アクセル・ワールド~加速探偵E・G~ (立花タケシ)
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Detective in the Bar
加速世界の探偵


遅筆なのでできれば根気よく付き合ってください。


 

 夜の闇と街灯の明かりが摩天楼に立ち並ぶビル群を彩る。

 しかし、街にあるはずの喧騒は無かった。

 

 静寂であり、

 

 閑散であり。

 

また人もいない。

 

 なぜならば、ここが現実ではなく仮想世界────ブレイン・バーストと呼ばれるフルダイブ型ゲームのフィールドだからだ。

 

 フィールド属性《混沌》

 

 その、静かに林立するビルとビルの間を息せき切った体に鞭を打ち、縫うように走る人影があった。

 「はぁっはぁ……。どこまで追ってきやがるんだ!」

 その黄土色をしたアバター、────ロエス・テンプルは、悪態をつきながらも足を止めない。

 「なんだよ!なんで追われるんだよ。……まさかアイツの事か? アイツの代わりなのか……?ふざけるな!」

 「はいは~い。ストップ」

 止まる予定のなかったはずの足は、突然目の前に現れたアバターに阻止された。

 黄金色に輝くそのアバターは、ロエス・テンプルに比べるとシャープで、忍者のようなフォルムをしていた。

 「お前だれだよ!いい加減にしてくれよ!」

 逃げることをあきらめたのか、ロエス・テンプルは怒りにまかせて怒鳴り散らす。

 「誰に頼まれた? どうせアイツだろーがな!」

 「依頼主に関することはNGなんでなんとも……。でも個人的な自己紹介をするとしたら────ど~も探偵のゴールデン・ダークです」

 

 

 

 

 「返り討ちにしてやる!」

 

 同時刻

 

 しかし異なる場所で、二つのアバターがシノギを削っていた。

 一方は灰色をしたアバター。

 ヒュンッ、ブゥンッと手にした棒状の武器を振り回している。

 

 もう一方は翠玉色をしたアバター。

 

 「うぉっと、危ねぇな」

 

 後ろに跳んで攻撃を避け続けるアバターは、装甲を身に着け頭と腰に生えた尻尾が爬虫類のようなフォルムをした、RPGにでてくるリザードマンとよく似た風貌だった。

 

 「おらおら!避けてばっかじゃつまらないぞ!」

 「師匠が言った。相手を観察し、スキを見つけろ……そして」

 

 翠玉色のアバターは避け続けていた体を停止させ、一気に踏み込み相手の懐へと間合いを詰めた。

 

 「もしスキがないなら作り出せ」

 

 常に相手を倒さんと回転していた棒の猛威が襲い掛かる瞬間、翠玉色のアバターは鉤爪状になった左腕を掲げ、それを弾いた。

 

 「な───ッ、なに!?」

 

 武器は弾かれ、がら空きとなってしまった灰色のアバターの腹部。

 そこに狙ってましたとばかりに左方と同じく鉤爪となっている右腕を突き出す。

 

 ブスリッ

 

 と鈍い音と感触が、血飛沫を思わせる火花とともに伝わった。

 

 「ガァ───ッ。てめぇ一体……?」

 

 「探偵屋G・Eの片割れ、エメラルド・レックス。しばらく寝てな」

 

 エメラルド・レックスと名乗った男のアバターの右腕が輝き、灰色のアバターの胴体を引き裂いた。

 

 

 

 

 アバターで賑わう現実では東京と呼ばれる地域からはずれて数キロ。海沿いに一つ孤立した建物があった。

 本来、ホームと呼ばれプライベートな事でしか使われないはずのそれは、看板がつけられ、外装を変えられ、内装を改造し、最初の頃とは似ても似つかぬ建物と化していた。

 暗がりに光る所々の電球が切れかけた看板。

 それには[BAR G・E]と筆記体で書かれていた。

 この世界の加速能力者達でいにぎわうはずのない場所で営業するこの店には、主に二種類の客が入ってくる。

 

 1つは単に酒を飲みながら愚痴を肴にする客

 

 そして2つ目は2人しかいない店員にもう一つの仕事を依頼する客

 

 もう一つの仕事───探偵として。

前者の仕事は立地条件もあり繁盛しているとは言い難いが、常連客が数人いるくらいには働いている。

 しかし後者の仕事は殆ど客はいない。 困ったことがあったといっても所詮は仮想の中の世界。それにこの店が探偵業をしている事を知っているのは表の仕事の常連客の中にも数えるくらいだ。

 つまり、彼らに仕事を依頼するのはよっぽどの人しかいない。

 

 それほど困難で、

 

 それほど重要である。

 

 今現在、店の扉には「CLOSE」の立札がかけられていた。

 なぜなら先ほどまで店員総出で仕事をしていたからだ。

 もちろん探偵の。

 その閉じられた扉を力強く開け放つ者がいた。

 「たっだいま。あ~疲れた」

 「そりゃ疲れるだろうな、あれほど暴れたら」

 扉を開け、ズカズカと無遠慮に立ち入るアバターに声をかけたのは、先にこの店に帰っていた店主だった。

 

 エメラルド・レックス

 

 この店の持ち主であり、探偵の一人である。

 

 「いやさ、奴さんが予想以上に粘るもんだから熱くなっちゃったんだよね」

 

 もう一人はゴールデン・ダーク

 

 唯一の店員であり、探偵も兼ねている。

 「だからってあそこまでやる必要はなかっただろ。今回の仕事はリアルを知られた相手をどんな手を使ってもいいから連れてきてくれ……だ。標的が全損しかけて、かつ怯えながら連れてこられたらそりゃ依頼主も驚くさ」

 「依頼主も標的も探偵(おれたち)が気にすることじゃない。そうだろ?」

 「師匠が言った。何事もスピードとスマートを大切に。お前はスマートさに欠けるんだよ」

 「でも早いだろ?」

 「……及第点だ」

 

 たった二人の反省会。

 ソファに深々と座りながら、半分愚痴のように言葉をこぼす。

 流石は加速世界。

 時間を気にすることなく、悠々と語らう事ができる。そんなこの世界がレックスは好きだった。

 時間を忘れることができる。

 

 思春期の学生にはこれ以上の報酬はないかもしれない。

 加速世界様々だ。

 

 ……と、途端に。

 バタンッ

 本当に突然に店の扉が開かれた。

 二人はするはずのない音に驚き、体を強張らせる。

 「あの……」

 淡いピンク色。

 流れ込むように侵入してきた夜明けのようなアバターは、開口一番言った。

 「依頼しても良いですか?」

 

 

客用のイスに座らせた女性型アバターの名前はドーン・パンサー。

 ドーンは夜明け、パンサーは豹からきているのだろうとレックスは考えていた。

 なにより頭に付いた猫耳でだいたいの予想はつく。

 

 「あの……依頼を聞いていただけますか?」

 

 客を観察していたレックスは組んでいた足をなおし、相手の話を聞く態勢になった。

 「どうぞ~。なにすればいいの?」

 「お前はまた……。一応商売だからその態度を直せ」

 「───いえいえ!おかまいなく」

 両手をブンブンと振って申し訳なさそうにするパンサー。これではどちらが客かわからなくなってしまう。

 

 「それで依頼とは?」

 「はい。実は人を探して欲しくてですね」

 「人探し?」

 

 レックスは疑問に思った。

 なぜなら彼ら探偵にとってはあまりにも意外な内容だったからだ。

 現実世界の探偵なら普通にあるような内容だろう。

 しかしここは加速世界。現実とは常識が異なってくる。

 時間は余りあまるほど存在し、人数を使いたいならそれこそレギオンに入ってしまえばいい。

 

 「あんたレギオンは?」

 「入っていません」

 「レギオンに入ったら即解決じゃないのか?人数だって上だしなにより融通が利くだろう?」

 「事情があります」

 

 なるほどね。とレックスは思った。

 これはただの人探しではなく、それなりの問題が関わってきそうだ。

 となると

 「報酬はどんなものを用意してあるんだ?」

 「……これです」

 「───はぁ!?人探しで激レアな強化外装もらえんの?まじで!?」

 ダークが驚くのも無理はないだろう。今回報酬として用意された強化外装は先ほどの仕事の報酬より価値としては高いものだった。

 

 「理由をきいても?」

 「すいません」

 「……だろうな」

 「え、どゆこと?」

 一人話についてこれないダークを無視し、レックスは今一度話を慎重に聞く気になった。

 「どんな奴をさがすんだ?」

 「えっと、画像を送りますね」

 送られてきた画像には粗いながらも大まかな特徴はわかるアバターが写っている。

 少し茶色っぽい黄色をした牛のようなアバター。

 

 「名前はウィート・ブル。この人を探して欲しいんです」

 「こりゃ受けるしかないでしょ。だろ、レックス!」

 「…………」

 ドッカリとソファに深く座り、考え込むレックス。そして答えを出したのか立ち上がった。

 「明日の同じ時間にまた来てくれ。その時に答えをだす」

 

 その言葉に一番最初に驚いたのはパンサーではなくダークだった。

 「お前ふざけてんのか?こんないい仕事ないって」

 「馬鹿は黙ってろ。それで、待ってくれるか?」

 「それでは先ほど渡した情報が───」

「ほとんどの事を話してもらえない状況に、高額の報酬。何かあると思って当然だろう」

 「……わかりました」

 渋々といった風にパンサーは了承する。

 

 「明日また伺います」

 そう言ってパンサーは立ち上がり、チリンチリンと店のドアを鐘を鳴らしながら開き帰っていく。

 足音が遠ざかっていき、やがて完全に消え去った後。ダークは待ち構えてたようにレックスに噛み付いた。

 

 「なんで受けなかったんだよ!あんな好条件即決以外の選択肢なんてねぇだろ!」

 「さっきも言ったが事情もわからないしあんな高額な報酬。なによりココにくる程の人探しがまともなわけがないだろ」

 「それでも所詮は人探しだぞ?」

 「あ~今日はもういい!明日学校で話す」

 そう言ったレックスは強引に立ち上がり足取り強く店をあとにする。

 「……え。解散なの?」

 一人取り残されたダークは寂しさとともに板張りの上に突っ立っていた。

 

 

 




レックス「はじまったな」
ダーク「はじまったね」
レックス「続くと思うか?」
ダーク「続かないに500円」
レックス「あ、ズル! ……続くに500だ」


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探偵の日常(?)

 

 加速世界(あっち)にいると現実世界(こっち)のタイムロスはいかがなものか、と。そう橘彰祐(タチバナショウスケ)は思った。

 だが、この感慨も加速世界の住人だからこそ味わえるものだとおもうとまんざらでもなかった。

 

 彰祐は一人、待ち人を弁当を食べながら待つ。

 決して友人がいないわけではない。

 ただ会話を聞かれたくなかったからわざわざ人が来ない場所を選択し、陣取ったのだ。

 

 「わりぃわりい、待ったか?」

 「待ってるから先に食べ始めてるんだ」

 「うわっ、つれねぇな。ちょっとくらい待てよ」

 「師匠は言った。時間は有限だ、加速世界でも、現実でも」

 「はいはい、ソーデスカ」

 遅れてやってきた男、杉森勇魔は売店て購入したばかりのサンドイッチの封を切り、トマトとレタスとベーコンを挟んだいわゆるBLTサンドを頬張った。

 

 「んで、ふぉおふんだ(それで、どおすんだ)」

 まだパンがのこった口でそういった。

 どおするの4文字に含まれたのは、加速世界での昨日の依頼の話。

 依然、ダークが心にしこりを残す、レックスが依頼を渋る理由だ。

 

 「……飲み込んでから喋れよ。まぁ、あんまり乗り気じゃないのは確かだ。もしだ、もしかしての話だがこれが6大レギオンとかに接触するようなモンだったらどうする。一瞬で潰されるぞ。いままで続けた物が一瞬でゼロ、最悪全損だな」

 「……なんでそこまで考えるかな」

 勇魔は嘆息しながらいった。

 「だってあの報酬だぞ?そりゃ───」

 「そうじゃねぇ、そんなリスク計算ばっか考えてんじゃねえって話だ。お前は俺のことバカバカっていうけどお前も結構な馬鹿じゃね~か。昔はどうしようもなく困った人を助けるだけだったのにもう保身かよ。そうじゃねえだろ?」

 

 飄々とした口調で心に刺さるような言葉を言われた。

 しかし、それで彰祐は目が覚めた気分だった。

 「……なったらなったでやりゃいいか」

 「そうそう!」

 コツンと二人は拳をぶつけた。

 

 

 

 

 残った弁当を食べていると、彰祐が口を開いた。

 「今の今で今更だがよ」

 「……ん?」

 「お前名前おかしくね?」

 「───ぶふぉ……っ、ゲホゲホッ、どういうことだよ!?」

 思わず咀嚼していたトマトとベーコンを吹き出してしまった勇魔。それを「きったねぇ」といいながらハンカチで拭う彰祐。

 「だって勇と魔だぞ?勇者と魔王ってか、矛盾すぎるだろ~。現実での矛盾存在(アノマリー)とはお前のことか!」

 「あ、アノ?? そんなこと言うならお前だって中二病抜けてねぇだろうが!」

 「───なっ」

 彰祐の顔が茹ったように朱色に染まった。

 「どこがだよ!」

 「雰囲気とか、たまにつぶやいてる言葉とかまんままるっきり中二じゃないか!」

 その後もギャアギャアと敷地をにぎわす喧騒。

 それが終わるのは予鈴のチャイムが鳴ってからだった。

 

 

「てなわけで、その仕事は受ける事にした」

 「ありがとうございます」

 

 二日続けてCLOSEと掲げられたバーの扉の内側から、そんな会話が響いてくる。

 「さっそく始めちゃうけどいい~?」

 「あ、はい。 ……あの」

 「ん、どうした」

 パンサーがどこか申し訳なさそうに言葉を挙げた。

 

 どこか吹っ切れたレックスは別にこれ以上の要求をされても構わないと思っていた。ただ、少しだけどんな事を追加されるか身構えてしまう。

「たいしたことじゃないんですが……」

「いーからいーから。言ってみ?」

「あの、依頼が終わるまでここで待っていていいですか?」

「あ、あぁ」

 

変わった要求にお互い顔を見合わせてしまうレックスとダーク。

 

「……それだけ?」

「え、はい。それだけです」

 

少女はさも当然のように答えた。

 

「別にそれぐらい許可がいるようなことでもないんだが、時間がかかるかもしれないがいいのか?」

「大丈夫です」

「それならいくらでも居てくれてかまわない」

 

パンサーはただ頭をさげるだけだった。

 

「さて、それじゃ行くか」

「そうだね、いこっか」

 

わざわざ何処にと言わずとも通じる仲である。二人はゆっくりとソファーから立ち上がり、迷いなく扉へと向かう。

 

「ま、店番頼むよ」

「は、はい!」

 

ギィ、と年季の入った扉を軋ませ、金色と翠玉の背中は遠くなっていく。

 

 

 

「お前帰ってくるのはやくね?」

「いやいや~、レックスも十分早いよ。随分と身軽そうだね」

「あの、お二人とも~」

「ダークの野郎がやんのかこらぁ!」

「だまれトカゲ!」

 

ここはどこかのフィールド───、ではなくG・Eの店内。

颯爽と駆けだしたダークとレックスはなにやら足取り重くこの店に逆戻りしてきた。

これがついさっきまでのお話。

いまでは仲良くどつきあい、火花を散らしあっている。

 

「てめ、また成果なく帰ってきやがって……」

「そっちだってあんな恰好つけて手ぶらとか」

「いや、あの……そろそろ」

 

まさに五十歩百歩

 

目くそ鼻くそ戦争

 

同じ穴のムジナである。

 

「落ち着いてください!」

 

突然の近くからの怒号に、今まで取っ組み合いをしていた二人はビクッと体を震わせ静止する。

 

「何やってるんですか! こっちは仕事を待っているのに喧嘩しだすなんて探偵とは到底思えませんよ!」

 

その言葉に二人ともが「あ……いや」「そのだな……」と目を泳がせつつしどろもどろうろたえだす。

 

「わかった、怒るなって、それじゃあ一応経過報告するから。 なっレックス」

「ああそうだな。それじゃお前から言え」

「おっしゃ! 俺はだな……」

 

 

○  ○  ○

 

 

 SIDE ゴールデン・ダーク

 

 BAR G・Eの建っているような辺境とは別の趣がある、つまりはバーストリンカーと呼ばれる異形の者たちで賑わう場所にダークは来ていた。

 

 「人、人、人っと。視界に必ずアバターがいるってのも久々の感覚だなぁ~。さてと、だ・れ・に・し・よ・う・か・な~っと」

 

 ダークは街の中心に立ち、品定めするように色とりどりのアバターを指を次々に指していく。その品定めは終了し、指先の指す方向にはピッタリと薄茶色のアバターが存在し隣にいる水色のアバターと談笑している。

 ひたひたとダークは極限まで足音を薄めそのアバターに背後から近づいた。

 

 「ちょっとすいません。少しイイっすか?」

 「俺? はいはい何かな?」

 

 友達と思われる人との会話を中断し、こちらに振り向いた薄茶色のアバターに先ほどもらったばかりの画像を見せる。

 

 「この画像に載ってるアバター知らない?ウィート・ブルっていう名前なんだけどさ」

 「いや知らないな。お前は何か知ってるか?」

 「しらねぇな」

 

 薄茶色のアバターは隣のアバターにも聞いたがどちらも首を横に振るばかりだった。

 「ふ~ん、それじゃあさ……」

 

 ダークの声のトーンが少し冷たくなったような気がした。 まるで獲物をねらう獣のような鋭さをもった冷たさだ。

 気づけばダークの右手には黒く鈍い光を発するクナイが握られていた。このことに誰が反応できただろうか。

 その右手は目の前に突き出され、鉄の切っ先は薄茶色のアバターの腹部に埋もれていた。

 

 「本当に知らない?」

 「───っ!? が…ぁ、なん、でだよ。」

 「お前なにしてるんだ!」

 「あ、ホントにしらないのね。ゴメンゴメン」

 

 ダークは軽い調子で謝るとクナイを引き抜いた。

 

 「……てめぇ、ただじゃおかねぇぞ」

 「どこのどいつかわからねぇが突然コイツの脇腹ぶっ刺した落とし前キッチリつけてやる」

 「これはバトルしろってこと? そうなのかな?」

 「うっせぇぞ! 叩き潰す!!」

 

 薄茶色のアバターのハンマーの形をした右腕が風を切りながらダークの頭上へと振り下ろされる。

 しかし、地を響かせるほどの威力を纏ったそれは、結局はダークの頭部を叩き割ることはなかった。

 ダークは咄嗟に二人と距離を取っていた。

 

 「これは……2対1のバトルって解釈しちゃってもいいのかな?」

 「この野郎! すぐにその余裕なくしてやる!」

 

 この騒動に徐々に周りにいたアバターが集い、野次馬と化しグルッと円を描き即席のリングを作り出す。

 

 「観客もいることだし、ちゃっちゃとやっちゃいますか!」

 こうしてダークは目の前の相手を刀を交えた。

 

 

○  ○  ○

 

 「え、終わり?」

 

 店内にレックスの呆気にとられた声が出された。

 

 「いやいやこれは一部だからね! あと4人に声はかけた」

 「4人でも少ないですよね……」

 

 パンサー本人はただの呟きだったのだろう。しかしそれはダークの耳にしっかりと届き彼の心に多大なダメージを与えるのに図らずも成功していた。

 

 「てかさ、お前今日何回バトルした?」

 「4回……だけど」

 「全部だろーがこの野郎!」

 

 レックスは机をドンッと叩き怒った。

 

 「なんでお前はいちいちバトルするんだよ! 大体さっきのだってなんで刃物で刺したの? なんでもう一度聞いたの? 意味わかんないんだけど!」

 「人は痛みの前には正直なのさ……」

 「ドヤ顔しなーい! お前そんなサイコなキャラだっけ? 怖いよもう!」

 「レックスさん落ち着いて」

 「落ち着いてられるか!」

 

 レックスは言うだけ言うと肩で息を吸うほど疲れ果てた。

 

 「はぁ…っはぁ。 それで成果ゼロと……」

 「ポイントは稼いだけどね」

 

 とうとうレックスはうなだれることしかできなかった。コイツはただ自分のためにバトルをしに行っただけじゃないだろうか、そういわずにいられなかったがそんな体力は残っていない。

 その様子を見て、パンサーは慌てて話題を変える。

 

 「れ、レックスさんはどうだったんですか?」

 「俺~? そうだね、───ん?」

 

 何かを言おうとしたレックスの視線が少しズレた。

 まるでメッセージか何かを見てるように。

 

 「なら聞かせてやろう、俺の成果を」

 

 途端、レックスの口は饒舌に滑り出す。

 

 「ダーク、いまからアキハバラBGに行くぞ」

 

 




レックス「続いたな、遅かったけど」
ダーク「続いたね、遅かったけど」
ダーク「遅すぎじゃない?」
レックス「作者が忘れてた上にインフルになったらしい」
ダーク「……お大事に」
レックス「それより、続いたからな。いただくモンはキッチリ───」
ダーク「にんにん!」
レックス「あ、コラ!……って、もういねぇ」


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探偵in闘技場

今まで見ていただいてる方々、本当にありがとうございます。
 今更ながらこれが初投稿作品でしていろいろ至らないところがあると思います。この間、初めてのアドバイスをいただきとても参考になりました。 
 これからも改善点などございましたらよろしくお願いいたします。


 

 アキハバラBG

 

正式名称「アキハバラバトルグラウンド」

 東京台東区は秋葉原、アミューズメントビル・カドタワーのローカルネットから入場できるかけ闘技場。

 

 絶対中立域にてバーストリンカーの聖地。

 天井から吊り下げられた大型モニターには何かの文字と数字が常に動いており、その画面を食い入るように数々のアバターが双眸で眺める。

 

 そこに二人のアバターが来ていた。

 

 「なんでわざわざこんなとこに? その情報提供者の趣味が疑われるね」

 「お前に疑われるような趣味を一般人は普通と言う。 まあ黙ってついてこい」

 

 小型の恐竜型アバターと忍者型アバターは自分たちの店とはどこか似た雰囲気を持ちつつもまた別の個性をもった赤く錆びたスチームパンクな内装の酒場を闊歩する。

 

 「景気はどうだい?」

 

 レックスはカウンターの前に来ると、両腕をのせ体を預けながら目の前のアバターに悠長に話しかける。

 

 「見ての通りじゃよ、探偵屋」

 「……え?」

 

 ダークは驚いていた。 たとえ目の前のアバターがレックスの知人だとしても、決してレックスは簡単にその仕事のことを話はしない。

 

 なのに知っていた。

 

 「おい、何を呆けているんだ。 この人が情報提供者の[マッチメイカー]だ」

 「お前らの噂はきいとるよ。 今回だってそう。 おぬしらが人をさがしとると小耳にはさんでの。 だから協力してやろうとな」

 

 マッチメイカーと呼ばれたドワーフ型のアバターは自慢げにその立派なヒゲをピンと立てた。

 そのヒゲの奥に除く口の端は吊り上っている。

 

 「で、その情報とやらは? 情報料も言い値で払おう」

 「いやいや、そこまで高い情報ではないんじゃよ。 わしが教えるのはその人物を知っているであろう人物じゃからな」

 「へぇ、なるほど」

 

 レックスはうなずき、ダークはいまだに状況が呑み込めていない。

 

 「その人物とは、どこにいる?」

 「そやつの名はホライズン・アックス。 居場所はホレ、あれをみるんじゃ」

 

 察しのいいレックスは頭だけで振り向き、大型モニタの文字列に目をやった。

 

 【[ホライズン・アックス Lv6] & [キャナリー・マジック Lv5]

1・24 VS [ペル・ティンク Lv5] & [インディゴ・フロウLv5] 5・16】

 

 「高ウッズの選手(ファイター)ってワケか」

 「え、ここって闘技場なの?」

 

 2~3週の周回遅れな言葉をもらすダークに嘆息しかでないレックス。

 

 「そうだ。 ちなみにここの存在を教えなかったのはお前が入り浸るからだ」

 「うん、確実に入り浸るね!」

 「マッチメイカー、出禁を一名追加だ」

 「うむ、了解」

 「いやいや! ちょっとまってよ!」

 

 二人のやり取りに慌てふためくダーク。 

 二人が「ははは!」「ぶわぁっはっは」と大笑いされるまで自分がからかわれていることに気付かなかった。

 

 「ところで、選手が情報を持っているとしてどうやって会えばいいんだ?」

 「そんなの簡単じゃよ。 いや、難しいかもしれんがそこは探偵屋、我慢強いじゃろ? ホレ、まずはタッグを組め」

 「……? おいダーク」

 「はいよ」

 

 二人とも慣れた手つきでオプションをひらきタッグを組む。

 

 「それじゃこのボタンを押すんじゃ」

 「はいはいっと」

 「───ん? あ、おいちょっ、待て!」

 

 レックスの制止もむなしく、時すでに遅し。

 ダークの指先はポチリとソレを押していた。

 少し横を見てみれば、ヒゲをたくわえた年季の入った顔が意地の悪い笑みを浮かべている。

 

 「どうしたんだ?」

 「お前……アレ見ろよ」

 

 レックスが指をさし、その方向につられてダークは首を動かす。

 その方向にあるのは例の画面。

 そして見覚えのある名前が二つ

 

 【[エメラルド・レックス Lv6] & [ゴールデン・ダーク Lv6]】

 

 「さて、[T・レックス]と[金色のシノビ]の実力をみせてもらおうか」

 

 

 

 

 「運が良いのやら悪いのやら……、結局2回余分に戦うハメになっちまった」

 「まぁいいじゃん。 1000円儲かったし」

 

 二人は現在《原始林》ステージで来るべき相手を探し歩いている。

 相手はお目当てのホライズン・アックスとキャナリー・マジックだ。

 この二人にたどり着くまでに2回の対戦を経て、少々疲労気味での3回戦目。 しかし本命のご登場にやや高揚している。

 

 この試合のウッズは

 

 【[ホライズン・アックス Lv6] & [キャナリー・マジック Lv5] 1・51 VS [エメラルド・レックス Lv6] & [ゴールデン・ダーク Lv6] 2・39】

 

 と、あちらに傾いている。

 

 流石は人気ファイターなだけはある。そうレックスは思った。

 

 「レックス、やっこさんのご登場だぜ」

 「お前らが今回の相手か。いいねぇ、特に緑の! なかなか堅そうじゃねぇか」

 

 白みがかった青色をした甲冑を着込んだ騎士型アバターが、自身の身の丈ほどありそうな大斧を片手で振り回す。

 

 「お前がホライゾン・アックスか、強いらしいな」

 「らしいじゃねぇ、強えぇぞ」

 「対戦前に一つ聞きたいことがある。いいかな?」

 「いいだろう、なんだ?」

 

 アックスは鼻歌を歌いながら、大斧を肩で担ぐ。

 

 「ウィート・ブル。知ってるな? コイツについて教えてほしい」

 

 その名前を出した瞬間、アックスの動きが止まった。

 鼻歌をやめ、陽気に動き回っていたのが嘘のように殺気立つ。

 

 「何故……と聞こうか」

 「会いたいからだ。ダメか?」

 「なるほど、良いだろう。ただ───、」

 「な───っ、!」

 

 アックスは言い切る前に踏み込み、一気にレックスと彼我の距離を詰める。

 その勢いにのって大斧を振り上げ───。

 

 「俺を倒したらな」

 

 ズドォォォォン!

 と、重力と質量に任せた剛斧が大地を割り、土埃が舞う。

 

 「レックス!?」

 「チッ! 手ごたえなしか」

 

 風が土埃をさらい、視界がクリアになる。

 そこには地面に深く突き刺さった大斧と、紙一重で避けたレックスが佇んでいた。

 

 「まさに間一髪ってな。これが開戦の狼煙か?」

 「それじゃ、俺が先に頂いちゃうよ」

 

 いつのまにかダークはアックスの背後に立ち、手にはクナイが握られていた。

 

 「まずは一撃くら───、ッガァ!」

 

 アックスの脇腹にクナイを突き刺そうとした瞬間、ダークは不意の横からの衝撃に耐えきれず吹き飛び地面を転がる。

 

 「僕を忘れちゃ困るよ、金ピカお兄さん。お兄さんの相手は僕がするよ」

 

 ダークに蹴りを入れたのはアックスの相棒、キャナリー・マジック

 マジックはダークが転がった方向へ歩を進める。

 

 「さぁ、始めようかいね」

 

 低く唸る声の持ち主がレックスの前に立ちはだかる。

 

 




レックス「やっと3回目だ」
ダーク「今回もあんまり話が動かなかったね」
レックス「内容は一応かなり先までできてるらしいぞ」
ダーク「ホントに!?」
レックス「あぁ、頭の中でな……」
ダーク「……」


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忍者と奇術師

 久々の投稿な気がします。どうにも区切りがつかずだらだらと時間だけが過ぎてしまいました。
 次からは頑張ろう……。
 それから題名を変更&内容を詰め込みました。ですので3話の辺りから内容が新しくなっています。
 それでもあまり長さが変わってない等の感想は心の中にしまっていただくとありがたいです。
 それではやっとの4話です。見ていただきありがとうございます。


 「お兄さんこっちよ~でっておいで~♪ なんてね」

 

 木々が鬱蒼と林立し生い茂る中をマジックは少しスキップ気味に歩き回る。

 いや、正確に言えば探し回っていた。 

 

 「こっちかな~? いやこっちだ───ッと、危ない危ない」

 

 木々の間を覗いているとマジックめがけクナイが襲い掛かる。マジックは軽く後ろに跳び、先ほどまでマジックがいた位置にクナイが突き刺さる。

 

 「結構良い反応するじゃないか」

 

 その声はマジックの真上───正確には大木の枝の上にいるダークから発せられた。

 

 「いえいえ、お兄さんだって気配がまったくないじゃないですか。 さすが[金色のシノビ]ですね」

 「懐かしいものを知ってるね~。うれしいよ」

 

 ダークは乾いた微笑みを作りながらマジックを鋭い双眸でとらえる。

 

 [金色のシノビ]

 

 いわずもがなゴールデン・ダークのいわゆる二つ名、通称である。

 このブレインバーストのバーストリンカーの中でも少しは名の知れたリンカーになると異名がつけられる事が多々ある。

 

 6大レギオンの長、純色の王たちを筆頭に様々な名リンカーに付けられてきた。

 [不動要塞(イモータル・フォートレス) スカーレット・レイン] [絶対防御(インバルナラブル) グリーン・グランデ]などがいい例だ。

 

 「千の手段で音もなく相手を仕留める加速世界一派手な忍者……僕は派手な時点で忍者失格だとおもってたんだけど、なかなかどうして」

 「そこまで知ってるならフルコースをご馳走しないとね~、──ホラよっ!」

 

 ダークは木の枝から静かに落ちる。それと共に幾つものクナイが弾けるようにダークから撃たれ、マジックを穿たんと突き進む。

 マジックは今にも射殺さんとするクナイ群を手に持ったステッキで弾き、全てを捌く。

 

 「でもこの程度じゃ! ───いない!?」

 「蹴りのお返しだ」

 「しま───っ!」

 

 背後からの奇襲に対応できるわけもなく、マジックはダークが振り下ろすクナイに背中を裂かれた。

 

 「痛───ッ! 全くもって面倒なお兄さんだね」

 「甘いが面倒どころじゃすまないぞっと!」

 

 一体どこから出てくるのか、尚も無数のクナイがマジックに飛来する。

 

 「甘いのはお兄さんだよ、《マジック・ミラーワールド》!」

 

 クナイがマジックの肢体に突き刺さる瞬間、マジックはそう叫んだ。

 

 そして───、砕けた。

 

 マジックはクナイが触れた途端にバラバラに砕け散り、粉砕された。

 

 「うん───? どういうことだ?」

 

 その目にあわせたダーク本人が訝しげな表情を見せる。これは明らかにおかしいと。

 

 「やった……のか? とりあえずレックスの元に向かうか」

 

 ダークは踵を返し遠くで聞こえる破壊音の方へ向かおうとすると───

 

 「───のぁ!? って~、て俺がいる!?」

 

 歩き出して数歩、いきなり何かに衝突したかと思うと目の前にいるのは自分だった。

 

 「意味ワカンネーー! ……って鏡!?」

 

 目前の自分がパントマイムのように同じ動きをするので、それは虚像の分身と気づくことができた。

 

 「ここ原始林だよな? なんで鏡なんかが……」

 

 まじまじと鏡を覗きこみ、似非ものの自身とにらめっこをしている。

 すると、あるはずもないが鏡が波打ったようにみえ、ダークは「んん?」と目をこする。

 

 もう一度よく見た鏡には、体はそのままで顔だけ先ほど倒したハズのマジックとなったアンバランスな虚像が写っている。

 マジックが口角をつりあげた瞬間、ゾクリと背筋が凍ったようにつめたいなにかを感じ、ダークは反射的に体をそらす。

 半瞬遅れ、一帯に破砕音が響き、鏡が粉々になった。その中からマジックのステッキが突き出されていた。

 

 「まさか避けちゃうなんてね、お兄さんはスゴイスゴイ」

 

 手に持ったステッキを腕にかけ、空いた両手で拍手をしながら心のこもっていない賛辞を贈るマジック。

 

 「でも、次はそうはいかないよ」

 

 返礼とばかりにその言葉に返されたのは一本のクナイ。そのクナイを中心に世界にヒビが入り、空間が砕けたように見えた。

 

 「さぁ、かくれんぼの続きだね」

 「厄介だな」

 

 ダークは即座に逃げる───ことが出来なかった。

 

 いつの間にか張り巡らされた鏡の迷路。

 走るたびに鏡にぶつかり、忍者と揶揄されたバーストリンカーは方向感覚さえも朦朧としだしていた。

 

 「どっちかな? どっちだろうね?」

 

 マジックの声は四方八方から響き、場所の特定ができない。

 それも相まってダークのストレスゲージを否応なく満タンにさせる。

 

 「ああぁぁぁぁぁぁあああ! もうまどろっこしい!」

 

 足を止め、咆哮するダークは鉄製の紐のような長細いものを手にしていた。両端には円柱の重りと三日月のように鋭く尖った刃。

 

 ───鎖鎌。

 

「しゃらくせぇぇぇ!」

 

 ダークは鎖鎌を遠心力にものを言わせ、円を描きながら薙いだ。

 辺りで鏡が割れ、その破片が飛び散り木漏れ日に輝く。

 

 「まったく強引な手にでたね。でも隙だらけだよ!」

 

 その破片の中からマジックが現れ、がら空きとなったダークの体にステッキを突き立てる。

 

 「舐めるなよ、《技泥棒【トリックスティール】》!」

 

 スティックは金色に輝きだしたダークの右胸に突き刺さる。それに対してダークの反撃は左の拳がマジックの体をかすめるだけだった。

 マジックは短く息を吐き出しステッキを抜く。そしてまたもや鏡の森の中へと霞のように消えていった。

 

 「危ない危ない。今のは技ですよね? 当たっていたらどうなっていたやら」

 

 その挑発めいた言葉にダークはただ右胸を抑えているだけだった。

 

 「流石は金と言ったところかな、柔らかい。もう残り5割ですね」

 

 ダークのHPはたったの2撃で半分しか残っておらず、対するマジックは9割も残している。

 

 「さて、これがトドメだよ!」

 

 マジックは木と木の間から姿を現し一瞬でダークとの距離を詰めた。そしてダークの眉間にステッキを突き立てる。

 しかし、それでもダークの残りのHP5割を削ることはできなかった。

 

 ───否、そもそも1割1分とて奪うことができていなかった。

 変わりにダークとその周りがバラバラに砕け、そのあとからダークだけが消えた景色が見えるだけだった。

 

 「───ッ!? 鏡……だって!?」

 

 本来自分の手札であるはずの鏡。その鏡が自分に仇をなしたなど考えられる訳がなく、数秒の間放心状態となってしまった。

 そのたった数秒。

 それがこの勝負の分かれ目となってしまった。

 

 喉元に冷たく鬼気迫るような感触。

 変化に気付いたマジック、その口角は吊り上り冷や汗がながれる。

 

 「ははっ……。完全に一本取られたよ。 一つ良いかな、あの鏡はどこから?」

 「死ぬ者には語るのが忍者ってね。あれが俺の技、一度見た相手の必殺技をコピーするのさ」

 「なるほど……。合点がいったよ」

 「《一閃・頸狩り》」

 

 ダークの体がまたも輝きを放ち、マジックの体力は一瞬で消えた。

 

 




ダーク「俺大活躍ジャン!」
レックス「ちなみによくわからない人がいてはいけないので解説お願い」
ダーク「はいはい~! 俺の技《技泥棒【トリックスティール】》は相手の技を奪うのではなくコピーする技で、条件は 1・一度見たことがある。 2・コピーする際に相手に触れなければならない」
レックス「便利だね」
ダーク「そうだね。でも泥棒っていう割には奪うわけじゃないんだよね。それだとダスク・テイ……」
レックス「───それ以上はダメだ」


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剛斧の担い手

 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 更新が遅いくせにコロコロとタグを変えたり、前の話の内容をちょろちょろっと変えたりして、自分自身これで大丈夫なのかと心配しだしてきました。
 そんな作品ですが、辛抱強くお付き合いお願いいたします。
 


 

 

 時は戻りダークとマジックがともに消えた場所、そこに二人のバーストリンカーがシノギを削りあっていた。

 

「いいねいいねぇ、なかなかに骨のある野郎だ!」

「クソッ、ゴツイもん振り回しすぎなんだよ!」

 

アックスとレックス。二人の周囲はまさに惨状と呼べるもので、幾つもあった大木がその周りだけなくなっている。

全てはアックスの剛斧が起こした結果だ

身の丈ほどもある大斧の一振りをレックスが防ぎ、その矛先がズレる度に木々が一本一本なくなってしまう。

いや、今の説明では誤解を招いてしまうだろう。まるでアックスとレックスがまともに打ち合えているかのように。

 

それは違う。

 

正確には、レックスは己の武器である両腕のクロウで攻撃を受け流している。

もし、真正面から攻撃を防ごうものなら押しつぶされ、圧力でもって無造作に叩き割られるだろう。

それほどまでにホライゾン・アックスの斧は強力で圧倒的だった。

 

「おいおい、俺のどこが骨のあるやつなんだ? 受け流してばっかだろ」

「ははっ! それでいい。今までの奴は遠距離で豆鉄砲をパンパン撃つか、はたまた影からこそこそする不届き者ばかりだったからな! 正面から受ける奴に出会えてうれしいんだよ!」

「全くもってそいつらの気持ちがわかるよ。 それで、その不届き者はどうなったんだ?」

「俺のウッズを見てわからないか?」

 

きっと真っ二つになったのだろう。そうレックスは悟った。

流石は猛者の集うアキハバラBGの高ウッズリンカー。今までの対戦者よりも一味もふた味も違う その威圧感に、レックスは押しつぶされそうになる。

 

横薙ぎの攻撃は上方へと。

 

縦に叩き割るようにくるのは少し体をずらし真横へ。

 

最低限の動きで最大限の効果を出す。それがレックスのスタイルだ。

 

「なんだかんだ言ってお前も相当やる口だな」

「ありがとさんよっ、と!」

 

剛斧をいなし続け、ようやくできた少しの隙。

それをレックスは見逃しはしなかった。

 

「グッ───、やるねぇ」

 

レックスの鉤爪はアックスの脇腹を数センチ切り裂き、アックスの体力を削った。

 

「完全なパワータイプってのは攻撃のスピードが遅いって相場が決まってるんだよ」

 

レックスは両腕の鉤爪を勢いよくこすり合わせ、火花を散らす。

これはレックスが調子を上げてきたときにする癖だ。

 

「さて、こっからもいくぜ!」

「───ハッ……ハハハハハハハハァァァ!」

 

突然、まさに唐突にアックスは狂ったように笑い出す。

 それは歓喜の笑いにも聞こえ、またはレックスをあざ笑っているかのようにも聞こえてくる。

 

「なぁ、[グラファイト・エッジ]ってリンカーを知っているか?」

 

その急な問いに、少し、ほんの少しだがレックスの顔がゆがんだように思えた。

 

「知っているが……、それがどうした」

「俺はな、その話を聞いたとき衝撃を受けたのさ。強化外装にポイントを極フリして、その剣技は王をしのぐとさえ言われたその戦闘スタイルに……」

「その大きすぎる斧が憧れの結果ってか?」

「違う違う。 第一グラファイト・エッジは双剣を使うリンカーだ。大斧使いがどうして双剣使いに憧れるんだよ」

「……? ───っ! まさか……」

 

 レックスは嫌な予感がした。背筋には冷たいものが走り、もしそれが本当だったとしたらと焦る。

 グラファイト・エッジは双剣使いのリンカーで、現在は失踪している黒の王の剣の師とうたわれるほどの実力者だ。 

 

 その剣は全てを切り裂き、また全ての攻撃を弾いた。

 

 ついた異名が[矛盾存在(アノマリー)]

 もし、アックスがそのアノマリーに類似したリンカーだとしたら。

 

 「さあ、俺の本気を見せてやろう」

 

 アックスの手にしていた両刃の斧が半分に割れた。いや、正確にはもとに戻ったのだろう。もともと片手斧だった武器が二つ合わさり大斧となっていたのだ。

 

 「これが俺の本当の武器、双斧(そうふ)だ」

 

 地平線色のアバターに握られた一対の斧。

 

 「第二ラウンドだ」

 

 その2本の白銀に鈍く光る対照的な斧が、レックスに猛撃の牙をむく。

 荒々しく、かつ精密に。

 攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。レックスは左上から振り下ろされたら右腕を振り上げ弾き、下から怒涛のように突き上げられると体を捻り避ける。

 その一つ一つの攻撃に隙がまるでない。

 反撃する余地が一部もなくなっている。

 それでも、アックスが猛追し、レックスが全てを防ぐという形で拮抗は保たれていた。

 

 「しぶといねぇ。ま、そうじゃないとな!」

 「クソッ! 余裕だなこの野郎!」

 

 たとえ半分に鳴ったとしても、元が地面を揺らすほどの威力を秘めていたのだ。半身の片手斧でも その威力は並大抵ではなかった。

 現に、アックスの攻撃を受け続けているレックスの腕は痺れ、もはや感覚が無くなっているほどだ。

 

 ただ無意識的に、

 上から来た攻撃は右手の鉤爪の甲で迎え打ち。

 横なぎの斧は左手の側面で向きをそらす。

 たとえ感覚がなくとも、意地と気合で動かし慣れている両腕を操作し、命を削り取ろうとする攻撃から身を守る。

 

 これで模倣なのだ、さぞかしオリジナルのアノマリーは強かったのだろうとレックスは気の抜けない戦闘中にもかかわらず思っていた。

 グラファイト・エッジはレックスも一度は憧れたリンカーだった。

 ただ、レックスの師匠から「あいつは剣がないと何にもできない。剣があったなら、なんてタラレバ根性なんか持つなよ」と釘を刺されていたので、その憧れも数秒で潰えてしまっていた。

 

 「まったく、強いな。でも───っ」

 「でも……弱点はあるってか?」

 「───ッ!?」

 

 レックスは動揺した。自分の言わんとしていたことをアックスに先にいいあてられたからだ。

 そして、その動揺からくる半瞬の硬直が、レックスにとっては致命的な───それこそ絶体絶命と呼べる隙を作ってしまっていた。

 

 アックスがその隙を見逃すはずがなく、まず、双斧はレックスの鉤爪を弾き、レックスは大の字のような態勢になった。

 全身ががら空きとなった今、レックスは為す術なく双斧の刃がその躰に牙を突き立てられる。

 脇腹、胸、肩、アバラ。

 見えるところの次々と深いキズが出来上がってく。

 しかし、それでも緑色タイプのアバターだった。レックスの体力の減少は少なく、なかなか減らない。

 

 「硬いねぇ。これなどうかな?」

 

 連撃を繰り出していた腕を止め、アックスは右側に両腕を下げ溜めのような態勢をとった。

 

 「《ジャック・ザ・サーキュレイト》」

 

 アックスの体がブレたように思えた。そして気づいた時にはアックスは目の前に迫り、今にも両手に握られた斧がレックスの体を切り裂き、真っ二つにしてしまおうと振り下ろさせる。

 レックスは野生の感ともいえる速度で、反射的に体を捻る。

 そのおかげでシンメトリーに斬られ、命を奪われることは回避できた。

 

 代償は腕一本。

 焼けるような鋭い痛みがレックスの全身を駆け巡り、体の一部を失ったことからバランスを崩し地べたに這ってしまう。

 

 「あれを避ける……か。 お前は強い。俺の次にな」

 

 勝者の余裕か、アックスはレックスの前に屈みこみ、トドメを刺さず話かけた。

 

 「まぁ~、最初に言ってた事を覆すことになるが教えてやるよ、ウィート・ブルの事を」

 

 アックスはレックスの返事を待たずに続ける。

 

 「あいつは俺のダチなんだよ。 だが最近様子がおかしくてな、ここ最近めっきり話してねぇ。 もし会いたいんだったら霞ヶ浦にある湖畔に行けば会えるかもしれないな」

 「そうか……ありがとよ」

 「いいんだよ、久々に楽しませてくれたしな。それじゃ、オサラバ───」

 「───師匠が言った。最後まで油断するな、瀕死の敵ほど恐ろしいものはない」

 

 レックスはアックスの言葉を遮り、ポツリと言った。

 

 「さっさとトドメを刺せば良かったのに、情報までくれてありがとさん。だけど俺は、勝利だってもらっていくぜ」

 

 最初、こいつは何を言っているんだとアックスは思った。この圧倒的有利な状態から挽回されることなどあるはずがないと、必ず勝てると、あるいみ固定観念のような確信を持っていたからだ。

 

 だが、それは慢心へとつながった。

 

 「俺は昔[T・レックス]って呼ばれてたんだよ」

 

 レックスは地面に這いつくばりながらもしっかりとアックスの双眸を見据えながら言った。

 

 「見せてやるよ、俺のアビリティ。《エボリューショナル》!」

 

 這いつくばっていたアバターの形が変形───否、膨張しだしていた。

 両足は大木のごとく太くたくましく、頭は顎が特に成長し、全てを飲み込んでしまいそうなほどの大きさになってしまった。

 その姿はまるで恐竜。

 

 アックスはその変貌に戦慄した。

 

 「おいおい、反則じゃねえか……」

 

 恐竜と化したレックスが横なぎに首を振り、顎を開きアックスの捕える。

 アックスは暴れていたものの、数秒で力が抜け、ダラリと足が垂れ下がった。

 数秒ののちにアックスの体は破片となり爆散した。

 




レックス「今回は~」
ダーク「自己紹介をしよう!」
レックス「何回か続きますよ」
ダーク「今日、紹介するのは~」
レックス「俺です!」
ダーク「それではお願いします」
レックス「エメラルド・レックス。 本名は橘彰祐。 身長179cmの体重63キロ。アバターはリザードマンみたいな形をしています」
ダーク「ホントにねぇ、最初見たときはコモドドラゴンかとねぇ」
レックス「そこまでリアルじゃねえよ! アビリティは《エボリューショナル》 必殺技は《バレットブロウ》と《クロスクロウ》の二つです」
ダーク「なんで必殺技しなかったの?」
レックス「腕なかったし……」
ダーク「……oh]


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邂逅と消滅

 かなりお久しぶりな投稿です。これを見てくださった方々、ありがとうございます。
 今回いつも以上に時間がかかったような気がするんですが、おかげで一区切りつくことができました。
 今回ではまだ終わらないんですがとうとうあの方が登場の気配をみせます(気配かよ)
 それではどうぞ御見聞を。


 

[ウィート・ブルは霞ヶ浦にいくと会えるかもしれない。千葉県と茨城県の境目にある湖だろう。俺とダークは一度ログアウトしてから向かうつもりなんだがどうする? お前はソッチから直接向かうか?]

 

レックスはアキハバラB・Gのロビーでそうメッセージを書き、パンサーに送った。

するとすぐに返事は帰ってきた。

 

[私はここで待たせていただきます。ありがとうございました]

 

簡素に書かれた文に、レックスは[お礼は仕事が成功してからでいい]と送り返すと、今度は返信は来なかった。

 

「それじゃダーク、一度出るぞ。集合場所は戻ってからメールする」

「はいよ」

短く返事をしたダークは、そう言ったとほぼ同時にアバターは光の粒子とたり加速世界からログアウトした。

 

 「さてと、ようやくこの仕事も終わりか……」

 なぜかどこか感慨深くなってしまい、少し錆びれた鋼鉄の壁に背中を預けながら黄昏るレックス。

 「探偵屋、いかなくていいのかね?」

 ヒゲの蓄えられた厳つい顔のアバターに声を掛けられ、レックスはゆっくりと壁から背中を離した。

 

 「それじゃ、邪魔したな」

 「かまわん、ここはバーストリンカーの聖地、絶対中立領域。 またいつでも遊びに来るといい」

 

 背中にかけられた言葉にレックスは右手を軽く上げて答えた。

 そしてレックスの体も光となって消える。

 

 

 

 「なぁ、霞ヶ浦ってこっからどのくらいあるの?」

 「聞かない方がいいと思うぞ」

 ここはカドタワーの駐車場。二人の少年がバイクにまたがりヘルメットを装着しながらそんな会話を繰り広げていた。

 

 「ざっと10キロ?」

 「それでぎりぎり東京からでれたかな?」

 「ざっと20?」

 「お~近くなったな!」

 「30だな!」

 「おめでとう。中間地点の俺たちの故郷だ」

 「……」

 勇魔の顔からは生気とやる気が圧倒的に消え失せてしまい、半ば白目をむきかけたようなひどい有様となっている。

 

 「戻ってこい、実際には家に戻るだけだ」

 「……、───っえ? なんで?」

 彰祐の一言に息を吹き返した勇魔。その声はヘルメットのシールドを下したおかげで籠って聞こえにくい。

 

 「わざわざ霞ヶ浦まで行ってみろ、居る可能性が高いだけで居ない時もあるんだ。金と労力の無駄だよ。それよりも自宅から入って向かう方が結果的に楽だ」

 「な、なるほど?」

 いまひとつ頭の処理がおいついていない勇魔は首をかしげながら返事を返し、バイクのハンドルを握った。

 

 「あっちに入る時間はあとでメールを送る。とりあえず自宅に戻ってベットに寝そべってりゃいいんだよ」

 「あいよ!」

 勇魔が力強く答えた。

 

 ───同時、両者のバイクにエンジンが掛りモーターの駆動音がコンクリートの檻の中を轟かせた。

 地下を抜け、一気に外界へ解放された二つの無骨な機械の塊は、颯爽と立ち並ぶビル群を流していく。

 全身に感じる疾走感に、彰祐は心なしか高揚していた。

 

 『彰祐、ちょっと飛ばしすぎじゃね?』

 風で服をなびかせ心地良い気分に浸っていると、ニューロリンカを通して無線が勇魔の声を再生する。

 

 「大丈夫、どうせリミッターが掛ってるんだから」

 『そうだけどよ……』

 そこで勇魔の声は途切れた。

 

 自分達の住む街───千葉県印西市は秋葉原から約30キロ離れた街で、開発が進み交通量が多く住みやすい街だ。

 

 目指すは駅のホームの近くに建てられた高層マンション。

 長い道のりだがバイクに乗ることが好きな彰祐にはなんら苦にならず、むしろ道が長いだけ得した気分になっている。

 その上勇魔という気の知れた話相手もともに走っているのだ、気付けば県を越え、目的地がまじかに迫っている。

 

 

 

 「それじゃ、ちゃんと起きてろよ」

 「大丈夫だって、じゃあな!」

 先に到着したのは彰祐。

 ビルの前で片手を挙げ勇魔と別れを告げた後、ビルの駐車場にバイクを止め、マンションへと入る。

 

 良く声の反響するガラス張りのエントランスを通り、上向きの矢印を押して数十秒。ベルの弾けるような音とともに鉄の扉が開き、エレベーターに入る。

 少しの浮遊感と目的地に着いた瞬間の重力。

 開いた扉を抜け少し歩き、扉の前に立つ。

 ドアノブを持つとニューロリンカで住居者と判断され、自動的にロックは解除される。

 

 手を回し扉を開くと「おかえり」と聞きなれた母親の声が聞こえた。

 「ただいま」

 と、適当に挨拶を返しつつ歩は突き当りの自室へと真っ直ぐ向かう。

 質素なドアを開き、カバンを床に放り投げる。

 勢いのままベッドにダイブし、また起き上がって腰かける。

 

 「疲れた……。でもこれからが本番なんだよなぁ」

 誰に聞かせるでもなく、そんな独り言が自室に漏れる。

 彰祐は無言のまま虚空に指を突出し、這わせる。視界には便箋が出現し、その下に表示されたキーパッドで文章を作成した。

 

 [18;00ピッタリに入れ、集合場所は学校の前で良いだろう]

 

 簡潔に書いたそのメッセージを指でピンッ!と弾き、勇魔の元へと送信した。

 少々の間返信を待つ。

 それでも来ない応答に「まぁあいつだから……」と自分に言い聞かせるように小さくつぶやく。

 

 10分くらい経っただろうか、18時まであと8分。

 彰祐の額には冷や汗と脂汗が浮き、少し目が血走っていた。

 「あいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつは……」

 

 脳はゲシュタルト崩壊し、足は震源地にでもなろうかというほどに貧乏ゆすりが激しく行われていた。

 最早「き、きっと大丈夫だよ。ああいつは何だかんだで来てくれるし……今回だって信頼感?ツーカーの仲?っていうのかな、返信しなくてもダイジョブデスネーって感じだから連絡こないだけなんだよ」と震える声と体でブツブツと自分に暗示をかけていた。

 

 ここまで彰祐が時間に対して焦りを覚えるのにも理由がある。

 まず現実世界で少しの遅れとは、加速世界ではかなりの遅れとなる。以前一度勇魔が遅れる事があり、その日彰祐は加速世界で約1日待たされることがあった。

 

 次に、以外と彰祐はキレやすい、我慢に弱く待つのが嫌いなのだ。

 これで良く探偵なんぞ勤まるものだと思うが、ソレはそれ。仕事と割り切ってしまえば多少は我慢もできようもので、それに勇魔という話し相手───相棒が居てくれるおかげで地獄の時間も耐えられるのだ。

 

 つまり一人では仕事にならないのだが、それは触れてはならないこと。

 突然、軽快な音と共にメールのアイコンが点滅しだす。

 彰祐は目をカッと見開いたかと思うと、ものスゴイスピードでアイコンをタッチし内容を眼前に浮かべる。 

 送り主は勇魔だ。

 [え!?…ミテナカッタ!? 間に合うって♪ だいじょぶだいじょぶ~]

 

「くそやろうがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 近所迷惑なんて頭の隅にすらなく、彰祐は力の限りで咆哮し目の前にある文面を両手に握った拳で叩き割ろうとした。

 が、相手は視界に投影されただけの情報。割れるどころか触ることすら叶わず、空気を少し揺らすだけで勢いよく空振りした

 「はぁ、はぁ……。アイツコロス」

 肩で息をし、血走った目で決意を固める彰祐。

 

 18時まであと1分。

 息を整えベッドに座る。

 残りは10秒。

 

 「…5…4…3…」

 小さく、ほんの少しの声量で異世界へと旅立つカウントダウンをする。

 

 「2…1───ッ、アンリミッテドバースト!」

 途端、何もかもが停止した感覚に陥り、一気に世界が様変わりしていく。

 

 

 

 ダークとレックスが通う学校の前。

 いや、その建物は誰がどう見ても学校とは呼べるような形をしておらず、前衛的な美術館といった方がしっくりくるような形状と変貌していた。

 その場所にレックスが到着すると、先客がいた。

 

 「おっす、ちゃんときたぜ!俺のが先に着いてたから俺のか──ブフルァ!」

 先客であるダークは右手を振ってレックスに挨拶すると、レックスは渾身の一撃でもってその挨拶に答えた。

 

 一撃で減ったHPは3分の1.

 この世界では痛覚は通常対戦の倍に設定されている。

 ものの見事に鉤爪で抉られたダークは、尻を突き出した形で地面に伏し、ピクピクと痙攣していた。

 

 「ふぅ、スッキリした。どうした?行くぞ」

 恍惚とした表情で簡単に言うレックスを睨みつけるダーク。

 だが何かをするわけでもなく、渋々といった風に立ち上がりレックスに後からついていくのだった。

  

 

 

 「いつまで……歩くんだよ」

 かれこれ数時間、ダークとレックスは歩き続けていた。

 

 廃墟と化したゴーストタウン。

 

 荒涼とした大地が広がる平地。

 

 枯れ果てた木々で彩られた森林。

 

 様々な地形を闊歩し踏破した。

 

 「なあダーク」

 「んぁ?なんだ」

 疲労のせいかダークの声には力がない。

 

 「今更……なんだけどよ」

 どこか申し訳なさそうにレックスは言葉を続ける。

 その姿にダークは「らしくない」と短い感想を持った。

 

 「しょうがねえだろ、誰にだって失敗はあるんだ」

 「失敗?一体何を失敗したんだ?」

 「目的地は霞ヶ浦だ、間違いないよな」

 「俺に聞かれても信憑性はイマイチだと思うが、俺が記憶している中では霞ヶ浦で間違いはないと思うぞ」

 「それで、その湖畔と……」

 「そうだな、それで?」

 「霞ヶ浦ってのはそもそもソレ自体が湖の名前ってわけで、湖畔ってことはその周囲全てを指すわけなんだが……」

 

 いまひとつハッキリとしないレックスに、ダークは少なからず腑に落ちない、どこかイライラにもにた感情を持つ。

 

 「俺があまり頭良くない事はしってんだろ、簡潔に言え、簡潔に!」

 「つまりだ!」

 クルッとレックスは後ろを向き、ダークと目を合わせて溜めを作る。

 

 「面積は220平方キロメートルもあって、日本で第2位の大きさを誇ってるんだよ」

 「……ナンバー2?」

 「い、イエス」

 「Oh my God」

 無駄に良い発音で心の中の叫びを吐露し、ダークはその場に膝を折ってしまう。

 

 レックス本人でさえ挫折してしまいそうな気分になっており、その双眸はどこか虚ろなものになっていた。

 

 「ダーク……どうせもうすぐ着く」

 「そうだね、天国だね」

 「大丈夫、なんとかなるものさ」

 「そうだね、ヘブンだね」

 到底会話のキャッチボールと言えるものではない。もはやレックスが投げダークがあさっての方向に飛ばす会話のバッティングだ。

 

 そんな不毛な事を続けていると、揺れ動く人影を二人の視界が捕え、二人が正気に戻り緊張感が増す。

 まさかエネミーか、とも思ったが明らかに小さい。

 それこそアバターのように。

 

 「く、はぁ!……くそ」

 前方にある影は徐々に二人に近づき、その姿をはっきりととらえることができた。

 少し深い緑にゴツゴツとした体躯。西洋の兜のような頭部には闘牛のように鋭く闘気を孕んだ角。

 まさしく目標のウィート・ブルその人だ。

 

 「おい、ウィート・ブルだな。話がある、止まってくれ!」

 レックスが第一声で声をかけると、ブルは少しもスピードを止める様子を見せず猪突猛進で突進してくる。

 

 「なんだお前らは! お前らもアイツの仲間だな!?ふざけるなよ!!」

 ブルは二人を撥ねのけんばかりにスピードをだし、二人を通りぬける。

 ダークは瞬時に翻し、その背中ではなく片足めがけて手に持った鎌を力いっぱい投げる。

 

 「人が止まれっていってんだろーが!」

 「───っ?! ダーク!待て!」

 レックスの制止もやむなく、ダークの放った鎌は吸い込まれるようにブルの足へと近づき、スパッと右足首を切り離した。

 バランスを崩し勢いよく地に転がるブルにダークとレックスは近づく。

 

 「ウィートブルだよね?話があるんだけど」

 ダークはうつ伏せに倒れたブルの前に屈み、手に出現させたクナイを首筋にあてがいながら質問した。

 その問いに返ってきたものは呪詛のような言葉だった。

 

 「くそ……くそくそクソッ! なんで俺がこんな目に。俺は絶対捕まらない逃げれるんだ逃げれるんだ! 大体強くなることの何が悪いんだ!! 自分達こそ、こんな力の存在を隠していたくせに!!」

 「何を言ってるんだ?さっさと質問に───」

 「黙れ!!《ダーク・ブロウ》!」

 ブルは力いっぱい体をひねり、うつ伏せから仰向けになるよう態勢を変えようとした。

 同時に闇を絡めた剛腕が、突然ダークの頭蓋の前に迫る。

 傍から見ても、とてつもない威力を秘めて、それはダークの頭部を打ち砕いてしまうことは明らかだった。

 ダークはその必殺の一撃を、かすかに首を横に傾けることによって掠める程度にすることに成功した。

 

 だが、問題はそこではなかった。

 

 突きつけられたクナイとブルの急所との距離は0。

 ブルが無理やり態勢を変えたため、クナイが首筋に突き刺さり、食い込み、火花を微かに灯しながら喉を裂いていく。

 レックスとダークがブルの姿を認識した時には、その姿は胴体と頭部が綺麗に分かれていた。

 

 「ち…く……しょう」

 息が漏れる音を混じらせながらそう言い、ブルの体が弾けるように、いや実際に弾けて消える。

 この時、レックスは嫌な予感がしていた。

 

 ブルの異常なまでの必死さ。あれは一体どこからくるものだろうか。

 そして、嫌な予感だからこそだろうか。それはみごとに的中してしまう。

ブルが砕け、火の粉を散らしたその場所。そこには本来アバターと同じ色をした小さな光の灯が残り、存命を主張するはずだった。

あくまでも、するはずだった。

 ダークとレックスの双眸には、ブルの生きていた証はひとつも残ってはおらず、ただ荒れた土地が広がっていた。

 

 「───ッは?」

 意味が分からない、という意味が密度濃く籠められた一言だった。

 

 なぜなら、それは相手の加速世界での死亡を意味していた。

 

 なぜなら、それは依頼内容の完全なる失敗を意味していた。

 

 「なんで消えてんだ……。なぁ、なんで消えてんだよ!」

 「俺が知るか!」

 あまりにも予想だにしていなかった事態が起き、二人は混乱状態に陥り、おもわず怒鳴り散らしてしまう。

 

 その最中、後ろ───ブルが走ってきた方角からザッザツと土を踏む足音がゆっくりと、確かに近づいてくる。

 

 足音が大きくなり、現れたのは一人のアバター。

 ヘッドギアをはめたような頭部に筋肉のようにいくつにも割れた装甲、そして特徴的なのはそれこそグローブを装着したような拳。

 

 「尋ねるが、ここに牛のようなアバターが来なかったか?」

 




 
レックス「久しぶりだな」
ダーク「久しぶり~」
レックス「今回なにする?」
ダーク「すること無いし、俺の自己紹介でよくね?」
レックス「わかった、ならお名前は!」
ダーク「本名は杉森勇魔、アバターはゴールデン・ダーク」
レックス「それではアピールを!」
ダーク「金ぴかに光る忍者型アバターで首に巻いた長~いマフラーが特徴です♪ 必殺技は《技術泥棒(トリックスティール)》と《一閃・頸狩り》」
ダーク「実はさ、やることあっても俺の自己紹介優先させなきゃいけなかったんだよね」
レックス「え、そうなの?」
???「そうなんだよね!」
レックス「お前は……っ!」
ダーク&レックス「作者!!」
作者「どーもどーも」
レックス「それで、どーいうことだ?」
作者「ダークってさアバターは友人が考えてリアルの方は本人がモデルなんだよね。それでさ友人に」
友人『俺的に長いマフラー巻いてて、それがなびいてるイメージあるんだよね』
作者「て言われちゃって」
ダーク「へ~」
レックス「なんでそれをここで言ったんだ? 本編に書けば」
作者「それ言われたのこの回を投稿した1週間前……」
ダーク&レックス「なるほど」


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EGオペレーション

 おはようございます、こんにちは、こんばんは。今回でとうとう一区切りつけたとなってテンションが高くなっております。
 2連続投稿と自分史上初の快挙を成し、7話というラッキーセブンで一区切り付き、うれしい限りでございます。
 これも今まで見てくださった方々のおかげです。
 飽き性の私が初投稿作品をここまで続けれたのも皆様のおかげです。
 次もある予定ですが、当分のあいだ進みません。すいません。
 それではどうぞお楽しみください。



 「尋ねるが、ここに牛のようなアバターが来なかったか?」

 「だったら……どうした」

 レックスは感情をできうる限り押し殺した声で返す。でないと今にも感情が噴火しそうだったからだ。

 

 「知っているのか……。いや、もしかすると───消してくれたのか?」

 鋼色のアバターからその言葉が出た瞬間、飛び出したのはダーク。

 距離を一気に縮め、両手に一本ずつ持った小太刀で流れるような連撃を魅せた。

 

 だがそれを相手のアバターは、それはダンスでも踊るかのようにリズムに乗って、トントンとかわして見せる。

 

 「いきなり攻撃してくるとは無礼だな。だが手伝ってくれた礼だ、見逃してやる」

 「生憎こっちは見逃す気はないんでね」

 「事情聴取は最低でもさせてもらうぞ」

 レックスも頭にきたのか、鉤爪をこすり合わせながら相手に歩み寄る。

 

 「なるほど、ならば手合せしてやろう。グレート・ウォール《六層装甲(シックスアーマー)》第三席、アイアン・パウンド。参る!」

 パウンドと名乗ったアバターが踏み込んだ。

 そこへダークが体を回転させながらの2撃を打つが、上半身の動きだけで回避される。

 ダークの後ろに居たレックスが右手を突出し、パウンドはそれを右ストレートを打ち出して相殺する。

 

 ───いや、相殺ではなかった。

 パウンドの拳の方が威力が勝り、レックスは後ろにのけぞってしまう。その隙へパウンドは距離を詰め、入り込み、左左右とテンポよくパンチを入れる。

 テンポも良いが威力も高い。

 のけぞるだけだったレックスが、追撃の3連撃で数メートル吹き飛ばされてしまう。

 

 「ボクシングか? その動き、経験者としか思えないが」

 地に倒れ、痛みの残る体を無理やり起こしながらパウンドに問う。

 

 「そう、俺は現実でボクシングを経験しているし、アバターもこの通りだ。加速世界で使わない手はないだろう」

 「……っく、面倒な」

 レックスと話すパウンド、その背後から音もなくダークが素早く忍び寄る。

 小太刀を振り上げ、ヘッドギアの側面に突き刺そうとした瞬間、パウンドが振り向いた。

 

 「経験というものも手伝ってか、殺気に敏感でな。シノビが殺気をもらしてはだめだろう」

 パウンドの凶器と化した左腕がダークの小太刀と交差し、さらに一歩早くダークの頬へと届いた。

 カウンターを決められたダークは輪郭を歪めながら威力に従い頭から後方へ吹き飛ばされる。

 

 元々装甲が薄いダークがブルの攻撃で既に体力を削られた所にくらった電光石火のカウンターパンチ。

 ダークは経つ気配も見せず、一瞬輝いたかと思うとその場に爆散し、金色の小さな光の球をその場に残した。

 

 「金……か、脆いな」

 パウンドは興味を失ったように踵を返し、レックスに向き直り腕をまげ再度構える。

 

 「やりやがったな……」

 レックスの声には怒気が満ち溢れ、周りには野生の肉食動物がもつ鋭い殺気が纏わっていた。

 

 「……来い!」

 パウンドの掛け声でレックスはパウンドに飛びついた。

 鉤爪を使った隙のない連撃を絶え間なく放ち続けた。

 

 それをパウンドは上半身の動き───スウェーだけで避け、躱し、受け流し続け、その最中に反撃の気配はまったくなかった。

 

「いつまで避け続けてんだよ!」

 「なら反撃しよう」

 レックスがパウンドの胴体を抉ろうとしている時、パウンドは足を滑り込ますように踏み込み、レックスはそれによってバランスを崩してしまう。

 

 倒れこむ瞬間に3発。

 

 のけ反る瞬間に2発。

 

 宙に浮く瞬間に1発。

 

 もはや達人としか呼びようのない、それほどまでに無駄のなくなった実践的な巧みなコンボの数々の前に、レックスはまたもや地に伏してしまう。

 

 「もう一発で決まる」

 「───痛ッ! く……ゲホ、ゴホッ。まだまだぁ!!」

 動かぬ体に鞭を打ち、軋む関節に無理を強い、フラフラになりながらもレックスは立ち上がってみせた。

 

 「体力は残り少ないがよ、必殺技ゲージは満タンだ」

 「必殺技で逆転できると思っているのか?」

 「必殺技こそジャイアントキリングの鍵だ。師匠が教えてくれた」

 両腕を力なくダラリと垂れ下げ、腰を前に倒し両足を開き鋭い眼光は相手に向ける……まるで恐竜のように。

 

 「《エボリューショナル》!」

 まさしく文字通り進化し、レックスはティラノサウルスへと成った。

 荒廃した土地を踏み鳴らし響かせ、その咆哮は天を震わせた。

 すべてを飲み込んでしまいそうな顎は全開に開かれ、目の前にある獲物───パウンドを食い散らかそうとする。

 

 「恐竜になったか……でも」

 眼前に大顎が迫りながらも諦めの様子を見せないパウンド。見せないどころか構えをより一層精錬された物へとし、闘気を滲ませた。

 

 「でも言ったはずだ。必殺技で逆転できると思っていたのか?」

 

 パウンドの闘気が爆発し───

 

 「《鉄拳乱舞(ハンマー・レイブ)》」

 数多数千数万のジャブ、ストレート、フック、アッパーそれらが乱れに乱れ視界を埋め尽くすほどに打たれる。

 標的の大きくなったレックスの頭部に全てが命中し、瞬く間に風前の灯だった体力が削れ───無くなる。

 

 恐竜が顎を閉じるときには粒子となりパウンドの周りを飾っていた。

 ポツンと一つのエメラルド色の光が揺れている。

 

 「さらばだ探偵よ」

 灰色にかすむ視界の奥で、パウンドの背中が遠のいていくのをただ茫然と見送ることしかできなかった。

 

 

 

 ここは年季の入った板張りの床に少しシミの浮いた古臭い壁が映える内装の[BAR G・E]。

 その内部には3人の人影が二つのソファーに座り一つのテーブルを囲みながらどこか暗い影を落としこんでいる。

 

 「以上が今回の結果、失敗は失敗。大失敗だ」

 皮肉げにそういったのはレックス。

 

 その言葉に手を振りながらパンサーは抗議する。

 

 「いえいえ、見つけて頂いただけでも十分でしたし……何より別に話したかった事があるわけでもなかったので報酬は受け取ってください」

 「失敗したのに報酬を受け取るのはカッコ悪いでしょ? レックスはそーゆーの気にするからここは失敗で納めてくれねーかな」

 「ですが……」

 尚も食い下がるパンサーにレックスが前に出ながら冷たい声で言う。

 

 「真実とは過程で事実こそが結果、師匠が言っていた。だから俺たち探偵に求められているのは過程よりも結果。真実よりも事実」

 「……そうですか」

 力をなくしたようにソファーに座り直し、パンサーは肩を落とす。

 

 「……でも、でも私が納得できないんです!」

 「納得もなにも無くないか?」

 「依頼主が納得いかないと言ってるんです、報酬が受け取れないんだったら私にできる事なんでもするんで言ってください。これは見つけたまでの報酬です!」

 言っていることはめちゃくちゃだが、ものすごい剣幕で押し切られるためレックスとダークは閉口して、ただ頷くしかなかった。

 

 我に返って落ち着いたのか、パンサーは乗り出した状態から咳払いを一つしてソファーに座りなおす。

 

 「それで、別件なんだが……」

 思い出したように語りだしたレックス。パンサーとダークはつい視線をレックスの方へ集中させてしまう。

 

 「お仲間がよろしく伝えておいてくれと言ってたぞ、グッレート・ウォールのドーン・パンサーさん」

 「───ッ!?」

 「……??」

 

 一人は驚きを隠せず。

 

 一人は疑問符を浮かべる。

 

 「何言ってんだ? パンサーはレギオンには入ってないって」

 「そもそもその前提すら嘘なんだよ。結果は変わりはしないが真実を語ってやろう」

 

 レックスは続ける。

 グレート・ウォールは離反者であるウィート・ブルを消さなければならなかったがどこにいるのかわからない。それに王はなんらかで手が離せないためレギオンメンバーで解決しなければならなかった。その中で事情を知らせずに外部から協力してもらう案がでた。 

 そこで白羽の矢が立ったのが探偵であるレックスとダーク。報酬さえ払えばどんな事でもする彼らに居場所を突き止めさせようとしたのだ。結果的に居場所がわかり、ブルはちゃんと処分することに成功した。

 

 「まてまて、俺たちがいつグレウォに情報流したんだよ」

 「だからメッセージ送ったんだよ、霞ヶ浦にいるかもってな」

 「でも全損だぞ? 復活する時間も合わせてどれくらいかかると思ってるんだよ」

 「それはだな、俺たちがパンサーに情報をわたし、それがあのアイアン・パウンドに横流しされる。俺たちが現実で移動してる間にパウンドは加速世界で移動しブルと戦闘。その終盤に俺たちとバッタリってとこだろ」

 語尾は誰かに問いただすように上がり、レックスの視線の先にはパンサーが居心地わるそうにうつむいている。

 

 「よく……わかりましたね」

 「パウンドがよ、去り際に俺の事を『探偵』って呼んだんだよ」

 両手をあげ、降参のポーズを取るパンサー。

 

 「どうぞ、煮るなり焼くなりしてください」

 「何言ってんだ、さっき自分で言ったじゃないか。「私にできる事なら何でも言ってください」てな。煮るなり焼くなりするのは元より決まってる!」

 「……え?」

 レックスとダークの双眸がキラリと猛禽類のように鋭く怪しく光った気がした。

 

 「いやぁ、このバーには花が足りないと思わんかね、ダーク君」

 「わたくしウェ~イトレスというものが大好ぶ……もとい大好きでしてねぇ」

 「今大好物っていったよね!?この金ピカ大好物って!」

 必死に叫ぶもゆらりゆらりとした二人の怪しさには勝てず。

 

 「まずはレギオンから抜けて真っさらになってもらいましょうか。聞けばグレウォは自由なレギオンだとか……。それに迷惑料を盾にすればレギオンメンバーの一人や二人引き抜けないわけがない」

 「それでウチに来てもらいましょうね~、ウェイトレスとして輝いてもらいましょうね~」

 「助手がほしかったんだよ~」

 「萌えがほしかったんだよ~」

 「ひっ……ひぃ!」

 その日、その店からは悲鳴が聞こえてきたせいで客がよりつかなかったとか。

 

 

 町が一望できる高台にて、真緑の巨体を持ったアバターが立っている。

 その後ろから鋼と同じ色をしたアバターが近づく。

 

 「我らが王よ、例の闇の心意を乱用していた輩の処分は終了しました」

 「……」

 王は何も言わない。だがそれこそが返事だと思える風格が存在していた。

 

 「あの探偵が対象と接触してしまったようですが問題はありません、即座に対象を全損させたようで心意については何も知らないでしょう」

 

 尚を言葉を続ける。

 「我らの代償は探偵の接触役のレギオンメンバーが脱退したことですが、彼女も今回の事にはほとんどなにも知らせて無いので問題はございません」

 

 報告が終わると王に動きが見えた。掌をだし、その上には画面が表示され何かの動画が映し出されているようだ。

 「これは……っ! ここまできたか、加速研究会!!」

 

 その声は加速世界への憂いと異分子への怒りが込められていた。

 




ダーク「イェアアアアアアアアアアアアアアアア!」
レックス「イヤァアアアアアアアアアアアアアー!」
ダーク「金汁ブシャアアアア!」
レックス「一生じゃなくて一章終了!」
ダーク「うれしいナッシィィーーー!」
パンサー「うるさいわよ!」
レックス「ようこそ、おバカコンビの集いへ!」
ダーク「いやいや旦那、もうト・リ・オですぜ」
レックス「おぉっとイカンイカン」
レックス&ダーク「ぐふふふ」
パンサー「もうやだ」


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To the bar E&G
或る日ノ店内


 お久しぶりでございます。未だに筆速が牛の歩み。最早亀の歩みでもある立花タケシです。
 この度は見て下さり有難うございます。長い間更新もなく音沙汰もなかったこの小説を見て下さり、有難うございます。
 今回に限ってはまだ書き溜めがありますので1週間ごとに投稿ができます!人生初の快挙!
 それではご覧下さい。


 

 町はずれの海沿いに孤立してポツンと佇む建物があった。

 西部劇に出てくるような外装の木造建築には、所々蛍光灯の切れかけで点滅を繰り返している電光看板が掲げられている。

 

 [BAR G・E]

 

 元々ホームと呼ばれるオブジェクトだったものを、所有者が趣味で改築したものだ。

 町はずれに建てられているものの、意外とこの店を懇意にしている客は多く、既に常連と呼んで久しい者までいる程だ。

 毎日、現実世界ではおおよそ午後の6時といった時間帯に盛り上がりをみせるこの店は、今日もその例に漏れず賑やかな音を撒いていた。

 ──いや。

 これは本当に賑やかと呼んでいいのだろうか。

 これは本当に駄弁る声が響く音なのだろうか。

 突然、両開きの扉──スウィングドアがけ破られたように勢いよく開き、中から一人腰を抜かしながら出てきた。

 

 「ひっ──ひぃ!」

 「出ていくんならさっさと出やがれクソ野郎!」

 這いずりながら逃げ出す灰色のアバターの鼓膜に噛みつく罵声はドスの聞いた女性の声だ。。

 「3秒たったぞ、ノロマ!」

 「も、もうやめてくれぇ~」

 力の入らない足元に無数の銃弾が降り注いだ。

  これで店内に残る人影は四人。

 翠玉色をしたバーカウンターの後ろに隠れているRPGゲームのリザードマンのような姿をしたアバター。エメラルド・レックス。

 その隣に膝を抱えて震えている金色の人影。首に巻かれた口元を隠す長いマフラーが特徴的な忍者型アバター。ゴールデン・ダーク。

 さらにその隣には、座ったまま天を仰ぎ十字を切りだした、この店の常連客。ひよこのような淡い黄色をしたインドの修験者の恰好をしたアバター。レグホーン・モナクムがいる。

 

 それに相対する一人のアバター。

 店のテーブルに片足をあげ、両手にはマフィアが御用達にしていそうなマシンガン、トミーガンやシカゴ・タイプライターといった愛称で長年親しみをもたれてきたトンプソン・サブマシンガンを携えていた。

 ネコ科のような尖がった耳に鋭い目つき。

 夜明けの空を思わす淡いピンク色。

 シャープな体を持った女性アバターの名はドーン・パンサー。

 「おいおいレックス~、さっさと止めてきてくれよ!」

 「そうだぞ2代目、店員2号の不始末は責任者がとるものだろうが!」

「他人事だと思いやがって……。モナクムさんの幻覚でなんとかできないんですか!?」

 「出た瞬間にハニカム構造にされちまう」

「モナクムさんそれでもレベル7っすか?」

 「ならお前が出ろ店員1号!」

 カウンターの影に所狭しと詰め込まれた男3人は、自分の身の可愛さがどれほどのものかを全力で論じ合っていた。

 それが騒がしくなってきた時──

 ズガガガガガガガガッ──!

 と、カウンターの向こうで鉛の吐き出される音と、木が削り取られていくような音が3人の言葉を途切れさす。

 鳴りやんだ時に代わりに響くのは空薬莢の落ちる乾いた音と、鼻の奥をツンと刺してくる硝煙の臭い。

 「てーんちょ~、出てきてくださいよ~。私まだわからないことが沢山あるんですからね?」

 その声は先ほどとは打って変わってトーンの軽いモノだった。

 だが3人は知っている。これが罠だと。

「だから、ね?早く──出てこいやクソ野郎どもがぁ!!!」

 再度パンサーの声にドスが効き、両手にかけられた引き金を躊躇なく引く。

 (ご指名だよ、早くいけって~!)

 (頑張れ2代目)

 (無理無理無理無理ッ!)

 銃声の響く中、男達は目配せだけで会話をする。

 「なんで……、なんでこうなったんだよーー!」

 レックスの空しい叫び声も、2丁のマシンガンによってかき消されてしまった。

 

 

 ──15分前──

 「今日もやってるかい?2代目」

 「やってますよ、モナクムさん」

 [BAR G・E]のスウィングドアを揺らし、いつものようにモナクムはカウンター席の右端から3番目へと座った。

 「おうモナクム、一杯おごれや」

 「奢るったって元々タダ酒だろーがワグテイル」

 既にデキあがっているのか、すこしフラついた足取りでドカリとモナクムのとなりに座ったのは灰色──どちらかと言えば鉛色をしたアバターだった。

 レド・ワグテイル。ネームにそう表示された曇り空のように鉛色をしたアバターは、モナクムと肩を組みながらレックスに注文を飛ばす。

 「おれブルーモンね、モナクムにはスピリタス」

 「なっ、何てモン注文してやがる!」

 「あいよ、ちょっとまっててくださいね」

 そういってそそくさと奥に引っ込むレックス。

 モナクムはため息を吐きながらカウンターテーブルに肘をつく。

 「まぁ気を落とすなって!アレを見て元気だせよ」

 「あれ……」

 モナクムはワグテイルの指さす方向に目を向けると。

 ──そこには、どこかぎこちない動きで接客をするパンサーがいた。

 「お客様、コレ……こちらをお持ちしました」

 たどたどしく動く後姿を見ながら、モナクムは口笛をならす。

 「ヒュ~、やっとこの店も花を添えるようにしたのか」

 「これで酒もより一層おいしくなるってものよ!」

 「ですよね? はい、こちらブルームーンとスピリタス。それにつまみも置いときますね」

 「お、2代目気が利くね」

 「酒の肴はつまみとネーチャンのお尻ってね~」

 カチン、と軽くグラスを合わせる二人。その勢いでまずは一口をグイっと体に染み込ませる。

 「おいパンサー、せっかく猫耳ついてんだから語尾にニャーをつけろよ~」

 気の抜けた緩い喋り方をするダークが、今まで奥に引っ込んでいたのだろう、奥の部屋から出てきながら猫耳ウェイトレスへと追加注文をする。

 「ふざっ……! くっ──、注文は以上でよろしかったかニャア?」

 「先輩の言う事を聞いてよろし~」

 ダークはそれで満足したんだろう、また奥の方へ引っ込んでいく。

 「ねーちゃん、こっちも接待してよ」

 「お前完全に酔っ払いじゃねえか」

 「えっと、……そちらはレックスが……」

 「俺はねーちゃんがいいの~!」

ワグテイルは子供が駄々をこねるように地団駄をふんで暴れ出す。

 「おい、お客様は絶対王政だぞ。あと今は店長と呼べ、わかったかにゃあ?」

 「くっ……。わ、わかったにゃあ店長」

 渋々パンサーはワグテイルの元へ近づこうとすると、どっかりと椅子に座ったワグテイルはその動きを掌を突き出して停止させた。

 

 「まってまって。やっぱりさ、その場で3回廻ってニャアって言ってよ」

 「ワグテイルさん解ってるね~!」

 どこから聞きつけたのか、ダークがひょっこり顔を覗かせ話に参加してくる。

 そして3人の男衆に加わり、一緒になってパンサーを煽る。

 「さあパンサー、君に決めた~」

 「店員2号のちょっといいとこ見てみたい」

 「レッツニャー!」

 「店長の命令だ、答えは訊いてない!」

パンサーは肩を強張らせ、ワナワナと震えていたが、急に憑き物が落ちたように微笑んだ後に、その場で綺麗に回りだす。

 1回

 2回

 と、廻っていく中でおかしな事に気付いたのは素面の二人、レックスとダークだ。

 何故だかコマのように廻るパンサーの両手に何かが集まっているように見えた。いや、あれは集まっているのではなく──。

 

 3回

 キッチリ3回廻ったパンサーは両腕を直角に向け、その先にはレックス達が居た。

 そして二人が気になったパンサーの手には、出現した2丁のマシンガンがしっかりと握られていた。

 「お客様には冥土(メイド)がご奉仕させていただきますニャ♪」

 「「「「……え?」」」」

 

──20分後──

 

 酒や汗のシミが浮く、ワックスのかかった木板の床の上には、まるで築地の市場に並べられたマグロのようにボロボロになり、まさに死んだ魚の目をした男達が3匹ほど等間隔に並べられていた。

パンサーはとっくにログアウトしている。

 電気の消された室内で、男達の口が開かれた。

 「……生きてるか?」

 「い、いきてま~す」

 「…………」

 「モナクムさん?」

 「逝っちゃいましたか?」

 「……大丈夫だ」

 「すいません、大丈夫なら立たせてくれませんか。なんか神経マヒってるんで」

 「お生憎様、俺も手しか動かせないんでね」

 モナクムは這いつくばったまま掌をグーパーと動かして見せた。

 「てかよ、……店員2号高性能すぎじゃないか?だれもメイドに拷問48手なんか求めちゃいねえよ」

 「流石グレウォで汚ったねえ仕事やってただけはあるね~。……ん!?」

 突然、比較的被害が低そうだったダークは誰からかのメッセージでも見たのだろうか、目の前の文章に集中しだした。

 そして──、スクッと勢いよく立ち上がった。

 「「……っ!?」」

床に転がる2人はゴールデンの姿に目を丸くして驚愕する。

 「ちょっ、お前動けるの!?」

 「悪ぃ、ちょい急用ができたから帰るわ!」

 「1号、その前に俺たちを──」

 「サイナラー!」

 脱兎のごとくと言えばいいのだろうか、ゴールデンは流石ジャパニーズ忍者と言いたくなる様な見事なまでの速さで、残像を残しつつ店を後にした。

 取り残された店の責任者と常連客。

 数分後にソロッと戻ってきたワグテイルに助けられて事なきを得たとは風の噂である。

 




レックス「実はよ」
ダーク「なんだ~?」
パンサー「なによ」
レックス「作者は書き溜めあるっつってるけどよ、2章はまだ完結してないんだぜ?」
ダーク「半年あったのに!?それは……」
パンサー「ほんとにクz」
レックス「やめろ、あいつは豆腐メンタルだ!」


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俺と彼女とアイツとダレカ

 おはようございます。こんにちは。こんばんわ。やっと9回目、ふた桁まであと1回を控えて有頂天な作者です。今回も見ていただき有難うございます。
 いいですね、書き溜め。すごいですね、書き溜め。今週1Pも進めず別のを書き直すことに集中できまいた。泣けますね。
 はい、つまりまだ2章書き終えてません。ホントにスイマセン。
 それではごゆっくり。


ある日の真昼間、彰祐はもくもくと昼食のサンドイッチとおにぎりを頬張っていた。だが、その顔は決して美味しいものを食べているようには見えず、どこか険しくなっている。

 昼休憩を告げるチャイムが鳴り、5分ばかし経っている時のことである。

 その場には勇魔の姿はいない。しかし、決して一人で食べているわけでもなかった。

 彰祐の額には汗がにじんでいるが、決して気温によるものではない。むしろ少し肌寒く感じる10月の中頃。彰祐や周りにいる生徒の制服は長袖である。

 「ねぇ、なんで黙ってるの?」

 隣に座る人影。彰祐に比べ凹凸のはっきりしたボディラインがあるのはそれが女性のものだからだ。

 本来、青春真っ盛りの男にとっては女子とのランチは人によっては狂喜乱舞してしまうようなイベントではあるはずだ。彰祐はそれにもかかわらず、ただ黙って尚且つ隣の少女から目をそらしながらBLTサンドを口に運んだ。

 決して眼を逸らしたくなるような容姿を持つ少女ではなかった。

 真珠のように潤いのある大きな瞳。

 栗毛色の、風になびくセミロングの髪。

 通った鼻筋に艶のある唇。

 褒められこそはすれども貶されるような点は見当たらない、一時でも長く2つの眼と脳内に焼き付けたくなるような容姿を持った彼女になんの不満があるのだろうか。

 「無視しないでよ」

 少女は四つん這いになり彰祐に迫りよる。傍から見たら昼間からイケナイ事をするんじゃないかと思わせる構図である。

 段々と近づく彼我の距離に反比例し、彰祐の顔に浮かぶ汗の量は多くなっていく。そして彼女の蠱惑的な声が鼓膜を震わせる。

「あんなに私をイジメてくれたのに」

 また一歩、腕を前にだし縮まる距離。

 彼女の唇は彰祐の耳元にまで迫り、ポツリと一言。

 「ね、店長」

 瞬間、彰祐から滝のような汗があふれ出し、恐怖で顔が青く染まった。

 その場から跳ねるように飛びのき、気づけば彼女の正面に向かい正座をして──

 「すいませんでしたー!」

 見事なまでにフォームの整ったDOGEZAを披露した。

 腕の関節の角度はキッチリ30°、たたまれた足は平行に揃えられ額はコンクリートに擦りつけてある。

 その姿に彼女──忠石 早苗(ただいしさなえ)またの名をドーン・パンサーはフンっっと鼻をならし眼を釣り上げながら見下している。

 「それだけ?」

 「それだけ……とは?」

 「私、猫が見たい気分なのよね~」

 10月の、少し肌寒くなってきた遠くに色づく山の見える秋空を見ながら、まるで呟くように、かつしっかりと彰祐の耳に届くように言った。

 

 「くっ……、すいませんでした──にゃあ……」

 「聞こえないわね」

 屈辱を押し切った彰祐の一言はあっさりと切り捨てる早苗。彰祐は一度は睨むものの「文句ある?」といった早苗の表情にあえなく負ける。

 そしてすぅっと大きく息を吸い込み。

 「すいませんでしたにゃあご主人様!どんな調教でもしてくださいにゃあ!」

 「────っ!!!???」

 屋上どころかグラウンドにまで届くんじゃないかと思うような大きな声で恥ずかしいセルフを叫んだ彰祐に、一気に狼狽しだす早苗。

 周りにいた屋上で昼休憩を楽しんでいた生徒たちが一斉に二人の方を向き驚きと怪訝が混ざり合った視線を向ける。

 「ちょっと!?馬鹿ぁっ!!」

 「どうかしたかにゃあ?」

 「気持ち悪いのよ!」

 「ぐぶァ──っ!」

 真っ赤に色づき狼狽を示す表情(かお)に向かってニヤリと笑う彰祐に、早苗は羞恥と憤慨の混ざった正拳を突き出した。

 

 

 忠石早苗との邂逅はひょんなことから始まった。彰祐と勇魔で加速世界のことで談笑しながら弁当をつつくある日の昼下がり。

 「いや~、店員増えて楽になったわ」

 「お前こき使いすぎなんだよ、もしパンサーのリアルが目の前に現れてみろ、どうなることやら……」

 「いやいや、加速世界の知り合いにリアルで会おうとするなんてよっぽどのリスクと運が必要だろ?第一同じ学校に3人もバーストリンカー、それも知り合いがいてたまるかっての!」

 勇魔は鼻で笑いながらおかずと白飯を口に運ぶ

 「その油断が……ん?」

 ふと、彰祐は気がついた。ちょうど勇魔から死角になる真後ろ、彰祐にとっては真正面にいる女子グループがあった。それだけでは普通だが、その一人がじっとことらを見ているのだ。

 

 彰祐と勇魔から女子グループの距離はそんなに離れているわけではない。それに勇魔の声のボリュームもなかなかのものだった。何か気になることでもあったのだろうか。

 そこまで考え、彰祐に走るたった一つの勘。

 勇魔の能天気な顔を見ながら苦笑いを浮かべ、ぜひ杞憂に終わって欲しいと願うのであった。──無残にもその勘はクリティカルヒットしてしまうのだが。

 少女はグループになにかを断り、一人離れていく。そして反比例するように彼我の距離は近づいていった。

 何も知らない勇魔の肩に置かれる小さな手。

 思いもよらない感触につい振り向いて住まう勇魔。そして少女あは口を開いた。

 「初めまして、パンサーです」

 その言葉は後ろに音符でも付いているかのように弾んでいた。

 

 

 「そういえば、ダー……杉森がいないわね」

 「痛っ──、あ?」

 早苗は、痛む頬をさする彰祐の正面に座りながら言った。

 確かにこの場には彰祐とよく一緒にいる勇魔の姿はない。だがそのことに彰祐は慌てた様子もなく、ただ痛む右頬をさすりながら答えた。

 「たまにあるんだよ、フラッとどこかにいってフラッと帰ってきたり、もしくはそのまま休憩終わるまでどこかに行ってる事がな」

 「え、あんたその時ボッチ飯じゃない!?」

 「違う友達と食うわ! 別に友達少ないわけじゃない!!」

 早苗のあまりに理不尽かつ不名誉な言葉に声を荒げてツッコム彰祐。早苗はどうどう、と馬を落ち着かせるようになだめていると、ふと見たグラウンドの端に見知った顔があることに気が付いた。

 「ねぇ、あれ杉森じゃない?」

 「──え、どこだ!?」

 彰祐と早苗は急いで立ち上がり、勢いよく屋上の珊に駆け寄った。

 グラウンドの右端、卒業生からの記念品として植樹された桜の木の並ぶ木陰に勇魔の姿はあった。

 

 だがそれだけではなく──

 「女……か?」

 「女……ね」

 遠くてハッキリとは顔は判らないが、女子生徒用の制服と風に流れる黒髪から勇魔の隣に居るのが女子というのはわかる。

 早苗は肘をつきながら「へぇ~」とどこか納得したように頷いていた。

 「確かにモテそうではあるよね、相手は誰なの?」

 「──知らない。」

 さも当然のように質問した早苗にとっては、意外な答えが返ってきた。思わず、反射的とも言えるスピードで聞き返してしまう。

 「あんたが知らないの!?一体どういう──」

 「……りもの」

 「え、なんて?」

 「この裏切り者がぁぁぁあああああ!!!!!」

 突然、彰祐は天を仰ぎながら力の限り咆哮(さけ)んだ。近くで鳴る大声に耳を塞ぎながら早苗は彰祐を見ると、今にも血涙を流さんばかりに顔を歪めている。

 「くそ……くそぉ……。なんで、なんでなんだよぉ! いくらちょっとくらい顔がいいからってサクッといつの間にかツレなんぞ作りやがってこん糞ファァァァァァアア〇!!」

 「うっさい」

 「あ、すいません」

 隣からの冷静な、それこそ氷点下並みの感情のない冷たいツッコミに、彰祐の沸点のあまり高くない怒りは冷まされてしまう。

 「まさか彼女と会っているなんてね、そりゃ店長をほっておくわけだ」

 「その言葉だけ聞くとアイツがダメ店員みたいだな」

 「違うの?」

 「……違わない」

 彰祐はため息をつき、手すりに寄りかかるようにうずくまった。そして遠方に見える友人と、傍らにいる少女の姿を捉えながら物思いにふける。

 「どうしたの、暗い顔して」

 「やっぱ相棒でも知らないことはあるんだなって思ってよ」

 「はぁ?」

 早苗は彰祐の一言に眉をひそめ、呆れた顔を作りながら答えた。

 「そんなの当り前じゃない、他人と他人なんだから知らないことの一つや二つあって当然よ、てか無い方がおかしい」

 「まぁ、そうだよなぁ」

 どこか気の抜けた声を出す彰祐。二人の昼休憩は予鈴と共に幕が下りた。

 




レックス「自分で言ったね。あの屑は」
ダーク「ほんとだね~」
パンサー「自分で遅い遅い言ってるんだからせめて努力すればいいのに」
3人「この屑!」
作者「……すいません」
???「まったくです!!」
4人「お、お前は!?」

~???が解るまであと2話~


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灰色の思い出

 見ていただき有難うございます。書き溜め週一宣言をすっかり忘れてしまった作者でございます。
 とうとうきました二桁目。そんな時に更新を一週間遅れせるなんて幸先の悪さ。今後も遅筆は治りそうにもありません。
 ちなみに毎度毎度このような事を前書きに書くかというと、ネタがこれ以外にないからです!
 それではどうぞ。


 まるで燃えているかのように世界を染め上げる夕日。彰祐は決して軽いとは言えない足取りで家路につき、我が家のドアノブを握り締める。

 「ただいま」

 帰ってくる返事はないが、習慣とは変えれるものではない。そのまま迷わずに自室へ向かい、部屋着へと着替えていく。

 フォーマルからカジュアルへと変わった今でも、考えることは学校となんら変わりはなかった。

 「確かに。勇魔は顔は少しは、すこーしはいいかもしれない。だが彼女だと……?それもなんか雰囲気的に美人であろう彼女だと!?ははっ笑わせてくれる」

 見事なまでの嫉妬、ジェラシーだ。

 部屋で高笑いをしていると、だんだんと客観的になれたのか恥ずかしくなり押し黙る彰祐。別に聞いている人はいないから良いじゃないかと言う人も、これまたいないのである。

 そして彰祐は考えることをやめた。

 有り体に言えばボーっとしだした。もうどうでも良くなったのか、はたまた考えすぎで頭がおかしくなったのか。どちらにせよ口を半開きにし、目は何もない中空の一点を見つめている事実は変わらない。

 5分くらいたっただろうか、微動だにしない彰祐だったが、彼を動かすことが起きた。

「ん、メールだ」

 右上の仮想現実上に表示された質素な便箋型アイコンが点滅して、彰祐の意識は一気に覚醒した。

 「差し出し人は──勇魔か」

 名前を確認した後に人差し指で欄の一番上を2回触り、本文を表示する。

 「なになに、見せたいものがあるから夜の9時丁度に店に来て欲しい、だと?見せたいものってなんだ?」

 彰祐はその旨を伝える内容の文章を返信すると──即座に返答は返ってきた。

 

[だから、それはお・た・の・し・み]

 

 思わず吐きそうだった。

 「あいつはいつからそんな趣味してたんだ?」

 そうやってメールを眺めてくると、突然目の前に一つの表示が現れた。

 早苗からの着信だ。彰祐は承諾を押しTV電話に出る。

 『ねぇ、あんたのところにも来た?』

 「メールか?来たぞ」

 「聞きたいんだけどさ、アイツがこうゆう事する時って大体どんなことが起きるの?」

 「いや知らね」

 『はぁあ!?』

 知らないものはしょうがないじゃないかと彰祐は思ったが、目の前の少女は止まらない。まるで弾丸を浴びせるかの如くまくし立てられる。

 いい加減鼓膜が震えすぎで痛くなってきそうなので指を耳に入れうるさいとジェスチャーをして言葉の弾幕を止める。

 「一年」

 突然つぶやかれた単語に早苗はハテナマークを頭上に浮かべ、彰祐に思わず聞いてしまう。

 『なにが?』

 「約一年、俺が勇魔と初めて会ってからの日数だ」

 『……あんたそれでよく相棒って言えたわね』

 「甘いな、あいつがウチの店員になったのは1年もたってない!」

 『尚更ダメじゃない!!』

 彰祐の目の前に映る早苗はわざとらしく眉間に手を当て、天を仰ぐ。

 「だから呼び出すことはあっても呼び出されたことはなかったんだよ」

 『より一層不安になってきた。どうしてくれるのよ』

 「まぁ、頑張れ?」

 『そこで語尾上げないでくれる!?』

「やべっ超不安になってきた。落ち着け俺、師匠も言っていたじゃないか。緊張は有意義、不安は無意味って」

 『前から気になってたんだけどさ、その師匠って誰なの?ワグテイルさん?』

 早苗のふとした質問に、彰祐の顔つきが変わったのが早苗にはわかった。その少し驚いたような、陰が差しているような表情のまま彰祐は答えた。

 「ちがうよ。パンサーも、それにダークだって会ったことないよ」

 『ふぅん、その師匠とやらはアンタの親なわけ?』

 「そうだよ、それに初代G・Eの店長で探偵。もともとあの店自体が師匠が買った家をちょこっと改装したものだしね」

 そこまで話を聞いた早苗は、何かを考えているようだった。そしてその考えがまとまったのか、顔をあげた。

 『なら、いまはどこに居るの?』

 「──っ」

 彰祐は息を飲んだ。傍から見ればいたって普通の質問に彰祐は目を泳がせ、少しの間を置いてようやく引き絞るように言葉を紡ぐ。

 「それは──、」

 突然、彰祐の家に来客を知らせる玄関のチャイムの音が響いた。その音は通信を通して早苗にまで聞こえたらしく、予想だにしていなかったことに目を丸くしていた。

 「ごめん、人が来たから!それじゃ9時に」

 そう言って彰祐はテレビ電話を終了させた。切れる間際の早苗は何かを言おうとしていたが二の句を継がせるまえに通話は終わっていた。

 彰祐はベッドから立ち上がると少し逸る足取りで玄関へと向かい、ロックを外した。

 すると扉が開き、その前には一人の女性が立っていた。

 「マヤ姉、どうしたの?」

 マヤ姉と呼ばれた女性は少しはにかむと、家の中に入りながら答える。

 「今日おばさんから頼まれたのよ。帰りが遅くなるから彰祐の晩御飯つくってくれないかーって」

 そう言いながら黒髪をうなじのあたりで束ねた女性は靴を綺麗に揃え、靴箱へと収める。

 本名、上河内 麻耶。彰祐より少し低いくらいの身長に、いつもうなじの辺りで束ねた黒髪。右目にある泣きぼくろが特徴的な彰祐の幼なじみだ。

 向かいの家に住んでおり、帰りの遅い彰祐の両親に代わり度々晩飯をつくったりしている。

 まっすぐ橘家の台所に立ち、先ほど買ってきたであろう食材をエコバックごと台所の上に置く。

その間に彰祐は二人分のマグカップを出し、その中へインスタントのミルクティーの粉を入れる。

「もう準備したけどさ、ミルクティーで良かったよね?」

同じ形の色違いのマグカップの中へ電気ケトルの中にあるお湯を注ぎながら彰祐はマヤに聞く。

「大丈夫よ」

短い答えが返ってくると、彰祐はスプーンを取り出し底の方に残っている粉をかき混ぜて溶かしていく。

その横を麻耶は通り過ぎ、リビングにあるテーブルの椅子のいつもの定位置へと座ると、少し遅れて彰祐がミルクティーを持ってくる。

 「ミルクティーになります、お嬢様」

 「なにそれ」

 「ちょっと紳士になろうかとね」

 「ふふ、似合わないよ」

 麻耶はクスクスと笑いながら彰祐から受け取ったミルクティーを一口すすり、そばにあったテレビのリモコンでテレビを点ける。

 明るくなった画面のむこうでは、最近話題のモデルや芸人が大御所芸能人のMCとともにトークを繰り広げるバラエティをやっていた。

「最近学校どうなの?」

「まぁまぁ」

「とてつもなく素っ気ないね。お姉ちゃんないちゃうよ」

テレビの音をBGMに、十二畳のリビングで他愛ない日常会話が交わされる。

「もう大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?別に怪我なんかしてないけど‥‥‥」

「去年までヤンチャしてたんでしょ?今まで聞かなかったけど」

その言葉に心当たりがあったのか、彰祐は苦い顔をつくった。

「知ってたんだ」

「そうよ、お姉ちゃんはなんでも知ってるわよ」

「なんだよそれ。ま、もう心配しなくても大丈夫だよ。今は普通に友達と遊んだりしてるだけだから」

麻耶を安心させようとした自分の言葉に「あっ」と声を漏らし、彰祐大事ななにかを思い出した。

「マヤ姉。今日9時から用事があるから晩飯早くして」

「別にいいけど用事って?」

答えづらい質問に彰祐は少々逡巡し、最も当たり障りの無い言葉を選び抜く。

「‥‥‥友達とゲーム」

「ゲームねぇ。最近やってないな。最後にやったゲームは彰祐とやった‥‥‥あれ、なんてゲームだっけ?彰祐覚えてる?」

彰祐は軽く首を振って否定した。

どうしても思い出したいのか、麻耶は頭を抱え唸りだした。そして頭から煙でもでるんじゃないかと心配になってきたところで突然麻耶は顔を上げた。

 「ねぇ、お姉ちゃんもそのゲームやってみたいな!」

 「えェ!? いや、それはちょっと……」

 突然の申し出に彰祐が目をそらすと、麻耶はさらにスイッと身を乗り出した。

 「そんなにハマってるんなら面白いんでしょ? お姉ちゃんも興味あるなー」

 「でも格闘ゲームだよ?」

 「そんな事言って。彰祐格ゲーあまり好きじゃないじゃない」

 「いや、本当だって」

 「ならただ事じゃない格ゲーなんだね!」

 「いや、まあスリリングでただごとじゃないけど‥‥‥」

 「ならっ!」

 麻耶が目を輝かせた瞬間、台所のほうで何かが崩れ落ちる音がした。

 「ギャー!今晩の食材達が!!」

 駆け足で台所の方に向かう麻耶。

 こんなところで2回目の天の助けがきてくれた。

 床に落ちたトマトやらレタスやらを拾い上げ、慌ただしく整理し直し始める麻耶。

 その姿を見て、彰祐がこみ上げる笑いを堪えずに吹き出す。

 しばらく笑ったあと、ついでに晩御飯の準備をしている麻耶を見る目は先ほどとは違う感情を持っていた。

 「それに、もうマヤ姉はできないんだよ……」

 自分にしか聞こえない声で静かに呟く彰祐は、寂しい笑みを浮かべていた。




???「おしえて~、レックス先生!」
レックス「今回も???は伏字で送らせていただきます」
???「今日はパンサーさんについて教えてください!」
レックス「それは本人に聞いてください。本人を呼んだので自己紹介どうぞ」
パンサー「え、イキナリ!? え~っと名前はドーン・パンサー。武器は2丁のマシンガンです」
レックス「得意技はなんですか」
パンサー「必殺技は秘密よ。アビリティはキャットファインダーって所謂レーダーが使えるわ」
???「なんで必殺技は秘密なんですか!」
パンサー「文句は作者にどうぞ」
???「パンサーさんがヒロインって本当ですか!」
パンサー「そう見えないのは作者のせいよ」
レックス「はい、ありがとうございました」

~???が解るまであと1話~


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NEW Challenger

 よし、大丈夫だ。今のところ順調だぞ、今のうちに書き溜めを……。
 てな感じで切羽詰ってきた作者です。今回も開いて下さり有難うございます。
 今回は新キャラが出てきます。1話で使い捨てのキャラではない奴がです。
 実は前回の話で使った書き溜めファイルが古く、新しく直しましたので多少内容が変わっております。暇があれば見直してください。
 ではどうぞ。


年季が入り、重心をずらしただけで軋むカウンターの椅子に座り小一時間程が経っていた。

 現実世界で茄子とピーマンと豚バラ肉の炒め物と白米、そしてトマトサラダを胃袋に詰め込んだレックスは心地いい満腹感を感じながらどこか上の空で自分で作ったカクテルを飲んでいた。

 ダーティーマザー。ブランデーにコーヒーリキュールを加えたカクテルのほろ苦さは食後の胃と気分を落ち着けるのに向いていた。

 CLOSEにしてあるため、店にレックス以外の人影はなく閑静としている。いつもの酒の匂いは薄れ、どこか安心する木の匂いがするばかりだ。

 レックスは視線を手元に移す。グラスに注がれた琥珀色の液体が波紋を描き、翠玉色の自分の姿が揺らめいて写っていた。

 スウィングドアが開いた音がした。音の方向に目をやるとそこには夜明けと同じ色をした猫の耳を持ったアバターが立っている。

 ドーン・パンサーは軽く辺りを見回したあと口を開いた。

 「あいつまだ来てないの?」

 「俺たちが早く来すぎたって発想はないのか?」

 「お生憎様、9時ジャストにこの世界に入ったから」

 「なるほど、あいつが遅れてるのは間違いないようだ」

 そう言うやいなや件のダークからメッセージが届く。そのメッセージにはあと10分でつくとの旨が書かれてあった。

 メッセージウィンドを開いていると横からパンサーが体を寄せて覗いてきた。目だけで文字を追い、数秒の後に興味が無くなったかのように離れていく。

 「それじゃ私もゆっくり待つとしますか」

 ストンとカウンターテーブルの右から3番目の椅子──レックスの左横に座ると、慣れた風に脚を組んだ。

 「とりあえずなんか甘いの」

 「は?」

 「だから、飲みやすくて甘いお酒作ってってあんたに頼んでんの」

 「それが人に物を頼む態度か!?」

 脚を組み、テーブルに肘をつくその姿は薄暗いシックなバーにこそ映えるだろうが、生憎今はただの集合場所と化した木造の家。バーということ以外はほとんどの条件が合わない大衆酒場だ。

 あくまでその時と場所によっては観れる体勢を崩さないパンサーに、レックスは飲みきっていないグラスをその場に起き、嘆息しながら席を立ってカウンターの向こう側へと歩き出す。

 カウンターテーブルを挟む形で向かい合うようになった二人。レックスは飲みやすいのをご所望なら定番のカルアミルクでも作ろうとコーヒーリキュールに手を伸ばすと、背後から声がかかる。

 「あ、どうせだから私が知ってなさそうなの作ってよ」

 「大丈夫、わかってるって」

 「カルアミルク作ろうとしてるのに?」

 なぜわかったのかとパンサーに背中を見せながら硬直していると、どうやら右手はコーヒーリキュール、左手は牛乳に手を伸ばそうとしていたのを見られていたらしい。流石にパンサーもカルアミルクのことは知っていたようだ。

 「そもそもパンサーは酒なんか飲んだことあるのか?」

 「無いわよ」

 「だろうな」

 「なに納得してるのよ!」

 背後から聞こえる噛み付くような声を聞きながらピーチリキュールを手に取る。氷を入れたグラスに半分より少し少なめに注ぎ、後からオレンジジュースを同じ量だけ注ぎバースプーンで軽く混ぜる。

 「はいよ、ファジーネーブル。まぁほとんどジュースみたいだから安心して飲みな、お嬢様」

 「お嬢様ってなによ」

 パンサーは少しムッとしながら冷えたカクテルを口に含んだ。

 「へー、確かにジュースみたいね。ただ少し喉がスーッとする感じが新鮮ね」

 「お気に召したようで何よりですお嬢様」

 「だってパンサーってか忠石早苗はお嬢様まではいかなくても金持ちだろ?」

 「なっ、なんで!?」

 なんでそうなるの、という意味ではなくなんで分かったのかという意味を含んだパンサーの言葉にレックスは得意げに答えた。

 「今日TV電話したじゃねえか。その時に後ろに見えたオーディオ機器が庶民が趣味で手を出すには少し恐ろしい金額をしたシロモノだったからね。で、お嬢様とか言ったのは意識して無作法な事をしてるのか知らないが無意識での端々の所作が結構キッチリとしてたから。ただそれだけだ」

言葉を完結させたレックスを見るパンサーの目には言葉では表せない呆れにも似た衝撃が走っていた。少しの間思考が停止してしまった頭にガソリンを入れ直し、無理にでも動がし会話にもどる。

 「一体そんな観察眼どこで手に入れたのよ」

 「知りたいのか?」

 「ええ、もちろん」

 「なら一つ条件がある」

 レックスは間を置き、パンサーの前に人差し指を立てた。

 「出来る範囲ならやってあげる」

 「簡単なことだ、ちゃんと俺を名前で呼べ」

 「……は?」

 あまりにも突拍子もなければ脈絡もない内容にパンサーはコメディーのようにずりコケてしまう。

 「一体私がいつあんたを名前で呼んでないって?」

 「なら店の時は?」

 「え?」

 「だから店をやってるときはなんて呼んでる」

 「あんたが言ったから店長って呼んでる」

 「なら店が終わったら?」

 「そりゃ……あんた」

 「学校では?」

 「あ、あんた……」

 二人の間に気まずい空気が流れ出した。正確には気まずくなっているのはパンサーだけなのだが。

 「え~っと、あん──」

 「レックス」

 「わかった、今度からレックスって呼ぶわよ」

 「あと彰介な」

 「それは馴れ馴れしくない?」

 「ダークってか勇魔にも最初から下の名前で呼ばせてたからな。それに橘ってよばれるのはむず痒い」

 「ふ~ん、わかったわ」

 そこでパンサーはファジーネーブルを飲んで一息いれ、レックスに向き直る。

 「それじゃあ教えてもらいましょうか。って言ってもあらかた想像はできるけどね」

 「へぇ、なら言ってみな」

 「どうせ師匠でしょ?」

 レックスは軽く首を縦に振って正解と無言のままに表した。

 「やっぱりその師匠に会うことはできないの?」

 夕方の話題を持ち出され、またも困惑すると思われたレックスだが、今回はあっさりと言葉が出てきた。

 「無理だな。残念ながら俺もどこにいるか知らないんだ」

 「そうなの。それならそうと言ってくれればいいのに」

 パンサーは特に問い詰める様子w見せず、あっさりと引き下がった。

 ちょうどその時だった。もう一度スウィングドアの開かれる気が軋むような独特の音が店内に響いたのは。

入口に立つ来訪者に顔を向けずレックスは挨拶をする。

 「思ったよりも早かったなダーク」

 「ゴメンゴメン。ちょっと迎えに行ってたからよ」

 「迎えって……」

 そこまで言ってレックスも、そしてきっとパンサーもある違和感に気付いた。

 ダークの背後、具体的に言えば肩甲骨のあたりからなにやら平べったく長いものが2本左右に出ている。言ってしまえばうさぎの耳である。

 この後ろの奇妙珍妙なものに対して問いただしたのはパンサーだった。

 「ダーク、その後ろのはなに?強化外装?」

 「よくぞ聞いてくれた」

 途端、ダークは待ってましたと言わんばかりにオーバーリアクションを取ると、両腕を上に広げた。

 「さぁさぁお立会い、本邦初公開! ──ババン!」

 「はじめまして、セルリアンポリッシュです!」

 ダークの後ろから跳ねて出てきたのは兎。見た目どうり言葉さえも弾ませる兎。長い耳を後ろに垂れ流し小動物を思わせるつぶらな瞳。首にはこれまた風になびくだろうと推測されるダークと同じようなマフラーが巻かれている。ダークの3分の2程度しかない身長に不釣り合いなのは踵から生えた大振りなカットラスのようなナイフ。

 「どうだ可愛いだろ?」

 そういってダークはポリッシュを後ろから抱きかかえると、ポリッシュはくすぐったそうに身をよじり出す。

 「やんっセンパイくすぐったいです」

 「……110であってたっけ」

 「レックス、ここはGMに行ったほうがいいんじゃない?」

 「糞ッ!レベル10になるしか通報はできないのか!」

 端々に出てくる不穏なワードにダークは慌てて制止の声をかける。

 「待て待て待て、一体なにをする気なんだ?」

 「ロリコンを直してあげようと思ったの」

 「おめぇ、幼女はまずいって」

 「なんでそうなるの!?」

 「あ、あの!」

 このダークに対する蔑みの雰囲気を変えたのはポリッシュだった。ただしより悪いものに変わってしまったが。

 「センパイはワタシの父親なんです!」

 「……あ」

 「……うん」

 「ポリッシュ……やってくれたな」

 「えっありがとうございます!」

 レックスとパンサーは諸悪の根源を刈り取ろうと自分の武器を取り出し、切先と銃口を目の前のへと向ける。ダークはというと何かを諦めたように天を仰いでいた。

 その光景を見て、ポリッシュは自分の間違いに気づいた。

 「あっ、違います!センパイはワタシの親なんです!!それにセンパイとは歳は一つしか違いませんから!」

 「そうなんだ、早く言ってくれれば良かったのに」

 「危ない危ない、店員が一人減るところだった」

 「「……。──って親ぁ!?」」




???「皆さんこんにちは!いつも心にセンパイを、戦わない兎はただの兎だ。セルリアン・ポリッシュです!!」
ダーク「本日は親子で送りま~す」
ポリッシュ「センパイ、やっと???から名前に変わりました。ワタシ嬉しいです!」
ダーク「そうかそうか~、ポリッシュは可愛いな~」ナデナデ
ポリッシュ「やんっ、もっと撫でてください!」
ダーク「わしゃわしゃ~」
ポリッシュ「センパイ大好きです!」
ダーク「俺も好きだぞ~」
ポリッシゅ「ホントですか!?」
ダーク「ああ、親だから当然だ」
ポリッシュ「……」ダンッ
ダーク「あ、ポリッシュ痛い。つま先踏むのはいいけど踵のナイフが刺さってるから、ちょっ血が出てるから!」


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ウサギが仲間になりたそうな目で見ている。

 ※来週からは不定期更新です、ご了承ください。
 はい、とうとう12話目になりました。見て下さりありがとうございます。
 開口一番で言いました通りです、理由は言わずもがな……。約1か月何をしていたのかと問われても無言を貫き通します。
 さて、突然ですがアニメでもラノベでもネタキャラが大好きなんですが、中でもホモが結構好きです(”ネタキャラ”としてです。私はホモではありません)
 こんな事言ってられるのも実際にホモに遭遇してないからでしょう。友人なんかはホモと聞いただけでガクブルです。
 今までホモの話は2度聞いたことがあります。別々の友人から聞いた話ですがこんな内容でした。

 CASE1~くつろぎのサウナ編~
友人「あ~サウナいいわ」
友弟「いいね」

 ガラガラ

おっさん「隣いいですか?」
友人「いいですよ~」
友弟「どうぞ」

席順: 友人 友弟 おっさん

おっさん「……」ジー
友人(こやつ、何を見ているんだ?)
友弟「兄ちゃん、先上がるわ」
友人「おう」

 ガラガラ ピシャ

友人「……」
おっさん「……ねえねえ」
友人「はい?」
おっさん「さっきの子のおしりかわうぃーね」
友人「ファっ!?」
おっさん「いやね、私かわいいお尻が好きなんだよ」
友人「は、はぁ……」
おっさん「あのーこう、少しくぼんでいる感じだったり?それでいて柔らかそうなところだったり?もうねあのおし──」

 数分後

友人「あの、もう上がります」
おっさん「そうかい?」
友人「失礼しマース」ソソクサ

 ガラガラピシャ!

友弟「遅かったね、何が──っ」
友人「なんでもない」
友弟「いや何か──」
友人「何もなかった」
友弟「……そうですか」

 ~終幕~

 恐ろしいですね、まぁだいぶ脚色しましたが。
 次は別の友人です。友人は友人。友人の友達を友1とします。
 では行ってみよー

 CASE2 ~黄昏の公園編~

 友人「あ~疲れた」
 友1「ちょwww公園で遊ぼうぜ!」
 友人「おまっ……遊ぶかwwww」
 
 友人「ブランコ懐かし!」
 友1「お前ガッシリしてんだから似合わねwwwww」
 友人「そうか?」ガッシリ
 ???「ねえ君たち」
 友ーズ「「ん?」」
 イイ♂「可愛い顔をしているね」
 友ーズ「「アッーー!」」

 ~終幕~

 ふざけすぎました、二人とも掘られてません。これでは友人に怒られる。

 かなり汚い話をすいませんでした、ようやく終わりです。
 ホモって怖いですね、メディアの中だけで十分です。今後からは気をつけます。

 それでは12話どうぞ
 


 パンサーとレックスの声が見事にハモる。二人は目の前の同じマフラーをつけた忍者と兎を見比べる。

 「なんだよさっきから……えらいお前ら息がぴったりじゃねえか。夫婦?」

 「「言ってる場合じゃねえ(ない)!」

 立て続けに声をハモらせ、互いに少し睨むように一瞥するも、そんなことより目の前の大事件。

 「おまっ……親っていつからだよ」

 「5ヶ月前かな」

 「なんも言えねぇ」

 このやり場のない感情を心の内に抱えてしまったレックス。

 「リアルでは彼女ができてこっちでは子ができて……。これが噂のリア充ってやつなのか」

 「は?なんだそ──」

 「どういうことですか!」

 レックスのつぶやいた言葉に釣れたのはダークではなくその子、ポリッシュだった。唐突に声を荒らげた彼女には鬼気迫るものがある。

 「センパイに彼女?何を言ってるんですか。それは本当なんですか!?一体どんな人でどんな雰囲気でセンパイとどこまで行っててどんな人なんですか!早く言ってくださいさもないと体の関節ごとに切り分けますよ?言ってくださったらその矛先が変わるだけなのでお気になさらず。さあ…さあ!」

 「落ち着け、同じこと2回聞いてる」

  ズイズイせまるポリッシュに「どうどう」となだめる。

 「今日の昼にな、屋上からダークとその噂の彼女が樹の下でなにかを話してるのを見ただけだから。そこまで詳しくは知らないから」

 「昼……。樹の下……」

 ポリッシュは何かを考えるように顎に手を添えると、事の真相がわかったのか明るくなった顔を上げた。

 「いや~さすがセンパイの相棒ですね。良い事言うじゃないですか!店長は素晴らしいです!」

 「え、なんか解らないけどアリガトウ……。って店長!?」

 レックスは驚愕した。そしてダークの方を見ると、申し訳なさそうに事情を説明してくれた。

 「レックス、こいつもここで働かせてやってくれないか」

 「流石に4人は多くないか?」

 「頼む!やっぱ子の側に居ないと心配なんだよ」

 「子の側に……ね。わかったよ、お前がちゃんと新人の面倒みろよ」

 あっさりと了承したレックスにパンサーは再度聞く。

 「いいの?」

 「別に金払うわけじゃないからな。あっちの仕事だって別に毎回面倒なのが来るわけじゃないいし、暇は余ってる」

 「やった!センパイありがとう。愛してる!」

 「ああ、子が可愛くない親なんて居ないからな」

 その瞬間、ポリッシュだけでなくなぜかパンサーまでもが呆れた顔を作った。

 「なるほどね、理解したわ」

 目に見えて落ち込んでいるポリッシュと同情の眼差しで肩を叩いて慰めるパンサー。だがレックスは困惑を口にする。

 「……わからん」

 レックスは空気が変わったことまでは解る。しかしなぜポリッシュが不機嫌そうになったかが不可解だった。ダークに至っては最早空気が変わったことすら気づいてないようだ。今も笑顔でポリッシュの頭を撫でている。

 

 

 ブレインバースト内での1時間が過ぎた頃、店内は内装を変えていないにもかかわらずどこか華やかになっていた。

 ポリッシュの追加により女性アバターの増加で、気分だけでも酔っ払うリンカー達はたどたどしい可愛さを持つポリッシュで心の保養にもなっていた。

 ここでタチの悪いのがモナクムという男だった。

 「ポリッシュちゃ~ん、テイクアウトOK?」

 「店員に手をだすなよ!」

 バーボンを5杯駆けつけに煽ったモナクムは30分で既に出来上がっており、新人にちょっかいを出す害悪となっていた。

 おもわずレックスも注意を促すが、どうやら夢心地の頭にはそれこそ馬に念仏ならぬ酔っ払いに念仏となっていた。

 「ちょっと位いいじゃねえか。ね、ポリッシュちゃん」

 「すいません、何をほざいてるのか聞こえなかったのでもう一度お願いしますか?」

 はじける笑顔に弾む声、ついでに殺意も跳ね上がっているポリッシュにモナクムの酔は醒め苦笑いを浮かべる。

 ちょうどそのやり取りが終わった時に裏でつまみを作り終えたダークが顔を覗かせた。まるでシステムのようにポリッシュの殺気が消えていく。

 「モナクムさん、ポリッシュにちょっかいかけたら流石の俺も黙ってないっすよ~」

 ポリッシュとは違い、半分冗談まじりに注意をするダークにポリッシュが答えた。

 「センパイ大丈夫です、モナクムさんは無害ですよ。ね?」

 「え……、あ、そうですね」

 「声が暗いっすけど飲みすぎて気持ち悪くなったんすか?」

 モナクムの不思議な態度にダークは首をかしげるが、注文が入ったため厨房に引っ込んだ。

 それを横で見ていたレックスとパンサーは。

 「ポリッシュ、恐ろしい子!」

 「なんだそりゃ」

 「さぁ、なんかおばあちゃんがよく使ってたわ」

 「へ~」

 と完全に無関係をキメている。

 「そうそう、レックス」

 酔いが綺麗さっぱりとなくなったモナクムはレックスに思いつきの話題を振った。

 「さっきなかなかご機嫌なビギナーのバトルを観てきたんだけどさ、今度お前も観ない?」

 「ご機嫌って……どんな奴ですか」

 「ガソリンで動く単車乗り回しながら『ヒッハァーーー、メガラッキー!』とか叫んでるレベル1」

 「いいねぇ、俺観たいっす!」

 食いついてきたのはいかにもこの手の話が好きそうなダークだった。

 「そのリンカー教えてください。見かけたらすぐ観戦するんで。な、レックス」

 「最近仕事ないから暇か、観てみるか」

 約束を取り付け、ダークは少し嬉しそうにガッツポーズをとった。

 「仕事ってこの酒場じゃないんですか?」

 すると、まだ就業1時間未満のポリッシュが疑問を口にした。

 なかなかにピンポイントな質問だ。

 どう答えたものかとレックスが苦い顔を作っていると、パンサーが淡々と答えてしまう。

 「店長は何でも屋として色んな人にこき使われているのよ、ポリッシュも気になることがあったら調べてもらえば?」

 「お、おいそれは──っ」

 「なんでも屋ですか!」

 言葉を続けようとしたレックスを瞳を爛々と輝かせたポリッシュが遮ぎる。

 「流石センパイの相棒さんです、なんでも屋をやってるなんてカッコイイです!」

 「そ、そうか。アリガトウ」

 純真。あまりにも純真。どう言い逃れたものかというレックスの画策はどこへいったのやら、目の前の純粋さの前には顔を引きつらせ、ただただ首を縦に振るばかりだった。

 「それじゃあワタシも何かあったら何でも屋を頼りますね。それじゃ店長、業務に戻るであります!」

 ビシっと敬礼を決め、接客に戻るポリッシュ。その後ろ姿をやるせない雰囲気を出しながら見送るレックス。そしてその姿を目を細めながら愉快そうに見ているモナクム。

 「恐竜は子兎には勝てなかったか」

 「言っててください」

 モナクムの言葉に少し刺のある言葉で受け流す。

 師匠から受け継いだ探偵業に対して誇りを持っていたレックスのことだ。秘密にしようと思ってはいたのだがそれを何でも屋と言われたらどうにも腑に落ちない。だがそれを咎めることもできない歯がゆさに板挟みにされ、なんとも微妙な顔を作っていた。

 このやり場のない感情を払拭するために話題を変える。

 「話は戻しますけど、そのビギナーはどこで見たんですか?」

 「東京」

 「県外じゃないですか。モナクムさんそっちに住んでるんですか?」

 「おいおい、さりげなく詮索すんなよ」

 引っかからなかったかと冗談交じりに笑うレックスに、両肩を上げ呆れた演技をする。

 「たまたま用で行ってたんだよ。」

 そこで一度間を置き、グラスの中身を一口含んで続ける。

 「リンカーの名前はアッシュ・ローラー。ちゃんとダークにも教えとけよ」

 「レギオンに所属は?」

 「グレウォだったかな」

 「グレートウォールですか。あらあらまあまあ何かと縁があるようで」

 「縁?」

 「なんでもないです。場所と日時は?」

 「夕方、杉並区」

 「……杉並区」

 呟くレックスの声には陰りがある。気づいたモナクムはレックスにフォローを入れるように言葉をかける。

 「おいおい、もうアイツは居なくなった無関係の土地だよ。そう気にしなさんなって。もう終わったことだぜ?」

 「別に気にしてないですよ」

 言いながらレックスはグラスを拭き始める。さっきから言葉に元気がないことに気がついてないのかとモナクムは一人アルコールで口を湿らしながら思う。

 「やっぱり子供だねぇ」

 誰にも聞こえない声でそうつぶやいた。

 心の中でご馳走様といいつつ、酒のシミが浮くテーブルに手をついて立ち上がる。

 「モナクムさん、また今度」

 レックスに右手を上げて答えた。ライトイエローの背中は夜の暗がりへと消えた。

 

 




レックス「予定では来週は原作のあの人気キャラが出るらしい」
ダーク「人気キャラ?」
パンサー「誰かしら」
ダーク「パーフェクトマッチは強かった」
パンサー「当たり前じゃない」フフン
レックス「やめた奴がなんで得意げなんだ?」
パンサー「辞めさせられたのよ!あなたたちに!」
ポリッシュ「ワタシはスカイ・レイカー推しです!」
ダーク「俺はスカーレット・レイン」
レックス「クリムゾン・キングボルトだろ」
パンサー「クロム・ファルコン……泣けたわ」
作者「ネクストEGsヒ~ント!『俺様メガラッキィィイイイーー!』
全員「「「「それ最早答えじゃん!」」」」
作者「いや、作中でも出てきてるから」


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