魔導書は冒険譚を綴る (日λ........)
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プロローグ「終わりと始まり」

VRMMO『ユグドラシル』の悪名高きPKギルド『アインズ・ウール・ゴウン』には、恐れられた一冊の魔導書がいた。
曰く、その魔導書をもった魔法職が全力で魔法を撃った結果、一つのギルドが8割ほど消し飛んだ。
曰く、その魔導書はオートで最上級のデバフとバフを掛けてくる上、神話生物まで召喚してくる。
曰く、デバフの耐性つけたのにも関わらず、その魔導書は耐性を貫通してデバブを掛けてくる。
etcetc……様々な逸話から、また、その理不尽っぷりから、異形種狩りのプレイヤーからは鬱陶しく思われ、PVPを趣向とするプレイヤーからはその奉仕っぷりからその書はこう呼ばれた。
『ナザリックの書』または『AOGの支援魔法の鬼』と……
そう、その魔導書はアイテムではなく、「魔導書」という種族のプレイヤーだったのだ。

名を、ぐりもあ。そのスキル構築を生きた魔導書というロールプレイに全振りするネカマプレイヤーであり、同じくアインズ・ウール・ゴウンに所属するあの男の親友であった。


時は2100年代。世界は一世紀前から更に環境破壊が進み、外出は防毒マスク着用がデフォルトになって早数十年。かつてはインドア、アウトドアなどと呼ばれ区別されていた娯楽の区別は消え去りつつある。

 

自分もわざわざ体を弄くって人工物に替えるような手術を受けれるほど金持ちではなく、とはいえ独身の社会人故に金銭的には貧乏とは言えず、趣味と言えば家の中でゲームというのが日課となっていた。

 

VRMMO『ユグドラシル』

 

学生時代からの友人で、たまに今でも共にTRPGを楽しむ中であった友人がユグドラシルをβプレイしており、『ここの運営分かってるぞ!俺達にはうってつけのMMOだ』と興奮ぎみに誘われたのが切欠で始めた。

自分もいざキャラメイクとなるとその膨大な選択肢に自分も我を忘れるほど興奮し、貴重な休暇を数日かけて渾身のキャラメイクを行ったのはいい思い出だ。

態々このご時世に紙触媒のキャラシートを使って隅から隅まで育成方針やら設定やらイラストやらを思わず本職の本気を出して書き上げるほど、このゲームは衝撃的な存在だったのだ。

自作の3Dモデルが完成し、PCの作成をしていざゲームを始めた時には、その美しい世界に感動したものである。

緑がある。空がある。深い青を秘めた海がある。100年ほど前では当たり前のような光景だったそれは自分たちの世代からすれば、映像や写真しか見たことがない未知の世界。ここで始まるであろう冒険に、心踊らせながら自分はユグドラシルにのめり込んでいった。

 

……最も、人間種や亜人種以外のPCが想像よりも少なく、偏見に晒されることになってしまったのは想定外であった。

最序盤はそんな雰囲気も無く、実にほのぼのと気楽に種族は関係なく冒険できていたのだが、徐々に人が増え始めると声が大きい奴らが現れ始め、気がついた時には中世の魔女狩りか何かかと思うほど苛烈な『異形狩り』の風潮が広まっていった。

 

こりゃたまらんと友人__ユグドラシルでは異形種、ブレインイーターであり、タブラ・スマラグディナと名乗っていたアイツや、冒険中に出会った異形種仲間と合流し、パーティーを組み、これに対抗する形でPKKを自衛の為に行うようになっていった。

 

__思えば、あの時の行動が自分たちのギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の方針を決めるちいさな切欠だったのかもしれない。どんどん苛烈になっていくPKプレイヤーに、宅ゲプレイヤーとしての意地やロール的に全力で対抗してやると意気込んでいた自分やタブラはともかくとして、他の異形種仲間はその苛烈な争いに嫌気が差してやめてしまう人や、人間種でやり直す人も多かったのだ。

 

その悔しさを糧に、レベリングや装備の強化を重ねていた頃、俺はある人にギルドに誘われた。

それが当時トッププレイヤーの一人として有名だった、その時既にワールドチャンピオンとして君臨していたたっち・みーさんだった。つい思わずトレードマークであった純銀の鎧に対して「純銀の鎧すごいですね」っと半分ネタと無意識にいってしまったら「それほどでもない」と返され、あっこの人リアルではモンクタイプっぽそうとか思ったらマジでそうだったのには驚いたものだ。

 

まあそれはともかくとして、自衛の為の消極的PKKを行っていた自分とダブラは種族的問題でやり方がえげつなかったからかいつの間にか異形狩りの連中のブラックリスト入りを果たしていたらしく、その警戒と一緒に異形種だけの社会人ギルドやってるんで君らも入らないかとお誘いが来たのである。

そんな誘いに異形としてのロールプレイを満喫してた自分たちが釣られない筈が無く、全力でOKサインをだした。

その姿を見ていたギルメン曰く、アナログという旧世代の遺物のマスコットのクマみたいな釣られっぷりだったという。

 

 

そうしてギルドに入り、メンバーが段々と増え、ギルド名を暫定の物から『アインズ・ウール・ゴウン』という名前に皆と話し合って決めたり、自分のPCの種族の適正を見直しソロ向けからPT戦向けの振りに修正可能だと思ったのでいっそ極振りするかと思って支援特化にしたり、ある出来事からギルド長がたっちさんからモモンガさんに変わったり、それとほぼ同時期にしていた対談で異形種への偏見を無くすことが現実的ではないと言う話から、ウルベルトさんの提案で自警団的な立ち位置から誇りある悪の軍勢として方針が変わったり、色々な出来事がユグドラシルで起こった。

 

 

そうして、皆が皆ユグドラシルに嵌まりきっていた頃に『アインズ・ウール・ゴウン』は、拠点としてダンジョン『ナザリック地下大墳墓』を攻略、これを占拠し、自分たちの拠点とした。この時が一番楽しかった。皆が大型連休時に予定を合わせて、広大なナザリックを攻略していったんだ。人間種などの精神攻撃や状態異常には耐性用の装備や魔法が必須で、旨味の少ない上に嫌らしい仕掛けが満載だったナザリックも、自分たち異形種に掛かればかなり少数での攻略も可能だった。

 

玉座に居座っていたボスモンスターを打ち倒し、テンションMAXになっていた時はラスボスの風格満載になってたモモンガさんを玉座に座らせようとしたりしたっけ。『ギルドは皆の物だから』っと遠慮するモモンガさんに対して、『じゃあモモンガさん中心で記念のSS取りましょうよ!』と提案した茶釜さんはマジでGJだったなぁとか、手に入れたナザリックをどう改造しようかとかタブラやブルー・プラネットさんと一緒に話し込んだりしたことは、今でも鮮明に思い出せる。その時のSSは、今でも部屋のフォトフレームに大事に飾られている。

 

それから、本格的にギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は人間種プレイヤーの天敵として扱われ始め、始めての防衛戦や、大規模戦闘を経験していった。

この頃にぷにっと萌えさんがいなかったら自分達はとっくのとうに壊滅していただろう。あの人マジで孔明もかくやな策士なんだよなぁ。高々40人前後、全盛期の頃だと41人しかいなかった俺たちのギルドが上位の成績になれたのも、この人がいなかったら全く違う結果になっていただろうね。

 

ナザリックの内装から、外見まで手を加えたり、最強のギルド武器作ろうぜ!とるし☆ふぁーさんやタブラが意気込んで企画し、ボスラッシュともいうべき狩りに自分も参加したり、ウルベルトさんとの会わせ技の超級魔法で敵対ギルドを丸ごと吹っ飛ばしたり、その報復に来た連中が徒党を組んでやってきたので、モモンガさんが胸のワールドアイテムで吹っ飛ばしたら1500人ほど吹き飛んだりもしたなぁ。

 

 

 

……本当に、ここには思い出が詰まりすぎている。今日が最後の日だなんて、思いたくない程だ。

 

 

 

2138年、自分がこのゲームを初めて10年以上がたった今。このユグドラシル最後の日。

それが、今日だ。

 

 

「……ぐりもあさん!?来てくれたのですね!」

 

 

そんな風に思いながら、皆がいないナザリック内を懐かしく眺めていた自分の前に現れたのは、ギルド長のモモンガさんだった。威厳たっぷりの黒い法衣を着こんだ骸骨姿は、前見た時の姿と変わらないままだ。

 

「例のメールを読んですっ飛んで来ました。いや、直前まで気がつかないでスイマセンでした。実はイラストの納品の期限が近くて、慌ただしかったんです。ギリギリになってしまって申し訳無いです」

 

自分のリアルでの職はデザイナーだ。自身独自のブランドでは無いものの、フリーで働いてそれなりに腕も認められている。節操無く、服飾からウェブ、玩具からキャラクターデザインまで様々な物を書いてはそれを納品する日々。仕事がある日にそれを全力でやり、無いときは収入がない職業なので、若いときは同時にバイトしながら夢を追っていたものだ。

腕を認められた今はコネも出来、それなりに毎日が忙しかった。なので、ユグドラシルにインしたのも結構久しぶりだったりする。引退はしていなかったのだが、半年振りのインである。

引退していないだけに、モモンガさんにギルドの管理を任せてしまったのが心苦しく感じる。

 

「いえいえ、来てくれただけでもありがたいですよ!じつはさっきまで、ヘロヘロさんもいたんですよ」

「あー……勿体ないことしましたね。最後だし、会いたかったなぁ。ブラック勤めと聞いたので、結構心配でしたし」

「ええ、疲れきってましたね……自分も結構黒い所のある会社に勤めてるとは思……おっと、ぐりもあさん。これ以上リアルの話はやめましょうよ。せっかくの」

 

最後の日なんですから。

そう、寂しそうにモモンガさんは言った。

 

 

 

「えっと、このNPCの名前は……」

「セバスですよ、セバス・チャン。たっちさんが作ったNPCで、ナザリックの家長です。たしか、リアルでのたっちさんがモデルだったなぁ」

「よく覚えてますねぐりもあさん」

「そりゃここにいるNPCの7割以上、一からだと3割くらいですが書いた事がありますからねー。セバスはたっちさんモデルなんでよく覚えてますよ。たしかナザリックだと珍しいカルマ極善だったような」

(……そうだった、この人あのタブラさんの親友だった)

 

あれやこれやと、ナザリック内を話し合いながら、思い出を語り合っていたのだが、ふとナザリックのNPCの話となり、その設定の話をしたが、結構覚えているものだ。あ、そうだ。

 

 

「最後に、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持って、NPCを連れて玉座に行きませんか?せっかくですし、誰も座ったことないアレに座っちゃってくださいよ、モモンガさん」

「ええっ!?いや、前も断ったじゃないですか。あの席は、空白のままの方がいいのでは……」

「大丈夫です。モモンガさんなら皆認めてくれますよ。タブラだって『モモンガさんになら俺の作ったNPC()を嫁に連れていってもいい』って言ってた位ですし」

「はいっ!?あのタブラさんが……なにいってんだタブラさん、あんだけ溺愛してたでしょうに……」

「モモンガさんだから、ですよ。何だかんだでモモンガさんなら、皆あの席に座るのを認めてくれます」

「……そうでしょうか」

「少なくとも、自分はあの席にふさわしいのはモモンガさんだと思います。皆が来なくなってからも、モモンガさんは全力でギルドを守り抜いてくれました。今自分たちのナザリックが残っているのは、あなたのお陰なんですよ。最後くらい、ワガママ言ってくださいよ、モモンガさん」

 

 

この人は、モモンガさんはいつもギルドの纏め役として頑張ってきてくれた。ギルドのリーダーなんて、大なり小なり面倒な事も沢山あるのに、嫌な顔一つせずにだ。自分は思うのだ。あの超個性的なメンバー達が、一つのギルドとしてやっていけたのは、自分のことは遠慮しがちで、いつもギルドの事を第一に考えてきたモモンガさんがいたからだと。だから俺達は気楽にこの世界を楽しめたのだと。

だから、最後の最後位、ナザリックの偉大な支配者として玉座に座ってもいいと思うのだ。ふふふ、モモンガさんが支配者ムーブしてる所をssに残し後で皆に配ろうかな。最後に来れなかった事を後悔するような良い出来でとってやる。

 

 

 

「そう、ですね。最後くらい、皆許してくれますよね……行きましょう、ぐりもあさん」

「ありがとうモモンガさん。あ、そうだった。ちょうどいいからセバス達も連れていきましょう。支配者っぽく命令してくださいな」

「支配者っぽくですか。では……ごほん、『付き従え』」

 

こんな感じですかねぇ。とのほほんと呟くモモンガさんだったが、実にこのナザリックの支配者にふさわしい一声だった。

この人キリッとした話し方になるとカリスマ感出るんだよなぁ。ウルベルトさんが悪の才能を感じると言ってた理由がよくわかる。

そう思いながら、第十階層の玉座に歩いていった。

 

 

 

 

長く、主人がいなかったその玉座にモモンガさんが座る。片腕に持つギルドの象徴にして急所、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが納められ、彼がその手を離すと自然と杖に仕込んだエフェクトが発生し、宙に浮く。

そして周りに跪くのは、皆が作った多種多様の異形種NPC達。自分が作った子や、ダブラが大分課金して設定してたこの階層の守護者、『アルベド』の姿もあった。

 

「確か、アルベドだったか。このキャラはダブラさん製だから……うお!凄い設定の書き込みっぷりですね」

「確かに今読み返してみるとタブラらしい設定だなぁ。アイツギャップ萌えでしたから……んん?」

 

メニュー画面を開き、スクロールされていく文章の最後

『ちなみにビッチである。』

そうかかれている部分を見て、モモンガさんは頭を抱えた。

 

「いやいやいや……ここまで書き込んでおいて最後ビッチとか……」

「……まあ、確かに最後なんでこれでそのままとか可愛そうかなぁ?10文字……あ、そういう事か。ちょっとモモンガさん、ギルマス権限でこの設定の書き換えをお願いします」

「え?ちょ、なにするんですか?」

 

モモンガさんの手を取り、そのまま設定の編集を押す。そしてそのまま

 

「モ・モ・ン・ガ・を・愛・し・て・い・るっと」

「ファッ!?え、ちょ、まずいですよぐりもあさん!?勝手にダブラさんのキャラ設定書き換えたら……」

「いやいや、多分僕がこうする事想定済みの文字数ですよコレ。ほら、言ってたでしょ?『モモンガさんになら娘を嫁に連れてってもいい』って。こういう事なんじゃないかなぁ?ほら、アルベドタブラのワールドアイテム、『真なる無』持ってるじゃないですか。嫁入り道具代わりかな?なるほど、アイツ其処まで考えて……」

「え、どういう事ですか?」

「……タブラ、NTR属性好きなんですよ。寝取られる側の方の。多分今頃自分の望みどおりになって大笑いしてるんじゃないかな?」

「ええええええ……マジかー……」

 

モモンガさんが脱力しているようだが、自分もあの趣味だけは理解できないので多分同じ気分かと思う。まさか最後の最後でこんな今明かされる衝撃の真実ゥ!って感じに性癖晒すとか、アイツは本当に度し難い奴だよ……

 

「まあ、このままサービス終了にむかっちゃうより一途でいいんじゃないですかねー」

「そうですね……前向きに考えましょうか」

 

そうこうしている内に、いつの間にかサービス終了も後十分を切っていた。おっと、イカンイカン。自分のロール的にコレ忘れたらイカンよ。

 

「『擬態解除』」

 

スキルを発動し、自らの外装……というか、精霊形体の姿を解く。自分の種族『スペルブック』は、強力な力を持った魔導書が自我を得て、一人手に動き出すようになった種族だ。今の中性的な美少女の姿はあくまでも本来の姿ではない。ユグドラシルプレイヤーキャラ「ぐりもあ」の本来の姿は__人の革で綴られた、冒涜的な大きめの魔導書である。

 

『やっぱり、玉座に魔王が座ってるのに魔導書が人型のままとか無いですよ』

「魔王って、まあ確かに骸骨ですけれども。久しぶりに見ますね、その姿。ここ最近はあまり人数も集まらなかったから人型の方でいる方が良く見ましたし」

 

俺は、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがふわふわと浮いている隣に移動する。……相変わらずノロいなこの姿の移動速度は。これが致命的なのもあり、ギルドメンバーにこの姿を最大活用できる人がいないときは普段の姿でいないといけないのだ。

到着。そして当たりを見渡すと、玉座にはモモンガさん。直ぐ脇には自分達ギルドの象徴、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。そして、その逆には魔導書である俺が。そして周りには、跪いたNPC達……

 

完璧じゃないか!まさしく悪の軍団のラスボスって感じの姿だっ!!ssパシャリと。うん、実に素晴らしい映え具合。後で他の皆にメールで送ろう。

 

「……ぐりもあさん、俺、待ってて良かったです。最後まで残ってくれる人が誰もいなかったらって、実は心配だったんですよ」

『……モモンガさん』

「このゲームは、俺にとって遅れてきた青春でした。忘れられない思い出と、大切な仲間を得られたんです。だから……辞めることなんて、出来なかった。櫛の歯が欠けてくみたいに、皆が引退していく中、最後まで残ってくれた事、感謝してます」

『そんな、自分はただ最後まで惰性で残ってただけですよ。現に今の今まで連絡の返信すら出来ませんでしたし』

「それでも、ですよ。正直、皆が帰って来なかったことは残念ですが、ぐりもあさんが最後まで一緒にいてくれて、救われてます。もしも、ユグドラシルに続編が出たら、また一緒に冒険しましょう」

『……そうですね。また、一緒に』

 

そういった後、会話も途切れ、自分達は残り数十秒のユグドラシルの時間を待った。

サービス終了の、深夜0時まで残り5秒。4、3、2、1……0。

 

これで、『ぐりもあ』としての日々も終わりか……などと思う事、数秒間。

 

瞑った目を開けると、そこにはまだログアウトしていない(・・・・・・・・・・)モモンガさんの姿があった。

 

どういう事だ……?

 

『モモンガさん、コレは・・・・・・サーバーダウンの予定が延びたのでしょうか?』

「いえ、そんなメッセージは来ていません。一体何が……」

 

異常を感じたモモンガさんは、すぐさまシステムコマンドを開き運営に連絡をしようとする。しかし、画面は現れなかった(・・・・・・・・)

何度押しても、悲しく宙を切るばかりである

 

『ッ!?せ『精霊化』ッ!』

 

自分も確認しようとして、すぐさま少女の姿に戻る。そして同じようにコンソールを出そうと思い、コマンドを入れようとした所で、同じように宙を切った。

 

「そんな馬鹿な……」

 

仮想現実式のゲームは原則として、システムコマンドの出し入れが可能な事が義務付けられている。五感のほぼ全てを機械に預けて遊ぶゲームであるが故に、セーフティの面におけるルールは、非常に厳重に守られているのだ。しかしそれが出せない。どういう、事だ?

 

「一体なにが起こっているっ!」

 

モモンガさんも、コレには怒りを感じているようだ。折角の最後の別れに、思いっきり水を差されたのだ。もしもコレが運営のミスであるならば、自分も怒りを隠せなくなりそうだ。

 

「モモンガ様?ぐりもあ様?どうか、なされたのでしょうか?」

「え?」

 

しかし、そんな自分たちの姿に、反応する者がいた。

それは、親友が作り上げたNPCである筈の、アルベドであった。少し前までの人形のように固定された表情が嘘のように、彼女には意思を知性を感じられた。

……一体全体、どういう事なんだ?コレは……




続きは未定です。でもその前に書籍版買い揃えないと(遠い目)


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一話 「魔導書は誓う」

今回捏造設定入ります。
ヒントは主人公の親友の娘達。個人的には書籍版で一番大きな変更点だと考えてる彼女達です。
アニメのエンディングのあの曲を聴きながら書きました。いい曲ですよねー、アレ。




『ユグドラシル』で実装されている、NPC製作のシステムは中々に自由度が高い。人間種から亜人種、異形種からモンスターまで実に様々な種族を選択できる上に、拘れば様々な機能を追加が可能だ。かゆいところに手が届く、この手のシステムとしては最高クラスの自由度があった。

だが……リソースの関係上、彼らに使用されているAIは決められたルーチン内の行動までしかできないし、表情なんかも基本変わらない。

コマンドを使用して笑顔にする事くらいならできるが……それでも作り物めいた雰囲気を出してしまうのは変わりないのだ。例外はタブラ謹製の彼女だが……アレも行動がかなり複雑ではあるが、決められたルーチン内の行動を行っているに過ぎない。

それはそれで凄まじいのだが、今のアルベドは色々な意味でそれを遥かに凌駕している。

表情がある。その姿に生きている鼓動を感じる。そして……自分から話しかけられる。

どれも、ユグドラシルNPCの仕様から逸脱したような……いや、違う。まるでそう縛られていたものが解かれたような状態だ。まるで、そこに生きているかのような……生きている?

 

「……!?そんな馬鹿な」

 

空気の匂いか感じられる。口の中の唾液を飲む感覚がある。

どれも『ユグドラシル』では意図的に削られていた部分の感覚が、昔からそうであったかのように感じられた。まさか……

 

「……えい」

 

手のひらにむにっとした感覚が感じられた。やわらかく、それでいて弾力がある。それでいてほんのり暖かい。

……運営からの警告は無い。いくら自分のキャラでも、セクハラに該当するであろうこんな行為をしたら、最低でもイエローカード不回避であろう筈。だというのに、一切反応無し。

メッセージをモモンガさんに送り、声を出さずに会話する。

 

『モモンガさん、仕様的に絶対ありえない筈の味覚と嗅覚が感じられます。それと、ハラスメントコードに該当する筈の行為の確認もしましたが、運営からの反応ゼロです』

『どうやら、感覚の変化に関しては自分の勘違いではないようですね。まさかとは思いますが……』

『まずは、NPCの状態を確認してから判断しましょう。今確認できる、一番の差異ですし』

『そうしましょう。では、話しかけてきたアルベドに話してみます』

 

メッセージでの会話を区切り、意識を跪いているNPC達へと向ける。

……やはり、先ほどまでとは全てが違う。確かに丹精込めて作り上げたのは確かだが、仕様の関係上無機質な対応しか出来ない人形然とした存在であった筈なのに、皆、意思を秘めた表情をしている。

どうやら、主人である自分達が取り乱している事に皆不安を覚えているようだ。

 

「不安にさせてすい……すまない。予想外の出来事が起こってな」

「モモンガ様とぐりもあ様が、予想できないような出来事が……!?いったい、このナザリックで何が起こっているのでしょう?」

「その事については、今から調査しようと思っている所だ。セバス」

「はっ、いかがいたしましょうか?」

「今からお前と、戦闘メイドの誰かを連れてナザリックの外の様子を軽く確かめてきて欲しい。コレは、今起こった事に対する非常に重要な任務だ。もしなにか自身の身に危機が迫った場合、即座にナザリックに帰還するようにしろ。今は、情報がなによりも必要だ。共に調査する者の選別はお前に任せる」

「かしこまりました。準備を整え次第、即座に任務を遂行いたします」

 

そういうと、セバスはメイド達に指令をだし、第10階層から静かに出ていく。

……今モモンガさんが下した任務は、恐らく外の調査だけではなくユグドラシルにおける仕様が生きているかの確認の意味も込めた命令であろう。

ここが『ユグドラシル』であれば、NPC達はこのナザリックから外に出れない筈だ。ギルド運営NPCとして生み出された彼らは、同時にこのナザリックに縛られた存在である筈なのだ。

さて、今度は僕から話をしようかな。

 

「皆、不安にさせてしまったようですまなかった。僕もモモンガも、それまで普通に出来ていた筈の事が一部出来なくなってしまっていてね。少々取り乱したんだ。セバスが帰還して次第、皆にも今がどんな状況なのかを説明しよう。アルベド」

「はい、・・・・・・ぐりもあ様。私に何か御用でしょうか?」

 

?何か言いかけたけど、言葉を飲み込んだ?……彼女がどうなってるか確認したい。少し口実的に用事があると伝えよう。

 

「すこし、手伝って欲しいことがあるから、君にはモモンガに着いてて欲しい。他のみんなは、通常業務に戻ってね」

「!? はっ、はい!!かしこまりました!」

 

そういうと、アルベド以外の皆は僕たちに一礼した後、第10階層を出て行った。

うん、少し悪いとはおもうけれども、コレだけの人数がいたら話をするのも大変だし、まだ色々情報が足らないからね。

僕の作ったNPCともじっくり話をしてみたいけれども、それは後回しだ。

 

『ふー、なんとか切り抜けましたね、モモンガさん』

『そうですね、グリモアさん。これからどうすれば……あ、また沈静化された。実はさっきからアンデッドの基礎能力の精神作用無効と思われる物が発動してるみたいで、妙に頭がすっきりしているんですよね。お陰で落ち着いてセバス達に指示を出せました』

『そんなものが……自分はロールしてる時の自分を取り繕って話しましたが、そんなものは発動した感覚は無いですね。でも、妙に頭が落ち着いています。こんな異常事態なのに……そういえばアンデッドの技能とちがって、自分の種族『スペルブック』の『精神狂気耐性』は、アンデットの精神作用無効とほぼ同じ効果でしたが、アンデッドと違って基本技能ではなく、成長した後の後付けの互換スキルでしたね。その差が出ているのでしょうか?』

『そうかもしれませんね……やはり、自分達は人間では無くなってしまったのでしょうか』

『そうですね。まあ、不謹慎かもしれませんが自分的には、不思議と後悔はありませんね。ある意味現実の自分の理想の姿だったから、納得ですけれども……複雑です。女の子の姿になっても違和感がまったく湧かないとか……!』

『自分なんか骨ですよ、骨。……結局、息子を使う前に失ってしまったか……あ、今のぐりもあさんの姿だとセクハラですね。ごめんなさい』

『いや、息子に関しては自分も無くしてるので……というかナチュラルに女の子扱いしてませんでしたか今。自分、男……だったんだよなぁ。はぁ……』

 

ラスボスめいた骸骨と、ひらひらした法衣を着た中性的な美少女が、同じ理由ようなシモの理由でため息をついてる姿は実に滑稽であろう__あ、深く落ち込んだからか、なんとなくスキルが発動したような感覚が分かった。本当になんとなくであるが、落ち込んでたはずの感情は綺麗さっぱり消えている。この感覚だと、自分で消すマイナスの感情や強いプラスの感情を選択できそうである。後天的技能だからだろうか。中々に小回りの効く能力であった。

 

『そういえば、どうしてアルベドだけ残したんですか?確かにアルベドの担当の守護階層はここですけれども』

『……確認ですよ。さっき自分達がアルベドに施した事を思い出してください』

『あっ』

 

そう、自分達は『ユグドラシル』の最後の最後で、アルベドのキャラ設定を弄っていた。その一文はとてもシンプルかつ大胆。

『モモンガを愛している。』と……そう打ち込んでしまったのだ。いくらタブラが「モモンガさんになら自分の作った娘寝取られてもいいよ」と言ってたからって、いや、ねぇ……

 

『まさか本当にタブラの娘をNTRしちゃうモモンガさんの光景を見ることになるかもしれないとは……』

『やめて!なんか心にグサグサ来ます!!……あ、こんな時にも精神が……』

『ま、まあアルベドに聞いてみないことには本人の心は分かりませんし、もしかすると設定の部分にはあまり強制力がないかもしれない可能性もありますよ!多分……』

 

逆に実に設定通りの、忠実に再現されてる可能性もあるのだが__というかこっちの方がセバスの様子を見るに、可能性高そうなのは今は言わないでおこう……

さて、気になる事もあるし、色々と聞いてみようか。まずは、モモンガさんに話を切り出そう。

 

「モモンガ、アルベドと二人で話がしたいんだ。ちょっと席を外すけどいいかな?」

「ええ、今はセバスの報告待ちですからね。時間はありますし、大丈夫ですよ」

 

こんな風に声を出しながら話しつつも、裏ではメッセージで本心を語り合う。

 

『一体どうやって聞き出すんですか?』

『ちょっとシンプルに聞いてみようかと思いまして。もしも設定通りだとしたら、思い人の前でそんな事聞くなんて昼ドラじゃないんですしかわいそうかと思いますから、ちょっと遠くで話しますね』

『そ、そうですね……よろしくお願いします』

 

モモンガさんは非常に心配そうにそうメッセージを伝えてきた。声が震えてるのが丸分かりである。まあ、自分もそうなったらこの状態になる自信がある。むしろ表情に出してないだけ凄く器用だと思う。

まあ、アルベド美人だもんねー。仕方ない。ある意味自画自賛(・・・・)になるのはこの際置いてとして。

 

そうして僕とアルベドは玉座から少し離れた場所で__具体的に言うと、モモンガさんには会話が届かない程度の距離で、お互い対面して会話を始めた。今の僕、「ぐりもあ」の身長は130cm位である為、アルベドと普通に話すと自然に見下ろす形になってしまう為か、何も言わずに膝を折って正座してきた。いや、別にお説教とかする気はないんだけれども……

 

 

「アルベド、僕は先ほどモモンガさんに着いていてくれと言ったけれども、実は一つ聞きたい事があって呼び止めただけなんだ。期待させてごめんね」

「い、いえ……ぐりもあ様、つかぬ事をお聞きしますが、私に一体何をお聞きになるのでしょうか?」

「何、簡単な事さ__君は、モモンガを愛しているのかな?それも、忠義とかそういうのを超えて、女としてさ」

「!?な、ななな、何故それを……ッ!?」

 

……ごめんよモモンガさん。この反応、どうやら設定通りのようだ……ああ、タブラが大笑いしてる姿が幻視されるッ!チキショウ、アイツの性癖通りになっちまったよ!?

 

「別に、否定しないよ。むしろ、個人的にはうれしいくらいだ」

「ほ、本当ですか……!!」

 

…うん、この子かわいいよ。ちょっと女の子としてしちゃいけない表情してたりするけども、どういう訳だかなんか愛おしい。

しかし、表面の『色』は桃色に染まっているが、深い部分には『悲しみ』や『怒り」を表す色がごちゃませのままだ。これは一体、どういう……!!

あれ、ちょっと待てよ……!?

とんでもない事に気がついた。よく考えたら、自分達が作ったNPCとかって自分の娘や息子同然なのではないだろうか。今、自分の意思をもって歩き、会話してる生きた存在であるならば尚更……

なら、俺たちは……その子供達を、自分達の勝手な理由で、捨てた最低な……!?

な、なんて事だ……!!

 

「……」

「ぐりもあ様……?」

「一つ、話しをしよう。君達、三姉妹の話だ」

「わ、私達の話ですか?それは一体……」

「君達三姉妹はね、タブラがとある存在に着想を得て、作り出した存在なんだ」

「え?そ、それは」

「僕たち、似てるでしょ?顔の感じとか、ね?」

「っ!?ま、まさか……!」

「うん、タブラが僕の姿を元に、作り上げたのが君達三姉妹。だから、タブラが君達の父親だとしたら、僕は君達の母親になるってだけの話さ……嫌だった、かな?」

「そ、そんなことはありません!!」

 

そう__その元になった存在こそ、自分のPC『ぐりもあ』である。

『ぐりもあ』を製作した時の3Dデータを貸して欲しいと頼まれた時は、アイツのことだから悪用はしないだろうと思って快く渡した。でも『ぐりもあ』の雰囲気を残しつつ、絶世の美女に育ったかのようなアルベドを作った時は本当に驚愕したものだったよ……!

 

「まあ、長い間放置していて、今更親面したってって話かもしれないけれどもさ……ごめんね、アルベド」

「僕たちは、君に、君の愛する人のあんな寂しそうな姿を毎日見せてしまった……僕らがナザリックに帰ってくるのをモモンガはずっと待ってたのに、最後まで去らなかった僕でさえ、半年も彼にギルドをまかせっきりだった。本当に、ごめんよ」

「ぐりもあ……さま……わ、わたしは……」

 

……やはり、か。睨んだとおりだ。

アルベドは見ていたんだ。誰も来ないギルドを守る為に、ずっとずっと一人でがんばり続けるモモンガさんの姿を。悲しそうな姿をずっと見せていた、モモンガさんの背中を。

……モモンガさんには言ってなかったけれども、僕が『ぐりもあ』となり、『スペルブック』という種族になった時点で、目を閉じるとあるものが見えるようになった。

それは、魔力だ。魔導書である「スペルブック」系種族は、魔導書であるが故に魔力に対して非常に敏感な感覚器官を持っており、それは『魔力探査』というスキルで表現されていた。

簡単に言ってしまえば、魔力を持った存在に対するソナー的な能力だ。かつては敵対モンスターや敵対プレイヤーが赤のマーカーで、非敵対モンスターが黄色で、非敵対NPCやプレイヤーが青で表されるだけのよくあるレーダー系能力だったが、シンプル故に強力な能力だった。

ゲームから現実になり、コンソールが出せなくなった今ではどんな能力になっているかといえば……魔力から位置の割り出しが感覚で可能な事と、それが発する生物の感情から、魔力が色で見ることが出来るようになっていたのだ。先ほどから色がなんだといっていたのはこの能力で、色を見ていたのだ。感情に眠る色を。もっとも、長く見続けなければ深層心理までは読み取れないようだが。

……アルベドの発する魔力の色から、他のNPC達とは違う深い『怒り』や『諦め』、『悲しみ』の感情を感じ取れたのは、偶然だった。

これらの色調が色彩心理学におけるものであると気がつけたのは、現実で嫌というほど色について勉強していた頃があったからであり、そうでなければ、魔力の色の意味など気がつかなかっただろう。

 

「ごめん。本当にごめんね……!」

 

気がつけば、アルベドの頭を優しく抱きしめていた。しとしとと涙を流す彼女をみていて、いてもたってもいられなくなってしまった。

ああ、この感情は一体なんなのだろう。もしや、体が女の子になってしまったせいで母性本能にでも目覚めてしまったとでも言うのだろうか。

……まあ、こんなにかわいい娘の母親になれたのならば、気にすることじゃないかもしれない。元が男だったとしてもである。

 

「……ぐりもあ、さま。いえ、『お母様』、無礼を承知で申し上げます。私は、とんだ、とんだ勘違いをしていました!!」

「私は、至高の方々がお隠れになり、ナザリックを捨てたのではないかと、私達やモモンガ様をすてたのではないかと!ずっとそう思ってきました……私達を見捨てずにいてくれたモモンガ様以外のお方は、私たちをもう愛してくれていないのかと思っていましたッ!!」

「私たちを、作った方々が__私たちを捨てたのではないかと思うと、とても恐ろしくて__怖かった……!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……!こんなにも、私達を愛してくれているお方がいらっしゃったのに……!!」

 

綺麗な瞳の顔を大きくゆがめて、アルベドは泣いてる。

その姿に、僕たちが残していってしまったモノの大きさを、感じざるを得なかった。

 

「……アルベド。謝るべきなのは僕たちの方だ。君達の気持ちを考えてなかった僕らに、責任があるんだ」

「だから、君は謝らなくていい。親に見捨てられた子供の気持ちを考えれば、それは当然の感情だよ」

「それは、正しい怒りって奴なんだ。ろくでなしは、僕たちの方だよ」

「もしも、君が許してくれるなら……仲直りしよう。悲しいことに、僕ら以外のギルドメンバーがナザリックに今後帰ってくるかは分からないし、限りなく低いかもしれないけども」

「僕は、ここにずっといるよ。君達が望むかぎり。コレからは、ずっとね」

「こんな母親だけれども、君は受け入れてくれるかい……?」

 

「……是非!お帰りなさいませ、お母様!!」

 

 

この時、僕はようやく、ナザリックに本当の意味で帰還を果たしたのだろう。

確かに現実の事や、他のギルドメンバー達のことは気になる。だが、一度は見捨てかけてしまった、自分達の作った者達がここに残って欲しいと願うならば、ここもまた、『僕』にとっての現実であると受け入れよう。

ここが、胡蝶の夢のような世界だとしてもだ。

もう二度と、モモンガさんやアルベド達を孤独にはしない。そう固く、堅く、心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、話はずれたけれども、アルベド。僕は応援するよ。君の恋心」

「お、お母様……本当、ですか?」

「というか、タブラもある意味公認だしね!君のもってるワールドアイテム『真なる無』は、嫁入り道具代わりに渡してくれたものだよ」

「え、ええええええ!?そ、そんな、タブラ様も……ああ、感謝いたします!我が創造主タブラ・スマラグディナ様!!親不孝物な私をお許しください!!」

 

……湿っぽい空気が、このやり取りで吹き飛んでいってしまったときは、タブラがどんだけ偉大だったかを思い知った。流石ナザリックが誇る、るし☆ふぁーと肩を並べるネタキャラ兼問題児……!!

お前の思いを汲み取って、この愛おしい娘を、かならずモモンガさんの嫁にしてやるからな!まってろよ親友!

SS送れるかわかんないけれども、結婚式が開かれたら絶対映像とっていつか送ってやるからな!!

先ほどの誓いの上に、欲塗れの誓いを立てた自分は、いずれ来るであろうその日に心躍らせた。

 




他の至高の41が来る時にナザリックにおける一番の地雷になりうる存在、アルベド 完 全 攻 略。個人的にこの子、愛情が深かったからこそ、ああいう風になってしまっているんだと思います。だから、真正面から正直に謝れば許してくれるとおもうのです。
そういえばむちむ……ゲフンゲフン!丸山くがね先生も言ってましたが、ナザリックは他の至高がいた場合、色々なルートを辿るようですね。全員来るとモモンガさんでも纏めきれず仲間割れするという悲しい現実を知りました(遠い目)


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二話「魔法と実験」

書籍版入手しました。近場に無かったので少し出かけて購入。なので少し更新が遅れると思います。元々不定期の予定でしたが。web版との様々な違いを楽しめて面白いです。
読みやすくなっていたりすることと、追加されたNPC達がwebモモンガさんが喉から手が出るほど欲しがりそうな人員が揃っていてデミえもんの仕事量が減ってる事に感動しました。
マジでアルベド来てくれって言いたくなる環境だったもんなぁ……


 

アルベドを落ち着かせた後、自分はモモンガさんとメッセージでやり取りをしつつ、セバスたちの帰還を待った。

どうやらセバスたちは無事このナザリックの外に出る事が可能となっていたらしく、ユグドラシルNPCのシステムの縛りからは完全に解かれている事を確認。そして今、外での調査を終えたセバスとプレアデスの一人から、その報告を聞いていた。

 

「__では、説明してくれ。セバス」

「はい、モモンガ様。現状、ナザリックは本来建てられていた場所である沼地ではなく、平坦な草原の上にあります。念のために『プレアデス』内でガンナーの技能をもつシズ・デルタを私の背にのせて飛行し、上空から彼女に敵対する存在に危険な存在がいないかナザリックから半径5キロ程確認させましたが、いるのは無害な野生動物のみでありました」

「ありがとうセバス。これで僕らが置かれている状況について、正しく理解することが出来たよ。しかし……草原か。ナザリック周辺にはそのような物は無かった筈……」

 

しかも聞いた限りだと、周辺には危機となるモンスターも居らず、野性動物がほとんどだと聞く。

しかしモンスターならともかく、普通の野生動物くらいしか見当たらないとは……

 

「セバス、帰ってきたところに申し訳ないのだが、階層守護者達を第六階層の円形劇場に召集を掛けてくれ。そこでナザリックの現状についてを話すとしよう」

「かしこまりました。失礼いたします」

 

そういって、一礼した後セバスは玉座から離れていった。

そうして直ぐに、モモンガさんとのメッセージでの会話を開始する。

 

『……コンソールやGMコールも使えず、ユグドラシルではナザリックが建っていた筈の毒の沼地も無く、加えてモンスターではない野生動物が闊歩している?まさか……ここは『ユグドラシル』ではないのでは?』

『その可能性も十分ありえますねぐりもあさん。となれば、私達は本当に『ユグドラシル』で使えていた通りにスキルや魔法が使えるのか……不安になってきました。現に、コンソールは使用不可になっていますし』

『そうですね。既に一部、現実の物となったスキルの効果を自分達は実感している訳ですが、現実の物となったが故に『ユグドラシル』の仕様とはまったく違った物になっているみたいですから。精神作用無効や精神狂気耐性がああいう形で作用していますし、自分の場合は魔力探査がえらく高性能な物になってます。レーダーとしてだけでなく、一種の嘘発見器や大まかな精神鑑定にも使えますよコレ。確かにユグドラシルでもシンプルだからこそ強力な補助スキルでしたが、現実化するとここまで汎用性のある能力だとは……』

『あのスキルがそのような物に……これは、早急に自分達の力を確認するべきでしょうね。我々は『ユグドラシル』では嫌われ者でしたから、我々以外のプレイヤーがいたとしても味方になるとは限りません。むしろ、敵になる可能性の方が高いでしょう』

 

確かに、異形狩りの連中には話の通じない奴も多かったからなぁ……そんな奴等からすると、ここは是が非でも破壊したい場所である筈だ。

ならば、ここが草原であるというのもマズイ。簡単に発見されてしまうこの地形ではいくら人里離れていたとしても、見つかるのは時間の問題だ。

物理的に隠すか、幻惑魔法で偽装するかしなくては。

 

『それと、NPC達の忠誠心に関して確認しておきたいですね。命令に従ってくれてはいますが、私達がどう思われてるのか知る必要があると思うのです』

『……実は先ほど、それに関してアルベドと話して分かった事があるんですよ。魔力探査の精神鑑定の力も、アルベドを通して分かった事なんです』

『へえ、そんな事が……もしかして、さっきアルベドに泣き腫らした後があったのはそのせいですか?』

『そうです、モモンガさん……アルベドからは、このナザリックを去っていったギルメン達が、自分達という子供を捨てて去っていった最低の親のように思われてたようなのです。ほかのNPCからどう思われているかは、まだわかりませんが……』

『なっ!?それは、違いますよ!?皆、皆このナザリックを去っていったのには仕方ない理由があるじゃないですか!?』

『それでもです、モモンガさん。『ユグドラシル』のシステムに縛られなくなり、魂を得た彼らはいわば僕たちの作った息子や娘達とも言えるでしょう。そんな子達側からすれば、僕たちが来なくなった事って、親が子供を見捨てたのと同然なんじゃ無いかって思うんです。ましてや、彼らは現実の自分達のことを知らないんですよ?』

『……でも、そうだとしたら、なんで彼らは僕たちのいう事を聞いてくれるんですか?』

『それはモモンガさんが、最後まで残ってくれたからです。アルベドは、ずっとギルドを守ってくれてたモモンガさんの姿を『ユグドラシル』の時代から見ていたようなのです。もしかしたら僕たちがアルベドの設定を書き換えなくても、モモンガさんだけには忠誠心を向けていたかもしれませんね』

『では、アルベドはぐりもあさんや他のメンバー達を……』

『いえ、実はアルベド達三姉妹って、『ぐりもあ』の外装データを元にタブラが作ったので。……ある意味母親みたいな物かなって伝えた後に、ちゃんと謝ったら許してくれました。いい子ですね、アルベドは』

『え?』

『いやうん、女の子になっちゃったのは色々複雑ですけども、あの子達の母親になれるなら安いものかと思います。タブラはいい子を残してくれたものですよ、本当』

『……ぐりもあさん、ぐりもあさん!?体だけじゃなくて思考も女の人寄りになってませんか!?今もうほとんど男だった形跡を感じませんでしたよ!?母親とか、そういう人みたいな雰囲気すら感じますし!?』

『ッ!?あ、あれ?言われてみれば確かに……おかしいなぁ?』

 

先ほどから思っていたが自分、こんな性格してたっけ……?肉体の影響、やっぱ大きいみたいだ。

かつて『ユグドラシル』全盛期、ぐりもあをロールしていた時は、人でも異形でも、善も悪も関係なく前を進もうとする意思を持つ者を尊ぶという性格で楽しんでいた。だから異形狩りなど気にせずに、ユグドラシルを楽しもうとする人なら人間種でも異形種でも関係なくPTを組んだし、魔導書としての姿でサポートした事も何回もある。しかしここまで母性豊かという設定にはしていなかったはずなのだが……女の子の体になって、娘といえる存在がいるようになった結果、母性本能が急に目覚め始めたのだろうか?

アルベド達と同じような艶やかな黒い髪と、ある種族レベルを得たが故に変化した、燃え盛るような真紅の瞳。良い意味で女の子にも男の子にも見える、整った顔立ち。そんな姿をした少女が、今の自分の姿なのであるが……そんな少女から母親みたいな雰囲気を出してるって、犯罪的過ぎないかそれ。

気がつくとモモンガさんは頭を抱えている。そこまで衝撃的だったのだろうか……

 

『……驚きすぎてまた沈静化されてしまった。色々と、調べるべき事が沢山あるようですね。肉体の変化の影響に、ナザリックの外の平原の調査、スキルや魔法の確認、NPC達の忠誠心の確認……とにかく、情報が足りません』

『そうですね。でも、焦ってはいけません。一つ一つ、地道に調べていきましょう。種族的には、寿命なんか無いようなものでしょうし、時間だけはたっぷりありますから。あせらず、慌てず、諦めずを大事にしましょう。もちろん、自衛に関しては最優先で対応しながら』

『それは確か、ぷにっと萌えさんの教えですか。楽々PK術以外にも、色々参考になる話が多かったですよね。では、そろそろ始めますか』

『ええ、ギルメンが残した子達に、失望されないように、ですね。では、やりますか』

 

そういって、メッセージでのやり取りを終える。

セバスの報告が来る前に、モモンガさんと自分はナザリックの支配者としての演技をすることを決めていた。彼らが思っているような支配者として振舞う事で、モモンガさんは彼らの失望を招かないようにしていこうとしているようだ。モモンガさんならば、そういう風に振舞っても横暴に思われることは無いだろうと思い、自分もそれをサポートする為にユグドラシル時代のロール風味に振舞うことにした。

モモンガさんの見た目ならともかく、自分に支配者なんてものは性格的に似合わないだろうしね。

手をかざし、その指に嵌めたギルドメンバーの象徴『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の転移機能を発動させる。目指す先は第六階層の円形劇場(アンフイテアトルム)。

ローマのコロッセオをベースに作り上げた、ナザリックの闘技場だ。

 

 

 

 

「指輪の転移機能に問題はないようですね。よかった……」

「これが使えないとなると、相当活動に制限が掛かりますからね。ナザリック程巨大なギルドとなると、転移機能が無ければ移動だけでも一苦労です。現にセバスが呼びに行った階層守護者達も、まだ誰も来ていないようですし」

 

ここに来た理由は、多少派手に暴れても問題ない場所である事と、セバスたちやアルベド以外のNPCの様子を見に行く為だ。異形種故に大柄な体格を持つものがいても、ここなら問題なく全員集められる。

そして、マジック・キャスターであるモモンガさんと、補助特化。それもある意味ネタビルドに片足突っ込んでる為直接的な攻撃魔法のほとんどが行えず、召喚したモンスターに頼らざるを得ない自分は、魔法が使えなければただのカカシにすら劣る的である。故に、魔法を使用することが出来るのかを確認することは急務であった。

一応、プレイヤー同士での念話を可能とする『メッセージ』も魔法ではあるのだが、アレは魔力の消費は極微量にするものの誰もが使えるシステム側の代物であった為、判断の基準にはならない。やはり、一度は実際に撃って試さなければならないのだ。

 

「確かここは、茶釜さんが製作したNPCが警護を担当していた筈ですが……」

「ええ、ダークエルフの姉弟、第六階層守護者の__」

 

モモンガさんと自分がそう話しながら、闘技場の中に入る。すると、闘技場の上の装飾部分から、ちょうど話していた彼女がジャンプして飛んできた。着地し、直ぐにバタバタ走って此方に向かって一礼してくる。

 

「いらっしゃいませ!モモンガ様、ぐりもあ様!アタシたちの守護階層にようこそ!!」

 

そう、ハキハキと元気に挨拶してきたのはこの第六階層の守護者の片割れ。ビーストテーマーのアウラだ。茶釜さんの趣味から男装をした、ダークエルフの少女である。

いや、設定は何回か見たことがあるからこういう性格なのは分かっていたが、実際に動いている姿をみると別の感動があるものなんだと実感した。この姿を茶釜さんに見せてあげたい。作った側としては感無量である事間違い無しだ。

 

 

「少しばかり邪魔をさせてもらおう」

「こんにちわアウラ。ちょっと用事があったんで闘技場に来させてもらったよ。忙しい所ごめんね?」

「いえいえ!なにをおっしゃるのですか!モモンガ様とぐりもあ様は、このナザリックの絶対支配者!至高のお方達が来て悪い所なんて、このナザリックにはございませんよ!!」

 

え、なにこの高評価。いや、待てよ?ここの闘技場で自分達が主にやっていたことは、自ら出て侵入者を排除していたことだ。

そうだとしたら、自分らが戦ってる姿を一番見てるのかもしれないな。ならば、このリスペクトっぷりにも納得かもしれない。

……なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

 

「……あれ?マーレは何処かな?」

「え、まだ降りてきてないの!?もー、マーレッ!!至高のお方達が来ているのに、ご無礼でしょう!!」

「いや、無理だよおねえちゃんっ!飛び降りるなんて……」

「早く降りてきなさいよ!は・や・く!!」

「わ、分かったよ……えいっ」

 

そう姉に急かされて、遠慮気味に上から降りてきたのはドルイドのマーレだ。

こちらも茶釜さんの趣味で、少年である筈なのに女装姿である。自分と違って中性的な少女という訳でなく、性別は歴とした男の子の筈なのに、完全に女の子にしか見えない。かわいい。

……業が深いとか思ったけれども、自分も創作畑の人間である為、人のこと完全に言えない。特大のブーメランになって帰ってくる。現状考えると、「おれのかんがえたりそうのおんなのこ」になっちゃってる訳だし……と、イカンイカン。正気に戻れ。

 

「お、お待たせしました。モモンガ様、ぐりもあ様」

「こんにちわ、マーレ。実は、二人に手伝ってもらいたい事があってね」

「こうして、足を運んだという訳だ」

 

カツン、とスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをならし、モモンガさんは言った。

その姿に、何故か二人とも息を呑んだ。

 

「そ、それがあの、モモンガ様にしか触る事が許されていないという、伝説のアレですか!」

「そう、コレこそが我々全員で作りあげた最高位のギルド武器。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。スタッフの七匹の蛇が咥えたそれぞれの宝石は、全てが神話級のアーティファクト。更に、この杖自体に秘めた力も、神話級を超越し世界級に匹敵するレベルだ。最も凄いのは、この武器本体に組み込まれた自動迎撃システム……」

「モモンガ、話し込みたくなる気持ちは凄く分かるけど、抑えて抑えて。日が暮れちゃう」

「む、あ、ああ、スマンなグリモア」

「す、すごい!」

「凄いですよ!モモンガ様!!」

 

なんか双子の目が凄く輝いてるように見える。これは、アレだな。特撮モノのヒーローのナレーターさんの解説を聞いてる子供の姿そのものだ。

確かにこの武器の秘めた性能は凄まじいものがある。アインズ・ウール・ゴウンメンバー全員で行った廃人的素材集めと、皆で持ち寄った多種多様の課金アイテムを組み合わされて作られたこの武器は、一部世界級アイテムを超えるような性能を使用可能でありながら、それらの機能に回数制限が無いというまさしく最強のギルド武器として完成した。

だが、そもそもギルド武器とは、ギルドの象徴として作られるギルドの特徴であり、一番の急所でもある。つまりコレが壊れた場合、ギルドも文字通り崩壊してしまうのだ。

戦闘に持っていくなんてもってのほか。絶対に破壊されてはならない為に、進入を想定された最後の階層である第八階層のある場所に普段は安置されており、いままで持ち歩く事もできなかったのだ。

なんでほぼ絶対進入不可能な場所に安置していないんだと言えば、そこにぷにっと萌えさん謹製の策と、悪のギルドとしての譲れないこだわりがあるからである。弱点も一種のロマンであるからだ。

そんなこだわりの詰まった一本の杖がコレな訳だが、結局お披露目する事も無く、ギルドメンバーも去り……今に至る。

モモンガさんが、コレの事を説明したくなる気持ちも分かるよ……凄く作るの苦労したから……

まあそんな訳で、試し振りすら完全には終えていない。試作品の方で機能確認はしたが、本物を本当に使うのは、コレが初めてだったりする。

つまりは、コレを口実にして、違和感無く魔法を撃てるようにしようとした訳だ。

 

「そういう訳で、コレの実験を行いたい」

「あと、僕もちょっと魔法の練習にね。しばらく召喚魔法は使ってないから、腕がさび付いていないか確認しに来たんだよ」

「了解しました!直ぐ準備に取り掛かります!」

 

そういって、アウラはこの第六階層に作業用に設置されたモンスター、ドラゴン・キンを使役し、魔法の使用に必要な的を用意していった。

さて、自分のPC「ぐりもあ」の使用できるスキルを試してみようか。

確かにコンソールが消えて、ステータスの確認は出来なくなってしまった。ユグドラシルでは魔法の発動は、スロットにセットした後、そのボタンを押すだけで発動した。

しかし、それらのシステム面での補助が消えた今では、自ら術式を組み、発動する魔法を考えなくてはならないようである。

何故、そんなことを知らない筈の自分がそれを知っているのか。

それは人間を辞め、その身を魔導書に変えたからに他ならない。僕は(・・・)知っている。呼吸するかのように、この体で出来ることが。何を呼び出し、何を使役できるのかを。この身に刻まれた、冒涜的な禁断の知識の数々を!

小手調べだ、来い!

 

「《イア・イタクァ》!」

 

第8位階魔法《イア・イタクァ/暴風の化身召喚》により、恐ろしく冷たい風と共に、黒い風に覆われた巨人が現れる。

ハスターの眷属であり、風の化身イタクァ。『ユグドラシル』ではレベル65のモンスターとして扱われていた、召喚モンスターとしては中の中クラスのモンスターだ。他のクトゥルフ系モンスター同様にいやらしい特性を持っており、その全身に纏った極寒の暴風の影響で接近すると吹き飛ばされてしまう上、氷結属性のダメージまで食らうという近接職殺しともいえる能力を持っている。レベル自体は弱いもののその分消費MPも軽く、近接職を寄り付かせない為に大量に召喚したりと、なにかと使い勝手のいい召喚モンスターであった。

イタクァはドラゴン・キンの設置した的をその拳で一撃粉砕した後、自分の下へ次の指令を聞くかのように顔を向けてくる。『え?これだけでいいの?』といわんばかりに首を傾げながら。

 

「あー……僕の近くで待機してくれイタクァ。風は抑えてね」

 

その姿にすっかり毒気が抜けた自分がそういうと、全身にまとわりついている黒い風の勢いが緩む。そして、自分のことを守るかのように目の前に立ってくれた。

魔法の発動に関して、更に分かった事がある。自身が覚えている魔法を使用しようとすると、頭の中にそれらの記述と思われる本のページが浮かび上がるのだ。恐らくこれは、ぐりもあの本来の姿である魔導書の内容であろう。

おかげでその魔法の使用方法から消費魔力、超位魔法であるならば必要な経験地の量も、細分化されて分かるのだ。つまり結果として、『ユグドラシル』で使えていたように魔法を扱う事が可能である。

なるほど、自分の種族《スペルブック》は、現実の世界となるとこのように自らの体を触媒にして魔法を放つのか。

さて、次はモモンガさんの番だ。

 

「《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル》!」

 

 

そういってモモンガさんが発動したのは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの7つの宝石に秘められた魔法の一つ、《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚》

その余波で召喚した地点にあった的は消し炭と化した。というかこんな派手なエフェクト入ってたっけこの魔法!?自分の良く使う神話生物召喚系の魔法も、中々に派手なものは多いのだが、基本不気味だったりゾッとする演出が入るのでここまでシンプルに強そうな召喚魔法は意外となかったりする。……いや、炎という意味ではコレ以上に厄介なのを出すのもいるにはいるが、燃費悪いからなぁアレ。自分の種族との相性最悪だし、仕方は無いのだが。

自分に来た余波は召喚したイタクァが全部防いでくれました。中々気の利く神話生物だね。本だから、無効化の装備つけてはいるけども炎特攻なんだよなぁ……出来れば喰らいたくないね。

 

「す、凄い!」

「うわぁ……!」

 

その凄まじい光景を、アウラ達はドラゴン・キンにしがみ付きながら見ていた。確かに、コレだけの強力な召喚魔法となれば、普通はMPだけでなくなんらかのコストを支払って発動するものなのだ。

それをただMP……魔力だけで召喚し、使役しているのはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの性能の凄まじさをまじまじと実感してしまった。アレでサブの機能なのか……やっぱ自分らあの時頭可笑しかったんだな。

……実はぬーぼーさんと一緒に、あの杖に隠し機能を仕込んだのだが……活躍しない日を祈るしかない。ある意味ルベド以上の最終手段だし。

 

「プライマル・ファイヤーエレメンタル……レベル80後半だ。アウラ、戦ってみるか?」

「い、良いんですか!?」

「あ、あの僕、しなくちゃいけないことを思い出したので」

「マーレッ!こんなチャンス、滅多にないんだよ!!」

「えええええ……わかったよ、おねえちゃん……」

 

マーレには悪いが、実験に付き合ってもらおう。モモンガさんが覚えている多種多様の様々な攻撃魔法を試さず、杖に記録されたこの召喚魔法を使用した理由は、フレンドリーファイアの設定が外れているのかの確認も込めているのである。

ついいつもの感覚で撃って味方に誤射するなんてシャレにならない。ここまで現実的になってしまっていると、もはや間違いなく可能な事であろうが、それでも確認せずそのままでいるよりもよっぽど良いだろう。

おどおどしてるが、レベル的にマーレやアウラならば、それ程苦労せず倒せる相手だ。危険も、ほどほど程度であろう。

闘技場の中心で、召喚された火の精霊と、アウラ達が構える。そして

 

「プライマル・ファイヤーエレメンタル!双子を攻撃せよ!!」

 

モモンガさんが、戦いの開始を告げた。

 

 




今回難産でした。おかげでこんな半端な所で切る事に。
ちなみにメッセージで話せる相手が目の前にいる上、素の状態で話し合う事に活用してるせいか逆にNPC達と通信できる事が判明していなかったりします。
要は原作だとモモンガさんはフリーチャンネルで周辺一体に通信してた所を、ぐりもあが居るせいでチャンネル固定しちゃってる感じです。素で話し合える相手がいるお陰で心情的には原作よりもリラックス出来ていますが、判明するまで少しの間不便になる模様。


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