☆伝説の人斬り(オリ主)が異世界から来るそうですよ? (モン太)
しおりを挟む

フォレス・ガロ編
プロローグ


初投稿です。文章などグダグダだと思いますが、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


とある神々の世界

 

1人の神が気まぐれで作った魂の物語...

 

 

神「最近ホント暇だなー。なんか面白いことないかなぁ。天変地異とかビッグバンとか。」

 

さらに500年

 

神「ああああああああー暇だ〜。試しに神造の魂でも作って、漫画の能力使いたい放題のチートを人間界に落としてみようかな!」

 

てな訳で

 

神「完成ー!でも、最初っからチートじゃつまらないから、君には試練を乗り越えて能力を手に入れてね!よしじゃあ、早速行ってらっしゃい!頑張ってねー!」

 

〜〜〜〜〜

 

主人公プロフィール

緋村剣心(抜刀斎)(16)

緋村剣心と言っても、るろ剣の剣心とは別物。正体は神によって作られた神造の魂で緋村心太が母親のお腹の中にいる時にのり移ったもの。ただ記憶は無いので本人は普通の人間だと思って育っている。性格は抜刀斎。容姿も抜刀斎だが、巴のマフラーを身につけている。また、暗殺の時は、鬼の仮面と白いローブにフードを被った姿で暗殺を行う。旅の時は笠を被っている。ぶっちゃけ同姓同名のオリ主。飛天御剣流以外にも他の漫画のキャラの技が使える。時系列は巴が亡くなった直後。ただ天翔龍閃、九頭龍閃も使える。

 

飛天御剣流

剣心の基本であり、最も得意な剣技。るろ剣参照。

 

全刃刀

剣心の刀。剣心が斬れると認識したものなら、たとえ鉄でも必ず斬れる刀。

 

龍の眼

見た目は黄金の猫目。イメージはBlackCatのトレインの眼。能力は動体視力の強化(銃弾も余裕で視認できる)、視界360度、千里眼、透視眼。また、この眼で相手を視界に捉えるか、相手が自分を視界に映れば、幻覚を見せることができる。さらに任意のタイミングで10秒先の未来を予知できる。

 

念能力

H×Hを参照。能力はキルアの「電気」。剣心は念能力の「円」の感知能力が得意。「発」は「疾風迅雷」が得意。キルアはヨーヨーを使うが、剣心はハンドガン1丁を用いて、XANXASのようなビームを出す。電流を地面に流して自分を中心に小規模の結界を作ることもできる。

 

超神速

NARUTOの「飛来神の術」。

 

生体吸収(半ヴィクター化)

武装錬金参照。武装錬金の「エネルギードレイン」。肌の色と皮膚の硬さは、変わらない。エネルギードレインと再生のみ。この能力の影響で年齢が16歳から進まない。また、半不老不死。また、これは能力のON,OFFが可能だが、ONの状態だと自動的にエネルギードレインを行う。エネルギードレインそのものは一切体力を使わないので、この能力を併用すると半永久的に戦闘が可能。

 

千本桜

BLEACHの千本桜。白帝剣は使えない。普段は脇差しとして帯刀している。

 

神技

この能力は3つの属性に分かれる。

1 炎

両手に炎を纏うことができる。リボーンのツナ。グローブは付けてない。零地点突破と改はできない。1日2発だけ飛影の黒龍波が打てる。

2 水

水と同化できる。水を鎧のように纏ったり、体を水にして物理攻撃をすり抜けさせることができる。水の中なら瞬間移動も可能。水の剣は長さや伸縮自在の鞭のような剣。水龍召喚やウォーターカッターも打てる。

3 氷

氷の能力は予備動作に必ず両手を合わせなければならない。合わせた手を添えるとそこから、氷の針や氷の盾を生成する。また、分解能力があり、触れると物体であろうと、異能であろうと分子レベルに分解する。

 

 

基本的にこれらの能力を併用して使えるが、神技だけは単体でしか扱えない(生体吸収の併用も不可能)。ただし、神技の中の3つの能力内なら併用できる。

 

 

〜〜〜〜〜

 

そして、魂は...

 

 

1859年、京都山中

 

とある人買いの一行の姿があった。その中で1番幼い男の子が1人夜空を見上げて歩いていた。隣に歩く女性に笑いかけながら、親の形見である駒を握り締める。男の子はこのまま京都で人身売買がおこなわれると幼いながらに覚悟していた。しかし、

 

「きゃーーーー!」

「ぐあぁぁぁ!」

 

突然、盗賊が男の子のいる人買いの一行に襲撃を仕掛けてきたのだ。人買いの人々に闘う力はなく、次々と盗賊に斬られて殺されていく。あえなく男の子以外は全滅してしまった。男の子も盗賊に刀の錆になるその時

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

「何事だ!」

「誰だ貴様⁉︎」

 

?「これから死ぬやつに名乗ってもしょうがないなぁ」

 

突如、長身の男が盗賊に襲いかかった。突然の奇襲で盗賊の足並みが浮き立つ。男の子に襲いかかろうとした盗賊も加わって全員で、大男に挑むも一太刀で盗賊達を地面へ縫い付けていく。

 

男「通り併せたのも、何かの縁。かたきは討った。恨んでも悔やんでも、死んだ人間は、生き返らん。己が生き残れただけでも良しと思うことだ」

 

男はそれだけを述べ惨劇の場を後にする。

 

〜〜〜〜〜

 

翌日、男は自分で手にかけた盗賊達の骸を葬ろうと山を歩くとそこに広がっていたのは

 

男「⁉︎」

 

そこに広がっていたのは、昨日の惨劇による死体の山ではなく、小さな土の山に石をのせた墓が広がっていた。さらに驚くことに、その中心に立っているのは昨日救った男の子であった。おそらくあの後1人で葬ったのであろう。

 

男「自分の家族だけではなく、野盗の骸まで葬ったのか。」

男の子「親は9歳の時にころり(コレラ菌)死んだ。この人達は人買い。会ってまだ3日しか経ってなかったけど、男の子は自分1人だから、命を捨てても闘わなきゃって思った。でも、1番小さい僕だけはなんとか守らなきゃって、みんな僕を守って死んで逝った。それに、人買いも野盗もみんな死ねば、同じ骸なんだから。」

男「坊主、お前は、かけがえのない者を護れなかっただけではなく、その3人の命をも託されたのだ。お前の小さき手は、その骸の重さを知っている。だが、託された命の重さはその比ではない。お前はそれを背負ってしまった。自分を支え、人を護れる強さを身につける事だ。お前が生き抜いていくために。大切な者を護るために。」

男「坊主、名は?」

男の子「心太」

男「優しすぎて剣客にはそぐわないな。お前は今日から「剣心」と名乗れ。」

男「俺は比古清十郎。剣を少々やっている。お前に俺のとっておきをくれてやる。」

 

そうここは、るろうに剣心の世界。緋村剣心が人斬り抜刀斎となり伝説として語り継がれ、明治の世に不殺の誓いのもと人々を守り救っていく英雄譚の世界である。しかし、物語は原作通りに進むことはなく...

 

 

1864年、大津

 

ある藁葺き屋根の一軒家にて、化粧で清められ、白梅香の香水をつけた女性が布団の上に横たわっていた。その側で女性に語りかける剣心

 

剣心「巴、君を失ってやっと君の苦しみがわかったような気がするよ。君はずっとこんな想いに耐えていたんだね。辛かっただろう、憎かっただろう。なのに君は守ってくれた。こんな俺を生かしてくれた。でも、君はもう辛い想いをしなくていいんだよね。苦しまなくていいんだよね。俺はこの苦しみを背負ったままで、償いの道を探さなければならないんだ。俺を守って死んで逝った人と俺があやめた人々の命に報いるために、辛いけど、たぶん大丈夫だと思う。今までも、そうだったし、君が教えてくれた人のあたたかさを覚えていられるのなら、たぶん俺は....うぅ」

 

剣心の頬に涙がつたう。

 

「君とはお別れしなきゃいけないけど今は、今だけは、このまま...2人一緒に....巴....」

 

翌日

 

剣心「巴、じゃあ行ってくるよ。」

 

そして、一軒家に火を放ちその場を後にしようとした瞬間

 

剣心「?」

 

剣心の頭上から、1通の手紙が届く

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし。』

 

その瞬間光に包まれた。

 

 

 




プロローグと主人公紹介でした(笑)。雑だと思いますが((((;゚Д゚)))))))精進してまいりますのでよろしくお願いします( ´ ▽ ` )


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

剣心箱庭に召喚す

2話目です。どうぞ( ´ ▽ ` )ノ


剣心には、生まれた時からある悩みがあった。何かが欠けている。自分の心?自分の精神?いや、もっと深い魂の部分で自分には何かが欠けてる。そんな喪失感があった。剣心が人斬りの鬼になってしまったのもそんな理由が関わっていたのかもしれない。

 

そして.....

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

剣心「⁉︎」

 

突如、透き通るように青い大空の下を空中落下していることに気がついた剣心は、途中幾重にもある緩衝材のような薄い水膜を足場に水膜を蹴って地上に降り立つ。周りには他にも誰かいる気がしたが、確認する前に3つの水柱が立った。

 

剣心は地上に降り立つと、周りを確認する。

 

剣心(この気配は?一体?俺が複数存在する?)

 

自分と全く同じ気配を持つ存在を確認して戸惑う剣心。戸惑っている間にも、3人の少年少女達が水から上がって来た。

 

?「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句に、空に放り出すなんて!」

 

?「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

湖に落ちた3人は今の状況に悪態をついている。

 

?「うわ、制服がびしょびしょだよ……」

 

?「ホントよ! この服お気に入りだったのに!」

 

全員服を絞って水を出す。

 

剣心(そういえば、荷物は?)

 

剣心は荷物を確認する。幸い出発の瞬間だったので、着替えや道具は巾着の中に入っていた。

 

?「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

?「そうだけど、まずは『オマエ』って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて」

 

剣心が荷物を確認していたら、いつの間にやら自己紹介の方向に話が進んでいる。

 

飛鳥「それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

 

?「……春日部耀。以下同文」

 

飛鳥「そう。よろしく春日部さん。それで野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

?「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

一通り自己紹介を盗み聞きしていた剣心。

 

剣心(この3人は幕府の人間という訳では無さそうだな。)

 

飛鳥「それで、そこの笠を被っている侍のような貴方は?

 

剣心(さて、本名を名乗るべきか、志士名を名乗るべきか。)

 

剣心は悩む。敵では無さそうだが見ず知らずの人間に素性を明かすべきか悩む。しかし、情報が無ければ何もできないのも事実なので、ここは素直に素性を明かす事にする剣心。

 

剣心「長州派維新志士 緋村抜刀斎。本名を緋村剣心」

 

剣心の自己紹介を聞いた3人の顔が驚愕に染まる。

 

「「「⁉︎」」」

 

飛鳥「貴方、緋村抜刀斎なの?あの人斬り抜刀斎?」

 

剣心(俺の事を知っている?これは、まずいか。)

 

飛鳥の言葉に剣心は一気警戒を強める。ここで全員を口封じするのもやむなしの覚悟を決める。

 

剣心「.........?なんの事やら?」

 

一応とぼけてみせる剣心

 

飛鳥「あら、人違いなのかしら。でも、緋村抜刀斎なんて日本人なら誰でも知ってると思うのだけれど。」

 

剣心「............?」

 

剣心(日本人なら誰でも知ってる?どういう事だ?俺は今まで裏の仕事しかしていないはず)

 

何やら話が噛み合ってない事に疑問を覚え警戒を緩める剣心

 

十六夜(ふ〜ん、緋村抜刀斎ねぇ〜)

 

十六夜は剣心を値踏みするように眺め、そしてニヤリと笑った。

 

 

 

十六夜「で、呼び出されたいいけどなんで誰もいねぇんだよ。この状況だと招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」

 

飛鳥「ええ、そうよね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

 

剣心(説明ならそこのやつがうってつけだな)

 

剣心は最初周りの気配を確認したときにもう1人ここに隠れてるものの存在に気付いていたが、自分と全く同じ気配の存在に戸惑い、ここまで捕獲する事を後回していた。そして、剣心が隠れてるものを捕獲しようと行動を起こすときに

 

十六夜「―――仕方ねぇな。こうなったらそこに隠れているやつにでも話を聞くか?」

 

飛鳥「なんだ?貴方も気づいてたの?」

 

十六夜「当然。かくれんぼじゃ負けなしだったんだぜ? そっちの二人も気づいてたんだろ?」

 

耀「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

剣心「......................」

 

十六夜「剣心はどうなんだ?」

 

剣心「さあな。」

 

無表情でそう呟く。十六夜は顔を顰めて

 

十六夜「つまらん奴だな。」

 

と一言吐く。十六夜は剣心には興味はないと言わんばかりに前を向いて

 

?「や、やだなあ、そんな怖い顔で見られると――」

 

十六夜「ようし、出てこないんじゃ仕方がねえ」

 

物陰に隠れていたウサミミをつけている女性がおずおずと出てこようとした瞬間、十六夜が明らかに普通ではない脚力で跳躍した。そして女性のすぐ近くの地面が彼の跳び蹴りよって思いっきり抉れる。

 

飛鳥「なにあれ?」

 

耀「コスプレ?」

 

剣心「.................」(兎の耳?何者だ?)

 

?「違います、黒ウサギはコスプレなどでは――!?」

 

黒ウサギと名乗った少女が抗弁しようとするも十六夜がまたも人並み外れた威力の蹴りをお見舞いし、それをバック転で回避する。どちらも超人レベルの技の応酬だ。

 

そこに春日部耀が加わり猫のような動きで辺りをピョンピョン跳びまわる黒ウサギを追跡。

 

飛鳥「鳥たちよ、彼女の動きを・・・・・・封じなさい・・・・・!」

 

彼女の命令に従うかのように無数の鳥たちが黒ウサギを取り囲み動くのを阻止した。

 

剣心(これではまともな会話もできそうにないな。しかし、4人共個々の能力差はあれど中々のものなだな。)

 

剣心はカオスな状況に呆れながらも、4人の応酬しっかり観察していた。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

黒ウサギ「――あ、あり得ないのですよ、学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに間違いないのデス」

 

「いいからさっさと話せ」

 

黒ウサギは剣心以外の三人に寄ってたかって虐められている。ウサギ耳を引っ張られて半泣き状態の黒ウサギ。それでも何とか気を取り直したのか咳払いをして手を広げ高らかに宣言した。

 

黒ウサギ「ようこそ、"箱庭の世界"へ! 我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」

 

剣心(ギフトゲーム?)

 

飛鳥「ギフトゲーム?」

 

剣心が内心疑問に思った事を飛鳥が問う

 

黒ウサギ「そうです! 既にお気づきかもしれませんが、貴方がたは皆、普通の人間ではありません!」

 

剣心(確かにな。しかし、俺は特に変わったところは無いはずだが。いや、そうでもないか)

 

自分はまともだと思ってる剣心。しかし、自分と同じ気配の存在により、その考えを否定する。この世界に複数人の自分がいるなんて事は普通は有り得ないからだ。

 

黒ウサギ「皆様の持つその特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を駆使して、あるいは賭けて競いあうゲームのこと。この箱庭の世界はその為のステージとして造られたものなのですよ!」

 

飛鳥「恩恵――つまり自分の力を賭けなければいけないの?」

 

飛鳥が黒ウサギへと質問をする。黒ウサギの言ったことが本当であれば飛鳥の能力ギフトはおそらく『生き物を操る能力』といったところだろうか。

残りの二人は身体能力が優れているくらいでまだ不明瞭な点が多い。

 

黒ウサギ「そうとは限りません。ゲームのチップは様々です。ギフト、金品、土地、利権、名誉、人間。賭けるチップの価値が高ければ高いほど、得られる賞品の価値も高くなるというものです。ですが当然、賞品を手に入れるためには"主催者ホスト"の提示した条件をクリアし、ゲームに勝利しなければなりません」

 

耀「……"主権者ホスト"って何?」

 

今度は耀が黒ウサギへと質問した。

 

黒ウサギ「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏から、商店街のご主人まで。それに合わせてゲームのレベルも、命懸けの凶悪、難解なものから福引き的なものまで、多種多様に揃っているのでございますよ!」

 

黒ウサギ「話を聞いただけではわからないことも多いでしょう、なのでここで簡単なゲームをしませんか?」

 

黒ウサギ「この世界にはコミュニティというものが存在します」

 

どこからともなく取り出したトランプをシャッフルしながらも、黒ウサギは説明を続ける。

 

空「この世界の住人は必ずどこかのコミュニティに所属しなければなりません。いえ、所属しなければ生きていくことさえ困難と言っても過言ではないのです!」

 

力説する黒ウサギがパチンと指を鳴らすと、宙に突然カードテーブルが現れ、ドサリと地面に着地する。しかし、剣心は

 

剣心(俺は長州藩に所属したために、失敗した。俺はもうどこかの組織に入るつもりはない)

 

そう、剣心は組織に組みする事を避けたかった。

 

黒ウサギ「みなさんを黒ウサギの所属するコミュニティに入れてさしあげても構わないのですが、ギフトゲームに勝てないような人材では困るのです。ええ、まったく本当に困るのです、むしろお荷物・邪魔者・足手まといなのです!」

 

だから、この言葉はチャンスだと剣心は考えた。別に自分がここにいる必要はないのだと、別に帰ってくれても構わないのだから。

 

剣心「なら俺はお主のコミュニティに入るつもりはない。」

 

黒ウサギ「え゛!?」

 

剣心の言葉に黒ウサギはフリーズした。

 

(え、ちょ! 計算外です。ここでいきなり怖気づく方がこの問題児の中にいらっしゃるとは! 一応強いギフト持ちたちに手紙を出したからあの方もかなり強い……筈です。あんまりそうは見えませんが。でもここで帰してしまったら黒ウサギの計画がパーに……うーん)

 

変な声を出してしまった以外は平静を装っている黒ウサギも内心は冷や汗だらだらで心臓がバクバクなっている。ギフト持ちのほとんどはプライド高そうなやつら多いから煽っておけば乗ってくるだろうと考えていたから興味を示さない剣心のことは予想外であった。

しかし、剣心は黒ウサギの変化に敏感に気付く。

 

剣心(さっきと様子がおかしいな。そもそもなぜ、俺たちが呼ばれたのか?ここは、動いた方が良さそうだな)

 

剣心「黒ウサギ殿、少しこっちに来てくれませんか?」

 

黒ウサギ「は、はい!」

 

黒ウサギを森の中に連れていく剣心

 

剣心「黒ウサギ殿、何か俺たちに隠してる事があるのではないですか?」

 

黒ウサギ「いや……それはその……」

 

黒ウサギが言い淀んでると、

 

黒ウサギ「ビクッ⁉︎」

 

いきなり、黒ウサギの体がまるで重力が何倍にもかかった様に動けなくなる。そして、なんとか顔を上げて剣心の蒼い眼と眼が合った瞬間気を失いかけるもなんとか耐える。

そう、剣心は軽く殺気をあてて質問しているのだが、黒ウサギからしてみれば、拷問にかけられ1分1秒がとても長い時間の様な錯覚を受けていた。

 

黒ウサギ「わ、わかりました。」

 

その瞬間、剣心から殺気が飛散する。

 

そんな剣心の表情に気圧されたのか、黒ウサギは彼にならと全てを打ち明けたのだった




うーむ、今回長すぎたかな? 難しい。ちょっと自分の文才のなさに涙目orz



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ノーネームの現状

今回めちゃくちゃ長いです(笑)


黒ウサギかの口から伝えられた事実。それは自分が所属しているコミュニティを助けて欲しいとのこと。

 

以前の彼女のコミュニティは東区画でも最大手のコミュニティだったが、3年前に敗北したことでコミュニティを存続させるのに必要な人もコミュニティの名も旗も奪われ"ノーネーム"となってしまった。

 

剣心「なるほど、それで俺達が呼ばれたのか」

 

黒ウサギ「はい、貴方方がやるきになった辺りで全てを話して協力してもらおうかと思ったのですが……」

 

彼女も永遠に皆を騙し続けるつもりはなかったらしい。そもそもノーネームに所属する以上騙し続けることなど不可能なのだから。

 

剣心「それなら力を貸しましょう。ただし、現状を隠さずにしっかりこの眼で見せてください。それから、もう一度考えさせていただきます。」

 

黒ウサギ「本当ですか!?」

 

黒ウサギが満面の笑みを浮かべる。

 

剣心「皆にもこの事は話してください。騙して入れるようなら、俺は抜けます。」

 

黒ウサギ「そうですね。力を貸してもらうのですから騙すのはよくありませんよね」

 

剣心と意見が一致したとこで、三人にも事情を話そうとしたのだが……

 

黒ウサギ「もう一人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児”ってオーラを放っている殿方が」 

 

そう、いつの間にやら逆廻十六夜の姿が忽然と消えているのだ。

 

飛鳥「ああ、十六夜君のこと? 彼なら「ちょっと世界の果てを見てくるぜ!」と言って駆け出していったわ。あっちの方に」

 

と飛鳥があっさりと指差すのは上空4000メートルから見えた断崖絶壁。遠すぎて先が見えない。

 

黒ウサギ「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

飛鳥「「止めてくれるなよ」と言われたもの」

 

黒ウサギ「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「「黒ウサギには言うなよ」と言われたから」

 

黒ウサギ「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう皆さん!」

 

「「うん」」

 

黒ウサギ「仕方ありません。皆さんには速攻でコミュニティに行ってもらいます。」

 

そして、しばらく歩くと門が見え、側に子供がいた。

 

黒ウサギ「ジン坊ちゃん、御三人様のご案内をお願いします。私はあと1人問題児様を捕まえに参りますので!」

 

ジンと呼ばれる少年がそう呟くと、ゆらりと黒ウサギが立ち上がり、その艶の有る黒髪を淡い緋色へと染め上げた。

そして一気に走り出し、弾丸の速度を持ってあっという間に四人の視界から消え去って行った。その様子を飛鳥が感心した様に呟く。

 

飛鳥「へぇ、箱庭の兎は随分と速く跳べるのね」

ジン「はい、ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから」

 

剣心「.........」

 

二人がその様な会話をしている中、剣心は特に興味はなくあたりを見回していた

 

ジン「あ、僕はコミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。それで三人のお名前は?」

飛鳥「私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えている人と真っ白で無表情な人が」

耀「春日部耀。よろしく」

剣心「.........緋村剣心」

 

ジン「では自己紹介も済んだ所で、箱庭の中をご案内致します」

 

軽い自己紹介の後、四人は箱庭の外門を潜って行く。その間、剣心はこの幼い少年がリーダーを務めている事に、黒ウサギのコミュニティの評価を下方修正していた。

 

剣心(.......この様な子供に頭とは、酷ではないか?この組織は本当に大丈夫なのか?)

 

この少年がコミュニティのリーダーとは何とも哀れな事か。彼の主であった桂小五郎の足下にも及ばない上に次元が違う。それ以前に比べる価値も無し、と判断していた。

だが、このジン=ラッセルはあのヘッドホンを頭に付けた金髪の少年、逆廻十六夜がどうにかしてくれるだろう。何故か剣心はその様な予感を抱きながら外門の中を歩き続けて行ったのだった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

その頃十六夜は

 

『まだ……まだ試練は終わっていないぞ、小僧共ォ!』

 

水の中から怒り狂った巨大な蛇が出てきた。全身が白く首の辺りに縄が巻きついている異様な装飾が施してある。角も生えていて龍に見えなくもない。

 

彼はどうやらこの蛇に気まぐれで喧嘩を売ったらしい。その上蛇を怒らせるほど痛めつけていると見える。

 

『貴様……付け上がるなよ人間風情が! 我がこの程度のことで倒れるものか!!』

 

蛇の唸りに応えて蛇神の周囲の水が数百トンほども巻き上げられ、それが独立した生物のように竜巻の形を取る。怒りのあまり人間風情とやらに本気を出してきたようだ。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

 

十六夜「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

『フン――その戯言が貴様の最期だ!』

 

竜巻はどんどん肥大化していき周囲を破壊しながら十六夜へと襲いかかる。不用意に身体を近づけようものなら確実に身体がバラバラになってしまうだろう。

 

十六夜「――――ハッ――――しゃらくせえ!」

 

しかし彼にしてみれば大した事はなかったらしい。襲いかかってきた竜巻をそれを上回る拳の一撃で消し去ってしまったのだ。

 

そのまま十六夜が蛇の顔に一撃を見舞い、水面に倒れこむ。十六夜の初めてのギフトゲームは彼の完全勝利となった。

 

黒ウサギ「何て出鱈目な……」

 

十六夜「黒ウサギ?」

 

十六夜が振り返ると髪がピンク色に変わっているがそこに黒ウサギがいた。残り3人はどうしたのだろうか。

 

黒ウサギ「あの3人は速攻でコミュニティに送ってきました。今はジン坊ちゃん……ああ、コミュニティのリーダーの方なんですけど、その人に任せています。で、何で水神が気絶してるんですか?」

 

十六夜「俺が倒した。」

 

黒ウサギ「マジでございますか!? 十六夜さん一人で!?」

 

十六夜「ああ」

 

あの蛇はどうやらかなり強い神で普通なら人間では倒せないレベルだったのだろう。だから黒ウサギはあれほど驚いている。

 

黒ウサギ「……ま、まあそれはともかく!ゲームに勝利した以上そちらの水神様からギフトを頂くとしましょう!」

 

黒ウサギ「なにせ水神様本人を倒しましたからね。きっとすごいギフトを頂けますよー♪」

 

黒ウサギは水神との交渉の末に『水樹の苗』という木の苗を手に入れていた。水源を確保できたととても喜んでいる。ノーネームになってしまい水の確保すらも難しくなってしまったのだろう。

 

ギフトを手に入れて浮かれている黒ウサギに十六夜は『何故自分たちを呼んだのか』という疑問をぶつける。十六夜も剣心がコミュニティの話に食いつかなかった状況で慌てている黒ウサギを見て黒ウサギのコミュニティが切羽詰っているというのをなんとなく予想していたようだ。

 

黒ウサギは十六夜にも剣心と同じことを説明。利用しようとされていたことに怒るかと思いきや意外にも十六夜はコミュニティ復興の話に乗ってきた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

ーーー箱庭2105380外門・内壁

 

飛鳥、耀、ジン、三毛猫、そして剣心の四人と一匹は石造りの通路を潜り、箱庭の幕下へと出た。其処には先程の日の光が降り注ぎ、空を覆う天幕が飛び込んで来た。

 

『お、お嬢! これは凄いで! 外から天幕の中に入った筈なのに、御天道様が見えとる!』

耀「……本当だ。空から見た時は箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

ジン「箱庭を覆う天幕は内側から入ると不可視になるんです。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから」

 

ジンがそう説明すると、飛鳥は訝しげな表情を作り皮肉げに言った。

 

飛鳥「あら、この箱庭には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

ジン「え? そうですけど……」

飛鳥「……そう」

 

幾分複雑な表情を作る飛鳥。だが無理もない。吸血鬼という種族は元々架空の種族であり、どの様な生態なのか不明なのだ。それに加え、この箱庭で住む事が出来る様な種とは思えなかったのだ。

 

耀「わあ、獣人達がいっぱい……」

ジン「はい、この箱庭には人間や獣人は勿論、修羅神仏や精霊、悪魔等様々な種族が住んでいます。先程の吸血鬼も同じですね」

耀「箱庭って本当に凄いわね」

 

耀がそう呟くその周囲には頭に獣の耳を生やした獣人達が大勢とその街並みを賑わせていた。特に東区画と呼ばれるこの付近は農耕地帯となっており、その気性は穏やかである。

 

ジン「まだ皆さんは箱庭に召喚されてばかりで落ち着かないでしょう。この後の説明は軽く食事をしながらでもどうですか?」

飛鳥「そうね。そうさせて貰うわ」

 

ジンの案内にて噴水広場に有る近くのカフェテラスで軽く食事を取る事になった。そのカフェテラスには“六本傷”の旗が掲げられていた。剣心はその旗印が気になり、視線をジンに向け質問する。

 

剣心「ジンさん」

ジン「はい、なんでしょう?」

 

剣心はジンに向けていた視線を“六本傷”の旗に移す。ジンもそれに合わせる様に視線を移した。

 

剣心「……あの旗印は何ですか? コミュニティとやらの象徴と言う奴ですか」

ジン「は、はい。剣心さんの言う通りでコミュニティを主張する為には欠かせないものです」

 

そう、前回も説明したがギフトゲームを主催するコミュニティには少なからず箱庭の中で名声を持っている。とはいえ、ただ名声を持っているだけではそれは意味を成さないのだ。

 

コミュニティに最も重要不可欠なもの、それは名と旗印である。

 

この箱庭で活動する為には、そのコミュニティの名と旗印を申告しなければならない。そうしなければコミュニティと言う『団体』が認められないからだ。

名と旗印が存在しないコミュニティは『ノーネーム』や『名無し』等と呼ばれ、他のコミュニティからは差別の対象とされる。とはいえ、コミュニティと言われればコミュニティである。しかし、そのコミュニティが幾ら功績を挙げても、それは殆ど無駄な行為で終わってしまう。

 

では何故、『ノーネーム』や『名無し』と呼称されるコミュニティはその様な扱いを受けるのか。

 

簡単に例えるとして、子供達が秘密基地を作ったとしよう。「ここが俺達の国だ!」と宣言した所で、それが国や政府に認められる筈が無い。結局はその程度の価値観にしかならないのだ。

『ノーネーム』や『名無し』呼ばわりされる組織はそう言う存在なのである。差別の対象にされる事は当然とまで言った方が良い。

 

剣心「……そうですか、ならいいです。」

ジン「? は、はい……」

 

剣心はそれだけを聞くと、質問を切り上げた。ジンは訝しげな表情をしたが、剣心の真意は分からず仕舞いであった。

その後はカフェテラスに座り、それぞれの注文を取っていた。

 

飛鳥「えーと、紅茶を2つと緑茶を1つ。後は……」

『ネコマンマを!』

店員「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね〜」

 

店員である猫耳の少女がそう言うと、剣心を除く三人が不可解そうに首を傾げた。そして最も驚愕していたのは春日部耀であった。彼女は信じられないものを見る様な目で店員の少女に問い質す。

 

耀「三毛猫の言葉が分かるの?」

店員「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから」

『ねぇちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やなぁ。今度機会が有ったら甘噛みしに行くわぁ』

店員「やだもーお客さんったらお上手なんだから〜♪」

 

三毛猫の褒め言葉に店員の少女は上機嫌で店内に戻って行った。

その様子を見た耀は三毛猫の頭を撫でて言う。

 

耀「……箱庭って凄いね。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

『来て良かったなお嬢』

飛鳥「ちょ、ちょっと待って! 貴方まさか猫の言っている事が分かるの!?」

 

耀の自分は動物と話す事が出来るかの物言いに、飛鳥が身を乗り出して質問する。ジンも同じ様に興味深そうに質問した。

 

ジン「もしかして猫以外の動物とも会話は可能ですか?」

耀「うん。生きているなら誰とでも会話出来る」

飛鳥「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

耀「うん、きっと出来……る? ええと、確か鳥で話した事があるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

「「ペンギン!?」」

耀「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

ジン「た、確かにそれは心強いギフトですね。この箱庭では幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

勿論、この箱庭には幻獣も住んでおり、神格を持った幻獣ならば大抵の言語の壁はクリア可能だ。だが、それ以下の幻獣ではそれが不可能に近いので、この様な全ての動物と会話出来るギフトというものはこの箱庭では希少だったりする。

 

飛鳥「そう、春日部さんは素敵な力が有るのね。羨ましいわ」

耀「そうかな? 久遠さんは」

飛鳥「飛鳥で良いわ。よろしくね春日部さん」

耀「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

飛鳥「私? 私の力は……まあ酷いものよ。だって」

?「おやおや? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

突然、飛鳥の言葉を遮り椅子に腰を下ろしたピチピチのタキシードを身に纏った2m超えの身長を持つ奇妙な男が現れた。ジンはその姿を見て顔を顰め、その男に返事をする。

 

ジン「……ガルド」

飛鳥「あら、貴方は一体誰なのかしら?」

ガルド「おおっとこれは失礼お嬢様方。私はコミュニティ“フォレス・ガロ”のリーダー、ガルド=ガスパー。以後、お見知り置きを」

 

己の名とコミュニティを自己紹介しながらジンを除いた三人に愛想笑いを向ける。当然ながら二人は冷ややかな態度で返したが。紳士の格好をしているが、所詮似非紳士と言う事だ。剣心は黙って状況を観察している。

 

ジン「……貴方の同席を認めた覚えは有りませんよ。ガルド=ガスパー」

ガルド「黙れ。用があるのはお前じゃ無え。ここにいるお嬢様方だ」

飛鳥「私達?」

ジン「ええそうです。単刀直入に言います。よろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

ガルド「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

ガルドから突然の勧誘。余計な建前などは省き、直接本題へ持ち込むその言葉にジンは怒り、テーブルを叩いて抗議する。

 

ガルド「黙れ、ジン=ラッセル。この過去の栄華に縋る亡霊が。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてるのか理解出来てんのか?」

ジン「そ、それは……」

飛鳥「はい、ちょっとストッ」

 

 

剣心「ジンさん」

 

 

過去の亡霊。その発言にジンの怒りは萎縮してしまい、言い淀む。そこに間を遮る様に手を上げようとした飛鳥だが、それよりも早く剣心が発言した。

しばらく沈黙が続くなか、暫くしてジンが僅かながら口を開いた。

 

ジン「……な、何でしょうか?」

 

一言。たった一言を言葉にするだけで相当な時間を使ってしまう。剣心の蒼色の眼がジンに突き刺さっている事がよりジンにプレッシャーを与えていた。その様子を蒼色の双眼に映していた剣心は静かに口を開く。

 

剣心「.......話してくれませんか?」

ジン「......え?」

剣心「……俺は既に黒ウサギから聞いています。躊躇せずに、2人にも聞かせてはくれませんか?」

ジン「ッ!!」

 

それはジンにとってあまりにも唐突過ぎる宣告。動揺を隠し切れないその様子に飛鳥が質問する。

 

飛鳥「緋村さん、それは一体どう言う意味なのかしら?」

剣心「そのままの意味です。ジンさんから話してもらいます。」

 

飛鳥はそれだけを聞くと、視線をジンの方向へと向ける。耀も同じ様に視線をジンへと向けた。

 

剣心「……あなたはコミュニティのリーダーと名乗った。ならばあの黒ウサギと同様に、この世界に呼び出した者にあなたのコミュニティの状況を説明する義務が有るのは、至極当然。違いますか?」

ジン「……はい」

 

それを見ていたガルドはこれこそ此方へ引き入れるチャンスと感じ、以前のジンのコミュニティを語ろうと含みの有る笑顔と上品ぶった声音で話し掛けた。

 

ガルド「ジェントルメン。貴方の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼は頑なにそれを拒むでしょう。よろしければ」

 

剣心「黙れ」

 

ガルドは剣心のその言葉に僅かに青筋が浮かぶものの、自称紳士で通っている今は我慢する他なかった。

 

剣心「人に話したくない、過去の1つや2つ誰でも持っているものだが、この問題は直接俺達に関わる問題だ。ここで話してくれないのであれば、俺はあなたのコミュニティを抜けます。」

ジン「……」

 

ジンはカフェテラスに座る前に“六本傷”の旗印の事で剣心に問われた。

そう、この時点で彼は既に察していたのだ。だが、ジンはそれに気付く事は無かった。

本当はあの時点でジンは察するべきであった。そうすれば、この様な事態には陥らなかった。

 

嘘を吐き、欺いた上で新たな人材を引き入れる真似さえしなければ。

 

だが、どうにもならなかった。弱小コミュニティである以上、嘘を吐く他に新たな人材を引き入れる術が無かったのだ。

 

だからこそ、話さなくてはならない。

 

 

ジン「……分かりました、話します。僕らのコミュニティの現状を」

 

 

ジンは意を決して話し始めた。過去のコミュニティの話を。

 

当時のリーダーは自分と比べ物にならない程に別格だった事。

 

ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持ち東区画最強のコミュニティだった事。

 

東区画だけで無く南北の主軸コミュニティとも深い親交が有り、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込む程のコミュニティだった事。

 

そして、“人間”の立ち上げたコミュニティで輝かしい数々の栄華を築いたコミュニティがーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー箱庭最悪の天災、『魔王』と呼ばれる者にたった一夜にして壊滅させられた事を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これよりフォレス=ガロに天誅を加える

剣心の催促によって全てを語ったジンは悲痛な面持ちでその話を終えた。

 

ジン「ーーーこれが、今の僕達のコミュニティの現状です」

飛鳥「成る程ね。貴方が言いたいのはつまり、何のメリットも無い彼のコミュニティに入るくらいなら、此方のコミュニティに入らないかと。そう言う事ね?」

ガルド「そうです。私のコミュニティ、フォレス=ガロはコミュニティの旗印を賭けたゲームに連戦連勝。今やこの地域を治める程になっています。とはいえ、このカフェテラス自体は本拠が南区間に有るので手出しは出来ませんが」

 

ガルドが得意気に話をする中、ジンは黒ウサギと同様に後悔していた。強力な戦力を持つ彼等に、真実を語る事無く欺けると思ってしまった自分を殴りたくなる気分だった。

剣心の催促で話してくれる展開に持って行ってくれたものの、彼がそうしなかったらそのまま黙るしか無かっただろう。そしてガルド=ガスパーに言われるがままとなっていたであろう。

結局は彼が切っ掛けを作ってくれたからに他ならない。ジンだけでは真実を語ろうとする勇気すら無く、その一歩すら踏み出せなかっただろう。

ジンはその後悔に苛まれ、項垂れてしまった。こんなに後悔するのなら、初めから話せば良かったと。彼もまた、黒ウサギと同様な事で後悔していた。

 

ガルド「ジン=ラッセルのコミュニティと何方どちらが裕福かなんて比べものにならないでしょう。もう一度言います、黒ウサギ共々私のコミュニティに入りまーーー」

飛鳥「結構よ。ジン君のコミュニティで間に合ってるもの」

ジン「……え?」

ガルド「は?」

 

飛鳥の言葉にジンは顔を上げ、ガルドは笑顔のまま固まり、お互いに飛鳥の顔を窺った。

彼女は何でも無い様な表情のまま、耀に顔を向ける。

 

飛鳥「春日部さんはどうするの?」

耀「……私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」

飛鳥「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら? 私達って正反対だけど、意外と仲良くやっていけそうな気がするの」

耀「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」

飛鳥「そう、よろしくね春日部さん」

『良かったなお嬢……お嬢に友達が出来てワシも嬉しいわ』

 

女子二人の中に友情ムードが広がる。

 

飛鳥「それで、緋村さんは?」

剣心「……俺が外道の率いるコミュニティの傘下に下るとでも思っているのですか?」

飛鳥「成る程ね、理由としては上等な部類だわ」

 

飛鳥も自分の目から見て、剣心は相当な強者である事は分かっている。そんな強者がホイホイと他所のコミュニティに率いられるがままの者なら、それは強者としての器では無い。彼女は剣心のその言葉を上等な部類として納得した。

その様子にガルドは頬を引きつらせながら質問した。

 

ガルド「……何故、そのような結論に至ったのか教えて頂けますか?」

飛鳥「だから間に合ってるのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけ。剣心さんは貴方のコミュニティに入る気は更々無い。そうよね?」

耀「うん」

剣心「愚問だな」

飛鳥「そして私、久遠飛鳥はーーー裕福だった家も、約束された将来も、全てを捨ててこの世界に来たのよ。今更恵まれた環境に入れられて、喜ぶとでも思う?」

 

飛鳥はそうピシャリと言い切る。それに対してガルドは身を乗り出して反論しようとしてーーー

 

ガルド「し、しかしーーー」

飛鳥「黙りなさい・・・・・」

 

ーーー出来なかった。

飛鳥が命じたと同時にガチン! とガルドの口が勢い良く塞がり黙り込んだ。

その事実にガルドは混乱してしまう。口を開こうとしているが、開く気配は全く無く、声すら出ない。

 

ガルド「!?………っ!?」

飛鳥「そういえば私、少し気になっている事が有るの。貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさ

い!」

 

再び飛鳥が命じる。すると先程と同じ様に命令通りとなり、今度は勢い良く椅子に座り込んだ。

こうなればガルドはパニックに陥る事は必然、抵抗すら出来なくなっていた。

 

剣心(……此れは大した力だな。言葉で相手を支配するとはな)

 

飛鳥の放つ、その理解不能の力を目にした剣心はその能力に興味を持った。

この様な力は剣心の世界でもそうはいない。

 

その剣心の興味を他所に、飛鳥達の中で話し合いは続いて行く。

 

飛鳥「ねえジン君。ブランド名にも等しいコミュニティの旗印を賭けたゲームはそうそう有るものなのかしら?」

ジン「や、止むを得ない状況なら稀に。しかし、コミュニティの存続を賭けたゲームはかなりのレアケースですから」

飛鳥「そうよね。此処に来た私達でもそれぐらい分かるもの。ギフトゲームに強制力を持たせる事によって“主催者権限”を持つ者は魔王として恐れられている筈。その魔王でもない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭け合う様な大勝負を続けられるのかしら。教えてくださる・・・・・・・?」

 

そして飛鳥の言霊がガルドに再び飛び、ガルドの抵抗とは関係無くその口は開き言葉を紡ぐ。

 

ガルド「き、強制させる方法は様々だ。一番手っ取り早いのは相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、ゲームに乗らざるを得ない状況に持って行く事だ」

飛鳥「あら野蛮。でも、そんな方法で組織を吸収しても彼等は従順に貴方の下で働くかしら?」

ガルド「す、既に各コミュニティから数人の女子供の人質を取ってある」

ジン「な……!」

飛鳥「……それで、その人質は何処に?」

 

 

ガルド「もう殺した」

 

 

その事実に、周りが凍り付いた。

 

飛鳥、耀、ジンの三人は目を開き、思考を停止させる。その中で剣心だけは動じる事は無かった。既に殺し殺されの世界にいた事で、その程度の事実など驚愕するに値しないからだ。

ガルドは言葉を紡ぐ事を止めず、飛鳥の命令通りに続ける。

 

ガルド「初めてガキ共を連れて来た日、鳴き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、苛々は止まらずまた殺した。それからは連れて来たガキ共は全部纏めてその日の内に始末する事にした。だが身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。そして始末したガキ共の遺体は証拠が残らないよう腹心の部下に食わせーーー」

 

飛鳥「黙れっ・・・!!」

 

ガチン!! とガルドの言葉の紡ぎは飛鳥の凄味を増した怒鳴り声で黙らせた。その飛鳥の表情には怒気が含まれていた。

 

飛鳥「素晴らしいわ。ここまで絵に描いた様な外道とはそうそう出会えなくてよ。似非紳士さん」

 

パチン、と飛鳥が指を鳴らし、それを合図にガルドを支配していた力が霧が晴れたかの様に解ける。混乱から脱出したガルドは怒り狂い、カフェテラスのテーブルを勢い良く叩き砕くと、

 

ガルド「こ……この小娘がァァァァァァァァァァッ!!」

 

怒りの雄叫びと同時にその体を変化させた。元からピチピチのタキシードを着用していたそれは弾け飛び、黒と黄色のストラップ模様の虎へと姿を変えた。

ガルドのギフトはワータイガーと呼ばれる混血種。人狼などに近しい種族である。

 

そのワータイガーへと姿を変えたガルドはその丸太の様な太い剛腕を振り上げ、飛鳥に襲い掛かるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー筈だった。

 

「黙れ、殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、剣心の剣気によって強制的に中断させられる事になった。

剣心はほんの僅かな剣気を発し、ガルドにぶつけただけだ。

そう、ただそれだけの行為でガルドの中に有る本能は危険信号という悲鳴を上げ、恐怖によってその体を無理矢理止めているのだ。

ガルドの脚はガタガタと大きく震え、それは徐々に酷くなって行く。先程の怒りは恐怖によって塗り潰されてしまった。目の前の小娘を殺す事などどうでも良いと無意識で思ってしまう程に。

 

剣心「先ほどの話など、よくある事だ。だが、俺の眼の届く範囲で決してその様な事は看過できない。」

剣心「次喚けば、殺す。」

 

静かなる言霊を発する剣心。それはガルドにとって死刑宣告にも等しい言葉となって聞こえて来る。冷や汗が流れ、それが止まる気配は一切無い。

剣心の僅かな剣気と言葉。ただ此れだけの要素でカフェテラスの周りの四人は兎も角、周囲にいた無関係の者達まで1人残らず静まり返ってしまった。

 

 

 

現在、街中で言葉を発する者は誰一人としていない。

 

 

 

剣心はガルドを一瞥する事すらせず、飛鳥に視線を向ける。その表情は呆れ返ったものであった。

 

剣心「……飛鳥殿」

飛鳥「何かしら?」

剣心「俺はこの外道が許せない。ここは箱庭のルールで天誅を加えるべきだと考えているのだが」

飛鳥「あら、元からそのつもりよ」

 

その素っ気無い剣心の言葉に飛鳥は不敵な笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。どうやら、飛鳥と耀は剣心の剣気に当てられても特に影響は無かった様だ。とはいえ、当然と言えば当然なのだが。

飛鳥はそのまま震え上がったままのガルドに歩み寄り、悪戯っぽい笑顔で話しかけて来た。

 

飛鳥「無様ねガルドさん。そんなに震え上がってしまうなんていい気味だわ。でもね、貴方の様な外道はこれ以上にズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。ーーーそこで皆に提案なのだけれど」

 

飛鳥のその言葉に固まっていたジンや周りの者達は我に返り、飛鳥を見上げて首を傾げる。飛鳥は細長い綺麗な手を逆さにしてガルドを指差し、

 

飛鳥「私達とギフトゲームをしましょう。貴方の“フォレス=ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

彼女は高らかにそれを宣言した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

それは、十六夜と黒ウサギが噴水広場に合流した時の事である。

 

黒ウサギ「フ、フォレス=ガロとゲームをするうううぅぅ!?」

 

黒ウサギ「な、何であの短時間にフォレス=ガロのリーダーと接触して更に喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している暇も有りません!」「一体どういうつもりなのですか!」「というか聞いているのですか四人とも!!」

 

剣心「すまない。黒ウサギ殿、2人に任せるつもりだが、一応俺も参加するので勘弁してはくれないでしょうか?」

飛鳥&耀「「ムシャクシャしてやった。今も反省していない」」

 

黒ウサギ「騙らっしゃい!!」

 

スパァーン! と黒ウサギのハリセンが2人の頭に直撃する。剣心にはハリセンは飛んで来なかった。おそらく1番まともであろう事と、何より召喚の際の殺気を当てられた事がトラウマになってしまっていた。

 

十六夜「まあ良いじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売った訳じゃねえし許してやれよ。」

 

黒ウサギ「でもこのゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この“契約書類ギアスロール”を見て下さい」

 

黒ウサギはそう言いながら“契約書類”を十六夜に見せる。

“契約書類”とは“主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催する為に必要となるギフトである。

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品などが書かれており、これに主催するコミュニティのリーダーが署名することでゲームが成立する。そして、その“契約書類”に記されていた賞品の内容はこうであった。

 

十六夜「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”ーーーまあ、確かに自己満足だな。時間を掛ければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだしな」

 

これが、今回のギフトゲームに置いての賞品の内容だった。ノーネームとなり、衰退した状態での初のギフトゲームにしてはあまり華が無いだろう。“相手は罪を認め法の下で裁かれ、コミュニティを解散する事”に対して此方側は“罪を黙認する”というものだ。この様な内容は箱庭のギフトゲームでも有る意味レアケースものだろう。華が無いとか地味などと言われても仕方が無い事である。

 

黒ウサギ「確かにそうですけど時間さえ掛ければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その……」

 

黒ウサギも流石にフォレス=ガロがそこまで酷い状態であった事は思いもしなかったのであろう。最後の方で言い淀む。

 

飛鳥「その通りよ。人質は既にこの世にいないわ。まあその点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそこには少々時間が掛かる事も事実よ。あの外道を裁くのに無駄な時間を掛けたくないの」

 

箱庭の法の有効範囲は箱庭都市内のみ。外は箱庭の管轄外であり、様々な種族のコミュニティが各々独自の法を敷いて生活している。其処へ逃げ込まれたら最後、箱庭の法で裁く事は不可能となる。

 

飛鳥「それにね黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされる事が許せないの。此処で逃がしてしまえば、また必ず狙って来るに違いないもの」

黒ウサギ「そ、それはまあ……逃がせば厄介かも知れませんけれど」

ジン「僕もガルドを逃がしたくないと思ってる。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

飛鳥の言にジンも同調する姿勢を見せる。それに対し黒ウサギは諦めた様子を示し頷いた。

 

黒ウサギ「はぁ〜、仕方が無い人達です。まあ良いデス。黒ウサギも腹立たしいのは同じですし。フォレス=ガロ程度なら十六夜さんか剣心さんがいればーーー」

十六夜「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

剣心「参加しますが、手を貸すつもりはありませんよ?」

黒ウサギ「HA?」

飛鳥「当たり前よ。貴方達は参加させないわ」

 

黒ウサギが言いかけた時に参加をきっぱりと拒否する二人。その事に黒ウサギは唖然となり、慌てて食って掛かる。

 

黒ウサギ「だ、駄目ですよ! 御二人様はコミュニティの仲間なのですからちゃんと協力しないと」

十六夜「そういう事じゃねえよ黒ウサギ」

 

だがそこで十六夜が真剣な表情となり、黒ウサギを説き伏せる。

 

十六夜「いいか? この喧嘩はコイツらが売った。そしてヤツらが買った。そこに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ。まあ俺は兎も角、剣心も手を出す気は更々無えみてえだし、説得しても無駄だぜ?」

剣心「……」

飛鳥「あら、分かっているじゃない」

黒ウサギ「……もう好きにして下さい〜」

 

彼等に振り回された黒ウサギには既に言い返す気力すら残っていない。もうどうにでもなれとばかりに投げやりになり肩を落とすのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サウザンドアイズでの融解

全然文字数が安定しないorz


「"サウザンドアイズ"?」

 

黒ウサギ「YES。"サウザンドアイズ"は特殊な"瞳"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

十六夜「ギフトを鑑定すると何かメリットがあるのか?」

 

黒ウサギ「自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギに、十六夜・飛鳥・耀の三人は複雑な表情で返し、剣心は無表情であるものの内心では、自分の手の内を晒したく無い気持ちでいた。

 

問題児+αと黒ウサギの一行は各々のギフトを鑑定すべく町並みを歩く。中世ヨーロッパのような町並みを黒ウサギを除いた全員が興味深そうに眺めていた。

 

周りに舞っている桜のような花びらを見て飛鳥が呟いた何気ない一言から皆が全員違う時間軸、もしくは違う世界からここへ来たことを黒ウサギに説明された。

 

飛鳥「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

十六夜「いや初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

耀「…?今は秋だったと思うけど」

 

剣心(今は冬のはずだが...。それにこの気配)

 

皆違う意見に疑問符を浮かべる十六夜達だったが、剣心は箱庭に来てから感じていた気配が大きくなってる事に気が付く。

 

 

黒ウサギ「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているので元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系などの所々違う箇所があるはずです」

 

十六夜「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

黒ウサギ「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論といいますが、これを説明するにはとても一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

 

そうこう話している内に目的地についたらしい。今ここから見えるあの青い旗印がおそらくそうなのだろう。

すると看板を下げる割烹着の女性店員に黒ウサギが滑り込みで待ったを―――

 

 

黒ウサギ「まっ」

 

 

店員「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 

―――かけることも出来ず、黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける

 

 

飛鳥「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

黒ウサギ「ま、全くです!閉店五分前に客を締め出すなんて!」

 

店員「文句あるなら他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

黒ウサギ「出禁!?これだけで出禁とか御客様を舐めすぎですよ!?」

 

店員「なるほど、″箱庭の貴族″であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティのの名前をよろしいでしょうか?」

 

黒ウサギ「……う」

 

 

一転して黙る黒ウサギ。だが十六夜が一切の躊躇無く名乗った

 

 

十六夜「俺達は″ノーネーム″ってコミュニティなんだが」

 

店員「ではどこの″ノーネーム″様でしょう。良かったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

流石の十六夜も今度は黙るしかなかった

 

 

黒ウサギ「その……あの………私達に、旗はありま―――」

 

?「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」

 

 

黒ウサギはいきなり店内から和服の着物をきた白い髪の少女にフライングボディアタックをくらい、悲鳴を上げながら少女と共に空中を四回転半ひねりして街道の向こうにある水路まで飛ばされた

 

 

十六夜「…おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

店員「ありません」

 

十六夜「なんなら有料でも」

 

店員「やりません」

 

 

十六夜が真剣な表情で頼み込むがキッパリと拒否する店員。

 

 

黒ウサギ「し、白夜叉様!?どうしてこんな下層に!?というか離れてください!!」

 

 

黒ウサギは白夜叉を無理矢理引き剥がし十六夜に投げつけた

 

ところが十六夜に縦回転しながら向かっていき、十六夜はそれを足で受け止めた。

 

 

十六夜「てい」

 

 

白夜叉「ゴハァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

十六夜「十六夜様だぜ。以後よろしくな和装ロリ」

 

 

いい加減この一連の流れを断ち切ろうと剣心が白夜叉に質問した

 

 

剣心「お主はここの店の人ですか?」

 

白夜叉「おお、そうだとも。この″サウザンドアイズ″の幹部様で白夜叉様だよ」

 

 

すると濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギが複雑そうに呟く

 

 

黒ウサギ「うう………まさか私まで濡れることになるなんて」

 

耀「因果応報……かな?」

 

『お嬢の言う通りやな』

 

 

そして一段落ついたので当初の目的であるギフト鑑定なるものをしてもらうことにした

 

 

白夜叉「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の自室で勘弁してくれ」

 

 

四人は和風の中庭を進み、障子を開け案内された個室に入った

 

 

白夜叉「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えてる″サウザンドアイズ″幹部の白夜叉だ。黒ウサギとは少々縁があって、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっているのだ」

 

黒ウサギ「はいはい、お世話になってますとも本当に」

 

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギの隣では耀が小首を傾げて問う

 

 

耀「その外門、ってなに」

 

黒ウサギ「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つものたちが住んでいるのです」

 

 

黒ウサギの説明は分かりやすかったが、どうしても黒ウサギの描いた絵に目がいってしまう

 

 

耀「……超巨大タマネギ?」

 

飛鳥「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

十六夜「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

白夜叉「ふふ、うまいこと例える。その例えなら、今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側あたり、外門のすぐ外は″世界の果て″と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ-その水樹の持ち主などな」

 

 

白夜叉は水樹を見ながら黒ウサギに問う

 

 

白夜叉「して、いったい誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

黒ウサギ「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしたんですよ」

 

白夜叉「なんと!クリアでなく直接倒したのか!?ならその童は神格持ちか?」

 

黒ウサギ「いえ、それはないと思います。神格なら人目見れば分かるはずですし」

 

白夜叉「うむそれもそうか…」

 

 

白夜叉は何か考え込んでいるようだが黒ウサギは今の話で少し気になったことがあったので聞いてみた

 

 

黒ウサギ「それより白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

白夜叉「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 

それを聞いた十六夜は物騒に目を輝かせながら問う

 

 

十六夜「へぇ?じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

 

白夜叉「ふふん、当然だ。私は東側の″階層支配者《フロアマスター》″だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

 

″最強の主催者″という言葉に問題児達は一斉に目を輝かせた。

 

それに気付いた白夜叉は高笑いをした。

 

白夜叉「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

黒ウサギ「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

慌てた黒ウサギを白夜叉は右手で制する。

 

白夜叉「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

飛鳥「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

白夜叉「ふふ、そうか。おんしはどうする?」

 

白夜叉だけでなく全員の目が剣心へと集中する。特に黒ウサギにとって剣心は最後の砦なだけに縋るような目で見ている。

 

剣心「無益な殺生は望むとこではない」

 

白夜叉「……なんじゃ、つまらん」

 

白夜叉は剣心の実力も測りたかったのか宛が外れたようだ。そして黒ウサギは少しほっとしているものの剣心が参加しないだけで何一つ状況は好転していない。

 

白夜叉「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

十六夜「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から"サウザンドアイズ"の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

白夜叉「おんしらが望むのは"挑戦"か―――もしくは、"決闘"か?」

 

 

 

 

刹那、五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。様々に世界が流転し、五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

剣心(これは、凄まじいな。俺も命を賭けて挑まなければ勝てないだろうな。だが...)

 

その場にいる誰もが言葉を失った。

 

白夜叉「今一度名乗りなおし、問おうかの。私は"白き夜の魔王"――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への挑戦か? それとも対等な決闘か?」

 

剣心(なるほど、決闘か挑戦を選ばせるのか)

 

余りの異常さに十六夜たちは同時に息を呑んだ

 

 

白夜叉「″挑戦″であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だかしかし″決闘″を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

これほど大きなフィールドを自分が持つゲーム盤の一つと言い放つ、そんな相手といきなり戦おうとするほど他三人も無鉄砲ではなかったらしく、そうそうに降参した。

 

――試されてやると、十六夜のその口調からは全く屈服した態度が見受けられない。今はその時ではないということだろう。他二人も苦虫を噛み潰した顔で悔しげに降参した。

 

そんなやりとりをして、挑戦で落ち着いたちょうどその時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。その鳥とも獣とも思える叫び声に逸早く反応したのは動物の声を聞くことができる耀だった。

 

耀「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

白夜叉「ふむ……あやつか。おんしら四人を試すには打って付けかもしれんの」

 

白夜叉が手招きするとそれに応じてソレはやって来る。

 

鷲の頭と翼にに獅子の身体を持った伝説上の生物、グリフォンだ。体長はざっと5メートルはある。

 

黒ウサギ「グリフォン……うそ、本物!?」

 

白夜叉「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力""知恵""勇気"の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

 

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

四人は羊皮紙を覗き込んだ。そこに記されているクリア条件は『グリフォンの背に跨り、湖畔を一舞う。クリア方法、グリフォンに"力""知恵""勇気"のどれかで認められること』

 

先程の白夜叉の言葉の真意はこれにあった。

 

そのゲームに逸早く立候補したのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。乗ってみたいのだろう。

 

「にゃ……にゃ、にゃー(お、お嬢……大丈夫か? なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど)」

 

耀「大丈夫、問題ない」

 

さらっと死亡フラグを立てた耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

 

宝物を見つけた子どもみたいな目をしている彼女をみて十六夜と飛鳥は苦笑をもらす。

 

すると剣心は、手に持っていた風呂敷から白いフードの付いたローブを渡した。

 

剣心「これは、俺の仕事着の1つだ。上空はかなりの低温になるだろうから、少しは、寒さも和らぐだろう。」

 

耀「ありがと」

 

剣心「匂いが気になるのならすまない」

 

耀「いや、いい」(この服血の匂いがする)

 

そして春日部耀の初めてのギフトゲームが始まった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

結果だけを言えば春日部耀は見事グリフォンに認められ、湖畔を舞うことに成功した。一度グリフォンに振り落とされたが、彼女はそのまま下に落下せず、風を纏って空に浮くことでゲームを続行。そしてその勇気をグリフォンは認めたのだ。

 

耀は戻ってくるなり剣心に着ていたローブを返した。

 

耀「ありがとう剣心。これ、暖かかった」

 

剣心「ああ」

 

白夜叉「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。………ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

耀「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

飛鳥「木彫り?」

 

耀は頷きながら丸い木彫りのペンダントを取り出し、白夜叉に渡す。白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰めた。形状は中心の空白を目指して幾何学線が延びるというもの。

 

何か意味はあるそうだが持ち主である耀はよく覚えていないらしい。

 

黒ウサギ「材質は楠の神木……? 神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

耀「うん。私の母さんがそうだった」

 

十六夜「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

白夜叉「おそらくの……ならこの図形はこうで……この円形が収束するのは……いや、これは……これは、凄い! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! これは正真正銘"生命の目録"ゲノム・ツリーと称して過言ない名品だ!」

 

白夜叉が何やら熱弁している

 

白夜叉はこのペンダントを買い取ろうとしたが耀に拒否されてしょんぼりとしてしまう。

 

十六夜「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

十六夜に問われ、白夜叉は気を取り戻すが、首を捻った。

 

白夜叉「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話できるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

黒ウサギ「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

黒ウサギの要求にゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

白夜叉「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

 

白夜叉「まあ、よかろう鑑定しようではないか!」

 

剣心「いや、俺は何もしていないのでいいです」

 

白夜叉「何、ここまできて遠慮するでない。"主催者"として、星霊の端くれとして、試練をクリアしたおんしらには"恩恵"を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前払いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉は何を思ったか急にやる気になった。

 

剣心(仕方ない、こうなったら)

 

剣心「白夜叉殿、さっきはお主のゲームを断わったが、気が変わった。俺にもゲームを受けさせてくれないでしょうか?」

 

白夜叉「ほう、おんし急にどうしたんじゃ?」

 

剣心「決闘を申し込みたい」

 

「「「⁉︎」」」

 

白夜叉「ククク、よかろうなら..」

 

剣心「だが、相手はお主ではない」

 

白夜叉「何じゃと?」

 

剣心「はあああああ」

 

次の瞬間、剣心を中心に周りに突然衝撃波が発生する。

 

十六夜「くっ」

飛鳥&耀&黒ウサギ「きゃっ」

 

周りを破壊尽くす衝撃波になんとか耐えた3人。周りを見渡すと一部全く破壊されていない場所がある。

 

十六夜「これは...」

 

?「ククク、さすがは私だ。よく気付きましたね。」

 

剣心「お主も、俺の剣気当てられても涼しい顔をしているではないか。」

 

突然、そこの空間が歪み、次の瞬間、全身を黒の服を纏い、大鎌を肩に背負った、左目が黄金の色の死神の様な男が現れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍の眼

初の本格的な戦闘描写です。 うんまあ、うーん。はあーって感じですが、暖かく見てくださいm(_ _)m


白夜叉「おい!リュウ!おんし、なぜここにいる?」

 

リュウ「白夜叉様、私は自分の魂のままにここに来ただけの事。どうか、お許しを」

 

白夜叉「おんしはいつも訳のわからん事をごちゃごちゃと。」

 

剣心「まあ、白夜叉殿。俺はこの者と決闘したいがよろしいでしょうか?」

 

白夜叉「はあぁ。まあよい。で、リュウはどうなんじゃ?」

 

白夜叉がリュウと剣心の言葉に特大のため息を吐き、リュウに問いかける。

 

リュウ「ええ、構いませんよ」

 

黒ウサギ「では!私達も加勢します」

 

十六夜「いや、ここは剣心に譲るぜ。」

 

黒ウサギ「え?」

 

十六夜「え?じゃねーよ。さっきも言ったろ?これは剣心の喧嘩だ。俺たちが手を出すもんじゃない。」

 

十六夜の言葉に頭を抱える黒ウサギ。彼女はそのうち胃に穴が開くんじゃないだろうか。

 

 

剣心「リュウ殿、お主に聞きたい事がある。」

 

リュウ「なんでしょうか?」

 

剣心「俺はこの世界に来る前から、なんとなく自分の中の喪失感に悩んでいた。しかし、この世界に来て不思議と悟った事がある。」

剣心「俺は複数存在するという事。この世界に来て、なぜか自分と全く同じ存在を感じた。なぜ自分がそんなものを感じたのかは、わからない。だが、目の前にいるお主は間違いなく俺であると魂が告げている。」

 

リュウ「フフフ、なるほど。私も同じ様な事を感じていました。容姿や能力は違えど、『私達』は同じ存在。いや、元々1人の人間だったのでしょう。」

リュウ「私達の喪失感はきっと、魂が複数に割れているからだと私は推測を立てています。」

 

リュウの意見は、不思議と剣心の耳に溶けていった。やはり同じ存在であるのが、大きいのかもしれない。

 

しかし、

 

剣心「だが、同時に俺はお主を認める訳にはいかぬ。お主の眼は深い憎悪で満たされている。」

 

リュウ「クク、そういうあなたも大切な人間を既に何人も失って来たのでしょう?」

 

剣心「⁉︎ お主なぜそれを?」

 

リュウ「さあ、なんででしょうかね〜?」

 

リュウは、顔を歪ませ剣心を嘲笑うながら、手を左目にかざした。

 

剣心(なるほど。あの眼は、相手の心が読めるのか。)

 

リュウ「さすが、人斬り抜刀斎!なかなかの洞察力ですね!」

 

剣心「御託はいい。俺と同じならもうわかってるだろ?」

 

リュウ「ええ、でははじめましょうか。」

 

剣心「白夜叉殿、頼む」

 

白夜叉がパンパンと二回手を叩くと、2人の前にギアスロールが表示される。

 

 

 

『ギフトゲーム名 "魂の融解〜龍の爪と龍の眼〜"』

 

・プレイヤー一覧 緋村剣心

リュウ

 

・クリア条件 相手の打倒、殺害、ギフ

トの奪取

 

・敗北条件 クリア条件を満たせなくな

った時

 

・勝利報酬 敗者は勝者の魂の一部になる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                             ″サウザンドアイズ″印』

 

 

リュウ「では!」

 

剣心「ああ。」

 

剣心は刀に手を置き、抜刀術の構えをしたその瞬間。

 

「「「「「!!!!!!!」」」」」

 

その場にいた、全員が剣心を見失う。

 

十六夜(どこにいった?)

 

リュウ(速い!)

 

リュウが反応する頃には、背後に一瞬でまわった剣心の抜刀術がリュウの身体をとらえた。

 

リュウ「があぁ」

 

リュウが真っ二つになる。

 

十六夜(俺が全く、見えなかった⁉︎)

 

黒ウサギ(なんなんですか?あの速さは????)

 

白夜叉(ほう、この坊主、上層の神々にも引けを取らぬ速さとは!)

 

それぞれが、呆気なく闘いが終わったと思っていたのだが、

 

剣心「⁉︎」

 

急に背後に殺気を感じ大きく跳躍して、距離をとる。剣心のいた場所には、真っ二つにしたはずのリュウが大鎌を振り下ろした姿があった。しかも、リュウが5人いる状況である。

 

剣心(こやつ、一体何をした?確かに手応えはあったはず。それにこの数。.....まさか!)

 

剣心「お主は、どうやら心が読めるだけでなく、相手に幻覚を見せる事もできるようだな。」

 

剣心がそう言葉を発すると、真っ二つのリュウの身体が燃え上がり消える。

 

リュウ「その通りですよ。私を視界に収める、あるいは、対象を私の視界に収めるのが条件です。」

 

飛鳥「どういう事?」

 

十六夜「つまり、相手を見ても、見られてもダメってことだろ」

 

黒ウサギ「とんでもなく、厄介なギフトじゃないですか!」

 

ジン「しかも、我々はすでに奴の術中」

 

観戦組から見て、この決闘はリュウが圧倒的有利に見えた。

 

剣心「しかし、お主はそれだけでなく。俺の神速に身体は追いついて無かったが、左目はしっかり俺の姿を捉えていたな」

 

リュウ「そこまで、気づいてるとなると、私の能力の殆どはバレてると思わなければなりませんね。」

 

剣心は、幻覚を解くためにリュウと話す事によって、時間を稼ぐ。

 

剣心「お主の能力は、相手の心を読む。相手に幻覚を見せる。動体視力の強化。視野360度といったところか」

 

リュウ「80点ですね。やはりばれてましたか。しかし、心が読まれているのなら、わざわざあなたの時間稼ぎに付き合う必要はありませんよ..ねっ!」

 

今度は、リュウからの攻撃。リュウの斬撃は、飛天御剣流を会得している剣心には、止まって見えるのだが、5体同時の攻撃とどれが本物かわからない状況に反撃ができずにいた。

 

剣心はまたも、大きく後退する。

 

リュウ「逃げてばかりでは、勝てませんよ!」

 

剣心「くっ!」

 

リュウ「では、とどめといきます!」

 

リュウは、大鎌を頭上で回転させる様に振り回し、そのまま地面へ突き立てて。

 

リュウ「ウロボロス!」

 

剣心「!」

 

剣心の周りの地面から、蛇の形をした火柱が複数現れる。そのまま、大蛇達は剣心に襲いかかる。

 

黒ウサギ「剣心さん!」

 

黒ウサギが悲鳴をあげる。次の瞬間

 

 

剣心「はあああああああ」

 

剣心の中心から、衝撃波が起こる。剣心が剣気を解放したのだ。しかし、今回は規模が違う。剣気は、衝撃波と鎌鼬を発生させ、空間を蹂躙していく。そして

 

リュウ「⁉︎馬鹿な!」

 

剣心は、己の剣気をもって、幻覚を破ったのである。剣心の気迫にあてられた黒ウサギ達は、十六夜と白夜叉以外は全員気絶してしまった。

 

十六夜「ヤハハ、良いね〜」

 

十六夜は、脂汗をかきながらニヤリと笑う。

 

剣心も幻覚を破るほどの剣気を放ち、消耗している。

 

リュウ「まさか、気合で幻覚を破るとは。あなたは本当に私を驚かせてくれる。」

 

リュウも冷汗をかきながら言う。

 

剣心「あの火柱から、全く熱気を感じなかった。あれだけ至近距離で発生したはずなのに。どうやら、あれも幻覚だった様だな」

 

リュウ「こうなれば、あとは自分の体術に頼らないといけませんねっ!」

 

剣心とリュウが打ち合う。圧倒的に剣心が押してるが、ギリギリのところで急所を回避するリュウ。

 

剣心(おかしい、動体視力や視野が広く、読心による先読みよりも速く動いてるはずなのに、攻撃がさばかれる。)

 

剣心(もしや! 試してみるか。)

 

剣心は刀を鞘に収める。

 

リュウ「どういうつもりですか?」

 

剣心「これで決める」

 

リュウ「なるほど、十八番の抜刀術ですか。では、私も覚悟を決めましょう。」

 

リュウは、大鎌を水平にし、背中に回す様に構える。

 

リュウ「いざ!尋常に勝負!」

 

リュウが駆け出す。

 

同じく、剣心も駆ける。

 

2人が交差する瞬間

 

剣心「ふっ!」

 

剣心の抜刀術が繰り出させる

 

リュウ「はあああ」

 

リュウは、ギリギリでかわす。

 

リュウ(俺の勝ちだ!)

 

しかし、

 

リュウ「ぐああ」

 

剣心の鞘がリュウの肩を砕いた。

 

 

 

ー飛天御剣流 双龍閃ー

 

 

 

抜刀の一撃の後の鞘による、二段構えの抜刀術

 

 

 

勝敗は決した。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

リュウ「フフフ、私の負けですね。」

 

剣心「............」

 

リュウ「ギアスロールの通り、私は貴方にギフトを授けましょう。利き腕を出してください。」

 

剣心は右腕を。リュウは左腕を出し、掌を合わせた。その瞬間、リュウの身体は炎に包まれ消失した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

リュウ「フフフ、私の負けですね。」

 

剣心「............」

 

リュウ「ギアスロールの通り、私は貴方にギフトを授けましょう。利き腕を出してください。」

 

剣心は右腕を。リュウは左腕を出し、掌を合わせた。その瞬間、リュウの身体は炎に包まれ消失した。

して、サウザンドアイズの白夜叉の部屋

 

剣心「すまない。心配をかけた」

 

しかし、復活した問題児達はまだポカーンとしている

 

飛鳥「あの剣技に、あの速さ。緋村さんは一体何者なの?」

 

飛鳥が訳がわからないという顔で剣心に聞いた

 

剣心「みんなは最初に出会った時から気が付いてると思うが、緋村剣心。志士名を緋村抜刀斎」

 

十六夜「やっぱり、あの人斬り抜刀斎だったか」

 

十六夜達は、剣心の正体を納得した様だ。

 

十六夜「そう言えば、結局リュウは何を憎んでいたんだ?」

 

剣心「それは、俺にはわからん。だが、あの場で決闘を受けた事は、それ相応の覚悟があったはず。今更、俺達が考えても仕方ない事だ」

 

十六夜達も同意する。

 

すると、今度は剣心が質問する

 

剣心「お主達3人に1つ聞きたい事がある。」

 

耀「何?」

 

 

 

剣心「日本は平和であるか?」

 

 

 

 

剣心「俺は、己の汚れた血刀と流れた血で、人々が安心できる新時代が来るのなら....と、人々の血が流れるのは、これが最後だと信じて、幕府と戦ってきた。」

 

剣心「俺はその後の日本がどうなったのか、知りたい」

 

剣心の問いに飛鳥が暗い顔で答える。

 

飛鳥「申し訳ないけど、貴方の時代の後も戦争は続いたわ。私の世界では、日本とアメリカで戦争をして、日本が負けたの。その直後に箱庭に召喚されたわ。」

 

剣心「.....そうか」

 

剣心は、その一言しか出せなかった。自分達が必死に戦ったにもかかわらず、まだ人々の苦しみが続く事を知って、胸が張りさせける想いに耐える。

 

十六夜「でも、お嬢様の時代から後は戦争もなく、日本はすっかり平和な国になったぜ。」

 

剣心「そ、それは、本当なのか?」

 

耀「うん。私の時代までずっと平和だし。私の世界も平和」

 

剣心は十六夜と耀の言葉に救われた気がした。

 

剣心「ありがとう」

 

日本は、世界は、時代は、しっかり前へ成長している事を実感する剣心。

 

 

 

 

白夜叉「うむ、皆落ち着いた、様じゃな。では、おんしらにギフトゲームの報酬を授けよう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。すると十六夜・飛鳥・耀・剣心の4人の眼前に光り輝くカードが現れる。カードにはそれぞれの名前と、身体に宿るギフトを表すネームが記されていた。

 

 コバルトブルーのカードに逆巻十六夜・ギフトネーム"正体不明"コード・アンノウン

 ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム"威光"

 パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム"生命の目録"ゲノム・ツリー、“ノーフォーマー”

そして緋色のカードに緋村剣心・ギフトネーム"飛天御剣流"、"龍の眼"、"全刃刀"

 

 

突如として出現したカードに黒ウサギは興奮したような顔でそのカードを注視した。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ち、違います! というか何で皆さんそんなに息が合っているのですか!? 」

 

そのギフトカードという単語に身も蓋もない返事をする問題児達。息も合っている彼等には問題児として何かしら通じるものがあるのだろう

 

カードの名前はギフトカード。アイテムタイプのギフトも仕舞うことができる素敵アイテムのようだ。実際十六夜が水樹の苗を仕舞ったりして遊んでいる。剣心の道具も仕舞える様だ。

 

白夜叉「そのギフトカードは、正式名称を"ラプラスの紙片"、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」 

 

十六夜「成る程な。じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

白夜叉「何?」

 

その言葉に白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込み、驚愕する。そこにあったのは十六夜のギフトネーム“正体不明”。白夜叉は十六夜のギフトネームを見つめ呟く。

 

白夜叉「……いや、そんな馬鹿な。“正体不明”だと……? いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすなど」

十六夜「ま、何にせよ鑑定は出来なかったって事だ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

ヤハハ、と笑う十六夜。その様子を怪訝な瞳で白夜叉が睨む。全知ほどの存在がエラーを起こす事は想定外だったのだ。

 

十六夜のギフトは、最終的に“ラプラスの紙片”のエラーと言う事で落ち着いた。

 

最後に白夜叉の店から出る際に、彼女へリベンジする旨むねを伝えた。白夜叉も受けて立つつもりであった。

そして、白夜叉からコミュニティの状況を把握しているのかどうかの確認と、魔王と何れ戦わなくてはならないと言う忠告を送る。

 

白夜叉「まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰れば分かるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが……そこの小娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

東区画の階層支配者にして最強格の魔王であった白夜叉の忠告。二人は一瞬言い返そうとしたが、彼女の忠告は物を言わさぬ威圧感が込められていた。故に言い返す事など出来なかった。

 

白夜叉「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小娘二人の力は魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだからの」

飛鳥「……そう、ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。でも次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

白夜叉「ふふ、望むところだの」

 

そして、ノーネーム一行は本拠地へと戻って行った。それを見届ける白夜叉は独り呟いた。

 

白夜叉「……さて、今のノーネームの惨状を見てどの様な反応をするのだろうか見ものだの。魔王が残した傷跡を見て彼奴らがどう思うか……」




リュウのイメージは、リボーンの六道骸とⅠ世時代のD・スペードを足して2で割ったのをイメージしました。上手くかけてるか、大変心配ですけど、ここまで見てくれた方、ありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

剣心、ノーネームに入る

早くも書きだめが尽きそうorz


白夜叉の店を後にして本拠地に向かったノーネーム一行。彼等を待ち受けていた光景は想像を遥かに絶するものだった。

 

それは一言で言うのなら廃墟。木造の建物らしきもの・・・・・は見る影もない。剣心は残骸を手にしてみるもそれは簡単に音を立てて崩れ去る。

 

黒ウサギは"魔王"に負けたのは三年前と言っていた。つまりこの何百年も放置されて風化したような町はたった三年前に引き起こされた現象なのだ。

 

剣心「.......」

 

黒ウサギ「……魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ……コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

飛鳥や耀はこの光景を見てとても複雑そうな顔をしている。しかし十六夜はこの状況を逆に楽しんでいた。

 

皆はそれぞれの思いを胸に決意を新たにするのだった。

 

落ち着いた後に4人は黒ウサギを追いかけて廃墟を抜けて徐々に外観が整った家が立ち並ぶ場所に出てきた。そしてそのまま居住区を素通りし、十六夜がギフトゲームで勝利した戦利品である水樹の苗を設置する為に貯水池に来ていた。そこでは既に、リーダーであるジンとコミュニティの子供達が水路を掃除していた。すると、子供達の中の一人が黒ウサギに気付く。

 

「あ! 黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「ホントだ!」

「お帰りー!」

 

その声に、子供達はワイワイと騒ぎながら黒ウサギの元に群がる。

 

「眠たいけどお掃除頑張ったよ!」

「ねえねえ、新しい人達ってどんな人!?」

「強い!? カッコイイ!?」

「Yes! とても強くて可愛い人達ですよ! では皆に紹介するから一例に並んで下さいね」

 

 

そこで黒ウサギがパチン、と指を鳴らすと、子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。コミュニティに居る子供達の数は全員で一二○人。その内、約六分の一である二○人前後がこの場に居た。その中には人間だけで無く、猫耳や狐耳の恐らく獣人であろう少年少女も居た。

 

十六夜(おお、マジでガキばっかだな。半数は人間以外のガキって所か?)

飛鳥(じ、実際に目の当たりにすると想像以上ね。これで六分の一ですって?)

耀(……むぅ。私、子供嫌いなのに大丈夫かなぁ……)

 

問題児達は三者三様の感想を心中に呟く。コミュニティの一員になる以上、彼等と共に生活しなければならないのだ。子供嫌いだろうが何だろうが、それは個人の問題だ。早々に改善するのが筋と言うものだ。しかし、1人だけは違う考えてでいた。

 

剣心(まさかここまで追い詰められてるとは。黒ウサギ殿やジンさんは、一体どれほどの苦労を)

 

剣心は黒ウサギ達の苦労を心中で察する。

 

剣心(しかし、この子供達の眼には絶望の色は無い。むしろ、明日への希望を宿している。この子供達は、このコミュニティの次の時代を担っていく、新時代の申し子。生きる意志は、何よりも....何よりも.....強い。)

 

子供達の眼を見て、剣心は頼もしくあると同時にこれから先、将来が楽しみになっていた。

 

剣心(俺の剣でこの苦しんでいる人達を護れるのなら、俺は.....)

 

剣心は子供達にこのコミュニティの希望を夢見る。剣心は次の世代のためにも、1人このコミュニティに協力する事を改めて決意した。

 

剣心(巴。俺はまた、前に進みだせる様だよ)

 

 

 

まだ、子供達が騒いでいたが、黒ウサギがコホン、と咳払いし彼等四人を紹介する。

 

黒ウサギ「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、緋村剣心さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるギフトプレイヤーです。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼等の為に身を粉にして尽くさねばなりません」

飛鳥「あら、そんなのは別に良いわよ? もっとフランクにしてくれても」

黒ウサギ「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

そこまでの気遣いは無用だと飛鳥が申し出るが、それを黒ウサギが厳しい声音で断じる。今日一日で一番真剣なのかも知れない。

 

黒ウサギ「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼等の齎す恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きて行く以上、避ける事が出来ない掟なのです。子供の内から甘やかせばこの子達の将来の為になりません。子供達もそれを重々承知していますから」

飛鳥「……そう、分かったわ」

 

やはり、コミュニティが崩壊して以降、今日までの三年間たった一人で支えて来たものが言わせるのだろう。このコミュニティで余裕と言える余裕など無かったのだから、必然的にこのコミュニティのルールもそうなったのだろう。

そしてプレイヤーに課せられた責任は、想像を超える重さだと言う事だ。

 

黒ウサギ「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使って下さいな。皆も、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

黒ウサギの言葉に子供達は耳鳴りがする程の大声で返事をする。その元気良さが伺える大声の返事に、四人は音波兵器を受けた感覚がしたのだった。

 

十六夜「ヤハハ、元気が良いじゃねえか」

飛鳥「え、ええ。そうね」

耀(……うぅ、本当にやって行けるかなぁ、私)

剣心「ああ」

 

剣心は声は無機質なものだが、顔は自然と微笑んでいた。気が付いた者は居なかったが。

 

黒ウサギ「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

十六夜「あいよ」

 

十六夜はギフトカードから水樹の苗を取り出して黒ウサギへと渡す。

 

ここの貯水池も昔はギフトのお陰で水で満たされていたらしいが、そのギフトさえも"魔王"に取り上げられてしまい長い間使われていなかったそうだ。

水樹の苗が手に入ったことで子ども達が掃除をしてくれていたらしくすぐにでも使えるようになるだろう。

 

黒ウサギ「では、行きますよー♪」

 

黒ウサギが貯水池の中心にある柱に苗を置くと、そこから大量の水が溢れ出した。水は激流となり、瞬く間に貯水池を、そこから伸びる水路を満たしていく。

十六夜がもたらした水樹が、"ノーネーム"の新たな水源となった瞬間であった。

 

耀「これが水樹の力……!」

 

飛鳥「凄い……!」

 

十六夜「へぇ、大したもんだ」

 

全く水気のなかった水路や貯水池があっという間に水で一杯になる様子は見ていて壮観だ。これで水を態々ギフトゲームで獲得する手間も省けて他のことに余力を回すことができるだろうとジンも喜んでいた。

 

剣心「黒ウサギ殿」

 

黒ウサギ「はい。どうしましたか?」

 

剣心「今日1日この世界を見てきました。少ない時間ではありましが、ここでは、目の醒める様な事の連続でした。しかし、この世界でも虐げられ、苦しんでいる人々がいる。俺の剣で皆を護れるのなら。」

剣心「俺はこんなんだから、いつまで続くかわからないけど、それでもいいならよろしく頼みます。」

 

剣心が微笑む

 

黒ウサギ「はい!こちらこそよろしくお願いします!」/////

 

飛鳥&耀(ふ、不意打ち////)

 

十六夜(へ〜、あいつもちゃんと笑えるじゃねーか)

 

十六夜「剣心!俺達も忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

飛鳥「よろしくね」

 

耀「よろしく」

 

剣心「ああ、皆もよろしくお願いします」

 

十六夜「あ、あと、敬語はいいぞ。お前の敬語何だか、変だし。」

 

飛鳥「剣心ってあんまり、学なさそうよね。

 

剣心「人斬りに学問はいらん」

 

耀「言い訳見苦しい」

 

なかなか失礼な事を言う十六夜達だが、剣心にとっては十六夜達の気遣いが嬉しかった。

 

 

 

 

黒ウサギ「それでは苗の紐を解いて根を張りますので、十六夜さんは屋敷への水門を開けて下さい!」

十六夜「あいよー」

 

そして、

 

十六夜「ちょ、オイ! 少しはマテやゴラァ!! 流石に今日はこれ以上濡れたくねぇぞ!」

黒ウサギ「うわお! この子は想像以上に元気ですね♪」

「あははは! 十六夜のにーちゃんびしょ濡れだー!」

「びっしょびしょだー!」

「あははは!」

 

問題児たちが起こす騒動にも、無関心な剣心だが、今はこの風景がかけがえのないものに映った。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

子ども達も寝静まり剣心も今日あった事を振り返ろうと腰を下ろそうとしたとき

 

剣心「.......」

 

剣心(まったく、子供ばかりの屋敷を覗いてくる不貞な輩がいるとは。さしずめ、昼のあの外道の手先の者か)

 

剣心はギフトカードから、白のローブと鬼の模様の仮面を身に着ける。そして、龍の眼を発動する。ゆっくりと開いた双眼は、蒼ではなく黄金に輝いている。

 

剣心(なるほど、こんな力もあるのか)

 

剣心が1人納得する。あの闘いで能力は全て判明したと思っていたが、そうではなかった。

 

剣心(千里眼の力と透視眼の力もある様だな。奇襲なら、確実にリュウに敗れていたな。)

 

そう奇襲であれば、相手が視認できない距離から幻術をかける事もできるからである。

 

剣心(しかし、読心の能力が失われているな。仕方ない、今はこれでいくしかないか。)

 

そして、窓から外へ飛び出し、森に入っていく。

剣心は京都で暗殺を続けていくうちに、ある技術を磨いた。それは、気配を消す事。単純な様だが、本気で気配を消せば、上層の神仏にも奇襲をかける事ができるだろう。また、剣心は逆に人の気配にも敏感である。

 

剣心は神速をもって、森をかける。そして、一瞬で覗き犯の背後に回り、殺気を少しあてる。

 

「うっ」

 

ドサドサ

 

覗き犯たちは、立てない程の威圧感から地面に縫い付けられる。

 

剣心「お前達は、何者だ?どうして、ここにいr」

 

剣心が尋問をはじめようとするが、すぐに中止になる。第三宇宙速度を超える速度で石が飛来してきたからである。

 

十六夜「げっ!剣心いたのか!全然気付かなかったぜ。って、何だその格好?」

 

 

ジン「な、何事ですか!?」

 

 

--コミュニティ本拠地で鳴った轟音に気づき、駆けつけたジンはその場に立っている十六夜に問う

 

 

十六夜「侵入者っぽいぞ。例の″フォレス・ガロ″の連中じゃねえか?」

 

ジン「えっ?ガルドの!?」

 

 

ジンが驚いていると瓦礫の中からガルドの手下たちが出てきた

 

 

「なんというデタラメな力………! 蛇神を倒したというのは本当の話だったのか」

 

「ああ………これならガルドの奴とのゲームに勝てるかもしれない……!」

 

「それにさっきのやつは、マジで生きた心地がしなかったしな」

 

十六夜は侵入者たちに敵意がないのに気づいたのか、見てて気になったことを侵入者に話しかけた

 

 

十六夜「おお?なんだお前ら、人間じゃねぇのか?」

 

 

そう。侵入者たちの姿は犬の耳や長い体毛と爪、爬虫類の様な様々な姿をしていたのだ

 

 

「我々は人をベースに様々な″獣″のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しか出来ないのだ」

 

十六夜「へー、で襲わなかったのにはなんか理由あんだろ?」

 

「恥を忍んで頼む! 我々の……いえ、魔王の傘下であるコミュニティ″フォレス・ガロ″を、完封なきまでに叩き潰してはいただけないか?」

 

十六夜「嫌だね」

 

「なっ!」

 

十六夜「どうせお前らも人質を取られている連中だろ? ここに来たのはガルドの命令で仕方なくってところか?」

 

「そ、その通りです。その上、奴の背後には魔王がいる。だから我々はどうしてもガルドに逆らうことが出来ず――」

 

十六夜「その人質な、もうこの世にいねえから。ハイ、この話題終了」

 

「なっ!?」

 

絶句する侵入者一同。

 

ジン「十六夜さん!!」

 

十六夜「気を使えってか? 冗談きついぞ御チビ様」

 

咎めるジンだが、十六夜の返答はどこまでも冷たい。

 

十六夜「殺された人質を攫ってきたのは誰だ? 他でもない、コイツらだろうが」

 

そう。殺された人質の半数は彼らが殺したようなものだ。それでも、彼らもまた被害者なのだ。ジンは十六夜の冷徹さには反感を覚える。

 

「で、では本当に人質は………?」

 

ジン「………はい。ガルドは人質を攫ったその日に………殺していたそうです」

 

「そ、そんな………!」

 

項垂れる一同。彼らの心中は察するに余り有る。そんな彼らを見て十六夜は―――あろうことか、ニヤリと笑った。

 

十六夜「おまえらの気持ちはよくわかった!」

 

冷徹だったのが一転して楽しそうに、まるで新しい悪戯を思いついたような笑顔で侵入者の肩を叩く十六夜。

 

十六夜「ガルドが、そして奴の背後にいる〝魔王〟が憎いだろ? 安心しろ、おまえらの仇はコイツが取ってくれる!」

 

と、ジンの肩を抱き寄せ、

 

十六夜「このジン=ラッセルが、全ての魔王を倒すためのコミュニティを作ってくれる!」

 

ジン「なっ!?」

 

侵入者+ジンが一斉に驚愕する。

何故だか、我がコミュニティの討伐目標が『名と旗印を奪った魔王』から『魔王全て』にすり替えられようとしていた。

 

「魔王を倒すためのコミュニティ? そ、それはいったい?」

 

十六夜「言葉通りさ。俺たちは魔王の脅威にさらされたコミュニティを守る。守られたコミュニティは口を揃えてこう言ってくれ。〝押し売り・勧誘・魔王関係お断り。まずはジン=ラッセルの元にお問い合わせください〟」

 

ジン「じょ―――」

 

冗談でしょう!? と言いたかったのであろうジンの口はあえなく塞がれる。

 

十六夜「ガルドを倒した後の心配もしなくていいぞ! なぜなら、俺達のジン=ラッセルが魔王を倒すために立ち上がったのだから!」

 

「おお………!」

 

十六夜の言葉に希望を見たのか、顔を輝かせる侵入者一同。

 

十六夜「さあ、コミュニティに帰るんだ! そして仲間に言いふらせ! 俺達のジン=ラッセルが〝魔王〟を倒してくれると!」

 

「わ、わかったよ! 明日は頑張ってくれ、ジン坊ちゃん!」

 

ジン「ま………待っ―――」

 

最後までジンの口は塞がれたまま、侵入者一同は走り去ってしまうのだった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

三人が来たのは本拠の最上階・大広間。剣心はローブと仮面を外している。十六夜を引きずってきたジンは、堪りかねて大声で叫んだ。

 

ジン「どういうつもりですか!?」

 

十六夜「言ったとおりだぜ? "魔王"にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください〟―――キャッチフレーズはこんなところか?まあ、落ち着けって。」

 

ジン「これが落ち着いていられますか! 魔王の力はあの土地を見て理解できたでしょう!? 僕らの仇敵だけでも脅威なのに、魔王を倒すためのコミュニティなんて馬鹿げた宣誓が流布されたら、他の魔王にまで……!」

 

十六夜「そうだな、あんな面白そうな力を持った連中がゾロゾロと押し寄せてくる。ワクワクするじゃねぇか」

 

長椅子に座って踏ん反り返っている十六夜はどこまでも強気だ。

 

ジン「お、面白そう!? まさか十六夜さんは自分の趣味の為にコミュニティを滅ぼすつもりですか!?」

 

十六夜「そうじゃねーよ。」

 

ジン「い、十六夜さん?」

 

十六夜「俺はこのコミュニティに足りないものを手っ取り早く集めようと考えてる」

 

ジン「コミュニティに……足りないもの?」

 

それは知名度であり、仲間であり、目標だ。

 

十六夜「俺たちには名前も旗印も無い。コミュニティを象徴出来る物が何一つないわけだ」

 

名前が無ければ宣伝ができない。宣伝ができなければ人は集まらない。人が集まらなければコミュニティは大きくなれない。コミュニティが大きくなれなければ―――魔王には勝てない。

 

十六夜「コイツはとんでもないハンデだ。それを抱えたまま、お前は先代を超えなきゃならないんだぜ?」

 

ジン「先代を……超える……!?」

 

その言葉に慄くジンは、まるで頭を金槌で叩かれたような顔をしていた。

それは彼が魔王から奪われた全てを取り戻すためには絶対に必要なことで、しかし目を逸らし続けていた現実だ。

 

だからこそ、十六夜はジンの名前を売り込んだ。

だからこそ、わかりやすくインパクトのある"打倒魔王"を掲げた。

 

そしてその御旗は同じく"打倒魔王"を心に秘めた者達を呼び寄せることだろう。"魔王"の被害者はこの"ノーネーム"だけではないのだから。

 

十六夜「今のコミュニティに足りないのは人材だ。俺並み・・・とは贅沢言わないが、せめて俺の足元並み・・・・の奴らは欲しい。そういう奴らなら、どっかに消えちまった昔のお仲間よりは役に立つだろうぜ」

 

十六夜の策は筋が通っていて面白半分で考えていることではないというのは分かる。しかしリスキーであることに変わりはない。それを踏まえてジンは条件を出した。

 

ジン「この件、受ける代わりに一つだけ条件があります。今度開かれる"サウザントアイズ"のゲームに、その昔の仲間が出品されるんです」

 

十六夜「へぇ? そいつを取り戻せって?」

 

ジン「そうです。それも只の仲間じゃない。彼女は元・魔王なんです」

 

ジンの言葉に十六夜の瞳が光る。

 

つまりこの"ノーネーム"は以前"魔王"を倒して隷属させていた。そしてその"魔王"を現在隷属させているコミュニティを倒せば仲間は戻ってくる上にコミュニティの名も一気に上がる。

 

十六夜が断る理由がない。

 

ジン「それと心配を掛けたくないので、黒ウサギにはまだ内密に」

 

十六夜「あいよ」

 

話はついた。十六夜は自室に戻ろうと大広間の扉に手をかけ―――悪戯を閃いたとばかりにニヤリと笑った。

 

十六夜「明日のゲーム、負けるなよ? 負けたら俺と剣心はコミュニティ抜けるから」

 

ジン「え?」

 

なぜか、巻き込まれた剣心であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フォレス=ガロ戦

箱庭二一零五三八零外門。ペリベッド通り、噴水広場前。

 

飛鳥、耀、ジン、剣心のゲーム参加者4名と、今回は不参加の黒ウサギ、十六夜、普段は耀の連れてる三毛猫は“フォレス・ガロ”のコミュニティ居住区画を訪れる道中、“六本傷”の旗を掲げたカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さんじゃないですか!あれですか、今から決闘ですか!?」

 

『にゃー!にゃにゃー!』

 

ウェイトレスの猫娘が近寄ってくる。

 

剣心(やはり三毛猫が何を言っているか分からない。試しに龍の眼を使ってみたが、動物の言葉はわからなかった。そしてやはり読心の力は消えてるようだ。)

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも散々連中の悪行に苦しめられてきたのですよ!自由区画、居住区画、舞台区画全てでやりたい放題でしたもの!二度とこんな不義理な真似が出来ないようにボコボコにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を振り回して応援してくれる猫娘。

 

飛鳥「勿論、期待に応えるつもりよ」

 

「おお、心強いお返事!これは期待大です!」

 

だが、猫娘が明るい声を一転、ヒソヒソと声を潜め出す。

 

「実はお話があるのですが…。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく居住区画でゲームをするつもりらしいんですよ」

 

黒ウサギ「居住区画で、ですか?」

 

居住区画に舞台区画。

初めて聞く言葉だが、おおよそは予想がつく。

居住区画は文字通り居住区で、舞台区画はおそらくギフトゲームを行うための舞台のある区画の事だろう。

 

「さらにですね、傘下のコミュニティや同志やらをほっぽり出して、外部から1人凄腕のプレイヤーを雇っての居住区画でのゲームですよ!?」

 

飛鳥「……それは、さすがに変ね」

 

思わず顔を見合わせる飛鳥達。

とはいえ、ここで考えたところで答えが出るハズもなく。

 

ジン「…何はともあれ、とりあえずゲームの会場へ行ってみましょう」

 

「何のゲームかはまるで分かりませんが、とにかく気をつけて下さいね!」

 

 

熱烈なエールを受けた私達は“フォレス・ガロ”の居住区画に向かう。

 

黒ウサギ「皆さん!見えてきました!あれが“フォレス・ガロ”の………アレ?」

 

黒ウサギが言うが、すぐに言葉がつまる。

全員が目を疑っていることだろう。

なぜならば、そこにあるハズの居住区画は無く、森が存在していたからだ。

コミュニティの門にも盛大にツタが絡まり、その奥には鬱蒼と生い茂る木々が見える。

 

飛鳥「どう見ても人の住む場所には見えないのだけれど…」

 

耀「……ジャングル?」

 

十六夜「虎の住むコミュニティだし、おかしくはないんじゃないか?」

 

ジン「いや、おかしいです…“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区画だったはずなのに…。それにこの木々は…」

 

ジンがそっと樹木に触れる。

樹木の表面が脈打ち、まるで生き物の鼓動のようですらある。

 

ジン「やっぱり…“鬼化”している。いや、でもまさかーー」

 

飛鳥「ジン君、ここに“契約書類”が貼ってあるわ」

 

見れば、門柱に羊皮紙が貼られている。

そこに記されたギフトゲームの内容はーー

 

『ギフトゲーム名 “ハンティング”

 

・プレイヤー一覧

久遠 飛鳥

春日部 耀

緋村剣心

ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐

 

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“フォレス・ガロ”印』

 

十六夜「ふーん、指定武具ねぇ…」

 

ジン「ガルドの身をクリア条件にしーー指定武具で討伐!?」

 

黒ウサギ「こ、これはまずいです!」

 

ジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げるが、何がそんなにマズイのだろうか。

たしかに、武具が指定されているため闘う術が限られらるが、それだけではないだろうか。

 

飛鳥「このゲーム、そんなに危険なの?」

 

ジン「いえ、危険度はそれほどでは。問題なのは、このルールーー指定武具です。ルール上、飛鳥さんのギフトも耀さんのギフトも剣心さんの剣も通じないということです」

 

耀「………どういうこと?」

 

黒ウサギ「“恩恵”ではなく、“契約”によってその身を守っているのです。例え神格保持者であろうとも手は出せません。自分の命を勝利条件に組み込むことで、それ自体を自らを守るための鎧としたのです!」

 

ジン「………すいません、僕のせいです。はじめに“契約書類”を作った時にルールを決めておけばよかったのに……!」

 

昨日、十六夜に言われた事を思い出しているのか、これでもかと言うほどジンの顔が申し訳なさに歪んでいる。

とはいえ、もはや後の祭りだ。今更どうしようもない。

 

十六夜「敵さんは捨て身で五分に持ち込んだわけか。中々やるじゃねえか」

飛鳥「気軽に言ってくれるわね…条件は厳しいわよ。指定武具がどんなものかも書かれていないし…このままでは厳しいかもしれないわ」

 

こちらも、その綺麗な顔を歪ませている飛鳥。自分が売った喧嘩だけに責任を感じているのだろう。

 

黒ウサギ「だ、大丈夫ですよ!“契約書類”には『指定』武具と書かれています!最低でも何らかのヒントはあるハズです!もし無ければルール違反となり“フォレス・ガロ”敗北が決定!この黒ウサギがいる以上、反則は見逃しません!」

 

飛鳥「……そうね、むしろこの程度、あの外道のプライドを粉々に打ち砕くのにちょうどいいハンデだわ」

 

可愛いらしさ満点で励ます黒ウサギ。黒ウサギの言葉に飛鳥も奮起する。

 

剣心「案ずる事はない」

 

耀「剣心?」

 

剣心「指定武具が必ずあるのなら、ガルドから逃げ回りながら探せば良い。しかし、ガルドとしては探しに来る過程で獲物が自分のところに来れば、敵を狩る事できる。」

 

飛鳥「つまり指定武具はガルドが守ってるって事?」

 

剣心「ああ」

 

ジン「では、ガルドを探しつつ、指定武具を探しましょう」

 

十六夜「おい、オチビ。昨日の事覚えてるよな?」

 

ジン「はい。覚えてます。」

 

十六夜「なら、いい。今日勝たないと作戦が実行できない。そうなったら、俺と剣心は抜けるからな。」

 

十六夜はジンを鼓舞……というよりは、昨日の事で脅していた。

 

ともかく、こうして参加者4名は門をくぐり、ゲームへと挑んでいった。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

門が閉じたのが開始の合図なのか、生い茂る森が門絡めるように塞いでいく。

ほとんど光を遮るほどの密度の深い森。どう見ても人の住む環境には思えない。

丁寧に舗装されていたであろう道も、幾つもの巨大な根によって無残な状態となっている。

 

ジンと飛鳥、耀の三人はさすがに緊張しているのか、真剣な表情だ。

とはいえ、耀は比較的余裕のある顔だ。剣心は相変わらずの無表情である。

 

耀『大丈夫。近くには誰も居ない。匂いがしないから』

 

飛鳥『匂い…ということは、犬にもお友達が?』

 

耀『うん。20匹ぐらい』

 

剣心(耀のギフトは他種の恩恵を得るものだったな。

おそらく身体能力ならば、人間よりも遥かに上か。)

 

剣心は龍の眼を発動

 

龍の眼の望遠能力と透視能力ですぐに、ガルドと指定武具を見つける。

 

耀『すごい、両眼とも龍の眼だ。』

 

飛鳥『でも、見た目は猫の眼って感じだわ』

 

ジン『剣心さん、ガルドと指定武具はわかりましたか?』

 

剣心『昨日も言っただろ、俺は手を出さない。どうしても危なくなったら、助ける』

 

ジン『わ、わかりました』

 

ジン『耀さん、ガルドの詳しい位置はわかりますか?』

 

耀『ごめん分からない。でも風下にいるのに匂いがしないから、多分何処かの建物か何かの中にいると思う』

 

ジン『ではまず外から探しましょう』

 

飛鳥『彼にしてみれば一世一代の大勝負だもの。隠し玉の一つや二つあってもおかしくはないわね』

 

ジン『そうですね。彼は基本的に戦ってすらいない。強力なギフトを明かさずにいたとしても不思議ではありません。耀さんはガルドを見つけたら、より一層の警戒をお願いします』

 

ジンと飛鳥の二人が周囲を探索し、耀が樹の上から警戒。

中々悪くないチームじゃないか。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

十六夜「なあ、俺達は中に入っちゃ駄目なのか?」

 

黒ウサギ「はい。私達は参加者ではありませんから。」

 

十六夜「審判権限は使えないのか。」

 

黒ウサギ「審判権限にそのようなものはありません」

 

十六夜「ちぇ、箱庭の貴族(笑)使えねぇ」

 

黒ウサギ「ちょっと、どういうことですか!って、箱庭の貴族(笑)ってどういうことですか!」

 

GEEEEEYAAAAAAAAaaaa!

 

そんな風に下らない事を話していると、森の中から獣の咆哮が響いてくる。

森から鳥達が一斉に飛び立って行く。

 

黒ウサギ「いい、い、今の凶暴な叫び声は…?」

 

十六夜「ああ、間違いない。十中八九、虎のギフトを使った春日部だな」

 

黒ウサギ「なるほどなー。ってそんなわけでしょう!?幾ら何でも失礼過ぎますよ!?」

 

十六夜の発言に怒る黒ウサギ。

 

十六夜(しかし、黒ウサギのウサ耳は怒ると逆立つのか…ホントにあの耳どうなってるんだ?)

 

十六夜「春日部じゃなかったら、お嬢様だな」

 

黒ウサギ「違います!」

 

十六夜「ジン坊っちゃんだな」

 

黒ウサギ「このお馬鹿様が!」

 

スパァーーン

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

耀「ん、ちょっと見てくるね」

 

そう言って、耀はしゃがんで足に力を込め、近くの木に跳び登る。木の頂上に着いた耀は、鷹の友達から得た遠視を使い周りを見渡す。

 

森に囲まれる目立つ大きな屋敷に目を向けた時、その屋敷の二階にある一部屋の窓に何か大きな影が動くのを確認する。

 

耀「見つけた、ガルドはこの先の館」

 

木から下りてきた耀は三人にそう伝える。

 

飛鳥「さすがね」

 

剣心「耀は隠密や諜報活動に向いているな」

 

ジン「…耀さん、他に何かは見ませんでしたか?」

 

耀「ううん、ガルド以外何も。指定武具も見当たらなかった」

 

剣心「……なら、その建物に行ってみるしかないな。もし扉を開けて危なかったら、俺が助ける。」

 

飛鳥「なら安心ね」

 

耀「うん」

 

ジン「ええ!? さすがに無茶ですよ剣心さん!飛鳥さんと耀さんもなんでそんな簡単に納得できるんですか!」

 

ジンがそう言うのも仕方がない。ジンはサウザンドアイズに行っていないため、剣心とリュウの一騎討ちなど知る由もないからだ。そのため剣心の実力をあまり知らないジンは、その提案に異議を唱える。

 

耀「大丈夫、剣心は強い」

 

剣心「もし不安なら、一旦逃げればいい。」

 

ジン「まあそれなら....」

 

ようやくジンも納得し、一行はガルドのいる屋敷を目指し歩き出した。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

飛鳥「……まさか罠も奇襲の一つもないなんて」

 

屋敷に辿り着いた剣心たち。敵がいる事を想定して耀が扉を開けて先に中に入る。

 

だが、入り口を開けた先の広いホールには人の気配は全くなく、あるのは二階へ続く階段と屋敷内まで侵食した鬼種化した木々。

 

飛鳥「すんなり入れたわね」

 

ジン「…武具らしい物もなさそうです」

 

入り口前に待機していたジンたちが中に入り、周りを見渡す。

 

ジン「耀さんガルドは二階ですよね?」

 

耀「うん、多分その階段登った先の正面の部屋のはず」

 

飛鳥「そう、待ち構えているというわけね。ならジンくんと剣心はここで退路を守ってて。私と耀さんで様子を見てくるわ」

 

ジンの問いに耀は答え、それを聞いた飛鳥はそう提案する。

 

ジン「えっ!? それなら剣心さんに行ってもらえば! いくらなんでも飛鳥さんたちが行くのは危険です!」

 

剣心「……それでいいのか?」

 

ジンが抗議するのをよそに、剣心は静かに問う。

 

飛鳥「ええ、剣心に甘えてばかりじゃいられないわ」

 

剣心「…そうか、なら行くといい。あくまで偵察だから、無理をする必要はない。何かあれば、すぐに逃げるか俺を呼べ」

 

剣心はそれを聞き入れ、飛鳥と耀にそう注意する。

 

飛鳥「わかったわ」

 

耀「うん」

 

飛鳥と耀もそれに頷き、二人は階段を登って行った。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

二人は階段を登り切り、ガルドが潜む部屋の扉の両サイドに付く。

 

アイコンタクトで合図し、扉を勢いよく開け、中に入る。

 

「「ッ!!」」

 

扉の中にいたのは、白銀の十字剣を守るように佇む白い巨躯の虎。

 

ガルド『グルルル……』

 

部屋の侵入者である二人を睨みつけ、そして飛鳥に標的を定めて襲いかかる。

 

飛鳥「ッ!?」

 

飛び掛かる虎の右脚の爪が飛鳥に触れようとする瞬間、耀が横からその脚を受け止める。

 

飛鳥「耀さん!!」

 

耀「飛鳥、逃げて!!」

 

耀にそう言われ、飛鳥は迷わず背を向けて入り口に走り出す。

 

飛鳥(剣心を……!)

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

飛鳥と耀がガルドのもとへ向かっている頃

 

ジン(沈黙が辛い。)

 

剣心と2人きりになったジン。しかし、常日頃無口で無表情な剣心に、近寄り難さを感じていた。

 

剣心「ジンさん」

 

ジン「は、はい。何でしょう?」

 

剣心が静かに口を開く。ジンはまさか、剣心から、声をかけてくるとは思っていなかったために驚く。

 

剣心「ジンさんは鬼種を与えた吸血鬼に心当たりがありそうだったが……どうだ?」

 

ジン「……はい。…一人、だけ思い当たる人物がいます。ですがもし今回の犯人がその人なら、余計にその意図がわからないのです」

 

そう答えながら複雑そうな顔を浮かべるジン。

 

何かありそうだと思いながらも剣心はジンに聞いてみる。

 

剣心「…ちなみに、その思い当たる人物というのは?」

 

ジン「彼女はーーー」

 

ジンがその人物について言おうとしたその時、

 

剣心「!!」

 

剣心の顔色が変わる。

剣心の龍の眼が、未来を予知する。

剣心はそのまま神速で窓から2階へ駆けていく。ジンは、剣心から急に殺気を感じて顔を青くするが、気が付いた頃には既に剣心を見失っていた。

 

ジン「あれ?剣心さん?」

 

すると、飛鳥と耀が向かった二階の部屋からガタンッ! と大きな物音が響き渡り、その直後に飛鳥が血相を変えて部屋から飛び出してくる。

 

飛鳥「剣心は?」

 

ジン「それが、急にいなくなって」

 

飛鳥「ジンくん!私たちは逃げるわよ!」

 

飛鳥はそう言って、ジンの手を引っ張る。

 

「!? でも耀さんと剣心さんがーーー「いいから逃げなさい!」!」

 

飛鳥がジンにそう命令すると、飛鳥のギフトが発動する。ジンは飛鳥を抱え、一目散に外へと走り出していく

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心が上へ上がると、耀が指定武具の銀の剣に手を掛け、その背後からガルドが耀へ右脚を振り下ろそうとしていたところだった。よく見ると、着ていたノースリーブのジャケットやニーソも所々ボロボロだった。

 

剣心(不味い!)

 

剣心は、耀とガルドの間に入り、ガルドの右脚を全刃刀で受け止める。しかし、剣心は神速の速さはあっても力は弱い。むしろ、戦士としては力は無い方で、小柄な体格もあり、一般人よりは少し力がある位なのだ。普段剣心は、回転による遠心力や跳躍から落下への重力などの補助で、パワー不足を補っている。

よって、鍔迫り合いなどに弱く、耀の様に右脚を受け止めきれずに、ガルドの攻撃を受けてしまう。

 

ぶしゅぅぅ

 

耀「剣心!」

 

剣心は胸から腹にかけて傷を負う。だが、剣心の顔色に変化は無い。

 

剣心(耀は無事に指定武具を手に入れたな。ここは、一旦体制を立て直すか。)

 

剣心(やつの攻撃を止めた時の感覚が、変だったがおそらく"契約"に守られているのだろう。しかし、触れる事はできるようだな。)

 

剣心は耀をそのまま抱える

 

耀「え////、ちょっと、剣心⁉︎」

 

いきなり、お姫様だっこされて顔を赤くする耀。しかし、次の瞬間には、外に出ていた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

飛鳥たちは撤退後、屋敷から少し離れた森の中で待機していた。

 

ジン「いったい二階で何があったんですか?」

 

飛鳥「えっと…恐ろしい虎が待ち構えていたわ。白銀の十字剣を守っているようだった。ガルドの姿は見えなかったわ。

 …とっさに耀さんが時間を稼いでくれて。剣心がおそらく向かってくれたと思うし、無事に逃げてくれているといいのだけれど…」

 

ジン「…飛鳥さん」

 

飛鳥から聞いた話を元に、ジンは一つの推測を立てる。

 

ジン「おそらく…その虎がガルドです」

 

飛鳥「…どういうこと?」

 

ジン「ガルドはもともと人・虎・悪魔から得た霊格…3つのギフトによって成るワータイガーです。しかし、その人を成す部分を"鬼種"に変質させられたのだと思います。

 ーーー吸血鬼によって」

 

飛鳥「なるほど…植物だけに鬼種を与えたわけじゃないのね」

 

飛鳥とジンは鬼種化した植物のツルを手に取る。ツルは血が流れているかのようにドクッドクッと波打っていた。

 

飛鳥「……となると指定武具って」

 

ジン「ええ、飛鳥さんが見たという剣で間違いないでしょう。十字と白銀も吸血鬼の弱点ですから」

 

だが推測通りその指定武具はガルドが所持しており、加えて耀と剣心がどうなったかも現状ではわからない。

実質二人は八方塞がりでいい打開策が浮かばない。

 

そんな時、ガサッと何かが動く音が聞こえてくる。

加えて、何かがパタタッと滴る音も聞こえた。

 

飛鳥「誰!」

 

二人は勢いよく振り返り、その音の発生源を見る。

 

剣心「......」(みんな無事なようだな)

 

それは胸から腹にかけて血を流している剣心と、お姫様抱っこされてる耀だった。

 

剣心は耀を木の根元に下ろし、耀が持っていた剣を置く。

 

剣心「すまない。服が血で汚れたな。」

 

耀「大丈夫。それより、ごめん。私のせいで」

 

飛鳥「け...剣心!大丈夫なの!?」

 

剣心の容体に焦る飛鳥。

 

剣心「......大事ではない。」

 

飛鳥「大したことない訳無いでしょう!」

 

剣心「傷の痛みなど、それを超える気迫と覚悟で耐えればいい。闘いの中に身を置く者にすれば、そんな事は至極当然。」

 

さらに飛鳥が何か話そうとするが、それより先に剣心が口を開く。

 

剣心「.......それよりも、早くこのゲームの攻略の作戦を考えたらどうだ?俺は今みたいに危なくなった時しか、力を貸すつもりはない。」

 

剣心「ジンさんには、このコミュニティの"明日"がかかっている」

 

剣心「あと、耀は軽傷ではあるが、今回はここで退け」

 

耀は頷く。至近距離で虎と対峙していたことににより恐怖で手足は震えていた。

 

それを見て、飛鳥は覚悟を決め、立ち上がって落ちていた剣を拾う。

 

飛鳥「じゃあ耀さんの無念は私たちが払いましょう。行きましょう、ジンくん」

 

ジン「ええ、行きましょう!」

 

飛鳥「ふふ、どんなに強くても知性のない獣には負けないわ」

 

飛鳥とジンはそう言って、剣心と耀にふわりと笑った。

 

絶対的な自信と、プライドと誇りを持って。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

侵入者がいなくなり、ガルドは静かに眠っていた。

 

しかし、突如何かが焦げる臭いと黒い煙が漂ってくる。

ガルドはその異変に気付き、目を覚ます。

その異変の発生源を探しに部屋を出て、ホールに出る。

 

そこには、紅々と燃える火の海が屋敷の中に広がっていた。

 

その炎を見たガルドは本能的に恐怖する。

人としての知能は失い、今現在ガルドを支配するのは野獣としての本能。炎に対する警戒と恐怖心。

 

ガルドは一心不乱に屋敷を飛び出し、燃える森の中の一本道・・・を駆け巡る。

 

飛鳥「待っていたわ」

 

ガルドがしばらく走り、火もなくなってきた地点にまで来たところで目の前から声が掛かる。

剣を持った飛鳥がガルドの行く手に立ちはだかる。

ガルドは止まり、目の前に対峙する二人の敵に警戒する。

 

飛鳥「剣心と耀のこともあるし…」

 

飛鳥「これ以上時間を割いていられないの」

 

飛鳥「だから…」

 

飛鳥「来なさい!!」

 

飛鳥がそう叫ぶのを皮切りに、ガルドは飛鳥とジンに向かって襲いかかる。

 

飛鳥がゆっくり瞼を落とし、集中する。

 

 

飛鳥という少女の本質は、とても優しい子である。

 

 

飛鳥はもともと、自身の力を嫌っていた。

自信が命令すれば、すべてが思い通りになる。

すべてがすべて、飛鳥の言いなりで動く。

だが飛鳥はそんなことを微塵にも喜んだことはない。

人々は飛鳥の力を欲し、羨み、そして恐怖し、ほぼ箱庭娘のような暮らしをさせていた。

故に飛鳥は自身のギフトを嫌い、そしてそれを黒ウサギに相談していた。

 

自分の力は、他人を支配することしかできないのか。

 

飛鳥はずっとその悩みを抱えていた。

そんな飛鳥を、黒ウサギは微笑ましく、そして慈しみを込めてこう助言した。

 

黒ウサギ『……では、こうしましょう。

 〝支配する〟という属性はあえて受け入れ、違う新しい使い方を見出すのです』

 

つまり、支配する対象を変えるということ。

 

この箱庭世界にてもっとも有効な〝支配〟の使い方。

 

 

 〝ギフト・・・を支配するギフト〟へと

 

飛鳥「今よ!」

 

飛鳥が叫ぶと、飛びかかってくるガルドに向けて鬼種のギフトを宿した植物のツル・・・・・・・・・・・・・・・がガルドの体を縛り、拘束する。

 

『ゴァッ!? グウゥゥゥ……ゥガァッ!』

 

ジン「飛鳥さん」

 

飛鳥「ええ、わかってるわ」

 

ジンの呼びかけに頷き、飛鳥は動けないでいるガルドにゆっくりと近づく。

そして飛鳥は持っていた剣を構える。

 

飛鳥「終わりよ……」

 

そう呟き、飛鳥はガルドの額に剣を突き刺す。

ガルドは刺された瞬間風化していき、跡形もなくなる。

 

 

 ゲーム【ハンティング】終了。

 

 

 

 勝者は、『ノーネーム』



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな力

とうとう、やっちまった。ああ〜やっちまったorz


飛鳥とジンがガルドを倒しに出ていた頃。残った剣心と耀は

 

耀「立ってて大丈夫?」

 

剣心「ああ、問題ない」

 

剣心の顔色に変化はなく、いつもの無表情であるが、耀には無理をしている様に感じた。

 

耀(辛いはずなのに、あんな事は言っても飛鳥達が心配なんだね。いつでも駆けつけれる様に)

 

耀は徐ろに、剣心の横に座る。

 

剣心「.......どうした?」

 

耀「.........なんでもない」

 

それっきり2人の間沈黙が続き、木々の揺れる音だけが響く。

 

耀(剣心は普段全然話さない。楽しかった事や悩み事も、剣心の世界や時代の事でさえ。)

 

耀は自分達と向き合ってくれない剣心に寂しさを感じていた。

 

耀(でもいつも無関心な様で、実はいつも私達の背中を護ってくれている。)

耀(もっと、向き合って欲しい。そして、できれば私が彼を支えたい。)

 

耀は剣心にもっと関心を向けて欲しいと願う。

 

耀(この気持ちは何だろう?でも、きっと悪いものじゃないはずだよね。)

 

耀「ありがとう、剣心」

 

耀は小さく呟くが、誰にも聞こえなかった。

 

そして、

 

 ゲーム【ハンティング】終了。

 

 

 

 勝者は、『ノーネーム』

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

黒ウサギ「剣心さん!大丈夫ですか⁉︎」

 

剣心「ああ」

 

黒ウサギ「嘘です!そんなはずありません!」

 

ギフトゲーム終了後、飛鳥達と合流することに成功すると、必死な表情の黒ウサギと十六夜が風よりも速くこちらに向かって駆け寄ってきた。

剣心は大丈夫と言っているのだが、肩を持ってブンブンと揺さぶってくる。

剣心がどんなに言っても、立派なウサ耳があるのに聞く耳をもたないのだ。

そんなやり取りをあれこれ三〇分経過すると、さすがに飽きてきたのか最初は面白そうに見ていた飛鳥が黒ウサギを制する。

 

飛鳥「落ち着きなさい黒ウサギ。あなたが揺さぶるほど、剣心の痛みが大きくなるわよ。」

 

耀「結局、ガルドが雇ったプレイヤーって誰だったんだろ?」

 

飛鳥「さあ、結局現れなかったわね。」

 

ジン「まあ、もう終わった事なので気にしても仕方ありません。」

 

耀「それよりどうして黒ウサギは剣心が重傷だったことを知ってるの?」

 

黒ウサギ「それは黒ウサギの素敵耳のおかげですね。門の前でも大まかな状況が把握出来ますので」

 

剣心(なるほど、ギフト無効の相手でも俺の"眼"の代わりなるな。審判権限とはなかなかに便利なものだな)

 

少し落ち着いて来たところで、黒ウサギが帰ろうと提案するが、

 

十六夜「おっと、忘れかけていたぜ。おい、御チビ。作戦の成功の為に奴らの旗印を探しに行くぞ。」

 

ジン「は、はい!」

 

十六夜「悪いけど、黒ウサギ達は此処に来る連中を門の前辺りに待機させといてくれるか?」

 

黒ウサギ「それはいいですけど………何をなさるつもりで?」

 

黒ウサギが疑問符を浮かべながら俺に問いかけてくる。その後ろにいる飛鳥と耀も何をやらかすか気になるようだ。

 

十六夜「それは秘密。すぐに分かることだし、その時までお楽しみってことで」

 

剣心「すまないが、俺は先に帰るぞ。」

 

十六夜「ああ、お前は早く休め、剣心。」

 

剣心「感謝する」

 

そう言って十六夜とジンは黒ウサギ達の疑問に答えずに歩いて行った。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心「.......」

 

十六夜達を見送った剣心は歩き出す。向かう先はホームでは無く、先程ゲームをしていたガルドの屋敷跡。炎焼と破壊痕でボロボロの屋敷に足を踏み入れる剣心。

 

剣心「雇い主が死んでからとは、随分遅い登場じゃないか、プレイヤー殿?」

 

剣心がそう呟くと屋敷の壁が破壊され、入ってきたのは、蛍火の様に輝く髪に赤い眼、そして赤銅色の肌の少年が入ってきた。その手には、巨大な槍がある。

 

?「ああ、あいつは理性を失ってた。なら、俺が居ようと居まいと奴には関係の無い話だ。」

 

?「それにな。なぜ俺があんな雑魚の手伝いをやらなきゃならないんだぁ?俺は、お前を喰らうためだけにあいつに雇われてやったんだからよ!」

 

そう言いながら、男は槍を構え突進してくる。

 

剣心はそれを避け、窓から外に出る。屋敷は完全に破壊され、辺りは炎と瓦礫に包まれる。そして、頭上から黒いギアスロールが現れる。

 

 

『ギフトゲーム名 "魂の融解〜龍の爪と龍の体〜"』

 

・プレイヤー一覧 緋村剣心

 

・ゲームマスター カズキ

 

・クリア条件 相手の打倒、殺害、ギフ

トの奪取

 

・敗北条件 クリア条件を満たせなくな

った時

 

・勝利報酬 敗者は勝者の魂の一部になる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

"フォレス=ガロ"印』

 

 

カズキ「満身創痍だな。そんなんで十分に闘えるのか?」

 

剣心「この程度どうってことはない。お前は3秒で片付ける。」

 

カズキ「ハッ!イイね!!どちらが、"王"に相応しいか、ここで決めようぜ!」

 

そう言い、剣心は龍の眼の幻術を使う。

しかし、

 

カズキ「ハッ!効かねーな!次はこっちから行くぜ!」

 

剣心「⁉︎」

 

カズキ「ハハハッ!ヒャッハー!」

 

カズキが突進を仕掛けてくる。剣心は幻術が効かないのが、想定外だったため反応が遅れる。

 

剣心「ぐっ」

 

カズキ「オイオイオイ!3秒過ぎてンゾ!」

 

剣心(あやつ、何て力だ)

 

カズキの持ち味は、巨大な槍を操る筋力。速度は神速の剣心が上だが、それでも、亜音速にせまる速度での突進力は凄まじい。

 

カズキの猛攻は続く。

 

剣心(飛行も可能なのか。)

 

剣心は、パワーと速度、そして飛行能力による、四方八方からの砲撃にさらされていた。

 

だが、龍の眼は次第にカズキの動きを捉えていく。そして、

 

カズキ「オラオラオラァ!」

 

剣心「はああ」

 

剣心(龍巻閃)

 

カズキ「ハッ!ヌリィ〜んだよ!」

 

キンッ!

 

剣心(なに!)

 

剣心の龍巻閃はカズキの首を捉えたが、カズキの赤銅色の肌が、剣心の剣を止めた。

 

剣心の動きが一瞬止まる。そんな隙をカズキは見逃さなかった。

 

カズキ「オラァ!」

 

剣心「がっ!」

 

カズキが剣心の頭を掴み、そのまま投げとばす。剣心はそのまま吹っ飛び、10メートルほどで木にぶつかり停止する。その際に吐血する。

 

剣心が苦戦しているのは、やはり傷が原因である。龍の眼で相手を追えても、身体が付いていかない。さらに、

 

剣心(硬いな。体力の消耗も異常に激しい。奴は超重武器を振り回し、休む事なく動き続けているにも関わらず、息が一切あがっていない。)

 

剣心(もしや、俺の体力を吸収しているのか?なら、早く終わらさねば。だが、"次"は確実に斬れる。)

 

カズキが再び突進してくるが、剣心も同じく龍巻閃でカウンターを仕掛ける。

 

カズキ「だから、効かねーって、ぐああ」

 

カズキの腕が吹っ飛ぶ。

 

剣心の持っている全刃刀は、剣心が"認識"したあらゆるものを斬る能力を持っている。

 

この性質により、1回目は斬れなかったカズキの赤銅の肌も、2回目は斬れたのだ。

 

剣心はチャンスばかりに畳み掛ける。

 

剣心「はああ」

 

カズキ「っち」

 

カズキは、飛行能力で上空に逃げる。剣心も人間離れした脚力で跳躍する。しかし、

 

カズキ「へっ!かかったな!」

 

カズキの腕が再生した。

 

そして、そのまま剣心の腹に拳を叩き込む。カズキの大地を砕く拳を傷の付いた腹に叩き込まれ、傷口から血を吹く剣心。そのまま地面に叩きつけられ、小さなクレーターができる。

 

カズキ「テメェ、舐めてんのか!」

 

カズキは倒れてる剣心に叫ぶ。

 

剣心はゆっくりと立ち上がり、カズキを見据える。

 

そんな剣心にカズキは語りかける。

 

カズキ「剣心、”王とその騎馬の違い”はなんだ? 」

 

剣心「......」

 

カズキ「”人と馬”だとか”二本足と四本足”だとかそういうガキの謎かけをしてんじゃねえぞ 。」

 

カズキ「全く同じ二つの存在があったとして!

そのどちらか王となって戦いを支配し残りどちらかが騎馬となって力を添える時その違いはなんだ!?と訊いているんだ!! 」

 

カズキ「答えは一つ 」

 

カズキ「本能だ!!! 」

 

カズキ「同じ力を持つ者がより大きな力を発する為に必要なものは 、ただひたすらに戦いを求め、力を求め、敵を容赦なく叩き潰し、引き千切り、刻む

戦いに対する絶対的な渇望だ!!」

カズキ「俺達の皮を剥ぎ肉を抉り骨を砕いたその奥、原書の階層に刻まれた殺戮反応だ!!! 」

 

カズキ「てめえにはそれが無え!!剥き出しの本能ってやつがな!! 」

 

カズキ「てめえは理性で戦い理性で敵を倒そうとしてやがる 」

 

カズキ「剣の先に鞘つけたままでいったい誰を斬れるってんだ!? 」

 

剣心は理解する。

 

剣心(なるほど、だから幻覚にかからないのか)

 

剣心(こいつもガルド同様、理性を失っている。)

 

剣心(こいつは、巴やここでの仲間を見つける前の俺と同じ。剥き出しの刃。その狂気をおさめてくれる"鞘"が無ければ、いずれ自分自身をその"刃"で傷つける事になる。こいつには、それをわかっていない。)

 

剣心は、失血と痛みで霞む視界に鞭を打ち、"眼"を凝らす。そして、奴の弱点を見つける。

 

剣心(あそこか)

 

カズキ「テメェは"王"に相応しくねぇ。これで終わりにする。死ね!」

 

カズキが突進してくる。

 

剣心は、箱に来て初めて"構え"を変える。

 

剣心は、普段"無形の位"と呼ばれる構えをしているが、今は"正眼の構え"である。そこから、出す技は

 

ーーー飛天御剣流ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー九頭龍閃!ーーー

 

 

カズキ「何!」

 

剣心の神速により、9つの突きが"同時"に発生する。そして、その突きの先は、

 

カズキ「がっ!」

 

カズキの"心臓"であった。

 

 

 

ゲーム終了

 

勝者 『緋村剣心』

 

 

 

剣心はそのまま近くの木のもとへ歩き、そのまま腰を下ろした。傷を負い、失血により限界が来ていた。気力だけでここまできたが、とうとう力尽き、視界が暗転する。

 

剣心「はあ、はあ」

 

剣心(くそ、まだあと"1人"いr....)

 

剣心が気を失うと空から、黒い翼を持つ少女が降りてきた。周りの木々はカズキのエネルギードレインにより枯れ果て、小さなクレーターがそこらかしこにでき、居住区の面影は完全に無くなっていた。少女はそのまま剣心に近づいてくる。

 

?(これは、ノーネームの土地よりも酷い有様だな。まさか、3桁の魔王を倒すとは)

 

そして、剣心に触れようとした時

 

?「!?」

 

剣心が勢いよく、抜刀する。少女は反射的に飛び退く。剣心はそのまま"蒼眼"で相手を睨む。剣心の剣は少女の頬を擦り、頬から血を流しいる。だが、すぐに傷は塞がる。

 

剣心「はあ、はあ」

 

剣心に睨まれた少女は、冷汗を流し、恐怖から動けずにいた。しかし、剣心は今度こそ限界を迎え倒れる。

 

ドサッ

 

?「.......」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心がカズキと戦闘をおこなっていた頃

 

十六夜達は“フォレス・ガロ”の本拠から多くの旗印を発見し、それを門の前まで持ち帰ってみると既に1000人は超えているであろう群生が門の前に集まっていた。その数に驚きながらも十六夜達は壇上に上がり、群生の前に立つ。すると、代表として一人の男性が俺達の目の前にやって来た。

 

「………あの。先程“フォレス・ガロ”の解散令が出たのですけど………本当なんですか?」

 

代表者が当然の疑問を問いかけてきた。ここで十六夜が答えても意味がないのでジンが答えさせるように促す。

 

ジン「は、はい!“フォレス・ガロ”は現時点で僕達“ノーネーム”とギフトゲームに敗れ、解散しました」

 

「そうですか………ガルドは貴方達が」

 

ジン「はい。人質の件に関しては“階層支配者”にも連絡してあります。“六百六十六の獣”が沽券を理由に元“フォレス・ガロ”のメンバーを襲う事もないでしょう」

 

ジンの発言にざわざわと衆人に声が広がる。だが、歓声のようなものはあまりにも少なかった。それどころか人質が殺されたという事実に泣き崩れている者もいる。………予想通りの反応だな。確かに驚異は消えたが、“フォレス・ガロ”は腐っても近隣で最大手のコミュニティだったからそれが無くなることに不安を感じるのだろう。それに―――。

 

「一つ、とても重要な事をお聞きしたい」

 

ジン「なんですか?お困りなら多少の相談には」

 

「いえ、その………まさか俺達は、貴方達のコミュニティ―――“ノーネーム”の傘下に?」

 

………ああ、予想通りの事が起こったな。経済関係が不安定な“ノーネーム”が上に立たれたらそれは不安にもなるよなぁ。視線をジンに移すと表情が強張っていて返答に詰まっているようだ。

すると、十六夜がジンの肩を後ろから抱き寄せ、衆人に対して高らかに宣告する。

 

十六夜「今より“フォレス・ガロ”に奪われた誇りをジン=ラッセルが返還する!代表者は前へ!」

 

一斉に衆人の視線の的となる十六夜達。十六夜はジンの背中を叩いて前に出させる。衆人は未だ頭がついて行けていないのか呆然とする。そんな衆人に対して十六夜がらしくない尊大な物言いで叫びだす。

 

十六夜「聞こえなかったのか?お前達が奪われた誇り―――“名”と“旗印”を返還すると言ったのだ!コミュニティの代表者は疾く前へ来い!“フォレス・ガロ”を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前達に返還していく!」

 

「ま、まさか」

 

「俺達の旗印が返ってくるのか………!?」

 

衆人は身内同士で顔を見合わせながら、ジンの前に一斉に雪崩れ込む。小さなジンを押しつぶしてしまいそうな人の群れに、十六夜が一喝と同時に地面を砕く程の足踏みで起こった衝撃波で押し返す。

 

十六夜「列を作れと言っただろうが!統率を取る気ないなら返還の話を無しにするぞ!それが嫌ならさっさと行動しろ!」

 

「は、はひぃ!」

 

十六夜の威圧感に怯えてかすぐさま列を作りだす衆人。列を並び終わるのを確認すると十六夜は語調を戻してジンに耳打ちをする。

 

十六夜「流れは作った。手渡す時に、しっかり自己主張するんだぜ?」

 

十六夜「堂々としてろよ?今の連中はお前のことを救世主と見てるだろうしさ。だから、頑張れよ」

 

ジン「わ、分かりました」

 

そう言い終わると十六夜達は飛鳥達の元に向かった。衆人の脇で見ていただけの三人だが、飛鳥は俺達の企んでいることを察したのかニヤニヤと笑みを浮かべており、黒ウサギと耀は分からずに不思議そうに首を傾げている。

 

飛鳥「面白いことを考えているようね?」

 

十六夜「さて、なんの事かなお嬢様。」

 

悪戯が成功したように笑顔を交わす2人。黒ウサギと耀は十六夜達のやり取りに更に疑問符を浮かべるのみだった。流石に二人だけ蚊帳の外なのは可哀想なのでヒント程度は教える。

 

十六夜「ヒントを言うと、今回のギフトゲームは何の利益もないゲームだったが、俺らはいつか必ず有利になる物を手に入れたってことだ。分かるか?」

 

 

「「………?」」

 

 

どうやら分からないようだ。そんな二人を見て苦笑いを浮かべながらジンや衆人がいる方向に視線を移す。次々と返還されていく旗印。狂喜して踊り回る者、旗を掲げ走り回る者、失った仲間の名前を泣き叫ぶ者までいた。その光景を見て十六夜はこの世界においてはコミュニティの名と旗印は何物にも変えられない代物だと確信する。最後のコミュニティに旗印を返還し終えたジンに十六夜が立ち寄っていく。

 

しかし、

 

耀(ゾクッ)

 

耀(何?)

 

耀は悪寒の様な胸騒ぎを感じた。原因や根拠はないが、何かよくない事が起こっている様な不安を感じる。

 

飛鳥「どうかした?」

 

耀「ううん、なんでもない」

 

飛鳥「顔色悪いわよ」

 

耀「大丈夫。」

 

飛鳥「そう...。無理しちゃダメよ」

 

耀「うん」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

フォレス=ガロからノーネームへの帰り道

 

十六夜「どうしたんだよ。そんな早く歩かなくたって、ちゃんと帰れるぞ〜」

 

耀「うん」

 

黒ウサギ「耀さんどうしたのでしょう?」

 

十六夜「剣心の事が心配なんだろ。」

 

耀「そ、そんな事はない!」

 

耀は顔を赤くして、カンガルーのギフトで十六夜を蹴る。

 

十六夜「ちょ!」

 

十六夜(そこまで、するか?こりゃ重症だな)

 

無言で十六夜に蹴りをかます耀。しかし、次の瞬間、赤い顔を今度は青ざめさせる。

 

剣心がノーネームの屋敷の前で、血の水溜りを作り倒れていた。

 

耀「剣心!!」

 

耀が悲鳴の様な声をあげ走っていく。

 

耀「剣心!剣心!」

 

耀が叫びながら揺らすが反応がない。

 

耀「どうしよう。剣心が!剣心が!」

 

十六夜「落ち着け!おい、御チビ!治癒のギフトはないのか?」

 

ジン「黒ウサギが持っています」

 

耀「黒ウサギお願い!」

 

黒ウサギ「わ、わかりました!」

 

耀の剣幕はとても凄まじく、涙を流しながら有無を言わせないほどに強引だった。

黒ウサギも、そんな耀に若干引き気味であったが、剣心の容態が一刻を争う状態なため、特に抵抗する事なく、剣心を連れていたった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心の寝室

剣心は布団に寝かされ、耀が看病しているが未だに剣心は目覚めない。

 

耀「.....」

 

剣心「ぴくっ」

 

耀「剣心⁉︎」

 

剣心の意識が戻りかけ、耀が剣心に声をかけた瞬間

 

耀「!」

 

耀の首に剣心が刀を添えて、睨みつけていた。耀は恐怖で冷汗を流し、動けない。

 

そして、逡巡して剣心が耀だと気付くと咄嗟に耀を突き放し、刀を収める。

 

剣心「はあ、はあ、はあ」

 

剣心「すまない。」

 

耀「.....」

 

耀は言葉を発さない。いや、発せない。

 

剣心「どうやら、俺は此処にはいれそうにない。このコミュニティを護ると言っておきながら、この様。いつか本当に君達を斬ってしまう。だから、黒ウサギには、申し訳ないg」

 

耀「大丈夫。」

 

耀が剣心の手を握る。

 

耀「大丈夫....大丈夫。大丈夫だから」

 

耀の眼に強い覚悟が宿る。

 

耀「大丈夫。此処は剣心の居場所。此処なら誰もあなたを襲わない。安心して寝てもいいんだよ。」

 

耀は剣心がここまで、追い詰められているとは、知らなかった。

 

耀(剣心が護ってくれるから大丈夫だと甘えていた自分を殴りたい。剣心は静かでどこか達観しているところはあるが、それでも16歳。自分達と同じだ。なら、せめて私がいる時くらいは安心して寝れるようにしてあげたい。)

 

剣心「ありがとう」

 

耀「う、うん/////」

 

剣心が微笑む

 

剣心「俺は斬らない。どんな事があろうと君だけは絶対に斬ったりしない...君だけは...絶対に...」

 

耀「そう。ありがとう」

 

今度は耀が笑う

 

そのあと、剣心は耀達がいなくなったあとの出来事を話した

 

そして、かなり夜も更けてきた所で

 

剣心「そろそろ、耀も寝たらどうだ。俺は大丈夫だ。俺ももうすぐ寝る。」

 

耀「わかった。じゃあ、明日ね。おやすみ。あまり無理しないでね。」

 

剣心「ああ、おやすみ」

 

そして、耀は剣心の部屋を出て行く。

 

剣心「.....」

 

耀を見送り剣心は、そのまま布団へは行かずに部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

十六夜「そういえば昔の仲間が景品に出されるギフトゲームはどうなった?」

 

その後、十六夜と黒ウサギは本拠地へと戻ってギフトゲームの詳細を聞こうと黒ウサギに尋ねると、十六夜と剣心がそのゲームに出ることに歓喜したが、一転して泣きそうな顔になった。

 

十六夜が訳を聞くと、そのゲームが延期になるらしい。何でもギフトゲームに出される筈の商品に買い手がついたとかで中止になる可能性もあるそうだ。

 

十六夜「どうにかならないのか?」

 

黒ウサギ「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

十六夜「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。"サウザンドアイズ"は巨大なコミュニティじゃなかったのか? プライドはねえのかよ」

 

黒ウサギ「仕方がないですよ。"サウザンドアイズ"は群体コミュニティです。白夜叉様のような直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は"サウザンドアイズ"の傘下コミュニティの幹部、"ペルセウス"。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

達観しているように話す黒ウサギだが、顔はくやしさで歪んでいる。当然だ、自分の仲間を取り戻すチャンスがやっと巡ってきたのにこんな形でそれが潰されてしまったのだから。

 

十六夜「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

 

黒ウサギ「そうですね……一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人です。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」

 

十六夜「へえ、女の人なんだ」

 

そういえばまだ"元・魔王"だということ位しか聞いてなかったと十六夜は思い出す。

 

黒ウサギ「それはもうとっても美人で素敵なお方ですよ! 名前はレティシア様、その美貌に加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るのならせめて一度お話ししたかったのですけど……」

 

レティシア「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

窓の方からこの場にいない第三者の声がして、黒ウサギはそちらを振り向く。そこにはコンコンとガラスを叩きながらにこやかに笑う金髪の少女が浮いていた。

 

黒ウサギ「レ、レティシア様!?」

 

レティシア「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。"箱庭の貴族"ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

我に返った黒ウサギが慌てて窓の錠を開けると、金髪の少女は部屋の中へと入っていく。どうやらこの少女が件のレティシアらしい。金髪にリボンを結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た少女はどう見ても黒ウサギが先輩と呼ぶには幼く見える。

 

黒ウサギ「あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!」

 

久しぶりに憧れの先輩に会えたことへの喜びか、黒ウサギは小躍りしながらで茶室に向かった。そんな黒ウサギを見送りながら、十六夜は視線をレティシアと呼ばれる少女に移す。

 

レティシア「どうした? 私の顔に何か付いているか?」

 

十六夜「いいや別に。前評判通りの美人……いや、美少女だと思ってな。目の保養に観賞してた」

 

そんな台詞とは裏腹に真剣に回答する十六夜が可笑しかったのか、レティシアは心底楽しそうな笑い声で返した。そして口元を押さえながら笑いを噛み殺し、上品に装って席に着いた。

 

レティシア「ふふ、成る程。君が十六夜か。白夜叉の話通りに歯に衣着せぬ男だな。そして、そこにいるのが...」

 

そう言って、レティシアが後ろに視線を滑らせるといつの間にか、部屋に入って来ていた。剣心は十六夜の隣に座る。

 

十六夜「ああ、俺の隣に居るのは剣心だ。俺を含めて、ノーネームに新しく入った四人の中でもかなり強いぜ?」

 

レティシア「ほう、君が白夜叉の言っていた緋村剣心か。元・魔王のサウザンドアイズの幹部にただ一人決闘で勝利したと、白夜叉から聞いてるよ。」

 

剣心「……」

 

十六夜「へ〜、あいつそんなに凄いやつだったのか。」

 

レティシアが微笑を浮かべ、剣心を見る。そして剣心の蒼眼と合い、先程の闘いを見て興味を抱いた。

 

レティシア(やはり、あの時感じたプレッシャーは本物のようだな。)

 

箱庭で長い間生きてきたが、殺気だけで周りに破壊をもたらす存在はいなかった。先程の戦闘の際に自分に向けられた殺気を思い出し、冷汗を流す。

 

 

十六夜「どうした? 剣心に見惚れたのか?」

 

レティシア「む、しまった私としたことが……。 いやなに、彼の容姿が良かったものでな。それに、左頬の十字傷も気になってな。」

 

黒ウサギ「皆さーん、紅茶を淹れる準備が終わりました〜。って、剣心さん!もう大丈夫なんですか?」

 

剣心「ああ、心配かけたな。すまないが、緑茶を1つ頼む。」

 

黒ウサギ「はい。畏まりました!」

 

そして、黒ウサギが剣心のお茶も用意し終え

 

黒ウサギ「そういえば、レティシア様はどうしてここへ?」

 

レティシア「いや……用というほどものではない。新生"ノーネーム"の実力がどれほどか見に来た。ジンに合わせる顔がないのは結果として仲間を傷付けてしまったからだよ」

 

レティシアはカップに口をつける。

 

レティシア「今回、私が黒ウサギに会いに来たのはコミュニティを解散するように説得しに来たのだ。コミュニティの再建など……それがどれだけ茨の道なのかお前が分かっていないとは思えなかったからな」

 

図星なのか黒ウサギが黙り込む。

つまりは警告だ。

 

レティシア「そしてようやくお前達と接触するチャンスを得た時……看過出来ぬ話を耳にした」

 

十六夜「それが俺達……ってことか?」

 

今まで黙っていた十六夜が言い当てる。レティシアはそれに頷いて返す。

 

レティシア「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

 

黒ウサギ「結果は?」

 

黒ウサギが真剣な眼差しで問いかける。レティシアは苦笑しながら微笑する。

 

レティシア「ガルドを当て馬にしたのだが、あの二人ははまだまだ青い果実で判断に困る。」

 

レティシア「...だが、そこの者は申し分ない。なにせ、三桁の魔王を連れてきてしまったのだからな。それに私が観ていた事にも、気付いていた様だ。」

 

黒ウサギ「⁉︎ 剣心さんどういうことですか⁉︎ そんな話は聞いてないですよ。もしかして、それであんなに血塗れに」

 

十六夜「俺達の知らないところでそんな面白い事があったのか。」

 

黒ウサギが顔を驚愕に染め、問い詰めてくる。一方の十六夜はニヤリと笑いながら、剣心に視線を向ける。

 

剣心「ガルドが1人プレイヤーを雇ったという話があっただろ。そいつだ。」

 

黒ウサギ「しかし、結局最まで現れなかったじゃないですか。」

 

剣心「お前達が旗を探しに出ていった後に現れた。どうやら、最初から俺目当てだった様だ。そして、ずっと観察しているレティシア殿も俺は、敵だと判断していたが、早計だった様だ。すまない」

 

レティシア「謝罪ならこちらがすべきだ。ガルドを差し向けたはいいが、まさか魔王がいきなりガルドに協力するとは想定外でな。もし、どうしてもダメな時は私が命をかけて、魔王を止めるつもりではいた」

 

剣心「だが、あなたは俺が剣を向けたにもかかわらず、ここまで俺を送ってくれた様だな。感謝する。」

 

レティシア「ここまでの事をしたんだ。当たり前だ。それに手負いでありながら、魔王を退けた。地の速さならお前の方が上回っていた。だが、さすがに剣を向けられた時は、生きた心地がしなかったがな」

 

レティシアが苦笑いをする。

 

レティシア「で、話が逸れたな。結局十六夜の方はわからないが」

 

十六夜「ならよ、試してみねぇか?」

 

レティシア「…………何?」

 

十六夜「実に簡単な話だ。その身で、その力で試せばいい―――どうだい、元・魔王様?」

 

スっと立ち上がる十六夜。その意図に気付いたレティシアは一瞬唖然とするが、先程より弾けるような笑い声を上げる。涙目になりながらも立ち上がる。

 

レティシア「ふふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

黒ウサギ「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

十六夜「ゲームのルールはどうする?」

 

レティシア「どうせ力試しだ手間暇をかける必要もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

十六夜「地に足を着けて立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」

 

二人は笑みを交わし窓から中庭へ同時に飛び出した。




さすがに長すぎですよね。すいません。
今回の敵さんは、武装錬金のカズキとるろ剣の斎藤一、BLEACHの白一護のミックスです。ヴィクターの能力と突き攻撃馬鹿とオサレポエムのミックスです(
笑)
正直、オサレなセリフを言わせたかっただけに登場させたキャラです(笑) このキャラをある程度活躍させるために剣心には、重症を負ってもらいました。
白一護大好きです。はい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ペルセウス編
ペルセウス


互いにランスを一打投擲して、受け手は止められねば敗北という単純なゲーム。レティシアはそれで十六夜の実力を測るつもりのようだ。

 

黒ウサギ「だ、大丈夫なんでしょうか……」

 

剣心「………」

 

黒ウサギが心配するのも仕方が無いだろう。なんせ黒ウサギの先輩であるレティシアは魔王との戦いで勝利した経験の有る実力者だ。この箱庭に召喚されたばかりの十六夜では勝つ見込みは薄いだろう。

だが、剣心はレティシアの力の雰囲気に違和感を感じていた。黒ウサギが語るレティシアは元・魔王という事もあって神格持ちなのは明白だ。しかし当の本人からはその様な神性を感じ取れなかったのだ。隠している可能性も有るだろう。

 

剣心(牙を抜かれた狼)

 

剣心がレティシアを見て最初に感じた印象はそんな感じであった。

 

お互いに身構える二人。黒い翼を展開したレティシアが制空権を支配する。そしてレティシアがギフトカードを取り出し、そこから長柄の武具、つまりランスが現れた。

 

剣心(不味い!)

 

その時点で剣心がレティシアから感じていた違和感は明らかになった。

 

カズキと対峙した時もかなりの"圧"を感じたが、レティシアのランスから何も感じない。

 

レティシアは空を飛び、ランスを構える。

 

放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線へと十六夜に向かって落下していく。その流星の如く大気を揺らしながら放たれた槍の先端を前に十六夜は牙を剥いて笑い、

 

十六夜「カッ―――しゃらくせえ!」

 

十六夜は槍の先端を殴りつけた。槍はあっさりと破壊されてそれは散弾となりレティシアに襲いかかる。彼女も硬直してしまい、このままでは当たってしまう。これが直撃したらただでは済まない。

 

レティシア(これほどとは。だが、これなら任せられる)

 

レティシアは覚悟を決め、目を瞑る。しかし、そこへ剣心はレティシアの元へ跳躍して、抱きかかえ離脱する。

 

レティシア「な、何をする/////」

 

黒ウサギ「……レティシア様、ちょっと失礼します」

 

同じくレティシアを助けようとしてた黒ウサギは確認したいことがあるのかレティシアのギフトカードを掠め取る。記されてあったのは"純潔の吸血鬼ロード・オブ・ヴァンパイア"と武具が幾つかのみ。

 

黒ウサギ「……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

十六夜「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

十六夜は隠す素振りも見せずに舌打ちをする。彼からすれば期待はずれもいいところかもしれない。しかし、彼の言う通り商品とするのであればあまり強くあられては困るからギフトを没収するというのはありえることなのかもしれない。

 

それについては黒ウサギが否定した。

 

黒ウサギ「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い、"恩恵"とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪う事は出来ません」

 

ということは、レティシアが自分からギフトを差し出したという事になる。その本人であるレティシアは二人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら目を逸らす。黒ウサギも苦い表情でレティシアに問いかける。

 

黒ウサギ「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため"魔王"と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……!」

 

レティシア「……それは」

 

レティシアはそこから二の句を告げることができない。言いたくない事情があるのか、そのまま口を閉ざしてしまった。すると、剣心が

 

剣心「黒ウサギ、レティシア殿を頼む」

 

黒ウサギ「はい。剣心さんはどこへ行かれんですか?」

 

剣心「......」

 

剣心は答えずに虚空を見つめている。そしてその眼は、黄金の色に変わる。すると、虚空から色の光が射し込んだ。レティシアはハッとして叫ぶ。

 

レティシア「あの光は……ゴーゴンの威光!? もう見つかったのか!」

 

射し込んだ褐色の光はそのまま四人を襲おうと迫り来る。だが、

 

剣心「.....」

 

剣心が眼に力を籠める。すると光が消え

 

レティシア「?何が起こった」

 

自分が石化していない事に驚くレティシア。そして、上空からバタバタと何かが複数落ちてきた。

 

十六夜「おい、こりゃあ何だ?」

 

剣心「……恐らくあのレティシア殿を所有している者の差し金であろう」

 

ペルセウスの兵達は全員眠っていた。

 

十六夜「……いつから気付いてたんだ?」

 

剣心「……十六夜とレティシア殿が力比べを始めた頃からだ」

 

十六夜「……!」

 

既にあの時から此処に侵入していたとは思わなかった十六夜は驚愕する。

 

剣心「……この者達はどうやら、姿を消す類道具を持っているようだな」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

“ノーネーム”本拠に侵入した兵士達を龍の眼の幻覚で再起不能にした十六夜達は、一先ず“サウザンドアイズ”の支店へと赴く事になった。剣心と耀は後から来るらしい。

レティシアの話によると、この兵士達はコミュニティ“ペルセウス”に所属している者らしい。その“ペルセウス”も“サウザンドアイズ”に属しているコミュニティだとか。そしてレティシアはその“ペルセウス”に所有物として囚われているらしい。

だったら話は早いと十六夜が言い、サウザンドアイズの支店に乗り込んでやろうと言う事になったのだ。レティシアを回収する目論見こそ失敗したが、ペルセウスはノーネームに何かしら言いたい事が有る筈であり、それはノーネームも同じであった。その際に十六夜の計らいで飛鳥と耀も同伴させた。

 

そして3人は現在、サウザンドアイズの門前に到着していた。その支店の前にはあの無愛想な女性店員が待っており、どうやら事情は把握済みの様だった。

 

店員「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

黒ウサギ「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

 

店員「……事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞き下さい」

 

店員の定例文にも似た言葉を聞き憤慨しそうになる黒ウサギだが、ここは我慢だ。店員に文句を言っても仕方が無いし、何よりレティシアはこちら側に匿ってある。ノーネームの敷地に勝手に侵入した“ペルセウス”の兵士達は剣心によって全て撃退されたものだから、怒りも半減している。それでも仲間に手を掛けようとしたペルセウスに対しての怒りは収まらないのだが、この文句はペルセウスのリーダーであるルイオスとやらにぶつけよう。そう思いながら店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に向かう。

そして中で迎えたルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。

 

ルイオス「うわお、ウサギじゃん! 初めて実物見たし! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つうかミニスカにガーターソックスって随分エロいんだな! ねーねー君、ウチのコミュニティに来いよ。 三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ? 」

 

地の性格を隠す素振りもせず、黒ウサギの全身を舐め回すように視姦するルイオス。それに嫌悪感を抱いた黒ウサギは脚を両手で隠し、飛鳥が壁になるよう前に出た。

 

飛鳥「ふぅん、随分と分かりやすい外道ね。でも残念、先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

黒ウサギ「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って何を言っているのですか飛鳥さん!?」

 

ズバリと言い放った飛鳥の黒ウサギ美脚所有宣言。堂々過ぎて一瞬肯定しそうになる黒ウサギ。

それを見ていた十六夜は呆れながらもため息をついて言う。

 

十六夜「そうだぜお嬢様。この美脚は俺達のものだ」

 

黒ウサギ「そうですそうですこの脚は、って黙らっしゃい!」

 

黒ウサギ美脚所有宣言に十六夜も賛同し、またもや肯定しそうになる……訳が無いか。

しかし二度ある事は三度あると言い……

 

白夜叉「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

 

黒ウサギ「売・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目な話をしに来たのに話が進まないじゃないですか! いい加減にしないと黒ウサギも本気で怒りますよ!」

 

十六夜「おいおい馬鹿だな黒ウサギ。怒らせてんだよ」

 

黒ウサギ「うぅううぅうぅう〜!!! こんのおバカ様ああぁあぁあぁあぁあああぁあぁあぁあぁああッッッ!!!」

 

肝心のルイオスは完全に置いてけぼりを食らっている。"ノーネーム"+白夜叉のやり取りを唖然と見つめて、黒ウサギがボケ組をハリセンで叩いた辺りで唐突に笑い出した。

 

ルイオス「あっはははははは! え、何? "ノーネーム"っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうならまとめて"ペルセウス"に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベットで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

 

黒ウサギ「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」

 

ルイオスのセクハラ極まりない言葉に対して黒ウサギはとりつくしまもなく拒否をする。

 

「「てっきり見せ付けるために着てるのかと思った」」

 

黒ウサギ「ち、違いますよ皆さん!これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しにすると言われて嫌々……」

 

一方で白夜叉と十六夜の間には変態同志の奇妙な友情が芽生えていた。話が全然先に進まず黒ウサギは泣く。

 

そして話し合いは再会する。ルイオスが求めてきたのはレティシアの引渡しだ。それに対して黒ウサギは本拠地で"ペルセウス"のメンバーが行った暴挙についての謝罪、もといゲームでの決着を申し出る。

 

黒ウサギ「───ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけましたでしょうか?」

 

白夜叉「う、うむ。ペルセウスの所有物・ヴァンパイアが身勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における石化のギフトによる無差別の攻撃。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

黒ウサギ「結構です。ギフトゲームも無しにノーネームのメンバーごとお構いなしに攻撃するなど、無礼にも程が有ります。ペルセウスに受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」

 

黒ウサギの台詞を聞けば分かる通り、彼女の狙いは両コミュニティの直接対決だ。

当然ながら、レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは捏造だ。しかし彼女を取り戻す為にはこれぐらいの事をしないとなりふり構っていられないのだ。使える手段は全て使わねばならなかった。レティシア自身もそれを承認しているから問題ないだろう。

 

黒ウサギ「サウザンドアイズにはその仲介をお願いしたくて参りました。もしペルセウスが拒むようであれば主催者権限な名の下に」

 

ルイオス「いやだ」

 

ルイオスが唐突に口を開き、そう言った。

 

黒ウサギ「……それはどう言ったおつもりで?」

 

ルイオス「だからいやだって言ってるんだ。ついでに聞くけど、あの吸血鬼はともかく、僕の兵士が其処で暴れ回った証拠があるの?」

 

だがルイオスもコミュニティの長。若いながらもその座に着いた彼は少なくともコミュニティを纏める能力があり、話し合いにしてもこちらを有利に進める交渉術も持ち合わせている。

話し合いの中で最も重要なのは第三者である。裁判においても加害者が被害者に犯罪行為を加えた瞬間を第三者が目撃していれば、それは決定的な証拠となる。第三者が嘘を吐いている可能性も捨てきれないのだが、ありのままの事実を話す割合が高いのも第三者であるのだ。それに加えて証拠品まで揃えば完全に加害者が敗訴となるだろう。

ルイオスは黒ウサギの話に嘘が混じっている事を看破していた。実際に吸血鬼にノーネームを襲えなどと言う命令は下していないし、兵士達には吸血鬼を捕縛しろとしか言っていない。

だが兵士達がそこで暴れ回ったとなれば話は別だ。それが紛れもない事実で黒ウサギ達ノーネームに晒されているのならば仕方のない事だろう。

だがルイオス本人は兵士達が黒ウサギ達を襲った瞬間を見ていない。従って兵士達がそこで暴れ回ったという証拠には確実性が無いのだ。

ルイオスはそこを衝き、黒ウサギを黙らせ逆に此方に引き込む手段を頭の中で確立していた。黒ウサギを引き込む手段としてレティシアと交換する等が有る。絶対的有利は此方に有ると思っていた。

 

だが黒ウサギ達にはその証拠が揃っていた事をルイオスは知らなかった。

 

黒ウサギ「証拠ならあります」

 

ルイオス「……なんだって?」

 

黒ウサギ「剣心さん」

 

剣心「……ああ」

 

剣心と耀がやって来る。そして、2人はそれぞれ兵士達が背負われてた。

 

その光景にルイオスは驚愕した。

 

ルイオス「な、何……!?」

 

黒ウサギ「これだけではありません。この石は石化のギフトで石にされた土と彼等が持っていた旗印です」

 

そう言って黒ウサギの懐から取り出したのは灰色の石とゴーゴンの首を掲げた旗印。それは石化のギフトで一部を石にされた土を削ったものと、剣心によって戦闘不能に追い込まれた兵士達が掲げていた旗印を拝借したものだ。

そして第三者である白夜叉は星霊。この灰色の石を見れば、どのギフトで石化されたのかぐらい簡単に判別出来る。それが理由で石化された石を態々削り取って持って来たのだ。

 

白夜叉「これは……確かにゴーゴンの威光のギフトで石化された石だの」

 

黒ウサギ「その通りです。そしてこれだけの証拠が揃っています。これでも貴方のコミュニティの兵士達が暴れ回った証拠が無いとでも仰るつもりですか?」

 

黒ウサギはハッキリとルイオスに言い放つ。レティシアが暴れ回ったという捏造もルイオスがこの問い掛けをして来るだろうと踏んで巡らせた策だった。つまりルイオスはまんまとその策に乗せられたのだ。

だがルイオスはそれでも余裕の笑みを崩さなかった。

 

ルイオス「ハハハ……成る程ね。ここまで証拠が揃っちゃあ何とも言えないね。参った参った」

 

黒ウサギ「ならば私達とのギフトゲームを受けるという事ですか?」

 

ルイオス「うーん、君達が必死に証拠を集めたのは褒めてあげるよう。だけどそれでも言っておくよ。───いやだ」

 

黒ウサギ「なっ……!」

 

ルイオスは露骨にノーネームとの決闘を拒否した。その言葉に黒ウサギは憤りそうになる。

 

ルイオス「あの吸血鬼は既に箱庭の外のコミュニティに売り払うって決めているんだ。そのコミュニティと既に契約を終えているのに、吸血鬼を賭けてギフトゲームを「ハイします」って言う馬鹿はいないんだよ」

 

黒ウサギ「あ、貴方という人は……!」

 

黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫ぶ。だが黒ウサギにはそれを咎める事が出来なかった。

基本的にギフトゲームはお互いの承認で始まる。それは逆に言えば片方が承認しなければいつまで経ってもギフトゲームが始まらないのだ。そのコミュニティのギフトゲームに挑む挑戦権を用意しているギフトゲームをクリアされたのならば何を言おうとその挑戦を受けなければならないのだが、生憎ペルセウスはそのギフトゲームを最近廃止したばかりだ。故に黒ウサギにはペルセウスにギフトゲームを挑む為の手段が無いのだ。

それが理由で、こうしてお互いに会談を開いたのだが、話は平行線のままになってしまっていた。そしてルイオスはある話を持ち掛ける。

 

ルイオス「そうだねぇ、レティシアを取り返したければ取引をしよう」

 

黒ウサギ「……何ですか」

 

黒ウサギがそれを聞き、ルイオスはとんでもない事を言い出す。

 

ルイオス「なに、簡単な事さ。吸血鬼をノーネームに戻してやる代わりに君が僕のものになれば良いのさ」

 

黒ウサギ「なっ、」

 

ルイオス「僕は君が欲しいし、君を隷属させたい。ま、一種の一目惚れって奴? それに箱庭の貴族という箔も欲しいしね」

 

その条件を聞き、黒ウサギは絶句する。飛鳥もこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声を上げた。

 

飛鳥「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ! もう行きましょう黒ウサギ! こんな奴の話を聞く必要は無いわ!」

 

黒ウサギ「ま、待ってください飛鳥さん!」

 

飛鳥は黒ウサギの手を握ってさっさと出て行こうとする。だが黒ウサギは座敷を出なかった。その瞳には困惑の色が混ざっていた。この申し出に彼女は悩んでいるのだ。

 

ルイオス「ほらほら、君は“月の兎”だろ? 仲間の為に煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ? 君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」

 

黒ウサギ「………っ」

 

ルイオス「ねえ、どうしたの? ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ? 安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!? 箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!? ホラどうなんだよ黒ウサギ

 

飛鳥「黙りなさい・・・・・!」

 

我慢の限界が来た飛鳥が叫ぶ。

ガチン! とルイオスの下顎が閉じ、困惑した。飛鳥の威光の力だ。

 

ルイオス「っ……!? ………!!?」

 

飛鳥「貴方は不快だわ。そのまま地に頭を伏せてなさい・・・・・・・・・・!」

 

混乱しているルイオスを追い込むように体が勝手に前のめりに歪む。

だがルイオスは命令に逆らって強引に体を起こす。飛鳥のギフトを理解した彼は閉じられた口を強引に開いて言葉を紡いだ。

 

ルイオス「おい、メスガキ。そんなのが、通じるのは格下だけだ、───馬鹿が!!」

 

激怒したルイオスは懐からギフトカードを取り出し、光と共に現れた鎌を柄を掴み、それを飛鳥に向けて振り下ろす。

十六夜はそれを見て飛鳥の前に立ちそれを受け止めた。

 

その剣を人差し指て止めた十六夜。それに驚いて思わず後ろに退がるルイオス。互いに一触即発の空気になってしまった。

 

白夜叉「いい加減にせんか戯け共! 話し合いで解決できぬなら放り出すぞ」

 

白夜叉の一喝によって互いは攻撃の手を収める。

 

ルイオスは悪態をつきながらその場に座った。

 

今まで目を閉じて静かにしていた剣心の口が開く。

 

剣心「……レティシア殿に見合ったモノがあれば、ギフトゲームを受けると言ったな」

 

黒ウサギ「剣心さん」

 

沈んでいた黒ウサギは剣心の方を振り向く、剣心の蒼眼は真っ直ぐルイオスを見ていた。

 

ルイオス「言ったけど、それが何?」

 

瞬間、その場は一人の人斬りの放つ強大な殺気で支配されていた。

 

ルイオス「カハッ……!? ァ、ガ……!」

 

その殺気の前に呼吸困難に陥っているルイオス。

 

彼は現在、あまりの重圧に押し潰されその身体は床に這いつくばっていた。それと共に身体の自由を全て奪われ、心臓を鷲掴みされているかの様な感覚に襲われている。それは彼だけでは無く、他の者達も同じ事が言えた。

周りに破壊を振りまく剣気ではなく、方向をコントロールできる殺気なだけましだが、それでもルイオス程ではないが、皆一様に呼吸が上手く続かない状態だった。唯一対応出来ている白夜叉ですら冷や汗が止まらない状態にあった。

 

剣心が放つ強大な殺気にひれ伏しているルイオスは戦慄し恐怖していた。

 

剣心は静かに口を開く

 

剣心「なら俺を賭けの対象にすればいい。力の程なら、白夜叉が説明してくれる。」

 

黒ウサギ「剣心さん!?」

 

白夜叉「なっ、やめんか剣心!」

 

普段なら、ルイオスは鼻で笑って断るが、ここまでの殺気を出せるなら、白夜叉の説明など不要。こんな戦力が加われば、五桁の本拠を四桁にあげることも容易いだろう。それに早くこの殺気から、解放されたかった。

 

ルイオス「わ、わかった。受ける。」

 

剣心の強大な殺気が解かれる。圧迫感と重圧感から解放され、剣心と白夜叉を除く者達は咳き込んだり、その場から動けずにいた。特にルイオスは酷く、殺気が解かれた瞬間に気絶していた。これではギフトゲームどころでは無い。そこで白夜叉が剣心に提案する。

 

白夜叉「……1週間後にギフトゲームを開催する。それなら良いだろう? 今はこの有様じゃからな」

 

剣心「……ああ、すまない。」

 

ゲームは一週間後に"ペルセウス"が指定した内容で行われることになった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ルイオスが浮き足立って帰って行った後、"ノーネーム"はその場に残された。

 

白夜叉「このバカ者!! ……と言いたいところだが、あの局面では仕方ないか」

 

剣心「すまない……」

 

本当はもっといい方法があったのだが、と白夜叉は言おうとしたが無粋なので止めた。あの時の剣心の目には確かな覚悟を見た。

 

黒ウサギはきっかけをつくってくれた剣心に頭を下げて感謝する。

 

黒ウサギ「あの、ありがとうございます。私達のために」

 

剣心「いや、俺が勝手にやったことだ。出過ぎた真似だとは、自覚している。」

 

十六夜「よし、そうと決まればさっそく準備に取り掛かるか」

 

十六夜からすれば初めてのチーム戦に腕がなる。狙いは当然ルイオスだ。

 

飛鳥「要は勝てばいいのよね」

 

飛鳥も自分の"威光"が破られたことに屈辱を感じている。"ペルセウス"に一泡吹かせなければ気が済まないようだ。

 

黒ウサギ「……私は審判しかできませんけど、精一杯サポートさせていただきます」

 

つまり十六夜、飛鳥、剣心、耀、そしてリーダーのジンで"ペルセウス"と戦うことになる。向こうも当然数の差を生かしたゲームを用意することだろう。

 

しかし、黒ウサギは不思議と負ける気がしなかった。

 

"ペルセウス"とのギフトゲームまで後一週間。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1vs 数億

めっちゃ作るのしんどかった((((;゚Д゚)))))))
なのに文字数は少なめ〜


白亜の宮殿の最奥の大広間で玉座に腰掛けているルイオスは、1週間前の悪夢を思い出し内心冷や汗をかきながらも、既に勝った気でいた。何故ならこのギフトゲームではあの悪夢の根源の人斬りを止めてくれる者がいるからだ。

 

昨日の白亜の宮殿にて

 

?「ルイオス・ペルセウスとお見受けする。」

 

ルイオス「な、何者だ?兵隊はどうした!?」

 

?「少し眠ってもらっている。命はとっていない。」

 

ルイオス「ちっ、使えない奴らだな」

 

ルイオス「で、僕に何の用?僕は明日のギフトゲームの準備で忙しいんだ。」

 

?「その明日のギフトゲームについてだ。私も参加させて欲しい。」

 

ルイオス「何だと!」

 

?「邪魔はしない。あくまでもフリーで構わなが、ペルセウスの援護はする。」

 

突然現れて、ペルセウスの見方をすると言いだす。当然信じれるはずがない

 

ルイオス「何が、目的だ?」

 

?「緋村剣心」

 

ルイオス「!」

 

?「奴をこの手で屠る事が、私の目的だ。」

 

ルイオス「どこの馬の骨か知らん奴が、あいつを倒せるとか、本気で言っちゃってるの?君も笑わせてくれるよね。」

 

その瞬間、1週間前に感じた同質の殺気を感じる。

 

?「で、返答は如何様に?」

 

ルイオス「わ、わかった。いいだろう。ただし、俺があいつらを倒すまで絶対に抑えておけよ。」

 

?「言われるまでもない」

 

ルイオス「名前は?」

 

?「白哉だ」

 

男は去る。

 

ルイオス(何て化け物だ。だが精々化け物同士潰しあってくれればいいか。)

 

そして、現在

 

剣心達の目の前にあるのは白い石造りの宮殿。今回のギフトゲームの舞台である白亜の宮殿だ。

 

ルールはゲームマスターであるルイオスを倒すことだが、ホスト側、つまりルイオスを除く"ペルセウス"のメンバーに姿を見られずにルイオスのいる最奥へと到着しなければルイオスの挑戦資格を失ってしまうというもの。

 

十六夜「つまり、ペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

ペルセウスがメドゥーサを睡眠中に暗殺したという伝説がある。立場は逆になるが、今回のゲームはそれを元にしているのだろう。しかしルイオスも馬鹿ではない。戦いの最中に眠るなんてことはまずないだろう。

 

十六夜「誰かが囮になって敵を引き付けないと難しいな」

 

この人数ならルイオスまでたどり着いた頃には二人残っていればいい方かもしれない。おまけに敵は不可視のギフト"ハデスの兜"を持っている。

 

剣心「案ずることはない。俺の"眼"で皆の道は作る。皆は俺について来てくれれば、無事ルイオスの元に届ける事ができる。」

 

飛鳥「その言い分だと、ルイオスの元についた後は、手を出さないって事かしら?」

 

剣心「ああ、今回もそう簡単いかないだろう。」

 

十六夜「ま、流石にお嬢様達には、申し訳ないが、元・魔王の相手をさせるわけにはいかねぇから俺がやるさ。」

 

しかし、十六夜から飛び出した『元・魔王』という言葉に黒ウサギが驚いて問いかけた。

 

黒ウサギ「十六夜さん、まさか箱庭の星々の秘密を?」

 

十六夜「あぁ、もしペルセウスの神話どおりならゴーゴンの生首がこの世界にあるのは不自然になる。あれは戦いの女神・アテネに献上されている筈だからな。にも関わらずやつらは石化のギフトを使うことが出来ている……もし俺の考えが正しいのなら奴の首にぶら下がってるのはおそらく〝アルゴルの悪魔〟だろ」

 

飛鳥「………アルゴルの悪魔?」

 

飛鳥達は十六夜の話を理解出来ず、お互いに見合わせ小首を傾げる。

 

黒ウサギ「い、十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

 

十六夜「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いている時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたって所だ。まあ、時間は1週間もあったし、機材は白夜叉が貸してくれたから難なく調べる事が出来たぜ」

 

黒ウサギ「十六夜さんって意外と知能派でございますね」

 

十六夜「何を今更。おれは生粋の知能派だぞ。」

 

剣心「俺が言ってるのは、その魔王ではないのだがな」

 

耀「?じゃあ、誰なの?」

 

剣心「わからない。だが、今回も俺目当ての刺客が潜んでいるのは確かだ。」

 

十六夜「なら、そっちは剣心でルイオスは俺がやるって事で...」

 

ニヤッと笑いながら、門前に立って十六夜は拳を握り締める。

 

剣心は龍の眼を発動

 

十六夜「さて…それじゃあさっさとルイオスの所まで行くぜ!」

 

握り締めた拳でただぶん殴る。

轟音を響かせ、門をぶち破り突入するのであった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

門を破壊し、中に入った後はかなりスムーズに事が進むことになった。

なにせ敵がでない…というか、剣心の龍の眼の望遠&透視&幻術の3コンボで敵が全員寝ている状態なのでサクサクと進む事ができた。

階段を塞いでいるやつらは全て十六夜か耀がぶっ飛ばしあっというまに最上階までたどり着く。

 

ルイオス「は?お前らどうやって...」

 

十六夜「おいおい、敵も石化の様なギフトを持ってるって考えてなかったのかよ。」

 

ヤハハハ!と笑う十六夜に怒りに顔を歪ませ叫ぶルイオス。

 

ルイオス「ホントに使えない奴らだ!今回の一件でまとめて粛清しないと…まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続出来ているか分かっただろ。自分達の無能っぷりを省みてもらうには良いきっかけだったかな」

 

ルイオスは翼を羽ばたかせ、十六夜たちの目の前に下りてきた。

 

ルイオス「なにはともあれようこそ白亜の宮殿・最上階へ、ゲームマスターとして相手をしましょう………あれ、この台詞をいうのってはじめてかも」

 

今までは騎士達が優秀だったのだろう。

しかし今回は突然の決闘だったうえに十六夜のような例外(もしくは規格外)もいたので仕方がなかったのだろう。

 

十六夜「へぇ?……ま、とやかく言うタイプじゃねえしさっさと始め――――」

 

十六夜が最後まで言い切る前に、横から襲い掛かってきた刃に、剣心が十六夜の前に出て、刀で受け止める。

 

刃を放った主は、黒い着物と袴に白い陣羽織を着て、腰に刀を差し、剣心と同様にマフラーを身に着けている黒髪の男だった。

 

雰囲気や表情や装備までも、そっくりな2人。違うとすれば、陣羽織を着ている事ぐらいである。そんな2人が向かい合う。

 

?「兄が緋村剣心か。」

 

剣心「はて?何の事やら?」

 

?「惚ける必要はない。既にお互いが何者であるかは、お互いわかっているのであるから。」

 

剣心「それもそうだな。」

 

刹那、2人の間に凄まじい殺気がぶつかり合う。

 

剣心「すまないが、俺はこいつの相手をする。十六夜達でルイオスと魔王を頼む。」

 

十六夜「ああ、任しとけ!」

 

飛鳥「ええ、任せなさい!」

 

耀「うん、頑張る」

 

十六夜達はルイオスの方に向く。

 

ルイオス「昨日突然押しかけてきたんだよ、ソイツ」

 

ルイオス「まあ、化け物同士潰しあっててちょうだい」

 

十六夜「よそ見してんじゃねーよっ!」

 

ルイオス「おおっと!」

 

そして、十六夜達の戦闘が始まる。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

キンッ.....キンッ

 

閃光が走る。剣心と白による高速の打ち合い。

 

剣心&白哉(速いな)

 

剣心(さらに速度を上げるか)

 

白哉(私の瞬歩について来るとは。手加減は必要無いな)

 

白哉「さすがだな。今まで数々の敵を屠ってきた事はある。自覚しているか知らないが、箱庭に来て、兄が魂の修復していくにつれて、兄の霊格は肥大化している。」

 

白哉「手加減してすまなかった。ここからは本気でいこう」

 

すると、白哉は刀の切っ先を下に向け手を離す。刀はそのまま地面に吸い込まれる。

 

剣心(なんだ?)

 

白哉「卍解」

 

白哉の後ろから、巨大な千本の刀が現れる。

 

白哉「千本桜景義」

 

千本の刀が分裂し桜の様に輝く。

 

剣心「!?」

 

しかし、

 

?「ra…Ra、GEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaa!!」

 

いきなり、絶叫が響き渡る。最初の冒頭こそ謳うような声であったが、それ以降は何かを狂わせるような不協和音だった。

 

現れた女は全身に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせ叫び続ける。

拘束するベルトを引き千切り声を上げる。

 

すると、上空から岩の大群が押し寄せる。剣心は神速で全てを躱す。

 

白哉の頭上に降ってくる岩は桜によって全て粉塵となる。

 

白哉「あれがアルゴルの魔王か。想像以上に醜悪とみえる。あのルイオスという男、あの様な物を私の視界に入れた事、万死に値する。」

 

勝手にルイオスの処刑が決定される。哀れルイオス。

 

剣心は先程の打ち合い同様に高速で斬りかかる。しかし、白哉の手前で桜の激流に阻まれ、さらに押し返して来る。

 

白哉「千本桜の真髄は、千の刃が分裂する事によってできる数億の刃による全方位攻撃。」

 

剣心(数億の刃による攻防一体の陣を敷く。それが千本桜の能力)

 

剣心は後退しながら考える。

 

剣心(幻覚を使いたいところだが、おそらく通用しないだろう。今までがそうであったし、自分も幻覚を破った事があるからな。『俺達』は皆、何らかの方法で幻覚を破る。)

 

剣心(ならば、俺にできる事は速さで圧倒する事。カズキから得た力は、周りを無差別に襲う故に使えない。)

 

剣心は速度上げて、白哉に迫るが、

 

白哉「図にのるな!」

 

白哉が手をかざす。すると、桜の激流が速度を増す。

 

剣心(くっ。さらに速くなった。これでは付け入る隙が無い。)

 

白哉(手掌で操れば速力は倍。捉えられぬものは無い!)

 

剣心の前後左右、上方の全方位から桜の斬撃が飛来する。

 

白哉(捉えた!)

 

桜が剣心を飲み込もうとした時、剣心は納刀し抜刀術の構えをする。そして、神速を最大にして白哉の後ろに回り込み抜刀する。

 

白哉「!?」

 

ざしゅっ!

 

剣心(浅いか。)

 

白哉は抜刀の直前に回避するが、剣心の刀が掠る。

 

剣心(しかしこれだけやって、やっと一歩とは)

 

そう、白哉は卍解してから一歩も動いていなかった。だが、その均衡もようやく崩れる。

 

再び、睨み合う2人

 

白哉(刹那、完全に見失った。馬鹿な)

 

白哉は剣心の速力に顔を顰める

 

剣心(この"眼"で見て、実際に踏み入ってわかった。やはり、やつの周囲には刃が通ってこない。)

 

剣心は千本桜の無傷圏を見抜く。

 

剣心(やつは俺の剣を刃で防ごうとはせず、体を反らす事で避けようとした)

 

しかし、そこに

 

ルイオス「アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴を殺せ!」

 

アルゴール「RaAAaaa!! LaAAA!」

 

謳うような不協和音とともに白亜の宮殿が黒く染まる。

 

十六夜「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」

 

黒い染みから襲いかかる蛇を模した石柱を避けながら十六夜が呟く。

 

ルイオス「この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ! 貴様にはもはや足場一つ許されない! 貴様ら相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの! このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場はないものと知れ!!」

 

ルイオスの絶叫と魔王の謳うような不協和音。

 

さらに激しさを増す蛇の群れに白哉はぼそりと呟く。

 

白哉「ルイオス。貴様、余程死にたいとみえる。殲景・千本桜景義」

 

ルイオス「え?....グハァ」

 

白哉がルイオスに指を指す。すると、突如虚空から刀3本が出現し、亜音速でルイオスに向かって飛来。そのままルイオスに刺さったかと思えば、刺さった瞬間に爆発。ルイオスの上半身と下半身が分かれる。

 

そして、十六夜が魔王を宮殿ごと破壊する。

 

ルイオスは痛みで顔を歪ませ、泣き喚いている。

 

そこに十六夜が近づく何かを話しているが、ここからでは聞こえない。しかし、ルイオスの顔色はさらに悪くなる。

 

白哉「余所見している余裕などあるのか?」

 

そう言いながら、今度は剣心に向かって刀が飛来していく。

 

剣心「くっ」

 

剣心は飛んで来る刀を1本を弾こうとするが

 

剣心「ぐっ」

 

剣心(何という重さだ)

 

剣心は何とか刀の軌道を反らすが、手の感覚が無くなってしまう。

 

白哉「この姿は防御を捨て、敵を殺す事に全てを捧げた千本桜の真の姿。数億の刃を千本の刀に押し固めた姿。この刀は1本1本が刀数百本分に相当する。」

 

ルイオスが爆発した様に見えたのは、刀数百本の斬撃に、刀数百本の質量と亜音速での攻撃を直撃したためである。

 

そして、

 

剣心の前にギアスロールが現れる。

 

『ゲーム終了ーー

ーー勝者ーー "ノーネーム" 』

 

しかし、白哉の攻撃は止まない。

 

白哉「私はペルセウスの者では無く、あくまでもフリーで参加してるに過ぎない。」

 

白哉「では、そろそろ終わりにしよう」

 

すると、虚空から千本の刀が切っ先を剣心に向けて現れる。

 

剣心(あれを全て放たれば、この周辺一帯が廃墟と化す。)

 

剣心(あれを使うしかないか)

 

剣心は十六夜達全員に幻覚をかける。しかし、十六夜には効かなかった。だが、時間がないので、幻覚の中で皆にこれから起こる事を説明する。そして、

 

剣心(生体吸収)

 

カズキが使っていた能力。超人的な回復力と飛行能力を有する。しかし、剣心はカズキの様な赤銅の皮膚は使えない。

 

この能力のメリットでありデメリットであるのが、周りの生物から生命力を無差別に吸収し続ける能力を持っている。この能力は常時能力なのでON/OFFがきかない。白哉の生命力はもちろん、十六夜達にも被害が及ぶ。因みに再生能力は手足が吹っ飛ぶくらいなら簡単に再生する。脳が破壊されても再生可能。弱点は心臓。

 

白哉「!?」

 

十六夜達「うっ」

 

白哉(これは不味いな。早く終わらせる)

 

白哉「殲景・千本桜景義」

 

千本の刀が剣心に迫る。剣心は神速をもって、回避する。さらに飛行能力も駆使して縦横無尽に駆け回る。

 

しかし、剣心が躱す度に地面にどんどん巨大なクレーターができ、十六夜達にも被害が及ぶ。

 

十六夜「オラァ!」

 

飛来して来た、1本を十六夜が殴って反らす。

 

十六夜「チッ、こんなのが千本も飛んで来るのかよ。冗談きついぜ!」

 

だが、弾幕の数が多い。十六夜だけではこの爆撃から皆を守りきる事は難しく、6本反らす事が出来ずに飛鳥に向かって飛んでいく。

 

飛鳥「!」

 

亜音速で飛んで来る物体に飛鳥が反応できるはずが無く、耀が飛鳥の前へ飛び出る。

 

耀(ここは命をかけて、飛鳥を守る)

 

だが、さらに耀よりも前に飛び出す影があった。

 

耀「剣心!」

 

そして、爆発する。煙がやがて晴れていき、

 

剣心「大丈夫だ」

 

剣心は1本を逸らし、もう1本を左腕で受け止め、残りを身に受けてしまった。左腕は吹っ飛び、体には4本刺さっている。

 

耀「剣心!」

 

耀が悲鳴の様な声を上げる。

 

剣心「大丈夫だ。」

 

だが、すぐに剣心の左腕が再生され、刀を抜くと忽ち傷がふさがる。

 

飛鳥(なんて様。私が足手まといだわ。)

 

そして飛鳥は周りを見渡し、原型をとどめていない白亜の宮殿を見て顔を青くする。

 

白哉「その力、少々の傷程度では絶命しないのか。ならば、1撃で屠ればいいだけの事。殲景を受けて、立っていた者は兄が初めてだ。私も兄の力でもう何度も剣を振るう力は残っていない。ならば、せめてもの礼として次の1撃受けるがいい。」

 

剣心は十六夜に目を合わせる。

 

剣心「.....」

 

十六夜「へっ、安心しろ。俺が命懸けでみんなを守ってやるよ。その代わりこれが終わったら、俺と少し遊ばせろ。」

 

十六夜の言葉を聞き、剣心は目を閉じ薄く笑う。

 

剣心「俺も今まで闘ってきた者の中で、そなたは間違いなく1番強かった。俺も礼として奥義をくれてやる。」

 

剣心はマフラーを外し、右手に刀ごと括る。そして、納刀し抜刀術の構えをとる。

 

白哉の周りの桜が白に染まり、集まって1本の刀を作る。

 

白哉「終景・白帝剣」

 

白哉「この刀は千本桜の数億の刃を1本に固めた刀だ。この1本には数十万本の刀が集められてるものと思え。この一振りは、森羅万象の全てを破壊し斬り刻む。これで、幕引きとする。」

 

そして、2人が駆け出し交差する。

 

剣心「飛天御剣流ー 天翔龍閃!」

 

白哉「終景・白帝剣!」

 

超神速の抜刀術と破壊の突きが交差する。

 




BLEACHの朽木白哉かっこいいですよね!最後の方は、Fateの英雄王成分も詰まってたかも(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千本桜

最近疲れが〜orz


剣心と白哉はお互いに背を向けている。2人の間には何もない。そう"何も"。

ここが、白亜の宮殿があった場所だなんて誰が信じようか。ルイオスとアルゴールは一瞬で蒸発し、残りの者は十六夜が何とか庇って助かった。白亜の宮殿は完全に更地となった。

 

黒ウサギ「こ、これは!これではまるで」

 

ジン「僕達の土地と同じじゃないか!」

 

そして、

 

ざしゅっ!

 

剣心と白哉の2人の体から血飛沫が舞う。

 

白哉「兄の勝利だ。」

 

白哉「千本桜だ。受け取るがいい」

 

剣心「......」

 

白哉はピンクの炎になって消え、そこには1本の刀が突き立っていた。

 

そして、剣心も倒れた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

白夜叉「ふむ、よきかなよきかな」

 

傘下である"ペルセウス"が"ノーネーム"に倒されたというのに白夜叉はご機嫌だった。それもその筈、ルイオスの行動には少々どころではないレベルでやりすぎていた部分があったからだ。これを期に心を入れ替えて真面目に働くようになるだろう。

 

あれから、剣心は比較的早く回復し、レティシアは無事"ノーネーム"へと正式に戻ることが決定。恩義を感じたレティシアは"ノーネーム"メンバー達のメイドとなることを買って出てしまったのだった。ちなみに十六夜:剣心:飛鳥:耀:黒ウサギ=2:2:3:2:1の取り分となっている。飛鳥の取り分だけ微妙に多いのはジャンケンの結果だ(剣心は最初から辞退していた)。黒ウサギはレティシアが戻って嬉しい反面、箱庭の騎士がメイドにジョブチェンジしたことを嘆いていたのだった。

 

白夜叉「おんし、またギフトが増えたのか。ほれ、もう一度ギフト鑑定してやろう」

 

そして、剣心の前にギフトカードが現れる。

 

色のカードに緋村剣心・ギフトネーム"飛天御剣流"、"龍の眼"、"全刃刀"、"生体吸収"、"千本桜"

 

白夜叉「ふむ、2つ増えたようじゃな。しかし、どのギフトも単体ですでに魔王級のギフトばかり。それをこれだけ集めるとは、おんし、一体何者じゃ?」

 

十六夜「さーて、説明してもらおうじゃねーか。」

 

耀「剣心の世界も聞きたい」

 

飛鳥「仲間なんだから、しっかり説明してもらうわよ!」

 

問題児3人に詰め寄られる。

 

剣心(いずれは聞かれる事だとは思っていたがな)

 

剣心は内心でため息をつく。

 

剣心「わかった。まず、最初に何者であるかについてだが、正直俺にもわからない。」

 

飛鳥「あら、どういう事?」

 

剣心「そのままの意味通りだ。なぜか俺と同じ存在が引かれ合う様に出会い、それが、『同じ』である事がわかる。そして、白哉が言っていた事だが霊格が肥大化しているらしい。」

 

黒ウサギ「それは確かに私も感じていました。剣心さんの霊格は神格には及びませんが、かなりものです。原因はおそらく剣心さんの言った様に、魂の融合だと思われます。」

 

十六夜「ふーん、結局あんまりわからずじまいか。」

 

耀「で、剣心って元の世界で何をしていたの?」

 

剣心「......」

 

耀「剣心?」

 

剣心「俺は元の世界では、暗殺をしていた。」

 

剣心の言葉により空気が暗くなる。

 

剣心「俺は生まれは京都の山中だが、長州藩に所属し、幕府の要人を暗殺する仕事をしていた。今はそれしか言えない。」

 

剣心の顔が悲しみに染まる。耀はそれを見て後悔する。

 

耀(私は剣心の事を知りたかっただけなのに、こんな顔をさせるつもりじゃなかったのに)

 

耀「ごめん...なさい」

 

剣心「いや、いい。俺こそあまり話せなくて、すまない。」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その日の夕方から、黒ウサギの提案で"ペルセウス"戦の祝勝会とレティシアが帰ってきた記念にパーティーが行われることになった。

 

"ノーネーム"もあまり食糧が潤沢にあるわけでもない。実際少し無理をしている方だとは思われるが、めでたいことだし、こういうのもたまにはいいことなのかもしれない。

 

黒ウサギが乾杯の音頭に子ども達が歓声を上げてパーティーが始まった。

 

黒ウサギ「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

その場の全員が料理に手を伸ばす手や談笑する口を止めて満天の星空を見上げる。都市部ではお目にかかることはまずない綺麗な夜空だ。

 

空に輝く星々に異変が起きたのは、注目を促してから数秒後だった。

 

 一つ星が流れた。

 

それは次第に連続し、すぐに全員が流星群だと気が付いて、歓声を上げた。

 

「凄い、流れ星だ!」

 

見事な流星群に歓声を上げる。

 

黒ウサギ「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

「「「え?」」」

 

どうやら今回"ノーネーム"に敗北したことで、"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"から追放され、夜空に浮かぶあの旗印ペルセウス座も星々から降ろすことになったらしい。旗にはああいった種類のものもあるようだ。

 

とてつもなく大掛かりな事柄に十六夜達は絶句する。ここ数日で様々な奇跡を目の当たりにした彼らだが、今度の奇跡は規模が違う。

 

「今夜の流星群は"サウザンドアイズ"から"ノーネーム"への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

剣心は少し離れたところで1人、酒を飲んでいた。剣心は元々騒がしいのは苦手である。

 

剣心は流れ星を見ながら、己の師匠の言葉を思い出す。

 

 

 

 

「春には夜桜 夏には星 秋に満月 冬には雪

それで十分 酒は美味い

それでも不味いんなら それは自分自身の何かが病んでいる証だ。」

 

 

 

 

 

剣心「美味い」

 

人斬りの時代は血の味しかしなかった酒。巴と飲むようになってから、久々に美味いと感じる酒。そして、今も尚美味いと感じる酒を飲める事に幸せを感じる。

 

黒ウサギ「ふっふーん。驚きました?」

 

黒ウサギがピョンと跳んで十六夜たちの元に来る。黒ウサギはしてやったりなドヤ顔をしていた。

 

十六夜「やられた、とは思ってる。世界の果てといい、水平に廻る太陽といい……色々と馬鹿げたモノを見たつもりだったが、まだこれだけのシショーが残ってたなんてな。おかげ様、いい個人的な目標も出来た」

 

黒ウサギ「おや?なんでございます?」

 

十六夜「あ・そ・こ・に、俺達の旗を飾る。……どうだ? 面白そうだろ?」

 

ペルセウス座が消えた夜空を指差し、十六夜は笑う。

 

黒ウサギも弾けるような笑顔でそれに賛同した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ペスト戦
火龍生誕祭


あの"ペルセウス"とのゲームから約一ヶ月が経過。

 

何事もない日々が続いていた。

 

十六夜たちはあれからもギフトゲームをしていたが、あの時のような刺激はしばらく味わっていない。剣心は刺激を求めているわけではなかったが。剣心は傷を癒すために安静にしている事の方が多かった。

 

そんな日々も今日この瞬間で終わりを告げた。

 

黒ウサギ「な、───……何を言っちゃってんですかあの問題児様方ああああああああああ───!!!」

 

───髪色を緋色に変色させた黒ウサギが手紙を持つ手をわなわなと震わせながら悲鳴のような声を上げていた。

早朝から黒ウサギの絶叫が辺り一帯に響き渡り、彼女の側にいた狐耳の幼い少女がびくりと身体を震わせる。もう一人黒ウサギの側にいたレティシアも苦笑と共に溜息を吐いていた。

 

 

 

 ノーネームは今日も平常運転である。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

数分後。

 

剣心「……どうした?」

 

黒ウサギ「あっ、剣心さんっ」

 

黒ウサギが絶叫した原因を知るべく尋ねる剣心。その声を聞き黒ウサギが振り返った。そして黒ウサギが事の発端を伝える。

黒ウサギ曰く、問題児達からリリを伝ってこんな手紙が渡されたようだ。

 

『黒ウサギへ。

  北側の四○○○○○○と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

  貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアと剣心もね。

  私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合三人ともコミュニティを脱退します・・・・・・・・・・・・・・・・。死ぬ気で捜してね。応援しているわ。あと、剣心使うのは無しで。速すぎて卑怯だわ。まあ、春日部さんにならいいんじゃないかしら。

  P/S ジン君は道案内に連れて行きます』

 

剣心「.....」

 

これにはさすがに剣心も内心頭を痛める。サウザンドアイズと言った大規模コミュニティならば戦力の一つや二つが抜けようとも問題無いが、この弱小コミュニティでは一つの戦力が抜けるだけで超が付く大打撃である。それに加え、このコミュニティは彼ら問題児達が要なのだ。サボタージュするのならまだしも、脱退など以ての外。黒ウサギが怒り心頭なのも当たり前である。

 

剣心「此処に十六夜達は居ない様だな」

 

黒ウサギ「はい……。子ども達も捜索を手伝ってくれましたが、居ないみたいです」

 

手紙を読んで絶叫した後の黒ウサギとレティシアの行動は迅速だった。二人は農園跡地から戻り十六夜達がコミュニティの領地内にいないかを確認。最後に鍵を持って下りた黒ウサギは資金が入ってある宝物庫へ。レティシアと年長組の子ども達は建物内の捜索を行った。剣心はその様子を見ているだけ。

しかし結果は発見ならず。益々心労が増した黒ウサギの所へ剣心がやって来たのである。そして黒ウサギが事情を説明するにまで至る。

 

剣心「……資金を使われた形跡は?」

 

黒ウサギ「それも有りませんでした。ですが、皆さんの自腹で境界壁アストラルゲートまで向かえる筈がございません! 上手くすれば外門付近で捕まえる事が可能かも知れません!」

 

レティシア「なら黒ウサギは先に外門へ急げ。万一捕まえられずとも、“箱庭の貴族”であるお前なら境界門の起動に金は掛からない。私と剣心は後で追う。招待状を出したのが白夜叉ならば、サウザンドアイズの支店に行けば無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もあるからな」

 

やり取りを終え、黒ウサギとレティシアは行動を確認し合い、頷く。

特に黒ウサギの瞳には、かつて無い程の怒りの火花が散っていた。

 

黒ウサギ「あの問題児様方……! 今度という今度は絶対に!! 絶対に許さないのですよーーーッ!!!」

 

緋色の髪に染まった黒ウサギの周りは怒りのオーラで満ち、本拠に出るや否や、今までとは遥かに違う速度で爆走して行った。

 

レティシア「それじゃあ、私達もサウザンドアイズの支店に行くぞ。」

 

剣心「ああ」

 

そして、

 

 

 

 

黒ウサギ「ふ、ふふ、フフフフ………! ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」

 

緋色の長髪を戦慄かせ、怒りのオーラ全開の黒ウサギがいた。

 

 

 

そして彼女の怒りの鉾先には問題児達。危機を感じ取った三人は逃走を図る。

 

十六夜「逃げるぞッ!!」

 

黒ウサギ「逃がすかッ!!」

 

飛鳥「え、ちょっと、」

 

十六夜は隣にいた飛鳥を抱きかかえ、展望台から跳躍して飛び降りる。耀も旋風を巻き上げて空に逃げた。

 

十六夜達を追う為に展望台から跳躍する黒ウサギ。跳躍した衝撃が風となって剣心達を通り抜ける。

 

剣心「………」

 

レティシア「はは……」

 

その一部始終を見ていた剣心達は呆気に取られていたのだった。

 

レティシア「では、我々は別行動で追跡していけばいいか?」

 

剣心「ああ」

 

レティシア「なら、剣心は耀を追え。耀なら剣心は追いかけていいそうだからな。」

 

そう言うと、レティシアは飛んでいった。

 

剣心は上空のある一点を見つめる。そして、

 

耀「きゃ!」

 

一瞬で現れた剣心にお姫様だっこされる。

 

剣心「......捕まえたぞ。」

 

耀「う、うん/////」

 

耀は顔を赤くする。

 

剣心「今から白夜叉の所に連れて行く」

 

耀「う、うん/////」

 

剣心「.....聞いているのか。」

 

耀「え?あ、はい/////」

 

剣心(なぜ急に敬語になった?)

 

剣心「ならいい。」

 

そう言って、白夜叉の元へ行く。

 

白夜叉は剣心達を見て、

 

白夜叉「若いっていいの~。私もあと10年若ければ……あんま変わらんか」

 

それを白夜叉はニヤニヤと見つめていた。

 

剣心は相変わらず無言で無表情だが、耀は白夜叉を睨みつけていた。

 

白夜叉「カカカッ、まあそう怒るでない。少し話したいこともあるし中へ入れ。茶くらい出すぞ」

 

白夜叉に促されて先程までいたサウザンドアイズ旧支店まで戻る。

 

そこで耀は出された茶を啜りながらことの経緯を二人へと説明した。

 

白夜叉「ふむ、なるほど。しかし脱退とは穏やかではない。ちょいと悪質ではないか?」

 

耀「で、でも黒ウサギもお金がないことを説明してくれたら、私達だってこんな強硬手段に出たりしなかった」

 

耀は珍しく拗ねたような口調で話す。要は信頼の問題なのだ。

 

白夜叉「そういえばおんし、髪を染めたのか?」

 

耀「私も思った。」

 

剣心は箱庭に召喚された時は、黒髪だったが、今は赤毛になっている。

 

剣心「元々こういう色だったが、暗殺の仕事の関係上、あまり目立つ特徴は消しておきたくて、黒染めしていた。」

 

剣心がまた、表情が暗くなる。

 

耀「そ、そういえば大きなギフトゲームがあるってさっき言ってたよね?」

 

白夜叉「そ、そうじゃな。まだ説明しておらんかったの」

 

強引に話題を変える2人。

そう言って白夜叉は先程のチラシとそれとは別のチラシ。

 

耀の前に出されたのは"造物主達の決闘"というギフトゲームについて記載されているチラシ。参加資格は創作系のギフトを所持していること。

 

戦いの内容はその都度決まるというものだった。

 

白夜叉「"生命の目録ゲノム・ツリー"。この恩恵であれば力試しのゲームも勝ち抜けると思うのだが……」

 

勿論勝者への恩恵は強力なものを用意していると付け足す。

 

耀はあまり興味なさそうであった。

 

 ――――だが、ふと何かに思い立ったようだ。

 

耀「ね、白夜叉」

 

白夜叉「なにかな?」

 

耀「その恩恵で……黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

幼くも端正な顔を、小動物の様に小首を傾げる耀。それを見た剣心と白夜叉はやや驚いた顔を見せたが、次の瞬間暖かな笑みで白夜叉が答える。

 

白夜叉「出来るとも。おんしがそのつもりがあるのならの」

 

耀「……そっか。それなら、頑張らなきゃ」

 

剣心も普段の無表情にしては、珍しく眼に暖かさが篭っていた。

 




戦闘描写がないとコンパクトに収まる。つまり、戦闘描写は苦手という事(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王襲来の兆し

剣心と三毛猫は耀のギフトゲームの予選を観ている。

 

耀は特に苦戦する事も無く、無事予選突破した。

 

観衆の声が止む中、柏手を打った白夜叉が声を上げる。

 

白夜叉「最後の勝者は“ノーネーム”の出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームルールは…… ふむ。ルールはもう一人のホストにて、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

白夜叉が振り返り場を開けると、僅かに緊張した面持ちの少女が前に出てくる。

 

少女に白夜叉が少し言葉をかけると彼女は大きく深呼吸し、凛とした声音で挨拶を始める。

 

サンドラ「ご紹介に与りました、北のフロアマスター・サンドラ=ドルドレイクです」

 

剣心(ジン同様、まだまだ未熟な頭のようだ。これから、どう成長していくか。)

 

サンドラの言葉を聞き流しながらそんなことを考えていると、ふとこちらを見ていた白夜叉と眼が合う。

 

意味深な笑みを浮かべている白夜叉に首をかしげると愉快そうに扇子を開く

 

剣心は言い知れぬ悪寒を感じた。

 

大会終了後剣心は白夜叉に連れられ運営本陣営の謁見の間へと来ていた。

 

そこにはすでに黒ウサギと十六夜の姿があった。

 

白夜叉「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

 

十六夜「ああ、ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」

 

黒ウサギ「胸張って言わないでくださいこのお馬鹿様!!」

 

黒ウサギのハリセンが十六夜を勢いよく叩く。その光景を見たジンが痛そうに頭を抱える。

 

マンドラ「ふん! “ノーネーム”の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな! 相応の厳罰は覚悟しているか!?」

 

白夜叉「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」

 

白夜叉がマンドラを窘めているとサンドラが声をかけてきた。

 

サンドラ「“箱庭の貴族”とその盟友の方。此度は“火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。負傷者は奇跡的になかったようなので、この件に関しては私からは不問とさせていただきます」

 

それに対し、小さく舌打ちするマンドラ。そして十六夜が意外そうに声を上げた。

 

十六夜「へぇ。太っ腹なことだな」

 

剣心(そう思うなら、なぜ壊した。だいたい走るだけで時計塔が壊れるとは、一体どうゆうことだ?)

 

そう呟いているといつの間にか周りにいたサラマンドラの同士がこの場からいなくなっていた。

 

サンドラ「ジン、久しぶり! コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」

 

人がいなくなったことでサンドラは硬い表情と口調を崩しジンに駆け寄る。

 

ジン「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」

 

ジンも笑顔でサンドラに話しかける。

 

サンドラ「本当はすぐに会いに行きたかったけど、お父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」

 

ジン「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになってたなんて―――」

 

マンドラ「そのように気安く呼ぶな! 名無しの小僧!!」

 

 

ジンとサンドラが親しく話していると、獰猛な牙をむき出しにしたマンドラが帯刀していた剣をジンに向かって抜く。その刃がジンの首筋に触れる寸前

 

キン

 

マンドラの剣の刀身が丸々無くなる。

 

マンドラ「なっ!」

 

カチッ

 

音の方に視線を向けると、剣心が刀を収めていた。そして、左手にマンドラの剣の刀身が親指と人差し指でつままれていた。

 

白夜叉(抜刀から納刀までの流れが全く見ないとはの)

 

白夜叉が冷汗をかく。

 

十六夜「おい。止める気なかっただろオマエ」

 

マンドラ「当たり前だ! サンドラはもう北のフロアマスターになったのだぞ! 誕生祭も兼ねたこの共同祭典に“名無し”風情を招き入れ、恩情をかけた挙句、馴れ馴れしく接されたのでは“サラマンドラ”の威厳に関わるわ! この“名無し”のグズが!」

 

白夜叉「これ!止めんか!」

 

白夜叉「まずは私の話を聞け」

 

柏手を打ち視線を集めると一枚の封書を取り出す。

 

白夜叉「この封書に、おんしらを呼びだした理由が書かれておる」

 

十六夜は封筒を見る。

 

黒ウサギ「十六夜さん?何が書かれているのです?」

 

十六夜「自分で確かめな」

 

十六夜の手から手紙を取ると、黒ウサギに渡す。

 

 そこには只一文、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

『火龍誕生祭にて“魔王襲来”の兆しあり』

 

 

 

 

 

黒ウサギ「……なっ」

 

黒ウサギは絶句した後、うめき声のような声を漏らす。次に確認したジンも同様の反応だ。

 

十六夜「正直意外だったぜ。てっきりマスターの跡目争いとか、そんな問題だと思ったんだがな?」

 

マンドラ「なに!?」

 

白夜叉「謝りはせんぞ。内容も聞かずに引き受けたのはおんしらだからな」

 

十六夜「違いねぇ」

 

十六夜が肩を軽くすくめながら肯定する。

 

十六夜「で、俺たちに何をさせたいんだ? 魔王の首を取れってんなら喜んでやるぜ」

 

獰猛な笑みを浮かべて尋ねる十六夜に愉快そうに眼を細める白夜叉。

 

白夜叉「まずはこの封書だが、これは“サウザンドアイズ”の幹部の一人が未来を予知した代物での」

 

十六夜「未来予知ねぇ。で、その信憑性は?」

 

白夜叉「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

 

十六夜「なるほど、よくわかった。それじゃあ、もうすでに犯人も犯行も動機も全部わかってるんじゃないのか?」

 

十六夜の言葉に全員の視線が向き、すぐに白夜叉へと向けられる。白夜叉は何も答えず只口元を扇子で隠すだけだ。

 

十六夜「……なるほど。そいつは口に出すことが出来ない立場の相手ってことか」

 

理解した十六夜の言葉にジンがハッとしてサンドラを見た。どうやら何かしら嫌な予想が立ったらしい。それを聞きながら剣心は白夜叉を見た。

 

白夜叉「ボスからの直接の指示でな。内容は預言者の胸の内一つに留めておくように厳命が下っておる」

 

白夜叉「ま、そう緊張せんでもよい。魔王はこの最強のフロアマスター白夜叉様が相手をする故

な! おんしらとサンドラは露払いをしてくれればそれでよい。大船に乗った気でおれ!」

 

呵々大笑する白夜叉。しかし、剣心は少しの不安を抱いていた。

 

剣心(魔王と言うことは、リュウやカズキ、白哉の様な者を相手取るという事。白夜叉殿でも油断していると倒されかねん)

 

そんなことを考えていると、十六夜が不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

白夜叉「やはり露払いは気に食わんか小僧?」

 

十六夜「いいや。魔王がどの程度だか知るのに丁度いいしな。だが、『どこかの誰かが偶然に』魔王を倒しても問題ないよな」

 

白夜叉「かまわん。隙あらば魔王の首を狙え、私が許す」

 

そして、話題は耀の参加するギフトゲームに移る。

 

耀「明日戦うコミュニティって何処?」

 

白夜叉に明日の対戦相手を聞くが、詳しく説明するのは不公平だと言って指をパチンと鳴らす。すると空中に羊皮紙が現れ、そこに文字が浮かび上がる。

 

そこには決勝参加コミュニティが記されていた。それを見た飛鳥が驚きの声を上げる。

 

ゲームマスターに"サラマンドラ"。参加コミュニティに"ウィル・オ・ウィスプ"と"ラッテン・フェンガー"、そして"ノーネーム"。

 

羊皮紙を見ていた十六夜は何かに気がついて笑った。

 

十六夜「へえ……"ラッテン・フェンガー"? 成程、"ネズミ捕りの道化ラッテン・フェンガー"のコミュニティか。なら相手はさしずめハーメルンの笛吹きってところか?」

 

ハーメルンの笛吹きは正式名称"ハーメルンの笛吹き男"。グリム兄弟等の複数の作者によってドイツの街、ハーメルンの災厄を記した民間伝承のことである。ちなみに現在ツナが想像しているのは"ハーメルンの笛吹き男"では無く"ブレーメンの音楽隊"。同じグリム童話の話ではあるものの話の内容は全く違う面白おかしい話だ。

 

黒ウサギ「ハ、ハーメルンの笛吹きですか!?」

 

白夜叉「どいうことだ小僧。詳しく聞かせろ」

 

突然黒ウサギと白夜叉が声を荒げた。

 

何でも"ハーメルンの笛吹き"という魔王コミュニティ傘下のコミュニティが実際にあったそうで、そのコミュニティ自体は魔王が敗れたことでこの世から消え去った筈だったのだ。だが、もし十六夜の話が正しいのであればまだ残党が残っているということになる。しかもその残党はこの祭りに潜んでいる可能性が高い。

 

明日の決勝で"ラッテン・フェンガー"が何か仕掛けてくるのではと皆が心配になったが、白夜叉が前もって"参加者以外はゲーム内に入れない"や"参加者が主催者権限を使うことができない"といった決まりをつけていたのでとりあえずゲームの最中に魔王が襲ってきても主催者権限を使うことはできない。だが、剣心は一抹の不安を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

次の日、日が昇りきり、開催宣言の為に黒ウサギが舞台中央に立つ。黒ウサギは胸一杯に息を吸うと、円状に分かれた観客席に向かって満面の笑みを向ける。

 

黒ウサギ『長らくお待たせいたしました! 火龍誕生祭のメインギフトゲーム・"造物主達の決闘"の決勝を始めたいと思います! 進行及び審判は”サウザンドアイズ”の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』

 

「うおおおおおおおお月の兎が本当にきたああああああああぁぁぁぁああああ!!」

 

「黒ウサギいいいいい! お前に会うため此処まできたぞおおおおおおおおお!!」

 

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおお!!」

 

観客(主に男)は喉が壊れんばかりの熱裂な声援を発して、地震でも起こったかのような揺れを引き起こす。中には『L・O・V・E 黒ウサギ♥』と書かれた旗を持っている者もいた。

 

そんな男達を社会のゴミでも見るような冷めた目で観客を見下ろす飛鳥。彼女はまだ娯楽の少ない戦後であったが故のギャップを感じ取っていた。

 

リリを挟んだ隣では黒ウサギのスカートの中身について熱く語り合っている十六夜と白夜叉がいる。馬鹿二人は顔を見合わせ頷きあった。そして何処に隠していて、何時持っていたか分からない双眼鏡を取り出し黒ウサギのスカートの裾を目で追う。

 

サンドラ「あ、あの~?」

 

マンドラ「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

 

飛鳥「はぁ~。もうすぐ春日部さんの試合が始まるっていうのに・・・・・」

 

飛鳥は呆れながら馬鹿二人を空気と思うことにしたのだった。

 

 

 

 

ここにいない耀は観客席から見えない舞台袖にいる。レティシアやジン、剣心、そして三毛猫も一緒だ。耀はジンから対戦相手の情報を聞いている。

 

ジン「――"ウィル・オ・ウィスプ"に関して、僕が知っている事は以上です。参考になればいいのですが……」

 

耀「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応する」

 

どこかで聞いたような返答に苦笑するジン。

 

本当であればパートナーを一人まで参加させても良いのだが、耀はそれを拒否。

 

剣心「あまり無理はするな」

 

耀「……うん、いってきます」

 

普段、何事にも無関心な剣心が心配してくれる事に少し嬉しくなる耀。

 

 耀の決勝戦が始まった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王襲来

造物主の決闘"の決勝戦の舞台に用意されたのは巨大な樹木の根に囲まれた迷路。ギフトゲーム名"アンダーウッドの迷宮"が開始された。

 

耀の対戦相手は"ウィル・オ・ウィスプ"のプレイヤー、アーシャ=イグニファトゥスと彼女の作品と思しきジャック・オー・ランタン。

 

耀は相手の攻撃が天然ガスを発火させたモノだと素早く見抜き、そして持ち前の鋭い五感でゴールを見抜くこともできて途中までは有利に進めることができた。

 

しかし、先程まで彼女の付き従っていたジャック・オー・ランタンが喋り出す。てっきりアーシャが操っていたものかと思えばそういうわけではなかった。やつは先行していた耀の目の前に突然現れて行く手を遮る。そして敵プレイヤーであるアーシャに先を越されたしまった。

 

実はこのジャック・オー・ランタンこそ耀が警戒していた"ウィル・オ・ウィスプ"リーダーであるウィラ=ザ=イグニファトゥス製の大傑作。世界最古のカボチャ悪魔、ジャック・オー・ランタンだったのだ。

 

ジャックは耀のギフトの正体すら見破り、おまけに不死の怪物。

 

耀は今の自分に勝ち目はないと悟ってリタイヤを宣言した。

 

 

 

 

 

ジャック「一つお聞きしても?」

 

割れんばかりの歓声の中で、ジャックは穏やかな声音で耀に問う。

 

ジャック「このゲームは一人だけ補佐が認められています。同士に手を借りようとは思わなかったのですか?」

 

耀はその問いに一瞬戸惑って、そしてステージの端っこにいる剣心に目を向けた。

 

最初は自分と似ていると思っていた少年に前回や前々回のギフトゲームで何度も助けられたが、自分は彼に対して何か助けになるようなことは何もできなかった。

 

耀「……私一人で勝ちたかったから」 

 

ジャック「それが悪いことであるとは言いません。しかしこうは思いませんか? 『今回誰かがサポートに居ればその誰かに私の相手をさせて自分が先へ行くことができて勝つことができた』……と」 

 

耀(確かに、剣心だったら)

 

彼なら例え不死の怪物相手だったとしても耀がゴールするまでの時間を稼ぐくらいきっとやってのける。

 

ジャック「今回の様に、コミュニティで生きていくうえで誰かと協力するシチュエーションというのは多く発生するものですよ」

 

耀「……助けられてばかりで辛いって思ったら?」

 

ジャック「ならその分だけ助けておあげなさい。どれ程強くても、どれ程賢くても、一人で物事を行うのには限界があるのです。例えば愛しの彼だってそうでしょう」

 

ジャックが顔を向けたのは剣心。

 

剣心の蒼い双眼と炎に揺らめく眼が合う。

 

顔がカボチャをくり抜いただけにしか見えないが、もしジャックが人間であればきっとニヤニヤ笑っていることだろう。

 

耀「~~っ!? け、剣心とは別にそういう関係じゃ」

 

ジャック「おやおや? 別に誰か・・とは言っておりませんけどね……っと少々下世話が過ぎましたか。何せカボチャなもので、ヤホホ!」

 

アーシャ「おい、オマエ! ……何で顔真っ赤にしてんだ?」

 

アーシャの指摘に穴が入ったら入りたい気分になった耀であった

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心「.....ご苦労。」

 

戻ってきた耀に対して労いの言葉を掛ける剣心。耀は冷静さを取り戻すのに少しかかったがとりあえず顔色は普通の筈だ。

 

耀「ごめん、負けちゃった」

 

剣心「気にするな。元より二対一だ。」

 

ジンとレティシアも労いの言葉を掛けようとしたが、空気を読んで一歩さがった。

 

黒ウサギ「お疲れ様でした耀さん」

 

審判をやっていた黒ウサギは舞台を降りて様子を見に来たようだ。

 

耀「ありがとう」

 

剣心「......!?これは?」

 

気づいたのは剣心だけではない。上空から雨のように降ってくる黒い契約書類ギアスロールに観客達も徐々に気がつき始める。

 

ジン「こ、これって!」

 

 

 

 

 ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

 プレイヤー一覧、現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行者・星霊、白夜叉。

 ホストマスター側勝利条件、全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 プレイヤー側勝利条件、一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 "グリムグリモワール・ハーメルン"印

 

 

 

 何気なく手に取った書類の内容、これに書かれていた内容に5人は驚愕した。

 

 ――いや、5人だけではない。

 

「魔王が……魔王が現れたぞオオオォォオオオ!!」

 

爆弾が弾けたような叫び声は連鎖してさらなる恐怖と混乱を呼び込み、会場内は大混乱に陥った。さらにバルコニーでは白夜叉が黒い風に包み込まれて近くにいた者達は吹き飛ばされる。

 

飛鳥を抱えて舞台に着地した十六夜も神妙な顔つきをしている。

 

十六夜「魔王が現れた……そういうことでいいんだな?」

 

黒ウサギ「はい」

 

十六夜の問いに対して真剣な表情でそれに答える黒ウサギ。

 

十六夜「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子は?」

 

黒ウサギ「ありません」

 

魔王の襲来を知っていた彼女は己の"主催者権限"を用いて防衛策をとっていた。内容は『主催者権限を持つ者は参加者となる際に身分を明かさなければならない』『参加者は主催者権限を使用することが出来ない』『参加者でない者は祭典区域に侵入出来ない』の三つ。

 

黒ウサギがいる限り誤魔化しはきかない。となると、魔王はこのルールに則った上でゲーム盤に出現しているということだ。

 

十六夜「さすがは本物の魔王様、期待を裏切らねえぜ」

 

軽薄に笑ってはいるものの、言葉の内容とは裏腹にその目にいつもの余裕を感じられない。

 

耀「ここで迎え撃つ?」

 

十六夜「ああ……だが全員で迎え撃つのは具合が悪い。"サラマンドラ"の連中も気になる」

 

十六夜は守勢に回るような性格ではないが、相手にこうも先手を打たれた以上、どうしても後手に回るしかない。

 

ここは役割分担をすることとなった。十六夜、剣心、レティシアで魔王に備え、黒ウサギはサンドラを始めとした"サラマンドラ"の者達を探しに、そして残りのメンバーで白夜叉の所へ向かうこととなった。

 

耀「ねえ見て!」

 

耀が指を差した先には上空から三つの人影が会場内に降りているのが見える。

 

十六夜「準備はいいか? 俺が黒いのと白いの。二人はデカイのと小さいのを任せる」

 

十六夜は言い終わると地面を砕く勢いで人影へ跳躍して行った。

 

耀「……大丈夫かなぁ?」

 

レティシア「主殿なら問題なかろう。こちらも行こうか主殿」

 

レティシアはメイドになったことで剣心達のことを主殿と呼ぶようになっている。剣心は止めてくれと言っても彼女には彼女の矜持があるようだ。だが、剣心だけには名前で呼ぶ様にはしてくれた様だが

 

剣心は神速で、レティシアは羽を広げて猛スピードで十六夜の後を追った。

 

そこにいたのはあまり趣味が良いとは言えない黒い斑模様のワンピースを着た少女と白い陶器の巨兵。

 

「BRUUUUUUUUUUUM!!」

 

巨兵は空気を吸い込んで奇声を上げながら暴風を巻き起こした。

 

剣心は脇差しを抜き、切っ先を地面に向け

 

剣心「卍解」

 

剣心「千本桜景義」

 

千本桜は持ち主が自由に刀の大きさを調節できる。

 

白い陶器の巨兵は桜の激流に飲み込まれ、粉々に砕ける。

 

?「へえ」

 

その様子を感心したように見つめるワンピースの少女。

 

?「やるじゃない、こうもあっさりとシュトロムを倒すなんて。良い手駒になりそう……ああ、やっぱり要らないわ」

 

仲間をやられてもその無表情は微笑へと変化しまた無表情へと戻る。少女への不気味さだけが増していった。

 

レティシア「嵐シュトロムか。気をつけろ剣心、あの少女も天災に関連する悪魔かもしれない!」

 

剣心「ああ」 

 

神格を失ったレティシアだが、彼女も幾度のギフトゲームを乗り越えてきた経験がある。敵の名前が勝利の鍵となりえることも心得ていた。

 

剣心「お前がハーメルンの魔王か?」

 

?「いいえ、違うわ。私のギフトネームの正式名称は"黒死斑の魔王ブラック・パーチャー"よ」

 

つまり目の前の少女を含めて魔王が二人いる。それは十六夜が戦っている二人のどちらかかもしれないし、先程破壊したシュトロムかもしれない。最悪のケースは今ここにハーメルンの魔王がいないことだ。

 

?「中々強いようだけど、これはどうかしら?」

 

少女から発せられる白夜叉を閉じ込めたのと同じ黒い風。

 

剣心(これは駄目だ。触れてはいけない。)

 

危険を感じ取った剣心は、桜の激流をもって、黒い風を飲み込んで消し去った。

 

?「(あの黒い風を消し去った?)――チッ!」

 

黒死斑の少女は後ろから来た紅い閃光に気がついて それを回避する。この閃光の正体を少女は容易に察していた。これは彼女が待ち望んだ北のフロアマスター、サンドラの一撃だと。ただ、予測していたのに剣心の数億の刃に気を取られたせいで反応に一瞬遅れてしまった。

 

?「名前を聞いてもいいかしら? ああ、そこの男のことよ」

 

少女は気になった。自分を不愉快にさせる眼を持つ少年のことを。

 

剣心「.......緋村剣心」

 

?「そう」

 

剣心「俺からも一つ聞きたい。何故この様な事をする?」

 

黒ウサギは『魔王は天災のようなもの』だと言っていた。もしかしたらこの少女も何の理由もなくここを襲っているのかもしれない。

 

?「そこの二人は予想がついてるだろうし、隠すことでもないから教えてあげる。太陽の主催者である白夜叉の身柄と、星海龍王の遺骨。つまりそこの"サラマンドラ"の頭領がつけてる龍角が欲しいのよ」

 

剣心「成程、流石に魔王を名乗るだけある」

 

雑談は終わり、黒死斑の少女は再び正体不明の黒い風を噴出させ、剣心、サンドラ、レティシアは身構える。

 

この一触即発の空気を一つの雷鳴が制した。

 

黒ウサギ『"審判権限ジャッジ・マスター"の発動が受理されました! これよりギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"は一時中断し、審議決議を執り行います。プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します』

 

拡張された黒ウサギの声が全域に響き渡る。

 

その本人は宮殿の屋根のてっぺんで金剛杯ヴァジュラを掲げていた。

 

?「フン、悪あがきね。まあいいわ」

 

少女はそう吐き捨てて先に行ってしまう。

 

剣心「レティシア、こういった場合はどうなるんだ?」

 

剣心はゲーム経験が浅いのもあり、こういった不測の事態にはそれ程詳しくないというのが痛い。

 

レティシア「黒ウサギの指示に従って中断し審議が行われる。向こうに違反があればこのゲームを即刻終わらせることもできるが、ヤツの自信を見る限りそう容易くいくとは思えない」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心「.....調子はどうだ?」

 

白夜叉「大丈夫に見えるか?」

 

剣心「....それもそうだな。すまない。」

 

十六夜達が"ハーメルンの笛吹き"との審議の最中、剣心は白夜叉の様子を見に行っていた。白夜叉は黒死斑の少女が見せた黒い風と全く同じものに囲まれてそこを動けないでいる。現在は暇そうにバルコニーで寝転がっていた。

 

白夜叉「おんしの千本桜でどうにかできないのか?」

 

剣心「....その場合は、白夜叉殿も粉微塵となる事を覚悟してもらう必要がある」

 

そもそもこの封印が力任せで壊せるのなら白夜叉自身がそうしている筈だろう。

 

白夜叉は伸びをしながら身体を起こした。

 

白夜叉「私を封印した方法に検討はついているが、どうやら言動にまで制限が掛けられているようだ。何とまあ用意周到なやつらだよ」

 

白夜叉が言い残すことができたのは『故意に説明不備を行っている可能性が高いこと』そして『敵は新興のコミュニティであること』の二つ。

 

白夜叉「私のことはいいからお前は休んでいろ、いつこのゲームが再開されるか分からないのだからな」

 

剣心「恩にきる。」

 

白夜叉は笑う。

 

だが、直ぐに真剣な表情になった。

 

白夜叉「剣心。おんしと十六夜、そしてサンドラが戦力の要だ。それを忘れるな」

 

剣心「ああ」

 

白夜叉(良い目をしている。逆境でも諦めずに立ち向かう男の目だ。さてはこういった状況を何度か経験しているな。いつか酒でも飲みながら話を聞きたいものだ)

 

そんなことを考えながら白夜叉はまた寝転がる。

 

剣心「では、また来る」

 




クラクラのth11がとうとう来ましたね。早くアップデート来ないかな〜。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交渉

交渉はハーメルン側に優位に働いている。黒ウサギが確認したところ、今回のギフトゲームに何の不備もないことが発覚したのだ。勝利条件も参加者でありながら封印された白夜叉についても何も不当なことはなかったのだ。

 

この異議申し立ては魔王側にとって予想通り。そしてこの審判決議が彼女等にさらに有利な条件を整える材料となった。

 

必要条件を揃えた上で有利に進めていたゲームを不当に中断されたのだ。当然である。

 

?「ここにいる人達が参加者側の主力と考えていいかしら?」

 

言葉を発したのは黒死斑の魔王ブラックパーチャーのペスト。十六夜とジンは既に彼女の正体を見破っていた。

 

軍服の男ヴェーザー、布の面積が少ない白装束を身に纏う女ラッテン、そして剣心が倒した巨兵シュトロム。

 

"ハーメルンの笛吹き男"の伝承で子ども達が亡くなった原因にはヴェーザー川で溺れ死んだ、嵐による土砂崩れにより死亡、そして当時、鼠が原因で起こった流行り病である黒死病ペストで死んだという説がある。

 

彼女のギフトが黒死病を発生させるものであれば早くて二日で発病してしまい、再開の日取りの最長である一ヶ月など待っていたら全滅は免れない。

 

十六夜「いや? 生憎もう一人は話し合いには向いていないっていう理由で白夜叉の所に行ってるぜ」

 

ペストの疑問に答えたのは十六夜であった。

 

ペスト「緋村剣心……ね」

 

ヴェーザー「へえ、そいつはどうだったんだ。マスター?」

 

ペスト「シュトロムが一撃で破壊されたわ」

 

ヴェーザーは「ほう」と感心したような顔を見せて、ラッテンは笑いながら指先で銀色の笛を回している。彼女の能力からして操り人形にでもしようと企んでいるのだろう。

 

ペスト「それなら提案しやすいわね。この場のメンバー全員……それと白夜叉が"グリムグリモワール・ハーメルン"の傘下に降るのであれば他のコミュニティは見逃してあげてもいいわ」

 

ラッテン「あら? そのヒムラって子はいいの、マスター?」

 

シュトロムを破壊した。それなら逸材としては申し分ないのではないかと疑問に思ったラッテン。ヴェーザーも特に何も言っていないが、内心ではそう思っているだろう。

 

ペスト「いらないわ、不要よ」

 

ラッテン「そ、そう?」

 

ラッテンの意見をあっさりと却下するペスト。

 

黒死病の死の怨念すらも飲み込んでまったあの桜を彼女は嫌う。また、剣心の蒼眼に彼女は本能的に恐怖しているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

 プレイヤー一覧、現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ("箱庭の貴族"(今回は黒ウサギのこと)を含む)。

 プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行者・星霊、白夜叉(現在非参戦のため、中断時の接触禁止)。

 プレイヤー側・禁止事項、自決及び同士討ちによる討ち死に。休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。休止期間の自由行動範囲は本祭本陣営より五百メートル四方に限る。

 ホストマスター側勝利条件、全プレイヤーの屈服・及び殺害。八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 プレイヤー側勝利条件、一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 休止期間、一週間を相互不可侵の時間として設ける。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 "グリムグリモワール・ハーメルン"印

 

 

 

 

 

 以上が改正の内容である。

 

 一週間後にすべては決まる。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

交渉から二日が経過し、黒死病を発病した者が徐々に増えて来ている。発病した者や発病の疑いのある者は感染者を増やさないために施設に隔離する等の対応を取っているが、このペースで増え続ければ施設は足りなくなってしまうだろう。

 

昔は不治の病と言われた黒死病だが、現在では特効薬が開発されている。しかし、人数分の薬があるわけでもなく、ここがゲーム盤の上になってしまっている以上、外界から薬を仕入れることもできない。

 

剣心は現在、レティシアや耀と共に病人の看病を行っている。感染を避けるために直接の接触は避けているが、医療品の配達や食品の配給のようにできることは幾らでもある。

 

飛鳥はこの場にはいない。ラッテンとの戦いの際にジンや耀を逃すために囮になり、攫われてしまったからだ。向こうが新興のコミュニティ故に新しい人材を欲しがっていることから殺されることはまずないだろうが剣心や耀は楽観視できなかった。

 

特に耀はあの場にいたのにまた守られてしまったと後悔している。

 

剣心「少し休め。」

 

耀「だ……大丈夫」

 

耀の様子がおかしい。彼女も十六夜や黒ウサギ程ではないにせよ体力がある方だ。なのにさっきから顔を真っ赤にしながら変な汗をかき、肩で息をしている。昨日はそうでもなかったが。

 

剣心「......」

 

耀「な、何を」

 

剣心は自分の掌を彼女の額に当てる。

 

剣心(酷い熱だ。)

 

剣心「レティシア!」

 

レティシア「分かった、すぐに部屋を用意する! すまないが剣心は耀を頼むぞ!」

 

剣心は頷き、レティシアは駆け出していった。

 

耀「大丈夫……だから」

 

剣心「何を言っている。どう見ても大丈夫では無かろう」

 

剣心は半ば無理矢理耀を寝かせることにした。

 

剣心「私も……戦いたい。……皆の力になりたい」

 

確かに耀はまだ動けるが、ゲーム再開まで後5日もある。これから悪化していくことを考えると到底参加できるとは思えない。

 

剣心「駄目だ。君は早く病気を治す事を考えろ」

 

彼も譲らない。

 

耀「それでも戦いたい」

 

剣心「耀!!」

 

剣心の一喝に耀は身体をビクリと震わせる。戦い以外でこのように大きな声を出すのは始めてみるかもしれない。

 

剣心「俺の眼の届く範囲では、仲間は誰1人とて死なせはしない。」

 

耀「え――」

 

剣心の蒼眼と眼が合う。剣心の強い意志を感じるが、どこか悲しみを帯びたそんな瞳だと耀は思った。

 

まだ付き合いは浅いが、十六夜も飛鳥も耀も黒ウサギもジンもレティシアも、そして"ノーネーム"の子ども達も剣心の大切な仲間だ。

 

剣心「俺は君を死なせない。...俺は....君を....」

 

剣心の真剣な顔に気圧されて耀は何も言えない。

 

耀「ごめん……なさい」

 

やっと彼女が搾り出した言葉は彼への謝罪の言葉だった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ゲーム再開前日になっても十六夜はゲーム攻略の目処が立っていない。

 

気晴らしにと彼は耀が休んでいる個室に来ていた。

 

『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』。つまり偽りの伝承が描かれたステンドグラスを砕いて真実の伝承が描かれたステンドグラスを掲げる。ここまでは彼も辿り着いた。

 

"ハーメルンの笛吹き"は展示物を通してこの祭りに参加していたのだ。

 

問題は神隠しラッテン、暴風シュトロム、地災ヴェーザー、黒死病ペストのどれが偽りの伝承か、だ

 

耀「十六夜はどれが偽者だと思ってる?」

 

十六夜は「黒死病ペストだ」と即答した。

 

十六夜「《ラッテン》、暴風シュトロム、地災ヴェーザー、どれもが刹那的な死因だが、黒死病だけが長期的な死因として描かれている。"ハーメルンの笛吹き"は1284年6月26日という限られた時間で130人の生贄が死ななければならないんだ」

 

発病にばらつきのある黒死病で一度に130人もの人間が死ぬなんてまずありえない。だからペストは"ハーメルンの笛吹き"ではない。

 

なら彼女を倒してしまえばいいのだが、それだともう一つの勝利条件とかぶってしまう。 

 

耀「そういえば剣心はどうしてるの?」

 

自分のことを諭してくれた彼が気になってさり気なく十六夜に尋ねてみた。でも十六夜は見抜いていたようで一瞬ニヤッと笑う。

 

十六夜「剣心か? あいつならそこら辺の手伝いと、白夜叉をどうにかして助けられないかを考えてるぜ」

 

耀「そういえばどうやって封印したんだろうね。夜叉を封印するような一文がハーメルンにあるのかな?」

 

十六夜「まさか。夜叉はどっちかっていや仏神側だ。それに白夜叉は正しい意味の夜叉じゃないらしい。本来持ってる白夜の星霊の力を封印するために仏門に下って霊格を落としてるんだと」

 

耀「本来の力?」

 

十六夜「ああ。なんでも白夜叉は太陽の主権を持っているらしい。太陽そのものの属性と、太陽の運行を司る使命を――――」

 

そこで急に十六夜の言葉が途切れる。手にしていた本を物凄いスピードで読み返すと、今度は顎に手を当てて数分黙り込む。

 

十六夜「そうか、これが白夜叉を封印したルールの正体か。なら連中は1284年のハーメルンじゃなく……ああ、くそ。完全に騙されたぜ」

 

独り呟いては納得していく十六夜。

 

十六夜「ナイスだ春日部。おかげで謎が解けた。あとは任せて枕高くして寝てな!」

 

耀「そう。頑張ってね」

 

耀はよく分からなかったが、あの様子だと十六夜は何かヒントを掴んだようだ。本当にどんな頭の構造をしているのだろうかと気になりながらベッドの中に潜り込む。

 

『あの小僧……本当に信用して大丈夫なんかなぁ、お嬢』

 

耀「大丈夫だよ。彼はああ見えて仲間想いみたいだし」

 

きっとまた皆で笑っていられるだろう。自分が今できることは病気を治すことだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ついにあれから一週間。この夕暮れ時にまもなくゲームが開始される。

 

ここに集められたのは参加資格を持ち、かつ黒死病が発病していない者。僅か500名ほどで全体の一割にもならなかった。

 

ざわつく観衆の前に、やや緊張した面持ちのサンドラが毅然を装い声を張り上げる。

 

サンドラ「今回のゲームの行動方針が決まりました。マンドラ兄様、お願いします」

 

傍に控えていたマンドラが読み上げたのは簡単に言うと、"サラマンドラ"とジンが率いる"ノーネーム"がペスト、ヴェーザー、ラッテンの相手をして、その他はステンドグラスを捜索し、指揮者の指示に従って破壊、もしくは保護するという内容であった。

 

その一方で、黒ウサギと十六夜はその様子を宮殿の上から見下ろしていた。

 

黒ウサギは後悔していた。

 

魔王に襲われ、もしくはコミュニティ存続を賭けたゲームに負けて、親を失い雛も全滅することなど箱庭ではざらだ。だから彼女がそれ以上に悔やんでいるのは十六夜達のこと。

 

以前白夜叉は飛鳥と耀に『魔王のゲームの前に、力をつけろ。お前達の力では――――魔王のゲームを生き残れない』と忠告をしていた。

 

黒ウサギはその忠告を軽んじた結果、飛鳥は敵に捕まり、耀は病に侵されてしまった。自分はその責任を取るべきだと。

 

黒ウサギ「十六夜さんお願いがございます。聞いていただけますか?」

 

十六夜「聞くだけなら」

 

黒ウサギ「魔王の相手はこの黒ウサギに任せていただけないでしょうか」

 

彼がどれほど魔王との対決を望んでいたかは知っている。その上で譲って欲しいと彼女は口にした。

 

十六夜「勝算は?」

 

黒ウサギ「あります。いえ、たとえ無くても、相討ってでも」

 

十六夜「それ、あの侍が聞いたらブチ切れるだろうぜ」

 

剣心「え? 剣心さ」

 

黒ウサギが喋ろうとしたのを唇を押さえて止めて、呆れたように笑う。

 

例え黒ウサギが犠牲にならずとも勝てる算段は充分ある。今回のゲームはタイムリミットつきだ。そして向こうの目的は人材の確保。であればタイムオーバーを狙って消極的な動きをせざるを得なくなる。

 

十六夜「黒ウサギ。まずサンドラと黒ウサギ、それと剣心の三人で確実にペストを抑える。その間に俺とレティシアでラッテンとヴェーザーを倒す。主力だ集まったら黒ウサギの切り札でペストを倒す。――――これがまあ最善だな」

 

十六夜の具体的な作戦案に目を輝かせる黒ウサギ。

 

黒ウサギ「ですが、十六夜さんはそれでいいのですか?」

 

十六夜「別に構わねえよ。魔王と戦う機会はまたある。帝釈天の眷属の力ってやつを今回は楽しませてもらうさ」

 

黒ウサギ「YES!帝釈天様によって月に導かれた"月の兎"の力。とくと御覧くださいまし。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着!

ゲームが開始されたと同時に突然、地鳴りと共に黒い光に包み込まれる。

 

次の瞬間、街はその姿を全く別のものへと変えていた。天を衝くような境界壁は消え、黄昏時を髣髴とさせるようなキャンドルやランプはなくなった。その代わりにパステルカラーの木造建築物が一帯を作り変えている。

 

ハーメルン側も謎が解かれた時の対策は怠ってはいなかったのだ。

 

剣心「これは、以前白夜叉殿がやっていた」

 

黒ウサギ「いえ、これはおそらくここに直接ハーメルンの街を召喚したのでしょう」 

 

黒ウサギは剣心の疑問に対して答える。

 

突然街が変貌したことで少なからず動揺してる者も多いが、ジンやマンドラが指揮をとってなんとか落ち着かせている。

 

黒ウサギ「サンドラ様、剣心さん。とにかくペストを探しましょう」

 

ペスト「その必要はないわ」

 

その声に三人は足を止めて上を見上げる。斑模様のワンピースにその身を包んだ少女、"魔王ペスト"がフワフワと空中に浮いている。

 

ペスト「あなた達の様子を見る限り、こちらが出題した謎は解けたようね」

 

そう言いながら他の参加者をチラリと目で追うペスト。勝利条件が明かされたというのにどこまでも余裕の態度だ。

 

黒ウサギ「ええ。ですがここであなたを倒せばこちらの勝ちです」

 

どこまでも強気なペストに対して黒ウサギも悠然とした態度をとる。ペストは鼻で笑い、黒い風を巻き起こした。

 

ペスト「一つだけ忠告してあげる。以前の私達・・と同じだと思わない方がいいわよ?」

 

ここはハーメルンの街。ここがホームタウンであるハーメルン側は以前よりも力が増している。

 

サンドラ「まずは私が先陣を切る。二人とも、サポートを頼むぞ!」

 

黒ウサギ「はい!」

 

剣心「ああ」

 

サンドラの幼くも雄々しい声に剣心と黒ウサギは強く頷き、剣心は千本桜を解放する。

 

剣心の周りを舞う桜の花びらにペストは顔をしかめる。

 

サンドラ「何処を見ている!」

 

剣心の千本桜に気を取られていたペストをサンドラは側面から球体の炎を吐いて狙う。しかしペストは悠々と避けていった。黒ウサギも飛び交いながら"疑似神格ヴァジュラ・金剛杵レプリカから雷撃を放つも黒い風に阻まれて攻撃を当てる事ができない。

 

黒ウサギ「くっ」

 

ペスト「言ったでしょう、以前の私達と同じだと思うなって」

 

サンドラの炎も黒ウサギの雷撃も神格級のギフト。しかしペストにはそれがまるで通用しない。攻撃をしてこないのはタイムオーバーを狙ってのことだろう。

 

剣心「殲景・千本桜景義」

 

剣心が千本桜の刃を押し固めた刀を連続で発射し、ペストを狙う。

 

ペストはサンドラの炎と同じように黒い風で打ち消そうとする。

 

だが、そうはいかなかった。

 

パァン!

 

飛来する刀は、黒い風のガードを簡単に突破した。

 

ペスト「やっぱりこの中で一番やっかいなのはあなたね、緋村剣心」 

 

ペストは軽く深呼吸をする。今まで余裕を崩さなかったペストがここで始めてペースを乱した。剣心の力は力を増したペストにも通用する。

 

黒ウサギが横を見ると、サンドラの息が上がってきている。才があるとはいえ、この中で最も実戦経験が不足している彼女は慣れない戦いに民の命を預かっているというプレッシャーも相まって疲弊してきていた。

 

黒ウサギ「"黒死斑の魔王ブラック・パーチャー"、貴女の正体は神霊の類ですね」

 

サンドラ「え?」

 

ペスト「そうよ」

 

サンドラ「えっ!?」

 

二人のやり取りに思わずサンドラは声を上げる。剣心も声こそ上げなかったが驚いていた。目の前にいる魔王は白夜叉と同レベルの霊格の持ち主だということになる。

 

黒ウサギ「貴女の持つ霊格は『百三十人の子供の死の功績』ではなく、十四世紀から十七世紀にかけて吹き荒れた黒死病の死者――――『八千万人もの死の功績を持つ悪魔』」

 

サンドラ「それだけの功績があれば神霊に転生することも」

 

黒ウサギ「無理です」

 

ペスト「無理よ」

 

黒ウサギとペストにキッパリと否定されてしまい歳相応の子どもらしくシュンと落ち込んでしまった。

 

神霊となるには一定以上の"信仰"が必要。つまりはその神の存在を信じること。"信仰"は恐怖という形でも構わないのだが、当時は不死の病と恐れられた黒死病も現在の医学では治療法が見つかり、神霊に至るまでの信仰は集められなかった。

 

黒ウサギ「だから貴女は、最も貴女を恐怖する対象として完成されている形骸として"幻想魔道書群グリム・グリモワール"の魔道書に記述された"斑模様の死神"を選んだ――――」

 

ペスト「残念ながら所々違うわ」

 

元々剣心達の役目はペストを引きつけることであり倒すこと自体が目的ではない。ペストの方も時間稼ぎは望むところだとあえて策に乗り、真相を語り始める。

 

ペスト「私は自分の力でこの箱庭にきたわけではない。私を召喚したのは魔王軍・"幻想魔道書群グリム・グリモワール"を率いた男よ」

 

一気に黒ウサギの顔に驚愕が浮かぶ。

 

ペスト「八千万もの死の功績を積み上げた悪魔……いいえ、八千万の悪霊群である私を死神に据えれば神霊として開花出来ると踏んだのでしょうね」

 

彼女は黒死病が具現化したのではなく、黒死病の死者達の霊群だったのだ。

 

ペスト「でも、私を召喚しようとした魔王は儀式の途中で何者かに敗北してこの世を去った。」

 

ペスト「私……いいえ、私達・・が"主催者権限"を得るに至った功績。この功績には死の時代に生きてきた全ての人の怨嗟を叶える特殊ルールを敷ける権利があった。黒死病を世界中に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源――――怠惰な太陽に復讐する権限が!」

 

今まで無表情だった彼女が始めて怒りの表情を見せる。八千万のもの怨嗟に応えるべく彼女はこの神々の箱庭で太陽に復讐をするのだ。

 

剣心「哀れな。」

 

今まで黙っていた剣心がここで口を開いた。

 

ペスト「……何が言いたいのかしら?」

 

太陽に復讐するという大それた発言に戦慄した黒ウサギとサンドラであったが、剣心はまるで泣きそうな子どもを見ているかのような目でペストを見ていた。

 

ペスト「何よ……その目は」

 

剣心の蒼眼を睨む。

 

剣心「運命を呪ったところで、どうしようもない。周りに不幸は撒き散らす悪鬼となる。ましてや、自分自身も救われる事はない。」

 

ペストは身体を怒りで振るわせていた。

 

何も知らないくせに知った風な口を利くな、と表情が物語っている。

 

ペスト「そんな目で、そんな哀れむような目で私を見るなァァァ!!!」

 

彼女の怒りに応じるかのように死を与える黒い風は勢いを増して荒れ狂う。

 

ペストの黒い風と剣心の数億の刃、まるで闇と光がぶつかり合うような光景だ。

 

サンドラ「これが、魔王とのギフトゲーム……」

 

二人の次元が違う戦い振りを見てサンドラは落ちこんだ表情で呟いた。

 

サンドラ「はは、情けないな。これではフロアマスター失格だ」

 

こうも他所のコミュニティに頼りっぱなしだと長としてもフロアマスターとしても面目が立たないだろうとサンドラは落ち込んでいる

 

黒ウサギ「サンドラ様。今、私達にできるのは戦っている皆を信じて待つこと。そして時が来た時に瞬時に動ける体力を残しておくことです」

 

黒ウサギはサンドラを元気付けているが、彼女自身も剣心や十六夜にまかせっきりなことに歯がゆさを感じている。

 

桜の激流が、黒い風を飲み込む。ペストも負けじと黒い風の出力を上げる。剣弾が飛来すれば、黒い風は弾ける。だが、黒い風を操作してなんとか軌道を逸らす。黒い風と数億の刃では、物量が桁違い。

 

圧倒的に剣心が有利だが、ペストは気迫だけで持ちこたえている。

 

魔王ペストは緋村剣心が気に入らない。

最初は自分の能力を封じる桜の刃が原因だと思っていたが、そうではなかった。

死を与えるものと死から救おうとするもの。相反するものが相手だったのだ。気に入るわけがない。

そして極めつけはその人を哀れむような目。

 

ペストの操る死の風がより毒々しい色へと変わっていく。

 

ペスト「さっきまで余興とは違うわ、これは触れただけで死ぬわよ」

 

黒ウサギ「や、やはり"与える側"の力!死の恩恵を与える神霊の御業ですか……!」

 

触れただけで死をもたらす風が剣心へと迫る。

 

それに対して剣心は、左手をかざす。ただそれだけ。そして、桜の激流を死の風に真正面からぶつかって行った。

 

剣心「手掌で操れば、速力は倍。」

 

速力を増した、桜の花びらが死の風にぶつかる。

 

ペスト「そんな……!?」

 

触れた者に死を与える最悪の恩恵を剣心の桜が貫いていくことにペストは驚きを隠せない。

 

だが、その激流も死の風を進むたびに勢いが殺されていき、ペストの目の前で止まった。

 

今の一撃が通っていたらさしものペストも拙かっただろう。ペストは安心する。

 

――そう、ペストは安心して、一瞬行動が遅れてしまった。

 

気がつけばペストの目の前で止まった桜は消え、代わりに数本の刀が切っ先を向けていた。

 

剣心「殲景……」

 

ペスト「しまっ」

 

剣心「千本桜景義」

 

時は既に遅し。零距離からの5本の刀がペストに炸裂する。

 

サンドラ「や、やった!」

 

黒ウサギ「いえ、まだです」

 

黒ウサギの言う通り、ペストはまだ倒れていない。剣弾を浴び、上半身が吹っ飛ぶが、不死性により再生されていく。着ていた斑模様のワンピースもほとんどなくなり上半身はほとんど露出してしまっている。

 

ペスト「こ、これは!?」

 

一際大きく響いた震動。

 

剣心「十六夜、勝ったのか」

 

主であったペストはヴェーザーとラッテンが消えたことを直感で感じ取った。

時間稼ぎのために戦力を分散させてしまったことが一番の失敗。もし最初から纏まってかかれば、あるいは目的のために敵の被害を最小限に抑えようなどと欲張らなければ、ここまで戦況を悪くすることはなかったかもしれない。

 

残りのステンドグラスも60枚をきった。その上自分もここまで追い詰められてもう後がない。

 

ペスト「……止めた」

 

ペスト「時間稼ぎは止めた。白夜叉だけ手に入れて――――皆殺しよ」

 

ペストは、死の風を周りに無差別に放出する。

 

しかし、

 

剣心「吭景・千本桜景義」

 

ペスト「こ、これは!」

 

ペストを死の風ごと、数億全ての刃がペストを包み込む。

 

剣心「吭景・千本桜景厳。千本桜景厳の億の刃。その全てで球形に敵を覆い、全方位から斬砕する…刃の吭に呑まれて消えろ」

 

ペスト「クッソォォォーーーー!!!」

 

ザアァァン

 

そして、景色が一転した。

 

まず最初に皆の肌が感じ取った急激な気温の低下。地面はそこかしこにクレーターがあり、周囲には石碑のような白い彫像が乱立している。周囲は数多の星が輝いて、天には箱庭の世界が逆様になって浮かんでいた。

 

今、剣心達はアポロ11号が初めて降り立ったとされる月にいる。

 

サンドラ「チャ……チャンドラ・マハール! 軍神インドラではなく月神チャンドラの神格を持つギフト……」

 

黒ウサギ「YES。このギフトこそ我々月の兎が招かれた神殿。帝釈天様と月神様から譲り受けた月界神殿でございます」

 

サンドラに答える黒ウサギ

 

ペスト「う、ぅうぅ....」

 

剣心「......しぶといな。さすが魔王だな。この刃を受けても、まだ人の形を保てるとは」

 

ペストは全身を斬り刻まれ地面に倒れている。今のペストの状況は正にボロ雑巾である。

 

剣心の言葉とペストの姿を見て、顔を青くするサンドラと黒ウサギ。

 

ペスト「そ、そんな!」

 

ペストは自身の力が急激に弱まっていることに気がつく。ハーメルンの街から離れてしまったことでフィールドからのブーストを受けられなくなってしまったのだ。

 

剣心「黒ウサギ、止めを」

 

黒ウサギ「ですが、これでは...」

 

やり過ぎだと言いたいのだろう。

 

剣心「黒ウサギ、その槍を貸してくれ」

 

黒ウサギ「....わかりました。」

 

そして、ボロボロのペストのもとへ剣心がインドラの槍をもって近づく。

 

皆が見守るなか、倒れているペストの心臓にインドラの槍を突き刺す。

 

ペスト(か……身体が焼ける……。あ……つい……え? 違う……温か……い……?)

 

槍が身体の内を焼いていくの中、己の身体が消滅していく中で、ペストは身体を焼く痛みではなく、母親に包み込まれているような温かさを感じた。

 

ペスト(ひむら……けんしん。何て顔……してるのよ……)

 

消え行く中で見えた彼女を倒した少年の顔は、いつもの無表情。しかし、彼女には、どこか悲しそうな顔している様に見えた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一週間が経過し、皆が"ノーネーム"の本拠地に帰って最初に始めたのは農地の復興であった。

 

新しい加入メンバーである地精メルンであれば土地の修復に目処が立つかと思っていたのだが。

 

メルン「むり」

 

飛鳥「そんなあっさり!?」

 

荒れ果てた農地を見て、メルンはばっさりと言い捨てた。

 

飛鳥「ど、どうしても無理かしら?」

 

メルン「むーり」

 

可愛い見た目と舌足らずな喋り方の割りに厳しい性格をしているようだ。

 

メルンの発言で"ノーネーム"の子ども達は肩を落とす。

 

飛鳥「き、期待させるような真似してごめんなさい」

 

しょんぼりする飛鳥を黒ウサギと耀が励ます。

 

そんな中、十六夜は土を見て、あることを思いついた。

 

十六夜「おい、極チビ」

 

メルン「ごくちび?」

 

十六夜「土壌の肥やしになるものがあったら、それを分解して土地を復活させることは出来るか?」

 

その言葉を聞き、少し考え込むメルン。

 

メルン「……できる!」

 

飛鳥「ホント!?」

 

メルン「かも」

 

その言葉にやや右肩下がりにガクっと気が抜ける飛鳥だが、試してみる価値はあるらしい。

 

皆は早速肥料になりそうなものを集めだし、飛鳥はディーンを召喚して土地を耕し始める。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂気

十六夜「俺と闘おうぜ!」

 

剣心「.....」

 

ペストとの戦いから2週間、十六夜がいきなり剣心にそう声をかけた。

 

十六夜「ここんとこ、暇だからよ〜。ペルセウスの時に約束しただろ?」

 

剣心「……」

 

十六夜「お前って最初は白夜叉の決闘断ったりしてつまんない奴かと思っていたが、どうやら俺の見間違いだったみてーだな。お前は強い。」

 

剣心「......」

 

十六夜「今更、隠そうたって遅いぜ!お前は十分俺を楽しませる奴だ!」

 

十六夜「お前、ペストとの戦いで、一歩も動かずに倒しただろ?」

 

剣心「......」

 

そう、剣心はペストとの戦いで一歩も動いていなかった。ただ桜の花びらを操っていただけ。最後の止め以外は。

ペストが物凄い殺気を振りまいていたが、剣心に対しては、ただの一度も攻勢に出れずに終わった。

だが、ペストを倒すのにもっと簡単な方法があった。幻覚で眠らし槍で刺す。

 

しかし、今回は千本桜の力を確認したいが為に幻覚は使わなかった。

千本桜で戦うにしても、殲景を全力で放つ、あるいは吭景を最初から使えば良かったのだ。

つまりペストは剣心に傷をつけるどころか、終始手加減されていたのである。

 

十六夜(千本桜か。こりゃあ面白そうだぜ。)

 

剣心「......わかった。約束だったな。だが、あくまで力試しだぞ。」

 

十六夜「ああ、だから俺の力を試すぜ。」

 

剣心「......」

 

剣心はため息が出そうになるのをなんとか堪える。

 

十六夜「それに時代を超えて、あの抜刀斎とやりあえるなんてな。腕がなるぜ!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ノーネーム敷地

 

軽く体操をしている十六夜

 

十六夜「じゃあ、早速やりますか!」

 

そう言って、ファイティングポーズを取る十六夜

 

十六夜「いくぜ!」

 

十六夜は地面を砕く勢いで踏み込み第三宇宙速度を超える速さで一直線に攻め込む。

 

剣心「......」

 

十六夜「オラァ!」

 

そのまま剣心に拳を叩き込む。剣心はそれを右に体を捻る事で躱す。

行き場を失った拳は、そのまま地面に叩き込まれ地面を砕く。

 

十六夜はそのまま流れる様に右脚で回し蹴りを放つ。それを少し屈んで躱す。さらに左足の回し蹴りが来るが少し後ろに後退する事で躱す。

 

すると、今度は剣心が十六夜の鳩尾手掌を叩き込み、さらに顔面に肘鉄を叩き込む。そして追撃とばかりに十六夜の脚に逆回し蹴りを放つ。しかし、

 

十六夜「効かねーぜ!」

 

十六夜に一切のダメージは通っていない

 

十六夜「お前の力で俺を傷つけられる訳はないだろう?舐めてるのか?」

 

剣心「......あくまでも、力試しのつもりだが。」

 

十六夜「そうかよ!なら、まずはその腰にある刀を抜かせてやるぜ!」

 

それからは十六夜が攻撃して、剣心が躱す。それの繰り返し。

 

しかし、十六夜が攻撃する時に発生する瓦礫の破片が少しずつ、剣心に傷をつけていく。

さらに、追撃とばかりに十六夜は石を拾って投げる。そのどれもが、あり得ない速度で地面にいくつものクレーターを作る。

 

十六夜(チッ、全然当たらねー)

 

十六夜の爆撃がやむ。

 

十六夜「たくっ、そんなんだから、お前はいつまでたっても憂鬱な顔をしてるんだよ。」

 

十六夜「誰も死なせないだ?お前が中途半端な覚悟のせいで、テメェは大切な人を失ったんだろ?これじゃ、守られる側もたまったもんじゃないなぁ!」

 

十六夜「こんなんじゃ、これからもテメェは失敗し続けるだろうな」

 

十六夜は剣心を挑発して刀を抜かそうとする。が、十六夜は直後後悔する事になる。

 

剣心は十六夜の挑発を最初は聞き流す

 

さらに十六夜は

 

十六夜「それに、平和を築く?そんなの糞食らえだ!お陰で向こうの世界ではつまなかったじゃねーか!」

 

瞬間、剣心から剣気が放たれる。十六夜は圧迫感から地面に縫い付けられ、呼吸ができなくなる。

 

十六夜「ガハァ」

 

さらに剣気による衝撃波で十六夜の全身に傷がつく。

 

十六夜「オラァ!」

 

十六夜は気合で、剣心の剣気に抗う

 

十六夜「いいじゃねーか!いい感じだぜ!」

 

十六夜は冷や汗をかきながら叫ぶ。

 

剣心の瞳が蒼から緋に変わる。

 

剣心は刀に手を置き、抜刀術の構えに入る。十六夜もそれを見てニヤニヤと笑いながら構える。そして、

 

十六夜「!?」

 

十六夜(消えた!俺が気を抜いたのか?いや、集中してたはずだ。)

 

十六夜は剣心を見失う。

 

十六夜「ぐあぁぁぁ!」

 

十六夜は背中に鋭い痛みを感じ顔をしかめる。振り返るとそこには、刀を振り切り、そのまま上から斜めに斬りかかる剣心の姿があった。

 

十六夜「チッ!」

 

十六夜の体に赤い花が咲く。

 

十六夜(なんとか、直撃は避けれたか)

 

十六夜は即座に後退する事で、直撃を避ける。剣心は一直線に飛び込んで来る。

 

十六夜「オラァ!」

 

十六夜はそれを迎撃をしようとして、拳を放つ。剣心はそれを身体を回転させて躱し、横薙ぎに一閃する。それを屈んで躱し、剣心の腹に蹴りを入れる。

剣心は10メートルほど吹っ飛ぶが、無事着地する。

 

十六夜(なんて反応速度だ。龍の眼は使ってないはずだが。)

 

剣心は十六夜に腹を蹴られた事で吐血するが、剣心から放たれるプレッシャーに衰えは感じられない。

 

十六夜「いいじゃねーか!楽しいぜ!お前もそうだろ?」

 

剣心「......」

 

十六夜「?」

 

十六夜(さっきから気になってたが、やっぱり理性が無くなってるな)

 

十六夜「お前は誰だ?」

 

剣心「......」

 

剣心は無言で刀を正眼に構える。

 

十六夜「ちぇ、黙りかよ。」

 

十六夜("元"も"今"もどっちも雰囲気同じだから、今まで気づかなかったぜ)

 

十六夜(まあ、"こっち"は容赦ない感じだな)

 

十六夜「そろそろ、終わらせるか」

 

そう言って、十六夜は剣心に全力で拳を叩き込む。

剣心は、正眼の構えから、9つの突きを同時に出す。

 

十六夜「オラァ!」

 

剣心「......」

 

2つの影がぶつかる。十六夜は9つの斬撃を浴び、剣心は腹に大穴を穿って両者血を流す。

十六夜は血を流しすぎたのと、身体中に斬撃を浴びた事により倒れる。

剣心が近づき、刀を逆手に持ち、切っ先を十六夜に向ける。

 

十六夜(同じぐらいダメージ受けてるはずなんだがな、気合でも負けちまうのか)

 

十六夜は内心毒付く。しかし、その顔は勇猛な笑みを浮かべていた。自分が今から止めをさせられるにもかかわらず。

 

剣心はそれに表情を変える事はなく、刀を放り下ろす。その時、

 

耀「駄目!剣心!」

 

後ろから耀が剣心にしがみ付き、抑え込もうとする。剣心は抵抗しようとするが、即座に熊のギフトで体重と腕力をあげて抑える。

剣心の瞳が緋から蒼に戻る。そして、目の前で血に濡れ、倒れている十六夜を見て言葉を失う。

 

剣心(......俺は一体?)

 

状況を整理しようと周りを見渡した時、視界の端に雷が見えた。

 

黒ウサギ「いい加減にしやがりませ。この、お馬鹿様方あああああああああああああ!!!!」

 

黒ウサギが緋色の髪とウサ耳を逆立てて、涙ながらに雷の槍をこちら目掛けてぶん投げたのだった。

それを確認したところで、剣心の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

1週間後

 

剣心の部屋の障子が開けられる。

 

耀「もう大丈夫?」

 

剣心「ああ、もう大丈夫だ。.......迷惑をかけたな、すまない」

 

そう剣心は言うと耀が部屋に入って来る。その後ろを十六夜、飛鳥、黒ウサギ、ジン、レティシアなどのノーネームのメンバーが次々と入って来る。

 

剣心「十六夜、すまない。俺はもう少しでお前を.......」

 

十六夜「はっ!何言ってんだ?楽しかったんだからいいじゃねーか!」

 

十六夜はヘラヘラ笑う。

 

黒ウサギ「楽しい訳ないでしょうが!」

 

スパァーーン

 

黒ウサギが頬をふくらませてこちらを睨んでいた。その目が若干潤んでいる。

 

十六夜は珍しく真剣な顔になる。

 

十六夜「それより……″あれ″はいったい何だ?」

 

剣心「すまない。覚えていない」

 

十六夜「そうか……何か心当たりは?」

 

剣心「……無いことはないが……」

 

十六夜「その心当たりは何だ?」

 

剣心「......箱庭に来た事だ......」

 

十六夜「…………そうか」

 

そう言って剣心も十六夜も黙りこんでしまった。

 

剣心(あれはおそらく、抜刀斎の人格。十六夜との戦闘でかつての人斬りに立ち戻ったのか)

 

しばらくそうしていると、飛鳥が強引に話を終わらせた。

 

飛鳥「とにかく、2人とも生きててよかったわ。」

 

十六夜「まぁ、そうだな」

 

耀「……心配した…」

 

黒ウサギ「全くですよ!」

 

剣心「.......皆......迷惑をかけた。すまない。」

 

しかし___

 

十六夜「そうだな……まぁ、悪いと思うんだったら、何かしてもらわないとな?」

 

飛鳥「そうね。大変心配したし」

 

耀「私は剣心を抑えた時手を痛めたし。そ、それに......け、剣心に触られたし.......」

 

耀の言葉が途中から小さくなって、誰も聞こえなくなる。

 

十六夜「俺は剣心に9つも穴開けられたし」

 

剣心「......それは、十六夜も同じであろう」

 

ニッコリと笑っている問題児たち。剣心はおそるおそる口を開く。

 

剣心「……何をしろと…?」

 

十六夜「そうだな……命令権一回分ってのはどうだ?」

 

飛鳥「いいわね、それ」

 

耀「……賛成…」

 

問題児たちはニヤリと邪悪な笑みをこちらに向けてくる。

剣心は大きくため息をつき、覚悟を決めた。

 

剣心「……分かった……ある程度の命令なら受ける」

 

みんなはハイタッチをし合っている。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

抜き身の刀と鞘

"ハーメルンの笛吹き"とのギフトゲームから早一ヶ月。一同はこれからの活動方針を話し合うために本拠の大広間に集まっていた。

 

大広間の長机には、上座からジン、十六夜、剣心、飛鳥、耀、レティシア、そして年長組の代表としてリリが座っている。この席順はジンと黒ウサギを除けば、"ノーネーム"への貢献度を示していた。十六夜は水神を倒しての水源の確保、レティシアの奪還、ついこの間のゲームでは謎解きだけでなく神格保持者となった悪魔、ヴェーザーをも倒した。十六夜が次席に座っている理由はこれだ。

 

十六夜「どうした? 俺よりいい位置に座ってるのに随分と気分悪そうな顔してるじゃねえか、御チビ」

 

十六夜はガチガチに緊張しているジンを笑い、からかっている。

 

剣心もレティシア奪還には大きく貢献した。そして実質一人でペストを追い詰めたという功績がある。

本人は末端の席で良いと遠慮していたが、皆に押し切られて十六夜の次席に納まっている。

 

ジン「だ、だって旗本の席ですよ? 緊張して当たり前じゃないですか」

 

ジンはローブを掴みながら反論している。彼はリーダーとはいえ他数名ほど功績を挙げている訳ではないので上座にいることに引け目を感じているのだ。

 

しかし、そういうわけにもいかない。彼はこの"ノーネーム"の顔であり、今まで入手したギフトもジン=ラッセンの名義で届いているのだ。

 

そしてそれだけではない。

 

黒ウサギ「苦節三年……。とうとう私たちのコミュニティにも招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!」

 

黒ウサギは大事そうに胸に抱いていた三枚の封筒を見せると、いつも以上のテンションではしゃぎ出す。無理も無い、今まで名無しと蔑まれてきた事を考えれば、それは大きな進歩だ。

 

飛鳥「ところで今日集まった理由はその招待状の事かしら?」

 

剣心の次の席に座っている飛鳥が話を急かす。十六夜や剣心には劣るものの、彼女も相棒のメルンやディーンと農園区復興に大きく貢献している。剣心に十六夜の次席を譲られたが、それは彼女のプライドが許さなかったようで、不満はあるものの納得して四番目についている。

 

リリ「はい、そうですがその前に報告が……」

 

黒ウサギとリリから"ノーネーム"の現状が伝えられた。

 

ペスト討伐のお陰で多額の報奨金が出たことで備蓄はしばらく問題ないこと、メルンとディーンのお陰で農園の四分の一が使えるようになったことだ。

 

レティシア「――――つまりだ」

 

そして話は先程の招待状にと戻る。

 

レティシア「主達には特区にふさわしい苗や牧畜を手に入れて欲しいのだ」

 

耀「牧畜って、山羊や牛のような?」

 

そう、この居住区にはそういった動物が全くいない。

 

レティシア「そうだ。都合のいいことに、南側の"龍角を持つ鷲獅子ドラコ・グライフ"連盟から収穫祭の招待状が届いている。連盟主催とあって収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多い」

 

黒ウサギ「方針については一通り説明は終わりました。……ですが、一つ問題があります」

 

耀「問題?」

 

黒ウサギはとても言い難そうに目を泳がせて、

 

黒ウサギ「この収穫祭ですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二十五日。約一ヶ月行われることとなります。この規模のゲームはそう無いですし、出来れば最後まで参加したいのですが、コミュニティの主力が長期間不在なのはよくありません。なのでレティシア様と一緒にせめて御一人残って欲し――――」

 

「「「嫌だ」」」

 

剣心「......」

 

この展開はジンも黒ウサギも剣心も予想していた。生誕祭での前科があるお祭りごと大好きな問題児達が留守番なんてするわけがない。

 

剣心「なら、俺が残る」

 

剣心が名乗り出る。剣心は特に祭りに興味はなかった。それに、そのために"ノーネーム"の子ども達を危険に晒すわけにはいかない。第一、話が進まない。

 

耀「――――えっ?」

 

剣心の言葉に真っ先に反応したのは耀だった。今の彼女は雨に濡れた捨て犬のような悲しい顔をしている。そして問題児他二人は冷めた目つきで剣心を見ていた。

 

剣心「......何か?」

 

十六夜「いや……だってなぁ?」

 

飛鳥「ねぇ?」

 

耀「剣心、行かないの……?」

 

この何とも言えない空気をジンが無理やりぶった切る。

 

ジン「わ、分かりました! せめて前夜祭を三人、オープニングセレモニーから一週間を全員で、残りの日数を三人と人数を絞らせて下さい!」

 

ジンもこうなることを見越してキッチリ対策は立てていたようだ。しかしこれだと内二人は全部の日数参加が可能なのだ。普通は席順で決まるのだが、問題児達がそんなことで納得する筈がない。剣心はどうしたものかと考えていたが、十六夜にアイデアがあるようだ。

 

決定方法は十六夜の提案で『期日まで最も多くの戦果を挙げた者が勝者』と決まった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心「......」

 

三人はやる気マンマンで早速ギフトゲームを探しに行ったが、剣心は今回の件に関して、それ程勝利に執着してはいなかったので、ただその辺をぶらついているだけだったりする。

 

剣心「......」

 

気が付いたら霧の深い森の中にいた。

 

剣心「......」

 

剣心は引き返そうかと考えたが、あまりに霧が濃くて元来た道すらも見失ってしまった。

 

剣心(まさか幻術!?)

 

剣心は周りを確認するが、術者の気配はない。

 

?「フォッフォッフォッ、まあ落ち着きなされ」

 

剣心「.......」

 

先程周りを見回した時にはいなかった老人が切り株に腰掛けている。足元には老人の持ち物であろうバスケットが置いてあった。

 

剣心「これはあなたの仕業か?」

 

?「いや、これはこの森の特徴なんじゃよ。ワシもここで迷ってしまっていての、疲れて休んでいるところじゃ」

 

?「フゥム……君、ワシとギフトゲームをせんか?」

 

剣心「......何?」

 

何故ここから出ることを考えているのにギフトゲームになるのかと疑問に思う。

 

?「何、ルールは簡単じゃ。ワシをこの森の向こう側まで連れて行ってくれるだけでいい。時間制限も敗北条件も無い。良いと思わんかね?」

 

裏を返せばこの老人を森の向こう側まで連れて行けなければ剣心はこの森の中を永久に彷徨うはめになる。しかし、どちらにしろ剣心はこの森から脱出しなければならないし、この老人をこのまま放置しておく訳にもいかない。

 

剣心はそのギフトゲーム? の条件を飲んだ。

 

『ギフトゲーム名"迷いの森"』

 

 プレイヤー 緋村剣心

 ゲームマスター 老人

 

 クリア条件 老人を連れて森の向こう側まで到達する

 敗北条件 無し

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 "謎の老人"印』

 

剣心は"契約書類ギアスロール"に記入をした後、老人の希望で彼をおぶって歩を進めた。途中で拾った小石を一つずつ置きながら迷わないように、さながらヘンゼルとグレーテルのように森の向こう側を目指す。

 

老人「重くないかの?」

 

剣心「大丈夫です」

 

彼はとても華奢な体格で、老人をおぶって歩くのは中々に重労働であるが、その程度では剣心は音をあげない。

 

三十分くらい歩いただろうか、そうすると目の前にさっき置いていった小石が等間隔で置いてある。自分と同じように石を置いてこの森を脱出しようとしていたのかと考え、小石を辿ってまた進もうとする。

 

剣心「......」

 

置いてある石には見覚えがあった。剣心がさっき置いておいた筈の石だ。全て覚えているわけではないが、いくつかの形はうろ覚えだが分かる。

 

老人「そうなんじゃよ、どれだけ進んでも元の場所に戻って来てしまうんじゃ」

 

剣心は先に言えと内心ため息をつく。

 

剣心(この三十分間は一体なんだった)

 

剣心(やはり幻覚か)

 

剣心は龍の眼を発動する。

 

剣心(やはりか)

 

そのまま老人をおぶって歩く

 

辿りついた森の向こう側あったのは、花畑。

 

花畑の中央に十字架が立てられている。

 

剣心「お墓……?」

 

老人「ああ、ありがとう。やっとここまでこれたわい。ギフトゲームは君の勝ちだ」

 

老人はギフトゲームに負けたというのに心底嬉しそうに笑い、手に持っていたバスケットを剣心に手渡した。

 

剣心「これは……?」

 

老人「報酬じゃよ。それに、もうワシには必要ないしの」

 

バスケットの中には金色に輝くリンゴのような果物や何かの植物の苗が入っていた。

 

老人「ここを真っ直ぐ行けば君が元いた場所へ辿り着く。さあ、日が暮れない内に帰りなさい」

 

剣心「あなたは、帰らないのか?」

 

老人はフッと笑った。

 

老人「心配せんでもいい。ここがワシの家じゃ」

 

剣心「.......」

 

後日、剣心が貰った植物の苗が"宝樹の木の苗"というとてもレアな代物だと黒ウサギから聞いて再度驚きの声を上げることになる。ちなみに一緒にあったリンゴはその木がつける実だとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

アンダーウッドの収穫祭の前夜祭の前日、全ての日数を出れる二人が決まった。

 

一人目は地域支配者レギオンマスターの証である外門の権利証を手に入れた十六夜。彼はトリトンの滝の主である白雪(水樹の持ち主だった蛇)の身柄を白夜叉に引き渡したことでこれを手に入れた。これで"ノーネーム"は恒久的な、それも莫大な収入源を得たと同時に、名実共に七層東区の筆頭となったわけである。

掲げる旗やコミュニティの名が無くてもジン・ラッセルの率いるコミュニティとして名が広まっていくことだろう。

 

二人目は"宝樹の苗"を手に入れた剣心である。

 

その夜に小さな宴が設けられた。十六夜の白ける一言があったものの、とても楽しい宴となった。

だが、その中で一人、耀は浮かない顔をしている。

 

彼女は気分転換に三毛猫を連れて居住区の外れまで来ていた。

 

耀「三毛猫。私は収穫祭が始まってからの参加になったよ。残念だけど、前夜祭はお預けだね」

 

『……そうか。残念やったなお嬢』

 

耀は膝の上に乗っている三毛猫に向かって話している。彼女は今まで取り立てて"ノーネーム"復興に手柄を立てて来た訳ではない。しかし、他の三人は違う。十六夜も飛鳥も、気になっている剣心だって目に見える活躍をしているのに、自分だけ大したことが出来ていない。"ぺルセウス"や"ハーメルンの笛吹き"とのギフトゲームだって肝心なところで何も出来ていないのだ。

 

耀「剣心達は凄いよね」

 

『……せやな』

 

耀「でも、私はあんまり凄くないね」

 

剣心「そんなことはない」

 

耀は、この場にいる筈のない第三者の声に反応して慌てて後ろを振り向いた。そこには剣心が料理の皿と酒を持って立っている。耀は驚きのあまり、目をパチクリしていた。

 

剣心「そんなことはない。耀は凄い」

 

耀「違う、私だけ足手纏い。流される感じでコミュニティに入ったのが駄目だったんだよ。偶然素敵な友達が出来ただけで、私にはその関係を維持するだけの力が……無い」

 

これが耀の本音だった。彼女の膝の上にいる三毛猫は痛ましそうに耀を見ている。

 

そんな悲しそうな彼女を見た後、剣心は前を向いて独り言のように喋り出した。

 

剣心「俺も向こうでは、友と呼べるような人間はいなかった。唯一、俺によく話しかける者が1人いたが、その者は敵の密偵で裏切り者であった。」

 

剣心「だが、そんな俺だって、今こうして皆といる。友を作るのに力など必要ない」

 

ずっと一人ぼっちで友達の作り方を知らなかった彼女にとって、剣心の言葉は目から鱗が落ちる気分だった。

 

耀「…………かな?」

 

剣心「?」

 

耀「ずっと動物以外の友達がいなかった私でも友達、作れるかな?」

 

耀の不安そうな言葉に、剣心は優しく笑いかける。

 

剣心「大丈夫だ、こんな俺にも出来たんだ。それに、もうここに一人友がいるではないか」

 

剣心の言葉には不思議と安心感がある。耀の今までの劣等感から出たどうにもならないネガティブな気持ちが何処かへ行ってしまうくらいに。

 

耀「......ありがとう」

 

耀は満足そうに頷いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンダーウッド編
アンダーウッド


収穫祭へ出発する前夜、十六夜のヘッドホンが紛失するという事態が発生した。皆が夜通しで探したが、一向に見つかることは無く、結局彼は耀と順番を交代して、レティシアと共に本拠に残ることになった。

現在彼の頭にはヘッドホンの代わりにヘアーバンドが載っている。ヘッドホン一つで楽しみにしていた前夜祭を諦めるなんてとても意外なことだ。

 

耀は少し申し訳なさそうだったが、十六夜の最後の言葉で罪悪感が消し飛んだ。

 

十六夜「愛しの剣心と一緒に楽しんでこいよ」

 

思わず蹴りを入れてしまった耀は悪くない。もっとも、蹴りは右腕で受け止められてしまったのだが。

 

何はともあれ、剣心達は境界門を通って七七五九一七五外門"アンダーウッドの大瀑布"、フィル・ボルグの丘陵に着いた。

 

それと同時に一行は、多分に水分を含んだ冷たい風を浴びる。

 

飛鳥「わ……!」

 

耀「きゃ……!」

 

剣心「……!」

 

その冷たさに耀と飛鳥は驚きの声を上げ、剣心は笠をより目深く被る。まるで滝のすぐ近くで水飛沫でも浴びているようだった。

 

眼下には距離感がおかしくなるほど大きな水樹、そしてその根が網目状に張り巡らされた地下都市という壮観な風景が飛び込んできた。

 

飛鳥「すごい……」

 

耀「飛鳥、剣心、下! 水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

 

耀の、今まで見たことの無いようなはしゃぎっぷりに剣心と飛鳥は少し驚きながらも彼女が指を差した方を見る。その先には網目状に張り巡らされた根の隙間を潜るようにして翠色の水晶の水路が作られている。

 

剣心(確か北でも同じようなのを見たような……)

 

耀「二人とも、上!」

 

飛鳥は水路について思うところがあったが、耀の声を聞いてすぐに考えを変え、剣心と共に上を見た。

 

剣心「......角が生えてる!?」

 

剣心は空を飛んでいる角の生えた鳥を見て驚きの声を上げた。飛鳥も唖然とした表情でそれを見ていた。

 

剣心「聞いたことも見たこともない鳥だ。やはり幻獣か? 黒ウサギは知っているのか?」

 

黒ウサギ「え、ええ。まあ……」

 

耀の言葉に黒ウサギが困ったような顔で答える。

 

耀「ちょっと見て来てもいい?」

 

飛鳥「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

 

思わず身を乗り出そうとした耀を飛鳥は慌てて止めた。ここに着てから彼女の興奮振りが半端ではない。

 

すると懐かしい声が聞こえてきた。

 

?『友よ、待っていたぞ。ようこそわが故郷に』

 

以前白夜叉とのギフトゲームの際に耀が乗ったグリフォンだ。ちなみに飛鳥と剣心にはグリフォンが何と言っているのかは分からない。

 

耀「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

 

その後も耀はグリフォン、名をグリーというらしいが、友人の好で送って行ってくれることになった。剣心は走ってついてくるらしい。

 

グリー『人間の脚で、ましてや飛ばずに我についてこれるのか?』

 

耀「大丈夫。剣心は速いから」

 

自らの力で飛べる耀は、全員が乗り込むまで角の生えた鳥についてグリーに聞いていた。

 

グリーが言うには、あの鳥はペリュドンといい、人間を殺す殺人種の鳥。伝説の大陸アトランティスから来たとされていて影に呪いを持っているそうで、それを解呪するためには人間を殺さなくてはいけないある意味哀れな怪物なのだ。

 

グリー『それでは行くぞ』

 

グリーがそう言うと翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こし、巨大な鉤爪を振り上げて獅子の足で大地を蹴った。

 

その空を走るかのようなスピードで瞬く間に外門から離れていく。

 

グリー『やるな。半分足らずの力で飛行しているとはいえ、二か月足らずで私に付いてくるとは』

 

本気ではないとはいえグリフォンのスピードに何とかついていく耀にグリーは賞賛の言葉を投げかけた。

 

剣心は皆のスピードに合わせて地上を駆ける。

 

グリー『やるな小僧。おまけにまだ余力を残していると見える』

 

耀「剣心。グリーが凄いって言ってる」

 

グリーは剣心の速度に感嘆し、耀はその言葉を通訳する。果たして本気のグリーと剣心が競争したら一体どちらが勝つのやら。

 

空からの"アンダーウッド"もまた絶景。まさに"水の都"という言葉がしっくりくる。

 

剣心達を送り届けた後、グリーはぺリュドンを追い払う仕事があるとのことで再び空へ舞上がり、飛んでいった。

 

グリーを見送った後、宿舎の上から知った声がかかる。

 

アーシャ「あー! 誰かと思ったらお前耀じゃん! お前らも収穫祭に」

 

ジャック「アーシャ、そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

耀が"火龍誕生祭"でのギフトゲーム、"アンダーウッドの迷路"で戦った"ウィル・オ・ウィスプ"のカボチャのお化けのジャック・オ・ランタンとゴスロリ衣装を着た少女アーシャだった。

 

耀はあれからまたアーシャとギフトゲームをして友人でもあり良きライバルでもある間柄になっていて、今も親しげに話している。

 

アーシャ「それよりさ、耀は出場するギフトゲームは決めたか?」

 

耀「ううん。今来たばっかり」

 

アーシャ「それなら"ヒッポカンプの騎手"には出ろよ!」

 

ヒッポカンプとは別名"海馬シーホース"という幻獣で、それに乗ってレースをするのだろう。

 

アーシャ「おい、お前はどうすんだ?」

 

アーシャは今度は剣心にさも親しげに話しかける。

 

剣心「......俺は特に考えていない」

 

アーシャ「あぁ? 男らしくね~な~。」

 

剣心「.......」

 

アーシャは笑いながら剣心の背中を叩く。しかし、耀にとっては全く面白くない。

 

耀「アーシャ」

 

アーシャ「ん?」

 

耀「負けないから」

 

アーシャ「お、おう。望むところだぜ」

 

勘違いによって急に闘志を燃やし始めた耀に少し戸惑いながらも彼女がやる気になって気を良くしたアーシャだった。

 

飛鳥(ふふっ。十六夜くんじゃないけど、あの二人は見てて面白いわね)

 

それを見て飛鳥は少しだけ羨ましくなった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

"主催者ホスト"がいる本陣営があるのは大樹の中腹。そこまでは水式エレベーターがあり、ものの数分で本陣に到着し、木造の通路へ降り立つ。

 

通路を歩いていると、収穫祭の主催者である"龍角を持つ鷲獅子ドラグノフ"の旗印が見えた。

 

耀「旗が七枚? 七つのコミュニティが主催してるの?」

 

 "一本角"、"二翼"、"三本の尾"、"四本足"、"五爪"、"六本傷"、そしてその六つの旗に囲まれるように真ん中には龍の角が生えたグリフォンが描かれた旗がある。

 

黒ウサギ「残念ながらNOですね。"龍角を持つ鷲獅子"は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでいると聞きます。中心の大きな旗はおそらく連盟旗ですね」

 

耀が黒ウサギに連盟旗について尋ねている間に、他のメンバーは本陣入り口にある受付で入場届けを出していた。

 

受付をしている樹霊コダマの少女はメンバーの顔を確認していき、その視線を飛鳥で留めた。

 

コダマ「もしや"ノーネーム"の久遠飛鳥様でしょうか?」

 

飛鳥「そうだけど、貴女は?」

 

コダマ「私は火龍生誕祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊です。飛鳥様には弟を助けていただいたと聞きまして……」

 

ああ、と飛鳥は思い出す。ペストとの戦闘中に逃げ遅れた少年を飛鳥はディーンを使って助けていた。

 

コダマ「その節はどうもありがとうございました! おかげでコミュニティ一同、誰一人欠けることなく帰ってくることが出来ました!」

 

飛鳥「それはよかったわ。なら招待状は貴女達が送ってくださったのかしら?」

 

コダマ「はい。大精霊かあさんは眠っていますので私達が送らせていただきました。他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"の議長であらせられるサラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

その名前に一同は顔を見合わせる。そう、現在"サラマンドラ"で頭領をやっているサンドラと同じ家名なのだ。

 

飛鳥「それってもしかして……」

 

ジン「え、ええ。サンドラの姉の、長女のサラ様です。まさか南側に来ていたなんて……もしかしたら北の技術を流出させたのも――――」

 

?「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

聞き覚えの無い女性の声が背後から聞こえて、一同はすぐさま振り返った。途端、ここに来た冷たい風とは真逆の熱風が吹き抜ける。

 

飛鳥「これって……炎!?」

 

この熱風の発生源は、空から現れた褐色肌の女性の背に生えた二枚の炎翼だった。

 

彼女こそ、本来であればサンドラに代わって"サラマンドラ"の頭首になる筈だったサンドラの姉、サラ=ドルトレイク。

 

ジン「サ、サラ様!」

 

サラ「久しいなジン。会える日を待っていた。」

 

両コミュニティへの挨拶もそこそこにサラは皆を中へと招き入れる。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心達は貴賓室へと通されてそれぞれ席に付く。

 

サラ「それでは、両コミュニティの代表者に自己紹介を求めたいのだが……ジャック、やはり彼女は来ていないのか?」

 

ジャック「はい。ウィラは滅多なことでは領地を離れませんので」

 

ジャックの言葉にサラは肩を落とす。

 

サラ「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者プレイヤーを、是非とも招いてみたかったのだがな」

 

『最強』というフレーズに耀と飛鳥は白夜叉の時と同じく反応する。

 

コミュニティ"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダー、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。別名"蒼炎の悪魔"とも呼ばれている。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉出来るという大悪魔で"マクスウェルの魔王"を封印したという噂もある。本当であれば六桁どころか五桁でも最上級の実力者だそうだ。

 

その後は耀がサラの立派な二本角に興味を示したり、そこから"龍角を持つ鷲獅子"連盟の成り立ちについてまで発展したり、対黒ウサギ型ラビットイーターとかいう謎の植物が発注されていることを黒ウサギが知っていじけてしまったり。

 

黒ウサギはラビットイーターなる植物を燃やしに最下層にすっとんでいった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進撃の巨人

すいません。タイトルは書いてみたかっただけです。特に気にしないでいただければ幸いです。


その後、剣心達は収穫祭を見て廻った。

 

珍しい植物(ラビットイーターではない)を眺めたり、屋台の食べ物を、主に耀が買いまくったり。勿論、農園に植えるための苗や種なんかも物色していた。

 

現在は見たこともない動物の毛皮を使った製品やこの地域特有の民族衣装の試着をしている。どれもが元の世界には無かった色合いや模様をしていて、女性陣は楽しそうに着ている。

 

耀「剣心。これ、どうかな?」

 

耀は剣心の目の前でクルリと回った。現在の彼女は牧場でミルクの缶を運んでいそうな純朴な格好をしている。それが元のイメージとマッチしていてとても似合っている。

 

剣心「......ああ、似合ってる」

 

飛鳥は色は控えめだがヒラヒラがついたドレスタイプの衣装を着ている。髪を結ぶリボンもそれに合ったものを着けていた。

 

黒ウサギはいつもと違って露出度は控えめなワンピースのような衣装を着て、長い耳の間には帽子がちょこんと乗っかっている。あの長い耳は帽子を被るのには不便そうだ。

 

飛鳥「剣心。アナタ、もうちょっと気の利いたこと言えないの?」

 

剣心「......」

 

今の対応に見かねた飛鳥は剣心に抗議をする。

 

ある程度廻った後は、ヒッポカンプの騎手やその他もろもろのギフトゲームの登録を済ませ、宿舎に戻って談話室で談笑していた。

 

飛鳥「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」

 

アンダーウッドに着てから、黒ウサギのテンションが高めなことに疑問を持っていた耀は、談笑の最中にそれとなく聞いてみた。

 

黒ウサギ「え? ええと、そうですね。黒ウサギがお世話になっていた同士が南側の生まれだったので興味はありました」

 

剣心(同士。きっとレティシアのように魔王に連れ去られてしまった者の一人なのだろう。)

 

剣心の予想は当たっていた。黒ウサギは幼い頃、絶大な力を持つ魔王に一族が散り散りにされて、一人放浪していたところ、その人物に"ノーネーム"へと誘われたと本人は語っている。

 

黒ウサギが"ノーネーム"の生まれでないことに一同は驚いている。

 

黒ウサギ「黒ウサギを同士として受け入れてくれた恩を返すため……絶対に"ノーネーム"の居場所を守るのです。そして皆さんのような素敵な同士が出来たと帰ってきた皆に紹介するのですよ」

 

彼女の言葉には熱が篭っていた。弱体化してしまった"ノーネーム"を今日まで見捨てずに、ずっと支えていたのだ。一体どれほどの思い入れがあるのか。

 

耀と飛鳥は優しく微笑み、剣心は無言で聞き続ける。

 

耀「そう。ならその日、とても楽しみにしてる」

 

飛鳥「私もよ。ところでその……黒ウサギの恩人ってどんな人だったの?」

 

飛鳥に問われて、黒ウサギは遠くを見つめる。その口には笑みが浮かんでいた。遠い昔の出来事を思い出しているのだろう。

 

黒ウサギ「――彼女の名前は、金糸雀様。我々のコミュニティの参謀を務めた方でした」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心は自室へ戻ると笠を脱ぎ、刀を腰から抜き、腰を下ろす。

 

剣心(十六夜のヘッドホンは見つかったのだろうか)

 

やることなすこと滅茶苦茶な男だが、悪人ではない。一緒に過ごした時間は短くとも、友であり、共に戦った仲間だ。

 

剣心がそんな事を考えてると、大きな破壊音、そしてそれが原因で起こった地震のような揺れが起こる。

 

剣心はすぐさま、窓から外に出る。

 

剣心「あれは……?」

 

外では仮面をつけた巨人が長刀を片手に宿舎を襲っている。

 

そして巨人が襲っているのは皆が泊まっている部屋の近くだった筈。

 

しかし、あそこまで大きいと並みの攻撃ではグラつかせるのも難しいだろう。

 

剣心「卍解」

 

剣心「千本桜景義」

 

桜の激流が巨人に炸裂し、吹き飛ばされる。

 

剣心「皆、無事か!?」

 

黒ウサギ「YES! ありがとうございます剣心さん」

 

耀「う、うん。ありがとう」

 

飛鳥「感謝するわ」

 

しかし、間髪いれずに三体の巨人が落下してきた。

 

飛鳥がそれを見てギフトカードを取り出す。ディーンのパワーであればあの巨人にも対抗できるだろう。

だが、黒ウサギはそれを止めた。こんなところでディーンと巨人が暴れまわったら都市が目茶目茶になってしまう。

 

黒ウサギ「皆さんは地表へ! ここは黒ウサギにお任せ下さい!」 

 

疑似神格・金剛杵ヴァジュラ・レプリカを振りかざし、巨人の方へかけて行った。

 

剣心「……耀、どうした?」

 

さっきから上の空だった耀に疑問を持った剣心は彼女に話しかける。

 

耀「あ、うん。大丈夫……」

 

耀は飛鳥を抱えて剣心と一緒に地下都市から地上へ上がる。

 

地上はすでに乱戦状態であった。敵の数は約200体ほどだが、その体格差故に巨人に対してその十倍程の人数でやっと足止めが出来ている状況だ。

 

剣心「おかしい」

 

剣心は気がつく。周りで飛び交っている声を聞く限りでは混乱しているようにしか思えない。数では勝っていても連携が取れていないのだ。

 

理由はすぐに分かった。長であるサラが別な三体の巨人に釘付けにされている。それも他の巨人とは違って装飾をつけ、武器も違う。おそらく主力だろう。

 

飛鳥「剣心。あなたはサラの方に加勢してちょうだい」

 

普通、無理にあそこに割り込めば大打撃を喰らい、サラも危険な目に遭わせてしまうかもしれない。長がやられてしまえばこちらの勢いも一気に削がれてしまうだろう。

それは攻撃範囲の広い飛鳥のディーンやまだ空中戦になれてない耀ならそうなっていただろう。しかし、他二人と比べてこういった乱戦を何度も経験している剣心であれば話は変わってくる。

 

剣心「ああ、そっちは任せた」

 

二人と別れて剣心はサラの元へ向かう。その前には別の巨人二体が立ちはだかる。剣心はそれを千本桜で肉塊に変える。

 

巨人を切り抜けた剣心は今度こそサラの元へ到着する。そのままサラの後ろに迫っていた巨人の足元に剣弾を放ち、バランスが崩れたところで桜が飲み込む。

 

サラ「すまない、助かった!」

 

剣心「気にするな。」

 

サラは剣心の戦闘力に驚きながらも気を取り直す。そして彼女は他二体の巨人を押し返すと翼を広げて戦場の上空へ立った。

 

サラ「主催者がゲストに守られては末代までの名折れ! "龍角を持つ鷲獅子"の旗本に生きるものは己の領分を全うし、戦況を立て直せ!」

 

サラの一喝で我に返った各コミュニティは高らかに声を上げ、各々自分の役割に就く。これが本来の"龍角を持つ鷲獅子"であった。

向こうの方でも飛鳥が操るディーンや耀の活躍もあって押し返している。

 

サラ「そこにいる一体を任せても平気か?」

 

剣心「分かった」

 

刹那、琴線を弾く音がすると、唐突に発生した濃霧が戦場を覆った。この巨人達の仕業かと思ったが、そうであれば何故今更になって使ったのかという疑問が生じる。

 

剣心は龍の眼の補助で、霧の中でも変わらず猛威を振るう。

 

サラの方も剣心ほどではなくても直感には自信があるようで巨人の攻撃を避けている。

 

霧が出てから一分も経たない頃に突風が吹きく。

 

サラ「グリフォンか!?」

 

グリーやその仲間達がやってくれたのだろう。その突風により霧は晴れていく。

 

霧が無くなり……――そこには先程まで戦っていた巨人の死体が転がっていた。

 

サラ「これは、一体……?」

 

他の巨人達も同様に頭、首、心臓を刺されて息絶えている。全て同じ殺し方なのだ。

 

その人物はすぐに見つかった。純白の髪を頭上で黒い髪飾りで纏め、白いドレススカートに美しい装飾を施された白銀の鎧。顔の上半分は白黒の舞踏仮面で隠されていて正体は分からない。それらを巨人の血で真っ赤に染めている女性が飛鳥と耀に何やら話しかけている。

巨人だけを殺しているのだから敵ではないだろう

 

剣心が二人の元に駆けつけた時には謎の女性は姿を消していた。

 

剣心「二人とも、無事か?」

 

飛鳥「ええ」

 

耀「うん」

 

二人は苦い顔をしながら頷く。ああも圧倒的な実力差を見せられれば耀だけでなくプライドの高い飛鳥でも認めざるを得ない。『あの仮面の女性は自分達より遥かに強い』と。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

飛鳥「気分はどう?  春日部さん」

 

宿舎の有様を見るなり気を失ってしまった耀を担いで剣心と飛鳥は緊急の救護施設として設けられた区画に来ている。そして今、目を覚ましたところだ。

 

剣心「一体何があった? それにそれは……」

 

剣心は耀が大事そうに抱えている残骸。剣心はこれに見覚えがあった。十六夜が探している筈のヘッドホン、炎のシンボルマークが何よりの証拠だ。

 

飛鳥「説明してくれるわよね?」

 

彼女が寝ている間に剣心も飛鳥から大体の事情は聞いている。耀が己の無力さに悩んでおり今回の収穫祭に強い意気込みを持っていたこと。飛鳥と共に"ウィル・オ・ウィスプ"のゲームをクリアして、それを飛鳥の承諾のもと彼女個人の戦果として申告していたこと。

 

剣心は耀がそこまで思いつめていたなんて、あの夜に励ました時には知る由もなかった。

 

剣心(これは根深いな)

 

剣心「軽率な言葉だったのなら謝る」

 

剣心(無責任なことを言ったかもしれないな)

 

剣心「そ、そんなことない! 剣心に『私にだって出来ることがある』って言って貰えて凄く元気付けられた!」

 

それを耀は強く否定した。耀は父親がいなくなって自分の事を親身に思ってくれる人がいなかった。だからこそ剣心の優しさが温かく、身に染みた。

 

耀は自分の事とヘッドホンは無関係だと言っているが、それでも事実十六夜のヘッドフォンは彼女の荷物に紛れ込んでいた。とても彼女が嘘をついているとは思えない。

 

剣心「耀のギフトを使えばいいであろう……」

 

「「あ!」」

 

剣心の提案で耀はエンブレムの匂いを嗅ぐと、やがて複雑そうな表情を浮かべた。どうやら犯人に心当たりがあるようだが、彼女はどうしてこの臭いの持ち主が犯人なのかわからないようだった。

 

そんなとき、カーテンの向こうから声がかかる。

 

「えっとっと、"ノーネーム"の春日部耀さんと。ここでいいですか、三毛猫の旦那さん」

 

声の主は三毛猫と、三毛猫行きつけのカフェテラスの店員女性だった。声を聞いた途端に顔を顰めた耀を見て、なんとなく犯人は分かった。

 

耀「どうして……?」

 

『いや、その……お嬢があまりにも不憫やったから……仕返しにって……』

 

だから耀のことを気にかけてくれている剣心ではなく十六夜を狙ったのだが、三毛猫もまさか耀を悲しませることになるとは思っていなかったのだ。

 

三毛猫を十六夜に突き出すのは簡単なことだが、果たしてそれでいいのかと、自分に責任は全く無いのかという気持ちになる。

 

耀「やっぱり犯人がわかっただけじゃ駄目だ。何とかしてヘッドフォンを直さないといけない。……手伝ってくれる?」

 

飛鳥「ええ、喜んで」

 

剣心「ああ」

 

その後、皆に事情を話して残骸の回収を手伝って貰ったのだが、

 

飛鳥「諦めましょう」

 

剣心「......」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の温もり

ヘッドホンは外装がほとんど粉々になっていて、飛鳥が匙を投げるのも無理は無い。その後、黒ウサギ達とも合流してヘッドフォンを直すより代わりの品を用意しようという相談が行われる。

 

しかしその時、緊急を知らせる鐘の音が"アンダーウッド"中に響き渡り、その直後に巨人の来襲を知らせる地響きが地下都市を揺らした。

 

地表へ出た剣心達が見たのは、既に半ば壊滅状態の"一本角"と"五爪"の同志達。鐘が鳴ってからまだそれ程時間は経過していない筈だというのに、一体何があったのかと一同は驚いた。

 

すると一頭のグリフォンがこちらへ向かって飛んできた。

 

グリー『耀……! 丁度良い、今すぐ仲間を連れて逃げろ!』

 

グリーはこちらの軍勢が巨人の大群と竪琴の音色によって瓦解していると言って、東の白夜叉に救援をと叫んだ。竪琴の音色はここから音源がかなり離れている耀達でさえ意識が飛びそうになる。剣心は音で気を失わないように気を強く持った。

目の前でバタバタと倒れていく幻獣や獣人達を見て、剣心は我慢の限界だった。

 

剣心「行ってくる!」

 

黒ウサギ「ちょ、剣心さん!」

 

黒ウサギの制止の声を振り切った剣心は濃霧の中、龍の眼を使い、神速で前線まで駆けていく。その間にも巨人を破竹の勢いで倒していく。

 

剣心(――こっちか!?)

 

音がする方目掛けて剣心は加速する。案の定だが、音に近づくにつれて巨人は増えていった。

 

?『――――どこに逃げたの白夜叉ぁぁぁあああああああああああああああッ!!!』

 

突如、戦場に響き渡る少女の大声。剣心はこの声をついこの前聞いている。

 

剣心「まさか……ペストか?」

 

そう、黒死斑の魔王ブラック・パーチャーペストの声だ。そして彼女は今、白夜叉をもの凄い剣幕になりながらも探している。どうやら彼女は白夜叉に煮え湯を飲まされたらしい。

 

?「成程、黒死病を操る魔王を隷属させましたか。これなら……」

 

剣心は声の主の方を見る。白銀の鎧に顔の上半分を覆う仮面、つい先程飛鳥達を救ってくれた人物だった。

 

剣心「あなたは......」

 

?「コミュニティ"クイーン・ハロウィン"のフェイス・レスといいます」

 

剣心「コミュニティ"ノーネーム"の緋村剣心だ」

 

先程、フェイス・レスが感心しているのは二つある。一つ目は巨人と黒死病の相性、ケルト神話の一説では黒死病を操ることで巨人を支配していたというのがある。二つ目は怒り狂うペストを上手く使役出来ていることだ。剣心は知らないことだが、これはジンのギフト"精霊使役者ジーニアー"によるものだ。

 

"精霊使役者ジーニアー"とはその名の通り精霊を使役すること。一度隷属させれば、己の霊格に関わらず、例え相手が魔王であっても十全に支配することが出来るのだ。

 

ペストが巨人をバッタバッタと薙ぎ倒していく中で、霧はより濃くなっていく。竪琴の音色の主は戦況が不利になったことで逃げ出そうとしているのだろう。

 

しかし、ジンもここでペストを投下した時点で敵が姿を晦まそうとするくらい予想はついている筈だ。

 

この深い霧の中であっても、彼女であればそれを探すことが出来る。

 

耀が"黄金の竪琴"を奪い取ったことで、こちら側の勝利は確定した。

 

だが、一瞬剣心は違和感を覚える。

 

剣心(これは......一瞬ではあったが、"俺"がいた。)

 

霧が晴れた後に剣心が見たのは嬉しそうに"黄金の竪琴"を握り締めた耀と憤怒の表情で巨人の残党を片付けていく――何故か白いフリフリのメイド服を着たペストであった。

 

剣心(これは、久しぶりに荒れるかもしれないな)

 

剣心は耀に駆け寄った。今回のMVPは間違いなく彼女だろう。

 

耀「剣心、私やったよ!」

 

剣心「ああ……――ところで何故ペストがいる? それにあの格好は……」

 

ペスト「黙りなさい緋村剣心!!」

 

巨人を狩りながらも剣心の声はしっかりと聞き取っていたようだ。何という地獄耳。何処かで見たことがあると思ったらレティシアが着ているメイド服に似ている。あの格好は白夜叉に無理矢理着せられたのだろうか。

 

それを聞いた剣心は、

 

剣心「散れ。千本桜」

 

ペスト「え、え!? 嘘よ! ごめんなさい!だから、それだけはやめてぇ〜〜」

 

始解ではあるが、剣心の千本桜を見た瞬間逃げ出すペスト

 

耀はそんな剣心を見て笑う。

 

耀「......ふふ」

 

剣心「......どうした?」

 

耀「......いや、なんでもない」

 

耀(剣心でも、イラッとする事があるんだ)

 

ペストが最後の巨人を倒したことでこの戦いは終結した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

次の日の朝、剣心達を迎えたのはフェイス・レスであった。

 

どうやらフェイス・レスの力を借りて十六夜のヘッドホンの代わりになるものを"箱庭"に持ってくるそうだ。

 

ジン「しかし、厳密には"クイーン・ハロウィン"の力で召喚するのではなく。星の巡りを操って因果を変えるので、耀さんがヘッドホンを持っていないと成立しないのですが……」

 

耀「つまり過去を変えるってこと?」

 

ジン「はい」

 

ジンは心配そうに頷いた。

 

耀「それは大丈夫。十六夜のヘッドホンの同じメーカーのが家にある」

 

話を聞けば、耀は十六夜や剣心よりも未来の世界から来たらしい。もしかしたら十六夜の世界の未来から耀が来たのかもしれないなと、剣心は何とも言えない気持ちになった。

 

耀「うん。父さんがビンテージ物だって言ってた。あれなら十六夜もきっと許してくれると思う」

 

飛鳥「でもお父様の物なんでしょう? 勝手に持って行っていいのかしら?」

 

耀「それも大丈夫。父さんも母さんも行方不明のままだから」

 

さっくりと述べる耀に対して両親を亡くしている飛鳥は俯き、剣心は黙る。

 

剣心(そうか、耀も)

 

剣心は耀の痛みを少しは理解できる。なぜなら、己も9歳の時に親を病気(虎狼痢(コレラ菌))で失っているからだ。もっとも、剣心は人買いや野党に出くわす事になるが、比較的すぐに師匠に拾われる。

 

剣心(耀にも、師匠の様な人はいたのだろうか)

 

耀「……剣心?」

 

剣心「......何でもない。」

 

耀「嘘」

 

剣心は真顔で答えるが、どうやら考え事をしているのが、顔に出ていた様だ。

 

剣心(我ながら、呆れる。)

 

剣心がこのような隙を見せてしまったのも、きっと耀を幼少の頃の己と重ねてしまっていたからである。

 

飛鳥ですら剣心が暗い気分になっていることに気がついている。

 

耀「確かに、父さんと母さんがいなくなったのは辛かった。けど、私にも一緒に笑ってくれる友達が出来た。力を貸してくれる仲間が出来た。だから、そんなに辛くないよ。それに、これからは待ってるだけじゃなくてもっと歩み寄ろうって」

 

耀は周りの人達を見て、最後に剣心に微笑みかける。

 

剣心(要らぬ心配であったな。耀は俺よりもよっぽど強い)

 

そして、珍しく剣心も微笑む。

 

その笑顔を見て、飛鳥が顔赤らめる。

 

飛鳥(ううぅ〜、またも不意打ち/////)

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一同は"アンダーウッド"の螺旋階段を登って地表に出る。そこにはフェイス・レスが用意した"黄道の十二宮"を描いた陣があった。

 

耀はその中心で座ったまま、必死にヘッドホンへの想いを高めている。このまま半日ヘッドホンについて考え続ければ後はフェイス・レスがどうにかしてくれるらしい。"クイーン・ハロウィン"の力を借りているとはいえ、人間がそれだけのことを可能に出来るというのは黒ウサギも驚きであった。

 

そしてヘッドホンは届いたのだが……。

 

耀「猫耳?」

 

飛鳥「可愛い! それ凄く可愛いわ!」

 

飛鳥には好評のようだが、剣心を含め他は微妙な顔をして見ている。

 

外装は十六夜のヘッドホンとほぼ同じなのに何故か猫耳がついている。耀が着ける分には問題ないだろうが、これは十六夜に渡すものだ。とても男が着けるようなものじゃあない。最も、十六夜ならもしかしたら喜ぶかもしれないが。

 

フウと息をついたフェイス・レスは召喚が失敗したことに驚き、その原因と思われる耀のペンダントを確認させて欲しいと言った。

 

耀は戸惑いながらもペンダントを渡す。

 

フェイス・レスは耀に2,3質問をした後にペンダントを返した。

 

フェイス・レス「――召喚に失敗した代わりと言っては何ですが……一つご忠告を」

 

フェイス・レス曰く、耀のペンダントは他種族からギフトを貰うだけでなく、進化させたり合成させたり出来る代物らしい。

 

フェイス・レス「気をつけて、そのギフトは本来であれば人間の領域を大きく逸脱したものですから。」

 

フェイス・レスはそう言って崖を跳び下りて姿を消した。

 

修繕を諦めた一同は、何か代わりのものをと店を回ったが、結局何も見つからず、猫耳ヘッドホンを十六夜に渡すことになった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨龍召喚

外へ飛び出した剣心の目に入ってきたものは空からヒラヒラと落ちてくる黒い封筒。剣心はそれを迷わず手に取った。

 

剣心(これは……まさか!)

 

火龍誕生祭でペストがギフトゲームを仕掛けてきた時の状況に似ている。つまりこの中には契約書類ギアスロールが入っている筈。

 

封を開けると剣心の思った通りのものが入っていた。

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体

 ※ただし獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断する

 

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは“串刺し刑” “磔刑” “焚刑”からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

 

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害。

 二、ゲームマスター・"レティシア=ドラクレア"の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 "                 "印』

 

 

 

 

剣心(何だこれは……?)

 

剣心が困惑するのも無理は無い。こちらの敗北条件が無いことや向こうの勝利条件が無いこと、ペナルティについても不明な点が多いが、何よりも"ノーネーム"の同士である筈のレティシアがゲームマスターであることが不可解だ。

 

剣心(――レティシアが裏切った?)

 

否、今までそんな素振りは見せなかった。裏切るどころか彼女は"ノーネーム"のことを人一倍心配しているのだ。そんな優しい彼女が進んで敵に回るとは思えない。

 

考えられるのは第三者の介入だろう。この名前を記載されていない何者か、もしくは"コミュニティ"がレティシアに何かしたのだ。

 

「――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

巨龍は雄叫びを上げながら己の鱗を散弾のごとく"アンダーウッド"中に撒き散らす。やがてその鱗は形状を変化させ大蛇、火蜥蜴、大蠍といった魔獣となって"アンダーウッド"を襲う。

 

最前線には巨人、内部には魔獣、空には巨龍と敵が多すぎる。

 

剣心(巨人の方にも向かいたいが……)

 

剣心(まずは魔獣を殲滅する方が先だ。内部には非戦闘要員もいるのだから彼らの安全確保をしなければ。)

 

そう思い、剣心は魔獣の群れに飛び込んだ。

 

剣心「散れ。千本桜」

 

千本の桜の刃が町中に広がり、魔獣達が全身から血を吹き出し倒れる。

 

突然、大きな破壊音が響く

 

剣心(あれは……)

 

大樹を揺らした衝撃と爆音、巨人が最前線から吹き飛ばされて大樹に突き刺さったのだ。

巨人が自分の意思で空を飛んで突っ込んで来たとは考えにくい。

 

剣心はこんな出鱈目なことをする男に一人、心当たりがある。

 

剣心(そういえば、そろそろ十六夜が来る頃だったな)

 

十六夜の強さは剣心も身をもってよく知っている。単純な攻撃力ならとてつもない。そして楽しみにしていた祭りを邪魔されたとあればその心中は穏やかではない筈。

 

彼が暴れまわっているのなら前線の方は問題無さそうだ。

 

『"審判権限"の発動が受理されました! 只今から"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"は一時休戦し、審判決議を執り行います! プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返し――』

 

黒ウサギのアナウンスは途中で遮られてしまう。

 

巨龍にとってはただ動いただけ。たったそれだけのことで吹き荒れた暴風は"アンダーウッド"全土の人々全てを吹き飛ばし、震撼させた。

 

剣心は剣気で耐える。

 

剣心(図体が大きいと面倒だな)

 

剣心(あれは......)

 

剣心は龍の眼で巨龍に隠れて今まで見えなかった上空に浮かぶ古城を見つける。

 

そこへ魔獣が向かっている。しかも"アンダーウッド"の住人と思しき子ども達を捕まえながらだ。

 

剣心(不味い)

 

幸いなことにあの古城周辺の風はそれ程乱れてはいない。

 

剣心(皆、すまない)

 

剣心は生体吸収を使い飛行して魔獣達を追いかけて城へと到着する。

 

剣心(ここは恐らく敵の本拠地だ。)

 

剣心(まずは子ども達を捜す)

 

剣心は暗殺業で身につけた気配遮断を使い周りを警戒する。

 

剣心(あれは……)

 

敵の本拠地だけあって警戒は強い。水気を含む不快な音を立てて血塊と苔の集合体のような赤黒い怪物がそこかしこに跋扈している

 

そこまで強くは無さそうだが、数が多い。敵地であまり目立つ行動は控えたい。怪物達が通り過ぎるのをひたすら待った。

 

――そして、怪物達の足音が一斉に止まった。

 

剣心(何だ……?)

 

見つかったのかと思い、警戒した時

 

『キャーーー!!』

 

少し離れた先で子ども達の悲鳴。足音が止まったのはあの怪物が他の侵入者に気づいたからだった。

 

剣心は神速で、悲鳴が聞こえた方へと飛ぶ。怪物の後ろから素早く奇襲をかけ、抜刀術で怪物を切り裂いた。

手応えで言えば生き物というより硬質化した何かを切り裂いたという感覚だ。

 

いたのは子ども達だけではない。

 

耀「剣心!?」

 

怪物が真っ二つに割れた先には子ども達と一緒に耀もいる。

 

?「お嬢ちゃん、お仲間かい……!?」

 

耀「うん!」

 

共にいた猫のような老齢の獣人に聞かれた耀は赤黒い怪物を素手で打ち砕きながら頷く。耀も以前共に戦ってペルセウス戦の時と比べて格段に強くなっていた。その証拠に赤黒い怪物、正式名称"冬獣夏草"十数匹を難なく倒している。

 

『きゃぁあ!!』

 

子ども達が逃げた方でまた新しい悲鳴が響く。待ち伏せをされていたのだ。

その事に気がついた耀は舌打ちをする。

 

剣心(悲鳴がしたということは最悪子ども達が……。)

 

耀は子どもを、剣心は老齢の獣人を抱えて大急ぎで子ども達の下へ飛んだ。

 

そこで見たのは、地獄の業火で焼かれる怪物達。

そしてその業火を操るのはいつもの陽気な道化声を上げる悪魔ジャック・オ・ランタン。

 

燃え上がる炎は怪物を燃やすだけに留まらず、城下町全てを燃やしつくさんとする勢いで広がる。彼による一方的な殲滅の光景がそこにあった。

 

これは拙いと耀は慌てて上空へと避難する。剣心は抜刀術の剣圧で炎を防ぐ。ジャックが子どもごと燃やし尽くすなんて非道な真似はする筈もないから、子どもについては心配いらないだろう。

 

耀「すごい……」

 

炎が鎮火した時には怪物の影も形も残っておらず、文字通り『骨も残らない』というやつだ。もし巻き込まれたらと思うと想像するだけで恐ろしい。

 

耀がゆっくりと降りてきたとき、ジャックとその頭に乗っているアーシャはようやく二人の存在に気づいた。

 

ジャック「おや?」

 

アーシャ「あ、何だお前らいたのか! もしかしてお前らも子ども達と一緒に捕まってたとか?」 

 

耀「……違う。捕まった人達を助けに来ただけ」

 

剣心は抱えてた老齢の獣人をゆっくりと降ろす。

 

剣心「大丈夫ですか?」

 

ガロロ「わりィな坊主」

 

ジャック「何はともあれ、ここは危険です。他の参加者とも合流しましょう」

 

ジャックが指をパチンと鳴らすと、キャンドルスタンドとランタンをぶら提げた小さな人形、総勢15体が現れて、隠れていた子ども達を連れてくる。

全員無事なようで、耀もほっとした。

 

それから皆で今後の方針を話し合いをすることとなった。ジャックが敵を殲滅したからといって敵の本拠地と思しき場所で油断は禁物だ。

 

ジャック「お二人とも、ギフトカードはお持ちですか? 持っていたら出してください」

 

剣心「......わかった」

 

剣心は緋色のカードを、耀はパールエメラルドのカードをそれぞれ取り出した。その二枚とも奇妙な紋章が浮かんでいる。

 

耀「変な紋章が浮かんでる……?」

 

ジャック「これは"ペナルティ宣告"です。主催者側から提示されたペナルティ条件を満たしてしまった対象者には、招待状とギフトカードに主催者の旗印が刻まれるのです」

 

剣心は持っていた"契約書類ギアス・ロール"を広げる。

 

 

『ギフトゲーム名"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 *プレイヤー側ペナルティ条項

  ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

  ・ペナルティは"串刺し刑" "磔刑" "焚刑"からランダムに選出。

  ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適応。

  ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される』

 

 

剣心「ゲームマスターとはレティシアのはず? 俺はレティシアと戦っていないのだが……」

 

耀「私も、あの巨龍の鱗の魔獣と冬獣夏草くらいとしか戦ってない」

 

ジャック「ですが事実、我々はペナルティ条件を満たしてしまった。ならば考えられる可能性は一つでしょう」

  

耀はハッとした。

あの巨龍=レティシアだとしたら。その分身である魔獣と戦ってしまえばペナルティ条件を満たしてしまうのではないだろうか。

 

吸血鬼で有名なドラキュラとはルーマニア語で竜の子を意味する言葉。

ペストの時もそうであったことから、今回も何かの伝承に準えていると考えていいだろう。

 

剣心「なるほど、ではここにいる者は皆処刑と言う事か。」

 

ジャック「どちらにしろ"魔王ドラキュラ"を倒さない限り……十日後には、血の雨が降ることになるでしょう。伝説の如く、串刺し刑に処されてね」

 

ジャックのカボチャ頭の中で揺れる炎の瞳が、古城を囲む雷雲に移る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

耀の活躍と新たな敵

あれから一夜明けて、剣心達も一息つくこととなった。

食料や水に関しては、ガロロやジャックがギフトカードに常備していた保存食と水樹でどうにかなった。ギフトカードは、ただギフトを入れておくだけでなく、緊急時のための備えにもなるのだと剣心と耀は学んだのだ。

 

耀は食事の味に少し不満はあったものの、それでも今後のためにガンガン食べている。

 

一通り食事を終えた皆は今後のことを話し合うことになった。

 

ガロロ「さて、今後の活動だが……まずは意見を募りたい。誰か案はあるか?」

 

ガロロの言葉に、耀はここに残り、謎解きを行うことを提案した。耀も剣心もペナルティを受けることは確定している身。であれば、合流するよりも敵陣内で少しでも多くの手掛かりを見つけてゲームクリアを目指した方が良い。

 

審議決議の間は戦闘行為が禁止されてるので、非戦闘員である子ども達も絶対とは言えなくても襲われる危険性は低い。それにこの場にいる50人の内40人が子どもだ。散策するのであれば頭数は多いに越したことは無い。

 

子ども達も少しでも役に立ちたいとその意見に賛成であった。

 

ガロロ「……おし、分かった。若い連中がそこまで言うからにゃ俺も腹を括ろう。しかし具体的にはどうする?無闇に探索するんじゃ骨折り損だ。もし無策なら、許可は出せないぜ」

 

耀「うん。それについては私から提案……というか、勝利条件について暫定的な解答があるというか……」

 

剣心「!?」

 

耀は少々自信無さ気ではあるが、あの難解な勝利条件を解き明かしたことに剣心だけでない、他の4名も驚き、賞賛している。

 

耀が自分の予想を確信にするためにガロロ達に吸血鬼の歴史について尋ねた。

 

吸血鬼は先日攻めて来た巨人と同じく本来の故郷を追われて"箱庭"へとやってきた一族である。

彼らにとって太陽の光を浴びることが出来る箱庭は夢のような居場所だっただろう。そして、当時は各地域で独裁状態だった箱庭に秩序を齎そうと彼らは"箱庭の騎士"として立ち上がった。彼らは持ち前の力、知恵、そして勇気で凶悪な魔王を倒していき、中下層の魔王はあらかた駆逐され箱庭には安定期が訪れた。その後下層では"箱庭の騎士"を中心に規定を設けて、"階層支配者フロアマスター"や"地域支配者レギオンマスター"の制度が出来上がった。

 

耀「……それで、めでたしめでたし?」

 

ガロロ「そんなわきゃねえ」

 

その後、間もなくして吸血鬼の一族は吸血鬼の王によって惨殺されることとなる。

 

ガロロ「それを行ったのが"串刺しの女王"――――僅か十二歳で"龍の騎士ドラクル"にまで登り詰めた最強の吸血鬼。レティシア=ドラクレアさ」

 

二人は絶句した。 

 

耀「そ、そんな……」

 

ガロロ「あん? お前ら同じコミュニティだろ。聞いてないのか?」

 

ガロロは怪訝な表情をするも、話を続けた。

 

初代"全権階層支配者アンダーエリアマスター"となったレティシアはその権力と利権を手に、上層の修羅神仏に戦争をしかけ、それを阻止しようとして革命を起こした吸血鬼達と殺し合い――――その結果滅んだ。

 

耀はガロロから聞いた吸血鬼の歴史を頭の中で何度も反芻しながら、そして契約書類ギアスロールを何度も見返している。

 

剣心も少しでも助けになればと、また契約書類ギアスロールに目を落とす。

一番上に記してあるゲーム名に最初に目がいった。

 

剣心「俺は英語はわからなのだが......」

 

耀「SUNは太陽、SYNCHRONOUSは同時、ORBITは人工衛星」

 

剣心「人工衛星?」

 

古い歴史を持つ吸血鬼にそぐわない人が生み出した文明の利器。何か関係があるとは思い難い。しかし耀は剣心の呟きにコクリと頷いた。

 

耀「そう。人工衛星」

 

ジャック「じ、人工衛星ですか!? まさかこの城が……?」

 

ジャックも今の一言で耀と同じく答えに辿り着いた。

 

今剣心達がいるこの城を人工……否、神造衛星だと仮定すればこのゲームに太陽と軌道が関係することが明らかになる。

そして第三の勝利条件である『砕かれた星空を集め、獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て』にある獣の帯は"獣帯ゾディアック"、つまり黄道十二宮を示すことになる。

 

砕かれた星空、つまり天球分割法によって十二に分けられた星座を玉座に捧げると見解出来る。

 

剣心「つまり、十二星座に関係のあるものを集めてこの城の何処かにある玉座に持っていけばこのゲームは達成されるということか?」

 

耀「私の考えが正しければ多分……そう、だと思う。でもその星座に関係あるものっていうのがまだよくわからないし。玉座の場所も『捧げる』っていうのもまだ……」

 

それでもこのギフトゲームを攻略する上での方針を決めるには充分であった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

十二に分かれた城下町の探索はこの広さから二手に分かれてすることになった。何かあったときのためにと一方にはジャックとアーシャが、もう一方には剣心と耀、そしてガロロが引率している。子ども達にはジャックの案でゲーム感覚で楽しく探索して貰えるように景品を出すといったふうにしていた。

 

剣心「そういえば……」

 

耀「?」

 

剣心「よく分かったな、星座とか。ゾディアック……だったか? 俺はその様な知識はない。今でも正直ほとんど分かってない。」

 

年齢なら剣心と耀はほぼ同い年。それでも、十六夜ほどではないにしろ有している知識が彼とは桁違いだ。もっとも剣心は今までの人生をほとんど闘ってばかりであるから、当然かも知れないが。

 

耀「……父さんが、そういう話が好きでよく聞かせてくれたから」

 

剣心「父さんと言うのは、確かそのペンダントを作った人物だったか?」 

 

剣心は箱庭に来たばかりの頃に白夜叉の元で彼女が言っていたことを思い出す。

 

剣心「心配してないのか?」

 

剣心はそうでなかったが、他の三人達には残してきた家族や友人がいたのではないか? 今まで言葉にこそだしてはいなかったものの、それは今になってポツリと吐き出される。

 

耀は小さく、そして少し悲しそうな顔をして首を横に振った。

 

耀「父さん、行方不明だから……」

 

剣心「......そうだったな......すまない」

 

耀「別にいいよ。あんまり気にしてないし。……そうだ。剣心の父さんはどんな人なの?」

 

耀は空気を変えようと、剣心の方に話を振ってきた。気遣いもあるのだろうが、純粋に剣心のことをもっと知りたいという気持ちもあったのかもしれない。

 

剣心「俺の両親は、9歳の時に病気で死んでいる。」

 

耀「......え?」

 

剣心「その後、俺は人買いに捕まる。」

 

耀「人買い?」

 

剣心「奴隷商人だ」

 

耀「......」

 

耀は黙り込んでしまう。

 

剣心「だが、奴隷商人を野盗が襲い、皆殺しに合う。俺も殺されかけたが、偶々通りかけた師匠に助けられ、拾われる。」

 

剣心(もっとも、その師匠も俺が殺してしまったがな)

 

耀「.....そう。でも拾ってくれる人がいてくれてよかったね。」

 

二年後に帰ってくると約束してついぞ帰ってくることはなかった耀の父、春日部孝明。

両親を失っても、剣心を拾ってくれた比古清十郎。

 

共通点はあれども全く正反対の結果になったこの境遇を耀は羨んだ。彼女は父の言う通り多くの動物達と友達になり父を待った。

 

けれどもそれは叶うことは無かった。

 

耀(でも、もし父さんが戻ってきていたら)

 

一瞬だけ過ぎったその考えをすぐに捨て去る。たらればを考えても仕方が無いし、そうなっていたらこの箱庭で"ノーネーム"の皆と出会うことが出来なかったかもしれない。

 

耀「良いとこ取りって出来ないものだよね……」

 

剣心「.....?」

 

耀「ううん、なんでもない」

 

子ども達も手伝ってくれたお陰で城下町の探索は考えていたよりも早く終わり、皆は"黄道十二宮"に関連するものを持ち寄った。

 

全て合わせると黄道十二宮の星座が刻まれた何かの欠片が計12個と、別の星座が刻まれたものが計14個。黄道十二宮の星座が刻まれた欠片はともかく他の14の欠片が見つかったのは彼らにとって想定外だった。

 

耀「……キリノ。この欠片はどんな建物の下にあったの?」

 

キリノ「えっと、十二宮は神殿のような大きな廃墟に。その他は瓦礫の下からで出てきました」

 

十二宮のものだけ扱いが違っている。しかしそれさえも時間稼ぎのためのミスリードだという可能性は捨て切れなかった。耀は欠片を手にとって完成形を予想しながら弄っていた。

 

剣心も適当な欠片を二つ手に持った。それには牡羊座と牡牛座が刻まれている。

 

それを耀はふと何かを閃いた。

 

耀「っ! ごめん、それ貸して!」

 

耀に二つの欠片を手渡す。牡羊座と牡牛座は黄道十二星座で隣り合う組み合わせ。彼女の考えが正しければ――――。

 

耀「嵌まった」

 

二つの欠片はカチリと組み合った。

 

それから双子座、蟹座、獅子座と十二星座を時計回りに組み合わせていき……一つの半球体が完成した。

 

耀「解けた」

 

「「「は?」」」

 

アーシャ「え? じゃあこれが!」

 

剣心「ああ。これが、この欠片が玉座に捧げる最後のカギだ。」

 

耀は今までにない歓声を上げながら剣心とアーシャに抱きついて喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

耀が思わず謎を解いてしまった頃、下の方ではレティシアの偽物がゲーム中断中にも関わらず攻撃を開始。その際にサラを庇った十六夜が負傷。

それを開始の合図にでもするかのように巨人の軍勢がアンダーウッドに攻め込んできた。

 

レティシアの偽物を十六夜とグリーが、巨人の軍勢を他のメンバーで相手をすることとなる。

 

そして黒ウサギは大樹の天辺で突如現れた謎の少女と対峙していた。

 

黒ウサギ「……貴女は、我々の敵ですか?」

 

?「うん、そうだよ」 

 

目の前の少女を敵と判断した黒ウサギは即座に雷光を放つ。熱と火花を散らした一撃は水樹の葉を一瞬にして燃え上がらせた。

 

しかしそれは少女を倒すには至らず、ナイフの投擲による反撃をされる。"擬似神格ヴァジュラ・金剛杯レプリカ"による一撃を耐えた上に反撃までしたこの少女の能力の高さに彼女は戦慄した。

 

?「ちなみに私の仕事は、ウサギさんの足止めです。だってウザギさんに"バロールの魔眼"を撃ち抜かれたら私達が困るもの」

 

少女が告白した直後により重厚な地響きが平野を揺らす。黒ウサギは一つの答えに辿り着いて一気に血の気が引いた。彼女は自身の情報収集能力でそれを確信にした。平野でレティシアを攫ったローブの女が召喚の儀式を行っている。

相手は死の呪を持つ魔眼の持ち主である魔王バロールをこの平野に召喚するつもりなのだ。

 

黒ウサギ(これ以上あの子にばかり構ってはいられません!)

 

あの巨龍だけでも絶望的なのに魔王バロールまで出されたら参加者側に勝ち目は無い。

 

黒ウサギは決心し、"擬似神格ヴァジュラ・金剛杯レプリカ"を掲げる。"擬似神格ヴァジュラ・金剛杯レプリカ"を掲げた黒ウサギの髪は燃え上がるような紅蓮に染まる。

青い稲妻は炎を纏った紅い稲妻と姿を変える。

 

黒ウサギ「擬似神格解放……! 穿て、"軍神槍・金剛杯ヴァジュラ"――――!!!」

 

平野を燃やしつくさんとする勢いを秘めた炎と雷を少女へと投擲した。本体が燃え尽きる代わりに一度だけ神格を解放することが出来る黒ウサギの切り札。

 

少女のギフトの詳細は不明であったが、これだけの一撃であれば、

 

?「――――平野ごと吹き飛ばすつもりだったなんて、過激だねウサギさんは」

 

確かに直撃した筈だった。しかし少女は無傷な上に黒ウサギが予想していたよりも地表が荒れていない。同等の一撃で相殺するか、壁を囲って押さえ込むかしなければこんな結果にはならないだろう。

 

黒ウサギの武器は"マハーバーラタの紙幣"が二枚のみ。インドラの槍と黄金の鎧の使用には制限がかかっていることもあってかここで使用することには危険が伴う。彼女の任務はあくまでバロールの魔眼を撃ち抜く事だ。それが出来なくなってしまえば詰んでしまう。

 

 

 

 

 

その時、様々な戦いが繰り広げられる中で、一つの雷が大樹の上へと落ちた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍の脚

一つの雷は激しい衝撃を生みながら黒ウサギと謎の少女――リンとの間に落ちた。

 

黒ウサギ「こ、これは……」

 

黒ウサギは焦っている。ただでさえもうじき魔王バロールが召喚されてしまうかもしれないのに、新しい厄介事が舞い込んで来るのは勘弁したい。

 

リンも想定外の出来事に雷の落下地点を静かに見つめている。

 

雷によって立ち込めていた黒い煙は吹きすさぶ風によって払われ、露となった。

 

――そこにいたのは、

 

?「あかん、あかん。こないな所でそんな物騒なもん振り回したらあかんで。ウサギちゃん♪」

 

白い着物に袴。

白髪と糸目

胡散臭い関西弁をしゃべる男。しかし、彼から発する殺気はまるで白蛇の様である。

 

黒ウサギ「ど、どなたですか……?」

 

リン「あははは、ウサギさんの次は蛇さんだー! おもしろーい!」

 

黒ウサギは拍子抜けし、リンは大笑いしている。

その一方で男はとぼけた表情をしながらリンを見た。

 

?「蛇って、僕のこと?」

 

?「へぇ〜、おもろい子や。」

 

ゾクリ

 

彼の殺気が増す。

 

黒ウサギ「あ、あなた何者ですか?」

 

?「あ、ウサギちゃん!僕に興味あるん?何ならこれからデートしよか!」

 

黒ウサギ「お断りします。」

 

?「おや、残念」

 

そんな会話していたら、

 

リン「でも、ウサギさんと遊ぶのに邪魔だから消えてね」

 

リンは後ろを向いている男に、一本のナイフを投げた。

 

しかし、ナイフは男に当たらずそのまま男の体をすり抜ける。

 

「「!?」」

 

2人は驚愕する。

 

?「なんや、お嬢ちゃん♪ ナイフを人に投げたらあかんよ〜。お母ちゃんに言われんかったん?」

 

リン「えーだってウサギさんと遊ぶのに邪魔だったんだもん!」

 

次の瞬間、彼の前にリンがいきなり現れ、彼に蹴りを入れるが、またしてもすり抜けてしまう。

 

?「まあ、僕の本音としては、お嬢ちゃん♪ 君と遊びに来たんや♪」

 

リン「どういうこと?」

 

?「君、空間を操る類の能力者やろ〜?」

 

傍から見ていた黒ウサギもそしてたった2度のやり取りでギフトをほぼ看破されたリンも驚いていた。

 

?「僕もそうだから♪」

 

そう言った瞬間、リンの周りに無数のナイフが現れる。

 

?「ナイフってのは、こうやって遊ぶもんやで♪」

 

そして、ナイフはリンに向かって飛んでいく。しかし、リンも何事もなかった様に躱す。

 

そして、リンは再びナイフを投げるが、

 

?「同じのやと、つまらんな〜♪」

 

今度は男の体に触れる瞬間にナイフが反射した。そのままリンへ向かうが、ナイフを躱す。

 

?「う〜ん、あかんな〜。全然当たらんな〜」

 

リン「それはこっちのセリフです!」

 

?「ほな、ウサギちゃんの雷もう一回借りるわ。」

 

そう言うと、いきなりリンの背後にインドラの雷が現れる。

 

黒ウサギ「え、ええぇぇぇぇ!」

 

黒ウサギ(ありえないのです。)

 

そして、今度は巨大な剣が5本リンを囲む様に現れ、先程と同じ様に発車される。

 

リン「同じ事やっても無駄ですよ!」

 

?「そんなんわかってるわ♪ だから、これならどう?」

 

リンが転移した瞬間、男も転移し、手にナイフを持ってリンに斬りかかる。しかし、それすらも当たらなかった。

 

?「鼬ごっこやな〜。どないする?続ける〜?」

 

リン「う~ん。やっぱりいいです」

 

リン「私も飽きちゃったし、それに三人目も着ちゃったし」

 

フェイス・レス「おや、気づかれてましたか」

 

仮面をつけた騎士フェイス・レスが黒ウサギの隣に降り立った。

 

リン「もう充分時間も稼げたし」

 

フェイス・レス「時間? 何のことだ」

 

気がついたときにはリンの気配は完全に消え去っていた。

 

?「ほな、僕も本来の目的ん所行きますわ。」

 

黒ウサギ「え、ちょっと、まだあなたのこと聞いてません!」

 

こちらも同様に気がついた時には消えていた。

 

フェイス・レス「彼は一体何者ですか?それにあのプレッシャー、魔王級ですよ。」

 

黒ウサギ「さ、さあ? ってそんな場合ではありませんでした!」

 

今こうしているうちにも魔王バロールが召喚されようとしている。あれを貫けるのは現状で黒ウサギの持つ"インドラの槍"のみだ。

 

黒ウサギは慌てて駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

――――吸血鬼の古城・黄道の玉座

 

剣心達はとうとう玉座、つまり砕かれた星座を捧げる場所まで辿り着いた。

 

玉座には鎖で繋がれ、疲労しきっているレティシアが座っている。

 

剣心「レティシア!」

 

剣心と耀はすぐさま彼女の下まで走っていく。道行で妨害するものは何も無く、すんなりとレティシアまで辿り着くことができた。

 

耀「レティシア、しっかりして!」

 

剣心「レティシア!」

 

声が聞こえたのか、それとも別の原因があったのか、レティシアは小さな身体をビクリと跳ねさせて起き上がる。大分体力を消耗しているのか、全身汗まみれで頬は紅潮しあまり余力は残されていない用に見える。

 

レティシア「ここは……黄道の間……!? 何故此処に――――」

 

レティシアが起きたことに二人は一安心し、心置きなくここの攻略に挑むことが出来る。

 

一見この部屋に十二星座の欠片を埋め込むような場所が無いように見える。そこで耀は床や壁を丹念に調べる。

 

石壁を調べていると何か窪みを見つける。ここに星座の欠片をはめる。

 

どうやらこの部屋は円形になっているらしく、円形を12等分してそれぞれの窪みに欠片をはめ込むことで"砕かれた星座を捧げる"は完了する筈である。

 

皆同様レティシアも耀を賞賛した。剣心の支えがあったとはいえ、どこか危なっかしかった彼女が自分が開催したギフトゲームを解き明かしたとは考えもしなかったからだ。

 

そして最後の欠片が窪みへと填め込んだ。

 

 …………………

 

 ……………

 

 ………

 

しかし、何も起こらなかった。

 

剣心「…………………?」

 

耀「ど、どういうこと?」

 

耀としてはあれだけ自慢げに解説した答えが間違いでしたとは思いたくない。

 

皆が顔を合わせる中でレティシアは冷や汗を流している。

 

耀「レティシア……?」

 

レティシア「……始まった」

 

耀「え?」

 

 

 

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

 

古城に轟音が響き渡り、雷雲の稲光が差し込む。

 

"アンダーウッド"を滅ぼしかけたあの巨龍がまた現れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「あかん、あかん」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

超神速

耀「ゲームが再開!? だってゲームはしばらく休戦中の筈じゃ……」

 

それに耀の考えが正しければこれでゲームのクリア条件を満たしていることになる。

 

回廊で待っていたキリノは巨龍の雄叫びを聞いて恐怖に駆られながら黄道の間へと駆け込んできた。

 

キリノ「み、皆さん。今のはまさか巨龍が……!」

 

耀「もしかして……」

 

耀はハッとなって最悪の考えに行き着いた。『無理矢理ゲームクリアしようとして間違えたことでゲームが再開してしまったのではないか?』と。

 

しかしレティシアは耀を落ち着けようとその考えを否定する。

 

レティシア「いいか、耀。お前の考えは正しい。だからこそ再開された。……分かるか? ゲームクリアに近づいたからこそ休戦期間が終わったんだ」

 

耀「え? それってどういう……」

 

何かが足りないのだ。ゲームクリアのための決定的な何かが足りない。

 

耀はもう一度契約書類ギアス・ロールに記されている勝利条件の三、四の内容を読み直した。

 

 

三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 

耀は「分からない」と心の中で呟いた。

 

この局面でそんな弱音を吐けるわけがない。こうしている内にも巨龍が暴れている。レティシアが抑えるといっても限度がある筈だ。

 

一秒でも早く回答を、という焦燥感が耀を襲った。

 

ガロロ「大丈夫だ。冷静になればきっと解ける。嬢ちゃんにはゲームを理解する才能がある。俺が保障する。だから諦めるな……」

 

ガロロは耀の肩を強く握りしめて激励した。

 

それが返って彼女に重圧を与えてしまった。自分の見落としが合ったせいで仲間達を危険に晒してしまう結果になってしまうと。

 

耀(それに助けに来てくれた剣心も……)

 

恐い……。その感情が耀を震えさせた。

 

ガロロ「落ち着け、春日部耀!!!! それでもお前は……春日部孝明の娘かッ!!!」

 

一瞬、耀の頭の中が真っ白になった。

 

耀「春日部……? 何で耀のお父さんが……」

 

耀と違い、レティシアは酷くショックを受けたような顔をしている。どうやら孝明という人物は知っていても耀の父親だということまでは知らなかったらしい。

 

それからガロロは耀の父、春日部孝明のことを熱く語り出した。それは自分が孝明に助けられたことであったり、十年前にアンダーウッドを魔王から守ったことであったり、人物像であったり。

 

ガロロ「そんな孝明の娘である嬢ちゃんが、こんなチンケなゲームをクリア出来ない筈がねえ。自信を持て、春日部耀……」

 

耀はその言葉に勇気付けられた。そしてガロロからもっと父親のことを聞きたい……であればこんなところで躓いてはいられない。

 

剣心「......」

 

耀「……っ! うん!」

 

剣心も耀の肩を持って、微笑みかける。剣心からの応援も貰って仕切りなおした耀は改めて先程の項目に目を通す。

 

不思議とさっきよりもすっきりした頭で様々な観点からその意味を考える。

 

耀「――――――正された、獣の帯?」

 

耀はそこへ注目した。そう、正されたということは誤りがあったということ。

 

耀は一度、十二星座の欠片を取り外してもう一度繋げ直した。

 

耀「やっぱりだ。あの時はどこかが欠けてたせいかとも思ったけど、蠍座と射手座が繋がらない」

 

天体分割法は遥か昔に考案されたもの。この城の古さのせいで見落としていたことだが、もし吸血鬼達が天体分割法よりも遥かに近代的な天文学を学んでいたとしたら、話は変わってくる。

 

であれば太陽の通る道、黄道は十二星座だけではない。蠍座と射手座の間にヨハネ・ケプラーが発見したとされる『蛇使い座』が入る筈である。

 

耀はもしやと思い、キリノが持っている残りの欠片に蛇使い座がないかどうか調べてみた。しかしこの中には蠍座と射手座の間に当てはまる欠片は無い。きっとまだ見つかっていない欠片なのだろう。

 

耀「みんな、今すぐ蠍座と射手座の間にある星座を探して! もしも城下町がそのまま大球儀を示しているならその中間地点に――!」

 

?『――其処までだ小娘ッ!!!』

 

出鼻を挫く様に黄道の間の窓をぶち破る大きな影。傍に控えていたジャックはすぐにその敵の強大さを悟り、ランタンにありったけの業火を召喚し、その敵へとぶつけた。

 

?『ヌルイわッ、木っ端悪魔がァ!!!』

 

しかし敵はその業火をあっさりと振り払い。逆にジャックの頭を鉤爪で鷲掴みにして回廊へ続く階段へ叩き付けた。

 

その光景を目の当りにしたキリノは腰が抜けて、その場にへたり込んでいる。

 

キリノ「く……黒い、グリフォン……?」

 

鷲の頭も、獅子の身体も、全てが黒く塗りつぶされているグリフォン。驚くべきは、頭に聳える巨大な龍角と胸元に刻まれた"生命の目録"だ。

 

耀「あいつは一体!?」

 

ガロロ「生きてやがったのか……グライア」

 

グライア『久しいな、ガロロ殿。だが、今はお前に構っている暇は無いッ!!』

 

グライアと呼ばれた黒いグリフォンは黒い翼で突風を巻き起こしてガロロを吹き飛ばす。剣心は神速で駆け寄り、壁に叩きつけられる直前にそれを受け止めた。

 

剣心「無事ですか?」

 

ガロロ「ああ……すまねえな坊主」

 

グライア『フンッ、まあいい。今はこちらの方を優先させて貰おう』

 

ガロロが無事だったことに多少不機嫌になったものの、グライアは嬉々として耀の方を見た。

 

グライア『嬉しいぞ、コウメイの娘。よもや解答に辿り着くのが本当に貴様であったとは……!』

 

耀「な、何を言って……」

 

グライア『我が名はグライア=グライフ! 兄・ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ! 今一度、血族の誇りに決着を着けようぞ――――!!!』

 

グライアは雄叫びを上げて耀に襲い掛かる。それを辛うじて避けた耀は他のメンバーに言い放つ。

 

耀「この人の狙いは私だ! 皆は十三番目の星座を探して!」

 

剣心「俺も残る――」

 

耀「ここは私一人でいい! 剣心はみんなを守って!」

 

確かにここで剣心と耀が残れば、ジャックがやられてしまった以上、戦えるのは子どもを守るために残ったアーシャだけになってしまう。その状況で子ども達を守りながら欠片探しをするのは危険だ。

 

かといって敵は強大なのは目に見えている。

 

耀「大丈夫だから! 私を信じて!」

 

剣心「......」

 

耀「......」

 

剣心と耀の視線が合う。暫くそうしていたが、剣心は目を瞑る。

 

剣心「......」

 

そして目を開き

 

剣心「……分かった。 すぐに十三番目の星座を探してくる。 ガロロさん、キリノ、ここを離れるぞ!」

 

耀は剣心が二人を連れてここから離れたのを見て安心した。レティシアはゲームマスターだ。ゲームマスターを殺してゲームそのものをダメにしてしまうなんてことはしないだろう。

 

耀は室内だと不利だと悟り、旋風を巻き上げて外へと出た。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

剣心はガロロ、キリノを安全な場所へと残し、全速力で城下町へと走る。こうしている間にもみんなが戦っている。剣心がすべきことは最後の欠片を見つけてこのゲームを終わらせることだ。

 

場所は分かっているのだ。逆に剣心一人の方が足手まといもいなくて早く終わるだろうとガロロは判断した。

 

剣心「蠍座と射手座の間……この辺か?」

 

町の壁には蠍のマークとケンタウロスのマークがある。間違いないだろう。

 

?「お急ぎの所悪いんやけど、僕と遊ばへん?」

 

剣心「......誰だ?」

 

?「え〜。僕の事わからんの?ショックやわ〜。君と僕は"同じ"やろ?」

 

瞬間、殺気が濃くなる。

 

剣心(こんな時に来たか。くそっ)

 

?「これ、なーんだ♪」

 

剣心「それは……まさか」

 

?「正解♪ 君が探してる蛇使い座の欠片やで♪」

 

最悪だ。最後のピースが敵の手に渡ってしまった。

 

?「君をおびき出すための良い餌やな思うてな♪」

 

剣心「何が目的だ」

 

?「目的?そんなん君の命を丸呑みするためやろ!」

 

瞬間、剣心の背後に現れ、ナイフで刺してくる。

 

剣心(俺が見失った!?)

 

剣心はなんとか避ける。

 

剣心(だが、龍の眼ではいきなり背後に現われる予知をした。つまり、こいつは走って来たわけでは無いと言う事か)

 

?「へぇ〜。凄いやん君♪

僕の"超神速"を初見で躱す人、なかなかおらんよ♪」

 

剣心(だが、早く済ませなければ。)

 

剣心「......悪いが、あまり時間かけられない。」

 

?「僕はいっぱい遊びたいんやけど」

 

剣心「......断る。」

 

神速と超神速の闘いが始まる

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨龍を討て

――少し前、東南の平野では黒いローブに身を包んだ女、アウラが掲げた"バロールの死眼"の力でペストの黒死病が解呪され、巨人が復活してしまい。大混乱に陥っていた。

 

しかし、十六夜の一喝により、連盟の皆は十六夜に負けじと士気を取り戻した。

 

一方で"バロールの死眼"を持つアウラと対峙している飛鳥とディーン、そしてペスト。

 

ペストなら死眼を乗っ取る事が出来るのではないかというジンの提案に飛鳥はペストのための道を拓く為、ディーンとともにアウラが発生させた雷を掻い潜りながら突っ込んでいった。

 

アウラ「ええい鬱陶しい……! ならば先にマスターから始末してやるわ!」

 

アウラは標的を飛鳥に絞り、"バロールの死眼"による恩恵を集中し黒い光を放つ。もうペストの制止も間に合わずに、飛鳥はとっさに右手を掲げた。

 

――すると、

 

アウラ「ばっ……馬鹿な! 人間が神霊の御業を中和するなんて……!」

 

アウラの言う通り、"バロールの死眼"による死の恩恵を飛鳥の右手から発している炎が焼き尽くしているのだ。

 

そうしている間にもペストは"バロールの死眼"を奪いアウラに向けようとするも、アウラは己の手で"バロールの死眼"を半分に破壊してその内の半分を持ち去ってリンと共に逃走されてしまう。

 

しかしこれで"バロールの死眼"による脅威は去った。

 

――と思ったペストは上空を見上げて固まった。

 

ペスト「……飛鳥。ゲームの再開って今日からだったかしら?」

 

飛鳥「え? ……え?」

 

上空では"アンダーウッド"で猛威を奮っていた巨龍が蠢いていたのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

?「君♪ 速いね〜♪」

 

剣心「......」

 

?「それにしても、こっちは瞬間移動してるのによく着いてくるわ。」

 

剣心(厄介だな。こちらの攻撃が全てすり抜ける。さらに、あの瞬間移動。千本桜だと無傷圏に入られたら詰み。距離を離すと虚空から武器が飛来してくる。それに離したところですぐにつめられる。龍の眼の予知でなんとか対応できるが)

 

?「そう言えば、君名前は? 僕はシンジや♪」

 

剣心「剣心だ」

 

剣心(全くもって厄介だ。だが、)

 

?「おん?」

 

剣心(何だ?)

 

この城下町に黒い巨大な何かが大きな音を立てて降りてきた。その姿はまるで地獄の番犬とも言われる三つ首の怪物ケルベロスそのものだ。

 

グライア『むっ、貴様は先程小娘と共にいた小童か』

 

少し前に聞いたことのある声。姿かたちに面影は残っていなくともこの唸るような声を聞き間違える筈はない。そして決定的なのは頭に生えるその龍角。

 

剣心(グライア……!)

 

グライアは犬の嗅覚で城下町に隠れていた耀を見つけ出し、龍角を輝かせて炎を吐いた。

 

耀はすぐさま上空へ逃げ出した。

 

剣心「耀!」

 

剣心が城下町で戦っているのは耀にとっては計算外のことであった。最初こそ城の外でグライアに空中戦を挑んでいたものの、不利だと悟って城下町でゲリラ戦を仕掛ける手筈であったが、そこでは剣心が別の敵に遭遇していた。

 

耀(まただ……また私は足を引っ張ってる)

 

グライア「何処を見ているッ!!」

 

既に目の前にはグライアの牙が迫っていた。耀は瞬間的に避けようとしたが、避けきることが出来ずに左足から鮮血が舞う。

 

剣心「耀!」

 

シンジ「おっと♪、君の相手は僕やで?」

 

シンジ「それにしても生命の目録ねぇ……」

 

剣心「何が可笑しい」

 

シンジ「ん? あの子こと知らんと一緒に居ったん?さっきのグライアの変わりよう見てたやろ。生命の目録は持ち主を合成獣にするための生物兵器なんよ。可哀想に、あの子もその内あんな化け物になっちゃうんやで。もっとも、化け物になる前にグライアに殺されそうやけどな♪」

 

グライアはいまや巨大な四肢を持つ黒龍へとその姿を変化させていた。

 

剣心「違う」

 

?「……違う? 何が違うん?」

 

剣心「耀は死なない。化け物にもならない」

 

剣心は剣気を放つ。

 

?「!?」

 

シンジは剣心の剣気に一瞬怯んでしまう。剣心がその隙を見逃すはずは無い。

 

剣心(今だ!)

 

しかし、何も起きない。

 

剣心「......」

 

シンジ「?」

 

シンジ「なんや、そないな殺気出して何もせんのか?ならこっちから行くで♪」

 

シンジは剣心の目の前まで一気に転移して、ナイフを突き刺す。ナイフは剣心の胸に深々と突き刺さる。

 

シンジ(躱さなかった?)

 

しかし、次の瞬間

 

シンジ「!?」

 

剣心が泥人形の様に崩れ、気がついた時には、シンジが剣心に切り裂かれていた。

 

剣心の斬撃は深く、身体を縦に一閃しただけで絶命した。

 

シンジ(んな、あほな)

 

シンジは意識を手放し、永遠の眠りについた。

 

剣心「......」

 

剣心(あいつを倒す術は、幻覚だけしかないと思ったが、まさか幻覚まですり抜けるとは。少々強引ではあったが最後に幻覚をかけれて何よりだ。)

 

そう剣心は最後に剣気を放つと同時に相手に幻術をかけた。第三者から見れば、いきなり動きが止まったシンジに剣心が近づき切り裂いただけであった。

 

グライア『オオオオオオオオッォォォォォォーーーーーッ!!』

 

剣心「耀!」

 

耀のいた方向からグライアの断末魔にも似た絶叫が聞こえてくる。もしやと思い振り向けば、そこにグライアの姿は無く、気を失った耀と彼女を介抱するキリノの姿があった。避難したはずのキリノが何故いるのかは今は置いておいて、耀を安全な場所へと連れて行くことが先だろう。

 

十六夜「――仲間を第一に考えるのが悪いとは言わねえけど、此処へきた目的をほっぽり出すのはどうなんだ?」

 

剣心「......十六夜か」

 

"ノーネーム"で留守番していた十六夜、そういえばもう此処へ来ていても可笑しくない頃だった。彼はグリーに乗ってこの古城まで来たようだ。いつもの学ランはもうボロボロで左肩は何かに貫かれて負傷している。

 

剣心「その傷……」

 

十六夜「ちょっとしくじってな。そんなことよりこいつ・・・を忘れんな。ホレ」

 

十六夜は手に持っていたガラスの欠片のようなものを剣心へと投げ渡す。

それは紛れもない十三番目の欠片であった。

 

剣心「......」

 

十六夜「んじゃこのギフトゲームを終わらせに行くか」

 

気を失った耀とキリノを連れて、二人は黄道の間へと急いだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

耀「ん……んんぅ」

 

耀の目が覚めたのは黄道の玉座に到着してからだった。耀の手当ては途中で合流したガロロの所有しているギフトでもう済んでいる。

 

最後に蛇遣い座の欠片を正しい場所へと嵌め込む、このゲームの第3クリア条件をクリアした。

 

剣心「これで、終わりか」

 

レティシア「ああ、巨龍も間もなく消える。私も無力化されてゲームセットだ」

 

しかし耀には何処か不安だった。耀は『あの巨龍をどう無力化するのか』そして『巨龍がレティシアの分身ならレティシア自身はどうなってしまうのか』だ。

 

それを考えているうちに全ての契約書類ギアスロールに勝利宣言の通達が行き渡った。

 

『ギフトゲーム名"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

     勝者 参加者側コミュニティ "ノーネーム"

     敗者 主催者側コミュニティ "     "

 

*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了とします

 尚、第三勝利条件達成に伴って十二分後、大天幕の開放を行います

 それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承ください

 夜行種の死の恐れがありますので七七五九一七五外門より退避してください

 

                            参加者の皆様お疲れ様でした』

 

 

耀「『十二分後に大天幕の解放』!? 『夜行種は死の恐れ』!?」

 

これが現しているものとは、このゲームではどうやっても最終的にレティシアが死ぬ結末が待っていたということだ。

 

耀「そんな……そんなことって……!」

 

レティシア「三人とも……済まない。私はもう同士を……仲間を殺したくないのだ」

 

彼女自身も、もう自分の運命を受け入れていた。仲間を傷つけるくらいなら自分が死ぬ道を選んだのだ。それがどんなに不条理なことだとしても。

 

しかし、この場に諦めていない者がいたことも確かであった。

 

耀「要するに大天幕が開く前に、あの巨龍の心臓を撃てばいいんだよね?」

 

レティシア「……はっ?」

 

滅茶苦茶な理論だが、耀の言ったことは何も間違っていない。巨龍がいなくなれば大天幕を開く必要も無くなるのだから。

しかしそれがどれだけ無謀なことか、レティシアが一番良く知っている。

 

レティシア「だ、誰か耀を止めろッ! あの子は本気で……本気で巨龍と戦うつもりだ!!」

 

己を縛る鎖さえなければ今にも耀を押さえ込みそうな勢いで暴れるレティシア。だが、誰も耀を止めようとはしない。

 

十六夜「レティシアもああ言ってるから一度だけ確認するが――――本気なんだな?」

 

耀「うん」

 

十六夜「そうか、なら俺も手伝ってやる」

 

レティシア「十六夜ッ! お前まで何を!」

 

やれやれと肩を竦めている十六夜だが、目は真剣そのものだ。本気で巨龍を倒すつもりなのだ。

 

レティシア「馬鹿な……見損なったぞ十六夜。お前はもっと聡明な男だと思っていた。コミュニティを任せられる男だと……! なのに――――」

 

剣心「レティシア」

 

いつも通りの無表情で静かな口調であったが、普段の殺気や剣気とは違った威圧感で場を静まり返らせる。

 

剣気「皆、レティシアを助け出そうと、十六夜も耀も飛鳥も黒ウサギもジンも、皆戦ってる。 "ノーネーム"の子ども達だって、皆レティシアが帰って来るのを待ってる。 それでも、レティシアは諦めるのか? 俺はレティシアに死んで欲しくは無い。」

 

レティシアは剣心の剣幕に押されて何も言えない。剣心の目から並々ならぬ覚悟の色が浮かんでいた。

 

十六夜「剣心の言う通りだ。俺は自己犠牲の出来る聖者よりも、物分かりの悪い勇者の方が好ましいね」

 

たとえ無謀であっても、仲間を助ける手段があるのであれば彼らはそれをせずにはいられない。みんなで笑って明日を迎えることができるように。三人は走り出した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

三人は迅速に古城の先端へと到着した。

 

十六夜「さて、作戦のおさらいだ。剣心、手段は何でもいいからあの巨龍に隙をつくってくれ。その隙をついて俺が巨龍を仕留める。春日部、其処まで運べるか?」

 

耀「うん……あ、ちょっと待って」

 

グライアとの勝負の際は無我夢中で発動させていた。その時のことを思い出して、今度は自分の意思でその力を発現させる。

 

耀(まだ合成獣とかまだ怖いけど、そんなことは言ってられない。今は十六夜を運びきるために空を飛べて尚且つ早い幻獣を模倣する)

 

"生命の目録"はグライアとの勝負の時と同じく杖に形を変え、耀が履いている革のブーツは白く輝く翼生えた白銀の装甲に覆われた。おそらく天馬をイメージしたのだろう。

 

十六夜「滅茶苦茶カッコいいじゃねえか」

 

耀「うん、個人的にはもっと装飾とか凝りたかったけど時間がないからとりあえずこれで行く」

 

耀も彫刻家としての血が流れているということなのだろうか。こういった芸術にも秀でているのかもしれない。

 

十六夜「行ってくる。後は頼むぞ」

 

あれほどの巨大な敵。さらに空を飛んでいる。

 

剣心「卍解」

 

剣心「千本桜景義」

 

今回はペストの時とは違う全力の千本桜

 

剣心「殲景・千本桜景義」

 

全ての桜を千本の剣軍に変える。そして一斉に射出する。

 

「――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

剣弾が巨龍を蹂躙する。

 

巨龍が目に見えて弱っていく。

 

しかし、巨龍も決死の覚悟で剣弾の元である剣心に突っ込んでくる。

 

剣心「くっ」

 

剣心は咄嗟に殲景を止め、億の刃で迎え撃つが、押される。そこへ

 

飛鳥「――巨龍を迎え撃ちなさい、ディーンッ!!!」

 

巨龍の突進を赤き巨人が受け止める。今にも突進に押し込まれそうで、そのボディを顎で砕かれようともディーンは何とか持ち堪えていた。

 

「――――GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

ディーンと剣心は巨龍を上へ上へと押し上げていく。

 

飛鳥「大天幕が……」

 

"アンダーウッド"を覆っていた暗雲が大天幕の開放によって太陽の光を受けて消えていく。

 

剣心「間に合わなかったか……!?」

 

十六夜「そうでもないぜ!!」

 

巨龍が光に照らされ透過し、その心臓が浮き彫りになった瞬間を待っていたかのように十六夜を抱えた耀は流星のごとく空を滑走する。

 

十六夜「見つけたぞ……十三番目の太陽――――!!!」

 

十六夜は両手に抑えた光の柱を束ね、巨龍の心臓を撃ち抜いた。巨龍はそのまま光の中へと消えていき、巨龍から零れ落ちた十三番目の太陽、レティシアを日光から庇うように抱きとめて、耀は高らかに右腕を上げた。

 

"アンダーウッド"の長きに渡る戦いに決着が着いた瞬間である。




今回、破格の防御性能を発揮したシンジですが、攻撃面もかなり凶悪で空間操作で離れていても、相手の腕や首を切断可能です(空間を切断するので対象物の硬さは関係無し)。また、空間圧縮で押しつぶしたり、空気を真空にしたりする事も出来ました。ですが、幻術で余裕じゃんって思いながら、書いてました。リュウよりも先に出すべきだった(笑)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異邦人のお茶会

巨龍を倒して一週間

 

戦いの傷跡はひどくて収穫祭はすぐに再開されることはなく、現在は復興作業をおこなっている。

 

耀「だ、大丈夫かな......」

 

剣心「......」

 

剣心は耀の肩を持ち、頷く。

 

それだけで、耀には十分だった。

 

耀がヘッドホンの件で十六夜にどうしても謝りたいと言ってたのだが、どうも一人で行くのに勇気が出ない為、剣心が付き添うことになった。

 

耀は勇気をふりしぼって、ドアをノックする。

 

耀「えっと……十六夜、起きてる?」

 

十六夜「ああ、耀か。鍵なら開いてるぞ」

 

ドアの隙間から顔を覗かせた耀は、緊張した面持ちで中に入ってきた。剣心はそれに続いて中に入る。

 

十六夜「……ヘッドホンの一件か」

 

耀は俯いたまま、十六夜の顔を見れない。助けを求める様に剣心に向かって視線を滑らせるが、剣心は壁にもたれかかり、腕を組んで、眼を閉じている。

 

剣心としては極力この問題は耀1人の力で解決すべきと考えている。

 

十六夜「それで?こんな夜分にどんな用件だ?」

 

耀は床の上に腰を下ろして正座している。

その表情は何時になく強張り、彼女がいかに緊張しているかが見て取れる。

 

耀「えっと……色々ゴタゴタして遅くなっちゃったけど。実は十六夜のヘッドホン、巨人族が襲いに来た時に壊れちゃって」

 

十六夜「おい、順序が違う。まずは持ち出した理由についてだぞ」

 

耀は、ヘッドホンを三毛猫が持ち出したこと、巨人族が収穫祭に襲撃に来たこと、その時にヘッドホンが宿舎の下敷きになったことを話した。

 

十六夜「………清々しいまでにタイミングが悪いな、春日部は」

 

耀「そ、そうかな?」

 

十六夜「ああ、普通はそこまで偶然が重なることはねえよ。そもそも今の話を聞いている限りじゃ耀に落ち度はないだろ」

 

耀「それは、違う。責任の所在は三毛猫の飼い主の私にある。この話を濁して終らせてしまうのはお互いの関係のために良くない。1つ屋根の下で暮らす者には、最低限の礼儀を尽くすべき」

 

十六夜「ま、元々たいしたもんじゃねえし……つうか、なんで謝るだけでこんなに遅くなったんだ?」

 

耀「それはその……用意とか決断に、色々手間取っちゃって。それにレティシアからあのヘッドホンは十六夜の家族が作った物だって聞いて」

 

剣心(......)

 

十六夜「いや、だからたいしたもんじゃねえって……というか、用意って何だ?」

 

耀「ヘッドホンの代わりのものを用意したんだけど、ちょっとした手違いで無くしちゃって……それを探してたら、いつの間にか1週間も経ってた。結局、代わりのものは何も用意できなかったんだけど……何時までも先延ばしにするのが失礼かなって。埋め合わせはこの収穫祭でやろうと思うんだけど………どうかな?」

 

小首を傾げて十六夜の反応を見る耀。

 

十六夜はというと呆れ半分、感心半分と言った表情をしてた。

 

十六夜「そこまで計画的に考えてきてるなら異論はない……けど、春日部ってそこまで律儀だったか?」

 

耀「うん、現在絶賛自己改革中。新しい私に乞う御期待」

 

ビシッと親指を立てて胸を張る耀に、何だそれは、と十六夜も哄笑を噛み殺した。

 

剣心(......無事、事なきを得たな)

 

耀「実はもう一つ用事があるの」

 

十六夜「ん?」

 

耀「飛鳥とも話してたんだけど、私達ってあまりにもお互いの事を知らなすぎる気がして。4人ともそういうこと話さないでしょ?」

 

小包を引っ張り寄せて広げれば、中には中には収穫祭で買ったと思われる山吹色の木の実と真っ赤な果実の盛り合わせ。

 

十六夜「そりゃまあ、まだ3ヶ月そこらの付き合いだからな。勝手知ったる仲とは言いがたいだろ」

 

耀「うん。そこで今晩は、親睦を深めようということでそろそろ飛鳥も来ると思うよ」

 

耀が口にした瞬間、扉がノックされる。

 

飛鳥「三人共、話は終わった?お茶を入れてきたから、一息つかない?」

 

十六夜「お嬢様、ナイスタイミングだ」

 

十六夜「鍵なら開いてるぜ」

 

飛鳥「そう。でも、お盆で両手が塞がってるから、開けてくれないかしら?」

 

「「嫌だッ!!!」」

 

飛鳥「そう。ありがと」

 

剣心「............」

 

剣心がドアを開ける

 

そこには青筋を浮かべた飛鳥が居た。

 

飛鳥「ありがとう、剣心。あと、十六夜くんと春日部さん」

 

そう言うと飛鳥は2人に視線を送る。十六夜は気にする様子が無いが、耀はやってしまったと固まってしまった。

 

大股で部屋に入り備え付けのテーブルにお盆を置き、椅子に腰を下ろす。

 

十六夜「お嬢様も来たことだし、第一回異邦人の親睦会を開催するか」

 

「「イエーイ」」

 

棒読みで喜ぶ女性陣に、呆れる十六夜。

 

十六夜「ま、人の部屋で勝手に開催するのはいいとして。俺に相談無しだったんだ、進行はそっちで頼むぜ」

 

飛鳥「もちろん。お題だってキチンと決めてきたわ」

 

耀「うん。親睦会第一回のお題は、自分の世界の生活観で行こうと思う。」

 

十六夜「へぇ〜」

 

思っていたより、実のありそうなお題に十六夜の目に好奇心の火が灯った。

 

十六夜「想像とは違ったお題だな。お嬢様や春日部がそういうSFチックな話題を振ってくるとは思わなかった」

 

飛鳥「そうかしら?自分の生きた時代と別の時代の人間と話し合うなんて、なかなかに素敵だと思うわ」

 

耀「私はそういう会話にはあんまり興味ないな………でも2人を見た感じ、私が一番未来から来てるみたいだし、話題は提供できるし…十六夜や飛鳥や剣心から直接話を聞くのも面白そうだし」

 

十六夜「それじゃあ、時代順に剣心からだ」

 

剣心「........」

 

耀「剣心?」

 

剣心は一瞬考え込む様な表情を見せたが、耀に声をかけられすぐに話しだす。

 

剣心「俺が幕末で何をしていたかは、史実や俺が言ってた通りだ。故に今回は、俺の幼少の話をしようと思う。」

 

耀「楽しみ」

 

耀が期待の眼差しを向ける

 

剣心「俺には剣術の師匠がいた。名を比古清十郎と言う。」

 

剣心は彼が、酒好きだった事やよく喧嘩した事、よくこき使われた事など思い出を普段見せない穏やかな表情で話す。

 

十六夜や飛鳥は、普段無口な剣心が此処まで、ましてや愚痴を零した事に驚き、耀は愚痴を零しつつもどこか楽しそうに話す剣心にどこか羨ましく思っていた。

……………………

…………………………

 

…………………………………

 

十六夜「それで、剣心の師匠は剣心よりも強いのか?」

 

剣心「.......ああ。今でも手加減されても勝てるとはとても思えないな。」

 

飛鳥「ど、どんな化け物なのその人」

 

十六夜「そりゃあ、いいな。いつか戦ってみたいぜ!」

 

飛鳥は信じられないといった様子。十六夜は闘志を剥き出しに勇猛に笑う。今までめまぐるしい活躍をした剣心が勝てないと断言する人物。一体どんな猛者なのか。耀はその発言を聞いてある決意をする。

 

しかし、剣心の顔は先程より少し暗くなっていた。

 

耀「剣心?」

 

剣心「なんでもない。」

 

十六夜「師匠の命を取るのは許さないってか?安心しろ、冗談だよ。半分は」

 

そんな事を言う十六夜だが、剣心は別の事を考えていた。

 

剣心(師匠はもう、俺がこの手で......)

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

飛鳥の話としては飛鳥の家、久遠家は日本でも五本の指に入るぐらいの規模を持った財閥だそうだ。

 

そのことに十六夜が何か気になったらしいがそれ以上何も聞かなかった。

 

十六夜の話では“アンダーウッド”並の絶景を話した。

 

どちらも剣心には未来の事で興味は尽きなかった。

 

十六夜の話は特に、日本人が平和に暮らしていることだけでなく、人々が更に前に進んでいた事に喜びを感じていた。

 

十六夜「最後はとうとう、自称未来人・春日部の番だが」

 

飛鳥「そうね、でも随分と時間が遅くなってしまったわね」

 

耀「うん、明日も早いし今日は切り上げようか」

 

十六夜「それじゃあ、最後の締めとして春日部は別のお題……そうだな〝春日部の時代の流行品〟なんてどうだ?」

 

耀「………流行?服とかそういうの?」

 

十六夜「別になんでもいいが…できれば面白いのか未来人だと思えるようなのを頼む」

 

腕を組み耀は暫し考える。

 

耀「それじゃあ……私の時代の、流行のヘッドフォンを紹介します」

 

十六夜「は?」

 

耀「私の時代には――――ウサ耳ヘッドフォンが、世界的に流行ります。」

 

耀がひょコン!と両手でウサ耳のモノマネをする。

 

十六夜と飛鳥は2人して瞳を丸くした後―――弾けるような高笑いを上げて、その場で笑い転げた。

あの献身的な黒ウサギのシルエットが世界中にあることを想像して。

そして、そんなヘッドフォンが世界的に流行るような世界はもう…この上なく平和なのは確実だ。

そんな皮肉と称賛を込めた爆笑は…当分の間止まらなかった。

 

剣心(.......ああ、日本は本当平和になったのだな。俺達の戦いは無駄ではなかった。平和な世の中を次の時代の者に贈る事が出来たのだから)

 

剣心は晴れやかな表情で微笑み、一筋の涙を流した。

 

耀「剣心?どうしたの?」

 

涙を流していた剣心に耀が心配そうに声をかける。

 

剣心「なんでもない」

 

剣心は耀の頭に手を当て、優しく撫でる

 

耀は眼を開いて驚きが、すぐに顔を赤くして微笑む。

 

剣心はそのまま窓に向かって歩く。

 

手を離された耀はどこか寂しそうであったが、ニヤニヤしている2人に気付き、顔を赤くして睨む。

 

剣心は窓から見える月を眺める。

 

剣心(なら、俺が今できる事はこの平和を守っていく事)

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

十六夜の部屋を後にした剣心は自分の部屋へ向かっていた。その背後から声がかかる。

 

耀「あの......剣心」

 

剣心「なんだ?」

 

耀「ちょっと、相談したい事があるんだけど」

 

先程の十六夜の謝罪同様、どこか話しにくそうに剣心に声をかける

 

耀「私に飛天御剣流を教えてください」

 

耀は剣心に頭を下げる。

 

しばらくの間、沈黙が支配する。

 

剣心「駄目だ。」

 

耀は優しい剣心に断れるとは思っていなかったため驚く。

 

剣心「耀は耀の"道"で強くなればいい。耀が自分の無力に苦しんでいるのは知っている。だが、生命の目録は父親からの贈り物であろう?ならば、それを信じて強くなればいい。」

 

耀「でも、じゃあ十六夜や飛鳥ならいいの?」

 

耀は今度は剣心に捲したてる。

 

剣心「もとより 誰にも継がせるるもりはない 御剣流は俺で終わりだ」

 

剣心「俺の飛天御剣流は殺人剣だ。時代の苦難から弱き人を守るのが御剣流の理。平和な世の中に生まれてきてくれた耀には必要のないもの」

 

耀「........剣心」

 

剣心「なまじ、力など持つと余計なものまで背負うことになり、一生苦しむことになる。十六夜がいい例だ。あいつは皆を守る事に固執している。一種の脅迫観念の様な物だ。」

 

剣心「話は終わりだ」

 

剣心は自室に帰ろうとする。

 

耀「色々な物を背負ってるのは、剣心も同じじゃないの?」

 

剣心「....................」

 

剣心は歩みを止めようとはしない。

 

耀「なら、私にも背負わせて欲しい。」

 

剣心(!?)

 

剣心は再び立ち止まる

 

剣心「気持ちだけは感謝する。だが、まずは自分の力を信じるところから始めることだ。生命の目録を信じて進めばいい。いずれ俺も超え、誰にも負けない力になる。」

 

剣心はそのまま部屋へと帰って行った。その後ろ姿を見つめる耀

 

耀「いつか、必ず.....」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

収穫祭

巨龍との戦いから半月が経過。アンダーウッドの復興も大分進み、収穫祭は開催されて問題児三名と剣心は祭りに参加している。

 

十六夜は地下倉庫へ閲覧を、剣心、耀、飛鳥は狩猟際に参加している。

 

巨龍の襲撃後もぺリュドンのような殺人種の幻獣はそこらにいて、"龍角を持つ鷲獅子"はそれを放置するわけにもいかず、駆除することになったのだが、十六夜の提案で駆除も祭りの行事として組込むことになったのだ。

 

耀と飛鳥が息のあったコンビプレイでぺリュドンを仕留めているのに対して、剣心は神速で幻獣達をバッサバッサ切り裂いていく。

 

今回の狩猟祭に参加するにあたって、剣心達は制限を受けている。

 

耀はグリフォンのギフト限定。飛鳥はメルンとのコンビプレイ限定。飛天御剣流以外は使用禁止。

 

――瞬間、一陣の風と共に剣心が追いかけていた魔獣の群れは一斉に絶命した。

 

剣心「......」

 

ほんの一瞬、それはまるで芸術のような鮮やかさの殺戮であった。

 

それを行った人物は剣心のすぐそばに降り立つ。

 

銀の仮面を被った純白の騎士、フェイス・レス。

 

フェイス・レス「なかなかの腕前ですね。また機会がありましたら、手合わせをお願いします」

 

彼女は次の獲物を探しにまた何処かへと行ってしまった。

 

剣心「......」

 

結果、狩猟祭のトップは"ウィル・オ・ウィスプ"になり、耀と飛鳥は悔しがっていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

広間の方では黒ウサギが壇上でマイクを片手に主催者と主賓の入場を呼びかけている。剣心は自然とそちらの方へ目をやった。   

 

黒ウサギ『それでは! "アンダーウッド"の収穫祭・主催者代表であるサラ=ドレイク様! 最高主賓である"サウザンドアイズ"の白夜叉様! 壇上にて、開会の言葉をお願いします!』

 

剣心(やはり、白夜叉殿も来ているのか)

 

壇上に上がったサラは以前のアマゾネスのような野生的な服装ではなく、特有の染色の衣装を纏っていて、髪も三つあみにし、頭上で髪留めと装飾で飾っていた。

 

しかし白夜叉が壇上に上がってくる気配が一向にない。

 

すると大樹の天辺に轟々を火が焚かれているではないか。

 

――この後、剣心は白夜叉がどういう人物であったかを改めて思い知らされるのであった。

 

白夜叉『――天が呼ぶッ! 地が呼ぶッ!! 人が呼ぶッ!!! 少し落ち着けと人は言うッ!!!』

 

剣心「......」

 

派手な演出と共に颯爽と現れた白い髪の和服美人。白夜叉はもっと幼い姿をしていた筈だ。しかしこの特徴的な少ししゃがれた声は聞き間違える筈もない。

 

白夜叉が(見た目的に)大人になっていたのだ。

 

それから白夜叉から、"龍角を持つ鷲獅子"へと至宝である"鷲龍の角"を授与する旨を伝えられ、次にサラが演説していた。

 

彼女は故郷である北を出て行った。そんな自分を受け入れてくれたこの"アンダーウッド"を、そしてそんな自分を頭領として認めてくれた"龍角を持つ鷲獅子"の先代や同士達を心の底から愛しているのだという

 

剣心「十六夜」

 

十六夜「ああ」

 

万来の拍手の中、背後から近づいて来た十六夜に声をかける。いつになく真剣な表情をした十六夜は何故か大きな麻袋を背負っていて、その隣にはリリがいた。

 

十六夜「こいつは……強敵だな」

 

剣心「ああ」

 

彼女達の偉業は"ノーネーム"も見習うことが多いだろう。

 

十六夜「さてと、俺はこいつをグリーに届けに行くか。お前らはどうする?」

 

剣心「......俺は特に」

 

リリ「あ、だったら"六本傷"の名物料理がそろそろ焼き上がるそうなので年長組の皆と一緒にどうですか?」

 

耀「それ私も行く!!」

 

「「「!?」」」

 

上空から颯爽と現れたのは耀。そして気絶した飛鳥。

 

耀は鬼気迫る勢いでリリに詰め寄るとその名物料理を売っている店を聞き出した。

 

リリ「えっ、ちょ!?」

 

そしてそのままリリと剣心を担いで旋風を巻き上げて颯爽と去っていった。

 

剣心「......」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そうして辿り着いたのは先程までいた最下層広場より一つ上の広場。リリがレティシアから聞いた名物料理はここで食べることが出来るらしい。

 

なんでも"斬る!"・"焼く!"・"齧る!"という単純な手法の豪快な肉料理。

 

肉自体も良質なものだが、味付けも塩・胡椒で肉の旨味を最大限に引き出している。

 

だが、剣心はあまり食が進まない。実は剣心は箱庭に来てから、文化の違いに四苦八苦していた。食文化もその1つである。

 

それをもの凄いスピードで食べている人物がいた。

 

――というか耀だった。

 

耀は既に七皿目に手を伸ばしている。

しかもきちんと切り分けて食べているのにだ。

料理人達や周りの屈強な男達もこの光景に戦慄している。

 

料理人達は雄叫びをあげてて料理を作る速度を上げ、他の男達も負けじと食べるペースを早めた。中には耀の食べっぷりに感激して応援する人々までいる始末。

 

妙なノリに呆然とする2人。

 

?「……フン、なんだこの馬鹿騒ぎは。"ノーネーム"の屑が意地汚く食事をしているだけではないか」

 

この高まる歓声と熱気の中、ふと冷めた声が聞こえた。声の主は鷲のような翼を生やした大男。しかも侮蔑と嘲笑を込めた声は一つだけではない。

 

?「名無しである以上、一時の栄光ですからな。収穫祭が終わる頃には奴らのことなど忘れているでしょう」

 

?「ああ、所詮屑は屑。名無し共の旗に降り注ぐ栄光などありはしないのだから」

 

リリ「――そんなことありません!」

 

"ノーネーム"の侮辱に真っ先に反論したのはリリだった。その声に観衆や男達の視線はリリへと集中する。一心不乱に食べ続けていた耀でさえ手と口を止めた。

 

?「……なんだこの狐耳の娘は」

 

リリ「私は"ノーネーム"の同士です! 貴方の仲間達への侮辱、たしかにこの耳で聞きました! 直ちに謝罪と訂正を求めます!」

 

男達にギロリと睨みつけられて涙目になりながらもリリはキッと睨み返した。

 

男達はそんなリリを鼻で笑った。

 

?「君が誰かなのはよくわかった。――――しかし君もこの御方が誰かわかっているのか? "二翼"が長、幻獣ヒッポグリフのグリフィス様ですよ?」

 

リリ「だ……だから何だっていうんですか! 謝罪を求めているのはこっちです!」

 

?「ハッ、分をわきまえろ。グリフィス様は時期"龍角を持つ鷲獅子"の長になられる御方。南の"階層支配者"だぞ。"ノーネーム"如きに下げる頭などないわ」

 

耀「……待って。それどういうこと?」

 

男達の言葉に強く反応したのは耀であった。剣心もその言葉に疑問を持つ。

 

剣心「耀の言う通りだ。"龍角を持つ鷲獅子"の長ってサラさんのはずだが? 何故グリフィスさんが……」

 

サラは長を引退するような年齢ではない筈だし、"アンダーウッド"の皆に愛されている彼女が長の座を下ろされるとも思えない。

 

グリフィス「あの女から聞いていないのか。あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力を上手く扱えなくなった。元々龍の力を見込まれて図々しくも議長の座についていたのだ。それを失えば退くのが道理だろうが。そんなこともわからんとは……つくづく低脳が揃っていると見える」

 

確かにサラは"アンダーウッド"を守るために龍角を折って飛鳥へと渡した。

 

しかしグリフィスと仲間達はそれを愚行と笑い捨てたのだ。

 

グリフィス「なんなら本人にでも聞けばいい。龍種の誇りを無くし、栄光の未来を自ら手折った愚かな女にな!」

 

耀「――――訂正して」

 

耀にグリフィス達を見る目もとても冷たい。

 

彼女は明らかに怒っている。

 

耀「サラは愚かな女じゃない。彼女が龍角を折ったのは"アンダーウッド"を守るため……私の友達を守るためだ」

 

真っ直ぐグリフィスに近づいてくるようを遮ろうとした取り巻きの男は――上空へ吹き飛んだ。

 

グリフィス「こ、これは……ッ!」

 

やったのは耀だ。脚にはペガサスを模したレッグアーマーが装備されており、ペガサスとグリフォンの力で取り巻きの男を蹴り飛ばしたのだ。

 

耀「剣心、ちょっと待ってて。三分で全員土下座させるから」

 

剣心に笑顔を向け、とんでもない事を言う耀。

その後にすぐ無表情でグリフィスを見た。グリフィスは人化を解いて鷲の上半身と馬の下半身の幻獣ヒッポグリフとしての姿に戻る。

 

稲妻と暴風が荒れ狂い、観衆たちは我先にと逃げ出した。

残ったのは剣心達だけだ。

 

もう耀は剣心の制止を聞くことはないだろう。仮に耀を止める事ができたとしてもグリフィスが止まらない。

 

雷と暴風を纏ったグリフィスと光と風を纏った耀。

 

二人がぶつかり合う刹那ーー

 

剣心が神速で動き耀を抱えて、離脱する。

 

 

?「はい、そこまで」

 

 

――突如割り込んできた眼帯の男にグリフィスはのされていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覆海大聖

?「……アカンわ。加減間違えてしもた」

 

眼帯の男は気を失っているグリフィスを見て『やってしまった』といったふうな困った顔で立っている。

あの二人の喧嘩に割って入るなどと台風に突っ込むに等しい事だというのに目の前の男はそれをさも当然。おまけにグリフィスに気を取られていたとはいえ耀は優れた直感の持ち主だ。それに気づかない程の早さ、この男が只者ではないことを物語っている。

 

?「あー、そこの……長い髪の君」

 

剣心「......」

 

眼帯の男は剣心に目を止めると彼を指名した。

 

?「君、彼女と同じコミュニティやろ? 一緒におったし」

 

剣心「ああ」

 

?「せやったらその顔真っ赤にしてる子、君に任せてもええか? 念のため医者にでも見せてやり。ほらお前らもや」

 

遠巻きに見ていた"ニ翼"の連中にも声をかける。グリフィスの取り巻き達は気絶しているグリフィスや耀が吹き飛ばした者達を担ぎ上げて次々に運んでいく。

 

剣心「……あなたは一体」

 

?「僕はこの喧嘩の仲裁に来ただけや。これ以上のことはせんから安心し。」

 

男はすぐさま目の届かない場所まで行ってしまう。

 

この場に留まっていても仕方ない。いつの間にか、気絶してしまった耀を医務室へ運ばなければと剣心は歩いていく。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

検査して貰ったところ、特に目立った外傷も無く、その内起きるだろうという診断結果が出た。

 

その言葉に嘘偽りは無く、耀は現在泊まっている貴賓室のベッドの上で目を覚ます。

 

耀「んぅ……ここは?」

 

『気が付いたかお嬢!』

 

前回の戦いで怪我をした三毛猫はアンダーウッドで療養していたが、耀が倒れたと聞いて腹に包帯を巻いたまま駆けつけてくれた。

 

耀「剣心……っ!?」

 

しかし、彼はここにいない。

 

耀「私は……負けたの?」

 

『いや? 喧嘩やったら眼帯の男が相手を伸して納まったみたいやで?坊主はその時、お嬢が殴れるのを阻止してくれたから大丈夫なはずや。』

 

三毛猫は剣心に聞いたことをそのまま耀へと伝えた。

 

耀「それで、剣心は?」

 

『坊主なら眼帯の男を捜しに行ったで。安心し、きっと敵を撃ってくれる』

 

耀「……多分違うと思う」

 

耀の目が覚めた頃、その一方で剣心は眼帯の男を探してる訳ではなかった。ただ、歩き回っていただけである。しかし、ただ歩き回る訳では無く、時々立ち止まっては、地面や建物の壁に手をかざしていた。

 

白夜叉「――というわけでッ! 収穫祭のメインゲーム・"ヒッポカンプの騎手"の水馬貸し出しはッ!!! 全員水着の着用を義務とするッ!!! 当然男女問わずゥゥゥゥゥ!!!!」

 

剣心「......」

 

歩き回っている最中にもの凄いものを発見してしまった。壇上の上で暴走しているのは大人の姿となった白夜叉。先程も思ったことだが、中身が全く変わっていない。そして観客席の人達は既にアルコールが回って出来上がっている。

 

白夜叉「女性用水着は幼児用のスクール水着からマイクロビキニまでありとあらゆる水着全数百種類を取り揃えたッ!!!!」

 

「ヒャッッッホォォォオオオォオウィ!!!」

 

白夜叉「そしてぇぇぇぇ!!! なんと専属審判の黒ウサギはァァァァ!!! 審判中は常時セクシー黒ビキニ着用だあああああああああ!!!」

 

「オールハイール白夜叉ッ!! オールハイール"サウザンドアイズ"ッ!!!」

 

白夜叉「フハハハハハハ!!! 諸人よ、我を崇めよ! 我を称えよ! 神仏よ、我を恐れ敬うがいい!! 我こそは沈まぬ太陽の具現にして遥かなる地平の支配者ッ!!! "白き夜の魔王"・白夜王也ィィィィィィ!!!」

 

剣心はこの惨状に唖然とするばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

白夜叉「おお!剣心!いいところに来た!」

 

白夜叉の悪ふざけという名のオンステージが終わった後、歩き回ってた剣心を白夜叉が呼び止める。

 

剣心「何用でしょうか?白夜叉殿」

 

白夜叉「これから、一杯やろうかと思うてな。どうじゃ、おんしも酒を飲み交わそうではないか。着いて来い。」

 

剣心は白夜叉に言われるがまま、その後ろについていった。日が沈み、空には三日月が淡い光を放ってこのアンダーウッドを照らしている。

 

二人の足音と夜風の音が聞こえる。

 

白夜叉「そういえば、この姿……どうだ? 私の白夜王としての姿は」

 

剣心「......とてもお似合いですよ。」

 

急な白夜叉の問いかけに剣心は戸惑った。見た目は一級品の美女ではあるものの、中身はおっさんという概念が出来上がっていて、素直に彼女が美人だとは思えない。

言うなれば残念美人。

 

?「なんや、随分懐かしい御方の登場やね。それに後ろのは昼間の子?」

 

白夜叉「おっと。おんしと会うのは久しいな、蛟劉」

 

二人が辿り着いたのは大樹の天辺。そこで眼帯の男は杯を煽っている。白夜叉は蛟劉と呼んだ男に無遠慮に近づくと、断りもなく座り込んで虚空から酒瓶を取り出して、自らで酌をしてそれを飲んだ。

 

白夜叉「まったく、何処ほっつき歩いてるかと思えば」

 

蛟劉「あれ? 僕のこと探してたん?」

 

蛟劉の白々しい物言いに白夜叉は睨みつける。失せ物の探索にはうってつけである"ラプラスの小悪魔"が無ければ場所の特定すら困難だっただろう。

 

世間話もそこそこに、蛟劉は白夜叉に"平天大聖"の封蝋がしてある封筒を白夜叉へと手渡した。

 

白夜叉「何の手紙だ?」

 

蛟劉「例の"階層支配者"襲撃事件について。北を襲った魔王とその主犯格らしい連中。それと最近妙な連中がちょいちょい見られることについてや」

 

白夜叉は顔を強張らせた。彼女が今一番欲しかった情報だ。牛魔王は情報を奪われる可能性を考慮して信頼できる義弟にこの封筒を託したのだろう。

 

そして剣心にとっては『妙な力』というのに引っかかった。

 

剣心「......妙な連中とは」

 

蛟劉「それは僕もようわからん。なんか、ここ数ヶ月急に箱庭に二桁から四桁の魔王級の者が現れては、そのどれもが七桁に向かって集まって来ているらしい。ただ、どれもあんまり暴れたりせえへんから、害は少ないんやけどな。それにもうほとんど、滅ぼされて数が減ったしね。」

 

蛟劉は背筋を伸ばして肩を回す動作をした。

 

蛟劉「やーっと終わった。百年ぶりに会ったと思ったら手紙の遣いやで? ありえへんやろ?」

 

白夜叉「仕方あるまい。この封書の中が真実であるなら連中に襲撃される危険もあった。だからこそ、信頼出来るおんしに任せたのだろうよ」

 

しかし、これが偶然だと白夜叉は思えない。前回の戦いで"階層支配者"を解任された彼女はその後任を欲しがっていた。そこに現れたのが蛟劉。これが唯の偶然で済ませられる筈が無い。

 

白夜叉「今はどこぞでコミュニティの長をしておるのか?」

 

蛟劉「はっ、まさか。柄じゃないの知ってるやろ? このチンケな"覆海大聖"の旗下は一人しか入れんよ」

 

蛟劉は笑っていたが、その目あったのは強い拒絶であった。"ノーネーム"がそうであったように蛟劉もまた戦いで多くの仲間を失った。失って失って、そして戦うことに疲れてしまった。

 

――そうして彼は"覆海大聖"から"枯れ木の流木"になった。

 

剣心「蛟劉さん、あなたは今飲んでいる酒は美味いですか?」

 

蛟劉「?いきなりなんや?」

 

剣心「俺の師の言葉です。『春には夜桜 夏には星 秋に満月 冬には雪

それで十分 酒は美味い

それでも不味いんなら それは自分自身

の何かが病んでいる証だ』」

 

剣心「今、あなたは酒が美味いですか?あなたはそうやって酒を煽っているが、とても美味そうには見えない」

 

剣心の言葉に何も返せない蛟劉

 

白夜叉「……蛟魔王よ。もう1つ話しがある」

 

白夜叉は腑抜けてしまった彼を今一度奮い立たせようととある提案をした。頼みを聞いてくれたら彼の義姉である斉天大聖――孫悟空に会わせてやっても良いと言うのだ。 

 

蛟劉「……なんやと?」

 

蛟劉はその話に喰いついた。彼にとってそれだけ孫悟空の存在は大きいのだ。

 

白夜叉の出した条件は二つ。

 1、サラ=ドルトレイクが"階層支配者"になれるように手を貸すこと。

 2、"ヒッポカンプの騎手"で優勝すること。

 

蛟劉「……ええんか? 僕が出たらゲームそのものが滅茶苦茶になるで?」

 

蛟劉も自分が乗せられていることに気が付いていないわけではない。それを知った上であえてその話に乗った。

 

白夜叉「さて、それはどうかな? 私はむしろおんしが優勝する確率のほうが低く思えるがの」

 

蛟劉「それはそこにいる君のお気に入りのことを言ってるん?」

 

白夜叉「さあ、それだけどは限らんぞ?」

 

蛟劉はその隻眼で白夜叉を睨んだ。

 

白夜叉「私の話は終わりだ」

 

蛟劉(孫悟空に会える)

 

いつも味気ない酒だと思っていた蛟劉だったが、少しばかり美味いと思った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヒッポカンプの騎手

"ヒッポカンプの騎手"開催当日、剣心達はジンから昨夜の出来事を聞かされた。それはこの"ヒッポカンプの騎手"での勝者が次の"階層支配者"を決める事が出来るというものだった。

 

十六夜「サラもなかなか面白い面倒ごとを任せてくれたな」

 

飛鳥「でもせめて一言欲しかったわ。本当に心配したのよ?」

 

耀「これはもう、サラには美味しいものを奢ってもらうしかないね」

 

剣心(まだ、食べるのか)

 

耀の言葉に皆は苦笑する。耀の胃袋に限界というものは存在するのかが怪しくなってきた今日この頃である。

 

十六夜「にしても……女性出場参加者は本当に全員水着なんだな」

 

剣心はそういえば白夜叉が酔っ払った観客達に向けてそんな事を声を大にして言っていたのを思い出す。その時はただの悪ふざけかとも思っていたが、実際に規則に加えてしまったのか。

 

飛鳥「ちょ、恥ずかしいからジロジロ見ないでよ」

 

十六夜に見られて顔を赤らめている飛鳥は、普段着ているドレスと同じ色をしたビキニタイプで腰にパレオを付けている。いつもドレスを着ているだけあって水着のように露出度の高い格好はとても新鮮味がある。

 

耀「ねえ、剣心。ど、どうかな?」

 

対する耀は飛鳥程起伏に乏しくはあってもストライプ柄のセパレートタイプの水着によってスレンダーさが際立って健康的だ。

 

剣心(そんな裸同然をどうと言われてもな)

 

剣心の幕末の時代に水着の様な物は無く、正直なところよくわからなかった。

 

黒ウサギ「お……お待たせしました……」

 

テントの出口にはウサ耳だけが入っている。しかしその本体は一向に中へ入って来ない。痺れを切らした女性二人はウサ耳を掴んで思いっきり引っ張って本体をテントの中へ引き摺り込んだ。

 

黒ウサギ「フギャ!?」

 

黒ウサギは――――黒ビキニだった。

 

全ての男の憧れである黒ビキニ。フリルのような装飾も無いシンプルなタイプのものだったが、黒一色故に黒ウサギの白い肌がより強調されている。そして水着になった事でより顕わになった黒ウサギの豊満な胸、無駄な肉付きの無いくびれた腰つき、引き締まっていながらも柔らかそうな美脚。男を魅了し、女を嫉妬させる美しい肢体が目の前にあった。

 

それから間も無くして、参加者を集めるための鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

黒ウサギ『――大変長らくお待たせしました! それでは今より"ヒッポカンプの騎手"を始めさせていただこうかと思います! 司会進行は毎度お馴染み黒ウサギが――』

 

――雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ 

 

黒ビキニ姿の黒ウサギが壇上に現れた途端、会場一体の男共はこの"アンダーウッド"すら揺るがしそうな大歓声を上げる。凄まじい熱気と興奮に会場が包まれるそんな中で、リリとレティシアの手伝いで売り子をやっていたペストは観客達を汚物を見るような目で止めを刺し、リリの教育上宜しくないと判断したレティシアはリリの目を両手で覆いながらそっとこの場を去るのだった。

 

"ノーネーム"は今回のレースのために二つのチームに分けた。

 騎手・飛鳥にサポート・十六夜、白雪のAチーム。

 騎手・様にサポート・剣心のBチーム。

 

優勝を狙うために人員を満遍なく使うのは利に敵っている。サポートは一チームにつき三名までなので、チームを分ければ全員の参加が可能となるのだ。

 

そして実況席へと上がってきた白夜叉は語り出す。

 

白夜叉『えー、諸君!ゲーム開始前にまず一言―――――黒ウサギは実にエロいな!』

 

黒ウサギ『さっさと開始してくださいこのお馬鹿様ッ!!!』

 

壇上の中央からではいつものハリセンが届かないのでその代わりに今回は投石を採用している黒ウサギ。いつもよりバイオレンスなツッコミである。

 

白夜叉『それでは本当に一言――――黒ウサギは本当にエ……』

 

黒ウサギが自分の顔位の大きさがある岩を持って振りかぶっていたのを見た白夜叉は流石にこれは拙いと口を止めた。

 

白夜叉『うむ、流石に投岩は拙いので話を進めるとしようか』

 

白夜叉は今回の祭りで"サウザンドアイズ"がギフトゲームを開催する準備が出来なかった事を謝罪し、その代わりに"ヒッポカンプの騎手"の勝者には"サウザンドアイズ"から望みの品を進呈すると発言した。

 

白夜叉の言葉に騎手の飛鳥、そして大河の両岸にいるサポート役の剣心、十六夜、耀が目配せし合って、その装いを新たにする。

 

剣心「耀、右手の掌を出してくれ」

 

耀「......?どうしたの?」

 

すると剣心は耀の掌に左手をかざす。

 

剣心「......もういい」

 

耀「これは?」

 

耀の掌に模様が浮かぶ。

 

剣心「最近手に入れた能力だ。耀と逸れてもすぐに駆けつけれる。」

 

耀「.....ありがとう/////」

 

白夜叉「それでは参加者達よ。指定された物を手にいれ、誰よりも速く駆け抜けよ! 此処に、"ヒッポカンプの騎手"の開催を宣言する!」

 

――レース開始直後。その刹那に事態は起こった。

 

「きゃ……きゃああああああああああああああああああ!!?」

 

途端に広がる女性達の絶叫。その身を覆っている水着がバラバラに切り裂かれたのが原因だ。そしてそれを実行したのは――クイーン・ハロウィンの寵愛を受けた騎士フェイス・レス。彼女はこのパニックの中で隙間を縫うように進みながら自分に近づく参加者の水着や衣類を蛇蝎の魔剣で切り裂いて素っ裸にしている。

 

剣心「行け、耀!」

 

剣心はフェイス・レスの剣を弾き、耀を走らせる。

 

開始直後にフェイス・レスの動きを察知した十六夜が小石を投げて剣を弾かなければ今頃は飛鳥も悲鳴を上げる女性陣の仲間入りをしていた事だろう。

 

白夜叉「クッ、流石は我が仇敵が選んだ騎士ッ! 血も涙もないその判断力と、肌には傷を付けず水着だけを斬り捨てる剣技ッ!宿敵の臣下なれど見事だと言わざるを得ないッつうかもっとやれヤッホウウウウウウウ!!!!」

 

「「「ヤッホオオオオオオオオオオオ!!!」」」

 

この状況に会場は大盛り上がり。司会の黒ウサギは今日ほどゲームに参加しなくて良かったと思わなかった事は無い。

 

レースの方はといえば、フェイス・レスの手によって脱落者が続出し、参加者は既に十分の一にまで減ってしまっている。

 

"ノーネーム"側としても白雪が水着を切り裂かれてリタイア。序盤で水のギフトを扱うことが出来る彼女を失ったのは大きな痛手だ。

 

黒ウサギ『現在のトップは"ノーネーム"より春日部耀! 二番手は"ウィル・オ・ウィスプ"よりフェイス・レス! 三番手には同じく"ノーネーム"より久遠飛鳥! 以下、四番手から七番手は"二翼"の騎手たちが猛追している状況……おや? トップと二番手との差が縮まっています!』

 

剣心がフェイス・レスを封殺しても、馬の性能の差で次第に距離の差がなくなっていく。

 

そして、なんとかアラサノ樹海の分岐点まで辿り着く事が出来た。

 

十六夜「春日部! お嬢様! こっち側の細い道を選べ!」

 

飛鳥「分かったわ!」

 

耀も飛鳥と同じ細い道へと進もうとする。

 

フェイス・レス「おっと、そうはさせませんよ」

 

耀「なっ!?」

 

耀の行く手をフェイス・レスとその騎馬が遮った。河の流れが強いこともあってかルート変更をしなければ先に進むことが出来ない。

 

十六夜(しまった! あの仮面の狙いは春日部か!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

飛鳥が選んだルートと同じく剣心とフェイス・レスが進むルートも樹海で死んでいった幻獣の亡霊"水霊馬ケルビー"の縄張りであったが――。

 

剣心「卍解」

 

剣心「千本桜景義」

 

千本桜で全て薙ぎはらう。その一方でフェイス・レスも"水霊馬ケルビー"を火炎を灯した魔剣で焼失させていく。時折流れてくる流木もその剣にかかれば一瞬で燃え尽きていく。

 

フェイス・レスは"水霊馬ケルビー"を斬る合間にも耀へ蛇蝎の魔剣を伸ばす。そしてそれを千本桜が全て防ぐ

 

剣心(フェイス・レスにしてやられたが、こいつを抑えれるのなら、むしろ良かったかもしれないな)

 

フェイス・レス(やりますね。全く攻撃の糸口が掴めないなんて)

 

樹海を抜けると、目の前にあったのは大瀑布。辺り一面は水霧で覆われて目の前がほとんど見えはしない。滝の傾斜もほぼ垂直でとてもヒッポカンプで進むことが出来るようには思えなかった。

 

剣心「この上が折り返し地点か」

 

フェイス・レス「お先に失礼します」

 

通常であれば別のルートから登るであろうところを、何とフェイス・レスはそのまま滝を登り始めたのだ。彼女のヒッポカンプが特別だから出来るのか、それとも水のギフトで滝を登れるようにしたのかは不明だがとうとう抜かれてしまった

 

剣心「先に耀だけ上がれ、耀が上がった後に馬ごとそっちへいく。」

 

耀「うん」

 

耀はグリフォンのギフトで滝を登りきる。耀が上がった瞬間に剣心と馬は耀の元に転移する。

 

山頂に辿りついた剣心が見たのは巨大な海・・・・。

 

剣心(潮の香り……? ここは山頂だぞ)

 

耀は試しに水を軽く舐めたが、淡水ではない。このしょっぱさは海水のものだ。改めて"箱庭"の出鱈目さを思い知らされる。

 

剣心「耀! 急げ!」

 

剣心の声にハッと我に返った耀は海の中央に生えている大樹の実を取ってギフトカードへとしまう。後はゴールするだけだ。

 

その時足場が――――否、大気が揺れ出した。

 

それはあのフェイス・レスさえも脅威を感じている。

 

フェイス・レス「……まさか、こんなお遊びのようなゲームで、動くのですか? "枯れ木の流木"と揶揄された、あの男が………!」

 

――……ええんか? 僕が出たらゲームそのものが滅茶苦茶になるで?

 

剣心(あの者か)

 

蛟劉「いやあ、参った参った! 寝坊したらこんな時間になってしもうた。無理矢理ねじ込ませてもらったのに、白夜王には悪いことしてもうたなぁ」

 

蛟劉「でもよかった。君らがこんなところでトロトロしてたおかげで、簡単においつけたわ。――――――――此れなら優勝も、容易そうやなあ」

 

最強の参加者、蛟魔王を加えてレースは後半戦へ突入する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レースの行方

海樹の園の海岸沿い。

 

ここまで辿り着いたのはサポートの十六夜を除けば、飛鳥、耀、剣心、フェイス・レス、そして怒号の追い上げを見せた蛟劉であった。その中でも蛟劉は別格の空気を纏っている。皆が一番警戒しているのはこの男だろう。

 

十六夜「聞け、春日部にお嬢様。あいつはまだ果実を手に入れてない。俺が足止めしておくから先に行け」

 

飛鳥「ここは剣心と一緒に足止めするべきじゃないかしら?」

 

蛟劉は元とはいえ魔王。いくら十六夜が規格外とはいえ容易く勝てる相手ではない。事実十六夜は『倒す』ではなく『足止め』と彼にしては珍しく弱気な姿勢を見せているのだ。

 

十六夜「それはお前一人であの手強い騎士様を相手にするってことだぜ? 俺が蛟劉を、剣心が騎士様を足止めする。悪く思うなよお嬢様。これが一番確実なんだよ」

 

もし十六夜が蛟劉に挑めば、場の均衡は崩れる。それを見逃すフェイス・レスではあるまい。傍から見れば危険から遠ざけるように思えるだろう。しかしそれと同時に、飛鳥は二人が切り開く道を進んで逸早くゴールするという責任重大な役目を背負うのだ。 

 

考え方によっては一番オイシイ役回りなのかもしれない。

 

蛟劉「お~い、作戦会議かどうかは知らへんけど、時間掛けすぎやで?」

 

蛟劉の突然の物言いに合わせたような地響き、否、これは準備が整ってしまった彼からの警告だった。彼の右手が掲げられると地響きはより一層強まって巨大な津波を起こした。

 

十六夜「二人とも早く行け! このままじゃ失格だぞ!」

 

ルール上、馬から離れること自体は反則ではないが、水に沈んでしまえばその時点で失格となる。三名と同じく窮地を悟ったフェイス・レスは一目散に滝へと駆け出した。

 

飛鳥「もうどうにでもなれーーーー!!」

 

飛鳥も半ばやけくそになりながら、三名は滝を跳び下りた。その後ろでは樹海が津波によって飲み込まれていく。

 

フェイス・レス「はぁぁぁぁぁ!!」

 

フェイス・レスは二本の剛槍を振り下ろすことで落下の衝撃を相殺した。飛鳥は自分の持てる力全てを最大限にまで生かすことで水面をまるでトランポリンに着地したかのように『垂直』に跳んだ。耀はグリフォンのギフトで着地に衝撃をやわらげる。

 

剣心「耀。俺は先に行く。途中で決して止まるな」

 

耀「うん、わかった。」

 

剣心は神速でフェイス・レスを追う。

飛鳥の横を弾丸の速度で駆け抜けていく。

 

飛鳥(な、なんて速さなの!?)

 

剣心(見つけた。)

 

フェイス・レスを捕捉するまでそれ程時間はかからなかった。彼女の騎馬は優れているが、剣心の神速と比べれば天と地ほどの差がある。

 

剣心が更に距離を縮めようとした刹那、剣閃が彼を襲う。

 

剣心はそれを難なく弾く

 

フェイス・レス「クッ!」

 

剣心「手筈通り俺がフェイス・レスを押さえ込む。飛鳥は先に行っててくれ」

 

飛鳥「分かってるわ。そっちこそ『負けるんじゃないわよ』」

 

剣心はフェイス・レスへ、飛鳥と耀はゴールへ向けてそれぞれ動き出す。飛鳥の去り際の一言は剣心へのブーストとなる

 

フェイス・レス「……やはり貴方をどうにかしなければ先へは進めないようですね。」

 

剣心「卍解 吭景・千本桜景義」

 

剣心とフェイス・レスを億の刃で包み込む。

 

フェイス・レスは千本桜に剣を振るうが、簡単に弾かれてしまう。

 

剣心「あなたはこれから、2人が走り終えるまで、俺と共にこの刃の牢獄に入ってもらいます。」

 

フェイス・レスの手に現れたのは、ヨーロッパで騎馬兵が用いた突撃槍と円形の盾。その身に纏う純白の鎧と合わせれば、これぞ正しく馬上の騎士と言える姿だろう。

 

先に仕掛けたのはフェイス・レスだった。

 

フェイス・レス「ハァ!!」

 

馬による突進、その速度に突撃槍の突きを乗せて放つ。

 

剣心はそれを神速で避ける。

 

剣心「速いな」

 

フェイス・レス「まさか……私が今まで100%の力量で戦っていたとお思いでしたか?ですが、あなたに言われると嫌味にしか聞こえませんね。」

 

今まで、彼女のやった攻撃は服だけを器用に切り裂いて参加者達を競技続行不能にしていただけ。手を抜いていた訳ではなくても、相手を殺さないように力をセーブしていたのだろうか。

 

フェイス・レスは槍による攻撃を剣心に浴びせ続けるが、全ていなされてしまう。

 

フェイス・レス「……してやられましたね」

 

黒ウサギ『ゴォォォォォォルッ!! "ヒッポカンプの騎手"の優勝は"ノーネーム"の久遠飛鳥選手デス!!』

 

ここからでも分かる黒ウサギのゴール宣言。そしてゴールした飛鳥を祝福する喝采。それと同時に彼女を取り囲む億の刃の壁も消え去った。

 

フェイス・レス「仕方ありませんね」

 

フェイス・レスは口元を微笑ませ剣心を見るが、その姿はすでに無かった。

フェイス・レスは冷汗を流す。

 

フェイス・レス(彼は本当に人間なのでしょうか? 何か別の、それこそ神に近い様な気配がしますね)

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

"ヒッポカンプの騎手"の激闘を制した飛鳥の授与式が行われた後、"アンダーウッド"では連日夜遅くまで宴が続いていた。十六夜の傷も癒えて宴を楽しんでいる。耀は相変わらず食べ歩きを続けて、飛鳥は民芸品を見て歩き、黒ウサギやレティシアは子ども達にとお土産のお菓子をどれにするか悩んでいる。

 

剣心「まだ食べるのか?」

 

耀「うん、だってまだ腹四分目くらいだから」

 

耀の片手にはシシカバブのように大きな串焼きに焼きトウモロコシ。逆の手にはぺリュドン焼き20個入りのケース。そして両手首に吊るされている袋には他の屋台で買った食べ物が数個入っている。既に大分食べているというのにまだ食べる辺り彼女の底が知れない。

 

耀「剣心、あれ見て! あっちでギフトゲームやってる!」

 

屋台の直ぐ横にはこんな紙が張ってあった。

 

『ギフトゲーム―型を抜きし者―

 

 ・参加資格

  ・参加料 銅貨5枚

 

 ・勝利条件

  ・型を割らずに上手にくり抜く事(屋台主が公正な判断を下す)

 

 ・敗北条件

  ・型を割ってしまうこと

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

                               

                                  "屋台の親父"印』

 

この屋台は昨今では珍しい型抜き屋だった。台の上では子どもだけでなく老若男女がこぞって爪楊枝を使って型をくり抜いている。

 

白夜叉「くっ……このっ、中々難しいの……」

 

蛟劉「フンフーン♪」

 

剣心「......」

 

白夜叉「ぬぁぁァァしまったァァァ!」

 

白夜叉が削っていた"一本角"の旗印のマークが力の加減を間違えたのか割れてしまったんだ。それに対して蛟劉は未だに"四本足"の旗印のマークを削り続けている。

 

白夜叉「おい親父! もう一回だ!」

 

蛟劉「白夜王、もう諦めたらどうや? これで25回目やで?」

 

白夜叉「いーや! 今日は勝つまで続けるぞ! 何が何でもあの黒ウサギ10分の1スケールのフィギュアを……」

 

白夜叉は既に泥沼に嵌まってしまっている。蛟劉が止めても彼女は懐のがま口から銅貨を5枚取り出した。たかが銅貨5枚と侮っていればいつの間にか持ってきた小遣いを使い果たしている。それが祭りの屋台が持つ恐ろしい魔力なのだ。

 

それと何やら不穏当な単語が聞こえた気がするが、剣心と耀は聞かなかったことにしてその場をゆっくりと立ち去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

最終日に行われたサラの階層支配者就任式では流石に一度中断されて荘厳な空気に包まれている。龍角を折ったことで失われた力も、白夜叉から賜った"鷲龍の角"があれば問題ないだろう。

 

そして"ニ翼"の長であるグリフィスはというと、サラが階層支配者に就任すると決まるとコミュニティを去って行った。流石に階層支配者の候補者を侮辱しておいて、その挙句ゲームで負けたのだ。その後も連盟に居続けられるほど豪胆な性格はしていなかったのだろう。

 

剣心「無事、事が終わって何よりだ」

 

十六夜「俺としちゃ不完全燃焼甚だしいんだがな」

 

就任式を斑梨のジュースを飲みながら剣心と十六夜は喋っている。実際、十六夜と蛟劉の戦いは十六夜の勝ちではあったが、それはあくまで蛟劉がレースを辞退したからだ。蛟劉に決定打を与えていない十六夜からすれば不満でも無理は無い。しかし、それと同時にいつか来るであろう蛟劉との真剣勝負はこの箱庭での一つの楽しみとなった。

 

剣心「だが、フェイス・レス殿や蛟劉さんが勝ってもサラ殿が階層支配者になれてたがな」

 

十六夜「分かってねえな。そんなチンケな理由・・・・・・で俺達が勝ちを譲るわけないだろうが」

 

それもそうかと剣心は納得した。問題児三名にそんな殊勝な考えの持ち主などいるわけが無い。

 

黒ウサギ「お疲れ様ですサラ様」

 

"ノーネーム"崩壊からずっとコミュニティを守り続けている黒ウサギには復興を成し遂げたサラは強い励みとなった。きっと旗印を取り戻して散り散りになった仲間達を連れ戻してみせる。そう、改めて心に誓いながら天高く上がった炎を眺めている。

 

リリ「あの、黒ウサギお姉ちゃん」

 

黒ウサギ「どうしたのですか?」

 

リリを中心とした年長組は今がそのタイミングだと黒ウサギに走り寄ってきた。黒ウサギはリリ達が神妙な顔をしていることに頭を捻る。

 

リリは頭に生えている狐耳を赤くしながら抱きしめていた小袋を黒ウサギへと差し出した。

 

リリ「黒ウサギお姉ちゃんにプレゼントです。いつもお世話になってるから、十六夜さん、剣心さん、飛鳥さん、耀さん、ジン君、それに私達皆で選びました」

 

黒ウサギ「わ、私にですか!?」

 

耳をピンと逆立たせて驚く黒ウサギ。問題児達+αを見るとそれぞれが別方向に、剣心だけその三人を見て珍しく微笑ましそうにしていた。

 

十六夜「……ま、こんな面白くて楽しい素敵な場所に招待してくれたからな」

 

飛鳥「連盟も組んで、一つの節目ができたわけだし」

 

剣心「ああ、感謝している、黒ウサギ」

  

耀「これからもよろしくね」

 

十六夜と飛鳥は照れ臭そうに、そして剣心と耀はにこやかに、黒ウサギへと感謝の言葉を送った。その不器用ながらも温かな心遣いに黒ウサギは思わず涙を流す。

 

黒ウサギ「あ、ありがとう……ございます。とても大切にするのですよ………!」

 

黒ウサギはそう言って袋を開けようとすると、問題児三名は慌ててそれを遮って彼女を広場へと連れて走り出した。

 

十六夜「プレゼントの確認なんて後でいいだろ!」

 

飛鳥「今夜は収穫祭の最終日なのよ!? 遊ばないでどうするの!?」

 

耀「さあ、行こう!」

 

黒ウサギ「え、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

プレゼントをリリに預けて広場に出る四人。それを剣心とリリは優しい目で眺めていた。

 

僅かに開いた小袋の中に、実はプレゼントとは別に手紙が入っている。

 

宛名にはこう書いてある。

 

 『親愛なる同士・黒ウサギへ』と。

 

剣心「皆、もう少し素直ならいいものを」

 

リリ「ふふっ、そうですね。」

  

剣心「俺達も行こうか」

 

リリ「はい!」

 

剣心は年長組を連れて四人の後を笑顔で追いかけるのだった。こんな笑いに満ちた日々がもっと長く続けば良い、そんな優しいことを思いながら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕末の亡霊

お久しぶりです。久しぶり過ぎて書きかたが変わってしまってるかもしれません。あと、この話とは別に「異邦人のお茶会」という話を間に挟みました。読まなくても特に影響はありませんが、一応報告させていただきます。


飛鳥「急ぎの呼び出しって、一体どういう事かしら?」

 

黒ウサギ「私もあまりよく存じ上げておりません。手紙でただサウザンドアイズに来るようにとしか。」

 

十六夜「とりあえず着いてみればわかるだろ。」

 

耀「早く帰って、ごはん食べたい」

 

剣心「.............」

 

十六夜達は白夜叉に呼び出しを受けてサウザンドアイズへ向かっている。

 

店員「お待ちしておりました。中でオーナーがお待ちです」

 

相変わらず定例文の様な言葉だなとどうでもいい事を考えながら、店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に向かう。そして中に入った瞬間

 

白夜叉「イヤッホー!揉みたかったぞ!黒ウサギーーーーーーー!」

 

飛鳥「もう隠す気もないのね」

 

白夜叉は黒ウサギに飛びつく。しかし、黒ウサギも慣れてきたのか。

 

黒ウサギ「十六夜さん、パスです。」

 

白夜叉「グボァ!」

 

白夜叉を十六夜の方に蹴りつけ、十六夜もいつかの様に足で受け止める。

 

白夜叉「最近、おんしらも容赦が無くなってきたの」

 

黒ウサギ「しつこい白夜叉様が悪いのです。」

 

十六夜「俺は応援してるぜ!」

 

黒ウサギ「十六夜さんは、どっちの味方なんですか!」

 

黒ウサギのツッコミは今日もキレキレ

 

白夜叉「冗談はさておき......」

 

剣心(もう茶番は終わりか。なるほど、かなり切迫した状況とみえる)

 

普段ならもう少し白夜叉の黒ウサギ弄りは続く筈だが、今回は直ぐに本題に入る様だ。白夜叉もどこか普段の余裕が見られない。

 

白夜叉「まず、どこから話そうかの。とりあえず、時系列に話していくかの」

 

白夜叉「先日、蛟劉から妙な力を持った連中というのを耳にした筈じゃ」

 

十六夜「そんな話は知らないぜ。」

 

白夜叉「そう言えば、剣心しか聞いていなかったか。それでその連中というのが、リュウや白哉、シンジの様な存在だという事が判明した。」

 

剣心(!?)

 

その言葉に剣心だけでなく、黒ウサギ達も反応する

 

耀「なら剣心も妙な連中に入るって事?」

 

耀が食ってかかる様に質問する

 

白夜叉「そういう事になるのじゃが、だからと言ってそこまで重要な話でもないのじゃ。問題なのは、こやつらがお互いを殺し合ってると言う事じゃ」

 

十六夜「じゃあ、剣心も狙われるってか?まあ、今更だな。これまでも散々狙わてたしな」

 

白夜叉「じゃが、その連中の中で1人かなりの危険人物がいる事がわかった。そいつは殺し合いだけでなく、フロアマスターもターゲットに入れているという情報が入ってきよった。其奴の狙いは箱庭の征服、そして支配。情報源は蛟劉じゃ」

 

飛鳥「でも、どんな奴が相手でも白夜叉を倒すのは無理じゃないの?」

 

白夜叉「...........」

 

黒ウサギ「白夜叉様?」

 

白夜叉が沈黙する。

 

十六夜「おいおい、まさか白夜叉ともあろう者がそんなならず者にビビってるのか?」

 

十六夜が挑発を入れるが、白夜叉の表情は変わらない。

 

白夜叉「少しついてこい」

 

白夜叉は立ち上がり、奥の部屋へ進み、襖を開ける。目に飛び込んで来たのは

 

黒ウサギ「蛟劉様⁉︎」

 

剣心「⁉︎」

 

全身を包帯で巻いた姿の蛟劉だった。彼は布団に寝かされているが、意識はある様だ。

 

蛟劉「十六夜に黒ウサギって事は、ノーネームか。えらい見苦しい所見られてもうたな」

 

蛟劉が起き上がり、全員を見渡す。

 

白夜叉「これ!お前は安静にしろと行ったじゃろ!」

 

蛟劉「痛い!何してんねん!白夜王」

 

白夜叉「全く、痩せ我慢も程々にせい。ちょっとコツいただけで、その有り様ではないか」

 

白夜叉は蛟劉を布団に寝かしつける。

 

十六夜「で、一体何があった?こいつ程の手練れがこんな怪我を負うって事はそうそう無い筈だ」

 

白夜叉「そうじゃな、話の続きをしよう」

 

白夜叉「わしが蛟劉に引き続き"階層支配者"襲撃事件と妙な連中についての情報を調べさせていたのじゃが」

 

蛟劉「ここからは、僕から話そう」

 

蛟劉「以前、「急に箱庭に二桁から四桁の魔王級の者が現れては、そのどれもが七桁に向かって集まって来ているらしい。ただ、どれもあんまり暴れたりせえへんから、害は少ないんやけどな。それにもうほとんど、滅ぼされて数が減った」って話したよね?」

 

剣心「ああ」

 

蛟劉「この妙な連中を次々と倒していってたのが、主に2人おった。1人目は剣心。2人目が志々雄真実っちゅう人物や」

 

剣心(ピクッ)

 

耀「志々雄って誰?」

 

剣心「志々雄真実」

 

剣心「俺が「影の人斬り」の役をやめた後に「影の人斬り」の役を引き継いだもう1人の長州派維新志士 志々雄真実。言うなれば「人斬り抜刀斎」の後継者だ」

 

十六夜「そんなのがいたのかよ」

 

剣心「ああ、だが俺も名前だけで直接の面識はない」

 

蛟劉「話を戻すで、そんで志々雄について情報を白夜王に持っていく最中に志々雄の刺客に襲われたんや。」

 

飛鳥「情報とは?」

 

蛟劉「情報はさっきのフロアマスターの事。それと志々雄は今までに3人の能力者を倒し、能力を簒奪している事。つまり、最低でも3つは持ってるってこっちゃ。」

 

十六夜「何の能力かはわからないのか?」

 

蛟劉「そこまでは、わからんかったわ」

 

剣心「別に構わない。それより襲われた時の状況を教えて欲しい。」

 

蛟劉「そうやな、自分がやられた話はあんまりしとうないけどな〜。」

 

蛟劉は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。しかし、直ぐに顔を引き締め鋭い眼光を見せる。

 

蛟劉「今から話す事は、皆心して聞いて欲しい。僕はな.............一撃も入れる事はできんかったんや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、静寂が空間を包む。まるで時間が止まったかの様なそんな錯覚さえ感じてしまう程の衝撃。

 

 

一番早くに復活した十六夜が口を開く。

 

十六夜「おいおい、冗談も大概にしろよ。頭までもやられたのか?」

 

蛟劉「僕がこんな姿になって、冗談でも言ってると思ってんの?」

 

 

 

 

 

十六夜「..............本当なのか?」

 

 

 

蛟劉「............ああ」

 

 

 

 

 

またもや、静まり返ってしまう。

 

蛟劉ひいては蛟魔王は決して弱者ではない。むしろ強者である。今居るメンバーでも白夜叉に次いで2番目の実力はある。一時は覇海大聖の名の元、斉天大聖を肩を並べ、修羅神仏に闘いを挑んだ歴史もある。そんな蛟劉が手も足も出なかった相手。その様な猛者を配下に置く志々雄真実という人物。白夜叉の先程の反応にも納得がいく。

 

 

 

 

 

剣心「蛟劉さん続きをお願いします」

 

今まで黙っていた剣心が口を開く。今の話をまるで聞いてないかの様に続きを促す剣心

 

黒ウサギ「剣心さん、今のお話を聞いて何も感じないのですか?」

 

黒ウサギが戸惑いの声をあげる。おそらく、他の面々も剣心の反応の薄さに戸惑いを感じている。

 

剣心「志々雄やその配下の強さはよくわかった。だが、そんな事はさほど問題ではない。志々雄真実の目的を鑑みるにノーネームとの衝突は避けられない。ならば、情報を集め、いかに敵を仕留めるかを考えるべきではないのか?」

 

白夜叉「そうじゃな。まあ、安心せい。いざという時はわしが直接倒してやる」

 

十六夜「それで前に封印されたのは、どこのどいつだ?」

 

白夜叉「うぅ。まあ今回はしっかりやるからの!わしに任せろ!」

 

黒ウサギ「 そ、そうですね!はじまる前から落ち込んでててはダメですよね!」

 

飛鳥「まあ、いつもの魔王討伐ということね」

 

耀「うんうん!」

 

十六夜と白夜叉によって空気が少し軽くなっていく。

 

剣心「.............」

 

耀「剣心?」

 

剣心「何でもない。」

 

耀「そう」

 

耀(何だろうこの胸騒ぎは.....)

 

耀は剣心の表情を見てどこか不安になる。

 

蛟劉「まあ、とりあえず詳しい話はな........」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む