転生したデュエリスト (YASUT)
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転生したデュエリスト
例えばもし、その少年に前世があったとして。何かのきっかけに全てを思い出してしまったら、どうなるだろう。
前世の記憶があるということは、こうして生きている
享年が八十なら八十年。六十なら六十年。前世で長生きしていればしているだけ、知識のアドバンテージを得ることができる。
少年の享年は十八だった。デュエル養成校を卒業し、プロの世界へと足を踏み出そうとしていた頃に亡くなった……らしい。
というのも、その瞬間の出来事だけ思い出せないのだ。空白が残った絵のように、あるいはピースが足りないパズルのように、その部分だけが綺麗さっぱり抜け落ちている。おそらく、不幸な事故にでも遭って頭を強く打ったのだろう。事故の影響で記憶喪失。にわかには信じられないが、有り得ないことではない。
ともかく少年は十八で亡くなった。言い換えればこれは、同年代の親友よりも十八年の知識・経験があるということだ。
それだけあればやりたい放題だ。比喩ではない。流石に身体能力はどうしようもないが、それ以外の場面では一騎当千と言ってもいい。
……だが。それはあくまで“能力”に限った話だ。
◆
「今日皆に集まってもらったのは他でもない。ボクの……いや、
少年――
ここ、遊勝塾に集められたのは四人。
わけあって塾長を務めている柊修造。
その娘、柊柚子。
ここの塾生であり榊遊勝の息子、榊遊矢。
そして、紫雲院素良。
小波の態度の変化に、四人は怪訝な顔をした。彼は榊遊矢、柊柚子に続く遊勝塾の最古参メンバーである。一人称は“ボク”で性格も消極的だったが、デュエルの腕は昔から恐ろしく強かった。
だが今はどうだ。消極的な一面は影を潜め、一人称も“俺”に変わっている。演技かとも疑ったが、おそらく違うだろう。
四人を代表し、遊矢は小波に尋ねる。
「どうしたんだよコナミ、急に態度なんか変えて。何かあったのか」
「ああ、あったよ。あったとも。だから皆に相談したくて、こうして集まってもらったんだ」
「タツヤとフトシとアユには言えないことなのか?」
「そうでもないけど……話がややこしくなりそうだったからな。今回は席を外してもらった。
……じゃあ、本題に入るぞ」
コナミは深呼吸した後、四人の顔を一人一人見回した。
典型的な“?”の顔。これがどう変わってしまうのか、コナミは怖かった。だが、ここまできて後には引けない。追い込んだのは他ならぬ彼自身なのだ。
コナミは覚悟を決め、自分の秘密を告白した。
「俺には前世の記憶があると言ったら、皆は信じるか?」
「……はぁ? どういうことだ?」
その突拍子の無さに、修造が思わず呟いた。
他三人は前世と言われてもピンと来ないのか、特に変化はない。
「前世っていうのは……つまり、コナミ君。君は以前この世界のどこかで生きて、亡くなった後に転生したということか?」
「この世界ではないですけど、大体そんな感じです」
「な……なるほど?」
修造は納得したようなしていないような、何とも言えない表情をしていた。
無理もない。急にそんなことを言われても信じられるはずがない。なにせ内容が内容なのだ。馴染み深い三人だからこそ会話が成立しているのであって、他人に言ってもただの電波小僧としか思われないだろう。
「うーん、それって本当なのかなー?」
「おい、素良……」
「えー、だってさー」
素良は新しい飴を取り出し、遊矢の静止を聞かずコナミに問いかける。
「だって、いきなりそんなこと暴露されても信じられないよ。誰だろうとコナミはコナミでしょ?」
「いや、違うな。確かに
「? どういうこと?」
「要するに、コナミは半分消えたってことだよ。
昨日までの俺は確かにコナミだった。遊矢、柚子、そして塾長。三人と一緒にこの塾で育った、ありふれた十四歳の男の子。
でも今は違う。俺は思い出した。思い出してしまった。前世の自分、プロになるまであと一歩だった俺自身のことを」
「うーん……つまり、前世と現世の自分が融合しちゃって、その体には二つの意思が宿ってるってこと?」
「だったら相談なんてしないよ。それって要は、友達が一人増えるってことだからな」
「はっきりしないなぁ。早く結論を教えてよ。コナミは一体どうしちゃったの? で、今ここにいる君は誰なの?」
「そうだな……じゃあ、色に例えようか。前世の
さっき素良が言ったのはつまり、一つの体に白と黒が同居してるってことだ。これらは独立して意思を持ち、明確に区切られている。平たく言えば二重人格。かの伝説の
で、今の俺はグレー。区切りがなく、二つの意思は後戻りできない段階にまで混ざり合ってしまった。ここにいる自分は確かにコナミだけど、既に“俺”でも“ボク”でもない」
「――なるほど、ね」
コナミの説明を一頻り聞き終え、素良は納得した。
紫雲院素良は融合召喚の使い手。この手のオカルトはすぐ理解できる。
「要するに君、
「っ! 素良、貴方――!」
「柚子!」
怒りのあまり手を挙げようとした柚子を、遊矢が止めに入った。力は遊矢の方が上らしく、柚子はその手を振り払えない。
「遊矢、どうして!」
「駄目だ、柚子」
「だって素良、今コナミに酷いこと――」
「柚子」
「っ……」
有無を言わせぬ眼力に柚子は怯む。
遊矢は目力だけで、喚く柚子を静止させたのだ。
「……ごめん素良、コナミ。ちょっと席を外すよ。行くぞ柚子」
遊矢はそのまま柚子の手を引いて、二人一緒に部屋を出て行った。
「あらら……怒らせちゃったかな」
「いや、今のは怒って当たり前だと思うぞ」
「げ、塾長まで?」
「ああ。冗談でも言っていいことと悪いことがある」
「だから、冗談じゃないんだってば。ねえ、コナミ」
「……そうだな」
力無げにコナミは肯定する。
そう、
「まあ、だから相談したんだけどな。俺は一体、これからどうするべきなのかなって」
「どう、とはどういうことだ?」
「前世の自分として第二の人生を生きるべきか、それとも今まで通り“小波ユウ”として生きるべきか」
「……君は小波ユウだ。なら、答えは決まってるだろう。これまで通り柚子達と――」
「つまり、
コナミは初めて怒気を孕んだ声で抗議した。
困惑しつつも、修造は別の案を提案する。
「……だったら、前世の君として生きたらどうなんだ」
「つまり、
「……新しい人生を歩め、と言ったら?」
「
「……はぁ」
当然と言わんばかりの否定に、修造は深く溜息をついた。
「やっぱりそう来たか。相変わらず凄い潔癖症だな、君は」
「すいません。でもわかってください。色々なことが突然浮かんできて混乱してるんです。
家族だけじゃありません。友人だって
柊修造はその悩みを理解できない。転生者なんて言われてもピンと来ないのが普通の反応だろう。
けれど、解決する方法は知っている。転生者といえど所詮は十四の小童。前世の年齢を加算しても三十二。修造にとっては、それでもやはり小童なのだ。
……そんな悩みを他所に、素良は無邪気にコナミに話しかけた。
「じゃあさコナミ。いきなりだけど、ボクとデュエルしてくれない?」
「デュエル?」
「うん。正直、転生者とか言われても全然信じられないし、ピンと来ないんだよね。でもコナミって、前世ではプロを目指してたんでしょ? で、少なくとも昨日までの君よりは強かった」
「ああ、それは確実だ。デュエルの腕に関しては、前世の方が断然強い」
「なら、今の君は昨日までとは比べ物にならないくらい強いってことだよね? じゃあ、僕とのデュエルで証明してみせてよ。ねえ塾長、いいでしょ?」
「うーん……そうだな。なんだかんだ言いつつ、結局それが一番か。よし、ついてこい二人共!」
修造はデュエルの準備をするべく、リングの方へと向かった。素良は半分スキップしながら修造を追う。
「……デュエル、か」
コナミは自分のデッキから二枚のカードを取り出した。
雷を操る悪魔族、《デーモンの召喚》。
可能性の龍、《
「皮肉なものだな。前世で欲しかったカードが現世に、現世で欲しかったカードが前世にあったなんて。でも、ちょうど良かったよ素良」
コナミは、修造を追う素良を見て――
「肩慣らしに相手してやる」
――“これ以上ないほどの上から目線”で、そう呟いた。
遊矢のメンタル(?)が強すぎて誰おま状態だが我は気にしない。
主人公・コナミのデッキテーマは【真紅眼の黒竜】。この時点で大体の展開は予想できるでしょう。
他のテーマ候補は
・【バスター・ブレイダー】
・【カオス・ソルジャー】
・【サイバー】
でした。
初めは【バスター・ブレイダー】にして、コナミの前世は
“対遊矢シリーズ決戦兵器”
として融合次元で製造された失敗作のアンドロイド? ホムンクルス? 的な設定だったのですが、《破壊蛮竜-バスター・ドラゴン》の効果が《バスター・ブレイダー》ありきで、単体では非常に使いづらかったのでボツにしました。
【カオス・ソルジャー】と【サイバー】は物語的に使いづらかった。
特に【サイバー】、お前ちょっと強すぎね? 融合でアホみたいに攻撃力上げたかと思えば、エクシーズであっという間にフィールド制圧しやがって。
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可能性の黒竜
注意:オリジナルアクションカードあり。
追記:《
「1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない」
の一文を忘れてました。
デュエル構成もそのようになってます。
2015.10.21.修正しました。
デュエルの準備を終えた頃、遊矢は柚子を連れて戻ってきた。
素良、コナミは既にデュエル場にて待機中。いつでも始められる状態だ。
「ごめん塾長、勝手に席を外して。それより、どうして二人がデュエル場に?」
「確かめたいんだそうだ。コナミ君が本当に転生した人間かどうか」
「じゃあ素良は、なんだかんだ言って疑ってるのか? キメラとか言っちゃったのに」
「素良自身は単にデュエルがしたいだけだと思うけどな。だが、これではっきりするだろう。今の小波ユウは一体どういう
修造は険しい目つきでコナミを観察する。
遠目に見ただけでも分かるだろう。立ち振る舞いや纏う気配。今のコナミは、昨日までの小波ユウとはまるで違う。
「どちらって……コナミはコナミでしょう?」
「いいや、柚子。今のあいつはコナミであってコナミじゃない。俺達とは違う高次元の存在、転生者になったんだ。
そして、だからこそ迷っている。前世に遺してきた者達と、“小波ユウ”として築いてきた現在。そのどちらかを切り捨てなきゃいけないと」
「切り捨てるって、どうしてそんなことしなきゃいけないのよ」
「両立できないから、だろうな。いっそあいつがデュエルの神様だったら、迷わずに済んだかも知れないけどな」
修造は立ち上がり、デュエル場の二人に聞こえるよう声を張り上げた。
「そろそろ始めるぞー! 準備はいいか二人共ー!」
「いいよー!」
元気よく答える素良と、控えめに頷くコナミ。前世の記憶がフィードバックされた影響か、どこかぎこちない。
「では行くぞ! アクション・フィールドオン! 《スウィーツ・アイランド》!」
修造がマシンを起動すると、専用のフィールド魔法が展開された。
《スウィーツ・アイランド》は名前の通りお菓子の国。巨大な飴玉やチョコレート、ケーキにプリンが出現する。
「わぁ、お菓子の国! 前に遊矢とデュエルしたフィールドだね! それじゃあ、準備はいい?」
「ああ、大丈夫だ」
「よぅし、行っくよー! せーの、戦いの殿堂に集いし
「う……」
アクション・デュエル特有の口上に抵抗を覚え、コナミは吃る。
だが言わなければ始まらない。コナミは控えめかつ興味なさげに、続きの口上を綴った。
「……モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る! 見よ、これぞデュエルの最強進化系! アクショ~ン――」
「「デュエル!」」
◆
コナミ
LP:4000
素良
LP:4000
「俺の先行。手札から《
《
星1/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0
「そして効果発動。このカードをリリースすることで、デッキからレベル7以下の《レッドアイズ》モンスターを特殊召喚する。
俺が喚び出すのは、《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
卵が割れ、紅い輝きと共に黒龍が誕生した。紅い瞳と漆黒の肉体。シンプルな外見だからこそ、そのインパクトは他のモンスターを凌駕する。
コナミにとっては現世の象徴。切り札として長く愛用してきた一枚だ。
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「コナミお得意のレッドアイズだね。なんだ、いつもと変わらないじゃん。僕のターン!」
素良はドローしたカードを確認し、ニヤリと笑う。
「
悪魔の爪よ! 野獣の牙よ! 神秘の渦で一つとなりて、新たな力と姿を見せよ!
融合召喚! 現れ出ちゃえ、すべてを切り裂く戦慄のケダモノ、《デストーイ・シザー・ベアー》!」
《デストーイ・シザー・ベアー》
星6/闇属性/悪魔族/攻2200/守1800
ぬいぐるみの各部位が裂かれ、身体の骨組みが鋏で再構成された。融合召喚されたそのモンスターには可愛さと怖さが同居しており、独特な雰囲気を漂わせている。
「だが、攻撃力は2200だ。俺のレッドアイズは倒せないぞ」
「慌てない慌てない。忘れたの? これは普通のデュエルじゃなくてアクション・デュエルなんだよ? だったら――やっぱり、これを使わないとね」
素良は足元に落ちていたカードを拾い、自慢げに見せつけた。
裏面には大きくAの文字。
「
《デストーイ・シザー・ベアー》
攻2200 → 攻2600
「攻撃力2600か」
「お菓子の力は凄いんだ!
よぅし、このままバトル! 《デストーイ・シザー・ベアー》で、《
コナミ
LP:4000 → LP:3800
ぬいぐるみのパンチを受け、《
それだけではない。レッドアイズは《デストーイ・シザー・ベアー》に捕縛され、鋏で裂かれた腹部に吸収されていく。
「《デストーイ・シザー・ベアー》のモンスター効果、発動! 戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、そのモンスターを攻撃力1000ポイントアップの装備カードとして、このモンスターに装備する!」
《デストーイ・シザー・ベアー》
攻2600 → 攻3600
「さあ、これでレッドアイズは封じたよ。コナミは一体どうするのかな?」
「どうしようかな。まあ、退屈はさせないさ」
「余裕だね」
「余裕だからな」
「……ふうん。だったらいいけどね。僕はカードを一枚を伏せて、ターンエンドだ」
「待った。ターン終了前に、この
永続
《
星1/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0
「またそのカード? 君のデッキには《デストーイ・シザー・ベアー》を倒せる《レッドアイズ》はもういなかったと思うけど?」
「ああそうさ。ただし、昨日まではな」
「じゃあ見せてもらおっかな。君の本当の力ってやつをさ。僕はこれでターンエンド」
《デストーイ・シザー・ベアー》
攻3600 → 攻3200
素良のターンが終了すると同時に、両者の目つきが少しだけ変わった。 全員が確信する。このデュエルは、ここからが本当の戦いなのだと。
「俺のターン! ここで、《
現れろ、レベル6! 《
《
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
コナミのフィールドに、雷光を司る上級悪魔が降臨した。瞳は血のように紅く、何より禍々しい。
「更に装備魔法《スーペルヴィス》をエビル・デーモンに装備! このカードを装備されたデュエルモンスターは、再度召喚された状態になる。
そして、エビル・デーモンのデュアル効果発動! 一ターンに一度、このカードの攻撃力より低い守備力を持つ相手モンスターを、全て破壊する!
「やるね、でも残念!
「ならこちらも、手札から速攻魔法《サイクロン》発動!」
「ええっ!?」
互いの場に全く同じカードが現れ、竜巻を発生させた。コナミの《サイクロン》は《
「装備カードがなくなったことで、《デストーイ・シザー・ベアー》の攻撃力は元に戻る」
《デストーイ・シザー・ベアー》
攻3200 → 攻2200
「そして、《スーペルヴィス》第二の効果。表側表示のこのカードがフィールドから墓地に送られた時、自分の墓地から通常モンスターを一体特殊召喚する。
俺が特殊召喚するのは、今《サイクロン》で破壊した《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
コナミの場に二体の
「《レッドアイズ》が二体並んだ!」
「あいつ、本当に強くなってるぞ」
観戦していた修造達は、上級モンスターを並べたその戦術に驚嘆した。
エビル・デーモンは《スーペルヴィス》の効果によって再度召喚された状態になっていた。逆に言えば、《サイクロン》などで《スーペルヴィス》が破壊されてしまえば、エビル・デーモンの効果は不発に終わってしまう。
しかしコナミはそれを逆手にとり、《サイクロン》で装備カードとなっていた《
「バトル! まずはエビル・デーモンで《デストーイ・シザー・ベアー》を攻撃! “ライトニング・ストライク”!」
悪魔の雷撃が《デストーイ・シザー・ベアー》の全身を貫き、粉砕した。
ライフが減り、素良のフィールドからモンスターが消える。
素良
LP:4000 → LP:3700
「くっ……!」
「続いてレッドアイズ、素良にダイレクトアタック! “黒炎弾”!」
間髪入れず黒龍の口から大玉の火炎が放たれる。
素良に回避する術はなく、火球は火柱となって燃え盛った。
「うわぁぁ――――!!」
素良
LP:3700 → LP:1300
年相応の少年の絶叫が響き渡る。
削られたライフは合計で2700。決して無視できる数値ではない。
「っ……ちょっと、油断しすぎたかな」
「その代償が2700だ。お前の悪い癖だな」
「あっはは、ごめんねコナミ。正直言って舐めてたよ、君のこと。でも安心して。
――ここからは、本気でやるから」
「なら期待させてもらおう。カードを一枚伏せて、ターンエンド」
目つきが一層険しくなる。余裕がなくなってきた証拠だろう。
素良は新しい飴玉をくわえ、
「僕のターン!
そして、墓地の《エッジインプ・シザー》の効果発動! 手札を一枚デッキの一番上に戻し、このカードを特殊召喚する!」
《エッジインプ・シザー》
星3/闇属性/悪魔族/攻1200/守 800
「永続魔法《トイポット》発動! 一ターンに一度、手札を一枚捨ててドローし、そのカードを確認する。それが《ファーニマル》モンスターだった場合、手札からモンスターを一体特殊召喚できる」
「なるほど。つまり、今のデッキトップは《ファーニマル》か」
「そういうこと! ドロー!」
素良はカードをドローし、互いに確認する。
「引いたのはさっき手札に戻した《ファーニマル・ベア》。《トイポット》の効果により、攻撃表示で特殊召喚!」
《ファーニマル・ベア》
星3/地属性/天使族/攻1200/守 800
「更に僕は、《ファーニマル・マウス》を通常召喚!」
《ファーニマル・マウス》
星1/地属性/天使族/攻 100/守 100
「《ファーニマル・マウス》の効果により、デッキから新たに二体《ファーニマル・マウス》を特殊召喚する!」
《ファーニマル・マウス》×2
星1/地属性/天使族/攻 100/守 100
「……参ったな、これは」
加速度的に増えていくぬいぐるみ達に、コナミは溜息をついた。
素良のフィールドには《ファーニマル・ベア》、《エッジインプ・シザー》、そして《ファーニマル・マウス》が三体。更にこの次にはまだ《融合》がある。
「さあ行くよ! お楽しみはこれからだ!
悪魔の爪よ! 鋭い牙よ! 神秘の渦で1つとなりて、新たな力と姿を見せよ!
融合召喚! 現れ出ちゃえ、すべてを引き裂く密林の魔獣! 《デストーイ・シザー・タイガー》!」
《デストーイ・シザー・タイガー》
星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200
二体のモンスターが一つとなり、巨大な虎のぬいぐるみが召喚された。
《デストーイ・シザー・ベアー》同様腹部は裂かれており、融合前のぬいぐるみとは打って変わった凶暴さが見え隠れしている。
「《デストーイ・シザー・タイガー》の効果。このモンスターの融合召喚に成功した時、素材になったモンスターの数までフィールドのカードを破壊できる! 君のレッドアイズ達は破壊させてもらうよ!」
巨大な鋏が刃を向き、コナミのレッドアイズ二体を一閃した。
上級モンスターは一瞬にして全滅し、今度はコナミのフィールドががら空きとなる。
「これで厄介なモンスターは消えたね。《デストーイ・シザー・タイガー》の攻撃力は、自分の《ファーニマル》または《デストーイ》一体につき300アップする。僕のフィールドにはシザー・タイガーも含めて四体。よって、攻撃力は1200アップする」
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻1900 → 攻3100
「そういえば君、さっきから
「それはどうかな。俺は手札から、《
《
星4/闇属性/ドラゴン族/攻1700/守1600
「そして、破壊された《レッドアイズ》達を可能な限り、破壊された時と同じ表示形式で特殊召喚する!
さあ甦れ! 我が
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
《
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
時が遡り、切り裂かれた二体が再び出現した。
《
「へえ、思ったよりやるね。でも、僕のターンはまだ終わっちゃいないよ。
墓地から《ファーニマル・ウィング》の効果を発動! 墓地のこのカードと他の《ファーニマル》モンスターを除外し、《トイポット》を墓地に送ることで合計二枚ドローする!
更に《トイポット》の効果! このカードが墓地に送られた時、デッキから《エッジインプ・シザー》か《ファーニマル》モンスターを一体手札に加える!」
《トイポット》、《ファーニマル・ウィング》のコンボで、素良は合計三枚のカードを手札に加えた。
……ここまでして何も来ないはずがない。そう考えたコナミは、
「《ファーニマル・ベア》の効果発動! このカードをリリースして、墓地から《融合》を手札に加える!」
「っ、また《融合》か!」
「勿論! 僕はもう一度《融合》を発動! 手札に加えた二体目の《エッジインプ・シザー》、そして《ファーニマル・マウス》二体を融合!
悪魔の爪よ! 鋭い牙よ! 神秘の渦で1つとなりて、新たな力と姿を見せよ!
融合召喚! 現れ出ちゃえ、《デストーイ・シザー・ウルフ》!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
「まだまだ続くよ!
《デストーイ・シザー・ベアー》
星6/闇属性/悪魔族/攻2200/守1800
「装備魔法《フュージョン・ウェポン》をシザー・ウルフに装備! レベル6以下の融合モンスターに装備することで、攻撃力と守備力を1500アップさせる!
そしてシザー・タイガーの効果で、《デストーイ》達の攻撃力は一体につき900アップする!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻2000 → 攻3500 → 攻4400
守1500 → 攻3000
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻3100 → 攻2800
《デストーイ・シザーベアー》
攻2200 → 攻3100
「さあ、お待ちかねのバトルだよ! 《デストーイ・シザー・ウルフ》で、エビル・デーモンを攻撃!」
悪魔の牙がエビル・デーモンを食いちぎり、粉砕する。
その余波に紛れ、コナミは
コナミ
LP:3800 → LP:1900
「《デストーイ・シザー・ウルフ》は、素材になったモンスターの数だけ攻撃できる! 今度は《
「
《
「まだまだ終わらないよ! シザー・タイガーで《
「
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
「だったらなにさ! バトル続行だ! シザー・タイガーで《
「っ――!」
《デストーイ》達の総攻撃を受け、コナミのモンスターは全滅した。
怒涛の連続召喚からの連続攻撃。その威力は、
……だが同時にそれは、化けの皮が剥がれつつあることを意味していた。
「あっはは、凄いねコナミは。今の攻撃を全部耐え切るなんてさ。でも、そろそろ終わりだね。ここから逆転なんてどう足掻いても無理だよ」
「どうかな。最後まで何が起こるか分からない。それがデュエルだろう?」
「ふーん……以前と違って随分強気だね。まあ、それでもいいよ。僕はこれでターンエンド」
「俺のターン、ドロー。
――《マジック・プランター》を発動。表側表示の永続
取り残されていた永続
「素良。今から見せてやる。お前にとっての
「え――……?」
唐突な告白に、素良は言葉を失った。
敵。その意味を問うより早く、コナミはデュエルを続行する。
「
《
星1/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守 0
「このモンスターをリリースすることで、デッキからレベル7以下の《レッドアイズ》を特殊召喚できる!
現れろ、《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
「更に永続
もう一度甦れ! 《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
二体の黒龍が首を並べる。
方や漆黒の竜。方や炎を纏った黒竜。その風格たるや、並の竜の比ではない。
「――まさか」
素良はコナミの次の手を見切り、身構えた。
同レベルのモンスターが二体。即ちエクシーズ召喚。ここまでなら誰でも分かるだろう。
だが、コナミの正体となると話は別だ。“エクシーズ召喚”と“敵”。これらの単語から、素良が思い当たる節は一つしかない。
「俺はレベル7の《
コナミの足元に渦が現れ、黒龍達は吸い込まれる。
圧倒的なエネルギーを間近にして、素良は息を呑んだ。
「鋼鉄の四肢持つ龍よ。転生の炎をその身に宿し、新たな力をここに示せ!
エクシーズ召喚! 現れろ、ランク7! 《
《
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400
鋼鉄の身体。荒ぶる火炎。
紅き眼を持つ可能性の黒竜、その一端がここに顕現した。
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転生者の覚醒
「鋼鉄の四肢持つ龍よ。転生の炎をその身に宿し、新たな力をここに示せ!
エクシーズ召喚! 現れろ、ランク7! 《
《真紅眼の鋼炎竜《レッドアイズ・フレアメタル・ドラゴン》》
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2400
鋼鉄の身体。荒ぶる火炎。
紅き眼を持つ可能性の黒竜、その一端がここに顕現した。
その咆哮は大気を震わし、敵対者に重圧を掛け続ける。
「レッドアイズ二体のエクシーズ召喚。いつの間にそんな技を……」
「ああ。だが、これではっきりしたな。この力は間違いなく、コナミ君の前世の影響だろう」
突然のエクシーズ召喚に、観客の三人は驚きの色を見せる。前世に目覚めるまでのコナミは一度もエクシーズ召喚を行ったことがない。これで何よりの証明となった。
「……ふーん」
しかしここに、面白くない顔をする者が一人。素良は新しく飴玉を取り出し、竜を見据える。
「驚いたよ。まさか君が
「……早とちりはよくないな。まだ俺のターンは終わっていない。
《
俺が選択するのは《
《
星6/闇属性/悪魔族/攻2500/守1200
「さらに、このターンの通常召喚権を使い、エビル・デーモンを再度召喚する!」
コナミはカードをディスクから離した後、もう一度同じように配置した。
瞬間、召喚による衝撃波がエビル・デーモンの全身を奔る。再度召喚されたことで、デュアルモンスターであるエビル・デーモンはようやく真の力を発揮できる。
「エビル・デーモンのデュアル効果発動! 一ターンに一度、このモンスターの攻撃力より低い守備力を持つ相手モンスターを、全て破壊する!」
「させるか!」
素良は、それこそ雷にでも打たれたのかのように走り出した。
地を滑り壁を蹴る。その身体能力は、おそらくコナミを凌駕するだろう。一朝一夕で得られるものではない。
「
「だがここで《
「なに――!?」
ドーム状のバリアが《デストーイ・シザー・タイガー》を覆った直後、雷撃に追従して火炎が放たれた。
《ミラー・バリア》の対象は一体のみ。全てを防ぐことはできず、《デストーイ・シザー・ベアー》は電撃に貫かれ、素良は炎に焼かれた。
素良
LP:1300 → LP:800
「っ――全く、どうしてここまで手こずらせるかな……!」
素良は苛立ちを隠さず、コナミとドラゴンを睨みつける。
……《
だが、塵も積もれば山となる。いや、八回喰らえば負けるという時点で、塵と言うには少しばかり大きいだろう。
「《デストーイ》モンスターが減ったことで、シザー・タイガー、シザー・ウルフの攻撃力は下がる!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻4400 → 攻4100
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻2800 → 攻2500
「バトルだ! 行け、《
担い手の指示を受け、鋼竜は獄炎を吐き出す。周囲一帯に炎が叩きつけられ、《デストーイ・シザー・タイガー》は瞬く間に呑まれてしまった。
素良
LP:800 → LP:500
「《デストーイ・シザー・タイガー》が破壊されたことで、シザー・ウルフの攻撃力はさらに下がる」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻4100 → 攻3500
「ターンエンド……さて。これで残りのライフは500。シザー・ウルフの攻撃力も3500に戻った。もう後がないぞ、素良」
「……後がない、だって? 冗談言うなよ」
素良は伏せた顔を上げ、コナミを睨む。もはやそこには、デュエル開始時のような笑顔はない。
あるのは狩人の目。楽しむ余地などなく、ただ、目の前の首を狩る。それだけに固執した殺意の目だ。負けることなど有り得ない。そう言わんばかりに己の劣勢を否定する。
「コナミ、どうやら君の目は節穴みたいだね。確かに《デストーイ・シザー・ウルフ》の攻撃力は下がったさ。でもまだ3500もある。レッドアイズを倒すには十分だよ!」
「だが、《
「だったらどうしたっていうのさ。僕のターン!
このままバトル! 行け、《デストーイ・シザー・ウルフ》! レッドアイズ達を葬り去れ!!」
「《
《
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
「またそのカード……いい加減鬱陶しいよ」
「なら、攻撃を止めるか?」
「まさか。何度でも蘇生するなら、その度に蹴散らすまでだよ!
バトル続行! 行け、シザー・ウルフ!」
コナミ
LP:1900 → LP:1200
《デストーイ・シザー・ウルフ》の三回攻撃により、コナミのモンスターが再び全滅した。
破壊と蘇生。このデュエルはその繰り返しだ。素良が蹴散らし、コナミが復活させ、また素良が蹴散らす。
そして、それもここまで。鋼竜は消えた。ここからは
「
戦慄のケダモノよ! 鋭い牙よ! 神秘の渦で一つとなりて、新たな力と姿を見せよ!
融合召喚! 現れ出ちゃえ、全てに牙むく魔境の猛獣! 《デストーイ・サーベル・タイガー》!」
《デストーイ・サーベル・タイガー》
星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000
虎のぬいぐるみの全身が引き裂かれ、剣と思しき刃物が骨組みを再構築する。シザー・タイガーとはまた違う、虎型の《デストーイ》だ。
「《デストーイ・サーベル・タイガー》の融合召喚に成功した時、墓地の《デストーイ》を一体特殊召喚できる!
現れ出ちゃえ、《デストーイ・シザー・タイガー》!」
《デストーイ・シザー・タイガー》
星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200
「シザー・タイガー、サーベル・タイガーの相乗効果により、《デストーイ》達の攻撃力は合計1500アップする!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻3500 → 攻5000
《デストーイ・サーベル・タイガー》
攻2400 → 攻3900
《デストーイ・シザー・タイガー》
攻1900 → 攻3400
「……圧巻だな。流石は素良。これがお前の本気か」
「まるで他人事だね。ちゃんと状況分かってる? この次が正真正銘、君の最期のターンなんだけど?」
「ああ、悪いな。頭では分かっているが、まるで実感がない。どうやら転生者ってのは、俺が思っているよりずっと便利なものだったらしい。二人の人間の価値観を持つと、これまで見えなかったものが次々と見えてくるんだ」
「……絶体絶命だっていうのに饒舌だね。つまり、何が言いたいのさ」
「俺は絶対に負けないってことだよ。
素良の言うことは半分正解だ。確かに現世のボクなら諦めていただろう。だが、前世の俺は諦めていない。それどころか勝利を確信している。
――そんな目をしている連中に、転生者たる俺が負けるはずないとな」
絶対的な自信とともに、コナミは宣言した。
もしも素良に確たる覚悟、負けられない理由があったのなら、コナミはきっと敗れるだろう。度を超えた力は、同じように超えられてこそ意味がある。転生者とは一つの試練だ。『
今の素良にその資格はない。遊び半分で可能性を狩り続けるその姿勢に、あるはずがない。資格がない以上、どうしたってコナミの敗北は有り得ない。
……転生者のデュエルは全て必然。
勝利も敗北も、
「――行くぞ」
――気が付けば。
――
――変貌していた。
髪は逆立ち、瞳はさながら
立場が逆転する。
崇高な狩人は、惰弱な獲物へと成り下がり、
逃げ惑う草食動物は、全てを喰らう肉食動物となる。
「俺の、ターン!!」
カードを引く。それだけで紅い風圧が起こり、全てが震憾した。
「何が……起こってるの……?」
それは誰の呟きだったか。
いや、誰もが呟いただろう。
そんな動揺に目をくれず、コナミはデュエルを進める。
「《貪欲な壺》を発動。
墓地から《
《
《
《
そして、《
……モンスターを裏守備表示で召喚」
「裏守備……?
……なんだ、驚いて損したよ。やっぱり君は狩られる側だ。この状況を覆すことなんてできないよ!」
何かが起こる。そう確信しつつも、素良は虚勢を張る。
「慌てるな素良。お楽しみはこれからだ。
裏守備表示のモンスター――《
《デストーイ・シザー・ウルフ》
攻5000 → 攻0
「っ……攻撃力を0にしたところで、モンスターがいなければどうってこと――」
「《
俺が加えるのは……《
「――……え?」
素良の思考が停止した。コナミが加えたのは紛れもなく、モンスターを“融合”するカードだったのだ。
エクシーズと融合の両刀使い。珍しくはあるが、ありえない事ではない。だが、先ほどのドラゴン――《
「俺は
可能性の竜よ。雷光の悪魔よ。原初の渦で一つとなりて、新たな力をここに示せ!
融合召喚! 現れろ、《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!」
《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》
星9/闇属性/ドラゴン族/攻3200/守2500
巨大な龍が炎を巻き上げ降臨した。
強靭な肉体と紅い眼光。他を圧倒する召喚エネルギーに、フィールドは荒れ狂う。
広いはずなのに狭い。コナミを除く四人はそんな印象を抱いた。単純にサイズが巨大なだけではない。その威圧感は確かに本能を刺激し、恐怖という名のアラートをこれでもかと鳴らしている。
――破壊。この龍はその一点においてのみ特化している。守りなど知ったことではない。それは
新たなドラゴン、それも融合モンスターの出現に、素良は困惑した。
エクシーズと同等、あるいはそれ以上の力の奔流。どちらも紛れもなく
本来ならどちらか一つ。片方が
――だが刮目して見よ。
立ちはだかるは本物の壁。
それはある種の到達点であり――同時に、限界でもあった。
「っ……考えるのは後だ。それより今は――!」
恐怖を振り切り、素良は
彼の疑問は尽きない。ただ一つだけ分かるのは、このままだと負けるということ。心の奥深くに刻み込まれた
コナミはそれを待たず、悪魔竜に攻撃を命令する。
「バトル! 《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》、《デストーイ・シザー・ウルフ》を攻撃! “ダーク・メテオ・フレア”!」
龍の顎が開き、火炎が放たれる。
否、それは『火炎』の域を超えていた。触れるもの全てを滅却する大砲か。
着弾する直前、素良はカードを拾って発動させた。
「
しかし
抵抗は許さない。そう言わんばかりに。
「《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》が戦闘を行う時、相手はダメージステップ終了時までカード効果を発動できない」
「そんな――っ!」
《デストーイ・シザー・ウルフ》に煉獄が叩きつけられ、その一切が灰塵と化した。
勢いはモンスターだけに留まらず、プレイヤーをも焼き尽くす。
「うわぁぁ――!!」
素良
LP:500 → LP:0
……デュエルが決着し、アクション・フィールドが消えていく。
最後に残ったのは倒れ伏す敗者と……己の力に戸惑う勝者のみだった。
◆
「社長」
スーツの男――中島が呼びかけた。
社長。そう呼ばれた人物は窓越しに街を眺めている。
「分かっている」
そう一言。短くとも簡潔な答え。それで意思は伝わる。
「私の端末でも確認できた。これほどの召喚エネルギー、間違いなく
「はい。以前、社長も伺ったデュエル塾です」
「……何?」
社長と呼ばれた人物――赤馬零児は、ようやく中島の方へ振り返る。
「それはつまり、遊勝塾か?」
「おそらくは。誰の反応かは、まだ特定できていませんが」
「どういうことだ? 私の端末が正しければ、先程のは融合とエクシーズの反応だったが」
「はい。仰る通り、感知された反応はその二つでした。ペンデュラムが一切感知されていない以上、少なくとも榊遊矢のものではないでしょう」
「そうか。他の遊勝塾のメンバーは……」
「これです」
中島は懐から端末を取り出し、画面を投影する。
映っているのは遊勝塾の名簿。人数は塾長・塾生を含めて八人。小規模と言わざるを得ない小さな塾だ。
「……柊柚子。小波ユウ。紫雲院素良。怪しいのはこの三人か。融合エネルギーは紫雲院素良によるものだろうが、エクシーズの出処が読めないな。残り二人の戦績はどうなっている?」
「これまで一度もエクシーズを使用した経歴はありません」
「となると、どちらか二人が覚醒したか……それとも、奴等が現れたか」
「至急、街の警備を増員させます。今後、奴等が本格的に動き出すかもしれません」
「いや、まだ確証がない。下手に動いては刺激するだけだ」
「ですが社長、感知された融合エネルギーは
「なに……?」
エネルギーが二つ。その事実に零児は衝撃を受けた。
これまで何度か巨大な融合エネルギーは感知されていた。だが、それらは常に一つだったのだ。
「これは、紫雲院素良の仲間が遊勝塾に紛れ込んだことを意味しています。様子見の時期はもう過ぎたかと」
「……いや、まだだ。下手に接触して刺激を与えるわけにはいかない。今の我々は力不足だ。だからこそ慎重に行動しなければならない」
「! まだ、続けるつもりですか?」
「ああ。おそらく、紫雲院素良自身は我々に敵意を持っていない。遊勝塾に馴染んでいるのがその証拠だ。ならば現状維持こそが最善。
……問題は他にある。今連中を呼ばれてしまえば、この舞網市は容易に滅ぶだろう。それに、どちらかが覚醒した可能性もゼロではない。ちなみに、その二人の勝率はどうなっている?」
中島は端末を操作し、柊柚子、小波ユウの戦績を確認した。
勝率は決していい方ではない……が、なんとか一定数の勝ち星を上げていた。
「……どちらも、条件は満たしています」
「ならば私から言うことは二つ。
監視を怠るな。何かあったらすぐに知らせろ。
……この反応が敵か味方か、早急に見極める必要がある」
◆
ここまでが一話の時点でぼんやりとあった構成。
素良にエクシーズを見せつけ、追い詰めてキレさせてからの融合。
素良視点だと敵か味方か分からない状態にしたかった。
そしてここが限界でもある。続きが全く書けないでござる。
一応結末としては
①今の自分は既に小波ユウではない。そのけじめとして遊勝塾を去る。
②なんだかんだ言っても所詮は十四の子供。中身だってやっぱり十八の子供。まだまだ大人の助けが必要な年齢。よって、今まで通り遊勝塾で過ごす。
の2パターンがあるのだが、そこに至るまでのルートが作れない。特に②は柊修造による説教フェイズも含めないといけないから尚更。
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