聖杯革命伝ミツルギ  ゼロ・オブ・1人 (なんなんな)
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開戦する7人
召喚する2人


うっかり始めてしまったこのシリーズ。
作者自身がミツルギとfateのコラボが読みたいだけなんです……。


 英雄の死など、得てしてその栄光が嘘のように惨めなものだ。

 ヘラクレス、アレクサンドロス、劉備、アーサー、ナポレオン。

バカのように騙され、裏切られる。そしてそれらを乗り越えたところで病と老いには勝てない。所詮英雄も人間。或いは怒り、或いは悲しみ、或いは恐怖に震えながら虫けらのように死ぬ。本当に満足することができた者など何人居ようか。

 世界とは一人の人間が掴むには大き過ぎ、また、不安定過ぎる。

 しかし、それを成し遂げた者が居た。

欲しいものを欲しいだけ手に入れ、要らないものを好きに捨てることが許された者。

過去の英雄達を嘲笑うかのように世界を平らげ、自分の気に入ったものだけで満たし、それに飽きれば何の躊躇もなく投げ捨てた。

 正に自由。正に不遜。正に幸福。

 

 ……いや、その人物にもたった一つだけ思い通りにならなかったことが有った。英雄たちが身を焦がした大望はおろか三流誌の記事に劣る、取るに足らないことだが………。

 

 これは、そんなどうでも良いことに引っ掛かってしまった気の毒な運命のはなし。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 祖には我が大師シュバインオーグ

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 遥か北方の雪の大地に太古より続く魔術の家系が有った。

その名を『アインツベルン』

その巨大な城の一角で、また一つ大魔術が発動されようとしている。

 

「閉じよ(みたせ)

 閉じよ(みたせ)

 閉じよ(みたせ)

 閉じよ(みたせ)

 閉じよ(みたせ)」

 

 英霊召喚……永久に朽ちぬ名を持つ者を現界させ使役する術。そして、第三魔法の贄を創り上げる術。

 術者は衛宮切嗣……『魔術師殺し』の異名を持つ男。

 

「繰り返すつどに五度

 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 そこで一度詠唱を切る。魔力の流れは確かに感じたが、一応の最終確認だ。その魔力によって何か不具合が発生しているということも無いわけではない。

 

「けっこう単純なのね」

 

切嗣の背後から気楽そうな女性の声。

 整った……いや、およそ人間としては整い過ぎている顔立ち。純白の髪と紅い瞳。彼の妻、アイリスフィールだ。

魔術師のもとに"産まれた"彼女にとって、ただ地面に陣を描いて詠唱を行うだけのこの儀式は、召還魔術というカテゴリだけに限っても特に単純なものに見えた。呼び出されるモノの強大さを考慮すればなおさらだ。

 

「まぁ、元々用意されているシステムを起動するだけだからね。自動車みたいなものさ。作るときは工場で沢山の人間と機械が駆使されているが、使うときはどこででもキーを刺して捻るという簡単な作業をすれば良い。……もっとも、単純に英霊を呼ぶだけなら"キー"も必要ないけどね」

「だけど私達はキーを持っているわ」

 

 陣を挟んで切嗣と対角に置かれた"それ"。

 永久に輝きを失わない、この世の理から離れた物体。

どの文献、ゲームや作り話に登場しても必ず"最強"の称号を得る聖剣『エクスカリバー』……そのの鞘だ。しかも、決して添え物ではなくこれ自体も不老、治癒等々の魔法や魔術を発動する。

 そして、これをキーにすることで現れるのはかの騎士王『アーサー』だ。

 

「(どうせならもっと僕に合った英霊を呼びたかったよ)」

 

 切嗣はそれまであらゆる方法……本当にあらゆる方法で殺しを行ってきた。不意討ち騙し討ち、人質……とにかく最も効率的で迅速な殺害を追求してきた。

 それが騎士王を呼ぶ。偽善的で非効率な騎士のその代表を、だ。出来れば顔も見たくないし、向こうも自分を嫌うだろう。下手をすれば正義の名の下に二言となく斬られるかもしれない。

 切嗣は今からでも触媒を外して自分の縁で召喚したくなったが、そうもいかない。まずアーサー王の実力(超一流であることは疑いようがないが、個人の武勇だけを見れば世界の伝承にはアーサーを超えるバケモノはいくらでも居る)はどうあれエクスカリバーとか言う最強の宝具が有るし、その鞘もマスター用の宝具として運用できる超性能。対して自分の縁で呼べる英霊などそれこそ歴史に残らない雑魚か不幸を呼び込む性格破綻者だ。

 

「さて、続きを始めようか」

 

考えるだけ無駄だ。

余計なことは止めにしてさっさと呼ぶことにした。

 

 

「――――告げる」

 

再び陣に魔力を流すとともに、辺りが薄暗くなる。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

中心から光が照らし、風が巻起こり、魔力の塊が確固たる存在を得ていく。

 

「誓いを此処に

 我は常世総ての善と成る者

 我は常世総ての悪を敷く者」

 

最後の一節を唱えようとした時。

 

『天に太陽』

 

切嗣の口から、彼の意識とは異なる言葉が紡がれる。

 

『地に営み』

 

その声は徐々に別の声と重なり、入れ替わる。

 

『天秤の守り手よ』

 

反響する声に包まれながら、激しい光が人の形をとる。

 

『光あれ』

 

なんか尊大な人が降臨してきた。




ティンときた人は是非ともミツルギクロス書いてください。お願いします。


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降りしきる二人

投稿ミスしたのでやり直し。
最近で一番変な汗かきました。出すときはちゃんと確認しないとダメですね。


 白銀に輝くアインツベルン城。その姿は常緑針葉樹の森に隠されるように覆われている。

 

「しかし……せっかくの雪国だというのに退屈だな!」

 

 その森の中でセイバーは一人、雪だるま作りに勤しんでいた。雪玉の形が歪な上に泥やら木のクズやらを巻き込んでかなり汚いが。

 

「ふむ。なかなかの出来ではないか。こう……味の有る」

 

 コレだけ豊富に綺麗な雪が有りながらどうしてそこまで酷いことになるのか分からないようなクソだるまを前にして尚セイバーは自信に満ちている様子だ。

 

「『味の有る』ほと都合の良い言葉もなかなか無いがな!」

 

様子だけだった。

 

「あらセイバー、こんなところに居たのね」

「おお、マスター夫人」

「何してたの?」

「コレを作っていたのだ」

「へー……コレは?」

「おや、マスター夫人はご存知ないのですかな? これは雪だるまはというもので――」

「あぁ! 雪だるまだったのね!」

 

あまりにも歪過ぎて分からなかった。

 

「ふむ、ヨーロッパの雪だるまは三段ですからな。日本式の二段雪だるまがピンと来ないのは仕方あるまい」

「え、えぇ。そうね」

 

実はアイリスフィールにとっても二段の方が馴染み深いのだが、それを言うのは余計なことのようだ。

 

「ところでどうして一人で雪だるまを? 今日とっても寒いわよ?」

「それが屋敷から叩き出されてしまってな。まったく、マスターの短気には困ったものだ! 夫人からも一言 言っておいてもらいたい。気持ちよくブタミントンもできないようでは友達を無くしますよ!」

「あぁ……またなの」

 

文面だけとればセイバーのマスター…切嗣に呆れているようだが、実際は逆だ。

 

「最近はマシになってきたと思ったらすぐコレだ……」

 

  ※――――――――――――――――――――――――――

 

「魔術師諸君の祈り 座に届きて、我 今 現世に降臨せしめたりまつりそうろう!」

 

 人は素晴らしいモノと出会ったとき言葉を失う。あまりに酷いモノを前にしたときもまた同じ。

 今の切嗣はその両方だ。

 

 視界を奪うような眩い光が収まり、切嗣の前に現れたのは銀髪に紅い瞳の若者だった。アイリスフィールと同じ…とは思わなかった。非常に『我が強い』のだ。アイリの髪が『あらゆる色を失った結果の銀』なら、こちらは『あらゆる輝きを集めた結果の銀』という印象。その眼にも自己に対する圧倒的な自信が宿っている。

 美しい剣に人の形を与えたような麗人……いや、美男子?

 とにかく、美しいことと言葉遣いが間違っていることは分かった。

 そしてもう一つ、聖杯戦争のマスターに与えられた『透視能力』によって分かったこと。このサーヴァントのステータスだ。

 

クラス:セイバー

筋力:E- 耐久:E- 敏捷:E- 魔力:B- 幸運:A++ 宝具EX

 

E、E、E……しかもマイナス付き。サーヴァント基準のE判定から更に下がるということ。一般人にしても貧弱なフィジカル……決してアーサー王ではないだろう。

そもそも、まずマトモなサーヴァントではない。

 

「何を呆けているのだ? 聖杯戦争での勝利に向けてともに頑張りましょうぞ」

「あ、あぁ……」

 

 おかしい。セイバーは"最優"のクラス……こんな歪なステータス配分は有り得ない。

 

「さて、では何から始めていこうか」

 

どこかからともなく現れた、玉座にしても派手過ぎる椅子。

 そこに座す姿は確かに様になっている。なっているのだが……同時に目に入る(?)ステータスが酷い。

 

「はて、反応が薄いな。もしや何も考えていなかったとか?」

「い、いや……。ゴホン、まず、お前にはここにいるアイリとともに行動してもらい、敵の目を欺く。その背後を僕が狙う、という方針なんだが……お前は前線で戦えるのか?」

「え? アーサー王が前線で戦えないはず無いでしょ?」

「アイリ……信じ難いことだが、このサーヴァントのフィジカル面は一般人にも劣るかもしれない」

「……!?」

「聞いておきたい。お前は何者だ?」

「ふっ……面白いことを仰る。如何にマスターと言えど出会ったその場で真名をさらけ出す真似はすまい」

「………」

 

 腹の立つことだが、言っていることは正しい。英雄とは、つまりその来歴が人々の間に残っている者だ。名が分かればその特徴、思考、技が分かり、その弱点や死因まで明らかになる。攻略法を教えるに等しい。晒すことは決して好ましくない。

 更に、マスターとサーヴァントの主従関係は絶対ではない。キャスターやアーチャー、又は特殊なスキルを持つ者はマスターを乗り換え、元のマスターと敵対することも有る。

 故に、自らのマスターでも真名を簡単には教えないというこのサーヴァントの主張は切嗣には好ましく思えた。ある程度の計算高さは有ると。当初の予定とは違うが、キャスターに似た運用が出来るかもしれない。

 

「……が、そうだな。私の人生は輝かしいエピソードに溢れているから話しても損はない。――そう あれは北の十字星が激しく輝く午前二時…………」

 

――――

―――

――

 

「――つまりお前は星に選ばれ星の名を授かりし古代王家の末裔で、世界に狂気と破滅をもたらす滅びの遣いを星々の剣を以って倒した伝説の英雄『美剣散々』である、と」

「いかにも。 ……まぁ、その戦いが高次元過ぎるし隠蔽も完璧ですから世の民は知るよしもありませんけどね!」

 

 知る由もない……と言うか、ステータスを見ればその伝説がデタラメであることは明らかだ。しかも話の時系列がまとめられておらず、必要以上に頻繁に『私は』とか『私が』とか『特に私は』とかの前置きが入るせいで何とも言えない頭の悪さを感じる。

 切嗣は少し前に見出したほんの少しの期待を捨てた。……その"少し前"もゆうに三時間前のことになるが。

 

「まぁ、そんなワケで大船に乗ったつもりで居てもらって構わない。それでは、私の私室に案内してもらおうか」

「あ、うん……?」

「私が寝泊まりするための部屋だ。まさか用意していないということもあるまい」

「ああ。用意してあるさ。唐突過ぎて反応が遅れただけだ。……話し合いはいいのか?」

「何のことだ?」

「いや、聖杯戦争の戦略についてだが……」

「あぁ、ソレもう眠くなったからべつにいいや」

「………」

 

  ※―――――――――――――――――――――――――――

 

「――マスターは出会った頃から怒りっぽい性格だった……やれやれ、キレる若者が社会問題になって久しいが、よもや無精髭のおじさんまでキレる時代とは……。あの時殴られたせいで出来た口内炎がまだ治らずにジクジクと痛み続けている」

「あの人、普段は優しいんだけどね」

 

 あの眠たい話を最後まで聞いていた時点で既に相当な精神力だと思う。事実、アイリスフィールは最初の数分で寝てしまった。

 

「普段優しくても私に厳しければ意味の無いことだ」

「そう……」

 

 如何ともし難い高飛車具合。

 

「でも、セイバーも容赦してあげてね。……明後日には冬木入り。それまでになんとか仲直りしてもらわないと」

「ふむ。そう言えば出発は明後日か――」

(あ、仲直りの部分はスルーなのね)

「――ならば今の内にこの銀世界を堪能しておこうか」

 

 豪奢な装飾を翻し、セイバーが右腕を天に掲げる。

 

「来い。流星号」

 

雪が舞い上がり、純白の天馬が現れる。通常魔獣として分類される天馬だが、この個体から放たれる魔力は幻獣格のそれ。

 ステータスもダメ、性格もダメなセイバーの、唯一希望が持てる点。それがこの幻想種召喚だ。『幻想種召喚』と表現を抽象的にしているのは、もちろん天馬以外の存在も召喚できるからで、この能力をアイリらが知ったのもセイバーがイリヤにグリフォンのひよこ(?)を与えたからだ。

 

「さて、マスター夫人。これから共に空中散歩でも?」

 

 天馬を従え、手を差し伸べる姿はまさに御伽話の英雄だ。

 

「遠慮するわ。上空ってちょっと信じられないくらい寒いのよ?」

「そうですか。実は私も舞い上がった雪を被った辺りで萎えていたのだ」

 

 だが中身はやはりポンコツである。




ミツルギの面白さが中々表現しきれない……。


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