龍に捧げる鎮魂歌 (昆布さん)
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ある男

どうしても書きたかった堕龍と龍の決着でございます。
見てって下さい!


その男の名はロンといった。

感じで龍と書くその男はかつて飛族と呼ばれる者達の頂点にいた。

その彼が飛族を裏切るとは誰も思いもしなかっただろう。

しかし現実に裏切りは起きた。

残されたわずかな飛族は龍への復讐と飛族の再建を目的に彼を追っていた。

表舞台で知られる飛族の生き残りは二人。

かつての飛族四天王、毒を操る男、麟。

もう一人は龍の三男であり、怨霊を操り、己の武器とする魔哭冥斬拳の使い手、堕龍(デュオロン)

物語は堕龍が旧友である上海の武神ことシェン・ウーと会ったところから始まる。




今作はおっそろしいほど短いです。
単価が小さい上につたないですが、なにとぞ読んでいただきたい。
っていうか読んで下さい、お願いします!


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第一幕 ネスツの残像

シェンと堕龍の会話ですが、今回やっぱり恐ろしく短いです。もう少し長い文章になるよう努力しますよ、ええ。


「ネスツだと?」

「ああ、KOF99から三度にわたり主催者であった組織だ。あがり。」

ちっ。と舌打ちすると堕龍はシェンに対して

「それで、その組織と俺にどんな関係がある?」

と聞いた。

「ちょいと裏の情報屋を突いてみたんだがよ。そしたら出るわ出るわ。ネスツ上層部の情報がそれこそナイアガラの滝みてエに出てきたんだよ。」

「文脈から察するに、龍の情報がその中に含まれている…と。そう考えていい訳だな?」

そういうことだな。言いながらシェンは麻雀牌を片付けながら続ける。

「イグニスって野郎は三年前にK'の奴らが倒した。そりゃ、俺やお前も知ってることだ。」

「ああ。それで?」

三年前。タイムパラドッグスで消えたと思われたアッシュ・クリムゾンが戻ってきたKOFのことだ。

「そのイグニスの野望のために使い捨てられた奴がいるんだよ。そいつの復讐のためにあのクリザリッドの野郎も残党狩りを続けている訳だがよ。でだ。そいつがこれだ。名前はゼロ。ネスツの上級幹部の一人だったらしい。で、そいつの直属部下として活動していたのが…」

「龍か。」

「そうだ。龍はどうやらネスツの改造手術を施されたらしい。ひょっとするとどこかの施設にいるかもな。」

「そうか。情報、感謝する。」

堕龍が情報料を雀卓の上に置くとシェンは数えてから

「たりねえ。」

と呟いた。

「どういうことだ?」

堕龍が少しだけ驚いて聞くとシェンはニヤリと笑って言う。

「たしか…だったよな。麻雀で負けた分がねえぜ。」

「今度蟹を奢ってやる。それでチャラにしてくれ。」

「わかったよ。それまで、死ぬんじゃねえぞ?」

当たり前だ。と言って堕龍がシェンの安アパートから出て行く。

楓が時を越えて現代に現れる17年前のことだ。




次回はクローン京との戦闘になります。
お願いですから見ていって下さい。
お願いします!後、できれば感想も残していって下さい。


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第二幕 フランスに残る残像

あと一ヶ月・・・ッつーかもう受検生活に入ってないと行けないのに全然実感の湧かないアホでございます。ちょっと長くなるように心がけましたがやっぱり短いかも…ではどうぞ


フランスのとある空港。

「やれやれ。一応ちゃんとした手続きは踏んだはずだが?」

ため息をつきながら堕龍が視線を向けているのは近隣をしきるチンピラ達だ。

「そんなことは関係ねえなあ。お前、堕龍で間違いないよなあ?」

「それがどうした」

くくくっ。と笑い、2.30人ほどのチンピラのリーダー格とおぼしき男が言う。

「飛族っていやあ腕利きの暗殺集団。その次期首領をやったとなりゃあおれ達の株もぐんぐん上がっていくって事だろ?」

そういって再びクククと笑うリーダーに向けて堕龍は冷たく言う。

「どこで飛族のことを知ったのかは知らんが分不相応な夢を抱く物ではないぞ。それにここはステージじゃない。俺と場外乱闘したところで全滅するのが関の山だ。やめておけ。」

「ふざけんじゃあねええええ!やっちまええ!」

リーダーの号令と共にチンピラ達が一斉に堕龍に襲い掛かった。

 

・・・・・

 

「本当にここであっているの?」

「うん、そのはずなんだけどネ。」

青い髪の凛とした女性、エリザベート・ブラントルシュの質問に隣にいるクリーム色の髪の飄々とした青年、アッシュ・クリムゾン改め婿入りしてアッシュ・C・ブラントルシュが答えた。

「ん?アッシュ、あれ。」

「ああ、来た来た。お久しぶり、堕龍。」

「ああ、久しぶりだな。アッシュ、エリザベート。互いに健勝で何よりだ。」

所で、と鼻をひくつかせてアッシュが言う。

「どうしたのサ?鉄臭い、ちょっとだけ血の臭いがするんだけど。」

気にするな。平然と堕龍が返す

「さっきこのあたりを根城にしているチンピラに襲われてな。2.30人を三日は足腰が立たなくしてやっただけだ。」

「アッハハハ。KOF参加者相手にそれですむなんてそのチンピラさん達、ラッキーだったんじゃない?ところで、わざわざこっちに来るなんて、どういう事?結婚祝い?」

「それもある。それもあるが一つ尋ねたいことがあってな。」

尋ねたいこと?とアッシュが反復し、一体何?とエリザベートが聞き返す。

「フランスにネスツ基地の跡があると聞いてな。その場所がどこか。何か手がかりになるようなことを聞ければと思ったんだが。」

なるほど。とエリザベートが思案している隣でアッシュは

「とりあえず、今日はもう遅いんだし、家に泊まって行きなよ」

と提案する。エリザベートも

「その意見には賛成ね。ネスツ基地に行ってみるにしても旅の疲れをとってからの方が良いわ。」

と同調する。

「ああ、そうだな。では、そうさせてもらおう。」

「決まりだね♪この三年間のお互いの話でもしながら食事でもしようよ」

 

・・・・・

 

「三太兄がフランスにいると聞いてやってきたのだけれど…一体どこに…?」

 

・・・・・

 

「ここがそうか…」

「確証はありませんが、恐らくは。」

感謝する。短く謝意を述べて施設に入っていく堕龍をアッシュは少しだけ心配そうな目で見送っていた。

コツーン、コツーン、コツーン、コツーン。いやに足音の響く通路を堕龍は奥へ奥へと歩いて行く。

「どうやら…龍はいないようだが…外れか…やはりしらみつぶしに探していくしかないか。っ!?」

急に警報音が鳴り始め、非常灯が点灯、シャッターの閉鎖が奥から出口へ迫ってくるのが見て取れる。

「ッチィッ!」

全速力で元来た通路を駆け抜けて出口に到達し、素早く施設の外に出る。

「ふぅ…どうやらここではなかったようだが、そう簡単に行かせてはくれないか…。」

その視線の先、シャッターが再び開き、一人の青年を吐き出してからまた閉まる。

「草薙京のクローン…さしずめKUSANAGIと言ったところか…面白い、来い!」

どうやらハッチにはロックがかかっていないらしく、KUSANAGIを倒せば外に出られることを確認すると堕龍は素早くリーチの長い突きを繰り出す。

それをKUSANAGIは冷静に受け止め、そして草薙流の技で返してくる。しかし三年前、大量のクローン京を相手取り、大立ち回りを演じた堕龍である。

KUSANAGIの次の動きが手に取るように分かる。

「鏡の幻影の方が強かったな。せめて楽に終わらせてやる。奥義、幻夢怨霊壁!」

体を包むような怨霊が襲い掛かるKUSANAGIの体を大きく弾き飛ばす。

「はあああああああああああああああっ!!!!!」

そして零式鳳凰脚のようにKUSANAGIの両脇を移動しては掌底突きを叩き込み、仕上げに怨霊の奔流を放つと、そのうちの一つが心臓を貫き、KUSANAGIの活動が停止した。

「やれやれ。思ったより少しばかりきつそうだな。」

両肩をコキコキと言わせながらそういうと堕龍は外のアッシュにハッチを焼き切ってもらい、施設を出る。

「どうだった?」

「収穫無しだ。」

「そう。そういえばオズも元気にやってるみたいだし、知り合いに良心的な人がいるって言うから、行ってみたら?」

「そうだな。今どこにいるか分かるか?」

ちょっと思案するような顔でアッシュが思い出そうとするがそれより先にエリザベートが

「たしか、ドイツにいたと思うけど。」

「ありがとう。で、特徴は?」

「サングラスをかけた金髪で20代くらいの外見の優男…っていってたヨ。名前は…なんて言ったかな?」

「ありがとう、それだけ聞ければ十分だ。あとは俺が調べ上げる。」

そういって出国しようとする堕龍を呼び止め、アッシュは

「まったまった!今度はそっち行くから、蟹おごってよ。」

と要求する。

「ああ、シェンにも麻雀の負けた分だけ蟹を奢ると約束しているからな。ついでだ。」

そういって堕龍が立ち去る姿をアッシュはしばらく眺め、それから

「ちゃんとおごってよ。」

と呟いた。




次回はAKOFキャラにご登場いただきます。個人的に好きなんだよね、ワイルドカード


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第三幕 ワイルドカード

俺の相棒ジョーカーでございます。あとついでにⅩⅢのED絵から紫苑を連れて来ました。


ドイツのとある街、その裏通りを一人の男が歩いている。

「おやおや…こんな所にいちゃ危ないぜ、家はどこだい?送ってあげるよお嬢ちゃん。」

偶然迷い込んだ小さな少女を抱き上げ、家族とはぐれた場所を訊きながら通りを出て行く。

薄暗い裏通りから日の当たる大通りに出ると男の髪が日光を反射して金色に輝いた。

「え…と…こっちでいいのかい?」

「うん。お兄ちゃん、名前は?」

「そうさなあ、ジョーカーとだけ言っとこうかな?」

そういって空いた左手を使い、横長の眼鏡のフレームを押し上げる。

「あ、おかあさんだ!」

「よかったな、それじゃ、俺はこれにて」

少女をおろすと男は素早く|周辺の建物の壁面にカードを投げつけ、突き刺さったそれをよじ登り《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》、カードを抜きながら建物の上へと消えていく(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「ありがとー!ジョーカーおにいちゃーん!」

「おう!もう迷子になるなよー!」

男の名はジョーカー。カード暗殺術、カーネフェルの使い手であり、同じくカーネフェル使いのオズワルドとは時に敵対してきた

好敵手でもある。40近い年齢差にもかかわらず、その卓越した能力は最盛期のオズワルドをも上回るかもしれない。

 

・・・・・

 

「おやおや、こんな所に珍客だ。」

再び裏通りにある安アパートに戻ろうとしていたジョーカーはそこに経つ中国人―堕龍を見て少しだけ驚いたような顔をする。

「なかなか貴族なお方と見受けられるが…そんなお方がこんな所になんのご用で?」

「オズワルド…と言う男のことを知っているな?」

「知ってるも何も、腐れ縁だよ、かれこれ11年になるかな?」

ジョーカーがそう答えるや否や堕龍は素早く、それどころか不可視にすら思えるような突きを繰り出す。

「っ!」

ジョーカーがとっさにカードで受けると

「俺の名は堕龍という。どうやら貴様で間違いないらしい。」

「へえ…一体誰の差し金だ?ジャックポット!」

周囲をカードで一掃する得意技を放つが堕龍は軽やかに避ける。

「雇い主に伝えとけ、俺を殺したきゃ自分で来いってな。」

「何を勘違いしている?俺は誰かに雇われてなどいない。」

それを聞いたジョーカーは目を丸くし、堕龍は追い打ちで

「それどころか、俺はお前を殺しに来た訳でもない。今のは軽い本人確認だ。」

「なーんだよ、それならそうと早く言えよ。」

で、何の用だ?と聞くジョーカーに堕龍は単刀直入、端的に質問する。

「ネスツの関連施設を知らないか?」

 

・・・・・

 

「本当に来るのかよ?」

「当たり前だ、龍がいる可能性があるなら俺はそこへ行かねばならない。」

分け前が減っちまうじゃねエか。とため息をつくジョーカーに対し、少しだけきまりが悪くなったのか

「俺は別に報酬目当てではない」

と言うと、

「それを聞いて安心したぜ。言っとくが、俺は俺、お前はお前だ。」

「わかっている。ん?ジョーカー、よほど人気があると見えるな。」

「らしいな。出て来いよ!」

そういわれて空港の柱の影から出てきたのは一見女性にも見える風貌の男。

「別にテメエに用がある訳じゃねエよ。ただ、気にいらねえ奴に似てるってだけでな。」

「それならそのまま立ち去ってくれると有り難いんだがなあ、紫苑!」

「さすがは脅威の人脈。俺のこともご存じだったって事か。」

「ああ、六年前、たしかに消えたはずのお前が何故ここにいる?奴が死んだから解放されたのか?

にしては、六年も力が持続してたか、あるいはお前がそれだけ弱ってたって事になるな。」

テメエ…と紫苑が睨み付けるがそれにも構わず

「アッシュ・クリムゾン、シェン・ウー、そしてあのオズワルド。お前を倒したのはこの三人だろ?正直言って、このメンツじゃ勝てないのも無理はないぜ。俺のライバルに、神器の力を奪った男、そして上海武神。とうてい一人で勝てる相手じゃない。分かったらさっさと消えてくれ。こちとらそうそうヒマな訳じゃないんだ。」

「バカにすんじゃねエ!」

そう叫ぶと紫苑が中国式のよくしなる槍を構える。

「やっぱりそう簡単に行かせてはくれないか…それにだ。遥けし彼の地より出ずる者達の残党、何処にいるのか聞かせてもらおうか!」

「にがしゃしねエぜ!」

ビュオ!

「フューッ。怖い怖い、全く、」

シャッ!

「黙ってりゃ美人の女性っつっても違和感ねえのにな。」

「っっ!てめえっ!」

シュババババッ!

「おおっと!こりゃ失礼、禁句だったか。」

(攻勢にあるのは紫苑だが、実際優位に立っているのはジョーカーだな、勝敗を分けるのはまず精神力だ。)

「危ないな!」

バキッ!ヒュッ!ズバ!ジョーカーがその長い足で紫苑の槍を蹴り上げ、それにカードを投げつけて綺麗に切断する。

「クソッ、テメエ!」

「そうだったな、素手での戦いも心得があるんだった。すっかり忘れてたぜ。」

ガッ、ゴツッ、バシッ、シャッ、ブゥン!紫苑が激しく攻め立ててはジョーカーが軽くそれをいなしていく。

(余裕のない者とある者ではどうしても発揮できる力に差が生まれる。あの口調、一対一での戦いに向いているようだな。)

冷静に分析する堕龍の前でジョーカーが紫苑の頭に掌底突きを見舞った。

「ファイブオブアカインド!」

(決まった!)

「見せてやるよ!」

そして両サイドからの斬撃。

「ぐああっ!?」

最後にショートジャンプからの一閃。

「カーネフェルの真髄を!」

「ぐっ…テメエ…」

「急所は外してあるが、参ったな。気絶してら。」

「とにかく出発するか。インドネシアのセブル島だったな。」

すたすたと歩いて行く堕龍に

「待てよ!売店ぐらい寄らせろって!せめて3セットはカード補充しときたいんだよ!」

と叫んで追いかけるジョーカー。

「…クソッ…」

それを動くこともできずに見送り、紫苑は毒突いた。

「相変わらず、口が悪いな、紫苑。」

「うるせエよ、そっちこそ、相変わらず寒そうな格好だな、牡丹。」

すぐ傍に現れた女性―牡丹に対して悪態をつく紫苑。しかし言われた本人はもう慣れているらしく

「まあ、な。しかしなかなか気に入るデザインがなくてな。」

と返す。

「よく言うぜ、全く。おい、ちょっと肩貸せ。あのジョーカーって野郎、かなりのやり手だ。お陰でまだ自力じゃ立てねえ。」

「しょうがないな。あとで槍も新調するんだろう?」

「分かってるじゃねエか。」




次回はバトルです。2000のCDドラマに出てきた研究所が舞台となります。
ではまた。


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第四幕 因果は巡る

CDドラマ版KOF2000より、ネスツの施設を登場させました。
あちらでは紅丸とK'の戦いが繰り広げられていましたが、ここではジョーカーともう一人のAKOFキャラの戦いとなります。ではどうぞ


インドネシアセブル島、そこは南国のリゾート地域だ。

「あっつ~。堕龍、お前は平気なのかよ?」

ジャケットを脱いで背負うようにして持ち、おまけによく日光を反射するワイシャツの袖を折ったジョーカーが平然と黒い中国服を着て歩いている堕龍に聞いた。

「もともと俺は熱さには強いたちだ。寧ろKシリーズを追っているお前の方が熱さに強いハズなんだがな。」

「基本出くわすのはアンチK'だからな。寒さには強くても熱さにはな…とりあえず一泊しようぜ。熱くてやりきれねエよ。旅の疲れをとってから突入しようぜ。」

「そうだな。所で、あれが本当にネスツの関連施設なのか?俺にはただの博物館に見えるんだがな。」

ただの博物館だよ。ジョーカーが平然と返すと堕龍は少し驚いたようにこちらを振り向く。

「二年前まではな。考えたモンだよ。こんな陽気なリゾート地の、それもド真ん中に人体実験の研究所があるなんて普通は誰も気付かないモンだ。」

なるほど。と相づちを打つ堕龍にジョーカーは続ける。

「おまけに見知らぬ人間が出入りしても観光客だって言えば怪しまれずにすむって訳だな。」

「よくできた話じゃないか。」

「だろ?さ、早くホテルを探そうぜ。民宿でもいいか。涼しけりゃ。」

 

・・・・・

 

「暑い…三太兄がこっちに来たと言うから来たのはいいけど、この服装でこの気温を歩くのはまずいわね。暑くて死にそう…」

ブツクサ言いながら歩いている女性は堕龍の腹違いの妹、笑龍だ。彼女は親子で殺し合うことを止めるために龍を追う堕龍を追っているのだ。

ちなみに、ジョーカーのように熱さを少しでもしのげるようせめて袖を折ればいいのではないかという人もいるだろうが彼女には不可能だ。

毒を操る麟に師事した彼女は全身毒人間となっているので他人が触れたら一発で死ぬ。

そのため常に厚着をしているのだが…どうやらそのせいで熱中症を起こしかけているらしい。

はてさて、どうなる事やら…

 

・・・・・

 

「で、気温の下がった25時、突入するぜ。」

「ああ。」

時計が翌日の午前一時を指したのを確認するとジョーカーが博物館の窓をカードで斬りつけ、解放する。

「で、何処へ行けばいい?」

「前にマキシマたちが侵入したルートだと、事務室の真ん中から地下施設に降りられるようになっていた。たぶんいけるはずだ」

「わかった。」

地下施設に入ると二人は一度別れ、別々にそれぞれの目標を探し始めた。

 

・・・・・

 

タッタッタッタッタ…

静寂に包まれた地下施設を革靴の音が反響する。

「さて、何処にあるんだ?この施設のメインコンピューターは?」

革靴の音を響かせて走っているのはジョーカーだ。

油断なく視線を巡らせ、両手に一枚ずつトランプカードを挟んだ彼は施設のメインコンピューターからKシリーズの情報を引き出そうと考えていた。

(クリザリッドやK9999,ネームレスのような存在が他にいないとも限らない、番外の個体を探すためにもメインコンピューターのデータが必要だ…)

と、キュリッ!という音をさせてジョーカーは立ち止まり、身構えた。

「おやおやおやおや…こんなところでご対面とはね…つくづく平穏無事から嫌われてるらしいな、俺は。大人しく行かせてくれないか?」

いつものようにおどけ調子で肩をすくめると相手を睨み付け、

「なあ、メルド!」

相手の女性はブロンドの髪をゆらして身構えることでそれに答える。

「全く、物騒なお嬢様だ。嫁のもらい手がなくなっちまうぜ?俺だってごめんだしな。」

そういいながらジョーカーもカードを構えた。

 

・・・・・

 

一方の堕龍。ジョーカーの考えを知っているという訳ではないが、彼の目指していた場所に辿り着いていた。

「ここは…コンピュータールーム…メインコンピューターか。ここには龍もいないようだが、こいつからデータを引き出せるかも知れんな。」

そしてコンピューターを起動させると近くにあった白骨死体の白衣からIDカードを取り出し、データに目を通す。

「グリッツ…違う…フリズ…これも違う…クソッ。Kシリーズばかりだな…やはり龍のデータはここには…む?現在活動中の施設…?」

世界地図の中に光る点が二つ。一つはセブル島でもう一つは…

「中国の…河北省!?ネスツはあそこにも施設を作っていたのか…しかし活動中とは…まさか!」

念のためにデータをコピーして堕龍は部屋を飛び出した。

(奴のように無茶苦茶な改造を施したのであれば体の維持には相応の設備が必要なはず。河北省か。遂にあえるな、龍!)

 

・・・・・

 

「始末しようとするって事は、されることを覚悟してる。そう考えていいんだよな?」

「ッ!」

ジョーカーのカードが閃く。

「一気に攻勢を仕掛ける!」

何度も何度も別々の急所を斬りつけ、回転しながら切り刻む。

「お前にはもう、どうすることもできない!チェックメイトだ!」

最後に脳天を断ち割ると静かに背を向ける。

おっと、忘れてた。といってカードを放るとジョーカーは腕時計に目をやり、

「午前3時…脱出するか。」

と言って走り出した。

「・・・・・ぅ…ぁ…くっ…」

「縁があればまた会おうぜ。もっと平和的にな。」

こう書かれたカードが目の前に刺さる。

それを見てどこか憑き物が落ちたような表情を浮かべるとメルドは少しの間眠りについた。

 

・・・・・

 

そしてホテルの彼等の部屋。お互いに情報を伝え合う。

「で、結局収穫は無しだった訳だが、そっちはどうだ?」

「俺は他の稼働施設のデータを見つけたが、お前はどうする?」

「そこしかてがかりがないってんならそこに行くぜ。」




今作のコンセプトは基本殺しはしない。でございますのであしからず…
まあ俺自身書いてて胸クソ悪くなることはしたくねえし。


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第五幕 紫苑の逆襲

今作は短いんでまあ、あと一二回の投稿で完結するかと思われます。


「やってきました河北省。っつーワケで案内頼むわ。」

「土地不案内か。少し不便だぞ?」

「いいんだよ。」

彼等がいるのは中国河北省、かつて飛族の里であり、今はネスツの流れをくむ施設が存在するポイントからおよそ2キロ離れた山中である。

「ところで、一つ聞くが、お前、山に登るときもスーツなのか?」

「身だしなみには気を遣うタチなんだよ。」

ジョーカーの少しトンチンカンな答えに堕龍は少しため息をついた。

「…しかしお前は人気者だな。」

「ああ、この感じ、紫苑か。出て来いよ!」

そう言われて現れた紫苑は前回のような黄色い中国服に青いズボンという出で立ちではなく、

黄色と青という基本カラーはそのままに素肌の上にジャケットを羽織り、ズボンもジーンズに替わっている。

「へえ、随分とイメージ変わったじゃないか。」

「テメエの口調がシャクだったんでな。」

ギャキイイン!ジョーカーが素早く斬りつけるがそれを槍で受け止めた紫苑が挑発するようにいう。

「人をイラつかせるたあ姑息な真似しやがって。この間の俺とは次元そのものが違うンだよ。」

「おいおい、中国の兵法書には怒らせてこれを乱せ。とか兵は詭道なり。とか、そういうのがあったんじゃないか?」

軽口を叩きながらもジョーカーは攻撃のペースをゆるめない。

「堕龍、お前は先に龍のところに行け。紫苑の狙いは俺だからな。」

「分かった。すまん!」

一言言い置いて堕龍は駆け出した。

 

・・・・・

 

「さてと、ここからあいつを狙撃すれば良いって龍は言っていたけど、正直物足りないわね。」

ライフルを構え、狙撃用スコープから堕龍を見つめているのは元ネスツ幹部であったミスティである。

「さあ、さようなら…」

そういってトリガーに描けた指に力を込めた瞬間、後ろから聞こえてきた声に思わずトリガーに乗った指を離してしまう。

「へえ、なかなか考えるじゃない?」

「!」

驚いて振り向いた先には金髪を右目の前に垂らした青年と青い髪を丁寧に整えた女性。

アッシュ・C・ブラントルシュとエリザベート・ブラントルシュがいた。

「ちょっと堕龍が心配だから見に来てみれば、案の定、ここからオバサンが狙ってたって訳だ。」

そういいながらアッシュは右手に緑色をした泡状の炎を宿す。

「悪いけど、邪魔はさせないよ。」

 

・・・・・

 

笑龍の前で一人の男が中毒症状を起こして死んだ。

「草薙京のクローン…ということはすぐ近くに龍が…」

奇しくも堕龍と同じ施設を目指していた笑龍はいま、竹林一つを隔てて堕龍の反対側にいた。

しかしその行く手に次々にクローン京が現れる。

「どうやら強行突破しかないようですね…」

 

・・・・・

 

パンパン。

シェン・ウーは両手についた埃を払いおとすように手を打った。

ここは堕龍たちのいる場所のすぐ近くにある繁華街の外れ。チンピラに喧嘩を売られ、返り討ちにしたところである。

「どいつもこいつも歯ごたえのねえ奴らだ。もっと骨のある奴は…」

と、一人ぼやくシェンの耳に近くを歩くチンピラの声が届く。

「なあ、聞いたかよ、あの山に鬼が出るって噂。」

「ああ、何でも黒い服を着た鬼で、体術がめっぽう強いって話じゃんか。」

「噂じゃ鬼退治にKOF参加者の麟が向かったらしいけど、どうなんだろうな。」

(麟っていやあ飛族じゃねエか。そいつが退治しようとする鬼ってのは!)

「おい、てめえら!その話、この上海武神にも聞かせてもらうぜ!」

 

・・・・・

 

「不甲斐ないな。よもや俺を追ってきた貴様もこの程度とは。飛族四天王最後の一人といえど、全く持ってつまらん。

なあ、麟?」

「く…」

さて、と…といいながら龍は倒れ伏す麟から視線を外し、

「ミスティやクローン京たちも使い物にならん奴らばかりだ。俺が出るまでもない相手を直接やらねばならんのだからな。」

そう言って龍が顔を向けた先には堕龍の姿があった。

「貴様の邪気、今ここで断つぞ、龍。」

「面白い。愚息がどこまで強くなったのか、見てみるのもまた一興だな。来るがいい。」

 

・・・・・

 

キャキィィンッ!紫苑が長い槍を右手一本に持ち替え、左手に握って子槍を突き出すと、ジョーカーはそれをトランプカードで刻む。

「やるじゃないか!」

「お褒めにあずかり光栄だな。だがちょっとこないだより弱くなってねえか?あん?」

「俺が弱くなったんじゃなくて君が強くなったんだろうに…っ!」

キィンッ!

一瞬の隙を突いたジョーカーの一閃が長槍を再起不能にすると紫苑は両手に大量の子槍を握りしめる。

「そろそろ飽きてきたな。終わりにするか!」

ダンッと力強くステップを踏み、一気にジョーカーの懐に入り込む紫苑。続けて両手の子槍を爪のように一閃しようとした一瞬、ジョーカーの瞳が眼鏡の奥できらめいた。

「残念!ここが俺にとってのジャックポットだ!」

ひゅばっ!と円を描くように放たれたカードで大きく弾き飛ばすと続けて至近距離まで近付き、頭を掴んで近くにあった気に叩き付ける。

「見せてやるよ!」

「ぐっ…この野郎!」

苦痛にうめきながらも両手の子槍を投げつける紫苑だったが、半ば苦し紛れの飛び道具も簡単に切り払われる。

「カーネフェルの真髄を!」

ひゅばばばばばばばばばばっ!ワンセット分の全てのトランプカードを抜群の殺傷力で投げつけると、最後に残ったジョーカーをぴらりと見せてニッと笑った。

「オズワルドだけが使えるわけじゃないんだぜ、JOKERはな。ご堪能頂けたかな?」

芝居がかった動作で一礼するとジョーカーは堕龍の向かった方角に向けて走り出した。

「どうする?まだやるのか?」

「牡丹かよ。ホントにドンピシャのタイミングで来るけど、まさかお前タイミング狙ってるんじゃねえだろうな?」

「決着がついたら迎えてやろうと思っただけだ。で、まだやるのか?」

牡丹の問いに紫苑は傷だらけの顔でふっと笑うと

「いや。なんか面倒になってきたな。ひっそり静かに暮らしていくのも、まあ悪かねえし、お前ンとこの隠れ家、住み込ませてもらうぜ。」

それを聞くと牡丹は名前の通りに花が咲いたように笑う。

「仕方のないヤツだな。まあ、歓迎してやろう。肩、貸そうか?」

「わりいな。」




次回、第六幕 龍と堕龍
よろしくお願いします。


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第六幕 龍と堕龍

あと二つ、バトルパートはこれで終わりです。


「はあっ!」

「ふんっ!」

互いに繰り出される掌底を紙一重で躱す。堕龍は続けて長い足を半円を描くようにして振るうが、龍はそれを残像を残して躱し、後ろに回り込む。

「んーっふっふっふっふ…他愛のない…」

龍の鋭い突きが堕龍の背中を貫こうとしたその瞬間、堕龍は唇をつり上げて不適に微笑む。

「甘いな。」

瞬間堕龍の輪郭がぶれ、そのうちの一つが振り返って逆に貫手を放つ。

「ほう、多重幻影暗勁か。よもやこうも綺麗に使いこなせるとは…面白い…」

「ほざけ。」

ひゅばっ!ビッ!そして残る二つの幻影の繰り出した突きが龍の頬に切り傷をつくり、本体の後ろ蹴りが龍の顎をとらえた。

「プッ!」

空中から龍は麟の得意とする毒霧を吹き付けると、たまらずそれを躱した堕龍に吊し喉輪を仕掛け、片手で軽々と持ち上げて見せた。

「ぐ…かっ…!」

「どうした?俺を殺すのではなかったのか?案ずるな。苦しいのは最初だけ、すぐに気持ちよくなる。そしてそのままで地獄へ行くのだ。」

ドスッ!

「!!!!!」

「フン。存外に面白かったが、しかし俺を殺すことは出来なかったな。ン?」

背中から黒い袖に覆われた骨張った手を突き出しつつも、堕龍の顔は不適に笑んでいる。

「この…距離…なら…貴様も、避け、ようが…無いッ!」

己の足下に黒くわだかまる怨霊達の姿を認めた龍の顔がとたんに歪む。

「堕龍!貴様最初から…!」

「差し違えてでも殺すつもりだったのだ、共に地獄に堕ちようではないか、龍!」

その叫びに呼応するように耳を覆いたくなるような怨嗟の声を伴った怨霊達が一斉に吹き上がった。

「ぬあああああッ!放せッ!放すのだ!貴様ァァァッ!」

叫び声がだんだんと小さくなり、消えたときには地面に崩れ落ちた堕龍とその周りに散乱する龍の衣服の端切れだけだった。

「や…やったのか…?」

上体を起こした麟がきくと堕龍は息も絶え絶えに

「ああ、肉片一つ残さず…とはいかんまでも、脳と心臓は潰した。もう生きてはいないだろう…ガフッ、ゴホッ。」

大量の血を吐き出した堕龍を見た麟はその命が残りわずかしかないことを見て取り、きく。

「お前は、後悔して、無いのか?」

「無いといえば、嘘になるな。」

そう言って焦点を失いかけた瞳で見やったのはあちこちに傷をつくり、金髪に木の葉や小枝をくっつけたシェンと赤い服にいくつかの焦げあとと返り血をつけたアッシュ、そしてその隣にいるエリザベートだった。

「すまんな。蟹、驕って、やれなくて。それに、もう少しお前と旅をするのも、悪くなかったんだがな。相棒。」

更にその向こう、木々の間から出てきたジョーカーにいうと、彼は少しだけ肩をすくめて

「まあ、悪くはなかったぜ。」

と返す。いつもの飄然とした口調に少しだけ唇を緩めるといつの間にかいて自分の上に影を落とす女性に向け、申し訳なさそうに笑った。

「笑龍…か。お前が私を追っていたのは知っていたが、すまんな。龍とも戦ったし、このザマ、だ。」

「三太兄…」

今にも泣きそうな顔の笑龍に、そして次二輪に顔を向けて堕龍は言う。

「飛族の生き残りを、統一して、復興して、見せてくれ。あっちからも、見えるように…ジョーカー、一応腕は残っているから賞金首として売りさばくことも、出来るだろう。アッシュ、シェン、エリザベート、お前達といたのはほんのわずかな時間だったが、楽しかった…ぞ…」

そして目を閉じる。感極まった笑龍がその体に抱きついたとたん、堕龍は一度大きく目を見開いて絶命した。

「…え…?」

一瞬目を見張ったジョーカーがその異様な死に様に少しだけ声を荒げて

「お嬢さん…なんかやったか?」

と聞くと笑龍ははっとしたように自分の手の袖から出ている部分が彼の皮膚に触れているのに気付いた。麟もそれに気づき、

「うっかり毒に染まった部分で触れてしまったのか…未熟者め…」

と包帯に覆われ、毒を遮った右手で目を覆って嘆息した。




あとはもう一話、エンディングで終わりです。


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終幕 龍に捧げる鎮魂歌

時代は一気に進んでKOF NEW GENERATIONの時代、堕龍の墓前での会話となります。
一応ストーリー性のあるKOF×REBORN!の話はこれで完結となっております。
ありがとうございました。


そして17年が過ぎた。

穏やかに日の差す丘の上。

そこにある墓石の前にアッシュはしゃがみ込み、持ってきた花を置いた。

「堕龍、また、今年もKOFがあるみたいだよ。あれから17年。長いもんだよね…」

そっと語りかける彼の後ろにはエリザベートと青い髪を真ん中で分け、右側に垂らした少年がいた。

「心配しないで下さい、飛族はちゃんと復興しました、そして僕の世代にもその技は受け継がれています。」

報告する少年はジャッロ・ブラントルシュ、アッシュ達の息子である。

「まあ、そういうことだから、私達が行くまで土産話を楽しみに待っていて下さいね。」

悲しみが多分に含まれた微笑みを墓石に向けるとエリザベートはアッシュを促す。

「さあ、行きましょう。少しでも多くの土産話を持って行けるように、無駄な時間などありません。」

「そうだね、いつかまた、そっちで飲もうよ。蟹と、土産話を肴にして、サ…」

 

・・・・・

 

「17年ぶりの再会なワケだが、今回俺とアンタは敵同士だ。まあ、ボコボコにしてくれって言われただけだから悪く思わんでくれ、シェン・ウー。」

「っハッ!あいつの相棒として各地を飛び回ったカーネフェル、見せてもらおうじゃねエか!」

路地裏でジョーカーと対峙するシェンが不敵に笑い拳を固める。

ジョーカーも油断なくカードを構えた。

サアアアア…と降りしきる雨の中、二人の重心がぶれる。

「「行くぜ!」」

バシャッ!一気に踏み込む二人の足音が上海の喧噪に沈んでいった。

 

・・・・・

 

かくして、誇り高き龍は旅立った。

しかしその活躍は忘れられるだろう。

だが、全て忘却に葬られるとは思わない。

なぜなら目に見える戦いもたしかに存在したのだから。

輝ける戦士達の王の座を争い、戦った者達の一部なのだから。

人々は忘れないだろう。

彼等の勇姿を。

戦士達が集ったその大会を。

キングオブファイターズの事を!




ちなみにこのシリーズ、ツナも大蛇薙ぎできそうだなと言う安直な考えからできたんですよね。
すげえなコレ。


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