ユグドラシルでバランス崩壊がおきました (Q猫)
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魔王誕生編
事の始まり


ゲームの運営に詳しいわけではありませぬ


10年以上の長きにわたって運営されてきたDMMORPG<ユグドラシル>の中の人こと運営の人間である高橋は、その日上司に呼び出された。

 

上司曰く、一月後にユグドラシルの終了を告知する。終了はそれから更に半年後になる、との事だった。

 

高橋はゲームの終了そのものは驚くほどあっさりと受け入れられた。

運営が対応しなければいけない問題がどんどん減っていることから、毎月報告される稼動人数の低下を肌で実感していたからだ。

 

だが次の辞令は完全に予想外だった。

 

「そういうわけで、俺は2週間後には次のプロジェクトに異動になる。

だからな、高橋。お前が終了までの責任者になる。頑張れよ」

「……は? いやいやいや、いきなりすぎませんか!?」

 

慌てる高橋だったが上司の説明によると、次代の管理職を育成したいという会社の思惑があるらしい。そのために終了するユグドラシルが利用されることになったというわけだ。

失敗しても問題がない状況でキャリアアップのチャンスが貰えるなら、と了承したところで上司から更なるオーダーが追加された。

 

「じゃあ、最初の課題だ。1週間後までに収益の低下を可能な限り抑えるためのアイディアを考えて提出しろ。

採用するしないは別にしてあまり変なもんは出すなよ? 最低限実現可能なプランじゃなければだめだからな」

 

無茶振りか、と言われれば実はそうでもない。

運営の対応案件が減少傾向なのは先に書いたとおりであるのでアイディアを捻出したり、レポートを作る時間がないと言うことはない。

またユグドラシルは長く稼動しただけあり、過去のリソースを利用すれば短時間でイベントを立ち上げることが可能であり、上司としては企画立案の訓練のための課題のつもりであった。

元より収益低下を防ぐと言うのは「できればいいな」程度のおまけくらいの意味合いであったのだ。

 

 

 

しかし、高橋は変な意味で真面目であった。

本気で収益の低下を防がねば評価されないと思い込み行き詰ってしまったのだ。

 

彼の真面目さがユグドラシルに最後の、そして大問題のアップデートをもたらすことになる。

 

 

*   *   *

 

 

あれから3日が過ぎた。

高橋は全くレポートができていなかった。

 

「ちくしょう、どうしろってんだ……」

 

そもそも終了するオンラインゲームで収益低下を防ぐのは困難である。

まず、プレイヤーのモチベーションが一気に低下する。他のゲームと掛け持ちしているようなプレイヤーは月額料金を払うのを止めて完全に引退してしまうだろう。

課金アイテムの売れ行きも当然落ち込む。ただでさえ単なる電子データに金を払うのは馬鹿馬鹿しいと課金アイテムを嫌うプレイヤーがいるくらいだ。買う人間が全くいなくなることすら考えうる事態である。

コラボキャンペーンも意味がない。これからなくなるゲームにどれほど宣伝価値があるか怪しいし、新規コラボのためのデータなんぞ作っている時間がない。

結局なんらかのイベントで興味がある人間を釣るぐらいしかないわけだが、プレイヤーからはお茶を濁そうとしているように見られるだけである。実際そうだし。

 

 

そんな悩みを抱えていても仕事はしなければならない。

今日は久々に【永劫の蛇の腕輪】が使われたためゲーム内に出向くことになった。

 

(面倒な願いじゃなければいいなあ……)

 

公式に運営がプレイヤーの要望を聞かなければならないという仕様ではあるが、当然ゲームとして成立させるために無理な願いは却下しなければならないこともあるのだ。

その場合延々クレイマーになったプレイヤーの相手をしなければならないこともあるので一日仕事にならない可能性すらある。その対応が運営の仕事だといわれたらそうなのだが。

 

(なんかいいアイディアがどっかに落ちてたりしないものか)

 

こちらが願い事をかけたい気分だと思いつつ高橋はため息をついて対応に入った。

 

 

*   *   *

 

 

「……では以上の内容をギルドに1年間適用する、でよろしいですね?」

「はい、それでお願いします」

 

【永劫の蛇の腕輪】を使ったのはユグドラシルでは珍しい部類になる異形種のプレイヤーだった。

その外見に似合わず、と言ったら偏見になるが対応も至極まともで、願い事は運営が十分許容できる範囲であった。

 

(こんなプレイヤーばかりならいいんだが)

 

それはありえないな、と思いつつも対応が早く終わったのは喜ばしいことだ。

だからというわけでもないのだが、高橋からとある言葉が口をついて出た。

あるいはプレイヤーが提示した1年という期限が永遠に来ないことを知っていながら、口に出せないことに若干の後ろめたさを覚えたからかもしれない。

 

「もし、ですが。あなたがユグドラシルにプレイヤーを呼び戻す企画を立てるなら、どうしますか?」

 

対応規約からすれば重大な違反である。

願い事を聞く以外でプレイヤーと会話することは(クレーム対応を除けば)禁止されていたし、こちらから願い事を誘導するようなことはもってのほかだ。

運営から変な期待をプレイヤーに与える事はしてはならないのである。

そもそも自分が3日も悩んでいるのだからこの場で即座に答えが返ることを期待していたわけでもなかった。

失言を取り消そうと口を開きかけたとき、予想外の問いかけに固まっていた相手のほうが先に口を開いた。

 

「そうです、ね。考えていたことなら、あります」

 

本来なら改めて余計なことを言ったことを謝罪して立ち去るのが正しい対応ではあった。

しかし悩み続けていた高橋は答えてしまった。

 

聞かせてください、と。

 

 

*   *   *

 

 

デスクに戻った高橋は猛然とレポートを書き始め、無事期限内に上司に提出することに成功した。

 

「お前、本気でこれやる気なの? これはある意味ユグドラシルの否定なんだぞ?」

 

上司の口調は完全に否定の方向に向いていたが高橋はひるまなかった。

 

「はい、今だからこそ。終了間際になった今だからこそ、このアップデートができます。ユーザーが不均衡に不満を抱く前にゲームは終了してしまいますから」

 

そして自信をもってそのアップデート名を口にした。

 

 

「わたしはこの『限界突破キャンペーン』が収益低下を防ぎつつ、ユグドラシルを終わらせる一手だと確信しています」

 

 

それは今までレベル上限を100に固定し続けてきたユグドラシルにおいて初のレベル上限開放のアップデートだった。




なんとなくではじめてしまいました。
とりあえず終わりはゲーム終了日になるはずなので、エタはない……と思いたいです。

レベル上限開放は間違いなくゲームバランスを崩壊させますが、この制限が今まで厳密だったからこそプレイヤーは強くこう思ったはずです。

「あと少しレベルが上げられたら」

自由度が高いゆえにバランスを取る上で絶対必須だったんでしょうね。

でも、もうゲームが終わるならやっちゃってもいいよね?

10/15 感想欄で指摘された問題を修正


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アップデート

アップデート概要


レベル上限の開放というアップデート。

それは12年にわたりゲームバランスの維持に尽力してきた人間には特に受け入れ難かったようで、中には上層部にまで強硬に反対を上申したものまで出た。

 

しかし2000以上のクラスがあるのである。

その中からバランス崩壊につながるような組み合わせを見出すのは容易でない。

 

どんな組み合わせがバランスを壊すレベルでチートなのか?

それに該当するプレイヤーがどれだけいるのか?

そもそも半年でどこまで問題が顕在化するのか?

 

これらの問題に答えられる人間はいなかった。

 

結局、反対意見は参考程度にとどめられアップデートは実行に移された。

 

 

*   *   *

 

 

アップデートの概要は以下の通りになる。

 

・レベル上限の開放

 全プレイヤーのレベル上限が110になります。

 更なる上限の開放のためには「限界突破チケット」が必要になります。

 「限界突破チケット」は各地のボスがそれなりの確率で落とすほか、課金で四枚まで購入できます。

 「限界突破チケット」は他プレイヤーに譲渡できます。

 

 上限の上昇は以下の通りです。

 ~150(1枚につき+10)

 ~200(1枚につき+5)

 ~230(1枚につき+3)

 ~250(1枚につき+2)

 ~256(1枚につき+1)

 

<運営の目論見>

アップデートのメインとなるレベル上限開放。

古参プレイヤーほど、やりこんだ人間ほど、「あと少しのレベルアップ」を期待していたと予想されるため、カムバックが期待できる。

課金チケットの販売が見込めるほか、ボスドロップを狙うにもレベル上げにも相応の時間がかかるため最終月までプレイする可能性が高まる。

基本的にプレイヤーのレベルは150~200で収まるというのが運営の想定である。

バランス崩壊によってソロでボスモンスターを討伐するプレイヤーが現れることは考慮されてはいるが、リポップ待ちや取り合いが起きる事から極端に一人にチケットの取得が偏ることはない、はずである。

 

 

 

・全亜人種・異形種へのスキルの追加

 全亜人種・異形種にスキル「人化」が追加されます。

 人間種が亜人種・異形種をとった場合、取得済み職業は制限にかかりません。

 亜人種・異形種のプレイヤーは人型アバターを設定する必要があります。

 

 「人化」の仕様は以下の通りです。

 変身開始から完了まで1分かかりその間無防備になる。

 変身時に全MPの半分を消費する。

 人化時は種族から得られるステータス補正は8割になる。

 人化時は人間種として扱われるため、種族レベルで取得する一部スキルが使えなくなります。

 

<運営の目論見>

一見デメリット軽減による異形種優遇に見えるが、別にそういうわけではない。

最大の目的としては人化による異形種のPKの防止にある。

運営はPKを否定はしていないが、異形種が過剰なまでのPKの対象になっていることは当然理解している。

それを承知で異形種をプレイするのが正しいといえばそれまでだが、回避する方法が少なかったのも事実である。

せっかくなので最後くらい異形種も楽しんでほしいというわけである。

もちろん人間種が異形種をとれば8割に低減されたとしても大幅なステータスアップになるというメリットがある。

まあ、異形種のイメージはすさまじく悪いため人間種が活用するかは不明である。そもそも知っているか怪しい。

 

 

 

・贈答用限界突破チケットの配布

 キャンペーン開始時点でプレイしている全プレイヤーに贈答用の「限界突破チケット」が配布されます。

 チケットは運営メールを開くことでインベントリに入ります。

 インベントリに空きがない場合は、お手数ですが空きを作ってから再度メールをお開きください。

 贈答用「限界突破チケット」は他のプレイヤーに譲渡する以外の使用ができません。

 相手のレベル上限が256に達していた場合、「限界突破チケット」は使用されず返却されます。

 

<運営の目論見>

様々な事情でプレイしなくなったプレイヤーは戻ってくる際に、未だ残っているプレイヤーに会うのが気まずいという場合がある。

極論するとそれを軽減するための賄賂となるのがこのチケットである。

無課金のプレイヤーも二人で贈答し合えば上限は120になるので、極端なボス狩りを行わなくてもそれなりに楽しめるようになる狙いがある。

 

 

*   *   *

 

 

このアップデートを聞いて多くのプレイヤーがユグドラシルに戻ってくる事になった。

 

そしてそれはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーもまた例外ではなかったのである。




もちろん狙いはアインズ・ウール・ゴウンを強化することなわけです。
が、他のプレイヤーに益がない様なのは当然無理だろうな、と思ったわけで。
適当にでっちあげてみました。

次はようやくアインズ・ウール・ゴウンのお話になるかと思います。


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仲間達の帰還

正直難産でした。
書き分けができそうにないと思っていたのに、なんで転移前を舞台にしてしまったのか……


最初のうちはそこまで疎遠にするつもりはなかった。

週に一度が月に一度になり、用事で一度タイミングをはずすと、その後は何かと理由をつけてインしなくなってしまったのだ。

 

今日は疲れているから。

明日は早いから。

なんとなく気分が乗らないから。

 

だんだん理由にもならない理由でインしなくなり、それを仲間に説明するのが億劫になり、また間が開く。

意識の隅に引っかかりつつも可能な限り考えないように、きっかけがあれば復帰するさと言い訳を続けていたのだ。

 

今更戻ってもみんなが遠慮するだろう。

みんなだって忘れているさ。

みんなだってリアルがあるからそこまでインしていないはずだ。

 

特定の誰かでなくあえて「みんな」という思考で自分だけじゃないと自分に暗示をかける。

思い出に蓋をしつつなんとなくすっきりしない気持ちを抱えてリアルを生きていく。

 

そうこうしている内に待ち望んだ「きっかけ」がやってきた。

 

「きっかけ」の名前は「限界突破アップデート」を知らせる一通のメールの形をしてやってきた。

 

 

*   *   *

 

 

モモンガこと鈴木悟にとってユグドラシルはただのゲームではない。

青春あるいは人生の一部を捧げた舞台であるのだ。

 

そのモモンガにとって「限界突破アップデート」はどう捉えられたのか?

 

まず、一人のプレイヤーとして喜んだ。

同時にアップデートを歓迎できない自分がいることに気がついてしまった。

 

このアップデートによりユグドラシルは激変する。

それは仲間たちと過ごした舞台が実質的に消えてしまうのと同じだったからだ。

 

アインズ・ウール・ゴウン総出で倒したボスはレベル上限が解放された事によって雑魚に成り下がるだろう。

そうなれば必死の思いで手に入れたアイテムも徐々に価値を失っていくだろう。

戦士職最強のたっち・みーも、魔法職最強のウルベルトも単にレベルに差があるというだけで、最強から蹴落とされるに違いない。

 

仲間たちがいればこの変化に悪態をつきつつも楽しめた、とは思う。

しかし現在まともに稼動しているのはモモンガのみ。

正直一人で変わり行くユグドラシルを続ける気力はもてそうになかった。

 

 

だからだろう。

本来の歴史において最終日に出したギルドメンバーに出すはずだったメールはアップデート内容の告知が出た数日後に送られることになった。

 

「最後の半年間、また一緒に遊びませんか?」

 

それは社会人として鈴木悟が許容できるギリギリのわがままであった。

 

 

*   *   *

 

 

アップデート当日。

 

モモンガは円卓の間で自キャラの成長方針を考えようと職業と種族の一覧を眺めていた。

しかしメンバーにメールを出したせいか、いつも以上に仲間たちのことを思い出してしまう。

 

この職業はペロロンチーノが泣く泣くあきらめたやつだ、とか。

こっちの職業はそれなりに貴重なアイテムを消費しないとなれないのに、使い勝手が悪かったと珍しく武人建御雷が愚痴ってたとか。

 

そうしてしばらくたったの時、

 

 

 

ギルドメンバーたっち・みーさんがログインしました。

 

 

 

久しく見なかった表示を目にし、思わず立ち上がって振り返りながら用意していた言葉を

 

「お久しぶりです! たっちさ…………ん」

 

うまく発せなかった。

 

 

円卓の間に入ってきたのは間違いなくたっち・みーであった。

 

 

「……えーと。大変ご無沙汰してました。モモンガさん」

 

 

が、彼はなぜかその背中に「我、帰還せり!」と文字を背負っており、見得を切ろうとして失敗したようなポーズで固まっていたからだった。

 

正直これにはモモンガもコメントに困った。

せめてポーズが決まって口上でも言ってくれれば「何をやっているんですか」と突っ込んだり「最初に会ったときも同じようなことをしてましたね」とか返したりできたのだが。

 

二人しかいない円卓の間に微妙な空気が流れる。

このままではいかんとモモンガがとりあえず席についたらどうかと促そうとした瞬間、

 

「いっやほぉぉぉぉぉ! これから三連休! 遊ぶぞぉぉ!」

 

凍りついた空気をぶち壊す大声で、何の意味があるのか錐揉み回転しながらヘロヘロが現れた。

 

「あれ? 二人だけ? モモンガさんお久しぶり。それとたっち。その格好なんぞ?」

「いや、これは、その……」

 

ぐにぐにと動く黒い粘体の前でしどろもどろになる純白の騎士という光景は、アインズ・ウール・ゴウンでしか見ることができないに違いない。

懐かしい空気を感じつつ、モモンガは、いや鈴木悟は久々に心から笑った。

 

「とりあえず、座りましょう。たっちさん、早いところその文字しまわないと。

るし☆ふぁーさん辺りに見られたら、たぶんずっといじられますよ?」

「あ、ああ。そうだな」

 

ウルベルトのやつにだけは死んでも見られたくないしな、などと言いながら文字を消すたっち・みーに、だったら最初からやならきゃいいのにーと返しつつ、びよんと跳ねて椅子に乗るヘロヘロ。

それだけでずっとギルドを守ってきた甲斐があったと思えてしまう自分は単純だなと考えながらモモンガも会話の輪に入っていった。

 

 

*   *   *

 

 

結局あの後も少しずつメンバーは集まり、遂には全メンバーがログインするという快挙を成し遂げた。

久々に顔を合わせた結果として思い出話に花が咲き、狩場の相談などは夕飯の後にとだけ決まり、なし崩し的に雑談タイムに突入してしまった円卓の間は賑やかだった。

 

なんだかんだいって止めて行ったメンバー達だが、別にユグドラシルが嫌いになったわけではない。

レベルはカンスト、ギルドは総合で9位になり、大抵のイベントは制覇した。

拠点のナザリック地下大墳墓も馬鹿みたいに時間と金をつぎ込んで作りこんだ。

そんな偉業を達成したメンバーは、みんな程度の差はあれ廃人だったのだ。

 

遊びたいがリアルを犠牲にしてまでやることもない。

ユグドラシルは実装できそうなものはほとんど実装しきっていたと言って良かったのだ。

 

そこに来てのアップデート。

期限も半年であればリアルでちょっと無理すれば続けられないほどではない。

心血を注いだギルドも健在とあれば多少の後ろめたさや躊躇はあっても来ないという選択はできない程度に、メンバーはユグドラシルが好きだったのだ。

 

 

そのちょっとばかりの後ろめたさと、一人のメンバーの言葉が原因でモモンガは孤独だったときとは別の悩みを抱かせることになっていた。

 

 

 

「いや、そこで私のせいにされても困るよ? やったのはたっちさんであって私は本当に無関係だからね?」

「だがなタブラ。お前が普段言っている、ギャップ萌え? だったか。久しぶりに会うのだから何かしらせねばならないと思ったんだ」

「いやいや、ギャップ萌えってのは意外性が大事だけど『実は』ってのが重要であって無理して演出するようなものじゃ……」

 

たっち・みーとタブラがくだらないことで議論をしている。

 

「今回のアップデートの「人化」スキルは納得いかん。異形種は異形であるからこそ良いのであって人になれるようでは……」

「でもボクはあってもいいとは思うんだよね。今の状況になったのはやっぱり運営の配慮が少なかったからってのもあるわけで……」

 

ウルベルトとやまいこが今回のアップデートについて語り合っている。

 

 

そんな風に円卓の間で賑やかに議論がされているのを嬉しく思いつつ、モモンガは悩みの原因となる発言をしたぷにっと萌えに真意を問いたださんとしていた。

 

 

「なんで私に贈答用チケットを集めたんです? いや、上限が最大になったことは嬉しいんですが、もっとギルドのためになるような配分があったんじゃないんですかね? 正直私のビルドは強いってわけじゃないですし……」

 

 

最初に来てくれたたっち・みーとヘロヘロの二人ともが、今までギルドを維持してくれたからと自分に贈答用チケットをくれたときは不覚にも泣いてしまった。

その次に来たウルベルトがたっち・みーに対抗心を燃やし自分にチケットを送ったのも、相変わらずだと笑える範囲だった。

仲の良かったペロロンチーノが自分にくれたのもわかる。

流れがおかしくなったのは、るし☆ふぁーが「あ、これ40枚で限界達成なのか。じゃあメンバー全員のチケをモモンガさんに集めたら最強の魔王様、誕・生! じゃね?」とか言った辺りだったと思う。

タブラが「ほう、ギルドメンバーの力を結集して魔王になるとか設定厨としては見過ごせないね」とか乗ったのも良くなかったと思う。

だが、止めを刺したのは間違いなく目の前にいる、ぷにっと萌えだった。

アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明の異名をとる彼が「モモンガ最強化計画(るし☆ふぁー命名)」にゴーサインを出したのだ。

絶対にギルドのためになると言って。

 

軍師のお墨付きが出た後、メンバーは一気にモモンガにチケットを渡してきた。

小市民なモモンガにしてみれば、貴重なチケットで+2とか+1しか上がらないのはもったいないとしか思えなかった。

一人の256レベルより複数の200レベルのほうが総合的に強いという思いも、もったいないという気持ちに拍車をかけた。

だから、ぷにっと萌えから明確な答えを聞きたかったのだ。

ぷにっと萌えは少し間を空けてから、口を開いた。

 

「モモンガさん。たぶん今回のアップデートはバランスを取ることを考慮していません」

「ええ、それはなんとなくわかります。今までのアップデートではあったスキル調整の告知が一切ありませんでしたから」

「だからですね。わたしはやりたいんですよ」

「何を?」

 

 

「ギルド長、41人で、ユグドラシルのトップをいただきましょう」

 

それは残り半年のユグドラシルを大混乱に陥れる宣言だった。




なんとか書き上げましたが口調とか考え方とかにまたミスがありそうで怖いです。

とりあえず次回辺りに設定しておいたアップデートの穴をぷにっと萌えさんに語って貰おうかと思います。
たぶん、この話はぷにっと萌えさんが無駄に出張ることになるでしょう。


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世界征服計画(1)

考えたら捏造設定を使わずにユグドラシル時代を書くのは無理がありました。
今更で大変申し訳ありませんが、捏造設定、オリキャラ有りをタグに追加させていただきます。
そういったものがお嫌いな方に不愉快な思いをさせることを謝罪させていただきます。


再びメンバーが集まった円卓の間でアインズ・ウール・ゴウンの会議が始まった。

議題は当初の狩場の話ではなく、ぷにっと萌えの爆弾発言からだったが。

 

「で、結局なんで私のレベル上限を最大にしたのか答えを聞いてないですよ」

 

モモンガにしてみれば、みんなのレベルアップ機会を奪ったようで気分が悪いのだ。

トップを取る宣言も追及したいが、そこは早めに解決しておきたい。

 

「そうですね。実はうちのギルドに、ギルドマスターのレベルによって効果が増大するアイテムがあるんですよ」

 

そんなのあったか? とメンバーがそろって首をかしげた。

 

「気がつかなくても仕方ありません。取ったときは既にレベル100でしたからね。玉座の間にあるアレです。ワールドアイテム『セフィロトの10/王国(マルクト)』です」

「あれは拠点NPCレベルポイントを2倍にする効果じゃなかったのか?」

「いえ、正確には拠点NPCレベルポイントを『(ギルドマスターのレベルの10分の1)の2乗%』分プラスにして配置制限を取り払う、ですね」

 

ウルベルトの疑問に、つまり10×10で100%分増加です、と言うぷにっと萌え。

沈黙が円円卓の間におりる。

 

「……つまり、モモンガさんがレベル250になったら、625%増えるってこと、だよね?」

 

信じがたいという感情がにじみ出た震える声でヘロヘロが具体的な数値を口にする。口にした本人がその数字を疑っているようだった。

それに対するぷにっと萌えの答えはあっさりとしたものだった。

 

「鑑定した効果が正しいなら、そして修正が入らないなら、そうなります」

 

そして修正が入る可能性は低い、と続ける。

 

「根拠は?」

「まずモモンガさんにも言いましたが今回のアップデートでは運営がバランスを取ることを考慮したように思えません。そしてワールドアイテムは元々壊れ性能です。二十ほどじゃないですし気がついても放置でしょう」

 

たっち・みーの質問にも淀みなく答えが返る。

モモンガもNPCの強化と言う形で「ギルドのためになる」というのが納得できたため安心した。

 

一息ついたところで次の議題、というかこちらもぷにっと萌えの発言なのだが、トップ奪取発言についての話に入る。

 

「確かにさー、ギルド1位になるのは憧れるけどさ。俺らの人数でランキングポイント稼ぐの難しくね? もうアイテム新発見も、ボス初撃破も、未開拓地初到達もほとんど残ってねーし」

「そうなるとぉ、PKとかギルドバトルでぇ、稼がなきゃだめ?」

「姉ちゃん、ロリボイスで言うのやめて」

「黙れ、弟」

「んー、100レベルをPKしてもそこまでポイント稼げないし、そうなるとギルド攻略?」

 

メンバーが口々に言うのを聞いて、ぷにっと萌えも答える。

 

「最終目標はトリニティのギルド武器破壊ですね。その前段階で2ch連合も潰したいところです」

 

再びの爆弾発言に騒然となる一同だったが、モモンガも伊達に個性の強いメンバーを取りまとめてきたわけではない。

気合を入れなおすと口を開いた。

 

「とりあえず、頭の中にある段取りをざっとで良いので話してください。驚かされてばかりで話が進みません」

 

 

*   *   *

 

 

第一段階でギルドメンバーを強化する。これには「限界突破チケット」が必要になる。

 

「これなんですが、実のところお金と手間をかければ限界突破チケットはほぼ無限に増やせます」

「本当に?」

「ええ」

 

まず1DAYチケットでも招待でもいいのでリアルの知り合いに「新規」にキャラ作成を頼む。

その上で課金チケットを買ってもらってゲーム内で受領するだけだ。

お金のやり取りに問題が発生せず、確実にチケットをもらえると信用できる相手がいれば、1人につき4枚のチケットが手に入る。

内部にあるパイが奪い合いになるなら外から持ってくればいい。

 

「上限まで40枚。自分で4枚買えるから、一人当たり9人の勧誘か? 正直現実的とは言えんな。だができないとも言えない、か」

「そうでしょうね。なのでこちらは補助的手段で本命ではありません。ですが確実にチケットを集められるので最初に上げました」

「ふむ、本命は?」

「【永劫の蛇の腕輪】ですね」

 

さらっと出てきたワールドアイテムにみんながどよめく。

 

「ゆぐろぐ(※外部サイト。ユグドラシルのアイテムの相場などの情報が掲載されている。)で確認しましたが、直近で使用したギルドは無名の小規模ギルドでした。現在はまともに争奪戦が行われていないのでしょうね。制圧もまだ行われていないようですし、手分けすればそれなりに早く入手できるかと」

 

【永劫の蛇の腕輪】の入手にはかなり面倒な手順が必要になる。

まず前提として9人以上のグループでクエストを受けなければいけない。

 

そして9つ存在する各ワールドにひとつずつ存在する「蛇の祠」制圧イベントをこなし、世界をめぐり続けるウロボロスを地上に降ろす儀式を行う。

「蛇の祠」にボスはいないが、放置していれば別グループのプレイヤーが制圧を上書きできるため、普通なら9つすべての制圧が完了するまで防衛する必要がある。

 

その後、世界のどこか(・・・・・・)に現れる腕輪を12時間以内に回収する。

選出基準は周囲数kmに渡り、プレイヤーがいない地点が選出されるので、回収チームには機動力が要求されるのだがそれだけでもいけない。

最後に儀式を行ったプレイヤーが出現したワールドと大まかな位置は知ることができるが、最後はスキルを駆使したしらみつぶしの捜索になる。

木の天辺に引っかかっていたなどというのはまだ良い方で、深海、マグマの底なんてことも有り得る。

最悪の例だと徘徊型の巨大モンスターの背中に落ちていたなんていうのもある。

回収チームはあらゆる環境を想定しておかねばならないのだ。

 

ちなみに一度取得されると次に儀式が有効になるのは1月後となる。

 

「確か過去に上限突破を要求したプレイヤーは願いを却下され……今なら理屈の上では全員上限突破できるのだし通るか」

「そうだな。却下された例は有名だからすぐに思いつくやつも少ないだろう。すぐに動き出せるプレイヤーはもっと少ないはずだ」

「じゃあ願い事はギルドメンバーの上限を最大まで挙げる事?」

「いえ、それをしてしまうと真似された時に困りますし、先ほど建御雷さんたちが言ったように前例から却下される可能性が多少とはいえあります。なので限界突破チケットを、1000枚くらいですかね? 要求します。課金アイテムを要求して通った例はありますから。意味がないことにワールドアイテムを使ったって話題になったし、みんな覚えてませんか?」

「ああ、あったね。確か課金しないことに意味がある! とかいってたやつだ」

「でも、なんで1000枚? モモンガさん除いて40人で分けたら、えーと25枚だよね。自前で購入したものをあわせて29枚だから、上限は240にしかならないよ?」

「240は『にしか』とは言えないけど、確かに上限にしない理由は気になるね。ぷにっとの事だから意味あるんでしょ?」

「まあ、ありますね」

 

 

ぷにっと萌えが言ったのは、こうだ。

 

まず運営からチケットを貰う際に1000枚が限度だと言質を取る。ここらは交渉でどうにかする。

そして2ch連合の一部にこの情報を流す。主に無課金勢と呼ばれる連中にだ。

課金している人間にプレイ時間で対抗する彼らは、【永劫の蛇の腕輪】取得に飛びつくだろう。

一つか二つ祠を制圧した頃に2ch連合全体に情報を流す。

一応は同じギルドであるものの、基本的に「祭り」の時にしか同じ方向を向かない連中である。

無課金勢は協力すると言ってくるギルドメンバーを信用できるだろうか?おそらく無理である。

一部でも分け前を渡すのを嫌がり、内部で分裂するはずだ。

争いが激化すれば情報は他のギルドにも漏れるだろう。例えば、トリニティとか。

 

「えげつないな。陣取り合戦で両ギルドは疲弊するが、相手に【永劫の蛇の腕輪】を奪われたらと考えたら簡単には退けまい。残り時間は少ないから譲るのもありえまい」

 

そう言いつつウルベルトが笑う。黒幕として振舞う作戦が気に入ったようだ。

たっち・みーも呆れたように続ける。

 

「おまけに祠の周辺にボスはいないから通常のドロップ狙いと併用もできんな。何より1000枚しかチケットが手に入らないのならば、協力したメンバー一人当たりの取り分は大分減る。防衛に1パーティずつ、回収に1パーティ用意するとして10パーティで60人。一人頭16枚と決して少なくない枚数になるが労力に見合うと考えられるかは別だな」

 

可能性の問題だが、奪い合いを行う以上PKされることもある。デスペナまで考えたら本当に割に合うかわからない。

おまけに限界突破をしてもレベルは上がらないのだから、かけた時間によってはレベル上げがサービス終了に間に合わない可能性すらある。

限界突破したキャラクターで戦闘を楽しむためにレベル上げを切り上げでもしたら本当に何のために頑張ったのかわからなくなる。

まさに自分たちが利益をえつつトップギルドをつぶし合わせるための作戦といえるだろう。

 

「とりあえず初動はわかりました。相手がレベルアップする機会をつぶしてその間に差をつけようってことですね」

 

モモンガがまとめに入る。しかし聞いておきたいこともあったので言葉を重ねた。

 

「ただ、ナンバー2のワールド・サーチャーズはどうするんです? 彼らにも勝たねばトップにはなれませんよ?」

 

ぷにっと萌えはちょっと躊躇ったが、すぐに口を開いた。

 

「それなんですが。彼らと同盟を組みませんか? 放っておくとあいつら引退しちゃいそうなんですよ」




なんか自分で捏造設定したものを利用した作戦を語るとか精神にキますね。
人様の作品に勝手に付け加えているからなおさら。
アインズ・ウール・ゴウンのワールドアイテムの名前とか効果もこれでいいのかとか思いますし。

後、いい加減ぷにっと萌えさんの外見を描写しないのが難しくなってきました。
どっかで種族とか乗ってなかったかな。
至高の四十一人も名前の出ている人たちだけでまわすの厳しいし。
オリメンバー考えられる方とか尊敬します。


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世界征服計画(2)

なんだか話が進みません。
とりあえず当面のアインズ・ウール・ゴウンの方針は決定です。
なんとか時間を進ませたいのに、書かなきゃいけないと思うことが多すぎます。


「限界突破アップデート」はすべての人間に歓迎されたわけではない。

強さを求めていた人間には歓迎されたし、この機会にメンバーが復帰したことでモモンガはそれ以上の恩恵を享受したと言って良いだろう。

 

しかし、『強さがすべてではない、DMMO』を愛したプレイヤーの中には失望したものがいたのも事実である。

ワールド・サーチャーズはほとんどがそちら側であった。

 

蹂躙され尽くした現実においては、もはや味わうことが出来ない未知との遭遇。

それに魅せられた『冒険者』にとって、12年の歳月経てなお未知を宿すこの世界の最後に示されたアップデートが力の追求であったことは、大きな裏切りに感じられたのだった。

 

 

*   *   *

 

 

「というわけで、彼らはやる気を無くしているわけなのです」

 

一通りワールド・サーチャーズの事情を説明して、どうせ引退する気なら力を借りましょうと結んで、ぷにっと萌えは言葉を切った。

 

「ふむ、組む事によるメリットはそれなりに思いつくが、それよりも聞きたいな。何でお前はそんなに事情に詳しい?」

「単にあそこのギルマスとリアルで腐れ縁なだけですよ。あなたとたっちさんみたいな関係です」

「不倶戴天の敵か」

「いえ、友人です」

 

ウルベルトの突っ込みに、普段と違い余計なことを言うぷにっと萌えの姿にモモンガは意外の念を抱く。

どういうことだ、と声を荒げるウルベルトを宥めつつ、ブルー・プラネットがぷにっと萌えに問いかけた。

 

「それでぷにっとさんは彼らとの同盟に、どんなメリットを見込んでいるんだい?」

「我々が知らない情報。特に『人間種の強職業』についての情報です」

「? ああ、これから戦うことになるんだから事前情報はほしいよね」

「ちょっと違いますね。ある意味今回のアップデート最大のバグ要素だと思うんですが」

 

 

我々異形種が人間種限定の職業を取れそうなんですよね。

 

 

今日だけで何度もぷにっと萌えの発言には驚かされてきたが、今回の発言は極め付けだった。

人間種最大のアドバンテージ(・・・・・・・・・・・・・)である高ステータス職業を種族ステータスで圧倒的に勝る異形種が取得できるというのである。

にわかには信じがたいというのが本音だった。

 

「どうやって……まさか! 『人化』でそこまで出来るのか!?」

 

死獣天朱雀の声にみんながはっとした。

『人化』スキル使用中は「人間種として扱われる」という記述があったはずだ。

 

「ええ、ここに来る前にちょっと試してきまして。人間種限定のクエストが受けられることは確認済みです。ならば転職クエストも受けられるでしょう」

 

じわじわとその意味が円卓の間に浸透していく。

 

「たとえば[ジークフリート]とか取れるのか」

「ええ、始まりのクエスト『ラインの乙女』の開始キャラクターが異形種の入れない町にいるのが問題だったはずですから、いけるでしょうね」

「ルーンが揃えられるから[ルーンマスター]もとれる、か」

「『栄光のルーン』が王城にあるんでしたか。入って触れるだけですからそちらは確実に大丈夫でしょう」

 

[ジークフリート]はお前絶対人間じゃないだろうと言いたくなる自己回復スキルをもった剣士系の前衛である。

防御と回復を考慮しなくなる分攻撃の手数が増える凶悪な職業だ。

[ルーンマスター]は魔法の威力を爆発的に跳ね上げるスキルを持った魔法系補助職である。

[ワールドディザスター]と組み合わせられたときの広域破壊力は群を抜いている。

前者はたっち・みーが、後者はウルベルトが取れないと知りつつ、取れたら良かったとこぼすほど有名な人間種の強職業だ。

 

「ぱっと思いつくものだとそういった有名どころになりますが、他にも色々あるはずです。wikiなりで調べても良いのですがやはり詳しい連中に聞くのが良いかと」

「確かにな。自分たちで使用していないだけで俺たちに合った職業を知っている可能性も高い」

「これは成長計画を考え直さないといけないね」

「すごいことになりそうだな」

「えっと、となると下位互換でしかないこっちは外して……」

 

一気に熱気に包まれる円卓の間。

その中でモモンガは聞かなければならないと思ったことを口にした。

 

「その、それはいいんですが。実施してBANされる可能性は?」

 

ぴたりとメンバーの会話する喧騒が止まり、みんながぷにっと萌えを凝視する。

その視線の中ぷにっと萌えは断言した。

 

「ありえません」

「何故?」

「人間種が異形種レベルを上げたら同じことが出来るからです」

 

元々、【昇天の羽】や【死者の本】など異形種に転身するアイテムはそれなりに存在する。

人間種が使わないのは単に異形種になると過剰なPKの対象になるという、ゲームシステムとは関係ない事情によるものだ。

『人化』の実装によってそれは回避できる可能性が高くなったわけだが、人から異形になり、また人に化けるということの意味を見出すプレイヤーはどれだけいるだろうか。

限界突破の為のチケット集め、異形種がPKに合うという今までの常識、強くなるには種族レベルを上げてはならないというセオリー。

全ての要素が大多数を占める人間種プレイヤーが異形種を取得するという選択肢を奪う。

つまり自分たち(アインズ・ウール・ゴウン)だけが最強になるチャンスが巡ってきたというわけだ。

 

「とりあえず第一段階のギルドメンバー強化プランはこんなところです。取るべき種族や職業も大分変わるでしょうから、今日のところは【永劫の蛇の腕輪】取得に動きましょう。ここで失敗したら2ch連合とトリニティの攻略はまた作戦練り直しですからね」

 

当面の方針が決まり、俄然盛り上がるメンバーを眺めながら、ふと気になったモモンガはぷにっと萌えに問いかけた。

 

「でも、いいんですか? 友達を利用することになりますよ」

「言ったじゃないですか。私とあいつは、たっちさんとウルベルトさんみたいな関係だ、と」

「つまり仲が良いってことですよね?」

 

モモンガの言葉を受けてぷにっと萌えは笑った。

 

「いえ、俺の前で隙を見せたお前が悪い、という関係ですよ」




ぷにっと萌えさんが孔明なら是非司馬懿みたいな友人がいてほしい。
孔明と司馬懿が協力するとか見てみたいですよね。

次回あたり同盟締結とモモンガさん最強化計画をスタートさせたいですが、書き溜めもないし毎回書きながら気に食わないところや思いついた展開を盛り込みたがる性格のせいでどうなるかわかりません。
なるべく早めに続きが書けるようがんばります。


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ワールド・サーチャーズ

今回も思ったように話が進みません。
最初この話自体短編にしようと思ってたはずなんですが、自分はどうやってまとめる気だったのか。


今後の方針を決めた後、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは【永劫の蛇の腕輪】取得のために動いた。

少人数で大丈夫かとの意見もあったが、いくつかの推測から祠に襲撃をかけにくるプレイヤーはほぼいないだろうということで意見がまとまった。

 

「限界突破チケット」を集めるにあたり、レベルは高いほうがいい。ボスと戦う必要があるからだ。

邪魔しにいった場合、PKされる確率は普通よりも高い。アインズ・ウール・ゴウンはPKされる可能性はギルドとして名高いからだ。

現状プレイヤーは可能な限りデスペナを受けたくないと考えるのは確度の高い予想と言える。

おまけに準備もなく【永劫の蛇の腕輪】を取得することはできないのだから、嫌がらせのためだけに襲撃をかけるには割に合わないと判断される可能性が高いのである。

 

前回の使用からちょうど1月のというのも都合がよい。

アインズ・ウール・ゴウンは少人数で意見取りまとめに時間がかからないからこそすぐに行動できるわけだが、普通のギルドがそのタイミングで動くのは入念な準備、具体的には人員をきっちりそろえて計画を立てていると見るのが普通である。

 

予想は当たり、アインズ・ウール・ゴウンは無事【永劫の蛇の腕輪】を入手した。

 

 

*   *   *

 

 

それから数日後、ぷにっと萌えとモモンガはワールド・サーチャーズとの同盟について相談していた。

 

「とりあえず連絡したところ、拠点で同盟について話し合いたいとの事です」

「話を聞いて貰えるのはありがたいですが、我々を迎え入れるのってあちらとしては大丈夫なんですか?」

 

言ってはなんですが悪役(PK)が乗り込むんですよ、と言うモモンガにぷにっと萌えは肩をすくめて答える。

 

「彼らにしてみれば、どこで会おうが危険度が変わらないのだからせめて有利な場所で会おうってことじゃないですかね」

「それじゃあ敵意がないことを示すために会う人数は制限しないといけないですね。こちらから同盟を持ちかけるのですし」

「それが妥当ですね。最悪モモンガさんと私だけってことになりそうですが」

「あまり貧相な装備で行ってなめられるのもありがたくないですが、威圧してもいけないし……加減が難しいな」

 

悩み始めるモモンガにぷにっと萌えはひとつの提案をする。

 

「そうそう、ついでだから『人化』して会いましょうか。確か異形種は所属していなかったはずですから興味を引けるかもしれません。こちらが能力を制限していれば、本気で交渉する姿勢だと示すことができます」

「えー……確かに能力値も下がるし特殊能力もいくらかは使えなくなりますけど」

 

はっはっはと愉快気に笑う目の前の男性アバターをにらむ様にしつつモモンガはため息をついた。

そう、現在ぷにっと萌えは『人化』スキルを使用しているのだ。

美男子だがどこか胡散臭い、油断ならない雰囲気をまとったアバターでぷにっと萌えのイメージによく合っていた。

 

「あなたはいいかもしれませんが、私はあんまり使いたくないんですよね……」

「まあまあ、ルールを決めたのはモモンガさんじゃないですか」

「こうなるって分かってたら、あの時、あんな事言いませんでしたよ」

 

過去の自分を恨みつつモモンガはもう一度大きなため息をついた。

 

 

*   *   *

 

 

ワールド・サーチャーズの拠点「名も無き図書館」は拠点としては下から2番目のサイズである。

さほど広くない内部の大半が資料室が占められ、わずかに分析室や展示室などがある冒険家たちの拠点であった。

 

モモンガとぷにっと萌えは入り口から案内役のNPCに先導されつつ進んで行ったが、プレイヤーとほとんどすれ違わなかった。

数日前の自分と重ね、ワールド・サーチャーズの衰退を感じ取ったモモンガは少しばかりこれから交渉を行う目の前のプレイヤーに共感を覚えた。

 

「はじめまして。アインズ・ウール・ゴウン代表。モモンガです」

「こちらこそはじめまして。ワールド・サーチャーズ、ギルドマスター、ワイズマンです」

 

まずはお互いに名乗り軽く握手をする。

ワイズマンは眼鏡をかけた実直そうな人間種のアバターだった。

背は高いがひょろりとしており、これで戦士職だったら詐欺だろうという見た目だ。

モモンガ自身には縁が無いが、きっと学者とかがこんな格好なんだろうと想像するような姿だった。

 

「あの、同盟を申し込みに来てなんですが、他のメンバーがいらっしゃらないようですし都合が悪ければ日を改めますよ?」

 

同席するメンバーもいない中で重大な決断をしなければならないワイズマンを気遣ってのモモンガの発言だったが、ワイズマンは、そしてぷにっと萌えも首をかしげた。

 

「うん? ……ああ、モモンガさんは異形種で、しかも小規模ギルド所属でしたね」

「それがなにか?」

 

なにやら馬鹿にされたような気がしてムッとした声を出したモモンガにワイズマンはすぐに謝罪の言葉を述べた。

 

「ああ、馬鹿にしたように聞こえてしまったなら申し訳ない。ご存知のとおりうちのギルドは探索系を好むメンバーが集まったギルドでして」

「そうですね」

「ほとんどのメンバーにとってこの拠点は資料を置きに来る倉庫であり、過去に収集した情報を参照しに来るだけの場所なんですよ。加えて人間種は街を普通に利用できますので探索中は最前線に近い街に行ってしまいます。最盛期もこの拠点に常駐するようなメンバーは少なかったですね」

「なるほど……」

「おまけに所属人数が多いので全員の意見を統一するというのは難しいのです。何しろ自分こそが新発見をするんだと意気込んだ連中ばかりです。内部で戦闘が起こるようなことは無くとも、メンバー同士がお互いをライバルだと看做していました」

「そういうギルドもあるのですね」

 

一応理解はしていたが自分の世界が狭いことを改めて実感するモモンガ。

 

「ですので極端にギルドに不利益を与えるのでない限り、自分のためにギルドで集めた情報を使うのは全員了解済みなのです。なにしろムスペルの火山攻略中のメンバーがニブルのクエスト情報を拾ってきたりしましたからね」

「ほほう」

「もちろん持ち出し禁止の情報もあります。ワールドアイテム関連はその代表例です。『燃え上がる三眼』の二の舞はごめんですから。レア職業などの情報は条件が折り合えば出せる類の情報です」

「つまりワイズマンさん自身の利益になり、ワールド・サーチャーズに迷惑をかけない条件を提示できれば我々に協力していただける、と考えてよろしいので?」

「ええ、あなたに私を動かすだけの条件が提示できますか?」

 

しばらくモモンガは沈黙し思考する。

そしてワイズマンについて事前にぷにっと萌えから語られたことを思い返す。

 

「……我々が2ch連合とトリニティを倒す、というのはどうです? 我々はそのためにワールド・サーチャーズの知識を欲しています」

「ほう……」

 

ワイズマンとこの会談中ずっと黙っていたぷにっと萌えから驚いたような気配が伝わってきた。

 

「ぷにっとさんがあなたとは『俺の前で隙を見せたお前が悪い』という関係だと言っていました。そんなあなたがぷにっとさんの前で引退するなどと弱音を吐くとは思えません」

 

ワイズマンがこのお喋りめとでも言いたげにぷにっと萌えをにらみ、俺は知らんと言うかのようにぷにっと萌えが顔を背けた。

 

「なんで2ch連合とトリニティを倒したいのかはわかりません。一位になりたいわけではなさそうですし、引退する気だったのは事実でしょう? ぷにっとさんが復帰すると言ったから、わざわざ口にして遠まわしにぷにっとさんが動くように仕向けた。違いますか?」

 

しばらく黙った後、ワイズマンはこらえきれないというように笑った。

 

「くっくっく。これだから人付き合いはやめられないんですよね。あなたのように面白い方に出会えるのだから」

「では?」

「目的が一致しているのですから問題ありません。我々(ワールド・サーチャーズ)が集めた知識を使ってください」

 

改めて握手をしたところで、ふとワイズマンが言った。

 

「しかしアインズ・ウール・ゴウンのマスターは男性だったはずですが、『人化』のアバターは女性を選んだのですね。何か理由でも?」

「あ」

 

交渉に集中して自分がなぜ『人化』スキルを使うのを嫌がっていたのか思い出したモモンガはしどろもどろになりつつ弁明した。

 

「いや、これは、その。『人化』スキルの仕様のせいでして……」

「それだけじゃなく、モモンガさんがルール決めちゃいましたからね」

「ほほう、それは興味深い。人間種には縁の無いスキルですから是非知りたいですな」

 

目を輝かせるワイズマンに、モモンガは何度目になるかわからないため息をついた。




とりあえず同盟締結です。
いまいち自分で納得できていないところもあるので書き直すかもしれません。

とりあえずようやくモモンガさん最強化計画に入れそうです。
長かった。
最強化ついでにアルベドの出番を作れそうです。
モモンガさんにお姫様抱っこしてもらえるはず。わたしがちゃんと書けば。


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ナザリック地下大墳墓にて

相変わらず計画したところまで話が進みません。
モモンガさんのアバターの容姿ですが小出しにすることにしました。
自分の首を絞めるような気もしますが頑張ります。


事の発端は、モモンガのこんな発言からだった。

 

「しかしぷにっとさんなかなか格好いいアバターでしたね。いつの間に作ってたんです?」

「いや、私も『人化』スキルの活用方法を思いついたのはゲームに入ってからでしたよ。作る暇なんてありません」

「なにそれ、おかしくない? どうやってアバター設定すんのさ」

 

ユグドラシルにおいて、通常アバターの設定はゲーム内ではできない。

そのアバターを使ってゲームをするのだから当然とも言える。

るし☆ふぁーの疑問ももっともと言えよう。

 

「アバター設定をしないまま『人化』スキルを使うと、『使用可能なアバターがありません。ランダムでアバターを作成します、よろしいですか』って表示されるんですよ。で、特にこだわりもなかったんでそのままOKしたらこうなりました」

「そこが納得いかないんだよなあ。俺もいろいろ作成しているから言いたいんだけどさ。格好いい上に似合ってるアバターって作るの大変なのよ? ランダムでできると思いたくないねえ」

「ふむ、たくさん試せれば本当にランダムで格好いいアバターが作れるかわかるんですけどね」

「それだ!」

「え?」

 

 

*  *  *

 

 

「というわけでみんなにランダムでアバターを作成してもらいます!」

「どういうわけだ」

「もう少しわかりやすく説明しろ」

「何をどうしろってのさ」

 

などとるし☆ふぁーが総突っ込みを食らった後、ぷにっと萌えとモモンガの説明を受けてアインズ・ウール・ゴウンで突発的にランダムアバター作成大会が行われることになった。

要するにランダム設定でアバターを作って品評しようということだ。

人間種の職業を手に入れるならどのみち人型のアバターは必要になる。

なら今みんなで作っても問題あるまい。

 

「でも気に入らないアバターだったりしたらどうすんだよ? るし☆ふぁーの予想ではぷにっと萌えみたいに格好良いアバターになる保証はないんだろ?」

「大丈夫! 格好悪かったら俺がみんなの分もアバター再作成用に金払うから。俺は自分のクリエイターとしての腕がランダムごときに負けないと証明できれば満足!」

「格好良くても気に入らなかったり、似合わなかった場合は?」

「さすがにシラネ」

 

無責任に言い放ったるし☆ふぁーに非難が集中するのを横目に、モモンガが話をまとめに入る。

 

「まず格好いいの基準を決めねばなりませんね。るし☆ふぁーさんに任せるわけにもいきません」

 

基準を適当に決められても困りますからというモモンガに対する、るし☆ふぁーの俺はそんなことしねーという抗議は聞き流された。

日ごろの行いは大事である。

 

結局いつも通りの多数決で格好よさ(アバターの出来の良さ)を判定。

判定で過半数が良いとすれば、るし☆ふぁーは金を払わなくてよいが負けである。

ある意味彼らしいあまのじゃくなルールであると言えた。

おまけとして使ったほうがよい(要するに消すのがもったいないとか似合うということ)という判定が過半数を超えた場合は、3ヶ月間はアバター変更不可、変更時には自作して似合うと言ったメンバーの更に半数から了解を取り付ける事がルールとして定められた。

 

後者については正直余計なことを言った、とは後のモモンガの言である。

 

 

* * *

 

 

「とまあ、そんなことがあって私は女性アバターを使う羽目になったのです。決してネカマがしたかったわけではありません」

「ふーむ」

 

モモンガは職業についての情報を伝えにナザリック地下大墳墓に来たワイズマンに力説していた。

名も無き図書館に通うという案もあったのだが、ワイズマンの希望によりこちらでのレクチャーとなったのである。

恐らく残り少ない未踏破ダンジョンであるナザリックを見たかったというのもあるだろう。

見学したいというワイズマンの希望は、情報非公開とメンバーの都合に合わせて何回か来てもらう事で認可された。

 

「まさか性別や年齢までランダムになるとは思いませんでしたよ」

「性別は意図的に設定しない限りリアルと同じになるはずですが」

「『人化』の場合は違うようですね。明確に性別が設定されていない種族だとランダムに決められるようです」

「俺はそれも疑ってるけどね……」

 

 

今回の同席者のタブラとペロロンチーノがそれぞれに口を開く。

ちなみに全員人化済みである。

悪は簡単に真の姿を晒さないものというウルベルトと、教えを請う相手を威圧するのは良くないというたっち・みーの意見がそれぞれ受け入れられたからだった。

理由は違えど二人の意見が揃うのは良いことだと思いつつ、モモンガは密かにため息をつく。できれば別のことにして欲しかった。

なるべくなら人型アバターを使いたくないというのは変わらぬ思いである。

 

「そのルシファーさんはどれだけ『負けた』んですか?」

「ほとんどは『勝ち』でしたよ。やはりランダムだと微妙に目の大きさとか鼻の高さとか、あるいは色合いとかが噛み合わないんです。多少格好いいといえるアバターも、なんというかモブっぽいというか……どういうイメージで作りたいかという点が欠けているので、これだ! っていうものにならなかったんですよ」

「問題は数人っていうか3人だな。俺とモモンガさんとホワイトブリムのやつが『当たり』だったんだよなあ……」

「まったくです。なんだってこんな格好に……」

「まあ、お二人とも十分魅力的だと思いますよ?」

 

ワイズマンがフォローを入れる。実際モモンガのアバターは黒髪黒目に白皙の肌を持つ美女といって良かったし、ペロロンチーノは美少女と見まがう美少年といって差し支えないものだった。

もし、それを目的として作成したなら文句のつけようのないできであったが、偶然にそして不本意に押し付けられた二人にしてみれば非常に納得いかないものであった。

モモンガにも言いたいことは山ほどあったが、ペロロンチーノにはさらに言いたいことがあったらしい。

 

「俺の姉がですね、その、暴走したんですよ」

「はい?」

「女装させようとしてくるんです」

「……それは……えっと、こういう時はなんと言うべきなんでしょう?」

「触れないであげるか、笑い飛ばす方がいいんじゃないですかね。下手に同情する方がダメージが深いでしょう」

 

予想外のペロロンチーノの独白になんと声をかけたものか言葉に困ったワイズマンがタブラに助けを求める。

タブラの言葉は何の解決にもなっていなかったが、納得したのかこれ以上藪をつつくのを避けたのか、ワイズマンは話題を変えた。

 

 

*   *   *

 

 

「それで、私に人間種用の職業いついて聞きたいとのことでしたが、ほかの皆さんは?」

「差し当たり取りたい職業が異形種でも取れるメンバーはみんなそれを取りに行ってますし、アバターが気に入らなかったメンバーはアバターを再作成してます。私とペロロンチーノはどうしてもあなたに聞きたいことがあったメンバーですね」

「そういやタブラさんは何で参加したの? そのアバター作り直すんだよね?」

「私は単に話が聞きたかったからです。今後ナザリックの設定を考えていくに当たってあなたと懇意にしておいて損はないですからね」

「なるほど。それではお聞きしましょうか」

 

自分との顔つなぎが目的ならとりあえず後回しでよいと判断し、ワイズマンはモモンガとペロロンチーノに向き直る。

 

「まず俺からかな。何でもいいからアバターの見た目に影響するような職業はないですかね? できれば年齢とか別アバターを使えるとか」

「あるにはありますが……」

「あるの!?」

 

喜ぶペロロンチーノだったが、ワイズマンは申し訳なさそうに告げる。

 

「年齢を変える職業なんですが[魔法少女]なんですよ」

「なにそれ!? てか男でも取れるの?」

「なんだったかのコラボで追加されたネタ職業なんですが……一応、男性でも取れます」

 

ユグドラシルにおいて男性のみあるいは女性のみしか取れない職業というのは稀である。

やたら声のでかい男女平等主義者対策で、なぜかそういうことになっているのである。

その分人間種と異形種で取れるものを差別化する形になったのかもしれないが、事実は不明である。

 

「くっ! それを取るべきなのか……」

「ですが外装統一の効果で装備がすべて少女趣味のものに変化したはずです」

「うん、だめだ。むしろ姉ちゃんに燃料を注ぐ」

 

告げられた職業の特性に速攻で却下をするペロロンチーノ。

 

「複数アバターを取れる職業はあまりないんですよね。それこそ異形種の[ドッペルゲンガー]が代表なくらいでして」

「種族変更はなあ……他の職業はどういうやつ?」

「いや、それより何で課金アイテムの「デュアルアバター」を使わないんです? 別に禁じていないでしょうに。あれ職業とか制限なしにアバター追加できるじゃないですか」

「直接アバター追加するものを使ったらルール違反じゃないですか」

 

疑問を呈するワイズマンに、当たり前とばかりにペロロンチーノが答えを返す。

ワイズマンはため息をつくとはっきり言った。

 

「あるにはあるんですが、人間種で一年以上プレイし続けると別アバターが取れる[多次元存在]とかそんな条件ばっかりなんですよ。基本的に1アカウント1キャラを徹底してるんですよ、このゲーム」

 

言外に間に合わないと告げられ、がっくりしつつ何かを考え出すペロロンチーノ。

とりあえずこれ以上助言はできないと判断し、ワイズマンはモモンガに問いかける。

 

「ではモモンガさんはどんな職業の情報をお望みで?」

 

その問いかけにモモンガははっきり答えた。

 

「デスペナを限りなく軽減する職業はありませんか?」




モモンガさん最強化計画、ようやく第一歩です。

感想でも幾人かに書きましたが、一応、モモンガさんを女性アバターにしたのは理由があります。
本編で書くのが筋でしょうが自分の腕前で入れられるか分からんので、多少ここに書いておきます。

面白そうと思ったのも事実ですが、一番の理由はモモンガさんが「本気で嫌がりそうだったから」です。
モモンガさんはもうちょいメンバーの多数決に疑問を持つべきだと思うんですよね。
多数決なんてその場のノリで左右されることもあるのですから。
それにメンバーの意見調停ばかりで自分の意見をどれだけ出していたのでしょうか。
せっかくメンバーが帰ってきたのだから自分の主張をさせるために「嫌がりそうなこと」を「多数決の結果やらざるを得ない」ことになれば、自分の主張を出してくれるかなと思ったのです。
本編でも書けるよう頑張ります。


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類は友を呼ぶ

今回良い題名が思い浮かびません。

そして重大な問題が発覚。
私、かっこいい名前考えるの苦手みたいです。


モモンガの希望を聞いた後、ワイズマンはしばらくして口を開いた。

 

「なぜそんな職業を取りたいか聞いても?」

「えっと……いわないとダメですか?」

「できれば聞かせていただきたいですね。戦略などによってはお勧めする職業が変わるかもしれません」

「その、何かこう、深い考えがあるわけではないんです」

 

モモンガは少し己を恥じるように言葉を濁した後、意を決したように告げた。

 

「私は『死を支配する魔術師』というロールにこだわってキャラを作ってきました。だからそのロールの一環として死に打ち勝つような職業がないかと思ったんです」

 

その答えにワイズマンはしばし沈黙すると、いきなり愉快そうにくつくつと笑い出した。

 

「まさか、私に職業について相談すると同盟を持ちかけられて最初に相談されるのが、姉から逃げる職業とロールのための職業とは思いませんでしたよ」

「いや、強い職業に興味がないわけじゃないんですが、せっかく詳しい人に話を聞けるのですから、ちょっとありそうにないものを聞いてもいいじゃないですか」

「そうだそうだ! 俺は深刻なんだぞ!」

 

笑われて慌てた様に言い訳じみた言葉を重ねるモモンガと本気で憤慨するペロロンチーノ。

そんな二人を見てワイズマンは更に楽しそうに笑った。

 

「いえいえ、実に良いですね。正直に言えば今まで受けてきたどんな相談より良い。こういう相談が多かったら本当に良かったんですがね」

 

しみじみ呟くとワイズマンは切り替えるように頭を振って口を開いた。

 

「残念ですがデスペナそのものを軽減する職業は知りません。蘇生魔法を強化することでデスペナなしに仲間を生き返らせることは可能ですが、自分のデスペナを軽減するというのは聞いたことがありません」

「やはりありませんか」

 

モモンガもそれは分かっていたのか、それ程落胆した風でもなく答える。

不死身の伝説がある伝承存在の名を冠する職業は数多あれど、それらの不死性は[ジークフリート]の超回復性能、[フェニックス]の回数限定復活のように別の形で表現されている。

蘇生魔法に特化した回復職のようにそれ以外ができないというデメリットを背負うでもなければ、ゾンビアタックが容易に実行可能になってしまう。

ゲームにおいてバランスを著しく欠く職業は実装されないものなのだ。

 

「デスペナ軽減とは違いますが、『死を支配する魔術師』というロールにふさわしい不死性を持った職業の情報なら提供できるかもしれません。ただし、あなたが残り半年をありえないかもしれない可能性にかけられるならですが」

「ありえないかもしれない、可能性ですか?」

 

ぷにっと萌えといい、ワイズマンといい、この手の人間は変わったことを考えないと気がすまないのだろうか思いつつモモンガは疑問を返す。

 

「レベル100以上で取れる職業の情報です。モモンガさん、ボスの職業取ってみませんか?」

 

今まで黙っていたタブラが「ほう?」と身を乗り出し、ペロロンチーノがすさまじく胡散臭そうに「えー?」と言ったが、モモンガの答えは決まっていた。

 

「ぜひ聞かせてください」

 

 

*   *   *

 

 

第一回の職業相談会を終えた後、モモンガとタブラはワイズマンを連れてナザリック地下大墳墓の中を歩いていた。

ワイズマンのもう一つの目的であるナザリック見学の案内をするためである。

ちなみにペロロンチーノはアバター再作成を終えて襲撃してきたぶくぶく茶釜に拉致された。

ぶくぶく茶釜のアバターは、ペロロンチーノに見せられた彼女が出演したというゲームのパッケージのキャラクターに似ていたので、仕事を通じて得た人脈を活用したのだろう。

 

「動画で知ってはいましたが、すさまじい作りこみですね」

「そうですね、詳しくは主に担当したメンバーがいる時に説明を受けながらの方が良いでしょう」

「氷結牢獄ならすぐにでも案内するって言ってるのに……」

「あそこは我々のノリに慣れていない人を案内する様な所じゃないでしょうに」

「ほう、そう聞くと行ってみたくなりますね」

「ほらワイズマンさんもこう言っているし、ギルド長行こうよ」

「駄目です」

 

そんなことを言いながら入り口から順に第7階層まで進み、第8階層は危険ということで飛ばして第9階層に戻ってくる。

すると先ほどまではいなかった暗紅色の髪をしたメイドが近寄ってくる。

正統派の作りをしたメイド服を一部の隙もなく見事に着こなしている。

そしてこれまた完成された所作で綺麗なお辞儀をして出迎えの言葉を口にした。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。タブラ様。いらっしゃいませ、ワイズマン様」

「……ホワイトブリムさん。その呼び名と口調はなんですか」

 

一瞬、反応に迷ったモモンガがなんとか言葉を発すると、ホワイトブリムは良くぞ聞いてくれたとばかりに答えた。

 

「もちろんナザリックのメイド長たる私にとって、ギルドの長たるモモンガ様の呼称は『お嬢様』以外にありえません」

「やめてほしいんですが」

「……あれ、本気だったんだな。となるとメイド達の設定変えないといけないか。なんか希望ある? メイド長」

「そうですね、まず……」

 

モモンガの力なくも本気の抗議はスルーされた。

大真面目に言っているらしいホワイトブリムにほとんど動じず、タブラが設定の聞き取りをはじめる。

既にメイド長呼びである当り、頭のなかでは設定が出来つつあるのだろう。

対するホワイトブリムも語りたいことが山程あるようで、嬉々として聞き取りに応じている。

話が長くなりそうな気配を感じ、ため息をつくモモンガにワイズマンが声をかける。

 

「彼女が先ほど言っていた『お遊び』で当たりを引いたメンバーですね?」

「彼ですがね。あのアバターがあたった後『俺、メイド長になる!』と言ってログアウトしようとしたのでみんなで止めました」

「……それはまた」

「彼にとってメイドは命らしいですから。この階層にいるメイドのデザインはすべてホワイトブリムさんによるものです。おそらく自分のメイド服を作っていたんでしょう。私にはあんまり差が分かりませんが、本人が着ている服に尋常でない気合が入っていることは分かります」

「なんというか。個性的なメンバーぞろいですね」

 

ワールド・サーチャーズという巨大すぎるギルドを運営していたワイズマンにとって、アインズ・ウール・ゴウンのあり方は新鮮なものだった。

もちろんその口調は多分に呆れを含んでいたが、間違いなく賞賛でもあった。

 

何かを考えるかのように沈黙した後、ワイズマンはモモンガに向き直った。

 

「同盟したときに話さなかったことをお話しましょうか」

 

 

 

*   *   *

 

 

「モモンガさんは私がなぜ、2ch連合とトリニティを倒したいと考えているか、わかりますか?」

「いえ、あの時もいいましたが理由はわかりません。ただ、あなたは私たちが訪ねた時点で引退する意思がなかったように見えた。となるとその段階であなたは目的を達していたことになります」

 

ならば、我々が持ちかけた2ch連合とトリニティを倒すということそのものが目的なのではないかと思っただけです、とモモンガは言った。

 

「間違ってはいませんね。まあ、別に大それた理由があるわけではないんです。私はあの二つのギルドが嫌いなんです」

「……うかがいましょうか」

 

大したことではないと言いつつもワイズマンの口調にぬぐい難い苛立ちがあるのを感じてモモンガは続きを促した。




やっとこモモンガさんにボスモンスターの職業を取らせる準備ができました。
が、前書きで書いたように、モモンガさんに取らせたい職業の良い感じの名前が思いつきません。
活動報告にその職業というかボスモンスターの情報を書いて名前募集とかやって良いのでしょうか?

あとさっさとワイズマンさんを玉座の間に送り込まないとナザリックが強化できません。

※大丈夫そうなので活動報告にモモンガさん用ボス案を掲載しました。
 ネタバレしても良いと言う方は名前案いただけると嬉しいです。
 名前を考えるだけでえらい時間かかるのです。


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閑話:その頃の高橋

アンケートを実施してしまったので続きを考えるのも一時中断。

なのでどっかに入れようと思ってた運営の話を閑話として書きました。
もうちょい前に入れるべきだったのですが、短いし入れるタイミングなかったしで放置してたやつです。
割とどうでもいい話な気がします。


「限界突破アップデート」の企画を通した達成感に浸っていた高橋は、上司に呼び出されて一つのデータメモリを渡されていた。

 

「なんです? これ」

「あのアップデートで起こりそうな問題データだ」

 

ぎょっとして手の中のデータメモリと目の前の上司を交互に見る高橋に、上司はため息をついて告げる。

 

「あのアップデートは収益という点で見るなら、上々だろう。だが、ゲーム内で起こりうる変化については、半年という期限で乗り切ろうとしている」

「そう、です。たった半年、ですよ?」

「お前はプレイヤーをなめすぎている。たった半年、じゃない。半年も、だ」

「え?」

 

やはりわかっていなかったかと再びため息をつくと上司は簡単に例をあげた。

 

レベル上げなどは初期は100なんていつ届くかわからないと言われたものである。

しかし、効率的なレベル上げが模索され、廃人と呼ばれる連中の中には一週間で再作成からカンストするものもいたりする。

絶対攻略不能と言われたボスがタイムアタックの対象になっていたりする。

ゲーム上可能であるなら、プレイヤーにとって困難であるだけで達成不可能ではない。

 

「問題は100%起きる。それがどの程度の規模かは知らんがな。だから俺程度(・・・)が考え付く問題点は把握して最低限の対策はとっておけ。お前が呼び戻そうとしている連中の大半はそういった問題を起こしうる『廃人様(バカ)』だ」

 

じゃあな、といって去っていく上司を高橋は呆然と見送るしかなかった。

 

 

*   *   *

 

 

データメモリの中身は予想される問題点と、大雑把な対策案が書かれていた。

 

軽度の問題としては、今回のアップデートで不利益を被るプレイヤーへの補填。

『人化』スキルによって既存の人間種に化けるスキルは劣化、あるいは重複扱いされることになる。

人に似た姿を取れるからという理由で、種族を選択していたプレイヤーの中には不満を持つものも出るだろう。

これは種族レベルを無駄にしたと認識されるためなので、お詫びとして1枚チケットを贈呈しておけばいい、と書かれていた。

 

これらはアップデート直後に発生が予想されるが解決も容易なものが多かった。

 

「重大な問題」の項目には高橋が完全に考慮していなかったものがかなりあった。

例としては、拠点防衛NPCの上限解放。

自分が強くなり、今まで難敵だったボスに楽々勝てるようになったプレイヤーは何を目指すか?

おそらくPvPであると上司の予想が記載されていた。

ギルド防衛を担わせているNPCが弱いままでは釣り合いが取れないため、楽しませる気があるなら1か月以内に修正をしろと指示があった。

 

多少の変更を要するが即座に実行しなくてはいけないものでもない。

軽度の問題の対象者を洗い出しつつ作業を並行するのは厳しいが、上司の予想期限の1月後までには対策できるだろう。

 

上司の置き土産に感謝しつつ、高橋は最後の「致命的な問題」の項目を読む。

 

『万が一ではあるが、他の全プレイヤーを相手にして勝てる勢力が現れる可能性がある。感知したらすぐさま接触してイベントに取り込む準備をしろ。交渉に失敗した場合は以前の二の舞になる可能性があるので注意すること。過剰な優遇は避けるべきだが、アカウント削除などの強硬手段を暗示させることもしてはならない。あとは祈れ』

 

 

言われなくとも高橋は問題が起きないように祈った。

残念ながら、遅かったが。




一応11/2中までアンケートは受け付けます。
思ったより皆さん楽しんでいただいているようで驚きです。

やっぱり格好いい名前考えるの楽しいですよね。
私は本気で苦手ですが。


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賢者は語る

疲れました。
毎回疲れている気もしますが。
活動報告でも書きましたが、お気に入り2000件越えました。
まだ伸びているのがちょっと信じられないほどです。
どうやら原作前という道無き荒野を走っているため目立つ車が私の小説のようです。


「そうですね……少しばかり昔語りに付き合っていただきましょうか」

 

そう言ってワイズマンはそう語り始めた。

 

 

*   *   *

 

 

ワイズマンがユグドラシルをはじめたとき目指したものがあった。

全種族・全職業の発見である。

種族で800以上、職業で2000以上と言われてたそれらをコンプリートすることは、いくらデスペナを利用した再作成が可能とはいえ一人では絶対に不可能であった。

だからこそ彼はワールド・サーチャーズを作り上げたのだ。

 

 

当然ワイズマンは異形種とも交流を持ちたかったのだが、残念ながら初期のユグドラシルで異形種を取ったプレイヤーはは少なかった。

その貴重な異形種プレイヤーに聞いてみたところ、非常に操作しにくい、との事だった。

スライムは車椅子を動かしているようだとか、バードマンは羽を操作するのに苦労するという。

ワイズマンにしてみればなかなか興味深い話ではあったが、動かし方に慣れるまで探索が滞るようでは元も子もない。

結局ワイズマンは人間種を優先して職業を探して冒険を始めたのだった。

 

 

最初は楽しかった。

ものすごい勢いで情報は集まり、データの蓄積も次第に増えていく。

アイテムとして持ち運ぶのが困難になり、拠点を作るに至る。

当時としては大き目の物件を選んだつもりだったが、全体で見たとき相当小さい部類だとわかった時などはギルドメンバーと笑いあったものだ。

その後移転しようかとの意見も出たが、既に内部は膨大な数の資料で溢れており、今更移動させるのも面倒ということで却下された。

データを溜め込む一方の拠点は図書館の様相を呈して行ったため、自然と「名も無き図書館」と呼ばれるようになった。

ちなみにメンバー全員が名前を付け忘れていたため、名前がなかったのが原因である。

 

 

順調に探索を進めていたワイズマンだったが、彼の目的の障害となる二つのギルドがあった。

2ch連合とトリニティである。

活動方針がまったく違うのでライバルになることはなかったのだが、お互いに対立しているギルドであるため少しでも優位に立とうとワールド・サーチャーズから執拗に情報を引き出そうとしていたというのも理由の一つではある。

しかしワイズマンにとってより問題だったのは、どちらも共通して「異形種狩り」を容認というよりは積極的に行っていたこと、ならびに職業のテンプレ化を進めていたことである。

 

「異形種狩り」が職業・種族の完全解明を目論むワイズマンの妨げになることは言うまでもない。

特に大きいのは彼らが上位ギルドであり、「大手もやっていることだから」と「異形種狩り」がユグドラシル全体の風潮になってしまったことだ。

ワールド・サーチャーズとしては積極的に異形種を迫害する気はなかったが、異形種を擁護すると全体の多くを占める人間種から協力を得にくくなることもあり、大局に影響することはなかった。

 

テンプレ化の進行はある面で仕方がないことでもある。

自由すぎるユグドラシルの仕様は、目的がある人間にとっては実に楽しいものである。

反面、何でもできる代わりに何をしていいかは自分で決めなければならない。

それはこの世界の(愚民化政策によって思考能力を奪われた)大半の人間に取って、非常にとっつきにくいものであったことは間違いない。

もしテンプレ化がなされなければ、おそらくユグドラシルはそこまで流行らなかったであろう。

もちろんワイズマンにとってその「自由の殺害」は容認しがたいものであった。

 

 

*   *   *

 

 

「攻略する人間が増えたことで結果的に、そこまで私の探索に影響はなかったのかもしれません。ですが、せっかくの自由を堪能できない人間を増やしたこと、そういった人間に探索の楽しみを教える機会を奪ったことは私にとって本当に許せないことでした」

 

ワイズマンはそう話を終えた。

そして彼はモモンガを見る。

ワイズマンからすればモモンガは「思考を奪われた」側の人間である。

だから同盟を持ちかけられたとき、モモンガが自分で何かを考える人間であると判断すれば何かしら理由をつけて協力するつもりだった。

しかし蓋を開けてみればモモンガはワイズマンの苛立ちを彼なりに推察して見せたのだ。

面白くないわけがない。

 

「そうですか。だから協力してくれるんですね」

「まあ、それだけではないですがね。実はモモンガさんと一度は冒険してみたいと思ってたんですよ」

 

ただし素直にそれを言う気もない。

 

「え?」

「昔ですね、草原エリアで延々魔法の練習をしているスケルトンメイジがいたんですよ。一度魔法を使うたびになにやら考えているようでしてね」

「え、それ私ですか?」

「さあどうでしょう? 何をやっているのかと思ったらどうも『格好良い魔法の使い方』を考えていたようですが」

「……ワタシデハナイヨウデスネ」

 

やたら棒読みになったモモンガに笑いかけるとワイズマンは言った。

 

「まあそういうこだわりのある人といつか冒険したいな、と思ってはいたんですよ。このギルドなら申し分ないでしょう」

「それは間違いなく保証できます。みんな楽しいメンバーばかりですよ」

 

それは先ほどまでの口調とは打って変わった自信に満ちたものだった。

 

 

*   *   *

 

 

ギルドメンバー音改さんがログインしました。

 

「お、私が最後かな?」

「そうですね。みんなインしていますよ」

「あいあい。それじゃ準備しにいくとするかね」

 

ワイズマンが見学する場所は玉座の間もあったのだが、ここでウルベルトから待ったがかけられた。

曰く、空の玉座の間を見せるのはよろしくない、と。

他のメンバーもせっかく気合を入れて作り今までどこの誰にも見せていないのに、あっさり見せるのも芸がないと思ったのだろう。

フル装備の全メンバーが勢ぞろいして歓迎しようという話になったのだ。

今まで動かしたことのない【スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】まで持ち出す気合の入れようである。

もちろん装備するのはモモンガである。本人は内心ビビッていたことも付け加えておこう。

 

「それじゃ、私も失礼しますね。準備ができたら《伝言/メッセージ》送りますので門の前で待機していてください」

「わかりました。楽しみにしていますよ」

「期待してくれていいですよ」

 

そう言ってモモンガが転移していく。

それを見送るとワイズマンは第10階層の大広間を出て歩いていく。

大広間の中には黒い直方体がいくつも並んでいた。

これはリアル側で製作中のアイテムが配置されている場合のゲーム側表示である。

るし☆ふぁーがレメゲトン七二の悪魔を作り直しているためこの状態になっているのだ。

ランダムに『負けた』のがよほど悔しかったらしく、現在あちこちを修正して回っているのだと聞かされた。

そのこだわり様から完成品を見るのが今から楽しみである。

 

異様な細かさで作りこまれた巨大な門を眺めているとモモンガから《伝言/メッセージ》飛んできた。

 

『準備できました。今から門を開けますのでちょっと離れてくださいね』

 

開かれた門の先に荘厳な玉座の間があった。

最奥にまさに魔王といった風情のモモンガが座り、両脇をギルドメンバーたちが固めている。

神器級の装備で身を固めた異形種の上位プレイヤー達が勢ぞろいしている光景は、まさに魔王軍といったところか。

ゆっくりと歩を進め玉座の前まで来るとモモンガが芝居がかった口調で告げた。

 

「ようこそ、人間の賢者よ。貴君が始めてここに到達したプレイヤーだ。それを永劫に誇るがよい。そして我々アインズ・ウール・ゴウンが貴君を歓迎しよう!」

 

ポーズを決めたモモンガはスクリーンショットに撮りたいほどであったが、ワイズマンは別のところに目を奪われてしまっていた。

 

「その玉座の後ろにあるのは……ワールドアイテム?」

「あ、そうですね。拠点のポイントを増強してくれるすごいやつです」

 

格好をつけたのにはずされた形になったモモンガが素に戻りつつ説明をする。

それに対してワイズマンは眼鏡を光らせてこう言った。

 

「……どうやら、そのアイテムはそれだけではなさそうですね。更なる能力が隠されているようです。実に興味深い」




大百科を読んだときこう思いました。
???の効果、ワールドアイテムにしてはしょぼいな、と。
でもゴブリン将軍の角笛に明かされていない秘密があったのです。
なら、ワールドアイテムに更なる性能があってもおかしくないよね?


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ワールドアイテム

ついにやっちまった。
最大の捏造設定回であります。
機能は基本的にギルドメンバーの強化にしてありますが、大丈夫かな?


「ちょっと待て。ついこの間鑑定したばかりだぞ? その時にそんな結果はでなかった」

「お前よりは間違いなく鑑定能力は高い」

 

ぷにっと萌えがつっこんだが、ワイズマンは適当に返答し【セフィロトの10/王国(マルクト)】に近づいて鑑定を始める。

 

ちなみにユグドラシルの鑑定は、アイテムの要部分を視認しないと全データが判明しない。

運営いわく「刃の部分を見ないで剣の切れ味(攻撃力)が分かるわけないでしょう」とのことである。

もちろん不評であったが修正されていない。無駄なこだわりである。

そのためか鑑定も慣れない人間より慣れた人間は、鑑定がうまいなどと言われたりする。

 

「というか、これってワイズマンさんとの自己紹介の場として用意したんだよな?」

「そうだね。僕としてはこちらの紹介はまったくできていないけど、ワイズマンさんがどういう人なのかはよく分かるね」

「とりあえずワールドアイテムの詳細鑑定とか、どんな結果が出ますかね? 設定とか非常に興味があります」

 

メンバーが口々に好き勝手なことをいう中、鑑定を終えたワイズマンがメンバーのほうをを振り返る。

 

「どうやらこのアイテムに触れるとクエストを受けられるようですね。試してもらえますか?」

「触れたことありますけど、どこです?」

「この下のところにあるレリーフの部分です」

「その上の宝石のところじゃないとか、悪意ありすぎやしませんか」

「まあまあ、早いところお願いします」

 

ワイズマンにせかされたモモンガが指定された部分に触れると、空中にポップが現れる。

 

『クエスト『王国の始まり』が完了しています。報酬を受け取りますか? <YES/NO>』

 

「……なんでしょう。すでにクエスト完了しているんですが」

「そもそもクエスト受けてないよね」

「設置したときはどうだっけか」

「確か名前で玉座の間を作ろうぜって話になったからよく覚えてない」

「モモンガさん、俺らがいないときになんかやった?」

「いや、そもそも玉座の間に用がなかったですし、来てすらいません」

「それもそうか」

「取り合えず、YESでいいだろ」

 

確かにクエストを受けて完了している以上、問題ないかとモモンガがYESを選択する。

 

『クエスト『王国の始まり』達成によりギルド機能<アバター配置>が追加されました。クエスト『王国の要』が開放されます。受けますか? <YES/NO>』

 

「クエスト受けてから機能確認でいいですかね?」

「いいと思います」

 

たっち・みーの言葉にみんながうなずいたのを見て、更にYESが選択される。

 

『クエスト『王国の要』を開始します。クエスト『王国の要』が完了しています。報酬を受け取りますか? <YES/NO>』

 

一同に沈黙が落ちる。

 

「……これは、なんだか分かりませんが内部的にはクエスト達成条件をカウントしてたってことでしょうか?」

「いや、この場で即座に条件達成が確認されたのかもしれない」

「なんか微妙だけど先に進めようよ」

 

『クエスト『王国の要』達成によりギルド機能<ギルドの威光>が追加されました。クエスト『王国の守り(1)』が開放されます。受けますか? <YES/NO>』

 

「なんだか嫌な予感がしてきました」

 

モモンガの呟きに周りにいるメンバーは沈黙を返したのだった。

 

 

結局、クエスト『王国の守り』シリーズは6まであり、すべてが受諾と同時に達成扱いとなった。

 

「えー、大変微妙なことになりましたが、最後に受けたクエスト『王国の団結』と追加された機能を確認しましょうか」

 

気を取り直すようにモモンガが宣言し、メンバーが同意する。

しかし、餡ころもっちもちが待ったをかける。

 

「いや、ここじゃなくてもよくないかな? ここって玉座くらいしか座るとこ無いし。ワイズマンさんの鑑定が終わったんならどこかの会議室にでも行こうよ。何よりみんなワイズマンさんに挨拶できてないよ」

 

もっともな意見に改めて仕切りなおしとなった。

 

 

*   *   *

 

 

「では自己紹介も終わったところで、ワイズマンさんに鑑定結果を発表してもらいましょう」

 

モモンガが水を向けると、ワイズマンが立ち上がった。

 

「えー、まず追加された機能から、でいいですかね?」

「できればクエストがなんだったのかも聞いておきたい。後、教えて問題ないようであればなんだが、なんでワイズマン氏が隠し要素に気がつけたのかも知りたい。そもそもいつ鑑定したんだ?」

 

ウルベルトが要望を上げ、ワイズマンはそれに一つ頷きを返すと話し始めた。

 

「まず鑑定なんですが、この眼鏡のおかげですね。これは常時鑑定を発動させるだけのアイテムなんですが、重宝してます」

「……たしか鑑定って結構ポップアップでかいから周りが見難くなったりするんじゃなかった?」

「そもそも常時そんなに文字をみたくないよ」

「慣れれば読み流すくらいはできますし、見たことがないもの以外は縮小するように設定してますので。うっかり未発見のものをスルーしてしまうとかもったいないじゃないですか」

 

そういう問題じゃないだろうとアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは思ったが口には出さなかった。

むしろそういう馬鹿みたいなこだわりは歓迎する面々である。

 

「なんで気がついたかは簡単です。ワールドアイテムにしては効果が弱すぎたからですね」

「そんなに弱いかな? 拠点ポイント大幅アップってかなりのもんだと思うけど」

「それはこの広大なナザリックを擁しているみなさんだから言える台詞です。最小の拠点でも同じことが言えますか? 何より課金アイテムで代替できる程度のワールドアイテムなんぞあってたまりますか」

 

なにやらワールドアイテムというものに強いこだわりを感じる発言であったが、同時に納得もできる話だった。

二十ほどでないとはいえ、ワールドアイテムは大体壊れ性能である。

配置NPCが増えた程度で「壊れ」を語るのはさすがに無理があった。

 

「では判明したクエスト内容と追加された効果ですね。クエストは終わっていますので大雑把でいいですかね」

 

 

クエスト『王国の始まり』:一定以上の大きさの拠点にワールドアイテムを設置する。

追加機能<アバター設置>:ギルドメンバーがインしていない時に限り、ギルドメンバーとまったく同一の能力を持つアバターを拠点に配置できる。

 

クエスト『王国の要』:一定以上のデータ量でギルド武器を作成する。

追加機能<ギルドの威光>:ギルド武器をギルドリーダーが装備している場合、ギルドメンバーおよび拠点配備NPCのステータスが微増する。(ギルドリーダーのレベル依存)

 

クエスト『王国の守り(1)~(6)』:一定以上拠点を拡張する。(6段階)

追加機能<ギルドの庇護>:拠点内部に限りギルドメンバーおよび拠点配備NPCの各種耐性が上昇する。

 

 

「おい、待て。<アバター設置>ヤバいだろ!? なんなの? 常にフルメンバーでお出迎えってか?」

「いや<ギルドの威光>も大概だろ。特に最後の『レベル依存』がヤバい。倍率書いていないのが余計不安をあおる」

「耐性上がる<ギルドの庇護>もおかしいよ? だって普通は何かしら消しきれない弱点が残るわけで、それが消えるってことはナザリック内部では弱点なし状態ってことだよ?」

「取り合えず、なんでクエストが次々完了したのか分かりましたね。我々が金を突っ込みすぎた、と」

「ぷにっと。それはそうだが今そこに突っ込むのか?」

 

一気に騒然となるメンバー。

ワールドアイテムが壊れ性能なのは分かっていたが、今まで何気なく使っていたものがヤバかったというのは衝撃が大きい。

もっともワールドアイテムを何気なく使えるのはこのギルドくらいなのだが。

 

「えー、最後のクエストの話、しなくてよいので?」

「あ、そうでした! みなさん、まだ最後のクエストの話を聞いてません。いったん落ち着いて聞いてしまいましょう。……これ以上の壊れ性能だったら、どうしましょう?」

「もう、どうにでもなれ、だな」

 

みんなを落ち着かせたいのか動揺させたいのか分からないモモンガの言葉に、ボソッと弐式炎雷が返す。

それに引きつったような様子を見せつつモモンガが「どうぞ」と続きを促した。

 

 

クエスト『王国の団結』:ギルドメンバー全員に王国内の「称号」を設定する。「称号」は一覧から選択する。最低10人以上が設定しなくてはならない。完了には全員がインしている必要がある。

クエスト報酬:「生命の木の丘」への扉設置

 

「まさに団結を試すクエストってわけか」

「人数多いと達成難しそうだな」

「というかつい先日までだと俺たちも人のことを言えない」

「……大丈夫ですよ! みんな帰ってきてくれたんですから」

 

ブルー・プラネットが悲しそうに言うのをモモンガが必死にフォローする。

 

「しかし、生命の木の丘、ですか」

「ワイズマン、お前何か知っているのか?」

「たぶん、ですがね」

 

ぷにっと萌えがワイズマンの態度から何かを知っているのではないかと問う。

 

「おそらく未発見のワールドエネミーがいる世界にいけるのではないかと思われます」

「その報酬は?」

「今となっては意味がなさそうなんですが」

 

そこで一度ワイズマンは言葉を切った。

 

「たぶん生命の木の実って、限界突破アイテムなんですよね」




とりあえずアインズ・ウール・ゴウンが戦うラスボスのほうを出す準備が整いました。
ラスダンなんだから自分たちのボスもここにいるべきでしょう。

その後本人たちがラスボスになれば問題なし。

ついでに活動報告のほうで質問と懲りずにまたアンケートです。
お題はモモンガさんの扱いと超位魔法「アインズ・ウール・ゴウン」について。
よければコメントしてください。

しばらく夜勤が続くので間が空くかと思います。


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王国の称号

題名と内容が微妙に合っていない気もする。
とりあえずこの話で強化準備は終わり。拠点改装はちょっと後です。
しばらくは冒険とかのんびりパートになるはず。


ワイズマンが職業・種族を調べていく中で、文献やNPCの会話の端々に出てきたことがある。

どう考えてもレベル100以上なければ完成しない職業構成の存在である。

それらは後に「ボスやNPCの職業構成」という形でユグドラシル内で確認されたが、ワイズマンは納得できなかった。

諦めが悪かったともいう。

 

しかしその諦めの悪さによってワイズマンはとあるアイテムの情報にたどり着いた。

全ての情報の中に少しずつ「なにかを食べた」「特別な恵みを受けた」といった情報がまぎれていたのである。

そのアイテムの名前を【生命の木の実】といった。

 

 

「なので限界突破アイテムだと思ってたんですよ。ワールドアイテムかと思ってましたが。まあ、ワールドアイテムで行ける未知のワールドにあるのならば、それほど間違ってはいませんでしたね」

 

ワイズマンはそう語り、少し間を置いてから「しかし」と口を開く。

 

「まさか、やめようと思った理由に今さら出会うことになろうとは思いませんでしたよ」

「え?」

 

モモンガが驚いたようにワイズマンを見る。

 

「正直、運営にも腹が立っていたんですよ。ずっと追いかけてきた限界突破職業。それを達成するためのアイテムにプレイヤーが気がつかないだろうと言わんばかりの限界突破キャンペーン。あまつさえそのワールドアイテムに匹敵するだろうアイテムを課金で販売する始末。ふざけていると思いませんか? ふざけてますよね?」

「何かしらやめる理由があると思ったが……割とくだらないな」

 

ぷにっと萌えが呆れたように言うと、ワイズマンは食って掛かるように反論する。

 

「くだらないとは何だ! ずっと探していたアイテムが貶められたんだぞ。どんなものだろう、どう手に入れるのだろうと想像していたのにそれがいきなり奪われたんだ。失意でやめたくなったっておかしくなかろう」

「そう聞くとおかしくないかもしれないが、結局のところ運営が実装する前に発見できなかったお前が不甲斐ないだけだろう」

「途中で止めていったくせに限界突破でノコノコと戻ってきた人間に言われたくはないな!」

「なんだと!」

 

ぎゃあぎゃあと喧嘩する二人を見て、たっち・みーがぼそりと呟く。

 

「喧嘩するほど仲がいいというやつだな」

「貴様に同意するのは癪だが、そうなのだろうな。ぷにっとさんのあんな姿ははじめて見る」

 

ウルベルトが同意するのを聞いて、モモンガがぼそりと「二人の喧嘩と大差ないんだけどなあ」と言ったのが聞かれなかったのは、きっと幸いなのだろう。

 

 

*   *   *

 

 

「では、『称号』を決めましょう。なんというか、無駄にたくさんありますね」

「『宰相』『元帥』『宮廷魔術師』『道化師』『宮廷錬金術師』『王国軍師』『園芸家』『司書』……」

「『その他』ってものあるな。こんだけあって使う機会があるかわからんが、自由に設定できるようだな」

「職業で見たこともあるやつがまじってるけど、一応別物っぽいな。案外、同じ名前の職業と称号取ったらボーナスつくかもしれないけど」

 

確かにあるかもしれない、などと盛り上がりつつメンバーは称号の効果を確認する。

一応ステータスやスキルに補正があるようだが、職業や種族と異なりレベルを圧迫しない分だけ効果は弱めとなっているようだった。

その分気楽に選べるので、ロールにもこだわりのあるアインズ・ウール・ゴウンでは議論が始まった。

 

「ぜひとも『宮廷魔術師』がほしいな。クールタイムが少しでも減少するのはおいしい」

「『元帥』にするか『剣術指南役』にするか……」

「たっちさんは剣以外も使うんだからここは俺に『剣術指南役』を譲るべき」

「『武芸百般』の効果はスキルの効果微増か。強いんだか弱いんだか」

「『宮廷錬金術師』いいね。誰か取ってよ。でかい物作るときに素材節約できる」

「俺は『芸術家』だな!」

「おまえは『道化師』だろ。それか『トラブルメイカー』って作ってもいいくらいだ」

「ほら、モモンガさんも選びなよ。何で引っこんでいるのさ」

「いや、私は余ったやつから選ぶんでいいんですが……」

「そんなこと言わない! まずはほしいもの選んでからみんなで相談すればいいんだよ」

 

賑やかにメンバーが相談する中、ヘロヘロが体をアーチ状にぐにょんと曲げる。

気になることがある時にヘロヘロがよくやるモーションである。

目ざとく気がついたモモンガが声をかける。

 

「ヘロヘロさん、どうしました? 何か気になることでも?」

「あ、うん。何ていやいいいのか。これって王国の役職だよね?」

「まあ、『王国の団結』ですしね」

「どこにも『国王』とか『王様』ってのがないんだよね。ちょっと変かなーって思ってさ」

 

その言葉を受けてメンバーは称号の一覧を見直す。

 

「確かに、ないなあ」

「王様は職業だからないとか?」

「それは他のも職業って言えるからないだろ。あ、血筋に依存するからとか?」

「でも初代なら血筋とか関係ないですよ。何しろ最初が『王国の始まり』だったんですから、設定的には今が建国直後のはずです」

「さすがタブラさん、よく覚えてるね」

「いや、あんたはもう少し周りに注意を払うべき」

 

あれこれ予想を立てるメンバーに、横で見ていたワイズマンが口をはさむ。

 

「王国のリーダーが国王なんですから、モモンガさんなんじゃないですか?」

 

案外もう設定されてたりして、という言葉に全員がモモンガの方を向く。

一応確認してみようと頷きを返してモモンガがステータス画面を開く。

 

 

称号:『魔王』※属性が極悪のため名称が変更されています

『国王』効果:1.配下の数・レベルに応じて一定期間ごとに経験値と金貨が入手できます。

       2.所持している職業に応じてステータスが強化されます。

『魔王』効果:1.スキル『魔王軍』が追加されます。

 

 

*   *   *

 

 

モモンガは死霊系魔法を強化できる『墓守』を取りたかったのでしばらくごねたが最終的に受け入れた。

ギルド長が『墓守』では格好がつかないというウルベルト。

設定的にナザリック地下大墳墓の王ならば『墓守』と変わらないというタブラ。

今までギルドをまとめ上げてきたモモンガなら大丈夫だというたっち・みー。

彼らの説得と、何よりちょっと格好いいかもなどと思ってしまったが故である。

 

「では、いよいよ扉の設置ですが、どこにしましょうか?」

「まあ、作るなら下層部だよね。上に置いとくのはちょっと無い」

「できれば一番下だよな」

「確か昔のRPGだと魔王の玉座の裏に秘密の階段があったはず。ここは様式に則って玉座の間の最奥に作るべき」

「設置したのが光ったりして目立ってたらどうすんのさ?」

「あー、移設できない可能性があるか。そこんとこどう?」

「調べた限り1つしか作れないだけで移設は可能のようです。見た目も外装データいじれば変更できるみたいです」

「となると暗黒の渦とか、壮麗な門とかもできるんだな」

「入り口の門で全力出し切ったから、作るなら渦だなあ」

「そうなると玉座の後ろに隠し扉を作ってそこに専用の部屋を作るべきだね」

「部屋か。内装どうしよ」

「とりあえず「生命の木の丘」に行ってそこのイメージで作ればいいさ」

「それもそうだ」

「なんにしてもすぐには無理ってことですね」

 

そうモモンガがまとめるとワイズマンが至極残念そうにしつつも隠しきれない熱意で提案してきた。

 

「ああ、追い求めていたアイテムがある未知の世界に行けるのにおあずけとは……実にもったいない。ちょっとだけ先にのぞきに行きませんか? いや行きましょう」

「……あの、そのことなんですが」

 

扉の仕様を読んでいたモモンガがものすごく言いにくそうに口ごもり、意を決したように言った。

 

「この扉、【セフィロトの10/王国(マルクト)】の影響下にある存在しか通れないらしいです」

「え?」

「つまりアインズ・ウール・ゴウンのメンバーでないと、その、「生命の木の丘」に行けません」

 

瞬間、ワイズマンの動きが止まり、数瞬ののちアバターが消えた。

それを見て厳かにぷにっと萌えが告げる。

 

「ショックのあまり気絶して、強制ログアウトしたようです」

「……これ、連れていく方法考えないとものすごく面倒なことになるんじゃないでしょうか」

 

モモンガの呟きに答えるメンバーはいなかった。




最後に書きましたがワイズマンさんどうしよう。
最終日になら入れてもいいかと思いましたが、考えたら「生命の木の丘」に行くために押しかけてきそうなんですよね。
まあ、なるように書こう。


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魔王軍胎動編
新たに知ること ※ぷにっと萌え視点


ここから別の章

せっかくなので一人称を試してみました。
最初はぷにっと萌えさん視点。
なんか三人称でも良かった気がします。

とりあえず改稿するにしても完結してからかな。


ダイブシステムが普及し始める前後、当然のように安全性が問題として上げられた。

流石に意識がネットワークに取り残されるのではなどという妄言を吐く人間はごく少数だったが(逆に言えば僅ながらいた)、ショッキングな映像を見て心臓発作を起こす人間がいるように、より実体験に近い臨場感を提供するダイブシステムが現実の人体に影響を及ぼすと考えるのは自然なことだった。

そのための対策の一つとして強制ログアウトがある。

これはダイブ中の人間の心拍数や脳波が著しく乱れた時などに実行され、俗に「気絶」などと呼ばれる。

ダイブシステムが一般的に使用されるようになってからは、滅多にない事象だったがワイズマンにとってはそれほどショックだったのだろう。

長らくゲームから離れていたためか、あいつの入れ込み様を忘れてしまっていたらしい。

後で謝る必要があるだろう。

 

申し遅れたが、私はぷにっと萌え。

アインズ・ウール・ゴウンで軍師と呼ばれる男である。

 

 

*   *   *

 

 

「取り合えず、ワイズマンさんを連れて行かないっていう選択肢もあるかと思いますが、それを支持する人はいます?」

 

モモンガさんが、本当に取り合えずといった様子で話を切り出す。

ありがたいことに、その意見に賛成するメンバーはいなかった。

あいつがいなければワールドアイテムの真の力がわからなかったというのもあるだろうが、友人の望みが否定されなかったことは素直に嬉しい。

 

「となると、何かしら連れて行く方法を考えないといけないわけですが」

「ギルドに加入させるのではだめなのか? 彼は社会人だろうし、異形種を取ってさえもらえば問題はないだろう?」

 

たっちさんが挙手をしてそんな意見を言う。

モモンガさんが何か言おうとした瞬間、ウルベルトさんが口を挟んだ。

 

「そう簡単にはいかんだろうな」

「……なんだ、ワイズマンさんの加入に反対するのか? ワールドアイテムを鑑定してもらったというのに薄情だな」

「別にお前の意見だから反対しているわけじゃない。現実的に考えて問題があると言いたいだけだ。ワイズマン氏がソロプレイヤーだったり、ごく普通のどこにでもいるプレイヤーなら特に問題もなかったんだが。彼は第二位のギルドのリーダーだ。こちらの都合で引き込むわけにもいくまい」

「それは……」

 

たっちさんがこちらに視線を向ける。ワールド・サーチャーズを知っている私に意見を聞きたいということだろう。

頷きを返して私は口を開いた。

 

「この前、モモンガさんと「名も無き図書館」を訪ねたときですが、数人とはいえプレイヤーに会いました。彼らに引き継げるなら移籍してくる可能性はあると言えます」

「それだけではないな」

 

ウルベルトさんが更に問題点を上げる。

 

「ワイズマン氏が入ること事態は喜ばしいし歓迎したい。だが、ワールド・サーチャーズとの同盟、いや、より正確には彼らの持つ知識か。ワイズマン氏がワールド・サーチャーズを抜けてしまえばその知識は利用しにくくなってしまう。何しろ同盟と言いつつワイズマン氏個人の関係によって知識を利用させてもらっている状態だからな。ワールドアイテムの真の力なり、限界突破職業なり有益な情報があるだけにワールド・サーチャーズとはできれば関係を維持したい」

「それはこちらの都合だろう? ワイズマンさんの移籍には関係なかろう」

「直接は関係ないな。だがワイズマン氏がワールド・サーチャーズを抜けることで損があるのも事実。せっかくだから関係を維持したいというのは間違いか?」

 

ウルベルトさんとたっちさんの意見を軸にメンバーが議論を続ける。

大筋で加入は認めても良いという意見が多く、ワールド・サーチャーズの知識利用については意見が分かれるといったところか。

結局のところ、「未知のワールドに連れて行く」という事にどの程度価値をつけるのか、が焦点になるのだろう。

ワールドアイテムを使わなければ行けないワールド。

その価値は低くは無いが、ワールド・サーチャーズが今まで集めた情報に匹敵するのか、と言われたら私も即答はできない。

膨大な時間をかけた情報と今まで発見されなかった希少性のある情報。その天秤はどちらにも傾きうる。

 

「そうですね。結局ワイズマンさん次第なところが大きいです。加入を申請してくるようであれば受け入れで、知識の利用についてはそのときまた相談しましょう」

 

案外、全部覚えているかもしれませんよ、などとモモンガさんが先延ばしを提案する。

さすがに覚えてはいないと思うが、700以上ある取得魔法を全部丸暗記して活用できる人間がいうと信憑性があるのが困りものである。

話が一段落したので、私はもう一つの可能性を口にした。

 

「一応、加入なしでも「生命の木の丘」に連れて行けるだろう、方法はあります」

「え? ならなんで早く言わないんだよ。加入の議論する必要なかったじゃないか」

「いや、加入させられるならそれが一番簡単なんです。こっちは可能は可能なんですが」

 

そこでいったん切ると「面倒?」「難しい?」とみんなが続けてくる。

 

「面倒で難しくて、恐ろしく簡単です。ワールドアイテムを装備してもらうだけなんです」

 

私がそういうと、メンバーがそれは考えてなかったとい表情をした。

以前我々が【ウロボロス】で封鎖された世界をワールドアイテムによって突破したように、ワールドアイテムの影響によって進入制限があるなら、ワールドアイテムあるいはワールドクラスの職業で突破は可能なはずである。

試していないから確実といえないのがアレだが、突破できる可能性は十分ある。

 

「そっちの問題は?」

「まず、ワールド・サーチャーズはほとんどワールドアイテムを持っていないはずなんです。あいつらはワールドアイテム一つより、未知のデータクリスタル一個に価値を見出すやつの集まりでしたからね」

「でも持っているには持っているんだろう?」

「個人の所有じゃないので持ち出しに制限があるでしょう。何より我々はPKギルドですよ? そんなところにワールドアイテムを装備した人間を一人で送り込みますか?」

「……まあ、ありえんな」

「でしょう? かと言ってうちから貸し出すのも違うでしょう。持ち逃げするようなやつでは無いと言わせてはもらいますが、ワールドアイテムはギルドメンバーでないものに貸すような代物じゃない」

「でも、それならば知識を利用させてもらうのに問題は起きないわけか。ワイズマンさんに異形種を無理にとってもらう必要も無いしな」

「これまた条件次第、か」

 

そう、結局のところどれだけあいつが未知の世界に行ってみたいと考え、どれだけこちらに対価を払えるかが重要になるのだ。

入れ込みようは知っている。だから行く事を諦めないのは確実だ。

しかし、あいつは我々の協力者であって、いまだ仲間ではない。

回答待ちか、と思っていると、モモンガさんが遠慮がちに口を開いた。

 

「えーと、なんと言うか。私が得たスキル『魔王軍』をつかったら何とかなるかもしれません」

 

私を含めてメンバーの視線が集中する。

そうしてモモンガさんが語った内容は確かに彼が発言を遠慮する「酷さ」があった。

取り合えずそれは最終手段ということで保留にされた。

あの様子なら明日にでも談判に来るだろうということで、ワイズマンの出方を待ちつつ扉を設置することになった。

 

 

*   *   *

 

 

そして次の日。

 

「えーと、これはどういうことでしょう?」

 

モモンガさんが困惑している。ついでに私も他のメンバーも困惑している。

ワイズマンだけでなく、他にも10人以上のプレイヤーがそろってモモンガさんに頭を下げていたからだ。

どうしてこうなった。

 

「ですから、我々ワールド・サーチャーズ現メンバー全員がアインズ・ウール・ゴウンに移籍したいのです。どうせなので合併をお願いしたい」

 

……どうやら未知のワールドはワールド・サーチャーズにとって今まで築き上げたギルドを投げ捨ててもいいほどに価値があるものだったらしい。

正直アインズ・ウール・ゴウンにとって利益がありすぎて信じられない気分である。

 

「え、でも、みなさんずっとワールド・サーチャーズを守ってきたのでしょう? 簡単に決めちゃっていいんですか!?」

 

そうだ、モモンガさん言ってやれ。

 

「もう半年ないんです」

「え?」

「一つのワールドを調べつくすのに半年ないんです。行ったら終わりではないのです。隅から隅まで回り、アイテムを探しつくし、素材を確認しレシピをあさり、情報を纏め上げるには時間が足りません。手段を選んでいる場合ではないと言うのが我々の結論です」

 

私の友人は想像以上に、「馬鹿」だったらしい。知りたくなかったかもしれない新しい発見である。

だが、悪くない。

そう思える私は、やはりやつの友人なのだろう。




とりあえずワイズマンさん達の行く末は次回。
なんかもう結論は出ている気もしますが。

この章ではメンバー切り替えつつ一人称で書いてみようかなと思ってます。
難しいけど。
でもできないと言うことに挑戦することが大事! のはず。


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魔境 ※ペロロンチーノ視点

前回書き忘れましたが、ユニークアクセス十万、お気に入り2500行きました。
やはり嬉しいですね。
今回は「生命の木の丘」のさわりだけ。
早いところアンケートで貰った名前使いたいです。


ログインしたらギルドメンバーが13人増えていた。

わけわからん。

 

どうやら強制ログアウトさせられたワイズマンさんは、目を覚ますやいなや稼働しているワールド・サーチャーズのメンバーに連絡をとったそうだ。

最初はワイズマンさんがギルドを止めるという話だったそうだが、聡いメンバーに新発見があったことを嗅ぎ付けられ、渋々「生命の木の丘」のことを打ち明けたらしい。

ワイズマンさんの今までの調査結果から、そこが謎の新ワールドであるらしいとわかった瞬間、我も我もと行きたがったというのだ。

そしてどうせみんな行きたいなら、合併してもらおうと決議されたそうだ。

仕事が早すぎると言わざるを得ない。

 

まだ、見にも行っていないのに気が早いというか勇み足過ぎるだろう。

 

あ、そうそう。俺はペロロンチーノ。

姉に虐げられる哀れなエロの求道者である。

 

 

* * *

 

 

何が彼らを駆り立てるのだろうかと、姉ちゃんにこぼしたら、「あんたがエロゲ買うようなもんよ」と返された。

 

未知の世界と我が人生が同等とな?

……つまり未知の世界とはクリアしてないエロゲであり、彼らはそれをパッケージ買いしてしまったと言うことか。

それならば仕方あるまい。好みの子がパッケージで誘ってたら手を出しちゃうよね。

大抵、姉ちゃんが声を当てて萎えるのは忘れよう。俺は可能性にかけたのだ。

下調べしろとか無粋なことは言わないでくれ。

 

 

* * *

 

 

さて合併であるが、ユグドラシルのプレイヤーが減った時期にギルドの統合をやり易くするために実装されたシステムである。

拠点が双方にある場合、移築もできたりするのだが二つを一つにまとめることもできる。

大抵は渡り廊下をつけたような不恰好なものになるのだが、ナザリックなら余裕で内部に図書館を飲み込める。

場所は第10階層の図書室付近。

近日中に資料を図書館で管理することになり、図書室のNPCも移動することとなった。

ちなみに資料は申し訳程度にしか整理されておらず、源次郎さんがはりきっていた。

 

問題は彼らの拠点のNPCだった。

NPCそのものはポイントが足りれば引き継ぐことも可能なのだが、そのポイントはアインズ・ウール・ゴウンに依存するのである。

モモンガさんがレベルアップすれば、直に解決する問題なのだが今すぐには足りない。

そこでモモンガさんが得たチートスキル『魔王軍』の出番である。

なんとこのスキル、ユグドラシルのプレイヤーやNPCを魔王軍=アインズ・ウール・ゴウン所属にできてしまうのである。しかも無制限に。

彼らが俺の(ここ大事)シャルティアのように愛を注いだNPCがいても安心である。

 

なぜかこのすごいスキルを話すのをモモンガさんは躊躇っていた。

そしてウルベルトやぷにっとさんの反応がおかしかった。

拠点が強くなるんだから特に問題ないはずなんだがな?

 

 

* * *

 

 

いろいろあって、数日後。

俺たちは全員揃って「生命の木の丘」に突入した。

総勢54人、なんと9パーティーも作れる人数である。

なので、たっちさん率いる物理系パーティー、モモンガさん率いる魔法系パーティー、死獣天朱雀さん率いる機動力重視パーティーの三チームに分けて統率することになった。

どのチームにもワールド・サーチャーズのメンバーがいて懇親をはかる目的である。

ちなみに俺は機動力チーム。飛べるからね。

 

「生命の木の丘」の第一印象は「きれいな場所」である。

特筆すべき特徴があるわけでなく、静謐な森、太陽光を反射して煌めく湖、穏やかな空といった風景が広がっている。

森の先が盛り上がっており、そこに遠目からでもわかる巨大な木が見えた。

恐らくあれが「生命の木」なのだろう。

 

出たところは世界の端っこだったようなので、最初は三手に別れて行動を開始した。

俺たちのチームは自前の飛行能力や≪飛行/フライ≫を使っての空中移動である。

空中からざっと見た限り、この世界は他の9つの世界ほど広くはない。

正確に測っているわけではないが体感で3分の1くらいに思えた。

 

で、平和だったのはここまで。

空中をショートカットとか許してくれる運営じゃないと思っていたが、レベル160のドラゴン系エネミーが出やがった。

まあね、1体ならどうにでもなったよ?

こちらは100レベルをちょっと越えた程度とはいえ3パーティーいるんだしね。

だけどさ、それが4体ってどうよ?

あいつら普通にボスとして配置されるエネミーだよ? ラスダンではボスが雑魚として出て来るっていっても限度があるだろ。

幸いなことに(?)ボスからは逃げられないなんていう仕様は無かったため撤退できたわけなんだが……

やっぱ空中ショートカットは無理だねーなんて話ながら戻っている最中、モモンガさんからヘルプが飛んできた。

 

「天使系エネミーと遭遇! ボスクラスが2体、100レベルの熾天使が取り巻き(・・・・)としてついてます。可能なら救援を!」

 

魔法チームの主力はウルベルトさん。当然属性は極悪であるため被ダメージ的に大変不利である。

こっちの攻撃も多少通りやすくなるから致命的ってわけでもないが、ボスの攻撃を食らえば即座に瀕死である。

できるなら避けたい相性の敵だ。

 

「ふむ、2チーム回して撤退を支援すべきかの。天使系が多いならたっち君は恐らく問題ない。じゃあペロロンチーノ君、君が指揮をとって……」

 

朱雀さんの采配に俺が了解を返そうとした時だった。

今度はたっちさんから救援要請が届いた。

 

「こちら、たっち・みー! 同じく複数の悪魔系(・・・)ボスエネミーと交戦中! できれば、救援を頼みたい!」

 

俺たちは顔を見合わせた。ユグドラシルの常識的に考えてボスエネミーがそんなに近距離にいるのはおかしい。

いや、RPGとして考えても当然だろう。

ボスに集中して戦ってたら横から別のボスが殴りかかってくるとか、クソゲーにも程がある。

おまけに天使と悪魔という属性的に真逆のエネミーが比較的近距離に湧くというのもおかしい。

何よりこの難易度がおかしい。

だってここは限界突破前に来るはずの場所(100レベルが適正の狩り場)であるべきなのだ。

 

「……悩むのはあとだ。俺のパーティーはモモンガさん達の救援に行く。朱雀さんは全体を管制して出口確保して。この分だと入り口付近もどうなってるか考えるのが怖い。残りがたっちさん達の救援だ!」

「! 承知した!」

「オッケ。みんな急ぐよ!」

 

その後、俺はモモンガさん達に合流して大火力でヘイトを稼ぎがちなウルベルトさんを援護しつつ撤退した。

驚いたことにボスエネミーは「名持ち」だった。ガブリエルとハニエル。超のつく有名どころである。

正直こんなところでうっかり出会っていいモンスターではない。

運良く、本当に運良くモモンガさんの即死攻撃が取り巻きを倒してくれたので回復持ちのガブリエルを落とすことに成功。

全員が切り札を投入してハニエルを撃破すると即座に遁走した。

 

たっちさん達も敵を撃破して戻ってきていたがやはり切り札を使いきっていた。

さすがに誰もこれ以上探索しようとは言わず、「生命の木の丘」への第一回遠征は散々な形で幕を閉じたのだった。

 

魔境すぎんだろ。

 

 

* * *

 

 

その後のワールド・サーチャーズの資料再確認と推察でわかったことだが、「限界突破チケット」は「生命の木の実」のデータを流用しているらしい。

そして丘に突入したメンバーが使用した「生命の木の実」の総数でワールドの難易度が変動するとのことである。

俺たち既に1000個以上使ってることになるんだよな……

試しにワールド・サーチャーズのメンバーだけで突入したところ大分ましではあったそうだが彼らは戦闘能力が低く、奥地まで探索を継続するのは困難であるとのことだった。

中心部ほど敵が強くなるのできついらしい。

引き際を弁えてくれる人達で本当に良かった。

 

ちなみに門近辺で取れる素材だけでも高位のポーションが作れるとかでタブラさん以下製作班がめっちゃ喜んでいた。

あの状況で採取とか試していたとかさすがすぎる。

 

なんにしてもあの魔境探索は全員のレベル上げをしてからになりそうである。

サーチャーズの何人かは敵を避けつつ調査にいってくれるそうなので次は地形くらいは把握できているはず。

久々に事前準備を万全にしなければならないマップにワクワクしてくる。

 

最後にやまいこちゃんがあの混戦の中「限界突破チケット」を拾ったらしい。

さすがの豪運であるが、運営の設定の適当さにワイズマンさんが怒り狂ってたのを付け加えておこう。




散々な初回攻略でした。
本当はワールド・サーチャーズの誰かが新ワールドに入った瞬間どこかに突撃したりするかなと思いましたが、自重させました。
アインズ・ウール・ゴウンの心証を下げる意味もないですしね。

全く反省せずにまたアンケート。
例によって活動報告の方で答えて頂けたら嬉しいです。


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海 ※餡ころもっちもち視点

つなぎの話です。
無駄に時間がかかったのは女性視点を書いてみようとか思ったせい。

今回ついに四十一人のメンバーの種族を捏造してしまいました。
書かないと最終決戦時に活躍させる余地が減るんですよね。


アインズ・ウール・ゴウン女子会に新メンバーが加入した。

長らく3人だったのが6人に!

一気に2倍という快挙を成し遂げた訳なのだが、同時にいかにナザリックが男性率の高いむさ苦しい場所だったのか思い知らされた気分である。

 

まあね、女の子扱いされたいとかちやほやしてほしいとか思ったことはないのだが、こう。

同性が少ないってのは悲しいものなのだ。

元々PKKギルドだったわけだし、プレイヤーとのガチ戦闘を楽しむ女子が少ないのは分かってるんだけど……

 

探索ギルドで13人中3人が女子だったことを思うと、やはり方針による女子加入率の差を感じずにはいられない。

 

私は餡ころもっちもち。いまだアインズ・ウール・ゴウンで貴重な女子プレイヤーである。

……女子って歳ではないだろうという突っ込みはうけつけない。

 

 

*   *   *

 

 

第6階層の茶釜さんのウッドハウス(文字通り)で、私達は女子だけの親睦会を開いていた。

現在、ナザリック地下大墳墓の各地では元ワールド・サーチャーズのメンバー達との交流が活発に行われている。

趣味について語らう人、職業について考察を重ねる人、中にはそれなりの武闘派もいて手合せなんかしてる人もいる。

まあ、うちに人間種とかいないんだけど。中の人ということで勘弁してほしい。

 

そうそう。

元ワールド・サーチャーズのメンバーはゾディアックという名称が設定としてつけられた。

13人に設定を考えたいと言い出したのは、もちろんタブラ君であり、この中二病感あふれる名前を考えたのは意外なことにたっち君であった。

ウル君の「十三使徒」と最後まで揉めたんだけど、「使徒」にしてしまうと属性や種族に縛りが入るからやめたほうがいいという意見を持って勝敗が決まった。

言ったの私なんだけどね。

ものすごい悔しがってたから悪いことをした気になったが、いつものことだと思い出したのでそんなことはなかった。

 

個人的な意見になるが、ゾディアックの加入は旧メンバーにしてみたら非常に助かったという面があるのではないかと思う。

私自身もそう思っているし、るし☆ふぁーでさえそう感じているところがあるに違いない。

戻ってきた直後は、なんというか、みんなモモ君に遠慮があったんだよね。

何しろメンバーの装備を売り払うこともなく、ギルド資産に全く手を付けず、ナザリックというユグドラシルで一二を争うだろう巨大な拠点を一人で維持していたのだ。

誰も口にはしないが、この拠点の主は間違いなくモモ君だ。

いくら彼が「ここはみんなのギルドです」と言ってくれたって、年単位で留守にしていたのだ。

他人の家に(しかもとびぬけて豪華な)招かれて、「自分の家と思ってくつろいでください」と言われる気分といえば少しは伝わるだろうか。

 

そんな中で新しい風というか新メンバーの加入は雰囲気が変わる良いきっかけになったのだ。

(ダメージがでかい)思い出話だけでなく事務的な要件や報告が会話に含まれるようになったおかげで、かなりスムーズに話せるようになったしね。

以前よりもモモ君をギルド長として立てるようにはなったが、それも遠慮からではないと言い訳しやすくなったのは本当に助かっている。

 

 

*   *   *

 

 

「やっぱ、アウラとマーレに『魔法少女』取らせたいんだよねえ」

 

親睦会の話題は自己紹介を経て、自分達が今後取得する職業について話していたのだが、茶釜さんがそんなことを言いだした。

聞いたことのない職業である。

 

「ああ、コラボで追加されたやつだっけ? どんな特性だっけね」

 

私は首をかしげていたが、やまいこさんは知っていたらしい。

なんでも生徒達の間で流行っていたから記憶に残っていたのだとか。

子供でもいれば私も見ていたのだろうか。相手いないけど。

 

「基本的には遠距離補助ですが、わりとなんでもありな性能でしたね。魔法少女といえばそれこそビームから物理格闘まで幅広い無法地帯ですし」

「ああ、純粋にきらきらした感じのではないのか。大昔のは動物に変身したり、いかにも魔女っぽかったりしたはずなんだが」

 

新規加入したレイレイさんが詳細を教えてくれた。

あんまし詳しくなかったが魔法少女ってカオスなのか。いや、職業じゃなくて番組の方ね?

職業としては変身時限定で所持している他の「魔法少女っぽい」職業を底上げするようなスキルを持っているらしい。

純粋な騎士とかは「あんまり」強化されないらしいが、それでも強化候補に入るあたりがカオスの証明といえよう。

マーレは分かるけどアウラは大丈夫なのかと聞いたら、テイマーは魔法少女がマスコットを連れているからOKらしい。

ドラゴン・キンとかなんだけど良いのかと思ったが、中には魔王をマスコットにする魔法少女もいるから問題ないと返された。

本気でカオスだな、魔法少女。

 

それを皮切りに他のメンバーが取得する職業に話が移る。

モモ君が信仰系魔法職をとって『背教者(レネゲイド)』を取ろうとしてるとか、ウル君は『滅ぼす者(ヴィズル)』を狙っているだとか聞いたことない職業がバンバン出てくる。

私自身は種族『スキュラ』を取っているのだが、海の神様系の上位職業や上位種族が狙えるのでそちらを上げてる最中である。

本来のスキュラは海の神様に嫌われてたはずだけどね。

 

 

*   *   *

 

 

海といえば、現在ナザリック地下大墳墓内に海の階層を作る計画が持ち上がっている。

称号で建築家やら錬金術師やらを得たメンバーが、拠点のオブジェクトを再設置したら大幅なポイント節約になり特に課金しなくとも階層を追加できるくらいのポイントが浮いたのだそうだ。

我らのことながらお金をかけすぎである。

ゾディアック加入により彼らの専用階層を作るという話も出ているのだが、それとは別にぷに君が海を推しているのだ。

もちろんぷに君の発想なので、海の魔物がほしいとか、海にロマンを感じるとかそういうのではない。

理由を聞いたら大変えげつなかった。

 

私を含めてだが、現代人はまず「泳げない」のである。

昔は水泳が必修科目であった時代もあったそうなのだが今は違うのだ。

 

第一に泳ぐ場所がない。

海という大容量の水源すら汚染されているので、湖や川は言わずもがな。

きれいな水が貴重なのでプールとか超がつく贅沢品である。

要するに泳ぐ機会がほぼありえないので教わる必要性がない。

 

第二に泳ぎを教わる場がない。

泳ぎを使う機会がほぼ絶無なので、スイミングスクールがない。

正直この言葉に私もピンとこないくらいだ。なんでそんな商売が成り立つの? ってね。

 

第三に、ある意味これがとても大きいのだろうが人工心肺のせいである。

こんなもんをつけなければ外を歩けない世の中だ。

運動は人工心肺に負荷をかけるということで低所得層からは敬遠されるし、サイボーグ化して体内に入れてしまうと当然人間の体は浮力を失う。

厳然たる物理の法則が人体から水泳を奪うのだ。

 

そんなんなので現代人は総じて水に、というか足がつかない水中という環境にものすごい恐怖感がある。

息はできない、浮かない、体が自由に動かせない。

そのためかユグドラシルで水中戦闘というのは、海底を歩いて戦闘することである。

 

それを逆手に取り、底のない海(・・・・・)を作るというのだ。

つまり強制的に泳がせることで慣れない作業の精神的疲労でダメージを与えようというのである。

便宜上の()まで行ったら強制転移でナザリックの上空に放り出すという悪辣さである。

これは海底に建造物を作りたいというプラ君ともろに対立しているため目下議論中。

要は泳がせられれば良いのでぷに君が折れる形になるだろうと私は予想している。

 

海ができたら私もスキュラとして新規にNPCとか建造物を作りたいものである。

あ、それ以前に泳ぎの練習をしないとまずいか。

海の魔物が泳げないとか赤っ恥もいいところである。

 

 

そうやってみんながレベリングやら拠点改造計画を練ったりしている内にひと月が過ぎ、限界突破アップデートの第二弾が発表された。




ちくちく2号さんより「背教者」、人食い椎茸さんより「滅ぼす者」を採用させていただきました。
アンケートにご協力いただき誠に感謝しています。

次は本格的にナザリック改造です。
魔改造できないくらい完成度が高い難物なんですけどね。

そして相変わらずアンケート。
また活動報告に書きますんでよろしければどうぞ。


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新規階層 ※ブルー・プラネット視点

今回、地沢臨さん提案のキャラ「ワガハイ」さんを起用してみました。
アンケートに回答ありがとうございます。

とりあえず新規階層を追加したものの順番どうしたものかな?


「限界突破アップデート」から一ヶ月が経ち、アップデートの第二弾が実施された。

……なんというか第一弾に間に合わなかったものを追加したというイメージである。

細々とした追加要素はあるのだが、メインはやはり拠点の強化だろう。

NPCのレベル上限が200になり、拠点強化に必要なポイントが1割減となった。

いくぶんか大雑把なようにも思えるが、助かることに間違いはない。

しばらくの間NPCにレベルを上回られることになるが、うちの場合そのうち解消するだろう。

「丘」にボスがうじゃうじゃいるせいで、ワールド・サーチャーズ、今はゾディアックだったか、彼らも200くらいなら到達できそうなのだ。

 

そしてバランス調整は一切入ってない。

なんとなく運営の中の人がヤケになっているのではないかと心配になる。

さすがにそんなこともなかろうが。

 

俺はブルー・プラネット。

ある意味既に存在しない星の名前を冠した男である。

 

 

*   *   *

 

 

さて、しばらく前から計画されていた海の階層だがかなり物議をかもした。コンセプトは水中戦である。

既に水場なら地底湖があるのだが、あれはどちらかといえば水上で戦闘をさせることを意図したフロアであるため、水中の作りこみはさほどでもないし、水中戦闘をさせるようなNPCもそんなに配置していない。

……落ちたやつに追撃を仕掛けるやつならそれなりにいるのだが。

この辺の底意地の悪さはうちのギルドの定番である。

 

水中の戦闘をメインとしたフロアを作るとなるとデータ的な意味で容量がかなり厳しい。

なにしろ水で満たした部分は全部物理演算データを持つので深ければ深いだけデータを食うのだ。

そのため、地底湖を改装して海にすれば良いのではと言うぷにっと萌えに対して、ガルガンチュア作成を担当したぬーぼー達は当然大反対をした。

ガルガンチュアはその質量ゆえに水中では動きが鈍重になって性能を発揮しきれなくなるので、防衛には使えないとはいえ敢えて使用に向かない環境におきたくないらしく、何より巨大な物体が水の中から現れるという演出に力を入れてきた連中だけにその反対意見は強固だった。

「園芸家」「造園師」などの称号の効果で階層が追加できるようになったことで反対は収まり、海を作りたかった俺も大手を振って賛成に回ることができた。

 

それでも役割がかぶるのではという意見は根強く、ぷにっと萌えが底なし海にしようとしやがったので海底神殿とか沈没船を作りたかった俺とも意見が対立。

賛成派でも意見が分かれる事態となり、あわや海の作成は頓挫しかけた。

 

結局、泳がせられて海底があればいいのだろうということで地盤が島のように点在する深海の階層ということで何とか意見の一致を見た。

地盤がないところは白い砂でずぶずぶと沈んでいく仕様である。

俺は地盤のあるところに建造物が作れて満足、地盤から地盤まで泳がせられてぷにっと萌えも満足。

折衷案を出してくれた餡ころもっちもちさんには感謝である。

 

そうして作られた深海の階層はナザリックの例に漏れず薄暗く、光で敵対プレイヤーを誘導しやすいエリアとなった。

もちろん明るいところに下に続く道はないが、さすがにノーヒントというのは美学がない。

沈没船内の看板と海底神殿の石版から下への転移地点を割り出さないといけない仕様となった。

まあ偶然たどり着く可能性もないわけじゃないのだからそこまで悪くはなかろう。

 

 

*   *   *

 

 

拠点拡張に必要なポイントが減ったことでゾディアック達の専用階層も追加できることになった。

彼らに望むのはリドルを駆使したエリアである。

今まで溜め込んできた知識を使えるとあって、彼らは大変喜んでくれたのだが……そろいもそろって他人に合わせて問題を作る能力に欠けていた。

問題はいくらでも作ってくれるのだが難易度は「難しい」を通り越して「誰がわかるか馬鹿野郎」レベルである。

彼らには「易しい」とか「普通」の問題を作ることの方が無理難題であるらしい。

 

幸い個人的に親しくなったワガハイさんが企画力があったのでテーマを振ってもらった。

この方はフィールドワークを積極的に行う大学教授とのことで、朱雀さんともリアルで知り合いだったらしい。

選んだ異形種も「狭いところでも入れるし夜目が確保できる」との理由でケットシー(しかも選択できる最小サイズ)と探索優先の方である。

きちんと世界最小の山猫「クロアシネコ」をモチーフにしている辺りが大変すばらしい。

テーマを絞ることでマニアックすぎる問題以外もなんとか出してくれるようになった。非常にありがたい。

 

「しかしどうやって謎解きを強制させますかねえ」

「ふむ、我輩は何かしら進行ルートを絞らせる要素があればよいと思うのである。確か攻略時には問題を解かねば開かない扉のトラップなどがあったぞ?」

「それなんですが、ダンジョン内の扉の設置数は決まっているんですよ。ナザリックでは一階層ぶち抜きで作ったりして扉の数をなんとか節約している状態なんです」

「そいつは困ったの。となると問題を解かないとペナルティを与えるトラップか?」

「そいつは稼動させるのに金貨が結構な量必要でして……」

「大量の敵を迎撃するには向かんか。世知辛いのう……」

 

ぷにっと萌えに相談したところ、空中庭園を提案された。

浮島を橋でつないだようなエリアで足場以外は空である。

ここまで来るプレイヤーで空中戦に対応していないやつなどいないだろうからショートカットされるのでは? と言うと「飛んでいるプレイヤーは攻撃するが足場にいるプレイヤーは攻撃しないようにすればいい」と返された。

飛ばないことにメリットがあるなら道なりに進むだろう、とのことである。

ついでに下層に作ればそれまでの消耗を考えて戦闘を控えたり飛行に使用するMPを節約する可能性もある。

確かに意地の悪い仕掛けが満載のナザリックにおいて、攻撃されずに休めるというのは魅力的に見えるはずだ。

……解かされる問題は極悪だがな。

 

ちなみに空中なので底なしである。

こいつはどれだけ底なしにこだわりがあるのか。

ぷにっと萌え曰く「孔明の罠と言ったら落下に決まっているでしょう」とのこと。

よくわからん。

 

 

*   *   *

 

 

そして肝心の配置するNPC達なのだが、モモンガさんがレベル143になったことと合わせて4倍近いポイントが使用できる。

つまり今までいたNPCを2倍に強化した上で、配置数を2倍にできる……のだが。

モモンガさんのスキル『魔王軍』のおかげでもっと酷いことになるのが判明した。

 

スキル『魔王軍』にはNPCをギルド所属にできるという効果があるわけなのだが、これが想像以上に適用範囲が広かったのだ。

NPCとはすなわち「ノン・プレイヤー・キャラクター(プレイヤーでないゲーム内存在)」である。

これは拠点内に設置されたNPCだけでなく、その辺のモンスターもスキルの対象にできるということだ。

つまり特にデザインをする必要がないNPCは外で捕獲してくれば、ポイントを一切消費しないで防衛に加えられてしまうということである。

普通に沸いているモンスターには意外性がないし、弱点を補強したりできないので、デザインされたNPCに比べると大分弱いが数を補う分には問題がないし、その分のポイントを他の有用なスキルをもったNPC作成に回せる。

スキル単品で相当の壊れ性能である。

 

もちろん全てのノンデザインモンスターをスカウトしてきてもらうわけには行かないので、それなりに強いやつを適当な数スカウトして来て貰うことになった。

どんなのが良いですか? とモモンガさんに聞かれて、冗談でクラーケンと答えたら二日後、本当に深海エリアにクラーケンがいた。

クエストで出現するイベントモンスターだったはずなんだが……なんかスカウトできちゃったらしい。

わざわざ行ってくれたことにもびっくりである。

 

モモンガさんが「……これができるとなると……」と意味深に呟いていたが何に気がついたのだろうか。

気にはなったが取り合えず深海と空中庭園の空の作りこみを進めねばならない。

海流とか雲とかをどう配置するか。

 

しばらく楽しい日々が続きそうである。




ちょいちょいスキル『魔王軍』に秘密があるような書き方を試し中。
何がまずいのかばれているきがしないでもないですが。

そろそろモモンガさん視点でアンケートでいただいた魔王職につけたいですね。


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ボス職業 ※モモンガ視点

今回一番緊張したかもしれません。
なにしろ原作主人公視点ですので。

ケツアゴさんよりいただいた種族を採用させていただきました。
ありがとうございます。


「むう……」

 

目元をマッサージしながら外装クリエイトツールを終了させる。

最近は仕事とゲームをしていない時は大抵このツールで外装をいじっている。

 

自分で言い出したとはいえ、ギルド内のイベントで使用が決まったアバターの変更には自作が必須だからだ。

正直もうちょっとよく考えるべきだった。

見た目が悪くないのに使いたくないアバターに当たるとかはあり得たのに。

……何より自分の造形センスが壊滅的だというのは分かっていたんだから、予防線の一つや二つ張っておくべきだった。

1カ月以上経つが未だにみんなを納得させられそうなアバターは完成していない。

最初このツール起動した時はすぐ落として不貞寝したくらいだ。

なぜかって?

黒歴史(パンドラズ・アクター)が表示されたからだよ。

それが今もって修正されず残っている辺りで、俺の腕前がどれほどなのか察してほしい。

 

俺はモモンガ。

分不相応にも素晴らしい仲間を差し置いてギルド長なんぞをしているプレイヤーである。

 

 

*   *   *

 

 

現在使用しているアバターは容姿は恐ろしく整っている。

長い黒髪、切れ長の黒目で肌は血の気があるのか疑いたくなるほど真っ白。

若干大人びているものの、年のころはおそらく10代だろう。

よほど変わった趣味でもなければまず「綺麗」と評するだろうことは分かっているのだ。

 

しかし残念なことに女性アバターである。

DMMOにおいてもネカマというのは珍しくないし、ギルドメンバーにも幾人かはいる。

それについてはどうとも思ったことはなかったのだが、自分でやるとなるとこんなにもやりたくないと感じるとは思ってもみなかった。

似合うと言ってくれた仲間には本当に申し訳ないが、ロールを重視してきた身としてモモンガを女にすることには非常に抵抗がある。

特にあれだ。服装も女性用にしなければならないのがキツいのだ。

 

女装している気分になるのも嫌なのだが、センスのなさを自覚している身としては本当に困る。

リアルで全く女性に縁がないこともあって服のコーディネイトには本当に自信が持てない。

仕方なしに色はモノトーン、というか黒と白だけ、デザインも下手に選べないのでこのアバターの年齢なら大丈夫だろう制服、いわゆるセーラー服っぽいものを選んでいる。

制服をイメージしているという言い訳でギルドメンバー(主に女性陣)から着せ替え人形にされることを回避する意味合いもある。

おかげでスカート着用は免れなかったがタイツをはいて下に何もつけていない感覚からは逃れている。

 

嫌がっていることは主張しているので、大人であるメンバーはそこまでいじってこないのが救いである。

特にるし☆ふぁーがランダムに負けた悔しさから余計なちゃちゃを入れてこないのが大きい。

早く3カ月経たないかなあ……

 

 

*   *   *

 

 

自分のアバターにへこみつつもレベル上げは順調に進んでいた。

ワイズマンさんによって信仰系の職業を取っていけばいいという指針があるのも大きい。

信仰系の職業を取り続けることでオーバーロードのもう一つの専用職業、[背教者(レネゲイド)]が取得できるのだ。

……アバターのせいで[巫女]だの[聖女]だのといった文字を目にする機会が多かったことだけが誤算である。

取得に性別制限はなくても職業の和訳に反映されるとは思わなかった。

メンバーは気を使ってくれるがシステムは気を使ってくれない。

 

ゲームから謎の攻撃を受けつつも、とりあえずは無事に取得できた。

“あらゆる生あるものの目指すところは死である”と対になるような“あらゆる死するものの渇望するものは生である”というスキルも得た。

これは「即死が効かないものに即死を通す」の逆で「蘇生させられないものを蘇生する」効果があった。

要するにアンデッドだとかゴーレムのような無機物すら蘇生できるのだ。

「自分を蘇生させるために信仰系の魔法を極めて届かず神に背いた」という職業の設定からか、自分に事前に蘇生魔法をかけたりできないのが弱点といえば弱点なのだろうか。

異形種ばかりで色々な制約のあるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーをサポートするには良い効果である。

 

 

*   *   *

 

 

「おめでとうございます。ボス職業が取れる確証もないのに、本当にここまで信じてくれるとは思いませんでした」

 

ワイズマンさんがそう祝福してくれた。

 

「ありがとうございます。それもこれもワイズマンさん達が助言してくれたからですよ。私だけじゃこの職業にもなれませんでした」

 

そう、背教者を取っただけでも十分価値はあった。ボス職業になれなくとも十二分に強くなったと思える。

それは間違いなくワイズマンさんの協力があってのことだ。

新たな仲間も十分以上に頼りになる人であることが分かって本当にうれしく思う。

 

「……さて、オーバーロードの上位種[黒き神(チェルノボーグ)]ですが、「生命の木の丘」への到達やこちらのギルドで集めていた情報などから、転職条件が判明しました」

「え? 確定したんですか!?」

「はい、この前の「丘」の攻略で発見された小さな建造物の中から文書が見つかりましてね。やはり限界突破をした後にどんな職業になれるかのヒントとして置かれていたようです」

「じゃあ他のみんなも?」

「ええ、楽しそうに職業をみてますよ。何人かはボス職業を取るんじゃないですかね」

「全員ではないんですか? 強いと思うんですが」

「戦闘スタイルが噛み合うとも限らないのはボスでも同じなんですよ。ボスの戦術から自分に合う合わないはそれなりに判断できますからね」

 

なんとなく自分一人がボス職業を取ることに気が引けていたが、みんなが自分で選択して取れるなら悪くないと思う。

 

「それで、その、転職方法なんですが……モモンガさんの思い入れの強いNPCってどれになります?」

 

ワイズマンさんの質問の意図が分からなかったが考えてみる。

自分で作ったパンドラズ・アクターと言えれば格好いいのだろうがあれは黒歴史だ。思い出はあっても思い入れというには微妙である。というか考えたくない。

となると他のメンバーが気合を入れてデザインしたNPCになるのだが、実のところメンバーの誰かが作ったという情報だけで思い入れがあったかと言われると……

 

「……正直NPCの作成にほとんど関与してないせいで思い入れって言われると出てこないです」

「実は、転職にはNPCを選んで『殺す』必要があるんです」

「え、ポイントとかはどうなるんです?」

 

内心、黒歴史を合法的に抹殺できる、とか思わなかったわけではない。

 

「ああ、ちゃんと転職に成功すれば復活します。おまけとしてNPCに[寵愛を受けしもの]って職業がついて限界を超えてレベルを上げられるんです。ボス職業を取るとNPCの限界突破ができる仕様だったみたいですね」

「そうでしたか」

 

一瞬で黒歴史を選択肢から外すことにした。作成者としてはそれが正しいのだろうが、これ以上ゲームから精神ダメージを受けたくない。

 

「……となるとやはり階層守護者のどれかですかね。思い入れという意味でも他よりは上ですし」

「ご自分で作ったNPCではないのですか?」

「私の作ったNPCは宝物庫の番人ですからね。指輪がなければ行けない場所にいますし守護者を強化した方がギルドのためになりますから」

 

 

*   *   *

 

 

そういうわけで守護者の作成者であるメンバーに話をしたところ、タブラさんがアルベドを猛プッシュしてきた。

 

「アルベドは守護者統括ですからね! 戦力という意味でも重要ですし何より[寵愛を受けしもの]とか最高じゃないですか!」

 

シャルティアを使うことにものすごい反対をしたペロロンチーノとは対照的である。

 

「えっと、アルベドはタブラさんの嫁ではなかったんですか?」

「何言っているんですか。あれはモモンガさんの嫁ですよ?」

 

……何か今変なことを聞いた気がする。誰が誰の嫁だって?

俺が固まっているとタブラさんは楽しげに話を続けた。

 

「何しろギルド長を守護する最後の要ですからね! そりゃもう常に寄り添う立場にあるのがふさわしいでしょう。そのためにモモンガさんの好みをリサーチして外装作りましたしね」

「え、え? なんですそれ? 聞いてませんよ、そんなの!」

「あれ? 好みじゃなかったですか?」

「いや、そこじゃなくて!」

 

長い黒髪とか、モデル体型なところとか、おっぱいがでかいところとか、後おっぱいがでかいところとか。

そりゃ好みだけどさ、なんでそんなの調べてるの!? いや、むしろ調べられるものなの!?

 

「というわけでアルベド、使ってください!」

 

キャラクター越しでタブラさんの顔は分からないはずだが、なぜか良い笑顔をしている気がした。

 

 

*   *   *

 

 

「良かったじゃないですか」

「いや、良くないですよ。いきなり嫁ができた人間の気持ちにもなってください」

「そっちじゃなくて使うNPCが問題なく決まったことですよ」

 

ワイズマンさんはそう言うが、結果として[寵愛を受けしもの]なんて職業をつけるとか性癖暴露もいいところである。

ペロロンチーノや茶釜さんみたいに突き抜けられたら問題ないのだろうが……

 

「転職の方法ですがまず、NPCに【ヘルの毒薬】を飲ませます」

「あれってお手軽な死亡手段じゃなかったんですか?」

 

【ヘルの毒薬】はプレイヤーが使うと耐性やレベルにかかわらず即死する。

簡単にレベルダウンをできる手段として愛飲(?)されている毒である。

 

「転職アイテムでもあったようですね。使用の結果NPCは『死亡』するわけですが、イベントマップ「ヘルの居城」へ転送されます。そこに乗り込んでNPCを連れ帰ってくると転職できるようになるようです」

「まさかヘルと戦うとかじゃないでしょうね……」

「もちろん戦うに決まっているじゃないですか」

「ですよねー……」

「あ、負けたらNPC消滅しますんで頑張ってください」

「責任重大じゃないですか!」

 

タブラさんにそのことを報告に行ったら「愛するもののために命をかける! ロマンですね!」と返された。

あの人本当に設定を考えだすとダメになるな……

 

 

*   *   *

 

 

暗く昏い道をたどり、「ヘルの居城」に着く。

未見のモンスターと一発勝負、しかもソロで勝利しろとか厳しいにもほどがある。

緊張で胃が痛くなる思いをしながらヘルの玉座の前に立った。

 

『汝、死の定めを覆さんとするか。愚かなことよ』

「然り、死への挑戦こそ我が探究。愛する者の死ごときを覆せずして死の超越者は名乗れぬが故にな」

 

ヘルの台詞にロールで返す。後で思い返したら悶絶しそうだが気合を入れないと勝てそうにない。

どうせ誰も聞いていないのだし、ちょっとくらい格好つけてもいいだろう。

 

『笑止。己が命を生者の領域に留め置くことすら叶わなかったものが吠えるか』

「死者の領域にあってこそ命の真の輝きを理解できる。いずれ私は死すらも踏み越えて見せよう!」

 

その会話を最後に戦いが始まった。

 

 

*   *   *

 

 

戦いは酷い泥仕合になったがなんとか勝利した。

まさか馬鹿みたいに低い確率を縫ってヘルに即死魔法を成功させることが勝利条件だったとは。

ヘルがこちらに意味もなく即死魔法を使ってきたこと、こちらの不利になる魔法を使わなかったことから何かあるとは思っていたのだが。

 

倒れているアルベドに近づき抱き上げようとしたが動かせなかった。

ヘルへの勝利条件から判断するならこれは簡単だ。

アルベドに自分が使える最上級の蘇生をかけると、今度は何の抵抗もなく抱き上げられた。

 

「帰ろう、我らの家へ」

 

 

 

後で考えるとこの日にアインズ・ウール・ゴウンは運営に目をつけられたのだと思う。




いい加減引っ張りすぎたのでついでにモモンガさんの容姿も描写。
もうぶっちゃけていいかな。
イメージしたのはぬらりひょんの孫の羽衣狐です。
ラスボスっぽいけど間違いなくオーバーロードの変身前って言われたら突っ込みたくなるかな、と。

そして運営に目をつけられました。
ボス職業まで手を出して来たのに気が付かないとさすがに無能すぎますので。
それ以前からヤバかったのは否定しません。


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家族サービス ※たっち・みー視点

なんだか支援絵までいただきました。
くろきしさんありがとうございます。
ここにリンク貼っていいものかわからんので見たい方は2015年11月29日(日) 11:53の感想をご参照ください。

とりあえずこの形態が出るかはともかく装備的には可能なはず。


この時代結婚から子供をもうけるまで簡単に説明すると次のようになる。

 

まず良い職業――何を持って「良い」とするかは様々だろうが、とりあえず給料のことである――に就くこと。

これが非常に大変である。教育の機会が限られているし、それこそ大抵は富裕層が独占している。席が少なく門が極端に狭いのだ。

その少ない例外が警察だったりする。要するに富裕層の権益を守る番犬として下層の人間を取り込む機構なのだ。

金のために裏切らない忠実な番犬の出来上がりである。

反吐が出るが、その恩恵に預かっている身としては何もいえない。

 

さて金が稼げるようになってやっと結婚の目が見えてくる。

しかし、出歩くことが少なく集団生活を行う場もない現代では、相手を見つけるのが既に大変である。

おまけにアインズ・ウール・ゴウンで仲間と話すようになってわかったが、本当に結婚資金を貯めるのは大変なのだ。

よほど稼ぎが良くないと人工心肺のレンタル代だけで汲々としてしまい、なかなか貯金まで回らない。

正直趣味に使えるメンバーは割りとすごいと思っていたが、結婚相手を見つける方法がなく諦めているというのもあるのではなかろうか。

幼馴染がいた俺は本当に運が良いのだろう。

 

そして極め付けが子供の養育である。

生きるのに金がかかる。そしてその金額を稼ぐのが困難。

ここまで言えばわかるだろうが、子供を育てるには非常にお金がかかる。

子供自身が稼げないのだから(当たり前だ)両親が共働きでも負担は1.5倍になる。

子育てのために母親が仕事を休めば負担は3倍だ。

それに子供の成長は早い。つまり人工心肺は頻繁に合わなくなる。

そもそもつけるための手術に耐える体力がない。

アーコロジーに住めでもしなければ子育てすらままならないのだ。

 

……いつだったかぷにっと萌えが言っていた。

子供が育てられない世界になっている、と。

人類に未来はどれほど残っているのだろうか。

 

俺はたっち・みー。

俺にとっては切実な、しかし世間から見れば非常に贅沢な悩みを抱える男である。

 

 

*   *   *

 

 

「お父さん、最近遊んでくれないよね」

 

娘にそんなことを言われた。

確かに最近はユグドラシルに復帰したため、かまってやることができていなかった。

たった半年だから大丈夫と思っていたが、子供にとっての半年がどれだけ長いか忘れていたらしい。

聞き分けのいい娘だからとこちらが甘えてしまっていたようだ。

妻には説明したし了解ももらったのだが、子供に同じことを求めてはいかん。

 

「長いことお付き合いのあったお友達なのでしょう? あと半年なのですから楽しんでください」

 

本当にできた妻で俺にはもったいないほどだ。

……ウルベルトに「そうやっていちいち謙遜するからお前は鼻持ちならない」と言われたことを思い出した。

わかっている。俺はこの時代に十分恵まれた存在であることはわかっているのだ。

良い職に就き、結婚もできて、更に子供まで作れた。

これはこの時代では本当に勝ち組なのだ。

 

実のところ、ウルベルトと俺は最初から仲が悪かったわけではない。

嫌われて当然だと俺が一歩引いていたのだ。

その態度が気に食わないと、散々突っかかられ難癖をつけられ、いい加減俺が切れた。

見事に好みが逆であったため、それ以降は会えば喧嘩が常である。

奴なりの気遣いだった可能性が頭をよぎらないでもないが、死んでも奴にだけは言わないだろう。

 

話がそれた。奴のことはどうでもいい。

とにかく娘に嫌われたくはない。なんとか機嫌をとらねば。

 

……しかし最近、ユグドラシル漬けだったせいだろうか。

思わず俺はこんなことを言ってしまった。

 

「そうだな、お父さんとゲームやるか?」

 

 

*   *   *

 

 

「というわけで、申し訳ないが一時的でいいので娘と妻をギルドに入れてくれないだろうか」

「ふざけんな。何が思わず言っちゃっただ」

「いや、しかし」

「しかしじゃないだろう。うちに子供を入れるとかどう考えてもダメだろう。大人だけの中に入れるのだってまずいだろうに、よりによってうちだぞ? 悪のギルドだぞ。教育に良くないに決まってる」

 

こいつだけには言われたくなかったが、正論過ぎるウルベルトの言葉に返す言葉もない。

 

「でも良いんですか? もう半年ない、というか4カ月ちょっとあるかどうかですよ?」

「登録停止は3カ月前からだったから確かに登録はできるわけだが」

「ソロで遊ばせるのは、ダメだよねえ」

「この時期からソロで楽しめるかはわからないな。多少なりとも先導がないと」

 

メンバー達の心遣いがありがたいが、それに甘えては……ダメだろうな。

 

「確かに軽率だった。娘が来たときだけでも離れて活動しても良いだろうか」

「そんな簡単なことでもないでしょう。一度始めたらそれなりに長いこと遊びたいでしょうし。接するメンバーをどうにかすればうちに所属させても問題ないんじゃないでしょうか」

 

モモンガさんがそんなことを言い出す。

しかしそれでは娘の世話を押し付けることになってしまう。これはギルドの性質がどうとかではない。

親としてそんなことしていいものか悩む。というか悩むまでもなくこれもまたダメだろう。

 

「いや、みんなに負担をかけるようなことを頼んだのが悪いんだ。モモンガさん、気持ちは嬉しいが……」

「ふむ、とりあえず子供に会わせて大丈夫そうなメンバーを挙げましょう」

「とりあえずゾディアックなら大丈夫でしょう。あの問題の作成の仕方を見てると話が合うかはちょっとわからないですけど」

「モモンガさんはどうしても会わなきゃいけないよね。ギルド長だし」

「るし☆ふぁーは基本的に除外だな。ペロロンチーノも変態だからダメだ」

「茶釜さんどうするよ?」

「女性なら会っておきたくはあるかなあ。さすがに私のあの仕事を知ってはいないでしょ」

「それなら大丈夫……なのか?」

「あ、そうだ娘さんと奥さんの趣味ってなんです?」

「えっと……」

 

なんだか所属させてもいい流れになってしまった。いいのか、これ?

 

「良かったな。お前の人望と優柔不断さのせいで娘が悪の道に進みかねんぞ」

「んな!?」

「決断もできんからおかしなことになるんだ。せいぜい親の貴様が気を張ることだ」

「……どういうつもりだ。お前が俺に助言など」

「どうもこうも。お前は嫌いだがお前の娘は関係ないから、子供に真っ当に育ってほしいと思うのは普通だろう。お前が苦労するのはどうでもいい」

 

ウルベルトをちょっとでも見直しかけた自分を殴ってやりたい。

ともあれ会う人間を厳選しつつ娘と妻がアインズ・ウール・ゴウンに所属することになった。

所属の原則である「社会人かつ異形種」というのはどうなるのかと言ってみたが、残り稼動期間わずかなゲームでそこまでこだわらなければならないものではないでしょう、と返された。

全く知らないどこかの誰かでなく、身元と人格を保証する人間がいる事が大きいのだろう。

 

 

*   *   *

 

 

そして娘と妻が来る日になった。といっても本当に数日後なのだが。

メンバーは異形種でなくても良いと言ってくれたのだが、娘は「お父さんと同じ冒険をするの!」といって聞かなかった。

妻は妻で「ルールは守らなくては娘に示しがつきませんもの」と言ってくれる。

ありがたいのだが、これから連れて行くところを思うと色々気まずい。

 

「すごいところだね!」

「ほんと、まるで美術館ね」

「ああ、デザインした仲間には修復師をやっているやつや現役のデザイナーもいるんだ」

「すごいね!」

 

娘と妻が興奮しながらナザリックの内部を歩く。

さすがに娘と妻は完全に異形ではなく、妻が天使で娘がワーキャットを選んだ。

二人とも非常にかわいらしい。ペロロンチーノが結局会うメンバーに加えられたのが不安の種ではある。

……手を出したら殺そう。ゲーム内じゃなくて社会的に。

いや、ゲーム内でも無限耐久組み手とかで地獄に叩き込むのも良いな。

そんなことを考えていたら待ち合わせ場所についた。

 

「ようこそナザリックへ。歓迎しますよ、お二人とも」

 

モモンガさんがあれだけ嫌がってた人間形態で出迎えてくれた。

どうしよう、ありがたいのだが無理しているんじゃないかと思えて気が気じゃない。

常識人だし初心者サポートは得意だし信仰系魔法を納めたから安心して任せられるんだけど。

 

「はじめまして、よろしくお願いします! モモンガお姉ちゃん!」

 

モモンガさんの纏う空気が引きつった気がした。

 

 

*   *   *

 

 

案の定、モモンガさんは女性であるという誤解を解けなかったらしい。

娘がすごいいい笑顔で、「モモンガお姉ちゃん」がいかにすごかった語ってくれる。

ピンチになったらすぐに回復してくれたとか、多すぎる敵に囲まれたときは格好良く助けてくれたとか。

たぶんモモンガさん子供に慣れてないからやりすぎてる。絶対引っ込みつかなくなってる!

 

明日会ったら絶対謝ろうと心に決めた。




モモンガさんやりすぎました。
子供と接した機会が少なそうですからね。
娘さんと奥さんの名前は特に決めてません。

そしてまたまたアンケート。
また活動報告で募集します。


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フレーバースキル ※武人建御雷視点

風邪をひいてました。今もひいているかも知れ得ない。
年内に完結するかは私も分かりませんが適当にがんばります。
今回もちょっとつなぎの回。
ゲームなんだしこんなのもあったかなというシステムです。

左半身が不運さんの「シユウ」、雷帝2さんの「カッチン」、人食い椎茸さんの「サイプレス」、飲み薬さんの「サタンクロス」を採用させていただきました。
まだまだ採用するかもしれませんが、とりあえず彼らはどこかで活躍させようかと思います。

追記
採用させて頂いたキャラにケツアゴさんの「わんこ十三世」が漏れておりました。申し訳ありません。


俺の家は「建御雷流」などとご大層な名前の古武術の宗家である。

この名前は由緒正しい、というわけではなく割りと近代になってつけられた名称である。

曾祖父の時代には古武術なんぞ流行らず、いくつもの流派が廃れて消えていく状態だったのだ。

要するに圧倒的な後継者不足である。

なので曾祖父は考えた。古武術統合しちまえばいいんじゃね、と。

 

元来戦場で使われた戦闘技法を体系化したのが、武術でありそれを比較的古い形で継承しているのが古武術である。

戦場において刀しか使えないだとか槍しか使えないとか言っていたら馬鹿である。

武器を失ったからといって諦めるようではそれこそ戦場では使えない。

どの流派もそれなりの理論を持っているが、目的は戦場で生き残ることただ一つなのだから統合はできなくはなかった、らしい。

実際は色々悶着はあったのだろうが、現実に統合されたのだからなんとかなったのだろう。

 

問題として俺の家に伝わっているのはこの時の流派の名前をどうするかということだったらしい。

俺の流派の名前を、いや俺の所のをと揉めに揉めた結果、新しい名前を、となったそうな。

そこで誰もが納得する名前として古代の武神の名を頂戴したのだとか。

戦いがないのに戦闘技術を継いでいるような奴はきっと馬鹿だったのだろう。

 

その武神の名前を継いだ現在の継承者が俺である。

まあ、俺もその名前をプレイヤーネームに使用しているのだから大差ないが。

 

俺の名は武人建御雷。

残念ながら曾祖父から続くセンスは俺の中でも健在な様である。

 

 

*   *   *

 

 

無形文化保護財団、という組織がある。

読んで字のごとく、物品として残らない文化の保護のために資金を提供する財団である。

俺の家も古武術がそれにあたるということでこの財団から支援を受けている。

弟子を取る以外に金を稼ぐ手段がない古武術としては貴重な収入源になる。

 

ただしこの財団も慈善事業でやっているというわけではないので、彼らの求める協力をしなければ援助は本当に金を出したという建前が成立する程度だ。

彼らの要求は無形文化の有形化である。理念の文書化、訓練風景の映像化といった活動で、これらは売り出されて財団の資金源になる。

当然、秘伝だとか一子相伝なんかの「文化」には喧嘩を売っているので「所詮金儲けに過ぎない」と財団を嫌う文化人も多い。

伝える人間が居なくて途絶えるくらいならと、俺の流派は父の代からこの財団の事業に積極的に協力している。

「古」武術なんぞといいつつ歴史が恐ろしく浅かったことが幸いしたのだろう。

だが、そのおかげで秘密でもなんでもなくなった流派に入門する人間はおらず、道場は閑古鳥が鳴いている。

 

さて、その財団だが彼らが最も注目しているといって過言でないのがダイブシステムである。

何しろ内部では運動したい放題。材料も無制限。この地球になくなった素材すらデータさえあれば再現できる。

動きを保存するのに、いや、体験を保存するのにこれ以上適切なツールはないだろう。

財団は俺にダイブシステムへのデータ入力の依頼をしてきた、というわけだ。

 

最早躊躇する理由はなかったのだが、俺が気にしたのはその再現性だった。

最低限俺の思うように動けないのであれば、データ入力を行っても意味がない。

下手なものを残すくらいならば結婚なり、養子なりで後継者を斡旋してもらい次代に協力させる方がいい。

そんな主張が通って俺はユグドラシルをプレイすることになったのだ。

なんでRPGなのかというと対戦型ゲームでは武器がなかったためである。

一応、現実の俺の技術に影響がないように魔法職か異形種を選んでくれと要求された。

むしろそちらの方が技術に変化がありそうなものだがスポンサーには逆らえない。

 

ここまで長々と財団について語ったわけだが、当然彼らはダイブシステムを用いたユグドラシルにも出資して体験コンテンツを導入させている。

説明がくどく「フレーバースキル」という特にゲーム上意味がないスキルとそこそこの経験値を得られる。

そのため超がつくほどの不人気コンテンツである。

わざわざゲームの中でまで勉強したくないし、モンスターと戦ったほうが圧倒的に経験値効率がよいからだ。

 

 

*   *   *

 

 

「みんなでフレーバースキルを取りに行きませんか?」

「レベル上げの戦闘ばかりで単調になっているところもありますしね」

 

唐突にワイズマンとぷにっと萌えがそんな提案をしてきた。

その主張はわからないでもないのだが、先に言った通りこのコンテンツは拘束時間が長いわりに経験値はさほどではない。

 

「別に構わないと言えば構わないが、わざわざやるようなコンテンツか?」

「娘にやらせるには悪くないから行ってもいいんだが、確かにあえて今やらねばならない代物とは思えんな」

 

ウルベルトとたっちがそれぞれ肯定とも否定とも取れる返事をする。

実際微妙なのだから仕方ない。

何より発言が変だったから指摘することにした。

 

「それよりなぜ『フレーバースキル』を取ることがメインなんだ? あれはゲーム的な意味がなかったはずだ。わざわざそれを理由にするということは何かあったのか?」

 

俺の指摘にみんなの視線が二人に注がれる。

 

「実はですね。フレーバースキルと称号に相乗効果があるんではないかと思っているんですよ」

「どうもこいつが調べた限り称号とフレーバースキルはかなり対応している様に思えるとのことでして」

「試してはいないのか?」

「流石に時間がかかるので、称号一つにつき対応するフレーバースキルがいくつあるのかまでは検証できてはいません。職業の最低レベルから推測するに5つではないかと思うのですが……」

「実際に確認できているのは『宰相』で『事務処理』と『法律』、『王国軍師』で『軍略史』と『謀略論』ですね。ほんのちょっとですが称号の効果が増えました」

「ぷにっとのはまだしも、ワイズマンさんなんでそんなつまらなそうなものを……」

「検証のためです」

「あ、はい」

 

言うまでもないかもしれないが、ぷにっと萌えは『王国軍師』を選んでいる。

ワイズマンさんは元ワールド・サーチャーズを代表しているということもあり『宰相』を選ばされた。

探索にまったく関係ないので本人は残念がっていたが、モモンガさんが『国王』相当の『魔王』である。

それなりの立場についてもらわねばならないということで我慢してもらうことになった。

 

「そういえば『魔王』というか『国王』のフレーバースキルってなんなんですかね……」

「『法律』だったらどうすんの?」

「う……それは『宰相』だったそうですから同じものはないと思いたいです」

「『園芸家』と『造園師』みたいにほとんど被っているやつもあるからなあ」

「いやなこと言わないでくださいよ」

「今のところ「王宮」とか「宮廷」とかついているやつは『宮廷作法』が共通しているのではないかと」

「共通しているのか……というかどこからそんな講習出してくるんだ」

 

みんながそんなことを言い合っているが、自分も気になることがある。

 

「俺は『武芸百般』を選んだんだが何が対応していると思う?」

 

 

*   *   *

 

 

答えてもらえなかった。

いや、正確には候補が多すぎてどうにもならなかった。

なんでも『剣道』『剣術』『刀術』の様に被っているんじゃないかと言いたくなるフレーバースキルも多いらしい。

5つでは全く足りなさそうだがどうしたものか。

 

などと思っていたら、あった。

いや、分かってしまった、というのが正しいか。

『建御雷流』がフレーバースキル化されていた。

 

俺がこのゲームと疎遠になったのは、まさにこれの元データを作るためだったというのに。

そして誰よりこの体験コンテンツに詳しいというのに。

わざわざ時間を費やしてやる意味がないにも関わらずやらなければいけない。

ゲームの不条理を感じる。せめてこれくらい免除にならんものだろうか。

 

 

*   *   *

 

 

よく考えれば当たり前だったのだが、これらの体験コンテンツは好きな人は本当に楽しめる。

ユグドラシルであえてやる意味がないだけで、コンテンツの元データは財団が金になる程度に価値があるとの判断で選抜したプロなのだ。

俺が製作側について知っていたせいでやや偏見があったようだ。

このコンテンツだって体験者一人当たりいくらとかで財団に金が入るのだろうから、裏側を知っているとなんだかなと思うのは仕方ない。

俺にしてみると、知識系は本当に勉強させられて面白くもないが、クリエイト系や戦闘技能系、芸術系などでは本当に体験ができるので意外に面白い。

 

知識系だって楽しい人は楽しいのだろう。

ブルー・プラネットが『植物博士』、源次郎が『昆虫博士』、わんこ十三世が『動物博士』、シユウとカッチンが『刀剣博士』なんかを楽しんでいた。

こっちはまだいいのだが。

サイプレスの『拷問史』、サタンクロスの『完全殺人マニュアル』、るし☆ふぁーの『いたずら大全集』のような字面からして碌でもないものを楽しんでいた連中もいたことを付け加えておこう。

実際にやらなければ問題ない。

 

そんなこんなで息抜きに自分の称号にあったフレーバースキルを探しつつ俺達の強化は着々と進んでいった。

 

そして復帰から3カ月。

ついにぷにっと萌えから2ch連合攻略の概要が説明された。




ぼちぼち時間を進めたいですが、ちょっと戻ってワールドアイテム探索に付き合うウルベルトさんとかモモンガさんが作ってきたアバターを論評するるし☆ふぁーとかを書きたいところです。
あと誰書こうかな。

最後のは残り3カ月から本格的に動くよってことだと思ってもらえれば。

あと活動報告にもう一つアンケートを。
せっかくアンケート使いまくっているのでとことん活用しましょう。


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世界征服計画(3) ※やまいこ視点

たっちさんの娘さんの名前に千年桜の案を採用させていただきました。
変則的ですがkimiakiさんの奥さんの名前案からネタを出しています。
ご両名ともありがとうございます。


今の世の中、子供は少ない。

必然的にその子供を教える教師という職業は人数が減る。

つまりは狭き門というわけだ。

 

実際就職はすごい大変だった。学力が高くないといけないのは当然なのだが、そちらはまだ頑張れる。

それより大変なのが人格テストという名の思想調査だ。

子供を持つのは例外なく富裕層である。その金持ち共が子供を預けようというのだから慎重にもなろうというものである。

危険思想を持たないか、子供への態度は良いかといったテストが、これでもかというほど細かく行われる。

テロリストなんかに情報が漏れたら大変だしね。

ああ、富裕層を狙うテロリストなんかは普通にいる。恨まれているのが分かっているからこそ教師を選別したり警察を囲ったりしてるんだろう。

だからか知らんけど就職してからも年2回行われるんだよね、これ。

 

まあ、子供は好きだったからこそ頑張れたわけなんだが……ちょっとばかり誤算があった。

子供は親の背を見て育つとはよく言ったもので、どいつもこいつも見事なクソガキ様なのである。

特権意識の塊というか、甘やかされてわがままに過ぎるというか。

どこぞの国家で一人っ子政策を行っていた時代、子供は小皇帝と呼ばれていたというがまさにそんな感じ。

 

僕はやまいこ。

教師を目指し、クソガキ様のお守りをすることになった、ちょっと現実に裏切られた人間である。

……先生と生徒の交流って憧れだったんだけどなあ。

僕がユグドラシルをやっているのは、あれだ。ストレス発散の意味もあるのだ。

 

 

*   *   *

 

 

そんな僕にとって、みー君の娘さんは青天の霹靂、は言いすぎか。だがそれくらいの驚きがあった。

我儘を言わないわけじゃないのだが実に子供らしい、良い子なのだ。

僕の生徒もこの子くらい可愛けりゃいいのに。

気張って良すぎる学校に就職したのが良くなかった。

 

ちなみに娘さん、キャラ名を「みーにゃ」ちゃんと言うのだが、最初は「きゃっち・みー」という名前だった。

うちが誇る(?)変態ペロロン君と茶釜君がそろって「やばいから変えろ」とみー君を説得したことで改名と相成ったのだ。

みー君にそんなつもりは微塵もなかろうが、小さい子供に「私を捕まえて」という名前は確かにやばい。

世の変態がどう考えるかは先の姉弟が示している。みー君も慌てて娘さんを説得していた。

 

そんなみーにゃちゃんが一番なついているのが、僕らのギルド長モモンガ君である。

反応を見るにモモンガ君は子供との触れ合いに慣れてはいない。

しかし、ほぼ満点の対応をするのだから仕方ないといえる。

 

まず、声をかけられたら何をしても必ず振り返る。

子供というのは敏感なもので、大人が適当に対応していれば気がつくのだ。

作業をしていても中断して話を聞いてくれるというのは子供にとって非常に大きい。

この人は無視しない、きちんと相手をしてくれる人だと認識されている。

 

次に子供の話をさえぎらない。

きちんと最後まで聞いてくれるというのはこれまた子供にしてみるとポイントが高い。

大人にしてみると子供の話は支離滅裂でまとまりがなく聞きにくかったりするので、つい口を挟んでしまいがちだからだ。

彼は非常に真面目なのでごく普通にそうしているのだろうが、両親が共働きのみーにゃちゃんにしてみればこれはうれしいだろう。

 

他にも話すときは可能な限り目線を合わせようとしたり、質問にはできるかぎり難しい言葉を使わないで答えようとしたりと枚挙に暇がない。

おまけに尊敬されていると分かってからは、彼女の前で醜態をさらさないように準備までするようになった。

この前体験コンテンツをやりに行ったときなど事前に予行演習しにいって質問に答えられるようにしてた程だ。

 

正直に言おう。大変うらやましい。

「お姉ちゃん」呼びくらいは甘受してほしいと思ってしまうのはしょうがないだろう?

 

 

*   *   *

 

 

さて、2ch連合攻略の話である。

もはや完全に通称として完全に定着してしまっているが「2ch連合」という名のギルドは存在しない。

数多くのギルドが掲示板経由で連合したのでそう呼ばれているだけだ。

方針らしい方針はなく、その場の勢いとノリだけで行動する上やたらと人数が多いので周囲の迷惑になることも多い。

それでもその数は侮れず、ついこの間まで3位、ワールド・サーチャーズとうちが合併した結果2位になった。

僕らはこれからそこに喧嘩を売ろうというわけだ。

 

「正直なところ、2ch連合のギルドを全て壊滅させるのは現実的ではありません。なので連合の要になっているギルド「O・RE・RA」のギルド武器破壊が第一目標になります」

 

ぷにっと君が説明を始める。

しかしギルド武器破壊か。確かまともにやったところはほとんどなかったはずだ。

2ch連合は一度拠点をトリニティに破壊されているが、ギルド武器までは壊されなかった。

なんで破壊に至らなかったのか理由はわからないが、敗北の結果2ch連合は大きく求心力を失い人数は3分の1程度に減ったといわれている。

それでも1000人を超える大所帯なのだからいかに巨大なのかわかろうというものだ。

 

「実のところここまではさほど難しくないと思います。いくら人数が多いとはいえ常時拠点にいるメンバーはいないでしょう。いるとしても生産職でしょうか。何よりあそこは方針が定まらないから拠点に配置されるNPCは見かけだけの趣味的なものばかりです」

 

これまた事実だ。

連中の拠点は言い方は悪いが雑居ビルみたいなもので、収容人数こそ多いが防衛施設としての性能は低い。

うちみたいなダンジョンが拠点なんてのはだいぶ異端な方だ。

元々の建造物に居住スペースが皆無だから課金で追加したんだよね。

どうせ追加するなら豪華にしようぜ、とばかりにみんなが悪乗りした結果が第9階層だ。

まともに活用されていないのはご愛嬌といったところか。

 

「問題は彼らを攻撃した後の反撃が、まず間違いなく「祭り」になることです。ギルドがなくなろうがプレイヤーはいるわけですから当然反撃を仕掛けてくるでしょう。プレイヤーがレベル110になっただけでこちらの守護者が苦戦、どころか一方的に負けることが予想できたため、今まで攻撃できませんでしたが今なら問題ありません。十分防衛戦力として機能してくれるでしょう」

「1500人なら実績はあるしなあ」

「わからんぞ。引退したやつも古巣が消滅したとなれば復帰してでも参加する可能性はある。最悪3000人規模になることもありえる」

「それにあの時は上位陣はいなかったはずです。2ch連合はそこそこ上位陣も抱えているはずですから侮れませんよ」

 

ぷにっと君が反撃のことに言及するとメンバーが口々に意見を出す。

アインズ・ウール・ゴウンは拠点がダンジョンなのもあって、攻撃よりも防御に長けたギルドなのだ。

何より自分の考えた仕掛けに敵が嵌ってくれるのを楽しめる人間が非常に多い。

さしあたっての行動に問題はなさそうだが、聞いておきたい事があるので質問をしてみた。

 

「ちょっといいかな? いくつか聞きたいことがある」

「なんです?」

「ぷにっと君は守護者、というか拠点の強化があると確信していたのかい? 拠点が強化されなかったら攻撃はともかく防御はかなり無謀だったと思うんだが」

「流石にあるとは思ってました。無いと拠点が蹂躙されやすくなるので悪ふざけするプレイヤーが出たら最終日にはギルドが一個もなかったなんてこともありえますから」

「それは運営も避けたいだろうね」

「間接的とはいえアップデートでギルドがなくなったらユーザーは面白くないでしょうしね」

「なかったらどうしてたんだい?」

「最終日付近に我々より上位のギルドを片っ端から襲撃してましたよ」

 

一つ目の疑問に答えが返ってきて安心した。ぷにっと君が運営の回し者だったらちょっと嫌だからね。

 

「では二つ目。反撃の規模が予想以上だったらどうするのか、だ。具体的にはトリニティと2ch連合が手を組んで襲撃してくるとかだな」

「それは避けたいところなんですよね。敵対しているギルド同士ですが我々異形種のギルドという共通の敵をもって手を取り合うなんて事もないとはいえないので。なので限界突破チケットを利用して不和をしかけているんです。今のところ成功してますし心情的には協力しにくい状況に持っていけているでしょう」

 

【永劫の蛇の腕輪】を使った仕掛けは今のところうまく2ch連合とトリニティを動かすことができている。

言ってはなんだが2ch連合を煽るのは簡単なのだ。

2ch掲示板というのは匿名で誰でも書き込めるから2ch掲示板なのだから。

つまり僕らだって書き込みも閲覧もできる。しかもばれないようにだ。

うちの宣伝工作を仕事にしているメンバーが仕掛けてきたのだが、面白いように2ch連合はこちらの思惑通りに動いてくれた。

 

「そうか。じゃあ次、彼らが断続的にというか何度もうちに侵攻するようになったらどうする?」

 

僕が思うにこれが一番厄介だ。

常に負荷をかけられ続ければこっちもうんざりするし、変な慣れが生じて不覚を取りかねない。

防衛の罠を作動させるのだって安くないし、一度仕掛けてしまえば外に出るのも困難になるから資金調達も難しくなる。

「丘」に行けばいいのだがあそこは未だにこっちの消耗もひどいからなあ。

 

「その為に「祭り」を仕掛けさせたいんですよ」

「ふむ?」

「要するに大人数で仕掛けても落ちなかったという状況を作ることで、個人や少人数の襲撃を抑制します。新規階層の存在や事前準備なしで攻略できる難易度ではないことを見せ付けることで、間をおかない再攻撃は防げるでしょうから」

 

大体の懸念事項には手を打っているわけか。

軍師の異名は伊達じゃない。おっと、もう称号で本当に軍師なんだったか。

 

「じゃあ最後に。この後のトリニティ攻略にはどうつなげる?」

 

ぷにっと君は我が意得たりとばかりに答えてくれた。

 

「そりゃもちろん、「攻めてきてみろ」って宣戦布告します。異形種排斥の急先鋒だった彼らがこの挑発に乗らないわけがありません」

 

 

*   *   *

 

 

そんな方針で僕らは行動を開始することになった。

問題があるとすればみーにゃちゃんが「私も行きたい」と言い張っていたことだろうか。

みー君が奥さんと説得してもきかなかったのに、モモンガ君が説得したら渋々ながら了承してくれたのでみー君が大層へこんでいた。

……モモンガ君は保父さんか教師に向いているんではないかね。




とりあえず2ch連合攻略計画。
何をおいても規模がでかいギルド連合体ですが、拠点が柔いのは原作でも言及されています。
ここの問題は何よりも反撃が大規模になることでしょう。

彼らには最終決戦に先じてナザリックで散ってもらうとしましょう。
彼らの死によってさらに改修できますしね。
まあ、最終決戦時にもう一回散れますからお得かも?


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閑話:その日のとある掲示板

今回試しに掲示板形式というやつをやってみた。
2ch連合の本スレでなく、いくつかある避難所での会話を想定してみました。
多少は雰囲気出てるのかな?

そしてブラックスミスさんの「アイアン・ブラッド」人食い椎茸さんの「サイプレス
」飲み薬さんの「サタンクロス」に襲撃に参加してもらいました。
ご参加ありがとうございます。


103:俺ら名無しさん

   >>98

   だからさ、鳥の連中をはめるにはどうするかって話だろ。何度ループすんだ。

   てか避難所に本スレでもめてる話題持ち込むんじゃねーよ。

 

104:俺ら名無しさん

   おまいらだべっている暇あったら、救援に来い。拠点が攻撃されてる。

 

105:俺ら名無しさん

   >>103

   しゃーねえべ。ここ1か月以上ずっともめてるからな。やっぱチケ取るのあきらめるべきなんじゃね?

 

106:俺ら名無しさん

   >>104 嘘乙

 

107:俺ら名無しさん

   >>104

   ソースどこよ?てか仕掛けてくるやついんのか?鳥の連中も腕輪のために張り付きだろ

 

108:俺ら名無しさん

   >>105 今更引くに引けないっていうね。どんだけリソース突っ込んだとおもってんだ。

   てか俺も悪いがお前も本スレ池。

   >>104 なんかヤバめ?つか殴り込みとかあほじゃね

 

109:104@実況中

   いや、マジでやばそう。あいつらバカみたいに強いぞ。さっきレベル見たら1084とか出てた。

   すげえ勢いで蹂躙しながら内部荒らしてる。

 

110:俺ら名無しさん

   >>109

   四ケタ言ってんじゃねーか。馬鹿か。

 

111:俺ら名無しさん

   >>109 情弱乙。嘘をつくならもうちょっとマシなもんにしろよカス

 

112:俺ら名無しさん

   >>109 そら蹂躙されるわwwww指ひとつで拠点吹き飛ばせるんじゃねwwwテラピンチwww

 

113:104@実況中

   すまんタイプ間違った。184だ。

   10人くらいで暴れているんだが全員180オーバーだ。一人黒髪の美少女だけ190超えてやがる。

   レベル差がありすぎてマジで相手できねえ。

 

114:俺ら名無しさん

   >>113

   マジでやばいのか。とりあえず証拠のスクショでも何でも出せ。マジなら救援いってやるから

 

115:俺ら名無しさん

   マジレスするが1084じゃなくて108とかじゃね?

 

116:俺ら名無しさん

   >115 もう解決してるから。

 

117:俺ら名無しさん

   >>安価ミスってんぞ

 

118:俺ら名無しさん

   >>117 お前もな

 

119:104@実況中

   つ【画像】

   マジで早く来てくれ。あいつらギルド武器探してるっぽい。

 

120:俺ら名無しさん

   うお、マジで拠点ヤバいじゃねーか。すぐ行くわ。

 

121:俺ら名無しさん

   >>119 てかなんだよこのアングル。どっから撮ったこれ。

   俯瞰視点ってレベルじゃねーぞ。

 

122:俺ら名無しさん

   >>119 この美少女の画像もっとねえ?パンチラとかあったら永久保存レベル。

 

123:104@実況中

   >>121

   吹き抜けのシャンデリアの上。

   物騒なのこぎり刀持った女の攻撃よけたと思ったら、くそでかい鎧のやつに盾突ではじかれた。

   HPがいきなりレッドゾーン突入したんで降りるに降りれない。

   >>122

   こっちくりゃ実物がいるわ!スカートの中突っ込むでもなんでもいいから手伝いにきやがれ!

 

124:俺ら名無しさん

   >>123 おまい天才か。ちょっくら凸してくる。

 

125:俺ら名無しさん

   その後>>124を見た者はいなかった。

 

 

(中略)

 

 

387:俺ら名無しさん

   リスポン地点外だったわ。あいつらマジなんなの?一瞬でHP消し飛んだんだけど。

 

388:俺ら名無しさん

   >>385 だからあいつらチートしてるんだって。そうでもなきゃレベル180オーバーとかありえるかよ。

 

389:俺ら名無しさん

   >>387

   おう、おかえり。あ、今拠点飛ばねえ方がいいぞ。

   復活地点でリスキルしてるやつらがいるから。

 

390:俺ら名無しさん

   >>389 thx 危うく飛ぶとこだったわ。

   つかリスキルまで仕掛けてるとかガチだな。なんであんな奴らが拠点に入れたんだよ。

 

391:俺ら名無しさん

   そら、俺らの拠点は入場制限ないからな。人数多すぎて全員の顔を覚えてるやつもいないし。

   普通に玄関から入って襲撃されたんだろ。

 

392:俺ら名無しさん

   セキュリティとかがばがばな件。というか俺らの辞書にその言葉が載ってそうにない。

 

393:俺ら名無しさん

   んで今拠点どうなってるよ?侵入者一人くらいは倒せたか?

 

394:俺ら名無しさん

   知らん。少なくとも俺が死んだ時は誰も敵を倒してなかった。

   リスキルしてるのこぎり女の武器に装備破壊効果がついてるらしいから戻ってねえんで状況がわかんね。

   保険かけといたゴッズ壊されたらたまらん。

 

395:俺ら名無しさん

   >>394 神器級なら平気だろって言おうと思ったがアウトなのかよ。

 

396:俺ら名無しさん

   そもそも拠点内でなんでガチ装備でいなきゃならんのだ。

 

397:俺ら名無しさん

   でも回避して逃げれば状況はわかるんじゃね?

   ゴミ装備つけてたやつで行ってみるとか。

 

398:俺ら名無しさん

   >>397 言い出しっぺの法則。と言いたいがやめとけ。

   のこぎり回避したと思ったら次の瞬間首が飛ばされたわ。

   リスキルしてんの一人じゃねえわ。

 

399:俺ら名無しさん

   んだな。俺、回避して首だけは守ったんだが双剣のNINJAがいたわ。

   思わずアイエエエエって口走りそうになったところを鎧のやつに盾でつぶされた。

 

400:俺ら名無しさん

   つか、あののこぎり女とバケツ鎧見たことあるんだよな。どこのギルドだっけ?

   くっそ大勢のプレイヤーの中で見たことあるって思うくらいだから有名だと思うんだが。

 

401:俺ら名無しさん

   >>400 そうか?俺は覚えがないけど。

 

402:俺ら名無しさん

   >>400 奇遇だな俺も見たことある気がしてる。ほかの連中は見たことないな。

   特にあの黒髪美少女は見たことがないのは間違いない。あれだけの美貌を忘れるとかありえない。

   誰か名前わかるやついねえ?

 

403:俺ら名無しさん

   名前が見える距離まで詰める前にあっさりヤられた。負属性攻撃魔法だったから魔法使い系は確定。

 

404:俺ら名無しさん

   漏れは心臓握りつぶれたわ。即死魔法とか通ったのはじめてかもしれん。

   死霊使い系じゃねえの?

 

405:俺ら名無しさん

   俺名前見たぞ。ついでに至近距離で汚い物を見るような目で見られました。

 

406:俺ら名無しさん

   >>405 何したんだお前。というか表情デフォルトでそうそう動かないだろ。妄想乙。

   というかもったいぶらずさっさとさらせ。

 

407:俺ら名無しさん

   >>405 ああ、あのルパンダイブしたのお前か。付き合い考えるわ。

   それはそうと名前はよ。

 

408:俺ら名無しさん

   >>405 あなたが勇者か。さあ女神の名を教えるのだ。

 

409:俺ら名無しさん

   えー、どうしようかなー。俺が決死の思いで掴み取った大切な絆だしぃ。

 

410:俺ら名無しさん

   >>409 きもい

 

411:俺ら名無しさん

   >>409 死ね。氏ねじゃなくて死ね。あ、名前を教えてからにしろよ。

 

412:俺ら名無しさん

   >>409 お前の名前からさらそうか?

 

413:俺ら名無しさん

   >>412 待て待て待て。わかった、教えるから早まるな。

   名前は「モモンガ」だった。モモちゃんだな。

 

414:俺ら名無しさん

   なんだっけ……さっきの二人と合わせて真面目にどっかで聞いたことあるな。

   ちっと調べてくる。

 

415:俺ら名無しさん

   >>414 いてらー。情報期待してるぜー

 

 

(中略)

 

 

713:俺ら名無しさん

   本スレ大荒れだな。ギルド武器壊されたってよ。モモちゃんすげえな。

   つか「O・RE・RA」のギルド武器ってなんだっけ?見た覚えないんだが。

 

714:俺ら名無しさん

   他人事じゃねえだろ。連合解体かもしれんのだぞ。

   少なくとももう拠点改装とかできねえし、ギルド機能もいくらか凍結されちまう。

 

715:俺ら名無しさん

   >>714 正直今更ギルド改装しねえだろ。チャットとかなくなろうが大抵掲示板で話してるし。

   ちっと困るのがギルド倉庫の中身くらいだがあそこゴミ箱だったしな。

   あ、ログイン時設定どうなったんかね。

 

716:414@傷心中

   ただいま。衝撃的事実判明したわ。

   心を癒すために美少女の画像を所望する。

 

717:俺ら名無しさん

   >>716 おか。つ【画像】【画像】【画像】

   厳選だぜ。

 

718:俺ら名無しさん

   >>717 厳選するほどとったのかよ。>>716 ほれ。【画像】【画像】

 

719:俺ら名無しさん

   >>717,718 お前ら防衛もせずになにやってんだ。……内緒だぞ。つ【画像】【画像】

 

720:414@傷心中

   おまいら……全部モモちゃんじゃねーか。微妙な気分だが美少女に罪はない。保存させてもらう。

   んでだ、お前らアインズ・ウール・ゴウンって知ってる?

   あののこぎり女と鎧野郎はそこの所属だわ。破壊魔サイプレスと不落壁アイアン・ブラッドだな。

 

721:俺ら名無しさん

   確かあれだよな。非公式ラスダンの主。活動停止してたと思ったが違ったのか。

   つーとNINJAは切り裂きサタンクロスかよ。通りで速いわけだ。

 

722:俺ら名無しさん

   >>721 お前はランキング見ろよ。この前34位から13位に上がってたぞ。

   何したらそんなことになるのかしらんが活動再開はしてるっぽい。

   あれ?あそこのギルマスって確か

 

723:414@傷心中

   おう、非公式魔王様ことモモンガだ。侵入者を1000人くらいまとめて吹き飛ばしたお方だな。

   んで、同じ名前で同じ所属のメンバーと一緒に襲撃かけてきたってことは……

   十中八九モモちゃんと同一人物だ。

 

724:俺ら名無しさん

   mjd

 

725:俺ら名無しさん

   オウフ、モモちゃんの正体はあのお骨様かよ。

 

726:俺ら名無しさん

   OMG……でも今は美少女なんだよな。

 

727:俺ら名無しさん

   今>>726良いこと言った。そうだよ今なら愛でるのに何も問題ない。

 

728:俺ら名無しさん

   ふむ……いま本スレの方でお礼参りのメンバー集め始めているな。

   これは便乗して参加するチャンスでは?

 

729:俺ら名無しさん

   おお、そいつはいいな。悪い子にはおしおきせねばならんかんらなあ(ゲス顔)

 

730:俺ら名無しさん

   そういや流されちまったがモモちゃんが破壊したギルド武器ってどんなんだったの?

   俺見たことなかったからちっと残念。

 

731:俺ら名無しさん

   いや、絶対見たことあるぞ。あれを見たっていうのか知らんが。

   ああ、そうするとモモちゃんあれに触ったのか。

 

732:俺ら名無しさん

   なんだそれ?もったいぶらずにはっきり言うべき。

 

733:俺ら名無しさん

   ほら広場にご神体あるじゃん?真っ裸のやつ。あの股間についてるモザイクがそれだわ。

   名称は「俺らの剣」 とにかく硬さだけを追求しまくった逸品だな。

 

734:俺ら名無しさん

   誰だその頭の悪いこと考えたやつ。最高じゃないか。ノーベル賞をやろう。

   てか誰かその破壊シーンの画像もってねえか?

 

735:俺ら名無しさん

   しゃあねえなあ。俺がとった秘蔵の動画をやろう。つ【動画】

 

736:俺ら名無しさん

   一瞬びくってなって下がった後、全力で魔法叩き込んでるのな。反のがかわええ。

   これは是非とも拝みにいかねば。

 

 

(後略)




戦闘シーンが書けなかったのでごまかしてみました。
避難所の面々はそこまで2ch連合に思い入れがないので反応が薄いです。
きっとこんな人たちもいたでしょう。

ちなみに戦闘能力が下がるのに人間形態で攻めたのはいきなり迎撃されずに中に入れるからです。


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防衛戦(1) ※るし☆ふぁー視点

前回モモンガさんが股間を粉砕したらお気に入りが伸びた。
何を言っているか私もよくわからないがここが日本である証明のように感じた。

今回、千年桜さんより「ブランク・ルック」黒茶さんより「リリー」抹殺完了さんより「ユッタリぷりん」無農薬栽培マグロさんより「ししくれ」を採用させていただきました。
ご参加ありがとうございます。


「悪いけど、これだと俺は許可出さないな」

「……やっぱり下手だからですか?」

 

2ch連合侵攻前、モモンガさんから作成中のアバターを見せられた。

なんでもなるべくなら早く男性アバターに戻したいので助言が欲しいとのことだった。

確かに自作が必須と決めたが、誰かに手伝ってもらってはいけないというルールはない。

しかし、他人に迷惑をかけないことを第一にしているようなモモンガさんが助けを請うてきたのは意外だった。

しかもゲーム内では人に迷惑をかけることを生きがいにしているような俺にである。

 

「んー、上手い、とは言ってあげられないけど、それなりによくできてるとは思うよ」

「じゃあどこがダメなんですか?」

「これさ、モモンガさんが使いたいアバターじゃないっしょ? なんていうか、みんなから変えていいよって言ってもらうためだけに作ったように見える」

「でも許可を貰わないと変更できないんだから、まずはみんなが格好いいと言ってくれそうなものを作らないと……」

 

そんなことを言うモモンガさんに少しばかり溜め息が出る。

なんでこの人はそこで他人のことを考えてしまうのか。

メンバー全員、モモンガさんが女性アバターを嫌がっていることくらいわかっているのだ。

一応ルールだから最低限の期間さえ守ってくれれば、モモンガさんが変えたいと思うアバターにしていいと言うだろう。

もし、途中でどうしても嫌だと言ったって半数くらいは無条件で受け入れただろう。

もう半分だって条件付きでなら許可するだろうし、俺だって……許可しないこともない、はずだ。たぶん。

 

「まず自分が使いたいやつを作りなよ。それがみんなが合格出すレベルに達してなくても、そっちのほうがいい」

「え、合格できないなら作る意味ないじゃないですか」

「モモンガさんがまず自力で頑張る。そしたら別条件もうけて俺らが作ったげるよ」

「でもルール違反するんじゃ決めた意味が」

「確かにルール違反だけどさ。最後の最後に不満抱えたまんまゲームやることもないだろ」

「……嬉しいですが、いいんでしょうか」

「いいさ。俺たちだって最強の魔王様作成に関わりたい。でも努力はしてくれよ? モモンガさんが頑張るところに意味があるんだから」

「……はい」

 

どうやらモモンガさんは納得してくれたようだ。さて、他のメンバーに根回しするとしよう。

俺はるし☆ふぁー。しがない1クリエイターである。

 

 

*   *   *

 

 

「諸君! これは由々しき事態である! 計画改善のため忌憚のない意見を言ってほしい!」

 

2ch連合攻略後、俺は仲間を集めて会議を開いていた。

参加者はブランク・ルック、リリー、ユッタリぷりん、ししくれである。

共通点は悪ふざけが好きで人をおちょくることに命をかけられる馬鹿であるということだ。

ちなみに俺を含めてみんな2ch連合攻略には参加しなかった。

いたずらは事前の仕込が肝なので防衛のための仕掛け作りに精を出していたからである。

 

「うん、こいつはまずい。今まで考えてた計画の修正がいるね」

 

まずブランク・ルックが答えてくる。こいつは実社会でのストレス発散のために狡賢い悪妖精を演じているやつだが、身内の前では普通に話している。

 

「まったくまいっちゃうね。けっこう自信があったつもりだけど井の中の蛙だったってことか」

 

これはリリー。ネカマでサキュバスをやっている。

見た目は中々の美女だが中身が悪ガキなので残念の一言に尽きるな。一度誘惑ロールをしているのを見たことがあるが酷かった。あれでは誰も引っかかるまい。

 

「下手なギミックで対抗できないのがつらいな。かといって後追いは論外だ」

 

ユッタリぷりんが続く。本人は突撃マニアだが職業的に機械の製作と操作に長けているので俺らのいたずら用ギミックも担当してくれる。他のやつらは手伝ってはくれないのだ。結果は楽しむくせに。

 

「インパクトが違ったよね。同じコンセプトじゃまず勝てない」

 

おどろおどろしい声でししくれが溜息をついた。こいつの声は素でこんな感じである。

不気味さの演出が大好きなので本人は重宝しているようだが。

 

「本当にな。どうにかしてあれを超えるネタを出さなければ俺たちの敗北だ」

 

俺たちは顔を見合わせて頷きあう。

 

「打倒! 『俺らの剣』だ!」

「「「「おう!」」」」

「出て行ってください」

 

一致団結したところでモモンガさんとたっち・みーに摘み出された。

やはり玉座の間で会議はダメだったか。

 

そんなわけで、俺たちは決意を新たに仕掛けを作成した。

俺らの剣を作成した同士、いや心の師匠に恥じないよう全力で取り組んだのだ。

 

 

*   *   *

 

 

2ch連合がやってくる日になった。連合は再建されていないが掲示板を使って連携して攻めて来るんだからそれでいいだろう。

そう、あいつらの行動は全部掲示板で決まるのでこちらに筒抜けである。

楽に思えるかもしれないが意味のないレスも多く目的の情報をあさるのは結構大変だ。

しかもギルド武器破壊はやはりインパクト絶大で、関連スレ含めてものすごい加速してたので追跡は想像以上に面倒だったそうだ。

一番加速してたのが「モモちゃんを愛でるスレ」であったことはモモンガさんには秘密にしておこうと思う。

俺やペロロンチーノはこっそり画像を投稿しておいた。

 

今回の襲撃において、俺たちは極力戦闘に参加しない。

基本的に追加した階層や改修した守護者やらモンスターがどの程度機能するかを確認するためである。

深海は地底湖と氷河の間。空中庭園は氷河とジャングルの間に設置されている。

 

つまり、

1~3:墳墓

4:地底湖

4.5:深海

5:氷河

5.5:空中庭園

6:ジャングル

7:溶岩

8:荒野

となっているわけだ。

 

氷河は「濡れ」状態だと冷気ダメージが加速する仕様があるので地底湖の後だったのだが、今回確実に「濡れ」状態にできる深海が追加されたのでシナジーが期待できる。

ちなみに「濡れ」状態は乾かせば普通に解消するし、そもそも状態異常の一種と認識していない人間もいるくらいマイナーなものだ。

単体だと濡れた衣服が不快になるくらいでしかないからな。

空中庭園はジャングルの空に当たる部分と設定されたためにこの位置になった。

落ちてもジャングルに行けるわけじゃないから気分的なものだが。

どちらも守護者は配置したものの調整が完璧と言い切れない部分があるため、なるべく到達して生贄、もとい試験に参加してほしいものである。

 

 

*   *   *

 

 

第1から第3までは墳墓が続く。出てくるモンスターはアンデッドばかり。

多数のデストラップをしかけてあり、ここでどれだけ削れるかが後の防衛を左右する。

つまりは罠を仕掛ける俺たちの腕の見せ所というわけだ。

そのはずだったのだが。

 

「……なんかあれですね。前からあるトラップの突破率高くないですか?」

「これはあれだな。以前の攻略情報見つけてきたのか対策してるなあ」

「新しいやつは割としっかり引っかかってますもんね」

「あの初見殺しに引っかからないってことは確実に対策してるねえ」

 

ギルド拠点では監視魔法対策に引っかからず内部を確認する手段がある。

どこでも使えるわけでなく特定の部屋からになるので、本来はそこに司令塔をおいて防衛するのだ。

しかし今回はみんなで見物である。

 

「なんで改修しなかったんです?」

「ん、まあ本番に取っておきたかったってのと、何も変わっていないと思わせておいて新階層のインパクトを上げるためだな」

「でもそれなりに色々用意はしたよ。あ、ほらそろそろ差し掛かるよ」

 

リリーが用意したのは奈落を横断する5本のロープがあるエリアだ。

低位の飛行魔法は強制解除されるので、種族的な飛行能力かコストの高い高位の飛行魔法を使う必要がある。

そうでなければ楽しい綱渡りだ。

ブランコ、というか滑車に一本縄をたらしただけのものが用意されているので力技ができないやつでも一応攻略はできる。

自動で戻すなんて親切設計ではないので誰かが戻ったり、自前のロープをつけて引き戻したりしなけりゃいかん。

そしてランダムで途中で止まることがある。ロープの上にスライムがPOPして動きが止まるのだ。

弱いから魔法でも攻撃でも一撃だろうが両腕しか頼るものがない中、攻撃のために片手を空けるのは結構勇気がいる。

それに心情的に自分を唯一支えるロープを巻き込んで攻撃するのは怖かろう。

飛行型のモンスターも標準配備だしここはコスト消費覚悟で高位の飛行魔法が一番楽だろう。

序盤で使いたくはなかろうがそういった葛藤をさせるのも目的である。

 

案の定、侵略者たちは一旦立ち止まった。

なにやら議論していたが、一人が痺れを切らしたのか飛行魔法を使って飛び立ち、そして落ちていった。

脳筋乙。あいつは恐怖公行きだな。恐怖公もあのゴーレムもレベルアップさせたから後でどうなったか見ておこう。

一番手が落ちたからか、侵略者たちは飛行が全般にダメだと判断したようだ。これは嬉しい誤算。

確かに全飛行を解除する仕掛けはあるにはあるんだが、くそ高いので使用許可がでなかったのだ。

一部ダンジョンには普通に存在するから誤認したのかもしれん。

侵略者には防衛側の事情が完全にはわからないことを念頭に置くべきだな。

 

手にスライムがくっついて慌てて落ちる者。火力を出しすぎてロープを焼ききる者(ロープは短時間で復活する)味方の援護射撃に驚いて手を離した者。

中々阿鼻叫喚である。

 

さて、ここは序盤も序盤。空中庭園までこれるやつはどの程度いるかな?




意外にトラップを考えるのが大変です。
心を折るような、即死するようなと色々あるのに中々形にできない。
今回のは遅延・分断目的のトラップになるのかな。
対岸では少人数になったところに襲撃が仕掛けられています。

後、どうしようか悩んだのですがまたアンケート。
困ったら聞いてみるのが一番。


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防衛戦(2) ※ウルベルト・アレイン・オードル視点

防衛戦の続きと見せかけたウルベルトさんリア充化計画。
まあ、話の合う女性でもいればってだけなんですが。


アップデートがあってユグドラシルに復帰して以降は怒濤の展開だったと言える。

限界突破もそうだがワールド・サーチャーズとの合併は驚きの一言に尽きる。

予想外のことが多くて退屈がないのはいいことだ。

 

さて、こんな時期まで残っていたワールド・サーチャーズ、現ゾディアックの面々は、それぞれ探したいものを抱えていた。

新ワールドである「生命の木の丘」にも興味はあろうが、彼らは自分の趣味にも手を抜かなかったのだ。

本当に絶頂期に交流がなかったことが惜しまれてならない。

 

で、俺も探索はそこそこやっていた方なので、ちょいちょい彼らを手伝っていたわけだ。

その中でレイレイさんは、とある鉱石を探していたと言う。

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! 私が探しているのは熱素石の対となる存在なんです!」

「ほう、仮に冷素石とでも言えばいいのかな?」

 

話してわかったがこの子は理屈屋だ。しかも好きなことになると止まらないので、まともに聞いてくれる人間が周りにいなかったのだろう。

俺としてはこれくらい理屈っぽい方が話しやすくて助かる。

やたらとテンション高く語ってくれたところによると、熱素石はいわゆる永久機関に当たるものであり、物理学のにおける妄想レベルの夢の一つなのだそうだ。

それに並ぶ物理学上の妄想の産物が完全剛体と呼ばれる性質だ。

 

「無限のエネルギーに完全なる物質! これを合わせたとき何ができるんでしょう! 色々できすぎて妄想が止まりませんよ!」

「入手の当てはあるのかい?」

「たぶん大雪原のどこかなんですよ。あそこには到達不能極があるはずなんです」

「確かすべての入り口から最も遠い地点のことだったかな?」

 

レイレイさんの言う大雪原には名前がついていない、いわゆるその辺の草原とかと同じ扱いのフィールドだ。

一応固有のモンスターやボスもいるにはいるのだが、特にめぼしいドロップもなくダンジョンがあるわけでもないため人気のないエリアだった。

おまけに冷気ダメージを軽減・無効化する魔法やアイテムを使うと一定時間で解除されてしまうので、突入するにしても最短距離を突っ切るのが常識とされていた。

 

「ええ。種族特性で冷気耐性でもないと中々探索できないんで困ってたんですよ」

「それで雪女なのか。だが神器級なら種族特性並みの耐性をもっているものもあったような」

「あのですね。目的に合わせて神器級装備を使えるなんて本気で稀なんですよ? アインズ・ウール・ゴウンは装備も資金も潤沢すぎるんだからそれを基準にしないでください」

 

じと目で返されてしまった。そんなつもりはなかったが我々はかなりの金満ギルドであったらしい。

そういえばどうやってここまで資金を貯めたんだったか……

ああ、思い出した。音改がゲーム内で相場操作を仕掛けたんだった。

たかがゲーム、されど中の人は普通の人間。ならば現実世界の道理が通用しないわけがないといって荒稼ぎをしたんだった。

資金の流れの追跡調査なんかできようもないので反撃を受けない一方的な蹂躙だったと高笑いしてた。

こちらも確認できないのにどうやったんだか。

 

後は装備(あるいは種族)と根気だけという状況だっただけに、案外あっさりと目的のアイテムは見つかった。

あたり一面真っ白で吹雪く中、目的地にたどり着くのが困難というだけだったので、レベルアップで増大した魔力にものを言わせて雪原の中に線を引いたのだ。

目的地に向かってひたすらまっすぐ魔法をぶっぱなして歩くだけなのだが、当然モンスターが襲ってくるので楽とは言い難かった。

何しろ俺が向きを失うとやり直しなので戦えなかったからな。

壁に用意できたメンバーに、たっち・みーがいたことだけが非常に遺憾ではあったが仕方ない。

みーにゃちゃんもついてきたので、格好いいところを見せたいと言われれば協力してやることも吝かではない。

一応(本当に申し訳程度だったが)頭を下げさせたので良しとしよう。

 

 

*   *   *

 

 

そうして手に入れたアイテムは当然のようにワールドアイテムだった。熱素石同様に量産できる類の。

名前はリジッドストーン。まあ、剛体ってことだ。

どうもワールドアイテムを形作る素材(の一つ)と設定されているようで、これを利用することで世界に唯一のアイテムを作れるらしい。

うちでは早速ガルガンチュアの装甲に流用されたのだが、その時の試作品(・・・)があったわけで。

そいつらが今地底湖で猛威を振るっているというわけだ。

 

「ふーはっはっは! 見たか、俺の試製21式ゴーレム改の強さを! いけ、そこでパンチだ!」

 

やたら盛り上がっているのはユッタリぷりんだ。

ぬーぼー達と交渉して希少な新アイテムを確保してゴーレムを作成したというわけである。

本人は壊れないトラバサミやまきびしなんかを作りたかったようだが、拾われたらどうすんだと怒られ渋々ゴーレムにしたそうだ。

 

ちなみにゴーレムは、るし☆ふぁーがデザインした筋骨隆々のマッチョマンである。

……なんというかとりあえず殴っておきたくなるような「いい笑顔」を浮かべている上、ビキニパンツ一丁。なにかとポージングを取るという相手を挑発するためだけに作られたようなゴーレムである。

今もユッタリぷりんが言うようにパンチをすればいいところで、見事なアブドミナル&サイを決めていた。

2ch連合のプレイヤーが全力で攻撃をしかけているが、全身にリジッドストーンをコーティングしてあるので耐久性が跳ね上がっているので効いていないように見える。

 

先に進むためには別に倒す必要はないのだが、ポージングを見ると「魅了」の状態異常にかかるか、その耐性が徐々に下がっていく。

無駄に視線を集めるのでそのうち、魅了にかかってしまうというわけだ。あのゴーレムに魅了されるのは大分屈辱だろう。

攻撃を当てると耐性低下もリセットされるのでやられた方は、ゴーレムを殴らざるを得ないのだ。

攻撃のたびにゴーレムを見るので、直視しないようにしつつ攻撃してとっとと離脱しないと無限ループだ。

何人かはどツボにはまってイライラした結果、大技をくりだして無駄に消耗しているというわけだ。

 

 

*   *   *

 

 

「くそう、私が長年追い求めてきたアイテムをあんなものに使うなんて……」

「だが、効果的ではあるようだぞ。攻撃を無駄撃ちさせているし、攻撃を受けることが決まっている以上耐久を上げるのは理にかなっている」

「理屈はわかるんです。わかるんですが……もう理屈じゃないんですよ! なんか、こう、汚された気分になるんです!」

 

レイレイさんがどんよりとしていたので、慰めてみたがダメだった。

理屈屋の彼女が理屈ではないというのだからロマンというのは恐ろしい。

いや、俺に女性を慰める才能がないのか。

 

「普通ワールドアイテムってもっとこう、立派なことに使うべきだと思うんですよ! なんでこのギルドではワールドアイテムの価値が安いんですか! 死蔵されるよりはいいですけどなんか私の価値観が崩壊しそうです」

「なら立派なことにも使えばいいさ。何かやりたいことはないのかい?」

「むー、それでもアレはなくならないのですが、ここはごまかされてあげましょう。……そうですね、時間があればそれこそ色々したかったんですが。やっぱり最強装備作りたいですね。最強こそロマンです」

 

中々意外な答えが返ってきた。

確かに作成したものが準ワールドアイテム級になるのだから最強装備というのは間違いではあるまい。

元々のワールドアイテムは形状も効果も決まっているから、個人の最強装備にはよほど相性が良くないとならないのだ。

 

「おや女性でそういうのは珍しいね。茶釜さんもやまいこさんも最強には興味なさそうだったんだが」

「それは個人差ってやつですよ。私はRPGやるなら全キャラ最強装備をそろえる人間なのです。全員が無理なら一人の究極キャラを作るのが好きです」

「おやおや。それは自分じゃなくてもいいのかい?」

「このゲームで最強になれないのはわかってますからね。だからこのギルドで強い人の装備作りたいです。モモンガさんのギルド武器強化は決定として、たっちさんと、あとウルベルトさんにも何か作りたいですね」

 

モモンガさんとワールドチャンピオンと一緒に自分の名前が挙げられるとは思わなかった。

確かに戦士職最強と魔法職最強と並んで称されたりするが、ワールドディザスターは世界の名を冠しつつも量産型と言える程度に取っているやつが多い。

大体魔法傭兵ギルドのせいなのだが。

 

「ありがたいが完全剛体なんて魔法使い装備に使いようがあるのかね」

「武器の素材として使うと大量のデータが入れられるのは確認済みですからね。シユウさんは武器方面の作成者ですから、カッチンさんとタブラさんに協力頼まないとですね」

 

なに入れようかなー、等と言っている彼女は非常に楽しそうだった。




ゴーレムは想像した人もいるかもしれないですが、超兄貴のサムソン&アドンです。
きっとあれならみんな殴ってくれる。

※追記
パンツの種類間違えてた。

さらっとウルベルトさんがボディビルダーのポージングを語ってますが、運動が盛んでない代わりに体を鍛える趣味の人はボディビルディングやってると考えてます。
なので普通の人でもそこそこ詳しいというどうでもいい設定。

あとなんで地底湖なのかというのは一応ゴーレムなのと、服装が水着と言い張れるから。


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防衛戦(3) ※ぶくぶく茶釜視点

そろそろモモンガさんに怒ってほしいがなかなか仲間に対して怒りゲージがたまらない。
早いところ一回は怒ってもらおう。


今回は守護者ではないですが葵ふうたさんの「ハンマー・ザ・コヅチ」に影響を受けたモブを出してみました。
アイデアありがとうございます。


モモンガさんから自作アバターを見せられた。

……うん、あれだ。良く言えば、いや、言葉を選びに選べば独創的と言っていいような気がしなくもない。

 

一応何がしたかったのかはわかる。おそらく女性アバターが見事なまでに黒一色だったから白をコンセプトにしたかったのだろう。

そしてステッキにシルクハット、スーツにコートを羽織っているあたりからイメージはイギリス紳士だろうか。

下手に白だけで統一しようとせず手袋や襟の辺りは色がついている。

そう、服装は悪くない。

 

問題はやはりというか人体部分だ。

パーツは既存のものを組み合わせたのだろうから、目だけ口だけを見れば整っている。

しかしながら、全体で見るとどうにもバランスがよろしくない。

なんだろう? 下手にイメージがあるとちょいちょいいじってしまうのだろうか?

こちらも幸いにしてコンセプトはわかる。

たぶん狂気的な表情を演出したかった……はずだ。ごめんやっぱり自信ない。

 

「あー、モモンガさん。やっぱりこれは許可できない」

「うん、モモンガお兄ちゃん、これはちょっと……」

「あ、もういいです。これ以上言われたら心が折れそう」

「あーあーわかった。いったんまとめよう」

 

言葉を濁しつつも否定的な意見に凹むモモンガさんという流れを遮るように、手を打ちながらるし☆ふぁーが話をしめる。

こいつが建設的な話をすることはめったにない、というか本当に数えるほどである。

それだけにこいつが主導しだすと一気に話が進むのだがものすごい納得がいかない気分にさせられる。

今回は事前に根回しがあったにも関わらずそう思うのだから大概である。

 

「じゃあモモンガさん、約束通り別条件をここでみんなで採択しよう」

「あれ、るし☆ふぁーさんが決めるんじゃないんですか?」

「んなわけなかろう。みんなで決めたルールを俺だけの裁量で変えたらだめだろう」

「なんでこんなときだけ正論なんですか」

「こんなときだからに決まってるだろ」

 

うん、モモンガさんわかるよ! 納得いかないよね。

こいつの正論とかおかしさMAXだよね!

でも、ここは乗るべきだと思うんだ。

 

「モモンガお兄ちゃん抑えて抑えて。それで、るの字。どうやって決めるよ?」

「いつも思うけど俺の扱い酷くね?」

「いい扱いして貰えると思う方がおかしい」

「それもそうか」

 

納得しやがった。なんかやりにくい。

こいつに大人の対応をされると自分がひどく子供っぽく思えて非常に嫌だ。

私はロリキャラを演じているのであってロリになりたいわけではないのだ。

しかしまともなこと言ったと思ったらいきなり変な提案をしやがった。

 

「んで、俺から提案するぜ。一つは「デュアルアバター」買って今のアバター消さないこと。これはモモンガさんが自作するわけじゃないから受け入れてくれ」

「え」

「あと俺は未だに会えないわけだが、みーにゃちゃんがかわいそうだろ」

「いや、でもアバターを変えることを機会に教えようと思うわけで」

「……無理じゃないですかね。今まで言えなかったわけだし」

「ぷにっとさん!」

「俺も本当に申し訳ないが、できればサービス終了までごまかしてくれるとありがたいんだが」

「たっちさんまで!」

 

モモンガさんは女性アバターが嫌だから変えたいと言っているのに。なんたることだ。

ぷにっとさんが乗ってしまい、おまけにたっちさんまでが賛成に回ってしまうとモモンガさんに勝ち目が薄い。

だがたっちさんが人の嫌がることをしてまで、るし☆ふぁーの提案に乗るということは……

ここは聞いてみる必要があるね。

 

「あのさ、たっちさん。ひょっとしてみーにゃちゃん大分まずい?」

「まずい、というのが何をさすかによるが……だいぶ」

「え! 健康に不安があるとか病気とか! まさかいじめられているとか!」

 

なんてこった。みーにゃちゃん相当入れ込んでいるな。

そしてモモンガさんまったくわかってない! そんだけ心配してくれるお姉さん(・・・・)だから懐かれているんだよ!

どうしよう、モモンガさんのために反対してあげたいけど、みーにゃちゃんのことを考えると賛成しなきゃならんし。

くっ、なんと言う二律背反。

 

結局私は投票を棄権した。そしてその結果、モモンガさんは女性アバターを消せないことになった。

モモンガさん本当にごめん。変わりにならないかもしれないけど、男性アバター作成は全力で支援するから!

 

 

*   *   *

 

 

「ん、シャルティアが後続倒しきったみたいだぞ」

「よっしゃ! さすが俺のシャルティア!」

「墳墓をどのくらい通したんだっけ?」

「確か7割くらいだったか。予想では2割くらい削れればいいと思ってたが想像以上に倒せたな」

「平均レベルが相当低かったな」

「レベル200に達しているプレイヤーがいなかったのもあるし」

「なんでかしらんがシャルティアに突っ込んできた奴が多かったのもあるなあ」

 

うむ、馬鹿が多かったらしい。さすが2ch連合だ。

どうせなら美少女に殺されたいとか考えた奴が何割かいたに違いない。

あと、弟黙れ。

 

「全体の脱落はどれくらいかな」

 

正確な数は分からなかろうが目安は知りたい。とりあえず聞いてみる。

 

「そうだなあ。んー、概算になるが残り5割きったな」

「え、だいぶ脱落してるね」

 

まだ第4階層だというのに、びっくりである。

本当に空中庭園で全滅するのではなかろうか。

 

「先頭はそろそろ深海に突入するかな」

「下手に事前知識仕入れているっぽいからなあ。驚きすぎてそこで全滅するんじゃね」

 

さすがにそこまで間抜けと思いたくはないが、シャルティアの件を考えるとないとはいえなくもない。

うちも他所の事をとやかく言えないが、2ch連合だしなあ。

 

 

*   *   *

 

 

深海のエリアに敵が突入すると同時に歌が響き始めた。

餡ころもっちもちさんが作り上げたマーメイドとセイレーンを種族に持ちバードをメインにした守護者である。

水中だと音の届く範囲と音の速度が跳ね上がるので、進入直後から攻撃が可能なのだ。

名前はコリエンテ。見た目はおっとり系の美人さんである。

 

侵入者たちはいきなりの水中に放り出されはしなかったものの、狭い入り口で立ち往生だ。

いきなり水に突っ込めるほど現代人は図太くない。

だがもたもたしていれば、何もできないまま死ぬことになる。

そう、今コリエンテが歌っているのは魂を死へと誘う歌。

かなり長時間にわたって聞かせないと効果が無いのでネタ扱いされているが、一定時間聞くだけで魂が抜かれる極悪な歌だ。

ちなみに即効性がないから「即」死攻撃ではないらしい。

 

その攻撃の性質上音耐性が高ければ、一応死ぬまでの時間は長くなる。

が、音属性攻撃というのは「子守唄」なら睡眠耐性、「破壊音波」なら単純な物理防御力といった別の手段で対抗できるものがほとんどであるため、音そのものに耐性を持たせるプレイヤーは少ない。

何より完全に音耐性を得ると周囲の音が聞こえなくなるのでプレイに支障がでるのだ。

しかしながら泳ぎが必須のため攻略に時間がかかるだろうこのエリアにおいて、この攻撃は実に性質が悪いといえる。

 

おまけにコリエンテはテイマースキルも所持している。

そしてこの深海エリアにはクラーケンを筆頭に大海蛇、家を丸呑みできそうな巨大なアンコウ、水面に擬態した超大型クラゲ、動く要塞のような鯨といった彼女の使役する大型モンスターがかなりいる。

よほどのことがない限り襲い掛かってこないが、海上でならまだしも水中で戦いたいと思うやつは少数派だろう。

戦えば無駄に高いHPを削るのが大変なので時間をとにかく浪費する。

戦わなければ今度は大回りを余儀なくされて移動に時間がかかる。

レベル200にしては本体は強くないがテイマー系で強化されまくった彼女のペットは非常に凶悪な存在となるのだ。

 

餡ころもっちもちさん、本人に自覚ないけどギルド内部でも1、2を争うえげつない仕掛けを考える人間なのである。

繰り返すが本人に自覚は、まったくない。

たまにではあるがうちの軍師が引くことがあるといえばどれだけかは想像できるのではなかろうか。

 

何人かはこの歌の正体を知っていたのだろう。意を決したかのように少しずつ水の中に入っていった。

そしてその行動を後押ししたのは、下手くそな泳ぎで前を進む人影の存在だろう。

そう、このエリアには人型のモブが配置されている。決してプレイヤーのそばには寄らないが遠距離から姿を見せるためだけに配置されているのだ。

彼らは暗くて広い深海でプレイヤーの動きを誘導する罠なのである。

 

ただでさえ動きにくく薄暗いのにクラーケンをはじめとした超大型モンスターが徘徊しているエリアである。

攻撃にさらされなくとも簡単に逃げられない中で大型のモンスターの直近にいるのは神経がよほど太くないと、いや、たとえ神経がワイヤーでできていても遠慮したいところだろう。

考えてみてもほしい。自分からたった(・・・)3Mくらいのところに巨大生物の触手が通ったりするところを。

想像してみてほしい。自分の頭上を自分より圧倒的にでかい生物がゆっくりと移動していくところを。

しかもそれらは怒らせたら確実に襲い掛かってくるのだ。

せめて人が多いところに行きたくなるのは当然の心理といえる。

 

ちなみに人影のリーダー固体は作成者のブランク・ルックより「オトリ」「デコイ」「ギジエ」の名前が与えられている。

ちなみに「ギジエ」は女性だ。水着を着てるからプレイヤーでないとすぐばれそうなものだが、「水着の女の子がいれば絶対に引っかかる男はいる!」と力説していた。

とりあえず弟が深くうなずいていたので合わせて殴っておいた。

 

その何も考えていないような作戦は見事当たって、遠目におっぱいがみえて露出度が高いのがわかっただけでノコノコ寄って行った馬鹿はそれなりの人数に上った。

これだから男ってやつは。

 

そして沈没船や海底神殿で力尽きてログアウトしたプレイヤーも相当数いたようだった。

たどりついたは良いもののゴールでないことに気がつき、もう一度探索に出る気力がなかったらしい。

ナザリック所属者以外がそんなことをしたら強制ログアウトだというにやってしまった辺り、本気で気力をへし折られたに違いない。

 

そんなこんなで深海を突破できた敵はさらに少なくなっていた。




未だに深海まで。というか本来ここで全滅してもおかしくないね。
話の都合上もうちょっと残ってもらわねばならないけど、本番ではきちんと猛威をふるえるだろうか?


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防衛戦(4) ※ヘロヘロ視点

終わらせそこなった。次こそ2ch連合の侵攻は最後になるはずです。
ところで年内に後何話かけるんだろうか?


ブラック企業、という言葉がある。職場環境が過酷過ぎる企業につけられる蔑称だ。

かく言う僕が勤める企業も大変なブラック企業である。

大抵は企業の体質に原因があるのだが、原因はそれ以外のところにもあるのだと主張させてもらいたい。

 

体質云々以前の根本的な問題として、とにかく人員が足りていないのだ。

学習の機会が限られ思考が制限される。そんな中で発想を求められる職業につけるやつはどれほどいるのだろう。

僕のついているプログラマーという職業だって、どういうコードを組み合わせて機能を実現するのか、考える頭が絶対に必要になる。

数学的知識とか関数の丸暗記以前に、ここをああしたらそうなるという想像力が重要なのだ。調べて分かることなんか検索できるだけの頭とツールがあればどうとでもなる。

 

ブラック企業が切実に求める人材を紙を切ることでたとえるなら、絶対に必要なはさみやカッターではなく、紙を切った結果どうなるのかを考えられる想像力ということになる。

ツールの類はいくらでもあるのだがそれを使える人間が致命的なレベルで少ない。

大学を出てくる新人なんてうちみたいな弱小企業じゃお目にかかれず、やる気があるが技能がまったく足りない人材を鍛えるには時間とこれまた人手がない。

ひどいジレンマである。

うちの会社はこれでも苦しい中やりくりして新人教育を行うマシな部類なのだ。教育の担当者が僕じゃなければもっと良かったが。

 

僕はヘロヘロ。

名前のとおり体を酷使しているサラリーマンである。僕なんでこんな名前つけたんだろうね。

 

 

*   *   *

 

 

結局、モモンガさんがアバターを作成してもらう条件はこうなった。

 

1.自作しないペナルティとして女性アバターは消さない。

2.もう一つNPCを作成する。

3.できればパンドラズ・アクターにまともな外装を作る。

 

「なあ、るし☆ふぁー。なんであんなに条件つけたの?」

「ん?」

 

会議の後、るし☆ふぁーに聞いてみた。

特に1の条件に納得がいかなかったからだ。

 

「モモンガさんが嫌がっているから変更手伝おうっていったのお前じゃん。なんでそんな矛盾するようなことしたのさ」

「……俺の行動に一貫性を求めちゃだめだぜ? 何しろ俺様いたずらを愛しているからな」

「そんなんでごまかされると思うなよ」

 

非常に遺憾ながらこいつの作る外装はすばらしく、創作する数もまた多い。

なのでAIを担当している僕はこいつの要望に応えてAIを作成することが何度もあった。

残念なことにこいつとの付き合いは割りと深い方で、こいつがただのおふざけ野郎でないことも知っている。

意外に仲間思いで真面目なのだ、こいつは。……すぐに考え直した方がいいんじゃないかと思わされるんだけどね。

るし☆ふぁーは僕を見て観念したように手を上げると言った。

 

「まあ、モモンガさんに反対して欲しかったんだよ。怒る程度で。失敗したけどな」

「……つまりお前はマゾだったのか」

 

ひょっとしてモモンガさんが女性アバターになったから罵って欲しかったのだろうか。

確かにあのアバターは美少女だ。しかもデフォルトで偉そうな感じの。

そうだとするならこいつもペロロンチーノに匹敵する変態だったのかもしれない。

スライムのボディを利用して向かい合ったまますすっと下がる。

 

「おいこら、待て」

「大丈夫だ、お前が変態でも軽蔑するネタが増えるだけだから」

「だから違うっつーの!」

 

どうやらこいつは己の変態性を隠したいらしい。ペロロンチーノほどオープンでないのなら大丈夫かもしれない。

 

「まだ変な事考えてそうだが……ヘロヘロ、俺たちが戻ってからさ、モモンガさんに恨み言とか言われたか?」

「いいや? 元々そういうこと言わない人だしね」

 

そんな人だからギルド長ができたとも言える。個性的過ぎるメンバーの間に立って調整するとかうちの会社でもないくらいの重労働だ。

 

「正直さ、もうちょっと我侭言ってくれてもいいと思うんだよな。好き勝手やって迷惑かけた俺が言うのもおかしいかもしれんが」

「確かにおかしいな。お前が気を使っているあたりが特に」

「うっせ。俺だって社会人やってるんだ。他人に気を使うくらいはするさ。……まあ、なんだ。できればモモンガさんに不満を抱えたままゲームを終わらせて欲しくないんだよ」

 

違和感しかない件について。でも言いたいことはわかる。

きっと僕らを呼び戻したのはモモンガさんの精一杯なのだ。

ずっと拠点を維持してくれたことに対して僕らは礼を返せてはいない。だってそれは並大抵の覚悟でできることじゃないから。

せめてそれ相応の報酬があってもいいと思う。

ここはリアルみたいにどうしようもない世界じゃなくて、努力が報われるゲームの中なのだから。

 

 

*   *   *

 

 

第5階層に突入した侵入者は、かなり減っていた。

最初は以前と同じく1500人をちょっと超えるくらいいたはずなんだが、墳墓地帯で500人ほど削れ、地底湖で更に300人程脱落した。

そして新規階層の深海の極悪仕様により残ったプレイヤーはおよそ160人といったところか。

先頭で深海を抜けたプレイヤーが後続に情報を伝えようかというタイミングで、空気を読めないやつがクラーケンを攻撃してしまったのが運の尽きと言える。

クラーケンの触腕の一振りで消し飛んだプレイヤーは十数人だったものの、発生した水流が致命的だった。

まず統率者のいない2ch連合は建て直しに時間を食いすぎた。

そのロスも痛かったが、自分の位置を見失ったプレイヤーが続発したことで伝えられた情報があだとなった。

大して目印の無い深海なので沈没船を右手にとか、海底神殿に対して60度くらいでといった指示が食い違いまくったようだ。

 

この辺はリアルタイムで掲示板を眺めていたメンバーから報告されていたので間違いない。

 

悠長に実況しながら進む余裕があるとか。そんな無駄技能あるなら是非ともうちの会社で雇いたい。

ながら作業ができるならさぞこき使い甲斐があるだろう。……きっと教育時間も短くてすむ。

 

そして先頭を進んでいた集団なのだが、こいつらがだいぶ強かった。

いや、強い、というのも何か違う気がする。なんていうか士気が高い。

30人くらいの集団なのだが誰かがくじけそうになるとみんなで声を掛け合い、脱落者が出そうになればフォローし合いと、もはや一個の生命体のような連帯感で突き進んでくる。

 

「彼ら強いですね。個人が強いというか何か共通の目的があるような動きです」

「共通の目的、ねえ。ギルド武器を壊された恨みってこと、にしちゃあ明るいな?」

 

たっちさんとウルベルトさんがそれぞれ意見を述べる。

二人の言うとおり、彼らはすごい前向きな感じだった。

音声が入れば彼らが何を持って自分たちを鼓舞しているのかわかったのだが、ギルド内では破格の性能のこの監視も音声はフォローしてくれない。

さすがに作戦筒抜けはやりすぎだからだろう。

 

「お、そろそろ襲撃地点に着くな」

「力作ぞろいだから反応してくれるといいんだが、あの様子だと効果が無いかもなあ」

 

実際ししくれ謹製の「凍りついた人々」のエリアは割とやすやす突き進まれた。

吹雪の中、凍りついたという設定の氷像が乱立するエリアである。

ちなみに氷像群は一人一人、るし☆ふぁーが絶望の表情を丹念に作りこんだ趣味の悪いものである。

その氷像を盾にするように戦う隠密製の高いモンスターが襲撃をしかけてくるのだが、なんでか相手も同じく隠密系が多いので、ものすごく見ごたえの無い戦闘になっていた。

画面から敵も味方も全員消えるとか放送事故だよね。

 

「あ、また消えた!」

「なんでこんなに隠密系ばっかり残っているんでしょうか?」

「先頭を進んでいるんだし偵察部隊とか?」

「隠密系に大事なのは見つからないと信じる心と攻撃を自重する忍耐だしな。深海の巨大モンスターがノンアクなのに気がついて突破率が高かったんじゃないか?」

「それはあるかもしれませんね。恐ろしいほど堅実ですし」

 

よく見ると確かに彼らは可能な限り戦闘を回避していた。

リスクがあるかもしれない行動は極力行わない。一歩でも先に進もうとする姿勢には執念すら見える。

少しでも情報を集める為に必死なのかもしれない。次回のアタックがあると面倒この上ないのだけどどうしたものか。

 

そんな中で唯一面白かったのは、短距離転移を繰り返してモンスターと背後の取り合いをした結果、すごい勢いでコースを外れて最後にクレバスに落っこちたプレイヤーがいたことくらいだろうか。

フィニッシュに決め顔をマクロ登録してたのか見事などや顔で落ちていったので、みんなで笑わせてもらった。

モンスター相手にむきになったなったところといい、最後の締めといい彼はきっといい芸人になれる。

 

「んー、こいつらさ。まともに攻略してくれるなら先に通さない? 空中庭園をまともに攻略してくれそうだしさ。ショートカットルートを温存できるならそれに越したことは無いでしょ」

 

先頭集団と後続の距離が開いてきたのを見てそんな提案をしてみる。

偵察部隊ならきっと問題を確認するため空中庭園を真面目に攻略してくれるはずだ。

ショートカットルートに配置したモンスターを使えないかもしれないが、まだ本番があるのだ。

全部知らせておく必要も無い。

 

「そうですね。この先頭集団が先に進み始めたらコキュートスに後ろから追撃をかけさせましょう」

「ほとんど武器近接系は全滅しているしな。コキュートスに申し訳ないが本気戦闘はまたにしてもらうか」

 

ぷにっとさんが提案して健御雷さんが残念そうに同意する。

武器近接系は軽戦士タイプ以外ほぼ全滅していた。鎧が重すぎて深海で自滅してしまったのだ。

武器戦闘特化でさらに強化されたコキュートス試験運転に付き合えるプレイヤーは残っていないからね。

 

 

そして先頭集団以下90名程が空中庭園に突入した。

本気で僕たちが出ないまま終わりそうである。それはさすがにつまらない。

 

「どうせなら何人かコロシアムにでも呼んだらいいのにねえ」

 

何気ない呟きのつもりだったが、すごい余計な一言だった。

まさか残ったやつらがあんなんだとは……モモンガさん、ごめん。




残った連中はまあ、大体アレです。募集してたやつ。
次回空中庭園とコロシアムで散ってもらいましょう。
それでは。


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防衛戦(5) ※タブラ・スマラグディナ視点

やっと2ch連合の反撃が終わった。
どっかでまた掲示板形式なりで2chの俺ら視点を入れないとだめな気がしますが。

今回、魂暁さんの「わるぷー」を種族がなかったので旧ワールド・サーチャーズとして登場させました。
もし、アインズ・ウール・ゴウン所属のつもりでしたらごめんなさい。
そして参加ありがとうございました。

※追記
葵ふうたさんよりいただいた「リバレイア」を空中庭園の守護者として採用させていただきました。
記載が漏れて申し訳ありません。


モモンガさんが何故ギルド長になったのかという問いに対してはこう答えるしかない。

 

「他に適任者がいなかったから」

 

積極的に彼を推す理由があったわけではないが、強いて言えば誰もが彼なら任せられると納得したことが特別といえば特別である。

結果的にモモンガさんは十分以上に役目をこなしてくれたため、みんなの判断は間違ってはいなかった。

 

ただ一つ、問題があったとすれば誰もモモンガさんに対して、面と向かって礼を言わなかったことだ。

気恥ずかしかったのもあるし、誰かが言うだろうと思っていたのもある。

モモンガさんが喜んでギルド長をしていて、「お礼なんかいいんですよ」と言ってしまう性格だったのもあるだろう。

放置している内にモモンガさん=ギルド長の図式は当たり前になり、今更感が強くなって本当に誰も感謝を伝えないままになってしまった。

 

諸事情でギルドを離れる時もみんな感謝を伝えなかった。

「今までありがとう」なんて言ってしまえばこの居心地のいい空間に帰ってこれなくなる。そんな思いがあったのかもしれない。

この手のセリフはまんま死亡フラグなのだから。

 

実際、もしその言葉があればモモンガさんはそこまで必死に拠点の維持に奔走しなかった気がする。

私自身、戻ってきて初めてモモンガさんに「お疲れさま」を言えた気がするくらいだ。

たかがゲーム。されど生身の相手がいる以上、不義理を働いたことは否めない。

不義理は誠実さを持ってしか償えまい。

 

私はタブラ・スマラグディナ。

ユグドラシルがより良い終わりを迎えるために、何よりこの名前が彼の中で輝かしいものであることを望んでやまない。

 

 

*   *   *

 

 

ゾディアックの面々は特にこだわりがない以上、異形種を取ってもらったのだが、信条的にあるいはロール的に人間種でいたいというメンバーがいるのも事実である。

そこで基本的にこだわりだのロールだのが大好きである我々アインズ・ウール・ゴウンは「最後の最後まで絶対にその信念を曲げない」ことを条件に人間種のままの所属を許可した。

そのため空中庭園はナザリック地下大墳墓の中で唯一継続で負属性ダメージがないエリアである。

もっとも侵入者諸君は大いに戸惑っている。大分うちのダンジョンになじんだようで何よりである。

 

入り口となった浮遊島では巨大な天秤が設置されている。

何の意味があるのかと疑心暗鬼になっている侵入者が結構笑える。大した意味はないのにご苦労なことだと思う。

単に侵入者のカルマの合計を計測して問題の傾向を決めているだけである。

 

さて、ここで出される問題なのだがひとつ例をあげよう。

 

Q.ムスペルヘイムの火山エリアにおける火に耐性を持たないモブの最も低確率のドロップアイテムは何か。

 

まず火山エリアの範囲を知っていなければならない。

この辺はゾディアックにとっては基本知識である。エリアのように調べればすぐわかることは彼らにとって「わからない」範囲に入らない。

当然解答者にも当たり前のように「常識として知っていること」を要求してくる。

次に出てくる敵の耐性について知っていなければならない。

火山で火耐性がないモンスターは珍しいので、まだ記憶に残りやすいのでわかりやすい要素かもしれない。

かえって面倒かも知れないがそれでもマシなほうである。

そしてモンスターのドロップテーブルを知らないといけない。

「ちょっとわかりにくいかも知れないですね」と笑顔で言っていた、わるぷーさんが印象的だった。

 

 

*   *   *

 

 

そんな問題ばっかりのエリアである。

先頭を進んでいた集団は外部掲示板を確認しているのか、ちょくちょく立ち止まりつつ進んでいる。

しかし知恵を結集した結果なのか、正面からひとつひとつ突破している。

正直に言おう。あの問題を解けるやつがいたことに驚きである。下手な設定より世の中は不思議に満ちている。

 

「ふふふ。いいですねえ、彼ら。私たちの「普通」難易度をちゃんと解いてくれてますよ」

「……たぶん大分マニアックな攻略してきたってことですね」

「いえいえ。きちんとこのゲームを攻略してきたんですよ。これで「普通」が普通だと証明されましたね!」

 

散々うちのメンバーに問題が難しすぎると文句を言われたことを根に持っていたらしい。

実際難しすぎると思うのだが、現実に攻略されていると難しすぎるということもなかったのかもしれない。

……いやいや、感覚がおかしくなっている気がする。

気分を、いや、常識を見直そうと先頭集団以外の連中に目を向ける。大惨事が広がっていた。

 

「あっち見てくださいよ。ほとんど進めていないどころかペナルティで瀕死じゃないですか」

「何も見えませんね。無様に転がっている低脳なんか見えません」

「見えてるじゃないですか」

「問題を解かずに審判殴っているような馬鹿は知りません」

 

そう、侵入者の3分の2は問題が解けずにいらついたのか、問題を出したNPCを攻撃してペナルティを受けていた。

遠回りなルートに入らざるを得なくなり、問題の難易度も上昇、妨害も入って踏んだり蹴ったりなはずだ。

ちなみにこのエリアの妨害は毒や麻痺のような状態異常ではない。

もっと、DMMOの仕様を悪用した妙に精神にクル罠だ。

 

例を挙げるなら、特定の音を聞かせることで集中力を削ぐ罠。

なんでも蚊とかいう虫の羽音だと源次郎さんが言っていたが、やたらと気になりいらいらがつのる。案外環境破壊より前に人間をイラつかせすぎて滅んだ虫なのではないだろうか。

他のものだと、視界全体に色をつけて特定の色合いのものを見難くする罠。

明らかにわかりやすいスイッチを踏んだりするので罠を効果的に作動させられるし、この影響下にあるプレイヤーと影響下にないプレイヤーの不和を煽れる。

さらに常に背中に何かが張り付いたような感覚を与える、という案もあったにはあったがさすがにゲームとして成立しなくなる一歩手前だったので自重された。

 

これらの罠が面倒なのはシステム的な状態異常と違ってスキルでも装備でも対策できない点にある。

単に「環境音」や「光源の色」といった形で妨害を発動できるのでコストもほとんどかからないというお得仕様である。

 

そしてついに度重なる嫌がらせに耐えかねて空中に飛び出るプレイヤーが現れた。

あっという間にそれぞれの浮遊島を守る守護者たちに捕捉されて撃墜されたが。

このエリアにはレベル170の領域守護者が12体いる上に空中戦に長けたモンスターばかり配置されている。

おまけにレベル200の階層守護者である女神リバレイアは問題をまったく解いていない侵入者相手にはステータスが跳ね上がるギミックが組み込まれている。

10人ほどが死に戻り、更に数人が空中庭園の下に見える密林に飛び込もうとしてどこにも到達しないまま外に放り出されたところで、心が折れたのかログアウトするプレイヤーが出た。

あとはその穴から崩れるかのようにずるずると脱落者が続き、残ったのはわずかに数人という有様になってしまった。

音が聞こえない状態だったが映像だけでも彼らが何を言っているのかはわかった。

「卑怯だぞ」「出てきて勝負しろ」「異形種が調子にのんな」あたりだろう。

 

「もういいんじゃないかね」

 

誰かがそう呟いたところで、るし☆ふぁーが「んだな」と軽く言ってリモコンを取り出した。

ボタンが一個しかついていないのにリモコンにする意味はあったのだろうか。

 

「ポチっとな」

 

そんな気の抜ける声とともにスイッチが押され、騒いでいる連中のいる浮遊島の底が抜けた。

突然のことで空を飛ぶことも思いつかぬままそいつらはナザリックの外に放り出された。

 

「恐怖公の部屋とかに送り込んだりしないのか?」

「あいつらの声とか聞きたくねーじゃん。有益な情報吐くでもないし相手して楽しい相手でもない」

「それもそうだな。こっちを罵るだけで芸もないしな」

「あれ、たぶんここを攻めるって言って息巻いて仲間を煽った人間がいそうですよね。特に根拠もないですが」

「何かそう思う理由でもあるの?」

「危険を冒してでも先に進む根性もない連中です。ついでにとっさの判断力も悪い。ということは寄生だけはうまいんじゃないかってだけです」

「単に嫌いなだけじゃないか」

「そうとも言います」

「そっちはどうでもいいが、残ったやつらはどうしようか。これ以上問題につき合わせる必要もなさそうだが」

 

ワイズマンさんが落ちていった連中を悪し様に言っていたが、特に思い入れがあったわけでもないらしい。

事実、スーラータンが話題を推定偵察部隊に移したらもう口にしなくなった。

どうも反射的に悪く言う程度に嫌いであっても、相手にするほど価値を認めていないようだ。

 

「さっきヘロヘロが言ってたように、闘技場にでも招待するか。どうやって伝えよう?」

「安心しろ。ここの浮遊島はみんな俺謹製のゴーレムだからな。階層突破する最短ルートに組み替えて守護者のリバレイアに通行許可宣言させればすぐ来るだろう」

「せっかく作ったんだけどなあ。もうちょっと解いてほしかった」

「まあまあ、この後本番もあるんですし」

「しかし、偵察部隊は全員残ってるんですね。なんであんなに錬度が違うんだろう」

「それだけ寄せ集めってことなんだろうね。で、誰が戦うよ?」

 

正直もう襲撃は終わったという空気になっているので闘技場でお金を使わないように、という提案だろう。

金はあっても我々は貧乏性なのだ。

 

「あ、じゃあちょっとやってみたいことがあるので戦いたいです。レベルも200になりましたしね」

 

珍しくモモンガさんが率先して対人戦に立候補をした。

何でもレベル200になった時、魔王の称号の効果で「世界を睥睨するもの」というスキルを手に入れたらしい。

ぶっちゃけ戦闘中に魔王が第二形態になるためのスキルで、容姿を変えるスキルを一日に一度だけノーコストで妨害されることなく発動できるというお遊び要素らしい。

せっかく魔王になったのだからやってみたいという気持ちはわからないでもない。

 

 

*   *   *

 

 

その後のことを簡潔に述べよう。正直コメントしづらいので簡潔に言うしかないのだ。

 

モモンガさんは、闘技場に出たとき美少女のアバターだった。そしてその姿で魔王ロールをした。

その容姿と相まった演技は美少女魔王として完成度が高く、思わずそっちで設定を組もうかと悩んだほどである。

それが偵察部隊、否、やつら曰く「モモちゃんファンクラブ」の連中に火をつけてしまった。

 

「モモちゃん、prpr」だとか「黒髪美少女さいこー!」だとか「罵ってください! いやむしろ心臓握りつぶしてください!」だとか。

あまりに予想外の台詞にメンバーの大半が固まってしまったのは、たぶん仕方がないことだ。

ペロロンチーノやるし☆ふぁーはどうもその反応を予想していた節があるが、明らかにその後のモモンガさんの反応は読めていなかった。

 

その台詞を聞いてモモンガさんは驚いてしばらく動きを止めた後、変身をすることなく遊び一切抜きの殲滅を開始した。

頭に血が上って変身を使うことを忘れていたらしい。あそこまで肝が冷える「くたばれ」という言葉は初めて聞いた。

自称ファンクラブの連中の最大レベルは150程度。

50もレベル差があると即死魔法をとめる術はまずないといっていい。人間種状態のステータス低下程度でどうにかなる差ではないのだ。

 

殲滅が終了した後、モモンガさんは丹念に手をハンカチでぬぐったあとそれを魔法で消滅させた。

後で聞いたところによると《グラスプ・ハート/心臓掌握》で手が汚れた気分になったそうだ。

怒りが収まらない様子のモモンガさんはしばらく無言だったが、すさまじく平坦な口調で言葉を発した。

 

「どうやら私は連中の中で女として認識されているようです」

 

そう言ってモモンガさんは一度言葉を切ってみんなに向き直ると宣言した。

 

「だったらやつらの記憶を塗り替えるまでです。私は、モモンガというプレイヤーは魔王なのだと。連中の心に刻み付けてやります。私はユグドラシルの最後を飾る魔王になってやります」

 

それはモモンガさんが最強を目指すという宣言だった。




やっと(?)モモンガさんが切れました。
色々考えましたがやはり彼がメンバー相手に怒るのはちょっと考えにくい。
なので適当な八つ当たり相手が書いているうちにできたので、そっちで発散して貰うことに。
次は俺ら共の掲示板回になるのかなあ。
その後、モモンガさんの本格強化やってGM接触させて最終決戦。
先が長い。

10:38
なぜか読めなくなってたようです。
編集したらいけるかな。


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閑話:とある攻略談義

一応掲示板回。
残念ながらモモンガさんことモモちゃんについて語るスレではありませんが。
そっちのほう書くと本気で収集つかなくなりそうですからね。


37:親衛隊の名無しさん

   orz

 

38:親衛隊の名無しさん

   orz

 

39:親衛隊の名無しさん

   orz

 

40:親衛隊の名無しさん

   orz

   ねえ、この流れ何?

 

41:親衛隊の名無しさん

   >>40 知らないで土下座してんのか。ドMだな。

   とりあえず新規なら>>1 読むといい。

 

42:親衛隊の名無しさん

   >>41 初めてきた掲示板でみんなが同じ事やってたらとりあえず便乗しろってばっちゃが言ってた。

   とりあえず読んできた。定時のお祈りなのね。

 

43:親衛隊の名無しさん

   >>42 ばっちゃが言うなら仕方ないな。

 

44:親衛隊の名無しさん

   うむ、先達の言う事は聞いとくものだ。

   さて、中断してた話題はなんだっけ?

 

45:親衛隊の名無しさん

   ちょうど脱線してたから話を戻そう。

   モモちゃんの居城攻略の反省会だ。

   途中から如何にモモちゃんがかわいいかを語り合ってたせいでまったく進んでないがな!

 

46:親衛隊の名無しさん

   隔離したんだからお互い自重しようず。

   んで、要するに再び謁見に行くために攻略情報まとめるって流れでおk?

 

47:親衛隊の名無しさん

   >>46 おk

   前回はたまたま闘技場でモモちゃんが相手してくれたから会えただけだしな。

   まったく>>301は許されざるよ。

 

48:親衛隊の名無しさん

   >>301?番号間違ってね?

 

49:親衛隊の名無しさん

   半年ROMれ、といいたいが半年したらゲーム終わっちまうな。今回だけ教えてやろう。

   闘技場で自重せずモモちゃんファンクラブであることを明かした馬鹿がいてな。

   次回から確実に警戒されるんで、さらに先に進む事を考えなきゃいかん。

   最初にそいつが使った番号なんだわ。

 

50:親衛隊の名無しさん

   なるほど、ありがとう。

   でも動画みると叫んだのって一人じゃないような……

 

51:親衛隊の名無しさん

   そうだけど、また脱線するから突っ込むな。

   それはほかの板でやるんだ。ここは攻略を真面目に考えるスレだからな?

 

52:親衛隊の名無しさん

   まじ、め……?

 

53:親衛隊の記録係さん

   とりあえず1F、でいいのか。墓場地帯からだな。

   まず気がついた事あるやつは意見出してけ。

   俺様がまとめつくってやるから。

 

54:親衛隊の名無しさん

   おっしゃ。まずトラップ類からだな。

   俺がかかったのは宝箱あったから開封役以外は離れて物陰にいたんだがそこが吹き飛んだわ。

 

55:親衛隊の名無しさん

   俺が見たのはレバーがついてるのにそれを動かすと罠が発動する扉だな。

   上に持ち上げるのが正解って初見でわかるか。

 

56:親衛隊の名無しさん

   なんというか、最初から飛ばしてるなあ。さすがアインズ・ウール・ゴウン。

   最凶ギルドは伊達じゃないわ。

 

 

(中略)

 

 

735:親衛隊の記録係さん

   1~3だけでめっちゃレス食うなあ。これどんだけかかるんだよ。

   とりあえず迷路構造に変化はほとんどないのと、新規トラップがいくつか。

   宝箱は無視したいが地味に攻略のヒントになるアイテムが入っているからスルーもできない。

   守護者は強化されててレベル200だったってことくらいか。

 

736:親衛隊の名無しさん

   愚痴っても仕方ないぞ。次も酷いんだし。

   なんせアレは最悪だったからな。

 

737:親衛隊の名無しさん

   >>736 言うなし。俺アレもろに食らったんだから。

   というかあの頑丈さなんなんだろうな。

   思わず回数限定スキル叩き込んだんだがまともに削れた気がしない。

 

738:親衛隊の名無しさん

   アレが最悪っていうかどこもかしこも最悪なんだが。

   精神的な攻撃って意味では上位にくるよな、アレ。

   頑丈さについては同意。なんかこう、攻撃が効かないというよりHPが高すぎるって思った。

   以前の攻略情報になかったから新作だと思うんだが。

 

739:親衛隊の名無しさん

   ちょい信じられんことでいいなら情報あるぞ。

   俺、斥候職だから鑑定もっているんでアレのちょっと詳細な情報取れたんだわ。

 

740:親衛隊の記録係さん

   >>739 何でもいい、情報くれ。次の攻略に少しでも情報ほしいんだ。

   他にもなんかあったら頼む。あ、情報確度高めとして扱いたいからコテつけてくれ。

 

741:親衛隊の鑑定士さん

   おk。これでいいかね。んで、アレなんだが「試製21式ゴーレム改」って名前だった。

   「試製」なのに「改」っておかしさは置いとくとしてだな。

   レア度がおかしかった。

 

742:親衛隊の名無しさん

   なんだ神器級だったりすんのか。確か希少金属であるほどレア度あがるんだったか。

   よくまあ、あんなイロモノに希少金属つぎ込むもんだ。

 

743:親衛隊の鑑定士さん

   正直神器級のほうが良かったわ。

 

744:親衛隊の名無しさん

   なんだもっとレア度低かったのか?でもそれだとあの頑丈さが説明つかんよな。

   まさかと思うがワールドアイテムだったとかww

 

745:親衛隊の鑑定士さん

   そのまさかだ。何かは知らんが世界級って出た。

   思わずガン見してばっちり魅了にかかったわ。おそらくは新素材だろうな。

   どこで見つけたかはわからんが、たぶん発見は最近のはずだ。

 

746:親衛隊の名無しさん

   世界級かよ!

 

747:親衛隊の名無しさん

   素材じゃなかったら運営があのゴーレム作ったってことになるからそれだけは良かった。

 

748:親衛隊の名無しさん

   良くねえよ!

 

749:親衛隊の名無しさん

   そういや発見が最近の根拠は?あそこ隠し鉱山独占してたことあるだろ。

 

750:親衛隊の鑑定士さん

   前から独占してたにしては使ってる場所が少ないんだよ。

   産出量が少ないって可能性もないじゃないんだが、なによりゴーレムが試作品だった。

   たぶん研究中なんだろ。復帰以降に見つけたってのがありそうだな。

 

751:親衛隊の記録係さん

   ……コメントに困るがとりあえず情報ありがとう。

   しかし入手最近が本当だとするとアレ増えかねないのが問題だな。

 

752:親衛隊の名無しさん

   想像させんなよ。むしろ装備とかに使われて強化される事を恐れろよ。

 

753:親衛隊の名無しさん

   できればモモちゃんの装備に使ってほしくないなあ。

   イメージが悪すぎる。

 

 

(中略)

 

 

115:親衛隊の名無しさん

   掲示板でやるのやっぱ間違いだったんじゃね?

   WIKIでも借りたほうが良かった気がする。

 

116:親衛隊の記録係さん

   いうな。ちょっと後悔してる。

   4Fは何をおいてもアレのイメージが強すぎるな。他の情報がほとんど出てねえ。

   後でWIKI作るからそっちも書き込んでくれ。

   ここで集めた情報で立ち上げるから、一応最後までやろう。

 

117:親衛隊の名無しさん

   次はあれか。情報なかったってことは新規作成された階層だよな?

   つーか泳ぎ必須とか考えたやつ頭おかしいんじゃね?

   だってそいつもまず間違いなくカナヅチだぞ。

 

118:親衛隊の名無しさん

   そういやなんで泳げないやつをカナヅチって言うんだろうな。

   重けりゃなんでも沈むだろうに。

 

119:親衛隊の名無しさん

   どうだっていいだろ。国語の勉強とかさせんなよ。

   あそこは何をおいても泳がなきゃならんってのがきつい。アシストあるのが救いか。

   足をつけるところがないのって怖いよね。

 

120:親衛隊の名無しさん

   というか何でクラーケンいたんだろうな。あれって映像とかだったりしない?

   他にも鯨様とか巨大って言われている海洋生物勢ぞろいってどんだけポイントいるんだろうな。

 

121:親衛隊の名無しさん

   殴ったやつと反撃で痛い目にあったやつがいるからなあ。

   映像とかそういう線はない。となると実態があるってことなんだが。

   鑑定士はなんか見てねえ?

 

123:親衛隊の鑑定士さん

   あれなあ……信じがたいが全部本物だったんだよな。偽装って可能性もゼロじゃないんだが。

   言ってて思ったんだが張りぼてに偽装高レベルでつければいけるか?

   いや、それだと反撃食らったやつが削られた攻撃力の説明がなあ……

 

124:親衛隊の名無しさん

   トラップで再現って可能性は?正直暗い水中で本当に殴られたかなんて判断つかないだろ。

   ダメージとノックバックがあれば殴られたと勘違いしてもおかしくない。

 

125:親衛隊の記録係さん

   謎の新素材のこともあるから特殊なテイムの可能性も考えていいんだけど……

   さすがにイベントモンスターだとどうなんだろうなあ。

 

126:親衛隊の名無しさん

   とりあえず手出ししなかったら被害がないのは実証されてるんだし。

   本物でもそれっぽいものでも手を出さないのが攻略方法だろ。

 

127:親衛隊の名無しさん

   後はあの変な歌の主だよな。どっから流れてたんだ?

   いくらなんでも目視できないところから音が聞こえてくるとかありえないと思うんだが。

   いや、音はともかく呪歌に効果が出るのはおかしいだろ。

 

128:親衛隊の記録係さん

   ああ、水中だとな、なんか音は遠くでも聞こえるらしいんだわ。

   確か音の速度も5倍くらい?だったはず。あいまいですまん。

   だからどっかに歌声の主はいたはずなんだ。結局誰も見てないんだよな。

   そういや最初に入った連中が誰だったかわからんか?水着用意してた猛者がいたはずなんだ。

 

129:親衛隊の名無しさん

   ああ、間違いなく女性アバターだったよな。

   ん?てことはここにいるわけないだろ。ここモモちゃん親衛隊スレだぞ。

 

130:親衛隊の名無しさん

   何言ってるの?普通にいるわよ。

 

131:親衛隊の名無しさん

   そうよ、あのゴキブリ部屋に落とされた恨みは晴らさないと。

 

132:親衛隊の名無しさん

   そもそもモモちゃんの中身は男なんだから、ペットにしても百合にならないから問題ないわよね?

 

133:親衛隊の名無しさん

   うわあ

 

134:親衛隊の名無しさん

   ガチの変態がおる。まあ俺らは人のこと言えないわけだが。

 

135:親衛隊の記録係さん

   脱線すんのやめてくれ。まとめるの大変なんだから。

   とりあえずゴキ部屋の話はあとでWIKIにのっけといてくれ。

   できればどこのトラップから飛ばされたかとかも含めて。変更されるかもだがないよりマシなんだ。

 

136:親衛隊の名無しさん

   仕方ないわね。協力するわ。

 

137:親衛隊の名無しさん

   仕方なくねえよ。奥まで行けなかったら会うどころじゃないんだから。

 

 

(中略)

 

 

435:親衛隊の名無しさん

   氷河地帯は酷かったよね。なんか貫通ダメージだったし。

   どういうトラップだったんだろうね、あれ?

 

436:親衛隊の名無しさん

   え、貫通ダメージなんてあったか?俺ら普通に冷気耐性でダメージなかったぞ?

   だいぶ高位の冷気耐性付与しなきゃならんかったが。

 

437:親衛隊の鑑定士さん

   あれ水に濡れてたらダメージでかくなるぞ。乾かさなかっただけじゃないか?

   たぶんその為に水中を氷河前に配置してんだろうし。

 

438:親衛隊の名無しさん

   マジで?そんな仕様設定できるものなんか。

 

439:親衛隊の名無しさん

   いや、説明ちゃんと見ろよ。ゲームの仕様でちゃんと説明あるぞ。

   ヘルプとかそう見るもんじゃないが、状態異常くらいは把握しとけ。

   特にアインズ・ウール・ゴウンはその手の嫌がらせフル活用してくるからな。

   全部に対策とかは難しいにしても、知識として知らないだけで死ねることあるんだからな?

 

440:親衛隊の名無しさん

   あのコンボは気がつかないでヒールかけまくってたわ。後で知って驚いたね。

   雪玉転がってきたり雪崩起きたりで冷気ダメージ加速させる罠多かったからえらい目にあった。

   マジで知識大事ね。

 

441:親衛隊の記録係さん

   そういや、NPCボスなんで後から出てきたんだろうな?

   なんでか追い立ててきたし。

 

442:親衛隊の名無しさん

   確かあの時点でかなりの脱落してたから見てるほうが暇になったんじゃね?

 

443:親衛隊の名無しさん

   そんだけの理由で追い立てられたらたまらんな。

 

444:親衛隊の名無しさん

   あそこのボスは武器戦闘タイプだったからなあ。

   俺らに武器戦闘メインのがいないからまともな戦闘にならないと見て投入しなかったんじゃないか?

 

445:親衛隊の記録係さん

   ありそうだな。えげつないのに変なところでフェアだからなあ、あのギルド。

   わりと正当というか、きちんと攻略すると妨害が減るんだよな。

   だから攻略情報が大事なわけだが。

 

446:親衛隊の名無しさん

   最大の問題は後だしじゃんけんされてることだよな。

   常に初見状態を強要されるんのがつらい。

 

447:親衛隊の鑑定士さん

   それはプレイヤーメイドのダンジョンを攻略するときの宿命だな。

   あの墳墓レベルでやばいのはそうないが。

 

 

(中略)

 

 

571:親衛隊の名無しさん

   だいぶ情報少なくなってきたなあ。

 

572:親衛隊の記録係さん

   終わりが見えてきたってことだな。ありがたいよ。

 

573:親衛隊の名無しさん

   というかそこまで進めたやつが少なくて情報がないんだからいい事じゃないだろう。

 

574:親衛隊の名無しさん

   言ってやるな。というか判明している階層でもまだ先があるからなあ。

 

575:親衛隊の名無しさん

   作り変えたって可能性は?

 

576:親衛隊の名無しさん

   あのギルドがそんなぬるいことするわけなかろう。

   絶対新階層作って待ち構えていたに決まってる。

   さすがに深海と空中庭園の二つだけと信じたいが。

 

577:親衛隊の名無しさん

   今までで判明しているのは、えーっと?

 

578:親衛隊の記録係さん

   わからんなら無理すんな。この先ってだけならジャングル、火山の中っぽいとこ、荒野だな。

   荒野が最悪なのは過去の記録でもはっきりしてる。

 

579:親衛隊の名無しさん

   何個目の最悪だよ。最悪のバーゲンセールだな。

 

580:親衛隊の名無しさん

   最悪っつったら空中庭園の問題も酷かったぞ。

   何考えたらあんな問題作れるんだよ。解かせる気があるのか疑うレベルだったぞ。

 

581:親衛隊の名無しさん

   いきなり継続ダメージ設定が消えたから戦々恐々としてたが別方向で攻めてきたよな。

   まあ、脱落した連中に協力してもらってなんとか進んだわけだが。

   なんからしくないというか毛色が違うんだよなあ。

 

582:親衛隊の名無しさん

   そういや不思議だよな。どっからリドルのネタ用意したんだろ?

 

583:親衛隊の名無しさん

   不思議は不思議だがとりあえず問題が既にあることが確定してるんだ。

   対策を立てないとならんのは事実だ。

 

584:親衛隊の記録係さん

   そうなんだよなあ。しかし問題がどんだけあるかわからんのがそれこそ問題だ。

   ルール守らなかったやつらの方は遠回りさせられたあげく問題の難易度は跳ね上がったそうだからな。

   道を反れたらやたら強いのが襲い掛かってくるし。

 

585:親衛隊の名無しさん

   あれ以上の難易度って……どんな問題なんだよ。

 

586:親衛隊の名無しさん

   確か聞いたところによると

   「高位職業。高位種族を除いてレベル200にした場合、攻撃力が最大になる構成を答えよ」

   とかだったはずだな。

 

587:親衛隊の名無しさん

   え?基本職業いくつあると思ってんだよ。コラボとかで追加されたやつ含むのか?

 

589:親衛隊の名無しさん

   含むだろ。一応あれは基本職業って分類されてたぞ。

 

590:親衛隊の名無しさん

   それより問題は種族だろう。基本のみにしたって知ってるやつえらい少ないぞ。

 

591:親衛隊の名無しさん

   モンスター知識で代用できなくもないが……

   あ、「攻撃力増強」とかのスキルどうなるんだ?

 

592:親衛隊の鑑定士さん

   その可能性もあるのか……止めてほしいなあ。

   その情報集めるの大変、っていうかやっぱりアインズ・ウール・ゴウンらしくないなあ。

   遊び要素がかなり少なかったし。

   どっちかってーとワールド・サーチャーズのワイズマンみたいな……

   あれ?ワールド・サーチャーズなくなったのいつだっけ?

 

593:親衛隊の名無しさん

   確かほぼアインズ・ウール・ゴウンの再活動時期と同じ頃だな。

   それもあって2ch連合2位になったんだから覚えてる。

 

594:親衛隊の鑑定士さん

   うえ、それだとまずいかもしんない。

 

595:親衛隊の名無しさん

   何が?

 

596:親衛隊の鑑定士さん

   いやね、地底湖に謎金属の話題あったじゃない?

   あれの出所が不明っていうかワールド・サーチャーズの情報だったんじゃないかと。

   つまりワールド・サーチャーズ情報がアインズ・ウール・ゴウンに渡ってる可能性がでかい。

 

597:親衛隊の名無しさん

   マジか。情報であそこに勝てるところなんてなかったんだぞ。

   それを有効活用されたら手も足も出なくならね?

 

598:親衛隊の名無しさん

   解けないレベルにはされないだろうが、おかしいレベルの問題を解かされるのはきついな。

   どうしたって時間がかかる。

 

599:親衛隊の記録係さん

   情報豊富なら同じ問題も出そうにないしなあ。

   ショートカットしたくなるな。

 

600:親衛隊の名無しさん

   あ、それ止めたほうがいい。やたら強いっていったが、限界の200だけじゃなくて複数いるんだ。

   しかも空中モブばっかし。連携もしてくるからあっという間に叩き落されるぞ。

 

601:親衛隊の記録係さん

   あの階層本気でどうにかならんかねえ。

   もう少しばかり攻略しやすいと助かるんだが。

 

 

(中略)

 

 

702:親衛隊の名無しさん

   とりあえず攻略した情報はこんなもんじゃね。

   これ以上はどうしようもねえ。

 

703:親衛隊の記録係さん

   協力感謝。とりあえず階層はそこそこ情報集まりそうだわ。

   あとは各自WIKIの方に足してくれ。

 

704:親衛隊の名無しさん

   所属メンバーの戦闘能力が微塵もわかってないのが最大の問題だけどな。

 

705:親衛隊の名無しさん

   言うなよ。モモちゃん一人だけで無双されたからなあ。

   信じられるか?アレって異形化してないから弱体化してるんだぞ。

 

706:親衛隊の名無しさん

   おまけに切れていたっぽいから戦術もなにもあったもんじゃなかったしなあ。

   本来のモモちゃんの戦闘動画見たことあるか?まるで詰め将棋だぞ。

   ネタビルドで勝率5割保ってたっていうんだからはんぱねーわ。

 

707:親衛隊の名無しさん

   そいつはすごい。しかしそこまで勝てるならネタとか言えねえよ。

   ネタに負けてるんだったら俺らなんだってなるしな。

 

708:親衛隊の名無しさん

   ガチビルドを除けばみんなネタみたいなもんだろう。どうしたって遊び入るからな。

   自分にあってさえいればネタとも言えないんだしな。

 

709:親衛隊の名無しさん

   どうにかして他のメンバーの詳細な情報手に入れないといかんな。

   誰か情報持っているやつらいないのかなあ。

 

710:親衛隊の鑑定士さん

   気が乗らないがあの連中に聞いてみないといかんのかな。

   俺らと仲が悪いから協力してくれるかわからんが。

 

711:親衛隊の名無しさん

   え?あんな閉鎖的なギルドに詳しいやつなんかいるの?

 

712:親衛隊の鑑定士さん

   いるんだよね。あれはあれでファンがついてたから。

   前回の、あ、前々回か。あの時もこっそり味方したやつらがいるんだよなあ。

 

713:親衛隊の名無しさん

   え、じゃあ攻略する俺らに協力してくれないんじゃ。

 

714:親衛隊の鑑定士さん

   持っていき方次第かな。正直俺らだけでどうこうなるレベルのダンジョンじゃないから。

   それこそ全プレイヤーで協力しないとだめだろ。

 

715:親衛隊の名無しさん

   どうやったら全プレイヤーで協力できるんかね。

   むしろそっちの方が難題だわ。




年内に次の話がかけるかはちょっと微妙。
WIKI風の攻略サイトっぽいのも書いたほうがいいのかな?
そろそろ攻略側も強化しないといかんですね。
トリニティはかませでいいとして本気攻略メンバーそろえねば。

あ、そうだ。
ちょっと聞きたいことがあるので活動報告でアンケートです。


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魔宮覚醒編
会議 SIDE:A


特に理由はないけどここから新章。
SIDE:Aはアインズ・ウール・ゴウンサイドですね。

この後、SIDE:O(アウトサイダー/俺ら)、SIDE:G(ゲームマスター)を書く予定。

今回、星のごみ箱さんの「だんぼーる」を採用させていただきました。
ありがとうございます。


本来2ch連合を打ち破った流れでトリニティに宣戦布告するはずだったアインズ・ウール・ゴウンであったが、予想外の事態が発生したためその挑発は延期になっていた。

 

理由は単純。「想像してたより敵が弱かったから」である。

(モモンガに言わせれば「想像を絶するほど敵が馬鹿だった」になるが)

 

彼らの希望は敵にダンジョンを攻略してもらい、トラップや配置したNPCで大いに堪能(苦労)してもらうことである。

にもかかわらず、2ch連合は空中庭園でほぼ壊滅。こちらはプレイヤーが一切出ていないにも関わらずである。

新規階層の試験ということもあり、浅い階層での被害による出費や後半メンバーが総力戦で撃退しなければならないかもしれないと覚悟していただけにこれは拍子抜けだったと言える。

1位であるトリニティはもうちょっと強かろうが(この時点で既に願望である)、これでは荒野まで攻略してもらえるかすら怪しい。

せっかくの最終決戦なのだからできれば何人かは玉座の間にきてほしいのにこれはいかんということで難易度調整について話し合いが行われることになったのだ。

 

 

*   *   *

 

 

「だからあのゴーレムにはBGMつけようと思うんだ。ほら近くにいるって思ったら警戒するだろ?」

「ダメです! あれ以上問題を簡単にはさせません! だって解ける人たちいたじゃないですか!」

「氷河地帯での足止めが不十分だった。今度こそリベンジを!」

「他爆スイッチとかどうだろう? 相手が喧嘩になると思うんだけど」

「装備を作らせろ。せっかくだから最高の逸品を作りたい」

 

話し合いは難航していた。というより誰も弱体化させる気がなかったというのが正しい。

みんなそろって前回の攻略時にあった不満点や上手くいった点をより伸ばそうとするのだから無理もない。

何せ劣悪な世界でそれなりの成功を収められるあくの強い人間ばかりである。

いつもならそこまで深刻な議論になる前に止めに入ってくれるギルド長がいるのだが……

 

「絶対あいつらをぶちのめしてやります!」

 

と気炎を上げていた。既に蹂躙したことは「ぶちのめす」に入らないらしい。

おかげでたっち・みーとウルベルトがまとめ役になっていたが、久しぶりだったり慣れないこともあって上手くいっているとは言い難かった。

 

結局、難易度調整どころか次の方針すら定まらないまま、一度頭を冷やそうということで休憩に入った。

「ならもっと画期的な案を」「図面を引くか」「メリットは……」などと呟きながら散っていくメンバーを見て二人がげんなりしたのは言うまでもない。

 

 

*   *   *

 

 

「疲れた」

 

ソファにぐったりと寄りかかってたっち・みーが息をついた。

たった30分だが全力戦闘をした時よりも精神的な疲労を覚えていた。

目の前にウルベルトが座っているのに弱っているところを見せるのだから相当困憊していることが窺える。

 

「まったくだ。これから戻ると思うと気が重い」

 

前かがみにぐったりとしたウルベルトが答えた。

普段と違い皮肉を交えることなく同意したあたり、こちらの疲労も深刻そうである。

 

「モモンガさん、こんな面倒なこといつもやってたのか……」

「押し付けちゃったから悪いとは思っていたが、想像以上に酷いことをしてしまったな」

「貴様を軽率だと笑うのは簡単なんだが……俺もお前と喧嘩して迷惑かけたくちだからな。そいつに関してだけは何も言わないで置いてやる」

「言っているだろうが」

 

モモンガが音頭を取ってくれれば、と思わないでもないが元々善意でやっていてくれていたことに甘えていたのは間違いない。

 

「……とりあえず方針だけでも決めないと話にならんぞ」

「文字通り議論にすらなってないし、意見の取りまとめすらできていないからな。同意する」

 

お互いらしくないと思いつつも背に腹は代えられないのか、いつもの調子で意見交換を始める。

それでも視線を合わせないのだから彼らの仲の悪さも筋金入りである。

 

「まず大前提から行こう。難易度調整をしないという線はありえるか、だ」

「それについてはNOだ。このままの難易度だと仮にユグドラシル全プレイヤーが来ても玉座の間に着く気がしない」

「次、難易度調整の目的だ。これは基本的に最後まで攻略させて玉座の間で叩き潰すことを目標にしたい。異論は?」

「何人通すかによるが同意だ。1000人来れるようでは問題外だ」

 

そういうとウルベルトは体を起こすと伸びをしつつ、ちらりとたっち・みーを見て言った。

 

「申し訳ないがモモンガさんに協力してもらわなきゃならんな」

「おい、また負担をかけようってのか。いい大人が善意に甘えてていいもんでもないぞ」

「違うな。こちらからお願い(・・・)するんだ。投げっぱなしと頼るんじゃ意味が全く違う」

「報酬はどうするんだ。礼だけってわけにはいかんだろう」

「さっきの方針を採用するならなんとかなるさ」

「……そうか。最後に戦うのはまずモモンガさんだ。となると不測の事態に備えて彼の強化は必須か」

「そう、直接あいつらをぼこりたいってモモンガさんの希望に賛成するって言って頼むんだ」

 

ようやく目を合わせた二人は一つ頷き合うと休憩中のモモンガの所に向かった。

ちなみにモモンガは二つ返事で了承した。頼られてうれしかったらしい。

 

 

*   *   *

 

 

「よし、ではさっきまで出た強化案全部やりましょう」

「おい」

「ちょっと待って」

 

会議が再開して方針を確認し合った後に出たモモンガの第一声がこれである。

強化させたがっていたメンバーは歓声を上げたが、当然たっち・みーとウルベルトは突っ込んだ。

 

「簡単な話です。強化には時間がかかりますからやるなら早目にです。対して弱体化もとい難易度調整はいつだってできるのです。使わなくたっていいのですし」

「だからって強化することはないだろう!」

「そうです。あったら使いたくなっちゃうじゃないですか!」

 

ただでさえうちにはそんなの(るし☆ふぁー)がいるんだし、という二人に対してモモンガはこんな意見を出した。

 

「ねえ、タブラさん。うちのダンジョンに脱出ポイント作れます?」

「それならできるよ。単にテレポートの罠を改造するだけだし」

「ではそこに一度だけ転移してくるアイテムの作成は可能ですか?」

「え、まあ、たぶんできるとは思うけど……」

「ちょっと待ってくれ。そんなもの配置したらスキルを削ったり疲れさせる罠が軒並み役立たずになるぞ!」

「そうです! トラップはそういうのに偏ってるんですよ!」

 

そういったメンバーからの意見を受け止めてモモンガは厳かに言った。

 

「だからこその強化です。むしろ殺意マシマシでいいでしょう」

 

メンバーの間に電流が走った。

今までのナザリックは長丁場で相手を疲弊させることを目的としていた。

何故なら敵もこちらと同等の戦力を誇り、数はそれ以上に多かったからだ。

少しでも相手のリソースを削り、数の不利を補うためのトラップが必要だったのは当然ともいえる。

だが、いまは異なる。

2ch連合のレベルは想定より低かった。予想外と言っていいほどに。

レベル差が大きいならば一対多でも勝ち目はある。実際モモンガは一人で疲弊していたとはいえ多数の敵を蹂躙して見せたのだ。

そしてメンバーが一切迎撃しなくとも大半のプレイヤーは脱落した。

これならば途中から侵入しようが撃退できるというのは納得できる。

 

「じゃあ、宝箱とかに即死級のトラップ付けてもいいの?」

「いいんじゃないですかね。リターンアイテムの宝箱なんて全部それでもいいくらいです」

「守護者にガチビルドの取り巻きとかつけてもOK?」

「ぜひやってください。二度突破する必要がないのだから強化したって問題ないです」

 

宝箱トラップ担当のだんぼーるがガッツポーズをして、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜が固く手を握り合った。

 

「うーむ、脱出ポイントは何もせずとも一度は戻れる仕様にした方がいいですね」

「ぷにっとさん、その心は?」

「そこで脱出すればまた戻ってこれると思えば、利用するプレイヤーは多いでしょう。進行速度が遅ければ迎撃しやすいですからね」

「じゃあリターンアイテムなくていいですか?」

「そこは最後に利用した脱出ポイントに戻れるとかでいいんじゃないですかね。最後のダンジョンのセーブポイントくらい作ってやってもいいでしょう」

「どうせなら全員1個は確実に手に入るようにしてやるのもいいかもな。二度と手に入らないかもって方が使い惜しんでくれるだろ」

「どうせなら攻略前に配布しますか。入口に説明でも書いて。中で手に入るかもと思えば宝箱を開ける率もあがるのでは?」

 

ぷにっと萌えの意見にるし☆ふぁーとワイズマンが便乗する。

どの程度の頻度で脱出ポイントを設置するか。リターンアイテムの入手難度はどうするかの議論が始まった。

議論があちこちでさらに熱くなっていくのを見てウルベルトはたっち・みーに言った。

 

「なあ、これいいのか?」

「……そういやモモンガさんは大体全員の意見を全部取り入れた上で調整してたな……」

「思い出すのが遅えよ」

「面目ない。というかお前も忘れていただろうが」

 

ため息をつくウルベルトの所にテンションの上がったレイレイがやってきた。

 

「さあ、ウルベルトさん! 素材取りに行きますよ! これで最強装備を大手を振って作れます!」

「いや、もう座標わかったんだから一人でいけるだろうに……」

「何言っているんですか。私方向音痴なんですよ?」

「……ちょっと待て。まさかワールドアイテムが今まで手に入らなかったのって……」

「そうです! 目印がないところだと迷子になるからです!」

「自慢げに言うな!」

 

仕方ないか、と言いつつウルベルトも動き出す。

祭りは楽しいほうがいいし変な制限なんかない方がいい。

全力を出せるならそれに越したことはないのだ。




ぼちぼち終わりに向かっているのだろうか?
なんとなく終わりに進んでいる気はしているのだけど。

ちょっとばかしアンケートを実施。
さすがにこれは答えもらえなくても仕方ないかな?


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会議 SIDE:O

この前のアンケートの応募数にちょっとビビッてます。
おかしいよね? 私モモンガさんにやられるって明記したよね?
まあ、日本だから仕方ないと言われたので納得しました。
確かに仕方ない。

今回、墺業絨簸さんより「ダークン」「さまよう」、Isaacさんより「もょもと2nd」、影響を受ける人さんより「カーヌ」、ぼるてっかーさんより「やるO」「やらない王」を採用させていただきました。
ご参加ありがとうございます。


その日、やらない王は友人のやるOにつれられて森の中を歩いていた。

 

「おい、いい加減どこに向かっているか説明しろよ」

「お? 言っていなかったかお?」

「まったく聞いてねーよ。INしたらいきなり『さあ、もたもたしないで出発だお!』とか言って連行しただけじゃねーか」

「そうだったかお? まあ、人と会うだけだお」

 

結局誰と会うのかどこに向かっているのか説明しないままやるOはきびすを返した。

やらない王はやれやれとため息をつく。

この友人はやりたいことを見つけるとあっという間に段取りを立てて、こちらに断りもなく巻き込んでくるのだ。

付き合う自分も大概だが、いい加減ガツンと言ったほうが良いのではないかと思う。

思うだけで口に出さないのは、それが面白かったりするからなのだが。

 

「ついたお」

 

そう言ってやるOが立ち止まったのは、森の中にポツンとある洋館だった。

 

「こんなとこに建物なんかあったのか。てかこの表示は……拠点か?」

「そうだお。「幻想笛吹きの集い」っていう最近できたギルドだお。今日は場所を貸してもらってるお」

「そうか……って今更ギルド作ったのか!? 普通にありえないだろJK」

 

なにしろあと数ヶ月でこのゲームのサービスは終了するのだ。

今になってギルドを作るとは何を考えている集団なのだろうか。

 

「まあ、今日会う人たちに会えば分かるお。たのもー!」

 

やるOが声を上げると入り口のガーゴイルの目が光り、きしむような言葉を発した。

 

「合言葉ヲドウゾ。『桃』」

「『骨』」

「認証シマシタ。オ入リ下サイ」

 

この時点でやらない王にも分かった。

これ、ナザリックを攻略する……馬鹿の集まりだと。

 

 

*   *   *

 

 

案内された部屋の中には、既に数人のプレイヤーがいた。どうやらやるOとやらない王が最後だったらしい。

流れ的にこの集まりを主導したのはやるOだったはずだが遅れていて大丈夫なのかと心配になる。

ほとんどペアで行動していたためセットで扱われる身としては、いきなり知らないプレイヤーに悪印象を持たれるのは勘弁願いたいところだった。

 

「やあやあ、諸君。本日は集まってくれてありがとう。主催させてもらったやるOだお。よろしく頼むお」

 

対してやるOは罪悪感など微塵も感じていない様子で、気負うことなく集まったプレイヤー達に声をかけた。

こいつのこういう態度はいただけないと思うが、社交性だけは評価してやってもいいなどとやらない王は思う。

しかし空気が読めているかは別である。

 

「……御託はいい。俺たちを集めた用件を言え」

 

壁に寄りかかり瞑目して腕を組んでいた悪魔種族のプレイヤーが容姿にたがわぬ低い声で無愛想に応じた。

まさかこいつ何も言わずに人を集めたんじゃなかろうなと心配したが、やるOの態度に変化はない。

 

「そうだねえ。アインズ・ウール・ゴウンについて話がしたいってだけじゃあ良く分からないよね。彼らの名前を出されたんじゃ僕らは動かざるを得ないんだけど……あんまりふざけた内容だとダークンが怒っちゃうよ?」

「さまよう、余計なことは言うな」

 

悪魔の隣にいた空っぽの鎧の台詞で最低限のことは伝えていたと分かった。

二人の名前と会話の内容からして安心はできなかったが。

名前が偽りでないのならば、この二人は「黄昏の騎士団」、通称「魔王親衛隊」のギルド長とサブマスターだ。

黄昏の騎士団はアインズ・ウール・ゴウン入団条件の「社会人」に合致しなかったメンバーで構成されたギルドとして有名である。

社会人でない=学生やニートであるため、社交性が低く結局に公認を受けることもないままであったと記憶しているが、悪のギルドであるアインズ・ウール・ゴウンに強い憧れを持ったメンバーで構成されている。

メンバーの若さもあいまってやや暴走気味なので話し合いの場でもまったく安心できなかった。

 

「そうさな。我が主神に仇なすような事があればただではおかんぞ」

 

こちらにも不穏なプレイヤーがいる、とやらない王は警戒を強める。

こちらはより直接的に「冥府親衛隊」を名乗っている傭兵団の長であるカーヌというプレイヤーだった。

メンバーはアインズ・ウール・ゴウンに助けられたプレイヤーで構成されており、影ながらアインズ・ウール・ゴウンを援護していることでこれまた一部で有名だった。

リーダーであるカーヌに至っては最早(RPではあろうが)モモンガを崇拝していると言っても過言ではないという有様である。

元2ch連合の自分たちが下手なことを言えばこれまた危険だろう。

 

「私たちも暇じゃない。呼び出したんならさっさと本題に入れ」

 

これはこの場では唯一の女性プレイヤーの台詞だ。正直口調はお世辞にも女性らしいとはいえなかったが。

 

(もょもと2nd……? どっかで見た名前…… ワールドチャンピオンじゃねえか! つか女性って本当だったのか)

 

彼女は元々男性アバターを使っていた頃から中の人は女性だと公言していたが微塵も信用されていなかったはずだ。

何しろ相性の問題はあるとはいえ、全プレイヤー頂点の9人に名を連ねているのだからそれも仕方ない。

唯一の黒星が腕試しでナザリック地下大墳墓に攻めたときの即死だったというのだから恐れ入る。

勝てない戦いでも死なずに撤退しリベンジしたなどの逸話にも事欠かない傑物……いや女傑だった。

 

(そもそもどうやってこいつらに声をかけたんだ……俺らがメール送ったって反応しないだろJK)

 

やらない王は内心やるOの謎のセッティング力に戦慄する。

良くも悪くもアインズ・ウール・ゴウンに関わる有名どころが集まっているのだからその手腕は大したものだといえた。

 

「まあまあ、やるOさん達も来たばかりですし、いきなり脅すようなことをしなくてもいいでしょう?」

 

にこやかに割って入った旅人のような格好をしたプレイヤーにやらない王は見覚えがなかった。

誰なのかといぶかしむ全員の視線に気がついたのか、そのプレイヤーは帽子を取ると胸に当て笑顔を絶やすことなく自己紹介をした。

 

「申し遅れました。わたくしはハーメルン。この幻想笛吹きの集いの代表のようなことをさせていただいております」

「……己を代表と明言しないやつは信用できないな」

 

相変わらず無愛想に呟くダークンだったが、彼の発言に同調したのか、カーヌももょもと2ndも不審げな視線をハーメルンに向ける。

ハーメルンは困ったように笑うとおどけたように両手を挙げて頭を振った。

 

「いえ、本当に「代表のようなもの」なのですよ。なにせこのギルド3日前に作ったばかりでして。ギルド設立時に便宜上ギルド長にされただけなのです」

「そうだお。彼には場所を提供してもらったのと、これから話す内容にできれば協力してもらいたいんで同席してもらっているんだお」

 

今度は一斉にやるOに視線が集まった。

 

「さて、また怒られない内に用件を言うお」

 

そこで一度やるOは言葉を切ると、普段のロールでやっている口調を消してはっきりと告げた。

 

「ナザリック地下大墳墓を最深部まで攻略したい。ついてはアインズ・ウール・ゴウンに詳しいあなたたちに協力してほしい」

 

部屋の空気が変わったのをやらない王は感じた。

 

 

*   *   *

 

 

意外にも即座に同席したプレイヤーたちの中に激高した者はいなかった。

 

「理由は?」

 

ダークンが言葉短く問いかける。

 

「純粋に攻略したいっていうのが一つ。できればギルド長のモモンガさんに会いたいってのが本命かな」

 

やるOの答えもまた明確だった。ほかに理由などないという自信に満ち溢れている。

よく言うよ、とやらない王は思ったが口には出さなかった。

 

「それは戦いたいということか?」

 

カーヌがこれまた簡潔に質問をした。

 

「まあね。非公式ラスボスとも言われたプレイヤーだし、最後に挑戦したいなって思ったんでね」

 

モモンガをほめたのが良かったのか、カーヌは少し考えるように黙り込んだ。

何を言おうか迷っているようにも見える。

 

「貴様らだけで行けばよかろう。数だけは多いのだからな。私は人数が減って弱体化した拠点に攻撃を仕掛けるなんて卑怯なことはしたくない。全盛期ならば考えたかもしれんがな」

 

もょもと2ndの言葉に対して、やるOはそれを待っていたとでも言いたげに頷くと姿勢を改めて言った。

 

「2ch連合は壊滅したよ」

「何?」

「どういうことだ?」

「過疎化しても1000人以上所属していたはずだぞ? そう壊滅するものでもなかろう。冗談は止せ」

「いや、本当だぞ。2ch連合はアインズ・ウール・ゴウンにギルド武器を破壊されて消滅した」

 

2位のギルドが解散でもなく消えたことはそれなりの衝撃があったのだろう。

口々に疑問の声を上げるメンバーに対して、やらない王はやるOの発言に補足をすることで事実を伝えた。

今まで黙っていたやらない王が発言したことで部屋中の目が集中する。

多少の居心地の悪さを感じつつもやらない王は言葉を続ける。

 

「ああ、だからって復讐戦に参加してくれってことじゃない。そいつももう終わってるんだ。俺たち2ch連合の負けって形でな」

「参加者は?」

「あん?」

「攻略に参加した人数だ。2ch連合、いややられたから旧2ch連合か? その反撃となればそれなりの人数が集まったはずだろう」

 

ダークンの問いにやらない王は肩をすくめて答えた。

 

「以前とほぼ同規模……1500人以上だな。もっとも……ほとんどプレイヤーに会わないまま全滅させられたがな」

「その時の動画がこれなんだな。まず見てほしい」

 

 

*   *   *

 

 

「ダイジェストだけどどうだったかな?」

「どっちかってーとDIEジェストだがな」

 

動画を見た5人の反応は様々だったが、今のナザリック地下大墳墓が容易ならざるダンジョンであることは伝わったようだった。

 

「すごい」

「これは……凄まじいな。というか何を考えたらこんなダンジョンになるんだ?」

「おお、我が主神! なんというお姿に……いやしかしお強い」

「しかし闘技場を見る限りかつてのメンバーがそろっている?」

「はっはっは。壮観ですねえ」

 

ひとしきり反応を確認すると、再度やるOとやらない王は5人に話しかけた。

 

「見てもらえばわかると思うんだけど、1500人程度(・・・・・・・)じゃ攻略できないんだお」

「まあ、レベルが足りてなかったのもあるんだろうけどな。問題なのは今回はプレイヤーに一切迎撃されていないってことだ。モモンガさんだけが強いとも思えないしこれ以上の苦戦は確実だろ、常識的に考えて」

「恐らく攻略にはユグドラシル全プレイヤーの総力を結集するレベルでのマンパワーがいると思うんだお。だから」

 

みんなでアインズ・ウール・ゴウンに挑まないか?

 

「ま、考えておいてほしいお。答えはすぐじゃなくていいから……そうだな。3日後には一度返事がほしいお。その間に他にも色々声をかけるから」

 

そういったやるOにダークンは本日最後となる問いをかけた。

 

「これ、なんで俺たちのところに持ってきた?」

 

そしてやるOは胸を張って答えた。

 

「もちろん、一番この攻略を楽しんでくれると思ったからだお!」




俺らたちも攻略のために動き出しております。
まだいきなり協力体制は組めないでしょうから事前の打診といったところでしょうか。
とりあえず情報共有はしました。

今年はさすがにこれで最後ですかね。
良いお年を。


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会議 SIDE:G

あけましておめでとうございます。
1月1日になったのでもう投稿しても大丈夫かな。

久しぶりに高橋(元凶)の話。
また変なことを思いついたようです。


「助けてください」

 

そういって助言を請うてきた高橋に、彼の元上司である山崎は眉をひそめた。

別プロジェクトに移動した元上司に頼ろうという姿勢に説教の一つもしてやろうかと思ったが、以前見たときから大分やつれた高橋の様子に自分で解決しようとした努力の跡を見て取った山崎は溜め息をつくと向き直った。

 

「俺は今は部外者だ。協力するに当たり上の承認は取っているんだろうな?」

「はい、部長に説明して許可をもらってます。その、理解してもらうのに時間がかかって色々と……」

「ここで話すことじゃない。移動するぞ」

 

いきなり話し始めた(しかも愚痴らしい)高橋を押しとどめて、小さな会議室に移動する。

報告・連絡・相談の基礎は叩き込んだはずだが、今の高橋の状態ではまともに報告もできまい。

トップに据えられて相談できる相手もいない状態だっただけに言いたいことも溜まっているであろうし。

きちんとした情報を得るにはこちらから誘導してやる必要があるだろうと山崎は判断した。

とりあえず落ち着かせるために自販機で買った缶コーヒーを投げつけて飲ませる。

そして高橋が口を閉じている間に会話の主導を取るべく説明を要求した。

 

「まず、お前が抱えている問題を最初から、順序立てて話せ。関与していなかった俺がわかるように、な」

 

 

*   *   *

 

 

事の発端はアップデート実装直後だったという。

1週間も立たないうちにあるギルドが【永劫の蛇の腕輪】を使い「限界突破チケット」を要求したというのだ。

しかも無制限でなく限界として1000枚と区切ってきたらしい。

一見多いように見えるが、【永劫の蛇の腕輪】はギルド単位での取得・使用が基本である。

100人で分けたら一人に10枚。課金で4枚購入すればちょうどレベル200にできる計算である。

いきなり上限を大きく上げられてしまうのは問題と言えば問題だったが、無茶というほどでもない。

レベルを上げるにも時間がいるので連続してこの手段を使うこともないだろうと、この願いを認めたと高橋は語った。

 

「その対応は間違いじゃないな。上限解放が早すぎると言えば一応問題ではあるが、それほど致命的ではない。そいつらがお前の抱える問題になるんだな?」

「はい……そのギルド、アインズ・ウール・ゴウンっていうんですが、ご存知ですか?」

「……確か少人数のギルドだったよな。少人数では珍しくTOP10にまで食い込んでいたから記憶している。だがまあ、それだけといえばそれだけだったはずだ」

「ええ、最初はそう思ってたんです」

 

レベル上限を大きく解放したとはいえ現在のレベルが即座に上がるものでもない。

レベル上げに専念できる時間が多くなる分、アインズ・ウール・ゴウンが多少有利にはなるだろうが、あくまで他のプレイヤーに対して少々有利という程度だ。

高橋がやつれる理由にはならない。

 

「この後の動向でちょっと怪しくなってきまして」

「相談しに来た相手にもったいぶってどうする。さっさと話せ」

 

アインズ・ウール・ゴウンが次にやったことは、エンドコンテンツとして作られた隠しワールドへの到達だった。

元々セフィロトシリーズのワールドアイテムを持っていたので可能性はあったのだが、王国/マルクトは一番下位のセフィラだけに、到達条件は一番厳しく設定されている。

おまけに長いこと所有しているのに第一条件すら解放していなかったので完全に想定外だったのだ。

 

「……確かにそいつを想定すべきだった、とお前を責めるのは酷だな。しかしどうやって気が付いた? それこそ彼らは年単位で気が付いていなかったんだろう?」

「そうです。そう、なんですが。彼らワールド・サーチャーズを吸収合併したんです。それを機に気が付いたようで」

「……2位のギルドだよな。どうしてそうなった」

「わかりません」

 

経緯はさっぱりつかめなかったが、独占できる狩場を得たアインズ・ウール・ゴウンは順調にレベル上げをしていた、かというとそうでもなかった。

突然拠点の改装を始めたり、各地に探索に行ったり、割と無軌道に過ごしていたという。

拠点拡張の追加アップデートがあってからは、その傾向はより顕著になっていたのだ。

 

「……最速で高レベルに達したとかそういう問題でもないのか」

「むしろそうだったら楽だったかもしれません。レベル200突破記念とか理由をつけて接触できましたから」

「で、結局なんなんだ?」

「懸念があったのは、これも隠し要素なんですが、ボス職業に手を出し始めたことだったんです」

「あれに気が付いていたのか。それもワールド・サーチャーズがらみか」

「おそらくは。こればかりは本気でバランス崩壊につながりますので、さすがに警戒対象として本格的に監視を始めました」

 

ゲームにおいて圧倒的に高ステータスを誇るボスが討伐されるのは一定のルーチンに従って動くからである。

ボスが回復を効率的に行ったり蘇生されたりアイテムを使ったりしたら、プレイヤーにとしては本気でたまったものではない。

レベル差が開く以上に高ステータスの種族や職業の取得は危険だと言えた。

ギルドの評判からしてこの後一気にレベルを上げて世界征服! などと言い出しかねなかったので警戒を始めたのだという。

 

「ところがレベルを上げきる前に2ch連合に攻撃を仕掛けちゃったんです」

「何? あそこは確か……最盛期で3000以上の大所帯だったか。今どれだけいるのかしらんが簡単に落とせるもんじゃないだろう?」

「そのはずなんですが……180をちょっと超えた程度の十名程度で1000人規模の拠点を強襲してギルド武器を粉砕しちゃったんです」

 

記録を見る限り一切妨害を受けていないまま拠点に突入したことが大きなポイントだったようだ。

どんな奇抜な手を使用したか分からないが、結果として連合は態勢を立て直す暇も与えられずギルド武器破壊に至り、2ch連合は消滅することになった。

 

「で、当然旧連合のプレイヤーたちは報復に出たんですが……」

 

そこで高橋は言葉を一度きり、腕を組んで額に当てて俯いた。

 

「1500人以上のプレイヤーが一方的に叩き潰されました」

「……アインズ・ウール・ゴウン側の被害は?」

「…………」

 

再び黙り込んだ後、高橋は絞り出すような声で言った。

 

「ほぼ皆無です。防衛用の設備も、トラップも使用した分は消耗したと言えるかもしれませんが、彼らの持つリソースからすれば本当に微々たるものです。プレイヤーどころか主要なNPCすら死亡しませんでした」

「な……」

「なにしろプレイヤーが撃退に参加しなかったんです。彼らが本気で迎撃に出れば、本当にたった一つのギルドが世界を蹂躙しかねません」

「……これがお前の抱える問題か。接触して取り込みを図ればいいだろう。俺はそう助言したはずだ」

 

山崎の言葉に高橋はゆるゆると頭を振った。

 

「正直、彼らはまだギリギリゲームバランスの中にいます。彼らはユグドラシル全体から見れば本当にちっぽけな勢力です。全プレイヤーが相手となれば……勝負が成立しかねないという時点で大分おかしいんですが、ゲームとして成立しえます」

「だからこちらのイベントとしてボスにしてやればいいんだろう?」

「でも報酬がないんです」

「は?」

 

予想外のことを聞いたというように山崎から変な声が出た。

それに構わず高橋が続ける。

 

「報酬が、ないんです。さっき、お話したように彼らは自前で難攻不落の拠点を持ち、限界突破を達成し、莫大なリソースを保持し、独占できる狩場を確保し、大人数を殲滅できる戦術をもっています。ワールドアイテムすらユグドラシルで最大数を所有しています。おそらく運営が何もしなくともすべてのプレイヤーと戦えてしまいます」

「だが、予想外のことを起こしすぎている、と」

「はい、これ以上放置はできません。できないんですが、取り込む方法がないんです」

「そうか……」

 

二人の間に沈黙が落ちる。

黙っていてもらちが明かないため、山崎が口を開いた。

 

「それで、俺に助けてほしいってのは取り込む方法を考えてくれってことか?」

「いえ、その……必死に考えて、一応思いつきはしたんです。それについて相談しようと……」

「ほう」

 

部下だった高橋の成長に喜びと驚きを感じつつ山崎は続きを促した。

 

「彼らのリアルに対して何か報酬出せないでしょうか」




ついにモモンガさんたちのリアルにまで影響が出そうです。
何を提示するかはそのうちゲーム内で。

活動報告のアンケートご参加ありがとうございました。
ひとこと言わせてください。
私の方が皆さんの津波(ビッグウェーブ)につぶされそうです(笑)

本年もよろしくお願いいたします。


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生命の木の丘

だいぶ間が開いてしまいました。
待っていてくれた方がいたら申し訳ありません。

新年早々忙しかったのが悪い。
ついでに私の書くのが遅かったのが悪い。

運営が接触する前にもうひとつやらかしとこうと思ったのがたぶん一番悪かったのですが。
一話にまとめられなかったので次が本番のはず。


会議を行った後、アインズ・ウール・ゴウンは暴走を開始した。

拠点への資金(ゲーム内、リアル問わず)の突っ込み具合から、タガが外れた場合の暴走は規定事項ともいえる。

ブレーキ役であるモモンガがイケイケモードで煽る側なので止まりようがない。

 

そんな彼らの次の一手はレベル上げだった。

拠点を強化したい、装備が作りたいというメンバーも、モモンガのレベルが拠点の拡張に影響することや、最高レベルにならない内に装備を作っても最高傑作であると認められるのかという意見に頷かざるを得なかったのだ。

そしておあずけを食らったメンバーが、どうせなら最速でと意見したため「生命の木の丘」への再侵攻が決まってしまった。

 

何しろ高レベル、という言葉で済ませていいのかわからないが、とにかく強力なMOBに満ち溢れている上に取り合うプレイヤーもいない、理想的(?)な狩場である。

勝てるなら全く問題ないとばかりにアインズ・ウール・ゴウンは突撃した。

普段の貧乏性はどこにいったと言わんばかりに、高価な回復アイテムが湯水のごとく消費されるのだが、もちろん合間に採取されるアイテムで補てんできるという見込みあっての暴挙である。

 

そのある種のごり押し攻略の結果判明したことは、丘の上に行くには周囲に張り巡らされた結界を解除するという、お約束をこなさなければいけないということだった。

 

「やはり結界の要は、四方にあるんですかね?」

「八方かもしれない」

「大罪になぞらえて七に一票」

「世界の数からすれば九じゃないか?」

「十二ってのもあるかもよ?」

「六芒陣を忘れてもらっちゃ困る」

 

ちなみに『全部』あった。

十二の星座の謎を解き、九曜の封印を突破し、八卦の理に挑む。

七つの大罪を下し、六芒陣の魔術を超え、五行の相克相生を崩す。

四の属性を司るモノに対峙し、三位一体の神性を討ち滅ぼし、双璧の守護者と戦った。

 

「盛りすぎだろ!」

「なんかもう時間稼ぎ乙って感じだなあ」

「これでラスボスがしょぼかったら訴訟ものだ」

 

それぞれの結界の基点ごとに報酬がなかったら、期限ギリギリでなかったら、探索に命をかけてる連中がいなかったら、面倒になって放り出していたかもしれない。

最後のアタックは全員で行こうと予定調整をすることになった。

 

 

*   *   *

 

 

最終攻略の直前、予定があったメンバーで最後のレベル上げでもしようとモモンガ達は8人の変則パーティーで五行の結界があった付近にきていた。

 

「未見の獣型モンスターが接近中! 2時方向、数4!」

「またか! この期に及んで新モンスターとか冗談じゃないぞ!」

 

ワイズマンの警告にウルベルトが目の前の虫型のモンスターに冷気魔法を叩き込みつつ悪態をつく。

既に戦闘に入っているところでの乱入はいつだって勘弁願いたいものだが、一瞬の油断も許されないような高難度フィールドで敵の増援など誰だって嫌に違いない。

おまけに攻略済みと思っていた場所で新しい敵となれば、本当に文句のひとつも言わねばやっていられないに違いない。

 

「言っても仕方なかろう! モモンガさん、こいつの残りHPはどれくらいだ!」

「6割切りました。発狂入るまでもう少しなので警戒を! ぷにっとさん、どうしますか? 速攻か持久か作戦を!」

 

律儀にウルベルトの悪態に反応しつつ、たっち・みーも目の前のモンスターの状態確認に入る。

巨大な鎌上の足を紙一重で避け、反撃で斬り飛ばして距離をとる。

味方にバフをまいていたモモンガがその確認に答えて、監視していたHPを報告する。

中心部に行くに従い、通常モンスターすらHPが減ると発狂モードに入るようになったため、ダメージ管理が必須なのだ。

そのため作戦を一任していたぷにっと萌えの役割はかなり重要だった。

 

「……ペロさん、遠距離大技のストックは。今使えないならなんでもいいので一番早く使えるようになる時間を」

「あと87秒! 連射タイプだから一撃の重さには期待すんな!」

「茶釜さん、ガード系の技は」

「ダメージ軽減のバフがあと3回有効だよ。大きいのへの耐久はあとちょっと、いまクールタイム終わった」

「タブラさん、資材は」

「獣特攻付与はあるよ! ただ残量が厳しい。そろそろ撤退を視野に入れてくれ」

 

遠距離担当のペロロンチーノ、ガード担当のぶくぶく茶釜、アイテム管理をしているタブラに確認を取るとぷにっと萌えはすぐに結論した。

 

「速攻でいきます! 獣のデータを取って休憩しましょう」

「「了解!」」

 

 

*   *   *

 

 

「畜生。虫にも獣にも火が効かねえってどういうことだ」

「愚痴るな。何事にだって例外はあるってだけだろう」

「あーあー、取りあえず斬ればいい脳筋は楽でいいねえ」

「なんだと?」

「やるか?」

 

休憩中の短い時間に口げんかを始めた二人を放ってワイズマンとぷにっと萌えはモンスターの情報をまとめていた。

 

「経験値効率は相当高いが、弱点不定が痛いな」

「勝てればレベルは上がるが、敵が面倒ということだな。鑑定持ちが不要にならないから俺としてはありがたい」

「200以降は必要経験値の伸びが一定のようだしな。で、さっきのモンスター『眷属』だが」

「さっきからちらちら見る未見のモンスターの名前が全部『眷属』だしな。見た目が安定しないが、2種類だったたのは間違いない」

「見た目が違うというなら、弱点が違うだけじゃないのか?」

「どうもプレイヤーのように若干の役割分けがあるようだな。種族レベルではなく職業レベルに差があると見た」

 

モンスターの考察をする二人の横ではタブラがモモンガ達にこの地の設定についての考察を語っている。

モモンガがタイミングよく相槌をうつものだからなかなか終わらない。

飽きてきたペロロンチーノが見張りに逃げ、逃げそびれたぶくぶく茶釜からヘイトを稼いでいた。

恐らく戻ったら殴られることだろう。

 

「……ですからこの地のモンスターに一貫性がないこと自体が、ボスの正体を暗示しているのではないかと思うのですよ」

「天使、悪魔、竜が最初にあったやつでしたっけ。その後も虫に獣にアンデッドに無機生命体にエレメントに……」

「全種族でいいでしょ、そこは。なんていうかお祭りマップだよね」

「加えて属性もめちゃくちゃですからねえ。使いどころがあまりなかった特効付与アイテムがここぞとばかりに活躍してますよ」

「ああ、助かってますよ。でも戦闘ごとに切り替えると消費が半端じゃないような?」

「使ってなかったんだからいいじゃない。しかしガードとしてはきっついよ。せっかくの特化防御装備が全然役に立たないのはねえ。特化攻撃は持ち替えればいいけど、防具の早着替えはスキルでもないとできないし、一式変更はアイテム圧迫するからなあ」

「着替えサポート職とかあるんですかね? ともあれ、純粋な防御力が要求されてるっぽいですよね」

「力の無い者を通さない、とでもいう意思を感じますね。そこもヒントなんですかねえ」

 

そうやってメンバーが思い思いに会話をしつつ休憩していると偵察に行ったペロロンチーノが戻ってきた。

 

「あ、あんたさっきはよくも……」

「姉ちゃん、ちょっとみんなに聞いてほしい事がある」

 

ぶくぶく茶釜がさっそく文句を言いかけるも、深刻な声を出した弟の様子に「わかった」とだけ返してぷにっと萌えとワイズマンに声をかけに行く。

モモンガもタブラと顔を見合わせるとウルベルトとたっち・みーの喧嘩を仲裁しに行った。

 

 

*   *   *

 

 

「なんか「生命の木」の様子がおかしいんだ」

 

そうペロロンチーノは切り出した。

 

「おかしい、とはどのように?」

「なんか、こう、動いているっていうか、脈動してるっつーか……なんかしてるように見えた」

「まったくなにもわからないじゃない。もうちょっと具体的な何かはないの?」

 

もっともな姉のつっこみに表現に困ったペロロンチーノは頭をかくと弁解するように言った。

 

「まあ、俺は遠くは見えるんだけどおかしいとしか言えなくてさ。だからみんなに見てもらおうかと」

「ああ、鑑定とか魔法絡みだとわからないかもしれないですしね」

「そう、さすがモモンガさん! 俺もそれが言いたかった!」

「調子のいいこというな!」

 

姉に頭をはたかれて痛がる振りをしつつ(フレンドリーファイアがないので痛い訳がない)ペロロンチーノはメンバーを開けた崖の上に案内する。

生命の木が臨めるそこについた瞬間、マジックユーザーの二人と鑑定持ちのメンバーがうめいた。

 

「うわ……」

「これは……」

「そういうことだったのか」

「あー、確かに何か不穏なのはわかるんだが、どうなってるかわかるように説明してくれないか?」

「そだよ。自分達だけでわかったような反応はこっちがきついよ」

 

わけのわからないたっち・みーとぶくぶく茶釜が説明を求める。

自分達にも言葉にできないので、ペロロンチーノが説明できなかったのはわかったが、わかるメンバーもいるのだからその分くらいは知りたいのだ。

理解しているメンバーはしばし目で牽制しあった後、一人説明したそうにしていたタブラが代表して口を開いた。

 

「……生命の木に反応があります」

「? なんの?」

「敵対反応です。つまり……生命の木そのもの、ひょっとしたらこのワールドそのものが、敵です」




というわけで生命の木の丘のラスボス戦です。
目的のものがボスだったというのもよくありますよね?

新年も変わらずアンケートです。
また活動報告のほうでよろしくです。


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決戦に向けて

予告詐欺になってしまいました。
感想で留守中どうするんだろうと言われて、それもそうだと思ったので。

栗栖鱒釣さんより「秋桜」を採用させていただきました。
設定好きとのことなので情報が整理された図書館の司書に就任してもらいました。
しゃべり方はこんなんでいいのだろうか。


ラスボス(仮)の詳細が判明したため、タブラはぷにっと萌えとゾディアックの面々とともに資料の再確認を行っていた。

ユグドラシルでは事前にボスの情報が仕入れられているかどうかが攻略の難易度を左右することなどざらにあるからだ。

 

「生命の木が敵なのはわかりましたけど、本当に世界全体が敵ってありえるんですか?」

 

資料を抱え込みながらわるぷーが前提条件を確認してくる。

同じく資料から目を離さないまま、ぷにっと萌えが答えた。

 

「いくつか根拠はあります。まず第一点、距離があるにもかかわらず敵対を確認できたことです」

「ああ、五行封印の近くでしたっけ。あそこからだと……地図どこでしたっけ」

「これです。10kmはないですが、数kmはありますね」

 

タブラが空中に開いた地図を眺めて、わるぷーはため息をついた。

 

「スキルの効果範囲とか考えるのも馬鹿らしいくらい離れてますが、一応視線は通るんですね」

「目視できたので距離はいいんですが、むしろ問題は数km先から(・・・・・・)敵対されていたってことです」

「……敵の感知範囲がそこまで広かったっていうのは、ないですかね?」

「考えられるでしょう。ここで第二点です。今回に限って『眷属』が襲ってきました」

「んー?」

 

それがなんの関係があるのだろうと首をかしげるわるぷー。

タブラが苦笑すると続きを語った。

 

「ユグドラシルに『眷属』とつくモンスターはそれなりにいましたが、それも何の眷属なのか明記されてます」

「闇の精霊の眷属、とかですね」

「ですね。ところが今回はノーヒントです。逆に考えると教えなくてもわかるだろ、というメッセージとも取れるわけです」

「……ああ、「生命の木の丘」に出てくるんだからってことですか」

 

なるほど、と腑に落ちたようにわるぷーはこくこくと頷いたが、何かに気がついたように大きな声を上げた。

 

「ってことはほぼワールドに入った直後から攻撃受けてたってことじゃないですか!」

「そうなりますねえ。感知の範囲が世界全域なのか、それとも世界全部が生命の木なのか……情報がないと無意味に消耗しかねないのでこうして調査しているわけです」

 

責任重大ですね、とわるぷーがまたため息をつく。

 

「これで資料全部ですか? もう他にはないですか?」

「肯定。検索キーワードを「木」「樹」レベルまで下げて検索している。これ以上資料を探すなら、適切なキーワードを特定することが必要になると進言する」

 

ゾディアックの一人、秋桜に資料検索をさせていたワイズマンが更なる資料を要求するも答えは無常なものだった。

称号『司書』を取った秋桜は特定のキーワードから図書館の資料を検索できるのだが、「生命の木」「世界樹」などの単語では残念なことに攻略のヒントになるような情報が得られなかったのだ。

 

「推理するしかないんですかねえ」

 

そのやりとりを見ていたタブラもまたため息をつく。

諦めきれないのか何とかキーワードになりそうな単語を捻り出そうと唸るワイズマンに、秋桜は自動人形ロールでやっている抑揚のない話し方で言葉をかけた。

 

「提案。これはアレを使用する案件だと判断する」

「……負けみたいで嫌なんですが」

「否定。ここまで情報がないということは、アレを使用する正しい機会であると推測できる」

「そうですよ。ワイズマンさんのこだわりもわかりますけど、こういうときのために確保しといたんじゃないですか。

 

秋桜の提案をわるぷーが援護する。

何事かと目を向けるタブラとぷにっと萌えの前で、なおもしばらくの間苦悩していたワイズマンであったが、やがて意を決したように大きく息をつくと顔を上げて宣言した。

 

「わかりました。【モイライの糸車】と【ミーミルの首】を使いましょう!」

 

なんとなく自棄になっているようにぷにっと萌えは感じた。

 

 

*   *   *

 

 

モモンガは死獣天朱雀とともに交渉の場に向かっていた。

 

「本当に大丈夫なんでしょうか? というかうち(アインズ・ウール・ゴウン)にファンギルドなんかあるんですか?」

「何、君が知らんだけで結構いたんじゃよ。悪には悪のロマンがあるからのう」

「そんなもんですかねえ……」

 

自分たちが悪役ロールを楽しんでいるのにもかかわらず、そういったプレイに憧れるプレイヤーに思い至らないらしいモモンガに苦笑しつつ、死獣天朱雀は今回の方針を再度確認した。

 

「まあ、会えばわかるだろうさ。何にしても今回の交渉は重要じゃぞ? なんせ他人に留守をあずけるようなものだからのう」

「プレッシャーかけないでくださいよ。なんか胃が痛いような気さえしてるんですから」

 

そう、アインズ・ウール・ゴウンが総出で生命の木の丘に攻略に行くため、どうしてもナザリックの防衛がおろそかになってしまう。

指示をほとんど出さなくても1500人を屠った極悪ダンジョンではあるが、そこは気分の問題というやつである。

いないことを知られても問題なく協力してくれる相手ということで、ファンギルドの一つ「黄昏の騎士団」に声をかけることになったのだ。

 

ちなみにモモンガが自分たちにファンがいるという状況がいまいち理解できていないことについては仕方ないところがある。

何しろ内部の問題を解決するのに手一杯で外部に目を向ける余裕がなかったのだから。

正義(たっち・みー)(ウルベルト)の争いの調停、問題児(るし☆ふぁー)への抑え、他にも自己主張の激しいメンバーの間で不満が出ないように資材を割り振るなどギルド長としてやることは山積みだったのだ。

それらをこなしていたからこそ、アインズ・ウール・ゴウンは団結を維持できたともいえる。

 

「大丈夫かなあ」

「ここまできて悩んでも仕方あるまいよ。さあ、行こう」

 

そういってモモンガと死獣天朱雀は「黄昏の騎士団」の拠点、「鬼岩城」へ入っていった。

 

 

*   *   *

 

 

「えー! 装備間に合わないんですか!」

 

ナザリック地下大墳墓の製作室でレイレイが絶叫していた。

シユウから彼女が執心していた最強装備(本人のものではない)が攻略に間に合わないと告げられたためである。

 

「な、なんとかならないんですか! ほら、ウルベルトさんもなんか言って!」

「君な……別に攻略後だって問題ないだろう。ゲームが終わるわけじゃないんだし。というか揺さぶるな」

 

がくがくと揺さぶられてウルベルトが不機嫌そうに答える。

それでもわざわざついてくる辺り本気で嫌がってはいないようである。

ウルベルトに言わせればレイレイが暴走しないように監視しているということだが、信じているのはモモンガとみーにゃくらいのものであった。

そんな二人をジトっとした視線を向けながらも、複数ある腕を組みながら頭をかくという器用な真似をしつつシユウは装備が作れない理由を告げた。

 

「どうにもな、カロリックストーンが調達できてねえのよ。リジッドストーンとの組み合わせが強力なのはガルガンチュアで証明済みなんだがな」

「俺は直接戦闘にはまったく向いていないからよ、せめて専門分野で貢献したくはあったんだが素材がなきゃ生産職はお手上げだ」

 

ドヴェルグのカッチンもやれやれと頭を振って生産組としての見解を告げる。

そんな二人の様子にレイレイがまだ諦めないとばかりにあまのまひとつの方を向く。

視線に気がついたのか作業の手を止めて、あまのまひとつが眼帯をつけた顔を向けた。

 

「一応俺らも何もしてないわけじゃない。取り合えずの試作品くらいは出せる」

「それじゃ!」

「問題はエネルギーをカロリックストーンに依存して設計してるから他のもので代替すると効果が……おい、お前らどれくらい落ちると思う? 俺は5割切ると思ってんだが」

 

話題を振られてシユウとカッチンが各々考えを述べる。

 

「大分多く見積もってねえか? 俺は3割程度と見ている」

「瞬間的になら6割いけるかもしれんぞ。継続的に力を供給しないでコンデンサみたいなもんに貯めればいいんだから」

「それだとコンデンサにデータ食っちまうだろ。リジッドストーンも無限にあるわけじゃねえんだぞ」

「後で分解……できるかねえ」

「世界級だかんなあ。完成品ぶっ壊して素材調達は無理だろう」

「つーとなんか機能オミットせにゃならんな」

「ダウングレードか。やりたくねえなあ」

 

あまのまひとつも交えて議論を始めてしまった三人に、無視される形になったレイレイが割って入る。

 

「じゃあ、カロリックストーンがあれば何とかなるんですね!」

「お、おう」

「まあ、あっても……」

「わかりました! 盗ってきます!」

 

カッチンが言いかけた台詞を最後まで聞かずレイレイは出て行ってしまった。

ウルベルトが頭が痛いとばかりのジェスチャーをしながら追いかけていく。

 

「……良いのか。持ってきてもらっても作れねえぞ。嬢ちゃん、絶対聞いてなかったぞ」

「あの勢いに圧されて頷いちまったよ。参ったな」

「万が一持ってきたら謝れよ? ……ところで嬢ちゃんの取って来るって何かおかしくなかったか?」

 

確かにと顔を見合わせた三人だったが、ウルベルトがついているなら大丈夫だろうと流すことにした。

ぬーぼーからの依頼で攻略前にやるべきことがあるので忙しいのだ。

特にカッチンはそれをしないと留守番になりかねない。

 

「さて、やりますかね」

 

彼らはレイレイがこの後やらかすことを完全に放置した。

 

 

*   *   *

 

 

「いーーーーやーーーー! わたしも行くのーーー!」

「いや、だから今回は相当危なくてだな」

「わたしもギルドメンバーなの! だから一緒に行くの!」

 

たっち・みーはかつてないほど苦戦を強いられていた。自分の娘に。

明らかにレベルの違うエリアの攻略にみーにゃを連れて行くのを躊躇い、何とかおいていけないだろうかと説得を試みているのだが芳しくない。

メンバーは連れて行けば良いでしょうと軽く言ったが、相手は運営が考えた碌でもない敵で娘がトラウマを抱えることにでもなったら悔やんでも悔やみきれない。

それは紛れもなくたっち・みーの親心であったが、ユグドラシルというゲームを楽しんでいたみーにゃにしてみれば酷い暴挙であった。

 

「大体、カッチンさんとか音改さんとかよりわたしの方が強いもん! 二人が行くんだったらわたしも大丈夫だもん!」

「いや、二人は戦闘メインじゃないから……」

 

「親心子知らず」とは言うものの、このやり取りはどう考えてもたっち・みーの分が悪かった。

何しろ最初に一緒に遊ぼうかと誘ったのが、たっち・みーなのである。

みーにゃがゲームを始めた経緯を聞いていたウルベルトが、「説得できると良いな」などと皮肉を言ったくらいだ。(つまりウルベルトは全く説得できると思っていなかった)

それを持ち出されては勝ち目がない。

それでもたっち・みーはしばらく抵抗を続けた。

 

娘に「モモンガお姉ちゃんに守ってもらうから大丈夫だもん!」といわれてへこむまであと少し。




次回こそ生命の木攻略に行きたい。
それが終わればGM接触かなあ。
誰かの一人称でメンバーが具体的に何やったか書いても面白そうですけどそれは後回しかな。

そして更にアンケートです。
前回書き忘れたのがあったので新しく作ることにしました。
よければどうぞ。


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VS世界樹(1)

年明け以降中々時間が取れず遅くなってしまいました。申し訳ありません。

今回、うぃすたりさんより応募いただいたモモンガさん用ボスの「イルミンスール」を生命の木の正体として採用させていただきました。
流用してしまい大変申し訳ありません。
でも、考えていた「もう一つの世界樹」の設定にあっていたので使わせてもらいました。ありがとうございます。


【ミーミルの首】はワールド・サーチャーズが所有していたワールドアイテムである。

効果は「現在所有していないアイテム、遭遇していないモンスターの情報がランダムで手に入る」というもので、運がよければワールドアイテムの情報すら出てくることがある。

使用の際もコストはなく、クールタイムも1日と大したことがない壊れっぷりである。

しかも神器級アイテム【モイライの糸車】と合わせて使うと指定して情報を抜けるという効果まである。

もちろん対象を特定するための情報がいるので簡単というわけではないが、もし両方そろえていればアイテムの入手が格段に容易になることは間違いない。

 

ワールド・サーチャーズはその存在を知った直後から全力で確保に走った。

別に使うためではない。他人に使われるのが嫌だったからである。

そして厳重に封印して情報も隠匿して今まで保管してきたのであった。

 

ちなみにワイズマンは北欧神話のミーミルとギリシア神話のモイライの組合せが気に入らず、余計にこのアイテムが嫌いだったりする。

 

「今回の調査……ではないですね、アイテムの使用でわかったことなのですが、「生命の木」についてはちょっと世界観から話した方がいいですね」

「えらく壮大だな。敵だっていうのは確かなんだろう? そこから話す必要はあるのか?」

「私は聞きたいですね。ユグドラシルの根幹に関わる話のようですし」

 

ワイズマンがやたら回りくどい説明を始めようとしたのでウルベルトが疑問を呈する。

タブラは設定に関わることというので聞きたいと肯定的な意見を返す。

全体的に聞いてもいいかという雰囲気であったため、ウルベルトも意見を取り下げた。

多数決の原則はこんな時でも有効なのである。

 

「さて、まずおさらいです。ユグドラシルの各ワールドの扱いは、みなさんご存知ですね?」

「はい! 世界は世界樹という大きな樹についた葉っぱです!」

 

みーにゃが手を上げて発言をする。

おそらく一番理解が浅いであろう彼女がわかるように話せばいいだろうと、ワイズマンは彼女と問答を始めた。

 

「正解です。以前、私は「生命の木の丘」を10番目のワールドだと認識していましたが、どうもこれが違うようなのです」

「えっと、世界って9個以外にもありましたよね? だから10番目じゃないってことですか?」

「確かに追加実装、というかコラボやイベントで作られたワールドは多いです。そもそもそういった追加がやりやすいように世界樹の設定を……と脱線するところでした」

 

ユグドラシルでは年間イベントやコラボイベントに伴いいくつかのワールドを実装している。

例を挙げればバレンタインイベント時のチョコレートワールドや魔法少女アニメの舞台となった町などがあったりする。

これらは世界樹の中の一世界という扱いで実装されていた。

 

「こほん、さて「生命の木の丘」ですが、どうも根本的にユグドラシルに属していない世界の様です」

「……世界は樹の葉っぱなんですよね? なのにユグドラシルじゃないっていうと……落ち葉とか?」

「残念ながらはずれです」

「じゃあ葉っぱじゃなくてお花とか!」

「それも違いますね」

「むー……」

 

思いついた答えをことごとく否定されて悩み始めたみーにゃにモモンガが助け舟を出す。

 

「ほら、みーにゃちゃん。これから行くところは「生命の木の丘」ですよ?」

「! そっか、樹が違うんですね!」

「正解です」

 

正解して喜ぶみーにゃにそれを素直にほめるモモンガ。

やまいこに促されて遅ればせながら褒めるたっち・みーといった情景をよそに、タブラが難しい声で質問を投げかけた。

 

「では世界樹は二本あったと?」

「そうなります。言うなれば「生命の木」は競争に敗北した世界樹なんです」

「そのわりにあの世界は元気(・・)ですが?」

「元々多様性を求めたのがユグドラシル。そして一つの世界に力を注ぎこんだのが「生命の木」――イルミンスールなのです」

「消された世界樹ですか。なるほど、なるほど」

 

うんうんと頷くタブラ。彼としては設定に納得がいったらしい。

 

「こちらの世界に情報が極端にないのも頷ける話ですね。文字通り世界が違うから情報がないのか」

「ええ、そして法則も若干違うようですね」

「……何か違いがありましたっけ? 特殊なルールもありませんでしたし、普通に遊べたと思うんですが」

「そこが運営に文句をいってやりたいところでもあるんですが……限界突破ですよ」

「ああ! ルールが違うから上限も違うというわけか!」

 

メンバーにも納得する顔が多い中、苦々しげな様子でワイズマンは文句を垂れる。

 

「そうなんですよ。異なる世界の法則を取り込んだから限界突破できる。よくできた設定だというのに運営は……」

「まあまあ、いいではないですか。で、世界丸ごと敵なのはわかりました。となると確実にギミック戦闘になるんじゃないですか?」

「失礼、ここで愚痴をいうべきではにですね。ええ、ギミック戦闘です。ちょっと面倒というか、人数ぎりぎりなんですけど」

「ほう?」

 

全員が聞いているのを確認してワイズマンは告げた。

 

「我々が解除したあの面倒な封印。あれをかけなおさなきゃいけません」

 

 

*   *   *

 

 

「しかしぷにっとも無茶苦茶なことを押し付けてくれたよな」

 

ウルベルトが杖で肩を叩きながらぼやく。

現在、ウルベルトはモモンガ、たっち・みーとともに生命の木の直近まで来ていた。

 

「まあまあ、囮だって責任重大ですよ?」

「我々が攻撃を仕掛けている間、ほかのメンバーが安全になるというならやるしかあるまいよ」

 

モモンガがなだめ、たっち・みーが作戦の意義を再確認する。

情報確認の結果、ワールドのどこにいても攻撃を受ける可能性があることが判明していたが、生命の木のAIは自分に近いプレイヤーを優先的に攻撃することもわかっていた。

そしてあくまでイルミンスールの意識は一つであるようで、本体と戦闘に入ってしまえば後方は安全になる、らしい。

通常の敵は普通に出てくるのでボスと戦わなくて良いという程度なのだ。

 

「わかってはいるんだがな。もうちっと人数を割いてほしかったっていうのは贅沢かねえ」

「一応レベル差がありますから、余程大量の敵に囲まれでもしなければ何とかなるかと思うんですが」

「まあ、お前の気持ちもわからんではない。相性の都合で倒すのに時間がかかった実績もあるしな」

 

ぷにっと萌えが封印再起動までの直接戦闘に送り込んだのは彼ら3人だけだった。

物理・魔法・状態異常と敵の弱点をつける最小限の人員である。

ワイズマンによれば本来のレベル上限は200であるため、手を入れられていないこのワールドで出てくる敵もレベル200を超えないだろうとのこと。

230を超えた3人なら対処できると踏んだらしいが、やらされる方としてはたまったものではない。

 

「封印にそれぞれ別の人間が必要とかそういう仕様じゃなきゃよかったんですが」

「戦闘が苦手なメンバーの数を考えると護衛が多くいるってのも納得できるから腹が立つ」

 

十二宮(12)九曜()八卦()七つの大罪()六芒星()五行()四大属性()三位()双璧()=56

見事にギリギリである。

予備人員が全くいないのでメンバーの追加も検討されたのだが、元々閉鎖的なギルドであるため信用できる人材がいない。

防衛にファンギルドの手を借りることさえ異常事態なのだ。

結局、所属していたギルドが解散してのんびりソロをしていたやまいこの妹である明美の手を借りれただけという有様である。

 

「ところでモモンガさん」

「はい?」

「なんで人間形態のままなんです? 激戦確定なんですから戻ってくださいよ。娘のことなら気にしないでいいですから」

 

たっち・みーがモモンガの格好について今更の突っ込みを入れる。

自分が頼んだとはいえ、大したことのない理由で戦闘時に弱体化されるのは非常に困る。

おまけにそれが原因でモモンガに死なれたりしたら、真面目なたっち・みーとしてはもはやどう謝っていいかわからない。

もちろん自分たちも危ないという理由もあるので善意だけでもないのだが。

対してモモンガは気遣いにちょっと嬉しそうにしつつ答えた。

 

「いえ、今回の戦いでは少しでも強い方がいいかと思いまして。女性アバター職業とってきたんですよ」

「……モモンガさんが納得しているならいいんだが、無理しなくていいんだぞ?」

「大丈夫ですって。るし☆ふぁーも男性アバター完成したって言ってましたし、メインで使うのは最後でしょうからね。いい機会ですしこの戦いが終わったらみーにゃちゃんに中の人は男ですって言いたいんで、そっちの許可をくださいよ」

 

微妙にフラグ臭のする台詞に突っ込むべきかウルベルトは悩んだが、たっち・みーは別のことに悩んでいたらしい。

 

「友人としてモモンガさんの決断は応援したいが、娘を持つ親としては……」

「せいぜい悩め、正義バカ。そろそろ子離れも考えろ」

 

戦いのときの果断さとは大違いの宿敵の醜態に呆れつつ溜め息をつく。

どうせ娘が懐いている相手が男性だと分かった時に何を言われるか想像しているだけなのだ。

みーにゃの年齢やモモンガの性格からして問題が起きるとしても……だいぶ先だろう。確率も相当に低いことだし。

 

「それより、気が付かれたようだぞ」

「動いてますね。植物なのに」

「もはやゲームにおいて植物なんて構成物でしか判別できないでしょうね。しかし、でかいな」

 

そう言うたっち・みーの視線の先には巨大な樹木が3人を睥睨するかのようにそびえていた。

ウルベルトが手短に配置についたことをここにいない仲間に伝える。

 

「なんか睨まれてる気がしますが、目もないのにどうやって見ているんですかね?」

 

モモンガののんきな疑問が癇に障ったわけでもなかろうが、イルミンスールが攻撃を開始した。

 

 

*   *   *

 

 

イルミンスールの攻撃は天から降り注ぐ雨のような光線の奔流から始まった。

 

「だぁっ! いきなり弾幕攻撃かよ! 魔法職に回避させるとか鬼か!」

「あんまり離れすぎないでくださいよ! 支援が飛ばせなくなります!」

「モモンガさん、俺にも敏捷くれ! これは防いでいたらジリ貧になる!」

 

魔力感知と長年のゲームで培ってきた勘に任せて回避をするウルベルトに、支援をかけつつモモンガが注意を飛ばす。

身体能力に勝るため後回しにされたたっち・みーも、下手に守勢に回ると危険と判断して手数を増やすべく支援を要求する。

 

「支援フルセットいきますか?」

「まだ敏捷だけで。バフを剥いでくる可能性があるから、最初は余力を残しておこう!」

「取りあえず、何が効くか、試すだけは、しないとな!」

 

攻撃を避けつつウルベルトが第九位階の火炎魔法を最大化して放つ。

それに合わせてモモンガも神聖系のモンスターに通りやすい負属性攻撃を、たっち・みーも植物特攻アイテムを使用して攻撃を仕掛ける。

しかし……

 

「マジか……」

「ある程度予想してましたが……」

「これは厳しいな……」

 

イルミンスールの前で全ての攻撃はかき消されてしまった。

「世界樹」という字面から想像できる弱点には対策済みというわけだ。

 

「やれやれ、こうなったら地道にノック(全種類の攻撃)で弱点探るしかないのかね」

「弱点、あればいいんですけどね」

「さすがに全くないってことはないだろうが。いや、運営ならやりかねんか? ……二人とも飛びのけ!」

 

光の雨がおさまり一息ついていた3人の立っていた地面がイルミンスールの根によって吹き飛ぶ。

たっち・みーの警告によって間一髪で避けたモモンガとウルベルトが悪態をつく間もなく、目の前で眷属の召喚が始まった。

 

「アレの相手をしながら本体も相手しろってか。本気で無茶だな」

「早いところ増援に来てもらわないとまずいですね。とりあえず壁出します」

「一撃で消し飛ぶでしょうけどお願いします。時間稼がないと本当にどうしようもない」

 

始まったばかりだというのに、既に先の長さにうんざりしつつ3人は気合を入れなおした。




とりあえず戦闘に入れました。
3人で囮ってのは、常識的にはありえないんですがね。
まあ、バーチャル世界でならやり方次第では可能かもしれない?

それはそうといつものアンケートです。活動報告の方でお願いします。


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VS世界樹(2)

遅くなりました。
ちょっと風邪をひきまして頭は痛いし鼻水もつらい。
皆さんもお気を付けを。

今回、三好さんの「黒有楽」を採用させていただきました。
ありがとうございます。


「ねえ、なんか私、大分場違いじゃない?」

「それがわかっているなら大丈夫だ。死なないよう頑張れ」

 

明美が前を歩く姉に文句を言うが、やまいこは全く取り合わなかった。

 

「普通に100オーバーがぽこぽこ湧くような魔境なんだったらそう言ってほしかったよ……」

「……そういえばそうだったか。だが、外周に出てくるのはせいぜい150くらいだ。下手な行動をしなければ160クラスのちょっと面倒(・・・・・・)なやつは出てこないはずだ」

 

明らかに感覚がおかしくなっているやまいこの発言に明美はため息をつく。

普通100オーバーというのは強敵(ボス)であり、150ともなれば難敵だとか頭おかしいといわれるレベルだ。

160以上なんていうのはソロ討伐を考えるのも烏滸がましい。

それが「ちょっと面倒」で片づけられているのである。いったい普段どんな奴らと戦っているというのか。

 

「呼ぶんだったら新ワールド見つけた時に呼んでよ。レベリングが全く追いついていないし……」

 

レベル最低の明美は最初に封印実行に参加したかったのだが、却下された。

理由は元ワールド・サーチャーズにゾディアックと名付けたからという完全に効率とは無縁の理由である。

単純に弱いとか戦闘に貢献しにくいメンバー優先とか、そういった常識は完全に無視されている。

囮になっている3人に悪いとは思わないのだろうか。

 

「大丈夫! わたしが守ってあげるから!」

「……年下に気遣われる始末だし……」

 

同じパーティにいるみーにゃが楽しそうに言うのを聞いて更に憂鬱になる明美。

ちなみにみーにゃは格闘をメインにしている。たっち・みーの娘だけに接近戦の素養が高かったらしい。

少し付け加えるなら後衛に徹したモモンガと一緒にプレイしていたことが前衛になることの決め手だったようである。

 

「くそう。ファンギルドに拠点防衛任せるくらいなら、私留守番していたかったよ……」

「はっはっは。なあに、しばらくいれば慣れますって。レベリングには最適ですよ?」

 

元ワールド・サーチャーズの黒有楽が気楽な調子で、まっとうな愚痴を言う明美をなだめる。

彼の台詞は一理あるも、この場合正しいのはやはり明美のほうであろう。何しろ今の目的はボス攻略でレベリングではない。

 

「こんな危険地帯で全員前衛で問題ないってのが一番間違っていると思うんだけど……」

 

黒有楽は辺境地帯での生存性を高めるために、元々スライムを選んだ前衛タイプである。

実際にここまでほとんど戦闘はなかったが、その数少ない戦闘も殴り合いだけで切り抜けていた。

物理無効などの特性もダメージ貫通といったこちらの特性をレベル差で押し通しているのだ。

 

「十二宮を封印して九曜の封印行くときは参加させるからさ。その後なら……死んで大丈夫なのかな?」

「不安になるようなこと言わないで。ナザリックに戻ったらファンギルドの人と交流でもしとくよ……」

「それも良いだろうね。聞いた限りだと中々骨のある連中だったっぽいし」

 

明美の憂鬱はしばらく続きそうである。

 

 

*   *   *

 

 

さてそのファンギルドこと黄昏の騎士団であるが、そのトップである二人ダークンとさまようは……ナザリック地下大墳墓の下層、ロイヤルスイートにいた。

 

「……なんていうか、難易度と別の意味で恐ろしいところだね」

「……ああ」

「これ、どんだけ課金したんだろうね」

「……ああ」

「……デザインもすごいし、こういうところでも格の違いっていうの? を見せつけられるねえ」

「……ああ」

 

さっきから何を言っても上の空で適当な相槌しか返して来ないダークンに、さまようは仕方ないかとため息をつく。

必死に取り繕っているが基本的にヘタレであるダークンは、無駄なまでに豪華すぎるロイヤルスイートに完全に飲まれていた。

モモンガとやり取りしたときは格好良かったのに、とさまようは先日の会談を思い出していた。

 

 

「つまり、一時的に拠点を空けなければいけないから防衛の人員がほしいと?」

「そうじゃなあ。君らの公認および同盟、社会人になったメンバーがいるのであれば選考の上でギルドに入れても良いというところで意見はまとまっておる」

 

さまようと死獣天朱雀が条件を確認しあう。

普通に考えれば黄昏の騎士団にとっては悪くない条件だとさまようは思う。

良くも悪くも黄昏の騎士団に所属するメンバーはアインズ・ウール・ゴウンが好きである。

その憧れのギルドから非公認だったことは仕方ないと理解はしていたが、なんだかんだ言って不満であったことは事実である。

2ch連合の残党であるやるOから誘われたナザリック攻略もそれなりに心惹かれたが、その理由はアインズ・ウール・ゴウンの目に留まりたいという面が大きい。

防衛への協力という敵対とは無縁の行為で、公認・同盟・勧誘と向こうから誘いをかけてくれるのであれば、正直なところ断る要素がなかった。

 

「悪くないですね。なあ、ダークン?」

 

いくらかは弄るためにギルド長を押し付けた所もあるが、ダークンはさまようの知る限りギルドの誰よりアインズ・ウール・ゴウンを好きだった。

2年ほど前に就職したこともあるし同意するだろうとさまようが目を向けると、ダークンは何か深く考え込んでいる様子を見せ、そして言葉を発した。

 

「それは、俺たちを数合わせに使いたい、と?」

「まあ、良い表現ではないですが、そうなります。実際、我々は君らを便利に使いたいと思っています」

 

モモンガの発言の内容は彼自身が言うように酷いものだった。

しかし、それをきちんと口にしてくれるだけ誠意をもって応対してくれている、ともいえる。

それを受けてダークンはしばらく黙ると意を決したように口を開いた。口下手なダークンらしくぼそぼそとしたものだったが。

 

「俺たちは、2ch連合の残党からナザリックの攻略に参加しないか、と打診を受けている」

「おい、それは……」

 

言う必要はないだろうと非難交じりに、さまようが口をはさむがダークンは首を振ると再びモモンガに向き直り先を続けた。

 

「正直に言う。俺は今日、あんたたちが来てくれるまで、これに参加するつもりだった」

「アインズ・ウール・ゴウンのファンギルドを名乗りつつ、敵対する気だったと?」

「そうなる」

 

敵対を考えていたと語るダークンにモモンガは威圧交じりに確認をする。

ダークンは一瞬ひるみそうになるもはっきりと肯定を返した。

 

「俺たちはあんたたちに相手にされていなかった。でも、それでいいと思ってたんだ」

「……」

「勧誘はうれしい。俺たちはあんたたちが好きだから」

「それで?」

 

どうにもうまく言葉にできず煮え切らない発言をするダークン。

それに対してモモンガはさっさと返事をしろと言わんばかりの態度(魔王ロール中)で答える。

めげそうになりつつもダークンは必死に言いたかったことを口にした。

 

「防衛に協力するのは構わない。その上で、勧誘については、保留させてほしい」

「いいのか、ダークン? これはチャンスなんだぞ?」

「馬鹿なことを言っているのはわかってる、さまよう。でも、俺だってギルド長なんだ。このギルドを便利使いされたくない」

「お前……」

「俺は、俺たちのギルドが、あんたたちに劣っているとは思いたくない。今回の勧誘が、上から目線だったみたいに、あんたたちから見て俺たちは格下なんだろう。だけど俺たちはあんたたちみたいになりたかった。同格になりたかったんだ」

 

モモンガも死獣天朱雀もそれを聞いて思うところがあった。

いくら悪のギルドだって、同じプレイヤーに上から目線と指摘されれば考えることくらいあるのである。

 

「協力するのは構わない。でも入れてやろう、みたいな勧誘は、お断りだ。俺はできれば対等になりたい」

 

 

結局、黄昏の騎士団はアインズ・ウール・ゴウン公認のファンギルドとなり、防衛に協力することになった。

そして変な話だが、敵対にお墨付きが出て、攻略時の行動がそのまま選考されると決定された。

最低でも2ch連合が襲撃時に到達した空中庭園までは突破しなければならないので楽とは言い難かったが、実力を認められた上での加入になるため完全に下に見られるよりはいいはずである。

無条件での加入選考を打診されていたことは隠されたために、メンバーから賞賛されたダークンが微妙な思いをしたのは完全な余談である。

 

「いいかげん、戻ってこいよ」

「……ああ」

 

まあ、その立役者は現在使い物にならないのであるが。

 

 

*   *   *

 

 

十二宮の封印が起動され、12のほこらから光が伸びていく。

囮が機能している現状、敵が弱い外周部でアインズ・ウール・ゴウンが後れを取る理由はなかった。

直後、世界が不気味な鳴動をし、感知能力に長けたメンバーは嫌な予感を覚えた。

 

『封印を起動しました。どんな変化がありました?』

 

ぷにっと萌えが一応後衛だろう、モモンガとウルベルトにメッセージを送る。

敵の攻撃が飽和しており返信どころではない可能性は高かったため、それほど返事に期待はしていなかったが予想外にもすぐに返事があった。

 

『……良い知らせと悪い知らせと最悪な知らせがある』

『おや、案外余裕なんですか? とりあえず良い知らせから』

 

こう言ったやり取りでは定番の文句を入れてきたウルベルトに軽口を返す。

本当に余裕な訳はないだろうが、向こうが意地を張っているのだからのっておくに限る。

 

『眷属が召喚される頻度が、気持ち減ったような気がする。このまま行けばどこかで出なくなるかもしれん』

『それは重畳。悪い方をお願いします』

『当たり前だが攻撃モードが変わった。今は闇系攻撃が主体なんで後衛はいいんだが前衛がやばい。早めに壁をよこしてくれ』

『承知しました。九曜起動後、最速で送り込むようにします』

 

しばし間が開いた後、ウルベルトは苦々しい口調で言った。

 

『そして、最悪の知らせだが』

『はい』

『眷属のレベルが5、上がった。考えたくないが眷属召喚が封印できない仕様なら……』

『最後は250レベルの無限湧きする敵が取り巻きである、と?』

 

それはろくでもない知らせだった。




ちょっとファンギルドとの交渉関連を挿入。
次辺り最強武器の作成が遅れたと引き換えになった秘密兵器でも投入します。
まあ、大体想像されているかと思いますけどね。


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VS世界樹(3)

相変わらず戦闘シーンは難しい。
今回は援軍及び秘密兵器の投入までです。
書き溜めもないのに予告なんてやるもんじゃないですね。


「やっぱりつながらないか」

 

九曜の封印を実行した後、先ほどと同じように世界は不気味な鳴動をした。

良い兆候なのか悪い兆候なのか、本体を見ていないぷにっと萌えには何とも判断できなかったが、直後から本体と対峙しているメンバーと連絡がつかなくなったのは間違いなく危険な兆候だった。

 

「お嬢様方がピンチになっているということでしょうか?」

「少なくともチャットに出る余裕もないのは間違いない」

 

こんな時ですらロールを貫くホワイトブリムの確認に答えると、ぷにっと萌えは増援予定の人員に即座に指示を出した。

 

『初期プランは放棄です。とりあえず単独突破できるメンバーは戦闘を可能な限り避けて急行してください』

『おうよ』『了解~』『んじゃさっさと行きますか』『いってきます』

 

軽いメンバーの返しにちょっと大丈夫かなと思うも、緊張したりして実力が発揮できないことはなかろうと思考を打ち切る。

油断のし過ぎでいきなりやられる可能性は見ないことにした。モモンガたちがいればとりあえず即死はしないだろう。

要するに丸投げだ。

 

『俺らはどうするよ?』

『そうだね。僕らが行かないと切り札が置物になりかねないよ』

 

カッチンとぬーぼーの不満そうな発言だったが、どう考えても二人のビルドでは単独突破はできない。

 

『彼らがモモンガさんに余裕を作ってくれるのを期待するしかないですね』

 

カッチンたち作成班はギルド武器にギルドメンバーを即時に自分の下に召喚する機能を組み込んでいた。

元々ギルド武器にしか組み込めない効果であるため、ギルド長にしか発動できないのが難点だが状況次第ではかなり有効な効果ではある。

ユグドラシルでは基本ギルド武器がお飾りになっていたため、急遽組み込む羽目になったのである。

 

『そっか……準備でもして待っているよ』

『向こうがどうなってるかわからないことには、次を封印するわけにもいかないのが困りものです』

『こっちの封印は順調にできておるが、向こうが一気に危険になる可能性があるからの』

『今現在向こうが手一杯なんですから可能性じゃなくて事実ですよ』

 

通話を打ち切るとぷにっと萌えは次への対策を考え始めた。

 

 

*   *   *

 

 

「カグヅチの陣!」

 

モモンガがミコ(巫女)のスキルで火属性を大幅軽減する防御陣を構築した直後、イルミンスールから噴き出した奔流のような火炎がたっちー・みーを飲み込んだ。

追加で回復をかけようとするモモンガだったが、たっち・みーは手振りだけで不要を伝える。

九曜の封印後からまともに会話できなくなって久しい。

本体からの攻撃頻度が上がったのももちろん原因の一つなのだが、それより致命的な問題が二つほどあった。

 

「! ワダツミの陣!」

 

つい先ほど張った陣をモモンガが水属性軽減のものに張り替える。

その後の濁流は先ほどと同様に囮を実行しているメンバーに致命打を与えることなくしのぎ切られた。

 

そう、問題の一つはイルミンスールの属性攻撃が九曜の封印後からいわゆる四大属性に切り替わったことである。

単一の属性であれば陣の継続時間を気にかけつつ他の支援を飛ばすことは難しくはなかったのだが、属性を切り替えて対応しなければならないためモモンガにかかる負担は急増していた。

本体の力が膨大すぎるためか、事前にどの属性が来るかは判別可能であり対応するための時間は十分取れるものの、その威力は直撃を貰えば立て直しに手を取られる程度には凶悪である。

結果モモンガは防御に回らざるを得ない状況に追い込まれていた。

それでも回復とバフを途切れさせていない手腕はさすがと言えたが、少人数すぎるメンバーで攻撃の手が減ったことは確実に彼らの余裕を奪っていた。

 

「くそっ! またか!」

 

悪態をつきつつウルベルトが追撃の範囲攻撃を放つ。

無詠唱化しているため威力は落ちているが、瀕死であった眷属はそれに巻き込まれてあっさりと消滅していく。

順調ではあるもののウルベルトの顔色は全くさえない。

 

もう一つの問題がこれ。すなわち眷属を掃討しているウルベルトが確殺できないことが増えたという点である。

敵のレベルは210まで上がっているため当然HPは増えるし耐性も若干とはいえ上がっている。

結果として微妙にHPを残して耐える眷属が出始めたということだ。

 

HPがごくわずかで軽い追撃で倒せるなら問題ないじゃないか、と思うのはおそらくあまりRPGをやりこまない人種だけであろう。

これは格闘ゲーム由来の言葉だが「死ななきゃ安い」という格言がある。

ゲームではHP減少に伴って行動が鈍るなどありえない。ゆえにHP1でも残るのであればそれは即死(敗北)に比べたら全く問題にならないという意味である。

 

そう、ゲームの世界ではHP1だろうがHP1000だろうが一撃で倒せるのであればそれは「同じ」なのである。

逆に言えばHPの残りがいくらでも撃破に2発必要ならば手間は2倍。

被弾リスクも「全くない」のと「わずかながらあり得る」のとでは大違いである。

デス・ナイトが重用される理由もわかっていただけると思われる。

ともあれ手数が二倍必要になったウルベルトはMP消費の増大もあり、じりじりと継戦能力を削られつつあった。

 

そして二人の手数が減ったことはたっち・みーにも影響を及ぼしていた。

現在のたっち・みーの役割は魔法無効の眷属の掃討と、無駄でもイルミンスールの本体に攻撃をかけ続けてヘイトを稼ぐことである。

眷属の掃討は公式チートともいえるワールドチャンピオンのおかげでいまだに確殺ラインを維持できているものの、イルミンスールへの攻撃頻度が格段に落ちていた。

ウルベルトのように範囲攻撃に巻き込んでしまうという手が簡単で確実なのだが、近接職であるがためにどうしても彼よりは敵に近づく必要がある。

接近に際しなるべくダメージを負わないようにするにはモモンガとの連携が必須なのだが、モモンガが頻繁に防御を張り替える必要があるため彼との距離を長時間開けられない。

かと言ってモモンガが移動するのも厳しいし、ダメージ覚悟となれば結局回復役でもあるモモンガの負担が増す。

結局、射程の長い単発攻撃を牽制目的で撃つため彼もまた追い込まれつつあった。

 

元々3人で囮をするのが無茶である中でここまで粘っている方がおかしいのだが、破綻の淵に来ていたのは間違いない。

……彼らに援軍がなければ、だが。

 

 

*   *   *

 

 

「いぃっやっほーーーー!」

 

雄たけびを上げつつ一人の獣人が飛び蹴りで前線に突っ込んできた。

無駄に声がでかいが意味がないわけではない。彼のスキルには雄たけびを聞かせることで挑発を与えるものがあるからだ。

ちなみに声の大小はそこまで重要ではない。

 

「メコンか。ありがたい」

「おう、お呼びがねえから走ってきたぜ。とりあえず俺は雑魚散らしの方に専念すっから、てめえは一息入れて来い」

 

速射砲のようにパンチを繰り出し、時に蹴りを交えと嵐のように暴れまわる獣王メコン川に礼を言うと、たっち・みーは少し下がって息を整えた。

実際に呼吸が乱れたりするわけではないのだが、DMMOでは案外そういったリアルに近い意識の切り替え方法が有効だったりするのだから面白い。

剣の柄を握りなおすとたっち・みーは再び乱戦の中に突っ込んでいった。

 

「お前が一番乗りなのはいいとして、ほかのメンバーは?」

「おっつけ来るだろうさ。返事がない時点でうちの軍師殿が急げっつったからな」

 

超特急で来たぜと笑う獅子頭に、少しは連携しろよと常のごとく返しつつ二人は掃討を続行した。

 

 

「ほいほい、追撃するぜ!」

 

そんな軽い言葉とともに攻撃魔法が乱舞する戦場に現れたのは一人のサキュバスだった。

普通、妖艶と表現されることの多い種族だが、どうにも色気の感じられない仕草と言動である。

 

「リリーか。どうもさっきから撃ち漏らしが多くなっていてな。適当でいいから追撃ぶちこんでくれ」

「お任せあれ。適当はおふざけチームの専売特許だぜ」

 

微妙に信用ならない発言をしつつもリリーはウルベルトが放った魔法に属性を合わせて追撃を仕掛ける。

撃ち漏らしが出なかった場合にはちょいちょい回復を挟んでくれるおかげでウルベルトの負担は格段に減った。

 

「さっき突っ込んでいったのは?」

「もち、脳筋ライオンだよ。追っかけるのに苦労させられた」

「またあいつ先行しやがったのか」

 

状況を確認したウルベルトは呆れたように呟くがいつものことと頭を切り替えて肝心のことを聞くことにした。

 

「こんだけ早く来てくれたってことは、ぷにっとが気が付いてくれたんだろうがあいつらはどうするって?」

「やっぱ移動させる人員付けらんないから、モモンガさんに呼んでもらうってよ」

「じゃああっちは残り二人が行っているのか」

 

そういうこと、というリリーの言葉を受けてウルベルトはちらりとモモンガの方をうかがった。

 

 

「おーす、助けに来たよモモンガお兄ちゃ……ってなんでまだお姉ちゃんモードなのさ?」

「うっわ、このレベルでもここまでMP削れるんですか。とりあえずすぐポーション出しますから」

 

モモンガの所に来た援軍はピンク色の肉塊と見事な三角帽子を被った魔女だった。

ぶくぶく茶釜とわるぷーである。

 

「ま、いいや。とりあえずしばらく属性防御代わるからちゃっちゃと召集頼むよ」

 

自分で聞いたくせに質問の答えを聞かないままぶくぶく茶釜は全員の防御が可能な地点に移動する。

ガード役はポジショニングが大事なのだ。いざというときにかけつけられないのでは意味がない。

返事をし損ねたモモンガは一瞬弁解をしようか悩んだものの役目を優先し、自身にMPの回復を早めるポーションを使ってくれているわるぷーに確認を取る。

 

「召集していないのに来てくれたってことは、プラン変更されたってことですね?」

「そうですね。私たちは普通に移動して来ました。ですが残りのお二人はどうしたって単独での移動は無理ですからね」

 

ならば急いだ方がいいですね、と返すとモモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを構えると高々と宣言した。

 

「緊急召集! ぬーぼー、並びにカッチン! 盟約に従い疾く参上せよ! ……なんでこんな口上言わなきゃならんのですかね」

「突貫だったそうですからね。デフォルトの音声認識のままなんだそうですよ」

 

言った後気恥ずかしくなったモモンガの呟きに、わるぷーが律儀に補足を入れる。

そんなやり取りをする二人の目の前で魔法陣が展開され、まばゆい光の中二人の人影が転移してくる。

 

「やれやれ、どうにか出番がなくなるといった事態は避けられたようだね」

「憎まれ口をたたくこともなかろう。我らがギルド長と最強コンビがおるんだ。そうそう遅れは取らんだろうさ」

 

出てくるなり捻くれた言動をしたぬーぼーをカッチンが諌める。

本気で言ったわけでもないぬーぼーはふんと鼻を鳴らすと、改めてモモンガに向き直り言った。

 

「それじゃあ、モモンガさん。連続で悪いけどあいつ(・・・)も頼むよ」

「ええ」

 

再び杖を構えてモモンガは詠唱を行う。

 

「ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの長の名において――――――ガルガンチュア! 召喚!」




というわけでガルガンチュア投入。
防衛に使えると思ってたけど使えないらしいからここで参戦させちゃいます。
攻城戦用ってなら対世界戦にだって使っていいでしょう。


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VS世界樹(4)

お久しぶりです。

大変お待たせしました。
体調を崩したときノートPCを踏んでしまいまして、液晶が破損。
スマホで執筆してみたもののものすごく書きにくくいらいらするため修理を待つこととなりました。

うん、言い訳なのはわかってます。
今度はもう少し早く書けるはずです。


ナザリック地下大墳墓第4層に黄昏の騎士団のメンバー3人がうろついていた。

 

「どこにいるんだろうなあ」

「アインズ・ウール・ゴウンだからなあ。なんか出現条件とかもあるんじゃないだろうか」

「さしあたりこの階層の地形だけでも持ち帰ろうぜ」

 

アインズ・ウール・ゴウン遠征中に、拠点防衛を任された黄昏の騎士団であるが、ついでとばかりにるし☆ふぁーからゲームを提案されていた。

黄昏の騎士団が立ち入れる範囲内のどこかに、設定時点のメンバーの能力を教えてくれるNPCが配置されているというのであるのである。

彼らが移動できる範囲は第1から第4層まで、飛んで第9層である。

 

この階層は某ゴーレムのインパクトのせいでまともに情報が出揃っていないエリアである。

モブや罠の類が再配置される程度のことは黄昏の騎士団だって折込済みである。

それでもまったく情報がないよりはマシだし、地形は変えないと言われているからマッピングは無意味ではなかろうとこの3人組は第4層に送り出されたのであった。

NPCは別のメンバーが探索しているのだが、彼らは基本的にアインズ・ウール・ゴウンのファンである。

できれば自分の手で情報を入手したいというのがファン心理であろう。

 

「むー、絶対あの豪華なエリアにいると思うんだが」

「メイドさんとか大量にいたしな。コピペじゃないとかドンだけ気合入れているんだろうな」

「おい、集中しろよ。いくら襲われないっていっても場合によっては死ぬんだぞ」

 

ちなみに侵入者にアインズ・ウール・ゴウンの情報を与える栄えある(?)役目を任されたのは、エクレア・エクレール・エイクレアー。

反逆を企んでいる彼なら適任だろうと、製作者の餡ころもっちもちが太鼓判を押している。

総当りでいけばいつかはたどり着くであろうが、NPCであるため話しかけないと反応しない。

ファンタジー世界であればきっと彼から声をかけただろうが、残念ながらここはゲームの中である。

抱えられないとまともに動けない掃除ばかりしているペンギンが目的のNPCだというのはだいぶ難易度が高いのではなかろうか。

 

「そういや出現条件ってお前はどう考えているんだよ?」

「そうだな……たとえばえっと、ほらあれだよ、あれ」

「答えが出てねえじゃねえか。本気で考えるならまだしも適当言っているだけなら真面目にマッピングしろよ」

 

襲われない気楽さからか、彼らはぐだぐだと話を続ける。

地底湖にかかる橋に差し掛かった時、先ほど意見を出し損ねた男が何か思いついたように声を上げた。

 

「あ、そうだそうだ。昔話みたいに鉄の斧を池に投げ込んだら女神が出てくるとかどうよ?」

「……無いとは言わねえけどよ、流石にノーヒントでアイテムが必要ってのは無いだろ」

「だなあ。アインズ・ウール・ゴウンは一応フェアだしな」

「やってみなきゃ、わかんねえだろ!」

 

せっかくひねり出した答えが一蹴されて不満だったのか、彼は石ころを拾うと地底湖に投げ込んだ。

もちろんそれで何が起こるわけでもない……はずだった。

 

「お?」

 

水面からゴボゴボと泡が立ち始める。泡は徐々に数を増し、同時に水面が荒れ始めた。

水面の荒れ具合は嵐でも来たかという程に酷くなり、橋にも波が押し寄せるまでになった。

水をかぶった一人が石を放り込んだ仲間に抗議の声を上げた。

 

「おいこら! なにしやがった!」

「わかんねえよ! その辺の石を投げ入れただけだぞ!」

「やべえぞ! なんかでかい波が来る! どっかに掴まるんだ!」

 

必死に橋にしがみついた彼らの目の前で湖底から赤い光を纏った巨大な物体が浮上してくる。

湖面がぐぐっと持ち上がり巨大な水柱が立ち上がる。

大きな波が橋を覆い水柱が消えた後には、両腕を交差させて鎖で封印された重厚で巨大なゴーレムが屹立していた。

 

「は、は、ははは。ほ、ほらみろ、出現条件あったじゃねえか」

「い、いや、なんか変だぞ」

 

下にいる彼らには目もくれず、人造の巨人は鎖を引きちぎると同時に魔法陣を展開し、徐々に姿を薄れさせて転移していった。

 

「……なんだったんだ」

「とりあえず、会話が成立する相手じゃなかったし正解ではないだろう。そういうことにしとこうぜ」

 

偶然彼らが石を放り込んだ瞬間にモモンガがガルガンチュアを召喚しただけなのだが、そんなことは彼らにはわからない。

関係なかったと無理矢理自分を納得させた彼らは賢明だったといえる。

 

「あれさ、攻略時に出てきたりしないよな?」

「……攻略時に湖に物を落とすなって警告しておくか」

 

ただし勘違いはしていたが。

 

 

*   *   *

 

 

攻城兵器というものはユグドラシルにおいて非常に使いにくいシステムの一つである。

 

なにしろ召喚できる戦場が少ないし、使いどころがとても狭い。

基本的にオブジェクト破壊に特化した存在であるため、軍団規模戦闘の拠点破壊くらいにしか使い道がない。

一応、通常モブにも攻撃可能ではあるのだが極端なマイナス補正を受けてしまい、異常に高い攻撃力がそこそこの前衛程度まで落ちてしまう。

そのくせターゲットは任意に切り替えができないので、オブジェクト以外にターゲットがいってしまうことが良くある。

攻撃方法が物理攻撃のみなので物理軽減、あるいは無効の敵が出てくればプレイヤーが手をかけるしかなくなる。

そして大問題なのが、生半可な攻城兵器ではオブジェクトへの攻撃すらスキルを駆使したプレイヤーに劣ることがあるという点である。

ユグドラシルはどこまでもプレイヤーが戦うゲームであり、兵器はおまけでしかないのである。

 

加えて防御能力は耐久頼み。避けるとか軽減するとかを考えてはいけない。

もちろんHPは非常に高いが削りきれないかと言われれば、そんなことはないと返すべきレベルである。

加えて戦闘中の耐久回復が容易でない。修理できる生産系プレイヤー、素材がなければならないのである。

戦闘能力が極端に低い生産系プレイヤーを、攻城兵器が必要とされるような戦場に引っ張り出すこと事態が無茶であるのだからその難易度はおしてしるべし。

戦闘が終わればギルドが存在する限り、拠点に戻せば完全回復するのがまた回復の無意味さを煽る。

本当に攻城兵器の立ち位置は「あれば便利」の域を出ないのであった。

 

それでも攻城兵器の制限を緩和する方法は、あるにはある。

[アームズルーラー]という職業があれば、攻城兵器を制御して色々なマイナス部分を補うことができる。

しかし前提に[マシンマスター]という[アームズルーラー]にならねばまったく意味が無いジョブを15レベル取得しなければならない。

明らかに取得順序が逆だろうとまで言われる運営の悪意を感じる構成である。

もちろんとことん人気が無い。正しくは浪漫にかけた一部の変人にしか需要がないというべきなのだが。

あくまで20レベル近いリソースを攻城兵器にかけて、それでもなお純粋な前衛と同程度の能力を非常に限定された場面でしか使えなくてもいいと割り切れるなら、それでもいいんじゃない? というわけだ。

 

 

それに挑戦したプレイヤーは少なからず存在したが、ほとんどすべてが挫折したといっていい。

試してみたくはあったものの継続させる情熱を持ち続けることは難しかったわけだ。

特にロボット兵器の操縦をメインにしたDMMOがリリースされてからはその人口はほぼ絶滅したといってよかった。

そう、あくまで『ほぼ』でありユグドラシルで攻城兵器にこだわり続けたプレイヤーはいたわけである。

そしてその変人はアインズ・ウール・ゴウンにも当たり前のように存在した。

 

 

*   *   *

 

 

その変人(アームズルーラー)であるぬーぼーがガルガンチュアを操り、その豪腕をもってイルミンスール本体に殴りかかる。

巨大な質量がその巨樹を打ち据えのけぞらせた。

感情などないはずのイルミンスールが怒りを覚えたかのようにガルガンチュアに攻撃を叩き付けるが、ガルガンチュアはまったく意に介さない。

未だギミックの都合でイルミンスールのHPが削れる段階には至っていないものの、確実にヘイトを向けることに成功していた。

 

戦場に投入されたガルガンチュアは頭脳(ぬーぼー)を得て的確にイルミンスールに打撃を加えていた。

いくら眷属が増えようとターゲットも見誤るような無様はさらさない。

更に凡百の攻城兵器と違い、ガルガンチュアは世界級の素材をふんだんに用いて作られている。

もはやその体そのものが世界級の武器と言っても過言ではないため、一撃一撃の威力は災害のレベルである。

[マシンマスター]のスキル効果により攻防ともに強化され、動力エネルギー(動力炉の性能できまる稼働時間のこと)を消費してスキルさえ放つことができるようになっている。

 

「バリア展開!」

 

封印が更に進み再び行動パターンが変わったイルミンスールが放つ巨大な雷撃を、展開した障壁ではじき返すガルガンチュア。

無限エネルギーであるカロリックストーンがありそれを膨大にプールするリジッドストーンを素材にしているためクールタイムを考慮しなければ本当に無限にスキルを使える……はずだったのだが。

 

「畜生! やっぱりまだバランスが取れねえか!」

「動力足りるのか!」

「問題はねえ。今出力いじってるからすぐ回復する! だがプール分が減っているからしばらくスキルは控えろ!」

 

今までのガルガンチュアではカロリックストーンのエネルギーを十全に受け切れなかったことから、出力を絞るという本末転倒なことになっていた。

素材の交換によりその問題は解消されたのだが、さすがに試運転をする場がなかったのである。

なにしろリジッドストーンは未知の素材。理論上は大丈夫、というレベルにすら詰められていないというのが生産組の総意であった。

その懸念は当たっておりカロリックストーンの出力設定を最大にすると暴走してしまうことが、この戦闘中に判明しており速攻で修正されていた。

 

そう、現在カッチンは中に乗り込んで(・・・・・・・)リアルタイムで動力炉を修正しているのである。

元々戦闘中に耐久を回復させるべくガルガンチュアの内部にはスペースが確保されている。

大抵の攻城兵器ではスペースが足りず乗り込みなどという真似はできないのだが、ガルガンチュアはその巨大さを持ってそれを可能としている。

前述のとおり戦闘中の回復は大分意味がないことなので、完全に趣味要素だがそれが役に立った形である。

 

そして敵側で最も厄介なイルミンスールをガルガンチュアが抑えているおかげで他のメンバーが眷属の掃討に集中できている。

封印が進めば順次増援がくるし、このまま押し切れるかもしれないという予想がよぎり始めたとき、ぷにっと萌えから通信が入った。

 

『そちらはどうですか?』

「順調です。強いて言えば私が回復役に徹しなくてはいけないので面白くないくらいです」

 

答えるモモンガが愚痴を言える程度にはボスと対峙している組は余裕を持てている。

ただこのタイミングで連絡が来たことにいい予感はしなかった。

 

「で、厄介ごとですか?」

『ええ、予想通り予想外の展開です』

 

ぷにっと萌えの声はいつもと変わらなかったが、彼の予想を超えている時点でろくなことではないだろう。

当たり前のようにいやな答えが返ってくることにため息をつきたくなるが、順調な方が困難に立ち向かっている方のメンバーのやる気を削ぐ意味もないと報告を待つ。

 

『こっちでもボスが出ました』

 

本当にろくでもない情報だった。




今回ガルガンチュアの設定を盛大に捏造しました。
たぶんものすごい使いどころがなかったと思うんですよね。

今後設定が出てきたら奏しましょうね。


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