機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト (幻龍)
しおりを挟む

プロローグ

戦記物が書きたいと思い投稿しました。

あくまで気分転換に書いた物なので続くかどうかは未定です。更新も不定期になりそうです。


 遺伝子操作により生まれたコーディネーターはその能力の結果、自然のまま生まれたナチュラルとの確執から排斥運動が起こった為、コーディネーターは差別の少ない宇宙の生産コロニープラントへ移住した。

 

 しかし、そこでのプラント理事国との不平等な貿易に憤ったコーディネーターは政治結社ザフトを組織して対抗した。

そこでC.E.70年地球側とプラント(ザフト)と会談が開催されることになったが、爆破テロが起きそれをプラント(ザフト)側の仕業であると断定しプラント理事国を中心とした地球連合は宣戦布告を行い戦争が始まった。

 

 

 C.E.71。開戦当初から11ヶ月が経っても戦争は終結しなかった。

 開戦直後は圧倒的な物量と兵力差を誇る地球連合の勝利は確実であると思われたが、連合の核を封じる為にばら撒かれたNジャマーと新兵器MSを投入した結果ザフトは圧倒的な戦力を誇る地球連合相手に善戦。

今では地球各地に進軍しており各地で小競り合いが行われている。

 

 これを打開する為に地球連合はザフトのMSに対抗する為のMS開発を行い、ザフトは独立を勝ち取るべく優勢な状況を維持して講和を結ぶための大戦果を得るべく奮闘していた。

 

 

 

「平和だね。ここにいると戦争が起こっているなんて思えない」

「ヤマト参謀、不謹慎ですよ。我々は独立せねば待っているのはよくて奴隷同然の扱いです」

「わかっているって。その為にも参謀本部を設置を進言したり、士官学校の教育改善を行ってるんだから。それにしてもいくら実績があるからといって、若造である僕を参謀にするなんて上は何を考えているんだか」

 

 いくらザフトが能力主義でも16歳の子供を後方のとは言え仮にも軍の重責である参謀に任命するなど正気の沙汰ではないが彼の能力がそれを可能とした。

 キラ・ヤマト自分の平穏な人生の為にもプラントに勝利してもらわなければならないので、キラに生まれ変わったという自覚を持った5歳頃から彼は死ぬ気で全分野の学習して将来に備えた。

そして、10歳の時にプラントへ移住して間もなく兵器会社を設立し、原作知識を活かしつつ、民生品からMSを開発してザフトの設計局が開発する予定だった物を根こそぎ頂くことに成功し開発特許を習得した。更に戦争が始まり収益は一気に増加して大財閥に成長させることに成功していた。

 無論金儲けばかりしていると顰蹙を買う恐れがあるので、戦争前に士官学校へ入学して特進で卒業。そして原作知識を活かした自分の独立する為の計画書を提出し、評議会の目に止まり出世しやすくした。

 最後にこれまでの原作知識を活かした戦略と戦術で功績を積んでいき、拡大する戦線に対応する為参謀本部の設置の必要性を訴え了承された。そしてこの経緯から後方参謀の席を与えられた、最初は作戦参謀への就任要請もあったが国防委員長のパトリック・ザラが若すぎると判断し自らの権限を持って却下した。

 

「ヤマト参謀の意見書と今までの功績の結果かと。最もプラントの人材不足が一番の原因ですが」

「……上層部は僕の計画書と報告書を読んでくれたんだろう? 正直これ以上戦線の拡大は無理だから早期講和に持ち込むしかザフトが勝つ方法はない」

 

 地球連合とザフトの戦力差は絶望的なほど前者が勝っている。

 今はNジャマーとMSを組み合わせた戦術で優勢を保っているが、地球連合がMSを投入してきたらその優位性は崩れる。何よりプラントには長期戦を行える程の国力はないのだ。幸い大戦勃発前に提出した戦争計画書を読んで理解してくれる高官が動いてくれた結果史実より多めに予備兵力を確保することに成功していたが、それでも連合の物量作戦が機能し始めたら最終的には押し潰されてしまう。

 その為プラント独立を勝ち取る戦略として局地的勝利を得る度に講和の申し入れを行うしかない。前世の祖国である日露戦争の時の大日本帝国のように。

 

「連合から奪取したG兵器。ヤマト参謀の財団の傘下会社で技術解析を行っていると聞きますが?」

「ああ。それを元にした新型MSも開発しているよ。僕も試験運転を行った」

 

 火器実験運用試作型ゲイツ。

 マイウス・ミリタリー・インダストリー社と自分がMS設計局を全て吸収して作った財閥マティウス・ミーミル社が開発した武装を装備したZGMF-Xシリーズの超ハイエンドMS、ZGMF-X09A ジャスティスやX10A-フリーダムに搭載する兵装を試す為の機体。しかし、動力がバッテリー式なので全力戦闘できる時間が3~5分しかないとは思わなかったけど。

 最も新型のフリーダムとジャスティス等はPS装甲を展開しつつ強力なビーム兵器を使用する。それを解決する為Nジャマーキャンセラーを使った核動力で動かす予定になっている。

 

「新型兵器の奪取作戦を行う為に参謀が作戦に参加するなんて人手が無さ過ぎる。戦線の拡大をしすぎだよ」

「それは仕方がないのでは? 何せ作戦を実行する予定だった英雄クルーゼ隊長が銃殺刑で処刑されてしまった以上立案した参謀にお鉢が回ってくるのは当たり前では?」

「それはそうだけど、もうちょっとオブラートに包んでほしいな。セシリア」

「すみません。軍務でお疲れであるということを忘れていました」

 

 顔を少し引き攣らせているキラを見てアイスブルーの瞳に黒髪を腰まで伸ばしたモデル体型の美少女で同僚であるセシリア・マルカルは慌てて謝罪を口にする。

 ちなみに英雄ラウ・ル・クルーゼが銃殺刑になる証拠を提出したのはキラなのでセシリアの言う通りある意味自業自得ともいえた。

 

「アスラン隊は足付きの追跡任務だっけ?」

「いえ。プラント最高評議会議長の娘ラクス・クライン嬢が行方不明になったため婚約者であるアスラン・ザラは捜索部隊に一時編入され目下捜索活動中です」

 

 自分がアークエンジェルにいない以上連合がラクスの救命ポットを拾うことはないので、人質に取られる可能性はほぼない。

 しかし、万が一回収されたときの奪還プランを考える必要がある。彼女はプラントで絶大な人気がある歌姫であり、プラント内でも彼女のファンはかなりいる。何せあの堅物と周囲から思われているイザーク・ジュールですら彼女のファンなのだ。

 

 ザフトに彼女を見捨てるという選択肢は存在しない。

 キラとしては彼女に関わると原作ルートに突入しかねないので、このままアスランの婚約者としてプラントでアイドル活動を続けて、余計な行動はしてほしくないと思っていた。

 

「もしもの時の為の作戦を練っておくべきかな。ところで上層部は足付きの追跡続行を許可したの?」

「はい。最もたかが一隻を落とす追跡任務の為に今の所増援は出さないとのことです」

「やっぱりそうなるか」

 

 寧ろいくら最新鋭の万能戦艦といえどたかが一隻の為に増援を出すと言ってきたらキラとしても「そんな余裕はありません」と返答するつもりだったので上が断ってくれたことに安堵していた。

 現在ザフトはパトリック・ザラ国防委員長が考案した戦争の早期終結を目指した大作戦の準備に関係部署はどこも作業に追われているのだ。

 特に物資補給等を担当する後方参謀はどの戦線から兵力を引き抜くか作戦本部で作戦参謀達と協議しつつ、各戦線に送る補給物資のやり繰りに頭を悩ませていた。

 

「バルトフェルド隊長からはMS、特にバクゥをもっと廻してくれと言ってきてますが……」

「……」

 

 ザフトの生産力は地球連合に遥かに及ばないと上層部はわかっているにも関わらず、前線を担当する隊長達にその意味があまり伝わっていないことに思わず腹が立った。

 

(開戦当初から物資のやり繰りは慎重に行うように指揮官クラスには徹底したはずなのに……)

 

 懐具合があまりいいとはいえないザフトで物資補給担当の苦労は他の部署よりも軽く数倍は苦労する。

しかし、連合の要所でもあるスエズ運河とその基地を抑える役割を担っているバルトフェルド隊の要請を無視することもできない。

 

「バクゥは参謀本部から例の作戦の為に数をもっと寄こせと言ってきている。現状の生産力では送る余裕はほとんどない」

「しかし、日に日に催促が激しくなってきています。無視するのは不可能では?」

「……その代りザウートを送る。バクゥも何とかできるだけ数を送る。彼ならば事情を説明すれば無理強いはしないだろう」

 

 バルトフェルドはナチュラルを差別しないザフトには珍しい良識派だ。

 なるべく便宜を図ってやりたいというのが俺の本音でもあったので、経営者権限を使って何とか捻り出してみるかと結論を出し、兵器工場に掛け合うことにした。

 

 

 

 

 ザフト軍に入隊して1年。キラ・ヤマトは出世街道を突き進み現在ザフト軍で参謀をしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

 期日が迫る大作戦や各地の指揮官の要望で1機でも多くのMSを確保する為、関係部署への根回しや製造工場に生産力を上げられないか相談に行ったり、研究機関に新型MSの開発を急がせるように言った後、参謀本部の自室に帰還してすぐに、信じられない報告が入ってきた。

 

「イザークが負傷した? おまけにデュエルは中破だって!?」

「はい。イザーク・ジュールは脚付き追跡任務で脚付きと交戦した際撃墜こそ免れましたが機体は中破し、本人は顔に傷を負いました」

「そうか(自分がストライクを動かしているわけじゃないのに何でだ?)」

 

 キラのいないアークエンジェルのまともな戦力はムウ・ラ・フラガだけ。彼がストライクを操縦しているにしても、今の時点ではナチュラル用OSは完成していないのだからまともに動かせないはずだ。

 そんなMS相手に少々この頃は短気が欠点でも赤服であるイザークが、手傷を負わされ機体も損傷したことに驚きを隠せない。

 

(まさかOSが完成したのか? 或いはクルーゼみたいに元々素質があって操縦が可能だったか……どちらにしても厄介だな)

 

 どうやら主人公のいないアークエンジェルの力を過小評価しすぎたようだ。

 

「デュエルは修理する為、参謀がオーナーをしているマイウス市にあるミーミル社工場にあります」

「デュエルはビーム兵器が搭載されている為現存するザフトMSより優秀だ。しかし、奪取した他の3機より性能が劣る。修理と同時に機体性能を向上させる必要があるだろう」

 

 デュエルには原作通り、アサルトシュラウドを付けて機動力と火力を強化するプランを奪取する前から用意していた。何せデュエルガンダムは基本装備以外付いていない汎用性MSだ。このままでは地球連合軍が開発するMSに苦戦を強いられるのは間違いない。

 

 だから、追加で付けたアサルトシュラウドがどの様な性能を発揮できるか、試験運用も兼ねて原作通り装備させることにした。

 

「それなら開戦前に趣味で作ったアサルトシュラウドにフライトユニットをつけた複合装備が会社の倉庫に眠っていたから、あれを付けてデータ蒐集を行うか」

 

 ディンやバビを量産するよりも、将来ウィザードシステムで武装換装が可能なザクに大気圏で飛行可能な装備を付けた方が効率がいいと考え、その先行実験用として生産していたあれが役に立つときがきたようだ。

 

 さっそくその様に指示を出すと、そのフライトウィザードを造った技術者は大喜びでデュエルを改造し始めた。足付き追跡任務があるので最優先に修理するように国防委員会からの命令もあったので、作業は1週間以内に終わらせるように努力するそうだ。

 

「国防委員会は他に何か言ってきたのではないですか?」

「察しがいいね。今度の大作戦の攻撃目標であるパナマ軍港攻略に必要な戦略兵器『グングニル』の製造はどうなっているか聞いてきた。無論順調だと答えたけど」

「そうですか。この作戦が成功すれば連合は宇宙港を全て失うことになりますね」

 

 過去、地球連合が保有していたマスドライバーはアフリカにあるビクトリア、台湾にあるカオシュン港、パナマの3つ。

 しかし、その3つの内の2つビクトリアとカオシュンは現在こちらが占領しておりプラントに資源等を上げるのに役立っている。

 最高評議会は連合が保持する最後の宇宙港であるパナマを落として、連合を地球に閉じ込めて連合の宇宙軍の補給を断ち、士気が下がった所を攻め落とすことを考えていた。

 

「連合としては自勢力に残った唯一のマスドライバーだから絶対死守してくるから、嘗てない激戦になるだろうけど」

 

 今の所この作戦の攻撃目標はパナマとなっている。しかし、原作通りならパトリック・ザラが一部の軍人達と結託して攻略目標を変更しているが、その様な機密情報は、参謀といえど新人の若造であるキラのもとには入ってこなかった。

 

(穏健派よりの中立派に属していると思われているのも原因かな)

 

 アスランの親友ともあって一応パトリックにも悪い印象は持たれていないのだが、英雄クルーゼスパイ摘発事件の件に加え、早期講和とプラント独立を目指す為に穏健派であるアイリーン・カナーバと接触して幾度も話し合いを行っている。

 プラントには長期戦を行えるほどの国力はないのだ。戦線が膠着状態になっている状況はプラントにとってはよくない状態で何とか和平交渉を成功させる必要がある。

 

 プラントが独立できるのなら占領地は、カーペンタリア基地周辺以外は放棄してしまってもいいとキラは考えている。カナーバ氏も大方同じ考えを持っており和平案作成を穏健派と進めている。

 

「次の作戦のパナマ攻めは太平洋と大西洋から挟撃する形になる。しかし、敵もそれは予測しているだろうな」

「降下部隊を同時に降下させて一気に橋頭保を確保してマスドライバーを確保或いは破壊ですね」

「恐らく破壊することになるだろう。あそこは地球連合の盟主である大西洋連邦の領域に近すぎる」

 

 例え制圧しても大西洋連邦の裏庭ともいえる中南米地域を占領・維持することは不可能だ。だから、作戦本部でも破壊が妥当という意見が大半を占めている。

 

「しかし、パナマを攻略するにしては些か他の戦線から部隊を引き抜きすぎではないでしょうか? グングニールの使用を考えれば少し多すぎる気がするのですが……」

「万が一を考えてだろう。連合のMS開発が進んでいることを考えれば別に過剰ともいえないことはない」

 

 不思議がっている副官を見てもう少し作戦本部は作戦の秘匿に務めるべきだと思った。

 グングニールを用意しておきながら各戦線の部隊を引き抜く。このような大部隊を異動し動員すれば怪しむ輩が現れることを想定してないのだろうか。

 

(義勇軍であるザフトの未熟な部分が出たと云えるな。しかし、何とか攻撃目標をパナマに戻せないだろうか)

 

 クルーゼはすでに退場しているので、連合軍は攻撃目標が確実にアラスカだと知ることができない。だから、連合がサイクロプスを用意することは難しいと今の所判断しているが、それでも一抹の不安は残る。

 

 攻撃目標変更はパトリックの独断なので何とか阻止したいが彼はプラント国防委員長だ(後に最高評議会議長を兼ねる予定だったが見送りになった)。残念ながら阻止する方法はない。

 

(万が一に備えておく必要があるな。しかし、ジェネシスを2基も製造するとなると予算が厳しい)

 

 パトリック・ザラの命令で建造が進められている大量破壊兵器ジェネシス。当初は『γ線レーザー砲』として建造される予定だったが、クルーゼを始末した折に穏健派を焚きつけて1基を00のメメントモリみたいなビーム砲に計画を無理やり変更させた。そして、試作型のジェネシスαを予定通りの『γ線レーザー砲』にすることに成功した。

 

 ちなみにそれが決まった時のパトリックの顔は真っ赤になっており、彼は自宅に一時帰った時に怒鳴り散らしたらしい。

 

(これでプラント側の大量破壊兵器にある程度枷をつけることができた。後は連合にNジャマーキャンセラーの情報を渡さないだけだ)

 

 その為にもジャンク屋ギルドとマルキオ導師を監視し、最悪排除する必要がある。特にジャンク屋はテロリストの兵器供給所になる可能性が高いので、キラはいずれジャンク再生分野に進出してシェアを奪うつもりでいた。

 

(前途多難だな。しかし、自分の平和な生活を獲得する為にもやりぬくしかない)

 

 これから先の未来への不安を抱きながら今日も仕事をこなすのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

更新です。

たった2話更新しただけでお気に入りが100件を超えたことに驚いている筆者です。
こっちの筆が進んだので自分としては珍しい2回目の更新をします。

それにしてもアスランが一番嫌われているんだな……。二期目の脚本の罪は重すぎるとつくづく思いました。アスランの〇モ疑惑も凄まじいな……。


 ラクス・クライン嬢が無事にユニウスセブンから帰還しプラント上層部は一先ず胸をなで下ろした。

 そして、ラクス・クライン探索任務を終えたアスランが帰還。デュエルの修理と改装は予定通り終了したので、アスラン隊の旗艦ヴェサリウスはガモフと共に足付き追撃任務を続行する為プラントを出航した。

 

「バルトフェルド隊に回す物資はほぼ手配しました。後はMSが揃い次第ジブラルタルへ送ります」

「ありがとうジーク。今度休日が取れたら何か奢るよ」

「いえ。あなたの副官として当然のことをしただけです」

 

 ジークリンデはキラに褒められて年相応の微笑みを浮かべる。

 ジークリンデはやや切れ長の理知的な蒼い瞳に、透き通るような白い肌と見事な対をなす薔薇色の唇に加え、最高級絹ような光沢を放つ銀色の長髪をくびれた腰まで伸ばし、一流モデルのようなスラリと長い脚はとても軍人をしているとは思えない程綺麗であり、顔も動かなければ精巧な人形と勘違いするほど整っている。(ちなみに名前が長いので周りからはジーク或いはリンデと呼ばれることが多い)

 彼女は女性にしては背が高く大人びた雰囲気を纏っているので、キラと並んでいると年上だと勘違いされてしまうが、上司であるキラと同じ年でザフトに入隊して以降苦楽を共にしてきた仲である。おまけにキラとジークリンデは恋人関係にあり。身長は僅かに彼女の方が上なせいか年上に見られがちだが非常にいい関係で、周囲はこんな才色兼備の女性を彼女にしているキラとの仲を持て囃したり、嫉妬の視線を向けてたりしていた。

 

「ザラ隊に増援を送する様にユウキ隊長に要請したとか」

「足付きは唯一手元に残ったG兵器を届けるべくアラスカに降下する。だから、先行させたザラ隊に増援を送った」

 

 原作よりも多くの戦力が攻撃に加わる予定になっていた。第八艦隊を確実に殲滅する為にはこれぐらいあっても問題はない。あとは我が軍の奮闘を祈るしかない。原作より戦力が下がっている敵相手に過剰ともいえるかもしれないが、イザークが負傷したことを考えると念には念を入れておいた方がいいと判断したからだ。

 

「さて、後はザラ隊の奮戦に期待しよう」

「そうですね。もし、失敗したら喝を入れてやりましょう」

 

 

 

 

 隊長であるアスランが帰還したことでザラ隊は先行して足付きを追ったが、足付きが第7艦隊と合流してしまった為迂闊に手を出せなくなり目標を見失わない様に追尾することしかできなかった。

 このまま手をこまねいて足付きを地球に降下させるのを座視するのは論外だが、現戦力ではこちらの数が少なすぎるので下手に攻撃を仕掛ければ包囲されて全滅する恐れがある。

 

「足付きを撃沈する為すぐに仕掛けるべきだ! ナチュラルの艦隊等蹴散らしてしまえばいい!」

「今の戦力では冒険はできない。いくらこちらに敵から奪取したG兵器があっても数が違い過ぎる」

 

 アスランの慎重な姿勢にイザークが噛みつく。彼はアスランをライバル視しており処刑されたクルーゼの隊を臨時で引き継いだキラが、引き継いだ隊の隊長にアスランを任命したことに少しだけ納得していなかったのだ。

 

 元クルーゼ隊は当初誰が隊長となって引き継ぐかザフト軍上層部でも議論になった。何せクルーゼに率いられたクルーゼ隊は練度が高い部隊なので、兵力不足に悩むザフトに本国で遊ばせておくという選択はなかった。

 そこでクルーゼの叛意を突きとめ証拠を押さえて、ザフトでも指折りのMSパイロットでもあったキラが預かることになった。幸い彼が元々ザフト軍に入隊する可能性を考慮して軍事・軍政等をいち早く学んでいた結果、指揮官適正もある上に武勲も申し分なかった為、評議会の面々も特に反対することなくあっさりと彼が隊を引き継ぐことになった。

 

 しかし、ここでパトリック・ザラが軍政面の方により才能があると判断してキラを、彼の意見を取り入れて創設されたザフト軍参謀本部の後方参謀に異動させた。

 彼は裏切り者クルーゼを重宝していたので彼が粛清された後周囲から嫌味を言われるだけでなく、プラント政府・ザフト軍内でもその発言力が著しく低下していた。自らの支持基盤である強硬派ですら彼を見限り始めており、その評議会内でも彼の影響力は徐々に衰えつつあった。結果最高評議会議長就任すら怪しくなってきており、変わりに周囲から政治手腕に定評がある穏健派のアイリン・カナーバ氏を議長にするべきだという声が、評議会内でも日に日に高まってきている。その結果シーゲルの議長辞任は延期になり、誰が議長に就任するかは大作戦発動後に持ち越すことになった。

 パトリックは自分の不甲斐なさと裏切りを働いていたクルーゼを内心で罵りつつ、何とか自分が議長に就任する為の成果を得るべく大作戦を早めることにした。それと同時にカナーバの議長就任を望む穏健派達がこれ以上点数を稼がないようにする為、彼等を内心支持している者を各戦線に支障がない範囲で後方に下げることにした。

 その人事異動の真っ先の標的となったのがクルーゼの裏切りの証拠を集めて告発したキラだった。最も本人は危険なオペーレション・スピット・ブレイクに投入されることがなくなったことを内心安堵して喜んだのだが。

 

「ユウキ隊長とキラ隊長が意見を具申した結果援軍を寄こしてくれる。それと合流でき次第仕掛けるぞ」

「キラ隊長ね……随分と出世したもんだな」

 

 アスランの口から出たキラの名前にディアッカ・エルスマンは嫌味半分、羨望半分に呟く。

 キラは自分達と同じ年齢でありながらザフト軍が使用するMSを独占的に供給する軍需会社の経営者。その上ザフト軍に入隊したらあっという間に出世していき今では自分達を命令する立場になった。

 いくらプラントが能力主義で15歳以上で大人に認められるとは云え同年代の男としては嫉妬したくなるのだ。

 

「あいつが就任したのは後方参謀だ。今頃俺達が活動できるように色々と苦労しているんだぞ」

「そうですよ。父も言っていましたよ。彼のおかげでザフトの補給がスムーズに行えている。前線の要望も可能な限り聞き入れてくれるから作戦本部でも評判はいいみたいですし」

 

 キラの仕事の大変さを理解しているアスランはディアッカを嗜め、二コルも自分の父から聞いたことを話してアスランを援護した。

 

「悪かったって。そんなに怒るなよアスラン。俺も奴に関しては嫌っていないさ」

 

 ディアッカはアスランに慌てて弁解する。

 キラは基本的には仕事を真面目に取り組む上優しい性格な上ザフト内でも三本の指に入るエースパイロットなので憧れや尊敬を抱くものが多い。上からは若い割には現実を見据えることできる奴だと概ね好評価をもらっている。その為同期の中で一気に出世して今ではザフト内でも割と有名人だった(容姿も悪くないのでアスラン程ではないがもてるので、プラント内での名家の令嬢等とお見合いや会食を持ちこまれることもあるが、その内のジークリンデといい関係になった結果それは以後減少していた)。

 

 ディアッカはキラの能力と出世ではなく、そのリア充の部分に男として嫉妬しているだけで彼自体を嫌っているわけではない。

 

「アデス艦長。足付きの様子はどうなっていますか?」

「偵察機からの連絡によるとまもなく連合艦隊と合流するらしい。どうするのですか?」

 

 ナスカ級戦艦ヴェサリウスの艦長を務めるアデスはどうするのか決めてもらうためアスランに視線を向ける。

 アスランはそれを受けて暫し熟考した後口を開く。

 

「増援の到着まであとどれくらいだ?」

「予定通りなら後約10分後に合流ポイントに到達します」

「そうか……なら、増援部隊に連絡。我々は先行しぎりぎりまで敵に接近して気取られない位置で待機する。そちらは到着しだいそのまま敵艦隊に攻撃を仕掛けるようにと」

 

 アスランはまだ気づかれていない自分達を伏兵として付近待機し、増援部隊を利用して敵を分散させて双方を撃滅することにした。

 

「ヴェサリウスは敵の索敵範囲に入らない場所まで移動を」

「了解した。ヴェサリウスを所定の位置まで移動だ! パイロットはいつでも出撃できるように待機せよ!」

 

 アデスはクルーゼに付き従って手柄を立ててきた優秀な艦長だ。命令を1つするにしてもアスランよりも上司の頼もしさが感じられた。

 アスランはアデス艦長を見て自分もまだまだ精進が必要だなと改めて思うのであった。

 

 ザフトは戦力を増強して足付きを殲滅する為に第七艦隊へと進軍を開始。こうして低軌道会戦の幕が開けるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

3話でお気に入りが200件超えたことに驚いている筆者です。




 プラント本国から派遣された増援部隊はアスラン隊から作戦を提案されてそれを渋々了承し、第八艦隊の索敵エリア近くで待機していた。そして、10分後には敵の索敵範囲に突入することになっていた。

 

「『増援部隊はこのまま連合軍に向かって進撃。敵が向かってきたら迎撃を行った後、順次MS部隊を発進させて敵本体を叩くべし』か。我が隊を囮に使うとは元クルーゼ隊の連中は元隊長殿の教えをしっかりと受け継いでいるようだな」

「艦長。あまりそのことは話題にしない方がいいかと……。国防委員長の耳に入ったら叱責されるだけでは済みませんよ」

 

 アスラン隊からの要請に対して思わず皮肉を口にした増援部隊を指揮する艦長に副長が宥める。

 英雄ラウ・ル・クルーゼの裏切りはザフト内部に大きなショックを与えている。そして、クルーゼを重用していた国防委員長のパトリックは、彼の裏切りで肩身の狭い思いをする羽目になったのでその手の話題はザフト内でしない方がいいのだ。 

 

「ふん。ナチュラル共に通じていた裏切り者に好き勝手させていた国防委員長は何故責任を取って辞任しないのだ? それに国防委員長の息子が今やその隊を引き継いで隊長だぞ? どう考えても今回の作戦はパトリック・ザラの得点稼ぎではないか」

 

 この増援部隊を指揮する艦長は元々あの胡散臭い仮面男クルーゼを信用するに値しない人物とみていた。それ故に彼が裏切り者だと暴露されたときはそら見たかとクルーゼを英雄と言っていた者達に対して散々皮肉を言いふらしていたほどだ。

 

「今回の作戦は参謀本部でも承認が出た以上文句を言っても仕方がないかと。それよりもこれだけお膳立てされたのですから、真面目に働かないとそのアスラン隊のように周囲から顰蹙を買うことになりかねません」

「そんなことはお前に言われんでも分かっている。2個小隊発進。事前に通達した通りに動け。残りのMS隊は先行部隊発進後順次発進して指定の場所で待機せよ」

 

 軌道会戦の狼煙がザフトから上がった瞬間だった。

 

 

 

 

 地球連合軍はザフトのMS部隊接近を感知してすぐに陣形を整えて迎撃準備を開始した。手始めに偵察部隊と思われる小隊を撃破すべく連合お得意の物量作戦を展開。メビウス60機と巡洋艦3隻は数の暴力で敵を押し潰し、先制攻撃を仕掛ける為発進した。

 感知された数は4機だったがジンとメビウスのキルレシオは1:3かパイロットの腕しだいではそれ以上の差をつけられることもあるので、相手の戦力の5倍に値する数を発進させたのだ。無論兵力の小出しでは? と意見する者もいたが、アークエンジェルを無事に降下させるのが目的なので、敵に接敵されないことに越したことはないとハルバートンが判断し先制攻撃することになった。

 

 アークエンジェルが第八艦隊を援護するためMS発進許可を申請してきたが、指揮官であるハルバートン准将はそれを却下し、アークエンジェルはGを地球に届ける為の降下に入るように命じた。

 

「連中が後退していく? どういうことだ? それに偵察部隊だけで本隊が見当たらないぞ?」

 

 先陣を切るメビウス小隊の隊長がザフト部隊の急な後退を見て訝しむ。ザフトは自分達連合軍人より基本的に優れた能力を持つので自分達を劣等種と見下しており、おまけにMSという新型兵器による質の優位を今の所持っている。自分達と邂逅したらまず間違いなく仕掛けてくる。何せザフトの優れた軍人は時に数的有利を凌駕するパイロットも多いのだ。

 それに自分達を発見して一撃も喰らわせずに後退するなど普通はありえないことなのだ。何せ連合はユニウス・セブンに核を撃ちこんでいる為こちらに敵意を持っている者も多いのだ。

 

「メビウス程度に怯む連中ではないはずだ……まさか!? 先鋒部隊全員急いで後退せよ!」

 

 先鋒部隊を率いる隊長は罠だと気付き後退を指示するがすでに遅かった。その瞬間左右上下から弾幕の暴風が降り注いだ。最初のその一撃で60機あったメビウスの20機が撃墜され、10機が損傷する被害を受ける。

 

「完全にしてやられたか!? 全機急いで本隊まで撤退せよ!」

 

 隊長がそう命じるがすでにメビウス隊は奇襲によって混乱しており、組織的な撤退が行えず次々とジンとシグーに撃墜され火炎球となっていった。

 

「ちくしょう!? 追いつかれる!?」

「た、助けてくれ~!?」

「うわああああー!? 隊長ー!」

 

 メビウス部隊は大した対処ができずに次々と宇宙を照らす花火へと変わっていく。隊長は冷や汗が一気に吹き出しながらも自ら死地から撤退を開始した。

 

「くそ!? まんまと罠に引っ掛かるなんて連合の将の質も落ちてきているということかよ!?」

 

 祖国の勝利を疑っていない隊長であったが、それまでにどれだけの被害が出るのやらと自軍の不甲斐なさと上の無能さに思わず歯噛みした。

 

「死にたくなければ全力で撤退しろ! それと上へ罠に掛かったと報告を……なっ!?」

 

 隊長機の目の前にMS用の突撃銃を構えたジンが銃口を向けていた。こうして先鋒部隊の隊長は率いた隊と共に宇宙の塵となって消え失せるのであった。

 

 

 

 

 

「何! 先鋒部隊が全滅だと!?」

「はい。敵の不意打ちを受けメビウス隊は全滅。巡洋艦2隻が撃沈。1隻が鹵獲されました」

「おのれ化物共が!?」

「ザフト軍は徐々にこちらに近づいてきています。如何いたしましょう?」

 

 オペレーターの言葉に指揮官達は司令であるハルバートンに顔を向けて指示を仰ぐ。

 ハルバートンは少し考えた後おもむろに口を開き指示を出す。

 

「我々の目的は敵の撃滅ではなく。アークエンジェルをアラスカに降下させることだ。艦隊は現在の陣形を維持して敵を迎え撃つ」

「しかし、勢いにのるザフト軍相手に防衛線を維持できるでしょうか?」

 

 一人の将官がある不安を口にする。相手は被害なしの士気の上がるザフト軍。こちらは迂闊にも送り出した部隊が全滅してしまい士気低下が著しい数だけが多い軍。

 数は確かに力であるが絶対ではない。実際の戦というのは将才と士気が大きな要素を占めるときもある。第一次世界大戦でのタンネンベルクの戦いではドイツ軍12万に対して、ロシア軍は40万にも関わらず被害はドイツ1万2000人に対してロシアはその10倍ともいえる10~12万も被害を出して大敗している。

 

(このまま守りの体勢で果たしてザフトを撃退できるのであろうか?)

 

 増援が送られてきて第八艦隊の戦力は増えていたが、先程の敗北によって戦闘中に兵士がザフトに対する恐怖を再燃して士気が崩壊して戦闘中に総崩れにならないか心配した。

 

「問題ない。我らの目的はアークエンジェルとG兵器を降ろすことだ」

「しかし、アークエンジェルだけに拘って第八艦隊の被害が大きくなったら我らは宇宙で不利になり戦略に支障が出る恐れがあります」

「第八艦隊の鉄壁の陣形に隙はほぼない。ザフトも形勢不利を悟れば数で劣る以上深入りはしてこないだろう」

 

 第八艦隊の練度はかなりのもので開戦当初に優秀な将兵を多数失った連合の中では貴重な戦力であると同時に、簡単にはやられないという自負が第八艦隊の将兵にもあった。だから、一度攻勢を跳ね返せばザフトは戦力を無駄使いできないので撤退するだろうとハルバートンは読んだ。

 

「陣形はそのまま! ザフトの連中にプロの軍人の実力を見せつけるのだ!」

 

 ハルバートンは将兵を鼓舞しながら指揮を取るのであった。すぐそばに死神が潜んでいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

「連絡。『敵先鋒部隊を撃滅す。大魚は罠に掛かった』だそうです」

「予定通りだな。ヴェサリウス並びガモフは発進。標的は第八艦隊と足付きだ!」

 

 艦長であるアデスが全軍に進軍命令を下す。

 そして、一気に第八艦隊に向けて進軍を開始した。

 

「アスラン隊長率いるG部隊から連絡。奇襲に成功したと入りました」

「そうか、我らも頑張らねばならぬな」

 

 アデスは映像でたったの四機ながら次々と敵MAを火球にしたり、敵艦を沈めていくG部隊を見ながらそう呟いた。

 

「しかし、まだ敵の数が多い。このままでは包囲されてしまうぞ。残りのMS部隊発進。四機を援護するんだ!」

「了解です、MS部隊発進準備を開始します」

 

 アスラン隊のほとんどのMSがアスラン達の援護と自分の得物を求めて発艦した。

 

 

 

 

「何とか成功しましたね。アルテミスの時と違い本当にできるか不安だったですけど」

 

 第八艦隊崩壊の序曲は奪取されたブリッツガンダムによる奇襲から始まった。

 ブリッツは本国で用意されていた特殊装備を付けてミラージュ・コロイドによるステルスで敵旗艦の懐に入り込むことに成功し、ハルバートン准将がいる敵旗艦メネラオスを撃沈することに成功した。そして、ミサイルや機雷を大量にばら撒いて傷跡を大きくする。

 

「さっそく撃ちこんできましたか。さっさと退散することしましょう」

 

 ブリッツが付けているのはミーティアの試作として製造されたMS用特殊ブースターであり、ミラージュ・コロイドによる奇襲をする為の奇襲専用装備だ。最もこの装備は試作用に開発された物を改造しただけで本格的な量産は見送られることになったらしい。

 二コルは勿体無いと思ったがミラージュ・コロイドを搭載した機体を量産するのは難しいと技術者から聞いているので仕方がないと割り切った。

 

「後は頼みましたよ。アスラン、ディアッカ、イザーク。僕は一旦補給をする為に戻ります」

 

 二コルはブースターを点火して物凄いスピードで第八艦隊の展開する領域から撤退した。

 連合将兵は旗艦が潰されたことに憤慨したが、今度はイージス、バスター、デュエルが混乱する艦隊へ襲いかかったので、それの対応に追われるのであった。

 

 

 

 

「二コルの奴、派手にやったな」

「あいつにしては上出来といえるか」

 

 ディアッカとイザークは混乱する第八艦隊を見て思ったより戦果を挙げた二コルに感心する。

 

「二人とも二コルがうまくやったんだ、俺達が失敗したらこれまでの成功が無意味になる。絶対に成功させるぞ」

「はっ、貴様に言われるまでもない!」

「(やれやれ)じゃあ、さっさと行きますか」 

 

 アスランは優等生のようなことを言い、イザークがそれに噛みつくといういつもの光景にディアッカはやれやれと思いながら艦隊に突っ込むアスランと張り合うイザークの後に続くのであった。

 

 

 奪取されたG兵器の第2の奇襲が第八艦隊に猛威を振るい艦隊の傷を広げ将兵の士気を下げる。

 そこへヴェサリウスとガモフ率いる部隊が到着し、半ば恐慌状態になっていた第八艦隊を次々と撃墜する。ハルバートが万全を期した陣形は智将であるハルバートン司令の戦死と、彼が主導したMS開発計画のG型MSの威力によって壊滅してしまう。

 アークエンジェルは何とか降下ポイントに到着し、大気圏突入に成功したことで任務は達成されたことを確認した後、生き残っていた部隊はこの戦場から撤退しようとしたが、この数分後到着した囮を行ったザフト部隊との挟み撃ちによって増援にきた部隊諸共全滅し、後に低軌道会戦と呼ばれる戦いはザフトの大勝で終わった。

 この会戦以降地球連合は制宙権確保が難しくなり、ザフトの通商破壊によって輸送船を撃沈される等宇宙での活動に苦労する羽目になった。

 

 

 

 低軌道にて連合軍第八艦隊を殲滅したという情報がザフト参謀本部に届き、今回の作戦を推進した関係者は無事に作戦が成功したことに安堵した。

 

「これで連合の宇宙での活動は鈍る。通商破壊をもっと行うように上へ提案するか」

 

 キラは通商破壊を強化させて月基地を締め上げることを考えた。パナマのマスドライバーが機能している間は焼け石に水だろうが、『パナマ・ポルタ』を破壊できればいずれ無視できない損害になる。

 

(プラント情勢は思ったよりよくないから、常に橋を叩いて渡るつもりで考え行動しないといけない……自分が生きていける場所の確保のためにもここで躓くわけにはいかない)

 

 キラは上に持っていく意見書を書きながら、改めて気を引き締めるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

筆が思った以上進んだので更新します。

それとアラスカ戦はどうしようかな……。


 国防委員会から割り当てられた仕事部屋で、キラは久し振りに親友アスランと会っていた。

 

「久しぶりアスラン。元気にしてた? それとラクスとの仲は進展した?」

「いきなり何を言うんだお前は……。お前の方こそ彼女と婚約でもしたらどうだ?」

「今はそんな暇ないよ。戦争が終わったら考えてみるけど」

「お前は相変わらず忙しいらしいな。それで俺を呼び出した理由はなんだ? お前のことだ。ただ親友と話したいだけじゃないんだろう?」

 

 アスランは自分を呼びだした理由を訊ねた。

 低軌道会戦で足付きは逃したものの、数で勝る第八艦隊を全滅させることに成功したザフトは意気軒昂になった。

 だが、プラント上層部にとってこの会戦は次の大作戦の前哨戦に過ぎないと考えており、スピット・ブレイクの準備に取り掛かった。

 キラも自社の新型MSの開発と増産、兵器の更新等で忙しく、漸く一旦帰還したアスランと話ができる時間が取れたのだ(アスランが帰還して一週間後だった)。

 

「最新鋭の新型MSの開発が進んでいることは知っている?」

「ああ。父は俺をそれのパイロットにするつもりらしいからなのか、父からその話は聞いたことがある。何でも奪取したG兵器の技術を取り入れた画期的なMSらしいな」

「そのパイロットの選出結果が出たんだけどその内の一機は君に与えられることになりそうなんだ」

「俺が? ……父上の御意向か?」

 

 最高評議会議長就任を白紙に戻されていたパトリック・ザラの焦りは、息子であるアスランにも伝わってきている。その為彼は自分の中で計画していたナチュラル殲滅をする為の権力を逃してしまったことに歯ぎしりしていた。それが逆にプラント独立の為の行動に傾きかけていたのだが、根っからのナチュラル嫌いである彼は殲滅を諦めてはいなかった。

 そのことを知っているキラは、裏で彼を如何に権力の座から引きずり降ろすことを考えており、それをアスランが今後も知ることがないのは不幸中の幸いといえるだろう。

 

「それもあるけど新型のMSの戦闘スタイルが君に合っていることがわかったんだよ。貴重な超ハイエンドMSだからパイロットは厳選するみたい」

「そうか。上の決定なら文句を言っても無駄だな。わかった。その件は引き受けよう」

「機体の最終調整が終わってないから受け取るのはしばらく後になるから、しばらくは奪取した機体で頑張ってもらうけど」

「了解だ。お前も精々身体を壊さないようにな」

 

 アスランはそう言って参謀室を後にした。

 

「さてと。僕も自分が希望していた面会に行かないとね」

 

 キラも用事を済ませるべく外出準備をして、部屋に扉にロックをかけて出かけるのであった。

 

 

 

 

 

(一体どうするべきか)

 

 パトリック・ザラは国防委員長に割り当てられる部屋で頭を抱えて悩んでいた。それは今度行われる大作戦『スピット・ブレイク』の攻撃目標をどこにするかだ。

 パトリックは攻撃目標をパナマだと思っている連合の裏をかく為アラスカに攻撃目標を変更することにしていたが、クルーゼの裏切りにより予定が狂ってしまう。

 

(クルーゼめ……あれほど重用してやったにも関わらず恩を仇で返しおって!)

 

 クルーゼの裏切りが発覚したせいでパトリックの予定は何もかも狂いだしてしまった。

 最高評議会議長就任は白紙になり、穏健派であるカナーバが議長になるべきだという雰囲気が最高評議会に生まれたのを端に発して、自分の支持基盤である強硬派に対する民衆の支持も現在進行形で落ちている。そして、戦争を終わらせる切り札であったジェネシス建造に大幅な修正を加えられ、自分の真の目的であるナチュラル殲滅が不可能になってしまい歯を食い縛って耐えることになった。

 

(極め付けはスピット・ブレイクの攻撃目標が敵方へ漏洩した可能性があることだ。これでは迂闊に独断で変更できなくなってしまった)

 

 万が一クルーゼが攻撃目標を漏らしていた場合、アラスカに侵攻するにはリスクが高すぎる。奇襲したと思い込んでアラスカに向かった結果、鉄壁の布陣を持って待ち構えている圧倒的な物量軍団を前にザフト侵攻軍は全滅するしかない。

 

(そんなことになれば議長就任は愚かこの国防委員長の立場さえ失いかねない。今でもその動きがあるのだ、何としてでもこの作戦を成功させねばならん)

 

 それも大成功でなければならない。例え攻略に成功しても被害が大きければクルーゼが漏らしていたことになり、その責任は必然的に上司であり彼を重用していたパトリックになるのだ。

 

「やむを得ん。穏健派の活躍になるかもしれんが失敗は許されない以上、彼を使うしかあるまい」

 

 パトリックはそうおもむろに呟いた後、人事部に連絡を入れるのであった。

 

 

 

 

 

「早期講和の方はどうなっていますか?」

「一応スカンジナビア王国の人物を使い大西洋連邦に和平交渉を持ちかけているが反応はいまいちだ」

「(今の時点ではやっぱり難しいか)そうですか……」

 

 本日の仕事を終えたキラは自分の財閥が経営している料亭で、アイリン・カナーバ(以後カナーバ)議員を中心とした穏健派と会合を行っていた。

 キラはカナーバから和平交渉がうまくいっているのかどうか尋ねるが、カナーバは首を横に振り少し落胆した声で質問に答えた。

 

「やはり連合を交渉の席に就けるには大戦果が必要になる。これ以上戦争すれば利益にならないと思わせるぐらいのな」

「それは難しいのでは? 連合の回復力はこちらを凌駕しているのだぞ? 野蛮なナチュラル等敵ではないと一部の過激派は騒いでいるが妄想の類の考えに過ぎないのだからな」

 

 穏健派よりの中立派であるメンバーの1人がやれやれと言った感じで、過激派の誇大妄想な発言を思いだし溜息をつく。

 ここに集まったメンバーは、現実を見据えることができる人物で構成されているので、誰も強硬派や過激派の言葉に踊らされている世論に振り回されることはない。

 

「しかし、連合はNジャマーを撃ちこんだ我らを容易に許すわけがない。私もカナーバ議員やキラ会長の仰った通り戦果が必要だという考えに賛成だ」

「だが、戦局は膠着状態だ。幸い軍は連合のマスドライバー施設に大規模な軍事作戦をするという噂があるが、それを行って果たして和平を引き出せるのですか?」

 

 ザフト軍の内情に何故か詳しいキラに会合のメンバーが顔を向ける。

 キラは少し考えた後、軍機に触れない情報だけならいいかと結論して口を開く。幸いここにいるメンバーは政治や軍に関わっている者が多いので漏らす心配はないし、攻撃目標を喋るつもりはないので問題ない。

 

「噂はすでにそこまで広まっていますか。攻撃目標はパナマになるでしょう。ここさえ潰せば月基地を干上がらせることができます。自分としては弱体化した月基地を占領してこれを交渉材料にして和平に繋げるつもりでいます」

「私もキラの考えに賛成している。そろそろ戦争を終わらせないと経済破綻が起きる恐れが出てきた。プラント内の厭戦気分も出始めている」

 

 この会合で力を持っているカナーバがキラの意見に賛成したことにより、会合では月基地を占領して周辺をザフトの庭にすることで何とか和平を実現するということになった。

 

「第一段階は全てのマスドライバーを制圧。第二段階は先程説明した月基地占領で講和まで持っていきます。それが無理なら第三段階まで戦略をカナーバ氏と用意しています。だから、勝手な行動は慎んでください。何かするときは必ず会合で審議します」

 

 会合全体で戦争終結までのプロセスを認識させ、キラは個人が勝手な行動を取らないように釘を刺す。それを聞いてキラの副官であるジークリンデの父で国防委員会の武官でもあり、参謀次長に就任しているアウグスト・フォン・ブランデンブルクや他のメンバーは「わかっている」という態度で応じる。

 

「ただでさえ強硬派と穏健派に別れている。ここで我らが結束せねば戦争終結は遠のくからみんな一層努力してくれ」

「カナーバ議員。その第三段階というのは? キラ会長の言葉のニュアンスではあまり使いたくなさそうですが、それは連合が和平に乗ってこない場合使う策だということでよろしいのですか?」

「ああ。その案は最高評議会で用意されていた策だ。だが、今は話せない。軍機に触れてしまうからな」

 

 カナーバとキラが提案する対連合戦略に、連合(特に大西洋連邦と東アジア共和国の一部の国)の強欲さを知る一部のメンバーから疑問の声が上がっていたが、カナーバに何か策があるらしいのでその様な声は止んだ。

 

「目下の問題は新型兵器の開発とパトリック・ザラの洗脳教育だな。特に後者は何とかやめさせないと和平交渉が実現したら、その結果に不満を持つ過激派がテロリストになりかねない」

「それは確かに問題だな。連合が憎いのはわかるが、関係ない者達まで悪意を向けるような大人にするのはまずい。ただでさえ、出生率が低下しているプラントの人口を維持するには融和は必須だ」

「だが、教育関係はパトリックが抑えている。奴が失脚でもしない限り改めるのは不可能だ」

 

 ここにいるメンバーはパトリック・ザラの性格と強引な手腕を知っているだけに、この件を解決するには彼が失脚して、プラント・ザフト内での影響力を完全に排除するしか方法がないのだ。それがわかっているだけに一同は顔を暗くする。

 

「教育を見直すのは戦後になるだろうね。それまでに何とか手を考えてみるからみんなは強硬派や過激派の動きに注意を払ってほしい」

「我々の道は正直茨の道だろう。しかし、プラントの未来の為には今頑張らなければならない。それを肝に銘じてくれ」

 

 キラとカナーバの言った台詞に全員が頷き、彼らはプラントの未来の為に奮闘することを改めて誓うのであった。この会合の後和平推進派は動きを本格化させることになる。

 

「和平交渉の道筋はある程度目星がつきましたが、肝心のそれを成す為の戦果を得る準備はどうなのですか?」

 

 ある者がそう言い他のメンバーは、MS開発等兵器開発に深く関わっているアウグストとキラを見る。

 

「連合のG兵器から得た新技術を盛り込んだ新型MSZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型と、ZGMF-600ゲイツはロールアウトした。ゲイツは宇宙軍の一部には試験運用を兼ねて配置してある。機種転換は順調に行えているが、本格的な配備には少し時間がかかる」

 

 アウグストは現在配備されているザフトの兵器事情について軍機に触れない程度に説明した。最もこの会合のメンバーは政府関係者か軍人なので多少言っても特に問題ないのだが。

 

 アウグストの説明が終わり、キラが次に新型の簡単な説明を始める。

 

「ZGMF-1017MジンハイマニューバM型はジンとの共用パーツを多くして整備性とパーツ流用によるコスト削減を実現しました」

 

 当初は原作通りのZGMF-1017Mジンハイマニューバを生産する計画が上がっていたが、キラの「最初からZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型にした方が効率がいい」という一声で生産計画を大幅に見直した結果、原作のZGMF-1017MジンハイマニューバとZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型を足して2で割った性能になった。

 武装はゲイツと共通にしたJDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃のビームライフルバージョンともいえるMG-M21Gビーム突撃銃を採用し、防御面では対ビームシールドを搭載しており、連合のMSがビーム兵器を標準装備してきても対抗できるようにしている。スラスターもZGMF-1017Mのスラスターを改造した物を採用して、機動性と運動性を加速性能を強化している。

 

「ZGMF-600ゲイツは当初搭載する予定だった武装を一部排して両腰にレールガンを加えました。それに加えてスラスターの配置変えと増設を行いました(これは原作のゲイツRそのままだけど)」

 

 ZGMF-600ゲイツはキラが原作知識からパイロットから不評が出る、エクステンショナル・アレスターを最初から採用しない方針を取り、武装はZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型と共通のビーム突撃銃を採用。更に原作のゲイツRのように側面スラスターの撤去と腰部背面へ増設を行うことで機動性と運動性能を上げる案を採用して新兵でも扱いやすい機体に仕上げることに成功した。

 

「今の所発表できるのはここまでです。更に新型の開発をしていますので、兵器の性能で遅れを取ることは当分はありません」

 

 キラの説明が終わり、集まった面々はほっとする。

 MSの性能で敵を上回らなければ数に勝る連合には勝てないからだ。特に連合のG兵器の性能に驚愕していた面々は、いずれ連合にも優れたMSが大量配備されるのは時間の問題だと考えていただけに。

 

 「今日の会合はここまでとする。次回の会合は追って連絡する。以上だ。全員一層の努力を期待する」

 

 会合の最後はカナーバの言葉で締めくくられることになり、会合のメンバーは帰路についた。

 




一応原作のMSでも主人公の原作知識によって性能が違ったり、見た目が違う物があります。最初はこの後書きに性能を書こうかと思ったのですが、何か原作の説明をそのまま書いているみたいだったのでやめにしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

昨日日間ランキングに乗りました。応援してくださかったに感謝です。


 ザフトが一大作戦に向けて準備している最中、連合上層部でも反撃準備を着々と行っていた。

 当初ザフトにいる内通者のおかげで敵の大作戦の攻撃目標をアラスカだと知ることができたので、アラスカ基地にサイクロプスを仕込んでザフト軍ごと自爆させる作戦が立案される。しかし、内通者が粛清されたことで連合軍上層部はザフトが攻撃目標を変更する可能性が高いと判断し、サイクロプスを設置するかどうか議論が紛糾することになった。

 

「情報提供者が粛清された以上、こちらの作戦も漏れている可能性がある。高い金をかけて造った基地を自爆させるなど非生産的な作戦は中止すべきだ!」

「粛清されたからといってザフトが作戦を変更するとは限らん! 寧ろ我らが攻撃目標を変更したと思わせる策に利用する可能性もある!」

 

 各々の立場から様々な意見が出た結果、サイクロプスは結局設置することになり万が一ザフトがこの基地へ侵攻した場合従来の作戦通りに使用することになった。一方でザフトが狙う最有力候補たるパナマには生産が開始されたMSを配置して絶対死守することになった。

 

「この作戦によって戦争が早期終結に向かうことを祈ろう」

 

 連合将官の1人がそう言い締めくくり、作戦会議は閉幕するのであった。

 

 

 

 連合軍の会議で新たな反撃作戦が練られていた頃、ザフトの追撃を振り切ったアークエンジェルは太平洋を縦断してアラスカに向かっていた。原作ではキラとストライクを回収する為にアフリカに不時着したが、この世界ではアラスカに降下できなかったものの、少しずれた程度で済み太平洋に降下した。

 

 艦長代理のマリューは何とかザフトに見つからずここまでこれたことに安堵していた。

 

「何とか辿りつけそうね」

「そうだな。これで准将も少しは報われるだろう」

「ええ。第八艦隊の奮闘がなければ我らは今頃沈められていたでしょう」

 

 副官であるナタルの言葉に、マリューは戦場で散った恩師を思いだし顔を暗くする。

 第八艦隊は自分達を地球に降下させるため、旗艦と指揮官を失ったにも関わらず最後までザフト相手に奮戦してくれたのだ。そのおかげで自分達はここにいる。

 

「そう、暗い顔しなさんな。准将も軍人として本望だろう。もっと前向きにいくしかないだろう」

 

 ムウは恩師の死に落ち込むマリューの肩を持ってを励ます。

 マリューはムウの励ましに少し気を持ち直したのか顔を上げる。

 

「それにしてもザフトはオーブ近海以降追撃を仕掛けてきませんでしたね」

「そうだな。ザフトにとってそれほど俺達は重要じゃないのかもしれんな」

 

 奪取したG兵器で追撃を行ってきたザラ隊はオーブ近海で仕掛けてきたが、アークエンジェルが連合の領海に近づいたので撤退した。

 

「恐らく連合軍に見つかるまえに引き揚げたのでしょう。撤退した周辺は偶に連合の哨戒機の索敵範囲でもあるからな」

「何か最近のザフトはやけに末端まで組織的に動くようになったな。ちょっと前までは連携をあまりとらない者も多かったのにな」

「そうね。降下地点がもっと遠かった場合私達は沈んでいたかもしれないわ」

 

 ザフトは基本的に個々の能力が優れる為連携等はあまり取らず、卓越した個人能力を持って戦闘をすることを好んでいる。それ故に連携を持って袋叩きされたザフト兵もいるのだが、逆に相手を粉砕することの方が多いので、上層部は連携を重視することはなかった。

 しかし、連合がMSを配備したら連携で容易く撃破されること知っているキラは、上司の参謀次長であるアウグストにパイロット同士の連携が大切であることを根気よく説明した結果、進言を取り入れたアウグストが、将来連合のMSがチームの連携を持って挑んでくることを想定して、2人一組の小隊を組ませMS同士の連携を高める訓練をカリキュラムに組み込んだのだ。

 無論ナチュラルの真似事等と感情面で反発する者がかなりいたが、アウグスト参謀次長が「人的資源が連合より劣る以上生存率を上げる為にもやっておくことに越したことはない」と言い、ザフトでも連携について色々と研究がなされるようなった。

 

「こりゃ気合いを入れ直さないとこっちも危ないな」

「そうですね。上はすでに反撃作戦の準備をしているでしょうから、我らが基地についてもしばらくは待機が下されるでしょう」

「ここに来るのに苦労したから基地についたら久しぶりに休暇がほしいわね。特にクルーは休みなしで疲弊してるから」

 

 ヘリオポリスからザフトの追撃に悩まされた結果、クルーは緊張続きだったのでマリューはクルーの休暇申請をしてみようかと考えながら、アラスカ基地に向けて進路を取った。

 

 

 

 

 

 アフリカ戦線。この地域はザフトが今の所占領しているビクトリアのマスドライバーハビリスを守り、連合のアフリカ最大の拠点であるスエズを牽制する為にザフトはこの地域に大軍を張りつけていた。幸いジブラルタルと新プラント派であるアフリカ共同体国家の補給路ジブラルタルー北アフリカルートが存在するので、現地のザフト軍は物資不足には陥っておらず、軍事活動が停滞する事態にはなっていなかった。

 

「ザウートが多いな……ダコスタ君。バクゥはどうした?」

「例の作戦の為にバクゥが必要らしくそっちに優先的に回されているようです」

「ちっ。上の連中俺の出した書類を見たのか? 鈍亀なんぞ回されてもここを制圧できんのだぞ」

「しかし、バルトフェルド隊長。隊長が言った数はちゃんと揃えてくれたそうじゃないですか」

 

 しかし、送られてきたバクゥのMSの少なさに、砂漠の虎の異名持つ名将アンドリュー・バルトフェルドは愚痴を零し、彼の副官であるマーチン・ダコスタは彼を宥める。

 

「キラのおかげだろうな。あんなに若い坊主が現場をわかっているのに大人の連中が現実を見ていないとはな」

「プラントという閉鎖空間に住んでいるから仕方ないのでしょう。本国は情報封鎖によって地球がどの様な状況になっているかわかってないのであまり実感もありませんし」

 

 ダコスタの言葉を聞いて、和平の道は簡単ではなさそうだとバルトフェルドは改めて確信した。

 バルトフェルドの元にキラから事前に私的な手紙が来ていた。その手紙には「アフリカ戦線はなるべく手早く終わらせて戻ってきてほしい」とあった。

 

(クルーゼの奴が銃殺刑になって強硬派の勢いは衰えたが、穏健派が巻き返すには時間がかかる。俺もこの戦線を片づけない限り宇宙には戻れないだろうがな)

 

 バルトフェルドは現在この地でゲリラ鎮圧に手を焼いており、この調子だといつになったら宇宙に戻れるかわからないと心の中で呟いた。しかし、オペレーション・ウロボロス戦略や、将来スエズを制圧する作戦が行われる時が来たとき、この地を安定させることは戦略上必要なことである。

 

「さっさと終戦にこぎ着けたいものだな。戦争が終わったらコーヒーショップでも開こうかね」

「その時は一杯奢ってくださると嬉しいですね」

「いいコーヒーを入れてやるさ」

 

 バルトフェルドとダコスタは軽口を叩きながら、新たに届いた物資を確認するべく補給部隊の元に向かうのであった。

 

 

 

 

 キラは作戦前に休暇を言い渡されたので、同じく休暇を貰っていた恋人のジークリンデを誘って、街に出かけていた。

 周囲からは「リア充め……」「うらやましすぎるぞ!」「私もあんな優しそうな彼氏ほしいな」等罵詈雑言や羨望の眼差しを向けられていたが二人(特にジークリンデ)は軽く無視した。

 

「それで作戦参謀に配属になったの?」

「ああそうだよ。君も後日作戦参謀に僕の副官として配属になる予定。もちろん僕が頼んだ結果何だけど、君が嫌なら外すよ」

「いや、寧ろ望むところだ。将来の夫をサポートするのも妻の役目だからな」

「僕達恋人同士なだけで婚約はしていないんだけど……」

 

 すでに夫婦気取りなジークリンデにキラは突っ込みを入れる。相変わらず彼女は公私の使い分けがうまいとキラは思った。

 

「近いうちにそうなるさ。父上も随分乗り気だし、母上も諸手を上げて賛成してくれているしな」

 

 ジークリンデはそう言って誇らしげに胸を張った。男なら10人中9人は振り向くであろう豊かな胸を堂々とキラのいる方に突き出し、キラは直視しないように目を逸らす。

 

「今日は僕が奢るよ。最も君の口に合うかどうかはわからないけど」

「キラが選んでくれたのならどこでもいい。失敗して落ち込んだら私が慰めてあげるから問題ない」

「ありがとう。君は本当に優しいね」

「と、当然だ。それよりもさっさと行くぞ」

 

 キラが微笑みながら礼を言い、ジークリンデはそれを見て顔を赤く染めつつキラの手を握る。

 ジークリンデのかわいい表情を見てキラは満足し、彼女を連れて束の間の休暇を楽しむのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

キラ君、参謀になって後方になったら活躍する出番がないのでは? 思う方ご心配なく。彼のやって来たことと、ザフトの特殊な事情が彼をフリーダムパイロットへ導きます。


 C.E.71年5月5日。

 ザフトは当初からの戦略オペレーション・ウロボロスの完遂と戦局膠着状態を打開する為に、一大作戦『オペレーション・スピットブレイク』を発動した。

 この作戦は各戦線のザフト地上軍の大半を注ぎ込み、連合が保持する最後のマスドライバー『パナマ・ポルタ』を制圧して、地球連合軍を地球に封じ込める為の総仕上げであった。

 

 この作戦の現場指揮を任されたキラは原作で一番危険で失敗する可能性がある作戦発動を、最新鋭MS-X10Aフリーダムのコクピットの中で憂鬱な表情をしてオズゴロフ級潜水母艦で待機していた。

 

(何で参謀である俺が前線に配置されるんだ……せっかく後方勤務に回されて命の危険がなくなって安堵していたのに……)

 

 キラは思わず溜息が出そうになり、2日前の出来事を思い出す。

 

 

 

 その日参謀本部に出仕したキラは同僚のセシリアから国防委員会からの言伝をもらい、国防委員長パトリック・ザラが軍務を行う場所である国防委員長室に来ていた。

 

「異動ですか?」

「そうだ。キラ・ヤマト後方参謀は本日付けで作戦参謀に異動になった。これが正式な命令書だ」

 

 キラはパトリックから渡された書類を見る。確かに作戦参謀に異動を命じる物だったが、もう一枚の書類に変なことが書いてあったのでそのことをパトリックに質問する。

 

「作戦参謀への異動は了承しました。作戦参謀の任、謹んでを拝命いたします。しかし、このスピット・ブレイクにおいて現場の指揮を取れというのは?」

「その内容通りだ。次のスピット・ブレイク作戦でお前にはMSパイロットと現場での作戦指揮両方を執ってもらう」

「お言葉ですが作戦参謀は戦略や戦術を練るのが仕事です。現場指揮は普通行わないのですが?」

 

 キラはパトリックからの命令に一瞬唖然としたが、すぐに気を持ち直して彼に尋ねる。現場指揮は作戦参謀の仕事ではない。作戦参謀が現地に行くこともあるが、それは指揮官を補佐して助言を行う為であって、部隊を指揮することはないのだ。

 

「キラ作戦参謀。君は我が国・そして軍の現状をよく知っているだろう? 我らに長期戦を行う力がないと進言した内の一人は君だぞ?」

「確かにそうです。しかし、それは戦線を無駄に拡大しすぎているからと意見書に出したはずですが」

 

 キラはパトリックに正論で反論する。

 後方参謀をしていたので各地の物資の蓄積や補給状況をよく知っているキラは、幾度も戦線を縮小するように具申していた。特に名将と名高いバルトフェルドを使って、ゲリラの鎮圧をさせるという無駄な使い方をしている上層部に他の人物を当てるように意見したが適当な人材がいないとのことでその意見は退けられている。

 

「仕方ないだろう。今更戦線を縮小すれば連中の士気を高めるプロパガンダに利用されかねない。だから、何としてでも今回の作戦は成功させねばならんのだ」

「それなら自分でなくてもいいのでは?」

「本来ならクルーゼに任せる予定だったのだ。それが狂ってしまった以上はザフト最強のエースであるお前の力が必要なのだ」

 

 キラはパトリックが遠回しに「お前がクルーゼを失脚させたのだから責任とれ」と言っていることを悟り、拒否することが不可能だと悟る。

 

「……わかりました。ただし、MSを操縦している時は大まかな指揮しかできないので過度な期待はしないでください」

「少し頼りない言葉だな。ザフト最強のエースにしては。まあ、いい。ある程度フリーハンドを与えるから頼んだぞ。それとお前の機体だが完成したX10A-フリーダムを使え」

「よろしいのですか? あの機体はX09A-ジャスティスとの連携を考慮して設計されていると聞きますが、単独で出撃させても?」

「今回の作戦は講和を奴らに強いる為の大作戦だ。成功率は少しでも上げることに越したことはない」

「御配慮に感謝します」

 

 キラは自分に核動力MSを与えると言ったパトリックのサプライズに驚く。てっきり砲撃適正が高い中立派の息子であるディアッカに与えられるものだと思っていたからだ。

 

「キラ・ヤマト。最善を尽くします」

 

 キラは参加もしたくない作戦に強制参加させられ内心でパトリックを罵りながら、それを表に出さない見事なポーカーフェイスで敬礼した。

 

 

 

 

(まさか、クルーゼを失脚させたことが巡り巡ってこんな展開を起こすとは思わなかった……。これも因果応報か……)

 

 キラは己の今の状況に嘆くが、指揮を任されている以上弱音を吐くわけにはいかないので、何とか被害を最小限にする為に動くしかないと頭を切り替えることにする。

 

(その為にも基地内部へ侵入しないとな。幸い連合は基地を放棄して人はほとんど残っていないから一人で侵入しても問題ないし)

 

 サイクロプスの自爆に巻き込まれない為には、早期に内部に侵入してこの事実を知り撤退命令を出すしか方法がない。その為にも早期に敵防衛線を単独で突破して、何としてでもサイクロプスの存在を知りサイクロプスの存在を露見させる。それが自軍と自分の命を守る唯一の方法だが、それは連合が原作通りにサイクロプスを使用する場合だ。

 

(しかし、クルーゼの排除によって情報漏えいがあったことはザフトにばれている。果たして原作と同じ手を連合が使うのか?)

 

 アラスカ基地にサイクロプスを設置していない可能性もあるが、そう考えるのは楽観的過ぎるとキラは結論し、それを頭の隅に追いやることにした。参謀は希望的観測で物事を判断してはいけないからだ。

 

(現地に行けば全てわかるだろう。それに例え失敗しても責任は僕にあるわけじゃないし)

 

 何せ一部の軍人達と結託して攻撃目標を独断で変更するのはパトリックの独断。基地が自爆して犠牲が出れば、機密漏えいがあった時に疑われるのはパトリックが重用していたクルーゼ。今のザフト内の空気では穏健派に責任を被せることは不可能だし、自分の考えに心酔する身内をスケープゴートにした場合、タコが自分の足を食う状態になって派閥の力が弱まる。作戦内容変更はパトリックにとってデメリットが大きいのだ。

 

(今パトリックの政治生命はよくないから、一か八かの博打でアラスカに攻め込むかもしれないけどね……)

 

 キラは己の為にプラントの政治がどう動くか頭の中で色々と検討しながら、作戦発動の時を待つのであった。

 

 

 

 キラに色んな意味でマークされているパトリックは、司令官の椅子に座り目を瞑って攻撃目標をどこにするか未だに考えていた。

 

(ここはやはり従来通りパナマにするべきか? いや、後々のことを考えるのなら敵の心理に大ダメージを与えられるアラスカを奇襲した方が効果はいい)

 

 攻撃目標変更もあり得ることは一部の武官にしか知らせていない。つまり、どっちを攻めるかはパトリックの選択次第。情報漏えいの可能性と長期戦の泥沼に嵌るリスクをぎりぎりまで懸命に天秤にかけ、不意に目を開け椅子から立ち上がりパトリックは遂に決断を下す。

 

「オペーレション・スピットブレイク発動。攻撃目標はアラスカ!」

 

 C.E.71年の戦争の転換期になる大作戦が幕を開ける。

 

 

 

 キラは攻撃目標を聞いた時誰にも聞こえないよう密かに舌打ちした。

 

「了解(ちくしょう! やっぱりアラスカか!)」

 

 プラントの戦力を考えると連合と長くは戦えない。何より連合の中心である大西洋連邦は学習能力が高く、それが彼の国の国力と合わされば脅威の一言だ。長く戦えば戦う程こちらは不利となる。

 

(もしもの時の為に用意しておいたこのプログラムが役に立つ時が来るとは思わなかったが、賽は投げられたのだから)

 

 プラントが有利に講和するには敵の準備が完全に整う前に、敵国の厭戦気分を蔓延させるしかないのだ。そうなれば民主主義を採用している以上講和するしかなくなる。

 

『フリーダム。発進どうぞ!』

「(何で参謀である俺が戦場に出撃しなきゃならないんだ……)キラ・ヤマト。フリーダム行きます!」

 

 フリーダムを発進させ、キラはアラスカに向けて飛行するのであった。

 MSパイロットになったことを少しだけ後悔しながら。

 

 

 

「ザフト軍出現! 物凄い数です! 数は特定不能!」

「ザフト軍降下部隊降下確認。敵基地周辺に侵入確認!」

「くっ!? 防衛部隊は発進せよ!」

 

 アラスカ基地ではザフトの奇襲により大混乱に陥っていた。しかし、一部の将校は想定済みだったので比較的落ち着いており、サイクロプスの起動準備を開始するように命じて自分達はユーラシア連邦の連中を盾にして、さっさと潜水艦で基地から離れる準備を開始した。

 

「こんな時に襲撃かよ!?」

 

 ムウ・ラ・フラガはアラスカに着いて少し経った後、転属命令を受けてアークエンジェルから下り、潜水艦で基地を出る予定だった。

 しかし、アラスカの防衛に回されるアークエンジェルが不意に気になってしまう。特にあの苦労していた美人艦長。ムウの女性の好みドストライクなマリュー・ラミアスの顔が頭から離れなかった。

 

「悪いちょっと忘れ物取ってくるわ」

「ちょっと、少佐!?」

 

 自分に声をかけるナタルを無視してムウは、基地内へ舞い戻るのであった。

 

 

 

 アラスカは予想通りというか原作通りというか、地球連合軍最大の基地にも関わらず出てくる敵の数が少なかった。

 

「やっぱり、ユーラシアの連中だけか」

 

 地球連合軍の味方を生贄することが前提の作戦に、内心吐き気を覚えながらフリーダムのMG-M20ルプスビームライフル(原作でフリーダムが持っているMA-M20ルプス ビームライフル)と、M100バラエーナプラズマ収束ビーム砲の火力で容赦なくこっちに向かって飛んでくる敵機を薙ぎ払う。

 フリーダムを撃墜するべく立ち向かった敵飛行機部隊やヘリ部隊は、次々と砲撃に巻き込まれ盛大な火の玉に変わる。

 

「邪魔をするな!」

 

 地上から鬱陶しく砲撃を加えてくる戦車や戦闘車両の弾幕の雨を躱しつつ、ビームライフルをそれらに向けて次々と発射して対空砲火を弱める。

 

「我らがエースに続け!」

「おう!」

 

 キラが操るフリーダムの獅子奮迅の活躍に感化されて、ザフト部隊はフリーダムが崩していった戦線に雪崩れ込んでいく。

 グゥルに乗ったジンがシグー、ディンが空中から攻撃を加えていき、その開けた道をバクゥが進み敵戦車部隊を撃破していった。

 

「僕はこれから遊撃を開始する。連携を密にして敵を粉砕するように。それと少し敵の様子を見てくる。どうも敵の守りが基地の規模に比べて鈍い。何か罠があるかもしれないからそれを探ってくる」

『確かにおかしいですね……わかりました。どうかお気をつけて』

 

 キラの言葉に副官であるジークは頷き見送りの言葉を贈る。

 それを聞き届けたキラは最短ルートで、敵が手薄な場所を見つけるべく飛んでいくのであった。

 

 

 

 

 この戦いにはザラ隊の面々も無論参加しており、敵戦線を突破するべく苛烈な攻撃を加えていた。

 

「ふん、面白みがないな」

「そうだな、敵の抵抗が思ったより脆弱だし」

「油断は禁物ですよ、最初は混乱していただけですが今では敵もだいぶ立て直してきてますし」

「二コルの言う通りだ、二人とも」

「ふん、貴様に言われんでもわかっている」

 

 ザラ隊の面々は奪取した無論G兵器でこの作戦に参加していた。

 彼らはG兵器の力を存分に発揮して脆弱な敵兵器を撃破しながら前進していた。

 

「友軍から要請がきました。何でも足付きが粘るせいでメインゲートに取りつけないとのことです」

「っ! ストライクはいるのだろうな!?」

「恐らくいるだろうな。何せそのストライクの母艦だしな。足付きは」

「ようやくそいつを撃墜できる機会が来たってことか」

 

 ザラ隊の面々は低軌道会戦で逃した足付きを今度こそ沈めてやると誓い、足付きが守っている場所へ向かうのであった。




やっぱガンダムSEEDの作品をやるなら、キラはフリーダムに乗らないとね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

 キラはサイクロプスの事実を確認する為に、フリーダムの火力とスピードを武器に一気に敵戦線を突破することに成功していた。味方にも一気に敵基地へ突入すると伝えてあるので問題ない。昔から訓練しているからこれでも白兵戦闘能力は高いのだ。

 

「予想通り敵基地中枢は空っぽ。これなら容易に辿り着けるかな」

 

 キラは突撃銃を持って基地内部に潜入していた。無論サイクロプスの起動を確認して証拠を取る為だ。しばらく歩いているとNジャマーが効いているせいかよく聞こえないが、連合の部隊からの増援要請と思われる通信が聞こえる部屋を発見。

 

「ビンゴ。どうやらここが敵の司令室みたいだ……ここも誰もいないな」

 

 司令室は司令官どころかCICすらなかった。ただ、味方の増援要請或いは撤退指示を仰ぐ通信に、録音された命令が繰り返し発せられている。

 コンピューターのコンソールを弄って行くと、画面にサイクロプスの発動シークエンスと規模が映し出される。

 キラはこの時の為に用意していたサイクロプスの発動を遅延させるための、妨害プログラムをハッキングを行いシステムに遅延をかける。

 

 ハッキング作業が終わり、発動後約10分後に爆発するようにしたキラは、専用プログラムを回収して懐にしまい、部屋から出て行く。

 

「どうやら、急いで撤退した方がよさそうだね」

 

 わかってはいたが実際見て体感すると改めて何とも恐ろしくて効率のいい作戦だ。敵の戦力を削るだけでなく、ライバルであるユーラシア連邦の力を削ぐことができ、その上戦後も軍事力の優位を確保できる一石三鳥の戦略だ。

 

 全ての確認と証拠を掴んだ後、キラは急いでフリーダムの元に戻ることにしたが、途中で誰もいないはずの基地に足音が聞こえてきたので近くの部屋に身を隠す。

 

「誰もいない……どうなってやがる!? アークエンジェルは!?」

(ムウ・ラ・フラガ!? やっぱり基地に舞い戻ってきたか!?)

 

 本来大西洋連邦の将兵は全員避難或いは避難中だったが、ムウだけはアークエンジェルが気になり戻ってきたのだ。そして、基地の異変に気付いてアークエンジェルを助ける為にザフト相手にこれから奮戦する。

 ムウはサイクロプスのことを確認した後、血相を変えて司令室から飛び出して行った。それを確認した後キラは元来た道を引き返しフリーダムの置いてある場所に急いで戻り、フリーダムに乗り込み急いで母艦へ帰投するのであった。

 

 

 

 

 

 一方基地がサイクロプスによって自爆することを知らないアークエンジェルは、この場を死守しようと奮闘していたが、ザフト軍の数が多すぎて友軍が次々と脱落していき徐々に劣勢に陥っていた。

 そこへ友軍の戦闘機がアークエンジェルに不時着しようとするのを見つけ、格納庫に避難命令と発火を防ぐ準備をするように慌てて命じた。

 

「少佐!? 異動になったんじゃあなかったんですか!?」

「艦長は?」

「ブリッジにいますが?」

「そうか。それとストライクの出撃準備をしておいてくれ」

 

 ムウはマードックにそう言ってマリューがいるブリッジに向かった。

 ムウはマリューと再開し、上からどんな命令を受けているかマリューに尋ねた。持ち場を死守せよとしか聞いていないことを言われると、ムウはアラスカ基地にサイクロプスが仕掛けられていることを明かす。

 マリューそれを聞いた瞬間上層部がどのような作戦を立て、自分達に何を命じたのかを悟り頭の中が一瞬真っ白になった。しかし、ムウの励ましで何とか気を持ち直し、囮としての役割を自分達は果たしたと判断。現場を離脱することを決意し僚艦にもそう命じる。無論この命令は戦線離脱という軍規違反だが、マリューは船員達を無駄死を強要することはできないと思い、軍紀違反である戦線離脱を命令・実行した。

 

「艦長が決断した以上、俺も気合い入れていきますかね」

 

 ムウは格納庫でストライクに搭乗する。

 

「少佐! どうか頼みます!」

「任せとけって。俺は不可能を可能にする男だぜ。ムウ・ラ・フラガ! ストライク出るぞ!」

 

 ムウは絶望的な撤退戦を成功させるために己を鼓舞しながら、戦場へ出撃するのであった。

 

 

 

 

「こちら、キラ・ヤマト。旗艦応答せよ」

『こちらジークリンデです。キラ隊長如何いたしましたか?』

「敵の様子は?」

『敵の抵抗は相変わらず微弱です。これならメインゲートに取りつくのも時間の問題かと』

 

 ユーラシア連邦や大西洋連邦で厄介者扱いされた連中だけしか出撃していないせいか、ザフトの快進撃は停滞していないようだ。まさに罠を掛ける側としては嬉しい状況で今頃大西洋連邦の上層部はゲスの微笑みを浮かべているだろう。

 

「いいか。よく聞け。先程、敵基地内に威力偵察してきた」

『いくら威力偵察とはいえ、敵の基地まで侵入するなんて無茶しすぎですよ! キラ参謀!』

「小言は後で受けるから、今は言い争いをしている場合じゃないんだ。どうやら僕達は嵌められたらしい。敵の基地はもぬけの殻だった」

『何ですって!? では私達は誰もいない基地を攻めているのですか? 敵が逃げたのならそれは好都合なのでは?』

 

 キラの言葉にジークリンデは驚くが、敵が逃げた程度なら別に問題ないのでは? と思い少し焦っているキラの声を聞き首を傾げる。

 

「まだ、最後まで話してないよ。基地の地下にサイクロプスが仕掛けられている。このままでは敵基地に深く侵攻した頃合いに起動して、僕達は全滅の憂き目に遭うしかない。だから、すぐに上にこのことを報告して全軍を撤退させるんだ!」

『サイクロプス!? ほ、本当ですか!?』

「本当だ! 敵がやけに弱いのも一部しか迎撃に出ていないせいだ。恐らく今僕達と戦っている敵は捨て駒にされた連中だけだ」

『た、確かにそう言われるとこの弱さに辻褄が合いますが……「責任はいざとなれば僕が取る! だから、上へ連絡を!」わ、わかりました。すぐにその様に対応します』

 

 ジークリンデはすぐに本部にその旨を伝える。

 暫くして本部から命令が下り、アラスカ侵攻部隊に対して撤退命令が下される。

 

『本部は全軍撤退命令を出しました。すぐに各部隊へ通達します。ただし、何もなければ軍法会議にかけるとのことです』

「いざとなれば覚悟するよ。爆発までもう時間があまり残ってない。僕は各戦線を回って撤退を援護する」

『わかりました。どうかお気をつけて』

 

 ジークリンデからの言葉を聞き、キラは彼女に微笑みを向けてモニターを切る。

 

「ここで死ぬわけにはいかない。何としてでも撤退するしかないな」

 

 キラは通信を切った直後、悲壮感が含んだ声でそう言い、フリーダムを駆って各戦線へ赴くのであった。

 

 

 

 

 ザフト軍に撤退命令が出る少し前。

 アークエンジェルはサイクロプスの威力範囲から逃れる為、僚艦と共にザフトの猛攻を凌ぎながら敵戦線を突き破るべく、ひたすら前進していた。

 ムウがストライクで援護をしてくれているので艦は致命傷を負わずに済んでいるが、武装も徐々に破壊されており、対空砲火に穴ができるのも時間の問題になってきていた。

 

「ちっ。基地はくれてやるんだからさ。俺達は見逃してくれよな!」

 

 ムウは次々と襲いかかってくるザフトMS部隊を迎撃しながら、逃げる自分達に容赦ない追撃に対して愚痴を零す。

 そこへレーダーが新たな敵影を確認する。

 

「あれは例のザフト部隊か!? こんなときに現れるなんてついてない!」

 

 ムウは強敵の出現に内心舌打ちする。あの部隊をこの状況で相手にしていたら逃げる時間が足りなくなる。

 

「アークエンジェル! 主砲で奴らを牽制しろ! 絶対に艦へ取りつかせるな!」

 

 アークエンジェルがゴットフリートをザラ隊に打ち込む。

 ザラ隊はその攻撃を難なく躱すが隊はばらけてしまい、更にブリッツのグゥルだけは敵僚艦の攻撃が命中し、爆散。ブリッツが海へ着水する。

 ブリッツを落とされて怒ったのかイージスとデュエルはビームを僚艦に撃ち、バスターは94mm高エネルギー収束火線ライフルを放った。G兵器3機の火力に成すすべなく僚艦は撃沈してしまう。

 だが、攻撃中の隙を見逃す程ムウは甘くはない。ムウはバスターのグゥルをビームライフルで撃ち抜く。グゥルは内蔵してあったミサイルに引火して大爆発を起こし、火球へと変わる。空中での移動手段を失ったバスターは重力に引かれて海へ落下し、盛大な水しぶきを上げて水の中へ沈んだ。

 

「ディアッカ!? ストライク! 俺が相手だ!」

「俺は右から攻める! イザークは左からだ!」

「うるさい! こんな奴俺一人で充分だ!」

 

 アスランはイザークに連携してストライクを撃墜すること提案したが、仲のいいディアッカが落とされたことで頭に血が昇っているのか怒鳴り声で断られる。

 ストライクに突進していくデュエルを見て思わず溜息をつくが、さっさと足付きを落とさなければならないので、彼を援護すべくイージスをストライクへ向かわせる。

 

「しつこいね! まったく!」

「落ちろストライク!」

 

 ストライクとデュエル・イージスはしばらく激しい接戦を繰り広げる。

 しかし、次第にパイロットの疲労が溜まっていたストライクの動きが鈍くなり始める。その隙を逃さずアスランはグゥルのミサイルとビームライフルをアークエンジェルへ撃ちこむ。

 それを見たストライクはアークエンジェルの援護に向かおうとしたが、デュエルの蹴りを喰らってしまい体勢を崩してしまう。そこへイージスが手足のビームサーベルを展開して斬りかかってきたが、ムウはそれをぎりぎりで躱し、逆にスラスターを全開にした体当たりでイージスを海へ叩き落とした。

 

「アスラン!? ストライクめ!」

 

 デュエルはビームサーベルで斬りかかり、ムウはストライクを横に逸らすことで攻撃を躱しビームサーベルで反撃を行う。しばらく激闘を行った両者であったが、その時ザフト側に新たな命令が下されたことでこの戦いも終わりを告げる。

 

「撤退だと!? そんな物が!? くっ、折角の好機を目の前にして!」

 

 デュエルは急にストライクと距離を取り、後ろを向いて基地とは正反対の方向へ飛び去って行った。

 ムウは周囲をストライクのカメラで見渡してみると、ザフトのMS部隊が次々と何かから逃げるように撤退していくのが見えた。

 

「まさか、ザフトもサイクロプスに気付いたのか!」

 

 ムウはどんな理由でザフトが気付いたのか疑問に思ったがこの好機を逃す手はないと思い、アークエンジェルに通信を入れる。

 

『俺はこのまま甲板で援護するから、全速力でこの場から離れろ! 今しかチャンスはない!』

「わかっています! 全速前進! この戦闘地域から離脱します!」

 

 アークエンジェルはザフトの妨害をたまに受けつつ全力でこの場から離脱した。

 

 

 

 キラはザフト部隊が撤退を始めたのを見計らって、敵軍への攻撃を止めて自分も離脱を開始した。

 

「自爆まであと少ししかないな。どこまで撤退できるか……」

 

 撤収している自軍と平行して飛びながら、どこまで被害を抑えることができるか不安に駆られる。万が一半分以上被害を出せば地上軍の立て直しは不可能になり、オペレーション・ウロボロスの戦略は頓挫してしまうからだ。

 

 味方の撤収を確認する為一時停止したとき、キラは見覚えのある艦を見つけた。

 

「足付き!? 何であそこにいるんだ?」

 

 キラは偶然アークエンジェルを見つけてしまった。

 何であそこにいるかわからずキラは少し考え込む。そして、これからのことを考えていた時あの艦を見てあることを思いつき、それを実行することにした。

 

「ちょうどいい。せっかく見つけたんだから逃す手はないな」

 

 キラはフリーダムの進路をアークエンジェルがいる方へ向けた。

 そして、その数10分後サイクロプスが起動して、アラスカ基地は巨大な電子レンジとなった後消滅するのであった。

 

 

 

 

 

 

「何とか脱出できたな」

「ええ」

 

 ブリッジでムウとマリューは、サイクロプスに巻き込まれず無事に脱出できたことにほっとしていた。

 アークエンジェルは先の戦闘で損傷した各箇所の補修を行う為に艦が下りられる島に着陸しており、そこで艦の補修が終えるまでクルーに休憩を取らせている。

 

 マリューとムウも休憩を取っており二人で先程のザフトの急な撤退について話していた。

 

「それにしても何故ザフトは急に撤退したのでしょう?」

「普通に考えたらサイクロプスの存在に気付いたと考えるのが一番納得できるが、連中が知る訳もないしな」

「ええ。一部の味方すら欺いたこの策が容易に見破られるわけはない」

 

 マリューは味方ですら秘密にしていた作戦を敵が知る機会はないし、ザフトの攻勢を見る限りその気配もなかった。

 

「恐らく誰かが途中で知ってそれを全軍に通達したって所だな。奥深く侵攻していたザフト部隊は撤退に間に合わず自爆に巻き込まれただろうし」

「ええ。あの慌てぶりから見て知らなかったのは間違いないわ」

 

 ザフトの撤退がかなり慌てた物だったのは事実である。だから、自爆範囲外へ逃げるのに間に合わなかった者もいたのだ。

 色々悩んでいるマリューに、ムウは笑顔を彼女に向け元気づけるように声をかける。

 

「まあ、今は無事であったことを神様に感謝しようぜ」

「そうね……最もこれからのことを考えると憂鬱になりそうだけど」

 

 マリューはムウの励ましに少し元気を取り戻すが、今後艦と人員をどうすべきか色々と考えると頭が痛くなった。何せ自分達は軍令違反を行ったのだ。普通に帰還したら待っているのは軍法会議で下手をしたらクルー全員口封じの為に銃殺刑にされるだろう。

 

「取り敢えず今は休む時だ。今後のことはみんなで考え……レーダーに反応!?」

 

 ムウがそう言った瞬間突如艦のレーダーが敵を感知した。

 そして、それはすぐに画面で確認できるまで高速で艦に接近してきた。

 

「僕はザフト所属、キラ・ヤマトです。あれの詳しい話を聞きたいので御同行願います」

 

 ガンダムフェイスの青い翼をもつMSがこちらまで高速で飛行してきて、アークエンジェルの目の前に滞空してビームライフルの銃口を艦橋に向けてくる。

 

「かなり若い声だな。まずは……「あなた達を拘束します」問答無用かよ!」

 

 ムウは向こうが交渉する気がないことを悟り、彼は内心舌打ちする。マリューは目の前のMSを操縦しているパイロットに話しかける。

 

「クルーの身の安全と命の保障はしてくれるのですか?」

「そちらがこちらの言うことを素直に聞いてくれれば。取り敢えず武装解除をお願いします」

「……わかりました。どちらにしろ選択権はこちらにないようですし」

 

 こうしてアークエンジェルとそのクルー達は死地から脱出したものの、その後に現れたザフトに捕まってしまうのであった。

 




ムウさんが強すぎると思った方が多いと思いますが、超絶ピンチなので彼の火事場のばか力が発揮されました。それとアークエンジェル組の運の強さも味方しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

 連合はアラスカ基地をサイクロプスで自爆させることによって、ザフト軍の大半を葬る作戦を実行したが、成功とは言い難い結果に終わった。

 何せ上層部はこの作戦でザフト軍の8割は消滅させるつもりが実質の被害は2割程度だった上、囮にされたユーラシア連邦の大西洋連邦に対する不信感を生じさせてしまったからだ。

 

 無論この作戦を立てた大西洋連邦軍上層部は一気に苦境に立たされる。他の連合軍上層部の非難の視線を受ける羽目になり、連合軍の会議は険悪な雰囲気に包まれることになってしまったのだ。そして、いざ話し合いが始まると怒号と罵声の言い合いとなってしまう有り様となる。

 

「我が軍を囮に使っておきながら何だこの成果は!? 責任者は辞任するべきだ!」

「基地を自爆させた割には大した戦果を得られていないではないか!?」

「次のザフト攻撃を防ぐ方法は無論あるのでしょうな?」

 

 囮にされて部隊が壊滅したユーラシア連邦の軍人達が、大西洋連邦の将官達に怒りや不信の眼差しを向ける。

 だが、この作戦を成功したと言い張らなければ、莫大な金をかけて造った基地を犠牲にした大西洋連邦の面子に関わる。それ故に彼等も反論しないわけにはいかない。

 

「だが、ザフト部隊も無傷ではない。敵の戦力を削ることには成功した!」

「それに今回のことを利用して民衆の戦意を煽ることができた! 厭戦気分を吹き飛ばしたおかげで戦争継続はより一層可能になったのだ! 戦略的には失敗していない!」

 

 大西洋連邦の軍人達はこの作戦の成果を強調する。ここで押し切られれば本国の政治家達に何を言われるかわかったものではないからだ。ユーラシアの軍人達はその言葉に顔を真っ赤にして更に反論する。

 

 結局終わった作戦のことで文句を言い合っても意味はないと各自が判断し事態は収束。次の軍事作戦について話し合いが再開されることになった。

 

「過ぎ去ったことにいつまでも議論の時間を割く暇は我らにない。今はそれよりもザフトの次の攻撃目標であるパナマをどう守りきるかだ」

「ザフトの戦力が大幅に残っている以上兵力をできるだけ集めて防衛に徹するしかないだろう」

「だが、旧式の兵器ではザフトに太刀打ちできんぞ」

「大丈夫だ。我が軍でも遂にMSの量産に成功した。パナマ戦で披露することになっている」

 

 大西洋連邦の軍人から出たMSの量産に成功したという言葉を聞き、各国の軍人達は安堵した。これまでザフトのMSにやられっぱなしだったが故にその喜びも一入だった。

 

「何としてでもパナマは守り通さなければならん。ここで失敗してしまえば我々は戦略の見直しを迫られるのだからな」

 

 大西洋連邦の将官がそう言い会議は締めくくられることになった。

 

 

 

 

 プラントではアラスカ基地が自分達の将兵を巻き込んで自爆したことにより、連合各国に譲歩を引き出せず、オペーレション・スピットブレイクは事実上、失敗に終わった。

 そして、一部の軍人達と結託し独断で攻撃目標を変更したパトリックに対して、激しい非難が評議会で吹き荒れた。その混乱を終息させるため評議会の良識派は、パトリックを表向きは責任を取って国防委員長と参謀総長を辞職することで混乱を治めることにした。

 

「国防委員長と参謀総長の役職を剥奪する」

「……」

 

 この決定にパトリックは目を瞑り、何の反論もせず受け入れた。さすがに今回の作戦の失敗は自分にあると自覚しているので、評議会から下された国防委員長解任に対して、彼は何も文句は言わなかった。

 次に評議会で行われたのはパトリックに変わる国防委員長の選任であった。

 パトリックに変わる新しい国防委員長は、参謀次長であるアウグストが参謀総長を兼ねる形で就任し、最高評議会議長にはアイリーン・カナーバが就任して、プラント最高評議会は新たな体制の元で戦争遂行に動き出すことになった。

 

「国防委員長兼参謀総長就任おめでとうございます」

『ありがとう。娘もお祝いの言葉を送って来たよ。さて次の攻撃目標は今度こそパナマだ。アラスカで疲れているだろうが、こちらの戦力も磨り減った以上君に頼むしか方法がないのだよ』

「わかっています。それよりも捕虜にした連合の軍人達のことを頼みます」

『ああ。幸い君が新たな食料コロニーを建設してくれていたから、君の言う通りそこに護送したよ』

「ありがとうございます。アウグスト国防委員長。彼等はあの基地で起こった真実を知る者達です。後々役に立ちます。彼等から情報をできるだけ入手して、連合内部を分裂させる策に使いましょう」

 

 キラはアークエンジェルとそのクルーを捕獲してカーペンタリアまで連れて帰り、そこで連合上層部がどんな作戦を立てたか詳しく説明させた後、戦時国際法に基づき捕虜として扱い自分が作ったコロニーに護送した。本国に連れて行ったら虐殺される恐れがあるのと、プラントの国民感情に配慮する為の処置であった。

 

『わかった。すでにその手の情報は証言してもらっている。さっそく、ネットや民間の新聞社に情報を流しておいた。それと捕虜にしたアークエンジェルのクルーだが、彼等には精々自分達の食い扶持を生産してもらうとしよう。我らも余裕があるわけではないしな』

「酷い扱いをしなければいずれこちらに靡くと思います。何せ彼等には帰る場所がありませんし」

『そうだな。そろそろ会議が始まるから行かねばならんので切るぞ。援軍も送ったから精々扱き使ってやれ』

「御配慮感謝します。必ずパナマを落として見せます」

『健闘を祈る』

 

 アウグストはそう言って通信を切った。

 キラは連合を追い詰める一手を打てたことに内心歓喜の声を上げる。連合が分裂してくれれば、戦後有利に立ち回れるからだ。

 

「これで互いに殲滅戦に移行する可能性は減った。殲滅戦を完全に防ぐ為にも次のパナマ攻略は欠かせないな」

 

 キラはアスランに対して少し申し訳ないと思ったが、パトリックが首になったことに内心小躍りするほど喜んでいた。これにより、ジェネシスを地球に撃ちこむ命令を下す立場でなくなり、強硬派の勢いが衰え、和平の道が少し開けたからだ。

 連合軍が直接プラント本国へ侵攻するには地球の戦力を、連合の宇宙進出拠点である月基地プトレマイオスに移す必要がある。それを防ぐ為には宇宙へ効率よく物資を打ち上げることができる宇宙港を全て制圧しなければならない。

 

「だが、連合も手元に残っている唯一のマスドライバーを守る為、前回以上に抵抗してくるだろうから、普通に攻めたのでは難しいかもしれない」

 

 パナマのマスドライバーは破壊することが決まっているので、グングニールの降下地点まで制圧できれば勝利できる。その為の戦力も近々送られてくる予定だ。

 

「アスランがジャスティスを受領したから、フリーダムとの連携を駆使して敵戦線を食い破るしかないかな。それと太平洋と大西洋から挟み撃ちにするのも悪くないかも。幸いアラスカでの消耗は最低限に抑えられたから戦力に余裕があるし」

 

 キラは上層部へ出す今回の作戦の報告書をまとめた後、パナマを落とす作戦を頭の中で練りながら、フリーダムの整備状況を確認すべく格納庫へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 アラスカでの顛末と国防委員長の交代を知ったバルトフェルドは、最初呆然とその情報を聞いていたが、すぐに気を持ち直して今後自分達がどうすべきか参謀本部に問い合わせるように、ダコスタに命じて自分は恋人であるアイシャと共にコーヒーで一服していた。

 

「オペレーション・スピット・ブレイクは失敗に終わったそうね。アンディ」

「ああ。詳しいことはダコスタが問い合わせているが、幸い被害は最小限に止めることに成功したようだ。だから、オペレーション・ウロボロスが瓦解することはない」

「じゃあ、私達はこのまま任務続行ということ?」

「そうなるかな。当分はゲリラ相手に治安回復任務を続けることになるだろう」

 

 バルトフェルドはそう言って自分で煎れた豆でブレンドしたコーヒーを飲み、その味と香りを堪能する。

 

「アフリカ戦線はスエズを落とすか、ビクトリアから撤退するまでは維持されるだろうな」

「そうね。そして、ザフトが実質敗退したことでテロやゲリラの行動は活発になるのは間違いないわ」

「しばらくは連中を相手に掃討作戦ばかりだ。気を引き締めていこうか。アイシャ」

「了解したわ、アンディ」

 

 バルトフェルドとアイシャは互いに微笑みを相手へ向け、お互いの意思を再確認するのであった。

 

 

 

 

 グラム社が製造したコロニーに向かう輸送船の捕虜室の中で、捕虜になったマリュー達は束の間の休息を取っていた。

 

「どうやらあの坊主は国際条約を守れる軍人だったようだな。おかげで助かったよ」

「そうね。そのおかげで私達は生活を保障されるのだから」

 

 ザフトに捕えられたとき、ムウとマリューは死を覚悟した。何せ自爆作戦によって同胞を多数失ったザフトが、大西洋連邦の軍人である自分達に対してまともな扱いをしてくれると思う程、2人は楽観的ではなかったからだ。最初は戦って切り抜けることも考えたが、ヘリオポリスを出航したときと違ってハルバートン准将が、傭兵を雇って送ってくれる等都合のいいことが起こるわけがないのだ。

 

「俺達はコロニーで食料生産に従事する捕虜扱いになるそうだ」

「私も他の人からそう聞いているわ。おまけに私達の立場を慮って戦争が終わった後、もし望むのなら雇ってもいいとも言っていたわ」

「何か捕虜の扱いとは思えないな。あの坊主に今度会ったら礼でも言っておこうかね」

 

 言っていたことがどこまで本当かどうかわからないが、捕虜であり帰る場所がない自分達のことをそこまで考えてくれている人物なら、無闇に虐殺や暴行等は行わなれないだろうとムウは思った。

 

「まあ、今はその労働環境がいいかどうかだけ考えよう。とにかく生き残ることを優先しようか」

「ええ、そうね」

 

 ムウとマリューはこれから向かう場所がどの様な環境か気になったが、取り敢えず生き残ることを優先すべく覚悟を決めるのであった。




パトリックの更迭があっさりしすぎたかな? たった約一行半程度だ。でも、自分の行動の結果だから素直に受け入れるだろうと思ったのでそうしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

 パナマ・ポルタ。

 地球連合軍が所持する最後のマスドライバー施設であり、月基地の補給ルートの一つである。ここを死守できるか或いは破壊できるか。連合・ザフト両方の天王山といえる場所であった。

 

 

 パナマに向かう潜水母艦でキラは自分が考えた作戦を、通信モニターで作戦会議に参加しているアスランや、現場で隊を率いる隊長達に説明していた。

 

「フリーダムとジャスティスは大西洋側に回り込んで進撃敵の防衛線を突破して背後に回り込んで、敵防衛線をかく乱する」

 

 キラが考えた作戦はザフト軍主力を太平洋側から進軍させ、敵の注意が太平洋側に向いたらフリーダム率いるMS1個小隊とジャスティス率いるMS1個小隊。計2個小隊で大西洋側から進軍して挟み撃ちにすることだった。

 

『フリーダムとジャスティスの火力で敵背後を派手にかき乱して大西洋側が本命と見せかけ、それによって生まれた隙を主力は逃さず一気に押し切るか……一見挟み撃ちに見えるが実は挟み撃ちに見せかけた陽動作戦か……。随分と力任せな作戦だな』

「そう言わないでよアスラン。グングニール降下地点に辿り着くのが目的なせいか、スピット・ブレイク程の戦力は廻してもらってないんだからさ」

 

 アスランの少し元気がない言葉にキラは思わず苦笑して言葉を返す。

 ザフト上層部は今回のパナマ攻略戦の目的を、以前よりアウグストとキラから提案されていた案に沿って、グングニールによるマスドライバー完全破壊とした。だが、スピット・ブレイク損失回復を優先させる為、今作戦に使われる兵力はキラが言った通りお世辞にも多くはなかった。

 

『ヤマト隊長。この作戦では隊長自身が別働隊による挟み撃ちに見せかけた陽動を行うのですか? 少し危険なような気がしますが?』

「確かに危険だけど、アラスカ基地に僅かに配備されていた連合の量産型MSに対するだけなら問題はないよ。それに危なくなったらすぐに撤退して主力と合流する予定だ」

『わかりました。ヤマト隊長の腕を信じます』

 

 この隊長は前回の作戦でキラとフリーダムの力を見たことがあったので、キラが勝算があると言っているのなら陽動の危険性は問題ないと思ったのだ。

 

「主力部隊が現地に到着しだい作戦を開始する。陽動部隊は主力が展開してから5分後に出撃する」

 

 キラがそう言った後、作戦会議に参加していた者達は頷き敬礼するのであった。

 

 

 パナマ基地では連合の守備軍がザフトがいつ来るのか不安を感じながら過ごしていた。

 上の情報ではアラスカで少し弱体化したとあったが、そんな情報があっても一般兵士からすれば安心できるものではなかった。何せ政治家や軍上層部のすぐに終わるだろうという判断で開戦して以来、一方的に負け続けて下士官や兵士の士気は下がる一方なのだ。ブルーコスモスが民衆の敵意を煽っても、現場の兵士の士気が必ず上がるわけではないのだ。

 

「ザフトの次の目標はここだろ? 大丈夫なのか?」

「新型のMSが配備されているみたいだし、ここは守り切れるんじゃないか? 上の連中もここの重要性はわかっているしな……」

「それならいいが……」

 

 その時双眼鏡で海岸を見ていた見張り兵がある物を見つけて叫んだ。

 

「て、敵襲だ! ザフト軍が来たぞー!」

 

 それはザフト軍のMSが大挙してここに押し寄せる姿だった。

 

 

 

 主力がパナマに侵攻を開始した連絡を受けて、大西洋でキラとアスランも発進準備に入った。

 今回の二人が乗るMSは作戦に合わせて用意された、フリーダム・ジャスティス専用大気圏用強襲装備『タスラム』が用意されていた。今回の作戦は陽動なので派手に暴れる必要があるのでこの装備を付けて出動する。ちなみに『タスラム』を見たキラのは「GNアーマーにそっくりだね」っと内心突っ込みを入れるのであった。

 

「キラ・ヤマト。フリーダム行きます!」

「アスラン・ザラ。ジャスティス出るぞ!」

 

 フリーダムとジャスティスは主力の進軍をサポートする為の陽動を開始した。

 

 

 一方主力部隊に組み込まれたイザーク達は太平洋方面から降下ポイントに向けて進軍していた。

 

「キラの奴め! 俺が倒すはずだったストライクを捕獲するとはっ!!」

「落ち着けよイザーク。決着がつけれなかったのは俺も悔しいが、これで追いかけっこがようやく終わったんだ。この作戦が終了すれば本国に戻れるし、休暇も取れるんだぞ」

「そうですよ。これで足付きとストライクによる被害は出なくて済むんですから」

 

 憤るイザークをディアッカと二コルは宥める。無論彼等にも自分達で仕留めたかったという気持ちはあるが、これで足付きとストライクによる友軍の被害が減るのだから、ザフトにとって悪いことではないのだ。

 

 無論イザークもそれがわからない程愚かではない。頭では理解していても感情は納得していないのだけなのだ。

 

「わかっている! さっさと落とすぞ!」

「了解」

「頑張りましょう」

 

 イザーク達は持ち前の力量で敵を撃破していくのであった。

 

 

 

 

 ザフト部隊の主力であるカーペンタリアから発進した部隊は、連合が構築した強力な防衛線に最初は阻まれていたが、旧来の兵器でMSに勝てるはずもなく徐々に前線を突破していく。

 

「これならヤマト隊長の隊の陽動なんていらなかったな」

「ああ、今回は基地全部を制圧しなくてもいい作戦だし」

「この調子なら降下ポイントまですぐに到達できそうだ」

 

 ザフト将兵の一部に楽観的な空気が流れる。

 アラスカより少ない戦力で攻めているのに、次々と敵戦線を突破できているせいだが、そんな空気を読んだ熟練パイロットは自分より若い兵を一喝する。

 

「馬鹿者! 敵はそんなに甘くはない! ここでミスをすればその代償は我らの血で払うことになるのだぞ!」

「も、申し訳ありません! 気を引き締めていきます!」

 

 一喝されたパイロット達は慌てて気を引き締め、目の前の敵に対処する。その時突如横からビームが横切り友軍機を貫通して火の玉に変えた。

 パイロットがメインカメラでビームが飛んできた方向を見ると、そこにはビームライフルと赤い盾を構えた、青い人型MSストライクダガーが銃口を向けていた。

 

「ビームだと!? それにあのMSは一体!?」

 

 ストライクダガーはそのままビームライフルからビームを連射してきた。その閃光にまたジンが一機貫かれ爆散する。

 

「どうだ! 俺達の底力を思い知ったか! 宇宙人!」

「今まで散々やってくれたな! たっぷりとお返ししてやるぜ!」

 

 ここパナマで遂にザフト製量産型MSと連合製量産型MSが激突した。

 

 

 

『連合は新型のMSを導入したみたいです。中にはデュエルに似た量産型の機体なども確認されています』

「前線の動きは鈍り始めたのかい?」

『はい。このままでは降下ポイントに間に合うかどうか微妙です』

「そうか。キラどうする?」

 

 ジークリンデからの連絡を受けたキラとアスランは、現在大西洋側からパナマに侵入してフリーダムとジャスティスの二機による派手な攻撃を行っていた。海岸線沿いの陸地に連合製の兵器のスクラップが散乱している。

 どうやら原作よりザフトの戦力が削られていないことを連合も把握しているせいか、防衛力を強化しているとキラは判断した。

 

 そして、アスランにどうするか問われたキラは、少し考えた後ある決断を下す。

 

「アスラン。こっちは敵の抵抗が弱くなってきたから君に任せるよ。僕の小隊を加えて陽動を続けてほしい。僕は救援に向かうよ」

「お前のことだから心配はないだろうが、油断はするなよ」

「心配してくれてありがとう、アスラン。じゃあ、ここはお願いね」

 

 キラはアスランとジャスティスにこの場を任せて、フリーダムを苦戦している戦闘区域に向かわせるのであった。

 

 

 

 降下ポイントを制圧する為に進軍するザフトと、それを迎え撃つ連合は新型MSストライクダガーとロングダガー(デュエルダガー)等を駆りだして激しい戦闘を行っていた。

 ストライクダガーがビームライフルでジンを撃破したら、次にジンやシグー、ディンの銃撃にストライクダガーが撃破されるなどしばらくの間一進一退の攻防が続いていたが、その均衡は大西洋側からやって来た一機のMSによって終わりを告げる。

 

 ストライクダガー小隊に突如どこからか降り注いだプラズマビーム砲が直撃し、小隊全機がまとめて爆散した。

 

「な、何だ!? ザフトの増援か!?」

「は、早いぞ!? あのMS!?」

「照準が合わせられない!?」

 

 フリーダムのスピードと火力の前にストライクダガーは次々と破壊されていく。更にキラは敵の手薄な所にハイマットフルバーストを撃ちこんで、味方の進軍に邪魔な障害物を徹底的に破壊していき敵前線を崩していく。

 

「隊長が援護に来てくれたぞ!!」

「敵は怯んだぞ! 押しまくれ! 何としてでも降下ポイントに辿り着くんだ!」

 

 キラとフリーダムの活躍に刺激されたザフト兵は、次々と崩れた敵軍を破壊して戦場を制圧していく。遂に一部の者達は降下地点に到達した。

 

「グングニール降下を確認。設置完了しました。起動を開始します」

 

 グングニールの起動パスワードをザフト兵はMSの指で器用に打ちこんでいく。全てのグングニールのパスワードを打ち込んだ部隊は、グングニールを死守するべく連合のMS部隊を迎え撃つ。

 

『グングニール起動まで10秒。9,8,7,6,5,4,3,2,1,0。起動』

 

 無機質な機械音がそう宣言した瞬間、グングニールが凄まじい爆風と電磁パルスをパナマ一帯に放出した。

 その電磁パルスの嵐の前にマスドライバーは崩壊してしまい、EMP対策をしていなかったストライクダガーやパナマの基地機能は全て沈黙していく。ロングダガー等EMP対策を行っていた一部の機体は敗北を悟り撤退していった。

 

 キラは最後の仕上げに降伏した連合将兵の武装解除を命じた後、念の為に興奮したザフト兵が何かしない様に釘を刺しておくことにした。

 

「僕達の勝利だ。降伏した敵は捕虜になるから丁重に扱う様に。虐殺などしたら軍法会議が待っているぞ!」

 

 キラはアラスカの自爆で仲間を失ったザフト兵が、原作みたいに降伏した連合将兵を虐殺しないようザフト兵にそう命じる。

 ザフトはキラの指揮の元武装解除が終わった連合将兵を輸送船で護送しながら、そのままカーペンタリアに帰還するのであった。

 

 これにより連合は自前のマスドライバーを全て失い、月基地は物資のやり繰りにより一層苦労することになるのであった。




パナマ戦終了。捕虜虐殺は何とか防ぐことに成功しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

 パナマのマスドライバーが破壊され、大量の熟練将兵を失ってしまった連合上層部は明らかに浮足立った。反攻作戦を行うにはマスドライバーで地球の戦力を宇宙に上げる必要があるのに、パナマ陥落によってその手段を失ってしまったのだ。連合各国の要人は明らかに狼狽する。

 

「このままでは月基地が干上がってしまうぞ!」

「ビクトリアの奪還作戦を前倒しにするしかあるまい」

 

 この事態を打開する為に連合上層部はビクトリア奪還作戦を早めることを決定した。

 

「オーブにもマスドライバー使用許可を求めるべきではないか?」

「頑固者のウズミは使用を許可はせんし、奴め『オーブは中立を維持する。使用許可は出さんし、そちらに組することもない』と返してきおった。オーブのマスドライバーを使用するのは無理だ」

 

 オーブ交渉担当の者はウズミの返事を聞いて、彼の頑固な態度にほとほと嫌気がさしていた。

 その言葉を聞いて反応した男がいた。ビジネススーツを着こなし、いかにもやり手であるという印象を与える。

 

「それはいけませんね。彼等にも地球の一国家としての責任を全うする義務があるというのに」

「アズラエル……しかしだな、オーブは小さい国だが国際的に認められている主権国家なのだよ」

 

 その名はムルタ・アズラエル。各地で反コーディネイター活動を行うブルーコスモスの盟主で国防産業理事を務める男だ。

 

 アズラエルの言葉に一応正論で反論した政府高官に、彼は顔を向けて言い放つ。

 

「もう、手段を選んでいられる状況じゃないことは、ここにいるみなさんは御存知のはずです。今優先すべきはマスドライバーではないですか?」

 

 アズラエルの言葉に全員が唸る。

 アズラエルの言ったことは正しく、オーブが中立宣言をしている状況に腹を立てていないわけではない。何より自分達にはマスドライバーが必要なのだ。

 

「オーブとの交渉は僕がしましょう。万が一戦闘になってもあれを試すいい機会でもありますし」

 

 上層部は最初は難色を示すも彼の意見にまともな反論が出せず会議の結果、連合上層部はアズラエルの案を採用し、中立国であり自前のマスドライバーを所持するオーブに圧力をかけて、地球連合陣営に加わるように引き続き働きかけることになった。そして、オブザーバーとして参加したムルタ・アズラエルがオーブとの交渉を引き受けることになり、オーブへの対応を任せるという決定が下される。

 交渉が決裂したら侵略するという案に上層部も最初は難色を示したが、結局自分達に必要な物は何か? という正論に反論できず、アズラエル発案のオーブ解放作戦を了承するのであった。

 

 パナマ戦でのマスドライバー損失は、大西洋連邦は敵対していない中立国を自分達の利益の為に侵略するという、大義なき戦を行う新たな引き金になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 キラはパナマ攻略戦を終えて捕虜にした連合将兵を、例のコロニーに送ったことを見届けてから、参謀本部に帰還して報告を行った後、久しぶりに会合メンバーと会合を開いていた。

 

「キラ参謀長。参謀長兼特務隊に昇進おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

 会合メンバーはまずキラの特務隊の出世を祝い、キラは祝福してくれた人達にお礼を言った。

 

 そして、お祝いもそこそこに時間も惜しいので、さっさと話し合いを始める。

 

「パトリックはスピット・ブレイクの責任を取る為更迭された後、けじめの為なのか評議会議員を辞職した。だが、彼が自由の身になったことで何か企まないとも限らないので、彼が勝手に暴発しないように、こちらのメンバーを派遣して密かに監視をつけました。無論彼を尊敬していた強硬派議員達にも密かに監視を付けています」

 

 情報局局長はそう言い、会合のメンバーはそれを聞いて安堵した。パトリックが評議会から排除されても、政治が混乱してしまえば意味がないからだ。

 

 次に軍について国防委員長になったアウグストが説明に入る。

 

「それと奴に心酔していた将兵は手柄を立てようとしたせいなのか、スピット・ブレイクの時基地深くに突入していたらしい。しかし、今回はそれが幸いした。その結果過激派はほぼ全滅した上、強硬派の中でも危険な考えを持つ者は軒並み戦死。生き残った者は将来左遷させたり、強制退役させるつもりだ。万が一反抗したら容赦なく処置するつもりだ」

 

 国防委員長となって軍を纏める立場になったアウグストが力強く言う。プラントの未来のことを考えるとナチュラルとの妥協は必須なのだ。それを邪魔立てする連中はいない方がいろいろとこちらに都合がいい。その者達が戦後テロリストへ転身されるのが、一番困るのだから。

 カナーバは理性ある軍人が軍を掌握することに安堵し、アウグストとキラに今後の軍事行動や軍備について具体的なことを尋ねる。

 

 キラが立ち上がり自軍の戦力増強について説明する。兵器開発を行っているのは彼の会社なので、基本的に会合ではこのような件は彼が説明することになっている。

 

「ジャスティスは新たに3機を製造完了し、フリーダムも2機製造完了して実戦配備されています。更にそれら核動力型MSを運用する母艦エターナル級戦艦一番艦エターナルは配備済みで、2番艦の竣工に取り掛かっています。そして、鹵獲したアークエンジェル級戦艦の技術を解析した技術を取り入れた為、少し予定よりも遅れましたが完成しました。新型巡洋戦艦アーテナー級一番艦アーテナー、二番艦プレイアデス及び三番艦マイアは完成して現在乗組員の練度を高める為訓練中ですがもう少しで実戦配備できます」

「噂のナスカ級に変わる新型艦が完成してたとは……それで性能は?」

「MS搭載数は同数を積み込めて、スピードと武装はナスカ級を凌駕します。武装の方は最新技術を使用した物を搭載しており、特に対艦、対MS戦闘においては今の所最強の宇宙戦艦だと自負しています」

 

 楽観的なことをあまり言わないキラが自信満々で言い切ったので、会合に集まったメンバーが「おお!」と喜色を浮かべる。詳しいスペックは軍機なので公開されないだろうが、余程の性能なのだろうとメンバーは思った。

 

 キラは更にこの艦を次期ザフトの主力艦とする計画を発表する。

 

「現在わが社は艦の性能をそのままにして、この艦の製造コスト削減を目指しています。いずれナスカ級に変わる次期主力艦とする予定です」

 

 キラが新型戦艦の量産計画を立案した本当の理由は、ザフトのMS偏重主義を抑える為だ。

 新たな新兵器が登場したときその考えに固執してしまい、その考えによって柔軟な発想ができなくなることをキラは恐れた。だから、新型艦がMSを容易に撃破してくれれば、MSは最強の兵器ではないとザフト将兵に自覚させることができる上、偏重主義も抑えられるだろうとキラは考えた。

 

「何かあれば、自分から随時報告します。僕からは以上です」

 

 キラは説明を終えて座り、次にアウグストが立ち上がり今後の戦略について話を切り出す。 

 

「連合は今後月基地の補給を行う為にマスドライバー奪還を目指すでしょう。狙うのは恐らく平地が続いていて、スエズに近いビクトリアが最有力候補だ」

「僕も参謀総長の意見と同じです。ただ、地球にはオーブにもマスドライバーがあるので、オーブ政府が使用を了承すればこっちは止める手立てが武力侵攻という手段しか今の所ありません」

「そんなことがあり得るのか? オーブの代表は頑固で有名なウズミだ。奴はこの戦争が始まった当時、中立宣言をして積極的にこの戦争に関与する気はなさそうだぞ?」

 

 メンバーの1人がそんなことあり得るのか? という視線をキラに向ける。

 

「あり得ると思います。何せ力関係でいえば連合は圧倒していますし、オーブはMSを実用化したばかりですので拒否して連合と戦争になればまず勝ち目はありません。脅しに屈する可能性は0だと考えるのは少し楽観的かと思います(それでもオーブは拒否するんだろうけどさ)」

「確かにキラ参謀長の言う通りですな。楽観的に物事を判断するのは危険だろう。ウズミが引きずり降ろされる可能性も0ではないしな」

「それでそうなった場合我らはどう動くべきか皆で考えてもらいたい。ただし、オーブが拒否した場合の時は軍に腹案があるから、そのことは後で検討する」

 

 キラが説明し終わった後、集まったメンバーは他のメンバーと話し合ったり自分の考えた案をそれぞれ発言する。

 

「遠慮なく占領するべきじゃないか? オーブは何気に重要な位置にある。ここを連合に占領されたら前線基地にされる」

「脅しに屈する前にこちら側に取り込むのはどうだ? 新技術の共同開発を条件にすれば向こうも喰い付くだろ」

「それよりも破壊工作でマスドライバーを破壊するべきだ。そうすればオーブがどっちに転んでも我らの利益になる」

 

 パナマの時のようにマスドライバーを破壊する為侵攻すべきだという意見と、寧ろこちら側に取り込んでオーブの技術を確保すべきだという意見等が大勢を占めるが、中々意見がまとまらないのでカナーバの意見を聞いてみてはという発言に全員が賛同し、メンバーの1人が代表してカナーバに尋ねる。

 

「カナーバ議長はどう考えているのですか?」

「私としては何とかこちらの陣営に取り込めないかと思い、キラ参謀の伝手を使って接触をしているがイマイチ成果がないのだ。だから、いざとなればオーブを軍事占領することを視野に入れている。ここでマスドライバーを連合に渡せば和平が遠のくは間違いないからな」

 

 穏健派なカナーバにしては珍しい物騒な意見が出たが、誰もその意見に反論はしなかった。この場にいる全員はプラントの現状をよく理解しているだけに、長期戦になるような事案はなるべく避けたいと思っているからだ。

 

「僕達の最優先は連合を地球に封じ込めてプラントの安全を確保することに変わりはない以上、カナーバ議長の案は悪くないと思います。オーブが連合に屈した場合介入をするべきです。他になにか意見がある方は言ってください。もし、ないのならこの案を会合の意思として可決します」

 

 キラは周囲を見渡し異論が出ないことを確認すると、オーブが連合に屈した場合この案で行くことに決定した。

 

「ビクトリアとカオシュンの基地は連合が侵攻してきたら破棄する。連合が本腰を入れてきたらどっちも守りきれない可能性が高い。兵力と戦力は向こうが遥かに上だからな」

「そうですね。もし、どちらかを死守したいのならカオシュンを選択するべきです。一応カーペンタリアから救援を送れる上に、台湾は中央に険峻な山が多い地形なので守るのに適しています。幸い一番近い連合構成国であるシナは敗戦続きの上、内乱が起こっているので簡単に手を出せないでしょうし」

 

 アウグストが戦力上守りきるのは不可能だと言い、キラもマスドライバーという便利な物を放棄するのに抵抗感じるメンバーに、代価案を提示しながら理論的に説き伏せる。この参謀本部の考えにカナーバが賛成したことで参謀本部の案が会合意見として可決される。

 

「キラ参謀長。ところでオーブが拒否した場合は我らはどうするのですか? 何やらアウグスト参謀総長やキラ参謀には考えがあるそうですがその案を聞いてもよろしいですか?」

 

 キラはカナーバとアウグストを見た。2人はキラの視線を受けて頷き案を発表することを許可する。

 

「オーブが連合と戦端を開いた場合義勇軍を送り込みたいと考えています。そして、その派遣軍の隊長は自分がする予定でいます」

「何と!? しかし、オーブが義勇軍の受け入れを了承しますか?」

 

 オーブの獅子であるウズミの頑固さを知る面々はそんなことが可能なのかと疑問に思い、アウグスト参謀総長とカナーバに視線を向けて2人に尋ねる。

 

「参謀本部はすでに義勇軍として送り込むパイロットを選定している。命令があり次第いつでも派遣できるようにする。その選定したパイロットもナチュラルを差別しない人格に優れた者だ」

「評議会もオーブ政府と秘密裏に会談交渉を要請している。何とかオーブにいる同胞を安全に脱出させる条件を前面に押し出して水面下での交渉も行っている。断られても最悪、オーブのコーディネイター難民を受け入れる準備があると言うつもりだ」

「なるほど。そこまで準備が整っているのなら、我らとしてはキラ参謀の提案に反対する理由がありませんな」

 

 会合に集まったメンバーはキラの意見に賛成の意を示し、オーブについてはキラの提案した案が可決されることになった。

 

「オペレーション・ウロボロス完遂もいいですが、肝心の和平実現の方はどうなっているのですか?」

 

 メンバーの1人がカナーバやアウグストを見てそう言った。

 

「参謀本部としてはオペレーション・ウロボロスを成功させたら、まず、月基地に奇襲を繰り返し行い連中の消耗を狙います。また、通商破壊を強化して連合を兵糧攻めにして干上がらせるつもりだ。そして、敵の士気が下がったら、月基地を攻略して月周辺の勢力圏を支配下に置く」

「評議会はそれが実現されれば、それを持って和平に繋げるつもりだ。宇宙での支配権を失ったらさすがの連合も乗ってくる可能性は高いだろう。評議会は現在和平交渉案を準備している所だ」

 

 月基地にいる連合軍を日干しにして敵を弱らせてからそこを攻略し、月周辺を完全に支配下に置くとアウグストは集まったメンバーに説明し、それを持って和平に繋げるとカナーバはメンバーに改めて言う。

 

 話し合いも終盤に差し掛かった頃、メンバーの1人があることを議題に上げた。

 

「みなさん。シーゲル・クライン元議長がこの会合に参加したいと申し出ている件はいかがしますか? 最近彼が催促を促してくるので、そろそろ返答を決めないといけないのでは?」

「クライン派の影響力は無視できない。ここで足を引っ張られても困るしな。だが、奴は勝手に決めて実行するという困った所もある。会合の歩調を乱すような者を簡単に参加させるわけにはいかないぞ」

 

 シーゲルの会合参加については会合メンバーの悩みの種であった。クライン派の影響力を考えると味方に取り込んで利用した方がいい。しかし、会合の中心人物の1人であるキラが難色を示している以上、周囲も強く推挙するわけにはいかない。

 

「彼の会合参加は引き続き見送ります。僕の所に来てあのようなことを何度も会合で話題にされても困りますし」

「むむむ。その様に申されるのなら彼の参加見送りは止むを得ませんな。何とか待ってくれるように説得します」

「お願いします」

 

 シーゲルの会合参加はこうして見送られることになり、彼がそれなりの説得のある行動をしてくれたら考慮するという方針に決まった。

 

「まだまだ、状況は予断を許さない。みんなも気を引き締めて各々の仕事に当たってくれ」

 

 キラの言葉で最後は締めくくられ、本日の会合は終了するのであった。

 

 

 

 

「ジャスティスはこれで合計4機でフリーダムは合計3機。まさか、本当にこの機体を量産するなんて思わなかったな」

「単価は高いがエースパイロットと組合せての活躍が凄まじいらしい。すでにフリーダム一機で合計100機以上の敵機を破壊しているらしい」

「わが社の優れたMSの開発に評議会も満足しているそうだ。次期主力MS開発も充分予算が出るらしい」

「それはありがたいな。何せ充分な予算がないといい物は造れないしな」

 

 グラム社の社員はそう言いながら会議が始まるまで談話に耽る。

 しばらく経って、MS開発研究チームの班長が部屋にやって来ると、さっそく話し合いが行われることになった。

 

 議題は鹵獲したストライクと乗り手がいなくなったイージスについてだった。

 

「キラ会長の要望でこの2機の改造を行うことになった。期限が付いているから有効な案がなければ2機は研究材料としてお蔵入りしてもいいと上も言っている。だが、俺は今度このストライクに搭乗するパイロットに合して、機体をチューンアップするつもりでいる。異論のある奴はいるか?」

「せっかく実験し放題の機体が来たんですよ。反対する奴なんていませんよ」

「そうですよ。色々と装備の実験とかもしてみたいですし」

 

 班長は特に反対がないのを確認したあと、ストライクに乗る予定のパイロットの名を言うことにした。

 

「搭乗予定のパイロットはシホ・ハーネンフース。わが社のエネルギー研究員だった女性だ」

「シホか。確か彼女はシグー・ディープアームズが乗機だったな?」

「それならザクのウィザードシステムの実験も兼ねて、開発中の万能ウィザードを改造するのはどうですか? 折角ストライカーパックシステムがありますし」

「いや、それよりもストライク単機にも戦闘能力をもう少し付与する案のがいいのでは? 戦闘中にストライカーパックを換装するのは危険が伴いますし、エネルギー問題は核動力を外付けにするかストライカーパックに内蔵すれば解決できますし」

 

 ストライク改造案が色々出た結果、将来のザクのウィザードシステムのことを考えて、アークエンジェル内にデータがあったI.W.S.Pという統合兵装ストライカーパックを参考にした、専用ストライカーパックを開発が行われることになり、本体にも若干の改造を施すことになった。

 

 ストライクの件が終わり、次にイージスの話題になった。

 

「すでにこれを参考にした製造されたZGMF-X11Aリジェネレイトがジェネシスαに配備されています。それの稼動データを利用するのはどうだ?」

「だが、あれはかなり特殊な可変機構を採用しているから、参考にするには難しいだろう」

「それにパイロットも未定な以上変な改造はできないしな。いっそのこと搭乗予定のパイロットを乗せて稼動データを取るか? 何せ中身が大分損耗しているから改造時並みに修理する必要がある」

「それで搬入期限に間に合うのか? どう考えても間に合わないぞ」

「仕方ないだろう。予算も時間も有限なんだ。イージスに関しては難しいと返答するしかないだろう」

「それしかないか……」

 

 色々と議論された結果、イージスに関しては改造するにも時間もデータも足りないので難しいという結論になった。そこでMS開発研究チームはこの機体に乗るパイロットを早急に上へ決めてもらうように具申することになり、改造案についてはその稼動データを取ってから決めることになった。

 

「本日の議題は以上だ。方針が決まった以上各々すぐに作業へ取り掛かってくれ」

「「「「「了解」」」」」

 

 こうしてストライク並びイージスの改造計画が立ちあがった。

 




会合メンバーのほとんどはクライン派の扱いに困っています。何せ影響力が大きいですから。下手に弾圧するわけにもいきませんし。

追記:アウグストは国防委員長であると同時に参謀総長の地位にあります。ザフトに参謀等の役職は原作にはありませんが、この作品では存在します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

御意見等を頂き最後の方を修正しました。


 カナーバは会合の決定に従い、さっそく義勇軍の編制に取り掛かった。そして、義勇軍の総指揮をザフト最強のMSパイロット、キラ・ヤマトにすることを評議会で発表した。

 彼をトップに据える理由は義勇軍の消耗を抑えつつ、オーブに侵攻してきた連合軍に大打撃を与える為である。最もキラが進んで義勇軍の指揮官に名乗りを上げたことで、ザフト内では義勇軍に参加希望者が増えてしまった為、パイロットを厳選する作業から始めなければいけなかったが。

 

「ナチュラルに差別意識を持ってない者や、それを表に出すことがない者を選抜しなければならない」

 

 キラはそう言って義勇軍のパイロットを決める作業に追われることになった。

 一方カナーバは義勇軍の受け入れをオーブ行政府に認めさせるべく、オーブ行政府側と協議に入ったがオーブ側の回答が「送るに及ばず。オーブは中立国家であり、プラントと同盟を結んでいるわけではない」というものだった。

 カナーバはキラにある程度ウズミの人柄や信念を聞かされていたので、この回答に驚くことはなかったが、一部の評議員は「義勇軍を送って助けてやるというのに何たる返答だ」と憤慨する者もいた。 

 

 オーブ側の回答を受けて、キラの呼びかけで急遽会合の席が設けられ、会合のメンバーは料亭に集まり話し合いを行った。

 

「拒否ですか。そう来ると思っていましたが、あの獅子さんは今の状況がわかっているのか?」

「連合に最後通告を突き付けられても、中立を維持する立場に変わりはないか……立派な精神だが些か現実が見えていないのでは?」

 

 会合メンバーの1人がそう発言するとほとんどの面々が頷く。

 

「現実を見たくないだけかもしれません。本当そんなのがトップにいるオーブ国民は本当にかわいそうですね。正直同情しますよ」

「そんなことを言っている場合か。義勇軍を派遣してムルタ・アズラエルを抹殺するという裏の目的は半ば頓挫することが確定したのだぞ。なぜ、冷静でいられるのだキラ?」

 

 キラはオーブ側の現実を見ていない対応に半分呆れている。最も半ば予想した通りであったので、半分納得ができる返答でもあった。

 

 そんなキラの態度と言葉にカナーバは突っ込みを入れ、これからどうするのかキラの意見を尋ねようとした。

 

「僕としては諦めるしかないかと思っています。何せ受け入れを拒否された以上義勇軍はオーブに正規では滞在できないですからね。それでカナーバ議長はどう思っているんですか?」

「やけにあっさりと諦めるのだな。私としても先方が拒否している以上義勇軍の派遣は無理だと思っているし、最高評議会でも、その意見が大勢を占めている。寧ろこの隙に連合軍の月基地を攻略したらどうだという意見が出始めているくらいだ」

「月基地攻略は確実に行いたいので、通商破壊作戦がうまく機能して効果が表れてからです」

 

 キラは連合の力を過小評価する連中に内心苛立つ。相変わらず現実が見えていない連中は、いずれ政治の世界から排除してしまう方が、プラントの為にもいいだろうとキラは思ってしまった。

 

「オーブ行政府が拒否してきた以上は、表向きはこの侵略戦争を傍観しているしかないでしょう」

「そうだな。できれば連合軍の練度がどのくらいか確認しておきたいが、それは現地に潜入させてある情報局の人員に任せるしかないでしょう」

 

 結局会合では引き続き義勇軍受け入れを要請し続けるという決定が下された。しかし、オーブ側の心変わりを期待するのは難しいという意見を取り入れて、連合軍とオーブ軍の様子を探る為の人員を密かに派遣することが決定し、会合はお開きとなった。

し、会合はお開きとなった。

 

 

 

 

 地球連合はビクトリア奪還作戦を本来の開始日から3日ほど前倒しにして発動した。ザフトの不意を突く為に予定を繰り上げて発動された作戦だったが、ザフト側は連合軍がいつ来ても問題ないように万全の準備を整えていた。

 

「上の予想通りだな。奇襲する為にこちらの予測より早く動いたつもりだろうが、そんなのはこっちの参謀にすでに見透かされているぞ」

 

 バルトフェルドは3日前に参謀本部から、連合軍がビクトリア奪還に向けて奇襲をしてくる可能性あると助言を受け、手ぐすね引いて連合軍を待ち構えていたのだ。

 

「ダコスタ! 俺達の目的はあくまで敵の進軍を遅らせることだ! 部下共にそのことを徹底して深追いはするなと命じて置けよ。命令違反者は問答無用で軍法会議にかけると言っておけ」

「了解です。それと現地に潜入させていたスパイから情報が入りました。連合軍がスエズ方面からこちらに進軍を開始したそうです。数時間もすればこちらの索敵範囲に入ります」

「そうか。では行くとしますか。何せ上は核動力MSまで派遣してくれたんだからな。しっかり働いて連合軍の足を引っ張ってやるとしますか」

 

 数時間後。名将バルトフェルド率いるザフトMS機動部隊と、連合軍のMS並びにリニア・ガンタンクの部隊がアフリカ中央で激突した。

 

 

 

 

 

 連合軍がスエズから出撃してバルトフェルド率いるザフト部隊と激突する少し前、国防産業理事のムルタ・アズラエルはオーブ向かう艦船の中で、連合軍がビクトリアの作戦が開始されたことを知り、自分達も行動を開始するのであった。

 

「何としてでもオーブを攻略しないといけませんね」

「ええ。オーブ解放作戦が失敗すれば我らの反攻は遅れることになります」

「じゃあ、最後通告をオーブのウズミさんとやらに送るとしますか」

 

 地球連合はこうして中立国オーブを支配下に置くべく、最後通告をオーブ行政府に叩きつける。おまけにその案は原作より苛烈な物であった。原作の要求+軍基地の査察に加え、連合の監督官を政府に常駐させることを認めろと要求した。

 

 無論こんな物を送られたオーブ行政府は狼狽した。とてもではないが呑める条件ではなかったからだ。

 

「大西洋連邦め! 何という傲慢さだ!」

「だが、断れば戦争になるぞ!」

「そうだ。連合に敵うはずがない。戦力差は絶望的なのだぞ!」

 

 オーブの政治家達の大半は連合に積極的に協力して、最後通告を撤回してもらうべきではないかという意見が大半を占めていた。

 

「連中の要求は断固拒否する。それと軍の配備と市民の避難を始めろ」

「まさか、戦うつもりですか!? 無茶です。勝ち目等ありません!」

「だが、ここで連中の要求を呑めば独立国の主権を失う。最早戦うしか道はない」

「勝算もない戦等承認できません! それこそ国を滅ぼします!」

 

 官僚の1人がウズミに再考を求めるが、彼は首を横に振る。

 ウズミに撤回する気がないことを悟り、官僚は勝ち目のない戦をして焼かれることになる祖国の未来に絶望する。カガリはそんな父と官僚のやり取りを見て複雑そうな表情をしていた。

 

(このままではオーブが……だが、どうすればいいんだ? 他の中立国は軒並み連合へ加盟している。だからと言って勝算のない戦で国を焼きたくないが、最後通告を呑めばオーブは属国に成り下がる)

 

 カガリは必死に頭を働かせているが、彼女の頭脳では国是の中立を維持して国を守る方法等見つかるはずもなく、ただ時間だけが過ぎ去っていくだけであった。

 オーブ行政府の人間はただ、必死に連合と交渉を重ねることに終始した。しかし、連合は交渉がしたいのなら用件を呑めと言うばかりで、双方の歩み寄りは絶望的だった。

 

 オーブ行政府に閉塞感が漂い始めたその時、外交官があるプラントからの申し出を知らせに来た。

 

「プラントは義勇軍を派遣してもいいと言ってきています。それと戦闘になった場合、難民の受け入れを行うそうです」

「難民受け入れはともかく、義勇軍の派遣は送るに及ばずと返答しろ」

「ウズミ様!? ここに至れば義勇軍を受け入れてもいいのは!? 幸い、ザフトはまだ要請を撤回していません!」

 

 外交官は義勇軍の受け入れを拒否するウズミに驚愕する。最早連合は敵なのだ。連合の要件を呑む気がないのなら、対外的に問題ない義勇軍を受け入れるぐらい問題ないはずだ。

 

「ザフトを受け入れれば、それこそ連合の思う壷だ! ザフトには『オーブの国是は中立である。申し出は嬉しく思うがお断りさせてもらう』と伝えておけ」

「……わかりました。そう返事を返しておきます」

 

 外交官はウズミの言葉を聞いた後、ザフトに返事をするのであった。

 そして、連合の要求は断固として受け入れられない物だったので、オーブ行政府は拒否するという返答が連合に対して返されるのであった。

 

 

 

 一方連合はオーブ行政府から予定通りの回答を受け取っていた。

 

「『要求は受け入れられない』か。まあ、予想通りですね。寧ろ断ってくれた方がありがたかったので感謝ですね」

 

 連合軍にオーブ行政府から最後通告の回答はアズラエルが予想した通りだった。そして、彼は左程驚くことなくオーブ解放作戦を作戦通り実行するように司令官に進言するのであった。

 数時間後。連合軍はオーブへの侵攻を開始した。

 

 

 

 

 

 連合軍のオーブへの最後通告に対して、ザフトは最後通告の期限ぎりぎりまでオーブに会談の申し入れを行っていたが、オーブ行政府は中立を維持するの一点張りで進展はなかった。

 しかし、連合軍のオーブ侵攻を手を拱いて見ているのはザフトにとって下策。そこでオーブに避難民を受け入れると発表し、状況しだいでは連合軍に独自に攻撃を行うとオーブ行政府に通達を行い、オーブ領海外の海中で潜水母艦を待機させ、連合軍とオーブ軍の戦闘を観察することになった。

 

「始まったようだな」

「連合軍はお得意の物量作戦で一気に攻め潰すつもりですね」

 

 キラはボズゴロフ級潜水母艦の中で、副官のジークリンデと共に連合軍とオーブ軍の、熾烈な戦いを観察していた。

 

「あのG兵器は連合の新型のようだね。最優先でデータを取って」

「了解です」

 

 義勇軍受け入れが拒否された以上、領海外でこの戦いを見ているしか方法がない。

 キラとしてはここでムルタ・アズラエルを始末して、終戦を早める一手を打ちたかったのだが、どうにもならない状況に内心少し苛立っていた。

 

「キラ参謀長。入電です。避難民を乗せた避難船が所属不明の潜水艦に撃沈されたのことです。避難船は沈む前に救難信号を出していました」

「場所は?」

「オーブ-カーペンタリア間、我が艦が沈んだ場所の一番近い位置にいます」

「もしかしたら脱出している人がいるかもしれないな。人命救助を優先する。避難船が沈んだ場所へ向え」

「了解です」

 

 潜水母艦は沈んだ避難船が存在した場所へ向うのであった。

 

 

 

 キラ達の元に輸送船が沈んだと報告が入る少し前。

 オーブ在住のアスカ一家は何とか、避難船が停泊する港に辿り着くことができた。しかし、マユ・アスカの落とした携帯を拾いに行った彼女の兄であるシン・アスカは、家族とはぐれてしまい、港に着いた時家族を乗せた避難船は先に出航していた。

 シンは仕方なく後で出航する避難船で追いかけることになったが、乗っていた船によって自分達家族の運命が違うことになろうとは、このとき想像もつかなかった。

 

 それは偶然オーブ領海外に潜んでいた連合軍の潜水艦が避難船を発見したことから始まった。

 

「避難船が近づいてきます」

「恐らくオーブのコーディネイター共を避難させる為だろう。魚雷発射管開け。宇宙の化物は一人残らず始末せねばならん」

 

 この潜水艦を指揮する者がブルーコスモス思想に染まっている人物であったことが、避難船の命運をわけることになった。

 

 潜水艦は避難船に魚雷を発射。避難船に見事命中してしまい、避難船を大きく傾けてしまう。

 

「緊急事態発生! 係員の指示に従って避難してください!」

「落ち着いて乗ってください。救難信号も出しましたのでご心配なく!」

 

 係り員は避難船に備えられていた救命ボートに、避難した人々を誘導しようとしたが先に新たな魚雷が襲ってきたことで、その努力は水泡に帰すことになった。

 

 魚雷は容赦なく船体に突き刺さり炸裂して、避難船の船体を真っ二つにする。

 

「お父さん! お母さん!」

「「マユ!?」」

 

 マユ・アスカは両親と救命ボートに乗ろうとした瞬間、凄まじい衝撃に襲われて海に投げだされてしまった。

 

「お父さん~! お母さん~!」

 

 何とか船の破片に捕まって溺れないようにしたが、そこで見たのは沈む船が作った渦に救命ボートごと呑み込まれる両親の姿だった。

 

「そ、そんな……」

 

 マユはそれをただ呆然と見ていることしかできなかった。

 

 

 

 避難船が沈んで数十分後。救難信号を受けて救助にやって来たキラが指揮する潜水母艦は、無事な人がいないか確認を急がせた。

 

「海面に1人。女の子を発見しました」

「どこだ?」

「あちらです」

 

 キラはその映像に映った女の子を見て驚愕した。

 

「(あれってマユ・アスカ!? 何で1人だけ海に漂っているんだ!?) 取り敢えず彼女の回収を急げ。漂流していたから衰弱している可能性があるから、医務室に連絡も入れておけ」

「了解しました」

 

 キラは何の運命の悪戯かシンの妹である、マユ・アスカを拾うのであった。

 

 




オーブの話はまだ続きます。

ちょっと修正しましたが、それでも最後の方の展開は御都合主義過ぎるかもしれないけど、作者の文章力ではこれが限界です。取り敢えずオーブ潜入は取りやめで、沈んだ船から救出する方向に修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

 オーブからの避難民を乗せた避難船の中で、1人落ち込んでいる少年がいた。

 彼の名はシン・アスカ。オーブから避難してきたコーディネイターである。

 

(父さん……。母さん……。マユ……)

 

 シンは妹であるマユ・アスカの落とした携帯を拾った為に家族の乗った避難船に乗ることができず、仕方なく違う避難船に乗り込んで避難した。しかし、先に出航した避難船が何者かに撃沈されてしまったという話を耳にして、彼は絶望の淵に落とされることになった。詳しく話を聞いたものの、乗っていた人達の安否は不明らしい。

 

 シンは座って顔を俯かせながら、理不尽な世の中に抗うことができない自分の無力さを呪うのであった。 

 

 

 

 

 オーブは国を守るという信念の元、自国将兵に多大な犠牲を出しながらも、連合軍を何とか押し返すことに成功した。しかし、被害は甚大であり立て直しを行う前に連合軍の再攻撃が行われれば、一気に戦線は崩壊して蹂躙されることは誰の目を見ても明らかだった。

 

 オーブ行政府ではカガリが父ウズミとオーブの現状を見て、ある件について意見を対立させていた。

 

「お父様! 義勇軍を受け入れましょう! そうすればオーブを守ることができます!」

「何を言うか! ザフトの手を借りてしまえば我々はプラントの言うことを拒否できない立場になるのだぞ!」

「しかし、国は守れます! このままではオーブが焼かれるのを私は黙って見てられません!」

 

 カガリはストライクルージュで戦場に出撃した。だが、連合のMS部隊の数相手に苦戦してしまい、味方が次々とやられ蹂躙させるを間近で見せつけられた。その結果、オーブ軍だけでは避難が完全に完了するまで連合軍を押しとどめることさえできないと悟った。

 

 そして、カガリはオーブ行政府に戻ってくるなり、父ウズミに義勇軍受け入れるように要請したが、その意見に頷くことはなかった。

 

「国がなくなれば国是も何もありません!」

「カガリ! 受け入れた後はどうなるかわかっているのか! プラントはそれを理由にオーブに軍事支援を要請してくる可能性が高いのだぞ! そうなれば連合に屈したのと変わらん状況になるのだ!」

 

 カガリとウズミの話し合いは平行線を辿り、カガリはストライクルージュの整備の為という口実で一旦、行政府を出て行った。

 しかし数分後、カガリはストライクルージュに乗って行政府に戻り、無理やり父であるウズミを行政府から叩き出し、行政府を掌握してオーブ国民を1人でも救うべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 カーペンタリアに帰投したキラは、衰弱していたマユを医療班に預けると、撮影した映像等を整理して報告書を出す為、自室のデスクに向かっていた。

  

 そして、報告書を書き終えて休憩を行っていたら、アウグストから緊急事態に使われる秘匿通信で通信が入ってきた。

 

「義勇軍出撃ですか!? オーブ行政府は拒否していたのでは?」

「いや。急遽受け入れの要請が来た。どうやら、オーブ行政府は断固反対していたウズミ・ナラ・アスハを排除したらしい」

「今更派遣してもオーブの敗北は確実です。正直焼け石に水になりますが……なるほど。時間稼ぎですか」

「そうだ。オーブ行政府は宇宙にあるヘリオポリスへ脱出して亡命政権を樹立すると内申打診してきた。プラントにはそれを認めてほしいとのカナーバ議長に要請してきた」

「亡命政府を認めるかどうかは会合で審議する必要がありますが、義勇軍の派遣許可は出したのでしょう?」

「ああ。評議会で審議されるがすぐに了承されるだろう。宇宙にいる義勇軍は降下する準備を始めている。すぐに地上にいる部隊にも出撃準備命令が下される」

「わかりました。当初の計画通り連合軍へ目に物見せてやります」

「頼んだぞ。引くタイミングは現場の判断に任せる」

 

 通信が切れた後キラは迅速に準備を行って命令を待った。そして、義勇軍の出撃命令が国防委員会から下され、カーペンタリア基地からオーブに向かって再び出撃した。

 

 

 

 オーブは地球連合政府と交渉を行おうとしたが、連合政府はそれを黙殺して何も回答を寄こさなかった。アズラエルの「今更オーブが何を言ってきても、ここまでやった後ならば最早意味はありませんよ」という言葉通り、今更連合軍はオーブ侵攻を取りやめる気はさらさらなかったのだ。

 

 連合軍は再び侵攻を開始した。敵戦線はすでに半ば瓦解したも同然であり、今回の攻撃でオーブ全域を占領できるだろうと考えていた。ちなみに調子に乗って後先考えずに敵・味方を攻撃した新型Gのパイロットは、エネルギー切れと薬切れを起こして撤退し、最初の攻撃を中断させる一因になった結果きついお仕置きを受けたので、今度こそやってやると気合いを出して出撃していった。

 

「これで終わりですね」

「ええ。マスドライバーを制圧する為の道を切り開きます」

「頼みますよ。これでやっと反攻作戦が実行でき「た、大変です」……何事ですか?」

 

 アズラエルは大声を上げた管制官を見る。

 

「我が軍の後方にザフト部隊が接近してきます! また、ザフト降下部隊をオーブ上空に確認! オーブ軍を援護しているようです!」

「何ですって!?」

 

 アズラエルは管制官の報告に驚愕した。まさか、オーブが国是である中立を捨て、ザフトに救援を頼む等予定外の出来事が起こったのだ。アズラエルでなくてもウズミを知る人物なら誰でも驚くだろう。

 

「国際波通信を傍受しました。『我らは義勇軍なり。ザフト正規部隊に非ず』だそうです」

「義勇軍の派遣ですか……建前上の理由としては悪くない手を使ってきましたね」

 

 オーブを援護する為の方便だろうが、これは厄介なことになった。

 連合軍はオーブ軍とザフト部隊両方を相手にせねばならず、おまけにこのままだと背後を取られてしまい、挟み撃ちにされる恐れが出てきた。

 

「全軍一時後退してください。敵に挟撃されない位置に移動して、救援に来たザフト部隊諸共オーブ軍を粉砕します」

「わかっている! 撤退信号を出せ! 艦隊は挟撃されない位置に後退する!」

 

 連合軍は挟撃を避ける為に撤退を行うべく信号弾を打ち上げた。それを見た連合軍は次々と撤退を開始するが、ザフト部隊は容赦のない追撃を行い、敵に損害を出すことに成功するのであった。

 

 

 

 

 

 連合軍が後退していくのをボズゴロフ級潜水母艦で確認し、一時的に連合を追い払えたことにキラは安堵していた。

 

「オーブ到着後、オーブ側と意見交換を行うことになるかもしれない。最もこの様子だとオーブは長く持たないから、全将兵はいつでも撤退できる様、準備をしておくようにと通達しておけ」

「了解です」

 

 艦長はキラの言葉に肯いた。義勇軍は精鋭を集めたが数は少なく、連合が本腰を入れてきたら数に押し切られるしかないのだ。

 

「さっそくオーブに向かって……「緊急事態です」どうした?」

 

 キラは急に声をかけてきた、ジークに何があったかのか尋ねる。

 

「連合軍が再び侵攻を開始しました」

「もう、態勢を立て直したのか? いくら何でも早すぎるぞ」

「どうやら、挟撃できない位置に移動した後、すぐに予備兵力のMS部隊を出撃させたようです」

「そうか……オーブ軍の態勢を立て直す隙を与えない方が得策と判断したか……」

 

 連合が予備兵力をこんなに早く投入してきたことに、キラは内心驚いたがこれでオーブ軍の態勢を立て直す時間がないことを悟った。

 

「仕方がない。僕は出撃する。指揮は艦長に任せるよ」

「了解しました」

 

 キラはそう言って艦長に指揮を頼んだ後、自らは出撃する為に、フリーダムの元へ向かうのであった。

 

 

 

 

 オーブ側は一時後退した連合軍が再び攻め寄せてきたことを確認した後、国防軍を再び展開し、ザフト部隊に援護を要請した。ザフト部隊はその要請に頷き各地でオーブ軍と共に連合軍と戦いを行う。

 

『オーブ行政府は宇宙への脱出を行うようです』

「要するに亡命するまでの時間稼ぎを行ってほしいんだな」

『はい。幸い民衆の避難は終わっているそうなので、あとはオーブ行政府の人間だけらしいです』

「わかった。精々派手な陽動を行ってやるさ」

 

 キラは眼前の連合軍MS部隊をフリーダムの砲撃で次々と破壊していく。

 

「キラ参謀長。突出しすぎないでください。援護が難しくなります」

「ごめんね、付き合ってもらって」

 

 そこには裏の目的の対象であるアズラエルがいる。奴さえ始末すれば交渉が捗ることは間違いないのだ。

 

「気にしないでください。無茶はしないという条件だから、付き合ったのです」

「わかっているって。無理そうなら素直に諦めるつもりさ。でも、やれるだけやるよ」

「わかっています。ここまで来た以上は一隻でも多く沈めておいた方が後々楽ですし」

 

 キラのフリーダムとジークリンデのジャスティスは、連携して敵MS、敵戦闘機、敵艦船を持ち前の火力で沈めていく。

 

 何とか敵の総大将を討ち取るべく、自分達を迎撃してくる敵機を蹴散らしながら敵旗艦への道を開こうと奮闘するが、その機会が来る前に味方から通信が入った。

 

『キラ参謀長。オーブがオノゴロ放棄を決定したそうです。それと義勇軍はいつでも撤退してもいいとオーブ側から通達がありました』

「(時間切れか)そうか……全部隊に撤退命令。例のポイントに集合せよ」

『了解です』

 

 キラは旗艦からの通信を終え、フリーダムを撤退場所の方向に向ける。

 

「ジーク撤収だ。アズラエルを討ち取るのは次の機会にしよう」

「了解です」

 

 フリーダムとジャスティスは追撃してくる敵機の攻撃を躱しながら戦闘宙域から離脱するのであった。

 

 

 ザフト義勇軍が撤収した直後。オーブ行政府の面々は一部を除き、マスドライバーで宇宙へと脱出した。残った面々は最後の抵抗とばかりに、マスドライバーとモルゲンレーテを自爆させることで、連合軍の目論見を頓挫させるのであった。

 

 

 

 

 そして、同時並行で行われていたビクトリア攻略戦もこの頃になると終結に向かっていた。

 バルトフェルド率いるザフトMS部隊は、彼の指揮により見事な動きを見せ徐々に後退しながらも、連合軍に無視できない大打撃を与えることに成功した。

 バルトフェルドはビクトリアからの撤収が完了したことを確認した後、最後に今までの後退が嘘の様な猛攻を加え、連合軍を混乱させてジブラルタル方面に撤退した。

 

 連合軍はバルトフェルドの部隊がビクトリアに撤退しないのを見て、嫌な予感がしたのか進軍を急がせたが、そこにあったのは容赦なく破壊されたマスドライバーの姿だった。

 連合軍はオーブに続いて、ビクトリアでの作戦に失敗してしまい、連合の反攻作戦は最初から躓いてしまうのであった。




連合はマスドライバー両方の奪取に失敗しました。

マスドライバーといえば疑問に思ったことがあるのですが、何故ザフトはビクトリアのマスドライバーをさっさと破壊しなかったのかな? マスドライバーがザフトにとっても貴重な物らしいですが、アラスカとパナマで戦力を消耗した時点で守りきるのは不可能とわかっていたはずなのに? やっぱり貴重な物をなるべく壊したくないという、目先の利益に囚われていたせいなのか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

 地球連合は立て続けにマスドライバーを奪取する作戦に失敗したことで、宇宙での反攻作戦を大幅に修正する羽目になった。おまけに地球上に残っているマスドライバーは、政情不安な状態に陥っているユーラシア東側にあるカオシュンに加え、マルキオ導師に民間用と偽り、ジャンク屋ギルドを利用して作ったギガフロートだけしか残っていなかった。

 前者は未だにザフトの支配下にあり、後者は大西洋連邦が他国に黙って作った物であるため、存在がばれるだけで外交面で面倒ごとが起こる代物なので容易に使えない。

 

 そして、今の状態が如何にまずいか連合上層部は理解しているが故に、何度も会議を開いて対策を検討しているが、なかなかいい案が思い浮かばない状態が続いていた。

 

「一体どうするのだ? このままでは月基地が干上がるぞ」

「それどころか我らは地球に閉じ込められ制宙権を完全に奪われる」

「カオシュン奪還作戦の準備を急がせているが、あの地域はザフトに連敗したせいで政情が不安定になりかけており、その影響が周辺にまで及んでいる。後方拠点をどこにするか決めるだけで日数が掛かってしまうぞ」

 

 上層部の面々の弱気な態度を見て、アズラエルは思わずこの場にいる政府高官達を怒鳴り散らしたかったが、オーブのマスドライバーを確保し損なったことを思いだしそれを飲み込む。

 

「みなさん。何を弱気になっているのですか。この戦勝たねば何もかも終わりなのですよ」

「アズラエル。だが、マスドライバーを奪還できなかったせいで月基地は干上がり、基地機能は著しく低下した。最早宇宙軍は統制をいつまで維持できるか怪しいと責任者は言ってきているのだぞ」

 

 連合の宇宙での活動する為の拠点プトレマイオス基地は、補給物資を地上に依存していたため、今回の作戦の失敗で徐々に各種物資が底を付き始めていた。現在宇宙軍の将兵はザフトよりも餓えや苦しみと戦っている。毎日催促のように補給物資を送ってくれという要請が連合本部に山ほど来ている。

 

「マスドライバーについてはカオシュン奪還を進めていますが、ビクトリアの時みたいに爆破される可能性がある以上、あれの接収準備を進めておきましょう」

「ギガフロートのことか? だが、あれを利用するのは無理だ。連合政府が接収すれば国内の資本家も騒ぐ。それにあれは移動できるから所在すら容易に掴めんのだぞ」

 

 政府高官の1人がアズラエルの意見に対して疑問を呈した。ジャンク屋ギルドはギガフロートの軍事利用を認めない。そして、この施設を造る為の資金は民間の資本家が出しているのだ。大西洋連邦が連合の名を使って接収すればそっち方面で必ずクレームが来る。

 

「もう手を選んでいる余裕はないのですよ。ギガフロートの件は後々他国と交渉することになるでしょうが、万が一カオシュン奪取に失敗したときの保険は必要です」

「確かにそうかもしれんが、ジャンク屋ギルドは国際的に認められた組織。下手に敵に回せば我らの外交的信用が地に落ちてしまうかもしれんぞ」

「それこそ今更です。力ある者に靡くんです。弱い連中はね」

 

 中立国であるオーブを侵略した時強硬に反対しなかったくせに、今更その様なことを気にする高官にアズラエルは内心苛立つ。

 

「……仕方あるまい。アズラエルの言う通り、我らはもう手段を選んでいる暇はない。今優先するべきことは餓えている月基地の友軍を救うことだ。カオシュン奪還作戦とギガフロートを使用できるように交渉に入る。後者は使用が無理だった場合接収する」

「わかりました。軍は両方の作戦プランを練ります」

 

 追い詰められた地球連合はこうして、地球に残っている最後のマスドライバーを奪取する為、軍事行動を開始するのであった。

 

 

 

 最後の中立国オーブが連合の支配下に置かれたことにより、地球に中立国家は存在しなくなったが、ウズミ・ナラ・アスハの娘であるカガリ・ユラ・アスハが、修復が完全に終わっていたヘリオポリスに脱出して、オーブ臨時政府を樹立したことを宣言した。

 これに対して連合はその政権を認めない方針を取ったが、プラントはこれを承認するか否かを決めるべく、政権の中枢にいる者達での話し合いが行われることになった。

 

 オーブ臨時政府についてカナーバやアウグスト、穏健派の議員は急遽キラが所有するビルの一室で、この亡命政権を認めるか否かの話し合いが行われていた。最もビルの持ち主であるキラは、軍人として任務が入っていたので今回の会合を欠席していたが。

 

「カナーバ議長は臨時政府を承認するのですか?」

「私は認めようと考えています。しかし、一部の議員は無視した方がいいと言う者もいますので、結論を簡単に出すのは早計かと考え、会合にこの議題を持ちこみました」

「確かにそうだな。しかし、オーブの獅子があそこまで頑固者だとは思わなかったぞ」

「ああ。自国が滅びるという瀬戸際でも国是を貫くとは……」

 

 ウズミの行動に何人かは呆れていたが、本題から微妙に逸れるのでこれ以上話題にしなかった。

 

「連合への嫌がらせになるから承認した方がいいだろう。別にこちらの懐が痛むわけではありませんし」

「それに応援だけならただです。それで恩が売れるのなら問題ないのでは?」

「承認した方が将来外交のカードとして使えるでしょう」

 

 会合メンバーの大半は、恩を売れる時に売っておいた方がいいという意見に傾きつつあった。その後も色々な意見が交わされた結果、臨時オーブ政府を認めることが会合で決定し、それを以て会合は終了するのであった。

 

 この会合より数日後。プラントはオーブ臨時政府を承認すると発表して、他の親プラント国もこれを承認するのであった。

 

 

 

 

 

 その頃ザフトは制宙権奪取の戦略を達成すべく、『オペレーション・アルテミス』の作戦計画に沿って行動を開始していた。

 この作戦は月基地制圧を最終目的としたもので、その準備を行うための第一段階として連合軍の懐具合を締め上げるべく、ザフトは通商破壊作戦を積極的に展開していた。その総指揮兼現場指揮を任されているのは特務隊に配属になったキラだった。

 

「キラ参謀長。あなたが連れて帰った漂流していた少女ですが、徐々に体力を取り戻しているそうです」

「そうか。それはよかった。少し様子が気になるけど、今は物資不足な連合相手に物資を売りつけ、ぼろ儲けしようと企むハイエナ共の掃討だ」

 

 キラが率いる艦隊は新型核動力MS運用の為に建造された、新型高速戦艦エターナル級一番艦エターナルを旗艦とし、僚艦に鹵獲したアークエンジェルの技術を解析して、その技術を組み込んで新規に建造された、特装型巡洋戦艦アーテナー級一番艦アーテナー、二番艦プレイアデス、三番艦マイアの三隻を中核にナスカ級戦艦6隻を加えた計で10隻で構成された遊撃機動艦隊だ。

 

 機動艦隊が月-地球間を航行していた時、突如レーダーに所属不明の船舶を探知したと報告が入った。

 

「所属不明艦探知。数は2隻。どうやら民間船のようです」

「この宙域はザフトが封鎖していると告知しているにも拘らずか……」

 

 キラはその報告に眉を顰める。ザフトは連合軍に物資を届ける行為をする者に対して、官民問わず容赦なく撃沈、或いは拿捕すると宣言しているので普通なら船舶等航行しているわけがないのだ。

 

(ジャンク屋か或いは月基地の物資不足を知って儲けようと企んでいるどこかの民間の連中だな)

 

 キラは助けたマユ・アスカのことを一旦思考の外に追いだして、司令官として果たすべき義務の為に行動する。

 

「恐らく連合軍の物資不足を利用して一儲けしようとする連中でしょう。ジャンク屋ギルドには我らの意思を既に伝えてあります。我らとの関係を悪化させる行動を簡単に行うことはないでしょう」

「だが、そう決めつけるのは早計だ。ジャンク屋ギルドはジャンク屋の集まりに過ぎない。中には儲けようと正規軍と衝突する輩もいる」

「例のバクゥ偵察型の頭パーツの件ですか……確かに言われてみればそうですね。彼等の理性に期待しすぎるのは危険かもしれません」

 

 キラの言葉にジークリンデは納得して頷く。

 ジャンク屋ギルドは所詮民間の団体。彼等にあるのは自由という曖昧な信念と、ジャンクを回収して金儲けをすることだけなのだ。信用し過ぎれば手痛い火傷を負うことになると考えて気を引き締める。

 

「それじゃあ警告をした後、従わない場合は容赦なく撃沈する。僕はいざとなったらフリーダムで出るから、その時は艦隊の指揮は任せたよ。バルトフェルド艦長」

「了解。それにしても砂漠の次は最新鋭艦の艦長とはな……。お前さんのやることは相変わらず驚かされるよ」

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 バルトフェルドは呆れつつも微笑みを浮かべながらキラに言いたいことを遠慮なく言い、キラは微笑みを浮かべてそれを軽く受け流すのであった。

 

 

 

 新たにこの部隊に配属された赤服のエース、シホ・ハーネンフースは、プラントにとって厄介な敵だったストライクを新たな乗機として、この通商破壊作戦に参加していた。

 

「まさか、新たな機体のデータ蒐集の初陣が通商破壊作戦になるなんてね……」

 

 シホは嘗てザフトの天敵だったストライクを操縦していた。彼女がこの機体のパイロットに推挙されたのは、参謀長であり上司のキラの推薦と彼女自身の優秀さ故だが、些か実験機のようになっている乗機に対して、シホは少し不安を覚えていた。

 

「新型バッテリーの搭載、新型のPS装甲を組み込んで節電を実現。連合で活躍していた時よりも、効率よく戦闘できるようになったのは確かにすごいけど」

 

 シホの新たな乗機となったストライクは、新型バッテリーのパワーエクステンダーに加え、電圧調整可能な新型PS装甲を組み込んだことにより、効率のいい運用が前より可能になった。それとストライク単体にアンチビームコーティングを施した実態剣を装備を追加しており、敵艦のデータから入手した統合兵装マルチストライカーパックのI.W.S.P.を少し改造した装備を付けている。

 

「実戦データを取る為には確かに楽な実戦だけど、相手が民間の輸送船なら性能を発揮する前に終わりそうだわ」

 

 シホは今回の任務では実用的なデータを取るのは難しいかなと思いつつ、任務をこなすべく仲間のMSと共に輸送船に近づいていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この宙域に奴は現れるのだろうな?」

『ああ。凄腕の情報屋である俺の情報網に間違いはない。お前さんの目的の人物はその宙域にいる』

 

 ユーラシア連邦所属特務部隊X旗艦オルテュギア。

 そこでその部隊に所属するMSパイロットと、情報屋がモニター越しで会話していた。

 

「情報感謝するぞ。これで長年の宿願を果たせる」

『あんたの望み叶うといいな。健闘を祈っている(単細胞は扱いやすくて助かる)』

 

 情報屋はモニター越しで会話しているMSパイロットの目的を内心バカにしながらも、自分の為に彼を利用する為彼の憎悪を焚けつけ通信を切った。

 

「貴様に言われるまでもない。あれは俺の獲物だ! 待っていろ! キラ・ヤマト!」

 

 憎悪の瞳をこの先の宇宙にいると思われるキラへ向けながら、カナード・パルスは叫ぶのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

 機動艦隊は所属不明の艦船を捕捉し、撃沈或いは拿捕する為にMS部隊を発進させ、MS部隊からさっそく2隻の内逃げようとした1隻を撃沈したとの報告が入る。

 

「逃走しようとした所属不明艦1隻撃沈を確認。艦船の種類を見る限り民間の輸送船のようです。残り1隻はいかがいたしますか?」

 

 エターナルの管制官の1人がそう言って、キラ達に残った1隻をどうするか尋ねる

 

「ジャンク屋ギルド所属だと偽装すれば我々が見逃すと思ったのでしょうか?」

「目の前に吊るされた餌に喰い付くことしか頭にない連中のことなんて、考えるだけ時間の無駄だ。もう一隻も撃沈しろ。ここで徹底的にやらないと何度でもバカが湧いてくるからね」

 

 キラの容赦のない命令が発せられる。

 その命令を受けたMS部隊が輸送船を包囲して一斉射撃を行い、輸送船はビームで蜂の巣になり爆発・炎上して撃沈。宇宙のデブリの残骸になる。

 

 周囲に他に何かいないのを確認した後、機動艦隊はMS部隊を収容して別の場所に行こうとしたその時、新たな敵機をレーダーが察知した。

 

「周囲を探索していた偵察部隊から連絡! アガメムノン級一隻にドレイク級3隻、MS一機を確認したとの報告あり。レーダーにもその機影を確認しました!」

「新手か……」

 

 敵機の映像が送られてきたが、その映像に映っていた機体にキラは驚く。

 

「(ハイぺリオンガンダムだと!? それにあの機体カラーは!?)あいつは僕が相手をする。 MS部隊は一旦補給に戻った後、再度出撃。迂回して敵艦を撃沈させろ」

「キラ参謀長! 私も援護の為出撃します!」

 

 キラはそう指示した後格納庫に向かい、ジークリンデもキラを援護すべく一緒に付いて行く。

 格納庫についたキラとジークリンデは、すぐにフリーダムとジャスティスに乗り込んだ。

 

『フリーダム、ジャスティス発進どうぞ』

「キラ・ヤマト。フリーダム行きます!」

「ジークリンデ・フォン・ブランデンブルク。ジャスティス出ます!」

 

 フリーダムとジャスティスがエターナルから発進する。

 2機が互いを庇える位置を維持しながら、ハイぺリオンガンダムに向かって行く。

 

 それに対してハイぺリオンのパイロット、カナード・パルスは己の宿願をようやく果たせることに歓喜しつつ、狂犬の様にキラが乗るフリーダムに襲いかかった。

 

「キラ・ヤマト! この日を待ってたぞ。俺の手で必ず撃墜してやる!」

 

 カナードは己の目的を果たせる状況になったことに興奮していた。

 普通なら十隻と多数のMSを有するザフト艦隊に、一隻とMS一機にMA数十機で挑むなど無謀なことは普段の彼ならしないのだが、最近の戦況悪化と目減りする物資に正常に稼働しなくなっていく兵器群が彼の焦りを生み出す原因になっていた。このままでは目的を達成する前に連合軍は動けなくなってしまい、終戦になってしまうのではないかとカナードは内心焦り始めていたのだ。

 そんな状態の時にとある情報屋から、キラ・ヤマトが通商破壊作戦の艦隊を指揮して、ある宙域までやって来るという情報が入ってきた。無論最初は信用していなかったが、彼は情報屋ではそれなりに名の知れた人物だったので、偽情報の可能性は低いと判断。そして、宙域に赴いてみると情報屋の言っていた通りザフト艦隊が展開しているのを発見した。そして、あの艦隊にキラ・ヤマトがいると確信し、連合の物資の問題からこの邂逅が最後のチャンスだと思い、そのまま己の宿願を果たす為に艦隊に強襲をかけることにしたのだ。

 

「邪魔をするな!?」

 

 ハイぺリオンがビームサブマシンガン『ザスタバ・スティグマト』をフリーダムに向けて撃つ。

 フリーダムはそれを回避するとルプスビームライフルで反撃するが、ハイぺリオンはその正確無比な射撃を腕部に装備したアルミューレ・リュミエール発生装置から、モノフェーズ光波シールドを発生させて防ぐ。

 

「ビームを防いだ!? もしかしてアルテミスの傘を応用した物!?」

「たぶん、そうだね。でも、あれは今の所腕部しか展開していないから、それ以外の場所を狙えば問題ない」

 

 フリーダムとジャスティスはハイぺリオンの鋭い攻撃を躱しつつ反撃するが、相手の技量も相当優れているのか攻撃をうまく躱していた。

 

「その程度でこの俺を撃墜できると思うなよ!」

 

 カナードはフリーダムとジャスティスが繰り出す攻撃を回避しながら吠える。

 

 キラは全方位にアルミューレ・リュミエールを展開したら、ジャスティスを一旦下がらせるつもりでいた。未だにNジャマーキャンセラーを連合は実用化していないので、制限時間はあるがアルミューレ・リュミエールは凶悪な防御力を保持しているからだ。

 

(最も全方位展開したら切れるまで粘らせてもらうけどね)

 

 キラはハイぺリオンの攻撃を躱しながら、敵が全方位展開をしてきたときの対策を色々と考えるのであった。

 

 

 

 

「くそ!? キラ・ヤマトめ! なぜ落ちない!?」

 

 カナードはなかなか落ちないフリーダムに苛立っていた。自分の存在意義を証明する為には成功作であるキラを討ち果たすしかないと考えていた。もし、不様に敗れでもしたら自分が今まで行ってきたことが無意味になってしまう。

 

「お前に勝って俺が本物のスーパーコーディネイターになる!」

 

 キラが搭乗しているフリーダムの援護を行っているジャスティスを牽制しつつ、猛攻を仕掛けているがその攻撃は悉く回避されている。おまけに一対一で戦うことができない状況のせいで、隙が出来てもカバーされてしまい決定打を与えられないでいた。

 

「ええい! 埒が明かない! 一気に片をつけてやる!」

 

 このままでは埒が明かないと判断したカナードは、乗機であるハイぺリオンガンダムの切り札を切ることにした。

 

「アルミューレ・リュミエールを全方位に展開した。これで死角は存在しないぞ! キラ・ヤマト!」

 

 カナードはアルミューレ・リュミエールの鉄壁の防御で守られたハイぺリオンを駆り、キラに止めを刺すべく先程のより激しい攻撃を行う。相手の攻撃は全てアルミューレ・リュミエールが防いでくれるから、その間に勝負をつけるとカナードは意気込むのであった。

 

 

 

 

 一方全方位に展開されたアルミューレ・リュミエールを見て、キラは内心舌打ちする。少なくともあれが消えるまではこちらの攻撃は全て防がれる。

 

「ジーク。回避を優先して攻撃を浴びせ続ける。恐らく制限時間があるはずだ」

「わかりました」

 

 キラとジークは連携してハイぺリオンを迎え撃つ。

 ハイぺリオンはアルミューレ・リュミエールの防御力を活かして、嵐の様な攻撃を仕掛けてきたが、一定の距離を取りつつ回避に専念し、時折り攻撃を加えて敵を艦隊に近づけない様に牽制するが、ジャスティスの援護があるおかげで追い詰められる事態にはなってないが、ハイぺリオンにフリーダムが少し押される。

 フリーダムとハイぺリオンのビーム兵器の撃ちあいになって膠着状態が続いたが、しばらく時間が経った後、ハイぺリオンガンダムのアルミューレ・リュミエールが消える。その瞬間をキラは逃さずフリーダムの火力に物をいわせて逆に猛攻を仕掛ける。

 

「逃げるのは終わりだ。さて反撃の時間だよ」

 

 キラはそう言い、今までの逃げの姿勢が嘘のような容赦ない攻撃を加えていき、先程とはあべこべにハイぺリオンガンダムを追い詰めていく。

 

「(お前の人生には同情するが、お前の自己満足の為にやられてやるほど俺はお人好しではない!)これで終わりだ!」

 

 ビームサーベルでハイぺリオンの片腕を擦れ違い様に根本から切り裂き、素早く相手の方に向き直ってハイマットフルバーストをキラは叩き込んだ。辛うじてハイぺリオンはそれを回避するが隙が生まれてしまい、ジャスティスのビームブーメランを受けて、もう片方の腕を切り落とされてしまう。

 

 バランスを崩した隙をついてビームライフルで立て続けに放ち、背中のビーム砲とスラスターを破壊する。完全に武器を失って動けないでいるハイぺリオンに、フリーダムとジャスティスはフルバーストを放った。

 

「おのれー! キラ・ヤマトーー!」

 

 カナードはフリーダムとジャスティスから発射された、多数のビームに全身を貫かれてハイぺリオンガンダムのコクピットで絶叫を上げながら機体と共に爆散する。こうしてカナードの復讐は失敗に終わり、彼は復讐を果たすこともなく機体諸共宇宙の花火になるのであった。

 

「撃墜完了、エターナルこれから帰還する。それと敵艦はどうなった?」

『MS部隊より連絡。敵艦を撃沈したとのことです』

「わかった。全機帰投せよ。一旦補給の為に本国へ引き返す為、この宙域から離脱する」

 

 キラは艦隊の撤退命令を出して、この宙域から艦隊と共に離脱するのであった。

 

 

 

 

 

 

「ちっ。あのカナードとかいう男。期待させておいて不甲斐無い。これではザフトの新型艦の実力を確認できないではないか!」

 

 カナードにキラがいることを教えた情報屋の男は、カナードの不甲斐なさに憤った。

 彼はカナードをぶつけてザフトが最近開発した新型艦の実力を計り、その生の情報を連合に売って大儲けしようと企んでいたのだ。

 

 それ故にカナードが艦の攻撃行動すら行わせることができずに、あっさり撃墜されたことに腹を立てていた。

 

「仕方がない。この儲け話は諦めるしかないか。さっそく別の伝手を当たってみよう」

 

 情報屋の男はそう言って今回の儲け話を諦めて、次の儲け話を探す為にこの宙域から離脱するのであった。




カナード戦終了。

機体性能+原作と違い容赦のないやり方+味方との連携と数的有利=キラ達の勝利で終結


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

前半は正直いれるかどうか迷いました。


 プラントでザフトの各種兵器製造と最先端の技術を持つグラム社のMS開発部門。その研究所の一角にキラの姿はあった。

 

「それでストライクの改造はできそうなの?」

「はい。今回利用するシグーディープアームズはMSに携帯するビーム兵器を試す試作機に過ぎず、維持費が大変でした。だから、この機会にビーム砲を取り外してそれを改良することにしました。そして、改造したビーム砲をストライクの両肩に装着するつもりです」

「そのビーム砲を取り付けてバランスは悪くならないの? パイロットが不便する装備を付けても意味はないよ?」

「彼女は元々この機体のパイロットだったので、運用に問題はないかと思います」

 

 試験運用中の装備を付ける作業を行っている、ストライクを見ながらキラはそう言い、担当者はキラの疑問に一つずつ答えていく。

 

「でも、二門もビーム砲を付けたらバッテリーの方は大丈夫なの? いくら新型バッテリーを積んでいてもあっという間に使い果たす恐れがあるんじゃない?」

「その問題はアークエンジェル級から手に入れた、ストライクの運用データにあった使い捨てのバッテリーパックを、ビーム砲に取り付けることで解決しました。無論全部使い果たしたら、本体からの供給で撃つこともできるようにしています」

「運用データは今後役に立ちそう?」

「はい。例のセカンドステージMS開発計画に大いに役立てるかと」

「わかった。評議会と参謀本部には僕が根回ししておくから、今後も頼んだよ」

「了解しました」

 

 キラは担当者との話し合いを終えた後、ストライクのコクピットに座っているシホに声を掛ける。

 

「シホ。機体の調子はどう? 何か問題があったら遠慮なく言ってくれ」

「キラ参謀長!? どうしてここに!?」

 

 シホ急に声を掛けてきたキラに驚く。何せキラが様子を見に来るなど聞いていなかったからだ。

 

「僕が自社の研究所にいることは特に問題ないはずだけど?」

「そうでしたね。すっかり失念していました。それで何の御用でしょうか?」

「この機体に乗った感想を聞かせて貰いたくてね。直接聞きに来たんだよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 シホはうれしそうな表情を浮かべる。キラはザフトの若いパイロットにとって憧れの存在だ。シホも当然その1人であり、彼に声を直々に掛けられて喜ばないわけがない。

 

「操縦性が少し癖があるように感じます」

「なるほど。それじゃあ、ちょっと調整してみようか」

 

 キラはシホの意見を聞いて、OSの調整を始める。そして、数分後調整が終わりストライクは以前よりもシホに操縦しやすいようになった。

 

「ありがとうございます! こんなに変わるなんて思いませんでした」

「これで大丈夫だね。じゃあ、僕は行くから。今後も奮闘を期待するよ。シホ」

「はい。御期待に沿えるよう一層頑張ります!」

 

 シホはキラに対して敬礼をするのであった。

 

 

 

 キラが次に訪ねたのは回収したハイぺリオンの残骸を調べている研究所だった。

 キラは調査を行っている研究チームに話しかける。

 

「どこが作ったのかわかった?」

「はい。どうやらアクタイオン製のようです。恐らくユーラシア連邦から光波防御帯に関する技術提供を受けてこの機体を完成させたものかと」

「腕は片方破壊しなかったんだから、ビームシールドの参考にならないか?」

「充分参考になります。本体はほぼ原形を留めてませんが、腕が無事なのでこれを参考にビームシールドを試作してみます」

「頼んだよ。常に先を一歩行かなければプラントは勝てないんだから」

「何としても良い結果を出してみせます」

 

 研究チームはそう言ってキラの方を向いて頷く。キラもそれを見て満足そうな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 地球連合がマスドライバーの奪還して本格的な反攻に入る前に、戦争を終わらせるべくザフトはプトレマイオス基地攻略に取り掛かった。地球連合が万が一マスドライバーを取り戻して勢いづけば、講和が難しくなると評議会が判断したからだ。

 

 幸いプトレマイオス基地は物資が底を尽き、まともな軍事行動を起こせなくなっているので、この千載一遇の好機を見逃す手はないと参謀本部のお墨付きもあり、評議会は月基地攻略に踏み切りことにした。

 

 無論急遽開かれた会合での話し合いで、月基地攻略作戦が主な話題になるのは当然だった。

 

「全ての準備が完了するのは早くて1週間後です。連合のカオシュン奪還作戦発動前には準備を完了できるかと思います」

「練度の方も問題ありません。通商破壊作戦実行によって新型艦の実戦経験も積めましたので、その力を充分に発揮できるかと」

 

 アウグストが全ての準備が整うまでの時間を言い、キラが攻撃部隊について説明する。

 

「派遣する部隊の規模は?」

「最低でも艦船50隻以上、MSは500機以上を注ぎ込む予定です。フリーダムとジャスティスは新たに3機ずつ完成しました。練度も問題ないので、この作戦に3機ずつ投入します。更に新たに1機製造されたテスタメントを1機に先行試作型核動力MSザクを5機を配備する予定です」

「それは心強いですが、少々数が多すぎないか? 相手は餓えている上、まともに兵器も動かせなくなっているのだぞ?」

「敵が自暴自棄になって命知らずな行動に出る可能性があるので、それに対応できる戦力は必要だと参謀本部は判断しました。しかし、練度が不安な部隊もあるので実際派遣するMSの数は減るかもしれません」

 

 キラは派遣する数が多すぎると意見してきた者に、練度次第では数は減るかもしれないと説明した。

 

「確かに大事な作戦に練度が低い部隊は投入できないからな」

「少し減ってもこっちには核動力MSが存在する以上質に関しては連合軍を上回っている。多少の数的劣勢は覆せるだろうしな」

「この件での会合の意思は、専門家の匙加減に任せる方がいいと判断するでよろしいでしょうか?」

 

 攻略部隊の編制は臨機応変に対応することになった。

 次に議題に上がったのは連合軍のカオシュン攻略とギガフロートについてだった。

 

「マスドライバーはこちらにとっても貴重な物だ。一個ぐらいは手元に置いておきたい」

「しかし、連合は立て続けの失敗に業を煮やしているだろう。今回はビクトリア奪回作戦の時以上の戦力を投入してくるはずだ。正直守りきるのは難しいのでは?」

「確かにそうだ。それに連合は壊れたマスドライバーの修復を行っていますが、こちらの破壊工作のせいで工期が遅れているからな……」

「ここはやはりいざとなれば戦略通り破壊するべきでしょう。固執しすぎて被害が大きくなっては意味がない」

 

 カオシュンのマスドライバーは予定通り、連合軍が本格的に侵攻してきたら破棄することになった。最もその場合ザフトも物資を効率よく上げれなくなるので、手元にあるうちにできるだけ資源や食糧、水等を宇宙に上げることになった。

 

「ギガフロートはどうします? カオシュンの奪回すら失敗すれば連合の連中躊躇なく接収に走るのは確実です」

「いっそのことこちらが先に接収してしまうのはどうだ? 連合に渡すぐらいならこちらの物にした方がいい」

「だが、その場合ジャンク屋ギルドとの仲が悪化するぞ。ジャンク屋はこちらの物資購入に一役買っているのだ。仲を拗らせればそちらに支障が出てしまうぞ」

 

 ギガフロートを連合にやるのは論外だ。だが、自分達が接収すればジャンク屋ギルドとの仲を悪化させることになり、戦略物資購入等に支障が出る。

 

「連中は戦後邪魔になる存在だ。いっそのことこれを機会にジャンク屋ギルド自体を潰すか乗っ取るのはどうだ? 連中この前我々のレアメタルを強引に自分の物にしてしまったのだぞ。抗議しても馬耳東風だ」

 

 ジャンク屋ギルドを快く思っていない一部のメンバーからは過激な意見が出る。ジャンク屋ギルドは特権を利用して好き勝手することもあるので、それの被害に遭った者からはあまり好かれていない。

 

「それとクライン派への工作だが、何割かをこちらに取り込むことに成功しました。これで万が一クライン派が独断行動を行ってもその動きを察知することが可能です」

「同じ和平を実現する考えを持つ者達だから無得に扱いたくないが、地下に潜られると面倒だからな……」

 

 前議長のシーゲルとクライン派の影響力はプラント内でかなりものだ。敵に回せばどれだけ内部を引っ掻き回す存在になりえるので、会合に集まった面々はなるべく敵に回したくないのが本音だ。しかし、その影響力を使って好き放題にされても困るので、枷を付けるべく内部を分裂させる策を打つことにしたのだ。

 

「これで向こうの行動を察知できますから、当面は監視だけでいいでしょう(ドレッドノートの件も拒否して封印したし)。それよりも折角集まったのですから、和平案の方はどうなっていますか? 議長?」

 

 キラはそう言って話題を変え、そっち方面担当のカナーバを見る。

 

「現在八割方完成しているが、今回の作戦の成功するか否かで多少修正を加えることになるだろう。確実に交渉の席に座らせるには、連合がマスドライバーを抑えて宇宙に戦力を上げる前に、月基地を落とすのがベストだといえるだろう」

「やはりそこに行きつきますか……。今度の作戦は是が非でも成功させないといけませんね(もし、失敗すれば例の戦略兵器を使うしかないか……)。正直こちらとしても長期戦は避けたいですし」

 

 キラはカナーバの話を聞いて、完成している例の戦略兵器のことが頭に浮かぶ。

 

(月基地を占領しても和平できないのであれば、連合の最大の武器である物量を支えているデトロイトの工業地帯を破壊するしかないな)

 

 キラはいざとなれば戦略兵器で、大西洋連邦の生産力を破壊することも考えていた。民間人を巻き込む所業なので心が痛むが、戦時においては何でもありなので、いざとなれば心を鬼にして実行するつもりでいた。

 

「月基地攻略で和平が実現できない時はどうするのですか? 評議会にはその方法があると前に言っていましたが……」

「済まない。それについて話すことはできない。なるべく評議会としても避けたい方法なのでな」

「気にしないでください。和平の方は評議会に任せて、それをスムーズにできるよう根回しを我らでしておこう。今度の作戦で和平が実現できるようにな」

「頼みます。軍は作戦成功に全力を尽くします。立ち塞がるものは徹底的に叩き潰します」

 

 こうしてプラントの取るべき方針は決定するのであった。

 

 

 キラは会合が終わった後、その帰りにオーブ領海付近で助けたマユの見舞いに向かった。

 

「マユちゃん。調子はどう?」

「調子はいいです。お医者様もあと数日で退院できると言っていました」

 

 マユはキラの気遣いに笑顔で答える。マユにとってキラは恩人なのである。内心では唯一生きていると思われる兄のシンの安否は気になっていたが、自分が今後生活に困らないように、退院後の仕事まで用意してくれたキラを心配させまいと思って笑顔を作って誤魔化したのだ。最もキラとしては彼女を助けられたのは本当に偶然だっただけに、対応に少々困っていた。それがシンとの敵対を避ける為という打算で行動している部分もあるので、その対応に素直に感謝されると罪悪感が湧き出てくる。

 

「必要な物があったら連絡してね。連れてきた以上は面倒はしっかりと見るつもりだから。住居も社員用のマンションだけど用意したから」

「はい。何から何までありがとうございます! この恩はいずれ必ず返します!」

「ふふ。期待しておくよ」

 

 キラは柔和な微笑みを浮かべ、それを見たマユは顔を赤くする。

 

「じゃあ、退院するときは迎えに行くよ。それまでに必要な物は揃えておくから」

「はい。キラさんもお仕事頑張ってください」

 

 マユはベットに座ったままキラに頭を下げて、彼を見送るのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

 ザフト側の準備が無事に終わり、『オペレーション・アテナ』の発動が評議会で了承され、ザフトは大軍を持って地球連合軍の宇宙拠点プトレマイオス基地へ侵攻を開始した。

 

 月基地にいた連合軍は総司令部にそのことを伝え、至急援軍を送るか基地放棄を要請したが、どちらも無理だと言われて絶望的な防衛戦に挑むしかなくなった。

 

 

 ザフトがMS部隊を発進させると、連合軍も負けじと迎撃部隊を出撃させる。

 

「連合軍迎撃機展開。ドレイク級20、ネルソン級15、アガメムノン級5、MA200、MS50です」

「出て来たか。たったそれだけということは、こちらの想定以上に連合の懐事情は厳しいようだな。千載一遇の好機ってやつだ」

 

 エターナルの艦長席で敵戦力の情報を聞いたバルトフェルドは上機嫌に言う。敵の戦力の大半がMAのメビウスという点が月基地の連合軍の窮乏を何より示しているからだ。

 

「キラ。お前さんの出番は今回なさそうだぞ」

「その方がありがたいです。僕に頼る風潮が根付くのはよくありませんからね」

 

 キラはバルトフェルドの軽口にそう返し、自軍と連合軍の戦闘を眺める。

 物資不足でまともに整備すらできなくなってきているのか、敵機は動きにキレがなく次々と撃墜されていく。

 

「敵が弱っていることはわかっていたが……あまりにもあっけないな」

「敵が弱いことはいいことです。さっさと敵兵力を殲滅して月基地を制圧しましょう」

 

 敵の防衛線を容易く突破して月基地に襲いかかるザフトMS部隊。

 連合軍はミサイルや高射砲等で必死に迎撃するが、すぐにそれらも撃ち尽くし沈黙するのであった。

 

 ザフトはその隙を逃さずMS部隊は次々と月基地に侵入を果たし、基地内部の制圧を開始する。そして、数10分後に全施設制圧完了と連絡が入り、ザフト本隊も安全が確保されたのを確認して、月基地に入港するのであった。

 

 

 

 ザフトによる月基地制圧は連合軍の月周辺の支配権損失という戦術的損失だけでなく、連合軍が立てていたプラントへの直接侵攻という終戦戦略を頓挫させることになった。

 

 連合上層部はこの事態にショックを受け、戦略の根本的な見直しを迫られることになった。

 

「これで我々の完全勝利は難しくなったといえる。何とかマスドライバーで戦力を宇宙に上げても我らの拠点が存在しない以上、反攻作戦を行うことなどできんからな」

「泣き言を言っている暇はない。何としてでもザフトの再度地球侵攻を防がねばならんのだからな」

「カオシュン奪還作戦が明日発動されるというタイミングで……」

「月基地にいた宇宙軍はどうなった?」

 

 連合上層部は月基地が陥落したと聞き、そこに駐屯していた宇宙軍はどうなったのかを尋ねる。

 

「戦った者は軒並み戦死しましたが、大半は餓えて士気が下がっていたせいか、出撃した部隊が敗れた途端降伏しました」

「そうか……」

 

 予想通りの回答が返ってきたので、一部の者はがっくりと項垂れる。

 

 一方アズラエルは今回の出来事に内心かなり激怒しており、連合軍の不甲斐なさに憤慨していた。

 

(何をやっているんだ! 大体お前達の決断がいつも遅いせいで、敵に先手を取られているんだぞ!)

 

 アズラエルは体面ばかり気にして決断を渋る連中に苛立つが、彼も今の状況が非常に悪いと認めざるを得なかった。

 プトレマイオス基地陥落により、ザフトに制宙権を完全に取られてしまったので、プラントを直接叩き潰す機会は当分訪れないのだ。それどころかザフトに再び地球への侵攻を許すという屈辱的な状況になれば、戦争継続を主張した者の1人して責任を追及されかねない。

 

「……度重なる敗戦に国民には厭戦気分が出始めている。そろそろ手打ちにするべきなのかもしれんな」

「プラント利権を諦めろということか!?」

「そうは言っておらん。何か勝利と喧伝できる成果を上げて講和に持ちこみ、次に向けて戦力を蓄えるのだ」

 

 政府高官の1人が現在の不利な状況を考慮して、この際和平に持ちこんで次の戦争で倍返しする案を提案する。

 

「つまり、今回の戦争でケリをつけるのではなく、次の戦争まで臥薪嘗胆するということですか?」

「そうだ。その為にはザフトに大きな打撃を与えることが必要だが」

「これ以上戦争を続ければ経済が破綻する恐れがある。悪い手ではないな」

 

 会議の流れが和平の方向に傾き始め、アズラエルは若干焦り始める。ここで和平をしてしまえばプラントを放棄することになるのは確実だ。そうなればロゴスの爺さん共に何を言われるか堪ったものではない。

 

「みなさん! あのコロニーは我らの金で作った我らの資本なのです。それを手放して国民にどう説明するつもりですか!?」

「確かにその利益を甘受してきた我らは大損だろう。しかし、国民はあまりプラントの利益を享受しているわけはないのだぞ? 今はコーディネイター憎しで国民をまとめているが、今では和平を望んでいる向こうの意思と連戦連敗していることが徐々に、世論に浸透してきて終戦を求めるデモ行進まで起こっている有様だ」

 

 プラントから利益を最も得ていたのはプラントを作った、理事国の財界と政治の中心にいた者達だ。プラントが独立するとなれば投資した物を失って大損することになるだろう。しかし、国民の大多数はその利益を受けていたわけではないのだ。だから、プラントが独立しても損をするのは自分達ではなく、ブルジョワだけだと思っている者も多いのだ。

 

「何を言っているのですか! 大衆にはプラントが独立したら、自分達がどれだけ損をするかわからせればいいだけのことです。宣伝工作はすぐに行えます!」

「だが、それとて戦果を上げねば結局意味がなくなるのだぞ、アズラエル」

「わかっています。明日行われるカオシュン奪還作戦とギガフロート制圧作戦は是が非でも成功させなければならないんです!」

 

 政府高官達の意見を、何とか戦争継続に持っていくことに成功したアズラエルは、何としてでも作戦を成功させるよう軍に発破をかけることにした。

 

 

 

「アズラエル理事からは何と?」

「何としてでも作戦を成功させよとのことだ」

「随分無茶を言ってくれますね。理事は」

 

 カオシュン奪還作戦を指揮する司令官は思わず溜息が出そうになった。

 絶対成功する作戦等ないし、これまでのザフトの行動からすれば守りきれないと判断した途端、マスドライバーを破壊しかねない。その様な状況でマスドライバーを無傷で奪還するなど不可能に近かった。

 

「あそこは島である以上制海権を握れば連中を袋の鼠にできるが、山が多くて攻め手側は不利だ」

「そうですね。制空権を完全に奪取しない限りは、上陸しても叩き出される可能性があります」

「こちらもオーブとビクトリアでの損耗もある以上、これ以上は戦力を無駄にできないからな。慎重に軍を進める」

「了解です」

 

 連合上層部の焦りと叱咤に現場を支える軍人達は若干呆れつつも、軍人としての責務を果たすべくカオシュン奪還作戦を開始するのであった。

 

 

 

 連合軍とザフト軍の初戦は制海権の争奪戦から始まった。

 連合軍はザフトの水中MSに対応すべく、フォビドゥンを改造して作られたフォビドゥンブルーとその量産型のディープフォビドゥンを繰り出し、グーンやゾノと激戦を繰り広げる。しかし、性能と数で優れる連合側に軍配が上がり、制海権を掌握した連合軍は台湾を完全に包囲できるようになった。

 

 次に連合は制空権を奪取すべくレイダー制式仕様と戦闘機を多数投入したが、地上からの迎撃もあり思う様に制空権掌握は進まなかった。しかし、ザフトがマスドライバーを破壊すれば今回の労力も意味を成さない以上、あまり追い詰め過ぎるのはよくないと軍部は判断して、囲みの一部を解いて逃げ道を用意しておき、敵をあまり追い詰め過ぎないように配慮しながら進軍を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 連合軍がカオシュン攻略を開始した情報は、無論参謀本部に入った。

 

「こちらの予測通り連合はカオシュン奪取作戦を開始した。準備はできているか?」

「幸い敵はこちらが追い詰められてカオシュンのマスドライバーを破壊しないように、逃げ道を作ってくれています。そこを利用して撤退しきれなかった我が軍の残存は脱出を行っています」

「予定通りカオシュンのマスドライバーも破棄する。幸い、我らも自前の物を作る計画を大洋州連合と進めているからな。本格的な着工は戦後になるだろうが、今は戦争に勝つことが最優先だ」

「はい。プラント在住の資本家を説得するのは骨が折れましたが、会合のメンバーの手回しで、独立が最優先だと何とか説得できましたし」

 

 しかし、マスドライバーを全て失うことは、自分達の物資打ち上げ効率を落とすことになる為、参謀本部ではキラの提案である作戦を行うことを検討していた。

 

「ギガフロートの奪取作戦か……ジャンク屋は我らと顔馴染みの商売相手。何とか説得でこちらの海域に待機するということで手打ちにできないか?」

「カオシュンのマスドライバー奪取が失敗すれば、連合は形振り構わずこれを接収するでしょう。そうなれば戦争は長期化する恐れがあります。それにギガフロートを奪取してこちらで利用できれば、マスドライバーを全て失っても財界や資本家も文句は言わないでしょう。それに……」

「それに? 何だね?」

「ジャンク屋ギルドは傘下のギルドが無法なことをしても、罰しないどころか黙認するなど増長しています。この前の我らのレアメタルを勝手に回収して己の物にしました。無論抗議しましたが未だにいい返答を貰えてません」

 

 キラは折角手に入れた貴重なレアメタルを奪われて以来、彼等の特権を利用した無法な行動に腹を立てていた。無論その件はジャンク屋ギルドに抗議をしたのだが、未だに賠償は勿論、謝罪の言葉すら返ってこない有り様だった。

 

「そこで報復としてギガフロートを接収します。ジャンク屋ギルドにはこの件で文句は言わせません。それに戦後の交渉カードとしても使えます」

「ふむ。自前のマスドライバーを確保できれば戦後の復興もやりやすい」

「ジャンク屋との仲を悪くするデメリットよりも、メリットの方が大きい……悪くはありませんね。最もシーゲルがまた何か言ってきそうだが……」

「マルキオ師と親しい彼には悪いと思っていますが、プラントの為だと言って黙ってもらいましょう。それに永久に保有するわけではありませんし」

 

 キラは戦後自前のマスドライバーが完成したら、返却すればいいと妥協案を出してカナーバを説得する。

 カナーバはそれを聞いて頷き、評議会にかけて作戦の承認を取ることに合意するのであった。

 

 

 

 連合軍は慎重に且つ迅速に進軍してカオシュンのマスドライバーに迫ったが、辿り着いた瞬間カオシュンのマスドライバーは最後の打ち上げを行った後、各所に爆発が起こり最後は自らの重さに耐えきれず自壊した。その様子をを目撃した連合軍は唖然とした。

 

「……作戦は失敗だな。やはり、ザフトがここを残しておくわけなかったか」

「こうなるとギガフロート奪還作戦が承認されますね」

「民間人を相手にするのは本意ではないが、こうなっては止むを得ないだろうな。政府上層部も最早後がないと考えているだろうしな」

 

 今回の作戦を指揮していた司令官はそう言いながら、基地の接収を始めるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

 カオシュンのマスドライバーを破壊する少し前。ザフトは最後のマスドライバーであるギガフロートを手中に収めるべく、その施設を管理するジャンク屋に最後通牒を送った。

 その内容はギガフロートはザフト勢力圏内に移動して以後、許可があるまで一切の移動を禁じることと、ザフト側が落としたレアメタルを勝手に回収して自分達の物にした事件を始めとする、無法な行いをしたジャンク屋に対する処罰とその賠償を請求するというものだった。

 

 ジャンク屋ギルドは無論この通牒に反発。ザフトの最後通牒を拒否し、マルキオ師を通じてザフトに抗議と交渉を行うことにした。

 

 ジャンク屋ギルドの抗議を受けて、マルキオ師と親しいシーゲルは参謀本部に赴き、参謀総長室にギガフロート攻略作戦についての詳細を話す為集まっていたキラ達に対して、最後通牒を撤回するように求めた。

 

「これはどういうことなのだ!? ジャンク屋ギルドに最後通牒を送りつけるなど何を考えている!?」

 

 シーゲルは普段温厚な彼としては珍しく、怒りを露わにしてキラ達に説明を求めた。

 

「シーゲルさん。これも戦略の為です。せっかく、連合が所有するマスドライバーを全て破壊しても、ギガフロートが残っていれば意味はありません。連合がここを奪取すべく軍を派遣するのは時間の問題です」

「確かにその可能性は充分にあるが、あれはそう簡単に見つかるものではない。ジャンク屋ギルドも絶対に軍事利用させないだろう」

「それは些か楽観的です。連合が本気を出せばすぐに見つかってしまいますよ。そして、連合の軍事力に彼らが敵うわけありません。まず、奪われるでしょうね」

 

 シーゲルの楽観的意見をキラは首を横に振りながら否定し、アウグストもキラの意見に賛同する。

 

「マスドライバーを全て使用できなくしない限り、連合は交渉にすら乗ってきませんよ。それにジャンク屋ギルドは最後通牒が出るまでこちらの抗議を無視していました。連中が連合の言うことを聞かないというのは納得できますが、彼等にマスドライバーを守りきるだけの戦力は存在しません。そして、マスドライバーを連合が手に入れたら彼らは交渉の席につくことはないでしょう」

 

 アウグストは戦略的な面でもギガフロート奪取は合理的だと言う。シーゲルは何とか反論しようと同じ穏健派であり、評議会議長のカナーバを見ながら自分の考えを述べる。

 

「だが、ジャンク屋ギルドは我らの物資購入にも一役買っている組織だ。彼等を敵に回せばそれらに支障を来たすことになるぞ!」

「シーゲル。あなたの立場と気持ちは理解しているつもりです。しかし、我らのやることはプラントを独立させることです。その為に必要なことをアウグスト参謀総長もキラ参謀長も言っているのです。私は彼等の意見に賛成します」

「カナーバ!?」

 

 シーゲルはカナーバがこのような強硬な策に対して賛成していることに驚いた。表向きは賛成していても、心の内では彼女は反対しているはずだと思っていただけに、シーゲルの衝撃は大きかった。

 

「シーゲルさん、これはすでに評議会で承認されたことです。採決の時も賛成多数で可決されました。今更あなた1人がこちらに来て騒いでも覆りません。マスドライバーを保持するのはあくまで講和が結ばれるまでにしています。ジャンク屋ギルドもマスドライバーが戻ってくるのなら黙るでしょう」

「むむむ……」

 

 キラは正論でシーゲルの反論を封じ込め、反論を封じられたシーゲルは思わず唸る。

 シーゲルとしてはマルキオ師との関係からしても、何とかプラントとジャンク屋ギルドとの関係悪化を防ぎたい。しかし、目の前にいる3人の人物は、今やプラントでザフトを凌駕する影の組織(シーゲル視点)のトップ3だ。この3人は実質プラントの政治を動かしているといっても過言ではない。おまけにその組織の根は民間組織まで深く浸透しているせいで、彼等の政策に反対する者は少ない。それどころか良い結果を齎すことが多いので、シーゲルはその不手際を責めて譲歩を引き出せないでいる。最も彼はジャンク屋ギルドとの関係を悪くしない為に彼等に話し合いを持ちこんだ以上そう簡単には引けなかった。

 

 しかし、キラはシーゲルがまた何か文句を言ってくるかもしれないので、これ以上彼が何も言わないように畳み掛けることにした。

 

「前回のドレッドノートの件もそうですが、あまり勝手なことを仰らないでください。こっちも余裕があるわけではないんです。だから、今回の作戦は必要なんです。プラントの為にね」

 

 キラはドレッドノートの件を持ち出してシーゲルに釘を刺す。

 シーゲルはキラの言葉に反論することもできず、完全に沈黙するのであった。

 

 数時間後。カオシュンが陥落したとの報を聞き、ザフトはギガフロートを奪取すべく大規模な部隊を派遣。ジャンク屋ギルドは無論抵抗したが、数と練度で勝るザフトMS相手に敗退し、ギガフロートはザフトの手に落ちるのであった。

 

 

 

 連合上層部はカオシュンのマスドライバーが自爆し、ギガフロートもザフトに奪取されたことを聞き、政府高官や役人達は顔を青褪めた。

 

 ザフトに全てのマスドライバーを奪われてしまったのだ。これでは宇宙での反攻作戦は少なくとも、修理中のマスドライバーが再建するまで待たなくてはならなくなった。それに対してザフトはギガフロートを懐に抱え込み、自分達だけ物資を効率よく打ち上げることができる。これに危機感を抱かない者はこの場にはいなかった。

 

 当然この状況を打開すべく話し合いが何度も行われたが、これといった意見は出てこなかった。

 

「どうするのだ!? カオシュンは確かに落としたが肝心のマスドライバーは破壊されてしまった。これでは勝利と喧伝するのは難しいぞ!」

「カオシュンもそうだが、ギガフロートも奪われてしまったことの方がまずい。あれは民間の資本も合わせて建設した物だ。何とか取り返さないとそっちの方面から抗議が来るぞ!」

「それよりも、国内で厭戦気分が高まってきた。このままではいくつかの国の政府が倒れかねない」

 

 連合上層部のほとんどの人達は、こうなれば和平も止むを得ないのではと考え始め、具体的な講和案を練る動きにまで発展する有様だった。しかし、この動きに待ったを掛けたのがブルーコスモスの盟主アズラエルだった。

 

 彼は怒りの表情を浮かべて、講和に傾きそうな政府高官に講和撤回を求めた。

 

「何を言っているんですか、みなさん。ここで屈服すれば戦後コーディネイター共に、私達はどれだけ圧迫されるかわからないのですよ!」

「だがな、アズラエル。プラントに直接攻め込むことは不可能だ。マスドライバーもないし、我らは宇宙拠点であるプトレマイオス基地を失っているのだぞ。例え、ギガフロートを奪還できても軍や物資輸送船等は、宇宙に上がった途端ザフトに狙い撃ちにされるしかない」

「ここは捲土重来の為に引くべきではないか?」

 

 政府高官達の言葉にアズラエルは怒りのままに反論したかったが、ここで感情的になれば自分の意見は通らなくなると思い耐える。

 

「……仕方ありませんね。だが、このまま負け続けでは交渉の際に足元を見られるのは間違いありません。そこで、講和するにしても、戦争を続行するにしてもここで一度決戦を挑むのはどうでしょうか?」

「決戦だと!? もし、敗北したらそれこそどんな条件を出されるかわからないぞ!」

 

 一部の者達がアズラエルが提案する決戦に対して、難色を示す。彼等の言い分はもし負けたら、それこそどんな条件を出されるかわかった物ではないからだ。連合は確かに物量でプラントを圧倒的に上回っているが、現在は原子力発電が使用不能になっているので、民衆の生活を犠牲にしてそれを維持しているに過ぎない。もし、敗北すればその損失を補填する為に更なる苦しみを与えることになり、国によっては革命が起こるかもしれないことを危惧していた。それに対して今講和すれば強大な軍事力を保持したまま、交渉に臨めるので有利な条件で講和することも可能なので、彼等の反論は筋の通った物だったが、アズラエルはその意見に頷くことはなかった。

 

「何を言っているんですか!? 今交渉すればこちらも譲歩することになり、戦後復興の元となる金は一銭も手に入らない。そんなことになれば国民は納得しませんよ!」

「確かにそうだが、それは膨らみ過ぎた軍事予算を削れば捻出できるのでは?」

「その程度の額は雀の涙程にしかなりません。だから、決定的な勝利を治めるのです! 戦争を継続するにしても講和をするにしても決戦は必要です」

「……わかった。しかし、どこで決戦を行うのだ? アラスカはもうないし、グリーンランドの基地はザフトの連中の拠点から離れすぎている。連中が赴いてくるわけがない」

 

 アズラエルの意見で決戦をする方針に傾いてきたが、肝心の決戦を行う場所をどこにすべきかで今度は揉めることになった。

 連合の大軍が布陣できる場所でザフトが遠征してくる場所等ほとんどないといってもよかった。

 

「連中からは仕掛けてこないでしょう。何せ有利なのは向こう側ですからね。だったらこっちから赴くしかないでしょう」

「それで、どこを攻めるのだ?」

 

 政府高官達からの視線を受けてアズラエルは自身満々に言い放つ。

 

「ジブラルタルが最適でしょう。あそこなら大西洋とスエズ基地から挟み撃ちにできます」

「だが、ザフトが構築したジブラルタル-アフリカのラインは強固だ。証拠に未だ我が軍は戦線を突破できないでいる」

「今まではマスドライバーの奪還を優先していましたので、主力は回せませんでしたが、今回は文字通り総力を挙げて制圧作戦を実行します」

「悪くない手だな。少なくとも何らしかの戦果を以て講和しなければ、これまで苦難に耐えてきた国民が納得しないだろうしな」

「決まりですな。それでは決戦を行ってその戦果を以て講和するということで、みなさんよろしでしょうかな?」

「私も賛成です。アズラエル理事もいいですか?」

「1人だけ我が侭を言うほど愚かではありません。しかし、やるからには勝ってくださいよ」

 

 連合上層部はこうして有利な講和を行うための決戦を行う方針を決定するのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

 連合が大規模な攻勢を企んでいることを察知したザフトは、その対策を話し合うべく参謀本部で参謀会議を招集した。

 

「連合は恐らく限界なのでしょう。こちらが民間のマスコミ等を通じて流した情報によって、連合軍が大した戦果を上げられないでいることは、徐々に連合各国の世論に浸透しつつあります。だから、戦争継続か講和どちらになっても決戦で大戦果を挙げることで、自分達が不利にならない状況を作っておくのが目的だと思われます」

 

 キラの意見に何人かが頷く。

 連合の形勢が不利なことは誰が見ても明らかだ。マスドライバーを奪還する所か月基地まで落とされてしまい、多数の将兵を失っている。この損失はいくら圧倒的な物量を誇る連合でも、そう簡単に補填できるものではない。

 

「参謀総長はどう思われますか?」

「私も連合が決戦を望んでいることは確実だと考えている。何せ連合は負け続きだ。連合の中には飢餓が起き始めている国もある。それらの国では反戦運動が活発になってきているからな。ここで戦意高揚を行わなければ連合政府のいくつかは革命で倒れることになりかねない」

 

 連合の中で一番国力がある大西洋連邦は比較的まだ余裕があり、コーディネイター憎しを煽ることで民衆の戦意を維持できいているが、他の国はそうはいかなかった。特にユーラシア連邦では冬に強い寒気が襲来した為、電力不足と合わせて凍死する人間が多く出ており、厭戦気分がかなり高まっている。そこに、ビクトリアのマスドライバー奪還失敗と、プトレマイオス基地陥落によって一気に反戦運動が過熱した。ユーラシア連邦を構成する各国政府は、この運動に手を焼いており鎮めることができないでいた。

 

「連合が決戦を挑んでくるとなるとかなりの戦力を集めるでしょう。こちらは数で劣る以上苦戦は確実かと」

「地球は連合のホームだからな。しかし、宇宙を抑えている我らには降下作戦が使える。降下部隊を連中の後ろに降ろして挟み撃ちすれば問題ないのでは?」

「それは楽観的過ぎる考えだ。連中の予備兵力はかなりのものだ。降下部隊の背後に連中の予備兵力がいたら、逆に挟み撃ちにされる恐れがある」

「それでは例のあれを使いますか? あれを連合軍に打ち込んでそこを襲撃すれば問題なく勝てるかと」

 

 連合軍が決戦を仕掛けてくることを前提に作戦を練るが、物量で勝る連合軍に相手に勝利するのは容易ではないと誰もが判断し、ある参謀が建造中の例の兵器を使うべきではないかとアウグストに進言する。

 

「確かにここで無駄に兵力を消耗するわけにはいかん。戦後のことも考えると兵力温存は必須だが、あれの使用は容易にできない」

「そうだな。あれを使えば余計に連合の反プラント感情を煽るでのはないか?」

「それこそ今更だ。連中は自分達が仕掛けたサイクロプスの破壊を我らの所為にしたのを忘れたか?」

「いや。だからこそ、奴らにその様な材料を与えてはならんだろう。ここは苦しいが我らの今動かせる戦力で何とかするしかあるまい」

「それしかないか……そうなるとエースクラスは全員投入せねばならんな」

「核動力MSもです。本国の防衛にフリーダムとジャスティスを2機ずつ残して、残りは全部投入しましょう」

 

 数で勝る連合軍に正攻法で勝利するには、核動力MSを投入して何か策を考えなければ勝利することは難しい。何としてでも敵軍を各個撃破しなければならない。

 

「タスラムを付けたフリーダムとジャスティスによる大火力で、敵の大軍を薙ぎ払うしかありません。それと降下部隊の投入タイミングも重要です。数で劣る我らが勝利するには、連中を分断して各個撃破するしかありません」

「しかし、連合もそれは警戒しているだろう。敵を分断するのは正直難しいのでは?」

 

 だが、連合軍を分断して各個撃破することの困難さはここいる全員が理解していた。何かいい方法はないかとこの場に集まった参謀全員が頭を捻って考えるが、なかなかいい案が浮かばない。

 

 そこで連合がまずどの拠点を狙ってくるか検討することにした。

 

「敵は恐らくジブラルタルを目標にするでしょう」

「何故そう思うのだ?」

 

 キラの意見を聞いた参謀の1人が疑問を口にする。

 

「連合としてはなるべく勝算の高い戦いをしたいはずです。何せここで負ければ大幅な譲歩を強いられるのは連合各国です。そうなれば戦後の統治に苦労します。だから、大西洋と未だに連合が維持しているスエズ基地から挟み撃ちが可能なジブラルタルは最適な場所でしょう」

「確かにそうだな。敵からすれば挟撃できる場所にあるから、狙いやすいだろう」

「それにカーペンタリアは距離があり過ぎる上こちらの勢力圏内です。そこへ大軍を以て遠征するのは補給の面でもきついはずです」

「道理だな。予測に過ぎないがなかなか鋭い指摘だ。だが、少し様子を見る必要があるだろう。少なくとも軍を動かすのは新しい情報が入ってからだな」

 

 キラの意見はなかなか合理的な物だったが、今はまだ予測の域を出ていないので新しい情報が入るまでは軍の移動は控えることになった。

 

 しかし、肝心の各個撃破をする方法についてはいい案が出てこなかった。

 

「取り敢えずバルトフェルドを再び地上に派遣しよう。彼には苦労を掛けるがな」

「コーヒー豆でも送って機嫌を取っておけば問題ないかと。彼の最近の趣味ですし」

「そうだな」

 

 今回の会議ではバルトフェルドを地上に再び派遣することが決まり、各個撃破作戦の案を各自が考えてくることになった。

 

 

 

 

 キラは会議を終えた後、久しぶりにジークリンデと高級レストランの個室で、彼女と一緒に食事を摂っていた。

 

「どうしたのだ? 久しぶりのデートだというのに元気がないな」

「色々と考えることがあってね」

 

 ジークリンデはキラが元気がないことに気付き、心配そうに声をかける。ちなみにこの個室は防音と防諜が完璧なので、政治家や企業のお偉いさんが話し合いの場に頻繁に使われる場所だ。

 

「もしかして、例のあれか? まだ、決まらないようだな」

「ああ。何せ向こうは数だけは勝っているからね。こっちも敗北が許されないから必死に考えているんだよ」

 

 キラも会議が終わった後、色々と策を練ってみたが降下部隊を後方に降下させて、連合軍を挟み撃ちする以外の方法が思いつかなかったのだ。

 連合軍に数で劣っている以上、持久戦はこちらに不利になる。だから、何としてでもこちらが有利に展開できる場所に最低限誘い込み、一度の戦いで決着をつける必要があった。

 

「ジークも何かいい案があったら言ってね。僕が参謀本部に提案してみるから」

「わかった。だが、今は久し振りの逢引きを楽しむことにしようではないか」

「そうだね。気分転換でもすればいい案が思い浮かぶかもしれないしね」

 

 キラとジークリンデは久方ぶりの逢引きを楽しむのであった。

 

 

 

 一方久しぶりに再会した元ザラ隊は、二コルの提案で一緒に食事をして親睦を深めていた。

 

「アスラン。元気がないな? どうしたんだ? そんな辛気臭い表情をして?」

「イザークそう言ってやるな。アスランは婚約が破談になったんだ。少しは励ましの言葉を送ってやれよ」

「ディアッカも気を使ってください! すみません。アスラン。二人にも悪気はないんです」

「気にしないでくれ。元々ラクスとの婚約は政治的な意味合いが大きかったからな。その結果こうなったに過ぎない」

 

 冷やかすイザークとディアッカを二コルは窘める。アスランは二コルの気遣いに感謝しながら、彼を安心させる為に問題はないと言い切る。

 元々アスランとラクスの婚約は相性以外に、プラントの婚姻統制をプラント市民に受け入れやすくするプロパガンダでもあった。それ故にパトリックが失脚した後、彼の犯した失態が大きすぎたのでシーゲルはクライン派の意向を受けて、婚約を破棄することにしたのだ。

 

「アスランならすぐにいい出会いを見つけられますよ。僕が保障します」

「そうだな。アスランはやたらモテたしな」

 

 二コルはアスランを励まし、ディアッカは嫉妬が混じった言葉を口にするが、アスランのモテ時代を思い出したのか顔を俯せにして落ち込んでしまう。

 

「ディアッカはモテなかったからな」

「そうですね」

「そうだな」

「お前等な! 少しはフォローしてくれよな!」

 

 4人は士官学生時代を思いだしながら、和気藹々と会話を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 連合本部では一大決戦に向けて準備が進んでいた。

 主力を担うMSと戦闘機の準備に、それを輸送する為の艦船や輸送船の大西洋方面への回航、作戦の構築等を急ピッチに行っていた。

 

「MSの数はおよそ1000機揃えました。リニア・ガンタンクは500両、爆撃機・戦闘機も300機用意しました。それらを護送する艦隊の回航も順調です」

「消耗品の補給もほぼ完了しました。作戦構築も完了。後数週間もすれば準備は完了致します」

「そうですか。これだけの兵力を集めたんですから、是非勝ってもらわないと困ります」

 

 アズラエルは慌ただしく準備追われる連合将兵を見ながらそう呟く。

 

「講和するのはまったくもって遺憾ですが、現状ではやむを得ませんね。やはり、月基地を落とされたのがまずかった」

 

 プトレマイオス基地陥落は連合軍の戦略を根本から瓦解させてしまった。相次ぐ敗北に連合各国では反戦デモまで発生するようになり、中には反乱が起きそうな地域まで出てくる有様だった。一部の連合軍はザフトよりもそちらに警戒をしなければならない状況に陥っている。

 

「まあ、精々軍人達には頑張ってもらいますか。ここで敗北すれば彼等の発言力も低下してしまうでしょうし、それは彼等も望んではいませんからね。彼らの奮闘に期待するとしましょうか」

 

 アズラエルは戦後のことを色々と考えながら、自分の仕事をするべく自室に引き返すのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

今回は短めです。




 ザフト上層部に連合の艦隊が大西洋沿岸に集結しているとの情報が入り、参謀本部はすぐに作戦会議を招集した。

 

「どうやら連中ジブラルタルを攻めるようですね」

「キラ参謀長の予測が当たったようだ」

「これで敵が攻めてくる場所はわかった。後はこちらの対応しだいですね」

 

 会議に出席した面々は連合の侵攻が近いことを悟り、対策を練るべく話し合いを行う。

 

「キラ参謀長が色々と策を練ってきたらしい。まずは彼の話を聞きましょうか」

「僕に全て丸投げは勘弁してくださいよ。確かに考えがないわけではありませんが……」

「それはどんな物だ? 言ってみろ」

 

 参謀総長であるアウグストにそう言われた以上、答えないわけにはいかないのでキラは自分が考えてきた作戦を言う。

 

「確かに悪くないかもしれん」

「単純だが、連合のMSに高機動タイプは多くないから成功する可能性は低くはないだろう」

 

 キラの作戦を聞いて参謀の半分が賛成の意を示す。

 しかし、一部の参謀はある疑問を口にする。

 

「だが、その作戦を実行する場合味方は敵の攻勢をしばらく凌ぐ必要がある。下手をすれば総崩れに成りかねんぞ」

「確かにその恐れはあります。しかし、数に勝る連合軍が大攻勢に出れば小手先の戦術では効果がありません。それに今回の指揮官には指揮経験豊富なバルトフェルド隊長を充てます。彼が指揮をするのなら成功確率は高くなります」

「万が一失敗したときはどうする?」

 

 参謀の1人が失敗した場合の時の対応を尋ねる。

 キラは少し考えた後、口を開いて失敗した場合の時の策を説明する。 

 

「その時は例の兵器で連合軍を一掃します。そこを攻めれば逆転も可能です」

「キラ参謀長はあれを使うつもりなのか!? あれを使えば連合の怒りを買う恐れがあるのだぞ!」

「確かにその恐れはありますが、戦争に勝利できれば問題ありません。何より月基地を落とした時点で、向こうが講和に乗ってくるという考えが些か甘い予測でした。連中に対等な和平を結ぶ意思がない以上、向こうが音を上げるぐらいの被害を与えるしか方法はありません。我らは負ければ戦前よりも酷い扱いを受けるのですから」

 

 キラはこの決戦で敗北した場合と、この決戦に勝っても連合が和平を呑まない時は、例の兵器を使うことを心に決めていた。プラントの未来の為に、何より自分の未来の為にも負けるわけにはいかないのだ。

 

「キラ参謀長以上のいい作戦がないのなら、時間もあまりない以上、やむを得ないだろう。キラ参謀長の案を採用して、具体的な作戦案を練ることにする」

「決戦で勝利できるように全力を尽くします」

 

 参謀会議の結果、キラの案がザフトの作戦として採用されるのであった。

 

 

 

 

 ザフトは連合軍主力が動き出す前に行動を開始した。

 決戦を優位に進め、連合軍に挟撃されないようにする為にスエズ基地攻略を開始したのだ。流石にこの基地は連合軍の守りが固かったが、制宙権を制したことにより降下部隊を妨害されることもなく、効率よく送り出せるようになったザフトの敵ではなく、陸と宇宙からの波状攻撃と核動力MSの活躍により、士気が低下していた連合軍を撃破することに成功し、ザフトはスエズ基地を陥落させた。

 

 連合軍は大西洋を横断中にスエズ基地陥落の報を受けて、ザフトの挟撃が不可能になったことに慌てたが、今更作戦を中止することもできず正攻法でザフトを撃破する作戦に変更した。

 

「いよいよだな。また、地上に戻されるとは思ってなかったが、この戦に勝てば講和の道が開ける。そうなれば当分は趣味に没頭できるな」

 

 バルトフェルドはそう呟きながら、戦後の過ごし方について語りながら、決戦に向けて現地で準備を開始するのであった。

 

 

 

 

 プラントにあるクライン邸でシーゲルは娘のラクスと会話をしていた。

 

「お父様。やはり、アスランとの婚約は破談になったのですか?」

「ああ。パトリックも正式に受諾した」

 

 アスランとラクスの婚約は、婚姻統制が敷かれているプラントの政策を、他のコーディネイターに受け入れやすくするプロパガンダでもあった。しかし、パトリックが政治家として失脚した結果、この婚約はお流れとなり自然消滅してしまったのだ。シーゲルの周囲の者達もパトリックと繋がっていると思われる行動は控えた方がいいと騒ぎ立てているので、彼等を鎮める為にも婚約を破棄するしかなかったのだ。

 

「本当に済まないと思っている。だが、私は信じている支持者達の意見を無視できない。唯でさえ最近はヴァルハラに鞍替えする者が増えているからな」

「確かキラが作った政治結社でしたか?」

「ああ。カナーバやアウグストもメンバーに入っている組織だ。彼等の手腕が発揮されたおかげで、プラントは連合に対して有利な形勢を維持しているといっても過言ではない程だ。彼はザフトの失態の合間を縫って組織を拡大させていたようだ」

 

 シーゲルはキラ達のおかげでプラントの世論が、強硬路線に傾かないでいることを知っていた。彼等は自らの組織を使って、うまく大衆をコントロールしている。

 

「お父様は入らないのですか? 穏健派や中立派の人はほとんど入っていると噂を聞きましたが?」

「私は彼等の力が強大になり過ぎることを考慮して、表向きは入らないことにしているのだよ」

 

 シーゲルは会合に参加している穏健派が強硬派の様に増長しない様に、彼等のことを批判する人間が必要だと考えていた。そして、それは当分自分にしかできないと考えていた。

 自分の後継者と思っていたカナーバはそちらに入ってしまい、他の穏健派や中立派の一部も組織の一員になってしまった為だ。おまけに軍部はパトリックが失脚して完全に彼等が手綱を握ることになってしまった。

 

 それ故に誰かがストッパーになる必要があると思い、それをシーゲルは自分に課すことにしたのだ。

 

「しかし、最近は私を邪魔者と見ている輩も多いようだ。特にキラ君は私が以前要請したことに対して、未だに腹を立てている。私としてはそろそろ和解したいのだが、彼の私に対する印象は悪くなる一方のようだ」

 

 シーゲルは何とかキラと仲良くしたいと考えていた。何せヴァルハラ内での発言力はカナーバよりも断然キラが上なのだ。彼さえ説得できれば大半の人間が、ジャンク屋ギルドとの関係修復に舵を切ってくれるだろう。しかし、今のシーゲルはその段階で足踏みしている状態だった。

 

「お父様。いい手がありますわ」

「何だ?」

「プラントの婚姻統制の法は確か改案されるのでしたね?」

「ああ。プラントの人口を増やすことを第一とする方針にする予定らしいが、具体的な案は検討中だが中には一夫多妻制にすべきだという下らんものまで検討する連中もいるが……」

「そうですか……。それならば戦後になりますが、手を打てなくともないですわ」

「どういうことだ?」

 

 ラクスは自分の考えていることを、父であるシーゲルに告げる。

 

「私もそろそろ将来の道を決めたかったのです。彼の側ならそれが勉強できると思いますので」

「確かにその通りだが、私が警戒されている以上お前が参加するのは難しいぞ?」

「ええ。だから、私は今から勉強を始めます。彼等には己の力を証明できれば無下にしないと思うのです」

 

 ラクスはシーゲルに自分の意志は固いのだと目で訴える。それを見たシーゲルはやめる様に説得するのは無理だと判断した。

 

「わかった。私の方からカナーバに話しておこう。それと一応あのことも調べて置く」

「ありがとうございます。お父様」

 

 ラクスは自分のお願いを聞いてくれたシーゲルに感謝するのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

続編を期待する方が多いのですが、プロットが未だに書けない……。やっぱり、息抜きで書いた作品だから、続編のことを考慮してプロットを書かなかったからな……。


 ザフトがスエズ基地を陥落させたことで、連合軍は一時動揺したがスエズ周辺からザフトを駆逐するという言葉をかけて、士気を上げることに何とか成功し、予定通りザフトとの一大決戦を行うことになった。

 

 その軍勢の中にはムルタ・アズラエルの姿もあり、彼は連合軍の将兵に発破をかけていた。

 

「ここで勝利しなければ我々はザフトに敗北して和平をするしかありません。何としてでも勝利してください」

「わかっている。御自慢の新型の活躍に期待してもよろしいのですかな?」

「ええ。彼等を存分に使う予定ですので、御安心ください」

 

 アズラエルは連合軍の旗艦に乗っていた。理由は無論新型を扱うパイロットを制御する為だ。

 新型機のパイロットは色々と問題があるので部外者に探られない為に、誰も逆らうことができない自分が艦に居座る必要があった。

 

「今大戦の趨勢を決する戦いになります。連合将兵の奮闘を期待しますよ」

 

 

 

 

 連合軍ジブラルタル及び北アフリカ方面に接近の報がザフトにも入り、いよいよ決戦が始まった。

 

「いよいよだね。準備は万全?」

「ああ。今回の作戦がお前とジークの連携が鍵の一つでもある。精々派手に暴れてくれよ」

「わかりました。そして、時がくれば率いている部隊と共に後退ですね」

「ああ。敵もエースクラスをぶつけてくるだろうから、それはキラ、お前と遊撃役になるアスランで早めに潰してくれ」

「わかりました。全軍の指揮は頼みます。バルトフェルドさん」

 

 キラとジークはそう言って出撃していった。

 キラ達が飛び立って数分後。遂に連合軍とザフトの戦端が北アフリカで開かれた。

 

 

 

 序盤は数で勝る連合が優勢であった。

 破壊しても破壊しても現れるMSや戦闘機にザフト将兵は辟易するほどだった。

 

「本当に数だけは多いね。まるで蝗の大軍だ」

「そうですね」

 

 キラとジークはフリーダムとジャスティス専用装備タスラムを使い、次々と連合のMS部隊や戦闘機部隊を破壊していく。連合はこの2機相手にすでに100機近い損害を出しており、中央の連合軍の被害は左右の倍以上出ていた。

 

『キラ、ジーク。そろそろ中央は後退を開始する。殿は頼むぞ』

「了解」

 

 バルトフェルドの指示が一斉に中央ザフト部隊に伝わり、ザフト中央部隊は後退を開始していく。

 中央(被害が大きくなりそうだったので押し付けられた)の連合軍を指揮していた東アジア共和国出身の司令官は、これを好機と判断して追撃を命じた。

 

「これはチャンスだ! 戦後の取り分を増やす為に追撃せよ! ザフトに大損害を与えるのだ!」

 

 東アジア共和国はこの大戦でいいとこなしだったので、ここで戦果を上げないと連合内での発言力が低下しかねないと危惧していた。その為シナ出身の司令官はここが好機とばかりに攻勢に出て敵を粉砕することにしたのだ。そして、その命令を受けて一番先行している東アジア共和国の一部の将兵達は、我先にと手柄を求めて進軍を開始した。無論罠を疑った大西洋連邦とユーラシア連邦司令官は制止を促したが、目の前の軍功に目が眩んだ中央軍には届かなかった。

 

「攻撃が激しくなってきたな。しかし、予定通りだ。このまま敵軍を誘い込んでやれ」

 

 ザフト中央が後退する程連合軍の中央は突撃して深入りしていく。その間ザフト中央部隊は激しい攻撃に晒され被害が徐々に出てきたが、中央部隊は命令に従いよく耐える。

 

 そして、敵中央軍が左右ザフト部隊に完全に挟まれる陣形になった瞬間、反撃の狼煙が上がる。

 

「よし! 左右の部隊の一部は深入りしたバカな奴らの横と後ろから喰らいつけ! 中央も逃げるのはここまでだ! 遠慮なく暴れろ! それと降下部隊は降下開始だ! 連中の背後に周りこめ!」

 

 バルトフェルドの合図と共にザフトは一斉に攻勢に転じる。

 中央の連合軍は前後左右をザフト部隊に挟まれてしまい一気に窮地に陥った。更にザフトの降下部隊が連合軍の司令官がいる陣地に降下して、敵司令部を討ち取ることに成功し、連合軍は指揮官を失い一時指揮系統が麻痺してしまうのであった。

 

 

 

 ザフト部隊が反攻に転じる少し前。ザフト左翼を任されたイザーク率いるジュール隊は、連合に一歩も引かず戦線を維持していた。

 

「ディアッカ! 散弾を敵MS部隊にばら撒いて牽制しろ! 二コルはディアッカの護衛だ!」

 

 ジュール隊はイザークの指揮と彼自身の腕により獅子奮迅の活躍をしていた。

 

「敵さんまるでゴキブリの様に湧いてくるな。撃っても撃ってもきりがないね」

「ディアッカ! 無駄口叩いている暇があったらどんどん撃て! 敵は待ってくれんぞ!」

「わかってるって!」

 

 ディアッカは連合の戦闘機部隊にバスターからミサイルを放ち、敵機を撃墜する。

 

「ディアッカ! 次はあそこにいる敵MS部隊に砲撃を叩き込め!」

「了解! まったく人使いが荒いね」

 

 イザークの指示に従い、敵MSを砲撃で破壊したディアッカは愚痴を少し垂れながら、砲撃で穴の開いた場所に斬り込んでいくデュエルの後を追うのであった。

 

 

 

 

 反攻に転じたザフトは誘い込まれた敵中央部隊に猛烈な攻撃を行い、徐々に連合軍を押し始める。

 

「敵は罠に嵌まったな」

「策は成功ですね」

「ああ。後はこのしつこいMS2機を追い払わないといけないな」

 

 キラとジークが乗るフリーダムとジャスティスは、現在フォビドゥンとレイダー相手に激戦を繰り広げていた。最初はカラミティと共に3機で襲いかかってきたが、連携が取れておらず仲間も構わず撃つ性質を利用して、早々にカラミティをタスラムのビームサーベルで、真っ二つに切り裂いて撃墜することに成功した。

 

「じゃあ、止めを刺すとしようか」

 

 キラの中で何かが弾ける。

 タスラムをパージしたその直後フリーダムの動きがいつも以上に鋭さが増し、フォビドゥンの偏向ビーム砲を擦れ擦れで躱して、コクピットにビームサーベルを突き刺す。

 

「うわあぁぁぁ!」

 

 フォビドゥンのパイロット、シャニは断末魔を上げながら機体と共に爆散した。

 

「シャニ!?」

 

 クロトは同僚のシャニが撃墜されたことに驚くが、彼もすぐに後を追うことになった。タスラムをパージしたジャスティスが、近距離まで肉薄してきたのだ。レイダーはこれをプラズマ砲で迎え撃ったが、シールドに阻まれてしまい、ゼロ距離まで接近された瞬間コクピットに向かってジャスティスの、ビームサーベル二本を連結させたアンビデクストラス・ハルバードで串刺しにされる。敵機のコクピットを串刺しにしたジャスティスは、ビームサーベルを抜くと素早く後ろに下がり、レイダーが爆散するところを見届ける。

 

「敵エース機3機撃墜。ジーク。戦線に戻ろう」

「わかりました」

 

 キラとジークはガンダムタイプ3機を撃墜した後、中央戦線に戻り敵軍に容赦ない追撃を開始するのであった。

 

「これで敵中央軍は壊滅だ。この決戦、僕達の勝ちはほぼ決まりだろう」

「そうですね。左右のザフト部隊も連合軍相手に奮戦していますし、敵陣形が崩れた今絶好の好機です」

 

 キラはフリーダムのフルバーストモードを敵MS部隊に容赦なく撃ちこみ、ストライクダガーやロングダガー等を次々とスクラップに変えていく。ジークもジャスティスのビームライフルや、ファトゥム-00に備えられている火砲を一斉に掃射して、敵MS部隊を蹴散らしていった。

 

 そのフリーダムとジャスティスの猛攻に、中央軍は遂に戦線を放棄して逃走を開始したが、完全に包囲されているので脱出は容易ではなく、前後左右から容赦なく攻撃が降り注いだ。その為被害が続出して包囲網を脱出できたのは2割程度だった。

 中央軍が壊滅してしまい、中央のザフト部隊が左右の連合軍を包囲する構えを見せたので、連合軍は敗北を悟り、撤退を決意した。

 

 

 

 連合軍敗走の報は総司令官が鎮座する旗艦に即座に入った。

 

「敗北したですって!?」

「はい。アフリカ決戦は我が軍の敗北に終わりました。現在連合軍は退却を始めていますが、追撃によって次々とやられているらしく、どこまで生還できるかは不透明です」

 

 アズラエルは敗北の報を聞き一瞬呆然とした。そして、すぐに我に返ると将兵に何故敗北したのか、怒りの表情を浮かべながら尋ねた。

 

「中央軍が後退するザフト部隊に追撃を敢行しました。しかし、それが罠だったようで中央軍は前後左右から包囲されてしまい、包囲網を破って脱出したときはほぼ全滅しており、中央軍は退却を開始しました。その後、中央軍を追撃していたザフト部隊は左右の我が軍を半包囲するように動いたため、退路が断たれる前に退却を行うことにしたようです」

「中央軍の司令官は何をやっていたんだ!? ザフトの罠に簡単に引っ掛かるなんて!?」

 

 アズラエルは中央軍を指揮していた司令官を罵る。ある程度罵った後気持ちが落ち着いたのか、表情はいつもの調子に戻り、これからどうするかを検討し始める。

 

(ここで敗れた以上は和平しかもうないだろう。この戦いで連合軍は大打撃を受けた。政府は戦後の為にもこれ以上軍が被害を受けることは避けにくるだろうし……手詰まりか!?)

 

 アズラエルはコーディネイターを叩き潰す野望が、夢に終わったことに腹を立てて歯軋りする。

 

「司令官。退却をお願いします。こうなればどれだけ被害を少なくして退却できるかに立て直しに大きく影響しますので」

「道理ですな。全軍退却準備。敗走する自軍を収容しだいアメリカ大陸の基地に帰還する!」

 

 連合軍は退却を開始した。しかし、旗艦は無事に基地に帰ることは叶わなかった。

 

「敵機前方から接近! MSです!」

「何!?」

 

 アズラエルは思わず椅子を乗り出して前方を見る。メインカメラの映像に、天使を思わせる青い羽を持ったガンダムタイプのMSが映し出される。

 

「僕にも守りたいものがあるんだ! だから、君達を撃たせてもらう!」

 

 キラはコクピットでそう叫び、敵の対空防御を掻い潜って、バラエーナプラズマ収束ビーム砲を敵旗艦に撃ちこんだ。

 フリーダムのビームキャノンの直撃を受けた連合軍旗艦は受けた部分に穴が開き、そこから火が噴き出して内部から爆散し轟沈する。

 

 キラは敵旗艦を撃沈した後、すぐにこの場を離脱して味方の元に帰還するのであった。

 

 後にアフリカ決戦と名付けられるこの戦いは、ザフトの巧みな戦術と連合軍の采配ミスにより、ザフト側が勝利を収めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

続編は希望する人もいるので書きたいのですが、この様子だと難しい……。いっそのこと第二次スパロボZの世界にでも飛ばす等別世界へ転移させるような荒業をしなければ続編は難しいな……。


 アフリカでの決戦で連合軍が敗北し、ザフトが勝利を治めたとの報は中立のジャーナリスト等を通じて各国を駆け巡った。

 連合各国では慌てて報道管制が敷かれたがこれだけの敗北はさすがに隠しきれず、各地で厭戦気分が一気に高まり、反戦デモと講和を求める声が朝野に満ち始めるのであった。

 

「アズラエルは戦死か」

「はい。旗艦が敵機に沈められてしまい一緒に海に沈んだかと」

「我が軍も大敗。これ以上の戦争継続は無理だな」

「ああ。さっそく停戦を行い和平交渉を行うとしよう」

 

 連合上層部は決戦で敗北した結果、世論が無様に敗北した政府を責めており、大半の民衆が和平を求めていることもあって、プラントとの和平交渉に入ることを決定した。

 

「どの様な講和条約になると思う?」

「最低でもプラントの独立と不平等な貿易体制の是正、カーペンタリア、ジブラルタルを含むザフトが占領している地域は割譲する必要があるでしょう。それと多額の賠償金も払わなければいけないかもしれません」

「つまり、ザフト側が現在占領している地域は全て譲る必要があると?」

「こちらとしては賠償金とスエズに関しては何とかしたいな。さすがに全地域を譲る渡す等無理だ。何とか対等な講和に持っていきたい」

「だが、こっちは連戦連敗状態だ。ザフトがこちらの要求を簡単に飲むか?」

「それはこれからの交渉と講和の内容しだいになると思います。取り敢えずプラントが持参してくる和平案がどの様な物が見なければなりません」

 

 戦争継続派の筆頭だったアズラエルが消えたことにより、連合政府上層部は一気に講和に傾き、停戦を行うと同時に、プラントとの交渉に入るのであった。

 

 

 

 

 プラント側では今回の勝利を機会に一気に和平に持っていくべく、連合から打診があった停戦に合意して、和平案の作成と講和条約締結に向けた交渉に取り掛かった。

 

 講和内容を審議すべくキラは戦後処理をそこそこ行った後、残りをジークリンデに任せて急いでプラントへ舞い戻るのであった。

 

「それで講和内容を話し合う会議はどのようになりましたか?」

「今回の戦いに勝ったことで強硬な意見が出ていた議論にならないときもある。「ここで一気にナチュラルを殲滅するべきだ!」とか言ったり、「今こそ攻め時だ!」と強硬論を唱える者が多い」

「そんな輩は無視しておけばいいのです。それより講和内容は完成したのですか?」

「ああ。プラントの独立承認、不公平な貿易体制の改善、カーペンタリア、ジブラルタル等の現占領地域の割譲に宇宙に軍事基地建設禁止、ユニウスセブンに核を撃ったことの謝罪に加えて多額の賠償金を叫ぶ者もいる」

 

 カナーバは一旦色んな議員等の意見を聞き、それを元に作成した講和案を纏めた物を会合に提示した。

 キラはそれを一通り読んで発言する。

 

「多額の賠償金は難しいかと思います。連合は確かに今回負けましたが兵力はまだありますし、連合の中心である大西洋連邦は無傷です。その気になれば局地戦争に負けただけだと彼らは言い張れますから」

「確かにそうだな。私も賠償金は難しいと考えている。賠償金と一部の地域は返却せねばならんだろう」

「あんまり欲張るのはよくないですからね。第一次世界大戦の失敗した戦後処理みたいになって無駄な恨みを連合各国から買いますので、匙加減は必要かと思います」

 

 キラは多少は譲歩すべきだと言い、カナーバやアウグストもその意見に頷く。ここで戦後処理を失敗すれば、次の大戦の引き金になることは歴史が証明している。

 

 だが、出席者の1人がある心配事を口にする。

 

「あまり譲歩すると強硬派や過激派がうるさくなるかもしれないぞ? いや最悪の場合脱走してテロリストになりかねないのでは?」

 

 その意見にこの場にいる全員が心配していたことだ。参謀本部は過激派や強硬派の兵を牢屋にぶち込んだりして綱紀粛正を図っていたが、それでも表面に出ていない潜在的な過激派や強硬派は存在する。その者達が講和内容に不満を持って、能力の高いコーディネイターの脱走兵にでもなったら非常に厄介なことになる。

 

「その様な思想を持つ者は分かる限り情報局に監視させています。何か不穏な行動を取った場合即座に確保するように命じています」

「兵器も勝手に持ち出せないように細工してあります。万が一脱走した場合でも対処できます」

 

 情報局局長とキラの言葉にカナーバは一応安堵した。脱走してテロリストになってしまったら、連合に無駄に攻撃材料を与えかねないからだ。

 

「わかった。講和は何としてでも成立させる。連合も今回は乗り気のようだし、このチャンスを逃す手はないからな」

「もう少し細かい修正を行いましょう。特に戦後のエネルギー問題をどうするかです。講和を結ぶ以上各国の復興という名目で、Nジャマーキャンセラーの提供も議論されるでしょうし、実際連合はそれを求めてくるでしょう」

「あれを渡すわけにはいかんだろう。民間用と嘘をついて軍事利用されるのが見えているしな」

「だが、連合もNジャマーキャンセラーの研究は続けているだろう。実用化されるのも時間の問題なのでは?」

「民間用に提供するのなら最低でも、宇宙に連合各国が軍事基地等の施設を造ることを禁止させなければならん。それをしなければプラントはまた危機に陥るだろうからな」

「そうですね……。それでしたらNジャマーキャンセラーを提供する場合は、パテント料の支払いと宇宙における施設等の建造禁止と引き換えに妥協するのはどうですか?」

 

 Nジャマーキャンセラーの扱いに悩む面々に、キラは譲歩案を皆の前で提示する。

 その案に一部の者は驚いた。キラなら安全保障上の切り札になるNジャマーキャンセラー提供に、断固反対すると思っていたからだ。

 

「みなさんが考えて要ることはわかります。しかし、和平を結ぶ過程で地球の復興は今後必須です。地球各国の反プラント感情を少しでも和らげないといけません」

「確かに今後プラントが生産する商品を売り込むには必要なことだな。しかし、Nジャマーキャンセラーの提供は、いくら軍事利用禁止するという条項を盛り込んでも危険過ぎるのではないですか?」

「連合がいずれ自力で開発すれば意味を成しません。幸い核融合炉開発は順調ですし、宇宙の拠点建造を禁止すれば直接攻撃のリスクは減ります。だから、ここは思い切ってこの札を使い、連中から金を取って戦後の資金に充てる方が賢明です」

 

 キラは連合がいずれNジャマーキャンセラーを製造する可能性があることと、地球に存在する各国のプラント感情の改善、戦後の復興資金の確保等を行った方がいいと意見した。

 

「確かに今回の戦争は賠償金が取れる戦争ではない。だが、復興のための元手は必要だ。我らもかなりの被害が出たからな。しかし、それでもNジャマーキャンセラーに関してはリスクが大きいような気がします」

「ふむ。それなら、Nジャマーキャンセラーに関しては、あくまで向こうが議題に上げてきたら検討することにしましょう。なるべく渡さないことに越したことはありませんからね。僕が言った案はあくまで連合がNジャマーキャンセラーを要求してきて、講和の為に渡さざるを得ない状況になった時の妥協案にしましょう」

「それが一番無難だな。その妥協案を使わざるを得ないことになったら、また、会合を開いて対策を練るしかないな」

 

 一番の扱いに困るNジャマーキャンセラーについては、万が一渡さなければいけなくなった時、キラが言った妥協案を採用することに決定した。

 

 次の議題に入ろうとしたその時、会合メンバーの一人で情報局に所属する人物が遅れて入ってきて、自分の上官である情報局局長に耳打ちして、それを聞いた局長は顔を顰める。

 

「何かあったのですか?」

 

 メンバーの1人の問いかけに局長は表情を戻して答える。

 

「南アメリカで独立戦争が勃発しました。その中心的人物は連合の脱走兵で切り裂きエドの異名を持つエドワード・ハレルソンという名の人物です」

 

 連合とプラントの停戦はなったが、地球では新たな戦争が勃発するのであった。

 

 

 

 会合は新たな情報が入りしだいまた開くことになり、一旦解散となったのでキラは自宅に帰還していた。

 シャワーを浴びた後、仮眠でも取ろうかと思ったその時秘匿回線で連絡が入った。

 

『お疲れの所すみません。キラ会長』

「どうした? 何かあったのか?」

『はっ。わが社の工作艦が木星から帰還しました』

 

 キラはその報告を聞き、喜びの表情を浮かべる。

 

「帰還したということはあれを持ってきたということ?」

『はい。小型化した物や予備も含めて無事に完成したとのことです』

「そうか。では、そのままそれを例の場所へ運びこめ。あれの完成に取り掛かるぞ」

『わかりました。機密保持の為に技術者や科学者たちには記憶消去の処置を施します』

「念入りに行ってね」

 

 キラはそう言って連絡を切ると、仮眠を取るべくベッドに潜るのであった。




最後のキラの自室のやり取りは、もし続編を書くことになったら、たぶん必要な描写なので書きましたので、続編が始まらなければあまり意味を成さないので、あまり気にする必要はありません。あくまで続編を書いた時の保険として必要だと思い書いた物です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

次話で一応本編は完結します。もしかしたら戦後編を少しですが、番外編で載せるかもしれません。最も話数は少ないかと思います。


 南アメリカ合衆国。

 連合の構成国家の1つであるが、プラント独立戦争が勃発すると親プラント国家として中立を宣言したが、パナマのマスドライバーを使えなくなることを恐れた大西洋連邦を中心とした連合軍により攻撃を受け、パナマ軍港を占領されてしまい、そのまま地球連合に併合された連邦国家である。

 

 地球連合とプラントの間に停戦が成されると、強引に併合したツケが浮上し、主権回復を目指すべく独立戦争が勃発することになった。

 

 この独立戦争の詳しい情報が入ってきたので、この戦争に対してプラントはどうするべきか話し合うべく、会合メンバーはビルの一室に集まるのであった。

 

「連合はこれに対してどんな対応を取るつもりだ?」

「連合は断固として認めないつもりです。連合は軍勢を派遣して南アメリカ合衆国を蹂躙するようです。何せここで連合の足並みが乱れれば、和平交渉中の我らに足元を見られます」

 

 情報局局長が詳細な情報を言い、自分の見解を述べる。

 

「連合は交渉は引き続き続行すると言っていますから、和平交渉は停滞しないでしょう」

「南アメリカ合衆国は支援を求めてきています。特に軍事物資と義勇軍の派遣を要請してきています」

「まさか、南アメリカの連中は我らに物資をたかる気か? 何の連絡もなしに勝手に始めておいて、何とも図々しい連中だな」

 

 南アメリカ合衆国の計画性の無さに会合に出席したメンバーは呆れる。客観的に見ても南アメリカ合衆国が大西洋連邦に勝てる可能性はほとんどない。それに和平交渉を始めたばかりのプラントが、南アメリカ各国に支援を行えば、連合が文句を言ってくるのは間違いないので下手な支援はできないのだ。

 

「我らはどう対応する? 親プラント国家が独立するのは好ましいが、そう簡単に手を出せる件ではないぞ?」

「そうだな。我らの優先するべきことは講和条約の締結だ。こちらも決戦でそれなりの痛手を受けましたし、支援は正直難しい」

 

 アウグストは現在のザフトの現状を述べ、独立戦争に介入することは難しいと言った。その意見にキラも頷く。

 

「寧ろこのまま大西洋連邦の裏庭を不安定にしてもらった方がこちらの利益になります。精々彼等には奮闘してもらいましょう。無論非難されない程度に密かに支援する必要はありますけど」

 

 キラは反大西洋連邦機運が南アメリカ合衆国で持続する方が、プラントの国益になると考えていた。最も親プラント国家でもある南アメリカ合衆国を見捨てるのは体面上まずいので、最低限の支援を行う必要はあると意見する。

 

「それしかないか……今は連合との間に余計な揉め事はなるべく避けたいからな」

「我らはこの件についてしばらく静観するということでよろしいでしょうか?」

 

 キラの言葉に出席者全員が頷く。プラントは独立戦争に深く介入しないことが会合の決定となった。

 

 

 

 

 

 

 プラントがこの独立戦争に不干渉の態勢を決め込み始めた為、南アメリカ合衆国は当てが外れてしまい大いに動揺した。南アメリカの各国政府の要人は、何とかプラントからの支援を得るべくプラントの外交官と連日話し合いを行っていたが、未だに色よい返事を貰えずにいた。

 

 無論南アメリカ合衆国は独立後の市場の開放、ザフト駐屯軍の維持費の一部を負担するなどの好条件を提示するなど色々手を打ったがプラントの反応は芳しくなかった。

 

「このままではザフトの支援なしで戦えばいずれ敗北する。今は南米の英雄が士気を高めているが、連合軍が本格的な攻勢に出たら我らは蹂躙されるだろう」

「もし敗北すれば前よりも苛烈な条件を押し付けられるだろう。そうなれば南アメリカ諸国は主権国家として終わりを迎える可能性が高い」

 

 今一度敗北すればどんな未来が待っているかわかったものではない。ここにいる南アメリカの政治を担う者達はみなそう思った。

 

「戦況は今の所南米の英雄のおかげで戦線を維持できている。彼が派手に立ち回っているおかげで、連合の狙いは彼がいる場所になっている」

「だが、英雄といえど連合が本格的に態勢を整えて進軍してくれば対応できないだろう。所詮は個の武勇で戦争は勝ち抜けん」

「そうだな。取り敢えずザフトには軍を派遣してもらえるように交渉を続けよう。プラントも我らが連合に本格的に併合させることは望むまい」

 

 南アメリカ合衆国は独立を勝ち取るべく何とかザフトからの支援を得る為に、様々なアプローチを開始するのであった。

 

 

 

 

 

 キラは退院したマユが寝泊りするために、特別に社員寮の一室を用意したが、部下から「いくら女子寮とはいえ9歳の子供を1人で住まわすのはどうかと……」という苦言を受けたので、結局キラが彼女の保護者になり、自分が住んでいるマンションの別の部屋を用意することにした。

 

「何かあったらこの番号にかけてね。最も仕事中には出れないことも多いけど。それとお世話の人を雇っておいたから、生活で不便することはないよ」

「はい。何から何までありがとうございます。キラさん」

「気にしないで。それよりもこれからどうするか決めた? もし、学校にそのまま通いたいなら学費も払うけど?」

「そ、そんな! そこまでしてもらうわけにはいきません!」

 

 マユは生活費に加えて学費まで出してもらうのは、さすがに厚かましいと思ったのかキラの好意を遠慮する。

 

「でも、普通に小学校に通っていたマユちゃんが成人認定されても、働くのは無理があると思うよ?」

「……それだったらお願いがあるのですが……言ってもいいでしょうか?」

「言ってみて。笑ったりしないから」

 

 キラはマユに対して微笑みを浮かべる。

 マユは真剣な表情でキラに言った。

 

「成人までに必要な知識を身につけたいんです。だから、専門の家庭教師を付けてくれませんか?」

「いいけど、その後どうするの?」

「士官学校にいきます。そこで軍人になります!」

「! 理由を聞いてもいい?」

 

 キラも真剣な表情を浮かべてマユに軍人になりたい理由を尋ねる。

 

「私はキラさんのご支援をもらえるので他の方より運がいいです。でも、いつまでもその御厚意に甘ているわけにはいきません。何より……」

「何より?」

「私ジークリンデさんみたいなかっこいい女性になりたいんです!」

 

 マユのその言葉にキラはジークリンデがやたらマユと話し込んでいたことを思い出した。どうやらその時にマユはジークリンデに感化されてしまったらしい。

 

(でも、士官学校ならただで教育を受けることができるし、将来も戦場で命を落とさない限り安泰だ。何より彼女の希望を無下にはできない)

 

 キラはマユの願いを聞き入れることにした。

 

「わかった。家庭教師は手配しておくよ。それと士官学校の方も手続きを整えておくようジークリンデに言っておく。卒業したら精々部下として頑張ってもらうよ」

「ありがとうございます! 私頑張ります!」

 

 キラは笑顔でマユの要望を聞き入れ、マユは自分の願いが受け入れられて笑顔を浮かべて喜ぶのであった。

 

 

 

 

 連合上層部ではプラントから提示された講和条約の内容について協議していた。

 

「何だ! この内容は! 到底受け入れられる物ではない!」

「だが、戦況はこちらに不利だし、実質この戦争に負けたようなものだ。こちらの膨大な戦力をちらつかせて譲歩を引き出してプラントと交渉すればいい」

 

 こんな内容は呑めないと政府高官の1人が激昂するが、近くにいた人物がそれを理詰めで宥める。

 

「それに戦後復興のためのエネルギー問題を解消する手段が手に入るのだ。悪い案ではあるまい」

「領土に関してはユーラシア連邦と東アジアが多少損をするでしょうが、スエズ返却が成されるのであれば悪い取引きではあるまい」

 

 下手をすれば現在占領している地域全部寄こせと言われても、連合は反論が難しい立場なのだ。

 

「それよりも、宇宙施設建造禁止の方が困るな。しかし、これを受け入れないと連中はNジャマーキャンセラーの提供を行わないだろう」

「オーブを独立国家に戻すのは問題ない。元々マスドライバー目当てに侵攻したのだからな。それがない彼の国の占領は負担になっている。さっさと手放した方がいいだろう」

 

 政府高官達は譲歩する所と妥協しない所を決めながら、講和条約締結に向けて交渉を進めるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

本編の話は一応完結ですが、戦後の話を番外編として投稿するつもりでいます。
また、一応続編を検討していますが、本来この作品は息抜きに書いた作品なので、種運命に続くようにプロットを作ってないので、種運命として続編が書かれることはありません。
また、詳しいことは一応活動報告に書いていますが、今の所活動報告でスパロボZでif続編を読みたいという要望が多いので、そちらも検討しています。それ以外に意見のある方は御意見を送ってくださって構いませんが、作者が知らない作品は採用されることはありませんので、ご了承ください。そして、その続編を書いた場合、正式な続編という扱いにするかは読んでくださる方の反応しだいにするつもりです。


 南アメリカ独立戦争は参謀本部の予測通り、南アメリカ合衆国が大西洋連邦に敗北してしまい、現政権は降伏した。その結果、南米ではザフトの勢力範囲以外の占領地で連合軍が駐屯し、反連合勢力を狩りだしを現在進行形で行っている。

 南米の政府の要人は軍事裁判で、敵国に利する動きをしたとして処刑台の露と消えることになった。そして、独立戦争の中心的人物だった南米の英雄エドワード・ハレルソンは、愛機ソードカラミティと共に地方へ潜伏して、ゲリラ活動を行っており連合軍を未だに苦しめているという情報がプラントに入ったが、プラントは連合との和平交渉に忙しい為あまり気にしなかった。

 

 そんな南米情勢が不安定の中でユニウスセブンに置いて講和条約が結ばれることになった。プラント理事国とプラントの約一年間の戦いに終止符が打たれた。

 

 ユニウス条約と呼ばれるようになるこの講和条約の内容以下の通りである。

 

 1,プラントの独立を認める。

 2,不平等な貿易体制を撤廃する。

 3,カーペンタリア、ジブラルタル、カオシュン、南洋諸島の島々、マムハール基地、ディオキア基地等をプラントに割譲する。

 4,賠償金は互いに請求しない。

 5,連合各国は宇宙に軍事基地等の施設建造を禁止する。

 6,軍事力制限を行う。MS・MAの数は双方の話し合いで決める。

 7,オーブ連合首長国の独立を回復して、オーブ臨時政府の帰還を許可する。オーブ臨時政府はその代償に保護したり、プラントに受け入れた流民や難民の返還をプラントに求めないこととする。

 8,プラントは連合各国に電力等インフラ整備等に必要な物を適正価格で提供する

 9,NジャマーキャンセラーのMSや兵器等への搭載を禁止。ミラージュ・コロイドの軍事利用禁止。ただし、戦時中に開発・生産された物は除外する。

 10,双方条約の遵守。また、中立機関による査察を受け入れる。

 

 最後の決戦で負けた連合が大幅な譲歩を行い、条約締結は核が撃ちこまれた悲劇の地、ユニウスセブンで行われることになった。

 これにより連合各国は民衆の不満を宥めることに、戦後しばらく終始することになり、いくつかの国では現政権が総辞職するなど混乱が起きることになった。

 それに対してプラント側はかなり有利な条約を結べたことで、カナーバの名声が高まり引き続き議長職を続けることになった。それに加えてオーブからの流れてきたコーディネイターの流民や難民を、主権回復と引き換えにそっくり貰い受けることに成功した。

 

「条約を遵守しつつ新たな戦力の再編、新型MS等の新兵器開発や新たなドクトリンの作成を急ぎましょう」

 

 キラは会合に集まった出席者達の前でそう言い、新たな戦力再編プランを発表する。

 

「すでに新たな核動力に変わる動力源は開発済みです。量産機もザクウォーリアとグフを随時開発中です。1年後には量産態勢も整えられるかと思います。最も条約の批准で新規製造している核動力型搭載機は解体するしかありませんが……」

「条約を批准した以上は止むを得まい。連合軍も表だって使用できんのだ。まあ、連合がどこまで守るか不明だがな」

「その通りだ。連中が素直に遵守するとは思えん。寧ろ裏で私兵部隊を作って条約をすり抜ける可能性も高い」

 

 出席者達はこの条約を素直に連合が守るとは思っていなかった。連合の身勝手さはこの大戦で充分に身に染みたからだ。

 

「そうですね。お互いが守るとは思っていないでしょう。こちらも密かに研究だけは続けるつもりです。無論条約に触れない様に表向きは民間用と偽って行いますが」

「やむを得ないか……。技術研究を怠ることは将来の敗北につながるからな……」

 

 キラもこの条約を素直に守る気などさらさらない。何せ相手が守る気がないのだ。こっちがバカ正直に遵守してしまえば、それは将来同胞の血を大量に流させる事態になる。

 

「次の戦いまでのどれだけ牙を砥げるかがプラントの課題だ。そちらは頼んだぞ。アウグスト参謀総長、キラ参謀長」

「わかりました。全力を尽くします」

「僕も技術研究所の連中に発破をかけてきますので、予算の方はお願いしますよ」

 

 カナーバの言葉にアウグストとキラが頷き、キラはカナーバに必要な予算を出すように頼み、カナーバはそれに頷く。

 

 会合は次の戦に備えることと、これからも何かあれば会合での話し合いを行うことが方針に決定するのであった。

 

 

 会合での話し合いが終わり、カナーバとアウグスト、キラの3人だけが残り話し合いを続ける。

 

「参謀本部としては次の開戦は何年後になると思う?」

「現在互いに消耗した国力回復を優先すると思いますので、新型兵器の開発期間と配備の時間等を考えると、大規模な戦争となれば早くて2年、遅くて10年以内と考えています」

「2年か……。短いな。やはり、連合側の内政事情のせいか?」

「はい。今回の条約により連合各国はかなりの痛手を負いました。恐らく地上では戦前に強引に併合した地域の独立運動が盛んになるでしょう。そして、世情が不安定になりそれを解消する為に外に敵を求めます」

 

 外敵を作って内部に結束を促す。古来から為政者が追い詰められたら使う常とう手段。連合各国は必ずプラントに戦争を仕掛けてくるとキラは考えていた。

 

「楽観的に物事を判断するのはよくありません。だから、早期再戦に備える必要があります。そこで、L4にあるグラム社が所有するコロニーの数を増やすつもりです。特に軍港等の施設を今急ピッチで建設しています」

「軍の方も正式にザフトを国防軍に変えます。国防軍の名称はザフト軍かプラント軍を検討しています」

「わかった。議会の方に根回しは私がしておこう。それと自前のマスドライバー建設について大洋州連合と正式な協議を行うつもりだ。プラントを守る為にできることはやっておくべきだからな」

 

 3人は色々とこれからのプラントのことを話し合う。

 

「それと月面に都市機能を兼ねた基地を建設することや、地球-月-プラント間ルートの安全確保の為にもボアズ以外にも中継施設を建造する必要があります。連合軍にもMSが配備された以上、これからはMAメビウス等は民間に売り出される可能性が高いので、それを使って海賊行為をする連中が増えるでしょうから」

「特別艦隊を編成して航路の安全を確保するしかないな。それと政府で注意喚起の方もお願いします」

「わかった。そちらも手を回しておこう。……話は変わるが評議会も戦時体制を解除発表した以上、動員令も解除される。軍の方で脱走兵が出そうな雰囲気を確認しているか?」

 

 カナーバの質問にアウグストは難しい表情して答える。

 

「今の所、何とも言えません。ただ、今回の講和に不満を持つ者は存在します。だから、わかっている者には監視を付けていますが、全てを把握しているわけではないので少数は出ると覚悟しておいた方がいいかと」

「やはりそうか……」

 

 カナーバはアウグストの見解を聞いて顔を顰めた。彼女自身はある程度覚悟はしていたが、実際にそういう輩がいることに肩を落とさずにはいられなかったのだ。

 

「脱走が避けられないのなら、彼等の中にこちらの手の者を潜ませ情報を流させましょう。そして、いざ彼らが不味い行動を取る事態になったら、宇宙で我らが拿捕するか撃滅すれば問題ありません。彼らが連合圏内で行動を起こしそうになったら連合に情報を流して彼等に殲滅してもらいましょう」

「それしかないか……」

 

 キラが対策案を提示し、アウグストは顔を顰めながらもその策に賛成の意を示す。

 

「テロリストになる連中は精々利用して、都合が悪くなったら排除すればいいのです。彼等に情けを懸ける必要はありませんよ」

「そうだな。その様な連中は断固として排除するしかないだろう」

 

 カナーバとアウグストは肘を机の上に立てながら、キラの意見に頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

「戦争は終わった。でも、平和を維持し続けるにはある程度の軍事力は必須だ。これからも気は抜けないな」

「そうだな。だが、久しぶりに取れた休みなのだぞ。もっと恋人に構え」

 

 ジークリンデがプライベートの時間なのに、仕事の話を持ち出したキラに対して頬を膨らまして文句を言う。

 

「ごめん、ジーク。でも、僕達まだ恋人だからね? 僕の婚約は今揉めている最中だから」

 

 プラントで兵器会社を経営して莫大な資産を持ち、ザフト軍(独立の後正式に国防軍になったため改名した)MSパイロット最強のエースであり、若くして参謀長にまで出世したキラには、山ほどの縁談話が持ち込まれていた。最もプラントは婚姻統制を強いているので、相性がよくなければ婚約は成立しないので態々遺伝子検査の結果まで送ってくる者もいた。

 

「私は今日付けでお前の婚約者になった。それではさっそく結婚式の日時を決めようではないか」

「僕達は色々と忙しくなるから難しいんじゃないかな?」

「何を言うか! 早く上げないとお前を狙っている者共が大人しくならないだろう。まあ、愛人でもいいから関係を迫る輩は出てくるだろうからな」

「ははは……」

 

 キラはジークリンデにジト目で見られ何も言い返せず、乾いた笑い声を上げるしかなかっった。

 

「何せ、あのラクスからも見合いがしたいという要請があったくらいだ。他の女なら愛人としてまだ許せるが、あいつはだめだ」

 

 ジークリンデはラクスに対して女性としての魅力に劣っていると考えていない。寧ろ自分の方が男受けするスタイルをしていると思ってる。だが、ラクスは歌手としての美声と清楚系らしい魅力があり、自分からキラを奪うとしたら彼女であると考えていた。それ故に彼女だけは近づけさせるわけにはいかないと心の底で決意を固めている。

 

「あいつのことはともかく、お前の立場上言い寄ってくる女は後を絶たないだろうからな。精々騙されないように気をつけるのだぞ」

「そこまでまぬけじゃないよ。それよりも、これから何をするの?」

「取り敢えず二人で一緒にいる。その後ことはこれから考えるとしよう」

「わかったよ。取り敢えず何か飲み物を持ってくるよ」

 

 キラとジークリンデの2人は平和な世になった休日を2人で楽しく過ごすのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定

設定が見たいとの御意見があったので載せてみました。作者の力量ではこれが限界です……。



原作キャラ設定

 

・キラ・ヤマト

 

 年齢:16歳

 性別:男

 人種:スーパーコーディネイター(第一世代)

 身長:170cm

 体重:59kg

 趣味:プログラミング、電子工作、機械工作、新技術開発、金儲け

 

 本作の主人公で元日本人が転生・憑依した。原作通りに行動することを嫌い、10歳の時に両親を無理やり説得して、単独プラントに移住する。原作知識を利用して株で大儲けしてグラム社を起業して、将来起こる独立戦争に向けて密かにMS開発を進め、養父母のヤマト夫妻をプラントに移住させる。そして、原作通りに独立戦争が勃発したことにより、プラントNo.1の大財閥のトップになる。それと並行してプラントをいい方向且つ効率的に運営する為、独自の政治結社『ヴァルハラ』をカナーバ、アウグストと共に結成し、その会長に就任する。

 また、士官学校に入学、首席で卒業を果たしザフトに入隊。実戦を経験して最強のエースとして名を上げ、クルーゼが地球連合と繋がっている証拠を上げて彼を弾劾することに成功。その功績で新設された参謀本部の後方参謀に昇格した。その後も原作知識を利用して出世していき、終戦間際には作戦部の参謀長になり、参謀次長の席もいずれ最年少で就任するのではないかと軍内部では言われている。

 ラクスとは一応知り合いだが、原作のようになることを恐れたので、自分からアプローチは一切しなかったが、戦後本人が勝手に接近してきたので、戸惑っている。

 戦後は戦力の再編と新型兵器の開発に忙しく駆け回っており、ジークリンデとの過ごす時間が増えていないことに、ジークリンデが機嫌を損ねていないか密かに心配している。

 

・アスラン・ザラ

 

 戦争末期にはジャスティスのパイロットになる。原作と同じくラクスとの婚約は破談になっており、彼を狙っている女性からはチャンスだと思われている。キラとは親友同士であり、二人の連携はザフト軍でも有名である。

 

・イザーク・ジュール

 

 原作通りだが、ジュール隊に配属されることになったシホの乗機であるストライクを見て、彼自身は複雑な感情を抱いている。ただし、シホに関しては先輩らしく接しており彼女に尊敬されている。

 

・ディアッカ・エルスマン

 

 ジュール隊所属。現在彼女募集中。

 

・二コル・アルマフィ

 

 原作と違い戦死していない。戦後は退役し、ピアニストとして活動を再開している。

 

・アイリン・カナーバ

 

 キラの同志であり、ヴァルハラの結成メンバーの1人。キラの熱心な説得と説明により、彼と行動した方がプラントの為になると思い、ヴァルハラのメンバーになる。ヴァルハラの最高意思決定の会合に参加できる人物の1人。現在はプラント最高評議会議長。

 

・シーゲル・クライン

 

 原作と違いフリーダム強奪事件が起きていない為暗殺されていない。最近同じ穏健派であるカナーバやキラとの距離が出ていることに悩んでいる。その為、会合に参加できるようにヴァルハラ入るべくカナーバを通して頼んでいるが、キラは彼がマルキオ道師やジャンク屋に近い人物であることを理由に難色を示しており、未だに参加できていない。キラの頭痛の種である人物。

 

・ラクス・クライン

 

 原作と違い現在もプラント歌手活動を続けている。キラとはアスランを通じて知り合った仲である。最近は歌手よりも父の跡を継いで政治家になることを目指している。その為、ヴァルハラに入ることを希望しているが、原作を知るキラが入れていいものかと判断に迷っており保留にしている。

 

・シホ・ハーネンフース

 

 MSのテストパイロットでエリートの赤服。鹵獲したストライクのパイロットをしており、戦後はジュール隊に配属された。ザフトのエースであるキラを尊敬している。

 

・マリュー・ラミアス

 

 この作品ではアラスカ脱出後捕虜となり、戦後はグラム社に技術者として就職している。ムウと結婚しており、夫婦仲は非常にいい。

 

・ムウ・ラ・フラガ

 

 マリューと同じく戦後はグラム社に就職してMSの試験運用をするパイロットをしている。農作業を行っていたせいで一時は肩コリが酷かったのは余談である。マリューと結婚しており、夫婦仲は非常にいい。

 

 

 

 

 

オリキャラ設定

 

・ジークリンデ・フォン・ブランデンブルク

 

 年齢:16歳

 性別:女

 人種:第二世代コーディネイター

 身長:175cm

 体重:50kg

 趣味:料理、フェンシング

 

 キラの士官学校の同期で恋人。女性でありながらこの年ではあり得ない程身長が高く、スタイルは一流モデルが羨む程である。また、胸のサイズはキラ曰く「あの年であのサイズはあり得ない」と言われるほど巨乳。顔も大変整っており男なら10人中10人は振り向く程である。また、ドイツの名門貴族の血を引く家系の生まれ高貴な血を引く者特有のオーラがある。

 キラのことが好きであり、その好意を隠そうとしないが、父が昔気質な者特有の趣味を持っていたことから、自分が一番であれば愛人がいても受け入れる度量を持つ。ただし、戦後ラクスが急接近してきたことに関しては警戒心を抱いている。

 キラとの身長差はあるがキラ本人が原作よりも身長があるので、大きな差にはなっていない。最近の不満はキラが仕事に忙しくて二人きりの時間が取れないことである。

 

 

・アウグスト・フォン・ブランデンブルク

 

 年齢:40歳

 性別:男

 人種:第一世代コーディネイター

 身長:185cm

 体重:73kg

 趣味:読書、狩り

 

 新設されたザフト参謀本部の参謀総長兼国防委員長。パトリックが失脚したことにより現在の地位に就く。妻はユニウスセブンで死亡したが、パトリックと違い戦争をしているのだから、こういうこともあると割り切っている部分もある。

 子供は二人いるがそれは前妻の子であり、前妻は子供を産んだ数年後に他界している。後妻には関係を秘密にしていた愛人がそのまま納まり、その後妻もユニウスセブンで他界する。

 カナーバと同じくヴァルハラの最高意思決定の会合に参加できる人物の1人であり、ヴァルハラの結成メンバーの1人。

 

・セシリア・マルカル

 

 年齢:16歳

 性別:女

 人種:第一世代コーディネイター

 身長:165cm

 体重:45kg

 趣味:読書、料理

 

 参謀本部勤務で役職は後方参謀。キラが後方参謀に就任したおり、同じ日に配属された同僚である。実はキラのことを密かに好いている。だが、キラにはジークリンデがいる為、自分の気持ちを告白していない。

 

 

 

 

メカニック設定

 

 

MS

 

・ジンハイマニューバ

 

 武装:MG-M21Gビーム突撃銃

    MG-M92斬機刀

    ビームサーベル

    対ビームシールド(原作でZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型が装備していたシールド)

 

 見た目は原作のZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型。量産機は緑カラーが基本のカラーリングである。

 性能は原作のMSZGMF-1017MジンハイマニューM型と、MSZGMF-1017M2ジンハイマニューバ2型を足して二で割った性能で、ゲイツと武装規格を統一している。要するにM型と2型のいいとこ取りをしたMS。

 

 

 

・ゲイツ

 

 武装:MG-M21Gビーム突撃銃

    MMI-GAU2ピクウス 76mm近接防御機関砲×2

    MMI-M20SポルクスIV レールガン×2

    ビームサーベル

    MG-MV05 複合兵装防盾システム(原作でゲイツRが装備していたMA-MV05 複合兵装防盾システムのビームサーベル発生器をMMI-GAU2ピクウス 76mm近接防御機関砲に変更した)

 

 見た目は原作のゲイツR。一応原作のゲイツも少数量産されたが、キラは原作のゲイツは武装に問題があることがわかっていたので、無駄な物を造るのは金の無駄と判断し、最初からゲイツR製造、量産を行った。また、武装をある程度ジンハイマニューバと共通させることでコストを抑えている。

 

 

 

 

艦船

 

・アーテナー級巡洋戦艦

 

 武装:3連装高エネルギー収束火線砲XM47『パロミデス』×8

    陽電子破砕砲QZX『ボールス』×2

    42cm通常火薬3連装副砲M10×3

    110cm単装リニアカノン×8

    40mmCIWS×20

    ミサイル発射管多数

    装甲 ラミネート装甲

 

備考:キラがナスカ級に変わる次期主力戦艦の建造とMS偏重主義を修正すべく、鹵獲したアークエンジェル級のデータも利用してグラム社で製造した新型巡洋戦艦。多数の火器を備えつけており、炎の壁の弾幕を展開できるのでMSに対して非常に有効であり、将来のビームシルード展開機に備えて、アンチビームコーティングを施した特殊弾を打てるように改造した、42cm通常火薬3連装副砲を3門備えている。そして新技術として量子通信を使った無線誘導ミサイルを多数備えており、ミサイルの弾幕と誘導でMSを撃墜することも可能とした。また、将来のミネルバ級戦艦との武装をある程度共通にすることでミネルバ級の製造コスト削減も兼ねてもいる。速度もエターナル級には若干劣るがナスカ級よりも早く、エターナル級の護衛をすることも可能である。

 現在3隻が試験運用も兼ねて配備されている。しかし、将来建造予定のミネルバ級戦艦との共通規格装備を多数装備した結果、製造コストが量産型の艦船としては跳ね上がってしまい、製造コスト削減の目処が付くまで量産を見送られることになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外 戦後編
第1話


番外編の戦後編が少し書けたので投稿します。更新は本編よりも遅くなるなので不定期更新とさせていただきます。それとこれも息抜きで書いたものなのでそれを承知してお読みください。

それとセカンドステージのパイロットをどうするか決めないといけないな……。一応スパロボZ編に向けてオリキャラを考えているのですが……。特にカオスとガイアは原作でも正式なパイロットが不明でしたし……。

それとスパロボZの話は現在プロット作成中ですが、かなり苦戦しているので投稿はいつになるかわかりません。第二次Zの話に合わせる為にかなり苦戦しています……。


 プラント有利にユニウス条約が結ばれたことにより、プラントは宇宙全体を勢力圏にすることに成功した。そして、地球圏でも自前のマスドライバー建設を始めたり、戦後の復興需要により利益を得て今大戦で被った損害を補填してつつ次の戦乱に備えるべく力を蓄えていた。

 

 プラントの明るい世情の中、プラントの舵取りをしているといっても過言ではないヴァルハラのトップ3であるキラ、カナーバ、アウグストの三人は、条約が締結してからしばらく経ったある日、アプリリウスにあるグラム社所有のビルの一室で話し合いを開いていた。

 

「景気はどうなのだキラ。グラム社は戦後復興で大分儲けを出していると聞くが?」

「戦争が終わって兵器需要が落ち込みましたから、実質変化なしです。最も新兵器開発やマスドライバー建設に月面基地建設、火星開拓にジャンク回収事業の成立で何とか退役した元兵士達やオーブ崩壊の折りに亡命してきたオーブ系コーディネイター達の職斡旋は順調なので、不満が噴出することはないでしょう」

「そうか。それはありがたい。国民を食べさせることのできない政治家は政治家失格だからな」

 

 カナーバはキラからの報告を聞いて安堵した。何せ為政者にとって国民を飢えさせることはあってはならないことだ。生きる糧を得るための働き口が不足すると国民の不満が溜まってしまい、政府に不満を募らせることになるからだ。

 

「軍の再編はどうなっています?」

「正式な独立国家となったことで、ザフトを正式なプラント軍に名称を変更して国防軍とした。それと、旧式のMSは順序退役させている。維持費もバカにならんからな」

 

 戦争中ならいざ知らず、平和な時代は軍の予算は削られる。新兵器開発等を行う為には維持費に金が掛かる、旧式兵器は解体するしかない。

 

「しばらく戦力が減るからやりくりが大変だな。メンバーの中には解体してパーツをジャンク屋に売却する手もあったが、それは危険だというキラ君の意見が通ったからな」

「彼等に一々利益を与えてやる必要はありません。連中はこの戦争中にかなり儲けたのですから。最も連合に譲歩させる為に連中の宇宙での拠点を提供する羽目になったのは痛恨の極みですが……」

 

 この世界ではジャンク屋はプラントに睨まれているせいで、宇宙に大規模な拠点を設置できないでいた。しかし、ジャンク屋は諦めなかった。彼等は連合に自前のマスドライバーを低価格で使用させることを条件に、プラントへの働きかけを要請したのだ。連合は現在全てのマスドライバーを修復中とあって格安で仕えるマスドライバーに飛び付き、プラントに彼等の宇宙拠点を提供してはどうかと提案してきたのだ。

 プラントは当初難色を示したが、ジャンク屋との間に溝を造り過ぎるのは連中を暴発させることになると、会合でも意見が出たので、仕方なく全ての機能を外して外部装甲のPS装甲も剥ぎ取ったただの置物にした、ジェネシスαを譲るはめになった。

 

「不満はわかるが我慢してくれキラ。シーゲルへの配慮もしなかればならないのだ」

「わかっています。それに些か不満ですがあまりやり過ぎると暴発の元になりますからね。兵器としての機能は全て解体したし、データも全て抹消しました。そして、万が一の時の為に自爆装置はこちらが握っていますので、プラントの脅威になることはないでしょう」

 

 無論この基地の自爆装置は解除できなくしており、そんな物が設置してあるなどジャンク屋達は知る由もない。最もジャンク屋の技術を甘く見ているわけでもないので、「万が一兵器に転用できるように改造した場合は厳しい措置を取る」と警告をしておいて、スパイを潜入させてジャンク屋の情報を流させている。

 

「政治は現実を見据えることが第一。多少の譲歩は想定内です」

「まあ、ジャンク屋とはこれから色々あるからその都度議題にするしかないだろう。それよりも、新兵器開発は順調なのか?」

「すでにザク量産試作型をバッテリー動力にした新たな量産型MSZGMF-1000 ザクウォーリアの試験運用を行っております。無論まだ、技術的問題点を洗い出している最中なので正式採用は早くて1ヶ月後になります。その為、ZGMF-600ゲイツを改修したZGMF-601RゲイツRを繋ぎとして採用するつもりです」

 

 ZGMF-601RゲイツRはスラスターの増設や改良、武装の改装等を行った機体で、基本スペックが向上しており、連合が開発・配備を行っているダガーLを凌ぐ性能を保持している。

 

「南アメリカの方はどうなっています?」

「エドワード・ハレルソンを中心とした反政府勢力はプラントへ支援を求めてきている。市民の中には大西洋連邦の圧政に苦しめられている南アメリカ諸国に同情する声が上がっている」

「南アメリカの統治何て面倒なだけですよ。最低限の支援はしますが、あそこが不安定の方が我が国の国益に適います。精々南米の英雄殿には頑張ってもらいましょう」

 

 キラは南アメリカを支援する気などこれぽっちもなかった。あそこは昔から治安の悪い地域でプラント軍が駐屯すると逆に負担が増えるとキラは考えていた。最もキラはその治安の悪さを逆手にとって、連合の負担を増やすことも考えていた。あの地域が不安定になればなるほど、大西洋連邦はあの地域に大軍を張りつける必要がある。そうすれば大西洋連邦の兵をうまく分散させることができ、万が一開戦になったとき各戦線の圧力も減るからだ。

 

(彼等の関係が悪化するようにもっと現地工作を仕掛けよう。精々南アメリカには大西洋連邦の裏庭を不安定にしておいてもらおう)

 

 キラはこの場では言わなかったが情報局と協力して、様々な謀略を仕掛けることを考えていた。現在戦力の再編中のプラントに遠征する余裕等ない。その為、謀略等の策を弄して何とか戦力再編が終わるまで時間を稼ぐ必要があった。

 

「それと脱走兵に関することですが、特務隊にいたアッシュ・グレイが乗機と共に脱走を試みたそうですが、その前に情報局の人間が取り押さえました。現在牢獄に閉じ込めています」

「エリートである特務隊の人間が脱走ですか……もうちょっと特務隊にする人間の検査基準を上げる必要がありますね」

 

 キラは「処置なしですね」やれやれと彼の行動に心底呆れ軽蔑した。折角最新鋭機を与えてやったのに、その返答が脱走という行為で返されたことに腹を立てているのだ。

 

「そうか……。確か核動力を乗機にしているパイロットには密かに監視をつけておいたのだったな?」

「ええ、今回はそのおかげでNジャマーキャンセラーの流失を防ぐことができたので幸いでした。今後このようなことがないように士官は勿論、下士官や兵の教育ももっと力をいれるべきですね」

「そうだな。機密保持の大切さをもっと勉強させるように指示しよう」

「お願いします」

 

 アウグストがキラの要請に頷く。

 そして、次に課題になったのは人口問題についてだった。

 

「人口の問題はどうなっている? 我が国の最重要課題の一つだぞ?」

「現在地球で積極的な移民を募っています。幸いプラントが勝利したことと、中立国であるオーブが攻撃されたことで、地球に住んでいたコーディネイター達は住みにくくなった地球から、プラントへ順調に移住してくれています。ちなみに現在数は1000万人を超えています」

「評議会はもっと増えると見ているが、これは一時凌ぎにしかならん。もっと抜本的な対策が必要だ」

 

 カナーバは難しい顔しながらそう言った。

 キラもそのことはわかっているので、彼女の言葉に同意するも今すぐ解決できる問題ではないので頭が痛いかった。

 

「出産や育児に関する補助金はすでに出ていますが、それでもなかなか増えませんからね。例の法案が通れば少しは足しになるはずだったんですけど、今回は通らなかったですからね」

「ああ。婚姻統制の改案は見送りとなった。慎重意見が多くてさすがに押し通すのは難しいと判断したのでな」

「そうですか。まあ、気持ちはわからなくもないので、今はやむを得ないでしょう。最もこれ以外に今の所対処のしようがないですから、いずれ通さないといけませんけどね」

 

 キラは反対するのは構わないが、変わりとなる現実的な案を出さずに感情的に反対する連中に内心罵倒しつつ、それを一切表に出さずに会話を続ける。

 

「ああ。それと移民してきた人達の住居となる新たなコロニー建造についてだが、引き続き建造をキラに頼むことになるがいいか?」

「構いません。L4に新たな軍事コロニーを建設しています。ここでセカンドステージの新型機のテスト等を行うつもりです」

「セカンドステージのMSは確かガンダムタイプだったな? 現在試作機を作ってテスト行っているらしいな?」

「はい。現在5機製造する予定です。新技術を色々と投入していますので性能については保障します。問題はこれらの機体を動かすテストパイロットと正式パイロットの選定です」

 

 キラは士官学校に入学する者のリストを見て、シンがいることを確認しているので、インパルスは当初の予定通りシンに搭乗させるつもりでいた。最も彼が赤服として卒業できればの話だが。

 

「まあ、こちらの方が焦る必要はないでしょう。何せ機体自体まだ完成していませんし」

「それならパイロットの選定は参謀本部に任せるとしよう。無論報告はしてくれよ」

「わかりました。次は会合に提示する議題についてですが……」

 

 こうして3人の話し合いは夜中まで続くのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

明日からは少し更新が遅れる可能性があります。未だにプロットが完全に完成していないことに加え、明日からはちょっとリアルが忙しくなるからです。最も予定なので実際はどうなるかわかりませんが。


 プラントが戦後の平和を謳歌しているのに対して、地球情勢は戦争が終結したにも関わらず暗い影が落ちていた。

 南アメリカ独立戦争に端を発した、連合の中核を担う国家に無理やり併合されていた地域に住む民族が、自主独立を掲げて蜂起したのだ。

 無論連合の中心である大西洋連邦はこれに対して武力で対応した為、状況はものの見事に泥沼と化してしまったのだ。

 

 そんな情勢の中で南アメリカ政府が大西洋連邦に降ったにも関わらず、未だに抵抗を続ける者が南米には多くいた。連合の脱走兵こと切り裂きエドの異名を取るエドワード・ハレルソンもその一人だ。

 

「ダガーなんていくら投入してきても意味がないのに連合は懲りない奴らだぜ」

 

 エドはそう言いながら、ソードカラミティのメインウェポンである対艦刀シュベルトゲーベルで、ダガーLを真っ二つにする。

 

「みんなは今頃どうしているかな? 俺が連合から脱走したからやっぱ怒っているかな……」

 

 エドは敵を倒しながら、嘗ての同僚のことを思い出す。脱走は軍人にとって重罪。それ故に誰にも何も告げずに脱走してきたが、今は少し後悔していた。せめて一言何か言っておけばよかったエドは思い始めていた。

 

『エド! 連合の増援が来る! そろそろ撤収だ!』

「了解。早くこんな泥沼から抜け出したいぜ」

 

 エドはソードカラミティのスキュラを連合のMS部隊の足元に発射して、土煙を舞い上げることで連合軍の視界を塞いでいる隙にジャングルの中に消えるのであった。

 

 エドは愛機と共に今日も強大な連合相手に戦い続ける。人々が自ら立ち上がって連合に立ち向かえる日が来ることを祈りながら。

 

 

 

 東アジア共和国。

 連合の中核をなす国家勢力の一つで、かつては強大な勢力であったが、これまでの少数民族弾圧政策で各地に不満が溜まっていた。その結果、地球連合の敗北とプラントの独立により、民族独立運動が一気に再燃。各地で独立を果たすべく、弾圧が酷かった地域の住民は一斉蜂起した。

 

 東アジア共和国政府は無論これを鎮圧すべく軍を派遣したが、戦時中にプラントの支援を受け取っていた独立派はジャンク屋から購入したMS等の兵器で対抗したことに加え、決戦の折りに優秀な将兵を多数損失していたので戦局は膠着状態に陥った。

 東アジア共和国内部では、人権侵害をやめて融和政策を行なうか、独立を認めて陣営に残ってもらった方がいいのではないかという意見も出たが、支那はそれを内政干渉だといい突っぱねた。

 何せ東アジア共和国は一部の将兵のミスにより連合中心国の中で唯一、マスドライバー施設であるカオシュンをプラントに譲るはめになり、東アジア全体で経済的に不味い状態になっていた。ここで万が一弱気になれば自国で革命が起きることを恐れた支那政府要人は強硬策に打って出るしか方法がなかったのだ。無論自分達の政策の失敗を誤魔化す為のいつもの手であったので、カオシュンを奪われた現地政府や日本政府の人間は白い目で見ていたが。

 

 この様に地球圏の問題はプラントにも届いており、独立を支援して親プラント勢力を現地に築くべきだという強硬な意見が評議会でちらほら出ていた。

 

 会合に集まった出席者達は、基本方針をキラ達から聞いていたので、その現実性がないことを声高に叫ぶ一部の連中に顔を顰める。

 

「地球圏がどうなっているのか一応ニュースや新聞で説明した後、干渉は難しいと説明したのにこんな声が出るとはな……現実が見えていない連中はまったくこれだから厄介だ」

「コロニーという閉鎖空間に住んでますからそうなるのも仕方ないのかもな。それにしても、地球はまさに混沌状態ですね。まあ、戦前に行ったことのツケですから彼らの自業自得だがな」

「これだと民需はしばらく需要がないな。地球圏にはさっさと安定してもらいたいな」

 

 出席者達は地球圏国家の混乱に思わず苦笑してしまい、今後の見通しがつかないことになることを多少危惧した。

 

「連合各国は現在国家の立て直しを図っていますが、状況はあまりよくないといえます。何せ独立を叫ぶ勢力がゴキブリの如く湧いてきていますからね。当分連合各国が安定することはないでしょう」

「我らはその間に戦力再編を終える必要がある。その為にも独立勢力への支援は控えるつもりだ」

「無い袖は振れない以上は仕方がありませんな」

 

 キラとアウグストの意見を聞いて、その意見に出席者達は同意し頷く。

 プラントは戦後広がった勢力圏を整備するのに手一杯で独立勢力大規模に支援する余裕はないのだ。もし、するとすれば弾薬或いは旧式兵器の売却が関の山だろう。それがわかっているだけに、独立勢力を積極的に支援をしようと思う輩は軍や政治家の中にはほとんどいなかった。

 

「独立勢力への支援は最低限は行うつもりです。露骨に見捨てると恨みを買いますし、彼らが頑張るほど連合各国の目は内側に向きます。最も戦後だというのに露骨に対外強硬策を取ろうとする国家も存在しますが」

「あの国家のことか……話には聞いていたが本当に酷いな。知れば知るほど関わりたくない国家だ」

 

 例の国家の民族浄化政策を知ったメンバーは、政治中枢にいる者は碌な人物がいないと見ていた。いくら、マスドライバーを奪われたといっても、それは彼等の失策である以上露骨な責任転嫁を行う神経はこの会合に集まった者達にとって理解し難いことだった。

 

「頭の中が何千年も変わっていない連中の考えること何て我らには理解できませんし、その様なことを理解するのも時間の無駄です。それよりもこの内紛を我らの益なるようにしましょう」

「一体どうするのだ?」

 

 キラの発言に出席者達が興味を示し、アウグストがキラに尋ねる。

 

「この件を利用して東アジア共和国を分裂させましょう。彼等が行っていることを世界に宣伝します。そして、国際的に非難を浴びせて孤立させた後、一部の地域を東アジア共和国から脱退させます」

「確かにいい策だが、正直難しいのではないか? 日本列島は北海道を失っているから国力は昔程はないし、あそこは大陸に近い。それに下手をすれば東アジア共和国軍が雪崩れ込んでくる恐れがある以上、両国共下手な行動は取らないのでは?」

 

 アウグストはキラの意見に疑問を呈する。東アジア共和国を分裂させればカオシュンへの圧力は減るが、当分はどこの国家も内政を重視するので必要以上の揉め事は避ける。だから、離反を狙うのは正直難しいのではとアウグストや一部の出席者達は思っていた。

 

「まあ、すぐには無理でしょうね。しかし、心理的な離反はできるでしょう。支那の横柄な態度に両国共常に忌々しいと思ってますから、ここで更に彼等が行っていることを伝えてやればその不信感は増します。この策略を実行する為に両国へ密かにアプローチを取っている最中です」

 

 キラは折角手に入れたカオシュンを守るべく、東アジア共和国を分裂させる気満々だった。特に日本は他の東アジア共和国構成国と違い、約束をよく守る国なので親プラント国にするメリットは大きい。

 

(戦力再編が終わるまでに色々と手を打っておくことに越したことはない……特に大戦に敗北した結果、元プラント理事国に言われて戦争に協力した非理事国との間に溝が生まれている。これを利用して連合内に不和の種をまける)

 

 キラは更に大戦に敗北した原因は、理事国国家が無能だったせいだと民間のジャーナリストを使って喧伝するつもりでいた。特に勝敗を決する決戦で敗北する理由を作った支那に対して、不信の目を向けている国は多い。そこに楔を打ち込んで更に仲を悪くさせることができれば、戦闘になった場合でも連中の連携を阻害でき、万が一すぐに再戦となったとしても、こちらに有利にすることができるとキラは考えていた。

 

「こちらも段階的に進めていく必要があります。それでこの案を了承してくれますか?」

「プラントに不利益は発生しない所か利益になる以上反対する理由はない。私は賛成する」

 

 カナーバが賛成の意を示したことで、他の出席者達も顔を縦に振って賛成を示したことで、キラの策を実行することが会合で承認された。

 

「戦争は終わった。だが、私達は今後に備える為に山ほどやることがあることを忘れるな」

 

 最後はカナーバの言葉で会合の話し合いは締めくくられることになった。

 

 

 

 

 キラ達ヴァルハラの面々が色々と影で奮闘している頃、士官学校で奮闘している人物がいた。

 

「シン・アスカ! 何をやっている! これは練習であって模擬戦ではないのだぞ!」

「わかっていますよ! でも、こうやった方が効率がいいじゃないですか!」

「基礎を他の者より早く修得したからと言って調子に乗るな! ここは軍の学校だぞ! 上官の言う通りにしろ!」

 

 士官学校に入ってシン・アスカは2度目のMS訓練を受けていた。シンは他の者より早く上達したので色々な動きをしてみたのだが、調子に乗って激しい動きをしてしまい、他の練習生に迷惑をかけてしまい、教官にこってりと絞られる羽目になったのだ。

 

「すみませんでした……」

「何か色々引っ掛かるがまあいい。今後は気を付けるようにな」

 

 シンは渋々教官に謝罪し、教官は一応反省したのを見て許したのか別の練習生の元に向かった。

 

「俺は強くなる。そして、今度こそ大切な者を守る力を手に入れるんだ」

 

 シンはそう呟きながらコロニーの人工の青空を見上げるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

今回は少し短めです。かなり苦戦しました……。原作にない展開を書くのは難しいですね……。

第二次スパロボZの話を書いているのですが、同じように大苦戦中です。いつ投稿できるかわかりません。何せ未だにプロローグしか書けていません……。リアルも忙しいので……。


 プラントとの戦争で敗北した地球連合を構成していた国家は、戦後財政が火の車になるはめになった。何せこの大戦でNジャマーの投下による電力不足に加えて、プラントの生産力と経済力をそのまま損失してしまった。その上戦争に敗北したことで賠償金を一銭も取ることができなかったので、復興の元手となる資金を軍縮によって捻出される金で賄うことになったが、戦後支配地域が不安定になった為に大幅な削減を行うことができず、捻出できた金は雀の涙程であり、政府が資金を投入しても焼け石に水状態だった。

 

 それは世界第一位の経済力と軍事力を誇る大西洋連邦も例外ではなかった。

 

「コープランド大統領。やはりこれ以上の軍事費削減は難しいかと。これ以上削減してしまえば各国への睨みが効かなくなってしまいます」

「わかっている。私もこれ以上の削減は無理だと考えて要るが、戦後の復興を考えるとおいそれと提示された軍事予算を通すわけにはいかんのだ」

 

 前大統領が敗戦の責任を取って辞任し、大西洋連邦の新たな大統領となったジョゼフ・コープランドは、補佐官の言葉に対して難しい顔をして返した。

 プラントからNジャマーキャンセラーの提供を拒否されたため、田舎では電力不足が起こっている所もあり、戦後の銃より生活改善を優先しろという声が朝野に満ち溢れていた。

 

「プラントから戦後復興に必要な資材や電力を適正価格で買い取っていますが、地球全体なので数が足りません。下手に自国ばかり優先すると今はこちら側の陣営にいる国家をプラント側に靡かせてしまいます」

「プラント側に価格をもっと下げるように要請するしかないな」

 

 大西洋連邦は自国の再建を最優先にしたいが、匙加減を間違うと他国の恨みを買いかねないので、慎重な配分が必要だった。もし、その加減を間違えば最悪連合が空中分解することになるので、それだけは絶対に避けなければならない。

 

「東アジア共和国はもっとこちらに資材を回してくれと要請していますが……特に支那が」

「また、あの国か……どうせ送っても横流しされるだけだ。今我らに物資を無駄にする余裕はないのだからな。適当にお茶を濁しておけ」

「わかりました」

 

 地球一の国力を誇る大西洋連邦のトップに立つ男の苦労は続くのであった。

 

 

 

 

 

 プラントでは新たな軍事コロニーが完成した。このコロニーは軍需兵器生産も兼ねているコロニーでもあり、新型兵器の試験運転等を行うのに非常に便利なコロニーであった。

 キラはこのコロニーで現在開発されているセカンドステージMSとニューミレニアムシリーズの製造がどの程度進んでいるかを視察する為にこのコロニーの軍需工場兼軍事基地を訪れていた。

 

「インパルスの合体・分離テストは無事に終了してデータ蒐集も終了。カオスの変形機構テストも終わったか……」

「はい。一番厄介な問題点は無事に解決しました。アビスとガイアの方は変形機構が単純なので、すぐに製造に取りかかれたのですが、これらの機体も実際完成させてテストしてみる必要があります」

 

 セカンドステージは原作通りMAに変形する機構を5機の内4機に採用して、MSの汎用性と局地対応を両立させている。そして、今開発計画の目玉であるインパルスは分離・合体を行うMSであり、他のMSも本来インパルスの為に用意されたパーツ扱いだった。

 キラは当初分離・合体等の機構は必要ないのではという意見を提示したが、開発者の熱意に押されて技術蓄積の為に許可することした。その変わりインパルスを全地形対応ができるように開発をするように命じたが、結局分離・合体機構を備えていることで局地対応は無理という結論に至ったため、その代わりにセイバーの製造で多少独自の改造を施すことを認めさせた。

 

「順調というわけか……プロトセイバーは地球に降ろして変形機構のテストを行っている。色々と問題があるみたいだから、一番完成が遅れそうだな」

「5機の中では一番完成度が高い機体なんですけどね。それらのデータを充分に集めてから製造を行うのが一番ベストなので……」

「気にしないで。無茶を言ったのはこっちなんだから、多少遅れても構わないよ。だけどその分いい機体を完成させてよね」

「全力を尽くします」

 

 開発チームの主任の言葉にキラは満足気に頷き、工廠をあとにするのであった。

 

 そして、キラが次にやって来たのはニューミレニアムシリーズを製造している工廠だった。

 

「製造は順調?」

「ええ。ウィザードシステムも良好で、かなりいい機体ができると思います。防御面についても新たなに開発したネオ・チタニュウム合金のおかげで従来のMSよりも防御力がアップしています」

「製造と量産体制を整える為に莫大な開発資金をかけた価値はあったようだな(ガンダニュウム合金をできれば造りたかったんだけどな)」

 

 キラはこの世界ではPS装甲以外で防御力を上げる手段を求めて、ガンダムニュウム合金の精製を目指して資金を投入していた。それを作る過程で偶然できた大量生産も可能なネオ・チタニュウム合金ができたので、今回のニューミレニアムシリーズに採用することを決めた。人的資源が貴重なプラントではパイロットの生還は重要な課題になっており、それを解決する為にMSの防御力向上は課題の一つだったからだ。

 

「量産機の方は大体目処がついたけど、グフの方はどうなの?」

「グフは大気圏飛行テストを行う必要がありますが、武装、機体共に順調に開発が進んでいます。ただ、ザクを優先しているので、本格的な量産にはまだ時間がかかります」

「それでいいよ。取り敢えず色んな状況に対応できるザクシリーズを優先して生産するつもりだから。グフの方は時間が掛かっても構わないから優先順位を間違いないようにね」

「わかりました」

 

 開発チームにそう言った後、キラは今日の務めを終わらせて帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

「マユちゃんは10歳になると同時に士官学校に入ることになった」

「勉強は順調なんだね」

「ああ。家庭教師も褒めていたぞ。この子なら特進も可能だと言っていた」

「ふーん。そうなんだ……ってジーク何でここにいるの? 確か君は航路巡回の任務だったずだよね?」

「ああ。それか。もう終わったよ。さすがエターナル級は足が速くて助かる」

 

 キラが帰宅したら何故かジークリンデがいた。彼女は航路巡回の任務中のはずなのだ。そのことを疑問に思い尋ねるともう帰還して休暇に入ったらしい。

 

「エターナル級は核動力搭載機運用母艦だから、航路巡回には本来使用されるべき艦船じゃないんだけどな……」

「気にするな。折角空いていたのだから使わせてもらうべきだろう。そのおかげでさっさと帰ってこれたしな」

 

 ジークリンデはそう言って自慢の乳房をキラの腕に押し付ける。キラはジークリンデのスキンシップに顔を赤くしてしまい、その気持ちよさに男の悲しい性故か振り払えないのであった。

 

「ジーク。胸が当たってるよ。それでマユちゃんの士官学校入学の手続きをしてくれたのかい?」

「ああ。10歳になったら士官学校に入学させるから、その時に願書を提出する手筈になっている。マユはみっちり5年間は勉強と訓練の日々だな」

「ありがとう。僕は忙しくて手続きをしている暇がないから、君に頼む形になってしまって」

「ふふふ。気にするな。私達の仲ではないか。寧ろ頼ってくれてうれしいと思っているぐらいだ」

 

 キラの感謝の言葉にジークリンデは微笑む。そして、ジークリンデは更に身体をキラにくっ付ける。

 

「私としてはお礼は行動で示してほしいな。ようやく巡ってきた機会だ。楽しむとしようではないか」

 

 こうしてキラとジークリンデの夜は更けていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

数ヶ月で卒業はさすがに早すぎるので最短卒業は1年に変更しました。


 東アジア共和国内で起こった暴動は遂に本格的な武力衝突に発展した。

 政府は大規模な軍の派遣を決定し、敵対勢力は背水の陣を持ってこの戦争を戦う決意を固めた。特に決起した者達はここで敗北すれば主導者は勿論、下手をすれば民族がまとめて浄化される危険性もあるので必死だった。無論、真の敗北は民族の滅亡という結末だが、このまま座視していても戦後復興の名のもとに搾取された挙句、民族浄化もされてしまうという絶望的な二者択一しかない以上、戦う道しかないと心に誓い独立勢力は一致団結するのであった。

 

 独立勢力は連合各国だけでなく、プラントにも支援要請を行っていた。そして、それを受けた各国はどうすべきか対応に困っていた。

 大西洋連邦は南アメリカで手を焼いており、東アジア共和国・独立勢力両方を支援する余裕がなく、自国の信用に傷がつかない様に理由を並び立てて断った。ユーラシア連邦も宗教問題や民族問題が再燃してそれを抑えるのに忙しく他国にまで干渉する余裕がなかったのだ。

 

「連中は支援を取り付けるのに失敗した! 今がチャンスだ!」

 

 独立勢力が支援を得ることに失敗したのを見た東アジア共和国の一部の者達は、他国が何か言ってくる前に決着をつけるべく、大規模な攻勢の準備を始めた。それを察知した独立勢力は守りを固めつつ、ひたすら支援を求めるべく使者を送り続けて何としてでも支援を得るべく奔走することになった。

 

 プラントにも連日支援要請が届いており、評議会内でも議題に上がるたびに、議員の立場によって意見が分かれる等問題が起きていた。

 

 無論この東アジア共和国問題について話し合うべくヴァルハラは緊急会合を開いていた。

 

「まさか、これほど事態が早く進むとは思ってもみなかったですね」

「ああ。正直これ以上誤魔化すのは難しい。プラントとがこの件についてどういう立場を取るのか、そろそろ明確にしなければならない」

 

 会合の席でキラが困った表情をしながら言い、何人かはキラの言葉に肯く。

 カナーバはこれ以上プラントの立場を曖昧にするのは無理だと言い、その意見に出席者達は全員頷く。

 

「今まで適当にお茶を濁してきましたが、ここまで事態が進めば意味を成しません。早々に立場を明確にしないと我が国の信用に関わります。評議会の方は支援をするべきだという意見が多いそうですが?」

「ああ。その一方で無視すればいいという意見もあるな」

「旧式兵器の売却では独立勢力は満足しませんか……しかし、万が一本格的な支援をする場合でも、軍の派遣は不可能なのでは?」

 

 カナーバや出席者達はそう言いながら国防軍のトップであるアウグストを見る。

 

「戦力再編は現在20%程進んでいます。小規模な軍勢の派遣は不可能ではありませんが、それ以上の兵を出せば、現状戦力再編を行っている最中の我が国には負担になります」

「ニューミレニアムシリーズの量産体制が完全に整うまでにはもう少し時間が掛かります。しかし、念の為に軍の編制は進めておきます。これだけ事態が進めば小規模とはいえ派遣する必要が生まれる可能性もありますし。それと最近カオシュン周辺では怪しい艦船が航行しており、実際襲われた船舶もあります。商船や輸送船等を護衛する必要があるかもしれません」

「軍の再編の方はアウグスト参謀総長とキラ参謀長にお任せするしかありませんな。それでカナーバ議長我々はどの様な立場を取りますか?」

 

 アウグストとキラの言葉を聞いた後、出席者達の視線がカナーバに向く。カナーバは自分の考えを述べる為に口を開く。

 

「私としては支援をしたいと考えて要るが、武力衝突が起こったのは内陸だ。物資の輸送は宇宙から送ることになるだろうから、負担を考えるとそれに似合う条件が向こうから提示されない限りは、本格的な支援には応じない考えだ。ただし、カオシュン周辺の治安は早急に回復するべきだろう。被害が大きくなる前に何とかしなければならんだろう」

「それが一番妥当な案ですね。本格的な支援も情勢次第では検討する必要があるかもしれませんが……。しかし、問題はカオシュン周辺海域の安全確保です。商船や輸送船を襲う賊の連中は対岸を拠点としており、積荷の一部を賄賂として現地の軍閥に渡して存在を黙認されています。しかし、理由もなしに他国を攻撃するわけにもいきませんから、奴らの拠点を軍閥ごと粉砕するには連中が繋がっている証拠が必要です。情報局に命じて証拠集めさせていますので、それが整い次第いつでも攻撃できるようにしておきます。……もう少し戦いの規模が広がればそんな手間は必要なくなるのですが……」

 

 キラはカナーバの意見に賛成するが万が一支援する場合、本格的な補給路を確保する為には内戦が広がる必要があると考えていた。宇宙から物資や義勇軍を降下させて送ることは可能だが、東アジア共和国軍に迎撃される可能性がある上、いざ退却するときに退路がない場合義勇軍が全滅する恐れがあるからだ。だから、せめて内戦の影響がカオシュンの近場まで及べば、周辺地域への安定を目的とした軍事介入が可能になれば、内陸への輸送路を確保すると同時に海賊連中もまとめて攻撃することも可能になる。

 

「しかし、内戦が拡大して収拾がつかなくなるのもまずいのでは? ただでさえカオシュン周辺がキナ臭くなっている所に、更に状況が悪化することになれば経済に影響がでます」

「現地の安定とシーレーンの確保は軍が全力を尽くします。しかし、万が一内戦が広がった場合、こちらに飛び火してくる可能性も0ではありません。そこでカオシュン駐屯軍には念の為に準警戒態勢を取らせる必要があるかと考えます」

 

 キラは経済の影響を気にする面々に、軍がシーレーンの確保には全力を尽くすと言って経済界出身のメンバーを安心させる。そして、内戦が広がった場合に備えてカオシュンに駐屯している軍に準警戒態勢を取らせるように提案する。

 

「確かにキラの言う通りだな……。わかった評議会から準警戒態勢を取らせるように軍へ命令させる」

 

 カナーバはキラの意見に賛成し、他の出席者達もその意見に賛成して頷く。

 

「それではプラントは内戦がこちらの勢力圏にまで及んだ場合、正式な介入を行います」

 

 こうして万が一プラントの勢力圏にまで内戦の影響が及んだ場合、東アジア共和国の内戦に介入することが会合で決定されるのであった。

 

 

 

 シン・アスカは自分の卒業成績を見ながら内心喜びつつ、士官学校の廊下を歩いていた。何せ赤服で卒業することがほぼ確定したも同然だからだ。

 

(赤服はほぼ最短卒業がほとんどだって入学時に校長が言っていたし)

 

 プラントの士官学校の卒業は成績がいい者は早くて1年、悪い者は遅くて数年かかるようにカリュキュラムが組まれている(その分軍人として必要な知識や教養を学ぶための内容は濃くなっており、月月火水木金金の週もある)。

 これはプラントの能力主義と戦力不足を補う為に採用されたカリュキュラムで、要するに「基準に達した者はさっさと戦力にしよう」という方針だ。

 

 その結果シンは態度は微妙だが厳しい教官の教育の結果、何とか外に出せるレベルまで修正されたおかげで、最短で卒業組に入ることに成功していた。

 

「シン。教官が呼んでいたぞ。教官室に来いとのことだ」

「レイ。態々伝えに来てくれたのか。ありがとう」

「気にするな。俺は頼まれたことをしただけだ」

 

 シンと同じ時期に卒業するレイ・ザ・バレルは成績優秀で真面目な性格をしており、彼もまた赤服で卒業することが決まっていた。最も彼を軍に入れていいのかと軍内部で議論されたこともあったが、彼の保護者を務めるギルバード・デュランダルが責任を持つということで、彼の素性については深く追求しないことになった。

 

 シンはレイから伝言を受け取ると、そのまま歩いて教官室に向かった。

 

 

 

「自分に用とは何でしょうか?」

「シン。君の卒業後についてだ」

「卒業後ですか? そういうのは卒業時に配属が発表されるんじゃないですか?」

 

 教官の言葉に疑問を覚えたシンは尋ねる。それを見た教官は顔を少し顰めながら、彼の疑問に答える為口を開く。

 

「私としても今言う必要があるかは知らん。そして、何故君が上の目に止まり選ばれたのか疑問なのだがな。だが、参謀本部の命令である以上、伝える義務がある。それにこれは軍機である。卒業して配属先が発表されるまでは口外は許されんから心するように」

 

 シンに対する教官たちの評価はあまりよくなかった。何せ訓練中によく教官に噛みつくことで有名な問題児だからだ。それ故に教官はシンが参謀本部に注目される理由がわからず、内心少し疑問に感じながらも、参謀本部の命令を目の前の卒業予定の訓練兵に伝える。

 

「シン・アスカ。お前は今開発中の新型のテストパイロットに任命された。詳細は卒業後に知らされることになるが、我らが誇る最新鋭機のパイロットつまり、プラント国防軍の顔になる可能性が高いのだ。今の内にその素行を少しでも改めておくように助言しておくぞ」

「はい! シン・アスカ全力で頑張ります!」

 

 シンは教官から伝えられた内容に武者震いを感じながら、綺麗な敬礼をしてその旨を受諾するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

チラ裏に投稿している異世界漂流記外伝がさっそくスランプ状態に陥りました。そこで、ハイスクールD×Dを新たに書き直すことを検討しています。主な変更点は原作沿いになることです。それと一誠を登場させるべきか迷っています。原作沿いにするなら必須なのでしょうが、それでは数あるハイスクールD×D二次作品と変わらないし……。


 シンが命令を受けて数ヶ月後。

 士官学校では卒業式が行われ、卒業生は士官学校の校長から軍人としての心構え等を聞かされたあと、同級生と卒業写真を取ったり、これからの互いの配属先について話に花を咲かせていた。

 教室に戻った卒業生は参謀本部からやって来た人事部の人間に、それぞれの配属先が詳しく書かれた書類の入った封筒と配属先を発表されてその場所に向かうように指示された。

 

 シンは事前に聞いていたので配属先に驚くことはなかったので、普通にその辞令を受け取り、そのまま最近軍事コロニーとして稼動し始めたアーモリ・ワンに向かうのであった。

 

 

 

 

「すげぇ……」

 

 シンはアーモリ・ワンに軍事施設の規模の大きさに感嘆する。コロニー内部は軍事関連の施設が所狭しと佇んでいた。

 

「話には聞いていたけど本当に軍事専門のコロニー何だな。ここで俺は新兵器開発に関わるのか……」

 

 教官の話によると正式なパイロットになれる可能性もあるそうだ。全てはここで結果を残せるかどうかに掛っている。

 シンは命令書に記載されていた場所へ向い受付を済ませると、係員の案内で新型の開発が行われている工廠兼軍事演習上に到着した。

 

「君がインパルスのテストパイロットを担当する新人か。ここの総責任者のキラ・ヤマト参謀長だ」

「最強のエース! ……えっと、シン・アスカです。参謀本部からの命令で今日付けでここに配属されました。どうかよろしくお願いします」

 

 シンは最強のエースがいたことに驚き、目の前の上官に慌てて敬礼をする。

 

「よろしく。全員に挨拶が終わったから僕はこれで失礼させてもらうよ。後で同じテストパイロット仲間同士挨拶を行う予定になっているから」

 

 キラはそう言って工廠を後にしようとしたが、ふと妹のマユと再会させるちょうどいい機会だと思い、後ろを振り返ってシンの方を見て口を開く。

 

「シン・アスカ君だっけ? 君の今日のお勤めが終わったら話したいことがあるんだけどいいかな?」

「え!? は、はい。別に構いませんが?」

「じゃあ、終了時刻にまたこちらに来るか。テストパイロット頑張ってね」

 

 キラはシンにお勤め終了後に会う約束を取り付けて今度こそ工廠から去って行った。

 シンはキラの後ろ姿を見届けた後、同じテストパイロットの者達と自己紹介をした後、自分がテストパイロットを務める新型機の元に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 プラントで戦力再編が急速に進む中、地球圏の勢力再編はなかなか進んでいなかった。民族独立を掲げて武装蜂起する勢力は後を絶たず、連合各国はその鎮圧に力を注がなければならず戦後の平穏とは程遠い情勢だった。

 

 無論会合でも地球圏の動乱が課題にされることが多く、今回の集まりも主な議題は地球圏の動乱についてだった。

 

「ユーラシア西側で連合離脱を目論む動きが出ているようだ」

「連合の威信は我らに敗北したことで失墜しましたからね。新たな枠組みを求めるのは無理ないか……」

「おまけに東アジア共和国で内戦と紛争が勃発しましたからね。それらの動きに触発されたようです」

 

 一部の出席者達は地球圏の混乱に顔を顰めつつも、同情の声は上がらなかった。仮想敵国である連合の弱体化は、プラント政治の影の中枢を司る者達からすれば好ましいからだ。

 

「大洋州連合は旧式兵器の貸与或いは売却を求めています。どうやら連中安全保障の為に、パプアニューギニアを占領したいようだ」

「確かに今がチャンスだが赤道連合を敵に回すようなことは避けたい。兵器の売却等は検討するが大洋州連合の軍事作戦を実行させるわけにはいかないな。根回しして黙らせるしかないな」

「旧式兵器は大分売り払う予定ですから、あまり回せる物はありませんしね」

 

 大洋州連合の要請は軽く受け流すことになった。

 次に議論されたのは内戦が始まって混乱が続く東アジア共和国についてだった。

 

「大陸では内戦が広がっています。各地で軍閥が台頭したことで内戦は混迷を深めており、各軍閥は自分達こそ正統な政府であると喧伝して同じ東アジア共和国内の国や地域、連合各国や我が国に支援を求めています」

「連合各国はどうするつもりだ?」

「大西洋連邦は軍閥ではなく華北に存在する東アジア共和国を支援すると発表しています。ユーラシア連邦もどこかを支援する気配を見せていますが、まだ、明確にしていません。恐らく様子を見るつもりでしょう」

「大陸を生贄にして連合各国は自国の経済活性を狙うつもりのようだな」

 

 同じ連合構成国なのに支援する相手が違うことに、出席者達は連合各国が東アジア共和国を半ば見捨てたことを悟った。大西洋連邦やユーラシア連邦はこの内戦で発生する特需を利用して経済の活性化を図るようだ。

 

「これで東アジア共和国の分解はほぼ確実。我らも予め用意していたドクトリンに沿って行動を開始するとしよう」

「お願いします。これで連合の一角を切り崩せます。それにカオシュン周辺の安全確保もできるでしょう」

 

 アウグストは軍事支援を行うことを言い、キラはプラントの安全保障の要である連合の解体の第一段階を行うことを宣言し、出席者達は全員が頷いた。

 

「第一目標は福建軍閥の撃破と沿岸部の制圧。ここの軍閥がカオシュンのマスドライバーを狙っているとの情報が入っています。ここで奴らを容赦なく叩き潰してマスドライバーに色目を使う連中を牽制します」

「奴らが持つ兵器は旧式兵器のリニア・ガンタンク等が主力だ。MSも少し数が確認されているが大した数ではない以上、これを撃破すれば連中は降伏するだろう」

 

 キラとアウグストが軍事作戦の概要を説明する。

 

「議長には我らが敵を殲滅したら速やかに講和をお願いします」

「わかった。私も混乱がこちらの勢力圏に広がるのは望んでいないからな」

 

 アウグストの言葉にカナーバは頷く。

 

「ここは他勢力を脅す為にも圧倒的な戦力で押し潰す方がいいかもしれません。自分も少し改造を加えたフリーダムで出ます」

「確か武装を少し改装したものでしたか?」

「セカンドステージの使用されている技術を使いました。これで格闘戦とビーム砲の威力は上がりましたので、実験をするのにぴったりかと」

「出撃させる軍の編制は参謀本部に任せるから問題ない。思う存分暴れてこい」

 

 カナーバはキラの出撃許可を出した。この忙しい時期に会合の要であるキラを、地球の戦場に出撃させることはあまり好ましくないのだが、キラに実戦の勘を鈍らせるのもよくないと思い内心少し悩んだ結果許可を出すことにした。

 

「ありがとうございます。出撃する以上は最善の結果を出せるように頑張ります」

「なるべく被害は少なくしてくれ。あまり被害を出すと私の支持基盤である穏健派がうるさいのでな」

「わかりました。では、福建省を拠点とする軍閥を容赦なく潰してカオシュンの安全を確保することにします」

 

 プラントの大戦戦後の軍事行動は福建省に拠点を置く軍閥と賊を討伐することになり、それを実行することが会合で承認された。

 

 

 

 

 シンはキラと約束した通りにテストパイロット終了後に、キラに誘われて食事をしていた。

 

「緊張してるのかな?」

「こんな高級なお店に来たことなんて自分は一度もありませんので……」

「大丈夫。ここは防音を施している部屋だからいくらうるさくしても問題ないよ。それに俺がオーナーを務めている店だしね」

「キラさんって公私で言葉を使いわけているんですね。……ところで自分に話したいことって何でしょうか?」

 

 シンは場の雰囲気に若干緊張しつつも、自分と何を話したいのか尋ねる。

 キラは急に真面目な表情をして、シンが一番気にしているだろう件を口に出す。

 

「シン。君の家族のことなんだけど?」

「家族ですか……オーブ戦の折り脱出した船が連合の潜水艦に沈没させられて行方不明ですが……」

 

 シンはその時ことを思い出したのか顔を暗くする。

 

「御免。辛い思いでを思い出せてしまって……。でも、確認しておきたいことがあるんだ? 君はマユ・アスカという子を知っているかい?」

「マユは俺の妹ですが……っていうか何でキラさんがはマユのことを知っているんですか!? 俺妹がいるって話していませんよね?」

 

 シンはキラが妹の名を知っていることに若干不思議に思い尋ねた。

 

「そうなんだ。君の妹のマユちゃんだけど無事だよ。現在プラントにいる」

「えっ? ……今何て言いました……マユが無事って……どういうことですか……」

 

 シンはキラの言ったことが最初は理解できずに固まってしまう。

 

「そのままの意味だよ。マユ・アスカは僕が戦争の折りに漂流していたところを保護したんだ。無論五体満足で元気に暮らしているよ。僕が保護者になってね」

「……は、ははは。俺てっきり一人になってしまったのかと……今すぐマユに会いに行きます! 俺が無事だってこと教えてやらないと!」

 

 シンは急に席を立って店から出て行こうとした。

 

「落ち着いて。そう言うと思って連れてきたから。入っていいよ」

「はい」

「! この声……」

 

 キラがそう言った後、外から少女の声で返事が返ってきた。

 シンはその声を聞いて表情が固まる。開いた扉から現れたのは黒髪を肩まで伸ばし、シンと同じ赤い瞳をした明るい表情が魅力な少女だった。

 

「マユ……」

「久しぶりだねお兄ちゃん」

 

 

 

 

 キラがシンにマユのことを話す少し前。ジークリンデはマユを伴って高級料亭に来ていた。

 それはマユから聞いていた彼女の兄であるシンがプラントの士官学校に在学していることがわかり、彼女が兄に会いたいと希望したので、キラがシンの存在を黙っていたことを悪く思ったので、再会の場を用意してやることにしたのだ。

 

 マユはキラと兄がいる部屋の近くで終始ソワソワしており、今か今かと再会を心待ちにしていた。そして、遂にキラから声が掛り、マユは部屋に入って行く。

 

 

「マユ……マユなのか……」

「そうだよ。お兄ちゃん。マユだよ。お兄ちゃんの妹のマユ・アスカだよ……」

「マユ……マユ!!」

 

 シンは涙を流してマユに駆け寄り嬉しさのあまりマユを思いっきり抱きしめる。マユも若干力が強い兄の抱擁に顔を顰めていたが、嬉しさの方が勝っているのか抱き返す。

 

「よく、よく無事だった! 俺は今この奇跡に感謝する!」

「うん。偶然ザフトの潜水艦の近くを漂流していたからその部隊に助けられたの。そのままプラントに移り住んだの」

「そうか……お前が本当に無事でよかった! ……そうえばお前どうやって生活していたんだ?」

 

 シンは疑問に思ったことをマユに尋ねた。

 マユは9歳だ。プラントでも成人年齢に達していない。どうやって今まで生活していたのか気になった。まさか変な仕事をしていたんじゃないかとシンは気になってしまい、マユに救出された後の生活を尋ねる。

 

「キラさんが家族を失った私の保護者になってくれたの……キラさんは私にとって恩人なの」

「そうか……キラさんマユを助けてくれただけでなく、生活までお世話してくれてありがとうございます! 兄として礼を言います! 本当にありがとうございました!」

 

 シンは心の底からの笑顔を出してキラに頭を下げた。

 キラとしてはこうなることを見越して世話していたので、シンの純粋なお礼に若干心苦しく感じたが、礼を言われるのは悪い気分ではない上、そのことを一々言って涙の再会に水を差すこともしなかった。

 

「じゃあ、今後のことを兄妹で話し合うといいよ。勘定は済ませておくから」

「ありがとうございます。この恩は一生忘れません!」

 

 シンはそう言い部屋から出て行くキラ達に向かって礼を言うのであった。

 シンはこの後マユと色々話し合い、マユが軍人になることに関してはシンは猛反発したが、シスコンである彼にマユのお願い攻撃に抗うことができず、最終的に了承するのであった。そして、キラのことを話すマユの目が若干熱を帯びていることに気付き、キラさんとはどういう関係なんだと問いただす場面もあったが、マユは「キラさんは恩人だよ」と言うだけで、明確な答えを聞き出すことは叶わなかったが、妹の恩人を悪く思うのは嫌なのでこれ以上は問い詰めるのをやめて、久しぶりの兄妹二人きりの会話に花を咲かせることにするのであった。




感動の再会にしては少し表現が淡白過ぎないと思った方はどうか御容赦を……。作者の力量ではこれが限界です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

 キラとジークリンデはシンとマユを二人きりにさせる為に、店を出た後別の店に立ち寄り食事を済ませた後、自宅に帰還して二人きりの時間を過ごしていた。

 

「取り敢えずシン君とマユちゃんの再会を祝して乾杯しようか」

「ふっ。そうだなキラ。乾杯」

 

 キラとジークリンデはそう言ってカクテルで乾杯した。

 

「二人の再会の為にあんな場所まで提供するなんて、相変わらず根はお人好しだなキラは。最もそこがいいんだがな」

「ありがとう、ジーク。ジークだけだよそう言ってくれるのは」

「何れお前の妻となるのだから夫を気遣えなくてどうする。私がお前の心の拠り所になってやるから存分に甘えていいんだぞ」

 

 ジークリンデはそう言って、手を広げて私の胸に飛びこんで来いとキラに身体で表現する。

 

「本当にありがとう。そう言ってくれると心が楽になるよ」

 

 プラントの為とはいえ、数々の謀略を仕掛けて犠牲を強いることは性根がお人好しなキラにとって、強烈なストレスを感じる行為であった。しかし、政治の世界で甘えを見せて敵国に隙を見せれば、プラントやそこに住む人達が窮地に陥る事態になりかねない。だから、心を鬼にしてプラントの安全保障を築き上げるべく全力を尽くしている。

 

「それよりも、折角婚約したんだ。そろそろ結婚式を上げたいし婚姻届も出したいのだが……構わないか?」

「まだ早いと思うけどな……。それに結婚式はお互い忙しいからいつになるかわからないよ。僕は次は地球に降りて軍を指揮しないといけないし」

「わかった。結婚式の準備も私がしておこう。出席者達の予定を聞く必要があるからな」

 

 キラと関わりの深い人間は大抵がプラントの重鎮や各分野のスペシャリストが多い。それ故に全員の都合を合わせる為にもそれなりの根回しが必要になるのだ。尤もキラ自身が多忙なので、結婚式を挙げる時間が取れないでいるのだが。

 

 しばらく、キラとジークリンデは二人でお酒を楽しんでいたが、あんまり飲むのは身体によくないので、適当な所で切り上げて寝ることにした。

 

「明日も早いからそろそろ寝ようか。仕事に差し支えがあるとまずいから」

「まだ、9時だぞ。寝るのはさすがに早すぎるから、私とベットを共にしてから寝てくれないか。どうせ重役出勤なのだからな」

「わかったよ。でも、今夜は激しくなりそうだから覚悟はいいかな?」

「望むところだ」

 

 キラとジークリンデは久方ぶりの逢瀬を楽しむであった。

 

 

 東アジア共和国の内戦は時間が経てば経つほど悪化の一途を辿っていた。

 各地で軍閥が台頭して、次の覇者となるべく武力衝突が起こっており、東アジア共和国はすでに形骸かしているといってもいい状態だった。

 キラはこの内戦を利用して徹底的に連合の戦力を削るべく、連合各国から安く買い叩いた旧式兵器を各勢力に売り払ってプラントと自社の懐を温めつつ、情報局と協力して内戦をもっと激化させるように仕向ける。

 

 連合各国は何とか内戦を止めるべく介入を考えていたが、自国の再建がまだ終わっていない段階での介入は難しく、内戦が拡大していくのを見ていることしかできなかった。そして、介入が無理だと悟ると各国は方針を転換して軍閥を支援することで、自国の経済を建て直すことを優先するようになっていった。

 

 大西洋連邦はプラントに利する行為だと各国に釘を刺したが、自国の財閥群が大戦で失った損失を補填する為に積極的に軍閥を支援し始めると、次第に大西洋連邦の態度も内戦で儲けることを重視し始めるようになった。

 

「予定通りだ。東アジア共和国は空中分解寸前だ。これで後はカオシュン周辺の安定さえできれば問題ない」

「キラ参謀長。物資の受け取りのサインをお願いします」

「わかってるって。久しぶりだね、セシリア」

「お久しぶりです。私は今回派遣部隊の補給責任者になりました。どうかよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 キラはセシリアと挨拶を交わした後、必要な物資の目録を渡してそれが必要な理由を述べた。それを聞いたセシリアは「わかりました」と言って頷き、キラの仕事部屋を後にするのであった。

 

「それで大陸の様子はどうなの?」

「よくありません。一部の軍閥は我らに支援を求めてきてますが?」

「却下。我が軍に遠征して駐屯する余裕はない。当初の戦略通りこちらに手を出して来た勢力を撃退する」

 

 キラは参謀本部が決めた計画通り、カオシュン周辺の安定を優先させることにしていた。カオシュン襲撃を企む連中を一蹴して一気にこの地域を安定させる。それがプラント最高評議会が決定した東アジア共和国地域に対する方針だった。

 

「必要な準備が整い次第出撃する。無論連中もこちらを攻める準備を進めているだろうが、先手を打って敵遠征軍を拠点ごと破壊する」

「了解しました」

 

 キラの言葉にジークリンデは敬礼で応え、自らも出撃する為の準備を行うべく部屋を出て行くのであった。

 そして、数日後プラント軍はカオシュン攻撃を企む者達を撃破すべく、カオシュンから臨時編成されたヤマト隊(軍勢の数は1個師団相当)は出撃するのであった。

 

 

 

 プラントがカオシュン周辺の安定を目的とした、匪賊討伐を掲げて福建省に出撃したことは無論連合各国の耳に入ったが、各国は具体的な行動を起こさなかった。

 

「プラントは一時的に占領するだけで最終的には引き揚げるといっている。それならうるさく言う必要はないだろう」

 

 大西洋連邦のとある政府高官はそう言い、プラントが本格的に侵略行為をしない限りは傍観する立場を取った。ユーラシア連邦は内戦の影響が自勢力に飛び火しないように国境に軍隊を配備して睨みを利かせたが、積極的な行動を起こすことはなかった。

 一方東アジア共和国政府は反乱勢力の拠点になっているとはいえ、自国の領土が攻撃されることに対してプラントに抗議したが、プラントは「貴国がいつまでたっても反乱勢力を鎮圧できないのが悪い。それどころか我が国の権益まで狙っている不届きな賊を退治するだけだ」と正論で返して東アジア共和国の抗議を退けた。

 

「プラントは賊に対して断固とした対応を取る」

 

 プラントは賊退治という大義名分を掲げ賊の拠点となっている場所に向けて、容赦のない攻撃を開始すると宣言した。

 プラント軍は制空権と制海権を掌握後、容赦のない爆撃を加えて上陸地点の安全を確保した後、MS部隊を上陸させて軍閥の拠点に攻撃を開始した。

 

「連中の所持している兵器は時代遅れの物ばかりだぜ!」

 

 プラント将兵は敵のお粗末な兵器を見て若干呆れつつ、その的当てゲームのように敵機を次々と撃破していく。

 プラント軍は数と質で敵を圧倒して拠点を次々と制圧していき、勝利を確実にした。

 

「目的は達した。後は評議会の政治家に任せる」

 

 プラント軍は政治的成果が得られるまで治安維持を名目に一時駐屯し、周囲に睨みを利かせるのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、シンはいつもよりも気合いを入れてテストパイロットを務めていた。

 

「シンの奴。気合いが入っているな。何かあったのか?」

「さあ。でも、いいじゃないですか。気合いが入っているのなら。この調子なら正式なパイロットに採用されるのも近いですね」

「それは参謀本部が判断することだがな」

 

 シンが搭乗しているコアスプレンダーを見ながら、インパルス担当チームはそう呟く。

 今日のシン・アスカはいつもよりも気合いの入れ方が違ったので、何かいいことでもあったのかと思ったが、プライベートのことなので突っ込まないようにしていたのだ。

 

 コアスプレンダーで飛行しているシンは、マユと再会できたことでより一層軍務に励むことにした。マユへの説得は結局自分が説得される形になってしまったが、自分が頑張ればマユを危険な目に合わさずに済むと考えたからだ。  

 

(今度こそ大切な者を守って見せる!)

 

 シンは改めてそう心に誓い訓練に懸命に励むのであった。

 

 

 

 ラクスは父シーゲルに昨今のプラント情勢について話してもらっていた。

 ラクスは歌手活動をしながら政治家になるべく勉強をしており、ヴァルハラが密かに運営する政治塾に通っていた。その政治塾でラクスは優秀な成績を残しており、塾生の中でも特に注目されている人物の1人になっている。

 

「プラントの国内情勢はやはり大変いいのですね」

「ああ。地球圏から復興に必要な資材の受注が多数来ているからね。プラント理事国以外とは仲も悪くないしな」

 

 シーゲルが言った通り、プラントは今地球国家再建の為に必要な物の受注が多く舞い込んできており、プラント企業は好景気に沸いていた。

 

「だが、地球圏の情勢は不安定になる一方だ。ジャンク屋ギルドはジャンクが増えるから悪くないと考える者もいるようだがな」

「それはさすがに少し不謹慎ではないですか? ジャンク屋の方々が戦争をどう捉えているかわかる言葉ですわね」

「彼等も人だということだ。無論我らもな」

「わかっています。政治に必要なのは現実を見据えて行動することですから」

 

 元々聡明だった故に政治塾で勉強して政治が何たるかを学んだ彼女の言葉に、戦前は世間知らずな所もあったが今ではすっかり芯の強い人物に育ってくれたことに、シーゲルは内心では安堵しつつ思わず苦笑してしまう。

 

「それよりもカナーバ氏からお誘いはありましたか?」

「私を推薦する場合、ジャンク屋ギルドに配慮するような行動をやめることが最低条件らしい」

「カナーバ氏達は余程ジャンク屋がお嫌いなのですね」

「ジャンク屋ギルドを特に嫌悪しているキラ君がいるからね。彼からすればジャンク屋ギルドは、さっさと解散させるべき組織に過ぎないらしい」

 

 シーゲルも一度キラに会った色々話してみたが、彼のジャンク屋ギルド嫌いは相当な物であった。おまけに力づくで解散させる為に、軍を派遣すべきだという意見まで出る始末だった。

 シーゲルは説得を試みたが結局平行線で話し合いが終わり、ジャンク屋ギルドに関しては物凄く意見の相違があることだけが確認できただけだった。

 

「キラの意見を変えるのはどうやら無理そうですわね。見た感じは頑固そうに見えませんでしたが……」

「彼にも譲れない一線はあるのだろう。そこが私の意見と相容れないのだがな」

「それは仕方がありません。政治家には譲れない信念を持つことは大切ですから」

 

 ラクスはジャンク屋の件でキラがあまり譲歩していないことを知っていたが、この様子だと父が会合と呼ばれる話し合いに参加するのは当分無理だろうと思った。

 

「キラ達と分かり合う為には、話し合いの機会を持つことが大切です。少しずつやっていくしかありませんわ」

「そうだな」

 

 ラクスはキラ達と分かり合うには時間が掛かると思ったが、いずれ自分もキラと話し合いの機会を設けるべきだと考えるのであった。

 

 この日を境にキラとラクスの話し合いは増えることになるのだが、ジークリンデに変な勘違いをされてしまい、彼女を宥めるのにキラは後日苦労するのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

 キラとジークリンデは現地の治安回復を別の隊に引き継がせた後、カオシュンに一足早く帰還していた。

 

「あっさり終わりましたね」

「当然だよ。相手はMSを数十機しか持っていない賊だからね。後れを取ったら末代までの恥だよ」

「そうだな。それにしても参謀長はもう次の仕事ですか?」

「うん。新型の開発主導を行っている以上、長くプラントを留守にするわけにはいかないからね。現地での観光はお預けだよ」

 

 新型の開発は自分の主導の下に行われている。最高責任者兼技術者が遠くに出かけていてノータッチ状態が続くのはさすがにまずい。新型機開発の遅れは自分の責任になってしまうのだ。

 

 だから、キラは報告書を纏めたらカーペンタリアに戻ってすぐに帰国するつもりだ。

 

「私はしばらく参謀長の代理としてここにいる必要があります。ここでの仕事と引き継ぎが終わり次第自分も戻ります」

「悪いけど後は任せたよ。僕は今日中にカーペンタリアへ戻るから」

「わかりました。どうかお気をつけて」

 

 キラは後のことをジークリンデに任せて、報告書を出した後すぐにプラントへ舞い戻るのであった。

 

 

 

 

 プラントが匪賊&海賊討伐を掲げて、彼等が根城にしている拠点へと侵攻してあっという間に匪賊や海賊事粉砕したことは世界各国に伝わった。

 各国は「まあ、当然の結果だろう」という反応しか示さず、深く興味を持たなかった。たかが地方の田舎軍隊と統率に欠ける賊集団が、精強なプラント軍に勝てる理由等ないからだ。

 

「予想通りの結果だな。これで連中は己の身を守る為に軍事力増強へと走らざるを得ないだろう」

「ああ。プラントを失った我々の損害を少しでも補填する為にも彼の国には少々踊ってもらうしかないだろう」

「これで軍需兵器等の需要が見込めるな。さっそく旧式でもいいからMSを買いたいという注文が多数来ている」

「我が国はダガーLに主力を更新しつつあるから、廉価版のストライクダガーは売り払っても構わんだろう。在庫一掃セールが行えるな」

 

 連合各国の経済を裏で支配しながら、政治にも多大な影響を持っているロゴスのメンバーは、自分達の損失を補填する為に大陸の内乱を利用することを考えていた。

 何せプラントが独立しただけでなく、電力事情も完全に解決していないため、経済は悪化の一途を辿っており民需は落ち込む一方で回復する気配がない。

 

 だから、自分達は消耗せずに戦争特需で儲けることが可能な他国の内乱は、彼等にとって実においしいビジネスチャンスだった。

 

「政府は東アジア共和国への支援を検討しているそうだ。ここで地球連合が空中分解するのはまずいからな」

「東アジア共和国政府は未だに強いし、金もある。そこへ武器を売り込んで再び再統一させれば問題ないだろう」

「ああ。だが、すぐに終わっては意味がない。最低でも我らの利益が充分出るまでは内乱が続かなければいかん」

「プラントは既に敵と和平交渉を開始したらしい。いずれ、プラント軍はカオシュンへと引き上げるだろう」

「交渉内容はどうなっている?」

 

 ロゴスメンバーの1人が報告を上げてきた部下に尋ねる。

 部下は難しい顔をしながら口を開く。

 

「犯人の引き渡しと賠償金を支払うことを承知する可能性は高いかと思われます」

「あれと引き換えにか?」

「はい。カオシュンに拠点があるプラントとしては対岸に親プラント勢力がいる方が都合がいいでしょうし……」

「そうなるとユーラシア大陸東は我らとプラントの代理戦争の舞台になるかもしれんな。最もプラントもこの内乱が長く続くとは思っていないだろうがな」

「それはそうだろう。我らが東アジア共和国を本格的に支援すればプラントは傍観に徹するだろうな」

 

 プラントの将兵は強力だが数は多くない。プラントは今回の勢力圏拡大に合わせて戦力再編に取り組んでおり、本格的な介入はしてこないとロゴスのメンバーは見ていた。本格的な激突が避けられるのは連合としてもありがたかった。連合各国も自国の復興と戦力再編に忙しく、この時期に全面戦争等御免だったからだ。

 

「取り敢えずコープランドの奴に支援を本格化するように進言しておくか」

「うむ。我が国の為にも聡明な大統領は承知してくれるだろう」

 

 ロゴスメンバーの1人は皮肉を口にした。現大統領であるジョセフ・コープランドはロゴスと関わりの深い人間であり、実質彼等の傀儡ともいってもいい人物だからだ。大統領が彼等の要請を断ることなどできるわけがない。

 

「ここまで事態が深刻になってしまった以上は、精々我らの為に利用するということで異論はないな?」

「ああ」

「当然だ」

「問題ない」

「ないな」

 

 大西洋連邦を影で動かすロゴスもこの内戦を利用して、自分達の失った財の建て直しを図るのであった。

 

 

 

 オーブ連合首長国は自爆したマスドライバーやモルゲンレーテの再建を行いつつ、自国の建て直しに奔走していた。何せ一度大西洋連邦によって難癖をつけられて国を焼かれたのだ。その復興は容易ではなく、代表を務めるカガリは休暇を取る暇もなく仕事に打ち込んでいた。

  

 幸い復興資金の方は、いくつかのオーブの技術売却(流失した物を改めて正当に買い取った)で捻出した資金を元にして行っている。

 

「東アジア共和国で内戦か……我が国も復興を疎かにすれば起こる可能性があるから、注意しなければならないな」

 

 カガリはセイラン家の助力を得ながら、嘗てのオーブを復興するべく奮闘していた。

 国を守る為の新たなドクトリンの作成や、それを可能にするための新型MSや新技術開発を推進したり、旧式になってきた一部の兵器を他国に売却するなど色々と自助努力をしていた。

 

「プラントに多大な借りを作ってしまった以上連合各国と仲良くするのは難しい。オーブ国民も理不尽な理由で国を焼いた大西洋連邦と追随した各国を快く思っていないからな」

 

 カガリとしてはスカンジナビア以外の国との国交回復を実現したかったのだが、オーブがプラントの力で独立を回復したことでプラント寄りで思われていることと、オーブ国民の反連合感情から難しいと判断していた。

 

「早いとこ各国と正式に国交を回復しなければいけないが、慎重に行う必要があるな。やれやれ、そこまで辿り着くのに茨の道だな」

 

 オーブ代表として政治を行う者としてカガリの悩みは尽きないのであった。

 

 

 

 キラはプラントに帰還してすぐに参謀本部への報告を済ませ、その足でアーモリワンの工廠に赴いた。

 

「新型の開発はどうなっているの?」

「インパルスはテストパイロットの適正がいいのか、いいデータが集まっていますよ。そろそろ本格的な合体テストを行いたいと考えています」

「許可する。インパルスはセカンドシリーズの要だからね。何としてでも完成させないといけない。参謀本部もこの機体には期待しているからね」

 

 インパルスはセカンドシリーズ5機の中で中心となる機体だ。それ故に他の機体以上にインパルス開発の遅れは許されない。

 

「僕はセイバーの開発に戻るからインパルス開発は頼んだよ。また、様子を見に来るから」

「わかりました。そちらもどうかお願いします」

 

 キラはインパルス開発チームのリーダーにそう言った後、5機の中で唯一自らが深く関与している、セイバーの開発を行っている場所へと向かうのであった。

 

 

「キラ会長。おはようございます」

「うん。おはよう。それで開発の方はどうなっている?」

「会長のおかげで順調です。それで他4機の開発は順調ですか?」

「当然だよ。これだけ金をかけてできないなんて言わせるつもりはないからね」

 

 キラはそう言いながらセイバーを組み立てている工廠の様子を見る。

 

「セイバーはやはり他の4機より完成が遅れそうだね」

「設計を多少変更したからやむを得ないかと……。しかし、完成度はより高まりますので問題ないかと思います」

「本来のセイバーの主翼位置を変更したからね。そのせいでもう一回地球に降ろして大気圏飛行テストをやる羽目になったから仕方ないか」

 

 キラはセイバーの主翼位置をヴァンセイバーと同じにした。その他にもセンサーの改良やファトゥム形態展開可能にする等改良を加えている。

 

「キラ会長。セイバーのテストパイロットは決まったのですか? 未だにセイバーだけテストパイロットがいないのでは完成したとき他4機との連携訓練等が行えない気がするのですが?」

「この機体のテストパイロットは特務隊のアスラン・ザラに任せるつもりだよ」

「何と! しかし、彼にはジャスティスがあるのでは?」

 

 アスラン・ザラはプラント軍でも有名なエースパイロットだ。核動力機ジャスティスを乗機としていることも有名で、いくらセイバーが最新型とはいえ、核動力を持つジャスティスと比べるとセカンドステージMSでも若干性能的に劣る。彼程のパイロットならそのまま正式なパイロットに任命される可能性は高いが、ジャスティスから乗り換えてくれるとは研究者は思えなかったのだ。

 

「そこは問題ないよ。何せアスランの乗っていたジャスティスは修理も限界に近づいているからね。そろそろ解体する予定なんだ」

 

 アスランはジャスティスに乗って前大戦で大活躍したが、最後の決戦で機体が中破してしまった上、その活躍に比例して機体に大きな負担を齎していた。その結果、整備で機体の性能を維持するのに限界が近づいてきていた。

 そこでキラはアスランに近々開発されるセカンドステージMSのテストパイロットを要請し、そのまま正式なパイロットになってもらうつもりだと伝えており、アスランもジャスティスが近々解体されることがわかっていたので、キラの要請を了承した。

 

「それなら安心です。機体の完成を急がなければならない理由が増えました」

「その意気だよ。なるべく5機で試験運用を行いたいから完成を急いでね。僕はそろそろ参謀本部に戻るよ」

「了解しました」

 

 キラの言葉を聞いた研究者は、一層気合いを入れて開発に勤しむと言い放った。

 キラは研究チームがやる気を出してくれたことに満足気な表情して、開発チームに発破をかけたあと工廠から出て行くのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

評価がどんどん下がってきており、若干凹んでいます。作者のメンタルはガラス細工並みに弱いので……。


 プラントと現地勢力の間で和平交渉が行われていたが、遂に和平内容に双方が合意して和平が結ばれることになった。

 和平内容はプラントは賠償金を要求しない(商船などの被害は補償する)代わりに、賊を匿っていた件を謝罪して賊を厳重に取り締まることと、再び官民問わず被害が出た場合、すぐさま損害を補償して賊を引き渡すことなどが取り決められた。そして、和平が締結した翌日プラント軍は現地から、順次カオシュンに引き揚げていった。

 しかし、ここで予定外のことが発生した。プラントの賊討伐の動きが引き金となり、東アジア共和国の情勢が著しく悪化。正に混沌ともいってもいい状態になった。その結果東アジア共和国の権威は地に落ち、独自の道を模索する地域や国が現れる始末であり、彼の国の結束は時間が経つにつれ弱くなっていった。 

 

 

 

 地球圏が極東を中心に混乱が大きくなっている頃、プラントではキラとアウグスト、そしてカナーバの3人は国家戦略について話し合う為、会合でよく使用する料亭の一室に集まっていた。

 

「東アジア共和国の崩壊も時間の問題だな」

「ええ。これで各国が独立してくれれば御の字です。無論そうなるように色々と手を回す必要がありますが」

「地球連合の解体の第一歩だな。最初で躓くわけにはいかない。こっちも私が持つ独自の伝手を使って、接触を計っている。日本に至っては独自のMS開発を行っているらしい」

「さすがフジヤマ社を有する国だな。彼等と技術交流を行えばナチュラルを侮る輩も減るだろう」

 

 プラントのコーディネイターは元々存在していたナチュラル蔑視の感情に加えて、大戦に勝利したことでナチュラルを侮る風潮がプラント内で出始めていた。そこで、それを叩き潰すいい口実としてこちらの技術者と地球国家の民間企業との交流をアウグストは考えていた。

 

「それはいい考えだ。こちらからも呼びかけてみよう。他国を侮る風潮が国民に根付くのは好ましくないからな」

「あれだけ連合軍に苦戦したことを忘れて、その様な戯言を吐く輩がいるとは……本当に救いようがありませんね」

 

 カナーバはアウグストの提案に賛成する。

 キラはあの大戦は薄氷の勝利だったのに、現実を見ることもなく楽勝だったと思っているお花畑思考の連中に呆れてしまう。

 

(そんな連中に権力を持たせるわけにはいかない。今まで以上に監視を強める様に情報局と連携しなければいけないな)

 

 キラは監視と教育を強化する必要があると判断し、今度情報局と話し合いの場を持つことにした。

 

「技術交流についてはグラム社でも検討してみます。話を戻しますが日本はこちらに接近する動きがあります。大西洋連邦は連合に残るように説得しているみたいですが、アラスカの一件と今回の件で大西洋連邦が各国を統制できていないことが晒されたので、両国ともあまり聞く耳を持っていないそうです」

「信用できない国家と同盟は組めないからな。特に日本は一度大西洋連邦の中心となっているアメリカに見捨てられている」

「はい。2ヶ国をプラント依りにするには、我らが信用できるということを証明する必要があります。特に日本は信義を重視する国なので付き合いには最適ですが、こちらも誠意を見せる必要があるでしょう」

 

 キラはいざとなればNJCを重要な部分をブラックボックス化した物を、提供する必要があるだろうと考えていた。地球国家の悩みはNジャマーによる電力不足。NJC提供を親プラント国になった暁に提供すればこちらの印象もよくなる。

 

「国家間の交渉は政府の仕事なので、カナーバ議長にお願いすることになりますがいいでしょうか?」

「わかった。プラントの国際的孤立を避けることは必要だと私も考えているからな。しかし、もう少し私達の負担を減らしてほしいのだが?」

「苦労をかけてすみません。しかし、信用と信頼両方兼ね備えている政治家はカナーバ議長とアウグスト国防委員長しかいませんから。他の政治家はコーディネイターの能力を過信する連中が多いので、今一舵取りを任せるのが不安なんですよ」

 

 キラはそう言って二人に頭を下げつつ、2人に頑張ってくださいと激励の言葉を贈る。2人はキラのお願いに何ともいえない顔になったが、彼の言うことは尤もなので頷いた。

 

「せめてヴァルハラが運営する政治塾で育った政治家が表舞台に立てば少しは楽になるですが……」

「まだ、未熟な者は多い。最低でもあと1年は学ばせる必要があるだろう」

「政治塾といえばシーゲル元議長の娘さんも通っていましたな」

「はい。どうやら歌手活動はそこそこに政治の勉強を真剣にやっているようです。門下生の中でも特に成績優秀です」

 

 キラはラクスが自分の政治塾に参加していることを知った時は驚いた。最初は自分達のことを探りに来たのかと疑ったが、調査してみるとどうやら純粋に政治を学びに来ただけだった。それ故に彼女が学ぶ意志がある以上拒否することもできずにそのまま塾に通わしていた。

 

「彼女のカリスマ性に政治力が加わればやっかいですが、この政治塾はヴァルハラメンバーを増やすことも兼ねています。うまく彼女を取り込んで手綱を握ればこちらの有力なメンバーにすることも可能です」

「ふむ。そうなればシーゲル前議長の動きを掴みやすくなるし、クライン派をうまくコントロールできるようになるかもしれん。揉め事は少ないことに越したことはありませんからな……」

 

 キラは多少の監視は必要かもしれないと内心では思っていたが、ラクスをメンバーに加えることも検討すべきと2人に提案し、アウグストはそれを聞いて彼女がこちらのメンバーになるのなら悪くないと考え始める。何せ面倒事が少なくなることはいいことだからだ。

 

(彼女をうまく利用できれば大衆コントロールがしやすくなるしね……)

 

 それに彼女のカリスマ性をうまく利用できれば、世論操作がしやすくなるかもしれないとキラは考えた。原作での影響力を考慮すると悪戯に敵に回すことはないのだ。ちなみにラクスの成績は上位5人に入るほど優秀だったので、キラは「原作キャラ恐るべし」という感想を改めて抱いていた。

 

「連合国家は自国の再建と戦力再編を急いでいますが、民衆の不満を解消するほどには至っていません。一部の国家では責任を我が国に擦り付けることで不満を宥めていますが、それも限界に近づいてきています」

 

 連合構成国家の政府上層部はプラントがやったことを利用して何とか民衆の不満を宥めていたが、一向によくならない生活環境に民衆は苛立ちと不満を募らせていた。連合国の政治家の中には自分の失態までも、プラントのせいだと責任転嫁する者までいるが、その様な政治家は寧ろ国民から白い目で見られている。

 大西洋連邦は何とか国民の不満を政府から逸らすべく、ブルーコスモス思想を利用しようと考えたが、そのブルーコスモスが盟主であるアズラエルの消滅により、組織の再建に忙しくその様な行動を起こす余裕がない状態だった。

 

「ブルーコスモス思想を煽ったら我が国から物資を購入しにくくなるのがわからんのか?」

「一部の政治家にとって国民の生活よりも自分の地位のが重要なのでしょう。尤もブルーコスモスは現在組織の再建に忙しくて民衆を扇動するような行動は慎んでいるようです」

「ブルーコスモスの新盟主は誰がなったのだ?」

「ロード・ジブリールというアズラエル以上に過激な意見を言う人物がなったそうです。最も財力や手腕はアズラエルより遥かに劣る人物だそうです」

 

 キラは原作でのジブリールの行いを思い出しながら、彼の人物をカナーバやアウグストに説明する。

 2人はその説明を聞いて深く考え込んだ後、自分の考えを述べるべく口を開く。

 

「その様な者がブルーコスモスのトップになったのは厄介だな。万が一評議員が彼の情報を知れば、連合討つべしという機運が広まるかもしれん」

「これは思ったより再戦が早くなるかもしれませんね。キラ参謀長。セカンドステージの完成を急いでくれ」

「わかりました。すでに機体は組み上がっています。現在テストパイロットが運転して欠陥や問題がないか随時チェックしています」

 

 セカンドステージMSはセイバーを除いてすでに完成しており、現在は試運転を行っている最中だった。

 

「セカンドステージを運用する為のミネルバ級戦艦ミネルバはどうなっている?」

「すでに8割程完成しています。武装のほとんどはアーテナー級と規格統一を行っているので問題はありません。陽電子砲に関しては地球圏で放っても環境に悪影響を与えない改良型を積んでいますので、地球圏でも充分な火力を発揮することができます」

 

 ミネルバはアーテナー級巡洋戦艦で有用と判断された武装が多数搭載されていた。陽電子砲に至っては環境に悪影響が出ないように改良を施した物を搭載することで、地球圏での運用も視野に入れている代物であり、現在は量産型の艦に搭載すべくコスト削減を目指して改良中である。

 

「アーテナー級巡洋戦艦のコスト削減はうまくいったのか?」

「こちらも武装を減らして防御力を上げることでうまく量産に適した艦に仕上がりそうです。今はMSの生産を優先していますが、こちらも量産体制が整い次第量産を開始する予定です」

 

 アーテナー級巡洋戦艦は万能艦を目指して建造されたので当初は製造コストが高く、少数しか建造されなかったが、グラム社はこの艦を次期プラント軍の主力艦にするべくコスト削減と改良に励んでいた。その努力が実り、ナスカ級と同程度の値段まで下げることに成功し、性能は軒並み向上させることに成功した。試験運用も良好な結果を残していたので建造が始まっていた。

 

「新兵器の製造は順調です。それで戦力再編の方はどうなっています?」

「すでに全体で70%程終わっている。最前線を戦う部隊の旧式MSを徐々にニューミレニアムシリーズに変えている最中だ。地球圏の戦力再編はほぼ終わっているから地球で活動するのに問題はない」

「そうか。それを聞いて政治を担当する者としては一安心だ。これで突発的な出来事に対処しやすくなった」

「宇宙は我らの庭だから旧式でも対処できますしね」

 

 カナーバはアウグストの言葉を聞いて安堵し、キラも地上軍の再編が思ったより進んでいることにほっとした。

 プラントは次の戦場が地球圏と想定しており、地上に駐屯する戦力を整えることを優先していた。

 アウグストもそれは理解しており、宇宙軍を後回しにしてでも地上の戦力再編をしていた。無論宇宙軍の方も疎かにしていないが。

 

「そろそろ料亭が閉まる時間になります。この辺でお開きにしましょうか」

「そうだな。今回は色々と意見交換ができた。本格的な議論は会合で話し合うことにしよう」

「それがよろしいかと。プラントは独裁国家ではあってはならないのですから」

 

 3人は物事を数人で決める体制がよくないことを理解していた。あくまで多くの者達の賛成を得て政策を進めることが、プラントの未来に取っていい結果を生むと思っている。最も世論に振り回されて衆愚政治にならないように匙加減が必要だということもわかっていた。

 

「より善い未来の為にお互い頑張りましょう」

 

 キラのその言葉で今日の話し合いは深夜まで行われることになった。

 

 

 

 

 

「お父様。前から聞きたかったのですが、なぜお父様はカナーバ議長やキラが入っている政治組織に入りたがるのですか?」

 

 そのころキラ達の話し合いの話題に出されたラクスは、父親であるシーゲルと話をしていた。ラクスは自分が前々から疑問に思っていたことを尋ねることにした。

 

「お父様はそれほど権力に執着する方ではないことは私が知っています。プラントも無事に独立した以上中央権力に固執する必要はないかと思われるのですが?」

「私も最初はそう思った。プラントは独立した以上私が政治中央に返り咲く利点はあまりない。寧ろカナーバからは戻らない方がいいと苦言をもらったほどだ」

 

 シーゲルはカナーバが自分に対して、政治中央に戻らない方がいいと言われた理由を薄々感づいていた。だから、当初はこのまま評議員を続けるが、再び中心になることは考えていなかった。

 

「最近彼女たちはザフトを軽視して自分達の組織だけで政治を動かしている。それが国益に適っている以上はうるさく言うつもりはない。だが、このまま彼らに反対する者がいなければ、いずれ取り返しのつかないことになると思うのだ」

 

 シーゲルがヴァルハラに入りプラント政治の奥深くに再び関わることを決意した訳。それはヴァルハラがこのまま権力を独占した結果、政治が腐敗してプラントが危うい状態になるのではないかと考えたのだ。

 

「彼らのやっていることは賢人政治だ。だが、賢人といえど反対する者がいなければ腐敗するしかない。だから、私は当初はこのままで政治参加を望んだが、カナーバに断られてしまった。無論入れなかった理由もわかっている。だから、私は方針を変え彼らの組織に入って上で、時には彼らの政策に反対意見を言える立場になろうとしたのだ」

 

 シーゲルはカナーバ達が作った組織が腐らないように、組織に入って憎まれ役を買って出るつもりでいた。しかし、その目論見は彼を警戒しているキラにより頓挫しており、シーゲルのヴァルハラ入りはほぼ不可能だった。

 

「そうでしたか……。それでは私を彼らの運営する政治塾に入れたのはもしかして?」

「ああ。あそこは彼らの組織の一員になるための資格検査も兼ねている。そこで注目されれば組織に入ることが可能だ」

 

 ラクスのカリスマ性は父親であるシーゲルから見てもかなりのものだ。ラクスがうまく組織に入ればその力で一定の派閥を形成できるだろう。無論足の引っ張り合いは論外だが、そこらへんは娘も政治塾に入っているせいか充分理解できるようになってきているので問題ない。寧ろ彼女が優れていれば優れているほど、現実主義者が多い組織では重宝されるだろう。

 

「お父様。御心配は無用ですわ。キラはいい人ですし、私が行き過ぎたことをしない限りは排除等しないと断言できます。それに彼らもイエスマンばかりが増えることに憂慮しています」

「そうか。お前の成績はいいからな。彼も気になったのだろう」

 

 ラクスはそう言って父を安心させるべく言葉をかける。

 シーゲルはラクスの言葉を聞いて、娘がヴァルハラに入る日は近いと確信した。

 

「私もプラントの未来を守るために頑張るつもりです。その為にもキラに気に入られなければいけませんわね」

「私的に気に入られるのはあの法案が通ってからにしてくれ。最近彼から苦情をもらってしまったからな」

「わかりました。以後気を付けます」

 

 シーゲルの苦言に対してラクスは微笑みを浮かべながら頷いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

続編は最初スパロボZを検討していましたが、プロット作成がうまくいかない上に、また、投稿できなくなる可能性があるのでは? という御意見があったので、目下どうすべきか考え中です。

この作品のキラを主人公として建国系技術チート二次創作を考えているので、そっちを優先すべきかな……。ちなみに投稿するとしたら別作品枠になりますので、正式な続編扱いはしません。あくまでif続編にすることを考えています。


 東アジア共和国で政治的に大きな動きがあった。

 日本と、とある国家が独立を宣言したのである。彼等はこれ以上東アジア共和国を維持することは不可能と悟り、プラントの内々の誘いもあったので、新たな極東の枠組みを作るべく独立を宣言し互いを助け合う同盟を締結。更に連合離脱を宣言し親プラントに舵を切ることで、修復が終わったカオシュンのマスドライバーを少し安く使わせてもらえることになっている。こうして、プラントや宇宙での交易で経済を活性化することに成功するのだった。

 

「連合はもう頼りにならん。自分の身は自分で守る」

 

 某国のとある政治家はそう発言して自国の防衛力強化に努めていた。日本は民間企業であるフジヤマ社を中心としたMS開発計画を推進し、プラントとも技術交流を行うことを検討し始めた。とある国はプラントから性能をグレートダウンした旧式MSを安値で供与してもらうことで防衛力を強化している。

 

 無論連合の親玉ともいえる大西洋連邦やNo.2のユーラシア連邦はこの行動に驚き、連合に戻るよう軍による恫喝を含めて説得工作を開始した。そして、表向きは離脱は無効であり了承しないことを発表する。

 

「東アジア共和国の結束がここまで脆いとは思わなかった……」

「まずい事態になりましたな……」

 

 大西洋連邦では無論この事態にどう対応するべきか話し合う為、政府上層部の人間が大統領府に集まっていたが、具体的な対策案を思いつく者は少なかった。

 

「このまま東アジア共和国分解を傍観するのは下策です。早々に手を打つ必要があります」

「しかし、大戦から1年が経ったが未だに戦力再編は終わっていない。それに経済もようやく回復してきたところだ。ここで戦端を開くような行為はすべきではない」

「私もその意見に賛成です。現在政府に臨時国債を発行する余裕はありません。万が一戦争になった場合我が国はたちまち財政難に陥ります」

 

 大西洋連邦はNo.1の国力を持っているとはいえ、プラントとの戦う場合一勢力だけでことを構えるのは得策ではない。だから、戦後も連合の枠組みを維持すべく大西洋連邦は色々と外交工作を行ってきた。東アジア共和国が脱落しないように彼等の政敵を買収したり、各地の有力者が勝手に自滅するように仕向けたり等努力してきた。

 しかし、東アジア共和国から始まった動乱は遂に東アジア共和国の崩壊と、連合の一角の脱落という大西洋連邦にとって最悪のシナリオを現実のものとしてしまった。

 

「確かに我らは経済を再生させる為に東アジア共和国政府を支援してきた。だが、それでも匙加減を間違わぬようにしてきたのだ。我らは東アジア共和国の崩壊は望んでいない」

 

 それが大西洋連邦で政治に関わる者達の大半の思いであったが、最早ここまで事態が進んだ以上東アジア共和国の存続は諦めるしか方法がない。

 そして、東アジア共和国政府の存続が無理になった以上、次の策を打つ必要があるので彼等は積極的意見を交わし始める。

 

「こうなれば崩壊と分裂を徹底的に利用するしかありません。離脱しようとしている国には、引き続き連合に留まるように説得するしかありません」

「しかし、2ヶ国が素直に頷くか? 特に我らは日本を同盟国でありながら過去に一度見捨てている。その時の彼等の恨みは相当な物だぞ? 我らの言葉に耳を貸さない可能性が高い」

 

 地球連合崩壊を防ぐ為には連合の枠組みから離脱しようとしている国や地域を、何とか連合に残らせる必要があるとある政治家は言ったが、一部の政治家からそれは難しいのではないかという疑問が出る。

 特に過去強い同盟を結んでおきながら、諸々の事情で見捨てることになってしまった日本は、大西洋連邦を今でも心の中で裏切り者と罵っていることは、少し政治に明るい者なら誰でも知っている事実だ。万が一プラントが正式に日本を本格的に支援すると発表した場合、日本の親プラント国化は避けられないだろうとこの場の誰もが思っていた。

 

 しかし、だからといってこのまま2ヶ国が連合を離脱するのを、何もせずに手を拱いて見ているのはよくないことなので何とかすべく知恵を絞る。

 

「我が国がプラントよりも旨みのある支援を実施するしか方法がありません。武力で脅すのも悪くありませんが、その場合最悪2ヶ国はプラントに軍事支援を要請する可能性があります。それだけは避けるべきでしょう」

「ユーラシア連邦にも圧力を加えてもらうのは? 彼等も東アジア共和国の連合離脱は望んでいませんし」

「だめだ。ユーラシア連邦も内部で意見の対立が増えているし、国内の統制で精一杯だ。介入する余裕はないだろう」

「軍事力に頼るのは反対です。国民も今は戦争を望んでいません。下手をすれば国内で反政府デモが起こります」

「現状我が国に太平洋を渡って戦争をする余裕はないからな……。やはり、軍事的オプションは奥の手にするしかないということか……」

 

 コープランド大統領はこのような緊急事態に対して、自国が取れる選択肢が少ないことに思わず溜息をつきそうになる。取れる選択肢が少ないということはそれだけ国家に余裕がなく、自国を取り巻く環境がよくないことを示しているからだ。

 

「一先ず独立しても引き続き連合に留まるように説得を続けてくれ。連合に留まってくれさえすれば我が国は独立を承認してもいいと伝えても構わん。今は動く時期ではないからな」

 

 ロゴスの方々も今は内戦で儲ける為に、あまり極東を不安定にするなと伝言を頂いている。コープランドは、連合の安定を重視すべく穏健な方法で事態を収束するように指示するのであった。

 

 

 

 プラントL5アーモリワン。

 この軍事コロニーで開発中のセカンドステージ5機の内4機が完成して、テストパイロットによる運用が始まっていた。

 キラは参謀本部からこちらに本格的に赴いて、セカンドステージの機体を完成させるべく試験運用に立ち会っていた。

 

「インパルスの完成度は想像以上だな。最初は分離・合体システムなんぞ必要ないと思っていたが、MSが進めないデブリ地帯を進めるのは実際見るとなかなか役に立つな。奇襲とかに使えそうだ」

「テストパイロットの腕も想像以上に素晴らしいです。どうやらインパルスに適正があるようです」

「ふむ。このまま正式なパイロットとして採用するか。この運用結果を見る限り彼以上にうまく扱える人物はいなさそうだしな」

 

 キラはインパルスの試験運用のデータを見て、これなら正式なパイロットに推薦・決定しても問題ないと結論した。

 

「アビスの水中運用、変形機構・火器共に異常なし。カオスとガイアも火器・変形機構に異常なしか……」

「インパルスの各シルエットも特に問題ありません。懸念されていたフォースシルエットの火力増強による機動性の低下も例の新型合金を採用することで解決しました」

「そうか。これでセイバーが完成すればセカンドステージ全機で試験運用が行えるな」

 

 セイバーの開発は原作と同じように他の4機よりも遅れていた。しかし、5機の中で一番完成度が高いといわれているセイバーは、参謀本部でもインパルスの次に注目のMSであった。

 

「ニューミレニアムシリーズの量産は順調ですか?」

「一応ね。でも、装甲素材に使う新型合金を一定の品質で量産するのに手間が掛かっているから、生産数は今の所多くない。ウィザードシステムにも使う必要があるから、生産数が追いついてないし」

 

 ルナ・チタニュウム合金を量産する体制を整えるにかなり金がかかった。そのおかげでザクの価格を下げるのに社内でかなり反対が出たが、経営者権限と必ず利益が生まれるようにすると重役達に約束することで、何とか量産機として適正値段に収めることができた。その代わり、社内でディンに代わる新たな空戦MSバビの開発と採用を約束させられる羽目になったが。

 

(バビなんて必要ないだろうが……爆撃なら爆撃機を製造した方が安上がりだろうに……)

 

 バビのカタログスペックを見た時のことを思い出したのか、キラは思わず愚痴を言いそうになった。

 キラの権限と力を持ってしてもプラントに蔓延するMS偏重主義を簡単に取り除くことができず、未だにプラント内ではMS偏重主義者が多くいた。その者達を一人一人説得することで何とかこの考えを取り除こうと試みているが、今の所大した成果は上がっていない。

 

「ザクウォーリアとザクファントムに装着するウィザードもいい成果を出しているからね。量産機の方は目処がついたよ。最も開発チームの連中はグフの開発に取り掛かっているけどね」

 

 次世代MSのコンペでザクに敗れたグフであったが、そのザクを上回る性能に加え、標準で大気圏内飛行ができるようになっている設計は、地球圏を次の戦いの舞台と考えている軍人達の目に止まり、彼等の働きかけにより予算が下りることになった。完成と量産は1年後を目標に掲げており、開発を任されたチームは研究所で精力的に動き回っている。

 

「取り敢えず国民に発表するまでに完全に仕上げてね。上はお披露目式典をやりたがっているから」

「全力を尽くします」

「頼んだよ」

 

 キラは開発チームのリーダーにそんなやり取りをしながら、映像に映し出されている新型機の試験運用を見学するのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

このままでは、種運命キャラの出番がなくなるな……。特に連合勢力のキャラが特に……。戦後編はあくまで種と種運命の間の2年間の物語と位置付けていますので……。尤も種運命編をやれる可能性はほぼないですが……。


 東アジア共和国のとある2ヶ国が、東アジア共和国の枠組みの離脱を宣言・実行したのに対して、東アジア共和国政府はそれを認めないと発表する。尤もそれを止める力は東アジア共和国政府にないので、法的拘束力等ないも同然だった。

 

 そして、ここまではキラ達の予想通りであったが、それを上回る事態がユーラシア西側で起こった。

 

「我らはユーラシア連邦を離脱して新たな勢力を結成することを宣言する!」

 

 ユーラシア西側の西欧諸国が中心となって結成されたヨーロッパ連邦の、初代代表が高らかに独立宣言を行った。これによりユーラシア連邦は半ば形骸化してしまい、ユーラシア連邦に残った有力諸国は加盟している国家を繋ぎ止めるべく色々な手を打つのだが、まったく効果がなく逆にヨーロッパ連邦加入を目論む国家まで現れる始末だった。

 

 無論ユーラシア連邦の急激な崩壊に対応するべく、キラ達は緊急の会合を開く。

 

「こちらの目論見通りになりましたが、些か崩壊が早すぎる」

「ヨーロッパ連邦はこちらに支援を求めてきている。どうやら大西洋連邦を追い出すつもりのようだ」

「極東の地域の新たな枠組みはすでにできているが、そっちに支援の約束をした以上ユーラシア西側は後回しにするしかないのでは?」

「しかし、ユーラシア西側には我らのジブラルタル基地がある。我らが見て見ぬ振りをするわけにはいかん」

 

 出席者達の大半は連合崩壊が進む各国の独立は歓迎するべきことだが、もう少し時期を選んでほしかったというのが彼らの本音だった。

 

「ここまで事態が進んでしまった以上は止む負えません。折角の好機を逃すわけにはいかないので、このままヨーロッパ連邦を承認しましょう。軍の派遣も行う必要があるでしょう。ヨーロッパ連邦は親プラント国の方針を打ち出していますし、見捨てれば大西洋連邦に彼等を再び靡かせてしまいます」

「大西洋連邦が軍を派遣する可能性はないのか? 正直軍の派遣まではやり過ぎなのではないか?」

 

 出席者の1人がキラの意見に疑問を抱いたのか、キラの方に顔を向けて質問をする。

 キラは出席者達が抱いている疑問に答えるべく口を開く。

 

「大西洋連邦も恐らく本格的な派遣はしないかと思います。南アメリカで今回の件に触発されたのか、独立運動が起きています。大西洋連邦はそれに睨みを利かせる為に大規模な軍隊を送り込むそうです」

「ヨーロッパまで本格的に手を回す余裕はないということか……。だから、ヨーロッパ連邦の各国はこの時期に連合離脱を決めたというわけか……」

「恐らくそうでしょう。幸い極東は今ある戦力で充分対応ができます。こちらの戦力再編も順調ですので、大規模な派遣をしない限りは問題ないかと思います。しかし、こちらもあまり余力がないのは事実なので、念の為にあれの準備をしておきますね。戦線を拡大するのは正直こっちとしても困りますし」

 

 キラの言葉に幾人かは渋い顔をしながら頷く。いくら戦力再編が大分進んだとしても、完全ではない上にヨーロッパ連邦諸国が安心できる戦力を派遣するのは、現在のプラントではそれなりの負担になってしまうのだ。

 

「殊ここに至れば連合分解を一気に進めてしまうのもやむを得ないでしょう。この機を逃して時間をかければ大西洋連邦が介入してくる恐れがあります」

「そうなればプラントの負担は更に増すか……参謀本部はその意見に賛成する」

「アウグスト殿。よろしいのですか?」

 

 今回の件は介入することに一番難色を示すと考えていた軍代表のアウグストが、この意見に賛成へ回ったことに疑問を思ったメンバーが尋ねる。

 

「現在の軍事力で大西洋連邦と全面衝突は参謀本部としては避けたい。しかし、大西洋連邦の軍再編は我が国より早い。現状で激突すれば初戦は勝利できても我が軍は後が続かない可能性がある」

 

 アウグストの言う通り、大西洋連邦の戦力再編のスピードはプラントの比ではない。国力の差はいかせん埋めがたい差として存在しており、プラントの国防を担う立場として、大西洋連邦の本格的介入は避けたいというのが本音である。しかし戦争を望む相手がいる以上、希望的観測は禁物である。万が一に備えて全面衝突する可能性も考慮する必要があるのだ。

 

「大西洋連邦も戦力の再編中な上に国内の統制と南アメリカで不穏な動きが見える以上、大軍で大西洋を渡って介入する無茶はしてこないでしょうが、これも予測に過ぎないので最悪の場合に備えて準備をしています」

「今しか好機はないということか……わかった私も賛成する」

 

 カナーバがキラの意見に賛成したことで、政治家達が賛成に回ったことでこの策で行くことで決定した。

 

「派遣する戦力は核動力機を中心とした精鋭にした方がいいでしょう。この部隊なら万が一連合の一部と戦闘になっても多少の数の差は覆すことができます」

「確かに派遣できる戦力には限りがある。それなら質を強くした方がいいだろう」

「それに数が少なければ無用な警戒心を抱かられずに済みますしね」

 

 この後派遣する軍の具体的な規模を検討して、それが了承させるのを確認して話し合いは終了し、会合に集まった出席者の面々は豪華な食事を堪能した後、それぞれの帰路につくのあった。

 

 

 

 

「それで遅くなったということか」

「御免。これは大事な付き合いだから断れないし……。今日は遅くなるからって伝えたはずだけど……」

 

 キラは自宅に帰ってきて扉を開けたらジークリンデが仁王立ちしており、彼女が遅くなった理由を訊ねてきたので、職場の付き合いで食事をしていたと言った。

 

「それはわかっている。だが、帰ってくるのが遅すぎだ。今何時だと思っている? 夜中の1時だぞ?」

「明日は休み何だし遅くなっても問題ないと思うんだけど?」

「知っている。だが、帰りを待っていた私の気持ちになってみろ。退屈で仕方がなかったのだぞ?」

 

 ジークリンデはぷんぷんと怒りながら、キラに文句を言いながら彼に近づく。

 彼女は自宅とあってYシャツ一枚だけというラフな格好をしており、重力に逆らっているとしか思えない巨乳を前に突き出しながら近づいて来た。

 

「ジーク少し寛ぎ過ぎじゃないかな? 他人に見られたらどう言い訳するの?」

「お前を誘惑する為に態々このような格好をしたのだぞ? 疲れてそのまま眠ってもらったら困るからな」

 

 ジークリンデは色っぽい目付きでキラを見ながら言った。

 キラはそれを聞いて顔を微妙に引きつらせる。

 

「今日はもう疲れたから寝たいのだけれど?」

「問題ないだろう。どうせやり始めたら私が疲れ果てる程激しいくせに」

「……」

 

 ジークリンデの言葉にキラは言い返せなかった。

 

「それに最近ラクスと仲がいいそうじゃないか。あいつにだけは負けたくないのでな」

 

 ジークリンデとラクスはかつて同じ学校に通っていた同級生だった。

 2人は共に良家のお嬢様であり片やプラントで超人気の歌姫、片やプラント一の名家出身でそのスタイルとルックスからモデルとして過去に活躍していたせいか、二人は何かと周囲から比べられていた。それが彼女がラクスを何かとライバル視する理由の一つだった。

 そのせいで公に見せることはないが名家のお嬢様らしくプライドが高い彼女は、内心かなりのライバル心を抱いており、彼女に負けたくないと思っていた。

 

 ジークリンデがジト目で自分を疑いの眼差しで見ていることに気付いたキラは、慌てて彼女に対して釈明する。

 

「君が思っている話はしてないよ。この前もそう言ったじゃないか」

「どうかな? ラクスは私と同じくらい美人だからな。男は例え意中の女がいても、タイプの違う好みの女性を前にすると気にせずにはいられないからな」

 

 ジークリンデの言葉を聞いてキラは相当機嫌を損ねていることに気が付いた。最近2人共忙しくて2人だけの時間を取れなかった反動なのか、彼女はかなりご立腹らしい。

 

 キラは溜息をついたあと、ジークリンデに近づいて彼女の唇をいきなり奪う。

 

「んっ!? ぷはっ! キラいきなり何をする!? 不意打ちはずるいぞ!」

「ごめんね。どうやら寂しい思いをさせていたみたいだね。本当にごめん」

「わ、わかったならそれでいい……。婚約者を満足させる為に今日の夜と明日の休日はとことん付き合ってもらうぞ」

「そうだね。じゃあ、シャワーを浴びてくるから少し待っててね」

「なるべく丁寧に洗ってくるのだぞ」

 

 キラはそう言ってもう一度ジークリンデにキスをした後、汗を流すべく風呂場に向かうのであった。ちなみにこの後2人の行為はジークリンデ曰く「私がギブアップしてしまうほどだった」と言い、とてもすごかったらしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

 東アジア共和国を端に発生した地球圏勢力再編の動きはユーラシア連邦の分裂により決定的となり、地球連合はプラントと大戦を行っていた時よりも大幅に弱体化した。

 

 新たに成立したヨーロッパ連邦は親プラント国の立場を取ることを明確にして、連合離脱を宣言しプラントに支援を求めた。

 極東の方でも日本と台湾が同盟を結び親プラント国の立場を取り始めたので、この動きに大西洋連邦は何とか両者を連合に取り込むべく様々な手を打ったが、大西洋連邦そのものが南アメリカの統制に忙殺されており、有効な手が打てないでいた。

 

「これで連合の崩壊は確実になった……」

「何ということだ……この行動がプラントの思惑通りだとわからんのか!?」

「やはり、恨みを買い過ぎたか」

「今更やってしまったことを悔いても仕方がない。今はどうやって各国をプラントに靡かせないかを考えるべきだ」

 

 大西洋連邦政府上層部の人間達はそう言いながら、具体的にどうするかを必死で考えていた。しかし、考えれば考えるほど打つ手がないことがわかるだけだった。

 

「こうなれば最後の手段だ。軍を派遣するしかあるまい。幸い南米はゲリラの狩り出しが功を成して安定してきているから、背後を突かれる心配はない」

「それしかないか……。問題は国民の理解が得られるかどうかだ。相変わらず国民は改善しない生活状況に苛立っている」

 

 軍を派遣するとなればそれ相応の大義名分がいるうえ、金も掛かるので国民の理解は必要である。しかし、現状ではそれは非常に難しかった。国民は相変わらず電力不足に苛立っており、国民生活はお世辞にもいいとはいえない。そんな状況で軍を派遣すれば国民の不満が爆発する可能性があるので、軍をヨーロッパに送り込むことはできるだけしたくないというのが本音だ。

 

「大義名分の方は連合の友邦であるユーラシア連邦を救う為と宣伝するしかないな」

「それだけで国民が賛成するでしょうか?」

「仕方ないだろう。そこは情報操作で乗り切るしかない。このまま連合が弱体化すればプラントの思う壺だ。それだけは何としてでも避けなければならん」

 

 このまま連合が解体してしまえばプラントが喜び、大西洋連邦にとっては想定していた中でも最悪の展開になる可能性が高い。大西洋連邦の政府高官達にとってプラントの属国になるなど悪夢でしかないのだ。

 

「大西洋連邦大統領の名において軍の派遣を決定する。目的は我らが友邦ユーラシア連邦をヨーロッパ連邦と名乗る賊やプラントから守ることだ」

「わかりました。早速準備に取り掛かります」

 

 世界一の軍事大国である大西洋連邦は友邦であるユーラシア連邦を救うべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 大西洋連邦の政府高官達が顔を顰めている一方、プラントで行われているヴァルハラの会合で連合の解体がほぼ確定したことを聞いて祝宴を開いていた。

 

「最早大西洋連邦が軍を派遣しようともこの動きを止めることはできません。しかし、仮に力で抑えつけようとするのならそれこそ連合の解体を加速させるいい機会だろう」

「ああ。ここは寧ろ飴で宥めるべきだろうが、大西洋連邦にその余裕はないから鞭の一択しかない。だが、それこそ我らの狙い通りだ」

「ヨーロッパ諸国の自由を奪いにくる大西洋連邦を撃退できればプラントのイメージアップにつながる。そこへ更に支援をしてあげれば反プラント感情を宥めることができるだろう」

 

 出席者たちは自分達の考えた策通りに事が動いていることに内心ほっとする。

 何せ連合の解体は組織の戦略の大黒柱。これが成功しないと戦略そのものを大幅に見直さなければならない状況に陥る。

 

「ジブラルタル基地に支援要請が来ています。ここは核動力機5機ありますから、彼らにも出動してもらいます。おそらく大西洋連邦は大軍を派遣できないでしょうから、こちらも増援は多く派遣する必要はないだろう」

「参謀総長はどのくらいの規模を派遣することを考えている?」

「核動力機があるのならそれほど数はいらないでしょう。しかし、見捨てたと思われない程度の規模を派遣する必要はある以上、こちらも精鋭を派遣したいと思っております」

 

 あまり派遣数が少ないと捨て駒扱いしていると世論に見られかねないので、派遣する軍の数はそれなりの規模が必要になる。それにこの派遣軍と戦うことで再編されたプラント軍が、再編された大西洋連邦軍相手にどこまで戦えるか実戦で確認したいとアウグストは考えていた。

 

「参謀本部としては最近完成した水陸両用MS工作艦オプスを旗艦として派遣したい。あれが後方にあれば修理や整備が円滑に行うことができます。何せヨーロッパ連邦の戦力は連合と同じダガーLとストライクダガーですから、彼の国の工廠などでは修理できませんし」

「最新鋭艦の派遣か……軍が派遣する必要と判断したのなら評議会としては異存はないが、少し大盤振る舞いが過ぎないか?」

 

 カナーバは基本的に軍事関係のことは参謀本部に任せていたが、自分が軍のトップであることは忘れていないので、いくら友邦となりえるヨーロッパ連邦を助ける為とはいえ、最新鋭艦を派遣する必要があるのか疑問に思い、キラに尋ねる。

 

「大西洋連邦が本格的な攻勢に出たら制海権を維持するのは難しいでしょう。その為上陸してきた大西洋連邦軍を逐次撃滅する戦いになると思われるので、MSの修理を全てジブラルタルでするのは正直時間が惜しい。しかし、この艦なら内部で修理やMS製造が可能です」

 

 キラはこの艦を中心とした陸艦6隻を派遣してヨーロッパ連邦軍と連携して防衛線を構築するつもりでいた。無論圧倒的物量を誇る大西洋連邦に対して長期戦を行うことは普通なら愚かな戦略だが、今回長期戦になれば不利になるのは大西洋連邦の方であるのは明確なので、形成不利になるくらいなら膠着状態に持っていた方が有利に戦えると考えていた。

 

「大西洋連邦が派遣してくる戦力は恐らく3個師団~5個師団ぐらいだと思われます。ユーラシア連邦軍とともにヨーロッパ連邦軍を挟み撃ちにするつもりでいるでしょうね。尤もヨーロッパ連邦もそれはわかっているので、ユーラシア連邦を先に撃滅すべく行動を開始しております」

 

 ヨーロッパ連邦は大西洋連邦軍が本格的に介入してきて挟み撃ちされるのを避けるべく、ユーラシア連邦に対して先制攻撃を行っていた。ヨーロッパ連邦軍はユーラシア連邦の重要拠点であるモスクワを陥落させるべく、大規模な攻撃作戦を行っている。

 

「まるで第一次世界大戦の再現ですな」

「そうですね。だから、参謀本部もこのユーラシア連邦に対する戦線を東部としました。こっちは質と戦術で勝るヨーロッパ連邦軍が有利に展開しています」

「そうか。それでは西部戦線はどうなっている?」

「こちらは何とかブルターニュ半島やフランドル地方に上陸しようとした大西洋連邦軍先遣隊を海にたたき返すことができたようです。それ以降は防衛線の構築に力を注いでいますが、東部戦線を先に片づけるべく大軍を派遣したせいで、若干兵力に不安があります」

「我が国に救援要請をしてきたのはその為か……」

 

 出席者たちはヨーロッパ連邦が戦略上不利な状況にあることに顔を顰める。そして、支援どころか軍の派遣まで要請してきたことに納得する。

 

 それを理解した上で出席者たちは、この紛争にどう決着をつける具体的な案を話し始める。

 

「大西洋連邦も完全に戦力再編を終えたわけではない。それに南米の情勢が不安定である以上長期戦は望まないはずだ。何とか戦果を持って講和に持っていくことは可能だろう」

「しかし、ヨーロッパ連邦が欲を出せば難しくなります。だから、政府間の話し合いでその旨を伝えるべきだろう」

「彼らも自分達が不利であることは承知しているはずだが、状況次第では調子に乗る可能性も考慮しておいた方がいいだろう」

「それなら軍を撤退させることを視野に入れて、援軍を送る旨を向こうに伝えれば問題は減るな。さすがに無条件で派遣するのはまずいですし」

 

 話し合いの結果、支援と義勇軍は派遣するが戦況次第では撤退することを条件に盛り込むことになり、この内容で軍を派遣することが会合で承認される。

 

 話し合いが終わり、出席者たちのほとんどが出ていった後、会議の場にいるのはカナーバ、アウグスト、キラの3人だけになる。

 

「ヨーロッパ西側はわが軍の新兵器の実験場になりそうだな」

「ええ。できればセカンドステージMSが完成して派遣できればよかったのですが……」

「今回は間に合わんからな。機体その物は完成しているが正式パイロットが決まっていないからどの道無理だ」

「わかっています。言ってみただけです。自分も機密の塊であるあの機体を派遣する勇気はありませんよ。何よりそれら運用するための母艦である、ミネルバ級一番艦ミネルバも完成していませんからね」

 

 セカンドステージの母艦を務めるミネルバ級戦艦は、インパルス等セカンドステージMSを運用する為の特殊なシステムを採用しているので、その調整に時間が掛かっていた。

 

「とりあえず地球連合の解体を進めましょうか。それには大西洋連邦の影響力をヨーロッパから排除するのが必須です。ユーラシア連邦も大西洋連邦が頼りにならないと悟れば、ヨーロッパ連邦を認めるしかありません」

「我らの戦略がうまくいくかどうかの分水嶺か。是が非でも成功させねばならんな」

「これがうまくいけば、地球連合は解体するしかなくなる。新たな国際秩序は我が国を含めた物になりますので、政府にはその準備をお願いします」

「わかった。草案を評議会で作っておこう。連合解体をするチャンスは今しかない。どうか頼むぞ」

 

 こうしてプラントは国家の安全保障確立の為に、ユーラシア西側に本格的に支援を開始した。

 

 

 

 

 

 グラム社の社員になった元地球連合軍の士官ムウ・ラ・フラガは自宅に帰り、戦後結婚したマリュー・ラミアスと共に、夫婦水入らずで食事を楽しんでいた。

 

「地球圏は正に大混乱状態だ。これは地球連合の枠組みが完全に消滅するのも時間の問題だな」

「そう……。地球圏はそれほど混乱しているのね……」

 

 ムウはワインを開けてグラスに注ぎながら、マリューに世間話を掛けた。その話とは故郷である地球の話である。

 

「会長も人使いが荒いわ。新型兵器システムの開発の実験機に俺を乗せて模擬戦までするんだからさ」

「仕方ないわ。あなたは才能が有るもの。経営者が有能な者に目をつけないわけないでしょう」

「まあ、仕事があるのはありがたいことだけどな」

 

 軍律違反を犯した自分達は故郷に戻ればクビか銃殺刑である。故郷に戻れない以上はここで暮らしていくしかないのだ。

 

「しかし、あの若いのがプラント最大の企業会長だなんて思わなかったな」

「そうね。おまけにプラント軍人もしているなんて随分と働き者ね彼は……」

「まだ、子供なのにな」

 

 キラと話したときのことを思い出したのか、2人は何ともいえない表情をした。自分達より10歳以上年下である少年が自分達の雇い主であるということが、未だに信じられない部分があるのだ。

 

「まあ、ナチュラル蔑視の考えを持っていないし、良いやつみたいだから俺は上司としては嫌いじゃないけどな」

「私もよ。寧ろ今の生活を与えてくれているから感謝しているわ」

「そうだな。だが、捕まった当初にやらされた農業は正直きつかったぜ」

 

 ムウは捕虜になった後、しばらく従事させられていた農作業のときのことを思い出したのか、男前な顔を少し顰める。

 

「いい経験になったんじゃないの? あなたが作った野菜はなかなかおいしかったわよ」

「それはどうも。腰を痛めた甲斐があったぜ」

 

 マリューに褒められて(煽てられたともいう)嬉しかったのか、ムウは少し誇らしげな表情をしながら、食事を再開するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

何回も確認しているのですが、自分ではどうしても見逃してしまうのか脱字・誤字がなくならないので、見つけた場合は報告してくださるとありがたいです。

この話も残り数話になってきたから、そろそろ次回作を構想しないとまずいかな……。


 フランス・コタンタン半島。

 第二次世界大戦時アメリカを盟主とする連合軍が、ナチス第三帝国に直接侵攻する為に上陸した有名なノルマンディー海岸を有する半島。だが、時を超えて再びこの半島は戦場になる。

 

「ここを制圧して裏切者のヨーロッパ連邦共を倒す橋頭保にするのだ!」

 

 大西洋連邦軍の先遣部隊はこの半島を橋頭保とすべく上陸を試みたが、ヨーロッパ連邦軍の反撃を受けて甚大な被害を出しつつ撤退する羽目になった。

 

 そして現在、両勢力はドーバー海峡と英仏海峡を挟んで睨み合う状況になってしまい、西部戦線の戦況は完全に膠着状態に陥っていた。

 

「大西洋連邦軍の様子はどうなっているの?」

「緒戦の敗北に懲りたのかドーバー・英仏海峡を越えてくる気配は今のところないそうです」

 

 新型水陸両用MS工作艦オプスの戦闘ブリッジで、今回のプラント義勇軍の総指揮を任されたタリア・グラディス艦長は、同じく参謀本部から派遣された参謀に現地の戦況報告を聞いていた。

 

「参謀本部は再び攻勢を仕掛けてくるとしたら、援軍が来てからになるだろうと言っていたけど、どうやらその予測は今のところ当たっているようね……」

「はい。現在ヨーロッパ連邦軍はコタンタン半島と、ブルターニュ半島周辺の防御力を強化しています。わが軍も陣地構築に力を貸しているので、ここからの上陸は容易ではなくなるでしょう。制海権も何とか協力して奪還できましたし」

「でも、油断はできないわ。大西洋連邦が本格的に攻勢に出たら核動力機でも厳しい戦いになる。東部戦線が早く片づけば数の面で不安はなくなるのでしょうけど……」

 

 東部戦線はヨーロッパ連邦が圧倒的優位に立っていた。ヨーロッパ連邦軍はすでにロシア国内まで進軍しており、物資の補給もプラントからの支援で解決したことにより、現在ユーラシア連邦の一大拠点であるサンクトペテルブルク攻略を行っている。

 

「サンクトペテルブルクはユーラシア連邦の重要な拠点ですので、かなり抵抗されているようです」

「あそこは海岸に接している都市でもあるから、落とされるのはユーラシア連邦の戦略的にはまずいでしょうね。彼らの抵抗も当然だわ」

 

 サンクトペテルブルクは東ヨーロッパ有数の大都市であり、その経済規模はかなりのものがある。

 万が一ここを落とされるとユーラシア連邦にとってはかなりの痛手となるばかりか、敵に恰好の拠点を与えることになりかねない。現地の司令官もそれがわかっているからなのか、必死でユーラシア連邦守備軍は抵抗をしている。

 

「戦力集中は戦術の初歩ですからね。さっさと東部戦線の連中には戻って来てもらいたいものです」

「その心配はなさそうよ。上も東部戦線を早く片づけることが鍵だとわかっているから、特務隊所属のアスラン・ザラを派遣したそうよ」

「……それならサンクトペテルブルクの陥落は時間の問題ですね。尤もあそこを落としたとしてもユーラシア連邦は降伏等しないでしょうが……」

 

 参謀はそう言って、都市を落としたとしても講和に繋がらないと考えたのか、思わず溜息をつきそうになった。

 サンクトペテルブルクは確かに重要な拠点であることは事実だ。しかし、そこを落としたとしてユーラシア連邦がそれで降伏するかどうかと聞かれれば否である。この考えは総指揮官であるタリア・グラディスやほかの参謀も共通である。

 

「その為に陸艦を3隻派遣したのでしょう。私達は向こうの戦線が早く片付くのを待つしかないわ。それよりも大西洋連邦軍が再び上陸してくる可能性に備えて警戒を厳にしなさい」

「わかりました。全軍に通達します」

 

 タリアはそう言って警戒を強めるように命令を下すと、彼女は指揮官用の席に座り海峡の向こう側はメインモニターで眺めるのであった。

 

 

 

 

 東部戦線サンクトペテルブルク。現在この都市を巡って壮絶な戦いが行われており、正に激戦と言える戦闘になっていた。

 

「南西の方角からMS! 数は9! 機種はヨーロッパ連邦のダガーLです!」

「こちらもMS部隊を向かわせろ!」

「西から新たなプラント軍接近!バクゥ5、ゲイツR5、アンノウン3です!」

「予備兵力を一部西に回せ! 絶対に突破させるな!」

 

 ユーラシア連邦軍サンクトペテルブルク方面軍は敵を撃退すべく司令官から一兵卒まで上下関係なく奮闘していたが、三方から猛攻を加えられているせいか戦況は日に日に悪化していた。

 

『北西部方面軍。敵の猛攻により戦線をこのままでは維持できません! 後退許可を!』

『南部方面、敵の攻撃により現在我ら非常に不利。増援を請う!』

『司令。こちら西部方面、プラント軍に新たな増援を確認しました。このままでは戦線を突破されそうです。一時後退許可か増援を!』

 

 司令部に入ってくる戦況報告はこちら側の不利を示すものばかりであるせいか、サンクトペテルブルク方面司令官の顔は厳しくなるばかりである。

 

「司令。最早限界です。ここは組織的な撤退ができるうちモスクワに撤退するべきです」

「何を言うか! ここを制圧されればモスクワが一気に窮地に陥るのだぞ! そう簡単に放棄する訳にはいかん!」

 

 参謀のサンクトペテルブルク放棄の意見に司令官は思わず怒鳴り返す。

 ここを万が一制圧されてしまえば敵の物資補給は容易となり、モスクワが一転して窮地に陥る。その為、司令官はここで都市を放棄して撤退するという考えは彼の頭の中には存在していない。

 

 だが、このままでは全滅の憂き目に合うのは確実なので、参謀たちも必死で司令官を説得する。

 

「しかし、我が軍は圧倒的に不利です。このままでは全滅してしまう恐れもあります。モスクワを守るためには戦略的撤退もやむなしかと……」

「むむむ……」

 

 司令官も頭の冷静な部分では都市を放棄して撤退するしかないとわかっていた。しかし、このサンクトペテルブルクは現在のユーラシア連邦の有力な拠点であり、ここを失うと継戦能力が著しく低下してしまう恐れがあった。何せヨーロッパ連邦は連邦の成立と同時に攻撃を仕掛けてきたので、ユーラシア連邦は大した備えもできておらず、生産拠点の後方移転も当然できていなかった。

 だから、ここを放棄することは更に戦線を後退させることになり、東ヨーロッパの生産力をごっそりと失うことになる。

 

 しかし、参謀の言う通りこのままでは、ヨーロッパ・プラント連合軍に自軍が押し切られるのは時間の問題である。それ故に司令官は決断を下す。

 

「我が軍は本日13:00を持ってサンクトペテルブルクを放棄し、モスクワ方面に撤退する。準備に掛かれ」

「「「了解です!」」」

 

 ユーラシア連邦軍サンクトペテルブルク守備軍は、守り切れないと判断してモスクワ本部にそのことを通達して、都市を放棄を決定する。しかし、この決断は少し遅かった。何故ならプラント軍は敵が撤退する前に包囲殲滅を完了すべく、切り札である核動力機を投入していたのだ。

 

「休暇明けの任務が最前線とは参謀本部も扱き使ってくれる」

 

 アスランはもうじき解体される愛機のコクピットでそう呟きながら、銃火が飛び交う戦場に突入する。

 

「敵の数が多い! だが、アフリカ程ではない!」

 

 ジャスティスのファトゥム-00から散弾を地上に打ち出し、自分に砲撃してきたリニアガンタンクと戦車をまとめてスクラップにする。

 

「アスラン! 貴様1人だけ活躍するな!」

「誰が活躍したっていいじゃないか。イザーク」

 

 ジャスティスの後ろから、パーソナルカラーを塗ったブレイズウィザード装備のザクファントムのイザークとディアッカが追いかけて来る。

 

「それよりもさっさと敵司令部とやらを襲撃しに行こうぜ。敵さんどうやら撤退を開始するみたいだからな」

「ああ、今が攻め込む絶好のチャンスだ。このまま敵司令部を叩く! 行くぞイザーク、ディアッカ」

「お前に言われなくてもわかっている!」

 

 3機は時折攻撃を加えてくる敵機を連携を駆使して一方的に撃破しながら、サンクトペテルブルクへ侵入することに成功する。

 

 街中を進むと自分達を撃退すべく敵機が猛攻撃を加えてくるが、3人は自らの腕と自機の性能をフルに使い、それらを躱しながら反撃を加えて敵を沈黙させていく。

 

「この新型はすごいな。軽くて機動性があるだけじゃない、防御力も今までの量産型MSを遙かに凌いでいやがる」

「上も威張っているだけではないということか」

 

 ディアッカとイザークは自分が乗っている新型MSザクの性能に感嘆する。連合が開発したG兵器以上の機動性を有していながら、量産機とは思えない程強固な装甲をしており、プラント版ストライカーシステムといえるウィザードシステムによる装備換装を含めて、この機体は非常にいい機体だと2人は結論づける。

 

「どうやら俺達が開いた穴から、味方が敵戦線を打ち崩すことに成功したようだな」

 

 自分達が侵入した所から味方が次々と雪崩れ込んでくるのを確認した後、敵司令部を制圧すべく街の中心部に機体を向けた。

 

「それじゃ手柄を横取りされないうちにさっさと行きますか」

「二人共陣形は崩すなよ」

「こちらのセリフだ!」

 

 ジャスティスがビームサーベルで自機に突撃してきたダガーLを真っ二つに切り裂き、ザクが地上にいるストライクダガー部隊を12連装航空ミサイルランチャーで全機爆散させる。

 

 ジャスティスとザク2機の計3機は襲い掛かってくる敵機を屠りながら、敵司令部目掛けて突入していった。

 

 そして、1時間後。プラント軍3機のMSが司令部及びその周辺を制圧したことで、サンクトペテルブルク守備軍の指揮系統は崩壊。守備軍は這う這うの体でモスクワ方面へと敗走していき、都市から脱出できなかった者達や途中で追撃されて逃げきれなかった者は降伏した。

 

 こうしてサンクトペテルブルクはヨーロッパ・プラント連合軍によって完全に制圧され、サンクトペテルブルク攻略戦は幕を閉じるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

 東部戦線からサンクトペテルブルク攻略が完了したことを受けて、派遣軍総司令部の面々は喝采を挙げた。しかし、総司令官のタリアは浮かれている者達の気を引き締める為に口を開く。

 

「戦略でいえば第2段階が終わったというところよ。ユーラシア連邦の臨時首都になっているモスクワを制圧しなければ勝ったとは言えないわ」

 

 タリアはそう言って派遣軍総司令部の浮かれた空気を一気に排除する。浮かれていた者達も司令官の言葉を聞いて、表情を元に戻し職務に取り込み始める。

 

「守備軍はほとんど壊滅状態でモスクワ方面に脱出したのは僅かな数だそうです。これなら準備さえしっかりすればモスクワを落とすことは充分可能でしょう」

「モスクワは臨時政府の本拠地。付近に近づけば恐らく嘗てないほどの激戦が展開されるでしょうね。さすがに臨時とはいえ首都を落とされたら誰が見てもユーラシア連邦の負けと見られるでしょうから」

 

 それでもモスクワを攻略するには自分達プラント軍の協力があっても、かなり骨が折れるだろうとタリアは考えていた。

 

「東部戦線担当者が無茶な作戦を実行されなければいいのですが……」

「派遣した増援の心配は無用よ。その様なことを見越して予め上が手を打っておいたから」

 

 プラントは軍を派遣する際、派遣した軍に独自の指揮権と命令拒否権を持たせるよう条件に出したのである。ヨーロッパ連邦上層部は最初独自指揮権を持たせることに難色を示したが、プラントはそれがない場合は軍の派遣せず支援もしないと通達したので、結局ヨーロッパ連邦はプラント側の条件を全て呑んだのである。その結果、プラント義勇軍は現地で独自の指揮権を持つ独立遊撃部隊といった扱いになっている。

 

「サンクトペテルブルクは攻略され、モスクワ攻略が近いのに海峡を挟んで駐屯している大西洋連邦軍は静かです。ここまで何のアクションも起こさないとは……」

「こっちとしては助かるわ。東部戦線が終わるまではなるべく相手をしたくないもの」

 

 一応タリアの率いる義勇軍が派遣軍の主力といえるが、それでも大西洋連邦軍の増援が大挙して侵攻してくれば、戦力集中が完了していないプラント軍にとって厳しい戦いになることは明らかだった。

 

 だから、現状での再戦はプラント軍にとって避けたいのである。

 

「しかし、このまま大西洋連邦が援軍が来るまで何もしないというはあり得ません。先の敗退を払拭すべく敵指揮官が焦って攻撃を仕掛けて来る可能性もあります」

「充分ありえるわね。何せ極東の件と今回の件で地球連合の面子は丸つぶれになったから」

 

 特に地球連合の主導的立場であった大西洋連邦の面子を大いに傷つけている。前大戦から約一年しか経ってないが、大西洋連邦が本格的な戦争を仕掛けて来ることもあり得るのだ。

 

「兎も角私達はこちらの守りを固めましょう。ヨーロッパ連邦からのお土産は本国に送ったのかしら?」

「はい。三日前にジブラルタルに搬送しました」

「そう。ご苦労様。上はあれを見たら喜んで調査するでしょうね」

 

 タリアは上の連中が狂喜乱舞しながら送り物を調べる姿を想像してしまい、彼女は思わず苦笑してしまうがすぐに表情を引き締め、参謀達と大西洋連邦軍が侵攻してきた場合どう戦うか話し合いを続けることにした。

 

 

 

 

 その頃プラント軍参謀本部内では、ヨーロッパ戦線についての作戦会議が連日行われていた。

 

「サンクトペテルブルクは陥落。ヨーロッパ連邦軍はモスクワ攻略に取り掛かっているそうです」

「大西洋連邦の援軍来訪が間近だという情報があるからな。ヨーロッパ連邦の政府高官が急いで攻略しろと背中をせっついているのだろう」

 

 アウグスト参謀総長はこの場に集まっている出席者達にそう言いながら、画面に映し出されたヨーロッパの地図を眺める。

 

「そうですね。尤もヨーロッパ連邦はユーラシア連邦と大西洋連邦に挟撃されていますから、それを何とかすることは戦術的にも戦略的にも間違ってはいませんけど」

 

 キラはヨーロッパ連邦の地理的劣勢を述べる。

 ヨーロッパ連邦は東をユーラシア連邦、西を大西洋連邦に挟撃される形になっている。これは戦略上不利な陣形であり、ヨーロッパ連邦の国家が生き残る為には何としてでもこの包囲網を破る必要がある。

 

「我が軍の増援もあるし、ヨーロッパ連邦軍の士気も高い。本格的な攻勢が始まったらモスクワ陥落も時間の問題でしょう」

「しかし、ユーラシア連邦があの戦術を取ったら厄介なことになるだろうな」

 

 アウグストはユーラシア連邦の中心となっている例の国の戦術を思い出し、難しい顔をして唸る。

 

「焦土作戦ですか……。確かにその可能性はありますね。尤もそれをやった場合、ユーラシア連邦は戦後の復興が大変なことになりますが……」

「恐らくその作戦をユーラシア連邦が取った場合、敗戦したヨーロッパ諸国から搾り取って何とかするつもりでしょう」

 

 キラはそう言いながらユーラシア連邦政府高官達の捕らぬ狸の皮算用な思考に内心呆れる。

 無論ユーラシア連邦軍が焦土戦術を取る可能性は現状では低い。しかし、ここまで連戦連敗で厭戦気分が漂っているユーラシア連邦が自棄になって実行する可能性も否定できない。

 

「……焦土作戦を敵が取り始めたら、戦線をポーランド付近まで後退させましょう。流石に冬将軍を相手にはできません。それと後退したら以後は守りに徹底させた方がいいでしょう。次いでに万が一ユーラシア連邦軍が遠征に来た場合、余裕があったら叩き潰してしまうのもいいでしょうね。援軍としてきた大西洋連邦軍と呼応されたら厄介ですし」

「理に適っているな。東部戦線に派遣している連中に命令を下しておくとしよう」

 

 キラの案が採用されることになり、東部戦線で万が一敵軍に焦土作戦が取られた場合、プラント軍は戦線を後退させることになった。

 

 次に話し合われたのはユーラシア連邦を助ける為、援軍としてやって来る大西洋連邦軍についてだった。

 

「派遣軍からはブリテン島にいる大西洋連邦軍は今のところ動く気配はないそうです」

「情報通りだな。やはり、緒戦に敗れたことが士気を低下させているようだ」

「だが、相手はあの大西洋連邦軍だ。どんな手を使ってくるかわからんぞ」

 

 出席者達はアラスカでのサイクロプスを思い出したのか顔を強張らせる。しかし、すぐに気を取り直して表情を元に戻し話し合いを続ける。

 

「ブリテン島に展開する大西洋連邦軍は現在こちらに侵攻する準備を整えている可能性が高いだろう」

「増援が来たら一気に蹴りをつける為にか?」

「恐らくそうかと……。長期戦は唯でさえ復興が始まった大西洋連邦各国に打撃を与えます。そうなれば最悪革命が起こるでしょう。それ故に大西洋連邦は短期決戦で勝利を掴み、有利に講和しなければいけません」

 

 キラの言葉に出席者達は「確かにそうだな」と言いながら、こちら有利に変わりないことを再確認する。

 

「ところで派遣軍の連中から送られてきた物はどうするのだ? 我が軍はすでに量産型水中MSの開発を開始しているのだぞ?」

「それについては現在グラム社の工廠で解析を行っています。何せ連合の水中用MSの性能はこちらのMSを凌駕していますし、その秘密は知りたい所ですから。……いっそのこと計画を見直しますか?」

 

 キラはここぞとばかりに水中用MSの開発計画修正を提案する。原作知識で連合の水中用MSの性能を知っているが故に、ここで計画変更を提案するも悪くないと考えたからだ。

 

 キラの提案に一部の出席者達は頷いたものの、その他の者達は疑問を呈する。

 

「ちょっと待て。今更計画変更は難しい。技術解析で得たデータを反映した水中用MSは次世代機して生産すべきではないのか?」

「今から計画変更をしていては戦力再編に問題も出る。キラ参謀長。君の意見も分かるがここはやはりすでに開発が進んでいるアッシュを優先すべきではないかね?」

「……確かに今から計画の変更は現場の負担が大きいですね。わかりました。アッシュの開発と生産を優先します」

 

 キラは水中用MSはアッシュの生産を優先すべきだという意見に道理があると判断し、自案を引っ込めることにした。

 

「兎も角だ。此度の戦争の鍵はユーラシア連邦が降伏するか否かだ。それが為されれば大西洋連邦は大義名分を失い撤退するしかない。派遣軍には一層の奮闘を祈るしかないだろう」

「そうですね。ユーラシア連邦が降伏すれば大西洋連邦は引き下がるでしょう。派遣軍とヨーロッパ連邦軍の働きに期待しましょう」

 

 参謀本部は新たな情報が入ってくるのを待ちながら、この紛争に勝利すべく話し合いを続けることにした。

 

 

 

 

 サンクトペテルブルク。嘗てロシア帝国の首都であったこの大都市は、先日までユーラシア連邦の一大拠点であり、ロシアの外海への玄関口でもあった。

 

 しかし、数日前の戦闘により現在はヨーロッパ連邦の支配下に入り、ここで現在ヨーロッパ連邦軍はユーラシア連邦の首都であるモスクワを攻めるべく、準備を整えている真っ最中だった。

 

 その準備が終わるまで久しぶりに休暇を貰ったアスラン、イザーク、ディアッカの3人は復興が進む街に繰り出していた。

 

「次はユーラシア連邦の臨時首都モスクワか……。そこを落とせば、活躍した者にネビュラ勲章を与られるっていう噂があるぜ」

「あくまで噂だ。あんまり期待しない方がいい」

 

 ディアッカは店舗に並べられている地元土産を確認しながらそう言い、アスランは少し浮かれているディアッカを嗜める。

 

「モスクワ攻略戦は嘗てないほどの激戦になるかもしれん。気を引き締めろディアッカ!」

 

 イザークは少しマイペースなディアッカを叱責する。

 ディアッカはイザークの堅物ぶりにやれやれと思いながら、彼をリラックスさせるために言葉をかける。

 

「イザークは気を張りすぎなんだよ。もうちょっと気楽にいこうぜ」

「わかっている。久しぶりの休暇だからな。精々楽しむつもりだ!」

 

 イザークはそう言って自分達が昼食を取るべく探していた目的の店に入っていき、アスランとディアッカは顔を見合わせて苦笑しながらイザークの後を追うのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

次話で戦後編はたぶん終わりです。これ以上はネタが思いつかないので……。


 ブリテン島に展開する大西洋連邦軍は遂に行動を開始した。

 現地の司令官は援軍を待って侵攻したかったが、大西洋連邦作戦本部から「援軍が到着するまでに橋頭保を確保せよ」と命令が下った為出撃することになった。

 

(ユーラシア連邦の降伏は確かに困るが、今の戦力でこの強固な防御陣を突破できるのか?)

 

 司令官は一抹の不安を抱えながらも、それを表に出さずに部下へ出撃準備が整ったか確認する。

 

「出撃準備は完了したか?」

「はい。フォビドゥンブルー並びにディープフォビドゥン部隊の準備も完了しました。いつでも行けます」

「そうか。全軍発進する! 目標はコタンタン半島ノルマンデイー海岸!制圧して橋頭保を確保するぞ!」

 

 司令官は全軍の出撃を命じ、大西洋連邦軍は増援の本隊が来る前に橋頭保を確保すべく出撃した。

 

 

 

 無論この動きはヨーロッパ連邦軍やプラント派遣軍の耳に入り、大西洋連邦軍を迎撃すべく出撃準備に取り掛かった。

 

「機体の最終調整はどうなっているの?」

「20分後にはすべて終わります」

「そう、最終調整が終わった部隊は順次発進させなさい」

「了解です」

 

 オプス艦内は敵軍の急な出撃に最初は騒然とした。だが、プラント軍はすぐに落ち着きを取り戻して冷静に対応し始める。

 

「ヨーロッパ連邦軍から連絡です。敵はコタンタン半島のノルマンディー海岸を目指しているそうです」

「前回の同じ場所ですか……囮の可能性もあります。ここは従来の計画に沿って我らの主力はブルターニュ半島で待機するのがよいかと存じます」

 

 参謀の1人は敵が同じ愚を繰り返すわけがないと考え、タリアにブルターニュ方面は向かうことを提案する。

 

「しかし、ブリテン島にいた大西洋連邦軍は、全軍でコタンタン半島を目指していると情報にはあるぞ。我が軍の偵察でも確認済みだ。ここは全軍でコタンタン半島に向かった方がいいのでは?」

 

 しかし、違う参謀がその意見に反論した。ブリテン島に配備されていた大西洋連邦軍が、ほぼコタンタン半島に集中していることは偵察の結果確定している。だから、コタンタン半島に殺到している敵軍を撃破する方を優先すべきだと主張した。

 

「グラディス司令。如何なさいますか?」

 

 部下がどうするのかタリアに判断を請う。

 タリアは部下達の意見を聞いて顎の下に手を据えて少し熟考した後、口を開き部下達に命令を下す。

 

「コタンタン半島の守りは充分固まっているわ。それよりも敵軍が他の場所から上陸することを考えて行動しましょう」

「了解です。さっそく艦を向かわせます」

 

 水陸両用工作母艦オプスは陸艦1隻を発進した部隊の補給艦としてこの場に待機させ、ブルターニュ半島へ針路を取った。

 

 

 

 西部戦線でも戦火が切って落とされた頃、大西洋連邦の艦隊はヨーロッパを目指して大西洋を横断していた。

 

「伝令。ブリテン島の我が軍は予定通り攻撃を開始しました」

「そうか。これで連中の目はコタンタン半島に向くだろう。我が軍はその隙にブルターニュ半島へ上陸して敵の背後を突けるな」

 

 大西洋連邦艦隊の司令官はCICからの報告を聞いてそう言い、艦長はその言葉に頷く。

 大西洋連邦軍は緒戦の敗退に懲りた結果、上陸が容易ではないと悟り、上層部は方針を転換。ブリテン島に配備された軍は引き続きコタンタン半島に上陸して橋頭保を築くように命じ、増援として派遣した艦隊に側面を突かせる作戦を立てたのだ。

 

「問題は制海権・制空権が向こうにあることですね。フランス近海に近づけば我らはたちどころに見つかります」

「心配は無用だ。その為にもブリテン駐屯軍には全力で攻撃するように命じている。敵に反転する余裕はないだろう。それに万が一我々を見つけてこちらに向かってもすでに時遅しだ。我々の上陸を阻む事などできん」

 

 此度派遣された大西洋連邦軍はMSはほとんどダガーLで構成されており、おまけに苦労して開発に成功したジェットストライカーを多数装備しており、制空権確保に関しては万全を期している。

 そして、敵水中用MSの襲撃に備えてフォビドゥンブルーとディープフォビドゥン部隊を、いつでも出撃できるように準備している。

 

「しかし、プラント軍が支援しているので、一筋縄ではいかないのでは? 万が一緒戦で敗退すれば我らは一気に不利に陥ります。……せめてもう少し数を連れてきたかったですね」

「仕方ないだろう。今回の遠征自体ぎりぎりなのだ。これ以上数を増やせば国民生活を圧迫することになりかねないのだからな」

 

 大西洋連邦ではいまだに大戦の傷が癒えていないせいか、国民の生活は非常に苦しかった。その結果戦争反対を訴えるデモが起きており、大西洋連邦政府は火消しに大わらわになっている。

 

「敵も防御を固めているだろうが、不意を突けば上陸は可能だ。1時間後にレイダー部隊を発進させろ。敵拠点を爆撃する」

「了解しました。30分後にパイロットへ出撃準備命令を出します」

 

 大西洋連邦が派遣したユーラシア連邦救援艦隊は、敵の索敵範囲外でレイダー部隊を発進させ、その後水中MS部隊を発進させて艦の護衛をさせながら、ブルターニュ半島へ針路を取った。

 

 

 

 

 ブルターニュ半島の守備軍は退屈していた。何故なら戦いが起こっているのはコタンタン半島であり、こちらには敵影の1つもないからだ。

 

「総司令部は敵がこっちに来る可能性があるから注意しろと言っていたけど、敵影をまったく確認できませんね」

「油断はするなよ。何せ大西洋連邦は何も知らせずに我が軍を囮にした連中だ。どんな汚い手を使ってくるかわかったものではない」

 

 ブルターニュ半島を守る司令官は油断しないように部下の士官達に言う。

 大西洋連邦軍は数も多く手ごわいことを理解しているこの司令官は、確実に手薄だと思ってここに攻め込んでくると考えていた。

 

「レーダーに反応あり! これは……MSです! 機種はレイダー制式タイプです!」

「迎撃しろ! それとMS隊に発進準備! 敵が来るぞ!」

 

 ブルターニュ半島司令部は急に騒がしくなり、遂に大西洋連邦の本格的な攻勢が始まった。

 

 

 大西洋連邦軍、ブルターニュ半島へ侵攻。その報はすぐさま後方で待機していたプラント軍にも入る。

 

「MS隊発進準備! 全艦迎撃用意! 本部にもこのことを報告せよ!」

「MS全機発進準備完了しました。いつでもいけます!」

「救援要請が届き次第発進。目的は敵部隊を排除して大西洋連邦軍を海に叩き返す!」

 

 そして、数十分後。ブルターニュ半島を守る軍から救援要請があり、タリアこれを承諾。艦内からMSが次々と発進していった。

 

 

 

 ブルターニュ半島の攻撃はまずレイダーによる爆撃で始まった。レイダーは対空砲火を掻い潜り対地ミサイルを次々と守備軍の陣地に打ち込んでいく。そして、ミサイルを打ち終えたレイダーは機銃掃射を行った後、戦闘空域から離脱していく。

 

 守備軍はこの猛攻に耐えた後、敵艦隊を沖合に展開しているのを確認する。

 

「どうやら制海権は再び奪われたようだな。だが、上陸は断じてさせんぞ!」

 

 司令官はそう言ってMSやリニア・ガンタンクに上陸してくる敵部隊の撃破を命じる。

 ヨーロッパ連邦軍カラーに変更されたダガーLやストライクダガー、リニア・ガンタンク・戦車等が大西洋連邦軍のMS部隊と激突する。

 

「怯むな! 上陸した大西洋連邦軍のMSの数は多くない! 一気に海岸線まで追い散らせ!」

 

 ヨーロッパ連邦軍のMS小隊を指揮する下士官はそう部下を叱咤し、敵部隊に激しい攻撃を加える。しかし、敵はそれ以上の攻撃を空と陸から雨あられとしてくる。

 しばらく、ビームと実弾の打ち合いが続いたが、遂に大西洋連邦軍のMS部隊が切り込んできた結果、海岸線沿いは両軍が入り乱れる乱戦となった。

 

 大西洋連邦軍のダガーLがビームサーベルをストライクダガーに突き刺し爆散させたと思ったら、そのダガーLがビームに貫かれて爆散するなど、敵を倒した者が今度は敵に倒されるという光景が量産されていく。

 

 しかし、ヨーロッパ連邦軍の士気が高くても大西洋連邦軍の圧倒的物量は凄まじかった。倒しても倒してもわらわらと湧いてくる敵機に対して、ヨーロッパ連邦軍将兵は疲弊していった。そして、遂に本格的な上陸を許してしまい、司令部は戦線を少し後退させて態勢を立て直すことを考え始めた頃だった。

 

「後方から友軍の増援を確認しました。プラント軍です!」

「間に合ったか!」

 

 司令官は援軍が間に合ったことに内心安堵した。もし、あと少し増援が来るが遅れていたら本当に撤退をしなければいけなかったからだ。

 

「プラント軍は上陸した大西洋連邦軍の側面を突いています。それにより敵戦線が徐々に後退しています」

「よし。全軍総攻撃だ! 不埒な侵略者どもを海に押しだせ!」

 

 プラント軍が参戦したことにより形勢は逆転。上陸した大西洋連邦軍は次第に押し返され最終的に撤退した。無論プラント・ヨーロッパ連合軍は追撃を行い多くの敵機をスクラップに変えることに成功する。

 ブルターニュ半島での戦闘が終了した直後、コタンタン半島に侵攻していた大西洋連邦軍もブリテン島に撤退したとの報告が入り、プラント派遣軍とヨーロッパ連邦軍の上層部は何とか攻勢を凌ぎ切り内心ほっとした。

 

「何とか死守したわね」

「はい。しかし、こちらの被害も小さくありません」

「補給と整備が必要な機体は作業を急がせない。敵がまた、いつ侵攻してくるかわかったものじゃないわ」

 

 タリアは敵の再攻撃がいつあるかわからない以上、部下に補給と整備を急がせるよう命じる。

 しかし、彼女の心配は杞憂で終わった。

 

「東部戦線に派遣した陸艦から連絡。モスクワの陥落に成功。ユーラシア連邦はヨーロッパ連邦に停戦を申し入れたとのことです」

 

 タリアは通信参謀からの連絡を聞いてこの戦争が終わりに近づいたことを悟った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話

ネタが尽きたので最終話になります。

種運命編は前から言っていた通りやらないと思います。何せ原作と違いがありすぎてプロットを作成するのも困難ですので……。

if続編は一応考えているのですが、投稿日は未定です。何せプロット作成もまだですから……。キラだけ転生するか、それとも転移の話にするか迷っています。


 西部戦線で大西洋連邦軍が撤退する少し前。

 東部戦線ではユーラシア連邦の臨時首都モスクワを制圧すべく、ヨーロッパ・プラント連合軍が総攻撃を行っていた。

 

「城門は突破した。突入するぞ!」

「一々言われんでもわかっている!」

「さっさと終わらせようぜ」

 

 アスラン、イザーク、ディアッカは現在MSを操りモスクワ市内にいた。

 彼ら3人は当然のようにチームを組んで戦っている。前回の戦闘働きが目覚ましかった為、3人は同じチームを組まされて戦場に投入されていた。

 

「最終防衛線を突破するのも時間の問題だな。このまま押し切る!」

 

 アスランはジャスティスのビームで敵機を貫き爆散させ、イザークとディアッカも敵機を屠りアスランの後を追う。

 平穏だった市街地は銃火の飛び交う戦場と化し、歴史ある建築物は流れ弾に当たり破損し原型を失っていく。臨時首都であるモスクワは戦場の悲劇ともいえる惨状を当たり前の様に量産していく。

 

『第3中隊苦戦中。一時後退の許可を請う』

『第5小隊敵戦線を突破。進撃路確保の為に前進を開始する』

『第7中隊応答せよ。後退した第3中隊の穴をカバーせよ』

 

 味方の通信連絡が入り乱れ、戦況は敵の最終防衛線を突破できるかどうかに委ねられる。

 

「ここを突破すれば勝利を目前だ! 進め! 進め!」

 

 イザークはそう叫びながら敵陣へ大胆にも切り込んでいき、ディアッカは慌ててそのフォローに回る。アスランは空中からビームの雨を降らせて敵の抵抗を粉砕していった。

 

 そして、彼らが次の敵を探していたとき緊急連絡が入る。

 

『全軍に通達。敵降伏を確認。更に相手から停戦の申し入れがあり、受諾。全軍戦闘行為を停止せよ』

 

 戦闘終了を終える連絡が入る。アスランはそれを聞いた瞬間肩の力が抜けるのを感じる。

 

「戦争は終わりだ」

 

 アスランは安堵の表情でそう呟くのであった。

 

 

 

 

 東アジア共和国を端に発した地球圏の再編運動。戦争にまで発展したこの動きは、ユーラシア連邦の臨時首都モスクワ陥落により終わりを告げた。

 

 ユーラシア連邦がヨーロッパ連邦とプラントに和平を請い、ヨーロッパ連邦とプラントはそれを受諾する。その結果大西洋連邦はユーラシア連邦を救うという大義名分を失い、これ以上戦争行為を行うことができなくなり、遠征軍を何の戦果もなく帰還させる羽目になった。

 

 そして、ヨーロッパ連邦が占領しているモスクワで和平交渉が行われ、無事に講和条約が成立する。内容は以下のようになった。

 

1.ユーラシア連邦はヨーロッパ連邦を認める。

2.ユーラシア連邦はヨーロッパ連邦に加入申請をしているポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、バルト三国の加入を認める。

3.ユーラシア連邦は大西洋連邦軍に引き上げるように要請し、軍を引き揚げさせる。

4.賠償金は互いに請求しない。

5.プラントに市場を開放する。

 

 ユーラシア連邦はこの内容を呑み、ヨーロッパ連邦との講和が実現。大西洋連邦は大義名分がなくなったことで、互いの捕虜交換を行った後、ヨーロッパから順次撤退することになった。

 ヨーロッパ連邦はプラントと新たな条約を結ぶことを発表。親プラント国家になることを鮮明にする。プラントもこれを歓迎して、復興資材を優先的に提供することを発表して両者の友好具合を世界に示した。これにより地球連合は消滅し、世界は新秩序を構成するための時代が幕を明けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 プラントのヴァルハラに属するメンバー達は、戦勝祝いと連合の解体に成功したことを祝して宴会を開いていた。

 

「では、連合解体を祝して乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

 出席者達は互いに労をねぎらう。

 

「宴会もいいですが、我らは連合が解体した今後の世界に対する対策も話し合う必要があります。あまり、羽目を外し過ぎないようにお願いしますね」

「わかっている。この場にその様な者はいない。今日はそのことを話し合う為に集まったのだからな」

 

 しばらく経った後、出席者達は宴会もそこそこに話し合いを始める為、出席者達はそれぞれの席に座った。

 

「今後の対策ですが、親プラント国家の親プラント国化を推進すべく、復興の援助を行いたいと思います。特に電力不足を解消する為にNJCの提供を政府は検討しています」

「あれは我が国の最重要機密だ。簡単に渡していいものではないのでは?」

 

 政府関係者の者がそう意見すると、出席者から疑問の声が上がる。NJCはプラントの切り札とも言ってもいいものだ。そう簡単に切っていい札ではないのだ。

 

 他の出席者達も難色を示す中、キラがその意見を援護する。

 

「確かに国防上簡単に渡していい物ではありません。しかし、地球の荒廃が進みすぎれば我が国への恨みが募ります。同盟国市民の生活を改善して恨みは少しでもなくすには提供せざるを得ない状況なのです。無論大事な部分はブラックボックス化するつもりです」

「それでも危険なのでは? 万が一大西洋連邦に渡れば連中は復讐戦を挑んでくるかもしれないぞ?」

 

 ある出席者から大西洋連邦に渡る危険があると反論意見が出るが、キラは意見を撤回するつもりはなかった。

 

「いずれ各国がNJCを開発すれば同じことです。それよりもここでヨーロッパ連邦や日本等に恩を売るために提供した方が得策です。これ以上市場を荒廃させれば経済が行き詰って共倒れする未来しかありません」

「みなの不安はわかる。だが、各国の国民の反プラント感情は未だに大きい。それらを鎮める為には電力不足を解消させて生活水準を戦前に戻す必要があるのだ」

 

 キラはそう言って反対派の説得を試み、カナーバも政府の立場から援護する。

 地球国家の電力不足はプラントが核攻撃を防ぐためにばら撒いたNジャマーが原因である。そして、連合が反プラントで結束できたのもこの苦しい生活事情があったからだ。

 

「ここで恩を売って生活改善と経済の活性が行われれば、少なくとも民衆の反プラント感情は表向きは沈静化します。そして、いずれはコーディネイターの憎しみだけを煽り、何もしないブルーコスモスよりも信用できると思うはずです」

「それに我が国は人口問題も抱えています。いずれ自国の市場が縮小されるのは避けられません。プラント経済の為にも市場の確保と地球国家の経済回復は必要です」

「確かに我々は人口問題で大きな問題を抱えている。それに健全な市場の確保は必須だ……。私は賛成しよう」

 

 治安問題の解決や経済的事情からキラやカナーバ、一部政府関係者が必死で説得した結果、同盟国へのNJCの提供が決定した。

 

「これで懸案であった連合は解体した。しかし、大西洋連邦とブルーコスモスは健在です。両者とはいずれ雌雄を決する日が来るでしょう。その備えは必須と言わざるを得ない」

「ええ。南米では再び独立戦争が勃発しています。大西洋連邦が我らに刃を向けてくるとしたら、裏庭である南米を完全に平定してからになるでしょう」

 

 情報局局長が南アメリカで再び騒乱が起こったことを報告する。

 

「これで大西洋連邦は欧州戦線の痛手と相まってしばらく動けないでしょう。その隙に我らは万全な体制を整えることにします」

「新たなドクトリンの作成と新兵器の開発を参謀本部が中心となって進めます。成果が出たら会合で報告します」

「政府も新たな世界の枠組みを考えている。何せ大西洋連邦を中心とした地球連合体制は崩壊したからな」

「お願いします。それではNJCを重要な部分をブラックボックス化して提供することを決定します。よろしいですね?」

 

 こうして同盟国へのNJCの提供が決定された。

 

「連合の解体は成した。だが、我らの脅威はまだ残っている。これからも慢心せずに己が職分を全力で務めるよう頼むぞ」

 

 カナーバは最後に組織のメンバーの気を引き締める為に激励の言葉を全員に掛け、本日の話し合いは終了した。

 

 

 

 

 

 大西洋連邦政府は今回の結果を苦々しく思いながらも、連合崩壊の被害を最小限にする為に慌しく動き回っていた。

 

「親プラント国に包囲されている基地はいつでも破棄できるようにしておくしかあるまいな」

「それと各地にある我らの資産も引き上げておくか。現地政府に接収されたら困る」

「うむ。そうだな。……ジブリールよ。これからどうするのだ? これでは打倒プラント等当分は無理だぞ」

 

 政府高官達は高価な椅子に座って猫を撫でているジブリールの映像を見る。

 

「当分は地道な活動に徹するしかありません。それと軍の再編を急がせてください」

「それは全力でやっている。しかし、我らは完全に宇宙から締め出されている。プラント本国を攻撃する等不可能に近い」

 

 宇宙での基地建設等はユニウス条約で禁止されている以上、宇宙に大規模に軍を置いておける場所はどこにもないのだ。

 

「宇宙での拠点ですか……そちらは我々が手を打ちましょう。ロゴスの爺さんたちのコネも利用してね」

「すごい自信だな……」

 

 ジブリールが自信満々な態度に政府高官達は若干不安を覚えたが、自分達に具体的な案がないので任せることにした。

 

「それではお互い頑張りましょう。青き清浄なる世界を実現するためにね」

「そうだな」

 

 大西洋連邦は自らの覇権復活の為に牙を研ぐのであった。

 

 

 

 

 

「それで軍から休暇をもらったのだな?」

「うん。長期休暇を軍から貰ったよ。しばらく英気を養ってこいって」

「そうか……。それなら問題なく結婚式を挙げられるな」

「えっ!?」

 

 ジークリンデそう言ってウェディングドレスのカタログを見ながら結婚式を挙げることを宣言し、キラはそれを聞いて固まる。

 

「ぼ、僕は確かに貰ったけどジークの予定は大丈夫なの?」

「問題ない。結婚式の招待状もすでに配布したし、式場もすでに予約済みだ。ちなみに式は三日後だからな。急いで婚約指輪を買ってくるのだぞ」

「その必要はないよ。すでに買ってあるからね。はい」

 

 キラは自室の机の引き出しから小箱を出し、その中から指輪を取り出してジークリンデの指に嵌める。

 

「い、いつの間に買ってきたんだ!?」

「数ヶ月前にね。何とか仕事の合間を縫って休みを取った時に買ってきたんだ」

「そ、そうか……」

 

 ジークリンデは顔を真っ赤にしながら指輪を見る。

 キラはニコニコしながらその様子を眺めるが、それに気付いたジークリンデは慌てて表情を元に戻した。

 

「と、とりあえず結婚式まであと3日。急いで準備をするぞ! まずは、ウェディングドレスを決める為に式場に今から行くぞ」

「了解」

 

 キラとジークリンデは顔を赤くし互いの手を握りながら外へ出かけた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。