそう言い放つと同時に魔方陣が淡く発光し、やがて魔理沙は「弾幕攻撃」を開始する。

 魔理沙の弾幕は霊夢のものと違って「球体」だ。その球体がどのような物質から構成されているかは判らないが、魔方陣と同様に淡く発光している。

その球形の弾は霊夢に向かって、かつ拡散して被弾の確率を上げながら飛んでいく。弾は連射されており、魔理沙の弾幕も濃さを増している。

 

「面白くなってきたじゃない!」

霊夢は向かってくる魔理沙の弾幕を時には回避、時にはお札を投げつけて相殺させながら飛んでいる。

 

「っし!みてろよ…!」

魔理沙がニヤリと不適な笑みを浮かべる。なにやらポケットをガサゴソ…

 取り出した手には、正八角形の立体が握られていた。

 

「いくぜっ…マスター…スパアァァァァーーーク!」

 

「ッ!」

 

「なんだよあれ…!」

 魔理沙の手に握られている正八角形の立体から極太レーザーが霊夢に向かって照射された。当たったらひとたまりもなさそうだ。

「…ッ!」

霊夢は回避が間に合わなかったようで、極太レーザーに飲まれたようだ。

 

「っし!手応えありだぜ!」

「油断大敵よ。」

 極太レーザーことマスタースパークに飲まれたはずの霊夢は、いつの間にか魔理沙の背中側に回り込んでいた。

「なッ!いつの間に!」

「私の勝ちは最初から決まっていたのよ。」

 そう言うと、霊夢はありったけのお札を魔理沙に投げつける。

「もうワタシの負けは決まったんだから終わりに…あばばばばばば!」

 霊夢の手から離れたお札は、魔理沙に『突き刺さった』。魔理沙は箒とともに地面に落下する。

「ぶへっ」

「やっぱり魔理沙はゴリ押しが好きなのね。」

「チクショー…また負けちまったぜ…」

 魔理沙は目を回して倒れた。

 

「それより霊夢、さっきの極太レーザーはかわしたのか?」

 悠が霊夢に尋ねる。

「それはあっちを見てみればわかるわよ。」

 霊夢が指差した方向に顔をむける。先程霊夢が極太レーザーに飲み込まれた場所の丁度真下だ。

「…たくさんのお札が落ちてるな。」

「さっきのはかわしたんじゃなくてね、囮よ。」

「囮?」

「そう。お札に私の霊力を押し込んで、そのお札の集合体を『私』だと認識させていたの。お札の囮を作ったあと私はすぐに魔理沙の後ろを取りに向かっているから、マスタースパークに飲み込まれたのは私ではなくお札の方よ。」

「それで、魔理沙の攻撃をくらったお札の囮は力を失ってバラバラになって落ちていったと。」

「そういうことよ。」

「じゃあ魔理沙のあの極太レーザーは何なんだ?マスター…なんだっけ」

「マスタースパークよ。あれはね、霖之助さんが作ったマジックアイテムの八卦炉が出す攻撃よ。」

「マジックアイテム?」

「そう、マジックアイテム。私達人間でもあんなことを可能にする力を持っている道具よ。」

「っつつ~…」

 目を回して倒れていた魔理沙が意識を取り戻す。

「魔理沙、大丈夫か?」

「ああ…体は霊力の防壁を張ってあるから、多少は大丈夫なんだぜ。まあ精神的なダメージは来るから休憩はしなくちゃなんだぜ。」

「そっか。」

「ちなみにワタシのさっきのは『マスタースパーク』っていう技だ。」

 今ほど聞きました。

 

「この八卦炉に魔力を充填して、満タンになったら念じる。すると極太レーザーが出るワケだ!」

「もしや最初の方で攻撃を中々しなかったのは魔力を充填してたり?」

「ズバリそういうことなんだぜ。」

「ということは、弾幕にも力を消費するから、それを押さえるために逃げ回っていたんだな?」

「そうなんだぜ。ちなみに霊夢のお札も同じように、お札に霊力を溜めて、溜めた霊力を使ってお札が弾幕として飛んでいくんだぜ。」

「これは模擬弾だからただの弾幕みたいなものだけれど、実戦では妖怪を封印する効果のあるお札を使うのよ。」

「そうなんだな。」

 

 一通り、先ほどの戦いの説明を受ける。

「さ、次はあなたの番よ、悠?」

「おう。指導頼むぜ。」

「早速始めましょう。」

 早速、二人が悠に「弾幕」について教える。

 最初に口を開いたのは魔理沙。

「よし悠、まずは手のひらを前に突き出すんだ。」

「こうか?」

 右手を前に突き出す。

 続いて霊夢が口を開く。

「そうよ。そして手のひらに触れている大気を感じとるの。」

 目を閉じて手のひらに全神経を集中させる。秋らしく冷えきった空気が手のひらに触れているのがわかる。

「そう…そのまま、手先に巡り回ってくる血の1滴にまで意識を集中させて…。」

 言われた通りのことを試す。

「……」

「そこで手のひらから力が溢れるような感覚をイメージするんだぜ!」

「…ッ!」

 手のひらに意識を向けたまま力をいれると、魔理沙と同じような球形の弾が飛び出す。

「おぉ…出来た!」

「流石だぜ悠!」

 魔理沙たちに比べると小さく、ヒョロヒョロと飛んで行った。

「このまま練習していけばきっとさらによくなるわよ!」

「おう!」

 

……

………

「ゼェッ…ハァッ…!」

「どうして…こうも上手くいかないのかしらね?」

「謎だぜ…」

 弾幕を張る練習を始めてからずいぶん経ったが、弾は依然として最初の頃のままだ。

「ゼェッ…ゼェッ…こ、このままだと、ただ俺の霊力を消費し続けるだけだぞ…うぇっぷ」

「キャッ…ちょ、ちょっと悠!こんなところで吐いたりしないでよ!?」

「ちょっと休憩にしようなのぜ?」

「そ、そうだな…」

「それがいいわね。」

……

………

辺りが暗くなり始める。

「もうこんな時間なのか…」

「休憩しすぎたようね。」

「何でそうなるんだぜ…」

「結局できなかったなー。もっと簡単にできねぇかなー?こう、助走をつけたらできるとか!」

 そうぼやくと、悠はボールを投げるときのステップで拳を前に突き出し、空気を殴る。

 

――ドンッ!

「「「!」」」

 空を殴った悠の拳から弾幕が放たれ、5メートル程度先の林の中の木に当たる。それもさっきまでとはうってかわって「速く、大きい弾」だ。

 

「「「…」」」

 この場にいる全員が唖然としている。

「…」

 悠は、今度は右手を左から右に振り払ってみる。

「うおっ」

 重い描いた通り、振り払った方向に弾が拡散して飛んでいった。

「や、やったな悠!これでお前も弾幕で戦えるぜ!」

「おう!」

「あれだけ練習してたのにまさか変な動きひとつでこうも簡単に出来るとはね。」

「やっぱりイメージって大切なんだな。源が『力』というだけはあるな」

 

 

「最後に何か技を覚えさせなくちゃね。」

「技?」

「ワタシのマスタースパークや霊夢のさっきの囮とかのことだぜ。」

「フム。」

「そうね…さっき見せたみたいに弾幕を目一杯に張って、そしたら弾幕に紛れて一気に近づく、それで跳躍の時と同じ要領で腕に霊力を溜め込んで、そのまま殴る、なんてどう?弾幕よりは確実に高火力よ。簡単に大打撃を与えられそうね。こっちの世界での攻撃と言えば弾幕なわけだからきっと裏をかけるわ。」

「殴る…物騒な気もするが、

それは使えそうだな。そうなると小さい弾幕も使えるようにならないとなわけだな」

 悠の跳躍は、脚に霊力を溜め込んで、ジャンプの瞬間に力を下に放出、その反力で跳んでいる。

 その技を応用し、腕に霊力を溜め込む、というのが霊夢が思い描いたものだ。

 悠の新しい技について話していると――

 

「――新聞ー、新聞でーす!ブンブンハローユーチューブ!いつもあなたのお側に!毎度お馴染みの文々。(ぶんぶんまる)新聞でーす!」

 こんな夕暮れ時に新聞を持ってきたのは、背中から黒色の翼を生やす、エルフ耳の短髪の少女だ。

「何よ、文(あや)。こんな時間に。」

「号外ですよ!これを見てください!」

 魔理沙は、「文」と呼ばれるその人から新聞を受けとる。

「えっと、なになに…『霧の湖の側に謎の洋館出現!』だって?なんだこりゃ?」

「そう!妖怪の山の麓にある湖に突然現れたのですよ!取材に行ってみたのですが、取材拒否されまして…私は強行突入を試みたのですが、飛んでも飛んでも柵の辺りから進まなかったり、ついたと思ったら、いつの間にか門の前にいたり…これは異変ですよ!」

 

「異変?」

 悠は「異変」というものについてイマイチ理解が追い付かない。

「なんと!これまた特ダネ!」

 突然右手を握られ、握手される。

「初めまして鬼怒刈悠さん!噂は度々耳にしてましたよ!」

「はぁ…」

「おっと申し遅れました。ワタシは『文文。(ぶんぶんまる)新聞』の記者兼編集者その他もろもろの射命丸 文(しゃめいまる あや)と申します。これから時々お目にかかることがあるかとは思いますが以後お見知りおきを!」

「は、はぁ…」

 ガンガン話を進める文。

「ところで霊夢さんと悠さんはどういったご関係で?」

「俺が少しの間いそう…」

「主人と下僕です。」

「えっ」

「悠…お前ってそういう趣味だったのか…?」

「いや違う」

「特ダネ特ダネ!題名は『あの博麗巫女に変態彼氏が出来た!?』で決まりですねぇ~!」

「変な記事を流すな!」

「まぁ、冗談はこのぐらいにして…悠さんは外界からお越しになったと聞きましたが、ということは『異変』についても?」

「ああ。全くの無知だ。」

 文が悠の情報を持っているのは、村に行ったからなのだろうか。

「文に頼むと変なことまで吹き込まれそうだから私が説明するわ。」

「おっと、こりゃ手厳しいですね。」

 そう言うと、霊夢が説明を始める。

「異変っていうのはね、とりあえず一大事よ。今回みたいに羊羮が出てきたりして何か異常事態が起こるのよ。」

「さすがにこいつは食べられそうにないぜ?」

「まあ、そういうことです。妖怪が何か企んでたりするんですよ。」

「そして、その妖怪を退治するのが、この私――」

 自身の胸に手のひらをあてて、霊夢が言う。

「博麗神社の巫女、博麗霊夢の本職よ。」

「私も行くのぜ!」

「あなたってばいっつも足を引っ張ってるじゃない。」

「た、たまたまなんだぜ!次こそは上手く行くのぜ!」

「どうかしらね。」

「なんだとー!」

 

日はもう沈みかけている。辺りが夕日の優しい赤に照らされる。

「では、私はそろそろ帰ります。またどこかで。」

「私もそろそろ帰るぜ。じゃあな悠、霊夢、文」

「さようならー」

「おう。じゃあなー。」

手を振って各々別れる。

 

「さてと、悠。私達も戻るわよ。」

「そうだな。今日の夕飯は何だ?」

「そうね、今日は―――」

今日も、賑やかな博麗神社――。

 

……

………

 昨日は弾幕の練習で疲れた。慣れないことをするのは大変だ。悠はこれ以上ないほどに心地のよい快眠をとっていた。

「悠、起きて。」

 快眠の真っ最中に起こされた悠の機嫌は少し悪い。まったく、快眠を邪魔するおバカさんはどこのどいつだ。

「んー…なんだよ…まだ暗いじゃんかよ…」

「いいから、外に来てほしいの。」

「んだよー…」

 言われるがままに、悠が借りてる部屋から外に足を運ぶ。

 

 ふすまを開けると…。

「…ったくよーこんな夜中に……え…な、なんだこれ…!」

 そこには、一瞬にして目覚めるような衝撃的光景が広がっていた。

「空が…真っ赤…!」

「いっておくけど、今は朝よ。やっぱり、昨日文が言っていた洋館の連中かしらね…!」

「なぁ…霊夢…?」

「悠、覚えておきなさい。これが…異変よ!」

 昨日の夕陽ほど、その赤は優しいとは思えなかった。




アドバイスや感想などがございましたらどしどし書き込み下さいませ。

…この話の第1話が違和感しかないのは分かっているんだけども…どうやって直せばいいのやら。。。


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第6話 心配と誘導

またしばらく空いてしまいました…申し訳ありません。

ストーリー構成は出来ているのですが…
・スペルカード
・語句の細かな表現
・キャラクターの口調、性格
この三点はにわか勢には中々つらい内容でした…(言い訳

ご感想やご指摘できる点などがありましたら、是非コメントをしてください。


「異変…」

 地上が赤に覆われている。またしても幻想郷に驚かされた。

 

「これが…」

「そう、これが異変よ。さーってと!稼ぎどころねー!」

「…へ?」

「言ったでしょ?私の本業は妖怪退治よ。ここでチャッチャと片付ければ人里で『霊夢さんマジリスペクトっす!』ってなると思うから、儲かるハズよ!たぶん!」

「そ、そうなの…?」

「あんま自信ない!」

思わずコケてしまった。

 

「そうか…ま、まぁ…頑張れよ。」

「頑張りはしないかなー?本気を出すのもかったるいしねぇ…?」

「それでやられたら元も子もないだろ?それで大丈夫なのか?」

「逆にこの私が負けるとでも?」

「いや、だってよ…」

「大丈夫よ。これでも意外と生きてこれるものよ。この通り。いままで通りでも大したことないわ。」

「そういうことなら…大丈夫なんだな?」

「少くとも、あなたに心配をかけられるほど弱くはないと自負しているわよ。そうじゃなくちゃ今頃私は空の上よ。」

「それもそうか。何か俺に出来ることとかある?」

「そうね…私が帰ってきたときに何か労ってほしいわね。」

「料理はできないけど、何かしら考えておくよ。」

「疲れを吹き飛ばしてくれるような物がいいわね。じゃあお願いしましょうか。」

「まかせとけ!」

「じゃあ、行ってくるわね。」

「行ってらっしゃい!」

「ふふっ、お見送りがあるのは悪くないわね。それじゃ、あとは頼んだわよ。」

「おう!」

そう言い残して、霊夢は魔理沙の箒と同じくらいの速さで飛んでいった。

……

………

「…とは言ったものの」

 

 悠は「霊夢の疲れを吹き飛ばしてくれるような物」について考えていた。そもそも、居候の身で勝手に人の家のものを物色してもいいのだろうか。

 

「…霖之助さんのところに行って聞いてみようかな。」

 

 悠は、ここが「幻想郷」だということを、日常とは違うということを、何が起きてもおかしくない世界なのだということを、忘れていた。

 

……

………

「気味が悪いな…」

 

 

 魔法の森は、紅い雲のせいで日中だというのに薄暗い。

 早くこの森を抜けたい。その一心で歩き続ける。自然と歩くスピードも早くなっていた。

 

「抜けた…。」

 しばらく歩くと森を抜ける。森と人里との境目には「香霖堂」がある。

 

「ごめんくださ~い…」

 しかし返事はない。中は薄暗く、人気がない。いつも通りですね。

「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、本日は臨時――って悠くんじゃないか!?」

「はい、悠です。」

 

 香霖堂の店主「霖之助」は大変驚いている。

「何をそんなに慌ててい――」

「道中何事もなかったかい!?」

「へ?」

「襲われたりとか!」

「そんな、襲われるなんて――」

「いいかい悠くん。今君がいる世界は『幻想郷』だ。」

「あ…」

「君は魔法の森に入っても、運よく襲われなかった。でも、その運がどこまで持つかなんて分かったもんじゃない。」

「はい…おっしゃる通りです…。」

 

 しゅん、と悠は落ち込む。

 それを見かねた霖之助がフォローをいれる。

「まあ、君もこっちにきて1週間も経ってないじゃないか。仕方ないよ。」

「ありがとうございます…ご迷惑おかけしました…」

「次からは気を付けたまえよ?」

「肝に命じておきます…!」

 

幻想郷は異変真っ只中だ。

 

「…そういえば、なんで悠くんはここに来たんだい?」

「おっと、そうだった。実は『霊夢を労う物』を用意しておきたくて…何かいいものはありますか?」

「霊夢を労う…?」

「はい。霊夢は異変の解決に向かいまして、何かできることがないか聞いてみたところ、疲れを吹き飛ばしてくれるものが欲しい、と。」

「なるほどね…」

 

 手を顎にあて、考え込む霖之助。

「…そうだ。少し待っていてくれ。」

 しばらくして、何かいい案を思い付いたようで、店の奥に引っ込んでしまう。

 

その間、悠は店内を物色する。

 

「…入浴剤?」

 霊夢が「例外もある。幻想になっていないものでもごく稀に流れ着く」と言っていた。つまり、これはそういうことだろう。

 

「…いいかもな。」

「お待たせ悠くん。あの子は美味しいお茶とお煎餅があれば何でもいいからね~…おや、『入浴剤』だね?」

 

「はい。霊夢のために買っていこうかと。」

 

「それを買うってことは…やっぱり、『入浴剤』がどういう物なのかわかるということだね?」

 

 霖之助は「道具の名前と用途が判る程度の能力」の持ち主。当然、入浴剤の使用方法は能力でわかる。

 

「はい。霊夢も女の子ですし、きっと気に入ってくれるかと思って。」

「いい案だ。」

「お茶とお煎餅とこれでいくらになりますか?」

「いいよいいよ。何よりも今回は無事に帰らなくちゃ。せっかくのバイト君がいなくなってしまっちゃ、ウチとしても困るからね。神社まで送るよ。」

 

「そんな!危険ですよ!」

「少なくとも悠くんが一人で帰るよりかは安全だよ。」

「いや、しかし――」

 

「言ってなかったっけ?僕は『人間』と『妖怪』のハーフなんだよ。だから心配ご無用!」

「…へ?」

「驚いたかい?ハハッ。無理もないよね。」

 

 そう、「森近霖之助」は人間と妖怪のハーフである。

「え…あ…えと…」

「あぁ、妖怪の血もあるよってだけだから。慌てる必要はないさ。別に取って食ったりなんてしない。」

「そ、そうですか。」

「ただ、弾幕とかなら多少は出せるよ。だから、悠くんを神社まで送る。」

「いや、そんな迷惑じゃ…」

 

「妖怪の力もある僕の言うことを聞かないつもりかい?」

 

「ッッ!」

 

 全身で鳥肌がたつのを感じた。確実に悠より戦いを経験している。そんな感じがした。平和ボケした国にいた悠でもわかる。

 どうやら無理にでも付いてくるそうだ。拒否権も無い。

「(あぁ…この人には敵いそうにないな。)」

 

「さぁ…どうしよう?」

「…参りました。」

 するとすぐに柔和な笑みを顔に浮かべ、

「そういうわけだから、無理にでも君を安全に送り届けるよ。」

と言う。もちろん悠はこう答える。

「はい。お願いします。」

……

………

「やっぱり、いつきてもここは不気味だね。今日なんて特に。」

「俺もそう思います…今まで生きてきた中でもこんな不気味な道はありませんでしたからね…」

 

 空を飛べない二人は、森の中の道を引け腰で歩く。

 そんな二人の前に、背中から半透明の羽を生やした、手のひらサイズの「何か」が現れた。

 

「…悠くん、少し下がっていたまえ。」

「霖之助さん…あれはいったい…?」

「あれは『妖精』だよ。」

言われてみれば納得。

 背中から生えている羽は妖精そのもの。大きさも手のひらサイズ。可愛らしい見た目とフリフリのドレス。ファンタジーストーリーよろしく宙に浮いている。

 とりあえず言われた通りに少し下がる。

 戦闘体勢に入った両者がしばらく睨みあったのち、「弾幕戦」が始まった。

 

 最初は妖精側から攻撃が仕掛けられた。妖精は青く発光した弾幕を、両手を使って連射する。なんの捻りもない弾幕が、ただ一直線に霖之助に向かって襲いかかる。

 

「甘いっ!」

 対抗して霖之助も弾幕攻撃を始める。霖之助は左右それぞれの手から弾幕を放つ。左手で襲いかかる弾幕を弾幕で相殺。右手で攻撃を行う。

 右手から放たれた段幕は「重力に影響される弾幕」のようで、上に放たれた弾幕が弧を描いて妖精を頭上から襲う。

 

「キャー!」

 短い悲鳴ののち、妖精が地面に落ちる。

「…死んだ?」

「まさか。妖精の命は『自然』なんだ。この自然がなくならない限り、妖精は何度でも息を吹き返す。今だってただ失神しているだけだよ。じきに起きる。」

 

 確かに、「う~ん…」と唸りながら目を回している。

 

「さ、また襲われないウチに先を急ごう。」

「分かりました。行きましょう。」

……

………

 しばらくあるいて、またしても「何か」が現れた。

「…女の子?」

先程の「何か」ではない。頭に赤いリボンをつけた、可愛らしい女の子が現れた。しかしフワフワと浮いている。確実に「人間」ではない。

「あなたは食べてもいい人類?」

「え?もう一度――」

「食べれるものなら食べてみたまえ!悠くん、走るよ!」

「え!?うわ、ちょッ!」

 

 いきなり手を握られ、二人で駆け出す。

「今度はなんですか!?」

「あれは人食い妖怪の『ルーミア』さ!好物が人肉なんだよ!」

「あんな女の子が!?」

「あれでも『闇を操る程度の能力』の持ち主なんだよ!」

 

 確か霊夢が「力の強い妖怪は知性を持つ」とかなんとか言っていた記憶もあるが、人に化けるとは聞いていない。

 もっと獣らしいのイメージしてた!

 

「でもなんで人になるんですか!」

「人間の言葉を喋ってみたかったんじゃないかい!?そのためには言葉の発音に適した作りが必要だからだろう!」

「じゃあ何で体も人なんでしょうね!」

「絵にできないからだよ!放送事故が起きてしまう!」

「なんかすっげぇメタいんだけど!!」

 

「お兄さんたちなら食べてみせるから…いただきまーす。」

 

 呑気な声ではあったものの、あの子は本気で殺しにきている。いや、喰べにきてる。

「走るんだ悠くん!転ぶんじゃないぞ!」

「まって霖之助さん!それフラグファぇ!」

「悠くん!大丈夫かい!?」

 

「いっただきまーす……」

 ルーミアが転んだ悠に近づく。

 

「させるかっ!」

 霖之助は勇敢にも、さっきまで逃げていた相手に攻撃を仕掛ける。

 

 ルーミアは一度距離をおき、弾幕攻撃にうつる。

「(や、やべぇ…!頭上で戦闘状態…!どうしよう…!)」

 

「むぅ…夜符『ナイトバード』っ」

 

 ルーミアが何かを掲げながら、舌っ足らずな口調で呟く。

 ルーミアの放つ弾幕は、左右に青と緑の弾幕を扇状に放つもの。

 霖之助が弾幕をかわす。そのかわした弾幕が左右の木々にあたり、木の葉を落とさせる。

 しかし、さっきの彼女の呟きは一体なんだったのか。

 

「って、霖之助さんを助けなきゃ!」

 

 ルーミアと霖之助の弾幕を避けつつ立ち上がり、昨日の「弾幕」を思い出す。

「(ボールを投げるときのステップで…っ!)」

 悠は意識を手のひらに集中しながらステップを踏み、その手のひらを「ルーミア」に向かって突き出す。

 すると、昨日やった通りの「大きく」「速い」弾が1発出る。

 

「わっ…!?」

 

 土煙が舞っていることから、悠の出した弾幕が地面に着弾したことが容易に理解できた。

 

「おらっ…!」

 次は両手を上から前に振り下ろす。イメージは、昨日の「右手を左から右に振り払う」だ。

 昨日の場合は、右手を左から右に振り払って小さな弾をいくつか出した。というよりも、出せたというほうが正しいだろうか。

 そのイメージで、頭の上から下に振り下ろす。

 

 

 イメージした通りに出せた。

 

 魔法の森に作られたこの道は、両脇をたくさんの木々に囲まれている。そのため、上下に拡散させることで上への逃げ道を塞ぐ。

 先程の土煙もあり、ルーミアは襲いかかる弾幕に気付かずに被弾する。

 

「ひゃぅ…!?」

 大きな音を数発ぶん立てて、ルーミアは地面に落ちる。

 ルーミアもさっきの妖精のように目を回して寝そべっている。どうやら死んではいない。

 

 静かになった森の中で、二人が安堵の息をはく。

「ふぅ…悠くん、やるじゃないか。あんなに強い弾を出せるんだね。」

 

「まぁ、たまたま昨日できたといいますか…他のはこれっぽっちもなのですがね…ははは…」

 悠は乾いた笑みを浮かべる。

 霖之助のような、手のひらから連続して弾を出す、いわゆる「弾幕」を悠は出せない。ただの攻撃だ。

 

「さぁ帰ろうか。博麗神社はもうすぐだよ!」

「はい、行きましょう!」

 

……

………

「それじゃ、悠くん。大人しくしているんだよ?」

「お世話になりました。お気をつけて。」

「ああ。」

 

 しばらく歩いてから、博麗神社についた。霖之助は、玄関前まで悠を送り届けてから、今まで来た道を引き返していった。

 

「…これでしばらく暇だなぁ」

 ぼやいてみるも、反応する人は誰もいない。

 

「…その暇でひとつ商売をしてみたいとは思わない?」

「うおっ!?」

 

 突然、目の前の空間に裂け目ができて何者かが現れる。見た目は恐らく女性だ。

 

「あ…あなたは…たしか―――」

 

「悠くん、あなた、霊夢が心配ではなくて?」

 

「へ?」

「だから、霊夢が心配かどうかって、私は聞いたのよ。」

「え、あぁ…なるほど。」

 

 突然現れた上に、突然おかしな事を言い出した。

 

「で?どうなのよ。」

「え?ああ、えぇと…まあ、心配では、無きにしもあらずというか…」

 

「んもう、ハッキリしないのね。」

 

 怒られた。ワケがわからない。

「す、すみません…」

「よく考えてごらんなさい?あなたと同じような年端(としは)もいかない女の子が、たった一人で、戦いをするのよ?心配ではあるでしょう?」

 

 確かにそうだ。霊夢はそれほどに大人に見えない。むしろ年下かと疑ってしまうレベル。心配しないといえば嘘になる。

 

「…はい、確かに心配です。」

「なら行っちゃいなさいよ♪」

「え?いや、でも…」

「つべこべ言わずに行く!いってらっしゃーい!」

 

「…は?」

 

 この女性が現れた時と同じ「空間の裂け目」が、足下にある。突然の浮遊感。

「あ"ぁぁぁぁぁ!!!?!」

 いつぞやの落下の用に、真下に向かって加速していく。

「いてっ!」

 

 …が、すぐに悠は尻餅をついて自由落下の旅が終わる。終点は博麗神社の玄関。

 

 すると、目の前に空間の裂け目ができ、先程の女性が現れる。

 

「そういうわけだから、行きましょう。」

「…はぁ…行きませんからね。」

 

 そう言い捨てて、悠が中に歩き出すと…

「あなたには『はい』を言う権利はあるけど『拒否権』はないのよ?」

 悠の行く先の床に、いつの間にか先程の「裂け目」ができている。どうやら逃げられないようだ。

 

「うおっ!あぶね!」

「さて…今度は、成層圏ギリギリから自由落下の旅よ?」

 

「わかりました!わかりましたから!今のはもう許してください!」

 

「あら残念♪」

 

 ちっとも残念がってない。さっきからニコニコしている。

……

………

――で?霊夢は今どこなんです?

――魔法の森を抜けて、香霖堂も抜けたら、右にまっすぐ進む。整備はされていないけど、道があるからそこを通るといいわ。

 

 霖之助から譲ってもらったお煎餅三枚をポケットに押し込み、悠はこの会話を忘れないように何度も頭のなかで反芻させる。

 

 まずは魔法の森を抜ける。

 

「そういえば、さっきまでこのあたりで戦っていたんだよな…まさかもう一度ここに来るとは…って、あれは…さっきの妖怪?まだ倒れたまま…」

 

 恐る恐る近寄ってみることにする。

「うーん…おなか…すいた…のだ…」

「…この煎餅たべるのかな?」

 

「お兄さん…は…食べても…いい?」

「うおッ!!」

 

 意識があった。いや、戻った。極限の空腹状態は恐ろしい。

 

 悠は慌てて首を横に振る。

 

「おおお俺は食えない!そうだ、ほら、ここにお煎餅があるだろー?こいつなら食べてもいいんだぞー?ほらほらーうまそうだろー?」

 

「それ…おいしいの?」

「うまい!ウマウマだから!さぁ食べろ!」

 

 必死で煎餅を突き出す。

「食べる…」

 バリボリバリボリ…

 悠の手から煎餅を奪い取り、ルーミアは奪い取った煎餅をたべる。

 

「(人食いなのに煎餅でもいいのかい…!)」

 

 一心不乱に煎餅をパクつく。

「美味しいっ…」

「そ、そうか!うまいか…ハハ…」

「お兄さん、いい人…!」

「そそそそうだ!そうなんだよ!お兄さんいい人だから、もう食うなよ!!絶対だからな!!」

「わかった。お兄さんは食べない…!」

「よ、よし…!いい子だ…!ご褒美にもう半分やろう…!」

「!」

 ルーミアが悠の手に手を伸ばす。

 

「待てっ!」

「ふぇ…」

 違うんです。ちょっと意地悪したくなっただけです。

 

 目の前の人食い妖怪は「待て」の一言で、泣きそうな顔をしながら行動を静止させる。

 

「まだだぞ…」

「んぅ~…」

 

「よし!」

「わはー!」

 

 何この子かわいいチョーカワイイ!小動物みたい。

 

「…って、こんなところで油売ってる場合じゃない!俺はもう行くぞ!元気でな!」

 

「お兄さんばいばいー」

 

 ルーミアに別れを告げ、霊夢のいる場所へと急ぐ―――。




ルーミアって原作ではこんなに幼くはないんですよね…?

あ、そこは二次創作ってことでお許しを…(^_^;)


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第7話 ようこそ紅魔館へ!お出口は後ろです。

空白の期間はゲームゲームゲーム時々原チャゲームゲームゲーム……
申し訳ありません……あ、後悔はしていません。開き直りまーす!(殴


「ふわっぁぁ~…寝起きから激しい色はちょっと遠慮だぜー…」

 霊夢と悠が「紅い空」について動き出したと同時刻、霧雨魔理沙もまた、紅い空を見つめいた。

 

「朝はゆっくり過ごしたいんだが…これは見過ごせないぜ。」

 

 口許にひとつ、笑みを浮かべた魔理沙は「異変」を解決するために動き始める―――。

 

……

………

 

 速攻で準備を済ませて家を飛び出し、愛する箒に股がって紅い空を高速で駆け抜ける。

「妖怪の山の麓の湖、だったよなー…」

 

 魔理沙は、昨日「『文々。新聞』の編集者その他もろもろ」の射命丸文からもらった情報をもとに、「洋館」へと向かっていた。

 間もなくして目の前に大きな湖が見えてきた。本来なら青空を写して美しいスカイカラーになるはずの湖も、今日ばかりは紅色だ。

 

「おぉ…遠目でもわかるでかさの洋館だぜ…!そりゃ文の奴が騒ぐのも納得だぜ…!」

 

 その「洋館」というのは、赤レンガで建築された西洋風の建物のようだ。そして異常な大きさである。幻想郷で今まで見てきた中でもこんな馬鹿みたいに大きな建物など見たことがない。

「くふふ…ああもう相当なお宝の予感だぜ…!待ってろよお宝のボス!」

 異変の解決という単語が彼女の頭の中に浮かんでくるのはしばらく先のことである。

 

……

………

 魔理沙は洋館へ向けて湖の上空を飛行している。

「…ぶぅえっけしゅ!…うぅ…何だこの寒さは…これから雪でも降るのか~?」

 飛行中、魔理沙は寒さに震えていた。しかし、季節は秋。今現在、空にかかる雲ほど濃い色ではないが山肌は赤く染まっている。そのため魔理沙が現在進行形で体感している寒さは、常識的に考えてみればまずあり得ないことなのである。

 そう、「湖が凍るほどの寒さ」などあるはずがないのだ。

 

「お?さっそく異変首謀者様のおでましか?」

 目前で何者かが滞空している。

 

「チ、チルノちゃぁーん!危ないよー!止めよー!」

「大ちゃん!アタイを止めないで!」

「こんなこと本当に止めようよ!ね?」

「だってだって!どいつもこいつもみんなして『へたっちゃって』!情けないったらありゃしない!それに比べてアタイはどうよ…?やーん!アタイったら最強じゃない!見てよ大ちゃん!この湖を凍らせてるのよ!なにせ、アタイは最強だもの!そして天才よ!向かうところ敵無しね!」

 

「みんなの元気がなくなってるのはこの雲のせいだと思うけど…」

「え、そうなの?どうしてよ?」

「だって、雲が真っ赤になっちゃってから、みんなの元気が無くなっちゃったんでしょ?」

「…?…よくわからないけど流石は大ちゃんね!頭が良いのね!」

「い、いや、私なんて…えへへ…」

 

 

 どうやら、目前の妖精たちはどちらかというと被害者のようだ。しかし、紅い雲のせいで妖精妖怪は弱るのか。ますます気になるところだが――。

「無駄な戦闘は避けるべき…あの妖精どもは異変と関係ないみたいだし先に行――」

「だれ!?」

「ゲッ」

 

 先を急ごうとした魔理沙は妖精のうちの片方に見つかってしまった。

 

「『ゲッ』って何よ!アタイは最強なんだからね!お前なんかもより強いんだから!」

「チ、チルノちゃん!ダメだよ!」

 

 よく見ると、一方は氷の妖精である「チルノ」だ。もう片方は、いつも「チルノ」の後ろを追いかけている妖精だ。妖精のなかでも力の強い妖精のため、「大妖精」と呼ばれている。

 

「あーはいはい。お前らと遊んでやれるほどわたしも暇じゃないんだぜー?」

そう言って手をヒラヒラさせる魔理沙。

 しかし、氷の妖精チルノはどのように受け取ったのか…

「そんなに嫌そうな顔しなくても良いじゃないのよ!って、そうよね!私と戦いたくなんてないわよね!何しろ幻想郷で一番さいきょーな私と戦うなんてむぼーそのものよね!」

 

「なんでもいいからこの寒さは勘弁してほしいのぜ…!」

 

 チルノが力強く口を開くごとに、肌に触れる冷気も鋭さを増す。

「…え?もっと涼ませろって?」

「言ってないぜそんなこと!」

チルノが不適な笑みを浮かべると同時に、一段と寒さが増す。

 

「チ、チルノちゃん…?」

「仕方ないわね!この私が涼しくしてあげるわよ!」

「だから嫌だったんだよー!」

 

「涼しくなぁーれ!」

 

 滞空していたチルノが両手を広げ、猛吹雪を辺り一帯に発生させる。その吹雪に混じって、砲丸投げの玉ほどの、それも先端の尖った氷塊が魔理沙に向かって飛ばされてくる。

 

「うわっと…!当たったらシャレにならないぜ!」

 

「まだまだ!もっといっちゃうんだからね!雹符!『ヘイルストーム』!」

 

 チルノは魔理沙に向かって、大きな氷塊を扇状に飛ばす。魔理沙は当たるまいと、箒を右に左に、時には体を捻り、時には戦闘機がロールするように回り、弾幕をかわしていく。

 

「こんなの余裕だぜ――っとと…!」

 余裕の表情を浮かべていた魔理沙だが、その表情はすぐに焦りの物へと変わる。

 氷塊が進行方向を、魔理沙から見て右側へと次々に変え始めた。ただ進行方向を変えただけならまだよかった。弾幕は扇状に広がっていたため、魔理沙の左側には氷塊がたくさんある。それらが一斉にこちらを向き、襲いかかってくるではないか。こうも突然だと魔理沙とて慌てる。

「…面白くなってきたぜ…!」

 

 口元に笑みを浮かべ、自身も弾幕による攻撃を始める。悠に見せた時と同様に魔法陣を作り出し、そこから弾幕を撃つ。

 同時に移動も開始する。魔理沙の右側に進み、弾幕の流れに従う。

 上に下に、右に左に、時には回り、時には弾幕で相殺。チルノに弾幕を撃ち込みながら、チルノからまっすぐに放たれた弾幕も次々とかわしていく。

 

「中々やるじゃないの!ならこれはどうかしら!」

 

 今の攻撃では無理と悟ったのか、チルノは別の攻撃手段に移る。

 

「とっておきよ!凍符!『アイスストーム』!」

 今度は魔理沙と同じような拳大の弾幕をばらまき始めた。色は赤、黄色、青、緑と、色とりどり。

「おいおい?これがとっておきか?」

 

 先程より幾分か避けやすい。とっておきの弾はまっすぐに飛んでくるだけだ。油断しなければ絶対に当たりはしない。

 しかし、とっておきはこれからのようで…

「いまっ!」

 チルノが叫ぶと、ばらまかれた弾幕が一斉に色を失い、空中で停止した。もちろん、慌てて魔理沙は急ブレーキをかける。

「うわっと!取って置きってこれのことか…!」

 だが、止まってしまえば問題ない。避けやすいことこの上ない。

「まだよ魔理沙!動けー!」

「――っと…!」

 再びチルノが叫ぶ。同時に止まっていた弾幕がゆっくりと再始動する。

 動き始めた弾幕は先程までの進行方向とは無関係に動き出す。進行方向に飛び出してきた弾幕にひやひやしなが らも、回避に相殺と、次々に弾幕をいなしていく。

 チルノの攻撃は止まない。再び動き始めた弾幕が散らばり、密度が薄くなってきたらもう一度弾幕を張り、先程と同じような弾幕を射出する。今度はさらに密度が増している。

「(だぁー!やりづらいったらありゃしないんだぜ!)」

 攻撃をしようにも、チルノの弾幕の濃さのせいで魔理沙の弾幕はすべて弾幕に阻まれる。

「おい!わたしはお前らと遊んでやれるほど暇じゃないんだぜ!いい加減勘弁してくれ!」

「逃げようったって無駄よ魔理沙!この、『サイキョー』の私の前ではね!」

「(あんにゃろ~っ…!!)」

 流石に苛立ちを覚えてきた魔理沙は、自身も「とっておき」の一撃をお見舞いしてやろうと考える。

「そうかよ!後悔するんじゃないぞ!」

 悠に模擬戦を見せた時にも使用した、八角形の立体「八卦炉」。スカートのポケットをあさり、それを取り出す。

 魔理沙はとっておきのために八卦炉に魔力を流し込みながらバックする。チルノも3度目の弾幕を張るが、魔理沙の後退の方が、若干速いか。

 魔理沙の後退にあわせて弾幕が追いかける。しばらく後退したのち、魔力を流し込んでいだ八卦炉から魔力が逆流しているのを感じ取った。「魔力が溢れている証拠」に気がついた魔理沙は、八卦炉を前に突きだし、不適な笑みをひとつ浮かべた魔理沙は言い放った。

「おいチルノ!私にケンカを売ったこと後悔させてやるぜ!」

 前につきだした八卦炉から虹色の光が溢れ出し、次第に光の強さが増してくる。

「行くぜっ!恋符!」

 八卦炉に充填した魔力に、さらに大量の魔力を流し込む。

「マスタースパーークッ!!」

 八卦炉に急激に流し込んだ大量の魔力が、決壊したダムのように溢れ出す。

「…え」

 八卦炉から溢れ出た魔力は極太のレーザー光線となり、チルノを飲み込み―――

 

……

………

「本当にごめんなさいっ!!」

 

「あー…まぁ…別に構わないぜっ!」

 魔理沙は落下していくチルノを抱きかかえ陸地まで運んだ。

 

「ありがとうございます!ご迷惑をおかけしました!…ねぇ!チルノちゃんってばぁ!チルノちゃーん!起きてぇー!」

 

 本来ならば妖精は「自然」がある限り消滅しない。しかし大妖精はしきりにチルノを心配する。

 

「チールーノちゃーーん!」

 

「(ま、何もわたしがでしゃばることもないな。)」

 

 そう自分に言い聞かせ、愛する箒に股がった魔理沙は目的地へと急ぐ。

……

………

 時を同じくして、霊夢は例の「洋館」に足を運んでいた。

 

「しっかり門番まで居るものね。怪しいことこの上ないわね…はぁ…」

 

 門番が正門前に構えているため、遠くから洋館を眺めてみる。

 

 やはり面倒だ。これだけ怪しい証拠が揃っていても、勘で強硬突入した挙げ句、関係なかったりしたらどうしよう…

 

「…いやいや、まさかね。絶対にここよ。そうに違いないわ…!ここよね!うんうんそうよね!よし行きましょう!」

 

 気合いを入れ直し、洋館へ飛翔を再開する。

 

 

 

「こんにちは門番さん!お勤めご苦労様!」

「あ、どもー」

「やっぱり門番って大変そうですね!」

「ですねー」

「それなのにずっと門番のお仕事をしてるんですね!」

「ですねー」

「私も入りたいんだけどダメなのよね!」

「ですねー」

「…」

「…」

「……」

「…?」

……

………

「失せろこのファッ○ン門番がオラァ!!!」

「ちょ!」

 しばしお互いに見つめあったのち、霊夢が自身の武器「お払い棒」を力任せに振るい、門番がすんでのところで真剣白羽取りの要領で押さえる。

 

「いやいやいや!?あなたいきなり何してるんですかぁー!ケガしちゃうじゃないですかぁー!」

「こっちはあの赤い雲のせいで迷惑してんのよ!とっととあの変なのどうにかしなさいよ!」

「私だって今朝お嬢様に『頑張りなさい!』って言われただけで何が起きているのかさっぱりすっかりちんぷんかんぷんなんですよ!」

 

 近くで門番を見てみると、中々の長身の女性だとわかった。服装は緑を基調としたチャイナドレス風。あとよく分からない帽子を被っている。

 

「おとなしくッ…ここをッ…!とお、しなさいッ!」

「嫌ですぅー!私の晩御飯!ハンバーグ食べたい!毎日TKGはこりごりなんですよー!ハぁッ!!」

「…っと。流石に一筋縄じゃ行きそうにないわね…。」

 

 お払い棒を押さえながら門番が蹴りを放つ。

「その体制からでも足が動くなんてね…私もやってみようかしら…」

 押さえられていたお払い棒を無理矢理引っこ抜き、門番が放った蹴りを間一髪で防いだ霊夢。

 

「止めた方がいいですねー。私は妖怪ですから多少無理が聞くだけですのでー。」

「自己紹介がまだだったわね。私は愽麗 霊夢っていうの。一応巫女なんだけど妖怪退治で生計を立てているわ。」

 一度後退し、距離をとった霊夢が自己紹介をする。それに答えるように門番が口を開く。

「私は『紅 美鈴(ホン メイリン)』。ここ、『紅魔館』のあるじ、『レミリア・スカーレット』お嬢様にお仕えする門番です!お嬢様に仇なすものは私が退治しますよー!」

 

 ここは通さないと言わんばかりの意気込みを見せる門番改め美鈴。

 ふぅっ…と、ひとつため息を霊夢が吐き出す。

「そう…それなら、私も『美味しいご飯を食べるために』お仕事をしましょっかねー。」

 そう呟いた霊夢は、左手の指で袂(たもと)の中のお札何枚かをはさみ、その手を前に突きだす。左手の甲にはお払い棒を握った右手が添えられる。

 両者がしばし睨み合う。

 次の瞬間、美鈴は「この状況を作った時点で自分が負けていた」ことに気付く。

 霊夢はお札からマスタースパークよろしく極太ビームを発射した。

「鬼畜ぅー!?」

 霊夢のビームは、飲み込んだ美鈴ごと紅魔館の門を吹き飛ばす。

「思いのほかあっさり真似できたわね…マスタースパークも大したことないわね。」

 あわよくばこの鬱陶しい館ごと破壊できれば…とは考えてはいたが、それほどの威力がないのであらば必要もないと霊夢は考えた。

「…住人に死なれても、それはそれで後味が悪いわね」

 どちらにせよ、霊力マスパーは封印するべきと思った。

 

 

 門番を始末して、早速紅魔館に足を踏み入れる。

 どうせ見つかるんだ。正面玄関から堂々とごめんくださいしようじゃないか。

「こんにちはー…」

 背丈の2倍以上ありそうな木の扉を押し開いて中に入ると、そこは大きな広間となっていた。入って正面には2階へと続く階段がある。

「無意味なほどに広い玄関ね…」

 返事もなければ人っ子一人いない広間に侵入、もといお邪魔する。

 

「…面白いところね。」

「ようこそ、『面白い館』へ」

「っ!?」

 霊夢の背後からクールでよく通る女性の声が聞こえた。

 背後をとられてしまったと考えた霊夢は、頭の中を臨戦態勢に切り替え前方へステップ、背後にいるであろう敵を捉えるべく空中で180度方向転換。

 しかし、確かに声は聞こえたのに、そこには誰もいない。

「…気のせい?何を緊張してるのよ…もう…」

「まったくですね。」

「ッ!」

 さっきまで誰もいなかった方向から、今ほどの声が聞こえてくる。

 まだ緊張を解かなかった霊夢は、振り返りざまに自身のお払い棒を瞬時に振り抜く。

 当てる気もなかった攻撃ではあるが、声の主の女性は綺麗なバックステップでそれを避け、十分に距離を取る。

「…」

「…」

 緊張を解かないまま、相手を観察する。

 つり目気味でしゅっとした顔立ち、服装は藍色を基調とした、ミニスカートのメイド服だ。メイド用カチューシャまでつけている。

 すらりと延びた細身の綺麗な足には、レッグ用の3連ナイフホルスターが両足に装着され、そのホルスター全てにナイフが納められている。

 

「ねぇ、あなたはこの館の召使いか何かでしょう?あなたの主人と話をしたいの。通してくれないかしら?」

 

「ご生憎、我が主は多忙でございますゆえ、お引き取りくださいませ。お出口は後ろにございますよ。」

「こちらこそご生憎、その『多忙』とやらのお話をしたいのよね。通してちょうだい?」

 

「あらお客様、お出口までの道案内が必要でございますか?お出口は後ろにございますよ?」

 

「いや、私が話したいのはあなたの主人で―――」

 

「お出口は、後ろです。」

 

「…」

 

「さあ、とっとと回れ右ですよ?」

 

「…簡単に通れるわけもないとは思っていたけど、ここまで挑発してくるんだったらこてんぱんにしなきゃ気が済みそうにないわね…!」

 霊夢がわなわなと震える。

 

「何をおっしゃいますか。こてんぱんどころか、あなたが返り討ちに遭うだけですよ?」

 

「その言葉も含めてあなたが発言した言葉全てを後悔させてあげるわよ!どこからでもかかってきなさい!」

 

 霊夢が臨戦態勢に入る。

 するとメイドは、

「では…お言葉に甘えて。」

スカートの裾をつまみお辞儀をして、「目の前から消えた」。

 代わりに――

「ッ!?」

 

 視界の隅から隅までが霊夢に向かって飛んでくる数十ものナイフで埋め尽くされていた。

 

「ッ…!ッ!!」

 

 予想だにしないナイフの雨をお払い棒で必死に捌く。

 良質な木材から作られたありがたいお払い棒はこの程度ではびくともしない。しかし霊夢は突然の事態に対処できなかったためか、頬や腕に小さな切り傷が一つずつ出来ている。

 

「あなた一体何をしたの…?」

 

「私の能力は『時を操る程度の能力』。何人(なんぴと)たりとも私の時間からは逃れられない…」

 

「…なるほどね。そういうタネだったのね。」

 

「お分かりいただけたようで何よりでございます。ではお帰りくださいませ。」

 

「そういうわけにも…いかないのよね。こっちだって生活がかかってるのよ。あんたらにはやられてもらうわ。」

 

「そうですか。仕方ありません。では…」

 

 メイドがポケットから何かを取り出した。懐中時計だ。

 

「ご容赦ください。ここからは…私の『時間』です。」

 

……

………

 

 一方その頃、悠はというと…

 

「えぇと、ここの湖の…向こう岸…だったよな?…あの建物が…」

――謎の洋館。

 先日会った「射命丸 文」から教えてもらった、突如現れたという謎の洋館がうっすら見える。

 ついさっき博麗神社に突然現れた不審者からもらった情報通りに来たらここに来てしまった。

 

「てことは、あの中に霊夢がいて…霊夢は異変解決をあそこで?」

 

 考えられるのは、真上の「真っ赤な雲」はあの館が原因だろうということ、さらに霊夢もおそらくそこにいる。

 

「おれなんかが行って足手まといにならないといいんだけど…」

 

 止めていた足を一歩踏み出そうとして…

 

「ねぇぇーチルノちゃーん…」

 

 100メートル程度むこうの、湖のすぐ側。

 

「何だあのチビッ子…こんな日に…」

 

 子供のような人影が見える。

 

「…やっぱりやめよっかな…いやでも……い、いくかー。」

 不審者の視線を感じた気がしたので、引き返すことは止めた。なんだか博麗神社で遭遇したおっかないあの人が見ているかのようだ。まああのチビッ子どもに一声かけたところでそう時間は食わないだろう。

 悠はチビッ子たちに今日は早く帰るように言おうとしたが――

「…!?」

 

 10と数メートルの距離まで近づいて、慌てて身を草むらの中に伏せた。

 

(妖精…?)

 

「チルノちゃーん…はぁ…どうしたのー?チルノちゃーん起きてー!」

 

 体つきは幼女だが、背中から羽が生えている。

 

 さっきからしきりに叫んでいる妖精の背中には、いかにも妖精らしい羽が生えている。半透明な羽はガラス細工のようで、こんな天気でもきれいに見える。

 その妖精の足元には、いかにも頭の悪そうな妖精がうつ伏せに寝転がっている。意識を失っているのか、呼びかけられているにも関わらず反応がない。

 

(……)

 

 しかし、彼女らは目的にこれっぽっちも関わっていない。わざわざこちらから厄介事に首を突っ込まなくてもいいだろう。

 

(悪いな妖精キッズたちよ…おれは先を急いでいるんだよ…あばよ…)

 

 何かしら起こってからでは、特に一人では解決できない事態になってからでは取り返しがつかない。悠は関わることを止めた。

 

 抜き足差し足忍び―――

 

ゴッ!!

 

「ぶぇっ!」

 

「だれっ!?」

 

 間抜けにも悠は木の根っこに足を引っかけてしまったのである!

 

「(ヤッベー襲われる!!こうなりゃ死んだフリだッ…!)……」

 

「…だれか…いるんですか?」

 

 叫んでいた方の妖精の忍び寄ってくる足音。

「……」

 

「だ、だれか、いま…だ、誰ですか!?」

 

 どうやら見つかってしまった。もうおしまいか。実に新鮮な生活だったよ。1週間だけだったけど。

 

「………(ガタガタガタ…)」

 

「…あ、あの……?」

 

「ヒェ…ごめんなさいごめんなさい……」

 

 しまいには震えだしてしまう悠。

 

「あ、あの、どこかお怪我でもなさ――」

 

「あぁー!!ごめんなさいごめんなさい!?!!?!」

 

「な、何もしませんから!襲いませんから!落ち着いてください!」

 

「ごめんなさいごめんなさい……え?」

 

「だいじょぶですよー…えへへ…」

 そう言って、妖精らしい羽の生えている方の妖精は苦笑いを浮かべた。

 

……

………

「わたし、人間のかたからは『大妖精』って呼ばれてるんです。」

「大妖精?妖精じゃなくて?」

「はい。妖精の中でも群を抜いて大きな力を持っているので…わたしと同じ種族――妖精の中でもわたしのように特徴がない子たちは他にもいるのですが、わたしのような『大』がつく妖精はいません。」

 

 落ち着きを取り戻した悠は、妖精らしい羽が生えている妖精改め「大妖精」から話を聞いていた。

 

「こっちではそれが常識なのか…?」

「あの、『こっち』とは…?」

「ここの世界だよ。幻想郷。」

 

 人差し指を地べたに向ける悠。

 しばし大妖精は思案顔を浮かべ、口を開いた。

「もしかして、お兄さんは外の方からやって来た方なのですか?」

「そうそう」

「それでおかしな反応をしたのですね。ふふっ」

「いやぁ、恥ずかしいところを見られちまった…」

 大妖精はおかしそうに笑った。

 

「あぁ、さっきの話だけど、大妖精は『大きな力を持っている』から、こうやってコミュニケーションを取ることができるわけなんだね?」

 

 悠の頭のなかには、霖之助とともに遭遇した妖精が色濃く残っているため、ついそういう風に考えてしまった。

 

「てっきり攻撃とかされると思ったよ。」

「いえ、わたしが少し変わり者なだけですのでそう覚えても問題はないと思います。」

 悠の考えを大妖精が肯定する。

 

「で、だ…足元のそっちは?」

「チルノちゃんのことですか?」

「チルノって名前なのか。妖精か何か?」

 

 足を伸ばして湖を眺めながら座っている悠と、その隣に座る大妖精。そのすぐ側には「チルノちゃん」が横たわっている。

 

「そっちの子は…大丈夫なの?」

「いつもの事ですので…あはは…」

 苦笑いを浮かべる大妖精。

 

「おまえらいつも何してるんだよ…」

「えっと、チルノちゃんは妖精の中でも特に大きな力を持っていまして、他の妖精からは尊敬と畏怖の眼差しを向けられるのです。チルノちゃんもそれをわかっているので、事ある事に色んな人に戦いを挑んでいるんです…」

 

「妖精の中では最強、みたいな?それなら今日負けたのはたまたまか?」

 

「あ、いえいえ、『いつもの事』というのは『やられて倒れる』というところまでがいつもの事でして…」

「いつもやられているのか…」

「妖精はどんなに強くても人間には敵いませんので。」

「へぇ、そうなのか。」

「他の子たちにおだてられて、すぐ調子に乗っちゃって…ほんとお馬鹿ですよね」

「そ、そうなのか…」

「どうしようもないお馬鹿ですよね」

「お、おう…」

「救いようのないお馬鹿ですよね!」

 

(すっごいキラキラしてるなー…)

 何故か嬉しそうに話す大妖精。

「でも、そんなところもすごくて…私なんかとは大違いで…」

「大妖精…?」

 

 

「ん…うぅ…だいちゃん…すぅ…」

 

「チルノちゃん…?」

「なんだ、寝てるだけじゃないか。安心したよ。」

 意識を失っていたチルノが突然寝言を呟いた。

 

「いつもの事ですけど、とりあえずは一段落ですね。」

 大妖精が安堵の表情を浮かべる。

 

「…大妖精とチルノは、仲がいいんだな。」

「どうしたんですか突然?」

 悠が大妖精に問う。

 

「チルノが言った『だいちゃん』ってのは、大妖精の事なんだろ?」

「仲がいいだなんて………わたしが、一方的に付きまとってるだけですよ。チルノちゃんがどう思ってるかなんて…」

 もしかしたら、チルノちゃんはわたしの事を――

 

「もし本当にチルノが嫌ってたら追い返すなり何なりするだろ?」

「そ、それは…」

「だってさ、『救いようのないお馬鹿』なんだろ?わざわざ本心を隠すような子じゃないんだろ、どうせ。」

「…なんで、そう思ったのですか?」

 

「みんなにおだてられて、調子に乗って、負け戦に自ら飛び込んで、こてんぱんになって、でもまた繰り返してしまって…そんな子が物事を深くまで考えて、裏の裏まで物事をよみきれるとは到底考えられないから。でも逆に言うと素直な証拠。好きなら好き、嫌いなら嫌いって言う子だと思うんだ。」

 

「…でも、わたし…いつもチルノちゃんを困らせてばかりで…」

「チルノの面倒を大妖精が見ないで誰が見るんだよ?他の妖精からは尊敬と『畏怖』の眼差し、なんだろ?チルノに何か言えるのは大妖精ぐらいなんじゃないの?」

 

 そんなに心配しなくても、チルノは大妖精の事を嫌ったりなんてしてないんじゃないかな?

 暗い表情で俯く大妖精に、自分の考えをぶつける。

 

「そ、そうですよね…」

 

「チルノが取り返しのつかないことをしてしまわないように監視するのも、いまこうやって一緒に居てあげることも、大妖精の大事な仕事だよ。」

 

「そうですよね…!」

 

 ここから見える「洋館」の方で、煌めく極太ビームが発射されるのがちらりと見えた。

 

「…あ!俺も用事があったんだよ!忘れてた!!悪いが先を急いでいるんだ!頑張れよみんなのお姉さん!あばよ!」

 

 急いで立ち上がり、そのまま目的地に向けて悠は走り出してしまう。

 

「…あ…あの!せめてお名前だけでも!…行っちゃった…」

 

 なんで最初から聞かなかったのだろうか。あの知らないお兄さんの名前は一体何というのだろう。

「…もし、今度会えたら、しっかりお礼しなくちゃ…」

 名前を聞いてないし、あっちはわたしの事を覚えているとも限らないし…

 

「また…お話ししたいな…」

「んぅ…だい…ちゃーん…?」

「あ…チルノちゃん…!」

 

 先程まで目を閉じていたチルノが大妖精をその視界に捉える。

 

「チルノちゃん、おはよう!」

「おはようだいちゃん!アタイ、また負けちゃった!」

「そうだね、次は勝てるかもね?」

 微笑ましそうに大妖精が朗らかな笑みを浮かべる。

 

「うん!アタイ、サイキョーだもん!」

 

「そんなことよりチルノちゃん聞いてよ!」

「そ、そんなこと…」

「実はさっきね―――」

 

 依然として、空は紅く染め上げられている。そんな不吉な日の、消え入る泡のような物語………。




投稿する前は「後書きであれとこれとそれと書かなくちゃ!」なんて思っていたのに全てすっぽぬけた…。
お、思い出したら追記しておきますねー…。

感想もお待ちしております。


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第8話 ここは紅魔館

反省も後悔もしています。遅くて申し訳ないです…


「幻在『クロックコープス』」

 

 玄関正面の階段に立つ紅魔館のメイドが青に発光する球形の弾幕を放つ。

 即座に回避する霊夢だが、当然これで終わると考えるほど楽観視はしていない。

 予想通り、それで終わるはずもなく――

「ッ!」

 

 突如、霊夢に切っ先を向けまっすぐ飛んでくるナイフが視界の中に現れた。メイドは一切の投擲の動作は行っていない。また例の時間を止めるアレだ。

 自分に的中するコースのナイフだけを見据え、お祓い棒で的確に弾く。

 

「流石に簡単にはいきませんね…はぁ、掃除の手間がかかる…」

 

 メイドかぼやく。

 

「当然よ、博麗の名を背負っているもの。そう易々と倒れはしないわよ。」

 

「ただでさえ面倒ですのに、さらにイレギュラーが来るのですよね…お嬢様…」

 

 メイドが敵さま相手に愚痴をこぼすのはよいのだろうか。さっさと敵の排除にあたったほうが。

 とりあえず礼儀として何かしら返答でもしようと、霊夢が口を開く。

 

「そりゃあ、お疲れ様…と言いたいけれど敵にかける慈悲なんてあいにく持ち合わせていないわ。ごめんなさい。」

 

「そんな他人事のように…あなたのお仲間のことを言っているのですよ?なんとかしていただくことはできませんか…」

 

 心底面倒くさそうな顔でメイドが訴えてくる。

…あ、魔理沙か。

 

「そ、それは…まあ…謝るわ。あはは…確かに魔理沙の相手はいろいろと面倒よね。うんうん。」

 

 しかしメイドの返答は霊夢が予想していた同意の言葉ではなかった。

 

「…あの魔法使いですか?彼女でしたら先程侵入しました。」

 

(魔理沙のことじゃないの…?そしたらむしろ好都合かもしれないわね。そのイレギュラーさんのお陰で混乱の中突入できるわね。)

 

 

 さらに霊夢はメイドを煽る。

 

「お宅の門番さんはしっかり仕事をしているの?呑気なものね。」

 

 

「先程あなたに倒されたのですよ。」

 

「気持ち良さそうな寝顔でした!」

 

「それは何よりです。…次はどんな罰にすれば気が済むのかしら…もう…」

 

 しばらく話につきあってやってた霊夢だったが今回の目的は異変の解決。いち早く解決してさっさとのんびりまったりしたいところだ。

 

「わたし、もう行くわねー」

 

 相手にする時間も面倒なので入り口正面の階段をてくてくのぼって――

 

「なにしれっと通ろうとしているのですか。」

 

「あっちゃー」

 

 しっかりと腕を掴まれた。階段に構えているメイドの横を素通りは流石に許してもらえないようだ。

 

「ねぇー…お願いよ、行かせてちょうだい…」

 

「こちらとしては一刻も早くお帰り願いたいのですが?」

 

「なら力ずくでも通るまでよ!」

 

 掴まれた腕を振り払って階段からホールへ飛び退く。

 

「でしたらこちらも全力でお相手いたします。」

 

 相手の霊力と殺気が濃くなったのを肌で感じる。相手の眼には冷たい光が宿った。

 メイドはホルスターのナイフではなく、どこから取り出したのか大量のクナイを霊夢に向かって投擲し始める。だが先程までと同様に的中コースだけをお祓い棒で的確に捌けば問題ない。クナイはナイフより小さいため、大量にばらまかれると回避が難しくはなるが。的確に、ひとつ、またひとつ、時には二つまとめて。

 

「こんな目眩ましなんて!」

 

――待ちなさい私、嫌な予感がする。背中に何かを…無機質な殺意を感じる。

 

 メイドの方をチラリと見やる。

「……」

 メイドの表情は何一つ変わってない。ならば自身の勘に身を委ねるのみ。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

 霊夢を中心に霊力の結界が広がっていき、全方位360度のクナイを弾き落とす。どういうカラクリか、背後からもクナイが迫ってきていたのだ。

 

「背中がガラ空きですよ?」

 

「…そういうの、先に言ってちょうだい。危うく一本取られるところだったわ。」

 

「しかしよく気付きましたね。」

 

「私の一番の武器は右手の棒なんかよりもよっぽど頼りになるのよ。」

 

 霊夢の勘は鋭い。何度も霊夢は勘に助けられている。

 

「先程のものは投げたものが壁に反射する手品でした。これでトドメを刺せないかと期待したのですが…やはりと言いますか…」

 

「厄介極まりないわね。完全に室内戦想定ってカンジね。」

 

 まあ当然ではある。彼女は主に仕えるメイド。主を守ってなんぼの仕事だ。室内戦を想定した上での弾幕構成は中々のものだ。改めて霊夢は敵の強さを噛み締めた。

 

「ですが…」

 

 メイドが構えた。さあ来るぞ霊夢。気を引き締めろ。

 

「本番はここからですよ!奇術『幻惑ミスディレクション』」

 

 メイドが階段からジャンプすると同時に先程のクナイを扇状に投げつけてくる。壁や床に当たったものは反射して、空間をクナイで埋め尽くす。

 さらにメイド自身も移動しながらクナイを投げつけてくる。

 

 クナイを投げた後すぐさまメイドは瞬間移動をして、別の場所から大量のナイフを凄い勢いで投げつけてくる。

 クナイに気を取られればナイフに射抜かれる。ナイフに対処していたらクナイに蜂の巣にされる。

 全方位に意識を集中させる。右手のお祓い棒を振り抜いて直撃コースのクナイを確実に弾き落とす。頬を鋭利なクナイが掠め痛みが走るが、直撃するよりは幾分マシだ。

 左手の指には十数枚のお札。こちらに飛んでくるナイフにだけ霊力を溜めたお札を直撃させ、ナイフを撃墜する。

 そんなことをしてるとメイドがまたクナイを投げつけてくる。先程より密度が増した。目の前に迫るクナイをお祓い棒で横に振り払う。床で反射したクナイはバク転で交代して回避。その勢いで後ろに左足を一歩出しながら腰を無理矢理左側に捻り、左手の指に挟んだお札を、背後の壁に反射したクナイに投げつけて突き落とす。

 同じタイミングで瞬間移動で場所を移したメイドがナイフを投げつけてきたが、腰を左に捻った勢いで右手を左に振り抜き、ナイフを弾く。この時、無理矢理腰を捻ったことで回転運動が働いているが、その勢いを殺さずに左足で回し蹴りをして後続のナイフを靴のかかとで弾いて事なきを得る。ちなみに靴は厚底ブーツ。戦闘を想定しているので靴底に鉄を使い、靴底の表面は通常の素材で覆っている。外界から流れ着いたので耐久性も抜群!

 

「手こずらせてくれますね…メイド秘技『殺人ドール』!」

 

 メイドが何十本ものナイフをばらまき、霊夢の逃げ場をなくすように展開して飛んでくる。

 

「…っと」

 飛んできたナイフの何本かが突然進行方向を転換した。だが目は慣れてきたため冷静に対処すれば問題ない。

 

「ナイフの向きが突然変わった…?」

 

 進行方向が霊夢に向かっていないナイフは当然ながら壁や床に当たるが、クナイと同様に反射し、またしても狭い空間をかき混ぜる。

 お祓いを右に振り抜き、お札を左手から投げつけ、時にはアクロバティックにカポエィラ式側宙で足元のナイフを躱しつつ上半身を狙ったナイフを蹴り落とし――

……

………

「メイド秘技『殺人ドール』!」

 

 あの博麗霊夢という人間…なかなか侮れない。

 

「(さて…これからどうケリをつけましょうか…肉弾戦に持ち込むというのも…それでケリを無理矢理つける他ない……手慣れた室内戦に加え、大量のナイフとクナイ…こちらにいくつか分があるはずではあるものの…)」

 

 紅魔館のメイドで、霊夢と対峙している十六夜 咲夜(いざよい さくや)はこの時焦っていた。いや、「勝ち急いだ」と言った方が的確かもしれない。

 

「…」

 

『咲夜…くれぐれも無理はしちゃダメよ。時間を稼ぐだけでも充分なのだからね?』

 

 紅魔館の、そして咲夜のご主人様の「レミリア・スカーレット」には未来視の能力がある。そんな主人が「あなたなら勝てる」といったニュアンスを含まない言葉選びをした。つまり…

 

「…お嬢様のお手を煩わせるわけには…いかない…」

 

…行かせない。絶対に。

 

 咲夜の作戦はこうだ。まずはナイフの密度をできる限り濃密にする。相手がナイフを捌くことに夢中になっている間に瞬間移動で背後に回り込み、壁に反射したナイフと一緒に切りかかる。これで行くしかない。

「(まずナイフをばらまく!すぐさま移動!そして今ッ――)」

 ナイフに紛れて咲夜が霊夢に切りかかるが…

 

「なっ…!?」

 

 首もとにナイフを突き立てた瞬間、霊夢がお札となってバラバラになり、そのお札が咲夜の上半身を締め付け、足首を地面に繋ぎ止める。反抗させないための縄のように。逃げられないようにする鎖のように。

 

「このままじっくりいたぶるのが趣味かとも考えたけど、そうでもなかったのね?意外とせっかちさんね?」

 

「…ッ!!」

 

 振り返ると、そこには霊夢がいた。

……

………

「(このままじゃ埒があかないわね…いちかばちか、やってみるしか…)」

 メイドがアクションを起こす直前、霊夢はある作戦を決行することを決意した。

 ナイフの壁に隙を見つけ次第、今いるこの場にお札の分身をのこし(悠にも見せ、魔理沙に使用した手法)、メイドの意識の外へ逃げる。

 

「(今!)」

 

「…」

 

「(よし、うまく切り抜けたわね…バレてもいないようだし…)」

 

 その後もメイドは霊夢の分身へナイフの弾幕で攻撃し続けている。

 メイドが瞬間移動し終わってナイフを投げつける…その隙に霊夢が不意をつくように攻撃を直接…

 

「…あら、そっちは分身よ…?」

 

 霊夢の分身に必死にナイフを放ちつつ、メイドが直接攻撃しようと動き始めた。

 ならば話が早い。分身はお札の集合体だ。霊夢の目からは少なくともお札の塊にしか見えない「分身」が攻撃を受け、「誤認させる力」がなくなってただのお札になったら、すぐさま新しく力を上書きする。一度でも力を込めたお札なら遠くからでも何となく操作できるものだ。

 

「…ッ」

 

 メイドが霊夢の分身に背後から接近し、うなじにナイフを突き立てる。その瞬間を狙い、お札に力を込める。

 霊夢のフリをしていたお札の塊メイドの直接攻撃によってバラバラに崩れ落ちる。同時に霊夢が力を込めたことで、崩れ落ちたお札が息を吹き返し、メイドを拘束する。

 

「なッ…!?」

 

 メイドの手、足、腕、ありとあらゆる武器にお札が絡み付いて身の自由を奪い尽くした。

 

「このままじっくりいたぶるのが趣味かとも考えたけど、そうでもなかったのね?意外とせっかちさん?」

 

「こ、この…!」

 

「無駄よ。観念しなさい。あー、あなたの主の元へ案内してもらえるのなら、それを解いてあげるわよ?」

 

「戯れ言をッ!!こんなものッ!!この…ッ!!!」

 

 なおもメイドは暴れる。罠にかかった獣のように。外れないということを知らないと言わんばかりに。

 

「無駄だって。霊力捕縛は無理矢理ひっぺがせるモンじゃないわ。」

 

 それでもメイドはもがき続ける。

 

「私は…!お嬢様のお役に!…いままで助けられてばかりだった私は!まだ…恩を!返せてない私は!今度こそお嬢様の…お役に…お役にッ!!」

 

 メイドが嗚咽混じりに訴えながら、もがく。なおも懲りず。「罠にかかったから逃げなきゃ」など関係なく、獣が本能に従って逃げようとするように。

 

--だがこいつは敵よ博麗霊夢。慈悲なんてかけちゃダメ。博麗の名にかけてトドメを刺すのよ。

 

「…神霊『夢想封印』!」

 霊夢がそう叫ぶと、霊夢の周囲にいくつもの色とりどりな、直径約50センチ程度の眩く光る弾幕が現れる。その全てが咲夜の頭部、腹部、背部から同時に吸い込まれ、直撃して眩い光となって爆ぜる。…せめて、意識を一瞬で刈り取ってあげられるように。

「がっ…ぁ…」

――お嬢様。

 

 

 力なく倒れるメイドの細身の長身へ駆け寄り、支える。拘束をすぐさま解き、その場にそっと寝かす。意識はないものの、呼吸はすぐに再開し始めた。

 

「………まぁ、あなたたちにも理由があるわけでしょうけど、そのお陰でこっちだって困ることがたくさんあるの。…でも、今の状況だとあなたたちにとっては困るから異変を起こしたのよね…お互い大変ね。」

……。

--玄関口正面のこの階段を登って、この異変をいち早く終わらせなければ。

 

 命を奪わないのは「殺すに値しない」と言う意思、それとわずかな慈悲。

 

 霊夢の異変解決への気持ちは「早く帰ってグータラする」から「難しい話なんて考えたくないから異変を終わらせる」に変わっていた。

 

……

………

 その頃、魔理沙はというと…

 

「霊夢のヤツが門番を門ごと排除するから私の出番がなかったぜ!」

 

 紅魔館の中を当てもなく突き進んでいた。

 

「ここは…食堂なんだぜ…今は誰もいないし用はないんだぜ。あ、でも…」

 

 キレイな盛り付けをされたレアのステーキをひょいッパクっ…

「やばっ!チョーうめー!あああ止まらないうっま…」

 

 さらに突き進むと、大きな扉の前にたどり着いた。

 

「なんだここ…?…ハッ!?お宝の予感!悪いことをしたこの館の主から慰謝料としてもらっていくぜ!!決して盗みではないんだぜ!!おじゃましー!」

 

 大きな扉を蹴り開くと、そこは…

 

「…なんだここ?図書館か?」

 

 そこは、人間の身長10人分でも足りないほどの本棚がいくつも並ぶ、部屋と呼ぶには大きすぎる空間が広がっていた。




ごめんなさい…文字列に起こすのが超絶面倒なだけで大まかなストーリーは頭のなかにはあるのです…ごめんなさい…

~追記~
ビビッと頭のなかに浮かんできたイメージを字面に起こしたら何故か咲夜さんのストーリーフラグがたってました。なぜでしょうか?


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