カッコ好いかもしれない雁夜おじさん (駆け出し始め)
しおりを挟む

Fate/Zero編
カッコ好いかもしれない雁夜おじさん


 

 

 

 外国というのは兎に角治安が悪い。

 いや、寧ろ日本が度を過ぎて治安が良いんだろう。

 うん、そうだ。そうに違いない。

 だってそうでなきゃ一日に5回も盗みや強奪の標的になるワケないだろう。

 

 1回目は凛ちゃんくらいの子供が公衆電話で話している隙に鞄を盗もうとした(防衛成功)。

 2回目は歩道を走っていたバイクが擦れ違い様に肩掛け鞄の紐を短剣で切って強奪しようとした(防衛成功)。

 3回目は軽食屋で代金を払う為に財布を出した瞬間に従業員に似た服装の中年が強奪しようとした(防衛成功)。

 4回目は情報源になる浮浪者達に金を渡していたのを見て俺が金持ちと勘違いした馬鹿たちが強請りと強奪を試みた(撃退が難しかったから逃走に切り替えた)。

 5回目は逃走した後に出た人の気配が無い公園に居た吸血鬼に魔力と英知を寄越せと命令された。

 

 ……勘弁してくれ。

 降魔が刻だからって、別に今日は厄年の仏滅で受死日でも減衰大殺界の天中殺でもないだろ?

 なのに何で今日山程碌でも無い事が在った締めに、最低を通り越して最悪な事態に遭遇するんだよ!?

 

 アレか!?吸血鬼擬きの爺と長年居たから吸血鬼を呼び寄せ易いのか!?

 もしそうなら俺は力の限り自分の出生を呪う!!

 家に居れば行く末は蟲の苗床で、家を出れば吸血鬼との遭遇率が馬鹿高いとか、生まれる前から詰んでるなんて最悪以前に塵か道化の人生だろうが!!??

 因果応報だとしたら前世の俺は一体どれだけ碌でも無い事をしでかしたんだ!!??って言うか何で憶えていない前世のツケを今世の奴が払わなければならないんだよ!!??

 

 ……いやいや、落ち着け落ち着け。

 幾ら存在が猥褻物陳列罪な爺でも、運命干渉とか吸血鬼の誘導とか不可能だろうし、下手すれば自分にも災厄が降りかかるから、出来ても実行なんて先ずしないだろうし、因果応報説が正しければ世の中はもう少しマシな筈だ。

 特に保身へ直走った結果、人間止めてモザイク蟲に成り下がり果てた歩く18禁物体の爺が、万が一でも自分が危険に晒される辺りの事を忘れるとは考えられない。

 

 ……ってことは、ナニか?

 この状況は純粋に俺の運が悪いのか?

 なら仕方無い。

 子供が年老いることに絶望して自殺しかねない程の忌避感と嫌悪感を凝縮した爺だが、関係無いなら呪うのは筋違いだ。

 メガ・ミリオンズで単独1等を当てたら燃料気化爆弾搭載のICBMを家に10本打ち込む気持ちは消えないが、筋違いなら今は思い出しても脳の無駄働きになる爺を思い出すのは止めよう。

 

 改めて現在状況の確認だ。

 今俺の前には吸血鬼が1体(爺と感じが似てるから間違いないだろう)。

 聖堂教会の者と戦ったのか、人間なら即死級の欠損具合だ。

 場所は人気の無い公園の端で、しかも背後は柄の悪い連中が屯する裏路地に続く小路。

 そして俺は結構走ったから、息切れはしていないが息が上がっていて疲れ気味。

 しかも俺は魔術刻印どころか魔術回路を励起させるのがやっとのほぼ一般人。

 なのに相手は怪我をしているとは雖も最低でも吸血鬼。悪ければ死徒。

 その上怪我から回復するためにやる気を漲らせている。

 止めに俺を魔術師と勘違いしたみたいだから、初手から勝負を決めに来そうな雰囲気が凄過ぎる。

 おまけに逃げ出さずに思考している段階で俺は錯乱してるっぽい。

 

 あー、うん。駄目だな、これは。

 相手は傷ついていると雖も吸血鬼以上なのに、俺は魔力を励起させて強化擬きの発動が限界の俄か魔術師擬きのほぼ一般人。

 距離は10mも離れていない上に遮蔽物無し。

 周囲に人気は無いし携帯電話も無いから救援も呼べない(在っても呼んだのがバレたら、最悪聖堂教会か魔術教会に神秘漏洩と判断されて粛清されそうだが)。

 しかも公園なのに渇水で池が干上がっている上、近くに流水は一切無し。

 おまけに現在は黄昏から茜色に空が染まり変わる辺りな為、当然日の光は望めない。

 止めに今日は満月。

 

 詰んでるじゃん、コレ。

 爺でも死ぬだろ、コレ。

 悪意を感じるぞ、コレ。

 人生此処迄だな、コレ。

 

 ………人間諦めが肝心か。

 ………葵さんにフられ………る以前に告白すらしてなかったな。

 ………凛ちゃんのかわいい顔………でお土産強請られ捲ったな(〔ねだる〕も〔ゆする〕も、〔強請る〕って同じ字だよなぁ……)。

 ……桜ちゃんのかわいい顔……で俺の葵さんへの思いを察して同情的な顔がキツかったなぁ。

 ……兄貴……の髪型を見る度に俺に遺伝してなくて良かったと安堵したな。

 ……爺…………どうせ死ぬなら地獄へ叩きと落としたかったな。

 

 …………………………ちょっと待て。

 何だ俺の人生?

 良いのかコレで?

 どう客観的に見ても碌でも無いぞ。

 って言うか惨め過ぎだろ。

 と言うか寧ろギャグだろ?

 良いのか? 俺の人生がギャグと括られる様なモノで?

 何より時臣の野郎なら……悔しいが此の状況でも何とかしてしまうだろうな。

 

 …………………………いいだろう。

 特に生きたい理由は見つからないけど、時臣の野郎に負けたと思いながら死ぬのは我慢ならない。

 全力で抗ってやる!!!

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ……まぁ、意気込みや命を賭けただけで実力差が引っくり返せるなら、日本は戦争に負けてないよな。

 

 〔彼を知り、己を知れば、百戦危うからず〕

 〔彼を知らず、己を知れば、一勝一敗〕

 〔彼を知らず、己を知らざれば、戦う毎に必ず危うし〕

 …………確かにそうだろう。相手と自分がある程度同じ土俵ならな。

 だけどな……世の中には遭遇した段階で負けが確定する奴が存在するんだよ!!!

 

 無理!

 走馬灯が走る程脳がテンパッたおかげで、多分エジプトの錬金術師級に考えられるけど、高速思考だか加速思考だか自体が全然戦闘向けじゃないから、焼け石に水どころか溶岩に熱湯にすら成ってない!!

 自滅覚悟で足腰に魔力を強引に流して疾走してるってのに、余裕で回り込まれる!!

 おまけに右腕に相手の手刀が掠っただけで千切れ飛んだ上、俺の腕の血を吸って回復してやがる!!!

 しかも期待外れの塵を見る目に変わったのが、スッゲェむかつく!!!

 

 ……だけどいい加減限界だ。

 どう楽観的に見ても俺の体はもうボロボロ。

 脚は多分十数秒後に筋肉が完全に千切れて物理的に動かなくなるだろうし、跳躍や着地の反動や衝撃で足腰どころか背骨も粉砕骨折寸前だろうし、右腕の千切れた箇所から血を流し過ぎたし、残存魔力よりも無茶な魔力励起で魔術回路の方に限界が迫っているわ、………向こうは少しとはいえ回復しているのにこっちは自滅寸前とか、もう笑うしかない。

 だけど、俺の腕の血を啜って少ししか回復してない事実に安堵した時、十分苦笑いだが内心で笑ったから、今更笑う気力は無い。

 

 いや、解っていたけど、何の捻りも無く、見事なまでにあっさりと、予想通りに絶体絶命だな。

 20秒後くらいに捕食されて、運が悪ければグールの仲間入りだな。

 あぁ……此処が日本じゃないから間違っても葵さん達を襲うことが無いのがせめてもの救いか。

 

 …………いや、待て。

 曲がりなりにも500年以上の歴史が在る間桐の家に無警戒で入れる俺がグールになったら、……コイツが間桐に向かわない保障が何処に在る?

 

 戯れ気分ででも俺の記憶を覗かれたら、葵さんに凛ちゃんに桜ちゃん迄も標的になると考えるべきだろう。

 少なくても、魔術師擬きの俺でもあの三人の素養が並外れているのは簡単に感じられる。

 そして幾ら時臣が強くても、傍に居るなら兎も角、傍に居ない者達を、況してや吸血鬼クラスの相手から守れる程の腕前だとはとてもじゃないが思えない。

 

 つまり…………俺は死ぬなら記憶を覗かれない程に脳を破壊しなければならない。

 当然俺の手持ちに手榴弾は無い。

 況してやそれが可能な魔術なんて習得していない。

 ならばどうするか?

 

 考えられる選択は二つ。 

 一つ目は放火でもして発生させた火の中に高所からヘッドダイビングで飛び込み、脳髄をばら撒いた上で焼き焦がす。

 二つ目は魔術回路に限界を超えて魔力を流し込んで励起させ続け、魔力暴走で内部から派手に自爆する。

 

 うん、二つ目だな。

 どう考えてもこれ以上逃げ続けられない。

 

 それに未練がましいけど、やっぱり好きな人が傷つく可能性は少しでも減らしたい。

 此処で此の吸血鬼をもし倒せたら、何かの間違いで日本に行ったコイツが葵さん達を傷つけるっていう可能性が無くなるんだから、…………俺のちっぽけなプライドも満たされる。

 

 よし……それじゃあやるか。

 

 宛ら最後の切り札を余裕たっぷりで切った様に振舞おう。

 幸い、魔術師は自滅覚悟なら簡単に自分の限界を超えられるんだ。

 勿論それでも越えられない壁は在るだろうけど、俺とコイツの差は、俺が全身全霊で躊躇無く自滅前提の暴走に巻き込めば心中出来る程度の差だ。

 多分爺も道連れに出来るし、油断していれば時臣にも届くだろう。

 

 ……………………………………あぁ…………少しでもあの野郎の鼻を明かせるんなら悪くない。

 

 

 ………………………………………………ボロボロの全身は痛いし、体が欠損したという事実が怖いし、死ぬのは嫌だけど、…………本当に死ぬのは嫌だけど、………………………………………………ああ………………本当に死ぬのは嫌だ! だから死にたくない! 生きていたい! 見っとも無くても生きていたい! 無様でも生きていたい!

 何で自分を選んでくれなかった人の為に命を賭ける必要が在るんだ!? 振り向いてくれない! それどころか気付いてすらくれない!

 ああそうさ!! 告白すらしなかったんだから気付いてもらえなくて当然だ!! そもそも葵さんが色恋の機微には疎い事も含めて好きになったんだから完全な八つ当たりだって解ってる!! だけど!! それでも気付いてほしかった!!!

 応えてくれないのは仕方が無い! 無理矢理好きになってもらおうだなんて思わない! だけど気付くぐらいはしてほしかった!!!

 意識ぐらいはしてほしかった! 少しでも俺のことを男として見てほしかった!! なにより俺のことを少しでもいいから考えてほしかった!! 少しでもいいから想ってほしかった!!!

 

 ………………………………………………………………………………………………最低だな…………。

 最期の最期でどれだけ見っとも無いことを思ってるんだ俺は。

 全部が全部、嫌われたり拒絶されたりするのが怖くて自分から動こうとしなかった結果じゃないか。

 …………………………本当に自分に愛想が尽きたな。

 だけど………………それでも好きな人は少しでも健やかに………………安全に暮らしてほしい。

 

 一生葵さんを想い続けるの無理かもしれない。

 凛ちゃんや桜ちゃんだけじゃなく、時臣とも幸せに暮らしてる葵さんにとって、俺の思いはきっと碌でも無いモノでしかないんだろう。

 だけど今直ぐ想いを無くしたりは出来ない。

 だって…………………………どうしようもないくらい好きなんだから。

 

 もし時臣への敵愾心を失くせば振り向いてくれたのなら、直ぐにでも捨て去った。

 もし爺を始末して間桐の当主に成れば振り向いてくれたのなら、暗殺でも何でもしてみせた。

 もし時臣より優れた魔術師なら振り向いてくれたのなら、死に物狂いで修行した上で悪魔に残り寿命の9割を差し出すぐらいはした。

 そしてそれは今も変わらない。…………いや、好きだけど振り向いてほしくない。

 もう俺にそんな価値が在るとは思えない。

 どれだけ俺が自分勝手で醜い八つ当たりの念を抱いていたのかが解ったから。

 

 だから……せめて勝手に力に成らせてほしい。

 いや、勝手に力に成れると思わせてほしい。

 

 碌でも無い俺だけど、葵さんの為なら限界の先に至れるんだと思うのを許してほしい。

 もう自分を省みようとも思わないの俺の代わりに、葵さんを勝手にその場所に据えるのを許してほしい。

 そして…………………………もう自分が大嫌いな俺が貴女を好きになのを許してほしい。

 

 もしも………………………………………生きて帰れたら必ず………………迷惑でしかないだろうけど、貴女に気持ちを伝えて此の気持ちにケリを着けるから…………貴女の為という勝手な理由で俺の全てを賭けさせてくれ。

 

 

 俺の想いが決まった瞬間、まるで合わせたかの様なタイミングで吸血鬼が襲い掛かってきた。

 何故逃げずに向かってきたのかは解らないが、自分から自爆に巻き込まれに来てくれるの有り難い。

 即死しない程度に攻撃を受け、……野郎に抱き付くのは嫌だが、抱き付いた後に自爆してやる。

 

 

 

 そして、俺は右腹を貫かれた瞬間に手足を絡ませながら抱き付き、爆ぜた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 何も無い。

 

 色が無い。

 圧が無い。

 音が無い。

 匂が無い。

 味が無い。

 

 

 此処は何処なんだ?

 

 此処とは何処だ?

 何処から此処だ?

 俺は何処なんだ?

 俺以外は何処だ?

 何処が俺なんだ?

 

 

 今が何時か解らない。

 

 自分が何時居たのか解らない。

 何時からが今なのか解らない。

 今より前が在るのか解らない。

 今より後が在るのか解らない。

 今でも今が在るのか解らない。

 

 

 何も解らない。

 

 自分が解らない。

 言葉が解らない。

 世界が解らない。

 常識が解らない。

 奇跡が解らない。

 

 

 解らない事が解らない。

 

 何故五感以外が解らない?

 何故此の場所が解らない?

 何故今此の時が解らない?

 何故解れぬのが解らない?

 ………何故解っていることが解らない?

 

 

 そうだ。

 

 無いことが解るのならば、それは無を知るのと同じだ。

 自分すら無い此処で何かを求めるなら、それは自分が此処に成ったことと同じだ。

 今すらない此処で自問自答出来るなら、それは自分が時間の全てに在るのと同じだ。

 何も解らないのに解らないことが解っているなら、それは何もかもを理解したの同じだ。

 ………解っていることを解ってしまったなら、此処はもう何処でもない所じゃなくて俺の世界だ。

 

 

 此処は俺の世界だ。

 

 だけど俺はこんな世界に耐えられない。

 俺の世界は此れ程のモノは取り込めない。

 だから要らないモノは吐き出そう。

 だけど少しくらいは残せるから残しておこう。

 幸い誰かが残し易いカタチにしてくれてたみたいだから此れを基に残そう。

 

 

 俺の世界が縮みだす。

 

 要らないモノを吐き出したら世界が生まれた。

 吐き出したモノが多過ぎて俺よりも大きくなった。

 そして吐き出したことに怒ったのか俺に戻ろうと襲い掛かり始めた。

 だけど怒られても俺では取り込めない。

 だから逃げよう。

 

 

 追い出される。

 

 逃げようとしたらもっと怒ったのか追い出された。

 道は在るから戻ることは出来ても取り込めないなら戻っても意味が無い。

 だけど追い出されても行く所が無い。

 だって俺は中身だけで入れ物は壊れてるんだから。

 だからどうにかしよう。

 

 

 不思議と中身()だけでも出来る気がした。

 

 入れ物に還らなければ直ぐに消えてしまう。

 ならば入れ物を直す。

 ついでに吐き出さずに残したモノを詰め込める様に。

 だから直すだけじゃなくて今迄より強くしよう。

 それなら吐き出さずに残したモノでも出来るから。

 

 

 完全に追い出された。

 

 当たり前と思えることを当たり前に出来なくなった。

 全能が奇跡と常識に分かれた。

 全知が始点と極点に分かれた。

 世界が自分と他者に分かれた。

 俺が意識と無意識に分かれた。

 

 

 そして入れ物が在った場所へと俺の世界(中身)が還っていった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 草の香りがした。

 土の香りもした。

 夜の薫りもした。

 そして………血の香りもした。

 

 血の香りに気付いた瞬間、特攻したことを鮮明に思い出して跳ね起きた。

 そして跳ね起きて直ぐに全身を触ったり見たりしたが、怪我どころか疲労すら無い。

 

 欠損した腕は事実を否定する様に無傷で存在した。

 大量失血した血は事実を否定する様に血色の良さと思考の冴えを見せていた。

 粉砕寸前だった骨は事実を否定する様に自重を支えていた。

 断裂寸前だった肉は事実を否定する様に滑らかな動きを実現していた。

 そして、過剰魔力供給で異常励起させ続けた魔術回路は…………………………冗談の様に見違えていた。

 

 は?

 ナニコレ?

 ワケガワカラナイ?

 何で傷ひとつ無いんだ?

 いやそれよりも何で100倍くらいに成ってんだ?

 

 

 暫く何が俺自身に起こったのか考えていたが、俺の勘違いかもしれないから、試しに強化擬きを使って地面を殴ることにした。

 が、魔術回路を励起させた段階で体から漏れ出た魔力が突風の如く吹き荒れ、驚いて尻餅を付いたから地面を殴ることは無かった。

 

 

 暫く呆けていたが、次にコレが夢かと疑いだしたが、生憎夢の証明方法や否定方法何て俺は知らない。

 夢でも痛みは感じるだろうし、夢で知らないことを知っても今迄の知識の組み合わせの可能性も在るし、夢で死んでも現実では昏睡で寝っぱなしの可能性も在るし、何より現実の証明方法自体が解らないから意味無い。

 

 ……………うん、哲学的なのは俺には似合わないな。

 夢か現実かなんてどうでもいいな。

 夢か現実か解らなければ現実として行動するだけだ。

 そして夢なら経験が積めたと割り切って流せばいいだけだ。

 ……………明晰夢ならハッチャケるけどな。

 

 

 ……………結局夢か現実かは解らなかったが、とりあえずそのことはもういい。

 で、結局俺に何が起こったのかに戻るわけだが…………………………さっぱり解らないな。

 

 ………………………………………大切じゃないけど大事で、貴重じゃないけど希少なナニかが俺に起こった筈なんだが……………………………………………………ちっとも思い出せない。

 

 …………………………いっそ何が起こったかじゃなくて、前と何が変わったかを比較しよう。

 ええと………医者じゃないから詳しくは解らないけど、骨や肉は頗る健康。寧ろ大幅にレベルアップした感じがする。

 血や内臓も医者じゃないから詳しく解らないが、頗る健康。寧ろ忍者並みに強靭な気がする。

 魔力や魔術回路はもう出鱈目な性能上昇。多分全力で単純な魔力放射をするだけで間桐の家の地上部分は吹き飛ばせそうだ。

 使える魔術は強化擬きと魔力放射とお粗末さは変わらない。だけど無から有を発生させる魔法は使える。

 

 ………………………………………………………………………………あ、魔法が使えるんだ。

 

 

 

 ………………………………………いや、なんか実感は在るけど喜ぶ程のモノとは思えないな。

 

 何せ特攻の末、ワケも解らない間に「」に至って持ち帰ってたんだから、感慨が微塵も沸かない。

 おまけに俺は別に魔法なんて爺を消滅させる便利で陳腐な奇跡としてしか求めたことがないから、間桐を飛び出た今頃に手に入れても今更感が拭えない。

 止めに魔法使いは裏から注目浴び捲って普通に生活出来ないだろうから、寧ろ厄介な代物にしか感じられない。

 

 ……………多分、時臣の野郎が俺の心情を知ったら憤死しそうだな。

 …………………………野郎が泡吹きながら引っ繰り返って死ぬのは見てみたいが、葵さん達が悲しむから止めとこう。………ってそうだ!葵さんだ!!!

 

 そうだそうだそうだ!!!何を悠長にしてるんだ!生きてたら告白するって決めたんだ!!告白して気持ちにケリを着けるって決めたじゃないか!!!

 こうしちゃいられない。とっととチーフにクビ覚悟で休暇申請して日本に行こう。

 自分のヘタレ具合を痛感した今じゃあ、時間が経てば適当に理由付けて現状維持を図るのは目に見えてるしな。

 だから行動は速い方が良いだろう。

 幸い、手足の延長上の感覚で魔法が使える(と思う)から、大抵の困難は何とか成るだろう。

 

 

 それじゃあ先ずは会社に戻って、それから謝罪と開き直りの休暇申請から始めるとしよう。

 

 ………いや、先ずは詫びの品としてシャトーの1973でも買いに行こう。

 ……………ついでに部屋に常備してる栄養ドリンクを10ダースも持って行こう。

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 ……………まぁ、どんなに高性能な乗り物を使えても、現在地と目的地の位置情報が解らなければ大して役に立たないよな………。

 

 

 ったく、一体此処は何なんだ?

 何処かじゃなくて何なんだよ?

 

 一面に広がる草原。しかも異常に魔力というか命が溢れている。

 そしてソレに溶け込んでるかの様に存在する城。しかも出入り口の類が見つからないのに、中に居る奴の気配が大魔王かと思える程にヤバいと理性と本能が叫び散らしている。

 おまけに空に浮かぶ月が距離とは無関係に矢鱈近くに感じる。しかも時間経過で動いている気配が一切無い。

 

 

 …………………………うん。改めて普通の場所じゃないと断言出来るな。

 おまけに地球上かどうかもかなり怪しい(最悪、御伽噺の妖精郷とかの可能性も在るかもな)。

 しかも現状を構成している要素に想定外のモノを生み出して崩壊させたらどうなるかも解らないから、迂闊に魔法を使うことも出来ない(無茶して現実世界に戻った瞬間、重なって出現した挙句融合じゃなくて核融合で消滅とかは断固御免だ)。

 

 ………………………………………魔法が使えても状況分析力が伴わないから、実際は前の俺と余り変わらないな………。

 ……………自分の体内に効果を留めるなら外に影響は漏れないだろうけど、練習無しで自分を変革したら暴走しそうだから、俺の魔法なんて現状ではレアな特攻手段程度のモノだな。

 魔法使いになっても俺はショボイな

 

 

 しかし……………一体此れからどうする?

 

 1.蠅男化や核融合の危険を承知で此処の構成を破壊して脱出を試みる。

 2.1程危険じゃないが、此処の一要素に干渉して城に穴を開けて大魔王に接触してみる。

 3.安全にレベルアップしてから問題解決に当たる。

 4.住めば都とばかりにここで暮らす。

 5.なんか目の前に現れた爺さんに尋ねる。

 6.目の前の爺さんは爺と似た人外の臭いがするから逃げる(城の中の大魔王には劣るけど、魔王を名乗っても納得出来そうな存在感だし)。

 

 …………………………熟考せずとも6で決まりだな。

 戦闘能力ほぼゼロの鴨が葱を背負ってる状態が今の俺だもんな(自爆覚悟なら相打ちは出来るだろうけど)。

 何より、目の前の無駄に豪快な笑みを浮かべた爺さんの全身から漂う超級の余計なお世話オーラと、傍迷惑な事態に巻き込まれると俺の理性と本能が全力で警報を鳴らしているから、関わらない以外の選択肢が思い浮かばない。

 

 よし、それじゃ逃げよう。

 しかも強化擬きじゃなくて、足が速くなる感じのモノを俺の体内に生み出しながら。

 ぶっつけ本番だが、あの爺さんに捕まったらもっとやばい事になると未来が透けて見えるようだし。

 

 

 そして、何処かの零零九すら置いてけぼりに出来る程の速度で目的地も無く俺は逃走した。

 一瞬、超速度で行動出来るなら戦闘も出来る気がしたが、何と無く全方位遮断型結界に直撃して潰れる自分の未来が見えたから止めた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 あれから地獄を見た。

 と言うか地獄の責め苦を味合わされた。

 

 

 まさかあの爺さんが吸血種27祖の4位の魔法爺だったとは………真面目に驚いた。

 何せ幼児向けのステッキを使ってたんだからな。しかも二杖流。

 そしてその姿を見た時、俺は腹筋が痙攣する程笑った。

 

 貴族風の厳つい爺さんがファンシーステッキを両手で振り回す姿の破壊力は、個人が持ち得る視覚兵器としては間違い無く現代屈指のモノだと確信した。

 おまけにステッキの片方が俺の前方の天空に、爺さんが魔法少女の格好をした姿を投影したから、俺は笑い過ぎて上手く走れなくなって捕まった。

 

 当然捕まった俺はぶっ飛ばされた。

 拳で殴殺するとばかりに何度もぶっ飛ばされた。

 しかも、爺さんがステッキを脅して俺を、大事な所だけが露出している変態魔法少女の格好にさせた(幸い、画像データの一切を爺さんは残させなかったが)。

 おまけに爆笑したことを余程腹に据えかねたのか、その格好の儘で戦闘訓練をさせられた(2日で見苦しいからと言う理由で普段の格好に戻れたが、その時一瞬でも解放感が足りないと思った時、俺は本気で死にたくなった)。

 

 

 訓練は魔王ばりの爺さんの感覚で行われてるから、格好以前に純粋に死の訓練だった。

 しかも俺の魔法が都合の良いモノを生み出して体の欠損を治せなきゃ(直す?)、今頃俺は確実に死んでいた。

 何せ両手足や胴や顔の一部が、爆散したり千切れたり灰になったり氷ったり潰れたり裏返ったり自壊したりetcetc………、と、魔術の制御失敗時の反動は殆ど網羅したからだ。

 

 だがその甲斐在って、俺の魔術の腕は爺さんに驚かれる程に成った。

 無論自分でも驚いた。

 何せ、全く変化が無いんだからな。

 

 

 そう。

 俺の魔術の腕は全然全く微塵も上達しなかった。

 

 強化を試せば自壊させた。

 変化を試せば自壊させた。

 付与を試せば暴走させた。

 投影を試せば爆発させた。

 結界を試せば爆発(内外に向けて爆発)させた。

 暗示を試せば崩壊(廃人化)させた。

 治癒を試せば壊死させた。

 発火を試せば爆発させた。

 氷結を試せば砕氷させた。

 加重を試せば圧壊させた。

 送風を試せば発雷(高電離気体化)させた。

 発雷を試せば蒸発(X線からラジオ波迄が超高出力で放射された)させた。

 降霊を試せば蘇生(大規模バイオハザード状態化)させた。

 飛行を試せば爆散させた。

 転移を試せば爆砕(空間を)させた。

 

 そう、何故か俺は魔力行使は兎も角、魔術行使の適正は頗る低かった。

 正確には発動失敗(想定外の発動)迄は漕ぎ着けるから、そこそこ適正は在るみたいだが、どれだけやっても超暴走以外の結果が出なかった。

 

 逆に強化擬きは魔力放出と言うスキルに迄昇華出来た。

 他にも単純な魔力放射はAランク越えが可能な程に成った。

 

 つまり、俺は魔力操作の適正は高いが、魔術行使の適正は塵と結論が出た。

 無論、特攻魔術として系統付ければA++は堅いと爺さんは言っていたが、全然嬉しくない。

 だが、魔術行使はサッパリでも魔法行使は非常識だと爺さんから太鼓判を押された。

 

 何でも爺さんが言うには、外側からでなく内側から「」に至った俺は可也毛色の違う魔法使いらしい。

 そして俺の本質が「」と不完全ながらも同化して限定的な全能状態な間に体を再構成したのが拍車を掛けているらしく、俺の体はその時俺が魔法を使う為に再構成したモノだから、魔法を十全に使う事に特化したモノらしい。

 だから俺は魔法行使技術に限っては歴代最高と言ってもいいらしい。

 ついでに第一魔法を先代を遥かに超えるレベルで行使しているとも言っていた。

 何でも俺の先代は都合の良い性質を持ったモノを生み出すことは出来なかったらしいし、俺の非常識レベルでの汎用性も無かったらしい。

 

 結局、最終的に俺は殆どの魔術を魔法で代行することで修行をクリアした。

 何でも、祖の5位以内と戦っても10%以上で勝てると言うか相打ちに持ち込めるらしい(城の中の大魔王とならもう少し勝率が上がるらしい)。

 

 

 まぁ、長かったが此れで漸く葵さんに告白しに行ける。

 

 ……………挫けそうに成る度、爺さんが俺の変態魔法少女の格好を記録した宝石(一品物)を弟子に会いに行くついでに渡すというので、俺が葵さんへの想いを忘れることは無かった(外に出て何をするかと言われた時、不覚にも言ってしまったことが悔やまれる)。

 後、修行が終わってもたついてても渡すと言ってたので躊躇うことも不可能だ(告白すればあの時の画像が在る物は全て破壊するし作らないと言っていたのが救いだな)。

 

 まあ、仕事場への報告は代わりに済ませてくれたり(謝罪品も自腹で渡してくれた)、面白そうだという理由ながらも修行浸けにしてくれたりもしたので、悪じゃないとは思う。が、善や正義とも程遠いと思う。

 多分、基本的に愉快犯と確信犯を足した感じなんだろうな。

 ………恩を少なからず感じるが、向こうの娯楽に付き合ったからチャラだとしか思えない。

 第一、俺と爺さんの関係に恩なんて綺麗なモノが存在するとも思えないし。

 

 さて………と、慌ただしかった毎日が終わると思うと少し名残惜しいが、それでもやりたいことが残ってるからスパッと此処を発とう。

 軽く言葉を交わすだけの淡白な挨拶だが、爺さんとの関係は此れくらいで丁度良いと思う。

 

 そして呆気無く俺は普通の夜の草原に出た。

 

 

 ………さて、と。

 それじゃあさっさと冬木に帰るとするか。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 そして、無事冬木に着いた俺は葵さんに告白し、見事に振られた。

 

 だけど、後腐れなく綺麗に振られたから、葵さんだけでなく凛ちゃんや桜ちゃんとの関係が悪化することは無かった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貮続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 傍迷惑な奴と出遭った

 しかも爺さんに匹敵する程の傍迷惑振りだ。

 

 何しろ初対面時に詳しい話は食べながらしようとか言い出した挙句、焼肉屋で俺の胃の大きさを勘違いしているとしか思えない量を注文した挙句、俺に代金を全て押し付けやがった。

 幸い宝石とかを生み出せるから金の心配は要らないが、それでも良い気分じゃないのは確かだ。

 おまけに俺が宝石を生み出せると知った時、首輪を付けて一人旅に連れて行こうとしやがった。

 

 当然怒った俺は文句を言った。

 同じ日本人ならもう少し慎みというか遠慮を知れ、と。

 ついでに顔とスタイルは良いのに性格が残念だとも言ってやった。が、次の瞬間俺の体が光る拳の直撃を受けて窓ガラスを突き破り、当然の様に高層階から道路へと叩き付けられた。

 おまけに上からあいつが認識阻害を施した魔力弾をピンポイントで俺へ大量に撃ち込み続けた。

 幸い体は頑丈だから怪我はしなかったが、傍目には何故か体が奇妙に震えたり痙攣している状態だから、心配されるより不気味がられたから病院には連絡されなかった。が、警察には連絡が行ったらしく、パトカーのサイレンが早くも聞こえてきた。

 

 日本の警察の優秀さに辟易しながらも、即座に周辺の奴等の記憶から俺に関する情報を思い出せないように封印して逃亡した。

 当然代金を払ってないし金も預けてないが、その辺の責任は店から俺を叩き出したあいつが全て負うのが筋だと思い気にしなかった。

 

 生憎と俺は女だからと無条件に甘くないし、あいつは可愛げも無ければ精神的色気も無い上礼儀知らずで無遠慮だから、此れ位の対応でも俺の心は全く痛まない。

 ついでに俺の懐も全く痛まない。

 おまけにあいつの懐は痛むから、少しは俺の気分も晴れる。

 うん、ザマアミロ。

 

 ただ………噂では記憶操作を殴ってするらしいが、あの時店内に居た人間全員を逃さず殴るのかと思うと、正直二度と遭いたくないな。

 ……………しかし流石は破壊魔女と言ったところか。

 まさか記憶も封印や消去じゃなくて、脳細胞を破壊することを選択するとは……………。

 ………うん。………………本当に関わり合いになりたくないな。

 

 

 店に残った多分無辜の人達への健康を僅かに祈った後、タクシーを拾って此の場から出来る限り遠ざかることにした。

 当然追跡されない様に自分自身に細工を施して。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 さっきの場所から十分離れていて(100km以上)、更に夜中に指定しても余り不自然じゃない場所として、観光地の宿屋に急いで追い付こうとしている客という設定にして那須の町へと向かい、無事目的地に到着したので夜間割増料金を払ってから降りた。

 

 

 ………今更ながら那須は余り観光地として向いていないと思いながらも、殺生石に何か神秘的なモノでも在るのか?、と言う疑問解消の良い機会と思って選択したが……………山に登るのは早まり過ぎた感がしないでもないな。

 ……………茨城の大甕倭文神社の宿魂石を見に行く時は昼間にした方がいいな。 

 

 ま、とりあえず稲荷寿司と夜食と安酒を買ってから向かうとするか。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ………完璧に大当たりだな。此れは。

 もう神秘がバリバリ感じられるぞ。

 何で魔術師の連中がコレをパクらないか不思議でならないレベルの神秘だぞ。

 いや、本当に何で魔術師の連中は此れをパクらないんだ?

 祟りの千や2千を覚悟してでもパクリそうだけどな、此れは。

 

 まぁ、爺さんが言うには「」と繋がっている魔法使いは、………特に内側から至った毛色の違う俺は特に物事の深い所を知るのに優れてるらしいから、自分の感じることが必ずしも他の奴等が感じているわけじゃないらしいから、案外繋がっていない奴らは余り感じないのかもしれないな。

 尤も、それでも只で手に入れられるならパクリそうなもんだけど………………魔術師連中の考えは理解出来ないな。別にしたくないけど。

 

 

 しかし……………此れの神秘的に伝説の大部分は本当そうだが、果たして玉藻の前は災厄の女だったんだろうか?

 時代的に考えれば宮廷や都には玉藻の前が来る前から碌でも無い事の火種は在っただろうしなぁ。

 かといって火の無い所に煙は立たないし、仮に事実無根だったら関係者がある程度死んだら実情が広まりそうなものだけどな。

 

 ……………大方、金遣いが荒いとか腹黒いとか悪女とかは当たってても、実際は妾や側室としては辛うじて許容内程度のモノだったんだろうな。

 ついでに言えばソレが許される程の美貌の持ち主だったんだろうが…………………………さっきのあいつとどっちがマシなんだろうな?

 

 容姿は見てないから解らないが多分玉藻の前の方が上だろうが、性格の悪さも玉藻の前の方が上だろうな。

 …………………………逢ってみたい気もするが、本当にあいつよりも性格が悪かったらどうなるか解ったもんじゃないな。一応日本三大化生の一だしな。

 

 

 ………さて、と。

 物見遊山も終わったし帰るとするか。

 

 あ、伝承が本当ッぽそうだから、好奇心で見物した侘び代わりに稲荷寿司を供えるとするか。

 ついでに安酒の飲みかけだけど、清め酒として掛けるとするか。

 ………でも清め酒にしちゃ量が全然足りないな。

 

 う~ん、飲まなきゃギリギリ足りたんだろうけど、景色も好いからつい此処で飲み食いしてしまったからな~。

 て言うか、冷静に考えれば墓だか牢だかの前で飲み食いしてる俺は相当罰当たりだな。

 焼肉食ってる時から酒飲んでたとはいえ、少し礼節に欠いてるぞ。コレは。

 

 ……………ムム………此の儘じゃああいつみたいに日本人にも拘らず礼節と遠慮を欠いた駄目日本人になってしまう。

 ならせめて侘び代わりとして、徹底的に清めてやろう。

 

 幸い足りない酒の分は俺が魔法で水増し出来るからな。

 ついでに汚れとか穢れとか封印とかも纏めて洗い流せる様なモノで水増しするか。

 後、周辺の山とか地脈も効果範囲になる様にするか。

 あ、最期に魔術師に荒らされん様に地脈どころか龍脈に組み込んで、龍脈の一部の力で此の辺りを荒らすという思考を持てん様に異界化の儘安定させて、トドメに此処で暴れたら天災に見舞われる様にするか。

 

 …………………………何だか子供の頃の秘密基地を作ってる時みたいで楽しいな。

 よし。それじゃあ興も乗ってきたからもう少し追加要素を盛り込むか!

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 そう言えば他力本願って本来の意味は、〔自分一人の力で成し遂げた様に思えても、ソコには御仏の導きと力添えが在る〕、って意味なんだよな~。

 つまり、あの時の俺の行動は御仏の導きと力添えが在ったというわけで、別に俺だけの責任というわけじゃないと思う………………………………………すんません、調子乗りました。

 マジで協会に口添えしてくれた事に感謝してます。

 例え魔法使いが現れたと知れ渡ってとしても、名前がバレてないだけでも十分過ぎる程に感謝してます。

 

 いや、酔ってて高揚してたのもあるんですけど、秘密基地を作っている感覚で童心に戻ってしまい、自重とか秘匿という単語を彼方に置き去りにしてしまって、気付けば那須の山一帯が神殿化してました。

 いえ、一応最低限の秘匿意識は残ってましたから、一般人が彼処の異変にそう簡単に気付いたりはしない筈なんですが、彼処辺りを荒らそうとすると良くてその場で落雷、悪ければ後日呪いで病死とか、可也際どい事が起こる程度の…………………………すんません。

 

 ………………………………………は?

 協会と現地の退魔組織を納得させる為に俺が此の辺一帯を買い取らなきゃ駄目?

 いや、流石にそれだけの金を工面出来る程宝石売ったら足が付いて俺の名前までバレかねないんですけ……………はい、全く以って仰る通りです。

 バレた時は素直に諦めます。

 

 

 しっかし……………何処で宝石を換金するべきか。

 必要金額の額が額だから、余程の所じゃないと換金出来ないだろうし、余程の所は監視カメラが在って面倒なんだよな~。

 ………いや、魔法で顔が別人の様に見える様にするのは出来るが、解除するタイミングとか結構気を使うのが面倒なんだよ。

 日本じゃ足が超付きやすいから今回換金する気は無いけど、日本以外じゃ治安が悪いから物取りが後を付いて来て鬱陶しいんだよ。

 

 ………は?バルトメロイ?誰だそいつ?

 ……………時計塔のロード?しかも現代最高の魔術師?おまけに究極貴族主義?

 冗談だろ?何でそんな面倒事を凝縮した爺さんの様な奴に遭いに行かなきゃ……………マジですんません。

 

 いや、だけどマジでバルメトロイだかトロイメライだか知らないが、そんな貴族主義の権化みたいな奴と遭うとか勘弁してくれ。

 しかも現魔導元帥とか諸に俺が注目されるだろが。容姿どころか名前もバレるだろが……………って、あいつに名前は言わなかったけど顔はバッチリ見られたから、憂さ晴らしに俺の顔を広めるくらいはしそうだな……………。

 

 うん?ああ、あいつってのは第五の奴だよ。

 ほら、行き成り焼肉屋に拉致した見た目美人で中身残念な女のことだよ。

 

 …………………………あぁーー………………何か詰んでる感じがするし、もう諦めてその豪傑貴族の女王様に遭うとするよ。

 

 

 ………しっかし………………魔法使いの爺さんにすら敬意を払わない奴に紹介しなくても、他に金を持ってて爺さんに敬意を払う奴はいるだろ?

 何で俺にとっても爺さんにとっても面倒な奴を紹介するんだ?

 

 ……………生憎と俺は自分に噛み付いてくる奴を剛毅な奴と許容出来る程器は広くないんでな。

 嫌な思いする奴と好き好んで遭いたくはないんだよ。

 況して物騒な奴なら尚更な。

 

 ……………は?

 何で貴い魔術回路(ブルーブラッド)とか持ってて選民思想バリバリで貴族主義の権化の女王様が、何で第一の魔法使いだけ敬意を払うんだよ?

 

 …………………………はあ?

 魔法だけじゃなくて俺自身にも興味が在りそう?

 いや、俺の魔術回路は単に特化型のだから、特に奴等の興味を惹く様な面倒なモノじゃないぞ。

 

 …………………………いや、そう言われれば確かに俺の回路と言うか体は魔法専用で、魔力操作やその派生系は単におまけと言えるだろうけど、魔法回路とか面倒極まりない名前を付けるのは勘弁してくれ。

 縦しんばその名前が定着したとしても、俺は自分の体を弄繰り回させる気は無いぞ。

 

 ……………う~ん……………話すだけなら……………いいか?

 その代わり爺さんも立ち会ってくれよ?

 後、俺にふざけた事したらそいつとそいつの家をぶっ飛ばすからな?

 それと俺の名前は兎に角他言しないこと。少なくても協会に知れ渡る迄は。

 当然宝石はきちんと那須の山一帯を買い取れるだけの金で買い取ってくれるのが最低条件だ。無論吹っ掛ける様な真似はしない。

 他は……………俺がヤバそうになったら爺さんがきちんとフォローしてくれるんなら話を受ける。

 

 ……………気持ち悪いくらい爽やかな笑顔で快諾するな。

 まぁ、爺さんは嘘は吐かんだろうからいいか。

 

 

 それじゃあ早速チケットの予約……………はぁ?転移する?

 ちょい待。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 …………………………もうあの爺さんは信じない。

 ………結局バルトメロイを出汁に俺で遊んでただけだろが。

 

 ……………体は弄くらないけど服は剥くし撫で回すし、唾液を啜られるし血は採ろうとするし、…………………………精液採ろうと房中術を………………………………………………………忘れよう。

 ……………まぁ那須の山一帯は無事買えたし、表の面倒事だけじゃなくて管理者(セカンドオーナー)になる手続きも代わりにやってくれたから良しとしよう。

 

 

 ………さて、金も30億ポンドも残ったから、利子でのんびり暮らせそうだな。

 利子で足りなければバルトメロイが俺が生み出した貴金属………って言うか寧ろ体液を買うって言ってるから、別途で金の当てもあるし。

 ………うん。当面は安泰だな。

 

 それじゃあいざこざがとりあえず全部解決したし、あちこち飛び回って御土産も結構溜まったし、そろそろ冬木に帰るか。

 吹っ切れたとはいえ、葵さんが笑顔かどうかも確認したいし、凛ちゃんや桜ちゃんが元気に育っていくのは見ていて嬉しいし和むからな~。

 

 それにそろそろ聖杯戦争だから、もし時臣の野郎が冬木に葵さん達を残すなら、絶対とはいえなくても葵さん達を連れて逃げるくらいなら今の俺なら出来るからな。

 葵さん達がどうするかを知るのも兼ねて帰るか。

 

 

 しかし…………………………独り身なのに矢鱈老人臭いな。俺。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 そして、久し振りに冬木に帰った俺は桜ちゃんが間桐に引き取られたと知り、急いで爺を問い詰めて目にしたのは、蟲の苗床になって虚ろになった桜ちゃんだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

參続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 桜ちゃんの惨状を見た瞬間、俺は迷わず蟲の海に飛び込んだ。

 

 蟲共が一瞬で群がって来るが、俺の体から噴出する魔力に触れた瞬間、一瞬で消し飛んだ。

 

 そしてあっという間に桜ちゃんの許に辿り着き、最速で体を精査して爺が他に余計な事をしていないかを確かめた。

 すると心臓辺りに蟲が寄生していた。

 

 言葉にする時間も惜しかったから内心だけで桜ちゃんに謝りつつ、寄生していた蟲を桜ちゃんの心臓の一部毎消し飛ばした。

 そして刹那の間も置かず、過去最高の速度と精密さで桜ちゃんの欠損した心臓を補填するモノを生み出した。

 

 ………良し。問題無く心臓は動いているし、桜ちゃんも無事じゃないが死んでいない。

 とりあえずの処置としては此れ以上は望めないから、後はゆっくりと休ませながら治療しよう。

 

 

 だけど………………………………その前に爺を含めて蟲共は生かして此処から出さん!!!

 俺の情報漏洩以前に桜ちゃんを…………………………こんな小さな子に此処迄の事をした奴等を許してやる程俺は聖者でもなければ偽善者でもない!!!

 

 遠慮はいらん!全力で断末魔を此処に響かせろ!!!

 いや、断末魔を響かせる暇すらやらん!絶望の前で怯え震えて訳も解らず死ね!!!

 

 

 ふざけた歴史を積み重ねてきた蟲倉から逃げようとしていた爺と蟲共の退路を塞ぎ、時間経過で爆発的に温度を上昇するモノを生み出し、それに爺と蟲共が不条理と言う奇跡に絶望した頃、石すら蒸発する温度になっていたモノを炸裂させた。

 

 

 そして、間桐の歴史そのものであった爺は呆気無く蒸発した。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 蟲倉を出た俺は先ず桜ちゃんをお風呂に入れた。

 桜ちゃん一人でキチンと入れるかも怪しかったから、人形の様になった桜ちゃんの入浴に付き添った。

 

 本当は綺麗にするだけなら魔法で幾らでも出来るが、少しでも全うな人間扱いをしたかったから、魔法とかは極力使わなかった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 風呂から上がった後、湯冷めしないように確り桜ちゃんの体を拭き、そして髪も確り乾かした後、桜ちゃんの部屋を知らない俺は以前俺の部屋だった場所へと桜ちゃんを連れて行った。

 

 幸い俺が出て行ってからの変化は物置代わりに幾つかの物品が置かれていただけで、ベッドなんかの家具はその儘だった。

 可也埃っぽいが、微粒子を引き寄せる物質を生み出して素早く部屋を掃除し、ついでにせめて此の部屋だけでも閉塞感や圧迫感を祓う為、結界から此の部屋を切り離して外と流れが繋がるようにした。

 

 少しはマシな環境になったからか、ほんの僅かだけど桜ちゃんから安心したような気配が感じ取れた。

 

 

 さて………とりあえず取り急ぎすることは殆ど終わったけど…………………………最後に残った桜ちゃんの手に刻まれた令呪の問題……………此れをどうするか………。

 

 監督役に桜ちゃんが辞退する旨を伝えたとしても、魔術師の常識的に考えて桜ちゃん本人が主張しない限り受け入れてくれないだろう。 

 そして今の桜ちゃんが主張とか能動的な事が出来るとは思えないし、恐らく威圧感が在るだろう教会の奴の前でそんなことはさせられない。

 それに最悪、保護を受け入れられずに教会から追い出された帰りに複数のサーヴァントに袋叩きされる可能性も在る。

 

 かといって召還せずに令呪が誰かに移るのを待ったとしても、誰がマスターか解らないのと同じく、誰がマスターじゃないかも解らない以上、最悪、マスターでも何でもないのに御三家の一つという理由でサーヴァントに攻め入られる可能性が在る。

 というかその可能性は恐ろしく高いだろうな。

 なにせ数合わせの魔術師なら少しでも自分の情報を隠したいから教会に届出なんてしないだろうからな。

 

 ………だからといって桜ちゃんを連れて逃げれば、爺が死んだ以上間桐の後継者筆頭だろう桜ちゃんが居なくなれば遠からず時臣にバレるだろうし、バレれば当然時臣も動き出すだろうし、最悪サーヴァントを引き連れてやってくる可能性が在る。

 しかも聖杯戦争が終わっても、魔法使いが当主不在の家の唯一だろう後継者を連れて逃げてれば絶対悪目立ちする。

 そして穏やかな日常はまず過ごせない以上、桜ちゃんに悪影響が出るのは目に見えている。

 

 ならば葵さんや時臣に事情を話すしかないが、お風呂の時に家に帰るかと桜ちゃんに聞いたら、尋常じゃない嫌がりようを見せたから、此の案も没だな。

 …………………………多分葵さん達全員を自分を地獄に叩き落して見捨てたと思ってるんだろうな………。

 縦しんば悪感情が無くても、遠坂の家に戻れば又何処かの魔術師の家に送られる可能性が高いと理解しているっぽいから、遠坂の家に戻るのは別の地獄に行くのと同義なんだろうな。

 

 なら現在最も良い案は……………令呪は俺が貰ってサーヴァントを召還し、聖杯戦争の危険の大半を俺が引き受ける。

 そして桜ちゃんが遠坂の人達と話せる程回復する迄守り抜いて、桜ちゃんが間桐を受け継ぐかどうかの遺志を示させる。

 もし時臣が間桐が潰れるなら自分達が引き取ると言ったら、俺が代わりに間桐を継いで桜ちゃんを他所の魔術師にやらないように間桐の家に繋ぎ止める。

 少なくても他所の家の後継問題に首を突っ込みはしないだろうからな。

 

 

 …………………………本当は聖杯戦争の間、爺さんやバルトメロイに預かってもらうのが、桜ちゃんの安全という意味では一番なんだろうな………。

 少なくとも、どっちも対価を払えば安心して任せられるしな。対価さえ払えば。

 

 だけど……………、何と無くだけど、今、桜ちゃんの傍に俺が居ないと、桜ちゃんは二度と笑ってくれない気がする。

 恐怖と絶対の象徴だった爺が死んだ今、桜ちゃんはとても不安定だろうから、そんな時に桜ちゃんが知りもしない奴ばかりの場所に預けるのは無責任を通り越して虐待だと思う。

 

 確かに桜ちゃんを危険に晒すのは愚かだろうけど、子供の為に……………況してや自分が可也の割合で地獄に叩き落す要因になっている以上、無茶でも無謀でも命に代えてでも守りながらでも傍に居るのが大人の役目な筈だ。

 少なくても、泣くことも出来ない子に頼られてる時に賢しい計算を優先するのが正しいとはどうしても思えない。

 

 子供の為に骨を折れなきゃ大人は名乗れない。

 慕ってくれた女の子の力に成れなきゃ男は名乗れない。

 ツケを肩代わりしてくれた恩に報いなきゃ人間は名乗れない。

 何より、俺が魔法を手に入れたのは、葵さんや凛ちゃんや桜ちゃんが健やかに暮らしてくれることを命を賭けて願った結果なんだから、此処で見捨てるなんて選択肢は存在しない!

 

 

 覚悟が決まれば早速行動だ………………けど、………それでも桜ちゃんの意思を確認しなくちゃいけないな。

 

 例え心を抉るとしても、桜ちゃんの未来は桜ちゃんが決めなきゃいけない。

 小さい子供には重い選択だろうし、今は何も考えたくない程に辛いだろうけど、それでも決めてもらわなきゃいけない。

 その代わり、桜ちゃんが望むならどんな無茶な未来だって叶えてみせる。

 だから……………辛いだろうけど、とっても大事なことだから答えを聞かせてほしい。

 

 逃げると言うなら世界すら飛び越えて逃げ切ってみせる。

 戦うと言うなら葵さん達が悲しむとしても時臣すら倒してみせる。

 普通に生きたいと言うなら時臣にそれを伝えられる時迄守り抜いてみせる。

 魔術師に成りたいと言うなら時計塔の超一級講師にだって渡りをつけてみせる。

 此の地から離れたいと言うなら此の前買った那須の地で新しい家を興してみせる。

 

 だから…………………………答えを聞かせてほしい。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 明くる日、俺は屋敷中を漁って召還の触媒を探していた。

 

 仮に今回の聖杯戦争を見送るにしても、本来今回使う筈だった分の触媒は在るだろうからと思って探しているのだが、これが全然見当たらない。

 ………もしかしたら見かけているのかもしれないが、英雄の外套の切れ端とか剣の欠片とか骨の一部とかだったら、パッと見は全然解らない。

 いや、神秘と言うか年月を経ているのは解るんだけど、それが何に縁が在るのかは解らない。

 

 一応朝帰りした兄貴に聞いてみたが、知らんと一蹴された。

 ついでに爺が死んだことを告げると金と金目の物を半分持って息子と何処かに消えた。

 捨て台詞に、間桐の家督は俺か桜ちゃんに譲る代わりに間違ってもそっちの世界に引き込むな、という感じの言葉を貰った。

 ………兄貴が居ると面倒だから文句は無いが、此れであのワカメヘアーも見納めかと思うと少なからず寂しかった。

 

 

 しかし………、兄貴も知らない、俺も知らない、桜ちゃんも知らなかったとなれば、どうするかな……………。

 

 1.怪しげな物を纏めて触媒にして召還を行う。

 2.触媒無しで召還を行う。

 3.誰かの触媒を奪って召還を行う

 4.爺さんかバルトメロイから何かの触媒を買った後に召還を行う。

 5.魔法で生み出した未知のモノを触媒に召還を行う。

 6.英雄に縁の深い土地自体を触媒に召還を行う。 

 

 当然1は却下。

 最悪町工場の人間とかが召還されるかもしれない。

 

 2も当然却下。

 触媒が無ければ何が触媒に選択されるか解らない。

 最悪、着ている服のメーカーの社長とかが召還されるかもしれない。

 

 3は良いアイディアだけど、今からマスターと触媒を調べて盗むのは可也厳しい。

 多分時臣以外の奴から奪うのは時間が足りないだろうし、貴族っぽい時臣が召還する奴は滅茶苦茶俺と相性が悪そうだからパスだ。

 多分、貴族とか王様とか皇帝とかが召還されそうだし、相性が悪過ぎて敵になりそうだし。

 

 4も良いアイディアだと思うけど、時間が足りない気がする。

 それに今は桜ちゃんを外にあまり出したくないし、置いて行くのも不安が残る。

 最悪、桜ちゃんを傀儡マスターにしてるとか思われたら、桜ちゃんに降り掛かる危険の割合がが跳ね上がるしな。

 

 5は悪手だな。

 一応呼び出される奴は過去か未来の第一魔法の使い手とは予測が付くけど、同じ魔法の使い手が二名以上居ると戦力ダウンだからな。

 

 なら………6かな?

 ……………だけど桜ちゃんを連れて行く訳にも置いて行く訳にもいかないし…………………………どうしたものかな~。

 

 ………………う~ん………………転移してもいいんだけど、仮にサーヴァントに見張られていて転移を察知されたら凄まじく面倒な事態になるしな~。

 サーヴァントの能力で転移したと思われたなら兎も角、サーヴァント以外の奴の能力で転移したのがバレたら、最悪魔法使いってことがバレて集団で攻め込まれる可能性も在るしな~。

 

 う~~~~~~~~~~ん………………………仕方ない、とりあえず外に出よう。

 桜ちゃんには窮屈な思いをさせるけど、外からの感知が極端に難しいモノで作ったリュックサックに入ってもらおう。

 そして近場の展覧会で英雄縁の品っぽそうなのを買うなり拝借するなりして急いで帰ろう。

 

 

 あ、それと出かける前に桜ちゃんの衣服や娯楽品を片っ端から注文しよう。

 俺のセンスは当てにならないから、明日の昼間にでも店のを纏めて持ってこさせよう。

 

 ……………どれか一つでもいいから興味を示してくれたらいいなぁ。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 自分で買っててなんだが…………………………ペルセウスって………微妙な英雄だよな。

 

 ペルセウスが使っていた剣の欠片とかいう、どういう意図で展示してあったのか解らない物をとりあえず買いはしたが(2億円で)、冷静に考えてみるとペルセウスってハズレな気がする………………。

 

 

 確かペルセウスって、呪いを受けて化け物化した娘のメデューサを助けるんじゃなくて斬首した挙句、首というか頭を盾に括りつけて献上したりもしたらしいから、実は子供や女が嫌いなんじゃないか?

 おまけに敵の情報を詳細に掴んで、伝説のアイテムでガチガチに武装して、敗北要素をゼロにしてから挑んだんだったよな?

 …………………………もしかしたら俺より弱いんじゃないか?

 いや、…………………………別に弱かろうが下衆だろうが構わないじゃないか。

 

 弱ければ脱落した直後にでも教会に駆け込めば問題無し。

 桜ちゃんに危害を加えそうなら自害でもさせてから教会に駆け込めば問題無し。

 無事勝ち残れば当然問題無し。

 俺が魔法使いとバレずに勝ち残れば言うこと無し。

 

 うん。

 全然問題無しだな。

 

 

 よし。とりあえず召還の事はこれ以上考えても進展は無さそうだから、これ以上考えるのは止めよう。

 それよりも無心にケーキやクレープを食べている桜ちゃんを眺めよう。

 

 …………………………表情こそ変わってないけど、好きな物が変わらず………と言うか好きな物が残ってて良かった………。

 流石に毎食こんなに一杯食べさせるわけにはいかないけど、今日明日くらいは目一杯好きな物を食べて好きな事をしてもらおう。

 少なくてもある程度安心してくれる迄は、優しさじゃなくて甘やかしと言われようと、俺は桜ちゃんが望むことを全力で実行する。

 ……………但し、摂取カロリー過多にならないよう、なるべく低カロリーの物を用意したりはするけどな。

 

 ………さて、俺はカロリーバーと栄養ドリンクを腹に流し込んだら一眠りするか。

 一応体調は万全にしとかないと、召還に失敗して令呪が消えたらたまったもんじゃないからな。

 

 

 目覚ましをセットし、帰りに買った幼児向けのビデオを再生させ、桜ちゃんに召還する時間になる迄寝ると伝え、俺はその場で眠りについた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 目覚ましの音で目を覚ますのとほぼ同時に、俺の右腕辺りが一瞬だけ激しく震えた。

 気になって右腕に目を遣ると、そこには桜ちゃんが俺の右腕にしがみついて寝ていた。

 そしてそれを見た時、先程の震えは桜ちゃんが驚いて身を振るわせたものだと気付いた。

 

 

 ………くそっ。

 目覚ましの音で起きただけなのに、ここまで怯えて目を覚ますだなんて……………。

 しかも多分俺が寝て直ぐに桜ちゃんも寝たらしく、寝る前に見たケーキの量と今残ってるケーキの量が殆ど変わっていなかった。

 

 ………………馬鹿か俺は!

 例え離れなくて傍に居ても、寝ていれば一人にするのと余り変わらないじゃないか!

 小さな子が不安な時、寝ている相手に安心感を憶えるわけないだろが!

 

 

 本当は謝りたかったが、俺が謝っても桜ちゃんが困らせるを通り越して不安にさせるだけだと思ったから謝りはしなかった。

 だけど代わりに優しく頭を撫でながら膝の上に座らせ、安心してくれるように祈りながら背後から優しく抱き締めた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 暫くしたら桜ちゃんは落ち着いたらしく、無言で時計を指差した。

 俺も無言で桜ちゃんに指し示された時計を見遣ると、余裕の在った時間が殆ど無くなり、そろそろ召還する時間になっていた。

 

 もう少し此の儘でいたかったけど、桜ちゃんの気遣いを無駄にするのも気が引けたから俺は召還をするべく、桜ちゃんを連れて元蟲倉へと足を運んだ。

 

 

 元蟲倉へ近づくにつれ桜ちゃんは俺の手を強く握り締めながら縋り寄ってきた。

 

 本当なら近付きもしたくないんだろうけど、俺がこれからの事を説明すると直ぐに納得してくれた。

 ただ、納得はしてくれても凄まじく怖くて嫌なのは俯いた顔と握り締めた拳から痛い程解った。

 だから桜ちゃんの決意を無駄にしない為にも、途中で引き返したり確認したりはしなかった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 元蟲倉は当然というか、昨日俺が焼き払った儘だった。

 

 石すら蒸発する高温の炎が荒れ狂った為、辛うじて階段の名残や蟲穴の名残が解る程度の有様であり、まだ相当な熱気が立ち込めていた(入って直ぐに冷却した)。

 本来それほどの高温が密閉空間に存在すれば爆発を引き起こすのだが、炸裂させた一瞬後に間桐の家を吹き飛ばせば非常に拙い事になると気付いた為、急いで空気が一定以上膨張しない措置を採った為、間桐家消滅は免れた。

 

 そしてそれほどの惨事が起こって元の有様と殆ど似ていない状態の為か、桜ちゃんは此処に来る前より寧ろ落ち着いていた。

 一応浄化する様に焼いて淀んだ空気を消し去ったのも功を奏したようだ。

 

 

 改めて自分を苦しめていた場所が無くなったのを知って安心したのか、元蟲倉という場所にも関わらず、今迄に無い程安心した雰囲気を出してくれた。

 

 やはり心臓を穿たれて気絶している間に爺が死んで蟲倉は焼き払われたと言われても、実際に確認する迄は不安だったんだろう。

 ……………くそ、こんなことなら爺の本体を確保して、桜ちゃんの前で焼くべきだった。

 

 …………………………いや、いくら爺でも桜ちゃんの前で殺すのは良くない。

 少なくても桜ちゃんが魔術師とか代行者とか裏の道を選ばない限り、人死にに可能な限り関わらせちゃいけない。

 たとえそれで長く不安になることがあっても、それはその分俺が何とかすればいいだけのことだ。

 俺が楽する為に桜ちゃんの未来を狭める様な真似は絶対にしちゃいけない。

 

 

 ……………しかし………諸に保護者的思考が板に付いてきた気がするな。

 ……………桜ちゃんは可愛いし良い子だし恩もあるし義理とはいえ俺は叔父だし、何より俺自身が力に成りたいから保護者になるのは全然問題じゃないけど…………………………殆どバツ一状態じゃないか?今の俺って?

 

 間違っても源氏計画の対象になんて見ちゃいないけど、矢鱈子煩悩というか親馬鹿な気はしないでもない。

 少なくても桜ちゃんが虐められたら相手の家にガスタンクローリーでも突っ込ませて物理的に消す。

 そして将来桜ちゃんが彼氏を連れてきたら、相手の野郎と二人きりで徹底的に話して見定め、遊びとかなら死徒の前にでも放り捨てる。

 当然結婚式の時は号泣するな。恥も外聞もなく。

 

 ……………思考がずれたな。

 今は召還の事に集中するべきだ。うん。

 

 

 とりあえず召還の魔法陣を描ける様にある程度平らにする。

 次は魔力で地面に直接魔法陣を刻む。

 そして祭壇に触媒になる、ペルセウスが使っていたという名も無き剣の欠片を置く。

 

 ………よし。

 準備完了だ。

 後は横でずっと不思議そうに眺めていた桜ちゃんを後ろに下がらせて召還の呪文を唱えれば問題無い。

 

 幸い、爺さんの昔話で冬木の聖杯戦争の事は一通り知ってるし、家を漁ってる時に確認もした。

 令呪の移植も桜ちゃん本人の同意と魔法というインチキに、間桐の養子である桜ちゃんから間桐直系の俺に移すだけという事実もあり、聖杯の抵抗も全く無く綺麗に移植出来た。

 

 ………うん。

 魔法陣も触媒も呪文も体調も問題無し。

 

 それじゃあやるか!

 

 

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 

 

 

 聖杯自体に託す望みなんてのは特に無い。

 

 

 

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 

 それでも聖杯戦争の果ての未来が必要なんだ。

 

 

 

「告げる」

 

 

 

 桜ちゃんの幸せに繋がっていると思ったから。

 

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

 

 

 その為なら殺意と欲望の渦に飛び込むのに躊躇いは無い。

 

 

 

「聖杯の寄る辺に従い、この意、この利に従うならば応えよ」

 

 

 

 だから……………。

 

 

 

「誓いを此処に」

 

 

 

 贅沢は言わないから……………。

 

 

 

「我はこの世全ての善と成る者。我はこの世全ての悪を敷く者」

 

 

 

 桜ちゃんが幸せになる手助けをする為にも……………。

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」

 

 

 

 誰でもいいから召還に応じてくれ!!!。

 

 

 

「天秤の守り手よ!!!」

 

 

 

 最後の一説を唱えるとほぼ同時に、魔力どころか生命力すら吸い上げられ、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 







  間桐雁夜のステータス

【パラメーター】

・筋力:D ・魔力:A5+
・耐久:D ・幸運:??
・敏捷:D ・宝具:--


【スキル】

・魔力操作:A+
 魔力の圧縮・拡散・放射・分割・結合・流動・停滞、等といった総合技術。
 尚、魔力放出も此のスキルに含まれている(上記のパラメーター表記には反映されていない)。

・特攻魔術:A+++
 あらゆる魔術を暴発させてしまう特殊なスキル。
 高ランク程自分も巻き添えを食う。

・第一魔法:EX
 無から有を発生させる事に因る無の否定。
 実際は雁夜が第一魔法と言う解り易いカタチに同系統の情報を詰め込んだ為、第一魔法の完全上位互換状態になっている。
 (メタ発言ですが、とある魔術の未元物質が一番近いです)

・魔法回路?:EX
 魔法を使う事のみに特化した回路(肉体)。
 魔力操作はこのスキルのおまけ扱い。
 だが、真の恐ろしさは雁夜の魔法に対する理解や習熟度で増強されていく点にある。


【総合能力】

 基礎能力はサーヴァントと比べて低いが、魔力放出で大英雄にも負けないパラメーターになる。
 だが肝心の戦闘技術が低過ぎるので、バーサーカーの様なゴリ押しにならざるをえず、パラメーターよりも実際は弱い(近接線でアーチャーに勝てる程度)。
 但し魔法で短時間限定の肉体変化を施せば究極の一と戦闘を繰り広げることすら可能となる。
 尤も、雁夜の師的存在がゼルレッチという規格外なので、どうしても比較した際に劣ってしまう自分を雁夜は低く見る傾向が強く、基本的に逃げを選択するので戦うことが少ない。
 尚、魔法行使の妨げになる老衰という概念が無く、更に精神休養を最適に取れるよう睡眠突入が自在だったり、魔法で生み出したモノを摂取することでエネルギー源にするといったことも可能な為、殆ど人外の領域だが、雁夜自身は殆ど気付いていない為、余計に本来の性能より低くなっている。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

肆続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 体がダルイ。

 洒落にならない程ダルイ。

 

 と言うかダルイと言うよりヤバイ。

 マジで死にそうだ。

 と言うか現在進行形で死へと向かっているぞ。

 って言うか何で俺は死にそうになってるんだ?

 

 ……………ええと…………………………そうだ、確か魔力を根こそぎ持っていかれたんだ。

 そしてそれだけじゃなくて生命力もゴッソリ持っていかれたんだ。

 

 ………ああ………………なら死ぬよなぁ………。

 ………生命力を生み出す為に必要な生命力も持っていかれたら、そりゃ生きていられないよなぁ………。

 

 

 …………………………桜ちゃんを残したまま死んでしまうことになるけど、無い袖は振れないよな………。

 ……………一応、俺が召喚失敗で死んだら教会に電話するように言っておいたから大丈夫だと思いたいな………。

 …………………………悔しいけど、魔力どころか生命力も無ければどうしようもないからな………。

 

 ………………………………………いや、まだ俺の右手に魔力が………令呪が残ってるじゃないか。

 此れを使ってサーヴァントに俺を回復させるように…………………………駄目だ。

 召喚されたのがペルセウスなら、回復関係の技能が在るかどうかすら怪しい。

 だから……………令呪1画を魔力源にして1画の令呪を生命力に変換しよう。

 

 というか、令呪の縛りが無いサーヴァントを放置していたら桜ちゃんが危険じゃないか!

 最悪今現在魂食いの標的にされてるかもしれないんだ!

 急いで起きないと!!!

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「桜ちゃん!!!」

 

 無理矢理令呪の魔力を生命力に変換して復活した俺は、痛む体を一切無視して急いで体を起こした。

 が、――――――

 

「「あいたっ!!」」

 

――――――勢い良く何かに頭をぶつけた。

 

「~~~~~っっっぅぅぅ………………何だ何だ?」

 

 割と頑丈な筈の俺が痛みに悶えるなんて何とぶつかったんだ?

 少なくても、恐ろしいことだが桜ちゃんとぶつかったのなら、桜ちゃんが一方的に吹き飛んでいるだろうから桜ちゃんじゃない筈だ(万が一を考えて跳ね起きるのは出来る限り自重しようと心に留めた)。

 

 そして涙で滲む視界を左右に動かした時、俺の左腕を不安そうに握り締めている桜ちゃんが見えた。

 

「っ!」

 

 桜ちゃんの姿を確認した瞬間、有無を言わさず胸に掻き抱きながら起き上がり、兎に角ぶつかった何かと距離を取るべく後方へと大きく下がった。

 

 大きく後方に下がると同時に意識が遠ざかって膝から崩れ落ちて再び倒れ込みそうだったが、胸に掻き抱いた桜ちゃんの温かさと、腕にかかる桜ちゃんの重みが、遠退き掛けた意識を辛うじて繋ぎ止めてくれた。

 そして俺を支えてくれた桜ちゃんに内心でお礼を言いながら、急いで涙が滲む目元を拭いながら自分の現在状況を確認した。

 

 現在瀕死で残魔力ほぼ0の俺の前には…………………………謎の毛玉が蠢いていた。

 

 …………………………は?

 何で毛玉が? いや、毛玉にぶつかっても痛くないだろ? いやいや、何かあの毛玉蠢いているぞ? ってか淀んだ空気と何かの呟きが漏れてるぞ?

 

 

 …………………………一体全体俺は何を召喚したんだ?

 最悪、ペルセウスがあの剣を持ってた時に乗ってた馬が召喚されるかもしれないくらいは覚悟してたが、生憎と毛玉が召喚される覚悟はしていない。

 

 いや………あれはケセランパセランなのか?

 もしそうなら大当たりだじゃないか!

 ………って、冬木の聖杯は完全な人外は召喚出来ない筈だよな。

 

 う~~~~ん…………………………幸い、悪意とかは一切感じないから危険はとりあえず無さそうだけど…………………………どうしたもんだろうなぁ………。

 

 ま、考えたところで解らないだろうし、令呪も1画だけだけど残ってるから大丈夫だろう。

 出来るだけ教会にマスター登録する迄は脱落したくないけど、此の儘放置してても先に進めないから仕方ないか。

 

「あー………そこの毛玉、人語を解するなら返事をしてくれないか?」

 

 俺が声をかけると毛玉は蠢動を止めた。

 そして暫く動きを見せなかったが、やがて花が開く様に毛玉が広がり……………中から日本文化を勘違いしたような女が出てきた。

 

 

 …………………………疑問は山程在るが、考えるよりも確認した方が早いな。

 

「ええと………お前はペルセウスか?若しくはその縁者か?」

「いえ、私は希臘の伝承とは縁も縁も無いですよ?」

「………俺が用意した触媒はペルセウス縁の物じゃなかったのか?」

「いえいえ、触媒は間違いなくペルセウスって方の縁の品だと思いますよ?」

 

 ……………一体俺は何を召喚したんだ?

 と言うか、そもそも俺は召喚に成功したのか?

 

「……………お前は俺が召喚したサーヴァントか?」

「う~ん………半分正解、半分間違いってとこですかね?」

 

 何故か終始笑顔なのが胡散臭くてしょうがないが、幸い桜ちゃんを威圧してるわけでもないから、今は気にしないで話を進めよう。

 

「訳が解らないから説明しろ」

「はいはい、なら簡潔に説明しますね。

 

 え~、つまりですね、私はどうしてもあなたに逢いたかったので、本来召喚される筈だったペルセウスさんとかいう方に代わり、私が無理矢理召喚に割り込んで降臨しました」

「…………………………」

「いや~、やっぱり召喚対象と同格以上の者が常世で割り込むとあっさり成功しますね。

 

 しかし長らく封印されてたからヘロヘロだったんですけど、御主人様から大量に魔力を貰って一気に全快しましたよ!

 いや、ホント凄いです!

 割り込んだから聖杯からのバックアップも無いのに、自力で私を完全な状態で降臨させられるなんて、これはもう安部清明も真っ青級のキャパシティですよ!!

 キャー♪ 此れはもう聖杯戦争は勝ったも同然ですよー♪」

 

 ………マスターはサーヴァントの状態を知れるんだったよな。

 ……………とりあえずうるさいこいつは無視してステータスを見よう。

 と言うか初めからこうすれば良かったな。

 ええと、どれどれ。

 

 

 

・・・・・・・・・・―――――― ステータス・始 ――――――・・・・・・・・・・

 

 

【クラス名】

 

・--

 

 

【真名】

 

・ヘトフセ、マチハ、゚、コ、ッ、癸ヒ。」

 

 

【パラメーター】

 

・筋力:A8+ ・魔力:A10+

・耐久:A5+ ・幸運:??

・俊敏:A9+ ・宝具:EX

 

 

【クラススキル】

 

・--

 

 

【スキル】

 

・陣地作成:??

・借体成形:A

・呪術:EX

・神性:EX

・神霊魔術:EX

 

 

【宝具】

 

・ソ蠻キニ・キセネネャフ鍗テタミ。ハ、ケ、、、ニ、ヒ、テ、ウ、ヲ、「、゙、ニ、鬢ケ、荀ホ、キ、コ、、、キ。ヒ

 カタ、ホキチ、キ、ソハヌ、「、遙「カフチナタミ。ハ、ソ、゙、筅キ、コ、、、キ。ヒ、ネ、、、ヲソタハ・ナェ、ヒイ・キ、ソ、筅ホ。」

タナタミ、マク螟ホネャモ。カタ。ハ、荀ソ、ホ、ォ、ャ、゚。ヒ。「、ト、゙、・キセネツ鄙タ、ホソタツホ、ヌ、「、遙「コイ、ネタクフソホマ、霏ュイス、オ、サ、・マ、、ト。」ヒワヘ隍マサ狆ヤ、ケ、鮹ノ、鬢サ、・ウ、ネ、ホ、ヌ、ュ、・スウヲ、ホソタハ讀ホソタハタ、ャ。「クスコ゚、ホ・ュ・罕ケ・ソ。シ、ヌ、マ、ス、ウ、゙、ヌ、ホホマ、マー妤ュスミ、サ、ハ、、。」

ハネ、キ、ニ、ホク嵂フ、マツミセン、霏ュイス、オ、サ、・」・イ。シ・倏ェ、ヒ、マ。「ネッニー、キ、ソ・ソ。シ・ヒ、ェ、、、ニ。「シォソネ、ホSKILL、ホセテネP、�0、ヒ、ケ、・」

、ウ、ホハマヒワヘ陦「ツ邱ウ、ィ、、、ニ、ス、・ルア遉ケ、・ウ、ネ、ヌコヌツ遉ホク嵂フ、ッエケ、・筅ホ、ヌ、「、遙「ー・ミー・ホキ霹ョ、ヌサネ、テ、ニ、筅「、゙、・ッホマ、ネ、マクタ、ィ、ハ、、。」

 

【詳細】

 

・・フチホチー、ホタオツホ、マ。「・「・゙・ニ・鬣ケ、ォ、鯡ャ、ォ、・ソク貅イ。ヲソタ、ホノスセホー・ト、ヌ、「、・」カフチホチー、マナチセオ、ヒ、「、・フカ篶モカ衒ホクム、ヌ、マ、ハ、ッ。「クキフゥ、ヒ、マフ鋗ウ。ハ、荀ォ、ヲ・ク・罕テ・ォ・・ヒ、ヌ、「、遙「ヒワシチ、マツ遉ュ、ッーロ、ハ、・」

、「、・。「ソヘエヨ、ヒカスフ」、、テ、ニ、キ、゙、テ、ソ・「・゙・ニ・鬣ケ、ャ。「シォ、鬢ホー・フ、ュイア、キソヘエヨ、ヒナセタク。」、ス、・ャク螟ヒカフチホチー、ネクニ、ミ、・・ウ、ネ、ヒ、ハ、・ッス」

セッスマオワテ讀ヒサナ、ィ。「、ソ、タ、ス、ホソネ、ャ。ヨソヘエヨ、ヌ、マ、ハ、、。ラ、ウ、ネ、ォ、鬢ス、ウ、ノ、・・ソ。」

コヌエ・マヌヒヒ筅ホフサ、ヒシア。「、ス、ホフソ、ェ、ィ、・」

ソタ、ヌ、「、熙ハ、ャ、鯀ヘ、ヒニエ、・「ヘナハェ、ネ、キ、ニサヲ、オ、・ソ、ウ、ネ、ヒ、ハ、・」

 

 

 

・・・・・・・・・・―――――― ステータス・終 ――――――・・・・・・・・・・

 

 

 

 …………………………ナンダコイツハ?

 文字化け部分も気になるが、神性EXって、………それって完全な神霊じゃないか!?

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!

 神霊相手に令呪が………況してや1画だけで効くとは思えない!!!

 

 パラメーターからして爺さんを越えてるし、神霊魔術とか使われたどうなるか想像も付かない!

 仮に相打ちに持ちこめたとしても、確実に桜ちゃんも巻き添えを食って死ぬ!!

 おまけに逃げようにも魔力が枯渇状態だし、仮に全快時でもラインを辿られたら一発で追い付かれる!!!

 

 どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!!!???

 ………いや落ち着け。……………落ち着け。…………………………落ち着け。………………………………………落ち着け俺。

 

 少なくても俺や桜ちゃんを今直ぐ如何こうする気なら、俺が倒れてる間にいくらでも如何こう出来た筈だ。

 それをしないということは、少なからず今現在目の前のこいつは俺達を害す気が無いということだ。………これから害す可能性も十分在るが。

 

 ………………………………いざとなったら戦闘を放棄して、令呪の魔力を使って桜ちゃんを教会に転移させるのを最優先しよう。

 

 

「話し方は謙った方がいいか?」

「いえいえ、ご主人様はとは本音のぶつかり合いこそを所望しますから、普段通りで全然問題無しです!」

「………………解った。

 後、俺の名前は間桐雁夜だ。

 お前の名は?」

「そんな………いきなりお前だなんて………………照れますねぇ~」

 

 ………大丈夫かコイツ?

 幸い、桜ちゃんが心なしか楽しそうにしてるから文句は無いが、そうでなければ極力関わり合いになりたくない奴だな。

 

「おっと、照れて名乗りを忘れるのはご主人様に失礼ですね。

 

 ううっ…うんっ。

 ………それでは改めて名乗らせいただきます」

 

 日本文化を勘違いしてるのか、それともどこぞの風俗店の衣装なのかは判別が付き難いが、服の小さな乱れを直して態度を改め、それから厳かに言葉を紡ぎ出した。

 

「私の名は玉藻の前。

 英霊ではなく日本三大化生に数えられる大化生です。

 そして……………天照坐皇大御神と謳われる神の一側面です」

 

 ………マジかよ。

 

「目的は那須の山で殺生石(―――私―――)を清めてくれた恩返しというか一目惚れしちゃったので、良妻狐のデリバリーにやって来ました!」

 

 ……………は?

 

「あ、それに召喚の時の必死な表情と魂の輝きでもっと惚れちゃいました!

 顔も結構良いですけど、魂がとってもイケメンなのが最高です!!

 もう胸キュンです!」

 

 …………………………胸キュンって………。

 

「それに、他の神様が聞き逃そうとも、私の耳にはピンときました!

 あの時のご主人様の慟哭!頑張りが!

 

 それを聞いてしまったらもう、恩返しも兼ねて私が行かない訳にはいかないじゃないですか!!!」

 

 ………………………………………!?!?!?

 

「ちょっと待て!

 もしかしてあの時の俺の思考って筒抜けだったのか!?!?!?」

「はい。

 それはもう召喚の術式に乗った凄い想いが世界の外側に向けて放たれてましたよ。

 多分ですけど、触媒無しで召喚を行ってたら、小さな女の子を命を賭して守るという考えとご主人様の実力的に、ヘラクレスやアタランテ辺りが召喚されたと思いますね。

 

 あ、因みに今はラインを通してご主人様の大雑把な感情や想いが解る程度で、実際は雰囲気を感じ取るのと余り変わりがありませんよー」

 

 ……………………………………………………た、助かったぁ~。

 ………こんな奴に俺の思考が筒抜けになったら気の休まる暇を通り越して、永遠の暇を取らされそうだからな………。

 

「そういうわけで、私はこれからご主人様とゆっくり相互理解を積み重ねていこうかと思ってますので、ご主人様も遠慮しないでバンバン意見をぶつけて下さい。

 そして互いに仲を深めていきましょう。

 ついでに、体もバンバンぶつけて下さっても構いませんから、愛――――――」

「唸れ!俺のコスモ!!!」(ただの全力チョップ)

「――――――と肉よゼフッ!?!?!?」

 

 ………確信した。

 こいつは桜ちゃんの情操にとんでもなく悪い。

 

 後、今更ながら桜ちゃんを胸に掻き抱いたままだったのを思い出し、少し苦しそうだったので解放し、児童情操教育撲滅者から隠す様に俺が桜ちゃんの前に立った。

 ……………俺の背中から覗くように顔を出してる桜ちゃんが可愛いが、和む前に目の前のPTAに喧嘩を売ってる様な奴に告げる。

 

「おい。

 桜ちゃんの……………小さな子の前でそんなふざけた事言うな」

「っぅ~………。

 わ、わひゃりまひた。

 ひゃ、ひゃひかにひまのははたしが悪かったです。

 

 え~と、さくらちゃん、ごめんね?」

 

 謝られた桜ちゃんは不安な顔であいつと俺を交互に見、暫くしたら俺の後ろに隠れてしまった。

 

「………気に触ったなら俺が代わりに謝るし、悪感情も俺が受け止める。

 だから桜ちゃんには悪感情を向けないでくれ。

 頼む」

 

 たとえ見ず知らずで直ぐに消えるような相手だとしても、今は桜ちゃんを悪感情に晒したくない。

 だからサーヴァント相手だということも忘れて頼み込んだ。

 

 すると軽いが真剣な感じの声が直ぐに返ってくる。

 

「いえいえ、可愛い反応じゃないですか。

 少なくてもこんな可愛い子の可愛い反応で悪感情を抱いたりしませんよ?

 

 それにこれからご主人様と桜ちゃんと私の三人で、末永く家族として幸せに暮らすんですから、桜ちゃんを笑顔にしようと気合も入るってもんです!」

「………いや、気合入ってるとこ悪いんだが、聖杯戦争が終わったらお前消えるだろ?」

「……………はい?」

 

 余り言いたくないが、2週間そこらの期間しか存在出来ないということを忘れてるようなので告げたのだが、何故かあいつは心底不思議そうな顔をして俺を見返していた。

 そして2~3秒程目を閉じて考え込んだと思ったら、目を開くと同時に手を打ち合わせながら言い出した。

 

「えーとですね、私は聖杯のバックアップ無しにご主人様の魔力や生命力のみで降臨しましたし、今も存在を維持しているのはご主人様からの魔力だけなんですよ。

 つまりですね、別に受肉しなくてもご主人様と契約さえしていれば私は問題無く存在出来るんですよ」

「………は?」

「と言うかですね、ご主人様くらい非常識な魔力貯蔵量と魔力精製量があれば、私程非常識な存在でも支えることは出来るんですよ?

 

 ………と言いますか、ご主人様って若しかして自分の凄さを解ってないんですか?」

「うっ」

 

 …………………………確かにその辺りの事は爺さんやバルトメロイから耳タコな程言われたが、………まさか逢ってそんなに経っていないのに同じ事を言われるとは………。

 

「ふうぅ……………解りました。

 そしたら折角ですから私が説明しましょう。

 並外れた存在が自分の実力を正確に把握していないと周りも危険に巻き込みますから是非とも聞いて下さい」

 

 そう言うとあいつは尻尾の一つで床をペシペシと叩き、座って話を聞く様に促した。

 ……………何か柔らかそうな尻尾を見ていると顔を埋めたくなったが、それをやったら何かが終わりそうなのでその思考を彼方に投げ捨てた。

 そして座る気は無かったが立つのに疲れたっぽい桜ちゃんの為、俺は床に胡坐を掻き、組んだ脚の上に桜ちゃんを座らせる。

 ……………無論リラックスなどせず、いつでも桜ちゃんだけでも転移させられる様に警戒は続けてあいつの話を聞くことにした。

 

「おほん。

 えー、それでは説明を始ます。

 

 知っての通り此処の聖杯は此の世の外側に在る、英霊の座という所からマスターの従者となる存在を招きます。

 そして招かれる英霊とは、人間でありながら何かしら偉業を成し遂げて信仰を得、精霊の領域に昇格した者達です。

 当然英霊を招くという事は精霊を招くのと同じ難易度とも言えます。

 

 ですが、如何に聖杯と雖も流石に英霊をその儘招くことは出来ないらしく、クラス………解り難ければゲームでいう職業という型に嵌めて、嵌りきらなかった要素を削ぎ落としてサーヴァントという存在に劣化させないと招く事が出来ないんです。

 つまり此処の聖杯は英霊を丸ごと召喚するのは出来ないという事です。

 

 

 此処迄は解りますか?

 あ、桜ちゃんも解らなかったらどんどん言ってくれていいですよー」

 

 俺の膝の上の桜ちゃんは話しかけられて震えたが、視線を逸らすだけでそれ以上の拒絶の反応が無かった。

 後、俺は当然理解しているが、桜ちゃんも話を聞いてる時、特に表情に疑問が浮かんだりしなかったことから、大凡は理解出来ているのだろう。

 ……………たとえ魔術の知識は無くとも頭自体は良いからな。

 

「特に疑問も無さそうなので続けますね。

 

 で、聖杯は英霊をサーヴァントに劣化して招きますが、招いた後も一定期間………つまり聖杯戦争中はある程度存在を維持させる為の補助もしているんです。

 そしてこの補助は結構な割合でして、補助さえ在れば普通の魔術師でも戦闘させる程度は十分出来ますし、一流の魔術師なら補助が在れば宝具………つまり超必殺技を何度か使用させられることも出来ます。

 ですが、補助が無ければ一流魔術師でも辛うじて………弱体化させて存在を維持させるのが限界なんです。

 

 しかしご主人様は聖杯に頼らず私を具現した上で私の存在を維持しているんです!

 しかも私は英霊や精霊よりも遥かに上の神霊で、しかもそれを丸ごと具現化した上で維持しているんです!

 解り易くサーヴァント召喚に換算するなら、私は10回以上召喚する魔力が必要と言うことです!

 つまり! ご主人様は聖杯がサーヴァント招く為に溜めた力以上を使ったということなんです!

 

 

 ………解りましたか?」

「いや………いくらなんでも聖杯が数十年集めた魔力より俺の魔力が多いなんて流石にないと思うぞ?」

「はい、良い所に気が付きました!

 

 流石にご主人様が凄くても、聖杯が何十年と集めた魔力を超えて溜めるのはほぼ不可能です。

 ですが、溜めるのが無理なら使い切る前に足せばいいんです。

 

 つまりですね、普通の魔術師が1日で30くらい回復するところを、ご主人様は1秒前後で150万以上回復して貯蔵魔力の少なさをカバーしたんです。

 まぁ、回復させるのに生命力を呼び水にして「」から魔力を引っ張ってたみたいですから1秒前後で回復が止まりましたが、それでも一流魔術師が溜められる魔力の3000倍前後の魔力を叩き出した計算になります」

 

 1秒で150万って、おいおいおい!?!?!?

 

「ちょっと待て!

 1秒に150万回復したとしたならなんで今は殆ど回復して無いんだよ!?

いくら消耗してるにしても回復しなさ過ぎだぞ!?

 

 って言うか、そんな瞬間的に回復するんなら流石に今迄に気付いてるぞ!!」

「あ、多分それはご主人様が自覚してない体の防衛機能だと思います。

 

 恐らく急激に魔力を吸い上げられ、しかも魔力が枯渇して生命力も吸い上げられそうになったから、慌ててご主人様の体が生命力を使って「」から魔力を汲み上げたんだと思います。

 そしてその一連の流れは殆ど体が自動的にやった事でしょうから、普段は殆ど発揮されないんじゃないんですか?」

「……………そう言われれば納得………出来ないこともない………か?」

「あ、因みに生命力と言っても寿命とは違うっぽいですから、普通に休めば全快する筈です」

「……………そうか………」

 

 寿命が縮んだとしても桜ちゃんが元気になるくらいは残っているだろうと思っていた俺は然して気にしていなかったが、後ろで桜ちゃんが握り締めていた俺の服から力を抜くのを感じ、その考えが無責任な考えだったと思い反省した。

 

「まあ…………………………………………………………………………………………………………今ざっと此処辺りを調べましたけど、召喚されたのは私以外では一人しかいないみたいですから、2~3日、家族三人で美味しいご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にテレビを見たりゲームでもして寛ぎ、そして一緒にぐっすり寝れば、ご主人様も無事全快すると思いますよ。

 あ、掃除に料理は私に任せて下さい♪

 もう、ご主人様が堕落しきって私無しでは生きていけない程完璧にこなして見せますよー♪」

 

 ………改めて確信したが……………こいつは凄い。

 凄いけど……………馬鹿だ。

 

 ……………まあ、馬鹿だけど悪い奴じゃ無さそうだから……………警戒は解かないけど、代わりに一言言っといてやろう。

 

「いや、俺はお前と家族になった気は全然無いから。

 

 大体お前って、露出は凄いし見た目は派手だし遠慮を何処かに置き忘れてるし、言動は軽いわ腹は黒そうだわはっちゃけ過ぎて付いていけないし…………………………うん、俺のタイプから最も遠いな。

 ………なんて言うか異性の人と言うよりも異星人だな。おまえ。

 

 

 ………いいかい、桜ちゃん。

 将来こんな奴になったら社会……………外で生活出来なくなるから、こいつを駄目の――――――」

 

 俺が桜ちゃんの将来を案じて注意している最中、俺は龍の逆鱗どころか全ての鱗を剥がす様な真似をしたと遅まきながら気付いた。

 

「――――――見本にすることもないかな?

 少し元気過ぎだけど、桜ちゃんは少しくらい元気な奴を見本にした方が良いと思うから、こいつから元気を少し分けて貰うといいよ」

 

 殺気や悪意は感じないし、桜ちゃんも全然平気そうだけど、……………俺は感じる。

 こいつ…………………………絶対にヤバイこと考えてる。

 

 ……………マジで俺を監禁したり夜這いするくらい平気でするな。こいつ。

 しかも桜ちゃんにバレない様にするなんて朝飯前だろうから、今夜にでもマジで襲い掛かりそうだ。

 おまけに房中術とか習得してそうなのが果てし無くタチが悪い。

 マスターを案じてとか言う口実が在ったら絶対にこいつは実行する。

 

 

 余計な事を言ったと内心で激しく後悔し、全力で解決策を考えようとした時、矢鱈上機嫌そうだが俺には地獄からの怨嗟としか思えない声があいつから放たれる。

 

「あははー♪

 確かに桜ちゃんはちょっと元気が無いですからねー♪

 うん、ここはまずリラックスするところから始めましょう♪」

 

 そう言ってあいつは桜ちゃんを誘う様に尻尾を動かしつつ、桜ちゃんに微笑みながら更に話し掛ける。

 

「私の尻尾は柔らかいですしモフモフですし暖かいですから、触ると気持ち好いですよー? 安らぎますよー?」

 

 妖艶に蠱惑するんじゃなく、小さい女の子を魅了するように尻尾だけじゃなく臀部を動かす。

 そしてそれに魅了されたのか、桜ちゃんが俺とあいつをせわしなく交互に見ている。

 

 ………あいつ………………外堀を埋め始めやがった。

 

「あ、まだ私が怖いならお父さんと一緒でもいいですよ?

 幸い私の尻尾は沢山在りますから、お父さんと一緒でも全然問題無しですよ?」

 

 やばいやばいやばい。

 本格的に外堀を埋め始めやがった。

 

 だけどそれを阻止する為に今あいつの発言を頭から否定すると桜ちゃんが不安になる。

 だからといって此の儘あいつに発言を許せば更に外堀を埋められる。

 

 ………どうにかしなきゃ拙いのに、良い案がサッパリ浮かばない!

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 結局、桜ちゃんの不安と好奇の混じった瞳に耐え切れなくなった俺は、あいつに踊らされていると知りながらも桜ちゃんと一緒に尻尾の海に飛び込むことになった。

 そして、あいつの言葉通り、柔らかくてモフフモフで暖かかった為、桜ちゃんは直ぐに寝てしまった。

 

 幸せそうとはいかずとも、不安の無い表情で寝ている桜ちゃんを起こすという真似が出来ない俺は、あいつに体を撫で回されたり胸とか脚を押し付けられたりしながら過ごす羽目になった。

 ………桜ちゃんとは違って脳が蕩ける様な匂いや興奮を誘う柔らかな体が俺の精神を削ったが、俺の手を掴んで眠る桜ちゃんを見ると劣情は吹き飛び心が穏やかになった。

 

 そして一応目の前のこいつを警戒し続ける為に桜ちゃんが起きる迄起きておこうと思ったが、尻尾の気持ち良さとさっき迄とは違って桜ちゃんごと優しく抱きしめられる心地良さに抗えず、警戒心を抱いた儘とはいえ眠りに落ちてしまった。

 

 

 







  玉藻の前のステータス


【クラス】

・無し(丸ごと召喚というか降臨している為)


【真名】

・玉藻の前(天照大神=大日如来=ダキニ天)


【パラメーター】

・筋力:A8+ ・魔力:A10+
・耐久:A5+ ・幸運:??
・俊敏:A9+ ・宝具:EX


【クラススキル】

・無し


【スキル】

・陣地作成:??
 工房作成能力はCランクだが、神霊としての知名度次第で相手の神殿すら自身の陣地と出来る。

・借体成形:A
 原作準拠。

・呪術:EX
 原作準拠。

・神性:EX
 神霊そのものであり、聖杯の補助を一切受けていなくとも此のスキルのおかげで一定ランクに届かない干渉を全て無効化する。

・神霊魔術:EX
 神霊が行使する魔術だが、EXの為魔法の域。宝具と違い極めて高い汎用性が在る。不条理の塊。


【宝具】

・水天日光天照八野鎮石
 原作と違い死者蘇生すら可能としている。


【詳細】

 雁夜が那須の山でやらかした時に一方的に見知り、元来の惚れっぽさもあり一目惚れする。
 そして然して時を置かずに雁夜が桜の力に成る為、聖杯戦争に参加するべくサーヴァントを召喚する際、雁夜の心の叫びと想いを聞き、本来召喚されるペルセウスを無理矢理押し退け、割って入る容で召喚というか降臨する。

 雁夜の規格外の魔力供給により、一切弱体化することなく降臨している。
 更に雁夜が酔った勢いで殺生石の怨念関係を祓っているので、化生ではなく神霊として降臨している(弱点はその儘だが)。
 しかも一側面とはいえ、天照大神は大日如来やダキニ天でもある為、日本を含めた亜細亜では規格外の信仰補正が付与される(信仰補正はパラメーター表記には反映されていない)。

 尚、妖怪としての属性を祓われて神霊として存在しているが、玉藻の前の伝承がある為、破魔矢というか矢という概念が天敵となっている。
 その為、アーチャーは天敵となっている(メタ発言ですが、強力な宝具を矢とする四次と五次のアーチャーは特に天敵)。


 雁夜にハッキリとタイプではないと言われるがめげておらず、桜という外堀から埋めて添い遂げようと、全力でその方法を模索して実行に移し始める。
 勿論雁夜に隙が在れば性的な意味で食べる気も在る。
 但し、桜を雁夜が大切にしているという理由もあるが気に入っており、桜が明確に雁夜に敵対しない限りは力一杯愛情を注ぐつもりもある。

 尚、降臨した際に雁夜がいきなり死に掛けてて焦ったが、実際は雁夜の体感時間と異なり数秒で令呪を魔力源にして回復している為、自作自演ぽいとはいえいきなり見せ場が無くなった為に若干落ち込み、更に目覚めた雁夜の意図せぬ頭突きを受けて鼻血を出してしまい、感動的で運命的な出逢いとは程遠くなった為、雁夜に話しかけられる迄尻尾に包まっていじけていたりした。
 因みに受肉はしていないが本体である天照大神は裏側と雖も現世に存在している為、マスター不在でも普通に現世に留まれ、更にマスターからの魔力供給無しでも精霊の様に自然から供給を受けたり信仰補正で自らを保ったりが可能な為、実際は一度具現化してしまえばマスターの必要性は完全皆無なのだが、玉藻の乙女心によりマスターとサーヴァントの様な関係になっている。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伍続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 目が覚めた時、目の前に綺麗な女の人が綺麗な微笑を浮かべていて、驚きと照れと幸福感が胸に溢れた。

 

 妖艶さというよりも神秘さを湛えた微笑みの儘、ゆっくりと顔を近付けてきた。

 

 脳を蕩かす匂いに肌が溶ける様な優しい吐息が、焦らす様に迫って来る。

 

 胸を埋め尽くす戸惑いと期待に押される様に、静かに目を閉じて受け入れようとした。

 

 が、その直前、視界の端に小さな女の子が不思議そうに自分を見上げているのに気付いた瞬間――――――

 

「どわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!?!?!?」

 

――――――胸に抱いた暖かさを離さぬ様に抱いた儘、過去最速と思える速度で以ってあいつから離れた。

 

「ひ………人の寝起きに何しやがるっ!?」

 

 寝起きの寝惚けた状態に付け込んで人生の墓場に送られかけたことに怒りの声を上げた。

 が、あいつはそれに堪える素振りどころか、さっきの笑みとはかけ離れた墨汁の様に黒い笑みを浮かべながら俺の胸に抱かれた桜ちゃんを指し示す。

 

「うん?」

 

 嫌な予感しかしないものの、桜ちゃんを無視するわけにいかないので抱き抱えている桜ちゃんを見遣る。

 すると不思議そうな瞳で俺を見上げながら――――――

 

「おはようのキス…………………………しないの?」

「ぶっ!?!?!?」 

 

――――――トンで無い事を言ってきた。

 

「な…な……な………何を………言ってるんだい桜ちゃん?」

 

 今直ぐあいつに詰め寄って何を吹き込んだのか問い詰めたかったが、桜ちゃんの誤解を解くのが先だと思い、出来る限り優しく尋ねる。

 するとトンでもない答えが返ってきた。

 

「あの人が………雁夜おじさんがあの人に逢うため山の中に行って、………偉い人達に逆らってまで助けたっていってたから、……………好きじゃないの?」

「あ…、いや……、その………、桜ちゃんが受けた説明は確かに間違いじゃないけど、可也あいつの解釈が混じってるから実際とは違うと言うか………」

 

 俺がそう言うと、桜ちゃんは不安と諦観が混じった眼で俺を見上げて、消え入りそうな声で尋ねてきた。

 

「じゃあ…………………………あの人が雁夜おじさんと一緒に…………………………傍に居てくれるって言ったの………………………………………嘘?」

「……………」

 

 やられた………。

 何をどう吹き込んだのか解らないが、桜ちゃんの中じゃ、俺とあいつは夫婦若しくは恋仲で、一緒に桜ちゃんの面倒を見る関係と思われてる。

 しかも俺があいつを否定すれば、あいつが言ったであろう、桜ちゃんの面倒を見るという言葉も否定していると桜ちゃんは思ってしまう。

 

 やばい……………。

 外堀を埋めた挙句、退路を断ちにきやがった。

 

 ………まさか起きたら桜ちゃんを取り込んでるなんて甘く見過ぎてた。

 しかもうっかり眠ってしまった挙句、桜ちゃんより早く起きれなかったなんて………。

 その上、まさか死に掛けたとはいえ、ある程度回復したのに桜ちゃんよりは早く起きれない程衰弱してるなんて思いしなか……………った…………………………って………まさかっ!?

 

 急いであいつに視線をやると、俺が何に思い至ったのか気付いたらしく、捕食者の様な笑みで俺を見返していた。

 

 

 …………………………やられた。

 多分、疲れを取る代わりに深く眠ってしまう術でも掛けられたんだろう。

 全快に届いていないけど可也回復しているのを考えるに、桜ちゃんに吹き込み終わると同時に術を解除したんだろう。

 

 ………ってヤバイ!

 あんまり考え込みすぎると桜ちゃんをどんどん不安にさせてしまう!

 

「う、嘘じゃないよ。

 

 ただ、ね、俺とこいつはまだ夫婦じゃないし恋人でもないんだ。

 まだ逢ってそんなに経ってないから、今はまだお互いを知る為に付き合ってる最中なんだ」

 

 ……………桜ちゃんが泣かない為とはいえ、文字通り人生の墓にになるかもしれない墓穴を掘ってると思うと、桜ちゃんじゃなく俺が泣きそうになる。

 だけど、それでも言い方が拙かったのか、桜ちゃんの瞳に一層不安と諦観の色が増す。

 

「……………恋人や夫婦にならなかったら…………………………何処か行っちゃうの?」

 

 …………………………詰んだな。コレ。

 どうやったのか知らないが、俺が桜ちゃんにこいつとの仲を説明する前に桜ちゃんの信頼を得、しかも、〔俺と一緒に〕桜ちゃんの面倒を見ると桜ちゃんに信じさせた段階で俺の負けだったんだ………。

 

 ………………………………………あぁ………恋人ごっこしている間に押し流されて既成事実に至り、気付けばマジで桜ちゃんだけじゃなくてこいつとも家族になってる未来が幻視出来る………。

 ああ…………………………それでも最後の抵抗はしておこう。

 

「だ、大丈夫だよ。

 若し夫婦や恋人にならなくても三人で此の家か、栃木の那須って所の山で一緒に暮らすから。

 あ、勿論桜ちゃんが大きくなって家を出て行きたい日が来ても、確り応援して送り出してあげるから心配しなくても大丈夫だよ?」

「………………………………………………………………………………うん」

 

 納得して安心したのか、何時の間にか掴んでいた俺の服をゆっくりと離した。

 そして桜ちゃんが服を離すのに合わせて抱いていた桜ちゃんを解放した。

 

 

 桜ちゃんが俺の横に移動するのを見届けると、俺は僅か一日で人生の墓場に桜ちゃんという首輪で俺を繋いだ腹黒化け狐を睨みながら声を出す。

 

「それじゃあ話も纏まったしこれからの指針を決めるとするかー差し当たっては様子見だけど隙が在れば他のマスターから令呪を奪い捲って緊急時の魔力源にするとかかなー」

 

 言外に、[大量の令呪で縛ってやるから覚悟しとけ]、という言葉を載せて告げる。

 が、あいつは人を騙したり揶揄ったりするのが心底楽しいといわんばかりの笑みで言葉を返す。

 

「そうですね~。

 私は完全とは行かずとも一応聖杯戦争のシステムに組み込まれてますけど、聖杯のバックアップが全く無い代わりに令呪の効果対象外ですから、令呪はご主人様の緊急時に供えた外付けの魔力タンクになりますよね~」

 

 ……………令呪をどれだけ集めても、そもそも効果対象外という衝撃の事実が発覚した。

 

「まあ、ご主人様の魔力精製量は普段なら1分で大体3と可也の速さですし、眠れば3~4倍に跳ね上がるみたいですから、あんまり必要無さそうですけどね~。

 それに私は彼方側とはいえ常世の者ですから、一度具現化してしまえば後は自力と信仰補正で魔力の精製と補充が出来ますから、戦闘になった際ご主人様に負担は殆ど掛けませんけど、在って困る物じゃないですからね~」

 

 …………………………頭の螺子が初めから抜け落ちてる様な馬鹿を縛る鎖が一切無いという、驚愕を通り越して絶望してしまいそうな事実が発覚した。

 

「まあ、殆どの日本の使い魔………と言うか動物神は私の分身と言うか欠片なんで、その気になればあっという間にサーヴァントクラスの軍勢を集めて、この家をわくわく動物園に出来ますよ~。狐が多いですけど。

 後、私が尻尾を一振りすれば10万の軍勢程度は直ぐに生み出せますし、本気を出せば100万の軍勢も生み出せますから、普通に物量で押し切れますよ~」

 

 ………………………………………最終決戦で相打ちの可能性も無いな。

 

「因みに私の宝具を使えば魔力消費をほぼゼロにしたり死者蘇生も出来ますから、全力特攻する上に目減りしない100万の軍勢が出来上がりますよ~。

 キャー♪ コレなら国どころか世界を取れますよー♪

 名前は〔玉藻の前〕の玉と、〔桜〕ちゃんの桜と、ご主人様の〔雁夜〕の夜で、玉桜夜(ぎょくろうや)にしましょう♪」

 

 ……………………………………………………俺が聖杯戦争に参加したせいで世界がヤバイ。

 

「国法は何をおいても一夫一妻!

 一夫多妻なんて女の敵なことを吐かす輩は去勢です!

 異論は認めません!断じて認めません!!私が法です!!!黙って従えやーーー!!!」

 

 …………………………………………………………………イスラムの人達ごめんなさい。

 

「国技は一夫多妻去勢拳に決まりです!

 

 まずは金的!次も金的!懺悔しやがれ、コレがとどめの金的だーー!

 さあ桜ちゃんも将来の旦那様が浮気しない様に今から練習です!」

 

 ………………………………………………………………………………おいコラ。何で俺そっくりの人型を作り出す?

 と言うか桜ちゃんに変なことを教えようとするんじゃない!

 

 流石に見過ごせないから――――――

 

「わかった」

 

――――――………って桜ちゃん!?!?!?

 

「良い返事です!

 それならば早速基礎にして極意の心構えを伝授します!

 

 いいですか?攻撃する時は……………余所見をするな!浮気をするな!私だけを見ろ!!! ………って思いながらするんです。

 だけど愛がなければやっちゃ駄目です。

 苛立ちだけじゃなくて愛を籠めて相手に叩き込むことで相手を矯正するんです。

 そして愛を叩き込むだけじゃ矯正出来ない時は……………男の人のアソコを壊して二度とおいたが出来ない様に去勢するんです。

 

 解りましたか、桜ちゃん?」

「……………解った。

 …………………………好きな人以外はしちゃ駄目」

「そうです!好きな人以外はしちゃ駄目なんです!

 一夫多妻去勢拳は愛を伝える為の業なんです!

 愛が無ければそれは女敵撲滅去勢拳でしか無いんです!

 

 つまり一夫多妻去勢拳は好きな人にだけ使う特別な業なんです!!!」

 

 …………………………女が浮気したら子宮でも破壊するんだろうか?

 

 

 

 那須の山に行った当時の自分を力の限りぶん殴りたいと思いつつ、俺は既にあいつの影響を受けて黒くなり始めた桜ちゃんをどうすればいいのかも解らず、暫く呆然としながら途方に暮れた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 あれから暫く一夫多妻去勢拳とかを続けていた桜ちゃんだったが、疲れた上にお腹も空いたのもあり、いい加減元蟲倉から出ることになった。

 そして今からご飯の準備をすると時間が掛かるので店屋物を取ろうとしたが、あいつが勝利の前祝いをする為に腕を揮うと言い出した。

 が、そんな食材など在りもせず、冷蔵庫には昨日のケーキやクレープやジュース以外は謎の肉と謎の液体しかなく、他に食べられる物は恐らく桜ちゃんが長らく食べていたであろう栄養食品とドリンクだけであった。

 

 一応午後過ぎには注文していた衣服や娯楽品と一緒に食材と言うか食べ物が大量に届くと言ったが、どうしても腕を揮いたいらしく外出したいと言い出した。

 が、今から買い物をしたら食べれるのは昼過ぎになるので、兎に角朝飯は昨日の残りのお菓子と栄養食品で済ませた(何だかんだ言いつつも美味そうにあいつは食べていた)。

 そして食べ終わったた後は桜ちゃんを膝に乗せて教育テレビをまったりと一緒に見ていると、あいつは食休みも済んだとばかりに買出しに行こうと提案した。

 

 だが、あいつに少なからず懐いていたから人混みも大丈夫じゃないかと楽観していた俺だったが、桜ちゃんが人の居る所に行くのを尋常じゃない程嫌がるのを見、俺だけじゃなくあいつも意気消沈し、結局買出しは金に物を言わせて近くの店から配達してもらうことで落ち着いた。

 幸い小切手が在るので銀行へ引き落としに行く必要も無く、外に出る必要は無かった。

 

 が、聖杯戦争が始まればずっと桜ちゃんに付きっ切りでいられるかも解らず、どうするかを話し合おうとしていたのだが――――――

 

「面倒なら彼処の山に在るっぽい聖杯を破壊して聖杯戦争をお釈迦にしますか?

 それとも此処から別の所に移って聖杯戦争が終わるまでゆっくり過ごしますか?」

 

――――――アホな発言と微妙な発言をあいつがほざいた。

 

「破壊したら此処以外の御三家……………聖杯戦争システム製作に携わった魔術師の家だけじゃなく、最悪魔術協会から只管刺客を差し向けられるから却下だ。

 アホかお前は。

 

 そして此処から離れるのは微妙だな………」

 

 理由をどう説明するか悩んだが、兎に角なるべく桜ちゃんの事を暈しながら説明することにした。

 

「経緯は省くが、俺が此の家の当主を焼き殺したから、今は当主不在なんだよ。

 だけど俺は魔術が嫌で関わりたくなくて家から逃げ出したから、家を継ぐ権利はもう最低と言って構わない程に低い。

 逆に桜ちゃんは此の家唯一の跡取りの俺が逃げ出したのを解消する為………………まあそんな人物で、現在最も此の家を継ぐ権利を有している人物だ。

 だけど、現在桜ちゃんが周囲に対して家を継がないかどうかを言える様な状態じゃないから、面倒事を避ける為にも此処の当主が死んだことは隠してる。

 

 ………家から逃げ出した俺が聖杯戦争に参加するのは捨て駒だとかでまだ通じるが、家から逃げ出した俺が召喚した挙句逃げ出したりしたら、此処に確認の電話の一本くらいは確実に掛かる。

 そしたら此処の当主が死んでるのがバレて、桜ちゃんの血縁者が桜ちゃんを別の魔術師の家に送ろうとするだろう。若しくは単に自分達が引き取るだけかもしれない。

 でも……………俺はそれを何としても阻止したい」

 

 あいつは馬鹿だけど疎くはないから、俺が暈した言葉から大まかな事情を察した様だった。

 そしてあいつなりに此れから自分が行うことに対して若干思う所が在るのか、視線を合わせるべくしゃがみこんだ後、にこやかながらも真剣な眼で桜ちゃんを見つめた。

 

 威圧する様な視線ではなかったが、真剣な雰囲気を感じ取って俺の後ろに隠れる桜ちゃんだった。

 だが、少しすると顔だけを覗かせてあいつの視線を受け止めていた。

 そして話し合いに応じてくれた桜ちゃんに笑顔を返してからあいつは告げた。

 

「えーと、桜ちゃん。

 私は詳しい事情は知りませんけど、桜ちゃんが血縁者……………ご両親やご祖父母や伯叔父母さんのとこじゃなくて、此処でご主人様………雁夜おじさんと一緒に居たいんですか?」

「………ん」

 

 か細い声だがハッキリと頷く桜ちゃん。

 

 …………………………嬉しさで胸の奥が熱くなる。

 ………………………………………改めて桜ちゃんが望むなら世界すら越えて平穏な場所を求めて彷徨う気概が沸いてくる。

 

「もう、ご両親やご祖父母や伯叔父母さんに会えなくなるかもしれませんけど、いいんですか?

 

 私は特殊な生まれですから両親や兄弟姉妹がいませんから、血縁者関係の事に余り強く言えませんけど、血の繋がった人と会えないのは不思議と寂しいと思いますよ?

 それに下手すれば、血の繋がった人を一生他人として接しなきゃいけなくなるかもしれないのは、桜ちゃんだけじゃなくて相手も辛いかもしれませんよ?

 何より……………辛くて苦しい時、そんな人達に助けも呼べないのは寂しくて悲しくて怖いと思いますよ?

 

 それでも…………………………本当にいいんですか?」

 

 ……………その言葉を聞き、俺は自分が感情的で浅い考えをしていると思い知らされてしまった。

 …………………………いくら桜ちゃんが葵さん達に会いたがらなかったからって、下手したら二度と戻れなくなるという選択を安易に選ばせて良い筈がないのに………。

 しかも桜ちゃんだけじゃなく葵さん達も安易な俺の選択に巻き込まれる以上、せめて桜ちゃんの意思をハッキリとさせた上で俺がそのことを確りと自覚し、その上で腐心しなければいけなかったのに……………目先の事ばかりに注意がいってあいつみたいに深く考えられなかったな………。

 

 

 桜ちゃんもあいつの言い分に思う所が在ったのか、さっきより幾分考え込んだ。

 そして俺の服の裾を掴んだ儘不安そうな顔で見上げてきた。

 

 そんな桜ちゃんに向き合う為、俺は桜ちゃんが握っている手を優しく開かせ、あいつと同じように視線を合わせる為にしゃがみこんだ。

 そして桜ちゃんが安心出来る様にと、精一杯優しい笑顔を浮かべるよう努めながら話し掛ける。

 

「桜ちゃん、俺は自分が間桐から逃げたせいで桜ちゃんに辛い思いをさせたことに対して責任を感じてる。

 ………だけどね、そうでなくても俺は桜ちゃんの力に成りたいと思ってる。

 だって、こんな小さな子が一人ぼっちで困ってるんだ、大人なら当然助けたいと思う。

 

 勿論俺は誰も彼もを全員助けたりは出来ないしする気も無い。

 だけどね、自分が知ってる人くらいは助けたいんだ。

 なにより、俺は桜ちゃんだけじゃなく葵さんや凜ちゃんや………俺は嫌いだけど時臣も含め。四人で仲良く幸せに暮らして欲しいと思ってる。

 

 桜ちゃんはもう会いたくないかもしれないけど、俺はいつか桜ちゃんが葵さん達と一緒にまた笑って暮らせるのを夢見てる。

 だから俺は桜ちゃんの力になっているんだ。

 

 

 だけどね、それでも俺は桜ちゃんが葵さん達と二度と会わないと言っても桜ちゃんの力になる。

 四人で仲良く暮らさないのは悲しいけど、それでも俺は葵さんや凜ちゃんだけじゃなく、桜ちゃんにも笑顔でいてほしいから。

 なにより……………葵さんや凜ちゃんは二人一緒の上時臣も居るから、……………さっきも言ったけど、せめて俺くらいは桜ちゃんの味方になってあげたいんだ」

 

 あいつを腹黒と言えないくらいの腹黒さを桜ちゃんにぶちまける。

 それが精一杯の誠意だと自分勝手な思い込みで、桜ちゃんを不安と不快にするだろうと知ってて内心を晒す自分に激烈な嫌悪感を憶えたが、それでも言葉を吐き出し続ける。

 

「前は俺が馬鹿だったから、……………桜ちゃんが選ぶ選択がどういうものなのか教えれなかったけど、あいつがそれを教えてくれた今、もう一度だけ聞かせてほしい。

 

 逃げると言うなら世界すら飛び越えて逃げ切ってみせる。

 戦うと言うなら葵さん達が悲しむとしても時臣すら倒してみせる。

 普通に生きたいと言うなら時臣にそれを伝えられる時迄守り抜いてみせる。

 魔術師になりたいと言うなら時計塔の一級講師にだって渡りをつけてみせる。

 此の地から離れたいと言うなら此の前買った那須の地で新しく家を興してみせる。

 何時か帰る時迄此処で落ち着きたいと言うならどんな物だって用意してみせる。

 直ぐに帰りたいと言うなら間桐の惨状を話してでも帰れるようにする。

 答えが出る迄此処で落ち着きたいと言うなら幾らだって待つ。

 一緒に暮らしたいと言ってくれるなら心から歓迎する。

 一人が良いと言うならお金や伝を残して直ぐに去る。

 俺を殺したいと言うならなら黙って殺される」

 

 俺が考えられる限りの選択を示し、改めて桜ちゃんの答えを待つ。

 

 

 自分の決断の重大さを前以上に感じ、そして俺の汚い本音と真剣さに怯えていた桜ちゃんだったが、俺とあいつを何度か見た後、俯きながら――――――

 

「………………………………………………………………………………一緒に居たい」

 

――――――長い沈黙の末、ぽつりと言った。

 

 

 …………………………何時までとか将来どうするとかは一切言っていないが、少なくてもそれを考えた上で一緒に居たいと言ってくれたと解る以上、辛い追求は当面は置いておくことにした。

 代わりに精一杯の優しさを込めて桜ちゃんの頭をあいつと撫でながら答えを返す。

 

「何時か…………………………桜ちゃんが今よりもっと考えられるようになって、此処を出るか継ぐその時迄……………一緒に居よう」

 

 俯いて表情は解らなかったが、無言で桜ちゃんは頷いた。

 そしてそんな桜ちゃんに微笑みながらあいつも言葉を掛ける。

 

「今日か明日か来月か。それとも1年後か10年後か死ぬ迄かは解りませんが、桜ちゃんが此処を出ようとするその時迄、ご主人様と私と一緒に仲良く暮らしましょう。

 

 後、たとえ桜ちゃんがお家に帰っても、何時でも訪ねてくれて良いんですよ?

 私とご主人様は何時でも暖かく迎えますから」

 

 再び俯きながらも無言で頷く桜ちゃん。

 

 ……………必要とはいえ、辛い決断を迫ってしまい、酷く傷付けたと思い、優しく抱き締めようとした時、あいつが先に桜ちゃんを優しく抱き締めた。

 そして桜ちゃんを抱き締めた後、あいつは桜ちゃんだけじゃなく俺も尻尾で包み、そっと自分と桜ちゃんへと引き寄せた。

 

 …………………………こいつに近付くのは良い気分がしないが、桜ちゃんが安心するなら俺の気分なんてどうでもいいので、特に抗いもせず黙ってされるが儘にすることにした。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 結局、昨日と同じく桜ちゃんはあいつの尻尾に包まれた儘眠ってしまった。

 が、今度は立った儘だったので流石にその儘という訳にはいかず、ベッドで寝かせる為俺がベッドを片付けてあいつに桜ちゃんを運ばせようとした。

 だが、あいつは配役が逆だと言い、俺に桜ちゃんを抱き抱えさせると急いでベッドメイクを始めた。

 

 あっという間にベッドを綺麗にしたあいつは、その後神霊魔術なのか呪術なのかは知らないが、ベッドを新品同様の柔らかさにして出迎えた。

 ただ、

[さあ一緒に寝ましょうご主人様。た・だ・し♪ 今日はこの子が居るから駄目ですよ?]

、と抜かしやがったので、あいつの頭を撫でる振りをしながら狐耳の毛を10本以上纏めて引き抜いた。

 

 辛うじて桜ちゃんを起こさない様に声を噛み殺したのは見事だが、ザマアミロとしか思えなかった。

 が、少しして完全に外堀を埋められた挙句退路も完全に絶たれたと気付き、桜ちゃんをそっとベッドに寝かせた後、あいつの頭を労わる様に撫でて慰めていると思わせている隙に、抱き締めようとしてると思わせた右手を一気に尻尾に移動させ、手一杯に毛を握りこんだ直後、驚愕と絶望に染まるあいつの顔を見つつ、一気に引き抜いた。

 

 

 

 尚、結局有耶無耶になった対サーヴァントの基本対策は、〔人気の無い所に居るなら此処から薙ぎ払う〕、という、巨神兵の如き戦法を採るという、何とも手抜きな戦略になった。

 但し、手抜きにも拘らず威力と射程と速度は巨神兵以上らしく、改めて目の前のコイツのブッ飛び具合を知った。

 

 因みに、尻尾の毛を纏めて引き抜いたのも我慢ならなかったらしいが、それ以上に乙女(とはとても思えないが)心を弄んだと嘆きながらマジ泣き寸前迄に落ち込んだ為、流石にやりすぎたかと思って侘び代わりに一つだけ常識的な範囲内なら言う事を聞くと言うと、直ぐに笑顔で、[名前で呼んで下さい!勿論マイスイートハニーとかでも全然OKですけど!]、と言いやがった。

 ……………力一杯ぶん殴りたかったが、言ってることは常識の範囲内の為怒りを我慢し、代わりに、[玉藻の前って長くて言い難いから略すけどいいか?]、と訊き、了承の返事を貰った俺は、[タマ]、と呼ぶことにした。

 

 

 







若しも雁夜がバーサーカー(ランスロット)を召喚していたら


【パラメーター(狂化前)】

・筋力:A+++ ・魔力:EX
・耐久:A+++ ・幸運:EX
・敏捷:A+++ ・宝具:A++


【クラス・クラススキル・スキル・宝具】

・原作準拠


【詳細】

 魔術師の規格を越えた魔力補給を受け鬼チート化したランスロット。
 狂化することで魔力と幸運以外が1ランクアップする上、魔力と幸運は既にカンスト(EX)という冗談の様な状態であり、更にアロンダイトを使用すると更にステータスが1ランクアップするという、近接戦闘者にとっての悪夢が待ち受けている。
 しかもアロンダイト解放状態でも活動時間はほぼ無限の為、王の軍勢を蹴散らしたり巨大海魔に突撃して中のキャスターを仕留められ、更に真名解放エクスカリバーを避けたりも可能な為(撃つ前に仕留められる上、防御態勢が整えば辛うじて耐え凌げる)、文字通り相性を無視した無双が可能。
 トドメに此のSSの雁夜は金を持っているので、クラスター爆弾や燃料気化爆弾やICBM等を宝具化して阿鼻叫喚地獄を生み出せる。

 多分、第一宇宙速度のICBMを全ての拠点に打ち込めば、聖杯戦争開始初日で優勝すると思われる。
 ………見た目は科学兵器なので神秘秘匿を気にしないでいいので非常に楽に戦え、実行犯のバーサーカーは聖杯戦争後消える(消せる)のもポイント。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陸続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

「平和ですねぇ~」

「お前の頭の中がな」

 

 久方振りのデスクワークに懐かしさと勘や動きが鈍っていることに若干イラついている最中だったので、バカへの返答が可也雑になった。

 だが、無視しないだけでも上等だろうと思い、特に訂正もせず書類を読み分けていく。

 

 

 

「仕事をしているご主人様の横顔って素敵ですねぇ~」

「お前の頭もある意味素敵だがな」

 

 バルトメロイに体液を売って得た情報を閲覧している最中、バカの間の抜けた声に可也イラッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「家族3人でのんびり炬燵に入ってるって幸せですよねぇ~」

「足が邪魔だから炬燵を出て毛玉になってろ」

 

 季節が一周りするよりも長く連絡を入れなかった伝に謝罪と金を積んで得た社会の裏情報を精査している最中、バカのバカな間抜け声に可也イラーッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「洗い物も掃除も終わってのんびり旦那様に寄り添うのは幸せですねぇ~」

「腹の中と頭の中を洗い忘れてるぞ」

 

 数名の探偵を雇って調べさせた冬木の不動産とホテル関係の書類からマスター及びその関係者を探している最中、バカがバカ過ぎてどうしようもないバカになってしまったバカの間抜け声に凄まじくイラーーーッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「私の尻尾に包まれて寝てる可愛い桜ちゃんを見てると本当の夫婦になったみたいです♪」

「桜ちゃんの両親はお前でも俺でも無い。少なくても桜ちゃんがそう呼んでくれる迄はな。

 ただ、桜ちゃんが可愛いのは全面肯定する」

 

 情報を統合している最中、聞き逃せない呟きが聞こえてきたので、自戒の意味も籠めて注意しておく。

 後、桜ちゃんの可愛さについては一も二もなく同意する。

 

 

 

「まったりも良いですけど熱い夜も過ごしたくありませんか?」

「熱いのが好いなら尻尾に火を付けて火達磨にでもなってろ」

 

 地図に時臣とアインツベルンの拠点以外に、アーチボルトの拠点とアインツベルンの予備と思しき拠点を赤ペンを使ってマルで囲み、残り二名の拠点が何処なのか地図を睨みながら考えている最中、手遅れになってるバカの間抜け声に苛立つよりも呆れながら雑に返す。

 

 

 

 …………………………結局、残り二名の拠点を絞りきれなかったので一先ず後回しにし、人気が無くて広くて戦場になりそうな湾岸部・倉庫街・地下貯水槽・郊外の森・峠周辺・円蔵山・大空洞を青ペンを使ってマルで囲み、更に不動産関係の情報を基に建設中の広い工事現場もマルで囲んでいく。

 そして次に地元の人間という地の利を生かし、マスターが戦場を監視するであろう箇所に緑ペンで印を付けていく。

 最期に監視する場所を監視出来る場所に紫ペンで印を付ける。

 

 

 地図への書き込みがとりあえずは一段落したので散らかった資料を手早く片付ける。

 と、何時の間に用意したのか熱い緑茶と夕飯の稲荷寿司が差し出される。

 

「夜食にどうですか?

 甘いから疲れも吹き飛びますよー♪」

「…………………………貰うとする」

 

 ライターの時の習慣で、知らずにカロリーバーと栄養ドリンクを腹に流し込んで寝ようと思っていたが、いきなり人間味の在る夜食を提示されて意表を突かれた。

 が、直ぐに思考を切り替えて有り難く貰うことにした。

 

「はいはーい。一杯食べて下さいね……………とは時間が時間ですから言えませんけど、疲れを取る程度は確り食べて下さいね?

 あ、だからといって栄養ドリンクを飲むのは出来るだけ控えて下さいね?

 頼りすぎると却って体が弱くなりますから、出来るだけ普通の食事で疲れは取った方が良いんですよ?」

「……………お前は俺の母親か?」

 

 呆れながら独り言の様に呟いたから返事など初めから期待していなかった。

 だが、あいつは何が気に触ったのか、頬を膨らませて不機嫌と言うわんばかりの表情で反論する。

 

「ご主人様………私がおばちゃんだって言いたいんですか?」

「……………お前の年齢考えると婆さんを通り越して骨だけ――――――」

 

 当然のツッコミを入れていた瞬間、桜ちゃんの枕と抱き枕になっていないあいつの尻尾全てが突如巨大な馬上槍の様になって俺の頭や首にに突き付けられた。

 

「――――――になっ………て…………………………」

「不思議ですねー?

 どうして男の人って地雷って解ってて踏み抜くんでしょうかね-?

 死にたいんですかねー?

 

 まあ私はご主人様を殺すなんてしませんけど、何と無ーく明日の朝には町中にご主人様が桜ちゃんを襲おうとしてる写真が溢れてて、何故かご主人様が社会的に死んじゃってる気がするんですよー?

 ねえご主人様? 此の予感ってすっごく当たっちゃうと思うんですけど、どう思います?

 

 あ、話を戻しますけど、さっきご主人様は一体何て言い掛けてたんですか?」

 

 ……………今こそ働け俺の脳細胞!

 

「い、いや………人間ならとっくに墓の下だろうけど、神霊ならずっと見た目も中身も若くて最盛期なんだろうなー、………って言おうとしてただけだぞ?

 いやー夫に成る奴は幸せ者だろうな。嫁さんはずっと若くて可愛い儘なんだからな」

「もう~~~……………ご主人差待ったらお世辞が上手いんですから♪」

「………………………………………解ってるなら言わせるなよ、猫被りが………」

「ご主人様~♪

 あんまり舐めた言葉を吐くと呪っちゃうぞぉ♪」

 

 その言葉と同時に俺の頭上に謎の鏡が現れ、鏡から魂を逆撫でする様な不気味な気配が垂れ落ちてくるのを感じ、俺は無言で頭を机に擦り付ける程に下げた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 あれから今迄の鬱憤を晴らすかの様に、只管ご機嫌取りに翻弄させられた。

 

 口説き文句は俺の性格上全く肌に合わないので言っていないが、お世辞はストックが尽きる程言わされた。

 と言うか、ストックが無くなったら新しく考えさせられた。

 それも一つや二つではなく、軽く20を越える程考えさせられた。

 ……………殺さずに殺生石に封じたいと真剣に思った俺はきっと優しい。

 そして桜ちゃんを出汁に俺を人生の墓場に半ば埋め込んだこいつは、邪神か悪神だと思う。

 

 ……………と言うか、こいつの本体の天照って可也やばい性癖持ちだった気がするし………確認しておこう。

 

「ところでお前の趣味とか聞きたいんだが良いか?」

「はいはい構いませんよ構いませんよぉ?

 例え名前で呼ばないことにイラッときてても、今はご主人様が私に興味を持ってくれたんで、そんなイライラは時の彼方にポイ捨てしてますんで、気持ち良く答えますよ」

 

 身を乗り出して俺に顔を近付けながら話すあいつ。

 着いていけないハイテンションと矢鱈と近い顔に身を退きたくなるが、最悪の答えに備えて退かずに疑問を口にする。

 

「お前………と言うかお前の本体………と言って良いのかは解らんが、兎に角お前は天照なんだよな?」

「はいはい。

 確かに私は天照の一側面の玉藻の前です。

 因みに大日やダキニ天でもありますけど、贅沢狐の妲己とかとは全然違うので勘違いしないで下さいね? スッゴイ不快ですんで」

「………まぁその辺は関係無いんで流すが、…………………………お前が天照っていうなら………………………………………女のストリップ見たさに引き篭もりを止めた伝承通りレズなのか?」

「………………………………………………………………………………」

 

 笑顔どころか雰囲気すら固まっていて不気味だが、確認しておかねばならないことなので気にせず疑問を投げ掛ける。

 

「お前が俺を女体化させようとしてるぐらいならドン引きする程度で済むが、桜ちゃんを毒牙に掛けようとしてるならマジで消すぞ?」

 

 軽く言っているが当然本気であり、若しもあいつがふざけた答えや最悪な答えを返したら、足で触れている桜ちゃんを即座に非難させた後、自爆してでも消し去る気でいる。

 だが、見た目は普段通りに見える様に振る舞い、あいつが何気なく零す本音を見落とさないように細心の注意を払う。

 

「…………………………あ……………あのですねご主人様? 確かに私はご主人様が女でも呪術でどうにかしてでも親密で熱い関係になりたい程に好きですけど、私は普通に男の人が好きですからね?

 あくまでも好きな方なら女の人でも大丈夫なだけで、私の性癖は基本的に健全に異性が対象ですからね?

 

 と言うか私はご主人様が娘の様に思ってる桜ちゃんに手を掛ける気なんて微塵もありませんから。

 血が繋がらなくても我が子や兄弟姉妹と思ってる相手に手を出すなんて本気で最低と思ってますし、それを冒す背徳感に興奮も覚えたりしませんから。いや本当に。

 

 それに天照が天岩戸から出てきた伝承ですけど、あれは寂しがり屋な私を内包していた天照が自分だけで誰も居ないのが嫌だったから、楽しそうな宴に釣られて出てきただけです。

 断じて女性の体に興味が在って出てきたわけじゃないんです。信じて下さい。

 

 と言いますか私は寂しがり屋なんで、ご主人様に嫌われた挙句距離も取られたら本当に生きていけませんので、勘違いで嫌った挙句ドン引くとか本当に勘弁して下さい。

 いや、本当に勘弁して下さい。

 雑な対応でも構わないですから、お傍に居させて下さい」

 

 桜ちゃんに気を遣ったのかギリギリ大声ではないが、それでも必死な表情と声音で俺に告げてきた。

 

 …………………………………………………。

 

「憑き纏いたいなら勝手にしろ。

 て言うか、お前を野放しにすると真面目に世界がヤバイから、目の届く所に置いといた方が良いから、寧ろ俺の傍を離れるなよ」

「………………………………………………………………………………」

 

 ………うん?

 とりあえず桜ちゃんに害を及ぼしそうにないし、一応桜ちゃんも懐いているから、最大限譲歩して優しめの言葉を掛けたんだが、知らない間にマジでヤバいトラウマとかの地雷でも踏み抜いたか?

 

 急に俯いて付いていた手に力を込めだし、更に肩を振るわせだし、激情が爆発する予兆を見せ始めた。

 

「お、おい?なんか洒落にならない地雷でも踏み抜いちまったか?

 訳も解らず謝ると余計地雷踏み抜きそうだから、せめて落ち込む前にどんな地雷踏み抜いたかくらい教え――――――」

 

――――――バカで軽くて胡散臭てテンションに着いていけない傍迷惑な騒がしい奴だが、悪い奴じゃなさそうだから、知らずに軽い気分でトラウマを抉ってたりしてたのなら流石に誠意を込めて謝ろうと思い、何が拙かったのか訊いていたが――――――

 

「やりましたーーーーーーーーーーー!!!

 フラグが立ちましたーーーーーーーーーー!!!

 やったやったやりましたよーーーーーーーーーーーーー!!!

 

 聞いて下さい聞いて下さい聞いて下さい!聞いて下さいよ桜ちゃん!?」

「――――――てくれ………………………………………………………………………………」

「なんと私!さっきご主人様に、[俺の傍を離れるなよ]、って言われたんですよ!!!???

 もうこれは少なくても恋人宣言ですよね!?恋人宣言ですよね!!??恋人宣言ですよね!!!???

 

 やりましたやりましたやりました!

 さあ後はこのままウェディングロードに向かって疾走です!

 そして私もご主人様と結婚して間桐の姓を貰い、私だけ仲間外れな状況とはおさらばです!!!

 

 …………………………しぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「待て待て待て待て待て!!!婉曲して解釈するんじゃない!!!

 さっきのは単にお前が離れると困るから近くに居ろって………違う!今の無し!!言い間違えた!!!」

「ふおーーーーーーーっっっ!!!

 まさかご主人様から離れると困るとかいう言葉を貰えるとは感激ですっっっ!!!

 

 桜ちゃん桜ちゃん! これはもう告白と受け取る以外無いですよね!?これはもう告白と受け取る以外無いですよね!!??これはもうラブラブになったと思っていいですよね!!!???」

「ん……………らぶらぶ………」

「ちっ、違うんだ桜ちゃん!

 さっきのと今のは言い間違えただけで、俺はそんなこと全然思っちゃいないから!!!」

 

 俺は必死に桜ちゃんに弁明する。

 が、桜ちゃんは――――――

 

「男の人は恥ずかしがり屋……………」

 

――――――全く理解してくれなかった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 嵐の様な騒動の後、昂揚し捲ったあいつが店屋物を機銃掃射の如く頼み捲り、更に盛り上げ要因として狐をダース単位で召喚し、あっと言う間に間桐家を狐の園にしてしまった。

 一応衛生面に気を配ってはいたらしく、汚れと臭いが付着していない状態で召喚されてはいたが、大量に召喚された狐が店屋物を食い散らかした為、あっと言う間に居間(応接室を模様替えした)は汚れてしまった。

 一応あいつが一時的に知力を人間並みに高めていたのでそこらで用を足されることはなかったが(極普通とばかりに人間用のトイレで用を足してた)、あいつの音頭に乗って大合唱するわあいつの曲芸に興奮したのか組体操をするわあいつの暴走に呼応して屋敷中を走り回ったりした。

 

 そして文字通り多数の爪跡を残し、狐達はあいつが酔って眠る直前の朝方に送還された。

 後、ゴミはゴミが出る度にゴミが勝手に一箇所に集まり、そしてある程度溜まったら勝手に燃え、その後燃えカスは風に乗って外に出て行った。

 ……………ゴミじゃない調度品や日用品は自力で片付ける必要があったが、掃除する手間に比べれば大した手間じゃないのでさっさと片付けた。

 

 

 とんでもなく散らかっていても全然汚れていなかったのであっさり片付けが終わると、早朝にも拘らず金に物を言わせて民間軍事会社(PMC)から買った暗号化機能付電話とFAXや其の他が届いたので、既存の電話を取り外して新しい電話に置き換え、更にFAXを取り付ける。

 回線自体は一般回線だから然して効果は無いかもしれないが、マスターと思しき奴の一人に矢鱈機械を使う奴がいるから、一応対策をしていて損は無いだろう。

 あと、半径100m程に効果の在るECMをを引き払われた兄貴の部屋に置き、プラグをコンセントに差し込んで充電を開始させる。

 そして監視カメラと盗聴器潰しとして、フラッシュグレネードとスタングレネードの梱包を解き、幾つかをポケットに仕舞い込み、残りは邪魔にならないよう俺の部屋に移動させる。

 

 部屋にフラッシュグレネードとスタングレネードを移動させた後、一応読んでおこうと取扱説明書を持って居間へ向かっていたが、その時協会から電話が掛かってきた。

 なんでも、夜中の殆ど同じ時間にセイバーとアーチャーとライダーが召喚され、あと一騎召喚されたら聖杯戦争は始まる、とのことだった。

 それと、一体の何のサーヴァントを召喚したのかを又訊ねられた。

 

 ……………素直にサーヴァントじゃなく神霊そのものと言えば、ほぼ確実に恐ろしく面倒な事態になる為、[前に言った通り召喚事故が起きたみたいでクラス名が無いから答えようがないです。が、同じ質問が面倒なんで、便宜上アウトキャストとしておきます]、と伝えておいた。

 

 ………電話を切り、何とはなしに見上げた空は、もう直ぐ聖杯戦争が始まるせいか不気味に見えた気がしたが、下らない錯覚と首を振って否定した。

 

 

 

 居間に戻る前、流石に連続で重い物を食べるのはキツイので、朝飯兼昼飯はカロリーバーと栄養ドリンクで十分だろうと思い二つをポケットに詰め込み、昼飯を確保した。

 そしてとりあえず今やれる備えを終えたので、俺は注文した物の取扱説明書を手に、桜ちゃんの眠る居間に戻った。

 

 すると、桜ちゃんに気を遣わないで良い時は関わりたくなくなったあいつが出迎えやがった。

 

「お疲れ様ですご主人様。

 お茶請けを用意したんですけど、どら焼きと羊羹のどっちが好いですか?」

「…………………………」

 

 あいつを無視する様に手に持った注文品の取扱説明書を炬燵の上に放り、序ポケットからカロリーバーを取り出して開封し、素早く口に放り込む。

 そしてあいつが飲み物を用意する前に、同じくポケットから取り出した栄養ドリンクを開け、カロリーバーを胃に流し込む様に一気に飲む。

 

「あ……………」

 

 何か言いたそうなあいつを無視してゴミを可燃物と不燃物とビンとに分けてそれぞれのゴミ箱に捨てる。

 そして無言で炬燵に入り、放り置いた注文品の取扱説明書を開き、読み始める。

 

 

 

 読み始めると同時に全身から発した手加減無しの拒絶のオーラをピンポイントであいつに向け、言外に話し掛けるなと言いながら取扱説明書を読み進めた。

 

 途中、何度かあいつが話し掛けてこようとしていたが、嫌そうな顔と言うよりも厭でしょうがないという顔ををしながら露骨に睨み付けて尽く黙らせた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 一通り取扱説明書を読み、内部構造は兎も角使用方法とカタログスペックは一通り理解したので取扱説明書を閉じて軽く脇に退けた時、耳が完全に垂れ、今にも自殺しそうな程に暗い雰囲気を纏わせているあいつが目に映った。

 

「………………………………………ちっ………」

 

 湧き上がる罪悪感自体に苛立ちを覚え、無意識に舌打ちした。

 だが――――――

 

「っ!」

 

――――――あいつはそれに酷く怯え、恐る恐るに俺を見た

 

 …………………………大人気無い自分の対応と罪悪感を覚える自分に酷い苛立ちを感じつつも、この儘なら桜ちゃんが起きた時に厄介なことになると思い、凄まじく嫌だがさっさと口を利いて此の状態を終わらせることにした。

 

「おい、とりあえず黙って聞いとけ」

「っっっぅぅぅ!!!」

 

 俺のぞんざいな言葉にさっきより更に怯えたが気にせず言葉を続ける。

 

「先に言っとくが、俺はお前が嫌いというわけじゃない」

「!?」

「好き嫌いの二択で言えば…………………………不満は山程あるが、間違い無く好きの分類に入る」

「っ!」

 

 さっきと違い、俺の言葉を聞く度に眼や耳に力が戻っていくのが確りと見て取れた。

 が、それも無視して言葉を続ける。

 

「好みのタイプじゃないと言ったが、献身的に尽くされれば悪い気はしないし、何だかんだ言ってもお前は器量が良いから憎からずとも思う」

「っぅ!?!?」

「そして俺も大人だから、結婚から始まる愛を否定する気は無いし、再婚とかに関しても一度振られて心機一転したことのある俺は当然の選択の一つだと思っている」

「っっぅ!?!?!?」

 

 どんどん生気が戻るあいつだが、相変わらずそれに構わず言葉を続ける。

 

「客観的に見てお前程俺………と言うか男に都合の良い女はいないだろう。

 相手にベタ惚れな上に喜んで尽くすし、凄まじい美人の上に何時までも若い儘だし、相手に対しては性に関しても開放的だし、おまけに人間を超越した存在だから究極の庇護も約束される。

 

 …………………………正直、若しお前に言い寄られて応えない奴が居たら、正気を疑う程に馬鹿か一途のどっちかな奴だと思う」

 

 眼を輝かせながらあいつが俺を見つめるが、兎に角構わず言葉を続ける。

 

「ハッキリ言って特に付き合ってる奴も恋もしていない現状、とりあえずお前と付き合ってみても悪くないとも思う。

 少なくても付き合いさえすればお前はとびっきりの良い女だから、俺の好みタイプとは関係無く、然して時間も掛からず本気で惚れるだろう。

 口惜しいがな」

 

 瞳を潤ませて熱い視線を送るあいつのを視線に苛立ちを感じながらも言葉を続ける。

 

「それに俺は取材で日本以外の文化にも頻繁に触れてるから、女から告白するのもありだと思ってるし、好きな相手に積極的に自分を示したり性に関してオープンな奴も個性だと思ってる。少なくても俺に迷惑が掛からないうちは。

 だからお前が俺に矢鱈積極的にアピールするのは言う程イラついちゃいない。まあ日本神ならもう少し慎みを持てと思うけどな。

 

 だけどな……………」

 

 一旦言葉を切り、憎悪に限り無く近い嫌悪を乗せた視線を、少し不安な顔をしたあいつに叩き付けながら告げる。

 

「相手の意思を好き勝手操るのだけは絶対に認めない」

 

 絶対に妥協しないという意志を込めて更に告げる。 

 

「お前が俺にやってるのはそれに近い。

 桜ちゃんを使って選択肢を削り、更に退路を絶つ。

 

 ………最初の頃のはまだ流せたが、今お前がしてるのは軽蔑しても……………少なくても俺的に縁切りするレベルのコトだ。

 

 正直、顔を見たくないどころが知覚するだけで不愉快になるし、意識を向けられるだけで全身の毛穴からおぞましいナニカが浸入してくる感じがする。

 更に言えば、顔を見れば目から脳が腐って融ける感じがするし、声を掛ければ自分も同レベルのクズに成り果てる感じがして喉が千切れる程掻き毟りたくなる」

 

 一気に消沈したあいつに余計苛立ちながらも言葉を続ける

 

「だけど………………………………………俺の信念と言うか矜持と言うか………まぁそんなモノを冒しまくってるお前だけど…………………………心底嫌い………と言う程嫌ってないし、正直見限るのを残念に思ってる俺が又腹立つんだよ。

 

 ……………数日の付き合い程度なのに見限れない自分の甘さに苛立つし、嫌ってはいるが少なからず気に入ってる奴が自分でどんどん俺の中の価値を下げ続けるのにも苛立つし、いざ見限ろうとしても嫌うという半端な対応をする自分に苛立つし、その対応で傷付くお前を見て苛立つし、そんなお前に罪悪感を抱く自分に苛立つし、桜ちゃんの進退が賭かっている危険な時期に余計なことを考えているのに苛立つし、楽しそうな桜ちゃんの時間に関係する奴のことを余計なことと思う自分に苛立つし、…………………………兎に角昨日と言うか今日の宴会から全てがイラつくんだよ」

 

 

 消沈を通り越して再び自殺しそうな程暗い雰囲気を漂わせ始めたあいつだったが、それに気遣うこと無く言葉を続ける。

 

「………他にも言いたいことは山程在るが、同時に直ぐに此処から離れて二度と遭いたくなくも在るから、結論を言う」

 

 怯えながらも祈る様な眼差しを向けるあいつを、此れが最後だからと湧き上がる全ての想いを無視して告げる。

 

「…………………………お前との時間は何だかんだで気に入ってる。だからふざけた真似……………人質を取って俺の意志を操作する様な真似は二度とするな。

 嫌なら桜ちゃんが独り立ちする迄は付き合うから、魔術協会か聖堂教会と一緒にお前を捕獲なり封印なり討滅するなり何なりする迄の間は浮かれてろ。

 

 ……………答えを言わせる気は微塵もないから言わなくていいぞ。

 今迄のは俺の愚痴と勝手な主張だからな」

 

 言いたいことは言ったのであいつから視線を切り、桜ちゃんの見える位置に移動して横になる。

 

 

 ……………矢張り疲れてるとらしくもないことを喋ったりするな。

 …………………………此れ以上醜態を晒す前にとっとと寝よう。

 

 腕を枕にして寝ようとした時、あいつが俺の頭をそっと持ち上げて自分の太腿に乗せた。

 

 

 とりあえず退かす為に体を起こそうとしたが、それより早く上から小さな声が降ってきた。

 

「……………至らない所が沢山在る不束者の駄狐ですが、宜しければ傍に居させて下さい」

 

 …………………………顔は見ていないが、何と無く表情が見たかの様に解る声だったので、此方も小さな声で――――――

 

「勝手にしろ」

 

――――――と言い、退かすのを止めた。

 

 顔を見られないようにあいつの腹に出来るだけ顔を近づけて寝ることにしたが、上から小さな笑い声聞こえ、何と無くどんな顔をしているのかを知られてしまった気がしたので、腹癒せにあいつの尻尾を数本手繰り寄せ、少し強めに抱き枕代わりに抱き締めて眠ることにした。

 

 

 







  実は途中から起きていた桜の感想


「……………やっぱり二人はラブラブ………」




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漆続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 何だか宴会の後から桜ちゃんの雰囲気がが妙に優しい気がする。

 表情が抜け落ちた様な貌なのは変わらないが、以前葵さんや凜ちゃんの後を微笑みながら付いて回って居た頃によく似ている気がする。

 

 …………やはり原因と言うか理由は狐の大群だろうか?

 たしか欧州にはアニマルセラピーとかの効果が認められたって話だし、人間と違って大型肉食獣でもなければ警戒したりする必要の無い動物に囲まれてるのは安らぐんだろう。

 

 なら…………いっそのこと狐の園状態で暮らしてみるか?

 でも過ぎたるは及ばざるが如しと言うから止めた方が良いだろうな。

 最悪、[狐が友達です♪ あ、人間には興味は在りませんから近寄らないで下さい]、とかいう状態になりかねない。

 て言うか、桜ちゃんに正面から興味無いとか言われたら首吊り自殺しそうだ。

 そうでなくても将来彼氏を連れて来た時、[邪魔だから何処か行って下さい]、とか言われたら多分家出してしまう。

 

 

 うーーーーーーーーーーむ、矢張り此処は威厳や頼り甲斐を見せるべきだろうか?

 と言うと………無難にキャンプとかでテントを建てるとかか?

 いや、今の桜ちゃんを不便な大自然の中に連れて行っても不快にしか感じないだろうから却下だ却下。

 

 それなら……犬小屋って言うか狐小屋でも作るか?

 いやいや、アニマルセラピーは人間への執着や興味を無くしそうだから、一匹でも飼うのは現状では止めとこう。

 

 だとすると…………料理か?

 でも料理で威厳や尊敬を得られるのって基本サバイバルだけど、桜ちゃんの好きなお菓子で威厳や尊敬は微塵も得られない気がするな。

 

 

 ………………………………………………………………………………やっぱり女の子と言えども女性であるんだから、同じ女性に意見を聞いてみよう。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「ふぇ?

 女の子が男の方を尊敬したり威厳を感じる時ですか?」

 

 相変わらず作ってる奴の特権で油揚げを使い捲った料理(朝食)を用意しているところに尋ねてみた。

 すると口惜しいが見惚れそうな笑顔で直ぐに答えを返してきた。

 

「そんなのはやっぱり、〔ピンチを救ってくれる方〕、ですよ!」

 

 夢見る瞳で言ってきたが、何か違う気がするのでツッコミを入れることにする。

 

「いや、それって威厳や尊敬とかよりも憧憬とか恋慕じゃないのか?」

「う~~ん…………、威厳は感じないかもしれませんが尊敬はしますよ?」

「そうかもしれないが、俺が言ってるのは父親に感じる様な威厳や尊敬を感じる状況のことを言ってるんだよ」

「…………はは~ん、さてはご主人様、桜ちゃんにいい格好を見せようとしてますね?」

「うぐっ!?」

 

 大量に笑いを含んだ笑みで図星を突いてきた。

 

「いや~、やっぱり男の方って何時の時代でも女の人に良い格好を見せたいものなんですね~」

「うっ…………わ……悪いかよ!?」

「いえいえ、全然悪くないですよ?

 寧ろそういう男の方が居るってだけで女冥利に尽きますし、女に生まれたら自分の為に頑張ってくれる男の方に巡り合いたいって思うものですから、女からすればそんな男の方は敵味方関係無く好感度が跳ね上がりますよ?

 当然私もご主人様への好感度がギュンギュン跳ね上がってますよー」

 

 テンションの上昇に合わせているのか、凄まじい勢いで攪拌される溶き玉子。

 …………砂糖どころか黄身も混じってるのに、メレンゲみたいに泡立つってどれだけの速度で攪拌してるんだろうか?

 少なくても現代科学で再現するのは結構骨が折れそうな速度だろうとは当たりを付けつつ、俺は恥ずかしい発言から話を戻すことにした。

 

「ま、まあそれはさておくとして」

 

 一旦両手で何かを脇に退けるジェスチャーをし、改めて話を進めることにした。

 

「何か桜ちゃんから頼り甲斐在るって思われそうな良い案は無いか?

 生憎俺じゃあキャンプか日曜大工か料理ぐらいしか考え付かないからなぁ」

「…………そこで魔法を見せるとか聖杯戦争で華麗に勝つとか言わない辺りがご主人様クオリティですね~」

 

 呆れてるのか褒めているのか判別し難いが、とりあえずその辺のことを言ったことがなかったので、丁度いい機会と思って言っとくことにする。

 

「いや、俺にとって魔術とか魔法とかマジで如何でもいい。

 寧ろ出来ることなら一生関り合いになりたくない類だ。

 

 あ、それと那須の山の暴走は酔ってた時の例外だからな」

「れ、例外だなんて……………運命を感じちゃいますぅ♪」

「酒臭い運命だけど、良いのかそれで?」

 

 矢鱈と運命を安売りする女性特有の思考に置いてけぼりにされた感がする。

 が、所詮男と女は違う生き物だと割り切り、続きを話す。

 

「それに此の民主主義で個人主義のご時勢、好き好んで自己犠牲して迄見知らぬ他人の為に何かする気なんて微塵も無い。

 大体完璧超人が居なくても社会が回る様、怪我人助けるのは医療機関で、容疑者捕まえるのは警察機関で、国を守るのは国防機関で、罪の有無を決めるのは司法機関で、法の目を抜ける奴に対処するのは政治家と決められてるんだから、魔術や魔法の出る幕なんて微塵も無い」

 

 感心してるのか呆れてるのか解り難い顔をしているが、とりあえず言葉を続ける。

 

「時臣って言う魔術師辺りなら位高ければ徳高きを要す(ノブレス・オブリージュ)とか言いそうだが、生憎俺は魔術師なんて人種は社会のゴミで人でなしだと思ってるから、そんな言葉なんて糞食らえと思ってる。

 まぁ、将来俺達から桜ちゃんが離れて暮らすなら自衛の為に憶えなきゃいけないだろうけど、俺としては桜ちゃんが俺をボディガードの様に使って魔術なんか憶えずに暮らしてほしいがな。

 

 あ、但し、神霊とか精霊、ついでに言えば神代の魔術師の大半は嫌ってないぞ。

 俺が魔術師を嫌ってる理由は、〔バレなきゃ何しても構わない〕、〔神秘秘匿の前に人命なんて塵未満〕、って考えがあるからだ。

 と言うか、〔そう考えられなきゃ魔術師を名乗れない〕、って今の魔術師連中が誇らしげに語るのもあるけどな。

 因みに神代の魔術師を頭から嫌ってない理由は、単に昔は神秘が溢れてるから、治安維持とか治水工事とか診療機関とかに携わってた人間味の在る魔術師も結構いたらしいからだ

 

 全く…………今の魔術師に全身の垢を煎じて飲ませてやりたいな」

「いえ、流石にそれは気持ち悪いです、ご主人様」

 

 …………乾布摩擦や冷水か温水摩擦で全身隈なく股間の垢も取り、それを布から刮ぎ落として集め、それからそれを特大の焙じ器に移して巨大な火鉢の上で煎じ、仕上げに薬缶の様な急須でバケツの様な湯飲みに立て、最後にそれを飲む。

 …………………………おぅぇっ。

 

「あぁ……うん、すまん。

 俺も今考えたら気分が悪くなってきた」

 

 何故か鮮烈に瞼の裏に映った爽やかな遣り遂げた笑みを浮かべる爺さんを消し去る為、口直しにと言うか目直しに自称良妻狐を見る。

 

 

 

「あ、あの~ご主人様?

 今はその……料理中ですので、その……ムラムラされたのなら今夜にでも…………」

 

 …………普段は押しが強い癖に自分が押されると激弱とか……もしかして狙ってやってるのか?誘ってやってるのか?ヤれってことか?

 ……いや落ち着け…………落ち着け…………落ち着け…………落ち着け俺…………。

 

 ふうぅ、……危なかった。

 ガキじゃあるまいし、大人が一過性の性欲を恋愛感情と一緒にしそうになるとは…………自制心が足りないな。

 今度滝にでも打たれてレベルアップしよう。

 

 

 ……っと、何時までも見詰めた儘益体の思考をしていると誤解させてしまうな。

 ブッ飛び具合に文句を言うなら俺も誤解を招く発言や行動は控えるべきだからな。

 よし、それじゃあとっとと理由を話すとするか。

 

「あぁ、すまんすまん。

 ちょっと全身の垢をを煎じて茶を立てる裸の爺さんを想像して気分が悪くなったから、口直しと言うか目直しに見てただけだ。

 特に変な意味で見てたわけじゃないから気にするな」

「………………」

 

 うん?

 押し黙ってどうしたんだ?

 今回はー…………誤解を招く発言はしてないな。うん。

 

 ……あれ?

 そしたら一体なんで俯いて震えてるんだ?

 サッパリ解らないぞ?

 

 訳が解らず首を捻っていると――――――

 

「ご主人様は一度痛い目に遭えばいいんです。

 間欠泉に吹き飛ばされるとかは、ちょっと可哀想なのでパス。

 じゃあ朝起きたらゴキブリになってる……もキモ過ぎるからパス。

 うん、ご飯を食べる時に毎回口の中に虫が飛び込んできてお腹を下して悶え苦しむ、ぐらいの天罰。

 

 なんかそういうのをご主人様が乙女心を少しでも理解する迄落とし続けたい気分です」

 

――――――少しも洒落にならない雰囲気で恐ろしいことを言われた。

 

「ここは一つ桜ちゃんからも言ってもらわないといけませんね」

 

 そう言うと、何時の間にか完成した料理を鍋やフライパンごと尻尾に乗せていき、最期に食器類を両手に掴むと頬を膨らませながら居間に向かい出した。

 

 …………正直、何を怒っているのかさっぱりだった。

 だが、今はそれより――――――

 

「鍋とかフライパンとか尻尾に乗せるなよ。

 折角綺麗なのに汚れるだろが」

 

――――――桜ちゃんだけじゃなく、俺もちょくちょく世話になってる尻尾に乗ってる鍋三つにフライパン一つを、何とか両手と両腕と胸を使って持つ。

 ……持ち運びは出来るが扉の開け閉めは足を使っても厳しいな。

 

「ったく、分けて運ぶなり頼むなりすればいいだろうに、あんまり横着するなよな?

 それに分けるのも頼むのも面倒なら、探せばキャスター付きの台ぐらい出てくるから、それ使えよな?」

 

 昔の豪勢な生活の影響か知らんが、変な所がいい加減だったり抜けてたりするんだよな。

 全く……良妻狐とか言ってる割に家事スキルがピーキー過ぎるな。

 

「良妻狐とか吹聴するなら一度花嫁修業でもして出直しこい。

 呪術だか神霊魔術だか知らんが、基本も知らんで如何こう出来る程家事は甘くないんだよ。

 

 ……っと、悪い、開けてくれ」

「…………文句というか悪態吐いた直ぐ後に頼めるって、……何気にご主人様って大物ですよね」

「何で日常的な遣り取りで相手の機嫌を伺わなければならないんだよ?

 生憎俺はそんな面倒な日常を過ごす気なんて無いんだよ…………って、おはよう桜ちゃん」

「おはようございます桜ちゃん」

 

 扉の向こうには半分寝てる様だが既に顔と手を洗った桜ちゃんが炬燵に入って待っており、俺達が挨拶をすると――――――

 

「……おはよう」

 

――――――小さな声ながらも何と無く安心した声で挨拶を返してくれた。

 ……爺が死んで始めて寝起きに誰も居ない状況だったけど、恐慌や錯乱状態になってなくて良かった。

 

 自分の軽率さを呪いながらも安堵の溜息を吐き、それから直ぐに自分が鍋やフライパンを抱え持っていたことを思い出し、急いで炬燵の上に置こうとした。

 が、鍋敷きの上でなく直接炬燵の上に置くと熱でテーブルが痛んでしまうので、一旦床に置いてある新聞の上に置こうとしたが――――――

 

「広告紙で……良い?」

 

――――――その前に桜ちゃんが幾つもの四つ折りされた広告紙を此方に見せる。

 

 …………強制したわけでもなく自発的な行動をしてくれたことに、不覚ながら涙が零れそうになる。

 が、鍋やフライパンを持ちっぱなしで泣いてれば桜ちゃんの折角の気遣いを無駄にするので、急いで返事をする。

 

「あ、うん。

 四枚敷いてくれるかな?」

「……解った」

 

 速くはないが淀み無く広告紙を敷いてくれたので、直ぐに抱え持っていた鍋やフライパンを置くことが出来た。

 

「ありがとう桜ちゃん」

「………………ん」

 

 何と無く恥ずかしそうな雰囲気と声を出して返事をする桜ちゃん。

 余りの可愛さに抱き締めたくなったが、変態に成り下がる気は無いので自重した。

 が、同姓だと自重する気が無いのか――――――

 

「きゃーー☆照れてる桜ちゃんってば可っ愛いーーーーー♪

 もう此の儘抱き締めて頬擦りして転げ回りたいくらいに可愛いです!」

 

――――――愛情と欲情の中間の感情に支配された瞳で暴走しだした。

 ……腕だけじゃなくて尻尾でも抱き締められるのって気持ち良さそうだな。夏場は御免だが。

 

 っと、アホなこと考える前に桜ちゃんを助けなければ。

 

「離れろ痴女狐」(脇腹(肋の隙間)を指で突く)

「ひゃうんっ!?」

 

 ……無駄に色っぽい声を上げながら桜ちゃんを放し、更に無駄に色っぽい仕草で自分を抱きながら俺を警戒する様に見るのが腹立たしいが、それを無視するように圧力鍋の蓋を開けて中のご飯をテーブルに並べられた茶碗を取り、順に装いながら言う。

 

「飯の代わりに幼女を貪ろうとするな。女性ストリップ者愛好狐が」

「ちょ!?桜ちゃんの前でなんてこと言うんですか!?」

「本当のコトだろうが。

 女がストリップしてる宴が楽しそうで引き篭もりを止めただろが」

「悪意的に解釈しないでください!

 私はご主人様が性転換でもしない限りは普通に男性が好きです!」

「なら男性ストリップ者愛好狐、何時までも突っ立ってないでおかずを装うなり茶を立てるなりしろ」

 

 装い終わった茶碗を配り、次に矢鱈と油揚げの入った味噌汁をお椀に装いながら言うと、心外だと言わんばかりの顔を赤くしながら捲くし立ててきた。

 

「私が興味を持っている男性の体はご主人様だけです!

 例外はご主人様との赤ちゃんの健康状況くらいです!

 なのに私が誰から構わず男性の裸を見たいと思っているとか心外です!

 乙女心を解ってないどころか傷付け過ぎです!

 あ、でも解ってないから言ってくれる恥ずかしくも嬉しい台詞も好きです♪大好きでえす☆」

「……本音が伝わらないって幸せなことだよな」

 

 哀れみの視線を送りつつ、甘い厚焼き玉子の田楽焼を取り分けながら言う。

 

「生憎とご主人様と激しくぶつかり合い、真実の愛に目覚めた私にそんな強がりは通用しません!

 ご主人様があれから私をどう呼ぶかで悩んでて、お前ともこいつとも言ってないのは既に気付いています!」

「あ、それなら男性ストリップ者愛好狐に決まったから。

 長いから略して男プ(ダンプ)な」

「ふふん。

 生憎と私はご主人様が本気でそんなこと言ってないと解ってるので慌てはしません。

 いつか必ず、[…………愛してる……………………玉藻]、とか何とか言っちゃってくれると確信してますからねー♪」

「起きながら寝言言う特技を修得するならもう少し家事スキルでも研いて、自称良妻狐から自称って枕言葉を取れるようにでも努力してろ。

 後、いい加減冷めるから食べるぞ」

 

 がめ煮も装い終え、席に着きながらそう言った。

 すると唐突に桜ちゃんが俺を見て告げる。

 

「…………誑し」

「……………………………………………………」

 

 

 

 その後、呆然としている俺の傍で何か会話がなされていたが、内容は殆ど耳に入らなかった。

 ただ、[雁夜おじさんは……乙女心を弄ぶ人]、や、[雁夜おじさんは意地っ張り]、等、桜ちゃんの辛辣なツッコミだけが耳に残った。

 

 そしてそれらから暫くの後、傷だらけの心ながらも復活した俺は落ち込んだ儘食事を取っていたが、急に電話が鳴った(子機)。

 誰からかのどんな用件かは何となく予想を付けながら電話に出る。

 すると予想通り、教会からの電話であり、内容も予想通り聖杯戦争が開幕したとのことだった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:遠坂時臣

 

 

 

 遂に聖杯戦争が始まった。

 先程璃正神父より聖杯戦争の開幕の宣告を行った旨を告げられた。

 最後に召喚されたキャスターのマスターだけは早朝になっても届出が無い為、登録の意志無しと判断して開幕を宣言されたようだ。

 

 教会に届出もしないとは外部どころか急造の魔術師どころか、ソレ未満と見て間違いないだろう。

 しかも召喚したのが最弱とされるキャスターであり、支援されるべきマスターが急造の魔術師では私達の陣営の脅威と見る必要もあるまい。

 が、如何に最弱と評されるキャスターと雖も、サーヴァントとして召喚されるならば現代の魔術師よりは上と見て間違いはあるまい。

 

 私は時計塔で研鑽して一角の魔術師となり、更に祖には大師シュバインオーグを頂く遠坂の五代目でもあり、名実共に優れた魔術師だと自負している。

 だが、キャスターのサーヴァントはそんな私を軽く越える存在であり、下手すれば現在確認されていない魔法を修得している者が召喚される可能性すら在ると思っている。

 ならば如何に相手が最弱と評されようとも、魔道の遥か先に立つ者には最低限の敬意を払うべきだろう。

 故に私はキャスターを格下と断じて侮るという様な真似はしない。

 

 寧ろ私より高位の魔術師ならば、私が及びもしない戦略眼と魔術を以ってマスターから切り崩しに掛かるかもしれない。

 工房の支配権を丸ごと奪われるどころか、不用意に接敵すればサーヴァントとのラインを断ち切られる可能性すら在るだろうし、最悪、聖杯戦争の仕組みを完全に理解して大聖杯に干渉する可能性も在るだろう。

 因ってキャスターの動向には細心の注意を払う必要があるだろう。

 特に円蔵山付近への警戒は重点を置いておこう。

 

 

 ……さて、キャスターへの対応は一先ず此れで終えるとして、矢張り現状一番の不確定要素は唯一完全に情報が無い雁夜のサーヴァントか。

 

 璃正神父が言うには霊器盤に辛うじて何者かが召喚されたという反応は在るものの、反応が恐ろしく薄いらしい。

 何でも、[英霊どころか一般人程度の霊格の者が召喚されたか、聖杯戦争のシステムに殆ど組み込まれていないかのどちらかでしょうな。この反応を見る限りは]、とのことだった。

 クラス名すら解らなければマスター登録が出来ないと雁夜に言われたらしいが、[霊器盤を見ればクラス名が無いのも解るだろが]、と、一蹴されたらしい。

 ただ、それでも後日もう一度訊かれた際、〔アウトキャスト〕、と呼べと言われたらしい。

 

 ……字面からすると除け者という意味なのか?

 もし除け者という意味ならば矢張り最弱という部類にすら入らない落ち零れと言う意味か?

 いや……馬鹿正直に名で体を表しているとは思わない方がいいな。

 仮にも御三家の一角からの出場だ。

 

 雁夜自身は血の責任から逃げ出し、剰え再び魔道に舞い戻った恥曝しだが、あそこの老人が張り巡らした謀略のバックアップを受けている可能性が高い以上、決して油断は出来ない。

 下手すればマスターという楔さえ在れば自力で魔力を生成し、マスターからの魔力供給という枷から解き放たれているかもしれない。

 ……考え過ぎな気がしないでもないが、あそこの老人に対してはこれくらい警戒するのが丁度いいだろう。

 

 

 まあ、どれだけ不確定要素が在ろうと、一対一ならば確実に私が召喚したギルガメッシュが勝つと断じれる。

 何しろ、余りに巨大な霊格を召喚する為、霊脈で繋がっている大聖杯から直接魔法陣に魔力が流れ込んで召喚される異常事態が起こる程の存在だ。

 

 はっきり言って余程特殊な…………それこそ特攻型に類する特殊な無形宝具持ちでもない限り、セイバーすら白兵戦で下せると確信している。

 本人も、[喜べ、今の我は天地に我が朋友以外並ぶ者無しと謳われた時とほぼ変わらぬ]、と言っていたのを考えるに、神が溢れていた時代に置いて尚至高と謳われた王と変わらぬ戦闘力を有しているのだろう。

 まあ、ギルガメッシュ叙事詩に幾度も神に祈りを捧げているのを考えれば流石に神霊を相手にするのは厳しいのだろうが、此の地の聖杯は神霊どころか完全な英霊すら召喚出来ぬ以上、神霊と比較する必要はあるまい。

 

 ただ…………単独行動スキル持ちのアーチャーで現界したのは痛い。痛過ぎる。

 はっきり言ってマスターの必要性が無い程に高い単独行動スキルは邪魔としか言えない。

 私自身が使い魔という立場に立つ様に振舞うことで辛うじてラインを切られずにすんでいるが、何時突然切られるか解ったものではない。

 

 しかも対魔力を考えるに、1画ならば令呪にすら抗って行動する可能性が在る。

 つまり2画は残しておく必要が在り、実際に使用可能な令呪は1画のみということになる。

 令呪を温存する為にも、キャスターが市内に監視の目を行き渡らせるのに必要で在ろう時間が経った後に偽りの戦闘を行った後は、中盤……それも当初の予定とは違い終盤間近迄静観するのが得策だろう。

 

 

 さて、聖杯戦争のことは情報が出揃っていない以上はあまり仮定を積み重ねても仕様があるまいし、仮定を積み重ね過ぎれば足元を掬われかねない以上、これ以上考えるのは止めるとするか。

 

 …………ふむ、時間が空いてしまったが、万が一が起こる聖杯戦争中に魔術の研鑽を行うのは余りにリスクが高いな。

 ならば……ここは新たに現れたという第一の魔法使いのことを思索するとしよう。

 

 ……バルトメロイと交流があるだけでなく、我が大師シュバインオーグの教えを受けるという浅からぬ交流が在るそうだが……せめて名前だけでも知りたいところだな。

 一応蒼崎と同じ日本人との情報は解っているが、不可解なことに魔法使いを輩出したと言う家から名乗りが無いが、防備に奔走している最中なのだろうか?

 もしそうならば無事聖杯戦争を勝ち抜いた後、私個人だけでなく遠坂家当主として助力を申し出よう。

 魔道の極地に至った者が思い違いした名誉に眼が眩んだ詰まらぬ集団に討たれるなど、断じて許せるものではないからな。

 

 本来は至った後を考えて挑むべきなのだろうが、至れる可能性が僅かでも眼前に在れば何を差し置いてでも挑むのが魔術師の性であり業である以上、至った後に四苦八苦することもあるだろう。

 ……ああ、だから大師は教えを施したのか。

 その儘ならば在りもしない名声を夢想して酔っている恥知らずに討たれてしまうのを憂い、ある程度そういう恥知らずを撃退出来るだけの力を授けたのだろう。

 

 ……うむ。素晴らしき大師を祖に頂けるとは、私は実に恵まれているな。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:遠坂時臣

 

 

 







  イレギュラーで強化されたサーヴァントンのステータス


  セイバー
・筋力:A ・魔力:A
・耐久:A ・幸運:C
・敏捷:A ・宝具:A++

  ライダー
・筋力:A ・魔力:B
・耐久:A ・幸運:A+
・敏捷:B ・宝具:EX

・対魔力:C
・心眼(偽):A

・王の軍勢:EX
 原作と違い縁が強化(広義に解釈)されている為、宝具持ちで召喚される(当然宝具を保有していない者は宝具を持たない)。



そして真打のギルガメッシュ


【クラス】

・アーチャー


【真名】

・ギルガメッシュ


【パラメーター】

・筋力:A++・魔力:A+
・耐久:A+ ・幸運:EX
・俊敏:A+ ・宝具:EX


【クラススキル】

・対魔力:A
 四次セイバー準拠

・単独行動:EX
 聖杯戦争終了後も単独行動可能。聖杯戦争中はマスター不在でも生前と同等の活動が可能(保有していないスキルの復活等は不可能)。


【スキル】

・黄金率:A
 原作準拠

・カリスマ:A+
 原作準拠

・神性:B(A+)
 原作準拠

・コレクター:EX
 Fate/CCC準拠

・騎乗:A
 四次セイバー準拠

・戦闘続行:A
 五次バーサーカー準拠

・心眼(偽):A
 五次偽アサシン準拠

・勇猛:A+
 五次バーサーカー準拠

・軍略:A+
 多人数戦闘における戦術及び戦略的直感能力
 自他の対国級干渉や、逆に相手の対国級干渉への対処に有利な補正が付く。

・芸術審美:A+
 芸術作品への執着心と看破力。殆どの宝具を見るだけで真名を看破可能。
 Bランク未満の隠蔽も看破出来、Bランクの隠蔽も判定次第では看破可能であり、A+迄の隠蔽及び対象がA+以下ならば少なくない確率で直感的に看破可能。

・千里眼:A++(A+++)
 単純な遠距離視認能力だけでなく、並行世界すらも観測することが可能という、殆ど魔法の域に在るスキル。
 人間が観測したいと思う殆どの事象を観測することが出来るが、本人の気質的に殆ど行使することが無い上、更に観測した事象が気分を害す場合は観測した事自体を認めない為、ランクが低下している。


【宝具】

・王の財宝:E~A++
 原作準拠

・天地乖離す開闢の星:EX
 原作準拠


【詳細】

 雁夜が玉藻の前を聖杯の魔力補助無しで召喚して(降臨させて)しまった為、余った分の魔力が次の召喚に使用されてしまい、英霊に近い状態で召喚されるというイレギュラーが起きる。
 その結果、玉藻の前を除けば全てのサーヴァントをマスター無しで殲滅可能という無双状態となっている。
 しかも基礎パラメーター以外に戦闘スキルもギルガメッシュ叙事詩の伝承に恥じない充実振りの為、普通に接近戦でセイバーに勝利可能となっている。
 更に幸運値がEXの為、Aランクに届かない運命干渉を無条件で遮断し、その上ライダーのゴルディアス・ホイールの雷撃の様な自然型(ランダム型)の攻撃はランクがEXに届かない限りST判定の失敗確率が0.5倍される(失敗確率が100%ならば適応されない)。
 はっきり言ってサーヴァントではなくほぼ英霊状態。
 但し、神霊玉藻の前相手だと圧倒的に分が悪く(勝率が在る段階で破格だが)、天の鎖の性能限界が玉藻の前の限界と同等以上かどうかが全てとも言える。雁夜が参戦していなければだが。

 尚、セイバーの方は冬木から離れており且つ聖杯システムの穴を突く容で召喚されているので余剰分の魔力が殆ど反映されておらず、若干の能力上昇に留まっている。
 対してライダーは冬木市内だった為セイバーよりも過剰魔力の反映があり、可也能力が上昇している。
 そしてアーチャーは冬木市内ということだけでなく、遠坂邸は大聖杯の在る円蔵山に次ぐ霊地の為、召喚の際に殆どの余剰魔力が太い霊脈を通って遠坂邸の魔法陣に流れ込み(霊脈の一部の魔力も流れ込んでいる)、他の二名とは一線を画す能力強化が成されて召喚される(時臣は若干此の辺りを勘違いしている)。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捌続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 俺は時臣を誤解していたみたいだ。

 

 今迄俺は時臣を完璧主義であり、当然の様に完璧に遣り遂げる超人だと思っていた。

 実際今迄遣る事成す事全てムカつくくらい余裕を持って完璧に熟していた。

 そして常に前より上の結果を求め、更にそれを以前と同じ様に乗り越えていた。

 はっきり言って葵さんの幸せを想って身を引くというか逃げ出したのは仕様がないと思えた。

 …………ついさっき迄は。

 

 

「バカですね~、この金ぴかさんのマスター」

 

 超望遠カメラに捉えられた映像を見、楽しそうとも呆れているとも取れる表情と声で感想を呟いた。

 ……俺に向かって言われているわけではないが、自分では届かないと想っていた相手をバカにされると俺もバカにされてるようで泣きたくなる。

 

「アサシンっぽそうな……と言うかほぼアサシンでしょうけど……兎に角アサシンが進入してから迎撃に移る迄が早過ぎです。

 しかもあんな偉そうなのが姿を見せてアサシンを倒すとかまずないです。

 と言うかこんなに宝具を持ってて金ぴか成金の王様っぽくて偉そうなら、十中八九ビルガメシュ……日本じゃギルガメッシュですか? まあ、兎に角ギルガメッシュで決まりですね」

 

 俺も全く同じ意見だ。

 だからこれ以上解ってることを言って、俺の精神も纏めて攻撃するのは止めてほしい。

 

「大方、宝具を大量に見せることで宝具を特定させずに真名も隠した儘脅威と思わせたかったんでしょうけど、神霊を除けばアレだけ節操無く色んなの持ってそうなのは王様だけだって絞れますし、王様だって絞れれば後は消去法で直ぐに解るって気付かなかったんですかね~?

 大体、あんな一方的だと同盟組まれてボコられて直ぐ終るって、性善説を本気で信じている人以外なら幼稚園児でも気付きそうですから、あのサーヴァントのマスターはただのバカか縛りプレイ好きのマゾの二択でしょうね。

 それにアサシンの侵入から迎撃迄の時間が不自然に短い以上、アサシンのマスターとギルガメッシュのマスターが繋がっていると自白してるのと一緒ですよね。

 なら自ずとやられたアサシンは偽者か分体か、若しくは魔術関係で幻惑関係を見せていたかの三つに絞れますし、どれであってもアサシンはまだ退場していないってことですから、油断してるところに暗殺や情報収集に走るってとこでしょう。

 

 ……よくもまぁ此処迄杜撰な計画で多くを望んだものです。

 身の程を知らないバカが無い知恵絞ったってバカを晒すだけだってどうして気付かないんでしょうかね?」

 

 ……もう何かごめんなさい。 

 

「結局真名をバラしただけでなくアサシンのマスターと繋がっていることもバラした上、アサシンの宝具が偽者作成か分体可能か非暗示系幻惑のどれかだろうって情報もバラし、トドメにこれからアサシンが暗躍するって言ってる様なもんですからね。

 しかもコレでアサシンのマスターが監督役の所に逃げ込んだりしたら、もう裏で全員繋がってますって言ってるのと同じですよね。

 

 ……一体全体このおバカさんは何をしたいんでしょうかね?

 頭にプリンでも詰まってるんですかね?」

 

 …………人類の皆さん、平均点下げてごめんなさい。

 

「全く、こんな人類の平均点を下げてる奴がマスターに選ばれるなんて、きっと御三家は魔術回路さえあればマスターになれるとかいう特権が在るんですよ。

 いやですねー、バカが特権を得てるとか。

 本来特権とはご主人様の様……な…………、ど、如何されたんですかご主人様?

 

 な、何だか人生ずっと敗北し続けた人の様ですよ?」

「…………体は普通の生まれである。

 血潮も普通で、心も普通。

 ただの一度も勝利は無く、ただの一度も引き分けすら出来ない。

 小市民は常に一人、場末の酒場で管を巻く。

 故に生涯に意味は無く、その身はただの凡人だった…………」

「ちょ!? ご、ご主人様!?

 なんか私地雷踏みました!?

 それともキャスターからの電波攻撃ですか!?」

「答えは得た。

 大丈夫だよ玉藻。

 俺もこれから頑張っていくから」

「こんな状況で名前で呼ばれるとか最悪です!?

 私の思い描いていた甘酸っぱい夢を返して下さい!」

「さらばだ。

 理想を抱いて溺死しろ」

「ちょっ!?!?ちょっとご主人様!?!?!?」

「ではな玉藻。

 …………いや、中中に愉しかったぞ」

 

 何だか騒いでいる玉藻を無視し、俺は大きく首を逸らして壁に頭を叩き付けた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「え~、何と言うかごめんなさい?」

「いや、謝られると又壁に頭を打ち付け捲りたくなるから謝るな」

 

 何故だか玉藻の言葉が心にグサグサザクザクドスドス突き刺さり捲り、気が付けば若干錯乱してワケ解らないことを言いまくった挙句、壁に何度も頭をぶつけ続け、最後は壁に頭をめり込ませた儘気絶したらしい。

 

「……しっかし、直接俺に言ったわけでもないのに心を切り裂き捲るんだから、相当な腹黒毒舌キャラだよな」

 

 壁の穴に砕け散った欠片を液状化させて(常温で液化してるっぽい)流し込んで綺麗に塞いでいる最中の玉藻に声を掛ける。

 

「いえ、毒舌は百歩譲って認めますけど、腹黒は心外です。

 少なくてもご主人様に対して腹に一物抱えてるとかは一切無いです。

 あ、た・だ・し♪胸に秘めきれない想いは在りますよ?」

「腹から競りあがってるだけだろ?」

「失礼ですねー。

 私のお腹から競り上がるのは、ご主人様とグチョニチョな夜を過ごした後の悪阻だけですっ」

 

 無駄に可愛げの有る表情と仕草が腹立たしかったが、とりあえず無視して忠告というか警告することにした。

 

「末期の時迄夢で終わりそうな妄想は兎も角、お前の毒舌は周りの心も抉り捲るから、なるべく控えてくれ。

 少なくても桜ちゃんの前では控えろ。

 特に中学上がる迄は悪影響が強過ぎるから、マジで控えろ。

 まあ……俺的には中学どころか高校入っても言ってほしくないが、あんまり過保護にするのも問題あるから、その辺で譲歩してやる」

「……ご主人様って何気に破壊力の有る言葉を気付かずにポンポン言いますよね」

「うん?

 別にお前と違って心を抉り貫く様な発言も、周りに飛び火する様な破壊力の有る発言なんてしてないだろ?」

「いえ、気付かないなら気付かないで別に構いませんから。

 気付かれてしまえば、雑な言葉を浴びせる中、然り気無く炸裂させる破壊力の有る言葉が無くなってしまいますからね。

 

 ご主人様の破壊力の有る言葉や仕草や行動は、私の傷付いた心を限界突破させて回復させるご褒美ですから、止めてもらうわけにいきません」

「いや、破壊力の有る言葉や行動がご褒美とか、お前どんだけ変態なんだよ?

 流石に俺は嗜虐や言葉責めの趣味嗜好は持ち合わせていないから、お前の倒錯した趣味嗜好には付き合うつもりは無いぞ?

 そういうのがしたかったから、北海道のすすきののクラブにでも行ってくれ。マジで。

 

 駆け出しの頃に取材に行ったっきり二度と関わってないからまだやってるか判らんが、コアなファンが大量にいたっぽいからまだやってるはずだぞ。

 だからどうか俺や桜ちゃんにその類の性癖を感染させるなよ?」

 

 幾ら多くの文化に触れてるからといっても、SやMの倒錯した趣味嗜好に巻き込まれるのは許容範囲外だ。

 と言うか、悪態吐いてるからといって言葉責めもOKで、チョップを嗜虐嗜好とか思われてるとしたら、心外にも程があるぞ。

 

「ご主人様ー、すっごく失礼ですよー。

 イライラしてムカムカするくらい」

 

 寒気を感じる紫紺のオーラを全身から発され、言外に、[はよ謝らんかい、ワレ?]、と言われてしまい、急いで謝ることにする。

 

「す、すまん。

 そうだよな、少数派(マイノリティ)だからって頭から否定するのは良くないよな。

 うん、本当にすまなかった。

 

 マイノリティが周囲の視線から逃れたり合わせようとしてる様に、俺達はマイノリティを理解しなきゃいけないよな。

 たとえ相容れないとしても相互理解を深めれば互いに納得出来る妥協点を見つけ出せて、暴走や迫害の可能性を消して幸せに暮らせるもんな。

 

 ……うん。

 玉藻、俺はお前の趣味嗜好が一般から大きく逸脱していて後ろ指を指された挙句陰口どころかあからさまな誹謗中傷を受けて社会のゴミ扱いされて誰も眼すら合わせてくれなくなっても、俺は頭からお前を否定するなんてしないからな?」

「(本気で言ってるからムカつきますけど、冗談で言ってたら真昼間に裸で女子高の屋上にでも転移させてますね。今の台詞は)……ご主人様、私の性癖は至って普通です。恋する可愛い女の子なら誰でも持ってる程度のモノです。

 いいですかご主人様?女の子は好きな人にはちょっとくらい強引や乱暴にされたいものなんです。リードされたいものなんです」

「お前は美女だが、可愛い女の子とは断じて認めん。

 全国の美少女代表の桜ちゃんに謝れ。土下座して謝れ。〔調子乗っててすみませんでした。年齢や外見や服装や雰囲気とか鯖読み捲りました〕、って謝れ。

 

 後、一度普通という言葉の意味を広辞苑で調べてみろ。

 どれだけ普通という言葉を冒涜しているか思い知れ」

 

 桜ちゃんを冒涜する様なこと言った上、普通をこよなく愛する凡人の俺の前で普通って言葉を冒涜するとか、どれだけ地雷を突く真似をすれば気が済むんだか。

 ったく、呆れと疲れの混じった溜息が零れてしまったな。

 

 駄目だ駄目だ。こんなんじゃただでさえ遠い幸せが余計遠退いてしまう。

 と、思った次の瞬間、凄まじい勢いで玉藻が顔を近付けてきて捲くし立て始めた。

 

「ご、ご主人様!

 ワンモア!ワンモアプリーズ!

 

 後で幾らでも桜ちゃんに謝りますし広辞苑を読破ぐらいしますから、もう一度、[お前は美女]、って言って下さい!眼を見て言って下さい!」

「っっっぅぅぅ!?!?!?」

 

 やってしまったよっ!

 つい考え無しに言ってしまったっ!!

 

「き、聞き間違えだ!」

「いえ、私のフォックスイヤーは確り聞き取りました!

 断じて聞き間違いではありません!」

「なら俺の言い間違いだ!!」

「それもありません!

 ご主人様は言い間違えたなら直ぐに気付きますし、溜息を吐く迄の間についさっきのことを回想していた筈ですから、気付くならその段階で間違い無く気付いてます!

 つまりさっきの発言はご主人様が何気なく漏らす程私がご主人様の心の深い所に居るってことですよね?ですよね?そうですよね?

 

 や、やりました!

 今度は文句無しの正攻法でご主人様に美女って言わせました!

 これは最早玉藻ルートに入ったと見て間違いありません!!」

「間違いあるわボケ!

 お前のルートなんて俺が桜ちゃんの力になろうと聖杯戦争に参加した時点で消えてるんだよ!」

「なら何時ルート分移点が復活するんですか!?」

「い、言う必要なんて無いだろ!!?」

「つまり無いと断言しないってことは、ルート分岐点は復活するってことなんですよね!?」

「うあああああああああああああ!?

 なんたるうっかりいいいいいいいいいいいいいい!!」

「うっかりってことは肯定ですね!?肯定ですね!?!?確かに聞きましたよ!?!?!?」

「馬ぁ鹿かっ俺はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 

 

 その後、日が昇り始めた頃に一定音量を遮断する結界で健やかに寝ていた桜ちゃんが起き、無理矢理話を終わらせた。

 が、桜ちゃんが、[……今夜は確り寝る]、と言ったのを聞き、確り会話を聞かれていたと知り、俺は恥ずかしさの余り燃え尽きた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:ウェイバー・ベルベット

 

 

 

 征服王イスカンダル。又の名をアレキサンダー大王、若しくはアレクサンドロス3世。

 紀元前334年に東方遠征を開始し、破竹の勢いで各地を席捲するものの、33歳という若さで死去する(一説にはマラリアで死んだとされてるらしいが果てし無く疑わしい)。

 

 当時のマケドニア人達にとって世界とされていた全てを支配したアレキサンダー大王は、死後アラビアやペルシアでイスカンダルの名で知れ渡り、イスラムでは英雄伝説として語られる程になった。

 更にイスラム教によって東アジアに広がっただけでは収まらず、ギリシア文化を受け継いだイスラムやヨーロッパだけでなく、断片的にだがエチオピアや中国にも広がっている。

 しかも情報化社会と言われる今日では、識字率と就学率の高い日本では世界史の授業で一度くらいは聞かされるだろう程の偉人であり、知名度的にも世界屈指と言え、大王を冠するに相応しいと言える。

 

 実際召喚されたイスカンダル(何でアラビア読みでの名前の方を使うのかは解らないが)は、ライダーのクラスなのにセイバーと言った方が良いパラメーターであり、クラスという枷を嵌められ…………癪だが魔術師の基本性能自体は一流とは程遠い僕が召喚して弱体化しているだろうにも拘らず、コレだけのパラメーターなのを考えれば、こいつが大王と呼ばれた英雄なのも納得がいく。

 詳しくは解らないが、多分コイツのパラメーター的に並のサーヴァント2~3騎分の霊格は有るだろう。

 ただ、伝承と大幅に食い違う人となりが激しく気になる。

 

 ざっと憶えただけだからあまり詳しくは知らないが、軍人らしかったり統率に優れてたり勇敢だったり気前が良かったり品が良かったり運が良かったりしただけで憎んで、逆に特に目立つモノが無い将軍を寵愛していたとか、滅茶苦茶器が小さそうな伝承が残っているんだけど、多分こいつはでっかい器の底が全部抜けてる馬鹿だ。

 下手したら針金でいい加減に象った器かもしれない。

 いや、器どころかただのフラフープに違いない。

 底が抜けてたり作り忘れたんじゃなくて、初めから底とかそんなモノが無い別物なんだ。

 だから馬鹿が極まっているんだ。

 そうでなければサーヴァント2騎に正面から喧嘩吹っ掛ける筈が無い。

 

 しかも相手はライダーとパラメーターがどっこいどっこいで最優と言われると首を傾げるが、最優と言われるセイバーと、最速と言われるランサーなんだ。

 おまけにこいつは出会い頭に真名をバラしてくれやがったから、隠せた筈の真名も相手に確りバレてしまってる。

 ……ちくしょう。今思い返せば家の中でパンツも穿かずに隠さない馬鹿が、なんで真名を律儀に隠すなんて思ってたんだ僕は。

 

 大体コイツの当てにならない伝承に、夜襲とかして勝利を盗まないとかいうのがあるのに、何で僕は忘れてたんだ?

 おかげでもう少しで決着が付いたのに、何をとち狂ったのか乱入した挙句真名を晒して勧誘しやがった。

 しかも総スカンされたのに、更に何をとち狂ったのか、[ふむ、セイバーが傷付いたところに入ったから勝利を盗み取る匹夫と思われたか? いいだろう。ならば二人して余に掛かってくるがいい。そして余の偉大さを知るがいい]、って言いやがりやがった!

 先生に脅された時に庇ってくれたり勇者って言ってくれて、……少しだけだけど良い奴だって思ったけど、こいつは良い奴以上に馬鹿なんだって気付いた。

 

 当然矢鱈と気位の高そうなセイバーは激怒し、ランサーも侮辱されたと顔を顰めながら参戦しやがった。

 騎士道的に2対1はどうなんだと叫びたかったが、喧嘩売った挙句挑発したのはあの馬鹿である以上、こっちが文句を言うのは筋違いだって解るのが余計腹が立つ。

 唯一の救いは、巻き添え食ったと思われてるっぽい僕目掛けて襲い掛ってこなかったことだけだった。

 

 

 だけど、殆ど自分の未来を諦めかけていた僕の眼に映ったのは、驚くことにライダーがセイバーとランサーと言う接近戦のスペシャリストを同時に相手にして互角……いや、寧ろ僅かに押している光景だった。

 

 …………押しているのは大いに良いことだけど、幾らセイバーが手負いとはいえ、ランサーと同時に相手取った上で優勢なんて変だと思い、もう一度あの馬鹿のステータスを見てみた。

 

 

 

・・・・・・―――――― ステータス・始 ――――――・・・・・・

 

 

【クラス名】

 

・ライダー

 

 

【真名】

 

・イスカンダル(アレキサンダー、又はアレクサンドロス3世)

 

 

【パラメーター】

 

・筋力:A ・魔力:B

・耐久:A ・幸運:A+

・俊敏:B ・宝具:EX

 

 

【クラススキル】

 

・対魔力:C

・騎乗:A+

 

 

【スキル】

 

・神性:C

・軍略:B

・心眼(偽):A

・カリスマ:A

 

 

【宝具】

 

・遥かなる蹂躙制覇:A+

 

・秘密だ!:EXだ!凄かろう!?

 

 

 

【詳細】

 

 詳しく知りたかったら訊くがいい!

 

 

 

・・・・・・―――――― ステータス・終 ――――――・・・・・・

 

 

 

 何時の間にか心眼(偽)ってのが追加されてる!?

 しかもランクAって!?

 

「おいライダー!

 何だこのスキル!?

 最初見た時は無かったぞ!?」

「がははははははは!

 どうだ驚いたか!?」

 

 そう笑いながらあの馬鹿は僕の居る荷台へと大きく後ろに飛び退って着地しやがった。

 

「いやなに、折角騎乗兵として召喚されたのだから騎乗兵として戦う為にも封印しておこうと思ったのだ!

 所謂縛りプレイと言うヤツだ!」

「知るか馬鹿!

 僕の心配を返せ!」

「心配してくれたのは嬉しいが、坊主、お前はもう少し自分が召喚した余を信頼しろ」

「う、うっさい馬鹿!

 信頼してほしけりゃマスターに隠し事なんてすんなよな!」

 

 こんな馬鹿を心配してしまって恥ずかしくて顔を逸らしたかったが、そうしてしまって隠し事されたことを許したと思われるのは御免だから、精一杯睨みつけた。

 けど、こいつはそんな僕の視線を無視してセイバー達に向き直り、何でこんな所で浮かべるのか解らない子供っぽい笑みを浮かべて言った。

 

「さて、コレで余が勝利を盗み取るような真似をしたという疑いは晴れたであろう。

 

 で、もう一度訊くが、ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲らんか?

 さすれば余は貴様等を朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる」

 

 さっきより凄い自信を漲らせて問い掛ける馬鹿。

 だけど当然結果は――――――

 

「征服王イスカンダル、お前の武練は確かに見事だ。賞賛に値する。

 これ程の武練と気概をを見せ付けられたならば、勝利を盗み取るような輩とは思わぬし、先の発言がただの侮辱ではないと認めよう。

 

 だが、侮辱でないからといって私の答えは変わらない。

 先程も言ったが私はブリテン国を預かる身だ。

 如何な大王と謂えど臣下に下るわけにはいかぬ」

「俺もだライダー。

 

 俺とセイバーの二人掛りで尚互角に渡り合ったお前の武練に俺は惜しみない賞賛を送ろう。

 自らの疑いを晴らす為に不利な状況に身を投じた気概にも好感を覚える。

 

 だがな、生憎と俺が今生にて新たに主と誓って仰いだのはお前ではない。

 俺は新たな主の名誉の為にも、この聖杯戦争で全てのサーヴァントを葬り、主に聖杯を捧げると誓ったのだ。

 悪いが何れその首を取らせてもらうぞ、ライダー」

 

――――――前よりちょっと雰囲気が和らいだだけで、結局駄目だった。

 

「どーすんだよ!?結局駄目だったじゃないか!?

 物は試しで真名をバラした挙句、お前の戦闘力も晒しただけで大損じゃないか!?」

「まぁ、余が匹夫という疑いは晴れたからいいではないか?」

「いいわけあるか馬鹿ッ!

 お前自分のパラメーターだけじゃなくて騎乗してない時の強さも知られたんだぞ!?

 知られてなきゃ油断してる隙に倒せたかもしれないだろが!?」

「この戯けがッ!」

「ふべらッ!?」

 

 ひ、額がッ!額が割れるッ!

 

 でこピンされて焼ける様に痛む額を押さえて悶えていると声を浴びせられた。

 

「油断している奴を倒して何が面白いのだ!

 大体な、これ程胸の熱くなる者がいると解ったならば、尋常に1対1で勝負を決めるのが礼儀というものであろうが?」

「な、何言ってるんですかこの馬鹿はッ!?

 倒せる時に倒さなくてどうするんだよ!?

 

 大体騙まし討ちが得意なサーヴァント――――――」

「おお。そうであったそうであった!」

「――――――だって…………って、解ってくれたかライダー!?」

 

 やった!

 初めてこの馬鹿の手綱を握れたぞ!!

 

 少しはマスターらしく成れたと思って喜んだけど――――――

 

「おいこら!闇に紛れて覗き見してる連中よ!」

「は?

 な、何言ってんだライダー?」

「坊主、余達がセイバーとランサーの清澄な剣戟に惹かれて出てきたが、まさか見ていたのが余達だけということはあるまい?」

「なっ!」

 

――――――手綱を握れたわけでもなければ、覗き見されていたことにすら気付いてなかったと思い知らされた。

 

 そして落ち込む僕を無視してこいつはどんどん話しを進めだす。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。

 なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」

 

 両腕を広げて力一杯夜空へ向けて宣言しやがった馬鹿に言いたい文句は山程あるけど、それ以上にサーヴァントが現れて場がこれ以上混沌化しないことを心から祈った。

 全力で祈った。

 何に祈ってるのかは自分でも解らないけど、とにかく全力で祈った。

 

 

 …………だけど祈りは届かなかった。

 

「我を差し置いて王を称する不埒者が、一世に二匹も涌くとはな」

 

 多分神様や世界は僕が嫌いなんだ。

 そうなんだ。

 

 頭を掻きながら困った様な顔をする馬鹿を全力で睨んだ。

 視線に力一杯、[困りたいのは僕の方だッ!]、て籠めながら。

 だけど当然この馬鹿を気にせずに独り言の様に言い返した。

 

「難癖を付けられた所でなあ……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」

「たわけ。真の王たる英雄とは天上天下に我ただ独り。

 あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 ライダーも大概だけど、今言ってるアーチャーも大概横暴だな。

 

 相手のステータスとかを見忘れてたから声がした方に視線をやって、……色んなコトをを全力で後悔した。

 

「逃げるぞライダー!全力で!!」

「こらこら、どうしたと言うのだ?」

 

 何で平然としてられるんだよ!?

 いや、サーヴァントは相手のパラメーターを見れないから仕方ないかもしれないけど、だったらなんであそこのセイバーのマスターは平然としてるんだよ!?

 

 胸に涌き上がる疑問を問い質したかったが、それよりも一刻も早くライダーを納得させてこの場から離れるためにパッと読み取れた内容を言った。

 

「あのサーヴァント!パラメーターが最低でもA+だ!」

「ほう!?」「「「なっ!?」」」

 

 ほぼ同時に四人全員驚きやがった。

 って言うか何でセイバーのマスターまで驚いてんだ?

 あいつを見てたならパラメーターなんて解ってただろうに。

 いや、今はそんな疑問より、とっとと此処から逃げないと!

 

「驚いてる暇があったらさっさと逃げるぞ!

 このままじゃ的にされちまうぞ!?」

「まあ落ち着け。

 いくらあいつが偉そうだからとて、王を名乗るならば不意打ちなどせん。

 

 そうであろう?」

 

 僕の頭に手を置いてそう言い、それからアーチャーに声を掛けた。

 

「無論だ。

 王たる我が何故貴様ら雑種の不意を突かねばならん?」

 

 ゴミを見る様な……いや、実際ゴミとして見てるんだろうな、あの眼は。

 ライダーのそばに居るから恐ろしい視線に僕も晒されるけど、癪なことにさっき頭に手を置かれてから冷静になった僕は何とか耐えられた。

 尤も、耐えるばかりで会話なんてとても出来ないが、こいつは僕と違って臆せずに会話をしだした。

 

「お前さん、そこまで余達を下に見るならまずは名乗りを上げたらどうだ?

 貴様も王たる者ならば、まさか己の異名を憚りはすまい?」

「問いを投げるか。雑種風情が。王たるこの俺に向けて!!」

 

 爆発的に膨れ上がる怒気。

 アーチャー自身の強大さもあって、怒気が物理的に僕を押した様にすら感じた。

 

 そして怒気だけに留まらず、アーチャーの背後がアサシンを倒した時の様に揺らいだ瞬間――――――

 

「ょっと待てぇっ!?!?!?」

 

――――――サーヴァントっぽくない……どう見ても現代人が、変な体勢と凄く焦燥した顔で転移して現れた。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:ウェイバー・ベルベット

 

 

 







 ライダーの心眼(偽):Aは秘密にしていたのではなく、純粋に書き忘れていただけです。
 ただ、次話でバレることだからと、意表を突こうと思い、修正を放置していただけです。

 一応本編内で表記したパラメーターは見直していますが、後書のパラメーターの見直しは甘く、結構書き忘れがあったりし、ちょくちょく手直ししていたりします。
 ですので、本編に表記されたパラメーターは兎も角、後書に表記されたパラメーターは可也いい加減なものと思って下さい。

 ただ、感想にて、〔玉藻のパラメーターは全てEX表記で構わないのでは?〕、と言う旨の物が在りましたので、そういう感想が多数寄せられればEXと表記を改めます(そもそもA++++を見かけないのは単純にそこからはEXな気がしないでもないですし、信仰補正がされることを考えれば妥当かもしれませんし)。
 が、それ以外に関しては基本的に本文で表記されたパラメーターは絶対です(マスターが代わったり泥に呑まれたりしなければ)。
 後で追加する場合は初めから文字化けで表示したりしますので、後付感は極力排除します(スキルなら、???:?、という感じです(コレも後付臭いですが))。
 まあ、パラメーターなんて所詮遊びの要素ですので、そんな所に張り巡らせる伏線なんて遊びの要素程度ですので御安心下さい。


 それでは最後に、此処迄御読み下さった読者様に、深く感謝を申し上げます。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

玖続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 遣り過ぎたと思っている。

 但し反省していない。

 後悔もしていない。

 だけど爺さんに会った時何を言われるのかが只管怖かった。

 何せ那須に続いて又やらかしてしまったんだから。

 

 前回は酔っ払っていた上に魔術の才能が塵な俺が魔法を使っただけだったから、那須の山一帯が神殿化するだけで済んだ。

 だが今回は酔っていないし、魔術というか呪術や神霊魔術の超エキスパートが居る。しかも時間もたっぷり使った。

 結果、冬木一帯が神殿化した。

 一応途中から遣り過ぎだと思って玉藻に偽装させたが、完成した時には洒落にならない状態に成っていた。

 

 何せ冬木の魔術師の工房を無条件で此方から操作出来るだけでなく、大聖杯が次回の聖杯戦争の為に溜め込む魔力を横取り出来たり、果ては大聖杯に流れ込む魔力を全部横取り出来たりと、爺さんにバレたら多分城の中の大魔王と戦わされるくらいの状態に成ってしまった。

 と言うか、冬木市で死んだ存在は全て此処の燃料に出来るのだから、普通に聖堂教会からも何かされる可能性が極大だ。

 

 おまけに間桐邸の一部を歪めて那須の山に繋げ、この前俺が調子に乗って強引に霊脈と龍脈を直結させた為溢れ出る莫大なマナを間桐邸に流し込んで玉藻が徹底的に間桐邸を浄化した為、正真正銘神殿と言える程の清浄さと神聖さが満ち溢れていた。

 当然周囲に充溢するマナも恐ろしいレベルの濃度であり、掻き集めて放てば波動砲の如く辺りを消し飛ばせるだろうし、恐ろしいことに掻き集めたマナを冬木の何処ででも間欠泉の様に放出可能なのだ。

 しかも登録されている対象には肉体を最高の状態にし続け且つ異物を排斥する効果が有り(自分が害と思っていなければ対象外になる)、魔力を消耗すれば即座に体に負担を掛けないギリギリの速度で補給がなされる。

 更に間桐邸も登録されている為、霊脈に打ち込まれた術式の核を破壊されない限りは消滅しても直ぐに復元される。勿論罠込みで。

 おまけに登録されていない奴が踏み込むと、人間が溶鉱炉に飛び込む様に即死するし、サーヴァントであってもA+以上の耐久や宝具を有していないと3分で死ぬらしい。

 その上間桐邸はA+未満の干渉を尽くを無効化し、大規模破壊を齎すならばEXは必須らしい。

 トドメに間桐邸ならば玉藻は本体の戦闘力を分霊という容を用いて存分に揮うことが可能だ。

 

 つまり間桐邸に居る俺達は1ターンごとにエリクサーと万能薬が使われている状態で、対して侵入者はラスボス級未満は3分以内に衰弱死し、冬木ならば陣を築いても乗っ取られる上に何処にでも間欠泉の如く波動砲を噴出させられ、間桐邸は破壊されても5秒以内に罠毎復元し、術式の核諸共消す為には大陸を破壊する程のエネルギーをピンポイントで核目掛けて放たねばならず、しかも其処に立ち塞がるのは太陽の化身と謳われ且つ無限宇宙の全一とも謳われる天照=大日如来の力を間桐邸限定とは言え完全に揮える玉藻が居り、玉藻を無視して冬木を荒らしてマナを減らそうとしても那須の山直下の龍脈からの供給なので意味が無く、那須の山には玉藻が護衛として数万の軍勢を自然に溶け込ませているのでサーヴァントでも瞬殺されてしまう上、仮に那須を陥落させても玉藻自体がサーヴァントどころか英霊を歯牙にもかけない存在の為ほぼ無駄。

 ……何処の無敵城砦だよ、間桐邸は。

 しかも性質の悪い事に、あくまで間桐邸は那須の山から動力源を引いただけなので、いざとなれば俺達と術式を那須の山に移して其処を本拠地とするのに1秒も必要としない為、ヤバイと思えば転移した挙句間桐邸に満ちる魔力を炸裂させて忍法微塵隠れが可能だ。

 

 

 ……正直、もう聖杯戦争が終わる迄間桐邸からは出ず、必要な物資はどこでもドアの様にドアを潜ればこの前建てた那須の邸宅に行けるのだから、那須ですればいい気がしてきた。

 もっと言えば桜ちゃんも遭いたくない人達が居る冬木じゃなくて、遭う可能性がまず無い那須で学校に通ったりすればいい気がしてきた。

 実際、いざという時は間桐邸を捨てた上で冬木を離れることになると桜ちゃんに言ったが、少しも躊躇せずに構わないと言ってたし。

 

 いや、でも、〔一度逃げ出した落伍者が聖杯戦争の為に舞い戻って参戦したのに、何故引き篭もり続けているのか確認された際に爺が死んだのがバレて、桜ちゃんが遠坂に再び戻らされたた挙句に何処かの魔術師の家に再び養子に出されない為〕、と言う問題を力尽くで解決したら、魔術協会や聖堂教会から刺客が送られて桜ちゃんが外を歩けなくなる。

 まあ、冬木市内限定の何処でも波動砲と魂横取りの機能は一応直ぐにでも消せるらしいから、聖杯戦争が終わったら直ぐに消す予定だし、サーヴァントなんていう高性能殺戮兵器を街で放し飼い状態にしているのを認めている聖杯戦争中なら物騒な仕掛けをしていても文句は言わせない。少なくても実際に使用する迄は。

 と言うか、そもそもこの冬木市の状態に気付けるのはラスボス級以上だけらしいし、実際に効果を理解するのは裏ボス級は必要らしい。何しろ玉藻ですら単独なら効果の全容は解らないらしいし。

 ……俺の日曜大工魔法と玉藻の異常出力の呪術と神霊魔術で、玉藻も単独で再現不可能な代物が何故か出来上がってしまったからな。

 

 で、結局どうするべきか……。

 正直、迎撃に出ても篭城した場合と然して変わらない気がするんだよな。

 何せ参戦するのは英霊じゃなくて純神霊の玉藻。おまけにマスターは第一の魔法使いの俺。

 

 多分玉藻がサーヴァントじゃなく、完全な神霊なのは一発でバレる。

 玉藻が自分は聖杯の機能限界を越えてる上に繋がりは俺を介さないとないから、他のマスターが見てもほぼ確実にサーヴァントと認識されないと言っていたが、玉藻に相対した時点一発で人外だってバレる。

 慣れてしまってるけど、玉藻の霊格の高さから発せられる存在感は洒落にならない。

 はっき言って召喚当初だと爺が張ってた結界を突き抜けて存在感が漏れていた可能性すら在る。

 と言うか、近くで平然としている桜ちゃんは普通に凄いらしい。

 

 何でも、神の傍に半端な者が近寄ると、それだけで存在の圧力に当てられて死ぬらしい。

 少なくても玉藻の傍に居るには、魔術師ならら一流の基本性能がないと耐えられないらしい(一流でも危険らしいが)。

 逆に耐えられれば傍に居る間は破格の恩恵が得られるらしい(食べても太らず且つ美容が最高レベルで維持され、更に長期間居るとその体質に変化していくのがウリと言っていた)。

 当然そんな存在が現れれば魔術師共が気付かないわけがない。

 仮に魔術師が気付かなくてもサーヴァントが確実に気付く。

 蟻が人間の大きさを理解出来ずとも、猫ならば人間の大きさを理解出来るのと同じ理屈だ。

 

 よって玉藻が参戦すると確実に神霊だとバレる。

 しかも下手すれば召喚ではなく降臨してるのもバレ、冬木に仕掛けたトンでも機能に関係無く魔術協会と聖堂協会から付け狙われるのがほぼ確定している。ついでに魔法使いも居るし。

 ……なんか玉藻と俺が居る時点で何しても魔術協会と聖堂教会に付け狙われる気がしないでもない。

 おまけに聖杯戦争に参加した時点でバレようがバレまいが行き着く結果が一緒な気しかしない。

 いや、令呪を破棄すればいけるか?……厳しいだろうな。

 

 …………あれ?

 なんかどう足掻いても爺のコトがバレて、桜ちゃんと時臣が対面してしまう気がするぞ。

 って言うか同じことばかり考えてる気がする。と言うか実際そうだ。

 一体どれだけ同じこと考えれば気が済むんだってくらい同じこと考えてたな。

 いや………………うん、いい加減認めよう。

 わざと結論を先延ばしにしていたんだと。

 

 

 ……桜ちゃんと時臣の接触の可能性を受け入れない限り、どう足掻いても裏から大注目を浴びてしまう。

 そして桜ちゃんが時臣と接触した場合、ほぼ確実に桜ちゃんは遠坂に戻されることになる。

 何故だか懐いている玉藻を除けば、今の桜ちゃんはテレビで人間を見るのも厭がる程に他者との接触を拒んでいる(最初の頃は人間とすら認識してなくて平気だったみたいなのを考えれば、寧ろプラスな気もするが)。

 そして時臣は桜ちゃん的には地獄に叩き落した張本人であり、再び他所の地獄に叩き落すであろう人物である(葵さんと凜ちゃんは自分を見捨てた人達みたいだ)。

 当然対面して正気を維持出来る可能性は殆ど無い。

 普通ならそれを言えばいいだけだが、面倒なことにそうなった原因は間桐の魔術に原因がある。

 

 桜ちゃんが今の状態になってしまった原因は間桐の魔術であり、それを継ごうとしなかった俺であり、間桐の魔術を碌に知りもしなかった時臣であり、傍目に見ても間桐の原因が比率的に大きい。

 更に間桐の当主の爺を俺が殺して以降誰も当主を継いでいないので現在間桐は当主不在であり、当主継承最有力候補は桜ちゃんだが、桜ちゃんは辛うじて魔術回路の切替が出来るだけでとても魔術師とは言えない。と言うよりも魔術を使えないと言った方がいい。

 その上一応継承権がある俺だが、俺は魔術は全て暴発させるという珍妙な特殊技能持ちの為、当然まともな魔術を使えない。

 そして俺達以外に間桐の血筋で継承権が有るのは居ない。

 兄貴は継承権を放棄したしどれだけ頼んでも二度と間桐の魔術に関わろうとしないだろうし、魔術の腕前も多分少しだけ蟲を扱えるだけで俺と大差無い筈だし、その息子は家を出たとか言う以前に魔術回路が無い。

 

 当然、誰が継いだところで没落すると思うのが普通だ。

 なら魔術師と成るべく桜ちゃんを間桐に突き落とした時臣が、魔術師と成ることなく普通の一般人に桜ちゃんがなるのを見過ごす筈は無い。

 仮に桜ちゃんが嫌がっても過去の親権を発動させるだろうし、俺が間桐を継いで現在桜ちゃんの親権を持つ者として抗議しても、魔術師として必須の記憶改竄の魔術すら俺は使えないので(時臣はほぼ確実に俺を試す)、俺が家を継いだとまず認めない。

 となると桜ちゃんの親権は自動的に肉親の時臣に戻り、俺がどれだけ吼えても桜ちゃんは遠坂に戻されてしまい、何れ別の魔術師の家に引き渡されるだろう。

 無論、引き渡された先がある程度一般常識を持った魔術師の家系の可能性も在るが、間桐よりも碌で無い可能性も在る以上、俺はそれを認められない。

 少なくても前の様な正気の状態に戻った桜ちゃんが自分からそれを願わない限り、俺は絶対に認めない。

 ならばそういう未来を回避する為には、力尽くか、可能な限り平和的に解決するかの何方かしかない。

 

 力尽くの解決を選ぶならば、最悪魔術協会と聖堂教会を敵に回した挙句、裏の奴らを山程呼び寄せる可能性が高い。

 無論玉藻が協力してくれるならば一先ず桜ちゃんは安全だろうが、少なくてもまともに外を歩くことは出来なくなるだろう。

 対して平和的解決を選ぶならば、少なくても俺が魔法使いだとバラさなければならず、その場合も裏から少なからず付け狙われるが、力尽くで解決する場合に比べて危険度は大幅に下がる。

 幸い魔術が下手でも人間ロケットランチャーの様に一芸特化で納得させることも出来るし、記憶操作も魔法を使えば代用可能だ。

 

 だが、若し魔法使いとバラして間桐を継ぐのを認められた場合、少なくても俺は桜ちゃんに魔術を教える義務が発生してしまう。

 少なくてもそうしないと時臣が、虐待していた家系に連なる義理の叔父である俺より肉親の自分の元に帰るべきだと訴えかねない。表の裁判所に。

 そしてそうなれば俺はまず負ける。

 重要参考人の桜ちゃんが法廷で碌に発言出来ないであろう以上、それはほぼ確実だ。

 

 故に俺が桜ちゃんを時臣に渡さない為には、一生俺達の元に囲って過ごさせるか、俺が魔術を教えることで時臣の干渉を撥ね退けるかの何方かになる。

 一応裏技として玉藻主導で幻想種の溢れる裏側に行くというのもあるが、俺は特別な体らしいので平気らしいが、完全に生身の桜ちゃんでは向こうに行った瞬間肉体が消滅し、自力で自分をイメージして自身を形成しなければ死ぬらしいので却下(成功しても幻想主や精霊の仲間入りらしいのでどのみち却下)。

 他には爺さんに頼んで何処かの世界に飛ばしてもらう案だが、仮に爺さんが頼みを受け入れても、異世界に渡った後に魔法使いの俺(場合によって魔術師)と最高位神霊の玉藻が果てし無く悪目立ちするし、悪目立ちしない文化レベルだと逆に桜ちゃんを不便にさせてしまって申し訳ないので、この案は最終手段。

 

 つまり桜ちゃんにある程度全うな人生を歩んでもらおうと思うならば、結局は桜ちゃんに時臣と相対してもらわないと始まらないということだ。 

 一応時臣を殺害乃至意思疎通不可能状態にするという解決策も在るが、それだと葵さんと凜ちゃんが不幸になるので俺は極力採りたくないし、その場合俺が魔術協会から追われて桜ちゃんも巻き込んでしまうので余り意味が無い(桜ちゃんが時臣さえ居なければ遠坂に帰りたいと言うなら一考の余地は在るけど)。

 

 

 要するに、桜ちゃんに又我慢してもらわないといけないということか。

 ………………………………はあぁーーーーー……。

 

 滅茶苦茶気が重い。

 微塵もやる気が涌かない。

 果てし無く気が進まない。

 正直投げ出して成るように任せたいけど……………………やらないわけにはいかない。

 大して在りもしない見栄と意地だけど、精一杯力に成ってやりたいと思った女の子の前でくらい虚勢を張ろう。

そして虚勢に見合うだけの結果を出して見せよう。

 

 …………よしっ!男は度胸だ!

 決めたのなら直ぐにやった方が良いなな。

 後に回すと結局俺は理由を付けてやらないからな。

 

 

 さて、そうと決まればいい加減風呂から上がるか。

 

 軽く顔に汗を掻いていたので風呂の湯を掬って顔に掛け…………桜ちゃんだけじゃなくてあいつも入っていた湯を顔に掛けたのが気恥ずかしかったので、煩悩を沈める為にも水を頭から浴びて風呂から出た。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 風呂から上がった俺は早速行動に移した。

 

 玉藻の膝の上で尻尾に包まれ、名作アニメ(多分フランダースの犬)を見ながら後は寝るだけだった桜ちゃんに、とっても大事な話があると告げた。

 すると桜ちゃんはLDを止めてテレビを消し、少し不安な表情ながらも俺に向き合ってくれた。

 対して玉藻は席を外した方が良いのかどうか解らず困った表情をしていたが、桜ちゃんが構わないと言うなら桜ちゃんの尊厳に関わる所を暈す以外は話すべきだろうと思い、とりあえず視線でその場に留まってもらった。

 そして俺は桜ちゃんに玉藻に桜ちゃんの事情を話して構わないか尋ねることにした。

 

「桜ちゃん、先ず初めに謝らせてもらう。

 俺が馬鹿で臆病で力が足りないから、三度も桜ちゃんに選択を迫らなきゃいけなくなった。

 だけど前言ったように、選択したくなければ選択しなくても構わない。逃げたって怒らないし文句は言わない。

 だって桜ちゃんはまだ小さい子供なんだだから」

「…………」

 

 少しだけ安心した様に桜ちゃんの雰囲気が和らいだが、これからそれを消し飛ばすことを言わなきゃいけないかと思うと逃げ出したくなる。

 が、此処で逃げ出すと桜ちゃんに全く示しがつかないし、二度と桜ちゃんに安心感を与えられないと思い、逃げ出そうとする思いを封殺しながら話を続けることにした。

 

「だけど、勝手な言い草だけど、桜ちゃんが逃げたら俺は勝手に桜ちゃんの道を決める。

 そして俺が勝手に決める道は多分、今の桜ちゃんにとって一番辛い道だと思う。

 だから、逃げるなら自分でその辛い道を選んでほしい。

 その方が辛い道でも頑張っていけると思うから」

「……………………」

 

 不安な眼でなく警戒した眼で見られるのが非常に心苦しい。

 だけど警戒は解けなくても少しは不安を消せるだろうと思い、落とし所を提示することにする。

 

「勿論桜ちゃんにとって辛い選択だけじゃなくて、今の儘暮らせる選択も有る。

 そして桜ちゃんがどの選択を選ぼうと……考えた末に選んだのなら、俺はそれを否定しない。文句も言わない。

 桜ちゃんが自分で自分の道を決めたのなら、俺は全力で力を貸させてもらう」

「……ん」

 

 不安は余り消えなかった様だが、何故か警戒が消えていたのが気になったが、それに構わず続ける。

 

「そして桜ちゃんが選ぶ道次第では玉藻の協力が必要なんだ。

 だから協力を頼む玉藻に桜ちゃんの事情を説明していいかな?

 勿論桜ちゃんが言いたくないだろう所は極力隠す。詳しく言う必要も無いからね。

 

 だから……話しても構わないかな?」

「うん」

「って、速っ!?」

 

 即答と言っていい程の速さに驚いてしまい、つい驚きの声を出てしまった。

 

「えっ、な、何で!?

 いや、[うん]、って言ってくれるのは嬉しいんだけど、何でそんなにアッサリ!?」

「………………秘密。

 女同士の……秘密」

 

 玉藻を見上げながらそう言う桜ちゃん。

 そして見上げられたあいつは桜ちゃんに笑顔を返し、それから俺に悪戯が成功して楽しそうと言わんばかりの笑みを浮かべながら言ってくる。

 

「ご主人様?

 良い女には秘密の一つや二つは在るものなんですよ?

 そして知らなきゃ困る秘密じゃないですし、不実を隠す秘密でもないんですから、あんまり詮索するのは野暮ってものです。

 

 ねえ~、桜ちゃん♪」

「……ん」

 

 …………疎外感バリバリで寂しくて泣きそうになった。

 

 あんまり黙っていたりこの話を続けると本当に涙が出そうなので、若干無視する形で話を進めることにした。

 

「そ、それじゃあ玉藻への説明も兼ねながら、桜ちゃんに選択を迫ることになった事情を説明するね」

 

 和んだ雰囲気が一瞬にして引き締まり、直ぐに静かに俺の話を聞く体制に戻ってくれた。

 

 

 

 そして、俺は風呂場で纏めた考えを述べていった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 思ったよりも早く考えを言い終えれた。

 

 矢張り桜ちゃんが聡く、理解しているかどうかを逐一確認する必要が無いのが要因だろう。

 ついでに玉藻も真面目な時は黙って聞くし、桜ちゃんと同様に聡いから1回で理解してくれた。

 

 そして何方も話を理解してくれたと判断した俺は、改めて桜ちゃんに問い掛けた。

 

「桜ちゃん、今言ったけど、今俺達は岐路に立っている。

 そしてその岐路は桜ちゃんが時臣と会って話をするかどうかという岐路だ。

 勿論俺や玉藻の行動でも大きく分岐することになるだろうけど、その場合も桜ちゃんが時臣と会うか合わないかという分岐が待っている」

「…………」

 

 不安や警戒というより、ただ単純に硬いと言う様な表情で聞く桜ちゃんを見、予想よりも遥かに落ち着いているのを不思議に思ったが、玉藻が優しく桜ちゃんを抱き締めていたからなのだと気付き、内心で感謝しながら話を続ける。

 

「桜ちゃんが今時臣に会うくらいなら、この後ずっと間桐邸に篭ってても構わないと思うなら、それが間違いだと俺は思わない。

 だって、何がどれだけ厭かは、結局みんなバラバラなんだから。

 

 黒い色が好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 寒いのが好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 寂しいのを何とも思わない人もいれば、嫌いな人もいる。

 騒がしさを何とも思わない人もいれば、好きな人もいる。

 細く長い人生を望む人もいれば、太く短い人生を望む人もいる。

 結果が同じでも納得する為に行動する人もいれば、次の為に休んで行動しない人もいる。

 厭なことを一気に済ませようとする人もいれば、厭なことは小出しに済ませようとする人もいる」

 

 ゆっくりと、桜ちゃんだけでなく、俺自身にも言い聞かせるように言っていく。

 

 …………たとえ桜ちゃんの選ぶ選択が俺にとって好ましくない類でも、桜ちゃんが考えた末に出した答えなら、それに俺が文句を言うのは筋違いだ。

 桜ちゃんが日陰者の生活になるのが承服できないなら、その選択を仮に桜ちゃんがしても、何時の日か陽の下を歩けれるように道を残しておけばいいだけの話だ。

 そしてその為に腐心するのが保護者である俺の役目だ。

 

 緊張してはいるが追い詰められたような焦燥感が大分取れた桜ちゃんを見、告げる。

 

「だから、桜ちゃんは遠慮せずに自分の意見を言ってくれて構わない。

 時臣と会って話を付けるのか?

 それとも間桐邸でのんびり暮らすのか?

 若しくはそれ以外の俺の考えも付かなかった選択か?

 

 どの選択でも構わないから、答えを聞かせてほしい」

 

 そう言って言葉を切り、威圧しない様に気を遣いつつ桜ちゃんを見た。

 

 当然直ぐに答えが返ってくるなんて思っていないので、10分でも1時間でも待つつもりだ。

 だが、唐突に今迄黙っていた玉藻が俺に質問してきた。

 

「あのー、ご主人様?

 ちょっと疑問点が晴れなかったので訊いてもいいですか?」

 

 桜ちゃんがストレスで思考の袋小路に追い詰められない様に気を遣ったのだろう、可也軽めの声で玉藻が尋ねてきた。

 なので俺もそれに乗って軽めの感じで声を返す。

 

「何だ?」

「はい、若し、桜ちゃんが時臣っていう人と会うとして、ご主人様が魔法使いなのをバラした上で間桐の当主になって桜ちゃんを奪い返されないようにする場合、私は何するんですか?」

「ああ、すまん。言い忘れてた。

 その場合は俺が令呪を放棄するから、聖杯に力を少し流した後は聖杯戦争が終わる迄は隠れててもらう。

 聖杯戦争後は隠れなくてもいいけど、可能な限り神霊だとバレない様に偽装してほしいとは思ってる。

 

 と、こんな感じで考えてるが……聖杯への回収を偽装させることは出来るか?

 出来なければ聖杯戦争が終わる迄冬木から離れていてもらうが、それだと聖杯戦争が終わった後でも霊器盤で察知される可能性があるから那須に本拠地を移すことも視野に入れなきゃならんが」

「ああ大丈夫です大丈夫です。

 それくらいなら毛の一本をサーヴァントに偽装して聖杯に送れば済みますし、消耗は此処に居れば直ぐに快復しますから全然問題無しです。

 ただ…………」

 

 疑問に答えたことで他に何か気になることが生まれたのか、中途半端に言葉を切る玉藻。

 だが、玉藻も桜ちゃんと同じく当事者であるのだから、疑問には極力答えるのが当然だと思い、質問を促すことにした。

 

「疑問や質問が在るならどんどん言ってくれ。お前も当事者なんだから」

「いえ、疑問や質問じゃなくて提案なんですけど、いいですか?」

「それこそ言ってくれ。

 他の意見を封殺できる程俺の頭は良くないからな」

「では遠慮無く」

 

 そう言うと玉藻は一度膝の上の桜ちゃんの顔を覗き込んだ。

 そして桜ちゃんが玉藻の視線に気付き、何なのかと可愛らしく小首をを傾げた。

 だが、玉藻はそれに綺麗な微笑を返すだけで何も言わず、直ぐに桜ちゃんから視線を切り、改めて俺を見ながら言ってきた。

 

「桜ちゃんへの選択自体に異議は無いんですけど、……………………桜ちゃんを勇気付ける為にも、ご主人様が勇姿を示すてのはどうですか?」

「…………は?」

「いえ、傍目から見ても桜ちゃんが時臣って人と会おうとしているのは解りますけど、桜ちゃんとしては単純に時臣って人に会うのだけじゃなくて、最悪の場合ご主人様が時臣って人に殺されてしまうかもしれないのが怖いと思うんですよ」

 

 確かにその通りだ。

 桜ちゃんとしては俺の強さがどれくらいか今一解らないだろうから、自分が時臣と会った為に俺が死んでしまうかもしれないと思うと余計に怖いのだろう。

 

 ……桜ちゃんの立場に立って考えきれてなかったな。

 そして実際、玉藻が言う通りなんだろう。

 玉藻に言われて桜ちゃんに視線を移したら、非常に申し訳なさそうに顔を伏せられたのだから。

 

 自分の至らなさに腹が立つものの、今桜ちゃんを安心させる為の方法を言おうとしている玉藻の言葉に耳を傾けることにする。

 

「で、ですね、私が一番良いと思う解決案は、ご主人様が時臣って人のサーヴァントを倒すことだと思うんですよ」

「…………」

「桜ちゃんもサーヴァントが時臣って人じゃ全然適わないくらい凄いってのは解ってますから、もしご主人様がサーヴァントに負けても追い詰められれば、桜ちゃんは時臣って人と向き合っても安心出来ますよね?」

「………………………………サーヴァントが居ないなら…………」

 

 ポツリと呟かれた言葉が、桜ちゃんの精一杯の我儘でもあり、助けを求める声に聞こえた。

 

「ならば此処は頼り甲斐が在るところを示す為にも、ご主人様には時臣って人のサーヴァント……多分アーチャーと戦うってのはどうでしょうか?」

「………………」

 

 はっきり言って勝てるとは思えない。

 良くて手傷を負わせるくらいだと思う。

 寧ろ逃亡も出来ずに死んでしまう可能性も在るだろう。

 まあ、俺が死んでも玉藻がいるから桜ちゃんが又地獄に落とされるということはないだろうが、穏やかな生活を送ることはほぼ不可能になるだろう。

 

 普通に考えれば桜ちゃんに我慢してもらうか、自力で勇気を振り絞ってもらうべきなんだろう。

 だけど…………桜ちゃんに俺が頼りないから死ぬかもしれないっていう恐怖を克服させるのは、何か違う気がする。

 少なくても保護者が頼りないのが原因なら、保護者は頼り甲斐が在るところを示すべきだと思う。

 

 大体、楽に頼り甲斐を見せようというのが甘い考えなんだ。

 しかも短期間で頼り甲斐が在るというのを示すなら、それが危険なことになるのは当然だ。

 ならば俺は桜ちゃんの保護者だと時臣に言い切る為にも、桜ちゃんに頼られるくらいの存在になろう。

 

 期待と不安と申し訳無さが混在した雰囲気で俺を見てる桜ちゃんに笑顔を見せながら答える。

 

「解った。

 ここは時臣が何かしても大丈夫なくらい強いって証明してやる。

 倒せるかは解らないけど、サーヴァント相手に戦えるってことくらいは証明してやる」

 

 多分、爺さんの修行なんか比較にならない破目に遭うだろうし、死ぬかもしれない。

 だけど、桜ちゃんが俺に勇気を振り絞る為に精一杯の助けを求めたんだ。

 俺が危険な目に遇うと解っていて尚、我儘を……初めて我儘を言ってくれたんだ。

 ここでそれに応えられなきゃ、男も大人も保護者も名乗れない。

 

 見せ場をくれた玉藻に目で礼を言うと、玉藻は満面の笑顔で話を締めくくりだした。

 

「それじゃあ方針はご主人様が時臣って人のサーヴァントと戦い、その後で時臣って人が文句を言うなら桜ちゃんも交えて話し合うって方針で決まりですね。

 

 はい! それじゃあ重い話はこれくらいで終りにしましょう♪」

 

 そう言って場の雰囲気をあっと言う間に払拭する玉藻。

 正直俺もいい加減重い話は終わらせたいが、何時時臣のサーヴァントと戦うのか決めていないので待ったを掛ける。

 

「いや、ちょいと待て。

 まだ時臣のサーヴァント……アーチャーと何時戦うのか決めてないぞ?」

「ふえ?

 そんなのサーヴァントが出て来た時に喧嘩を吹っ掛けるんじゃないんですか?

 

 聞いた限りじゃ時臣って野郎はご主人様を見下し捲ってるみたいですから、昼だろうが夜だろうがご主人様がそいつのところに出向いて、〔サーヴァントと戦わせろ〕、って言っても相手にしてもらえずに追い返されるか、時臣って野郎に頭が残念なのが絡んで来てるって教会に連絡されるのがオチだと思いますよ?」

「た、確かに」

「しかもなるべく早い方が良いと思いますね。

 あんまり遅いと漁夫の利を奪いに来たと思われて難癖付けられかねませんし」

「……そうだな。

 だけど、あの偉そうなのが序盤から出てくるとは思えないけどな」

「あ、それなら多分大丈夫そうです。

 ほら」

 

 そう言うと玉藻は虚空に映像を映し出した。

 

 映し出された光景は倉庫街であり、何故かサーヴァントが3騎……いや、可也遠くにアサシンが居るから4騎……いや、今5騎になったところだった。

 

 どういう過程でこうなったのかは非常に気になるが、今は玉藻の方が滅茶苦茶気になるので、過程のことは一先ず措いといて玉藻に尋ねる。

 

「まさか、此の混沌の中に行けと?」

 

 虚空に映る映像を指差す俺。

 対して玉藻は何故か凄い自信を漲らせながら言ってきた。

 

「はい♪

 あ、大丈夫です。ギャラリーが邪魔したら消し飛ばしますし、いざという時はキチンと回収しますから、安心して行って下さい」

 

 瞳が俺のカッコ好いところを見れるという、邪気の混じらない純粋な期待で溢れかえっているのが直ぐに解った。 

 そしてそれに続く様に――――――

 

「雁夜おじさん……頑張って。

 だけど……死なないで」

 

――――――桜ちゃんから激励を貰い、[後日改めて]、とは言えなくなった。

 

「……解ったよ。

 やってやるよ」

「はい♪

 それでは乗り遅れると拙いんで、行ってらっしゃいませご主人様」

「え!?

 準備もしたいから、ち――――――」

 

 事前に作って置けば役に立つモノとかがあるんだから、せめてそれくらい創っていこうかと思ったんだが、場が荒れれば割り込めなくなると思った玉藻が、俺を無視して即座に転移させた。

 

「――――――ょっと待てぇっ!?!?!?」

 

 ……言葉の途中で俺は倉庫街に転移させられた。

 靴も履いて無い状態で。

 いや、寝巻きで無いだけまだマシだが。

 だけど、此の場に居る全ての奴から降り注がれる視線は洒落にならない。

 

 ぶっちゃけ直ぐに逃げ出したい。

 逃げ出したいが…………転移する寸前、不安だけど物凄く期待した桜ちゃんと、声の割に不安が混じった……だけど根拠が無いと叫びたい程の信頼を湛えた笑顔で送り出した玉藻を思い出し、心を決める。

 

 

 軽く深呼吸をして二人の顔を思い出しただけで驚く程に落ち着いた俺は、時臣のサーヴァントに体を向けて仰ぎ見、誰かが口を開くより先に声を張り上げた。

 

「俺はアウトキャストのマスターにして第一の魔法使い!間桐家現当主!間桐雁夜!

 遠坂時臣のサーヴァント・アーチャーに勝負を申し込む!!!」

 

 

 







  雁夜おじさんのパラメーターの幸運が明かされました。


・幸運:EX(スキル名、【幸運:EX】含む)
 常識を超えた幸運。
 作為性を確信してしまうレベルの悪運や幸運を引き込むが、大抵代償を確り自分で払う破目になる。
 なので基本的に常時碌でも無い事態に陥り続けることになる。が、矢張り最悪になる前に異常な悪運や幸運を呼び込んで回避する。
 そして大抵はその負債を払う為に又不幸に陥り続ける破目になる。
 総合的に見ると間違い無く圧倒的に運は良いが、主観的にも客観的にも然してそうは思えない状態が続く。寧ろ不幸を呼び寄せているように思われかねない。
 尚、雁夜が幸運の対価を自分で支払う原因は、雁夜自身が、[コレだけの幸運が起きたなら何かしらの帳尻合わせが来る筈]、と思っていることに由来している。
 つまり、結局は雁夜が望んで碌でも無い事態を呼び込んでいるのであり、雁夜が自身の幸運を素直に受け入れられれば順風満帆な生活を謳歌出来る。
 因みに此のSSのギルガメッシュの様に運命干渉の類の無効化能力も当然持ち合わせている。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 名乗りを上げて勝負を申し込んだ直後、凄まじい怒気が籠められた視線が向けられた。

 はっきり言って城の中の大魔王や玉藻の存在感に慣れていなかったら腰を抜かしていたかもしれない。

 が、兎も角俺は向けられた凄まじい視線を怯むことなく見返すことが出来た。

 特に睨みはしなかったが、卑屈さだけは視線に宿らせずに見返し続けた。

 

 そしてその儘十数秒が経過した頃、品定めは終わったのか声が掛けられる。

 

「勘違いした馬鹿が乗り込んだのかと思ったが、どうやらそこの雑種達程度の武は有しているようだな。珍種よ」

 

 凄まじく傲慢な発言に聞こえるが、実際そう発言出来る程の存在だと解る為、特に怒りは涌いてこなかった。

 特に言い返さずに続きを待っていると、アーチャーは見下すとも試しているとも取れる眼で問い質してきた。

 

「時に珍種よ。まさか我を知らぬままに挑むなどという大言を吐いてはいまいな?」

 

 疑問系で言っているにも拘らず、知らぬという発言を決して許さんという思いが言外に籠められていると容易く解る雰囲気を纏った儘言ってきた。

 

 当然俺はあいつの真名は予想が付いている。

 付いているが――――――

 

「人の成果を掠め取られるのは嫌いなんで、英雄王と呼ばせてもらう」

 

――――――あえて真名は言わなかった。

 が、あいつは俺の発言が気に入ったのか、豪く威圧感の在る笑みを浮かべながら言う。

 

「ほう? 知らぬと言うわけではなさそうだな。

 そしてその英雄王という響きは気に入った。

 

 いいだろう。少し話をしてやろう」

 

 そう言ってあいつは尊大な態度で俺を見、何故自分に挑むか話せと顎で杓って促した。

 

「……詳しく話すと少し長いぞ?」

「構わん。言うがいい」

「解った。

 

 少し前、俺が前当主……いや、実質当主を殺した為傀儡当主が失踪し、間桐は名実共に当主を欠いた状態になった。

 その時間桐の後継権利を有す者は、俺と養子として出された子の2人しか居なかった。

 

 順当に考えれば後継者となるべく養子として迎え入れられた子が当主を継ぐべきだが、その子は碌に魔術を使えなかった。多分魔術回路の切り替えが限界という程度だ。

 そして俺は一度間桐から逃げ出した落伍者だ。

 何方が継いでも養子を出した家の奴……時臣は黙っていない。

 普通に考えれば養子に出した子をいけしゃあしゃあと連れ戻し、別の魔術師の家に放り捨てるだろう」

 

 そこまで言った時、頭上から制止と疑問の声が掛かる。

 

「待て。お前は何時至ったのだ?」

 

 話している最中に、話す必要があるのかと今更脳裏を過ぎったが、臍を曲げられて、[我に挑むならばそこらの雑種を片付けてからにしろ]、と言われると堪らないので話すことにする。

 

「魔術から背を向けていた時だ。

 ついでに言うと自滅を絶対前提にして魔力を異常励起させて吸血鬼と心中したら、気付けば至っていた。

 そして此の身体はその際に不完全ながら同化している最中に再構築したモノだ」

 

 どうせ爺さんが言うには埋葬機関で魔術のスペシャリスト(教義的に罰当たりと思うが)辺りが見たらバレるらしいし、直感で気付くだろう赤いロケットランチャーが言い触らす可能性も十分在る為、特に今更デメリットを気にするようなことじゃないから、サラッと言うことにした。 

 そして俺の言葉を聞いたギルガメッシュは一瞬眼を丸くした後、片手で顔を覆いながら笑い出した。

 

「くっくくくくく……あっはははははははははっ!

 まさかこの我が初見で看破しきれんとは何時振りだ!?

 しかも宝物の類でなく生きている者で看破しきれなかった者など、我が朋友以来ではないか!」

 

 心底愉快そうに片手で顔を覆いながら夜空を仰ぎつつ笑うギルガメッシュ。

 ……街路灯の上でアレだけバランスの悪い格好で笑えるバランス感覚は普通に凄いと思う。

 と、俺が変な方向での感心をしていると、唐突にギルガメッシュは街路灯から跳躍し、俺の前に着地した。

 

 何と無く掴んだ人格と、今迄の会話の流れ的に攻撃されるということはないだろうと思い、自分でも驚く程警戒せずに接近を許す。

 

「喜べ珍種……いや、単一種。

 王たる我がお前の価値を認め、わざわざ見定めるべく高き所より降り立ったのだ。

 泣いて喜ぶがいい」

「生憎と俺は未だ勝負を挑んでいるんだ。

 自分を安売りして時臣に舐められるわけにはいかない」

「はっ。王たる俺の賛辞を受け取らぬとは不敬だが、まあいい。

 

 ふむ……一見すると唯一つの希少を掘り当てただけの存在に見えるが…………なるほど、お前の身体は……いや、お前という存在は唯一つの希少を使うことに特化した存在ということか。

 ふっ。これでは魔法を使うことに関しては我の時代でも並ぶ者はいまいが、代わりに魔術は碌に使えまい?」

「正解だ。

 俺はあらゆる魔術を暴発させてしまい、暗示すら魔法で代用しなければ使えない、魔術師と呼べるかどうかすら怪しい存在だ。

 俺が使えると言える様な魔術は、対象を術式毎破壊か崩壊させることだけで、特攻魔術とか揶揄されている。

 そして魔力操作等の能力は俺の特性の付随品に過ぎないらしい」

 

 ギルガメッシュ自身が魔術を使えるかは解らないが、魔導元帥と呼ばれるバルトメロイですら俺の身体を弄くって漸く解ったことをアッサリ看破するとは、矢張り矢鱈と宝物を集め捲った神代の王様の目は伊達じゃないってことか。

 

「なるほど。良いぞ。俄然お前に興味が涌いてきた。

 そら、話が逸れていたので再び話しを続けろ。

 少なくても凡俗な話は飛び出してくることはなかろうから、暇潰しにはなるだろう」

「生憎と何処にでも在る有り触れた話だから、暇潰しにもならんと思うから期待しないことを進める」

「構わん。それを決めるのは我だ。

 それに我は、幸福を謳歌している奴よりも幸福を求めたり苦難に喘ぐ奴の生き様を愛でるのが娯楽なのだ。

 お前からは我を楽しませそうな匂いが立ち上っているぞ?」

「凄い感覚恐れ入る。

 

 ……話を戻すが、俺は養子として出された子を連れ戻させる気は無い。

 なぜなら俺は魔術師なんて人種は塵だと思っているからだ。

 厳密には神秘に目が眩んで人の営みをゴミと断じ、更には神秘を秘匿する為に人命をゴミにも劣る扱いをし、その上根源の渦とやらに至る為に全てを賭してその機会を掴むとか吹聴する癖に自刃して至れる可能性から目を逸らすという、卑怯者の人でなしが嫌いなだけだ。

 

 至りたいなら自分で至れ!

 力不足で至れない癖に、勝手な理屈で望んですらいない我が子に押し付けるな!

 しかも他人に押し付けさせるな!

 況してや押し付けさせる他人の魔術を知りもしないで放り捨てるな!!

 何より!捨てた者を身勝手な自論だけで無理矢理拾おうとするのは認めない!!!

 

 

 髪の色は変わり果て、表情どころか目から生気が抜け落ち、積極性どころか自発性すら殆ど失われ、人間扱いどころか魔術師としてすら扱われず、ただ、爺を受け入れる器になるべく生きた人形になるよう扱われ、嘗ての面影が顔や体付き程度にしか残っていなかったのを見た時、せめてその子が望む道を歩む為、全力で力に成りたいと思った。

 そしてその為には時臣に連れ戻させるわけにはいかないんだ」

 

 興奮して桜ちゃんの事情を殆ど話してしまったのが桜ちゃんに申し訳ないが、此処を時臣が見聞きしていると思うと自制しきれなかった。

 そして途中からギルガメッシュではなく、ギルガメッシュの向こう側に居る時臣へと言葉を叩きつけていた。

 

 凄まじく内容を端折った上に感情的に話してしまったが、ギルガメッシュは然して気にした素振りも見せずに問い質してきた。

 

「つまりお前はその養子を守る為に我に戦いを挑んだというのか?

 我が時臣の従者としてその養子を拾い直すの防ぐ為に挑むというのか?」

 

 不安を掻き立てる怒気を発し、言外に時臣の従者と見做しているのかと問われるが、俺はそれに臆することなく答えた。

 

「まさか。

 どう考えてもお前はそんなことに手を貸しはしない。

 貸すとしても時臣に褒美をやろうとする時に申し出られた時くらいだろう。

 況してやお前が従者だなんてタチの悪い冗談だ

 

 どう時臣を買い被った挙句お前を侮っても、お前が時臣の下に就くとは思えない。

 お前は誰かの下に降るくらいなら、王の矜持を汚さぬ為に戦死するのを選ぶ類だ。

 況してや令呪をひけらかしてマスターなどと吹聴したら、次の瞬間には時臣の首は落ちてる筈だ。

 しかもお前は1画くらいなら令呪を跳ね除けるだろうし、お前の手の内には令呪を中和や肩代わりさせる様な物も在る筈だから、尚更時臣の下に就くわけがない」

「ほう?我を見る目と我が宝物に対する見識といい、そこの雑種共より遥かに見所があるな」

 

 自分をある程度理解された上で高く評価されて機嫌が良いのか、若干威圧感が減った笑みを浮かべるギルガメッシュ。

 だけど、玉藻と一緒にアサシンがやられるのを見ていた俺としてはツッコミを入れずにはいられない台詞だった為、我慢しきれずツッコミを入れる。

 

「いや、自作自演のアサシン撃退を見てたら、そこそこの教育を受けた奴なら真名はほぼ確実に解るし、宝具の定義をある程度理解していればそこから宝具の概要も楽に検討が付く筈だ。

 寧ろ解らん方が馬鹿だ。

 

 均整の取れた容貌、王者を体現した威容、絶対者としての言動、無数の財宝、にも拘らず神霊ではない。

 これだけヒントが在って解らなければ、そいつらは歴史を碌に学んでいない奴か、物事を関連付けて考えることの出来ない無能だ」

「はははははっ。その通りだ。全く以ってその通りだ!

 我が面貌がたとえ後世に伝わっておらずとも、あれだけ我を示すモノを拝見させたのだ。

 物を知らぬ幼子でもなければ、我だと解らぬ輩は正しく蒙昧なのだ。

 

 ふむ。お前との会話が存外に愉快な為又脇道に逸れたな。

 で、結局お前は何故我に挑む?」

 

 その問いを聞き、俺の期待に応える為に遇いたくもない時臣に遭おうと勇気を振り絞ろうとし、だけどそれが出来ずに俺に我儘だと思って遠慮しながらも助けを求めてくれた、申し訳無さと不安と期待が混じった目の桜ちゃんと、一抹の不安を抱いているだろうに俺の為に危険な見せ場を作り、自分と俺の不安を消し飛ばす信頼を湛えた笑みを浮かべる玉藻の二人が脳裏に浮かんだ。

 そしてその脳裏に浮かんだ二人に後押しされる様に言葉が口を衝いて出る。

 

「精一杯の勇気を振り絞って時臣と対峙しようとしても、俺が不甲斐無いから自分が時臣と遇った為に俺が討たれるという未来を考えて踏み出せないその子を、ほんの少しでも安心させる為。

 そして俺には勿体無さ過ぎる信頼を湛えて送り出してくれたあの笑みに応える為。

 ……それだけだ」

 

 多分、この先これ以上桜ちゃんの力になれる時は来ない。

 今回の件を乗り越えたなら、後は桜ちゃん自身が覚束無いながらも自分で歩き出す。

 そしてその時俺が出来ることは少しばかり魔力の扱いを教えたり生活援助をするくらいが限界だ。

 逆に乗り越えられられなければ、最悪桜ちゃんはずっと引き篭もった儘で、一生時臣の影に怯えて生きていくことになってしまう。

 そんなのは嫌だ。認められない。我慢ならない。承服出来ない。

 

 それに玉藻のあの無上の信頼に応えれないのも嫌だ。

 俺を見る目が変わり、今の生活が崩れるのが嫌だ。

 短い間だけど、既に俺にとって今のあいつとの遣り取りは日常の一部なんだ。 

 平凡だけど何より得難い平和な日常なんだ。

 それを失うのが堪らなく怖い。

 

 結局、嫌なことと怖いことを晴らす為に戦うだけ。

 逃げ出した方が状況悪化するから戦うだけ。

 ……勇敢とは程遠いと厭になる程に自覚出来るけど、目的を果たせるなら他人に何と言われようと構わないし、俺の自己評価がどれだけ下がろうとも構わない。

 

 

 俺が改めて自分の心を見据え、そして受け入れるだけの時間を黙って俺を見ていたギルガメッシュだったが、俺の心が決まったのを見計らったのか唐突に告げる。

 

「余りにも平凡で在り来たりで愚かしい理由だな。

 まさかこの我に挑む理由が、幼子の不安を取り除くことと信頼に応えることとはな。

 念の為訊いておくが、正気か?」

「多分、とっくに狂ってるだろうな。

 誰かの為…………いや、自分の矜持でなく感情を理由にして自分の命を使うなんて正気じゃない。

 どんな美辞麗句を並べ立てたところで、自分を他者より低くするなんて狂行以外の何ものでもない」

「解っているではないか。

 で、にも拘らず我に挑むというのか?」

「当然だ。

 狂っているからといって止める理由は何処にも無い」

「ふむ……」

 

 俺の返事にギルガメッシュは暫し考え込む様に沈黙した。

 

 そして何かしらの考えに至ったのか不敵な顔をし――――――

 

「喜べ。我に挑むという大言壮語を吐くに値するかか否か、我自らが試してやろう」

 

――――――背後に10もの刃物の先端を現し、釣瓶打ちしてきた。

 が、瞬時に魔力で身体能力をそこのセイバーの倍以上にした俺は、圧倒的な身体能力に任せて全て素手で払い、傷一つ負う事無く捌ききってみせた。

 

 展開されてしまえば初動無しで撃ち出される魔弾は近距離では対処が困難だが、10くらいの音速前後の釣瓶打ちなら、爺さんの多重次元屈折の同時攻撃の嵐(軽く100回は手足や腹が消し飛んで死に掛けた)に比べればまだ余裕を持って対処可能な為、慌てず冷静に対処しきれた。

 そして表情に焦りすら見せずに捌ききった俺に満足したのか、ギルガメッシュは今迄に無い獰猛な笑みを浮かべながら声を上げる。

 

「人でありながら神々にすら劣らぬ身に成れる可能性を秘める者よ。

 平凡で取り立てる程の動機も無いが、そこまでの力を持ちながらもあらゆる欲の誘いを振り切って純粋にそう(●●)在り続ける様は、正しく人を超越しようとする者に相応しい。

 

 我に挑むという理由が副次的な理由であるのが気に入らぬが、いいだろう。認めよう。

 お前は我に勝負を挑むに足る相手だ。

 存分に己を示し、我を示させてみせるがいい」

 

 そう言うと背を向けて距離を取ろうとするギルガメッシュ。

 だが――――――

 

「あー……ちょいと待ってくれんかのぉ?」

 

――――――恐らくライダーと思われる奴が待ったを掛けた。

 

 ……はっきり言って水を注された容になった俺は頗る機嫌が悪く、胡乱且つ棘を含み捲った視線を向けた。

 対してギルガメッシュは背後に20もの武器の先端を覗かせながら怒りに満ちた声を叩きつける。

 

「何だ雑種?

 下らん用で水を注したというなら、即座に死に処すぞ?」

 

 常人なら精神崩壊かショック死かしそうな怒気を叩きつけられる雑種ライダー(仮)だったが、気にした様子も無く戦車から飛び降り、此方に近付きながら話し出す。

 

「なに、一つはそこの雁夜というマスターのサーヴァントが何処に居るのかということだ。

 姿が見えぬし聞き覚えの無い名のクラス名の上、余の呼びかけにも応じなかった臆病者だ。

 己が身可愛さにどんな――――――」

「最後の令呪を持って命じる」

「――――――横槍を……む?」

 

 悪い奴じゃなさそうだが、愉快でないその口上を封じる為、迷い無く令呪の刻まれた腕を掲げながら最後の令呪を使用する。

 

「英雄王との勝負が終わる迄、一切の援護を禁止する。

 但し、横槍を入れる者は排除せよ」

 

 言葉を終えると同時に令呪が弾けて消える。

 どうせ効きはしないし、マスター権を放棄したからといって玉藻との関係が変わるわけでもないと確信している為、雑種ライダーを黙らせる為に躊躇せず最後の令呪を使用した。

 

 全ての令呪が消えた腕を静かに下ろし、不敵ながらも何処か好感を憶える笑みを浮かべるギルガメッシュを視界の端に収めながら雑種ライダーに告げる。

 

「消されたくなければ下がってろ。

 勝負前でも話し掛けるだけで横槍と見做されて消し飛ばされるかもしれないぞ。

 

 あと、あいつの名誉の為に言っとくが、あいつは英雄王以外じゃどれだけ宝具を乱発しても倒せるような相手じゃない。

 恐れたんじゃなく、単に相手にされなかっただけだろう。

 

 ……俺には過ぎた奴だが、俺の願いの為に俺を案じながらも、俺では受け止めきれそうにもない信頼を寄せながら送り出してくれたんだ。

 身の程知らずが調子に乗って侮辱するな」

 

 とりあえず言いたいことを言い終えると、俺は英雄王と距離を取るべく背を向けて歩き出す。

 が、そこに雑種ライダーが声を掛ける。

 

「いや、すまんな。

 事情も知らんでお前さんのサーヴァント……いや、相方を侮辱してしまったようだな。

 

 お前さんが言う相方の強さには納得いかんが、お前さんほどの奴がそう言うなら、此方から赴くことにしよう」

 

 歩みを止めず、しかし謝罪を受け入れたと示す為に片手を軽く挙げながら歩き続ける。

 

 

 挙げた手を下ろしてから十数秒程歩き続けた辺りで足を止めて振り返る。

 距離は……ざっと80m強か。

 そしてギルガメッシュも丁度振り返った為、眼が合う。

 

 離れていても圧倒的な威圧感を感じる。

 だが、送り出される際に桜ちゃんと玉藻が浮かべていた表情や雰囲気を思い出せる限り、どれだけ威圧されようとも恐れることはないと確信出来た。

 

 

 全身に魔力を纏って擬似強化……魔力放出を行い、祖の上位とすらある程度戦える身体能力へ押し上げる。

 今迄に無い勢いで噴き上がる魔力に、過去最高の魔力放出だと確信出来た。

 魔力も今噴き上がり続けている魔力補うべく、凄まじい速度で生成されていっているのを感じる。

 ……自分が一般とは離れていくことに酷い忌避感が生まれるが、自分が何をする為にに此処に立っているのかを思うだけで、忌避感が噴き上がる魔力に乗って消え去る様に無くなった。

 

 万全な状態……いや、万全を越えているのを実感して改めてギルガメッシュに眼を向けると、自身の背後に横幅約30m縦幅約10mの範囲に宝具を大体200程展開して俺を見ていた。

 僅かな間視線が交錯した後、俺は両腕の肘辺りから指先迄と足首辺りから指先迄を文字通り魔法の物質で覆った。

 

 最後の確認をする様にお互いに視線を合わせると、ギルガメッシュは不適な笑みを浮かべ、俺は硬い表情の儘軽く頷いた。

 そして開始の合図を告げる様に俺は両拳を打ち合わせ、ギルガメッシュは片腕を挙げた。

 

 次の瞬間、俺は全力で地を蹴り、ギルガメッシュは指揮者の様に腕を振り下ろした。

 

 

 







  雁夜とギルガメッシュの遣り取りを見ていた者達の心境


・玉藻
 啖呵を切るご主人様カッコ好いです!惚れ直しました!
 後、ご主人様の中で私の好感度が急上昇なのが凄く嬉しいです!100万の軍勢を生み出してパレードをしたいくらい嬉しいです!

・桜
 ……頑張って。
 でも……死んじゃいや。

・ウェイバー
 殆ど一般人が魔法に至るって、どんなブラックジョークなんだよ!?
 後、…………あいつが勝ったら魔法の目撃者ってことで聖杯戦争の後殺されるんだろうか?

・ライダー
 まさかサーヴァント以外にあれ程の者がいようとはな。
 うむ、あの者の相方を含め、是非とも我が軍門に降ってほしいものだ。

・ケイネス
 魔術の崇高さを理解できぬ者が魔法に至るとは……何たる不条理!
 ふん、身の程知らずにあのサーヴァントに挑み、即座に道を空けるがいい。

・ランサー
 まさかこの時代の者がサーヴァントに匹敵するとは見事だな。
 しかも聖杯ではなく幼子のために強敵に挑むとは素晴らしい人物だ。

・綺礼
 とんだ大番狂わせだな。
 間桐邸に進入したアサシンが即死したのを考えれば、現場での暗殺も出来そうにあるまい。

・アサシン
 魔力を纏っている限り殺害はまず出来んな。
 しかもあいつのサーヴァントが見張っているなら、隙を付くのもまず無理だろう。

・時臣
 まさか雁夜が第一の魔法使いとは…………何たる屈辱!!!
 何故魔道に背を向けた落伍者が至れるのだ!しかも死ぬだけで至れるのだ!?!?!?

・セイバー
 マーリンと違って実に素晴らしい人物だ。ええ、マーリンと違って実に素晴らしい人物だ。
 あれ程の実力と気概と心根を持って挑む者が現代にいるとは、やはり世界は広い。

・アイリスフィール
 子を持つ母親として凄く共感出来るわね……。
 迷い無くマスター権を放棄したのを考えると、聖杯そのものが全く眼中に無いみたいだし、切嗣と戦わずに済んでくれたらいいのだけど……。

・舞弥
 恐らく戦闘中の殺害は間桐雁夜自身の防御力と対応力を考えると不可能でしょう。
 戦闘後も彼とサーヴァントの信頼関係が伺える台詞を考えると殺害不可能でしょう。

・切嗣
 急遽呼び戻された俄かマスターだと思ったが、まさか魔法使いとはな。
 しかも銃弾に対応出来るだろう戦闘力に加え、魔法で防がれると起源弾が効果を発揮するか全く判らないのが痛過ぎる。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾壹続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 疾走を開始した雁夜目掛け、200前後の武器がほぼ同時に射出された。

 同時に打ち出されれば武器同士が衝突して勝手に数が減ってしまう為、ギルガメッシュの巧みな操作に因って一斉掃射を越える効率で持って雁夜に神代の武器が殺到した。

 だが、サーヴァントどころか英霊の域に迄魔力放出で強化された身体能力を存分に揮い、数多の魔弾が発射された直後に姿勢を低くしつつ疾走の速度を更に上げ、回避と接近を両立させる雁夜。

 

 回避と接近は成功し、雁夜は1秒にも満たぬ間に距離を半分近く詰めた。

 そして雁夜はその儘更に速度を上げて肉薄しようとした。

 が、先程の倍以上の展開範囲と、先程を越える密度で先端を覗かせる1千前後もの魔弾が、魔弾同士の激突を度外視して雁夜の行く手を阻まんと撃ち出される。

 

 先程とは違い、物理的に前方の空間を魔弾で埋め尽くし、体勢や速度で潜り抜けるのが不可能な布陣で魔弾が雁夜に殺到した。

 流石に今回の布陣を抜くことは出来ないと判断した雁夜は、即座に上方か後方か左右への回避か迎撃かの選択に迫られる。

 上方に移動すれば次は斜め下方からの攻撃に晒されるので選べず、後方に移動するのは遠距離攻撃の命中精度が低く且つ次は簡単に距離を詰められない上に此の勝負で下がるなどという無様を桜と玉藻に見せるわけにはいかない為断じて選べず、左右に移動すれば倉庫か海に追い遣られて倉庫の外壁か水飛沫で次回か次次回の対処が困難になるので選べず、雁夜は結局はその場で迎撃という選択を選ぶことになった。

 

 発射された魔弾は1千を越えるが、実際雁夜に命中するだろう魔弾は100もなかった。

 だがそれでも100という数は個人が捌くにはあまりに膨大な量であった。

 尤も、先程と違って着弾迄の時間差を計算せずに放たれた魔弾は、言ってしまえば凄まじく間隔の短い連弾である為、ゼルレッチの多重次元屈折現象を用いた同時攻撃の連続や同時多数発動に比べれば迎撃はまだ可能な部類で在った。

 但し、雁夜は類稀どころか並の武練すら持たない存在の為、身体能力に任せて手足を振り回して弾く。

 更に捌ききれないと判断した魔弾は通過する空間に適当な術式の対象にし、術式に魔力を流して自身の特性を活かして魔術を暴発させて爆発を引き起こし、爆圧で弾き散らす。

 そしてそれでも捌けなかった魔弾は、着弾する寸前に噴出する魔力の一部に術式を叩き込んで爆発させ、自身は魔力の鎧で爆圧から守りつつ魔弾だけを弾き逸らした。

 

 自身の特性に頼った面が強いものの、それでも無事に無傷で捌ききった雁夜だが、ギルガメッシュはそれがどうしたと言わんばかりに再度魔弾を装填して撃ち出してきた。

 同士討ちしたり雁夜が弾いた物の中で大破した物は回収されなかったようだが、そうでない物は多少破損していても再装填されて魔弾として使用され、再び雁夜とその行く手を塞ぐべく放たれた。

 

 

 再度放たれる魔弾は先程とほぼ同数であったが、一度足を止めてしまった為、雁夜の行く手を塞ぐのに充てられる魔弾の数が先程よりも減った為に先程の約3倍の量の魔弾が雁夜に殺到する。

 しかし雁夜は巻き込まれるのを覚悟して自分を半球状に包み込む様に暴発した際に空間爆砕が起こる術式を展開し、術式に魔力を流し込んで迫り来る魔弾を弾きにかかる。

 が、如何に空間爆砕が先程の爆発を超える範囲と威力を誇ろうとも、流石に一度の空間爆砕で全てを弾ける筈もなく、連続して空間爆砕を実行する。

 そして圧倒的神秘で空間爆砕の干渉撥ね退けた魔弾は、身体能力に物を言わせて弾いて捌いた。

 

 何とか捌ききった雁夜だったが、先程と違い少しとは言え手傷を負っており、それは先の密度と魔弾の格が続けば何時かは討ち取られるということを示していた。

 そしてそれを理解しているギルガメッシュは再度先程とほぼ同数の魔弾を再装填し、雁夜へと放った。

 

 手傷を負っていると言えどもそれは軽微であり、更に距離と前方から直線にしか放たれておらず、しかも腕を振れば叩き落せるということもあり、今の掃射を軽く600回は危な気無く捌けるだけの余裕が雁夜には有った。

 が、それは終りを先延ばしにするだけであり、勝利する為には距離を詰めるか離れた距離から攻撃しなければならなかった。

 そして現在魔法で生成した物質を腕と足に纏い且つ尋常で無い出力の魔力放出を行い、更に空間爆砕を連続で行っている最中にギルガメッシュの鎧を貫いてダメージを与えることは現在の雁夜の限界を超えており、魔法で生成した物質を減らすか空間爆砕の使用を減らすか威力を更に上げて今より広範囲意を迎撃出来る様にして時間を捻出する必要があり、距離を詰めるには被弾前提で弾幕に突撃しなければならず、どの道手傷を負うのは想像に難くなかった。

 

 腕の魔法物質を消せば迎撃能力は著しく下がり、足の魔法物質を消せば地面に魔弾の展開面が展開された時に串刺しになり、空間爆砕の回数を減らせば弾かなかった魔弾が殺到し、空間爆砕の威力を強めれば広範囲の魔弾を弾ける代わりに自分も軽くない手傷を負い、距離を詰めようとすれば恐らく串刺しになる為、どうするべきか雁夜は数秒思案した。

 が、その様子を見ていたギルガメッシュは不機嫌とはいかずとも愉快ではなさそうな声で雁夜に話し掛ける。

 

「どうした!?まさかそこで我が宝物を捌くだけで終わるというのではあるまいな!?

 若しそうなら期待外れも甚だしいぞ!」

 

 ギルガメッシュが話し掛けている間に魔弾は10回以上再装填されて発射されていたが、相変わらず雁夜は微細な傷を負うだけで捌けていた。

 が、矢張り状況は全く好転しておらず、何とかして状況を打開しなければジリ貧は必至であった。

 故、雁夜は多少不利益を被ろうとも状況を打開すべく手段を実行した。

 

「ぬっ!?」

 

 突如何の脈絡も無く今迄の比ではない規模での空間爆砕が起こり、セイバーの聖剣に匹敵する魔弾も大きく弾かれた。

 

 ギルガメッシュは雁夜が採るだろう選択肢を、迎撃威力を上げての時間確保か、迎撃を数瞬放棄しての時間確保か、手足の魔法物質を放棄しての攻撃手段の確保か、被弾覚悟の特攻かのどれかだと踏んでいた。

 だが、今起きた空間爆砕の規模は流石に予想を超えており、アレでは稼げる時間と放てるであろう攻撃回数を比較すると明らかに割に合っておらず、自棄を起こしたのか自分が想定していた以外の選択肢が有るのかの何方かだと思い、爆発ではなく水平から上方へ向けての空間爆砕の為粉塵すら巻き起こらない為確保されている視界の先に居る雁夜を注視する。

 すると――――――

 

「ぎぃっ!?!?」

 

――――――呻きと呼気が合わさった様な声を発した雁夜が、腕と足に纏わせていた魔法物質を体内に取り込んだをの見た瞬間、ギルガメッシュは瞬時に発射直前だった魔弾の狙撃箇所を自分の10メートル前方辺りという大幅な近距離へと修正して撃ち出すことにした。

 

 狙撃箇所を大幅に修正された魔弾は誰も居ない所へ発射された筈だった。

 だが、体内に有り得ない特性を有した在り得ない物質を取り込み、身体の在り様を変化させる事で異常強化を発動させた雁夜がヘリコプター(プロペラ機)の物理限界を遥かに越える速度でギルガメッシュへ突撃した為、魔弾は誰も居ない所に向けて撃ち出されたにも拘らず、ギルガメッシュの予想通り雁夜の進行方向を塞ぐことと雁夜への攻撃という意味を持つに至った。

 しかし流石にプロペラ機の限界を超える突撃速度はギルガメッシュも予想外だった為、僅かに狙撃箇所を見誤ってしまい、速度は大幅に落とせたものの完全に足を止めるには至らず、弾幕を突破されてしまう。

 

 最早魔弾を掃射しても自身に辿り着かれるのは避けられないと判断したギルガメッシュは、[抜かせられるものなら抜かせてみよ]、とばかりに一本だけ射出せずに残して置いた剣に内心笑みを浮かべながら手を伸ばし、引き抜き様に斬りつけた。

 振るわれた剣は後世に絶世の名剣と謳われるデュランダルの原典。折れず鈍らないという、剣にとって当然の命題とも言える概念を貴き幻想へと昇華させて物質化させた奇跡の剣。

 対してその剣目掛けて振るわれる拳は魔法を纏っていた。無を否定するという、矛盾に満ちた常識外の法則を宿した奇跡の物質。

 

 貴き幻想と呼ばれる奇跡の剣と、常識外の常識と呼ばれる奇跡の塊を纏った拳を、互いに躊躇する事無く叩き付け合った。

 そして結果は――――――

 

「ぬぅっっ!?」

 

――――――奇跡の格と腕力の双方に置いて完全に負けていたギルガメッシュが、後世にデュランダルと名付けられる剣を砕かれながら後方へと飛ばされた。

 流石に技量に置いて雁夜を圧倒的に凌ぐギルガメッシュだが、自身の腕力の倍以上の者が突進力をも上乗せした状態にも拘らず真正面から打ち合えば力負けして当然であった。

 しかも一級の名剣であろうデュランダルと雖も、正真正銘科学で再現不可能な魔法の塊と打ち合えるだけの神秘は保有しておらず、圧倒的膂力と神秘の前に砕け散ってしまった。

 が、剣は砕けはしたが、雁夜の突進力と腕力を所有者であるギルガメッシュに伝え、拳が直撃しない様に後方へ押し飛ばすという成果は上げていた。

 

 後方へと押し飛ばされたギルガメッシュは、雁夜が追撃に移る迄の僅かな時間の内に再装填した魔弾を雁夜目掛けて小細工無しで掃射した。

 が、雁夜は左拳に纏っていた魔法の物質を巨大団扇の様に薄く広く展開すると、殺到する魔弾を纏めて払い飛ばした。

 

 流石に薄く広げてしまった為強度が下がったのか、雁夜の左手に繋がっている魔法物質に幾つかの薄い亀裂が発生していた。

 だがそれも瞬時に修復され、更に巨大団扇の様に薄く広げていたのを拳に纏わせる様に展開し直し、再び魔弾を再装填していないギルガメッシュへと肉薄して拳を繰り出した。

 しかし、星が鍛え上げたと謳われるセイバーの聖剣と同格級の原罪(メロダック)を盾の如く構えたギルガメッシュに拳を受け止められてしまった。

 しかも後ろへ飛ばされぬ様に雁夜の拳の威力を下方向へ変換する為、剣身と切っ先を地面に対して垂直ではなく斜めに構えていた為、今回は確り地面に足が付いた状態でギルガメッシュは雁夜の攻撃を凌いだ。

 そして雁夜がもう片方の拳で攻撃する前にギルガメッシュは半歩踏み込みながら剣身の腹を見せていたメロダックを捻って刃を立たせ、更に剣身へ篭手で覆われた手を沿えて上へ切り上げる支点とし、雁夜を股下から逆風に切ろうとした。

 が、剣身が跳ね上がる前に雁夜は右足でメロダックを踏み付けてそれを封じ、更にメロダックを踏み抑える為半歩踏み込んだ雁夜は顔が付く程に近くなったギルガメッシュの腹部へ、鎧ごと貫くと言わんばかりのボディブローを放つが、拳が鎧に触れる直前にギルガメッシュがメロダックを離した為雁夜の踏み込んでいた足場が無くなり、結果、ギルガメッシュの眼前で転倒寸前に迄体勢を崩してしまう。

 

 斬首されて当然と言える程の隙を晒してしまった雁夜だったが、ギルガメッシュが刀剣類を手にしていなかった為、後方へ大きく蹴り飛ばされるだけで済んだ。

 ダメージを負わせることではなく距離を取ることを目的にした蹴りだった為、雁夜は殆どダメージを負わなかった。

 そして雁夜は蹴り飛ばされている最中、ギルガメッシュが魔弾を射出する為、魔弾を再装填するのを見、驚愕はせずとも焦燥した。

 

 雁夜が焦燥した理由は、ギルガメッシュの背後の魔弾の数が先程より増えていたり、超一級の物ばかりが装填されているからではなかった。

 寧ろ魔弾の数や質は先程よりも大幅に下がっていた。

 だが、先程と違い雁夜の上下左右前方向に、合計で先程を上回る数の魔弾が装填されていた。

 背後だけは自分にも被害が行く為か、外界と隔離する様に展開することが出来ない為か、はたまた完全な背後から襲い掛かるというのが矜持に触れる為か展開はされていなかったが、最早雁夜が今迄の様な力任せで迎撃可能な限界を超えていた。

 一応全力で後方へ跳躍すれば回避しながら迎撃は可能だがそれは時間稼ぎに過ぎず、何より雁夜としてはこの戦いを見守ってくれている桜に、困難に瀕したからと言って後ろに下がる姿は断じて見せたくない為、初めから後ろに下がるという選択肢は無かった。

 しかし現状では後ろに下がらない限り刺殺は必至であった。

 そして、[まさかコレで終わりか?]、と言わんばかりのギルガメッシュが手を抜いたりする筈もなく、装填された魔弾が雁夜へと切っ先を向け始め、今にも掃射されようとした刹那、雁夜は異常強化されて極限迄強化された思考速度で考えを巡らせた。

 

(どうする!?

 見えない所から放たれる魔弾を特攻魔術で弾き散らすのは難しい!それに中てても弾かれずに向かって来るのも在る筈だ!

 手足の魔法を上下左右に壁の様に展開しても、前方はがら空きになる!そうなったら魔弾の質と量が跳ね上がって特攻魔術と素手だけじゃ手数が足りなくて捌けなくなる!

 全身を覆うように魔法物質を展開するのは手足に纏うよりも複雑に形を変えなきゃいけないから出来ない!棒立ちで構わないなら出来るが動いたり特攻魔術を使用するような余裕は一切無くなる!

 況して掃射される前に特攻魔術や魔法物質を放ったところで物量の前に防がれてしまう!それ以前に移動しながら正確に中てられる程俺の遠距離攻撃の命中率は高くない!

 

 どうするどうするどうする!?!?

 現状じゃ間違い無く詰みだ!

 若しどうにかしようとするなら新しい手札を得るか試したことのない手段ををやるしかない!

 得られそうな新しい手札は玉藻を降臨させた際に無意識に行ったという、生命力を使い捨ての魔力供給管にしての根源からの魔力の汲み上げ!欠点は遣り方が全く解らない!

 試したことの無い手段は今よりも更に魔法の物質を取り込んで身体に同化させる。欠点は魔法の物質に因る侵食を抑えきれずに完全な人外となってしまう!

 はっきり言って莫大な魔力の供給もヤバイが、人外の神秘の固まりに変わったら魔術師共から付け狙われる要素が尋常じゃなく肥大化する!

 とてもじゃないが傍に居る桜ちゃんが付け狙われないとは思えない!……いや、落ち着け。落ち着け俺。そもそも前提が間違っている。

 

 俺が傍に居るから桜ちゃんが狙われるんだ。

 だったら俺が離れれば桜ちゃんは然して危険じゃない筈だ。

 爺さんや蒼崎も魔法使いだけど、縁者を人質にして接触しようとする阿呆はいないし聞いたこともない。

 と言うか、人質を取っても相手にそのことを伝える手段が無いのだから、人質を取るだけ徒労となる。

 確かにそれでも桜ちゃんを人質にしようとする馬鹿が涌く可能性は否定出来ないが、桜ちゃんひとりならば俺が傍に居る時とは比較にならない程狙われる可能性は減るだろう。

 ならば、桜ちゃんが独り立ちする時に俺が雲隠れすれば問題は殆ど無い筈だ。

 まあ、その場合あまり長く一緒に居ると情が移り過ぎたと思われて人質にされる可能性が徒に高まるから、義憤で動いていると納得させられる期間しか一緒に居られないけど、それは仕方ない。

 

 桜ちゃんや玉藻に話もせずに勝手なことをするのは心苦しいけれど、俺は桜ちゃんが俺と一緒に居る期間が少し減ったとしても、人並みだけど何よりも大切な日常と幸福を得られる機会には代えられないと思っている。

 まあ、魔術に関わるから完全に人並みとはいかないけれど、それでも陽の光の下で笑って幸せを謳歌することは出来ると思う。

 そしてその未来を求めて時臣と対峙しようとしてくれたんだ。

 絶対に無様は晒せない。

 

 というか勝ち負けなんか初めからどうでもいい。

 ただ、困難に対しても挑むという姿にほんの少しでもいいから何かを感じ、今よりももっと勇気を振り絞ってくれるなら本当に勝ち負けはどうでもいい。

 尤も玉藻なら勝ってほしいと言うんだろうが、不意を突いて勝っても桜ちゃんは不安な儘だろうから、俺としては勝つことに対してはそこまで拘りは無い。

 だけど、信頼に応える為にも全身全霊で挑む。

 我が身可愛さで躊躇したりしない。

 人外に成るからといっても、……穏やかな日常を送れなくなるとしても、全力を振り絞っていないのに勝負を終わらせられずに続いているなら、さっさと全力を振り絞って終わらせる!

 それに人外になった代わりに桜ちゃんの力になれた上に玉藻の信頼に応えることが出来るなら安い買い物だ!

 俺のその後のコトなんて知らん!

 

 

 よし!

 そうと決めたら早速行動だ!

 もう殆どの魔弾の照準は合わせは終わってるだろうから、直ぐにでも掃射されてしまう)

 

 恐らくコンマ何秒か後には上下左右前方に展開されている魔弾が掃射されるだろうにも拘らず、雁夜は一切気負う事無く体内に直接奇跡と呼べる物質を生成した。

 後戻り出来ない選択を選んでいるにも拘らず、雁夜に躊躇や恐怖は全く無かった。

 それは桜や玉藻を想っているからなのか、それとも雁夜という存在が魔法を十全に操ることに特化した存在故に起きるだろう変化を本質的に害悪と認識していないのかは定かではないが、呼吸をする様な気楽さと、今迄の生成速度とは比較にならない程の速さで奇跡と呼ばれる物質は生成された。

 そして雁夜に変革が起こり始めた時、魔弾は掃射された。

 

 迫る魔弾が僅かな間とはいえ雁夜をギルガメッシュから隠し、後数瞬で雁夜に魔弾が着弾するに迫った時に雁夜の変革はあっさりと終った。

 そして既に視界を埋め尽くす迄に至った魔弾を全て弾き散らした。

 

 弾き散らされた際に幾つもの魔弾が砕け、更に幾つかの魔弾は特性や属性の為、砕けた瞬間に内包していた魔力を炸薬代わりにして爆発を引き起こした。

 だが、魔弾全てを対処したであろうにも拘らず、立ち込める砂塵の中から雁夜が出てこなかった。

 そしてそれを不審に思ったギルガメッシュは、宝具の掃射を一旦中断し、砂塵の奥を睨みやった。

 

 緩やかに晴れていく砂塵の中心に、血を僅かたりとも流していない雁夜が静かに佇んでいた。

 宝具の炸裂で一時的に感じ取れなかったが、今は纏う魔力や神秘だけでなく、格そのものが昇華したのをギルガメッシュははっきりと感じ取った。

 

 

 此処に雁夜の変革は成された。

 

 生成された奇跡の物質は周囲の物資に同化するとも侵食するとも取れる様に消え、そして奇跡に触れた物質の特性や格が凄まじい勢いで上昇し、雁夜の深層意識の抑制を完全に振り切り、雁夜を精霊の域迄一気に押し上げた。

 更に存在が昇格した際、動物が産まれた直後から立てる様に、雁夜は極自然に自身の生命力を使い捨ての供給管にして根源へ繋げる方法を理解した。

 その上、自身の技量の無さを手数で補おうとした結果、背より肘から指先迄程の長さの八本の棒が飛び出し、更に棒の先端から、触手とも蛇とも取れる様なモノが生えており、全体的に見ると蜘蛛の脚にも見える一本一本が先程迄雁夜が手足に纏わせていた魔法の物質の軽く10倍以上の量が有り、しかも宿す神秘が格段に上昇しただけでなく、一流の魔術師数十人分以上の魔力が内外に存在していた。

 

 単純な物理干渉で傷を負うことは無く、神秘も一級のモノでなければ無効化し、寿命や老化という概念からすら解き放たれた存在であり、完全にヒトとしての領域から外れていた。

 しかも蜘蛛の脚の様なモノ一本一本が最早規格外の宝具とも言うべき物であり、内包及び外装の魔力の量から推測する限り、魔法という神秘を抜きにしても構成に費やされている魔力を解き放つだけでもA+++以上の宝具に相当するだろうことは想像に難くなかった。

 

 

 静かに佇みながらも雁夜は静かに全身の調子を確認し、殆どの機能がヒトから完全に逸脱しているのを静かに受け入れた。

 ただ、精神だけは未だに人間の儘であるが、それだけでも残って良かったと思いながら雁夜は静かにギルガメッシュへと話し掛ける。

 

「随分待たせてすまなかったな。

 此処からは全身全霊で挑む」

 

 その言葉と同時に雁夜の身体に魔力が満ち、魔力放出による擬似強化ではなく、身体が魔力を糧に強化するといった人外の所業が起こる。

 そしてそれをギルガメッシュは楽しそうに見ながら言葉を返す。

 

「構わん。我も漸く慢心が抜けたところだ。

 これから存分に英雄達の王たる力を見せてやろう。

 故、確と魂に刻み……」

 

 上機嫌に告げていたギルガメッシュだったが唐突に言葉を切って黙り込んだ。

 が、数秒の後に凄まじい怒気を撒き散らしながら怒声を張り上げた。

 

「弁えろ時臣!

 王たる我が勝負を投げ捨て退けだと!!?

 王に対してその妄言、刎頚に値するぞ!!!」

 

 ギルガメッシュの怒声から察するに、どうやら時臣がこれ以上の戦闘を良しとせず、令呪を用いて撤退を促したようだった。

 だが当然それを聞き入れるギルガメッシュではなく、身体に令呪の強制を示す魔力が纏わり付いていたが、圧倒的対魔力で以って令呪に対して抗っていた。

 そして令呪に抗っている隙に令呪を肩代わりさせる様な物を取り出そうとしていたが、それより早く雁夜が虚空へ向かって語り掛ける。

 

「令呪の縛りを消してくれ」

 

 気負う事無く雁夜が言った直後、殆ど瞬間的にギルガメッシュを戒めていた令呪の縛りは霧散して消えた。

 急に消えた令呪の縛りにギルガメッシュは少なからず驚いた表情をしていたが、今の現象を見ていたギルガメッシュと雁夜達以外は驚愕していた。

 恐らく間桐邸に居るだろうアウト・キャストが、遠隔で他のサーヴァントの令呪の効果を容易く消し去ったのだから、下された令呪の命令内容すら書き換えられるどころか、最悪、他者の令呪を無理矢理使用可能な可能性に思い至り、殆どのマスターとサーヴァントの背筋に冷たいものが走った。

 

 だが、雁夜はそれを無視してギルガメッシュに告げる。

 

「装備品を勝負以外で消耗させたら対等な勝負じゃなくなるからな。

 こっちで令呪は消させてもらった。

 ああ、念の為に言っとくが、やったのは俺じゃないから消耗は無い」

「余計な真似をと言いたいところだが、時臣の驚いた間抜けな声を聞けたので、それはそれで良かろう」

「気分を害さず何よりだ」

 

 そう言うと互いに軽く眼を瞑り、意識を再び先の状態へと戻してゆく。

 そして素早く意識を先の状態に戻した雁夜とギルガメッシュは、仕切り直しとばかりに声を上げた。

 

「盛大に道を踏み外した愚か者相手で悪いが、最後迄付き合ってもらう!」

「来るがいい、無謬の道化師よ!

 真の王の力を存分に知るがいい!」

 

 言い終えると同時に雁夜は突撃を開始し、ギルガメッシュは宝具の掃射を開始した。

 

 

 







  幾つかの補足


【何故雁夜がギルガメッシュと戦えるのか?】

 これは単純にギルガメッシュが宝具の掃射という物量任せで挑んだ為、身体能力任せの雁夜でも何とか対応出来たというだけのことです。
 特攻魔術のランクはA+++なので、常時解放型の特殊宝具でもなければ直撃しなくても大抵は弾き飛ばせますし、魔法は当然EXなので余程の事が無い限り神秘負けすることはありませんので、基本的に直進しかしない王の財宝は可也雁夜にとって相性が良かったのが理由です。
 尚、アニメ版で通り過ぎたのが弧を描いて戻ったりする場面がありましたが、雁夜は射線の見極めが相当甘い為、中らない物も悉く叩き落したり弾き飛ばしたりしており、結果ブーメラン攻撃が起こらなかっただけです。

 因みに特効魔術は魔術と名が付いていますが、実際には魔術基盤へ魔法混じりの魔力を叩き込んで魔術基盤を誤作動させて最高位階級魔術を暴発顕現させているだけで、仮にソロモンが魔術基盤を好き勝手弄ったとしても、特効魔術は魔術基盤が正常に作動した末の魔術ではないので、魔法の混じった魔力という質の問題を可決しない限り特効魔術は問題無く発現します。
 なんなら雁夜を魔術基盤から切り離しても、大量の魔力が魔術基盤という逃げ場に出鱈目に流れ込み魔術基盤自体にも被害を与える可能性が在ります。
 尚、玉藻は当然気付いていますが、別に自分も雁夜も困らないですし、伝える様な事でもないと放置しています(ZERO編終了後は完璧に自前で再現可能となっていますが、面倒なので魔術基盤が在る時はそちらを利用してます(スマホで情報入力するのと専用スパコンで情報を入力するような違いです))。
 実は魔法を獲得したことで魔術師と言うか魔術基盤を扱う者としては永遠の半人前が宿命付けられましたが、魔術基盤を破壊する事にかけては人類発祥存在の中では最高位だったりします。が、矢張りそのことを本人は知りませんし、玉藻も割と如何でもいい事と捉えて態態告げてませんが、桜が魔術を習う時何気無くぽろっと言うと思います。


【異常強化及び魔力放出時の雁夜のパラメーターとギルガメッシュのパラメーター】

       雁夜              ギルガメッシュ
・筋力:A5+・魔力:A5+  ┃  ・筋力:A++・魔力:A+
・耐久:A  ・幸運:EX   ┃  ・耐久:A+ ・幸運:EX
・敏捷:A5+・宝具:--   ┃  ・敏捷:A+ ・宝具:EX

 雁夜の耐久が上昇どころか減少している理由は、雁夜が深層意識で人外になるのを拒み、変革に抗って至った直後に身体を回帰させようとして身体に負担を掛けている為ランクダウンしています。


【雁夜の技術力量】

 はっきり言ってステイナイトの藤姉にも届いていません。
 それどころか綾子に届いているかも怪しいです。
 ただ、異常強化された思考速度と身体能力で技術の差を誤魔化しているだけです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾貮続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 上下左右前方から雁夜へ迫る魔弾は1000を越えていた。

 だが、その魔弾の悉くが雁夜の背から生える蜘蛛の脚の様なものの一振りで薙ぎ払われていく。

 普通に考えれば両手を数えても10の数が100倍以上の数に太刀打ち出来る筈がないのだが、背から生える蜘蛛の脚の様な一本一本が優に極超音速へと至る速度で振るわれる為、鉄をも引き裂く乱流が数多の魔弾を悉く弾いていた。

 尤も、ただの乱流ならば神秘を纏った魔弾の全てを弾くなどはまず出来まいが、雁夜は発生する乱流に短時間だけ存在して侵食しない程度の魔法の物質を混ぜ込んでいる為、乱流に舞う砂塵の如き魔法の塊が数多の魔弾を弾いているのだった。

 

 最早恐らく超一級に届かない魔弾ではどれだけの数を揃えようとも止めることが適わなくなった雁夜が、文字通り弾丸の速度でギルガメッシュへと突撃してくる。

 だが、ギルガメッシュは、[超一級ならば通じるのだろう?]、と言わんばかりに物量で押すのを放棄して質を最優先にし、僅か10にも満たない魔弾を装填した。

 そして装填数が大幅に減少した為なのか、今迄とは比べ物にならない速さで装填がなされただけでなく射出もなされ、更に魔弾の弾速が優に極超音速へと至っていた。

 しかも放たれる魔弾は雁夜の背から生える蜘蛛の脚の様なものが振るわれる速度を越えている為、圧倒的速度と超一級の神秘で以って、多少軌道が乱れようが乱流を突き破るだろうことは容易く予想が出来た。

 

 迫り来る魔弾を見た雁夜は、突進しながら捌くのは難しいと判断した為、自身の前後に背から生える蜘蛛の脚の様なものを2本ずつ地面に刺し込んで急停止した。

 そして急停止した後、背から生える八本全てで以って8つの魔弾を叩き落し、更に捌ききれなかった最後の1つを片腕で弾き飛ばして全てを捌ききった。

 が、次の瞬間には別の9つの超一級且つ極超音速の魔弾が雁夜へと放たれていた。

 

 第二陣も全て先程の様に雁夜の背から生える蜘蛛の様な脚で8つ弾かれ、最後の一つは未だ腕を戻しきっていない先程の腕とは逆の腕で弾かれた。

 が、次の瞬間には既に回収と装填と射出がなされていた第一陣に使われた魔弾が迫っており、それを迎撃する為に又もや八本全てで8つの魔弾を弾き、残った1つは第一陣の時に振るった腕を戻し終えた為その腕で弾いた。

 だが、次の瞬間には第二陣に使われた魔弾が迫っており、一見すると鼬ごっこに陥った様を呈していた。

 

 しかし、一見すると完全な互角に見える攻撃と迎撃だが、如何に超一級の魔弾と雖も雁夜の規格外の神秘の塊と幾度も激突すればダメージが蓄積されていき、更に雁夜の方は魔力さえ籠めれば圧倒的な速度で修復が成されるのに対し、魔弾の方の修復速度は火花と成る程度に欠けたのを数秒で修復する程度の為、魔弾は僅かずつではあるものの確実に崩壊へと進んでいた。

 が、固定されていない空中で砕くには後数分は現在の状況を続けねばならず、少なくても時間を稼ぐことに関しては十分役目を果たせる為、ギルガメッシュは仕留めきれない現状を全く気にしていなかった。

 寧ろ、[この程度で終わってもらっては困る]、と言わんばかりの笑みを浮かべながらギルガメッシュは上半身の鎧を邪魔だと言わんばかりに消した。

 そして次は虚空に幾つもの宝珠や杯を現し、更にその宝珠の光や杯に満ちる液体を浴び、自身を雁夜と打ち合える領域に迄強化した。

 

 

 宝珠の光と杯に満ちた液体を浴びたギルガメッシュの容貌は少なからず変わっていた。

 髪は塗れた為逆立てられていたものが全て自然な感じで垂れており、更に宝珠の光の影響かギルガメッシュ自身の意図かは判らぬが、身体に赤い紋様が現れていた。

 だがギルガメッシュは自身の変化を気にする事無く虚空へと手を伸ばし、其処へ鍵に剣の柄の様な把手の付いた鍵の剣とも言う様な物を落とす様に現した。

 

 鍵の剣とも言うような物を握ったギルガメッシュは、獰猛ながらも歓喜を湛えた笑みを浮かべながら大声で告げた。

 

「誇るがいい!我に至宝を使わせることを!

 そして刮目して見よ!我が至宝を!」

 

 言い終わると同時にギルガメッシュは鍵の剣を僅かに捻った。

 すると把手の周りの幾何学模様の様な機構が複雑に動き出し、更に鍵の先端から天へと向かって虚空に赤い幾何学模様の線が走った。

 虚空に走った赤い幾何学模様の線はまるで何かを封印しているかの様な魔法陣に見えたが、それも直ぐに消え去った。

 

 赤い幾何学模様の線が消えると同時に鍵の剣も姿を消した。

 そして、ギルガメッシュの眼前にゆっくりとナニカが現れ、ギルガメッシュは静かにソレの柄を握った。

 ギルガメッシュが柄を握って数秒もすると、ギルガメッシュが握っている物の全容が顕になった。

 

 その全容は端的に言えば把手の付いた剣擬きの棒であった。

 だが、造形こそ珍妙だが、ソレが内包する神秘は魔法と同じく規格外の域に在ると、雁夜は魔弾を捌きながらも視界の端にソレが映っただけで理解した。

 だが、ギルガメッシュは規格外な剣の様な物を取り出しただけでは終わらず、更に光を放つ虚空へと腕を突き入れ、鎖を取り出した。

 

 右腕に剣の様な物を握り、左腕に鎖を握った上で僅かに腕に絡ませ、表情だけでなく雰囲気から油断と慢心の一切が消え去ったギルガメッシュが謳い上げる様に雁夜へと大声で告げた。

 

「さあ、真の開幕だ!

 これより先は格が違うぞ!?」

 

 その言葉が終わると同時に、ギルガメッシュが右腕に握った赤い線の走った黒い棒は三つの回転体を互い違いに回転させ始めて赤い暴風を生み出し始め、左腕に握った鎖は一気に鎖の輪の数を増やしながら縦横無尽に虚空を駆け巡りだした。

 そして、鈍色の踊る様に形を変える線と赤い暴風に彩られたギルガメッシュが雁夜目掛けて疾走した。

 

 明らかに放出型の宝具と思われるにも拘らず迫り来るギルガメッシュを見た雁夜は、此の儘では手数が足りずに直ぐに押し切られると判断し、即座に蜘蛛の脚の様なもの三本で9つの魔弾を受け止めた。

 当然無傷で受け止めることは出来ず、三本とも魔弾に刺し貫かれていた。

 が、何れも貫通は出来ずに刺さった儘だった為、雁夜は魔弾が回収されるのを防ぐ為、魔弾を空間転移を封じる魔法の物質で包み込み、更に簡単に破壊して取り出されない様に硬質化させた。

 そして次の9つも同様に対処し、八本の内六本を犠牲にして超一級の魔弾を全て封じた。

 

 残る蜘蛛の脚の様な物は二本になってしまったが、最早超一級未満の魔弾が射出されたところで魔法が混じった乱流で容易く弾かれるだけでなく、剣の様な物が生み出す赤い暴風で吹き散らされるのを考えれば、最早魔弾の掃射はないと考えられた。

 そして18もの超一級の魔弾を雁夜が封じた直後、赤い暴風を纏ったギルガメッシュが雁夜に肉薄し、剣の様な物で殴り掛かってきた。

 

 空間の叫びの様な音を響かせながら振るわれたギルガメッシュの一撃は、雁夜の振るった右拳で受け止められた。

 が、直ぐに雁夜の右拳は回転体に因って大きく弾かれた。

 対してギルガメッシュの剣の様な物は僅かに押し返されただけであり、神秘的にも負けていない為、修復速度を考慮すれば千京回打ち合えば壊れるかもしない程度しかダメージを受けていなかった。

 当然それほど微細なダメージならば、1秒間に50回打ち合っても地球が太陽に呑み込まれて滅ぶ方が早い為、武器破壊は実質不可能と言えた。

 

 雁夜の腕を大きく弾いたギルガメッシュは、僅かに押し戻された剣の様な物を再び振るう為に戻したりはせず、ドリルの様に回転させた儘雁夜へと突き出した。

 対して雁夜は全力で左拳を右下へと振り下ろして迎撃しようとした。

 だが、突如雁夜の左腕に鎖が絡み付く。

 が、絡み付いた鎖は直ぐに引き千切られてしまった。

 

 しかし、引き千切るのに費やされた力の分だけ左拳に宿る力は減少してしまい、突き出された剣の様な物を完全に逸らすことが出来ず、右脇腹を少なからず抉られてしまう。

 幸いというべきか、雁夜は幾度となく激痛を味わった為、戦闘中ならばこの程度の痛みで錯乱したり動転したりする程のことではなかった為、即座に突きを放った体勢のギルガメッシュへと攻撃を繰り出した。

 

 雁夜が繰り出し攻撃は力任せの右足での蹴り上げと、左肩辺りから生える蜘蛛の脚の様なものの刺突であり、雁夜の筋力や背からはえる蜘蛛の脚の様なものの膂力的に直撃すれば容易く内臓を破壊するだろう攻撃だった。

 しかしそれは雁夜の軸足の左足に絡み付いた鎖が一気に引かれた為、見事に明後日の方に逸れた。

 そして転倒中の雁夜へ、ギルガメッシュは突いた儘だった剣の様な物を引き戻さず、又してもその儘動かして雁夜へと追撃を掛ける。

 

 だが、自身の攻撃が失敗して追撃を掛けられることを予想していた雁夜は右肩辺りから生える蜘蛛の脚の様なものを振るわず残していた為、それをギルガメッシュの右腕目掛けて突き出した。

 が、今度は蜘蛛の脚の様なものへと鎖が絡み付き、直ぐに引き千切れたがギルガメッシュへ攻撃する時間を稼がせてしまった。

 しかし、根っから用心深くて臆病な小市民気質の雁夜は、一度鎖に邪魔された時点で防御や攻撃には邪魔が入ると悲観的前提で思考していた為、慌てず驚かずに自身とギルガメッシュの間に極大の空間爆砕を発生させた。

 

 ランクにしてA+++の魔術暴発による空間爆砕は、流石に自らに強化を施したギルガメッシュと雖も対魔力で無効化出来ずに吹き飛ばされた。

 当然雁夜も鎖を砕かれながら吹き飛ばされたが、予め吹き飛ばされるのが解っていた為、吹き飛ばされながらも慌てずに体勢を立て直し、無事に着地することが出来た。

 尤も、着地したのはギルガメッシュも同じであり、不意を突かれても咄嗟に空中で問題無く体勢を立て直す程度の技量は雁夜と違って有している為、この程度で隙を作ることは出来なかった。

 

 普通ならば仕切り直しとなる程の距離が開き、更に一旦攻防の流れが途切れたのだが、両者共にその程度のことで小休止に入ったりする気は微塵も無かった。

 特に雁夜は集中を途切らせると打開策が思い浮かばなくなると感じている為、極限に迄意識を高めた儘打開策を高速で思考していた。

 

(相手との身体能力はこっちが圧倒的に有利。恐らく俺はギルガメッシュの170%前後の身体能力。大体12歳男児と成人男性程の差。

 だけど純粋な技量差に剣道三倍段やらあの武器なのか判らない仮称掘削剣でこっちの身体能力の有利性が完全に覆されてる!

 特に掘削剣は性質が悪過ぎる!

 触れれば弾かれるし、何より、触れられるだけで抉られるから引き戻しの動作が必要無い!

 

 しかも鎖が攻撃や防御の度にこっちの動きを邪魔しに掛かってウザい!

 幸い拘束する際は一箇所しかしてないから、少なくても拘束する時は遠心力とかを使って速度や慣性をある程度籠めないと俺の行動を邪魔出来ないんだろうから、拘束しに掛かるのは一箇所と思って間違い無いだろう。

 尤も、拘束しに掛かるのは一箇所でも、拘束出来るのはさっき二箇所拘束された様に複数箇所拘束可能だろうから、拘束されたら速やかに破壊か脱出をしないと直ぐに完全拘束されて掘削剣に抉り散らされる。

 

 はっきり言ってあの掘削剣だけでも手に余るというのに、目減りしない拘束具をあれだけ器用に使われたら最早対処しきれない。

 何とか今回は弾き飛ばせたけど、次は吹き飛んでる最中に横の地面にでも鎖を打ち込んで軌道を円運動に変えてUターンしながら飛び掛られるかもしれないから、二度も同じ手は使えない。

 打開するには掘削剣か鎖を完全に破壊するかだけど、掘削剣は太陽の寿命が尽きるくらい迄殴り続けないと多分壊せないし、鎖は多分核と呼べる本体がそこらを飛び回ってるんだろうけど、生憎と俺の手が届く範囲には無いだろうし空間爆砕程度で壊れる物じゃないだろうから、結局どっちも壊せる目処が立たない。

 

 せめて後二本ばかり羽……じゃなくて触手……じゃなくて……蜘蛛の脚が動かせれば鎖の妨害に対処しきれるんだが、魔弾を解放して迄手数を確保したら余計状況が悪化するから、現状は二本で遣り繰りするしかない。

 と言うかなんで八本しか生えなかったんだ?

 まあ、天使の羽宜しく十二本生えてたらガキ臭くて痛過ぎたけど、便利なのは間違いなかった筈なのに何で八本なんだ?天使の羽なら2・4・6・12だし、特別8に成る要素に心当たりは無いぞ?

 ぶっちゃけ隣の数の9なら玉藻……って、まさか玉藻の隣の数字だからってだけじゃないだろうな?

 いや、でも何故か凄まじく納得してしまったから多分そうなんだろうけど、一体どれだけ青臭いガキの考えを基にして生えてきたんだよコレは?

 玉藻に知られたら爆笑されるか歓喜されるかのどっちかだから、絶対に言えないな。

 

 しかし蜘蛛の脚が玉藻の尻尾を俺が意識した結果生えたなら、少なからず玉藻の尻尾の特性を得ている筈だ。

 なら俺の蜘蛛の脚にも、軍勢を生み出したり変形させたり属性や特性を変化させたりが出来るかもしれない。

 但しやり方がさっぱり解らない。しかも本当にそんなことが可能かも解らない。

 だけど何と無くだが、俺の蜘蛛の脚はあいつの尻尾を意識した結果生まれたモノで、俺が知る限りの玉藻の尻尾の能力は全て持っていると思えるし、そうでないと思うと凄い違和感というか嫌悪感が涌くから間違い無いだろう。

 なら、後は遣り方に気付けるかどうかだ。

 

 気付けなきゃ直ぐに終わる。

 桜ちゃんは時臣の影に怯え続ける。

 俺を送り出した玉藻は後悔し続ける。

 何も成せずに何にも応えられない儘終わる。

 嫌だ。嫌だ。そんなのは嫌だ。死んでも嫌だ!

 だけど命は賭けられない。

 今回は絶対に死ねない。

 だから絶対に生きて帰る!

 

 そうだ、生きて帰るんだ。

 持てる全てを振り絞って、逃げず退かずに、だけど確り省みえて、何の為にこんなことをやっているのか忘れず、遣り遂げてみせる。

 勝ちや負けなんてどうでもいい。

 目指すのはそれとは無縁のモノだ。

 

 さあ、確り見ててくれ桜ちゃん、玉藻。

 そして……勝手な理由で勝負なんて挑んだ代金代わりに、満足出来る迄付き合ってやるよ!ギルガメッシュ!)

 

 コンマ01秒にも満たぬ時間の中、人外の域に迄至った身でなされる思考を更に極限の集中で速度を上昇させ、雁夜は明確に自身の在り方を理解した。

 そして、雁夜は迫り来るギルガメッシュを見据え、18の魔弾を解放し、そして六本の蜘蛛の脚の自由を得た。

 

 一瞬ギルガメッシュは何が目的か解らなかったが、直ぐに魔法が理解出来ない以上は考えても無駄だと切り捨て、即座に超一級の魔弾ならば赤い暴風に弾き散らされずに雁夜に届くと判断し、魔弾を回収した。

 そして魔弾を装填しようとしたが――――――

 

「!?」

 

――――――何故か全く魔弾が現われなかった。

 初めての出来事にギルガメッシュは僅かな間とはいえ動揺し、更に僅かとはいえ意識を雁夜から逸らしてしまった。

 そしてその隙を突くかの如く雁夜が突撃し、六本の蜘蛛の脚と右拳を振り被っていた。

 

 魔弾を開放して八本全てが使用可能となり、隙を晒した自分へと向かっているにも拘らず、何故か二本だけ攻撃に加わっていないのを見た瞬間、ギルガメッシュはあの二本が周囲一帯の空間転移を封じているのだと推測した。

 更に雁夜の蜘蛛の脚が乱流に奇跡の物質を混ぜ込んでいたことから、恐らくこの赤い暴風でも吹き散らしきれない密度で空間転移を封じる物質が辺りに満ちているのだろうともギルガメッシュは推測した。

 そしてそうならば更に回転速度を上げて赤い暴風の出力を上げ、魔弾を射出出来る環境を取り戻そうとした。

 だが、それよりも迫り来る雁夜の攻撃をどうにかしなければと悟り、ギルガメッシュは疾走する雁夜が地面を蹴り抜いた足に四方から鎖を巻き付け、転倒させるどころか宙に吊り上げた。

 が、半回転して宙に吊り上げられた雁夜は初めから予想していたのか、半回転し終わる頃には既に蜘蛛の脚四本を振るって鎖を断ち切っており、その儘縦回転する勢いを殺さず着地し、眼前のギルガメッシュへ残った蜘蛛の足二本と左拳で攻撃を放った。

 

 雁夜の左拳は掘削剣目掛けて振るわれ、蜘蛛の脚の左側はギルガメッシュの頭部へ振るわれ、蜘蛛の脚の右側は掘削剣を握るギルガメッシュの腕へと振るわれた。

 如何に掘削権が触れた物を弾き飛ばすと雖も、衝撃を無効化しているわけでない以上、振るわれた掘削剣の軌道を変えることは可能であり、たとえ引き戻しが必要無く振るえるからと雖もその前に勝負が付けばそれは意味を成さず、今ギルガメッシュの身に起きようとしているのはそういう事態だった。

 だが、ギルガメッシュは自身の左腕に巻き付いている鎖に自分を強く引かせ、強引に雁夜の右方に横滑りする様に移動し、雁夜の攻撃を全て避けきった。

 そして魔弾を取り出せるかどうかを試す時間を稼ぐ為、鎖を拘束するのではなく四方八方から鞭の様に攻撃する。

 無論そんな攻撃を続ければ直ぐに破壊され続けて鎖が短くなり、再びある程度伸ばす迄の隙を突かれてしまうが、数秒程度なら問題は無いと判断し、ギルガメッシュは掘削剣の出力を更に上げた。

 

 しかし、ギルガメッシュが掘削剣の出力を上げようとも魔弾を射出するどころか装填することすら出来なかった。

 ただ、ギルガメッシュの超感覚が暴風により奇跡の物質が払われた際、今迄感じなかった空間の異常を感じ取った瞬間――――――

 

「っ!?」

 

――――――今迄動いていなかった二本の内の一本が、突如魔弾の5倍以上の速度で伸びながらギルガメッシュへと襲い掛かった。

 咄嗟に掘削剣を軌道に割り込ませるが、不自然な体勢の為ギルガメッシュは大きく突き飛ばされた。

 更に掘削剣に弾かれた蜘蛛の脚がギルガメッシュの左脇腹を致命傷には遠いが無視出来る程浅くもない傷を付けた。

 

 突き飛ばされている最中ギルガメッシュは、自分がまんまと雁夜に出し抜かれたのを悟った。

 魔弾を封じていたのは辺り一面に散布された奇跡の物質だけが原因ではなく、空間自体を蜘蛛の脚の一本を起点に変質させていたことも原因であり、辺りに散布された奇跡の物質はそれをギルガメッシュに看破させない為の目晦ましだったのだ。

 そして空間に奇跡の物質を混ぜ込んでいたもう一つの意味は、ソレを払う為に掘削剣の出力を上げる様に誘導し、少なからず雁夜から意識が逸れた瞬間、恐らく不慣れな為一本だけ変化させられる蜘蛛の脚を最大限効果的に使う為の布石だったのだと理解した。

 しかも仮に空間を切り裂いて空間変質を無効化しようと、そんな状況の中で魔弾を装填したりは当然出来ず、空間を切り裂いた後に出力を弱めたところで魔弾を取り出す前に空間が変質した状態に戻るだろう為、完璧に魔弾を封じられてしまった。

 

 慢心も油断もしていなかったにも拘らず、技量の差を埋めんとする知恵と自身の看破力の上を行く魔法を組み合わせ、間違い無く先の攻防では自分の僅か上を行かれたと認識した瞬間、ギルガメッシュは少し待てとばかりに掘削剣の回転を止め、更に鎖を握っていた片手を前に出し――――――

 

「くくくくくっ……はっはははっ…………あーはっはっはっはっはっ!!!」

 

――――――腹の底から大声を上げて笑った。

 

 ギルガメッシュはほぼ完全な状態で召喚された際、朋友の居ない現世で自分を脅かす者など何処に居ないと思っていたにも拘らず、目の前の者は名誉や勝利を見向きもせずに誰かの為にと精霊の域迄昇格し、更に油断や慢心を捨て去った自分へと一撃を入れた。

 精霊と並び神霊にすら届くと自負する自分の領域へ、目の前の者は未熟ながらも見事に駆け上がってきた。

 力に魅せられも怯えもせず、然れど初志を忘れずに自身へと挑み続け、遂に自分が認める迄に至った目の前の存在へ、不死の薬を探し始めてからは終ぞ抱かなかった敬意という想いを抱いた。

 朋友が死んで神神を嫌った自分が、まさか召喚された現世で是程の出逢いを経て再び敬意を抱いたことが愉快で、傷を負った脇腹すら痛快な為、ギルガメッシュは声を大にして笑った。

 

 そして一頻り笑ったギルガメッシュは、回復も警戒もせずに今一現状が解っていない顔で自分を見ていた雁夜へと声を掛けた。

 

「見事だ。先の攻防に限れば、間違い無く我の上を行っていた。

 精霊と並び、更に神霊にすら手が届く、この我のな」

「賞賛は在り難いが、俺は誰より上とかに興味なんて全く無い。

 はっきり言ってそんなのを決めたければ籤でも作って決めろ、って感じだ」

「はははっ。正しく賢者の発言というやつだな」

「冗談だろ?こんなの小心者の小市民の考えだ」

「小心者の小市民が我の前に立ち、更には渡り合った上でその様なことは言わんぞ?」

「確かに。

 思えば遠くへ来たもんだ」

 

 和みはしていないが警戒せずに互いに言葉を交し合う雁夜とギルガメッシュ。

 そして何時の間にか小心者の小市民を自負していた自分が、何時の間にかソレをあっさりと否定してしまう境地迄来てしまったことに、雁夜は若干の哀愁を滲ませながら呟いた。

 

 しかしギルガメッシュはそれに笑い返しながら告げる。

 

「これから更に遠くへ行くことになるぞ?」

「勘弁してほしいんだがな」

「ふっ。生憎だがそうはいかん。

 この儘打ち合いを続けるのも心躍るだろうが、我は直ぐにでも我の正真正銘全力の一撃を試してみたいからな」

 

 そう言うとギルガメッシュは掘削剣を再び回転させ始めた。

 しかも吹き飛ばされない為と言わんばかりに自身を鎖で固定し始めた。

 

 そして凄まじい烈風を間近で浴びながらギルガメッシュは雁夜へ告げる。

 

「最早宝剣宝槍をばら撒くという小細工はせん!

 存分に全身全霊を出してみせよ!」

 

 その言葉を聞いた雁夜は空間変質を止めた。

 そして完全に自由となった八本の蜘蛛の脚を、左手に支えられる様に掲げられた右掌の前に八本全てで囲う様に配置した。

 まるで右腕が捕食されている様な有様になったが、雁夜は構わず八本の蜘蛛の脚全てと左手に支えられた右手から奇跡の物質を生み出し始めた。

 

 雁夜の掲げた右掌のに球状の在り得ないモノが生まれ、更にソレが肥大化して球体を固定する様に閉じられていた八本の蜘蛛の脚が少しずつ開かれていった。

 更に肥大化する球体を圧縮する様に八本の蜘蛛の脚から魔力が注ぎ込まれ、球体は凄まじい魔力を放ち始めた。

 

 しかし、凄まじく高度な制御が必要だろう最中、雁夜はギルガメッシュへと告げる。

 

「存分にバックアップを受けるといい!

 道具の多さは個人の強さと同義だからな!」

「はっ!大層な自信だな!?」

「まさか!

 単に俺だけ全身全霊でそっちが違うとかいうお寒い展開が嫌なだけだ!」

「はははっ!安心しろ!

 間違い無くこの一撃は我の全身全霊だ!

 使える物は全て使う!」

 

 その言葉と同時に威力を高める儀礼用の剣を自身の周囲に刺したり、何らかの宝珠を自身の周囲に浮遊させたりし始め、限界を超えた出力を放つべき準備をし始めた。

 そしてその言葉と行動に満足した雁夜は敢えて言葉を返さず、理解したとばかりに更に奇跡の物質を生成していく。

 

 ある程度生成した雁夜は、今ギルガメッシュが放とうとしている一撃が単なる高エネルギーではなく、魂の底に存在する恐怖を揺さぶり起こす、宛ら地獄そのものとも言える一撃だと気付き、それに対抗すべく、生成したソレに在り得ない特性を付加し始めた。

 

 

 雁夜の扱う、【第一魔法・無の否定】、とは、単に無を否定するだけの物質を生成するのではなく、雁夜が僅かな間とは言え全知全能状態と成り果てたのを限定的に再現することこそが本質であり、先代迄の無の否定とは殆ど別のモノといえるモノだった。

 

 雁夜が根源から持ち帰った情報は、無意識で誰かの力に成りたいという想いと自身の無力さが無意識にの根底に在ったことに起因し、あらゆる不条理を更なる不条理で跳ね除けるということを少なからず可能とするモノだった。

 即ち、死者の蘇生や時間の遡行や世界の跳躍を可能とする物質を生み出すという、全く別の魔法の領分すら可能とするモノだった。

 尤も、雁夜自身の理解が及ばなければソレを成すことなど当然出来る筈もななかった。

 更に、本来なら思考するだけで限定的にとは言え全能を再現出来た筈なのだが、雁夜が戻る際に残っていた道を使った為に第一魔法という枠に嵌ってしまい、自分で道を引けば空想具現化と固有結界が合わさった様な世界変革の法を自在に扱うことが可能だったが、ソレが叶わなくなっていた。

 が、雁夜自身はそんなことに気付きもせず、気付いても如何でも構わないと切って捨てたであろうが、雁夜を暇潰しに弄り倒したゼルレッチはソレに気付いていた。

 故に、祖の5位以内でも10%以上で勝てると雁夜を称したのだった。

 

 そして今、雁夜は自らが限定的に全能を揮えると薄っすらながらも理解し始めており、今迄の様な対象を変質させてでも強化すると言う、変化させる程度の物質ではなく、〔地獄を祓う〕、という概念武装を形成し始めていた。

 しかも籠められる概念は目の前で渦巻く地獄を理解し、逆算する容で対の情報を根源に至っていた時の記憶を基に再現されている為、歴史や積み重ねを一切合財無視して尚規格外の域に至っており、即席などと笑えるレベルのモノでは断じてなかった。

 無論ギルガメッシュも雁夜の右掌の前に存在する球状のモノが、自身の一撃すら越えかねないモノだと正確に把握しており、上を行かれてなるものかとばかりに、今迄よりも更に速く増幅系の宝物を使い、更にそれだけでなく渾身の力で魔力を注ぎ込んだ。

 対して雁夜は自身の生命力で即席の魔力供給管を作って根源へと繋げ、自身が弾け散りかねない莫大な魔力を破裂寸前迄右掌の前にある球体に注ぎ込む。

 

 

 互いに漏れ出る余波だけで並の宝具を凌駕する状態に迄至った時、雁夜とギルガメッシュは一度目を合わせ、互いに準備が整ったことを確認すると、空間どころか世界が悲鳴を上げる一撃を解き放った。

 

神である九へと至る八と一(ああああああああああああああああっっっ)!!!」

天地乖離す開闢の星(おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ)!!!」

 

 迫り来る地獄そのものの風に、地獄を祓う創世の風ともいうモノが正面からぶつかった。

 

 

 







  幾つかの補足


【何故雁夜がギルガメッシュネイキッドと戦えるのか?】

 これは単純に雁夜の身体能力がギルガメッシュの圧倒的上をいっており、更に掃射されながら天の鎖とエアの攻撃に晒されなかった為、辛うじて手数と超高速の思考で相対出来ていただけです。
 若し弾幕の最中に天の鎖や乖離剣を振るわれていたら即座に負けていました。
 又、超一級の原典を放置した状態で魔弾を封じても、天の鎖でそれらを絡め取って振るわれても負けていました。
 因って、一手間違えていれば簡単に雁夜は負けていました。
 まあ、逆にギルガメッシュも少しでも慢心や油断が残っていたら簡単に負けていたでしょうけど。


【人外に至った雁夜と宝物で強化されたギルガメッシュのパラメーター】

       雁夜                 ギルガメッシュ
・筋力:A9+ ・魔力:EX   ┃  ・筋力:A5+  ・魔力:A++++
・耐久:A7+ ・幸運:EX   ┃  ・耐久:A++++・幸運:EX
・敏捷:A7+ ・宝具:--   ┃  ・敏捷:A++++・宝具:EX

 Cランク宝具が筋力A~A+換算ですので、宝具は最高で筋力の約10/3の強さとなりますので、雁夜の単純な全力攻撃でもA+宝具を完全に(数値が150寸前でも)越えています(笑)。
 逆に最低倍率の約2.5倍なら、エクスカリバーでも(数値が200寸前でも)雁夜の攻撃に押し負けます(爆笑)。
 そして一番妥当な間を取った約2.92倍で、エクスカリバーをA++の中間の175で計算したら、数値的に雁夜の筋力が上だったりします(大爆笑)。
 最早身体が宝具状態です。
 多分第五次バーサーカーを一回殴っただけで12回殺せます。


【ギルガメッシュが壮絶に暴れていたが時臣の魔力が枯渇しなかった理由】

 これは単純にギルガメッシュが時臣から魔力を一切補給していなかったからです。
 理由は、勝負を挑む際に他者の助力を借りるのを良しとしなかった、です。
 このSSのギルガメッシュには脅威の単独行動EXが在り、聖杯戦争中ならば生前と同等の魔力生成率ですので、聖杯戦争中は本当にマスターの必要性が在りません(聖杯戦争後は魔力生成率が落ちるので派手に暴れられなくなるので、多少はマスターの必要性が発生します)。
 時臣涙目です。


【放たれたエヌマ・エリシュの威力】

 ギルガメッシュの筋力値×20+魔力値+宝物のバックアップ=約8000となっています。
 本来4000が限界数値ですが、宝物のバックアップを受けて強化された為、限界数値を突破しています。


【ギルガメッシュが精霊の域云云と言っていた件】

 此のSSのギルガメッシュの勝手な発言です。オリジナル設定です。
 とは言え、そんなに的外れではないと思っています。
 後、ギルガメッシュは流石に自分が神相手に戦えば分が悪いと思っているのは、ステータスの詳細からも何と無く察せたので、ギルガメッシュにしては珍しく若干弱気(?)な発言となっています。


【雁夜おじさんが強過ぎと思われる件について】

 チート寸前の強キャラです。
 しかもアルクェイドの神代回帰の如く一定未満の神秘を弾く体になっている為、宝具以外で傷付けるのが非常に困難になっています。
 更に死の概念が無い相手に対しても、死の概念を刻み込む物質を生成して叩き付ければ打倒可能という無茶苦茶さもあります。
 ナンダコイツハ?状態です。
 まあ、精霊より上の神霊である上、知名度が世界有数の玉藻に比べればまだ可愛いものですが。
 個人的に、

陣地内玉藻 > 全開アルクェイド ≒ 玉藻 > 雁夜(現在の潜在スペック) > アルトルージュ ≒ ギルガメッシュ(ほぼ英霊状態) ≒ 雁夜 >> ギルガメッシュ(アーチャー) > ヘラクレス(バーサーカー) > アルトリア(セイバー) > シエル(不死消滅後) >> 凜 >>> 都子(タタリ補正無し)

、と考えています。 
 まあ、所詮洒落なのであまり深く受け取らずに流して下さい。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾參続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 激突する地獄そのものの風とソレを祓う風。

 激突した二つの風は、余波だけでも超一級の宝具の解放にも匹敵する規模であり、宛らそれは神話の再現であった。

 

 原初の地獄を再現する風と、地獄を祓って創世を告げる風。

 地獄の風が変革を拒み、創世の風が停滞を拒み、互いが互いを否定しあう。

 否定しあって周囲を荒れ狂う風は空間を切断するだけに留まらず、擬似的な時空断層すらをも引き起こし、激突点を中心に物理特性を無視し且つ規格外の神秘を纏った破壊の波が広がりだした。

 だが、ギルガメッシュと雁夜は互いに地獄の風と創世の風を放出しており、余波の影響など受けていなかった。

 が、今迄観戦していた周囲の者はそうはいかず、ライダーは二つの風が激突した瞬間即座に空へと避難して事無きを得たが、セイバーとランサーは最早自力での離脱が叶わないと判断した各マスターが、ケイネスは自身を、切嗣はアイリスフィールを連れて全速で避難する様に令呪を以って命じた。

 そして令呪の補佐が無い切嗣と舞弥は事前に望遠スコープで視認出来る限界迄離れていたので、辛うじて余波の圏内からの脱出が間に合ったが、監視していたアサシンは二人よりも近く且つ運も悪かった為、荒れ狂う余波の風を浴びて一瞬で消し飛んだ。

 

 荒れ狂う余波が今迄より更に強まり、遂に市街地迄及ぶかと思われた直後、突如市街地と倉庫街を遮る様に結界の壁が現れ、超一級宝具の解放に匹敵する余波の悉くを難無く受け止めた。

 更にその結界は一瞬で消えたりはせず、まるで激突が終わる迄は在り続けると言わんばかりに変わらず存在し続けた。

 だが、それは此の場の者が外に脱出するのを阻むことも意味していた。

 そしてそれに気付いたケイネスは即座にランサーのゲイ・ジャルクで結界を一時無効化して離脱する様に命じたが、破魔の赤薔薇と称えられた槍の穂先が結界に触れたにも拘らず、結界は破壊されること無く存在し続けていた。

 一応ゲイ・ジャルクは魔力の流れを断ちはしたのだが、張られた結界が単一の術式ではなく兆に届く数の術式の集合体であり、ランサーの行動とは滝に槍を差し入れて塞き止めようとするのと同義であり、まるで要を成すことが出来なかった。

 しかも滝の如く結界を降り注がせる兆に届く結界の基点はサーヴァントの視力を以ってしても視認不可能な上空に在り、飛び道具で中てるというのも極めて困難であり、ライダーが天を駆けて基点を破壊しようとしても間に合わぬ公算が圧倒的に高い程に桁外れな上空に基点は存在していた。

 その上これを行っているだろうアウトキャストはギルガメッシュと雁夜の勝負を邪魔しているのではなく、破壊が市街地に及べば聖堂教会からの介入があると判断しての対処である為、両者その結界に対して一切文句が無い為に説得による解除も望めず、又、神秘の秘匿という面に関しても魔術師達が神秘秘匿の為なら人命など塵にも劣ると豪語している為文句の無い対処であった。

 

 

 観戦者達が結界ギリギリ迄に避難しても激突は続いていた。

 本来なら既に放出が終わっている筈なのだが、ギルガメッシュは宝物を使い続けて回復したはしから魔力を籠め続けて地獄の風を放ち続けており、雁夜は生命力を消費し続けて根源に繋がる補給管を維持し続けて汲み上げた魔力を籠め続けて創世の風を放ち続けており、完全な膠着状態に陥っていた。

 この儘ではギルガメッシュの魔力とバックアップの宝物が尽きるか雁夜の生命力が尽きるかの勝負になってしまい、何方も此処迄全身全霊の全力を振り絞った結果にしては今一納得しかねる幕引きになってしまうと感じていた。

 故、ギルガメッシュも雁夜も、一瞬だけ今迄を遥かに超える魔力を注ぎ込み、その一瞬で相手の風を吹き散らして勝負を決めることにした。

 無論、一瞬とはいえ今迄を遥かに超える魔力を注ぎ込む以上、成否に拘らず甚大な反動を受けるのは必至であり、更に反動でその後は魔力を籠めることすら出来ない程消耗してしまう為、相手の風を吹き散らせなければ逆に自分が無防備に相手の風を受けることになるのだが、ギルガメッシュも雁夜も自分が競り負けるとは微塵も思っていなかった。

 何方も正真正銘全身全霊の全力であり、誇りや矜持や信念や想いの全てを籠めた一撃であり、その結果を疑うなどという思考は全く存在しなかった。

 そして、両者同時に耐久限界を遥かに越えた魔力供給を行い、地獄の風と創世の風の出力が一瞬だけ跳ね上がった。

 

 互いの耐久限界を超えた魔力供給が成され、二つの風の出力が爆発的に跳ね上がったが、奇しくもその出力は先程と変わらず同等であった。

 だが、それは先程と同じ拮抗になど成りはしなかった。

 

 究極の一とも称される全く同威力同規模の激突は、擬似時空断層ではなく、正真正銘の時空断層を発生させた。

 そして発生した時空断層は両者を呑み込む規模で世界に孔を穿ち、ギルガメッシュと雁夜は同時に根源の渦へと呑み込まれた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 引き分けと言うよりも相打ちと呼べる様な有様になった激戦だったが、戦いを観戦していた誰もが予想外の結果に呆然と世界の外側への孔が穿たれた箇所を見つめていた。

 魔術師達は何故あの場に飛び込まなかったのかという後悔から、サーヴァント達は尋常ならざる武の激突に敬意を表すかの如く、雁夜とギルガメッシュが消えた辺りを見ていた。

 だが、其処には最早根源の渦など存在せず、又、雁夜とギルガメッシュの両者も存在していなかった。

 ただ、神話を再現する戦いが在ったことを示すかの如く、たった二者で作り上げたとは思えない程の破壊の爪跡を残していた。

 しかし、勝者も敗者も居らず、夜風と潮騒とが静寂を否定するだけになったにも拘らず、天より降り注ぐかの如く展開される結界の群は未だに健在であった。

 

 直ぐに全員が何故未だに結界が解除されていないのかを疑問に思った。

 一瞬この儘此処に自分達を隔離して干上がらせるつもりなのかと思ったが、直ぐ傍に海が在る以上は魔術を用いて食料と真水の確保は容易である為、恐らく年単位での自給自足が可能である為その線は非常に薄かった。

 ならば残ったサーヴァントが同士討ちをする様に仕向けているのかとも思ったが、此れ程強大な結界を展開する魔術関連の能力を有する者に利させるくらいならば、寧ろ同盟を促すだけになるのは自明の理の為、その線も非常に薄かった。

 それならば一定時間自立展開型なのかとも思ったが、戦闘が激化した際に急遽張られた様な代物が事前準備を必要としたり、万が一の事態に素早く結界を補強出来ない術者から切り離された類の術式を使用するとも思えない為、この線も非常に薄かった。

 そして、これらの理由でないとするならば、残された可能性は、未だ勝負は続いているか、この結界内の者を鏖殺する為の準備を整えているか、であった。

 

 直ぐにその考えへ至った結界内の全員に緊張が走り、一時的な同盟を組むべきかどうか皆が僅かに逡巡した。

 だが、その答えを誰もが出す前に、世界の外へと通じる孔が穿たれた辺りに異変が起きた。

 

 傍目には何も変化が無い様に見えるが凄まじい神秘が漏れ出す様に現出しており、此方側ではなく彼方側からの干渉が行われていると即座に誰もが理解した瞬間――――――

 

「あああああああああああああああっっっ!!!」「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

――――――凄まじい雄叫びと共に、世界に孔を穿ちながら雁夜とギルガメッシュが現れた。

 突如弾かれる様に現れた両者は、着地も出来ずに無様に地面に激突して転がった。

 暫く転がり続けた両者だったが、推力が無い為程無く同じ位置辺りで止まった。

 そして両者が転がった際に巻き起こった砂塵が完全に晴れる程の間、完全な沈黙が周囲を支配していたが、唐突に起き上がった二人は互いを見――――――

 

「はははっ」

「くくくっ」

 

――――――僅かに笑い零し――――――

 

「はははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!」

「あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっっっ!!!」

 

――――――後に白雉の如き笑い声を上げた。

 

「まさか我の総身と財の全てを費やした渾身の一撃で勝てぬとはなっ!

 だが、互いが渾身の一撃を放った結果が是ならば悪い気は微塵もせん!」

「俺も勝ち負けに興味は無いが、アレで勝てないとは思わなかった!

 だけど……死なず殺さず済んで終わったのは嬉しい限りだ」

「何だ?殺さぬつもりで戦っていたのか?」

「まさか。そんな余裕は無かったさ。

 ただ、俺が挑んだのは一騎打ちでも殺し合いでもなく、勝負だったんだ。

 殺さず済むならそれに越したことは無いだろ?」

 

 雁夜の言葉を聞き、ギルガメッシュは一瞬呆気に取られたが、直ぐに笑みを濃くしながら言葉を返す。

 

「はははははっ。そうであったな。

 余りに楽し過ぎてそんなことすら忘れてしまっていたな」

「俺も……ほんの少しは楽しかった」

「ほう?戦いの楽しさを理解出来たか?」

 

 意外なものを見る眼でギルガメッシュは雁夜に告げる。

 だが雁夜はそれに苦笑しながら言葉を返す。

 

「そうじゃないさ。

 ただ……生まれて初めて全力で何かをするのが楽しいと思った。

 誰かの為だろうが自分の為だろうがそんなのは関係無く、自身が空っぽになる程全力を振り絞った上で尚力を振り絞ろうとするのが、ほんの少しだけ楽しいと思えた」

 

 自嘲とも苦笑と違う笑みを浮かべながらそう言う雁夜。

 そしてそれにギルガメッシュは笑いながら告げた。

 

「はははははっ。そんなことを今になって気付くとは、正しく先程と生まれたばかりの赤子の様ではないか?」

「ははっ。否定出来ないところが情けないな。

 だけど、俺が生れたばかりと言うならそっちも生まれたばかりと言えるだろ?

 なにせ完全な転生を果たしたんだから」

 

 雁夜がその言葉を発した瞬間、雁夜とギルガメッシュの会話を聞いていた者達は驚愕の声を上げた。

 だが、マスター達は雁夜とギルガメッシュの話に割り込んだ祭に不興を買って即殺されるのを恐れ、サーヴァント達は全力勝負の後の語らいが一段落する迄話に割り込むのは無粋と思い、誰も雁夜の発言を問い質したりはしなかった。

 が、当然そんなことなど気にも留めない雁夜とギルガメッシュの語らいは続く。

 

「未来の記録は捨て去ったから完全とはいかんがな」

「そんな人生を馬鹿にしてる預言書なんて捨てて当然だと思うぞ?」

「ほう?未来への不安が無いとでも言うつもりか?」

「そんなワケないにきまってるだろが。

 ただ、知ってようと知らぬ儘でも結果が同じなら、そんなの塵と同じだろ?」

「正しく真理だな」

「そんな大層なもんじゃないさ。

 所詮こんなのはちょっとした思考ゲームだ」

 

 そう言って雁夜は思い出した様に虚空へと手を伸ばし、現れた時に転がってしまった先程創造した規格外の概念武装を喚んだ。

 すると主に喚ばれた概念武装は宙を駆けて主の手へと収まった。

 そして雁夜は手に収まった球体を労わる様に暫し見つめた後、ギルガメッシュへ手渡した。

 

「一方的に勝負を吹っ掛けた侘び……と言うより、まあ、色色諸諸に対する俺の感謝と感動の(しるし)だ。

 要らんかもしれんが受け取ってほしい」

「侘びなら要らんと言うところだが、感謝と感動の証だと言うなら、受け取ろう。

 それは至宝と呼ぶに相応しき物だからな」

「感謝する。

 ああ、一応言っとくが、ソレ、根源に触れて変質した一品物だから、崩壊したらもう創れないぞ」

「だろうな。

 もう一度創造したところでコレの変質前のが出来るだけだろうな」

「だな。

 まあ、気合を入れ捲ればソレと同等のコトをソレ無しで出来ると思うから、使い捨てのやつなら創れるかもしれんが、感謝や感動の証とそっくりの使い捨ての物なんて気分が悪くなるから創るつもりは微塵も無いけどな」

 

 その言葉を聞き、ギルガメッシュは上機嫌に頷いた。

 そして貰ったばかりのモノの名を知らぬのを思い出してたので尋ねた。

 

「ところでコレの名はなんというのだ?」

「そうだな……特に名は決めていないが、あの一撃の名前は決めてある」

「ほう、なんだ?」

「〔神である九へと至る八と一〕、だ」

「なるほどな。

 神成らぬ身で神へと挑むという意味か」

「詳しくは恥ずかしいから秘密だ。

 あ、ただ、それ自体の名前は無いから好きに決めてくれ。

 名付け親に成ればソレは俺の手から離れるしな」

 

 それを聞いたギルガメッシュは笑みに不敵さを混ぜながら手の中のソレの名前を告げる。

 

「ならば、コレの名はカリヤ以外に在るまい。

 あの勝負の末に感謝と感動の証に我へと渡されたならば、此れより相応しき名は在るまい?」

 

 雁夜が恥ずかしがる様を楽しむ様にそう言うギルガメッシュ。

 だが、同時に言っている事に嘘が無いと容易に解る笑みを浮かべていた為、雁夜は何とも困った顔で言葉を返した。

 

「俺としちゃ恥ずかしいから勘弁してほしいが、俺が貰う立場でもそう付けるだろうから止めろと言い難いな」

「む?ならば我も何かやるべきか?」

「いや、身の丈を越える物は貰わない主義だから、丁重に断らせてもらうとする。

 それに、俺が本当に欲しいモノは祈りと行動の果てに手に入るのばかりだから、貰える様なモノじゃないしな」

「我の宝物を拒否するとは、何とも欲の無い奴だな」

「欲が無いわけじゃないが、根が小市民だからな。

 穏やかで慎ましやかな生活が壊れる様な高価過ぎる物は二の足を踏むんだよ」

 

 そう言いながら雁夜は立ち上がり、ギルガメッシュもそれに続く様に立ち上がった。

 暫し雁夜とギルガメッシュは黙って視線を交わし合い、それでこの語らいももう直ぐ終りだと両者悟った。

 そしてもうこの語らいが終わると思ったギルガメッシュは思い出した様に告げた。

 

「しばらくは散策で時間を潰す。

 時臣と会うなら早い内にするといい」

「それは在り難いが、いいのか?

 一応召喚者だろう?」

「ふっ。折角最高の気分なのを時臣なんぞに会って潰すのは惜しいからな。

 暫くは夜空を肴に酒を飲み、陽が昇れば有象無象が溢れ返った街を散策し、そして暮れれば雑種達の戦いでも見て過ごすとする」

「聖杯を奪い取られるかもしれないがいいのか?」

 

 何と無く物品収集癖が在りそうなギルガメッシュが聖杯に頓着して無さそうな発言をした為、気になった雁夜は問い掛けてみた。

 するとギルガメッシュは清清しい笑みを浮かべながら答えた。

 

「聖杯戦争などと言う戯けた催しの最中、得難き邂逅を成し、至高の勝負を繰り広げ、その果てに至宝を渡されたのだ。

 巡り合わせの鍵になった聖杯に労いぐらいは掛けてやるが、奇跡の出涸らしは要らん。

 そんな物は欲しい者共が勝手に奪い合えばいい。

 まあ、見所も無い奴がその手に掴もうとするなら消し飛ばし、召喚者への義理立てとして時臣にくれてやるがな」

「奇跡の出涸らしとは言いえて妙だな。

 特に俺にとっちゃ二度も奇跡の巡り合せが…………いや、一度目は悪夢か?が起きただけに、正しく出涸らしだな」

「ほう。奇跡だけでなく悪夢と称する一度目とは何なのだ?」

 

 雁夜は興味深げに尋ねるギルガメッシュに如何答えたものかと暫し悩んだ。

 はっきり言って、コレだけ大暴れしたならばどう足掻いても裏から大注目されるのは必至であり、しかも聖杯戦争中の戦闘の結果とはいえ根源の渦への道を開いたのだから魔術協会からの干渉も必至であった。

 幸いと言うべきか、ほぼ英霊状態の英雄王ギルガメッシュと引き分けるという快挙を成し遂げた以上、気安く雁夜にちょっかいを掛ける馬鹿は沸かないだろうが、最高位階の神霊と共に居ると知られればどうなるだろうか?

 

 予想される魔術協会側の反応は、恐らく手を出す輩が更に減るだろう代わりに、より一層監視の強さや御機嫌取りに来る輩の数が跳ね上がるというものだろう。

 そして聖堂教会に関しては極東という布教範囲外に神霊が涌いて出た程度の認識か、自分達以外の教義の神が現れたと執拗に襲撃を掛け続けるかの何方かだろう。

 だが、雁夜は少しだけ楽観的に、[基本的に布教範囲外且つ一神教に喧嘩を売る程節操無く何でも気軽に信仰する日本で、祖の10位以内を放置している教会の奴等が勝てない相手へ執拗に挑むとは思えない]、と判断した。

 但し、玉藻の存在を知らしめた場合、少なくても桜を独り立ちさせる際は人質に扱われぬ様に雁夜達は異世界にでも旅立つ必要が在り、更に桜には確りと自衛の術を教え込む必要が在るのだが、最早桜に魔術関連の知識と技術を修得してもらうのは必須な為、然して変わらないと言えた。

 

 因って、雁夜は玉藻に聖杯戦争の偽装リタイヤをさせて時臣やアサシンのマスターに疑われ続けるくらいなら、此処で全てを晒して確り聖杯戦争に関わる気が無いことを宣言しようと思った。

 幸い、最高位階の神霊が聖杯を欲しがるとは常識的には考えられず、更にギルガメッシュの宝物を拒否したり創造した規格外の概念武装を簡単にギルガメッシュへ渡したのを考えれば雁夜が今更聖杯を狙うとは思われないだろう為、手札を全て晒して聖杯に魔力でも適当に流し込めば始まりの御三家の当主としての最低限の勤めは果たせ、その後は聖杯戦争が終わる迄安全な那須の山にでも篭っていても文句は言われないだろうとも雁夜は思った。

 

 そして結論を出した雁夜はギルガメッシュへと答えを返した

 

「これから呼ぶから少し待ってくれ。

 ……と、言うわけで来てくれ。但し、死にかねない奴には配慮してくれ」

「死にかねないだと?」

 

 何を言っているのか今一解らなかったギルガメッシュだったが、直ぐにそんな疑問が吹き飛ぶ異変が未だ張られていた結界内に起こった。

 

 

 突如結界内に凄まじ過ぎる神秘が充満し、更に次の瞬間には恐らく結界内だけだろうが、空に燦然と輝く太陽が現れた。

 影の発生角度や肌に当たる光の暖かさだけでなく、天空に存在する太陽に何の違和感も感じないことからアレが偽りや虚構ではなく、正真正銘の太陽なのだと、理屈も無くこの場の誰もが理解した。

 

 天空に太陽が出現し、この場の誰もが正真正銘の太陽なのだと理解した次の瞬間、太陽の欠片の様な光の粒が一箇所に集まりだして一つの形を作り上げた。

 そして形を成し終えると光は直ぐに収まり、光の中から、太陽神とも万物の慈母とも白狐に乗る天女とも謳われる、亜細亜圏内の神に置いて最高位に位置する女性神が具現した。

 更にその後僅かに遅れて虚空に現れた少女を彼女は優しく抱き抱えると、静かに地へと降り始めた。

 

 地へ降りる最中、彼女は九つ在る尾の一つを振った。

 すると見るも無残な状態成り果てていた倉庫街が、瞬時に破壊される前の状態へと戻った。

 

 

 修復が成された有り触れたアスファルトの地面に降り立った彼女は、露出が激しい格好をしているにも拘らず、人が決して侵せぬ神聖さを湛えながら雁夜の元へ静かに歩を進めた。

 10mも離れていない為直ぐに雁夜の傍に辿り着いた彼女は、胸に抱いていた少女を静かに地面へ下ろした。

 

 地に下ろされた少女は他の一切を見向きもせず、迷わず雁夜に駆け寄り、その脚に抱きついた。

 

「!?」

 

 雁夜は自分の足に抱きついた桜が何故玉藻に抱えられて此処に居るのか解らなかったが、桜が此れ程能動的且つ積極的行動を示したのは再開した時から一度として見たことが無く驚いた。

 だがその驚愕も――――――

 

「良かった………………生きてて…………………………本当に良かった」

 

――――――震えながら抱き縋る桜から聞こえる小さな声を聞き、驚愕は一瞬にして消え去った。

 

 自分の足に抱き縋る桜を見、玉藻が何を想って桜を此の場に連れて来たのか察した雁夜は、桜を安心させようとそっと抱え上げ、優しく抱き締めた。

 そして少しでも安心してほしいと思い、精一杯の優しさと配慮を籠めて囁いた。

 

「大丈夫だよ。叔父さんは此処に居るよ」

「……うん」

「凄く無茶しちゃったけど、此処に居るよ」

「…………うん」

 

 雁夜が怪我を負ったり人外へ至ってしまったことに負い目を感じているのか、桜の声はとても小さかった。

 だが、雁夜は強大な相手に挑む姿にほんの少しだけでも頼り甲斐を感じ、そして自身の姿に喚起されてもう少しだけ勇気を振り絞ってほしくて勝負を挑んだのであり、桜に負い目を感じてほしくて勝負を挑んだのではない為、桜に負い目を感じさせないよう、少しだけ会話を誘導することにした。

 

「勝負には勝てなかったけど、少しは勇気を振り絞れたかな?」

「……………………わからない。

 だけど……雁夜おじさんが消えちゃった時………………頼まなきゃよかったっていっぱい……いっぱい後悔した」

 

 わからないと言われた瞬間、流石に脱力しそうになった雁夜だったが、直ぐに続く桜の言葉を聞き――――――

 

(馬鹿か俺は。戦ってる姿を見ている時(・・・・・)に勇気なんて涌く筈ないだろが!

 自分の大切な人が一瞬後には死ぬかもしれない姿を見て勇気が涌く奴なんて、互いが戦士の相棒か精神異常者に決まってるだろうが!

 俺がやったことなんてただ桜ちゃんを不安に追い込んだだけじゃないか!)

 

――――――雁夜は胸中で自分を罵倒した。

 だが、更に続く――――――

 

「でも…………雁夜おじさんが戻ってきた時、いっぱい……いっぱい……いっぱい安心した。

 そして……雁夜おじさんがいっぱいいっぱいいっぱいいっぱい頑張ったんだから、私も…………あの人に会うぐらいは頑張らなきゃって思った」

 

――――――桜の今迄よりも更に勇気を振り絞ってくれた言葉を聞き、不安にさせてしまったが決して無駄ではなかったと思えた雁夜は、涙が出そうになるのを誤魔化す為に少しおどけて尋ねてみた。

 

「叔父さん、少しはカッコ好くて頼り甲斐が在りそうに見えたかい?」

 

 尋ねられた桜は埋めていた雁夜の胸から静かに顔を離し、ほんの少しだけとはいえ確かに涙が滲む瞳を雁夜に向けて答えた。

 

「カッコ好かった。一所懸命頑張っている雁夜おじさん、凄くカッコ好かった。

 それに……私の無茶なわがままを叶えてくれて…………凄く凄く凄い人だって思う」

「っっっ」

 

 此れ以上無い言葉を桜から掛けられ、涙が溢れだした目を急いで腕で擦って拭う雁夜。

 そしてそんな雁夜を凄まじく珍しいことに空気を読んで此れ迄静観していたギルガメッシュが、人を食った様な笑みを浮かべながら雁夜に声を掛ける。

 

「なんだなんだ?この我と引き分けた男がこんな幼き女如きに泣かされてどうする?」

「っぅ!な、泣いてな――――――」

「泣いてるの、雁夜おじさん?」

「――――――んかいな……って、ちょっ、ちょっと!?」

 

 慌てて否定しようとした雁夜だったが、突如抱えられた桜が精一杯腕を伸ばして雁夜の頭を撫でだした。

 恥ずかしさの余り振り払おうかとも思った雁夜だったが、桜の気遣いを無碍に出来ない雁夜は何とも言えない顔でなすが儘になってしまった。

 そしてそんな雁夜を愉快気に眺めていたギルガメッシュはふと桜に違和感を感じ、暫し確りと見据えた。

 

 数秒桜を注視したギルガメッシュは、桜を見る目を興味深い視線に変えながら独りごち始めた。

 

「ただの雑種の小娘かと思ったが、その身を壊す事無く最上の加護を宿しきり、更にあの域の神と触れ合っても精神と魂に異常を来さぬとは、神代でも数える程の存在だな。

 

 ふむ、小娘。名は何と言う?」

 

 桜の顔を晒して置いて今更な感じもするが、雁夜は名前迄バラすのはどうかと思ったが、桜が自分と玉藻以外と話さそうとしようとするなら止めずに見守ろうと思い、黙って見守った。

 そして桜は優しく微笑む雁夜と玉藻を暫く交互に見た後、少し怯えて雁夜の胸に身を寄せながら、しかし小声ながらもはっきりと答えた。

 

「……桜。……間桐…………桜。

 初めまして…………キラキラの王様」

「ほう?我が尊名を知っているのか?」

 

 桜の王様という言葉に興味を引かれたのか、更に問いを掛けるギルガメッシュ。

 そしてその問いに先と然して変わらない感じで桜は答える。

 

「……知らない」

 

 その瞬間ギルガメッシュの顔が歪んだが――――――

 

「だけど……凄い王様なのは解る。

 キラキラで……強くて……カッコ好い…………凄い王様」

 

――――――続く桜の言葉を聞き――――――

 

「ふははははっ!我が尊名を知らぬのは不敬だが、我が尊名を知らずに我を正しく評価したのは見事だ!

 良いぞ。ただの物珍しい器かと思ったが、本質を見定める侮れぬ眼力を持っているではないか。

 矢張り神と人を超越する者の傍に居ると引き上げられるようだな」

 

――――――機嫌良く笑って桜の言葉を受け入れた。

 そしてそれで会話が一段落したと見たのか、玉藻が音も無く雁夜の傍に移動し、静かに雁夜に話し掛けた。

 

「主様。宜しければ紹介をして下さいませんか?」

「……解った」

 

 身振りや雰囲気だけでなく、言葉遣いに迄人では届かぬ神としての品格を感じさせる玉藻に雁夜は、[狐って猫っぽい習性だけどイヌ科なんだよな]、と一瞬益体も無いことを考えていたが、直ぐに了解の言葉を返した。

 そしてギルガメッシュへ紹介する。

 

「こいつの名は【玉藻の前】。通称玉藻。

 この国の平安時代末期に人の姿を模して転生し、幼名を【藻女】と名乗って人界に降り立った、正真正銘の神だ」

 

 紹介されたギルガメッシュは然して驚いていなかったが、それを聞いていた周囲の者は矢張りと思いつつも驚愕した。

 だが、玉藻はそれを気にせず、品と格を感じさせる振る舞いで言葉を紡ぐ。

 

「唯今主様より紹介されました玉藻の前です。

 僭越ながら補足致しますと、私は玉藻の前という神ではなく、私は本体の一側面が形を得て行動している存在であり、私自身に寄せられる信仰は神としてではなく化生としての類が殆どです」

「……神格から察するにさぞや名の知れた神なのだろうが、名は何というのだ?」

 

 ギルガメッシュのその問いに玉藻は一度雁夜に確認を籠めた視線を向ける。

 すると雁夜は、[今更隠すようなことでも無いだろ?]、と視線に乗せて了承の意を返した。

 そしてその意を受け取った玉藻は厳かに告げ始める。

 

「古くから此の日の本の国の民に太陽を司る【天照坐皇大御神(あまてらしますすすめおおみかみ)】と謳われ、真言密教に於いては万物を総該した無限宇宙の全一の【大日如来】と崇められ、更に大日如来の徳の現れでもある【ダキニ天】でもあり、人の信仰が薄れた現代で尚、崇め謳われる存在が私です」

 

 神霊という規格外の中でも更に規格外の神だと知り、流石にギルガメッシュも驚きで目を見開いた。

 だが玉藻はそんなギルガメッシュへ微笑みながら更に言葉を掛ける。

 

「長くなりましたので改めて名乗りましょう。

 私は神霊である天照の一側面である、玉藻の前。

 主様への報恩と思慕を叶える為本来の召喚に割って入り、更に此の総身を聖杯の補助を交えず主様の魔力のみで完全な状態として具現化して頂いた存在です。

 聖杯戦争に置けるクラスは本来存在しませんが、主様より、〔聖杯戦争より外れた者〕を意味する〔アウト・キャスト〕という、仮初のクラスと名を賜りました。

 

 以後見知り置きを」

 

 聖杯戦争を勝ち抜かんと意気込む全てのサーバントとマスターを絶望に染め上げるようなことを、玉藻は微笑みを讃えながら告げた。

 

 

 







  幾つかの補足


【冬木市が無事な件について】

 コレは単に玉藻が事前に結界を張っていたからです。
 明確に認識されたのは規格外の一撃の激突時ですが、実際は雁夜が令呪を使った時には既に展開されていました。
 尚、ランサーが間桐邸の結界に同様のことを行えば、間桐邸の魔力が鉄砲水の如くランサーに襲い掛かり、下手したら瞬間的に消し飛びます。


【根源に呑み込まれて雁夜とギルガメッシュはどうなったのか?(正確には根源の渦へと至る孔に呑み込まれたですが)】

 一言で言うと、ギルガメッシュは受肉した英霊になりました、です。

 根源で自分を見失う事無く確りと保ち、更に駄賃代わりに英霊の座にある自分の未来情報以外を全て自身に移し、正真正銘の完全体として転生を果たして常世に帰還しました。
 対して雁夜は自身の理解が深まった程度です。
 因みに孔が開いて直ぐだった為塞がれた孔周辺が不安定であり、更に高次元から低次元への干渉であった為、消耗していた雁夜とギルガメッシュでも辛うじて完全に根源に呑み込まれる前に脱出が叶っています。
 

【雁夜がギルガメッシュに渡した宝具】

名   :カリヤ(ギルガメッシュ命名)
ランク :EX
種別  :対人宝具 ~ 対界宝具
レンジ :0~99
最大補足:1000人


 間桐雁夜が創造し、根源に呑み込まれた際に神秘や其の他諸諸が跳ね上がった代物。
 雁夜的には概念武装だが、根源に触れる前から既に規格外の域の宝具なのだが、雁夜自身に自覚は全く無い。

 エアが地獄(死)を具現するのに対し、カリヤは地獄を祓う創世(誕生)の効果を持つ。
 地獄を祓うだけあって浄化の概念を持っており、不浄とされる対象や概念に対して特に強い効果を発揮する。
 装備中はEX未満のバッドステータスを問答無用で祓い且つオートリジェネの効果が在り、更にスキルも含めた全ステータスの値を50%上昇させ、しかも装備者の意志で宙を駆け巡らせ且つ小出しで攻撃を放つことも可能な超高性能な多機能宝具。
 ダメージ算出は、【(MGI×40)+(STR×10)】、で限界出力12000だが、宝物や魔法のバックアップで更に数値は上昇する。
 尚、対界宝具にも拘らず地獄や不浄の世界しか崩壊させられないが、地獄や不浄と成り果てた世界(星)で振るえば再び生命が芽吹きだすという、星(世界)の寿命を伸ばす至宝(故に規格外な力を持った雁夜が抑止力から排斥されない)。

 エルキドゥが拘束・牽制・移動、エアが攻撃・破壊・殲滅をするスタイルに、カリヤの支援・迎撃・殲滅の要素が組み込める為、ギルガメッシュの無双振りに拍車を掛ける要因と成った。
 更に、エルキドゥでエアとカリヤを厳重に拘束し続けた状態で、エアとカリヤの双方の出力をダメージ数値1万2千の域迄励起させれば世界へ孔を穿つことが可能。
 尚、根源に触れたエアとエルキドゥの神秘や性能も上昇しており、格的に3つとも同格の域に在る(因みに孔へ呑まれた前後にゲートオブバビロン(以降GOB)を展開している為GOBも強化されており、EX級の神秘若しくは直死の魔眼並の特殊干渉で破壊されない限りGOB及び内部の物(消費された物も含む)は完全に復元される)。
 因みに星の延命が可能な為対星宝具でもあるが、星を内包する宇宙や四次元以上の世界レベルでの延命が可能為対界宝具となっている。
 実はアヴァロンすら突破可能な代物だが、高位次元となる程に攻性干渉とは程遠くなるので、三次元付近での干渉でなければ極めて攻撃として成立し難いという重度の欠点を抱えている(極端な話、八次元存在には浄化と延命と回復効果しか及ぼさなかったりする)。


【玉藻の振る舞いが可笑しい件について】

 一世一代の見せ場とばかりに気合を入れての参上です。
 軽く見られては、馬鹿が涌いて出てくるので、雁夜と桜に迷惑を掛けない為にも気合を漲らせています。内心で。
 因みに、外堀を埋めるつもりは無くても、純粋にお似合いだと言われたいという乙女心もあります。

 余談ですが、軽く見られない様にするなら矢鱈と露出の強い格好を控えるべきかもしれませんが、ダキニ天(稲荷神)は古い伝承では半裸(と言うか伝承地次第では全裸)である為、このSSの玉藻的には十分威厳の出る格好と思っていたりします(若し自身の伝承に準えて全裸で服を着た少女を抱えて降臨とかしてたらただの痴女ですからね)。


【王様達とそのマスター達の心境】

・ギルガメッシュ
 まさか神霊を侍らすとはな。
 やはり我と互角に渡り合った者は器が違う。

・イスカンダル
 むぅ……まさか神霊だったとはな。
 こりゃ流石に交渉の余地は無いか?

・セイバー
 ……まだです。
 このままでは終わりません!

・ウェイバー
 聖杯に興味が全然無さそうな奴等なのが救いだよな。
 もし聖杯を狙われたらあんな化け物三名絶対倒せないけどな。

・切嗣
 まだだ!
 まだ終われない!

・時臣
 オノレ何処まで聖杯戦争を逸脱させれば気が済むのだ!
 だが……む?精霊の域の化け物が、神霊を伴って、敵意を漲らせて、明日と言うか今日にも話し合いに来るのか?ギルガメッシュも居ないのにか?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾肆続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 玉藻が聖杯戦争の関係者の殆どに絶望に近い衝撃を話の序の様に話した直後、驚いていたギルガメッシュが表情を笑みに変えながら雁夜に話し掛けた。

 

「流石は我と引き分けただけはあるな。

 まさかそれほどの神を自力で具現させるだけでなく、骨抜きにして娶っているとはな」

 

 揶揄うのではなく、純粋に雁夜の力量と魅力を褒めながらも誇るギルガメッシュ。

 対して雁夜は、ギルガメッシュが若干勘違いしているものの悪意が無いだけに頭ごなしに否定し難く、更に玉藻の発言も事実を婉曲したりもせずに素直に発言された為文句を言い難く、どう言い繕うべきか悩んでいた。

 

 少なくても此処で雁夜が玉藻が不仲とも取れる振る舞いを行えば馬鹿な魔術師達が増長して襲い掛かる要因にしかならず、玉藻の言葉を否定するのは明らかなマイナス要素であった。

 だが、逆に玉藻の言葉を受け入れるか否定しなければ繋がりは強固と認知され、馬鹿な魔術師達の増長を抑えて桜に血生臭い場面と関わらせる確率が減る為、少なくても否定する要素は無かった。

 何より、雁夜は先の玉藻の発言は自分の外堀を埋める気が微塵も無いのは此処最近の玉藻との遣り取りで確信しているので殊更に頭ごなしに否定し難く、然れど素直に頷くのは気が進まず、どうしたものかと雁夜は逡巡していた。

 が、そんな雁夜の悩みを晴らす様に――――――

 

「残念ですが私の想いは未だ届いてはいません。

 そしてそれは主様の意思を確かめもせずに降臨して負担を強いてしまい、更に当初は私の想いを一方的に示したことを思えば当然の帰結。

 ですがそれでも主様は私の想いを無碍には扱わず、更には私の行動に嫌悪を示しながらも私と過ごした時を快と仰られ、御傍に置き続けて下さったのです。

 ですので先の言葉は主様には些か以上に思う所が在る言葉と思われますので、以後留意して下さい」

 

――――――玉藻が波風を立てぬ様、柔らかながらもはっきりと先のギルガメッシュの発言を否定した。

 そして玉藻のその言葉に更に笑みを濃くしたギルガメッシュが雁夜に話し掛ける。

 

「ほう?まさか娶っていないにも拘らずここまで骨抜きにして尽くさせるとは……神すら殺せる女殺しのスキルでも持っているのか?」

「か、勘弁してくれ。俺は初恋の相手が結婚する時にも告白せずに送り出したヘタレだぞ?

 女殺しなんて不名誉な言葉は俺から一番遠い言葉だぞ?」

「ふむ……なるほどな。それも一枚噛んでいるから助力しているというわけか」

 

 そう言って桜を愉快そうに見るギルガメッシュ。

 そしてそれに頬を引き攣らせながら雁夜はどうにか反論しようと言葉を探す。

 が、雁夜が言葉を見つけるよりも早く桜が爆弾発言を炸裂させる。

 

「半分当たり。私と出逢ったのは……それが理由。

 そして雁夜おじさんは……女心がわかっていない女殺し。

 いつも上げて落として上げて……振り回してる」

「うえ”っ!?」

 

 抱き抱えた桜の発言を聞き、驚愕に目を見開く雁夜。

 そしてそれを聞いたギルガメッシュは愉快で堪らないといった顔をしながら雁夜に話し掛ける。

 

「ふっはははははっ。まさか天然の女殺しとはな。

 しかもなんだかんだで幼女に嫌われていないとは凄まじい才能ではないか?」

「主様は結果だけでなく、過程迄も意図せずその様にしてしまわれる為、不満は涌けども決して憎むことが出来ない御方ですから」

「なるほど。狙った獲物を確実には仕留められぬ代わりに、意図せず大量に仕留められるという訳か。

 存外に難儀なタチだな」

「然れど興味を惹かれない者達には御自身に害が及ばれない限りは、仮令御自身の益に成るとしても干渉しようとされないので、ソレが発揮されることは稀ですが」

 

 玉藻がそう言うと、ギルガメッシュは納得がいったという顔をし、雁夜と玉藻と桜を見ながら言った。

 

「ほう。つまり時臣とそこの人形を交え、御三家とやらが集った場で正式にこの戦いを辞退して平穏を掴む気か」

 

 害に成れば干渉するという玉藻の言葉を聞き、ギルガメッシュはあっさりと雁夜の行動を読みきる。

 そしてそれに何とか立ち直った雁夜が、話を完全に変える為にも言葉を返す。

 

「俺としちゃ時臣に桜ちゃんと一緒に会うだけで済ませたかったんだが……、全員揃ったなら御三家の代表を集めて教会で徹底的に話し合った方が後腐れを無くせそうだからな」

「出涸らしに集る雑種共の相手とはご苦労なことだな」

「仕方ないさ。

 其れも出来る限り穏やかな暮らしをする為の対価と思えば納得出来るしな」

 

 やれやれと言った感じで肩をすくめる雁夜を見、ギルガメッシュは些か不機嫌そうに言葉を返す。

 

「だが、それで下手に出ると勘違いする馬鹿は必ず沸こう?」

「それはお互い様だろ?

 神代の時代なら兎も角、今は変に暇を持て余した奴等が多いんだ。

 暇を持て余した奴等が周囲を見渡して珍しいモノを見つければ、暇も手伝って大抵欲に眼が眩んだ挙句、甘い考えで特攻したり部下を嗾けて日常を荒らす奴等が溢れてるんだ。

 下手に出ようが上手に出ようが馬鹿は必ず沸くだろ」

「ふん。随分と身の程を弁えぬ馬鹿が増えた時代に成ったものだ」

「まあ、世界の勢力バランスや個人の能力がある程度平均化されて久しいからな。

 同盟なり徒党を組むなりすれば、数で圧倒可能なのが殆どの世の中だから仕方ないだろ」

「ふん。ならば適当に同士討ちして数が減り、人界を纏める真の王を切に欲した時、再び我が威光を示して治めるとするか。

 雑種共が我の代わりに敷く今の治世は直ぐに破綻するであろうから、今の世を回って暇を潰している間に時は来るだろう」

 

 妙案とばかりに当面の目的を決めたギルガメッシュ。

 対して雁夜は苦笑いしながら言葉を返す。

 

「平穏に暮らしたい俺としては世界大戦なんて起こらないことを願うばかりだな」

「それを回避する武が在るのに願うだけか?」

「仮に戦争に介入して鎮圧しても、根本的問題を解決しない限り再び戦争は起きる。

 そしてそれを回避する為には上に立たねばならない。

 だが、武に優れただけで人の上に立てる程人は猿に似ていない。

 

 第一、自然体で人を纏めることと導くことが出来、更に自らを含めた和を愛せ、そして虚飾の欲に染まらずに自身の在り方を貫ける者だけが人の上に君臨出来る。

 俺じゃ纏めたり導くのは技量以前に意図しなきゃ出来ない以上、何れ重責に感じて投げ出すか潰されるのが目に見えてるからする気は微塵も無い」

「やはり卓越した見識と自己分析だな。

 勇者・覇者・王者・聖者・賢者と人の至る極地が在るが、どう見ても賢者の極地に立っている以上、聖者と勇者の適正は在れども覇者や王者の適性はないからな」

「逆に賢者と勇者の適正は無さそうだけど、配下に加えればいいだけに問題無さげなのが少しずるい気がするな」

「はははははっ。それが王者の特権というものよ。

 賢者が俗世の政に関わらずに引き込める特権と同じよ」

 

 機嫌良く笑うギルガメッシュを見、玉藻は会話が一段落したと判断した為会話を切り出した。

 

「主様、御歓談も一区切りしたようですので、此の場で改めて聖杯戦争に対する立場表明等を済ませられては如何でしょうか?」

「っと……そうだな。何時迄も周りの奴等から聞き耳を立てられるの良い気分じゃないし、さっさと済ませるか」

 

 そう言うと雁夜は周囲を見回し、一度此の場の全員を知覚した後、はっきりと告げた。

 

「第四次聖杯戦争参加者間桐家現当主間桐雁夜は全ての令呪を消費した上で改めて告げる。

 間桐家現当主にして暫定クラス名アウト・キャストのマスターである間桐雁夜は、今を以って正式に第四次聖杯戦争を脱する。

 監視の手段は残すものの、聖杯に託される願いが此方を巻き込む類でなく、更に此方の敷地等を荒らさぬ限りは第四次聖杯戦争中は此の冬木の地より離れよう」

 

 そしてそれに続いて玉藻もはっきりと告げる。

 

「天照の一側面である玉藻の前も告げます。

 我が主様が聖杯を求めぬ限り、私も聖杯など求めはしません。

 そして我が主様が御命令を下されぬ限りは、第四次聖杯戦争中は此の冬木の地より離れましょう。

 無論、私も監視の手段は残しますが」

 

 周囲から少なからず安堵が漏れる中、漸く流れ的に会話に入れると見たアイリスフィールがセイバーを伴って雁夜達の前に駆け寄りながら話し掛ける。

 

「ま、待って下さい!」

 

 最高位の受肉した英霊に匹敵する人外と、更にその遥か上の存在である神霊に態態話し掛けるアイリスフィールを見た雁夜達とセイバー陣営以外は、勇者を見るとも愚者を見るとも判らない目でアイリスフィールを見た。

 そしてアイリスフィールも自身がとんでもなく危険なことをしていると、魂が圧壊する様な波動に晒されながら痛感していた。

 だが、それでも多数のサーヴァントが居る此の場で告げねばならない事が在る為、気が狂いそうな圧迫感の中、自身の右手を握り締めてくれているセイバーの手の感触を心の支えにしてアイリスフィールは告げた。

 

「間桐の当主よ。貴方が聖杯を望まず今次の聖杯戦争を降りると申されること自体に異論は在りません。

 ですが、聖杯を共に求めた御三家の一角として、今次の聖杯戦争を破綻させかねない行為に対する責に対し、どのように思われているのかお尋ねします」

 

 若し雁夜が凄まじく優れた程度のマスターで、玉藻が凄まじく強いサーヴァント程度だったら、アイリスフィールはもう少しはっきりと聖杯に魔力を注げと告げたであろう。

 だが、雁夜は先程受肉した英霊と自らに仕える者を除けば、恐らく単独で今次の聖杯戦争の全勢力を圧倒可能な人外であり、玉藻に至っては恐らく勝負そのものが成り立たない領域の存在である為、アイリスフィールは可能な限り丁寧且つ相手を刺激せず、然れど必要以上に下手にならない発言をした。

 又、これだけサーヴァントとマスターが居るならば、聖杯を望む者達の無言の訴えも届くかもしれないと思い、今此の場こそが雁夜から妥協を引き出す最善の機とアイリスフィールは判断し、ワケも解らず許しを請いながら気絶しそうな圧迫感の中、愛する人の願いを叶える機会を棒に振れないと自らを奮い立たせながら辛うじて気丈に振舞った。

 対してその発言を受けた雁夜は、近くで自分に対して尋常では無い警戒心を抱いたサーヴァントが居るにも拘らず、居心地の悪さに少少居た堪れない気分になるだけで、後は見知らぬ者と話すという程度の警戒心しか涌いていなかった。

 そして何時の間にか危険と認識するレベルが跳ね上がっていることに気付かぬ雁夜は、剰え警戒されているのは規格外の玉藻であって自分ではないと本気で思った儘、ルポライターとして相手の言質を幾度も取り損ねた経験を活かし、答える前に相手の言質を取ることから始めることにした。

 

「その前に確認する。

 今のお前は御三家の一角のアインツベルンの代表であり、更にセイバー陣営の代表と判断していいんだな?」

 

 暗に後で先程のは個人的な発言と行為と言われるのを防ぐ為、雁夜は念押しをした。

 音声を記録こそしなかったものの、これで相手が言い淀めば二度手間を防ぐ為相手にしないつもりだった。

 尤も、後で教会で話し合うことを考えれば二度手間に近いが、先に片方だけとでも話して結論を出しておけば話が纏まり易いだろうと雁夜は考え、アイリスフィールの発言と行動に責任が伴うならば話をするつもりではあった。

 そして、アイリスフィールもそこは察しているらしく、毅然とした態度で曖昧な言葉を交えずに返す。

 

「その通りです。今現在私の発言と行動はアインツベルンとセイバー陣営の代表としてのものです」

「了解した。

 ならば間桐家現当主として先の責を問う言葉に対しての答えを示す」

 

 そう言うと雁夜は桜を玉藻の傍に下ろし、少し桜から離れた位置に立った。

 アイリスフィール達は不審げに見ていたが、ギルガメッシュのみが面白そうに見る中、雁夜は一度深呼吸をした。

 その後雁夜は虚空に手を伸ばし、少なからず回復した生命力を使って再び根源から魔力を引き出し始めた。

 そしてほんの数秒後、虚空に伸ばされた雁夜の掌の先に、一般人十万人分以上の無色の塊が具現化された。

 

 文字通り色が無い力の塊の為、目で捉えること叶わないが、それでも誰もが直感で雁夜の掌の先にはサーヴァントがエネルギー化した様な強大な力が存在していると感じていた。

 そしてそれを全員が理解したと確認した雁夜は、掌の先に具現化した無色の塊を圧縮する様に手を閉じ、暫しした後、今度は掌が上を向く様にして手を開いた。

 すると雁夜の掌にはピンポン球程のガラス球の様なナニカが在った。

 だが、先程感じていた力を今は一切感じていないことから、ソレに先程の力が封じ込められていると誰もが理解した。

 

 自分の手の中のモノの存在を誰もが理解したと判断した雁夜は――――――

 

「ほら」

 

――――――そこらのボールを投げる気軽さでソレをアイリスフィールへと投げ遣った。

 投げられたソレは、普通に軽く放られた為アイリスフィールでも左鎖骨辺りへと中る軌道を描いていると余裕を持って予測出来た為、その辺りに手を置いて受け取ろうとした。

 だが、放られたモノはアイリスフィールの手だけでなく服すら透過し、当然服の下の身体も透過した。

 が、放られたモノはアイリスフィールを透過して地面に落ちる事無く、途中でナニカに当たったらしく、〔カラン〕、という乾いた音を立て、更にソレが器の様なナニカに収まる様な滑る音が暫く響き、遂には音がしなくなった

 放られたモノが地面に落ちていないことから、アイリスフィールの中のナニカに放られたモノが収まったのを場の全員は理解した。

 そして放られたモノがナニに収まったのかを正確に把握したアイリスフィールは驚愕の表情で雁夜に話し掛けた。

 

「何故そこまで正確に場所が解るの!?」

 

 驚愕するアイリスフィールを見たセイバーは素早く雁夜とアイリスフィールの間に割って入り、更に何をしたのかと問い詰めようとした。

 が、それよりも早く雁夜が告げる。

 

「サーヴァント二騎以上の分は在るか?」

 

 宛ら硬貨を投げ渡して確認しろと言っているかの如き自然さで雁夜が告げた為、気勢を殺がれたセイバーはアイリスフィールに何が起きたのかを視線で問う。

 するとアイリスフィールは雁夜を驚愕した眼で見た儘独りごちる様に答えた。

 

「他に一切影響を与えず聖杯に焼べるなんて……」

 

 アイリスフィールの言葉を聞き、雁夜達以外は驚愕した眼で雁夜を見る。

 だが雁夜は面倒臭げな表情でアイリスフィールに告げる。

 

「そんなことよりサーヴァント二騎分以上があるのかどうかを訊いているんだが?」

 

 相変わらず魔術師に正面から喧嘩を売る発言を自然体で炸裂させる雁夜。

 だが、雁夜的には先の勝負で多種多様の特殊効果を持った魔弾の対処をする方が遥かに難易度が高く、宛ら平仮名の書き取りが出来て驚いているアイリスフィール達の反応に付き合うのが馬鹿らしい雁夜は、現代の魔術師が嫌いということも相俟って雑な対応となった。

 そして若干不機嫌となった雁夜の言葉を聞いたアイリスフィールは、答えを返していないことに気付いた為、慌てて答えを返す。

 

「ああ、ご、ごめんなさい。

 ……はい、確かにサーヴァント二騎分以上の力が注がれています」

「なら此れで……いや、玉藻」

「はい」

 

 突如何か考え付いたのか、玉藻に呼び掛ける雁夜。

 それに対し玉藻は桜を抱えた儘返事を行う。

 

 何時もと雰囲気の違う玉藻が桜を抱き抱えていると一枚の絵画の様だと内心思いつつも、それを表情に微塵も見せずに雁夜は玉藻に告げる。

 

「今俺が焼べた分を除いて計四騎が焼べられる迄は、俺が焼べた分の影響が出ないように出来るか?」

「可能ですが、期間と対象損傷及び死亡時の回復の有無如何はどう成されますか?」

「期間は此れより168時間。余計なことは一切しなくていい。

 此れは単に想定外の事態によって早くに満たすことへの不満を封じる為だ。

 後、本人の意思次第で解除出来るようにしておいてくれ」

「了解致しました」

 

 アイリスフィールの意思を完全に無視して勝手に進められる雁夜と玉藻の遣り取り。

 だが、当事者のアイリスフィールとその護衛のセイバーは、少なくとも害が無いと思われる取り決めの為、特に反論せずに黙ってその取り決めを受け入れた。

 尚、一応無駄とは思いつつもアイリスフィールとセイバーは玉藻が余計なことをしないかと警戒していた。

 が、そんなアイリスフィールとセイバーの内心を無視するかの如き発言を玉藻は述べた。

 

「終わりました。

 此れで魔術師達が言うランク換算でA+++を超える干渉が無い限りは問題ありません」

「「!?」」

 

 一体何時玉藻がアイリスフィールに干渉したのか、雁夜達以外は微塵も理解出来なかった。

 だが、周囲の驚愕はそれだけで終わらなかった。

 

「序に勝負に巻き込んだマスター達に令呪を1画追加しておいてくれ」

「了解致しました」

 

 そう告げると玉藻は、先程回収した時臣の令呪を白紙化し、更にそれを5等分し、そして薄まった魔力は自前で補填した後に五名のマスターに遠隔で令呪を1画追加した。

 

 流石に普段ならば此れ程簡単に工房内に居るマスターに迄令呪の遠隔追加などは玉藻でも出来ないが、幸い雁夜と玉藻が自重せずに行動した結果冬木市内が神殿化している為、此の程度のコトは造作もなかった。

 だが、そんなことを知る由も無い他の面面達は、雁夜達以外は玉藻に今更ながら強い警戒を抱いた。

 が、当然そんなことを気にも留めない雁夜は最後とばかりに告げた。

 

「それでは話は早い方が良いだろうから、本日日付変更時に冬木教会にて御三家の代表が集まるということにするが、構わないか?」

「サーヴァントの同伴が可能ならば特に異論は在りません」

「此方の事情で召集する以上、制限なんて設けるつもりは無い。

 尤も、会談する対価に腕を寄越せ等の類なら、断る序にとりあえず全力で2~3発殴るがな」

 

 冗談で言ったならば和んだのかもしれないが、雁夜は本気で言っており、とてもではないが和む言葉ではなかった。

 しかも雁夜に殴られれば最悪サーヴァントでも挽肉になって消滅する可能性が高い為、言外に、[さっきのサービスで調子に乗るなら痛い目に合わすぞ?]、と籠められている様であり、アイリスフィールは先程雁夜が玉藻に頼んだ事柄は、単に雁夜が面倒事を回避する為に行っただけであり、間違っても自分達に引け目を感じてのコトでは無いと直感した。

 そして雁夜は自分を小市民の常識人と自称しているが、勝負の後の会話の端端に変に達観した価値観を覗かせ、更に魔術師を蛇蝎の如く嫌悪しており、その上万能と謳われる聖杯を塵の様に思っており、トドメに養子の少女の為にほぼ英霊状態のサーヴァントに単独で挑むという無茶をするという常識人からかけ離れた思考と行動力がある為、アイリスフィールだけでなくその場の玉藻達を除く全員が、迂闊に雁夜を刺激すると聖杯を破壊した挙句に参加者全員を鏖殺するかもしれない人物と少なからず思って警戒した。

 

 だが、自身がそんな風に思われているとは思いもしない雁夜は、此れで会話は終わって後は解散とばかりにアイリスフィール達から視線を切った。

 そして未だに結界が展開された儘なのを見、玉藻に視線で結界の解除を促す。

 すると玉藻は即座に頷き、先ずは自身から発せられる神気を限界迄抑え、次いで天空に輝く太陽を消して結界内を普通の夜に戻し、更に陽の光に暖められた空気や地面や建築物を元の冷え切った状態に戻し、最後に結界を全て解除した。

 

 錚錚たる顔触れが存在する以外は普通の夜の倉庫街に戻ったのを確認した雁夜は、此れにてお開きとばかりにギルガメッシュに向き直って告げる。

 

「それでは縁が在れば又逢おう」

 

 そしてそれにギルガメッシュも特に別れを惜しむ様な素振りは見せずに言葉を返す。

 

「その時はまた存分に競い合いたいものだな」

 

 その言葉に何か思う所が在ったのか、雁夜は暫し考え込んだ後、真剣な表情で言葉を返す。

 

「10年以内に……此の世界から旅立つその前に、もう一度だけ勝負をしよう」

 

 承諾を望んでいたとはいえ、まさか承諾されるとは思っていなかったギルガメッシュだったが、直ぐに不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「我に白星を渡して旅立とうとは良い心掛けだな?」

「生憎とくれてやるのは黒星だがな」

 

 負けじと不敵な笑みを浮かべながらギルガメッシュに言葉を返し、それに対しギルガメッシュは一層不敵な笑みを浮かべ、雁夜も同じく一層不敵な笑みを浮かべた。

 

 その遣り取りで挨拶は済んだとばかりに、ギルガメッシュは雁夜に背を向け歩き出す。

 そして何処かへと歩みだしたギルガメッシュだったが、ふと思い出したことを雁夜にではなく、他のマスターとサーヴァントに告げる。

 

「最早聖杯などという出涸らしに興味は無い。

 見所を示せばくれてやるが、見所を示せねば聖杯に焼べて時臣にでもくれてやるので、死に物狂いで踊って我を楽しませるがいい」

 

 そう言って夜闇に溶け消える様に歩き去るギルガメッシュだったが、完全に夜闇に消える前、つい今し方の嘲る様な声ではなく、穏やかな声音で告げた。

 

「楽しみにしているぞ」

 

 その声を最後に、ギルガメッシュは夜の街へと消えた。

 

 

 

 数秒ギルガメッシュが消えた方を見ていた雁夜だったが、直ぐに気を入れ換え、此の場を監視している教会の監視係へと言い放った。

 

「〔本日日付変更時に其方へ伺い、御三家代表の会談の場とさせてもらう。

 勝手な話だろうが、探られて痛い腹が在るか、中立を名乗る気概が在るなら素直に受けてもらう〕

 そう言っていたと伝えてくれ」

 

 雁夜がそう告げると結界の外で状況が解らず困惑していた監視係の一人が、状況は解らないが火急の事態だと判断した為、無言の儘急いでその場を去った。

 

 そして言いたいことは言った為、雁夜は日付変更迄の時間を折角桜が外に出たのだから夜の散歩と洒落こむか、それとも間桐邸に戻って三人まったりと過ごすのとどちらが良いかを考え始めた。

 だが、今迄事態を冷静に観察していたライダーが、漸く一段落したという顔をしながら雁夜に話し掛けてきた。

 

「やれやれ。これで話も一段落したようだし、漸く話が出来るな」

 

 突如自身のサーヴァントが生きた核爆弾とも言える人外に成った雁夜と、人型の天変地異とも言える玉藻に話し掛け始めた為、ウェイバーは宛ら疫病神か死神を見る眼でライダーに食って掛かった。

 

「馬ぁッ鹿ッッ!何話し掛けてんだよ!?

 ここはこの場をとっとと離れて冬木を去ってくれるのを大人しく待つのが最善だろ!?」

「そんなことしたら、勧誘出来んではないか?」

 

 ウェイバーの言葉を、[何を言っておる?]と言わんばかりの顔でとんでもない答えを返すライダー。

 そしてその言葉を聞いた瞬間、ウェイバーだけでなくセイバー陣営とランサー陣営の全てがライダーに対し、信じられない馬鹿を見る眼を向けた。

 だが、それに微塵も堪えた様子の無いライダーに、ウェイバーは更に怒声を浴びせた。

 

「今まで空気読んで黙ってたなら最後まで空気読めよ!?」

「別に空気を読んで黙っとったわけではないぞ?

 単にあの金ぴかとの勝負が始まる前、知らぬとはいえ奴の友だか未来の嫁だかを悪く言ってしまったからなぁ。

 一応侘びはしたが、それだけではなんだから、気を遣って話を邪魔せぬように黙っておったのだ」

「そんな優しさがあるなら僕にも少しは向けろよおおおおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?」

 

 ウェイバーの魂の叫びとも言える絶叫が夜の倉庫街に響き渡り、それを聞いたセイバー陣営とランサー陣営が思わず憐れみの視線をウェイバーに向けてしまう程に哀愁を誘う絶叫だったが、ライダーは気に留めた風も無く戦車から降りて雁夜達の方へと歩きだす。

 最早止められないと悟ったウェイバーは人生か運命を盛大に呪いつつも、どうせ何処に居ても瞬殺されるならせめて無けなしの意地ぐらいは最後まで張ろうと思い、死刑囚の気分でライダーの後を追った。

 そして離れていると感じなくなっていたが、近寄ると先と変わらぬ圧迫感がウェイバーを襲ったが、自棄も混じった意地で進み続け、嬉しそうな笑顔で待っているライダーの横に並んだ。

 

 自分の横にウェイバーが並ぶのを笑顔で見届けた後、ライダーは雁夜達へと向き合い、ランサー陣営と何時の間にか離れているセイバー陣営が馬鹿を見る眼で見守る中、威風堂堂と告げだす。

 

「我が名は征服王イスカンダル!

 此度の聖杯戦争に置いてはライダーのクラスにて現界した者だ。

 うぬ等とは話したいことが山程あるが、それは一先ず後だ」

 

 そう言うとライダーは雁夜を確りと見据えて告げる。

 

「間桐雁夜よ!先の勝負、真に見事であった!

 讃える言葉は幾つも沸くが、敢てこの一言に全てを籠めよう!

 …………大した男だっ!!!」

 

 言葉通りその一言に全てを籠めたのだろう。

 実際、ライダーが発したその一言には胸を熱く奮わせる不思議な力があった。

 

 だが、余程の事態が無い限りは平平凡凡日日是好日しか眼中に無い雁夜は、極一部の例外の者達を除いて戦闘関連で讃えられても全く興味は無く、ライダーの言葉を聞き流す感じで聞いていた。

 尤も、名を名乗るという礼節を守り、更に貶すのではなく心から讃えているならば邪険にするのは礼節に欠くと思った雁夜は、特に余計な口を挟まず黙って聞くことにした。

 

 そして無言で先を促されたライダーは臆す事無く用件を切り出した。

 

「時に間桐雁夜よ。余の朋友とならんか?

 そして共に疾走し、世界を制する愉悦を味わわんか?」

 

 打算無く純粋に雁夜と世界を制してみたいと告げられたライダーの言葉だったが、平和な日常こそを是とする雁夜の心には届かなかった。

 だが、破天荒な振る舞いだが礼節に則り、更に真摯な想いで告げられた言葉を気に入らないからと雑に返す様な真似をする気が無い雁夜は、最低限の礼を払い、しかしはっきりと告げる。

 

「俺は友とは成るのではなく状況が生むのだと思っている。因って友に成ろうと付き合い始める気は無い。

 そして俺は平穏な日常こそが望みだ。

 

 日日の小さな幸福の連続こそが何よりも貴いと思っている。

 地位や名誉や権力は日常が送れる程度に在ればそれより上は不要どころか邪魔だ。

 自分の世界の外が不幸や幸福で満ちていようと、俺の世界に関係無い限り、はっきり言って基本的に如何でも構わない。

 だから俺は世界に対して覇を唱える気は微塵も無く、俺が世界に唱えるのは、[俺の世界に関わるな]、徒それだけだ。

 

 だから、生憎だがその誘いは断る」

 

 邪険には扱われていないが、責務や忠義や信念ではなく、純粋に思考の方向性故に断るという、セイバーやランサーよりも芽の無い断り方をされるライダー。

 だが、初めから断られると思っていたのか、ライダーは苦笑いしながら言葉を返した。

 

「やはり駄目か。

 せめて鍛冶師にくらいは成ってほしかったのだが、こりゃあ脈は無さそうだなぁ。

 まあ、己を磨きながらこの星を征服し、そして星々の果てに進軍する時にでももう一度声を掛けるとしよう」

「その時居れば茶くらいは出そう。

 まあ、王を名乗るなら遠からず最大の難関として現れるだろうから、その時消されるだろうがな」

 

 敢えて主語を省いてそう告げる雁夜。

 尤も、ライダーを馬鹿にしてそう言っているのではなく、雁夜なりの忠告としてそう告げたのだが、それに対してライダーは不適に笑いながら言葉を返す。

 

「障害は強大であるほど血沸き肉踊るというものだ。

 それに必ずしも戦うと決まったわけではなかろう?

 案外意気投合し、余と二人でお前さんを迎えに来るかもしれんぞ?」

「……若しそんなことになったら話を受けるかどうかは別にして、何か記念品を創って二人へ贈るとするよ」

 

 それを聞いたライダーは子供の様に目を輝かせながら言葉を返す。

 

「確かに聞いたぞ!いやあ、あの金ぴかが貰ったほどの物を貰えるとなると気合が入るわい!」

「いや、あの領域のは俺の限界を超えているから、俺が自力で創れて他人に渡せるのは多分数値化出来る程度の類に限定される筈だぞ?」

「やはり何事も言うだけ言ってみるものだな!

 思わぬ収穫があったわい!」

「……聞いてねぇよ」

 

 雁夜は話を聞かずに上機嫌に頷くライダーを半眼で見つつ、もう話も終りだろうと思い、とりあえずこの場を離れて余った時間をどうするか決めようとした。

 だがその前に――――――

 

「ああ、それと玉藻の前よ。

 フリーなら余の妻とならんか?

 朋友も捨て難いが、そなたほど良い女ならば是非と妻に迎えたいからな」

 

――――――ライダーが極大の爆弾を突いて盛大に爆発させた。

 

 自身の世界の一員である玉藻を引き抜こうとしたライダーに、雁夜が敵意寸前の視線を向け、それに気付いたウェイバーは、令呪を使ってでも帰ればよかったと後悔した。

 が、その数瞬後、突如倉庫街に再び先の結界が張られた。

 更にそれとほぼ同時に玉藻から発される圧迫感がほぼゼロになった。

 だが、次の瞬間には今迄と比較にならない規模へと跳ね上がり、しかもライダーへと向けられる怒気による威嚇は龍種でも腹を晒して服従しかねないモノであり、余波を至近距離で浴びているウェイバーは竦んで身動き一つ出来ず、離れていたセイバー陣営とランサー陣営は余計な動きや干渉をすれば巻き添えを食うのは必至と判断し、彫像の様に固まった儘黙って巻き添えを食わないことを全力で願った。

 そして嘗て感じたことの無い威嚇に晒されているライダーは、少しばかり控えれば良かったと自分の行動を省み、苦笑いした。

 しかしそんなライダーの内心など知ったことかとばかりに、玉藻は先程と全く変わった様子の無い声音で告げた。

 

「まさか主様への想いを軽んじられただけでなく、主様の前でこのような辱めを受けるとは思いもしませんでした」

 

 その言葉と同時に玉藻は尾の数本を巨大な突撃槍の形を模してライダーに突き付け、更に突き付けられた尾は先の掘削剣やカリヤや鎖に劣らぬ神秘を放っており、しかも其其が熱気と冷気と電気と振動と風といった要素を規格外の域で籠められており、解き放たれれば玉藻達以外は即座に消し飛ぶとライダー達ははっきりと理解した。

 だが、そんなことは知らないとばかりに、更に玉藻は言葉を紡ぐ。

 

「しかも先の主様の勇姿を目に焼き付けているにも拘らず、主様よりも優れていると自負せん、その天井知らずの不敬。

 何人が許そうとも、天であり神であるこの私が許しません」

 

 その言葉と同時に突如現れた太陽から、大気が高電離気体化する程の熱線が玉藻達から離れた所へ暴雨の如き数と密度で連続して放たれた。

 そして放たれた熱線は悉く地を気化させて蒸気爆発を引き起こさせた。

 

 煙が晴れると底の見えない穴が地に空いており、先の一瞬で蒸発させられた地の質量を物語っていた。

 10万度どころか100万度すら軽く越えるだろ熱線の暴雨を目の当たりにし、神霊、それも最高位の神霊の格というものを知り、緊張を振り切って諦観が場に満ち始めた時――――――

 

「止めろ。激情に任せて暴れる姿を晒す気か?」

 

――――――雁夜の言葉が待ったを掛けた。

 その言葉で我を取り戻した玉藻は、自分が桜の前で激情に任せて殺処理し始めるところだったのを自覚し、雁夜と桜に頭を下げながら侘びだす。

 

「………………とんだ醜態を晒してしまい、申し訳のしようも御座いません」

 

 ライダーの発言を許してはいないものの一先ず突き付けていた尾を収め、玉藻は自身の行いを深く恥じながら雁夜と桜へと謝罪を述べた。

 そしてその言葉を受けた桜は、玉藻を慰めるように玉藻の頭を撫で、雁夜は玉藻を落ち着かせる様にその頭に手を乗せながら言葉を返す。

 

「問題のある行動とは思うが、醜態だとは思っていない。

 第一、俺なら有無を言わさず殴り飛ばしていただろうから、それに比べれば威嚇で撤回を求めていたのは大した自制心だろう」

「…………勿体無き御言葉……深謝致します」

 

 俯いた儘小さく呟く玉藻。

 

 暫し俯いていた玉藻だったが、やがて顔を上げて桜に微笑んで感謝を告げると、空笑いと苦笑いを足した表情していたライダーへと話し掛ける。

 

「失礼。少し取り乱しました」

「う、うむ」

 

 辛うじて言葉を返すライダーに、玉藻は冷静さを取り戻した瞳で答えを告げる。

 

「先の誘いに対する答えですが、断固拒否、です。

 私が愛し、尽し、仕えるのは、私の隣に居られる御方以外在り得ません。

 仮令時の果て迄誘われようと、私の答えは決して変わりません」

 

 激情の一切を抑え込み、冷静に答えを返した玉藻を見た雁夜は、これで用件が済んだと思い、此れ以上余計な厄介事が起きる前に戻った方が良いだろうと思い、夜の散歩は断念し、さっさと間桐邸に帰ることに決めた。

 

「それでは此れ以上互いに話すことは無いだろうから、此れで失礼する」

 

 簡単な別れの言葉を告げると、雁夜は玉藻に目配せをした。

 目配せをされた玉藻は雁夜の意を正確に受け取り、即座に先と同じく此の場で起きた異変の痕跡を消した。

 そして誰かが話し掛ける暇すら与えず、玉藻は雁夜達と共に間桐邸へと空間転移した。

 

 後に残ったのは、正しく神の怒りに触れて消されかけた恐怖より解放されて安堵する面面だった。

 

 

 







【桜の感想】


・雁夜
 カッコ好くて凄くスゴイ。
 大切な人。

・玉藻
 綺麗で凄くスゴイ。
 大切な人。

・ギルガメッシュ
 キラキラの王様。
 カッコ良くて凄くスゴイ。

・ライダー
 もじゃもじゃ。
 牛の人。

・ウェイバー
 泣き虫。
 変な髪。

・ランサー
 嫌な感じがする。(←愛の黒子)
 影薄い。

・ケイネス
 髪薄い。
 嫌な目で見る人。

・舞弥
 良く解らない。
 隠れてた人。

・切嗣
 隠れてた人。
 髭剃り無いの?

・セイバー
 女の人なのに男の人の真似?
 変態?

・アイリスフィール
 あの帽子テレビで見た。
 多分アレが人妻の魅力。

・アサシン
 猿みたいに座ってた。
 ばいばい。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾伍続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:遠坂時臣

 

 

 

 どうしてこうなった?

 璃正神父と内通して聖堂教会のバックアップを受け、綺礼を弟子にとってアサシンのマスターにし、世界最古の蛇の脱皮の抜け殻の化石を手に入れ、そして満を持した召喚で英雄王を召喚出来た。

 だが、最初はほぼ英霊状態で召喚出来て喜んだものの、単独行動EXというマスター不要のスキルを持ち、更に1画ならば令呪にすら耐え得る対魔力Aというスキルを持つという、殆ど制御不可能な状態で現界するという裏目が出た。

 しかも雁夜が乱入してからは、もう手に負えなくなった。

 

 雁夜が魔法に至っていたのも腹立たしいが、そんな雁夜と戯れて財宝を雨と降らせて真名のヒントを文字通りばら撒いただけでなく、乖離剣まで抜くとは……。

 挙句の果てには雁夜如きが乖離剣の一撃と同等の一撃を放ち、聖杯戦争の最終局面で行える筈の世界の外への逸脱を、高々サーヴァントとの戦闘で発生させ、剰え何方も根源の渦へと至るとは……っ。

 

 何故だ?何故だっ?何故だっ!?

 魔道に背を向けて凡愚な徒人に戻った落伍者風情が、何故ここまで私の計画を乱すのだ!?

 しかも高々考え無しの特攻をした程度で根源の渦へ至るだと!?

 巫山戯るなっ!死んだ程度で至れるなら、人類史上で一体どれだけ到達者が出ると思っているんだっ!!

 外側からでなく内側から至るのがどれだけの難易度だと思っているのだ!?駱駝が針の穴を通るよりも難しいのだぞ!遺体も残らない死に方をした挙句、自力で完全な死者蘇生を行うのと同義なのだぞ!?

 しかもソレに命を賭けろだと!?何を言っているんだっ!?

 

 至れるかどうかも判らない手段に何故命を掛けねばならんのだ!

 そんなものは富籤で当たった者の戯言だ!

 恐らく億分の一も無いだろう確率に、何故先祖から受け継いできた歴史を賭けねばならぬのだ!

 

 尊敬する先代より教えを受け、魔道の尊さと研鑽する喜びを知り、貴き一族の一員と誇りを持って根源の渦を目指す。

 先代が力が及ばぬと判断した時、先代を含めた知識と誇りと無念を刻印や遺産として継承し、一族の歴史を背負って当主と成った。

 当主の勤めとして次世代を設ける為に妻を娶った。母胎としての性能を少なからず重視はしたが、道具としてではなく妻として愛し、接してきた自負がある。

 子を設け、嘗ての自身がそうであった様に、魔道の教えを授け、伝えられる限りの魔道の尊さと研鑽の喜びを伝えてきた。

 しかも凡俗に切り捨てねばならなかった筈の二子の内の一子すら別の家でとはいえ魔道の尊さを知れるようにと手配したというのに、何故その尽くを否定されねばならない!

 あらゆる責任と期待から逃げ出し、凡愚へと自ら堕ちた落伍者が何故悪夢の如き幸運で奇跡に至っただけで、何故我が物顔で私を、いや、魔道の全てを否定する!!

 一体何様のつもりなのだ!!!

 

 

 と、その時、突如何かが壊れる音がし、それが何かを確認した時、テーブルの上に乗っていた物が落ちたのだと解り、何時の間にかテーブルを殴っていたのだと手に残る鈍い痛みで理解出来た。

 

 …………落ち着け。落ち着くのだ。

 〔常に余裕を持って優雅たれ〕。遠坂のこの家訓は、冷静さを保ち、常に物事を俯瞰し、その上で貴族たる振る舞いを行えるように研鑽せよという意味なのだ。

 怒りで冷静さを失い、物事を主観的にしか捉えられず、更に義憤ではなく醜い怒り故に物に当たるなど、断じて貴族とは言えんし家訓に悖る。

 

 ………………少し何かを飲んで落ち着くとしよう。

 酒……は会談を控えた前に飲むものではないな。紅茶にするとしよう。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 普段は手間だと思っていた紅茶の煎れ方だが、案外無心になれて落ち着けるものだな。

 出来上がる頃にはある程度心を落ち着けられ、香りと味を楽しむ余裕が得られるとはな。

 確かにこれならば貴族の嗜みとして紅茶の煎れ方を知っておくべきではあるな。

 やはり古き伝統には何かしらの意味があるな。

 私もまだ未熟ということか。

 

 

 さて、落ち着いたところで何から考えるか……。

 これからの聖杯戦争について? 違うな。

 教会での会談での話しについて? ……これも違うな。

 ならば、間桐雁夜について? …………近いが違うな。

 ………………私が何故間桐雁夜に対して怒りを抱くのか? これだな。

 

 私が間桐雁夜に抱く怒り……いや、度し難い悪感情の源泉が解らぬ限り、たとえ会談に臨んでも醜態を晒すだけで終り、何一つ実りの無い会談になってしまう。

 精霊の域に昇格した魔法使いと、最上級の神霊と会えるだろう機会は決して無駄に出来ない。

 何としても実りある会談にするためにも、まずはその障害となる要因を知るところから始めぬとな。

 

 

 ……間桐雁夜。

 第一の魔法に至った魔法使いであり、間桐家の現当主を名乗っており、当主継承の唯一の候補者であろう桜が異を唱えていないことから、名実間桐の現当主。

 魔道知識の把持量は不明だが、アーチャーの弁では魔術に関しては何であれ暴発させてしまうが、代わりに空間爆砕という魔法の域の事象すらも可能とする特異体質者。

 

 アーチャーの弁を信じるならば、神代の時代に置いても並ぶ者が居ないほどに魔法を扱うことに長けた者。

 実際、自身の身体を異常強化するだけに留まらずに精霊の域へと昇格させ、更に特殊効果を持つだろうA++以上だろう宝具を容易く封印し、その上乖離剣に匹敵する宝具を作成でき、しかもその出力は乖離剣に引けを取らない。

 アーチャーが霊格と財の多寡で精霊の域に在る英霊ならば、雁夜は純粋に自身のみで精霊と同等の域に在る正真正銘今世の人外。

 

 しかも最上級の神霊を骨抜きにして傍に置いている。

 更に我が大師シュバインオーグとの交流もあり、一説には現魔導元帥のバルトメロイとも浅からぬ間柄であるらしい。

 但し、つい先日入手した情報では今代の蒼崎とは不仲とあるらしい。

 

 本人の思考は魔道に関わる者としては有るまじき唾棄すべき…………落ち着け、落ち着くのだ。何の為に紅茶を煎れて飲み、何の為に考えているのだ?

 ………………よし。やはり深呼吸をするだけでも落ち着くものだな。

 

 さて、間桐雁夜本人の思考は魔道に関わる者とは思えない程に一般人の思考。

 一応秘匿意識はあるようだが、それは魔術を碌でも無いモノと認識しているが故に関わらせないためだろう。

 魔道の尊さを知らず……いや、理解せず、現代の感性に毒されて子を自由に道を選ばせる事こそを是としている節がある。

 その感性の下に魔道から背を向けたらしく、数年前に間桐から逃げ出した。

 だが、吸血鬼と接触した際に自爆し(恐らく国外)、その際に根源へと至る。しかも内側から。

 そしてここからは推測が混じるが、恐らく魔法使いとなった直後辺りから我が大師手ずからの手解きを受け、数ヶ月前辺りに手解きが終り俗世での活動を再開したのだろう。

 

 聖杯戦争以前で掴めた足取りは(その時名前は判らなかったが)、2週間ほど前に栃木県の那須の山一帯の管理者になったということだけ。

 但し我が大師とバルトメロイが時計塔に強く働きかけて現地の退魔組織と交渉させ、態々仮想敵組織に土地をくれてやりたくない彼らから、[魔術協会から派遣した管理者ではなく、完全な間桐雁夜個人の管理地としてなら認めてやる]、という譲歩を引きずり出させ、しかも認めさせたため、極小規模ながら超一級の霊脈を持つ完全独立勢力。

 

 そして桜の義理の叔父に当たる人物であり、一瞬誰だか判らなくなる程に様変わりした桜から絶大な………………あぁ、なるほど。なんだ……そうだったのか。

 つまり………………恥ずべき事だが、嫉妬していたわけか。私は。

 

 あの髪を見ただけで約1年でどれだけ過酷な肉体改造があったのか容易に予想が付いた。

 しかも桜の生気の無い瞳と雁夜の発言、更に間桐の翁の性格と間桐の魔術が蟲を扱うことを考慮すれば、間違い無く次世代を産むだけの胎盤として扱われたのは想像に難くない。

 魔術師の尊厳を与えられるどころか人間の尊厳すら踏み躙られ、魔術の英知を与えられるどころか魔術の負の面の贄にされ続けたのだろう。

 しかも今思えば魔道を歩むかどうかすら決めていなかった我が子がそのような境遇なのにも拘らず、私は気付きもしなかった。それどころか幸福な道を歩んでいると信じてさえいた。

 だが、実際は正しく地獄に我が子を突き落として悦に浸っていただけで、助けようとするどころか桜の状態を知ろうとさえしなかった。

 その結果、気紛れに冬木に立ち寄った雁夜によって桜は地獄より救い上げられた。

 

 雁夜に救い上げられた桜は手厚く扱われたのだろう。

 少なくとも雁夜の全身全霊で以って護られ、更に癒され続けた筈だ。

 それは一般人の思考にも拘らず、単身でアーチャーに挑むことが証明している。

 当然その結果、桜は雁夜に絶大な信頼と信用を向けるに至った。

 そして何もしていないどころか地獄に叩き落した私は毛嫌いどころか遭いたくもない存在として固定されてしまったのだろう。

 しかも悪ければ葵や凜達すら見捨て続けた存在と見做しているのだろう。

 

 つまり………………私は我が子の危機に駆けつけるどころか気付くこともできず、更に私が凡愚に堕ちたと見下した男に我が子が私など眼中に無い信頼と信用を向けているのが悔しかったのか。

 いや…………もっと単純に、我が子を自分の手で救えなかったことが情けなく、それを隠すために悪感情を向けて目を逸らしていただけか。 

 …………何とも未練がましく愚かな意地だな。

 送り出したにも拘らず未だ父親を気取っており、にも拘らず父親の責務を放棄しているとは。

 しかも桜を助けてくれた感謝よりも、父親の責務を横取りされた嫉妬が先に立つ。

 ……間桐雁夜が魔道に背を向けて自らに課せられた責任を放棄した人で無しなら、私は浅薄さで我が子を地獄に叩き落して父親の責任を放棄した人で無しか。

 …………何と醜き事か。我が事ながら醜悪過ぎて目を背けたくなるな。

 

 

 気分転換に先程煎れた紅茶を飲むが、既に温くなっていた。

 一瞬魔術で温め直そうかと思ったが、何と無く今は魔術を使う気は起きず、香りが殆ど失せて苦味が格段に増した紅茶を飲み干した。

 苦味で舌が縮むように感じたが、今は美味な物を飲み食いする気が起きなかったため丁度良かった。

 

 さて……雁夜への悪感情の源泉が解って暴走することはないだろうことを思えば、次は会談をどのように運ぶかだな。

 まあ、実際は雁夜がサーヴァント二騎分を聖杯に焼べたらしいことを考えれば、特に雁夜の脱退を止める道理は無い。

 しかも令呪を1画付加されたならば文句の付け所も無いだろう。……綺礼の存在がバレていたのは今更だろうな。

 ただ、教会を通さず勝手に行ったことで一応罰則等を行えるかもしれないが、下手に藪を突けばあっさり令呪と焼べた魔力を回収して追及を捌かれた挙句に心象を悪くするだけであるならば、特に雁夜達の行動に罰則を適用したりせぬ方が良いだろう。

 

 だとすると話の焦点は聖杯戦争発足当初より生き長らえていた間桐の翁を殺害した件だな。

 まあ、表の条理に照らせば問題は有る……筈はないな。

 改竄された戸籍を遡れば確実に白骨化している年齢だ。

 雁夜が殺した証拠以前に、雁夜が生まれた時に生きていたと思う者は正気を疑われるだろう。

 そして裏の条理に照らしても当然問題は無い。

 神秘漏洩したわけでもなければ他者の家を襲撃したわけでもなく、単に身内でのイザコザだ。

 勘当されていたかどうかは雁夜と間桐の翁しか知らぬだろうし、唯一雁夜以外の後継候補である桜が異を唱えぬ以上、何処にも問題は無い。

 寧ろ聖堂教会から半吸血鬼と見做されて処断候補に挙がっていたのを考えれば、聖堂教会としては喜ばしい話だろう。

 

 令呪製作の業を継承できるかという問題があるが、10年以内に裏側に行くようなことを言っていたのを考えるに、桜には自衛の意味も籠めて魔術を教えるだろう以上、間桐の業は大分私の思惑をは外れたものの桜に問題無く受け継がれるのだろう。

 雁夜に桜を教え導けるのかという疑問はあるが、桜の為にアーチャーに挑んだ雁夜ならば、優れた魔術師に桜の教導をさせるくらいはするだろう。

 宝具すら創造可能な精霊の域の魔法使いに対価を要求できるとあれば選り取り見取りであろうし、桜に無体を働いて精霊の域の人外と亜細亜圏に置ける最高位の神霊を敵に回そうとする馬鹿もいまい。

 と言うか、間違い無く同伴するか呼び寄せるかの二択なのを考慮する限り、桜は最高の教育を受けて問題無く間桐の業を継承するだろう。

 寧ろそうでなければ周りが五月蝿いと理解している雁夜は確実にそうする。

 少なくても甘やかすだけの奴ならば桜を私に会わせようとはしないはずだ。

 それを考えれば桜は間桐の業を習得するだけでなく、自衛のために恐らく二十七祖すら殲滅可能な戦闘力を獲得させられるはずだ。

 話が逸れたが、間桐の業の継承に関しても問題は無いだろう。

 つまり御三家での話し合いは問題無いだろうということだな。少なくとも遠坂は。

 

 で、最後に残った桜との対話だが、これに関しては遠坂に戻すという選択肢は無い以上、その旨を告げれば即座に終わるな。

 最高の教導を受けられる環境から態々連れ戻し、それよりも遥かに劣るだろう上に安全すら不確かな別の家の養子に出す必要は微塵も無いからな。

 魔術師としては否を唱える理由が全く無い。

 ただ……鶴野と言ったか?まあそいつが桜の育児を放棄しているのが問題だが、その辺りは雁夜が容易く対処するだろう。

 問題は…………桜に何と声をかけるかだな。

 

 魔術師としてはかけるべき言葉など無いし、そもそも必要ですらない。

 だが、痴がましくも父親として話せる機会は、恐らくその時が最後だろう。

 そしてその時に何を話す?

 迂闊な言葉を発せば話を聞いてもらえなくなるだろう。

 かと言って頭に手を置いたり抱き締めたりしようものなら、それは桜の精神へ強烈な負担を強いるだけで、完全に私の自己満足で終わるだろう。

 ならばどうする?

 

 謝罪をしたところで、謝罪以前に私との会話すら望んでいない桜には届かぬだろう。

 雁夜が間桐を継がなかったのが原因と謗るなどは論外だ。

 責任の擦り付け合いなどという醜い真似をする気など微塵も涌かぬし、そもそも桜が望んでいたのは責任の所在ではなく、自らを救い上げてくれる存在だったはずだ。

 自身を救い上げた雁夜を貶める言葉など聞きたくもないだろうし、そんなことはとっくに雁夜自身が告げているだろう。

 と言うか……そもそも私が満足する言葉をかけるという前提が間違えているのだろう。

 私が掛けるべき言葉は桜の未来に残るであろう影を可能な限り取り除き、輝かしい未来を歩めるための言葉のはずだ。

 たとえ桜に更に蛇蝎の如く思われようと、桜の未来の為になる言葉をかけるのが、父親としての責務を果たせなかった私がするべき最後の責務のはずだ。

 なら……私がかけるべき言葉は決まっているな。

 …………他に気の利いた言葉もあるのかもしれないが、それは万が一桜が遠坂の門を叩いた時にかけるとしよう。

 

 後は雁夜に何を言うかだが、お互い言いたいことは山程あるだろうが、何かを言ったところで自傷行為にしかならないだろうし、全ては後の祭りだ。

 私は血の責任を投げ捨てた雁夜を許せないが、雁夜は父親の責任を投げ捨てた私を許せない。

 だが、何方も未練がましくそれを再び果たさんとしている。

 そして現状が何方も己の責任を果たせなかった結果である以上、相手への非難はそのまま己に還る醜い罵り合いにしかならない。

 そんな醜い罵り合いを桜の前で見せるのは、私も雁夜も良しとしない。

 故に雁夜に掛けるべき言葉など無い。

 雁夜に向けるのはせいぜい、魔法の片鱗を見ることができるかどうかの注視だけだろう。

 

 

 ……ふむ。会談の基本方針はこれで十分だろう。

 後は聖杯戦争の今後だが、……驚くべきことにアーチャーとのラインが完全に断絶していない以上、まだ聖杯戦争は継続可能だ。

 恐らく、神霊玉藻の前の超級の結界が、アーチャーが根源の渦に呑み込まれて一度断絶したラインを霧散させず保持し続け、アーチャーが帰還した直後接続し直したのだろう。

 無論、アーチャーは気付いてはいるのだろうが、ラインを切っていないことを考えると、魔力供給係程度には思われているのだろう。

 甚だ不満な認識だが、扱い難さに拍車がかかってしまったが最強のサーヴァントが戦力になっているのだから致し方あるまい。

 見所を示せば聖杯をくれてやるといっていたのを考えるに、私がマスターの相手に戦う時の立会人としてなら協力を取り付けられるだろう。

 そしてアーチャーが立会人となればサーヴァントが介入することなどできぬ以上、純粋に己の格を競って示せる。

 ただ、どう考えても戦闘向けでは無いだろうセイバーとライダーのマスターに関しては、勝負を挑もうとしても白けさせてしまうだけだろうが、何方のサーヴァントも王を名乗っている以上、放置していても勝手にアーチャーが駆逐するだろう。

 となると、私が己を示せる機会は下手すればランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのみか。

 これはアーチャーが戻り次第、急ぎその旨を告げて立会人になってもらわぬとな。

 セイバー達は可能な限り槍の呪いを早急に解除したいところであろうからな。

 まあ、セイバーのマスターが本当にアインツベルンのホムンクルスと断定できぬ以上、衛宮切嗣にマスターとしての勝負を申し込める可能性はあるが、可能性の域を出ぬ以上は綺礼に入念に調べてもらうしかないだろう。

 そして衛宮切嗣がマスターであった時に備え、衛宮切嗣の情報をもう一度洗い直すとしよう。

 特に魔術師を暗殺した時の状況と魔術師の死因については徹底的に洗おう。

 如何に下衆な戦法ばかり行う輩と雖も、魔術師を数十人も殺害し続けている以上、何かしら必殺の手段を保有しているはずだ。

 それを知らずに挑めば、私も敗北しかねないだろう。

 

 ふむ。…………今後の展開に関してはこんなところか。

 大分当初の思惑を外れるが、純粋にマスターと技量を競って遠坂の悲願に手が届くというなら、この展開も悪いものではないだろう。

 己の知識と研鑽で掴み取る勝利と栄光は、間違い無く価値のあるものだからな。

 

 

 さて、考えも纏まり心も落ち着いたところで璃正神父や綺礼に連絡するとしよう。

 大分躓いた出出しになったが、そう悪い状況でないことを伝えれば不安を拭い去れるだろう。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:遠坂時臣

 

 

 

 

 

 

Side In:間桐邸

 

 

 

 相当に機嫌が悪い儘間桐邸に転移した玉藻だったが、雁夜が裸足である上可也汚れていた為、いきなり部屋の中に転移するということを避ける程度には理性が働いていた。

 ただ、汚れても構わない場所として玄関ではなく、浴場に転移したことから、雁夜は相当怒っていると見当を付けた。

 だが、玉藻は雁夜の予想と異なり、余所行きの仮面を脱ぎ捨てて怒り出すのではなく、不安な瞳で雁夜に話し掛けてきた。

 

「ご主人様……。若しかしてご主人様も…………私が……軽い女だって………………思ってますか?」

 

 どういう思考を経ていきなりそういう発言が飛び出したのかさっぱり解らない雁夜だったが、本気で尋ねられている以上は本気で答えるのが玉藻への礼儀だと思い、雁夜は答えを返した。

 

「まあ、陽気やお気楽と言うよりは、軽いと言う方が合ってるだろうな」

 

 宛ら、何時の間にか親と逸れてしまった子供の様に愕然とする玉藻。

 が、そんな玉藻を無視する様に雁夜は言葉を続ける。

 

「神霊というのが信じられない程に現代的な知識や言葉を披露するし、しかもゲームのネタやスラングもやたらと炸裂させるから、今時の女子学生並の軽さに思えるな」

 

 親を探しているうちに日が暮れ始めてしまった子供の様に、焦燥と不安を募らせ始める玉藻。

 だが、特に気にした風もなく言葉を続ける雁夜。

 

「おまけに腹黒く相当な毒舌。

 偶に気軽に向けられる舌鋒は俺の精神をズタボロに切り裂くから堪ったもんじゃない」

 

 気が付けば真夜中に一人になってしまった子供の様に、不安と絶望に染まる玉藻。

 しかし雁夜相変わらず気にした風もなく言葉を続ける。

 非難と言うよりは白い目をした桜に見られながら。

 

「トドメに寂しがり屋なのが起因しているのか、誰でもいいから尽したいという考えが偶に透けて見える」

 

 漸く探し当てた親が解体されていた場面に出くわした子供の様に、絶望に押し潰されて呆然とする玉藻。

 そして益益呆れが混じった白い目を桜から向けられながらも言葉を続ける雁夜。

 

「まあ、だけど、……今一理解出来ないが、…………どういうわけかお前が俺を好きだと言う気持ちは、本気だと思っている」

 

 その言葉を聞き、衝撃波が発生する速度で顔を上げる玉藻。

 対して純白と言うよりは漂白された様な白い視線を雁夜に向ける桜。

 だが、それらの視線を振り切って雁夜は言葉を続ける。

 

「以前言ったが、俺は一目惚れを否定する気は無いし、意図的に相手を好きになろうとするのもありだと思ってる。

 だから、俺じゃ応えきれない嬉しいけれど戸惑うお前の想いは、軽いどころか俺が押し潰される程に重いと思っている。

 

 まあ、普段の態度は別にして、お前の想いだけ(・・)はな」

 

 素直になれず、最後に余計な一言を付け足す雁夜。

 そしてそんな雁夜に桜は漂白し過ぎて擦り切れた様な視線を送り、対して玉藻は――――――

 

「ご主人様!今の発言は私の想いが重過ぎて今は応えきれないと受け取って構いませんね!?」

 

――――――一気に全快して雁夜に確認を迫った。

 

 最後に憎まれ口を叩いた筈なのに、何故玉藻がこんな反応をするのか理解出来ない雁夜だったが、玉藻に抱えられていた桜が雁夜の代わりの様に呟いた。

 

「私も……そう聞こえた」

「ですよねですよね!?

 これはもうウェディングロードを疾走していると思っていいですよね!?

 丁度教会に行くんですから、そこで結婚式を挙げましょう!!」

「いや、ちょっと待て!

 何処をどう受け取ればそうなるんだ!?」

 

 慌てて待ったを掛ける雁夜。

 だが、待ったを掛けた雁夜に、桜の凄まじい一言が浴びせられる。

 

「……往生際が悪い」

「はいぃっ!?!?」

「何時もラブラブなのに……気持ちに応えないなんて……ズルイ」

「いやいやいやいやいや!ちょっと待ってくれ桜ちゃん!

 一体俺と玉藻の何処辺りが普段ラブラブに見えるんだい!?」

「?」

 

 雁夜の質問に対し、心底意味が解らないという瞳で雁夜を見返した桜は、思っていることをその儘告げる。

 

「……どこがラブラブじゃないの?」

「い、いや、別に俺と玉藻は結婚してるわけじゃないし」

「じゃあ……恋人?」

「いやいやいや!デートの一回もしてないのにそれは段階飛ばし過ぎだよ!?」

「じゃあ……事実婚?」

「何でそんな単語知ってるの!?」

「漫画に載ってた」

 

 そう言いながら少女漫画を指差す桜。

 

 桜に指差された漫画は、一応規制の無い少女漫画だが、ターゲットが大人の女性である少女漫画であった。

 そしてそれを見た雁夜は、最近の少女漫画はモザイクが掛かりそうな部分を身体で隠したりコマの外にしたりしつつ、場面を一切飛ばさず描写しきるという、青少年健全育成条例に正面から喧嘩を売っている物が結構あって問題になっているのを思い出し、碌に内容を確認せず絵柄だけで買ってしまったことを後悔しながら頭を抱えた。

 だが、そんな雁夜に桜は容赦無く追撃の言葉を浴びせ続ける。

 

「事実婚でも……好きって言ってやらないと……可愛そう」

「いや、桜ちゃん。おじさんと玉藻は事実婚でもないから。

 と言うか、どうしてそう思ったんだい?」

 

 優しく問い掛ける雁夜だったが、桜は、[何を言っているの?]、と言わんばかりの目でで答えを返す。

 

「だって……一緒に暮らしてる」

「あ゛」

「それに……一緒に眠ってる」

「…………」

「後……一緒にご飯作ってる」

「……………………」

「一緒に暮らして……一緒に眠って……一緒にご飯作って……楽しそうに笑ってるなら…………夫婦じゃないの?」

「……………………………………」

 

 言い逃れが不可能な程に証拠を告げられ、燃え尽きた様に崩れ落ちる雁夜。

 だが、そんな雁夜に桜は更に容赦無い言葉を浴びせる。

 

「雁夜おじさん……なんとも思って無いなら……思わせぶりなことしちゃ駄目」

「……はい」

「甘えるなら……ちゃんと好きって言ってからにしないと……駄目」

「……その通りです」

「だから……雁夜おじさんは女心が解ってないって言われる」

「……反論のしようもありません」

「誑しって言われても……しょうがない」

「……仰る通りです」

 

 圧倒的正論を容赦無く浴びせられ、人生の敗北者の様に消沈してしまう雁夜。

 しかし桜はまだ言い足りないとばかりに、輝きに満ちた玉藻に目を向けられながら言葉を浴びせ続ける。

 

「雁夜おじさん」

「はい……」

「今のまま過ごすなら……待っててくらい言わないと……駄目。

 弄んじゃ……絶対駄目」

「はい…………」

「ん。なら……直ぐに言う」

 

 そう言うと、するりと玉藻の腕から抜け下りる桜。

 

 何時かと違い、玉藻が外堀を埋めた結果ではなく、雁夜が墓穴を掘り捲った結果の為、しかも正論に因って墓穴に埋められてしまった為反論の余地など無く、雁夜は何と言ったものかと頭を悩ませた。

 少なくても桜に女性の敵と認識されるのは命の限り回避したい雁夜としては、桜の正論も相俟って逃げ出すという選択肢が完全に封じられてしまった。

 しかも雁夜が向き合うべき玉藻は、好きな男子に放課後に人気の無い所へ呼び出された女子の様に期待と緊張に満ちた目で雁夜を見つめており、最早人生の墓場一直線と言わんばかりの状況に、雁夜は酷い眩暈を感じた。

 だが、今や人外と成った為酷く頑丈な雁夜は簡単に気絶など出来る筈もなく、気絶という御茶濁しも出来なくなった我が身を呪いつつも、今がケリを付ける時だろうと悟った雁夜は雁夜は、意を決して玉藻に話し掛ける。

 

「あー……玉藻」

「は、はいっ」

 

 頭を掻きながら立ち上がった雁夜の言葉に対し、玉藻は背筋を伸ばしつつ、明らかに緊張している表情と声で返事をした。

 そしてそんな玉藻の緊張が伝播したのか、雁夜も若干緊張しながら言葉を掛ける。

 

「…………俺としちゃこのまま穏やかに、変化も無い日常を何時迄も過ごしたかったんだが、流石にそれは不誠実だと諭されたから、今此の場で色色とハッキリさせる」

「………………」

 

 固唾を飲んで雁夜の言葉を待つ玉藻。

 対して雁夜は此れから自分が言う事を思って暫し片手で顔を押さえていたが、やがて落ち着いたのか顔から手を離しながら顔を上げ、玉藻を見詰めながら告げる。

 

「短い間だが、お前と一緒に暮らしてた時間はとても楽しかった。

 そしてお前の信頼はギルガメッシュとの勝負の最中、桜ちゃんの為に戦うのと同じ程に俺の背中を押してくれた。

 …………呆気無く篭絡された様で癪だが、お前は俺の中で間違い無く大切な存在だ」

 

 真剣な表情の儘雁夜の言葉に聞き入り続ける玉藻。

 そして雁夜が話しやすい姿勢を維持してくれていることに雁夜は内心で感謝しつつ、更に言葉を続ける。

 

「愛しているかと問われると、情け無いことに答えられないが、好きだとは間違い無く断言出来る。

 少なくても傍に居ると楽しいし安らぐし変に緊張もしない。

 出来ればずっとこんな時間が続いてほしいが、さっきも言ったがあまりに不誠実だから結論を言う」

 

 雁夜のその言葉を聞き、緊張で身体を強張らせる玉藻。

 そして雁夜も緊張で身体を強張らせていたが、それを解す様に数度深呼吸をした後に、意を決した表情で告げる。

 

「俺はお前と一緒に居続けたい。

 そして愛してはいないのかもしれないが、お前を愛したいと思っている。

 だから、………………交際を申し込む」

「っっっぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 迂遠な言い回しを一切含まない素直な告白を受け、玉藻は顔を真っ赤に染めながら挙動不審に暫く辺りを見回す。

 そして優しい瞳をした桜と視線が合い、暫し無言の儘視線で会話をする玉藻と桜。

 僅かな遣り取りだったが互いに意思の疎通は図れたらしく、小さく頷く桜に背を押される様に玉藻は雁夜を確りと見据えて返事を告げる。

 

「喜んで御受けします。ご主人様♥」

 

 雁夜が見惚れる満面の笑顔で玉藻はそう告げた。

 

 

 

Side Out:間桐邸

 

 

 







【雰囲気が打ち壊される其の後】


「……おめでとう」

 今迄静かに見守っていた桜が、そっと祝いの言葉を告げる。
 そしてそれに雁夜と玉藻が言葉を返す。

「あ、ありがとう。
 …………随分気を使わせちゃったね」
「ありがとう桜ちゃん!
 可愛いだけでなくて優しくて強いなんて素敵に無敵です!」

 照れた顔で告げる雁夜に対し、玉藻は黄色満面で桜を胸に掻き抱き、桜が苦しく無い程度の強さで強く抱き締めた。
 そして抱き締められている桜は何と無く嬉しそうな表情で雁夜に言葉を返す。

「大丈夫……まだ……これからだから」
「これから?」

 桜が何を言っているのか解らなかった雁夜は、不思議な顔をして桜に聞き返した。
 すると桜は雁夜の疑問にあっさり答える。

「今日は……朝まで確り寝るから……何しても平気」
「ぶっ!!??」「ふぇっ!?!?」
「明るいのがいいなら……明るいまま寝る」
「いやいや!幾らなんでも告白して直ぐにそんなことはしないって!?」

 余りの桜の発言に待ったを掛ける雁夜。
 だが、桜は雁夜が何を慌てているのか解らない目で雁夜を見返しながら告げる。

「じゃあ……する時は……言って。
 ……きちんと……眠るから」
「いやいやいや!幾らなんでも桜ちゃんが寝てる横でするなんてありえないって!!」
「……そうなの?」
「そうだよ!
 幾らな――――――」

 一瞬理解してくれたと安堵した雁夜だったが、次の瞬間信じられない発言を受ける。

「見てた方が……良いの?」
「――――――んでもそんな……って!そんなわけないからね!?
 と言うかそれは絶対に止めて!
 若し桜ちゃんに見られたら生きていけないから!!!」

 半泣きで桜に懇願する雁夜。
 だが、桜は不思議そうな瞳で告げる。

「でも……男の人は……見せ付けるのが好きって……載ってたよ?」
「そういう人も居るかもしれないけど、少なくてもその人達も家族に見られたいとか思ってない筈だから!
 少なくても家族に見られるのは一番ダメージが大きいから、本当に勘弁してね桜ちゃん!?」
「…………解った。
 なら……する時は教えて。……見ないように……するから」
「ち、違うんだ桜ちゃん!知られるのも洒落にならないダメージを負うんだって!

 おい玉藻!黙ってないで助けてくれ!」

 最早援護無しでは打開出来ないと思った雁夜は玉藻に援護を求める。
 だが――――――

「ご、ご主人様。
 好きな香とか香油って何ですか?
 出来る限り御要望にはお応えします」

――――――場を乱す発言が飛び出すだけだった。

「正気に戻れ!ガキじゃないんだから告白して直ぐにするわけないだろが!?」
「じゃ、じゃあ、何かサインでも決めといた方がいいですかね?
 こういうのは最初が肝心ですし……」
「…………勉強になる」
「桜ちゃん!こんな奴の言う事を真に受けちゃ駄目だからね!?

 と言うか風呂に入ってさっぱりして一休みしようとしてたのに、何でこんな混沌に成ってるんだよ!?」

 誰に言うでもなく八つ当たり気味に言った雁夜だったが、それに対して桜が妙案を思い付いたとばかりに告げる。

「なら……みんなでお風呂に入る」
「え゛?」
「仲良く……お風呂」

 純粋な瞳で告げられ、雁夜は硬直する。
 だがそんな雁夜を無視する様に、悪乗りしているのか真面目なのかさっぱり解らない程に幸せで緩みきった表情の玉藻が追随する。

「いいですね♪みんな仲良くお風呂って、絵に描いたような幸せですよね♥」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。
 確かに絵に描いた様な幸せだろうけど、三人で一緒に入ると、……ナンと言うかイロイロと問題が……」

 桜と玉藻を交互に見ながら尻窄みにそう言う雁夜。
 だが、それに桜が安心してほしいと言わんばかりに妥協案を出してきた。

「大丈夫……雁夜おじさんがドキドキしても……見ないようにするから」
「もう止めて桜ちゃん!
 おじさんの心をそれ以上傷付けないで!!!」



 その後、間桐邸の浴室から暫く雁夜の悲鳴が響き続けていた。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾陸続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 冬木教会の敷地前、狐の耳と尾を隠し、更に露出度の高いゴスロリの服の上にコートを羽織るという、季節を知らずに来日した外国人かただの痴女と思われる格好をした玉藻は、冬木教会敷地内に入ろうとせず、少し心配な顔で雁夜と桜に話し掛けた。

 

「いいですか?もし話が拗れそうだと思ったら私を心の中で呼んで下さい。

 そしたらあら不思議?サーヴァントも含めた全員が私達を祝福する従順な奴隷になって、綺麗に丸く解決しますから」

「あら不思議じゃねえよ!」

「あうん♪」

 

 殆ど洗脳すると言っている様な発言に対し、雁夜は玉藻の頭に手刀を振り下ろした。

 勿論殆ど力は籠めておらず、手刀で叩かれた玉藻は陽気な声を上げた。

 そして全く堪えていない玉藻を見た雁夜は、どうせ効きはしないのだからアスファルトを突き破って地面に埋まる程の勢いで叩くべきだったかと一瞬考えたが、交際すると言ってからは効かないと解っていても余り無体に扱うのに抵抗を覚えるようになってしまい、結局見た目的にじゃれ合っているカップルの様なツッコミしか出来なくなってしまった。

 だが、何と無くそれも悪くないと思っている自分に内心で現金なものだと呆れつつも、やはりそれすらも悪くないと思っている自分に雁夜は内心で苦笑しながら玉藻に話し掛ける。

 

「と言うか、本当にここで待ってる気か?」

「激しく舐められるでしょうけど、余所の神様の家に誘いも無く上がり込むのは止めといた方が文句を言われないで済むでしょうし」

「まあ、それで馬鹿が涌いて向かってきたら、取り合えずは捕獲して魔術協会にでも引き渡そう。

 そしてそれで図に乗ったら段階を飛ばして軽く責任者だけ残して部署を消して、残った責任者は魔術協会に売ろう」

「わー♪主様ってなかなかバイオレンスですね☆」

「何処がだ?

 〔問題を起こす奴を片っ端から消していけば世界は平和になる〕、という世界平和のスローガンに則っているだけだが?」

 

 その言葉を聞き、珍しく玉藻が他者の発言の黒さに頬を引き攣らせた。

 そして僅かに頬を引き攣らせながら玉藻が雁夜に尋ねる。

 

「まさかとは思いますけど、本気じゃないですよね?」

「まさか。流石にそこ迄馬鹿じゃないぞ、俺は」

「そ、そうですよね~」

 

 一安心とばかりに苦笑いしながら相槌を打つ玉藻。

 だが、次に雁夜が告げる一言は玉藻の予想を超えるものだった。

 

「俺は世界平和なんて危険な思想は欠片も持っちゃいない」

「………………」

 

 堂堂と言うより至極当然に一般人的思考を駄目方面に炸裂させる雁夜の発言に対し、玉藻は雁夜が何度も宣言している通り、自分達以外の生死や幸不幸に本気で関心が無いと理解した。

 だが、玉藻も雁夜と同じく自分の好きな者達以外はどうでもいいと思っている為、特に雁夜の冷酷と言うか淡白な一面に対する文句は無く、寧ろ浮気の心配が格段に減って喜ばしいことだと判断し、好意的に受け止めて会話を再開することにした。

 

「まあ、ご主人様の素敵にクールな一面はさて置き、真面目に注意して下さいね、ご主人様。

 性倒錯者の持ってる剣はご主人様がパカスカ捌いていた剣の1本と変わらない程度ですけど、担い手によって力を解放されると、最後の激突の余波程度の破壊が巻き起こりますから、ご主人様は怪我で済みますけど桜ちゃんは確実に消し飛びますからね?

 ですから、危険だと思ったら迷わず私を心の中でを呼んで下さい。最速で桜ちゃんを間桐邸に転移してみせますから」

「……話し合いを見聞きしないつもりか?」

 

 意外な顔でそう言う雁夜。

 それに対し玉藻は、苦笑いしながら答えを返す。

 

「盗み聞きと覗き見してたら敷地内に入るのと余り変わらないじゃありませんか」

「まぁ、そうだが」

「それにですね、良妻は夫の帰り信じて待つのが勤めなんですよ♥」

 

 悪戯っぽくそう言う玉藻。

 だが、気恥ずかしくなった雁夜は精一杯の抵抗とばかりに反論を試みる。

 

「だから、俺とお前は結婚してるわけじゃないだろが?」

「なら、自分の恋人の帰りを信じて待つのも良い女の条件、と言い替えますね♪」

「うっ……」

 

 そう言われると雁夜は反論出来ず、肩を落として溜息を吐くだけだった。

 だが、何時迄も簡易結界の中でとは雖も話し込むわけにはいかないと思った雁夜は、気を取り直して玉藻に告げる。

 

「それじゃあ行くとする。

 万が一馬鹿が余計なちょっかい掛けたら遠慮は要らんぞ。

 少なくても、今の聖杯戦争関係者でお前を知らずに突撃したとかいう戯言は在り得ないし、若し知らなければそれは伝達を怠った教会側の責任だ」

 

 雁夜がそう告げると玉藻は簡易結界を解き、周囲に自分達の会話が聞こえる様にしてから返事を述べる。

 

「了解しました。礼節は払えども下手に出ず、無礼を働く輩は知覚出来ぬ速度で以って、塵一つ残さず迅速に処理致します」

「無礼の線引きは任せる。

 では行ってくる」

「御気を付けて」

「……行ってきます」

「はい。十分に気を付けて下さいね。

 危ないと思ったら何時でも呼んで下さい。

 直ぐに安全圏へと避難出来ますので」

 

 優しい微笑で語り掛ける玉藻だったが、桜は雁夜の手を少し強く握って言葉を返す。

 

「大丈夫……雁夜おじさんが……傍にいる」

 

 その言葉に少し驚いた表情をする玉藻。

 だが、直ぐに満面の笑みを浮かべ、そして照れ笑いをしている雁夜を軽く見た後、穏やかな声音で桜に言葉を返す。

 

「ふふふ。確かにご主人様が居られれば安心ですね」

「うん。

 だから……がんばる」

 

 自分が時臣と遇っても雁夜達は間違い無く大丈夫と安心した桜は、後は自分の問題とだとばかりに小さな身体に精一杯の勇気を漲らせながらそう告げた。

 そして玉藻はそんな桜の目線まで屈み込み、優しく頭を撫でながらも力強く――――――

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

――――――と言った。

 その言葉に桜は力強く頷くと、雁夜の手に引かれて冬木教会の玄関へと歩みを進めていった。

 

 

 雁夜に手を引かれているとはいえ、気後れせずに歩む桜の後姿を玉藻は、嬉しさと誇らしさと少しの寂しさが混じった瞳で見送った。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 教会の扉の前に着いた雁夜は、ノックをするべきか少し逡巡したが、神の家は何人にも開かれているというのが謳い文句なのを思い出し、無言で扉を開けて中に踏み入った。

 

 雁夜と桜が中に入ると、既に他の者達は揃っていた。

 指定時間の零時5分以上前だったが、何と無く全員が遅過ぎると非難する様な視線を雁夜に向けているようであった。

 が、雁夜は指定時間前に来たのだから文句を言われる筋合いは無いと気にせず歩みを再開した。

 

 やがて聖卓の向こうの神父と、会衆席の左最前列の時臣と右最前列のアイリスフィール達と中央通路の雁夜を結んで大体正方形に成る位置で雁夜は立ち止まる。

 そして雁夜は軽く時臣とアイリスフィールを見た後、聖卓の向こうに立つ神父へと告げる。

 

「間桐家現当主間桐雁夜です。

 本日は此方の一方的且つ急な要求にも拘らず、此の場を会談の場として使用させて下さり、遅まきながら感謝を申し上げます」

「初めまして。間桐の当主殿よ。

 私は聖堂教会第八秘蹟会所属の司祭であり、此度の聖杯戦争の監督役である言峰璃正と申す。

 

 今回は急な要請であったが、聖杯戦争の趨勢を決める重要事で有ると判断し、一先ずは要請にお応えしたが、次回以降は無いと思っていただきたい」

「寛大な対処痛み入ります。そして御安心を。

 私は貴方の御子息の様に暗躍することもなければ、貴方の前に姿を見せることは恐らくもう無いでしょうし、最早聖杯戦争に自発的に関わるつもりは一切御座いませんので」

「息子を誰かと勘違いされているようですが、次が無いのならば此方からこれ以上このことに対して言及することは御座いませんな」

「此方も貴方方の交友関係を言及する気は此れ以上有りませんので、早速ですが会談の立会人を兼ねて司会か進行役を務めてもらっても宜しいでしょうか?」

「そうですな。

 四方山話をして周りの方々を待たせるわけにもいきませんしな」

 

 そう璃正が告げると、漸く会話が一段落した。

 

 雁夜から譲歩というか罰則という名の徴発を行いたい璃正と、下手に出る気も無ければ今後関わる気が欠片も無い雁夜の軽い舌戦は、当然というかアサシンが敗退していないにも拘らず匿い続けているという点を突かれた璃正の負けという容で決着が付いた。

 だが、璃正も本気で雁夜に罰則を課せられるとは思っていなかったのか、特に気にした風もなく会談を進行させるべく話を始める。

 

「本来ならば互いの来歴を告げるなどをするべきなのでしょうが、どうやらそれは必要無さそうなので省略してもかまわないでしょうな。

 では、早速最大の焦点であろうが既に解決されているであろう、〔サーヴァントを聖杯に焼べずに途中退場する件〕、について話し合ってもらうといたしましょう。

 さて、各々方、存分に意見を交し合ってくれたまえ」

 

 璃正がそう告げると、時臣は静かに皆を見渡し先ずは自分から発言しようとした。

 雁夜もアイリスフィールも、別に自分が言う必要も無いだろうと思い、時臣に発言権を邪魔する気は無かった。

 だが、そこに突如挙手をする者が現れた。

 それはアイリスフィールの斜め後ろに控えたセイバーであった。

 

 セイバーが挙手したことに、話しに興味が無い桜以外は少なからず驚いた顔でセイバーを見た。

 そしてセイバーが挙手した為意見を出そうとしている者が二名になってしまったが、時臣は分を弁えているだろうセイバーが敢えて介入したのはそれなりの用件だと判断した為、雁夜とアイリスフィールに視線で自分の発言は後で構わないと告げた。

 そして雁夜もセイバーに発言させて構わないと視線でアイリスフィールに告げ、両者からの了解を得たアイリスフィールは、セイバーに首肯で発言して構わない旨を告げる。

 するとアイリスフィールの意図を正しく認識したセイバーは発言する。

 

「発言を許可して頂き感謝します」

 

 そう言うとアイリスフィールの僅か前に歩み出で、一度軽く会釈をするセイバー。

 そして直ぐに身体を雁夜の方に向け発言を続ける。

 

「議題とは関係の無いことを尋ねてしまいますが、先程間桐家の当主殿達と居られた神霊玉藻の前殿は何処に居られるのでしょうか?

 遠坂のサーヴァントであろうアーチャーは散策に出かけている旨は本人が告げていますが、間桐陣営の最大戦力が会談の場に現れずに何処に居られるのかが不明なのは、アイリスフィールの安全を預かる者としては好ましく無い事態ですので、是非ともお教え願いたい」

 

 セイバーの発言を聞き、雁夜達以外はセイバーの発言にそれから聞くべきだったという様な顔をした後、雁夜に返答を促す視線を向けた。

 特に一人だけサーヴァントというか護衛を引き連れてきたアイリスフィールは、何と無く居心地の悪さもある為、他の二名より若干追求の強い視線を雁夜へと向ける。

 そして四名の追求の視線に晒された雁夜は、特に気負った様子も無く返答する。

 

「単に、〔他宗教の神が他宗教の神の家に招かれもせず上がり込むのは問題がある〕、という理由に因り、教会の敷地外にて待たせている。

 態態会談の場を提供する者の神経を逆撫でして余計なイザコザを生むのは本意じゃない。

 尤も、遠坂とアインツベルンが議題進行にその存在が必要と見做し、更に此の教会の管理者であろう言峰神父が許可するのならば此の場に喚んでも構いませんが?」

 

 雁夜のその言葉を聞き、此の場に玉藻を招くべきかどうか其其思考し出した。

 

 時臣は、魔術師としては神霊の御業を見られる可能性を放棄するのは考えられないが、御三家の一人としては議題的にその神霊に死んで聖杯に焼べられろと受け取られても仕方ない発言を行う必要がある為、サーヴァントでもなければ魂が圧壊するだろう威嚇に晒されない為にも、玉藻は此の場に居ない方が都合が良いと判断した。

 対して典型的な魔術師とは言えないアイリスフィールは、近くに居ようが遠くに居ようが敵対した瞬間に負けが確定するならば、精神衛生上の為にも此の儘近くに居ない方が良いと判断した。

 そして神の家たる冬木教会の責任者である璃正は、他宗教は基本的に撲滅対称な為、上がり込まないと言っている他宗教の最高神を態態招き入れるつもりは微塵も無い為、此の儘で良しと判断した。

 尚、他宗教が廃絶対象であるにも拘らず、他宗教の最高神である玉藻を璃正が放置している理由は単に、〔聖堂教会の全戦力で不意打ちしたところで容易く鏖殺するだろう化け物に、独断で余計な干渉をするのは自分の領分を越えている〕、と思っている為であった。

 

 三者とも過程は違うが同じ結論に達したことを目で確認し合う。

 そして三者は雁夜に向けて軽く首を横に振ることで玉藻を此の場に招く必要が無い旨を伝えた。

 すると雁夜は了承したと一度首肯し、確認の為に声に出す。

 

「喚ぶ必要が無いと受け取ったので、何かしらの事態推移が無い限りは喚ばないことにしよう」

 

 雁夜の確認の言葉に対し、三者とも問題が無いと軽く首肯で返す。

 尚セイバーは、確認は仕方が無いが議題進行に意見するのは己の分を超えていると判断しているので既にアイリスフィールの斜め後ろに下がっており、自身の確認に付き合ってくれた雁夜に軽く会釈して不動の体勢に入った。

 

 そしてそれを見た時臣は話を進められると判断し、一度軽く週を見回した後に話しを切り出す。

 

「さて、それでは改めて話をさせてもらうとしよう。

 遠坂としては此度の聖杯戦争を間桐の当主が途中脱退すること自体にに異論は無い。

 聖堂教会に保護を求めるならば令呪の破棄とサーヴァントとの縁切りは必須だが、それを望まぬならば実行する必要は無い。

 そして御三家として聖杯戦争に参加したにも拘らず、勝ち抜きもせずに聖杯に贄を焼べぬのは問題だが、幸い贄に代わるだけの魔力を注いでいるようなので、問題は無い。

 ただし、本当にサーヴァントの魂を魔力に変換した規模に匹敵する魔力を焼べられていればの話だが。

 

 生憎と私はその場に居なかったため、それ程の魔力を間桐の当主が生成し、そして器の護り手を通して聖杯に焼べたのかは間接的にしか知りえていないので、確証が持てない。

 故、ここに聖杯の護り手に尋ねる。

 聖杯に焼べられた魔力はサーヴァント二騎以上に相当するのか否かを?」

 

 聖杯の完成に興味が無い雁夜に尋ねても仕方が無い為、時臣は聖杯の完成を自身と同じく切に望んでいるであろうアイリスフィールに確認を取る。

 すると尋ねられたアイリスフィールは静かに自身の左胸に片手を当て、中を確認する様な仕草をした後に答える。

 

「はい。焼べられた魔力は確実に二騎分以上です。

 寧ろ、不自然な程に微量なアサシンの分を十分補っていますので、このままでは聖杯の完成が危ぶまれていた事態の解決になったほどです」

 

 暗に、[アサシンが脱落していないのは解っていますので、軽はずみな行動をしたと文句を言えばそこを突きますよ?]、と言って時臣と璃正を牽制するアイリスフィール。

 そして更に、さっさと話を終わらせたい雁夜が時臣に追撃を掛けた。

 

「疑うのならば聖杯を取り出して確認して見せても構わないが?

 まあ、先程施した術が解除されてしまうので、再度術を施す為に喚び寄せる必要があるが、それでも構わないならばアインツベルンの代表を傷付けずに聖杯を抜き取るが、どうする?」

 

 その言葉を聞き、時臣は此れ以上の追求を止めることにした。

 仮に追求を続ければ、最悪教会の敷地外に移動して聖杯を取り出すことになり、そこで、{玉藻(お前)を贄に焼べたのに匹敵するだけの魔力が籠められているか確認しようとしているので手を貸せ}、と受け取られても仕方が無い行動が繰り広げられれば、どんな行動に出られるか解ったものではない為、時臣は魔法と神霊の御業を見る機会を止む無く放棄し、雁夜の行動を制止に掛かる。

 

「いや、私と同様に聖杯の完成に並々ならぬ執着を抱いているだろうアインツベルンが、聖杯の完成を遠ざける事態を容認する発言を行うとは考えられぬので、確認は不要だ。

 ただ、不活性化されているらしい魔力の解放が、時期が訪れれば自ずと成される点についての確認を失念していたので、その点を再度アインツベルンの代表に伺いたい」

「その点ならばご心配に及びません。

 私はサーヴァント四騎か五騎分の魔力が聖杯に溜まれば消滅しますし、殺されても聖杯に影響はありません。

 ですので、仮に私の意志で不活性化した魔力を抑え込み続けようとしてもそれは叶いませんので、勝者は問題無く器が満たされた聖杯を手にすることができます。

 お疑いならばギアスをかけて下さっても構いません」

「いや、事の発端はアインツベルンではないので、発端を差し置いてギアスを強いるのは筋違いだろう。

 そして事の発端にギアスを強いても無駄であろう事はほぼ確実であり、更に間桐の当主が平穏を望んでいることを考慮すれば、その平穏を壊しかねない愚行をするはずもない以上、確認さえ取れれば問題は無い」

 

 そう時臣が言葉を返すと、今迄黙っていた璃正が話は纏まったのだろうと判断し、次の議題に移る旨を告げようとした。

 が、その前にアイリスフィールが時臣に質問を投げる。

 

「遠坂の当主よ。間桐の当主に対しての責を問うような発言が目立ちますが、サーヴァントを聖杯に焼べる事無く失ったことに対する責を貴方はどのようにお考えですか?」

 

 言外に、[間桐の当主が二騎分注いだからといって貴方の失態は消えませんよ?]、と告げるアイリスフィール。

 だが、その追求に対し時臣は、微塵も焦る事無く余裕を持って返す。

 

「思い違いをしておられるようだが、私は未だにアーチャーのマスター権を有している。

 そして令呪も3画残っている以上、万が一の時は重ねがけすることが可能だ。

 そして令呪1画を堪えることの危険性を問うならば、そこのセイバーも恐らく1画ならば堪えることが可能な以上、同じく危険ということになるが?

 第一、実害が出ない限りはペナルティを課すことなど出来ぬ以上、この件をこの場で追求するのは無意味ではないかね?」

 

 あっさりと追及を躱されてしまったが、初めからその可能性を視野に入れていた為アイリスフィールに落胆は無かった。

 そして今度こそ話が纏まったと判断した璃正は、一度御三家代表を軽く見遣った後、厳かに告げた。

 

「では、間桐家現当主間桐雁夜の第四次聖杯戦争途中脱退の件に対しては、既に聖杯戦争を運営する上で問題となるだろう事柄に対処を済ませているため御三家の責任を果たしたと認め、御三家の残り二家同意の下で変則的な途中脱退を罰則無しで認めると見て相違ないか?」

「「はい」」

「宜しい。では、此度の聖杯戦争の監督役言峰璃正が間桐雁夜の途中脱退を正式に罰則無く受理しましょう」

 

 その言葉を聞き、漸く肩の荷が一つ減ったのを感じた雁夜は、内心で僅かに安堵の息を吐いた。

 が、未だ本命が終わっていない為、直ぐに気を引き締め直す。と、ほぼ同時に、璃正は次の議題を告げる。

 

「それでは些か聖杯戦争とは関係が薄いが、最後になるだろう、〔間桐家現当主が特異な体質の為に魔術を扱えずに令呪の作成法等を廃れさせてしまう件〕、に関して存分に話し合ってくれ給え」

 

 璃正の最後という言葉から察するに、恐らく雁夜達が教会に来る前にある程度話を煮詰め、そして何を議題とするかを決めていたのだろう。

 そして璃正がそう告げると、雁夜は気分の悪くなる議題は早く終わらせるに限るとばかりに素早く口を開いた。

 

「此の件に関して間桐は10年以内に間桐の次期当主に、自衛の術を得る序に此れ迄の間桐の歴史を全て理解し且つ最低限実践可能なだけの教養と実力を身に付けてもらうことにしている。

 幸い、蔵書の類は全て残っている為問題は無い筈だ。

 尚、魔術の教導に関しては、現魔道元帥バルトメロイ・ローレライに先程依頼している。

 前金代わりにランクA以上の概念武装を1つ渡し、後金代わりにランクA+とA++以上の概念武装を一つずつ渡す旨を伝えると快諾してくれた。

 

 ……問題が在るならば指摘を願う」

 

 露骨に嫌な話題はさっさと済ませようという雰囲気が滲み出る雁夜の発言であったが、話の内容自体は問題点とその改善方法と改善に費やされるだろう年数を明確に告げている為、話自体に不備は無かった。

 そして時臣とアイリスフィールはそれならば問題は無いだろうと思い、互いに目で不備は無いと確認し合った後に答えを返す。

 

「特に問題は無いだろう。

 仮に後に問題点が顕在化したならば、それはその時の当主に告げるとしよう」

「こちらも特に問題点があるようには思えません。

 そしてやはり後ほど問題点が発覚したならば、その時の当主に告げれば問題無いでしょう」

 

 暗に、{手を抜いた時に困るのは次代の間桐の当主だから、手を抜くなよ?}、と告げる時臣とアイリスフィール。

 尤も、アイリスフィールとしては今回で聖杯戦争を終わらせるつもりなので、実は此の件に関しては然して問題視していなかった。

 

 そしてあっさりと最後だろう議題が解決してしまったと見た璃正は、再び厳かな声で告げる。

 

「では、10年以内に代変わりする間桐の次代当主が間桐の研鑽……即ち令呪作成の秘儀を最低限実行可能な状態に成るということで一先ず問題を先送りし、その後は問題が顕在化すればその時の当主に意見を述べるということで宜しいか?」

「「はい」」

 

 てっきり時臣は間桐の血筋が桜だけになったら桜を一旦呼び戻し、間桐の知識を回収した後に再び何処か別の魔術師のところに放り捨て、更に残った間桐邸は別宅とするか売り捌いて資金にすると思っていた雁夜は肩透かしを食らってしまった。

 おかげで桜が遠坂には帰らないと発言する機会を逃してしまい、何の為に連れて来たのか解らない状態になってしまい、雁夜の横の桜も不思議そうな眼で雁夜を見ている。

 だが、此の様な事態になるのは、雁夜の時臣に対する認識が微妙に間違っている以上当然であった。

 

 雁夜は時臣を、{魔術師の最右翼。当然使えるものは何でも使う。実際、魔術の為なら子でも利用し尽す}、と評しており、時臣が一番利益を得るには桜を利用し尽す必要がある為、自分達が居なくなった後に桜を利用して利益を啜り上げられない様、此の場で確約させねばならないと思っていた。

 だが時臣は、{常に余裕を持って優雅たれ}、を信条としており、たとえ利益を得られるとしても見苦しい真似をするつもりは毛頭無く、初めから桜が魔術師としての教育を受けられるならば呼び戻したりする気は全く無かった。

 結果、桜がスタンダードながら稀代の魔術師から教えを受けられると分かった時臣は、あっさりと桜を間桐の人間と認めたのだった。

 

 だが、時臣という人物を理解しきれていない雁夜は、自分達が居なくなった頃に我が物顔で桜を連れ戻すのではないかと思い、時臣にを問い質し始める。

 

「時お……失礼、遠坂の当主よ。

 此方の予想では自分達が間桐を離れて間桐の血筋が其方が養子に出した者一人になれば、事実上間桐は潰れたと判断して養子に出した者を連れ戻し、更に間桐の知識を全て吸い出した後に再び何処かの魔術師の家へと養子に出し、最後は間桐の財産を全て得ると思っているのだが、それを示唆する発言が無いのはどういう理由なのか聞かせて頂きたい」

 

 ルポライターとして働いていた雁夜にすれば此の程度の深読みですらない推測はして当然なのだが、そこまで雁夜が推測しているとは思わなかった他の面面は若干驚いた顔で雁夜を見た。

 そして優雅さなど微塵も感じられない行いをすると思われていたのが堪えたのか、少しばかり頬を痙攣させた時臣が反論を始める。

 

「わ、我が遠坂の家訓は、〔常に余裕を持って優雅たれ〕、であり、私はそれに恥じない振る舞いをしてきたと自負しているつもりだ。

 そのような優雅さの欠片も無い振る舞いを行うと思われているのは、真に心外だな」

 

 他家の前で堂堂と、〔こいつは利益の為ならば鬼畜な行為もする禿鷹〕、とばかりに言われ、流石に心中穏やかでない時臣は、少少語句を強くしてそう言った。

 だが、その言葉が雁夜の逆鱗を掠めたのか、雁夜は自覚無しに人外の域になった存在感を解き放って時臣に叩き付ける。

 だが、玉藻と違って相手のみを威圧するという器用なことが殆ど出来ない雁夜は、アイリスフィール達どころか桜すらも巻き込んでしまう。

 結果、若干怯えた桜に強く手を握られ、雁夜は自分がセイバーも少なからず警戒する程の威嚇を行っていたことに気付き、雁夜は深呼吸をして自分を落ち着けた。

 

 深呼吸をして幾分冷静さを取り戻した雁夜は、桜の手を軽く握り返しながら怖がらせたことを侘びる気持ちと安心してほしい気持ちを苦笑混じりの微笑で示し、その不思議な笑みを浮かべる雁夜に安心した桜は、静かに雁夜の左手から手を離した。

 そして、それを見た周囲が安堵の息を吐くのを見届けた後、冷静さを心掛けながら雁夜は時臣に話し掛ける。

 

「すまなかった。少少取り乱した。

 話を戻すが遠坂の当主……いや、遠坂時臣」

 

 敢えて個人名で時臣を呼ぶ雁夜。

 雁夜のその言葉を聞いた周囲の者達は、雁夜が此の会談を望むに至った話を切り出すと理解し、アイリスフィールとセイバーと璃正は雁夜から距離を取り、自分以外に用は無いと理解している時臣は静かに雁夜の前へと歩み出た。

 

 時臣が近付く毎に桜が震え始めるが、自分の服の裾を力一杯握り締めて震えを押さえている様を見た時臣は、当然と言えるその反応に内心気落ちした。

 だが、震えを堪えてでも自分と対面しようとしている桜を見た時臣は、ここで今更な親心を出して歩みを止めて中途半端な距離で話し合うのは桜の勇気に対して余りに失礼と判断し、歩む速度を緩めなかった。

 そして痙攣する程に桜が服の裾を握り締める様になる距離迄近付いた時臣はそこで歩みを止めた。

 

 互いが手を伸ばせば触れ合える距離迄近付いた時臣は、臆する事無く雁夜に話し掛ける。

 

「話とは養子に出したそこの桜のことかね?

 間桐の当主……いや、間桐雁夜よ」

 

 雁夜と同じく個人名で呼ぶ時臣。

 それで雁夜は時臣も此れが個人的な話だと理解したと判断し、改めて告げる。

 

「本来なら問い質したいことが山と在るが、そんな今更な事を言うつもりは無いから、一つだけ、此の子の……桜ちゃんの言葉に対して答えろ」

 

 そう言うと雁夜は一歩横に退き、桜に場所を譲った。

 そして場所を譲られた桜は、精神崩壊するのではないかと思う程に体を恐怖で震わせながらも時臣の前に立った。

 

 自分を地獄の底に突き落とした張本人を前にした桜は、余りの恐怖に両の目からは涙が溢れていた。

 桜としては直接的な恐怖を与えた臓硯よりも、自分の人生をあっさり捻じ曲げた時臣の方が恐ろしく、連れ戻されてしまえば別の地獄に放り捨てられるのではないかと思い、折角手に入れた幸福が壊れてしまうかと思うと、泣き喚きながら雁夜に抱き付きたかった。

 だが、雁夜に泣き縋ってしまうと、自分が間桐に居たいという想いを告げられず、善意の押し売りで連れ戻されかねない可能性が有ると理解している桜は、懸命に自分を奮い立たせながら時臣を見上げる。

 

「っっっぅぅぅ!?!?!?」

 

 時臣と視線が合っただけで地獄に落ちた瞬間を強烈に思い出してしまい、両の目から溢れ出る涙の勢いが強まる。

 だが、泣き叫びそうになる口を懸命に噛み締めて声を殺しながらも桜は時臣に告げる。

 

「わっ……わた…………わた………………私っ……はっ…………………………間桐の…………子……ですっ。

 とっ…………遠っ……坂っ…………にはっ………………………………帰りませんっ。

 あ、あそこが…………間桐が…………私の…………お家ですっ。

 誰も居なくなっても…………あそこが私のお家ですっ!」

 

 途切れ途切れながらも確りと時臣に告げる桜。

 対して我が子にはっきりと絶縁宣言をされた時臣は、内心で雁夜や玉藻への激しい嫉妬を募らせていたが、筋違いも甚だしいと自覚している為何とかその気持ちを抑えながら言葉を返す。

 

「一人になったら辛く寂しいだろうが、それでも遠坂には帰らないのか?」

 

 優しさを混ぜず、ただ真剣さだけを帯びた声で桜に問い掛ける時臣。

 対して桜は、時臣に話し掛けられただけで恐怖の余り蟲に嬲られた日日を幻視してしまい、膝から崩れそうになった。

 が、今崩れてしまえばもう立てないと分かっている為、懸命に堪え続けながら、桜は変わらぬ答えを返す。

 

「そ……それ…………それでもっ………………これから楽しい思い出がたくさん詰まるお家ですっ!

 ぜったい……ぜったい………………ぜったいに離れませんっ!あそこが私のお家ですっっっ!!!」

 

 絶叫とも言える桜の主張を聞き、時臣は桜の心が完全に自分達から離れているのを今更ながら痛感した。

 最早誤解が解けても自分達の許に戻ることは在りえないと、時臣は寂寥感と共に理解した。

 同時に、矢張り今の自分がどれだけ桜を慮っても決して届きはしないと痛感した時臣は、此れ以上何かを言っても桜を苦しめるだけなので、話を終わらせるべく決別の言葉を発した。

 

「……解った。もうお前を連れ戻そうとはしない。

 お前は…………間桐の子だ」

 

 その言葉を聞き、連れ戻されるという恐怖から一気に開放された桜は一気に脱力し、今度こそ膝から崩れ落ちるかと思われた。

 が、それでも未だ話は終わってないと緩みきる心を必死に引き締めて、辛うじて崩れ落ちずに堪え、何とか時臣と相対し続けた。

 そして時臣は、此れが最後になるかもしれないと思い、自分の桜への想いを全て籠める様に、一言だけ告げた。

 

「精一杯幸せになりなさい」

 

 そう言うと時臣は桜に背を向け、会衆席の左最前列へと歩み出した。

 

 そして、自身の後ろで桜が雁夜に抱き付くであろう音を聞き、時臣は改めて桜が余所の家の子になったと実感した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾漆続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 自分の足に抱き付く桜を優しく抱え上げ、そっと胸に抱く雁夜。

 そして最大の目的だけでなく、他の御三家と教会への義理も果たしたと判断した雁夜は軽くその場の者達へ会釈すると、静かにその場を後にする。

 

 特に呼び止めもされずに扉を開けて礼拝堂の外に出ると、冬の夜気が雁夜と桜に絡み付く。

 だが、薄手と雖も高性能なウィンドブレーカー(綿入り)の前を閉じた二人には程好い寒さだった(桜のは雁夜が閉じた)。

 特に会話を交わさず、桜は無言で雁夜の胸に顔を埋め、雁夜は無言の儘優しく桜を抱き締めながら玉藻が待つ教会の敷地外へと歩き続けた。

 

 

 急がずゆっくりと歩き続けた為、来た時の3倍以上の時間が掛かったが、当然と言うべきか特に異常も無く玉藻の待つ場所へと着いた。

 そして此処に戻る迄の間に落ち着いた桜は雁夜の腕からスルリと下りると、泣き腫らした赤い眼の儘、出迎えの挨拶もせずに報告を待ち続ける玉藻に報告をする。

 

「……がんばった。

 ……たくさん…………がんばった。

 これで…………一緒に……いられる」

 

 その報告を聞き終えた玉藻は、真剣な顔から優しい笑顔へと表情を変えて言葉を返す。

 

「お帰りなさい、桜ちゃん。

 凄く頑張りましたね」

 

 そう言うと玉藻は直ぐに屈み、飛び込んでくる桜を優しく抱き止める。

 そして桜は玉藻の胸に顔を埋めつつ、小さいが確りした声を返す。

 

「…………ただいま」

 

 そう言うと同時に抱き付く力を更に強める桜。

 そして強く抱き付く桜を優しく抱き返す玉藻。

 

 嗚咽こそ聞こえぬものの桜の肩は震えていた。

 だが、それが恐怖から発せられるものではなく、助けを借りたと雖も自分の力で幸福に繋がる未来を得られたことに対する喜びから発せられるものだった。

 

 程無くして胸元が温かい液体でゆっくりと濡れていく玉藻だったが、それに一切構う事無く、桜が落ち着く迄優しく抱き返し続けた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 数分も経つと精神的に凄まじい負荷から開放された安堵も手伝い、桜は玉藻の胸に顔を埋めながら眠ってしまった。

 直ぐにそれを察した玉藻は優しく抱き上げ、自分の尾で桜を優しく包み込んだ。

 そして玉藻の尾に包まれて安心して眠る桜を見た雁夜は、遅まきながら玉藻に告げた。

 

「目的は無事に果たした。

 此れで……完全にとはいかないが桜ちゃんは再び光の当たる場所を歩ける。

 まあ、今此の町でやってるイザコザ終わる迄は離れなければならないが、半月もせずに帰れるだろう」

「お疲れ様で御座います。主様。

 そして遅れてしまいましたが、御帰りなさいませ」

 

 本当は余所行きの顔ではなく素顔で返したかった玉藻だが、雁夜の背後で会話の機会を窺っているアイリスフフィール達が居る為、仕方無く余所行きの顔で接した。

 その為、本音で雁夜と語れなくなって些か不機嫌になった玉藻だったが、桜に不穏な気配を当てて起こすわけにもいかない為、桜の寝顔を見て心を落ち着けた。

 同時に、話し声で起きぬ様に音を一定以下に抑える効果以外に不穏な気配などといった精神干渉系も遮断する結界を桜の周囲に展開し、その後小規模の人払いと遮音の結界をアイリスフィール達に分かる様に玉藻は展開した。

 そして玉藻はアイリスフィール達へ振り返った雁夜の斜め後ろに控える様に移動し、それをを見たアイリスフィール達は自分達と話す意図があると判断した為雁夜に話し掛け始めた。セイバーが。

 

「歓談の時を邪魔するような容にも拘らず、話に付き合って下さることにまずは感謝を述べさせていただきます」

 

 ドレスそのものと言える様な騎士服に甲冑を着込んだ姿ではなく、性倒錯気味だが現代の服装を身に纏ったセイバーが謝辞と共に軽く会釈した。

 そして礼を以って接されれば礼を以って返すのが筋と思っている雁夜は、厄介事の塊と言えるセイバーと対話することにした。

 

「何方もこれからの予定があるだろうから、前置き無しの話にしないか?」

 

 可也砕けた調子で返す雁夜だったが、会談の場でもなければ此れくらいが普通だろうと思い、話し掛けられる側として暗に、〔此れくらいの感じで話すが構わないか?〕、告げる雁夜。

 そして雁夜の言葉と言外の意味を理解したセイバーは軽く頷きながら返す。

 

「解りました。それでは前置き無しで話させてもらいます」

 

 硬い話し方は殆ど変わらなかったが、一国の王として振舞っていたならば性分なのだろうと思い、別に自分も付き合って硬い話し方をしなくても構わないだろうと雁夜は判断しつつ、セイバーの言葉に軽く頷いて先を進める。

 

「カリヤ。貴方はそこの少女の為にサーヴァントとすら戦ったにも拘らず、何故聖杯を求めないのですか?

 たとえ貴方にとって奇跡の出逢いを二度巡り合わせたといっても、聖杯は満たされれば問題無く奇跡を叶える万能願望器です。

 ましてや貴方は恐らく単独で聖杯を満たすことすら可能な筈です。

 

 にも拘らず何故聖杯を求めないのですか?

 聖杯ならばその少女の奪われたであろう幸福を、奪われていない状態にすることすら可能な筈にも拘らず、何故貴方は聖杯を求めない?」

 

 初めは落ち着いた口調だったが、話すに連れて何か想うところが在るのか、最後は詰問とも言える口調の強さになるセイバー。

 だが、それに対して雁夜は詰まらないことを聞いたと言う様な顔をし、一瞬無視して帰ろうかという思考が脳裏を掠めたが、礼節と義理に厚いことこそが日本人の美徳と思う雁夜はぐっと堪え、出来るだけ詰まらなさそうな感じを抑えながら答えを返す。

 

「俺は聖杯に叶えてもらう願いなんて無い。

 寧ろ穏やかな日日を過ごすには邪魔を通り越して災厄を呼び込む呪いの品にしか思えない。

 そして手に入れずとも関わるだけでも穏やかな日日は遠ざかる。

 ならば欲しがる奴等が勝手に聖杯に集って相争えばいい。

 俺は自分に火の粉が降り掛からない限り放置するから、虐殺だろうが鏖殺だろうが相殺(そうさつ)だろうが好き勝手にやっててくれ」

 

 宛ら世捨て人の様な発言をする雁夜。

 対して、自分が求める聖杯と聖杯に託す願いすら馬鹿にされた様にしか思えないセイバーは、顔を歪め且つ声を荒げながら言葉を返す。

 

「穏やかな日常ならば聖杯で叶えられる。いや、それ以前に聖杯ならばその少女が地獄に落とされたであろう前から幸福な日常に歩み直すことすら可能なはずだ。

 にも拘らず何故貴方はそれを成そうとしない?

 貴方はその少女の幸福を願っているのではないのか?」

 

 セイバーのその言葉を聞いた雁夜は、先程セイバーの剣を見てアーサー王と当たりを付け、更にアーサー王の伝説を考慮した結果、セイバーが聖杯に託すであろう願いが現在の否定及び過去の改変の類であろうと当たりを付けると、隠そうとしても隠しきれない不機嫌さを滲ませながら言葉を返す。

 

「人生遣り直しとか、一体どれだけ人生舐めてるんだ、お前?

 ゲーム感覚で気に食わないことが在る度にリセットボタンを聖杯に押してもらう気か?

 しかも他人様のリセットボタンを押せとか、何だ?斬新な自殺志願か?」

「っ!?」

 

 心底胸糞の悪い話を聞いたと言わんばかりの雁夜の主張に反論出来ず、セイバーは押し黙ってしまう。

 だが、そんなセイバーの心情など知らぬとばかりに雁夜は更に言葉を続ける。

 

「大体、自分で出来ないことを何だかよく解らないモノによく解らない方法で叶えてもらおうとか、頭大丈夫か?

 何だ?聖杯戦争って言うのは楽天家の集まりなのか?

 藁にも縋る思いってのは在るが、失敗した時の負債は自分だけで返せると思ってるのか?

 いや、魔術師連中は負債を死という容で周囲の一般人に押し付けるんだったな。

 ああ、それなら失敗した時のことを考えずに存分に無謀な賭けを出来るな。

 

 まあ、何度も言うが俺達に関係が無い限りは放置するから好き勝手やってろ。

 俺は正義にも大義にも興味は無いから、好きに耳障りのいいことを叫んで死を振り撒いてろよ」

 

 そう言って踵を返そうとした雁夜だったが、正義や大義を興味無いと言った雁夜の言葉にセイバーは咄嗟に言い返す。

 

「カリヤ!貴方はその少女を想って自らの命すら賭すことができるというのに、何故視野を広めようとしないのです!?

 少なくとも貴方がこの時代の魔術師達の頂点に立てば非道な事をする輩は間違いなく減らせるはずだ!

 それなのに何故行動しないのです!?」

「悩み解決の援助ならカウンセラーに、懺悔なら其処の教会の神父に、そして愚痴なら居酒屋の店主にでも話してくれ、……と言いたいところだが、後を追ってこられた挙句に自滅されると面倒だから答えるが、〔自分を能力の下に置く気は無い〕、此れに尽きる。

 寧ろやる気も無い奴を能力だけ見て何かしらの役目を負わせようとか、頭イカれてるか民衆を舐めてるかのどっちかだと思うが、お前はどっちなんだ?

 やる気も無い奴に無理矢理役目を背負わせて上手くいくと思っている馬鹿か?

 それとも民衆を何とも思っていない奴が敷く治世でも、結果さえ出せればその治世だけでなく民衆や治世を敷く者も含めて素晴らしいと思う、唾を吐き掛けたくなる馬鹿か?

 

 生憎と俺の思考は一般人だからな。

 過程を無視した結果偏重主義とか全く受け入れられない。

 寧ろ過程を経ずして結果が出ぬ以上、結果だけ論ずるのは馬鹿とすら思っている。

 解り易い例が、仇である戦争中毒者を精神崩壊させる程に苦しめる為だけに屍山血河の果てに世界平和を成し遂げたとして、その世界平和は尊いと言えるか?

 それに、興味の無い奴等の人生を背負っても破滅するだけだと先人達が教えてくれてるんでな、身内以外は精精募金やその場限りの安い協力程度にしているんだよ、俺は。

 大体、適正の無い奴を上に据えたところで最後は碌な事にならないのは馬鹿でも解るだろが?」

 

 雁夜がそう告げるとセイバーは押し黙ってしまった。

 何故なら、雁夜が今し方告げた言葉は、間違い無く一つの真理だったからである。

 ただ、雁夜の発言は凄まじく精神レベルが高い者達の真理であり、普通の者ならば死の恐怖の前に剥がれ落ちてしまう綺麗ごとでもあった。

 だが、その綺麗事を至上と信じて戦うのが騎士であり、セイバーはそんな騎士達の頂点と謳われる存在でもある為、雁夜の発言を否定することが出来ず悔しそうに俯いてしまう。

 しかし悔しそうに俯いていしまうセイバーを見て少しばかり良心が傷んだ雁夜は、最後に少しばかりフォローを入れることにした。

 

「別に俺はお前の考えを否定しているわけじゃない。

 所詮俺とお前は他人だし、互いに理解を深めたいとも思わない程度の関係だし、そんな奴の言葉なんて無責任極まりない言葉だ。

 真に受けても馬鹿を見るだけだろうから、適当に聞き流しておけ」

 

 そう告げると雁夜はウィンドブレーカーの左ポケットから携帯電話を取り出して玉藻へと渡した。

 携帯電話を渡された玉藻は、特に示し合わせたわけでないにも拘らずタクシー会社へと連絡を入れ始めた。

 それを見た雁夜は恐らく1~2分で到着するだろうと当たりを付け、最後とばかりに言い忘れていたことをセイバーに告げる。

 

「あ、それと簡単に魔力を注いだように見えたとしたらそれは盛大な勘違いだ。

 時間を掛ければ然して問題無いが、短時間で魔力を調達しようとすれば相当消耗する。

 少なくてもさっきやったのは、〔千切れ掛けた首の傷を抉ってもう一度血を絞った〕、くらいのことだ。

 実際はそれ以上の精神的負担が掛かるがな」

 

 そう雁夜は告ると、深夜に長距離運転出来る者を回すのに5~10分程掛かるので少し待っていてほしいと言う旨を告げられた玉藻に構わないと軽く頷いた(異常に良くなった聴覚で雁夜は普通に捕らえていた)。

 

 少し時間が余ってしまった為、雁夜はタクシーが到着する迄の時間をセイバーの気分が悪くなる話に付き合わなければならないのかと思い、内心で溜息を吐いた。

 だが、雁夜のその予想は別の人物が話し掛けることで否定される。

 

「玉藻の前よ。

 異教徒の神ではあるが、お前に聞きたいことがある」

「っ!?あ――――――」

「神前で争って不況を買いたくなければ大人しくしているがいい」

「――――――なたは言み…………」

 

 隠行術と教会の結界でアイリスフィール達にその存在を悟らせずにアサシンのマスターは現れた。

 そして驚愕するアイリスフィール達を素早く一言で黙らせると、アイリスフィール達だけでなく雁夜も無視する様に玉藻の前に立ち、問い詰める様な言葉を発する。

 

「私はお前の信徒ではない。

 だが、神なる者に一度問うてみたかったことがある」

 

 話の邪魔も許さなければ沈黙することも許さんとばかりに、拒絶と不退転の雰囲気を放つアサシンのマスター。

 セイバーの話よりも厄介な話が転がってきたと雁夜は思いつつも、話の対象が神である玉藻であるらしく、しかも何やら凄まじい気魄を放っている為、此れは軽い気持ちで邪魔しない方が良いだろうと思い、雁夜は玉藻に場所を譲るように一歩横に退いた。

 そしてそれを見た玉藻は静かに僅かばかり前に出、視線でアサシンのマスターに話を促し、その意を受けてアサシンのマスターは話を続ける。

 

「私は異教の神には明るくないが、お前が万物の慈母と謳われる存在であることは知っている。

 故に問う。

 この国に居るお前の信徒で苦しみに喘ぐ者は五万といるはずだ。にも拘らず救いの手を差し伸べないのは何故だ?

 神が慈悲と愛を説きつつも蔓延る悪を罰さず、更に救いも齎さぬならば、神に祈りを捧げるのは無駄ではないのか?

 ならば……神とは何のために存在するのだ?苦難に喘ぎ道に迷う者は野垂れ死ぬしかないのか?」

 

 声こそ荒げていないものの、魂の奥底からの叫びかの如き想いが籠められたか声を叩き付けられる玉藻。

 宛ら、神であろうと問い殺すと言わんばかりのアサシンのマスターの問い。

 そしてその気魄に少なからず飲まれてしまうアイリスフィールとセイバーだったが、玉藻は微塵も気圧される事すら無く答えを返す。

 

「異教の徒よ。西洋の神、特に汝等が唯一神と仰ぐエホバ神とは交流など無いので、汝が神に対して抱く疑念には完全には答えられぬ。

 だが、自らの存在意義と道に迷う者達や苦難に喘ぐ者達をどの様に思っているのかは答えよう」

 

 そう言うと同時に周囲の結界を強化した後に神の気配を解放する玉藻。

 圧倒的神気が場に満ち溢れるが、既に慣れきっている桜は全く気にした様子も無く安眠し続けていた。

 だが、慣れるどころかセイバーですら消耗してしまう程の神気を近距離で浴びせられたアサシンのマスターは思わず一歩後ずさった。

 が、この先二度と無いだろう好機を棒に振ることなど出来ないと言わんばかりに、此れ以上は退かぬと言わんばかりにその場に踏み止まり続けながら玉藻の声を聞き続ける。

 

「我、【天照=大日=ダキニ=玉藻の前】の存在意義を一言で表すならば、【人と関わること】。

 天を司ることも、万物を総該することも、徳の具現として現れることも、人に尽くすことも、全て人と関わるという、我の表情の一つに過ぎない。

 そして我は人を愛してはいるが、其の愛は人と言う種全体に及ぶ愛であり、個個人に対して向けられる類ではない。

 

 我から見れば人とは砂粒の様な存在。

 人の営みとは砂で造形するかの如き行程。

 即ち、道に迷う者達は乾き落ちる砂粒の如き存在であり、苦難に喘ぐ者は負荷の掛かる部位の砂粒の如き存在。

 故に逐一救いや導きなどを齎したりせぬ。

 何故なら、嘆きや苦悶や葛藤、更に死すらも人の営み、生まれては死するという連続性の一部。

 ならばそれは人自身が乗り越えるべき事柄。

 しかし、その連続性が壊れかねない事態に発展すると判断した時、我は救いや導きを齎す」

「………………」

 

 その言葉を聞いたアサシンのマスターは暫し瞑目して考え込む。

 信徒が聞けば愕然としかねない言葉だったが、アサシンのマスターはそのような気配を一切見せず思案し続ける。

 

 そして数十秒程が経過した頃、アサシンのマスターは改めて玉藻に問う。

 

「つまり、神とは人間個々人に救いを齎すものではないと?」

「概ね違わない。

 神と人が同じ場所に居た時代は人の数が少なく、神と人の関係は密接だった。

 しかし、仮令20億の人が死のうとも自力で苦難を乗り越えるだろう今の時代、最早神の手助けなど人は要らぬだろう。

 

 故、現代に於ける神とは、人の心の拠り所として姿見せぬことこそが主な役割と言えるだろう。

 ならばこそ、救いや導きを行うなどまずありえない」

「…………………………そうか」

 

 落胆でも失望でもなく、諦観した様な声で呟く様に返すアサシンのマスター。

 だが、そんなアサシンのマスターに玉藻は僅かに微笑みながら言葉を掛ける。

 

「だが、それは人が神の庇護より抜け出た一つの証。

 多くの人が嘆きや苦しみの果てに死そうとも、それを糧に人は更に歩み続ける。

 だからこそ我は人が嘆きや苦しみに喘ぐ様すら愛して眺め続けることが出来る。

 仮令嘆きや苦しみを晴らす事無く力尽きようと、その想いや過程を残った者が汲み取り、次に繋げることで繁栄の糧にする。

 

 神による救いが無いことを嘆くことはない。 

 何故ならばそれは、人に神の手助けは必要無いと認められた証。

 道に迷い、己の業に苦しむ者も存在するだろうが、神はそれすらも人が前に進む為の糧と見ている。

 人を殺すことに悦を覚える者も存在しようが、それは法と自衛の向上を齎す要因となる。

 人の苦悩に悦を覚える者も存在しようが、それは人が苦悩と対面して深みか高みに至る機会を齎す要因となる

 人を拒絶することに悦を覚える者も存在しようが、それは人が自らの道程を省みる要因となる。

 

 己が業より目を逸らし続ける故に道に迷う者よ。

 汝は己を朧気に理解しているが故に己の業から目を逸らしているが、世の殆どの者が倫理や道徳を剥ぎ取れば畜生と変わらぬ業を持っている。

 だが、殆どの者はそれを認めることが出来ず、自らが理想とする皮を被って生きている。

 それが偽りであろうと、何時の日か理想の自分と成らんが為に己を偽り、律し続ける。

 故、覚えておくといい。己の本性が善悪を決するのではないと。

 何故ならば人は己が意思一つで死すらも乗り越え、変わることが出来るのだから」

「!!!???」

 

 その言葉に何かしら凄まじい感銘を受けたアサシンのマスターは、静かに頭を下げて告げた。

 

「異教の神よ…………感謝する」

 

 社交辞令ではなく本心から告げるアサシンのマスター。

 そしてその謝辞を僅かに頷いて玉藻は受けると、急に神気を抑え、更に結界も解除した。

 すると程無くして遠くから車のヘッドライトの明かりが見え始め、玉藻が連絡を入れたタクシーが此の場に向かっていることを此の場の者達に知らせていた。

 

 間も無くタクシーが到着するという時、話が終わったと判断した雁夜は、特に誰にともなく告げる。

 

「では、此れから何処にも寄らずに冬木を離れる。

 最早会うことも無いだろう」

 

 そう言うとタクシーに乗り込み易い位置に移動する雁夜。

 そして玉藻も雁夜の斜め後ろに移動しながら告げる。

 

「それでは失礼します」

 

 特に激励するでもなく、極簡単に別れの挨拶を済ませる雁夜と玉藻。

 

 他の者達が何かの言葉を掛ける前に雁夜は到着したタクシーの前部座席に乗り込み、次いで玉藻が後部座席の奥に乗り込み、更に桜の靴を脱がせて膝枕をする。

 そして改めて行き先を告げられたタクシーは那須の山へと走り出した。

 

 

 後に残ったのは、自らの生に一筋の光明を見出して生気が満ちるアサシンのマスターと、少なからず己を根元から揺さぶられ動揺しているセイバーと、セイバーの様子を見て会わなければ良かったかもしれないと思いつつもアサシンのマスターをどうしたものかと悩むアイリスフィールだけだった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:言峰綺礼

 

 

 

 アーチャーと間桐雁夜の激突時にアサシンの一人を失った私が事の顛末を聞いた時、何より先に胸に抱いた想いは、〔異教の神といえども、神と対話する機会が在る〕、ただこれだけだだった。

 アーチャーが受肉したことも、間桐雁夜が精霊の域に昇格したことも、それにより師の計画が狂ったことも、全てがどうでもよかった。

 本来ならば異教の神が具現したことに怒りを覚えるべきなのだろうが、そんな怒りは微塵も沸かなかった。

 

 生まれてより今に至るまで何一つ喜びを見出せず、執着するどころか心を燃やすことすら叶わなかった。

 ひたすらに生まれた意味……見失っている自分を見つけるために苛烈な道を歩み続け、その全てが意味を成さなかった。

 そんな折、何の感慨も沸かぬ聖杯戦争で衛宮切嗣という、何かしらの答えを得たであろう私と同類の人物を見つけ、初めて執着と言うモノを知った。

 だが、今し方知った神霊玉藻の前はその比ではなかった。

 

 異教とは言え神が、人どころか英霊であってすら及ばない精霊の更に先に位置する神霊が、今、冬木に現界している。

 しかも完全な状態で現界している。

 常に祈りの向こう側から現れることのなかった神が、人に救いと導きを齎す神が、確かに現界している。

 それを知った時、何を置いても問わねばならないことができた。

 

 

 父や師が会談している最中に問おうとしたが、詰まらぬ間者と判断されて消されては堪らぬため、間桐雁夜達と合流するまで待ち続けた。

 気が逸り過ぎたためか、迂闊にも機を僅かに逸したためセイバーに邪魔されてしまった。

 話に割って入るのは不興を招き危険と判断した為、止む無く話が終わるまで機を窺った。

 

 そして機が到来し、逸る心を抑えて異教の神へと問いかけた。

 〔神とは人を救うものではないのか? 神が人を救わぬならば、人が祈りを捧げることは無駄ではないか?〕、と。

 しかし、その答えは何処までも残酷だが、納得のいく、[人とは砂粒の様な存在]、というものだった。

 

 人間を全体的に見、そして文化や営みを愛す。

 人の死や苦しみすら営みの内と見、人が乗り越えるべきものだと言った。

 遥かな昔と違い、現在神の助けがないのは、既に人が神の助けなく存在している証とも言った。

 しかも、[現代に於ける神とは、人の心の拠り所として姿見せぬことこそが主な役割と言えるだろう]、と言った。

 祝福するように。苦難に喘ぐ者を見捨てるように。堂々と言い放った。

 

 異教の神とは言え、その言葉の全てが神の在り方を代弁しているとしか思えず、最早答えは得られぬと諦観した。

 だがその時、奴は私の心を見透かしたかの如く、私の生に光明を射した。

 

 [故、覚えておくといい。己の本性が善悪を決するのではないと。

 何故ならば人は己が意思一つで死すらも乗り越え、変わることが出来るのだから]

 

 此の言葉に私は自らの裡を見つめ直す決心を得た。

 たとえどの様な醜悪な本性が私の裡に渦巻いていようと、それが不服ならば変わればいいと悟った。

 実際に死すらも乗り越えた存在がいるのだろう。

 そしてそれは恐らく奴の隣にいる間桐雁夜だろう。

 事前情報と父や師から得られた事後情報を統合する限り、間桐雁夜は死を乗り越えて己の在り方を変えたのだろう。

 何も行動せずに逃げ続けて流されるだけの在り方を、誰かを想って自らの命すら賭せる在り方へと。

 

 いいだろう。前例があるならば踏破して見せよう。

 どれだけ困難な道であろうと、出来るかどうかも判らぬ先駆者に比べれば遥かに易い道程だ。

 ならばそのような困難など臆するに値しない。

 何より、果てより光明の射す道を歩むことを臆する理由など存在しない。

 

 

 ……さて、己を知ることへの忌避感が晴らされた今、優先すべきは己の在り方を見据えることだな。

 その後己の在り方次第で受け入れるか否かを決めよう。

 その為にも、やはり衛宮切嗣との邂逅は必須だ。

 何としてでも奴と邂逅せねばな。

 

 ふむ。さしあたってはランサーのマスターを張るとしよう。

 セイバー陣営としては一刻も早く槍の呪いを解除したいだろう以上、直ぐにでも動き出すだろう。

 ならば何時までここで思慮に耽らず動かねばな。

 そしてその為にも未だ礼拝堂に居るだろう師との会談を素早く終わらせねばなるまい。

 

 待っていろ、衛宮切嗣。

 私の在り方を知る為にも、まずはお前の在り方を……遍歴を知り尽くしてくれよう。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:言峰綺礼

 

 

 







   若しも雁夜がヘラクレスを召喚していたら?(中二要素が御嫌いな方は見られないことを強く強く御勧め致します)


【クラス】

・シューター(射手(長距離~超長距離射撃手))


【真名】

・ヘラクレス


【パラメーター】

・筋力:A++++ ・魔力:EX
・耐久:A++++ ・幸運:EX
・俊敏:A++++ ・宝具:A++


【クラススキル】

・千里眼:A
 透視や遠視だけでなく数秒先の結果を事前に視ることすら可能。
 更にランクA以下の幻惑等を無効化し、A+でも判定次第では無効化する。


【スキル】


・戦闘続行:A
 原作準拠

・心眼(偽):A
 五次偽アサシン準拠

・神性:A
 原作準拠

・騎乗:A
 四次セイバー準拠

・是・射殺す百頭:A
 超高速の九連撃

・格闘:A
 格闘戦を行う場合、筋力と耐久と敏捷の数値を30%UP。

・勇猛:A+
 原作準拠

・気配遮断:A+
 五次真アサシン準拠

・撲殺:A++
 徒手格闘、若しくは鈍器等で戦う場合、筋力と耐久と敏捷の数値が50%UPし、更に選択した一つのスキルに+判定が付加され、その上ST判定の失敗確立が0.25倍される(失敗確立100%だと適応されない)。

・狩猟:A++
 魔獣、幻獣、聖獣、神獣、竜種等、完全な非人間の者と相対した際、筋力と耐久と敏捷が30%UPし、更に通常攻撃以外に対する耐性が70%UPする。

・狂化:EX
 任意で狂化し、ある程度任意で狂化を解く事が可能な、人が葛藤する事に喧嘩を売るスキル。
 狂化の幅はB~A+++で、A+++の場合は宝具を含めた全てのステータスをAランクに上昇させ、元からAランク以上ならば+判定が付加され、更に狂化によるスキル封印が存在しなくなる(暴走に近い)。


【宝具】

・十二の試練:A
 Aランク以下無効以外は原作準拠。
 但し、雁夜の超絶魔力供給により1秒で1回の蘇生ストックが回復する為、一度に殺しきらない限りはまず打倒しきれない。
 事実上エヌマ・エリシュ以外では殺害しきれない。

・射殺す百頭:A++
 9つの首を持つ水蛇ヒュドラを殲滅した弓を用いて成される技(9連撃は別の武具を用いて再現する劣化版)。
 9つのドラゴン型ホーミングレーザーが相手を襲い、その威力は神造兵器にすら劣らない。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾捌続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん




今回の前半部分はほぼ原作通りの粗筋です。
微妙に差異は在りますが、基本的に読まれなくても構わないものになっています。
寧ろ原作との間違い探しのようになってしまう為、読まれないことを御薦めします。
全て省略してライダー戦迄飛ばすと、手抜き感が凄まじく溢れてしまうので執筆しただけですので、本当に読まれなくても問題ありません。





 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

 

 

 

 雁夜達が冬木市を離れた日の数十分後、アサシンによりキャスターの蛮行が明らかになった。

 日が昇ると直ぐに聖堂教会が参加しているマスターを招集してキャスター討伐を命じたが、当然其処に雁夜どころか雁夜の使い魔すらいなかった。

 だが、そのことに対して時臣と璃正どころか聖杯戦争に参加しているマスターの殆どが安堵していた。

 

 時臣と璃正は令呪増画の目論見を崩す最大の要因が存在しないことに安堵し、ウェイバーとケイネスは捜索中に鉢合わせすることがないと安堵し、切嗣はキャスターを餌にサーヴァントやマスターを狩れる機会を失わずに済んだことに安堵していた。

 但し綺礼だけは然して興味がない為、安堵もしなければ落胆もしていなかった。

 が、サーヴァント達は何だかんだで子供好きだろう雁夜や玉藻が冬木に居れば、直ぐにでもキャスターを討伐して被害を食い止めることが出来たと思い、少なからず残念に思っていた。

 特にセイバーは己がマスターがビルを爆破したり子供を見捨てて勝利を目指しているだけに、恐らく今次の聖杯戦争のマスターで最も良識を持つであろう雁夜や玉藻の存在を切に望んでいた。

 だが、何処をどの様に監視しているかも解らなければ、雁夜達が何処に居るのかも判らないセイバーには連絡手段は無く、当然セイバーの期待は見事に空振りに終わり、更に1日もせずにキャスターによる被害は出てしまった。

 

 何とか一人でも助けようとアインツベルンの森を疾駆したセイバーだったが、結局誰一人助けることは叶わず、更にランサーの助力を得たにも拘らずキャスターを逃してしまい、セイバーは更に悔やんだ。

 だが、セイバーが悔やんでいる最中にランサーがマスターの危機を察知したのを知り、セイバーは何も出来なかったがせめて騎士の誇りだけでも守り抜こうという想いを胸に、ランサーと再戦の約束を交わしてランサーを見送った。

 それが益益マスターとの間に溝を広げると考えもせずに。

 

 そしてセイバー陣営の不仲に拍車が掛かっている中、ライダー陣営はウェイバーが見事にキャスター陣営の陣地を発見して強襲した。

 生憎とキャスター達は不在であった為陣地を破壊するだけになったが、その最中にアサシン二名の襲撃をウェイバー達は受けた。

 が、ランサーと手負いとはいえセイバーを同時に相手出来るライダーが遅れをとる筈も無く、難無く二名のアサシンを倒した。

 

 そしてライダー達がキャスター達の陣地を破壊した前後、深夜に徘徊していた凜がキャスターのマスターと接触し、見事囚われていた子供達を解放した。

 だが、帰宅する途中キャスターが召喚した海魔と鉢合わせしてしまう。

 が、次の瞬間には何処からとも無く清浄な烈風が吹き抜け、瞬時に海魔を塵より細かく切り刻み、更には周囲一体を徹底的に浄化した。

 当然何が起きたか解らず唖然とする凜だったが、兎に角危機は去ったと判断して夜の街を駆けて禅城へと戻ることにした。

 尤も、途中で葵に発見されて車で帰宅することになった。

 無論、確り両親から叱られる事になった。

 

 そして凜が禅城に帰った前後にライダーがアインツベルンの城を訪問し、一献交わしながら王の格を競う旨を告げた。

 実際はただの酒宴だが、王の矜持に触れるナニカがあるのか、セイバーはアッサリとそれを承諾した。

 移動した中庭で王の格を競おうかと話していたライダーとセイバーだったが、突如空より黄金と翠玉で造られた輝舟が中庭に現れ、更に輝舟からギルガメッシュが降り立った。

 何故此の場に現れたのかと警戒するセイバー陣営だったが、ライダーがアッサリと街で見かけたので誘ったと言い、セイバーとアイリスフィールはライダーの勧誘癖は傍迷惑極まりないと確信した。

 だが、ギルガメッシュは以前言った通り聖杯などに興味は無く、単に自分以外が王を語ると言うのが気に食わないので参加しただけだと言い、後は王を名乗る不埒者の願いを知る為だと言った。

 その後ライダーから差し出された酒を飲んだが露骨に顔を顰め、直ぐに宝物庫から神代の酒を取り出して振舞った。

 振舞われた酒の余りの格に驚愕するライダーとセイバーにギルガメッシュは自らの宝物の格を誇り、機嫌良くライダーとセイバーがどのような願いを聖杯に託すか示せと促した。

 

 だが、ライダーは器が広く且つ底が恐らく抜けているのでギルガメッシュの物言いに然して不快感は無かったが、礼節を重んじるセイバーは不快感を交えながら、今聖杯を求めていなくても当初は求めていた筈なのだから、その時聖杯に何を託すつもりだったのか話せと言った。

 そのセイバーの言葉に対しギルガメッシュは呆れと苛立ちを僅かに混ぜた尊大な声で――――――

 

[世界の宝物のほぼ全ては起源を我が蔵に遡る。

 例外足りえるのは神々が手放さなかった神宝か、我が蔵に無い起源によって創られた物のみだ。

 ここの聖杯がどの程度かは知らんが、探せば我が蔵から原点の一つや二つは出てくる物に託す願いなど端から在りはしない。

 単に我が宝物を我が物顔で奪い合う盗人共を駆逐するため、こんな戯けた催しに参加したに過ぎん]

 

――――――と、言った。

 ギルガメッシュのその言い草にセイバーは呆れたが、既に朧気ながらもギルガメッシュの真名を看破し掛けているライダーは、ギルガメッシュの言い分も一理あると納得した。

 だが、聖杯の所有権が他人に有ると認めた上で聖杯を望むライダーへ、セイバーはそうまでして聖杯に託す願いは何なのかと尋ねた。

 するとライダーは受肉と言い切り、仮初の生を受けたこの世界に一個の命として根を下ろして世界を制すると、結果だけではなく過程すらも大切だと言った。

 その言葉を聞いたギルガメッシュは、宴の終わりに道化か自身が審判するに値するか試すと言い放ち、ギルガメッシュのその発言を無視する様にセイバーはライダーの王道を否定した。

 そしてライダーに促される儘セイバーは自身が聖杯に託す願いである、故国ブリテンの滅びの運命を捻じ曲げて救い上げると話す。

 するとギルガメッシュは嘲笑し始め、ライダーは露骨に訝しんだ。

 ギルガメッシュとライダーの反応が気に食わなかったセイバーは、身命を捧げた故国が滅んだことを悼む何処が可笑しいかと問う。

 が、ライダーはそれを直ぐに否定し、王ではなく民草が王に身命を捧げるべきだと言った。

 しかしセイバーは即座に暴君の治世だと反論するが、ライダーは暴君であるからこそ英雄だが、自らの治世を悔やむ暗君に比べればまだマシだと告げるものの、セイバーは滅びを誉れとするのは武人だけであり、正しき治世と統制を敷く事こそが王の本懐だと告げた。

 それにライダーは呆れとも落胆とも取れる声でセイバーを正しさの奴隷と称したが、セイバーは気にする事無く飽くなき欲望の為だけに覇王となったライダーには解らないと言い放つが、次の瞬間ライダーは激昂して声を張り上げる。

 〔無欲な王など飾り物にも劣る〕、と。

 

 セイバーの主張する王道に我慢ならなかったライダーは己の王道を熱く語る。

 〔王とは清濁を併せて人の臨界を極めた者〕、〔王とは欲の形を民草に示す者〕、と。

 更にセイバーを、〔救うばかりで導きもせずに放り捨てて小奇麗な理想に焦がれていた無責任な王〕、〔生粋の王ではなく王という偶像に縛られた唯の小娘〕、と断じた。

 その言葉に死体が其処彼処に散らばる丘の上から眺めた滅び行く故国を幻視したセイバーだったが、唐突にギルガメッシュから以前にも誰かから自身の願いを否定されただろうと尋ねられ、セイバーは雁夜から言われたことを思い出してしまい更に憔悴した。

 が、ギルガメッシュはそれに構わず、王を名乗るならば自身へ向けられた意見くらい公開してみろと言い、渋渋ながらも先日の遣り取りを語るセイバー。

 話を強制的に終わらせた綺礼にも興味が湧いたらしいギルガメッシュに促される儘、綺礼と玉藻の会話も語るセイバー。

 そしてセイバーが語り終わった時、ギルガメッシュは綺礼に少なからず興味を持ったがそれ以上に面白い事を聞いたと言わんばかりに愉快気な顔でセイバーへ――――――

 

[まるで真面目に生きていないと叱られた子供のようではないか?

 そんな様で王を名乗るとは、やはり見た目に違わぬ夢見る小娘であったか]

 

――――――と言い放った。

 更にセイバーが何とか言い返そうと逡巡している間にギルガメッシュはライダーへ、自身が審判するに値する賊かどうかを試すので受けるか否かを問うた。

 当然ライダーは面白そうだとばかりに即座に了承した。

 すると突如周囲に無数のアサシンが中庭周辺に現れた。

 騙まし討ちする気かとセイバーがギルガメッシュを睨んだが、ギルガメッシュはセイバーを相手にせずライダーへこの程度は倒してみせろと言わんばかりの視線を送った。

 だが、ライダーは倒さずとも味方にしてしまえば万事解決だと言わんばかりに葡萄酒を汲んだ柄杓を掲げ、共に飲み交わそうと声を掛ける。

 が、当然それに応える者は居らず、返答代わりに短剣が柄杓の柄を切断し、葡萄酒を地にばら撒いた。

 それを見たライダーは勧誘失敗と判断し、身に纏う服を戰装束へと変えながら立ち上がり、ギルガメッシュとセイバーへ王の在り方を示すと告げた。

 次の瞬間、城の中庭から突如何処かの砂漠へとアサシンを含めた全員が存在していた。

 

 魔術師でもないライダーが固有結界を展開したことに驚くアイリスフィールだったが、ライダーは自身と苦楽を共にした仲間が等しく心に焼き付けたからこそ可能だと告げた。

 すると、突如優に万に届く大人数が現れた。

 しかも其其がサーヴァントであるだけでなく宝具を持つ者も散見出来、更にライダーの神威の車輪を越えるやもしれないランクの宝具を有する者も居た。

 そしてその大人数を背にしたライダーは、彼らとの絆こそが至宝であり王道と断言し、先陣を切りながらアサシンを圧倒的数の暴力で蹂躙した。

 何もせずに蹂躙戦が終わってしまった者が殆どにも拘らず、王と共に戦場を駆け、王と共に勝利の喜びを分かち合え、そして王と共に轡を並べていることを心から誇っていた。

 その光景を表現し難い表情でギルガメッシュは眺め、セイバーは羨望や憧憬の念が籠もった様な瞳で眺めていた。

 

 結界が解除され通常空間に戻ると、ギルガメッシュはライダーを自身が審判するに値する賊だと告げる。

 そしてライダーは不敵な笑みで返し、それから直ぐに宴は終わりとばかりに空へと去っていった。

 去り際に何かを告げようとするセイバーにライダーは王とは認めないことと、痛ましい夢から早く覚めろと言い残して。

 更にライダーに続く様にギルガメッシュも輝舟へと乗り込みながら、セイバーを阿るような発言をした後に葛藤や苦悩する様で楽しませろと告げて去っていった。

 後に残ったセイバーは、嘗てキャメロットを去った騎士が王は人の気持ちが解らないと言っていたことを思い出し、暗い気分で暫し佇んでいた。

 

 

 酒宴の翌日、ウェイバーは街へと出歩き、書店でライダーの伝承を調べる。

 伝承のアレクサンドロス3世は器は小さそうだが礼節に厚そうな人物なのだが、現在ウェイバーの傍に居る存在はその真逆の地平線の彼方に立つ様な人物であり、然して書物が当てにならないと知りつつもウェイバーはライダーの伝承が載った本を閲した。

 しかし閲している最中に本人が現れてウェイバーが自身の伝記を読んでいるとライダーは知り、本人が目の前に居るのだから尋ねろと言う。

 するとウェイバーは気恥ずかしさを吹き飛ばす様に幾つかライダーに質問をするが、その全ての答えに格の違いを見てしまい、ウェイバーは消沈してしまう。

 

 消沈した儘ウェイバーは何とは無しに主が不在の間桐邸の前に来ていた。

 威圧感こそ無いが、近付くに連れて訳も分からずあらゆる犠牲を払ってでも離れたくなるウェイバー。

 そしてそれはライダーも同じらしかった。

 だが、恐ろしいのは結界の外でもCランクの対魔力を持つライダーに効果があることではなく、何かの干渉を受けていることが全く知覚出来ないことだった。

 少なくとも何かあるのは推測とはいえほぼ確実なのだが、どれだけ両者が周囲に意識を張り巡らせても微塵たりとも不自然な要素を発見出来なかった。

 発見出来なかった理由が魔法だからなのか神霊魔術だからなのか神殿だからなのかも両者には判らなかったが、余計な干渉を行えば抵抗すら許されぬレベルでの干渉を受けると両者とも理解している為、流石にライダーも突撃をする様なことはなかった。

 

 何の収穫も無い儘間桐邸を後にし、空が茜から闇へと変わる頃、ウェイバーの鬱屈した想いが爆発した。

 自らの有能さを示す為に参加した聖杯戦争だったが、自分は成果らしい成果を何一つ上げられず、にも拘らず自分が召喚した者は精霊の域だろうギルガメッシュすら屠れるやもしれぬ規格外のサーヴァントであり、最早自分など唯の魔力供給タンクでしかなく、にも拘らずそれすらも満足に行えないことにウェイバーは心底情けなかった。

 しかも本人達の話を聞く限り、ほぼ一般人が死を前提に他者の為に行動した結果根源に至り、更に小さな女の子の為に精霊の域に居るだろうアーチャーに勝負を挑み、遂には精霊の域に自分を昇格させた間桐雁夜と自分を比較した時、命を賭ける気概以前にその怖さすら知らなかった自分がどうしようもなく惨めになった。

 最早自己弁護が出来ない自分の有様がどうしようもなく悔しく、ウェイバーは八つ当たりと知りつつライダーに当り散らすように嫌味を連発した。

 だが、ライダーはウェイバーのそういう態度こそが自身の分を超えた大望を抱いていることの現れであり、更に覇道の兆しであると評した。

 そして自身も世界を制するという分を超えた大望抱く者であり、自身と同じく己の埒外を向いた大望を抱く馬鹿なウェイバーとの契約が楽しいと満面の笑顔でライダーは語った。

 その台詞を聞いたウェイバーが僅かに顔を赤らめた時、両者は突如異常を感じて川を見遣った。

 

 其処には恐らく制御を度外視して喚び寄せたであろう巨大な海魔に呑まれていくキャスターが居た。

 それを見たライダー達は即座に近くのランサーへ神威の車輪に乗って接触し、休戦を呼び掛けて受諾させた。

 更に直ぐ様セイバーの下へと赴き休戦を呼び掛けて受諾させ、追い付いたランサーを交えて軽く協議した結果、キャスターを露出させてランサーの破魔の紅薔薇で術式を破壊することに決まった。

 

 暫くの間川の上でも戦闘が可能なセイバーと、宙を戦車で駆けるライダーが奮戦したが、大した戦果を挙げられなかった。

 しかし突然空より4つの魔弾が降り注いだ。

 しかも魔弾の速度は超音速と言う速度の為、巻き起こる衝撃波で巨大海魔に大孔を穿った。

 だが、全体の30%以上が吹き飛ばされたにも拘らず海魔は再生を始めだした。

 が、流石に全体の1/3近くを吹き飛ばされた傷を回復するのは時間が掛かるらしく、暫くの間海魔は動きを停止した。

 それを見たギルガメッシュは見るのも嫌だが試してみたいことがあるのか、装填していた最後の魔弾をキャスターへと放った。

 放たれた魔弾は雁夜が伸張させた蜘蛛の脚に匹敵する宇宙速度で放たれた。

 セイバーですら視認が限界で反応出来ない速度で放たれた魔弾は凄まじい衝撃波を撒き散らし、漸く再生しきった海魔を唯の一撃で40%以上吹き散らした。

 更に、魔弾の限界を超えた魔力を注ぎ込んで放った為、魔弾は地面にある程度突き刺さると同時に自壊して内包している神秘と魔力を撒き散らし、海魔に追撃を与えた。

 

 既に半分以上が吹き飛んだ海魔だったが、それでも再生を始めており、暫くすれば再び活動を再開するのは明らかだった。

 だが、既にギルガメッシュは時臣への義理立ては十分に果たし、更に魔弾が射出と同時に自壊しない程度に迄魔力を注いで弾速を上昇させればどうなるかの実験も終わったらしく、汚物は見るに耐えないとばかりに輝舟を反転させて去って行った。

 輝舟に同乗していた時臣はギルガメッシュにキャスターを討伐して欲しかったが、迂闊な発言をすれば刎頚に処されかねない為、あれ程キャスターを追い詰めれば時間稼ぎをしたと言う名目で令呪を得ることは可能な為、特に進言はしなかった。

 

 遠ざかっていく輝舟を尻目に、セイバーが対城宝具を保有していると知ったランサーは、諸人の嘆きを是とするキャスターを討つという、自身やセイバーが信じた〔騎士の道〕が勝つ為に必滅の黄薔薇をアッサリと折った。

 すると直ぐにセイバーの左手は回復して対城宝具を放てる状態へ回復した。

 次にライダーが、市街地にも破壊を齎す威力であろう対城宝具を揮える場を提供する為に、固有結界内にセイバーと海魔を取り込んだ(結末を見届けさせる為にその場に居た全員も取り込んだ)。

 そして、星が鍛え上げた聖剣が、一撃の下に海魔を消し飛ばした。

 尚、キャスターが消え去るのとほぼ同時にキャスターのマスターも切嗣に狙撃されてこの世を去っていた。

 

 

 キャスターが討伐された直後、誰よりも先んじてケイネスは璃正より令呪を補充された。

 しかしその後他のマスターが追加令呪を得られぬ様に璃正を殺害する。

 そして仮初の陣地に戻ったケイネスだったが、自身の婚約者が浚われていた事を知り、ランサーに当り散らす。

 だがそんな時に敵襲があり、ランサーは迎撃に出る。

 襲撃者であったセイバーと胸の透く様な戦いをしていたランサーだったが、突如自らを破魔の紅薔薇で貫いた。

 そしてそれが人質を取られたケイネスが令呪で命じたことと知り、自分が唯一つ抱いた祈りを踏み躙ったケイネスだけでなく、セイバーを含めた周囲全てに血涙を流しながら怨嗟を吐き掛けて消え去った。

 

 ランサーが消え去ったことで契約が完了したことをケイネスと切嗣が確認しあったが、次の瞬間、狙撃がケイネスとソラウを襲い、ソラウは即死したもののケイネスは即死しきれず、命乞いではなく介錯を切嗣に求めるが、交わした契約の為出来ないと切嗣は言う。

 だが、ケイネスを哀れに思ったセイバーが、黙ってケイネスに止めを刺した。

 そしてランサー陣営が死に絶えた時、セイバーは己がマスターである切嗣に対し、聖杯を勝ち取っても渡していいか判らないと告げた。

 更にセイバーの発言だけだと切嗣は無視するので、アイリスフィールが間に入り辛うじて切嗣に今回の釈明を促した。

 切嗣は英雄を、〔血を流すことの邪悪さを認めようとしない愚か者〕、と断じ、セイバーが謳う騎士道など血を流すことの邪悪さから目を逸らす為の詭弁と憎悪混じりに断じた。

 更に切嗣は犠牲が避けられないならば効率こそを重視し、その為に悪辣言われる手段すら厭わず、役に立たない正義に興味など無いと断じた。

 が、セイバーは、恐らく一般人ならば直視出来ない凄惨な選択や死体を積み重ねて得られた平和がどの程度尊く、そしてその事情を知らずに平和を享受することがどの程度幸せなのかと切嗣に問うた。

 真実を覆い隠し、白痴の様に平和を享受させ、平和の尊さも知らずに平和に浸されることが幸せとは素直に思えないセイバーだったが、切嗣はそれでも尊かろうと尊くなかろうが平和であることが悪い筈はないと断じ、更に偽りの平和だろうが人が血を流さないで済む世になるならば、この世全ての悪すら背負って見せると断言し、切嗣は去っていった。

 切嗣が完全に去った後、体に不調を来たしたアイリスフィールは静かに崩れ落ちた。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 三騎のサーヴァントの魂が聖杯に注がれた頃、雁夜達は那須の山でのんびりと暮らしていた。

 

 

 本来掃除や食材及び日用品の調達をしなければならない筈なのだが、玉藻が数万の軍勢の一部を人型にして管理させていた為、雁夜達が到着した時には既に問題無く日常生活が可能な状態になっていた。

 別段悪い事ではないので雁夜は純粋に面倒事が減って良かったと思っていたが、自分達に挨拶した後はパソコンに向き合っている玉藻の軍勢の一部が何をやっているのかと画面を覗き込むと、何処迄回線を伸ばしているのかは知らないがイントラネットで株の売買をやっており、しかも雁夜名義で行っていた。

 直ぐに玉藻を問い詰める雁夜だったが、玉藻は笑顔で資産運用と答え、しかも那須の町に溶け込ませた分身も存分に働かせた結果、数日で兆単位の利益を上げたと誇らしげに語った。

 それを聞いた雁夜は最近買収した会社の人員整理をして急速に利益を上げている者が居るというのをニュースで聞いていたが、まさか身近に恐らく千人規模で路頭に迷わせた原因が居るとは思わず、軽く眩暈を覚えた。

 が、玉藻は後に設立する会社に招いて忠実な部下にするから平気だと言い、雁夜は色色と深く考えてツッコむのを止めた。

 

 そして自然の中で動物と戯れて(当然狐が多い)遊ぶ桜を見つつ、雁夜はバルトメロイに代金代わりに渡す礼装(実際は宝具)の構想を考え、更に構想を基に他人が使える様に調整しながら作成していた。

 しかもバルトメロイに渡すのは代金代わりの意味よりも、桜に渡す護身具の試作品と言う意味合いが強い為、問題点を洗い出せるように前金代わりに渡すのを試作品にし、更に後金に渡すのを試験品と完成品の影打ちにするつもりだった。

 なので、後金代わりに渡す試験品を途中で渡して問題点を洗い出してもらうつもりでいた。

 無論、破損した場合は当然修復や代替品を用意するつもりで。

 

 

 魔術に関わること自体は頗る気分が悪くなるが、物を作ったりすること自体は寧ろ楽しいと雁夜は思っている為、技術者のノリで雁夜は魔術行使に必要だろう要素を取り合えず詰め込めるだけ詰め込んだ。

 そして後は反応や反映速度及び内部機構の整理をするだけになった試作礼装の羽衣を炬燵の上に置き、大きく伸びをしながら雁夜はその場に寝転んだ。

 すると枕程ではないが柔らかいカーペットに着くと思われた雁夜の頭は、伸ばされた玉藻の脚の上に着いた。

 すると雁夜は驚きと呆れが混じった笑みを浮かべながら玉藻に話し掛ける。

 

「一体何時から其処に居たんだ?」

「2時間ほど前ですかね。

 桜ちゃんが眠ってしまってからはずっと此処に居ましたよ」

 

 玉藻が手で示した先には、何処で祀られている神獣(獣神?) なのかは判らないが、玉藻が自分の欠片(分身)と評する狐やら犬神やらと一緒に眠っている桜の姿があった。

 本来なら人の相手をするような存在ではないのだが、自分達の大本の玉藻の好感度がその儘反映されているのか、雁夜と桜に対して異常に好意的だった為、寧ろ嬉嬉として桜と関わっていた(雁夜に抱き付くのは自分の欠片と雖も許し難かったらしく、玉藻が直ぐに禁止した)。

 そんなムツゴロウ王国で眠る少女の様な図になってしまった桜を雁夜は微笑ましく見つめていたが、ふと思い出した疑問を玉藻に尋ねてみた。

 

「ところで、お前の普段から抑えず解放している神気って、実は相当危険なモノなんじゃないのか?」

 

 先日、特に威嚇していたわけでないにも拘らず、玉藻がその場に存在するだけでギルガメッシュ以外の全員が戦慄を通り越して憔悴していたことを思い出し、それまでは一般人の自分が普通に接していたのだから慣れられる程度のモノだと思っていた雁夜だったが、どうもそういう領域にある類ではないと理解したので尋ねてみた。

 尚、本当はもっと早くに尋ねるつもりだったのだが、風呂場での騒動や教会前でのイザコザやタクシーでの長距離移動等が重なり、玉藻が桜の害になることをする筈も無いという意識も手伝ってすっかり忘れていた。

 そして今更な質問を玉藻は苦笑しながら答える。

 

「前に私の神気を身近で浴び続ければ美容得点が在るって話した時に理解したのかと思ってましたよ」

「いや、人だった俺が耐えられた上に桜ちゃんも普通に耐えられてたから、彼処迄凄いとは思わなかったんだよ」

「まあ、憔悴したりする方がいないと今一理解し難いでしょうから仕方ないかもしれませんね~」

 

 そう言うと玉藻は少し解り易く伝える為、指を顎先に当てながら考える。

 そしてそんな玉藻の何気無い仕草で幸せな気分になっている自分に気付いた雁夜は、ベタ惚れだなと自分に内心で苦笑しながら玉藻の説明を待つ。

 すると考えが纏まったのか玉藻が雁夜に話し始める。

 

「そうですね。私の神気を薄めれば1~2万人は死ぬと思いますよ。

 ゲーム的に言うなら、レベル60未満は即死って感じですか?

 まあ、アイテムや呪文や特技で防げなくは無いですけど、基本永続効果なので可也きついと思いますけどね」

「ちょっと待てっ。

 一つ聞くが、お前の神気を浴びた奴のレベルってどれくらいなんだ?」

「はいはい。えーとですね、

 

・おかっぱ少年が2前後

・おかっぱ女性が5前後

・銀髪の女性が8前後

・不精野郎が15前後

・質問してきた青年が20前後

・毛髪戦線後退野郎が25前後

・去勢候補の槍男が70前後

・宝塚入団予定少女が75前後

・滅殺候補の野郎が75前後

・桜ちゃん曰くキラキラの王様が120前後

 

 ……ってとこですか?

 あ、面倒な宝具は抜いての数値ですから」

「…………」

「一応私の周りから余り神気が拡散しない様にしましたから影響は薄かったですけど、もしいつものノリで神気を解放していたら、障壁のある戦車に乗ってた少年以外のマスター達は死んでましたけどね♪」

 

 軽いノリで話される衝撃の事実に眩暈を覚える雁夜。

 そして改めて桜が何故平然と玉藻の神気を浴びていられるのか不思議に思い、玉藻に尋ねる。

 

「……その数値基準じゃ諸に浴びている桜ちゃんが生きているのが只管気になるんだが?」

「別に不思議でもなんでもないですよ?

 私と初めて会った時はご主人様の不思議物質が桜ちゃんの中で渦巻いて即死判定に抵抗してましたし、不思議物質が桜ちゃんに馴染む過程で私の神気を浴び続けていたので、桜ちゃん自身が私と同質の神性を帯びましたので、少なくても私が悪意的に桜ちゃんを威圧しない限りは平気ですよ?」

「………………は?」

 

 玉藻が何を言っているのか今一理解出来ずに呆けてしまう雁夜。

 そんな雁夜に玉藻は呆れた様な顔で告げる。

 

「ご主人様。若しかして……自分が桜ちゃんの心臓や周辺を不思議物質で補填してたのを忘れてたんですか?」

「い、いや、忘れていないけど、ソレは桜ちゃんの欠損部分を補う為にやっただけで、桜ちゃんの体を侵食する様なモノを生成した覚えはないぞ?」

「……はあぁーーー」

 

 雁夜のその言葉を聞いた玉藻は溜息を吐き、呆れながら雁夜に説明する。

 

「あのですねご主人様。魔法なんて規格外の神秘に触れ続けた物質が何の変化も起こさないなんてある筈無いじゃないですか?

 そりゃご主人様でしたらご主人様が無意識に侵食を抑えたり回帰したり出来ますけど、魔法を使えない桜ちゃんが魔法の侵食を食い止められる筈無いじゃないですか」

「あ゛」

「しかもご主人様が欠損部分の再生を促すように補填したものですから、欠損部分が再生する時其処に在った不思議物質は桜ちゃんの体と融合して変質しましたから、最早完全にご主人様の手を離れてますよ?

 おまけに私の神気を取り込みながら変質しましたから、意識すれば神秘の無い物理干渉を遮断する程度の神性は得てますよ?」

「…………なんてこった」

 

 今更ながらに桜に起こった変化を知って愕然とする雁夜。

 そしてその様を見た玉藻は苦笑いしながら話を続ける。

 

「別に死に至る呪いとかじゃないですから好意的に解釈しましょうよ、ご主人様。

 考えてみれば日本や真言密教に於ける最高神と同じ神性を有している以上、少なくても日本古来の組織の半数以上は味方に付けられますよ?桜ちゃんの安全度は跳ね上がりますよ?」

「そう考えれば悪くないのかもしれない……か?」

「まあ、その場合西洋の術である魔術だけでなく、東洋の術である呪術とか私が教える必要があるんですけどね」

「前言撤回。桜ちゃんに腹黒要素満載の呪術を教えるなど認めん」

 

 顔に白粉を塗って白装束を身に纏って一本歯の下駄を履き、頭に五徳を被って其処に火の灯った蝋燭を立て、更に胸に鏡を仕舞って腰に護り刀を差し、その上口に櫛を咥えながら神社の神木へと藁人形に五寸釘を打ち込む桜を幻視した雁夜は、即座に桜が呪術を修めることに反対した。

 だが、雁夜が偏見に満ちた呪術知識で反対したとアッサリと看破した玉藻は不機嫌そうに反論する。

 

「ご主人様は呪術を誤解してますっ。

 いいですか?呪術とは自身の体を使って変化させるモノなのです。

 大体、契約とか誓約とか生贄とかが矢鱈と多くて如何わしい魔術に比べれば呪術は遥かに健全です。

 しかも日常生活だけでなく、夫婦生活をや子育てにも使える便利な術も有るんですから、呪術は絶対に覚えておいて損はありません!」

 

 一定音量を遮音する結界を桜の周囲に張ってある為、遠慮無く声高高に主張する玉藻。

 そんな玉藻を胡散臭い目で見ながら雁夜は言う。

 

「どうせ覗き見とか盗み聞きとかいうストーカー的な要素だろ?」

「そんなのは普通に魔術で出来る筈ですので一推しポイントにはなりません。

 えー、ではまず一つ目の魅力ですが、余計なちょっかいを出すと死体すら辱められるような災厄が降り注ぐ呪いを掛けて対象を護るという術です!

 これは我が子の安全を考慮するなら絶対に覚えておいて損は無い筈です!

 私が教えるなら一族郎党全員野垂れ死にどころか、一族郎党の範囲2~3km以内の人間を野垂れ死にさせて、徹底的に報復の芽を潰せる域迄鍛え上げてみせますよ!」

「物騒過ぎるわ!

 大体、人口が密集している現代でソレやったら洒落にならん被害が出て、寧ろ魔術協会に狙われるだろが!」

「大丈夫です!不慮の事故で死んだりしますので神秘隠匿はばっちりです!」

「どっちみち聖堂教会が動くからアウトだろがっ!」

「むう。それじゃあ急に罪悪感が芽生えて自害する程度のやつにしときます」

 

 渋渋とそう言って玉藻は引き下がり、それなら文句は無いのか特に追求しない雁夜。

 そして玉藻は次の魅力を語り始める。

 

「それでは次の魅力は恋人や夫婦の夜の営み関連です!

 おっと、真面目な話なので打たないで下さいね♪」

 

 声こそ軽いが目は真剣な玉藻を見、取り合えず黙って聞くことにする雁夜。

 

「えっとですね、房中術というのを応用すると、何と生命力を平均化して大体同じ時期に死ねたり出来ます!

 他にも相手を自分の領域迄導いたり、互いの生命力を喚起させて健康になった上に老化防止も出来ますし、相手に生命力を分け与えて瀕死の状態から回復させたりと、愛しい方の為なら覚えておくべき術なのです!」

 

 本当に真面目な話であり、玉藻の言う通り愛しい者の為、若しくは何時か現れる愛しい者の為にも本当に覚えておいて損は無いと雁夜は思った。

 だが、当たり前の疑問が胸を過ぎったので玉藻に尋ねる。

 

「確かに覚えておくべきだろう術だ。それは素直に認める。

 但し、どうやって修得させるかによるがな」

「え、え~と…………私が実演して見せるとか?」

「その後桜ちゃんの顔をまともに見れるなら構わないがな。

 但し俺は付き合わないぞ。

 少なくても桜ちゃんが人生を賭ける程に頼み込まない限り」

「……ですよね~。

 私も呪術で問題解決して桜ちゃんに実践してもらう気は微塵もありませんからね~」

 

 流石に玉藻も桜の前で実践する気は無く、更に桜と実践する気などは皆無の為、止む無く断念した。

 ただ、それでも諦めきれない為――――――

 

「では書物にて伝えるとしますね」

 

――――――と、玉藻は言った。

 そして書物でならば問題無いだろうと思った雁夜は特に文句を言わず、玉藻の次の話を待った。

 

「それでは気を取り直して最後の魅力のダキニ天法です。

 これは凄いですよ?地位や財産をがっぽがっぽと得られますよ?

 他にも死期を悟ったり権力を得られたりも出来ますし、壮絶に使いたくありませんが権力者から寵愛を得ることも出来ます。壮絶に使いたくありませんが」

 

 何やら根が深そうな発言をする玉藻の言葉を聞き、権力者からの寵愛は兎も角、金は有れば有る程有利だろうと雁夜は思った。

 だが――――――

 

「役に立ちそうだとは思うが、冷静に考えれば俺が決めることじゃなくて桜ちゃんが決めることなんだよな。

 魔術は済し崩し的に学んでもらうことになったから、少なくても他の事に関しては出来るだけ桜ちゃんに決めてもらいたいから、今度桜ちゃんを交えて話し合ってみるとするか」

 

――――――と玉藻に語った。

 すると玉藻はにこやかに答えを返す。

 

「あ、それなら大丈夫です。

 桜ちゃんも女の子ですから、魅力満載の呪術は絶対に覚えたがります。

 それに一夫多彩去勢拳を伝授している時、呪術で自分以外に反応しなくしたり、逆に懲らしめる為に同姓にばかり反応するように出来ると言った時の食い付きは凄かったですから」

「止めんか駄狐!」

 

 膝枕をされた体勢の儘、素早く手刀を玉藻の側頭部へと振り上げる雁夜。

 しかし玉藻は首を逸らして難無く雁夜の手刀を避ける。

 

 だが、玉藻の側頭部に中って止まる筈だった手刀は止まらず、その儘孤を描き続けた。

 が、直ぐに肘が玉藻の身体に当たって止まった。

 

「「あ」」

 

 確かに手刀は止まりはした。特に雁夜のバランスを崩したりもせずに。

 だが、それは雁夜の肘が玉藻の胸の谷間で受け止められたからであった。

 

「「……………………」」

 

 ただ単に胸の谷間で肘を受け止められただけならば兎も角、玉藻は雁夜の手刀を意図せず胸で受け止めた際に胸を完全に肌蹴させてしまっていた。

 暫し沈黙した儘雁夜と玉藻は見詰め合っていたが、やがて思考が復帰した雁夜は――――――

 

「すっ、すまん!」

 

――――――謝りながら身を捻りながら起き上がって距離を取ろうとした。

 が、焦り過ぎて体重を支える腕を玉藻の胸で止まっている方にしてしまった。

 結果――――――

 

「おわあっっ!!??」

「きゃん♥」

 

――――――体勢を崩して玉藻へと覆い被さってしまった。

 

 見事に玉藻を押し倒した状態になってしまった雁夜は今度こそ直ぐに離れようと、今度は両腕を使い、絨毯と何か柔らかい箇所を支えにしながら起き上がる。

 だが――――――

 

「…………」

 

――――――ちょうど起きたのか、寝ぼけ眼で雁夜と玉藻を黙って見る桜。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 暫し雁夜と玉藻と視線を合わせていた桜だったが、状況を理解したらしく、頬を朱に染めると同時に急いで身体を反転させ、ワザとらしい寝息の様な息をしだした。

 そして桜の様子を見た直後、雁夜は急いで自分の状況を確認した。

 

 現在の雁夜の状況は、

 

1.頬を赤らめた玉藻を押し倒している。

2.上半身だけ起こし、肌蹴た玉藻の胸を鷲掴みしている。

3.腰を玉藻の股の間に入れている。

4.しかも夜にこれらを行っている。

 

で、あった。

 

 そして諸事情により性知識が同年代より圧倒的に豊富な桜の思考が行き着く先をはっきりと理解した雁夜は急いで桜へと駆け寄って弁解を始める。

 

「ち、違うんだ桜ちゃん!さっき――――――」

「大丈夫。……私は何も見なかった。

 ……起きたら……きちんと目を見て……あいさつできる」

「――――――のはちょっとした事故………………って!? は、話を聞いてくれ桜ちゃん!!」

 

 痛い気遣いを桜から受け、涙目で必死に説明する雁夜。

 だが、桜は目を瞑った儘、宛ら寝言の様に呟き続ける。

 

「大丈夫。……お姉ちゃんになるんだから……気遣いくらいは……簡単」

「本当に勘弁してくれ桜ちゃん!

 全くの誤解だから!!!」

 

 

 

 その後、暫く懸命に説明をする雁夜だったが、状況が状況なだけに桜から全く理解を得られなかった。

 そして、体面や矜持や其の他諸諸が崩壊して限界を迎えた雁夜は、半泣きで外へと飛び出した。

 

 雁夜が落ち着きを取り戻して玉藻達の所に戻るのに3日を要した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾玖続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん




 今回の粗筋は前回と違い、可也原作との相違点があります。
 読み飛ばされても問題は在りませんが、前回と違い読まれても苦にならない程度の出来にはなっていると思われますので、宜しければ御覧下さい。





 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

 

 

 

 聖杯にサーヴァントが三騎注がれ、残るはセイバーとライダーになった時、遂に時臣が動くことを決めた。

 長い付き合いであった璃正が殺害されたことに嘆き憤りつつも、此処で立ち止まれば璃正に顔向けできないとばかりに懸命に感情を殺しての決断だった。

 何故ならセイバー陣営とライダー陣営が同盟を組めば問題無いが、若し敵対した儘ならばセイバー陣営の敗北が濃厚な以上、時臣はギルガメッシュに見所を示せなくなってしまう為、時臣はギルガメッシュへとセイバーの真のマスターである衛宮切嗣と一騎打ちをするので見届けてほしい旨を告げた。

 そして一騎打ちの立会いを望まれたギルガメッシュは、エクスカリバーの斬撃を見た時に少なくない興味を抱いたセイバーを消してしまうのは勿体無いと思ったので、真のマスターとやらとの一騎打ち自体を禁じようかと思ったが、先にライダーを倒した後に自分がセイバーと遊んでいる最中に時臣とセイバーの真のマスターとやらをぶつけ、時臣が勝てば聖杯をセイバーに振りかけた残りを時臣に渡せば臣下の礼をとる時臣への義理も果たせると思い、ギルガメッシュは了承した(エクスカリバーの斬撃は宝物で固有結界内を見ていた為ギルガメッシュは知っていた)。

 ただ、セイバーの真のマスターがギルガメッシュどころかライダーすら無視してセイバーを自害させて聖杯に回収させ、更に封印されていたサーヴァント二騎に相当する魔力を解放し、早早に聖杯を降臨させてしまえばセイバーのマスターが勝ち逃げてしまう為、人目が合って聖杯降臨がし難い陽の光が出ている時間帯に聖杯を確保する必要がある為、ギルガメッシュは幾つかの宝物を時臣に貸し、時臣自身か綺礼の何方かに聖杯を回収して来いと告げた。

 如何にセイバーに興味があるとしても、ギルガメッシュ自身がせせこましく動く程の執着ではない為、仮に間に合わず死んだのならそれまでとギルガメッシュは割り切っていた。

 

 結局聖杯の回収は元代行者である綺礼が行うことになった。

 単純な戦闘能力ではなく運搬力や隠密力等が鍵となる為、当然の帰結と言えた。

 そして聖杯回収は降魔時に行われた。

 土蔵の扉は分厚かったが、自力で大木すら数度の発勁で破壊可能な綺礼はギルガメッシュの宝物で一時的に身体強化されていた為、問題無く扉を破壊し、更に聖杯の護衛すらも下し、容易く聖杯であるアイリスフィールを運搬し始めた。

 運搬迄は容易かったが、恐らく直ぐに令呪を使用してセイバーを転移させると判断している綺礼はギルガメッシュより貸し出された視覚や気配での認識を阻害する布で身体を覆い且つ空を疾走可能な靴を使って空中を疾走し、更に気配をずらす宝物でアイリスフィールの気配をずらし、その上その位置にライダーの幻を作り上げてセイバーの追跡を振り切りに掛かった。

 すると流石に宝具の原典を2つ使用した罠は看破出来なかったのか、綺礼は見事にセイバーを振り切ってアイリスフィールを冬木教会へと移送しきった。

 

 冬木教会の地下へアイリスフィールを隔離した綺礼は、暫しアイリスフィールと話しをした。

 話の末に綺礼は切嗣の目的を知り、戦う意義を遂に見出した。

 〔切嗣の眼前で聖杯を木端微塵に打ち砕き、切嗣が絶望に押し潰されるか這ってでも前に進むかを見届け、更に這ってでも前に進むならば偽り無き慈悲を持って手助けする〕、と。

 即ち、【真剣に生きている者に苦難を齎し、それを乗り越えんとする者を愛で、その苦難の中で救いを望む者に慈悲を持って手を差し伸べる】、此れこそが己の本質だと綺礼は確信した。

 だが、切嗣を苦難に落とすならばそれには時臣がどうしても邪魔であり、更に時臣と切嗣の両者を相手にして勝てるとは綺礼も思っていない為、時臣を排除する必要が発生した。

 更にギルガメッシュをどうにかして自分の側に引き込まねば殺されてしまいかねない為、綺礼は璃正より継承した令呪を時臣へ渡すと言う名目で遠坂低へと赴むいた時に聖杯戦争の実態をギルガメッシュに伝えて時臣との関係を破壊することに決めた。

 一先ず聖杯の回収成功と地下への安置を綺礼は時臣へ報告し、ゴタゴタで令呪を継承していた事の報告を失念したことを告げ、後程キャスター討伐の報酬として追加令呪を渡しに行くと告げた。

 

 一方、聖杯回収に携わらなかった時臣は、最悪今日にでも切嗣と一騎打ちをすることになる為、凜に別れの挨拶をしていた。

 綺礼の護衛も無く冬木に呼び寄せるのは危険かとも一瞬思ったが、凜が一人で夜中を徘徊していた際に吹き抜けた風を聞く限り、少なくとも凜と葵に関しては雁夜が遠隔で守護しているのだろうと判断し、更に切嗣ならば雁夜と凜達の間柄程度はとっくに調べ尽くしているだろう以上、態態サーヴァント諸共滅却される危険を冒す策を弄するとは思えず、ライダーのマスターはサーヴァント共共理由は違えど聖杯戦争の参加者以外に害を及ぼすとは思えぬ為、葵に運転させて冬木迄来させた。

 葵達が到着すると、先ず時臣は葵だけと桜と雁夜のことを話し、良き父ではなかった事を葵に詫び、若し自分が倒れた後に桜が蟠りを解く為に遠坂を訪れたのなら、良き父ではなかったが愛していたと伝えて欲しいと葵に伝えた。

 次に凜だけと時臣は話し、遠坂の悲願と成人する迄の助言を伝え、更には自身の手に負えなくなった時は間桐雁夜を頼れと告げるが、それ以外の時は自身からは極力関わるなと告げた。理由は一人立ちすれば遠からず判ると言い残し。

 そして別れの挨拶を済ませた時臣は地下工房に戻り綺礼からの連絡を待つことにした。

 外が闇に包まれた時間ごろに綺礼から連絡が入り、聖杯回収と地下への安置を済ませた旨の報告を受け、更にゴタゴタの為令呪を継承していた旨を忘れていたので後程キャスター討伐の報酬の追加令呪を渡しに赴くとの旨を受けた。

 態度には出していなかったが綺礼も実父を殺されて参っていたと今更ながらに思った時臣は、父の死を悼ませる暇を与えなかったことを深く謝罪しつつもそこまで自身に尽くしてくれることに深い感謝を述べた。

 

 そしてアイリスフィール奪還の為に冬木市を駆け回っていたセイバーだったが、運悪く幻ではない本物のライダーを知覚してしまい、追走劇に移った。

 追走中にハンドルを切り損ねた対向車が横転したりして玉突き事故を起こしたが、それらを思考の外に放り捨てて何時の間にか闇に包まれた市街を道交法と人命を無視してライダーを只管追走した。

 人通りの少ない峠辺りでセイバーに気付いたライダーが車輪で勝負を決めると言い出して地を疾走し始めた。

 辛うじてライダーに追い付いたセイバーはアイリスフィールが居ない事を知り訝った。

 対して左手で切り掛かったセイバーを見たライダー達は、残ったサーヴァントが自分達二騎と転生したアーチャーだけだと悟った。

 そしてアーチャーとの対決は別として、此の戦いが聖杯戦争最後の戦いになると見た両者は、セイバーはエクスカリバーの真名解放を以ってライダーを打倒し、ライダーは神威の車輪の最大蹂躙走法を以ってセイバーを下すつもりでいた。

 光の斬撃とライダー達を乗せた戦車の激突は、ライダー達を乗せた戦車が押し負ける筈だったが、以前一度エクスカリバーの真名解放を見ただけでなく、雁夜達の戦いの最後で厭と言う程余波を見た経験から、二回目のエクスカリバーの真名解放を見た瞬間にウェイバーは可也正確な威力予測が出来、此の儘では自分達が競り負けると悟り、その瞬間、ウェイバーは瞬時に令呪にてブーストを掛けた。

 結果、既に破壊された戦車の防御フィールドが一瞬だけ爆発的に強化された状態で再展開され、可也の被害を負いつつも光の斬撃を駆け抜けてセイバーを神牛で踏み付け、更に戦車で轢くことは躱されたが雷撃を浴びせることに成功した。

 セイバーと神威の車輪の双方が可也のダメージを負ったがライダー自身は無傷であり、更にマスターから後3回は令呪の援護を受けられる上に奥の手の王の軍勢が存在する以上、ライダーの勝利は確定的であった。

 が、先程市街地で大事故を巻き起こしたセイバーを追跡し、峠で挟み撃ちにしようとしていた警察車両がライダー達の進行方向側から大量に接近してきており、止む無く勝負は中断となり、ライダーは流石にこの状態の神牛に無理をさせるわけにいかなかったので戦車を消すと直ぐ様ウェイバーを抱えて上の林に飛び込み、セイバーは動くことが難しかったので再びバイクを駆って警察車両の包囲を突破することにした。

 ライダーが去り際に次こそは配下に加わってもらうという一言に反論出来ぬ程にセイバーは衰弱していたが、それでも無事に警察の追跡を振り切った。

 尚、ライダー達は存在自体が確認されて居ない上、更に小柄とは雖も人一人を抱えていても世界記録を余裕で叩き出す速度で林を駆け抜けた為、人類の身体能力的に現場に居た事は立証出来ない為、セイバーと違い全く問題が無かった。

 しかも林を抜けて舗装された道を歩いて仮宿に戻っている最中にアサシンの元であろうマスターと出くわし、何故出歩いているかとライダー達が問い詰めると、アサシンの元マスターであろう者は自己紹介と監督役を引き継いだ旨を告げ、今はセイバーが戰装束から現代の服装への瞬間換装を見た者達の記憶改竄中だと告げ、更に遅くなったがと言いながら、綺礼はキャスター討伐の報酬として令呪を1画をウェイバーに進呈した。

 用も無い為直ぐに綺礼と別れたウェイバーは、セイバーを取り逃がした上に戦車に少なくないダメージを負ったのは痛かったと愚痴るが、令呪は補填され且つ令呪でブーストすればエクスカリバーにも対抗出来ると知れたのは収穫であり、更に明日一日ウェイバーが確り休めば戦車は回復するとライダーが告げた為、ウェイバーは相手の手の内を読めたと前向きに考えて納得することにしつつ、何と無く聖杯が降臨するだろう地を確認したくなったウェイバーは、夜中にも拘らず冬木市内の霊地を巡り回った。ライダーとコンビニの栄養ドリンクや弁当を飲み食いしながら。

 

 

 一夜明け、朝帰りを果たしたウェイバーは仮宿の主と親睦を深めた暫くの後に再び外へ出、ライダーを召喚した場所で休息を取る事にした。

 眠りに落ちる迄の間にウェイバーはライダーとの仲を深め、更に自分でも何か出切る事を証明したいから今戦っているとライダーに告げ、眠りに落ちた。

 そして日暮れになって起きたウェイバーは、ライダーから令呪でブーストすれば再びエクスカリバーにも競り勝てる旨を聞くと、仮宿へと戻ることにした。

 

 対して綺礼は朝一番に遠坂邸へと赴き、改めて聖杯回収と安置の確認報告をし、更に追加令呪を1画渡した。

 すると時臣は感謝も籠めて綺礼に魔術見習い終了の証としてアゾット剣を渡し、更に時臣は遺言状を渡しながら万一の時は凜の後見人になるように頼んだ。

 そしてこれからも宜しく頼むと時臣が言うと、綺礼は返事の代わりに先程貰ったアゾット剣で時臣を刺した。

 何が何だか解らぬ顔をしながら時臣はアッサリと死に、そこへギルガメッシュが現れて時臣の死に顔を間抜けた顔と評して笑った。

 既に昨日の夜の内に市内を散策していたギルガメッシュを発見して接触した綺礼は、聖杯戦争の絡繰を全て教えていた。

 当初はギルガメッシュすら聖杯に焼べるつもりだったと知ると、ギルガメッシュは最後に見所を示したと言い、言外に時臣を殺しても構わないと綺礼に告げていた。

 結果、綺麗はアッサリと時臣を殺害し、更にギルガメッシュは綺礼に聖杯を渡せば面白そうだという理由で契約を結び、第八の契約が成された。

 

 そしてセイバーは何とか警察を振り切った後は身を潜めながらも冬木市内を捜索するもアイリスフィールを発見することは叶わず、円蔵寺に居る切嗣にその旨を報告した。

 舞弥が居ぬことから死んでしまったのだろうと察し、戦友の無念を果たせず、守ると決めたアイリスフィールは攫われ、更に途中で勘違いの戦いを挑んで重傷を負った挙句、勝負を中断させた警察から這う這うの体で逃げ仰せただけで、成した事は相手マスターの4画ある令呪の1画を使わせた事と戦車に痛手を負わせたことであり、まるで役目を果たしていない自分に向けられる切嗣からの視線がセイバーには酷く苦しかった。

 しかも得意でないであろう治癒魔術を切嗣が行う為、素肌に手を添えられる様に服を肌蹴ねばならないことも苦しかったが、一番セイバーが苦しかったのは、己がマスターである切嗣がセイバーに期待していないと容易く解る目をしていたことだった。

 実際セイバーは今回の聖杯戦争で倒したのはキャスターだけであり、それすらもギルガメッシュが相当弱らせ、更に弱ったキャスターなら殲滅できるだろう宝具を持った者達が散見される王の軍勢の中で見せ場を譲ってもらってである。

 実質白星など無い状態であり、それを一番自覚しているセイバーは只管自身が情けなかった。

 治癒が終わるとセイバーは切嗣に礼を言い、要が在れば令呪にて召喚するように頼んで去っていった。

 話が成立するしない以前に、切嗣の目が宛ら、[セイバーを自害させて聖杯に焼べ、神秘隠匿を無視してでも即座に聖杯を降臨させるべきだった]、と語っており、それに反論出来る程自身が戦果を挙げていないことが余りに惨めであった為、セイバーは逃げる様に市街へと去った。

 去っていくセイバーを眺めながら切嗣は、アイリスフィールが攫われる前にアイリスフィールより返されたアヴァロンだけが頼みの綱だと思いながら身体を休めることにした。

 

 

 夜になり、完成前の冬木市民ホールにアイリスフィールを移送した綺礼は切嗣を誘き寄せる為、色違いの魔力弾を4つと7つを夜空へと放った。

 直にライダー陣営とセイバー陣営が市民ホールに来る事になるが、結託された場合流石のギルガメッシュでもセイバーを殺さずライダーだけを殺すのは至難の為、先にライダーの迎撃に出ることにした。

 当然何の対策も無ければセイバーに聖杯を抑えられて勝ち逃げされてしまう為、ギルガメッシュはセイバーが簡単に聖杯へ至れぬ様に数多の宝物を使用して時間を稼げるようにして迎撃に出た。

 そして綺礼も切嗣と戦う為に迎撃に出た。

 

 4と7の魔力弾を見たライダー陣営とセイバー陣営は迷わず冬木市民会館へと向かうことにした。

 ただその最中、自分が勝者の器でないと悟ったウェイバーは、それでも負け犬には負け犬なりの意地が在ると示す為、ライダーへ残る四つの令呪を全て使って命じた。

 〔必ずや嘗てを超える雄姿を振るえ〕〔必ずや最後まで勝ち抜け〕、〔必ずや聖杯を掴め〕、〔必ずや世界を掴め。失敗なんて許さない〕、と四つ全てを使い切り、一時的にだが生前に匹敵するステータスにライダーはなった。

 マスター権を放棄したウェイバーは一人去るつもりだったが、ライダーがマスターでなくとも自身の友であることには変わり無いと告げ、令呪の重ね掛けで修復どころか強化された神威の車輪に涙ながらにウェイバーは乗り込んだ。

 そして第一の令呪に応える為、最強の英雄に勝負を挑むべくライダー達は夜空を駆けた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 大橋の上に佇むギルガメッシュを見つけたライダーは其処へ降り、以前の宴の締めの問答をした。

 曰く、〔アイニオニオン・ヘタイロイをゲート・オブ・バビロンで武装させれば最強の軍勢が出来る。自分達二人が結べば星星の果て迄征服出来る。しかも雁夜から祝いの品を貰える上に、雁夜が参入するかもしれない。だから手を結ばぬか?〕、と問うた。

 するとギルガメッシュは本当に愉快そうに大声で笑った。

 かと思うと直ぐに笑いを収め、道化ではないが笑わせてもらったと言い、更に、[生憎だがな、後にも先にも我が朋友は一人のみ。我が全力で超えるべきは世界ではなく唯一人。そして王たる者も二人と必要無い]、と告げた。

 するとライダーは孤高なる王道に敬服を持って挑むと告げ、ギルガメッシュはそれを承諾し、存分に己を示せと告げる。

 

 互いに語るべきことは語った為、振り返った両者は問答を終わらせる合図の様に酒杯を上に高く放り投げながら互いに距離を取った。

 そして戦車に戻ると仲が良いのかと問うウェイバーに、生涯最後の死線を交わすかもしれない相手を邪険になど出来ぬとライダーは答えた。

 すると表情を曇らせたウェイバーは、自分が意地と信頼を籠めて使った令呪を忘れたのかと叱咤し、その言葉に対しライダーは弱気が掻き消えた声でウェイバーに返事をした。

 

 戦車に乗り込んだライダーはキュプリオトを掲げ朗朗と告げる。

 

「集えよ我が同胞。今宵我らは最強の伝説に雄姿を印す!」

 

 熱い風が吹き抜けた一瞬後、ライダーとウェイバーとギルガメッシュは砂漠の只中に存在した。

 ただ一頭だけがライダーの乗る戦車の横に存在している以外は、数万の軍勢の全てがライダーの背後に展開していた。

 そして全ての者に聞き届かせるべく、ライダーは更に大声を張り上げる。

 

「敵は万夫不当の英雄王。相手にとって不足無し。

 いざ益荒男達よ、原初の英霊に我等の覇道を示そうぞ!」

 

 ライダーのその声に、数万の全てが雄叫びで以って答えた。

 その雄叫びを聞くとライダーは戦車を疾走させ始め、プケファラスも併走し始める。

 そして自身に続けと言わんばかりに――――――

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

――――――と、ライダーは声を張り上げる。

 そしてそれに倣う様にウェイバーも――――――

 

「アアアアラララライイイ!」

 

――――――と声を張り上げた。

 そしてそれに続く数万の大軍勢を見据えるギルガメッシュは、不適に笑えど一切の嘲りが無い表情で、宛ら謳う様に一人語る。

 

「夢を束ねて覇道を志す……その心意気は褒めてやる」

 

 突如ギルガメッシュの頭上に揺らぎが生じ、100本前後のAランク以上の宝物がギルガメッシュの周囲に降り注ぎ、突き立ったそれらは、宛らギルガメッシュを称える兵であるかの様だった。

 物言わぬ兵に囲まれたギルガメッシュは更に一人語る。

 

「だが兵共よ、弁えていたか?

 夢とはやがて、須く覚めて消えるが道理だと」

 

 静かにギルガメッシュの右手に何時かの鍵剣が現れる。

 そしてそれを何時かの時と同じく、虚空で鍵を開けるかの様に捻じりながら更にギルガメッシュは一人語る。

 

「なればこそ、お前の行く手に我が立ちはだかるは必然であったな。征服王」

 

 何時かの時と同じく、空間に何かを封印しているかの如き紅い幾何学紋様が走っては消え、何時かとは違い、掘削剣だけではなく、鎖と宝珠も現れた。

 ギルガメッシュは掘削剣を右手に握り、そして鎖を左手に握り、最後に残った宝珠は自身の周囲を静かに旋回させながら更に一人語る。

 

「さあ、見果てぬ夢の結末を知るがいい。

 この我が手ずから理を示そう」

 

 そして迫り来るライダーと数万の大軍勢を見据え、朗朗とギルガメッシュは謳い上げる。

 

「さあ目覚めろ、乖離剣(エア)よ、天の鎖(エルキドゥ)よ、そして創世の宝珠(カリヤ)よ。

 お前達に相応しき舞台が整った!」

 

 エアが風を放ちながら回転を始め、エルキドゥが宝物を絡め取りながら伸張し始め、カリヤがギルガメッシュを強化しながら風を纏い始めた。

 そして先のライダーに負けぬ大声でギルガメッシュは告げる。

 

「且目せよ!我が至宝を!

 そして魂に焼き付けよ!この英雄王の英姿を!」

 

 その言葉と共に100本前後の宝物を絡め取ったエルキドゥが、棘を持つ無数の大蛇の如く数万の軍勢に襲い掛かった。

 更に光が屈折して姿が見えなくなる程の密度の風を纏ったカリヤが数万の軍勢の上を不規則に飛翔しながら軍勢ごと砂の大地を抉り散らす風を放ち、更には風を纏った儘軍勢の中を突っ切って軍勢を掻き乱す。

 そして周囲に紅い暴風を撒き散らすエアをギルガメッシュは構え、エルキドゥの攻撃とカリヤの風を躱して突っ込んできたライダーを戦車諸共抉り散らそうと振り被った。

 が、直ぐにエアの危険性を察したライダーはギルガメッシュを擦れ擦れ横切る軌道に変更し、横切る時のライダーと戦車に取り付けられた刃の切り付けと戦車が発する雷とプケファラスの蹄での攻撃に切り替えた。

 だが、ライダーの切り付けはエアで弾かれ、戦車に取り付けられた刃は戦車の御者台の横腹を蹴られて横滑りを起こす程に軌道を曲げられ、戦車が発する雷はライダーの軍勢を攪拌しているカリヤから放たれた風が防ぎ、プケファラスの蹄の振り下ろしはギルガメッシュが拳で殴り上げてプケファラスを大きく後ろに弾き飛ばした。

 

 危うく剣を取り落としそうになりながらもギルガメッシュの横を凄まじくバランスを崩しながらも駆け抜けたライダーは、急ぎ振り返って大きく弾き飛ばされたプケファラスを見遣る。

 すると鎖がプケファラスを拘束して絞め殺さんとばかりに襲い掛かっていた。

 それを見たライダーは、勘でその鎖が自分達には厄介な代物と判断し、全速力でプケファラスを拘束しに掛かる鎖へと方向転換して向かった。

 そして旋回する為に僅かに時間を食ったライダーがプケファラスの元に辿り着くと、プケファラスは絞め殺されかけており、急いでライダーは鎖を断ち切った。

 と同時にウェイバーが声を張り上げる。

 

「ライダー!多分その鎖、神性持ちに対する特効宝具だ!

 神性と同ランク……いや、多分2倍か3倍の力がないと抜け出せないはずだ!」

 

 ウェイバーのその言葉を裏付けるかの様に、ライダーと神牛とプケファラスへの鎖を使った攻撃は宝物を絡め取っていない鎖だけのものであった。

 暫く宙を駆けてライダーが突撃するタイミングを図っている間に更にウェイバーが声を張り上げる。

 

「後ろの戦いを見る限り、神性を持ってない奴には頑丈な鎖程度みたいだから、神性を持っていない奴が鎖を封じている隙に勝負を仕掛けるしかない!

 少なくても間桐雁夜には今ほどの手数で攻撃をしてなかったから、力を籠めるには数を絞らなきゃいけないはずだし、壊れた鎖を伸ばすのにも時間がかかるみたいだから、ひたすら鎖を壊せば巻き取ってる宝具も取り落とすから、そうなれば宝具を奪えるから負担も減って戦力も上がるぞ!」

「土壇場で考えたにしては見事な作戦ではないか!

 観察と作戦は任せるぞ!」

 

 懸命に戦車を駆って鎖を回避し、どうしても回避しきれない鎖はライダーが剣で払うか神牛かプケファラスが蹄で叩き落しながら機を窺っている最中、ライダーは驚いた顔の後に不敵な笑みでウェイバーにそう告げた。

 それに一瞬驚いたウェイバーだったが即座に頷き返した。

 そしてそれを見たライダーは声を張り上げる。

 

「鎖を攻撃できる者は優先的に鎖を狙え!

 たとえ無尽蔵に伸びようとも伸びるのには時間がかかる!

 そして鎖を減らせば宝具もいずれ取り落とすので、奪って誉れとせよ!」

 

 ライダーのその言葉と同時に多くの者が集中的に鎖を攻撃し始め、瞬く間に鎖が減り始める。

 そしてライダー達に向かう鎖が減り始め、突撃の為の助走をそろそろ得られそうになった時、更にウェイバーが叫ぶ。

 

「あの宝珠!多分壊せないから今は構うだけ無駄だ!

 軍勢の中を疾走しているのはチャージ時間の有効活用ってだけで、あんまり叩いて攻撃のタイミングをずらし続ければ空から風を放たれ続けるだけになる!

 どっち道そうなるなら初めからアーチャーに向かわせた方が遙かに良い!

 そしてアーチャーに肉薄して自分が巻き添えを食わないようにオートからマニュアルに切り替えさせて、集中力を分散させた時に攻撃した方が遙かに効率的だ!」

「宝珠の破壊を試みている者は敵に肉薄せよ!

 宝珠は敵に肉薄した者を迎撃し始めた時に攻撃せよ!」

 

 疑いもせずにライダーはウェイバーの分析を信じ、それを元に号令を発する。

 そして大喧騒の中でも不思議と響き渡るライダーの声は軍勢に響き渡り、王の言葉に従ってアーチャーに殺到する者が増える。

 するとウェイバーの発言通り宝珠は空へと移動し、そこからアーチャーへ向かう者達を攻撃し始める。

 狙い撃ちにされる軍勢だが、軍勢はそれすらも敵を僅かでも追い込んだ証と勇み立った。

 

 そして空からの攻撃が厄介になったものの、もっと厄介な鎖の攻撃が減った為突撃を行う助走が十分可能になり、ライダーは再びアーチャーに突撃を敢行した。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ギルガメッシュが何時か訪れる雁夜との再戦に備えて自身に磨きを掛けている時、雁夜は那須の山で一人星空を眺めていた。

 本来なら冬の夜の山は可也寒いのだが、既に寒くて風邪を患う存在の範疇ではないので全く問題が無かった。

 

 人間だった頃の名残で寒く感じるだけで、暖かくなれと思うと人間が身体を震わせて発熱するレベルで周囲の気温を適温に変えてしまう今の自分に、雁夜は改めて自分が人間から遠い存在になったと実感し、本日何度目かも覚えていない溜息を吐いた。

 そして溜息を吐くと今迄考えていた玉藻と桜のことが脳裏に蘇り、雁夜は更に溜息を吐いて考えに耽る。

 

(……俺があの状況見て誤解って言われても信じないよな~。

 しかも桜ちゃん曰く、俺も玉藻も互いにベタ惚れらしいし、実際そうだからな~。

 そしてそんな者同士が夜中あんな状況なら………………どう考えてもそう思うよなー)

 

 誤解なのは間違い無いのだが、誤解と全く思えない状況なだけに雁夜は更に落ち込む。

 

(と言うか、誤解と通じても時間の問題と思われそうなのが痛い。

 はっきり言って自分でも時間の問題と思っているだけに、そう思われたら弁解の仕様が無いからな)

 

 自分でも遠からず玉藻と肉体的な関係にも至ると思っているだけに、雁夜は酷く落ち込んだ。

 尤も、飛び出してから先程迄は気恥ずかしさや自尊心崩壊の衝撃で悶えてるか思考停止する程落ち込むかの何方かだっただけに、可也落ち着きを取り戻したとも言えた。

 だが、それでも酷く落ち込んだ状態なのは変わらず、余り考えたところで状況が好転しないことを只管雁夜は思考し続ける。

 

(そりゃ枯れた仙人でもないからそういう関係にもなりたいけど、まるで桜ちゃんを軽んじてるみたいで酷く気が進まないんだよなぁ。

 万が一子供が出来た日には確執も出来るかもしれないし、そうでなくても此の世界で健やかに育てられる自信が全く無いからなぁ。

 無責任なことはしたくないんだよなぁ)

 

 玉藻との関係を発展させた際に発生するかもしれないデメリットと責任を背負いきれないのが解っているだけに、更に落ち込む雁夜。

 そして更に落ち込むと知りつつも雁夜は思考を続ける

 

(その辺を何とかすると意気込むのが男の甲斐性なんだろうけど、親に成るかもしれない者の責任としては子供を育てられる場所と環境を確保しなくちゃいけないからな。

 男の甲斐性か親に成るかもしれない者の責任。……言い換えれば玉藻か生まれるかもしれない子供の何方を優先するかってことなんだよな)

 

 玉藻的には一刻も早く雁夜との関係を発展させたいのだろうが、その場合割を食ってしまうのは生まれるかもしれない自分達の子供であり、生まれるかもしれない子供を優先させると、その場合割を食うのは想いを躱され続ける玉藻であり、雁夜は深く悩んだ。

 

(普通に考えれば生まれてすらいない子供よりも今確かに存在する玉藻を優先するのが筋なんだろうけど、子が親を選べない以上は出来る限り生まれるかもしれない子供のことは考えてやりたいんだよな)

 

 しかしその考えだと生まれるかもしれない子供を重視し過ぎる余り、今確かに存在する玉藻を軽んじているように思える為、雁夜は更に悩んだ。

 

(避妊すればいいんだろうが、俺も玉藻も一度関係を持てば歯止めが効かなくなると断言出来るぞ)

 

 半端な妥協案を打ち立てれば呆気無く妥協を振り切って深みに嵌ると簡単に予想出来るだけに、雁夜は安易な考えを実行する気にはなれなかった。

 そして更に思考の海に沈み込みながら雁夜は考える。

 

(と言うか、桜ちゃんがいるのにそういうことをしたら、桜ちゃんに邪魔だって言ってるような気がするからなぁ)

 

 最初辺りに思考が戻ってしまった雁夜。

 そして、それから暫く雁夜は延延と殆ど同じ思考を繰り返し続けた。

 

 

 

 尚、繰り返す思考に終止符を打つきっかけになったのは、野生の狸と玉藻の軍勢に釣られてやって来ただろう野生の狐がじゃれている不思議な光景を見、そも異種族間で子供が出来るのかと気付いた事だった。

 そしてそれが契機となって思考が進み、問題無いなら桜がバルトメロイからの魔術教導が終わった後には学校に通ってもらう予定なので、その時間に玉藻との関係を発展させればいいと結論を出して戻ったのだった。

 

 因みに、雁夜の強い思念は周囲に駄駄漏れしており、当然思念を容易く拾える玉藻には筒抜けになっていた。

 しかも、雁夜が生成した魔法の物質が身体に溶け込んでいて雁夜との回線が繋がり易い桜にも、断片的にだが自分の考えを知られてしまっていた。

 そしてその事実を告げられた雁夜は、バルトメロイと交渉の続きをすると言って再び家出した。

 

 

 







  作中補足


【何故ウェイバーがライダー召喚の陣で回復する前にライダーが遙かなる蹂躙制覇を使用出来たのか?】

 此れは単純にライダーの貯蔵魔力が原作よりも多かった為です。


【時間短縮されている件について】

 ランサーが倒された時点で残っているサーヴァントはセイバーとライダーの為、各陣営の行動が早まった為1日短縮されています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

廿続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

 

 

 

 既に50を超える程に戦車でギルガメッシュへの突進を繰り返したライダーだったが、ギルガメッシュは全くの無傷であった。

 それどころかライダーが振るっていたキュプリオトは少し前に砕け散り、更に戦車の御者台は中破していた。

 幸い砕け散ったキュプリオトの代わりにと、鎖が絡め取っていた武器を奪ったアンティゴノスから原罪(メロダック)を先程渡された為、長剣故多少不慣れだがそこは武器の性能で十分以上に補っていた。

 だが、幾度かメロダックでエアと打ち合っていたライダーは、消そうと思えば消せる自分の武器を何故消さぬのか訝った。

 が、ギルガメッシュに多くの者が殺到した時、瞬時に空よりギルガメッシュの傍へと疾走し、更にギルガメッシュをを守護する衛星の様に存在するカリヤという名の宝珠を見た時、ギルガメッシュが何れ再戦すると約を交わした雁夜と戦う為に自らを高めているのだとライダーは察した。

 即ち、一度雁夜と戦えば宝物の出し入れ自体を禁じられる為、先に出した宝物を不利になったからと回収する事が出来ない以上、出し入れを禁じられていないと雖も自身に課した条件を覆すことを良しとしていないということだった。

 若し仮にギルガメッシュが自身に課した条件を覆せば、それは仮想戦で雁夜に敗北したことになり、更に自身に課した条件を覆すという王の矜持すらも捨て去るということであり、ギルガメッシュにとっては生涯拭えない死よりも耐え難い恥辱を刻み込まれることになる為、ギルガメッシュが宝物を回収する事は無いとライダーは判断し、更なる敬服を以ってギルガメッシュと切り結んだ。

 

 しかし、幾度ライダーが突撃してエアと刹那の時間切り結ぼうとも、戦車の突進力をも付加しての斬撃にも拘らずギルガメッシュの身体能力と技量と回転しているエアの前に完全に捌かれ、戦車に取り付けられた刃は戦車の御者代を徐徐に破壊して根元から破壊されかかっていた。

 一撃離脱を敢行している者としてプケファラスもいるが、幾度も足を蹄側からと雖も殴られたので少なからずダメージを受けており、現在は散発的にライダーや神牛を拘束しようとしている鎖を叩き落すことに専念していた。

 そしてギルガメッシュに肉薄して自前の準宝具や宝具、若しくは奪った宝物を振るい続ける者達は、エアの赤い暴風で体勢を崩され、その隙にエルキドゥが手足を絡め取ったり纏めて薙ぎ払い、最後にエアで抉り散らすか攻撃を繰り出される為、防戦が精一杯の状況であった。

 最初の頃は特攻をする者も多かったのだが、エアとエルキドゥを突破したと思った瞬間、ギルガメッシュの周囲をゆっくりと旋回していたカリヤが突如音を遙かに超える速度で旋回して相手の攻撃を弾き続け、その後攻撃を弾かれて隙が出来た上に満身創痍のところに引き戻したエアで抉り散らされる為、少数での特攻など殆ど意味が無かった。

 更に大人数が一点突破の特攻を行おうとすれば、相手の思考を読むことに長けたギルガメッシュにとって大人数が躱さず突撃を行うのは、カリヤの高出力攻撃で薙ぎ払う的にしか成らなかった。

 しかも、散開して多方面からの特攻で意識を分散させている隙に近付こうとすれば、エアとカリヤの暴風に後押しされたエルキドゥが爆発的速度でギルガメッシュから放射状に荒れ狂って密度の薄い特攻を纏めて弾き飛ばし、その後カリヤの放つ風で個別撃破されるだけであった。

 故、現在ライダーの軍勢は、鎖を破壊する者と、鎖と宝珠の攻撃を掻い潜ってギルガメッシュに肉薄する者と、ギルガメッシュへ肉薄する者を増やす為にギルガメッシュへ攻撃して意識を逸らす者、という三通りに分かれていた。

 当然肉薄する者を増やし続ける目的は、先を越える人数で全方位から特攻を仕掛けてギルガメッシュを討ち取るというものだった。

 

 だが、ギルガメッシュが1秒で10名以上を屠り続けている現状では、大人数で特攻を行う前に固有結界を維持し続けられる最低人数である総軍の半数を維持出来ているか微妙なところに迫っていた。

 故、それを痛い程に理解しているウェイバーは何とかして早く人数を集める為にも、少しでもギルガメッシュへ隙を作る方法を考えていた。

 そしてウェイバーは策とも言えない方法が脳裏に浮かんだ為、ギルガメッシュに聞かれない様にラインを使って呼び掛ける。

 

<ライダー!この戦車はあとどれくらい持ちそうだ!?>

<多分あと10回持つか持たぬかじゃ!>

 

 今迄と違い、急にラインで問い掛けれられて少なからず驚くライダーだったが、ラインで問い掛けてきた事には意味が在ると判断し、口に出す事無くラインで返事をした。

 そしてライダーの返事を聞いたウェイバーは更にライダーへ尋ねる。

 

<戦車の御者台部分を自爆させることはできるか!?>

<出来んことは無いが、二度と元には戻らんぞ!?>

<どうせこのままじゃ壊れるんだから、アーチャーに突撃すると見せかけて急上昇するフェイントと思わせつつ、その時神牛から御者台を切り離してアーチャーに突っ込ませてた挙句爆破させて意表を付こう!>

 

 下手すれば御者台から離脱する際に的に成るだけの無謀な行為なのはウェイバーも理解しているが、このままだと軍勢が削られ過ぎて最後の大勝負を仕掛けられなくなる可能性が在る為、ウェイバーはジリ貧で負けるかもしれないなら博打で勝率を上げようと思い、その旨をライダーに伝える。

 

<これからでっかい博打を打つんだから、その前にちっさい博打ぐらい勝ってみせて景気付けにしよう!>

<フハハハハ!言うではないか!

 いいぞ!その博打に乗ろうではないか!>

 

 そう返すとライダーは一度戦車を大きく旋回させ、十分な助走を付けられる距離を稼いだ。

 そして神威の車輪の最大蹂躙走法を以ってギルガメッシュへと突撃を開始する。

 今迄と違い、直前に軌道を左右に変更出来るという生易しいものではない突撃で向かってくるライダーを見、自分に隙を作って多くの軍勢を肉薄させる為の特攻だと判断したギルガメッシュは、相変わらず動かせるものなら動かしてみろと言わんばかりの不遜さを以って迎え撃つことにした。

 ギルガメッシュに肉薄していた者も王の渾身の突撃を邪魔せぬ様に離れた為、ギルガメッシュに肉薄しようとする者を鎖と宝珠で迎撃し続けているものの、開戦直後以来の一騎打ちの様な状態が再び展開された。

 

 巻き上がる砂煙は今迄を遙かに超え、迸る雷は回避不能な密度で荒れ狂っており、戦車を牽引する神牛は何千人轢殺しようと止まらぬ力強さを容易く感じさせ、それを駆るライダーは破れかぶれの特攻ではなく、勝利を目指して博打を打つ覇気に溢れていた。

 それを迎え撃つギルガメッシュは、恐らく限界を超えた魔力を注ぎ込んでランクを無理矢理引き上げての特攻であり、接触する寸前で更に威力を引き上げるのだろうと予想した。

 

 そして、半秒後にはライダーとギルガメッシュが接触するだろう時、ギルガメッシュは軍勢が邪魔して全てとはいかないが、ライダーに向けられるだけのエルキドゥを鞭の様に四方八方からではなく網の様に正面から放った。

 だが次の瞬間、神牛が足元を爆発させる様に強く地を蹴るのとほぼ同時に、ライダーは神牛と御者台を切り離した。

 すると、牽引する物から解き放たれて身軽になった神牛は斜め上空へと駆け上がって軌道を変え、対して取り残された御者台はその儘ギルガメッシュ目掛けて突撃した儘だった。

 しかも、突撃する御者台からライダーはウェイバーを抱えて今正に上昇しようとしていた併走するプケファラスに飛び移り、鎖の網から見事に逃れた。

 

 神威の車輪と呼ばれるものの、神性の殆どは牽引する神牛のものであり、牽引される御者台自体が宿す神性は神牛に比べて圧倒的に低かった。

 にも拘らず宝具のランク的には神牛と同格である為、神牛と比べて威力に対して神性が圧倒的に低い御者台は容易く鎖の網を突き破ってギルガメッシュへと肉薄した。

 そして、此処に至ってライダーの目的が体当たりではないと気付いたギルガメッシュは、御者台を破壊するのではなく少しでも自分から遠ざけるべく弾きに掛かった。

 だが、それよりも僅かに早く、御者台は内包していた神秘と魔力を爆発させた。

 

 凄まじい爆発が巻き起こったが、噴煙の隙間から赤い暴風が渦巻いている為仕留めていないのは明白であり、ライダー達もあの程度で仕留められるとは思っていないのでそれ自体に全く関心は無いが、荒れ狂う鎖の鞭と風の放射が完全に止んだのは見逃さなかった。

 当然軍勢もその好機を見逃す筈はなく、ギルガメッシュに肉薄しようとしていた者は足が千切れても構わぬとばかりに速度を上げて疾走し、ギルガメッシュへ肉薄していた物は挟撃出来る様に回り込み、神牛達は左右に分かれて斜め上空からの突撃を開始し始め、ライダー達は大きく旋回した後に着地を完全に度外した垂直降下疾走でギルガメッシュへと突撃していた。

 

 後数秒後には皆が二の太刀を完全に度外視した攻撃を放とうという時――――――

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!」

「アアアアララララライッ!!!」

 

――――――ライダーだけでなく、ウェイバーも極自然に雄叫びを謡った。

 そして、それが伝播したかの様に軍勢も雄叫びを謡った。

 だが、それを掻き消すかの如く、黄金の輝きが僅かに混じった赤い暴風と、深遠の水底の如き黒が混じった青い烈風が吹き荒れる。

 

 御者台が自爆した煙を瞬時に吹き払ったギルガメッシュは、如何なる方法で凌いだのかは不明だが、全くの無傷であった。

 そして後1~2秒に集中攻撃を受けるという時、ギルガメッシュはエルキドゥをカリヤだけでなく、高速回転しているエアにも巻き付けた。

 結果、エアから放たれる赤い暴風がエルキドゥを伝播し、エルキドゥが赤い大蛇の如く暴れ始める。

 が、エルキドゥの先端部分が巻き付いているカリヤが不規則に暴れるエルキドゥを抑え、ギルガメッシュの任意でエルキドゥを操らせながらも烈風を放つ。

 

 最強の聖剣の一撃すら遙かに超える地獄の風を纏った鎖を意の儘に操り、更に鎖の範囲外は先端の宝珠から地獄の風に匹敵する創生の風が放たれるという、宛ら一人で天地創造の神話を再現する様なギルガメッシュにライダー達は突撃していった。

 

 だが、ライダー達の最後の突撃は容易く蹴散らされた。

 

 ギルガメッシュへ四方八方から襲い掛かっていた地上の者達は、地獄の風を纏う鎖の一撃で容易く消し飛ばされ、上空から襲い掛かっていた神牛は宝珠から放たれる創世の一撃で消し飛ばされた。

 幸いライダーだけは神牛よりも先んじていたので消し飛ばされずにギルガメッシュへと肉薄したのだが、ギルガメッシュへと一太刀を浴びせる前に創世の風の一撃により軍勢が半分を一気に下回ってしまい、固有結界が崩壊して互いの位置と向きが固有結界を展開する前の状態に戻ってしまった為、一撃を浴びせることは叶わなかった。

 

 凄まじい速度で降下疾走していたのでライダー達は直ぐには止まれなかったが、下方への突撃が横向きに切り替わっていた為、ギルガメッシュとの距離の半分程を制動距離に使うことで問題無く停止することが出来た。

 だが、既に固有結界は崩壊しており、ライダーが触れていたので固有結界の崩壊にに巻き込まれずに済んだであろうプケファラス以外は、個別に召喚しても維持出来ない程にライダー達は消耗していた。

 

 

 

 そして、それからの出来事をウェイバーは生涯忘れることがなかった。

 

 自分の遙か遠くを行く存在に始めて名を呼ばれ、臣下へと誘われたこと。

 それに対し滂沱の涙を流しながら臣下の誓いを口にしたこと。

 生きて王と仰いだ者の在り方を伝えろと命じられたこと。

 最後迄疾走し続けた偉大な背中が消える様を。

 勝てないと解っていても挑みたい仇を王の命に従って堪え続けたこと。

 その在り方を仇から認められたこと。

 そして、誰も居なくなった大橋で泣き崩れたこと。

 

 その時の全てがウェイバーの魂に刻まれ、その時の喜びと悲しみと悔しさは、生涯ウェイバーの糧となり続けた。

 

 そして、ウェイバーの聖杯戦争は終りを告げた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 ギルガメッシュとライダーが戦っている頃、セイバーは聖杯でもあるアイリスフィールへと向かっていた。

 既にサーヴァントを三騎回収している聖杯の気配は結界で覆われていなければ十分感知出来る為、セイバーは聖杯でもあるアイリスフィールの許へと疾走した。

 が、それを妨害するギルガメッシュの宝物によりセイバーは足止めされてしまう。

 通路の先が見えない程に配置された様様な武具がセイバーへと次次に襲い掛かる。

 本来ならば反撃すら儘ならない物量で押し切られる筈だが、足止めが目的らしく一斉に向かってくることはなかった。

 しかも、一度放たれた武器はセイバーは虚仮にするかの様に、再び牙を剥くことなく消え、宛ら安心して進めと言われている様でもあり、セイバーを凄まじく苛立たせた。

 だが、それが彼我の戦闘力の差であることも解っているだけに、セイバーは自身の不甲斐無さを責め立てる様に、放たれる魔弾を苛烈に捌きながら進んでいった。

 

 対して綺礼と切嗣は言葉も無く戦闘を始めていた。

 綺礼は此の戦闘の果てにこそ語るべき言葉が在ると言わんばかりに地を駆け、切嗣は話すことなど一切無いと言わんばかりに自身の必殺だろう一撃を大型拳銃から放つ。

 だが、それは切嗣の予想通りの結果は齎さず、それに僅かに焦った切嗣は倍速で動いて辛うじて綺礼の攻撃を躱して反撃を行う。

 しかしそれは容易く防がれ、次の瞬間には倍速で動くと弁えた綺礼により心臓を破壊される。

 が、如何なる道理が働いたのか、心臓を破壊されても即時に回復して反撃を行う切嗣。

 僅かに頭皮を銃弾が掠めて血を流すものの構わず追撃に移る綺礼だが、切嗣の必殺だろう銃弾を左手で払おうとした瞬間、想定外の威力の為払い切れなかった左腕が飾り物に成り下がる程に損傷してしまう。

 互いが自己診断に数秒の時間を費やすが、唐突に切嗣が三倍速で動いて綺礼に肉薄して左腕を更に痛め付けるが、不意を突いた初撃以外は全て完全に捌かれてしまい、それどころか三倍速に対応して切嗣の体勢を崩してしまう

 止めとばかりに攻撃を放とうとする綺礼から逃れる為に切嗣は動きを四倍速に跳ね上げ、綺礼から離れる際に置き土産とばかりにナイフを右脚目掛けて投擲し、見事命中させて時間を稼ぐと再び綺礼でも払いきれない弾丸を大型拳銃に再装填する。

 対して綺礼は右脚をナイフで傷付けられて体勢を崩している間に、代行者の標準武装である黒鍵を右手で六つ取り出して左右に三本ずつ弧を描いて切嗣に向かう様に投擲し、更に三本黒鍵を取り出して負傷した脚で切嗣へ疾走する。

 左右から襲い掛かる六本の黒鍵と自身目掛けて疾走する綺礼を目前に控えながらも、切嗣は冷静に再装填した大型拳銃から切り札であろう一撃を放とうとした。

 そして、何方の勝利か相討ちで終わるかは兎も角、決着が付くかと思われた瞬間、突如二人の頭上から大量の赤黒いナニカが二人を呑み込んだ。

 

 綺礼と切嗣の二人を呑み込んだ赤黒いナニカは、ライダーを回収して溢れ出した聖杯の中身だった。

 ライダーを取り込み、聖杯にサーヴァント四騎が注がれたので玉藻が施した術が解除され、サーヴァント二騎分以上の魔力が解放された聖杯は一気に満ちたのだった。

 しかもライダーの魂はサーヴァント2~3騎分に相当し、解放された魔力はサーヴァント三騎分に迫る程である為、多くても7騎分迄しか想定されていない聖杯は、サーヴァント8~9騎分という想定外の魔力に対応するべく1~2騎分の魔力を態と零した。

 結果、聖杯の直下で争っていた二人は瞬時に聖杯が零したナニカに呑み込まれた。

 そして、聖杯から零ぼしたナニカに呑まれた切嗣は聖杯の意思と対話していた。

 

 聖杯の意思は切嗣に語る。

 自身はこの世に生まれ出たいという意思と望みが有ると。

 故、自分に願いという形を与えてほしいと告げる。

 対して切嗣はどうやって自分の願いである人類の恒久平和を叶えるのかと問う。

 それに聖杯の意思は切嗣の行ってきた遣り方で叶えると告げる。

 それはつまり、多数を救うべく少数を切り続けてきた切嗣に倣い、天秤が傾かない数である二人になる迄人類を殺し続けるという意味だった。

 当然切嗣はそれの何処が奇跡だと反論するが、人では及ばぬ規模で行うならばそれは奇跡だと告げられ、更に切嗣自身が知りもしない方法を切嗣の願いに含めるわけにはいかないと告げた。

 その言葉を聞き、ライン越しにだが聞いた、[自分で出来ないことを何だかよく解らないモノによく解らない方法で叶えてもらおうとか、頭大丈夫か?]、という雁夜の言葉を思い出し、正しくその通りだと遅まきながら理解した。

 愕然としつつも聖杯の意思から、妻と娘と相棒の内から二人を選び一人を殺せと言われた切嗣は、何も語らず相棒を殺した。

 すると視界が妻と娘と暮らした部屋に切り替わった。

 

 黒く塗り潰された窓の外を見た切嗣は、二度と外で遊べなくなったと娘に告げ、娘は父である切嗣と母であるアイリスフィールさえ居るならばそれで良いと答える。

 それに切嗣は自分も娘が大好きだと答え、娘の顎を銃口で僅かに持ち上げた後、別れの言葉を告げ、引き金を引いた。

 突如首から上が弾けてなくなる娘を見た母は狂乱し、何故娘を殺したのかと切嗣を問い詰める。

 すると切嗣は60億の人間を犠牲にして家族二人を選べないと告げながら妻の首を絞め始める。

 それに対し首を絞められている者は死ぬ迄聖杯の中身である自分(アンリ・マユ)が呪うと告げながら縊殺された。

 

 聖杯の中身を縊殺した直後、目を覚ました切嗣は未だ倒れている綺礼へと大型拳銃を突き付ける。

 その瞬間、切嗣に遅れて目を覚ました綺礼が詰まらぬ幕引きだと語る。

 そして切嗣の遣り取りを見ていた綺礼は何故聖杯を拒むのかを問う。

 全てを投げ打って求めてきたにも拘らず、何故土壇場になってそれを無に出来るのか、愚か過ぎて理解出来ない、と。

 それに対して切嗣は冷淡な声で聖杯が齎す救いよりも犠牲が多いだけだと告げる。

 すると綺礼はならば自身に譲れと叫ぶ。

 聖杯を解き放てば人類は苦難に見舞われるが、誰もが真剣に生きる筈だと。

 仮に人が死に絶える規模のモノならば、その前に神が降臨して真に人を救うと。

 人が神の存在を信じられる機会であると。

 何より、生まれる前の者に善悪を押し付けて殺すなど認めないと、可能性を否定することは認めないと叫ぶ。

 だが、その返答は銃声であり、綺礼は心臓を撃ち貫かれて倒れ伏した。

 倒れ伏した綺礼の横顔を眺めながら切嗣は、お前こそ愚か過ぎて理解出来ないと吐き捨て、聖杯が在る場へと向かった。

 

 

 セイバーが満身創痍ながらも聖杯の存在する大ホールに辿り着くと、其処にはギルガメッシュが待ち構えていた。

 現れたセイバーにギルガメッシュは、妄執に墜ち、地に這い、道化の如き有様でも尚美しいと言い、自分の妻になれとセイバーに告げる。

 対してセイバーは聖杯の様子から当然アイリスフィールは既に亡くなっており、更にランサーともライダーとも決着を付けられずに漁夫の利で生き残ってしまったことに深く落ち込みながらも、聖杯は自分の物だと主張する。

 だが、それに対するギルガメッシュの答えは魔弾であり、セイバーは辛うじて剣で受け止めるも大きく後ろに弾き飛ばされる。

 起き上がろうと足掻くセイバーにギルガメッシュは、セイバーの意思など訊いていないと言いつつも返答を迫る。

 当然セイバーは拒否するが、その瞬間にギルガメッシュは魔弾を放ち、苦痛に喘ぐセイバーに向け、何度言い違えようとも許すと告げ、自分に尽くす喜びを知るには痛みを持って学べと言い、魔弾の装填数を増やす。

 ギルガメッシュが装填する魔弾の数を見てセイバーは歯噛みするが、ギルガメッシュの向こうに自分のマスターが令呪を用いだしたのを見、起死回生の命令を期待する。

 困難だろうが聖杯を避けて宝具を解放しろと命じられれば可能となるやもしれぬし、重ね掛けすればギルガメッシュが防御する前に放つことも十分可能な為、セイバーは己がマスターに最後の希望を託した。

 しかし切嗣から発せられた命令は、セイバーにとって耳を疑う、聖杯を破壊せよというものだった。

 突如聖剣を解放しに掛かるセイバーを見たギルガメッシュは驚くが、セイバーがギルガメッシュの向こう側の切嗣に真意を問うのを見、今迄セイバーに向けていた魔弾を切嗣の方に向ける。

 が、魔弾が放たれるよりも早く、切嗣は残った最後の令呪で命令を重ね掛けする。

 直後、懸命に命令に抗っていたセイバーの意志を令呪はアッサリと踏み躙り、セイバーの絶叫と共にエクスカリバーはその力を解放した。

 

 乖離剣や創世の宝珠に比べれば遙かに劣るが、それでも神霊魔術にも届くと謡われる一撃は容易く聖杯を破壊した。

 無理矢理魔力を振り絞らせられ、更に令呪喪失によってマスターとのラインも消えたセイバーは現界しきれず直ぐに消失した。

 そして、セイバーが消失した直後、切嗣達の遙か頭上に突如黒い太陽とも言えるモノが現れた。

 ソレは直ぐにも消え去ろうとしていたが、消え去る前に、まるでこの世の全てを呪うかの様に、黒いナニカを吐き出した。

 吐き出されたナニカは直下に居たギルガメッシュに大量に降り注いだ。

 更に降り注いだナニカは瞬く間に建設中の市民会館から市街地へと津波の様な勢いで拡散した。

 

 突如冬木新都に襲い掛かった黒いナニカは、瞬く間に大火災を発生させ、更に触れた者の精神を瞬時に蝕んで呪い殺した。

 その光景を愕然と見詰める切嗣の脳裏に――――――

[藁にも縋る思いってのは在るが、失敗した時の負債は自分だけで返せると思ってるのか?

 いや、魔術師連中は負債を死という容で周囲の一般人に押し付けるんだったな。

 ああ、それなら失敗した時のことを考えずに存分に無謀な賭けを出来るな]

――――――と、雁夜が言っていた言葉が蘇り、眼前に広がる地獄は身の程を弁えず奇跡に集った者達の負債だと理解した。

 最早この地獄を止める方法を切嗣は持ち合わせていなかったが、それでも生き残りを求めて地獄へと飛び込んだ。

 

 切嗣が地獄に飛び込んで暫くした後、黒い太陽の直下であった場所から動く者が現れた。

 動く者の正体は、人を呪い殺す黒いナニカを大量に浴びたギルガメッシュであった。

 あれだけの黒いナニカを浴びれば、英雄であろうとも呪い殺される前に分解されて死に至る程のモノだったが、ギルガメッシュはその全てを受け止め、逆に飲み干してしまった。

 とは雖も可也梃子摺った様子であり、恐らく倍の量が在れば飲み干しきれなかったであろうが、最早黒いナニカが現れぬ以上、それは無意味な仮定であった。

 そして無事生還を果たしたギルガメッシュを称える様に、創世の宝珠が光り輝きながら烈風は放ち始め、ギルガメッシュが飲み干した黒いナニカだけでなく、辺り一体を浄化し始めた。

 体内の呪いや穢れの塊である黒いナニカが浄化されたギルガメッシュはそれを糧に更に強力な存在へと昇華されたことで、醜悪な物が聖杯であったという怒りを沈め、改めて周囲を見回した。

 すると、浄化された力が胸の辺りに渦巻いている綺礼を見付けたので様子を見に足を運んだ。

 どう見ても死んでいる有様の綺礼だったが、胸の孔から全身を侵していたであろう黒いナニカが綺礼を生かし続けたらしく、更にギルガメッシュによって浄化されたので醜悪さは綺麗に消え去り、宛ら聖人の様な清浄な雰囲気を纏った状態で確かに生きていた。

 

 暫くすると綺礼が目を覚ました。

 確かに死んだと思っていたにも拘らず、聖人の様な清浄な気を放つ身体となって目覚めたことに疑念を抱くと、ギルガメッシュが実力と悪運の賜物だろうと告げる。

 どういう意味なのかと声がした方向を見た綺礼に、ギルガメッシュは無視するかの如く、聖杯が招いた者は自分以外全て消え去り、勝ち残ったのは綺礼であり、この状況は勝者である綺礼が望んだものだとギルガメッシュは告げる。

 そう告げられた綺礼は辺りを見回した。

 建物の倒壊する様。

 焼け死んだ人間が奇怪な形で転がっている様。

 遠くから聞こえる人の悲鳴。

 地獄の中心地であっただろうにも拘らず、聖地の様な清浄さを放つ聖杯が降臨したであろう周辺。

 その全てを見た時、綺礼は哄笑しながら悟った。

 矢張り自分の考えは間違っていなかった。

 自分は苦難の果てに聖人と見紛うべき者へと変生し、聖杯の降臨した場所は聖地の如き清浄さを湛えている。

 つまり苦難の果てに人は成長出来る。聖人の域にすら至れる。

 たとえ実力だけでなく運も必要かもしれぬが、それでも人は苦難を糧に前に進める。星すらも苦難を糧に前に進んで見せた。

 此れがギルガメッシュの宝具によるものでも、元を正せば人により作られたモノであるだろう以上、人が自力で苦難を乗り越えられる証明だと綺礼は確信した。

 だが同時に、試練として齎される苦難に終りがあるのかを知りたいと思った。

 人は果て無く苦難に遭い続けねばならないのか、それとも楽園に至れる最後の苦難というべきものが本当に存在するのか否か。

 神が地上に姿を見せぬ以上、人が楽園に至る為の苦難の道は人が見つけねばならないと意気込み、更なる苦難と救いを齎して何としてもそれを見つけようと綺礼は決心した。

 そんな綺礼を愉快気に眺めながらギルガメッシュは、飽きる迄は付き合うと言い、綺礼と共に何処かへと立ち去るべく立ち上がった。

 

 ギルガメッシュと綺礼が何処かへと立ち去ろうとした瞬間、綺礼は切嗣を発見し、切嗣も綺礼を確かに認識した。

 だが、直ぐに切嗣は興味が無いとも心折れたとも取れる瞳で辺りの瓦礫を退け、再び生き残りを探し始めた。

 切嗣のその様を見て興味を無くしたのか落胆したのか判らぬが、綺礼は切嗣から視線を切るとギルガメッシュと共に何処かへと去っていった。

 

 

 

 こうして、第四次聖杯戦争は終りを告げた。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 第四次聖杯戦争が終わると、参加者とその関係者は其其の日常に戻りだした。

 ただ、其其の日常は少なからず変化していた。

 

 綺礼は先の大火災での孤児達の殆どを引き取り、苦難と救いを与え続けて孤児達を鍛えながら過ごし始めた。

 引き取られた孤児達は年齢に関わらず全員が人格者となり、更に身体を欠損した者も含めて尚文武を高いレベルで併せ持つ者達ばかりであった。

 故、綺礼自身が身に纏う様になった聖人の如き清浄な雰囲気も合わさり、綺礼は多くの冬木市民から絶大な尊敬を集めることになった。

 

 ギルガメッシュは何れ訪れる雁夜との再戦を心待ちにしつつ、醜悪だと言いながらも現代を謳歌していた。

 

 ウェイバーは自身の未熟さを自覚し、自らを鍛える意味も兼ねて、嘗て自身の王が疾走した足跡を辿るべく、仮宿の者達との親交を深めながら旅費を貯めた。

 旅費が貯まり仮宿の老夫婦と別れ際に再開の約束を交わすと、王の足跡を辿る旅を始めた。

 そして旅が終わって時計塔に戻ると、没落しかかっていたエルメロイ家を自分にも責任の一端は在ると思ったウェイバーは建て直しに掛かった。

 すると何時の間にかロード・エルメロイⅡ世と呼ばれる程に成っており、更に最強の魔法使いと呼ばれる間桐雁夜とも縁を持ち、しかもバルトメロイと協力して神性を有する間桐の次期後継者を鍛え上げ、間桐雁夜から代金代わりに超一級の宝具を複数貰いもした。

 しかも、バルトメロイから戦闘訓練を受けた為、封印指定執行者に匹敵する戦闘能力を有する程に成った。

 しかし、ウェイバーが目指す領域は遙かに遠く、身近で規格外の存在を見続けたのでその程度で満足など僅かたりとも出来ず、執行者程度の腕前でしかないことを常に苛立ちながらも毎日己を研鑽しながら過ごした。

 

 凜は父の葬式の後、嘗ての父の教え通り、何れ現れる聖杯を掴むべく研鑽を積み続けた。

 研鑽を続ける最中、父が残した遺産でもある情報網から、間桐雁夜が精霊の域に至った正真正銘人外の魔法使いであり、その戦闘力も受肉した規格外の英霊と比較して全く劣っていない、恐らく人が到達出来る極点と言われる存在だと知った。

 魔術の腕と知識は塵に近いが、物事の本質を見抜く眼力と魔法の扱いに於いては過去現在を併せて並ぶ者が居ないと自身の大師が断言する程だとも知り、更には真言密教に於ける最高神でもある存在を完全な状態で降臨させ、妹でもある桜と睦まじく暮らしていると聞き、仰天した。

 しかも桜は現魔導元帥のバルトメロイと、他人をプロデュースすることに於いては当代一の傑物と謳われるロード・エルメロイⅡ世の二名から教えを受け、教えを受け終わった時には年齢が一桁にも拘らず色を時計塔から贈られる程に成っており、負けてなるものかと凜は独力でだが懸命に研鑽を積み続けた。

 が、当然導き手の有る無しでは圧倒的差が存在し、それが解っていても妹に負けたくないという意地が有る凜は無茶を重ね続け、身体を大きく壊した。

 その時、偶偶凜の様子を見に来ていた雁夜は、凜が無茶せぬ様に無理矢理ウェイバーを呼び付け、更に強引に凜をウェイバーに師事させ、凜の暴走を食い止めた。

 その甲斐も在り、ウェイバーが窶れながら時計塔に戻る頃には、魔術師としては桜と同格とウェイバーに言わしめさせる程になっていた。

 魔術刻印を持たない桜と同格というのが不満だが、自力で目的へ明確に疾走出来る程になった凜は前程焦らず、家訓通り余裕を持って優雅に、だが決して立ち止まる事無く目的へと進み続けた。

 

 葵は時臣の訃報を受けてから徐徐に精神を止んでいき、数年の内に病没した。

 ただ、死ぬ前に葵は凜には若干早いと思いながらも、時臣から伝えられた桜のことを凜に全て伝えた。

 そして、時臣の言葉を伝えることがあるならば、虫がいい話だが自分も愛していたと伝えてほしいと告げ、静かに逝った。

 

 切嗣は聖杯戦争後、娘を救い出すべく幾度もアインツベルンの城へと向かったが、ボロボロになった身体ではアインツベルンの結界を抜けることは叶わず、娘を取り戻すことは叶わなかった。

 だが、自身の娘を最後に、奪い奪われ続けるだけだった切嗣の人生は一変した。

 ただ一人だけ地獄の只中で生き残ってくれた子を養子として迎え、穏やかな人生を切嗣は送り続けた。

 その最中、未来への負の遺産になるだろう聖杯戦争を根絶するべく努め、聖杯戦争が起こる大本の原因を探し当てた末、聖杯戦争を完全に終わらせる仕掛けを施し、未来への不安にけりを付けた。

 そして、養子に迎えた子供が自分の夢を代わりに叶えてくれると言ってくれるのを聞き、切嗣は安らかに逝った。

 

 其其が其其の傷を抱え、力尽きる者もいたが、それでも生き残った者は傷さえ糧として日日を生きていた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 そして、第四次聖杯戦争を盛大に掻き乱した間桐雁夜は、思いの他に忙しい毎日を送っていた。

 

 桜の魔術教導を受けてもらう際にバルトメロイを間桐の家に招くことにしたのだが、バルトメロイが強烈な貴族主義である為、生半可な屋敷では来日しないと理解した雁夜は、街の景観を完全無視した屋敷と言うか宮殿を建てることにした。

 無論、それに当たって広大な敷地を確保する必要が在り、住宅70棟近くを土地ごと買収し、更に金に物を言わせて騒音公害を完全無視して24時間体制で3ヶ月の突貫工事で重要文化財にも成りそうな代物を建てた。

 しかも施工者は玉藻の軍勢であり、現場監督者は雁夜である為、自重という言葉に正面から喧嘩を売る出来に成っていた。

 何しろ増築(というレベルでは最早無いが)した間桐低は一つの宝具と呼べる程の出来であり、仮令核戦争が起きても無傷で存在し続けられるという、神秘隠匿に喧嘩を売るかの如き構造材で出来ていた。

 更に敷地内に存在する様に建てた神社はアッサリと天照の分社として機能して神気を発し始め、霊脈どころか龍脈から吹き出るマナと相俟って、広大な間桐の敷地は半ば世界の裏側状態になってしまっていた。

 その為、間桐邸には普通に幻想種が存在するという魔窟に成ってしまった。

 当然魔術教会から猛抗議が送られたが、ちょっとやそっとで壊れないのは時計塔も一緒であり、幻想種も程度は低いが保有している魔術の家系は他にも存在する為、抗議は全て論破されてしまった。

 尤も、一番の理由は実力行使に出た際に神話の再現の様な大戦争になり、神秘隠匿が不可能になることを恐れた為であるが。

 

 何とか間桐邸の増築と言えない増築が終わると、遂に桜の魔術修行が始まった。

 当然修行は凄まじい密度なので学校に行く暇など碌に無く、雁夜は効率的に桜が学習出来る様に一般大学卒業迄に必要とされる各分野の教科書を其其数冊に纏める為、教員免許が余裕で取れる程に猛勉強し、見事に教科書を纏めてみせた(歴史関係が最難関だった)。

 

 だが、直ぐに学習する桜を見た雁夜は、自分では魔術師に必要な複数の言語体系は上手く教え切れないと判断し、その方面迄バルトメロイに教えてもらうかどうか悩んだが、時計塔で最近頭角を現したロード・エルメロイⅡ世のことをバルトメロイから聞き、他人をプロデュースすることに関しては絶賛されていると言うのを当てにして頼みに赴いた。

 時計塔に出向いてロード・エルメロイⅡ世に会ってみれば、ウェイバー・ベルベットという、第四次聖杯戦争中に一度会ったことがある者だったが、だからと言って何かが変わるわけでもなく、雁夜はウェイバーに礼を尽くして頼んだ。

 当然急な頼みなので代金として戦闘機が買える程の金を渡し、更に超一級の宝具も渡して何とか納得してもらって来日させた(恩人の近くだということも納得する要素だったらしい)。

 

 実技と座学の担当を分け、漸く一息吐けると雁夜が思った時、懸念していた馬鹿が湧いて間桐邸を襲った。

 並のサーヴァントですら敵と認識されれば瞬殺される結界に踏み込んだ襲撃者は一瞬にして消え去ったが、馬鹿を牽制する為にも、雁夜は馬鹿を送り込んだり嗾けた存在を玉藻と一緒に調べ尽くした。

 そして判明した者達にとっての地獄を振り撒きに雁夜は赴いた。

 余計な事を企んだ者達を雁夜は殺すのではなく、全員の魔術回路を悉く焼き切った。

 更にその者達がが保有していた蔵書や研究成果や魔術物品だけでなく、魔術刻印どころか後継者の魔術回路に至る迄全てを徹底的に消し去った。

 当然そんなことをされればその者達は魔術師として死んだも同然であり、その者達は神秘秘匿の為に然るべき処置を受けることになった。

 雁夜としては殺すのは流石に気が退けた為、二度と歯向かえない様にすればいいだろうという感じでやったことだったが、魔術師達にとっては絶望に落とした儘生き恥を晒させる恐怖の存在と映り、望外の抑止力となった。

 

 時計塔の一派の連中との争いを終え、今度こそゆっくりと出来ると思った雁夜だったが、間桐邸に戻って直ぐに今度は聖堂教会からの干渉があった。

 流石に異教の神と雖も正面切って喧嘩を売れば自分達が全滅しかねないのは十分承知している彼等は、玉藻に不可侵協定を持ち掛けてきた。

 此れに対して玉藻は自分達に干渉しない限りは基本不干渉と告げ、それで用件が終わったかと思った雁夜だったが、吸血鬼以外の人外に成った雁夜は聖堂教会からしてみれば何とも微妙な存在の為、点数稼ぎに吸血鬼退治をしてみないかと言われ、外に出る度に監視の大名行列は勘弁願いたい雁夜は渋渋了承した。

 余りの面倒さと吐き気を催す光景を見続けて挫けそうになったが、恐らく後に桜も通るかもしれない道だと思った雁夜は、どのような理由があるにしろ桜を裏の世界に関わらせた以上、自分が裏の世界のことで泣き言を言うわけにはいかないと自分を叱咤した。

 そして吹っ切れた様に雁夜は黙黙と吸血鬼を殲滅し続けた。

 死徒を十数体滅ぼしただけでなく、27祖を1名滅ぼした。

 基本的に死徒の殲滅よりも生きている者の守護を念頭に置く為余りパッとしない戦績だが、迫り来るアインナッシュを完全に退けて犠牲者0に抑えたのは騎士団から高く評価された。

 他にも、どんな不浄な場所でも容易く浄化して聖地の様に出来る雁夜は聖堂教会から非常に重宝され、何とか聖堂教会から敵視されることは無くなった。

 

 幾度か戻ってはいたが、漸く腰を据えて落ち着けられると間桐邸に戻った雁夜は、もう直ぐ桜の修行が半分程終わると知り、慌ててバルトメロイに渡す宝具の作成に取り掛かった。

 前金代わりの試作品は概念や行動を強化する単純且つ基本でありながら万能の物であったので、中間支払い金代わりに渡す試験品は、単純且つ基本を覆す単一の物にしようと雁夜は安易に決めた。

 安易な考えではあるが、桜を修行してくれている恩に報いる為にも一切手抜きせずに創り上げた。

 そして完成した品は、大気のマナに異物を混ぜ、相手がそれを魔術回路に取り込むと魔術回路そのものを変質させ、魔力が流れると問答無用で暴走するようにするという、純粋な人間の魔術師ならば一発で魔術師生命を絶たれる極悪な代物が出来上がった。

 しかも超一級の宝具である為、効果が解っていても防御することは極めて困難であるという、雁夜の魔術師嫌いの異名に拍車を掛ける代物であった。

 

 そして今度こそ一息吐けると雁夜が思った時、那須の山を管理していることについて日本の退魔組織から次代の管理者は誰にするのかという話が舞い込んできた。

 どうやら雁夜がギルガメッシュと再戦を果たすと言う際、この世界から出て行くという話が何処からか漏れて日本の退魔組織に伝わったらしく、利権が絡んでいる連中からの追求が煩いので、玉藻を呼んで規格外の東洋の術式である呪術を披露してもらい、それを桜へある程度継承させるから桜が次代の那須の管理者に成ると告げて黙らせた。

 桜が呪術を使えるかどうかは未知数だが、玉藻が自分(天照大神=大日如来)に祈りを捧げれば覚者の如く神の力で事を成せると告げると、反論は全て消え去った。

 桜の意思確認を済ませていると雖も、桜を交えず話を進めるのは若干気が引けたが、人間性が殆ど感じられない為悪意も殆ど感じられないバルトメロイと、何だかんだで人が良いウェイバーと違い、悪意が人の形になっているような者達が居る場に未だ対人関係能力が著しく低い桜を立たせるのは明らかなマイナスだと判断した雁夜が殆ど一人で矢面に立って退魔組織との折衝を務めた。

 何処から漏れたのかは定かではないが、雁夜が自分達とは違う方法で内側から至ったとして興味が有る両義という家と、東洋の術式を操る巫浄という同じく退魔四家の二家とパイプを作り、特に巫浄とは桜が長く付き合うことになると思った雁夜は呪術等の蔵書を訪ねれば閲覧させたり宝具の貸出もすると可也の好条件を提示して太いパイプを作った。

 その途中、雁夜に興味を抱いた第五の魔法使いの姉と名乗る蒼崎橙子と出逢い、万が一の時は桜の義手や義足や義眼を作ってくれる様に渡りを付けた。

 無論盛大に毟られ、金銭だけでも兆に迫る程毟られ、奪われた魔眼殺しを超える物を創らされ、定着した魂の格を引き上げる人形の製作に付き合わされたりと、他の魔術師が知ればほぼ確実に非難する程毟られたが、5回はどんな危険な依頼でも必要経費だけで全力で請け負い、その後も懇意にすると確約してもらった。

 

 裏関係での問題を漸く一段落させ、漸っと表の世界でのんびり出来ると思いながら雁夜が間桐邸に戻ると、気付けば世界有数のコングロマリットの最高責任者へと玉藻によって仕立て上げられていた雁夜は、何十もの政財界や企業のパーティーに出席する羽目になった。

 しかも自分の敷地に招いてパーティーを開催した上で桜を次期後継者として御披露目する必要があったので、適当な所に表の者と会う為の屋敷を建て、そこでパーティーを開いて桜をトップの者達だけに御披露目した(10秒以内に退席させた)。

 一応桜が20歳に成る迄にマスコミに情報を流したりマスコミが情報を流布させたら、関係各社及び当事者を採算度外視で破滅させると解り易く告げ、マスコミに強力な圧力を掛けた。

 当然高を括って小金目的でマスコミに情報を流す馬鹿が居たが、情報を渡されただけの奴も含めて全て財産を毟った上で適当な国籍に改竄して国外に放り捨てた(情報を渡されただけの者はマシな戸籍と場所に捨てられたが、悪意有りや馬鹿と判断された者は北朝鮮やミャンマーなどに容赦無く放り捨てた)。

 無論どれだけ情報を封鎖しても桜が学校に通い出せば口コミで次期後継者と広がるだろう事は必須の為、雁夜は桜から目を逸らす為に東京に土地を遊ばせていると非難される程の大豪邸を建て、其処に自分達の影武者を住まわせて世間の目を其方に集中させ、冬木の邸宅は傍流に譲ったと誤解する様に仕向けた。

 更に今は玉藻の軍勢のみで幹部を固めているが、自分達が離れると一気に組織の屋台骨が抜けてしまう為、裏の理由で桜(と言うか間桐)を裏切れない連中を見繕って幹部に就く様に奔走し、副総帥には玉藻の欠片でもあり間桐邸でならば存在出来る稲荷神に努めてもらうことにした(対価に稲荷神社への助勢や社の推奨宗教に神道や真言密教を掲げたりもした)。

 

 今度の今度こそゆっくり出来ると思った雁夜だったが、間も無く桜の修行が終わるという報せを受けた。

 だが、今度は桜がゆっくり出来る日日が来ると、後金代わりの魔術師の為の魔術師に対する宝具の完成品を嬉嬉として創り始めた。

 そして完成した宝具は、使用者の行動や概念をA以上に強化し、A以下の守りしか持たない者の魔術回路を変質させる要素で周囲を満たし、装備者に対するA以下の魔術干渉を完全遮断するという超極悪品が出来上がった。

 しかも貴い魔術回路を用いて起動する為、バルトメロイ家以外の者が奪ったところで起動出来ないどころか暴走して魔術師生命が一瞬で終り、貴い魔術回路を持つバルトメロイは魔術回路変質の対象外の為、相手がマナ供給不可能にも拘らず好き勝手マナを補給した上で宝具にも匹敵する大魔術ですら無効化するという、魔術師が敵に回してはいけない存在へとバルトメロイ家を押し上げてしまった。

 おまけに試作品と試験品を融合させれば(融合解除可能)A+迄が対象となる、文字通り魔法の域の一品となるのだった。

 桜の修行が無事終り、完成品を受け取ったバルトメロイは大満足して時計塔へと帰り、その立場をより強固としつつも雁夜と並んで究極の対魔術師と恐れられ、同種の宝具を渡されるだろう桜も恐れられた。

 更にバルトメロイに僅かに遅れてウェイバーの座学の方も終り、既に代金と代金代わりは払っているが、感謝を籠めて嘗てアレクサンドロス3世が振るったとされる剣を贈った(暇さえあれば熱くイスカンダルのことを桜に語っていたので尊敬しているのは容易く解った)。

 どうやら少なくても同型の物なのは間違い無いらしく、感激しながら礼を言って去っていった。

 

 慌ただしかった数年が過ぎ、漸く魔術協会や聖堂教会や退魔組織との柵も一段落し、待ちに待った穏やかな日日が雁夜達に訪れた。

 が、その矢先に葵が病死したとの訃報が届いた。

 念の為に桜に葬儀に出席するかと訪ねたが、未だ蟠りは消えていないらしく、出席を拒否した。

 蟠りが解けた時に墓参りをすればいいと思った雁夜は無理に葬儀に参加させず、一人だけで葬儀に参加した。

 葬儀の場には当然だが凜が居り、久方振りに会った凜は雁夜がどういう存在なのか知ってしまったのか、酷く緊張して応対していた。

 だが、昔通りの対応を雁夜は望み、困った時には力になると言って葬儀の後に別れた。

 しかし暫くの後に一人暮らしは大変だろうと思って凜の様子を見に赴いた雁夜は、無茶をし過ぎてボロボロになった凜と会い、妹の桜への過剰な対抗心から無茶をしたと知り、直ぐに無理矢理ウェイバーを呼び付けた。

 そして互いに困惑するウェイバーと凜を強引に師事し師事される関係にした。

 無論ウェイバーが抗議したが、マケドニアの遺跡発掘権を遺跡発掘隊ごと譲ると雁夜が言うと、渋渋ながら請け負った。

 その後突如講師を一時的に引き抜かれた時計塔が文句を纏めて抗議に移す前に、雁夜は金だと抗議を受ける者達には効果が現れないと思った為、魔導元帥の二人をして神域と言わしめる魔力の操作法を何名かに教えると時計塔に侘び代わりに告げようとした雁夜だったが、それを知ったウェイバーが時計塔からの文句は全て自分が引き受けるから自分にそれを教えてほしいと言い出し、態態時計塔に行かずに済むならそれに越したことは無いと思った雁夜は了承した。

 一度バルトメロイに桜の修行を頼む前に教えていただけに、二度目は要領良く教えることが出来、ウェイバーは雁夜からの師事を受けた成果で自分の理論を補強出来ると喜んでいた。

 

 そして改めて穏やかな日日が訪れた雁夜達は、桜が学校に通う前に桜の対人恐怖症とも言える状態を改善する為、のんびり暮らしながらも稀に外に連れ出して少しずつだが人との触れ合いを増やしていった。

 幸い、義務教育どころか大学すら卒業出来る程の学力が桜はあり、学校の勉強を気にせずに伸び伸びと日日を過ごした。

 そして数年の後に人見知りが激しいといえる程度に迄回復した桜は、遂に学校へと通いだした。

 玉藻との呪術関連の修行があるものの、玉藻の神気を取り込んだ為か尋常ならざる速度で修得し続けているので、学校との両立は十分可能だった。

 尚、桜は裏だけでなく表でも狙われる人物だが、雁夜が桜の為に文字通り心血どころか骨肉を費やして創り上げたバルトメロイに渡した物を超える超一級の宝具を携帯させ、更に現代の魔術師と戦争を起こせる様な性能の一部を公開した為、桜自身の優秀さと相俟り、裏の関係者で桜に手を出そうとする自殺志願者はまず居なかった。

 だが、表の者は普通に営利誘拐を企てる為、桜の視界に極力入らない様にボディガードを30名以上配備し、事件を未然に防ぎ続けた。

 当然桜の傍に居ると魔術と関わることになるので退魔組織から高額で派遣してもらっているが、将来を視野に入れて人材育成をするようにもした。

 

 本当に漸く穏やかな日日を送られるようになった頃、桜は小学校を卒業して中学校へと入学した。

 それを一つの節目と見た雁夜は玉藻と桜と話し合い、桜が中学を卒業したらこの世界から出て行くことにした。

 桜としては漸く穏やかに暮らせるようになったのだから、この儘ずっと一緒に暮らしたいと久し振りに我儘を言った。

 だが、自分達が長く傍に居ると桜の道を必要以上に狭めてしまうと理解している雁夜達は根気強く諭し続けた。

 自分の為に雁夜や玉藻がどれだけ行動してくれたのかを知っている桜は別れたくなかったが、立派に自分が独り立ちすることが自分に出来る唯一の恩返しだと思い、大泣きしながらもそれを了承した。

 そして、桜との別れの大まかな日日が決まった時、雁夜はギルガメッシュへと会いに赴き、再戦の時を桜の卒業式翌日の正午にし、場所は人目に付かない離島で行う旨を伝えた。

 するとギルガメッシュは楽しみに待っていると一言告げてどこかへと去った。

 

 明確な終りが見えた雁夜達の暮らしだったが桜は特に生活を変えたりせず、日日の穏やかな暮らしを何よりも大切にしながら過ごした。

 気になる異性が出来たりもしたらしく、昼食を落とした際に分けて貰って縁が出来たらしく、頻繁に料理を教えてもらうべくその少年の家へ訪ねるようにもなった。

 そしてその少年の家が増築した間桐邸の端の直ぐ傍だった為、雁夜と玉藻は気を利かせて生活の場をそちら側に移そうとしたのだが、間桐の本館こそが自分が暮らす所だと桜は申し出を断った。

 だが、歩いて行き来するには結構な距離があるので、雁夜は間桐邸の敷地内なら免許が不要なので乗り物を桜に送った。

 尚、雁夜は桜が懸想している少年がどのような人物か興味を持って会ったのだが、第四次聖杯戦争の時に銃刀法違反に正面から喧嘩を売り捲くっていた者の養子と知って驚いた。

 衛宮士郎が魔術の存在を知っているだけの一般人か、半人前未満の魔術師か判断が付かなかった雁夜だが、何方であろうと構わないと思い、保護者を名乗っている藤村大河なる人物が居る前で――――――

[桜ちゃんと同じ夢見るか、桜ちゃんを一番に想えないなら、交際するなよ?

 後、桜ちゃんを弄んだら殺す。山に隠れたら山を消し飛ばしてでも殺す。海に逃げたら海を干上がらせてでも見付けて殺す。法を捻じ曲げてでも殺す。戦争を引き起こしてでも殺す。俺が死んでても呪い殺す。

 だけど……相互理解の口論で泣かせたりするのは咎めん。遠慮無く意見をぶつけ合って理解しあえ。

 そして若さ故の過ちとかふざけたことは犯さないようにしろ。去勢されたくなかったらな]

――――――両者が失禁しかねない迫力で釘を刺した。

 

 凜との関係は赤の他人に近い状態だが、桜は充実した生活を送り続けた。

 学生の本分の学業は教師に物を教えられる程であり、運動関係は自衛の為にバルトメロイに徹底的に鍛え上げられたので魔術の補佐無しでオリンピックで優勝が十分可能な域にあり(授業ではバレない程度に手を抜いている)、容姿は文句無しの深窓の美少女であり、家柄は世界有数のコングロマリット(の傍流と思われている)、人格は対人恐怖症気味だがそれを抜かせば間違い無く人格者、という凄まじい人物である為、同校に在籍している姉の凜と二分する程に男女から好意的に見られていた。

 迫り来る別れの日は哀しいものの、桜は幸せを謳歌していた。

 恋心を寄せる少年と歩く朝の通学路。

 休み時間に飛び交う、明日になれば忘れてしまうような他愛無い話。

 放課後のグラウンドでの喧騒。

 帰りに立ち寄る商店街の活気。

 数日に一度、想いを寄せる少年に教わる料理の時間。

 少年の保護者だけでなく自分の保護者と一緒に食べる夕飯。

 入浴して特に何を話すでもなく同じ空間で寛ぐ時間。

 一人部屋で宿題を終わらせ、一日の出来事を思い返す時間。

 今では一人で電気を消して眠り、朝は大抵自然と目が覚める。

 そして居間で温かく雁夜と玉藻に迎えられる。

 そんな日常を桜は何よりも大切な宝物として日常を送り続けた。

 

 春が終り、夏が終り、秋が終り、冬が終った。

 春が再び訪れ、夏が再び訪れ、秋が再び訪れ、冬が再び訪れた。

 最後の春が過ぎ、最後の夏が過ぎ、最後の秋が過ぎ、そして、最後の冬が過ぎようとしていた。

 

 

 

 桜の卒業式を明日に控えた日の夜。

 間も無く日付が変わろうかという頃、雁夜は炬燵に入った儘、何度目と知れぬ溜息を吐いた。

 別に明日に桜と別れるわけではないのだが、それでも雁夜の内心は複雑だった。

 本来なら桜の成長の節目は盛大に喜びながら祝ってやりたかった。

 だが、桜の卒業が確定し、卒業取り消し期間の3月を無事に過ぎれば、日付変更後直ぐにゼルレッチに何処かの世界に飛ばしてもらうことになっているので、雁夜は素直に喜べずにいた。

 何度も以前桜が言った様に、桜が死ぬ迄此の世界に留まって桜を見守ろうかと思ったが、自分達が此の世界に居ると知られた上で桜が狙い易い状態になれば、桜が人質になる可能性が跳ね上がり、ならばとばかりにずっと桜の傍に居れば桜の道を間違い無く狭めてしまい、呪術も習い修めた今の桜の元に長長と自分達が居れば、桜が独り立ちした時に桜を人質にすれば、理由も無く長い間一緒に居た自分達を呼び寄せられると勘違いする馬鹿が大量に湧きかねない為、節目でもある今の時期に別れなければならないのは雁夜も十分解っていた。

 しかし、それでも桜が望むなら違う世界で共に暮らしてしまおうかという考えを雁夜は捨てられず、自己嫌悪に陥っていた。

 

 桜を違う世界に連れていくということは、唯一の肉親である凜だけでなく、士郎や大河という、漸く育んだ人間関係を放棄させることであり、自分がそれを少しでも望んでしまったことに雁夜は自己嫌悪に陥り、自分がこんな様だと涙ながらに此の決断を受け入れてくれた桜に合わせる顔が無いと思い、更に落ち込んだ。

 そしてそんな雁夜の考えが見て取れる玉藻は苦笑いしながら雁夜の隣に移動し、雁夜を見上げる様にしながら声を掛ける。

 

「ご主人様。余り深く思い詰めない方が良いですよ?

 攫って行きたいという思いは、ご主人様が桜ちゃんを愛していることの裏返しなんですから」

「……何でお前は平気そうなんだ?」

 

 平然としている玉藻を見た雁夜は、八つ当たりしそうになるのを必死に抑えながら玉藻に問い掛ける。

 すると玉藻は苦笑しながら答えを返す。

 

「此の前私と桜ちゃんが一緒に寝た時、それはもう徹底的に本音を暴露し合いましたから、気持ちの整理は既に付いています。

 勿論私だけじゃなく、桜ちゃんも気持ちの整理は付いています」

「…………気持ちの整理が付いていないのは俺だけか」

 

 自嘲気味にそう呟く雁夜。

 そしてそんな雁夜に玉藻は穏やかな笑みを浮かべながら言う。

 

「桜ちゃんに弱い所を見せて心配させない様に抱え込んでいたんですよね?」

「……ああ」

「桜ちゃんに話さない様にしてるうちに、私に相談するのも忘れたんですよね?」

「…………ああ」

 

 俯いてそう返す雁夜。

 そんな雁夜に玉藻はどう返したものかと少し逡巡するが、――――――

 

「えいっ♥」

 

――――――雁夜の顔を自分の胸に抱き寄せながら寝転がった。

 何時もなら慌てて抜け出そうとするのだろうが、今の雁夜は特に頬を赤らめたりもせずにされるが儘になっていた。

 そんな雁夜を見た玉藻は相当参っていると想い、殊更明るい声音で話す。

 

「ご主人様? あんまり一人で悩んでも良い結論なんて出ないですよ?

 特にご主人様は身内には基本ヘタレなんですから、悩めば悩む程ドツボに嵌りますから。

 しかもそんな状態で行動したら、奈落の如き墓穴にみんなを巻き込みますよ? 無間地獄一直線ですよ?

 ですから、そうならない為にも、此処は究極の良妻狐に悩みをパーっと話しちゃって下さい♪」

「…………」

 

 玉藻が明るく悩みを打ち明けるよう言うが、沈黙だけで何も返さない雁夜。

 そんな雁夜に玉藻は軽い声から真剣な声に切り替えて話し掛ける。

 

「ご主人様? 子供に弱い所を見せたくないのは立派だと思いますけど、付き合ってる相手に弱い所を見せたくないというのはNGです。

 女も好きな人の悩みや苦しみは、抱えたり背負ったりしたいものなんですよ?

 たとえ直接力になれなくても、悩みや苦しみを打ち明けてもらいたいものなんですよ?

 相手の力になれないのも、相手の悩みや苦しみが解らないのも、相手に頼られないってことですから、男の方だけでなく女も辛いんですよ?とってもとっても辛いんですよ?

 

 まるでお飾りみたいに大切にされるだけなのは相手がすっごく遠く思えますから、一緒に居たいし居てほしいと思う相手には弱みを見せるのも男の度量なんです。

 そして良い女は笑顔でそれを受け止めて男の方を立てるものなんです。

 ですからご主人様、私を良い女にさせて下さい」

 

 玉藻のその言葉を聞き、知らない間に玉藻に又甘えていたのだと雁夜は思い知った。

 そして、雁夜は玉藻に自分の想いを正直に話した。

 本当は別れたくなく、出来るなら此処に留まりたいと。

 此処が危険なら安全な世界に一緒に移りたいと。

 だけどそれと同じだけ桜に何時か残された最後の肉親との蟠りを解き、両親が欠けてしまったが、昔みたいに笑い合ってほしいと思っていると。

 勝手な言い分だが、自分みたいに譲れぬ価値観の相違で袂を解ったのでなければ、何時の日か姉妹仲良く暮らしてほしいと。

 初めて自分達以外に興味を持ったであろう、あの少年と幸せに一生を過ごしてほしいと。

 完全ではないが陽の当たる世界に戻れたのだから、そこで培った絆と日常を何よりも大切にしてほしいと。

 だが、だからこそそれらを全否定するようなことを思う自分が許せないと。

 純粋に桜の未来を思えないのが、何よりも口惜しくて惨めだと。

 涙ながらに雁夜は語った。

 

 それを聞いた玉藻は、何処迄も優しい声で雁夜に語る。

 別れたくないと思うのは当然だと。

 自分も桜も、周りの環境さえ許せば何時迄も一緒に居たいと思っていると。

 残された肉親との関係は雁夜の身勝手な理想かもしれないが、雁夜がその理想の為にどれだけ身を粉にしたのか、自分だけでなく桜も知っていると。

 だからこそ、それが叶うかどうかは別にして、桜は雁夜の祈りを無下にしないと。

 あの少年に想いが届くかは判らないが、あの少年から広がる絆は決して無駄にはならないと。

 それらの価値を桜は、涙が出るほどに尊いものだと理解していると。

 そして、それ程桜の未来を思っているのに湧き出る想いは恥ずべきものじゃないと。

 その想いを禁忌としているなら、溢れ出るその想いは寧ろ誇っても良いものだと。

 玉藻は優しく語った。

 

 そして、その会話を聞いていた扉の外の者は、音を立てぬ様に二階の自室へと戻った。

 後には、哀しさと安らぎが混じった表情で眠る雁夜と、優しい笑みで雁夜を抱き締めた玉藻だけが一階に居た。

 

 

 翌日、雁夜は玉藻と一緒に盛大に桜の卒業を祝った。

 祝われた桜は色んな想いが篭った涙を流しながら、[今迄本当にありがとうございました]、と返した

 その後、校門前で桜の親しい者を全員呼んで雁夜と玉藻を含めた記念写真を撮り、その儘全員を間桐邸へと招き、どんちゃん騒ぎをしながら祝い続けた。

 

 そして翌日、玉藻と桜が見守る中、雁夜はギルガメッシュと絶海の孤島で対峙した。

 

 

 







 次回からは更新速度が低下する予定です。
 絶対ではありませんが、予定が立て込み始めましたので、次回からは更新速度が大幅に低下する筈です。
 ですが、雁夜とギルガメッシュとの戦闘を省略すれば次話で一先ず終わりますので、更新放棄にはならないと思われますので、御付き合い下されば幸いです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

廿壹続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 極東の島国と揶揄され、魔術協会や聖堂教会から長らく軽く見られていた地の端近くに在る絶海の孤島という、誰にも見向きされないだろう場所で、最強の魔法使いと最高位の英雄が対峙していた。

 何も言わずに島に上陸し、何も言わずに島の中央に移動し、何も言わずに対峙した両者だったが、唐突にギルガメッシュが安堵とも取れる声で雁夜に話し掛ける。

 

「どうやら漫然と日々を過ごしていたわけではないようだな」

「穏やかな日日を望んだんだが、半分以上はそうとは言えない日日になったがな」

 

 苦笑とも挑発とも付かない顔でそういうギルガメッシュに対し、溜息を吐く様に自嘲とも挑発とも付かない顔で雁夜は返す。

 そして更に続けて雁夜は話す。

 

「まあ、穏やかでない日日も穏やかな日日も含め、俺は精一杯生きてきたからな。不満や後悔も含め、素晴らしい日日だったと断言出来るがな」

「生に真摯であるその在り方。騎士王と名乗るあの小娘には、さぞ眩しく映ったであろうな」

「騎士王……?」

 

 その様に呼ばれる者に憶えの無い雁夜は首を傾げる。

 するとギルガメッシュは直ぐに注釈を入れる。

 

「セイバーのことだ」

「……ああ。他人の人生を勝手にリセットしろとか地雷を踏み貫いてくれた奴か」

「なんだ? あんな小娘の言うことで腹を立てるとは、存外に大人気無いな?」

 

 小馬鹿にした笑みで雁夜にそう言うギルガメッシュ。

 対して雁夜は苦笑しながら返す。

 

「まあ、大人なら笑って流すところなんだろうが、自分だけじゃなくて地球上の全ての人間を巻き込んでの遣り直しを願おうとしていたからな。無自覚に。

 しかも見た目は少女だが中身は俺より場数も年も食ってる筈なのに、どういうわけか精神が全く成熟しているように思えない。

 おまけに意固地なくせに矢鱈と土台からぐら付く精神を見てると、目の前の嫌なことから取り合えず逃げ続ける子供にしか見えないからな。

 どうしても機嫌が悪くなる」

「破滅を諦めきれず、無様に足掻く様こそが愛いのではないか。

 ヒトの領分を超えた禁忌たる悲願へ愚かにも手を伸ばし続けるという、破滅へと歩む眩しきも儚き者。

 あれ程稀有な者はそうは居らんぞ?」

 

 本人が居ないからと、言いたい放題言う両者。

 尤も、ギルガメッシュはセイバーが居ても殆ど発言は変えぬだろうし、雁夜も歯に衣着せるだけで内容は殆ど変わらないだろう為、何方も陰口という認識が零の儘更に話は進む。

 

「稀有なのは認めるが、稀有だからといって俺にとって価値があるわけじゃないからな。

 後、似合いだとは思うが、娶ったら直ぐに別人と思える程に精神崩壊しそうな気がするぞ?」

「ならばこそ我の好きに染め上げられるではないか。

 我のみを求めて我のみの色で染まる。間違いない幸せであろう」

「他の奴は判らんが、あいつはそれくらい舵取りしてくれる奴と一緒の方が良さそうだよな。

 独りで生きると破滅するタイプの最筆頭っぽそうだし」

「ほぅ? 嫌っている割には良く理解しているではないか」

 

 本人が居れば憤慨する程に好き勝手言い合う雁夜とギルガメッシュ。

 そして会話が一段落したと見、雁夜が別の話を切り出す。

 

「本題に入るが、此の島から半径10kmは海域封鎖した上、玉藻が厳重に結界で覆っているので、仮に此の島が消滅しようが、勝負の後は問題無く復元される。

 結界と結界外の対処を任せている玉藻達には、何方が死ぬとしても勝負が付く迄手を出さないことを納得させてある。

 ……此れで後のことを考える必要も無ければ邪魔が入る心配もない」

「我達の勝負の場にしては華に欠けるが、醜悪な俗世から切り離された自然の在り様は悪くないな」

 

 そう言って周囲を見回すギルガメッシュ。

 水平線の果て迄人の気配は微塵も無く、まるで世界の全てが此の小さな島だけではないかと錯覚させる程、此の島は外界と隔絶された感がが在った。

 

 暫し周囲の景色を眺めていたギルガメッシュだったが、十分堪能したのか表情を真剣なものにしつつ声を発す。

 

「さて、話を続けるのもそれはそれで中々に楽しめるが、そろそろ始めるとするか」

 

 そう言うと鍵剣を使い、いきなり乖離剣と天の鎖と創世の宝珠を取り出すギルガメッシュ。

 対して雁夜は背に八本の蜘蛛の脚を瞬間的に展開し、何時かの様に下半身にだけ黄金の鎧を纏うギルガメッシュを見ながら言葉を返す。

 

「そうだな。

 勝ち負けに興味は無いが、俺が去った後に囁かれる陰口を桜ちゃんが聞いても胸を張って俺のことを誇れる様に、そして前より俺に寄せる想いを深めた玉藻に応える為に、……何より、俺が二人に胸を張る為にも、………………あの時の続きを此処で終わらせる」

 

 雁夜のその言葉にギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべ、周囲一面に大量の宝物を降らせて地面に突き立たせながら言葉を返す。

 

「我もあの時の結果は満足しているが、あれで終わらせるつもりは微塵も無いな」

 

 ギルガメッシュが左右に其其天の鎖と乖離剣を握り、そして創生の宝珠を静かに自身の周囲を衛星の様に旋回させる。

 それと同時に雁夜達の居る島の全てが、今迄のものとよく似た別の何かに摩り替わった。

 それを島の破壊に備えた準備なのだろうと判断したギルガメッシュは、何時でも始められると視線で雁夜に告げ、雁夜も視線で何時でも始められると返す。

 

 暫し両者は黙って見詰め合っていたが、示し合わせたかの様にほぼ同時に一度軽く目を瞑った後、又もや示し合わせた様に目を見開いた直後――――――

 

「「いくぞ!!!」」

 

――――――と同時に声を発した。

 

 瞬間、雁夜は音に迫る速度でギルガメッシュへと肉薄しつつ、蜘蛛の脚を音の数十倍の速さで三本伸ばし、唐竹と刺突と左薙をギルガメッシュへと放った。

 対してギルガメッシュは宝珠を蜘蛛の脚に負けぬ速度で雁夜へと向かわせつつ、聖剣の解放に匹敵する威力の風を互いの間を遮る面の様に放たせた。

 次の瞬間、三本の蜘蛛の脚はギルガメッシュから僅かに逸れた所を其其攻撃し、宝珠は突進を中断してその場に腰を落として雁夜の右拳で殴られ、突撃した時を超える速度でギルガメッシュの顔面へと向かった。

 が、ギルガメッシュは天の鎖で難無く受け止めた。

 

 まるで挨拶代わりの様に、先の聖杯戦争に参加したサーヴァント達ならば容易く敗退しただろう一撃を放つ雁夜とギルガメッシュ。

 実際両者とも此の程度で相手が傷を負うとは思っていなかったらしく、此処からが本番だとばかりに先を超える攻撃を始める。

 

 岩石すら瞬間蒸発する熱気、物質が崩壊する冷気、鉄すら拉げる重力、気体の更に先へと変化する烈風、光と爆音だけで人すら殺せる万雷、在りえるが存在しない力を具現化することも、在りえないが存在する力を具現化することも、全て魔法の域で発現可能にも拘らず、雁夜は愚直に八本の蜘蛛の脚のみで戦うことにした。

 それは自身の魔法に匹敵する神秘など滅多に存在しない以上、余計な小細工をせずに圧倒的神秘で以って相手の干渉を蹴散らす方が遙かに効率が良いと理解しているからであり、変化を付けるならば単純に無を否定するよりも上の神秘を再現する時だけで十分だと雁夜は判断したからであった。

 そして雁夜のその判断は正しく、無という絶対を否定する可能性の物質から一般常識で辛うじて理解出来る要素を抽出すると、如何しても規格外の神秘から凄まじい神秘に迄格が下がってしまうと、桜の護身具を作る時に雁夜は散散思い知ったのだった。

 故、自身に匹敵する神秘を持つ者と相対した時、劣化応用を行えば自身の攻撃の格を圧倒的に下げるという愚挙にしかならない為、余程特殊な状況で無い限りは応用は昇華応用以外行わないつもりだった。

 

 対してギルガメッシュは即座に天の鎖を伸張させ、地に突き立っている宝物を絡め取った。

 更に封じられると思っていた宝物庫への干渉が封じられていなかった為、罠なら食い破るという自負と挑戦心の下、展開出来る限界迄門を展開して魔弾を装填した。

 尤も、どれだけ罠を張ろうと魔弾を封印する方が遙かに益になり、仮に罠が張られていても油断さえしなければ魔弾が封じられた場合よりも状況が悪化することは無いだろう為、罠がないのはほぼ確定だとギルガメッシュは考えた。

 大方、雁夜も自分が不利になるかもしれないとしても、自負と挑戦心の下に相手の全てを超えて見せると決めたのだろうとギルガメッシュは判断した。

 それを証明するかの如く雁夜は愚直に直進して迫っており、ギルガメッシュを見据える目が、[全力を引き出させた上で勝つ]、と言わんばかりであった。

 そしてそれ対しギルガメッシュは、[ならば受け止めきってみせろ]、と目で返した。

 

 結果、茨の鞭の如き超一級の原点を絡め取った鎖の攻撃と、発射点を変え続ける宝珠から放たれる烈風だけでなく、1千を超える魔弾が同時に雁夜に襲い掛かる。

 しかも魔弾は一つの砲門から秒間2~3回発射されるだけでなく、幾つかは発射間隔を大幅に減らして弾速上昇させていた。

 しかし、茨の鞭の如き攻撃と移動しながら放たれる烈風に1千を超える魔弾が追加されてしまうと、如何しても攻撃方向は魔弾と並行するように攻撃を放たなければ圧倒的密度の魔弾自体がそれ以外の攻撃を阻害してしまう為、攻撃方向は前後のみになってしまうので予測は極めて容易になってしまった。

 更に、鎖と烈風の速度は基本的に弾速を超えており、魔弾に並行させる軌道で攻撃を行っても前方の魔弾に衝突して威力が減少してしまう為、雁夜にとって捌くのは決して難しいものではなかった。

 

 だが、そんなことは百も承知しているギルガメッシュは、魔弾を放ち続ける門をその場に残して後方に跳躍した。

 そして雁夜を足止めしている間に乖離剣に魔力を籠め始めた。

 

「さあ、どうやって切り抜けるが見せてみろ!」

 

 ギルガメッシュが高らかにそう言うと、乖離剣はギルガメッシュの魔力を貪って赤い暴風を生み出し始めた。

 そして生み出された赤い暴風は魔弾を弾きかねない猛威を振るい始めたが、宝珠が魔弾を発射する門の傍で烈風の壁を生み出し、赤い暴風から魔弾を守っていた。

 因って、乖離剣は弾幕の密度を減らす事無く出力を高めていく。

 が、宝珠が攻撃から外れたと判断した雁夜は蜘蛛の脚を2本伸張させ、魔弾を放ち続ける門を下から引っ繰り返した。

 

 通常はあれ程の弾幕の迎撃や防御手段として、神秘が圧倒的に低下してしまう空間干渉をするだけの特性を帯びさせた物質に雁夜は変化させないが、門を縦方向に180度半回転させる為ならば、攻防一体の手段として活用することに抵抗も問題も無かった。

 そして縦方向に半回転した門は宝珠が生み出す烈風と向かい合う容になり、赤い暴風から自分達を護っている烈風へと門から魔弾が次から次へと撃ち出された。

 だが、予め乖離剣が放たれる直前迄魔弾を赤い暴風から守れるだけの出力で展開されていた烈風は、凄まじい勢いで放たれる魔弾と赤い暴風を受けて尚破られることは無かった

 が――――――

 

「そっちこそな!」

 

――――――雁夜の叫びとほぼ同時に蜘蛛の脚が更に4本伸張した。

 1本は弓なりに門を超えて超えて宝珠を弾き飛ばし、もう3本は門へと突き刺さった。

 そして、あろうことか門を音を超えた速度でギルガメッシュの方へと押し出した。

 結果、完全に意表を突かれた攻撃の為、ギルガメッシュは門を消すかどうかの判断を一瞬躊躇った。

 

 門を消さずに攻撃を中断して防御用の宝物を取り出すか、門を消して素早く雁夜の迎撃に出るかがギルガメッシュの脳裏を過ぎった選択だった。

 だが、門を消さずに防御用の宝物を取り出したところで、防御用の宝物の固定が生半可ならばそれが門と一緒に自身に襲い掛かり、門を消せば防御用宝物無しで雁夜を迎え撃つことになるという、何方も不安が残る選択であった。

 更に、何方を選択しても雁夜が門の後ろに存在しているかは定かでなく、雁夜が門の後ろ側に居なければ、門を消さなかった場合は死角を大幅に残している状態になり、門を消していれば防御が手薄になるという、此の場合も何方を選択しても不安が残るものであった。

 しかも、場所が特定出来ていなければ鎖による攻撃は勘に依る一点集中攻撃か広範囲無差別攻撃か魔弾の迎撃かの三択しかなく、一点集中攻撃は外れる公算が高く、広範囲無差別攻撃は効果を期待出来ず、魔弾の迎撃に当たれば雁夜に時間を与えて大技を許してしまうという、何れを選択しても危険になる選択肢であった。

 その上、宝珠も鎖と同じく、勘頼みの一点集中攻撃か、効果が期待できない広範囲無差別攻撃か、大技の時間を許す魔弾の迎撃かの三択しかなく、他の選択と同じく何れを選択しても危険になる選択肢であった。

 そして、乖離剣を前方に構えて赤い暴風で魔弾を迎撃すれば前方以外は隙だらけになり、防御用宝物を弾き飛ばさない為に乖離剣を停止させても隙だらけになり、雁夜の接近に備えた構えをすれば魔弾を完全には赤い暴風で弾けないので鎖か宝珠を使用しなければならず、今迄と同じくどれを選択しても危険になる選択肢であった。

 それだけでなく、門の方向転換や魔弾を被弾する前に回収するという、逆転の一手に見えてまず間に合わない甘い罠も在り、雁夜の行動は非常に性質の悪い一手となっており、これらを一瞬の内に判断しなければならないというのがそれに拍車を掛けていた。

 

 ギルガメッシュは自身の身体と乖離剣と天の鎖と創世の宝珠と魔弾の射出という5つもの異なる攻防手段を有する為、緊急時には其其の選択が他にどの様な影響を及ぼすのかも考慮し、更に比較した上で取捨選択を瞬時に行う必要が在った。

 しかも面倒だからと迂闊に互いに及ぼす影響を考慮対象外とすると、足を引っ張るどころか自滅してしまう可能性も高い為、目の前に脅威が迫っているからと迂闊に決断することは出来なかった。

 そしてギルガメッシュは雁夜が魔弾の射出を封じていなかった狙いが魔弾の反転を狙っていたからではなく、多数の手段を持つ故の演算処理速度超過を狙っていたと気付いた。

 だが、それに気付いたからといって目の前の状況が好転する筈も無く、魔弾は直ぐにでもギルガメッシュを貫かん距離に在った。

 

 しかし、瞬き一つする間に串刺しになりかねない程に迫った魔弾を前にしながらもギルガメッシュは焦った様子も無く、全力で後方へと跳躍した。

 が、それだけで魔弾と距離を離せる程に魔弾の速度が遅いものでないのはギルガメッシュも十分承知している為、弾き飛ばされた宝珠を手元に呼び戻す為の時間を鎖で魔弾を辛うじて弾きながら稼ぐ。

 同時に、相手に利用されるだけでなく思考に枷を嵌めて咄嗟の判断を鈍らせる門の展開を解除した。

 更にギルガメッシュは後方への跳躍中に180度体勢を入れ替え、今迄の方向へ背を向ける様に着地した瞬間、全力で自身の元に戻ってくる宝珠へと疾走した。

 勿論背後から迫る魔弾は鎖と赤い暴風で弾いているがそれも全ては捌けていないのだが、大幅に数を減らされた魔弾ならばギルガメッシュは持ち前の研ぎ澄まされた五感と第六感を駆使して素手で払い、背後の魔弾を捌きながら宝珠と合流を果たす。

 

 宝珠と合流を果たしたギルガメッシュは即座に宝珠を中心に円盤状に風を展開させ、到達を遅らせるどころか鎖と赤い暴風で弾くことも出来なくなり始めた魔弾を防ぐ。

 その直後、ギルガメッシュは素早く再び半回転し、更に自身の後方へ鎖を迎撃目的ではなく探知目的で張り巡らせつつ、取り出しや使用に時間の掛かる宝物に因る援護をを行わず、自力で放てる限界迄急いで乖離剣の出力を上げる。

 そして、刹那の間に晴れた魔弾の嵐の向こう側で、外に魔力を漏らす事無く内側に魔力を籠め続けていた雁夜目掛け――――――

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

――――――自力で放てる全力で以って地獄の風を解き放った。

 だが、最強の聖剣を鼻で嗤える出力の地獄の風は――――――

 

右四脚の払い(右目の禊)!」

 

――――――穢れを祓う創世の風を纏った蜘蛛の脚の4本で払い散らされた。

 更にその直後、宝珠と鎖目掛け――――――

 

左四脚の払い(左目の禊)!」

 

――――――再び穢れを祓う創世の風を纏った蜘蛛の脚の4本が振るわれた。

 結果、鎖は核であろう両端を残して殆どが弾け散り、宝珠は自動で纏ったであろう防御の風の為無傷であったが約10km程先の海底迄弾き飛ばされた。

 

 鏖殺の一撃を瞬時に相殺され、その一瞬後には防御と回避手段を一時的にしろ瞬時に封じられ、門は視界確保と演算処理速度上昇の為に閉じており、可也無防備な状態へとギルガメッシュはなった。

 そして雁夜は此の好機を逃さぬ様に遷音速 の踏み込みでギルガメッシュへと肉薄し、渾身の左正拳逆突きをギルガメッシュの水月付近に放つ。

 が、直撃する前にギルガメッシュは拳の軌道に乖離剣を割り込ませた。

 しかし回転が殆ど停止している乖離剣で雁夜の拳を弾ける筈もなく容易く押されるが、ギルガメッシュは乖離剣が自分の胸に付く前に後方へと跳躍を開始し、雁夜の拳ごと乖離剣が胸に付く時には既にギルガメッシュの足は地を離れていた。

 結果、ギルガメッシュは乖離剣を盾にした為雁夜の拳で胸に孔を穿たれることなく、胸骨を亀裂骨折させられながら殴り飛ばされるだけで済んだ。

 だが、まるで逃さないとばかりに先に引き戻した右の蜘蛛の脚の上2本を使い、伸張し始めた鎖をある程度延ばした蜘蛛の脚の先端を刃状にして斬り刻み、ギルガメッシュの傍へ戻ろうとしている宝珠は極超音速で蜘蛛の脚を伸張させて叩き付け、今度は海底数百メートルに減り込ませた。

 そしてそれを見たギルガメッシュはそれだけでは終わらず更なる追撃が来ると判断し、自身の前に門を多重展開しながら防具を具現化させようとする。

 

 当然ギルガメッシュは防具の具現化が間に合う筈が無いのは百も承知しているが、門自体とその奥の防具を幾つも重ねて前面に配置することで盾代わりとした。

 それに一瞬遅れ――――――

 

下四脚の払い(御鼻の禊)!>

 

――――――常人では聞き取れない速さでの掛け声と共に、穢れを祓う創世の風を纏った4本の蜘蛛の脚が交差する腕の様な容で門とその奥の防具を斬り裂きながらギルガメッシュを襲う。

 最強の聖剣の一撃すら防げる盾も混じっていたが容易く3枚も切り裂かれた。

 更に4枚目も切り裂いたものの、5枚目は完全には切り裂けずにその儘ギルガメッシュの方に押し遣り始めた。

 そして6枚目以降の盾は門ごと纏めて押し遣ることになったのでギルガメッシュへ襲い掛かる蜘蛛の脚の速度は落ち、押し遣る最中に7枚目迄切り裂いたものの13枚目を押し遣れず、遂に蜘蛛の脚は停止した。

 が、次の瞬間には交差していた蜘蛛の脚の先端が花開く様に弾けた。

 瞬間、残り6枚を一気に切り裂いた4本の蜘蛛の脚がギルガメッシュに襲い掛かる。

 しかし、減速して一瞬とは雖も停止しさせて時間を稼げた為、ギルガメッシュは6枚も盾を切り裂いて威力が大幅に減衰した蜘蛛の脚を弾ける程度には乖離剣を起動させることが出来、拍子を見誤らずに一度逆風に乖離剣を振るって蜘蛛の脚を全て弾いた。

 尤も、最速で一定出力にする為に消耗率を完全度外視したので、一瞬だけとはいえ自身の限界出力を超えて乖離剣に魔力を流し込んだことに因り、ギルガメッシュは少なからず消耗することになった。

 とは言え、ギルガメッシュが門の一部と宝物の破壊と少なくない消耗だけで先の状態を切り抜けられたのは、此れより上を望めない程の出来と言えた。

 

 辛うじて雁夜の怒涛の反撃をギルガメッシュは捌ききり、此れで仕切り直しになるかと思われた。

 だが、仕切り直しにはまだ早いとばかりに雁夜は再びギルガメッシュへと肉薄し、左の上から2番目の蜘蛛の脚で袈裟に斬り掛かる。

 が、それをギルガメッシュは左斬り上げ気味に乖離剣を振るって容易く弾く。

 しかし右手に持った乖離剣を振り上げた為に出来たがら空きの右脇腹へ、雁夜は更に半歩踏み込みながら左フックを斜め上から放つが、それに対してギルガメッシュは左掌底を放って雁夜の左拳を防ぐ。

 尤も、雁夜とギルガメッシュの筋力は倍以上離れているので手加減されなければ受け止められないのだが、ギルガメッシュは雁夜の拳を自分の背の方に弾いてなんとか捌く。

 

 水平や下方向からの攻撃ならば跳躍して威力を逃せるが、上方向からの攻撃は流石に場所や体勢や時間的に出来ぬので、ギルガメッシュは止む無く左手も使って雁夜の攻撃を捌いた為、一時的に両腕が技後硬直状態に陥り、胸元から顔面がら空きになった。

 そしてがら空きの顎目掛けて雁夜はアッパーを放とうとするが、ギルガメッシュは膝蹴りを雁夜の腹に放つことでアッパーを放とうとしていた右腕を防御に充てさせて雁夜の攻撃を防ぐ。

 しかし、まだだと言わんばかりに雁夜は先程門や盾を斬り裂いた後に乖離剣で弾かれた蜘蛛の脚四本を、弾かれた勢いを利用した円運動で以ってギルガメッシュへと攻撃を放つ。

 宛ら×という記号を描く様に迫る蜘蛛の脚だったが、ギルガメッシュは2本は途中で他の蜘蛛の脚に激突して停止停止乃至軌道が逸れると判断したが、即座にその考えを破棄して4本全てを迎撃するように意識を切り替えた。

 直後、他の蜘蛛の脚と激突する筈だった2本の蜘蛛の脚は、まるで其処に何も無い様に蜘蛛の脚を透過した。

 だが、寸でのところでそれに気付いたギルガメッシュは片足のみで何とか後方に跳躍して雁夜と距離を取り、先程よりも赤い暴風を撒き散らしている乖離剣を右回りの弧を描く様に振るって左上と右上と右下の3方向から襲い掛かる蜘蛛の脚を弾き、左下の蜘蛛の脚は鎖を巻き付けた左手で弾いた。

 鮮やかなギルガメッシュの迎撃を見た雁夜は、状況が拮抗状態になったと判断した。

 

 ギルガメッシュの右手で力強く起動している乖離剣は一薙ぎで蜘蛛の脚を3本は弾け、ギルガメッシュの元に戻るのではなく雁夜の邪魔をする様に動き出した宝珠は蜘蛛の脚2本を抑え、鎖はギルガメッシュの左腕を手甲の様に覆いながらも伸張し続けることで蜘蛛の脚1本を釘付けにし、右腕を除くギルガメッシュの身体能力と戦闘技能や技術で蜘蛛の脚1本と雁夜の猛攻を捌ける為、状況は拮抗していると言えた。

 尤も、雁夜は蜘蛛の脚の残り1本と特攻魔術を残しているが、それはギルガメッシュの切札や魔弾に対する備えであるのでそう簡単に使用するわけにもいかず、ギルガメッシュも強引に門を展開したり何かしらの切札を切ろうものなら後の先を取られて敗北しかねないと解っている為、何方も思い切った行動に出れなかった。

 少なくとも、絶殺を前提にした殺し合いならば余力が有る内に博打は張ることはあるかもしれないが、互いに相手を超えんとする勝負で運頼みの要素が強い博打を序盤の内に張る気は双方無かった。

 因って、此の辺りが仕切り直し時だと判断した双方は後方に跳躍し、距離を取った。

 

 20m弱の距離を取り、雁夜は全ての蜘蛛の脚を引き戻して臨戦態勢を解き、ギルガメッシュは宝珠を傍に戻し且つある程度鎖を伸張させた後に乖離剣を停止させて臨戦態勢を解いた。

 暫し無言で互いを見詰めていた両者だったが、ギルガメッシュが愉快気に雁夜へ声を掛ける。

 

「いや、驚いたぞ。

 まさか我が宝物の弾幕をあの様な手段で対処するとはな」

 

 賞賛ではなく感嘆が籠められたギルガメッシュの言葉に対し、雁夜は苦笑混じりの声を返す。

 

「驚いたの俺の方だ。

 まさかあれだけの攻勢を掛けても捌かれるなんてな」

 

 雁夜のその言葉を聞き、ギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「おまえ自身の性能は確かに我よりも遙かに優れているだろうし、機転や判断力は我と同等か超えているやもしれん。

 だがな、経験や知識や戦闘技術や財に関しては我が遙かに優れている」

「だろうな。俺の戦い方は圧倒的性能任せの力押しだからな。

 打ち合えなくても逸らせるだけの性能を相手が保有していたら途端に鍍金が剥がれるからな」

 

 苦笑混じりにそう返す雁夜。

 だが、ギルガメッシュはそんな雁夜の発言を感心した表情で聞きながら言葉を返す。

 

「小手先の技法に走らず、己の性能を引き出すことに終始したのは間違い無く正解だぞ。

 以前の様に1本しか自在に振るえぬ状態でどれだけ技法を習得しようが、以前よりも圧倒的な神秘を纏って8本自在に動かす今の状態には遠く及ばん。

 小賢しさを身に付けた程度では我が至極の3宝の前に空しく散るだけだからな」

「ああ。そう思ったから技法ではなく性能の上昇や引き出し方に終始した。

 まあ、俺の基本性能的に剣術とかの相手になる奴がいなかったってのもあるけどな」

「だろうな。仮に騎士王に師事したところで、お前がある程度力を籠めて素振りをすれば目で追いきれずに指導自体が成立たんだろうからな。

 かといってお前の伴侶はお前に輪を掛けて性能や異能で相手を圧倒する類だからな。

 どちらにしろ独力で道無き道を歩むしかないならば、先ずは自身の扱い方を優先するのは当然だからな」

 

 正鵠を射た考察を述べるギルガメッシュ。

 だが、それに対して雁夜は内心の動揺を出来る限り隠しながら言葉を返す。

 

「伴侶とは一体全体何処の誰のことだ?」

 

 噛まずに極普通に言えた自分を内心で褒める雁夜だったが、ギルガメッシュは呆れた顔をしながら呆れた声音で答える。

 

「往生際が悪いぞ。お前達の日常生活はあそこの娘から聞いている。

 何でも、抱き合って眠るのは間々あることらしいではないか?」

「おおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいい!!!桜ちゃああああああああああああああん!!!???」

 

 ギルガメッシュが顎で杓った方の数百メートル先、邪魔にならない為と結界外を監視する為に虚空(雁夜達の居る島の頭頂部とほぼ同じ高度)に佇んでいる桜の方を見遣りながら問い掛ける雁夜。

 だが、桜は苦笑いしながら両手を軽く顔の前で合わせて詫びた後、聞か猿の様に耳を塞いで明後日の方向を向いた。

 そしてそんな雁夜と桜を愉快気に眺めながらギルガメッシュは更に続ける。

 

「あの娘は存外に話せる奴なのでな、我だけでなく若返った我ともそこそこ話すことがあってな、共に夕餉を作り、共に寛ぎ、共に寝たりしている癖に、未だに自分に遠慮して契りを交わしていないと愚痴っていたぞ」

「ぶっ!?」

「まあ、水着姿を見て赤面したり、ふとした拍子に視線が合うと赤面したりと、子供の様に純情な様は見ていて楽しいとも言っていたがな」

「ぶはっっ!!??」

「あれだけの器量良しと9年も暮らして手を出さないでいられるのは表彰モノの意思とヘタレさか、特殊性癖の持ち主かのどっちかだと思うとも言っていたぞ」

「ぶぁっはっっっ!?!?!?」

 

 雁夜は長年一緒に暮らしてきた桜から、自分に構わず肉体関係を持ってほしいと思われていたのも堪えたが、自分と玉藻の関係を微笑ましく見られていたということが更に堪え、況してやヘタレは兎も角特殊性癖持ちと思われているらしいというのは首を吊りたくなる程に堪えた。

 そして、今にも膝が崩れ落ちそうな雁夜だったが、辛うじて堪えながらギルガメッシュへ反論を試みた。

 

「いや、俺もあいつもガキじゃないんだから、ガッツク必要は無いだろ?」

「それで9年間進展無しは寧ろ待たせすぎだぞ?

 焦らしてるのではなく待たせ過ぎなのは、女子男子に関わらず褒められたものではないぞ?」

 

 その言葉に桜だけでなく玉藻も力強く頷いているのが雁夜の目に映った。

 だが、ヘタレだけでなく考えがあって待たせ過ぎている雁夜としては、理由を話していないギルガメッシュと桜の反応は兎も角、理由を話した玉藻の反応は凄まじく納得がいかなかった。

 が、だからといって自分達の将来設計を大大的に話すつもりは微塵も無いので雁夜は反論を飲み込み、代わりに話題を逸らすだけでなく意趣返しも含めてギルガメッシュへと問い掛ける。

 

「俺が9年進展させないのが大概なら、9年待つのも大概だと思うぞ?」

「はっ。正確には9年経ても興味が薄れていないだけだ。

 如何にセイバーが我の妻に相応しいと言えども、それだけを思って9年過ごすほど我も暇ではないぞ。

 まあ、流石に女子の身で男子を待たせすぎだとは思うがな」

「なら朗報を一つ。

 四次は聖杯が完成しても使用されずに終わったらしいから、五次は後9~12ヶ月後らしいぞ」

 

 諸事情で冬木どころか那須の山すら離れて(家出)いたので、玉藻から軽く聞かされただけの第四次聖杯戦争という身の丈に合わない奇跡に集った者達の結末を思い出したが、雁夜は割と如何でも構わないことだと切り捨てながら玉藻に聞かされた内容をギルガメッシュに告げる。

 そしてそれを聞いたギルガメッシュは獰猛な笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「くくくくく。確かに朗報だな」

「尤も、四次のセイバーが召喚されるかどうかは判らないけどな」

「問題無い。あれは我の妻だ。

 我のものはどれほどの時を経ようと、再び我が許に戻る定めにある」

 

 セイバーの召喚を微塵も疑う事無く、独自の理論を当然の如く語るギルガメッシュ。

 対して雁夜は苦笑しながら言葉を返す。

 

「なら確り鎖で繋いでてくれ。

 さっきも言ったが、ああいう手合いは不動の大樹の様に全てを俯瞰する者か、自分より遙かに地に足が付いていない上に身の程を弁えない極大の馬鹿かの何方かしか制御出来ないだろうからな。

 それに、そいつの願いが叶うとしたら、少なくとも現代の地球上に存在する人類どころか幻想種すら含めて鏖殺し尽くした後に望んだ過去を再現するという阿鼻叫喚が訪れるだろうから、是非とも手綱を握ってほしい」

「無論、言われるまでもない。

 この勝負に勝つという偉業を刻んでセイバーを娶るとしよう」

「残念ながら偉業の内容は、俺に惜敗したという内容になるけどな」

 

 乖離剣をゆっくりと起動させながらそういうギルガメッシュに対し、雁夜はゆっくりと蜘蛛の脚に力を注ぎ込み始めながらそう返す。

 そして雁夜は鎖を静かに伸張させ始めたギルガメッシュへと告げる。

 

「お互い馬鹿話で小休止も出来たし、そろそろ続きを始めるとするか」

「そうだな。

 だが、1分そこらであそこまで力を使うとは思いもしなかったぞ」

 

 実際ギルガメッシュの消耗度はライダーと戦った時に匹敵しており、恐らく雁夜と玉藻を除く四次聖杯戦争のメンバー全員と戦っても此処迄消耗しない程の勢いで消耗していた。

 そして此のことがギルガメッシュは痛快なのか、獰猛さと清清しさが同居する笑みと声を更に雁夜へと向ける。

 

「我が朋友との勝負は三日三晩に及び、力と技法を力と直感に叩き付け合い続け、我が技法が我が朋友の直感を上回れるかを競い続けた。

 だがお前との勝負は、我の力と技法がお前の力と機転を食い破れるか屈するかという、早ければ数分で終わってしまうという短期勝負だ」

「相性的にも長丁場になんてならないからな。

 思考が過ぎれば隙を晒し、浅薄ならば躯を晒す。

 おまけに天秤の針の動きは激しいくせに、針がある程度傾けば後はその儘針が振り切れて終りだからな」

 

 伸張した鎖の先端を宝珠に絡ませているギルガメッシュに雁夜は苦笑しながら返し、更に続ける。

 

「ま、お互い悠長な気質じゃないから、此れくらいの速さで丁度良いだろう」

「我としてはもう無いだろう此の機会を長く味わいたいところだが、存分に味わうには短期勝負が一番ならば是非も無い」

 

 撒き散らしていた赤い風が暴風に変わり始めた乖離剣へ、宝珠に絡ませた鎖の端とは逆の方の端を絡ませながらギルガメッシュは言葉を返す。

 それに対し、小出しに扱える限界迄力を溜めながら雁夜は告げる。

 

「さて、それじゃあ再開するとしようか」

 

 乖離剣が回転の勢いを強めて巻き付いた鎖に赤い暴風を纏わせ、更に跳ね回るはずの鎖を宝珠の操作能力を鎖に迄拡大して制御しながらギルガメッシュも告げる。

 

「名残惜しくも楽しみな、最後の激突をな」

 

 そう告げ終えると、宝珠が創世の風という清浄さだけでなく神聖さも併せ持つ風を発し始め、更に神聖さに反応して鎖の強度が飛躍的に上昇し、乖離剣との摩擦や赤い暴風にすら問題無く耐え得る強度と成った。

 更にその均衡の儘宝珠と乖離剣の出力を爆発的に高め、地獄の風を纏う規格外の強度を持った鎖を鞭の如く自在に振るい且つ先端からは創世の風という砲撃を放てる、ギルガメッシュが此処9年で確立した最強の状態で以って雁夜を見遣る。

 対する雁夜は8本の蜘蛛の脚だけでなく全身に隈なく力を漲らせ、更に小出しに使用可能な限界迄力を溜め込み、其の上その状態を維持し続ける為に自身の生命力を呼び水にして魔力を根源から汲み上げ続け、最強の聖剣の一撃すら容易く腕で払える程に自身へ魔力を焼べて強化するという、単純故に極めて破り難い最強の状態でギルガメッシュを見遣った。

 

 視線の交差は数秒。

 その後、示し合わせたかの如く、何の脈絡も無く両者は臨戦態勢に移行した。

 ギルガメッシュは鎖で乖離剣と宝珠を繋いだ物を、宛ら朝星棒(モーニング・スター)の如く踊らせ始めた。

 対する雁夜は、先ずは小細工無しで即座に攻めると言わんばかりの構えを取った。

 

 再び視線が数秒交差した後、雁夜は音すら引き裂く速度でギルガメッシュへと突撃し、ギルガメッシュは空間を切り刻むかの様に朝星棒を振るった。

 

 

 







  桜とバルトメロイとウェイバーが渡された物の詳細、及び雁夜とギルガメッシュの大体の強さ関連(可也の長さ且つ可也の厨二要素が含まれておりますので、それらが御嫌いな方は読まれない事を全力で御勧めします)


【無銘(試作品):A+】

 ショール(少し短めの純白の羽衣)型の礼装(宝具)。

 効果は強化のみ。
 但し、存在だけでなく抽象的な概念すら強化が可能。
 即ち、〔走る〕、〔隠れる〕、〔命令する〕、といったことすら強化が可能。
 強化はB以上迄高めることが可能だが、確固とした概念が在り且つ瞬間的な類ならばA+迄強化が可能。
 尚、布術の様に操って攻撃することも可能だが、操作する技術は礼装ではなく使用者の技術や魔術に依存する。


【無銘(試験品):A+】

 ネックレス型(黒曜石の様な勾玉が一つ付いた首飾り)の礼装

 効果は魔術回路の破壊のみ。
 方法はマナに魔術回路を破壊する要素を混ぜ込み、それを相手に吸収させて魔術回路を変質させるか、使用者の肉体乃至装備に魔術回路を破壊する物質を纏わせ、直接相手に送り込むかの2通り。
 魔術回路変質物質を魔術回路に取り込んでしまった相手は、その後魔力を流せばそれに応じて魔術回路が自壊してしまう。

 B以下の守りしか持たぬ者には防御不可能であり、試作品に魔術回路変質物質を纏わせる若しくは試験品を直接相手に接触させればA迄の防御手段を無効化する。
 変質した魔術回路を回復させるにはA+以上の干渉が必要。
 尚、魔術回路でさえあれば種族を問わずに作用するが、逆に魔術回路でなければ種族を問わず効果を発揮せず、貴い魔術回路という特殊な魔術回路を持つバルトメロイには全く効果が無い。


【無銘(完成品):A++(A+++)】

 無形の礼装(宝具)であり、通常時は使用者に融合している。
 待機状態時は使用者に融合しているが、起動させると使用者の望む形へと変化する(融合状態の儘起動させることも可能)。

 試作品と試験品の能力が1ランク上がっただけでなく、待機状態でもA以下の魔術干渉を完全に遮断するが、起動させればA+以下の魔術干渉を完全に遮断し(対魔力A+相当)、更にA++の魔術干渉も判定次第で遮断する(遮断できなければ軽減する)。
 試作品と試験品を融合させることで+判定が一つ追加されるが(融合解除可能)、融合させる為には体外で形にする必要が在る。
 尚、魔術干渉の遮断の効果を広義に拡大強化すればあらゆる干渉の遮断すら可能になる(魔術干渉遮断に比べてランクが下がる上に使用者の意思が必要になる)。
 又、3部作は全て使用者若しくは認められた者以外が触れれば(魔術干渉含む)、魔術回路を焼き切るか変質させるだけでなく脳神経すらその対象になる(使用者権限の移譲は可能)。


【玉桜夜:EX】

 雁夜の身体を素材とし、更に玉藻の神気を大量に取り込んで精製された、桜の為の究極礼装(宝具)。
 形状は黒の勾玉に白い紐を通した装飾品と、と白の勾玉に黒い紐を通した装飾品で、巻き付け方次第で腕にも首にも着けられます。

 基本効果は無銘(完成品)のA+++版と言えますが、此方は魔術干渉ではなく干渉自体を遮断するので遙かに高性能です。
 更に二つの勾玉と紐を融合させて大極図へと変化させると、無の否定や神霊魔術は出来ませんが、魔法の域すら可能とする空想具現化が可能になります。

 但し、空想具現化を使用した際はその後マナではなくオドを使用して自然を回復させなければなりません(自分のオドを使用する必要は無く、他者のオドの魔力を霊脈に回収させたりしても可)。
 更に回復させる自然は空想具現化の規模により増大します。
 尚、回復させる自然の規模は、使用した空想具現化に費やされた魔力が暴走した際の被害規模の150%となっており(ガイアから魔力を借りれば200%)、詳しくは使用者の脳に具体的に思い浮かぶ仕様になっており、1年を超えても自然の回復が為されなければ使用者から魔力が奪われます。
 が、それを周囲に押し付けることは可能です(しかも回収を早めることも可能)。
 又、空想具現化で自然を破壊しようがしまいが回復させる自然の規模に変化は無いです。
 他にも神霊(玉藻縁の者)との交信や降臨を行う触媒にもなり、サーヴァント級の者ならば5体までは従えることすら可能です。

 使用者権限を与えることは可能ですが、桜が直接認めた者か桜直系の者のみとなっています。
 ですが、使用者権限を与えようとも、桜だけは常に最高位の使用者権限を有し且つ手元へ召喚可能です。
 尚、普通の魔術回路の者が認証されて使用した場合、使用者の魔術回路が破壊されない様常に性能の一部を制限する必要がある為、その際にはランクがA++となり、空想具現化の限界もA++になります。

 因みに、魔法という現代常識を超えている技術を使われている以前に、生態礼装と言える代物なので、士郎が投影出来るかは可也怪しいです。
 又、仮に投影出来たとしても、〔桜以外が使う際には桜の承認か、桜に認められた者の譲渡承認が必須〕、という基本構造がある為、投影した瞬間に士郎の魔術回路や神経系が破壊され尽くされて廃人になります。


【無銘(量産型):A+】

 ウェイバーが雁夜から受け取った身体融合型の礼装(宝具)で、バルトメロイの無銘(完成品)の汎用型です。
 一般的な魔術回路持ちが使用可能にする為に性能が+判定一つ分落ちていますが、それ以外はバルトメロイが持つ物と同性能です。
 尚、使用者権限を委譲するには煩雑な儀式を行い、更に現使用者権限を持つ者が死亡した後に後継が可能になります。
 

【無銘(次世代試作品):A+】

 ウェイバーが雁夜から受け取った粒子状の礼装(宝具)で、通常は使用者の身体の温度躍層辺りに滞留しています(透明体且つ分子級の大きさの為、視認は基本的に不可能)。
 仕様は他者の魔術回路の強制使用で、A以下の守りしか持たない者の魔術回路を一方的に利用し、使用者の外部魔術回路と言うべき存在にすることです。
 範囲は半径3000mの真球空間ですが、使用者の意図で同体積で収まる範囲ならば変形可能です。
 尚、外部魔術回路なった者の魔術回路が焼き切れても使用者は何ら傷を負いません。
 又、複数人の魔術回路の性能は使用者以外の者で収束させ、フラガラックの様なかカウンター型の宝具に対する備えとすることも可能です。
 但し、魔術回路を持たない者にとってはまるで意味を持たない礼装ですが、先の礼装で効果対象の幅を広げれば魔術回路持ち以外にも通用します(礼装の効果を強化すればÅ+迄対象となります)。

 雁夜の魔術師嫌いが前面に押し出された、魔術師にとっての悪夢が具現された礼装Ver.02αです。


【無銘(次世代試作品):A+】

 ウェイバーが雁夜から受け取った変形寄生型の礼装(宝具)で、通常は使用者の身体内に潜んでいます。
 仕様は他者の魔術回路の変質で、使用者の身体より魔術回路汚染物質を散布し、汚染された者の魔術回路で成された魔術全般に対する究極耐性の会得です。
 汚染自体はA~A+ランクの干渉で防げますが、一度汚染されれば復元は魔法級の神秘が必要となりますので、事実上現代の魔術師では回復が敵いません。
 又、汚染された魔術回路に根付いた魔術刻印ならば魔法級の神秘に護られていない限り引き剥がして自身の物とすることも可能ですが、その際は相手の魔術回路は使用者に取り込む為の触媒として使用されて完全に燃え尽きますので、相手の魔術師生命は完全に断たれます。

 雁夜の魔術師嫌いが前面に押し出された、魔術師にとっての悪夢が具現された礼装Ver.02βです。


【雁夜とギルガメッシュの位階】

 雁夜のスペックは、神霊の中位(凄まじく下位寄り)。
 宝具無しのギルガメッシュのスペックは、精霊の下位。
 宝具ありのギルガメッシュは神霊の中位(凄まじく下位寄り)。
 雁夜と宝具無しギルガメッシュの総合スペックは可也の開きが在りますが、宝具有りギルガメッシュだとほぼ同数値です。

 具体的にはプライミッツマーダーと正面から戦っても勝ちを狙える程の強さに設定しています(分は悪いですが)。
 尚、絶対殺害権が魂も人外になった元人間の雁夜と、半神半人のギルガメッシュに効くかどうかで勝率は下がりますが。

 因みに此のSSのギルガメッシュの別格宝具の乖離剣と宝珠と鎖ですが、乖離剣 > 鎖 > 宝 珠 > 乖離剣、と、三竦みになっています。
 宝珠は清浄さとセットで神聖さも発生させるので鎖に弱く、鎖は神に関連する要素が無い乖離剣に弱く、乖離剣は地獄を祓うことに特化した宝珠に弱いです。
 後、起動している乖離剣に鎖が絡んでも壊れない理由は、宝珠の出力に反応して鎖が強化されているからです。


【桜の強さ】

 第五次キャスターと魔術や呪術のみで勝負すれば、勝率は10%前後です(互いに礼装や地形効果等のバックアップ無し)。
 宝具有りの凜セイバーと何でも有りで勝負すれば、勝率は50%前後です(桜は礼装や地形効果等のバックアップ無し)。

 玉藻から伝授された、〔呪層・黒天洞〕、のおかげで特殊効果無しの単純な高出力一発勝負とは相性が極めて高いです(ダメージ軽減率は玉藻と同等ですが、魔力吸収率は玉藻の30%前後です)。
 戦闘が始まって空迄移動出来るかどうかが最大の分かれ目になりますので、移動出来ればほぼ桜の勝ちで、移動出来なければ勝ち目は可也低いです(約10%)。
 しかし一度距離を離せば滞空攻撃が単発しかないセイバーではまず勝てませんし、呪術は対魔力では防げませんのでセイバーやランサーを一方的に屠れます。
 ですが、滞空攻撃を連打出来るアーチャーは天敵です。

 まあ、原作ライダーが前衛で頑張るか、礼装や地形効果のバックアップを桜が受ければ、流石の赤アーチャーもアッサリやられますが(恒常的にA++を遮断するので赤アーチャーでは傷付けられませんし)。
 但し、ギルガメッシュだけは別格です。
 此のSSのギルガメッシュが油断しなければ桜の勝率は1%前後です(バックアップ込み)。

 因みに桜の魔術回路は雁夜の不思議物質と玉藻の神気で、本数や属性どころか性質から変質しています。
 喩えるなら、人外雁夜と神霊玉藻の子供の様な感じで、間違い無く強キャラです。
 しかも属性が架空元素の虚だけでなく、水と架空元素の無も追加されています。
 其の上、治療されたお蔭で歪む事無く生来以上の質で三属性を兼ね備えており、魔術回路の質は規格外で量は規格外半歩手前という、知識や技術は兎も角基本性能ならば五次キャスターを超えています。

 まあ、出番が無いので完全に無駄設定ですけどね。
 ですが、個人的に桜はお姫様的ポジションが似合うと思っていますので、強キャラになって無双する場面を描写しなくていいのは一安心です。
 某マリオカートの様に、毒キノコを投げる姫様にジョブチェンジするのもアリな気はしますが。


【雁夜は何が出来て何が出来ないのか?】(作者の強烈な自己設定が多量にに盛り込まれていますので、そういうのが御嫌いな方は本当に読まれないことを御勧めします)

 はっきり意って雁夜は規模を問わないのならば、潜在能力的には何でも出来ます。
 逆に顕在能力的に出来ることは規模こそ違うものの、殆ど魔術の範疇です。若干の例外を抜かせばですが。

 雁夜が殆ど何でも可能な理由は、【無というあらゆる可能性が無い状態を否定する物質には、あらゆる事象に成れる可能性が含まれている】、為です。←当然独自設定です。
 言ってしまえば、【超小規模の劣化根源】、であり、過去現在未来の情報は無いですが、雁夜の理解力と魔力次第では全能に限り無く近付けます。←当然独自設定です。
 つまり、「両儀式」、が一番近いです(戦闘能力の開きは凄いですが)。←当然独自設定です。
 後、不思議物質で礼装(宝具)創造するには最低でも魔術師数千人分の魔力が要りますので本来は激しく消耗するのですが、常時エリクサーと万能薬が使われ続けている様な間桐低では数時間で快復しました(桜の礼装だけは快復迄半月を要しましたが)。

 尚、9年の間雁夜が自ら動いた時以外、99.9%以上は玉藻が外敵を処理しており(具体的に敵意を持ち且つ武装した者が冬木に到来した時点で神隠しに合わせています)、雁夜が処理するのは交渉(と言っている強請りや集り)が決裂した際に逆切れして襲い掛かってきた時程度です。


【雁夜の蜘蛛の脚が良く解らない件について】

 雁夜が自覚して人外に成った時、背から生えた8本のナニカを蜘蛛の脚と呼称しています。

 蜘蛛の脚の根元は不可視で、雁夜の背中から少し離れた所から棒が若干放射状に生え、其処から触手の様なものが生え、更にその先端に薙刀の刀身の様な刃が付いています(解らなければ某Diesの主人公の終曲の時の脚が離れた所から発生していて、先端の刃を鎌でなく長刀の刃にした感じだと思って下さい)。
 雁夜の意思で消したり出したりが可能であり、更に形状変化や部分展開、更には自身だけでなく自身以外も透過することもも可能です(意識しない限りは基本的に雁夜や蜘蛛の脚を透過します。後、雁夜自身も透過が出来ます(恥ずかしさの余りに地中へ隠れる際に出来ることに気付きました))。
 尚、髪や爪と違って破壊されればダメージを負います。

 背から生えるなら翼や羽ですが、雁夜は玉藻を象徴する9という数字の隣に居たいと無意識で強く想った結果、8本の蜘蛛の脚が生えることになりました。
 尚、10本でない理由は、人外に成る時雁夜が玉藻に敵わないと思っていたことが原因です。
 因って、形状変化で枝分かれは出来ても根元から増やすことは現在不可能です。
 後、桜にその辺りを玉藻の前で全て言い当てられてしまった為、玉藻は雁夜の蜘蛛の脚を凄まじく好意的に捉えています。

 それと雁夜が言っていた、左目や右目や御鼻の禊は、創世の風を纏わせた蜘蛛の脚の払い攻撃です。
 気付いている方も多いでしょうが、左目が天照、右目が月読、鼻が須佐之男を示しています。
 ですので、其其の攻撃は其其の特性が色濃く反映されています。
 左目は日が照っている時間(特に晴れ)だと威力が増し、更に神や神地や神器を律することに長けます。
 右目は月が照っている時間(特に晴れ)だと威力が増し、更に神殺しの属性が附加されています。
 御鼻は海原と神地以外の場所だと威力が増し、更に蛇と龍殺しと耐火の属性が附加されています。
 尚、払いと祓いを掛けていますので、払い以外の行動だと威力が低下します。
 又、別に掛け声が必要と言うわけではなく、言えば集中し易いので言っているだけです。
 更に、4本でなく2本でも可能です。

 因みに、創生の風を纏った攻撃で幻想種や宝具を攻撃しても、余程構造を破壊しない限りは殺害や消滅は出来ません。
 何故なら、〔マホイミとベホマとザオリクを足して2で割ったモノ、凍てつく波動、ニフラム、トラマナ、ホーリー、エスナ〕、を一緒にして攻撃している感じだからです。
 烈風という容でなければザコ以外は普通に回復しますが、英霊でも大体ザコの括りの為、人にとっては劇薬状態です。
 後、厳密には特定要素を附加した攻撃ではなく、それらの反対要素を消し去った攻撃です。
 要するに、100のプラス要素と100のマイナス要素が合わさって0状態で拮抗しているのが通常状態ならば、具現化したい要素の対極要素を消すことで望んだ要素を具現化している状態が応用使用状態です(その際の神秘は具現化した要素に準じて加減されます)。
 それと創世の風はエアの地獄の概念を理解した上で不思議物質から地獄の要素を消し去り、更に相性の良い要素を組み合わせた結果完成したものです(エアの地獄の概念以外に、殺生石やマキリの魔術という怨念や穢れに触れ、更に浄化された姿であろう玉藻や間桐邸敷地内に触れていたのが要因です)。

 尚、創世の風でどれだけ破壊活動を行おうと、破壊される自然よりも星の寿命や体力(マナ)が回復します。
 つまりガイアにとっては最高の御褒美です(笑)。
 因って、完全にガイア側の存在が雁夜を殺そうとすると凄まじ過ぎる制限が掛かります(元が人間である為、死後アラヤに取られる可能性が否定出来ないですし、雁夜が死後を渡さないように死ぬ可能性も在りますし)。


【登場人物達の総合戦闘能力早見表(ほぼネタ)】

  ~ ランク:現代常識の域 ~

・SN最初期士郎     :001 (強い一般人)
・SN宝石無し凜     :005 (灰色熊級)
・SN後期士郎      :010 (印度象級)
・切嗣          :015 (阿弗利加象級)
・SN宝石有り凜     :015   同上
・綺礼          :020 (マンモス級)
・ケイネス        :025 (サーベルタイガー級)

  ~ ランク:常識を投げ捨てました ~

・現時点の凜       :050 (ケツァルコアトルス級)
・四次ランサー      :070 (トリケラトブス級)
・鞘無し士郎セイバー   :070   同上
・五次キャスター     :075 (ティラノサウルス・レックス級)
・凜セイバー       :075   同上
・五次バーサーカー    :085 (亜米利加ゴジラ級)
・鞘有り士郎セイバー   :085   同上
・四次アーチャー     :095 (日本ゴジラ級)
・ギルガメッシュネイキッド:100 (日本ゴジラ(VSデストロイヤー状態)級)

  ~ ランク:作品を間違えました ~

・現時点の桜       :130 (破の第03使徒級)
・現時点のギルガメッシュ :160 (破の第06使徒級)
・現時点の雁夜      :160   同上
・現時点の信仰補正無し玉藻:190 (破の第10使徒級)
・現時点の信仰補正有り玉藻:220 (第二シン化状態の初号機級)

 ……なんかもう色色とあらゆる方向にごめんなさいです。

 後、凜は霊脈の魔力を宝石に溜め込める技能を修得していますので、手持ちの宝石全てがSNの10の宝石級に魔力を溜め込んでいる上、10の宝石はSNの形見の宝石よりも魔力を溜め込んでおり、形見の宝石はサーヴァント1騎分以上の魔力を溜め込んでいます。
 此れによって原作よりも聖杯に焼べられた過剰魔力分を霊脈から奪っていますので、聖杯降臨の時期が原作と同時期になります。
 尚、宝石に籠められる魔力は原作を超えている凜ですが、家計が苦しいのは相変わらずです。
 見栄を張って雁夜が斡旋する高収入バイトを断り捲くりましたから。
 因みに戦闘力は、バックアップ(宝石と刻印有り)の凜 < バックアップ無しの桜、ですが、魔術の腕前自体は殆ど同格です。
 具体的にはバルトメロイ以外のロードに匹敵するくらいは双方有ります。
 まあ、桜は魔術より呪術に嵌っていますが。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

廿貮続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 常人なら眼球が脳髄に陥没する勢いで大気の中を強引に動き、蛇の様に暴れる鎖の邪魔な箇所を蜘蛛の脚で弾いて振り切りながらギルガメッシュへと肉薄する。

 そして、直撃すれば十分命を刈り取ると解かっていながらも、するだけ無駄な心配と断じながら右正拳順突きを繰り出す。

 しかし、過去最高の速度と威力と断言出来る一撃だったが、基本性能は兎も角技量に於いてはチンピラと格闘技世界王者級の開きが在るから、俺の一撃は容易く捌かれた。

 一応テレフォンパンチと自覚はしていたが、今迄は相手が知覚出来ない速度と逸らすことも出来ない膂力と神秘に物を言わせて全ての人型死徒を一撃で滅してきた一撃を、しかも過去最高と言えるのを容易く捌かれるのは少なからず凹む。

 が、それもどこか遠いことの様にしか感じられず、それよりも今迄と違って触手の様に枝分かれした鎖が上下左右後方から襲い掛かってくる事の方が遙かに衝撃的だった。

 

 ぱっと見た限り枝分かれした鎖の攻撃力は精精A++程度の宝具だろうけど、本筋の動きに容易く振り回されるから凄まじく軌道が読み難い。

 しかも本筋から離れていて乖離剣と宝珠の両方と結び付きが弱いせいか、鎖の強度が低下した上に纏う赤い暴風も弱くなっているが、壊れても本筋に影響が無いから可也遠慮無く振るっているから凄くウザい。

 その上、枝分かれした鎖がいくら強度や攻撃力が低かろうと、拘束されれば引き千切るには少なからず時間を食うから、その間に掘削剣の風を纏った本筋の鎖で滅多打ちされた挙句に宝珠の一撃を食らってミートソースに変身してしまう。

 いくら頑丈と言われていてもあんな地獄の風を纏った緋緋色金(オリハルコン)かってくらいに頑丈になってそうな鎖の攻撃を食らえば、良くて骨折と肉が抉れる程度で、悪ければ中身がばら撒かれる。

 流石に頭は何発かは耐えられそうだけど、頭に当たって撓んだ鎖が首に巻き付いて千切られそうなのが怖い。

 そんなこの事態に対処する方法は二つ。

 一つめは即座に離脱し且つその後も移動し続けて捌き続ける。

 二つめは踏み止まって捌き続ける。

 一つめの利点は動いている分攻撃が集中しないから捌き易く、欠点は距離があるから仕掛ける攻撃が捌かれ易い。

 二つめの利点は基本性能が物を言い易い接近戦なら技量を力で押し潰し易く、欠点は足を止めてるから猛攻撃を受け続けることになる以上は被弾や消耗は必至。

 だけど悠長に戦って互いに消耗すれば俺の知覚困難な攻撃という持ち味が下がって分が悪くなるばかりなら、さっさと決着を付けれる方が良いだろう。

 どうせ俺の攻撃手段なんて基本性能任せのゴリ押ししかないんだ。

 

 一応珍しい魔法(ツール)があるから超弦理論やヘテロティック弦理論といった上位次元理論を感覚的に理解出来ないか試してみたけど、6の次元だか21の次元だかを少し覗けた瞬間廃人の1万分の1歩手前になって以来試してないが、手段としては上位次元への干渉自体は出来る筈だ。

 けど、ほぼ確実に上位次元から三次元の俺諸共消し飛ばす自滅の一撃にしかならないから、負けるとしても使う類のモンじゃないな。

 第一、玉藻が近くに居るから大丈夫かもしれないが、下手すれば天体規模での破壊が桜ちゃんも巻き込んで炸裂する可能性が在るから却下。

 はっきり言ってソレをするくらいなら限界を超えて身体に魔力を焼べての超絶強化の方が遙かにマシだろう。

 まあ、現在の限界を超えて自分に魔力を焼べると、後日に叫びながらのた打ち回る痛みが襲い掛かる上、完治した時には身体の基本性能が上昇したせいで世界がスローモーションで進んでいる様に見えるから慣れる迄(脳が指定対象に関する体感時間を調整をする迄)が激しく気味悪くなるけど、別に死ぬわけでも深刻な障害が残るわけでもないなら即座に実行するべきだな。

 さて、そうと決まれば早速実行だ。

 一秒が数十秒に感じようが時間に止まってるわけじゃないんだから、さっさと行動に移そう。

 

 先ずは左に流された右拳を左掌底で叩きながら半歩踏み込みつつ右肘打ちで鳩尾狙い。

 掘削剣を盾にされて失敗。

 少しばかり肘が削られた。

 更に一瞬前に振り切った鎖が数十の鞭撃で宛ら投網を形成するかの如く襲い掛かる。

 が、削れた肘のお蔭で生命力を削って呼び水にするイメージがし易くなったから、右肘辺りから自分を削って魔力供給管を形成して彼方側に接続及び維持する。

 そして、投網の様な鎖の鞭撃の嵐が到達する前に魔力を注げば注ぐだけ強化する此の身体に、耐久限界を超えた魔力を瞬時に注ぎ込む。

 結果、数十の鎖の攻撃は全て7本の蜘蛛の脚で全て砕くか弾くすることが出来た。

 

 恐らく今俺はギルガメッシュが使用している魔力の10倍以上を変換効率は0.6倍前後で自身の強化に充てている筈だから、今の俺はギルガメッシュの宝具と競り合ったって簡単には負けはしない筈だ。

 基本性能の差や宝具の硬度や形状を考慮に入れても、小児と成人男性並みの差が存在する筈だ。

 ならば余計な小細工は無用。

 どうせ駆け引き出来る程の技量なんて有りはしないし、此処迄差が開けば小細工は隙を生むだけだ。

 大体俺は延延と修行するくらいなら基本性能を上げて圧倒する方が楽だし性に合ってると判断したし、不思議城の大魔王も俺の戦い方はゴリ押し若しくは力技で意表を突いたゴリ押し以外の選択肢は無いと言っていたしな。

 

 さて、改めて方針を決めたなら此処からはチキンレースだ。

 俺が攻撃の密度と圧力に屈して離脱しようとしたら、攻撃の手が緩んだ隙に袋叩きで野晒しコースへ直行。

 逆にギルガメッシュが俺の猛攻に屈して手足か鎖を使用して離脱しようとしたら、迎撃手段が減った隙に細切れにしての野晒しコースへ直行させる。

 多分短ければ数秒、長くても数分で終わるだろう最後の激突だ。

 全身全霊で挑むとするか!

 

 

 

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:玉藻の前

 

 

 

 〔士別れて三日なれば刮目して相待すべし(男子三日会わざれば刮目して見よ)〕、という言葉が在りますが、流石に9年も経つと出出しからして以前とは違いますね。

 と言いますか、ぶっちゃけ普通なら刮目して見たところでどうにかなる領域を超えた成長度合いですね。

 以前は中型肉食獣同士の勝負といった感じでしたけど、今は大型恐竜同士の勝負という感じです。

 旗から見たらインチキと言いたくなるぐらいの成長度合いですよね、コレ。

 はっきり言って刮目して見るより絶望して見るべきレベルです。

 まあ、何方も同じくらいに成長してますから文句は無いでしょうけど。

 

 しかし、初手から弾幕張って結界に大量着弾とか、結界のことを信頼しきっているか忘れてるかのどっちかですね。

 て言うか忘れてますよね、コレ。

 じゃなきゃ5桁前後も結界に着弾させたりしませんしね。

 と言いますか着弾させる前に回収すれば連射力が上がりそうですけど、推進力が消えないと回収出来ないんでしょうかね? ご主人様の負担が増大するので出来ない方が良いですけど。

 

 しっかし、私が言えた義理じゃありませんけど、どっちもスペック頼りの戦い方ですね。

 特にご主人様なんて私より遙かにスペック頼りの戦い方ですよね。

 前にチラッと聞きましたけど、一芸特化の運次第で圧倒的に格が離れた相手とも戦えるキワモノ技巧派より、耐久や耐性も含めた全ての基礎値を底上げして勝つべくして勝てるゴリオシ膂力派の方が性に合っていると言ってましけど、それって諸に人外の戦闘理論なんですけど、ご主人様は気付いてるんですかね?

 明確な弱者が存在しないとそんな戦闘理論なんて塵同然ですし、耐久とか耐性とかって人間が底上げしようと思って底上げ出来るモノじゃありませんし、身も心も人外に成っちゃってますよね。

 心は一般人と言ってますけど、強くなる為に存在強度の底上げをしようと考える一般人なんて皆無ですし、抑一般人が強くなろうとすること自体がありませんから、知らぬ間に完全無欠に身も心も人外に成っちゃってますね。

 第一、こんな美少女と9年付き合って手を出さないとか、その段階で一般人じゃないですしね。

 

 一応、ご主人様が何れ別れる桜ちゃんに目一杯の愛情を注ぎたいという言い分も解らなくはないんですけどね。

 でも、避妊すればいいという案を、[しないのが一番の避妊だろ?]、という乙女心クラッシュワードで返されたのは思い出してもムカつきますね。

 コレ以上無い正論なのは解りますけど、なんと言うか……交際相手に対する遠慮が異次元の彼方に消えている感が激しくしますね。

 配慮や思慮は在るのに遠慮だけが皆無なのは可也腹立たしいですね。

 抱き締められた儘寝るのは生殺しだって解ってるんでしょうかね?

 父親代理(?)どころか父親と言っても世界中に誇れる程凄いご主人様ですけど、男しては甲斐性が明後日の方向に発揮されてますから、事実上男の甲斐性は無い状態ですよね。

 

 以前の決着を付ける意味と、格上との戦いを見せておきたいという意味と、桜ちゃんの中の株を上げておきたい意味と、殿方特有のよく解らない意地と見栄と気概と其の他諸諸で戦ってますけど、客観的には意味不明の勝負なんですよね。

 本人達的には兎も角客観的に前の戦いは引き分けで終わってますし、実力が拮抗している格上同士の戦いは格下には余り理解出来ませんし、桜ちゃんの中でのご主人様の株は男というか恋人の甲斐性以外はカンストしてますし、殿方特有の思考は女性の私達には理解し難いですから、本当に此の勝負って客観的には意味不明なんですよね。

 まあ、ご主人様は多分気付いていませんけど、珍しく負けたくないっていうか競いたいって思う方なのと、桜ちゃんとお別れする大きな節目が欲しかったって所でしょうね。

 察するににダラダラと過ごして何事も無く桜ちゃんと別れるのが嫌だったんでしょうね。

 大方幸せな時間を自分の勝手な都合で終わらせることへの罪悪感と、新世界で襲い掛かるかもしれない困難に対する気合充填って意味も兼ねてるんでしょうねぇ。

 

 ……うぅん。こう考えるとご主人様の価値観て、至って普通ですよね。

 って、おおっ? 第1ラウンド終了ってとこですか。

 相変わらず相手の前提を力技で覆すゴリ押しな戦い方ですけど、ああも清清しく前提を覆せるのは驚きですね。

 出来る出来ない以前に考え付きませんもんね、普通は。

 まあ、本当にゴリ押しするなら何処かのターミネーターの様に、食らっても平然と撃ち返すのを考えると一応技巧と言えるんですかね? ……言えませんね。

 どう解釈しても技巧というより頭脳プレイですよね、アレは。

 

 しかし……ご主人様が男の方と話している光景って何気にレアですよね。

 黒縁眼鏡の人と吃驚浄眼の人と豪快お爺さん以外に男の人の知り合いって私は知りませんし。

 ホント何でだか解りませんけど、矢鱈女性とのエンカウント率が高いんですよね。ご主人様って。

 まあ、女性の知り合いは多いですけど、知り合う女性の殆どと言うか全員が想い人がいますし、ご主人様も他人様の恋愛事情は相当鋭いですから勘違いや間違いが起こらないので安心ですけど。

 と言うか、寧ろ同姓で間違いが起こりそうなのが怖いですね。

 同姓の知り合いが少ない反動かもしれませんけど、矢鱈と距離が近い気がしますからね。物理と精神の両方面で。

 ……流石に同姓相手の場合は一夫多妻去勢拳の対象外ですね。

 抑、一夫多妻じゃなくて多夫一妻と言うか一夫一妻多夫と言うワケ解らない状態は、去勢じゃなくて心身ともに満たし捲くってあげる治療が最優先ですからね。

 と言いますか、私よりも野郎と先に関係を持つ様な暴挙にご主人様が出たら、間違い無く錯乱して襲い掛かるか心中しますね。私。

 

 って、おお!? 王様が良い事言いましたよ!?

 其の件に関してなら文句は無いのでどんどん言っちゃって下さい。

 ヘタレと甘えを高次元で融合させているご主人様が反論出来ない様な意見を被せ捲くって下さい。

 私に甘えて無茶言ってくれるのは素直に嬉しいんですけど、もう少し男の甲斐性を示してほしいですからね。

 いや、父(代理)の甲斐性はカンストなのに、漢の甲斐性はプラスやマイナスを行ったり来たりで殆どゼロ状態で、男の甲斐性はマイナス方面へ日夜万進中というバランスの悪さですから、今日此処での勝負で漢の甲斐性を上げる序に男の甲斐性も是非上げてほしいですね。

 隣の桜ちゃんも私と同じ考えなのが言葉にせずとも簡単に解りますから、桜ちゃんへ遠慮せずに今夜一緒に愛と肉の海で溺れましょう……っとと、凄まじい勘ですね。

 私の物言いたげな思いを此の結界越しに感じ取れるなんて、矢張り私達の仲は結界如きで意思疎通を阻めたりはしないということですね♥

 

 

 ……さて、と。そろそろ第二ラウンドと言うよりは最終ラウンドですね。

 恐らくサクッと終わるか、数分の後に天体規模級の一撃を繰り出すかの何方かで終わりますね。

 多分サクッと終われば敗北率20%前後で、一撃の撃ち合いだと敗北率80%前後でしょうから、私的にはサクッと華麗に勝ってほしいところです。

 と言いますか、前回は良く引き分けに持ち込めましたよね。

 

 イロイロな要素が対極のモノばかりでしたから同出力で相殺と言うか反発と言うか駆逐と言うか対消滅と言うか単なる反応と言うか、まあ兎に角そんな感じで分けれましたけど、王様の攻撃が単純なエネルギー系でしたら押し切られてましたからね。

 ご主人様の超必殺技って、実は必殺どころか蘇生に分類されますから、基本的に同格のとぶつかれば押し負けるんですよね。多分ドリル剣以外は。

 まあ王様を多分唯一だろう例外とすれば、英霊じゃあどれだけ寄せ集めても質がご主人様と同格に並ばず蹴散らされますし、神霊や精霊は放たれる一撃の本質を理解して敵対や戦闘行為を取り止めるでしょうから、意味が無いと言えば意味が無い仮定ですけどね。

 

 っと、それじゃあ最後だろう激突も始まりましたし、気合を入れ直してご主人様の勇姿を見つつも結界を維持するとしましょうか。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:玉藻の前

 

 

 

 

 

 

 技量も駆け引きも一切無い力任せの一撃を繰り出す。

 恐らくギルガメッシュの認識可能速度の境界辺りの速度と、丘の粉砕ならば余裕だろうエネルギーを秘めた右拳の一撃を放ったが、右肩の付け根を蹴られた為見事に空振った。

 一応余波で可也切り刻んでいるが、効果が現れる頃には此方はそれ以上に疲弊してそうな為、役に立っているとは余り言えない。

 しかも本来なら単発でしか振るえない様な一撃を、出鱈目な基本性能の嵩に懸けて重力や空気抵抗や人体工学や武術という単語に正面から喧嘩を売る事で強引に連撃にしているのだが、それでも余波しか食らわせられないとか泣けてくる。

 と言うか、さっきから認識出来るかどうかギリギリだろう速度と、攻撃している腕なり足なりを直接捌こうとしたら触れた直後に逸らすことも出来ずに押し切られる威力の攻撃を繰り出しているのに、軸足や体勢を崩すだけで捌ききっているのは素直に凄いと思う。

 寧ろ余りに粗末な技量の儘でこんな勝負を繰り広げている俺を褒めるなり貶すなりしたいところだが、生憎と悠長にこんな馬鹿なことを考えている時間なんて微塵も無い。

 思考速度や反応速度や認識限界速度といった中枢神経系が異常強化され、主観時間と客観時間が尋常じゃない程にズレているのに、正直言って全然足りない。

 赤い暴風を纏った鎖が前方と下方以外から線でなく面で襲い掛かってくるとか、悪い冗談としか思えない。

 おまけに機銃の様に宝珠から風を放ったかと思えば、暫く時間を置いてから宇宙戦艦の波動砲の様な一撃を放ったりとかしてくる。

 はっきり言って戦争の最前線に独り放り出された挙句に脅威に包囲されている感じがする。

 しかも此の危機的状況の半分以上が自分が渡した宝珠が原因なのだから、愚痴や悪態がブーメランの様に自分に戻ってくるから精神的に可也クるモノがある。

 

 って、回転体側の鎖の先端を延ばしやがった。

 しかも自分に巻き付けてセルフSM(鎖帷子)化したよ。

 うぅわ、絶対あの鎖の防御力半端じゃ無いな。

 うん、実際殴られた所が激しく痛いぞ。

 大方俺が創り出した宝珠を捕縛する為に強化中の鎖だから、宝珠と似通った俺にも可也の効果が有るんだろう。さっきから思ったよりも鎖を破壊出来ないのを考えれば当然の帰結だな。

 と言うか宝珠の厄介さって半分どころじゃなくて8割超えてるな。コレ。

 どう考えても広範囲殲滅型のギルガメッシュに単体絶殺型の俺が押されるとか、普通ありえないし。

 寧ろ相手の最大切札と同格の広範囲殲滅方法も持ってる俺が普通は有利な筈なのに、自分で自分の首を絞める真似した結果がコレとか、本気で色色クるな。

 

 っち。本気でヤバいぞ。

 ギルガメッシュが巻き付けた鎖が俺に触れる度に鎖の強度が上がっていってる。

 大方指定対象に接触した時間と指定対象の格次第で鎖の強度も上がるんだろう。

 まあ、指定対象は一種類だけっぽそうだが、宝珠と似通った俺ならある程度同一対象と判断されるってワケか。

 何だか青い彗星の様に見えるけど、俺的には此処迄俺を追い込んでくれると赤い彗星にしか見えないぞ。放たれる一撃の音が〔シャアッ〕とか聞こえる時があるのがムカつく。

 正直ぶち壊したいところだけど、壊すなら創生の風以外で攻撃しないとまず壊せないし、5~10秒捕獲すれば創造者(クリエーター)特権で自壊か沈黙させられるけれど当然そんな隙は無いし、少し冷静に考えれば流石に贈った物を壊すのは気が引ける。

 しかし何か対処しないと負けてしまうけど、対処法の見当が付かない。

 さっきから襲い掛かる鎖を7本の蜘蛛の脚で払ったり破壊したりしつつ、拳打や蹴撃をギルガメッシュに放って捌かれ続けているけど、鎖が頑丈に成り出してからは徐徐に攻めの勢いが落ち始めてきた。

 もう、緊急対処用に残している最後の蜘蛛の脚を使ってでも今仕掛けないと本当に詰むな。

 ……仕方ない。今が勝負所だな。

 

 さて、それじゃあ勝負を仕掛けるとしてどうする?

 直接ギルガメッシュに攻撃を仕掛け、均衡を崩してから一気に攻め立てるべきか?

 それとも残していた蜘蛛の脚に溜め込んだ力を一気に使って鎖を1本だけで僅かでも食い止めつつ、その隙に7本の蜘蛛の脚で攻め立てるべきか?

 前者は反撃があればほぼ捌けないし、後者は猛攻勢に出る迄に僅かな時間が在るから守勢に回られるかもしれない。

 勝ち負け相討ちがあっという間に付く前者か、双方体力切れの引き分けに成り易い後者か。

 ……考える迄もなく前者だな。

 今更体力切れの決着なんて冗談じゃないからな。

 

 …………さて、それじゃあ仕掛けるとするか。

 

 

 左拳の一撃を右肩にフックを食らわされて捌かれた直後、温存していた最後の蜘蛛の脚を振るった。

 すると、今迄散散俺の攻撃を捌き続けていたギルガメッシュの左腕が、肘の前辺りから呆気無く斬り飛ばせた。

 しかも左腕を切り飛ばす前に胸も大きく斬り裂いた為、あっという間に致命傷を負わせられた。

 が、それとほぼ同時に、掘削剣を拘束する鎖が緩んだのか、掘削剣から弾かれて暴れる鎖の乱撃を至近距離で浴びせられた。

 更に鎖が乱撃されるとほぼ同時に掘削剣を突き出され、心臓辺りに大孔を穿たれた。

 

 薙ぎ払った一撃を返そうとした時、乱撃してきた鎖が纏わり付いて動きを阻害してきたが、斬り返しには殆ど不具合が無かったから問題無く腹の中身をばら撒かせた。

 代わりに鎖で両腕と蜘蛛の脚5本を封じられつつ、宝珠の波状攻撃で2本を封じられている隙に、心臓辺りに突かれた掘削剣から赤い暴風が巻き起こり、俺の左半身の臓器を撒き散らされつつ左腕と左足をズタズタにされた。

 

 未だ砲撃を続ける宝珠へ、斬り返した蜘蛛の脚の勢いを殺さずに伸張させながら叩き付けて弾き飛ばし、その隙に残った蜘蛛の脚の1本を更に拘束しようとしている鎖を牽制し、もう1本で掘削剣を持つ腕を斬り飛ばそうとする。

 が、その前に勝負を決めるとばかりに掘削剣を首や頭目掛けて振り上げ始めた。

 

 そして、蜘蛛の脚は右腕を下から斬り飛ばしつつも首を半ば以上斬り裂いた。

 対して、掘削剣は脊髄を破壊しながら延髄に迄迫った所で右腕を斬り飛ばされた為、起動停止しながら右腕ごと地へと落ちていった。

 

 崩れる体勢を利用して頭突きを繰り出すが、命中する瞬間に鎖がギルガメッシュを牽引して空振りさせられた。

 だが、倒れる前に辛うじて右脚で踏み止まりつつ、斬り上げた蜘蛛の脚を唐竹割へと変化させる。

 が、そうはさせじと宝珠が風を推進力に変えながら俺の頭へと飛来する。

 

 そして、俺は頭目掛けて飛来した宝珠を辛うじて首の動きだけで避け、右耳全てと首を2割削られるだけで済ませた。

 しかし、宝珠が凄まじい風を纏っていた為、余波で首を大きく吹き散らされつつ俺は吹き飛ばされた。

 

 意識が消える瞬間、頭を半ば迄斬ったギルガメッシュが倒れていくのを見、未だ意識が在るのかどうか解らないのが悔しいと思いつつ、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 …………………………ああ……………………やっちまたな。

 …………………………もう何と言うか…………………………完全にやっちまたな。

 ………………………………………………………………………………一体どこのバトルジャンキーだよ!!!俺は!?!?!?

 

 何!? 何だよ!?!? 何なんだよ!?!?!? 一体全体何処を如何すれば思考が勝負一色に塗り潰されるんだよっ!!!???

 心臓が少しばかり抉られた段階で降参すりゃいいだろが!? なのに気にせず反撃とか、一体どれだけアドレナリン分泌してるんだよ!?

 と言うか玉藻が言うにはアドレナリン擬きの不思議物質って話だが、精神汚染する効果でも有るのか!?

 殺す気も殺される気も無ければ、死なす気も死ぬ気も全然無かったってのに、少しでも拍子や判断が狂えば引き分けじゃなくて相殺だぞ!? どれだけ頭パーになってたんだよ!?

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………正直起きたくないな。

 半覚醒の状態で此んだけ猛省と言うか恥に悶えてるのに、これで頭が確り冴えた状態になったらどうなるのか考えたくもないぞ。

 と言うか、玉藻からの小言やら何やらは必至だな。

 ……何かほとぼり冷める迄寝てたいところなんだが、多分主観時間が限界を超えて強化した所為で狂い捲くってる筈だから、下手したら半年寝たつもりで1分とか地獄の様な状態になってる可能性が高いと思うと、とてもじゃないけど狸寝入りを決め込むつもりにはなれないな。

 実際、以前慣れる迄は1秒が数十時間に感じて精神がイかれそうになったからな。しかも身体は思考に全然追いつかないというおまけ付き。

 いや、玉藻が俺の思考速度に合わせて念話出来なかったらイかれてたな。マジで。

 

 しかしまぁ、よく生きてたよな。俺。

 心臓どころか大動脈に腎臓に脾臓に左肺に左大腿動脈に気管に頚動脈に延髄と、どれか一つでも致命傷なのに全部が全部景気良く破損してよくもまあ今も生きてるもんだよな。

 黒間何たらが居る手術室の手術台で怪我しても、手術する前に余裕で死ぬ怪我だったってのに。

 はっきり言ってあの怪我で生きてたって世間に知れたら、奇跡を通り越して現代医学の悪夢と慄かれるのが目に浮かぶな。

 ……象の体力とダチョウのタフさとゴキブリの往生際の悪さを併せ持った挙句、ゴッドハンドとか黒間何たらを山程集めた上に採算度外視の医療設備が在ったとしても、七つの龍の玉か世界樹でも探して葉を捥いだ方が建設的と言われる怪我だもんな。

 

 と言うか、死徒でも魂魄が多分あの宝具で圧壊されて復元出来ずに死にそうな怪我だったのに、一体全体どういう理屈で生きてるんだ?

 いや、玉藻が何かしたんだったら生きてさえいれば治療は出来るだろうけど、治療が間に合うか如何かが抑怪しいんだよな。

 死者蘇生が出来ると言っていたけど、生憎と基督教徒じゃないんで墓の下から蘇れるとか蘇りたいとか思ってないとは言ってたからしてないだろうし、仮に無視して実行してたらもう少し身体に玉藻の力の残滓が残ってる筈だからな。

 って……ちょっと待て。改めて身体の状態を確認してみれば殆ど玉藻の力の残滓を感じないぞ?

 此れはアレか?

 

1.単に俺が玉藻の力の残滓を十全に感じ取れていないだけ。

2.玉藻以外の誰かが治療した(最有力候補は桜ちゃんで、次点はギルガメッシュ)

3.玉藻が治療したが残滓が殆ど消える程時間が経っている。

4.殆ど乃至全て自力で回復した。

5.1~4の理由が複数一定の比率で絡んでいる。

のどれかか?

 

 ……1は此れでも玉藻の力を感じることに関しちゃ同一存在である天照とかに追随出来る程に察知能力が在ると自負しているし玉藻も嬉しそうに太鼓判押してたから在り得ないし、2はする理由が解らない。少なくても玉藻がする方が術者への負担も少なければ俺が死ぬ可能性も少ないから、玉藻が俺の生死が掛かってそうな時に俺を臨床実験に使うとも思えない。

 3は玉藻が治療したなら普段の睡眠時間を越えて眠り続ける筈ないから説明が付かないし、4ならプラナリアか吸血鬼に知らぬ間にジョブチェンジしたって事だから否定したいし気付かない程俺は馬鹿じゃないつもりだ。

 5なら今迄否定した其其をチョイスするという、今迄より輪を掛けて在り得ない事態だから余計考えられない。

 つまり…………。

6.実は吹き飛んだ後の瀕死状態で、痛みを感じ無いのは単なる麻痺か精神の自衛手段。

って事か?

 

 え? それなら現在絶賛走馬灯中か?

 いや、別に過去を追想したり追体験したりしてるわけじゃないから、走馬灯とは違うかもしれないし、第一、危険が終わった後の走馬灯って何か違う気がするしな。

 ……まあ、馬鹿な考えはそろそろ止めるとして、いい加減目を目を覚ましてみるとするか

 

 目を開けたら首が無い自分の体とか見えたら嫌だよなあ、と思いながら俺は静かに目を開けた。

 

 

 最初に目に映ったのは不純物の混じった可也暗い茶色だった。

 一瞬何なのか解らなかったが、直ぐにそれが地面だと気付いた。

 そしてそれとほぼ同時に、自分が顔から地面に着地しようとしている体勢だとも気付いた。

 更に自分が吹き飛ばされてから墜落する迄の僅かな時間の間に、気絶して精神的休養を十分に取っていたのだとも理解した。

 その上、今迄完全に目が覚めていなかったから自覚していなかった痛みを一気に自覚した。

 だから今現在、非常にテンパっている。

 両手足は神経系(?)が破壊されているから微塵も動かないし、蜘蛛の脚はどんな風に宙を待ったのか知らないが、既に鎖が変な具合に絡まっていてまともに動かせない。

 ギルガメッシュが気絶しているからなのか拘束力は殆ど無いが、それでも縄跳びが絡まった時の様に俺の動きを阻害していた。

 つまり手も足も脚も出ない状況なわけだ。

 要するに、千切れかけた首と胴体の儘無抵抗に顔から地面に突っ込むしかないということだ。

 

 ……このスローモーションの世界で顔から着地する瞬間を体験しきゃいけないとか、一体何の罰ゲームだ?

 今日の占いカウントダウンタウンじゃ最高の一日とか言ってたけど、占っている奴を締め上げたい程に全然最高じゃないぞ。

 大切な一日かもしれないが、全然最高じゃないぞ。

 しかもラッキーカラーが赤とか言ってたけど、赤なら掘削剣から放たれたのを文字通り浴び捲くるどころか身体の中にまで取り入れたってのに全然最高じゃないぞ。

 寧ろ赤い血液と一緒に運気どころか生命力とか色んなのが逃げている気しかしないぞ。

 いや、そんな馬鹿なこと考えてないで状況打破に足掻くべきだな。うん。

 とは言え、まともに動かない身体じゃどう足掻いても着地どころか受身も不可能。 

 おまけに不思議物質を生成しようにも殆ど魔力が枯渇してるから碌に生成出来ないし、生命力は既に風前の灯状態で呼水にするとほぼ確実に絶命する上、呼水にする力すら残っていない。

 止めに辛うじて使えるだろう暴発魔術は精密制御とは程遠いから、着地や受身や回復や支援とかの効果は一切期待出来ないどころか自爆するだけだな。

 つまり、大人しく顔面ダイブを決め込むしかないってことか。

 

 ……冗談じゃないぞ。

 3~4分近く考え込んでる感じなのに、0.001秒も経ってる感じがしない状態で千切れかけの首で顔面ダイブとか、じわじわと首が千切れていく感覚と痛みを味わってたら発狂してしまうぞ。

 と言うか、普通に死にそうな程痛いのも滅茶苦茶辛い。

 だけど思考速度というか体感速度が数万倍に跳ね上がっているから、痛み以外に刺激が無い儘どれだけ過ごす破目になるのか解らないのがもっと辛い。

 致命傷と言うか絶命傷とも言うべき傷を幾つも負った挙句、ショック死する痛みを感じつつ、発狂しそうな時間を過ごすとか、基督教じゃないんだから主の試練とか言って受けいれられる程俺はマゾじゃないぞ。

 

 ……焦っちゃいないけど苛つき具合が半端じゃないから考えが纏まらない。て言うか進まない。

 兎に角もう一度現状を纏めよう。

 

1.現在俺はギルガメッシュと勝負中。

 α.ギルガメッシュは多分気絶しているし、俺は気絶から復帰しても継戦能力ほぼゼロの分け状態。

 β.俺は任意で攻撃、ギルガメッシュは自動反撃可能だろうが、殺し合いになるので分け決定。

2.勝負が分けになったけど、現在俺は大怪我を負わされて宙を舞った挙句に落下中。

 α.延髄・心臓・頚動脈・大動脈・脊髄・大腿動脈・左肺・腎臓・脾臓と言う重要器官が大破。

 β.大雑把に言うならば左胴から延髄付近迄抉り飛ばされてる。

3.赤い風や不思議物質を浴び捲くって神秘を纏っているっぽい地面への激突回避手段無し。

 α.四肢は延髄や脊髄の破損で使用不可能状態。

 β.蜘蛛の脚は宙を舞っている最中に変な具合に絡まってほぼ使用不可及び展開放棄不可状態。

 γ.不思議物質は魔力がほぼ枯渇状態の為使用不可。

  1.生命力を呼水にすれば絶命可能性は極めて高し。

  2.それ以前に生命力を呼水にする魔力すらも無い。

 δ.暴発魔術は使用可能だが着地や受身への効果は微塵も望めない。

  1.回復・復元・移動・転移・強化・軽減・遡行等は暴発魔術では一切実現不能。

  2.爆発・突風・空間爆砕等での体勢立て直しは必須の精密制御が一切実現不能。

4.現状で激突回避の手段は無し。

 

 ……改めて考えると落ち込むな。

 っとと、いい加減脇道に逸れるのは止めないとな。

 時間は全く減っていない様だけど、何度も落ち込んでると思考ループから益益抜け出せなくなるしな。

 で、清清しい程に激突回避の手段が無いという結論が出たが、何か穴とか裏技がないかもう少し考えてみるか。

 

 ……自前の魔力や生命力が足りないなら借り受けるか盗み取るしかないけど、此の場でそんな対象はギルガメッシュか玉藻か桜ちゃんか星と言うか抑止力の4択。

 ギルガメッシュは事実上勝負が付いたとは言え、未だ勝負は続行中だから却下。

 因って、勝負中に自分側の玉藻と桜ちゃんから借りるのは却下。

 かと言って対価を払って抑止力から借りるのは大却下。特にアラヤ側は何があろうと却下。万が一借りるなら玉藻と同じ星側と決めてるしな。

 となるとどう考えても魔力回復手段は無いな。

 いや、一応超絶博打として根源に行って摩訶不思議な能力を獲得すると言う選択肢は在るけど、出来る出来ない以前に、ギルガメッシュとの勝負でもそんな博打しなかったのに瀕死での顔面ダイブが嫌でそんな博打したら、今迄の勝負の価値が露と消える気がするから微塵もする気が湧かない。

 つまり、結局は魔力回復手段は無いという事か。

 だったら、着地や受身以外でのダメージを減らす方法を考えよう。

 ……誰かに助けてもらうのは勝負中だから却下。

 だからといってギブアップするのは却下。ギブアップの理由が末代迄の恥になる程馬鹿らし過ぎるしな。

 なら……激突の場所を変えるしかないな。

 うん。幸い近くは海だし、此処の神秘を浴び捲くった地面と違って激突しても受けるダメージは少ない筈だ。

 だけど現在蜘蛛の脚には鎖が絡まっている。

 拘束はされてないから抜け出すのは難しくないけど、一瞬で抜け出すのは流石に厳しい。

 と言うか、術技への反映時間は謎なのが痛い。

 ま、具現化した物の操作は加速と言うか引き延ばされている思考の中じゃあ置いてけぼりは確実だから、ほぼ確実にまともに動かせない蜘蛛の脚に比べれば望みはあるけどな。

 いや、一応蜘蛛の脚の操作も術儀の一部だろうけど、流石に思考速度の倍率が解らずに操作しようとしても成功するとは微塵も思えない。……気絶から覚めて地面を見た時も、目を開けたんじゃなくて意識が覚醒して開けていた目から得た情報を認識しだしただけだったしな。

 

 ……って言うか、一応コレも勝負の内なんだろうけど、何でこんなしょうも無いことで此処迄悩まなければならないんだ?

 …………ヤメヤメ。アホ臭い。馬鹿らしい。面倒だ。

 俺の戦闘の原点に帰ろう。

 俺の戦闘の原点は、〔痛かろうが苦しかろうが気にせず駆け抜ける〕、だ。

 そして、〔其れを躊躇うなら抑戦闘なんてしない〕、ってのが俺の原点の筈だ。

 今回は戦闘じゃなくて勝負だけど、まあ、互いに不必要な止めを刺さないってだけで、面倒臭さは余り変わらないから気にしないでおこう。

 

 さて、なら原点回帰した思考で打開策を考えよう。

 ……面倒だから空間爆砕して、鎖を引き剥がしたり砕いたりしつつ海に吹き飛んで落下(着水)。コレだな。

 ちょっと巻き添え食って首が千切れたり体が千切れたりするかもしれないけど、どれだけ勢いついて落下してるか解らない以上、神秘を纏っている地面に激突しても同じ目に遭うかもしれないなら、少しはカッコ好いと言うか、マシな容で終わらせたいからな。

 まあ、思考加速に術発動が追いつかなかったら激突を座してと言うかヘッドダイビングと言うかフェイスダイビングしつつ待つしかなくるけどな。

 

 

 よし、それじゃあ答えも出たし、サクッと試してみるとするか。

 ギルガメッシュも巻き添えを食うだろうけど、勝負相手が墜落死とかいう間抜けな結末の勝負になるくらいなら遙かにマシと思うだろう。

 

 ではでは、いい加減ケリを付ける為に炸裂させるとするか。

 そして敢て言おう! 聖戦(ジハード)と!

 

 

 

 アホな事を思いつつも実行した空間爆砕は、何故か過去最高の出力で炸裂した。

 

 

 







【桜のコネ】

 バルトメロイ :魔術の師。
         桜の呪術等を非常に高く評価しているので貸し借り在りの取引なら応じる。
 蒼崎 橙子  :知人と茶飲み友達の中間。
         雁夜が先に対価を払っているので何度か(最低1回は)只で依頼可能。
 両義 式   :退魔家繋がり。
         仲は知人と他人の中間程度。
 蒼崎 青子  :雁夜繋がりの知人。
         雁夜との仲が非常に悪かった為、桜が警戒して余り良好な関係ではない。
 アルクェイド :雁夜だけでなく玉藻繋がりで仲が非常に良い。
         気が向けば互いに貸し借り無しで手伝う程には仲が良い。大河との仲も良い。
 シエル    :玉藻が事業拡張でメシアンを買収した際に襲撃に近い詰問をした際に知り合う。
         大赤字覚悟でカレーの研究所を設立した為仲は良好(ほぼ餌付け)。
 遠野 秋葉  :雁夜名義の複合企業(コングロマリット)の三番手(二番手は玉藻の欠片)。
         強大な力があるにも拘らず日常を大事にする桜と気が合い、友人となる。
 シオン    :秋葉の紹介を受け、吸血鬼化治療援助の見返りに複合企業最高幹部に据えられる。
         雇用者と被雇用者の関係だが、恩義と友情も同居している。
 ゼルレッチ  :雁夜とアルクェイド繋がりの知り合い、及び血縁上の大師。
         志貴と纏めて攫われて死徒の領地に放り込まれたりと、可也見込まれている。
 ウェイバー  :座学の師。
         互いにコネを維持する関係だけでなく、少なからず好感を持ってはいる。
 ギルガメッシュ:雁夜繋がりだが、間間子供と大人を問わずに交流を続けている。
         話を聞いて見世物代わりの妥協案等程度は提示される可能性は高い間柄。
 アインツベルン:御三家(令呪システム)絡みの知り合い。
         基本は不干渉だが、桜も聖杯自体に興味が無いのは有名なので多少の取引は可能。
 遠坂 凜   :御三家(令呪システム)絡みの知り合い、及び嘗ての家族。
         凜は何かと桜を意識するが、桜は殆ど吹っ切れている為ほぼ不干渉状態。
 藤村 大河  :士郎の姉貴(?)分及び入学予定の学園の教師及び未来の姉貴分。
         桜が複合企業の頂点に立つと知っており、急な遅刻早退欠席を察する理解者。
 葛木 宗一郎 :退魔一族繋がりの知り合い、及び来月入学予定学園の教師。
         雁夜達が経歴を徹底改竄して契約した、桜の護衛の一人(二十歳以降は任意)。
 時計塔ロード達:バルトメロイ繋がりの知り合い。
         様様な逆恨みはあるものの、噛み付けば魔術師廃業は確定なので下手に出ている。
 スミレ    :ゼルレッチに志貴と一緒に死徒の領地に飛ばされた折に知り合う。
         桜に余計な知識を吹き込んだり大河と宴会したりと可也仲が良い。
 ナルバレック :シエル繋がりの知り合い。
         殺伐とした関係。桜としては極力関わりたくないが稀に取引を持ちかけられる。
 報道各社   :地球全土の85%以上の報道各社の操作が可能。
         協会と教会のバックアップが有れば国連非加盟国でも操作可能。
 通信各社   :地球全土の99.99%以上の通信各社の通信封鎖が可能。
         対災害用の国営企業等も時間が在れば可能だが、ほぼ流出済なので効果薄し。
 円蔵山関係  :文化保護として莫大な援助金と保全活動を行っている為、仲は頗る良好。
         1年後辺りには希少鉱石発見との誤報で日夜一般人が溢れて調査される予定。
 カレー関係各社:徒人・魔術師・魔術使い・超能力者・吸血鬼・鬼種・覚者・神霊が存在する機関。
         第七司祭が吸血衝動すらも駆逐するカレーの開発(味見)で平和を目指している。



【士郎の桜への感想】

 洋食と油揚げを使った料理は絶品だな(油揚げは玉藻さんの強烈なリクエストらしい)。
 成績というか頭脳は大学教授も余裕らしいし、情けないけど時々勉強を教わるけど凄く解り易く教えてくれる(なんでも雁夜さんと上場さんと言う人を真似してるらしい)。
 運動は五輪選手候補級だし、護身術は皆伝級らしくて、桜にフられて自棄を起こした奴は綺麗に一回転して足から着地させられたりしてたな(二度目も足からだけど、三度目は顎からなのが怖かった)。
 家族構成は今一解らないけど、二人とも桜のことを凄く大切にしているし桜も二人を凄く大切にしているのが解るから、家族仲は凄く良いぞ。
 ちょっと内気な性格だけど、優しいし気配りも出来るとっても出来た人間だな。

 まあ、お金の使い方が激しく世間とずれてて、俺が良い食材が無いとスーパーでぼやくと翌日に数十万~数百万円くらいの食材を毎日プレゼントしたり、気が引けるからってプレゼントを断ると近くの店の品揃えがありえない程良くなってた上にありえない程安かったりもした(何時の間にか間桐の傘下になってて本気で驚いた)。
 一応無駄な買い物とかはしないんだけど、必要な物は金に糸目を付けずにぶっ飛んだ最高品質の物を当然の様に購入するな(応急医療キッドの値段が7桁とか聞き間違えかと思った)。

 だけど、行動がぶっ飛んでるし、偶に飛び出す言葉が重過ぎることもあるけど、凄く良い奴だぞ。
 正直、俺には勿体無さ過ぎる後輩だな。
 好きか嫌いかで言えば間違い無く好きだけど、半端な気持ちで告白と言うか暴露したら絶対雁夜さんに殺されるから、余り詳しいことは言えないけどな(いや、本当に殺されるな。万が一の奇跡で免れても、その時は玉藻さんに去勢されるな)。

 しかし……俺が桜に勝ってるところを探しても見つからないのは泣けてくる。
 文武両道、家柄良しに財産過多。コネと権力膨大で、止めに容姿も中身も超美人。
 欠点が無いことが欠点と言える様な人物の隣に立ってると凄く肩身が狭いな。
 別に桜が悪いわけじゃないし、藤姉みたいに気にせず付き合えばいいんだけど、俺には無理だな。
 だから……まあ……桜は俺にとって自慢の後輩だけど、目標の一人だな。
 少なくても、俺と仲が良いからって陰口叩かれない様になるくらいには自分を鍛える解りやすい目安だな。

 あ、後、桜って唯一遠坂とだけは仲がなんか悪いんだよな。
 別に喧嘩したり無視してるわけじゃないんだけど、対応が雑というか関心が一欠けらも無いというか、兎に角絶望的に仲が良くなる未来が見えない。
 桜に聞いたら、[先輩の大事な秘密を一つ教えてくれたら何があったか教えますよ?]、と言われたから、余程言いたくない事なんだろうな。
 微塵も嫌ってはいないと言ってたしそれは本当なんだろうけど、正確には微塵の興味も関心も無いのが正解なんだろうな。

 それと、言っちゃ悪いけど友達が少なそうに思えたけど、ちょっと前に俺より年上の女の人の友達と会っているのを見た時は驚いた。
 まあ、滅茶苦茶頭良さそうな会話してたから何の話なのかさっぱりだったけど、どっちもタイプの違う美人さんだったな。
 ……心を圧し折る毒舌と心を磨り減らす毒舌を大量に貰ったけど。
 なんでも、親しくない美人を見たら萎縮するくらいのトラウマを与えておいた方が俺と桜の将来の為だとか。……なんでさ。

 長くなったけど、一言で纏めると、家族、かな?
 藤姉が姉貴分で桜が妹分で、こんな関係がずっと続けばいいと思ってるぞ。

   ↑に対する各各のコメント

・雁夜
 桜ちゃんを生涯妹分に据えて置きたいとか、地雷の上でブレイクダンス踊るのが好きみたいだな。
 逝くか?死ぬか?嫌な方を選べ。どっちも実行してやるから泣き叫―――――― 略 ――――――。

・玉藻
 ハーレム体質ですね。
 去勢依頼の対象にされれば、基本的に無料且つ最優先で行いますから覚悟して下さい★

・大河
 士郎って地雷踏むの好きだよね。
 後、成立は兎も角ゴールインは学生の間は認めないからね!



【勝負していた時の雁夜達のパラメーター(一般的なサーヴァントを1とした場合のパラメーターとなっています)】

      雁夜(限界突破強化状態時)
・筋力:A+ ・魔力:EX
・耐久:A+ ・幸運:EX
・敏捷:A+ ・宝具:--

    ギルガメッシュ
・筋力:E+ ・魔力:D
・耐久:E  ・幸運:EX
・敏捷:E+ ・宝具:EX

      桜
・筋力:E- ・魔力:C
・耐久:D++・幸運:EX
・敏捷:E  ・宝具:EX

      玉藻
・筋力:A9+・魔力:EX
・耐久:A9+・幸運:EX
・敏捷:A9+・宝具:EX

 ……EXの大安売りですね。
 後、玉藻のパラメーターが狂っているのは仕様です。
 本当に英雄を指先一つで倒せるには最低でもコレくらい必要(出来るならこの5倍はほしい所)だと判断した結果、狂ったパラメーターになりました。
 漫画版月姫の姫アルクの様に、軽く腕を動かすだけで波動砲の様な攻撃を放てると作者は設定しています。
 具体的には原作ギルガメッシュのエヌマ・エリシュ級の攻撃で弾幕を張れる出鱈目さが、此のSSの玉藻の強さになっています。
 ……地球の平穏を護る為、愛と奉仕の良妻賢母と成り続けるのが一番誰もが平和ですね。


 尚、作者は某ランスシリーズとクロスさせようとしたのですが、今一雁夜と玉藻の強さの格が判らず断念しました。
 ……雁夜や玉藻が三柱神を超えられるかが不明の為、魔王システムや勇者システムとの摺り合わせで頓挫しました。

 因みに、作者的に雁夜は、

永遠神剣系 :一位の前に瞬殺。多分四位~二位が雁夜と玉藻の実力。
神様シリーズ:神格の前に瞬殺。多分怒りの日の三騎士に条件次第で勝てるかどうかといったところ。
カンピオーネ:ガチバトル。下手すれば玉藻もガチバトル。
とある魔術 :最強キャラの一角に君臨。
GS美神  :最高神級相手に可也有利に戦える。
屍姫    :弥勒相手に滅茶苦茶有利に戦える。
ネギま   :作中の全キャラクターに結託され且つ不意を突かれて尚そこそこ有利に戦える。
ダイの大冒険:作中の全キャラクターに結託され且つ不意を突かれて尚可也有利に戦える。
H×H    :作中の全キャラクターから死者の念を掛けられれて尚滅茶苦茶有利に戦える。。
ゼロの使い魔:アルビオンを叩き付けられ且つ作中全キャラクターの命を賭した一撃でも重傷未満。
なのは   :アルカンシェルにロストロギアで神秘が付与された場合のみ傷害可能性有り。
ガンダム  :高確率で厄介事に巻き込まれて力を振るう為、人類全ての敵になるので一般生活不可。
ワンピース :高確率で厄介事に巻き込まれて力を振るう為、七武海入りしなければ一般生活困難。
IS    :束と知り合うか、不思議物質でIS擬きを作成しなければガンダムと同展開。
東方    :不明。能力の相性を格の差で無効化出来るかが全て。
DB    :亜光速で動けるのに音速以下で岩に激突しての負傷等の矛盾により摺り合わせ不可。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:間桐 桜

 

 

 

 一言で言うなら、〔魔王と覇王の激突〕。それが私の直ぐ側で繰り広げられていた。

 

 圧倒的なパラメーターに物を言わせて小技や物量を粉砕する雁夜おじさん。

 対するは最強武具を特攻させたりチート武具を絶技で操って個人を戦争に呑み込むギルガメッシュさん。

 英雄でも触れれば呪われたり消し飛んだりしそうな武具を雁夜おじさんは蝗を払う様に弾き散らして、カンストしてそうなパラメーターでの攻撃をギルガメッシュさんは3つのチート武具と絶技に物を言わせて捌いてた。

 

 はっきり言って余りに格上の戦いだから殆ど学べる所が無い。

 雁夜おじさんは普通に素手で弾いたりしてるけど、私じゃ相当防御を固めないと触れた瞬間に武具の神秘に負けて特殊効果を受けて直ぐにやられちゃう。……特殊効果無しなら多分いけるかもしれないけど、瞬時に判別なんて無理。

 かと言ってギルガメッシュさんの様に最強武具を節操無く投げられる備えは無いし、チート武具は3つも無い上に絶技と言える程の技はないから、一撃一撃が地図修正級のラッシュを捌くとか無理です。

 

 詳しくは解らないけど、ゼルレッ爺さん曰く、[今はスズメの涙程だが、成長すればORTにすらある程度勝ちを狙えるだろう]、と言われていた実力が伊達でも誇張でもないのだけは良く解った。

 正直、志貴さんと20km以上先のORTさんを見た時、自分達が100億いても完封されるだろう程に格が離れている相手に、現状で雀の涙程でも勝てるという段階で格の違いを痛感出来ます。

 雁夜おじさんは事ある毎に、[玉藻に比べれば俺の戦闘力なんて塵芥だし、技術が無いから基本的に格下にしか勝てないから、いじめカッコ悪い状態だから]、って言ってるけど、雁夜おじさんより格上って他にはアルクェイドさんやORTさんといった、命や根性や策や技で埋められない差が在る方達以外は表には居ない気がするから、ゴリ押しの戦い方は理に適ってる上にそれが一番雁夜おじさんの特性に合ってると思うんですけどね。

 と言うか、万能魔法(魔法の皮を被った世界変革法っぽいですけど)持ちの超絶強化のゴリ押しタイプだから、同格でも基本的には有利に戦えると思えるんですけど、どういう訳か雁夜おじさんを知っている人の中で雁夜おじさん自身が一番低い評価をしてるのは凄く謎ですね。並の死徒ならダース単位で瞬殺される弾幕を捌き続けるとか、多分現在此方側に10名もいない筈なのに。

 見てるだけで目を回しそうな同時多角曲線攻撃と砲撃を捌けるとか、どういう思考速度してるんでしょうか?

 シオンさんが言うには高速思考だけならスパコンすら遙かに凌駕している可能性が極めて高いって言ってましたけど、私としては極超音速を普通に認識して反撃できる中枢神経系と反応速度も凄いと思いますね。

 私じゃ思考強化して予測しても防御が間に合いませんし、神経系を強化すれば予測が追い付きませんし、かと言って攻撃に回れば攻撃する前にやられますし、だからと言って逃げに徹しても思考と神経と速力の強化を随時適切に変動させるのは至難の業なのでほぼ逃げられませんから、思考速度と神経系がセットになって初めて恐ろしいと思い……いえ、思考や神経系だけじゃなくて強度や神秘と言った本来不変である基本値までも纏めて上がっているから恐ろしいんですよね。

 

 しかし、人類最強の英雄のギルガメッシュさんと正面切って戦えてるのに、どうしてあんなに自己評価が低いんでしょう?

 雁夜おじさんは、[一般的な自己評価だから、特別卑下してるわけじゃないよ]、って言ってますけど、雁夜おじさんが一般的な自己評価になってる時点でどうしてとんでもなく卑下してるって気付かないんでしょう?

 確かに普段は一般的な優しい家庭人ですけど、戦うと決めたら傷を気にせず死地にだって微笑みながら赴けるんですから、如何考えても一般とは程遠いですよね。

 他にも日常や未来の為に精神を鑢掛けされる様な行為をし続けたり、世界を握れる力が在るのに日常生活を何よりも大切にするという、…………本当に尊敬出来る人柄です。

 いや、まあ、……私に遠慮して恋人の甲斐性が右肩下がりし続けてるのだけは少し……いえ可也……と言うか滅茶苦茶残念ポイントですけど、只のヘタレじゃなくて私を大切にしているからこそなのを考えると文句は言えないし嬉しいと思うのも本当ですから意見し難いですけどね。

 後……今回の勝負の結果を見て改めて思いましたけど、…………人の領分と言うか限界を超えた事を当然の事として可能にしている段階で、一般どころか人じゃないと理解しました。

 人という軛から完全に解き放たれるということや、貴き神の性を宿すということが如何いうことか少なからず……本当に少なからず理解出来ました。

 

 

 ギルガメッシュさんは一見すると宝具頼みに見えますけど、それでも宝具無しで精霊の域に届く程の基本性能で宝具を十全に使いこなしていますから、他の英霊じゃあ人外の基本性能を前提にした宝具をを起動させたら途中で乾涸びて死んじゃうか制御出来ずに暴走させるだけでしょうから、きちんと宝具と基本性能のバランスは取れていると思います。

 ……普段面倒臭がって宝具と言うか宝物を飛ばすだけですから道具頼みに見えますけど、本当は凄くてカッコ好い王様なんですよね。デフォルトで面倒臭がりなのが玉に瑕ですけど。

 対して雁夜おじさんは何処かの覚醒した汎用人型決戦兵器で、圧倒的防御力と質量(神秘)の桁が違う攻撃で一撃滅殺。

 イージス理論を地で行き、現代兵器をも凌駕する殲滅能力も持つ、宛ら無敵の巨神兵。デフォルトで面倒臭がりなんで戦闘と言うかちょっかいを見逃し過ぎるのが玉に瑕ですが。

 

 何方も共通して他人が自分に対して抱く評価を余り気にしていないですけど、やっぱり突き抜けた存在は其の他大勢のことは基本的に気にしないものなんでしょうか?

 そう言えば、神霊や真祖や魔法使いや魔導元帥や覚者や神殺しって特別視される方達は、基本的に周囲の視線や評価を物ともしてませんよね……って、ああなるほど。だったら雁夜おじさんの自己評価が低いのも仕方ないですよね。

 其の他大勢が自分に影響を与えないなら判断基準にも含まれませんし、雁夜おじさんの知り合いの平均値って自分より確実に上でしょうから、必然的に自己評価が相対的に低くなっちゃいますよね。お日様を隠せたりお月様を落とせたり死の概念が無かったりとか、明らかに雁夜おじさんより格上ですし。

 まあ、如何考えても比べる相手が悪過ぎると思いますけどね。

 アジア圏内で最高の知名度を誇る神霊、星が作り上げた触覚の最高傑作、他天体の究極の一と言われている地球外存在。……雀の涙でも勝率が有る段階で色色狂ってますね。

 如何考えても数値化された神秘で打倒出来る限界を超えてますし、数値化不能な神秘を以ってしても、万物を総該若しくは太陽であると数十億からの信仰を受ける神霊や、自前の強大さと自然宗教の信仰の恩恵を受ける星の化身や、何故か地球に黙認されている他天体からの地球を侵食する侵略者(インベーダー)、とか、明らかに相手の存在規模を把握するだけで発狂しそうな存在ですからね。

 

 けど……そんな色色と存在規模が狂っている雁夜おじさんが、よくも彼処迄怪我したものですよね。

 

 

 最後の大攻勢から数十秒経った頃、突然一瞬の間に何方も即死級の怪我を負ったのは血どころか心臓が凍るかと思いました。

 ……いえ、感情が理解に追い付いた時には雁夜おじさんが海に落ちた後だったから、虫食い状態に状況を認識するのが精一杯でしたけど。

 

 海に落ちた後直ぐに玉藻おばさん(私にはお姉さんじゃなくておばさんて呼ばれて喜ぶなんて、本当に雁夜おじさんラブですね)が異議が無ければ勝負終了と看做すと言って、当然何方も喋れる状況じゃないですけどもう一度念の為に確認した後、最速で両者とも治療してましたね。

 ……雁夜おじさんがギルガメッシュさん(・・・・・・・・・)との勝負の後の治療に差が在るのを凄く嫌うと思ってたみたいですから、両者を同時に奇跡の御技で治療してましたね。

 まあ、雁夜おじさんの生命力と言うか回復力的にそこそこ余裕が在ったみたいですから両者同時に治療してましたけど、雁夜おじさんに少しでも余裕が無ければ絶対にギルガメッシュさんを放ったらかしにしてたでしょうけど。

 とは言え……ほんの少しでも積み重ねた行動が狂えば相殺してたかと思うと、余り気軽な話題じゃないですね。

 

 

 しかし、大怪我と言うか死体としか思えない怪我を負ったものの、何方も無事危険域を脱せて良かったです。

 最後の勝負で何方か若しくは両方に障害が残ったら嫌でしょうからね。

 けど……最低限治療されたらどっちも怪我を放ったらかしにして宴に突入すると思ったんですけど、軽く目で会話したら直ぐに別れるとは思いもしませんでした。

 

 ……健闘を称えるでも再戦を望むでもなく、越えられない壁を睨む様な眼をしつつも悲願を達成した様な雰囲気で、一言も喋らずにあっさり別れたのは驚きました。

 雁夜おじさんに聞いたら、[玉藻に治療してもらわなきゃ共倒れするくらいなら、意識を保った儘綺麗に決着を付けるか、もう少し怪我してでもはっきり決着を付けたかったってところだろうな]、と言ってましたけど、生きてた喜びよりもそういう感情が先に立つなんて、どっちもあの勝負に対する意気込みは私じゃ解らない程に凄かったんでしょうね。

 

 そして、呆気無く勝負の余韻も消え去ったらあっと言う間に普段の日常に戻って、月末には雁夜おじさんも玉藻おばさんも出て行っちゃいました。

 何時もの様に間桐邸から専用機で出て行くんじゃなくて、極普通にバスとタクシーを乗り継いで空港に行き、極普通に空港でお別れをし、そして極普通の飛行機でロンドンに行きました。

 別にゼルレッ爺さんは私の家に来ても構わないと言ってたんですけど、雁夜おじさんが出来るだけ普通の別れにしたいと言ってましたので、極普通の別れになりました。

 

 別れてから落ち込みながらも間桐邸に帰ろうとしたら、空港の外に何時の間にか居た秋葉さん達から一言貰えた時、本当に……凄く嬉しかったです。

 雁夜おじさん達が私に歩いてほしかった世界を改めて実感して、もう逢えないのが凄く悲しかったですけど、それでもその時の私に残った大切なモノは、雁夜おじさん達との出逢いが在ったからこそなんだと思うと、凄く誇らしい気持ちと同時に、私に残った大切な日常の欠片なんだと改めて実感しました。

 

 暫く経って何とか痩せ我慢や無理もせずに日日を送れるくらいになった頃、改めて秋葉さん達が訪ねて来て、混血と退魔と彷徨海とかとの折衝関連での来訪や訪問スケジュールを組んで消化した以外は特に大きな変化は在りませんでした。

 それもこれも秋葉さん達が高校を出る迄は出来るだけ日常を謳歌出来る様にと、殆どの業務を引き受けてくれたからで、本当は人を効率的に使っても出席日数が足りるかどうかの瀬戸際程に遅刻早退欠席をしなきゃいけない程に忙しいらしいんですけどね。

 

 そしてあっと言う間に年も明けて暫く経った頃、当たり前といえば当たり前ですけど、予想通り私に聖痕(令呪)が現れました。

 

 

 聖杯に託す願いなんて思い付かないですし、頼まれても預かりたくもなければ貰いたくもない物ですけど、聖杯戦争に参加しない部外者の儘じゃ私の日常が壊されようとした時、守ろうとしても部外者の介入と取られて魔術協会や聖堂教会から刺客が雪崩の様に送られるかもしれませんし、そうなると却って危険になるかもしれないので参加すると決めたんです。

 他にも、雁夜おじさんが玉藻おばさんと出逢って家族が増えた様に、[広く感じて寂しい間桐邸に、新しい家族が増えたら良いな~]、って思ったりもしましたけど。

 

 でも、私は聖杯を手にする気は微塵も在りませんから、召喚される方にできるだけ迷惑がかからない為にも、聖杯を求めていない方が召喚される様に細工をして召喚に挑みました。

 あ、どんな方が該当するか分からなかったので、取り合えず片っ端から触媒を魔法陣に内に積み上げました。

 

 結果は御覧の通り、ライダーが召喚に応えてくれました。

 そして私は聖杯戦争へ飛び込んだというわけです。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「と、まあ、私の事情はこんな感じです」

 

 大分駆け足で、しかも幾つか暈したりもしましたけど、私や現在の間桐邸の成り立ちは此れで説明出来た筈です。

 

 ちょっと喉が渇いたので、金よりも高いけどとっても美味しくてお気に入りの玉露を一口。

 ……うん。高いだけあって冷めても美味しいです。

 本当は昨日京都から届いたどら焼き(黒の粒餡)を食べて小休止したかったんですけど、男装の性倒錯……じゃなくて伝説の男の娘のセイバーさんに気付けば食い尽くされちゃって無いのが残念です。

 ……机の上の分は兎も角、テレビ台の中を開けて迄食べるのは食い意地張り過ぎですね。

 机の上の箱の分は兎も角、家捜しして勝手に食べた分は後で請求しましょう。

 

 って、あ。先輩の考え事が終わったみたいですね。

 

「なぁ桜。俺が学校で俺が襲われて死に掛けたの治療してくれたのって、……ひょっとして桜なのか?」

「あ、ごめんなさい。

 その辺り端折っちゃいましたね」

 

 聖杯戦争に飛び込む迄は説明しましたけど、飛び込んでからの説明はしてませんでしたね。

 

「ええと、端的に言うならその通りです」

 

 私がそう言うと遠坂先輩達から睨まれましたけど、気にせず話を進めることにします。

 

「あの時私は藤村先生が用事で来れないからって事で、ライダーと二人で間桐邸で先輩と夕食を食べる為に待ってたんですけど、そしたら何処の何方様かが防犯カメラや用務員さんの存在を無視して学校でいきなり戦闘を始めるとかいう神秘の漏洩をやらかしてくれたので慌てて確認しました。

 するとどうやったのか分かりませんが、フォロー役の魔術師の眼も逃れながら見物している一般人が居て、しかもそれが先輩でしたから更に驚きました。

 

 で、何とか間に合う為にも学校に転移したんですけど、転移発動迄に少し時間がかかったので状況が動いてしまっていて、先輩は胸に孔が開いて倒れてました。

 幸い死んでいませんでしたので、生きている生体組織を集めて何とか傷を治してたんですけど、其処に遠坂先輩達が向かって来てたんで、戦闘を避ける為にも取り合えず先輩のダミーを其処に残して慌てて先輩を抱えてその場を後にしたんですよ」

 

 百面相をしている遠坂先輩にアーチャーさんの白い視線が突き刺さっていますが、それに構わず更に続けます。

 

「流石に陣地外で先輩を転移とかは出来ないんで、間桐邸側と森を抜けた郊外の方と柳洞寺の方は監視が厳しいので、仕方なく簡単な迷彩を施してから急いで先輩の家の近くのちょっとした林で治療を続けました。

 そして何とか治療や復元が終わったので、安全確保と説明の為に先輩を間桐邸に運んでいたんですけど、先輩の家に向かっているランサーさんと見事に鉢合わせしてしまい、更にアーチャーさんが此方を視界に納めていましたから、不用意に移動しながら戦えば抱えた先輩を狙われると思って急いで先輩の家で戦うことにしたんですよ。

 

 でも、私は先輩を抱えつつも傷付けさせない様にする自信なんて在りませんから、一先ず先輩を土蔵に放り込んで(避難させて)から戦おうとしたんです。

 けど、土蔵を封鎖する時に先輩が起きてしまい、封鎖して少し経つとどうやってか召喚を成功させてしまい、その後は先輩も知っての通りランサーさん諸共私も切りかかられました。

 

 そして私が呼んだライダーに参戦されると流石に不利と判断したのか、ランサーさんは撤退しました。

 で、何とか一難去ったかと思ったら、さっき私を捕捉していたアーチャーさんが遠坂先輩と一緒に現れて混沌具合に拍車が掛かった儘現在に至るというわけです」

 

 こうして改めて振り返ってみると、遠坂先輩のうっかりが酷いですね。

 防犯カメラや用務員さんの存在を忘れて戦闘を始め、1うっかり。

 観戦に夢中になって先輩を発見出来なくて、2うっかり。

 記憶改竄を施し忘れ、3うっかり。

 ……私の遠坂先輩に対する想定が甘かったりダミーのログを治療後にでも閲覧しなかったという非は確かに在るんですけど、厳しく見たとしても私が3で遠坂先輩が7の比率な気がします。

 いえ、別に遠坂先輩は味方でもなんでもないので、全部私の責任と言えば其れ迄なんですけど、神秘漏洩の危機ということに関してはほぼ100%遠坂先輩の責任ですね。

 

 っとと、どうやら先輩の考えが纏まったみたいですね。

 真剣な顔をして見られると何だか緊張します。

 

「つまり桜は俺の知らないところでみんなのために頑張っていたって事か?」

 

 ……う~ん、そういう考え方は先輩の美徳だと思いますけど、此処ははっきりさせとかないと後後大変に成ると思いますから、サクッとカミングアウトしちゃいましょう。

 

「いえ、私が動くのは私の周囲……この場合は精精冬木で一般人が裏側に巻き込まれそうになったらってだけで、一般人同士の事故や殺人はノータッチです。

 後、自分の意思で裏の事情に踏み入れた方が殺されるとしてもノータッチです。

 つまり、遠坂先輩が裏の方方と戦闘をしてもノータッチです」

「なっ!? さ、桜は同じ学校の奴が死ぬかもしれないのに平気なのか!?」

「先輩。私は先輩のそういうところは大好きですけど、敢て言わせてもらいます。

 そんなのはその人の勝手です、って」

「っ!!?」

 

 本当は先輩に力添えしたいですけど、迂闊に私が変な理由で動けば却って先輩が危険に巻き込まれちゃいますから、此の辺りは確りさせとかないと。

 

「先輩が言っているのは極端な話、〔ボクシングの試合!? 駄目だ駄目だ駄目だ! お前達の悲願や情熱なんかどうでもいい! 俺は人が傷付くのが嫌だからこんなの台無しにしてやる!〕、って言ってるのと変わりませんよ?」

「そ、それは…………」

「安全といわれるベースボールだって人が死んだことはありますよ?

 他にも商業スポーツじゃないですけど水泳や登山は毎年死亡者が出ていますけど、それも先輩は全部止めるべきだと思いますか?」

「………………」

 

 む、胸が痛いです。落ち込んだ先輩を見てると、罪悪感で崩れてしまいそうです。

 ……い、言うべきことは言いましたから、後は急いで確りフォローしましょう、

 

「で、ですけどっ、先輩の八方美人的なふしだらで無責任な優しさは凄い美徳だと思いますよ!?

 綺麗な人に頼まれたらはいはい頷いたり、人が傷付くなら理由を把握する前に先ず止めに入る考え無しの熱血漢なとこや、身近な人を放り出してでも困ってる人を助けに行く近視的と言うか視野狭窄的なところや、女性の下着を徒の布と言って気にせず届ける小さな親切大きなお世話を炸裂させる考え無しの優しさとか、とってもとっても素敵だと思いますっ!」

「ぉぅっ…………」

「あ、あれ? ど、どうしました先輩?

 急に机に突っ伏しちゃって……何処か具合が悪いんですか?

 無事な生体組織を掻き集めて治しましたし、血液は少しばかり筋肉を液化して変化させたのを代替させてますから、倒れる程の倦怠感はない筈ですけど、若しかして先輩って筋疾患を抱えてたりしました?」

 

 私は玉藻おばさんと違って病気は完全に治せませんから、下手したら今すぐ集中治療室(ICU)に先輩を連れて行かないと!

 

 と、焦っていたら先輩はむっくりと顔だけ上げ――――――

 

「いや、この面子の中で俺の株が大暴落(これからが大変)だと思うと、少し眩暈がしただけだ」

 

――――――何故か泣き笑いの顔でそんなことを言いました。

 ……どうやら知らずに何か爆弾発言してしまってみたいです。

 此処は今度こそ確りフォローを入れつつもアピールしましょう!

 

「大丈夫です先輩。

 私は先輩が困ってたら、寝惚けて藤村先生の下着を穿いたとか条例に引っ掛かる本を持ってて補導されたとか、そういう条例以前に倫理的にアウトなこと以外なら出来る限り力に成ります。

 第三次世界大戦に発展すると解ってても汚職政治家の証拠を報道して世界の政治を麻痺させたり、アラブの人達や既得権益者を奈落に突き落とすと解っていても宇宙太陽光(太陽からのマイクロウェーブ)発電プランを実行してエネルギー問題解決に乗り出したりとか、本当に出来る限りの力に成りますからっ」

「もう止めてくれ桜ぁ! とっくに俺の社会的信用(ライフ)はゼロなんだ!

 後、桜の想いは嬉しいけど、セットで付いてくる権力は俺じゃ耐え切れない程に重過ぎるから少しは自重してくれ!」

「は、はい♥」

 

 こ、こんな大勢の前で想いが嬉しいなんて、……嬉しいけれど照れちゃいますよ先輩。

 

 何気無い先輩の本音に喜んでいましたが、如何でもよかったですから最低限の警戒だけ残して思考から外していた遠坂先輩が話しに参加してきました。

 

「へっぽこ朴念仁と金持ち乙女の漫才はこの辺りで止めてもらえるかしら?」

「へ、へっぽこって何だよ?

 いや、朴念仁も文句言いたいけどさ」

「あら、気に障ったなら見習い半人前魔術師1/2君に変えるけど?」

「悪化してるからな! それ!」

 

 ……当たってるだけに援護し辛いです。

 血の匂いが云云とかは言いませんけど、魔術とかの存在を常識として知っているだけの人よりほっっっんの少ーーーしだけ上なのが先輩ですし。

 

「悪化してるって言わないでほしいわね。

 [正当な評価は控えてくれ]、とでも言ってほしいんだけど?」

「お、俺はそこまで馬鹿にされるほどなのか!?」

「あら、馬鹿になんてしてないわよ?

 私は魔術師として、衛宮君の人間性で一切減算せず且つ客観的に能力のみの正当な評価を下しているだけだから」

 

 ……アーチャーさんは当然として、変態(セイバー)さんもフォローを入れませんね。

 ライダーが隣で、[フォローしないのですか?]、って眼で言ってきてるけど、此の事――――――

 

「な、なぁ桜。

 俺って魔術師から見たらどれくらいなんだ?」

 

――――――に関して…………って、其れは変態(セイバー)さんに訊いてほしいです。先輩。

 凹んでる先輩は可愛いんですけど、基本的に凹ませる様なことはしたくないです。先輩。

 

「え、えっと……」

「頼む桜。それを知らないとセイバーのマスターを続けていいのかすら解らないんだ」

 

 お願いですからそういうことは変態(セイバー)さんに聞いて下さい!

 変態(セイバー)さんから難易度の高い要求をしてそうな視線を送られてしまいますから!

 ああ、でもでも、先輩に頼られたら嫌とは言い難いですし、先輩が自分の立ち位置を知れば少しは考えて動いてくれるかもしれませんから、此処はズバッと言っちゃいましょう!

 

「……えーと、私や遠坂先輩は隠れている魔術師を含めても世界で20番以内は確実と言われていて、世界に名を馳せるスプリンターと思って下さい。

 で、文句無しの一流魔術師が全体の多分約1%で、学校でかけっこが速い子供程度です。

 次に、一人前の魔術師が全体の多分10%で、歩き始めた幼児程度です。

 そして、半人前と言うか未熟な魔術師が残りの殆どで、誕生直後の嬰児程度です。

 最後に、先輩は……呼吸も出来ずに死に掛けている嬰児くらいかな~、と思ってます」

「…………」

「マスター。私は魔術に疎いので戦闘者としての意見になりますが、少なくても桜と言う少女とマスターの間にはそれ程の隔たりが確かに存在しますから、桜の魔術師としての見立てはほぼ正確といっていい筈です」

「………………」

「ですが御安心を。私は貴方が魔術師として問題外で、実力に見合わぬ幻想にすらならない妄想を紡ごうとも、貴方は私のマスターだ。

 如何なる障害も排除して共に聖杯を掴み取るという意思に変わりはありません」

「うん。ありがとうセイバー。

 心に突き刺さるその言葉は嬉しいよ。

 だけど心に突き刺さるだけのスペースはもう無いから勘弁してくれ。

 何て言うか世界中のみんなに平均点を下げていることを土下座して謝っていきたい気分なんだ。寧ろ謝って生きたい気分なんだ。と言うか謝って逝きたい気分なんだ」

 

 ああっ!? 何か先輩が面白可愛い具合に壊れかけてます!

 じっくりと眺めていたいところですが、先輩に非が無いなら急いでフォローしなければ可愛そうですから、脳内フォルダに厳重保管した分だけで我慢しつつ急いでフォローしましょう!

 

「大丈夫ですよ先輩! 頑張ればそこのアーチャーさんの様な英雄に成れるだけの一芸は在るっぽいですから!

 流石に精霊の域には届かないかもしれませんが、1ヶ月毎日命をチップに自己改造(修行)し続ければ変態(セイバー)さんと戦えるくらいには強くなれますよ!」

「意外と過激!?」

「大丈夫です!

 病気じゃなくて怪我なら、何とか神拳の壊骨拳で骨無しになっても私がキチンと治療しますから!」

「そんなことになる修行は流石に勘弁願いたいぞ!?」

「他にも飛竜何たら波の修行の様に先輩の女装や女物の下着を穿いた写真をばら撒いたりしても、先輩が捕まらない様確りと司法機関に手を回しますので安心して下さい!

 

 ちょっと外を歩くと辛いかもしれませんけど、慣れれば人が南瓜以下に感じられますし、将来内職系の仕事を斡旋したりも出来ますので、慣れない時のケアもばっちりです!」

「氷の心以前に真冬の人生を歩むことになるのは勘弁したいから!?」

「違う遊び相手がほしいって言ってましたから、今なら真祖の姫君って言われるアルクェイドさんが相手してくれる筈です。

 後、面白がってゼルレッ爺さんが死徒の城に放り込むとかいう、死亡率95%越えの強烈修行も出来る筈です!」

「95%死ぬ修行ってもう殺人だぞ!?」

「玉藻おばさんと同格級の天元突破存在のORTさんの領域に放り出されたのに比べれば――――――」

「はいはい。話が進まないから漫才はその辺にしときなさい」

「――――――全然余裕です!

 という訳で、サクッと肉体苦痛の限界に挑む修行を始めましょう!

 一日に30回くらい三途の川とかを垣間見れば、早ければ3日程で起源覚醒くらい出来る筈ですから!」

 

 ……ああ、自動蘇生(オートレイズ)を憶えたら、バルトメロイさんに脳髄破壊を日に何度もされたのは今でも嫌な思い出です。

 魔力が数瞬で全快しますから、精神が擦り切れる迄延延と脳漿をぶち撒け続けて庭を汚し続け、3日で色色新境地に辿り着いたのはシンドイ思い出です。

 

 美化出来ない鮮烈と言うよりも痛烈な思い出に少し浸っていると、顔面体操でもしたのか、何故か矢鱈と頬を痙攣させながら遠坂先輩が話し掛けてきました。

 

「華麗に聞き流すなんて随分偉いのね。桜は」

「? 何を言っているのか解りませんけど、脇道に逸れる話題はやめませんか。遠坂先輩」

 

 ……あれ? 何で遠坂先輩の顔面体操が加速しているんでしょう?

 

「ふ……ふふふふふ。

 …………喧嘩を売っているのかしら?」

「いえ、遠坂先輩に何かを売る程私は何かに困っていませんから、それは遠坂先輩の勘違いですよ?」

 

 何故だか伝説の勇者を見る様な視線を私に注ぐ先輩達が激しく気になります。……一体如何したんでしょうか?

 後、アーチャーさんが遠坂先輩を見て溜息を吐くと、遠坂先輩の顔面体操にターボが掛かりました。

 

「ふふふふふふふふふふふふふふ。それはこの聖杯戦争でどっちが上かハッキリさせるってことでいいのかしら?」

「あ、私、遠坂先輩と団栗の背比べするつもり無いですから。

 どっちが上か決めたければ、此処で平和的且つ素早くじゃんけんして決めませんか?

 

 後、脇道に逸れてる会話をし続ける毎にアーチャーさんの残念そうな視線濃度が高まってますから、早く話題の軌道修正をした方が良いと思いますよ?」

 

 私がそう言うと遠坂先輩は鞭打ち願望と言うよりも一人SMの性癖を疑う速度で振り返ってアーチャーさんを見ました。

 するとアーチャーさんは一見余裕そうな皮肉気な顔に戻りましたけど、内心結構圧され気味なのが解りました。

 ……藤村先生に詰め寄られた時の先輩と雰囲気が同じですね。

 

 何と無く姉さん女房のポジションも悪くない気がしてきましたけど、わたしのキャラ的に無理があるんで素直に断念しましょう。

 それに私にとっての理想は、やっぱり玉藻おばさんの様なポジションですし。

 目指せ文武両道床上手! ですね。

 

 っとと、遠坂先輩に引き摺られて私も脇道に逸れたら話が進まないですから、遠坂先輩を無視してサクサク話を進めましょう。

 

「取り合えずアーチャーさん達(向こう)は措いておくとして、結局先輩は聖杯戦争参加の是非は決まりましたか?

 もう少し他の視点からの意見を知りたければ、新都の教会の言峰神父という監督役から概要を知れますけど、死亡フラグの塊の変態(セイバー)さんを連れて行けばその儘教会でお祈りをされる様に早変りしちゃうメに遭うでしょうから、私的には電話が一番だと思います」

「死亡フラグの塊って……セイバーってなんか呪いでも持ってる奴なのか?」

「調べれば何か解るかもしれませんけど、少なくても今は在るとは断定出来ません。

 後、死亡フラグ云云ですけど、先輩が召喚する前の段階で6騎召喚されてるのは先輩以外の参加者は知っている筈ですから、今先輩が新都の教会に態態行って参加表明したりすればそれは直ぐに他の参加者達に知らされますし、そうなれば教会の敷地を出た瞬間に遠距離攻撃どころか宝具を受けたりとか普通にありえます。

 

 仮に先輩が、〔一般人大量虐殺してサーヴァントを強化してやるぜ! 神秘は秘匿してんだから文句は無い筈だぜ!〕、とかいう人なら、私は教会の敷地を出た瞬間に1秒で200もの弾丸を発射するE-宝具級のガトリングを多方から撃って挽肉に変えるくらいはしますし。

 他にも、アーチャーさんなら2~3キロ離れて反撃不可能な所から宝具を放ったりしそうですし、キャスターさんなら帰り道に変態(セイバー)さんの対魔力を逆手にとって先輩だけを転移させる罠を配置したりしそうですから、凄く危険ですよ?

 まあ、他にも想定される事態がありますから、変態(セイバー)さんに訪ねられた方が詳しく聞けるかもしれませんよ?」

 

 変態(セイバー)さんが四次に参加してたって私から話したら噛み付かれそうですから、それっぽく話題を誘導して水を向けるのが一番ですね。

 

「ライダーのマスター。一度説明を始めたならば最後まで説明してほしい。

 後、私を呼ぶ時に酷く不快な感じがするのですが、一体どの様な意を籠めて発音しているのか是非訊かせてほしいのですが?」

「川で蛸?寧ろ烏賊ですかね? 兎も角真っ二つにした事件を知っているので、付け入られる口実を作りかねない無茶振りは断らせて頂きます。

 

 後、気付けば何時の間にか家捜しされて食べているお菓子ですけど、一つか二つで最高紙幣が無くなる程のお値段なんですけど、どうやって払うのか訊いてもいいですか?」

「マスター。此処は男らしく決意表明と共に耳を揃えて支払い、堂堂とこの家から出て行きましょう」

「いや無理だから!

 一口最中や煎餅の一つだけでも1万とかするのにそれを100以上食べてるし、何か試作品ぽいのとか幾らするのかも解らないのにそれも軽く50は食べてるから、爺さんの遺産を本格的に崩さないととてもじゃないけど払えないから!

 

 と言うか、人が真剣に話してたり考えたりしている間にドンだけ食べてたんだよ!?」

 

 それに関しては全くの同感です。

 極自然に家捜ししてましたから気に留めるのが可也遅れましたし、気に留めた時には既に貪り尽くされた後でしたからね。

 

 しかし、流石に先輩が支払うことになるのは全然本意じゃないので解決策を出すことにしましょう。

 

「手持ちがなければ一部の地域の様に血液で支払ってくれても構いませんよ?

 変態(セイバー)さんの血液なら大匙二杯……30CCでチャラですね。

 後、先払いなら敵対しない限りは今後も血液で御売りしても構いませんよ?」

「解りました。ならば180CC支払いますので、それに相当する加工食品や料理を所望します」

「ちょっ!? プライドは無いのかセイバー!?」

「何を言うのですマスター。労働の対価に賃金を貰うか物品を貰うかの違いだけで、コレは労働による立派な取引です。

 汗を流して賃金を得るか、血を流して物品を得るかの違いでしかありません」

 

 キリッとした顔で残念な正論を展開する変態(セイバー)さん。

 ですが、当然といえば当然ですが、先輩以外にアーチャーさん達もツッコミを入れ始めます。

 

「待つんだセイバー。

 確かに正論かもしれんが、君がやろうとしていることは、嗜好品を得る為に身体を売る行為とレベルこそ違えど同じだぞ?

 英雄というか人としての誇りは無いのか?」

「愚かな。士気や気概を維持する為には嗜好品も重要な存在です。

 

 第一、先程食した数々の品は恐らく、芳醇な大地で育まれた至高の食材を連綿と受け継がれた芸術の域に迄昇華された匠の業を以ってして作られた、正に現代の宝具とも言うべき物。

 現にその恩恵で魔力も少なくない量の回復を果たせましたし、更に食せば失血に因る体力低下を回復した上でマスターに因るパラメーターダウンも幾つかは回復出来る筈です。

 故にコレは戦略的見地による判断でもあるのです」

「流通してる食材と一般人の加工品にそんな効果があるの!?」

「嘆かわしい。ああ嘆かわしい。全く以って嘆かわしい。

 アーチャーのマスターよ。貴方は自国の誇るべき文化すら知らずに異国の文化に傾倒していますが、自らの足元も見ないその有様では真に大成することなどありえません。

 

 ……ああ、眼を閉じるだけで瞼の裏に浮かびます。

 マナが満ちる肥沃の大地より湧き出した清水。

 その二つを糧にし且つ手厚く手入れをされて育まれた食材の数々。

 そこに流れる清水と生える草を糧にしつつ手厚く育てられた牧畜達。

 そして何百年という伝統を守りながらも研磨されてきた、至高の職人達が愚直なまでに守り続けた伝統に籠められた信仰という神秘を織り交ぜて作られる工程。

 

 ……栄養さえ摂取出来れば構わないと判断し、食と言う文化の研鑽を怠った私は愚かだったと今なら断じれます。

 少なくとも此の様な一品が高級品とは雖も民草の手が届く値段で普及していたならば、我が国は内外の敵を魅了して幸福な時代を過ごせた筈です。

 にも拘らず……これ程の素晴らしき文化を自国民であろう貴方が知らないとは…………とんだ異国被れの非国民ですね」

 

 なんだか変態(セイバー)さんが素晴らしくキャラブレイクしている感じがします。

 まあ元からそんな感じかもしれませんし、余り興味が無いですから如何でもいいですけどね。

 

 っと、それよりも取引は迅速且つ過不足無く実行しないといけません。

 呪術師足る者、己の言の葉に宿る御霊を軽視するなど最低の行為です。

 と言いますか、一個人としても社会人としても裏の者としても、口約束を反故にするようじゃ一流が限界ですから、仮令どんな些細な口約束でも守らなければなりません。相手が先に反故にしない限りは。

 御菓子のストックはもう無いですから、急いで取り寄せれば40~50個は明日の夜前に着きますけど、急ぎだと言われるならば料理を作るか食材を渡す……と先輩に作ってもらいそうなんで料亭のデリバリーと言うか調理用車両の予約にするとしましょう。

 

 

 さて、それじゃあ出来るだけ先輩と変態(セイバー)さんの仲を進展させない様にして、セイバーさんが人類鏖の後の回帰(リセット)を聖杯に願うと知った時に袂を別てる様に、出来るだけ自然に距離を調整しましょう。

 若し変態(セイバー)さんがそんな願いを聖杯に託さないんだとしても、其処は其れ、ライバルに成りそうな方にはサクッと退場していただけるんで問題無しです。

 と言うか、ギルガメッシュさんが御執心な以上、間違っても変態(セイバー)さんの意識を先輩に向けさせるわけにはいきませんからね。

 

 うん、それじゃあ私と先輩と藤村先生と、新しく加わったライダーとの幸せ家族計画実現の為にも頑張りましょう!

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:間桐 桜

 

 

 

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:Illyasviel Von Einzbern (イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)

 

 

 

 ある日、アインツベルンの結界がいきなり全壊した。

 理由は、ロンドン行きの飛行機が墜落する際、二人と言うか二名が飛行機を去ってその儘スカイダイビングしながらアインツベルンの領域内に落っこちたのが原因だった。

 

 魔法の域の神秘を叩き付けられない限り、少なくても一撃で壊れることは無いと断言出来るアインツベルンの結界だったけど、落っこちてきた二名のどっちか若しくは両方が展開していた、魔術的にも科学的にも捕捉を妨げる結界に触れただけで、圧倒的神秘に耐え切れずにアインツベルンの結界は綺麗さっぱり全壊した。

 当然その時点では誰の仕業か全く解らなかったから、私やお爺様は物凄く慌てた。

 

 何しろその時点で判っていたのは、結界全壊前に僅かに感知出来た情報と結界全壊という事実を併せ、

 

1.最低でも精霊の域の存在の2名が来襲。

2.術式ではなく単純な神秘で結界が全壊。

3.意図は不明だが元の結界と同規模程度と推測される理解不能な結界が展開された。

4.捕捉しようにも未だ捕捉阻害結界を纏っているのか新たに展開された結界のせいか捕捉出来ない。

5.城外に仕掛けられた罠が全部纏めて機能が一時が完全にかは判らないが停止した。

6.如何考えても相手に比べて神秘が圧倒的に足りないから、戦闘にすらならないと断定出来る。

 

と、清清しい程に板の上のコイだった。

 気休めなのは、問答無用で消し飛ばされていないことから、少なくてもアインツベルンか此の辺り一帯を消さない理由が気紛れかもしれないけれど向こうには在るということだけ。

 

 はっきり言って全面降伏以外に道は無かった。

 交渉というか頭を下げて慈悲を請う以外の選択肢が無かったし、若し自棄になって突撃しようものなら、全ての尊厳を剥奪された上で嬲られながら生かされることもありえるから、絶対に無礼を働くわけにはいかなかった。

 だから当然、私達は最高の状態で二名を迎える為の準備を最速で進めた。

 

 持ち得る限りの全ての財を尽くすんじゃなくて、相手を持て成す為に労力の限りを尽くす方向で準備は進んだ。

 成金趣味にならない様に細心の注意を払い、精霊の域以上の存在と言うかズバリ精霊か神霊と思われる以上、自然との調和こそを至上として準備は着実に進んでいった。

 独立していた城内の結界を解除して淀みを大急ぎで消し去り、更には相手が人間の文明の利器から現れたことからあまりにも人から懸け離れているホムンクルスの殆どを別棟に隔離し、可能な限り自然と人間に近い状態にして相手を出迎えることにした。

 

 

 そして、万全とは言い難いけれど時間内で出来る限りの全てを尽くした私達の前に現れたのは、若干低姿勢だけど礼節に則った男と、少し後ろに従者と言うか妻の様に控えた女のカップルだった。

 

 男の方はそこそこの美形か結構な美形程度の人間味が在って、女の方は人間離れした凄い美形だった。

 だけど、どっちの応対姿勢や容姿よりも、身に纏う神秘が何よりも私達を圧倒した。

 

 相対しているだけで圧倒的神秘の圧力の前に魂が崩壊しそうで、女の方はほぼ確実に完全な神霊なのが発する神気で泣き叫びたい程に解った。

 そして、神霊では無い存在が神霊と行動を共にしていると理解出来た時、私達は直ぐに相手の正体に思い至った。

 

 片や人間の限界を突破して精霊の域に昇格し、更には神霊の域に迄手を伸ばす、第一にして最強の魔法使い、間桐雁夜。

 片や世界の人口の約6割を占めるアジア圏内で絶大な信仰を得ている、世界でも最高位の神霊の分霊である玉藻の前。

 何方も今や現代の魔術師の世界に於いては絶対に敵対してはならない存在の代名詞で、不用意に関わろうとするだけであらゆる交流を断絶するのが常識と迄言われる存在だった。

 

 以前何方か若しくは両名の捕獲乃至抹殺を試みた魔術師達は、タマモが一定範囲(多分10キロ前後)に近寄っただけで無警告に何百人も消し去り続け、しかも降伏や逃亡を一切許さない速度で行い続けるという、苛烈性を見せ付けながら恐怖をばら撒いてきた。

 対してカリヤは敵対した魔術師の研究資料や道具と言う財産を根こそぎ破壊しただけじゃなくて、一族郎党の魔術回路や刻印も完膚なきまでに消し尽くして徒人に戻すという、魔術師にとっての悪夢を幾度もばら撒いてきた。

 特にカリヤは生粋の魔術師嫌いで有名で、敵対した魔術師に協力したり唆した者達すら決して許さず、一族郎党も含めて徹底的に破滅させ続けた事は当時の魔術師達を震撼させた。

 

 そんな堕ちた真祖(魔王)よりも危険と言われる二大存在に相対した私達は、正直、生きた心地が全くしなかった。

 何せ行動の苛烈さも凄いけれど、タマモに比べれば遙かに弱いとされるカリヤでさえ最低でもAランクもの宝具を無防備に受けても無傷という、現代の魔術師が害せる存在じゃないのは明白だった。

 おまけに音速で動ける上に転移どころか魔術行使そのものを封じたりも出来るらしいから、逃亡もほぼ不可能。

 だけど、私達がアインツベルンの歴史を儚んで絶望している最中、カリヤは結界を破壊してしまったことを詫び、更に結界修復の代行若しくは此方が結界修復に要する全費用を水増し負担すると言い出した。

 その上それとは別に、宿代を払うので暫く止めさせてくれないかとも言い出した。

 

 当然そんな展開は全然想定していなかったから、私達は如何答えればいいのか盛大に悩んだ。

 相手の力量と要請という容を採っている事を考えれば、仮に断ったとしても実力行使される可能性はほぼ無し。何しろ掌返すくらいなら最初から洗脳なり殲滅なり好きに出来るんだから。

 だけど仮に断った事実が何処かに知られれば、アインツベルンと僅かでも交流を持っていれば不興を買うと恐れられて完全孤立どころか交流が在った事実を消す為に敵に回られる可能性が高いから、はっきり言って断るなんて選択肢は極力選びたくない。

 かと言って蟻の巣にフェニックスを招く様な自殺行為は極力したくないのもまた本音とは言え、此処迄出迎えの準備をしていた相手を、今更掌返して断るとかいう馬鹿にした真似は流石に恐ろしくて出来ない。

 何しろ、タマモの身内至上主義は有名だから、カリヤに恥を掻かせた報復にこっそり死なないけれど破滅する程度の呪いを掛けられかねないし。

 

 で、カリヤの思惑は兎も角、周囲の状況的に断るなんて選択肢を選択出来ない立場だと理解したお爺様は、数秒の沈黙の後に快諾したような顔で了承した。

 

 

 そして、それからの日々は凄かった。

 

 先ず、カリヤが霊脈を弄くってアインツベルンの霊地を超1級の霊地に改造した(何でも、[どうせ荒廃するから回すだけ無駄だろう]、って言って、北朝鮮辺りに流れる分を殆ど回したらしい)。

 次にタマモが神霊魔術だか呪術だかで超1級の宝具並の結界を築いた(曰く、[私の陣地ではないので可也出来は悪いですが]、らしいけれど)。

 そして慰謝料と宿代で10桁貰った(振り込んでもらったのを確認したのは相当後だけど)。

 正直、これだけで黒字どころか文字通り奇跡を貰ってる状態だから、何時もは難しい顔をしているお爺さまも顔が緩んでいた。

 なのに、更にカリヤはお爺さまに取引を持ちかけた。

 

 何でも、1年以内に起こるだろう次の冬木の聖杯戦争で、間桐桜と同盟若しくは敵対されない限り決して害さず且つ害されても極力殺傷を控えるならば、第五次聖杯戦争後に冬木のシステムを丸ごとアインツベルンに移せる様に手配しておくって言い出したからだ。

 当然お爺様は此れを快諾。

 何しろ、此処で拒否すれば殺傷すると宣言しているのと同じだからカリヤに首を跳ね飛ばされかねないとかいう以前に、カリヤが心血を注いでサクラの為に作り上げた規格外宝具の性能の一部はバルトメロイの宝具の性能と同じく広く知られていたからだ。

 おまけにサクラ自身の戦闘力も27祖の上位陣に食い込めるっぽい上、魔術師としては超一流の上にタマモが仕込んだ呪術は評価規格外という、間違い無く宝具持ちの超1級サーヴァントと宝具無しで互角以上に渡り合えるだろう出鱈目さだから、以前冬木の聖杯解体の話し合いの際に互いに身内を害されない限りは敵対しないと話を付けていたこともあって、断る要素は全く無かった。

 お蔭で、冬木の大聖杯を丸ごと私達の領地に移せる算段が付いた。

 

 まあ、

 

1.転移させる為に大聖杯とアインツベルンの両方に入念な準備を施す(冬木側はタマモの欠片がするみたい)。

2.転移する為の魔力の殆どは間桐邸敷地内に溜め込む。

3.転移させる前に冬木の霊脈から大聖杯を切り離す。

4.3の後に大聖杯を一度間桐邸敷地内に転移させる。

5.間桐邸敷地内とアインツベルンとの間に作った強固なパスを利用して大陸を越えて転移させる(タマモの欠片達が行うみたい)。

 

って言う手段をとるから、間桐が絶大な貢献をする以上はアインツベルン以外に唯一聖杯戦争に対する大きなアドバンテージを持たせてしまうけれど。

 とは言え、遠坂が消える上に今代の間桐当主のサクラは極力聖杯戦争に関わりたくなさそうだったし、アインツベルンに移した大聖杯は15~20年周期で満ちるそうだから、運が悪くてもサクラが生きている間に3回は聖杯戦争が開催されるから文句は全く無かった。

 第一、間桐の後継者にはサクラの廃スペック宝具と規格外呪術を継承するだろうから、危険な聖杯戦争に本腰を入れて出場する可能性は凄く低いから、間桐からは力試し程度の奴が参加しそうなだけだから、本当に特に問題は無いし。

 

 そして莫大な利を得たお爺様は、新規の聖杯戦争の受入や開催準備、他にも改変された霊脈の確認に財政管理と、スケジュールが軽く1年は潰れてしまったので嬉しい悲鳴を上げながら奔走し始めたから、カリヤ達の接客関係は全て私が代理責任者として全うすることになった。

 で、丸投げされた私は多分可も無く不可も無く役割を熟してたんだけど、気さくなカリヤとの話題の中で何時まで留まるつもりなのか訊いてみたら、宝石翁が半年程は姫君と一緒に姫君の護衛を鍛える(おもちゃで遊ぶ)から、それまでは適当に時間を潰していろと言われたらしいから、邪魔じゃなければそれまでのんびりさせてもらうっていう答えが返ってきた。

 

 それから別れる11月まで、本当に色んなことがあった。

 私は自分の魔力で実現可能なら理論を飛ばして何でも実現出来るけれど、カリヤも理論を知らなくても理解と魔力が足りれば同じく何でも実現出来ると知った(厳密には私も干渉する対象を理解なり認識なりする必要があるから、同じと言ってもいいと思う)。

 そしてカリヤは子供が好きなのか私が好きなのかは判らないけれど、聖杯戦争で少しでも生き残れるように、私の理解力というか認識力を強める手伝いをしてくれた。

 ただ、[自分は才能が無いから、自分が出来た事は誰にでも出来る筈]、って言って私に高位次元を垣間見せて廃人に仕掛けたりと、可也きつかった。

 他にも、タマモが長生き出来るようにって、お爺さまに内緒で私に呪術(特に房中術)を教えてくれた。

 何でも、[自身の肉体を素材にして組みかえる呪術(プログラム)なら、肉体改造は御手の物ですから習得して損は無い筈です]、って理由だったからこっそり教わった。

 

 後、私が雪は好きだけど寒いのは嫌いだと知ったカリヤが、熱移動を選択的に禁止する礼装というか宝具を創ってくれたりしたけど、A++の神秘を纏った約-200℃(液体窒素)約1500万℃(太陽の中心温度)も平気っていう、はっきり言って頭おかしいとしか思えない性能の宝具だった。

 他にも私の外付け魔力タンクになる指輪を創ってくれたりもしたけど、霊脈や空気中のマナを吸収するどころかAランク以下の魔力干渉を防ぎつつ吸収する能力を兼ね備えていたりと、此れも頭がおかしいとしか思えない性能の宝具だった。

 正直に言えば嬉しいんだけど、自分が渡す代物がどれほどの物かという客観的視点が著しく欠けているのが良く解るエピソードだった。

 それと、カリヤは物作り(寧ろ物創り?)とかが好きで、始めると当初の構想どころか途中の構想すらいつも超え、最終的に凝ったと言うよりも廃スペックな物に成るという事も解った。

 何しろ、リズのハルバートを日本の何とかの大冒険とかいう漫画のハルバートと同じ様に風刃と火炎と爆発を生み出せる様に改造する筈が、氷雪や雷電や使い手認識(魔術師廃業トラップ付き)や自動回復や対物理と対魔力障壁を展開したりと、セラが自分達には過ぎた物だから私専用に創り変えるよう進言してくれって頼んでくる出来に成っていた。

 そして改造と言うか最早形だけ同じ別物にしてもらったリズは楽しそうに外で振り回してたけど、何度も辺り一帯の地面や雲を吹き飛ばしてセラに怒られてた。

 尤もそれを見たカリヤは、修復や維持に特化した腕輪を創ってセラに贈ることにした。勿論結局凝り過ぎて治療や復元だけでなく、傷痕の移動や破壊の肩代わりや反射といった呪いとしか思えない機能も確り付けていた(貰ったセラは余りの価値に戸惑っていたけれど、結局押し切られて貰うことになったけど)。

 

 そして、私がバーサーカーを召喚するほんの数日前、カリヤ達は普段通りの雰囲気の儘突然時計塔に行ってしまった。

 宝石翁がいきなり連絡入れたのもあるらしいけれど、聖杯戦争が始まった時に間桐の縁者がアインツベルンに居るのは何方にも余計な隙を作るだけだからって言うのもあったみたいだけど、その日の内に居なくなるのは流石に早過ぎる気がした。

 と言うか、送迎パーティどころかお爺さまの到着すら間に合わずに行っちゃうのは、絶対照れ臭いのと寂しいのと面倒臭いのが理由だと思うけれど、カリヤらしくてしょうがない気もした。

 

 で、来る時も突然なら去る時も突然だったカリヤ達だったけれど、残ったのは不思議な気分と尋常ならざる価値のモノばかりで、特に洒落にならない価値のモノはあの毎日が本当だったと告げている様な気がした。

 実際常識を投げ捨てたモノを見ないとあの毎日が夢としか思えない程だった。

 まあ、悪夢と思える程に常識が壊される日も多かったけれど、すっごく久し振りに楽しい毎日だった。

 

 

 

 そしてそれから数日後、私はバーサーカーを召喚した。

 カリヤから病的な精度の魔力操作と運用法を倣ってある程度はモノに出来たから、ギリシャ最大の英雄を狂化してもちょっとキツイ程度で耐えられると思った。

 だけど、召喚する陣が在るアインツベルンの霊地が超1級になったのと、冬木の間桐邸を通して大聖杯にパスが繋がっていたせいで、ヘラクレスが殆ど丸ごと召喚されてしまった(多分アインツベルンから間桐邸を通して大聖杯に魔力が注ぎこまれて召喚されたんだと思う)。

 おまけに狂化のスキルを付与してしまったから、魔力の消費量が尋常じゃない程に多くなってしまった。

 

 幸い、カリヤから貰った外付け魔力タンクのお蔭で、日中は霊脈から魔力を吸い上げて補充し続ければ夜間を通して全力戦闘する事は可能だった。

 但し、それはアインツベルンという超1級の霊地の中心点に据えた場合だから可能であって、冬木霊脈の傍流であるアインツベルン冬木城だと狂化無しで1時間ノーダメージで戦うのが限界な程にバーサーカーの燃費は悪かった。

 まあ、神代の昔に幻想種を絞め殺したりしたステータスやスキルが十全なんだから、寧ろそれくらい魔力を食うのが普通な気がするけれど、コツを掴むまでまた何度も死に掛ける羽目になった。

 だけど、あの悪夢とも言える夢の毎日を駆け抜けた私はそれぐらいじゃへこたれなかった。

 

 何しろ、高位次元を垣間見せられては発狂しては治療されてリトライし、体内の回路を掃除する時に出力操作を間違えては内部から爆砕するけど直ぐに治療されてリトライし、大呪術を行使しては全身が氷化や炎化や雷化して襤褸雑巾になっては治療されてリトライし、房中術の感覚上昇の出力を間違えて発狂しては治療されてリトライし続けた私はそれくらいじゃへこたれなかった(発狂を単なる気絶とイコールで結ぶ辺り、カリヤは一般人というか人間的思考を絶対止めてる)。

 治療してくれないのはキツイけど、怪我自体は十分我慢出来るレベルだった。

 第一、此れより遙かに酷いのをサクラは小さい頃に熟してきたらしいから、意地でも根を上げるわけにはいかなかった。

 

 そんなこんなでへこたれずに頑張り続け、終わってみればバーサーカーの事を知れて良かったと思える結果に落ち着いた。

 そしてサクラと受肉したアーチャーの逆鱗に触れない限り、聖杯戦争を無事に勝ち抜けると私だけでなくお爺さまも確信し、万全の準備を整えると直ぐにバーサーカーとセラとリズを連れて私は冬木へと旅立った。

 

 何事も無く冬木に到着した私達は今後の事に関して話し合う為、サクラに言われていた通り真っ直ぐ間桐邸を訪れた。

 そして、再び常識が瓦解していく光景を目の当たりにし、私だけでなくセラも酷い頭痛を覚えていた。

 

 何しろ、話には聞いていたけど、まさか龍や天馬といった幻想種だけじゃなく、妖精や精霊や神霊といった星の触覚が普通に存在している魔窟とは思わなかった。

 しかもとっくの昔に裏側に移った筈の神代級の存在も居るんだから、神秘がゲシュタルト崩壊していくのを私とセラは確かに感じていた。

 

 正直、何も見なかったことにして此の儘冬木の城に行ってぐっすり休んで、明日にでも電話で摺り合わせをしたら今後全力で間桐邸に関わらないように生きていきたかった。

 だけど、庭で幻想種達と戯れているのか死闘を繰り広げているのか判らないサクラとばっちり目が合い、それは叶わなかった。

 しかも何で居るの解らない真祖が……しかも十中八九姫君も私を捕捉していたから、もう無条件降伏以外に道は無かった。

 

 結局、不思議の国と言うよりは魔窟の極みと言える間桐邸の、しかも庭園で話し合いは行われた。

 館(と言うか既に宮殿だけど)の中で話すと神殿の奥ということで徒に緊張するからって理由で庭園で行われたけど、魔法級の神秘を体現している幻想種達の溢れる庭園も緊張具合じゃ然して変わらないと叫びたかった(と言うか、サラリと工房じゃなくて神殿といったのはもうツッコまないことにした)。

 何しろ、人工的とはいえ自然の触角に極めて近いホムンクルスの私達と受肉してないガイア側の英霊のバーサーカーは幻想種達の受けが良いのか、普通に近寄って覗き込んだりして来るから寿命が削れる程に緊張する。

 しかも宝石翁が一枚噛んでいる儀式ということもあって、真祖の姫君が立会いをすると言い出したから緊張に拍車が掛かった。

 おまけにさっきまで気が緩む程遊んでいたのか、はたまた気合を入れる程の死闘を繰り広げていたからなのかは判らないけれど、サクラ達の殆どが洒落にならない存在感を垂れ流し気味に放っていて、サーヴァントの凄さが全く分からない程の威圧感が満ちていた。

 

 ……はっきり言って転移が出来るならとっくにアインツベルンの城に逃げ帰っていると断言出来るし、その後八つ当たり気味にお爺様に状況を話して丸め込む事が出来ると断言出来た。

 全開のバーサーカー以上の存在感を発する存在が数百とか、はっきり言って悪夢としか形容出来ない。

 …………少なくても私とセラは、仮に間桐と言うかサクラと敵対したとしても、例え息を吹きかけただけで倒せる程に追い詰めたとしても、絶対に、間桐邸に立ち入らないようにしようと堅く心に誓った。

 罷り間違ってサクラが死んだ瞬間に間桐邸の結界が全崩壊して幻想種が解き放たれたら神秘隠匿不可能確定だし、何より、自分達の居場所を壊した輩ということで瞬殺されるとしか思えないし。

 

 で、幸いと言うか当然と言うか、結局何事も無く摺り合わせは終った。

 まあ、敵対してなければ門からなら好きに入れる様に許可してくれたのは収穫だった。

 もしもセラ達が買出ししている時に襲われたとしても、何とか安全地帯に逃げ込めそうだし。

 ……カリヤが創った常識を破壊する破格の宝具を持ってるリズなら並のサーヴァントなら多分倒せそうだし、セラなら相手サーヴァントのラインを使ってマスターに傷を全部押し付けられそうだから、余り役に立たない気もするけど。

 と言うか、絶対にリズは並のサーヴァントなら完封出来る。

 全力のバーサーカー相手に少なくても1分は食い下がれるんだから、カリヤ達が言ってた運命干渉系の宝具持ち以外なら多分対城攻撃をアウトレンジから撃たれない限り大丈夫な筈。だって姫君の対軍攻撃の衝撃波を単発なら捌けてたし。……アレが軽い運動とか、姫君どころかサクラも変だけど、思いっ切りハルバートを揮えるってはしゃいでたリズも変過ぎよね。

 

 

 

 ……兎に角、常識とか神秘とかシリアスとかが投げ捨てたりデフレしたり崩壊したりしたけど、漸く…………そう、漸く第五次聖杯戦争がさっき始まった。

 監視してたシロウの家でシロウがセイバーを召喚したのを確認したから、此れで漸く私の目的も始められる……と思ったんだけど、サクラがシロウを間桐邸に連れてっちゃったのを見て、如何するか激しく悩んでいる真っ最中。

 

 如何見てもシロウはサクラの身内っぽそうだから、もし私がシロウと戦おうとしたら絶対にサクラが敵に回る。

 シロウじゃなくてセイバーと戦うならギリギリOKだと思うけど、もしシロウがセイバーと一緒に向かってきたら巻き込まない自信は無い。

 

 …………いっその事サクラに事情を話して一騎打ち形式の立会いを持ちかける?

 ……上手くいけばトドメはさせなくても途中でオーバーキルなら出来そう。だけど……断られたらシロウどころかセイバーと戦うのも難しいくらい警戒される筈。

 かと言ってコレばっかりは退けない。

 どれだけ絶望的な状況になるとしても、私は絶対シロウと戦うと決めてるんだから。

 

 胸に秘めた決意を静かに反芻していると、唐突にFAXが動きだした。

 一瞬誰かと思ったけれど、私直通の番号はお爺様かカリヤかタマモかサクラしか知らない筈だから、間違い電話を除けば先ずお爺さまかサクラのどっちか。

 お爺様はFAXを使うくらいなら電話で要件を済ませる筈だから、サクラからだと中りを付けながらFAXに向かう。

 そして吐き出された紙を取って読むと、そこには多分最大限の理性的判断で譲歩しただろう条件が記されていた。

 

 …………まあ、此の辺が妥協点よね。

 コレでゴネても状況は悪化するだけだし、目的は果たせる筈だから、コレで納得するしかないわね。

 鬱憤は私の聖杯を掠め取ろうとしているセイバーやリン達で晴らして我慢ね。

 

 

 さて、それじゃあシロウが教会に直接行って届出すると踏んで先回りしようっと♪

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:Illyasviel Von Einzbern (イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)

 

 

 

 

 

 

「〔不細工は3日で慣れるけど、美人は3日で飽きる〕、とか何とかいう言葉が在りますけど、アレって大間違いですね。

 私的には、〔不細工は3日で殺意が沸くけど、美人は3日で骨抜きにされる〕、ですね♪

 もう私はご主人様にメロメロです★」

 

 夕食のおかず確保に玉藻と釣りをしていると、密着しながらそんなことを言い出した。

 ……俺もそう思うけど其の儘言うのは癪だし、後で人間じゃないから飲まず食わずの退廃生活に突入するから、本音は出来る限り隠して掛け合いするのが一番だな。

 

「俺は骨どころか魂抜かれそうだったけどな。

 ……24時間戦えますか×???とか、俺は一度お前の頭の中を覗いてみたくて仕方ないぞ」

 

 自重の二文字を前の世界に置いてきたとしか思えない行動は本気で凄かった。

 ……付き合えてしまう自分が本当に人外だと実感してしまうけど、玉藻と付き合えるならそれでも良いかと思えてしまったのをうっかり口を滑らせた時、羞恥心で悶え死にそうになったし、その後玉藻の暴走が更に酷くなって精根どころか魂が抜け掛けた。というか寧ろ溶け合った気がして仕方ない。

 まあ気にする程の事じゃないからいいけど、異世界に渡って1年近く退廃的生活しかしてない気がするから、いい加減健康的で文化的生活を満喫する為にも、此処で又退廃生活に逆戻りするフラグは立てないに限る。

 

「私の頭の中は、1にご主人様で、2にサクラちゃん、3・4もご主人様で、5もご主人様です!」

「いや、うん。俺が訊きたいのは優先順位じゃなくて、お前の望む日常が如何なっているのかを訊きたいんだよ」

「え?そんなの良妻賢母な生活に決まってるじゃないですか?」

 

 今更何を言っているのかが不思議でならない顔が本気で可愛いく思えて仕方ないのが悔しい。

 ……いやいや、此処でうっかり口を滑らせて退廃生活に逆戻りするのが今迄のパターンなんだ。

 そうならない為にも、最近の俺の抱負に、〔喋る前に考える〕、を掲げたんだ。

 少なくて玉藻相手に思った事をストレートに喋り続けたら、いつか絶対廃人化しては治されて又廃人化という無限循環に陥るから、慎重に考えて言葉にしないとな。

 

「……退廃生活をする良妻賢母が何処に居るんだよ?」

「? 夫婦の営みは健全な生活の一部ですから、全然OKな筈です!

 と言うか、9年夫婦の営みが無かったんですから、9年分を取り戻そうとするのは当然のことです!」

「ならもうとっくに取り戻してる筈だよな!?

 と言うか寧ろ1~2年分はオーバーしてるよな!?」

「いえ! 9年営みが無かったんですから、9年は続けたとしても利子にも全然足りないくらいです!」

「待たせ過ぎたのは素直に謝る!

 だから自重を思い出してくれーーーーーー!!!」

「だが断る!(キリッ)

 今度は私の我が儘に付き合ってもらいますよー♥」

 

 

 

 亜熱帯地域の無人島で、暫く俺は玉藻と頭がおかしくなりそうな程に退廃的な生活を続けることになった。

 

 

 







【桜内の戦闘序列】

01.玉藻おばさん ≒ アルクェイドさん(種割れ?時) ≒ ORTさん
02.雁夜おじさん ≒ ギルガメッシュさん ≒ アルクェイドさん(普段時) ≒ 玉藻おばさんの欠片の方達 ≒ 間桐低幻想種の極一部の方達
03.私(宝具有) ≒ 玉藻おばさんの欠片の方達 ≒ 間桐邸幻想種の約半分の方達
04.私(宝具無) ≒ ゼルレッ爺さん > バルトメロイさん ≒ スミレさん(素面時) ≒ 間桐邸幻想種の約半分の方達
05.ライダー ≒ 志貴さん(種割れ?時) > 髭ライダーさん > 宝塚……じゃなくてセイバーさん
06.志貴さん(普段時) ≒ スミレさん(普段時) ≒ 蒼崎青子さん > シオンさん
07.シエルさん ≒ 両義さん(多分本人も知らない状態の時) > 蒼崎橙子さん > 秋葉さん
08.ウェイバーさん ≒ 言峰さん > マクレミッツさん > 遠坂凜さん(破産前提)
09.並の死徒 >> 影……じゃなくて髪が薄かった人
10.葛木さん ≒ 髭剃ってなかった人 > ヴァンパイア
11.グール >> 先輩
12.一般人


【士郎の感想】

・桜    :妹分?
・大河   :姉貴分。偶に妹分。そして異性と言うよりも異星の人
・一成   :友人。冗談半分に間桐と言う時もある。
・美綴   :友人。人見知りな桜を巻き込んで遊びに誘う良い奴。
・慎二   :友人。桜が絡むと機嫌が悪くなる。
・セイバー :何か駄目な感じの女の子。サーヴァントらしいけど桜より弱そうだから大したこと無い?
・ライダー :桜の姉貴分? それとも妹分? 後、悪意は感じないのに命以外の危機を感じる。
・遠坂   :何か俺の中で壮絶にキャラブレイクした。まあいいけどさ。
・アーチャー:何か嫌な奴。
・琥珀さん :凄く苦手だ。気さくな人なんだけど、気が付けば窮地に誘導されるから。
・遠野   :凄く苦手だ。悪い人じゃないんだけど、猫に甚振られる鼠の感じがするから。
・エルトナム:凄く苦手だ。悪い人じゃないんだけど、断頭台に案内される感じがするから。
・雁夜さん :良い人だけど超苦手。桜を不用意に傷付けたら、多分何処に逃げても詰む。
・玉藻さん :良い人だけど超苦手。桜を不用意に傷付けたら、多分何処に逃げても男として死ぬ。


【登場人物達の戦闘思想】

・玉藻     :スペック任せのゴリ押し。楽をする為に知恵を働かせる時も在る。
         無能ではなく人類が考案した戦闘技術の入り込む余地が無い領域の存在なだけ。
・アルクェイド :同上。
・ORT    :同上。
・雁夜     :同上。但し上記三名級だと敗北必至だが、技術が在っても結果は同様。
         技術習得よりもスペック上昇の方が効率的なので、技術習得は非効率的。
・ギルガメッシュ:物量任せの制圧射撃。相性次第ではEX宝具に因る遠中近対応の一騎打ちも可。
         能力と技能と経験と知識と道具の全てが超高レベルで融合。但し基本的に手抜き。
・桜      :呪層・黒天洞を活かした反撃型(エヌマ・エリシュも耐えられます)。
         但し、精霊以上の存在との戦闘を前提にしていないので、対象は基本同格以下。
・セイバー   :原作準拠のスペックと直感任せの接近戦。分が悪ければ真名解放で薙ぎ払う。
・アーチャー  :原作準拠の手数と引き出しの多さでの全距離戦。権謀術数も当然使用可能。 
・凜      :原作準拠の銭投げ魔術の使用。但し、籠められる術式や魔力等が可也向上している。
・綺礼     :原作準拠だがスペックが上昇して第七位に防戦が可能な域に成っている。
         浄化関連に関しては協会と教会の両方でも最高位の一名。
・志貴     :近接戦闘だけでなく、混沌の残滓を具現化しての中距離や遠距離も可能。
         混沌で身体を強化すれば祖の上位に食い込むスペックになるが、今は持続時間短し。
・シエル    :原作準拠だが、究極のカレーを食すと全能力が数分間約5倍になる悪夢が発生。
         但し、幸せに浸って自己分析をしていないのでその事実に全く気付いていない。
・ウェイバー  :自身に対する強化や変化や付与による近接戦闘特化。
         自分の身体に限定した場合、提唱した理想的な魔術を使用可能だが多様性が低い。
・バルトメロイ :原作準拠。但し一定以上の者相手には宝具を使う為単独で挑む。
         宝具を使って尚共闘する場合は桜にのみ打診する。


【ライダーのステータス】

  パラメーター
・筋力:A+++・魔力:A+++(EX)
・耐久:A++ ・幸運:EX
・敏捷:A+++・宝具:??

  クラススキル
●騎乗:EX
 同意があれば神霊すら乗りこなせる。

●対魔力:A
 五次セイバー準拠。

  固有スキル

●魔眼:A+++
 魔力A未満を石化させ、判定次第では魔力Aでも石化させる。
 石化をレジストされた場合、全能力を2ランクダウンさせる重圧が対象に掛かる。
 全盛期時の魔眼の出力と成っている為、相手を見るだけでも効果が十全に発動する。
 又、ある程度の加減も可能となっている。

●単独行動:A
 四次ギルガメッシュ準拠。

●怪力:--
 スキル消滅。

●神性:EX
 間桐邸の結界の恩恵により怪物等の要素が極限迄浄化乃至封印されており、現代では善悪を問わなければ神と認識されている為、神そのもののEXランクとなっている。
 尚、間桐邸の結界外で自身の神性を否定したり、怪物等に立ち返ることを強く望めば神性はダウンしていく。

 神性の恩恵は、
・パラメーターの強化(怪物になっても上昇補正はあるので実際は差し引きゼロ)
・殆どの運命干渉遮断能力(幸運EX)。
・龍種の騎乗。
・A+の未満の干渉遮断。
・大地母神の伝承に即した能力。
となっています。

  宝具

●自己封印・暗黒神殿:C
 原作準拠。
 但し、間桐邸のバックアップを受ければ間桐邸外でも冬木市内であればランクがAに上昇する。
 更に、間桐邸内でバックアップを受ければランクがA+++に上昇し、対魔力がA+未満の者ならば無条件に使用者の心に封じ且つ能力発動も阻止することが出来る。

●他者封印・鮮血神殿:B
 基本は原作準拠。
 但し、間桐邸が管理可能な範囲(冬木市内)且つ間桐邸のバックアップを受けられるならば、事前準備無しで冬木市一帯にランクA+で展開可能。
 事前準備を行い且つバックアップを受けられるならばランクA+++で展開可能で、更に範囲を絞ることでランクを上げる事も可能。

●騎英の手綱:A+
 原作準拠。

●玉藻の欠片や間桐邸の幻想種:EX
 協力要請を受け入れてくれた場合に限り騎乗することが可能。
 基本的に玉藻の欠片は桜が説得し、幻想種はライダーが説得する。
 中には水爆に匹敵する破壊を齎せるブレスを放てる龍種も存在する。


【ライダー召喚関連】

 ほぼイリヤと同時期に召喚しています。
 但し、イリヤと違って問題無く維持が出来ています。
 又、士郎と大河とも確り顔見世が済んでおり、立ち位置は桜の私的秘書兼助手です。

 因みに桜が調子に乗って陸海空の乗り物に乗せ捲くり、すっかり現代の乗り物に魅了された為、大半の乗り物の資格を取得して(金銭と権力で試験を受けさせただけで、試験内容自体は正規のもの)桜や大河の送迎に利用しています(当然乗り物は桜が用意)。
 既に現代に馴染みきっており、桜とマン島TTレースに参加するのを夢見る程になっています。
 尚、桜が学校に通っている間は原作通りのバイトを熟しています。
 正直、もう聖杯どころか聖杯戦争自体が眼中になく、士郎が参加しなければ全く気にせず普段通りに生活する気満満でした。


【今更ながらの雁夜と玉藻の捕捉】

 名前  :間桐 雁夜
 年齢  :9歳(ギルガメッシュとの勝負中から数え直している)
 種族  :単一種(戦闘力を除けば受肉した神霊が一番近い)
 自称特技:人混みに溶け込むこと。要点の箇条書き。意固地レベルのど根性。日曜大工。
 他称特技:第一魔法(改)。暴発魔術。本質捕捉。勝負所での剛胆さ。
 戦闘能力:ギルガメッシュを除けば英霊7体同時でも勝利確率高し。

  詳細
 とある不運で一度自らの意思で自滅する。
 しかし何の奇跡だか不条理でだか解らぬが、事象の果ての根源に還って尚自己を失わずに根源の一部を理解する。
 だが根源という圧倒的情報量の前に自己が洗い流されるのも時間の問題になり、早急な問題解決を模索する。
 そして情報の渦に飲まれる前に蘇生すれば良いという結論に至る。
 だが、根源の一部を理解して理論は解せども実行手段は確立していなかった為、嘗て誰かが遺した第一魔法という道を理論実行に利用することにする。
 結果、第一魔法(無から有を生み出す無の否定)を使って雁夜は肉体と白紙の魂を一から創造して自身を其処に移す。
 此れにより完全自力で蘇生(再誕)を果たす。
 尚、雁夜は世界創造や世界改変の域迄理解が及んでいるが、実行方法として第一魔法という型に自ら嵌る事を選択した為、世界創造や世界改変等を行うには一度第一魔法を経由(その特性を有した物質を創造)して実行しなければならなくなる(雁夜は気付いていない)。

 蘇生後目を覚ますと何処か不思議な空間に雁夜は存在し、其処で出会った(出遭った)ゼルレッチから強引に修行を受けさせられる。
 そしてその際にある程度魔法を使えるようになり、同時に魔術が何であろうと暴発するという結論も出てしまうが、27祖級の戦闘力を保持していると判断されてゼルレッチから解放される。
 其の後自分の気持ちにケリを付ける為に葵に告白して綺麗にフられる。

 気持ちの整理が付いた後、宝石を創造出来るので金銭面の心配をせずに根無し草として移動し続ける。
 途中殺傷石の見物に立ち寄り、夜景を眺める時に酒を飲んだ(無意識でアルコールの影響を受けるようにしていた)のと童心に返ったのが原因で、殺傷石を徹底浄化したどころか付近一帯の霊脈を操作して神殿状態にしてしまう。

 其の後葵達に土産を渡す為に冬木に戻った雁夜は、葵から桜が間桐の養子に成ったと知る。
 当然急ぎ間桐邸に向かうが、到着した時には既に桜は臓硯に改造されている最中。
 蟲蔵で改造されている桜を見た瞬間、雁夜は即座に桜へ駆け寄って蟲を払い散らす。
 そして桜に寄生している蟲を心臓ごと消し去って瞬時に心臓を魔法で強引に生成し、更に激情の儘に臓硯と蟲を完膚なき迄に蒸発させる。
 無事とは断じて言えないが桜を臓硯から解放した雁夜は此れからのことを考える。
 名目上の当主の兄は臓硯が死んだと聞くと荷物と遺産(現金9割)を持って自分達は間桐との関わりを絶つと告げて間桐邸を去り、残った自分と桜だけが後継者だと知り頭を悩ませる。
 碌に魔術行使不可能な桜が後継者に成れば養子に出した時臣が文句を良いながら桜を攫った後、再び別の魔術師の家に養子として放り出すのが目に見えている為、雁夜は自身が当主と成ることで桜が別の地獄に放り込まれることを阻止することにする。
 だが、雁夜は魔法使いでは在れども魔術を使えば必ず暴発させてしまう欠陥魔術師(特化魔術師)であり、その上雁夜の一般的な対外評価は魔術を嫌って逃げた凡愚の為、自分が間桐の当主と成って桜を他の地獄に盥回されるのを防ぐ為には障害が幾つも在ると理解し、それを解決する為に苦悩と妥協の果てに聖杯戦争に参加することを決意する。
 しかし召喚を試み、召喚されたのは那須の山で縁が結ばれた神霊・大日=天照=ダーキニー=玉藻の前だった(正確には玉藻が召喚される存在を押し退けての降臨)。

 召喚された玉藻と仲を深めながらも日常を過ごし、聖杯戦争開幕後、雁夜は桜の不安を払い且つ一握りの勇気が生まれるようにと願い、単独で時臣のサーヴァント・アーチャーに勝負を挑む。
 勝負の最中に自身の在り方の一端を自覚して精霊の域に迄完全に昇格し、更に自身が魔法を介せば大抵の物は創れる限定された全能性を有していると朧気ながらも気付く。
 そして雁夜とギルガメッシュの規格外の一撃の激突に因って時空断層を引き起こし、両者共に根源の渦に呑み込まれて引き分けという結果に終わる。
 尤も、直ぐに両者とも世界の外側から帰還を果たす。
 尚、その際にギルガメッシュは完全な受肉を果たし、雁夜は根源への理解度が更に上昇して実現可能な幅が更に広がる。

 勝負の後に雁夜は桜と共に冬木教会にて御三家の会談をを開き、今次の聖杯戦争の今後と桜の問題を終わらせる。
 会談終了後は冬木の地を離れ、第四次聖杯戦争に関わる事無く過ごす。

 そして当初の予定通り、10年経つ前に雁夜は玉藻と異世界へと旅立つ。
 因みに、雁夜の世界(星も含む)の寿命を延ばす技能の難易度は、玉藻やアルクェイドやゼルレッチをして成し得る存在が実在するとは思っていなかったりした程の規格外技能であり、此の三名をして恐らく雁夜が死後抑止力に名を連ねても此の技能は再現不可能ではないかと見ている。
 但し、雁夜自体の戦闘能力は通常アルクェイドとhollowのギルガメッシュネイキッドを足したレベルであり、アルティメットワンと戦えば高確率で敗北を喫する。
 尚、雁夜は世界延命をエアが再現する地獄を祓う風、若しくは日本神話の禊払いをイメージした水の二つで具現化し(水の方はSS本編未登場)、出力を上げる事で過剰浄化や過剰回復で攻撃に転用することが可能だが、星の様な存在格が桁外れに高いモノには万能薬と聖水とエリクサーが入った注射を乱暴に刺されている感じであり、寧ろ雁夜が暴れる事は星の様な存在格が桁外れなモノにとっては最高の御褒美の為、雁夜より格上が雁夜を殺害する可能性は事実上存在しなくなっている。


  ●▲■★◆▼●


 名前  :玉藻の前(大日如来=天照=ダキニ天)
 年齢  :??歳(約1250 ~ 25000以上)
 種族  :神霊
 自称特技:良妻賢母。呪術。神霊魔術(神霊魔法)。呪相・玉天崩。
 他称特技:軽い会話。呪術。神霊魔術(神霊魔法)。呪相・玉天崩。世界経済崩壊級の経済操作。
 戦闘能力:全開アルクェイドと同等域。要するに型月世界最高戦力の一名。

  詳細
 雁夜が殺生石を浄化した際、玉藻自身の願いも在って徹底的に浄化される。
 その際、他の人格(八尾)が大幅に弱体化し、玉藻(一尾状態)をメインに吸収統合される(因って、横暴な所や人間軽視な思考が玉藻にも存在しており、その為原作とは微妙に(結構?)人格が異なったりする)。

 召喚(降臨)当初に雁夜の魔力を吸い上げ過ぎて雁夜を全殺しへ追い遣るという大失態をしでかす(同時間軸上に存在し、魔力も宝具が在るので自前で解決出来るが、[先ずは一つに溶け合う所から!]、と余計な意気込みを持った結果、悦に浸り過ぎて雁夜を乾涸びさせてほぼ全殺しに追い遣る(しかも雁夜の魔術特性で魔方陣が爆発(儀式暴発)する筈が、玉藻が超絶魔力吸収した為玉藻の方で炸裂するものの、玉藻は小揺るぎもしないので爆発は逃げ場を求めて雁夜の方に逆流し、爆発は雁夜の内部を蹂躙し、更に其の直後雁夜は玉藻に魔力を吸い尽くされているので、本当に【ほぼ】全殺し状態))。
 更に誰にも邪魔されずにイケメン魂の主人に仕えられると当初は大暴走するが、雁夜の地雷を踏み捲くって絶縁寸前迄仲が悪化する。
 だが、腹を割って話した結果、改めて良好な仲をゆっくりと築いていく事にする。

 雁夜が桜を深く想っている事が切欠とはいえ、桜を実子の如く愛情を以って接する。
 が、雁夜が桜の両親は断じて自分達じゃないという考えを譲らない為、玉藻は自分を桜の叔母と認識しながら日常を過ごす。
 尚、桜とは本音トークを幾度もしており、雁夜が桜に遠慮と専念する為に自分と肉体関係に至らないことを話して盛り上がる程の仲の良さであったりする。

 幸せ家族生活の為にと雁夜の資産を運用し、9年経過後は地球上の5割強を席巻する多国籍企業へと悪夢の如き高速発展をさせる(社の推奨宗教を密教関係にして自身に補正が掛かるようにしている)。
 更に冬木と那須の両間桐邸を雁夜と徹底改造して神代級の神秘が溢れている状態にし、更に自身の欠片を集合させて住まわせたり、幻想種を呼び込んで間桐邸を魔窟化させる。
 その上、雁夜が心血骨肉籠めて作った宝具に同じく心血骨肉籠め、桜の護身用に規格外宝具の創造をしたりと、裏表問わずに世界を大きく一変させる行動を幾度も行う。

 雁夜と共に異世界へ旅立つことに否は無いが、桜と共に旅立ちたいのも事実だったりする。
 が、桜が雁夜の想いや期待に応える為に残ることも理解しているが、自分が雁夜との関係を進める為に残るという理由が在ることに気付いている為、凄まじい心苦しさも在ったりする。
 しかし、紆余曲折を経、晴れて雁夜とだけに成った時には一切自重しなかったりするのが実に玉藻らしかったりする(断る理由が無い上、何だかんだで玉藻にベタ惚れしている雁夜は当然……)。

 因みに、ガイア側の玉藻……というか天照=大日如来=ダキニ天は、星というか世界の寿命を延ばせる雁夜の護衛の為、玉藻は【天照=大日=ダーキニー=玉藻の前】全ての能力行使が可能になっている。
 尤も、雁夜の為に立ち上げた企業で推奨する宗教で稲荷宗教も存在し、悪ノリした玉藻が狐耳と尻尾をコスプレと勘違いさせて稲荷神のモデルとして写真を残し、後世に社の偉人として社員の大半とおぞましい数のオタク達から信仰を受け、遂に自身の中の他神格を含めて最大級の信仰を受け、更に一般で、【天照=大日=ダーキニー=玉藻の前】、という方程式が浸透した為、未来でまさかの下克上を果たす。
 尚、星の寿命を延ばせる雁夜が異世界へ渡れる理由は、桜若しくはその血族がガイア側に悪性干渉されず且つ間桐邸と共に存続している限り召喚と送還を星持ちという条件で定期的に寿命を延ばすと契約している為であったりする。(当然間桐邸と桜に掛かる加護は凄まじいモノになっている)。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

納口上・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

「満天下に謳い上げたい! 俺は今、生きている!!!」

 

 黄色過ぎる太陽を見ながら俺は力の限り叫ぶ。

 

「腑に落ちないというか解せない事を力一杯叫ばないでほしいんですけど?」

「愛欲・ランクEX持ちは黙ってろ。

 俺は今…………穏やかな愛情と言うモノを涙が出そうな程噛み締めている真っ最中なんだ」

 

 数年間ノンストップとか燃え上がり過ぎだ。

 燃え上がれ燃え上がれGUNダム、とか歌ってる人も吃驚の燃え上がりっぷりだぞ? いや、寧ろ燃え上がり過ぎて爛れ過ぎたのか?

 まあ、兎に角久し振りの穏やかな日常(寧ろ非日常か?)なんだから、先ずはリハビリがてらにダラダラしよう。そう決めた。

 

 さて、そうと決めたら早速草原に寝転がろうとしたが、そこに玉藻が頬を膨らませながら反論してきた。

 

「さっきまでも十分穏やかだったじゃないですか?」

「……マジでお前以外を思考出来ない状態は、一見穏やかだろうが病んでる状態だから穏やかとは程遠いだろが?

 外の風景を見てもそれが何なのかすら解らないし興味も湧かない。

 そしてそんな状態を全く不自然に思わないとか…………マジでお前と心身共に融合するところだったぞ」

「え~? 良いじゃないですか。

 私はご主人様と溶け合っても全然構いませんよ?」

 

 おいおい。脳内がピンク一色に成って遂にボケ切ったか?

 

「お前……何か極まった自己愛の気でも在るのか?」

「ほえ?」

 

 間の抜けた顔を見てると、萌えという新単語の意味が解らなくはないな。

 こう……欲情とは無関係に抱き締めたくなるというか…………って、いかんいかん、考えが逸れた。

 

「だから、解り易く言えば多重人格者が別人格を愛せるかとかそういうことだ」

「あぁ~」

「記憶共有はまだ良いとして、お前と人格融合したらどっちも消えるって事だろが」

「納得しました。

 ……今度からは防壁を張ってシましょう」

「いや、抑防壁の必要が発生する程シなければ済む話だと思うぞ?」

 

 腎虚とか以前に普通は飢えや渇きで死んでるし、そうでなくても寝不足か過労か衰弱で確実に死んでるから、今考えたら絶対に狂ってたな。

 ソドムとゴモラの奴等も真っ青な退廃生活だ。いや、寧ろ耐久生活か?

 兎も角、文字通り、【あなたの事しか考えられない】、状態はもう勘弁願いたい。

 行き着く先は人格融合と言う名の死だからな。

 

「むぅ~。……ご主人様は際限無く愛し合うのは御嫌ですか?」

 

 …………まいった。

 駆け引き無しの直球ど真ん中とか……しかもそんな不安そうな顔でとか…………何で要所要所で防御不可の一撃を急所に叩き込むんだよ!

 

「あ~……うん…………いや………………嫌じゃないんだよ。嫌じゃ。

 ただ俺としては……、小さい子供が毎日を謳歌する様に、起きて・食べて・遊んで・食べて・遊んで・食べて・団欒して・眠る、って日常を一緒に過ごしたいな~って思ってたりするんだよ」

「私は、睦み合う・情けを頂く・情を交わす・歓を尽くす・心を重ねる・膳を据える・愛に浸る・閨を共にする、って生活をしたいです」

「うん。別解釈すれば辛うじてありな感じの気がするけど、絶対全部同じ意味で言ってるだろ!?

 と言うか、何の辺りが良妻なんだよ!?」

「年齢や身体障害とかに引っ掛からない限り、床上手は良妻の必須条件です!」

「ああ確かにそうだろうな!

 そして悔しいけどその点に関しては良妻と認めるのは吝かじゃないさ!

 だけどな、貞淑と程遠い良妻がいてたまるか!」

「失礼ですよご主人様!

 私はご主人様以外に身も心も許したりはしません!」

「いいから正気に戻れ!駄狐!!!」

 

 瞬間的に生成出来る限界の創世の風を纏わせた手刀をそこそこの強さで玉藻の脳天に振り下ろす。

 

 全く。黒化と言うか人格が自壊融合し掛けるとか、コイツ本当に神霊かよ?

 

「へぷぽっ!?」

「……どこの世紀末のザコだよ?」

 

 寧ろ戦闘力的に俺の方がその断末魔を言う方だろうが。

 ま、それは兎も角、唐突に創生の風を叩き付ければ活を入れられるだろうと確信と言える閃きが浮かんだから実践してみたが、雰囲気から察するに効果はばっちりみたいだな。

 

「~~~っつぅーーーっっっ!

 い、痛いです。ご主人様に三行半と共に殴られたかの様に痛いです」

「人聞きの悪いこと言うな」

「これはもう心の致命傷を癒す為にも、ご主人様といちゃラブデートをしなければ治りそうもありません」

「はぁぁ……。取り合えずまともな馬鹿に戻ったみたいで何よりだ」

 

 此の軽い感じの会話こそが玉藻だな。

 いや、「シリアスと言うか静かな沈黙も好きだけど、ガキの頃の捻くれつつも素直な感じで付き合えるのも堪らなく好きなんだよな。

 後、ファウストの台詞は本当に名言だな。時よ止まれお前は美しい……ってえぇぇぇっっっ!?!?!?」

 

 まさかまさかまさかっっっ!?!?!?

 

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!

 久久にご主人様のうっかりデレを頂きましたーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「忘れろっ!直ぐに忘れろ、今直ぐ忘れろ、永久に忘れろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

「無理です! もう玉藻の脳内お宝フォルダへ厳重に保管しました!!!

 もうこの命尽きるその時迄失くしたりしません!!!!!!!!!」

「いいから忘れろ忘れろ忘れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

「無理です無理です無理です!!!

 既に脳内会議でご主人様が用事で居なくて寂しい時、脳内再生して寂しさを慰めると満場一致で決まっています!!!」

「ずっと一緒だからそんなの必要無いだろが!!!???

 いいからとっとと忘れろ!!!」

「ッッキャーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 又もやご主人様のうっかりデレを頂きましたーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?!?!?

 ヤり過ぎて俺の理性が怠けてるうううううううううううううううっっっ!!!???」

 

 発言の緩さはボケ老人並なのに羞恥心は普通の青年並ってどんな罰ゲームだよっ!?!?!?

 駄目だっ! これ以上は喋れば喋る程に墓穴を掘るだけだ!

 此処は落ち着く迄は何処かで頭を冷やそう。

 

 

 

 その後、恥ずかしさと冷却期間確保の為に海上どころか空中を疾走して玉藻と距離を取ろうとしたが、当然玉藻を振り切ることなんて出来やしなかった。

 しかも、誰かに捕捉されない様に手を打っていたのが災い(幸い?)し、雄叫びと哄笑共に現れる鎌鼬という伝説が生まれることになった。

 

 

 







【後書】


 何と無く続編を書ける様な、伏線めいた納口上(エピローグ)でした。
 いえ、別に続編を書くと決めているわけではありませんが、取り合えず続編を書く際に導入し易い要素を伏線っぽく書いておけば、続きを書きたい時に楽になるという程度の考えで書き足した話です。
 まあ、続きを書かないならば完全に蛇足な話ということですね(苦笑)。

 因みに雁夜達があの儘無軌道に衝撃波を撒き散らして都市伝説を作り続けた末、とある海岸線で拘束具を着込んだ大天使の少女の現場に突っ込むという構想が在ったり無かったりします。
 他にも何処かの銀の福音を轢き逃げしたり、四次試験を終えて戻る狩人試験の舟を轟沈させたり、ちんちくりんの人に合気を習っている合法露出ロリを天高く舞い上げたり、何とかの書の闇をフルボッコする寸前に走行の邪魔とばかりに完全消滅させたり、等等etcetcという構想が在ったり無かったりします。
 ……最初からクライマックスブレイカーですね。



 それでは蛇足の話迄御付き合い下さった読者の皆様に、改めて心から感謝の意を述べさせて頂きます。
 どうも簡潔迄御付き合い下さり、本当に有り難う御座いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔法少女リリカルなのは編
シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね





 蛇足としか言えない続編を書くに当たり、感想で多くの方から言われていた点に対する補足を行います。



●1 雁夜が努力もしないで力を得ている点に関して

 此れに関して作者は特に何とも思っていません。
 初めから他者と隔絶した力を持っている玉藻やアルクェイド、龍を祖先に持つ故に圧倒的スペックとスキルを生まれながら持ち且つ神造兵器を与えられたアルトリア、修練の記憶を消失した上で人格が再構築され且つ死に触れて死を理解した遠野志貴、生来の高スペックに加えロアに転生された為稀代の魔術師の知識を手に入れたエレイシア、等等etcetc……他にも沢山似た者は居ますが、此のSSの雁夜は究極的には先の面面と差が在るとは思っていません。
 特に、魔力炉心のお蔭で莫大な魔力を生成して魔力放出をしまくり、貰い物の対城宝具と6次元迄干渉遮断し且つ不老不死化する宝具で固め、生来の直感で技巧無しのゴリ押しセイバーとの差を作者は本当に理解出来ません。

 要するに作者は力を得た背景なんて一切気にしていません(苦難に打ち克つのは尊いと思いますが)。
 神様転生で力を得たのが無責任な力だというなら、生まれながらに莫大な力を持つ者達も無責任な力を持つ者の筈ですから。
 他にも、修行せずに得た力は紛い物という意見に関しては、[修行すれば力を得られる存在が偶偶修行して力を得ただけの話]、としか思っていません(特に初めから神とか龍とか鬼の血を引いていて、力を得られる公算を持っていると把握していれば、修行ではなく制御練習としか思えません)。
 更に、急に力を得たからといって修行や制御をするべきだという意見に関しても、力はあくまで自分の一部であって、力の為に自分が存在しているわけでない以上、急に得た力を腐らせようと磨こうともそれは自身の自由と思っていますので、力に対する責任とかの考えもないです。
 寧ろ力よりも地位に対する責任を確りするべきだと作者は思っています(その上で力有る者には理性的な対応を望んでいますが)。

 以上の理由に因り、作者に力を得た背景に関して色色仰られた方達には申し訳ありませんが、御不快にしてしまったこと自体には謝罪致しますが、改善や修正する気は在りませんので、悪しからず御了承下さい。



●2 雁夜がSEKKYOUしている件に関して

 特に雁夜が庶民の考え方こそ至高としているのが不快と仰られる方が居ましたが、別に雁夜にそのようなつもりで発言させてはいません。
 雁夜には、〔セイバーが自分の都合で此方を巻き込むなら、俺も自分の考え方を全面に押し出してやれ〕、って感じで会話させていただけです。
 作者はセイバーにSEKKYOUする気は微塵も在りませんし、それを雁夜にさせる気も微塵も在りませんでしたが、御不快になられた方が多かったので、改めて謝罪致します。

 尚、これからもSEKKYOUにしか思えない展開になるかもしれませんが、基本的に作者は邪魔者に関しては。【鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス】、ですので(無論リアルでは自制しますが)、話の展開上殺害を中止する代わりにSEKKYOU臭くなるかもしれませんが、其処は御勘弁下さい。
 因みに作者的SEKKYOUは玉藻の神云云全般で、寧ろ雁夜には、〔人外が人の中で生きてんじぇねえよ〕、とSEKKYOUしたい程です。



●3 雁夜がKARIYA過ぎて鬱陶しい件に関して

 此れは作者が頻繁に比較対象として玉藻や此のSSのギルガメッシュを用いていた弊害です。
 つまり、基準が既にチートかチート寸前の強キャラだった為、自動的にKARIYAになってしまったわけです。
 要するに、作者が全面的に悪いということです。
 本当に申し訳御座いませんでした!

 ……自重する気は無かったのですが、自覚していればもう少し他者との比較を抑えてKARIYAと思われる要素を減らせていたと思い、反省しています。
 重ねて謝罪させて頂きます。



 以上が多くの方から御寄せ頂いた御不満に対する作者なりの回答です。
 そして異世界クロス編に突入すると先の回答が因り顕著になりますので、読まれる際には御注意下さい。本当に御注意下さい。寧ろ注意が必要と思われる方は読まれないことを非常に強く推奨致します。

 尚、批判は受け付けておりますが、誹謗中傷は勘弁して下さい。
 特に感想でなくて評価の一言で告げてくる辺りが腹立たし過ぎます。
 全て読まれた上でならまだ構いませんが(止めてほしいですが)、最初の数行見ての誹謗中傷とか本当に勘弁して下さい。本当に折れそうです。色色と。

 それでは上記を読まれた上でそれでも宜しい方は又暫く駄文に御付き合い下さい。

 それではどうぞ。





 

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!!!!!

 恥ああああずうううううかあああああしぃぃぃぃぃいいいいいいっっっ!!!!!!!!!!

 

 何? 何なの!? 何なんだよっ!? 俺の理性はあいつ相手だと報告無しで急にストライキでも起こしたりでもするのかよっ!?!?!?

 真面目な告白でも恥ずかしいけど、理性のフィルター通って出てるからまだマシだが、ぽろっと漏れる本音は理性のフィルターなんて通ってないだけに、あいつどころか俺も纏めてクリティカルだぞ!?会心の一撃というより痛恨の一撃だぞ!?

 好きな奴を題材にしたポエムを呼んで、しかもそれを好きな奴に聞かれるとか、もうマジで首吊りたくなる程の羞恥プレイだぞ!?

 しかも更に誘爆する様に愛の囁きとしか思えん台詞を洩らすとか、水中で重石を括り付けて首吊りたい程の羞恥プレイだぞ!?

 

 ああ、神様仏様お天道様! これからは健やかに暮らし、そして健やかに愛し合いますから、どうか俺に更なる力というか脚力を今だけ与えて下さい!

 

「みっこーーーーーーーーーーーーーんっ!!!???

 ご主人様ご主人様! 健やかな愛し合いってデートとかも含まれますよね!?ですよね!?ですよね!?そうですよね!?」

「うがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?

 サラッと俺の心を読んでんじゃねえよっっっ!!!???」

「そんな無粋な真似なんて断じてしません!

 今のはご主人様が私に祈りを捧げてくれたんで聞こえただけです!

 忘れてるかもしれませんけど、お天道様とは即ち私のことでーすよー!」

「しぃぃまっったっっあああああああああああああああああああ!!!」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! そうだったああああああああああああああああ!!!

 俺の中じゃ、【九尾=玉藻・神=玉藻・仏=玉藻・太陽=玉藻】、って方程式だったああああああああああ!!!

 しかもアルクェイドに俺位の存在の奴が本気で祈りを捧げたら神に対して100%通じるから、借りを作らないように気を付けろって言われてたじゃないかっっっ!!!

 

「ご主人様ーっ! ちょうど世間はクリスマスシーズン(カップルでのデート推進期間)ですから、私達も此れに便乗にしてデートしましょう!!!」

「黙れ罰当たり狐!!! エホバ神へ頭下げに行ってこい!!!」

「あんな信者以外は人も神も仏も精霊も森羅万象纏めて滅尽滅相な奴に下げる頭なんて在りはしません!

 私が頭を下げるのはご主人様だけです! そしてその後に撫でてもらうというご褒美を貰うんです!! そしてその儘特に意味も無くベタベタイチャイチャ甘い一時を過ごすんです!!!」

「ダメだこいつ!? 本気で早く何とかしないと!!!」

 

 と言うか、過程はさて置き、一瞬でも今直ぐ意味も無く抱き合ってゴロゴロしたいとか考えた俺の脳味噌も負けない程に腐ってるな、おい!?

 

「むむむっ!? ご主人様ー! 今、それもいいかな~、とか考えちゃったりしましたね!?」

「おいこら!? 今度は祈りなんて捧げて無いぞ!?」

「甘いです! 蜂蜜よりも甘いです!! だけどご主人様との一時に比べたら全然甘くありません!!!」

「強調したいのか否定したいのかはっきりしろよ!?」

「雨にも負けず風にも負けず、幾度も寸止めお預けなメにも負けず、お早うからお休み迄ご主人様ウォッチャーを続けた私にとって、あれ程分かり易いご主人様の変化から内心を推測するなんてちょちょいのちょいです!」

「俺の彼女がストーカー過ぎて俺のプライバシーがヤバい!?」

「あ、そこは俺の女とか俺の妻とか言って下さーい♥」

「要求が一段階上がってる!?」

 

 いや、流石に恋人(って言うか恋神?)なのは微塵も否定する気は無いけど、未だ結婚するには早いと言うか理解度が足りないと言うか何と言うか……。

 それに結婚したら信仰補正とか何とか、可也洒落にならない規模の危険が湧きそうな気がする。

 後、やっぱり結婚するからには改めて俺からプロポーズして……って、いかんいかん! 今迂闊な事を考えれば又ぽろっと考えを洩らしてしまう!

 短時間で3度も同じ失敗をする程俺も馬鹿じゃない……っってゅええええええええええ!?!?!?

 

 

 

 

 

 

Side In:????

 

 

 

 気が付けば何時の間にか空は不気味なな紫色が渦巻いていた。

 しかも深夜とは程遠い街中に、しかもイヴの日に誰も居ないなんて不自然極まりない。

 おまけに空には露出趣味があるのか、ミニスカートというかボディコンみたいなのを着込んだ女の人が浮いている。 ……遠過ぎて見えないけど、近くで見れば絶対下着が見えるわよね。アレ。

 

 て、……なんか波動砲発射シークエンスみたいにナニカが女の人に集まっていってるって、……やばいやばいやばい!!!

 加速度的に嫌な予感が膨れ上がっていくわ!

 

「っっぅ! すずか! 取り合えず逃げるわよ!」

「えっ?えっ!? に、逃げるって何処に逃げるの、アリサちゃん!?」

「取り合えず物陰に行くわよ! 早くっ!!」

 

 あたしなんかよりずっと運動が得意なすずかを私引っ張って走ることになるなんて、普通なら優越感に浸れるけれど今はとてもそんな余裕なんて無い!

 今は先ず一刻も早く間違い無く死んじゃう攻撃の射線から隠れなきゃ!

 

 引っ張る為に握ったすずかの手の感触と温もりをを心の支えにして一所懸命走ってたけど、あたし達が一先ず近くのビルに飛び込むよりも先に破滅の光が現れた。

 そしてそれが解き放たれると思った時、地面じゃなく世界が揺れた様な気がした。

 あたしだけじゃなくすずかと破滅の光を撃とうとしていた奴も感じたみたいだった。

 だけど、あたし達が足を止めたからといって空の奴が撃つのを躊躇したりしなかったから、当然あたし達はビルに隠れることも出来ずに破滅の光を浴びなきゃいけなかった。

 

 ……訳も分からず変な所に迷い込んだと思ったら、訳も分からず空の奴から訳の分からない攻撃を食らって死ぬのかと思うと、余りの理不尽さに悔しくて泣きたくなった。

 だけど泣く暇も無い程の速さで死ぬのかと思うと、余計に悔しくて悲しかった。

 せめて状況も分かっていないすずかだけでも助けたくて突き飛ばそうとしたけど、――――――

 

「あ、危なかったぁ~。

 後少しでハンバーグを食えなくなるところだった」

 

――――――気が付けば何時の間にか…………………………あたし達は空に浮いていた。

 

 …………はい?

 えっと…………なんなの、此の状況?

 何で気が付けばあたしとすずかはイブの夜中に空を浮いてるの?

 しかも漠然と浮いてるんじゃなくて、走っている人に抱きかかえられている様な感じがするし、今更だけど凄い速さで移動してる。っていうか速過ぎ! どう見たってマッハ超えてるわよ!?

 

 夢かと思って急いで隣のすずかに顔を向けたけど、すずかもテンパった感じで目を白黒させてた。

 

「あー~……っとと、先ずは姿が見えないと話し難いかな?

 で、……えぇっとぉ…………俺は徒の通りすがりの一般人だから気にしないでくれ」

「「…………」」

 

 急に現れた(寧ろ見える様になったや認識出来る様になったってのが正しいのかしら?)奴が、世の中の平均とか普通とか一般に全面戦争を吹っ掛ける言葉をサラッと吐いた。

 

 ……超音速空中走行とか出来るのが一般人なら、オリンピックのタイムは何なのかと一度問い詰めたい。

 というか、風が全然無いのや自衛隊とかに捕捉されていなさそうなこととか、ツッコミたいというか謎な事が幾つも在ってどれからツッコんでいいのか迷って困る。

 

「ご主人様ー! 浮気を飛び越えて光源氏計画とか、絶っっっっっっ対に認めませんからねー!!!」

「とんでもなく人聞きの悪いことを言うんじゃない!」

「ご主人様がロリやペドっていうんなら頑張ってご期待に沿いますから、一先ずその子達を放り捨てて下さーい!」

「いや、もう本当に黙ってくんない、お前!?」

 

 ……一難去って又一難ね。

 しかも今度は貞操と命のダブル危機とか、日本の空気に当てられて神聖なクリスマスで浮かれていた罰が当たったのかしら……。

 

「私の第七感(フォックスセンス)がビンビン反応しています!

 今此処でその二人を仕留めなければ、絶対に将来面倒なことになると告げています!

 ですからちょっと私にパスして下さい!

 大丈夫です! 別に殺したりはしませんから!

 徒、ちょっと頭の中を念入りに漂白して赤ん坊から遣り直してもらうだけですから!」

「無防備にマシンガンの如く核ミサイルを食らい続けても平気なお前が手を焼く存在になる筈ないだろが!?」

「勘なので詳しく説明出来ませんが、一万年先の太陽を時間転移させるよりも面倒な事態になると確信出来るんです!」

「だからって轢き殺しそうになった奴を、[はいそうですか]、って渡すくらいなら初めから素直に轢き殺してるに決まってるだろが!」

 

 ……後ろから声は聞こえるけどさっぱり姿が見えないわね。

 というか、雷が迸ってるのしか見えないんだけど? っていうか、若しかして雷じゃなくてプラズマ!?

 まさか大気摩擦……じゃなくて断熱圧縮で大気がプラズマ化する程の速度で走ってんの!? って改めて前見たら遮光シールドみたいなのが広がってる!?

 

「じゃあ私達に関する記憶を一切合財全部纏めて消し去った上でさっきの時間に転移させます!

 コレなら文句は在りませんよね!?」

「在るに決まってるだろ馬鹿垂れが!?

 あのタイミングに転移させたら此の子等両方消し飛ぶだろうが!?」

「別にそれはご主人様の責任じゃありませんから気にしなくてOKです!

 悪いのは誰が何と言おうと消し飛ばす奴なんですから!」

「っっぅ!?」

 

 こら!?そこで押し黙るな!?

 あたしとすずかの命運はロリペド疑惑のあんたの双肩に掛かっているのよ!?

 男ならか弱くて可憐な美少女二人を守り通しなさいよ!!!

 

 ……って、何よすずか?その、[え?か弱い?アリサちゃんが?]、見たいな顔は?

 後、何であたしの心が読めるのよ?

 

「ご主人様はコレを機に、一度自分が周囲に与える影響を本気で考えるべきです!

 彼処の空間を覗き見していた奴等に私達は捕捉されていませんが、その二人はばっちり捕捉されています!

 此処で解放しても最悪頭の中を弄くられて廃人になるかもしれませんし、口を割らせる体の良い口実として拷問されるとかもありえます! そうでなくても都合の良い協力者に仕立て上げられるのはほぼ鉄板です!

 そして当然ご主人様はそれを撥ね退けるだけの力が在りますが、流されて力を振るい続ければ絶対碌な目に成りません!

 それを回避する為にも心を鬼にしてこの二人を放り出すべきです! 私の嫌な予感を晴らす為にも!」

「その一言で全部が台無しだ!!!???」

「私はご主人様には決して嘘を吐いたりはしないんです!」

「良い事言ってるけど、世の中には知らない方が幸せなことって結構在るからな!?」

 

 全く同感ね。

 最後の一言がなかったら此の人を想って憎まれ役を買って出てる人に思えなくも無かったのに、一気にグダグダに成ったわね。

 

「私はご主人様に隠し事もしたりしないんです!」

「いや、乙女の秘密とかほざいて結構秘密にしてる事が在るんだけど!?」

「秘密であって隠し事ではないからセーフです!

 第一、秘密は女を美しくする為の大事な要素なんです! 化粧の様なモノなんです!」

「化粧する必要も無い奴が何言ってんだ!?」

「むむむっ!? それはそんな必要が――――――」

「ちょっと待った玉藻!」

「――――――無い……って、どうしましたご主人様?」

 

 急に止まる何てどうしたのかしら?

 後、此の儘物騒な雰囲気が流れてくれれば万万歳って思ってたけど、物騒というか嫌な予感が跳ね上がった気がするわね。

 

「上のアレ。何か地球に対して洒落にならんことしようとしてる気がするんだが、抑止力からの要請か自前の勘かはっきりしないんだが、詳細分かるか?」

「はいはーい。

 ご主人様に頼られたとあらば直ぐに真面目にお答えします。

 

 ……え~と実測とクラッキング結果と推測が混じりますが、

 

●登録艦名 :Administrative bureau L-class inspection ship Arthra.

      和訳で、時空管理局巡航L級8番艦アースラ

●時空管理局:地球外惑星で発祥した惑星間の秩序維持組織。

      司法権だけでなく事実上立法権と行政権も兼ね備えた、警察と軍の混合組織。

      活動内容は物理科学文明の排斥と魔導科学文明の強制、並びに再現不能技術の徹底独占。

      活動範囲は魔道科学文明域限定だが、犯罪者並びに前項目が関わる場合その限りでない。

      極めて高い独立性を有した組織の為、主権侵害という概念が存在しない。

      最高意思決定機関の者の寿命や現在地や活動内容等に疑問点多し。

      組織の規模は巨大だが自浄作用が働かぬ為、50年以内に自壊すると予測される。

●目標位置 :対地同期軌道高度の約35816km。

●目標速度 :秒速約870nm。

●移動方向 :自転方向の真逆方向、及び地表へ対しての仰角約1度。

●主兵装  :全て魔道科学を用いているが地球の兵器に比べて総じて実用に難在りと推測。

●特殊兵装 :名称Arc-en-ciel(アルカンシェル)

      着弾点から半径約百数十kmを空間歪曲と反応消滅を撒き散らすとされている。

      尤も、誇張表現されていると判断され、搭載されている物も該当するかは不明。

●捕捉   :次元の海を渡り且つ管理すると自称しているが、次元突破には至っていない模様。

      同次元及び同位相内の他天体へと転移する技術を誤解しているだけと判断される。

      転移方法は異なる位相空間を介して行われる。

      魔導科学と呼称されるが、最終的には動力源が魔力かそれ以外かという大同小異。

●行動目的 :再現不可能品、通称ロストロギアの徴発、若しくは破壊。

      尚、破壊する場合は地上へ向けてアルカンシェルを発射予定。

      アルカンシェル着弾点は先程の結界内に収束すると予測される。

●現在動向 :再現不能品である呼称・闇の書の徴発乃至破壊。

      更に先程結界を崩壊寸前に追い遣り且つ現地民二名が消失した原因究明中。

      尚、現在に至る迄私達の周囲を徹底的に対地同期軌道(衛星軌道)から解析を試みられています。

      尤も、断熱圧縮による高電離気体化等の二次的なものしか観測されていません。

      又、私達が此の空域に留まっている事を示唆する情報を彼等は一切得られていません。

 

以上です。

 尚、抑止力がご主人様を危険地域に向かわせるとは考えられませんので、ご主人様が感じられたのは総合感覚と言われる第六感ではないかと思われます」

 

 …………マジ?

 

「地表へ向けて特殊兵装を発射された場合どうなると思う?」

「仮にカタログスペック通りの破壊を齎すならば、表層地層どころか地殻プレートに数十kmのクレーターを作りますから、ユーラシアとフィリピン海と北米と太平洋の4つのプレートの均衡が一気に崩れますから、そのプレート上は未曾有の大地震が発生するでしょうね。

 しかも運悪く岩石圏を越えてクレーターを穿たれた場合、地球開闢に迫る勢いの噴火が起こり、北半球の殆どが噴煙に覆われて氷河期に突入する可能性もあります。

 更に自然風・気流・地磁気・地熱・潮流等が大幅に減衰すると予測され、少なくとも北半球は現在の生命体が生存するには非常に厳しい環境になると思われます。

 恐らく1世紀で地球の総人口が85%は減少するでしょう。理性が低ければ南半球の地を巡って世界大戦が引き起こされて0.1%も残らないでしょうね」

「……まあ、そうなるよな」

「因みにその引き金を引こうとしている奴等にその自覚は皆無っぽいです。

 後、その点をツッコんだらそれでも守れる奴が多いから問題無いっていう正論と思ってる寝言が返ってくると思いますけど」

 

 ……いや、確かに寝言かもしれないけど、それって言う奴は本気でそう思ってそうで怖いんだけど?

 少なくても本当にそんな兵器をコッソリ善意で地球に使おうとか思ってるなら、絶対に話が通じないとしか思えないんだけど?

 

「……ところで徴発とかしようとしている大義名分って分かるか?」

「〔全てのロストロギアは時空管理局が平和利用する為の物であり、その所有権は全て時空管理局に帰属する〕、という感じですかね。オブラートで包み隠せば」

「……余り聞きたくないが、包み隠さず言えば如何なるんだ?」

「〔俺の物は俺の物。お前の物も俺の物。 お前の罪はお前の罪。俺の罪もお前の罪。 世界の平和は俺のお蔭。だからお前は俺に従え〕、って感じですかね」

「「「………………」」」

 

 何処かの剛田武も吃驚の理論ね。

 というか、本気で思ってるんだとしたら絶対に関わりたくないわね。

 多分朝鮮半島辺りに強大な軍事力を持たせた感じっぽい組織かしら?

 

「全力で関わり合いになりたくない組織だな。

 ……と言うか、俺達って見つかったら面倒なことにならないか?」

「ほぼ確実に相当面倒な事態になりますね。

 生身で向こうがどれだけ技術と時間を費やしても再現不可能な事が出来ますから、神か化物にしか見えないでしょうね」

「主にお前がだけどな。

 俺には日本を蒸発させるような火力とか無理だしな」

 

 何それ? すっごい怖いんだけど?

 

「むっ? 私が本気を出せば月を叩き落されても押し切られる迄に蒸発させられますからね?」

「いや、神と真祖が化物なのはよく解ってるから、今更張り合うなよ」

「いえ、いくら親友と雖も、ご主人様に私より高く評価されるのは我慢出来ませんから。

 後、、私達からすればご主人様の技能の方がぶっ飛んでますから。

 時間旅行?死者蘇生?世界跳躍?天体消滅?何それ美味しいの? が、ご主人様の技能ですから」

「今一実感湧かないけどな。

 第一、自衛能力と直結してないから俺的にはどうかと思うけどな」

「そんな卑屈にならなくても、ご主人様は月を両断するくらい出来るんですから、誇られてもいいと思いますよ?」

「それだと結局月を支えきれずに死ぬし、そうでなくてもスペックで負けてるから瞬殺だけどな。

 実際さっきだって本気出せばコンマ01秒も掛からず追いつけただろ?」

「あああ!? ご主人様がネガティブに!?」

 

 ……100m位を1/100秒未満で追いつけるって事は10km/s以上速度を上げられるってこと?

 さっきの速度が5km/sぐらいと思うから、その3倍で動けるって……赤くなれば性格的にもぴったりね。

 

 後、落ち込んでるみたいだけど、一般人はミサイルを速力だけで振り切れそうな速度で動けないから、落ち込む理由なんか無いから。

 ……いや、彼氏の自分が彼女よりも弱いから落ち込んでるのかしら?

 

「別にネガティブになってるわけじゃない。 単に当然のことだもんな。

 俺の頭がパソコン並ならお前の頭はスパコン超えてるし、俺の移動速度と範囲がスペースシャトル並に動けるとしたらお前は宇宙航行を前提にした大和だし、俺の攻撃が気功ホーならお前の攻撃は超GENKIDAMAだし」

 

 いや、ほんとに何それ?

 少なくても向こうのあいつはどっかの魔人とかと宇宙の平和の為に戦っててほしいんだけど?

 

「って、いかんいかん! 今は鬱に陥ってる場合じゃない!

 取り合えず此の星でゆったりマッタリのんびりノビノビ穏やか気儘に過ごす為にも、闇の書とか言う古痛臭い名前のロストロギアだかをどうにかしないとっ」

「あ、ご主人様が利益の為……と言うか、ご主人様が不利益を被らない為に行動するなら異論は全くありません。

 寧ろ私がご主人様の御手を煩わせない様に代わりたい程です」

「…………仮に代わったとしたら如何解決するつもりなんだ?」

「手間を省く為にもあの結界内を熱滅却処理したいんですが、流石に鏖でオーバーキルだとご主人様も嫌ですよね?」

「全身全霊に財産や未来や尊厳とかを賭けろなんて頭おかしいこと言うつもりは無いけど、少し手間が掛かるだけでどうにかなるなら、とばっちり殺人は止めてくれ」

「ですよねー。

 解りました。ご主人様がそう仰るんで、謎の爆発で動機による絞込みを撹乱させるのは止めにしますね。

 なら……主ごと封印か滅却ですかね?

 私的には面倒の少なさと慈悲も兼ねることから滅却を押しますけど」

「まあ……封印されても彼処の奴等に回収されて調べ尽くされるだけだろうしな。

 それに封印から解放されても不名誉なレッテルを張られた上で使い潰されるだけだろうしな」

「ですね。

 将来器量良しに成りそうですから、金持ちや高官の好事家辺りに心身使い潰されそうなのは同じ女として情けを掛けてあげたいですからね」

 

 気分が悪くなる話だけど、封印して胸糞の悪い未来に放り捨てるか、それとも此処でサクッと殺すという慈悲を与えるのか、…………恵まれた所で生きている私に出せる……いや、出していい答えじゃないわね。

 

「ところでご主人様? さっきから気になっていたんですけど、どうして其処の二名はご主人様や私を認識しているんですか?」

「あぁ、今俺を包んでいる不思議物質の特性を弄くって見えるようにしているだけだ。

 序に慣性や圧力や衝撃や遮光や断熱とかも大丈夫な様にしてる……と言うか、こっちの特性が元からので、認識関係は後付けなんだけどな」

「…………あの~ご主人様? 不思議物質で触れた際の対策は為されてますか?」

「は?」

 

 …………何でかしら? 既に分水嶺を越えている様な質問がされてる気がして仕方ないんだけど?

 

「ですから、不思議物質に触れたらそれだけで変質というか汚染というか昇華するじゃないですか?

 その辺の対処は如何されているんですか?」

「……いや、不思議物質は俺を基点に縦横半径2mと5mの楕円球状に展開してるから、触れられる心配がないから対策とってないぞ?」

「いえ…………ご主人様自身が不思議物質なんですけど?」

「………………」

 

 ………………今、あたしだけじゃなくてすずかもこう思っている筈。【ナニカが終わった】、って。

 

「い、いや、普段から俺が着てる服とか、他にも俺が吐いた息とか、何より桜ちゃんに触れても特に何てことなかったぞ?」

「そりゃ普段はご主人様を構成している不思議物質は安定状態ですからそう簡単に接触している物質に影響を及ぼさないでしょうし、影響が小さいなら世界が修正したりしますから目に見える影響は無いと思いますよ?

 でもですね、バリバリ力を揮って活性状態の時にご主人様に触れれば、大抵は修正するよりも受け入れた方が楽でしょうから、流石に影響は出ると思いますよ?」

「い、いや、その状態でぶん殴ったギルガメッシュや、その後で抱えた桜ちゃんとかに目立った変化は無かったぞ?」

「そりゃ無い筈ですよ。

 直接的な傷害なら兎も角、接触変質という三次効果なら自前の神秘で普通に弾けるでしょうし、桜ちゃんに至っては過去に取り込んでるんですから触れた程度で変化が目に見えて表れるわけ無いじゃないですか?」

「…………………………どぅふ」

 

 …………はい、あたしとすずかのナニカが終わったわね。

 

「はあぁっ…………前前から時時言ってましたけど、ご主人様はもう少し自分が常識外の存在だって自覚した方が良いですよ?

 ご主人様風に言えば、ご主人様と人間の差は火の鳥と蟻くらい離れてますから、ご主人様が普通に居るだけでも周囲に与える影響は甚大なんです。って……火の鳥に喩えるって、凄く的を射ていると思いませんか?」

「……別に俺の生き血を飲んでも不老不死に成ったりしないと思うぞ?」

「いえ、人間を不老不死にするっていうスケールの小さい話ではなく、世界を……いや、まあ、いいです。

 それより、状況が動き出しましたから、何をするか早く決めちゃいましょう」

「とと、そうだな。

 だけどその前に代わりに頼む」

 

 その言葉と共に呆気無く放り投げられるあたし達。……ってぇっ!? 

 

「ちょぉっっっ!!!???」「っっっ!?!?!?」

 

 落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるっっっ!!!

 渡すにしてもせめて一声掛けてから手渡しなさいよっっっ!!!

 

「いやん♪」

「な”ぁっっっ!?!?!?!?!?!?」「え”え”っっっ!?!?!?!?!?!?」

 

 わざとらしい悲鳴を上げて躱すなっっっ!!!!!!

 

「又来世~★」

 

 一点の曇りも無い太陽を髣髴させる表情を浮かべた女に見送られながら、あたしとすずかは夜の地へと落下していった。

 

 

 

 見えなくなる寸前、驚いた顔でこっちに駆け付けようとする男の人を澄み切った笑顔で止めているのを見た時、何時の間にかあたし達は恐ろしい世界へと迷い込んでいたのだと遅蒔きながらに実感した。

 

 

 

Side Out:????改め Alisa(アリサ)

 

 

 







 悪乗りしてリリカル世界編突入です。
 但し作者の気分次第で次話で終わるかもしれませんし、逆に地球に数の子達が溢れて管理局と全面戦争になるという喜劇の様な長編になるかもしれません。
 つまり予定は未定です。
 下手すれば別の短編を作成する時に整合性を保つ為に(←鼻で笑えるレベルしかありませんが)抹消される可能性すらある作品ですが、宜しければ暇潰し程度にでも読んで下されば幸いです。

 尚、先に断言しておきますが、バーニング化するかしないかは兎も角、〔アリサさんはSSSオーバーのレアスキル持ち魔導師なんだぜ? ヒャッハー!〕、にはしません。
 寧ろ、[アリサちゃんはSSSオーバーの魔導師なんだから管理局に入らなきゃダメなのっ(キリッ)]、とか言われて友情が剥げ落ちていく可能性ならあります。長編なら。
 因みに自分は、なのはアンチでもアンチなのはでもなく、なのはよりも他のキャラが好きなだけです。
 具体的にはアリサやすずかやリインフォースとかとらは3のフィリスとか。だけどロリじゃありません。Ⅱは御勘弁願いたいですし、4期のViviオは個人的に4番の人に並ぶ程NGキャラになっています(此の3名が好きな人、すみません)。それにロリやペドとは、幼稚園のプールの光景を赤外線カメラで撮影している奴を指すと思います。

 それと、投稿速度は以前に比べて格段に低下しますので御了承下さい。
 ……冷静に振り返れば、どうやってあの速度を維持出来ていたのか今更ながらに謎です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

 夜の闇に飲まれる様に姿が見えなくなっていくアリサとすずかを見た雁夜は急いで掬い上げるべく、再び宙を駆けようとした。

 だが、雁夜が駆け出す直前、玉藻が極上の笑みを浮かべながら雁夜の進路上へと体を滑り込ませ、更に焦った顔をする雁夜へ何時も通りの軽い声で話し掛ける。

 

「大丈夫ですよー♪ 柘榴やミートソースになる前にきちんと回収しますから」

「っ!? だ、だったら今直ぐ回収――――――」

「――――――したら魔術というか神秘全般を舐めた子供に成りかねませんよ?」

「…………」

 

 世界の表側にこそ日常という幸せが在ると思っている雁夜は、夢と希望しか目に映らずに裏の世界に心奪われて追い求める様になるのは好ましくない為、玉藻の言葉を聞くと反論を直ぐに止めた。

 

「記憶の改竄をどうするにしても、相手が空を飛べるだけで運ばれて落されればあっさり死んでしまう程に自分達が弱いと理解させないとまともな話し合いになりません」

「……いや、言いたいことは理解出来るんだけど……」

「会ったばかりの輩に私は甘くありませんよ? ご主人様の知り合いじゃなければ尚更です」

 

 冷たいと言うよりは極自然にそう告げる玉藻。

 対して雁夜は軽く溜息を吐いた後、降参する様に手を上げた。

 

「分かった。確かに初対面にしては甘過ぎだったかもしれない」

「はい、分かって下されば結構です。

 ご主人様はこれから億年単位で生きる筈ですから、舐められない接し方と適度な距離の取り方をゆっくり学んでいってくださいね?」

「別に舐められる様な接し方はしてないつもりなんだけどな……」

「甘いです。過ぎた礼節は徒の腰の低さなんです。

 そしてご主人様程の方は自分が100%悪く無い限り踏ん反り返っているくらいで丁度良いんです」

「いや、流石に50%悪ければ謝らなきゃ失礼だろ?」

 

 雁夜のその言葉を聞き、玉藻は呆れたというよりも如何したものかという様な困った表情になった。

 そして言うべきか言わざるべきか少し悩んだようだったが、結局言うならば早い方が良いだろうという結論に達したらしく、先程より心持ち真剣な顔で雁夜に告げる。

 

「いいですかご主人様? 罪が相殺されるのはあくまで人間同士……というか同格な者達だけの話です。

 しかしご主人様は人間と同格なんかじゃありません。

 僅かでも相手に非が在れば、自分の非を全て無視しても構わない存在なんです。

 少なくても無防備に攻撃を受けても傷一つ付けられない相手に対しては。

 

 色色と言いたいことは在るでしょうけど、そうしなければ力在る者は力無い者達の社会を容易く崩壊させてしまうんです。

 実際ご主人様は軽い気持ちでAランク以上の宝具をポンポン渡してましたけど、それらの脅威は低く見積もっても燃料と兵装を無制限で使える上に整備要らずのワンオフ戦闘機以上の物と言ってもいい程の物なんです。

 そんな物を侘び代わりに気安くばら撒き続けたら、世界の勢力バランスは容易く崩壊していしまいます」

「………………」

「言葉だけの謝罪でなくて、何かを成したり渡したりするのはご主人様の美徳だと思いますけど、それで何処かに歪が出てその煽りを食らった者ががご主人様に抗議して、それに対する謝罪で又…………って感じで負のスパイラルに陥ったりしない為にも、少しでも自分に非が無ければすっぱり意見を封殺するなり黙殺するなりくらいで丁度良いんです。

 此れは人間社会の中で生きていこうとするなら最低限自分に課すべきルールです。

 

 勿論ご主人様が個人的に気に入られた方に贔屓するのはアリだと思います。

 少なくてもご主人様のお気に入りの方が人質に取られたりした時、相手の都合を無視して人質に取った者とその関係者を滅ぼすくらいの行動が出来るならですけど。

 そうでなければご主人様は最終的に人間達から人間社会に害を齎す悪性存在と認識されてしまい、のんびり過ごすのは夢のまた夢となってしまいます」

「……………………」

 

 玉藻の言う事が雁夜にとっては耳に痛い正論の為、反論も出来ず押し黙り続ける雁夜。

 

「ご主人様が一般人の価値観を大事にしたいという想いも分からなくはありません。

 体はとっくに人外に成ってしまった以上、せめて心だけでも一般人でなければ人間との接点なんて維持出来ませんから、一般人で在り続けようとされるのは仕方ない気もします。

 

 ですけど、もう一般人の思考で過ごせる限界は過ぎてるんです。

 〔此処の世界が駄目なら今度は別の世界に行けば良い〕、と考えを改めなければ、根本的解決が成されていない以上、後は延延と行く先先の世界を混乱させて廻るだけになります。

 ですから、そうならない為にも、せめて、気軽に詫びて、そして何かを成したり、若しくは渡したりする癖は、何とかして下さい。

 

 私はご主人様が後で自分の行動を振り返った時、後悔に塗れて苦悩する姿は見たくありません」

「…………………………」

 

 普段の軽さは消え失せ、真摯な気持ちで紡がれた玉藻の言葉に雁夜は更に押し黙った。

 言いたいことは言い終わったのか、玉藻は言葉を続けたりせず静かに雁夜を見詰め続ける。

 

 

 暫しの時間雁夜は目を閉じて考え込んでいたが、やがて目を開けると玉藻を見据えて告げる。

 

「玉藻の言いたいことは分かった。そして実際その通りなんだろう。

 少なくても俺が自分の一挙手一投足を軽んじれる期間がもう終わってたのは良く理解出来た。

 それも本来なら桜ちゃんと居る時に俺に言って心構えさせておくべき所を、桜ちゃんと桜ちゃんの友人達に軋轢が生まれて桜ちゃんが悲しまないよう、そして俺が悲しまないよう、今迄黙って腐心してくれたのも解った。

 

 …………本当にすまなかった。そして……有り難う。

 玉藻が居てくれて…………いや、一緒に居れて、本当に良かった」

 

 精一杯の感謝を籠めながら雁夜は玉藻へと頭を下げる。

 対して玉藻は、内助の功として隠し続けておく筈だった自分の行為を理解された上、正面切って自分に対して予想外の全肯定をされ――――――

 

「あ……う…………い、いえ……ご主人様の良妻としては当然の事といいますか何といいますか」

 

――――――珍しく照れていた。

 

「それに桜ちゃんはご主人様にとって本当に大切で愛しておられますし私も桜ちゃんは本当に大切で愛しい存在ですからその為に何か出来る事が在るならそれをすることに一片の迷いも無いですし寧ろ迷うどころか喜んでしたんで態態お礼を言われるようなことじゃないというかご主人様に知られて気を遣わせてしまって申し訳――――――」

「はははっ。此処迄照れてテンパってる玉藻は初めて見たけど、惚れ直すくらいに可愛いな」

「――――――ないといいますか…………ふぇっ!?!?!?」

 

 隠していた事が見抜かれた上、予想外の自身の全肯定、更に言った雁夜の自覚は薄いが豪速直球ど真ん中の褒め言葉を掛けられ、非常に珍しいことに事態が玉藻の処理能力を超えてしまった。

 その為玉藻は特に意味も無くあたふたして動き回ったり手や顔を動かしたりしていた。

 

 そしてそれがとても可愛らしかった為、雁夜極自然に近付いて片腕で抱き寄せ、更に頭を残る腕で優しく撫で始めた。

 

「ご……ご主人様。う、嬉しいですけど私は子供じゃないです」

「別に可愛くて愛しいからって子供扱い………………ってさっきの子達はっっっ!!!???」

「あっっっ!?!?!?」

 

 

 

 その後、急いで様子を確認すると既に両者は成層圏に突入し始めており、更に断熱圧縮で火葬が殆ど終わっていた。

 

 

 

 

 

 

Side In:Alisa(アリサ)

 

 

 

 12月24日、その日、あたしは時を見た。と言うか走馬灯を見た。

 

 生身でF層越えた辺りから落下し始めたあたし達は、大気摩擦とか断熱圧縮とか以前に、極寒の薄い大気を全身に浴びて凍えながらも酸欠に苦しみ続けた。

 息苦しくて呼吸をすると、舌や喉や肺が砕け剥がれる程の冷気で悶絶した。

 かと言って息を止めても身体どころか衣服が砕ける程の冷気が体にぶつかり続けて徐徐に剥がれ落ち、直ぐに気が狂いそうな痛さと熱さが体を駆け巡る。

 しかも余りの痛さに泣きながら目を開けてしまうと、瞬時に涙が眼球表面で凍り付いて余計痛くて目を閉じると、今度は瞼の裏が切れたり眼球が圧迫されてもっと痛くなった。

 しかもその後成層圏に突入する前辺りで断熱圧縮が起こり始めて、あっという間にあたしの体を黒焦げに変えていった。

 髪や皮膚どころか、全身の筋肉が背中から焦げ落ちていくという受け止め切れない痛みの中、今迄の人生を激痛と共に振り返りながら、あたしは意識を手放した。

 

 だから、目が覚めるなんて微塵も思っていなかった。

 というより、そんなことを考える余裕すらなかった。

 寧ろ、逃れることの出来ない死を嫌という程理解しながらも痛みに苦しみ続けるという、拷問としか思えない苦しみの最中に気を失ったから、目覚めた時に現状を認識する前に絶望感が襲った程だった。

 だけど、それでもすずかも生きていると知った時、初めて安堵した。

 あたしが白ですずかが黒のワンピースと全然違う服を着てるのに気が付いたのは、暫く抱き合って二人して泣いた後だった。 

 

 

 血が吹き出ず目を開けていられる周囲の温度、呼吸して肺が満たされる大気濃度、落ち続ける事が無いように体を受け止めてくれる大地、断熱圧縮が発生しないように流動する大気。……当たり前だと思っていたその全てがとんでもなく有り難いモノだったんだってすずかと二人で噛み締めていると、何時から居たのかさっきの男と女に気付いた。

 男の方は凄まじく申し訳無いオーラが噴き出しているけど、女の方は不満そうと言うか面倒臭そうと言うか義務感が噴き出していた。

 

 その後二人は何が如何なって先の状況になって、そしてアレからあたし達が如何なったのかを大雑把にだが教えてくれた。

 何でも、

 

1.女があたし達を受け止めなかったのは、あたし達が関わった領域が如何いう類なのかを理解させる為だった(……脅しで終わらせるつもりだったらしいけど…………嘘臭過ぎる)。

2.男の人が今後人と如何接するかを二人で話していると、うっかりあたし達の回収を忘れてしまった(理由が………っっっぅぅぅ!!!)。

3.気付いて急いで回収したらしいけど、既にあたし達は炭化してない細胞が5%を下回ってる炭の状態だった。

4.蘇生は容認出来ても完全な死者を蘇生させるのは男の方が容認出来ないらしく、二人してあたし達を完全に死なせないよう、阿吽の呼吸で最速にて役割を分担した上で実行した。

5.女の方が消滅寸前のあたし達の魂を急いで回収して回復させ、男の方が殆ど炭化したあたし達の身体を基に消滅寸前の魂を癒せる機能とかが付随した肉体を再構築した。

6.あたし達の身体が再構築されると女は一瞬であたし達の魂を肉体に宿らせ、男の人が宿った魂に馴染むように最速で調整を行った。

7.結果、見事あたし達は完全に死ぬ事無く息を吹き返した。

8.無論、全うな生物の範疇から完全に逸脱した存在になった。

 

と、いうことらしい。

 

 …………夕方迄のあたしなら新たな宗教勧誘とか誇大妄想とか言い切ったんだろうけど、怪しい世界に迷い込んで、ボディコンみたいな服着た奴に波動砲を撃たれて、全波長迷彩を掛けた奴に抱えられて空中を秒速数kmで移動して、多分熱圏の真ん中辺りから普段着でノーロープバンジーして、紅蓮地獄で寒さと酸欠で悶えて、止めに酸欠の最中に焦熱地獄でプラズマに焼かれながら意識を手放して、その後何故か傷一つ無い状態で地面……と言うかビルの上に居れば、流石に頭から否定したりはしないわ。

 と言うか、カール・何たら・ユングが提唱した集合無意識とかで半端に理屈つけて説明されるよりは納得出来るし、好感が持てるわね。

 但し…………。

 

「いちゃついてて助けるの忘れたって舐めてんのおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!?!?!?!?!?!?

 何!?何なの!!??何考えてんの!!!???いや何忘れてんの!?!?!?!?!?!?

 あたし達の脳が炭化する迄忘れていちゃついてるって、あたし達の扱いは戦争ラブロマンス映画のモブキャラかあああああああああっっっ!!!???」

「いや……全く以ってすまないとしか言い様が無い」

「ほんと、汚い花火を咲かせてすみませんでした地球」

「「………………」」

 

 取り合えず、男の人は自覚は分からないけど倫理と常識は有る奴で、女の方は自覚は有るらしいけど倫理と常識が異次元の彼方に消え去ってるってのは理解出来たわ。

 序に女の方は何故だか知らないけれど、滅茶苦茶あたしと相性が悪いのが分かった。

 本当なら気の済む迄噛み付きたいところだけど、あたしだけじゃなくてすずかも居るから無謀な真似は我慢しなくちゃいけないわね。

 ……気紛れであたしどころかすずかすら消し飛ばされたら堪ったもんじゃないし。

 

「と、取り合えず、悪気は有っても悪意が無いコイツの暴言は片っ端から蝉の鳴き声と思ってスルーしてくれ。

 で、一先ず説明も終わったことだし、今更だが自己紹介だ」

 

 本当今更よね。

 まあ、女の方は兎も角、男の人の方は名前知らないと不便だから聞いとこうっと。

 

「俺の名前は【間桐 雁夜】。

 元人間の現在単一種の人外だ。

 慈愛の精神が無い精霊ルビスと思ってくれたら分かり易いと思う」

 

 ……空中に文字が浮かび上がったり、喩えがおかし過ぎるけど気にしない気にしない。面倒臭いから兎に角ツッコまない。

 

「で、こっちが……」

「将来【間桐 玉藻】になる予定の【玉藻の前】です。

 正真正銘の神で、別側面に【天照、大日如来、ダキニ天】も在ります。

 7次元以下の干渉で害せませんし、1000年なら過去未来問わずに転移や召喚が可能なので人質は無意味ですから、余計な手間は掛けさせない下さい。

 名前が長くて言い難いなら神様と呼んで構いません」

「「………………」」

「言いたいことは良ーーーーーーく分かるが、マジだ。本当だ。悪夢かもしれないだろうがその通りなんだ。

 しかも能力だけでなくて知能も単独で人間全てを凌駕するだろう領域の、文字通り神才だ」

 

 ……心技体で、体(力)と技(知)がカンストした奴なのは良く分かったわ。

 

「まあ、馬鹿に知恵と力を持たせたらどうなるかの究極系な奴だけど、此れでも人間全体を想ってるのは間違いないから、さっき言った様にスルーしてくれると嬉しい」

「あ、はい」

「……間桐さんがそう言うなら信じられないけど、取り合えずスルーしとくわ」

 

 ……ボーとしてる様に見えて、素早く返事したわね、すずか。

 

「さて、もう少し詳しく自分達の身体のことを知りたいだろうけど、先に幾つか告げておかないといけない事があるから確り聞いてくれ」

 

 あたしとすずかを見ながらそう言う間桐さん。

 対して玉藻の前……略して駄狐が、頗る不満な顔であたしとすずかを見ているのが気になるわね。

 

「ポンポン詫びた後に賠償として何かをするようなことを控えると決めた矢先だけど、今回は如何見たって俺達が100%悪いから、お詫びに俺と玉藻で譲れない琴線に触れず且つ出来る範囲なら一つだけ願いを叶えることになった。

 勿論願いを無限に叶えろと言うのもアリだけど、そういう舐めた願いをしたら次の願いを言う前に消えてもらうかもしれないし、漠然とした願いならその煽りには責任を持たないから、考えて願い事を言ってくれ。

 後、〔●●を自分の言うことに何でも従うようにして〕、なら可だけど、〔●●を隣の家に引っ越させて幼馴染って設定にして〕、は願いが二つだから不可だと言っておくね。

 

 あ、それと俺と玉藻で合わせて1回だけど、俺と玉藻の両方若しくは片方を対象にする選択は出来るから」

 

 ……なんか、脈絡無くランプの精に遭遇した感じね。

 拾った宝籤で1等を当てたらこんな気分になるのかしら?

 

「とは言え、此の儘願いを聞いたら後で君達が後悔しそうだから、ちょっとだけお節介を焼かせてもらうよ」

 

 その言葉と同時にさっきあたし達が居たと思しき所が宙に映し出されたけど、…………なんか痛痛しい格好と心配な格好をして宙を飛び回っている二人に物凄く見覚えが……。

 

「ま、まさかなのはちゃんとフェイトちゃんっ?」

「いや、流石に色色ぶっ飛んでるなのはと色色抜けてるフェイトでも、あんな痛痛しい格好と将来が心配な格好して空は飛ば――――――」

「正解だ」

「――――――ないで……「えええーーーーーーっっっ!?!?!?」」

 

 え?何?何なの?如何なってるの!?

 

「何時の間にあの子達って小さい子向けの格好したり大きいお友達狙いの格好する性癖に目覚めたりしたの!?

 若しかしてもう大人の階段上ってシンデレラになろうとしてんのっ!?」

「お、落ち着いてアリサちゃん。

 きっと将来美少女タレントだったって子供見せてあげる為に着てるんだよ。多分。

 と言うか、なんでアリサちゃんが大きいお友達とかの言葉を知ってるのか気になるよ」

「いや、君も落ち着こうね?」

「何度か二人でお茶会してる時、すずかが席立ってる間にサブカルチャーの暗黒面を軽く忍さんに教わってるのよ。

 後、フェイトの水着と意味不明スカートも心配だけど、下着を気にせず飛び回ってるなのはは普通に羞恥心が消えてて本気で心配なんだけど?」

「下着よりも空飛んでることに疑問を持とうね?」

「お姉ちゃんの話はあんまり真面目に聞かないで。お願い。

 後、なのはちゃんは多分見せても構わない下着を穿いてるか純粋に考えが回ってないんだよ」

「いや、君の友達の将来が痴女か痴呆女になりそうなのが心配なのも分かるけど、話を聞いてくれないかな?」

「姉に対して然り気なく酷いわね。

 それにしてもフェイトだけじゃなくてなのはも若い身空で残念美少女街道を疾走しちゃうなんて、将来は痴女か地雷女に成りそうで怖いわね」

「いや、だから話を――――――」

「――――――玉藻フラッシュ!」

「「「目、目があああああああああっっっ!?!?!?」」」

 

 バルスッ?!

 

「ご主人様を無視して現実逃避なんていい度胸ですね?

 死にたいんですか?殺されたいんですか?どっちなんですか?

 う~ん、面倒だからサクッと自害してくれませんか?」

「「「目がああああああああああああっっっ!!!目があああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!」」」

「……って…………あら? 何でご主人様も大佐の真似事をなさってるんです?」

 

 今此の瞬間、あたし達の心は一つになった筈だと思う。

 未だ嘗てない想いを籠めてあたし達は叫ぶ。

 

「お前のせいだろっっっ!!!???」「あんたのせいよっっっ!?!?!?」「貴女のせいだよっっっ?!?!?!」

 

 あたしとすずかと間桐さん達で形作った三角形の中心で光ってて何言ってんの!?!?!?

 後、目だけじゃなくて視神経と脳も焼けたかのように痛い!

 

「そんな、…………まさか極光の最中でも私を見続けてくれる程にご主人様は私を想っていてくれてたんですね!?」

「ふざけんな! 一遍学校行って情操教育受けてこい!」

「あ、ご主人様と一緒なら大歓迎ですよ?」

「この見た目で小学校とか通うわけないだろが!?」

「え? 私も見た目的にアウトなんですけど?」

「知るか! 巨大女とか言われて虐められろ!」

「まあ、通うなら美幼女になってから通いますし、通ったら1日で校長もシめて好き勝手しますけどね」

「駄目だこいつ!?もう手が付けられねえ!」

 

 本当手が付けられないわね。

 しかもこんな奴が大日如来とか知れ渡ったら、ほぼ確実に今直ぐ世も末になるわね。

 少なくてもあたしは仏の存在は信じても仏の教えはもう微塵も信じられないわね。

 

 まぁ、それはさて措き、ちょっとすずかと間桐さんに聞いてみよう。

 

「あー、すずかと間桐さん? あたしはさっきから目は痛いし目の裏側から脳迄滅茶苦茶痛いんだけど、すずかと間桐さんはどんな感じ?」

「私も同じだよ。

 さっきから目から脳迄熱い砂が動いているかのように痛くて気が狂いそうだよ」

「……玉藻。さっさと治療してやってくれ。

 如何考えたって失明してるから」

「分かりました。

 ですけど、先ずはご主人様からです。

 さあ、身も心もナース玉藻に委ねて下さい♥」

「もう回復したから要らん。っていうか早く回復してやってくれ。

 いい加減マジで話を進めたいから」

「は~い。分かりました」

 

 ……あたし達は失明してるのに間桐さんは問題無く回復してるって、地味に種族の差を感じさせられるわね。

 

「う~ん……筋肉が炭化して剥がれると思ったんですけど、眼球を含めた殆どの体表と視神経や脳が焼かれただけで済んでるって、ご主人様の不思議物質のレベルって相当上がってますね~」

「おいこら、そんな出力の閃光を俺とこの子達に浴びせたってのかよ?」

 

 全く同感ね。

 と言うか、若しそれが本当なら、マジで人外に成ったってことよね。

 ……若い身空で世界の暗黒面に転落とか、無性に泣き叫びたくなるわね。

 

「いえ、巻き込んだのはうっかりですけど、ご主人様がピンチじゃない時に出す力は、基本的に万が一巻き込んでもご主人様が傷一つ負わない程度の出力しか出しませんから、巻き込んだ際の問題は初めから在りませんよ?」

「……まあ、それならいいか」

「「………………」」

 

 何気に駄駄甘ね。

 って言うか、あたしは間桐さんと違って回復した視界(と言うか視力?)に映る目の前のこいつに猛烈にツッコみたいけれど…………話が本当に進みそうにないから今は自制する時ね。

 

「さて、此れ以上話が逸れない内に現状をササッと説明するね。

 あ、但し、今から話すのは地上同期……静止衛星軌道上に滞空しているアースラって戦艦から玉藻がクラッキングして得た情報だから客観性に欠けるし、更に第三者の俺が話すから信憑性も欠けるということを理解して聞いてくれ」

「「…………」」

「それじゃあ現状で分かっていることを纏めるとこういうことだよ。

 

1.正式名称夜天の魔導書、通称闇の書と呼ばれる再現不可能品の奪取乃至封印回収、若しくは最低でも破壊を前提にして時空管理局は動いている。

2.時空管理局に嘱託という容で君達の友人と思われる〔高町 なのは〕と〔フェイト・テスタロッサ〕の2名が関わっている。

3.夜天の魔導書の現所持者は君達の友人と思われる〔八神 はやて〕で、現在外見は銀髪赫眼の少女になっている。

4.夜天の魔導書は現在半暴走状態であり、完全暴走すれば自然及び自己鎮静化は不可能であり、他者が沈静化するには所持者諸共夜天の魔導書を破壊する以外の方法は不明。

5.夜天の魔導書が完全暴走する迄予測では約12時間とされているけど、武力行使で此の時間は減少すると目されていて、実質凡そ1~3時間で暴走する。

6.半暴走状態の現在でも人員を投入しての制圧はほぼ不可能であり、完全暴走した場合は1級戦力の人員を大隊規模で投入しても制圧は極めて困難。

7.故に時空管理局は完全暴走する前に夜天の魔導書の所持者を、周囲半径百数十キロを空間歪曲若しくは反応消滅させる切札のアルカンシェルを以って事態を解決させようとしている。

 

 以上が現在の状況だよ」

「「………………」」

 

 いや、あたし達に如何しろってのよ?

 生憎あたし達はトベルーラを使いながらベギラゴンやイオナズンやギガデインを使い捲くる中に飛び込んで何か出来ると思う程楽天家じゃないから。

 銃撃戦の中に取り残されてるなら直ぐにでも駆け付けるけれど、ドッグファイトしている只中に飛び込むつもりは流石に微塵も無いから。声が届く前に呪文の余波で多分死ぬし、声が届いても状況が悪化する以外のビジョンが見えないし。

 

「言いたい事はある程度予測が付くけど、それより先に俺達が此れから如何するか、そして君達に如何いう選択肢を提示しているのかを言うね。

 

1.俺達は夜天の魔導書が完全暴走したら所持者諸共殲滅する。

2.時空管理局が超広域破壊兵器を俺達の生活圏内に一定以上の影響を与える様に炸裂させた場合、攻撃を防御した後に反撃、若しくは攻撃を押し返して搭乗者諸共アースラを轟沈させる。

3.俺達の存在が感知され且つ過干渉を行ってきた場合、生死問わずに迎撃する。

 

 此れが俺達の対応予定だ。

 勿論俺達は今迄同様に捕捉されない様にするつもりだけど、絨毯爆撃で特定されたり勘で見つかったりする可能性も在る。

 

 そして、此処からが話の本題だけど、……俺達なら夜天の魔導書の暴走を沈静化させたり、暴走した原因を除去乃至抑制する事が多分出来る。

 つまり、俺達は君達にこう訊いている。友達を救うか元の……いや、正真正銘人間の身体に成るかのどちらを選ぶのか?って」

「そ、そんなの――――――」

「――――――但し、友達を助けたなら友達の家族も助けなければ片手落ちだ。

 そしてその家族、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、以上4名は夜天の魔導書によって具現されている存在の為、当然夜天の魔導書がなければ存続不可能だ。

 そうなれば当然君達の願いは、〔暴走の沈静化〕、と、〔暴走理由の除去乃至抑制〕、で使い切ってしまう。

 暴走理由の除去乃至抑制だけじゃあ、エンジン異常を修理しても崖から転落している現状は改善しないのと同じだから、二つの願いはセットになる。

 だけどその場合、人外に成った君達は自力若しくは君達の保護者達で時空管理局と相対しなければならない筈だ。

 

 忘れているかもしれないけれど、君達は先程迷い込んでしまった結界内から未確認事象に因って消失したと思われている。

 生きていた事が分かれば後日ほぼ確実に念入りな事情聴取が行われる。

 当然異常の有無を調べるという目的で身体検査もされるだろうけど、その際に君達の未だ人間の手には余りかねる身体性能の幾つかがバレる筈だ。

 そうなれば君達の意思は恐らく無視され、良くて高待遇の戦闘兵、最悪何をしても傷付けられない君達を御す為に身内を人質に取られて泥沼に陥る、という事態に成る筈だ。

 そしてそうならない為の手段を君達は友達を救うと失うことになる。

 

 だから、降って湧いた機会を活かして友達を助けた代わりに最悪身内にもとてつもない被害を被らせる選択をするか、友達は成るように任せて自分達を優先して身内にも被害が及ばない選択をするかを考えてほしい。

 ……本当は良く考えてほしいとこだけど、恐らく後時空管理局が動き出す迄後10分も無い筈だから、素早く考えを纏めてほしい」

「「……………………」」

 

 悪魔……じゃなくて緊急避難的選択ね。

 自分と自分の家族の人生をチップにして友達を救うか、友達を見捨てて自分と自分の家族の平穏を守るのか。

 …………若し自分を選んでも家族の命の為ってお題目が在るのは、間桐さんなりの優しさかしらね……。

 

「あ……あの……」

「なんだい?」

 

 ? 一体何を訊くつもりなのかしら、すずか。

 

「えと……若し私達が自分達を優先させるとしても、その時はどういう風に願えばいいんですか?

 後、はやてちゃん達を助けてもらおうとして失敗した場合、やっぱりノーカウントにはならないんですか?」

 

 あ。

 

「君達が自分と家族を優先させるとしたら、詳しく指定しなくても君達の身体が原因で平穏が乱れる事態にならない様に動くから安心してくれ。

 徒、君達の寿命は相当桁外れな筈だから、だいたい200年後迄には俺達が居なくても問題無い程度の自衛手段を得られる様に教導してから別れるつもりだ。

 つまり、最低でも200年は保障するってことだよ。君達が君達の願いの邪魔をしない限りは。

 

 それと、願い事は君達自身が邪魔しない限りは失敗してもカウントしないから安心してくれていいよ。

 後、仮に俺達と敵対しても、君達が君達の願いを邪魔しない限りは中止するつもりは無いから」

 

 ……可也良心的なのは分かったけれど、根本的解決にはなってないのよね。

 どっちかがあたし達の平穏を頼んで、残るどっちかがはやてを助けることを頼んでも、はやての家族のシグナムさん達が居なくなっちゃうから片手落ちなのよね。

 

 …………あたし達二人が願い事を費やせばはやてとシグナムさん達の合計5名が助かって、代わりにあたしとすずかに最悪パパとママと忍さんだけじゃなくてその親類縁者に飛び火して何名になるか判らない人が多分破滅する。

 逆にあたし達が自分を優先したらさっきと正反対になる。

 しかもどっちを選んでも、時空管理局とか正気を疑う名称を掲げる組織に間桐さん達の存在がバレたら、最悪なのは達が突撃してきて汚い花火になるのが嫌という程解る。

 少なくても断熱圧縮が発生する速度で動き回れる上に急停止も出来るんだから、埒外の速度でなのは達に体当たりすればそれだけで多分あっさり死ぬ筈。……攻撃力に普通のイオと大魔王のイオナズンぐらいの差が在りそうだし。

 

 ………………駄目ね。全然打開策が思い浮かばない。

 かと言って迂闊にこういう自分と他人が天秤に乗ってる問題で話し合いすれば、小説や映画とかの例に漏れず碌な結果に成らない事は明白だし、自分の結末を誰かと話し合って決め合うって凄く変だと思うから、多分話し合わないの一番良いと思う。

 とは言うものの解決策も妥協案も全く思い浮かばないし、時間もそんなに残っていないっぽいから悩む暇も無さそうっていう、正に八方塞状態。

 

 ……………………ぶっちゃければはやてより自分の方を優先したいのは自覚出来てる。

 文字通りに死ぬ目に遭った身としては、はやてとの友情が自分の命を賭ける程のモノじゃないって結論は出ているのよね。

 しかもパパとママやその回りの人達も巻き込むかもしれないなら尚更なのよね。

 とは言うものの、[はいそうですか]、って切り捨てるのも寝覚めが悪過ぎるし、いくらなんでも其処迄ドライな友情を築ける程あたしは達観してないから、可能な範囲でなら何とかしようと足掻き続けたい。

 少なくてもみんな笑顔で…………って!?

 

「「っっっ!?」」

 

 以心伝心阿吽の呼吸!流石あたしの親友!ナイスよすずか!!!

 

 よっしぃ!

 多分起死回生の手段はコレ以外に無い筈。

 コレが駄目ならもうはやてには自力で如何にかしてもらうしかなくなるわね。

 

 

 

 万が一の時は自分の為に友達を切り捨てれるという、半日前なら考えもしなかっただろうし認めもしなかっただろう自分の変化に驚きながらも、あたしはすずかと同時に自分の願いを告げた。

 

 

 

Side Out:Alisa(アリサ)

 

 

 







【玉藻フラッシュ】

 太陽と同レベルの光を全身から発するEXランクの神霊魔術。
 寧ろ閃光と言うよりも全波長攻撃。
 当然可視域の光量だけでなく電波等も太陽が発するのと同等域の為、常人どころか空母艦隊すら一撃で纏めて機能停止させられる戦略級の技。
 アリサとすずかが蒸発せずに軽い火傷で済んでいたのは、取り込んだ玉藻の神気に比例して玉藻の干渉に一定の耐性が付いていたことと、雁夜の不思議物質の耐久度が高かった為。


【大まかな現在序列】

~~ 雑魚の壁(某キングスライム級) ~~

・はやて
・アルフ
・なのは
・フェイト

~~ 面倒な雑魚の壁(某スライムベホマズン級) ~~

・ユーノ
・クロノ
・各守護騎士

~~ ボスの壁(八俣遠呂智級級) ~~

・リインフォース
・闇の書の闇

~~ ラスボスの壁(バラモス級)

・アリサ
・すずか

~~ 裏ボスの壁(光の玉で弱体化していないゾーマ級) ~~

・英霊イスカンダル(ヘタイロイ有り)
・時空管理局

~~ 無理ゲーの壁(イマジンにバーサーカーのゴッドハンドが付いた級) ~~

・雁夜

~~ クソゲーの壁(遭遇=GAME OVER級) ~~

・玉藻

 ……相変わらず雁夜達のランクが酷いです。
 因みに長い間玉藻とイチャイチャしていた為、雁夜は房中術的な理由でレベルアップしていたりします(厳密には最長老に潜在能力を引き出してもらったのと、幸せの靴を履いて城下町を歩き回ったのを足した感じです)。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貮続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

 夜天の魔導書の半暴走に巻き込まれ、身体が激変し且つ主導権を奪われた八神はやてが時空管理局勢を圧倒している最中、突如異変が起こった。

 

 先ず、周辺を覆っていて隔離結界が突如完全に別の結界に因り崩壊した。

 掌握されたのでも内部に別の結界を展開して二重隔離されたのではなく、新たに展開された結界と結界内が圧倒的に格上の理であった為、格下の理を基に展開された結界は、宛ら子供の秘密基地が区画整理の為一方的に壊される様に崩壊した。

 

 次に、静止衛星軌道上に滞空していた戦艦アースラが、突如結界内に強制転移された。

 最高出力でないと雖も、既に戦闘態勢に移行しているのである程度の防護フィールドを展開していたにも拘らず、全く感知出来ない速度でアースラは強制転移された。

 

 最後に、中天に輝く太陽が現れ、宛ら太陽から現れるかの如く二つの影が――――――姿を変えた雁夜と玉藻が――――――降りてきた。

 降りてきた両者の格好は、雁夜は2本の蜘蛛の脚を展開させ且つ威厳が在りそうな若かりし頃のゼルレッチの姿であり、玉藻は大衣と裾という如来の服装に墨色長髪のアルクェイドの姿だった。

 

 

 神神しさも然る事乍ら、玉藻から極僅かに漏れ出る圧力は、戦闘域の全員どころか約1km離れた位置に滞空している(急に重力圏内に転移させられた為少し落下したが)アースラ内に居る者達も含む、結界内全ての者を纏めて行動不能に陥らせた。

 しかも戦闘域の数名だけでなく、離れた位置に滞空しているアースラ内でも多数が余りの圧力に死へと急速に追い遣られており、恐らく後10秒もせずに死人が出る程の圧力だった。

 だが、――――――

 

「矢張り人間とは壊れ易過ぎますね」

 

――――――雁夜に視線で注意された玉藻が、憐憫とも軽蔑とも取れる目で誰とはなしに語ると、突如魂が圧壊する程の圧力が消え失せた。

 防御のフィールドやシールドを一切無視して襲い掛かっていた圧力が消えた為、結界内の者達は何とか落ち着きを取り戻し始めた。

 

 しかし落ち着きを取り戻し切る者が現れる前に、玉藻は手元に夜天の魔導書を強制転移させた。

 そして夜天の魔導書と八神はやての繋がりを一時遮断して半暴走状態から回復させ、更に八神はやての肉体を細菌バランス等を除き、骨肉だけでなく毛髪や皮膚から血液や神経に至る迄を最高の状態に回復させた。

 

「うそ…………」

 

 誰かが信じられないという思いを代表する様に口にした。

 だが、奇跡は未だ終わっていないとばかりに、玉藻は元の姿に戻って気絶している八神はやてを宙に浮かせた儘、夜天の魔導書を黙って雁夜へ献上する様に差し出した。

 

「礼を言う。手間が省けた」

 

 そう言うと雁夜は夜天の魔導書を右手で取り、軽く数秒眺めると左掌を上に向け、掌に夜天の魔導書そっくりの半透明の本を創った。

 そして右手で持った夜天の魔導書を、左手に乗せた半透明の本へ綺麗に重ねた。

 

 その後、雁夜がゆっくりと左手を下げると、雁夜の左手には先程と違って静謐さを感じる夜天の魔導書が在った。

 対して宙に残った半透明の本は、夜天の魔導書の汚れを吸い取ったかの如く黒く滲んでいた。

 

「好きにするといい」

 

 そう言って雁夜は夜天の魔導書を八神はやてへと放り投げる。

 すると八神はやてへ激突する直前に夜天の魔導書は静止し、1m程後退した。

 そして次の瞬間、夜天の魔導書から紫紺の線が伸びて八神はやてを囲み、更に夜天の魔導書を頂点にした五箇所に魔法陣が展開され、先程激変した八神はやてだった容姿の者と、八神はやての家族である、〔剣の騎士シグナム〕と〔鉄槌の騎士ヴィータ〕と〔湖の騎士シャマル〕と〔盾の守護獣ザフィーラ〕の各四名が瞬時に出現した。

 

 出現した5名は即座に円陣を狭めて警戒態勢に移行するが、雁夜はそれに全く構う事無く、宙に浮いた儘の半透明の本を沖合いへ指で弾いて飛ばした。

 すると、宛ら夜天の魔導書に関わった者達の怨念が形に成ったキメラの様な存在が沖合いに具現した。

 

「「「「「なっっっ!?!?!?」」」」」

 

 此れを見ていた雁夜と玉藻と円陣を組んでいる者以外の全ての結界内の者が驚愕した。

 そして此れで我を取り戻した黒髪の少年が雁夜に食って掛かろうとする。

 

 だが、雁夜の邪魔をするなとばかりに、玉藻が邪魔者と邪魔者に成るだろう全ての者の行動を大幅に制限した。

 

「き、君は一体何        !?

    !?!?         !?!?!?」

 

 結果、呼吸は出来ども声を出すことは出来ず、更に雁夜達から遠ざかる様には動けても近付くことは微塵も出来ず、しかも魔導も雁夜達に干渉する類のモノは一切が発動不可能だった。

 そしてそれは他の時空管理局勢にも伝わり、差は在れども混乱状態に全員が陥った。

 

 だが、沖合いのキメラの様な存在の唸り声以外、混乱している者達が空気を掻いたりする程度の音しかしない上に近付かれもしない為、雁夜は時空管理局勢を無視して夜天の魔導書を抱える者へと問い掛けた。

 

「要るならば戻すぞ?」

 

 沖合いのキメラの様な存在を目で示す雁夜。

 対して、流していた涙が無くなった為光の反射が少なくなって朱眼に見える銀髪の者は、少しの間黙考した後、答える。

 

「戻さなくて……………………………………構わない」

 

 憐憫や後悔を湛えながらも、葛藤の末はっきりとした口調で銀髪朱眼の者はそう返した。

 しかしそんな葛藤は如何でもいいとばかりに雁夜は――――――

 

「ならば消すとしよう」

 

――――――と、まるで気にした風も無く、宛ら足元の硬貨を拾うかの如く、全く気負わず雁夜はそう言った。

 そして次の瞬間、蜘蛛の脚の一本が第三宇宙速度で伸張し且つ同じ速度で薙ぎ払われた。

 

 時間にして約0.08秒。

 たったそれだけの時間で、数多の星の文明を滅ぼした存在は消え去った。

 凄まじい再生力を誇った肉体に高い防御力を兼ね備えた複合多重障壁といった、今迄時空管理局がアルカンシェルを使う以外に対処不能だった存在が、文字通り瞬殺されたのだった。

 

 雁夜達以外が呆然とする中、雁夜はそれを一切気にせず――――――

 

「些事は任せる」

 

――――――とだけ告げて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

Side In:玉藻の前

 

 

 

 あぁ、ご主人様が居なくなってっしまいました……。

 本当は今直ぐ後を追って御傍に居たいですけど、夫の真摯な頼みを無碍にすれば良妻は名乗れませんから、此処は確りとご主人様の期待に応えましょう。

 此の後に楽しいデートも待ってますし。

 

 ふっふっふっふっふ。…………朝昼と楽しくデートし、夕食は大人の雰囲気溢れる所で食べて、その後は以前と違って大人の時間も在りますからね♪

 本来ならご主人様と離れた上にこんな面倒臭い事をしようとすればテンションが下限突破する勢いで下がりますけど、後の事を考えるとテンションが上限突破した挙句に気合が漲ります。

 それにご主人様が、私が神霊として振舞う姿を見てドキッとしたのは桜ちゃんから確り聞いていますから、尚のこと気合が漲ります。

 ……墨色長髪アルクの身体なのが残念ですが、ご主人様は問題無く魂を捉えられますから今回は此れで良しとしましょう。

 

 さて、それでは木端にも満たない人間共に、神の格を耐えられる範囲で見せ付けるとしましょう。

 

「此の地を荒さんとする者達よ。今ならば汝等の愚挙に目を瞑りますので、早早に立ち去りなさい。

 そして恥を知るならば二度と訪れぬことです」

 

 うん。天照っぽくて如何にも女神って感じですね♪

 

「ふ、ふざけるなっ!? いきなり現れて場を引っ掻き回しといて、そんな言い分を呑むわけないだろ!!

 少なくてもさっき君達が何をしたのかは確りと聴取させてもらうからな!」 

「そうだよっ!

 あなたがいったいなにをしたのか分からないから、お話したいことがたくさんあるんだよっ!?

 だからおねがい! あなたとお話させて!!」

 

 ……黒ショタの物言いはほんっっっっっっっっっの少しだけ解らなくはないですが、衣服だけでなくて頭も白そうな痛い系の輩の言い分は意味不明ですね。

 どうしてマジカルステッキみたいなのを向けながら話し合おうという言葉が飛び出すんでしょうかね?

 若しかして痛い系でなくて電波系なんでしょうか? 

 

<失礼。私は時空管理局本局 次元航行部隊 L級8番艦アースラ艦長 リンディ・ハラオウン提督です。

 突然ですが、貴方達が先程行使した魔法やその目的、並びにそこの闇の書の関係者達との関係等、取り調べる事が山と在りますので同行願います>

「主様より事を荒立てるのを少なからず控える様仰せつかっていますので、一度だけ普遍的な人の世の理に沿って答えます。

 私は汝等の理が統べる集いには属していませんので従う道理は無く、そして従う意思も在りません」

 

 ご主人様から念入りに出来るだけ穏便にしてほしいって言われてなかったら、今頃空中戦艦から通信を入れてきたマンデイ・アライヤ~ンとかいう人型緑虫を空中戦艦毎蒸発させてましたね。

 まあ、如何にご主人様の頼みでも多分我慢は今回が限界ですね。

 

 別に礼を言われる為にしたことでないとはいえ、自分達で対処出来ない事態を穏便に解決した私達に掛ける言葉がアレなんですから、怒るのは極普通の筈ですからね。

 と言うか、〔何こいつ? 馬鹿な悪人なの?〕、って視線を向けてくる連中が凄まじく腹立たしいですね。

 序に如何いう腹立たしい言葉が飛び出してくるのかも超簡単に予想が付くだけに、面白味も無い腹立たしい言葉を聞くだけになりそうでゲンナリしますね。

 

<管理外世界の貴方が知らないのは無理もありませんが、私達時空管理局は次元世界世界の平和を守る為の組織です。

 そして私達が此の世界にその存在を知らせていないのは、私達が管理する程に魔法文明のレベルが届いていないからです。

 尤も、実際は管理外ではなく統治外と言った方が正しいのでしょうが、語感的に管理外と呼称しているだけです。

 

 つまり、我々時空管理局は貴方が知らないだけで次元世界を管理しており、この管理外世界……第97管理外世界の地球も我々時空管理局の管理下と言うわけです。

 即ち、貴方の所属していないという主張は意味を成しません。

 よって抵抗する事無くご同行下さい>

「…………」

「おねがい!言うことをきいてっ!!

 お話すればあなたも分かってくれるとおもうの!!!」

「………………」

 

 すみませんご主人様。早速ですけど我慢の限界を超えちゃいました。

 

 地球を其処に住まう全ての者をひっくるめた上で植民地として見ているとしか解釈不可能な発言を向けられるのは我慢なりません。

 デバイスとかいう失笑物の魔導補助具を構えながら言うこと聞けとほざいた挙句、話せばこっちが恭順すると思われてるのはもっと我慢なりません。

 

 組織人の矜持?子供の我儘? はっ! 知ったことじゃありません。

 つい先程存在としての格の差の一端を示したというのに、それをもう忘れる様な愚鈍な輩共には魂に思い知らせて上げるとしましょう。決して敵わない格上の者という存在を。 

 

「高高星間移動を確立した程度で増長が過ぎますよ?

 並行世界(5次元)どころか時間(4次元)の領域にすら至っていない無知蒙昧が世界の管理者を気取るなど、分際を知り身の程を痴りなさい」

<貴方の言う5次元や4次元がどの様なモノかは知りませんが、仮に貴方が単独で次元世界間の転移を成せ、更に5次元や4次元の領域に至っているのなら尚のこと身柄を厳重に拘束させてもらいます。

 管理局に属していない者がその様な力を扱えるなど危険極まりませんからね>

「……………………」

 

 ご主人様。私、凄く頑張りましたよ?

 ですから、もうそろそろ、イイですよね?

 

<管理外世界の出身でデバイスも用いず未知の魔法体系を操り、更に闇の書を主から問題無く一時的に切り離し、しかもこの結界を維持しているだろう貴方は、管理局に来られればバラ色の人生は確約されています。

 闇の書との関係疑惑だけでなく、不敬罪や侮辱罪に公務執行妨害が積算されるでしょうが、貴方程のの魔導師なら保護観察下で短期間管理局へ奉仕するだけで直ぐにエリート街道を歩む事が出来ます。

 其の上管理外世界の地球と違って思う存分魔法を行使して平和に貢献することも出来、それに見合うだけの賞賛も受けられます。

 ですので、どうか貴方だけでなく先程の方にもご連絡し、管理局に投降して下さい。

 

 我々は貴方達が理性的な判断の下に誠意有る行動を示されれば決して無碍には扱わず、貴方達により良い未来を提供することを約束します>

「リンディさんの言うことをきいて!

 そうしないとあなたたちと戦わなきゃいけなくなっちゃうから、そしたらお話できなくなっちゃう!

 そんな悲しいのはいやだからおねがい、言うことをきいて!

 お話ならあとでたくさんできるから!」

「…………………………」

 

 ご主人様。私、ちょっとだけ、……ほんのちょっとだけ、怒りますね。

 

「身の程を痴りなさいと言った筈ですが、聞こえなかったのですか?」

 

 少なくても屑1と屑2は一遍死ね。

 …………用事が在る八神はやて達以外の周囲が巻き添え食おうと知りません。

 即死出来ない程度に圧力を解放しますから、苦しみに喘いで藻掻いて沈んで溺れ死ねばいいと思いますよ。

 

「今の汝等は、宛ら私から漏れ出る体温で焼死仕掛けている状態です。

 

 理解能いますか?

 意識を向けるだけで魂が加速度的に自壊する域の存在を?」

 

 うわ。もう死にそうとか、本当に屑ですね。

 と言うか、大河ーでもマジビビリする程度しか解放してないのに、もう死にそうとか屑どころか塵屑ですね。

 

「並行世界間の移動、完全な死者蘇生、時間旅行。何れも汝等が夢物語と断じる類ですが、私にとっては自らの理の内です。

 しかし、その程度は人の身でも到達可能な程度の域にすぎません」

「「   !?   !?!?!?」」

「「「<       >」」」

 

 茶髪ショタとさっきの黒ショタは喋れないだけで元気ですね。

 対して塵屑改め塵屑滓1と2と、後巻き添え食ったホムンクルス擬きのスク水と犬耳尻尾の女はもう直ぐ死にますね。如何でも構わないですけど。

 

「本来ならば神の怒りを落とし、汝等の縁者として増長甚だしい名の集まりに属す輩共を消し去るところなのですが、それは現時点で主様の御意向から逸脱が過ぎるので示威行為に留めるとします」

 

 取り合えずは空中戦艦からアルカンシェルとやらを私目掛けて発射させる……っと。

 次に炸裂したアルカンシェルが私以外に危害を齎さない様、私と一緒に結界で隔離……っと。

 

「「!?!?!?        !?             !?!?!?!?!?!?」」

 

 ツインショタの顔が中中に愉快ですね。

 まあ、地球人的には核爆発の直撃を受け続けて無傷って感じですから、顔芸に走るのも無理はないですね。

 

 っと、バルカンジュルリとやらの効果も終わりましたね。

 なら次は……もう面倒ですから纏めてやりましょう。

 

 先ずは駄目人間を増殖させそうなデバイスとか言うのと空中戦艦の機能休止。

 次にツインショタ以外の死んだ塵屑滓と其の他を空中戦艦に纏めて転移。

 最後に空中戦艦を時空管理局の首都とか言われているミッドチルダ近辺の海上数kmに転移。

 おまけで塵屑滓と其の他を蘇生。

 

 これで空中戦艦は船首から海底に突き刺さった愉快な格好になりますし、塵屑滓達は口元と下半身が愉快なっているという恥を生きた儘晒せるという大団円ですね。

 あ、後日塵屑滓1と2の今の状況を写真にして自宅に送ってやりましょう。受取人を苗字だけにして。

 

「事切れた者達は軍船(いくさぶね)へ、そして軍船は汝等がミッドチルダと呼ぶ場所の近海へ転移させました。

 事切れた者達の塵埃の命は蘇生させたので死人はいません」

 

 塵屑滓1と2の顔と下半身は社会人と言うか女として死んだ儘ですけどね。

 まあ、他の面面に関してはせめてもの情けで下半身の諸諸は処理してログは書き換えてやりましたけどね。

 

「「  !?     !!!          !!!」」

「但し、汝の術式を発動若しくは補佐する媒体だけは、私の意を不完全ながらも伝える為、機能へは干渉していません。

 因って汝等には我が意を伝える役を賜します。

 褒美として幾つか汝等の問いに答えますので、申してみなさい」

「「        !!!        !!!!!!」」

 

 元気そうだから喋れるかと思いましたけど、飛行術式と防護服みたいな術式と生命維持で精一杯みたいですね。

 まあ、茶髪ショタは術式を自力で維持している分黒ショタより霊的なレベルが高そうですから、術式維持を放棄すれば喋れるくらいは出来そうですね。

 とは言え、教えるのも面倒ですし気付く迄待つのはもっと面倒なんで、空間と世界の資源を無駄遣いしている2つを退場させたんで此の辺で怒りを抑えて封印を閉め直しますか。

 

「序に回復を施した。

 之で問題無く話せることでしょう」

「「!!!???」」

 

 ……矢鱈とシンクロしてて気味悪いですね。

 別にBLを否定はしませんけど、単なる性倒錯は見てて心がザラッとする感じがして嫌いなんですよね。

 

「「すぅ……はぁ……すぅぅ…………はぁぁ…………すぅぅぅ………………はぁぁぁ………………すぅぅぅぅ……………………はぁぁぁぁ…………すぅぅっ…………よしっ」」

「…………」

 

 落ち着くまで深呼吸するのは中中良い判断ですけど、本当に気味悪いシンクロ率ですね。

 阿吽の呼吸どころか同じ呼吸のツインショタって、はっきり言って気味悪いを通り越して気持ち悪いですね。

 特に当然の様に同じタイミングで目で会話して話す順番も決めるとか、最早気持ち悪いだけじゃなくてキモさも混じり始めましたよ。

 正直、男なら目で会話せずに背中で語る……って、どっちも背中で語ってたら背中合わせになりますし、預けた背中の呼吸で意思疎通したらBL要素が加速しますね。

 となると、やっぱり男同士は信じあって不言実行が一番ですね。しっくりきますし。

 まあ、どれであろうとさっきの塵屑滓2つに比べれば全然マシですけどね。

 

「御見苦しい様を晒してしまいすみませんでした。

 私は時空管理局本局 次元航行部隊 L級8番艦アースラ所属 クロノ・ハラオウン執務官と申します。

 失礼ですが御名前を――――――」

「此方の者が大変失礼を致しました。

 後で厳しく言い聞かせますので平に御容赦下さい」《君の話し方はなってない! 代わりに僕が話すから黙っててくれ!》

「――――――伺い…………」《分かった。 だけど最低限のことは訊いてくれよ?》

「…………」

 

 どうやら黒ショタは絶対的な格上というか目上の者と話したことは無さそうですね。

 とは言え、さっきの2つに比べれば誠意を感じるので余裕でスルー出来る範囲ですけどね。

 

「御初御目に掛かります。

 自分は時空管理局への民間協力者であるユーノ・スクライアと申します。

 此の度は貴女様への拝謁の栄に()くせ、光栄の窮みで御座います」

 

 神職の者じゃないですから可也変な言葉遣いですけど、本職じゃない事を考えれば十分に合格点ですね。

 確り畏敬の念も篭ってますし。

 

「しかし我等は無知故に貴女様の御偉業や御神名を存知ておりません。

 ですので、大変恐れ多いのですが、貴女様から御拝聴賜りたく存じます」

「私は無限宇宙を総該する全一と、太陽の化身と、万物の徳の現れ等と、崇め謳われる者。

 私はमहावैरोचन(大日)、天照、डऔकिनआ(荼枳尼)等と、幾つもの名を有す者。

 其其が私の表情であり、其其の表情に名が在ります。

 

 此の國で最も人間の口に上る私の名は天照。

 其の名の尊称は、天照大神(あまてらすおおみかみ)大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)皇大御神(すめおおみかみ)天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)です。

 言い難いならば大日の尊称である大日如来、若しくは尊称無しで呼ばれている荼枳尼や荼枳尼天と呼んで構いません」

 

 他に山程表情が在りますけど、私的に譲れないのは此の3つですかね。

 後、私的には肩肘張っていないダキニ天が一番なんですけどね。

 とは言え、〔大日如来→如来→魚雷→魚雷女〕、〔天照→別名アマテル→照る照る坊主→照る坊〕、〔ダキニ天→ダーキニー→伝承じゃ基本全裸→裸族〕、とか、アルクと遠野志貴とコハッキーの考えた渾名級にふざけてなければ如何呼んでも構わないんですけどね。

 …………思い出しただけでコハッキーへの怒りが蘇りますけど、万が一怒りが漏れて目の前の相手達を威圧してしまえば徒の八つ当たりという見っとも無さ過ぎる醜態を晒しますから、気合で平常心へ回帰しましょう。

 

「御拝聴に預かれ光栄の窮みで御座います。

 そして之より貴女様を、天照大神と御呼びさせて頂きます」

「…………」

 

 神の威厳を出す為に沈黙で話を進めるのを許すって、面倒で仕方ないですね。

 でもまぁ、此れもご主人様をギャップ萌えさせる為だと思えば全然平気ですけどね。

 

 …………尊大な態度の私に粛粛と奉仕するご主人様………………アリですね。

 いえ、そりゃ普段は精一杯誠心誠意真心籠めて御奉仕させて頂きたいですけど、1回くらいはそういうシチュエーションもアリだと思うんですよ。

 

「天照大神よ。私は先の二名が無礼窮まる振る舞いに御気分を著しく害されたのは卑小な身なれど理解しております。

 ですが、当初より御気分を害されていたことに関しては無知故に拝察が適いません。

 ですので、謝罪をさせて頂く為にも、何卒御教え願えないでしょうか?」

 

 子供ながらに訳も分からず謝らないのは良い気構えですね。

 それに、狙ってやったのかは微妙ですけど、事情を推察出来ないけれど関わってはいるという立場なのが絶妙ですね。

 

 現状知り得ている情報だけじゃ答えに至るのは極めて困難で、だけど関係者として事情を知って詫びれる位置に居るから尋ねる事が出来る。

 おまけに神というか人間よりも格上の存在に対する接し方を少なからず心得ていますから、此処に居た時空管理局とか言うのの関係者の中じゃあ、間違い無く一番私との会話に向いていますね。

 コレが資源リサイクルが出来るかも怪しい2つのどっちかと話してれば、今頃時空管理局を完全壊滅するか屈服させて顎で使うかのどっちかでしょうね。

 

 とは言え、今でもそうしたいところですが、面倒なのも事実。

 しかも、今殲滅か支配宣言をすれば明日のデートが潰れるのはほぼ確実。

 こんな何時でも如何とでも出来るのを片付ける為、ご主人様との初大人デートを潰すとか断じて御免です。

 

 大体明日だけじゃなくて、熱い夜を過ごした後の清清しい朝日の中でご主人様の寝顔を少し早く起きて眺め、目の覚めたご主人様と触れ合う程度にイチャイチャしてマッタリと朝を満喫。

 そして朝の時間を満喫したら一緒にお風呂でイチャイチャニチョグチョの洗いっこをして、その後はホテルをチェックアウト。

 それから直ぐに不動産屋で静かな所の家を買って面倒な手続きをしたら、次は家財道具や生活必需品や食料とかを大量購入して家に運んでもらう。

 そして朝食を兼ねた遅めの昼食をお洒落なお店で食べて、その後は新居で陣地構築を含む整理開始。

 夜も深けた頃に一段落するだろうからその時中断して、手作り料理を食べてもらった後は又一緒にお風呂できゃっきゃウフフ♥

 そして整理中だからソファで一緒に抱き合って眠るっと★

 明くる日は整理を完遂させて念願の新婚生活に突入♪

 お仕事はご主人様と一緒にデイトレーダーとか内職でもして出来るだけ一緒に居て、永遠に幸せを堪能し続けるという夢が私には在ります。

 

 なので、当然その幸せな時間に水を差す無粋な面倒事は回避しなければなりませんから、甘さからじゃなくて理由が在って武力行使一歩手前の示威行為をしたと理解させた方がいいですね。

 少なくても、夢の結婚生活が軌道に乗る迄にちょっかいを出されるのは真っ平ですからね。

 

「先程転移させた軍船は、積まれていた絡繰兵器を其処の者目掛けて撃ち放つ算段でした。

 吹聴している通りの性能ならば、大地は地球が溶岩を蓄えている深さ迄抉られ、地球誕生時に迫る地動と噴火が此の近辺に起こり、此の星の半分は地動と噴火の噴煙で生物の存在を拒絶する環境へと変貌します。

 更に生き残った人間が無事な地を求めて争いを引き起こし、未知の技術が炸裂した此の國は非難と略奪に晒されての滅亡を皮切りに此の星全ての生物を巻き込んだ争いへと発展し、此の星を死の星へと変えるのは自明の理。

 如何に其の事態を回避する事が可能と雖も、星と人間の双方を破滅に追い遣る行動を殊更放置したりなどしません。

 

 ですが、主様が人間の歴史は人間が紡ぐべきと御考えになられており、明確に敵対されない限り殲滅等に関しては控える様に仰せ付かっています。

 ですので、私は一度だけ示威行為と共に警告することにしました。

 此の星を汝らの都合で荒らし滅ぼそうとするならば、次は警告では済まないと」

「「………………」」

「私達は人間の発展に貢献するという考え等持ち合わせておらず、私達が人間の為に動く時は人間が滅びに瀕している時だけです。

 そしてそれは文明の衰滅と同義ではありません。

 此の星には現在十桁の人間が居ますが、仮に残りが七桁を下回ったとしても滅びはしませんので、私達が動くことはありません。

 

 ですが、汝等が私達に干渉しようと此の星を荒らすならば、主様の考えにも触れますので私達は当然動きます。

 そして其の時は少なくとも十一桁の人間を滅ぼすでしょう。

 当然一度は警告を発していますので、対象を区別したりなどせずに汝らの住まう星星に神の怒りを落とします」

「「……………………」」

 

 12~13桁程度は滅ぼすつもりですが、多分此方が突如何の脈絡無く且つ事前通告無しで一方的に攻撃してきたとかでっち上げて敵愾心を煽りに煽って大人数で三度干渉しそうですが、其の時は面倒ですけど干渉の意欲が消え去る迄時空管理局とかいう輩達のトップから順に滅ぼすとしましょう。

 …………本当は滅尽滅相したいところなんですけど、それだとアラヤとの全面戦争に突入しますから、滅尽滅相したい時は自滅する様に知識や技術をコントロールして放出するしかないですね。

 面倒だからするつもり在りませんけど。

 

「私が汝等を介して伝えることはそれだけです」

「御言葉確と賜りました。

 必ずや不足無く伝えてみせます。

 

 それと、貴女様の御用が終わったにも拘らず留まり続けるのは無礼と百も承知ですが、私達は貴女様の左方に控えている方達に用が在るのですが、貴女様の御用が終わった後に私達が会うことは可能で御座いましょうか?」

「私の用が済んだ後に此の者達が如何するかは制限しません。

 又、汝等が己が法を掲げて連行しようと、それが先程警告した内容に抵触せぬ限り私は干渉するつもりは現在在りません。

 

 此の者達に用向きが在るならば、其の場で待っていて構いません」

「在り難き御言葉を賜れ感謝の窮みで御座います。

 それでは貴女様の御話を盗み聞く事がない位置迄下がって待たせて頂きます」《クロノ、急いで右手側に100~200m程離れるよ。あ、喋らなくていいけど絶対に深く御辞儀してから移動してくれよ?》

「……」《分かった》

 

 最後の質問は減点ですけど、それでもギリギリ合格点ですかね。

 差し詰め畏敬と義理の板挟みって感じでしたし、神職の者じゃないなら目溢ししても構わないってレベルでしたし。

 

 さて、残るは八神はやてと愉快な仲間達ですね。

 私的には暴走した愉快な仲間達が襲い掛かってきてくれれば、纏めて全員威圧した挙句アースラだかヒーコラだかに転移させて時間短縮と厄介事の種を始末出来たんですけど、一声も掛けずに沈黙し続けていたから叶いませんでしたね。

 

 正直、将来世界を背負うツンデレとそのお供に成るだろうマッドヤンデレの二人の願いを叶えるにしても、此の上で未だ何かするのは大盤振る舞いが過ぎると思うんですけどね。

 それに下手したら返答次第でご主人様に余計な女が集る事態に成りそうですし。

 

 アルクどころか、大河ーやコハッキーや家庭教師其の1や錬金術師や鬼妹やカレーやロリヤスフィールの誰かに対しても一切目移りせず、一途に私を想ってくれ続けたのは嬉しいですし誇らしいですしご主人様の愛を疑ったりはしませんけど、やっぱりご主人様の周りに木端女が居るのは良い気分はしません。

 とは言えご主人様達ての頼みを無碍にするのは気が引けますから、やっぱり成るように任せるしかないでしょうねぇ……。

 

 

 

Side Out:玉藻の前

 

 

 







 【ダキニ天のサンスクリット語表記】

 間違っています。
 アレだと読み方が、〔ダアーキニイー〕、になります(〔ダー〕と〔ニー〕が打てなかったので、〔アー〕と〔イー〕で代用しました)。
 ですので、アレで憶えないで下さい。お願いします。


   ~~~~~~~~~~



 【次元世界云云に関して】

 少なくても此のSSでは、単一宇宙内の人間が活動(≠生活)可能なを惑星を指して、時空管理局が次元世界と呼称しているとしています。
 一応根拠ですが、どれだけ闇の書が暴走しても一つの宇宙を滅ぼすのは不可能と思われるからです。時間的にも破壊能力的にも。
 夜天の魔導書(闇の書)やジェルシードが原因で地球の文明がどころか地球そのものが消し飛んでも、宇宙全体から見れば太陽サイズの塊から水素原子が一つ消えた程度ですから、如何考えても宇宙が崩壊するには無理があるとしか思えません。人間で言えば素粒子が一つ消滅した程度ですし。

 他にも幾つも理由は在りますが、面倒ですのでスッパリ省かせていただきます(笑)。


   ~~~~~~~~~~


 【原作キャラ達って神秘云云抜きでどれくらい強いのか?】

 飽く迄私見ですが、原作で9歳時(此のSSの現在話)では、
・なのは :必殺技が型月で言うC~B-ランク程度で、雀程度の速さで空を飛び回れる、戦闘と戦闘技術のど素人。
・フェイト:必殺技がC~C+ランク程度で、基本が成っていない小手先の万能型で、戦闘ど素人。
・はやて :直前迄半身不随の衰弱した一般人の為、徒の魔力炉状態。但し最大出力はA+以上。
といった感じです。
 嫌な書き方をすればなのはが神様転生で特典貰って調子乗ってる奴で、フェイトが当たらなければ如何とでもないとちょっと速い速度で動きながら言うど素人で、はやてが人間魔力タンクです。

 …………歴戦の強者が子供のゴリ押しで拮抗若しくは不利に陥るという、スペック万歳の悲しい世界ですから仕方ないですが、恐らく三ヒロインは総じて戦闘の技術や思考が低過ぎると思われます。
 フェイトとはやては将来執務官と指揮官に成り、余り其れ等を磨く必要が無いので仕方ないと言えば仕方ないですが、なのはは戦技教導官にも拘らず…………。

 まあ、身も蓋もない言い方をするなら、空で可愛い女性がピカピカ光線放てば様になるアニメに戦闘技術や戦闘思考は不要とカットされただけなんでしょうけど、カットし過ぎと自分は思います。
 お蔭で自分の好きなキャラもゴリ押しか猪突猛進な部類になってしまい、SSでは高頻度で雑魚扱いされて悲しいです。
 …………厨二病が極まれば技術どころか数すら纏めて粉砕出来る神様シリーズに比べればまだ救いはありますけどね(苦笑)。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

參続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

(うーん……アルクェイドと出逢っても単に凄い美形としか思わなかったけど、中身が玉藻だと知ってると軽く流せないなんて、我ながら現金だよな~)

 

 音すら置き去りにする速度で結界外のビルの屋上に移動した雁夜は、思考の余韻に浸る様に振り返り、先程居た位相のずれた結界内を眺めやる。

 

 墨色長髪のアルクェイドという容姿に成った玉藻を、極普通に10km以上離れ且つ位相のずれた結界外から見ながらそんなことを考える雁夜。

 そんな雁夜に、転移してきたのか高速移動したのかも分からない速度で現れたことを特に驚きもせずに空中へ音声付で映し出されている玉藻の居る現場を見ているアリサが横目で声を掛けた。

 

「顔、緩んでますよ」

「っとと」

 

 別に悪いこととは思っていないが場の雰囲気的に不謹慎かと思い、雁夜は慌てて表情を引き締める。

 そして直ぐに精神を落ち着け、雁夜はアリサ達に話し掛ける。

 

「ところで、俺としては子供に悪影響がありそうな現場を見続けるより、家に帰ってゆっくり休んでほしいから、今からでも帰る気はないかい?」

「心配してくれてありがとうございます。

 ですけど、今後の為にも見ておかなきゃいけないんで此処で見ています」

「私もアリサちゃんと同じです」

「……ふぅ」

 

 好奇心よりも義務感と心配が混ざった声で返された雁夜は、仕方ないとばかりに溜息を吐いた。

 雁夜としては好奇心や不安を満たしたり解消したりする為だけに見ていたのなら襟首を掴んで強制送還するつもりだったが、友人が心配ということと同じ程に情報収集という打算に近い義務感を持っていた為、雁夜は自分の見識を増やして選択肢を増やそうとしている両者を無理矢理連れ帰るのは諦めたのだった。

 そしてそんな両者を見ながら、財閥や大企業の娘だけあって年齢より遙かに処世術を会得しているのだと、雁夜は呆れとも関心とも取れる感想を抱いていた。

 

 だが、そんな暢気な感想は、玉藻が神どころか人間としてすら舐められている発言を浴びせられ捲くる事態を見、一気に消し飛んだ。

 

(おいおいおい!? 何言ってくれてんのあの二人!!?

 仮に結界や威圧感も俺が原因と思ってるにしても、同格かもしれない関係者の堪忍袋を何で初っ端から破ろうとする様な言葉を放つんだよ!!!?

 虎の威を借る狐かどうかも確かめたわけでもないのに、舐め腐りきった発言かますなんて本当に頭の悪い馬鹿なのかこいつ等!!!?)

 

 玉藻の堪忍袋を暴言のマシンガンで破壊しに掛かる二人を見、雁夜は頬を引き攣らせながら内心で叫んでいた。

 そして雁夜と違って虚空に浮かぶ映像を見ていたアリサとすずかは――――――

 

「ちょっ!? 怪しげなギミックの付いた杖構えてナニ言ってんのあの子!?!?」

「な、なんだかなのはちゃんの残念な感じが凄いことになってるよ!!??」

 

――――――内心ではなく確り声に出して叫んでいた。

 何しろ、先程なのは達が杖(の様な物)から破壊光線等を発射していたことから、なのはが構えた杖がマシンガンとロケットランチャーを足した様な物だという認識をしているアリサとすずかは、なのはの支離滅裂としか解釈出来ない発言にツッコミを入れずにはいられなかった。

 

 そして、そんな届かないツッコミをアリサ達がしている最中にも状況は進んでいた。

 緑の髪をしたリンディ・ハラオウンが、如何解釈しても、〔お前の住む所もお前達も纏めて私達の管轄だから黙って従えや。そして私達の都合に馬車馬の如く貢献しろ〕、としか解釈出来ない台詞を炸裂させていた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおいぃぃぃっっっ!?!?!?

 千載一遇の好機をなぁんで死亡フラグに書き換えてんのおおおおおおおおおおっっっ!?!?!?

 というか喧嘩売ってるのかっ!!!!!!??????」

 

 リンディ達は与り知らないが、雁夜(自分)の故郷の世界では、協会が取引のテーブルに座ってもらう為だけに3兆円以上詰む程に超貴重な機会を只で得ているにも拘らず、自ら死亡フラグへと変化させているリンディに対し、雁夜は叫び声を上げた。

 そんな雁夜の叫びが轟く中、更になのはが武力で脅しながら和平の使者気取りの台詞を炸裂させており、其んな様子を見たアリサ達は――――――

 

「本気であの子と縁斬りしたくなり始めたんだけどおおおっっっ!!!???」

「電波系ヒドインとか誰得なのっっっ!?!?!?」

 

――――――と叫んでしまう程、なのはの行動に対して深刻なレベルで拒否感を抱き始めていた。

 尤も、なのは自身に対しては未だ深刻なレベルでの拒否感は抱いていないが、先程のなのはの行動が演技ではなく自身の価値観や行動理念の現われだとしたならば、アリサとすずかがなのは自身に対して深刻なレベルで拒否感を抱き始めるのは時間の問題であった。

 そしてソレを理解しているだけにアリサとすずかは、遠くない未来に友情が壊れていくのを幻視して頭を痛めていた。

 

 だが、叫び声が轟く最中にも状況は進み続け、遂にリンディ達の暴言が玉藻の我慢の限界を超えた量と質を吐き出した。

 そして我慢の限界を超えた玉藻が逃げ帰ったり罵詈雑言を吐き出すだけで済むなどという展開になる筈もなく、玉藻は普段結界で押さえ込んでいる神気の圧力を僅かだが解放することにした。

 当然僅かだけ解放したのが相手を殺さないようにギリギリのところで玉藻がが踏み止まっているから等という理由である筈もなく、単に苦しんで死なせる為に僅かだけ開放したのだということは、現在百年の恋も一瞬で冷めそうな状態になのはとリンディが陥っているのを見た雁夜達は一瞬で理解した。

 

「ちょっとちょっとちょっとおっっっ!!! 怒るのは分かるけど遣り過ぎよ!!! あの子死んじゃうわよっ!?!?!?」

「あー……心肺蘇生とかで蘇れる感じの範囲でしか死なせない筈だから多分大丈夫。

 と言うか、俺が制止の声を掛けようとしたらその前に鏖殺するだろうから、説得なんて無茶無理無謀の三拍子」

「蘇生って、死ぬこと前提ですか!?

 というか蘇生されても動く死体みたいに成りそうなんですけど!!!???」

「玉藻的には耳元で飛び回る蚊を叩き潰す以下の認識と手間だろうから、死なさないって選択肢は多分初めから無いね。アレは。

 後、玉藻なら彼処の奴等程度は問題無く蘇生出来る筈だけど…………変な細工をして蘇生させる可能性は否めないな」

 

 アリサとすずかと違い、雁夜は既に玉藻の怒りの発露は止められないレベルに在ると理解し、最早慌てる気も消失した為、冷静さと虚脱さが混じった状態で返答していた。

 少なくとも、今巻き込まれている者の中に雁夜か桜の大事な存在でもない限り、今の玉藻が怒りを納めたりしようとしないのを雁夜は十分に理解していた。

 他にも、人知を超えた存在が人間の価値観で括れば碌な事に成らないのは理解している為、仮に蘇生させなかったとしても諦めるしかないと雁夜は思っていた。

 尤も、人外の在り方以前に時空管理局勢の対応が、未知の格上の存在に対する対応を完全に間違えていなければ雁夜は流石に玉藻を止めようと足掻いただろうが、礼を尽くすどころか武力を背景にした対話を飛び越え、脅迫による隷属化を迫ってきた存在を助けようと思う程雁夜は馬鹿なお人好しではなかった。

 

 一応子供が混じっていたのは知っているが、雁夜は遠くの国で戦争に巻き込まれて困窮する子供達へ可哀相の一言で済ませる感覚で切り捨てた。

 眼前で助けを求められたなら巻き込まれていた者だけは助けたかもしれないが、そうでないならばあれ程馬鹿にされた玉藻に怒りを抑えろと言うつもりは雁夜に無かった。

 何より、〔より良い未来を提供する〕、などという言葉は、玉藻だけでなく雁夜にとっても相手を幸せにしきれていないと言われているのと同義であり、今は違う世界に居る桜以外に言われることを両者は決して許すつもりは無かった。

 尤も、玉藻と違って雁夜は元とは言え同属を殺そうと思う程の怒りでなかった為行動はしなかったが、先程玉藻から自分が人間に対して甘過ぎると言われたばかりなので、少し元同属に対して甘さを取り払おうとした結果、恐らく殆どノーリスクで助けられるかもしれない者達をノーリターンなるだろうという理由で放置するという選択を採ったのだった。

 

 だが、雁夜と違ってアリサとすずかは、友人であるなのは達がマジビビリとドン引きする容貌と状態になっているのは許容出来ないらしく、声を荒げて雁夜に話し掛ける。

 

「説得が駄目なら力尽くで何とか出来ないの!?」

「玉藻が本腰入れたら意味が無いから、やるだけ無駄だよ」

「それでいいですから早――――――」

「もう死んだよ?」

「――――――くお願……い………………」

「………………」

 

 特に感慨も無さそうにあっさり告げる雁夜。

 その言葉を聞き、呆気に取られた表情をして言葉を失くすすずかとアリサ。

 対して雁夜は、なのはだけでなく追随する様に其の他の者が死んでいくのを知覚しつつも、特に感慨も湧かないことに若干驚きながらも、ぼんやりと玉藻の神気を浴びて死んでいく者達のことを考えた。

 

 

(将来が心配な金髪の子は見るからに意志薄弱そうだし、魂に至っては肉体に残った魂の残滓を肉体を複製する際に訳も解らない上に知らぬ間に劣化複製したみたいな感じだし、もう直ぐ死ぬな。

 牝犬は…………もとい、犬女は将来が心配な金髪の子と一連托生っぽそうだし、そうでなくても恐ろしいくらいに不自然で希薄な魂が不安定だから結局直ぐ死ぬな。

 後、戦艦の中の緑の奴と其の他諸諸は個別認識出来ないから後どれくらい持つかは判らないけど、近場の奴で生き残りそうなのは男の子二人か……。

 

 黒いのは何かに打ち込んできた熱血少年みたいだから、自分が打ち込んできたことを強く見据えてれば増幅した精神防壁で一時的に魂への負担を減らせるから何とか持ち堪えられる……かな? 体力的に半時間が限界だろうけどな。

 茶色いのはどうも神への耐性が微妙にだけど初めから微妙にだけど有ったみたいだから、気合次第で6時間くらい持ちそうだけど……変なギミックというかマジカルステッキ無しに魔術(寧ろねずみ擬きが使う科法?)を使ってるから、やっぱり黒いのと同じく精精半時間くらいが限界だろうな。

 だけど、…………こういう事態を見ると改めて一般人の筈の大河さんの規格外さを強く思い知るよな。

 

 魔術防壁を展開していなかったらバルトメロイすら行動不能になる程の圧力の中、マジビビリするだけで普通に振舞えるって、寧ろ全然普通じゃないよな(ていうか、雷蔵さんも同じ事出来そうな気がする)。

 肉体スペックは一般人なのに、精神とか魂のスペックは英霊級って、何か凄いアンバランスだよな。

 玉藻なんか鍛えた後に頑丈な礼装(武器)を持たせればセイバーと互角に戦えそうって言ってたし、本人も武道の適正が並外れて高いのは理解してたみたいだけど、遣りたいことじゃないからってその分野じゃ頂点を狙える稀有な才能を放り捨てて夢を追うって、素直に尊敬出来るよな。

 やっぱり大人は大河さんみたいに確り地に足が付いて自分を理解してないとな。俺も見習って自分を才能の下に置かないように気をつけないとな。

 そしてそんな大河さんが桜ちゃんの傍に居てくれるってのは、在り難いし心強いし安心だよな。

 ……普段は豪く色色とアレだけど)

 

 

 最後は望郷の念が混じった思考で、雁夜は嘗ての日常を思い返していた。

 だが、1秒弱(雁夜的に凄くのんびりと)考えていた間に状況は動き、戦艦からアルカンシェルという特殊兵装が発射された。

 

 カタログスペック通りならば、文字通り天変地異を引き起こす規模での破壊を振り撒く筈だったが、ソレは呆気無く玉藻が完全に押さえ込んだ。暴れる蟻を人が押さえ付ける程度の労力を払って。

 そしてソレを見た雁夜は、――――――

 

(神秘云云抜きにしても、俺だとあれ程鮮やかに被害を押さえ込むのは難しいな。

 いや、多分4~5発くらい迄は不恰好な力技で出来るだろうけど、ソレを超えると多分抑え込む力の余波で周りに被害が出るだろうから、素直に広域の結界でも展開して防御した方が無難になるな。

 

 後、仮に直撃しても何時の間にか…………ホントウニイツノマニカ高次元存在になってるから、先ず死にはしないな。

 ていうか、起爆してからでも防御は余裕で間に合うし、防御は秒間数千発を年単位で耐えられるから問題ないな。

 玉藻に至ってはどれだけ防御しても、標高が1mm上がった時に下がる呼吸効率程度の影響も無いだろうから、心配する必要は全く無いな)

 

――――――と、特に驚きもせずに暢気な事を考えていた。

 だが、大まかな攻撃方法と被害規模を聞いていたアリサとすずかは表情が驚愕で固まっていた。

 

 一応玉藻が語ったカタログスペックが玉藻か時空管理局の何方か若しくは両方の意図で誇張されている可能性は在ったが、それでも戦艦から放たれた攻撃を単独で平然と無効化する様は、改めて規格外の存在だと認識し直した。

 更にそんな玉藻を見ても特に驚いていない雁夜も、玉藻に次ぐ規格外な存在なのだろうとアリサとすずかは認識し直した。

 

 そして、アリサとすずかが自分達が出会った者がどのような存在か認識し直した数秒後、突如何の兆候も無くなのはやその周囲の者達だけでなく戦艦すらも消え去った。

 アリサとすずかには時間から切り取られたかの様に突然消え去ったとしか認識できなかったが、雁夜は何とか転移する様を知覚する事が出来、落雷に前後する速度で一から転移させた玉藻の出鱈目さに感心を通り越して呆れていた。

 

 更に状況は進み、玉藻が何とか生き残っている二人へ、なのは達だった死骸を転移させた後に蘇生させたと説明した直後、アリサとすずかは常人には真似出来ない速度で雁夜へと顔を向けて確認してきた。

 

「へ、変な身体じゃないわよね?」

「さ、再殺とかしないですよね?」

「…………」

 

 相手の発言や契約等に関して隙が無いのか、それとも単純に玉藻の信用度の低さの表れなのか、若しくは両方が高いレベルで纏まった結果なのか、雁夜は子供らしくない両者を若干引き攣った笑みで暫し見た後に言葉を返す。

 

「再殺するくらいなら転移させずにその場で再殺し続けるだろうから大丈夫だと思う。

 まあ、怪我はしてないけどMP0でHP1の上に手の施しようが無い(バッドステータスのコンプリート)状態で蘇生させてる可能性は高いけど、それでも安定期に入る迄は死なせない細工を施してるから肉体的には大丈夫だと思う。

 それに変な身体で蘇生させるなら、態態転移させずに周囲のリアクションが分かるあの場所にのこした儘だろうから、その心配は要らないと思う。

 まあ、元元自分の体が蛆虫とか思う様に精神操作されてる可能性は在るし、単純に精神崩壊して正しく自分の身体を認識出来ていない可能性も在るから、玉藻の介入抜きでもちょっとマズイ要素はあるけど、取り合えず見た目的に問題は無いと思う」

「「………………」」

 

 何処を如何安心していいのか判らないアリサとすずかは、白い眼と引き攣った笑みで雁夜を黙って見返した。

 そして針の莚に包まれた気分になった雁夜は苦笑いしながらもアリサとすずかが安心出来る言葉を選んで告げる。

 

「大丈夫だよ。俺だけじゃなくて玉藻も、君達が願った、【幸せな結末(ハッピーエンド)で収束する】、っていう願いから大きく逸脱した結果に成らない様にするから、事態が収束する時には取り合えず如何しようもない不幸な状態には成ってない筈だよ。

 まあ、相手が馬鹿な真似すればどんどん取り返しの付かない不幸寸前の不幸が叩き付けられるけれど、そこら辺は2つ分の願いと雖も曖昧な願いの限界として割り切ってもらうよ」

「まあ……あたし達の願いが叶うなら…………文句は無いわね。

 徒…………」

 

 雁夜の言葉に不承不承納得するアリサ。

 そしてアリサの途切れた言葉をすずかが受け継いで雁夜に告げる。

 

「なのはちゃん達……って言うかずばりなのはちゃんですけど、起きたら絶対暴れると思います……と言うか暴れますから、その辺りに融通は利きませんかね?」

「残念だけど利かない。

 八神はやてって子達と話が終わった後、君達の事が済めば願いは叶え終った事になるから、その後に場を荒らそうとしたらサクッと対処させてもらうよ。

 当然場を荒らさなくても、当人達が勝手にバッドエンドに向かって走り出しても基本ノータッチだから」

「「………………」」

 

 願い事を告げた時は此れで誰もが傷付かずに終わると思っていたアリサとすずかだったが、予想を遙かに超えてなのはとリンディに問題が在った為、早速願い事が無駄に終りそうな未来が見え始め黙り込んでしまった。

 特になのはは良識どころか常識を疑う思考をしていると知ったアリサとすずかは、後日確実に自分達に絡むと確信を通り越して予知のレベルで理解出来てしまった為頭を悩ませていた。

 

 だが、何だかんだ言って甘い雁夜は、一応対外的に言い訳が付くレベルでのフォローはするべきだと思い、アリサとすずかに話し掛ける。

 

「……と言いたいところだけど、まあ、あの色色と白くて困る君達の友達(?)が如何行動するかは目に見えてるし、此処で後後の対応を放棄するのは願いを叶えていないと言えなくもないと思うから、あの色色と白くて困る君達の友達(?)にだけは、5~6年間は転移させたり昏倒させたり意識を逸らしたりとか出来る便利アイテムを渡すから、それで納得してくれ。

 其の頃には君達も自衛出来るように成ってると思うし、おまけの期間としては妥当だと思うしね」

「……分かったわ」

「……分かりました」

 

 妥協点としてはその辺が限界だろうと判断したアリサとすずかは渋渋ながらも納得し、了承の返事をした。

 

 愉快でない未来を幻視してテンションが大幅に下がっているアリサとすずか。

 しかし、予想通り早くに玉藻と八神はやて達の話が終りそうだと察した雁夜はアリサとすずかに注意喚起する。

 

「もう直ぐ君達の出番だから、シャンとしといてくれ」

「「……はい」」

「玉藻相手に話すわけじゃないから余り話し方は気にしなくていいけど、それでも玉藻を指す言葉には十分気をつけてね?」

「「はい」」

 

 年に見合わない凜とした声で返事をするアリサとすずか。

 

 

 

 其の後、改めて事態の推移を見守っていたが、1分も経たない内にアリサとすずかは玉藻に召喚された。

 そして残った雁夜は、一足早くアリサとすずかの保護者を一箇所に集めて話が出来る状態にするべく動き始めた。

 

 

 

 

 

 

Side In:玉藻の前

 

 

 

 さてさて、私が話してる間に目を覚まして黒の騎士団と言うか5レンジャーに説明を受けてましたし、前置き無しで話すとしますかね。

 

「人の子よ。現況の理解は能いますか?」

「はっ、はいぃっ!」

「では用件を告げましょう。

 我が神子と成り、我が意を代行するか否かを問います」

「……………………………………………………は?」

 

 見事な間抜け面ですね。

 余りに愉快で見事な間抜け面ですから、聞き返すという面倒臭い真似は不問にして話を薦めるとしましょうか。

 

「私の神子であり汝の友である者達の切なる願いを受け、我が主と私は今回の事態収拾を其の願いに近付ける容へすることにしました。

 其れに当たり、汝が此の星を荒らしに湧き出でた者達に集られ、其の生を貪られる未来を回避する選択肢を与える為、私は汝に先の問いを投げ掛けました。

 

 神子と成りて私の意を代行するならば、汝には神たる私の加護が与えられます。

 さすれば汝は先程の戦艦と此の場に居た者達の3倍を超える相手と比して尚上回る存在と成ります。

 無論、私の意に逆らえば加護は失われ、反逆の度合いに因れば死にも至ります」

 

 私的にはそんなことより、万が一ご主人様に色目を使ったら年中発情中の牝犬に変化させて大自然に放り出される呪いを掛けたいですけどね。

 

「当然選択ですので拒否も可能です。

 

 神の意志に縛られる神子か、人の欲と法に縛られる走狗か。

 神の加護と呪詛を身に宿すか、人の法と倫理への逃避か。

 神という明確なものへの所属か、人の都合という不確かなものへの所属か。

 

 汝が何方を選ぼうとも私は構いませんし、新たな選択を切り開いても構いません。

 ですが、詮議して決める事柄ではありませんので直ちに答えを出すべきでしょう。

 魂の声を理性で押し殺した者の苦悩は見苦しく、吐き出される苦悶の声は聞き苦しいものですから」

「………………」

 

 悩んで出す答えじゃないでしょうに。

 此処は私やご主人様に迷惑が及ばないように何処かへ逃避し、其の後ひっそりと暮らして生涯に幕を下ろすの一択でしょうが。

 仮に其れに思い至らなくても、償いとか何とか適当な勘違いを炸裂させて、ビクン★感じちゃうとかで食材にでもなって脂ギッシュな親父に食べられる道を選ぶべきです。

 成り行きで将来危険なコンビを神子にする破目に陥りましたけど、ご主人様に色目を使いそうなのが4つも憑いてくる奴なんて全力で拒否です。

 

 っと、如何やらあっさり答えが出たみたいですね。

 

「あたしは……………………あたしの家族がやったことを償う為にも、…………………………管理局というところで………………………………償っていくつもりです。

 だから…………お誘いは断らせてもらいます」

 

 よぉっしっっっ! 此れで邪魔蟲5匹増加の芽は潰れました!

 

 それじゃあ後は神子の紹介と釘刺しだけ…………って、あー……神子の家族への説明が在ったんでしたね。

 分際を弁えずに喚きそうですけど、優しいご主人様の手前、一度は頭を弄くるという平和的な解決で手を打つとしますか。

 

「ならば話は終わりです。

 

 神子達よ。今生になるやも知れぬ故、代行の前に言葉を交わすとよいでしょう」

 

 一瞬、仁王像の様に布切れ一枚で召喚しようかと思いましたが、後で絶対にご主人様から怒られますし、若しご主人様の眼に留まってロリに目覚められるのも気分が悪いですから止めるべきですね。

 いや、ロリ玉藻ちゃんと逞しいご主人様との背徳的な絡みは…………微妙ですね。

 やっぱりロリ玉藻ちゃんの時はショタご主人様じゃないと駄目ですね。

 

「「…………」」

「私が強制召喚した場合に於いて拝礼は不要です」

「「はっ。至らぬ未熟を御許し下さい」」

「非礼ではありませんので謝罪は不要です。

 尤も、汝等が未熟なのは事実ですので、後程然るべき者に習いて神子の何たるかを学びなさい」

「「はっ。蛍雪の限りを尽くし、次は御気分と御手を煩わせぬように致します」」

「神子とは神と俗世を繋ぐ架け橋です。

 神子の責を忘れぬならば、俗世で行動することを咎めはしません。

 故、健やかに過ごしなさい」

「「はっ。在り難き御言葉を賜れ恐悦の極みで御座います」」

 

 …………寸劇ってイライラしますね。

 とっとと済ませてご主人様の胸に転移(飛び込み)しましょう。

 

「それでは私は去りますので、仔細は任せます」

「「はっ。尊名と威光を汚さず且つ全霊を以って挑みます」」

「先に述べましたが、私の意を代行する前に友と語らうとよいでしょう。

 次に会う時は敵として排除しなければならぬやもしれませんからね」

 

 返事を待たずに光の粒と化しつつ、神神しく転移。

 目指すは愛しいご主人様の腕の中!

 

 ご主人様~♪直ぐにその胸に飛び込みますから、優しく抱きとめて下さいね~♥

 

 

 

Side Out:玉藻の前

 

 

 







 【アリサとすずかのプロフィール(洒落)】

 真名 :アリサ・バニングス

 クラス:3-A(オリジナル設定)

 職業 :神子(仮免状態)

 戦闘力:防御力だけ某ターミネーター状態(幸運激高)

 スキル

・神託:A++(EX)
 神(玉藻)の意思を受け取り理解する能力。
 本来ならば神直直に指名され且つ其の神の神気を魂が大量に取り込んでいるのでEXランクの筈なのだが、神の意思が人の意思と方向性が違う為理解しきれずランクダウンしている。

 恩恵として常時精神干渉系を神託と同ランク迄無効化が存在する。
 更に神託に沿った行動中は全パラメーターが積算される。
 但し、神託に反した行動をした場合は全パラメーターが減算され、基のパラメーターが低ければ死に至る。
 尚、積算と減算の幅はどれだけ神託に沿う若しくは反しているかで決まり、最大で神託のランクと同等の積算と減算が付加される。


・カリスマ:B++(A++ ~ EX)
 五次セイバー準拠。
 但し、特定の男女層に対して凄まじいカリスマを発揮する。
 又、神子としての技量が高まれば神託スキルランク迄上昇させることも可能だが、其の場合神託に反した場合の揺り返しが存在する。


・アリサ・バニングス:C(EX)
 破損した肉体を雁夜の不思議物質で60%以上補填され、更に其の肉体に玉藻の神気を大量に注ぎ込まれて癒された魂を封入して生き長らえた存在。
 雁夜と玉藻がアリサに気づいた時には既に魂が消滅寸前であり、取り合えず死なせた後に完全な死者蘇生を行った方が手間が掛からなかったのだが雁夜がソレを良しとせず、蘇生の域に止める為に全力を尽くした結果、半神造兵器と化してしまう。
 当然神性も有しているが、アリサ自身が玉藻との繋がりを強く否定している為大幅にランクダウンしており、神性のランクもEとなっている。

 基本的に自身の存在を受け入れる程にパラメーターだけでなくスキルも強化され、更に特殊スキルも取得可能となる。


・第一魔法(真)
 玉藻との蜜月で第一魔法(殆ど別物)から第一魔法擬き(神霊魔術)へと変わった雁夜と違い、正真正銘の第一魔法。
 アリサ自身に自覚は全く無く、訳も解らず辿り着いている状態。
 当然雁夜が元第一の魔法使いで在った事が強く起因しているが、アリサの生来の素質がなければ不可能な為、運と実力で獲得した奇跡と言える。
 但し、アリサは訳も解らず辿り着いている状態な上、辿り着いている事すら碌に自覚していない為魔法の行使はほぼ不可能。


 真名 :月村 すずか

 クラス:3-A(オリジナル設定)

 職業 :神子(仮免状態)

 戦闘力:防御力だけ某ターミネーター状態(幸運激高)

 スキル

・神託:A++(EX)
 アリサの設定と大差無し。

・王佐の才:B(A++ ~ EX)
 特定の対象を補佐する才能で、主にカリスマ持ちが対象となる。
 対象になった相手は此のスキル持ちの内政系スキルを此のスキルのランク迄自在に行使する事が可能と成る(上限を超えて行使することは出来ない)。
 但し、対象が此のスキル保持者と同等以上の存在でなければ対象は篭絡され傀儡と化す。


・月村 すずか:C(EX)
 アリサ・バニングス:C(EX)と大差無し。


・神霊魔術
 玉藻との親和性が桁外れに高かった為に獲得したスキル。
 神託のスキルの有無に拘らず超一級宝具に匹敵するレベルでの行使が可能であり、神託の後押しが在れば更に出力は跳ね上がる。
 但し、生来のスキルではないのでスキルの存在すら自覚しておらず、現在は使用不可能状態。


   ~~~~~~~~~~


 寝不足と酔いの勢いで書いた洒落ですが、お蔵入りするには勿体無かったので載せましたけど、十中八九無駄設定になると思いますので、軽く流し読みして下されば幸いです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

肆続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

 深夜と言うには少し早い時間帯、雁夜と玉藻はアリサとすずかと其の保護者達と机を挟んで向かい合って座っていた。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 雁夜はアリサとすずかが玉藻に強制召喚された後、両者に借りた携帯電話で保護者へと連絡を取っていた。

 但し、何時もの様な腰の低い対応ではなく、[お宅の娘さんの今後について話し合いたいので、一時間後迄に月村邸へ居るように]、という、誘拐犯からの電話としか思えない内容を一方的に告げただけであった。

 お蔭でアリサの父に其の執事、すずかの姉と其の婚約者の4名からは恐怖と焦燥と怒気が溢れていた。

 尚、恐怖も混じっている理由は、アリサとすずかの両保護者は本来ならばSPや月村邸内の迎撃設備等で話し合いの前に奪い返すつもりだったのだが、月村邸の正面から来訪した雁夜と玉藻が、宛ら某ターミネーターの如く全ての攻撃を無防備に食らいつつも平然と反撃して蹴散らし、しかも自分達の力量を見せておかないと面倒だと玉藻に言われた雁夜が、月村邸の半分程を鱠切りにしたからであった。

 

 SPが繰り出す単分子ナイフやマグナム弾、更に迎撃設備の対物ライフル弾やレーザーの全てを受けて無傷であり、しかも宇宙速度で月村邸の半分が鱠切りにされる様を見た彼彼女等は、タネや仕掛けや人間や非人間を問わずに勝ち目が微塵も無い相手だと悟って恐怖した。

 だが、だからと言って彼彼女等はアリサとすずかを諦めたりはせず、刺し違えてでも救い出そうと恐怖を怒気で覆い隠して自らを鼓舞していた。

 

 そして、抵抗が無くなると雁夜は彼彼女等が居る司令室(応接室)迄一撃で風穴を開け、雁夜はアリサとすずかを抱えた玉藻達と共に悠悠と宙を歩いて彼彼女等の前に到着したのだった。

 彼彼女等の顔を見るにアリサとすずかを送り返しても面倒なことにはならないと判断した雁夜は玉藻に解放するように促し、玉藻は露骨に清清するといった顔で解放して保護者の元へと向かわせた。

 暫し呆気に取られた彼彼女等だったが直ぐに気を取り戻して駆け寄り、抱擁を持ってアリサとすずかを迎え入れた。

 

 暫く温もりを確かめる様に彼彼女等は抱擁を続けていたが、勝手に盛り上がっている再会は此の辺りで十分だろうと判断した雁夜は席に着くように促した。

 当然歯向かえば容易く全滅すると理解していた彼彼女等は無言で横一列にソファーへ座った。

 そして雁夜と玉藻は勧められもしない内にソファーへと座りこんだのだった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 雁夜と玉藻が座り込み、暫し沈黙が場を支配するかと彼彼女等は思っていたが、ソレを無視する容で玉藻は口を開いた。

 

「最初に言っておきますが、今から行うのは交渉ではありません。

 断ったり会話を中断させるのは勝手ですけど、其の場合即座に私達は帰ります。

 当然後日事情を知って訪問に来ても塵すら遺さず消えてもらいますんで、貧相な脳味噌に今言った事を刻み込んだ上で此方の話を聞くように」

「「「「………………」」」」

 

 玉藻としては馬鹿が激昂して襲い掛かってくれればアホと話す価値無しと断定して帰れると思っているので、礼儀を完全無視した発言を炸裂させた。

 しかし此の場に居る者達は彼我の実力差を最低限は認識しており、更に物言いで激昂して護るべき者毎滅殺されかねない愚挙を犯す愚者は居なかった。

 因って、沈黙の首肯で話を進めることを促すだけであった。

 

 だが、そうなると玉藻の目論見は失敗したことになるのだが、玉藻としては気分を害されずにさっさと終わるなら別に其方でも構わない為、自分の目論見が外れたことに落胆したりせず、遠慮無くサクサク伝達事項を告げ始める。

 

「細かい経緯は後で当事者に聞いて補完するのに任せますんで、要点と要件を纏めて告げます。

 

1.其処の両名は生物という枠から逸脱した存在に成った。

2.ソレを地球外の組織に目を付けられている。

3.私の神子になれば其の辺の問題を力尽くで解決出来る。

4.そして今現在、入信なり改宗なりして仏閣や神社を建立して私を崇めるかどうかを訊きに来た。

 

 以上です。

 質問は1名1回。時間稼ぎの会話をしたら即終了。後、既に説明してるツイン小娘には質問権無し。

 じゃあ、はい、そこの金髪中年、質問は?」

 

 途中経過を大幅に省いている為、玉藻の話を黙って聞かされていた彼彼女等はツッコみたい箇所が山程在ったが、各名1回ずつと雖も質問が可能になったのでグッと堪えた。

 そして一番最初に指名されたアリサの父親は何を質問するべきか悩んだが、余り悩むと当たりが出た自販機の如く権利が消滅しかねないので、他の者達に視線で全員が全員の益になる質問をするよう視線で告げ、それに全員が同じく視線で了承の意を返したので、急ぎ玉藻に質問を始めた。

 

「巫女になることに因る具体的なメリットとデメリットは?」

「メリットは私の意志に沿った行動をする程に強化されます。

 デメリットは私の意思に逆らった行動をする程に弱化されます。

 強弱化の変動幅は私の意思にどれだけ同調若しくは乖離するかで、現在の最大強化度合いは恐らくさっきご主人様がした程度のことで、現在の最大弱化度合いは恐らく死亡ですね。

 因みに(かむなぎ)の女と書く巫女でなく、神の子と書く神子です。

 

 はい、回答終了。

 それじゃあ次、そこの執事(セバスチャン)、質問は?」

 

 玉藻は一応アリサとすずかから保護者として出席するだろう者達の特徴と名前は伝えられているのだが、憶えてはいても思い出す手間を掛ける気が皆無の為、見た目の印象のみで呼んでいた。

 そして其の程度のことで激昂したりしないバニングス家の執事は、立ち上がっての一礼も時間稼ぎと判断されかねないと判断したので、座った儘軽く頭を下げると直ぐに質問を口にした。 

 

「地球外組織とやらの具体的な脅威と傾向は如何程でしょうか?」

「亜米利加と北朝鮮を足して、就職年齢制限を取り払った感じの組織で、予測される干渉目的は単体戦闘能力が高く且つ特殊技能を持っているだろうサンプルの確保。

 行動傾向は羹に懲りて膾を吹くを地で行く、視野狭窄の極端思考。

 洗脳に近い教育が施され且つ自身達以外を下に見る為、圧倒的戦力差を示して尚同盟及び不干渉は極めて困難。

 

 はい回答終了。

 それじゃあ次、そこのソロ&シスコン、質問は?」

 

 指摘された黒尽くめの青年は声を大にして、[実妹偏愛(シスコン)は兎も角義妹との結婚願望(ソロコン)は事実無根だ!]、と叫びたかったが、自分達の立場を最低限は理解している為怒りを呑み込んだ。

 そして即座に怒りを呑み込んで質問しようとした黒尽くめだったが、其の直前にソロコンの意味が分かっていないアリサ以外から微妙に白い眼で見られて精神に大ダメージを負うが、言い淀んだりする事無く質問を口にした。

 

「二人が神子に成る事を認めたら、メリットとデメリットは何処まで拡大する?」

「デメリットは、ツイン小娘が()に対して不祥事を働いたら親類縁者、つまり財閥や企業の連中にも()の怒りが降り注ぎますね。

 メリットは通常を超える利益に与れ、更に正真正銘の神の家から溢れ出る神気を浴びる事で存在の回復・強化・活性化にも与れます。

 神子の賢愚さを考慮しなければプラマイゼロですね。

 

 回答終了。

 ラスト、寂しがりの狂人(マッド・ラビット)、質問は?」

「すずかとアリサちゃんが元に戻る方法は?」

「魂を以前と同等域迄降格し、以前と同等域の器を用意し、現在の魂と器の繋がりを完全に断ち切った後に降格させた魂を新たな器に移植し、其の後魂と器の齟齬を調整するってとこですね。

 難易度は、死んだ人間が焼かれて炭になって圧力が掛かってダイヤモンドに成ったのを、元の生きた人間に戻すよりも遙かに難しいですね。

 少なくても魂と時間と無への理解は必須ですね。

 

 回答タイム終了。

 はい、それで返答は?」

 

 回答された内容に虚言が混じっている可能性も在るが、補足を任された利発なアリサとすずかが特に否定していないことから、回答された内容は恐らく事実若しくは自分達では判断出来ない類なのだろうと彼彼女等は判断した。

 しかも提案している相手は提案を呑ませる意思が全く見受けられず、それどころか関わるのも面倒なのが丸分かりであり、譲歩どころか交渉することすら出来ないだろうことは容易く察する事が出来た。

 そして彼彼女等は得られた情報と推測される情報を吟味し、提案を呑むべきか蹴るべきかを思考した。

 

 だが、如何考えても情報が不足しており、迂闊に神子に成ることを認めて支援した後日、何処かの神や仏と全面戦争が起こって矢面に立たされたり、実は相手が邪神の類で世界中から排斥される破目に陥ったり、何年か後に生贄となる運命が待ち受けていたりする可能性もある為、状況が悪化しかねない可能性を考慮するならばとても現状では提案を呑むという決断を下せなかった。

 なにしろ、話の規模や信憑性は先程見せ付けられた無双で一概に否定出来ない類だと判断しているが、だからといって相手がそういう世界でどの程度の存在なのかは全く判らない為、死への直行便かもしれない提案を易易と呑むわけにもいかなかった。

 とはいえ、此方に極めて好都合な可能性も否定しきれぬ以上、矢張り易易と断るわけにもいかなかった。

 

 彼彼女等が10秒程思案し、自販機ならとっくに時間切れで権利消滅しているので、玉藻はもう話を打ち切って帰っても構わないだろうと思い雁夜と一緒に適当なところに転移しようとした(直接家に転移しないのは、玄関から一緒に新居へ帰りたい為)。

 が、その前に雁夜が軽く手を上げて玉藻を制止し、此の場に来て初めて口を開いた。

 

「下手に出ないのも尊大な態度なのも文句は無いけど、相手が碌に事情を理解してもいないのに決断を迫るのは遣り過ぎだ」

「でも、いきなり襲い掛かってきたり礫や光線放ってきた輩には破格の対応ですよ?

 ぶっちゃけますけど、ご主人様が何かあった時に反撃するって言ってなかったら、汚物は消毒のノリで辛気臭い此の辺一帯を蒸発させるつもりでしたから」

「言いたい事は良く解る。

 交渉も無しにいきなり実力行使されたんだから、俺も消そうとは思わないけど話を無かったことにしたくなったぐらいだからな」

 

 雁夜と玉藻の会話を聞き、改めて彼彼女等は自分達が最初の一歩を間違えていたのに今更ながらに気付いた。

 相手が常識の埒外の存在ということを示し、にも拘らず凄まじく尊大な態度且つ一方的過ぎながらも話を付けに来たので彼彼女等は忘れていたが、雁夜の連絡方法に著しく問題が在ろうと純粋に話し合いに来たでだろう圧倒的強者へ先に手を出したのは自分達であるのだと遅まきながら理解した。

 

 だが、雁夜は寸劇の様な謝罪を受けるのはルポライター時代に頭を下げ捲くった経験上嫌いな為、彼彼女等に寸劇の謝罪をさせる間を与えぬ為にも、会話を途切らせずに続ける。

 

「とは言え吐いた唾を飲む真似はしたくないし、怒りに任せて提案を恐喝や恫喝にして終わらせる気も無い。

 だから少し俺が捕捉する。

 

 という訳で、暇なら見晴らしが良過ぎる此処を直した後、家でゴロゴロしててもいいぞ?」

「ご主人様に直させるっていう超級のサービスをくれてやるつもりはありませんから、取り合えずとっとと直しますね」

 

 玉藻がそう言うと、宛ら画面が差し替えられたかの如く月村邸に刻まれた破壊の爪痕は消え去った。

 尤も、彼彼女等は大きな風穴が開いた壁や扉が、突如装飾品毎綺麗に復元したとしか知覚出来なかった。が、雁夜は当然としてアリサとすずかも敷地内の破壊の痕跡が一瞬で消え去ったのを知覚出来ていた(アリサとすずかは辛うじてだが)。

 

 そして会話に隙間を作る事無く(彼彼女等が呆気に取られる暇すら与えず)玉藻は雁夜に話し続ける。

 

「序に外の奴らの脳も弄くっておきましたから、秘匿も問題ありません。

 それと終わる迄は帰りませんから。

 ご主人様は何だかんだで甘い上に律儀ですから、どれだけ勝手に譲歩するか不安で仕方ありませんし」

「大丈夫だって。情報はくれてやっても提案は変更しない。

 いくら俺でも、効かないといっても攻撃のつもりで干渉してきた相手に甘くしたりする気は無いぞ」

「あは★ それなら私は安心してクレバーなご主人様の姿を眺めてますね♪」

「いや、お前と一緒に決める事態になれば連絡するから、家でゴロゴロしててもいいぞ?」

 

 桃色異界を展開されては締まらない話し合いになると思い、遅まきながらも雁夜は玉藻に帰宅を進めた。

 だが、玉藻は少しだけ真面目な表情になって言葉を返す。

 

「ご主人様。私は辛辣な対応で事に当たってはいますけど、自分の責任をご主人様に押し付ける程に腐ってもいなければ無責任でもありません。

 ですから、此処の輩が提案に対する答えを出すか其の権利を放棄する迄は此処に居ます」

 

 真摯な瞳で見詰められ、自身の発言が思慮の浅い発言だったと気付いた雁夜は、軽く目を伏せて玉藻に謝罪する。

 

「…………すまなかった。

 知らずに軽く見ていた」

「いえ、明日のデートで目一杯甘えますから、全~然気にしなくていいですよ♥」

 

 極上の笑顔でそう言う玉藻。

 そして其の一瞬で周囲は桃色異界へと変化したが、ソレに気付かず雁夜は微苦笑を浮かべながら――――――

 

「ああ。ドンと来い」

 

――――――と答えを返した。

 そして其れに対し玉藻は――――――

 

「はい♪ドンといきますから、覚悟してて下さいね♥」

 

――――――と答えを返した。

 お蔭で桃色異界の濃度が更に濃くなり、彼彼女等は非常に気不味い状態にあった。

 とはいえ、迂闊に咳払いでもしようものなら、少なくても玉藻から不興を買うことは必至であり、仮に雁夜が宥めるとしても余計な事はするべきでないと判断した彼彼女等は、失礼にならない程度に黙って見続けることにした。

 が、気付けば何時の間にか桜に色色と説明困難な場面を見られている状況に陥り続けた雁夜は、余程のめり込んだりテンパらない限りは周囲の視線に敏感になった為(普段は如何でも構わない存在の視線は先ず気にしないが)、即座に桃色異界を消し去る様に一度軽く咳払いをし、更に短時間とはいえ深く精神統一を行って場を引き締め直した。

 尤も、精神統一している雁夜の横顔を見た玉藻の内心は桃色の儘だったが、雁夜は其れには触れず何事も無かったかのように話し始める。

 

「最低限判断に必要だろう情報は渡すが、それだけだ。

 別に俺達は信じてもらおうとは思ってないから、証拠を提示するつもりは一切無い。

 俺達がしたいのはあんた等に提案を持ちかけ、そして判断出来る機会をくれてやることだ。

 だから別に提案を呑んでほしいとか思っちゃいないし、断られても俺達は痛くも痒くも無い。

 と言うか、財閥や巨大企業のトップと関わるのはもう辟易してるから、俺としても理由は違うけど蹴ってくれた方が楽だとは思ってる。

 まあ、だからと言って、あんた等が提案を呑んでも当り散らしたりせず、きちんと有言実行するけどな」

「「「「…………」」」」

「改めて言う必要も無いと思うが、一応言っておくぞ。

 効かないとはいえ攻撃のつもりで干渉してきた奴等に礼儀正しく疑問に答えてやる程、俺は慈悲深くも甘くないぞ。

 そして次に舐めた真似をしたら身長を10cm程引き伸ばして外に叩き出すからな」

「「「「………………」」」」

 

 迂闊に相槌を打ったり謝罪や弁明を行うのは相手を不快にするだけだとは容易に推測出来た彼彼女等は、黙って礼儀正しく雁夜の言葉を聞くことにした。

 

「それじゃあ捕捉だが、別にあんた等が提案を蹴っても、アリサちゃんとすずかちゃんが俺達に付いて来てでも神子をやるつもりなら大局的には問題無い。

 当然あんた等と離れて過ごすことになるし、学友とかとも離れることになるけど、代わりに安全面は飛躍的に向上するから、当初の目的は問題無く果たされる筈だ。

 後、こいつが如何いう神なのかさっぱり分からないだろうから一応紹介してやる」

 

 そう言って視線を玉藻へ向けながら雁夜は言葉を続ける。

 尚、玉藻は立ち上がるつもりは微塵も無いが、雁夜に紹介されるのにだらしない様だと雁夜の顔に泥を塗ることになるので、一応姿勢を正して表情を引き締め直した。

 

「こいつの名前は【玉藻の前】。

 詳しい説明は省くが、正確には、【玉藻の前 天照 大日 ダキニ天】、だ。

 

 要するに、こいつは真言密教の最高神であり、凄まじく噛み砕いて言うと、生きている者の為の神だ。

 因みに万物を総該した無限宇宙の全一と謳われるだけあって、出来ない事を探す方が難しい。

 何しろ、千年先の並行世界の天体を転移させたり、とっくの昔に塵すら残さず死んだ奴を蘇生出来たり、天体規模の攻撃をバカスカ繰り出せたり、完全に無防備な状態で原爆を秒間数万発食らい続けてもノーダメージだし、8次元迄の干渉を遮断出来たり、他諸諸etcetcと、文字通り人知の及ばない存在だ。

 

 それと勘違いしない様に釘を刺しておくが、神が人間の味方だとか頭に蛆の湧いた考え方なんてするなよ。

 人間が下手に出て神の庇護に与るのが神と人間の接し方で、断じて人間と対等じゃないからな。

 だから、人間の法を以って束縛しようとか、手を取り合って仲良く暮らしていこうとか考えるなよ」

 

 余りに著名な神の名が飛び出した為彼彼女等は驚愕した。

 一瞬虚言かと思いはしたが、信じ込ませる気は皆無そうな上、提案を蹴ってもらいたい相手が態態虚言でそんな名を出すとは思えない以上、俄かには信じられないが事実なのだろうと彼彼女等は判断した。

 しかもやる気の無い軽い注訳にも拘らず極めて具体的な例の為、言う事言ってさっさと終わらせたいという考えが露骨に透けて見え、信憑性は益益上昇した。

 だが、雁夜はそんな彼彼女等が神である玉藻に変な親近感や勘違いを抱かぬよう、先んじて釘を刺した。

 

 人間の絶対的な味方と勘違いし、リンディやなのはの様な舐めきった態度で接されるのは傍に居る雁夜としても非常に不快な為釘を刺したのだが、彼彼女等は安易な思い込みで絶対的強者を侮りはしないと其の瞳から推測出来たので、此れ以上釘を刺すのは手間なだけだと判断した雁夜は話を続けることにした(リンディとなのはは玉藻の正体を知って侮っていたのではなく、職責や生来の思考からの態度である)。

 

「それと提案を受けた場合、此方が他に要求するのは衣食住に娯楽品の提供とアリサちゃんとすずかちゃん以外の神職者数名程度だ。

 金銭や権力が欲しければこっちで何とかする。

 まあ、立ち上げた会社が肥大化し過ぎて合併吸収するかもしれんが其の辺りは知らんし、そっちが合併吸収しても文句は言わん。闇討ちとか詐欺とかしない限りはな。

 

 さて、補足はこんなもんだな。

 で、改めて訊くが、此の提案、呑むか蹴るか答えてもらう。3分以内にな。

 短いと思うだろうが、相談して得られることなんて無いだろうし、俺達の発言の裏付けなんて取れはしないんだから、必要なのは決断する意思だけだから十分だろう。

 それじゃあ秒読み開始だ」

 

 一方的にそう言い切った雁夜は、玉藻と一緒に時間迄部屋の隅に置かれていた新聞や雑誌を読んでいることにした。

 

 

 

 

 

 

Side In:Chrono Harlaown(クロノ ハラオウン)

 

 

 

「なるほど。つまり全てを掌握している神ってことなのか」

「いや、あたしも詳しくは知らんけど、多分そんな感じの神様って感じでしか憶えとらんから、あんま真に受けられても責任持てんと言うか何と言うか……」

「いや、今は大まかな情報が得られれば十分だ」

「だね。

 だけど……複数の神の側面を持つ神がいるなんて、凄く興味深いな」

 

 たしかに。宗教の分派や言語の変化、他にもある一面を切り取って崇めたりした結果、別名なのに同一神というのは風俗や人口分布等が複雑に絡み合った興味深い話だな。

 ……考古学者のユーノが興味を覚えるのも分かるな。

 

「あたしんとこの国の神様って、結構他所からの神様が多いんよ。

 多分メジャーな神様の半分くらいはルーツが大陸にある筈やで。

 

 後、話戻すけど、仏教とか神道……あの神様が属する大まかな宗教やけど、頭おかしいとしか思えん規模の単位と表現がありまくりやから、伝承通りの凄さなら仏教や神道の偉い神様に逆らったらまず詰むで?」

「頭おかしい単位や規模って、具体的にどんな感じなんだい?」

 

 ミッドには一応聖王教会があるけど、アレは一応故聖王を奉っているだけだから、神聖視されていても伝承は自ずと人の限界に縛られるから、言い方は悪いけど僕でも運に恵まれれば似た様な結果は叩き出せるから、仮に奉られている聖王が生きて実在しててもそこまで怖くはないけどな。

 だけど、さっきの彼女級がぽんぽん奉られているのなら、知らなきゃ確実にヤバい。

 

「詳しゅう知っとる訳じゃないけど、人間どころかアリやカを殺しても平気な奴は死んだら等活地獄ってとこにいくんや。

 そしてそこじゃみんな体から剣とか何かが生えてて、誰もが意味も無く殺し合いをするらしいんよ。

 当然すぐに死んでまうけど、風が吹くと誰もが生き返って又殺し合いに耽るって地獄なんよ。

 で、その地獄は1兆6千億年くらい経たんと終わらんらしいんよ。

 しかもソレ、地獄の中じゃ一番軽いんやで?

 

 ぶっちゃけ仏罰は他の宗教と違って桁が外れとるから、仏教圏の人が慎ましやかになり易いのも仕方ないっちゅうわけや。

 なにしろ、神様に唾吐いたり親より先に死んだり反乱で死んだり神を貶めたりHに耽りすぎたり美味しい物見境無く食べまくったりしただけで地獄行きなんやからな」

「「…………」」

 

 聞きたかった話と大分違うけど、神に逆らうと地獄行きとか、彼女の存在を考えると現実味が在り過ぎて怖いな。

 

「まあ、仏教はたしか幸せになるための教えじゃなくて、【悟りを開くため】の教えだったはずやから、苦しんでなんぼなんやけどね。

 とゆうものの、悟りは一番早く開けるっていう弥勒って元人間の御方も56億7千万年かかるって言われとるから、凡人はいったい何度生まれ変わり続ければ開けるのやらって話やけどな」

「「………………」」

 

 何と無く方向性が読めてきた。

 つまり――――――

 

「死んだら罪を纏めて清算して、ソレが終わったら生まれ変わって苦しみながら悟りとやらを開く難行にチャレンジする……」

 

――――――というわけか。

 

「多分それで正解や。

 一応極楽浄土って概念はあるんやけど、輪廻転生っちゅう生まれ変わり続ける概念と真っ向から対立しとるから、詳しいとこは知らんのやけどな」

「……何だか凄くアバウトな宗教だね」

「あたしもそう思うで。

 なにしろ、昔見たテレビで13宗56派とか言われとったけど、現代でも増えたり減ったりを繰り返してるらしいから、今どれくらいか分かってる人いるのか謎やな」

 

 本当に興味深い歴史を辿ってそうだな。

 一段落したらユーノと一緒に調べてみるのもいいかもしれないな。罰が当たらない範囲で。

 

「話は変わるんやけど、本当にあたしらに手錠とかかけんで良いん?」

「「ん?」」

「いやな、理由は兎も角うちの家族が人様に迷惑かけたのは事実なんやから、こうしてのほほんと話しといて良いものかどうか疑問なんよ」

 

 たしかに彼女としては自分が知らないとはいえ守護騎士達……家族が傷害行為に走っていた責任を一緒に取ろうとしているのに、軟禁どころかのんびり外で話していられる現状は不思議なんだろうな。

 実際、本来なら彼女は兎も角守護騎士達はデバイスを没収して厳重監視下で軟禁するぐらいの処置はしてるだろうから、彼女の指摘は至って普通だな。

 

 だけど、迂闊にそんなことをするわけにはいかないんだよ。

 

「君が気絶している間のことは映像付きで説明したから分かると思うけど、今、なのはが起きたら何をすると思う?」

「そりゃあ………………は……ははは……」

「お察しの通り、彼女達を探し回って暴走するだろう。

 だがアースラには彼女達の手掛かりは残っていないだろうから、如何しても事情を知ってるかもしれない僕達が標的になる。

 だけど当然僕達は言うつもりは無いからなのはは業を煮やす。

 その結果なのはが僕達に固執するだけならまだ安心だけど、フェイトがアリサとすずかという少女達の安否を確認して連絡が取れたり居場所を探知できてしまったら、なのはがフェイトとアルフを引き連れて情報収集に動く可能性は窮めて高い。

 そうなったら当然……」

「最悪、見事に鉢合わせやろな」

 

 その通り。

 考えただけで胃が痛い。ついでに眩暈もする。

 

「勿論そんな事態になったら、なのはどころか僕達も纏めて消されかねない」

「本当はデバイスを没収してバインドで拘束してれば安心なんだけど、一応ユーノからの借り物らしいけど、個人情報が詰まっている上に民間協力者であるなのはのデバイスを通告無しの強制回収や徴発する名目は無いし、拘束しようにも危険行為や犯罪行為をしたわけじゃないから出来ない。

 と言うか、流石にアースラが転移した所に個人で転移するのは凄まじく時間と手間を食うから、そもそも時間的に間に合わないから、考えても仕方ないことなんだけどな。

 

 とはいえ最善策が実行出来ないからって何もせずにいるわけにはいかないから、なのはが暴走した時の為に月村すずかって子の家の周りで張ってるわけだ。

 

 当然武力行使をするかもしれない以上は武器を没収するわけにもいかない。

 あと、魔法に不慣れな君を近くに置いておくには危険過ぎるからかなり離れた場所に置いとくことにしたんだ。

 勿論、何もせずに離れているだけならなのはに見つかって突撃されるだけだから、簡単に発見されないように迷彩結界を展開して守護騎士達が先に発見されるようにはしている。

 そして最後に、今現在、少しでも彼女達の情報が欲しい執務官の僕と……」

「ある程度は地球の風俗に詳しくて、更に神事関係知識が少しは有る上、結界が得意な僕が同行したんだ」

「それと万一なのはの暴走の矛先が君に向かった時の為の護衛という意味もあるけどね。

 因みに僕は護衛というより迎撃要因だな」

 

 他にも、重要参考人に見張りも付けないのは問題だし、万が一守護騎士達が反乱を起こした際に人質として使うというポーズを示す意味もあるけどね。

 まあ、そんな必要は無さそうだし、それに若し仮に逃げると言うか抵抗したとしたら、地球に居る限りは手を出さない方が良いと思うしな。

 

 なにせ、彼女が特に咎めなかった者を、彼女の不況を盛大に買った僕達が彼女の近くで追い掛け回して地球を荒らそうものなら、次は警告無しで消し飛ばされる可能性すらあるからな。

 ソレを考えるとあんまり待遇を悪くして反意を持たれない為にも、可能な限り待遇を良くするべきだからな。

 ……個人的に同情の余地が凄くあるから酷い扱いをしたくないって思いもあるけど。

 

「ええと…………ごめんなさい?」

「いや、君がなのはと友人ということは別に悪いことじゃない。

 そして一番力尽くで口を割らせ易いと思われているだろうことも君に非は無い。

 寧ろ……」

「思い込んだら手段を選ばず状況を弁えずに暴走するだろうなのはの方に問題が有るからね……」

 

 だろう(・・・)と言っているけど、よくよく思い返してみたらどんな些細なことでも他人の意見に従ったことなんてないから、なのはが暴走するのはほぼ確実だな。

 …………あれ? そう考えるとなのはは単なる危険人物ということになるな。

 言うこと無視するし、示威行為どころか武力行使上等な考え方だし、本人も悪魔でもいいとか言ってたし。

 

「っちゅうか、もしなのはちゃんが暴走したとして、いったい何をする気なんやろ?」

「「………………説得?」」

「いや、いったいナニをどう説得するんやろ?」

「「…………」」

 

 言われてみればなのはの話は場当たり的というか主体性が無いような感じがするな。

 おまけに無自覚に超上から目線だよな。

 守護騎士のヴィータと話し合いをしようとしてたけど、協力する(・・)じゃなくて協力してやる(・・・・)って感じだったもんな。

 ……冷静に考えたら説得じゃなくて降伏若しくは服従勧告だな。

 

「しっかし、クリスマスらしくファンタジーっぽい出来事満載な時間やったんやなぁ。

 まあ、神様は全く別の宗教の神様やったけど」

「あ、そのクリスマスってやつの神様はどんな神様か教えてくれるかな?」

「そうだな。彼女程非常識な神ではないと思うけど、知っておかないと危険な気がするしな」

 

 万が一その神縁のロストロギアを管理局が徴発しないとも限らない以上、出来るだけ早急に地球の神話は修めておかないとマズイからな。

 

「えーと、エホバっていう神だけを奉ってる一神教で、宗教名はキリスト教って名前なんよ。

 生憎詳しくは知らんけど、漠然と偉い神様っていうこと以外のことは語られてなかった筈や。

 タイプは信徒に使い走りを寄越して奇跡を起こす類の神様やね。

 後、物騒なお告げとやらが横行して他宗教の人や他民族を虐殺しまくった宗教で有名や。

 ついでに言うと他宗教は絶対に認めん思想で有名やし、同じ起源の宗教同士でも戦争起こしたりする過激な宗教団体や。

 まあ、暴走しとらんかったらボランティア精神豊富な団体やし、慈愛や清貧や貞淑を謳ってたりしてるから信徒さんも気の良い人達が多いで」

「……凄まじく罰当たり的な説明な気がするけど、説明有り難う。

 だけど……キリスト教のキリストって部分、どうも人の名前に聞こえるんだけど?」

「あ、それは昔イエス・キリストっちゅう、一度死んで蘇って奇跡を振り撒いた神様の子の名前なんよ。

 ソレでどこがどうなったのかは知らんけど、ユダヤっていう地方のユダヤ教がキリスト教って名前に変わったんよ」

「……さっきの彼女っていう前例を考えると、なんだか本当に居そうで怖いなぁ」

「そうだな。

 矢張り何処だろうと宗教関係と揉めるのは得策じゃないな。

 ……実際に神と呼ばれる高次元存在が居るなら尚のこと」

「まあ、もし本当にエホバ神が居るんならとっくの昔にハルマゲドンっていう、エホバ神が自分の使い走りと信徒以外を皆殺しにするっていうイベントが起こってると思うけどな」

「「…………」」

 

 聖王教会しか宗教は知らないけど、宗教ってこんな物騒なのが普通なのか?

 もしそうなら宗教関係に干渉する時は細心の注意を払うだけじゃなくて、事前に宗教団体が在るかどうかから調べた方が良いな。

 ……あの二人が居なかったら、僕達は纏めて消されていたみたいだからな。

 

「っちゅうか、大抵の偉い神様って性格云々抜きにして、〔怒るの分かるけど何でそこまでするかな~?〕、って感じなんばっかりやけどな。

 とはいえ神様なんて宗派や地域によってころころ伝承が変わったりするみたいやから、一概に神様の性格とかを決め付けん方がいいかもしれんけどな」

「……そうだな。事実だとしても不敬としか思えない描写で残そうとする奴なんてそうそうないだろうから、伝承は美化されたものが普通だろうしな」

「だね。

 多分直接相対した人が残した伝承でも遠慮以外に主観や推測が相当混じってるだろうし、編纂や口伝の途中に歪められた可能性も大だろうから、下手すれば神様が司っている物事すらも間違っている可能性が在るかもしれないと思う」

「やね。

 しかも大げさな表現になってるだけなら取り越し苦労で済みそうやけど、昔の人のボキャブラリーの少なさを考えると……」

 

 言いたいことは良く分かる。

 余り考えたくは無いし当たってほしくもないけど、つまりは――――――

 

「説明不足と年月の経過で弱く描写されている可能性もある」

 

――――――ってことだよな。

 

「しかも過不足なく伝わっているとしても、彼女みたいに人知を飛び越え過ぎた存在が実在するって事もありえるよね」

「考えただけでこの世界……彼女風に言うならこの星だけど、兎に角この星とは全力で関係を拒否したくなる考察の帰結だな」

「管理局ってところも二の足…………って、すずかちゃんとアリサちゃんや」

 

 ……正直、どれだけ距離が開いているとしてもも、彼女が居る可能性が在るだけで振り返りたくない。

 ユーノも同じみたいだし、このまま無視を決め込みたい。

 少なくても、実害が出る寸前までは振り向いて確認したくない。居るかもしれないって可能性に止めておきたい。折角気配がさっぱり感じられないんだから、希望に縋り続けていたい。

 

「あと、アマテラスさんとその夫さんみたいな人もいるで」

「「……おぅふ」」

 

 可能性消滅。神は死んだ。って言うか寧ろ逆だな。神が現れた。

 

「ちょ、ちょお? なんか雲行きが怪しいんやけど?」

「「!!!?」」

 

 おいおいおいおいおい! 何を遣ろうとしているんだ!?

 って……やめろーーーーーーっっっ!!!

 何を考えてるのかは知らないけど、わざわざ宇宙規模の怪獣に喧嘩を売るなーーーーーーっっっ!!!

 

「うわ。まるでターミネーターやな。

 拳銃どころかマシンガンとかも平然と受けとるし、投げ飛ばしたり吹っ飛ばしたりする対応もまんまやな」

 

 り、理由ははっきりとは解らないが手加減してくれてるみたいだな。

 …………良かったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 

「なあ、魔法ってああいうのも普通に出来るん?」

「えっ?あ、う、うん。

 物凄く高位の魔導師なら似た様なことは出来ないことはない……かな?

 基本的に僕らが使う魔法は魔法……と言うか魔法の術式に対して最も効率的に効果を及ぼす様になってるから、純粋な物理に関しては見た目程の効果は無いんだ」

「そもそも質量兵器……君達が言うところの科学兵器は禁止にしているから余り対策としては考慮していないし、僕達があそこに立っていたら今頃挽肉になってたな」

「あ、ただ、僕やクロノ……って言うかミッドチルダ式の魔法を使う者達と違って、科学兵器を使った戦争を潜り抜けただろう守護騎士達は物理系に対する機能も備えてると思うよ。

 流石に彼女より少し先を歩いている彼みたいに集中攻撃されたらバリアジャケット……じゃなくて騎士甲冑だっけ?まあ兎に角それが突破されなくても、衝撃で骨が砕けてタコみたいになって死ぬだろうけど」

 

 だな。余りの弾丸密度で彼の姿が霞んで見えるし。

 

「あと、彼女達はどう見ても防御術式を展開している様に見えないから、多分アレは素の状態の防御力だと思う」

「念の為言っておくけど、僕達どころかドラゴンでも傷を負うだろうし、無防備にアレを食らい続ければ戦艦の装甲だって危険だから、間違ってもアレを普通と思わないでくれよ」

「と言うか、彼と彼女は完全に別格だからね。

 魔導書のバグの部分だけ取り除いたり、バグとはいえ大部分を取り除かれて不安定な筈なのに官制人格を完全に安定させているとか、見た目は地味でもあんなお手軽に出来ることじゃないからね?

 寧ろ今の僕達じゃどれだけ設備と人間を揃えたちしても、官制人格にバグを押し付けて消えてもらわなきゃ事態収束は不可能だから。

 

 分かり難いけど、彼も僕達の常識の外側の存在だから」

「それはリインにも聞いたで。

 なんでも、〔蜘蛛の巣1000個丸めた塊を綺麗に解いて、手掛かり無しで元張ってあった場所へ精確に張り直すより難しい作業〕、って言うとった」

「……ようするに無理って事だよね?」

「バグ取りだけってぃゅうわっ!?!?!?」

「「!?!?!?」」

 

 ……一瞬で館が微塵切りとか、悪夢だな。

 しかもどう見ても溜め無しで微塵切りにしたよな。

 

「ユーノ。アレ、魔法と思うか?」

「解らない。ただ、バグを一撃で消し飛ばしたのを考えると、何らかの特殊能力が在るか魔法を付加することが可能かのどちらか、もしくは両方なのは間違いないと思う。

 それとあの触手みたいなのの形状と位置的に、後3本以上は展開可能だと思う」

「そうだな。

 というか、今何気無く空中を歩いているけど、どう見ても魔法が行使されてるように見えないのを考えると、特殊能力か僕達が理解出来ないレベルの偽装、若しくは僕達が理解出来ない領域の術式で編まれているかのどれかだな」

「リインが言うには、リイン達の知る常識とは根本から違う上に完全に格上の系統なのは間違いないらしいで」

「…………一番聞きたくない答えだな」

 

 そんなのを本局に報告したら絶対にこの世界に干渉するぞ。

 そしてその時は控えめに考えても派遣された人員が全滅。最悪本局が消し飛ばされる。

 溜め無しでアースラをミッド近海に転移させたのを考えるに、アルカンシェルを防いだ技法を攻撃に転用して本局に連続で転移させて炸裂されたら数秒で終わる。

 

「ああ…………世の中余計な事知らなきゃ良かったって事ばかりだよ」

「……クロノ。決め台詞間違ってるよ」

 

 五月蝿い。冗談でも彼女達の存在を指して、[こんな筈じゃなかったことばかりだよ]、とか言えるか!

 一度もこっちに視線を送ったりとかしてないけど、アリサとすずかって子達が何度か僕達を正確に見ていたんだから、絶対彼女達気付いてるぞ!

 そんな状況で不敬丸出しの台詞なんて言えるか!

 

 

 

 その後、数分経つと荒れに荒れた敷地内が脈絡も無く元通りになった。

 しかも倒れていた連中が警備位置に当たり前の様に立っているだけじゃなく、さっきまでのことを全く知らないかのように平然と警備しているという不気味な光景を目の当たりにした(記憶が改竄されているとしか思えなかった)。

 

 そしてその数分後、復活したなのはとなのはに引き連れられただろうフェイトとそのお供のアルフが予想通り突撃してきた。

 尤も、流石に守護騎士全員と管制人格の総がかりは突破出来ず、無事取り押さえる事が出来た。

 だが、諦めていないのは火を見るより明らかで、後日アリサとすずかという少女達に突撃するのは解りきっていた為、その対策をどうするかで今から胃が痛くなって仕方なかった。

 

 

 

Side Out:Chrono Harlaown(クロノ ハラオウン)

 

 

 







【玉藻内の好感度】(洒落と思って流し読みして下さい)

 評価0:無関心。
 評価1:無関心でない程度。
 評価2:気になる。
 評価3:凄まじく気になる。
 評価4:ヤンデレやストーカーも脱帽級。
 評価5:ルナティック∞

・雁夜
愛:4→5↑
好:4→5↑
欲:3→5↑
信:3→5↑
友:2→5↑

・桜
愛:0→2→5
好:0→2→5
欲:0→0→4
信:1→3→5
友:0→3→5

・アルクェイド
愛:2
好:4
欲:3
信:4
友:4

・大河
愛:3
好:4
欲:3
信:4
友:4

・琥珀
愛:1
好:4
欲:3
信:4
友:4

・志貴
愛:0
好:2
欲:0
信:4
友:4

・バルトメロイ
愛:0
好:1
欲:0
信:2
友:0

・ウェイバー
愛:0
好:0
欲:0
信:2
友:0

・士郎
愛:0
好:0
欲:0
信:1
友:0

・なのは
殺:4
嬲:4
怒:4
嫌:4
怨:4

・アリすず
警:3
疑:3
嫌:1
憎:0
信:2

・超一流の油揚職人
愛:0
好:2
欲:0
信:2
友:2






   ~~~~~~~~~~






 【とある日の間桐邸】



 年末も大詰めの昼下がり、ライダーは桜と一緒に桜の私室の大掃除をしていた。
 尤も、増設した宮殿の方の桜の私室である為広さは㎡ではなくk㎡単位という、私室と呼ぶには首を傾げる広さであった。
 当然余りに広過ぎて全く落ち着かないので桜は幻術や結界で幾つか間仕切りしており、今桜とライダーが大掃除している場所は倉庫に当たる箇所であった。

 だが、幾つかの道具を片付けていたライダーは、手に取った桐箱から懐かしい臭いを嗅ぎ取り、露骨に顔を顰めた。

「どうしたの、ライダー?」
「いえ、この箱から懐かしくも忌々しい臭いが漂ってきたもので……」

 不思議そうな顔でライダーに尋ねる桜に、ライダーは何とか顰め面を最近すっかり顔に馴染んだ微笑に戻して言葉を返した。
 すると桜は合点がいったのか苦笑いしながら言葉を返した。

「あ、あはは。そういえばソレ、昔雁夜おじさんが使ったペルセウス縁の触媒だったよね。
 ……ごめんねライダー。私、ちょっと配慮が足りなかった」
「いえ、サクラが謝ることは有りません。
 普段使っている私室や通路に飾られているなら兎も角、倉庫の中に奴縁の品が在ったとしても文句はありません。
 それに、私こそ神経質に反応してサクラに気を遣わせてしまい、すみません」

 そう言って互いに頭を下げ合う桜とライダー。
 両者とも何だかんだで生真面目な為、此の儘頭の下げ合いに発展しそうだったが、既にそういう事態は何度も経験しており、又、其の度に大河がキリが無いから1回で終わらせた方が互いの為と言っていたので、好い加減相手に気を遣わせ過ぎるのは良くないと学習した桜とライダーは一度互いに謝罪してだけで終わらせて次に進めることにした。

「ライダーが其れを快く思っていないのは分かるけど、其れは思い出というか記念と言うか…………兎に角大切にしておきたい物だから、元在った所に直しといてくれる?」
「分かりました。
 それとサクラ、丁度大掃除も終わりましたので、よければどういう思い出が在るのか話してくれませんか?」
「いいけど、それなら向こうの椅子がある所かベッドのある所で話さない?
 ソレが在る此処だと、ライダーはあんまり良い気分じゃないと思うし」

 ライダーが棚に直した桐箱を見ながらそういう桜。
 それを聞いたライダーは微笑みながら桜の気遣いに感謝を述べる。

「有り難う御座います、サクラ」
「気にしなくていいよ、ライダー。

 だけど……もう直ぐ暗くなりそうだし、やっぱり本邸()の居間にしない?」

 其の言葉を聞いたライダーは眼鏡の奥の目を輝かせながら――――――

「それならばサクラ、早く戻る為にこの自転車に乗って帰りましょう。
 大丈夫です。漕ぐのは私ですので、桜は後ろでゆっくり座っていられますっ」

――――――欲望駄駄漏れの言葉を即座に返した。
 そしてそんなライダーに桜は頬を引き攣らせなが言葉を返す。

「い、いいけど…………安全運転だからね?」
「大丈夫です。天にも地にも、私の疾走を妨げるものはあんまり在りません」
「いや、大丈夫でもなんでもないから。それ」
「大丈夫です。私は神霊の状態と雖もライダーのクラスで召喚されし者。
 騎乗している状態で後れを取る事などあんまりありません」
「だから、全然大丈夫でもなんでもないから。それ」
「大丈夫です。なぜなら大丈夫なのですから大丈夫です。
 それに私は痩せても枯れてもライダーのサーヴァントです。
 マスターと共に天地を疾走することこそが本領であり使命なのです」
「…………」

 桜の言い分を完全無視するかのようにヒートアップするライダーを見、ここで駄目出しをすれば盛大に拗ねるのが目に見えている桜は、嫌な予感がするものの了承することにした。

「分かった。分かったから落ち着いてライダー」
「分かって頂けましたか、サクラ」

 同姓すら魅了してしまう微笑を浮かべながらそう言うライダー。
 だが、その微笑を向けられた桜は見惚れるどころか早まった真似をしてしまったかもしれないと若干後悔していた。
 そしてそんな桜に気付きもせずにライダーは上機嫌に桜が座っても痛くない様に後ろの荷物置き場にタオルを巻き付ける。

「さあサクラ、タオルを捲き付けただけですが、取り合えず座っても痛くはないと思いますので出発しましょう!」
「ライダー……もう一度言うけど、く れ ぐ れ も! 安全運転でお願いね」
「大丈夫ですよサクラ。
 幸い此処には一般人など居ないので轢き殺す心配は在りません」
「いや、だから、自転車で人を轢き殺すかもしれないスピードを出すと暗に言ってるライダーの思考が――――――」
「それでは暗くなる前に出発します!
 風で吹き飛ばされない様確り抱き付いてて下さい!」
「――――――全然安全じゃな……ってええええええええええっっっ!?!?!?」

 態とか逸る心を抑え切れなかっただけなのか判りかねる表情と雰囲気のライダーは桜の言葉の途中でペダルに力を加えた。


 そしてライダーは、雁夜が創り上げた自転車の名と形をした別な物を力強く漕ぎ始めた。
 ランクA+++という、何を考えて製作したのか余人にはまるで理解不能な自転車擬きは、大地母神のスペックを持つライダーの力強く押し出される漕ぎ足を難無く受け止め、疾走を開始した。

 向かい風で浮かび上がらない様に風や重力の操作が可能であり、更に空すら駆けられる自転車擬きは、熱中し過ぎて本来の目的を完全に忘れたライダーに如何無くスペックを発揮させられた。

 結局ライダーが桜の声に気付いたのは、自身の全能力費やして垂直に地球の重力を振り切り掛けた頃であった。






   ~~~~~~~~~~






 【其の前の桜達 其之壹・士郎の受難】


「なあ桜。雁夜さん達ってどんな風に戦ってたんだ?」
「? 如何したんですかいきなり?」
「いや、深い意味は無いんだけど、同じ人間なのに伝説の存在と真っ向から戦えるんならさ、俺がサーヴァントと戦う時に参考にならないかと思ってさ」
「あ~…………」

 如何言ったらいいものか言い淀んでいる桜を見た凜は、呆れながら話に加わることにした。

「そこのへっぽこ。出来もしないことを訊いて後輩を困らせるのはやめなさい」
「むっ。なんだよ遠坂。出来もしないって決めつけるなよ」
「決め付けじゃなくて事実なのよ、へっぽこ。
 衛宮君、理解してないようだから懇切丁寧に教えてあげるけどね、間桐雁夜って存在は正真正銘の魔法使いなのよ。解る?」
「いや、魔法使いなのはさっき聞いたぞ?」

 明らかに解っていない士郎の言動を聞いた凜は怒りの混じった溜息を一度吐くと、頬を引き攣らせて怒気の混じった声で説明を始めた。

「あのね、衛宮君。魔法って言うのは、【正真正銘の奇跡】なのよ。解る?
 一撃で山を消し飛ばそうが、重力を操作しようが、時間を加減速しようが、どれもこれも常識の範囲内で奇跡じゃないの。手間隙かかるけど私も衛宮君も似たような結果は起こせるんだから。
 だけどね、魔法は冗談でも誇張でもなくて、正真正銘私達がどれだけ頑張っても再現出来ない結果なのよ。

 つまりね、例えばだけど、過去の対象に攻撃する戦法を衛宮君は真似出来るかしら?」
「いや……それは……」
「出来ないでしょ? そりゃ魔法使いの戦闘スタイルが必ずしも魔法を主軸においているとは限らないけど、少なくても間桐雁夜は人外のスペックと魔法の圧倒的神秘に因るゴリ押しなのは有名なのよ。
 だけどそれは技術の入り込む余地が無い領域に居る存在だから可能なのであって、衛宮君や私みたいな木端存在が真似してサーヴァントに挑めば良くて秒殺、悪ければ瞬殺されるわ。
 て言うか、アーチャーやセイバーも多分あっさりリタイヤしかねないレベルの無謀な戦い方なのよ。本来は」
「そ、そんなに無謀な戦い方なのか?」

 気圧された士郎はちらりと桜に視線を向ける。
 すると桜は苦笑いしながら士郎の疑問に答える。

「遠坂先輩の言う通り、本当なら無茶無謀の窮みな戦い方です。
 評価規格外以外の干渉は魔法の神秘に物を言わせて素手でバンバン払いますし、評価規格外の干渉は魔法の万能性に物を言わせて神秘を向上させたり都合の良い特性を自分に付加したりしますから、対処出来ない事態は純粋な格上か一定レベル以上の物量作戦ぐらいなんですよ」
「因みに間桐雁夜は常にA++以下は無効化するっていうインチキじみた防御力を持ってるから、殆どの相手は攻撃を無視して懐に飛び込まれた後に殴られて終了っていう運命らしいけど、衛宮君は音を超える速度で踏み込めたりセイバーの攻撃を無防備に食らっても平気だったりする?」
「…………」
「あ、因みに間桐の敷地内に居る幻想種や神霊の方方ですけど、探せば超一級サーヴァント程度の方も居ると思いますから、先輩が腕試しをしたいなら頼んでみますけど、如何します?」

 超一級サーヴァントを程度と言う桜に凜と駄菓子を貪っている最中のセイバーは顔を顰めたが、ソレに気付かず士郎は言葉を返す。

「どうしますって言われても……死亡フラグにしか思えない挑戦は流石に遠慮しておく。
 あ、それと、〔程度〕って言ってるけど、もしかしてセイバー達ってあんまり凄くないのか?」

 自らの無知も相俟り、士郎は超弩級の地雷を踏み抜いた。
 そして流石にその言葉は無視出来なかったのか、駄菓子の海で溺死するかの如く駄菓子を胃に収め続けていたセイバーが怒りを顕にしながら反論しだした。

「シロウ。たしかに私は此処にいる幻想種や神霊と戦えば勝てる方が少ない程の戦闘力でしょう。
 ですが、それは私が弱いのではなく相手が強大過ぎるだけです。
 寧ろ人の身で幻想種や神霊に勝てるかもしれないというだけで破格なのです。凄いのです。
 本来人間と幻想種や神霊との差は、蟻と象以上の開きが存在するのです」
「少なくても人というカテゴリーの中においてサーヴァント……って言うか英雄は頂点に位置する存在なのよ。
 私達が生まれたての赤ん坊以下の能力しかないのに、彼らはオリンピック選手級の存在だって言えば凄さがわかるでしょ?」
「あ、ああ」
「だけど相手は熊やライオン、果ては象や鯨、最悪ゴジラみたいな存在なんだから、負けて当然っていう差が最初から在るんだから、普通は比較しないでしょ?
 短距離のゴールドメダリストの評価で、チーターに負ける大したことない奴って言う馬鹿はいないでしょ?」
「馬鹿って……桜の言ってる事は間違ってるって事か?」
「そうは言わないけど不適切なのは間違いないわ。
 偏差値100万の人外を基準にしてる感じが桜なのよ」
「ひゃ、100万って……」

 子供が出鱈目で言ったようなまずありえない数値に頬を引き攣らせる士郎。
 だが、それに対し至って真面目な顔で凜は言葉を返す

「少なくても間桐雁夜の伴侶の玉藻の前は、確実に此の数値以上の人外よ」
「シロウ。私は神霊が力を行使するところに立ち会ったことがありますから、そう言った存在に比べれば私達が大したこと無い存在なのは遺憾ですが認めるしかないと理解は出来ます。
 ですが、相手が強大で私達が劣っているからといって、シロウと私達の差が縮まったわけではありません。
 ですから、くれぐれもサーヴァントを侮って戦闘に介入するなどという暴挙をしないで下さい」

 自己弁護だけでなくマスターの心配もするセイバーだったが、生憎と士郎はセイバーが想定しているよりも色色とアレであった。
 なので士郎は憮然としながら反論する。

「雁夜さんや玉藻さんがぶっ飛んだ存在なのは理解出来たけど、セイバー達は人間のまま偉業を成して今の領域に辿り着いたんだろ?
 だったら俺も頑張れば少しくらいは役に立つんじゃないのか?」
「…………桜、そして凜。すみませんが、教会に行く前に、死なない程度にシロウの目を覚ましてあげて下さい」



 其の後、士郎は凜に徹底的に叩き潰され、其の都度桜に完全回復させられ、結局10回以上沈黙する破目に陥った。
 しかも途中からセイバーどころかアーチャーも参加して士郎を叩きのめし続けた。
 特にアーチャーは色色と思うところがあるのか、桜が完全回復させられるのをいいことに、100回以上叩きのめしたのだった。

 尚、桜としては実践修行の難易度としては予行練習(チュートリアル)だった為、士郎の生存率を上げるという善意しかなかった。
 だが、其の説明を聞いた士郎は、桜に対して微妙に腰が引けてしまったのだった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伍続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

Side In:月村邸

 

 

 

 脅迫と言うよりも地獄か悪夢かの二択の提案に対し、思う所は在れども答えを返すと直ぐに雁夜と玉藻はアリサとすずかに事後を丸投げして去った。

 そして雁夜と玉藻が去った数秒後、張り詰めるどころか空気が固まったかのような雰囲気だった応接室の空気は一気に弛緩した。

 アリサとすずか外は全員ソファーに倒れ込む様に背を預けるか脱力して肩を落とすかしながらも、全員揃って大きな溜息を吐いた。

 だが、アリサとすずかは然して疲れた様子も見せずに立ち上がり、怪訝な視線を無視して先程迄雁夜達が座っていたソファーの位置へ移動すると、頭を下げて謝罪をした。

 

「パパ、鮫島、それから忍さんに恭也さん、心配かけてごめんなさい」

「お姉ちゃん、恭也さん、それに鮫島さんにアリサちゃんのお父さん、心配かけてごめんなさい」

 

 深深と謝ったアリサとすずかだったが、謝られた側はアリサとすずかが特に悪いことをしたり軽率な行動をしたとは思っていない為、微笑みながら言葉を返した。

 

「気にすることは無いぞ、アリサ。

 まだ事情を全て聞いたわけではないが、お前に非が在るなら彼女がは決して許さないだろう事を考えれば、客観的に見てお前に何かしらの非が在るとは考えられないからな」

「私も同意見よ、すずか。

 特にあなたはちょっと内気で自分から面倒ごとを引き起こしたり首を突っ込んだりするタイプじゃないからね」

 

 忍に続く様に恭也と鮫島も言葉を掛けようかと思ったが其の辺りは代表者に任せ、此れからの対応を迅速にする為にも、今は積もる疑問を素早く解消させる方がいいだろうと二人は思い、沈黙することにした。

 そしてそれを理解したアリサは、素早く話を進めることにした。

 

「えーと、それじゃあ積もる話というか……兎に角早いところ何があったのか聞きたいと思うから、何があったのかダイジェスト風に一気に話すわね」

 

 そう告げたアリサは全員が了承の意を示したので、出来る限り主観を省き且つ内容を纏めて話し出した。

 

 

 

 自分達は八神はやてという友人の見舞いに行った帰り、不思議な所に迷い込んだ。

 訳も解らず彷徨っていると、突如空飛ぶ謎の女性に破壊光線を放たれた。

 だが、偶然通り掛かった彼に危機一髪で助けられた。

 しかし断熱圧縮が発生する速度で動き回れる彼と彼女が議論している間に自分達は焼死してしまう。

 彼女は本来ならば先程死ぬ筈だった自分達を助けるつもりどころか歯牙にもかけなかったが、彼は縁在って助けたならば解放する迄は助け続けるべきだと蘇生を決断する。

 そして自分達は魂の消滅を防ぐ為に大量のエネルギー送り込み続けられた上、身体を未知の物質で補填及び形成される。

 その結果魂は昇格し、身体はそれに見合う在りえない物質へ切り替わり、正真正銘の人外となる。

 

 目覚めた自分達は彼と彼女に状況説明を受ける。

 幾つかの話の後、人外に成った為に狙われる危険を軽減する為、神子に成るか否かの選択を提示される。

 メリットとデメリットを比較した結果、自分達は神子に成ることを決断した。

 その後彼と彼女は自分達が最初に遭遇した謎の女性関連の問題を全て収束させる。

 最後に、自分達の保護者達へ提案を示す機会を用意する為に自分達の電話で連絡を取り、時間迄を神子の何たるかを少しだが指南されながら過ごす。

 指定時間が近くなったので月村邸近辺に転移した後は、其方の知る通り。

 そして今現在に至る。と。

 

 

 

 死亡した詳しい経緯は面倒極まりない展開になると断言出来る為、アリサは嘘にならない範囲で端折って説明した(断熱圧縮が発生する速度で動き回れる(・・・・・)とは言ったが、動き回りながら(・・・・・・・・)とは言っていないなど)。

 更に願いを叶えてもらった事に関しては知られるだけで雁夜と玉藻が侮られ、結果的に全員マイナスになる事態に発展してしまうと判断した為、此の事も又アリサは嘘にならない範囲で端折って説明した。

 しかもアリサは時空管理局や八神はやて辺りの下りは後で詳しく説明すればいいと判断した為、最終的に自分達が如何いう経緯を辿ったかだけしか語っておらず、可也の謎を残した説明となってしまった。

 だが、下手すればなのはが此の場に飛び込んできて場を大荒らししかねないと予想しているアリサは、初めから今此の場で事細かに説明するつもりは無かった。

 

 アリサとしては自分達の経緯を大まかにでも素早く理解してもらい、その次は時空管理局の事を100点満点ではなく70点程度の理解で構わないので急ぎ理解してもらい、相手に話の主導権を握られないようにすることこそが優先すべき事柄だと考えていた。

 又、その考えはすずかも同じであり、特にすずかは自分の義理の兄に成る筈の恭也はなのはの実兄である為、なのは達が恭也に説明をする前に何方側に経つか明確にしておいてほしいという思いが在るので、アリサ以上に内心は逸っていた。

 だが、すずかは別に恭也に自分達の側に立ってほしいのではなく、両方の肩を持つ事を選択した為に状況が泥沼化し且つ他の家族も同調させ、泥沼化した事態を更に悪化させられることを嫌っただけのことであった。

 そしてすずかの家庭事情を聞いたアリサはすずかの考えを十分承知しており、万が一にも自分の家(バニングス家)の対応が遅れるのも拙いが、すずかの家(月村家)の対応が遅れることは断じて避けねばならない事態な為、急いで話を大まかに誘導しつつ進めることにした。

 

「あ、先に補足しちゃうけど、彼女は玉藻の前及び其の略称で呼ばれるのを基本的に認めていないから、彼女に直直に許可を取らない限りは別の尊名で呼ぶのを全力でお勧めするわ。

 後、彼の名前は対外的に、【ケアリー・マキリ】、で通すようにって言付かっているわ。当然、名がケアリーで、姓がマキリだから。

 それと、装弾数100%の拳銃でロシアンルーレットをする覚悟が無いなら、彼女達の私的時間の事柄に首を突っ込む可能性が在る話題は、本当に極力限界一杯迄避けた方が良いと思うわよ。直接面識が有るなら特に」

 

 疑問に答えると言って於きながら、アリサはあっさりと玉藻達関連の話への追及を阻止する言葉を発した。

 尤も、言ったアリサ自身だけでなくソレを聞いた保護者達に加え、更には聞き咎める玉藻達も含めて誰もが得をしない話などはしないに越したことはない為、アリサは紅蓮地獄擬きと焦熱地獄擬きを味わったことは明かさないことにしたのだった。

 そしてそんなアリサの言葉を聞いて尚、玉藻と雁夜とはどの様に出逢ったのかを問い質せる精神構造の持ち主は此の場に居なかった。

 だが、其れ以外にも疑問点は残っているので、忍はアリサの父(デビット)に先んじて話すことを軽く目で告げ、それから――――――

 

「デビットさん、月村の一族としてどうしても確認しなければならない事が有りますので、少し脱線してしまいますが御容赦下さい」

 

――――――と、前置きをした。

 そして忍の発言にデビットは、不快なのか疑問なのか判り難い表情で忍に話を進めるように促し、其れに忍は目礼で返すと話し始める。

 

「アリサちゃん、若しかしてすずかから私達の事を聞いていたりしない?」

 

 探るというよりは確認のつもりで忍はアリサに質問をした。

 するとアリサは、忍は自分が月村家の秘密を知っていると当たりを付けていると判断したので、時間短縮の為に返答だけでなく落とし所迄を一気に話すことにした。途中で会話を止めに入ろうとした場合、先んじて手で制そうと思いながら。

 

「月村家が夜の一族と言う、強い吸血嗜好を持つ人種で、継続的に取り分け異性の血液を摂取することで優に200年以上の時を生き、又寿命に見合うかの如く身体能力や思考能力が常人と比較して非常に優れる傾向にあり、更に催眠等の分野にも秀でた者が非常に多いと聞いています。

 しかし、大多数が魔女狩り等の歴史を重く受け止めている為、自身の存在を知った者に対して催眠等で記憶の封印を施すか、自分達の側に踏み込ませるかを選択乃至強制し続けてきたことも聞きました。

 

 ですが、神子の特性で普段時に於いても核兵器級の攻撃以外では傷一つ負わない耐久性を得ていますので、強制どころか交渉すら成り立ちません。

 そしてあたしは月村家の都合に従う暇なんて無いし、決まり事だからって理由ですずかにずっと友達でいると誓ったりする気なんて全然微塵も無いわ。

 だからと言ってすずかだけでなく、バニングス家と月村家が対立して神子の勤めが疎かになったりしたら、理由が完全に私事なだけに、ほぼ確実に一族郎党纏めて消し飛ばされます。

 

 とは言え、人間とは完全に別種の、それも完全上位互換と言える存在に成っていますので、どちらも身内に爆弾を抱え込んでいるのは変わりません。

 しかも何方も世間だろうが裏社会だろうが関係無く公表出来ない秘密を抱えてしまっていますし、其の上迂闊に協力体制を崩して仲違いした日には纏めて消し飛ばされかねませんので、此処はお互い密に協力していくことを確認して終わらせるのが妥当だと思います」

 

 邪魔されずに落とし所迄話しきったアリサは、忍と恭也を制止していた左手を静かに下ろした。

 本当ならばアリサは一息吐きたかったのだが、謎の場所に迷い込んだ辺りから現在迄集中力と思考速度が過去に例を見ない領域に突入しており、今気を抜くと再び命の危機に晒されたことに因り高まったであろう集中力と思考速度を再び現在の領域に迄高められるかが疑問な為、一息吐いて集中を切る様な真似はしなかった。

 尤も、一度蘇生された際に集中は確り途切れており、其の後の集中力は人外に成ったアリサの通常を遙かに下回る程度のモノであり、気疲れしている原因は変質した魂と器の摺り合わせが極極僅かばかり完了していないだけなのだが、其のことにアリサは気付いていなかった。

 つまり、今のアリサは集中しているようで性能的には集中していない通常時未満の状態なのだが、アリサ自身は凄まじい思考速度と認識しているので自分は集中していると錯覚している為、無自覚に集中を抑え込んでいる状態であった。

 勿論雁夜は極極微妙に摺り合わせが完了していない事等は察知していたが、ある程度過ごしていれば自然と気付く類の事柄である上、指摘されて自覚するよりも自力で自覚する方が人外に成った自覚が高まるだろうと思い、雁夜は敢て其の事は話していなかった(玉藻は純粋に如何でも構わないので話していなかった)。

 

 そしてそんな状態なのを未だ自覚していないアリサは、若干の気疲れを隠しつつも忍をじっと見据えて答えを待った。

 対して忍はアリサの言ったことは筋が通っていると認めてはいるのだが、自分達の一族の慣習を行き成り無視するのは非常に抵抗がある上、奇跡と言うよりも悪夢の具現と言える先の二名と比べると如何しても存在感が実感出来ない為、忍は今一素直にアリサの提案を呑む踏ん切りがつかないでいた。

 が、ソレを見抜いたアリサは直ぐに解決案を提案することにした。

 

「あ、恭也さん。忍さんがちょっと迷ってるみたいなんで、神の祝福と呪詛(加護)を証明する為に髪の毛でも腕でも眼球でも構わないんで、全力で攻撃してみて下さい。

 ただ、武器が壊れるかもしれませんので、スプーンで眼球を抉る様に掻き出しても構いませんよ」

 

 そう言うとアリサは両腕を広げながら佇んだ。

 すると其の余りにも何気無い言い分と振る舞いに恭也は若干気圧されてしまったが、ソウしないことには話が進まないと理解している為、特に文句も言わずに攻撃をすることに決めた。

 

「……分かった。

 それじゃあ少し髪を斬らせてもらうとするよ」

 

 流石に親であるデビットの前で髪の切断を飛ばして腕や眼球に攻撃を仕掛ける思考を持ち合わせていない恭也は、一番妥当な選択をデビットにも聞こえる様に告げた。

 そして其の言葉を聞いたデビットは、正直髪とは言え娘に攻撃してほしくなかったのだが、かといってすずかに代われと言うわけにもいかない以上、アリサが言い出したならば仕方ないと、髪への攻撃を認めることにした。

 

 目で了承の意を示したデビットに軽く目礼をすると、恭也は既に腕を下げているアリサの隣へと移動し、髪を一本だけ摘み上げて確り指先に捲き付けて握り込むと、腰に佩いていた小太刀を抜刀し、信じられない程に細くて綺麗な金砂の髪へ斬撃を放った。

 すると、車を硬貨で傷付ける様な引っ掻き音を響かせながら、剃刀よりも鋭そうな小太刀がアリサの髪に止められていた。

 

「「「!?」」」

 

 恭也だけでなく忍とデビットも驚愕の表情を浮かべ、急ぎ小太刀の刃先を凝視した。

 すると刃先は確かにアリサの頭部より伸びた毛が当たっていた。

 一瞬何かの冗談かと思った忍達だったが、()の字型に張り詰めているアリサの髪に触れている小太刀とアリサの髪を握り込んでいる拳が小刻みに震えているのを見た瞬間、冗談でもなんでもないと瞬時に悟った。

 

 だが、戦闘者としての矜持のせいで現実を認められないのか、恭也は再び斬撃を繰り出した。

 が、結果は先程と全く変わなかった。

 

「くうぅぅっっっ!!!」

 

 自身の今迄の研鑽が10年生きたかどうか程度の少女の髪の毛すら切断出来ない事を認められず、恭也は連続で斬撃を繰り出す。

 が、その悉くが不快な音を響かせながら、小太刀とその握り手とアリサの髪を掴んでいる手に負担を掛け続け、更にはバランスを何度も崩したりもした。

 対してアリサは微塵もバランスを崩しもせずに悠然と佇んだ儘であり、耐久力だけでなく足腰も信じられない程に強靭だということを示していた。

 

 

 数十秒程斬撃がアリサの髪に放たれ続けたが、結果は恭也の消耗と小太刀の刃毀れだけで終わってしまい、その結果に恭也だけでなく忍達は愕然としていた。

 だが、未だ他の一般的な人体破壊方法が残っているので、アリサはソレを実行してもらう為に忍へと告げる。

 

「ガスバーナーで焼き切ろうとしたり、液体窒素で氷結粉砕しようとしても構いませんよ」

「……分かったわ」

 

 そう言うと忍は護身用なのか携帯工具なのか判別し難い小型ガスバーナーを取り出しながらアリサの元へと移動した。

 そして恭也が握りこんでいたのとは違う髪の毛を摘み上げると小型ガスバーナーを着火させ、鉄すら溶かして切断させられる炎を摘み上げた一本の髪の毛へと向けた。

 

 普通ならば炎に晒される前に炭化するのだが、アリサの髪は炭化するどころか熱で変色することすらなかった(流石に炎の中の髪の毛の様子は忍達には見えないが、炎との境目辺りの髪の様子から判断した)。

 そしてその余りの光景にガスバーナーの温度が気になったデビットは、胸ポケットに差していた万年筆をそっと炎に近付けた。

 すると鉄製の万年筆のキャップは炎に触れると即座に変形し始め、慌てて炎から引き抜いた時には万年筆のキャップは溶けて本体と同化し且つ赤熱化しながら熱気を放っており、直ぐに持っている手が火傷すると悟ったデビットは万年筆を灰皿に投げ込む様に放った。

 

 放り込まれた万年筆と灰皿が音を立てた数秒後、万年筆の中のインクが流れ出したのか、熱したフライパンに水を注いだ様な音と不快な煙が応接室内に充満しだす。

 其れを見たデビットが急いで冷却剤代わりに紅茶を万年筆に掛けると、万年筆の先端は熱疲労で砕け、更にインクと紅茶が蒸発する奇怪な臭いが発生する。が、それも1~2秒程で収まった。

 そして其れを見た忍は、正常に機能しているガスバーナーでも焼き切れないアリサの髪に恐怖を感じつつも、今更ながら碌に熱伝導もしていないことに気付いて更に恐怖を感じつつ小型ガスバーナーを止めて懐に直した。

 すると全く赤熱化していないアリサの髪に忍は頬を引き攣らせたが、最後の試みと言わんばかりに小型液体窒素スプレーを取り出して噴霧した。

 だが、結果は熱疲労で砕けるどころか、凍結すら全くしていなかった。

 忍は念の為に近くの硝子の花に液体窒素スプレーを噴霧してみると、冷却されて脆くなった硝子の花は自重を支え切れずに瓦解したので、間違い無く蛋白質程度は破壊可能な温度だと証明された。

 

 とても信じられない結果を見、忍は液体窒素スプレーを懐に仕舞いつつも軽く目を左掌で覆いつつ椅子に座り直した。

 そして同じ様に常識が瓦解する音を聞いたであろう恭也達も沈黙する中、忍は数秒沈思したかと思うと突然顔を上げてアリサに問い掛けた。

 

「全力で攻撃したらどれくらいの攻撃を繰り出せそう?」

「近くの海岸から桜台を数十mの幅で真っ二つにするくらいは出来ると思います」

「「「………………」」」」

 

 俄かには信じられない答えだが実践させるわけにはいかない為、現時点のアリサの最大出力の攻撃の確認は為されなかった。

 とは言え、先のアリサの超耐久力を鑑みる限り、恐らく単体で核に匹敵する攻撃力を放てる事を在り得ないと片付けることは出来ない上、少なく見積もっても大陸間弾道弾(ICBM)程度の攻撃力は有するだろうと忍達は結論付けた。

 そして其れ等の事実を纏めた忍は、アリサ単独で自分達を無傷で鏖殺出来るだろうと当たりを付けると、今度は抵抗無くアリサの提案の正当性を認める事が出来た。

 

「分かったわ。

 アリサちゃんの言う通り、此の件に関しては私達の都合を優先させるよりも一蓮托生を背景にした対等の協力者として接することにして、選択や誓約の強制は一切行わないことにするわ。

 勿論対象は今此処に居る二人以外はアリサちゃんのお母さんだけになるけど、それで構わないかしら?」

「其の辺りは実際バックアップしてくれる方達で決めて下さい。

 秘密にしていても文字通り致命的な問題が無いなら秘密にしていても構いませんし、逆に致命的な問題が在るなら相手が誰かに拘らず秘密を打ち明けるか別の者を充てて対処して下さるか等をされるならば、秘密を打ち明ける者の人選に関しては一切言及しません」

「……分かったわ。

 デビットさん、後程此の件に関してお話したいのですが、お時間を頂けますか?」

 

 半ば蚊帳の外に置かれていたデビットに、忍は漸く話し掛けた。

 するとデビットは娘の説明的に然程恐れる様な相手ではないと理解していたので、特に気負う事無く軽く首肯しながら答えを返す。

 

「それでは此の質疑応答が一先ず終わった後にしますが、構いませんね?」

「はい。それで結構です。

 

 それでは先に脇道に逸れる質問をしましたので、後は其方の質問が終わる迄は待つことにしますのでどうぞ御自由に質問為さって下さい」

「分かりました。

 

 ではアリサ、地球外の組織の概要と私達に差し迫っている危機について話してくれ」

 

 其の言葉を聞いたアリサは、漸く本題を話せると軽く安堵しながら答えることにした。

 

「分かったわ。

 だけど先に言って置くけど、今から話す内容は、彼女が集めた情報を斜め読みした程度のモノだから、歴史の概略みたいに相手の信念とか努力とか煩悶とかを完全に無視して結果と傾向だけをト書きの様に語るしかできないから」

 

 アリサの前置きに対し、デビットは軽く頷いて了解の意を返した。

 そして其れを確認したアリサは、月村邸の外が俄かに騒がしくなり始めたことを把握出来た自身の感覚に内心で驚きつつも、乱入される迄然して時間が残っていないと予測される為に内心焦っていたが、其れを表に出す事なく話し始める。

 

「地球外組織の名は日本語訳で〔時空管理局〕。

 活動範囲は恐らく私達の居る太陽系を含める銀河群の大半。

 活動内容大別して四つ。

  一つ目は純粋科学兵器、通称質量兵器の全面禁止の強制。

  二つ目は自身達では再現不可能な結果を齎す若しくは再現不可能な技術の結晶である品、通称ロストロギアの強奪乃至徴発。

  三つ目は強力な魔道を扱える者の回収乃至確保。

  四つ目は前途の三つを効率良く実行する為の勢力拡大。

 直面している問題は大別して二つ。

  一つ目は治安維持を生来の個人資質に大きく左右される魔道に拠って成していることに因る、活動不全が常識として認識される域の人材不足。

  二つ目は泥縄的勢力拡大、並びに異文明及び異文化の徹底排斥に因る、顕在潜在問わずに増加し続ける反抗勢力。

 

 文明レベルは空間跳躍による他天体への移動手段の確立、及び異なる位相空間の一時構築以外は地球の文明の僅か先を行く程度。

 文化レベルはほぼ地球と同程度であり、地域に因る差も恐らくほぼ同等。

 組織運営は中央集権形態で、末端での行動へ頻繁に支障が発生する代償に中枢及び中心の即時陥落への対応レベル高し。

 立ち位置は国際刑事警察機構(I.C.P.O)だが、組織の判断で主権を無視しての活動を組織が一方的に自認。

 組織形態は独自の司法と立法と行政を併せ持ち且つ加盟国家へ強制可能な軍隊であり、外部からの行動抑止は上位の三権を独占されている為事実上不可能。

 自浄作用は機能停止状態であり、頂点である最高評議会の三名が寿命は地球人と同程度であるにも拘らず150年以上頂点に君臨し続けているからと推測され、数十年も目撃例が無い事から違法乃至解釈次第で違法にならない程度の手段に拠る延命、若しくは何者かが傀儡にしている乃至成り代わっていることはほぼ確実とされる。

 

 現在地球上での活動は戦艦一隻及び其の搭乗人員のみ。

 但し現地の民間協力者として高町なのはという外部存在在り」

 

 なのはという人物名を聞くと同時にすずか以外の者達は少なからず驚いた。

 特に兄である恭也の驚きは激しかったが、話の本筋でないことを問い質す為に話を中断させる様な真似をするわけにもいかず、後で問い質そうと思いながら周囲の者達と同じく黙って話を聞き続けることにした。

 

「現在の活動内容はロストロギアである夜天の魔導書、通称若しくは蔑称で闇の書と言われる自己防衛機能付きの魔道技術蒐集専用記憶装置。

 機能不全の為に蒐集完了と同時に、一つの天体の文明を崩壊させかねない規模で暴走する為、暴走時迄に持ち主が特定不能だった際、地表の暴走体に半径か直径かは不明ですが百数十kmの範囲を空間反応消滅させる兵器を地球側に通達無しで使用して事態解決を図る算段だった模様。

 しかし彼が所謂オカルト方面から原型の残っていなかったプログラム等の不備を完全に解決して事無きを得る。

 尚、此の暴走体、正確には半暴走状態時の者が不思議空間の作成や私達に破壊光線を放とうとした者であり、当然危険性は消滅している。

 又、夜天の魔導書の持ち主は八神はやてという私達と交流の在る少女であり、更に死なねば持ち主登録を解除不能にも拘らず本人の意思を全く介さず且つ一方的に持ち主として登録されたとのことであり、しかも半暴走状態の時は昏睡状態の肉体を機能不全の夜天の魔導書に使用されていたとの事の為、八神はやて本人の思考も相俟って作為性は皆無と判断される。

 

 そして、破壊光線を放たれる前に時空管理局に捕捉されていた私達は、後程現地民間協力者の高町なのはの証言を下に自宅へ確認に赴く事が容易に予測され、無事な際に身体検査を強要されることは明白であり、その際に神子の特性等とは別に自前の人外性が発覚すれば面倒極まりない事態になる為、彼の提案通り彼女の巫女として振舞うことで抑止効果を得る為に時空管理局の前に姿を晒す。

 力こそ揮っていないものの、存在感を数%解放しただけで1km先の者迄発狂死させ掛ける彼女の神子であると彼女直直に明言され、更に神子とは自身の意思を代行する為の存在であり且つ代行に必要であろう力も与えられているとも明言された為、その場で意識を失わずに拝聴していた者達以外の者達は、早期に気絶した為格の差を理解し切れずに私達に干渉してくるのはほぼ確定と思われます。

 尚、私達が彼女と繋がっていると知った際に相手が採るだろう選択は、恐らく私達の懐柔乃至捕獲。

 相手の組織に所属していないどころか存在すら知らなかった者に対してすら現地法を完全に無視し且つ自分達の法を強制して彼女に罪科を問うて拘束及び奉仕させようとしたことを鑑み、強力な個人能力を持ち且つ彼女達への意思を受け取れる私達を放置するなどまずありえません。

 ですので、彼女と最後迄対面していた者達以外を鎮圧させ、彼女の存在規模の片鱗を知る者達へ私達に過干渉する代償を理解させる、という流れが之から私とすずかが実行することです。

 尤も、拝聴しきった者達は彼女と自分達の格の差を最低限理解しているだろう上、使い走りの私達が圧倒的存在だと示せば相対的に彼女との格の差を説明し易くなるので、過干渉する者達を相手にする意味は十分に在ると思われます。

 

 それと、当然彼女だけでなく彼も時空管理局と関わる気は全く持っておられません。

 と言うよりも、抑神であられる彼女は人の都合で動くという発想自体を持ち合わされていませんし、彼に至っては、[治安維持は警察の、外敵排除は軍の、傷病治癒は医者の、技術革新は研究者の領分で、力及ばない時は其の組織に責任で俺の責任じゃない。まあ、仮に俺の責任と大勢が言っても踏み倒すけどな]、と、彼女とは違う意味で取り付く島も無いです。

 

 話を戻しますが、彼女の意思は、【自分の周りで目障りな真似をさせない】、の一点のみです。

 ですので、時空管理局だけでなく地球の者も此の括りに含まれ、私達の怠慢で彼女が目障りと感じる事態が発生すれば私達にどのような報いが齎されるのかは不明ですが、精神や時間に干渉して私達全員に纏めて無間地獄を体験させることも可能と仰られていましたので、軽率な行動は絶対に慎むべきかと思います。

 当然、話し合えば理解出来るという妄言に耳を傾けて彼女と対談を望もうものなら私達は滅びかねません。

 抑、人間が神に話し合いを望む段階で神を対等として見ているという不敬である以上、実力で押し切られると見越してのことでない限り不興を買うのは必至です。

 

 今更ですが敢て言います。

 彼女は単独で人類の全てを超越されている絶対存在であり、断じて人の都合で束縛が叶う存在ではありません。

 そしてソレは単純な戦闘力の問題だけでなく、人が作り上げた法では彼女を縛るにはまるで足りないということでもあります。

 何故なら、人を傷付けようとも癒す事が出来、人を殺そうとも蘇らせる事が出来、物を壊そうとも直す事が出来、物を無くせば同一の物を創る事が出来、精神が傷付いても癒す事が出来、望ましくない記憶が在れば改竄出来るからです。

 つまり、人の世の悲劇を全て祓う事が出来且つ人の欲望を全て満たす事が出来る以上、組織に属して法や律に従う対価に限定的ながらも前途の二つを叶えてもらう必要など無い以上、利の面から見ても従う道理は在りません。。

 しかも情に縋ろうにも種族以前に存在の次元が違うので、人との繋がりの貴さを訴えたところで、人より遥かに貴い存在にはまるで意味を成しません。

 

 

 長くなりましたが、以上が地球外組織時空管理局と当面の私達の危機であり、又、私とすずかが選択する対処法です」

 

 そう言って締めくくるアリサ。

 そして話し終わったアリサは、思ったよりも社交界での経験が活かされていることに少なからず驚き、半透明の膜で人の本性を隠した様なパーティーに出席していたことは損ではなかったのだと思い、内心で皮肉気に笑った。

 

 対してデビット達はアリサの語った情報を何とか処理しきっている最中であった。

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 従者である鮫島は過不足無く会話の全体像を掴むことに力を注ぎ、戦闘者であり且つ待衛でもある恭也は現状の把握よりもいざという時に迷わず行動が出来る様に優先順位で割り切れるように心を切り替え始めた。

 そしてデビットはバニングス家及びバニングスグループのトップとして、忍は月村家及び月村一族のトップとして、アリサが語った概略ながらも全てであろう情報を下に現状を徹底的に理解しようとしていた。

 

 アリサから齎された情報は可也の量であり、後半になればなる程に推測の混じる割合が増えていたが、それでもほぼ確実であろう事は前半の部分の話と照らし合わせてデビットと忍は間違い無いだろうと判断していた。

 一応前半どころか玉藻達と一緒になって自分達を担いでいる可能性も在るのだが、流石に冗談では済まない域のことをアリサとすずかが行うとは思えず、又仮に玉藻達に威されて実行したのならば、どの道戦闘にさえ成らない程に力の差が離れている存在に目を付けられている以上、結局自分達が破滅するのは変わらないだろうと思い、デビットと忍は個人としてだけでなく組織の頂点に立つ者としても話の前提を全面的に信用することにしていたのだった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 アリサの語った情報を全面的に信用することにしたデビットと忍は、アリサの言う通りに事態が推移し且つアリサが自らの発言通りに行動した際、自分達が何を求められるかに予測は付いても確証が無かった。

 故にデビットはアリサへ当面自分達に望んでいる事を訊ねることにした。

 尤も、〔アリサ(お前)と同年代の少女の名が何故二人も飛び出すのかは激しく疑問だが〕、という疑問は抑え込みながら。

 

「結局のところ、現時点で私達に望んでいることとは何なのだ?

 時空管理局と不干渉を貫くことなのか?それとも時空管理局を此の地より撤退させることなのか?まさかとは思うが時空管理局勢を鏖殺することなのなら、相手の戦力も知らぬとはいえ、彼女達が目障りと思う展開になるのは必至だろう」

「流石にそういう意思を伝えられることは無いわ。

 神子といっても、所詮は門番と庭師と伝令を合わせた感じなんだから。

 

 具体的に望むバックアップは、現時点では絶対に時空管理局と関係を持たないこと。

 仮に相互不干渉を提案されたとしても、難癖や捏造で干渉の口実を作るだろう以上、排除・排斥・排他等といった行動以外を全面禁止されています。

 又、時空管理局に属する者との交流は控える様に言われていますので、私達との同校に高町なのは達が通うことを認められたりはしません。

 尚、当然此の様な対応の結果で敵対関係に発展して彼女達が目障りと感じようとも、私達が手抜きで行動していない限り彼女は私達を咎めません。

 そして私達の手に負えないと判断した時、時空管理局の壊滅若しくは構成員の鏖殺なりを実行されるそうです。少なくとも組織の維持に深刻な問題が発生する規模での打撃は与えるそうです。

 が、そういう輩を知覚するのは気分を著しく害するとの事ですので、時空管理局と関係を持っている高町なのはの兄である高町恭也を経由して面倒な事態に発展するのが確実で在る以上、その事態を回避する為にも高町なのはに関しては干渉することを認められています。

 但し、生死問わずにとのことでしたので、情に流されて決断を誤るという事態は断じて避けねばなりませんので、最悪の場合は精神操作若しくは地球での事故として行動不能になってもらいます。

 それと、高町なのはの問題が解決したのならば同等以上の危険が無いと判断される限り、時空管理局ゆかりの者であろうとも私達と同校に通学することを認められています。

 

 後、急ぎではないとのことですが、指定された地域へ彼女の神社の建立及びそれに見合った人員の派遣の必要が在りますが、手を付け始めるのは時空管理局との付き合い方が一段落してからで構わないとのことです。

 尚、指定される地域は彼女達の家近辺、若しくは海鳴のバニングス家と月村家を底辺とした三角形の頂点に位置する場所乃至両家の中間にするとのことで、彼女達からの指定前ならば海鳴のバニングス家と月村家の両家からの同距離上か場所も分からない彼女達の家近辺にするかを此方が選択して構わないと仰られていました」

「「「「…………」」」」

 

 アリサが淡淡と返した余りの内容にデビット達は暫し絶句した。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 之から対峙するのが未知の強大な組織にも拘らず基本的に一切の交渉を禁止される旨を伝えられ、場が荒れて相手が武力行使を実行する未来を容易く予測出来たデビット達は愕然とした。

 だが、玉藻達の存在規模や存在価値を考慮すればアリサより伝えられた方針は極めて納得の出来る類であり、寧ろ悉くを屍に変えてでも目障りな要因を潰せと言われなかっただけマシだとすらデビット達は思っていた。

 が、高町なのはに関しての対応はデビット達、取り分け恭也にとっては激しく疑問乃至異を唱えたい内容だった。

 

 何しろ玉藻直直に面倒事の引金と認定されたらしく、更には生死問わずに面倒事に発展しないように対応しろと言われる程の存在とはとても思えず、各各の胸中に疑問が渦巻いていた。

 一応対応方法は自分達への裁量として任されたが、慈悲というよりも高町なのはのことを考え且つその考えを伝える事が不快で仕方ないと言わんばかりなのがヒシヒシと伝わる為、一体何をやらかしたのかデビット達に激しい疑問を覚えさせ、恭也に至っては妹への対応を改善してもらいたいと異を唱えたい程であった(実際に異を唱えれば此の場の全員以外にもとばっちりを食らわせる可能性が高いと理解している為、言えば拙いと理解して言葉を呑み込む程の理性を恭也は働かせている)。

 

 尚、建立する神社の場所はデビットと忍は瞬時に両家の同距離上へすることを目で伝え合った。

 此れは出雲大社や伊勢神宮の買収、果ては天皇家を追い出して神社を建立しろと言われる可能性を潰す為であり、玉藻が天照大神であるならば浅からぬ縁が在るので在り得ないと笑い飛ばせる考えではなく、しかも金銭以前に権力的に不可能と返答した際に示威行為を背景にした暴露をされれば、平穏という文字が地平線の彼方に消え去る事態に発展すると理解しているからであった。

 当然その様な事態に発展した際には自身達で対処出来る限界を遥かに超えてしまうので、実利が釣り合わない事態への発展をバニングスグループ及び月村一族は認められぬ為、即座に両家の同距離上の場所にすることを目で伝え合ったのだった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 提案された内容は何方にするか瞬時に決めた為、デビットはソレを伝える序に高町なのはが何をやらかしたのかを訊ねることにした。

 

「私は両家の同距離上の場所に建立することを望むが、月村家側に異論は……ないですね。

 なら、私達は同家の同距離上に建立することを望みますと伝えてくれ。

 

 で、話は変わるが、お前の友達のなのはちゃんは何をしでかしたんだ?

 厄介者という認識とはいえ彼女に記憶されるというのは並大抵のことではないと思うが、どれだけ致命的なことをやらかしたんだ?

 それとも同姓同名の別者なのか?」

「先に両家の同距離上に建立することを希望すると伝えますので、暫し御静かに願います」

 

 そう言うとアリサは立ち上がって椅子から離れた場所へ移動し、畳どころか絨毯という、祈祷するには全く場違いな場所で正座して玉藻の意思に自分の意思を繋げようと試みだした。

 そして其れを見たデビット達は祈祷の様なモノを行って意思を伝えるのだと直ぐに理解したので、押し黙った儘アリサを見守ることにした。

 

 設備も服装も何一つ整っていないが、厳粛さを纏う集中力と真剣さで正座するアリサの姿はそれだけ足りないモノを補って余りある様にデビット達に感じさせ、名前ばかりの神子かと思っていたデビット達はその認識不足を内心でアリサ達へと詫びる。

 だが、デビット達が感嘆する域での集中力や真剣さでアリサが祈祷するのは当然のことであった。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 アリサは月村邸へ訪れる前に、神子の必須技能とも言える玉藻()との意思の接続を試みた。

 結果は初めから其れが可能なようにされていたことに加え、アリサ自身の優秀さも加わり、初回にも拘らず即座に成功した。

 但し、何の精神防壁も展開せずに玉藻の意思に接続した為、8次元以上の域に在る玉藻の思考が大海嘯の如くアリサに襲い掛かり、アリサは一瞬で蹂躙され尽くされた。

 幸いアリサ自身の度を越し過ぎた優秀さに加え、人外に至った魂魄と身体という要因も重なった為、重篤汚染とも言える状態だが辛うじてアリサという存在は消滅を免れていた。

 そしてその惨状を見た雁夜は当然直ぐにアリサを治療しようとしたのだが、そんな御褒美をアリサにくれてやる気など全く無い玉藻は即座にアリサを完全回復させた。

 

 その後何故その様な事態に成ったかを話し合い、解明された原因は、【絶対的な格差】、という一言に尽きるものだった。

 何しろ、8次元以上で物事を捉え且つ干渉可能な存在の意思に3次元の者が触れて理解しきれるわけが無く、それどころかその情報量を受け止めきることも出来ない為、宛ら、漫画の一コマに読み手側が即時で見聞きしている情報を書き込み続ける様なものであり、直ぐにコマが文字で埋め尽くされて真っ黒に変わり果ててしまうのと同じことだった。

 

 解決案は、アリサが受け取る情報量を大幅に制限する乃至抑アリサが玉藻の意思を受信しない、若しくはアリサが玉藻の意思に接続しても問題無い程の域に成る、という二つだった。

 尤も、後者は億年単位の時間を費やしても目処が立つとは思えないので却下であり、前者は玉藻がアリサやすずかの為に意識レベルを大幅に落としたり一定以上の情報が相手に流れない様にする手間を嫌がったり面倒がったので、アリサ自身が受信する情報量を制限する若しくは雁夜が便利な道具を創造するという二択しか対策が残らなかった。

 だが、道具を使わないと意思の接続が出来ないのは神子として問題があるので、自己回復が困難な場合は自分がラインを使って回復させると玉藻が言ったので、結局アリサ達が自力で何とかすることになってしまった。

 尚、玉藻がどういう思惑で道具の使用に反対したのかは三者とも察してはいたが、言っていることは尤もな為、特に反論したりはしなかった。

 

 そして自力でどうにかすることになったアリサは、すずかと一緒に意思を接続しても耐えられるように試行した。

 結果、アリサは都合5回目で、すずかは都合4回目で自己回復が可能な域に被害を止めて意識を接続することに成功した。

 尚、アリサとすずかは一緒に試行しだした1回目に防壁を張った儘接続するも圧倒的情報量に防壁が耐え切れずに全壊して廃人化し、2回目は接続回線を絞って接続するもウォーターカッターに斬り刻まれるかの様に意思を切り刻まれて廃人化し、3回目は今迄の2回を合わせるも2回目の時と同様の結果に終わり、4回目は初めから送受信の回線を閉じた儘接続して此方の意思をコンデンサーで圧力を掛ける様に高めた後に一瞬だけ開いた回線に叩き込むことで漸く成功したのだった(すずかはアリサと違って最初の失敗が無いのでアリサより1回早く成功している計算になる)。

 

 

 とはいえ、いくら玉藻の治癒を受けられる機会がそう在るものでないとはいえ、20分前後で4~5回も玉藻の存在格差が原因で廃人化すれば、魂魄と精神と身体が変化するのは当然と言えた。

 魂魄と身体の人外さは拍車が掛かり、精神は並大抵の痛苦で思考が乱れたり躊躇したりしない領域になり、あっという間に心身ともに超1級の英雄程度の域に迄アリサとすずかは成っていた。

 結果、見た目は子供、頭脳は大人(英才教育の賜物の為元から)、精神は半超人で、身体と魂魄は完全に人外という、最早人並みの身体と魂魄に戻っても、恐らくその頃には超人という人外に至った精神が身体と魂魄に適応出来ずに発狂死か衰弱死を辿るだろう状態と成っていた。

 尤も、肝心のアリサとすずかはそのことについては全く無自覚であったが、両者とも人並みの身体や魂魄に戻ることを望んでいないだろうと雁夜は判断したので、特に指摘したりはしなかった。、

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 一度成功しているとはいえ、逆に言えば一度しか成功していない事柄を、しかも失敗すれば自己の喪失という事実上の死が待ち受けている以上、アリサは手を抜くつもりは全く無かった。

 だが、その辺の事情を知らないデビット達にはアリサが凄まじく真摯に祈祷しているとしか映らなかった。

 

 

 施設や服装どころか榊も無ければ清水も無く、神火も無ければ神剣も無く、おまけに祝詞どころか神体すらも無いという、最早祈祷と言えない徒の祈りであったが、アリサから立ち上りだした神性(神聖さ)は、まるでそんなものなど無くても問題無いと言わんばかりのものだった。

 そして数分後にアリサが玉藻へ一方的に意思を伝え終わって目を開くと、アリサから立ち上っていたものは一気になりを潜めた。

 

 尚、傍目からは数分程度だが、アリサ自身は無意識にとはいえ思考加速しているので体感時間は数時間に相当しているので、アリサの精神的疲労は可也のものだった。

 が、自分には遣る事が在るとアリサは気を引き締め直して言葉を発した。

 

「此方の意思は問題無く伝え終りました。

 恐らく此方の当面の危機が一段落した頃に詳しい場所を指定されると思われます。

 

 で、話は変わってなのはのことだけど、解り易く言うなら、〔近付いたら焼死し掛けたアリに気遣って炎どころか熱を通常生物の域迄抑え込んだ鳳凰を、脅迫にもならない脅迫で自分達の組織に所属させた上で働かせようとした〕、ってところね。

 数%……とか割合は分からないだろうけど、徒其処に存在するだけで自分達を死に追い遣り掛けた相手に武器というか兵器を向けたり、挙句には自分達に従わない事が悪であることみたいに言って改心を促そうとしたりする様は、まるで特大の地雷の上でブレイクダンスを踊っているみたいでスッゴク呆れたわ。

 因みに、普通の人でも怒る程の罵詈雑言を吐いた挙句に舐めた真似をし捲くった結果、サクッと発狂死させられたから。あ、心配しなくても直ぐ……か如何かは微妙だけど死者蘇生されたから。

 まあ、詳しいところは今此処に突撃してきてるあの子の話を聞けば嫌でも解ると思うわ。……ホント、厭でも解ると思うわ」

 

 疲れた顔でアリサがそう言った直後、廊下から窓硝子の砕ける音がした。

 デビット達が何事かと扉に視線を向けた1~2秒後、年齢的に黒歴史になるのか微妙な服装のなのはがノックも無しに扉を乱暴に開けて侵入し、デビット達の視線に気付きもせずにいきなり大声で問い質しだした。

 

「アリサちゃん!すずかちゃん!天照って人とお話ししたいから直ぐにここによんで!」

「「………………」」

 

 色色ツッコミたい事が山程在るアリサだったが、自分が言うよりもすずかが言った方がいいだろうと思い、眼ですずかに発言を譲る旨を伝えた。

 するとすずかは一度軽く頷くと、張りぼてを思わせる極上の笑顔でなのはへ声を掛けた。

 

「今晩は、なのはちゃん。

 色色言いたい事は在るんだけど、一先ず玄関から訪ね直してくれないかな?」

 

 宛らサロンでの会話の如く、本心が透けて見える言葉をすずかはなのはへ放った。

 

 

 

Side Out:月村邸

 

 

 

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:玉藻

 

 

 

 幸せです。

 いや、幸せ過ぎます。

 何しろ、明日遂にご主人様と念願の大人デートです。

 ちょっと順番が普通とは違う気もしますが、愛が在るから全然大丈夫です。セーフです。だから邪淫戒にも触れちゃいません。ご主人様以外とシたいなんて思いませんから。

 

 まあ、此の世界の何処にも桜ちゃんが居ないことだけが心残りですが、何時の日か並行世界すら移動出来る力を身に付けた桜ちゃんと再開出来るかもしれませんので、いい加減桜ちゃんの影を探すのは止めましょう。

 桜ちゃんが居ないからといって私達が幸せになりきれないなんて事は、お互いの拠り良い未来の為に苦悩に苦悩を重ねながらも決心した桜ちゃんが気の毒過ぎますからね。

 ですから、桜ちゃんを忘れずに、ですけど精一杯幸せに暮らして、何時の日か再開した時は又一緒に暮らして、更に幸せになればいいだけのことですからね。

 まあ、桜ちゃんが彼氏若しくは夫を連れて来たら、確実にご主人様が桜ちゃんの相手と一悶着起こすでしょうけど。

 ……後、あの野郎が経済共同体の方じゃなくて酒池肉林のハーレムを築いてたら、私が軽く無間地獄を体験させますけどね。

 

 さて、それじゃあ気分を一新して組んだ腕を解いて、たった今開けたスイートルームの玄関へ踊る様に一足先に飛び込んで、明日の予行演習といきしましょう。

 

「お帰りなさいませご主人様(あ・な・た)

 今日は掃除が終わってませんから、店屋物の注文と銭湯への来店の何方に為さいます?

 それとも夜通しで、わ・た・し、ですか♥」

「脈絡無く明日の予行演習とかするなよ。

 話がブッ飛び過ぎてちょっと驚いただろが。

 

 後、明日ならとりあえず、[俺は風呂場の掃除をしながら風呂の準備をしつつ、余った時間は脱衣所の掃除と整理をするから、玉藻は台所周りを整理しといてくれ]、だな」

「うわ!? まさかのスルーですか!?

 冗談っぽいですけど新婚に成った時の夢の一つを軽く流されるとスッゴク傷付くんですけど!? 部屋の隅で毛玉になっていじけたくなる程傷付くんですけどぉ!?」

 

 と言うか、ご主人様の呆れた視線がもっと傷付きますからね!?

 馬鹿なのか阿呆なのか判断に迷ってる表情も傷付きますからね!?

 

「新居で暮らしていく始まりを記念すべき第一声の予定がソレとか……さっきの純外国人の娘すら日本人級に空気読めてたのにな……」

新居に初めて入った設定なのに(此の場面で)直ぐに他の女のことを思うなんてあんまりです!

 ご主人様はロリですか!?ペドですか!!?? それとも青過ぎる肢体が好みなんですか!!!???」

「一兆歩譲ってお前がペドな容姿に成ったんなら欲情する可能性は在るかもしれんが、そうでなかったら茶筒に手足が付いた様な子供見て欲情する性癖なんて持ち合わせてないと断言させてもらう。

 と言うか、桜ちゃんと一緒に楽しく暮らしながら成長を見てきた俺的に、大人が子供に手を出すのは断じて許せんから、子供に手を出すのはありえないと断言させてもらう」

「ということは高一辺りからなら手を出すというとことですか!?光源氏計画ですか!?」

「おいおい、落ち着け落ち着け。

 折角之から穏やかで楽しい暮らしを始めるってのに、会ったばかりの子供を警戒してピリピリして過ごすなんて楽しくないだろが?

 それにお前はあの子達がお前を超える程の魅力を持った大人になるとか思ったりしてるのか?」

「いえ…………」

 

 ご主人様の一番は私です。

 コレばっかりは桜ちゃんにだって譲りません(負けも勝てもしていませんけど)。

 そんなご主人様の隣を私達以外が取れるなんて微塵も思っちゃいませんけど、問題なのはご主人様の傍に他の女がうろつき回ることなんですよね。

 

 というか、女の勘があの小娘達は私の最大の敵に成りかねないとばんばん警報を出し捲くってます。

 私の敵であってご主人様や桜ちゃんの敵という感じがしないのでまだマシですが(若しそうだったら遭うと同時に消してますけど)、それでも消したい気持ちは依然燻り続けた儘です。

 というより、元からなんとなーく程度は魂の美醜を感じ取れそうだったのに、人外化して高精度で魂の美醜を感じ取れるように成ったのが痛いです。

 しかも、現状で不老永寿に付き合える異性はご主人様ですし、魂のイケメン度は天元突破ですから、最早勘というより確信ですね。

 

 …………是非とも今直ぐ消したいところですけど、ヤンデレ化すると色色と抜け出せない泥沼に嵌る気がするんで避けたいですから、何か良い案はありませんかねぇ。

 浮気どころかソウいう眼ですら見てないのに何度もご主人様に突っ掛かるのは徒のウザイ女ですし、大した理由無く神子を解雇するのはご主人様の反感を買っちゃいますし、あいつらが死ぬような敵をぶつけるのは良い案ですけどご主人様なら感付きそうですし、…………ホント何か良い案はないものでしょうかねぇ。

 桜ちゃんが居たら相談すら楽しく…………って、そうです!百合に走らせればいいじゃないですか!!!

 容姿も中身もソコソコなんで見ててイラつかないでしょうし、互いに同じ人外だから不老永寿の問題も無いですし、神子ということで一緒に暮らすように仕向けるのも簡単ですし、神社には若い女を巫女として大量に置いて、神主も女若しくは年取り捲くった男にすれば、見事百合促進土壌の完成です!

 

 うわ!私の思考って神ですね!

 というか桜ちゃんのことを考えて解決出来るなんて、桜ちゃんって本当に素敵に無敵です!寧ろ桜ちゃんが神です!

 

 

 よし。悩みの解決案も出ましたから、もうあんな小娘達の事は意識外に投げ捨てて楽しくデート前夜を満喫しましょう。

 

「そうですね。

 あんな小娘達を警戒してピリピリしたって損なだけですし、楽しく過ごしましょう!」

「そうそう。

 ピリピリせずに気楽にのんびり閉じた生活してれば敵なんて作らないし、何より幸せに過ごせるからな」

「安定した微堕落思考ですけどその通りですね。

 

 さて、それじゃあご主人様、結局お風呂にします?食事にしますか? それともわ・た・し、ですか♥」

「…………明日デートするってのに、情緒も何も無いな、お前」

「はうっ!?」

 

 つ、痛恨の一撃です。

 

「と言うか、今日迄ノンストップで10年弱してたのにデート前日も普段のノリって、……お前の辞書にはもう淫戒どころか貞淑って言葉の欠片すらも無いのかよ?」

「うくっっ!?!?」

「そういえばお前の別側面のダキニ天っていうかダーキニーって基本全裸だけど、若しかして徒の痴女だったとかいう伝承や信仰とかでも在るのか?」

「けふぉっっっ!?!?!?」

「ソウ考えるとお前のシリアス維持が恐ろしく短い理由も納得いくんだが、其の辺り如何なんだ?」

「や、止めて下さいご主人様!

 玉藻のライフはもうゼロなんです!!

 狐は甚振られると死んじゃうんです!!!」

 

 

 

 結局、ご主人様の私にとって不名誉極まりない疑問を晴らすことで時間を結構食ったので、今夜は何事も無く抱き合って眠るだけになってしまいました。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:玉藻

 

 

 







 【玉藻達はどうやってスイートルームに泊まったのか?】

 此れは雁夜が適当に宝石を創り出し、其れを適当なところで捨て値で換金しただけです。
 序に適当な戸籍も買いましたので、デート中に不動産を買う前には普通に使えるようになっています。
 因みに此のSSの玉藻は、その程度の金銭は呼吸をする様に手に入れられると思っています。


   ~~~~~~~~~~


 【神咲一灯流とか在るの?】

 死に設定に成るでしょうが在ります。
 現代の当主達はD~C程度で、耕介がC~B程度で、開祖がA前後という感じにしています。死に設定になるでしょうが。


 【HGSの能力の神秘性は?】

 死に設定になるでしょうが、一応有る様に設定しています。が、総じて低く設定しています。
 此れは神秘的な超能力ではなく、疾患の副作用として捉えられているからです。
 つまり、魔術の様に無いとされなれながらも在ると信仰されている存在と違い、遺伝子障害という明確な理由の下に良く解らない原理で特異な能力を使う者という、信仰ではなく認識が在る為です。
 一応未開の地や詳しく事情を知らない人達の存在に加え、原理が良く解らない不思議な力と認識されていることも加わり、神秘的にはE~D-と言った感じです。


   ~~~~~~~~~~


 【雁夜が創ったお馬鹿アイテムの一部】

・無限の便所紙:C ~ A+++
 読んで字の如く、魔力を籠めると際限無く生成されるトイレットペーパーの芯。
 色や香りや幅や厚さや保湿は当然だが、生成する時の魔力次第で強力な滅菌作用及び回復効果も付加される。

 ふざけた物品だが立派な概念武装(宝具)であり、セイバーの風王結界すら凌げるゲテモノトイレットペーパー。
 トイレットペーパーなだけに不浄なモノに対しては最高A+++に迄神秘が上昇する。
 一応何処かの最遊記の魔戒天浄の様なことも可能だが、現在は普通にトイレットペーパーとして使われている。
 ウェイバーの常識を粉砕した品の一つ。


・節制の食器:C
 此の食器で食事を行うと胃の大きさや消化速度に関わらず、健康維持に必要な栄養素を摂取した辺りで強い満足感を得る事が出来る。
 和洋中の皿及び箸やナイフやフォークやスプーンが10人分存在し、其の全てがCランク(箸等だけでも効果は在る)。
 又、食材を強化することで様様な代謝効果を高める効果も有り、成長促進や老化予防に極めて高い効果を発揮する。
 尤も、身体を自然に最高の状態に保てる桜には頑丈な食器というだけの代物であり、恩恵を受けているのは大河だけだったりする。


・悠久の乾電池:B ~ A+
 見た目は普通の乾電池だが、魔力を籠める事で充電が可能。
 しかも魔力を用いることで使用している製品の劣化を食い止める事も可能。
 更に魔力次第では防御膜を展開する事が出来、ランサーの刺しボルクすら止める事が出来る。
 因みに乾電池だけでなくバッテリー付きコンセントも在る。

 尚、限界迄魔力を籠めて一度に放出すればA+の電撃を放つ事が出来るが、実は桜が海難事故に遭ってしまった際に鯨すらもビリ漁で仕留める為の機能だったりする。


・桜の自転車:A+++
 地面だけでなく、魔力次第で水中や空中だけでなく宇宙ですら走行可能な、自転車の形をしたナニか。
 籠める魔力に比例して走行可能環境や速度が上昇し、更に高性能の防御効果を可也の範囲に亘って自在に展開可能であり、其の上魔力さえ足りるならば幼児用から某巨大綾波用サイズ迄可変可能。

 桜の宝具と組み合わせると、実は世界の壁すら突破可能だったりする。



   ~~~~~~~~~~



 【其の前の桜達 其之貮・多分切嗣がランスロットを召喚してたら核を宝具化して冬木を消してた筈】



「それじゃあ先輩も疲れてるでしょうから、教会迄送りましょうか?」
「わ、悪いけど頼む。
 ちょっと……じゃなくて滅茶苦茶疲れただから遠坂にセイバーにアーチャーももう勘弁してくれ」

 文字通り襤褸雑巾の如く成り果てても、其の度に桜に体力は兎も角怪我は全治させられる為、連続でセイバー達の相手をした士郎の体力と精神は死ぬ程ではないが気絶寸前に迄衰弱していた。
 逆に凜とセイバーは士郎を教育出来て清清しい顔をしていた。が、アーチャーは八つ当たりし足りないと言わんばかりの顔だったものの、此の場で不穏な真似をすれば目的を成す前に自分が消されると解っている為、アーチャーは不承不承ながらも双剣を消して凜を守護すべく凜の背後に移へした。
 そして桜は瞼を開けることすら出来ない程に衰弱している士郎に苦笑しながら了承の意を返す。

「解りました。
 それじゃあ戦車砲を打ち込まれても平気な乗り物を用意しますから少し時間が掛かりますんで、其の間に息を整えたりシャワーを浴びるなりして時間を潰してて下さい」

 そう言うと桜はライダーを伴って屋敷の中へと消えた。
 そしてそんな桜を見送ったセイバーは、士郎の教育中にふと思った疑問を凜へと投げ掛けた。

「時に凜。以前此処に住んでいた両者は、何れ起こる聖杯戦争に何故何の対策も採らなかったのでしょうか?」
「へ?」

 若しもアーチャーが今の凜の表情を見れば、[素晴らしい顔芸だな。しかし急に顔芸を披露するとは、もしやバイトで芸人にでもなるのかね?]、や、[100年の恋どころか女性への幻想すら喪失しかねん表情とは恐れ入る]、と皮肉るだろう程に今の凜の呆けた表情は凄かった。
 だが、セイバーは騎士の情けでその顔を敢えて無視して指摘せず、何事も無いかの如く話を進めることにした。

「いえ、敷地内を彼方側の様にすることすらしてのけ、更に桜へ深い愛情を注いでいたであろう者達が、桜が巻き込まれるだろう聖杯戦争を放置して旅立つとは思えませんので、魔術協会や聖堂教会への根回し以外に、聖杯戦争を興した家や近隣の魔術師へ何かしらの根回しをしていると思ったのですが、どうにも凜はその辺のことを知ってもいなさそうでしたので、現場の者に根回しが届いていないとなると未対策ではないのかと思ったのですが、違いましたか?」
「あ゛」 

 又もや顔芸と言われても仕方ない顔へと変化しながら、凜は片手で顔を軽く覆いながら呟きだした。

「そうよ、御三家で近場の私が不戦約定とか持ち掛けられなかったんだから、魔術協会や聖堂教会にも根回ししているとは考えられないわ。
 だけど対策を採っていなかったとはもっと考えられない。
 何しろ聖杯戦争が気に入らないなら、どっちであろうとも多分片手間で儀式を完膚なきまでに壊せるだろうし、遠坂とアインツベルンの文句も対価を払うか力尽くで封殺出来るだろうから、対策を採っていないなんて絶対にありえない。
 なら、端から凄まじく嫌っている魔術師なんて信用せずに護身用礼装の作成や聖杯戦争システムに介入とかしている筈。
 ベルベットさんの話じゃ神霊が複数のマスターの令呪を遠隔であっさり増画したりしたらしいし、間桐が令呪システムを作り出したんなら魔改造して他のサーヴァントに効果発揮可能にしたりとかも出来かねない筈。と言うかそうでなくても令呪が100や200も在るならそれだけで詰むからもうどうしようもないじゃない。
 いや、でも桜は既に聖杯に匹敵する土地を持ってるから、態態危険を冒して聖杯を入手しようなんて考えない筈。
 多分、人型の使い魔が欲しいとかそういう理由で参戦しただけの筈だから、敵対しなければもしかしたら平気かも?
 って、サーヴァントが残ってたら聖杯は降臨しないじゃない!」

 懺悔というよりは降伏する様な雰囲気を纏いながら崩れ落ちて〔orz〕の体勢となる凜。
 最早顔芸だけでなく身体を張った芸をしだした凜だが、凜が此処迄嘆くのもアーチャーは十分に共感出来る為、揶揄うのではなく発破を掛けるだけに収めようとアーチャーに思わせる程に凜の落ち込み様は酷かった。

 だが、アーチャーが発破を掛けようとする前に、セイバーが凜の発言を訂正に掛かった。

「凜。サーヴァントが残っていたら聖杯が降臨しないと言っていますが、それは間違いです」
「HA?」
「聖杯は恐らく1騎の生贄さえ在るならば、残りはサーヴァントに匹敵するエネルギーを注ぎさえすれば起動する筈です。
 又、サーヴァントの中には飛び抜けて高い霊格の者、つまり1騎でサーヴァント数騎分に相当する規格外の者も存在しますから、上手くいけば1騎仕留めただけで聖杯が満ちる可能性すら在ります。
 ですので、必ずしも全てのサーヴァントを屠る必要は在りません。

 無論、通常ならば誰もが聖杯の所有権を主張するので最後の一組になるまで戦いは終わりませんが、場合によっては戦わずに済む可能性も在るというわけです」
「…………」

 凜はセイバーの話を聞き終えると、暫し目を瞑って思案に耽った。



▲▲▲▲▲▲

 先ず凜が真っ先に考えたのは、セイバーが出鱈目を言って自分達を攪乱しようとしていることだった。
 だが、仮に自分がセイバーの話を真に受けたからといって、別にセイバー達を攻撃対象から外すわけでなく、寧ろライダーを放置する事に因り生じる不足分を補う為にセイバーを含めた残りサーヴァントを益益見逃せない理由が増えるだけで桜達以外に対する凜達の方針は変更されず、更にセイバー達も狙われる理由が極極僅かばかり強まった以外に実質環境の変化は無い為、攪乱の可能性は低いと凜は判断した。

 次に凜が考えたのは、単にセイバーには虚言癖や愉快犯の気が在るということだった。
 が、堅物騎士のイメージの塊であるセイバーがそんなことをするとはとても考えられない為、此れも又可能性は低いと凜は判断した。

 其の次に凜が考えたのは、士郎を再教育した御礼ということだった。
 此れだと回復という一番の手間を引き受けた桜は凜達の標的から外れるかもしれないという可能性を得られ、半ばストレス発散に走っていた凜達(自分達)は知らないことを知れるという収穫があり、最後に士郎達は士郎の勘違いが矯正されて生存確率が上がっていた。
 一見して三方とも得をして丸く収まっているのでコレかと凜は思ったが、如何にも違う感じがしたので、一先ず保留とした。

 そして次に凜が考えたのは、迂闊に桜達を攻撃した際に巻き添えを食わないよう、遠回しに注意しているのかということだった。
 だが、凜は如何にも自分の直感が違うと告げているのを無視出来ず、再び保留とした。

 最後に凜が考えたのは、セイバーが血液を対価に桜から食料を購入しているからというものだった。
 すると今度は小難しい理由を考える暇も無く、凜の直感が全力で[コレだ!]と叫んでいた。
 栗鼠(リス)どころか伽藍鳥(ペリカン)かと思う程次次に口の中に菓子を詰め込んで幸せなオーラを振り撒くセイバーを思い返した凜は、理性的にもコレが理由だと確信した。

 だが、凜はセイバーが全て食い気のみで行動しているとは思っておらず、礼や警告も10%くらい混じっていると思っていた。
 つまり礼や警告は完全に食い気のおまけだと凜は認識しており、実際其の認識は正しかった。

▼▼▼▼▼▼



 どういう意図でセイバーが自分に先の言葉を投げ掛けたのかを推測しきった凜は、呆れた眼差しに生温い優しさを混ぜながらセイバーへ言葉を返す。

「た~くさん食べて大きくなりなさいね?」
「…………話に脈絡が無い上、酷く不快な物言いですが、今回に限り目を瞑りましょう」
「衛宮君。自活する猛獣と仲良くするのってスッゴク大変だろうけど、精々頑張ってね?」
「解りました。つまり侮辱しているのですね。いいでしょう。高く買ってあげましょう」

 そう言いながら何かを構える仕草をするセイバー。
 だが、それに対してアーチャーは肩を竦めてみせ、凜は底意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を返す。

「こんな魔窟で暴れたいなんて、セイバー、あなたってもしかして自殺志願者なのかしら?」
「…………」
「まあ、これ以上は後が怖いから止めとくとして、……衛宮君。シャワーは時間的に厳しいでしょうけど、身体や服の汚れを拭くくらいの事はしといた方がいいわよ?」
「……お、……おう」

 覚束無い足取りで立ち上がりながら何とか言葉を返す士郎。
 だが、――――――

「あ、なら私が綺麗にしてあげますね」

――――――其処に先程屋敷の中にライダーと共に消えた桜の声が掛かる。
 更に其れとほぼ同時に桜から士郎を丸丸呑み込める程の水球が放たれた。

「!?」

 害意は感じなかったものの、セイバーは反射的に士郎の前に身を投げ出した。
 だが、桜より放たれた水球はセイバーに触れても霧散せず、セイバーを通り抜けてその儘士郎にも命中した。
 が、水球が士郎に命中した瞬間、水球は瞬時に殆ど蒸発して消えてしまい、残った水はヘドロの如く濁った水になっており、大きさも一般的なビー玉程度の大きさであった。

「穢れ……と言うか汚れは取っちゃいました。
 序に体力回復と服も直しましたんで、ちょっと早いですけど出発しましょうか?」

 水滴一つ付いていない士郎の傍を滞空していた汚れの詰まった水球を可也離れた排水溝に軽く撃ち込みながら桜がそう言うと、門から玄関へと続く草一つない道に突如穴が開きだした。

 穴が開く音自体は極めて小さかったが、穴から響く凄まじい風の音の所為で、誰もが開いていく穴の存在を瞬時に把握出来た。
 何事かと思い士郎達がその穴を注視すると、穴の中からヘリコプターの様な戦闘機が現れた。
 何処かの汎用人型決戦兵器の人造人間が活躍する物語の、〔近接航空支援用垂直離着陸対地攻撃機(VTOL攻撃機)〕とそのまんまであり、慎二(友人)と一緒に劇場版を見た士郎は目を輝かせながらはしゃぎだした。

「ぶ、部分的とはいえ可変する戦闘機が実在したなんて、…………今の科学って凄いなっ!」

 唖然とする凜達を置き去りにし、珍しくはしゃぎながらVTOL攻撃機の周りを走りながら眺める士郎。
 対して状況に付いて行けず置いてきぼりされている凜達は呆然とVTOL攻撃機を見遣っていた。
 だが、桜は凜達を無視する様に士郎へと話し掛けた。

「さあ先輩。夜道は他のサーヴァントが待ち構えているかもしれないので危険ですから、コレで冬木教会迄行きましょう」
「乗っていいのか!?」
「吊るして運んでも構いませんけど、冬の夜風は冷たいからお勧めしませんよ?」
「ど、どうしようかな。下からコレを見上げながら空中遊泳するのも捨て難いし、かといって中を見てみたいし……」

 桜の本気か冗談か判らない言葉に対して本気で悩む士郎。そしてそれを凜達は呆れた眼で見ていた。
 だが、其処にVTOL攻撃機を操縦していたライダーが爆弾発言を投げ入れる。

<帰りはアーチャー達と敵対関係になると思いますので、行きの内に吊るされた方が良いと思いますよ。護衛のセイバーと一緒に>
「なっ!? ライダー!私に吊るされた男(ハングドマン)ならぬ吊るされた騎士(ハングドナイト)に成れというのですか!?」
<其処は吊るされた女(ハングドレディ)だと思いますよ。セイバー>

 幻想種ではなく現代科学の産物であるジェット機を駆るライダーと、割と普通に拡声器から聞こえる声に応対しているセイバーを見た凜は、色色と面倒になってツッコミを入れるのを止めた。
 そして開き直った凜は、何でもないかの様に振舞いながら桜に訪ねだす。

「私達もこの大きな子供が作ったとしか思えないのに乗っていいのかしら?」
「機体が安定しない程重くないならいいですよ?」
「あら、この飛行機って凄そうなのは外見だけなのかしら?」
「いえいえ、こう見えて20t以上を積載出来ますよ?
 徒、以前自重でコンクリートを突き破る程の重さになったらしい遠坂先輩ですから、成長した今の遠坂先輩が重力軽減を絶てば如何なるか分からないなぁーと思っただけですよ」
「あらあら、人間が自重でコンクリートを突き破れる程重くなる筈がないと解らないのかしら?」
「そうは思いますけど、ダイエットを意識して重力魔術を使用して暴発させたとか、魔術師に有るまじき理由を鵜呑みするよりは可能性が高いと思ってましたけど、違いましたか?」
「ダイエットじゃなくて、重力増加による恒常的肉体鍛錬を行って自衛力の向上を図るのが目的よ」
「流石は腹筋が割れているという噂が立つ遠坂先輩ですね。
 将来はボディビルダーで生計を立てるおつもりですか?」
「ふっふっふ。いやねえ。私の将来は魔術師に決まってるじゃない。
 その年でボケるなんて、残りの人生はさぞかし暗いでしょうねぇ」
「将来は魔術師希望なんですかぁ。
 幾つものバイトをされているから、私はてっきり便利屋本舗にでも成るのかとばかり思ってましたよ」
「あっはっは。面白い事言うわね、桜」
「本当のことを言われて面白く感じられるなんて、遠坂先輩の思考って愉快そうですね」
「桜って本当にイイ性格してるわねぇ。
 これから仲良くヤっていけそうな気がして仕方ないわ」
「遠坂先輩と仲良くなんて、全然面白くない冗談ですね~。
 はっきり言って真っ平御免のお断りです♪」

 黒い笑みを浮かべる凜と、底知れない笑みを浮かべる桜は、士郎とアーチャーがドン引きする程の遣り取りを行っていた。
 尤も、間桐の敷地内は規格外の浄化作用が存在する為、桜と凜が発する不気味な雰囲気は即座に浄化されて士郎達には届かなかったが、不気味な雰囲気を発しているという事実は察する事が出来る為、士郎はセイバーと一緒にハーネス等を装備して吊り下げられることて桜と凜と一緒の空間に居ないで済むように急いで準備し、アーチャーは見張りと言い張って尾翼の上に陣取った。



 其の後、桜と凜を収容するとVTOL攻撃機は凄まじい勢いで離陸した。
 一応桜が機内の重力や慣性を一定値に保つ術式を事前に掛けていたので、凜は軽く身体を痛めるだけで済んだ。
 だが、機外に吊られている士郎は、負荷の掛かる四肢の付け根を可也痛めた。
 そして、尾翼に命綱無しで陣取っていたアーチャーは、見事に振り落とされることとなった。

 一応アーチャーは急上昇には何とか耐え切ったのだが、急上昇が収まる前に水平方向への急加速に僅かばかり耐えた後、呆気無く振り落とされたのだった。
 だが、振り落とされて墜落した上、地上を走って追いかけるのは余りに惨め過ぎて御免被りたかったアーチャーは、鎖分銅を尾翼に向かって投げ付け、何とか捲き付かせることに成功した。
 結果、アーチャーは金魚の糞の様に尾翼の後方で風に揺られることとなった。

 そして、セイバーが召喚されたことを桜から連絡を受けて知ったギルガメッシュは様子を見ていたのだが、その余りの滑稽さに腹を抱えて爆笑していたのだった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陸続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

Side In:月村邸

 

 

 

 字面通りならば、〔玄関から出直せ〕。子供の常識的に考えれば、〔顔を洗って出直せ〕。社会人の常識的に考えれば、〔慰謝料と菓子折り用意して出直せ〕。と、大きく分けて三つの解釈が可能な言葉を返されたなのは。

 だが、なのはは何れの解釈もせず、――――――

 

「そんなことはどうでもいいから、早くあの二人をよんでほしいの!!!」

 

――――――見苦しく無視するという行動に出た。

 

 無視という選択をしたのではなく、何も考えずに無視という行動に出たのが丸分かりな態度と発言だった為、その場の全員は少なからず、〔何言ってんだコイツ?〕、と思った。

 特に、家主の忍と忍の婚約者にしてなのはの実兄である恭也の胸中はアリサ達よりも複雑だった。

 だが、話が玉藻達の事であり且つ玉藻の神子であるすずかとアリサが居る以上、忍と恭也は自分達が話しに出しゃばるのは拙いと判断し、応援を要請されるか攻撃を受ける迄黙っていることにした。

 

 そして、すずかは自分がなのはの相手に此の場の全員から認められていると理解したものの、其のことを特に気負ったりせずになのはへ言葉を返す。

 

「色色言いたいことは在るけど、神に対する助数詞は、(ちゅう)(たい)(しん)(そん)()、というものが一般的で、人と同様の助数詞を用いるのは不敬以外のなにものでもないから、急ぎ訂正を求めるよ」

「いいから早く二人をよんでほしいの!

 それに人間じゃないからってそんな可愛そうなこと言っちゃ駄目だよ!」

「…………」

 

 すずかが話し方を切り替えたことに気付いてもいない様子のなのはは、再び頭痛がする様な台詞を炸裂させた。

 そして、そんななのはの言葉を聞いたすずかは、此れ以上なのはと言葉の遣り取りを行っても会話と成るか如何かを真剣に悩み始めた。

 だが、万が一玉藻が此の状況を見ていれば気分を害すのは確実であり、自分とアリサに一応友人であるなのはの滅殺処理が下される事態は避けたい為、今度は諭す様になのはへ警告することにした。

 

「なのはちゃん、彼女達は上位次元の存在で、人と同じように数える事は、1頁2頁って紙面の様に数えられることと同じなんだよ。

 だからね、人と違う呼び方をするのは当然で、寧ろ人と同じ呼び方をするのは侮辱しているのと同じなんだよ。解る?」

「いいから早くあの二人をよんでよすずかちゃん!

 だいたい神様があんな酷いことするはずないんだから、きっとあの二人は神様の偽者なんだから、そんなこと気にしなくてもいいに決まってるよ!」

「………………なのはちゃん。若しもなのはちゃん的に神様だったなら、神様に因縁付けて捕縛しようとしていたなのはちゃんは恐ろしい程の罰当たりになるけど、其の辺は如何思っているの?」

 

 せめて此処で殊勝というより当たり前の言葉を返してくれれば、話を纏めるのではなく濁すくらいは辛うじて出来ると思ったすずかだったが、――――――

 

「因縁なんてつけてないし、捕まえようともしてないよ!

 お話ししようとしただけだよ!」

 

――――――見事に都合の良い主張が返ってきた。

 

 如何いう遣り取りがあったのか詳しく知らない忍達は兎も角、一部始終を見ていたすずかとアリサは一瞬眩暈を覚えた。

 寧ろ、態と的外れな意見を連発し、自分達を体調不良で退場させようとしているのではないかとすずかとアリサは思った。

 勿論そんなことはなく、単になのはが、〔目を瞑って耳を塞いだ儘アクセル全開〕、を地で行っているだけなのは頭に幻痛がする程すずかとアリサは理解していた。

 

 そして説得や注意は無駄だろうと確信し始めたすずかだったが、一応友人な以上簡単に見切りを付けるのは如何なものかと思い、徒労に終わると確信しつつも説得を続けることにした。

 

「……デバイスとかいう携帯支援兵器突き付けてお話も何もないと思うんだけど?」

「兵器なんかじゃないよ!レイジングハートはお友達だもん!」

「……あのね、なのはちゃん。仮に其のデバイスをなのちゃんが如何思ってても、何も知らなければ金属製の杖なんて徒のメイスでしかないからね?

 つまりなのはちゃんがやった事は鉄パイプを突き付けたりしたのと大差無いんだよ?」

「だからお話しようとしてたんだよ!

 こんな話はもういいから、早くあの二人をよんで!」

「………………」

 

 最早なのはの話は論理が破綻しており、此れ以上会話として成立しない言葉の応酬は不毛でしかないとすずかは判断した。

 だが、元から会話が成り立たない程度しか知能や知性が育まれなかったのか、若しくは単に興奮して知能や知性が著しく減衰しているだけなのかの判断は付きかねた為、とりあえず一度落ち着かせる為にもなのはを気絶させようとすずかは考えた(最早なのはが演技していると微塵も思っていないどころか、先天的な知能障害で自制心や其の他諸諸の発育が遅れているのではないかとすら疑いだしていた)。

 

 しかし、迂闊に手を出すと時空管理局よりもなのはにも難癖を付けられるとすずかは判断した為、此処は何か在っても血縁者の問題として押し通す事が出来る恭也に丸投げするのが一番と判断し、すずかは義兄予定の恭也へ振り返り、眼でなのはの対処を任せる旨を告げる。

 そしてすずかとの遣り取りの頻度が少ない恭也だったが、此の局面で察せない程鈍くはない為、即座にすずかへ頷きで返した後になのはの前に移動しながら声を掛ける。

 

「落ち着けなのは。言ってる事が目茶苦茶だぞ?」

「お、お兄ちゃん!? ど、どうしてここにいるの!?」

「……以前からイヴの日は忍の護衛として企業のパーティーに参加するから、その儘忍の家に泊まるって伝えてただろ?

 寧ろ、日付変更前に(こんな時間に)他所様の家で(こんな場所で)ツッコミ入れたい格好で(そんな格好で)ぶち破った2階の窓から(そんな所から)許可(挨拶)もなく乗り込んだなのはの方が何をしているのか訊きたいんだが?」

「うぅぅ…………」

 

 実際は雁夜からの脅迫紛いの電話を受けて急ぎパーティーから退席して戻ってきたのだが、其の辺は話がややこしくなるので話さなくてもいいだろうと、恭也は敢えて省略した。

 対して極当たり前の疑問を返されたなのは、如何やって此の局面を誤魔化せばいいのか思い浮かばず、焦りに焦っていた。

 だが、普段から後先考えずに行動しているなのはが早早妙案など出せる筈も無く、しかも恭也はなのはが何かを考え付く迄という年単位になるだろう長過ぎる時間を待つ気など毛頭無い為、直ぐに恭也は当然の台詞を放った。

 

「直ぐに父さん達へ連絡して連れて帰ってもらわないとな。

 ……本来なら俺も一緒に帰るべきなんだろうが、身内が窓を破砕したのに片付けもせずに帰るのは流石に問題在るからな」

 

 懐から携帯電話を取り出し、溜息混じりにそう言う恭也。

 対して其れを聞いたなのはは顔を青褪めさせながら待ったを掛ける。

 

「ま、待ってお兄ちゃん! お父さんたちには言わないで!」

「そういうわけにはいかん。

 いいか、なのは。仮になのはが夜中にそんな格好で鈍器を持ってたとしても正面から乗り込んできたのなら、俺は父さん達に何も言わずに胸の内に秘めておいたかもしれん。

 だがな、明らかに窓をぶち破って乗り込んだと思えるなのはが、挨拶も無しに無意識にだろうが鈍器を家人に向けて脅迫をしたとなれば、とてもじゃないが俺の胸の内にだけ秘めてはおけん。

 仮に其の鈍器が張りぼてで、シャンパンでも飲んで泥酔しているのだとしても、窓をぶち破っただろう以上、保護者が速やかに詫びを入れ且つ責任を取るのは当然のことだ。

 そしてお前の保護者は俺ではなく父さんと母さんだ。

 

 此処で俺が保護者への連絡を怠って内密に処理しようとすれば、それは保護者である父さんと母さんだけでなく、実害に遭ったすずかちゃんと家主である忍に対する不誠実な行為に成ってしまう。

 見ず知らずの奴なら兎も角、俺は親しい者達にそんな不誠実は働きたくない。

 何より、なのはは自分が何をしたのかを知らなければならない。

 此処で内密に済ませるのは、遠い将来どころか今現在に於いてもなのはの為にならないからだ。

 

 だから、今日は素直に沢山叱られろ。

 安心しろ。父さんも母さんも、叱るのと怒るのをごっちゃにしたりはしないし、なのはの言い分を頭ごなしに封殺したりはしないから、此処最近何をしていたかも含めて沢山話し合うといい」

 

 保護者の立場である忍とデビットは、立場的に完璧とも言える恭也の対応に感心していた。

 特に忍は恭也がなのはを可愛がっているのを知っているだけに、感心だけでなく驚きも多分に混じっていた。

 そしてすずかとアリサも恭也の極めて大人な対応に感心し、之で覗き見している外の連中も一先ずは安心だろうと思った。

 

 だが、すずか達の予想を天元突破と言うよりも地殻突破して下に進み捲くるなのはは、恭也達にとって考えもしない行動に移った。

 

「た、大切なお話してるんだから、関係無いお兄ちゃんは黙ってて!!」

 

 なのははそう叫びながら、魔力で出来た発光体で恭也の四肢を拘束及び固定した。

 

「「「「なっっっ!?!?!?」」」」

 

 如何いう原理で此の様な事態が起きたか解らないことも驚いたが、それ以上にまさかなのはが恭也に対して武力行使を行うとは思わなかった為、恭也達は酷く驚愕した。

 だが、戦闘者である恭也は拘束されたと認識した瞬間、半ば習性の如く即座に拘束から脱しようとした。

 が、確りと手首と足首を固定されてしまい、なのはに言い聞かせる際に中腰の姿勢の儘だった恭也では、皮の拘束帯よりも頑丈な発光体を破壊するどころか緩めることも出来なかった。

 

 一瞬にして成人男性を、しかも実の兄を拘束したなのはは驚愕の視線を向ける恭也達を無視するようにすずかへ振り返り、軽度の狂気が混じった顔でデバイスを構えながら言い放つ。

 

「さあ!これでお兄ちゃんの邪魔もないから、早くあの二人をよんで!」

「「…………」」

 

 恭也達と違い、多分こうなるだろうと思っていたすずかとアリサは軽く溜息を吐いた。

 そして溜息を吐いたすずかは、呆れと言うよりも疲れを滲ませながらなのはに問い掛ける。

 

「……断ったら其のメイスで殴り掛かったり怪光線を撃って威すの?」

「そんなことしないよ!

 ただ、おはなししてもらうために勝負するだけだよ!!」

「…………ストーカーと言うより辻斬の台詞だよね。ソレ」

「全然違うよ!!

 

 ……もういい。初めからこうすればよかったんだよ……」

 

 そう呟くとなのはは構えたメイス(デバイス)の先端に大気に満ちる特定の活力(エネルギー)を掻き集めて球状に集束しだした。

 ソレを見た忍達は、なのはが何をしているかは解らないが何をしようとしているかは察した為、急ぎなのはを取り抑えようとした。

 が、アリサはそれを軽く手を上げて制した。

 そしてアリサに制された忍達は、アリサどころかすずかも全く焦っていないことに気付き、先のアリサの超絶防御力(厳密には遮断力)がすずかにも等しく在るのだろうと判断し、何かしら考えが在りそうなすずか達を信じて不承不承ながらもなのはを取り押さえる事を控えた。

 

 対してなのはは初めから忍達を意にも介していないらしく、すずか以外に一瞥もくれずに大気に満ちる特定の活力を集束させつつすずかに言い放った。

 

「すずかちゃん!これがあたしの最強の魔法。これを撃ちきったらきっと立っていられない。

 防ぎきったらすずかちゃんの勝ち。撃ちぬけたら私の勝ち。

 もし、あたしが勝ったら少しでもいいからお話してもらうからね!」

「あのね、私は勝負の承諾なんかしてないし、然り気に反撃や回避の選択を削ってたり、勝手に賭けたりとか、何考えてるのか小一時間程問い詰めた……くないね。面倒だし。

 じゃあ、私が勝ったら二度と其の話題関連で私達に関わらないでね」

「いくよ!すずかちゃん!! これがあたしの全力全開!!!」

「……聞いてないね。腹立たしい程」

 

 一人で勝手に熱血展開を繰り広げ始めたなのはを半眼で見ながら呟くすずか。

 対して殆ど消耗していない状態で大気に満ちるエネルギーを集束させているなのはは、嘗て無い程に肥大化したデバイス先端に集めたエネルギー球を見、必勝を確信して掛け声を発す。

 

「スゥタァーライットォーーー!!!」

「まあ、記録されてるから構わないけどね」

 

 なのはの振り回しているデバイスという物体の大まかな機能を把握しているすずかは、仮になのはが聞いていないと言ったところで証拠は在るのだから良しとした。

 無論、癇癪を起こす相手の物品だけに証拠が在る状態は拙いが、なのはが居る此の部屋どころか屋敷には無数の監視カメラが在るので、なのはが乗り込んできた当初からの行動は全て記録されているので、其の辺りは抜かりなかった。

 しかも、触らぬ神に祟り無しと思っているのか、はたまたすずか達の戦力を分析する為か、遠くから此方を見ているクロノのデバイスと探査球とでも言うべき物体を通じてアースラでも証拠として残っている筈なので、証拠は十分と言えた。

 

 だが、当然そのようなことを微塵も気にしていないなのは、過去に無い程の威力に内心歓喜しながら力を解き放つ。

 

「ブレーィカアアアアアアーーーーーー!!!!!!」

 

 なのはの其の掛け声と同時に、輝く桃色と言うよりも蛍光ピンクとも言うべき、毒毒しいと言うよりも浮薄な感じの球体が弾けた。

 そして次の瞬間、すずかを丸丸呑み込む程の大きさの怪光線が、間に在ったアンティークのテーブルを消し飛ばしながらすずかに襲い掛かった。

 

 怪光線はレーザーでもなければ電気でもないらしく、光速どころか音速にすら届いていない速度の為か、恭也達はアンティークの机を消し飛ばしながら進む怪光線の先に居るすずかを辛うじて認識する時間が在った。

 無論、思考を挟む余地などは殆ど無く、回避を促すどころか悲鳴すら上げられず、徒漠然とすずかの死を予感する程度しか出来なかった。

 

 だが、恭也達がすずかの死を予感し、なのはが必勝を確信した怪光線は、すずかに当たった瞬間、即座に掻き消えた。

 

「………………………………え?」

 

 防いだり相殺したり逸らしたのでもなく、況してや別の空間に逃がしたのでもなく、解放されずに残っていたエネルギーごと消え去った事実を理解どころか認識出来ないなのはは、呆然とした間の抜けた顔で間の抜けた声を零した。

 対してすずかは溜息を吐きながら四肢を拘束されている恭也の近くに移動し、手首を拘束している発光体は手の指先で軽く撫で、足首を拘束している発光体は足の爪先で軽く小突いた、

 そして其の瞬間、恭也を拘束していた発光体は呆気無く霧散した。

 

「「「「!!!?」」」」

 

 恭也を拘束したなのはの様に、何かしらの力を揮おうとする意思すら感じられないすずかの行動で恭也の左半身の拘束があっさりと解かれた事に恭也達は驚愕した。

 だがすずかは全く恭也達の驚愕を気にせず、残った右半身側の発光体にも触れて恭也の拘束を解除しようとした。

 が、すずかは触れる必要も無いだろうと判断し、恭也にも感じられない程度の強さで息を吹き掛けた。

 すると、恭也の手首と足首を拘束していた発光体は呆気無く霧散した。

 

 恐らく青銅に迫る頑健さを持っていた発光体を吐息だけで霧散させたすずかを見たなのはは、訳が分からないといった顔で――――――

 

「……………………………………なん……で……?」

 

――――――と呟いた。

 

 

 

Side Out:月村邸

 

 

 

 

 

 

―――――― Interlude In:Yuuno (ユーノ)Scrya(スクライア) ――――――

 

 

 

 今日、僕は悪夢…………でなく、神を拝見した。

 

 

 確かに僕は考古学者の端くれとして、色んな遺跡で神が奉られているのを見る度に、一度でいいから会ってみたいとよく思ったりした。

 勿論、実際には神なんかじゃなくて、ベルカに連なる、若しくはアルハザードかそれに類似する何かの直系か傍流の超科学が現地民には神の御業と映っただけで、実際には神なんていないと思っていた。

 

 仮に神と呼ばれた存在がいたとしても、それは聖王の様に飛び抜けた戦闘力を持っていただけだと思った。

 尤も、いくら飛び抜けた戦闘力といっても、千や万といった数の暴力には容易く屈する程度の強さだと思っていた。

 

 だけど、人知の及ばない、正しく神と形容する以外ない存在は実在した。

 

 

 力を抑えた状態にも拘らず、徒其処に存在するだけで人が生存不可能な空間へ変貌させる存在強度。

 更に時空管理局の切札であるアルカンシェルの直撃を受けても無傷。

 しかも遠隔でアースラ程の質量と体積の物体を、ミッドチルダへ即座に且つ一発で転移させられる。

 其の上生命活動が完全に停止していた数十名を、遠隔からいとも容易く蘇生させる。

 おまけになのはのスターライトブレイカーを無防備に受けても全く効果が無い神子を、恐らく使い走り程度の感覚で容易く生み出す事が可能。

 

 ……攻撃手段は分からないけど、ほんの少し抑えていた力を解放しただけで1km以上先のアースラのスタッフすらも死んでしまう程の存在圧とでも言うべき物を自然に放てる以上、多分僕達が彼方を知覚出来る範囲内はほぼ確実に鏖殺可能な攻撃手段は在る筈。というか、確認した時にはどれだけ死体が積み上がるか分からないから知りたくない。

 

 

 神を拝見したことも死にそうな程緊張して衰弱したけど、今の状況はそれ以上に緊張している上に衰弱もしていっている。

 何しろ、暴走して神子に突撃した挙句、文字通り神を恐れぬ暴言を吐きまくったなのはを回収するだけじゃなくて、神子とその保護者達に詫びを入れる名目で接近し、何とか話し合いに持ち込めという命令があったからだ。

 

 正直、管理局員じゃない僕は従う必要が無いからさっさと帰りたいんだけど、冗談抜きでクロノが泣きそうで心苦しいし、それに此処で揉めて武装隊でも派遣されて戦闘にでもなれば、恐らく神の近くで神が一度手打ちにした事を穿りかえそうとしている面面が騒いでいるわけな以上、気分を害すのは必至。そしてその先は言わずもがな。

 ……此の件が一段落したら、絶対にあの艦長と関わらない様に生きていこうと心に決めた。少なくても命令されないで済むように偉くなるか何処か遠くで暮らすと決めた。

 ついでになのはとも関わらないようにする。多分1日1個命が増えても命が足りなくなりそうだし。

 

 まあ、僕達だけでなく相手も舐めきった命令だけど、少なくてもなのはを回収しないと秒単位で事態が悪化していくから、なのはの回収と謝罪をメインにすればいいと僕とクロノは考えていた。

 当然、話し合い出来ない程に険悪な時は、サーチャーとかを全破壊して即座に帰還するけどね。

 

 

 ……さて、それじゃあ神は此の世に召しましても、神の祝福なんて僕達には全然無いと分かった以上、慎重に慎重を重ねに重ね塗りし過ぎて重力崩壊するくらい慎重にいこう。

 まずは神子の彼女達に神を蔑ろにする罰当たりじゃないとアピールする為にも、供え物を買いに行く……と遅くなるだろうから、此処は現地民のはやてに別行動で購入してきてもらおう。

 監視義務とか拘束要員とか知ったことじゃないから、急いで買ってきてもらおう。

 

 あと、何はともあれ、門のインターホンでアポを取って、玄関から来訪しよう。

 あの金髪の方の神子が、[馬鹿が二人以上になったら強制送還させる(叩き返す)から]、って眼で告げてたしね。

 

 

 

―――――― Interlude Out:Yuuno (ユーノ)Scrya(スクライア) ――――――

 

 

 

 

 

 

Side In:月村邸

 

 

 

 すずかに触れただけで過去最高と自負し且つ必勝を確信した自身の攻撃が霧散し、拘束帯に至っては触れるどころか吐息すら聞こえない程度に息を吹き掛けられただけで霧散するという、文字通り圧倒的な格の差を目の当たりにし、呆然と立ち尽くすなのは。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 幾度も自分以上の存在と遭遇した事のあるなのはだが、易易と自分と同格のフェイトとの同時攻撃すら防いだ相手でもなのは(自分)の攻撃を攻撃と認識して防いでいたが、すずかはなのはの攻撃を攻撃とすら認識せずに無防備に受け、しかも認識通りに毛程の傷すら付いていなかった。

 はっきり言って赤子と大人どころか、蟻と戦車程の差がなのはとすずかには存在しており、不意を突いたり策を弄したり命を賭したりして如何こうなる差ではなかった。

 尤も、なのはは其処迄深く状況を認識しておらず、単に、〔自分の最高の一撃が防がれた〕、と思って呆けているだけであった。

 だが、其れに対してすずかは、本当に大した事をしたとは思っていなかった。

 

 すずかにしてみればなのはが放った怪光線は丸めたティッシュを投げ付ける程度にしか捉えておらず、努力した果てに得た力ではないなどという精神論を抜きにして、単に自分の認識では丸めたティッシュが自分に当たって地面に落ちたという程度の当然の現象であり、驚かれたり慄かれたりするのは本当に居心地が悪いだけであった。

 少なくてもすずかは自分が人間という集団の一員と認識しているので、常識的(と思っている)事象が起きただけにも拘らず、特別若しくは特殊な対応をされるのは本当に微塵も望んでいなかった。

 尤も、ソレが世間の常識から外れた自分が世間の常識を持って生きていく上で起こる問題だとすずかは雁夜に聞かされていたので理解はしていたが、実感したのは今この時が初めてであり、自分が普通ではないのだという実感が遅蒔きながら芽生え、すずかは何とも言えない気分になった。

 

 特に、夜の一族という、普通の人間から少なからず外れていた存在なだけに、普通であることへ少なくない執着を持っていたすずかには堪える出来事であった。

 尚、、アリサは自分が財閥の一人娘だという、少なからず世間一般とは違う存在なのは自覚していたので、普通から逸脱した存在だと自覚しても其処迄大きな衝撃や疎外感は無かった。

 尤も、すずかだけでなくアリサも未だ自分が普通から外れただけの認識であり、人外、即ち老いや寿命という緩やかな死の概念から解き放たれたことを実感するには至っていない事は理解しており、今回以上の衝撃や疎外感を何れ味わうことになると思うと、此の程度で落ち込んでいられないと思う反面、未来が少なからず暗く見えて気落ちしてしまった。

 が、アリサは生来の前向きの思考で、【逃げも隠れも先取りも迎撃も出来ないなら、其れ迄楽しく過ごさないと損】、と割り切り、すずかは、【気持ちの問題成る様に成る】、という、諦めというよりは達観した思考で直ぐに気を持ち直した(アリサは斬撃や加熱や冷却された後にだが)。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 気疲れした感は漂うものの、暗鬱としたモノを一切纏っていないすずかは呆然とするなのはにではなく、再び場の支配権がすずかに渡った以上動いていいのか迷っている恭也へと声をかけた。

 

「あのメイス、……厳密には其のコアが離れれば戦闘力は見る影も無い程に低下します。

 恭也さんが無力化されないなら私が無力化します」

 

 すずかのその言葉と同時になのはは忘我の状態から回復し、急いですずかと恭也の中間辺りにデバイスを構える。

 だが、すずかどころか恭也も特に意に介した素振りは無く、その事がなのはの神経を逆撫でした為怒りの言葉を吐き出した。

 

「ば、バカにしないでっ!!

 魔法を使えないお兄ちゃんなんかには負けないし、ついさっき魔法を知ったすずかちゃんにも負けたりしないんだからっ!!!」

「あ、なのは、一つ忠告しとくわね」

 

 なのはの叫びに恭也達が顔を顰める中、今迄静観(若干余所見も)していたアリサが割って入った。

 

「あたし達とあんた達の魔法の捉え方って根本から異なっているから。

 あたし達の魔法って、【現代の科学じゃどれだけ技術と時間を費やしても再現不可能な結果】、って大前提が在るのよ。

 例えば重力操作は手間が掛かるけれど対象周辺の質量を増減させて操作出来るし、音の数十倍速く動けてもICBMなんか其れ位の速度は出せるし、太陽並の温度なんて水爆の5%程度の温度だから、そういう凄そうだけど科学で再現出来るのは、あたし達では全部魔術というのよ。細かい決まりは省くけどね」

「じゃあ、転送とかだけが魔法だって言いたいの?」

「他の空間を介さない転移は魔法の域らしいけれど、他の空間で距離を短縮する類の転移は全部魔術の領域らしいわ。

 要するに、亜空間だか超空間だか虚数空間だかを介して行われる転移は全て魔術の領域ってわけよ」

「っ!? そ、そんなこと言ったら魔法なんて無くなっちゃうよ!」

 

 自分が魔法だと思っていたモノがアリサ達にとっては全く違うと言われた事が気に障ったのか、すずかと恭也に向けていたデバイスをアリサに突き付けながら大声で反論するなのは。

 対してアリサは微塵も気にせずに話を続ける。

 

「いいえ、魔法は在るわ。

 例えば、無限と言える程の可能性の世界を移動する並行世界への干渉。

 例えば、一時的でなく完璧な容で蘇生させられる完全な死者蘇生。

 例えば、加速や停止だけでなく遡航すら可能とする時間旅行。

 例えば、完全な無より有を発生させる無の否定。

 

 此れ等の魔法の使い手は確かに実在し、世界に少なくない痕跡を残しているそうよ」

「だったらなんだっていうの!?

 アリサちゃんがなに言いたいのかわかんないよ!!??

 きちんとお話しようよ!!!」

「「「「「「…………」」」」」」」

 

 アリサだけでなく、すずかに恭也達も含めた全員がなのはに対し、[我が身を振り返れ]、と思った。

 が、其れを口にすると話が脱線するのは必至な為、誰もツッコまない儘アリサの話は続く。

 

「判り易く言うと、彼女は無を否定する魔法に特別な想い入れが在る。

 そしてソレは少なからず魔法という言葉に対しての想い入れにも繋がっている。

 

 ……分からないだろうからスッゴク分かり易く言うと、〔とある種類の宝石を大切にしている相手の近くで、生ゴミや汚物を宝石だと吹聴する馬鹿が居ると超絶にむかっ腹が立つ〕、ってわけ。

 だから要約すると、終りたくなければ黙ってなさい、ってことよ」

 

 暗に、お前は生ゴミや汚物を大切にしているバカ、と言われたなのはは、声を上げる暇すら惜しいとばかりにアリサを攻撃しようとした。

 が、其の前に恭也がなのはの眼前に移動し――――――

 

「ふっ!」

 

――――――短い呼気を吐きつつ、納刀された儘の小太刀でなのはの手からデバイスを弾き飛ばした。

 弾き飛ばされたデバイスは恭也の意図かどうかは分からぬものの、すずかの足元近くに落ちた為、デバイスが何かしようとしても直ぐにすずかが対応出来る容と成った。

 しかもすずかがなのはを牽制する様な素振りを一切見せていないので、すずかはなのはの無力化に関しては無関係という立ち居地も保持出来ている為、此の件に関しては恭也達家族の問題だけに留められるので、時空管理局が割り込んできてもすずか達の隙になる事はなかった(なのはが攻撃したので謝罪という口実は出来てしまっているが)。

 そして、恭也は今のなのはは錯乱していると判断したので、一度落ち着かせる為にも気絶させることにした。

 

 恭也はなのはのデバイスを振り上げ気味に弾いた体勢から、宛ら踊る様に半回転しながらも左手の鋼線を手放しながら左右の腕を胴に引き寄せつつなのはの左側を通り抜けて難無くなのはの左後方に立った恭也は、黒歴史になるか微妙だった服装から普段着に変わったなのはの後頭部へ右に握った小太刀の塚尻を打ち付けた。

 一応未知の力を警戒して素手での接触を控えた恭也だったが、なのはの後頭部に打ちつけた塚尻は防御行動だけでなく回避行動も一切無かった為、なのはは障害は残らないが検査入院は必須だろう程度のダメージを後頭部に受けて気絶した。

 

 そして恭也は崩れ落ちるなのはを見、目を覚ましても暴れると判断して拘束するべきか、それとも目を覚ませば理性(落ち着き)を取り戻していると判断して介抱するべきか逡巡した。

 が、其れ以前に、此の場には自分以外にデビットに鮫島、更に自分が護るべき忍が居る為、客観的に証拠を示せないにも拘らず安易に信じて安全策を放棄するのは無責任な上に不誠実だと判断し、恭也は即座に左手で鋼線を投げてなのはに捲き付けて拘束した。

 

 一段落付いたと判断した恭也は軽く溜息を吐き、更に緊張を解す様に独り言を漏らす。

 

「……やっぱり戦闘の素人ってだけじゃなくて、反応速度も至って普通か……」

「そうですね。基本的になのは達の技法はパワードスーツみたいな感じで、後付けで駆動出力や飛行能力や近中遠距離の火器や特殊工作具や医療器具一式とかを後付けする感じですから、戦闘論理や中枢神経系は変化しないそうです」

 

 恭也の独り言に対し、後の展開も考えて補足説明するアリサ。

 そして折角だからと先程言いそびれていたことをアリサは言うことにした。

 

「それとさっきの続きですけど、彼女は最高位の神霊であって、魔法使いじゃありません。

 尤も、神霊魔法と神霊魔術を行使可能なんで、決して魔法使いに劣っているわけじゃありません。

 尚、神霊魔術とは人間や其れに順ずる者が使う魔術とは一線を画していて、底辺が人間の行使可能な魔術のほぼ頂点に匹敵する出鱈目な規模と出力を誇ります。

 更に、神霊魔法は現在存在する魔法よりも更に高次元への干渉を可能としています。

 

 後、神霊●●(まるまる)というのは、人間が神霊の能力行使を分類わけする為に生まれた言葉で、単に神霊が行使する能力が魔術の域か魔法の域かで分かれているだけで、神霊魔術も神霊魔法も人間の扱う魔術や魔法と違って別系統というわけじゃないです」

「具体的に人間の扱う魔術や科学とどれほど違いが在るのだ?」

 

 デビットが忍達を代表する容でアリサに問い掛けた。

 するとアリサはサラッと答えを返す。

 

「理論上可能なだけで実質ほぼ不可能な領域が神霊魔術の領域といった感じかしら?

 手加減……じゃなくて、制御能力も正しく人知を超えているといった感じがしたから、出力や規模や時間とかの調整も人間が再現不可能な域寸前だと思うわ」

「因みに私とアリサちゃんは今のところ加工していない力、……分かり易く言えば魔力とか生命力を飛ばすのが精一杯で、火を熾したり風を起こしたりといった簡単なことも出来ません」

「そうね。今出来るのは魔力を加工せずにその儘操るのが精一杯。

 言ってしまえばなのはみたいに便利な粘土として扱うくらいしか今は出来ないわ」

 

 自分の技量がなのはと大差無いことに思う所が在り、若干不機嫌そうに肩を竦めながらそう言うアリサ。

 対してすずかはそんなアリサに苦笑いを一瞬向けたが、まだ話す事が在ったのでデビットに向き直って言葉を続ける。

 

「私もアリサちゃんと同じで魔力をその儘操るのが精一杯です。

 

 後、自身の変化にも適応したら魔術だけじゃなくて魔法も扱えるらしいですが、自分の神子(私達)を解剖どころか調査すらするなと仰られていましたから、魔術とかに関しては助言や手解きが私達の出来る限界だと思って下さい。

 徒、今現在は手解き出来る程魔術とかを使えませんから、手解きするにしても結構後の事になりそうですけど」

 

 苦笑しながら話すすずかの言葉を聞き、研究者として色色騒ぐモノが在った忍は双方合意の実験や調査を目論んでいたが早早に釘を刺されてしまい、露骨に意気消沈していた。

 そして其れを眼に留めたすずかは苦笑の儘言葉を続ける。

 

彼女の神子(私達)の調査とかが駄目であって、別になのはちゃん達時空管理局勢や地球の陰陽師や呪術師や魔術師を調査したりするのは構わないらしいから、研究するならそっちの方面から攻めるといいよ。

 但し、抗争とかに発展して面倒な事態に成って私達の時間が削れて、その所為で彼女の意思を遂行出来なかったら色色と終っちゃうから、其の辺は十分に注意してね。

 

 まあ、時空管理局は下手に出ようが普通に接しようが険悪に成ると仰られてたから、一般的な尋問や脅迫や拷問で情報を引き出す程度なら影響は皆無との事で、何かするなら時空管理局勢にするといいと思うよ」

 

 一応デビット達にも向ける言葉ならばもう少し丁寧に喋るべきかと思ったすずかだったが、暗に、[私は貴方達を家族や身内も実験に巻き込むマッドサイエンティストか其の予備軍と思っています]、と言っているのと同じな為、敢えて姉である忍に対する言葉遣いですずかは説明した。

 そしてすずかの其の辺りの心遣いを理解しているので、デビットはすずかが会話の流れを忍へ切り替えたことを特に不快と思っていなかった。

 

 

 会話が途切れ、数秒程場に沈黙が降りる。

 

 だが、黙って過ごせる程余裕の在る状況でないことは忍達も理解している為、誰が何の話を切り出すか視線で問い掛け始める。

 が、其の答えが出るより早く、気を利かせたアリサが話し始める。

 

「あ、恭也さん。時空管理局と話し合うなら御両親……と言うかなのはの保護者を呼んどいた方が良いと思いますよ?

 って言うか、呼んどかないとなのはが話を引っ掻き回して話が進みませんから、直ぐに呼んで下さい。

 

 後、先回りされて接触されると面倒なんで、護衛と牽制を兼ねて一足先にあたしは向かうから、車寄越すように手配しといてね。鮫島」

「はっ」

 

 突如話しかけられた鮫島だったが、自分のするべきことと出来ることを明確に理解している彼は慌てる事無く即座に返事をすると、急いで現在手配可能な優秀且つ信の置ける運転手を装甲車をも超える防御力を持った改造ロールスロイスを高町家に向かわせる準備に掛かりだした。

 対してアリサは、然り気無く雁夜が置いて行った袋の中に在る不思議物質で修復されたので概念武装化している自分の靴を取り出すと(すずかの靴も一緒に入れてある)、なのはが破壊した廊下の窓に歩きながらも振り返りつつ、今度は忍に一声掛ける。

 

「急ぎなんで窓から出入りしますけど、勘弁して下さいね」

「あ、う、うん。

 って、いや、此れ以上人が増えるなら此処だと手狭になるから、万が一暴れられるのも考えて食堂に場所を移すんで、玄関からの方が近いから」

 

 忍の話を聞きながらも床を汚さない様に窓枠の上に靴を置いて靴を履くアリサ。

 当然左右の靴を履くと窓枠の上に立つ事になるが、アリサの超絶防御力を知る此の場の面面は、心情では危険と思いつつも理性では全く危険でないと判断していた為、誰も危ないとは言わなかった。

 

 そして靴を履き終わったアリサは忍へ返事をする。

 

「分かりました。

 それでは片道だけですけど、窓から失礼しますね」

 

 そう言うとアリサは雁夜から貰った、期間限定でしか存在しない使い捨て宝具(概念武装)の髪留め用の輪ゴムで右側頭部の髪を一掴み程縛る。

 すると其の瞬間にアリサは恭也達だけでなく、機械からも全く捕捉されなくなった。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 雁夜が創ったにしてはD-ランクと低いが、その原因は魔術的にではなく科学的に捉えられないことを焦点に創った為に宿っている神秘が低いからであった。

 更に、長長と形を持って存在し続ければそれだけで時空管理局が煩いので、一定期間が経つと自壊するように細工を施した為、余り凝った機能を付けなかったことも低ランクである原因でもあった。

 尤も、万一奪われた際は無差別に周囲のオドやマナを吸い上げ、最終的にE10+の破壊を撒き散らす自爆機能はロマンだと言って雁夜はノリノリで付けはしたが。

 

 そして肝心の機能は、科学的捕捉を阻害する代わりに魔術関係へ対しては雁夜的に殆ど阻害しない為、B~Aの探査系魔術で捕捉される代物であった。

 尚、玉藻的には十分過ぎる性能なのだが、何だかんだで子供に甘く且つ少なからず話して情も沸いた上に凝り性の雁夜的には可也不満の出来であった。

 因みに其の遣り取りを見ていたアリサとすずかは、朧気ながらも雁夜と玉藻の関係を把握したのだった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 聖夜に貰うプレゼントにしては犯罪臭い上に物騒な機能が付いているが、少なからず自分を心配して創ってくれた実用品だと思うと、[それでもいいか]、と思う自分にアリサは苦笑した。

 尤も、其の時に漏れた苦笑はすずか以外には全く察知されなかった。

 

 そして、自分の苦笑どころか自分の存在すら認識出来ていないデビット達を見、改めて自分が凄い物を貰ったのだと理解したアリサは、そんな凄い品の効果が普通に効かなくなっているすずかを微妙な心境で見ながら一声掛ける。

 

「それじゃ後は宜しく」

「うん。いってらっしゃい、アリサちゃん」

 

 すずかの返事に笑みを返すと、アリサは窓枠が壊れない程度に蹴って飛び出した。

 

 理性は出来る筈無いと叫んでいたが、直感は出来て当然と平静に告げていた為、アリサは当たり前の様に十数mも跳躍出来た。

 そして、アリサは夜を舞う様に駆け跳ねて行った。

 

 

 

Side Out:月村邸

 

 

 

 







【作中捕捉】

・神霊魔術や神霊魔法の下り

 完全にオリジナル設定です。

 因みに魔術師達固有の単語と設定していますので、呪術や法術に分類される能力を神霊が使用しても神霊呪術や神霊法術と呼んだりせず、結果が奇跡と常識の何方に納まるかで神霊魔術か神霊魔法に振り分けていると設定しています。
 が、作者は呪術と神霊魔術は分けて表記しています。ややこしいので。


   ~~~~~~~~~~


・捕捉阻害の髪留め:E(E10+)

 科学的捕捉の阻害に重点を置いて創られた品。
 だが、魔術的にはB~Aランクの魔術で捕捉されてしまう。
 尚、放水や風の流れ等といった間接的な捕捉は可能だが、それも居ると認識した上でなければ対象を認識出来ず、更に認識の出来ない機械は何かしらの作動条件を満たしていたとしても作動しなくなる。

 因みに盗難された場合は周囲のオドとマナを無差別に吸い上げ、E10+の爆発を引き起こして自壊する恐ろしい機能が付いている。
 だが、真の恐ろしさはアリサとすずかの元からある程度離れると自動で作動することで、持ち忘れたり落としたりしても勝手に発動するという点であったりする。
 しかもこのことをアリサもすずかも知らない為、現在アリサとすずかは小型の核爆弾を複数携帯しているのに近い状態だったりする。

 周囲にとっては危険極まりない代物であっても、肝心の創った雁夜だけでなく携帯しているアリサやすずかにとっても全く無害なだけに、危険であると直感が告げることもない、非常に性質の悪い品。



・強化靴(アリサが履いていた靴):E

 裸足は不味かろうと思った雁夜がとりあえず修復した品。
 純粋に身嗜みの一部の品として修復された為、靴としての機能を強化された以外に特別な機能は無い品。
 尤も、靴の機能とは足の保護と歩行若しくは走行の補助なので、足場を強化して踏み足が足場を破壊しないような事が可能に成っており、空中や水中すらも足場にする事が可能。

 因みにアリサやすずかの衣服一式は全て同じ様な感じであり、全てアリサとすずかの成長に応じて可変したりする。
 尚、立派な概念武装(宝具)だったりするが、如何せんランクが低い為、雁夜だけでなく玉藻も認識し忘れており、特に自壊機能などが付いていないので髪留め等を期間限定品として創った意味を殆ど打ち消していたりする。


   ~~~~~~~~~~



【其の前の桜達 其乃參:原作五次キャスターは冬木外で神殿を築けば幸せに暮らせた筈】



 アーチャーが金魚の糞の様に揺れながら空中遊泳と呼ぶには些か早過ぎる速度で信徒に消えて行ったのをこっそり間桐邸から見送った者は、呆れの多分に籠もった言葉を漏らす。

「無様ね。
 あんなのが三騎士に名を連ねるかと思う頭痛がするわ」

 そして其の言葉を言い終えると窓から離れ、雁夜が創った機織機に戻り、静かに再び機織を始める。
 古めかしいローブに神秘的な顔立ちも相俟り、機織をする様は一枚の絵画の様に美しかった。

 だが、雁夜が創った品が普通である筈はなかった。



▲▲▲▲▲▲

 その機織機は、雁夜が玉藻と共に最高傑作とも言える桜の護身宝具を創り上げる前迄は頻繁に使用されていた物であり、魔力や生命力だけでなくA~A+ランク以下の宝具を原料にして機を織る機械であった。
 当然徒機を織るだけである筈もなく、出来上がった布は原料に比例した神秘を宿しており、更には裁縫と言うか製法された状態へ織る事も出来る為、繋ぎ目の存在しない衣服を作る事が出来た。
 しかも、自動回復や自動修復だけでなく、行動強化や対魔力や気配察知や気配遮断等の機能も付加する事が出来た。

 尤も、星の力を借りて織り上げる為、最低でも冬木の間桐邸並の地脈に接続しなければ使用する事が出来なかった。
 更に、只で星の力を借りられる筈もないので、一織毎に最低でもオドの魔力を数値にして10は機織機を通じて星に焼べる必要があった(オドの魔力は誰の者でも構わない)。

 当然星の力を借りて織り上げる以上、出来上がる品は全て神造兵器であるという、魔術師どころかサーヴァントの宝具という概念に全面戦争を吹っ掛けるような悪夢の一品であった。

▼▼▼▼▼▼



 凄まじく魔力を食う機織機で黙黙と機を織っていたが、突如携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
 自分の携帯の番号を知る者は2名だけで、何方の者であっても急いで応答するべき相手の為、直ぐに作業を中断して携帯電話を手に取る。
 念の為相手を確認すると液晶画面に、〔宗一郎 様〕、の文字が表示されており、其れを見た瞬間最速で通話ボタンを押して電話に出る。

「はい。メディアで御座います」

 急ぎながらも優雅さを無くしていない声音で自身の名を告げるメディア。
 だが、相手はそんなメディアの応対を気にした風もなく行き成り要件を告げ出す。

<今し方学園の監視装置から魔術戰の証拠隠滅(――――――業務――――――)を終らせた。直ぐに帰宅する>
「分かりました。通話終了後400秒以内に裏門の方に迎えの者が来る様に手配致しますので、到着する迄暫し御待ち下さい」
<分かった>

 それだけ言うと会話を打ち切る宗一郎。
 だが、電話は呼び出した側が後に切るのが礼儀と思っている宗一郎は、沈黙した儘メディアが電話を切るのを待っていた。

 そしてそれを理解しているメディアは、普段から要件だけ言えばそこで会話を打ち切って立ち去るのに電話だと豪く律儀に思えてしまうことを、微笑ましくも愛おしく思いながら言葉を返した。

「それでは今時分は危険ですので、くれぐれも御気を付け下さい」
「ああ」

 その言葉を聞くと同時にメディアの指が通話を終了する為にボタンを押そうとする。
 が、此の儘もう少し通話を続けて宗一郎と繋がっている時間が欲しかった為、数瞬ばかりボタンを押す指が止まる。
 だが、此の局面で甘えるのは宗一郎を危険地帯に放置する時間が長引くだけだとメディアは理解しているので、名残惜しいもののボタンを押して通話を終了した。

 通話を終え、通話時間が暫し表示された儘であったが、それも数秒で消えて画面が省電力状態へ移行した。
 そしてそれを見たメディアは会話の余韻が消えた為、直ぐ様メールで桜お抱え(全容は桜も把握していないが)の運転手へと連絡した。
 すると、僅か15秒で320秒以内に到着するとのメールが返信された(本来なら路上待機しているのだが、周囲の迷惑になると宗一郎が断っている為、如何しても到着迄時間が掛かる)。

 便利な世の中で堂堂とその便利さの恩恵に預かれつつ幸せを味わえている事に対し、メディアは生前も含めて過去最高の幸せの追い風が吹いていると実感しつつ、数週間前から現在に至る迄のことを思い返していた。



◆◆◆◆◆◆

 召喚された時……いえ、自分を召喚したゴミを見た時、死んでも男に……それも碌でもない男に振り回される自分の運の無さに辟易したわね。

 サーヴァントがどういう存在か理解していたのに、妬むは僻むは蔑むはで、見所なんて何処に無かったわね。
 しかも、キャスターのサーヴァントを召び出したくないならその可能性が在る触媒を使わなきゃいいのに、突出した縁の無いコルキスの文献なんて物を触媒に使ったりする辺り、魔術の腕以前に魔術師として3流という駄目具合。
 おまけに人間としての魅力も皆無な典型的な小悪党で、罵倒するくせに欲情するというどうしようもない屑っぷり。
 さっさと自害でもしておさらばしようかと思ったけれど、どうせ死ぬならせめて数えるのも馬鹿らしい程私に舐めた真似をしてくれた屑を殺すくらいの憂さ晴らしはしたかったから、身体を許してでも骨抜きにされたフリをして、如何でもいいことに令呪を全部浪費させた瞬間、嬲りに嬲ってから念の為に契約殺しの短剣で止めを刺してやったあの時は少しばかり気が晴れたわね。

 とはいえ、召喚者(現世への楔)を失えば消えるのは自明の理。
 しかもあの屑は常に私が自分に届かない程度にしか魔力を保有出来ないようにするという、宛ら呪いの様なことを続けていたから、魔力供給無しで現界し続けられる時間は恐ろしく短かった。

 小さな達成感を胸に、何故走っているのかも分からず只管走り回り、そして力尽きて倒れた時には、雨の振る中山道近くの林でひっそりと消えようとしている自分に思わず哂ってしまった。
 どうしようもない屑に罵倒された挙句好き勝手される為に召喚され、何とかその状態を打破したら何も出来ずに徒消えていくのは、余りに惨めで悔しかった。
 ささやかな願いどころかその欠片すら手にすることも出来ず、死んでも報われもせずに徒利用されるだけだなんて認められなかった。
 だから、先ずは何としてでも生き延びてやると思ったけれど、思いとは裏腹に私の身体は今にも消えてしまいそうで、魔術どころか立ち上がることはおろか、碌に考えごとをすることすら出来なくなっていた。

 だけど、そんな朦朧とする意識の中、宗一郎様と出逢った。


 きちんと助けを求められたかも今となってはよく判らないけれど、それでも宗一郎様は当たり前の様に私を助けようと行動して下さった。
 だけど、その時桜さんとライダーが山門から下りてきて、最早これまでだと思った。

 消滅寸前だからなのか接近される迄気付かなかったけれど、サーヴァントの域を殆ど超越している人間の()()存在に、サーヴァントなのに神霊という出鱈目な存在が目の前に立った時、仮に万全の状態且つ神殿で迎撃戦繰り広げたとしても逃亡すら出来ないと悟り、最後に自分を助けようとしてくれた存在に巡り逢えたことだけが救いだと思いながらも、僅かな救いをくれた目の前の運の無い男(――――――宗一郎様――――――)を命に代えても記憶を改竄して何処かへ飛ばそうとした。
 だけど、私がキャスターのサーヴァントと知っている筈なのに、あっという間に私はライダーのペガサスに宗一郎様と桜さん毎間桐邸へと運ばれた(後で知ったが、一応人目に付かない様に桜さんが呪術で細工していたらしい)。
 そして間桐邸に運ばれた私は驚愕した。

 現代どころか神代でも片手で数える程しか存在しないだろう規格外の霊地。
 先程ライダーが召喚した天馬を鼻で哂えるレベルの幻想種が跋扈し、更に精霊や神霊が其処彼処に存在していた。
 展開されている結界はサーヴァントを秒殺出来る恐ろしい攻撃性に加え、身内と認められれば死体にさえならなければサーヴァントですら数秒で全快する、信じられない類のモノ。
 生憎身内と認められたわけではなかったから結界の恩恵には預かれなかったけれど、それでも周囲のマナを吸収出来る様には調整してくれていたから、それだけで私はみるみる回復していった。

 僅か数分で消滅寸前の衰弱状態からある程度回復した後、これから如何するかという話し合いが行われた。
 其の話し合いで分かった事は、

1.此の場の三名は私が敵対しない限り私を害す意思は無いということ(ライダーは結構警戒していたけど)。
2.助けると決めたので、宗一郎様が私のマスターに成って下さるということ。
3.宗一郎様と桜さんは教師と生徒だけでなく、護衛者と護衛対象でもあるということ。
4.宗一郎様だけでなく、桜さんとライダーも聖杯を特に望んでいないということ。
5.宗一郎様の御住まいは改修と周辺調査で人が日夜溢れるので拠点には不向きになるということ。
6.優しそうに見えるが桜さんは線引きが明確で、私が敵に回れば容赦というか躊躇はしないということ。

だった。

 とりあえず色色と終わっている感じのする聖杯戦争のことよりも、当座の拠点の問題を如何するかと思案していたら、桜さんが分邸(寧ろ本邸?)の管理者として宗一郎様と一緒に住み込まないかと言い出した。
 更に、依頼する以上は賃金の支払いは当然の上、間桐邸の魔力や設備をある程度なら好きに使用して構わないとすら言ってくれた。
 そして其れを聞いた瞬間、一も二もなく私は食い付き、生徒が家主である家に住むのは教師として如何かと宗一郎様が仰られていましたが、桜さんが正式な契約書を交わせば問題無いと言われると、勤められている学園のオーナーが実は桜さんであるとお知りだったという事もあり、宗一郎様は御納得して下された。

 賃貸契約や私の就労契約も無事に終わったけれど、間桐邸の魔力や施設の使用といった重要なことをギアスも交わさず口約束だけで終らせたことを少なからず甘いと思った。
 けれど、不振な真似をすればライダーどころか至る所に存在する幻想種や精霊や神霊が一斉に牙を剥くと分かり、更に間桐邸自体が牙を剥くと遅蒔きながらに気付いたから、恩も在るし待遇も極めて厚いみたいだから不穏な考えはしないことにした。

 とりあえず何時迄も外で話し込むのも如何かということで、私達が住むことになる分邸(普通なら本邸)へと移動した。
 途中、30mは在るだろう狼や、九つの頭を持つ龍や、見た目は人に似ているけれど頭に角が生えている存在を見たりしたけれど、全力で眼を合わせないようして関わらないようにした。
 そして私達は何事も無く(?)分邸に着いた。


 辿り着いた分邸は、張り巡らされた術式以前に構造材からして魔法の域の神秘を湛えており、即座に神域に類する場所だと理解出来た。
 事実、此の間桐邸の殆どは完全に人外の魔法使いと最高位の神霊が、悪乗りしながらも凝りに凝って創り上げたらしく、殆どが規格外の物ばかりだった。

 驚きながらも私達が住む部屋に移動する途中、一応桜さんの部屋になっていけれど如何見ても倉庫に成り損なった空き部屋へ案内され、鍵が開いていれば指定された範囲迄は勝手に入って置いてある物を好きに持って行って構わないと言ってくれた。
 その言葉は有り難かったけれど、普通に置かれている品の殆どが宝具なのは、はっきり言って眩暈がした。
 何し9割以上がBランク以上で、恐ろしい事にAランク以上は4割前後を占めているという、神秘がゲシュタルト崩壊起こしそうな光景だったのだから。
 しかも、大半が日用品に見えるという、製作者というか創造者の正気を疑う物が大量に在ったわね。

 何度も使える上に使えば口の中を綺麗にする、Bランクの爪楊枝。インクどころか服や肌の染みすら綺麗に消せる、Aランクの消しゴム。雨どころか大海嘯でも平気な、A+ランクの雨傘。200km先まで声が届く様に拡声する、A++ランクの広域破壊メガホン(相手の声は聞こえない)。etc etc。
 ……目録を見せられた時、此の宝具を創った創造者の桜さんへの溺愛が透けて見えたわね。大半が護身用だし。

 驚愕しつつも呆れと感心を抱いた儘倉庫の成り損ないにしか思えない桜さんの部屋を後にし、暫く桜さんの後を付いて行くと、遂に私と宗一郎様がこれから住む部屋へと案内された。
 其処は家具どころか設備すら無い空間で、床と壁と天井は純白というよりも真っ白で、しかもはっきり物が見えるのに影が出来ないという、少なからず気分が悪くなりそうな部屋だった。
 尤も、部屋の主が壁や床や天井の色や謎の発光を調整したり、他にも間仕切りや扉や窓や縁側すらも好きに決める事が出来るらしいけど、術者ではない宗一郎様は上手く行えませんでしたね。
 なので、桜さんは宗一郎様を部屋の主にした儘、宗一郎様の許可が在れば私が部屋の調整を出来るようにしてくれたので、総一郎様の御要望通りに部屋を間仕切りしていった。
 ……水場や風呂場や調理場も間仕切りと同じ感覚で出せたのは驚いたけれど、此の頃から悟りを開けてきたような気がするわね。
 徒、流石に家具までは出なかったから、其の辺りは後日どうにかすることになったわね。

 そして、何時の間にか消えていたライダーが、寝具一式を3組持って現れたのよね。
 真面目なのか無関心なのか判らない顔で、普通サイズ2組か、二人用サイズ1組の何方を選ぶか聞いてきた。
 正直、あの時程ライダーをぶっ飛ばしたと思った事は無かったわね。


 結局、普通サイズの2組を選んだものの、再契約パスやラインの問題とかで、其の日は片方しか使わなかったけど、初対面の者同士の寝具に同衾用のを提案するなんて、デリカシーの無さ的に女として終っているわね。見た目も大女だし。

 そして色色幸せな一時を過ごして夜が明けた頃、再び宗一郎様と一緒に桜さんと話し合うことになった(ライダーと言う置物が在った気はするけれどね)。
 尤もその時の話は、間桐邸の結界に一応身内として登録されたと言うことと、間桐邸で暮らす上での注意事項と、間桐邸に住むことになったことを対外的に如何説明するかと言うことだけで、少なからず肩透かしを食らった感じだったわね。
 後、頻繁に分邸(此処)じゃなくて本邸の方に訪れるという、宗一郎様の御同僚の方と其の教え子の方は身内だと教えられたわね。
 教え子の方の士郎とか言う坊やには特に知らせる必要がないから私達の事は知らせなかったらしいけれど、大河さんは宗一郎様の御同僚だからという事もあって可也詳しく……というか殆どその儘事情を説明していた時は焦ったわね。

 何しろ、

1.行き倒れの私を偶然発見した宗一郎様が助け、そして世話になっている寺の自室で介抱しようとするものの、私の衰弱具合と明日の午前中から始まる寺の改修作業を考えれば余り賢い選択ではないので如何したものかと悩んでいると、寺の住職と改修のことについての話を終えての帰宅途中の桜さんと遭遇し、事情を聞いた桜さんがとりあえず自宅に招いて休ませながらも事情を聞く。
2.私が遠い所から縁の在る男に()び出されたものの、男は絵に描いた様な屑だった為、何とか逃げ出したものの無一文の上にビザも無い状態になってしまう(初めから無いけれどね)。
3.とりあえず桜さんがビザ不携帯の問題をどうにかする迄は宗一郎様が身柄を預かる為、1~2日は急遽御仕事を御休みになられ、私の看病と監視を同時にこなすことになった。
4.無一文だと故郷に戻れないが、抑屑男以外に親兄弟どころか親類縁者が居ない以上、折角だから安全な日本で働きながら暮らしていきたい私の願いを聞いた桜さんが、帰国せずに日本の国籍を得られるように動いている。
5.宗一郎様の見る眼を信用し、桜さんが分邸の清掃と管理を持ち掛け、私が其れを受諾すると、その対価に一足早く部屋を貸してくれた。
6.だが、保証人もいない者に住み込みで働かせるには問題が在るということで、宗一郎様が保証人になり、更には私が回復する迄は自分が介抱するので、暫く厄介になるということ。

と、殆どその儘な上に嘘が一切混じっていない説明なのだから。
 しかも、普通なら誰も信じない様な胡散臭い話に出来上がっていたから、説明と言うか説得失敗かと思った。

 だけど、大河さんは度を超えて良い人だった。というか、純粋だった。
 いや、寧ろ人を見る目が有る人だった。
 何しろ、桜さんは嘘を言うくらいなら初めから話さないから、桜さんが話す以上は嘘じゃないと言われていたし、宗一郎様は自分が嘘の片棒を担がされることを決して許容するような不誠実な方ではないと断言され、あの説明を疑うことなく信じられた。

 しかも、私に親身に接するだけでなく、全く色恋に感心が無さそうな宗一郎様を私がお慕いしていることを見抜き、様様な情報誌だけでなく助言も頂いた。
 お蔭で衰弱から回復しても同棲することを不審がられないどころか、一昨日、簡素な……本当に簡素な…………だけど凄く実直で宗一郎様らしい言葉でプロポーズをして下さった。
 ……余りに嬉しくて翌日になっても気持ちが収まらなくて呆気無く大河さんに悟られたけれど、自分の事の様に桜さんとおまけのライダーと一緒に喜んでくれたのは嬉しかったわね……。

 ただ、三月と四月は卒業と進級と入学で忙しいので、式を挙げるのは七月か八月辺りになりそうだと仰られたのが少し残念だった。。
 だけどそれも、大河さんの、時間が在る時に式と一緒に新婚旅行もする方がロマンチック、という主張を考慮して式を約半年先にしたと聞いて、残念とかいう思いは一瞬にして吹き飛んだ。そして本当に大河さんには頭が下がる思いだった。


 寡黙だけど実直で誠実な宗一郎様の御傍に居られ、素晴らしい友人に恵まれ、恩人(人?)は富と権力を持ちながらも欲に染まっていない聡明な雇い主でもあり、しかも安全な土地に我が家が在り、水も食料も不自由が無いし、着る物どころか娯楽品も充実している。
 ……正しく我が世の春よね。

 はっきり言って聖杯なんてもう全然興味無いわね。
 桜さんがライダーの分だけでなく私の分の魔力迄用意してくれたから、聖杯の完成を目指して襲ってくる奴がいたら、桜さんが渡してくれた高位の神霊すら縛れるギアススクロールで契約を交わして私の分の魔力を渡せばいいだけだし、抑此処に攻め込む馬鹿がいるとは思えないから、適当なタイミングで教会に魔力を持って行って聖杯戦争離脱を宣言すれば、態態桜さんの保護下に在る私達に敵対する馬鹿は現れない筈だから、聖杯戦争も気にしなくて構わないという素敵さ。
 …………幸せの風が吹き荒れ過ぎて飛ばされている感じがするわね。

◆◆◆◆◆◆



 召喚された当初から暫くは碌でもなかったものの、其の後は生前の不幸の帳尻合わせの如く禍福が続いている事に、正気でなかったとはいえ殺めてしまった家族のことを思いだし、キャスターは少なからず複雑な気持ちになった。
 だが、どれだけ自分が幸せになっても決して忘れないと心に誓い、キャスターはそっとの傷だらけの記憶を大切に胸の内に仕舞い直した。


 物思いに耽っていたキャスターだったが、気付けばもう直ぐ宗一郎を乗せた車が此処から一番近い間桐邸の塀に幾つか在る勝手口という名の門に到着する時間だったので、慌てて遅い晩御飯の準備に掛かった。

 本当ならば勝手口迄向かいに行きたいキャスターだったが、宗一郎が従者の様な対応を望んでいないということと、大河から、〔女もだけど男も家に帰った時にご飯と一緒に出迎えてくれたら凄く嬉しい〕、と言われていたので、キャスターは晩御飯の準備をしながら宗一郎の帰りを待つことにした。



 尚、キャスターが作っている晩御飯は、切って煮込むだけで美味しくて様になる、冬の定番とも言える鍋だった。

 徒、鍋に限らず男の喜ぶ料理のチョイスは全て大河であるものの、料理の教授は全て桜であった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漆続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 果たして此れは前話(なのは)へのフォローなのか、それともアンチ(止め)なのか……。





 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

  Side:高町 なのは

 

 

 

 あたしが小さとき、お父さんがお仕事で怪我をした。

 お家だと治らないらしいから、病院で治す事になった。

 だけど、お父さんが病院にいるあいだはお仕事ができなくなるから、かわりにお母さんがお仕事をがんばるようになった。

 

 そしてそれからはいつもお母さんは夜おそくまでお店にいるようになった。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは学校が終わるとお店に行って、夜おそくなる前にお店から森に行って二人でなかよく剣の練習をしていた。

 だからあたしはいつも一人だった。

 

 朝、頭が痛くなるめざまし時計の音で起きると、きがえて一階におりる。

 顔をあらってテーブルに行くと、用意してある朝ごはんをレンジであたためて食べて、食べ終わったら台所にはこんで水につける。

 むかえのバスが来るまでの時間はテレビを見たりしてじっと待つ。

 むかえのバスが来たら家を出て、カギを閉めたあとにようち園へ行く。

 ようち園が終わって帰ってきても、だれもいないから自分でカギを開けて家に入る。

 着替えてテレビをつけてボーっとしてると、暗くなった頃に一度お母さんがご飯を作りにくるけど、ご飯だけ作るとすぐにお店の方にまた行くから、朝と同じで一人で夕ご飯を食べる。

 食べ終わってまたボーっとテレビを見てると、お兄ちゃんとお姉ちゃんが帰ってきて、すごいいきおいでご飯を食べると、すぐに二人で剣の練習にいく。

 そして誰もいないから家のいろんなところの電気をつけたままにして一人で眠る。

 

 たまにお店がお休みの日は、みんなでお父さんのところに行く。

 だけど、みんなお父さんとばっかり話してつまらないから、いつもすぐに眠っちゃう。

 だからお父さんのところに行った日は夜に目がさめて、そのままぼんやり朝を待たなきゃいけないから、お父さんのところに行くのはあんまり好きじゃなかった。

 

 本当はいっしょにいてほしいし、お話もたくさんしたかった。

 けれど、みんながいつもいつも、【良い子にしててね】、って言うから、わがままを言わないでずっとがまんし続けた。

 そしていつもいつも、【良い子にしててえらいね】、ってお母さんたちがほめてくれるから、あたしは良いことをして褒めてもらえるようにがんばった。

 

 それかららお父さんが病院からお家で怪我を治せるようになるまで、ずっと同じ毎日をくりかえした。

 そしてお父さんがお家ですごすようになると、お店を大きくしてお父さんもお母さんといっしょのお仕事をするため色々じゅんびが始まった。

 だけど、それでもあたしは今までどおり良い子でい続けた。

 そしてそれは小学校に入っても当然続けた。

 

 

 小学校に入ってしばらくすると、泣いていること笑っている子を見かけた。

 よく分からなかったけれど、笑っている子が泣いている子の大切なものをとっているのは分かった。

 そして良い子なら泣いている子の味方をしてあげなきゃいけないから、あたしは直ぐに笑っている子をたたいて怒った。

 

 笑っている子は良い子じゃなくて悪い子だから、良い子のあたしがたたいて怒ってあげて、それから笑っている子に取られていた物をとり返してあげた。

 そしたら笑っていた子も分かってくれて、それから笑っていた子(アリサちゃん)泣いていた子(すずかちゃんは)はあたしのともだちになった。

 

 

 3年生になったとき、助けをよぶ声にさそわれて歩いていると、その日、あたしは魔法を手に入れた。

 

 フェレットのユーノ君が、このままじゃ大変なことになるから、あたしに助けてって言うから、あたしは良い子だしみんなをたすけてあげるためにもユーノ君を助けてあげることにした。

 最初は上手にに使えなかった魔法もすぐに使えるようになったから、つぎつぎに危ない物(ジェルシード)を見つけて封印できるようになっていった。

 

 だけど、良いことしているあたしを邪魔する黒い子がでてきた。

 しかも、管理局とかいう人たちがでてきて、あたしが集めたジュエルシードを取っていった。

 良いことしてたあたしをほめてくれたから悪い人たちじゃないと思ったけど、危ないからもうユーノ君のお手伝いはやめなさいって言われたのはがまんできなかった。

 良いことしているのに何もするなって言われてもなっとくなんかできないし、ユーノ君を手伝うって言ったし、黒い子を怒ってやれば友達になってやれるかもしれないから、あたしと管理局の人たちは一緒にジュエルシードを探すことにした。

 

 そして、あたしはジュエルシードをかけて黒い子と戦った。

 いっぱい魔法の練習をしたから、前とちがってジュエルシードを取られたりせず、きちんとお話しと怒ってやることができた。

 手のかわりに魔法で叩いたけれど、起きた黒い子は暴れたりもしなかったから、手じゃなくて魔法で怒ってあげても大丈夫なんだって分かった。

 

 それからフェイトちゃん(黒い子)のお母さんが一番悪いって分かって、みんなでお話しに行った。

 だけど、やりたい事だけやって虚数空間に逃げられて、まるであたし達が負けたみたいな終り方になった。

 

 全部が終わったらフェイトちゃんとリボンをこうかんして、アリサちゃんたちのようにフェイトちゃんもあたしのともだちになった。

 やっぱり叩いて怒ってあげて、何が悪いのかお話してあげると、みんな分かってくれるんだって分かった。

 

 

 冬になったころ、あたしはとつぜん攻撃された。

 

 悪いことなんて何一つしていないのに赤い子に攻撃されておどろいたけど、フェイトちゃんみたいに事情があるのかもしれないから、お話すればなかよくなれるかもしれないって、がんばってお話しようとした。

 なのに、よく分からないデバイスのせいであたしはピンチになって、あんまりお話しできなかったし、仲間の人もいたみたいだった。

 だけど、ギリギリであたしはフェイトちゃんたちといっしょに戦うことができたから、何とか互角に戦うことができた。

 けれど、見えないところからとつぜん攻撃を受けて、結界を壊して追い払うしかできなくてお話できなかった。

 

 攻撃を受けているのに無茶してみんなのために結界を壊したから、しばらく休まなくちゃいけなくなった。

 だけど、その間にデバイス(レイジングハート)に赤い子の使っていたデバイスと同じ機能を付けてもらうことになったから、アースラで休んでたり学校に行ったりしてのんびり休んでいた時間はむだにならなかった。

 それに転校してきたあたしのともだち(フェイトちゃん)を、他のあたしのともだち(アリサちゃんとすずかちゃん)にしょうかいしたりする時間もできたから、ある意味ちょうど良かった。

 そして、休みが終わると同時にレイジングハートに赤い子達のデバイスと同じ機能が付いて返ってきた。 

 

 同じ機能があるデバイスを持ったあたしは、今度は追いつめられたりせずに戦えた。

 だけど赤い子はぜんぜんお話してくれないどころか、あたしを悪魔と言った。

 でも、お話さえできればあたしが良いことをしてる良い子だって分かってくれるから、[悪魔でもいいよ]、って言い返した。

 そしてお話しするために怒ってあげようと思ったけど、仲間の人に邪魔されて逃げられた。

 

 三度目の戦いもお話できずに終わると、それからしばらくは特に変化も無いまま時間がすぎていった。

 だけど、クリスマスイブの今日、すずかちゃんのともだちのはやてちゃんて子のおみまいへいっしょに行ってあげると、赤い子(ヴィータちゃん)たちと出会った。

 本当はすぐにお話したかったけど、魔法の使えないアリサちゃんたちがいるから、とりあえずアリサちゃんたちがいなくなるまでじっとすることにした。

 そして、アリサちゃんたちがいなくなってようやくお話できると思ったけど、なんだかよく分からないうちに闇の書が暴走した。

 

 なんでいきなり暴走したのかは分からないけれど、とにかくこのままじゃあいけないと思って止めようとした。

 だけど、なんでかアリサちゃんとすずかちゃんが結界の中にいて、しかも攻撃されかけていた。

 急いで攻撃を防ごうとしたけど、攻撃が当たる前にいきなりアリサちゃんとすずかちゃんは消えちゃった。

 なんでも、辛うじて残像らしきものを補足した時間と場所から逆算して、フェイトちゃんの400倍以上の速さで移動したみたいで、多分その速度のまま結界を速さだけで突破した後、空気とのまさつで燃え尽きてしまったんだろうってリンディさんたちは言った。

 原因ははっきりとはしないらしいけど、アリサちゃんたちがかくし持っていたジュエルシードがたまたま発動したとか、中途はんぱな次元ひょう流に巻き込まれたとか、多分そんな感じの理由だろうってリンディさんたちは言った。

 だけど、アリサちゃんたちのことだけじゃなくて闇の書のこともあるから、まずは闇の書をどうにかすることにした。

 

 途中、フェイトちゃんが消えたりしたけど、はやてちゃんが攻撃してって言ったから思い切りはやてちゃんというか闇の書さんを攻撃したら、フェイトちゃんがどこからか出てきた。

 そしてようやく闇の書さんだけじゃなくて、はやてちゃんともお話できると思ったとき、あの二人が現れた。

 

 

 殺傷設定の魔法を使いながらいきなり現れて、みんなだけでなくてバリアジャケットが堅いあたしもひどい目にあった。

 しかもいつもは人がいないところに住んでるから魔法を使い続けているみたいで、自分が魔法を使っていることにすら気付いてなかったみたいで、いっしょにいたケアリーさんって人が注意してようやく気付けるくらい、いい加減で無責任な魔導師だった。

 勿論アマテラスって人がいつも殺傷設定の魔法を使っていることを忘れていたケアリーさんも負けないくらいいい加減で無責任な魔導師だと思った。

 だけど、駄目な魔導師のはずなのに、二人の魔法は信じられないほどすごかった。

 

 詳しくはあとで知ったけれど、手抜きな感じで使った魔法で闇の書のバグじゃなくて問題点だけを取りのぞいて、転生機能とかはそのまま残っているっていうでたらめ具合らしくって、たとえ管理局に闇の書になる前の情報があっても復元や初期化が限界みたいで、壊れる前と壊れた後のいいとこ取りなんて管理局でもできないらしかった。

 しかも、闇の書から取りのぞいた悪い部分が形になって現れたけれど、ケアリーさんはあっと言うまに倒してしまった。

 管理局が切札の武器を使わなきゃ倒せないような怪物で、多分あたしでも倒せるかどうかは分からないすごい怪物なのに、あっさりと。

 原形が分からなくなるほど攻撃したわけでもないのに倒せてたから、リンディさんたちはデバイスとかへのハッキング能力が管理局を超えるほど高いか、それとも実力差に関係無く一撃で相手を倒せるようなレアスキルを持っているかの多分どっちかだって言ってた。

 ただ、どっちも見たことも聞いたことも無い能力だから、管理局から隠れていたのはまちがいないだろうとも言ってた。

 だけど、そんなことを抜きにしても、その時はあたしたちにいきりなり攻撃してきた悪い人でしかなかった。

 

 闇の書のバグを倒したケアリーさんはあたしたちが止める間もなくすぐに逃げたから、残ったアマテラスさんとお話しようとした。

 いきなり攻撃したり、管理局の人でもないのに事件へ勝手に関わったり、魔導師なのに管理局からかくれて管理外世界に住んでたりとか、悪いことをいっぱいしたんだから大人しくつかまってってお話しした。

 だけど、アマテラスさんは全然お話を聞いてくれないどころか、また魔法であたしたちを攻撃した。

 お話しようとしていたから止めたり防いだりもできなくて、不意打ちされたあたしはすぐに気絶した。

 けれど、あたしはほかの魔導師の人より凄く丈夫だから、すぐに目をさますことができた。

 

 目をさますとなんでなのかアースラの中にいた(………………ほこりとかで汚れていたからシャワーを浴びるのにちょうど良かったけれど)。

 そしてリンディさんと一緒にシャワー室からでると、あたしたちはエイミィさんからとんでもない話を聞かされた。

 

 

 殆どがアースラに通信したクロノ君たちとクロノ君のデバイスからの情報だけど、まず二人の名前が分かった。

 男の人の方はケアリー・マキリって名前で、すごい魔法が使えるだけの人だった。

 だけど女の人の方は、アマテラス・ダイニチ・ダキニテンって名前で、日本で神様っていわれている人と同じ名前だった。

 けれど、たしかヴィータちゃんたちの使っている魔法がはやっていた国の王様が教会で神様って言われていたはずだから、アマテラスって人も聖王って人と同じただの人間なんだから、お話すれば分かってもらえると思った。

 でも、レイジングハートやアースラに残っていたきろくや、クロノクンたちから聞いた話が、あたしの希望をこなごなにこわした。

 それは、フェイトちゃんたちだけでなくてアースラのたくさんの人たち、そしてお話してたあたしも殺していたということだった。

 

 ぜんぜんお話を聞いてもらえないことがこわかった。

 信じて攻撃しないでお話してたのに、あたしを裏切って攻撃したのが許せなかった。

 しかも、いくら仮死状態から生き返らせられるっていっても、すこしまちがえればそのまま死んでしまうっていう、すごく危ないことを平然とやっていたのも認められなかった。

 あと、アースラの切札とかいうのをむだ打ちさせたり、気に食わないあたしたちをアースラに入れておいだしたり、やりたいほうだいしていたことも認められなかった。

 ほかにも、勝手にアリサちゃんたちをつれだして巫女にして、自分たちの方の人間だから管理局は関わるなってことも認められなかった。

 

 二人とお話してまちがったことをやめさせるためにも、すぐに地球へ行こうとした。

 だけど、みんなしてあたしが地球へ行こうとするのを邪魔した。

 けれど、何とかフェイトちゃんとアルフさんは分かってくれたから、なんとか闇の書とはやてちゃんを捕まえに地球へ行こうとしている人たちに割り込んで地球へ行くことができた。

 でも、かんじんのアリサちゃんたちの場所が分からなくて、電話をかけても電源を入れてくれてないからつながらなかった。

 だから、仕方なくまずはさっきまでいたところに行ってみることにしたけど、アリサちゃんたちもいなければ手がかりも何も無かった。

 どこを探せばいいのか分からなくてしばらくなやんでいたけれど、とりあえず忍さんやアリサちゃんのお父さんとかにアリサちゃんたちがどこにいるのかきけばいいと思いついた。

 そしてそこから近いすずかちゃんの家に行こうとして、あと少しですずかちゃんの家につくと思ったとき、いきなり出てきたユーノ君とクロノ君があたしの邪魔をしだした。

 

 あたしじゃ勝てないとか、あたし以外も危ない目にあうとかいってたけれど、勝負もしてないのに勝てないなんて分かるはずないし、あたしが勝てばだれも危ない目にあわなくなるし、こんどはお話しながら怒るから、さっきみたいに不意打ちされないから平気だっていった。

 だけどユーノ君達はあたしが行ってもお話にならないっていった。

 ユーノ君たちじゃあの二人とお話できなかったんだろうけど、あたしなら今度は油断しないからお話できるっていった。

 なのにユーノ君たちは信じてくれなくて、あたしの邪魔をしつづけた。

 だけど、フェイトちゃんとアルフさんが助けにかけつけてくれて、何とかユーノ君たちをふりきってすずかちゃんの家に向かうことができた。

 

 すずかちゃんの家にすずかちゃんとアリサちゃんがいるってフェイトちゃんが教えてくれたから、少しでも早くあの二人とお話しするためにスピードを上げた。

 だけど、あと少しですずかちゃんの家に付くってときに、今度はどこからか出てきたヴィータちゃんたちがあたしの邪魔をしだした。

 3対4であたしたちが不利だし、時間がかかると倒したユーノ君たちがまた邪魔しにくるから、すきをついてフェイトちゃんたちにヴィータちゃんたちをまかせてすずかちゃんの家に突撃した。

 アリサちゃんたちが動いていないならフェイトちゃんから聞いたとおりの場所にいるはずだから、とりあえずその場所めがけて全速力で飛んでいった。

 窓やとびらがあるけれど、バリアジャケットを展開しているからけがもせずに通ることができた。

 おかげでスピードを落とさずたどりつけた。

 

 アリサちゃんたちが動いていなかったから1回で見つけられたから、なんとかさがし回らずにすんだけど、そんなことをよろこんでいるひまは無いから、急いであの二人がどこにいるのかアリサちゃんとすずかちゃんにきいた。

 なのに、窓やとびらを壊したこととかをもち出してあたしのお話をきいてくれなかった。

 いまはあぶないあの二人が魔法を使えるあぶないじょうたいで、なにかあったら窓とかとびらじゃすまないくらいにいろいろ壊れるからそんなことを気にしている場合じゃないっていうのに、そんなことも分かっていないアリサちゃんたちにイライラした。

 だけど魔法が使えないアリサちゃんたちにどうやって魔法のことを分かってもらえばいいのか分からなくてなやんでいたら、いきなりお兄ちゃんが出てきた。

 

 すっかりわすれてたけれど、イヴは忍さんといっしょにすごすってだいぶ前からいっていたから、すずかちゃんの家にくればお兄ちゃんとあっちゃうかもしれないのは当たり前だった。

 けれど問題なのはおにいちゃんとあっちゃったことじゃなくて、魔法どころか今なにがおきてるかもしらないお兄ちゃんに、どうしてあたしが今ここにいて、そしてなにをしているかを説明すればいいのか分からないことだった。

 説明できなきゃ良いことしているのに門限をやぶっている悪い子って思われちゃうから、何とかして説明しなきゃってかんがえた。

 だけどお兄ちゃんはあたしがお話しようとする前に勝手にあたしを悪い子だってきめてかかった。

 魔法のことをしらないお兄ちゃんとお話しても分かってもらえないかもしれないし、そんなことをしているあいだにあの二人がどんなことをするか分からないから、お兄ちゃんには少しバインドをかける(まっててもらう)ことにした。

 するとお兄ちゃんだけじゃなくて忍さんとかもおどろいていたけれど、後になればあたしのやったことはいいことだったんだって分かってもらえるから気にしないことにした。

 そしてようやくあの二人とお話できるとおもったのに、あの二人をよべるすずかちゃんがまるであたしが魔法でむりやり言うことをきかせている悪い人みたいに言って、あたしの言うことをきいてくれなかった。

 ……やっぱり言葉だけじゃなにもつたわらないから、フェイトちゃんのときみたいに全力全開でぶつかってみることにした。

 

 外じゃないから魔力を集めるのに時間がかかったけれど、あのときに負けないほどの魔力をきちんと集められた。

 あの二人とお話して分かってもらいたいことや、それを邪魔するすずかちゃんやお兄ちゃんにあたしがなにをしているのか分かってもらいたいことや、あたしがみんなをまもってあげようとしていることを分かってもらいたいこととか、そんな気持ちを集めた魔力にこめて、おもいっきりスターライトブレイカーをうった。

 

 集束も制御もバッチリだし、なにより距離がこれより近かったら魔力を集めるのに邪魔になるかならないかのギリギリで、本当に全部が全部バッチリだった。

 しかもすずかちゃんは魔導師じゃないし動いてもいなかったから、ハズレるなんてありえなかった。

 そしてそのとおりで、あたしのうったスターライトブレイカーはすずかちゃんに当たった

 ……だけど、なんでなのか、すずかちゃんに当たると、あたしの魔法は、………………はじめからなにも無かったみたいに、消えた。

 

 

 …………あたしの全力全開が、あたしの気持ちが、………………あたしの魔法が、……………………まるであたしが魔導師じゃないって言っているみたいに消えたのを見て、なにも考えられなくなった。

 …………だけど、立ったままのあたしをほったらかしにして、すずかちゃんがかってにお兄ちゃんにかけているバインドをブレイクした。

 しかも手や足でさわるだけじゃなくて、息をかけただけでブレイクした。

 

 ………………なんで魔導師でもなんでもないすずかちゃんがあたしの魔法を防げたのかはぜんぜん分からなかった。

 けれど、そんなあたしを無視してすずかちゃんはレイジングハートを壊そうとしだした。

 しかも魔法が使えないどころかしりもしないお兄ちゃんをつかって。

 当然あたしはバカにされて怒ったけど、そのとき今までしゃべっていなかったアリサちゃんが急にしゃべりだした。

 だけどアリサちゃんがしゃべったことはあたしを馬鹿にするようなことだった。

 

 アリサちゃんたち…………というか多分あの二人の魔法はあたしたちの魔法とは違って、出来もしないことを魔法とよんでいた。

 しかも、そんな出来もしないことを魔法といってあたしたちの魔法を認めないだけじゃなくて、あたしたちの魔法はゴミだとかってに決めてかってに怒っていた。

 もちろんそんなことは認められないから、すぐにアリサちゃんたちだけじゃなくてあの二人にもさっきの言葉をとり消してもらうために、あたしの魔法はゴミなんかじゃないって証明しようとした。

 だけど、もう一度全力全開の魔法をうとうとしたとき、あたしはなぜかいきなり眠りながら倒れてしまった。

 

 

 

 そして目がさめたとき、あたしはすずかちゃんの家じゃなくて自分の家のリビングにいた。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

  Side:高町 なのは

 

 

 

 

 

 

Side In:Alisa(アリサ) Bannings(バニングス)

 

 

 

 …………あぁ……………………なのはが目を覚ましちゃったわね。

 …………SAN値が碌に回復してないから、正直、後84時間くらいは気絶しててほしかったわ。

 何で大人……って言うか社会人と話してSAN値が奈落を目指すみたいに急激な右肩下がりするのよ?

 ………………思い返したらマジで眩暈がするわね。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 多分戦闘ヘリ並みの速度で士郎さん達の多分居る所(高町家)へ行ったけれど、ちょっと早過ぎたみたいで恭也さんの説明が終わっていなかった。

 だけど、恭也さんがどんな説明をしたのか知らないけれど、士郎さんが突如庭に降って来たあたしに対する追求をしないだけじゃなくて、桃子さんや美由希さんが追求するのを手で制しながら直ぐ様玄関に二人を連れて移動した。

 そして直ぐに迎えの車が来たから士郎さん達は車に乗り込んで、あたしは一緒に乗り込むんじゃなくて外に居た方が良いだろうと思って、車に並走したり追走したりしながらすずかの家迄移動した。

 

 すずかの家に着いた時には士郎さんが車内で桃子さん達にある程度事情を話していたみたいで、車に乗る前よりは混乱度合いが低く見えた(後部座席と運転席を防音ガラスで遮断する車を選んだ鮫島のファインプレイね)。

 お蔭で質問攻めに遭ったりせずにすずか達が居る筈の食堂へ向かうことが出来た。

 徒、士郎さんが確認の為と言ってあたしの手を取って、掌(親指と人差し指の間の柔らかい所辺り)に棒手裏剣みたいなのを突き立てようとした。

 けれど、当然あたしは無傷で、逆に某手裏剣みたいなのの方が拉げた。

 そして其の光景を見た士郎さん達は驚いたというよりは信じられないという顔をしていた。

 ……多分一般常識的に正気を疑う話の確認をしただけで、其れ自体は当然だと思うし余計な説明の手間が省けて楽だけど、あたし的にはティッシュで作った紙縒りを付き立てたみたいなことでショックを受けられると、疎外感を感じるというか鬱陶しいというか面倒臭いというか、……兎に角愉快な気持ちにはならなかった。

 

 最低限の事実確認を済ませると無言の儘移動を再開した。

 そして目的地の食堂に入る為に扉を潜った瞬間、予感じゃなくて予知とも言えるモノが自分に在る事をあたしは知った。

 まあ、予知した内容は、〔気合いを入れないと錯乱する程の事態に遭う〕、という、事前に知りたい類のモノじゃなかったけど。

 だけど、食堂に居る面面を見た瞬間、予知が無くても直ぐに同じ答えへと辿り着くのが分かった。

 ……何しろ虚空に在るウィンドウに、N2地雷の上でブレイクダンスを踊っていたバ艦長が居たんだから。

 …………おまけに何を考えているのか、話し合いに不要と思える面面が矢鱈と多かったし。

 

 クロノとかいう奴は現場責任者みたいだから分かるし、はやては何かの重要参考人みたいだから、多分監督者のクロノとか言う奴が此処に居る以上は此処に居るのも仕方ないし、時空管理局側で一番宗教関係に理解の在るユーノとかいう覗き容疑者も理解は一応出来る。

 だけど、はやての家族兼戦力らしい5人……て言うか5名は居る必要無いし、なのはを無条件に全肯定してるっぽいフェイトとかはもっと必要無い……て言うか邪魔だし、隣の頭悪そうな犬耳尻尾の女の人は勘だけどフェイトより邪魔に成りそうだと思った。

 …………何だか仮装大賞で、〔子供を大量に参加させれば取り敢えずはなんとかなる〕、的な考えが透けて見えて頭痛がしてきたわね。

 ………………あたし達を如何こうしても彼女達が出てくれば、呆気無く人的にも物的にも破産した挙句に蹂躙された末に滅亡するって分かってないのが丸分かりで胃痛がしてきたわね。

 ……………………と言うか、真面目な場に分別の付いていない奴を、数を揃えて威圧したり情に訴える為とかいう理由で同席させるとか、一体どれだけ交渉レベルが低いのか見当も付かなくて眩暈がしたわね。

 

 実際、取り合えず生首ウィンドウ以外は全員席に座って、それから一通り自己紹介した後、如何してはやて達も同席しているのかって話が出た時、クロノとユーノとはやては兎も角、残りは折角だからとかいう理由をバ艦長が吐いた時、事情の良く分かっていないはやてと折角だからと言われた奴等以外は盛大に頬を引き攣らせた。

 多分、クロノとユーノが眼で謝罪してなきゃ話し合いにすら成らず、時空管理局の奴等はすずかの家から叩き出されたと思う。と言うかあたしとすずかが叩き出した。

 

 まあ、話し合いが始まる前に、

1.神子グループ (あたし & すずか)

2.神子支援グループ (パパ & 鮫島 & 忍さん & 恭也さん)

3.心持ち神子支援グループの支援グループ (桃子さん & 美由希さん)

A.時空管理局グループ(自殺級のバカ) (バ艦長 & フェイト & フェイトのお供)

B.時空管理局側グループ(世間知らずの容疑者) (はやて一家)

C.時空管理局の関係者になってしまっているグループ(苦労人) (クロノ & ユーノ)

っていうグループに別れているのがあっさり浮き彫りになったのが収穫と言えば収穫かもしれないけれど、ぶっちゃけ自己紹介無しに話し合いをしても多分2分で判明する程度の情報だから、いっその事激烈に雰囲気を悪化させない為にも行き成り話し合いに移る様誘導するべきだったと思った。

 

 ……分別(常識)の在るパパ達と、分別の無い(自滅フラグを量産する)バ艦長達との間を取り持てとか、無理ゲー寸前過ぎて泣けてくるわね。

 一応彼処の男子2名が馬鹿じゃないのが救いだけど、肝心のトップが馬鹿という危険な馬鹿だって判明したから、マグマに水程度になりそうで泣きたかったわね。

 だけど、それでも話し合いと言えるか分からない、話し合いみたいなモノは始まってしまった。

 

 

 ……結果は当然と言えば当然な迄に散散だった。

 後、本気でフェイトは残念な子だって分かった。

 

 一体何処を如何すれば彼処迄なのはの味方になれるのか分からなかった。

 と言うより、はっきり言って気持ち悪いレベルの依存度だった。

 ……うん、引くわね。具体的にはマジ引きとドン引きの中間くらい。

 て言うか、折角大人しく気絶しているのに起こそうとしたり回収しようとしたり、凄くウザ……じゃなくて面ど……じゃなくて煩かった。

 まあ、其のお蔭と言うと腹立たしいけれど、時空管理局では高い魔力……と言うか高レベルの術式を操れれば普通に一人前と認めて子供でも時空管理局に籍を置けるらしいし、嘱託とは言え何時でも立身出来る状態らしいなのはは時空管理局的に大人らしいから、保護者の権限(と言うか義務だけど)で保護と言う名の拘束をするのはおかしいと言っていたから、地球とは文化や風習が違うと知れた。

 ……一応ソレを聞いて、子供が危険な仕事に就いている事に納得はしていないものの理解を示したあたし達を見て、此れ幸いとあたしとすずかへ自主的な時空管理局への投降をフェイトが進めてきた時、遂にパパ達の堪忍袋が裂け始めた。

 

 国交すら存在しないにも拘らず、一方的に自分達の法を……刑法だけを当然の様に適用させようとするとか、普通に考えれば植民地以下としてしか見ていない振る舞いだし、そんな発言を止めさせないトップを見て、話し合いにすら成らないなら叩き出して塩を撒いて後に此れからの事をあたし達だけで決めると言った。

 そしてそれは桃子さん達も同じらしく、場の雰囲気が激烈に悪化しだした。

 ……まあ、時空管理局と抗争状態に移行したら、最悪煩いという理由だけであたし達毎消し飛ばされかねないことをあたしとすずかと男子二名は理解しているから、懸命に……一所懸命に取り成した。

 

 何とか取り成しを成功させて一息吐けると思ったけれど、フェイトはなのはのことを軽く扱われたと怒るし、それに反応してお供の方も怒るしで、折角取り成したのが無駄になり始めた。

 バ艦長は薄い笑顔で子供の言うことだから多めに見てほしいとか、子ども扱いするなら初めから参加させるなと言いたくなる台詞を吐くし、パパ達は交渉能力が無いどころか阻害するしか出来ない子供を同席させてたことに再び堪忍袋が裂け始める程怒り始めた。

 しかもフェイトを馬鹿にされたとお供の方がパパの胸倉を掴み上げて恐喝するもんだから、鮫島がお供を蹴り剥がしながら床に踏み付けつつ首に鏃と槍の中間みたいな鋭い万年筆を押し付けて無力化した。

 すると突如将来が心配な格好に成ったフェイトがお供の方……と言うか鮫島に突撃しようとしたけれど、そこに素早く恭也さんが割り込んでフェイトの突撃を食い止めた。

 だけど、フェイトの突撃を一瞬警戒した鮫島の隙を突いて、お供の方は空を飛ぶ術式で重心を踏んでいる鮫島から何とか逃げ出した。

 但し、床に踏み付ける前に鮫島がお供の首に巻き付けていた単分子鋼線を知らなかったみたいだったから、自分から縊殺と言う斬首死体に成り損ねた状態へと成った。

 

 多分食道や気管は斬れてるだろうけど延髄は斬れてない筈だから動こうと思えば動けるだろうから、鮫島が倒れて動かないお供に止めなのか確保なのかは分からないけれど追撃に掛かった。

 するとフェイトが怪光線……じゃなくて怪光弾を7つ鮫島に撃ち出したけど、キャッチボール並に遅い怪光弾は全部恭也さんと士郎さんと美由希さんが某手裏剣みたいなのを投げて迎撃した。

 徒、完全に迎撃出来たわけじゃなくて、某手裏剣が当たった瞬間に怪光弾が近くの通電物質目掛けて放電現象を始め、5つは机や椅子や床に向かって放電されたけど、残りの2つの内の1つはあたしへ放電し、もう一つは忍さんへ放電された。

 

 幸い空中放電したにしては不思議と電圧が異常に低いみたいで(テーブルクロスやカーペットの焼け跡を見る限り)、忍さんも電撃を受けた右腕……というか右半身を摩りながら無事をアピールした。

 けれど、電撃を受けた周辺が少なからず麻痺しているみたいで、右腕が軽く痙攣するだけで抱え込むことも出来ないでいた(あたしは当然平気)。

 そしてソレを見た恭也さん達は頭部や心臓付近に着弾すれば死にかねない危険な攻撃と判断したみたいで、多分隙在らばフェイトを殺害も視野に入れて無力化しようとしていたみたいだけど、その前に鎖と輪でフェイトは緊縛プレイの刑に処された(何故か不気味な程似合っていた)。

 

 ……あたしやすずかが動くとマジで滅亡一直線になりそうだったから限界迄傍観するつもりだったのをもう少しだけ早く察してほしかったけれど、何とか男子二人の対応が間に合った。

 一応お供の方もフェイトと同じく拘束して、アドバイザー兼ブレーキ役の筈の覗き容疑者に見張りを言い付けて食道から叩き出した。

 序にはやての家族も見張りの助力と言う名の厄介払いを気絶した儘のなのは毎したから、何とか再び取り成すことが出来た(なのはの扱いに何も言わなかったけれど、恭也さんが士郎さん達に何て言ったのかちょっと気になる)。

 一応あたしとすずかに怪光線を放ったのが残っているけど、少なくても滲み出る気品と知性から最低限の分別は在りそうだから、はやての護衛として残っていることにパパ達は特に反感を抱かなかったみたいだった。

 

 そして今度こそ話し合いが始まった。

 徒、初っ端から行き成りバ艦長が、

1.あたしとすずかの自主投降

2.あたしとすずかの減刑の為に彼女達を説得して投降させる

3.あたしとすずかの減刑の為に地球での活動拠点として保護者が協力と言う名の隷属を享受すること

と、ホザいてきた。

 

 ……まさか事情説明もしないで、しかも起きながらに寝言を歌う特技を披露しだしたのは驚いたわね。

 …………まぁ、バ艦長の上の奴等の言い分を一応言っておかなきゃいけないから、無駄だと分かっていても言うだけ言っただけみたいだけど、事前に説明していれば真っ黒男子が胃腸溶解で気絶寸前になる事態は避けれたと思うけどね。

 後、フェイトとかを同席させたのは、情に訴えて要求を飲ませようとしたというアピールを上にする為だったらしいけど、それで上の連中が納得するっていうんなら一体どれだけ上の連中は馬鹿なのか激しく気になったわね。

 それと、上の連中も頭痛がする程頭悪そうだけど、艦長(半笑)は艦長(半笑)で胃痛がする程に交渉能力が低いわよね。

 

 まあ兎も角、三度目の正直とばかりに漸くまともな話し合いに突入出来た。

 幸い話の方向性は初めから、【彼女達を刺激しない】、って決まっていたから、ある程度はスムーズに話が進んだ。

 徒、やっぱり宮使いの儘成らない所が在るらしく、彼女達を放置するという決定がなされる可能性はは現状ではほぼゼロらしく、仮に艦長(泣)が彼女達に対して何もアクションを起こさなかったとしても直ぐ様別の者達が彼女達を刺激する任務に就くだけらしかった。

 当然艦長(泣)としては自分達も巻き添えを食いかねない暴挙は食い止めたいらしいけれど、派閥問題どころか派閥を統括する上自体が確保乃至殺害の二択しか頭にないらしいから、如何足掻こうと無理らしかった。

 だけど、そこで素直に食い下がってしまえば巻き添えは必至な以上、何としても妥協点を引き出さなければいけないけど、如何足掻いても時空管理局から妥協点を引き出すのは大規模テロでも起こさない限り不可能で、仮に其の案を実行すれば戦力確保乃至敵対化を恐れて彼女達への干渉度合いが爆発的に高まるのは火を見るよりも明らからしいから、あたし達に妥協案を持ち掛けてきた。

 

 艦長(胃痛)の持ち掛けてきた妥協案は大きく纏めると、

1.自分達の所属する組織の馬鹿を一箇所に自分達が纏める

2.1が完了する迄あたし達は彼女達が行動に移らない様に只管鎮め続ける

3.1が完了した時に艦長(胃痛)はソレ以外の奴等は全員離脱させる

4.3が完了した後に彼女達に面倒な馬鹿達を一掃してもらう

と言うモノだった。

 

 軽く聞いた限りではあたし達に彼女達の説得という難易度激高な案件を押し付けている都合の良い妥協案に聞こえるけれど、あたし達が説得に失敗すれば舐めた案件を寄越した張本人として馬鹿達と一緒に消されるのはほぼ確実だから、あたし達の胸先三寸に命を賭けなきゃいけないことを考えると、舐めた要求とは一概に言えないモノだった。

 しかも、人海戦術で馬鹿を送られ続ければあたしとすずかは兎も角、ほぼ確実にパパ達は無事じゃ済まないから、その妥協案は悪くは無かった。

 徒、勝手にあたし達が決められる事柄じゃない以上は即答出来ないから、明日……と言うか今日はデートがあるらしいし、明日は其の続きかもしれないし、それに引越しと言うか新居に腰を据える為の期間や年末の所用、そして年明けの七日間を考慮して、話を通せるのは早くても半月後になるだろというのがあたしとすずかの予想だった。

 そして、余り詳しく艦長(憔悴)に彼女達の事情を話すのもマズイから、年末年始の1週間以内は面倒ごとを持ち込まない方が良いと言って、半月後に話を通すと言うことを強引に納得させた。

 それと、話は通すが説得しきれるかは未知数だともきちんと告げた(真っ黒男子の悟った顔で気絶し掛かっていたのが印象的だった)。

 

 妥協案の詳細をある程度煮詰めて一段落すると、遂に場を引っ掻き回し捲くったなのはに関する話に移った。

 なのはが魔法に関わるに至った経緯、それと同時に関わった事件、最近なのはが関わっていた事件、そして先程迄如何いう状況だったのか、……大まかながらも要点を押さえながら真っ黒男子が語った。

 途中で音声付映像も流れ、あたし達のSAN値に多大なダメージを与えながらも真っ黒男子は語り続けた。

 ……〔対話 = 武力行使 = 勝利 = 相互理解〕、とか言う図式が成り立っていると勘違いしているっぽい光景は、本当に絶縁するべきか真面目に悩んだ。……恭也さん達家族の方がもっと深刻に色色悩んでいたけどね。

 

 取り合えずなのはのへの注意と言うか矯正と言うか教育と言うか……、兎に角、未来で生み出されるだろう被害者を減らす為の対処は、倫理と道徳面からは保護者の士郎さん達が行い、法や規則面からは艦長(激頭痛)が行う事が決まった。

 それと、フェイトとそのお供は当然艦長(エリクサー所望状態)が如何にかすることになった。

 そしてはやてとその守護騎士達だけど、あたし達全員の意見としては、[現行法で罰する事は出来ない上、偶偶性質の悪い時限爆弾に取り付かれたにも拘らず利用しようとしなかった以上、喩え法整備が成されていても罪に問われないであろう以上、はやて自身を咎めるつもりも無ければ悪感情も一切無い]、という答えがあっさり出た(情報が正しく且つ不足無く伝えられていると言う前提でだけど)。

 但し、対象が蒐集出来るならばほぼ無差別に襲撃した守護騎士達に関しては別で、あたしも含めて全員差は在れどもなあなあで済ますつもりは無かった。

 

 喩え守護騎士達に殺意が無いとしても、襲われた相手がソレを理解出来るとは限らないし、死ななくても平和に暮らしていた時に突如襲われれば、其の後一生平和でも怯えて暮らすことになるようなトラウマが刻まれたかもしれない以上、知り合いの家族だからといって過分な減刑を特にパパ達男性陣は望んでいなかった。

 一人残されるはやてが可愛そうだからといって温い刑罰を科してしまえば法どころか治安が乱れるし、奉仕活動に因る刑罰の相殺などという被害者の神経を鑢で逆撫でする様な真似をすれば時空管理局内どころか民間にすら不和の種をばら撒く以上、きっちりとけじめを付けるのが一番だと言うのがパパ達男性陣の主張だった。

 特に、はやてが守護騎士達の罪を引き受けようとするのは全員揃って反対だった。

 何しろ、罪の無い者が自主的にとはいえ罪を引き受けられるという事は、自主的と判断されてしまえば脅したり操ったりして罪を肩代わりさせる事が出来るということに繋がるから、断じてするべきでないとあたし達全員は主張した。

 それに若しはやてが罪に問えてしまうなら、時空管理局に所属していない上に本人の与り知らないところで物事を進められていても、その関係者というだけで幾らでも裁けてしまえ、況してや奉仕活動で罪の相殺という前例まで作ってしまえば、戦力に成りそうな者を見つけてはデバイスとかいうのを秘密裏に押し付けてはデバイスの不法所持とか使用とかで簡単に戦力を確保しようとする馬鹿が湧くだろう以上、地球で時空管理局が更に馬鹿な真似をしない為にも見過ごすわけにはいかなかった。

 仮にはやてが時空管理局に所属した後に過去の行為を穿り返したりして裁くというならギリギリ許容範囲内だけど、所属もしてないのに罪に問われるなど在ってはならないことだとあたし達は断固として反対した。

 若し既にそういう前例が出来ているとしても、今回も認めてしまえば益益時空管理局は増長する上に地球も益益舐められてしまう以上、地球に住む者として譲る事は出来なかった。

 ……所属した後に過去の行為を穿り返して罪に問われるのも、攫った後に強制的に奉仕活動をさせるか国籍に準ずる物が無い不穏分子として処分されるかの二択を迫られる可能性も在る以上認めたくはないけれど、悪意を持って大暴れしている時空管理局に属していない者を捕らえた場合なども在るだろうから、其処迄反対するのは踏み込み過ぎだと判断したみたいでみんな黙っていた。

 

 結局最終的に、

1.はやて達は時空管理局に所属する

2.時空管理局に所属したからこそ所属前の事に対しての刑罰を受け入れる(此処を強調する様にしつこくあたし達が主張した)

3.実行犯の守護騎士達は改変された夜天の魔導書の仕様で過去の記録を引き継いでいない以上刑罰は今回の事件だけに限定する(恐らく懲役10年以下で、服役態度次第では1年以内の仮釈放も在りえるっぽい)

4.はやての護衛の官制人格は改変された夜天の魔導書の仕様上暴走は止むを得ないので罪には問われないが現在の夜天の魔導書に不備の有無の確認が終わる迄軟禁処置となる

5.巻き込まれただけのはやては特に罪は問われないが夜天の書の持ち主の為安全確認に付き合わなければならないのでほぼ軟禁状態と成る。

という方向に持っていく事が決まった。

 

 本来なら直接あたし達に関係無い以上は口出しすべき問題じゃないんだろうけど、今地球側が舐められれば相手が増長して余計なちょっかいを出す頻度が爆発的に増加するだろうからあたし達としては見過ごせなかった。

 そしてそれは艦長(リカバーリング所望状態)も同じみたいで、神殿を土足で荒らした挙句に神に唾を吐いた奴等に落ちる神罰の巻き添えになるのはなんとしても避けたいらしく、はやての若干勘違いした罪悪感の解消法をしない様懸命に説得していた。

 結果、第三者的見地からは割と普通に、だけど時空管理局の見地というか慣例的には大幅な譲歩をした結果になったらしい(普段の振る舞いが透けて見えるわね)。

 徒、漸く話し合いも終わったと思った時、はやてが何だかんだで好き勝手している彼女達の行動をあたし達どころか艦長(リレイズ希望状態)達が言及しないのか不満気に訊ねてきた。

 

 自分なりの責任の取り方に駄目出しを出され捲くった挙句、家族の殆どと此れから少なくても1年近く離れて過ごす破目に成ってしまったから、可也荒い語気ではやては訊ねてきた。

 だけど、彼女達の力の一端を見たあたし達の意見はすずかが代表して言った、〔正義とか倫理とか恋愛とか熱意とか勢いとか若さとか個人の尊厳や権利とか、所詮実力が伴わなければ塵同然だから、私達が彼女達に何かを押し付けたりすることなんて何一つ出来ないってことだよ。要するに分際や引際を心得ろってわけだよ〕、に全て含まれていた。

 ……可也身も蓋もない言い方だったけど、言いたい事は何とか伝わったぽかった。

 

 

 色色在ったけれど、終わってみれば実り在る話し合いに成ってあたし達は少なからず安堵した。

 そしていきなり解散じゃなくて、疑問解消の話し合いへ移った。

 

 一番初めに話に上がったのは、なのはが何故月村家の設備や備品を破壊したのか、だった。

 此れに関してはなのはが独断専行を起こす前辺りからの音声付映像を見せられて即座に疑問は解消された。

 ……自分が説得すれば彼女達を投降させられるって……如何いう思考回路を形成しているのかっていう謎が生まれたけれど、なのは的には善意のみで行動していたのは分かった。なのは的善意のみで動いていたのは分かった。作戦も計算も無く、なのは的善意のみで動いていたっていうのは解った。

 …………後、起きたらほぼ確実に又暴走するのも分かった。

 

 ………………ちょっと善意が鬱陶しい気がするけど、普通なら微笑ましい話で終わる筈だし、一般的に見たら頭ごなしに否定される考えでないのは十分分かっているし、普通ならその動機は褒めても問題無いとすら言えるんだけど………………如何せん相手が拙過ぎ。

 相手の堪忍袋の大きさや耐久力は不明だけど、常識で考えて蟻未満の脅威の存在……と言うか、如何足掻こうが群体ですら脅威にならないのにその群体の一部が相手と対等な認識の訳知り顔で説得するって、不快な羽音を撒き散らす蚊を叩き潰すみたいに何気無く殺されるイメージしか湧かないわね。

 ……うん。如何考えても死亡フラグにしかならないし、滅亡フラグとかを建てかねないなのはは何としてでも大人しくさせないと拙いわね。

 とは言え、物理的に大人しくさせるだけならあたしかすずかが張り付いていれば全然問題無いという理由で、艦長(少し安心した面がムカつく)達はあたし達になのはを押し付けてきた。

 

 ……易や、確かにあたしやすずかがなのはの首でも掴んでればなのはは振り解くことも出来ないし、デコピンでもすれば記憶もカッ飛ぶ勢いで意識を飛ばせるだろうけど、都合の良い生贄を見つけた顔をされて安心されるとスッゴイムカつくんだけど?

 一応、これから直ぐに彼女達だけじゃなくてはやての事も含めてしなきゃいけない根回しが逃げ出したくなる程ど在るらしいのは分かるし、そんな時に何時起きるか分からないなのはの傍で待ち続ける暇なんて無いだろうし、かと言ってあの戦艦にあたし達が行くと立場的に色色面倒なことになるのは明白だからあたし達がなのはの手綱を握ることになるのは分からなくはないんだけど、SAN値直葬されるのが分かってるだけにスッゴイ引き受けたくない。

 しかも、時空管理局との繋ぎ役として残されるのが覗き魔野郎というおまけ付き。

 ……殴った後に熨斗付けて返したい。

 

 まあ、結局言い包められて特大の爆弾を此方側が預かる事になった。

 しかも、パパや忍さんは此れからの事の話し合いで月村家に残った儘話し合いをするけど、士郎さん達はなのはが落ち着けるだろう家に連れて帰ってから家族会議をすることにした。恭也さんも含めて。

 だけど恭也さんが居なくなると当然忍さんの護衛が居なくなってしまうから誰かが就かなきゃいけないけれど、丁度すずかがいるから問題は解決してしまう。

 すると、なのはの暴走を抑える為に傍に付き添い続けるという、貧乏神すら哀れむだろう激烈な貧乏籤を引く破目になるのはあたしで、その時あたしは世界があたしに悪意を持って回っているような錯覚に陥った。

 

 デバイスとか言うのをなのはから離しておけばなのはは碌に術式を起動出来ないらしいけど、さっき迄の様子を見る限り洒落にならない程魔術(と言うよりも某チンプイの科法と言った方が正解でしょうね)に傾倒しているっぽいから、科法が使えないと錯乱してまともに話し合いに成りそうにないからデバイスとか言うのを隔離させるのは出来そうにないわね。

 と言う事は当然何とかに刃物状態で話し合いをすることになるんだけど…………うん、話し合いになるイメージなんて全然湧かないわね。

 疑いも無く自分を正しいとか善だとか思っている奴を説得するのって超難しいのに、その上相手が倫理上基本的に間違っていないとなると、もう無理ゲーの領域よね。

 なのはの考え……と言うか行動は基本的に倫理上間違ってはいないんだけど、あくまでソレは最善じゃなくて選択肢の一つ止まりで、相手に因っちゃ大間違いの上に地雷を踏み抜く最悪の選択に変化するのを分からせるのって、無茶無理無駄の三拍子よね。

 

 ……まあ、自分の根幹に関わらないことだから対なのは用鎮圧装置に成るのは無理矢理諦めるとしても、如何考えても高町家の修羅場に部外者があたしだけってメッチャ気まずいわね。

 覗き魔はなのはをソッチの世界に引き摺り込んだ当事者だから兎も角、あたしはなのはがソッチの世界で如何こうしているのに無関係と言っても良いくらい影響与えてない筈だから場違い感が半端ないわね。

 おまけにあたしが居るとなのはが彼女達のことで突っ掛かってきて話に成らない状態に成るだろうから、居ない方が良いんじゃないって状態に成りそうで余計居辛くなりそうで鬱になるわね。

 

 とはいえ、他に何か良い代案が在るわけでもないから、済し崩しと言うか流されてと言うかあれよあれよと言う間にと言うか、気が付けば高町家の居間で、しかもなのはの隣でスタンバる状態になってた。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 ……うん。現実逃避にもなりはしないわね。

 と言うか、逃避した先でしんどい目に遭ってたら逃避する意味無いわよね。

 …………ほんと、一体如何してこうなったのかしら?

 天災と言うか神災に遭ってから四半日も経ってないのに、気が付けば地球どころか他天体最大組織(仮)との極秘折衝役にジョブチェンジするって、何処のサーガにもプロローグから此処迄高速でどん底に落ちていく話は無いんだけど?

 

 ぶっちゃけ、此のペースでどん底に落ち続けたら1年後には地球人の代表に祀り上げられた挙句、エホバ神じゃなくてキリストを祀る感じであたしやすずかも祀り上げられて現人神とか言われて外も碌に歩けなくなりそうなんだけど?

 そして懲りずに彼女達に突っ掛かるなのはを無力化しようとあたし達が出張ろうとするんだけど、善意と狂気であたし達の代わりに勝手に周りがなのはの無力化に動き出して、ソレを皮切りに地球人 VS 時空管理局とか言うSF戦争に突入……………………って、だから何で現実逃避した筈なのに逃避先で豪い目に遭ってるのよあたしは!?

 しかも戻った現実じゃ、寝惚けて混乱……と言うかバーサク状態が抑えられてたなのはが徐徐に覚醒してバーサクし始めているとか、弱り目に祟り目過ぎて泣きそうなんだけど?

 

 

 

 結局、話は荒れに荒れた挙句、拗れて捩れて歪んで砕けて終わった。

 

 やっぱり、動機は一応褒められる類のモノでも、仮(?)所属している組織の規則を破った挙句、器物破損と家宅侵入という日本の法律に反した以上叱責は当然なんだけど、動機が正しければ過程も正当化されるという子供らしい思考回路を持つなのはは猛反発。

 しかも自分の動機は絶対正しいと信じて疑っていないから、話が荒れる荒れる(なのはの動機を否定しきれないのも荒れる要因に少なからず含まれているけれど)。

 その上、人間から見れば傍若無人の窮みとも言える彼女達を放置するようにという言葉を聞いて、更に暴走。

 自分(正義)が勝つとしか考えていないなのは的に、正義から外れた連中を放置するという考えは無いみたいで、暴走というよりもだんだん病み始めてきた。

 

 最終的に、

● 地球に近寄れない様にして地球から追い出す

● 暴走しても構わない様にデバイスとか言うのを破壊か押収した上で封印処置をして地球に残す

という二択になった。

 

 勿論士郎さん達は科法に振り回されている感の在るなのはの今の現状を打破する為にも、地球に残ることを痛切に訴えていたけれど、なのははどっちも嫌だの一点張り。

 だけど、それでも科法を使えなくなるくらいなら地球を離れた方がマシという考えが駄駄漏れだった。

 ……当然そんななのはの考えを知った士郎さん達の間の空気は、落胆や失望や悔恨や困惑や他諸諸のネガティブ要素で満ちていて、超居辛かったわね。

 

 

 結局、なのはの説得も叱責も成功しなかった。

 その上、なのはへの対応は艦長(逃亡)達への丸投げに近い容で終わることになった。

 

 徒、最後に気分転換がてらに覗き魔が実は此の間迄居たフェレットだという事を暴露してやった。

 だけど、やっぱり士郎さん達は大人と言うか他人事というか、〔混浴可能な年齢みたいだし大して問題無し〕、という結論を出した。

 …………乙女的に金的地獄を味合わせたいところだけど、桃子さんがなのはに風呂に入れられる際に凄く抵抗したという言葉も考慮して、ビンタ一発かヌードデッサンの題材として貸し出されるかを選ばせてチャラにすることにした。渋渋。

 

 

 

Side Out:Alisa(アリサ) Bannings(バニングス)

 

 

 







【後書】



 どうも、戦闘シーンも無闇矢鱈に無駄にしょうもない長さにしてしまいますが、ソレ以上に事後処理が長くなる作者です。

 え~、色色言いたい事は在るのですが、ザックリとなのはの回想について言います。

1.なのはをアンチしたいわけでもヘイトしたいわけでもありません。
2.なのはが孤立したり壊れていく様を描写したいわけでもありません。
3.なのはを救いたいわけでも幸せにしたいわけでもありません。
4.寧ろ自然にハブれるならハブった儘で話を進めたかったりします。
5.要するになのはの描写は何であれ面倒臭いというわけです

 結論から言いますと、原作主人公に対して完全無関心というわけです(SSを執筆する上で致命的と悟りました)。
 ……なのはの行動や言動に思う所が在っても、なのは自身には全く思う所が無いとか、もう嗤うしかありません。
 まあ、一言で纏めるならば、【リリカルなのは】にではなく、【高町 なのは】に対する愛が無いと言うことです。
 正直、なのはを踏み台にしたりするぐらいなら管理局のオリジナルモブキャラを登場させた方がマシだと思ってます。
 ですので、なのはを描写すると如何しても不自然になってしまい、結果、アンチともご都合主義とも判別し難い出来に成ってしまいました。

 ……多分一番の解決案は、無印開始前に雁夜達を登場させ、なのはが雁夜達に絡む要素を極力潰して回る(魔法少女にさせず且つ蒐集事件に遭遇させない。出来ればアリサ達と友達関係にさせない)のが一番なのでしょうが、ソレをやると最早別の作品になると気付きました。

 例:アリサになのはがビンタ → アリサの鼓膜破裂(子供同士でも十分在りえます) → すずかに奪い返した物を渡すなのはの背後で耳を押さえて呻くアリサ → 耳から汁だけでなく血が流れるアリサを見てテンパるすずか → 自分が奪い返してやった物を受け取らないすずかを不審に思い始めるなのは → 何とか我を取り戻したすずかが大声を上げて助けを呼ぶ → 訳が分からず益益不審がるなのは → 教員が駆け付け……

 …………ダーク系ですね。
 まぁ、もっとダークにしようとすれば脳震盪もセットにし、足首を捻りつつも膝から石やコンクリートに崩れ落ちて膝の皿が割れ、止めに受身も取れずに変な態勢で倒れこんで蜘蛛膜下出血と脊椎損傷というトリプル追加コンボも炸裂させられます(実際あるらしいです)。

 話を戻しますが、自分は原作との乖離度に比例した割を誰かに回してしまうので、なのはを描写しない為に無印前から遣り直すという選択は無いので、此の儘アンチともご都合主義とも付かない描写が続いてしまいますが、平に御容赦下さい。


 因みに自分は好きなキャラには幸福で有頂天状態にするか、逆風を吹かせたり恥辱や屈辱に塗れてのたうち回させるのが好きです。大好きです。ワクワクします。ゾクゾクします。幸福の余り流す涙も哀惜の余り流す涙も等しく感動します。
 ……まあ、でもやっぱり幸せな状態の方が好ましいですが。


   ~~~~~~~~~~


【本編捕捉】


・ケアリーって誰?

 雁夜の対外向け(と言うか厄介事に関わる時の)名前が、ケアリー・マキリ、です。
 尚、容姿は若い頃のゼルレッチとほぼ同一で、他も色色偽装していますので、素の時の雁夜を見ても同一人物判断出来ないようになっています。
 後、玉藻はアマテラスという名前で管理局に認知されており、容姿は黒神長髪のアルクェイド状態で認知されています。

 因みに名前が違っても別人格を形成したりとかはしていませんので、喋り方は全部演技や地です。
 当然何気に子供に甘いのは其の儘です。
 が、断じてロリでもなければペドでもショタでもありませんので、男女区別無く主要キャラに対する好感度の基本値は0です。
 雁夜曰く、[美少女?美幼女?青田買い? 馬鹿か? 大人が基本的に他所様の子供と関わる(付き合う)わけないだろが]、と言う、実に身も蓋も無い意見を炸裂させていたりします(子供の言葉を一一本気にしない、一般的大人の処世術です)。


・なのはの回想がおかしい件について

 あくまでなのは主観なので、事実及び他者の思惑と一致しない部分が多多在ります。
 子供特有の自分に都合の良い解釈、又は其の枠を飛び越えた超解釈な箇所も幾つか在ります。
 その為、〔俺の物は俺の物。皆の物も俺の物〕、〔新世界の神になる!〕、〔鳴かぬなら、倒してしまえ、ホトトギス〕、的な考えが炸裂し捲くっています
 正しく子供にありがちな、中途半端な自分中心天動説です。


・空気摩擦云云

 断熱圧縮が正解です。
 隕石や宇宙船や人工衛星が大気圏突入で燃える原因は、空気摩擦ではなく断熱圧縮であって、大気摩擦では岩石どころか金属の沸点に到達するなど地球ではほぼ確実にありえません(人為が働いてもほぼ不可能)。

 因みに断熱圧縮とは、気体内を物体が一定以上の速度で動き続けると、気体が後ろに流れるよりも早く次の気体が前の気体に重なり、それが続くことで気体が重なり(圧縮され)続けることで気体自体が発熱する現象です。
 分かり易く言えば某一方通行が高電離気体を作成していたのを、力技で作成している状態です。
 尚、大気圧や大気成分、更に重力に自転に公転に風向きに他etcで発生する速度が変動しますので、宇宙空間では極めて起こり難いです(寧ろ宇宙塵に当たって機体が砕ける方が先でしょう)。


・フェイトの400倍の速さ云云
 フェイトの最高速度を80~100km/hに設定していますので、あの時の雁夜の速度は8.8~約11km/sです(宇宙船の大気圏突入速度が約6.9km/hです)。
 ICBMも振り切れる速度です。M20で動く先生より早いです。房中術のノリで1回毎に某メタルキングを倒した感じの経験値を得てましたから、真面目に力の制御に明け暮れていた時より強くなっています。宛ら某死姦●極でなく和姦●造。


・↑でのフェイトの速さって遅過ぎるような気がする件について(長いので飛ばし読みを推奨します)

 仮にフェイトが音速で動いているとした場合、音速突破時の爆音や衝撃波、更に急加速に因るGや急旋回に因る遠心力等、問題が在り過ぎます。
 特に急加速は深刻で、加速時間が0.1秒で音速に到達すれば肉体に掛かる負荷は約350Gで、フェイトの体重が25kgならば約8.7tで、アニメの演出から加速距離を5cmと仮定するならば、約12100Gで体重が3000tを超えます(慣性を中和しているなら通常飛行時は前進中に後進へ0秒で切り替えられるにも拘らず、全くその様な描写が無いことから慣性中和は不可能若しくは気休めにもならない程度の軽減度合いと判断)。
 当然そんな莫大な重力負荷に耐えられるなら、ヴィータのギガントハンマーなど普通に耐えられます。
 そして防御が弱い弱いと言われているフェイトが此の防御力を持っていると、頑健と言われるなのはがラケーテンハンマーでバリアジャケットどころかプロテクションシールドを破壊されたことと矛盾してしまいますので、フェイトの最大速度を80~100km/hとしました。
 ……他にもラケーテンフォルムの体積と加速度からのエネルギー計算に因るなのはのシールドの頑健さを算出し、なのはより強力であろう夜天の魔導書の官制人格が放ったSLBをフェイトと二人掛かりで凌げたことから官制人格のSLBの大まかな威力計算とか、山程考察が在りますが、更にウザくなりますので省略します。


   ~~~~~~~~~~


【リリカルなのは世界の天照とかは如何なっているのかについて】

 細かく決めてはいませんが、仮に存在する場合、雁夜がリリカルの地球に居る限りは玉藻の完全な支配下に在る状態で一体化して雁夜の護衛に就いていると設定しています。
 逆に存在していなければ信仰は全部玉藻のモノとなるように設定しています。
 つまり、何方に転んでも、 玉藻 + 型月世界の地球の分の信仰 + リリカル世界の信仰 or リリカル世界の天照達の全て = 現在の玉藻 、という公式が成り立つ為、どちらに転んでもリリカル世界にいる限り変わりは無いです。


   ~~~~~~~~~~


【大まかなスペック】


・アリサ&すずか(神子状態)(急成長中)
 最高移動速度 :約400m/s(浮くだけなら出来ても現在はほぼ移動不能)
 瞬間最高速度 :約900m/s(空気蹴り可)
 弱パンチ   :約  40KJ(デザートイーグルの弾丸約40発分)
 中パンチ   :約 100KJ(某美琴のレールガン約40発分)
 強パンチ   :約 620KJ(大型樋熊の体当たり約12発分)
 体当たりパンチ:約4050KJ(平均的落雷の約0.0027発分)
 魔力垂れ流し砲:真名解放エクスカリバー以上
 耐久力    :某初代ターミネーター級(神秘補正有りならA以下無効化)
 生命力    :四季並
 レベル    :3.99次元
 属性     :覇者 or 賢者
 所持金    :????円(玉藻が使いパシらせるのに支障無い程度の金銭が得られる様にしているのでロックフェラーやロスチャイルドも涙目状態。尤も、保護者と言うか財閥に殆ど流れる)

・なのは&フェイトのいいとこ取り(普通に成長中)

 最高移動速度 :約12m/s(飛行時のみ)
 瞬間最高速度 :約40m/s(飛行時のみ)
 弱魔力弾   :約0.35KJ(日本の警察官の拳銃(ニューナンブ)の弾丸約1発分)
 中魔力弾   :約   1KJ(デザートイーグルの弾丸約1発分)
 強魔力弾   :約  15KJ(対物ライフルの弾丸約1発分)
 溜攻撃    :約 130KJ(高威力戦車砲約0.1発分)  !
 SLB    :投げボルク未満(青子の攻撃がBだったのを考えれば寧ろ高評価(無論神秘不問))
 耐久力    :某ゼルガディス並
 生命力    :一般人
 レベル    :3.1次元
 属性     :ヒドイン or チョロイン
 所持金    :大体0~1万円

・ギルガメッシュ(バックアップ有り)(地味に高速成長中(というかチート受肉体に馴染んでいる最中))
 最高移動速度 :約3km/s(空気蹴り可)
 瞬間最高速度 :約9km/s(空気蹴り可)
 弱攻撃    :風王鉄槌(ストライクエア)
 中攻撃    :投げボルク並
 強攻撃    :カラドボルクⅡ並
 溜攻撃    :真名解放エクスカリバー以上
 全力攻撃   :ORTも手傷を負う(宝具有り)
 耐久力    :A++以下無効(バックアップ無しだとB以下無効)
 生命力    :首だけになっても食らい付く!
 レベル    :5.8次元
 属性     :お笑いと英雄と(ラスボス)の三重属性
 所持金    :戯け!王に貢ぐ栄誉を解さぬのなら生かしておく価値など無い!!(ほぼ∞)

・雁夜(成長中というか最早進化中)
 最高移動速度 :約10km/s(揚力無視&空中疾走可、及び、無茶すれば底上げ可)
 瞬間最高速度 :約40km/s(揚力無視&空中疾走可、及び、無茶すれば底上げ可)
 弱攻撃    :カリバーン以上
 中攻撃    :真名解放エクスカリバー以上
 強攻撃    :原作ギルガメッシュの手加減状態エヌマ・エリシュ並
 溜攻撃    :原作ギルガメッシュのバックアップ有りエヌマ・エリシュ以上
 全力攻撃   :ORTも手傷を負う
 耐久力    :A++++以下無効(神代回帰 質:A(EX) 量:C(EX?) 編成:人類発祥後起きた(若しくは人類が引き起こした)自然現象)
 生命力    :肉体不要
 レベル    :5.9999次元
 属性     :ヘタレと特攻と救世(傍迷惑)の三重属性
 所持金    :稼ごうと思えば幾らでも




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捌続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

Side in:何処かの研究施設の一角

 

 

 

「ハ……ハハ…………ハハハハハハッ………………ハーーーーーーッッッハッッハッッハァッッッ!!!」

 

 研究室というよりは管制室と思われる設備と内装が施されている部屋の中、病的さと不健康さを併せ持った白衣の男性は哄笑を上げていた。

 そしてその様を少し離れた位置で、容貌も衣装も敏腕秘書そのものとも言うべき女性が静かに佇みながら見詰めていた。

 だが、哄笑している男性はそんな女性を意に介さず声を張り上げていく。

 

「素晴らしい!素晴らしいよ!! ああ、全く以って素晴らしいっ!!!

 アレこそ…………易や、彼女達こそが私の求めるモノの完成形だっ!!!

 

 データが少ないとはいえ、彼女達が非生命体であるなど……易や、生命体という概念の先の存在、即ち高次元存在であるなど一目瞭然だ!

 転移させられた艦のレコーダーを見れば転移すると同時に転移が終了しているという矛盾から察するに、行われた転移は文字通り時空を超越したモノであり、それだけで彼女が高次元存在である事を証明している!

 そして彼の方は彼女とは違って全く私達に理解不能な力を揮っているのも素晴らしい!!

 

 夜天の魔導書のプログラムを見る限りは確実に崩壊する酷い破損状態にも拘らず、全く機能不全を引き起こしていないなど理不尽の窮みだよ!

 創り出した幻影の夜天の書でバグの部分とそれ以外の部分を選り分けたのは推測出来るが、理不尽な結果しか残らないとなると、彼が行ったのはオカルトの領域と言われる概念的な干渉としか思えない!!

 科学者としては馬鹿馬鹿し過ぎる仮説だが、恐らく夜天の書の悪性存在情報とも言うべきモノを全体の統合性を失わせること無く切り離した後に消し去ったと考えれば一応この理不尽極まりない状態への説明が付く!

 余りにも突拍子が無さ過ぎる話だが、彼女が傅く程の存在ならばこの程度の事が出来て当然という非論理的な確信が私には在る!」

 

 空間に投影された10を越すモニターに表示されるデータを目まぐるしく切り替えつつ、興奮というよりも気が触れたかの如く叫び続ける白衣の男性。

 しかも自分の仮説を口に出す度に益益気が触れたとしか思えない様に眼を血走れつつ泡に成り掛けの唾を哄笑と共に撒き散らし、更に奇怪な体勢と表情をし且つ酸欠で全身を薄い黒が混じった紫色に変えつつ痙攣しながら哄笑を大きくしていっていた。

 

 だが、此の儘だと勝手に身体や脳に負荷を掛け過ぎて気絶乃至死亡する危険が現れ始めた時、秘書の様な女性が白衣の男性を止めに入った。

 

「落ち着いて下さいDr.。それ以上の興奮は死の危険が付き纏います」

 

 携帯用酸素吸入器と鎮静薬入りのガス注射を手渡しながら秘書の様な女性はそう言った。

 すると白衣の男性は首の骨が折れかねない速度と角度で振り向き、大声で言葉を返す。

 

「落ち着く!?それは無茶な相談と言うものだよウーノ!!

 今私の目の前には私の理想と知りもしない世界が広がっているのだからね!!!

 今私の気分は子供が始めて宇宙へと飛び立って大地を星として認識し、自らの知覚世界の狭さと其の外側の世界の大きさに得も言えぬ昂揚感を抱いている時を遙かに凌いでいるのだからね!!!」

「御気持ちは察せますが、データを見ている時から碌に呼吸をされておられなかった様なので、速やかに整備呼吸を行わなければ深刻的に命の危機となります。

 ですので、少少失礼させて頂きます」

 

 素早く白衣の男性の後ろに移動し且つ両手を片手で拘束し、更に強引に酸素吸入器を白衣の男性の口元に押し付けて酸素を吸わせる秘書の様な女性のウーノ。

 一瞬、口に携帯用酸素吸入器を押し当てて酸素を流すだけでいい気がしたウーノだが、白衣の男性の精神状態を考える限り、言葉にすることで思考を加速させていることを自覚している様なので、言葉にすることを強制的に中断させる行為に抗うのは容易に予測が立った為、拘束を解く事無く白衣の男性の口に携帯用酸素吸入器を押し当てた儘強引に酸素を一定周期で流し続けた。

 

 最初こそは抵抗していた白衣の男性だったが、不健康と言うよりも病的若しくは病気とも言える容貌に違わぬ貧弱瘦躯な為、普通の成人女性程度の筋力が在れば完全に抑え込める程度の白衣の男性の抵抗は徒労に終わった。

 そして暫し強制的に酸素吸入を続けさせられれば白衣の男性も落ち着きを取り戻した為、特に抵抗せず静かに呼吸を整えることにしたので抵抗は行わなくなった。

 

 

 百数十秒程して呼吸を整えた白衣の男性は、静かに右手を上げてウーノに酸素呼吸を終える棟を示した。

 すると既に通常状態に回復したと判断したウーノは静かに酸素呼吸器を白衣の男性の口元から外し、更に拘束していた腕も解放して白衣の男性から静かに離れた。

 

 解放された白衣の男性は軽く身体を動かして調子を確かめると、悪びれた様子どころか自身の行為の正当性を誇ることすらない普段通りのウーノに振り返って話し掛ける。

 

「いや、危うく興奮し過ぎて折角私の命題の答えが目の前に在るというのに死んでしまうところだったよ。

 強引にでも止めてくれて感謝するよ。ウーノ」

「いえ、Dr.の補佐全般が私の使命ですので御気に為さらず」

「ふむ。相変わらず固いが、それも君らしさというモノだろう。

 

 で、話は彼女達に戻るが、私達が彼女達と接触する方法は何か記載されていたかい?」

 

 固い返事を返すウーノを、それも彼女の個性とあっさり割り切ると、自分が彼女達の戦闘情報関連しか見ていないが、ウーノが閲覧したであろう細細した情報に其れが無かったかを白衣の男性は訊ねる。

 するとウーノは淡淡と白衣の男性の質に答え出した。

 

「彼女の神子とされる2名が彼女達と接触を図れるらしいですが、正規と嘱託を問わず、最終的に武力行使を用いて彼女達と接触を図ろうとした結果、ランクAA以上の戦闘魔導師62名が返り討ちにされています。

 しかも全ての魔法……彼女達にとっては魔術らしいですが……が直撃したにも拘らず、殺傷設定及び非殺傷設定問わずに全てが用を成さず、更には鉄塊等を直接叩き付ける原始的な方法も全て用を成していません。それも恐らくは防御したのではなく、純粋な耐久力で防ぎ切っていると思われます。

 ですが、2名の神子と現地民と交渉した際の記録を見る限り、神子の身内を拘束すればこちらの要求を呑ませる事は可能と思われます」

 

 ウーノのその言葉を聞き、白衣の男性は苦笑とも呆れとも付かない顔で言葉を返し始める。

 

「其の案は愚策中の愚策だよ、ウーノ。

 彼女が自分の代行とした神子相手に不敬を働くという事は、其れはつまり其の儘彼女への不敬に繋がる。

 勿論彼女が神子に執心しているとは思えないが、それでも自分の代行に対して不敬を働いた輩を生かしておく程温い相手ではないだろうね」

「ならばどう為されるのですか?」

「此処は只管彼女の神子達に頭を下げて頼み込むしかないだろうね。

 しかも代理を使いに出すなど不敬に当たる以上、間違っても私以外を寄越す真似は出来ない。

 まぁ、君を代理に立てれば私は不摂生が祟って短期間で死ねる自信が在るし、ドゥーエやトーレだと誠意に欠けるというか我慢が足りずに失敗するし、相手の神経を逆撫でするクァットロだと多分スプラッタと言うかスクラップと化すだろうし、チンクやセインだと誠意は在っても交渉力が足りないから万が一彼女達と逢えても即刻追い返されるのが目に見えているから、結局自分から赴くしかないがね」

「ならば私が同行するのは確定事項というわけですね」

 

 自分が居なければ不摂生で死ぬと自信たっぷりに言う白衣の男性にツッコミを入れる事無く、ウーノは此れからの自分の予定の確認を行った。

 すると白衣の男性は当たり前の事を当たり前に返す様に言葉を返し出す。

 

「そうでなければ結局現地で死ぬだけになるからね。

 それに相手へ贈る菓子折り等のセンスが欠落しているのも自覚しているから、其の辺をサポートしてもらう為にも君も一緒に来てくれないと大いに困るんだよ」

「分かりました。

 それでは出立は私が現地での拠点と活動資金の確保、並びに現地の一般教養及び時勢を習熟してからで構いませんか?」

「現地知識は現地である程度身に付けてから行動に移るつもりだから、日常生活が出来る程度で構わないよ。

 あ、活動拠点はマンションや一軒家ではなく、ホテルやスパ等の施設にしておいてくれ。其れが無理なら相応の装備を持って野宿にするよ」

「分かりました。

 ……確かに彼女の庭かもしれぬ場所へ違法に侵入するだけでなく、違法に住み着くのは避けた方が無難でしょうね」

 

 そう言うとウーノは現地での活動資金も現地の法的には完全アウトだろう時空管理局が定めた正規の手順ではなく、希少鉱物を換金して得るように手配しだした。

 そして白衣の男性はウーノの洞察力は知っている為、敢えて確認したりすることはなかった。

 

 

 

 其の後、白衣の男性は留守に備えてセキュリティの強度を上げたり、防衛戦力である他の者達の調整をする為に管制室から出て行った。

 管制室に一人残ったウーノは静かに様様な事前準備の手配を進めていた。

 だが、此れから自分が向かうのが、一部では既に管理外と言うよりも管理不可能世界と呼ばれている極めて危険な場所であることを思い、焦燥とも諦観とも付かない息を静かに吐いたのだった。

 

 

 

Side out:何処かの研究施設の一角

 

 

 

 

 

 

Side in:何処かの桜咲き誇る高台

 

 

 

「蕨、楤芽、屈、蕗の薹、独活の5種類3kgちょいです!」

「「「「「お~~~」」」」」

 

 自信満満に自分が積んだ山菜を披露する玉藻に、1時間と少しでそれ程山菜を取ってきた事にアリサとすずかと恭也と忍と鮫島の5名は驚きの声を上げる。

 だが、そんなアリサ達の驚きの声を気にも留めていない玉藻は、雁夜に向かって満面の笑みで言葉を放つ。

 

「ふっふっふ。如何ですかぁ、ご主人様?

 喩え魔力や呪術とかを封印して其処辺りの人間並に性能を叩き落しても、私の超絶頭脳に掛かれば山菜の自生点を正確に予測するなんて御茶の子さいさいです!」

「確かに……言うだけの事はあるな」

「此れで勝ちは私で決まりですね♪

 さ~て、それじゃあ1週間は自重と言うか理性と言うか照れ隠しとかは全部放り投げて、直球で愛を囁いて貰いますね♥」

 

 優勝ではなく勝ちと言っている辺り、本当に他の面面が最初から眼中に無いというのをアリサ達はヒシヒシと感じたが、此の程度の扱いは今に始まったことではないので特に何も言わずに流すことにした。

 対して雁夜は、玉藻から黒歴史を紡げというのと同義な命令に対し、勝ち誇っているとも小馬鹿にしているとも哀れんでいるとも取れる笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「そんな傍若無神の台詞を吐けるのも今の内だ!

 見ろ!そして思い知れ!

 ど田舎と言うよりも未開地のど真ん中で交通手段どころか交信手段すらない時に活躍し捲くった俺の技能の凄さを!」

 

 廃線になった無人の駅と線路以外には電柱すら地平線迄見えない場所で活用した己が技能を誇る様に、雁夜は自分が取った山菜を次次と取り出しながら告げ始める。

 

「野蒜、芹、漉油、屈、大葉擬宝珠、蕨、薇、行者葫にお前が取った5種類も加えた13種類の大体8kgだ!」

 

 そう言って大き目の竹の背負い籠を玉藻の目の前に置く雁夜。

 そして雁夜が置いた大き目の竹の背負い籠の中を見て愕然とする玉藻と驚愕するアリサ達。

 

「そっ、そんな……」

「うわ。下手したら1日で此処ら一帯の山菜が無くなりそうね」

「1分に100g以上取らないと計算合わないよね」

「と言うか、私は魚籠に入ってる蛇とか雀とか鳩が気になるんだけど?」

「もう片方の魚籠には茸が山程入っているのも凄いな」

「仕留め方も毒の有無も見た限りでは脱帽する程に完璧ですな」

「あ、薪用の枯枝を集めてるから、蛇は血抜きして塩焼きに出来るし、雀や鳩と山菜や茸は煮れるから、栄養たっぷりなのが食べれるぞ。序に蛇の血を煮物に混ぜれば精も付くぞ。

 徒、惜しむらくは猫や兎との距離が遠くて仕留められなかったことだな」

「「「「「いや、そんな黒魔術みたいな料理をお花見で広げて食べたくない から/なぁ/んだけど/ぞ/です」」」」」

「え?」

 

 蟲以外は大抵忌避感が無い桜と一緒に春の野山(那須近辺)で山菜以外に鳥獣や爬虫類を仕留め(狐だけは例外)、塩焼きや酒に漬け込んだりしながら暮らした雁夜は、アリサ達の発言に可也意表を突かれた。

 以前花見をした際、梅干やカレーで辟易していた面面に好評だっただけに、雁夜はアリサ達の食生活レベルが凄く高いか単なる食わず嫌いなんだろうと思って流し、自分が一般と乖離しているとは考えなかった。

 だが、何と無く其の辺の考えを読み取ったアリサがツッコミを入れる。

 

「いや、そんな意外そうな顔しないでよ雁夜さん。

 如何考えてもお花見の朗らか雰囲気での食べ物じゃないじゃない」

「鱗を剥がせば鰻や穴子みたいなもんだけどなぁ」

「いえ、そうだとしても生き血を鍋に混ぜるのはアウトですから」

「フランス料理の血のソテーみたいなもんじゃないか」

「哺乳類じゃなくて爬虫類の血ってところが最悪なんだけど……」

「血抜きしてない丸焼きと大して変わらないと思うぞ」

「それ以前に爬虫類がアウトだと思うが……」

「まぁ……蟲に比べれば確かにマイナーだろうな」

「メキシコ等の蟲を常食される方方には失礼ですが、日本の標準的な宴席で昆虫類や爬虫類や両生類は忌避感を持たれる事が多いと進言させて頂きます」

「………………そうなのか?」

 

 蟲に凄まじい嫌悪感を抱いている反動なのか、蟲以外ならば虎の睾丸や牛の脳味噌でも若干怯えながらでも直ぐに食べられる桜と過去に暮らしており、更には美味ければ人間と虎以外は食べると豪語する大河や、衛生的にアウトでなければ何でも食べる士郎とも頻繁に卓を囲んでいた為、其の辺の感覚が完全に狂っている雁夜は、心底不思議そうな顔で訊ね返す。

 するとアリサ達は全員――――――

 

「「「「「…………」」」」」

 

――――――真面目な顔で無言の儘に首肯した。

 

「……何てこった…………」

 

 倫理観と言うよりも自身の種族認識が人間から外れ始めていた自覚は在ったものの、まさか日本人の一般常識から外れているどころかソレに気付きもしなかったことに軽く落ち込む雁夜。

 一応、〔様様な国を渡り歩いたから一国や一地方の固有常識だけを持ち続けるのは難しいから仕方無い〕、と自己弁護をしてみたが、食生活という日常生活と密接に関係している常識から外れると流石に自分を納得させるのは難しいらしく、暗い雰囲気を払拭出来ていなかった。

 

「ま、まあ、別に人の脂と骨で火を熾して血肉や内臓を煮込んで食べてるわけじゃないんだから、日本じゃちょっと普通でない程度なんだし、そんなに気にしなくていいと思うわよ?」

「……人道から外れに外れている人達を引き合いに出しても仕方ない気がするけど、確かに日本じゃ普通じゃなくても異常じゃないから、そんなに気にしなくてもいいと思いますよ?」

「いや、前半部分のお蔭でフォローになってないから」

「態態言わなくても構わない事を言うお前も大概だけどな」

「(そしてそれを言われる恭也様も忍様と同様だと思われますが)度を越した気遣いは却って礼を逸しますので、無闇に長引かせずに話を進めるのが宜しいかと」

「あ、ああ。ナイスフォロー、鮫島さん」

 

 鮫島の言葉で何とか気力を回復させた雁夜は感謝を述べた。

 そして早早に鬱屈さを振り掃う為にも話を進めようと玉藻に要求を突きつけようとした。

 が、雁夜が視線を移した先の玉藻は、一般人すら視覚化可能な黒い靄を立ち込めさせながら激しく落ち込んでいた。

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 しかも雲一つ無い空模様であったにも拘らず、急に何処から現れたとも知れぬ暗雲が空を覆い始めており、更に暗雲が際限無く発生しているのか、暗雲の濃度が闇夜に迫る域に迄上がっており、後数分もすれば玉藻が居る地方一帯だけでなく近隣都道府県を相当数巻き込んだ挙句、大陸に迄影響が出るであろう神話級の豪雨へ発展しそうな状態に成っていた。

 

 雁夜は玉藻が意識して行っているのか無意識で行っているかの判断はしかねるものの、放置すればお花見どころではなくなると察し、素早く玉藻を慰めだす。

 

「まあ、アレだ。今回は俺の勝ちで終わったが、イカサマした時並の自信がない限り俺はお前との賭けは受けないだろうけれど、万年位経てば偶然とか紛れとか気の迷いとか何かの間違いとかうっかりとかで賭けを受けるかもしれない可能性が無きにしも非ずの様な気がすると言っても構わないと検討する余地が在ると断言するのも吝かでないと思っている気がしないでもないと思える日が来ると夢見る事は出来そうだから、其の鬱屈さは来たるかもしれない日への糧にしてサッサと何時も通りのお気楽ご気楽脳天気な軽い笑顔に戻ってくれ」

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 慰めの割合が1に対し、自己保身(守り)の割合が9という雁夜の言葉を聞き、玉藻だけで無くアリサ達は押し黙る。

 勿論雁夜としては自分の発言が可也とんでもないモノだとは自覚しているが、――――――

 

「と言うか、迂闊に慰めて1の隙を晒すと其処から切り崩されて10万以上毟り取られるから、少なくても真面目でない理由で落ち込んでいるお前を慰めるとかいう特大の自爆行為はしない様に心掛けているから、優しい言葉を期待しているなら下心を消し去る程に落ち込まないと駄目だからな。

 ……まぁ、真面目に落ち込まれるのは気分が悪過ぎるからさっさと立ち直ってほしいけどな。

 ……お前の腹黒能天気の笑顔がないと調子狂うし」

 

――――――と言う理由の為、雁夜は玉藻に優しい言葉を掛けるつもりはなかった。

 尤も、身内に対して冷たい態度を取りきれない雁夜らしさが早速表れていたが、何時も通り雁夜は気付かなかった。

 だがソレはアリサ達が以前から抱いていた、〔雁夜がツンデレかもしれない〕、という疑念を確信に変える事が出来る程に分かり易い所作であった。

 当然変質的や病的と言うよりも、妄執的な雁夜ウォッチャーを自認している玉藻がソレに気付かない筈もなく、ソレに気づいた瞬間、全身から噴出し始めていた黒い瘴気の様なモノを一気に霧散させつつ耳や尻尾を忙しなく動かし始めながら、言い訳染みた事を誰にとはなしに呟き始める。

 

「くっ……相変わらず絶妙なタイミングで無自覚にツンデレを炸裂させるなんて…………流石ご主人様、あざとい。だけどいい加減そんな都合の良い天然発言だけで丸め込まれたりはしません。玉藻はやれば出来る子なんです。我慢が出来る子なんです」

「ぶつくさ言ってないでとっとと弁当広げてから山菜調理するぞ。

 後、この日の為にぶらり旅しながら掻き集めた銘酒を飲みながら昼は騒いで花見して、夜は穏やかに月見桜と決めてたんだから、台無しにするような真似はしてくれるなよ?」

「……静かな夜の四十万に静かにご主人様と一緒にお酒を嗜みながら月見桜とか…………和服美神の私の独壇場じゃないですか!って、落ち着け私。落ち着け私。落ち着け私。Be cool.Be cool.Be Kool.毎回毎回ご主人様の無自覚なご褒美攻撃に屈するから普段の私の扱いがぞんざいな儘なんです。今回という今回はご褒美じゃなくて慰めの言葉をかけてくれる迄は徹底抗戦しなくては!そうでなければ、〔大日チョロイ〕とかのレッテルを何時迄経っても剥がせませんし」

 

 自分の普段の扱いを向上してもらう為にも、玉藻は常ならば瞬時に喜び舞い上がってしまいそうな雁夜の言葉を受けても辛うじて平静を保ち、宛ら拗ねた子供の様な〔構ってくれオーラ〕を撒き散らす。

 だが、そんな玉藻の内心は忙しなく動く耳や尻尾に表れており、どう見ても機嫌はとっくに回復していると、雁夜どころかアリサ達にすら察することが出来た。

 しかし察することが出来たと雖も、今の雁夜には勢いが足りない上に他者の目が在る場所で雁夜的羞恥プレイを実行する筈もなく、――――――

 

「何で賭けに勝った俺が負けた時並の行為を強要されなければならないんだよ?

 しかも理由が負けて拗ねてるだけって、癇癪起こしたガキみたいな……と言うかガキそのものの理由で」

 

――――――玉藻に感化されたかの様に少少子供的な言動が見え隠れする言葉を掛けた。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 【配慮はしても遠慮はしない】、というのが雁夜の玉藻に対して行う接し方である為、可也容赦が無い言葉と成っていた。

 尤も、桜に言わせれば、【遠慮はしてなくても気後れして(照れて)るから、普段はヘタレ放置プレイ】、であり、其の辺りは玉藻も十分理解しており、更にその様な対応で接されるのは自分だけであると玉藻は自負しているので(桜への気後れは考え過ぎなので違うと認識している)、基本的に玉藻は雁夜からぞんざいに扱われても喜ぶという、可也隙の無い思考(倒錯した特殊性癖)の持ち主であった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 だが、本来ならば雁夜に対して隙の無い玉藻だが、現在は玉藻自身が意図的に隙を作っている為、嬉しいが止めてほしいという状態に成ってしまっており、雁夜の言葉に喜びながらも懸命に気持ちを静め続けるという、何とも奇妙な様相を取り続けていた。

 

(コレが漫画とかでよく言う、〔悔しい! でも感じちゃうっ!〕、って状態なんだね)

(小動物が必死に飼い主の気を引こうとしているみたいに見えるけど、その実、小動物どころか宇宙怪獣ってことを考えると全然微笑ましくないわね)

(塵も残らないと分かってるけれど、もぞもぞ動く綺麗でふかふかの九尾に飛び込みたくて仕方ないわね)

(女に振り回されるのも男の甲斐性と言うが、振り回され過ぎて千切れ飛び掛けている者同士、酒を酌み交わせばさぞ美味い酒が飲めるだろうな……)

(……一瞬御立派に成られたお嬢様と錯覚してしまいましたが、外れる気が全くしない辺り、恐らくお嬢様は之から先も色色と難儀される性格の儘なのでしょうなぁ……)

 

 何と無く周囲の雰囲気が生暖かくなってきたことを感じた雁夜は、此れ以上玉藻が拗ねていると自分も纏めて恥を晒してしまうと今更ながら悟り、急ぎ場を収めて花見に移行するべく玉藻の機嫌を即座に快復させることにした。

 

「……はあぁぁ…………」

 

 だが、玉藻の機嫌を即座に快復させる為には自ら墓穴に飛び込むのと動議な為、明らかに気の進まない溜め息を吐きながら玉藻の傍に寄り、片膝立ちになって雁夜は話し掛ける。

 

「訳の分からん要求は呑まないが、以前から何か創って寄越せと言っていたのなら受け付けるぞ」

「!!!!!!!!!!」

「但し、鎖付き首輪とかみたいな頭の沸いた様な要求をしたら断るし此の話は無かったことにするからな」

「♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪」

 

 一般人が見たら玉藻の首から上が余りの首肯速度でブレて見える状態の上機嫌な玉藻に対し、雁夜は餌で釣っているとしか思えない現状が酷く気に食わず顔を顰めていた。

 だが、一度玉藻相手に吐いた言葉を取り消すのはほぼ不可能な為、勢いとも自棄とも取れる気持ちの儘に雁夜は言葉を続ける。

 

「それと、今お前に渡す物が完成してから取り掛かるが、それでもよければという注釈が付くぞ」

「! ♪ ♥ ! ♪ ♥ ! ♪ ♥ ! ♪ ♥ ! ♪ ♥」

 

 首肯と振られる九尾の速度が常規を完全に逸し、玉藻を中心に周囲へ衝撃波連続して放たれる。

 だが、幸い首肯で発せられる衝撃波の殆どは雁夜に当たって霧散して他の者へは被害を齎さず、九尾から発せられる衝撃波は少少周囲の誰も居ない斜面を削って虚空へ消えていった。

 

 

 鉄すら引き裂く音速突破の衝撃波を扇風機から送られる風の如く危機意識無く平然と受ける雁夜を見、他の者達は色色と人間を止めていると改めて実感したのだった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「高天原に (~略~) 祓禊へ給ふ時に (~略~) 聞食せと 畏み畏みも 白す。

 

 以上、私の歌でしたー!」

 

 御当地ソングのノリで自分が歌っていたとされる天津祝詞(自分の歌)を、酒の勢いも手伝って人間ならば誰もが平伏せずには居られない域の神聖さと声音で歌い上げた玉藻。

 だが、人間でないからなのか慣れの為か、雁夜は心底感動したとも感心したとも取れる様ではあっても、普段通りに玉藻へと話し掛ける。

 

「相変わらず真面目に歌うと普段のイメージが消し飛ぶ程凄いな」

「そりゃご主人様をメロメロにさせられる特技の一つですから、手を抜いたりせずに本気で全力投球ですからね」

「………………真面目な儘ならベタ惚れって言うかアピールって言うか積極的にならずにいられない程好みのど真ん中なんだけどな……」

「そ、それじゃあ早速衲衣か十二単を着て楚楚としますんで、目一杯激しくして下さい!!!」

「……………………亡き女を想うと書いて妄想。人の夢と書いて儚い、か…………」

 

 凄まじく疲れた感じを漂わせつつ、桜なのか空なのか太陽の何れを見ているのかが今一判然としない瞳で雁夜はそう呟いた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「よおぉぉっしっっっ! 18段重ね達成!!」(←茹でた殻付き鶉の卵を傷付けずに積み重ねている)

「甘いですよご主人様! 私は500円玉垂直20枚立てです!!」

「くっ!? すずか!サイコロを後500個重ねて度肝を抜くわよ!!」

「120個しか持ってきてないよ……」

 

 不破になるだろう記録を尚も更新し続ける4名を、少し離れた位置から遠い目で見ていた恭也がポツリと呟く。

 

「……不随意筋が在るか疑わしいな」 

「物体表面のミクロ単位の凹凸を見極められる視力も必要よ。アレ」

「スカートで高所に上るのは御控願いたいですなぁ」

 

 早早に敗北を悟った恭也達は、何故か信じられないくらい美味しく感じる魔法の様な山菜鍋を食べたりしつつ、観戦と談笑を続ける。

 

「ミクロ単位で動かせる身体ってのは、戦闘者からすれば垂涎の身体だな」

「私の恋人がペドやホモに走ってしまって生きるのが辛い」

「纏めて消されかねん冗談は止めてくれ。冗談抜きで恐ろしいし、下手したら助かった後の虚脱感でも死にそうになる」

 

 機嫌を損ねて牙を剥かれた場合、一族郎党どころか地球人類鏖を実行しないと言い切れない者が居る為、核地雷を積み重ねて作動させようとしている忍に恭也は真顔で告げる。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲

 

 少なくとも玉藻は雁夜と姪に関しての沸点はほぼ絶対零度という低さの為、迂闊な発言や行動は良くても冗談の様な気軽さで殺されるという憂き目に遭う為、皮肉やからかいも命懸けである事を恭也達は学習していた。

 無論、恭也達がソレを学習出来たのは偏に雁夜がギリギリで防御したり待ったを掛けたからであり、雁夜が介入しなければ恭也は忍の巻き添えで3回は死んでいるところであり、流石に朴念仁と連呼される恭也でも暗黒物質を腹に溜め込んでいるであろうとも乙女である玉藻の逆鱗に触れない為に乙女心を猛勉強した結果、つい先程忍が発した言葉は玉藻(乙女)的に不快だろうという推測は容易かった。

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 そして恭也の考えを裏付けるかの如く玉藻が忍を軽く睨みながら尻尾を向けており、同時に雁夜が視線で止めている姿もあった。

 

「……なあ忍?お前、性格矯正するか仮面を確り被るかしないとそろそろ本当に死ぬぞ?」

「………………私も本気でそう思う……」

 

 花見を台無しにしない様、周囲の動物達に影響を齎さない様に範囲と威力を極限迄絞った為、既に殺気と言えない程に弱体化した(と玉藻と雁夜は思っている)殺気を浴びせられている忍は、気を抜くと自分の死を幻視して死んでしまいそうな殺気へと懸命に耐えつつ、十数秒前の自分が仕出かした所業を悔やんでいた。

 幸い玉藻は直ぐに忍への関心を失い、雁夜達(と言うかほぼ雁夜)との競い合いに再び専心しだした。

 

「突発技!回転500円玉10枚連続投擲垂直重ね!」

「こっちは殻剥き鶉の茹で卵の投擲10段重ね!」

「ならこっちはサイコロを順に上へ放って、空中で100個連続で玉突きさせるわよ!」

「30個目辺りで一番下のサイコロが壊れちゃうよ……」

 

 最早不可能とニアリーイコールで結べそうな宴会芸を目の当たりにし、遠い目をしながら恭也達は呟いた。

 

「コレ……機械でも再現出来るのか?」

「…………計算式上は出来るけど、抵抗や対流や劣化とか他諸諸の誤差が原因でほぼ確実に失敗するわね」

「…………お嬢様が仰られるには、[何と無くで解る領域が広がったのよ]、との事です」

 

 万国びっくりショーの頂点に余裕で輝けそうな人類の限界芸を、終る時迄酷く遠い目をしながら恭也達は眺めていた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「よぉぉぉっっっしゃぁぁぁっっっー!!! 俺が無茶振り王だーーーーーーーーーっっっ!!!」

 

 色の付いた鉄串を高高と掲げた後、雁夜は喜色満面でガッツポーズをした。

 

「52回目にして漸くって……」

「到達率は0.04%未満なのに……」

「ご主人様は重要所と如何でも構わないこと以外じゃ結構残念な運だったりしますからね~」

「たしかに……」

「信じられないくらい無茶振りな命令を浴びる籤を引き捲くってたわよね……」

「一名のみが対象の場合も8割方雁夜様であられましたね……」

 

 此れから無茶な命令を最低一名には下されるというにも拘らず、雁夜以外の全員は揃って生暖かい視線を雁夜へと向ける。

 しかし雁夜はそんな視線に気分を害した様子は微塵も無く、不気味さが混じる程の鬱屈さと喜悦が混じった表情で声を上げる。

 

「玉藻に愛を5分も語らせられるわ、幼女を1分間抱擁させられるわ、野郎の下着を履き替えさせられるわ、駅のど真ん中で〔そんなの関係ねー!〕を100回させられるわ、盗難の自首で盗んだものは[貴女の心です(キリッ)]とかさせられるわ、小児のスイミングスクールに水に濡れた水着が赤外線の前で如何に無防備かを語らされるわ、ファーストフードでチキンナゲット1000個のナゲット抜きとかいう訳の分からん注文の上に正規金額を払わせられるわ、紳士服売り場で[変態という名の紳士に相応しい服を頼む]とか言わせられるわ、他諸諸etcetc…………」

 

 僅か半日足らずで海鳴で様様な奇行を働き、暫く外を歩けば視線を集めずには居られないだろう程の有名存在に成らされてしまった雁夜だったが、漸く今迄の鬱憤を晴らせると全員を清清しい程の笑顔を浮かべながら見回すと、溜まった鬱憤が察せれる程凄まじい命令を言い放った。

 

「2番が3番と組体操のサボテンしながら分速60m以下の速度でコンビニへ行き、一緒にトイレへと入り15分沈黙した後に出る!

 3番はトラブルを大声で音読しつつもトイレに入って15分は2番と共に沈黙を貫ぬく!

 4番は2番と3番をの周りを六尺褌のみの格好で泥鰌掬いを踊り続け、2番と3番がトイレに入った後も扉の前で出てくる迄踊り続ける!但し女性の場合は胸部にのみ晒を巻いて良し!

 5番は 2番と3番と4番の周りで日本銀行の紙幣や硬貨をばら撒き続け、2番と3番がトイレに入った後は店中の品物を1億円で全て売るように交渉する!但し[全て硬貨でだがなあ!]と言って外に硬貨を降らせる!

 6番は2番と3番4番と5番に対する苦情を一手に引き受けながらも撮影し続け、且つ同4名の命令遂行を成し遂げさせるべき支援も行う!但し紳士服か淑女の服に猫耳と尻尾を装着した上で語尾に〔にゃ♥〕を付けて!言って置くがハートマークが付いているのが伝わる程の愛嬌でだ!

 そして1番は他全員の遂行を全力で妨害する!

 準備が出来次第始めて構わんが、麓から始めても特別に良しとする!

 それと必要経費は此のカードを使え!

 以上!!!」

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 

 

 その後、恐る恐る全員が番号の記された籤を引き、

 

1番:すずか

2番:アリサ

3番:恭也

4番:忍

5番:鮫島

6番:玉藻

 

という結果に成った。

 幸い、鮫島は結構似合った役柄であったので安堵していた。

 又、玉藻も結構似合っていると全員思ったが、動物語尾は〔コン♪〕とかでなければ駄目という拘りがあったので可也嫌がっていた。

 

 そして当然そのちんどん屋も霞む奇行はあっという間に海鳴全土に広がった。

 一応バニングス家と月村家が報道機関に圧力を掛けたのでニュースにはならずに済み、撮影された物に関しては雁夜がひっそりと対処していたので一応人の記憶に残る以外は後腐れがなかった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「自業自得と言う言葉の本来の意味は、〔己のみでどの様な行いを成し遂げた様に思えても、それは御仏の加護と導きの賜物である〕、と言う意味らしい。

 逆説的に言えばどの様な苦難に遭うも御仏の導きとも言える。

 つまり今のお前らの状況は御仏の導きによるものとも言える。

 要するに俺は悪くない」

「ご主人様~。私、大雑把に言えば釈迦如来と同等以上の大日如来なんですけど?」

「黙れ毎日エロい。

 禁欲と言う字を自分の辞書に刻み込んでから主張しろ」

 

 玉藻の主張を即座に一刀両断する雁夜。

 

「釈迦に説法じゃないですけど、大日に説法と一刀両断する光景を見られるとは夢にも思わなかったよ」

「馬の耳に念仏ならぬ、狐の耳に念仏だけどな」

 

 すずかの感心とも呆れとも取れる発言にツッコミを返す雁夜。

 

「まあ、俺は悪く無い云云は冗談だが、悪い事したと思うよりも晴れやかな気持ちなのも事実だけどな」

「……精神的被害が甚大なお嬢様達は御聞こえになられてないようですな」

 

 精神的被害が比較的少ない鮫島達は兎も角、アリサと恭也と忍の精神的被害は可也のもので、戻ってきてから今に至る迄膝を抱えたり突っ伏したりして黙り込んでいた。

 当然雁夜の言葉に対して反応出来る精神状態ではない為、今尚暗い雰囲気を放ちながら落ち込んでいた。

 

「如何考えても自分達がした命令よりは俺の方が軽い、若しくは同じ類の命令ばかりだから、慰めなんてしないぞ。面倒だし」

「比較的まともな恭也さんの命令でも、翠屋で男性なら店長(桃子さん)、女性ならマスター(士郎さん)に、[あなたの()で握られたお握りを食べたいのでどうか握って下さい]、って駄駄を捏ねるとかでしたしね」

「ツンデレは寝具店でベッドに10回脱衣込みのルパンダイブを[不~二子ちゃ~ん♥]って掛け声を上げながらするとかで、マッド吸血種は、[僕と契約して魔法少女のコスプレをしてよ!]、って道行く少年少女10人に声を掛けるとかでしたしね~」

「………………」

 

 すずかと玉藻の発言で鮫島はアリサ達の無茶振りを思い出し、因果応報だと判断すると直ぐ様雁夜への追求を止め、アリサが立ち直る迄黙して傍にて控えることにした。

 対して玉藻とすずかは未だ落ち込んだ儘でいるアリサ達を暫く放置することにしつつ、先程から雁夜が一人でしている夜桜月見の準備を手伝うことにした。

 と、その最中、見知ったと言うよりは懐かしい物を見つけた玉藻は、上機嫌に雁夜へと問い掛ける。

 

「ご主人様ご主人様。コレってアの時のお酒ですか?」

 

 嘗て殺生石に振り掛けてもらった清め酒の元となった、同企業同銘柄の安酒の入った瓶を抱えて尋ねる玉藻。

 

「ああ。

 ま、場所や季節どころか世界すら違うけど、外で夜景を愉しむなら験担ぎみたいな感じで用意した」

「め……珍しくご主人様がロマンチックな演出をしています!?

 これはもう此の儘夜の四――――――」

「極限迄清めてやろうか?」

「――――――十万……に寄り添い合って互いに酌をし合うロマンスに突入です!」

 

 玉藻が淫靡ではなくロマンス方面の発言に転換した為、雁夜は文句ではなく苦笑交じりの独り言とも取れる言葉を返す。

 

「ソレくらいの押しの強さなら大抵の無茶にも応えるんだが、やっぱり思い通りにいかないくらいが楽しくて丁度良いのかもな」

 

 愚痴とも惚気とも取れる雁夜の言葉を聞き、玉藻は満面の笑みを浮かべながら言葉を返す。

 

「はい♪私も滅多にデレてくれないですけど、強請ると偶にデレてくれるご主人様との遣り取りがとっても楽しいです♥」

 

 準備の手は止めていないものの、着実に甘い世雰囲気を漂わせ始める雁夜と玉藻。

 そしてそんな両者を、両者と同じく準備の手を休めることなく微笑ましく見ているすずか。

 

 此の儘甘い会話が続き、〔あなたしか見えない〕な異界が創造されるかと思われた時――――――

 

「なぁすずかちゃん。多分すずかちゃん達の関係者達が此処に向かってるっぽいんだが、何か聞いてるかい?」

 

――――――忍に似た感じの存在が恐らく車に乗用して丘を登り始めたのを感じ取り、鬱状態の忍の代わりにすずかへ雁夜は尋ねた。

 するとすずかは心当たりが無いのか、怪訝な顔で答えを返す。

 

「易え、少なくても私は聞いてないですし、私達の関係者が世界の火薬庫(――――――此処――――――)に来るなら姉さんや鮫島さんが即座に雁夜さん達に連絡を入れる筈ですから、多分全く事情も知らない下の人達か暴走した人達だと思います」

「なんか敵意を漂わせてるから暴走した奴等みたいだけど…………折角の楽しい雰囲気が台無しだな。

 ……ったく、空気読めってんだ」

「全くです!

 折角ご主人様と良い雰囲気の儘いちゃいちゃ出来そうだったっていうのに、万死に値しますね!

 と言うか寧ろ万死じゃ足りませんから、ラウグヌト何とかみたいに自傷と再生を延延と続けるだけの肉塊にしますね」

 

 そう言うと玉藻は早速規格外の呪術行使を試みる。が――――――

 

「宴席の近くで絶叫する肉塊が在ったら楽しめんから、取り敢えずその案は却下だ却下」

 

――――――渋面と言うよりは疲れとも呆れとも取れる表情の雁夜が制止の声を掛けた。

 すると玉藻は一先ず呪術の行使を中断したものの、露骨に不服な表情で雁夜へ反論する。

 

「でも暴走する様なのを生かして帰せば確実に付け上がりますから、後で凄く煩わしい展開になりますよ?」

「易や、別に下手に出て舐められた挙句に無事に返せとか言う気は無い。

 徒、折角楽しい宴席の雰囲気を壊さない対応にしようと言うだけの話だ」

 

 殺人を忌避したり否定しているわけでなく、単純に宴席の雰囲気を重視しているのが言葉だけでなく何気無い口調から理解したすずかは、一見まともに思える雁夜も人間社会から可也逸脱していると改めて実感し、間も無く此処に現れるだろう者は経緯こそ不明だが人生の末路を辿るのは確定だろうと悟った。

 尤も、すずかは自分達の一族で暴走するだろう者達はほぼ間違いなく碌でもない存在だと予想している為、心配事は自分達が巻き添えというか責任の一端を取らされかねない事だけで、暴走した者に対する心配は皆無であり、それを証明するかの様に――――――

 

「わ、私達の一族みたいですから、不始末を付ける為にも私達で如何にかしましょうか?」

 

――――――と、保身に走った言葉をすずかは雁夜と玉藻に向けて掛けた。

 

「別に一族郎党鏖とか考えて無いし、実際に俺達を目の当たりもしてないのにいきなり一族全体が個の下に付くことで暴走するのが出るのも仕方がないことくらい解ってるって。

 目の当たりにしてないのに納得させる……て言うか掌握するには最短でも10年は必要だろうから、半年も経ってないなら暴走した奴が出たって納得ものだし、暴走した奴等以外に文句を言う気は無いから、別に動かなくてもいいよ。

 ぞろぞろ動くと雰囲気壊れるし」

「私としては暴走した奴等全員の5親等迄の奴等に満遍なくラウグヌト何とかを掛けたいですけど、ご主人様が宴の雰囲気を大事にされてますから何とか溜飲を下げることにしますから、後で絶対さっきの仕切り直しをしましょうね、ご主人様♥」

 

 雁夜はすずかへ心配のし過ぎだと制止したが、玉藻はすずかではなく雁夜に向かって話し掛けた為、雁夜がすずかに返した会話と言うボールを玉藻に獲られて雁夜へ返された為、すずかは玉藻と雁夜の会話の中に割り込んで迄返事をするのは拙いと判断したので、了承の意を頭を下げて伝えるだけに留めた。

 すると雁夜は目ですずかに返事を受け取ったことを伝えると、玉藻が会話の流れを断ち切ったことに何か言おうか逡巡した。が、嫌っているのでも無関心なのでもなく、壁を作って距離を取りたがっているのだろう玉藻の心境を酌み、特に言及しないことにした。

 

 会話が途切れ、ソレが5秒程続くと雁夜は新しい話題を振ろうとした。

 だが、数百メートル先に暴走した者を乗せた車が現れた。

 

 暴走した者を乗せた車が現れること自体は雁夜達にとって知覚出来ていたので予想外ではなかった。

 そして駐車場は一般に開放されていない場所だけ在って然して広くなかったが、それでも道路から減速無しで駐車場に進入しても余裕を持って減速しながら駐車可能な程度の広さを有していた。が、その車は減速無しで駐車場を突っ切ると、草木の茂る舗装されていない場所へ侵入し、真っ直ぐに雁夜達の居る場所へと突き進み続けた。

 当然土が捲れたりして荒れるかと思われたが、――――――

 

「ナイス玉藻!」

「報酬はさっきのやり直しの時に酌の酌み交わしでお願いしますね♪」

 

――――――車が草土に触れる前の段階で玉藻が景観破壊防止の為に神霊魔術を展開しており、車が通った後は元から荒れていた場所は兎も角、他の場所は車が原因で土が捲れているどころか草一つ潰されていなかった。

 そして、流石に事此処に至れば軽度から中度の鬱状態になっていたアリサ達も事態に気付き、即座に雁夜達の場所へと移動した。

 

「ご主人様ご主人様。確認なんですけど、宴席の雰囲気壊さない様にするんであって、下手に出たり慈悲を恵んでやる必要は完全皆無なんですよね?」

「既に結構壊れてるけど、此の儘再突入出来る雰囲気さえ維持出来れば後は如何でも構わないと思ってるぞ」

「なら衰弱死する迄詰まらない漫才をし続ける呪いでも掛けましょうか?」

「いや、ソコは面白い漫才をし続ける呪いにしろよ」

 

 衰弱死するということに関しては全く気にしていない雁夜の発言を聞き、すずかに続きアリサ達も叉暴走した者等は此処で何かしらの末路を辿ることになると確信した。

 だが、そんなアリサ達を無視して雁夜と玉藻は車を降りて自身達の所に向かって来ている者等の末路について朗らかに話し続ける。

 

「創造性が無いのに面白い漫才をさせようとしたら負荷が掛かり過ぎて直ぐに廃人化するんで、詰まらないと思っていることをさせるのが楽チンなんですよ~」

「なら罰ゲーム感覚でイタイと思ってることをさせ続けたら笑えるんじゃないか?」

「あ、そのアイデア頂きです♪

 DBでも読ませて往来のど真ん中で亀仙流奥義の名を叫ぶ様に思考誘導とかさせましょう。

 若しくはDQの漫画を読ませた後にプロパンガスボンベを抱かせてから銃で撃ち抜いてメガンテとかの方が笑えますかね?」

「汚い花火はヒクから止めろ」

 

 

 

 其の後、月村の党首及びその配偶者筆頭候補の痴態が原因で暴走したという、実に納得のいく理由を持った者達が怒りも露に捲し立て、忍達は碌に反論することが出来なかった。

 だが、忍だけでなく幼女(すずか)に対しても性的虐待を行おうしたり、玉藻の耳や尻尾を見て畜生として飼う等という発言を行い、見事に雁夜と玉藻の地雷を踏み抜いてしまった。

 当然暴走した者達は全員纏めて先程雁夜と玉藻が話していた愉快な末路を辿ることとなり、忍達に笑いの涙だけでなく哀しみの涙も提供する羽目になった。。

 

 尚、適応力が高いのか切り替えが早いのかは不明だが、雁夜と玉藻以外の全員もその後確りと宴席を楽しんだのだった。

 

 

 

Side out:何処かの桜咲き誇る高台

 

 

 







【台詞も無く退場することになった氷村遊&月村安二郎の認識】

・恭也 :下等種
・忍  :下等種に媚びる恥曝しな牝
・鮫島 :下等種
・アリサ:忌まわしい退魔師
・すずか:自分が飼っても構わない程度に成長した牝(←ペド?)
・雁夜 :下等種
・玉藻 :畜生

 ……某戸愚呂(弟)の、相手の強さが分かるのも強さの内という言葉が在りますが、要するに雁夜達や玉藻の強さが分かる強さに至っていなかった時点で色色終わっていた奴です。
 〔井の中の蛙4次元知らず しかも運の悪さも知らず〕、な奴でした。
 因みに作者的にフル装備状態の恭也や鮫島の勝率は、30% & 95%としていますので、べらぼうに強いと思っています(鮫島は最先端兵器版ランボー状態ですので勝てる方がおかしいです)。



【今更な雁夜の設定】


名  前:間桐 雁夜 (偽名はケアリー・マキリ)

年  齢:満10歳 (ZERO編12話で新生してから数え直し)

家  族:玉藻・桜

種  族:間桐 雁夜 (単一種であり、嘗て人だった時の人への同族意識が着実に薄れていっている)

所  属:強いて言えばガイア (と言うか玉藻)

特  技:ツッコミ・物創り(神霊魔法?)自爆(神霊暴発魔術?)

天  敵:桜・玉藻・ゼルレッチ・遠野 琥珀

弱  点:身内

戦  力:ORT等の型月界最上位の面面を除けば此のSSのギルガメッシュと並んでトップ (時空管理局からは傷を負わない)

財  力:手作りのやば過ぎる酒等を細細と売り、それを元に玉藻が再び暇潰しも兼ねて株や物件を転売し、僅か4ヶ月強で11桁程稼ぎ、現在加速度的に増殖中

現在住所:海鳴市のバニングス邸と月村邸の中間

敷  地:海鳴市のバニングス邸と月村邸の敷地面積の2倍強

住  居:和洋折衷 (最初はバニングスと月村に丸投げだったが、結局雁夜と玉藻が一から全部創り、以前と同じく神殿(と言うか神社)と化す)

対立勢力:時空管理局 (強引に法で縛り搾取しようとする組織全般)

傘下勢力:バニングス及び月村 (玉藻と雁夜の暇潰しで勢力が国連に匹敵する規模へと急速拡大中(半経済戦争状態))

目  的:のんびりと穏やかに暮らす (初期に墓穴を掘った為、到達点が凄まじく遠くなる)

現在抱負:墓穴を掘らない

座右の銘:平穏万歳・平凡上等・平和最高・日常至高・エンドレスサマーどんと来い、等等etcetc、

脳内思考:玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん桜ちゃん玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻玉藻ギルガメッシュ大河さんギルガメッシュ爺さんギルガメッシュバルメロイギルガメッシュ志貴君ギルガメッシュアルクェイドギルガメッシュ琥珀嬢ギルガメッシュ幹也君ギルガメッシュイリヤちゃんギルガメッシュアリサ嬢ギルガメッシュすずか嬢ギルガメッシュ大河さん爺さんバルトメロイ志貴君アルクェイド琥珀嬢幹也君イリヤちゃんアリサ嬢すずか嬢凜ちゃん葵さん大河さん爺さんバルトメロイ志貴君アルクェイド琥珀嬢幹也君イリヤちゃんアリサ嬢すずか嬢凜ちゃん葵さん大河さん爺さんバルトメロイ志貴君アルクェイド琥珀嬢幹也君イリヤちゃんアリサ嬢すずか嬢凜ちゃん葵さん大河さん爺さんバルトメロイ志貴君アルクェイド琥珀嬢幹也君イリヤちゃんアリサ嬢すずか嬢凜ちゃん葵さん大河さん爺さんバルトメロイ志貴君アルクェイド琥珀嬢幹也君イリヤちゃんアリサ嬢すずか嬢凜ちゃん葵さん時臣桜ちゃんの友達桜ちゃんの想い人その時の気分(40.2+40+10+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1.2+1+1+0.2+0.2+0.2+0.2=100)




目次 感想へのリンク しおりを挟む