超艦隊これくしょんR -天空の富嶽、艦娘と出撃ス!- 《完結》 (SEALs )
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第一章:連邦国建国、日本孤立ス!
第一話:プロローグ


Очень приятно(はじめまして)、SEALsです。
それでは、大変長らくお待たせしました。
リメイク版と共に帰ってきました。今度は自分の思うように執筆していきます。
また前回とは違った展開もありますので、こちらもお楽しみを。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!



「提督、大丈夫ですか?」

 

頭を抱える提督――神代秀真の傍で心配している彼の秘書艦《古鷹》が声を掛けた。

 

「大丈夫だ。最近は思うように資材がここに来なくてな……」

 

「ごめんなさい。わたしたちが“改二”になってからも提督の期待に応えられなくて……」

 

「自分を責めることはない、申し分ないほど活躍している。先日行われた夜襲作戦でも、古鷹たちは敵旗艦の戦艦ル級と他の敵艦を含め、重要目標である敵補給艦ワ級を多数撃沈させたのだから……」

 

「あ、はい。提督がそう思ってくれているのなら本当に嬉しいです」

 

秀真はどんな時でも明るく微笑む彼女を見て、呟いた。

 

……みんな疲れ切っている。次で何とかしなければ不味い。

 

元の原因――それを作り出したのは全てブラック鎮守府らが考案した無謀な作戦と彼らが得意とする《捨て艦戦法》をしてから、この有様だ。

 

数日前。

着任して数ヶ月。数多くの戦果、好評を得た秀真は初めて大規模な作戦に参加した。

秀真だけでなく親友である郡司、他の提督たちも然り。誰しもがこの作戦で勝つという自信があったのだが予想外の出来事、ブラック提督たちが参加するまでは……。

戦艦ル級elite、泊地棲鬼、装甲空母姫などを撃破、これにより作戦は順調に進んで行った。

そして敵旗艦の飛行場姫と戦艦棲姫の双方を撃破、彼女たちを倒されたことにより慌てふためいた深海棲艦らを、あと一歩すれば勝てると誰もが思った時、事態は予想外の展開を迎えた。

敵の増援が現われた時なにを思ったか彼らは平然と「指揮放棄」をしたのだった。

しかも指揮下である艦娘たちと負傷しながらも懸命に戦っている秀真たちを置き去りにしたのだ。

彼らを見た時は怒りを覚えた。郡司や各鎮守府に所属する提督や艦娘たちの協力のおかげで辛うじて助かったのがせめてもの救いであったが……。

作戦の結果は【戦術的勝利】だが事実は【戦略的敗北】となり、敵に重要拠点を占拠されたままと言う有様に……夜襲による奇襲作戦を提案するも許可は下りず、後ろ髪を惹かれつつも後退していく羽目となったのだった。

 

後日。

その敗因とも言える原因を作ったブラック鎮守府の連中を必死に告訴したものの、理不尽にも全てが退けられた。

気になった彼は親友の郡司、彼の配下の諜報員と共に情報収集を行い、そして数週間後にできた報告書を目にしたときは信じられない事実が隠されていた。

告訴した彼らの多くが上層部によるコネや潤沢な裏金などを惜しみなく使い、いとも簡単にその重罪をもみ消したのだ。しかもこの悪い話は終わることなかった。

自分らが提案した作戦、これを放棄した彼らは厚顔無恥も甚だしく良いところ……その全て秀真たちのせいにした挙げ句、多くの者たちは「自分らは賢明な【戦術的撤退】をしたのだ」と述べ、自分らが撃破してもいない敵艦隊ですらも「反転して撃破した」との嘘の報告を述べたから性質が悪い。

 

最近ではシーレーン防衛時でも、ブラック提督たちは平然とこの行為を繰り返した。

米軍との限られた支援のなか、自分たちで協力しなければならないのに、かれらのおかげで先日はどれだけ苦労しているやらと愚痴をこぼした。

 

……まったく奴らは艦娘たちを平然と奴隷のように扱うだけでなく、貴重な輜重をなんだと思っているんだ。

これでは、まるで人をものとしか見ないブラック企業の奴らと同じではないか!と怒りがこみ上げた。

 

秀真が言う輜重とは、軍隊の糧食・被服・武器・弾薬など輸送すべき軍需品の総称である。

孫氏の兵法にも「輜重無ければ軍は滅び、糧食が無ければ即ち亡ぶ」と言われるほど、古くから補給は重要な要素だった事を指している。

 

しかし彼らブラック鎮守府はそのありがたみもないまま全ての資材を使い切り、尽きたら契約違反だと言い放ち、さらに恫喝を平然と行い、無茶な要求をし、また元通りに尽きかけたら、これを永遠と繰り返す……

これらが原因で、 本来資材を必要とする他の鎮守府には充分な資材は行き渡らなくなっているのも納得する。

前者は富裕層のように謳歌し、当然のごとく艦娘たちを奴隷のように扱いは当たり前で、そしてなにひとつ戦果もあげないのに援助ばかり求め続けている。

適材適所主義で信賞必罰に厳しい英米海軍では、これらは考えにくいことであり、ただちに更迭させなければならない者たちなのだが――ブラック提督たちは日本海軍の悪癖ともいえる年功序列や家族主義でかばい合うのが多く、すぐさま手段を変えて、先ほどと同様の手で罪を揉み消し、そして何事も無かったかのように過ごす。

後者は懸命に戦いながらも彼女たち艦娘と資材を大切に運用しているが、その努力が報われない一方である。

最近はこれらも見直されているが、元帥もブラック提督たちには苦労しているとのことだ。

 

「……まったく運がないな、神に祈るしかないか」

 

神様頼りとはなさけないと、秀真は自嘲した。

 

「提督、少し良いでしょうか?」

 

そんな彼を見て、古鷹は言った。

 

「どうした、急に……」

 

「提督に元気が出るおまじないですので、目を閉じてもらえないでしょうか?」

 

「……? 分かった……」

 

秀真は言われるがまま、目を閉じた瞬間……古鷹は彼を落ち着かせるため、優しく抱きしめた。

予想外の出来事に驚いた秀真だったが、彼はこれを拒むことなく、しばしこれを続けるのであった……。

 

 

 

「……提督、少しは落ち着きましたか?」

 

「……すまない、ありがとう」

 

戸惑いのあまり、危うく自身の思考がまともに働くことができない状態だった。

しかし、予想外な行動をしてくれた彼女のおかげで少しは落ち着くことができた。

 

「今日はオフですから、みんなと一緒に休みましょう?」

 

「しかし古鷹、キミの方こそ休んでくれ。昨日から寝不足だろう?」

 

「慌てないで提督、古鷹は大丈夫です」

 

ニッコリと笑った古鷹に、秀真は言い返した。

 

「しかし、無理をするなら俺が……」

 

「駄目です。提督も今日はオフなのですから一緒に休みましょう。たまには息抜きも必要です」

 

また彼女たちの頼み事には断れないほど、お人好しな提督なのである。

 

「分かった、みんなで間宮さんの店で食事をしよう。青葉たちに出かける準備をするよう伝えておいてくれ……」

 

出かけるのはお気に入りの店、間宮の店である。

 

「了解しました、提督」

 

秀真に敬礼する彼女は、部屋をあとにした。

ささやかな幸せ、彼にとって彼女たちと過ごすのは何よりも楽しみであり、自身の孤独を忘れさせてくれる家族のような存在でもある。

 

「……本当に俺には勿体ないぐらい良い子だ」

 

再びため息をつき、明日のスケジュールらを確認する。

 

「明日は新たな艦娘が着任して、それから次の二週間後には我が友、郡司との久々の演習だから気が抜けない、とはいうものの何時ものことだけどな………」

 

予期せぬ出撃で燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトが不足になるわけにもいかないのだが……いまは少しでも戦力を増やすためであり、次の作戦に備えなくてはいけない。

なにより次の作戦で勝利しなければ、今後は不利になりかねないと警戒されているぐらいだからだ。

元帥や良識派たちは「先の大戦、あの敗戦の道を辿ってしまうかもしれない」と言うぐらい深刻な問題だという。それを認識している者たちもいるが、資材軽視をしている奴らは楽観的なのが腹立たしいが。

 

「提督、もう準備完了ですよ?」と古鷹

 

「提督、あたしを待たせないでよ…Zzz」と加古

 

「提督、みんな準備できたよ♪」と衣笠

 

「早く来てください、司令官!」と青葉

 

おっと、皆を待たせては行けない。さて、出かける支度をしなくては。

 

「合同演習時には何事もなければいいのだが………」

 

不安を思いつつも秀真は、古鷹たちが待っている外へ向かった。




今回は一部台詞を変更したり、少しですが足したりしています。
前回と違ったところもありますが、こちらでも楽しんでくれたら幸いであります。

また面白いと言われるように、気合入れて、執筆します!(比叡ふうに)
ではこうして無事、第一話を終了しました。

次回もまたこの調子で頑張ります。

長話はさて置き、次回もお楽しみを。

それでは第二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第二話:不運な一日

今回は日常編であります。
なんかアニメみたい?いいえ、知らない子ですね(赤城さんふうに)

なお、今回も一部台詞を変更したり、少しですが足したりしています。
前回と違ったところもありますが、こちらでも楽しんでくれたら幸いであります。

長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


いつもと変わらない朝を迎えた。

起床し、軽い運動、そして間宮たちが丹精込めて作ってくれた朝食を摂り、これらを終えた秀真は、秘書艦である古鷹とともに執務室で仕事を開始していた。

 

「古鷹、間違いがないか確認して欲しい」

 

彼女に報告書を手渡すと、すぐに見通し、なるほどと書類を読み通した。

 

「大丈夫ですよ、何処も間違ってはいません」

 

「そっか。ありがとう」

 

古鷹の答えを聞いた秀真はひと安心すると……

 

「そう言えば今日は新しい娘が来る予定ですが、まだなのですか?」

 

秀真は、うなずいた。

 

「ああ。もうじき連絡が入るからそろそろ連絡がくると思うのだが……」

 

「楽しみですね、提督」

 

「ああ、楽しみだ。それに二週間後に行われる合同演習時のスケジュールも同時に立てなければならない」

 

「私も手伝いますから、今日も一日を大切にして頑張っていきましょうね!」

 

「ああ、ありがとう」

 

ふたりが他愛のない会話を楽しんでいると、突然と一本の電話が大きく鳴り響いた。

おそらくはあの方であり、そして伝言は、いま古鷹と話していたことについてだろうなと悟った。

 

「すまないが、古鷹。しばらく電話をするから静かにしておいてくれ」

 

「はい、了解しました。では、ついでにこの報告書と作戦資料を大淀さんに渡してきますね」

 

そう言うと、古鷹は先ほど纏めていた報告書および作戦資料を持っていき、執務室を出ていく。

彼女が、部屋の扉を静かに閉めたと同時に、鳴り響いた電話を取り出した。

 

「はい、もしもし」

 

『やあ、久しぶりだな。秀真提督』

 

「ご機嫌麗しゅう。元帥」

 

『うむ。キミも元気そうでなによりだ』

 

元帥はうなった。

 

「ハッ!元帥こそ、今日は例のご用件ですか?」

 

秀真は彼女に尋ねた。

 

『そうだが、まずキミに良いニュースと悪いニュースがあるんだ』

 

それはなんの死亡フラグですかと言い返したいところだが、一応なんですかと尋ねる。

 

『まず良いニュースからだ。先日のキミが行った奇襲作戦、とくに敵輸送船団を撃滅してくれたおかげでようやく我が軍はこの機を逃がさず反撃できたため、重要拠点およびシーレーンを取り返すことができた。

キミと郡司、他の良識な提督たちは敵の輜重を撃滅ないし我が国のシーレーンを回復させることを重要としてくれたから、本当にこの作戦をキミたちに任せておいて良かった」

 

「いえ、恐縮です。しかし自分たちだけでなく、この作戦に即採用し協力してくださった元帥や彼女たちのおかげです。自分たちはただ最善の努力を尽くしたまでであります」

 

『それでも重畳の結果、戦略的勝利だ。しばらくは我が国のシーレーンも回復でき、各鎮守府に資材が賄えるぐらいの量があるから、とても心から感謝しているよ』

 

「はい。ありがとうございます」

 

次の悪いニュースで落ち込まなければ良いが、と思ったが、その知らせがついに来た。

 

『次に悪いニュースだが……』

 

電話越しだが、異常と言うほどの緊張感が増し、秀真は手汗を掻いてしまう。これと共に固唾を飲んだ。

 

『すまないが……今日はキミのところに着任する予定だった最新鋭艦である例の娘だが、しばらくはこちらの事情により、私が育成することになったんだ』

 

「何かあったのですか?」

 

―――とは言え、原因が分かっても俺には対処のしようが無い、と内心に呟く。

 

『重要な問題が起こってね。とくに艦載機に問題が起きてね。なにしろ最新鋭機だから、妖精たちも手こずってしまってね。あとは実戦テストを行い、そして彼女にはある程度に練度を上げて、二週間後にはキミと郡司が行なう合同演習のときには着任するようわたしがつとめる……。このために連絡したんだ』

 

不幸だわ……と呟きたくもなったが、なによりも緊張した自分が馬鹿みたいに思えた。

だが冷静さを取り戻すため、三度深呼吸をし、復唱した。

 

「……では二週間後に、彼女が着任すると確認します。という事でよろしいですね?」

 

『ああ。キミには本当に申し訳ないと思う』

 

「……いえ、戦友が戦死したという報告よりは良いですから」

 

元帥は女性でありながらも艦隊指揮や戦略などに関しては鬼才と言っても良いほどの優秀な戦略家として、誰からも尊敬される女性司令官である。……その一方、ブラック鎮守府の提督たちにとっては目の上のタンコブである。

当初は嫌がらせ程度に抗議をしたが、やがて山本五十六長官のような暗殺まで企てる者たちも現れ始めた。

しかし元帥は悪運が強いため、ブラック提督たちは手を焼いていると、取材好きな青葉と一部の提督たちから聞いた。その話では真実は不明だが、元帥を暗殺しようと送り込んだ暗殺者たちは必ず護衛兵に殲滅され、そして後日には死体となって発見されることだ。

噂では選りすぐれの護衛兵らは、全員が超人的な能力を持った兵士たちでいくら撃たれても死ぬことはない不死身の兵士ともいわれ、彼らが携えている武器はすべて強力で、しかも人間離れした能力と体力を兼ね備えている。

そうとも知らずに元帥を暗殺しようと潜入した暗殺者たちは彼らに殺されたんだと、まるで都市伝説のような噂が広まっている。元帥は断じて否定しているが、物好きな者たちが調べようとしたとたん、行方不明者たちがあとを絶たない。その物好きたちの多くは、ブラック提督の部下たちであることは言うまでもないが。

秀真たちは興味を持ってはいたが、決して探索はしない。青葉もこれは心掛けている。

日本のことわざで、『触らぬ神に祟りなし』という言葉があるように、そのことについては知らない方が身のためでもある。

 

『最近はブラック提督たちが何者かと手を結んでいるとのわたしと郡司の配下にいる諜報部隊から得た情報だ。

平然と何かを企てている連中だから、キミも郡司も十分に気をつけたまえ!』

 

「はい。分かりました」

 

『では二週間後、合同演習時には新しい娘、例の娘が来るから楽しみにしておいてくれたまえ。

ほんとうならばキミと郡司の演習を見てに行きたかったのだが、手が離せないほど忙しい身だからね……」

 

「了解いたしました、元帥」

 

『ではそろそろ切るね、短時間だったが、こうしてキミと話せて良かったよ』

 

「自分も元帥との貴重な会話ができて、なによりです」

 

『ふむ。またこうして会話しよう』

 

「了解です。元帥」

 

『では、またな』

 

そう言うと、彼女は電話を切った。会話を終えた秀真は電話を置いた直後に、再度深呼吸を三回した。

ふと机に置いているデジタル時計を見て気付いた。

ただ短いといった割には、一時間近くも元帥と話していたのか、という事を知った。長くて短いようだが、彼女との会話は久々に会話できたので不満はなかった。

そう安心した秀真は背伸びをし、リラックスしていると扉をノックする音が聞こえた。

秀真がどうぞと入室許可を出すと、彼女が戻ってきた。

 

「ただいま戻りました、あれ?どうかしたのですか?」

 

先ほどの用事を終えた古鷹は秀真に尋ねたが、彼は首を短く横に振った。

 

「それが先ほど元帥から連絡が来たんだ。本当ならば今日着任するはずだった子が、とある事情により延期になったんだ。その子が来るのは二週間後、つまり郡司と行なう合同演習のときに着任するという連絡さ」

 

「私も今日着任するかと思いましたが、変更とは急ですね」

 

「ああ、まったくだ。俺も楽しみにしていたのだったのだが……」

 

郡司の艦隊に所属している山城のように、不幸だと呟きたくなった。

 

「しかし、二週間後のお楽しみだと思えば気が楽ですよ、提督?」

 

「それもそうだな……。元帥からも伝言だ。『先日の作戦ご苦労様』と古鷹たちのおかげで重要拠点を取り返すだけでなく、今後のシーレーンが回復でき、各鎮守府で資材が回せるほどの余裕ができたとの事だ」

 

「いえ、提督の考案した作戦が功を奏したのです。私たちはそれに従ったまでのことです。提督も自分に、自信を持ってください」

 

古鷹は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ああ、ありがとう。古鷹」

 

「いえ、どういたしまして」

 

彼女の天使のような笑みを見た彼は、もうひと頑張りしなくてはな、と残りの報告書類に手をつけたときだ。

 

コンコンッ、と再びノックの音に「どうぞ」と秀真はふたたび入室許可を出した。

 

「失礼します。秀真提督」

 

「用件は?」

 

「秀真提督にお届け物です」

 

敬礼した憲兵は、すぐに用件を言った。因みに容姿は『CoD:MW2』の第75レンジャー部隊隊員に酷似している。

服装だけでなく、武装ももちろん。ちなみに彼が携えているのはベルギーの有名な銃器メーカー、ファブリックナショナル社(FN社)がアメリカ特殊作戦軍(SOCOM)向けに開発したアサルトライフル《SCAR-H》である。

また彼だけでなく、ほかの隊員たちも各々の好みの装備で武装しており、少数ではあるものの、彼らもまた我が家同然であるこの鎮守府と主人である秀真と大切な家族である艦娘たちのためならば、自らの命を投げ出すほど士気が高い。だが、秀真は「決して命を粗末にするな」と、木村昌福海軍中将のようにきつく厳命している。

 

「もしかして……」

 

この勘が正しければと思い、憲兵に案内されてもらい、すぐに届け物を確認した。

 

「やっぱり……」

 

案の定、気遣ってくれたのか、元帥からのプレゼント、しかも元帥お得意の贈り物―――海軍最大の嗜好品でもある《大和ラムネ》を、しかも一ヶ月分を送りつけるとは、流石だと言いたい。

 

「しばらくはみんなで、大和ラムネが楽しめそうですね」

 

「そうだな。古鷹」

 

因みに、あとで人数分ほど【大和ラムネ】を冷やし、昼食は秀真と古鷹たちと一緒に作った伊太利コロッケ(現代で言えば、牛肉と野菜入りのクリームコロッケである)と、それと吹雪たちが採ってきてくれたアサリを贅沢にたくさん使ったオムライスを振る舞い、そしてデザートには、間宮が用意してくれた間宮アイスとともに堪能をしたのは別の話である。

 

「もしかして郡司のところも届いているかもな……」

 

 

 

 

とある某鎮守府。

 

「ハックション」

 

郡司は口を押えて、くしゃみをした。

 

「どうしたのですか、提督?」

 

扶桑型一番艦《扶桑》が問いかけた。

 

「誰かが噂しているんだ、なんとなく……不幸だわ」

 

思わず山城の口癖ように不幸だわと、郡司は呟いた。

 

「提督も噂されているの…?本当に不幸だわ…」

 

姉妹艦《山城》も、いつもの口癖を言った。

 

「山城もか、お互い様だな」

 

自分らだけでなく、なにかしら友人にも不幸があるのだろうと察した。

 

「隊長、木曽さんたちが帰投しました」

 

スク水を着た小学生中学年程度に見えるショートカットの艦娘、まるゆが報告しに来てくれた。

これを聞いた郡司は、約束通り、いつもの時間に帰ってきたなと笑みを浮かんだ。

 

「ありがとう、まるゆ。それじゃ木曾たちを迎えたあとは昼食を作らないとな」

 

伝えに来てくれた彼女を撫でて、木曾たちを迎える。

全員無事に帰ってきたことに安心した郡司は、今日の昼食当番である江風と涼風と一緒に《バラ寿司》を、海風は《湯肉片(鯨と野菜の甘酢煮)》を作り、伊良湖の用意したアイスモナカを堪能した。

なおこちらも同じく、元帥からの贈り物《大和ラムネ》が届いたのはいうまでもない。




今回は少しですが、秀真と古鷹の日常でありました。
それと伴い、お気づきですが、元帥を狙おうとした暗殺者を殺した護衛兵たちの正体は察していると思いますが、例のあの部隊です。
だいぶ、まだ先ですけど彼らも登場しますのでお楽しみを。

また秀真の憲兵隊員の容姿と装備も変えました。
こっちの方が面白いかなと思いまして変更しました、なお、こちらの方が気にいっているのであります。

そしてとある鎮守府の提督も出ていますが、次回登場しますので……
なお登場した海軍飯は『戦艦大和の台所・グルメアラカルト』を参考にしました。
ちなみに伊太利コロッケは青葉が作った料理として記録に残っていますが、どこがイタリアなのかという突っ込みやバラ寿司は第二十四駆逐隊、江風と涼風が編成されたときに作られたレシピですが、生の牛肉を使ったバラ寿司だそうです。
結構面白いので好きですね。海軍飯は知るのも作るのも楽しいですから。

神通「提督…お腹が空いたのなら…わたしが作りますよ?」

長話はさて置き、次回は郡司提督との合同演習編であります。
それでは第三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャ…それじゃ作りますね」

こちらも楽しみであります。


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第三話:戦友との合同演習

運よく時間に余裕が出来ましたので、投稿しました。
大和ラムネが人気で嬉しいのであります。

では今回も一部台詞を変更したり、少しですが足したりしています。
前回と違ったところもありますが、こちらでも楽しんでくれたら幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


二週間後。約束どおり合同演習が行われた。

まだ演習時間が始まるまでに余裕があるので、秀真は戦友とともに、作戦会議室で腰を据えている。

いまはこの作戦会議室にいるのは、彼らと、普段は秘書艦がいるのだが演習準備のため、傍を離れている。

彼女たちのかわりに彼らを護衛しているのは四人の兵士である。

 

「今日はよろしくな、同志秀真」

 

目の前にいる郡司が、秀真に話し掛けた。

 

「うむ。数か月ぶりの郡司との演習だから、こちらも負ける気はしない」

 

「ああ。それはお互い様だ」

 

演習は実戦さながら、それ以上ともいえる模擬戦が行われる。

秀真は、たとえ戦友であってもお互いに手を抜かないと約束は交わしている。その気持ちは郡司も同じだ。

 

「演習もだがこうして同志と会話できるのも嬉しいよ。日頃は会話できる時間も少ないから、僕としても充実した時間になりそうだ」

 

「俺もだ。再会できて嬉しいよ。それに郡司は相変わらずロシア軍マニアだし、キミも部下も徹底しているからカッコいいよ」

 

郡司の服装を褒めた。

秀真の言う通り郡司の容姿は日本海軍の第二種軍衣とは違い、こちらも有名なロシア軍最強の特殊部隊《GRUスペツナズ》の軍服を纏っている。また彼を見倣っているのか、両脇にいる護衛兵たちもまた好みのスペツナズの服装に纏い、装備に関しても同じく、ロシア軍が制式採用しているものを使っている。

護衛兵が携えているのは、ロシアのコヴロフ機械設計局によって1980年代にセルゲイ・I・コクシャロフによって開発されたアサルトライフルAKE-971、5.56mm弾モデルに改良されたAEK-972である。また予備武器としてヒップホルスターには、ロシアのイジェメック社が2003年に開発した自動式拳銃MP443を収納している。

 

「スパシーバ。同志も米軍好きなのは変わらないから尊敬する。もちろんその格好も変わらなくてカッコいいよ」

 

「ありがとう。郡司」

 

秀真も然り。

他の憲兵とは唯一服装が違い、某FPS『CoD:G』の登場キャラの一人、ゴースト部隊に所属している《キーガン・P・ウィス》と同じ着用している。ともあれいつもどおりの普段着でもあるが。

また護衛兵も普段着であり、武装も同じくM16の改良版であるM16A2のカービンモデルとして開発された自動小銃M4A1カービン、予備としてレッグホルスターにはイタリアの老舗銃器、ベレッタ・ピエトロ社の傑作自動拳銃M92Fを収納している。

鎮守府内にはナイツアーマメント社が開発/製造したSR-25狙撃銃を所持した狙撃手に、対空自動機銃としてM-5《セントリーガン》を配置するなどと厳重な厳戒態勢を張っている。

そして敵機来襲に備えて、携帯式防空ミサイル――FIM-92《スティンガー》も数基ほど用意している。

万が一に備えて、上空には双方の空母娘たちが放った零戦と紫電改、二式艦上偵察機などの警戒部隊、海上には双方の水雷戦隊群が哨戒任務に就いている。

少数だが郡司が貸与してくれたレーダー搭載車、地上レーダー装置1号改 《JTPS-P23》で見張っているから安心できるが……

 

「警備に関しては大丈夫だが、慢心は禁物だからな」

 

「そうだな。最近では一部の深海棲艦たちが搭載している艦載機に空襲されている鎮守府が存在するため、俺たちも警戒を怠るわけにはいかない」

 

「敵ながらも勇敢な一面を持っている故に、非情に厄介な相手だからな」

 

「そうだな、ただ……」

 

郡司の言葉を詰まらせた。提督は一応「どうしたんだ」と尋ねた。

 

「相手が深海棲艦ならまだ解るが、最近聞いた話しでは何者かが、ブラック提督たちと徒党を組み、奴らと同じく強襲するんじゃないかとの情報を仕入れた」

 

「二週間前に元帥が教えてくれたから分かるが、空襲までは知らなかったな」

 

「ダー、先ほど元帥と我が諜報員が仕入れてくれた情報だ」

 

ちょうどPCも起動していたので届いていたメールをすぐに確認すると、本当に郡司が言うとおり、その情報が来ていた。

 

「一体なぜ、俺たち友軍を……」

 

秀真は尋ねた。

 

「おそらくはこれ以上、資材をほかの鎮守府に回したくないように嫌がらせ作戦だろう。それに空爆すれば一時的とはいえ、資材を奪う事と戦力を麻痺することができる……」

 

同じ軍務を担い、同じ提督である者たちがこれほど「つまらぬ理由で仲間割れ」と言うか、自らの私腹を肥やすためにするとは、世も末だなと聞いて、あきれ果てる。

せめて深海棲艦たちに食われるか、または艦娘たちによる「上官殺し」で死んでくれたらこちらも楽なのにな、と愚痴を零してしまう。

どの戦争でも起きたが、特にベトナム戦争では上官殺しは頻発に起きた。その多くの原因は新兵いじめである。

上官の厳しい訓練とベテラン兵によるいじめを受け、これに耐えきれなかった新兵は後ろから上官を射殺することもあれば、また地雷原で撤去作業を行なっているさなかに、新兵たちがそこに手榴弾を放り投げ、爆殺したなどといった例もある。

 

「奴らは何事もなかったかのように軍務をしているから困るし、お荷物になりかねない。それに他国の海軍では失敗すれば更迭されるのが常識なのに、大本営は対応が甘すぎる!」

 

史実でもあの日本の勝敗を分けた《ミッドウェイ海戦》で大敗戦を喫した南雲忠一以下の機動部隊幹部らを大本営と海軍省は彼らを更迭せず、復讐戦をやりたいという南雲の願いを聞き入れて、そのまま据えておいた。

あのキンメルやフレッチャーでも少しヘマをしただけでも更迭された。

しかし前にも記したように信賞必罰に厳しい米海軍に比べ、これだけ人事に甘い海軍というものは世界中を探してもいない。なお陸軍でも同じようなことは幾度もあったが。これまた日本海軍と同じである。

最近ではその大本営も動きが怪しくなっているらしいが、嘘であることを願っている。

だが、史実とは真逆なことをかきかねない連中の集まりだから不安だが……そのことに関しては、元帥を中心とした良識派たちが対応しているとのことだ。

 

「さすがに同意せざるを得ないよ、同志……」

 

郡司は苦笑いする。

 

「まあ、いっそう首にするか死刑にでもなれば楽なのだがね……」

 

「愚痴を零しても仕方ない、ロシアンティーでも飲んで嫌な気分を紛らわそう」

 

郡司の提案に、それもそうだなと頷いた。

二人は乾いた喉を潤すため、郡司の配下にいる暁型駆逐艦四姉妹の二女《響》が用意してくれたロシアンティーに手を付けた。まずはティーカップとは別に一人分ずつ小さな器に供されたイチゴジャムをスプーンですくって直接舐めながら、これを軽く口に含んだ状態で紅茶を飲んだ。ジャムの独特な甘みと芳醇な香りが漂う紅茶は、先ほどの苛立ちを押さえ、爽快な気分へと変えてくれる。

 

「やはり金剛の淹れた紅茶も良いが、彼女の淹れた紅茶も、また美味いな」

 

「ああ。嫌な気分を癒してくれるから大好きだな」

 

ロシアンティーを堪能していると、会議室のドアをノックする音が聞こえた。二人はどうぞ、と入室許可を出す。

 

「提督。全員準備完了だ」

 

郡司の秘書艦、球磨型五番艦で重雷装巡洋艦の木曾がいった。

 

「スパシーバ、木曾。今日も活躍を期待しているよ」

 

「当然だ。愛するお前のためだからな」

 

彼の言葉に彼女は敬礼する。

 

「ふむ、新しく生まれ変わった彼女と戦えるとは光栄だな」

 

「あらゆる艦艇も大破させるからな。彼女といれば我が艦隊は最強さ」

 

「そいつは楽しみだな」

 

秀真が感心していると遅れて、二人の艦娘が知らせにきた。

 

「司令官。こちらも準備完了しました」

 

「提督、みんな待ちくたびれているよ?」

 

「ありがとう。青葉、衣笠」

 

知らせに来てくれた青葉と衣笠に、秀真は礼をいった。

 

「ふむ。同志の切り札、そして新しく生まれ変わった第六戦隊と戦えるとは光栄だな」

 

「郡司。言っておくことがある。それができないかもしれない」

 

「どうしてだ?」

 

彼は尋ねた。そして提督は申し訳ないと言う気持ちを込めて、事情を話した。

 

「それが古鷹と加古は護衛隊を率いって今朝早く、二週間前に着任する予定だった娘を迎えるため、そして護衛するために出港したんだ……」

 

深夜に元帥から連絡が来たため、二人は護衛隊を率いて、新しい娘を迎えに行くため、出港したのを伝えた。加古も古鷹と衣笠のように、めでたく“改二”になった。

容姿が幼めな姿から凛々しい姿になり、がらりと変わり過ぎというか、別人、敢えて言うならば天龍や木曾みたいにイケメンになったのだが……ただし外見は変わっても、いつもどおりの加古、重度の眠り癖のある彼女であった。

それでも秀真は彼女が成長したことに、大いに喜び、祝ったのは言うまでもない。

 

話しは戻る。

この事情を聞いた郡司は落ち込んだが、数秒後、落ち着いた口調で答えた。

 

「……そっか、それなら仕方ない。護衛もなしに堂々と一人で航行していると敵潜水艦に轟沈されかねないからな」

 

「ああ。だから戦えるとしたら今から始まる演習が終えて、推測して早くて帰還する時間が夕方ぐらいだと思う。

……元帥も急だから困るよ。尊敬はするが……」

 

年功序列の日本海軍では珍しく異例であり、若くして女性の身でありながらも戦略家としても鬼才であり、多くの提督たちからも尊敬される一方で、たまに適当な性格を除けば、男性提督たちにもモテるのだが。

 

「元帥も急だから仕方ないさ。大目に見てあげることも大切さ」

 

「ああ、そうだな。今日は楽しみなところ申し訳ない、郡司……」

 

「気にすることないさ。その時間でも良いし、不都合なら明日でも構わないよ。合同演習は明日もあるのだから、それに新型空母の娘もお目に掛かれるのは楽しみだな」

 

「ありがとう、郡司」

 

「では、お楽しみは明日にして……早く演習場に行かないといけないから急ごう」

 

「そうだな、我が友よ」

 

お互い全力を注ごうと言う意気込みを込め、互いの拳を出しあい、軽く打ったときだ。

デジタルカメラ特有のシャーター音が聞こえた。

 

「いや~。良い写真が撮れました!」

 

「うん、いい写真ね!」

 

「流石、抜かりないな。第一演習後はバンバン撮影してもいいからな。青葉、衣笠」

 

「はい、取材も撮影も青葉と―――」

 

「そして、衣笠さんにお任せ♪」

 

敬礼をした彼女たちと共に、一同は演習へと向かう。

 

 

 

 

 

某所。彼らが部屋から出ていくのを、一機の無人機が撮影していた。

 

「ふふふっ、バカな連中どもだな。提督はみんな本当にお人よし過ぎて笑いが止まらないな」

 

カメラ越しから秀真たちを見ながら、男はそばに置いていたものを大切に撫でていた。

 

「これから始まるドッキリは、間違いなく優勝ものだな」

 

これから起こるドッキリの皮を被ったテロリズムを、それを想像するだけでも楽しくて仕方なかったのだった。

この大量に用意された例のものとともに、愉快で楽しいドッキリを始めようじゃないかと呟き、おもわずニヤリとした。




今回は演習開始前の話でありました。
大和ラムネに次ぎ、今回はロシアンティーが登場しました。
こちらも好きなので出しました。紅茶も好きですが、ロシアンティーが好きですね。
某ピクシブ辞典では、好みのジャムは分かりますが、ハチミツでもOKだそうです。
また珍しいのではバラのジャムがあるそうです。

それにお気づきですが、最後の人物が何を目論んでいるかは次回になってわかります。
前回はこういう風なことを書きませんでしたから、少しだけ足しました。
言わずとも次回はアレが大量に……おっと、これ以上は軍事機密でありますので。

長話はさて置き、次回は郡司提督との合同演習時に、突然と事件が起こります。
それでは第四話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「提督、お疲れ様です…」

こちらもロシアンティーを堪能しますか……





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第四話:招かざる航空機たち

イズヴィニーチェ(遅れてごめんなさい)
今回も前回同様、一部変更している部分がありますが、楽しんでくれたら幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


意識を取り戻した秀真は、とりあえず自分が生きていることを確認した。

いま目の前に映る光景、のどかな鎮守府が、戦友との演習がいつの間にか、地獄と化したことを思い出した。

どうしてこうなったんだ……と独り言をつぶやくように、いま迫りくる危機から逃げなければならない。

しかし身体が思うように動かない、死体から銃を拝借し、弾切れになるまで撃ち続け、そして……撃ち切った。

郡司と衣笠たち、そしてひとりの少女、青葉が駆け寄る姿を見たとき、彼女たちの名前をつぶやいた。

 

……すまない。古鷹、加古、青葉、衣笠。あとは頼んだぞ。

 

 

 

時は、この地獄と化した鎮守府になる前にさかのぼる。演習開始前、秀真はいつも通りの習慣、かならず落ち着きを払うと伴い、掛け声を発して彼女たちの士気を上げることは欠かせない。

 

「久々の我が友である郡司提督との演習だ。みんな気を抜かないように!」

 

「「「はい!!」」」

 

秀真の意気込みに青葉たちは、気合い十分に叫んだ。

 

「試合は三回戦まであるが、いつも通り落ち着いてやれば大丈夫だ!」

 

彼女たちは頷いた。

よし、みんなの気分は最高だし、これで準備完了だと思った。

 

「あの司令官……。少しお話ししてもよろしいですか?」

 

みんなが準備している最中、青葉が話しかけた。

 

「どうした、青葉?」

 

「今日は、その、青葉を旗艦にしてくれてありがとうございます」

 

はにかみながらも青葉に、秀真は言った。

 

「古鷹と加古がいない分、青葉と衣笠がみんなを引っ張ってくれるから、安心して信頼している。それに古鷹と加古がふたりとも、一緒に頑張っていると聞いたから、今日はとても楽しみにしているよ」

 

秀真は穏やかな笑顔で答えると、彼女は思わずドキッとしてしまう。

 

「……!あ、青葉、頑張ってきますから、MVPを取ったら、その……頭を撫でてくれませんか?」

 

恥ずかしながらもお願いする青葉に、彼は答えてくれた。

 

「いいよ。俺で良ければいくらでも撫でてあげる」

 

「司令官。青葉、頑張ってきます!」

 

「あ、青葉、抜け駆けなんてズルいわよ。提督、衣笠さんにもお願いね?」

 

秀真は先ほど同様に、良いよという笑みを浮かべて答えた。

 

「大丈夫だ、衣笠も撫でてあげるから妬かないように」

 

パアッと明るくなった二人はウキウキ気分と伴い、艤装を取り付け、演習へと急いだ。

 

演習時間は1500時から1800時まで行なうことにした。

お互いは模擬戦の前は、かならず対戦相手に敬意をはらうことは忘れない。

一同は礼とともに、握手を交わし、そして所定の位置につくと……演習場に設置している時計台の針が、ピシャッと開始合図を知らせるように差した。

 

「忘れるな、機動性と攻撃力だ!」

 

秀真の第一艦隊は以下の通り、あげておく。

青葉を旗艦とし、ほかは衣笠改二、伊勢改、日向改、雪風改、瑞鳳改二を編成している。陣形は旗艦および空母を庇い、防空倍率が一番高いため、航空戦・対空戦に特に有利する輪形陣を組んでいる。

 

「索敵も砲撃も雷撃も。青葉にお任せ!」

 

郡司も秀真たちに倣い、高らかに宣言した。

 

「抵抗する者は全て粉砕しろ!」

 

郡司が率いる第一艦隊は、以下の通りである。

旗艦木曾、扶桑改二、山城改二、時雨改二、赤城改、加賀改を編成し、秀真同様に輪形陣を組んでいる。

 

「本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」

 

―――戦闘開始!! と誰もが思った時だ。

その気分に水を差すように航空機のエンジン音が聞こえた

 

「郡司、いくら戦友でも合図もなしに艦載機を飛ばすとは許しがたい!」

 

秀真は注意を促した。しかし郡司は、すぐに否定した。

 

「同志。僕は合図もなしに攻撃するほど卑怯者ではない。それに山城たちはまだ一機も飛ばしていない」

 

郡司の言う通り、山城たちは準備をしていない。

こちらも然り。また警戒中の艦載機群には演習開始にはこの場からすぐに離れ、その後は海上にいる双方の警戒部隊とともに哨戒任務をするようにと厳命しており、妖精たちが命令違反をするわけがない。

一応連絡してみようした時だ。

 

「あれ……可笑しいな。無線機が故障したか? 郡司のほうは繋がるか?」

 

もう一度、哨戒部隊に繋がるかどうか試すものの何度やっても結果は同じく、連絡が不可能である。

 

「僕もだ、同志。それにレーダーの調子もおかしいとの事だ」

 

郡司も同じく、さらに彼が貸与したレーダー搭載車も異常をきたしていると、双方の憲兵たちが報告しに来た。

 

「もしかしてだが……これは電磁波、妨害電波の可能性が高いな。だがこの近海あたりの深海棲艦は全滅した。いくら奴らの残党がいても、海上警戒している水雷戦隊や艦載機群が照明弾を撃って知らせてくれるはずだ……」

 

秀真は答えた。

 

「では同志の推測が当てはまらない、この聞きなれないエンジン音は一体、何処から……」

 

「じゃあ、いったい誰が飛ばしているんだ……?」

 

なにかが可笑しいと思った双方は一時中断、そして信号拳銃を手にし、海上警戒している双方の水雷戦隊と艦載機群に連絡しようと試みたときだった。

 

聞きなれないエンジン音は、先ほどの爆音は秀真たちの声を消すような轟音を鳴り響かせて頭上を通り越した。

さらに時々だが、ジェット機だけでなく、レシプロ機独特のエンジン音も聞こえた。

 

「なんだ、あの大量の航空機は……?」

 

秀真が上空を見上げたままつぶやくと、郡司たちも同じく上空を見上げた。

レシプロ単発機、四発大型爆撃機に、さらに見慣れない未知の全翼機に、軽い爆音を響かせている円盤型飛行機など、さまざまな航空機が見えた。それらは彼女たちが持つ零戦五二型や烈風や深海棲艦が持つ深海艦載機群ではない。いや、双方が所持したこともないレシプロ機や四発爆撃機に、そして未知のジェット機とナチス・ドイツが極秘に開発した円盤型飛行機がざっと数えただけでも……100機、いや150機以上、200機にも達していそうである。

 

「あれはかつて米海軍が運用していたSB2C《ヘルダイバー》急降下爆撃機とTBF《アベンジャー》雷撃機だけでなく、米陸軍の戦略重爆撃機、通称『空の要塞』と謳われたB-17に、「解放者」という意味をもつB-24爆撃機、そしてナチス・ドイツが極秘に開発したB-2爆撃機の祖先であるHo229と、円盤型戦闘攻撃機の《ハウニブ》じゃないか……」

 

「……そうだな。だがよく見たら全てブリキのラジコン機だな」

 

郡司のいうとおり、航空機群、その正体は全てがブリキ製のラジコンだ。

 

しかし、どうして鎮守府内にいるんだ?ここまで低空飛行してきたのか? あるいはこの鎮守府外から来たか?やはり電子戦機が紛れ込んでいるため、哨戒部隊との交信ができなかったのかという数々の推測していたときだ。

 

「……同志、言いたくはないが」

 

堪り兼ねた郡司は、秀真に話し掛けた。

 

「言われなくても分かっているさ、郡司……」

 

互いの顔を見合わせ、こう呟いた。

 

「「こいつは不味い(ヤバい)……」」

 

二人の言うとおり、ラジコン大編隊は二手に分かれ一方が秀真たちのいる演習場へ向かい飛翔し、もう一方は工廠へと向かい、爆撃体勢に移るような編隊を組み、そして―――

 

「「みんな散れ!!」」

 

ドッカアァァァァァァン!と鳴り響く爆発音に、火柱が舞い上がった。

 

「憲兵たちに告ぐ!空襲警報を鳴らせ!いますぐ鳴らせ!」

 

秀真の命令に、了解と返答した警備兵は急いで空襲警報を鳴らした。

 

『鎮守府内にいる全艦娘と憲兵たちに告ぐ。これは演習にあらず、繰り返す演習にあらず!』

 

繰り返される警告、空襲警報が鳴り響くなか、鎮守府内は瞬く間にパニックを起こした。

艤装をしていない子たちを守るよう双方の艦娘に命令が飛び、憲兵たちも自動小銃やスティンガーミサイルなどを携えた。

各場所に設置されていた自動対空機銃M5セントリーガンが作動し、双方らとともに対空戦闘を開始する。

また迅速に駆けつけてくれたであろう水雷戦隊と艦載機群もこれに加わり、敵機を叩き落とすのが見えた。

 

「何という事だ……。これじゃ、まるで呉軍港空襲の二の舞じゃないか」

 

秀真が言う呉軍港空襲とは、大戦末期に決行されたアメリカを中心とした連合国軍による呉軍港への空襲である。

1945年3月19日と、同年7月24日・28日の二度に渡って決行された。

第一次は米軍のマーク・ミッチャー中将率いる「第38機動部隊」から航空機350機が出撃、空襲に参加したものの、対する日本は松山基地の「三四三航空隊」が迎撃に出動し、米軍機56機(米軍側では14機)を撃墜、さらに夜間戦闘機と双発陸上爆撃機”銀河”による攻撃によって、米空母フランクリンを大破に追い込み、神風特攻隊による攻撃により、護衛空母および駆逐艦1隻に損害を与えた。結果的に被害は少なく終わり、海軍の保有する艦船への被害も小さかったが……

第二次は二日に渡って決行された。米軍の猛将として有名なウィリアム・ハルゼー大将率いる「第58機動部隊」による950機という大部隊での爆撃を敢行。対する日本も再び「三四三航空隊」を出撃させ、地上・海上からも対空戦闘で迎撃するも多くの艦船が大破着底となり、甚大な被害を及ぼした。 この空襲により呉港は母港としての機能を完全に喪失し、以後、日本海軍は致命的な打撃を受けることとなった。

また建造中の艦船や呉港以外の周辺地域や日本海軍所属の艦船が停泊する港にも、同時刻帯に爆撃が敢行されている。これにより広島湾にいた標的艦・摂津と、三重県尾鷲湾にいた空母・海鷹が大破着底。大分県別府湾にいた潜水母艦・駒橋が被爆。山口県祝島の南方にいた松型駆逐艦の萩と岡山県沖にいた同型艦の椿も損傷している。被害は軍港と艦船だけでなく、軍港周辺の民家なども被害に遭っており、400人ともいわれる民間の死傷者を出している。

 

話しは戻る。伏せながらもこの惨劇な光景を目にした秀真は、すぐさま起き上がるが―――

 

「司令官、直上!」

 

近くで対空戦闘を展開していた青葉が、彼に向かって叫んだ。

 

「………!」

 

今にでも襲い掛かろうとする四機のハウニブが視界に入った。その機体の底部には砲塔らしきもの、それはさながら第二次世界大戦中期から後期にかけて活躍したドイツ軍の有名な戦車、Ⅴ号戦車パンターまたはティーガーⅠ(Ⅵ号戦車ティーガーE型)に似た砲塔がさかさまに張り付いているのが見えたときだ。

急降下をしたハウニブたちは秀真に向かって、一斉砲撃、秀真に襲い掛かろうとした。

だが辛うじて、彼はかわしたものの何かに蹴飛ばされたような強い衝撃を覚え、意識を失い、秀真は倒れた。

 

「司令官、いま助けに行きます!」

 

青葉は誰よりも駆けつけようとするも、それを阻もうとハウニブとHo229部隊が襲いかかったが――

 

「そうはさせない!」

 

数機の合同部隊はスティンガーミサイルの直撃を受けた。Ho229が抱えていた爆弾が誘爆を起き、その影響で数機は巻き込まれ、爆発四散した。

 

「平気か?」

 

郡司の援護射撃により、辛うじて阻止できた。

 

「はい、ありがとうございます!」

 

急いで駆けつけて来た双方の憲兵と衣笠たちが、ふたりを援護する。

 

「逃げても無駄よ!」

 

「主砲、四基八門、一斉射!」

 

「航空戦艦の真の力、思い知れ!」

 

衣笠、伊勢、日向は、各主砲に三式弾を装填し、SB2CとTBF合同部隊に向けて一斉射する。

飛翔する焼夷榴散弾はショット・シェルのように散開し、こちらに飛来してきたSB2CとTBF爆雷部隊は回避行動をする余裕もなく、直撃を受けた機体は空中爆発を起こし、燃えながら墜落した。

 

「艦隊をお守りします!」

 

雪風も負けないよう敵機に向け、10cm連装高角砲が火を噴いた。こちらは低空飛行していたHo229に護衛されたB-17とB-24戦爆連合軍に直撃した。

先頭にいたB-17が火だるまとなって、傍にいたB-24に激突してしまう。

回避しようにも密集形なのでできない。しかも大量に抱えていた爆弾が激突した衝撃により、これがたちまち誘爆を起こしたから堪らない。幸運の彼女のおかげなのか、戦爆連合隊は全滅した。

 

「数は少なくても、精鋭だから!」

 

瑞鳳は弓を構えて、矢を取り出し、上空へと射った。直後、炎に包まれた矢は烈風へと姿を変え、制空権を取ろうと舞い上がり、熾烈な空戦が始まった。烈風はその猛烈なスピードと20mm機関砲の威力で次々に敵機を撃ち落としていく。

 

「あ、青葉だって!」

 

彼女たちに遅れないように、青葉も20cm連装砲で再び反撃する。しかし懸命に撃つもののハウニブは青葉たちを馬鹿にするかのように躱し、隙を見ては自慢のスピードを活かして急降下で脅かす。

 

「きゃっ!」

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

郡司の声に、青葉たちは「大丈夫です」と返事をする。これを聞いて、ほっとひと安心した。しかし同時に早く助けなければいけない、という焦りを覚えた彼は走ろうとした。だがハウニブ部隊は「そんなことしても無駄だよ」と言わんばかりに足元を砲撃し、Ho229も同様に「お前たちは大人しくそこで見ていろ」との勢いで急降下体勢にうつる。

 

「もしかして……」

 

郡司たちが凝視した。

 

敵機の腹には、500mlペットボトルほどの大きさはある爆弾を四つも吊り下げていた。これはまさか……と察した郡司と青葉たちは叫んだ。

 

「同志。早くその場から離れろ!」

 

「「「「司令官(提督)。早く逃げて!!!」」」

 

 

 

眼を開く。頭の回転が悪いのか、負傷しているせいなのか。周囲の動きはえらく緩慢で、酷く遅いように見えた。頭上を見上げると自分に襲い掛かる敵機が見えた。

 

―――早くここから逃げなければ、しかし駄目だ。弱った身体では思うままに動かない。

 

すまない、借りるぞと先ほど話していた憲兵、彼の死体から一丁の機関拳銃、それはオーストリア国家憲兵隊の精鋭対テロ部隊である《GEK COBRA》からの要請を受けて、フルオート機能を搭載した機関拳銃G18を拝借、敵機を撃つ。撃つ。撃つ。撃ちまくる。全マガジン内にある9mmパラベラム弾は放たれるのだが、急降下体勢に移った敵機に思うように当たらない。意識が朦朧としているせいで照準にすら合うことすらもままならない、抵抗をする事をしている間にも郡司たちの叫び声を無視するよう、獲物を捕らえようと急降下をするHo299と、円盤機ハウニブ部隊が秀真に、雲霞の如く押し寄せる。

 

「同志、危ない!」

 

「「「提督(司令官)ーーーーーー!!!」」」

 

郡司たちの声に伴い、誰よりも助けようと駆けつける青葉の姿が見えた。

 

「司令官ーーーーーー!」




今回はCODシリーズみたいに、いきなりクライマックスと伴い、襲来している敵機を増やしました。

ハウニブは変更なしですが、トリはHo229に変更し、ほかは米軍機を加えました。田中光二作品では米軍機は海軍や陸軍機までも駆り出して、日本機に……おっとこれ以上はネタバレになりかねませんので。

長話はさて置き、次回は迫りくる危機に、あの娘たちが現れます。
次回は少し遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

それでは第五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第五話:自責の果てに……

次話投稿が遅くなると言ったな。あれは嘘だ(メイトリックス大佐ふうに)

神通「油断しましたね、次話、投稿済みです!」

というおふざけとともに、後書きに関してはお許しください!

今回も同じく一部変更している部分がありますが、楽しんでくれたら幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


「司令官ーーーーーー!」

 

青葉の叫び声を無視するかのように複数のハウニブが砲撃を、Ho229が爆弾を投下しようと攻撃態勢を移った時だ。何者かの攻撃により数機のHo229が火の塊となり、空中爆発を起こした。粉々となって飛び散ったHo229部隊とともに行動していた、ハウニブは慌てて機体を上げて、上空へと逃げ出した。

 

「いったい、誰が……?」

 

そのまま腰を抜かした青葉が呟いたとき、秀真を助けた人物たちが現われた。

 

「主砲よく狙って、そう…。撃てぇー!」

 

「いっちょあがり~」

 

間一髪のところ遅れてやってきた古鷹と加古は20cm砲に三式弾を装填し、逃げていくハウニブとHo229合同部隊を躊躇うことなく撃ち落とす。

 

「どーぉ、この攻撃はっ!」

 

「わ、私が皆を護るんだから!」

 

彼女たちにつづき、夕張は12.7cm単装高角砲による対空射撃に、吹雪は94式高射装置で捉えた敵機に向け、10cm高角砲を一斉射、逃げ遅れた敵機たちを次々と撃墜する。

 

「風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

鳳翔は身の丈ほど大きな和弓をもち、矢を手にし、熟練の手つきですばやく構え、上空へと射った。直後、飛ばした矢は、炎に包まれ、そして烈風改へ変化、制空権確保のため空高く舞い上がる。舞い上がった烈風改は、ハウニブ部隊に襲い掛かった。

烈風改は背後に着くと、搭載している強力な30mm機関砲が火を吹いた。ハウニブは、機体全体に襲い掛かる30mm機関砲弾を浴び、数機が喰われた。格闘戦に挑むも、旋回能力は烈風改が上回り、たちまち背後を取られ、蜂の巣にされた。

 

「古鷹たち……良かった……間に合ったんだな……」

 

秀真の視界には古鷹たちに続き、迎撃しようとする小柄の少女がいた。

その容姿は瑞鳳と同じくらいといった、かなり小じんまりとした身長に、もみあげの長いやや茶色みがかった黒髪のショートボブに茶色の瞳。 頭には艦尾を意識したヘッドギアをつけ、首にも艦首を意識した装甲が取り付けられていた。

 

「優秀な子たち、提督やみんなを守って!」

 

彼女は弾切れとなっただろうクロスボウに新たなマガジンを装填し、構えて射出した。

狙い放たれた矢は炎に包まれ、いままでに見たこともない最新鋭機が飛び立つ。

一機目は胴体後部にレシプロ・エンジンを搭載しているエンテ型と呼ばれる特異な機体、前部にカナード翼を持つユニークな機体とともに、素晴らしい速度と強力な30mm機関砲4門という強力な武装と、なによりもひと目見たら忘れることのないこの戦闘機《震電》である。これを艦載機型に改良したから《震電改》と呼ばれている。

そして、もう一機は米陸軍最強重戦闘攻撃機P-47《サンダーボルト》に酷似した機体……和製の《サンダーボルト》と呼ばれたキ94-2試作高高度戦闘機こと《天弓》である。

なお初期タイプである1は胴体前後に過給器付きエンジンを搭載したプッシャー・プル・タイプであり、主翼は逆ガル形式で、外観はロッキードP-38《ライトニング》に近い。

しかし斬新過ぎて問題が多く、普遍的な単座戦闘機に戻した。

特筆すべきは高度性能で、艦載機としてはもったいないほど実用上昇限度は1万4525キロメートル、最大速力は715キロ、武装は30mmと20mm機関砲を2門ずつ搭載している。こちらも“改”と付くのは、艦載機型に改良されたからである。

双方が飛び立つとハウニブとHo229だけでなく、爆撃機部隊にも襲い掛かった。

前者は戦闘機なのでなんとか迎撃とともに回避行動できるが……鈍感な爆撃機部隊にいたっては悲劇的だった。

烈風改よりも素晴らしい旋回能力と速度を誇るこの最新鋭機の前では、なすすべなく強力な30mm機関砲の攻撃により、ただ撃ち落されるだけであった。

 

もしかして、あの娘が……と視認したときだ。

 

「提督、青葉!大丈夫!?」

 

「二人とも大丈夫!?」

 

敵機を撃ち落した古鷹と加古が駆け寄り、秀真をゆっくりと起こした。

 

「ああ。大丈夫だ」

 

「……古鷹、加古」

 

青葉は立つほどの気力はなかったが、なにひとつ怪我がなかったのでよかったとひと安心した彼は、古鷹に尋ねた。

 

「古鷹、どうしてこんなに早く、帰投時間は夕方かと思ったが……」

 

「元帥のおかげです。ここだけでなく各鎮守府が空襲にあっているから、困っていた私たちのために緊急時に用意してくれたワープゲートを利用して帰投したんです。

私たちにはよくわかりませんでしたが、とにかくここを通ればいいといわれましたから……」

 

最近は魔法のように、なにかしら不思議なことが元帥に起こるなと呟いた。

不死身の護衛兵といい、ワープゲート、いわば転送装置まで、元帥は秘かに開発し、これらを成功したのかと思うと世界初、いや、コロンブスの卵のようだった。

知るにはそれなりの覚悟がいるだろうと言葉が脳裏をよぎった。

それは、ともかく救援に駆けつけてくれた古鷹たちは天使のようだった。

 

「ともあれ古鷹、もしかしてあの娘が……」

 

「はい。あの娘が提督の指揮下に入った……」

 

こちらに気づいたのか彼女は、古鷹が持っていた無線機に交信した。

 

「提督、大鳳さんからです」

 

彼女は秀真に無線機を手渡し、彼は交信を始めた。

 

『貴方がここの提督ですか?』

 

「そうだ。わたしがこの鎮守府の提督、神代秀真だ。キミが、元帥の言った……」

 

『はい。私が最新鋭装甲空母《大鳳》です。元帥のご命令であなたの指揮下、提督の艦隊に加わりました。

どうぞ、よろしくお願いします』

 

「ああ。こちらこそよろしく」

 

古鷹たちが連れてきてくれた騎兵隊は頼もしく、さすが元帥が秘かに練度を上げ、さらにこの短期間に開発した最新鋭機も装備しているだけあって頼もしい。

 

「大鳳。着任して早々悪いが、敵機を駆除し、制空権の確保を務めてくれ!」

 

『了解しました』

 

大鳳は無線機を切り、すぐさま手慣れた手つきで再び弾切れとなったクロスボウのマガジンを新しいものに切り替え――― 新たな艦載機を射出する。

 

「第二次攻撃隊、発艦!」

 

彼女は引き金を引く。その言葉と伴い、第二次攻撃隊は発進、攻撃を開始した。

 

 

 

「よし、反撃開始だ。陣形は輪形陣だ!」

 

「了解!」

 

秀真は命令を下すと弾切れになったG18機関拳銃に、新たな命を吹き込むために、マガジンポーチから新しいマガジンを取り出し、装填、コッキングを終え、秀真は古鷹たちとともに青葉を守るため対空戦闘を再び開始したが……

 

「せめてショットガンさえあれば撃ち落とせるのに……」

 

気休め程度しかないため素早く動き回るラジコンに対し、当てることすら難しい。秀真は、無い物ねだりをした呟き、必死に撃ち続けた時だ―――

 

「秀真提督、これを使ってください!」

 

傍にいた憲兵は携えていた散弾銃、イタリアの小火器メーカーであるベネリ社が開発した、公的機関向けのコンバットショットガン、ベネリM3を投げ渡し、それをキャッチした。

供与したかれはサイドアームとして用意しておいたUMP短機関銃に切り替えて応戦する。

今のうちに12ゲージ弾を装填しなくては、と思うが中々、装填できる機会を与えてくれない。

 

「同志、僕と我が同志たちが援護する。その間に装填を!」

 

「提督、私たちも護衛します!今のうちに装填してください」

 

「ありがとう、みんな!」

 

敵の攻撃を避けつつ、G18機関拳銃で応戦しているとき、郡司と彼の憲兵らはAEK-972アサルトライフルを携え、古鷹たちも援護射撃を開始する。

秀真は彼と彼女たち与えてくれたチャンスを逃さず、手慣れた手つきで12ゲージ弾を素早く装填し終えると、一機のハウニブに狙いをつけ、引き金を引く――直撃、ショット・シェルが命中し、ハウニブは爆発四散した。連射力こそ劣るが、マン・ストッピングパワーの高いショットガンは非装甲相手―― ましてや非装甲、紙と同じくらいの装甲しか持たないラジコンなら一撃で破壊する事ができる。

 

「同志。お見事だ!」

 

隣でAEK-972を撃っている郡司が声を掛け、ありがとうと礼を言う。

 

「加古スペシャルをくらいやがれー!」

 

「ほら、もう一発!」

 

「さあ、追撃するわよ!」

 

「撃つぞ、それっ!」

 

「よく狙って、そう…。撃てぇー!」

 

加古、衣笠、伊勢、日向に遅れないように、古鷹も狙いを定め、三式弾を撃ち放つ!

 

「さて、ある程度はあとで明石と一緒に研究材料として回収しないとね!」

 

夕張は12.7cm単装高角砲から、10cm連装高角砲(砲架)へと切り替え、敵機を撃ち落とす。

突然の増援に驚いたラジコンたちは慌てふためいて、攻撃をするのがやっとなのか、大半が編隊を解き、回避行動にうつるのが目立ち始めた。

 

「しかし、どうもこうもラジコンの癖に、しつこいな……」

 

「あともう少しの辛抱ですよ、提督?」

 

その時、二人を狙おうとしたのか、頭上に四機のハウニブが一斉に撃墜した。

 

「頭上注意ですよ、皆さん」

 

「提督、古鷹さん。どんな時でも警戒を怠ってはいけませんよ」

 

「提督、古鷹さんは私たちが守ります!」

 

大鳳、鳳翔、瑞鳳の直掩隊がハウニブを全機撃墜、二人を救ってくれたのだ。

 

「ありがとう。大鳳、鳳翔さん、瑞鳳」

 

「ありがとうございます。大鳳さん、鳳翔さん、瑞鳳さん!」

 

どういたしましてとうなずく彼女たちに対して、油断したところを狙おうと、すぐに別編隊のSB2C《ヘルダイバー》とTBF合同部隊が突っ込もうとしたが……

 

「大鳳さんたちも頭上注意ですよ?」

 

「みなさんは、この雪風がお守りします!」

 

どういたしましてと大鳳たちはうなずき、吹雪と雪風は彼女たちを護衛しながら、次々と襲来してくれるラジコンたちに再び狙いをつけた。

 

「みんな、あと少しの辛抱だ!」

 

「「「はい、提督!!!(司令官!!!)」」」」

 

古鷹たち、そして騎兵隊である大鳳が来たおかげで戦況は、一気に提督たちが有利となった。

よし。もうすぐで制圧できる、と確信した提督はベネリM3を散弾銃のハンドグリップを前後に往復させ、使用済みの12ゲージ弾を排出、新しい弾薬を薬室に装填する。了解との勢いのある声を聞いた秀真は古鷹たちとともに、空の襲撃者たちを次々と撃ち落した。

 

 

 

 

 

 

二時間後。

 

「あらかた片付いたようだな……」

 

「そうですね……」

 

制圧完了。全員で周囲警戒および上空警戒を命ずる。これ以上、ラジコン編隊による襲撃がない事を祈っている。また双方の空母娘たちの攻撃により、壊滅状態となった敵ラジコンを一機も取り逃がさないように撃ち落としていく光景が見えた。残りは散り散りになって逃げるかどうかしたようだが……帰るべき場所を失いながらも傷ついたラジコン飛行機たちは大鳳たちの艦載機に撃墜されるか海上に不時着、自爆と言う三択しかなかった。

あとで損傷が少ない機体は回収して、明石と夕張とともに協力して調べよう。

 

「…………」

 

「青葉、大丈夫?」

 

「もう敵はいないから、顔あげなよ」

 

古鷹と加古が心配するも、先ほどから座り込んでいる青葉は顔を上げない。

 

「青葉、もう敵機はいないから、ねぇ?」

 

衣笠が手を指し伸ばそうとしたときだ。

 

「来ないで!」

 

青葉は衣笠の手を払いのけた。衣笠だけでなく、その場にいた全員が驚愕した。

どうしたんだ、いつもの青葉、みんなを取材するときの、あの元気で明るい青葉は何処にいった?と誰もが思った。

 

「青葉、どうしたの。急に!?」

 

「青葉、落ち着いて!」

 

「古鷹の言う通りだよ。今は取りあえず―――」

 

「いや、離して!」

 

古鷹と加古も衣笠同様に、必死に青葉を落ち着かせようとしたが、同じく効果なし。

それでも古鷹たちは落ち着かせようと努めるが、青葉はこれを拒むように言う事を聞かずに普段の自分を忘れ、ヒステリックな声で叫び始めた。

 

「青葉のせいで司令官まで殺そうとしたんだよ! あの時だって、誰も助けられず指を咥えるしかなかった。古鷹も、加古も、吹雪も、叢雲も、熊野も青葉のせいで沈んだ。なのに青葉は最後までおめおめと生き残ったんだよ!だから、だから……」

 

「「「青葉……」」」

 

彼女の一部の記憶、先の大戦では自分のせいで古鷹や加古だけでなく、他の娘たちまでも沈めてしまったという自責の念にかられていた。彼女だけでなく古鷹や他の艦娘たちにも曖昧ではあるものの、先の大戦で沈んだ記憶を持っている。

そのせいか時々それに悩ませ、悪夢にうなされ、秀真に相談することが多かった。

秀真は精神的なケアを兼ねて、彼女たちのために心理カウンセラーを雇い、対策を施した。

元帥と郡司、ほかの提督たちもこれに倣い、すぐに採用した。そのおかげか彼女たちの心はリラックスし、今まで見た悪夢に悩まされずに済んだのだ。

 

だが、今回のラジコン襲撃により、かつての悪夢と過去の罪が重なり合い、それに耐えかねなかっただろう。

 

「青葉、良いか……?」

 

秀真は完全に取り乱している青葉の前に立ち、声をかけた。

 

「し、司令官……」

 

泣き顔を見せまいと視線を逸らしたが、彼女を落ち着かせるため秀真はそっと抱きしめた。

 

「司令官、ど、どうして?」

 

慌てる青葉は、彼に問いかけた。

 

「もう責めることはない。青葉は俺を守ろうと駆けつけてくれた」

 

「あ、あれは身体が勝手に……」

 

戸惑いながらも誤魔化すが、秀真は優しく声を掛ける。

 

「そうか。だけど青葉は古鷹山や呉の人たちを守ったじゃないか。自身が傷つきながらも懸命に守り、誰よりも守らんとしようとしたんじゃないか」

 

「………!」

 

「だから自分を責めるな。自分を責めるぐらいなら泣いて強くなった方が良い……」

 

この言葉を聞き入れた青葉は、彼にわがままを言う。

 

「……司令官。青葉……本当に泣いちゃっても良いですか?」

 

彼女の言葉に、秀真はうなずいた。

 

「ああ。泣きたい時には思いっ切り泣くんだ。その分、今よりも強くなってくれ……」

 

彼女の声は、次第に涙声に変わり―――

 

「し、司令官……、あ、あお…ば… う、う……うわぁぁぁーーーーーーんっ!」

 

耐えきれなくなった青葉は、秀真の胸元で泣きだした。

古鷹たちの尊敬のある視線で青葉が泣き止み、落ち着くまで秀真は優しく頭を撫でたのだった。




今回はあの人が秘かに用意しておいたワープゲートと、大鳳が装備している艦載機は、
前回は烈風のみでしたが、リメイクということで震電と天弓に変更しました。
天空の富嶽が入手したので、気に入っていただければ幸いであります。
最初は轟天にしようかなと思いましたが、あの海戦で出した方が良いかなと思い、次の出番ということで、お楽しみを。

長話はさて置き、次回はこのテロ事件を起こした主犯格らを捕らえに行きます。
それでは第六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャ…提督、恥ずかしかったです」

大丈夫だ、もう言うことはないから……(なでなで

神通「あの…提督、そんなに触られると、私、混乱しちゃいます…」

状況が悪くなったかな、んっ?いいんじゃない?(伊勢ふうに)


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第六話:捜索の代償

お待たせしました。

今回は、前回よりもパワーアップしました。
毎度お馴染みですがそれと伴い、台詞なども一部変更している部分がありますが、楽しんでくれたら幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


「落ち着いたか、青葉?」

 

「あ、そのー、えっとー、そのごめんなさい。司令官……」

 

落ち着きを取り戻した青葉が顔を上げた。

 

「落ち着いたのなら良い。ただ……」

 

「ただ?」

 

これ以上は恥ずかしいと言おうとしたとき、秀真は鳴り響く大きな爆音、レシプロエンジン音に気がついた。

上空を見上げると、辛うじて双方の攻撃から免れた一機のラジコン、よろよろとふら付きながらも逃げようとする重爆撃機、B-17《フライング・フォートレス》だ。

 

それに気づいた双方の憲兵、そして古鷹たちは撃ち落そうと狙いをつけたが―――

 

「全員、B-17を撃ち落すな!」

 

秀真は言った。

 

「しかし提督、このまま取り逃がすつもりですか!? また増援が来るかもしれません!」

 

古鷹はそう言うが、秀真は首を振った。

 

「いや、このまま泳がす。上手くいけば……」

 

もしや、と何かを察した郡司は呟いた。

 

「なるほど。足掛かりを潰したら元も子もない」

 

「その通りだ。上手くいけば、持ち主の居場所に導いてくれるかもしれない」

 

「そうとあれば、発信機を撃ち込まないとな……」

 

「秀真提督、これを使ってください」

 

傍にいた憲兵が持っていた狙撃銃、高い威力と精度を誇り、現代でも米特殊部隊が制式採用され、マークスマン・ライフルとして活躍しているスプリングフィールド造兵廠開発の自動小銃M14を近代化モデルにしたM14EBR秀真に渡した。秀真は、ありがとうと言い、通常弾から小型発信機付きの特殊弾をM14EBRに装填する。

よく狙いを定め、吸って吐いて、吸って、呼吸を止める。手ぶれが収まり、狙撃スコープのど真ん中に、映り込んだB-17に見事命中、発信機を取り付けたままB-17は鎮守府外へ飛び去って行く。

 

「ではこちらも準備をして、捜索隊とともに犯人探しに行きますか……」

 

 

 

時刻1800時。

夕暮れに染まった空、鎮守府近くの山を神秘にさせる。

観光客と思しき者は見ているものは、美しい夕陽ではなく、秀真の鎮守府である。

 

「クソッ……!」

 

双眼鏡で鎮守府の様子を眺めていた男は顔を真っ赤に染めて、苛立っていた。

何故ならばいま帰投したB-17重爆を除き、潤沢な資金を費やして制作した自慢のラジコンを全て壊されたことに対して男は、よくもよくもと憎悪を込めた言葉を吐き散らした。

 

「作戦は失敗だ。このままでは”あの方”に殺されてしまう」

 

彼が言う”あの方”とは提督でありながらも艦娘たちを消耗品としか見ず、過去には左翼勢力と結託し、各鎮守府の提督や艦娘たちに対して、嫌がらせをしてきた主犯格の一人でも有名である。なお、彼を支持する者たちからは『将軍様』と呼ばれ、崇められている。今回の作戦、将軍様の厳命とは、来るべき日に備え、同胞たちと協力し合い、数々のラジコン飛行機や無人機を使用し、ほかの鎮守府に資材が行き渡らないように資材を横取りするという極めて単純な策略だった。しかし、今回はあきらかな失敗である。

一時的とはいえ、数週間足らずで、この鎮守府は復帰可能なほどの損害が少なかったこと。

また重要目標である艦娘たちに甚大な損害を与えることができなかったためだ。

 

――もしおめおめと報告しに帰れば、死刑は免れないと呟いた。

 

それほど将軍様と崇められている人物は、完璧主義であり、時代遅れのように『限界はない』という根性論を好む精神主義者でもある。

史実のカルタゴのように「失敗者は死あるのみである」と簡単に切り捨てるのは当たり前、汚名返上のチャンスはないに等しい。また作戦が成功したとしても、昇進すると反逆を起こしかねないため、成功者はつねに切り捨てられる可能性もまた否定できないが。

 

話しは戻る。

ラジコン男は怒りを押さえる事ができなかった。

その苛立ちを表すように、我を忘れ、男はコントローラーを叩き壊した。

 

「こうなればあの鎮守府を襲撃して、博愛主義者たる提督と艦娘どもを殺さねば!」

 

無線機を手にし、かれの護衛兵とほかの仲間たちと交信をしたが、いっこうに繋がらなかった。

首をかしげながらも、もう一度つながるかどうか試したが、同じ結果となった。

またもや些細なことで苛立ったラジコン男は、地面にあった石ころをひと蹴りしようとしたときだ。

 

ふと、先ほど戻って来たB-17を凝視すると、怒りの顔から一変し、蒼顔へと変貌した。

 

「こ、これは……軍用の小型発信機! こいつは不味い!」

 

赤い光がときどき繰り返し、点滅する小さな機械を目にした。

これは先ほど、秀真が撃ち放って命中した小型発信機が埋め込まれているのに気が付いた。

いますぐこの場から早く逃げなければ、と泡を食った男は護衛兵たちとともに逃げようと試みたが……気がついた時には、手遅れだった。鳴り響く一発の銃声に次ぎ、タタタッとリズムよく響く銃声が聞こえた。

すぐ後ろを振り向くと、かれの護衛をしていた兵士たちが少なくなっていた。

各護衛兵たちはMP5K-PDW、カールグスタフM/45、TDIクリス・スーパーVなどといった特殊部隊や特殊工作員が好む短機関銃で応戦したが、圧倒的に不利に等しく、ひとり、またひとりと撃ち殺されていった。

そして、最後まで抵抗した護衛兵は何者かの狙撃を受けて、ゆっくりと前のめりで倒れた。

ラジコン男を守っていた護衛兵たちは、あっけなく全員死亡したのだった。

 

「………!」

 

これを視認したラジコン男は、ホルスターから一丁の機関拳銃―――ロシアの各法執行機関や警察、軍に採用され、ロシアのKBP社が開発した短機関銃《PP2000》を取出し、銃口を向けた。

自身に近づく足音が聞こえた方向を見た途端、男は見てはいけないものを見てしまったかのように発狂した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ! 来るな、こっちに来るな!」

 

男は気が狂ったように叫びながら、突然と現れたものに対し、PP2000を無我夢中になって撃ちまくった。

しかし相手は全弾を直撃しているのにもかかわらず、けろりとしていた。

 

「な、なんだ、こいつは!」

 

男が目にしたのは2体の重装甲兵だった。しかも手には軽機関銃を持っている。

この重装甲アーマーは《ジャガーノート》と呼ばれ、EODスーツを戦闘用に改良したボディアーマーである。

なお、ジャガノートというのは止めることのできない巨大な力、圧倒的破壊力の意味を持つ。名前の由来はヒンドゥー教の神であり、14世紀ごろにインドでジャガンナートの祭を見た宣教師が、信者が救済を求めて巨大な山車にひき殺される風景を目撃したと言い伝えられている。

 

「もう逃げることは出来ない。銃を捨てて、いますぐ投降しろ」

 

この重装甲兵の正体は秀真であり、彼の手にはFN社が1970年代に開発した傑作軽機関銃《MINIMI》を、米特殊作戦軍の要請で開発された7.62mm×51弾を使用するモデル――Mk.46 Mod1を携えている。

 

「ストーイ!」

 

ロシア語で「止まれ!」と警告する郡司も同じくジャガノートを纏い、手にはロシア製軽機関銃PKMベースの改良モデル――PKP”ペチェネグ”を携えている。

 

そして二人に遅れ、双方の憲兵隊が現われた。

秀真の憲兵隊が携えているのは、米特殊部隊をはじめ自衛隊の特殊部隊《特殊作戦群》が制式採用しているドイツのヘッケラー&コッホ社(H&K社)が2005年に開発した、M4カービンの近代改良化版のエンハンスド(強化/改良)を施したHK416である。

その銃身の下には特殊部隊向けに開発されたアンダーバレルショットガン《M26MASS》が装着されている。

ただし犯人を殺害するのが目的ではなく、確保するため、今回はゴム弾といった非致死性兵器を装填している。

 

郡司の憲兵隊が携えているレーザーサイトを標準装備している新型突撃銃は、イタリア軍が制式採用しているAR70/90の後継として、ソルダートフトゥーロ計画(未来兵士計画、つまりイタリア版フューチャーソルジャー)下で開発されたARX-160突撃銃である。本来ならばロシア軍好きの彼としては珍しく、このイタリア製のアサルトライフルを制式採用している。

本人いわく「某異世界にて自衛隊が活躍する小説と、その漫画版を読んで真似した」ということらしい。

 

「提督のご命令通り、上空にはAH-1W《スーパーコブラ》を展開させています」

 

「こちらも同志郡司の命令通り、上空にはMi-24《ハインド》を展開させております」

 

万が一に備えて、双方は上空に攻撃ヘリを展開させている。

これらもまた逃げようとしていた特殊工作員らを機関砲で、ハチの巣にしたのは言うまでもない。

 

「ご苦労様、引き続き警戒を」

 

「スパシーバ(ありがとう)、同志たち。同志……」

 

ふたりは憲兵たちを労いの言葉をかけると、郡司はアイコンタクトをした。

 

「もう一度言う…… 銃を捨てて、いますぐ投降しろ」

 

秀真は短くうなずき、落ち着いた口調で言った。

 

「ち、畜生……」

 

護衛兵は全員戦死し、仲間に見捨てられ、双方らに銃口を向けられた男はPP-2000を足元に捨て、もはや観念したかに思えたが、男は胸ポケットから煙草を取り出した。誰もが投降前に一服とは余裕だな、と思ったが……

 

「不味い、あの煙草を取り出せ!」

 

えっ、と驚いた表情を浮かべた隊員たちは秀真の命令通り、すぐに男が持っていた煙草を必死に取り出そうとしたが、あと一歩のところ拘束できたものの男は煙草を咥えた。

その瞬間、煙草をくわえた男は喉を搔きむしり悶え苦しみ口から泡を吹き出してから数秒後――息を引き取った。

 

「同志、どうだ?」

 

首の頚動脈に指を当てるも、提督は首を振った。

 

「駄目だ。死んでいる……」

 

「北の工作員たちが得意な自決方法だ。敵に捕らわれる前にあらかじめ用意していたカプセル入り薬物で服毒自殺とは……抜かりないな……」

 

「ああ。ラジコンだけでもかなり時間が掛かるな、これは……」

 

そうだなと頷き、重い口を開いた。

 

「……死体とラジコンは回収し、これらの証拠とともに、元帥たちの協力を求めよう」

 

「そうだな……」

 

夕陽は沈み、そろそろ夜になる。これ以上の索敵は危険だし、それに古鷹たちも心配している。

 

「では俺たちも帰ろう、我が家である鎮守府に」

 

「ああ、そうだな」

 

死体とB-17を回収した秀真たちは、我が家である鎮守府へ帰投した。

後日……秀真や郡司の鎮守府だけでなく、古鷹の言う通り、ほかの鎮守府も同じくラジコン機による空襲に遭った。

辛うじて防げたものの、しばし出撃可能なところは、ほんの一握りしかいなかった。

 

 

 

某所。

 

「奴は死んだか」

 

ひとりの男が尋ねると、もう一人の男は答えた。

 

「ああ、だけど奴個人のテロリズムで終わるから解明されるまで時間稼ぎができる。自己責任ってことだな♪」

 

「確かにな。明日は将軍様が直々に、われわれにお褒めの言葉がかかるからこんな嬉しいことはない」

 

「しかももうそろそろすれば、世界は全て我々のものとなるのが楽しみだ」

 

「そうだな。つねに将軍様とともに勝利があらんことを願って」

 

刻々と彼らの計画が進んでいることも知らずに、この首謀者たちはその日を楽しみにしていた。




前回とやや違った展開ではありますが、気に入ってくれたら幸いであります。
なお余談ですが、CoD:MW3の最終ステージにかかるBGM『Arabian End Game』を聴きながら執筆しました。死刑用BGMと復讐BGMも兼ねましてですが。

ラストに関しては次回にそのラジコン男を操っていた(?)男たちの正体が明らかになるとともに、恐るべき陰謀もまた知ることになります。

こちらに関しては前編・後編に分けるかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いであります。

では長話はさて置き、次回もお楽しみを。
それでは第七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第七話:蠢く陰謀、そして脱出 前編

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)

今回はとある艦娘が傷つく場面がありますので、お先にご警告いたします。
それと伴い、台詞なども一部変更している部分がありますが、最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!



数週間が過ぎた。

某所にある別の鎮守府の会議室にて一人の男、中岡が襲撃作戦を終え、無事帰還した協力者であるふたりの提督――忠秀、湯浅、ふたりの工作員たちの前に立ち、彼らの武勲をねぎらった。

 

「よくやったな! 我が同胞諸君。我らの忌々しい博愛主義者の提督と艦娘どもがいる各鎮守府に対して、この素晴らしき奇襲作戦を行なうために妨害電波による後方支援と、ラジコン部隊による空爆作戦に感謝する! これで奴らはさぞかし肝を冷やしたことだろう。もちろんあの元帥の鎮守府襲撃にも感謝する。

しばらくの間だが、活動できる奴らの艦隊は第一艦隊や遠征部隊のみ、さらに異端者たちがもつ通常兵器を破壊し、そして兵器工廠や入渠ドックといった重要施設にも少なからずだが、損害を与えたのだから誇りに思うぞ」

 

ただし最重要目標である、元帥の鎮守府のことだけは隠しておいた。失敗したからである。

理由は定かではないが、損害は与えたものの、小さな損害、放火レベルまでしか至っていない。

ブラック提督たちの間では、例の不死身部隊と特殊部隊群、そして第三者のちからを借りて阻止したと見られる。

中岡はこれを聞いたら、たちまち士気が下がりかねないのでわざと嘘をついたのだ。

ただし中岡たちは、各鎮守府が数週間後には完全復旧できるのは、そこまでは知らない。

 

話しは戻る。

彼らに協力した二人のブラック提督に、彼らの工作員たちは顔を赤らめいた。

あの方こと中岡からの、直接お褒めの言葉をいただけていられるのは、かれの同胞たちに羨ましがられるほど、これはまことに名誉なこと、武勇伝としても受け継がれる。

 

「諸君にはいずれ最高名誉勲章を与えるが、それは新たな鎮守府において同盟の参列のもとに行なうから、しばらく待ってもらいたい」

 

「はっ、分かりました!」

 

「うむ、よろしい。今日のところはこれで下がりたまえ。今夜オレ様の家で祝宴をひらくから出席するように」

 

直立不動のまま、敬礼する仲間を見た中岡はうなった。

 

「はっ、了解しました!」

 

彼らは再び敬礼すると下がった。

 

「……お前も今のうちにどちらに付くか、決めた方が身のためだぞ?むろん拒否権はない。それに今後はわれわれ、我が同胞たちが秘かに反乱を起こすため、そして生き残るためにも深海棲艦について行った方が得だし、全海域だけでなく、全世界を支配することだってできる。分かるか、翔鶴?」

 

ドスの利いた声で脅す彼の隣にいた一人の艦娘、秘書艦の翔鶴はビクッとなり、一歩のけぞった。

 

「提督、私は……」

 

翔鶴は口を詰まらせ、震え始めた。

できれば皆を撃ちたくないという彼女の思いやりと優しさ、この戦争を早く終結させたいとの願い、だからそれを踏みにじる人たち、破滅の道へと導こうとするこの人物に付いて行ったら駄目だと言うのをよく理解していた。

だがこの男、中岡は慈悲などなかった。

自分が生き残るためと自身の名誉を守るためならば、深海棲艦とも同盟を秘かに結んだのだから。生き残る条件として艦娘を殺すか深海棲艦側に明け渡すかとの条件を呑んだ。

彼にいたっては前者を選んだ。また彼だけでなく同盟を結んでいる他のブラック提督たちも同じく、それを倣って行なっている。かつて勤めていた前職でも同じことを平然とした。

人を殺すことも然り、利用できるのであれば例え悪魔ですらも利用し、直後、躊躇いもなく殺害を行うのだからこれぐらいは朝飯前でもある。今回のラジコン襲撃に関してもそうだ。

ラジコン男と彼の護衛兵たちは使い捨てに等しい。前者は軍規を乱し、クビになった男と不景気を利用し、失業中の若者やチンピラたちなどに目をつけた中岡は、彼らに大量の報酬を見せて、今回のテロ事件を起こさせた。

ようはインチキな革命ゲームをさせられ、自分たちが”使い捨て”なのもかかわらず、それすら気づかない本人らは懸命にテロ行為をしていたのである。

過去の事件、あの有名な「ケネディー大統領暗殺事件」の狙撃手、リー・ハーヴェイ・オズワルトがいい例だ。

ケネディー暗殺後、逮捕されたオズワルトは、ダラス市警察本部から郡拘置所に移送される際に、警察本部の地下通路で、ダラス市内のナイトクラブ経営者でマフィアと、そしてダラス市警察の幹部の多くとも関係が深いジャック・ルビー(本名:ジャック・ルーベンシュタイン)によって射殺された。彼もまた使い捨てにされたとの噂もある。なお歴史に名を残したこの事件は、さまざまな陰謀説が浮上したものの、ついに事件は暗礁に乗り上げ、真実はいまでも闇の中へ葬られている。

 

話しは戻る。

艦娘たちを廃棄し、いまは自分たちの同盟である深海棲艦たちから貸与された技術を利用し、全ての脅威が去り次第は、盟友である彼女たちも殺害し、全世界に匹敵するほどの軍事力と軍事技術で、無敵の軍隊で全世界を征服することも容易いと確信している。

 

「同胞が死ぬのは心底悲しいが、増えすぎた人口を減らすことに好都合でもある一方……むしろ博愛主義者たる異端者どもを減らすいい機会なのだ」

 

「………!」

 

これは不味い。自分はどうなっても構わないが、大切な妹である瑞鶴やほかの子たちでもうまく逃がして、元帥やほかの提督たちに伝えないと……そう考えていた時だ。

 

「おい、お前いま、ここから妹とともに逃げようなんて考えてないだろうな? ましてや今の話しを聞いて、誰にでもペコペコとするお人好しのお前のことだからな……」

 

それを察した中岡はギロリッと睨みつけ、翔鶴を脅した。

 

「提督、私はまだ何も……」

 

半ば怯えながらも言い訳をしたが、彼の耳元には届かなかった。

 

「優柔不断だな。言っておくが、回答次第ではお前をいつだって殺してもいいんだぞ! お前の妹と共に、ここで生き残りたいのであればな、俺様のいうことだけを聞くだけの女であれば良いんだよ!」

 

「あ、あの、わ、わたしは……」

 

再び恐喝に彼女は泣き出しそうになる。中岡にとって女と子供の泣き声は特に不愉快だった。博愛主義、ただの兵器でしかない艦娘が感情などあるとは虫酸が走ったのだ―――

 

そして一発喝を入れるため、中岡は力加減など一切せず、翔鶴を平手打ちをした。

 

「きゃあっ!」

 

頬を殴られた翔鶴は倒れ込んだ。

 

「どうだ?お前の綺麗な顔なんて躊躇なく殴れるんだぞ?お前がトラウマにしてやっても良いんだぞ。俺様にとって……なんだ、その忌々しい眼は?」

 

中岡はキッと睨みつける翔鶴を見て、苛立ちながらも訊いた。

 

「……私はお断りします。瑞鶴や随伴艦のみなさんを平然と傷つけるだけでなく、元帥との契りと国を裏切り、秘かに深海棲艦に寝返った貴方なんて提督でも何でもありません。悪魔に魂を売ったケダモノです!」

 

翔鶴は赤く腫れ上がった頬を押さえつけ、痛みに耐えながらも反論する。

 

「貴様!よくもこの帝王であるこの俺様をコケにしたな!もう一発喝を入てやる!」

 

中岡は倒れ込んでいる彼女の髪を掴み、無理やり起こす。

綺麗な髪を引っ張られてもなお、痛みを我慢した翔鶴はキッと睨みつけたままである。

 

「ほら、さっさと起きろ!兵器は兵器らしく、ただ黙って命令通りに従えばいいんだ」

 

ふたたび平手をしようとしたところだ。入室しようと扉を開けた艦娘たち、中岡に殴られそうになった翔鶴を見た瞬間―――

 

「「「翔鶴さん!!」」

 

二人の言葉よりも中岡に殴り掛かりかかったのは、激怒した瑞鶴だった。

予想もしなかった中岡は、彼女のこぶしを食らい、倒れた。

 

「あんた幾らなんでも理由もなく、翔鶴姉を殴ることないでしょう!」

 

「大丈夫ですか、翔鶴さん!?」

 

「翔鶴さん、お怪我は?ほかに痛いところはありませんか?」

 

阿賀野型三番艦の矢矧に続き、秋月型一番型艦の秋月が心配する。

 

「矢矧さん、秋月さん、ありがとう。でも、私は大丈夫だから。」

 

倒れている翔鶴を起こした二人は、中岡をキッと睨みつけた。

 

「何だ?お前ら、俺様を殺そうとする勇気でもあるんか?」

 

起き上がると中岡は、挑発どころか、なにやらどこか余裕のある声にも思えた。

しかし、瑞鶴にとってはどちらにしろ腹立たしいのは変わらない。

 

「当たり前よ!あんたみたいな男、提督さんとは思わないし、翔鶴姉やみんなを傷つけるなんて許さないんだから!」

 

誰よりも殺意を見せた彼女は、弓を構え、今にでも矢を射ろうと構えたが……

 

「俺を射った瞬間、お前の大好きな姉と大切な仲間たちも射殺だぞ?」

 

「………!」

 

後ろを見てみな、と顎をクイッと動かす中岡に、瑞鶴は言う通りに後ろを向いた。

 

「瑞鶴……」

 

「翔鶴姉!矢矧さん!秋月さん!」

 

手も足も出ない瑞鶴は悔しそうな表情を浮かべ、唇をキュウッと軽く噛んだ。

 

「警告する、いますぐ武器を下ろすんだ!」

 

年長らしい男、歳はおそらく40から50代だと思われる中年の男はいった。

彼が引き連れているのはロシア人たち……彼女たちを拘束しに来たのだろうか、四人の憲兵、彼らが携えているアサルトライフル―――南米ペルーのSIMA Electronica社が開発したブルパップ式突撃銃《FAD》を構え、瑞穂たちにその銃口を向けていた。

なおひとりはロシア・KBP製造リボルバー・ショットガン《MTS-255》を構えていた。

 

「ほら、警告だ。その弓矢を捨てろ、さもないと粛清だぞ?」

 

「………くっ!」

 

言われるがまま彼女は弓矢を捨てた。それを確認した中年の男は彼女の頬を平手打ちをした。

 

「「「瑞鶴(瑞鶴さん)!!!」」」

 

男は先ほど中岡がやったように、倒れた瑞鶴を掴んで言った。

 

「ここに来たキミたちはいわば自己責任だよ。何ひとつも知らずにここに着任した時点で大統領閣下様に刃向かうのもすべて自己責任さ」

 

男は嘲笑うように、自己責任論を唱えた。

この男は憲兵になっても変わらなかった。過去に刃向かった若い憲兵隊員にもこのようなことを唱えて、それでも間違っていると唱えている憲兵たちをその場で粛清した。

なお本人は何度もこれを唱えた。以前の職場でも新人を罵り、挑発に乗ってしまった新人たちの人生を台無しにさせた程、この自己責任論を唱えた。

年功序列が未だに残るこの国の悪癖であり、全て計画的に生きてきた自分たちが正しく、

悪行を行なうことこそ正義であり、それをする自分たちを敬わず、間違っていると主張している若者たちは排除するというあるまじき行為である。これに自己責任論を唱えられても満足することはなく、ただの理不尽である。

しかも彼女たちの不幸は、着任するまで提督の本性が分からないことだ。

なお現実世界でもおなじことといえ、下手をすれば上官殺しまで起きかねないのである。

 

ややこしくなるので話は戻る。

これと伴い上官命令違反とし、瑞鶴は射殺される覚悟もできていた。

 

その覚悟を決めた瑞鶴は双眸を閉じた。

 

―――もう、この苦しみから解放されるのだと安心感。

 

―――大好きな翔鶴姉やみんなを助けられなかったことの罪悪感。

 

―――せめてこの外道提督たちを殺せなかった未練を抱いて。

 

「ごめんね、翔鶴姉、みんな……」




前作とあまり変わりない部分もありますが、一部ですが外道な憲兵を加えました。
さらに元帥の鎮守府が襲撃されたが、あの人のおかげなのはいうまでもありませんが。

では長話はさて置き、次回はこの続き、後編であります。
むろん彼女たちの幸運をなめてはいけません、これだけは言っておきますね。
それでは後編、第八話までダスビダーニャ(さよならだ)。


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第八話:蠢く陰謀、そして脱出 後編

お待たせしました。

前編の続きであり、そして彼女たちの幸運をなめてはいけません……

それと伴い、台詞なども一部変更している部分がありますが、最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


「ごめんね、翔鶴姉、みんな……」

 

悔し涙を流している彼女に対し、中岡は命令を下した。

 

「将軍として命ずる。この裏切り者を殺せ!」

 

「了解しました。将軍様」

 

コイツを殺せ、と命じた時、一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

瑞鶴は自身がもう死んだのかと思い、両目をゆっくり開けた。

 

「なぜ、俺が……」

 

しかし撃たれたのは彼女ではなく、短い言葉を発し、目の前にいた中岡が倒れ、次に撃たれたのはあの外道憲兵だった。前者は胴体に1発、頭部に1発を喰らい即死したが、後者はまだ息あるがあった。

しかも何度も「悪いのは中岡だ」と責任転嫁しただけでなく、情けない声を上げて「助けてくれ」と命乞いまでもした。しかしロシア人は「自己責任だ」と言い返し躊躇うことなく、外道憲兵を射殺する。

この銃声を聞き、駆けつけ、押し寄せてきた憲兵らも同じく、これまた射殺した。

中岡らを殺したことを確認したロシア人はロシア語訛りの英語を発し、携帯無線機で誰かと短く交信した。

あまり長いと敵に傍受されるからである。通信が終了すると、瑞鶴たちにふたたび顔を向けた。

 

「ど、どうして。私たちを……」

 

唖然とした瑞鶴の答えに、憲兵は答えた。

 

「キミたちを救出せよ、と元帥と我が提督の命令でね。こうやって救助しにきたんだ」

 

「あの、その提督って、もしかして、郡司提督ですか……?」

 

瑞鶴の代わりに、翔鶴は心当たりがあると思い、彼に尋ねた。

翔鶴たちは一度だけだが、彼に会ったことがある。なにしろ彼の艦隊には、あの有名な空母部隊のひとつ「第一航空戦隊」こと一航戦と、もうひとつは「第二航空戦隊」こと二航戦が所属している。

短期間だったが一緒に合同訓練をし、演習も行なったことがあるから覚えている。

本来ならば秀真も参加する予定だったが、この時はあいにく別の任務で古鷹たちを率いて、敵艦隊と交戦中だったので、彼のことは知らない。なおこの合同演習では中岡率いるブラック提督たちは、なぜか参加しなかった。

ただし彼らの代理人として監視部隊を送っていた。ソ連の督戦隊のような組織で、味方を常に監視し、裏切るのであれば殺すという組織である。例え友軍兵士や味方のブラック提督たちですら、もしもヘマをしたならば、彼らは平然と粛清するので、味方からも恐れられている。翔鶴たちは彼らがいたために、誰とも相談ができなかった。

 

「そのとおりだ。わたしは彼のもとで働いているニコライだ。よろしく」

 

率直に言ったニコライ、彼らの正体は郡司が秘かに忍ばせておいた諜報員である。

数週間前に起きた事件、ラジコン襲撃時の際に使用した鎮守府がここだと嗅ぎ付け、この鎮守府の憲兵として成りすまし、チャンスがあり次第、彼女たちを救出および主犯者たちを確保しようと作戦を練っていたのだ。

ただし後者にいたっては、やむを得なかったが。

 

「話しは山々だが、友軍が時間を稼いでいるうちに、今は一刻も早く私たちと一緒に脱出の準備をするんだ」

 

「あ、はい!」

 

解放された翔鶴たちは助けてくれた諜報部隊に護衛されながら、格納庫へと急いだ。

 

 

 

 

「準備完了しました、ニコライさん」

 

ニコライたちに護衛されながら、翔鶴たちは急いで艤装を取り付けた。

彼らの聞いたところ他の子たちは、友軍が運用している米空軍向けの特殊作戦型に改良され、汎用大型ヘリMH-53Jの後継機――長距離特殊戦活動、不測事態作戦、脱出および海洋特殊作戦に用いられるCV-22《オスプレイ》に乗員、上空で待機していた護衛機、世界最強とも言われる米軍や航空自衛隊などが制式採用している戦闘機F-15《イーグル》とともに、各鎮守府にいる良識な提督たちのところに脱出に成功した。この知らせと彼女たちを受け入れる準備は完了だとの報告と全員が無事到着したとの連絡を聞いた一同は、安心して脱出準備を終えた。

また陽動のためニコライと元帥はこのために、自衛隊の特殊作戦群とPMCやスペツナズなどからの義勇兵たちだけでなく、元帥の護衛兵と選りすぐれの戦友たちによって結成された、ゼロと呼ばれる特殊部隊群も投入した。

この合同部隊らが、この鎮守府だけではなく、各ブラック鎮守府の憲兵たちと銃撃をしている。

なお前者は負傷者は少数だったが、全員無事救出作戦が成功したとの報告を聞くと、全員幽霊のごとく消え、無事脱出したとのことだ。後者は、ほぼ全滅状態になった模様である。ほとんどが元帥の不死身部隊とゼロと呼ばれる特殊部隊のおかげであることは言うまでもないが。

 

クリア。周囲警戒を終えた隊員たちは、この場に停泊、鹵獲した一隻の高速戦闘艇――イエメン海軍やカタールで使用されているフランス製の高速艇DV-15《インターセプター》に乗り込んだ。

なおこの高速戦闘艇を守っていた警備兵も何者かに射殺、または刺殺された死体がいくつか転がっていた。

ニコライたちは目もくれず、周囲警戒、そしてこのフネの操縦席には置き手紙があった。

ニコライはそれを開き、目を通した。

 

”警備兵たちは私と最愛なる妻、仲間たちが片づけた。キミたちが無事目的地に着くことを祈る”

 

シンプルな内容が書かれた置き手紙を見て、元帥の戦友、山城少将たちだなとニコライは悟り、その置き手紙を胸ポケットへ大事にしまった。直後、各装備品を確認。しかも新品とも言えるほど綺麗に整備されている。また各武装も然り。搭載されている全ての兵器も贅沢なものばかりだ。

メインウェポンは歩兵および軽装甲車両に対して絶大な効果を発揮する25mm炸裂型砲に、サブウェポンとしてレーザー誘導ミサイルの傑作AGM-114ヘルファイアを搭載している。余談だがこのミサイルは対装甲車両だけでなく、陣地、船舶、市外目標、対空兵器としても使用可能なAGM-114NヘルファイアⅡである。

また側面にはゼネラル・エレクトリック社がヘリコプターや固定翼機の搭載機銃として開発したM61を小型簡略軽量化したガトリング銃――M134『ミニガン』が搭載している。

 

「まるで戦艦みたいね、そのボート……」

 

それを見た瑞鶴は呟いた。

 

「特殊作戦用だからな、いくらこの重武装でも敵の駆逐艦と軽巡、雷巡クラスなら容易く対処できるが、重巡クラス以上になるとキツイかな。防弾能力だって拳銃弾やライフル弾を防ぐほどの性能しかないし、敵の砲弾なら一発轟沈もあり得るからな……」

 

先ほど彼女を助けてくれた、ニコライは答えた。

 

「まぁ、俺たちにとっては海上に浮かぶ棺桶に乗っているようなもんさ」

 

「棺桶なんてキツイジョークだぜ…」

 

「来やがれ、そのツラ見せろ。出て来い、深海棲艦どもチェーンガンが待ってるぜ!」

 

ニコライに次ぎ、ほかの隊員たちは各々冗談を言った。

 

「おい同志たち、レディの前でつまらないジョークを言うんじゃない」

 

ニコライは、隊員たちに注意を促した。

 

「「「イズヴィニーチェ、同志ニコライ」」」

 

「うむ。よろしい」

 

冗談めいた答えにニコライたちが微笑した姿を見て、翔鶴たちもこの微笑ましい光景にクスッと微笑した。

 

「皆さん私たちのために本当にありがとうございます。戦闘時には私たちがあなた方をお守りしますから安心してください」

 

お淑やかな口調と共に、翔鶴は微笑した。

 

「そうよ、私と翔鶴姉がいれば大丈夫なんだから!」

 

自慢に満ちた宣言をする瑞鶴に続き―――

 

「護衛任務なら、お手の物だから安心しなさい」

 

矢矧が言った。

 

「秋月、皆さんを護衛します!」

 

秋月も自信に満ちた声とともに敬礼する。

 

「「「スパシーバ。同志たち!!!」」」

 

「頼もしいサムライガールたちだな」

 

彼女たちの言葉を聞き、ニコライは告げた。

 

「……それじゃ気を取り直して、出発するぞ!」

 

出発の合図と共にうなずいた一同は、目的地である鎮守府へと目指す。

 

 

 

翔鶴たちが出港した頃。

さきほどの執務室には、ニコライたちが射殺した中岡と外道憲兵たちの死体が放置されていたが………

 

「この役立たずの影武者と使い捨てどもが!」

 

苛立ちながら額または胴体を撃ち抜かれた死体を蹴り上げる中岡、先ほどニコライが殺したのは偽者――つまり影武者である。ただし外道憲兵は本人であり、彼が死んでもさほど気にしない。また代わりの憲兵を用意すればいいのであるから痛くもかゆくもなかった。

 

「おい明瀬提督、奴らを殺せ!海の藻屑にしてやれ!」

 

「ケッケッケ、お任せを!」

 

独特の笑い声を発する小男こと明瀬は、部下たちと出撃準備をするため、部屋をあとにした。

彼と入れ替わる形で、一人の女性が入室した。

 

「アラ、影武者ヲ殺サレタ挙句、ミスミス艦娘ドモヲ逃ガスナンテ……」

 

黒いドレスの妖しい美女。外見は提督たちに屠られた戦艦棲姫に酷似している。

ただ黒いドレスは共通しているが、胸元に模様が入っておりスカートはバルーン風に膨らんでおり、脚は黒いタイツにスタッズのついたゴツい装飾の靴、二の腕まであるロンググローブを身に着けて妖艶な雰囲気を醸していた姿、その風貌はまさしく―――進化し、復讐のために蘇った「戦艦棲姫」といっても良いだろう。

 

「なんだ。戦艦水鬼……この俺様を馬鹿にしに来たのか?」

 

年のせいだろうか些細な事にもキレる中岡は彼女に尋ねた。

 

「貴方ニ用事ガアッテネ、早ク脱出シナイト大変ナ目ニ遭ウワヨッテ、伝言ヲネ……」

 

彼女の報告によれば拘束または射殺されたブラック提督たちも少なからずいるようだ。

それを聞いた中岡は双眸を落とし、答えた。

 

「言われなくても分かっている。こんな用のない鎮守府なんて、おさらばしたいのは当然だ。いつまでもここに居座ると異端者どもが、ここを嗅ぎ付け、捕まったら死刑になりかねないからな。言っておくが俺のおかげで前作戦を有利にしたんだから厚遇されるのは当然だよな?」

 

「言ワレナクテモ、承知シテイルワヨ……」

 

戦艦水鬼は渋々承知した。

コイツと会ったのは運のつきだったが、同時にあの反攻作戦で貢献したため仕方なく命令に従っている。たしかに彼と協力したから南シナ海戦で日本のシーレーンを一時期脅かすことに成功したのは皮肉とも思っていた。

この有効な証しとして、彼を率いるブラック提督たちと友好条約を結んでいる。

本心はこれ以上は厚遇するのは嫌だった。しかし中岡たちのおかげで勝利したのだから、振る舞うのは致しかない、本心は殺したい気持ちは山々だが。

余談だが、史実の独ソ関係に近い状況である。

後世の時代でも独ソ不可侵条約を結んでいたドイツがソ連を攻めたのは間違いだとよく言われているが……実際にはこれは間違いである。ドイツがもしイギリス攻略に長引いていれば、ソ連が不可侵条約を破り、東から大量のソ連軍が攻めていたと元赤軍将校たちからの証言と記録が残されている。つまりお互い騙し討ちを目論んでいたほど信頼と言うものは一切なかった。

 

だから、当然その気持ちを持つのも無理はない……

 

「デハ、私ハ先ニ脱出シテオクカラ遅レナイヨウニ……」

 

――イズレハ殺シテヤル、コノ男ハ裏切リカネナイ。チャンスガアリ次第、消サナケレバ……と殺意を隠すように彼女もこの場を去る。

 

だが動物並みの感が良い中岡は遅れながらも戦艦水鬼のあとを追うよう去りゆくように、この鎮守府を部下と共に去っていった。

 

……この化け物女、感づいたか。警戒せねばならない。




今回は前作とやや違った展開とともに、CD:MWシリーズに登場したロシアの諜報員ことニコライがゲスト出演しています。MWシリーズではお気に入りのキャラの一人ですね。
とくにMW3ではMi-24の掩護攻撃してくれるステージは最高なのであります。

ほかにもゲストがいた、いいえ、気のせいですね(赤城さん風に)

なお後半は依然と変わりませんね、結構気に入っている展開なのでこのままという展開にしました。今後の展開に影響するかは……おっとネタバレになりかねませんのでしばしお待ちを。

では次回は無事脱出した翔鶴とニコライたちに中岡が放った追尾者たち、彼らとの海戦であります。

それでは第九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第九話:迫りくる追尾者たち

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)

では予告どおり、追尾者たちとの海戦であります。
そして毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


一同は航路を偽装しつつ、目的の鎮守府を目指していた。

この海域には深海棲艦がいないため、安心して渡航できるが、つねに油断は禁物である、という警戒心を忘れずにしていたのだが……さすがに空腹を知らせる音が聞こえたため、一同は、少し遅めの昼食を摂っていた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

昼食はニコライたちが脱出時に用意していた軍用携帯食料、陸自が制式採用している戦闘糧食Ⅱ型、通称「パックメシ」を用意した。戦闘糧食Ⅱ型はⅠ型の後継であり、米軍のレーション「MRE」を参考にしている。紙箱の中身を取りだし、そのなかに少量の水を注ぎ、レトルトパックと化学反応を起こすヒーターを、再び紙箱に入れて温める。

そして10分後には……お湯を沸かすことなく、温かい食事ができる便利な代物だ。

また少数だが戦闘糧食I型(缶タイプ)もあるので、こちらも開けて用意した。

 

「すまないな、大したものでなくて……」

 

出来上がった食事を渡したニコライは申しわけないといった表情をしていたが……翔鶴たちは短く首を振った。

 

「いいえ、とても美味しいですし、こんなに温かい食事なんて久々です」

 

「ニコライさん、この牛肉の野菜煮、凄くおいしいです!」

 

「翔鶴姉の言うとおり、前まではこんな豪華なもの食べらなかったもの……」

 

「そうね。死んだあいつらは毎日フランス料理やイタリア料理などのフルコースで、私たちは粗食……だけどそれは、まだ良い方だったし、ひどい場合は食事抜きだったときもあったわ。食事が出た時には、わたしは酒匂に、能代は阿賀野姉ぇに分けていたわ……。

いつも、ふたりは良いよと言ったけど、それでも可愛い妹と、天然だけど阿賀野姉ぇは、大切な姉だから……」

 

彼女たちは重い口を開きながら答えた。

一般人にとって食事というものは日常的なものだが、兵士たちにとっては心を落ち着かせる娯楽のひとつでもある。戦場での食事は、常に冷たいものが当たり前で、温かい食事だと、それだけでも気分が高揚するのである。

前線で戦わないブラック提督たちは贅沢な食事をし、懸命に戦っている彼女たちには粗食または食事抜きを中心とは聞いてあきれた。それをつまらなくするのは、指揮官として、いや、人間として失格であると言いたい。

これは長年戦場で戦ってきたニコライの経験だからこそ、分かることだ。

またこれらを聞いたら戦友である秀真なら特殊部隊を投入し、その鎮守府にまで行き、ブラック提督に鉄槌を下すか、郡司も同じく尋問か某ロシア大統領の言った「便所の中に隠れようと息の根を止めてやる」とことぐらいは当然するだろうし、彼女たちのために豪華な料理を作るだろうなとニコライは脳裏をよぎった。

 

 

「そっか……私のもあるけど食べないかい?」

 

「俺のチキントマト煮があるけど食うかい?」

 

「ペパロニのピッツァだ、激ウマだでぇ」

 

「お前、どこからピッツァを……まぁ、いい。デザートにはドライフルーツもあるし……それにもうひとつはより贅沢なフルーツカクテル缶もあるから開けて、みんなで食べよう」

 

「皆さん、良いのですか?」

 

「ああ、構わないよ。いま紅茶も用意するから」

 

どんな時でも艦娘を大切にすることは忘れてはならない、まして人の心も同じく、という秀真や郡司、元帥の言葉を心掛けているニコライたちは、自分たちの食事を分けた。翔鶴たちはそれを嬉しそうに食べている姿を見たニコライたちは微笑み、彼女たちも微笑み返した。食事が済むと、かれらが用意してくれた温かい紅茶とドライフルーツを堪能した。

翔鶴たちは、紅茶のたちのぼる香りとドライフルーツとフルーツカクテル缶という久しぶりの食事後のデザートと芳醇な香りを漂わせる紅茶を楽しんでいた一方……

 

”目標艦タル空母二、軽巡一、駆逐艦一、高速艦艇一、ヲ含ムモノト見ユ……”

 

遠くから、その様子を窺う一隻の深海棲艦、潜水カ級が、明瀬たちの艦隊に報告した。

 

「よし、こちらもヲ級を含む機動部隊を出す。お前はさっさと基地に帰れ」

 

カ級は不満はあったが、ただ了解と返答するだけであった。明瀬の命令通り、彼女は友軍がいる基地へ帰投した。明瀬にとっては、狩りのような娯楽に等しく、弱いものをいじめるのが嗜好であった。

これほどたちの悪い趣味を持つのは、ブラック提督たちのなかでもトップと言っても良いし、多くの提督たちから“捻くれた小男"と呼ばれるのも納得である。

 

「いいか、俺たちが到着するまで足止めすればいいんだ。もしも1隻でも轟沈させたら、お前たちを沈めてやるから覚悟しろ」

 

無表情ではあるが、ただ了解と頷くヲ級を含む偵察機動部隊は、翔鶴たちがいる海域を目指していった。

 

 

 

 

ヲ級を含む偵察艦隊が出撃した頃。

食事を終え、ひと休憩を終えた翔鶴とニコライたちは、ふたたび気持ちを切り替え、周囲を警戒していた。

翔鶴たちは、このまま何事もなく、無事に目的の鎮守府に辿り着けたらいいな、と思ったときだ。

翔鶴が放った一機の哨戒機、上空を警戒していた二式艦上偵察機から緊急電が送ってきた。

 

「緊急電です。敵偵察艦隊。真っ直ぐこちらに向かっているとの事です!」

 

緊急電を受け取った一同は、即座に緊張感に包まれた。

だが、海中から一隻の敵影、翔鶴たちに向かって、猛スピードで接近し、突如と姿を現した。浮上してきた襲来者、その正体は深海棲艦、駆逐イ級が翔鶴たちに襲い掛かろうと出現した。

しかし咄嗟の判断により、矢矧の15.2cm連装砲改が火を噴いた。浮上したイ級は、彼女の砲撃を喰らい、そして爆発四散した。

 

「捨て身の威力偵察か、同志たち、気を抜くな!」

 

ニコライの意気込みに隊員たちは、了解と返答する。

 

「瑞鶴、準備はいい?」

 

「任せて!翔鶴姉!」

 

「軽巡矢矧、出撃します!」

 

「防空駆逐艦、秋月。出撃致します!」

 

翔鶴たちも、己の気合いを入れるかのように言ったときだ。

こちらに向かってくる五隻の敵艦、空母ヲ級を旗艦とする明瀬の放った機動部隊である。

敵艦隊との会敵を知った一同は、すぐさま戦闘態勢にうつった。

 

第一艦隊

旗艦:高速艇DV-15《インターセプター》

軽巡:矢矧改

駆逐:秋月改

空母:翔鶴改

空母:瑞鶴改

 

対する追尾者たち、明瀬が放った深海棲艦たちは、以下の通りである。

 

敵艦隊

旗艦:ヲ級flagship

軽空:ヌ級elite

重巡:リ級elite

軽巡:ホ級elite

駆逐:ハ級elite

 

なお先ほど捨て身の威力偵察をした駆逐イ級は、矢矧の砲撃により、撃沈している。

 

―――戦闘開始!!

 

「ったく。単純な救出活動から大規模な戦闘になってしまったな!」

 

右側面に張り付いた機銃士が文句を零した。

 

「文句言うなら、あいつ等にぶちまけな!」

 

「ダー(了解)!」

 

言われなくてもと言い、軽巡ホ級に向けると25mm機関砲が小刻みな連射音を上げて、砲撃を開始した。

本来は対人や軽装甲車両に有効だが、装甲を貫徹さえすれば重装甲車両でも大ダメージを与えることができる。

それを、砲弾の雨をまともに受けた軽巡ホ級を容赦なく喰い破っていった。制圧完了、目標を駆逐ハ級に。

再び砲撃を開始――いくら強靭な防御力を誇る深海棲艦と言えど駆逐艦クラスならば、いとも容易くダメージを与えることができる。

 

「ヘルファイア、発射準備完了!」

 

「目標、駆逐ハ級。アゴーイ!(撃て!)」

 

さらに次発装填済みのAGM-114ヘルファイアを中破した駆逐ハ級に狙いを定め、発射した。

発射されたヘルファイア・ミサイルは捉えた獲物に目掛けて、飛翔した。ハ級は逃げようとしたが、それを躱すことはできず直撃を受けた。爆音が鳴り響き怪物が悲痛な叫びを上げ、そして止めにもう一発のヘルファイアを発射、最期に断末魔とも呼べないような小さな声で鳴き、あっけなく撃沈した。

 

「やったぞ!」

 

しかし、安心するのも束の間、リ級が砲撃しようと襲いかかるが―――

 

「秋月、ニコライさんを援護します!」

 

秋月は4基8門の長10cm砲を撃ちながら、ニコライたちを援護する。

 

「いざとなったら夜戦で始末するよ!」

 

秋月がリ級を引き付けているあいだ、矢矧は61cm四連装(酸素)魚雷――かつて連合軍を震え上がらせた、日本海軍必殺とも言える秘密兵器《九三式酸素魚雷》を装填、リ級に向けて、撃ち放つ!

矢矧が放った四本の酸素魚雷は青い海と一体化するように溶け込み、雷跡はなく、海の暗殺者は見事、目標たる重巡リ級に命中、大破へと追い込む。

 

「瑞鶴、私たちも!」

 

「分かったわ!翔鶴姉!」

 

輪形陣で守られている二人は弓を構え、矢を放つ。放たれた矢は本来の姿――艦載機へ変化、あっという間に編隊を組み、直掩隊である紫電改は制空権の維持を務め、彼女たちの主力攻撃隊――双方は二手に分かれ、艦上攻撃機《天山》は雷撃態勢にうつり、艦上攻撃機『彗星』は真上から急降下体勢にうつる。

紫電改たちは敵旗艦のヲ級と軽空母ヌ級が放った深海艦載機群を蠅のように叩き落とす。

炎に包まれ、黒煙を吐き出しながら落ちていく敵機、激しい格闘戦を眺めながら、制空権確保に努める紫電改部隊をあとに、攻撃隊は母艦であるヲ級たちに攻撃を仕掛けた。

彗星は500キロ爆弾を投下する。ヲ級たちはそうはさせないと対空砲火を開始した。

急降下に移った数機の機体が撃ち落とされるも彼らの仇を取ろうと腹に抱えた爆弾、復讐の気持ちを込めた500キロ爆弾を投下、これに加え、彗星たちは次々と投下した。

彗星が投下した500キロ爆弾を集中的に喰らったリ級は撃沈、軽空母ヌ級には三発命中したため、瞬く間に中破させた。その一方、ヲ級はこれらをたくみに躱したために、爆弾は一発しか命中しなかった。しかし別方向から低空飛行する天山も腹に吊り下げていた航空魚雷《九一式魚雷》を投下した。水しぶきをあげ、投下した数本の九一式魚雷は白い航路を残して、ヲ級たちに向かって突進する。

攻撃隊が放った魚雷を眼中にしたヲ級たちは回避行動に努めるようとするが……気付いた頃には、時すでに遅し。回避行動をしようと努めたが、青い海の暗殺者たちは牙を剥き、数本が直撃、水柱を立てた後、ヲ級は大破、ヌ級は無惨にも轟沈した。

 

「オ、オノレ……」

 

「やったわ!」

 

敵艦隊の壊滅を見て、瑞鶴は歓声を上げる。

 

「矢矧さん、秋月さん、敵艦隊の止めをお願いします!」

 

翔鶴は矢矧たちに止めをさすように依頼する。

翔鶴たちの自慢の航空隊は、もはや飛ばすことは無理である。先ほどの戦闘で、ほとんど矢を使い切ってしまったからだ。矢矧たちも同じく、このまま長引けば弾薬が底をついてしまう。

 

「了解しました。秋月、止めをさすわよ!」

 

「はい、矢矧さん!」

 

これを躊躇うことなく、魚雷を次発装填済み、ふたりに続き―――

 

「我々もサムライガールに担おう。同志たち!」

 

ニコライの問いに隊員たちは迷わず、おうと返事をする。

 

―――雷撃戦、開始!!

 

矢矧たちがよく狙って撃とうとした瞬間、近くで咆哮を上げる轟音、直後、水柱が立った。

 

次の瞬間、何者かが翔鶴に対し、砲撃を喰らわした。

 

「きゃっ!」

 

短い悲鳴と伴い、たちまち翔鶴は被弾し、中破した。

 

「翔鶴姉!」

 

瑞鶴は翔鶴を助けようとするが、咆哮ともいえる砲撃が彼女にも襲い掛かった。

しかし幸運にも瑞鶴を狙おうとした徹甲弾は、彼女が素早く回避行動をしたためすべて命中しなかった。

 

「「「何者(何者だ)!!!」」」

 

矢矧たちが声を合わせて、砲撃をしたであろうとした方角に視線を移した。

 

『てめぇーら、一歩でも動くんじゃないぞ?』

 

砲撃したであろう第三者が拡声器を持って警告を告げた。その正体は中岡の手下、明瀬だ。

しかも彼の趣味だろうか北朝鮮の国旗を揚げていた一隻のフリゲートが現われた。

 

「っく、敵の増援か……」

 

「迂闊でした…しかし、隙だらけです!」

 

秋月は61cm四連装(酸素)魚雷で明瀬が乗艦しているナジン級フリゲートに対して、雷撃を試みようとした――

 

『お前の眼は節穴か?』

 

「きゃあ!」

 

構わずに砲撃する。翔鶴同様、彼女も中破する。

 

「「「「秋月!(秋月さん!)」」」」

 

砲撃したのは彼ではなく、随伴艦として隷下した深海棲艦――戦艦ル級だ。

 

「馬鹿メ、警告ヲ聞カナイカラソウナルノダ」

 

彼女だけでなく、明瀬の部下が乗艦している高速艇や他の深海棲艦も砲身をむき出し、今にでも砲撃をしようと見せつけていた。

 

「アフガン侵攻並みに、ついてないな……」

 

立場が逆転された状況を見て、ニコライは呟いた。

 

「不幸だ……」

 

「そこは『不幸だわ』だろう、同志……」

 

「そいつは、きついジョークだぜ……」

 

同じく隊員たちも冗談をいうものの、本心はどう打開しようかと考えていた。

 

「翔鶴姉、大丈夫?」

 

「私は大丈夫よ、瑞鶴」

 

瑞鶴は心配するが、翔鶴は負傷しながらも彼女に笑顔を見せる。

 

「……矢矧さん、ごめんなさい」

 

「謝る事ないわ。秋月は最後まで戦おうとしたんだから立派よ」

 

矢矧は、どんな状況でも諦めず闘志を見せようとした秋月を褒めた。

 

『ああ~。そんな陳腐なものを見せつけられると漫画を読んだ方がマシだな……』

 

退屈なテレビを見るように、明瀬は翔鶴たちをまるでゴミを見るような目でつぶやき―――

 

『ってか、死なない程度に痛めつけて良いからやれ、人殺しはこっちでやるから』

 

彼の問いにル級たちは了解とうなずき、翔鶴たちを痛めつけて楽しんだ。

しかしその様子を窺う者に気づかず、もし上空を警戒していれば良かったと後々知ることも知らずに……

 

“ワレ敵艦発見、敵旗艦を含め戦艦二、重巡二、駆逐艦二、ほか友軍とおぼしき小型高速艦多数見ユ。なお味方の損傷は甚大なり、急ぐことを勧める。以上”

 

一機の哨戒機――二式飛行艇が敵情を送り、明瀬たちに気づかれぬように戦線を離脱した。




前作同様ですが、翔鶴たちと追尾者たちによる海戦であります。
一部有名な台詞があった? いいえ、知らない子ですね(赤城さんふうに)

では長話もさておき、次回は捕らわれた翔鶴とニコライたちを救出に行きます。
こちらも時間がかかるため、前編・後編に分けますのでお待ちを。そして前作同様ですが秀真たちが大活躍しますので、こちらもお楽しみを。

それでは第十話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十話:オペレーション・レスキュー 前編

任務:救出艦隊と支援部隊を編成し、敵艦隊を撃滅せよ!

ということで原作のような始まり、そしてオリジナル任務なのであります。
長話はさて置き、毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


数週間前に起きた襲撃、通称《ラジコン襲撃事件》から秀真と古鷹たち、そして良き戦友の郡司と彼の艦娘たちも協力して鎮守府、兵器工廠、入渠ドック、そして航空機を収納する格納庫などの復興工事を行なっていた。

 

「……しばらくの間は復旧作業と伴い出撃可能なのは第一艦隊。資材確保は天龍たちによる遠征部隊で乗り切らなければならないか」

 

秀真はため息をついた。

我が家でもある鎮守府を敵である深海棲艦ではなく、見知らぬテロリストによって襲撃されたことにショックを受けていたからだ。だが証人となり得る人物は自決、明石たちに回収したラジコンを調べてみたところ……それを使用している提督はいなかったものの、犯人を依頼した首謀者がいる鎮守府まで分かったのは不幸中の幸いだった。

現在は元帥と郡司の諜報部隊たちが各ブラック鎮守府に対して、潜入捜査にあたっており、証拠が回収次第、調査するとの方針である。

また元帥は各鎮守府のために、資材なども惜しみなく費やし、新型工作艦までも派遣してくれた。

これも驚いたが、なかでも一番驚いたのが横須賀型移動船台艦『呉』と関東型随伴工作艦『広島』という超弩級の工作艦だ。どちらも明石のように腰の辺りにクレーンの艤装を付けたエステシシャンの格好をしており、横須賀型はキャスター付きの寝台を東京型はアロマオイルなどが入ったキャスター付きの棚をそばに置いている。

修理・工作設備をもつ明石の負担も少し減らすことができ、さらに呉と広島のおかげで鎮守府が予定よりも早く回復し、鎮守府としての機能も二週間という早さで元通りにできるのだから驚いた。

先ほど報告をしにきた二人と話した。呉は腰まで伸ばした黒髪と魅力的な容姿、そしてメガネをかけたクールで知的な女医、広島は茶髪をしたショートヘアにサバけたノリの良い先生の女子大生のようなナースである。

明石と夕張はもちろん、本人たちは広島弁を喋るので浦風とともに仲良くなった。

そして彼女たちはボランティアとして中破また大破した艦娘たちのためにも修理までも無償でしてくれた。

明石ですら小破までしか修理できないのに対し、前者は苦も無くやってのけるから驚きの連続ではある。

 

しかし、それでも秀真の気分は晴れなかった……

 

「提督、落ち込まないで下さい。提督とみんなが無事であっただけでも嬉しいですよ……」

 

「古鷹の言う通り、あまり贅沢なんて言ったら、ダメだぞ」

 

古鷹と加古が言うと、隣にいた青葉もつぶやいた。

 

「そうですよ。青葉ももう二度みんなと離ればなれになんてなりたくありませんから……」

 

「大丈夫よ、青葉。提督と私たちがいるから……」

 

小さくうなずいた彼女の隣にいた衣笠は心配する。

 

「………………」

 

秀真はそう考えれば気分はそのとおりだなと思い、双眸を落とした。

今の状況がこれであるだけマシな方だと考えると、楽でいいのだから。

そして、なによりも第一彼女たちの想い、希望を踏みにじってはいけないのだから。

 

「大丈夫だ、俺は二度と離れはしない。最後まで足掻き続けると決めたんだ。それに……古鷹たち、いや、みんなのためならば―――」

 

最後まで言おうとする彼に―――

 

「提督、女の子に簡単に約束なんかしてはいけませんよ。できない約束は」

 

「そうですよ。青葉たちの約束を破ったら、怒っちゃいますよ?」

 

「もし約束を破ったら、衣笠さんが許さないぞ~?」

 

「みんなを泣かせたら、加古スペシャルを喰らわすからな~!」

 

ウインクする四人に、彼は微笑した。

 

「了解、指揮官殿」

 

「「「「よろしい、提督(司令官)」」」」

 

むかしプレイしたFPSゲーム、宇宙戦争を舞台とし、パワードスーツを纏った究極の兵士である主人公と、彼の相棒または守護天使ともいえる女性AIがこうして約束するシーンと重なるなと思い、秀真はおもわず微笑んだ。

秀真たちが他愛のない会話をしていると作業を終えたであろうか、郡司と秘書艦の木曾が報告しに来た。

 

「同志、こちらの作業も無事終えたよ」

 

二人は敬礼をする。

 

「すまない、キミたちにまで手伝ってもらうなんて……」

 

申し訳ないという気持ちを込めて言うも、郡司たちは気にするようなことでもないと首を振った。

 

「同志、気にすることはない。こっちはもう復旧工事は終わったし、それに困ったときは助けるのは当然のことだ」

 

「俺の指揮官もお人好しだからな。でもそこが俺の惚れた原因でもあるけどな」

 

「それを言うと照れてしまう。いや、恥ずかしくなってしまうよ」

 

微笑ましい光景を見た秀真は口を開いた。

 

「そう言えば郡司、昨日の……俺に伝えたいことってなんだ?」

 

彼の言葉に先ほどの笑顔から真剣な眼差しと表情へ打って変わり、郡司は語り始めた。

 

「元帥と我が諜報部隊から連絡が来た。やはり首謀者がいる鎮守府を突き止めたのと連絡および艦娘たちの救助作戦は無事成功したとの事だが……」

 

「それは良いニュースか、それとも悪いニュースか?」

 

秀真は尋ねた。

 

「今のが良いニュースだ。もうひとつの悪いニュースは本来ならば五航戦の娘たちも一緒に脱出する際に使用するCV-22《オスプレイ》に支障が出てね。ただ幸いにもそのブラック鎮守府に停泊しているフランス製の高速戦闘艇DV-15《インターセプター》を鹵獲、それに乗艦――彼女たちと共に脱出したとのことだ」

 

「うむ。ほかの艦娘たちは?」

 

「大丈夫だ。ほかの艦娘たちは無事に各鎮守府、良識な提督たちの元に無事到着した」

 

「それは良かった。問題の五航戦の子とニコライたちは?」

 

「もうじきこちらに寄港するとの先ほど連絡が来たのは良いが、それにしても同志たち、遅いな……」

 

郡司は腕時計を確認する。約束の時間をとうに一時間は過ぎているのだと言う。

もしや事故かこの近海辺りでトラブルにでも遭っているだろうかと視野を入れて、考えていると―――

 

「提督、鎮守府上空にいる哨戒機から入電!近くに友軍らしき艦隊が敵艦と交戦中!!」

 

交信を傍受した古鷹は、秀真たちに知らせる。

 

「五航戦の子とニコライたちか?」

 

「はい、しかし、おかしなことに深海棲艦だけでなく、友軍の艦隊に包囲されているとの報告があるんです……」

 

息を詰まらせながら、古鷹は答えた。

 

「同志、もしかして奴らの可能性もあり得るな……」

 

「その通りだな。もしや襲撃した奴らの一味に違いない。よし、そうとなれば……」

 

敵であろうが友軍でもあろうが、彼女たちを傷つける輩は手厚く歓迎しようではないか。

つまり“血には血を、毒には毒を”である。

 

「すまないがみんな、俺のわがままに付き合ってくれないか?」

 

彼の誘いに、彼女たちは微笑した。

 

「もちろんです。提督のためなら私は何処にでもお供いたします」

 

「あたしも喜んでいくよー!」

 

「司令官、お誘いを断る理由なんてありません。青葉は何処にでもお付き合いします」

 

「提督の御誘いなら、衣笠さんも喜んでいくわ!」

 

古鷹と加古は微笑み、ニヒヒッと満面の笑みを浮かべる青葉と衣笠も同じく、秀真のわがままを受け入れた。

 

「ありがとう、みんな……」

 

「同志、僕も忘れては困るな」

 

「俺も困っている馬鹿どもをほっておけない主義でな!」

 

ベレー帽を被り直す郡司に、木曾も同じく申し入れ――

 

「提督、私もお手伝いします!」

 

「べつに五航戦の子たちを助けるためではありません、任務ですから」

 

「ふふふ、加賀さんったら」

 

「提督、空母戦なら私と飛龍も!」

 

「敵空母がいるのなら徹底的に叩いちゃいましょう!」

 

大鳳も同じく、赤城、加賀、蒼龍、飛龍も意見は一致だ。

 

「ありがとう。では彼女たちを救うため出撃だ!」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

出撃と伴い、秀真のスマホから一通の電話が届いた。

 

「はい、もしもし」

 

『間に合ってよかったですな……』

 

秀真のスマホに掛けてきた人物、しかも登録していない人物、声からして男性だ。

 

「誰だ……」

 

『突然のところ失礼します。今はある方のご命令によりお答えできませんが、ただいまからそちらに三つのワープゲートが出現しますので、そこを通るようお願いします』

 

「もしかして古鷹たちが言ったものと同じか……」

 

『その通りです、あなたはご理解が早くて助かります。それはさて置き、今からそれらを出現させます。

彼女たちにもそれぞれのワープゲートを通るようにお伝えください』

 

「分かった……だが、いったい何者だ?」

 

『あなたのファンの一人です。いまは事情によりお話しできませんが、その時がくれば必ず説明します。それではご武運を祈っています』

 

謎の人物は電話を切った。秀真は、もう一度スマホの通信履歴を確認すると、それは残っていなかった。

本当はもっと問いかけたかったが、一刻の猶予が無い為、郡司や赤城たちに説明をした。

もっとも古鷹たちが以前経験しているため、彼女たちのおかげで状況を分かってくれたのが幸いだった。

全員がすぐさま了承したとき――三つのゲート、謎の人物が伝えたとおり、それぞれのワープゲート(正方形をした雷雲)が出没した。

 

古鷹たち以外、最初は誰もが戸惑いを感じたが、秀真は迷うことなく、出撃を決意した。

 

「よし、俺たちからだ。古鷹たちも後で追ってくれ」

 

「了解しました。みんな行くよ!」

 

「木曾。僕は同志と先に行くから!」

 

「おう、あいつらのことはお任せておけ!」

 

最初は秀真と郡司が突入、次に艤装を取り付けた古鷹たちが空間に突入、最後は木曾を旗艦とする救出艦隊が突入した。救出艦隊がゲートに突入すると、空間の歪みは消え、いつも通りの風景に戻った。

 

「提督、どうか御無事で……」

 

大淀と残った艦娘と憲兵たちは、この作戦が成功し、みんなが無事に帰投できますようにと祈るのであった。

 

 

 

とある海域。

夕日は沈みはじめ、夜になろうとしていた。

死なない程度に痛めつける翔鶴たちを見て、明瀬は片手に冷やしておいた赤ワインを堪能しつつ眺めていた。

 

「クソッ……サムライガールたちが痛めつけられているのをただ見ているだけか」

 

「助けたいけど、この状況じゃ……」

 

「本当にここは最悪だ。カンボジアが天国に思える」

 

「ここは海だが……」

 

各々愚痴をこぼすニコライたち。翔鶴たちを助けようにも武器は全て回収されているため、助けることができない。

 

「ケッケッケッ、どうだ。お前たちも寝返るなら今のうちだぞ。寝返ったらお前たちには永久の至福と栄光が待っているのだから、よく考えていた方が良いぞ?」

 

独特の笑い声を発した明瀬は、挑発紛いの言葉でニコライたちに説得をした。

しかしこの悪魔の誘いに、彼らは冗談じゃないと言い返す。

 

「ほう、それが貴様らの答えか……」

 

想定内とでもいえるのだろう。明瀬はクイッと顎を動かす。

傍に部下から授かった竹刀を受け取り、ニコライたちに見せつけるといなや―――

 

「精神注入棒だ!」

 

勝ち誇ったかのように、ニコライの背中を思いっ切り叩きのめす。

彼は背中の激痛に耐えかねず前のめりで倒れる。ニコライの次に部下たち、一人、一人、また一人とこれを繰り返した。

 

「「「「ニコライさん!!!!」」」

 

その光景を目にした翔鶴たちは叫んだ。

しかし彼女たちも助けたい気持ちがあったが、この圧倒的な戦力の前では下手に動くことができない。

 

「私たちのために助けてくれた人たちを……」

 

「このまま見殺しなんてできない。でも……」

 

「せめて反撃のチャンスすらあれば……」

 

「死ぬ前に命の恩人すら助けられないなんて……」

 

「「ダマレ…」」

 

彼女たちの傍にいた二隻の重巡リ級が8inch砲を向けて、黙らせる。

 

「安心シロ…アイツラヲ殺シタ後ニオ前ラモ後ヲ追ワセテヤル……」

 

不敵な笑みを浮かべるル級の言葉に続き、明瀬は死刑宣告した。

 

「ケッケッケッ、それじゃ博愛主義者の兵器どもと哀れな軍人諸君に対し、いまから公開処刑を行ないます」

 

明瀬は竹刀から金色に染めた大型自動拳銃――アメリカのマグナムリサーチ社が設計した、世界有数の大口径自動拳銃《デザート・イーグル》を向け、引き金に指を落とそうとした。

 

「何だ……この音は……?」

 

明瀬たちの頭上を先ほどから響いていた低音が駆け抜ける。姿は見えなかったが間違いなく、航空機、それも大型機のプロペラ音だ。

 

「これはタフな天使が来てくれたな」

 

空を見上げるニコライたちは、タフな天使、その正体が何なのかを知っているらしい。

 

「おい、ヲ級。全艦載機を飛ばせ!」

 

「了解……」

 

高速修復剤で回復したヲ級が艦載機を発艦させようと準備したが――怒涛の如く、夜空から突如として降り注いだ死の"光の矢"がヲ級を死へと誘った。砲撃者の正体はAC-130対地攻撃機《スペクター》だった。

ガンシップと呼ばれるこの機体は25mm機関砲、40mm機関砲を搭載し――それだけでは求めたものに届かず、ついには105mm榴弾砲まで装備した味方にとっては救いの女神、敵にとっては疫病神とも言うべき存在だった。

 

「おのれ……忌々しい米帝どもか!?」

 

AC-130の105mm榴弾砲により轟沈したヲ級を見て、明瀬は唇を噛んだ。

またかれらの砲撃だけでは終わらず、一機の水上機――零式水上偵察機が爆弾のようなものを投下した。

次の瞬間、その場にいた者たちの視界を遮るほどの閃光が走った。

 

「今度は何だ!」

 

零式水上偵察機が投下したもの、それは吊光弾(ちょうこうだん)だった。

一時的とはいえ上空は白昼のような明るさを取り戻した。それに見とれていた明瀬たちに対し―――

 

「敵艦発見。古鷹、突撃します!」

 

敵艦発見!との確認を終え、古鷹は20cm連装砲の俯角を上げ、敵艦がいる距離に合わせ、そして―――

 

「主砲狙って、そう…。撃てぇー!」

 

彼女の号令と伴い、一斉射、20cm連装砲が火を噴いた。

古鷹が放った砲弾は雷巡チ級に直撃、これを喰らったチ級はなすすべなく大破、さらに渾身の一撃ともいえる砲弾がもう一発襲い掛かり、轟沈した。

 

「眠いけど、サボっちゃうと提督と古鷹に怒られるからな」

 

「よーし、青葉も追撃しちゃうぞ!」

 

「衣笠さんから逃げても無駄よ!」

 

敵艦を撃破した彼女に倣い、加古たちもこれに遅れまいと20cm連装砲を全門斉射、砲戦を開始した。

 

「あの兵器どももいるのか!?」

 

突然の襲撃者に驚き、慌てふためいた明瀬は、友軍に迎撃せよと命令を下す。

しかし見事に古鷹たちの奇襲攻撃を喰らったため、次々と大破または轟沈し、砲戦を未だしているのは数えきれるほどだった。苛立つ間にも、またもや響き渡る爆音、それらと伴い、駆逐艦たちの大半が何者かの攻撃により中破ないし大破していく姿を目にした。

 

「米帝のAC-130、兵器どもだけじゃなく、別の航空機もいるか!?」

 

第三者であるAC-130だけでなく、別の航空機による攻撃だった。

しかも翔鶴たちとは違い、熟練された航空機たちが一斉に駆逐艦や高速艇を行動不能にまでさせる。

まさに蝶のように舞い、蜂のように指し、蟷螂のように喰らう熟練パイロットたちを目にした彼女たちは見覚えがあった。

 

「この熟練した艦載機の動きは、もしかして……」

 

「ええ。あの動きはまさしく……」

 

翔鶴たちは顔を合わせうなずくと、その人物たちが正体を現した。

 

「第二次攻撃隊!全機発艦!」

 

「こちらも発艦して」

 

「攻撃隊、発艦はじめっ!」

 

「第一次攻撃隊、発艦っ!」

 

「優秀な子たち、本当の力を見せてあげて!」

 

郡司の切り札、一航戦の赤城と加賀に、二航戦の蒼龍と飛龍、そして秀真の切り札である大鳳が支援する。

 

「くそっ…博愛主義どもが何人来ようと同じ事、こちらには人質がいるん…だ…?あれ?」

 

間抜けな声を漏らした明瀬は、翔鶴やニコライたちを確認したが、自分たちが気付かないうちに姿を消した。何処にいったと周囲をキョロキョロと、見渡すと……

 

『形勢逆転だな! 捻くれた小男!』

 

「………!」

 

明瀬は、声のする方向へ振り向く。

上空にいた二種類の航空機……秀真が操縦しているのは、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社が開発したF/A-18A-D 《ホーネット》の発展型戦闘攻撃機―――F/A-18E《スーパーホーネット》だ。

これらは米空軍だけでなく、自衛隊の新型戦闘攻撃機としてもF-2とともに活躍している。

 

「彼女や同志たちを苛めるのは感心しないな、本当に」

 

もう一機の戦闘攻撃機はSu-33、ロシアのスホーイ社が製造する戦闘機Su-27の艦上戦闘機版であり、愛称は《シーフランカー》と呼ばれている。

なお敵機と間違われないために、航空自衛隊のF-15J戦闘機と同じ制空迷彩色に施し、装備に関しては米軍製兵器を運用している。郡司いわく「某怪獣王の映画に登場した日本防衛軍のF-7Jを模倣した」とのこと。

本来ならば空自に配備されていない戦闘攻撃機なのだが……郡司がむかし、ニコライたちを助けたので、そのお礼として貰ったらしく本人もロシア軍好きだから、本機を気にいっている。

 

「まったく弱い者いじめしかできないとは……お前等の指揮官は無能だなぁ!」

 

また、別の方向を向くと先ほど痛めつけた翔鶴たち、そしてニコライたちを救った人物たちもいた。

 

『ナイスだ。川内、神通、那珂』

 

「久々の夜戦だから、張り切らないとね!」

 

「こんな私でも、提督のお役に立てて…本当に嬉しいです」

 

「那珂ちゃんも活躍したよー!」

 

『木曾、時雨、夕立。彼女と同志たちの救出作戦、見事だったよ』

 

秀真に続き、郡司も労いの言葉をかける。

 

「当然の結果だ、別に騒ぐほどのこともない……だがお前と親友の立てた作戦だからこそ俺も応えてやらねぇーといけないからな」

 

「僕たちが勝利できたのは、提督のおかげだよ」

 

「夕立ったら、結構頑張ったっぽい?提督さん、褒めて褒めてー♪」

 

『ああ、みんなよく頑張ったな。すまないがもう一仕事だ。翔鶴と同志たちを連れて、ここから離脱せよ』

 

『川内たちも彼女たちのエスコートを頼む!』

 

了解と短く返答し、木曾たちは要救助者である翔鶴とニコライたちを連れて戦線を離脱した。

 

『郡司、我々も派手に暴れようじゃないか』

 

『うむ。こちらもお返しをしないと気が済まないからな……』

 

『それじゃ、俺たちも突入だ!』

 

『了解!』

 

異議なし。意見は一致だ。よし散々好き勝手暴れていた奴らに攻撃開始―――

二人は古鷹たちを援護すべき敵艦隊に向け、突撃した。




タイトルは「超空の決戦」に出た自衛隊が考案した作戦「オペレーション・レスキュー」であります。ここは前作と変わりなく採用しました。
今回はとある同志から提供してくれたオリジナル艦娘であります。容姿は適当ですが。
なお秀真に対し、古鷹が言った台詞はHALOの登場キャラ、コルタナの名台詞より。

そして前作は赤城と加賀さん、大鳳だけでしたが、二航戦こと蒼龍と飛龍も参戦しました。アニメでは出番が少なかったけど何ででしょうね?
F/A-18はこの世界では空自が少数ですが制式採用しており、前作では郡司はそれに搭乗していましたが、彼らしい個性を出すためにSu-33戦闘攻撃機に変更しました。
ロシア戦闘機はミグも好きですが、私はスホーイ派であります。

神通「あ、あの提督、次回予告を……」

おっとお帰り、そしてお疲れ様です。

では切りが良いところで、次回はこの続き、後編であります。
秀真と古鷹たちの活躍はもちろんですが、次回はまた少しですが新兵器(艦載機)も登場しますのでお楽しみを。

それでは第十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです。提督、お疲れ様です…」

ロシアンティーを飲んで、待っておきますか……


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第十一話:オペレーション・レスキュー 後編

調子に乗って投稿であります。

では後書き、予告どおりの後編であります。

なお今回も一部台詞なども変更している部分がありますが、最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


「何人来ても同じだ。お前たち迎撃せよ!ひとりも生かすな!」

 

顔を真っ赤に染め、激怒した明瀬は、自身の部下や深海棲艦たちに「迎撃せよ」と命じた。

指揮官として感情任せにしては無能な指揮官を表しているものである。

 

「慢心したのが運の尽きですね」と赤城。

 

「その通りですね、赤城さん。如何なる時でも勝ち誇っていた時点で負けたも当然ですから」と加賀。

 

「対空見張りもきちんとしないといけないもんね」と蒼龍。

 

「慢心はダメ、ゼッタイ、索敵は大切にね!」と飛龍。

 

「そうね。小さな慢心が命取りになることもあるわ」と大鳳。

 

赤城たちの言葉を聞いた明瀬は激怒した。

 

「黙れ!貴様ら全員、ここで沈めてやる!」

 

安い挑発に乗った明瀬は手を下ろすと「全艦突撃せよ」と命令を下した。もはや指揮および陣形すら命令できないほど冷静さを失っていた。

 

赤城たちはこのチャンスを逃がすことなく、陣形を組み、ふたたび攻撃を開始した。

 

「攻撃隊、発艦!」

 

「五航戦の子たちを痛めつけた報いを受けなさい」

 

「全艦載機、攻撃開始!」

 

「よしっ、友永隊、頼んだわよ!」

 

「そうね。この際、徹底的に撃滅しましょう!」

 

新たに赤城たちの艦載機たちが発艦、瞬く間に編隊を組み、敵に向かって飛翔する。

艦載機はお馴染み烈風改、震電改、天弓改だが、見慣れない双発戦闘機までもいた。

明瀬だけでなく、深海棲艦も驚愕した。とくに別個体のヲ級やヌ級は驚いた。

自分のもつ艦載機よりも速く、そして夜戦に参加できる機体などほとんどなかったなどと

脳裏に浮かぶとともに、双方の空戦が始まった。

烈風改と震電改と天弓改の合同部隊はもちろんだが、この双発機も恐ろしいくらいの旋回能力と攻撃力を持っていた。

この双発機の正体は、かつて三菱が開発したキ83試作遠距離戦闘機である。

就役されたばかりのこの複座戦闘機の公式名称は《閃光改》と名づけられた。

むろん震電改、天弓改と同様、改がつくのは空母艦載機として改良されたからである。

長距離戦闘機だけでなく、偵察機としても戦闘攻撃機としても運用できる万能機である。

戦闘機タイプと250キロ爆弾を装備した戦爆タイプも開発・生産に成功した。なお後者は投下後、戦闘機としても活躍できる。

 

熟練した搭乗員が操る艦載機群が制空権の確保および敵艦を沈めるのは容易だった。

ヲ級たちの艦載機群も必死になって撃ち落そうとしたが、見るに堪えかねない状況だった。

自身の持つ深海艦載機よりも敵機があまりに優秀すぎたからだ。

格闘戦をしても、急降下で振り切ろうとすべてが喰われ、無残にも全機が撃ち落された。

喰われていった敵機は、上空に打ち上げられた花火のように火の粉になって落ちていった。

空戦は五分とも掛からなかった。圧倒的な最新機の性能差と技量差があるのではどうにもならなかった。その隙に彗星と流星部隊に、爆装した閃光部隊が敵艦隊に襲い掛かった。

彗星隊は一本棒になると急降下し、腹に抱えた250キロ爆弾を投下、敵艦隊に叩きつけた。たちまち爆弾は命中し、敵艦に大打撃を与え、中破または大破した。

これらに止めをさそうと流星改隊が低空から襲い掛かり、魚雷を放つ。むろんこれらはベテラン搭乗員たちが放った魚雷だ。それらが敵艦に次々と命中し、轟沈させていく。

同じく閃光部隊も米軍の中型双発爆撃機が行なった戦法《スキップボミング(反跳爆撃)》を開始した。

投下された反跳爆弾は水切りのように飛び跳ね、目標たる敵艦に命中を知らせるように、船体に衝突すると瞬く間に遅延信管が作動し、船体を爆破した。爆発の衝撃で抉られた部分からは暗闇でも関わらず、紅く綺麗な炎が煌めいた。

 

『レディーたちの援護を開始するぞ!』

 

もちろん彼女たちでなく、上空から旋回をするAC-130がこれに加わる。

まず機体側面に装備されたボフォースL60 40ミリ機関砲が猛然と火を吹いた。

たった一門でも脅威的な威力を持つ40ミリ機関砲弾は、着弾時に生ずる衝撃と爆風は装甲のない高速艇と駆逐イ級たちをボロボロに引き裂いた。次はコイツだと射撃手が手にしたのはGAU-12 25ミリ機関砲――毎分3600発の徹甲焼夷弾の雨で敵艦たちを蜂の巣にする。25ミリ機関砲の砲身が海面に向けられ、射撃開始。

あまりに高速で放たれるため、野獣のうなり声のようにも聞こえる。先ほど同様――これまた紙切れのように敵艦をボロボロに引き裂いて行く。

 

『俺たちも遅れないよう、攻撃開始だ』

 

『了解、同志』

 

AC-130の活躍ぶりを見た秀真たちは二機の鋼鉄の翼は編隊を組み、両機の胴体に抱えた対艦ミサイルの傑作AGM-84ハープーン・ミサイルを発射。ロックオンされたハープーンは敵艦に向かって飛翔する。

ハープーンが飛翔してくるのを目視した深海棲艦たちは一斉に散開するも、一度ロックオンされたものから逃れるすべはなく、撃沈される運命は避けられなかった。

 

『ナイスだ。郡司』

 

『スパシーバ。同志』

 

またたく間に秀真たちの活躍により制空権確保。一気に戦況は秀真たちの優勢へと変わった。

 

「提督と赤城、AC-130のパイロットさんたちが制空権を確保しました!」

 

「よーし、次は青葉たちの出番ですね!」

 

「そうね、提督の期待に応えないとね♪」

 

「あいつ等に加古スペシャルを喰らわしてやらねぇーとな!」

 

古鷹たちもこれに担い、弱体化した敵艦隊に向けて砲戦する。

先ほど吊光弾を投下した古鷹の零式水上偵察機が「いつでも着弾観測用意完了です」との連絡をした。

敵はこちらに気づいていない。と知ると―――

 

「左舷、砲雷撃戦、用意!」

 

一同はうなずき、主砲の仰角を上げ、そして観測機がいる方向へと向ける。

 

「よく狙って、そう…。撃てぇー!」

 

「よっしゃあ!喰らいやがれ!」

 

「ほら、もう一発!」

 

「敵は、まだこちらに気づいてないよ」

 

古鷹たちは躊躇うことなく撃つ、撃つ、主砲を撃ちまくった。

なお青葉の言う通り敵艦は秀真たちに気をとられていたため、不意を突かれたル級たちに見事着弾し、大破へ追い込む。古鷹たちの集中砲火を浴び、他の深海棲艦と高速艦も無惨な最期を遂げる。

秀真たちも残り少ない深海棲艦たちに向け、搭載したハープーン・ミサイルを撃ちまくった。

これを撃ち切ると、秀真はアメリカ合衆国のゼネラル・エレクトリック(GE)社が開発した20mmガトリング砲――M61A1バルカン砲で、郡司はロケット弾およびGSh-30-1 30mm機関砲で機銃掃射を開始した。

これまた深海棲艦ないし高速艇らを全てハチの巣にし、敵に恐怖心をあたえたから堪らない。

 

『このまま一気に畳み掛けるぞ』

 

一同は後退していく敵艦たちを追い詰めていく。

 

 

 

 

 

「クソッ、此処からいち早く離脱せねば……」

 

形勢逆転。圧倒的な戦力で包囲して我が物顔をしていた明瀬の艦隊は、壊滅状態になった。

この状況を目にした明瀬は、ただこの場から逃げ出すことだけを考えていた。

 

「全艦、退くことは許さない!今こそ将軍様にその命を捧げることだと思え!」

 

陣形を組んで突撃する合同艦隊を後ろから指揮する明瀬は孤立した旗艦フリゲートを反転させ、せっせと自身だけ撤退準備を開始した。他の部下や同盟を結んでいる深海棲艦たちの命など知った事では無いのが本心だ。姑息な小男だからこそこのような捻くれた性格なのかもしれない。

 

「あ……ってか、一隻ぐらい轟沈してから帰投しないとな」

 

キリキリと音をした56口径100mm単装砲が狙いを定めた目標は、砲撃中の古鷹だ。

自身が見捨てた部下と深海棲艦たちはもはや廃艦当然だった。最後まで砲戦していたル級がいま大破し、そして轟沈を確認した。

 

「勇んで逝けと声がする~♪」

 

何かの童話を歌っていた明瀬は外道ともいえる嫌味な表情を浮かべ、そして―――

 

「撃てぇー!」

 

発射された砲弾が古鷹に向かって、飛翔した。

 

 

 

最後の一隻を攻撃し、これを撃沈したと見た古鷹たちは歓喜していた。

 

「敵艦隊。全滅しました」

 

最後の一隻、戦艦ル級以下――自分たちと砲戦していた全敵艦隊が轟沈または大破したことに勝利に喜んでいた。

 

「ふふーん。衣笠さん最高でしょ!」

 

「古鷹、見てくれてた?」

 

「もう、加古ったら……」

 

古鷹は、調子に乗ろうとする加古を注意しようとした瞬間、ドーンと鳴り渡る砲撃音。

彼女たちが油断大敵していたところを撃たれたのだ。その砲弾は古鷹に命中するかと思いきや―――

 

「古鷹!危ない!」

 

咄嗟の判断をした青葉が彼女を庇ったため、古鷹は中破は免れることができた。

 

「……青葉!どうして庇ったの!?」

 

中破しながらも青葉はニッコリと笑い、答えた。

 

「あの時は古鷹が青葉のために庇ってくれたお礼だし、言い訳になるけど罪滅ぼしかな?」

 

「ば、バカ、私はそんなこと気にしていないのに!」

 

前世の記憶。

あの時もガダルカナル島沖に向かう途中のサボ島沖で敵艦を味方艦と誤認し集中砲火をくらい大破した青葉を逃すため古鷹は彼女をかばい、青葉の代わりに米艦隊の集中砲火を浴び転覆、沈没してしまったのだ。

 

決して青葉に罪はない。

 

しかしあの事件、《ラジコン襲撃事件》の、その罪滅ぼしというべく取った行動を表したのだろう。

 

あの時も呉軍港にある彼女の名前がついた山を守り―――

 

そして生まれ変わっても司令官と彼女を守るため―――

 

大好きな彼に言われた、あの言葉とともに決めた覚悟を―――

 

「だから決めたんです。『強くなれ』と励ましてくれた司令官の、司令官の言葉どおり、青葉は今度こそ古鷹とみんなを守ります!」

 

「もう、青葉ったら……」

 

青葉の前に立ち、古鷹は20cm連装砲をフリゲートに向ける。

 

「無茶しちゃダメだよ。……でも守ってくれてありがとう、青葉」

 

「いえいえ……」

 

「もう青葉、提督と私たちがいるって言ったでしょう♪」

 

倒れそうになる青葉を支え、ウインクをする衣笠と―――

 

「あたしも気にしてないよ。青葉」

 

古鷹の横に立ち、砲戦を構える加古も責めることはなかった。

 

「だから抗おう。運命に!そして私たち【第六戦隊】のちからを見せてあげましょう!」

 

「「「もちろん!!!」」」

 

一同はうなずき、再び目標たるフリゲートに合わせ、20cm連装砲を向けた。

 

「ふん。ガラクタどもは無駄な足掻きをせずにさっさと―――」

 

不愉快だと一蹴する台詞とともに、彼女を狙おうと再び発射しようとした寸前、予期せぬことが起こった。

 

『おっと。そうはさせないぜ』

 

『また弱い者いじめか、無能指揮官』

 

上空から秀真たちが妨害するよう、機銃掃射をふたたび開始する。

 

「この博愛主義どもが! 落ちてサメの餌になれ!」

 

これに激怒した明瀬はナジン級フリゲートに搭載していた旧式の近接防御兵器――ソビエト連邦が開発した艦載機関砲システムAK-230遠隔操作連装砲を向けようとしようと照準を合わせ、撃ち落そうと試みるが―――

 

「そうはいかないわ」

 

「全機発艦、提督と古鷹さんたちの援護を」

 

「江草隊もみんなを掩護して!」

 

「第二次攻撃の要を認めます、急いで!」

 

「全機突撃! 敵旗艦を掃射します!」

 

『負傷したレディーたちを苛めるとは、指揮官として失格だな!』

 

これまた加賀に続き、赤城、蒼龍、飛龍、大鳳の艦載機群と、そしてAC-130が攻撃し、これを阻止する。

 

『古鷹、今のうちに敵艦を攻撃せよ!』

 

『我々が引き付けている間に、敵旗艦に止めを!』

 

秀真と郡司の応答に、はいと呼びかけた古鷹たちは連装砲で、目標たる明瀬が乗艦しているフリゲートに向けた。

 

「よく狙って、用意……撃てぇー!」

 

古鷹の号令と伴い、20cm連装砲を撃ちこむ。古鷹に続き、加古、青葉、衣笠も斉射した。攻撃目標の旗艦――明瀬が乗艦しているフリゲートに砲火を浴びせる。たちまちナジン級は火災が発生した。たちまち戦闘能力を失われてしまったナジン級は、必死になって100mm単装砲を撃ちまくったが、ついに一発の砲弾が命中したため、主砲は破壊され、ついには全兵装が使い物にならなかった。四人の艦娘、しかも巡洋艦クラスに撃ちまくられたら、ひとたまりもない。この恐怖にやられた明瀬は、ついには指揮を放棄、反撃しようとする乗組員や必死の消火活動するダメコン・チームにも目もくれず、我先に、自分だけ逃げようと高速艇を用意し始めたが……

 

「………っえ!?」

 

こちらに近づく雷跡を見た瞬間、またしても間抜けな声を漏らした。

何本かは躱したが、大量に撃ちだされた魚雷を躱すことは難しかった。古鷹たちの渾身の一撃ともいえる魚雷が命中する閃光を走った。その証拠に四本の水柱が敵艦の右舷に高々と舞い上がった。

 

明瀬が最後に目にしたもの、雷跡、それは古鷹たちが発射した必殺の酸素魚雷だったというのは言うまでもなかった。

 

「ぎゃああああああーーー!」

 

いかにも悪役らしい断末魔ともいえる悲鳴を上げるとともに、雷撃と集中砲火を浴びたナンジ級は弾薬庫に命中して、大規模な炎を挙げながら船体が真っ二つに折れ曲がって轟沈、そしてフリゲートの全乗組員は脱出する事すらできず船と共に沈んでいった。

 

『大丈夫か、みんな?』

 

提督の声を聞いた古鷹たちは安堵の笑みを浮かべ、答えた。

 

「はい、提督。みんな無事です」

 

古鷹たちを見た提督も同じく、安心した。

 

『同志、木曾たちからの連絡が来た。五航戦と矢矧と秋月、そして同志たちも無事辿り着いたとの事だ』

 

『そっか。みんな無事で何よりだ』

 

『これで運命に抗ったから出来たことだ。古鷹たちの運命も塗り替えることができた』

 

提督が呟くように言うと、郡司もそうだなと表情を浮かべた。

 

『よし、みんな帰投しよう』

 

『帰ったら、僕と同志が美味いものでも作ろう』

 

『賛成。皆もそれで良いか?』

 

古鷹たちは「賛成!」と返答、一同は我が家である鎮守府を目指し、帰投した。

 

「提督……」

 

『どうした。古鷹?』

 

「私と青葉、みんなを助けてくれてありがとう」

 

『当然のことをしたまでだ。でも皆を助けられて本当によかった』

 

冷静にしゃべるのだが、本人は照れくさそうでもあるのは言うまでもない。

 

 

 

 

某所――

 

「そっか……無事にキミの鎮守府についたか」

 

元帥は、秀真の報告を聞いていた。

彼と郡司の救出作戦および無事にたどり着いた翔鶴率いる五航戦、ニコライたちが無事だったことを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「報告ありがとう。キミも十分に休みたまえ。阿賀野たちは私が保護しているから手続きが終了次第、キミの艦隊に配属されるから安心したまえ。それでは三日後の会議で会おう」

 

彼女は労いの言葉を言い、受信器をそっと置いて電話を切った。

 

「今回もキミのおかげだよ。大鳳と最新鋭機の件についてもだが、今回のワープゲートに関しても感謝している」

 

彼女のまえに立つ、一人の男に話した。

 

「いえ、わたしは当然のことをしたまでです」

 

元帥のまえに立つ男、灰色づくめの男は落ち着いた口調で答えた。

 

「ふむ。しかし、相変わらずキミは不思議な力を持っているよ」

 

「……いえ、これぐらいは大したことではありません」

 

男は平然と言った。

 

「しかしこれから起こることは、私にもにわかに信じがたいが……もしこれらが起こったら、彼のサポートをよろしく頼む」

 

「わたしはこのためにいるのですから、それなりの支援はいたします」

 

「うむ。よろしく頼むぞ。灰田……」

 

灰色づくめの男こと灰田は、にっこりとした。




今回は新兵器は、田中光二先生の作品「天空の要塞」に登場した究極の双発戦闘機こと閃光を登場させました。なお原作では戦闘機タイプのみでしたが、オリジナルとして戦爆タイプの零戦62型のように、戦爆タイプを登場させました。
原作では序盤は登場したのに、のちほど出番が無くなりますが、好きな機体なので登場させました。
なお史実では50キロ爆弾ですが、改ということで250キロ爆弾にしました。

ようやくですが、あの人も少し登場しました。後々どうなるかはお楽しみに。

では切りが良いところで、次回は新たなる敵が登場します。
新たなる敵の登場により、襲い掛かる危機に秀真たちはどう立ち向かうかという話が続くと思いますので、お楽しみを。

それでは第十二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十二話:連邦共和国の誕生

とある事情、傷心を癒すためにすこし遅れました。

では予告どおり、新たなる敵の登場であります。

そして毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


元帥の伝言から三日後、緊急会議が行われた。

今後の作戦会議はもちろんだが、何よりも今回は最重要な課題、翔鶴たちが所属していた鎮守府の提督、死亡した中岡提督は除き、彼の仲間であるブラック提督たちの計画を暴き、そして彼らを更迭するために参加したのだが……

 

「ですから死亡した中岡提督や彼の仲間たちは私たちを排除し、さらには深海棲艦と同盟を結び、全海域だけでなく、全世界を支配することを企てています!」

 

翔鶴たちが必死に訴えようとするも、これを真面目に聞こうとする者はすくなかった。

 

「かりに深海棲艦と手を結ぶなんて馬鹿馬鹿しい。そんな無謀なことをしても我が軍には、最大の同盟国たるアメリカがいるんだ」

 

「中岡はすでに射殺されたのは分かるが、彼の仲間であるブラック提督たちはこの三日間、国内から突然と姿を消したじゃないか?どこかで自殺したのかもしれないのが有力ではないか?」

 

「そうさ。彼らは首謀者である中岡が殉職したあと烏合の衆となり、そして自暴自棄になって自決したのだよ!」

 

多くの者たちがその通りだと頷いていたが、元帥と秀真と郡司だけはうなずくことはなかった。

 

「彼女たちがこれだけ必死に訴えているのに、キミたちは翔鶴たちの証言を嘘だというのかね?」

 

「いいえ、我々は別に彼女たちの証言を軽視しているわけでは……」

 

彼女の言葉に言葉を声を詰まらせたものの、すぐに弁明をしたが……

 

「それじゃ、まるでブラック提督たちと同レベルだな」

 

「全く根拠も欠片もない推測だね」

 

秀真と郡司の言葉に、ほかの提督たちは激怒した。

 

「元帥はともかく……そこの貴様ら、それでも―――」

 

『まったく博愛主義たちは耳障りな会議が好きだな!』

 

突然とさえぎる第三者の声、その声の主に聞き覚えがある翔鶴たちは蒼ざめた。

あの時はニコライによって射殺されたのに、なぜ生きているのかと目を疑ったのも無理はない。

彼女たちはもちろん、ニコライたちですら、まさか影武者だということは知る由もなかった。

 

「……中岡!」

 

唯一、もう二度と見たくもない憎き相手を見た瑞鶴は弓を構えた。

 

「落ち着け、瑞鶴。映像を攻撃しても意味がない!」

 

秀真は制止し、翔鶴に瑞鶴が落ち着くように依頼する。

 

『あらためまして博愛主義の異端者および兵器ども。俺様は連邦国代表であり、中岡大統領である』

 

最初は翔鶴たちの証言は秀真たち以外、誰もが信じず、これを冗談かと思われた。

ニコライが救出した翔鶴たちの証言どおり、彼らブラック提督と急遽いなくなった大本営の幹部たちが国内から突然と姿を消し、誰もが自暴自棄になり、自決したのかと思いきや……

 

『お前たち愚者どもは我が盟友を傷つけただけでなく、かつて我々の理想国でもあった楽園を地上から消し去り、それらを踏みにじった』

 

元帥との契り、今までの恩を忘れた挙げ句、敵側に寝返ったのだ。

なお中岡の言う楽園とは特亜のことだろうと全員が察しているが、あいにく地上の楽園ではなく、地上の地獄と言った方が正しいが。

 

「ふん、貴様らが何と言おうと我が海軍は決して屈することはない。我々にはアメリカがついているのだからな」

 

『威勢が良いはが、まず手始めにこれを見れば分かるだろう』

 

中岡の言葉と共に、指をパチンッと鳴らすと画面が切り替わった。

台湾海峡にて作戦行動中の米海軍、原子力空母《ロナルド・レーガン》を率いる第七艦隊が映し出された。なおロナルド・レーガンは、ニミッツ級航空母艦の9番艦である。

艦名は、第40代アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンにちなんで付けられた。存命中の人名が付いたアメリカ合衆国で3番目の空母である。

 

『今からこいつ等を手始めに痛めつけてやる』

 

この言葉が合図となった途端、米軍は慌ただしく戦闘態勢に入った。ロナルド・レーガンから、搭載していた艦載機が一気に飛び立った。一機目はアメリカのロッキード・マーティンが中心となって各国メーカーと共同開発を行っている第5世代ジェット戦闘機に分類されるステルス戦闘機――F-35『ライトニングⅡ』で、もう一機は秀真たちが愛用している戦闘攻撃機――F/A-18E『スーパーホーネット』に続いて、そして米海軍や自衛隊などが運用している六機の対潜ヘリSH-60F『オーシャンホーク』などが、発艦していく。

 

彼らが飛び立つのを確認すると、各護衛艦は空母を守るように、対潜行動にうつる。

また第七艦隊は対潜戦を補うため、二隻の攻撃型潜水艦――ロサンゼルス級原潜ホノルルとシカゴが哨戒のため先行している。いずれもハワイに基地をもつ。

なおロサンゼルス級は1970年から90年にかけて、なんと62隻も建造された。

水中排水量およそ7000トン、3万5000馬力も原子力エンジンにより、水中速力32ノットを可能とする高速潜水艦である。武装は魚雷をはじめハープーン、トマホークなどを発射できるマルチ発射管をもつ。

 

対する敵は姿が見えない事から潜水艦を使用している模様。そうなると、通常型であるディーゼル・エレクトリック艦ないし原潜の可能性もある。ただ後者は探知されやすいため、可能性は低いが。

 

元帥と秀真たちの緊張感は増したが、多くの者は戦い慣れたアメリカが連邦国と名乗る、ならず者どもに負けるわけがないと楽観的に見ていた。

 

しかし次の瞬間、それを覆すような出来事が起こった。

 

ロナルド・レーガンの左舷横腹に魚雷が命中した証拠である、二本の水柱が立った。

 

現代の魚雷は凄まじい威力を誇る。

もしこれが核魚雷であれば、ロナルド・レーガンの巨体は蒸発していたところだが、通常魚雷であっても二本の命中は致命的である。

 

命中したとたん、10万トンの巨体がぐっと浮き上がったようになっていた。

横腹が破られ巨大な破孔がひらき、そこから海水がどっと浸入、防水隔壁を破壊してさらに浸水した。

 

ロナルド・レーガンは大きく左舷に傾いた。この瞬間、空母としての機能は失われた。

雷撃を想定しなかったため、飛行甲板に出ている艦載機も滑落し海中に没した。

機関にも浸水し、海水がボイラーの一個に接触したため、小規模な爆発が起きたためか、さらに巨体を揺るがせた。

 

艦長らしき人物が被害報告を急がせている。

どうやら機関室からは浸水はなはだしく、ボイラー室も損傷、平常動力に回復するのは難しく、一軸運転に速力20ノットがせいぜいである。

 

航空団のエアボスからは、艦載機の損失は80パーセントに及ぶと報告が入った。

むろん上空に上がっていたライトニングⅡとスーパーホーネット、対潜ヘリは助かったが、降りるべき艦がなく、空中脱出しかなかった。なお後者は各護衛艦の後部甲板に着艦した。

これらの報告を受け入れた艦長は、横須賀にいる旗艦――ブルー・リッジ級揚陸指揮艦の一番艦『ブルー・リッジ』に通信された。

 

“われ雷撃を受け、浸水す。最大速力の回復の困難につき戦闘航海不能。これより台湾沖を迂回して沖縄を目指す予定”

 

ロナルド・レーガンはエスコート艦に厳戒され、排水につとめながら、のろのろと南東海域を目指した。

 

『はいここまで。これが我々の力だ。米帝艦隊もさぞかし肝を冷やしだろう』

 

中岡は愉快に笑っていた。

 

『これだけでなく、米軍のいるグアム、ハワイも滅茶苦茶にしてやったぜ』

 

またもや指パッチンをすると、映像が切り替わった。

中岡の言葉どおり、まず太平洋にある南端の島グアムにある米軍基地は黒煙と火災に包まれ、所々だが生き残った米軍兵士たちと基地要員たちなどが協力し合い、必死に消火活動をしていた姿が映っていた。

米軍の切り札であるB-2ないしB-52戦略爆撃機が原型が留まらないほど破壊されていた。

戦前は常駐する戦闘機部隊は存在していないが、邀撃のための緊急配置した戦闘機部隊や地対空ミサイルPAC-3部隊なども徹底的に破壊されていた。

 

ふたたび指パッチン、それと伴い、次はハワイの映像と切り替わる。

これまたグアム基地同様、アメリカ空軍基地のジョイントベースのパールハーバー・ヒッカム基地または、基地の東側にある民間施設のホノルル国際空港も同じ運命をたどっていた。なお停泊していた太平洋艦隊も無傷とまでいかなかった。多くの主力艦隊も中破ないし大破していた。

市街地もまた同じく、あちらこちら火災が発生しており、炎上していた。

せいぜい無事だったのは映画『バトルシップ』のラストで活躍した戦艦ミズーリと、数本の燃料タンクだけだった。

 

『最後は蛮勇でバカな貴様らの大事な愛機も面白く破壊しちゃいました』

 

そして最後の指パッチンをすると、秀真や各提督たちの愛機が全て破壊されていた。むろん飛行場と格納庫なども破壊されていたのは言うまでもない。

 

『ブハハハハハッ。これほど愉快な楽しい映像は初めてだ!優勝間違いない名作品だ!いやノーベル平和賞並の授賞式が行われ、一躍有名間違いなしだ。そして米帝どもが震え上がるだけでなく、これで貴様らは、もはや太平洋に展開していた米帝どもの援助ができなくなったわけだ!』

 

話しは戻る。

中岡は高笑いしながら、宣言した。

このような数々のうそ寒い報告を聞いた元帥はもちろん、秀真以下、ほかの提督たちは背筋が凍った。当然のことだ。最大の同盟国たるアメリカ、かつての世界の警察といわれた大国の支援があったからこそ戦えたのだが、その後ろ盾を失った日本は、いままで羽織っていた暖かい毛布をいきなり剥ぎ取られただけでなく、その状態で狼の群れに投げ込まれたようだった。

 

「なんということだ。米軍との連携だけでなく、我々は太平洋をも失ったというわけか!」

 

先ほど激怒していた提督たちが慌てている様子を見て、中岡はバカにするように答えた。

しかも挑発するように中岡は両手でチョッパリピース(韓国では日本人の蔑称を意味するサイン)を見せつけた。

 

『さすがの低能どもの博愛主義の諸君たちも大変よく把握していて、パーフェクトです。ブハハハハハハッ!

では気を取り直して、これで分かったか?かつての中国様のような圧倒的戦力を持つ我が軍の前では勝てない。

そして最大の同盟国である米帝抜きの貴様ら弱小軍相手では我が精鋭たる連邦軍だけでなく、我らの盟友である深海棲艦もだ。しかし我々もそこまで残虐ではない。貴様らが助かる道はただ一つだけある。

それは今すぐ我が連邦国に多額の賠償金を支払い、さらに今すぐに無条件降伏をしなければ、お前たちの国はこの米帝みたいないし、先の侵略戦争のようにふたたび焼け野原、愉快な焦土化とした日本になるだろう』

 

もはや交渉とは言い難い条件、ヤクザの恐喝、いや、かつて中国のお得意な恫喝と言ってもいい。

 

『以上が我々、連邦国の条件だ。賢明たる条件に貴様らもよく考えておくように』

 

この言葉を最期に、映像は終了した。

 

「……これからが深刻な、いや、厳しい戦いになるな」

 

秀真たちだけでなく、多くの提督と艦娘たちも同じことを呟いたのだった。

 

 

 

後日。

ロナルド・レーガンも撃沈され、史実上《第七艦隊》は壊滅した。

以後、日本は米海軍とのシーレーンが断たれてしまったのはいうまでもなかった……




将軍から独裁者と化し、前作よりもかなり外道になっています。
前回はロナルド・レーガンは轟沈しませんでしたが、後ほどとある兵器の登場のためにこの世界では連邦海軍により、第七艦隊は史実上壊滅に……

また秀真たちの搭乗機も後ほどとある兵器のためですが……

郡司「僕のSu-33が……不幸だ」

山城「私なんて出番なし。不幸だわ……」

神通、二人を頼む。次回予告するから

神通「は、はい。提督」

では次回は元帥とともに緊急会議であります。
それでは第十三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…二人とも元気出してください」

郡司・山城「「不幸だ(不幸だわ)」」

速吸も呼んだ方が良いかな。これは……


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第十三話:常に忠義を

前回のあらすじ
緊急会議で翔鶴たちはブラック提督たちの陰謀を明らかにし、必死に訴えていた。
会議中に、死亡した中岡が連邦共和国を建国宣言し、自ら大統領と名乗る。
同時に米海軍の第七艦隊、重要拠点でもあるグアム・サイパン、ハワイを壊滅する。
秀真たちの戦いは以前よりも苦しい戦いが始まると覚悟するとさなか……
一同は緊急会議を始めていた。

どこぞの某アナゴさんがクローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりとともに毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


中岡の恫喝から後日、連邦と名乗る元ブラック提督たちが深海棲艦とともに宣言通り、突然と連邦共和国(連邦)が誕生した。むろん大統領は中岡であり、各ブラック提督たちも幹部や軍司令員として忠誠を誓った。なお深海側代表は中岡の秘書艦でもある戦艦水鬼である。

 

彼の予告どおり、中岡は見せしめにした空母『ロナルド・レーガン』率いる第七艦隊は旗艦《ブルー・リッジ》を除き、事実上壊滅になった。ただし生存者は無事救助できたのが、不幸中の幸いだった。それと同時に、日本とアメリカの重要拠点ともいえるグアムないしハワイを徹底的に叩かれた。深海棲艦の重要拠点を爆撃するための戦略爆撃機部隊や戦闘機部隊が駐屯していた空軍基地に、日米両艦隊の母港との機能も完全に奪われた挙げ句、これらのせいで日米両軍は連携が取れなくなっただけでなく、支援すらも断ち切られた。後日にはグアム・サイパン、ハワイにいた米軍は本国に撤退せざるを得なくなり、以後はお互い情報提供だけは入ることになっている。

ロシアからの援助要請も可能ではあるが、連邦が誕生した今はあまり良い状況とは言えず、むしろ中立的な立場であり、仮に支援ができたとしても自国で精一杯だと言うことで期待できない。

 

過激な反基地派の沖縄現知事から反米政治家たちは安保がなくなれば、どれだけ清々するかと日頃から叫んでいた者たちは、そのかれらにしても今頃は呆然として、うそ寒い思いがしたに違いない。なお一部はこれに耐えきれなくなり自家用ジェット機や豪華客船並みの巨大な船を使って国外脱出をしたが、艦娘たちの護衛もまったく付けずにいったため、両者ともども深海棲艦の餌食になったのは言うまでもない。

また一部では連邦国に寝返った者たちも少なくなかった。

 

話しは戻る。

中岡を筆頭とするブラック提督らはいまのところ連邦システムの整備に忙しく、昨日のような大胆な活動はしていないが、中岡が大統領となった以上は、深海棲艦とともに日本を破滅させようとするのは当然だ。

潜入している諜報部隊の情報では、かれらの戦力もあなどれない。

海上戦力として深海棲艦と開発中の艦船に伴い、航空機や戦車までも持っている。

なお一部は中国が開発したステルス戦闘機に次ぎ、深海艦載機をモチーフにした最新鋭戦闘機を開発しており、さらにかつて存在していた北朝鮮の核ミサイル基地も建設された模様である。

そしてかの有名な北朝鮮陸軍の第八特殊軍を模倣した工作部隊までも存在している。

その数は3万人。なお史実では第八特殊軍の10人ほどのかれらは韓国国内で潜水艦事故によって逃げ込んだが、韓国軍は数個師団を投入して一ヶ月経っても捕らえることができなかったことがある。

 

深海棲艦に続き、日本にとって最悪の組み合わせだ。

深海棲艦と最新の海空軍装備、中国と北朝鮮を組み合わせた最強の陸軍兵力を合併した。

ただし深海棲艦がそのまま連邦国の軍事系統に組み込まれるのか、別系統になるのか、そのあたりがまだ未知数である。

 

「確かに脅威ですが、はたして彼らはうまく連携できるのでしょうか?」

 

古鷹の言う通り、彼らが果たして深海棲艦と上手く連携できるかどうかも不明だが、それがいきなり仲良くしろと放り出されて混乱しているのが実情だろう。

左の方々お得意の内ゲバで自滅すれば良いが、世の中都合よくいかないなと思わず愚痴をこぼした。

 

「……起きてしまったことは仕方がない。アメリカの支援がないのは痛感だ」

 

元帥が口を開いた。

 

「我が国の戦力はキミたちと自衛隊、米独伊英軍の支援部隊に頑張ってもらわないと……」

 

「むろん、我々は全力を尽くすつもりです」

 

秀真がいった。

 

「我が海軍と米独伊英軍の支援部隊はともかく、自衛隊は米軍を補完するために軍隊だということをお忘れなく。とくに海自はそうです。いずれにしろ、憲法にのっとり専守防衛をモットーとしており、兵器にしても他国まで出ていけるようにはつくられておりません。

空自にしてもEEZ(排他的経済水域)の範囲内で作戦するように作られておりまして、米軍やロシア軍などといった他国を空爆するような戦略爆撃機は所持しておりません。

おおすみ型輸送艦または他の輸送船も所持していますが、米軍が持つようなアメリカやワスプ級強襲揚陸艦のものではなく、戦車もわずか数輌しか搭載できません。

なお第七艦隊は史実上壊滅となった今は、我が海軍と彼女たち、ほか自衛隊や米独伊英軍の支援部隊で戦わねばなりません。言うまでもなく、いまよりも大変不利な戦いになるかもしれません……」

 

秀真に次ぎ、郡司が説明した。

 

「我が諜報部隊の情報では、敵は戦術や戦略ミサイルというものを所持しております。

なお奴らは特アを崇拝し、それを模倣しており、かつての中国や北朝鮮のように、連邦国のミサイルは我が国を照準している模様であります。海自と米海軍のイージス艦や空自の戦闘機部隊に、陸自のPAC-3パトリオット・ミサイル部隊が、いくらあっても足りないかと思われます」

 

MD(ミサイル・ディフェンス構想)は、以前は日米ともども手こずっていたが、現代ではPAC-3やBMD(イージス弾道ミサイル防衛システム)を搭載したイージス艦など配備されているため大丈夫だが……もし敵の戦術や戦略ミサイルを大量に撃ってきたたら、すべてを対処することはできない。

 

「では米軍の支援無き今は、我々は座して狙われるのを待つだけなのか?」

 

提督Aがうめくように言ったが、元帥が否定した。

 

「いや。そんなことはない。アメリカは引き続き、衛星のデータだけは提供してくれる。

連邦のミサイルは液体燃料を使っている、その注入作業を始めれば衛星で分かる。

そのときは私の大和たちと海自の潜水艦で攻撃する。少なくとも北朝鮮に関しては基地に届くはずだ。

連邦、中国の奥地はトマホーク・ミサイルを使えばいいのだが、搭載しているのは少数の米海軍のイージス艦と我が軍の護衛艦のみだし、アメリカからの補給が望めない今は、それを使うのは限られてくるが……

トマホークを撃ちきった後は、これの代わりに、艦娘たちの主砲または海自のハープーン・ミサイルで報復攻撃をさせる……どうかね、杉浦くん、それならば可能ではないと思うかね?」

 

この時に出席していた杉浦統幕長はうなずいた。

 

「はあ、あらかじめ我が軍の潜水艦をかれらの領海内部に潜伏させておけば、可能だと考えます」

 

「しかし、かりに成功したとしてもそれらは一矢報いることになりますが、勝利とはいえません。いくどもこれを繰り返せば、過去の大戦、ガダルカナル戦で行なわれた敵飛行場に対する夜間砲撃をした海軍の失態と同じような結果になります」

 

提督Bが言ったことは、一理ある。

先の大戦でもガダルカナル島を奪還しようとした日本海軍は戦艦『金剛』と『榛名』を主力とする第2次挺身攻撃隊は、米軍に占領されたヘンダーソン基地に対して、夜間砲撃を明け方まで砲撃を続け、滑走路および航空機に対して損害を与えた。一時的ではあるものの、ヘンダーソン基地を使用不可能にさせたのだが……

しかし、この時アメリカ軍は2本目の予備滑走路を完成させており、日本軍はその存在に気づかなかったため飛行場の機能は維持された。これを知らずに日本海軍は幾度もなく奪還しようと試みたが、最後まで奪還することなく被害が増えた日本軍は撤退せざるを得なかった。新設滑走路の完成を陸海軍共に偵察察知していなかった事が戦術的勝利を生み、戦略的失敗を生み出したともいわれる。

しかも現代の視点から見れば、敵陸上航空兵力存在下での上陸作戦においては空母艦上戦闘機による揚陸艦隊・準備対地打撃部隊の上空直掩は不可欠のはずであったが、史上初の空母戦の珊瑚海戦に、運命の戦いであるミッドウェー海戦におけるベテランパイロットの損害に次ぎ、海軍上層部たちによる艦隊決戦偏重主義(所謂『大艦巨砲主義』)や艦隊保全主義もあれば、艦隊行動のための燃料不足などのため空母を出せず、結局海軍の『空母出し惜しみ』と陸軍の『逐次戦力投入・偵察不足・敵過小評価』と並んでガダルカナルの戦いに敗北した大きな原因となり、多数の餓死者・戦病死者を出し、戦闘以前の段階で大敗する原因となった。

海軍自身も翌月同趣旨で行われた第三次ソロモン戦でも戦艦『比叡』や『霧島』ほかに多くの駆逐艦をうしない、以後米軍が主導権を握ることになったという結果になったのは言うまでもない。

 

「けっきょくは我が国土はミサイルで荒らされ、もし敵が核ミサイルを使ったとならば、壊滅的被害をこうむることになるでしょう」

 

「連邦は核弾頭をまだ持ってないと、私は考えている。かりに持ったとしてもよほど重要な理由なしに使うことはないだろう」

 

元帥の声はあくまでも冷静だった。

 

「もし奴らが核ミサイル使用したら同盟を結んでいる深海棲艦もともども滅びかねない。しかし、彼女たちもそこまで馬鹿ではないが、つまらぬことで暴走する連中だからな……」

 

郡司の意見に、秀真は顎を撫でて内心に呟いた。

いずれにしろ、深海棲艦の裏には連邦がいると睨んでいた。連邦は俺たちに圧力をかけるにしても、まず深海棲艦を使う。彼女たちの感情をたくみに利用しているに違いない。

 

それを防ぐ方法を考えなければならないと……

 

「キミはどう出ると思うかね、秀真提督?」

 

元帥が尋ねた。

 

「そうですね……」

 

秀真は気を取り直して、落ち着きを払って答えた。

 

「おそらく中岡大統領は昨日の宣言通りのことはもちろんですが、さらに膨大な要求を、とくに多額の賠償金を吹っかけてくる可能性があります。元帥は今日まで我々に支援を惜しまずにしてきました。しかし、中岡率いるブラック提督たちは昨日の言ったことを忘れたふりをして、過大な要求を突き付けてくるでしょう。

そのときは、我々は決して恐喝に屈しないことを見せつけてやりましょう!」

 

「うむ。秀真提督の言うとおり、我々は連邦国と深海棲艦らに包囲されていると言ってもいい。しかし元帥として私はキミたちに約束する。我々は決して屈しない。理不尽な要求にも屈することはない。いまこそ日本の底力を見せてやろうではないか!」

 

二人は、まるで映画のアメリカ大統領がいうようなセリフを言うと、全員が拍手で称えた。

そしてこの言葉に多くの提督と艦娘たちも士気が高まったのである。




タイトルの元ネタはCoD:WAWの最初のステージから。
本来ならば海兵隊のモットーなんですが、雰囲気的に似合うかなと思いまして……
そして演説はあの大統領、某「インデペンデンス・デイ」のホイットモア大統領閣下のようにはいきませんが、ノープロブレムね!(金剛ふうに)
もしF/A-18(大統領仕様)が実装されたら、もはや……いろいろと面白そうだ!

では切りが良いところで、次回は連邦共和国の戦力を分析する話であります。
基本的は前回と変わらないかもしれませんが、お楽しみを。

それでは第十四話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十四話:戦力分析

今回は予告どおり「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の兵法通り、敵の戦力分析をする話であります。

なお今回は前作と変わらないと思いますが、楽しめていただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


市谷台にある防衛省の統幕本部の作戦室で、杉浦は各幕僚長、幕僚たちとともに東アジアの地図を睨んでいた。

むろん元帥、秀真、郡司、各提督たち、古鷹を始め各秘書艦たちも参加していた。

連邦が対日戦略を起こすとすれば……情報本部の分析では、その80パーセント以上という高確率だったが……、まず南西諸島を攻略して沖縄に攻め上がってくるだろうというのが、幕僚長や提督たちの結論し、誰しもがその通りだと頷いた。

 

これは軍事的に見ても正しい。

 

太平洋戦争でも米軍は同じルートをたどった。

けっきょく沖縄戦は太平洋戦争の最大の天王山となり、日本軍は64日間も粘り続け、米軍も膨大な死傷者を出したが、守備隊は全滅、島民も約10万人という死者が出た。

余談だが一部では当時の知事や軍司令部の命令を無視して、断固として避難しなかった島民たちが後からになって逃げたから被害が増したともいわれている。

 

現代の日本においても沖縄のポジションは政治的・軍事的にも見ても大きい。

歴史的にも証明している。つまり地政学的にみても重要的な戦略位置を占めている。

アメリカもそう考え、極東の抑止力として基地としてこの島を選び、多数の基地を置いた。しかし安保改正とともに、今では日米合同基地として活躍している。

 

かつての琉球王国は薩摩と明、清の両国の朝貢または平和外交を貫いていた。

普通の国ならば軍を持つことが当たり前なのだが、琉球は常備軍を持たない王国だった。

現代の視点から視れば、どうぞ占領してくださいと言わんばかりであると言いたい。

それまで琉球は日本国ではなく、独立国家だったからであり、どちらにつくかは自由であったが……

 

しかし、薩摩に征服される事で運命が暗転する。

 

このとき思い切って清に助けを求めればよかったかもしれない。

だが清にもそれだけの余裕はなく、けっきょく日本のものになり、薩摩の苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)に苦しみ、やがて沖縄戦につながる。

そのまえに明治政府は、いわゆる琉球処分などという尊大な言葉で沖縄県をつくり、日本に編入した。戦争が終わったあとも米軍になかば支配されたものだから、まさに踏んだり蹴ったりである。

 

杉浦と総幕僚長、元帥、秀真たちは期せず一致し、

沖縄を守りの最前線とすべき手は打ってある。

日米両軍ないし多国籍軍が基地を使うことは、ワシントンと交渉して了解を得ている。

 

もともと沖縄には空自の南西航空団がおり、主力は第83航空師団である。

本来は米空軍として単一では最大の戦闘航空団である第18航空団らもいたが、その多くがアメリカ本土防衛のため減少していたため、総幕本部は中部と西部航空方面隊から二個航空団を引き抜き、嘉手納基地に入れた。

主力戦闘機F-15をはじめ、日本初のステルス戦闘機であり、平成の零戦または日本版F-22『ラプター』ともいわれるF-3『心神』に次ぎ、支援戦闘機はF-2および米軍のF/A-18Fなどが合わせて、150機そろうことになった。むろん消耗すれば、ただちに本土から補充される。

F-15戦闘機の作戦行動半径は1800キロ、心神は1111キロ、ほかの機種は1000キロ前後である。

沖縄から中国沿岸、たとえば上海までおよそ700キロだからすべての戦闘機が中国沿岸までたどり着けるが、F-15を除いて戦闘時間はあまりとれない。

敵基地を爆撃する際はどうしても大量の爆弾やミサイルなどの重武装になってしまうため、胴体内の燃料を満タンに燃料を入れてしまうと最大離陸重量を超えてしまい、これらの影響で離陸時に影響がでかねない。

この問題に関しては自衛隊のKC-767または米軍のKC-135『ストラトタンカー』空中給油機を使えば問題はないが、そうなると帰りのことも考えなければならない。

むろん護衛機を付けさせるが、長時間旋回させるわけにはいかないため、最初からなしと視野に入れた方がいいかもしれない。

 

これは連邦戦闘機も同じようなものだろう。諜報部隊の情報では連邦の最新鋭機は、かつて中国がコソボで撃墜された米軍のステルス攻撃機F-117の技術を盗用し(現代でも公式では否定されているが)、さらに中国のハッカーを利用して1年半に渡ってF-35に関する情報を盗み開発した中国人民解放軍の第5世代双発ステルス機J-20――なお中国名は殲撃20である。戦闘能力はほぼ心神と互角と言われているが、最後にはパイロットの腕になる。しかし情報では保有数は100機程度である。

さらに2番目のステルス戦闘機であり、J-20が全長20mを超える大型機であるのに対し、本機は全長17m程度の中型の双発戦闘機であるJ-31を持つが、その数は50機ほどと言われている。

だが双方ともステルス機能と電子システムなどの完成程度は、心神の方が上と考えられる。ほかにも二種類の深海艦載機をモチーフにし、さらに有人化に改良された最新鋭機もあり、これに殲10、11の旧式機などだが、その実力は未知数。ただし日米両軍また多国籍軍戦闘機といい勝負をするかもしれない。

 

ともかく空自はF-15を150機、心神50機をもち、この戦力はアジアにおいては圧倒的だ。また米軍率いる多国籍軍も100機近く駐屯している。いっぽう陸自は、かつて第三海兵師団が駐屯しているキャンプ・コートーニを中心に西部方面隊から、第八師団および高射特科隊を入れた。海軍と海自は那覇を基地にして、一部は石垣まで進出、深海棲艦ほかの進出に対応できる態勢を取った。その主力が秀真以下ベテラン提督たちはもちろんのこと、流動的に編成された。水雷戦隊はもちろんだが、とくに重巡洋艦と戦艦、空母機動部隊などが重視された。

深海棲艦との戦いは慣れているが、ブラック提督たち率いる連邦軍は今まで戦ってきた深海棲艦とは同じ戦い方になる。

一時的とはいえ、共に戦って来た者同士だから同じく艦隊決戦となり、索敵能力、防空能力、火力が重用される。

 

そこでひとつ気掛かりなのは、連邦軍はすでに軍事偵察衛星を持っている。

日本はこれを持っていない代わり、諜報部隊や米軍からの情報提供をもらっている。

しかし、連邦はかつて中国が20XX年に二度目の有人宇宙船を打ち上げた勢いを駆って、複数の偵察衛星を上げているのを知っているため、少数だがこれらを有効に利用している。

これはむろん東アジア一帯をカバーし、とくに日本にモニターをしているはずだ。

しかし米軍からも衛星データや諜報部隊から情報をもらうようにしてあるので、この点では互角である。

海幕はすでに潜水艦群を出動させていた。第一、第二潜水艦隊から合せて12隻が出動、中国との中間線に張り付いている。ひとたび開戦となれば、中国の沿岸付近に接近、海自は海軍基地やミサイル基地を、ハープーンで攻撃し、のちに伊168ことイムヤ率いる潜水艦娘たちは妨害しようとする連邦海軍と深海棲艦たちを攻撃する。

トマホーク・ミサイルがあればかなり楽なのだが、それを搭載したロサンゼルス級原潜らは連邦海軍の攻撃により、轟沈されてしまったため、それができなくなってしまった。

少数の日米の護衛艦やイージス艦に搭載されているが、ほとんどは本土防衛に務めるため、その余裕はない。

 

かろうじてハープーンは持っているが、射程距離はトマホークの半分強の250キロ。

弾頭のサイズもトマホークの500キロに比べ、その半分、250キロに過ぎない。

しかし最新鋭のハープーンはGPSシステムをもち、目標をピンポイント攻撃できる。

たとえかつての仲間であろうと、中間線において連邦潜水艦と遭遇した場合は、もはや躊躇わずに撃沈しろということだ。

 

「これでまず沖縄は守れると思いますが、連邦のほうの出方が気になります」

 

梅津陸幕長がおり、なお各軍の幕僚長たちはいずれも大将クラスである。

統幕長も大将。陸空将には旧軍の中将もふくまれているので、いささかややこしい。

なお○○補がつくと、少将ということになる。

ただし元帥や秀真以下の提督たちはいまでも旧海軍の伝統を受け継いでいるため、階級名称は旧軍のままである。

 

「かれらはまた渡洋作戦をしてくるでしょうか?」

 

杉浦統幕長はかぶりを振った。

 

「まず攻めてくるとなれば対馬をとるだろうが、そんな危険は冒すまい。

それに対馬だけを取っても仕方あるまい。深海棲艦と共に艦隊を繰り出して、九州沿岸を奇襲攻撃して来ることはあり得るかもしれない。深海棲艦は熟知しているから問題ないが、問題の連邦海軍は中国艦艇と開発中の最新鋭艦艇を所持しているから戦力は侮れない。しかし、海軍の優秀さは熟知しているから安心している」

 

元帥以下、秀真や郡司、ほかの提督に艦娘たちもうなずいた。

 

「ひとつですが、心配なことを言ってもよろしいですか?」

 

「構わないぞ。秀真提督」

 

杉浦は、質問した秀真に聞く。

 

「私が心配しているのはともかく敵のミサイルです。ミサイル防御となった場合、対馬海峡から能登半島沖合にわたり広くSSM(スタンダード・ミサイル)を搭載した日米両軍の護衛艦を出さなければならず、さらに三式弾や高角砲を装備した彼女たちでも対処できるかどうかはいささか不安です。こちらとしても可能な限りは処置しますが、結論から言えばまず連邦国からのミサイルは全て防ぎきることはできませんし、我が海軍や海自だけでなく、陸自のパトリオット・ミサイルやホーク・ミサイルを装備した高射特科部隊も同じだと思われます」

 

これを聞いた梅津陸幕長はうなずき、語り始めた。

 

「秀真提督の言う通り、我が陸自は双方を装備している高射特科隊を持っており、かれらがMDの主役でありますが、これもまた絶対数が足りないといえ、さらに撃墜確率が問題であります。なにせマッハ以上のスピードで弾道飛行してくるミサイルを撃墜するのは至難の業です。パチンコ玉に別のパチンコ玉をぶつけるようなものです……」

 

深刻な表情で答えた陸幕長だったが、その場にいた全ての者たちも同様だった。

国防を受け持つからこその苦悩であった。

 

「ほかに心配事はないかね、諸君?」

 

秀真の次ぎに、郡司が手をあげた。

 

「どうぞ、郡司提督」

 

「連邦は生物または化学弾頭を所持しているのはご存知ですか?」

 

郡司は尋ねたとき、杉浦は流石だなと悟るように双眸を落として答えた。

 

「知っている。むろん彼らがBC兵器を持っていることは確実だ。しかし両方ともに再突入の際の高熱に耐えられないので、さしずめ危惧することはないというのは言うのが情本の見解だ」

 

「しかし杉浦統幕長、私としては敵がプルトニウムを撃ち込んでこないかどうかが気になります。もし彼らが使用するならば被害は増えると思います」

 

「確かに、あれは猛毒だからな」

 

郡司の言うとおりプルトニウムの粉末には、微量でも数万人を殺せる猛毒物質である。

しかも厄介なことに再突入の熱でも変質しない。

 

「敵がノドンないしテポドンを撃ち込んでくることが確実になれば、六大都市の避難計画が必要ですが、現時点ではどこまで進んでいるのでしょうか?」

 

幕僚の一人が杉浦に聞くが、彼はかぶりを振った。

 

「政府の腹のうちは分からん。まだはっきりした計画が無いらしい。おそらくは避難命令を出しても無駄で、かえってパニックを招くと考えているのだろう」

 

杉浦がいうと、元帥が答えた。

 

「私もそう思う。1200万の東京都民を速やかに避難させる計画などは立てられない。

以前も国民の被害は最小限に食い止めることができたが、連邦が誕生した今は、どれだけ最小限に食い止められるかと言うことになる」

 

元帥の言葉には一見デスペレードに聞こえるが、現実に即している。

現代の戦争は低強度な紛争ですら、民間人を巻き込まれずにはいられない。

ピンポイント爆撃ですら、誤爆の可能性がある。ましてや広範囲の住民の殺害を狙ったBC兵器が撃ち込まれたら、その被害は最小限でも数百万人に達するだろう。

 

そう考えると杉浦と元帥は暗然した。

やはり連邦共和国とはことをかまえるべきではないのではなかろうか。

改めてこんなことになるぐらいなら、彼の考案した作戦”オペレーション一〇九”を採用すればよかったなと、古鷹と話している秀真を見てそう思った。




F-3こと心神は、F-35をスペックを元にしています。
連邦の陸海空軍に関してはいうまでもなく、現実に中国・韓国・北朝鮮軍が運用している兵器を鹵獲し、これらを再利用しています。ただし一部開発中のJ-21とJ-31はこの世界では制式採用されていますが、高価なため少数であります。

また一部気になったと思いますが、秀真が考案した作戦”オペレーション一〇九”に関しては、連邦視点後に説明しますのでお楽しみを。

では次回は連邦視点から送ります。彼らの恐るべき計画が明らかになります。
なお二人の深海棲艦が登場しますので注目するといいかもしれません。

それでは第十五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十五話:連邦の陰謀

お待たせしました。
予告どおり主人公視点から打って変わり、連邦視点になります。
彼らの恐るべき計画が明らかになります。

そして毎度お馴染みですが、今回もまた一部変更している部分や台詞もありますがお楽しみを。

長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


その連邦共和国の連邦臨時政府は、板門店(パンムンジョム)に置かれた。

なおは板門店、朝鮮半島中間部に位置する朝鮮戦争停戦のための軍事境界線上にある地区である。

連邦の成立以来一週間近く経つが、まだ連邦首都は決まっていない。

両者の間には綱引きが続いていた。中岡として大統領としての面子があるため平壌を首都にしたい。

しかし崩壊した北朝鮮の首都と中国各地を機能し、インフラなどを提供したのは深海棲艦のおかげである。

だから結論が出るまで、とりあえず両者の中間に仮政府……というより連邦事務局を置かざるを得ない。局といっても省の規模である。

 

いまそこに連邦事務局のトップたちが集まっていた。

事務局とはそれぞれの政府の代表者。連邦国の場合は北朝鮮や中国を異常にまで崇拝している軍事国家だから、政務院よりも国防委員会のほうが上に来る。

国防委員長は言うまでもなく、連邦共和国にとって記念すべき初代大統領である中岡だ。

いま顔を見せているのは中岡の下僕であり、国防委員会のナンバー2のチェソンタク委員会次長。

もうひとりも同じく、軍部(人民武力部)の代表であるアンミョンペク総参謀長。

深海棲艦側は戦艦水鬼がもっとも信頼している懐刀でもある空母棲姫。

それに彼女とともに戦ってきた戦艦棲姫が付き添っていた。

 

深海棲艦の鬼・姫・水鬼たちは、連邦の意志を受けてここに来ていた。

中岡の推測どおり、連邦共和国は、深海棲艦との協力を受けて成立したものである。

なお深海棲艦は電力供給と核開発支援をふくむエネルギー支援、食糧支援を約束した。

そのためブラック提督や彼らを支持する人民たちの胃袋やエネルギーについては解消されたので、戦艦水鬼は総合に踏み切ったのである。恩を返すとはいえ、不本意だが仕方ない。

 

そしてそのような行きがかりの上、中岡を大統領にせざるを得なかった。

ただし、権力の世襲、つまり中岡の息子を大統領にするようなことは避ける。その点は、中岡も了解済みだった。

革命の代を受け継ぐというのが中岡の口癖だが、連邦ができた今は、さすがにそれはできないと承知していた。

そんなことをすれば満天下の笑いものになる。いまや連邦は中岡のものであってそうではないからである。

 

「中南海のほうからいよいよ、対日戦に踏み切るときがきたと言っています」

 

連邦のチェ国防委員会次長が口火を切った。

 

「博愛主義者や艦娘どもに積年の恨みを晴らす時がきたと、忠秀軍事委員会副主席がわが同胞たちに伝えるようとくに伝達をしてきました。私も同感です。異端者どもたちに思い知らせるときがきたのです」

 

アン総参謀長もうなずいた。

 

二人とも中岡同様に猛烈な反日家として知られている。

理由は単純明白。日本を無血占領すれば日本は先の大戦のように同じ過ちをしなくなると考えていた。

今日までの日本は未だに過去の戦争犯罪を反省せず、再びアジア地域を植民地にし、軍国主義の道を歩もうとする日本を懲らしめるためである。ただし彼らの場合、アジアとは特ア限定になるが。

自分たちのような選ばれし者たちの方が遥かにこの日本を、正しい指導者たちがこの日本を植民地にすれば日本はより良い広い道徳観を持ったより良い国に生まれ変わると思っていたほどである。

そのため中岡たちが軍隊に入隊したのは、日本という大事な祖国に対する愛国心や忠誠心でもない。

目的はただ一つ、特アと日本国内に潜伏する反日組織らとともに日本を壊滅するためだった。

自分たちが日本を崩壊させれば、英雄として扱われ、永久に崇められると本気で信じているほど。

表では愛国心をもってこの国のために務めていたが、裏ではこれらを着実と進め、同胞たちを入隊させて来るべき日まで訓練をしてきた。

 

しかし突然と現れた深海棲艦により、日本国内に潜伏していた反日組織らを支援していた特アは自国内の制海権や制空権を失うだけでなく、本土侵攻も許してしまい、大規模な陸海空三軍を投入しても無駄だった。

中国人民解放軍はもともと共産党幹部たちを守るための党軍または私兵部隊でもある。彼らは自国民を守ることや自国に対する愛国心はおろか、共産党のためならば自国民を殺すことも躊躇わない。

しかし近年に増した共産党に対する不満が積もり、かれらに対する忠誠心すら薄れてきた。この機会に応じて一部の人民解放軍と反共産主義たちが反旗を掲げ、瞬く間に内戦まで起きてしまう始末であった。

 

北朝鮮は軍事国家でありながらも北朝鮮人民解放軍の多くは慢性的な資材不足と訓練不足に悩まされ、最新鋭兵器は少数で、ほとんどが旧式兵器である。そして自国の兵器ですらまともに稼働できるのはごく一部であった。

核兵器は豊富に保持していたのだが、自分たちが滅びるのが嫌であり、わが身の可愛さのゆえ使用はしなかった。かりに使用したとしても国土がいま以上に焦土化し、数年は不毛の地になり、食糧生産率がさらに低下するのを恐れていたからだ。また軍や国民たちによるクーデターも恐れていたのかもしれないが。

そんな苦しい状況のなかでも北の指導者の命にかけて死ぬ気で深海棲艦たちに挑んだが、圧倒的な物量のまえになすすべなく崩壊した。戦艦水鬼たち曰く「人とは思えぬほど馬鹿な集団」だったとのこと。

 

韓国に至っては論外だった。深海棲艦の侵攻を受けたとたん、韓国初の女性大統領であるパククヒ大統領は真っ先に国外逃亡してしまい、そのせいか国内の指揮系統はたちまち混乱してしまい、反撃も失敗した。

なにしろ先の朝鮮戦争でも大統領が真っ先に国外亡命し、多くの韓国軍の指揮系統が反撃に遅れたともいわれただけでなく、北朝鮮軍が侵攻したとたん、臆病風に吹かれた韓国軍兵士は武器ごと置いて敵前逃亡したのだから仕方ない。なお国外逃亡した彼女や側近たちも深海棲艦の攻撃により、国外に出る前に全員が死亡した模様である。

無能な指導者や独裁者にすがり続けた国民たちは、反撃に失敗したあげく侵攻してきた深海棲艦の攻撃を受けて、多くの国民は虐殺、国内は壊滅状態に陥り、そして特アは、わずか二週間足らずで崩壊してしまったのである。

なお大統領らを殺した深海棲艦らは「戦艦水鬼様を見習ったらどうだい?」と呆れたほどである。

 

それを知った中岡たちはショックを受けた。

当初は日本植民地計画を台無しにした深海棲艦を恨み、しかたなく命令通りに撃沈していったが……

しかし戦っていくうち次第に怒りの矛先は深海棲艦ではなく、自分たちとともに戦っていた艦娘たちに向けた。

深海棲艦が現われたのは艦娘らのせいだと主張し始めた。他人から見れば訳が分からぬ主張である。

だが彼らは本気で信じており、中岡やブラック提督、売国奴たちなどは艦娘たちを破棄すれば、全ての深海棲艦はいなくなると浅はかな考えから、実はアメリカが開発した生物兵器だとでたらめな主張を唱えるものが次第に増え始めた。所詮は死人の戯言と言ってもいいが、それを実現させようとするならば、左翼という者は自分たちの言うことを聞かないものは暴力で訴え、主張が合わないとレイシスト(差別主義者)と叫び、そして実現させるならば、悪魔とでも契約を結ぶなどと手段は問わない。

 

これは日本にいる反日組織らが戦後のアメリカ筆頭の連合国、GHQによって植え付けられた自虐史観もそうだが、彼らの場合は特殊であり、彼らが崇拝している特アの歴史認識を真似している。

しかも某三ヶ国は歴史的感情に加え、自分たちの国を保つための政策としているから始末が悪い。

日本は過去の歴史を反省せず、ふたたびアジアの主導権を掌握する史上最悪の軍事国家ということになっている。

なお連邦自身は、提督業のときから彼らから支援金を受け取り、その合計金額は三兆円に達しているともいわれ、一部を来るべきに備え、軍備やテロ資金に流用した。

 

前回の大胆な作戦……グアム・サイパン、ハワイの攻撃では民間機および大型ジェット旅客機を利用した。

この中には大量の無人機を忍ばせて、目的地に着いたら一気に発進させる。むろん操縦士と副操縦士が旅客機を操縦し、自爆無人機を発進させる。この役目を終えたら機体ごと飛行場に突っ込ませるという自爆攻撃はもちろん、

また恐ろしいことに深海棲艦の駆逐艦クラスに大量の爆弾を仕込ませた自爆部隊を編成させ、自爆無人機とともにハワイ攻撃に出撃させ、敵艦に体当たりまたは上陸した後には自爆するという特攻作戦を実行した。

しかし米軍機に撃ち落とされた機体や米海軍艦艇軍のミサイル攻撃を受けて損害を与えたが、さすがに全ての敵を撃破することは世界最強ともいえる米軍ですらも難しく、あのような惨劇となったのだった。

これらは深海棲艦と技術があったからこそ、中国国内にあった大型旅客機と無人機を全て投入させて成し遂げたのだから、このような大胆不敵な作戦は二度目できない。

むろん戦艦水鬼たちは「特攻など外道、どんなことがあっても必ず生還せよ」と厳命しているが、一部の深海棲艦たちは彼女の戦いはあまりに純粋過ぎると言われて、不満を持つ者たちがいる。

彼女とは反対に中岡たちは下っ端兵士や使い捨ての深海棲艦たちを何人失おうが、損失してもちっとも痛くも痒くもない。また徴兵または建造すれば済むだけの話である。

かつて日本軍は自爆すらも厭わなかった。兵士など赤紙でまた補充できるというぐらい人命を軽視した。

それに対して米軍は仲間を助けるためならば駆逐艦一隻はもちろん、空軍すらも出撃するほど兵士一人ひとりの命を大切にしていた。

しかも中岡たちは「我々も後を追いかける」と告げながらも、決して中岡たちはそんな事はしなかった。

史実でも最後まで責任を取った者は大西瀧治郎海軍中将と宇垣纏海軍中将のふたりしかいない。

あとの者たちはのうのうと最後まで散っていた若者たちのために責任を取ることなく終戦を迎えたが、そんな彼らは生涯重い十字架を背負ったのは言うまでもないが。

 

話しが逸れたので戻る。

チェ国防委員会次長とアン総参謀長に続き、空母棲姫がようやく口を開いた。

 

「ソレデ中南海ハ具体的ニドウシロト?」

 

空母棲姫が尋ねた。

 

「まずわが連邦共和国では、敬愛なる中岡大統領閣下が、日本に対して300億ドル(約2兆4300億円)の賠償金を要求することにしました。これは今までの日本の我が敬愛なる大統領閣下および我が連邦への非礼の代償で、これでも少ないぐらいです。

もし速やかに支払わない場合は、ノドンおよびテポドン・ミサイルをもって日本の主要首都を攻撃します。

その際、我が同盟である貴方たち深海棲艦に九州を叩いてもらいたいというのが、大統領のご希望であります。

このミサイルには通常爆薬のほかにプルトニウムを含む生物・科学兵器を搭載される予定です」

 

アン総参謀長が答えた。それを聞いた空母棲姫はほんの一瞬だが、眉をしかめた。

かえって状況が悪くないかと訊きたかったが、下手に刺激的な質問は控えるようにと戦艦水鬼にきつく厳命されているので、敢えて聞かずに冷静な表情に戻し、別の質問をした。

 

「シカシ、ソノミサイルト言ウモノノ攻撃ハ本当ニ成功ハスルノダロウカ?」

 

空母棲姫の問いに、アン総参謀長はにやりと笑った。

 

「これは利きます。奴らはそのとき思い知ることになるでしょう!」

 

「デハ、モシ日本ガ支払イニ応ジタトキハ?」

 

戦艦棲姫がいった。

 

「300億ドルと言うのは巨額なカネですが、日本に出せない金額ではないでしょう。

しかし素直に応じることはないというのが、大統領閣下の見解ですが……万一応じた時は無条件降伏を延期し、さらに額を釣り上げる予定です。その理屈はなんとしてでも付けられます」

 

「ツマリ、奴ラニ堪忍袋ノ尾ガ切レルマデ圧力ヲカケルトイウコトカ?」

 

空母棲姫がいう。

 

「いかにもその通り、これは日本を怒らすための大統領閣下の深慮遠謀なのです!」

 

チェ国防委員会次長が答える。

こんな単純な方策に深慮遠謀もないのだが、連邦となって依然としてブラック提督たちにとっては、中岡は生き神であった。深海側の多くは中岡はただの人間にしか見えないのだが、最悪なことに少数派のものたちが出始めたため、戦艦水鬼だけでなく、ほかの鬼・姫・水鬼たちは不安になっている。

 

「日本はアメリカや他国の支援を失い、意気消沈になっているはずですが、そこまで追い詰められれば反撃してくるでしょう。なにせアジアの侵略者なのですから。過去の大戦の反省もせず、苦しめようとしているのですから。

そのときは貴方がた深海棲艦も立ち、ともに日本をたたくというのが忠秀副主席のお言葉です。日本と言う国は、いちどは徹底的に膺懲されなくてはならない国なのですから」

 

膺懲(ようちょう)とは、つまり征伐してこらしめることである。

かれらの怨恨なにも日本だけでなく、特アを援助しなかったアメリカやロシア、世界中にも言えることだ。

だが彼らはまず日本を占領し、さらにじわじわと世界各国に侵攻し、世界を治める……

なんとも身勝手で乱暴な発言だが、いちど狂気に飲み込まれた人間は元に戻ることはできない。

ひたすら日本や理想を踏みにじった艦娘たちが憎いのは、いわばねじれた憎悪なのである。

 

「ウム、話シハワカッタ」

 

空母棲姫は答えた。

 

「サッソク大統領府ニモチカエリ、中岡大統領閣下ト戦艦水鬼様ニ伝エル。艦隊ヲ出ス件ニツイテハ極力前向キニ対処スルガ、奴ラヲ侮ルコトハデキナイ……」

 

「むろん、これは戦争なのですから一方的に勝利すると言うわけにはいきませんよ」

 

チェ次長の目つきはそのとき、ぎらりと光った。

中岡の懐刀のひとりでもあることを示す凄みのある目つき、睨み付けである。

 

「当然日本軍は反撃し、我が軍と深海の同胞たちにも犠牲は出るでしょう。

我がミサイル基地も狙われることでしょう。しかし中南海は、我が国のミサイル基地を狙われたときは核ミサイルをもって、日本を攻撃すると恫喝しています」

 

「フム、ソウデアレバ頼モシイネ……」

 

戦艦棲姫はいった。

 

「我々が本気になってかかれば、日本をつぶすのはわけないことないでしょう。

なにしろ豊富なミサイルをもっていますから。しかし国際社会の目がありますから、最初から核ミサイルを使うようなわけにはいかないわけですな」

 

「その通りです」

 

チェの問いに、アン総参謀長は答えた。

 

「まずは日本軍と艦娘どもは我々が戦わなければならない。中南海はあくまで後詰に控えたいと言うのが、忠秀副主席のご希望であります」

 

そのあと一同は細部の詰めに入り、事務方によってすべて記憶された。

連邦での会議はあとでの紛糾を避けるため、すべて記憶されていることになっている。

何度もいうが肚の実情では、連邦になったからと言っても、お互い信用していないというのが本音である。

開戦から互いに敵対同士だったものたちが、急に仲良くしろというのは無理がある。

腹の底ではどちらかが裏切るのではないかと疑心暗鬼な状態だった。

連邦側は中岡から本性が分かるように仲良くしろと言い、戦艦水鬼側も同じく一部の信者たちは除き、中岡率いるブラック提督と反逆者たちの肚の底を探るように、気前よく振る舞えと言われている。

 

いまは同盟とはいえ、一皮めくると、すぐに血がにじみ出る。

 

亀裂が走り分断したら、小さな傷口はあっという間に深くなるのだ。

 

……コイツラノ演技ニアワセナケレバナ。

 

……水鬼様ノ言ウトオリ、コイツラガ本性ヲ現ワスマデ手出シ無用ダカラツライノヨネ。

 

二人の肚のなかの考えを察したのか、チェたちも内心にいった。

 

……くっくっくっ、せめて我々のためにせいぜい協力しな。

 

……その時は、用済みとなった貴様らを軍神として祀ってやる。

 

私情はどうあれ、日本や艦娘たちに対する謀略はここにスタートしたのだ。




同盟を結んでいるからといって、決して仲良くなるわけではありませんから。
とある哲学者の名言「国家に真の友人はいない」というようなものかもしれません。
ともあれ今後はどうなる展開になるのかは、まだ先になりますのでお楽しみください。

では次回は前回の最後で皆さんが気になったと思いますが、秀真が考案した作戦”オペレーション一〇九”が明らかになります。

なおこの作戦名は一部ですが変わるかもしれませんので、こちらもお楽しみを。

それでは第十六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十六話:ネオ・オペレーション一〇九

気がつけばリメイク版を投稿してから、一ヶ月が経ちました。
前回は挫折しましたが、皆さんのあたたかい応援があったからこそこうして戻ってきたことに感謝しております。

では予告どおり、オペレーション一〇九の計画内容が明らかになります。

いつも通りですが、今回もまた一部変更している部分や台詞もありますがお楽しみを。

長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


連邦が誕生して十日が経った。

いうまでもなく、いきなり巨額の賠償金の支払いと無条件降伏を突きつけられた日本政府は驚愕した。

しかも要求を受け入れないときには、ミサイル攻撃に踏み切れるということである。

敵である深海棲艦、中岡率いるブラック提督たちの甘い言葉に釣られ、多くの国賊と売国者たちとともに建国しているため、もはや犯罪国家と言ってもいい。

 

要求額は300億ドル。日本円に直せば2兆4300億。

日本の国家予算は230兆なので10分の2たらずだが、借金に悩む日本にとっては、しかし巨額な金である。

なによりも根拠のない不条理な要求である。首相官邸では緊急閣議が行なわれていたが、安藤首相の許可により、元帥とともに秀真、郡司も出席することになった。

 

「わたしは連邦、いや実質的にはブラック提督と深海棲艦たちでしょうが、とんでもない額を突きつけてきたわけですが、まぁ払えない金額ではありませんから、わたしは支払い、無条件降伏を呑むべきかと……」

 

「貴方は本気でそれで済むと考えているのですか。かつての特アのように証拠もない戦争犯罪を突きつけて多額の補償金を支払わせた方法と同じです。彼らは無条件降伏などどうでも良いことです。我々がいとも簡単に賠償金を支払えば、これに味をしめて一文がなくなるまで、ゆすりたかられるのが落ちです!」

 

「それに過去に起きたハイジャック事件を起こしたテロリストに屈した挙げ句、世界中に恥を晒した無能総理、福山総理となにも変わりません。

それに一度このような要求を呑んだら、相手は今回以上の要件を突きつけてくる可能性があります!」

 

「元帥と秀真提督の言うとおり、かれらは敵対する者たち、深海棲艦らに寝返った裏切り者であります。

そんな国賊たち、いえ反逆者と化した彼らは、もはや敵以外、何者でもあり得ません。

しかも到底わが国に受け入れがたい要求を立てつけ、敵性国家の恫喝に屈するということは決してあってはならない事です!」

 

口火を切った鮫島財務相に対し、元帥と秀真と郡司の三人は反論した。

 

「しかし……これは国民を戦火に巻き込まない代償と考えれば、安いものと思って……」

 

「きみは元帥たちの話を聞いていなかったのかね?我々がイエスといえば、連邦は額を吊りあげてくるに決まっておる。それが彼らの常套手段なのだ」

 

秋葉法務相が太い声でいう。彼は大臣歴五回というベテランで、鮫島よりふた周りも年上だ。

 

「この、払わなければミサイル攻撃するという恫喝が……」

 

榊原国交相がためらいがちにいった。

 

「これは恫喝ではなく、宣戦布告です。かれらが強気なのは深海棲艦がいることです」

 

元帥がはっきりといった。

 

「外務大臣。元帥の言う見解はいかがですか?」

 

如月官房長官は尋ねた。ここにいるだれもが外務省の能力を疑っているのだが、口に出さないわけにはいかない。

 

「確かに言われるとおり、彼らが強気なのは深海棲艦がいるからです」

 

大州外相は珍しくきっぱりといった。

 

「北東アジア課の分析では、これはハッタリではないと考えています。むしろ我々に圧力をかけ、精神的に追い込むのが狙いだと思います」

 

外務省にしては珍しく正解だなと、未席に控えている矢島防衛省長官は思った。むろん元帥たちも同じだが。

 

彼らは日本を叩きたくて、いや、滅ぼしたくて仕方ないほうが正しい。

アメリカの支援、シーレーンが断たれたいまが、絶好の機会であることは子供が考えても分かる。

 

安藤首相は例によって腕組みをして、沈黙を守ったままである。

そのようなとき、彼の頭は超高速で回転しており、誰かが声を掛けたときは発言するのではないかと秀真は思った。

 

「首相、外務省はこのような見解ですが、いちおう特使を派遣して、賠償金で和解する方策をはかったらいかがでしょうか?」

 

塩島経産相がいった。

秀真の読みどおり、そのとき安藤の目はかっと見開いた。オールバックした頭が、そのとき逆立ったかに見えた。

 

「わが国はそのような要求には応じない……理不尽な金の支払いと条件などしない」

 

きっぱりと言う。

 

「しかし総理、彼らは本気だと思います。支払いを拒否すれば、やつらは本気でミサイルを撃ち込んでくるでしょう」

 

「うむ。それは分かっているが、ここが正念場だ。元帥たちが懸命に戦っているのに我々が弱音を吐いてどうする。我々も元帥たちの期待に応えなければならないときだ。

いちど譲歩すれば際限なく譲歩しなければならん……榊原君。都市住民の避難の見通しはすこし立ったかね?」

 

安藤が聞いたのは、国交省が主管となって、いざとミサイル攻撃があったときの避難計画を練っているからである。

 

「はあ、基本的には地震被災者の対応プランをたたき台にしておりますが、地震と異なるのは、地下が使えるということです。警報が鳴った場合は東京・横浜の場合は極力ちかくの地下鉄構内、名古屋・大阪・博多の場合は地下街に逃げ込むように指導したいと考えております。

とくに東京の大江戸線はきわめて深く掘られていますので、シェルターとしては有効だと考えております。

また化学弾頭に備えて、ガスマスクは大量にこれらシェルターに備蓄する予定です」

 

余談だが地下鉄がシェルターとして使われるのは、今に始まったことではない。

冷戦のさなか、ソ連のモスクワでもきわめて深い地下鉄が掘られ、核シェルターとして使えるよう様々な物資も備蓄された。現在では一部の核シェルターが公開されているが、未だに未知数であり、一説では1000ヶ所以上ともいわれている。北京でも広大なシェルターが構築された。

いっぽうアメリカでは、公共のシェルターはあまり考慮されなかった。家族単位に入れるシェルターは大いに売れた。

 

「うむ……それぐらいしか手立てはないということか」

 

「はい、これは地震の際も同じことでして、新幹線や高速道路を移動中の車については手の打ちようもありません。とくに海抜ゼロメートル地帯は浸水がひどく、数年前に起きた東日本大震災がこれを証明しております。この場合は地下鉄が使えませんので、今回は地下鉄が使えるだけでもマシだと思います」

 

大都会は自然災害には無力である。マグニチュード8クラスの地震に襲われた場合、東京では数百万単位の死傷者が出るといわれている。あまりに過密化しているので、手の打ちようがない。

 

「……すると、我々は深海棲艦だけでなく、連邦共和国との戦争に備えなければならんということですか?」

 

鮫島は震えた声で尋ねた。安藤はきっぱりうなずいた。

 

「そのとおりだ。理不尽な恫喝には屈せぬ。その原則は今までもの閣議になんども確認したはずだ。……矢島君」

 

安藤は防衛省長官に向いた。

 

「秀真くんがかつて考案した作戦『オペレーション一〇九』ことネオ・オペレーション一〇九の準備は進んでいるかね?」

 

本来は対朝鮮半島紛争のコードネームであったオペレーション一〇九を改めたものであり、ふたたび採用されたのでネオが付くのはそのためである。なお当初は新人提督でもあった秀真が考案した計画である。

その驚くべき計画内容とは、米軍やロシア軍のような長距離大型戦略爆撃機をなおかつ大量に持ち、来るべき日に備え、当時は仮想敵国だった特アと戦うためであり、日本の戦力として、相手を黙らせるための抑止力として立案していた。

しかしこの反日三ヶ国は消滅し、いまは深海棲艦たちの重要拠点と最前線基地などを空爆するための計画に変更になったが、さほど問題はなかった。

敵機が迎撃できない高高度を飛行し、敵重要拠点を精密爆撃、さらに敵の資材を枯渇させるだけでなく、敵の戦意を削ぎ、心理的に追い詰めるというものだ。

空母や核兵器同様に、これも戦略上必要不可欠な存在として抑止力として必要なのだが、言うまでもなく日本がもし戦略爆撃機だけでなく、前者も保有しようとするならば、当然多くの者たちがこれを反対していた。

その多くは中岡を含むブラック提督やかれらを味方する売国奴、自称平和主義者のプロ市民たちの仕業であった。

かれらの恫喝や妨害などにも負けず努めたが、秀真の懸命な努力も空しく辛うじて賛成してくれたのは安藤首相を含め、杉浦や元帥、郡司、古鷹たちといった少数のものたちしかおらず、かれの計画は頓挫してしまったが……

しかし今回は安藤や杉浦、元帥のおかげでふたたび採用されたのだ。

 

「はい、陸海空三軍、彼女たちと協力して、できるだけの準備はしました。MDについては米軍との合同訓練を積み重ねてきましたので大丈夫だと思いますが……ともかく実行しなければ分からりません」

 

「うむ。諸君の健闘を祈っているぞ」

 

「そのネオ・オペレーション一〇九だが……」

 

秋葉法務相が尋ねた。

 

「連邦のミサイル基地に対する戦線攻撃のプランはないのかね?」

 

矢島はかぶりを振った。

 

「残念ながら、我々は連邦に届くような爆撃機をもちません。連邦までは我が空自の空中給油機で距離を延ばせば届きますが、例え空爆に成功したとしても圧倒的な打撃力不足で基地を壊滅すると言うわけにはいきません」

 

「矢島長官の言うとおり、我が海軍と海自も同じく、海自潜水艦のハープーン、また彼女たちや護衛艦が連邦沿岸に接近して砲撃したとしても、深海棲艦と連邦海軍の妨害はべつにしても目標を壊滅させることは無理でしょう。

本来ならばトマホーク・ミサイルを使用すればいいのですが、それを搭載した我が護衛艦と米海軍筆頭とする多国籍巡洋艦も少数なゆえ、アメリカとの支援が断たれたいまは、本土防衛用として温存しています」

 

元帥がいった。

 

「そりゃ、困ったことじゃな」

 

秋葉はため息をついた。

 

「……まったくアメリカさんの支援が断たれたのは痛い」

 

誰も答える者はおらず、会議は終了した。

 

 

 

 

元帥や秀真たちも自身の鎮守府に帰ろうとしたとき、安藤総理は彼に話し掛けてきた。

 

「もし時間が取り戻せるなら、無理をしてでも秀真くん、キミの提案した計画を通すべきだった……

あの時は優柔不断なゆえ、オペレーション一〇九を台無しにしたのは、すべて私の責任であるのだから……」

 

酷く後悔していた安藤に対して、秀真は短く首を振った。

 

「いいえ。安藤首相のおかげでいちどは破棄されたオペレーション一〇九が復活したことに、私はとても感謝しております。私もできる限り連邦の好き勝手にさせぬよう全力を尽くし、必要とならば、私がこの身を犠牲にしてでも戦います」

 

「うむ。……だがキミたちは今後の日本を担う義務があるんだ。それに死に急いではならない。

また何か困ったことがあったら私にいつでも連絡しなさい。元帥ほど上手くはいかないかもしれないが、できる限りキミたちの力になろう」

 

「「「総理の支援に感謝いたします」」」

 

秀真たちは敬礼し、各鎮守府に帰投した。




秀真の戦略思想が『東の太陽 西の鷲』の登場人物『武部鷹雄』に似ている?
心配いらないわ、武部少佐のように狂気じみた戦略航空主兵主義者ではありませんので(加賀さんふうに)……

今回は前書きのようにこうしてリメイクにも関わらずに、楽しく読んでくれる同志たちに感謝しております。

では長話はさて置き、次回は皆さん大変長らくお待たせしました。
ついにあの人が秀真の前に出現します。

彼が現われた理由、それは日本の危機を救うためであった。

そして未来人が用意した超兵器は、かつて日本が計画していた巨人機『富嶽』だった!

アニメのような次回予告でしたが、次回もお楽しみを!

それでは第十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十七話:未来から来た男

お待たせしました。

では予告どおり、あの人がついに秀真の前に登場します。
いつも通りですが、今回もまた一部変更している部分や台詞もありますがお楽しみを。

長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


「提督。少し落ち着いた方が……」

 

「すまない古鷹。だが、こればかりは……」

 

秀真は自身の鎮守府、古鷹に心配されながらも深刻な表情を浮かべて執務室を歩き回っていた。

 

三日前、ふたたび意気阻喪させるメッセージが届いた。

もし日本が深海棲艦の基地をふたたび攻撃すれば、核ミサイルで報復するというのである。

これは駄目押しのようなものだったが、しかし連邦は本気であることはあきらかだった。

連邦の戦略はまず深海棲艦と戦わせ、日本がいいかげん消耗したときに、強大な連邦軍が出て行って、侵攻にかかるという筋書きだろう。

 

少なくとも沖縄を占領すれば、日清・日中戦争以来の日本への報復になると考えている。

中南海もそう考えていると推測する。

 

国内では騒動が起こり、反戦デモが吹き荒れた。

戦前でもアメリカとの戦争を反対していたのにも関わらず、某新聞記者らは一団となって、戦争をしない東条英機氏や軍部たちを徹底的に叩き、自国民ですらも嘲笑うかのように巧みに騙して、彼らを扇動した。それを知らずに扇動された国民は操り人形といってもいいほど、まさに手のひらを踊るピエロでもあった。しかし終戦後は多くの者たちは手のひらを返して、連合国側に寝返り、そして首相や軍部たちなどに強制されたという始末だった。

その多くの扇動者の子孫に、かれらを模倣した若者たちは、いまの日本を懲らしめたい思いか、国外から脱出し、我が身の可愛さがゆえに連邦の兵士に志願した。自分たちが使い捨ての兵士になっているとも知らずに……

 

これがきっかけに安藤内閣の支持率は、30パーセントまで急落した。

しかし少しでも理性のある国民は、このような事態が到来することは分かっていたはずだ。

安藤首相はテレビに出て演説し、かの有名なウィストン・チャーチルのような演説と、ジョークを混じり、国民を勇気立てた。これのおかげなのか浮き足立っていた国民を落ち着かせることができ、支持率も上昇に転じた。

だが問題は、すでに連邦共和国からの要求をはねのけてから三日の時が経っている。

連邦国ミサイル基地が、ノドンやテポドンに燃料を注入し始めれば、アメリカからの警告は入ることになっており……これは本土に撤退した太平洋軍司令部から座間キャンプに通じている光ファイバーでもたらせることになっていた。いまのアメリカが支援できるのはこれぐらいだった。

 

連邦の沈黙がかえって不気味である。猫がネズミを焦らすように日本に恐怖を与えて楽しんでいるのかもしれない。

 

三日前に行なわれた緊急閣議に出席した秀真は、ふたたび採用されたネオ・オペレーション一〇九のことも考えていた。

 

日本に戦略爆撃機があれば、敵の重要拠点をたたくのはたやすいのだが……

 

しかし、あいにく日本は米軍やロシア軍が保有する戦略爆撃機を1機も持っていない。

また爆撃機の代わりに虎の子であるF-15やF-3『心神』を戦闘爆撃機として使用することも可能なのだが、敵基地に対する打撃力不足なのは明らかである。ゆえに実行しようとするならば妨害され、作戦自体失敗に終わる可能性が非常に高いからだ。

 

ひとりで追い詰められたように悩んでいた時に、彼の傍にいた古鷹は名案を立てた。

 

「提督、何か甘いものでも食べましょう。甘いものを食べれば頭も冴えるとかよく言いますし」

 

古鷹の意見に賛成だと、秀真はうなずく。

 

「ありがとう。じゃあタピオカプリンと小腹が空いたからサンドイッチと、あと飲み物は温かいコーヒーを頼む。

古鷹も何か好きなものを頼んでも良いから。それから……」

 

「それから……?」

 

「……後ろで隠れている青葉たちにも伝えといてくれ、俺の奢りだからと」

 

「ふふふ。はい、分かりました」

 

秀真の頼みに古鷹は了解と敬礼し、執務室を出ることにした。

外からは青葉たちも嬉しそうに、はしゃいでいる声が聞こえた。

気分が悪いときは、みんなでなにか甘いものでも食べれば、不機嫌さも吹き飛び、思考も落ち着く。

 

「うーむ。ネオ・オペレーション一〇九が駄目なら他の作戦を考えなければ……」

 

秀真がうめいていた時だ。

すると部屋の温度が急激に下がり、靄のようなものが部屋の一隅に湧き出たかと思うと、だんだんとそれは人の形になったのである。やがてその姿を現した。グレイのスーツ、グレイのシャツ、グレイのネクタイ、グレイの靴という灰色づくめの男、顔立ちは同じ日本人だが、そうでもないとも言え、どこか人種を超越したようにも見えた。

 

秀真は思わず幻覚だと思い、目を擦ったが、現実である。その男は確かに存在していた。

次に妙な事に気づいた。机に置いているデジタル時計の秒針が止まっている。

秀真は手首のGW-7900も確認する。先ほどと同じように秒針も止まっている。

 

「突然現われて、失礼します」

 

驚くべきことに灰色づくめの男は、秀真の正面に立つと口を開いた。

流暢な日本語――だが、まるでコンピューターのように合成された音声にも聞こえた。

もしかしてこの男は精妙に作られた人間型ロボット、つまりアンドロイドではないか、と言う唐突な疑問を提督は応じた。秀真は架空戦記とSF小説に読みふけていたため、この連想を浮かんだ。

 

「……キミは何者だ。それにどこから現れた?」

 

秀真はごく当たり前の質問を発した。

 

「信じがたいでしょうが、わたしは未来の日本人なのです。とは言ってもあなた方のいる、この日本の延長上のある未来からではなく、別な次元にある日本からですが……それはこの世界とそっくりですが、微妙に異なった世界です」

 

「つまり、多次元世界の別の日本だと言うのか……」

 

彼の答えに、灰色服の男はニッコリした。

 

「その通りです。あなたは科学的要素がおありのようですね、アインシュタイン博士の学説も御存じのようですね」

 

「いや架空戦記とSF小説によく出ていたから、知っているだけだ」

 

秀真が言った。

 

「ふむ。そうですか。しかしこれはフィクションなんかではなく事実なのです。

その証拠にこの私も次元の壁を通り抜けて、ここに現れました。時計が止まっている事にお気づきですか……

未来の科学力を示すために、わたしが時間を止めたのです。それに邪魔が入るとまずいと思いまして」

 

「ふむ。どうしてだ?」

 

「なぜならば、わたしが話すことは突拍子的もないものだからですよ。まずあの方とあなたの耳に入れた方がいいと思いましてね…… まず、わたしのことは灰田と呼んでもらいましょうか」

 

灰色づくめだから灰田か、理屈は合っていると頷き、納得した。

 

「その話しと言うのは……?」

 

灰色づくめの男、灰田は語り始めた。

 

「あなたがたの日本が窮地に陥っていることは重々承知しています。我々はほかの日本の歴史を全てモニターしておりますのでね。こちらの世界の日本は極めて不安定ですな。

その状態は増加したブラック鎮守府の提督たちが引き起こした挙げ句、彼らは秘かに謀反を企て、深海棲艦と手を結び、さらに用が済み次第は彼女たちを処理し、彼女たちから貸与された軍事技術を利用し、世界を制覇しようと目論んでいます。かれらは元帥との間で、長年交わされていた契りを踏みにじり、一方的に反旗をしたのです」

 

「やはり、そうだったのか!」

 

秀真は愕然した。

これに新たな疑問が解消したとの爽快さを覚えた反面、次の瞬間、怒りも覚えた。

元帥と艦娘たちとの約束、暁の水平線に勝利を刻むことを平然と忘れた挙げ句、世界制覇のために敵側に寝返ったとは、それほど頼りにならない身勝手なブラック提督たちは、かつて存在していた特アとなにも変わらない。

 

「その情報に偽りはないか?」

 

灰田はうなずいた。

 

「われわれは常に世界中の情勢をモニターしており、全ての政治的変化も把握しています。……だからわたしの言うことはお信じなったほうがよろしい」

 

彼の言う事ももっともだ。なにせ次元の壁を越える科学力もあれば、この世界の情勢すら把握することは容易いことだ。

 

「分かった、灰田。キミの言う事を信じよう。だがキミは何をしてくれるのかね?」

 

「わたしはあなたがたを助けるために、ここに参ったのです。この苦境に陥った原因は、つまり理由の一つは軍事力の欠如ですな。艦娘だけでなく通常兵器の生産も抑えられ、さらに彼らの謀反のため戦力は割られたために対抗すべきもない。これは事実ですな」

 

図星。痛いところを突かれた秀真はうなずいた。

 

「……黙っても仕方がないが事実だ。情けないことに……」

 

「いや、ご自分を責めることはありません。これはいわばこの国がそのような選択肢を選んだことですから、どうしようもないのです」

 

まあ、そうなるなと言った表情をする秀真に、灰田は続けた。

 

「しかし、われわれの援助でいまの状況を一転させられます。わたしが私の世界から、強大な軍事力を持ってきて差し上げましょう。それは一度に逆転させられる秘密兵器です……」

 

「秘密兵器?それはなんだ……?」

 

秀真は興味を抱き、灰田にその秘密兵器を尋ねた。

 

「あなたは、かつて太平洋戦争当時に『富嶽』という巨人爆撃機が計画されたことをご存じですか?」

 

秀真はうなずいた。少年の頃からそして今でも“軍事オタク”ともいわれており、富嶽のスペックも諳んじている。

 

「もちろん知っている。中島飛行機の創設者である中島知久平が立案した『Z飛行機計画』に書かれていたターボチャージャー過給器付5000馬力エンジンを6発搭載した大型長距離戦略爆撃機。与圧され1万2000メートル、成層圏を飛行して直接米本土を攻撃可能な飛行機として計画されていた。全長45メートル、全幅65メートル、爆弾搭載量20トンまたは対艦攻撃用の航空魚雷20本を搭載、最大速度は780キロと言った、当時の米軍が使用した戦略爆撃機B-29をも上回るほどの巨人機。

しかも驚くべきことに中島知久平はこの富嶽を三種類ものバージョンを計画していた。

爆撃機の他にから200人の完全武装した兵員を空輸できる輸送機型に、7.7mm機銃多数を胴体下に装備、または200門もの20mm機関砲を下向きに並べた掃射機型、今でいうガンシップの走りを考えていた。しかし実現までに解決せねばならない諸問題が山積し、軍需省および陸海軍が採用された時点では遅すぎたため、富嶽計画は中止となった」

 

「そのとおりです。もしこれが実用していればアメリカ本土は大打撃を被り、戦争の行方はどうなっていたか分かりません」

 

「……確かに、だがこれは夢物語に過ぎない。当時の日本にはそんな巨人機を造れるはずはない。大鳳たちが装備する零戦の後継機『烈風』に、『震電』や『天弓』などですらも苦労していたのに……」

 

「おっしゃるとおりです。しかし、われわれは歴史を逆転させられます。

この富嶽をジェット化し、なおかつステルス化する。それも中途半端なものではなく、完全にステルス化し、敵のレーダーに全く引っかからないようするのです。それを200機、こちらの日本に持ってきて差し上げます。

われわれとしてはこちらの日本が、一方的に深海棲艦とブラック提督たちに叩かれるのは忍びないので」

 

秀真はこの突拍子のない話しに呆然とした。無理もない。

ステルス技術と言えば、アメリカが突出している。いわばアメリカの特許でもある。

世界初のステルス攻撃機F-117ナイトホーク、世界最強の戦闘機F-22ラプターにF-35ライトニングⅡを思い出す……これらはRAMと電波吸収剤を機体に張り巡らせているのだが、しかし100パーセントがステルスではなく、レーダーの性能と気象条件によっては探知される場合もある。また爆撃機B-1の後継機、B-2爆撃機も同じくステルス化されている。巨大な鏃をしたような異形さ持ち、未来的な機体をした爆撃機だ。ラジコン襲撃事件に襲い掛かってきたB-2の元祖ともいえるホルテン兄弟が開発した全翼戦闘攻撃機『Ho229』をモチーフにしている。

 

彼らだけでなくナチス・ドイツも戦争末期に様々な異形、未来的な戦闘機を開発した。

ハウニブもそうだ。垂直ジェットと推進ジェットを持ち、試験的に飛行を成功している。

噂ではヒトラーとヒムラーが秘かに異星人と交信し、彼らからその技術を貰ったなどとオカルトめいた伝説も残っている。ヒトラーの死だって同じだ。ベルリン陥落時に自殺したのはあらかじめ用意した影武者であり、本人は側近とともにUボートに南極の秘密基地に脱出したなどと数多くのヒトラー伝説の一つに過ぎない。

またヒトラーが暮らしていた地下壕を占領したソ連軍は血眼になって、ヒトラーと妻のエヴァ・ブラウンの死体を捜していたが見つかるはずもない。

服毒自殺後、二人の死体は親衛隊員によって大量のガソリンを掛けられたのち、焼却処分をされており、何一つ証拠すら残らなかった。

しかし粛清をおそれたジューコフはそこらにあった適当な死体を引っ張りだし、これこそヒトラーの死体だとスターリンと連合軍に主張し、双方を納得させたのだ。

ただし現在では、ヒトラーの死体など最初から存在しなかったのだと唱える者もいた……

 

それはともかく、灰田はジェット化され、なおかつステルス化した富嶽をこちらに貸与してくれるのか……

 

「そのとおりです」

 

秀真の心を見透かしたように言った。灰田はひとの心を読み取る能力を持っているらしい。

そして再び富嶽について話した。

 

「これは爆弾50トンを積め、アメリカのB-52爆撃機と同等か、むしろこれを凌ぎます。

八発ターボファン・エンジンによりマッハ1を超えますので。しかも爆撃機だけでなく、中島知久平が考案した掃射機バージョンも付け加えましょう。これはまさにガンシップ。20mmバルカン砲を100基、機体の下面にびっしりと並べています。むろん、リモコンで撃てますし、自動ターゲット追尾装置を持たせます」

 

自分は夢でも見ているのかと思い、頬をつねった。

 

「むろん、わたしの言う事はすぐに信じられないのは当然です。

また他人に話しても信じてもらえないでしょう。ですから、現物を一機こちらに持って来て、まずデモンストレーションさせることにします。

今から12時間後に札幌の新千歳空港に着陸させますので、滑走路を開けておいてください。そこに安藤首相と政府関係者、航空専門家、元帥、他の提督たちなどを待機させておいて下さい。百聞一見にしかずと申しますな」

 

灰田は微笑した。

 

「どうして、新千歳空港なんだ?」

 

「横田あたりでもいいのですが、深海棲艦たちの監視からはなるべく遠い方がよろしいでしょう。

実物を見ればあなたがたはきっと納得し、わたしの言葉が嘘ではないことを信じるでしょう。そのとき、この国の未来は別の方向に走り出します。それともうひとつ、時間稼ぎのために連邦共和国には先ごろの返答を翻して、賠償金を払うことを考慮しつつ、無条件降伏を考えていると安藤首相にそうお伝えていた方がいいでしょう。

それでは手配をよろしく、明日またお会いしましょう。

ただし、わたしの姿はあなたとあの方以外には見えないようにしますので、その点よろしく。誰にもでも見えるようになると、むしろ困難しますのでね」

 

灰田はそういうと、後じさりしながら再び灰色の靄に包まれた。いつの間にか、その姿は消えていた。

 

秀真は夢から覚めた者のように目をしばたたいた。

しかし灰田が消えたことにより、嘘ではない証拠に、ふたたびデジタル時計も動きだし、腕時計の秒針も動き始めた。




漸くと言いますか、ついにあの人こと灰田(ミスターグレイ)が登場しました。
もはや連邦国と深海棲艦たちにとっては終わりの始まりでもあり、そして主人公たちの反撃準備が始まりでもあります。正しくはもう少しですが。

では切りが良いところで次回は、灰色服の男こと灰田が未来から持ってきた富嶽のデモンストレーションであります。
こちらも前作同様と同じく事情により前編・後編に分けますのでお楽しみを。

それでは第十八話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第十八話:現代によみがえった富嶽 前編

お待たせしました。
今回はジェット化した新富嶽のデモンストレーション、前編であります。
前作と一部変更している部分は少ないかもしれませんが、楽しんでくれたら幸いであります。

長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


灰色服の男……灰田が指定した時間には、ちょうど翌日の正午である。

男の指示したとおり、安藤と元帥は民間航空会社に連絡して、正午から一時間、新千歳空港の滑走路を空けることにした。非常事態であるからすんなり了承を得られたから良いが。

物好きかその理由を聞こうとした輩がその理由を示せと迫ったが、安藤首相と元帥が政府の専管事項の機密事項であり、民間人の知ることではないと強権を押し述べた。

またマスコミを呼ぶことはしなかった。灰田の言う言葉が事実で、改造された富嶽がここに現れようとなると、マスコミによってリークされると不味いからである。

 

あくまでも深海棲艦と連邦国には秘密裏でなければならない。

 

「提督、大丈夫ですか?安藤首相と元帥、郡司提督と木曾さんは信じていますが、ほかの政府関係者の皆さんと軍関係者、航空専門の人たちなどは疑っていますよ……」

 

周りに聞こえないように囁く古鷹だが、秀真は大丈夫だと言う。むろん古鷹と同じく加古、衣笠、青葉も言う。

 

「白昼夢でも見たんじゃないのって他の提督たちは多いけど、あたしは信じるからな」

 

「提督の言う灰田っていう人が来たって証拠がなくても、私も信じているわ」

 

「確かに、もし本当に司令官が会った未来人、灰田さんが言った富嶽という名の爆撃機が現実に現れたら、これは大スクープの予感が……!」

 

「撮影は禁止、仮に青葉と話せるとしても取材はNGだと思った方がいい」

 

「うわーん、青葉のスマホ返してください!」

 

「これらが終わるまで没収だから我慢しろ」

 

しゅんっと落ち込む青葉には悪いが、彼女が愛用しているスマホは没収しておく。

念のため古鷹と加古と衣笠に頼んで、青葉のボディチェックもしている。確認が終えると服に隠していたいくつかの小型カメラもあったため、これも秀真が預かっている。

 

「しかし同志が言う現代によみがえった富嶽、しかもジェット化、なおかつステルス化していたらとは米軍もだがロシア軍と世界の軍、深海棲艦も真っ青だ……」

 

「周りの奴らは疑っているが、お前は郡司との仲だから、俺は信じている」

 

郡司と木曾も同じく信じていると述べていると―――

 

「私も秀真くんの面白い話、皆からは白昼夢でも見たと疑われているが信じているよ」

 

安藤首相が話し掛けると中断し、一同は敬礼した。

 

「それにかつて山本五十六が酒席で歌ったという、米本土空襲の物語「銀の翼は一万マイル」の戯れ歌を思い出させる。私も非常に楽しみだよ」

 

穏やかな口調で語る元帥、ふたりともいつもこの調子なら良いのだが………

 

「「何か言ったかな?」」

 

「いえ、お二人のあらゆる対策を取ってくれたことに大変感謝しています」

 

「うむ。私も子供のように興奮してしまいそうだよ」

 

その時に、不思議なことが起こった。

部屋のテレビは消してあったのだが、それが独りでにつくと、一つの画面を映し出した。

どこのチャンネルでもない、あり得ないはずのチャンネルで灰田が送ってきた電波としか言いようがない。その画面には、新千歳空港の滑走路が映り、巨大な八発爆撃機が着陸するところが映っていた。あたり一面、霧のようなものに包まれているが、そこからぬっと現われ、まるで垂直離着陸機のように着陸した。

灰田の言う通り、エンジン二基ずつツインになっているところは米軍のB-52そっくりである。後退翼も同じくB-52に似ている。しかも全身真っ黒であるのはステルス機独特の特徴である。

 

『これがわたしの話した新富嶽です』

 

今回は秀真と灰田が言うあの方以外のこの部屋にいる全員に聞こえた。

 

『皆さんは私の言葉を全く信じていないと思いましたので、予告編としてこの放送を流しました』

 

きっかり30秒その映像が映っていたが、プツリと消え、声も消えた。

 

「驚きました……」

 

古鷹がいった。加古と青葉も衣笠も同じく感想を述べた。

 

「今のが灰色服の男、灰田という人物の声か?」

 

木曾が尋ねると、秀真は頷いた。

 

「そうだ。そして映し出したのが彼の話したジェット化された富嶽だ」

 

「……かつての富嶽とはまったく変わっているようだ。本当にB-52戦略爆撃機“ストラトフォートレス”と見間違いそうだ……」

 

郡司が感想を述べる。

 

「飛行機とはいつの時代でも機能を突き詰めれば、みな同じように似てくるのだから仕方ない」

 

「少年の頃にSF小説でもこういう奇跡があるとは、夢のようだ」

 

元帥に続き、安藤首相がいう。

 

「わたし、提督の言った奇跡に感動しました。信じる者に起きるんですね!」

 

古鷹はいった。むろん彼女だけでなくその場にいた全ての者たちの感想でもあった。

映像を見るまでは安藤首相、元帥、郡司、古鷹たち以外は誰も信じなかったのだ。

 

これで俺の言ったことが嘘でないことが証明できた。では早速―――

 

結局このような事があり、他の者たちの疑いが晴れ、秀真の指示通りことが運んだというわけである。

 

 

 

翌日正午きっかりに、一同は新千歳空港の管制塔前に集まった。

またどこへなりと、迅速に移動できる車両も用意されていた。空港長とそのスタッフたちには、詳しいことは知らされていない。

これは前日に秀真の方針で、事実は実物を見てから、自分で納得すればいいだろうという考えである。

政府や軍部全体が狂ったのではないかと思われては敵わない。

またマスコミを遠ざけたのはなかばそのためだが、半永久的にいずれは緘口令を敷いてもらわないと困るからだ。

 

しかし今日に限って、寒さが増している……

 

十二月の北海道は冷える。全員が分厚いコートに身を固め、空港スタッフはボア付きのハーフコートを着ている。

なお古鷹たちも防寒服を着ている。

 

しかも天候も良くなかった。

 

どんよりとした曇り空で、今にも雪が降りだしそうだった。北海道東部ではすでに根雪が積もっていた。

一月になると千歳にもたえまなく雪が降り、除雪車が役立ち、滑走路にはもともとヒーターと排水溝が埋め込まれている。

 

飛行機、その姿形が見当たらない飛行場と言うものは奇妙である。

がらんとしていて、どこかシュールな感じがする。緘口令を出しているから当然と言えば、当然だが。

また近くの住民には憲兵隊が家から出ないようにと注意を促し、空港の周囲だけでなく、ここにいる全従業員にも警備兵とそれに化けた特殊部隊が張り付いており、緘口令を敷いている。

 

正午五分前になった。

 

―――灰田が言う約束の時間が刻々と近づいている。

 

霧が出てきて、数十メートルも見えぬほど濃くなった。元帥が軽く足踏みしながら呟いた。

 

「しかし寒いな。これなら防寒ブーツも履いて来ればよかったな」

 

「確かに、冷え症があるから困る……」

 

「大丈夫です、安藤首相、元帥。すぐにこの寒さは吹き飛びます。彼が約束した奇跡が起こりますのでご安心ください……」

 

秀真はブルブルと震えていた。緊張感に襲われたのではなく、不安と興奮としからしめるものだった。

 

「……同志、正午になったぞ」

 

郡司は手首のカーキパイロットの腕時計を覗きながら言った。

 

全員が固唾を飲んだ。

 

次の瞬間、何かが聞こえた。

ゴオッーという地鳴りのような響き。すぐ霧の向こう巨大な質量、飛行機特有の着陸する衝撃を感じた。

 

「来たぞ!」

 

秀真はおもわず叫んだ。そのとき、あつらえていたように霧が晴れ、彼らの滑走路の前に、巨大な爆撃機が鎮座していた。

ステルス機特有の真っ黒な塗装、ジャンボ旅客機に匹敵する巨体だが、それよりもずっとスマートだ。もっともボーイング社が開発・生産したボーイング707・202型よりは全長70メートル、全幅60メートルもあり、B-52よりも大きいが。それの機能をつきつめた軍用機特有の美しさを持っている。秀真はおもわず綺麗だと呟いたほど、新富嶽は容姿端麗である。

 

「近づいて調べてみよう。全員乗車せよ」

 

如月官房長官が言うと、用意されたバスに分散して乗り込む。

バスが近づけば近づくほど、その巨体さが明らかになってきた。

翼の真下まで来るとバスは一時停止した。そのとき秀真は、空席だったはずの席に灰色服の男、灰田が座っているのに気付いた。しかしいつの間にか現れたのか、全く気付かなかった。

 

「ご心配なく。わたしの姿も声もあなたとあの方以外、ほかの人たちには聞こえません。また時間も止めましたので、安心して話すことができます」

 

灰田は、秀真が自分と喋っていると秀真が独り言を言っているように見えて、精神の安定を疑われるのを気遣ってくれたのだろう。

確かに郡司、古鷹たちもまわりの人間と秘書艦たちも凍りついたように座っている。みなにとって時間は止まっていると思われたのだが……

 

「あれ、どうして元帥だけは……?」

 

「いや驚かせて申し訳ありません。実は彼女こそがわたしが述べたあの方なのです」

 

「いや、キミには黙ってて申し訳ない。ミスター灰田のかわりに私が説明する」

 

元帥は、灰田のかわりに説明をした。

彼女の話しでは、2ヶ月まえに灰田と接触し、この事態を伝えに来た。

元帥を暗殺部隊から守ったのも灰田の十八番であるクローン兵、超人部隊と言われる護衛兵たちが彼女を四六時中に護衛し、さらに中岡がいた元鎮守府の陽動作戦も同じく、彼女の戦友たちも灰田が次元を超えて連れてきた。

大鳳が2週間ほど遅れて着任させたのは、急速学習システムで教育させ、さらに震電改や天弓などの最新鋭艦載機などを揃えるたためであった。そのおかげであのラジコン襲撃事件の際に、大鳳が大活躍したのも納得する。

そして古鷹たちが鎮守府に早く戻れ、翔鶴とニコライたちを救出するために出現したあのワープゲートも元帥の命令であり、灰田の気遣いでもあった。先ほどの新富嶽に関しても、灰田から事前の連絡を聞いていたので一芝居をうっていたのだ。

 

「なるほど。しかし元帥も肝心なときに忘れるから、私や郡司にも伝えて下さいよ」

 

「すまない。なにせキミと郡司、どちらに話そうか迷っていたからな」

 

「……そうですか」

 

いつもなら彼女は作戦時や会議ではきっぱりものを言うのに、こういうときには限っては優柔不断になってしまう。恋愛下手でもあるが、信頼は厚く、面倒見は良いのだが。

 

「秀真提督がご理解したところで、新富嶽の説明にもどりますが、よろしいでしょうか?」

 

灰田の問いにふたりは、どうぞと言う。

 

「この機体は米軍のB-52にそっくりですが、全幅はやや長く、全長は短くなっています。

これらはかつて富嶽のスペックと比較してもそうです。もっとも70年以上も前のレシプロ機と現在のジェット重爆を比較してもあまり意味がないですが。

むろん過去の富嶽のスペックのままでは、現代で運用するはずはありません。

この新富嶽は機能的にB-52を凌ぎ、われわれの開発したターボファン・エンジン八基によって出力30万馬力以上を叩き出します、速力は丁度マッハ1、上昇限界高度2万メートル以上、航続距離は2万キロメートル以上に達します。

爆弾は50トン搭載。13mm機銃四連装砲を二基もっています。これはむろん自動化しています。乗員は6名で、B-52と同じです」

 

だが乗組員はどうするんだと尋ねようとすると、これまた心を読み取った。

 

「ご安心ください。われわれの世界からクローン兵を乗せることにします。

クローンとは複製人間のことで、なおかついろいろと遺伝子改良を加えていますが……

後にご覧いただけると分かります。またご希望の方のために、こういったスペックまたは操縦マニュアルは、全てコックピットに置いてありますので専門家の目を通してください。

そして一度テスト飛行をご覧いただければ、ステルス機能も分かるでしょう。

そしてこれを200機受け入れるために、北海道のどこかに大型飛行場を急速増設する必要があります。横田では常に深海棲艦と連邦国の偵察機で見張られていますので感心しません。

しかし北海道では、突然巨大な飛行場と飛行機が出現しても、彼女たちにはなんのことか理解しがたいでしょう。したがって北海道である必要があるのです。

それでは一旦、クローン兵を用意するために時間を解除します。

では、しばらくですがお二人には演技をお願いします。見事な演技に期待しています」

 

そういうと灰田は、すっと消えた。

 

「では、しばらくは演技に合わせてくれよ。秀真提督」

 

「了解です、元帥」




今回もクローン兵が新富嶽を操縦することになります。
なお余談ですが「超日中大戦」と「超海底戦車出撃」などでも彼らが操縦していますので違和感がなくて大丈夫かなと思い、ここは変更しませんでした。
前回もいいましたが、改めてリメイク版をやってよかったと思います。
今回のイベントで新しい艦娘たちに続き、同じく新しい深海棲艦たちも加わり嬉しいのであります。
この子たちも登場させようかなと思います、まだ先になりますので少々お待ちを。
でも神通さんを見る度に……

神通「提督、私なら大丈夫ですよ? 最初見たときは私も驚きましたけど……」

うん、ごめんね。それじゃ次回予告を続けます。

では次回はこの続き、後編であります。
新富嶽の性能を確かめるべく本機のデモ飛行と伴い、この新富嶽の名称を決めます。

それでは第十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です」

それでは神通に甘えます。

神通「ええ、神通で良かったら甘えてくださいね」(ぎゅっ)


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第十九話:現代によみがえった富嶽 後編

イズヴィニーチェ(遅れてごめんなさい)。

それでは予告どおり、後編であります。
いつも通りですが、台詞なども一部変更している部分がありますが、最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


次の瞬間、現実が動き出した。

一同は興奮した面持ちでバスから降りると、新富嶽に群がった。

胴体のハッチも開いていたので、ラッタルを下ろして、入ることもできる。

興奮しきった子供のように機体を調べまわる専門家たちに次ぎ、古鷹や他の艦娘たちを、安藤、元帥、秀真、郡司は……前者は苦笑し、後者は微笑みながら見守っていた。

 

閣僚たちは明らかに興奮していた。まだこんなことが起こったのが、信じられなかった。

 

「ふむ。その未来から来た日本人・灰田というのは、これを200機もこっちに送るという約束をしたのか?」

 

ふたたび演技をする元帥に、秀真はそれに合わせるように語り始めた。

 

「その通りです。これがもしB-52と同様の性能で、200機という大規模な兵力に、それだけの攻撃力があれば……深海棲艦と連邦軍の合同基地を壊滅することが可能でしょう」

 

「うむ。これが200機も用意され、敵の重要拠点に大打撃を与えることができるとは、なんとも心強いな。

まさにそのために彼は……灰田という名の人物はこれを送ってくれたのか……しかもステルス機能を持っている。

それについてはレーダーを使ってテストしてみなければならないが……」

 

「どうかしましたか、元帥?」

 

「これだけあると頼もしいが、肝心のパイロットが少ないのが痛いな。空自の少数精鋭主義が仇となったな……

しかも、一部の陸海空三軍などのパイロットたちが甘い勧誘に惑わされて、連邦軍側に寝返った者たちもいる。

ただでさえこの巨大爆撃機を操縦するほどの人数に余裕はないのに……」

 

「うーむ、困りましたな……」

 

ふたりが見事な演技をしていたとき、古鷹はある人物たちに気づいた。

 

「あれ?いつの間にパイロットさんたちが……」

 

彼女の言う通り、6名の兵士たち、爆撃機クルーたちがその場で待機していた。

これに気づいた一同はいつの間にと驚いたが、元帥と秀真はかれらに驚かず微笑した。

 

そう、灰田が時間を止めている間、先ほど教えてくれたクローン兵を用意しておいたのだ。

 

彼らが現われると、元帥は「あとは頼んだよ」と秀真の肩を軽くたたき、秀真はそれに応えるように説明をはじめた。

 

「彼らは灰田が用意しておいたパイロットたちです。全員が同じ顔、つまりクローン兵であります。

灰田がパイロット不足を補うため、われわれのために用意しておいたのです。なお左胸に佩用している金色の勲章がついた彼が、マツダ少佐であります」

 

秀真が言うと、マツダ少佐以下、複製兵士たちは敬礼した。

灰田が言うには全員がマツダのクローンであり、全員が超能力をテレパシー、つまり思念を交換する能力を持っており、無線機などは必要ないと言われる。ただし灰田は、今はややこしくなるから話さなくてよいと言われた。

ただでさえ新富嶽にも言えることだが、これ以上に混乱させてはいけないと気遣ってくれたのだろうと思われる。

 

「ふむ、なるほど。まさに至れ尽くせりだな…では早速」

 

安藤はラッタル・カーを呼んで、新富嶽のコックピットに横付けさせた。

各専門家たちのチェックが済み、そしてマツダ少佐たちに北海道の日本防空圏沿いに飛行するよう命じた。

この命令を聞いたマツダ少佐以下、複製兵士たちは了解するなり、すぐに新富嶽に搭乗した。

 

安藤と元帥と秀真たちは管制塔に上がり、新富嶽に乗り込んだマツダ少佐に交信した。

 

「飛行は大丈夫なのか?」

 

『問題ありません。では、これからエンジンを始動させます』

 

ターボファン・エンジンが点火し、その轟然たる音が管制塔のなかまで響いてきた。

 

『これより離陸します』

 

灰田が言うには最大離陸速度はB-52同様で、時速500キロだということだ。

 

「よろしい。高度8000メートルまで上がり、レーダーサイトの外にいったん出て、その外側に沿って飛んでくれたまえ」

 

『了解しました』

 

マツダ少佐が答え、かれが操縦する新富嶽の巨体はゆっくりと動き出した。

いったん滑走路の端まで行き、そこまで旋回してから滑走に移り始めた。次第にスピードを上げ、耳を聾する轟音とともに機体はふんわりと浮かび、巨体に似合わぬスピードで上昇すると雲間に消えていった。

 

日本沿岸には24基の防空レーダーがあり、そのうち6基には北海道に集中してある。

稚内の第18防空管制群、根室の第26管制群、網走第28管制群、奥尻の第29管制群、襟裳の第36管制群、当別の第45管制群がある。北海道が重視されているのは、かつてソ連空軍(現:ロシア空軍)を警戒していたころの名残りである。いまは日本海側と太平洋側、南方にもシフトしている。

深海棲艦ももちろんだが、新たな脅威として連邦共和国も脅威になるので、これらを忘れないためである。

それらの管制・警戒群については、これから行なわれることを連絡している。

マツダ少佐の操縦する新富嶽は一旦、南下して根室に出て、ぐるりと北海道を一周することになっている。

レーダーサイトの外部に出るから、当然チェックに引っかかる。

それらのレーダーサイトの間の通信は、空軍の用いる周波数で、管制塔と臨時に繋がっている。

 

―――その結果、驚くべきことが分かった。

 

各レーダーサイトの鼻面をかすめるように飛行していたのにもかかわらず、レーダーはまったく新富嶽を探知しなかった。

 

灰田の言う通り、新富嶽のステルス機能が100パーセント働いていることが証明できた。

 

「こいつは驚いた……」

 

最後のレーダーサイトからの報告を聞いて、杉浦統幕長が慨嘆するように言った。

 

「こいつは本物のステルスです。米軍の切り札ともいえるB-2爆撃機『スピリット』といえども、これほど完璧なステルス爆撃機は見たことありません……」

 

全員が驚愕した。

つまりテスト飛行は成功、完璧な結果で終わったことを知った秀真は微笑し、元帥はうなずいた。

 

「これならば戦闘機の護衛を付けなくても、敵の奥深くまで浸透できる。両軍が気づいたときには絨毯爆撃を喰らっているでしょう」

 

「うむ。しかし……この200機を受け入れるためには、まだまだクリアしなければならない問題がたくさんある。

今夜は、それについて話し合わなくてはならない」

 

灰田もクローン兵たちを配置した後、また今夜現れると約束していたからな。

では次の課題、これらの問題点を解決していこうか。

 

 

 

 

 

場所は移り、首相官邸。

テスト飛行を終えた新富嶽は、新千歳空港にある民間格納庫のひとつに収めて秘匿し――厳重な警備を付けてあと、安藤や各閣僚に、元帥と秀真たちはいったん東京に戻り、官邸で必要な会議を行なった。

 

「まず新富嶽200機と伴い、これを運用する飛行場を急速造成する必要がある。北海道にするのは確定だが、榊原国交相、どれぐらい時間で作れると思う?」

 

安藤は榊原国交相にたずねた。

 

「はあ、建築局の専門家とつめて見なければなりませんが、最低一ヶ月は必要でしょう。新富嶽の燃料タンクや整備施設も必要ですし………」

 

まあ、そういうことになるな……と秀真はうなずいたときだ。

 

「ふむ、なるほど。そう言う事になるか…… 秀真くん。問題の整備施設について、灰色服の男、灰田は何か言ったのかね?」

 

安藤が秀真に尋ねたときだ。

 

「……ご安心ください」

 

不意に耳になじんだ声が聞こえたので、秀真は振り返ると、後ろに灰色服の男……灰田がたたずんでいた。

 

「必要な整備部品や航空燃料はすべて特殊なものなので、これらのものは全てこちらが送ります。またパイロットや新富嶽に搭載する航空爆弾なども用意しましょう。そちらは飛行場だけを建造してくだされば結構です」

 

「うむ。分かった」

 

この会議の間の時間は、例によって止まっている。

もちろん元帥と秀真以外の人物、ほかの者たちにとっては失われた時間だ。

 

「ご安心ください。富嶽に必要な整備部品と航空燃料、航空爆弾、パイロットも彼がすべて用意いたしますので、我々は飛行場を建設すれば良いとの伝言が来ました」

 

秀真が安藤総理達に灰田の伝言を伝えると、矢島防衛大臣はいった。

 

「それと、富嶽というネーミングなのだが……」

 

「何か問題でもあるのですか、矢島防衛大臣?」

 

元帥の問いに、短く頷いた。

 

「確かに懐かしい名前だが、どうもレトロすぎてピンと来ない。何かもっと相応しい名前があるような名前があるようなのだが……」

 

矢島の言葉に、他の者たちは頷いた。

 

秀真も首を捻った。

 

確かに平成の今日この頃、70年以上の名前は馴染めない。かといって新富嶽という名前もイマイチである。

 

「諸君は、何かいい代案はあるかね?」

 

安藤の言葉に多くの者たちが沈黙して、数秒後のことだ。

 

「……あの安藤首相、よろしいでしょうか?」

 

この沈黙を破ったのは、古鷹たちだった。

 

「キミたちは、何かいい代案があるのかね?」

 

安藤は尋ねた。

 

「はい、みんなで話し合ったのですが……」

 

古鷹たちは顔を見合わせ、うなずいた。

 

「「「「Z機という名は、いかがでしょうか?」」」」

 

「ほう、どうしてかね?」

 

「青葉、出番よ」

 

衣笠は、青葉の肩をポンッと軽く叩いた。

 

「青葉の情報では、当初『富嶽』はZ機と名づけられた機体から発展したので……つまり最終兵器という意味です。

これこそ新富嶽に相応しいと考えています。これをZ機と命名したらいかがでしょうか?」

 

青葉の言う通り、当初中島飛行機がまず陸海軍に提出した富嶽の原型、この名称が付けられる前はZ機と呼ばれていた。そこから細かいところが修正されて、最終的には『富嶽』と命名されたのだ。

 

「うーむ。Z機か」

 

安藤が唸った。

 

「確かにこれは最終兵器ではあります。簡潔で覚えやすいし、これで良いでしょうか、安藤首相、元帥?」

 

秀真が言うと、ふたりは頷いた。

 

「いい代案だ。諸君も彼女たちの意見はどうかね?」

 

「ほかに、いい名案があるものはいないかね?」

 

郡司と木曾、ほかの提督たちにも尋ねたが、意を唱えるものはいなかった。

 

「ともかく、我々には一ヶ月の余裕が必要だ。その間は深海棲艦と連邦軍による双方の攻撃に万全の対策に努めなければならない。諸君も覚悟するように!」

 

真剣な眼差しで語る元帥の言葉に、秀真たちは頷いた。

 

「秀真くんが言った助言、彼の対策案はわれわれに任せたまえ。この責務は、大洲くん、キミたち外務省にかかっているぞ。よろしく頼む」

 

「ありがとうございます、安藤首相!」

 

秀真は返答する一方、大洲は顔を青ざめさせてうなずいた。

秀真ではなく、正確には灰田が教えてくれた対策案なのだが。

なにしろ300億ドルはあまりにも大金なので、国債を発行して海外から調達したのでは間に合わず、世界銀行から借りる必要がある。そのための時間が必要だという言い訳を用意してある。

なお、無条件降伏については賠償金が揃いつつ、貴国との調整するとの方針であると伝えることにしてある。

むろん、連邦国に一円たりとも支払う気はないが。

 

「それと連邦も馬鹿ではない。かれらの衛星は北海道で建設している巨大飛行場に気づくだろう。

またZ機が全機そろえば、当然これらに気づくでしょう。数機ならともかく、全機格納庫に隠しおおせるものではない。不審に思ったかれらが、どう出るかが心配だ」

 

「我が同盟国である米軍も当然気づくでしょう。彼らの衛星は優秀ですから」

 

矢島がいった。

 

「そのときの言い訳も考えておかなくてはなりません」

 

「いずれ、アメリカには正直に打ち明けねばならないことだろうが、その件に関してはわたしに任せてくれ」

 

安藤は答えた。

 

かくして道庁の交渉の末、十勝平野に広大な土地を借りる事となった。

帯平南部に広がる広野であり、畑や牧場となっているが、賠償金を支払って立ち退かせた。

釧路港に広大な貨物船が集結、全国から必要な資材がが運び込まれた。北海道中の土建会社も快く協力してくれた。

 

灰色服の男……灰田は、元帥または秀真が一人の時にたびたび現れては、必要な打ち合わせをしていった。

 

 

 

帰宅時。

ふたりの憲兵が操縦するUH-60JA--通称『ブラックホーク』の機内では、先ほどの緊張感から解放された秀真は、気分展開に缶コーヒーを古鷹たちと一緒に飲みながら堪能していた。

なお加古はいつも通り、気持ちよく熟睡しており、古鷹は彼女を起こさないように気遣っていた。

 

「今日はありがとう、みんな。おかげで助かったよ。しかもZ機と名付けるとはさすがだな」

 

「いえいえ、お礼をいうなら加古に言ってください」

 

どうしてだと、秀真は尋ねた。

 

「加古が今日は寝ちゃいけないって言ってたものだから、漫画本を一冊ほど隠し持ってきたんですよ」

 

古鷹は、いったんコーヒーを飲むのをやめて告げた。

 

「どんな漫画本だ?」

 

「これよ、提督」

 

尋ねた矢先に、衣笠は眠っている加古を起こさないよう、一冊の本を受け取った青葉はその本を秀真に手渡し、それを受け取った秀真はそのヒントになった漫画を見た。

加古が持ってきた漫画は、そのタイトルが『天空の富嶽』だった。

 

これは確か、むかしネット通販で買ったものだなと秀真はすぐに分かった。

秀真はたまに時間があるときはむかし愛読していた小説や漫画などを読み返し、またそれを古鷹たちと貸し合ったりする。まれに返し忘れたりするときもあるが。

 

「そうか、今回はみんなのおかげだな。よし、帰ったら俺が何か作るか楽しみにしてな」

 

機内にいた一同は賛成と一択、秀真の作るご飯を楽しみにしていたのだった。

余談だが帰宅と同時に起きた加古は、秀真から借りた漫画を返し忘れていたためのがバレたため、彼に叱られると思ったが……逆にほめられて、秀真に頭を撫でられたのは別の話である。




今回は新富嶽ことZ機の名称を付けたのは原作の『天空の富嶽』では、権田原危機管理監が名付けましたが、本作では古鷹たちのおかげで新富嶽はめでたく『Z機』と名付けられました。
そして無事何事もなく、灰田さんが用意してくれた現代によみがえった富嶽こと、日本の切り札となるZ機のデモンストレーションが終了しました。
今回はZ機のみだけでしたが、もう少し先ですが、また新しい超兵器も出ますのでしばしお待ちを。

神通「提督、次回予告を…」

おっと、ではそろそろ切りが良いところで次回予告であります。
では次回はお久しぶりと言ってもいいでしょうか、あの悪党大統領が現われます。
また戦艦水鬼さんも現れますので、彼女の内心も注目するといいかもしれません。
次回は今回イベントに出た新しい深海棲艦の子が、ちょっとだけですが現れるかもしれませんので、こちらもお楽しみを。

それでは第十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。何か美味しいものでも作りしますね?」

ある意味、飯テロかな?これはいい意味ですが……


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第二十話:双方の密談

イズヴィニーチェ(遅れてごめんなさい)。
今回は予告どおり、あの悪党大統領と戦艦水鬼さんのご登場であります。
少しだけですが新しい深海棲艦の子が、ちょっと登場しています。

長話はさて置き、いつも展開ではありますが、台詞なども一部変更している部分がありますが最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


それから、また一週間が経った。

連邦共和国への特使の派遣は、ひとまず成功したかに見えた。

相手から、つまり中岡大統領は日本の申し入れは了承したと伝えてきた。

 

ただし猜疑心の深い中岡のことであり、連邦共和国内部では、ことはそれほど簡単に進んでいなかったのである。

中岡は平壌に戦艦水鬼を呼び寄せ、表向きは親善と連邦の今後の細かい施策とすり合わせのためという名目だが、本心は無条件降伏ではなく、賠償金を釣り上げることを戦艦水鬼に相談することであった。

 

中岡は大同江(テドンガン)にちかい、第七号庁舎で戦艦水鬼を出迎えた。ただし気に食わないのが、本心だ。

戦艦水鬼はステビア海からわざわざ僚艦を率いてやって来たのだ。

彼女自身も同じく、多少の不満はあるものの、同盟を結んでいる以上は仕方ないことでもある。

それまでは38度線の鉄原付近で中断されていたものをつなぎ直したのである。

 

列車に連邦共和国国旗で飾り立たれていた。

なお深海棲艦たちにとって国旗などは興味はなかったので、中岡たち連邦国にすべてを任せたのだ。

かつての北朝鮮の国旗と韓国国旗、いわゆる大極旗はまったく違うデザインなので、統一するのに手こずった。

北朝鮮の国旗は、上下の青い帯に挟まれた赤地の中央に赤い星がひとつ輝いている。

そこで大極、つまり太陽のまわりをいくつもの星がきらめくデザインとし、また一部青色の帯は深海棲艦との親交と証しとして、デザインとして残したのである。

 

国旗で列車に飾り立てたのは、沿道の人民たちに、連邦共和国成立を強く印象付けるためである。

中岡は用心深いたちで、かつて金一族が統治していた平壌市内にいくつもの執務室を有効に利用した。

むろん中岡は非常に用心深いとブラック提督たちの間では有名であり、以前の鎮守府でもいくつもの執務室や隠し部屋などをもち、絶えなく移動し、また使い捨ての影武者も用意した。

この習慣は元帥と秀真たちだけでなく、艦娘たちと敵対していた時には当たり前にしていたのである。

 

この時代、中岡がいちばんビビったのは朝鮮半島および中国侵攻で、各指導者と幹部たちがみじめな姿で捕まり、そして彼女ら深海棲艦たちに殺されるか、または一部の深海棲艦(駆逐艦クラス)の食糧にされたことだ。

ルーマニアのチャウチェスク大統領夫妻、イラクのフセイン、リビアのカダフィー大佐などもみじめな最期を遂げた。独裁者の最後はヒトラーやスターリンも含め、実に哀れなものである。

中岡は、自分が独裁者である事を承知しているから、このうえ用心深く振る舞った。

ヒトラーは忠誠を誓った警備部隊に守られていたが、中岡や幹部たちも同様の警備部隊に守られていた。

しかし同盟を結んでいるから、ある程度は神経を使ってはいないが、それでも用心に関しては常に心掛けている、これだけは忘れなかった。

 

ふたりは余人を遠ざけ、中岡の豪華な執務室で会った。

ただしふたりの美人秘書だけは付き添っているが、この秘書たちはテコンドーの達人であり、ふところには92式拳銃を、また予備としてベルトの背中側に挟んでいるP230JP拳銃を忍ばせている。

また戦艦水鬼なりの気遣いだろうか護衛として、重巡ネ級と軽巡棲姫もかしづいている。

むろん軽巡棲姫たちも疑心暗鬼のままだったが、戦艦水鬼に厳命されているので彼女たちも我慢した。

しかし軽巡棲姫たちは冷静な表情を崩してはいないが、その瞳の奥には彼らに対する憎悪があったに違いない。

 

「イカガナモノカ、中岡大統領?」

 

戦艦水鬼の問いに、中岡は切り出した。

 

「チョッパリの奴らは、なんと小さいことだろう。ただちに賠償金を支払わなければ本土を焦土化すると脅かしてやったら、さすがにやつらも面子があるのか、いったんは断ったのにもかかわらず、すぐに前言をひるがえして、賠償金を支払うと言って寄こしました。また無条件降伏も同じだがな。

そこで相談だが、俺様の感触ではさらに日本を脅せば、多額の賠償金も取れそうだなと思うが、どうかな?」

 

「……ソウネ」

 

戦艦水鬼は思考した。

彼女は何度も元帥と秀真と郡司だけでなく、ほかの提督や艦娘たちと戦い、それなりの人なりをよく知っている。

きわめて優秀な人物たちで信念も強い。だからこそ艦娘たちをフリーハンドで使える。

敵ながらも天晴という言葉があるように、だからこそ敵を侮ってはならないと常に心掛けている。

 

「アマリ奴ラニ圧力ヲカケルト、返ッテヨクナイ結果ヲモタラシカネナイ。『窮鼠猫ヲ噛ム』トイウ諺モアルカラナ。ワタシトシテハ、無条件降伏ダケデ十分ダト思ウガ……」

 

彼女が柔らかく言うと……

 

「しかし、奴らがわれわれの理想を踏みにじった事を考えると無条件降伏だけで足りないぞ!」

 

中岡は激高した。歳のせい、いや、元々カッとしやすい性格の持ち主だ。

本人は精神論と伴い、論より抗議、あとは暴力をモットーとしているため、若い頃から激発型でもあった。

そのため多くの同胞と側近たちが多くの罪をなくして処刑にされた。また家族までも平然と殺したのだから。

この国を支配していた北の指導者も中岡同様に、激高型であったために多くの彼の側近たちが罪なくして処刑された。しかも身内である妹の婿すらも処刑にされた。その息子もこれに倣い、多くの側近たちを粛清した。

なお、最近では居眠りをしただけでも粛清された哀れな者もいたが。

いまは、唯一の生き残りでもある出来の悪い長男の金正男も粛清されるのではないかという噂も流れていた。

これは最初の妻との間に生まれた子で、顔つきは父親そっくりだった。

しかし北の指導者は三番目の妻で、女優だった高英姫との間に生まれた二人の子供たちをほうがことを可愛がったゆえ、出来もよかった。

 

そのため金正男はしょっちゅう外国に出かけているが、その多くが偽装パスポートを用いたものなので日本はもとよりほとんどの国から入国を阻まれている。せいぜい入れるのはパキスタンと中国、ロシアぐらいなものだ。

パキスタンとはミサイル輸出をつうじて密接な繋がりである。中国は北朝鮮の後ろ盾であるから、当然と言える。しかし、20XX年にこの偽装パスポートを用いて何度も日本に出入りしていた。

一度だけこれが発覚してからは入れなくなったのが、当時の外相である田中真紀子は密入国の罪で糾弾することもせず、すぐに国内に放り出した。

しかし、北の指導者の息子でいえども毅然として国際法にのっとり、拘束して尋問すべきだったのである。

このように臭いものに蓋をする態度を取り続けたからこそ、日本外交はバカにされ続けた。

 

「ソレニカンシテ、我々ハ一切ノ賠償金ナドハ要求ハシナイ、スベテ大統領ノイイヨウニ。

ノチニ、オオイニ役立ツダロウ。

ワタシガ危惧シテイルノハ、奴ラヲ追イ詰メルト何ヲシデカスカ分カラナイトイウコトダ。

ナニシロカツテノ日本ハロシアニ勝チ、米英ヲ相手ニ回シテ戦イ、最初ノ半年ハ勝ッテイタ国ダカラナ。ソノ気ニナレバ、艦娘ダケデナク、自衛隊ヤ多国籍支援軍ノ戦力モ侮レナイ」

 

「しかし、一ヶ月待てとは腹立たしい!」

 

中岡はまたしても激怒した。

 

「今すぐ賠償金を支払い、無条件降伏を呑むべきだ!」

 

「ナニシロ急ナコトダ。時間モカカル。ソレグライ待ッテヤラナイト」

 

戦艦水鬼は穏やかに言っているものの、本心は呆れている。

中岡率いる連邦軍とはいまは同盟ではあるが、彼らの過激な体質には彼女は危惧していた。

これから友軍として戦おうとしているのに、ここで暴発的行動を起こせば、内戦に陥ってしまうからだ。

 

むろん、そんな事態は避けたい。

 

もし内戦になったらコイツを真っ先に暗殺し、悪い方向にいかないよう、日本と単独講和をしようと決めている。

行なうのは簡単だが、なにしろいま目の前にいる人物が、本物の中岡、本当に本人なのかも分からない。

だからいまは辛抱強く我慢して、その時が来れば、中岡や彼らの支持者ともども殺せば良いと。

かりに仕留め損ねたら、コイツの処理はあの元帥と艦娘たちに任しておけばいい。

それが大統領の責務だと考えていた。




中岡より戦艦水鬼さんのほうが大統領に向いているような気がしますが……
これからはどういう展開になるかは、のちのちお楽しみを。
さて今回は台詞なしですが、新たに軽巡棲姫がちょっとだけ出演しています。
前回の後書きのように書きましたが……察してくださいね、はい……
なお彼女もまた再登場しますので、しばしお待ちを。あれ……?

ネ級「アノ、私ノ出番ハ……?」

彼女も出ますから、とりあえず今はまたしばらくお待ちを。

ネ級「アリガトウゴザイマス。デハ、シバラク待機イタシマス」(ペコリ)

この子、礼儀正しくて良い子であります。

神通「提督、お客さんと話すのは良いですが、そろそろ予告編を…」

おっと、では次回はZ機が第三の目撃者に発見されてしまいます。
その目撃者は誰ですかって?それは次回のお楽しみで軍事機密であります。
それではそろそろ切りが良いところで、次回もお楽しみに。

それでは第二十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです。提督、お疲れ様です」

ネ級「ダ、ダスビダーニャ…コレデイイノデスカ、提督?」

それで良いのであります、二人ともお疲れ様です、それではひと休憩しましょう。


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第二十一話:第三の目撃者

今回は前回予告したとおり、連邦視点に引き続き、第三の目撃者に視点に移ります。
第三者の正体が明らかになります。
では長話はさて置き、毎度お馴染みではありますが、台詞なども一部変更している部分がありますが最後まで読んでいただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


南方海域にとある連邦基地。

中岡の側近となった忠秀軍事委員会副主席のところに、空軍の衛星管理処から奇妙な報告が来た。

忠秀はヨウ総参謀長と空軍司令員のキョウ上将を呼んで、その情報の検討をすることにした。

鹵獲した中国の衛星は五個であり、その内のひとつはたえず日本を監視している。

これは静止衛星で日本上空を張り付いているのだが、解像度も高い。

 

「この写真に問題があるというのかね。ここはいったいどこを撮影してきたものかね?」

 

持ってきた写真をデスクの上に広げた。

そこにはモザイク模様の平原だが、ところどころ綿ぼこりのような雲が浮かんでいる。

忠秀はたずねたため、大校はしゃちこばって答えた。

 

「これは日本の北海道南部を連続撮影した写真の一部であります。しかも拡大してあります……ここをご覧ください」

 

大校は写真の一部を指で指し示しながら、細長い長方形のものが映り、その左右にいくつかの巨大な建物、格納庫のようなものが並んでいた。

そして一機の飛行機も映っていた。漆黒のツインジェット・ユニットを四基も持つ飛行機が見えた。

 

「この写真から被写体のサイズを特定するのは難しいのですが……我々の推定ではジャンボ機サイズの重爆専用飛行場だと考えています。いうまでもなく、この細長い滑走路であります。そして問題はこの黒い巨大な飛行機ですが……米帝のB-52戦略爆撃機によく似ているのです」

 

「そいつは不思議だな」

 

秀忠は落ち着き払っていった。

 

「米帝が日本にB-52を貸与しているはずがない。制空権はわれわれが握っているし……先月には大統領閣下の厳命でグアム・サイパンに駐屯していた爆撃機部隊は馬鹿な特攻隊と自爆無人機、自爆イ級たちなどが全て破壊した。

それに奴らも貸与するほど戦力に余裕はないし、来年までは反撃することはないだろう」

 

「とすると、どういう事になるのですか?」

 

キョウ連邦空軍司令官が訊く。

 

「まさか日本が短期間で、米帝並みの重爆を開発したとは考えられません」

 

「それはその通りだ」

 

さしもの忠秀も考え込んでしまった。

 

「だが、今のところは何とも判断ができん。ともかくこの場所は継続して監視するように」

 

大校に命令した。

 

「ハッ。了解しました!」

 

大校は敬礼して写真を纏めると、退出した。

 

忠秀はキョウ司令員を見返った。

 

「なんだか嫌な予感はする、キョウ大将。我が連邦国の偵察機かいまは盟友である深海棲艦の艦載機を飛ばして、この場所を直接偵察するわけにはいかないか?」

 

「我が連邦の足の長い偵察機でも、九州まで往復するのがせいいっぱいです……爆撃機を使っても無理でしょうし、バカな深海棲艦たちを使っても同じことです。日本の制空および制海圏内には入れませんのが現状であります。

空自や多国籍支援空軍に迎撃されていたずらに被害を増やすだけとなりますから……」

 

キョウは苦い顔にして、被りを振った。

 

「空母があれば全て解決することができますが、しかし我が連邦の空母が就役するまでには、あと二年かかるでしょう」

 

「そんな事は分かっている」

 

忠秀は苦い顔になった。

かつて中国も空母の欲しさのあまり、ソ連がスクラップにしようとしたキエフ級航空母艦のキエフとミンスクを購入したことがある。

しかし使い物にはならずテーマパークとなる始末であり、無駄金を使ったにとどまった。

ただしウクライナが廃棄しようとした中型空母に関しては、十八番ともいえる架空の会社を使って手に入れたのはいいが……改装および試験航海のさなかに、深海棲艦の侵攻にあい、結局は出撃することなく放置状態となった。

 

世界の軍事常識は、空母の運用には長い経験が必要となる。

世界で空母を運用している国はアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ロシア、ブラジルのほかにアジアでは、インド、タイぐらいしかいない。

 

連邦軍は艦娘と深海棲艦ではなく本物の空母を持ちたい。

 

のちに行なう世界制覇をするために必要なのである。

 

しかし空母が就役しても、まず使い方を習う必要があった。

 

いざとなったら、いまはコイツ等には教えていないが、アレを、例の生物兵器を使うしかないな。

 

しかし相変わらず小うるさい戦艦水鬼たちは『非人道的な兵器』だといわれたが、これは大統領命令だ。

 

新型空母とともに、実戦経験に使えるからな。

 

あとはもう少し増やすために、今後とも我が国内にいるあわれな女たちをたぶらかして集めなければな……

 

忠秀はそう考えると、思わずニヤリとしたのだった。

 

 

 

 

 

 

ほぼ同じころ。

アメリカの偵察衛星KH-11の後継機――KN-12偵察衛星も北海道南部に奇妙な施設を発見していた。

アメリカの衛星情報は、すべてペンタゴンに集めら分析されて、必要部署にデータが送られる。

太平洋艦隊司令部にもそのデータが送られてきて、その謎を解くべく、海軍情報部員が自衛隊情報本部との面会を要求した。太平洋のシーレーンが奪われたため、PCによるモニター面会だが。

このあたりのアメリカという大国は、まことに自分本位であり、知りたいことの欲求を隠さない。

情報監部も会わないわけにはいかず、市谷台の防衛省本部にあるPCでモニター面会をする。

 

自衛隊の本部というのは、自衛隊内部の情報活動を一元化したセクションである。

国防に必要なあらゆる情報が、全てここに集まってくる。部長は三枝陸将補だった。

さっそくモニター越しに現れたのは、アメリカ海軍情報部員のマケナリー少佐である。

 

「では……さっそく話に入らせてもらいますが、ジェネラル・サエグサ」

 

マケナリーは単刀直入に切り出した。横に置いていただろうブリーフケースから取り出した写真の束を一枚、一枚めくりながら見せた。

 

このとき三枝には、米軍情報部員が面会する理由の検討がついていた。

総合幕僚本部から話がおりてきており、その問題に関する想定問答集までもがついてきていた。

 

「われわれの偵察衛星が北海道南部に奇妙な施設をキャッチしました。ペンタゴンの分析では、大型航空機専用の飛行場らしいということですが、その大型航空機となるものの見当がつきません。ここに見られるとおり一見すると、我が国のB-52にそっくりな機体が一機映っています」

 

少佐は一枚の写真を三枝の前に映した。

たしかにそこには真っ黒な巨大な航空機が移っている。向こうの世界から到着したばかりで、格納庫がしまうのが間に合わなかったものだ。

 

「われわれはB-52を貴国に貸与した覚えがありませんし、それに先月の攻撃で逃れた機体は一機もありません……これはいったいなんでありましょうか。ペンタゴンの解釈では、連邦と深海棲艦を惑わすためのダミーとだろうということですが、そうなのでしょうか?」

 

三枝は少佐のほうから答えを切り出してくれたので助かった。

もし正体について突っ込まれたら、そう答えろと命じられたのである。

 

戦争ではダミーという兵器がよく使われる。つまり敵を欺くための偽装兵器である。

しかし現代のように赤外線探知システムが発達すると、ダミーは使いづらくなったが……第二次世界大戦ではよく使われた。アフリカ戦線では《砂漠のキツネ》として呼ばれ恐れられ、一躍として有名になったエルヴィン・ロンメル将軍に、いっぽう連合軍は《モンティ》ことバーナード・モントゴメリー将軍も偽の戦車、航空機、果ては鉄道まであり合わせの資材でこしらえては、空からの探索の目をごまかし、敵を威圧した。

 

また有名な例では、ジョージ・パットン将軍の幽霊軍団である。

シシリー島で戦場神経疲労症の兵士を殴り、激怒したアイクによって閑職された彼はオーバーロード作戦(ノルマンディー上陸作戦)の実地にあたり、ドーバーの対岸に偽の軍団を集結させ、いかにも大軍を率いてカレーに上陸するように見せかけるよう命じた。これらも航空機や戦車も全て木製のダミーである。

しかもパットンがこれを率いるという情報が積極的に流され、ドイツ軍はすっかりそれを信じ込んでしまった。

しかし史実では連合軍が1944年6月6日に上陸を敢行したのは、ノルマンディー海岸であったのである。

パットンの欺瞞活動が敵の戦力を削いだのは確かなので、功績はあったと言える。

ひとの悪いアイクはフランス上陸後に、彼に一個軍を与え突撃させるつもりでいた。

史実上パットンは第3軍を与えられ、フランス南部を補給が追い付かないほどの快進撃をし、ドイツ軍をパニックに陥れた。

 

「よくお分かりになりましたね」

 

三枝はおもねるように言った。

 

「まさにその通りなのです。われわれは連邦国を欺くための苦肉の策としてダミーの重爆飛行場と機体を製造することを決めました。むろん連邦国がそれを見て、攻撃を思いとどまってくれることを期待したのです……

じつはB-52が配備されていると、誤解することも期待していました。そう考えれば連邦国と深海棲艦といえども下手に攻撃はしてこないでしょう」

 

「いや、かえって連邦国のミサイル攻撃の恐れもありますぞ。貴国は深海棲艦らの対処にも手を焼いているのに……

それだけでなく我が第七艦隊やグアム・ハワイ空襲の二の舞にもなってしまいますが、そこはどうお考えですか?」

 

少佐は切れ者らしく鋭い質問を発した際には、三枝も苦笑いした。

 

「たしかに、連邦国は北海道まで届くSRBM(短距離弾道ミサイル)をもっているでしょう。

しかしMDシステムでおそらく撃墜できますし、深海棲艦は勇敢な提督と艦娘たちのおかげで撃破しています。

……深海棲艦については我が国の交戦権は、正当な集団的自衛権として認められています。

それに連邦が先に火蓋を切ってくれれば、これまたこの戦争は日本の防衛戦争ということになり、今後の国連でも優位な立場に立てます」

 

「なるほど、それも確かですな!」

 

マケナリー少佐はにやりとした。

 

「かつての中国には、戦いに勝つにはまず味方を欺けることという諺がありますが、それを真似をしたのですね。

われわれも危なく貴国がB-52クラスの重爆を急遽開発したのかと思わず本気で信じてしまうところでした。

じつはすでに開発してあったものを隠しておいていたのだと。だが、これはブラフだったわけですな」

 

「そういうことです。これからどんどん機体を増えますが、そういうことを承知して置いてください」

 

むろん、Z機が実際に作戦活動を始めれば、それがダミーどころか、恐るべき実力をもつ重爆だということが、ただちにアメリカにも判明する。

 

しかしそうなったら、その時のことだ。

 

いまはただ時間稼ぎを優先する。

 

ともかく納得した答えが出たので、少佐は満足してPC面会を終わらした。

三枝は会見結果を総合参謀会議に報告した。




連邦に続き、米国にZ機は目撃されましたが、いまのところはセーフであります。
原作(小説・漫画版)でも中国・アメリカは、日本に見事に騙されていますが。
さて皆さん、お気づきになられたと思いますが連邦国が秘かに開発している“生物兵器"については、連邦国が立案した侵攻作戦に登場しますので、しばしの間ですがお待ちを。

それではそろそろ切りが良いところで、次回予告であります。
次回はZ機専用基地を建造と伴い、連邦国がまた何かを目論み、それを実行します。
いよいよ新たな戦いの始まりでもあります。

それでは第二十二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第二十二話:危機のシーレーン

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)
では連邦と第三の目撃者(アメリカ)からの視点から打って変わり、十勝基地を建造と伴い、このサブタイトルから分かる事件が起こります。
そして毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


安藤・元帥・秀真の付託を受けて、主席補佐官の鳥飼が十勝基地建造作業の監督に当たることとなり、鳥飼は現場に詰めっぱなしで、仕事をこなさなければならない。

なにしろ一ヶ月という期間付きである。ジャンボ旅客機に匹敵する『新富嶽』ことZ機を200機のための飛行場を造るのだから、常識に考えられないスケジュールである。

ひとえに可能となったのは、灰色服の男……灰田の支援があったからである。

灰田は元帥と秀真の前だけでなく、安藤首相・郡司・鳥飼のまえに出没するようになっていた。

ふたりの代理とみなしたからだろう。

 

灰田は向こうの世界から機体だけでなく、航空燃料、整備用部品、それらを入れる倉庫、さらに完成された格納庫すら運んできた。

 

そのため、200機がそろっても全て格納庫に入れられる見通しがついた。

 

この点は、敵の衛星で偵察されてもZ機は見えないからである。

 

そのため日本施工陣のエネルギーは、ひたすら滑走路の建設に集中できた。

 

パイロットに関しても、灰田が向こうの世界から複数兵士を送り込んできた一方……こちらの世界でも深海棲艦と連邦軍を打倒しようと各鎮守府にいる兵士と志願パイロットたちなどが現れたため、多数のクルーを養成しなければならなかったが……これは鳥飼たちが関知することではなかった。

最大の救いは巨人機であるにもかかわらず、わずか六人で飛ばせるということである。

そのマニュアルを読むと、機能の80パーセントが自動化されており、しかも三重のバックアップ・システムを持っている。

 

現代の旅客機と同じく巡航高度まで上がって、目標の座標を入力してしまえば、あとはオートパイロットがやってくれる。

Z機は四連装13mm機関砲塔二基、合わせて八門を持つが、索敵、照準、射撃も全て自動化されている。

これらはバルカン砲に匹敵する射撃スピードを持ち、敵のロケット弾とミサイルをも撃墜可能だ。

六人かける200人で1200人、予備要員も入れると1300人はクルーだけで必要、整備員を含めると2000人ちかい要員をひねり出さなくてはならない。元々少数精鋭主義の空自にとっては、不可能と思われる数字だったが……

灰田が贈り出したマツダ少佐と彼の複数兵士、各鎮守府にいる兵士たちのおかげで十分な人員にそろえる事ができた。

 

しかも飛行機の操縦そのものが容易く、志願したクルーたちはすぐにマスターした。

B-52とC-5ギャラクシー輸送機の経験操縦がある秀真たちもためしにテスト飛行をしたが、マニュアル通り、本当に容易くマスターでき、各鎮守府のパイロットたち、翔鶴たちを救助したニコライは数多くの軍用機を操縦してきたが「これほど簡単に操縦できる爆撃機は初めてだ」と驚かされるほど、Z機は操縦しやすい。

また航空機を操縦したことがない古鷹をはじめほかの艦娘たちにもテスト飛行をさせてみたが、これまた容易に彼女たちでもZ機の操縦法をマスターすることができた。

 

佐伯幕僚長は全機いちどに出動させることは考えにくいので、100機を動かすだけのクルーが常時確保されれば良いと考え、あとは予備要員とした。

 

 

 

そして一ヶ月が来た。

 

灰田が約束したとおり、一ヶ月でZ機専用飛行場が完成し、要員もそろった。

敵のミサイル攻撃および空爆に備え、陸自と多国籍軍の高射特化部隊が配置された。

また万が一に敵が上陸したときに備え、周囲にはドイツのKSKからイギリスのSASなどといった数多くの対テロ戦で戦果を挙げたベテランぞろいの各国の特殊部隊に、少数の多国籍戦車・軽装甲車両部隊なども配備された。

また上空には定期的に、空自と多国籍空軍が周辺や基地上空を警戒している。

Z機はすべて灰田が運んできた格納庫に収められ、その格納庫ものも未来の素材でできており、通常のミサイルと深海艦載機の爆弾攻撃なら十分耐えられると、灰田は保証した。

航空燃料もたっぷり用意されたが、現代のあらゆる航空機が使用する航空燃料とは一味違い未来の添加剤が入っており、その素材は秘密だが、通常の航空燃料やメタノールより50パーセントましのパワーが出て、なおかつ燃費も良いという事だった。

 

確かにテスト飛行の結果――異常な燃費の良さとエンジン・パワーの強大さ、特にトルクの大きさが確かめられた。

 

しかし期限どおりとはいえ、ぎりぎりのところであった。

ついに堪り兼ねた中岡は“交渉を打ち切る。24時間後にミサイル攻撃を開始する”と警告してきたからだ。

 

24時間という期限を入れたのは、一部の賢明な幹部と深海棲艦たちの意志が入っているからだろう。中岡や彼の忠犬ともいえる幹部たちなら奇襲を狙っていたはずだ。

しかし戦艦水鬼は仲間たちを想うため、脳筋であり、人間に限界はないと古臭い概念―――”根性論”を唱える中岡のように無茶なことはしなかった。

日本にとって救いなのはいまだに連邦軍は深海棲艦との連携が取れていないこと、そして深海棲艦もまた連邦軍との連携が取れていないことが、むしろ救われていたのかもしれない。

 

連邦軍が幸いと言うべきか警告してきたので、秀真や郡司、ほかの提督たちはあらためて第一から第三までの艦隊を南西諸島海域にかけて展開した。敵合同艦隊を向かい討つためである。

また元帥の命により第四艦隊は各鎮守府の予備戦力として、とどめておくことは厳守している。

同じく海自と多国籍海軍の護衛艦群は、浜田沖合いから能登半島沖合いにかけて再展開した。

かれらの任務は、発射されたノドンとテポドン・ミサイルなどを空中で迎撃することである。このシステムは短距離から中距離の弾道ミサイル迎撃を目的とする艦船発射型弾道弾迎撃ミサイルと言われており、RIM-161スタンダードミサイルを改良したもので、SM-3と呼ばれる。

 

その主役はむろんイージス艦とミサイル護衛艦である。

沖縄県・石垣島にも布陣している護衛艦群もいるが、少数なのは否めない。

なお海自および多国籍海軍が撃ち漏らしたミサイルは空中では空自と多国籍空軍が仕留め、またしても撃ち漏らし、これが降下してくるところを陸自と多国籍支援部隊のPAC-3などが迎撃するが、これはさらに難しい。

ミサイルの最終速度はマッハ6以上の超高速になるからである。

 

それに地上近くで撃破しても、被害を被るから何の意味がない。

このため日本海と南方海域に展開した秀真・海自司令官たちなどは、Z機による先制攻撃に望みをかけていた。

連邦国は日本攻撃にはノドンしか使わないはずだ。

テポドンは中距離ミサイルであり、連邦国としては大陸弾道ミサイルに仕立てたいと考えている。

改良型のテポドンⅡは射程距離は6000キロメートルなので、ハワイやグアム攻撃の目的はもちろんだが、一部はアメリカ沿岸地域を攻撃することができる。

 

連邦国がノドンに燃料を注入し始めたときは、米軍から統幕本部に通報が来ることになっていた。

これに呼応して、連邦海軍は行動を起こし、南シナ海域の航行中のタンカーや貨物船を潜水艦で攻撃した。

 

この攻撃はすでに予測されていた。

 

中東の油田に頼っている日本は、タンカーを南シナ海域を通らざるを得ない。

フィリピンを迂回するとひどい遠回りになり、時間もコストもかかる。

そのため襲われるのを予知しながら、マラッカから南シナ海へのルートを通らざるを得なかったのである。

その支援のため潜水艦も十二隻、東シナ海から南シナ海にかけて展開させる。

しかしここにいたって連邦潜水艦と潜水カ級らがともに活動し、三隻のタンカーが立て続けに沈められた。

一隻100万トンのスーパータンカーだから、これは痛い。

 

しかもこれに飽き足らず、連邦国はジュネーブ協定をやぶり、病院船までも沈めた。

日本政府や各国の政府も連邦国に抗議をしたが、対する連邦国は自国の潜水艦群がやったという証拠もなければ、病院船を轟沈されたのは、病院船に武器弾薬とほかの物資を積んだだけでなく、かれらが轟沈されないように工夫をしなかったと、嘲笑い、開き直ったほど先の大戦で米軍が犯した戦争犯罪を真似したのだった。

つまりジュネーブ協定を無視し、ひそかに敵国に補給物資を積んだ他国の病院船が悪いということを言っている。

宣戦布告をせず、しらを切るというこの巧妙な作戦は効果があり、各国は抗議は先延ばしせざるを得なかった。

 

敵の卑劣な攻撃により、元帥たちはもちろん、海自と多国籍海軍にとっては面目を丸つぶれに等しい。

だが、なんといっても連邦国と深海棲艦たちのお膝元である。地の利がある。

それに連邦国はすでにキロ級を失ったが、旧式のロメオ級潜水艦から最新鋭の原潜またおよそ六十隻の稼働艦を持っており、さらに潜水カ級などもいる。

その数でも圧倒的に有利であり、海自潜水艦群の裏をかくのはじゅうぶんだった。

ただちに海自潜水艦群に向けて、司令部から通信が飛び、日本輸送船を守れという命令が出された。

後々イムヤたちは、かれらに合流するため、しばし出撃は事情により遅れる。

 

実質的の連邦国との海戦である。

 

石垣島にいた護衛艦群は幕僚監部からの命令を受け、台湾南海上を迂回して南シナ海の公海上に進出した。

秀真たちも新たな艦娘たちを出向かえ、古鷹たちとともに出撃した。

 

こうしておそまきながら、シーレーンの防衛にかかった。

 

ただし、明らかに現在の兵力が絶対的に足りないことはたしかだ。

本来ならば中東から日本までタンカーを集め、全護衛艦と艦娘たちを動員して護送船団方式で運ぶべきである。

しかし秀真・古鷹たちや多国籍海軍はこれに慣れているが、海自は長年後方支援ばかりしていたので頭で分かっていても迅速には動けず、強権で民間のタンカーを拘束することをためらっていた。

 

これは第二次世界大戦でもそうだった。

英米の間、あるいは英ソの輸送ルートは最初から護送船団方式ではなく、各輸送船が単独航海していた。

そこをドイツ海軍のUボートに狙われ、片っ端から撃沈されたので、護送船団方式に切り替えた。

しかし、それでも単独航海しようとする頑固な船長たちがいたのである。かれらの言い分は、護送船団方式だともっとも遅い船に、その速度に合わせなければならず、かえって危険ではないかというものだった。

 

この言い分にも一理ある。

 

しかしUボート部隊は、すぐさま護送船団方式に対する新しい戦法を生み出した。

その名もウルフパック――いわゆる群狼戦法である。

つまり、一隻のUボートが敵輸送船団を見つけると仲間を呼び集めて執拗に食い下がって、一隻ずつ食っていく。まるでシカの群れを襲う狼に似ていることから、この名が付けられた。この戦法の餌食となった船団らは目的地に着いた時には、ほど半分に減っていたということもあれば、全滅したという悲惨な船団もいた。

1943年半ばまではUボート優位の状態が続いていたが、連合軍が長距離哨戒機・電波探知機・対潜専用の護衛艦(駆逐艦や護衛空母など)を多数投入することで形勢は逆転した。

Uボート部隊は次第に追い詰められ、形勢逆転を狙おうとしたが、かえっていたずらに損害を増すばかりの結果となり、ついに再逆転はできなかった。

 

いっぽう日本は単独航行にこだわり、次々アメリカ潜水艦や航空機などに多数の輸送船を沈められた。

これではまずいと悟って、ようやく護送船団方式に切り替えたのは昭和18年になってからである。

しかし護衛艦としては必要な駆逐艦は、すでに多数沈められ、作戦が窮屈になっていたのであまり効果を挙げられなかった。

 

もし戦争初期に護送船団方式を取っていれば、損害はだいぶ防げただろう。

 

太平洋戦争では、兵站構築等に関しては日本軍は後手後手に回ったがその一例である。

 

この命令を受けた海自三個潜水隊の先任司令の成田海将補だったが、輸送船の護衛を優先するか、敵潜を狙うべきか判断に迷っていた。

 

防衛および後方支援ならまだしも実戦が初めての司令部は、明確な命令を出せなかったはずだ。

しかし成田は考えた。タンカーにつかず離れず護衛していれば、かならず敵潜は現れる。そこを撃沈する。

同時に日本政府はすべての輸送船に対して、インドネシアのスンダ海峡からマカッサル海峡、セレベス海峡、そしてフィリピンの東海方面に抜けるルートを検討していたが、なかなか実施に踏み切れなかった。

マラッカを抜けるに比べて、あまりに遠すぎる迂回ルートである。しかもインドネシアの多島海を抜けてこなければならず、暗礁が多く、下手をすれば深海棲艦に襲われるのでそれだけでも危険である。

 

しかしいったんマラッカ海峡ルートを抜けた後は、なるべくフィリピン寄りに北上するよう指示した。

かくして突然、日本の石油シーレーンは連邦潜水艦と深海棲艦の脅威にさらされ、秀真・古鷹たちと海自をはじめとする多国籍海軍のいまある兵力だけで対抗しなければならなかった。

 

いよいよ連邦共和国と実質的開戦……しかし日本に宣戦布告はしなかった……となった。

ただし、戦艦水鬼率いる深海棲艦はご丁寧に宣戦布告をしたが。

よくよく考えてみると、戦史を振り返っても正式に宣戦布告があったほうが珍しい。

太平洋戦争でも日本は最後通牒とおぼしきものをアメリカに手交したが、宣戦布告というよりも国交を断行するもやむなしと書いてある。

 

そして、真珠湾奇襲攻撃でなしくずに対米戦を始めたというわけだ。

 

ドイツはソ連に宣戦布告をせず、来るべき対ソ戦《バルバロッサ作戦》の発動に備えて、大軍を北方・南方の両軍に分けてソ連との国境に集めておいた途端に、突然侵攻したのである。

対するソ連側は対独計画段階で揉めていたため、まったく戦う準備などできておらず、パニックに陥って、ドイツ軍の怒涛の進撃を許した。

 

総司令官たるスターリンは二週間も行方不明だった。

独ソ不可侵条約あり、ヒトラーは決して我が国に戦争を仕掛けてこないと、スターリンは信じていたふしもある。

だが、一部は対独戦に備えるべきだと主張する者がいたが、人間不信のスターリンはろくに聞くことはなかった。

なにしろ冬戦争開始まえでも優秀な指揮官たちを大粛清し、かれの側近ですらも信じられず虐殺をしたのだから。

慢心というべきか、それが脆くも破られたので、そのショックのあまり姿を隠したらしい。

しかし立ち直ったスターリンは、持ち前の鉄の意志を発揮し始め、退却した将軍たちをすべて銃殺刑にするという荒治療という方法に出た。

これが功を奏して、ソ連軍の混乱はおさまり、ジューコフを代表する名将たちが活躍し始めて、ドイツ軍はモスクワ前面に食い止められた。もっとも『腐った扉を蹴り飛ばしただけでもソ連は簡単に崩壊するだろう』と宣言したヒトラーとソ連という広大な大国と冬将軍を知らず、ヒトラー同様に、そんなことも知らずに冬装備をしなかったドイツ軍にも敗退の原因もあるが。

 

しかしそのあとも押されまくり、スターリングラードで決定的勝利になるまで二年近くを費やした。

 

これと同様に、なしくずしに戦争が始まった。

しかし実質的には、深海側に寝返り、中岡率いるブラック提督たちが賠償金を支払わない時にはノドンをぶちこむと恐喝したときから、戦争は始まっていた。

 

アメリカの支援が断ちきられた日本は孤独で戦わなければならなかった。

政府も軍事大国でもあるインドにも特使を派遣、貿易・相互産業開発協定を結ぼうと努めており、台湾にも協力を求めているが、良心的な配慮のため、両国を巻き込むわけにはいかない。

かれらが連邦国と深海棲艦の攻撃を受ければ別だが、親日国とはいえ、自分たちから立ち上がらなければ義理がない。

 

日本は自衛隊と艦娘たち、そして少数の多国籍支援部隊で戦わなければならなかったことに変わらない。

 

基本的には孤独にちかい日本は、その孤独のなかで、戦いは始められるのだった。




史実上でありますが、連邦国との戦いが始まりました。
前作では中途半端なところまでしか進めませんでしたが、今回の戦い(海戦)を上手く書けるように気合入れて、執筆します!(比叡ふうに)
もちろん秀真や古鷹たちだけでなく、神通さんも活躍いたしますのでご期待を。

神通「!! お任せください! 必ず提督のご期待に応えて見せます!」

あはは…神通さんが張り切っているところで、次回予告であります。
では皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
次回はいよいよこの物語のメインともいえる超兵器、日本の切り札こと灰田さんが用意してくれたZ機部隊が敵ミサイル基地を爆撃するために出撃いたします。
その威力とはどれくらいなのかは、次回のお楽しみに。

それでは第二十三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…では、あなたたちも訓練の続きをしますよ!」

あはは…神通さん、張り切るのは良いけど無理しちゃダメだよ。(ぎゅっ)

神通「あの、その、急に抱きしめられたら、わたし…///」

青葉「これはこれでいい記事になりそうな予感が、あれ、カメラは?」

???「ハハハッ、すり替えておいたのさ!」

青葉「あ、青葉のカメラ返してください」

あれ、いま某蜘蛛男がいたような気がしましたが……気のせいですよね?


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第二十三話:日本反撃、Z機飛び立つ!

それでは皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
予告どおりこの物語のメインともいえる超兵器、日本の切り札こと灰田さんが用意してくれたZ機部隊が敵ミサイル基地を爆撃するために出撃いたします。

ではそろそろ日本の反撃よ…全Z機、発進!そして連邦と深海棲艦を徹底的に叩きます!(蒼龍&飛龍ふうに)

そして毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


十勝のZ機部隊は軍のなかでも特別編成された部隊で、マツダ少佐とかれの複製兵士、志願パイロットたちなどといった陸海空の三軍から引き抜かれた要員で編成され、運用されている。

 

司令官は空自から選ばれた栗田空将で、指揮系統には統幕会議に直結している。

米軍太平洋軍司令部からの衛星監視によりノドンの燃料注入に開始されたという通信を受けた直後、総幕会議は、ノドンおよびテポドン基地へのZ機による空爆を決定、ただちに実行に移すよう栗田空将に命じた。

ノドンとテポドン基地も咸鏡北道(ハムキョンプクド)にある。

これら地名にいずれもミサイルの名前としたものでノドンは蘆洞。テポドンは大浦洞のことである。

もっとも北朝鮮内部での呼び名は違うが。同時に連邦軍と深海棲艦の合同海軍基地への空爆を命じた。

双方は北から青島(チンタオ)、寧波(ニンポー)、広州(クワンジュ)、湛江(チャンチャン)に海軍基地を持っている。

 

北から北海基地、東海基地、南海基地と名づけられた。ここを壊滅すれば双方は史実上、骨抜きとなる。

 

この命令を受けて栗田空将は、200機全機を出撃させることにした。

100機ずつを二隊に分け――アルファ隊、ベータ隊と名づける。それぞれの隊には爆撃機バージョンが90機、掃射機バージョン10機を用意する。

この掃射機の威力もテストで実証されており、なにしろ1分間1000発という猛威な火力を持つ多銃身バルカン砲が100基並んでいるのだから、この弾幕にとらえられた戦闘機は、例えマッハ2のスピードを持ったとしても逃げられるものではなかった。

 

Z機の航続距離は2万キロメートル。バシー島沖まで浸透できる航続距離をもつから作戦上は問題ない。

連邦国を爆撃するのにはお釣りがあまりすぎるぐらいだ。ステルス爆撃機のため奇襲攻撃が可能だから、F-15とF-3は護衛を付けない。これら戦闘機はあとで出番があり、爆撃機の護衛の役目は掃射機で十分である。

命令を受けてから二時間後に、アルファ爆撃隊の一番機が飛び立ち、まず連邦国に向かった。これに99機が続いた。

 

すでに目標はコンピューター爆撃マップに入っており、GPSで確認されている。

一番機の隊長はマツダ少佐である。

テスト飛行した際には、灰田いわく『マツダ少佐は天性の爆撃機乗りといってもよく、その資質は訓練で十分に発揮されている』と平然と言っていた。

最初は誰もが疑っていたが、その言葉どおり、マツダ少佐は優秀な技能と的確な指揮を兼ね備え、訓練でも非常に優秀だったため、指揮官として抜擢された。

 

バシー島沖に向かうベータ爆撃隊の隊長は、本郷大佐。

これまた技能優秀。100機のZ機を率い、8000メートルの高空から基地施設四箇所を空爆する。もともと日本軍は爆撃機用の爆弾は持たないから、すべて灰田が向こうの世界から持ち込んだもので、その威力はシミュレーション実験で実証済みである。

通常の1トン爆弾の三倍の威力を持っていた。Z機は実に50トンも搭載している。

Z機はマッハ1で、1万2000メートルの高空を飛び、日本海を横切ってたちまち連邦国に辿り着いた。

 

連邦日本海側沿岸には、むろん対空レーダーが並べられていたが、そのひとつもZ機をキャッチすることができなかった。Z機の完全なるステルス性能が利いたのだ。レーダー要員たちは遥か高空の雲の上に、くぐもった大型機特有のジェット爆音を聞いたが、なにものであるかは判別できなかった。

艦娘たちが攻めてきたはずがない。しかし日本軍もレーダーに引っかからないような大型機を持っているはずがない。

 

ともあれ、首都平壌に向かい空襲警報が出された。

これを知った中岡大統領は首をひねったが、なにしろ聞いたのは爆音だけで、レーダーにはなにも引っかからないという。ことは、ステルス機かと推測した。日本には平壌までは辛うじて届くF-15戦闘機をもっているが、戦闘機のことだから都市攻撃には乏しい。

高価で貴重な機体をそんな目的のために出してくると事は思わない。

 

とすれば目的はただ一つ、燃料注入中のノドン基地である。

この燃料注入は二時間かかり、準備時間を含めると実戦配備につくまで三時間はかかる。

この時間がかかるのはノドンの泣き所で、固形燃料化すればすぐに解決できるのだが――テポドンの改良を優先にしたため、そこまで至らなかった。

 

中岡は、総参謀長に電話で怒鳴った。

 

「何だか分からんが、ジャップどもはおそらく爆撃機を飛ばしてミサイル基地を狙っているぞ。発射を急がせろ。移動基地をすぐに移動させろ。それから戦闘機を出せ!」

 

咸鏡北道にあるノドン基地は五つ、その内のふたつが発射台は車輌に搭載した移動基地である。

 

「はぁ? 爆撃機でありますか?」

 

アンミョンペク総参謀長の声はいぶかしげだった。

 

「敵はそんなものは持っていないはずですが……」

 

「だが、現に何かが飛んでいる。戦闘機を飛ばして迎撃させろ!」

 

連邦空軍の主要基地は、江原道(カンウォンド)と黄海北道(ファンヘプクド)にあり、虎の子である中国人民解放軍が開発した二種類のステルス戦闘機J-21と31が置かれている。双方合わせてその数は50機。

これらの性能的には、空自の主力戦闘機F-15に匹敵し、F-3とは互角に戦えると言われているが、電子システムは両方に劣るらしい。双方は北東に向かって、急上昇したが、やはりレーダーに敵影を捉えることはできなかった。

灰田がZ機に用いたステルス素材は完璧なものであり、まるで幽霊飛行機である。

双方の飛行隊は敵機を見つけられず、やむなく帰投した。

もしかれらが1万2000メートルの高空まで上がれば、肉眼でZ機の大軍を視認できたかもしれない。

しかし、もしこれらを迎撃しようとすれば、たちまち掃射機の弾幕に捉えられて撃墜されたはずだ。

 

帰投したのは正解であり、運が良かったのかもしれない。

 

これらの戦闘機は虎の子であり、指揮官は大事にとって帰投させたのである。

 

その間にもZ機隊は既定の針路を進んでいた。

 

「……最初の目標まで、あと1分です」

 

ナビゲーター兼爆撃士が機長こと、マツダ少佐に報告した。

 

「よろしい。高度8000メートルまで降下する」

 

Z機はレーザーを用いた全天候照準装置を持っていたが、これまた灰田からのプレゼントだった。

 

これは米軍爆撃機が持っているのと同じもので、目標記憶装置やGPSと連動している。

 

「ターゲット・ワンへの爆撃針路に入る」

 

Z機は高度を落としながら、爆撃針路に侵入していった。

 

このとき、まだ雲の上である。

 

しかし照準システムのコンピューター画面には、赤外線で捉えたターゲットたちがくっきりと映し出されている。

 

 

 

地上ではあと10分で発射準備が完了するところで、まず20発のノドンが発射され、東京と大阪を襲い、順次発射されたノドンは横浜・名古屋・福岡に命中する。

搭載する弾頭には通常炸薬のほか、炭疽菌、黄熱病ウイルスなどの生物兵器、生プルトニウム、チクロン・ガスなどの化学兵器が積まれていた。

なかば洞窟に隠れ、発射の時だけ発射台が引き出されるようになっているものもある。

 

しかし自衛隊情報司令部は、米軍の軍事衛星を利用し、それら全てを掌握していたのである。

地上基地では連邦軍防空隊が、大型ジェット機特有のエンジン・ノイズが聞こえたが、雲が厚くてよく見えなかった。防空隊は対空ミサイルも用意していたが、レーダーにはなにも映らない。見えないものを攻撃しても仕方がない。

 

いったい何ものだろうと、多くの隊員たちは首をひねるばかりだった。

 

まさか米軍がここまで来て、爆撃しにきたのではあるまい。

 

精鋭部隊ともいえる防空戦闘機隊は、いったい何をしているのだろうか。

 

いったんは緊急発進したが敵を見つけられず、帰投したことを彼らは知らなかった。

次の瞬間、ぶ厚い雲を突き破って、何かがクルクルと回転しながら落ちてきた。

地上にいた全員は蒼顔し、思考停止した。それは明らかに爆弾だった。しかも巨大なやつだった。

ミサイル部隊指揮官は、すべての作業を中止、防空壕に退避しろと叫ぼうとしたが、間に合わなかった。

無数の1トン爆弾が地上で炸裂、そこにあった全てものを吹き飛ばした。

灰田が用意した航空爆弾は、米軍のBLU-82《デイジーカッター》並みの、それに近い威力を持っている。

 

これを喰らった隊員たちの人体は雲散霧消。

発射台も粉々になりミサイルは爆発したが、弾頭のBC兵器は爆弾の炸裂で生じた高熱空気のため、その場で無力化された。Z機は戦果を確かめつつ、次なる目標へと向かった。プロットされた五つの基地を完全破壊するまで、30分もかからなかった。

 

掃射機の機長は爆撃隊の下を旋回しつつ、腕を撫していたのだが、上がってくる敵戦闘機は一機もいなかった。

 

“われ奇襲に成功せり、一五〇〇”

 

マツダ少佐は暗号無電で東京の統幕会議に打電すると、部下たちに反転を命じた。

 

 

 

中岡は何が起こったのか、よく分からなかった。報告してくるべき防空隊も全滅してしまったからである。

かろうじて、ミサイル基地から離れていた港湾棲姫たちと陸軍部隊からの緊急報告がきた。

 

「ノドン基地は、すべて猛烈な爆撃を受けて破壊された模様です」

 

それが第一報で、アン総参謀長から報告がきたのは、正体不明の侵入機が報告されてから、およそ40分後のことである。

 

「大統領、ノドン基地がすべて破壊されました!」

 

「なんだと!?」

 

中岡は呆然した。

 

「どうやってだ?」

 

「爆撃されたのです!」

 

「いったい爆撃したのは、どこのどいつだ?」

 

「……それが、よく分からないのであります」

 

アン総参謀長はそう答えたが、その瞬間、自分の首が飛ぶことを覚悟した。

 

「ともかく敵機は大型爆撃機、しれもステルス機能を持つらしく、我が軍のレーダーにはまったくひっかかりませんでした。ですから我が防空隊もミサイルを発射できなかったのです」

 

「ステルス爆撃機だと!?」

 

ふざけるなと言わんばかりをした表情で、中岡は喚いた。

 

「そんなもんを持っているのは米帝だけだ! 畜生めが!」

 

冷静さに欠けた中岡は、強硬命令を下した。

 

「この恨みはかならず晴らしてやる!テポドンなどの核ミサイルを全世界に撃ち込む準備をしろ!」

 

「ちょっとお待ちください、大統領。そんな大胆な事をすれば全世界との全面戦争になります。そうなれば、我が連邦軍は勝ち目がありません」

 

「うるさい!我が国は連邦国になった事を忘れたのか、こっちには使い捨ての深海棲艦と奴らから貸与された技術で開発された最新鋭の陸海空三軍を持っとるんだ。

そんな弱気でどうする!人間には限界がないんだ!」

 

中岡は、口癖のように『限界はない』という根性論で唱え、吠えた。

 

「それはそうですが、我々の敵はあくまで日本、異端者と博愛主義の兵器どもであって、全世界ではありません。この爆撃機の正体をはっきりするまで、テポドンなど核兵器の使用は控えるべきだと考えます」

 

総参謀長は必死に説得したおかげで、そうだなと唸った。

もともとヒステリックというか、小さな些細な事で切れる中岡だが、総参謀長の言葉を聞き分けるだけの分別はまだ残っていた。

 

「…分かった。ともかくその爆撃機の正体を調べろ、急速にだ!」

 

「分かりました」

 

アン総参謀長がほっと胸を撫で下ろす一方……中岡は焦っていた。

 

これは早めにあの生物兵器の完成を急がせなくては……




原作通りに、Z機は敵ミサイル基地に対する空爆任務に成功いたしました。
連邦国にとっては終わりの始まりでもありますのは言うまでもありません。
むろん深海棲艦たちも同じではありますが。

では切りが良いところで次回予告であります。
次回は、南シナ海を奪還およびシーレーンを守ろうとする秀真・古鷹たちが作戦行動中の詳細と伴い、今回の空爆任務で活躍できなかったZ機の掃射機バージョンが大活躍いたします。

そして少しだけですが、連邦空軍の最新鋭機も登場しますのでお楽しみを。

それでは長話もさておき、第二十四話までダスビダーニャ(さよならだ)。


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第二十四話:脅威の掃射機部隊

お待たせしました。
では予告どおり前回に引き続き、前回では活躍できなかったZ機の掃射機バージョンが登場と伴い、少しだけですが秀真・古鷹たちの南シナ海を奪還およびシーレーンを守ろうとする作戦行動中の詳細と、そして連邦空軍の最新鋭機が登場します。

言わずとも今回もまた、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!



ベータ爆撃隊は太平洋を南西方面に飛んで南シナ海域に到着、そこからまず青島を目指していた。

これらが来ているとも知らずに深海棲艦たちは沿岸に連邦軍から貸与された防空早期警戒レーダーを張り巡らせていたのだが、それはなにも意味がなかった。

また彼女たちにとって不運だったのは、この日は雲が多く、5000メートル以上はまったく視認できなかったのだ。

 

もし上空がクリア、つまり雲で覆われなければ、おびただしい飛行機雲が見られたかもしれない。

 

しかし連邦海軍と深海棲艦たちにも、幸運なことがあった。

バシー沖島海域にいて、警戒偵察をしていた潜水カ級の一隻が、南下してくる連合艦隊を捉えたのである。

30ノットの高速で南下してくる。

 

警戒のために対潜ヘリSH-60K《シーホーク》と瑞雲を飛ばして、前方を警戒させている。

これは秀真・古鷹をはじめとする連合艦隊とかれの切り札である大鳳を旗艦とする新五航戦を中心とした機動部隊に、郡司をはじめとする友軍艦隊である。

なお虎の子である海自・米海軍のイージス艦と多国籍海軍の護衛艦などは、すべて日本海に展開していた。

これは連邦軍のノドンに対する備えである。

そのノドン基地は、Z機の爆撃により全滅したと考えられるという報告が入ったのだが、海自らもその第三護衛隊群の補給が終え次第、すべて南シナ海に向けるつもりだった。しかしそれまでには十二時間はかかる。

つまり秀真たちは、南シナ海のシーレーンを巡り、連邦軍こと裏切り者のブラック提督および深海棲艦らによる合同艦隊と戦わねばならぬ戦いだ。

 

しかし地の利には連邦と深海棲艦にある。敵は沿岸の基地からいくらでも戦闘機と攻撃機を飛ばすことができる。また深海棲艦も出すことができる。

 

これらを撃破することはできるが、艦娘たちにも限度はある。

連邦海軍は稼働艦艇200隻。これはいわゆるコースガード(沿岸警備)は含まれない。

運よく深海棲艦の攻撃から逃れ、鹵獲した少数のソブレメンヌイ級駆逐艦や旅洋Ⅲ型などは日本のDDG(ミサイル搭載型護衛艦)に匹敵するともいわれている。

日本の最新鋭DDに匹敵するルーヌイ、ルーフー級駆逐艦3隻、やや旧式のルーター級5隻、そのほかフリゲートは多数持っている。これは日本のDE(沿岸(近海)型護衛艦)に匹敵する。

また稼働潜水艦も60隻も所持しているは、前にも記した。

対する日本海軍は艦娘たちをのぞき、海自は第四護衛隊群は33隻、潜水艦は16隻。多国籍海軍は少数である。

海上兵力においても大差がついていることは否めないが、唯一の救いは敵がイージス艦を持っていないことだ。

しかし、その代わりに航空機をいくらでも繰り出せる。このなかには爆撃機も含まれる。

ともかく連邦空軍は旧式機を含めると、作戦機を2000機以上も持っている。

これらが入れ替わり立ち代わりに殺到したら、いかにベテランである秀真たちですらも勝ち目はなかった。

 

それでも立ち向かえるのは、シーレーンを守るためであり、Z機の支援ができてからこそである。

“日本艦隊南下する”とのバシー島沖からの連絡を受けて、青島基地そのほかの海軍基地から艦隊が出撃した。

深海棲艦は空母水鬼を中心とした機動部隊につづき、連邦海軍は新型精鋭艦、旧式駆逐艦、フリゲート総勢50隻で三個艦隊を組み、連合艦隊が、南シナ海に出てきたところを包囲殲滅する作戦であった。

しかし一部の深海棲艦と連邦海軍が母港を出たところで、目に見えないステルス爆撃機が襲ってきたのである。ベータ爆撃隊は30機ずつ分かれて、北海、東海、南海のそれぞれの基地を襲った。それぞれ30分の時間である。

地上にいたレーダー隊員たちが、はるかな高空にかすかな爆音を聞いたときには、Z機は爆撃針路に入っていた。

 

距離的な関係から、まず北海基地が爆撃を受けた。

チョウキョウエン海軍司令部と彼の秘書艦の重巡リ級はこのとき北海基地で指揮を執っていたが、出し抜けに猛烈な爆撃を浴びて、部下たちとともに戦死した。

 

なにしろ1トン爆弾が雨あられのように降ってきたのである。

基地施設はその瞬間に粉砕された。燃料タンク、ドック、すべてが原型を留めなかった。

また出撃準備をしていた深海棲艦と連邦海軍の合同艦隊に、入渠中の深海棲艦および数隻残っていた修理中の艦艇もやられた。北海基地を空爆したZ機の第一編隊は余勢をかってナンジン、ハンチョウ、ウェンチョウ、フーチョウ軍管区の空軍基地に向かった。それらもあらかじめプロットしておいたのである。第二砲兵部隊、連邦のミサイル基地もいずれも奥地にあり、Z機の航続距離を持ってすれば到着することは容易いが、搭載している1トン爆弾にも限りがあるので、今回のミッションでは見送られた。

また連邦もまだ容易くは核ミサイルを発射しまいという判断があった。

 

東海基地に向かった第二編隊、南海基地に向かった第三編隊も海軍基地を空爆したあと、近くの空軍基地も叩くよう命じられていた。しかしこの時にはノドン基地が正体不明の重爆によって壊滅したという報告が入っており、各空軍基地は警戒を強めていたので、青島基地が爆撃を受けたという知らせを聞くと、各空軍基地から新型戦闘機が飛び立った。

 

この新型戦闘機は深海棲艦たち、鬼・姫・水鬼クラスから、空母と軽空母の主力艦戦、艦攻、艦爆として、重巡や戦艦が装備している偵察機として広く運用されている深海棲艦艦載機に、鬼・姫・水鬼などが搭載しているやたらいかつい形相をしている精鋭機『たこ焼き型艦載機』を、彼女たちの技術を貸与し、これらを有人化にできるよう改装し、パイロットが乗れるよう大型化に、さらに空対空ミサイルなどを搭載できるように共同開発した連邦軍の主力戦闘機をさしている。

なお、前者はイカのような外観をしているから、有名な海の魔物の名として《クラーケン》と名づけられた。

そして後者は、先の大戦でかつて数多くの日本軍機を撃ち落した米軍戦闘機《ヘルキャット》と名づけた。

因みに艦爆タイプは《ヘルダイバー》と、そして艦攻タイプは《アベンジャー》と命名した。

どちらも太平洋戦争で連合艦隊を壊滅にまで追いやったとして有名なレシプロ機としても知られている。

それにしても、いかにも艦娘たちに対する嫌がらせと言うべきか、憎悪が込めたようにしか思えない名称である。

よほど彼女たちのことが嫌いであるのがよくわかる。いや、歪んだ憎悪なのかもしれない。

なお一部に虎の子のステルス戦闘機J-21と31が数機ほど混じっていた。

連邦軍が保有している作戦稼働機2000機以上とは言ってもその多くは旧式機がほとんど、日本機と対等に戦えるのはこの四種類ぐらいなものだ。

 

もともとは中国・北朝鮮空軍が使用してきたものが多い。

韓国空軍の主力戦闘機F-16KやF-15Kなども保有しているが、これらがきちんと稼働できるかどうか怪しい。

かりにあったとしても使えるものが少ないので期待はできない。

元々ろくに整備もできず、マンホールで撃墜したり、不時着事故などを起こすのは日常茶飯事だから仕方ない。

ほかにも走行しただけで頓挫する戦車もあれば、潜水するだけでボルトが外れる潜水艦に、かならず航行中に火災が発生する艦艇などを所有するものを持っていても仕方ないので、まともに稼働するもの以外は共食い整備用として保管しておき、きちんとしたものはほとんどが平壌防衛に配備された。

 

緊急情報によると、この正体不明な重爆はレーダーに引っかからないようだ。つまりステルス機ということだ。

これが日本機であることは考えにくいのが……日本軍は爆撃機を持たないということは、今までの常識だった。

しかし日米の命ともいえるシーレーンは半永久的に停止されたいま、真実はひとつ、日本軍しかあり得ない。

つまり日本軍はこのような事態を予想して、艦娘たちだけでなく、秘かにステルス重爆を製造、秘匿していたことになるが、いったいそんな事があり得るのだろうか。これが夢であってほしいとすら思っていた。

しかし現実にその重爆は存在し、すでに北海基地が爆撃されて殲滅した。

パイロットたちは報復の思いを込めて、この敵機をさがすべく、アフターバーナーを吹かして急上昇した。

 

高度8000メートルで雲が切れ、視界がクリアしたとき、驚くべき光景が見えた。

B-52そっくりの爆撃機が30機ほど接近してくる。しかしこれらを護衛する戦闘機のすがたは見えない。

連邦空軍パイロットたちは「もらった!」と思った。てんでに狙いをつけて、中国が開発した新型のアクティブレーダーホーミング中距離空対空ミサイルPL-12を発射した。

しかし、その重爆編隊の最下端にいた三機のZ機がめくらむような機関砲の発射炎が発し、まるで機体そのものが燃え上がっているように見えた。また発射されたPL-12ミサイルは叩き落された。自動追尾システムを持つ20mmバルカン砲により、ミサイルは全て撃ち落されたのだ。

次の瞬間、凄まじい弾幕が襲ってきて、連邦戦闘機群は回避する余裕もなく、20mm弾の嵐を浴びて、きりきりと舞い落ちた。何人かは死ぬ前に座席をベイルアウトしたが、ほとんどのパイロットたちは機体と運命を共にした。

 

敵機を排除した重爆編隊はゆうゆうと爆撃針路に入り、多数の1トン爆弾を投下した。

 

それらは回転しつつ落ちていき、はるか8000メートル下の地上が地獄と化した。

 

ここにいた沿岸地区の連邦空軍基地のほとんどが壊滅した。

主力戦闘機の消耗も多く、旧式機も含めて300機が失ったが、そのなかに虎の子のJ-21と31が多数含まれていたのは大きい。所定のミッションを終えると、Z機部隊は帰投した。




連邦空軍の最新鋭機と中国軍のJ-21とJ-31は、Z機の掃射機バージョンの前では無力に等しく機銃掃射を喰らい、しめやかに爆発四散した。
言わずともこの結果になるのは目に見えていましたし、原作(小説・漫画)でもZ機を迎撃しようと中国軍と米軍戦闘機群が上がりましたが、逆に全機撃ち落とされています。
原作ではF-15とF-14を余裕に撃ち落としていますが、現代だったらF-22やF-35でも余裕に撃ち落とせるのではないかと思いますが……

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

おっと、では切りが良いところで次回予告であります。
次回は秀真・古鷹たちが南シナ海を舞台とし、シーレーンを守るための海戦が始まります。こちらに関しては前編・後半に分けます。
そして秀真・古鷹たちにも、奇跡ともいえる新兵器が登場いたします。
その奇跡ともいえる新兵器とは、いったい何なのかは次回のお楽しみに。

それでは第二十五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。では私は訓練に行きますね」

あはは…神通さんも張り切っていますが、彼女の出番は前作と同じなのでお楽しみに。


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第二十五話:第二次南シナ海戦 前編

前回のあらすじ
灰田がもたらしてくれたステルス重爆ことZ機による先制攻撃を開始した。
Z機部隊は連邦国のミサイル基地と、北海・東海・南海の各海軍基地などを超空からピンポイントで爆撃、さらに連邦は最新鋭戦闘機を繰り出したが、所詮Z機の敵ではなかった。Z機部隊が活躍する一方、秀真・古鷹たちは南シナ海にて連合艦隊を率いり、日本の生命線ともいえるシーレーンを死守するため出撃。
しかしこれを阻止しようと連邦・深海棲艦の合同艦隊も展開していた。
果たしてここでも奇跡の展開は起こるのか……

またしても某アナゴさんがクローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりとともに毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


年が明けて、20XX年1月10日の早朝。

秀真・古鷹たちをはじめとする連合艦隊は、台湾の西、澎湖諸島の南西海域に到着した。

この近辺の海中では、潜水艦部隊が連邦潜水艦隊と死闘を繰り広げているはずだ。

それを支援する意味もある。本来のシーレーンは、タンカーや輸送船のルートが安全なものに変わったので必要がなくなった。であれば引き上げれば良かったのだが、幕僚監部の肚のうちでは、連邦海軍の実力を試したいという気持ちがあった。

 

秀真たちは、Z機で重要基地である海軍および空軍基地を叩いたから、敵は相当に混乱になっているはずである。

 

その予測していたが当たっていた。

 

その一方……出てきたばかりの基地を失ったと知らせを聞いた迎撃艦隊の指揮官、連邦側の旅洋Ⅲ型に乗ったソン少将は、残念ながら見敵必戦の指揮官ではなく、その恐るべき報告を聞いただけで戦意を失った。

また深海側も基地を失ったことにショックを受けたが、かれらとは違い、仲間の仇を取ろうと必死になっていた。

 

そのレーダーに映らないというステルス爆撃機が向かって来ないとも限らない。

 

虎の子のソブレメンヌイ級と旅洋Ⅲ型、そして最新鋭艦となる土偶のかたちをした戦闘艦ドグウ2隻を失うわけにはいかない。

 

多くの連邦軍こと元ブラック鎮守府出身の提督たちは、某国のように戦う前に敵前逃亡を繰り返し、わが身が大事なあまり逃げることが多かった。

余談だが朝鮮戦争では北朝鮮軍の侵攻を受けた際に、自国の兵士よりも、初代大統領が真っ先に逃げるのは当たり前で、アメリカをはじめとする国連軍が介入してきた時でも北朝鮮軍の戦車部隊と兵士たちを見ただけでも韓国軍兵士たちは平然と敵前逃亡をし、なによりも武器ごと置いて逃げるため、これが北朝鮮軍に鹵獲され、のちに国連軍に牙を剥いたのは言うまでもない。マッカーサーも頭を抱え込み、対策としてマニュアル本も出したぐらい役に立たなかったのである。なお戦時中の日本もこのマニュアル本を出している。

 

話しは戻そう。

連邦海軍の多くは、どうしてもフリー・イン・ビークインの思想におちいりやすい。

 

つまり、現存艦隊主義の思想である。

 

かつては日本もそうだった。なにしろ仮想敵国たるアメリカ両洋艦隊をもっているというのに、日本は連合艦隊をワンセットしかもっていない。これをすり減らされれば終わったも同然であった。

必然的に不要な戦いは避けるという、現存艦隊主義の思想に傾かざるを得ない。

南雲中将が真珠湾攻撃をした時、敵空母を捜し求めて、これを撃滅すべきであったのにもかかわらず、真珠湾内を叩いただけで引き上げてしまったのは、この思想が反映している。

同じ日本海軍出身の提督にもかかわらず、つねに最前線で戦う秀真たちとはえらい違いである。

 

ブラック鎮守府出身の提督たちは、それぐらい役に立たないという事である。

 

ただ少なくともソン少将は独断でそう考えていた。

艦隊への対応は深海棲艦に当てることにして、自身は無事だと伝えられている海南島基地に戻ることにした。

 

ここに実戦の差が、連邦海軍の弱さが表われた。

 

秀真・古鷹たちをはじめとする連合艦隊は連邦戦闘機や攻撃機群のあるものとの覚悟をもって南下を続けたが、意外にも空は静かだった。

 

これらの空軍兵力は、Z機の空爆で壊滅的なダメージを受け、新たに編成するのにだいぶ時間がかかりそうだった。

 

しかし、1000時。

 

旗艦の古鷹のレーダーが敵影を捉えた。

 

「敵艦隊三十、時速25ノットで衝突針路を進んでいます!」

 

古鷹がいう敵影は、いわばソン司令官に【捨て艦戦法】にされた艦隊である。

しかし数だけは圧倒的に多い。それだけでも秀真たちは不利だと言える。

 

だが同時に、秀真たちには《切り札》が試される絶好のチャンスともいえよう。

 

この艦隊の旗艦は空母水鬼に、連邦側はカク大校である。

深海側は二隻の装甲空母姫をあわせて、戦艦タ級、駆逐ニ級後期型を中心としたエリート艦隊と共に、連邦海軍は18隻も同行している。ただし後者は、その多くは二戦級の艦船だが、双方合わせて20隻以上もいるのだから決して侮れない。

 

秀真たちは、開戦のときに近づくにつれて、まず初めに制空権を確保し、のちに敵艦隊に攻撃するという作戦をかためた。

 

敵機をまず始末してしまえば、あとはこちらが《切り札》たちを使う番となる。

 

「全艦戦闘態勢に移れ!新しい装備だからといって敵を侮るな!」

 

「了解しました!」

 

敵艦隊も同じく戦意を見せていた。

しかし、その多くの深海棲艦と連邦海軍たちは、寄せ集め、つまり旧式艦中心の連合艦隊などに我々が負けるはずがないと勝機を感じていた。いや、正しくは誰もが慢心していた。

 

しかし、古鷹たちが新たな装備をし、その実力が自分たち以上とも知らずに……

 

「ススミタイノ…カ……?」

 

「海ノ底ニシズメ!」

 

互いの水上レーダーで敵影を捉えていたが、まずは開幕ともいえる艦載機同士による空戦が開始されようとした。

深海側は主力たるたこ焼き型艦載機および攻撃隊を飛ばしていた。

 

「さぁ、やるわ!第一次攻撃隊、全機発艦!」とクロスボウを構える大鳳。

 

「全航空隊、発艦始め!」という翔鶴。

 

「第一次攻撃隊。発艦始め!」と同じく瑞鶴も矢を放つ。

 

対する大鳳を旗艦とする機動部隊は主力艦戦《烈風》や《震電改》ではなく、双方に引き継ぐ新たな主力艦上戦闘機として開発されたひと回りほど大きい漆黒の機体とともに、おなじみの彗星・流星改・閃光改などによる合同部隊を発進させた。

 

しかしこの漆黒の機体は、切り裂くような爆音を響かせていた。

 

多くの深海棲艦たちは、どうせ漆黒の機体は、見せかけの試作機かできそこないのポンコツ機だろうと侮っていた。いや、バカにしていたと言った方が正しい。

 

しかし皮肉にも勝敗は、すでに決まっていた。

深海棲艦たちが言っていた漆黒の機体は切り裂くような爆音で上昇し、急降下したそれは容赦なく深海艦載機隊に襲い掛かった。

 

大空を切り裂くような、甲高い機関の叫び、航空エンジンというより空を駆けつつ犠牲者となる敵機を選び出し、大鎌を振りかざす死神のように、かれらの叫び声のように思わせるような不気味な轟音だった。

一部の連邦海軍は思い出した。あれはドイツ軍が開発したMe262に似ていたが、ひと回りも大きい。

かといって日本がかつて開発したMe262の模様したジェット戦闘機《橘花》や陸軍が開発した《火龍》でもない、とすれば新種の機体だと。

 

連邦が知らなかったのも無理はない。このジェット艦載機は《轟天》と呼ばれる新型機である。

これを用意したのは、むろん灰田である。過去に多次元世界の日本に介入した際にこれを使用したことがある。

これを小型化、つまり大鳳や翔鶴たちなどに装備できるよう改良してくれたのだ。

この機体はMe262を一回り強力にした物でオリジナルのMe262よりは大型だが、天山より小型化に成功している。

さらに高度6000メートルにして、最高速度は900キロに達している。装備はシンプルに機首に4門の50mm機関砲を搭載しており、いざとなれば500キロ爆弾を装備可能である。

 

新型機、しかもジェット艦載機に驚いた深海艦載機部隊は攻撃隊を守るように、轟天に攻撃を仕掛けた。

しかし轟天はすばらしい速度を誇り、これを20mm機関砲で攻撃しようとすると、目の前から消えた。

またたく間に姿を消したと思いきや……反転した轟天が、後方につけるなり、強力な50mm機関砲を放った。

深海艦載機は、必死に機体を避けようとしたが、哀れにも避けきれずに一弾が機体に貫いたとき、勝敗は決まっていた。

 

もはや自由に空を飛べなくなった、操縦の自由を奪われた深海艦載機は大きく速度を落とした。

次の瞬間、追いすがってきたもう一機の轟天が放った50mm機関砲が機体を貫き、粉々に粉砕した。

空中分解した深海艦載機とたこ焼き型艦載機部隊、そして彼女たちの攻撃隊は次々と餌食となり、南シナ海の上空を紅く染めた。

 

それはまもなく始まる開戦を、それは死闘の始まりという打ち上げ花火のように。

 

灰田がもたらした奇跡ともいえるこの超戦闘機《轟天》は、大鳳をはじめとする全空母娘たちに装備された。

いままで烈風ですらも苦戦したたこ焼き艦載機を、いとも簡単に撃ち落としていった。

逆に新型機ともいえる轟天・閃光改部隊に挑んだ敵機は撃墜されていった。空戦の場は大きな修羅場と化していった。その間をぬって、戦爆・艦爆・艦攻隊は敵艦に向かった。むろん生き残った敵艦爆・艦攻も向かった。

ほぼ敵艦爆・艦攻隊は全滅に近いが。

 

しかし到着した彼らを待っていたのは、敵合同艦隊がつくりあげた恐るべき対空砲火が待っていた。

深海棲艦の火砲には、近接信管……かの有名なVT信管(Variable-Time fuze)を使う。

通称『マジック・ヒューズ』ともいえるこの兵器は太平洋戦争期間中にアメリカ海軍の艦対空砲弾頭信管に採用され、命中率を飛躍的に向上させる効果が確認されたことにより注目された。目標検知方式は電波式以外に光学式、音響式、磁気検知式が開発され、魚雷等の信管にも応用されている。

最大の長所は、目標に直撃しなくてもその近くで爆発することにより、砲弾を炸裂させ目標物に対しダメージを与えることができる点にある。このため艦載機が苦戦していた。

 

「ナゼダ!今マデハ簡単ニ撃チ落トセタノニ、VT信管ノ効果ガナイダト!」

 

多くの深海棲艦のVT信管は無効になった。

これに関しても灰田はきちんと対策を備えており、全機に対VT信管対策としてレーダー反射器(アンチ・レーダー・システム)を取り付けていた。

VT信管はマイクロレーダー波をとらえるので、これをそらしてしまえば爆発しない。至極、かんたんな理由である。

 

艦爆隊は高度5000メートルまで上がり、そこから急降下して高度600メートル付近で250キロ爆弾を投下した。

艦攻隊は海面すれすれまで低く降りて彼我の距離800メートルから600メートルで雷撃を敢行した。

 

搭乗している妖精たちの闘志は猛烈だった。

 

轟天は爆弾倉に内蔵していた500キロ爆弾を投下すると、反転し、素晴らしいスピードを活かして、50mm機関砲で敵駆逐艦および軽巡などに機銃掃射を開始した。

轟天が装備している50mm機関砲の弾は爆裂弾を使用している。そのため、貧弱な装甲しか持たない敵駆逐艦・軽巡には効果は抜群だった。

 

さかんに対空砲火を撃ち上げる戦艦部隊に、同じく必死の抵抗を繰り返す空母水鬼たちも数機は撃ち落としたが、轟天だけは撃ち落とすことは困難だった。まるで悪魔、いや、死神を相手にしているようだった。

コイツだけじゃない、いままでVT信管を使えば容易く撃ち落とせた艦爆・艦攻・戦爆も同じように思えた。

 

濃密かつ猛烈撃っているが、もはや死を恐れない相手と戦うのは一番怖かった。

 

「水鬼様!右方向、敵雷撃機!」

 

「……!」

 

装甲空母姫の警告を聞いた空母水鬼は、右方向を振り向いた。

数機の流星改隊がこちらに近づいてきた。しかもプロペラが水面を叩かんばかりの超低空飛行で向かっている。

水面すれすれに降りられると、自前の高角砲はもとより機関砲も撃てない。それでも撃ちまくった。

対空砲火をくぐり抜けた流星改は腹に抱えた酸素魚雷を投下した。

ふたりは必死に回避運動を始めた。しかし右から左に逃げ惑うが、運悪くそこに被弾した艦爆と零戦62型(戦爆)が突っ込んできた。

 

ふたりは夢中で機関砲を撃ちまくったが、エンジンが生きて舵が生きている限りいかに炎に包まれている飛行機は、パイロットの意志通りに動く。

 

どうせ死ぬなら敵艦と刺し違えてやるという闘志を見せつけた搭乗員たちに、もはや怖いものはなかった。

 

惜しくも目標たるふたりをすれすれに逸れて、海に落ちるものもいた。

しかし仇を取ろうと、燃えさかる数十機の艦爆または戦爆がものすごい勢いを出して、ふたりに突入した。

突入機を喰らったふたりの艤装はまたたく間に中破した。とくに飛行甲板の損傷は酷かった。

装甲空母姫の飛行甲板は、大鳳のような重装甲甲板を持っているが、さすがに突入機までの直撃は耐えられなかった。ただし主砲は撃てるからまだいいが。

 

しかしどちらにしろ、自慢の艦載機を飛ばせなくなると痛恨であり、空母水鬼は回避航行と伴い、現場指揮を務めなければならない。

 

あらためて艦娘たちの新型艦載機の恐ろしさだけでなく、彼女たちの闘志も思い知った。

 

深海棲艦たちは戦慄し、この恐怖から逃れるため、ただひたすらに無我夢中に撃ちまくった。

 

超低空で迫ってくる艦攻に続き、艦爆・戦爆・轟天隊も次々と戦果を上げた。

空母水鬼を旗艦とする空母機動部隊は中破または大破した。それらはまだいい方で数隻いた軽空母ヌ級ともう一隻の装甲空母姫は敵機の猛攻により、たちまち轟沈した。

 

最悪なことに空母水鬼たちが放った直掩隊および攻撃隊は全滅した。

新戦闘機だけでなく、新型対空兵器を装備した敵護衛艦隊の激しい対空砲火により、全滅したらしい。

せいぜい空母水鬼たちの良い戦果は敵空母に小破させたが、ほかの艦娘たちには中破また大破させることができなかった。




前作同様、奇跡ともいえるジェット艦載機《轟天》の登場であります。
最近では轟天もそうですが、潜水空母イ2000でもこれ以上の航空機(無人機)が登場しています。しかもメガ・グライダーを解体して、それが一気に全翼機に変身します。
エンフォーサーと呼ばれ、米軍戦車と米軍機をレーザービームで全滅するほどの性能を持っているのであります。なお終盤では連合艦隊を助け、さらに超人部隊と共に、改造されたメガ・グライダーとエンフォーサーが活躍しています。

神通「あの提督…そろそろ次回予告を…」

おっと、では切りが良いところで次回予告であります。
次回はこの海戦の続き、後編であります。
艦載機同士の航空戦が終え、艦隊決戦でもまた奇跡ともいえる超兵器が登場します。
轟天に続き、灰田がもたらした新兵器とは、いったい何なのかは次回のお楽しみであります。

それでは第二十六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。ではお昼にしましょうね」

腹が減ってはなんとやらですね、分かります。


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第二十六話:第二次南シナ海戦 後編

前回のあらすじ
Z機の活躍と伴い、秀真・古鷹たちは南シナ海にて連合艦隊を率いり、日本の生命線ともいえるシーレーンを死守するため出撃した。
しかしこれを阻止しようと連邦・深海棲艦の合同艦隊も展開していた。
だが、ここでも灰田のもたらした奇跡のジェット艦載機《轟天》と、さらに全艦載機に対VT信管対策としてレーダー反射器(アンチ・レーダー・システム)を取り付けていた。
艦載機の開幕航空攻撃で優位に立った秀真・古鷹たちは、敵残存艦隊に殲滅するために砲雷撃戦に挑むのだった……

またしても某アナゴさんがクローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりとともに毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


日本機は機関砲・機銃・爆弾・魚雷を撃ち尽くしたため、反転し、引き揚げていく。

空母水鬼たちはこれを迎撃しようにも艦載機発着艦困難のため、ただ指をくわえて、見送るしかなかった。

 

「お前たちなにひとつ戦果を上げられなかったようだな。俺たちが片づけるから支援砲撃ぐらいしろ!」

 

「だらしねぇな。俺らがいればてあんなポンコツ機は全滅させたのにな」

 

「カク大校のほうが、まだ役に立つわね。男たらしの艦娘やあんた達に比べたら!」

 

後方で彼女たちが一生懸命戦っていたのにもかかわらず、連邦海軍は一部を除いては高みの見物をしていた。

少なくともカク大校の駆逐艦は空母水鬼たちの機動部隊を掩護していたため、英雄的に扱われていた。

それに比べて中破した彼女たちに向かって、この場に残っていたブラック提督たちは彼女たちの心配する様子など微塵もなく、ただ罵声を言いたい放題という始末である。

 

「お喋りは良い。全艦突撃!空母水鬼たちは我々に続け!」

 

カク大校は部下たちを制し、攻撃命令を下した。

 

「……了解シマシタ」

 

「……チッ、腰抜ケドモガミテロ」

 

空母水鬼はただ頷き、装甲空母姫は聞こえないよう、チッと短く舌打ちをした。

これぐらいならばと中破した装甲空母姫と戦艦タ級をはじめとする護衛艦部隊は砲雷撃戦を挑もうと近づいた。

ソン司令官に見捨てられた二線級から成り立っている艦隊だが、しかし数だけは圧倒的に多い。

現代の駆逐艦やフリゲートは、搭載兵器の質や量はあまり変わらないので、それだけでも連合艦隊は不利だと言える。

 

しかし何度も言うようだが、こちらには灰田が用意してくれた《切り札》がある。

いいかえるとこれらを、彼女たちの実力を実戦で試される絶好のチャンスがやってきたのである。

 

前にも記したとおり、この連邦艦隊の指揮官はカク大校である。

乗艦しているルーター級は、かつて中国がソ連海軍のコトリン級をモデルに中国が建造した艦である。

満載排水量は3960トン。兵装はSSM、短SAM、130mm連射砲、57mm連装砲、75式12連装240mm対潜ロケット砲、短魚雷発射管を搭載している。速力は32ノット。

これが5隻、ほかはジャンウェイ級およびチャンフー級フリゲートがいる。

前者のスペックは満載水量は2393トン。兵装はSSM、短SAM、100mm連装砲、37mm連装機関砲、87式6連装対潜ロケット砲、Z-9C 哨戒ヘリコプターを1機搭載している。後者のチャンフー級は対艦武装に重点を置いたフリゲートであり、短SAMを持たない以外はこれに準じる。速力は28ノット。

 

これが20隻に、さらに深海側にも戦艦部隊もおり、すべて合わせると30隻以上いるのだから決して侮れない。

 

しかし秀真・古鷹たちをはじめとする連合艦隊は、制空権を握ったも同然であり、優位でもある。

 

秀真たちは艦隊決戦が近づくにつれ、まずはじめに敵ミサイルを使わせてしまう作戦を固めた。

いや、敵艦はそれを実行するしかほかはないと読んでいた。敵の行動はすでに解読されたのに等しかった。

対艦ミサイルという飛び道具をまず始末すれば、あとはこちらが攻撃し、敵艦を壊滅する番である。

飛行するミサイルは、こちらが装備している兵器によって同時に複数処理できる。

なお、イージス・システムは同時に12の目標に対応できるとされる。

 

自動連射砲にCIWSが活躍する。

 

じつは連邦艦隊もCIWSは運用しているのだが、しかし優先的に配備されるのは幹部たちが乗艦する新鋭艦のみ。

引き返したルーハイ級と改ソメンヌイ級などをはじめとする最新鋭艦のみにとどまる一方……旧式艦艇にはまったく配備されず、自殺行為に等しい装備ともいえる手動式の対空機銃または機関砲が配備された。

このことに関しては、秀真たちは全艦が自動防衛火器を装備していると思っていたが、手動式の対空機銃を装備していることは知らなかった。

 

「では、敵艦隊にご挨拶と行きますか」

 

「お互い武運を祈っているよ、同志」

 

「ああ、ありがとう。だが、無理はするなよ。郡司」

 

「もちろん分かっているさ」

 

空母戦では優位に立ったが、それでも慢心しない、これは二人だけでなく、古鷹たちも同じく。

 

「古鷹たちも油断するな」

 

「はい、提督!」

 

しかし彼らとは違い、連邦海軍は秀真たちを対艦ミサイルだけで片づけられると確信していた。

 

「たかが旧式艦の寄せ集め、屑どもに何ができる!」

 

まず30キロで連邦艦隊がSSM、つまり対艦ミサイルを発射した。

これは熱源追尾ミサイルで、海上自衛隊はもちろん米軍はじめとする多国籍海軍も同じのを持っている。

アルゼンチン紛争で、イギリス駆逐艦《シェフィールド》がアルゼンチン海軍が制式採用したフランスのダッソーブレゲー社製の艦上攻撃機《シュペルエタンダール》から発射された中距離対艦ミサイル《エグゾセ》に1発で撃沈されたことはまだ世界の海軍の記憶に新しい。

 

つまり対艦ミサイルの威力を示させている。しかしその後、防衛システムが大幅に向上し、飛行した敵ミサイルで撃沈されるようなことはなくなった。

 

「敵艦、ミサイル発射しました」

 

旗艦のズムウォルト級101のCICではレーダー員が秀真に報告した。

この艦艇は米海軍の次期駆逐艦として、完全ステルス艦としても有名である。

外観は未来的で鏃の形で艦首は矢のように尖り、艦尾は断面となっており、駆逐艦と言うよりは巡洋艦に近いといった方が分かりやすい。

この未来艦艇の作戦能力は大幅に強化され、まず艦対地能力の火力範囲は3倍ほど拡大。

新型レーダーは、対艦巡航ミサイルに対する索敵範囲を3倍に拡大されている。

この新型レーダーは艦隊全体の防空能力を10倍している。

ステルス能力は、レーダー反射断面積に換算している現用駆逐艦に比べて50倍ほど縮小。

機雷に対するステルス化と高度な探知・回避能力により、沿岸地域での活動も可能となり、その場合の作戦行動範囲が10倍ほど拡大された。しかも対EMP対策も施している。

これらを短期間で揃えてくれたのは灰田であり、例のゲートを利用して持ってきてくれたとのことだ。

なお乗組員たちに関しても、Z機同様にクローン兵こと複製隊員を利用している。

 

「全軍対空戦闘用意、左一斉回頭せよ」

 

秀真・郡司・各提督たちは、古鷹をはじめとする各艦娘たちに命じた。

各艦を散らばせることにより、敵の着弾を少しでも混乱させる腹である。

また上空には彼女たちを守るため、大鳳たちに代わり、赤城たちの轟天隊に、海自のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の『いずも』と『かが』から発艦したF-35Cが発艦して行く。

 

郡司が乗艦しているズムウォルト級102からではそのフェイズド・アレイ・レーダーを輻射し始めた。

それにより前方半球の天空を走査する。この電波はあまりにも強力なので、このとき乗員たちは甲板に出ることは許さない。からだが壊されるからである。

なおこの装備は一部の艦娘たちも装備しており、前者同様に妖精たちもこれに注意しなければならない。

 

話は戻る。

連邦艦隊から発射された対艦ミサイルは20発。それらが弾道を描いて味方に向かってきた。

のちに深海棲艦たちはとどめに砲撃、支援砲撃をしてくるだろうと見た。

 

このとき連合艦隊は大きく散開していた。

ズムウォルト級101のCICでは、兵器科の士官に迎撃せよとの命令が下された。すでに複数のミサイルがプロットされている。

 

「対空戦闘始め、各艦撃ち方始め!」

 

「撃てぇ!」

 

命令に応じてスタンダードミサイル、シースパローミサイルが発射され、飛翔する複数の敵ミサイルに向かった。

またズムウォルト級に搭載されている155mm先進砲も主砲は仰角を上げ、空を睨んだ。

こちらに飛翔している敵対艦ミサイルに向け、ズムウォルト級の主砲が咆え、各艦もこれに倣い、撃ち放った。

155mm先進砲の威力と性能は高く、敵の対艦ミサイル迎撃にも役立つ。

またすでにロックされた味方の対空ミサイルも次々に敵対艦ミサイルを撃墜していく。

打ち上げ花火のようにミサイルは上空で爆発四散した光景が見えた。そして生き残った敵ミサイルはまだ飛翔していた。しかし上空を警戒していた赤城たちが放った轟天の機銃掃射につづき、F-35Cの対空ミサイルで迎撃されて撃墜されたのは言うまでもない。

残りは各艦や古鷹たちが装備しているCIWSが撃ち漏らしたミサイルで撃破した。これにより敵対艦ミサイルは殲滅された。

 

「矢矧たちはSSMを発射せよ!」

 

「木曾たちも敵指揮官および戦艦を狙うように!」

 

秀真・郡司の命令で矢矧率いる護衛艦隊はハープーン・ミサイルおよび90式対艦ミサイルの後継ミサイル、陸自が運用する12式地対艦誘導弾をベースにして開発された後継対艦誘導弾――名称『17式対艦ミサイル』が舞い上がり、敵艦に向かった。

 

「阿賀野型を軽巡と侮らないで!」

 

「さぁ、始めましょう。撃ち方、始め!」

 

「照月も練度、上がってます。大丈夫!撃ち方、始め!」

 

新しく秀真の艦隊に加わった矢矧・秋月・照月も攻撃を開始した。

 

「了解任せときな。郡司」

 

「よく狙って、てー!」

 

「ふふん、いいねいいね!やっぱ駆逐艦の本懐は戦闘だよなー、いっくぜー!」

 

矢矧たちに遅れ、木曾・海風・江風も攻撃を開始した。

ハープーンの特徴は管制誘導によって海面を低く飛び、目標に接近するとホップアップして上昇し、そのまま襲い掛かる。高い高度から襲ってくる対艦ミサイルは、三次元レーダーで捕捉しやすく、連邦海軍は対空ミサイルで対処できるが、深海棲艦は対空砲または対空機銃でしか対処できなかった。

しかし双方ともハープーンに気づくのは遅かった。カク大校の乗っていた駆逐艦《サイアン》と戦艦タ級と駆逐イ級らには矢矧・木曾たちの放ったハープーンおよび17式対艦ミサイルが命中、一瞬にして撃沈された。

カク大校は艦橋にハープーン・ミサイルの直撃を受けて一瞬にして死亡し、ほかの参謀長や乗組員たちも脱出する余裕もなく、沈みゆく艦と運命を共にした。

 

「何故ダ。ドウシテ奴等ガ、艦娘ドモガ対艦ミサイルヲ装備シテイル!?」

 

先ほど同様に、装甲空母姫は理解できなかった。

 

「ソレニ、コレホドノ攻撃力ヲ短期間ニソロエル余裕ナンテナイノニ……」

 

空母水鬼も呟いた。もはや絶望を感じていたのだろう。

彼女たちだけでなく、ほかの深海棲艦と連邦海軍は知る由もなかったのも無理はない。

これらの切り札、前にも記したが古鷹たちが装備している兵器から大鳳たちが装備している艦載機はすべて、言うまでもなく灰田がZ機とともに、秘かに用意しておいたものである。

また二週間前には超高速学習装置を受け、実戦さながらのシミュレーションも体験し、それらが終了した頃には、全艦娘と妖精たちはベテランになっているという具合である。余談だが加古いわく「寝ながらでも学習できるからラッキー」と証言したほどである。

なお秀真たちも試しに体験してみたが、多次元世界にいる艦隊、第七・第零艦隊の艦長たちが丁重に指導してくれ、さらに戦略・戦術行動までも教えてくれたとのことである。

 

話しは戻る。

これを見て後続の艦長と深海棲艦たちは怯んだが、まだ闘志はある。

砲戦を挑むべく突進したが、またもや飛翔してきたハープーンに二隻が撃沈した。

このとき、もしマッハ2.5もの高速対艦ミサイルを積むソブレメンヌイ級と旅洋Ⅲ型に、衝撃波を搭載しているドグウが戦闘に加わっていたら、古鷹たちも苦戦していたかもしれない。しかもソン少将が温存してしまった艦船は、すべてCISWを持っている。

不幸にも深海棲艦および二戦級の艦隊では、古鷹をはじめ灰田が贈ってくれた未来兵装を装備している艦娘たちには敵うはずもなかった。

 

深海側は攻撃力が高い者は16inch連装砲を搭載した装甲空母姫と16inch三連装砲を搭載した戦艦ル級一隻に、16inch連装砲を搭載した別個体のタ級しかおらず、運よく矢矧・木曾率いる水雷戦隊のミサイル攻撃を避けて、生き残った重巡リ級と軽巡ト級などの護衛艦隊は、装甲空母姫とともに、空母水鬼を守ることに専念する。

また無事生き残った連邦艦艇の100mm連装砲は、それほど連射能力を持たない。

 

その一方……秀真たちの艦隊は《切り札》はこれだけに終わらなかった。

矢矧たち率いる水雷戦隊の多くは、海自や多国籍軍の護衛艦が装備している主砲、54口径127mm砲、Mk.45 5インチ砲、76mm連射砲は、1分間に80発という連射能力をもつ。射程距離も2万メートル前後と長い。

そして古鷹たちが装備しているのは、いつもの20cm連装砲ではなかった。

 

「よし、砲戦を開始せよ!」

 

秀真の命令に、古鷹たちは、了解と返答した。

 

「よく狙って、そう…。撃てぇー!」

 

「青葉、追撃しちゃうぞ!」

 

古鷹・青葉が装備している第一の《切り札》である60口径30cm連装砲の俯角を上げ、砲撃を開始した。

本来ならば搭載不可能といわれたが、灰田の未来技術により、不可能を可能とした。

また徹甲弾と三式弾の自動切り替えは然り、自動装填システムまで兼ね備えているから驚愕である。古鷹と青葉が撃ち放った砲弾は放物線を描き、やがて目標たる敵艦たる戦艦ル級とタ級に向かって落下した。

凄まじい破砕音に伴い、衝撃波が両者を襲い、そして一撃で轟沈した。

この使用する砲弾は従来よりも強力、さらに貫通力が高く、しかも形成体が小さい程、運動エネルギーにより威力が増すため、これならば強靭な防御力を誇る戦艦ですらも容易に大破または一撃で敵艦を沈めることができる。

しかも必殺ともいえるアウトレンジ戦法を活かせるのが魅力的である。

 

「新しくなった加古スペシャルだ、いっけぇー!」

 

「逃げても無駄よ、ほら!」

 

加古・衣笠が装備している第二の《切り札》であるレールガンを敵艦に向け、発射した。

凄まじい轟音を発し、放たれた弾丸は垂直を描き、目にも止まらぬ速さで目標たる敵艦隊たちに襲い掛かる。

深海棲艦と連邦海軍は、これを避ける暇もなく、たちまち敵艦4隻が撃沈した。

読者諸君には、映画『トランスフォーマー/リベンジ』に登場した米軍艦船《USSキッド》に搭載していたレールガンと同型であると思ってほしい。

これまた灰田が用意したレールガンはマッハ7の速度で弾丸を撃ち出し、110海里(約204km)という驚くべき射程距離を誇る。あの大和や武蔵が装備している46cm三連装砲だけでなく、一部の戦艦娘が装備可能な《試製51cm連装砲》ですらも超える火力と射程距離を兼ね備えている。

 

「大和と富士たちも古鷹たちの掩護を!」

 

「武蔵と白山たちも同志の掩護を!」

 

「了解です、提督!」

 

「提督よ、この武蔵に任せておけ!」

 

ふたりの命令で、夢の共演といえる、元帥がふたりのために大和と武蔵を新たに着任させた。

また彼女たちだけでなく、灰田が用意した超戦艦空母四姉妹またの名を特型戦艦四姉妹といわれる富士・高千穂・白山・十勝が支援砲撃を開始した。

 

「ナンダ、アノ艦娘ハ!?」

 

「大和級ハワカルガ……奴等ノ隣ニイルノハ戦艦ナノカ、ソレトモ空母ナノカ!?」

 

「見かけ倒しよ!さっさと男たらしの大和ホテルと武蔵旅館を――」

 

呟くあいだにも、慈悲はなく大和と富士たちが砲撃した徹甲弾が白熱化しつつ落下してきた。

装甲空母姫の隣にいた重巡リ級と軽巡ト級は一撃で轟沈し、さらに戦闘中にもかかわらず、大きなドーナツを頬張りながら吠える醜く太った中年女性ことヒステリック女提督の駆逐艦は真っ二つに折れた挙句、彼女は原型を留めぬほどの肉塊に変わり果て、また乗艦していた乗組員たちも哀れにも激しい攻撃を受けて全員死亡し、艦と運命を共にした。

 

「では、もう一度行きますよ。富士さん、高千穂さん!第一、第二主砲。斉射、始め!!」

 

「わたしの40センチ砲の威力は伊達ではありません」と富士

 

「昼もいいが夜戦での砲撃なら負けないよ」と高千穂

 

「さあ、大和に負けずにこちらももう一度行くぞ!撃ち方…始めっ!」

 

「真珠湾攻撃ほどではないけど、倒し甲斐があるね」と白山

 

「ミッドウェイ海戦で出くわしたあの甲鉄艦に比べたら、楽でいいわ」と十勝

 

大和と武蔵は46cm砲と、富士たちの40cm砲は敵合同艦隊に睨み続け、ふたたび一斉射した。

殺到してくる恐竜の雄叫びともいえる強烈な咆哮が聞こえたときには、恐怖の叫び声にでも聞こえたのだろうか、敵艦隊は回避行動を努めたが、むなしく大和たちの砲撃を回避することができなかった。

その数瞬後、林立する水柱が押し包み、発砲とは異なる閃光が、破砕音が伴って煌いた。

大和・富士たちの撃ち放った砲弾の餌食となった、5隻の敵艦は海面にたたきつけられたのだ。

現在の駆逐艦やフリゲートは攻撃力は高いものの、その代償として、防御力が低下した。

敵の砲撃やミサイル攻撃を受けただけでも、たちまち戦闘能力を奪われてしまうほど、コンピューターでコントロールされた近代兵装はダメージに弱いということだ。

大和たちの支援砲撃が止むと、2万メートルの距離に近づいた両艦は、砲戦、猛烈な撃ち合いとなったが、ここでも連射能力と正確無比な照準をもつ艦娘たちに分があり、深海棲艦と旧式の駆逐艦とフリゲートがたちまち4隻が撃沈した。

とどめの雷撃戦でも圧倒的に優位に立ったのは、秀真・古鷹をはじめとする連合艦隊の勝利だった。

もはや艦隊は壊滅状態で、これ以上の戦いは無理だと見て、空母水鬼と各連邦海軍次席指揮官らはついにひるみ、反転、撤退を命じた。

 

反転中でも不幸にも秀真たちが乗艦しているズムウォルト級の支援攻撃により、2隻の駆逐艦が轟沈した。

一生懸命に助けを求めたが、轟沈していく味方艦に目もくれず、敵はさっさと撤退していった。

 

「敵艦、撤退していきます!」

 

古鷹は、秀真に報告した。

 

「よし、全艦。これ以上は深追いするな!」

 

彼女の報告を聞いた秀真だけでなく、郡司、ほかの各提督たちも同じ命令を下した。

古鷹たちも深追いはしなかった。いくら灰田の用意した切り札を装備しているとはいえ、無傷であったわけではない。ミサイルの攻撃は免れたものの、砲弾を何発か命中した加古は中破し、ほかの艦娘たちも小破の状態だった。

 

「明石。すまないが加古の応急修理を、各艦は古鷹たちとともに周囲警戒を頼む」

 

明石はすぐさま加古を修理し始めた。

本来は小破までしか各艦娘を修理できなかった明石だが、これも同じく灰田が用意してくれた《超高速修理施設》のおかげで中破または大破まで容易に修復することができた。

正確には横須賀型移動船台艦『呉』と関東型随伴工作艦『広島』が、明石にプレゼントしたものである。

あくまでも応急処置なので完全に修復させるには入渠が一番だが。

 

「終わりましたよ、加古さん」

 

「サンキュー、明石」

 

応急処置を終えた明石と、小破に戻った加古を見て、秀真たちは迷わず、反転し、帰投の決断を下した。

それに、これ以上は南シナ海域にうろうろしていては補給も受けられず、敵の増援が出てくると全滅しかねない。

 

とくに空襲と敵潜がおそろしい。

 

「全艦、反転。各艦、単横陣に移れ!」

 

一同は了解と返答し、対潜哨戒をしつつ、速やかにこの場から離れた。

 

“われこれより帰投する”

 

そう暗号電に打つと、秀真以下全艦隊は台湾の南方海域を目指した。




前作では秀真たちが乗艦していたのは戦艦でしたが、今回は運よく入手できた『超日中大戦』で登場した米海軍が開発していた完全ステルス艦《ズムウォルト級》を供与していますので、こちらに変更しました。
なお今回は海自のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の『いずも』と『かが』が登場しており、さらにF-35《ライトニングⅡ》の艦載機バージョン、F-35Cが登場しています。
ヘリ空母でもハリアーを搭載していますから大丈夫かなと思い、登場させました。

古鷹たちは、いま読み始めたばかりの『荒鷲の大戦』で登場した超重巡洋艦《三国》《神室》と、購入したばかりの『独立戦艦小隊竜虎』で登場する九頭竜・虎山みたいになっています。余談ですが後者は高雄級重巡二隻の主砲を30センチ砲に換装するとともに全面改装し、高雄と愛宕をそれぞれに九頭竜・虎山と改名しています。
どちらも30cm砲を搭載しているので、古鷹たちにもいいかなと思い搭載しました。
もはやレールガンも搭載しているので、超重巡か戦闘巡洋艦と呼ぶべきかなと思いますね。

大鯨「あの提督…そろそろ次回予告をしないと…」

今回は大鯨が代理で登場していますが、皆さんお察知ですが、次回は潜水艦同士の戦いであります。こちらもまた潜水艦同士の死闘が行なわれますので、お楽しみを。
それでは第二十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

大鯨「ダスビダーニャです。それではお茶にしましょうか、て・い・と・く♪」

それでは次話を書きつつ、お茶を楽しみましょうか。


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第二十七話:暗闇の死闘

前回のあらすじ
Z機の活躍と伴い、秀真・古鷹たちは南シナ海にて連合艦隊を率いり、日本の生命線ともいえるシーレーンを死守するため出撃した。
これを向かい討とうとする連邦・深海棲艦の合同艦隊も出撃した。
しかしZ機と同じく、全空母娘には秀真・古鷹たちにもジェット艦載機《轟天》と、さらに全艦載機に対VT信管対策としてレーダー反射器(アンチ・レーダー・システム)を取り付けた艦載機に続き、秀真たちには完全ステルス艦《ズムウォルト級》を供与され、古鷹はじめ第六戦隊は超重巡と化し、そして秀真たちの艦隊に配属となった超戦艦空母四姉妹に、大和・武蔵の活躍により、連合艦隊は無事勝利を収めることに成功した。
彼らが去ったあとに、海中では潜水艦同士の死闘が始まろうとしていた……

またまた某アナゴさんがクローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりとともに毎度お馴染みでありますが、それと伴い、台詞なども一部変更している部分お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


いっぽう水中では、潜水艦同士の死闘が続いていた。

死闘といえば聞こえはいいが、要するに暗闇の探り合いに等しい。

本来、現代の潜水艦は、通称《ハンターキラー》と呼ばれる専門化された能力、対潜水能力をもつ航空機またはヘリ、艦船を組み合わせて行う立体作戦のことである。

味方の潜水艦そのものは、あまり関知しない。というよりも、海中において敵潜を的確に把握するのは難しい。

太平洋戦争時にはもっと酷く、聴音システムは一応あったのだが、これを有効に処理する能力がなく、ただ敵艦が近くにいると確認するだけで雷撃するすべもなかった。

第二次世界大戦で潜水艦が敵潜を撃破した例は、伊25潜水艦がソ連海軍の潜水艦L-16を米海軍の潜水艦と誤認して魚雷攻撃し撃沈、またニューハノーバー島沖で米潜水艦《スキャンプ》が、伊168潜水艦を雷撃し撃沈、そしてフィリピンバシー海峡でアメリカ海軍潜水艦《ソーフィッシュ》が伊29とを雷撃し、撃沈したという三つの例しかない。

 

しかし現代の潜水艦は、かなり進歩している。

パシッブ・ソナー(水中聴音機)において把握された敵艦のノイズを、コンピューターによって処理されて三次元位置マップを描けるため、これによって狙いを定め、敵艦に雷撃することできる。だからこそ潜水艦の立てるノイズが問題になる。

 

冷戦時代、一般にソ連の原潜の立てるノイズは大きく、警戒している米軍原潜には容易に把握できた。

海底に設置して張り巡らせたソーサス・システム(SOSUS)でも把握できたから、バルト海から出撃したソ連原潜の航路を、米軍原潜はすぐにつかみ、追尾していた。

ソ連原潜は敵艦が追尾していないかどうか、と確かめるため、時折、360度回転するという荒業をやった。

米軍は、これを《クレイジー・イワン》と言った。

沈黙を保って追尾しているアメリカ潜水艦は、とっさに避けないと追突してしまうから、冷や汗ものだった。

 

しかしこれは原潜の話で、モーターで推進するディーゼル・エレクトリック艦になると、話しが違ってくる。

シュノーケル装置の発明で、潜航中も空気を取り込むことができ、航続距離は伸びた。

だが、皮肉にも抵抗の大きい水上を進むときよりも、水中速力のほうが強力なバッテリー推進より速い。

なお海自潜水艦は水中速力20ノットを可能にする。

これは太平洋戦争中の大型潜水艦イ号の水上速力に、ほぼ等しい。

 

いま、ちょうど深海棲艦と連邦海軍の合同艦隊と古鷹たちが戦っていた海域のやや南方で、郡司艦隊指揮下のイムヤをはじめとする潜水艦娘たちと、彼女たちとともに最新鋭の《そうりゅう》をはじめとする海自潜水艦12隻は、敵潜迎撃のために活動している。

 

そうりゅう型は2007年就役の潜水艦である。

連邦海軍がこれを予測して60隻もの潜水艦を繰り出しているが、訓練の豊富さ、ソナー能力の高さにおいては、海自潜水艦に分があった。

ソナーについては艦首、逆探知、それに水中曳航式が一体となったZQQ-7を採用している。

兵器も強力で、USM発射管を兼ねた発射管も持っている。

米軍とつねに共同訓練して切磋琢磨していた海自潜水艦の戦闘能力は、アジアでは最高レベルに達している。

機関を原子力に交換すれば、そのまま原潜として通用するともいわれるほどだ。

これに反して、連邦軍の潜水艦のディーゼル・エレクトリック艦のソン級やミン級は実用されたばかりのため電子システムに難があり、ソナーも優秀とはいえない。これでは発展途上の潜水艦である。よりポケット潜水艦として運用されているロメオ級に関しては、近代戦闘に向かない代物、つまりポンコツ同然である。

 

連邦海軍のアドバンテージといえば、原潜6隻を持っていることだ。

深海棲艦たちの技術を貸与し、ある程度は稼働できるほどマシになったが、それでも故障しがちで、シア級の二番艦のごときは故障で海没したとのことである。

しかし、一隻だけ残っている弾頭ミサイル搭載の原潜の存在は侮れない。

これが積む核ミサイルは射程距離が6000キロと言われているが、これでも太平洋南方から東京や大阪などを狙うのにじゅうぶんである。

 

ほかに攻撃型原潜としてハン級がいる。

いま連邦海軍は日本潜水艦狩りのため、このハン級2隻、深海側の潜水艦5隻を繰り出しているが、これは牛刀を持って鶏を裂くようなものだ。

ディーゼル・エレクトリック艦に対処するには同じタイプの潜水艦にまかせればいいのである。

 

しかし、戦力を誇示するために原潜を繰り出したことが返って、仇となった。

 

「反町艦長、敵艦らしきノイズが聞こえるわ」

 

そうりゅうの発令所では、ソナー区画からともに行動しているイムヤの報告がきた。

 

「うむ。艦種は分かるか、イムヤ?」

 

艦長の反町二佐が尋ねた。

このとき、そうりゅうは敵を求めて15ノット、深さ100メートルで艦内無音を保ち、息を殺して、そのあたりの海中を探索していた。

 

連邦潜水艦の立てる音は、対馬海峡に設置されたソーサスから収集されている。

潜水艦いうものには、それぞれノイズ・パターンがある。いわば名刺のようなものである。

かつて中国は演習のために、たびたび日本海に入り込むことので、採取する機会が多かった。

大胆にも津軽海峡を抜けるものさえいた……おそらくは特亜を崇拝しているかれらのやり方を倣っているのだろう。

 

「それが……どうやら原潜のようね」

 

原潜の立てるノイズは、独特のもので聞き違いようがない。

原潜はバッテリー推進を行なわず、つねに原子エンジンを作動させていなくてはならないため、いかに音を絞っても騒々しい。なお各国も吸音タイルを張ったりしているが、高度な技術のため難しい。

 

「はちの情報では、おそらく連邦はハン級かキロ級、深海側はカ級とヨ級とソ級だよ」

 

イムヤと一緒に行動しているハチが、反町艦長に情報を教えた。

 

「ふむ。しかしシア級がこんなところでうろついているはずはない」

 

彼はうなった。戦略原潜のシア級は潜水艦狩りには向かず、仮にいたとしても別の任務、もっと重要な任務がある。

 

「するとハン級ですか。敵は少なくとも5隻のハン級を持っています」

 

副長の柴田三佐が言う。艦長はうなずき、ソナー員に問い合わせる。

 

「距離と方角は?」

 

「距離1万メートル、深さ100メートル。緩やかに旋回しているようであります」

 

「うむ、我々が捜し求めているようだな。ハン級とすれば、速力25ノットは出る。

もし追尾されると、こちらは振りきれない……ここは先制攻撃の一手しかない。連合艦隊も近くにいるはずだ。

敵がUSMで攻撃するとまずい」

 

USMとは潜水艦が搭載する、いわば水中発射のハープーンである。

艦長は自分に言い聞かせるように言った。

 

「それに南シナ海で沈められた輸送船と病院船、ハワイ・グアム・サイパンの仇でもあります」

 

柴田が言う。

 

「戦闘に私情を持ち込むな。副長」

 

反町艦長はたしなめた。

 

「これは戦争だ。敵を沈めるのが我々の任務だ。イムヤたちも遅れるなよ」

 

彼の声を聞いたイムヤたちは―――

 

「了解。さぁ、みんな出撃よ。新しくなった伊号潜水艦の力、見せてあげましょう!」とイムヤ

 

「はっちゃん、出撃しますね」とハチ

 

「はーい!イク、行くの!」とイク

 

「ゴーヤ、潜りまーす!」とゴーヤ

 

「呂号潜水艦、出撃します!」とロー

 

「伊401出撃します」としおい

 

イムヤを含む潜水艦部隊も反町艦長に意気込みを見せ、連邦潜水艦隊に立ち向かう。

 

「兵器科、魚雷発射用意」

 

そうりゅうは艦首に発射管六本を持っている。従来の涙滴型の潜水艦には艦首にソナーを持つため、ここに発射管を集められなかったが、おやしお同様に、そうりゅうも葉巻型であるため艦首下部にはフランクアレー・ソナーを装備しているため、発射管を集中できるのである。

 

「六本をすべて発射する」

 

「了解」

 

533mm音響ホーミング魚雷が自動装填されるとともに発射管が開いた。

イムヤたちも533mm音響ホーミング魚雷を、いつでも発射できるように用意する。

前にも述べたように古鷹たちと同じく、これらも灰田が用意した未来装備である。

酸素魚雷だけでなく、そうりゅう型が装備している533mm音響ホーミング魚雷はもちろん、矢矧・木曾たちや海自潜水艦などが装備している対艦ミサイル・ハープーンまでも装備している。

灰田曰く「可能ならば巡航ミサイル・トマホークミサイルも搭載可能である」と述べていた。

また装備だけでなく、イムヤたちが着用している服装も然り。見た目は普段どおりと変わらないが、これを着ているだけで潜航している間でも会話することができ、なおかつテレパーシーも可能で、水中でも呼吸が可能である。

そして潜航速度および深度も同じく、海自のそうりゅう型潜水艦と同じ、それ以上の性能を兼ねている。

なおイムヤたちも古鷹たちと同じく、超高速学習装置を受けており、実戦さながらのシミュレーションも体験し、今ではベテランの域に達している。

ちなみに呂500ことローは、改装前はユーだったが、超高速学習装置のおかげで日本語も上達した。

郡司曰く「総統閣下やデーニッツ、レーダー元帥が生きていたら寝込むだろうな」と軽いジョークを述べたほど。

 

話しは戻る。

このとき目標になっていたのはハン級402と潜水カ級、ヨ級、ソ級たちである。

なお艦長は、サイ大校である。

 

そのソナー員もパッシブ・ソナーの聞き耳を立てていたが、自艦の立てるノイズを巧みにスクリーニングして、そうりゅうの立てる発射管のひらく音と、カ級たちもまたイムヤたちの発射用意をする音が聞こえた。

 

「敵艦、近くにいます。発射管の扉を開きました!」

 

「コチラ、旗艦カ級。忌々シイ艦娘ドモモ一緒ニイル……」

 

双方が発令所に報告した。

 

サイ艦長は、とっさに反応した。

 

「方位と距離は分かるか?」

 

「味方より1万メートル。深さ100、方位180度、20ノットで接近中です」

 

「方位180に変針、機関全速、敵に正向し次第、魚雷スナップショットせよ!」

 

これは手順通り、照準をはかっていたのでは、とうてい間に合わない。

ならば可及的速やかに発射しろと言う意味であり、かなりアバウトな発射になるが……

 

「シカシ、ソレデハ敵艦ノ餌食ダ。イマカラデモ……」

 

カ級がサイ艦長に意見を述べたが……その意見はすぐさま却下された。

 

「黙れ!お前たちは俺たちと同じように、奴らと、あの忌々しい兵器どもを海底に沈めれば良いんだ!

もしもあいつ等を一隻も沈めなかったら、代わりにお前たちを海の底まで沈めてやるからな!分かったか!」

 

「……了解」

 

暴言紛いの命令に対して、カ級は悔しさに耐え、ただ命令通りにするだけだった。

僚艦のヨ級も、ソ級たちも同じ気持ちだったが、今はただ敵艦を沈めることだけに集中した。なお、180度に転針したのは、できるかぎり、敵に急速に近づくためである。

近づきすぎると敵は安全装置の解除が間に合わず、命中しても魚雷が爆発しないこともある。

 

ハン級は水中排水量5550トンの巨体を持ち、速力は25ノットも出る。

 

したがって急速回頭といっても、そう簡単には回れない。

 

その間に、ソナー員は別の音を聞きつけた。

 

「高速スクリュー音複数、向かってきます」

 

これはそうりゅうから発射された魚雷と……

 

「魚雷一番から四番まで装填。さぁ、戦果を上げてらっしゃい!」

 

「Feuer!(撃て!)」

 

「イクの魚雷攻撃、行きますなのね!」

 

「ゴーヤの魚雷さんは、お利口さんなのでち」

 

「敵艦、発見! さぁいきます、てー!」

 

「さぁー…伊400型の戦い、始めるよ!」

 

イムヤたちが撃ち放った魚雷だった。

 

「ナンダ、アノ艦娘ドモノツカウ酸素魚雷デハナイナ……!」

 

カ級のいう通り、もう一つはイムヤたちが発射した音響ホーミング魚雷、時速50ノットで推進してきた。

 

ノイズが大きい原潜はもちろん、カ級たちも絶好の標的だ。

 

それから50秒ほど遅れて、ハン級402およびカ級たちも魚雷を発射した。

しかし速力50ノットで50秒差は大きくて痛いものであり、カ級の助言を素直に聞くべきだったと、サイ艦長は悔やんでいた。

 

「深さ150!」

 

サイ大校は命じると、402とカ級たちは急角度で水中に突っ込んだ。

 

「デコイ発射!」

 

複数のデコイも発射する。これは音響反射物質でできていて、敵魚雷の針路を誤らせる役目をもっている。

しかし、それを持たないカ級たちは次々とイムヤたちの放った音響ホーミング魚雷の餌食となった。

なお、そうりゅうが射出された六本の魚雷は402に突進、二本がこのデコイに惑わされてハズレたが、残る四本が命中した。深さ150メートルでは水圧は15気圧、たとえ一本くらっただけでも水圧に押され、潜水艦は滅茶苦茶に破壊される。それが四本も命中したのだからたまらない。旗艦ハン級の巨体は一瞬に膨らみ、それから風船が破裂するように破壊した。

 

「魚雷四本命中しました」

 

そうりゅうの発令所ではソナー員が叫んだが、続けさまに報告した。

 

「敵魚雷複数こちらには少なくとも6本、イムヤたちにも同様に、6本向かってきます」

 

これらは402が殺されるまえに発射した怨念を込めた魚雷に、イムヤたちに向かっているのはカ級たちが発射した魚雷だ。

 

「取り舵いっぱい、深さ200、デコイ発射」

 

反町艦長は命令した。そうりゅうは30度の急角度で水中に突っ込んだので、全員なにかに摑まって、身を支えなくてはならなかった。艦長の命令に従い、デコイを発射した。

しかも402の魚雷は元々あてずっぽうに発射したため、そうりゅうから2000メートルも離れて追加した。デコイにまどわされて次々と爆発、その衝撃が遠くから伝わってきた。

イムヤたちに突っ込んだ敵魚雷は、灰田が提供してくれた服装には《反磁力波装甲》という特殊な素材が仕込まれており、これのおかげで敵魚雷はもちろん、爆雷、機雷などを寄せ付けなかったのである。

また万が一に備えて、そうりゅうと同じくデコイを搭載している。

 

「やりましたな、艦長」

 

柴田副長がささやいた。その顔は脂汗で濡れており、艦長もまた同じだろう。

 

「うむ……彼との、郡司提督との約束も守れてよかった」

 

艦長はうなずいただけだった。

敵潜は 80人を超える乗員が乗っていたはず、かれらが一瞬にして海の藻屑になったと考えると……単純に喜ぶ気にはならなかったのである。

ただし反町が喜べたことは、郡司との約束、彼女たちを誰一人とも失わずに済んだこと、そして必ずイムヤたちとともに帰ってくること、この二つの約束が守れて、安心していたからだ。

 

「VLF受信深度まで浮上せよ」

 

現代の潜水艦は、アンテナを水面に出さなくても超長波で受信できる。

 

そうりゅうとイムヤたちは深さ50まで浮き上がった。

 

副長が暗号化された簡潔な電文を作成し、司令部に送った。

 

ハン級らしき敵潜とカ級たちを撃沈したことを知らせるためである。

 

入れ替わり、司令部から命令が届いた。

 

シーレーンが変更されたので、防衛任務はなくなった。

 

各潜水艦娘および潜水艦隊は、すみやかに帰投せよと命令である。

 

「よし帰投するぞ。全艦100度に変針。深さ150を保て」

 

「さあ、帰ろう。司令官が待っているよ!」

 

「「「「「了解!!!」」」」」

 

むろんほかの潜水艦も定時連絡の際に、この命令を受け取っているはずだ。

かくして南シナ海に展開した攻略艦隊と潜水艦隊は、連邦海軍と深海棲艦たちとの戦闘を終えて、帰投についた。

敵艦は消耗し、味方にはたいして被害はなかったのだから、勝利と言える。

しかし、灰田が貸与してくれた装備と幸運になかば助けられた面もある。

もしソン少将が臆病風に吹かれず、参戦していたら攻略艦隊は苦戦していたかもしれない。

連邦海軍が原潜を繰り出さず、残りのキロ級を主体としたディーゼル・エレクトリック艦を出していたら、こちらが轟沈していたかもしれない。

 

しかし勝利は勝利だ。

 

こうして、のちに第二次南シナ海戦と名づけられた海戦は、日本の勝利に終わった。




もはやイムヤたちは海自の潜水艦並みの性能を兼ね備えています。
なお、ヒントとなった作品は『潜水空母イ2000』であります。
余談ですが、敵の未来人・ミスターホワイトが米軍に非鉄金属性の水中質量分布判別魚雷を供与していますが、ダイオウイカの妨害により失敗しています。
なおこれに続き、生物兵器として改良された巨大ダコを刺客として放ちましたが、またしてもダイオウイカに救われるという展開があります……また偶然にも某「鋼鉄の咆哮」シリーズでも出ているのですね。ダイオウイカ……。
最初は灰田さんが洗脳しているのかなと思いました……
なお、灰田さんを怒らしたらエンフォーサーとメガ・グライダーに、1個師団の超人部隊とともに急襲してきますので……皆さん、ご注意を。フフフッ……

神通「あの提督…そろそろ次回予告を…」

では、切りが良いところで次回予告であります。
次回は通商破壊行動を行なう仮装巡洋艦・敵水雷戦隊を撃滅するため、華の二水戦旗艦こと神通さんが活躍いたします。前編・後編に分けます。そして夜戦であります。

神通「この日のためにもう特訓してきました。必ずや提督の期待に応えてみせます!」

あはは……前作とはまた違った展開になりますのでお楽しみ、はっ!

川内「なに夜戦!?今夜戦って言った!?」

那珂「あはは!川内は相変わらずだねぇ~」

長話はさて置き、彼女たちの活躍とともに、次回もお楽しみを。

それでは第二十八話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、神通行きます!」

川内「ダスビダーニャ! 夜戦だ!待ちに待った夜戦!」

那珂「ダスビダーニャ! 那珂ちゃんも出撃します!」

こちらは無事帰投できるように、執筆しましょう。


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第二十八話:仮装巡洋艦VS華の二水戦 前編

お待たせしました。
前作では前編・後編のみここで終了しましたが、木村昌福提督の名言「帰ろう、帰ればまた来れるから」のように大幅に修正して帰ってきました。

今回は前作とは違った展開になっていますが、また違った面白さもあります。
なお『華の二水戦』を聞きつつ、本作を読んで、雰囲気を楽しめていただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


某海域。

南シナ海では秀真・古鷹たち連合艦隊、水中では反町艦長率いる潜水艦群とイムヤたちが帰投し、暗闇に包まれたこの海域でも小規模な戦闘が行われ、いや、いまに始まろうとしていた。

 

「へへへ、いたいた。鴨がいた」

 

闇夜に紛れて下品な笑いをするのは連邦海軍所属の奇襲部隊――中岡・秀忠・湯浅たちなどブラック提督たちの下で働いていた元憲兵や、彼らに協力しただけでなく、特亜のためにご奉仕しては当然であり、日本を滅ぼしたくて堪らない者たちなどが集った精鋭部隊……実際には逆で、とても精鋭部隊とはいえない下っ端部隊である。

連邦共和国と言う国籍を取った国民の多くは、この戦争のきっかけを作ったのは実は艦娘や彼女たちとともに戦う元帥や提督、自衛隊などが原因だと本気で信じている。

艦娘や提督たちを消せば、同盟を結んでいる深海棲艦も消えて、真の平和が来るとまでも、カルト的なことまでも言う始末だった。

だから彼らが問う平和は夢のまた夢であり、ただの妄想に過ぎなかった。

しかし彼らが唱える平和、それを実現させるためならば、恐喝や暴力などは当たり前だと思っている。

 

かれらの場合は《話し合い》と言っているが、本質的には暴力である。

 

話しは戻る。

誰が見ても普通の貨物船にしか見えないが、実は仮装巡洋艦である。

仮装巡洋艦とは第一次世界大戦また第二次世界大戦において中立国の商船に偽装して無警戒の敵国の商船を襲撃したドイツの軍艦を指す。

主に旅客船、油槽船、貨物船など既存の商船を改造したため、装甲等の防御力は申し訳程度しかなく、爆撃や砲撃で簡単に沈められるほど脆い。

しかし現代は技術が進歩しているため、タンカーでも軍艦並みに強化されている。

対戦車兵器を食らっても航行できるほど、改装されているのだから。

連邦海軍はほとんどと言って良いほど、深海棲艦たちに頼ってはいるが、なぜか通行破壊任務だけはかなり積極的に行っていた。

理由は単純明確。相手が攻撃してこないから自分たちでも楽に倒せるということだ。

自分たちに反対する者は《話し合い》の皮を被った虐殺を行なうほどでもある。

確かに非武装の船、輸送船ならば誰が見ても簡単に倒せる。ただそれを倒したからといって、自分が強くなったと勘違いし、撃沈エースを名乗るブラック提督たちは後を絶たなかった。

当然だが、強力な装備を携える艦娘などは襲わず、ひたすら非武装の輸送船や病院船しか襲撃できない狼の皮を被った羊の集まり、つまり弱い者いじめしかできない、いじめっ子たち同然である。

通商破壊任務の場合は、軍艦然とした船舶が商船に近づけば、警戒されて逃げられるおそれがある。そこで武装の多くは船端に隠れるように設置され、さらにカバーをかけるなど隠蔽していた。また甲板員は軍服ではなく民間船員服を着用し、中立国の国旗を靡かせて中立国の商船に偽装することも多かった。

これに協力する深海側は軽巡棲姫と彼女を補佐する軽巡棲鬼・駆逐棲鬼率いる水上打撃部隊と、これまたUボート部隊を模倣した深海潜水艦部隊である。連邦側は楽観的だが、深海側は慎重派である。

 

深海側は輸送船団には必ず護衛艦が付き添っているのに、丸裸で航行は可笑しいと思ったからだ。

かれらがどうも安心しきって、堂々と航海しているのに異変を感じた。

いくら、闇夜に紛れて航行しても速度が遅いタンカーや輸送船は気づかれやすい。

 

「奴らはここに俺たちがいないと安心しきっているのさ、気楽な仕事さ」

 

「潜水艦部隊に手柄を取られてばかりだと面白くもないわ!」

 

「われわれが話し合いで、解決してやる!」

 

「コノ人達、楽観的ネ……」

 

「戦線ヲ見タコトガナイカライエルノダロウ、アイツラハ……」

 

「水鬼様ナラ迷ワズ、撃沈シテイルゾ」

 

歓声を上げる彼らとは違い、軽巡棲姫・軽巡棲鬼・駆逐棲鬼は呆れたも同然だった。

しかし任務は任務だ。楽観的な彼らとは違い、どんな任務でも気は緩めない。

このイカれた連中らの視点は、戦闘は楽で愉快なものと勘違いしているのだろうと思った。

 

目標たる輸送船を雷撃せよと、潜水棲姫率いる潜水艦部隊に連絡をしたが……

この時に限っては、すぐに連絡を定期的にするはずなのにいっこうに連絡が取れなかった。

軽巡棲姫たちは嫌な予感を感じていたが……また別行動している潜水棲姫たちのことだから大丈夫だろうと言い聞かせた彼女たちは私情を慎み、任務に集中した。

 

不安のなか、例のイカれた連中が乗艦している仮装巡洋艦《平和》は、獲物となる輸送船団に刻々と近づきながら、着々と準備をはじめていた。

非武装だった商船の皮を捨て、偽の平和を象徴するように武装船へと姿を変えた。

かれらが乗艦している大型貨物船の大きさを誇る《平和》の武装は、56口径100mm砲、37mm連装機関砲、遠隔操作30mm機関砲、さらに対艦ミサイル、対空ミサイルだけでは満足できず、二種類の中国製ヘリ、一機目は608研究所と昌和飛機工業公司が共同開発した中国初の本格的な攻撃ヘリコプターWZ-10《キメラ》と、もう一機目は現在でもロシアをはじめとする多国籍軍などが運用しているソ連製中型多目的ヘリコプターMi-17《ヒップH》である。前者は一機だが、後者は二機、どちらもRKP機関砲と対戦車ミサイルを搭載している軽攻撃ヘリである。

そしてRPG-7やSMAW多目的ロケット砲など重火器や有名な突撃銃AK-47やM16などの小火器を携えた連邦兵士たちも姿を現した。

 

これだけの戦力があれば、すぐに輸送船団は降伏するし、上手くいけば輸送船団丸ごと拿捕もできる。

だが、かれらの場合は異端者たちを浄化する、つまり皆殺しにするのが目的でもある。

輸送船などどうでも良い。目的さえ達成させればいいのだから。

 

「よし、攻撃開始よ!」

 

まずヘリ部隊がローター音を鳴り響かせて、目標たる輸送船団を襲撃しようと飛び立つ。

かれらが料理した後、こちらも突撃しようと要員たちはわくわくしながら見物していた。

そしてかれらが近づいたとき、ピカッと何かの閃光が煌めき、しかもこちらに真っ直ぐと向かってきた。

 

『なんだ。あれは……まずい、ミサイルだ!フレアを撒け!』

 

WZ-10とMi-17はフレアをすぐさま放出し、旋回行動へ移るが……

ひと足遅く、獲物を捕捉した肉食動物のように対空ミサイルは逃げ惑うヘリ部隊に目掛け、突っ込んで行った。

操縦桿を握りながら操縦するパイロットたちは、悲鳴を上げながら途切れた。

遠くからでもミサイルの直撃を受けたヘリ部隊は空中で打ち上げ花火のように爆散した。

運よく機体ごと残っていても、燃え盛る機体は回転しながら、やがてコントロール不能に陥り、海面に着水後には機体は大爆発を起こし、大きな水柱が三つも上がった。

ヘリ・パイロットたちの最後の声を聞いた女性艦長、現在は連邦海軍提督に務める幸原陽子大校は絶句した。

 

「な、なによ。今のは」

 

「艦長、あれを!」

 

「アレハ……!」

 

隣にいた副艦長が指差す方向を、双眼鏡に覗き、軽巡棲姫は探照灯で照射した。

すると輸送船団の周りから突然と姿を現したのは、6人以上の人影、いや、言わずとも分かっていた。

 

「なんで艦娘どもがいるのよ。それに今まで何処に隠れていた!?」

 

レーダーには映らなかった。目視でも確認できなかった。

 

幸原大校以下、多くの者たちが理解できなかった。

理解できなかったのも無理はない。これも灰田が用意した一時的ステルス化できる塗料を装備していた神通率いる護衛艦隊である。

また軽巡棲姫たちが潜水棲姫たちといっこうに連絡できなかったのは、これまた灰田が用意した《無人ハンター・キラー兵器》という敵潜や潜水棲姫たちなどの推進音を聞き分けるようプログラムされた生物兵器に近いものを海中にばら撒いており、これにやられたために連絡が出来なかったのである。

 

「上出来ね、灰田さんが供与してくれた艦載機は」と千歳。

 

「そうね、千歳お姉。この子たちも頑張ってくれたもの!」と千代田。

 

「千歳殿と千代田殿もやりますね。自分も負けるわけにはいきません!」とあきつ丸。

 

また哀れにも対潜キラーともいえる彼女たちによって始末されたのだった。

運よく難を逃れた潜水棲姫たちに待っていたのはSH-60K《シーホーク》対潜ヘリの活躍により、全滅した。

仕事を終えたのかSH-60K部隊は彼女たちの甲板に着艦した。三人ともお疲れ様ときちんと労いの言葉をかけ、次の準備へと移った。

 

「これより、敵艦を撃滅します!姉さんと那珂は私と共に敵艦を、雪風たちは輸送船団の護衛を、千歳さん、千代田さん、あきつ丸さんは航空支援をお願いします!」

 

「OK。この夜戦ゴーグルのおかげでバリバリ活躍できるね!」

 

「那珂ちゃん、センター行きまーす!」

 

この特殊ゴーグルを用意したのも、むろん灰田である。

赤外線暗視・捕捉・ロック・距離測定システムを組み込み、更に自身の砲火・探照灯・味方の照明弾・突然の電光にも対応出来る減光安定システムとレンズを備えている。

また霧の中でも紛れ込んだ敵艦を見通すこともできるから驚きである。

 

神通の号令と伴い、川内と那珂と共に突撃を開始し、雪風たちは輸送船の護衛を、千歳・千代田・あきつ丸は神通たちを援護するために搭載していた対潜ヘリではなく、もう一種類の攻撃ヘリを発艦させた。

 

「艦載機の皆さん、やっちゃってください!」

 

「さあ!攻撃ヘリ隊、出番よ!」

 

「さて、進化したこのあきつ丸。本領発揮であります!」

 

千歳・千代田・あきつ丸の飛行甲板から発進したのは、黒き巨大なヘリだ。

しかし、これらは先ほどカ級たちを片づけたSH-60Kとは違い、巨大なトンボの形をした奇妙な航空部隊が現われ、次々と軽巡棲姫たちに向かっていった。

 

「ナ、ナンナノ。アノ見タコトモナイ航空機ハ!?」と軽巡棲姫。

 

「今マデ見タ、カ号観測機トハチガウ!」と軽巡棲鬼。

 

「シカモ機銃ニ、ロケット弾ヲ大量ニ装備シテイル!」と駆逐棲姫。

 

幾度も軽空母や航空巡洋艦娘たちが運用するカ号観測機という陸軍で開発・運用されていたオートジャイロ、現代の艦載ヘリコプターの先祖ともいえる、回転翼の艦載対潜哨戒機を見たことあるが、こいつは違う、まるで怪鳥のようだと呟いた。

 

軽巡棲姫たちは巨大なトンボの形をした奇妙な航空部隊の正体は分からなかったが、幸原大校は知っていた。

 

「なんで、国家権力の犬同然の艦娘どもがアジアの侵略者である自衛隊と人殺し米軍の攻撃ヘリを!」

 

そう、千歳・千代田・あきつ丸が召喚したのはAH-64D《ロングボウ・アパッチ》というマクドネル・ダグラス社(現ボーイング)が開発したAH-64A アパッチにロングボウ火器管制レーダーを搭載し、大幅な能力向上を図ったAH-64の派生型である。米軍はもちろん、自衛隊をはじめNATO同盟国軍が運用している最高傑作の攻撃ヘリである。むろん何度もいうが、これを提供したのは灰田である。

しかもこれを操縦しているのは人工知能を搭載したロボットである。

なお見た目は某有名映画《スターウォーズ》に登場するR2D2を思わせるロボットである。

ただし整備・兵器の補充などに関しては妖精たちが行なわなければならないため、灰田はこれも急速学習装置を行なっているため、全員が熟練整備員になっている。

 

幸原大校が呟く間にも神通たちとともに、AH-64D部隊が近づいてきた。

全員が戦闘態勢を取る間にも、まず恐怖の怪鳥ともいえるAH-64D《ロングボウ・アパッチ》が襲い掛かった。

 

「ウ、撃チ方始メ!何トシテデモ撃チ落トシマス!」

 

怪鳥と思わせる回転機を目にして、恐怖に襲われた軽巡棲姫たちは対空砲および対空機銃を撃ち始めたのに対し、アパッチは敵の射程距離外から数発のAMG-114N《ヘルファイアⅡ》対戦車ミサイルを撃ち放った。

撃ち放たれたヘルファイアⅡは飛翔速度が速く、軽巡棲鬼たちの対空兵器では容易に撃ち落とせるものではなかった。目標を捕らえたミサイルは、さらにスピードを上げ、そして命中したという合図を知らせるように火球が湧き上がった。

この攻撃により、軽巡棲姫たちは中破、戦艦タ級は轟沈、二隻の重巡ネ級、二隻の駆逐ハ級後期型は瞬く間に大破した。

この攻撃が済むとアパッチ隊は仮装巡洋艦《平和》にも同じく、攻撃を開始した。

すぐさま多数のヘルファイアⅡおよびハイドラ70ロケット弾が撃ち込まれた。

軽巡棲鬼たちに比べ、これらを撃ち落すのは容易だが、大量に攻め込まれればたまらない。

史実でも戦艦大和や武蔵を撃沈したのは、大量の米艦載機群である。それと同様であり、

甲板で激しい対空砲火をする間にも、連邦兵士たちは血煙を上げて倒れ、さらに不運にもアパッチ隊の攻撃により、船から落ちていく姿もたびたび見られたが、それでも容赦ない攻撃は止むことなく、攻撃を受けた部分は次々と炎上していく。

一機撃ち落とせば、お返しは強烈なM230チェーンガンの掃射で抵抗する兵士や恐怖に駆られて逃げ惑う兵士たちを、瞬く間に新鮮なミンチ肉へと変えていく。

ヘルファイアⅡ、ハイドラ70ロケット弾、そしてM230チェーンガンの攻撃は凄まじく、

甲板にいた兵士たちは数を減らしていく。

ただ運が良いことにあきつ丸たちが放ったAH-64D《ロングボウ・アパッチ》部隊は、搭載している武器、それら全てを撃ち切ったため、全機は反転し、搭載兵器の補給をするために引き返していく。幸原大校以下はほっとひと安心するのも束の間だった。

 

すぐに攻撃ヘリ部隊の次に襲い掛かってきたのは、神通たちが攻撃を開始した。




潜水棲姫たちは灰田=サンの超兵器《無人ハンター・キラー兵器》とSH-60K《シーホーク》の攻撃により、しめやかに爆発四散、ワザマエ!
今回はソフトに仕上がりましたが、大丈夫かな?っん?面白かった?いいんじゃない?(伊勢ふうに)

今回登場した超兵器は《無人ハンター・キラー兵器》は『天空の要塞』から。
SH-60K《シーホーク》は『超空の決戦』などに海自が活躍する作品に登場しています。
AH-64D《ロングボウ・アパッチ》は、『超戦艦空母出撃』の終盤にて、ソ連軍を駆逐するために満州戦で活躍しています。
神通たちのステルス機能は『潜水空母イ2000』は、ガダルカナル戦で連合艦隊・艦載機などに搭載しています。しかも伊勢・日向・扶桑・山城はアイオア級戦艦と互角に戦えるほど改装されています。
また『夜襲機動部隊出撃』でもステルス機能を搭載しています。
あとはゴーグルも同じく異世界の化け物退治に登場しています、一部オリジナルも加えていますが。
また偶然にも『鋼鉄の咆哮』シリーズでも登場しているのですね、ステルス艦……
本作とは関係ありませんが『荒鷲の大戦』では扶桑さんと信濃は、ドリル戦艦に改造されています。ある化け物を倒すための切り札として活躍しますが。

では長話はさて置き、次回はこの続き、後編であります。
神通たちに続き、強力な助っ人たちも駆けつけてきますのでお楽しみを。
それでは第二十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第二十九話:仮装巡洋艦VS華の二水戦 後編

お待たせしました。
予告どおり神通さんたちのご活躍と伴い、強力な助っ人たちが登場します。
前作とは違った展開になっていますが、また違った面白さもあります。
なお『華の二水戦』を聞きつつ、本作を読んで、雰囲気を楽しめていただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


「敵艦に…攻撃を開始します!」

 

神通は、まずハープーン・ミサイルを発射した。

 

「突撃よっ!」

 

「那珂ちゃんセンター、一番の見せ場です!」

 

川内・那珂は四連装対艦ミサイル発射筒から、17式対艦ミサイルを撃ち放つ。

彼女たちの渾身の一撃ともいえるミサイルは、各敵艦に命中した。

この戦果は軽巡棲姫・軽巡棲鬼・駆逐棲鬼の三人は轟沈は免れたものの大破し、彼女たちとともにいた2隻の重巡ネ級と駆逐ハ級後期型らは反撃をする暇もなく、神通たちのミサイル攻撃により撃沈した。

三人に止めを指そうと、神通たちは搭載しているイタリア製の高性能艦砲《76mm単装連射砲》を隙を与えないほど凄まじい砲撃を交わしながら、軽巡棲姫たちは少しずつ後退しながら撃ち続けていたが……

 

「ちょっとあんたたち、後退しないで突撃しなさいよ!」

 

「戦ワナイト、コチラガ不利デス……」と軽巡棲姫。

 

「コッチハ大破シテイル!ソッチモ逃ゲナイデ戦エ!」と軽巡棲鬼。

 

「私タチ以上ニ火力ガ高イノカラ支援ヲ、オネガイシマス」と駆逐棲鬼。

 

三人の言葉を聞いた幸原大校は激昂した。

 

「私があの兵器どもを沈めてやるから、勝ったら軍法会議に掛けてやる!」

 

彼女は仮装巡洋艦《平和》を微速前進させ、神通たちに攻撃を開始した。

同時に陰で隠れていた小型のモーターボートを20隻放出した。

軽巡棲姫たちは、その隙に撤退した。コイツ等のために命を落とすなんて馬鹿馬鹿しいからだ。

死ぬのであれば戦艦水鬼のために死んだ方がマシだと判断し、戦場から離脱した。

そんな彼女たちに目もくれず、連邦兵士たちが携えているのはRPGやRPK汎用機関銃などと言った重装備で突撃したが、かれらは肝心なことを忘れている。

なにしろ神通たちが精鋭部隊として、切り込み部隊であることを。二つの名を覚えていないことを。

 

「突入しろ、たかが雑魚の水雷戦隊だ。包囲して轟沈させろ。できなければ体当たり攻撃でもして沈めろ!」

 

「連邦国のために!」

 

「大統領閣下のために、異端者に神罰を!」

 

「金のために!」

 

各々の正直な気持ちを叫び、そして神通たち目掛けて突入した。

水雷戦隊は雑魚だと確信し、慢心していた先頭にいた三隻のボート部隊が、神通たちの砲撃により転覆した。

勇敢というよりは蛮勇な行動を、体当たり攻撃を試みたボート部隊もいたが、神通たちは華麗に舞う蝶のように躱し、蜂のように刺そうとする神通たちの撃ち放った正確無比な砲撃がまたしても命中する。

砲撃を喰らったボートは、たちまち紅く煌めく火焔に包まれ、搭載されていたRPGなどの対戦車火器に引火した。

一瞬の痛みを味わい死んだ者はまだいい方だ。運悪く灼熱の業火に焼かれたボートとその乗組員たちが、砲の破片とともに吹き飛ばされて、焼死または悲痛な声を上げながら力尽きた死体と化し、海面に叩きつけられた。

 

「……不味い、ようやく思い出した。あいつらは二水戦……本物の“華の二水戦”だ!」

 

「おいおい、マジかよ。俺たち不幸じゃないかよ!」

 

「いやだ。私たち死にたくない!あんなの相手にして死ぬなんて嫌よ!」

 

「嫌だ嫌だ。死にたくない。誰か助けてくれ、俺は家に帰りたい。俺を家に帰してくれ!」

 

再びよみがえる恐怖を思い出したかのように、ひとりの連邦兵士が言った。

練度も非常に高いエリート部隊である第二水雷戦隊、また二つ名を《華の二水戦》。

彼女たちの強さは、連合艦隊どころか、当時世界最強の水雷戦隊と呼ばれている。

その訓練も常軌を逸した厳しさと苛烈さでも知られ、特に最盛期は『月月火水木金金』を地で行く地獄の特訓を繰り返していたという。

艦隊の“切り込み部隊”として常に前線で激戦を繰り広げ、その勇名を太平洋上に轟かせた。かれらが相手にしているのは、まさしく正真正銘の《華の二水戦》だ。

これは竹やりで、自動小銃や機関銃を持っている兵士を相手にするようなものだが、たかが三人しかいない相手に攻撃を開始した。

 

「お前ら喧しいぞ!俺たちは神である大統領閣下のためにご奉仕しているんだ。弱音を吐くな。限界はないんだ!

我々が束になれば、あんな兵器どもに勝てるんだ。突撃せよ、今こそ大統領閣下に命を捧げるべきだと思え!」

 

リーダーと思われる男は、部下たちに”ひたすら突撃せよ”と命令を下す。

指揮官の命令通り、各ボート部隊は突撃した。

 

「戦争がなければ、あなた達を一から徹底的に鍛え直していましたが……」

 

神通は巧みにかれらの攻撃をかわし、素早く正確無比の砲撃で三隻撃沈した。

 

「くだらない物に染まり、国を裏切り、敵に寝返った貴方たちは鍛え直す価値などありません!」

 

逝になさいと言わんばかり、砲撃をし続ける神通が激怒した。

彼らはただ突撃のみである、まさに愚行であり、素人以下と言われても無理はないだろう。

ましてや国を裏切り、敵側に寝返った者たちを許せなかったのだから。

 

「あっちゃ~神通を怒らしちゃったね~」

 

「神通ちゃんやっぱスパルタだねー、でもセンターは譲れないよ!」

 

川内と那珂も次々と敵モーターボート部隊を撃沈していく。

 

「ひ、ひいぃぃぃ。俺は生き残るんだ、こんなところで死にたくない!」

 

部下が全滅したのを確認した男は情けない声を上げて、死に物狂いで急いで離脱しようと全速力で母艦となる仮装巡洋艦《平和》に戻ろうとした。

しかしここは非情にも戦場である。生き残りたければ自分で運を切り開くしかないのが現状である。

 

「…これで終わりです!」

 

最後まで残った指揮官らしき男が乗艦している赤いボートも、神通の砲撃により撃沈した。

 

「小癪な兵器女ども!蜂の巣または海の藻屑にしてやりなさい!」

 

なにも戦果を上げず、殲滅された護衛部隊を見た幸原大校は激怒した。

そして彼女の命令で《平和》が搭載している56口径100mm砲、37mm連装機関砲、遠隔操作30mm機関砲で砲撃をしようとしたが……神通たちに報復しようと攻撃に移ったとき、各船体に鼓膜が破れるほどの爆発音と伴い、船全体に凄まじい衝撃波が伝わった。

 

「なに!?」

 

幸原たちは何者の攻撃だと思い、双眼鏡で探し回ると、砲撃した者たちが正体を現した。

 

「Feuer!(発射!)」と、ビスマルク(drei)。

 

「砲撃、開始!Feuer!」と、プリンツ・オイゲン。

 

「敵艦発見、攻撃開始!」と、レーベ。

 

「敵艦を捕捉、攻撃開始!」と、マックス。

 

「一番、二番主砲狙え…今よ、撃て!」と、リットリオ改めイタリア。

 

「戦艦、ローマ、砲撃を開始する。主砲、撃て!」と、ローマ。

 

「リベの攻撃、行くよー!」と、リベッチオ。

 

秀真たちは輸送船団を護衛している神通たちのため敵艦隊を殲滅すべく、支援艦隊を派遣していたのだ。

ビスマルク・イタリア率いる独伊両艦隊も神通たちを支援するため、攻撃を続行した。

ビスマルクは38cm連装砲改を、プリンツはSKC34 20.3cm連装砲が再び火を噴き、イタリア・ローマも、ビスマルクたちに続き、381mm/50三連装砲改を斉射した。

レーベ・マックスは12.7cm単装砲を、リベッチオは120mm連装砲をビスマルク・イタリアたちに負けずと砲撃を一斉射した。両国の主砲はどれも優秀であり、そして高い命中率と火力を誇る。

彼女たちの撃ち放った砲弾は回転を増して、仮装巡洋艦《平和》に向かって飛翔し、次々と命中していく。

哀れにも《平和》に搭載している対艦兵器らもそれなりの攻撃力・防御力などを兼ね備えているが、輸送船・病院船ならば効果は抜群だが、戦艦・巡洋艦相手などには全く効果はないに等しい。

 

「油断しましたね。魚雷も次発装填済です…撃てー!」

 

「雷撃戦!よーい、てー!」

 

「那珂ちゃんも、行くよー!」

 

神通・川内・那珂は大威力長射程を誇る秘密兵器《九三式酸素魚雷》を、その必殺の酸素魚雷を《平和》に向けて撃ち放つ。青い海の暗殺者は、ほぼ無航跡のため暗闇に溶け込み突っ込んでいく。

ビスマルク・イタリアたちに気を取られていた《平和》に、必殺の《九三式酸素魚雷》が次々と命中したと証明するよう、敵艦を遥かに上回るほどの水柱が見えた。

 

「おのれ!軍国主義の犬に、ファシストの犬どもめ!貴方たち我が《平和》被害状況を報告しなさい!」

 

「全兵器システムが破壊され、船自体もあと少ししか持ちません!」

 

被害は甚大。轟沈とまではいかなかったが、ほとんどの兵装は使用不可能になった。

しかし幸原大校たちにも奇跡があったと言ってもいいだろうか、あれほど神通たちの砲雷撃戦をシャワーのように浴びたのにもかかわらず、航行しているのだから立派なものである。

それでも生き残った兵士たちは、まだ船体に隠されていた対戦車兵器を取り出して、抵抗しようとしたが……

 

「敵ヘリおよび新たな敵機群が接近します!」

 

先ほどのAH-64D部隊とともに、新たな航空機が突入してきた。

AH-64D部隊とドイツ空軍の傑作レシプロ戦闘機Fw190T改に護衛されているのは、ドイツ空軍の傑作複座単発急降下爆撃機Ju-87C(ルーデル隊)に続き、そして流星と瑞雲部隊は……

 

「フフッ、夜戦か。いいだろう。このグラーフ・ツェッペリンがただの空母でない所を見せてやろう。艦隊、我に続け!追撃だ!」

 

「えっと…攻撃です。速吸航空隊、頑張ってください!」

 

「瑞穂、参ります。攻撃開始。撃ち方、始め!」

 

髪型は淡い金髪のツインテール、軍服の上から羽織ったケープが特徴的で、ケープにはケルト結びの模様はまるで魔術師をイメージしている。そしてビスマルクをはじめとする他ドイツ艦に近い構造の艤装が体を包み込んでいる少女の名前は《グラーフ・ツェッペリン》である。

白いジャージにミニスカートと紺色のハイソックスで、運動部のマネージャーのような容姿をした少女《速吸》と、まるで昔の日本の姫様を思わせる和服美人の《瑞穂》である。

三人もまたステルス塗料を装備しており、輸送船の安全が確保できたので姿を現した。

この仮装巡洋艦を駆逐するため、支援に駆けつけてくれたのだ。

 

「どうするのですか!?このままじゃ……」

 

「このままじゃ話し合いなんてできないわ、さっさと脱出よ!」

 

この艦に止めを指そうと近づいている敵機を見て、すぐさま撤退命令を下した。

幸原大校らは我先に駆け寄り、用意していた脱出用の中型及び小型ボートに乗り込んだ。

これでようやく脱出できると思いきや、外に出た瞬間だった。

艦内からでも聞こえる爆発音が響き渡る。AH-64Dはヘルファイア・ミサイルを発射し、Fw190T改は機銃掃射を、そしてJu-87C(ルーデル隊)と瑞雲部隊による爆撃、流星部隊の雷撃を受けたため、船は徐々に傾き始めた。

多くの兵士たちが乗っていた中型ボートは発進する前に、爆発の衝撃により、船は斜めに傾き、船内にぶつかり、取り残されたため脱出不可能となった。

 

「……中岡大統領閣下万歳!日本に神罰を!」

 

これまた時代劇に登場する小悪党たちが言い放つ台詞、捨て台詞を吐き、仮装巡洋艦は爆沈した。

大勢の命と、偽りの平和とともに海の底に消えていったと言ってもいいだろう。

平和と言う言葉は勝ち取らなければ意味がない、歴史がそれを証明しているのだから……

軽巡棲姫たちは逃亡したが、神通たちは深追いをすることはしなかった。なによりも輸送船団を守るのが優先だ。

敵仮装巡洋艦以下、敵水雷戦隊および敵潜水艦の撃滅に成功したのだから、勝利である。

これにより日本の生命線ともいえる、シーレーンを妨害しようとする敵の主力艦隊を駆逐することができた。

灰田の用意した兵器と装備があってからこそ勝てたが、何よりも神通の迅速な判断が功を奏してくれたのだ。

 

『神通さん、こちら雪風。阿武隈さんたちと、ほか友軍艦隊に無事合流しました!』

 

戦闘が終えた頃、輸送船団を護衛していた雪風たちは、阿武隈率いる友軍艦隊に無事合流したとの連絡を報告した。

 

「分かりました。では、無事本土に着くまで気を抜かないように!」

 

『了解しました!』

 

最後まで気を抜かないように、最後まで厳しく言ったが、それは彼女なりの優しさでもあった。

 

「では皆さん、これより友軍艦隊と合流します!」

 

「「「「「「了解!!!」」」」」

 

神通の命令で一同は、雪風と阿武隈たちが率いる輸送船団を、まだ終わっていない護衛任務のため、この海域をあとにした。




今回は夢の共演というべき、ビスマルク・イタリアたちをはじめ日独伊三国艦隊による敵仮装巡洋艦および敵水上打撃部隊を見事壊滅しました。
前作ではここまでしか執筆できませんでしたので、ようやく峠を越えられたなと安心しましたが、慢心は禁物ですから、寧ろここからが勝負と思って次回も忘れずに執筆活動を頑張ります。

神通「出撃していた艦隊が、帰投しました」

お帰り、神通さん。もちろん彼女も協力してくれるのですから、私も応えないといけませんね。

神通「提督、あ、あの嬉しいのですが…次回予告を忘れてはいけませんよ?」

おっと、嬉しさのあまり忘れるところでしたね。
では次回はこれまたお久しぶりと言いますか、再び連邦視点になります。
次回は反省会と言いますか、軍法会議みたいな話であります。
なお連邦国の態度は結構苛立ちますが、どれだけ下らないプライドがあるのかも分かりますのでお楽しみを。

それでは第三十話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…あの提督、私がお茶を淹れますから」

帰投したばかりですから、川内たちと一緒に座って待っていなさい。


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第三十話:重苦しい軍法会議

UA5000を達成と共に、前作では投稿できなかった最新話を投稿することが叶いました。
なおもう少しで第一章が終わり、第二章に突入することができます。
この調子で執筆活動を頑張っていきますが、某『提督たちの憂鬱』の主人公こと某嶋田元帥みたいな無茶はしませんが。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!



とある中南海の軍事委員会本部では、忠秀副主席が激怒していた。

忠秀に引きずられた形となっている湯浅主席もまた怒り狂っており、一部の秘書艦である深海棲艦たちからも不満の声を漏らしていた。

 

何しろ不愉快な報告が立て続けにはいっているからだ。

最初は正体不明の爆撃機が、主要海軍基地および補給基地を爆撃したことだ。

この重爆の威力は凄まじく、海南海域方面を除いて、ほとんどの基地が全滅した。

しかし幸いにも一部の艦隊が出払ったため全滅は免れたが、もし港にいたら全滅していただろう。

 

さらにこの重爆は内陸に少し入った空軍基地も空爆した。

これを邀撃のために舞い上がった新型戦闘機、深海棲艦らに貸与された技術で開発した最新鋭の《クラーケン》と《ヘルキャット》に、虎の子ともいえるJ-21と31ですら歯が立たず、100機近くがたちまち撃墜された。

運よく帰投したパイロットたちからの報告では、敵機はいわば対空ガンシップのようなものであり、その威力は恐ろしく凄まじいものだったと言う。

 

いったいどうしたのか、日本機なのか、まずその議論で委員会は沸騰していた。

 

レーダーに引っかからない、いやまったくと言っていいほど引っかからないのだった。

これを見るとステルス機に違いない。しかし世界の軍事知識では、これらを実用しているのは米軍だけだというのが、いままでの常識だった。

 

B-2爆撃機の主力前の、B-1はもちろん、それ以前の主力たるB-52もステルス化はできず、

ようやくB-2で念願のステルス機になったが、あまりにも高価なため21機止まりとなった。余談ではあるが、冷戦時代には数百機を持とうとした計画はあったのも同じく有名である。

米軍の専売特許ともいえるステルス機能を、それほど高度な技術を要するものを日本が、短期間に造れるはずがない。しかも恐るべきあの重爆を数百機も。

実際に繰り出したのは200機に過ぎなかったが、疑心暗鬼に駆られた連邦軍事委員会幹部たちは、実はもっといるのではないかと感じていた。

いままで秘密裏に製造して秘匿してことも考えていたわけでもないが、衛星でつねに監視しているのだから、そんな大型機を見逃す訳はない。

 

「この戦いの前に、我々の監視衛星処が北海道の十勝で、あらたに基地を造っている大型の滑走路と思しいものを発見しました。さらに今回やって来たと思しき重爆らしき機体が発見しました。その時点ではあくまで一機だけだったのです……」

 

キョウ空軍司令員はいった。

 

「それから二週間も経たないうちに数百機になるなど考えられません……」

 

「シカシソノ1機ガ、スクナクトモ200機ニ化ケタワケダ。マルデ魔法ネ」

 

戦艦棲姫が皮肉たっぷりに言われ、忠秀は苛立つように言った。

 

「おかげで我々は被害をこうむった。海軍基地を大半が叩かれたうえに、我が軍の最新鋭戦闘機100機および基地に置いていた爆撃機300機までも失った。迎撃に向かった戦闘機も壊滅状態といってもいいだろう!

さらに先ほど入ってきた知らせでは、異端者や艦娘どもとの戦闘で、装甲空母棲姫、戦艦や重巡、各駆逐艦だけでなく、ほかにも多くの我が精鋭たる連邦艦隊が失ったことだ。

しかも異端者どもは米帝の次期駆逐艦こと完全ステルス艦《ズムウォルト級》だけでなく、またあの忌々しい艦娘どもも同じく、今までは装備していなかったジェット艦載機に、しかも自動連射砲に対空および対艦ミサイルなどを装備し、短期間で人殺し同然の日本海軍の護衛艦並みの攻撃力になっていた。

その装備だけでなく、あの元帥が保有している大和級に、さらにフリーク・クラスともいえる戦艦でも空母でもない異形の戦艦四姉妹に続き、あの旧式艦ともいえる巡洋艦らの一部は30cm連装砲を搭載しており、それが戦艦ル級・タ級らを一撃で葬るほどの高性能を誇り、しかも未来兵器《レールガン》までも装備していた!

そして、日本のシーレーンを断つために配置した仮装巡洋艦・潜水棲姫はじめ潜水艦部隊も撃沈した!」

 

秀忠が言っている《フリーク・クラス》とは超戦艦空母(特型戦艦)のコード・ネームである。

治まり切れない怒鳴り声ともいえるが、もはや感情的に、ただ憤慨しながらしゃべり続けたに等しい。

 

「もっと痛い情報もあるぞ。北海基地潜水艦隊からの知らせによれば、ハン級402とカ級たちからの連絡が取れない状態にあるという。……ロウ司令員、これはいったい何を意味するんだ?」

 

忠秀にはその答えは分かっていたが、わざとロウに尋ねた。

 

「定時連絡に応えないということは恐らく……通常、沈没したと考えられますが……しかし」

 

ロウ海軍司令員は言葉を詰まらせながら答えたが、秀忠はさらに問い詰めた。

 

「しかし、いったいなんだ。答えろ!」

 

「我が軍の原潜とベテラン揃いのカ級たちが、日本の潜水艦と艦娘どもに敗れるとは考えられません……」

 

「その考えられないことが起きているんだ。すなわちロウ司令員。知能遅れなお前と空母水鬼と装甲空母姫の認識が甘く、奴らを過小評価しすぎたのではないか?

だいたいドグウを含む主力艦隊をソン少将は引き返させたということだが、これはお前の差し金か!?」

 

ドグウは性能は高いが、衝撃波を続けざまに行なうと味方艦まで巻き込んでしまいかねないため使用を控えた。

一部では戦艦水鬼が、連邦国を警戒して、ソ連と同じような手口を、もし連邦国が裏切り、自分たちに刃向った時のために、わざとモンキーモデルにしたのではないかと噂もあるが。

 

ロウはただ頷いた。

なお高速修復剤で入渠し、修復した空母水鬼はあまりの怖さに顔を両手で隠して泣いた。

同じく彼女とともに修復した装甲空母姫と、彼女の隣にいた空母棲姫は自分の妹のような存在でもある空母水鬼を慰めつつ、秀忠たちに真っ向から反論した。

なお軽巡棲鬼たちの代理人として参加した軽巡ツ級・重巡ネ級も「やれやれ」と言わんばかりに、ため息をつき、連邦の幹部たちの態度、仲間割れに等しい口論に呆れていた。

 

「貴様、イクラナンデモ知能遅レトハ言イ過ギダ!空母水鬼ハ最善ヲ尽クシタンダ!」

 

「我々ハ最前線デ戦ッタンダ。偉ソウニ最前線デ戦ッテイナイ貴様ハ―――」

 

これ以上に悪化せぬよう、ロウは制止した。そして泣いている空母水鬼を退出するよう求め、装甲空母姫と戦艦棲鬼に空母水鬼を慰めるように頼んだ。

 

「はい、確かにこれらは改造してまもなく、万が一のことはあってはならないと考えて、本職が命令しました」

 

「つまり、敵に向かっていたのは我が艦隊でも二級線の艦隊と役立たずのガラクタどもということになるな。それでは撃破されるのは当然だ」

 

この嫌味たっぷりの台詞に多くの深海棲艦たちは、苛立とうとした。

しかし刃向えば、命令違反として粛清されるのは間違いなく、戦艦水鬼からは「決して刃向かうな」ときつく厳命されているため、これを堪えるしか方法がなかった。

 

「これらの戦いのおかげで、日本はシーレーンを確保した。もはや南シナ海にはなんの戦略的意味もない……つまり、戦略原潜以外役立たずとなった」

 

「お言葉ですが、沖縄侵攻の際にはおおいに役に立つと思います!」

 

「ふむ。確かに我々は沖縄侵攻を考えていた。しかしそれは日本の制海権、制空権の両者を握ってからのことだ。そうでないと戦争にならない。しかし事態は逆の方向、悪化しているではないか!このステルス機をなんとか叩かなければ、我々は手も足も出ない」

 

「お言葉ですが、我が第二砲兵がおります!」

 

小太りの男、セイ第二砲兵司令員が物静かな口調でいった。

第二砲兵とはつまりミサイル部隊のことであり、セイ上将は沈着冷静な人柄として知られていている。

 

「あと数時間で、最新の衛星情報が上がってくるはずです。それで敵重爆の基地を再確認して、ここに鬼角弾ミサイルを撃ち込むべきだと思います。

これは都市攻撃をするわけではありませんので、一般人には被害を与えず、戦後処理でもさほど叩かれないでしょう。そのうえ日本に対する格好の牽制、警告になると思います」

 

第二砲兵隊は六個師団からなり、

 

第一師団は潘陽(シャンヤン)

 

第二師団は江西省の黄山(ホワン)

 

第三師団は雲南省の昆明(クンミン)

 

第四師団は河南省の洛陽(ルオヤン)

 

第五師団は湖南省の懐化(ホワイホウ)

 

第六師団は青海省の青寧(チンニン)

 

と言うように散らばっている。

 

このうち第一、第二、第三が戦術ミサイルを装備しており、アジアを射程距離におさめる。

第四、第五は戦略ミサイルを装備、一部はアメリカやヨーロッパまでも射程におさめると言われている。

 

潘陽にちかい通化基地には、日本に向けて深海棲艦から貸与された戦術ミサイル『鬼角弾』が装備されているが、戦術ミサイルとはいえ、威力は250キロトン。広島に投下された原爆『リトルボーイ』の10.5倍の威力をもつ。

 

しかも発射台は、道路移動型でとらえにくい。

 

セイ司令員はこれを一発、北海道の十勝基地に撃ち込むべきだと言っている。

 

そうすれば日本は震え上がるだろし、さすれば重爆も全滅した日本は戦意を喪失するだろうと考えていた。

 

「うむ。それは名案だ」

 

軍部に対しては、概して評価に厳しい秀忠も納得し答えた。

 

「このへんで一発ガツンと、日本に思い知らせてなければならない。我々が軍事大国、いや、いずれ大統領閣下と世界を治める覇者だということをどうやら忘れているらしいからな。それを思い出させる必要がある」

 

「それではさっそく、第一師団に発射準備を命じます」

 

「うむ。そうしてくれ」

 

秀忠は一息つくため、ノンアルコールビールを飲む。

 

「ああ、酔えやしない。ガラクタどものせいで。あっ、アルコールじゃないからか」

 

空母棲姫に向かって、嫌味たっぷりに台詞を吐いた。

 

……水鬼様ノイウトオリ、コイツ等ノ態度ハアツカマシイ。

 

微かな憎悪を隠しつつも彼女は外で待機している空母水鬼を慰めるため、その場を退場した。




もはやつまらぬ喧嘩で仲間割れしそうな気がしますが……
これでもまだ同盟を保っているだけでも、マシなものですがね。
なお深海棲艦の技術で貸与された『鬼角弾』の元ネタは、『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』であります。性能は《東風21》戦術核ミサイルと同じであります。
いま観れば大丈夫ですが、子供のころは怖いと印象が強いですね。
ただし、一番はメデゥーサーですが。

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

おっと、では切りが良いところで次回予告であります。
次回はまたまたお久しぶりのアメリカ視点と共に、日本の視点に移り替わります。
そしてまたしても灰田さんが、ある物をもたらしてくれますので注目すると良いかもしれません。

その奇跡ともいえる魔法は、いったい何なのかは次回のお楽しみに。

それでは第三十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です」

第二章までもう少しですので、また『天空の富嶽』2巻を読み直さなくては(使命感)。


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第三十一話:十勝基地空爆を阻止せよ!

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)
では予告どおり、またまたお久しぶりのアメリカ視点と共に、日本の視点に移り替わります。

そしてまたしても灰田さんが、ある物をもたらしてくれますのでお楽しみを。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


ペンタゴンではやや体調を崩したハドソン大統領のかわりにコンドン副大統領が出席し、国防、国務長官、四軍トップたちとともに、極東状況についての検討会が行なわれた。

ハドソン大統領は日本に派遣した第七艦隊が史実上の壊滅、日本との連携が断たれたうえに、グアムにある陸海空三軍基地、さらにハワイの空軍基地のジョイントベースのパールハーバー・ヒッカム基地だけでなく、停泊していた太平洋主力艦隊などに続き、軍人や民間人を含む多数の死傷者を出してしまったことにより、ショックを受け、体調を崩したらしい。彼だけでなく、多くの者たちにとっては“第二の真珠湾攻撃”ともいわれ、これ以上にない屈辱な出来事といったほうが良い。

 

話しを戻そう。

ペンタゴンには衛星情報をはじめ、つねに最新鋭の情報が入ってくる。

最新の軍事衛星の解像度はすばらしく、センチ単位で地表を見分けられるから、世界各国での戦闘もまるでテレビの生中継、映画の名場面を見ているようなものだ。

ただし衛星がその上空にとどまっている時間に限りがあるのは、たまにキズだが。

 

「衛星データの分析では、どうやら連邦が一方的に叩かれたようですな」

 

ヨーク参謀総長が口火を切った。

 

「日本は例の北海道に現れた重爆を使って、まずはかつての北朝鮮が使用したノドン基地をたたき、次に深海棲艦と連邦海軍の合同海軍基地と空軍基地を激しくたたきました。

両海軍の80パーセントは壊滅した模様です……連邦の防空システムはまったく役に立ちませんでした。

このことから考えると、この重爆はステルス機だった可能性があります。しかもその破壊力からして少なくとも爆弾搭載量50トン。これを200機所有している可能性があります。

我々はこいつのコードネームを『ミラクル・ジョージ』と名づけましたが……」

 

「まさに謎だな」

 

コンドン副大統領がいった。

 

「日本は重爆など持たなかったはずだ。なぜそれが突然、しかも大量に出現したのだ?……しかもステルス機だと?我が軍の専売特許のはずだが」

 

ほかの者たちは顔を見合わせが、その問いに答えられるものは誰ひとりとしていなかった。

ただひとり、グレイ首席補佐官は咳払いすると口をひらいた。

 

「確かに現実的には考えられないことでありますので、これは非現実的な現象ではないでしょうか」

 

コンドンは顔をしかめた。あまり切れない人物として知られている。

 

「それは英語かね、もっと分かりやすく言ってくれないか?」

 

「つまり、超自然的ななにかの出来事が日本において起こったと考えざるを得ません。

日本はわれわれの支援が途絶え、さらに国内にいたブラック提督たちの裏切りなどと数々の窮地に追い込まれました。つまりアパッチの大軍に包囲された騎兵隊のような立場になってしまったわけですな。そこに援軍が現われたのです。これは我ながら大胆な推測ですが、未来の日本人またはエイリアンが日本救援のために現れたのではないでしょうか……かれらはもともと神がかった民族ですから」

 

「なるほど。未来から来た日本人か……」

 

ケリー国防長官がいった。

 

「いわゆるタイム・トンネルを通って現われたというのかね?」

 

「その方法が分かりません。ただしアインシュタインの学説によると未来へのタイムトラベルは不可能ですが、過去へのトラベルであれば可能だそうです。

しかし過去に介入するといわれるタイム・パラドックスが生じて、今この瞬間にも我々の現在は変わっているはずですので、この日本人はいわゆる多次元世界の別な日本からきたのかもしれません。だとすれば辻褄が合います」

 

「なるほど、キミは若い頃に熱心にSF小説でも読みふけていたようだな」

 

コンドンは皮肉をこめていった。この男は自分に理解できないことは無視するタイプ人物であるとも知られている。

 

「いや、副大統領、グレイ補佐官の言っていることは確かに突飛ですが、理屈にはかなっています」

 

マーカス国務長官が助け船を出した。

 

「未来から日本を助けにやって来た日本人であれば、超越的な科学力を持っているはずですからステルス重爆を多数つくりだすことは簡単でしょうし、多次元世界からやって来たとすれば、タイム・パラドックスが起きないことも理解できます。

かの有名な探偵シャーロック・ホームズの言葉に、いかにあり得ないことでも、ほかの可能性をすべて取り除くとそれが真実だということがありますが、今回の出来事も、これに当てはまるのではないでしょうか」

 

うむ、とコンドンは生返事をした。

 

「確かにそれでいちおう説明がつくな。この件で大統領が納得するかどうかは不明だが」

 

「大統領には私がお話しします」

 

マーカスがいった。

 

「よろしい。ともかく未来人の助けで、日本はステルス重爆200機を手にすることができたとしよう。それでどういう事になるのかね?」

 

コンドンはいった。

 

「南シナ海でも海戦があり、深海棲艦と連邦艦艇が数隻沈められという情報が入っています。なおかつ原潜の一隻と深海棲艦の潜水艦クラスが数隻行方不明になっているそうです。これだけのダメージを受けたことから考えると、連邦は当然、核ミサイルで反撃すると考えられます」

 

ヨーク参謀総長がいった。

 

「彼らはとりあえずミラクル・ジョージの基地を狙うでしょう。かつての中国が複数打ち上げた偵察衛星を利用しており、当然その場所も掴んでいるでしょうから」

 

コンドンはうなずいた。

 

「当然の論理的帰結だな。しかし日本のMDはその場合役に立つのかね?」

 

「阻止できる確率としては、50パーセントを下回るでしょう。MRBM、つまり中距離弾道ミサイルであれば中間飛行時のスピードはマッハ2から3、最終落下速度はマッハ5以上に達するでしょうから、JGSDF(陸上自衛隊)がPAC-3とMIM-23を、つまり我が軍同様のパトリオット・ミサイルとホークミサイルをずらりと並べたとしても、すべて撃墜するのは無理でしょう。なお戦艦や巡洋艦クラスの艦娘たちが装備している三式弾や高角砲を使用したとしても結果は同じでしょう。

しかも連邦軍が使うのは新型も液体燃料ではありますが、基地も移動基地でありますから、反撃も困難でしょう」

 

「うむ。すると日本はまたもや核の洗礼を受けることになるか。まあ我々には対処できないから仕方ないが」

 

コンドン副大統領は瞑目した。

 

「ミサイル落下地点にいる日本人と艦娘、我が軍および多国籍支援軍たちに、神が恩寵を垂れんことを」

 

ただ日本が無事なのを祈るだけしかできなかったのだ。

 

 

 

ペンタゴンで検討会をしていた頃、日本はどうしていたか視点を移す。

東京・霞ヶ関の首相官邸のオペレーション・ルームでも、今回の戦いの、いわば戦訓研究会が開かれていた。次回作戦の詰めが含まれていた。

この戦訓研究会というものは、大きな戦闘のあとには必ずやらなければならないものであり、先の大戦でも日本軍も必ずやった。

 

海軍も運命の分け目であったミッドウェイ海戦の敗戦のあともこれをやったが、人事的にはなにも変わらなかった。

海軍はむかしから家族主義で互いに庇い合う体質があり、驚くべきことに赤城・加賀・蒼龍・飛龍の四隻の空母を失って完敗した司令官と幹部たちを更迭しなかったのである。

南雲忠一中将とその幹部たちはそのまま残り、南太平洋で一矢を報いるが、英米海軍では考えられないことである。

 

両軍は信賞神罰、ヘマをすればただちに更迭されるのが当たり前だった。

真珠湾攻撃を受けた太平洋艦隊司令官のハズバンド・キンメル大将は、ただちに予備役に編入され二度と浮かび上がることはできなかった。情報を故意に隠されて、適切な防衛措置ができなかったにもかかわらずである。なおキンメルは、ルーズベルト大統領の敵に先手を打ったせる戦略をスケープゴートにされたのだ。

またサンゴ沖海戦では善戦した『海賊のジャック』ことフランク・J・フレッチャー中将も、ガ島ではおよび腰だったと批判されて更迭されてしまった。

 

日本軍の身内に甘い体質は陸軍でもそうであり、ノモンハン事件においても主役を演じた服部卓四郎大佐と辻政信も一個師団を失うという敗戦だったのにもかかわらず、たいしてお咎めは受けなかった。戦後は辻と共に「昭和の愚将の筆頭」として挙げている。

なお最近の研究では辛勝ではあるが、ソ連軍に大打撃を与えたという資料も見つかっている。また史上最悪の作戦と言われるインパール攻略作戦において、陸軍史上初めての師団長による抗命をおこなった佐藤幸徳中将も軍法会議にはかけられていない。乱心の疑いもありとして、予備役に入れられただけである。

無能と言われる牟田口廉也中将も同じく無謀な作戦を下し、多くの部下を無駄死にさせたのにもかかわらず、予備役に入れただけの軽い処罰しかされなかった。

 

話しは戻そう。

オペ・ルームは、首相以下、国家安全保障委員会のメンバーが集結していた。

むろん統幕長、情報本部に続き、灰田が用意してくれたワープゲートを利用して帰投したばかりの元帥・秀真・郡司もいる。なお、三人の秘書艦は長門・鳥海・大鯨である。

ちなみに戦闘に参加した古鷹たちは入渠中であり、南シナ海の戦いの疲れを癒している。

 

「…今回の戦闘は予想外の勝利、我が軍の圧倒的な勝利となりました。すべてあのZ機のおかげです。あれがなければ、南シナ海に展開した我が連合艦隊は、空襲を受けて無事ではすまなかったでしょうし、ノドンもまた日本本土に命中していたでしょう」

 

「元帥の言う通り、灰田が私たちのために用意してくれた未来装備のおかげで多くの深海棲艦や連邦海軍の艦艇も葬ることができました」

 

「私の派遣した潜水艦の子たちも同じく、連邦の原潜と潜水艦クラスをイムヤたちが多数撃沈しました」

 

三人の報告を聞いたかれらの秘書艦と同じく、一同はうなずいた。

しかし唯一、杉浦統幕長だけは深刻な表情をしていた。

 

「……しかし問題はこれからです。思いがけない被害を受けた連邦は、必ずミサイルで報告して来るでしょう。

これは核ミサイルを使う可能性がありますが、今後の、もし戦勝国になったことを考えて、国際世論の出方をにらんで、最初から都市をたたくことはなく、まずZ機の十勝基地を攻撃してくるでしょう。基地の在り処は、衛星で掴んでいるでしょうから」

 

「しかし、Z機は作戦を終えて帰投したばかりで身動きはとれんだろう」

 

矢島防衛省長官はいった。

 

「補給さえ終えれば、空中退避という手もあるはずですが、なにしろ200機もの給油は簡単にはすみません」

 

「そのとおりです。我々には時間がありません」

 

矢島がいう。

 

「つまり、連邦はいますぐにも報復のために核ミサイルを十勝に向けて発射するというのかね?」

 

如月官房長官がたしかめるように聞く。

 

「そのとおりです。陸自と各友軍のMD部隊では……」

 

「如月官房長官、矢島防衛省長官。何も心配することはありませんよ」

 

秀真は平然と大丈夫だといった。

 

「秀真提督、いまは大事な時になにを呑気なことを!」

 

「秀真提督の言う通り、……その心配はご無用です」

 

聞き慣れない声が聞こえてきたので、全員が振り返った。

壁際に見慣れない男が出現した……灰色のスーツ、灰色のネクタイ、灰色の靴、すべて灰色づくめの男である。

壁を通り抜けてきたかのように、突然そこに出現したのである。

 

「わたしのことはすでに元帥たちからお聞きおよびと思いますが、灰田とお呼びください」

 

男が言う。灰色服の男、灰田がほかの人たちのまえに姿を現してのは初めてである。

最初はショックを与えないために元帥・秀真の前に出現した。

それから郡司・安藤・主席補佐官に、そして古鷹たちの前にも現れたが、もはや公然と姿を現してもいい具合だと判断したらしい。

 

「それできみが、秀真提督の言った……」

 

如月官房長官がそういうなり絶句した。

 

「そのとおりです。よろしく。ところでいまご検討中だった件ですが、秀真提督の言う通り、なにもご心配なさることはありません」

 

灰田は平然といった。

 

「このことあるを予期して、わたしは十勝基地の上空と周辺をすっぽりと覆うバリアをかけておきました。それが如何なるものであるかは説明してもお分かにならないでしょうから説明は省きますが、一種のエネルギー吸収転送システムのようなものだとお考えいただきたい。要するにこのバリアは核ミサイルの爆発エネルギーをすべて吸収し、別次元に送ってしまいます。むろん中にいる人間にはなんの害も及びません。

連邦と深海棲艦とことを構える以上、核ミサイルに対する必要があります。わたしは当然の準備をしたまでです」

 

その場にいた者たちは、唖然として顔を見合わせた。

未来人のテクノロジーからすれば、そんなことはなんでもないことなのだろう。

アーサー・C・クラークというSF作家が、中世の人間が現代のテクノロジーを見れば魔法のように見えるはずだと喝破したが、いまの日本人や艦娘たちにとっては灰田の言葉は、それと同じようなものである。

 

「……すると、敵に日本向けのミサイルを使い切らせた挙げ句、われわれは反撃すれば良いというわけだ」

 

矢島がそういったときには、すでに灰田の姿は消えていた。




アメリカは今後どう出るかは、第二章で明らかになりますので、しばしお待ちを。
なお秀真たちの秘書艦は好きな子であり、この会議に似合うかなという子たちを選びました。適当な理由でごめんなさい……

では気分を変えて前回も記した通り、灰田さんの魔法であり、もたらした兵器について説明します。
ご存知の方もいるとおり、灰田さんやミスターホワイトもエネルギー吸収転送システムことバリアを供与しています。
航空機がこれに近づくとエンジン不調が生じたり、航空機による機銃掃射や艦艇による艦砲射撃を無効にしたりと、あらゆる攻撃を無効にします。
潜水空母イ2000では人道的な兵器だとミスターホワイトも宣言しましたので……
次回は灰田さんが展開してくれたバリアの威力を知ることができますので、注目すると良いかもしれません。

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

おっと、では切りが良いところで次回予告であります。
次回は灰田さんがもたらした奇跡の魔法ことバリアの威力と伴い、連邦視点から最後はアメリカ視点に移り替わり、第一章が終え、第二章に突入しますのでお楽しみを。
それでは第三十二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。では休憩にしましょう?」

やっぱり終わった後の、ロシアンティーは美味いのであります……


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第三十二話:嵐の静けさのあとには……

お待たせしました。
それでは予告どおり、灰田さんがもたらした奇跡の魔法ことバリアの威力と伴い、連邦視点から最後はアメリカ視点に移り替わりますのでお楽しみを。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


ただちに十勝基地司令部に対し、正体不明のバリアが張られているかもしれないが、なにも心配する必要はないとの旨、連絡が行なわれたが……十勝基地からは、なにやら虹のようなものにあたりに広く覆われているという、のんびりした返事が戻ってきた。

 

しかしあとで考えると、それこそがエネルギー転移バリアだったのである。

しかも灰田の配慮は間一髪だった。

彼が消えてから1時間後に、北海道の早期警戒レーダーが高空の弾道飛行して来る4発のミサイルを捉えた。

いずれも十勝基地を指向しているらしい。

基地周辺に配置されていたPAC-3とホークミサイル部隊は、手出し無用との命令を受けた。

いずれにせよ、双方は日米合同訓練により、MDシステムはある程度はできているのだが、前記にも述べたように複数のミサイルを全機撃墜は難しい。

 

灰田の約束に賭けるしかなかった。

もし彼の言葉が偽りであれば、すべてが蒸発してしまう。

現代の核兵器は半減期の少ないものが使われているが、それでも十勝地方は死の灰に覆われ、数年間は不毛の土地になるだろう。

 

だが灰田は約束通り、新富嶽ことZ機をもたらした。

 

ここで彼の言葉を疑う理由はなかった。

連邦の放った核ミサイルは、北海道上空に侵入するなり、下降しを開始してスピードを増した。

再突入の摩擦熱で火を吹きながら、4発の鬼角弾ミサイルは、十勝基地に向かってきた。

1発が250キロトンだから、これは過剰兵力である。

連邦はなんとしてもZ機の息の根を止めたいという意思の表れである。

 

それらはあやまたず基地上空で炸裂した。

核兵器のエネルギーは地表ではなく、上空で炸裂するときがもっとも大きい。

釧路の市街からは一瞬閃光が走るのが見えたが、それだけだった。

鬼角弾の爆発エネルギーは一切生じず、当然のことながら爆風も発生しなかった。

Z機が駐屯している十勝基地とその周辺は、何事もなかったかのように静まり返っていた。

 

「嵐は過ぎ去りました。子供たちは無事です」

 

基地司令官は、暗号を使って幕僚監部に報告した。

すなわち、鬼角弾ミサイル四発はものの見事に無力化されたのである。

そのエネルギーは爆発した瞬間、どこかに転送されてしまったのである。十勝基地が無事だったこということに、秀真たちは全員胸を撫で下ろした。また放射能漏れもないというのだから驚きを隠せない。

灰色服の男……灰田の言葉はまたしても奇跡を起こしたのである。

これで日本は連邦国からの核攻撃に対して、安全になったと考えられたといってもいい。

これからも戦闘が続くとすれば、まず空戦、つづいては双方が得意な海戦となるだろう。

秀真たちが有利なのは変わらないが。

 

連邦国はJH-7やヘルダイバーなどの全天候型戦闘爆撃機を大量にもっている。

これらの作戦行動半径は、空自のF-2やF/A-18Eとほぼ同等と考えられている。

すなわち1650キロはあり、爆弾搭載量は5トンクラスだろう。

沿岸から出撃すればじゅうぶん日本本土、九州、四国あたりまで浸透できる。

しかしこれらは戦闘機、パトリオットまたはホーク・ミサイル部隊などで迎撃できる。

これらと同時に同盟である深海棲艦も攻め寄せるだろう。

 

対馬を占領するかと思われるが、小さな島を占領しても大して意味がない。

日本本土侵攻の陸軍部隊を上陸するための足掛かりとしてするならば別だが、大胆不敵な中岡率いるブラック提督たちのことだから、秀真たちは占領するならば沖縄だと見抜いた。

かつての中国のように南西諸島と沖縄を自国の領土だとして考えていることは間違いない。

したがって、沖縄が集中して攻撃を受ける危険はじゅうぶんにあった。

自衛隊や多国籍軍の合同基地も沖縄および石垣島にある。

連邦はまずここを空襲でたたき、それから鹵獲した揚陸艦を使って強襲してくるだろう。

また陸上型の深海棲艦も協力するのではないかという可能性も視野に入れる。

しかし秀真たち同様に、自衛隊幕僚監部や米軍総司令長官も、そのことを見越しており、すでに二個飛行隊を補充している。

石垣島はもともと海自の第四護衛隊群を出していたが、さらに三個護衛隊群のうち一個と灰田の協力により、超高速学習装置によりベテランとなった艦娘たちも増勢させる予定である。

ほかの二個護衛隊群と艦娘たちは、深海棲艦からの攻勢があったときに備えて、佐世保に置いておく。

 

おおむねこのような作戦計画が整った。

対馬および南西諸島、沖縄住民への疎開命令が政府から出されていたので、那覇空港は大混雑し、各航空会社とも大増便にしなければならなかった。

疎開先の当てのない人々のために内地には、いくつか受け入れ施設が準備された。

かくして戦争は第二段階に入りつつあった。

 

 

 

日本がこのような作戦計画を実行していた頃。

衛星監視処からの報告で、十勝基地に撃ち込んだはずの鬼角弾ミサイルが、まったくなんらかの効果を及ぼさなかったことを聞いて、忠秀は耳を疑った。

中南海の軍事委員会ではいつものとおり主席、副主席、政務院幹部、四軍の幹部、かれらの深海棲艦たちが集結。今回のミサイル作戦の戦果を確認しようとしていたが、そこには驚くべき報告がもたらされたのである。

しかし写真というのは動かぬ証拠である。いま衛星が撮影した写真を拡大したものを全員が見入っていた。

 

忠秀はなんども、これは以前に撮影したものではないかと確かめたが、そうでなく攻撃後だという返事がもどってきた。

監視処を組織に置く空軍司令員のキョウ上将も唖然自失の状態だった。

戦艦棲姫たちも貸与した技術により完成した鬼角弾ミサイルが無効にされたことに対して、ショックを受けていた。

 

「いったい、これはどうなっているのだ?」

 

ついに忠秀は声を荒げた。

 

「四発もの核ミサイルを撃ち込んだというのに、何も変わっていないじゃないか。そんなことがあり得るのか!?」

 

誰もがそう言われても困難するし、それが現実なのだから仕方がない。

しかしキョウと戦艦棲姫たちとしては、そう答えるわけにはいかない。

忠秀の逆鱗に触れ、飛ばされてしまう。下手をすればこの場で銃殺刑にされかねない。

 

「率直なところ、本職にも分かりません」

 

「ワタシモ、キョウ上将トオナジクワカラナイワ……」

 

ふたりとも、そう答えるのがやっとだった。

 

「ただし、この重爆自体が出現したことが謎なので、ほかにも謎があるかもしれません。

たとえば日本が、われわれには理解できないなんらかの防御システムをここに造っているのかもしれません」

 

「核ミサイルを無力するシステムか?」

 

「いってみれば、そういうことです」

 

「うむ」

 

忠秀は唸った。

 

この重爆の出現からして、面白くない言葉ばかりだ。

 

「我が連邦軍の打つ手がこのようにことごとく外れてしまうと、内外にほかの敵が出現しかねないぞ。わたしの危惧するのはまずチベットとウイグルの反乱だ、それにこの間は、一部の同胞たちによる反乱分子がおこった。我が大統領閣下様がお築きになった連邦国に逆らう愚か者たちを徹底的に取り締まりを強化して行なうよう公安に命じるように」

 

「分かりました」

 

チン外相は答えた。

 

「しかし日本に対してはこれからどうするのかね?」

 

湯浅主席が口を開いた。

 

湯浅は主席、総書記でありながら、このたびの事態には忠秀に実権を握られているので、普段は沈黙している。発言したのはこれがはじめてといって良かった。

 

「むろんこのままではおきません。深海棲艦たちと協力して、海空の立体作戦で日本を痛めつけてやります。沖縄も占領せずにおきません」

 

忠秀はきっぱりとうなずいたが、湯浅はあいまいに頷いただけだった。

その表情は、この戦争は始めるべきでなかったといっている。

 

しかし覆水盆に帰らず。

 

ことがここまで来てしまった以上は、先に進むしかあるまいと考えていた。

しかしどこか適当なところでアメリカかロシアに入ってもらって、手打ちする必要があるだろうと。

 

水鬼様ノ言ウトオリ、イザトナッタラ、コイツラヲ見捨テテ、日本ニ降伏シヨウカシラ……

 

それぞれの思いが作戦会議は続いたのだった。

 

 

 

 

双方が作戦計画を立てていた頃だ。

十勝で起きた不思議な現象の余波は、アメリカに及んだ。

アメリカの国立機関のひとつであるNOAA(海洋大気圏局)は、世界の各地に観測所を置き、地球上の地表や海洋におけるエネルギーの変動をチェックしている。

本来は、大地震と火山活動の予知を行なうためである。

 

そのネットワークに、日本の北海道の十勝地方における不思議なエネルギー変動が引っかかった。

 

巨大な爆発エネルギーが一瞬出現したかと思うと、消えてしまったのである。

しかも出現したのは、一秒の一〇〇〇分の一ほどの時間である。

このデータが国務省にあげられ、ペンタゴンのほうから上げられてきた連邦へのミサイル攻撃と、時刻が重なることが確認された。

 

「どうやら日本は、十勝に向けられた核ミサイルのエネルギーを消してしまったようですな」

 

ホワイトハウスを訪れたケリー国防長官は、大統領に向かって報告した。

 

「しかし、どうしたらそんなことができるのでしょう?」

 

「キミにはわからんことが、わたしに分かるはずがない」

 

ハドソン大統領は憮然といった。

 

「しかし今度の戦争は我々が予測もしなかった結果になるぞ。それだけは予言しておく。もしかすると、我々はバスに乗り遅れたのかもしれない」

 

あとで考えると、彼の言葉が正しかったのである。

 

 

(第一章 了。第二章に続く……)




はい、ということで各々の思いを持ちつつ、第一章が無事終わりました。
次回から第二章に突入することになります。
前作の失態もあり、リメイクでも長い道のりでしたが、第二章も引き続き楽しめてくれたら幸いであります。

第二章は早い時もあれば、やや遅い更新になるかもしれませんのでご了承ください。
しばらくは連邦視点やアメリカ視点が多くなりがちだなと思いますし、秀真・古鷹たちの戦いもより一層激しくなりますので、お楽しみを。

神通「提督…そろそろご一緒に…」

では切りが良いところで、次回からは第二章に突入しますのでお楽しみを。
それでは第二章こと第三十三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。では休憩にしましょう?」

ふぅ…ロシアンティーもいいですが、緑茶も良いですね。


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第二章:空母戦闘群激闘!
第三十三話:火種を消すには……


お待たせしました、今日から第二章が開始します。
第二章は予告どおり、最初は連邦視点から始まります。
なお前回は付けていなかった第一章のタイトルと、第二章のタイトルの追加しましたのでよろしくお願いします。
連邦の対日作戦会議ともいえ、国内情勢がよく分かるような話しでありますので、ややダーク的なお話でありますので……お楽しみを。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


中南海の軍事委員会主席湯浅の邸宅には、連邦軍の幹部とたちが集まっていたが、沈痛な空気に包まれていた。

 

湯浅のほかには副主席の忠秀、総参謀長のヨウコウレツ、政治部主任のコウシャクリュウ、そして第二砲兵を含む各軍のトップである。

このうち海軍司令員のチョウキョウエンは、青島基地にいたときに日本軍の謎の重爆の爆撃を受けて戦死したので、ロウハン上将が後を継いだ。

連邦空軍司令員と陸軍司令員、第二砲兵司令員は変わらずに、それぞれキョウシンチン、カクハクユウ、セイシェン上将である。

そのほかに主だった政治委員たちが顔を見せており、なお今回の会議には深海側には期待の新人として新たに戦力として加わった水母棲姫、防空棲姫、駆逐水鬼に、そして新人である三人の補佐として空母棲鬼、戦艦棲姫、軽巡棲姫が付き添っている。

このうちもっとも強力なのは、総兵力およそ160万人(また約200万人とも言われている)を統べる陸軍司令員のカクとかれの補佐をしている港湾棲姫、港湾水鬼、北方棲姫、飛行場姫、泊地水鬼たちもいるが、対日戦争が始まって二ヶ月が経過したいまでも出番はなかった。あったとしても治安維持活動だけだが。

 

しかし、次の作戦で恐らく要請されるだろうと思われた。

 

「日本との戦いに手間取っているおかげで、予想していたとおりのまずい事態が起きた」

 

忠秀副主席が苦りきった顔つきで、口を切った。

 

「諸君も知らされているだろうが、チベットとウイグルで反乱が起きた。この目障りなゴミ当然の奴らだけでなく、我が同胞とお前たち深海側にも一部だが、我が親愛なる大統領閣下様が築き上げた連邦共和国に刃向かう愚か者、敗北主義者たちが出始めたことだ。

しかも公安には反乱分子をあらかじめ弾圧せよと命じてあったにもかかわらずだ。

やつらの主だった幹部たちはとらえたが、しかし潜伏していた反乱分子が多数いただけでなく、しかも協力し合い、大量の武器も隠匿してあったようだ。

日本と艦娘どもと決戦するまえに、まず国内の火を消さんことにはどうにもならん。

これが燎原の火のごとく、拡がるまえに消さなければならない」

 

忠秀がそういったのは、連邦国内にはいたるところに暴動が起き、組織内ではクーデター未遂が頻発していたのである。

 

むろん中岡もこれを危惧しており、裏切り者は見つけ次第に公開処刑した。

また党中央は、日本軍にたたかれたことは報道しなかった。

日本のシーレーンを断ち切り、日本と艦娘たちを日干しつつであるとさかんに宣伝した。

そのほかの小競り合いでも、すべて勝利を収めたと報道した。

 

党中央は、徹底的に情報締め付けを強化していった。

しかし、昔ならば国民をいとも簡単に騙すことはできたが、いまはインターネットやTwitterにYouTubeなどの時代である。いつの間にか真実がもれてしまう。

 

貧困層はともかく、都市部内の住民たちは日本軍のおそるべき爆撃機によって、青島、広州、湛江などの海軍基地や内陸部の空軍基地が壊滅したことは知っていた。

日本軍と艦娘たちは不気味なほど強い。その噂が国内から組織内に流れ、国民から党員、そして深海棲艦たちの間でも厭戦気分が急速に広がりつつあった。

騒動を治めるためにはかつての特アのように国民を欺き、すべて日本が仕掛けた陰謀論にしてすり替えるか、または軍を騒動させて武力行使をして国民を黙らせることが一番だが、中岡は独裁者としては後者を選びたいが、血に飢えた男は珍しく前者を選択した。

おそらくは秘書艦である戦艦水鬼、側近、慎重派の者たちの意見だろうと思われるが……中岡は党中央のテレビをつうじて、国民を安心させるために演説を湯浅主席に任せた。

本人も自ら望んでいるとのことだが、大統領命令もだが、なお忠秀副主席が監視しているのだから、無理やりやらされているといったほうが正しいが。

 

そして湯浅主席はテレビやネット動画をつうじて、国民に語りかけた……

 

『今こそ、多年にわたり地上の楽園と言われた我が第二の故郷である特アを滅ぼしただけでなく、そして不死鳥のように復活し、あらゆる努力をし、その結晶ともいえる我が連邦共和国をお築き上げた中岡大統領さまを苦しめるだけでなく、ふたたびアジアの侵略者と化している日本軍とそのかれらと結託し、以前として我が連邦共和国だけに飽き足らず、世界中のあらゆる海域において非人道的な行為に、この場ではとても言い切れないほどの極悪非道な行為を平然と繰り返す艦娘どもを膺懲するときである。

貴方たちも我々と同様に、日本に対する報復する機会を狙っているのは承知しています。

親愛なる我が盟友たる深海棲艦たちとともに戦い、我が連邦軍がアジアのリーダーとして、先の大戦だけでなく、現代においてもこの侵略行為を正当化し、一向に反省も謝罪しない愚かな日本軍と艦娘たちの鼻柱をへし折ってやろうではありませんか』

 

この呼びかけには、大勢の国民がたしかに反応し熱狂した。

しかしそれはいっときのことで、苦戦が伝えられるとともに、その熱狂もたちまち萎んでしまったのである。

 

各司令員たちは顔を見合わせた。

ふたたび植民地にしたチベットと新疆ウイグルに、国内が最大の火種となるだろうということは、かねてから予測されていたことだった。

かつてこの地域はカザフスタンには、イスラム原理主義テロリストたちが潜伏していた。

中国も警戒はしていたのだが、しかし広い国境線に、峨々たる山岳地帯を完全に警戒することは不可能だ。

原理主義者たちは次第に浸透し、1997年には連続バス爆破事件が起こった。

これは明らかにテロリストが得意とする手口である。

また国境近くに伊寧(イーニン)でも、多数死者が出す衝突があった。

 

これらはタリバンでなく、他国からのレジスタンスの訓練を受けているらしい。

 

しかも最悪なことに、チベットでも同様なことが起こっている。

連邦国になった今でもチベットとの関係は複雑な関係である。

もともとチベットは独立国家だが、清朝時代に中国に併合され、ダライ・ラマ13世は清朝の崩壊とともに独立を指向した。

しかし、清朝に代わり政権を握った中国・共産党はそれを許さず、チベットの領有を宣言。

ダライ・ラマ14世に呼びかけて地域自治を行なわせようとしたが、チベットでは宗教弾圧を恐れて、これを拒否した。

 

中国はこれを待っていたのだ。ただちに人民解放軍を送り、チベット全体を征服した。

このとき犠牲になったチベット国民は300万人から500万人とも言われる。

不幸なことにチベットには自国の軍隊がいなかった。

日頃から日本にいる理想主義者たちは、これらを見て見ぬふりをして、ならず者の特アがやることはすべてが正しく、逆に抗議を言っている良識な知識人には差別主義者といい、領海侵犯を繰り返していることについては島ごと差し上げろと言い、彼らの暴走を押さえるために活動していた艦娘と自衛隊と米軍に対しては、いつも文句ばかりを零している。こういう連中はいちど紛争地に投下させ、非武装でテロリストたちと話し合いをしろといいたい。

さすれば彼らが普段から異常というまで崇拝している憲法9条というものが、自動小銃を持っている者たちのまえで、どれだけ無力なのか、あらためて知るいい機会となる。

そんな哀れなことに双方の甘い言葉に騙されたこのような連中は、いまでは連邦軍と深海棲艦らの良くて陽動部隊、悪くて使い捨ての兵士とされているのが気の毒だが。

 

話しは逸脱したので戻る。

中国はチベットを占領すると徹底的に宗教弾圧を強め、同化対策を推し進めた。

1965年に自治区となったが、これは名目上のことで、中国は漢民族を大量に送り込み中国化させた。

 

すでに57年にはラサで暴動が起こり、ダライ・ラマ14世はインドに亡命し、亡命政府を樹立し、世界中に真実を伝えながら、仏の道を貫いた。

しかし20XX年の際に、彼は故郷に帰ることなく、インドで多くの人たちに看取られながら、静かに息を引き取った。

死後、かれの遺体はインド政府とチベット亡命政府たちにより、手厚く埋葬された。

なお、後継者は必要ないと遺言は残したのだが、ダライ・ラマ14世と同じくインドに亡命していたチベット仏教の一つでもあるカギュー派の生き仏カルマパ17世が、ダライ・ラマ14世の意志を受け継ぐこととなった。

 

普段は温厚なチベット仏教徒だが、荒れる時は荒れる。

中国が滅び、二人の生き仏が返ってくると思いきや、連邦国により踏みにじられた。

この国に生き仏をふたりまで失った国民は荒れ始め、ラサを始めとする各地で暴動およびテロ行為が相次いで起きているとの報告が届いた。

 

「カク司令員。チベットとウイグルに送った兵力の現在の状況を説明してくれたまえ」

 

忠秀副主席が尋ねた。

 

「はあ、ここはいずれも蘭州軍区でありますので、ウイグルには兵力二個師団、チベットには一個師団を送り制圧に務めています。戦車・装甲車・野砲も多数送り込みましたので、空軍の支援もあり、なお深海側は港湾棲姫たちもいますが、あの役立たずよりも我々に任せればまもなく治安が回復されるはずと思います。なお彼女たちは後ほど速攻に更迭しますので、ご安心ください」

 

カク陸軍司令員は答えた。

その理由は、連邦国の多くは、穏健派の港湾棲姫や北方棲姫たちがウイグル、チベットの民族と仲良くしていたことに対して不満を持っている。

かつての中国様のように痛めつけていう事を聞かせろと厳命したが、争いを嫌う港湾棲姫たちは反対した。

彼女たちの理由は「みんな優しくていい人で、ホッポに饅頭をごちそうしてくれた」や「みんなを苛めるな」などとのことで、この無駄で無意味な弾圧行為に対して、強く反対した。

だが連邦の幹部たちは中国のように弾圧を選び、彼女たちの意見など聞く耳を持たなかった。

これは港湾棲姫たちの意見が正しい。交流というのは戦略上とても有効であることに気づいていない。

かつての日本軍も現地人との交流はしたが、トラブルを起こし、反発を買ったことがある。これに対して連合軍は現地民を上手く使い、日本軍の情報を探るなど数多くの功績を残した。

 

「本来はこんなことは関わらずはいられないのだ。あくまでも我々の敵は日本と艦娘だけなのだからな」

 

忠秀が苛ただしげに言ったのももちろんだが、両者を片づけ次第は、深海棲艦も始末しなければならないのだから。

 

「なんとしても日本をいち早く、艦娘どもを屈服させる作戦を考えなければならない」

 

「そこでお尋ねしたいのでありますが……」

 

海軍のロウハン上将がためらいがちに尋ねた。

 

「例の爆撃機がいると思われる北海道に鬼角弾ミサイルを四発撃ち込んだそうですが、まったく効果がなかったという噂は本当なのですか?」

 

このことはあまりにも重要な事柄だったので、第二砲兵と空軍の幹部に、一部の深海棲艦たち以外には、司令員といえども正確に知らされていなかったのである。

衛星によって明らかに爆発は確認されたのにもかかわらず、それが0コンマをはるかに下回る寸秒のことで、あとはまったく何も起こらなかった。

……つまり核爆発エネルギーは消えてしまったなどということは、誰にも簡単に説明できるものではない。

 

「……うむ。残念ながら事実だ。深海棲艦から貸与された技術で開発した戦術核ミサイル、鬼角弾ミサイル四発撃ち込んだが、日本に被害を与えるには至らなかった。

……我が連邦国のいかなる物理学者を総動員しても、これを解けないのは見えている。

一部の学者は、爆発エネルギーが何者かの手によって、別次元の世界に飛ばされたのではないかと主張する馬鹿たちもいるが、とうていそんな小説のような夢物語みたいなことは信じがたい」

 

ヨウコウレツ総参謀長が苦々しく言った。

なお空母棲姫たちはそれが一番の有力説ではないかという、ジト目で見ていたが。

 

「しかし、われわれはこれで諦めたわけではない。鬼角弾ミサイルはまだ10発以上残っている。これを日本の大都市に撃ち込んで、大統領閣下のお言葉どおり日本を再び焦土化し、先の大戦のように、いや、終戦の時の日本のように二度とよみがえらせないようにしてやるのが楽しみだ。その時は侵略者どもがどうなるかは見ものだな。

本土決戦をやるなら日本の象徴たる日王を捕らえ、侵略者や艦娘どものまえで処刑にしてやろう」

 

ヨウコウレツがニヤリとする一方、水母棲姫は意見を述べた。

 

「私ガ言ウノモナンデスガ……、返ッテ状況ガ悪クナルト思イマス。マシテヤ日本ノ象徴タルアノ方ヲ死刑ニシタラ、日本ダケデナク、親日国ヤ世界中ガ黙ッテハイナイノデスガ……」

 

彼女は物腰柔らかく説明したが、忠秀たちは嘲笑った。

 

「なに、奴らはお人好し過ぎるのだから、その前に降伏するだろう」

 

そんな楽観的でいいのかしらと問いかけようが、空母棲姫からはこれ以上は何をいっても無駄だと差し止められた。それぐらいかれらの慢心は彼女たちですらも止めても無駄だと分かり、もはやいつかは詰まるなと思っていたからだ。

 

そんな彼女たちを無視し、ヨウコウレツは、ロウハン海軍司令員に向き直った。

そして連邦軍にとっては隠し玉、これはかつて中国海軍がもっていた、とある兵器について尋ねた。

 

「ロウ上将。空母『天安(テイエンハン)』の出撃準備は終わったかね?」




今回は国内がもはや情勢が悪化し続けている連邦国は、これでも戦い続けます。
まるで崩壊寸前の独裁国家のごとしではありますが……
しかも港湾棲姫や水母棲姫さんたちの意見など、全く聞いていないほどですから……

次回はこの会議の続きと伴い、連邦の隠し玉と言えるこの空母《天安》と、もうひとつ第一章にて口にしていた”例の生物兵器”の正体も明らかになりますので、お楽しみを。
第二章に突入して緊張していますが、これからも楽しみにしてくれたら幸いであります。

それでは第三十四話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第三十四話:連邦海軍の隠し玉

お待たせしました。
予告どおり会議の続きと伴い、連邦の隠し玉と言えるこの空母《天安》と、もうひとつ第一章にて口にしていた”例の生物兵器”の正体も明らかになります。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


これを聞かれたロウは頷いた。

 

「はあ、訓練についてはまだまだ未熟でありますが、御命令とあれば出撃します」

 

実は連邦海軍には隠し玉と言う……秘密兵器がふたつ秘匿されていた。

ひとつが、かつて中国がロシアから空母、元の名前は《ヴァリャーグ》で、現在ロシア海軍の唯一の正規空母《アドミラール・クズニツォーフ》の2番艦を買い取ったものを改造した連邦海軍初の空母《天安》である。

先に買って、結局は使い物にならずテーマパークにしてしまった《キエフ》や《ミンスク》とは違い、これは立派に実用するものだ。

 

なにしろ排水量4万5000トン、満載排水量5万5000トンという巨艦である。

これはスキージャンプ台を持ちCTOL(水平離着陸機)の滑走路の距離を短くしながら、着陸のため、アングルドデッキを使うという変則的な艦型で、ロシア海軍はこれに、自国のスホーイ社が製造する戦闘機Su-27《フランカー》を、これを艦上戦闘機型に改装したSu-33《シーフランカー》を31機を載せて運用している。

ただし対潜哨戒機は持たず、同じく自国のカモフ設計局で開発された艦載対潜ヘリコプターであるKa-27ヘリで代用している。また攻撃力を補うために、P-700《グラニート》対艦巡航ミサイル24基、3K95個艦防御システム《キンジャール》8連装回転式発射機24基、近接戦闘システム《コルサッチ》8基、CIWS6門、対潜ロケット発射機などを持ち、また必要とならば軽巡洋艦クラスの主砲も搭載できるように改造している。

もはや航空巡洋艦並みの攻撃力を誇ると言ってもいい。

このような奇怪な中型空母は、むろん米軍の正規空母の圧倒的な戦力には及ばなくもない。

しかし、同型の中型空母しかもたないヨーロッパ海軍のあいだでは立派な抑止力となる。

天安と名づけられたヴァリャーグは、渤海湾の奥にある秘密ドック奉皇島で秘かに改造が進められている。

なお艦載機に関しては、艦上戦闘機はJ-31《殲撃31》を艦載機型に改装した《海狼11号》に、かつて中国が存在していた頃に、ロシアから秘かに買い付けたSu-33《シーフランカー》は《海狼10号》と名づけた。

両機合わせて31機搭載可能である。

やはり対潜哨戒機はもたず、深海棲艦の技術援助により、有人化に改良した深海艦載機ことたこ焼き型艦載機――TBF艦上攻撃機アベンジャーか対潜ヘリKa-27で代用することにした。

しかし《海狼11号》ことJ-31と、《海狼10号》ことSu-33は、Su-27《フランカー》同様の高性能機であり、前者は日本のF-3《心神》と、後者はF-15主力戦闘機と十分にタメを張れる。

ほんの少しだけだがヴァリャーグより、わずかに攻撃力が増えたのである。

 

もうひとつは空母棲姫たちには話してはいないが、連邦側は人造棲艦と言う名の兵器を開発した。

いかにも中岡大統領らしいセンスがあるのか、ないのかという生物兵器を、ひそかに人工的に生み出した、正確的には非人道的実験で生み出し製造された記念すべき初の人造棲艦がある。

なお、読者諸君にはかの有名なホラーゲーム『バイオハザード』に登場する架空の組織――アンブレラ社のような行為をしていると思ってほしい。

名称は《ギガントス》と名づけられた。異界の帝王と言う名を意味しており、中岡大統領が後ほど世界を治まるべき世界帝王(皇帝)になるので、それに相応しいと名称され、連邦国にとっては深海棲艦よりも忠実であり、栄光ともいえる大統領のためにと思い、丹精を込めて製造した。

だが、驚くべきことに《ギガントス》の素体となっているのは、なんと人間の女性である。

連邦がこうした理由は単純である。それは艦娘たちが憎いというだけでなく、女性特有の妬み、つまり彼女たちの美しさに嫉妬する女性たちを結束させ、その巧妙な手口でだまし、利用して誕生したのがギガントスである。

生産は簡単であるが、その方法はとても残酷極まりないものである。

素体となる女性に脳下垂体から分泌される、また極度の恐怖と緊張状態に置かれたほうがより多く分泌するため、生きたまま麻酔をかけずに脳を摘出して採取して、そのベースとなるものにT4ウィルスを投与し、変貌した肉体を、さらに様々な肉体強化を施して製造しただけである。

これを知った戦艦水鬼と彼女の同胞たちは「非人道的にも甚だしい、もし廃棄しなければ同盟を決裂する」と恫喝を突きつけた。

連邦側もそれは困るので要求通り、全て破棄した……と言うのは表向きで、裏では《ギガントス》を3体ほど残していたのである。運が悪いことにその1体が、Z機の空爆によって失われたのは痛かったが、残りの2体を、今回の実戦に投入すれば、また生産可能になると思い、安心していた。

これを知っているのは最高指揮官たる中岡大統領と湯浅主席、忠秀副主席に、彼らを支持する幹部や深海棲艦たちだけである。

 

このギガントスは、とある問題があるのを除いては、運用に問題なかったので秘かに採用した。

これを歓喜とし、承知した中岡はつぎのような命令を下した。

2体のギガントスを1体目は空母に、2体目は戦艦にしろという改装命令である。

前者の主力艦載機は上体位である姫・鬼・水鬼たちが運用している、たこ焼き型艦載機で、基本的には変わらず艦戦、艦爆、艦攻だが、空母としては珍しく駆逐艦クラスが使用している5inch砲をいくつか装備している。

 

後者は戦艦ル級とタ級に、レ級が装備する16inch連装砲か、南方棲戦鬼または南方棲戦姫が装備している16inch三連装砲にしようとしたが……中岡の口癖である「限界を超えろ」とこの時代に似合わない精神論と、根性論を突きつけられた。

本人曰く「あの忌々しい元帥の秘書艦となった大和や武蔵と同じような装備、それ以上の装備よりも強力な主砲と副砲と対空機銃に、22inch魚雷後期型などを搭載しろ」と無茶苦茶な要求を突き付けた。

さすがの開発者たちもこれ以上搭載すると、あの有名な《友鶴事件》と《第四艦隊事件》の二の舞になりかねないという訴えで却下させることができたのが幸いだった。

主砲は18inch三連装砲にし、副砲は12.5inch連装副砲に、5inch連装両用莢砲を搭載した。

これ以上は重量オーバーのため動けなくなるので、電探を装備しようとしたが……これまた中岡の余計な助言というべきか、根性論を突きつけられたため、この装備は見送られ、18inch三連装砲にした。

 

これまた、先の大戦でも日本軍がレーダーを軽視したのと同じである。

自国で開発した八木アンテナを保有しながらも、多くの軍部は「卑怯者が使う兵器」として運用しなかった。

これがのちに仇となってしまったのは言うまでもない。

なお、これを保有していた捕虜になったイギリス軍の一人に、とある将校が「これはなんだ?」と質問したら……「貴方たちは自国で八木アンテナをご存じないのですか!?」と皮肉を込めたジョークも言われ、呆れさせた話も残っている。

また米海軍のニミッツ提督も回顧録の一文として、日本海軍はなぜかレーダーを軽視するのを不思議がっていたほどである。

 

話しは戻る。中岡たちはこれらを次期作戦に使うつもりだった。

次期作戦とは、つまり沖縄攻略作戦である。これを《征琉作戦》と名づけた。

球とは、むろん沖縄の旧名「琉球」のことである。

 

「さて、次の作戦についてだが……」

 

忠秀は続けた。

このかん湯浅主席はまったく口を利かなかったのだが、その無表情な顔つきが全てを物語っていた。湯浅はもともとこの戦争を始めるべきでなかったと考えていた。

中岡大統領と忠秀以下の軍部たちは日本軍と艦娘たちを過小評価していると考えていた……

アメリカとのシーレーンが断たれているのにもかかわらずに。

はたして結果はそのとおりになりつつある。日本軍と艦娘たちが魔法のような手を使っていることまでは湯浅も思い浮かばなかったが、いやな不安は的中した。

 

しかし軍事委員会主席である以上は、それをここで述懐するわけにはいかなかった。

 

「鬼角弾ミサイルで日本の主要都市を攻撃したあとは、我々の同胞に相応しいものの、今もなお日本軍と艦娘たちに虐げられている沖縄人民らを解放するための作戦でもある。ヨウ参謀総長、作戦概略を説明してくれたまえ」

 

「はい、承知しました」

 

ヨウは東南アジアの地図をテーブルの上に広げた。

 

「見れば分かるとおり、寧波基地から沖縄までは700キロほどしかありません。

その南の南西諸島となるとさらに近くにわけです。しかしこれらの島はさして軍事価値はなく、占領しても日本人にさしたるショックを与えることはないでしょう。やはり沖縄本島を攻略すべきです。

まず、我が爆撃機とミサイルをもって予備攻撃を行ない、その後、我が空母《天安》を主力とする空母戦闘群を前進します」

 

なおギガントスに関しては、この場で黙秘することにした。悟られると不味いからだ。

特にこの期待の新人である水母棲姫、防空棲姫、駆逐水鬼には、特殊任務として知らせ、三人を補佐する空母棲姫、戦艦棲姫、軽巡棲姫には知らせないようにする。

もしも戦艦水鬼に知らされると、仲間割れの可能性が高いからだ。

 

「日本軍と艦娘たちなどは、むろん九州と沖縄に空軍主力を集めていますが、我が空母《天安》の搭載する《海狼11号》と《海狼10号》艦上戦闘機は、これに十分対応できる能力をもっています。

我が海軍はユィティン型の大型揚陸艦8隻に、ユィカン級7隻をもっており、これらで150輌の新型戦車、各種野砲、また兵員3400名を運びます。

これらを尖兵として、さらに戦術輸送機によって1個軍団……3個旅団を送り込む予定です。

主ある揚陸点は、かつての米軍とおなじ嘉手納地区ですが、陽動地点として、名護湾にも一部は我が精鋭たる屈折部隊である空挺部隊を向かわせる予定です。

橋頭堡が確保次第には、輸送機によって迅速に後続部隊を送り込み、敵の主要基地である嘉手納基地を占領する予定でありますが、これを成功すれば、作戦は成功したもおなじでありましょう」

 

連邦空軍は50トンのペイロードをもつイリューシンIl-76輸送機を5機、ウクライナ製の輸送機アントノフAn-70 やロシアのIl-76に似たY‐20戦術輸送機を50機持っている。その多くが中国空軍基地にあったものを全て修理して、飛ばせるようにしたものばかりだ。これにより3個旅団ほどの兵力は楽に運べる。

しかしことは、そう簡単ではないだろうと、ロウハン海軍司令員と戦艦棲姫たちは思ったが、黙っていた。

このような重要会議では、消極的主義が命取りとなり、よくてただちに更迭か、悪ければ射殺になりかねない。

 

しかし海軍も深海棲艦たちも、両者ともすでに痛手をこうむっている。

まず中岡からの大胆である特殊任務……ロナルド・レーガン率いる第七艦隊攻撃のためにキロ級潜水艦4隻と、深海水雷戦隊も多数を失い、日本海軍との海戦ではハン級原潜一隻とベテランともいえる潜水カ級たちも失った。

さらにルーター級駆逐艦3隻、チャンウェイ級フリゲート5隻に、装甲空母姫ひきいる空母機動部隊、そして日本の生命線、シーレーンを妨害した仮装巡洋艦率いる水上打撃艦隊などが多数撃沈された。

 

いざ海戦になると、日本海軍と艦娘たちは強い。

前者は装備において優れているうえに、米軍や多国籍海軍などとの共同訓練でも、つねに米軍と同じようにトップを誇っている。なお後者は熟知しているが、先の海戦では今まで装備すらできなかった海自とおなじ主砲や対艦ミサイルに、対潜魚雷とCIWSだけでなく高性能な主砲から、もはや未来装備であるレールガンまで装備していた。

 

これらの損害は痛かった。しかし、まだこちらには新たに配備されたドグウと、カメが合わせて4隻、主力の旅洋Ⅲ型ないし改ソブレメンヌイ級駆逐艦各2隻、ランチョウ級駆逐艦2隻、コワンチョウ級駆逐艦1隻、マーアンシャン級フリゲート1隻とともに……深海側には戦艦水鬼たちなども温存されているが出るかどうかは彼女次第であり、中岡も彼女を信頼していない。逆に彼女もおなじことがいえる。

温存されている我が精鋭艦を主力に、空母護衛部隊を組むか、中岡派の深海棲艦を主力に、多少不安はあるが、試作艦である人造棲艦のギガントスと組ませるほかないだろう。

なおクローン技術により、いまでも戦力を増強させるために増やしてはいるが、しかし、eliteやflagship級になるまでは時間を費やさなければならないのが痛い。

平時ではたっぷりと訓練に費やすことができるが、いざ有事なれば鍛える時間が少ないのが現状だった。

 

例の謎のステルス重爆の爆撃で、虎の子のJ-20こと殲20とJ-31こと殲31ステルス戦闘機は残存60機となり、最新鋭戦闘機には熟練パイロットたちが多数失ってしまったことだ

あと頼りにすべきは新たに追加・改装したクラーケンおよびヘルキャット戦闘機に、これらに搭乗する補充されたパイロットと、その予備パイロットたちに託された。

なお過去に中国とイスラエルが共同開発した戦闘機J-10、その前の国産機J-8Ⅱがあるが、いずれも日本の空自や多国籍支援空軍に比べると互角とは言いがたい。

さらに残っているのはMiG-19フォーマーとMiG-21フィッシュベッドなどを改良した旧式戦闘機で、保有数だけはやたらと多いが、沿岸防衛用であり、とても日本と多国籍戦闘機ならまだしも大戦初期には艦娘たちに、ちょっかい、自国の領土でもないのに威嚇射撃をしようとした哀れな戦闘機パイロットが撃ち落されるほど、これらは役に立たず、とても太刀打ちできない。

 

しかも、沿岸近い内陸部の空軍基地そのものも爆撃を受けている。

不幸中の幸いだったのが、奥地にある基地、今後に必要な爆撃機基地は無事だったので、まずこれらを整備する必要がある。

 

「沖縄へのミサイル攻撃は、台湾向けに配備した東風11と15ミサイルを福建省北部までに移動させば十分届くはずです」

 

第二砲兵司令員セイシェン上将は、自信たっぷりに言った。

台湾もミサイル攻撃に備えてミサイルを配備しているので、この攻撃を防ぐため台湾攻撃用ミサイルはすべて車輌に乗せた移動式である。

 

「うむ」

 

忠秀は頷いた。

 

「いま我々に必要なのは、その戦意だ。戦うまえから挫けてはならない……ロウ司令員。

今回の戦いの成否は、空母《天安》の働きに、深海の同胞たちは期待の新人である水母棲姫、防空棲姫、駆逐水鬼の三人にかかっておる。しっかり頼んだぞ」

 

「分かりました!」

 

「「「ワ、ワカリマシタ!!!」」」

 

ロウ上将は答えたが、その胸は波立っていた。なにしろ、連邦海軍は空母を運用するのは初めてである。

あちらにいた時は空母娘なんて自分の判断でできるから良いが、本物の空母になると運用が違ってくる。

どこの国でも空母を運用するのには、長い経験を必要とする。

それをろくな訓練をせずに、いきなり実戦投入しようというのだから軍事常識を照らせば、無謀である。

 

三人も同じような気持ちだった。

戦艦水鬼、空母棲姫、戦艦棲鬼、軽巡棲姫たちに倣い、訓練を積み重ねてきたが、実戦は初めてである。

いきなり大規模な重要作戦に出られるのは嬉しさもあった。だが、その気持ちとは裏腹に、不安でもあったのが正直な気持ちでもあった。

 

しかし連邦の決定は絶対だ。たとえどんな無謀な作戦だろうと、決してノーとは言えない。

 

あとは参謀長レベルでの具体的作戦打ち合わせが残っているだけだった。

しかし忠秀は戦艦棲姫たちに、退場するように指示をした。

言われるがまま戦艦棲姫たちは、了解した。しかし本心では「この作戦が失敗すれば良いのに」と呟いた。

戦艦棲姫たちが出て行った合図を知らせるドアの音が聞こえたと伴い、忠秀は例の作戦、特殊作戦の内容を話した。




今回登場した生物兵器こと《ギガントス》の元ネタは、同じく田中光二先生作品のひとつ『夜襲機動部隊出撃』に登場する異世界の怪物であります。
その作品に出るギガントスとは少し設定を変えています。
またT4ウイルスは『超海底戦車出撃』に灰田さんのライバルともいえる、ミスターブラックが対超人部隊用にと、このゾンビウイルスを選抜された米軍兵士に投与しています。この世界では連邦国が開発したウイルスとして登場しています。
ただし人間や艦娘たちに感染しないのが、不幸中の幸いですが。
もはやナチス・ドイツのマッドな兵器みたいなのであります。
なおコイツを倒すために、また灰田さんがとある兵器を供与しますので、お楽しみを。

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

おっと、では切りが良いところで次回予告であります。
次回は連邦は終了しましたから、次はアメリカ視点になります。
日本がZ機を手に入れてから、警戒し始めているアメリカがとてつもない行動をしますので注目するとともに、次回もお楽しみを。

それでは第三十五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…では提督、ご一緒に昼食を作りましょう」

こちらも楽しみながら、次話を考えなくてはいけませんね。


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第三十五話:アメリカ、対日作戦を練る

お待たせしました。
予告どおり、今回はアメリカ視点に移ります。
なお今回はこの言葉のようになるかもしれませんので、注目すると良いかもしれません。

「我が国以外は全て仮想敵国である」-チャーチル

CoD:MWシリーズのような名言、哲学的な名言と共に、本編であります。

どうぞ!


ワシントンに近いペンタゴンの会議室で、ケリー国防長官、マーカス国務長官、グレイ首席補佐官らを迎えて、ヨーク総参謀長が東南アジアの検討会議を開いていた。

トマス・ハドソン大統領の意向は、グレイ補佐官に一任された。

 

「北海道で起きた例の不思議な事件に関して、なにか説明がついたかね?」

 

口火を切ったマーカスが尋ねたのは、北海道上空で不発に終わった核爆発のことである。

連邦が通化基地から四発の中距離ミサイルを発射したことは、衛星でキャッチしている。

米軍首脳らは誰もが、これであの《ミラクル・ジョージ》と名づけた謎のステルス重爆とその基地が消滅し、さらに日本は弾道ミサイルを止める術はないだろうと考えていた。

 

しかし、奇妙なことが起こった。

 

確かに核ミサイルは目標に到着したのち、その上空で核爆発を起こした。

このエネルギーの解放はNOAA(海洋大気圏局)の大気変動監視ネットワークが捉えた。

しかし、それはナノ秒(10億分の1秒のこと)に近い、瞬間だった。

核爆発のエネルギーが解放された途端……魔法の如く、どこかに消えてしまったのである。

 

ペンタゴンはノーベル賞受賞者クラスの物理学者たちを集め、諮問した。

この謎の現象に関しては解けるはずもなく、誰しもが答えず、ただ首を傾げることしかできなかった。

ただし勇気あるひとりの学者はこう発言した。

 

“我々人類の知らない超越した科学力が介入しない限り、こんなことはあり得ない。

日本人は艦娘だけでなく、なんとかしてその科学力を手に入れたとしか考えられないが、あるいはエイリアンか、または未来人の助けを借りているのかもしれない……“

 

これは学者としては、ずいぶん勇気ある発言だった。

その証拠に学界からは黙殺され、その地位すらも危うくなる有様だった。

 

「いいえ、まだ結論は出ていません」

 

ヨーク総参謀長は答えた。

 

「衛星のデータによると、ミラクル・ジョージの基地は依然として健在であり、恐るべき攻撃力を温存していることは確かです」

 

ヨークは咳払いして答えた。

 

「これは考えすぎかもしれませんが、今後は日本を仮想敵国として考えておく必要があるかもしれません。なにしろこのステルス重爆は脅威です。

この《ミラクル・ジョージ》は、我々の推定では航続距離は2万キロメートルだと思われますから。

いずれ日本ではなく連邦を支援した方が良いかと思われます。彼らの技術があればグアムとハワイなどを再建できるだけでなく、ふたたび太平洋の覇者として復活します。

日本にいる我が軍と多国籍軍の彼らは見捨てよう。彼らからして我々は裏切り者として言われるが、戦争に犠牲は付き物だし、我々も生き残るためにはいたしかないことだと言うことだ」

 

この言葉に異を唱える者はいなかった。

普通なら可笑しい話だが、国家による裏切りは当たり前で、つねに付き物である。

アメリカの民主党は、先の大戦でもそうだが、反日主義者の集まりとしても有名である。

現代でも多くの民主党議員は親中派のアメリカ人と中国系アメリカ人が中心である。

日米安保は見直されているものの、ならず者の中国には依然として弱腰であるのに等しい。

ようは英語を話せない日本人よりも、英語を話せる中国人を選ぶということだ。

これは先の大戦……とくにルーズベルト大統領は、大の日本人嫌いとして有名だった。

よく日本がもし早めに降伏していれば、特攻だけでなく、本土空襲やあの悲惨ともいえる原爆投下はなかったという者たちはいる。ほとんどが左翼や無知な著名人たちだが。

こういう連中は歴史の真実を知らないから言える。かりにそれをしたら日本人は全滅していた可能性が高い。

なにしろこの大統領は《日本人全滅計画》を考案していたほどだ。

簡単に言えば、国内にいる日本人を全滅させるという非常にシンプルな計画だ。

まず日本人女性と連合国軍の兵士を次々と婚約させ、ハーフを生ませる。

現代の視線から見れば国際結婚だと思われるが、実は巧妙な作戦のひとつでもある。

ルーズベルト大統領は、純粋な日本人を誰ひとりとして残さないことを望んでいた。

また進駐軍を利用して女性をレイプし、その相手にトラウマを植え付けさせるか、場合によっては殺人などといった犯罪行為までも計画していた。

もしこの大統領の計画が実行していたら、現在の私たちは日本人でないということになる。

しかし、幸いにも1945年にルーズベルト大統領は死去した。

彼の後継人であるトルーマン大統領は、さほどこれには興味はなかったが……その代わり、日本に原爆を二発落としたということだ。

民間人を大量に虐殺した日本本土空襲といい、この重罪も認めていないのが腹立たしいが。

日本は戦後からGHQに洗脳されているため、これを当然だと思ってしまうものが多い。

二度とこの悲劇をならないためには、最大の抑止力として核兵器を持つのは当たり前だが……日本はそれを持たないから不思議な国である。なにしろ我が国は『非核三原則』という無力に等しく、戯言ともいえ、こんな馬鹿げたものを掲げている。

他国から見たら失笑されるのは当然であり、それすら気がつかないおめでたい連中はこれを主張すれば、核兵器を全て廃絶できると本気で信じているから恐ろしい。

 

「ふむ、たしかに日本よりも今後は役立つかもしれないが、しばらくは様子見と行こう。

かれらの軍事力が脅威だし、ある程度だが中岡大統領が亡命許可と伴い、軍事機密を提供するならば話しは別だがな。ようはギブ・アンド・テイクだな。

それからことの真相を確かめるために、CIA要員を潜らせる必要があるかもしれんな」

 

「その手はもう打ったよ」

 

ケリー国務長官がいった。

 

「CIAは大使館要員交代の名目で3人の優秀な人間をもぐりこませましたが……しかし、北海道の十勝地方は厳戒態勢にあって、我が大使館員が旅行する名目が見つからないので。

しかも皮肉なことに日本国内にいる少数の我が軍と多国籍支援軍は日本寄りで、我々が連邦側につけば……言わずとも日本と艦娘側につき、彼らの義勇軍となるでしょう。

また彼ら以外の外国人は日本国内においては、警察と自衛隊の監視がついている有様だ」

 

在日アメリカ大使館はまだ東京にあり、領事館も大阪にある。

もともと大使館や領事館などの在外公館には、諜報員がいることは世界の常識である。

しかし、この謎は通常の工作活動では解けそうになかった。

 

「うむ……しかし連邦国と深海棲艦もこのままでは引き込むまい。かれらは一矢報いたいという思いで、まだ日本に向けているミサイルは残っているはずだ。これらを大都市に撃ち込むでしょう」

 

「おそらく、そうなるでしょう。未だに日米安保は機能しているため、事前の約束……敵がミサイルの燃料注入を始めたときには日本に報告しなければなりません。

もしそれを怠ると、史実上、日本とは敵対関係になってしまいますから……これは私の直感ですが、いまの日本とはあらゆる意味でも構えたくない気がするのです」

 

アメリカ政府の誰もが日本の戦いぶりには何とも言えないほど、艦娘を生み出してからも言えるが、例の重爆を手にして以降も不気味さを感じていたが、去年辞職したチャベスに代わったヨークは、それをもっと強く感じていた。

 

本能的に日本に対して、危険を感じていた。

艦娘を大量に保有してからは、日米安保は維持し続けたものの、安保という手綱は次第に脆くなってきた。いわば潜在的暴れ馬を押さえるための鎖が切れ始めたのかもしれない。

 

つまり、アメリカのための安全を加担するための条約ではなかったのか。

いまとなって見ると、その傾向があったことは否めない。

 

「日本は連邦軍がミサイル攻撃を始めれば、ただちに《ミラクル・ジョージ》で爆撃するだろう。

それは火をみるより明らかだ。後顧の憂いないようにICBMミサイル基地をも徹底的に破壊するかもしれない。

その時は中岡大統領以下、多くの幹部たちは我が国に亡命許可を求めるだろう。まあ、彼らが我々に技術を提供してくれば……の話しだが」

 

ケリーはいった。

 

「しかしミサイル攻撃のほかにも、連邦国はもうひとつの侵攻作戦を練っているはずだ。それはなんだと思うかね?」

 

「本職は、彼らは沖縄を攻略すると考えられます」

 

フォーク海軍作戦部長が答えた。

 

「連邦はかつての中国のように歴史的経緯を見ているため、沖縄は自国の領土であってもおかしくないと考えているはずです。琉球国であった時代から明や清朝に朝貢していましたから。もし沖縄を占領できれば、国民や深海棲艦にも面子が立ちます……

ああいうブラック提督たちは大手企業の上層部に、さらに中国人と韓国人のように無駄にプライドが高く、なんとしても自分の面子を大切にする特殊な民族ですから。

まさか九州までも占領しようと考えるような愚は冒さないでしょう。連邦海軍は鹵獲した旧式の揚陸艦をもっていますが、せいぜい一個師団を運べる程度です。深海棲艦もかれらを護衛や沖縄攻略で精一杯でしょう」

 

「ふむ。この作戦に深海棲艦らはどのように関わるのかね?」

 

グレイ首席補佐官が尋ねた。

大統領補佐の権力は絶大なもので、実質的には副大統領にも勝る。いわば大統領の影武者のようなものである。ただし大統領が急死しても代わって大統領になれることはない。

 

「まだ正確な情報が入っていないが、中南海は連邦共和国に特使を派遣して、共同作戦発起を要求した模様だ。

同盟だから当たり前だがな」

 

マーカス国務長官は答えた。

 

「といってもほとんど深海棲艦と少数精鋭部隊に任せるでしょう。前者は侮れないからな。

しかも後者は、一部ではわれわれの鍛えた軍がいるからな。中国海軍が使用していた旧式の揚陸艦ももっとるから、上陸作戦は可能だ」

 

「おそらく陽動作戦として九州北部を脅かすでしょう」

 

「いまひとつ、お耳に入れておきたいことがあります」

 

フォーク海軍作戦部長はいった。

 

「連邦海軍、いえ、中国がかつてロシア・ウクライナから空母《ヴァリャーグ》を買い付けたことをご存じでしょう。中国名で《天安》と名づけられて、渤海湾にあるドックで改修をおこなっていました。

しかし衛星データをみるとすでにドックを出ていて、渤海湾内で訓練を行なっている様子なのです。

これは現在ロシア海軍の唯一の正規空母である《アドミラル・クズネツォフ》の姉妹艦で、満排水量5万5000トンに達します。我が軍の基準からすれば中型空母になりますが……

中国版のF-35ことJ-31と、ロシア製のSu-33《シーフランカー》を双方合わせて31機満載しているため、その戦力は侮れません。さらに天安とともに新型と思われる深海棲艦たちも確認されております。こちらの性能も不明のため、現在も分析中であります。

連邦海軍と深海棲艦の双方はおそらく、この天安と新型の深海棲艦らを沖縄攻略のために使うでしょう。

この重大なニュースを日本に知らせてやるべきでしょうか?」

 

「………いや」

 

マーカス国務長官は、しばらく経ってから答えた

 

「そこまでしなくてもいいだろう。わたしとしては今後は日本に全面協力を避けて、慎重にすべきだと思っている。先の大戦のように日本がまたしても我が国の脅威になりそうな予感がする」

 

「日本にいる我が軍の支援部隊はどうしますか?」

 

ケリー国防長官はいった。

 

「申し訳ないが先ほども言ったとおり、彼らは見捨てる。我が国が日本と我が軍を裏切っても彼ら日本人と我が軍の兵士の心には当然我が国への敵意はいまだに気づいていないから安心できる。

グレイ首席補佐官。わたしは日本に対する新しい《レインボー・プラン》を想定しておくべきだと考えているが、キミの考えはどうかね?」

 

レインボー・プランとは言うまでもなく、太平洋戦争時の対日計画のコードネームである。

当初は《オレンジ計画》といった。アメリカは日露戦争からして、このプランを練り始めた。

将来日本が仮想敵国になることを予測していたのである。

 

そして不幸にも当たってしまった。

 

逆に日本も日露戦争後に次の段階としてアメリカを仮想敵国として、日本版オレンジ計画を立てて対米計画をしていれば、少しは違った結果が出ていたかもしれない。

 

「そうですな」

 

グレイは答えた。

 

「一種のセイフティ・ネットワークとして策定しておくべきでしょう。大統領にも報告しておきます」

 

「分かったかね。参謀総長」

 

マーカスは言った。

 

「さっそくその対日計画を練ってくれたまえ。コードネームは……うむ、そうだな。

《チェリー・プラン》とでも名付けておこうか。これについてはむろん国防総省が全面的に協力する」

 

「分かりました」

 

ヨーク参謀総長は無表情で答えた。軍人はいかに不条理な命令であろうと、それに従うのみある。




中岡たち同様、アメリカもまた日本を裏切ろうと対日計画《チェリープラン》を練っているところで終了であります。
今回は先ほどのチャーチルの言葉とともに『国家には真の友人はいない』ということも当てはまると思いますね。
なお今後はこの計画はどのようになるかは、しばらく先になりますのでお待ちを。

では長話はさて置き、次回予告であります。
アメリカ視点から打って変わり、日本視点、秀真たちの出番であります。
ペンタゴンでこのような会議が行われていることを知らずに、次の作戦計画に困っている場面から始まりますので、お楽しみを。

それでは第三十六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第三十六話:驚愕の事実

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)

では予告どおり対日計画《チェリープラン》を練っているアメリカ視点から打って変わり、日本視点・秀真たちの出番であります。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


20XX年2月20日

ペンタゴンでそのような会議がおこなっているとは露知らずに、東京・霞ヶ関の首相官邸コマンド・ルームでは国防会議が開かれていた。これは国家安全保障会議とメンバーがダブる。

自衛隊・警察・海保のトップたちに続き、むろん元帥、秀真、郡司に、古鷹をはじめとする秘書艦たちも参加している。

 

「我々は連邦国と深海棲艦の次の出方を考えなくてはならない。中岡たちもこれでギブアップするとは思えない」

 

安藤首相が口火を切った。

 

「現時点では、沖縄の防衛体制は完了したが、杉浦総幕長、彼らはやはり沖縄に攻めてくると思うかね?」

 

杉浦は答えた。

 

「はあ、まず確率は80パーセント以上でしょう。連邦国と深海棲艦たちもいままで敗戦続きですので、国民への面子はまるつぶれで、むしろ国を脅かすことになりかねません。そこでなんとか、日本領土をもぎ取る必要があるでしょう。竹島や尖閣諸島のようなちっぽけな島はだめで、もっと大きい目標となる島が必要です。

地理的観点から見て、いえ、いっても、やはり沖縄が最適な目標といえるでしょう。

言うまでもなく深海棲艦らと共同作戦をとるものと本職は考えます。

また連邦国は渡洋作戦能力に関しては、おそらく鹵獲した韓国軍の海上兵器も利用するでしょう。それらが足りない戦力は深海棲艦が担うと思われます」

 

「そっか……」

 

安藤はため息をついた。

 

「しかし、ほんとうに皮肉なものだ。かつてはNATO同盟側にいたものと戦うのだから」

 

安藤の本心は、彼ら韓国とは戦いたくない。

何と言ってもかつては日本であった国であり、太平洋戦争時にはいっしょになって連合国と戦った。

向こうが逆にそのことを恥じとしている。

元帥、秀真、郡司にとっては普段から敵国以外に考えられなかった。

深海棲艦が現われる前から、韓国人は中国・北朝鮮に寄り添い、日本に敵意を見せた。

秀真が考案した《オペレーション一〇九》時には、国内に潜んでいた中岡のような反日提督を中心としたブラック提督に、かれらを支持する反日組織とプロ市民たちと結託して、武装蜂起をしようと目論んでいたのだから。

韓国法律の第39条では、有事時には在日朝鮮人たちは一般人から、いっきに兵士となる。

なにしろ韓国人らは敗戦後、自称『戦勝国民』と掲げて、平然と武装蜂起をしたぐらいだ。

敗戦前でも反日組織とともに強盗・殺人・放火などはもちろん、挙げ句はテロ行為までもおこない日本中を好き勝手に暴れ回り、自分たちは連合国軍の一員として、朝鮮軍を駐屯させろと言う始末だった。

GHQ最高司令塔官のダグラス・マッカーサーは「そんなこと知るか」と一蹴したが。

なお、これらに関しては警察の公安部および憲兵に、多国籍支援部隊などが見張っている。

話しはややこしくなるので戻ろう。

 

「連邦はまだ日本に指向したミサイルを持っていることをお忘れなく」

 

矢島防衛省長官がいった。

 

「彼らは確かにZ機基地の攻撃に失敗しましたが、それでミサイル攻撃をあきらめるとはありません。今度は大都市めがけて撃ち込んでくるでしょう。六大都市をはじめ主要都市には厳戒体制が必要です」

 

「うむ。そうしなければな」

 

安藤は唸った。

 

連邦と深海棲艦たちも今度は、なにを企んでいるか分からないからな……

 

秀真は呟いた。

前回は灰色服の男……灰田の考慮によりエネルギーシールド(プラス転送装置)のおかげで、Z機基地は壊滅を免れた。

しかし都市攻撃になると、主要都市全て全てにそれを頼むわけにはいかず、都市全てをシールドで包むことは可能かもしれないし、不可能かもしれない。

どちらにしろ俺たち自身の力で解決しなければならないことは変わらないが……ひとつだけ気掛かりなことがあったのだ。

 

「それは分かっている。だが連邦がミサイルに燃料注入をし始めれば、アメリカが知らせてくれるだろうから阻止するまでだ」

 

安藤がこの言葉をいった瞬間だ。

 

「果たしてアメリカが今後とも我が軍に、約束どおり衛星データで知らせてくれたらいいのですが」

 

秀真は顎を撫でた。

 

秀真の言う気掛かりは今後のアメリカの態度である。

 

「秀真くん。いったいどうしたのかね?」

 

安藤は尋ねた。

 

「これは私の直感なのですが、どうもこれからはアメリカの態度が変わりそうな気がするのです」

 

「それはどういう意味かね、秀真提督」

 

秋葉法務相がたずねた。

 

「ただ確信するのは難しいのですが、アメリカという国の体質を考えますと、まず自国の国益が第一です。過去の歴史、とくに先の大戦でもそれが証明されています。

安保条約はまだキープしていますが、果たしていつまでもそう続くかは分かりません。

自国優先のためならば、国内にいる米軍支援部隊を見捨てることぐらいはするでしょう。

しかも、我々はいまや切り札ことZ機に続き、古鷹たちが装備している超兵器などを手に入れました。

しかもエネルギー転送装置まで駆使しています。いやむろん、我々が駆使したわけではありませんが」

 

あわてて付け足した秀真に代わり、郡司も引き継ぐように言った。

 

「秀真提督の言うとおり、ともかくアメリカは自国の国益に敏感な国でありますからして、我が国が彼女たちを持つことはもちろん、さらに強力な戦力であるZ機なるステルス重爆を持つことを快く思わないでしょう。

もしや連邦同様に敵対しているかもしれません。

ただし、我が国内にいる米軍はじめ多国籍支援軍はこちら側についていますから安心できますが……いちおう今後のアメリカの出方は慎重に見守る必要があり、彼らが提供してくる情報も疑ってかかる必要があると考えます」

 

「しかし、ワシントンは衛星情報に関しては継続して送ってくれることを約束した。わたしはそれを信じている」

 

安藤はきっぱり言った。

 

「70年以上にわたり同盟国だから、ワシントンもそれぐらいは守るでしょう」

 

「はあ、それは確かでしょう」

 

大洲外相はいった。

 

「しかし、アメリカと言うのは一筋縄に行かない国です。秀真・郡司提督が指摘したように、彼らは先を読んでいるに違いありません」

 

元帥の言葉にうなずく者たちが少なかったときだ。

 

「……まさに元帥たちの言う通りですな」

 

突然、すでに彼の馴染んだ声が聞こえてきたので、みんな振り返った。

一瞬の冷気とともに霧に包まれた一人の男が、壁際に出現した。

霧はすぐに消えて人影がはっきりした。言うまでもなく灰色服の男……灰田である。

 

「今までの皆さんの議論を窺っていましたが、確かに連邦のミサイル攻撃については、全都市をシールドで守る余裕はありません。いえ、技術的には不可能というわけではなく、そんなことをすれば、全国民がパニックに陥ることになるでしょう。

それらは皆さんも望まないでしょう。したがってZ機で対応する必要があります。

アメリカからの衛星情報の提供については、心配なさるには及びません。

彼らはそれについては守るつもりです。支援部隊もほとんどがこちらの味方といってもいいでしょう。

ただしお二人が言われるとおり、ワシントンを全面的に信頼することはいまや不可能となりました。……なぜならば、彼らがあなた方に隠している情報があるからです」

 

そこにいた全員は顔を見合わせた。

 

秀真は胸のうちがひんやりとした。しかし、やはりそうだったのかという予感もあった。

 

「……いったいなんだ」

 

「中国が健在していた頃に、ロシアから《キエフ》《ミンクス》につづく第三の空母を買い付けたことは、ご承知でしょうか?」

 

灰田が聞く。

 

「知っている。《ヴァリャーグ》ですな。《アドミラル・クズネツォフ》の三番艦で、満排水量5万5000トン、艦載機はスホーイ33と、中国のステルス最新鋭戦闘機J-31を両機合わせて31機ですな」

 

情報本部長に耳打ちされて、杉浦統幕長が答えた。

 

「しかし深海棲艦が侵攻時には、確か役立たずで放棄されたはずでは……」

 

「それが連邦は秘かにこれを鹵獲し、さらに改装を急がせ、すでに完工したのです。渤海湾のある秘密ドックから出て、湾内で訓練を行なっています」

 

「ほかに何か情報はあるか、灰田?」

 

秀真が聞く。

 

「ええ、彼らは空母だけでなく、秘かに深海棲艦とは違う”生物兵器”を開発しました。その名は人造棲艦と言い、名称は《ギガントス》と言います」

 

「人造棲艦…ギガントスだと…?」

 

深海棲艦ならまだしも人造棲艦とは聞いたこともなかった。

 

「それはどんな生物兵器だ、灰田?」

 

「この人造棲艦はいわば、非合法的な人体実験で生み出された生物兵器であります。

ベースは人間、つまり女性にT4ウイルスを投与して、さらに艦娘・深海棲艦と同様に艤装を取り付けることが可能です。艦種は戦艦で、もう一隻は空母です。なお《ギガントス》という名は異界の帝王と意味を表します。

あくまでも予想ですが、実力は深海棲艦の戦艦レ級か、恐らく鬼・姫・水鬼並みの攻撃力はあると思います。

しかし皆さんもご存じはないようですが、幸いにもこの《ギガントス》はZ機の空爆により、3体のうち1体は運よく葬っていますので、残りは2体という事です」

 

「そ、そんな人間を素体にするなんて……」と古鷹。

 

「……無能とはいえ、相当イカれた連中だな」と木曾。

 

「……いくら勝つためとはいえ、酷すぎるわ」と陸奥。

 

「なんという奴らだ、よくも平然と非道な事が出来るな!奴らに人の心、武士道はないのか!」と長門。

 

古鷹、木曾、陸奥以下、ほかの秘書艦たちもそう答えるので精一杯だった。なお一部は長門のように感情を露わにし、激怒した者もいた。

戦争に勝つためとはいえ、人間を素体として、さらに生物兵器へ改良する非合法なことが許されて良いものなのか。だが、戦争は勝つことならばあらゆる手段を使ってでも勝てばいいと結果論がある。

第二次世界大戦でもアメリカは原爆を開発し、疲労した日本に止めを指すようこれを二発投下した。

一方的な虐殺である。多くの軍人と科学者は抑止力として使われるのではないかと信じていたが、皮肉にもそれが使われた。戦後は反核派になったのはもっとも皮肉なものだが。

 

「これも先ほど告げた空母《天安》とともに、これらも渤海湾内で訓練を行なっています」

 

「つまり訓練終了と同時に、これらを次の作戦である沖縄攻略に投入すると言うのか?」

 

秀真が尋ねた。

 

「そのとおりです。あと二週間もすれば双方はなんとか実戦レベルに達するでしょう。

皆さんが推測どおり、連邦と深海棲艦は沖縄攻略でして、連邦海軍はこの空母を……連邦名《天安》を中核とした空母戦闘群と、人造棲艦《ギガントス》を中核とする護衛艦隊群を形成し、沖縄攻略に用いるつもりです」

 

「うむ、そうなるといささか厄介だな」

 

矢島がつぶやいた。

 

「いかに中型空母であろうと、空母の打撃力は大きい。戦況を流動的に支配できる。

沖縄どころか、我が国の太平洋沿岸を自由に移動して攻撃ができる。

あれはF-35を模倣したJ-31と、Su-27《フランカー》の艦載機型Su-33《シーフランカー》を双方合わせて31機ほど持っておりますからな。

第一、我が国の沿岸防衛体制は空母を相手にするようできておりません。揚陸艦相手ならば対応できるが。

しかも《ヴァリャーグ》は大量の対艦攻撃兵器を持っており、また防空能力は強力だ」

 

矢島につづき、秀真もいった。

 

「また連邦が生み出した人造棲艦《ギガントス》も、しかも戦艦・空母タイプの実力もどちらも未知だ。……安藤首相、もし灰田の言う通りならば、空母《天安》と同じくまずい状況になります」

 

むろん、二人は大げさにいったのではない。

情報本部の分析は正しく、確かに《ヴァリャーグ》は、いや《天安》はそれだけの能力を持っている。

連邦が開発した人造棲艦《ギガントス》の力も不気味で、未知なのは確かだ。

 

「ワシントンはむろん情報を掴んでいる。しかし、我が国には知らせるつもりはなかったというのだね」

 

安藤が尋ねると、灰田は頷いた。

 

「そこがワシントンの狡猾なところです。アメリカはいまや日本の戦力に対し、不安を抱き始めています。潜在的敵国とみなし始めているといってもいいでしょう。

この空母と人造棲艦《ギガントス》に関しては黙っていて、日本の戦いぶりを試すつもりなのです。

ただし郡司提督の言うとおり、国内に駐屯している米軍と多国籍支援軍に関しては大丈夫です。ワシントンは彼らを見捨てると方針していますのでご安心ください」

 

「やはり、そうか」

 

安藤は呻いたが、それは秀真たちも同じ気持ちだ。

 

「しかしシーレーンが断たれたときはなかったが、Z機について問いかけた時点でうすうすと気がついていたが、まさか早々計画を立てていたとは……」

 

「下手をすれば、アメリカは連邦側に寝返る可能性もあるかもしれないな……共和党が選挙で惨敗し、かつての民主党がまた政権を取った時点で気づくべきだったかもしれない」

 

「あの大統領も『世界の警察を辞める』や『今後は中国と親密的な態度を』などと平然と言っていたぐらいの親中派だったから、共和党も再び政権を取れたが……トマス・ハドソンという個人主義の大統領が選挙で当選、また民主党が政権奪還した時点で、我々の安全保障を改正したのは良かったが、早く気づくべきだったのは確かだ」

 

「いや、ご自分を責めてはいけません。これはアメリカの一方的な裏切りなのですから」

 

灰田は言った。

 

「そこで、わたしはこれらに対する対策案を用意しました。海自には空母を1隻、そして秀真提督たちにも二人の空母娘と、そして対人造棲艦《ギガントス》用兵器を用意しましょう」




今回は前回の連邦視点のような終わり方みたいになりましたが、区切りが良いところかなと自分でも思います。
なお原作『天空の富嶽』と同じく漫画版でもこの会議でもありますが、言わずとも一部はオリジナルを加えておりますが、楽しめていただければ幸いであります。
なお秀真たちもアメリカが敵対していることを見通していますが、原作では矢島長官であります。

では長話はさて置き、次回予告であります。
次回はまたしても灰田さんが強力な超兵器を秀真たちのために用意します。
本編に記したように三つであります。
これらもまた田中光二先生作品に出た超兵器でありますので、お楽しみを。

それでは第三十八話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第三十七話:奇跡の超兵器

お待たせしました。
それでは第二章《空母戦闘群激闘!》でもあるタイトルからしてネタバレしていますが、いよいよ海自に空母1隻を、秀真たちには二人の空母娘と、そして対人造棲艦《ギガントス》用兵器が明らかになります。

なお秀真たちに供与する空母娘たちは、オリジナル艦娘であります。
どんな性能を持っているかは、本編を読んでからのお楽しみであります。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


「空母1隻を!……用意してくれるのかね」

 

「俺たちに二人の空母娘と、対《ギガントス》用兵器までも用意してくれるのか?」

 

安藤は信じがたい口調を、秀真は落ち着きを払った口調を上げた。

 

「そのとおりです。まず海自に用意する空母は、連邦空母《天安》よりも大きく、基準排水量は5万5000トン、満水排水量は6万5000トンの空母を用意します。

むろんこれでも米海軍の空母には及びませんが、搭載できる艦載機は天安の50パーセントがプラス可能です。

すなわち米海軍傑作艦載機F-14《トムキャット改》に、F/A-18《スーパーホーネット改》をそれぞれ20機ずつ、それにE-2C早期警戒機4機、EA-6《プラウラー》電子戦機4機、さらに対潜ヘリを4機積めます。

こちらの機体も用意します。また短SAM、CIWSをはじめ複数の防衛兵器を積んでおります。

ただし形状は米軍空母のようなCTOL発着型ではなく、アングルドデッキを持ちますが、艦首にスキージャンプ台をもつことは空母《天安》と変わりません。中型空母ではやむを得ないことです」

 

CTOLとは水平離着機のことである。

 

「最初は英海軍のインヴィンシブル級空母を考えましたが、これではBAe《ハリアーⅡ》しか搭載できません。

確かに《ハリアー》は重量・パワーが大きく、機敏で優秀なS/VTOL戦闘機ではありますが……いかんせん搭載兵装が足りませんし、これではとても連邦軍のJ-31とSu-33《シーフランカー》に対しては力不足です」

 

フォークランド紛争におけるAV-8《ハリアー》の活躍は、よく知られているとおりだ。

アルゼンチン海軍機を全て撃墜し、味方機には損害はなかった。

 

「うむ、しかしたとえ空母を貰ったとしても、問題は要員と訓練時間だ。その空母の大きさであれば要員3000名、いや、3500名は必要とするだろう。航空要員だけでも1500名必要だ」

 

矢島がすばやく計算して言った。

 

「自衛隊と言うものはただでも要員割れしている。多国籍支援軍にもそのような余裕はない。

Z機部隊にも三軍や志願パイロットたちから相当の人間をとらえているので、とても空母運用に割ける人員はないですな」

 

「その点は、よく分かっています」

 

灰田はことも何気に言った。

 

「そのために可能なかぎり少ない要員で済むように配慮しました。

基本的にはこの空母は……わたしの一存で便宜的に《飛鳥》と名づけましたが……未来の《バイオ・コンピューター》によって稼働されているロボット艦艇で、中枢コンピューター、我々の世界でいうところのハイパー人工脳には、自動的にいかなる敵との戦闘できるだけのアプリケーションが備わっています。

過去の空母戦闘のデータもすべて入っており、また学習機能も持ち、同じミスは二度と犯しません。なによりも、自機の安全も優先するようにプログラムしております。

しかし、戦闘には当然人間の判断も必要でしょうから、出撃、会敵、撤退と言う要所には、人間が介入する余地を残してあり、すべてマニュアルに切り替えて艦を動かせます。

むろん艦載機も無人機で自動離発着でき、コンバット・ブレインを載せていますので、パイロットも不要、メンテナンスもまた自動でおこないます。

これらすべてを中枢コンピューター、通称HBが面倒を見てくれます。

我々は《マザー》とも呼んでいますが。わたしの計算では、要員300名足らずで済むでしょう。

飛鳥にはCIC(戦闘情報中枢室)がふたつあり、ひとつは三重の防衛機能に守られたHBが入り、もうひとつは人間が入るためのものです。むろん、HBとは随時コミュニケーションが可能で、必要とあれば命令もできます。

HBといっても基本的にはロボットですから、人間の命令には忠実にできています。

しかし、その命令が誤っていて自艦および自分を危険に晒されると判断するときには、その命令を無視する場合がありますから、そのつもりでいて下さい。

なお艦載機はすべてZ機同様、完全ステルスで、米軍の本家よりも上回っています。

“改”と称するのは、そのためです。飛鳥がこのような空母であれば、訓練期間は二週間で充分でしょう」

 

灰田は安藤たちに空母《飛鳥》の説明が終えると、引き続けるように秀真たちに説明をし始めた。

 

「この飛鳥に続き、もうひとつは二人の艦娘です。艦種は空母ですが……彼女たちは只の空母ではなく超空母娘といった方が良いでしょう。わたしは仮称として彼女たちを《土佐》と《紀伊》と名づけました。

搭載可能な艦載機200機、かつて英国が開発して頓挫した氷山空母《ハバクック》並みであり、あなた方が保有している赤城たちの搭載量を遥かに上回ります。しかも通常の空母または軽空母でも装備できない大型四発爆撃機、つまり大型四発爆撃機《連山改》を搭載することも可能です。こちらもわたしが製造しますが、彼女たちを秘書艦にすれば《連山改》を持ってきますのでお勧めします。

しかし空母は攻撃力は高いものの、非常に脆弱性が目立ちますので、こちらも装甲空母並みにしております。

しかも大和級・改大和級のバジルを誇り、この強靭な防御力は敵の魚雷、つまり雷撃を容易に防ぐこともでき、そして飛行甲板は大鳳・翔鶴・瑞鶴の持つ装甲甲板を装備し、500キロ爆弾に耐え得る特殊な構造の飛行甲板を持ちます。

しかも彼女たちが装備している対空兵器もこれまた強力な信管、かのVT信管をも上回る《YM信管》を搭載した《五式弾》と言う名の和製版VT信管付き弾頭を装備した対空砲までも装備しております。

彼女たちもまた、飛鳥同様、秀真提督たちの艦娘と訓練をすれば改ないし改二にまで改装期間は同じく、二週間で充分でしょう。なお彼女たちは、改三までありますので覚えておいて下さい。今後はあなた方の機動部隊の中核として活躍します」

 

疲れる様子もなく灰田は、最後の兵器について説明をした。

 

「最後に対人造棲艦《ギガントス》用兵器として、私はレールガンよりも強力な兵器を用意します。

わたしが供与した兵器、彼女たちの兵装でも充分に対処可能ですが、万が一に備えてこの異界の帝王でもある《ギガントス》を、今後も量産される可能性も視野に入れて、この怪物を分子レベルまで分解するレーザー砲と分子破壊魚雷をわたしが造りますのでご安心を。

レーザーと言うのは、要するに光のビームのことであり、極めて強力な光で直進性が強いものであります。これは原子を励起状態……つまり動きの活発的な状態にして、さらに基底状態……つまりもっとも動きの鈍い状態にするときに、光のかたちでエネルギーを放出させるものです。

なお特殊魚雷である分子破壊魚雷は、海自や多国籍支援海軍が使用するアスロックと同じく、この特殊魚雷にはソナーが搭載されており、自動的に目標に向かってこれを破壊します。

いわばレーザー砲と同じように、この怪物を分子レベルに分解することができますのでご理解できていれば幸いであります。

なお友軍誤射を防ぐためにも安全装置も施し、また急速学習システムを利用すれば、さほど苦労はせず、すぐさま扱える事ができますのでお任せください」

 

その場にいた全員が、ぽかんと口を開けて聞いていた。さすがの秀真たちもレーザー砲に関しては驚きを隠せなかった。

 

これら全てはどちらにしろ、まさに途方もない話である。

 

SF小説を聞かされているようで、とても現実だと思えなかったのだろう。

しかし、灰田のいうことには実績がある。あの十勝基地を救ったのも想像を絶する未来の技術だったと思えば、古鷹の未来装備、戦艦空母娘、超空母娘、そしてコンピューターが支配する空母の存在、異界の怪物とも言える人造棲艦を分子レベルまで分解可能なレーザー砲、分子破壊魚雷(特殊魚雷)など、むしろ彼らの未来テクノロジーからすれば、簡単なものだろう。無人機については米軍や各国の軍なども実用化している。

ただしこれらに関しては操縦者が必要で、自律型無人機なんて夢のまた夢である。

それが空母航空団というスケールで、複数かつ運用が自動的になっているだけである。

そしてレーザー砲なんて言うのも米軍はレールガン同様に、両方を開発しているものの、未だに手こずり、どちらとも開発段階である。

 

「うーむ」

 

安藤首相は唸った。

 

「これはありがたい話だ。これで我が国も連邦と深海棲艦の侵攻に対等に戦えるわけだ。そうではないかね、矢島くん、元帥」

 

矢島防衛省長官はあわてて頷き、元帥たちは冷静に頷いた。

 

「はぁ、ありがたすぎて言葉が、感謝の言葉が出ないのですが……」

 

「艦載機200機に加え、さらに四発爆撃機《連山改》までも搭載できる超空母級2隻に……しかも対人造棲艦《ギガントス》用兵器としてレーザー砲に、特殊魚雷も用意してくれ、そしてコンピューターが支配する空母までも供与してくれるとは……それは良いが、いつどこに現れるんだ。灰田?」

 

「そうですね。いまから三日後の早朝はどうでしょうか?

かつて米軍の第七艦隊が使っていた横須賀の第十二バースにつけるというのは?……周りの住民にショックを与えると困りますので、充分に人払いをしてください」

 

「分かりました」

 

連邦が襲撃し、壊滅状態になった第七艦隊は史実上解体となった。

もしこれらがあれば、かなり強力であったが、連邦の魔の手により、最強だった第七艦隊は老朽化が進んだ建物のように脆くも崩壊し、崩れ去ってしまった。

唯一の生き残りでもある旗艦《ブルー・リッジ》以外は、哨戒任務中に連邦海軍・深海棲艦の合同艦隊の襲撃を受けて、轟沈してしまったからである。要救助者たちは助かったのは不幸中の幸いであったが。

なお旗艦《ブルー・リッジ》は、いまは海自・艦娘たちなどの友軍物資輸送任務に就いている。

 

「超空母も、レーザー砲と特殊魚雷も一緒か、灰田?」

 

秀真が尋ねた。

 

「それらに関しては秀真提督の鎮守府が良いでしょう。こちらはわたしが説明しますので、こちらも周りの住民にショックを与えると困りますので、空母《飛鳥》同様に充分に人払いをしてください」

 

「分かった。明日の早朝だな」

 

「分かった……」

 

秀真たちは慣れている一方、矢島はそう答えるのが精いっぱいである。




今回の元となった超兵器は以下の通りです。
空母《飛鳥》は、原作『天空の富嶽』からであります。
なお現在ではF-14《トムキャット》は退役していますが、好きな戦闘機なのでそのままに、イラン空軍でも現役ですからね、いまでも。

次にオリジナル艦娘こと《土佐》《紀伊》の元ネタは、同じく田中光二先生作品の『超空母出撃』からであります。因みに灰田さんがテレパシーを使って援助しています。
また烈風の開発が成功するなどとし、ミッドウェイ海戦に大勝利であります。
のちに登場する四発爆撃機《連山》の開発では、本人が直接現れて援助します。
またこの素晴らしいアイディアをくれた同志に感謝しております。

最後にレーザー砲と分子破壊魚雷は、同じく『夜襲機動部隊出撃』に登場しています。
登場と言っても2巻であり、使う機会は少ないですが……
この元ネタは異世界の怪物《ギガントス》狩りに使われています。
読みましたが、後味の悪い映画『ミスト』と、ゲーム『地球防衛軍』を足して二で割ったような、まるで宇宙戦争みたいな状態になっています……

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

あはは…では切りが良いところで、次回予告であります。
長くなりそうな可能性がありますので、最初は超兵器のひとつ、空母《飛鳥》の視察から始まります。
こちらは矢島長官たちが視察しますので、お楽しみを。

それでは第三十八話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…では提督、蒼龍さんの誕生日会に急ぎましょう」

今日は蒼龍の進水日ですから、急がなくては(使命感)


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第三十八話:飛鳥と呼ばれる奇跡

お待たせしました。
それでは予告どおり最初は超兵器のひとつ、空母《飛鳥》の視察から始まります。
こちらは矢島長官たちが視察します。

果たして未来の《バイオ・コンピューター》こと《マザー》によって稼働されている空母《飛鳥》の性能、そして実力はいかに……

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


灰田が告げた三日後……2月23日の夜明け前がきた。

矢島防衛省長官、杉浦統幕長はじめ海自の幹部たち、情報本部とそのスタッフたちが秘かに第十二バースに集まっていた。これは巨大なバースで、米海軍の8万トン級の空母が横付けできる。

 

灰田の言うとおり、周囲は人払いしている。

 

二月の夜明けは遅い。

6時過ぎになって、ようやく薄明るくなり始めたが、埠頭にとその先の海面は濃い霧に包まれた。

あの新富嶽ことZ機が出現してきたときのように、矢島は驚かなかった。

次元の壁を巨大な質量をもつ物質がくぐり抜けてくるとき、この霧は一種の緩衝剤となるらしい。

 

時刻は6時30分になった……

 

空気がイオン臭くなった。また急激に気温が下がったが、これもタイムスリップの兆候である。

矢島はその瞬間に、異様な圧迫感を感じた。なにか巨大なものが埠頭に現れ、その質量が発散する圧力だった。

霧がゆっくり晴れ始め、見上げるような物質が姿を現した。それは巨大な艦の姿となった。

 

「現れました!!」

 

矢島は秘書を通して、近くのヘリポートで待機している安藤首相と補佐官に連絡させた。

連絡を受けたまわると、すぐにヘリのローター音が聞こえた。

安藤は200メートルの高度で第十二号バースに接近しながら、そこに展開する信じがたいものを眺めていた。

まさにそこには空母が出現している。灰田が言ったとおり、艦首にスキージャンプ台を持ち、右舷にはアングルド・デッキが突き出している。艦橋は左舷にそびえ、無数のアンテナを林立させている。

レーダーポストも兼ね備えている。飛行甲板には繋止されている艦載機が見え、4機の対潜ヘリ……海自や米軍などが運用しているSH-60K《シーホーク》である。

安藤は海自の大型輸送艦《おおすみ》と、ヘリ搭載型護衛艦《ひゅうが》《いせ》につづき、同艦《いずも》に、新たに進水した《かが》も見たことがあり、その大きさに驚いたのだが、いま感じている驚異はそれどころではなかった。

おおすみ型は8900トン、ひゅうが型は1万3500トン、いずも型も同じく1万3500トンだが、飛鳥は6万5000トンであり、前者らとは桁違いである。

まるで《ロナルド・レーガン》を眺めているのではないかと錯覚にとらわれたが、むろん《ロナルド・レーガン》のほうがさらに大きいが。空母が出現したことを確認すると、安藤はヘリポートに引き返した。

あとは矢島と海自の幹部たちの仕事である。

 

スルスルと自動的にタラップが降りてきたので、矢島と杉浦、黒川海幕長、それに情報本部のスタッフたちはそれを上がって行った。

 

この空母の名前は、すでに《飛鳥》と決定されていた。

閣僚たちのなかには昔懐かしい《赤城》や《加賀》にしたいと主張する者たちがいたが、当の本人たちは複雑な気持ちになるかもないと思い、安藤はしりぞいた。

灰田はこの三日間のうちにもう一度現われ、個人確認のためのチェックを済ませていった。

むろん今回は別の場所で、自身の鎮守府で待機している元帥と秀真たちも済ませている。

飛鳥には、いたるところに監視テレビカメラが取り付けられており、それは個人の発する赤外線熱量をチェックするようになっている。

また飛鳥の艦内部に立ち入るには、声紋と掌紋双方をパスしなければならない。

とくにマザー(ハイパー人工脳)の鎮座するCIC(戦闘情報中枢室)には三重防御システム……レーザー、瞬間麻酔ガス、電撃発振システムなどで守られており、パスしない者が立ち入ろうとすれば、たちまちこれをお見舞いされる。

灰田はそれらの登録のために小さなブラックボックスを持ってきて、とりあえず艦内を調べる者たちの登録を調べておいた。

 

一日後には、300人の要員が立ち入れることになるが、灰田は登録のために特殊なバッジを置いて行った。

とりあえずはマザーがそのバッジさえ走査すれば……マザーが操るテレビカメラがということだが……チェックがすむということになっている。

 

そのバッジは、今は厳重に保管されていることはいうまでもない。

もし連邦またはアメリカなどのスパイが手に入れでもしようとしたら、大変である。

その後、艦の運用訓練が始まる先立ち、正式な登録が行われるようになっているというと、灰田は告げた。

矢島たちは慎重に甲板に上がった。

マザーのいる第二CICに入る者、人間の使う第一CICを調べる者、各艦載機を調べる者、ほかの兵装を調べる者と、手分けして行なうことになっている。

矢島たちはすでに灰田から艦内の構造図、さまざまな機能の配置図、艦載機の性能データなどを渡されている。

 

とくに軍オタである秀真・郡司が見たら歓声を上げて、喜ぶ姿が脳裏に浮かんだ。

 

話しは戻る。

それらも可能な限りコピーされて、厳重に保管されていた。

コンピューターの配線図とそのソフトウェアの内容については、できる限りやさしく書いてはあったが、海自が動員できた最高のコンピューター・プログラマーといえども容易く解読はできなかった。

 

しかし、マザーことHBが全て見張っている限り、それでいいのである。

 

矢島は杉浦と二人の情報本部のスタッフの四人で、艦橋の付け根にある入口からタラップを降りた。

 

艦内は暗かったが、彼らが進むにつれて自動的に照明がついた。

灰田から貰った配置図によると、第二CICは艦橋の真下、つまり艦の中央部にある。

言い換えると敵の攻撃からもっとも安全な部分である。

なにしろ人間の要員は300名で済むので、いわゆる居住区画は少なくて良い。

配置図によると……矢島たちには見当もつかない未来のテクノロジーの詰まった機械室でいっぱいだった。

 

基本的に艦載機は甲板に繋止されたままだが、いざという時には格納庫もある。

そのための舷側エレベーターが三基もあった。

仕様書によると、艦載機の繋止も自動的に行なわれるというのだから驚いた。

ラッタルを二層下ると、目の前に冷たい光を放つ廊下が見え、30メートル先には赤く塗られた扉が見えた。

そして人工的な声が聞こえた。

 

『あなたがたがいま見ているのが、マザーのいる区画です。第一CIC、つまり、あなたがたの部屋はうしろにあります』

 

矢島たちは振り向くと、やはり30メートル先に黄色に塗られた扉が見えた。

 

『これからマザーと対面してもらいますが、ゆっくりおひとりずつお進みください』

 

矢島を先頭に進み始めると、廊下は赤外線が包まれた。

 

まず始めに、個人の赤外線熱量をチェックしているらしい、

 

もし敵だとマザーが判断した時は、例の三重防御システム、恐るべき武器が襲ってくると考えると……矢島は背中がむずむずした。

しかしそれらはどこに隠されているのか、見た限りでは分からなかった。

 

矢島がその前に立つと、音もなく扉が開いた。

 

柔らかい金色の光に包まれた円形の部屋が出現した。

さしわたし15メートル程の部屋で、その真ん中に球体が浮かんでいた。

何かに吊り下げられて様子もなく、宙に浮かんでいた。

しかしそこから周囲の壁に無数のワイヤー、それは光ケーブルに似たワイヤーが伸びて吸い込まれていた。

 

球体の直径は、おそらく5メートルはありそうだ。

 

表面はたえず七色にかがやき、緩やかに回転している。

 

『わたしがマザーです。わたしの部屋にようこそ』

 

その“球体”が柔らかな声で言った。

矢島は驚きを通り越して呆然としていた。これが未来のバイオ・コンピューターだと言うのか!?

 

『わたしの姿はあなたがたの世界のコンピューターとはだいぶ違うでしょう。しかし、電子頭脳であることは変わりないのです。チップには人間の脳とおなじ有機素子バイオチップを使っていますが。

この艦の保全機能はすべてわたしが受け待ち、また戦闘モードに入ったときは自動的に交戦しますが、状況判断については第一CICで切り替えられるようになっていますから、ご安心ください。この艦はあくまで人間の意志優先に作られており、わたしはその足りないところを補うため、ミスをカバーするためです」

 

「……ええと、あんたの愛称は《マザー》だな?」

 

矢島は問いかけた。戦前は合同訓練時のときに米軍兵士はネット電話を使用して、自分の家族や友人、恋人などと会話するのは幾度か見たあり、それに関しては矢島も使用したことあるが、いま自分が話し掛けているのは人間ではなく、コンピューターと会話するなんて妙な気分がした。

 

「あんたがもしコンピューターだとすると、それを破壊するEMP攻撃を受けた際にはどうなるのかね?」

 

EMPとは高高度核爆発や雷などによって発生するパルス状の電磁波のことである。

強烈なガンマ線が高層大気と相互作用し、広域にわたってコンプトン効果を発現させ、地磁気の影響で地球の中心に向かう電磁波の流れを発生させる。

低高度の核爆発では電磁パルスの発生が限定されるが、核兵器による高高度核爆発であれば、広範囲に電磁パルスが発生し、すべての電子機器やライフラインを破壊する。

それを対策しているものは政府や自衛隊のごく一部である。

さらに米軍は目標地点に展開中の敵部隊・軍事拠点の無力化するためにEMP爆弾も保有している。

 

『ご心配にはおよびません』

 

マザーは相変わらず優しく優しい声でいった。まさに母親を思わせるような穏やかな声だ。

また矢島たちは秀真の鎮守府に訪問したときに、軽空母《鳳翔》のことをふと思い出した。

彼女は至って温和で控えめ、常に一歩引いて男性を立てる古式ゆかしい日本的女性美を持つ艦娘であった。

秀真いわく「鳳翔さんは、本当の母親みたい」だと言っており、郡司も同じことを言い、また赤城をはじめとする全空母娘たちは「鳳翔さんは全ての空母の母です」と言う言葉も思い出した。

また鳳翔さんが怒ったときは秀真、郡司、赤城たちは震えが止まれず、しばらくは忘れないとも言っていたが。

 

もっとも世の中で怒った母親が恐ろしいものはない。

インド神話の女神《カーリー》は『黒き者』を意味し、血と殺戮を好む戦いの女神である。

シヴァの妻の一柱であり、カーリー・マー(黒い母)とも呼ばれ、シヴァの神妃《パールヴァティー》の憤怒相とされる。

しかし、インドではカーリーの姿はあくまで怒れる女神として描かれている。

 

『EMP効果が及ばないよう二重セキュリティー・システムを張り巡らせていますから。

それでは第一CICのほうにどうぞ」

 

そう言われて矢島たちは廊下に戻り、第一CICのほうに向かったが、その部屋は自衛艦で見慣れた光景であった。

つまり操艦指揮区画、ソナー区画、通信区画、兵装区画などに分かれている。

操艦区画には、マニュアル切り替えというボタンがコンソールの真ん中に目立って置かれており、それを押すと全艦マニュアル操艦という赤いランプが伴った。

 

しかし兵器はすべてオートマチックなので、レーダーが自動的に敵を発見、そのデータを伝えれば、それを撃退するに相応しい兵装……無人ステルス艦載機を含むが自動的に選択され、応戦するようになっているらしい。

こればかりは人間がやるより速い。なにしろ対艦ミサイルは、マッハ2を超えるスピードで飛んでくるから、一瞬でもたつくと間に合わない。

もっとも対潜ヘリや早期警戒機など、急を要さないものの発進は人間がコントロールできるようだ。

 

要するに中型空母《飛鳥》の運用は、コンピューターと人間との各々の長所を取り揃えた、いわばミックスしたコラボレーションなのだが、状況に応じればそれを切り替えるのには

かなりの習熟を要すると言われている。

 

「これから忙しくなるぞ。要員を乗せてさっそく訓練だ。なにしろ敵は待ってくれないからな」

 

矢島が言うと、杉浦は頷いた。

 

「分かっています。今日からさっそく始めましょう」

 

 

 

海自から選抜された300人の要員を乗せると、とりあえず《飛鳥》はマニュアル操艦によって相模湾に移動した。

そこで様々な訓練が行われたが、灰田に渡された説明書(MD)によると、マザーによって戦闘シミュレーション訓練が艦載機を飛ばさずにできるようになっている。

マザーが様々な状況を設定し、戦闘状況スクリーンに敵の攻撃が映し出される。それを対して対応する兵器が反撃する。

 

マザーによるとこれは100パーセント、実戦と同じ内容である。

空母《飛鳥》の艦長には、第一護衛艦群の司令である湊海将補が抜擢された。

しかし湊海将補は、やはり艦載機を飛ばしてみないと不安だった。

 

なにしろ載せているのは無人機である。発進をマニュアルに切り替え、架空の座標に敵機を想定して発進させた。

F/A-18《スーパーホーネット》は戦闘攻撃機だから、神奈川の山奥……丹沢山塊に目標を仮設定した。

F-14《トムキャット》南方海上から迫ってくる敵機に向けて発進した。

いずれも発進はスムーズで、たちまち目標を捕捉、実際に兵器は使用しないが、兵装を発射したというデータが現われ、目標撃破という結果が報告された。

 

しかし、問題は着艦である。

中型空母《飛鳥》の場合は、大型空母に比べて飛行甲板が短いので、かなり急激にアレスティングしなくてはならない。

パイロットが搭乗していれば激しいGに耐えなければならないが、なにしろ無人機だから数Gのショックにも耐えられる。

 

無人機を操る電子脳は絶妙なタイミングでタッチすると、アスレスト・ワイヤーに引っかかり、急速に停止した。

飛鳥に搭載されている全ての艦載機は、この急停止に耐えられるよう頑丈に造られていることは言うまでもない。

これらを格納庫に収める訓練も行われたが、収納ボタンを押すだけで、あとはマザーがエレベーターを操作してやってくれた。

なお飛鳥の機関は、蒸気タービンで出力25万馬力、最大速力33ノットである。

この機関室にも機関員が就いていたが、こちらも全て全自動で、起動と停止のほかは、彼らのやることは機関の調子モニターをチェックすることだけである。

要員の大半は、無人艦載機のメンテナンスと補助という役割を負うということになった。

仮に損傷したとしたときには、格納庫内に《自動修理区画》がある。

そこもマザーに任せておけば、ロボット修理機が全自動で補修してくれるが、やはり人間の目も必要である。

 

むろんもっとも重要なのは、ROE(交戦法)をいつ発動するのかという人間の判断で、こればかりはマザーにはできない。艦長はじめ幹部たちの判断が必要不可欠だ。

彼らはそのために乗っているようなものだった。

 

マザーが要請よく助けてくれたので、飛鳥の運用訓練は1週間で、ほぼ完璧なレベルに達した。

むろん、湊艦長には一抹の不安があった。

これはあくまでも訓練なので、いざ実戦となればどうなるかは分からない。

原題のコンピューターは狂うことはある。同時にコンピューター・ウイルスによるサイバー攻撃にも弱い。

 

しかし、マザーはどうだか。湊はいまひとつマザーを信じ切れなかったのである。

いずれにしろ、飛鳥と秀真提督の艦娘たち、第一護衛艦群で空母戦闘群(機動部隊)を編成する。

連邦海軍の空母戦闘群および、深海棲艦・人造棲艦《ギガントス》による合同護衛艦隊群に対抗することが決まった。

今度はそのための共同訓練である。




もはや空母《飛鳥》は、完璧な空母ともいえますね。
もし灰田さんがこの世界に現れたら、この空母を供与してほしい兵器のひとつでもあります。むろん原作通りの性能と、無人艦載機もですが。
もし艦これで、艦娘として実装したら、空母のなかでもチートになりそうであります。あくまでも予想ですが……

次回は空母《飛鳥》を視察している矢島たちに打って変わり、秀真たちの視点に移ります。
灰田さんが用意したオリジナル艦娘《土佐》《紀伊》の超空母娘たちとともに、対人造棲艦《ギガントス》用兵器でもあるレーザー砲と、特殊魚雷こと分子破壊魚雷の登場でありますので、お楽しみを。

それでは第三十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第三十九話:ふたりの超空母娘、超兵器現る

前回のあらすじ
東京・霞ヶ関の首相官邸コマンド・ルームでは国防会議が開かれていた頃。
秀真たちは次の作戦を立てていた時、連邦に続き、アメリカが警戒しているのではないかという仮説を呟いたとき、未来人・灰田から驚愕の事実を聞かされる。
秀真の推測は当たり、さらに連邦が秘かに用意した空母《天安》と、非人道的生物兵器こと人造棲艦《ギガントス》を知ることとなった……
これらに対抗するため、灰田は横須賀基地に《マザー》に支配されたハイテク空母《飛鳥》をもたらした。
矢島たちをはじめとする視察団を超えていた超兵器でもあった。
そして秀真の鎮守府でも、またしても《飛鳥》同様、奇跡の超兵器が姿を現すのだった……

久々の某アナゴさんがクローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりではありますが、楽しめていただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


同時刻。矢島たちが空母《飛鳥》を見ていた頃、秀真たちの視点へと移って見よう。

こちらも同じく、灰田が告げた三日後……二月二十三日の夜明け前がきた。

元帥、秀真・郡司はじめ各提督たちに、古鷹・木曾はじめとする各艦娘たちもが秘かに、各鎮守府にある演習場に集まっていた。

 

こちらも灰田の言うとおり、周囲は人払いしている。

また秀真は万が一に備え、海上には神通率いる水雷戦隊と特型戦艦四姉妹こと富士たちを待機させており、さらに鎮守府内には憲兵たちが警戒態勢を張っている。

 

二月の夜明けは遅い。

6時過ぎになって、ようやく薄明るくなり始めたが、埠頭にとその先の海面は濃い霧に包まれた。

秀真たちはもはや慣れているため驚くことはなかった。

あの新富嶽ことZ機が出現してきたときのように、次元の壁を巨大な質量をもつ物質がくぐり抜けてくるとき、この霧は一種の緩衝剤となるらしい。

 

時刻は6時30分になった……

 

空気がイオン臭くなった。また急激に気温が下がったが、これもタイムスリップの兆候である。

霧がゆっくり晴れ始め、人影が姿を現した。それは艦娘である。

 

「提督、現れました!!」

 

古鷹の声に全員が、その二人の艦娘を見た。

二人とも矢矧のようにポニーテールで決めており、そしてふたりとも大鳳のような服装を纏っている。その証拠に模倣しているのか、頭には艦尾を意識したヘッドギアをつけ、首にも艦首を意識した装甲が取り付けられている。

なお二人とも加賀のようにクールなところもあるが、しかしどことなくただならぬ妖艶さが漂っているようにも思えた。また艤装は大鳳とグラーフに近く、そして驚くべきことに艦載機を発艦させるために必要不可欠な弓矢や大鳳のようなクロスボウとは異なり、土佐は未来的外観を持つ短機関銃を、紀伊はM16のような自動小銃を携えている。

 

「これが、わたしが用意し、秘かに建造しておいた超弩級空母の《土佐》《紀伊》です」

 

いつの間にか、傍らに現れた灰田が説明した。

 

「彼女たちは6万トン級の大型艦であり、しかも飛行甲板・全幅も赤城たち以上を誇り、それはレキシトン級の1.5倍とも言っても良いでしょうか。

さらに三日前にご説明した通り、彼女たちは以来の戦闘機、つまり艦載機を200機搭載可能であり、またこれらの代わりに陸軍が開発した四発陸上攻撃機《連山改》も搭載できます」

 

灰田の説明に、赤城たちは驚愕した。

自分たちでも搭載できる艦載機は最大で98機を搭載できるが……土佐と紀伊は彼女たちを上回る搭載量――200機の艦載機を搭載でき、さらにこれらに代わりに四発爆撃機を搭載できると言うような、もはや常識破りの超大型空母なのだから無理もない。

 

「改では艦載機がやや減る代わりに、ジェットや大型機の運用がスムーズになります。

改二で艦載機数が戻り、アングルド・デッキ搭載で基礎性能と甲板強化、改三で通常動力型となります。

なお今の彼女たちは改でありますので、実力は保証します。

そして彼女たちの装甲は500キロ爆弾を防げる重装甲を兼ね備えています。

特殊ゴムで覆われた重装甲に、さらに大和級のように航空魚雷の攻撃に十分に耐えられるよう施しています。ただし敵の爆撃機、とくに敵の焼夷弾攻撃には御用心ください。

この特殊ゴムは高熱を生じる焼夷弾攻撃にはすこぶる弱いため、これを食らうと艦載機も発着艦が困難になりますので、万一に備えて大鳳たちに搭載する艦載機を減らすことをお勧めいたします。むろんこれは富士たちにも同じことなので、充分に気を付けてください」

 

灰田の説明が終わると、秀真は頷いた。

 

「分かった。早速だが彼女たちの実力を見てみたいのだが良いかな?」

 

「分かりました」

 

秀真がそう言うと、灰田は土佐たちに視線を移す。

彼女たちも灰田の意志を、それとも初対面した時のように人の心を見透かす能力でもあるのかと思ってしまう。

 

「了解。じゃあ紀伊、始めましょう」

 

「了解しました。土佐姉さん」

 

ふたりは携えていた軽機関銃にマガジンを装填する。

所持している弾倉には《烈風改》《彗星改》《流星改》に、例の四発爆撃機《連山改》の文字が刻まれたマガジンを手にし、短機関銃やライフルに装填した。

なお灰田が実力を証明するために、御自慢の艦隊を編成しておいて下さいとの事前の伝言があったため、秀真たちは用意した。

なお二人の実力を確かめるため対空能力および対艦能力が誇る敵艦隊役に、なお護衛艦隊役として古鷹たちには土佐たちを護衛部隊として編成しておいた。

どちらにしろ連合艦隊を編成し、演習が開始された。

まず摩耶を旗艦とし、秋月、照月、雲龍、天城、葛城が敵機動部隊の役を務める。

 

「私たちの御力に期待してください。提督」

 

土佐は自信満々に答えると、派手に短機関銃を撃ち放つ。

撃ち放たれた彼女の銃弾は、火焔に包まれ、逞しいレシプロ・エンジン音を鳴り響かせて飛翔する《烈風改》へと変貌する。烈風改のマガジンを素早く撃ち切ると、新たに《彗星改》《流星改》の名が刻まれたマガジンを装填し、これまた上空に向かって派手に撃ち続けた。

あっという間に、本当に申し分ないほど大編隊である。

また土佐に遅れ、紀伊は《連山改》の文字が刻まれた弾倉をライフルに装填し、同じく上空に向かって撃った。

土佐同様に撃ち放たれた銃弾は、火焔に包まれ、やがて大型機へと姿を変えた。

四発の大型レシプロ・エンジン音を大きく鳴り響かせ、B-17に酷似した機体……連山改が現われた。

しかも大型機にも関わらず超低空で、雷撃機のように編隊を組み、突撃していく。

機体の下にある爆弾倉を開き、800キロ爆弾の投下準備を開始する。

前にも記した通り、これは米軍中型双発爆撃機が得意とする《スキップボミング(反跳爆撃)》である。

投下された反跳爆弾は水切りのように飛び跳ね、目標たる敵艦に突入する。

大型四発爆撃機であるため、狙い撃ちされる確率は非常に高いが、通常の《連山》よりも防御力は高く、やはり撃ち落とすのは困難であるのか摩耶たちの頭上を通り過ぎる頃には、800キロ爆弾が命中、なおも指揮官機の後ろ姿を追うように、残り3機の連山改が投下した800キロ爆弾も続けざまに命中した。

雲龍たちの直掩隊・攻撃隊も頑張ってはいたが、《土佐》《紀伊》のふたりにダメージを与えるも小破止まりに終わり、古鷹たちを中破したに過ぎなかった。

また、対空能力の高い摩耶たちや、急速学習装置でベテランになっている雲龍たちですらも大破になるという驚く撃結果になった。

なお演習が終了すると彼女たちは、いつの間にか元通りになっているが。

 

 

「これが彼女たちの実力です。ご満足いただけましたか?」

 

「……ああ、圧倒的な攻撃力だな。敵艦が哀れに思えてきたな」

 

秀真の感想を聞いた灰田は、満足そうに笑みを浮かべた。

 

「それでは次は対人造棲艦《ギガントス》用兵器、レーザー砲と特殊魚雷の説明をします」

 

場所は変わり、工廠前に一同は移動した。

全員が集まるのを確認したのか、ちょうどいいタイミングで灰田も姿を現した。

灰田が用意した例のレーザー砲と特殊魚雷こと分子破壊魚雷である。

まずレーザー砲は、古鷹たちが装備する20cm連装砲から、大和たちなどが装備する46cm砲などと言った大口径砲を搭載した連装砲とは外観が異なる、見慣れないラッパ型の砲身を備えつけた砲塔が並べられていた。

各艦種に合わせるように、灰田が気遣ってくれたのだろうと思われる。

またもうひとつ用意した特殊魚雷(分子破壊魚雷)の外観は、灰田の言う通り、多くの海自・多国籍海軍が装備し、使用している《アスロック》艦載用対潜ミサイル(SUM)とさほど変わらない。

 

「まずレーザー砲ですが、三日前の説明したように、これらは対人造棲艦《ギガントス》用兵器です。

大きなものは艦艇用もありますが、小さなものまでありますが、またこれも万が一に備え、レーザー砲を装備した新型戦闘機も用意しましたので、これで《ギガントス》を攪乱させることもできれば、撃退できるだけの力はあります。なお味方を誤射しないように安全装置とともに、例えレーザー砲を喰らってもダメージは喰らわないように施しています。

次に特殊破壊魚雷こと分子破壊魚雷ですが……こちらも秀真提督たちの駆逐艦の子たちなどが装備している艦搭載用対潜ミサイル《アスロック》同様に、これらも駆逐艦から重巡洋艦が装備可能な自動追尾装置付きの魚雷です。

もし《ギガントス》が潜水棲姫はじめとする潜水艦部隊のように海中に逃げたとしても追尾できるように自動追尾装置が搭載しており、深さは1000メートルまで追尾が可能であります。これらを喰らえば《ギガントス》もひとたまりもありませんが、くれぐれも慢心しないように気をつけてください」

 

灰田から出た言葉、決して慢心するなという言葉は秀真たちは決して忘れない。

過去にも日本海軍は、あの運命の戦い、ミッドウェイ海戦で敗北し、それを引きずった日本軍はソロモン海戦以降は敗退をし続け、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦、そして最後の日本岬海戦で圧倒的な米海軍に負けてしまい、伊58の橋本艦長が死ぬまで悔み続けた二発の原爆を喰らった日本は敗戦を味わった……

超兵器を持っていても決して慢心しない、そして大切な彼女たちを失いたくないという気持ちがあるからこそ戦い続けられるのである。

 

「……元帥から言われているから忘れはしないさ。明日からも忙しくなるな、ともあれ何時もと変わらないが……」

 

演習が終えた後、土佐たちは古鷹たちともすぐに仲良く会話している様子を見て呟いた。

特に郡司の艦隊に所属している加賀は、妹である土佐との再会に涙を流した。

普段の加賀はクールな表情を崩さないのだが、この時だけは土佐の前で涙を流すことは無理もない。

加賀には元々、姉妹艦《土佐》がいたが、事情により進水したばかりの所で建造中止、そして長崎から呉へ曳航され標的艦として各種の試験に使われた後、土佐国(高知県)宿毛湾の沖ノ島西方約10海里の地点に沈められた。

だから加賀は抱きしめて「お帰りなさい」と言い、土佐は「ただいま」と再会を喜んだ。

郡司は彼女のために、土佐とともに行動させるため、暫くの間だが秀真の艦隊に所属させることに決定した。

郡司は「加賀のためだ」と言い、元帥もすぐさま転属許可を承諾した。

その代わり翔鶴たちは、暫く郡司の艦隊に所属することに決定した。

 

「それでは明石さんたちには、すでに彼女たちの設計図と、彼女たちに必要不可欠な資材も揃えていますので、次の海戦でも前回同様のご活躍を楽しみにしていますよ」

 

「灰田、ありがとう……この戦いが最後の戦いになると願っているよ」

 

「わたしはあなた方を助けるために、できる限りの援助をしているだけですよ」

 

「ああ、ありがとな。灰田」

 

秀真がそういう頃には、灰田はいつの間にかすうっと消えていた。

 

 

 

後日、灰田が用意してくれた対《ギガントス》兵器であるレーザー砲を古鷹を始めとする各艦娘に装備し、これと同時に用意された特殊魚雷(分子破壊魚雷)も古鷹たち重巡洋艦から、阿賀野たち軽巡洋艦、そして秋月をはじめとする駆逐艦の子たちにも全て装着させる。

明石と夕張だけでは荷が重いと、各鎮守府を再建してくれた広島たちも駆けつけてくれた。

なお本人たちは自身の名がついたところに旅行していたのか、お土産まで持ってきてくれたのは言うまでもない。

灰田が用意してくれた新たな最新鋭戦闘機も土佐たちに装備させ、また新たに艦隊防空能力も上がった。

土佐姉妹が来たおかげで、大鳳たちにも負担が減らせることもできるのが幸いである。

また灰田が用意してくれた急速学習装置のおかげで難なく使いこなすことができたのは幸いだった。

レーザー砲も試しに試射をしたら、本当に友軍艦隊には当たらないよう安全装置も施し、さらに誤射をしても友軍艦にはもちろん、艦娘たちにも損傷を与えることはなかった。

 

新たな装備を装着した古鷹たちと、新たに土佐・紀伊をはじめとする機動部隊で訓練を開始した。

また土佐・紀伊の防御力……二人とも戦艦並みのバルジを誇るため、これを活かして戦艦の標的で空母に当てる訓練と、彼女たちが戦艦砲弾・敵魚雷をひたすらよける訓練なども施した。

本当に戦艦並みのバルジを誇るため、魚雷攻撃を受けてもケロリとしていたのにも驚かされる。

また万が一に備えて、富士たちはじめとする戦艦空母四姉妹を旗艦とする対《ギガントス》打撃艦隊も編成した。

もしどちらかの《ギガントス》が別行動をし、別海域に出没した際には大和たちとともにこれを撃滅するためである。

また大和たちを守るため、秀真は水雷戦隊と護衛空母に、郡司はイムヤたちも配下に就く。

今回は別行動になるかもしれないが、それはお互い承知し、覚悟していることである。

 

1週間の訓練・演習が終えると、秀真たちは空母《飛鳥》を旗艦とする空母戦闘群と合同訓練を開始した。




前回お知らせしたとおり超空母娘こと《土佐》《紀伊》は、とある同志と協力して、本編に登場した通りオリジナル艦娘として完成しました。ご協力感謝します!
あと知りませんでしたが超空母《土佐》《紀伊》は別作品にも出ているのですね……
それから今回は加賀さんが再会に喜んでいたのも、良いかなと思い付け加えました。
また古鷹たちが装備したレーザー砲は『夜襲機動部隊出撃』に出たものとは基本的には性能は変わりませんが、のちに少しだけ違うところもありますので暫しお待ちを。
なお分子破壊魚雷は基本的変わらないと思いますが、威力は申し分ないのでこのままにしました。
そして灰田さんが用意したレーザー砲を搭載した新型戦闘機に関しても同じくなので、お楽しみを。

神通「提督…そろそろ次回予告を…」

あはは…では切りが良いところで、次回予告であります。
日本視点から、再びアメリカ視点に戻ります。
前回は対日計画こと《チェリー・プラン》を立てようとしたアメリカは、これら超兵器を見たアメリカは、果たしてどう行動に出るかを見ていきたいと思います。

それでは第四十話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。それでは悔いのないように頑張りましょう」

大掃除の次は、年末パーティーに、おせちの仕込みか……最後までやらなければな(使命感)


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第四十話:進みゆく対日計画《チェリー・プラン》

前回のあらすじ
秀真たちは次の作戦を立てていた時、連邦に続き、アメリカが警戒しているのではないかという仮説を呟いたとき、未来人・灰田から驚愕の事実を聞かされる。
秀真の推測は当たり、さらに連邦が秘かに用意した空母《天安》と、非人道的生物兵器こと人造棲艦《ギガントス》を知ることとなった……
これらに対抗するため、灰田は横須賀基地に《マザー》に支配されたハイテク空母《飛鳥》を、秀真たちには艦載機を200機または四発爆撃機《連山改》を4機搭載可能な超空母娘《土佐》《紀伊》に、対人造棲艦《ギガントス》用兵器、レーザー砲と特殊魚雷がもたらされた。新たな装備に超兵器が出そろった秀真・古鷹たちは訓練に明け暮れていた頃、とある大国の某所では新たな動きがあることも知らずに……

クローンウォーズのような前回のあらすじを簡単にナレーションしているような始まりではありますが、楽しめていただければ幸いであります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


2月26日。

海自は中型空母《飛鳥》の運用訓練に、秀真・古鷹たちは超空母《紀伊》《土佐》とともに訓練に明け暮れていた頃だ。

 

ペンタゴンでは、ヨーク参謀総長のところに衛星監視センターから報告が上がってきた。

 

「連邦の通化基地が慌ただしくなりました。燃料運搬車両が運び込まれています。

数時間以内にはミサイルの燃料注入が始まるでしょう。それともうひとつ、不思議なことがあります」

 

報告を直接もってきたセンター主任のネルソン中佐がいった。

ネルソンはヨーク大将の前の執務デスクの上に、衛星写真を何枚か並べた。

ヨークは覗き込んだ。アングルドデッキをもつ空母の姿、中型空母らしい。

埠頭に横付けされた姿。外洋を航行する姿。また艦載機を発進している姿もある。

 

「ふむ。空母か。ロシアの持つ《アドミラル・クズネツォフ》のようだが、これのどこがおかしいのかね?」

 

「この写真はロシアで撮影されたものではありません。日本横須賀基地、または相模湾で撮影されたものです」

 

「なんだと!?」

 

ヨーク大将は愕然とした。日本にいた第七艦隊は史実上壊滅なのは知っていた。

日本が空母を持っていることなんぞ知らなかった、いや、持たないのが今までの常識だった。

しかも前に撮影した写真でもどこからか我が軍の最新鋭であり、開発中の次期駆逐艦《ズムウォルト》級駆逐艦や、見たこともない聞いたこともない特型戦艦四姉妹たちも同じくだが。

 

「JMSDFは空母なぞもっとらんはずだぞ。彼らが所持しているのはそれに似たヘリ搭載型護衛艦《ひゅうが》《いずも》型と旧日本海軍の空母娘たちしかいないはずだ!」

 

「本職も最初はそう思いましたが、しかしこれはどう見てもヘリ搭載型護衛艦ではなく、空母ではありませんか。しかも、この埠頭に横付けされた写真は一週間前に撮影されたものですが、部下が数年前に退役した我が空母《キティホーク》の古い写真と勘違いしましたが、今日そうでないことに気がついたのです。

そのため急いで衛星を動かして横須賀近海を撮影させました。その結果がこれです。それと……」

 

「それとなんだ?言ってみろ」

 

ネルソンはもう一枚の写真を、ヨークに渡した。

 

「これは空母とは別の場所、とある鎮守府を写したのですが、この空母と同様に訓練をしている写真もところどころ確認されています」

 

とある鎮守府とは秀真の鎮守府である。アメリカは彼のほかに郡司や各提督たちが所属している鎮守府を監視している。偶然にも超空母娘《土佐》《紀伊》の姿も衛星により撮影されたらしい。

幸いにもレーザー砲と、特殊魚雷こと分子破壊魚雷に関しては撮られていないのが救いである。

仮に撮影したとしても艦娘たちの新型主砲と、酸素魚雷として処理されるのがオチだが。

 

「うーむ」

 

中型空母《飛鳥》に続き、あらたな艦娘《土佐》《紀伊》を見たヨークは唸った。

 

「日本はまた魔法を使ったのか。艦娘はどうでも良いが、問題の空母はいったいどこから、ひねり出したのか」

 

中佐はかぶりを振った。

 

「本職は皆目分かりません……」

 

「わしもそうだ、全くわからん」

 

ヨークはいった。

 

「しかし拡大して検討しますと、この空母が載せている艦載機は明らかに我が軍が全機退役したF-14《トムキャット》と主力艦載機F/A-18《スーパーホーネット》に瓜ふたつであります。完全なるコピーといってもいいでしょう。それを20機ずつ載せ、ほかにもプラウラー戦術電子機、E-2C早期警戒機も乗せております。

進水した二隻の艦娘、空母娘は大戦中の名機と言われるジークこと零戦と新型艦上爆撃機と攻撃機は分かりますが、奇妙なことに四発爆撃機までも飛ばすことが可能なように改装されています」

 

「ふうむ、前者はけしからんな。旧式機であろうと、我が国の傑作飛行機を盗むとは。

しかし、四発爆撃機までも搭載できる空母娘は今後とも監視しなければならないな。

ともかく、この双方は最高機密扱いにしてくれ。これらを見た者全員に緘口令を敷き……この写真はわたしが貰っておくが、ネガは処分しろ」

 

「分かりました」

 

ネルソンは立ちあがると、ヨークはすぐに国防長官に電話した。

 

「連邦の通化基地で、ミサイルの発射準備が始まりました。日本との約束にのっとり、太平洋軍経由で通告します」

 

「うむ、それはやむを得ないだろう」

 

ケリーは渋い声で答えた。本来ならば、日本に知らせたくないのが本心だが。

 

「それともうひとつ、耳寄りなお知らせがあります。正しくは奇怪なお知らせですが」

 

「なんだ?また日本が何かをやらかしたのか?」

 

今度はうんざりした声を出した。

 

「実はそのとおりでございます。日本の横須賀基地、かつて我が第七艦隊の母港として使用していた泊地に空母が出現しました」

 

「まさか《ロナルド・レーガン》の幽霊でも出たとでも報告したいのかね?」

 

「いいえ、それが違うのです。正真正銘の空母、我が海軍が保有する大型空母ではなく、ロシアの《アドミラル・クズネツォフ》よりひと回り大きい中型空母でありますが。

しかし、けしからんことにスーパーホーネットに、旧式機のトムキャット、そのほか電子戦術機や早期警戒機まで載せております。どうやら完全にコピーしたようですな。

さらに別の鎮守府では日本があらたに進水したと思しき、ふたりの艦娘は空母娘ですが、しかもゼロだけでなく、ジェット艦載機や四発爆撃機までも搭載できる大型、超空母娘と言ってもいいでしょうか。

それらを使い、前者は相模湾と呼ばれる海域で訓練航海を、後者はその鎮守府だけでなく、ほかの海域に、この空母と共に演習までもしているところをキャッチしました」

 

「そんな馬鹿な」

 

ケリーは失笑した。

 

「いくらなんでも日本でも空母だけでなく、大型爆撃機を飛ばす空母娘を手に入るとは信じがたい。いったいどうやってやった?」

 

「衛星カメラが嘘を付くことはありません。確かに日本沿岸に空母が航行しており、謎の空母娘はその鎮守府で演習とこの空母と共に航行しています……どうやって手に入れたかは本職には分かりません」

 

「謎のステルス重爆を手に入れたのと同じ方法だな、おそらく。あの学者がいった、いまの日本は未来の日本と繋がっているという説は本当なのかもしれない。

未来の日本人からいわゆるタイムトンネルを使って手に入れたとすれば、辻褄が合う。

連中はそれで連邦の空母《ヴァリャーグ》とあの新型深海棲艦に対抗するつもりか?」

 

「おそらくそうでしょう。……しかし本職が不思議なのは、たとえ中型空母でもその運用には数千人を要します。我が国の通常空母ですら乗員5000名が必要ですから、少なくともこの空母には3000名から4000名が必要とするでしょう。

ふたりの新型空母は自分で判断するので指揮官だけがいればいいのですが、空母の場合は、特に要員の少ないJMSDFが、多国籍軍でも小規模で無理でしょう。しかし、いかにしてそれだけの要員を手に入れたのか、とても見当がつきません」

 

「うむ、おそらく高度に自動化された艦なのだろう。それで要員は最低限にとどめられる。

謎の艦娘に関してはわたしも分からないがね」

 

さすがに国防長官を務めるだけあって、ケリーは鋭い。飛鳥の特徴を見抜いてしまった。

しかし、超空母の二人だけは見抜けなかったが。

 

「わたしはこの事を大統領に報告する。むろんこのことは機密扱いにしたろうな」

 

「はあ、もちろんです」

 

「よろしい。衛星監視を続けてくれたまえ」

 

その一時間後、ケリーはホワイトハウスのオーバー・ルームで、ハドソン大統領と向かい合っていた。マーカス国務長官、グレイ首脳補佐官、フォーク海軍作戦部長も呼ばれていた。

 

全員がケリーから驚くべきニュースを聞いて、二の句が継げないでいるところだった。

 

「わたしはもう日本に関していかなるニュースは飛び込んできたとしても驚かないつもりだったが、いささか早まったようだな」

 

ハドソンがようやく言った。

 

「いきなり6万トン級の空母と、四発爆撃機を飛ばせる艦娘たちを手に入れるとは、あの国はどうなっとるだ!?そのうち核兵器も持ち兼ねんぞ!」

 

「実は、それをわたしは恐れているのです」

 

ケリーがいった。

 

「B-2《スピリット》に匹敵するステルス重爆や空母、謎の艦娘たちを手に入れられるのならば、核兵器を入手できても少しも不思議ではありません。

何者かによって、その国は急速に重武装化しています。すでに連邦を凌ぎ、アジア最強となるでしょう……いままでもそれに近かったのですが。

我が国は、彼らの矛先がこちらに向いていることを警戒する必要があります。彼らには動機があるわけですから」

 

「日本を仮想敵国として、連邦と深海棲艦のように対日作戦を練っておけというのかね?」

 

ハドソンはうんざりした声を出した。

 

「その話は前にも聞いたが、わたしはそんなつもりはない。日米安保を突然停止する行為を働かない限り、日本がそれを理由にするだけで攻めてくるとは思えない」

 

「太平洋戦争のときもルーズベルト大統領やチャーチル首相は、日本がそこまでは踏み切るまいと読んでいました。英米相手に戦争をするほど愚かではないと。日本海軍は防衛用で、侵攻作戦用にはつくられてはいなかったからです。

しかし、我々が対日禁輸などで追い詰めたため、日本はついに我々に宣戦布告をしました。ドイツと戦いたかったルーズベルト大統領にとってはありがたかったのですが」

 

「いまは歴史の講釈などは聞きたくないね」

 

ハドソンはにべなく言った。

 

「いったい、キミはなにを言いたいのかね?」

 

「わたしが言いたいのは、日本人はもちろん、艦娘たちも独特の思考回路をもっており、

我々はしばしば読み誤るということです。仮に悪い方に読み取った場合に備えて……つまり、ファイル・セーフの思想にのっとり、保険をかけておくことが妥当ではないでしょうか?」

 

「その保険が、対日作戦計画と言うのかね?」

 

ハドソンは素っ気なく言った。

 

「いや、わたしは日本と戦争するつもりはない。いまは互いに協力して連邦国と深海棲艦たちを倒さねばならないのだ。むろん日本だけでなく、何処の国とでもだ。

対日作戦計画を立てるのは制式的に却下する。国防総省としてもそう承知しておいてくれたまえ」

 

「……分かりました」

 

ケリーはそう答えたが舌打ちと共に、肚のうちは煮えくり返っていた。

 

我がアメリカは危機管理のできない大統領を抱いてしまった。

しかも前回の民主党政権時でも同じようにレームダックの大統領のときもそうだった。

アメリカの危険管理ができないほど素人同然だった。

 

今度もまたアメリカの危機だ。

 

しかし、大統領は突然死ぬこともあり得る。

あとを継ぐはずのコンドン副大統領は、これまたでくのぼうで閣僚たちの言いなりの人物である。

ケリーは腹心の部下たちを集め、秘かに対日計画、コードネーム《チェリー・プラン》を立てておく決心を新たにした。




いよいよアメリカの動きが、きな臭いところで終了であります。
これだけの超兵器と共に、各鎮守府を監視している国ですから。
そしてこの先、ケリーたちが立てようとする対日計画こと《チェリー・プラン》の作戦はどうなるかは、しばしお待ちを。

では長話はさて置き、次回予告であります。
アメリカ視点から、再び日本視点に戻ります。
アメリカからの情報を得た日本は再びZ機部隊を出撃、連邦ミサイル基地を空爆するために任務を行ないます。果たしてどういう結果になるかは次回のお楽しみに。

それでは第四十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第四十一話:敵ミサイル基地を壊滅せよ!

С Новым годом!(あけましておめでとうございます)。
昨年同様、今年も新年早々ですが、最新話を投稿することにしました。
第二章はやや早かったり、遅い投稿になりますが、今年もよろしくお願いします。

では新年の挨拶がは終わりますが、前回予告した通り、連邦を空爆しにZ機部隊が出撃します。
なお今回はZ機もまた格段と性能が上がっていますので、お楽しみを。

それでは、本編であります。

どうぞ!


アメリカ太平洋軍司令部を通じて、連邦・通化基地に配備されているミサイルが再び臨戦態勢にあることを知らされた幕僚監部では、十勝基地のZ機部隊司令官の栗田空将に再出撃命令を出した。

目標はむろん《東風15号》ミサイル、それを模倣した戦術ミサイル《鬼角弾》を配置した通化基地である。

これのみならず、今後連邦が実行する沖縄攻略作戦(連邦名:征琉作戦)の際に、敵合同部隊が使用すると思われる福建省に配備されている戦術ミサイルも叩くよう命じた。

 

これらはおそらく六大都市を射程距離に入れている。

しかし、これら街の住民全員を避難させる余裕もなく、また手段もない。

攻撃は最大の防御という論理がここで成功する。

瀋陽周辺の基地(軍事機関・軍事学校・各軍事基地)を空爆するのは、物のついでと言うわけでもないが、禍根は早めに絶って置いたほうがいいと判断されたからだ。

 

栗田はその命令を受けて、部隊を100機ずつ分けた。

200機のZ機はいつでも全機出撃できるよう、航空燃料も満タンであり、必要とするならばチベットまで飛行可能である。

マツダ少佐率いるアルファ部隊の100機は、通化基地および瀋陽周辺に点在する第一師団と第二砲兵基地を徹底的に叩く。

本郷大佐率いるベータ部隊の100機は、福建省沿岸に向かい、第二砲兵基地を徹底的に叩く。これらの基地がある衛星データはすでに得ている。

これらは運搬車両を利用した移動基地の可能性も高いが、Z機はルックダウン・レーダー(自機よりも低い高度を飛行している航空機を地上反射波と区別し識別する能力)を備えているので、高空からでもその所在を把握することができる。

 

第二砲兵部隊では、最重要師団とされている対台湾作戦用ミサイル部隊だからである。

ともあれ出撃準備は速急にととのい、全200機のZ機部隊は次々と飛び立った。

十勝上空でそれぞれ梯団を組むと、アルファ隊は日本海上空を南下、朝鮮半島上空をよぎり、連邦国・東北地方に向かった。

ベータ隊はるか太平洋をよぎり、南西諸島上空を通過し、連邦国・福建省沿岸に向かう。

いずれも高度1万2000メートルの成層圏を飛び、速力はマッハ1である。

Z機が刻々と近づく一方、連邦沿岸早期警戒レーダー部隊は、この幻の重爆に対する警戒は怠らなかったが、おそらく無駄だと感じていた。

このまえの爆撃に懲りたのである。レーダーが利かないのであれば、視認するしかない。

あの時の連邦が不運だったのは、悪天候で、雲がかかっていたことだ。

そのため重爆の接近を視認できなかった。

司令員は、ともかく目視、つまり肉眼で接近を確認せよという命令を出した。

また焼け石に水と言う言葉のように、過去に日本軍が開発した《九〇式大聴音機》という珍兵器を配備した。

聴音機とは飛行する航空機の音を捉え、その位置や移動方向を割り出すものであるが、より探知精度の高いレーダーの実用化で姿を消した。しかし、電波探知機(レーダー)による捜索技術で欧米等から後れを取っていた日本では、太平洋戦争終戦間際まで使用され続けた。好条件下では、約10キロメートル先の目標を探知可能であった。

連邦幹部たちは急遽《九〇式大聴音機改》を開発・生産したが、この珍兵器は大気の状態に左右されやすいという問題もあり、特に悪天候では探知能力が大幅に下がりというが、深海棲艦の技術により多少は解決し、悪天候でもそれなりに活躍できるということである。なお”改”と付くのはこのためである。

しかし現場指揮官からは「本当に察知できるのか、どうか怪しい」と疑い、挙げ句は必要ないと多くの指揮官たちは反論したが……しかし連邦幹部たちは「忠誠心で補え」と無茶なことを言う始末である。

 

話しは戻る。

どちらかで発見さえすれば地対空ミサイルが発射でき、そして迎撃用戦闘機も発進できる。

もっとも、これらもまたあの重爆に対して有効ではないとはっきりしている。

この重爆部隊のなかには、凄まじい威力を持っているガンシップが存在し、その対空砲火はいかなる高速ミサイルや最新鋭戦闘機、また戦闘機が発射した空対空ミサイルをも粉砕せずともおかない。

 

このために前回連邦・深海棲艦の合同部隊ないし両艦隊は大きな損害を被ったのだ。

 

重爆の中にこの種のガンシップを持つことは英米はおろか、世界の空軍にもあり得ないことだった。

 

まさに未知の発想であり、コロンブスの卵的発想だった。

 

これでは護衛戦闘機をまったく必要としない。いってみれば自己完結した爆撃機だ。

 

その日、連邦にとっては幸運なことに、高気圧が全土をすっぽりと覆い、連邦・東北地方、福建省沿岸ともに上空は晴れていた。

 

そこに突然と鳴り響く轟音と伴い、おびただしい飛行機雲が現われた。

 

あの恐怖の重爆が襲い掛かってきたのだ。

この知らせを受けて、通化基地司令官はミサイルの発射を急がせたが、まだ1時間はかかる見通しだ。

各地の空軍基地の司令官は、最新鋭戦闘機の《クラーケン》《ヘルキャット》を発進させるかどうか迷った。

両機は300機を用意してあったのだが、消耗が続き、合わせて70機しかない。なおステルス機のJ-21と31も同じく、消耗が相次ぎ、平壌に配備されている無事なのを合せて前者は30機で、後者は20機しかない。

なおJ-31は征琉作戦に向けて、速急に生産している。

Su-27と30をライセンス生産したJ-10、11は合わせて200機あるが、稼働できる機体は少数しかおらず、もはや役立たずの機体が大半でもあった。

これもあの重爆に立ち向かえるかどうか不安で、あとはポンコツ同然の旧式戦闘機ばかりである。

Su-30は27の複座型で、性能はF-15には匹敵するが、F-3《心神》には劣る。

しかし、最新鋭機だけでなく、ステルス機を出したが、あの重爆を一機も撃墜できず、逆に多数が撃ち落された。

 

しかし、彼らも座して眺めているわけにはいかない。

瀋陽区の空軍基地、南京軍区の空軍基地から《クラーケン》《ヘルキャット》を中心に殲撃10、11(Su-27、30)や少数のJ-8、J-8Ⅱ、JH-7などの戦闘機が舞い上がった。

これらは、かつて中国軍が使用していたものを拝借したものである。

しかもほとんどが旧式機で、J-8はミグ21を、J-8ⅡはSu-15を模倣し、国産化したものである(ただし、J-8Ⅱの性能はF-4《ファントムⅡ》を参考にしているが)。

速力だけはマッハ2をクリアしているが、レーダーはじめ電子兵装は弱い。

それぞれ空対空ミサイルと23ミリ機関砲を装備しているが、肝心の照準システムに難があり、これらのなかで最も脅威となるのはやはり《クラーケン》と《ヘルキャット》である。

これら60機が中核となり、敵機に対して急上昇した。

現代の戦闘機は高度1万メートル前後で戦えるようにつくられている。

しかし、それ以上に上がると空気が極端に薄くなり、アフターバーナーの出力が低下し、終いにはジェットエンジンが利かなくなってしまうからだ。

 

だが、日本軍の謎の重爆はいかなる技術を使っているのか、それをクリアしているようなのだ。

 

ともかく戦闘機群は息を切らしながら、それぞれの目標に向かって上昇した。

高度1万キロメートルで、PL-12ミサイルを発射した。

それぞれ100機を超える迎撃部隊だから、200発をも超える空対空ミサイルが日本重爆に向かって、白い炎を引きながら上昇した。

 

それらが日本機まで5キロメートルの距離に達したとき、重爆の梯団の前面下方に占位した機体が3機ほどせり出してくると、その機体下部からめくる炎が出現した。

おびただしいバルカン砲が火を吐くのがそう見えたのである。

これら自動管制バルカン砲はレーダーと連動しているのでことは明らかである。

マッハ2以上の高速で飛翔する空対空ミサイルを確実にとらえ、その弾幕を押し包んだ。

たちまち全てのPL-12空対空ミサイルが撃墜され、敵機は何ごともなかったかのように飛び続けた。

 

《クラーケン》《ヘルキャット》のパイロットたちは、連邦空軍最強、世界最強の空軍という面目を掛けて、さらに上昇し、機関砲弾を浴びせようとしたが、またあの恐るべき砲火が襲ってきて、全機その弾幕に包まれた。

脱出しようとしたが、コックピットごと撃たれてガラスは鮮血ごと染まり、そして原型を留めないほど、ズタズタにされて紅い火の玉とかして墜落した。

ここに連邦の誇りと言われた《クラーケン》《ヘルキャット》は30機に減ってしまった。

両機と共に迎撃に上がっていたJ-11、10に続き、J-8、J-8Ⅱ、JH-7などの戦闘機も新しく生まれ変わった掃射機こと《Z掃射機改》に敵うはずもなく撃墜された。

前回は猛威を振るっていたが、後日に灰田は全掃射機に搭載している20mmバルカン砲をさらに改良し、毎分1000発から、毎分2500発に改良した。これはAC-130搭載型の20mmバルカン砲並みである。

射程距離も大幅に伸びており、より早く敵機や敵ミサイルの両方を迎撃するから堪らない。

 

「侵略者どもの重爆が来る前に急げ!」

 

彼らが全機撃墜したさなか、通化基地では必死の発射作業が続いていた。

その必死に作業中を行なっている兵士たちの顔、慌てている様子が高高度からも分かるように灰田が送り込んだ未来資材・技術で造られた深夜の豪雨でも使える《新型高性能自動全天候標準機》が目標を捕らえており、これを確認するとZ機は爆撃航路に入り、爆弾倉を開き、搭載している新型爆弾を投下し始めた。

不運にも、いきなり作業中に空襲警報が鳴り響き、ほんの10秒もなったと思った途端に、上空からとてつもない量の爆弾が落ちてきた。サイズからいうと1トン爆弾だが、炸薬が特殊なものらしく、その威力は凄まじい。

普通の1トン爆弾では、ありえないほど大穴があいた。

むろん、ミサイル発射台や運搬車両などは一発で粉砕されてしまう。

しかも、高度1万2000キロメートルという高高度というからの爆撃にもかかわらず、照準が正確無比だった。

これらは弾頭に赤外線シーカーを備え、短時間でしか起動しないが、推進ロケットを尾部にもつ精密誘導爆弾(スマート・ボム)、いわゆるレーザー誘導爆弾である。

元々《新型高性能自動全天候標準機》に搭載されているレーザー照準で狙いは正確だが、それがさらに落下につれてシーカーで誘導される。これでは目標を外しようがない。

灰田は「深夜の豪雨の中でも爆撃目標に居る相手の顔も明るく見える」と平然と言った。

シミュレーションでも灰田の言う通り、この標準機の実力が証明された。

そのおかげでZ機はさらに能力を上げ、従来よりもまた高性能になり、そして全天候ステルス爆撃機へと進化したという事である。

 

そうとも知らず懸命にミサイルを発射しようとした連邦軍は哀れだった。

連邦の《東風21号》ミサイルないし鬼角弾の発射台は、次々と無残にも破壊された。

Z機が投下した航空爆弾は総数1000発にのぼり、今回は完膚なきまでに通化基地と、その周辺基地は空爆を受けて、見るも無残に破壊された。

 

同じく、福建省沿岸でも悲惨な事態が起きていた。

 

福建省沿岸に展開する台湾作戦用に配備していた戦術ミサイル《東風15号》《鬼角弾》は両方合わせて700基近くもあり、その半数もやはり移動基地である。

第二砲兵司令部では、それらの移動基地を福建省北部、浙江省との省境まで移動させていたのだ。

そこからならば沖縄から届くのである。

しかし、そこに災厄が襲い掛かって来た。《九〇式大聴音機改》は飛行する航空機の音を捉え、沿岸監視部は肉眼でおびただしい飛行機雲が向かっているのを確認した。……レーダーは例の通り、まったく役に立たなかった。

慌てて空襲警報を鳴らし、これを受けて移動基地の運搬車両部隊は急いで内陸部に逃げ込もうとしていた。

 

しかし最高速度を誇っても、マッハ1をも超えるスピードで飛んでくるジェット爆撃機から逃れるはずもない。

 

Z機の爆弾倉が開き、搭載していた1トン爆弾を投下した。

投下された1トン爆弾は、たちまち嵐のごとく襲い掛かり、しかも正確無比な爆撃のため、移動しつつある目標ですら逃げ切ることはできなかった。

 

この方面にも1000発以上の1トン爆弾が投下されて、運搬車輛ごと粉砕した。

ミサイルに積まれていた燃料が引火し、爆発した。大量にあるために連鎖反応を起こした。

そして、炎の連鎖が数キロメートルに渡って生じた。

ミサイル本体も爆破するものもあれば、最悪なことに爆風のショックにより、各車輛に搭載されていたミサイルが点火、それらが逃げ惑う兵士たちの頭上を通り抜けると、その先にある多くの村や町に襲い掛かり、あたり一面が修羅場と化し、降り注ぐ爆焔は人々を巻き込んだ。

人口過密な連邦は、もともと中国だったために起こった悲劇でもある。

住民がいない地域は非常に限られている。対策を怠った双方に原因でもあるが。

こうして《東風15号》《鬼角弾》ミサイル部隊の半数は壊滅状態に陥り、さらに台湾侵攻のための準備も潰えたと見える。

 

中国南部沿岸には、たくさんの台湾人が住んでいるので、この知らせはたちまち台湾中に伝わり、レン総統はにんまりとした。

 

連邦と深海棲艦たちが痛めつけられれば、台湾にとって有利である。

 

中国が滅ぶに伴い、ふたたび国民党が政権を取り返すことができ、独立しようとした矢先、連邦国が再び恫喝するのではないかと警戒したため、やむなく独立を中断した。

しかし、諦めたわけではない。本心は独立を望んでいた。

連邦は日本に戦争を仕掛けたが、そのついでに台湾に侵攻してくるかもしれないという予測もあった。

 

しかしレン総統は、さすが連邦国と深海棲艦といえども空海軍によるに正面作戦は無理だろうと踏んでいた。

 

陸軍はたしかに約200万人の大軍を擁しているが、輸送能力が失われれば宝の持ち腐れである。

 

レン総統は、いまこそ独立を宣言できるチャンスだと胸のうちに答えた。

 

しかし、連邦国と深海棲艦たちはこれから沖縄侵攻を行なうだろう。

その時の敗北を待ってからでも遅くはないと考えていた。

レン総統はすでに連邦の敗北と伴い、仲間割れが起きるのではないかと予測していたのである。

 

今の日本はなにか、神に等しいものたちに守られているとしか思えなかった。

ただですら、その軍事力はミサイル部隊をのぞき、建国したばかりであり、先進国の皮を被った発展途上国にある連邦がかなうはずもない。

以前撤退時に供与された最新鋭イージス艦一隻があるため、これより台湾海軍の戦力は飛躍的に向上する。

それまで秘かに日本を支援するつもりだった。




去年ですがとある同志たちのおかげで、このオリジナルでもある灰田さんが急遽開発し、生産した《新型高性能自動全天候標準機》により、深夜の豪雨でも容易に空爆することが可能になりました。
豪雨のなかの空爆ミッションは、後ほど実行したいと思いますのでしばしお待ちを。
また掃射機の毎分発射速度が遅かったので、近代化改装して毎分2500発になりました。
また爆弾はJDAMのようだと思います、漫画版でも外観は似ていましたので。

連邦の新兵器《九〇式大聴音機改》は、苦し紛れの制式採用兵器なのですが、レーダーよりもこれと目視が役に立っています。
なお珍兵器は千年帝国の《トリ》《ドグウ》《カメ》《ウチュウジン》《G・ロドリゲス》で充分であります。あとWA大戦略の《キョウリュウ》《機械化兵》《ハウニブ》も同じく。
しかも自分たちの配備した兵器が、自国を襲うという悲惨もありますが……原作の小説では描かれていませんが、漫画版では爆撃のショックにより配備したミサイルが自国に襲い掛かっていましたのでこちらを採用しました。

神通(晴れ着姿)「提督、そろそろ次回予告を…」

新年から忘れてはいけませんね、ではZ機の空爆により、連邦幹部たちは重苦しい会議の最中にて、彼らたちはこの秘密を知るために、とある『いい考え』を提案し、それを実行しようとします。その作戦とはいったい何なのかは、次回のお楽しみを。

それでは第四十二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通(晴れ着姿)「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。それでは皆さんとお客さんたちと一緒にお正月を過ごし、おせち料理を食べましょう」

ではそれも楽しみつつ、のんびり過ごしますか(使命感)


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第四十二話:危険な賭け

お待たせしました。
今回は新たに近代化改装されたZ機の空爆により、またしても重苦しい連邦会議の始まりであります。
前回予告したようにとある『いい考え』を提案し、それを実行しようとします。
その作戦とはいったい、何かは本編を読んでのお楽しみであります。

それでは気を取り直して、本編であります。

どうぞ!


中南海の湯浅の主席邸宅では、重苦しいムードが漂っていた。

たったいま、通化基地とその周辺のミサイル基地、また福建省の《東風15号》ないし《鬼角弾》の両移動基地までも、ほぼ完膚なきまで破壊されたという最悪の報告が届いたばかりである。

これを平然とやってのけるのは、むろん日本の謎のステルス重爆だ。

空軍は必死になって反撃したが、しかし結局のところは無駄骨に終わり、空爆を阻止することはできず、かえって最新鋭機である《クラーケン》《ヘルキャット》と虎の子のJ-21、31に続き、Mig-19、21などと言った使い捨ての旧式戦闘機などを失うと言う惨憺たる結果となった。

なお、彼らはZ機が近代改装(未来改装)されていることは全く知らない。

 

「……ふむ。やはり駄目だったか。わたしはそうではないかと予感はしていたが」

 

湯浅は呟いた。

その言葉はある意味、忠秀の当てつけでもあったといった方が良い。

前回の十勝へのミサイル攻撃が全く効かなかったこと、無駄に終わったことから、六大都市への攻撃も同じ結果になるのではないかと危惧していたのだが、忠秀が強硬に作戦を推進したのである。

 

「このままでは、洛陽の第四師団まで失いかねないぞ。そうなると我が連邦共和国の米帝に対する切り札が無くなるぞ」

 

第四師団とはICBMを持つ部隊である。

その主力は1万3000キロメートルの東風5号であり、ほかには改良して1万2000キロメートルの東風41号に、8000キロメートルの東風31号を持っている。

東風5号はアメリカの西海岸まで届き、41号は現在、復興作業中のハワイやグアム・サイパンまで届く。

これらまでも破壊されれば、米本土に攻撃する術を失うだけでなく、連邦にとっての抑止力も失ってしまう。

 

「……いいえ、それはないと本職は思います」

 

第二砲兵司令員のセイシェンが言った。

 

「いまのところ日本軍は、自国に影響のない無駄な攻撃は控えておりますので、戦略ミサイルまで破壊する意思はないかと考えます」

 

「うむ。それなら良いが……」

 

湯浅は呟いた。

この切り札を失った時点で、連邦の敗北は決定的となる。

敗戦になったら連邦共和国は、ドイツ第3帝国や大日本帝国のような結末になりかねない。

ただ中岡たちはそうなる前に脱出計画、つまり某国に亡命するとの計画を立てているとも噂もある。

むろん有能な部下や幹部クラス、中岡派の深海棲艦に限られ、残りの国民は見捨てるが。

 

「それで、このような事態となっても征球作戦を実行するのかね?」

 

秀忠に尋ねると、軍事委員会副主席は頷いた。

 

「むろんだ。ミサイル基地を叩いて、日本はひとまず安心してほっとしているところだろう。そこに奇襲をかける」

 

「うむ。君の考えるとおり奇襲となればいいが、しかし日本はアメリカから衛星情報をもらっているのだぞ。

我が国が空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》を運用し始めたことなど、とっくに掴んでいるだろう」

 

「それが、これはアメリカのCIA(アメリカ中央情報部)に近い我々の情報筋なのからの報告ですが、アメリカ国防総省はミサイルに関しての情報以外は、日本に伝えない方針に切り替えたようなのです」

 

コウ政治部主任がいった。

 

「どうやら日本があまりに軍事的に強大過ぎたので警戒していると思われます」

 

「ふむ」

 

湯浅は顎を撫でた。

 

「それはあり得るな。あの大統領は小心者で有名だからな」

 

「いえ、大統領の意志ではなく、国防総省の意向のようですな」

 

「とすると、ケリー国務長官だな」

 

湯浅は顔を渋った。

 

「あの男は、何度も情報部から聞いたが食えない男であり、第一にアメリカの国益を考える男だ。あの男なら、大統領抜きに対日政策を変換してでも不思議ではないな……

ところで征球作戦の詳細は整ったのかね?」

 

「はあ、おおむね整いました。作戦発起は3月1日として、X日、つまり沖縄への上陸は7日に予定しております。この日は大潮で、満潮時には揚陸艦や揚陸艇が接近しやすくなりますので。

東風15号と鬼角弾は使えなくなりましたが、その代わりに我が爆撃機全機を繰り出して絨毯爆撃を行ない、そののちに空母戦闘群と人造棲艦《ギガントス》によって、日本の予知しない地点から空爆および艦砲射撃を行ない、敵を攪乱します。

さらに我が軍と深海棲艦による艦砲射撃、ミサイル攻撃を行なったあと、揚陸という段階ですが」

 

連邦には中国が残した旧ソ連製の双発戦略爆撃機Tu-16を、ツポレフ16を国産化した大型戦略爆撃機《轟炸6型》を120機保有している。

この機体は航空爆弾を9トンが搭載可能であり、戦術核爆弾はもちろん、翼下にはDH-10巡航ミサイルも積める。

改良されて、いまは従来のエンジンから、双発ターボファン・エンジンに切り替えており、さらに速力はマッハ1である。これが全機繰り出せば、確かに日本軍にとって最大の脅威となる。

ただし問題はこれを護衛する戦闘機で、《クラーケン》《ヘルキャット》はZ機の空爆により生産が追い付かず、ステルス戦闘機のJ-21、31も消えようとしている今は……遥かに劣る二線級の戦闘機を使わなければならず、とても空自のF-15やF-3もだが、米軍を始めとする多国籍戦闘機群に太刀打ちできない。

 

しかし、ヨウ総参謀長は天安部隊と人造棲艦《ギガントス》に、双方の活躍に期待を賭けていた。

前者はJ-31とSu-33を両機合わせて31機搭載しており、後者は深海棲艦よりも強力でなおかつ忠実な存在ともいえるからだ。

 

「君の言うことを聞いていると、まるで演習のように聞こえるな」

 

またしても湯浅が皮肉ったとき、会議室のドアが開いて、衛星監視処司令員のチンカイ少将が姿を現した。

写真を入れている模様の大型封筒を携えているが、彼の顔は真っ青だった。

 

「チン少将、どうかしたのかね?」

 

秀忠が尋ねる。

 

「はあ、急遽ご報告したい事態がありまして、じつは我々としては大失態なのですが……」

 

「なんだい。言ってみろ」

 

「じつは我が監視処の担当員がミスを犯したのであります。日本の相模湾で訓練している空母および新型の艦娘を発見したのですが……アメリカの空母と勘違いし、ようやくそうでないと気付き、本職に報告したいのでありますが……」

 

チンの顔色が悪いのも無理はない。

一党独裁国家である中国、北朝鮮、軍事国家でもある韓国に、そしてかの有名なカルタゴ(現在のチュニジア共和国の首都チュニスに程近い湖であるチュニス湖東岸にあった古代都市国家)の全てを足して割った独裁国家であり、悪夢の国家でもある連邦国は、しごく簡単に粛清が行なわれている。

どちらもまた伝統的に人命を軽視し、手柄を上げた有能者でも危険人物として粛清する。

それでも毛沢東の名高い長征・大躍進政策、また文革を通して7000万人の自国民を平然と殺したことに関しては敵わない。なにしろ連邦国もまた、汚職だけで死刑になる国である。

重大な軍事的ミスを犯せば……死刑は免れない。

 

「衛星監視が発見した艦娘はどうでも良いが、空母に関しては、アメリカのものではないというものだな。それではどこの国なのだ?」

 

忠秀は尋ねた。

 

「これをご覧ください」

 

チン少将は封筒の入った数枚の写真をテーブルの上に広げた。

 

軍事委員会の幹部たちはそれを覗き込んだ。

確かに空母と、あの忌々しい艦娘たちの写真だ。

まず空母は港に横付けになっているもの。外海を航行しているもの。艦載機を発進しているもあれば、艦娘は見たことのない艦娘たちとともに、空母同様の訓練を行なっているもの。これらもまた発着艦している訓練をしている場面などだ。

 

「なんだ、これは?」

 

ロウハン海軍司令員が声を荒げた。

 

「これは我が連邦の最新鋭空母《天安》と、瓜二つではないか!?

それにこの艦娘は、我々が提督時代に存在しなかった特型戦艦とは違う、あの役立たずの赤城たちと同じ空母級、いやかつてのアメリカ海軍の空母、レキシトン級だ!」

 

全員が頷いた。

 

「確かにその通りではありますが、いくつかの違う点があります」

 

チン少将は答えた。

 

「まず艦載機ですが、我が連邦のJ-31ではなく、かつて米海軍が制式採用した長距離艦隊防空戦闘機のF-14《トムキャット》と、現代の主力艦載機F/A-18E《スーパーホーネット》が搭載されております。そのほかEA-6電子戦機《プラウラー》に、E-2D早期警戒機の姿が見られます。

また、この埠頭は日本の横須賀基地にあるかつて我が潜水艦隊と深海棲艦の合同艦隊により、壊滅した第七艦隊の空母が亡霊として現れたのかなと思いましたが……この空母は我が連邦の天安よりもひと回り大きく、満載排水量は6万トンを超えると思われます。

そして新型の艦娘、空母ですが、あの役立たずの空母水鬼たちから聞いたジェット艦載機だけでなく、四発爆撃機を搭載可能と見ます。

しかもロウハン海軍司令員の言う通り、この艦娘はレキシントン級と見えますが、本職の予感では、あの自称『紳士国』イギリスの考案した氷山空母《ハバクック》を模倣したのではないかと思われます」

 

氷山空母《ハバクック》とは、かつてイギリスが考案した計画のみに終わった兵器である。

この空母は全長約600メートル、全幅100メートル、満載排水量200万トンと巨大空母であり、さらに40基の4.5インチ動力対空砲などで武装し、150機の双発爆撃機や戦闘機を搭載する予定であったのだから驚きである。

もしこの氷山空母《ハバクック》が完成していたら、世界最大の空母となっていただろう。

しかし開発に必要な資材と研究が困難に伴い、あらゆるコスト面を理由に計画は中止された。

 

「何ということだ。これほど重要な情報が1週間以上も棚ざらしになっていたというのか!?」

 

ロウハンは怒声を張り上げた。

 

「けしからん。その分析担当員を死刑にすべきだ!」

 

「まあ、待ちたまえ」

 

湯浅主席は抑えた口調で答えた。

 

「そんなことよりも、なぜ日本にこんな空母と、奇想天外な艦娘たちが出没したか考えるのが先だ」

 

「日本はまたしても例の魔法を使ったのでしょうか?」

 

ヨウ総参謀長が忌々しげに言った。

 

「ステルス重爆などを出現させた同じ手口です。現代人を超えた何者かが、日本と艦娘たちを手助けしているのです」

 

「うむ」

 

湯浅は唸った。

 

「しかし、そいつはいったい全体、何者なのだ……?」

 

「それを知るには、馬鹿な日本政府の要人か提督のどちらかをひとり捕虜にしてきて尋問するしかありませんが、それはちと難しいと思われますが……」

 

コウ政治部主任が言った。

 

「待て、我々には偉大なる中岡大統領閣下が創設した拉致専門部隊がいるではないか」

 

チンへイトク南京区司令員が言った。

 

「かつて偉大なる北朝鮮の指導者たちは、1970年代に日本をはじめとする各国の人間を、何十人も拉致した。

我が子同然ともいえる特殊工作員たちを出動させたらどうでしょう?」

 

湯浅はニッコリとした。

 

「確かに北朝鮮の工作部隊を模倣し、偉大なる中岡大統領閣下様が直々にお認めになったのだから間違いない。

ただし一般人ではなく、政治高官などではないぞ。

それに今は平和ボケの日本と違って厳戒しているから、我が子ともいえる特殊工作員たちが日本に潜り込むこと自体が難しい。ましてや高官か提督に近づくことなど不可能だろう」

 

「しかしその作戦はやらせるべきです。ダメで元々です。大胆な作戦ほど成功するという軍事的セオリーもあります。ことによると成功するかもしれません」

 

「うむ。それでは大統領閣下様に直々お頼みしよう」

 

湯浅は唸った。

 

「君の言う通り、ダメもとで試してみようではないか。それよりも日本に空母と新型艦娘がいるとなると、征球作戦は根本から練り直さなければならないだろう。

まずそちらを優先にする」

 

「分かりました」

 

「それからその報告を怠った分析担当員のことだが、処罰することには及ばない。日本が空母と新型艦娘を持っているなど信じる方が無理だからな」

 

湯浅は念を押した。彼は人が無意味に死ぬのを好まない人間だったのである。




某コンボイのように失敗しかしないような作戦と、もはや失敗フラグを立てているようでもあります。
もはや連邦国事態が自分の首を自分で締めているような気もしますが。
連邦国も戦略爆撃機はありますが、もはや旧式爆撃機なので空爆自体も怪しいですが。

長話はさて置き、次回も連邦視点であります。
またしてもはお久しぶりと言ってもいいでしょうか、あの悪党大統領が現われます。
また戦艦水鬼さんも現れますので彼女の内心に、彼女の苦労も分かりますので、こちらも注目するといいかもしれません。
そして連邦国の特殊工作員の実態も少しですが、分かりますのでお楽しみを。

それでは第四十三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。


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第四十三話:戦艦水鬼の苦悩

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)
予告どおり今回もまた連邦視点からであり、久々のあの悪党大統領と戦艦水鬼さんのご登場であります。
そして連邦国の誇る(?)特殊工作員の実態も少しですが、明らかになります。

それでは、本編であります。

どうぞ!


朝鮮半島のど真ん中にある板門店の連邦共和国臨時政府では、湯浅軍事委員会たち同様に、臨時会議が開かれていた。湯浅たちの要請を受けて召集したのである。

その顔ぶれは中岡大統領、国防委員会ナンバー2のチェソンタク次長、人民武力部アンミョンペク総参謀長、そのほかの幹部たち。

深海側は、戦艦水鬼、空母水鬼、軽巡棲姫、駆逐棲鬼と水鬼派の深海・連邦合同軍部たちも出席していた。

 

「北京にいる我が同胞である軍事委員会メンバーたちからの伝言だ。対日作戦《征球作戦》を、つまり沖縄侵攻作戦を3月1日に発起すると言ってきた」

 

中岡はメガネを光らせながら、全員の顔を見回しつつ言った。

 

「ついては我が精鋭部隊にも陽動作戦を起こし、側面支援をしてもらいたいとのことだ。

駄目な部下たちは優秀な俺様を頼りにしてきたということだ。やはり理想の皇帝とも言えるな俺様は、ブハハハハハハ!」

 

中岡派の者たちは拍手喝采と共に、満足な笑みを浮かべたが、戦艦水鬼と彼女派の軍部たちは「馬鹿かコイツ」と言わんばかりの内心を呟き、気のない拍手を送った。

 

「ともあれ具体的に言えば、海空軍で対馬を叩き、九州北部を脅かすと言うことである。

上手くいけば、我が楽園が増えるということだ」

 

中岡は自国を呼ぶときは、情報不足のときだった時の北朝鮮に言われた別称を、未だに『楽園』と呼称している。

前回も期したように、地上の楽園ではなく、地上の地獄と呼称したほうが正しい。

 

「戦艦水鬼、ここはお前の部下たちに頑張ってもらう必要がある。お前と我が精鋭部隊が優秀であるから、侵略軍の一員である自衛隊と多国籍海空軍、艦娘どもと対等に戦えるだろう」

 

その言葉には、一抹の皮肉をこもったのは否めない。

南北から調達(鹵獲)した近代化兵器もあるが、消耗はできるだけ深海棲艦に負担させる。

掩護はするが、中岡たちにとっては来るべき日に備えているのであろう。

戦艦水鬼はついに来たかと感じた。

彼女の本心は、もうここで戦いを止めて日本と停戦講和を結びたいというのが本心である。

これ以上、同胞を死なせたくない。自分たちよりも強い日本や艦娘たちとの戦い続けるのは無意味だと思わんばかりのことであって、日本と艦娘たちとことを構えるべきではない。

しかし、中岡は最初からそのつもりでいる。だが、戦艦水鬼から中岡派に寝返った同胞たちもいる。実権を握られている以上、中岡に従うしかない。

 

連邦海軍の、元は韓国海軍の艦艇は近代化されている。

イージス艦《セジョンデワン級》は先の戦いで全滅したものの、日本のミサイル護衛艦と互角に戦えるミサイル駆逐艦《クァンゲト・デワン級》の後継艦《チュンムゴンイスンシン級》を3隻持っている。

なお韓国は、アメリカ合衆国、日本、スペイン、ノルウェーに次いで世界で5番目のイージス艦保有国であるが、しかし性能はポンコツ同然である。

航行時にイージスシステムが異常を生じ、火災が発生したりなどを数多くの故障を起こしたぐらいである。

また最新鋭の防空駆逐艦インチョン級《カンウォン》《チュンブク》《クァンジュ》を3隻就役させた。同型艦の3隻もいたが、これもまた深海棲艦に侵攻時に轟沈させられた。

この艦はイージス艦に近い能力を持っており、日本のDDクラスとは対等に戦えるだろう。

ほかにハープーン・ミサイル搭載のフリゲート、コルベットなど大小合わせて約190隻の艦艇を保有しているから、数は海自よりも多い。ともあれポンコツが多いのは仕方ないが。

通常動力型潜水艦チャン・ポゴ級を9隻持っている。

これは韓国海軍が手にする初の本格的な潜水艦であり、ドイツHDW社の輸出用潜水艦である209型潜水艦を元にして造られている。

水中排水量は1285トンと、日本のおやしお型潜水艦の半分だが、水中速力は22ノットと僅かに速い。

魚雷発射管は8本を持つが、ハープーン・ミサイルは搭載していない。

かつて韓国はドイツで開発されたAIP型潜水艦を導入しようとしたこともある。AIPというのは無吸気推進のことで、燃料電池よりも推進するので空気を取り入れる必要はなく、長時間潜航できる。

ただし何度も言うが当初は日本の脅威となったが、数多くの開発の失敗に伴い、深海棲艦の侵攻により失われた。

 

連邦海軍は韓国海軍が残してくれた最新鋭艦艇ならば勝てると豪語しているが……

やはりイージス艦、ズムウォルト級、ミサイル護衛艦、DDクラスを多数保有している日本の海自に、少数の多国籍海軍、そして彼らが嫌いな艦娘たちのほうが実戦は優勢である。

また優秀な潜水艦部隊、空軍の支援も受けられるからである。

南北から調達したこちらの空軍は主力戦闘機F-16C/Dは双方合わせて180機、戦闘爆撃機タイプに改良されたF-15Kは30機を保有している。

なお中国から調達(鹵獲)したステルス戦闘機J-21およびJ-31もあるが、これは中岡の悪趣味な豪邸を防衛する防空戦闘機として使うため征球作戦に参加できない。

 

「それだけではない。俺様の忠実なる部下である湯浅主席、忠秀副主席の特使から特殊作戦の要請が来た。

なんでも日本は例の重爆などだけでなく、空母に、またしても新型艦娘らを持つに至ったと言う。これらの新型兵器がどこからどうチョッパリどもの手に渡ったかは、誰にもわからない」

 

チョッパリと言うのは「豚の足」を指していて、要するに下駄や足袋を履く日本人を豚になぞらえるようとする表現であり、朝鮮語における差別用語のひとつで、日本人に対する侮蔑表現である。

 

「しかし、現実に軍国主義を復活させようと日本は手にしている。

謎の重爆のために我が連邦のミサイル基地、海空軍基地は散々な目に遭わされている。

しかし我が同胞たちはそれにもめげず限界を超えて、なおも日本を叩こうとしている。

俺様がいずれ世界皇帝になるための奉仕と、我が同胞や国民たちの闘志を見倣い、これを労わなければならないためにも答えなければならない」

 

中岡は次第に熱をおびて、アジな口調となった。

戦艦水鬼たちは「脳筋なお前たちが無意味な精神論と根性論を押し付けているのだろう」や「いつかの時代遅れの老害たちと変わらないな」と呆れ果てていた。

 

「さて、特殊作戦だが、これらの謎を解くためには日本政府ないし軍部の高官のどちらかをひとり拉致せよとのいうものだ」

 

「高官ヲ拉致スルダト?」

 

普段から冷静な戦艦水鬼もさすがに声を張り上げた。

 

「ソンナコトガ出来ル筈ガナイ。第一、ドウヤッテ日本ニ潜入スルノダ?」

 

「潜入自体は我が地上の楽園ともいえる北朝鮮様と偉大なる北の将軍様一族が散々やったから大丈夫だろう。

日本なんて所詮は赤子を手でこねることが簡単にできるほど無防備国家なのだからな」

 

中岡はにやりとした。かつて北朝鮮は1970年から1980年代にかけて各国の拉致を行なった。金一族はいくつかの情報機関に競わせてやらせておいたのである。

 

「日本は、まさか我々が潜入するとは思うまい。その隙を衝くのだ。

日本沿岸部に接近するのは我が連邦海軍の潜水艦、ロメオ級潜水艦で十分だろう。

俺様は佐世保に狙いをつける。あそこは米帝侵略軍の一員である海自の基地があるからな。

特殊部隊員を潜水艦に乗せて沿岸に接近、ゴムボートで上陸させ、敵が気付かぬうちに司令部に侵入し、幹部を拉致し脱出する。むろん大胆な作戦、無謀な作戦であることは分かっている。しかし無謀な作戦だからこそ成功するものだ。人間には限界がないからこそできる。

日本は、まさか我々がもう一度日本に戻ってくるとは思ってもいないだろう。

いま潜入要員を保衛司令部に人選させているところだ。第八特殊軍団から選ばれることになるからだろうが。

しかも我が特殊軍団の多くは、我が息子たちともいえる同胞たちで集っている。

人間離れした能力で最強だ。飲まず食わずで、冬の山中を40キロの装備を背負って三日間も歩き抜く。また一人で日本人5人を相手にできる」

 

中岡の言う通り、男女合同の精鋭部隊である。

その多くは大学生や社会人、年配者もおり、ヤクザなど反社会組織の者たちを徴兵し、彼らを第八特殊軍団並みに育成している。それを模倣しているが、実際のところはゴロツキ集団とさほど変わりない。

子供の持つ独特な不安定な思春期と、ヤクザが得意とする暴力的な手段を両方合わせたのだから性質が悪い。

また実験として行われたが、彼らの手口はISILによる日本人拘束事件のように首を斬るのは当然で、銃やナイフだけでなく身近な道具を使い、被験者の頭を原型が留めることなくミンチ状態にしたなど残虐極まりないテロリスト集団と言ってもいい。当の本人たちは「正義の特殊部隊」だと本気で信じている。

余談だが深海棲艦相手でも勝てるのではないかと、鬼・姫・水鬼にも襲撃をしたが、言わずとも返り討ちになったのは言うまでもない。

 

話しは戻る。

これを聞いた戦艦水鬼は、なるほどねと答えるのが精いっぱいだった。

彼女としては、そう相槌するしか方法がなかったのだ。

 

「ともかくお前たちは以上の命令に乗っ取り、作戦を立てろ。

これは陽動作戦だからして、北九州に上陸すると思わせて、なるべく派手に騒ぎ立てるのが望ましい。いや、五島列島あたりを占領しても構わんぞ」

 

中岡はまたにやりとした。

 

「ともかく、貴様の艦隊と我が最強で精鋭艦隊ともいえる連邦艦隊の奮戦に期待しておる」

 

戦艦水鬼や彼女の同胞たちは、渋々と頷くしかなかった。

 

 

 

戦艦水鬼たちは自分たちの拠点に戻るとやむなく、軍幹部を召集、作戦会議を行なった。

なにしろ、時間がない。

彼女の同胞たちは突然降って湧いたようなこの作戦命令に驚いたが、しかしいずれにしろ連邦が支援を要請してくることは、予知していたはずだ。

情報によると、日本の空自は九州各基地にF-15主力戦闘機に、F-3ステルス戦闘機《心神》を双方合わせて100機、F-2支援戦闘機、また空自と米空軍をはじめとする多国籍軍のF/A-18《スーパーホーネット》を合わせて100機を集めている。

 

いっぽう南北連邦空軍の主力は、F-16主力戦闘機が180機で《クラーケン》《ヘルキャット》は生産が追い付かず発注中。発生型の《ヘルダイバー》《アヴェンジャー》も同じく発注中。

F-15Kは温存し、旧式の攻撃機に頼るしかない。

中岡が何気なくもらした、五島列島を攻撃するという選択肢は、空軍幕僚長は気に入った。

ここまで済州島(朝鮮半島の西南、日本海、東シナ海、黄海の間にある火山島)を基地とすればひとっ飛びである。揚陸艦すら実際に使えるかもしれない。

九州本土はともかく、長崎から離れた五島列島で、上陸作戦を行なうと見せかければ日本と艦娘たちも信じるかもしれない。

ここはまず空爆を集中。揚陸艦と港湾棲姫たちも準備させて……むろんダミーだが……艦隊の護衛のもとに出撃する。当然、日本のF-15、F-3、F/A-18などを繰り出してきて苦戦は免れないだろう。

海戦に持ち込まれれば、苦戦は免れないだろう。また自分たちよりも強敵な艦娘たちにも勝てるかどうか分からない。

したがって適当なところまで戦い、タイミングを見計らい、損害が大きくならないうちに撤退する。

中岡の大統領府に連絡したところ、彼も承認した。後者に関しては全く知らないが。

 

問題は、同胞たちの支持をどう取り付けるかである。

連邦共和国が誕生したとき、同胞たちも熱狂したが、連邦国が対日戦争を始めるあたりに風向きが変わった。

もうここで停戦したい。もはや同胞たちも厭戦気分が芽生え始めたのである。

しかし止めようにも止められない状況、最悪な状況にまで陥ってしまった。

戦艦水鬼以下、中岡と言う人物の本質を甘く見過ぎていた。

中岡はブラック提督の支持を取り付けて連邦国の元首となった人物である。

かつての特亜、いわゆる先軍政治を復活させ、打ち出した。

そして多くの者たちは日本を膺懲どころか、挙げ句の果ては世界を滅ぼしたいほどの好戦的であり、ならず者たちの集まりとなってしまった。

敵である艦娘を打倒するどころか、世界を相手にすればもはや手におえられない。

彼らの作ったツケは自分たちには押し付けず、全て戦艦水鬼たちに押し付けた。

まるでブラック企業の幹部たちが、責任を全て部下たちに押し付けるように……

 

不本意ではあるが、深海・連邦軍は兵力の配置を始めた。

 

空軍基地はソウル南部にあるが、これを釜山周辺に移し、一部は済州島に持っていく。

海軍基地は東海に第三艦隊司令部。平澤に第二艦隊司令部。釜山に第四艦隊司令部がある。

かつて韓国が存在していた頃に、仮想敵国だった北朝鮮を抑えるため、平澤の強力だった第二艦隊を配備させていた。これを釜山と、一部は済州島に移す。

ほかの艦隊は釜山に集結させ、また揚陸艦と港湾棲姫たちも釜山に集結させる。

 

3月1日を期して作戦を始める。

最初は五島列島への空襲。また攻撃機で北九州諸都市も空爆する。

自衛隊・多国籍軍、艦娘たちに主目標がどこか分からないように思わせて、五島列島を目掛けて済州島から揚陸艦と港湾棲姫たちを出撃させる方針である。

 

 

 

いっぽう連邦軍部では、日本に空母と、ふたりの新型艦娘が出現したことにかんがみ、作戦変更を余儀なくされた。

 

まずは重爆ないし中爆両機合わせて120機により、南九州から奄美諸島にかけてまんべんなく空爆……簡単に言えば無差別爆撃を行なえということである。

そのあと空母戦闘群とふたりの人造棲艦《ギガントス》を寧波から出撃させ、鹿児島に向かうと見せかけながら途中で変針し、沖縄に向かう。

これは深海棲艦と挟撃して北と南九州を攻略するのではないかと思わせるためである。

敵の攪乱を利用して、揚陸部隊を乗せた艦隊が福州から出撃、沖縄に向かう。

問題は日本空母部隊とふたりの空母娘の動きで、これを沖縄よりできる限り遠ざけることもしておかなければならない。

したがって二線級の艦艇、使い捨て同然の深海棲艦で囮艦隊を編成、鹿児島湾に突入させることにした。敵は必ずこの餌に喰らい付くだろう。

その隙に味方空母部隊と人造棲艦《ギガントス》は沖縄上陸を支援する。

いったん橋頭堡を作ってしまえば、自衛隊・多国籍支援軍の両軍といえども、容易く奪還できないはずである。そして嘉手納基地を占領、味方機を進出させる。

 

これが征球作戦の第一段階であり、その後の展開は流動的にならざるを得ない。

アン総参謀長は、空母艦載機パイロットの訓練仕上がりと、そしてふたりの人造棲艦《ギガントス》の性能について不安はあったが、もはやそんなことは言っておられない。

空母艦長には最優秀の人間を当てており、ギガントスは最低限の命令は聞けるように改良している。とある命令も含まれているが。

日本も空母と新型空母娘を持ったからといえ、さしたる訓練期間がなかったはずだから、条件は同じである。まず対等に戦えるものと踏んでいた。

 

しかし何度も言うが日本の海自、元帥、秀真率いる提督たちには、帝国海軍機動部隊のDNAが潜んでいる。

元日本海軍だった中岡を始めとするブラック提督たちこと連邦海軍にもそのDNAはあったものの、日本を敵視し、そして、元帥、提督、艦娘たちに対する憎しみだけしかない者たちはすでに薄れており、とっくの昔に捨て去ったと言っても良い。これが大きな差になって響いてくる。

 

この重要なことを、アン総参謀長にはそこまでは思いが及ばなかった。




もはや全ての責任を戦艦水鬼さんに押し付けているのであります。
しかも第八特殊軍を模倣した工作部隊は、ろくでもない集団の集まりでもあります。
その特殊工作員たちには、のちほど、まだ先ですが元帥のあの部隊がお仕置きにし行きますので、しばしお待ちを。
すでにお察しの読者もいますが、あの人が用意した例の部隊でありますので、お楽しみを。

神通「提督、そろそろ次回予告を…」

では長話はさて置き、次回予告であります。
次回は戦艦水鬼さんが主役の話であり、彼女の前に、あの人が現われます。
一種の精神攻撃と言ってもいいでしょうかね。そして彼女と共に戦った先の大戦で活躍した人物も現れますので、それは誰なのかは、次回のお楽しみであります。

それでは第四十四話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。それでは間宮さんと伊良湖さんが用意してくれた七草粥を一緒に食べましょう」

無病息災を願って……

???「今日は厄日だわ!」

おや、某メイトリックス大佐とシンディがドライブしている人がいま通り越したような気が……気のせいかな?(もぐもぐ)


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第四十四話:戦艦水鬼、ミスター・グレイに会う

お待たせしました。
予告どおり今回もまた連邦視点からでありますが、今回は戦艦水鬼さんが主役の話しです。
ついに彼女の前にも、あの人と対面し、そして彼女にとって懐かしい人物との再会でもあります。それは誰なのかは本編を見ての、お楽しみであります。

長話はさて置き、それでは本編であります。

どうぞ!


戦艦水鬼は深いため息をついた。

顔色が優れないのは、このところ脳筋ゴリラこと中岡や哀れな連邦幹部たちによる愚痴や、さらに裏切り者の同胞たちなど数多くの不本意な報告が続いているからだ。

とくに謎のステルス重爆と言うものに空爆があった後日には、荒れるから困る。

連邦軍の、むろん自分に好意を持つ者から聞いたが、火病と言う名の精神疾患だと聞いた。

しかもこの病気は朝鮮人特有の病気であり、アメリカの医学でも存在する病気だと言う。

すぐにキレるか、または子供のように駄々をこねるようだから尚更困るものである。

それゆえに胃薬や栄養ドリンクが手放せない状態になり、そして仮眠が必要な日々が続く。

しかし同胞たちと、いや、それでも人間と艦娘たちと同じく彼女も食事をしなければならないが、食事も摂れる日と摂れない日も続いた。

 

しかし、今日は運よく食事が摂れた。

因みに本日の夕食は、ローストビーフとサラダ、スープ、ライス、苺のレアチーズケーキという豪華なものだった。大好物のものばかりだったのにも関わらず、ほとんど食べ物の味が分からなかった。

なお苺のレアチーズケーキに関しては、ひとつだけ残った瞬間、平和な戦い、穏やかな戦いともいえるジャンケン大会が繰り広げた。なお食堂にいた者たち全員参加である。

むろん勝ったのは戦艦水鬼だが、彼女は食べる気も失せたため、他の者にあげた。

 

「ホント、嫌ニナルワネ……」

 

青息吐息をしながら、戦艦水鬼は私室に上がった。

同胞たちはいるものの、基本的には一人暮らしをしているようなものである。

身の回りを世話するのは従兵の宮本伍長、連邦軍兵士であるが珍しく反戦思想を持ち、この戦争は続けても無意味だと言う心優しい伍長である。また彼も彼女の同胞たちに気に入られており、最近では誰かと付き合っているのではないかと言われているが本人は否定している。なお基本的に戦艦水鬼派、組織内の恋愛は認めている。

ある意味、敵である元帥たちのようにしているとは思うが、さほど気にせず、むしろ普通だと思えるようになってきた。ただし脳筋ゴリラこと中岡たちは艦娘同様に、男をたぶらかす売春婦であると、もはや女性を敵に回す失言を言ったが、抗議するほど暇はないので無視した。

あれこれ考えても仕方ないと戦艦水鬼は、まず時間をかけて、ゆっくりと温かいシャワーを浴びた。

寝不足のために身体中に汗と脂が浮いて、気持ち悪い。

指先から始め、烏の濡れ羽色のように黒く艷やかな黒髪ロングヘアーを靡かせるように、そして全身を隅々まで優しく撫でるように、身体を洗い流した。

 

気分をすっきりさせたあとは、バスローブをはおって出てくると、宮本が置いていったと思われる紅茶セットが、センターテーブルに置いてあった。

宮本伍長はよく気が利く。痒いところに手が届く理想的な従兵である。

戦艦水鬼は、鼻腔をくすぐる香りのよい淹れたての紅茶に、たっぷりのブランデーと少量の砂糖を入れて啜ったとき、それで人心地をついた。

 

しかし次の瞬間、冷水を浴びせられたかのように感じた。

広い寝室はむろん無人である。明かりはついているが、壁際がほの暗い。

その暗い壁際に、誰かが立っている。

 

「誰ダ!」

 

叫ぶなり身構えた。艤装は装備しておらず、将官のことだから拳銃は手元に置いていない。

この司令部に置けるセキュリティーは行き届いている。自分を襲おうと言うもの者がいるとは考えられない。

 

しかし、確かに誰かがそこにいた。黒いシルエットがゆっくりと明かりの下に進み出てきた。

 

グレイのスーツを着た男だった。同じ色のネクタイ、同じくグレイの靴と、グレイづくめの服装だ。

顔立ちは同じ日本人だが、そうでもないとも言え、どこか人種を超越したようにも見えた。

 

「何者ダ、貴様ハ!」

 

戦艦水鬼は呻いた。伍長を呼ぶベッドサイドの呼び鈴を押したいと思うが、身体が動かない。

壁には連邦艦から移したクロノメーターが掛かっている。その針もおかしなことに止まっているようなのである。

 

「突然のところすみません。私のことはミスター・グレイとでも呼んで貰いましょうか」

 

灰色服の男は綺麗な日本語でいうと、ゆっくりとベッドに腰掛けた。

 

「ではリラックスして、私の話しでも聞いてください。あなたは深海棲艦司令長官の戦艦水鬼ですな。

あの無能な連邦大統領と彼らの幹部たちよりも、今後の戦争の行方を左右する力がある。

あなた方は連邦軍とともに、沖縄侵攻作戦《征球作戦》を行なおうとしているわけですな。

しかし、それは必ずしも上手くいかないかもしれません。

日本は猛烈な反撃に出て、あなたがた深海棲艦と、連邦軍は思っても見なかった大損害を与えるかもしれません。いいえ、今でも大被害を被ってはいますが。しかし、この戦争においてもう悲劇は充分に起きました。

日本は、ここにきて大きな反撃力を手に入れたのです。実はいうと、それを与えたのはわたしですが……」

 

ミスター・グレイと名乗った男は、そこでニヤリとした。

さすがの戦艦水鬼でも、背筋が凍るような笑みであったのは言うまでもない。

 

「ここ数日、あなた方が痛い目に遭っているのはそのためなのです」

 

「貴方ガ日本ト艦娘タチヲ、両方ヲ助ケテイルノ?」

 

戦艦水鬼は喘いだ。

 

「はい、その通りです。そんなところを解釈してもらってよろしい。

それはともかく、わたしが日本と艦娘たちに肩入れする決心をしたのです。

なぜかと言えば、あなたがた深海棲艦はえげつなさ過ぎる戦争をしていると思うからです。しばらく高みの見物をさせて貰いましたが。

例えば無差別攻撃。あれはいけませんね。非戦闘員を一晩に何千、いや何万人とも殺すなんてもってのほかです。倫理もくそもあったものでもありません。つまり、あなた方は勝ち誇り過ぎている。

そもそも連邦国同様、決して負けることのない戦争に日本を引きずり込んだのです。

しかも戦後の日本人は徐々に愛国心は芽生えてきましたが、それでも不器用なのは仕方ないことです。

それを連邦同様に良いことにあなた方は利害が一致したことという単純な理由で、日本と平和を愛する元帥と提督たち、そして艦娘たちの心を踏みにじろうとしています。

しかも、それも完膚なきまでに叩こうとしています。鬼角弾という大量破壊兵器までも使いました。

幸いわたしが張り巡らせたバリアにより、阻止、失敗に終わりましたが。

そして秘かに人造棲艦までも製造したことなんて、非人道的以外なにものでもありません。

ただしあなた方は破棄するようにと連邦を恫喝したのは称賛いたしますが。

残念ながら残された二体の《ギガントス》は、次の作戦で使われるのはご存じないと思いますのでその事だけはお伝えいたします。

それでもひとつの不正だとわたしは考えるのです。だから歴史の流れを少し修正したと言うわけですな」

 

「コノ戦争ノ趨勢ヲ変エヨウト言ウノカ……?ソンナコトハ不可能ダ」

 

「歴史の流れと言うものは絶対不可能だと考えているとしたら、それは誤りです。

歴史と言うものは可能性に富んだもので、いくらでも変える事ができますし、しかも未来と言うものも同じく不確かなものでもあります。ただし変える力のある者にとってですが」

 

灰田は冷たい口調になった。

 

「だからわたしは警告しに来ました。無駄な抵抗をやめるようにと。もしあなた方が日本を壊滅し、さらに艦娘、提督たちに連邦同様に危害を加え続けることに拘るようならば……あなたがたにとって大きな悲劇が出現するだろう。悪いことは言いません。

今のうちに連邦軍と手を切り、あなた方は手を引いたほうが良いでしょう」

 

「ソレハデキナイ。コレハ戦争ナノヨ。ドチラカガ降伏スルマデヤメルコトナンテデキナイワ」

 

本当は講和を結びたいと言いたいが、見ず知らずの人物の前には本音は言えない。

 

「ふむ、たぶんそう言うとだろうと思いました。見知らぬ者だから耳を傾けることができないのなら、あなたに縁のある人物でもここに呼びましょう。

彼の言葉なら耳を傾けるのではないかと思い、お呼びしました。

……紹介しましょう、山本五十六連合艦隊司令長官です」

 

灰田が頷くと、壁際の闇に別の人物が現われた。

オリーブ色の軍服に身を固め、軍刀を腰に吊るした小柄だが、立派な体格をした軍人だった。軍服の襟には大将であることを示す三ツ桜星が光っている。

軍帽を被ったその顔は精悍で、ぎょろりとした大きな目、通った鼻筋、そして分厚い唇の人物だった。

 

「ヤ、山本長官ダトイウノ?」

 

戦艦水鬼は仰け反りそうになった。自分が見ているのはあの山本長官の亡霊なのか。

 

「その通りです。かつてあなたとともに戦った長官であります。しかしご安心ください。

彼は復讐するためにここに出てきたのではありません。日本の行き先を心配するあまり、あなたにひと言を言いたくてやって来たのですから」

 

「歯車は逆転した……その意味をよく考えたまえ」

 

山本の“ゴースト”は、戦艦水鬼に囁きかけた。

 

「キミは自分の正義があると思っているかもしれんが、そんなものはないのだ。

戦争ということについては、我々はみんな有罪だ。傲慢、人道への反逆と言う名の罪を。

わたしは死後の世界にいて、それを考えている。キミも考えた方が良い、さもないと取り返しのつかないことになるぞ」

 

戦艦水鬼は反芻する暇もなかった。次の瞬間、山本のゴーストはすうっと消え失せたからである。

 

「良いですか、わたしたちは警告しました」

 

灰田が言った。

 

「この世には、あなたたちの理解できない事柄があります。それに立ち向かおうとすれば、山本長官が言ったようにあなたたちは遠からず自滅するかもしれません……

そのことをよくお考えください」

 

次の瞬間、灰田の姿もかき消された。

 

戦艦水鬼は瞬いた。

束の間の夢から覚めた心地がした。それとも幻覚を見ていたのか。

しかし幻覚にしては鮮明過ぎる。確かにミスター・グレイと名乗る人物と、山本長官のゴーストを自身の目で見た……

 

しかし未だに彼らの言葉が、耳元に木霊していた。

壁のクロノメーターは、何事もなかったかのように滑らかに秒針を動かし始めている。

自分は疲れすぎていて神経疲労症にかかっているのかもしれない。

全てを忘れるためには酒を、バーボン・ウイスキーをストレートであおり、ベッドに潜り込む。

 

「アノ男ト、山本長官ガ言ッテイルコトガ本当ナラバ、次ノ作戦時、アノ作戦ガ失敗シタトキニハ同胞タチトトモニ、彼ラニ停戦講和ヲシナクテハ……」




ついに戦艦水鬼さんも、灰田さんとのご対面をしました。
お気づきになった読者もいますが、これは『超空の決戦』を元にしています。
超空の決戦(漫画版)を読みましたが、当時の灰田さん、今とは全然違いますね。
最初は主人公に会っても最後まで招待を明かさないし、口調は今とは全然違います。
今は紳士的ですが、超空の決戦ではなんと言いますか……
落ち着いた口調ではありますが、どこか悪達者なミスター・グレイでした。
それに握手したときも指が六本もあるような気がしたと、左文字尚吾二尉と清水三尉が述べていましたし、不思議ですね。

なお戦艦水鬼さんは艦これwikiにて長門説がありますが、しかしアイオア級戦艦《ニュージャージ》と英東洋艦隊旗艦だった戦艦《ウォースパイト》という仮説もありますが、一体彼女は何者なのでしょうね……
今回は長門説ということで、山本長官と縁があるという事でこちらを採用しました。
あとシャワーシーンは、気にしないでください。はい……

神通「そろそろ、次回予告を…」

長めになりましたが、次回は連邦から打って変わり、日本視点であります。
連邦・深海棲艦たちが沖縄侵攻作戦《征球作戦》を立てている最中、これを阻止するための防衛会議から始まります。
果たして秀真たちはどう立ち向かうのかは次回のお楽しみに。

それでは第四十五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。

神通「ダ、ダスビダーニャです…提督、お疲れ様です。良いお湯ですね」

温泉は良いですね……

???「イェイェーィ…… 女だ、悪かねぇぜ」

青葉「青葉、見ちゃいました!」

ちょっと、M202ロケットランチャーでお仕置きしてきます。
※説明書読んだから大丈夫です。

???「なっ、何だありゃぁ!? ……こっちを狙ってるぜ!」

青葉「ひえぇぇ……ワレアオバ、ワレアオバ!」

チュドーン!


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第四十五話:沖縄の危機

お待たせしました。
最初に訂正としてとある話で杉浦統幕長を一部ですが、”総”幕長と間違ていました。
むろん修正しましたが。

今回は予告どおり、連邦・深海棲艦による沖縄侵攻作戦《征球作戦》を阻止するための防衛会議を開始します。

あと今回は後書きにゲストキャラたちも出ますので、お楽しみを。

長話はさて置き、それでは本編であります。

どうぞ!


市谷台の幕僚監部では、首相・元帥の臨席を仰いで、防衛会議が開かれていた。

いつものように首相官邸地下でないのは、ここ自衛隊・日本海軍合同総司令部のほうが作戦面を具体的に立てやすいからだ。そのための施設が整っている。

つまり両軍のためのオペレーション・ルームがあり、首相官邸地下室のコマンド・ルームにも同じ情報が伝わるようになっている。

その広大なオペレーション・ルームには広い《データ・プロジェクション・スクリーン》が用意され、日本全図から東アジア全図まで拡大して映し出させるようになっている。

また戦況も書き込める。

 

いま秀真は、杉浦統幕長自ら今回のZ機による空爆戦果の説明を受けているところだ。

秀真たちほかに同じく古鷹をはじめとする秘書艦たち、首相、元帥のほかには主席補佐官、危機監理官、関係閣僚たちが招集していた。戦前の日本であれば文官統制でないから、軍の作戦は軍で決める。

いや、明治憲法下では統帥権と言うものがあり、名目の上は天皇が全ての作戦を決める権限を持っていたが、これは有名無実で全ての作戦は軍が決めた。

軍部がこのよう統帥権を振り回し、横暴を極まったことは歴史に記している。

 

話しは戻る。

Z機のよる作戦では、必ず戦果確認機が1機付き添い、写真およびビデオ撮影を行なうことになっている。地上が雲で覆われている時は赤外線撮影に切り替え、撮影を行なう。

その地表状況を微細に分析するチームが幕僚監部には付随しており、戦果データとなって表される。

秀真たちが驚いたほどにZ機による空爆任務の結果は猛烈なものであり、瀋陽近くの基地または福建省北部沿岸の破壊ぶりは凄まじかった。

Z機が搭載している1トン爆弾は絶大な威力を誇り、連邦北部地方のミサイル基地は全て壊滅したと思われた。

これでともかく、核弾頭搭載中距離ミサイルによる脅威はなくなった。

また、沖縄を指向していたと思われる鬼角弾や東風15号などの脅威も消滅した。

 

「連邦はまだ400基前後の鬼角弾や東風15号戦術ミサイルなどを持っていますが、これら全ては台湾に指向されているものです。もしこれらを外してしまうと台湾に対する威圧が消えてしまうので、そこまでは踏み切らないと思います」

 

杉浦統幕僚長が説明した。

 

「なるほど……台湾の動向はどうかね?わたしはこの機会を見て、二度目の機会ではあるが、レン総統は独立宣言するような気がしてならないが」

 

「おそらく総統は様子を見ているでしょう」

 

大洲外相は答えた。

 

「もう少し連邦国の旗色が悪ければ、独立に踏み切ると思いますが……すでにチベットや新疆ウイグルでも火の手があがったことですしな」

 

「いまここで台湾がそうしてくれれば、大いにありがたいのですが……」

 

矢島防衛省長官は言った。

 

「その場合、連邦国は黙っているわけにはいきませんので、我が国と台湾の二正面作戦に踏み切ることになりますが、それをカバーするだけの海軍力、空軍力は限度があると思います、基本的に中国のように陸軍国を模倣していますから。

かつてロシアと同じです。大陸の陸軍国の特徴は、外に攻め込むときは必ずしも有利ではないにしても、逆に攻め込まれると極めて有利だということです。

国土の広さも武器としていますから……アメリカが戦略ミサイルを撃ち込まない限りは、滅ぼすことは無理でしょうね」

 

秀真たちはそこまで追い込まれると変な気を起こして全世界を敵に回すか、それとも盟友である深海棲艦が先に降伏するか停戦講和を結ぶかもしれないと想像しているが……

連邦の大統領と幹部は徹底抗戦する可能性も高そうだが、果たしてどの国に亡命するかは分からないが。

 

「我々はただ火の粉を払いたいだけなのだ。それを忘れてはならない」

 

安藤首相は不機嫌そうに言った。

 

「分かっております」

 

彼の言葉に、閣僚たちは異口同音に答えた。

 

「さてと、具体的な話しに移ろうじゃないか」

 

場の空気を変えるため、元帥は杉浦統幕長に声を掛けた。

 

「杉浦統幕長。これから連邦・深海棲艦はどう出てくると読みます?」

 

「東風15号を沖縄に指向していたことからして、両者の次期作戦は、まず沖縄侵攻作戦と言うことでしょう。

おそらく例の空母戦闘群と、2種類の人造棲艦《ギガントス》をなんとか有効に使いたいところでしょう。

これはわたしの勘ですが、おそらく連邦共和国は盟友である深海棲艦、恐らく陸上タイプを動員させ、南部から九州、沖縄を挟撃してくると考えられます」

 

「九州に上陸してくると考えられるのかね?」

 

安藤が聞くと、杉浦統幕僚長はかぶりを振った。

 

「連邦国と深海棲艦両者ともそれが可能な空海軍の支援力、また陸上タイプの港湾水鬼や特亜の残した揚陸艦も持ち合わせません。

深海棲艦が九州を攻撃して来るとすれば、これは陽動作戦であり、我々を攪乱し、連邦海軍の動きを容易にするためと考えます。もっとも深海棲艦といっても韓国軍から鹵獲した連邦艦隊であるのは御承知の通りです」

 

杉浦は言ったが、実は間違っていたのである。

 

「本職が連邦司令官であれば、まず済州島を足掛かりとして、釜山に兵力を集めて、まず対馬を叩いてから五島列島を叩くでしょう」

 

杉浦はレーザー棒を持つと、スクリーン映像に向き直った。

そこには九州、朝鮮半島、沖縄、南シナ海、そして連邦東部沿岸が映し出されていた。

 

「ここで彼我の戦力の比較をざっとおさらいしておきたいと思います。

まず南北にいる連邦軍、元は韓国軍でもありますが、空軍は主力戦闘機F-16K……つまりF-16をライセンス生産した韓国バージョンを180機持っており、F-4戦闘攻撃機も140機、そして虎の子であるF-15を戦闘攻撃機型に改良したF-15Kを30機ほど持っていますから攻撃力は充分にあります。

海軍力は深海棲艦を除くと、我が国のミサイル護衛艦に匹敵する《クァンゲト・デワン級》の後継艦《チュンムゴンイスンシン級》を3隻、また最新鋭防空駆逐艦インチョン級《カンウォン》《チュンブク》《クァンジュ》が3隻就役しており、これらは我が国が保有するDDクラスに匹敵する戦力を持っていると思います。

この6隻が主力ですが、ほかにハープーン・ミサイル搭載のフリゲートを9隻ほど持っていますが、実態は船団護衛用に造られたフリゲートに過ぎません。

あとは高速ミサイル艦艇などですが、これらは数が多いにしろ、外洋で戦うようには造られておりませんので、まず出ることはないでしょう。

我が海自の護衛艦群や多国籍支援海軍に、そして元帥たちの艦娘たちもおり深海棲艦には有効ですが、連邦軍も相手にしなければならないので、我々は兵力を二分にしなければならず、それぞれに対しイーブンとなっております。

連邦海軍のもうひとつの主力、例の空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》を除くと……ドグウ2隻、新たに就役したカメ2隻、温存している旅洋Ⅲ型2隻、改ソブレメンヌイ級2隻、コワンチョウ級駆逐艦1隻、マーアンシャン級フリゲート1隻が最新鋭駆逐艦ないしフリゲートで、ランチョウ級駆逐艦は準イージス艦機能を搭載していると噂されていますが、詳しいことは不明です。

 

しかし我がミサイル駆逐艦、イージス艦、灰田から供与されたズムウォルト級とほぼ互角の性能を持つものと考えています。

あとはルーター級やルーフー級、ルーハイ級の駆逐艦ですが、これらの一部は我が海自と多国籍海軍に、そして元帥たちの艦娘たちなどが交戦しており、戦力に劣ることがはっきりしました。

またチェンウェイ級のフリゲートを多数蹴散らしておりますが、これは先の海戦で秀真・郡司率いる連合艦隊に蹴散らされていたようでさしたる脅威にはなりません。

また、連邦海軍は潜水艦を旧型を中心に100隻持ちますが、これらはいずれも沿岸作戦用で、外洋に活動できるのは増産中のキロ級、虎の子のハン級、ソン級程度でしょう。

むろんもうひとつの切り札とも言える戦略原潜のシア級は別格ですが。

海自は、すでにイムヤたちとともにハン級戦略原潜と思しきものを1隻、また多国籍海軍はキロ級を5隻撃沈しましたので、いずれにしろ我が潜水艦群が有利と考えます」

 

海自・イムヤたちが撃沈したのは第二次南シナ海戦でハン級を、多国籍海軍は壊滅した第七艦隊がキロ級を4隻、また海上任務中の多国籍海軍が工作員を乗せたキロ級1隻を撃沈した。

 

「問題は空軍力でありまして、連邦空軍の作戦機は2000機以上を呼称しています。

しかしその大半は、ミグ19や21を改良機でありまして、さしたる脅威はありません。

しかし、ツポレフ16を国産化した《轟炸6型》は、約120機を保有しております。

この機体は旧式化していますが、改良されており、最大速力はマッハ1、ペイロード9トン、戦術核も持ちます。

また双発中型爆撃機IL-28《ビーグル》の中国ライセンス型の《轟炸5型》を持ち、こちらのペイロードは3トン、作戦可能範囲は1000キロと言われますので、連邦国から沖縄、南九州まで充分に届きます。

これを護衛すべき戦闘機は4種類、最新鋭戦闘機《クラーケン》《ヘルキャット》に続き、中国のステルス戦闘機J-21、31は我が軍の爆撃でだいぶ消耗しましたが、まだ少数ほどは残っていると考えております。また戦闘爆撃機としてJ-10、JH-7の存在も侮れません」

 

実は諜報部隊による情報では、これら4種類の戦闘機を各200機ずつ保有していた。

しかし統幕僚長の説明通り、Z機への迎撃で次々と失われ、数えられるほどになったのは事実である。

 

「これらの戦闘機ないし戦闘爆撃機が、重爆と中爆を護衛しつつ沖縄空域に侵攻してくると考えています。しかし、すでに早期警戒機を飛ばして対馬海峡および東シナ海域を警戒していますから、奇襲をかけることはありません。また潜水艦部隊も哨戒しております。対馬海峡に6隻、東シナ海に6隻出しております。

我が国が保有する主力戦闘機F-15《イーグル》は150機、ステルス戦闘機F-3《心神》は50機の両機は九州と沖縄に分け、さらに多国籍支援空軍のF/A-18も40機ずつ分けて配備しております。これらは艦艇攻撃が可能です。

艦娘・護衛艦群については第一と第二を沖縄に、第三および地方隊と多国籍海軍などを佐世保に集め、それぞれ対応することになっています。

数から見れば我々は劣勢ですが、性能によって充分に補うことが可能ですから、ご心配なさるにはありません」

 

「いや、わたしは心配などしとらん。ただ国民の犠牲をできる限り少なくしたいだけだ」

 

安藤首相は素っ気なく言った。

 

「対馬と五島列島住民の避難は、早急に取り図らってくれたまえ」

 

「もうその件については進めております」

 

如月官房長官が答えた。

 

「沖縄県民の避難も80パーセントが完了しました。あともうひと息です」

 

沖縄県の人口は130万人あたり。これを全員移動させるのは容易いことではない。

民間航空機、船舶はピストン輸送、空自・多国籍空軍のC-130輸送機に、秀真や古鷹たちなども積極的に協力して行っている。

それでも一部では頑として動かない者もいた。とくに老人たちは「この島で死にたい」と言って動かない。

強権でそれをむげに動かすわけにはいかなかった。

 

「ところで機動部隊……いや、今の用語で使えば、空母戦闘群か……それから対人造棲艦《ギガントス》打撃艦隊は……これをどう動かすのかね?」

 

安藤は聞いた。

自衛隊幹部にとっては米軍の空母戦闘群に比べれば、たかが6万トン級の空母1隻プラス護衛群を“戦闘群”を呼ぶのはおもはゆい。

この語源はアメリカの《タスク・フォース》を、つまり元々は任務部隊だったが、それが転じて機動部隊となったものである。言い換えると、米軍には機動部隊と直訳される英語はない。全て任務部隊と呼んだ。

太平洋戦争時でも、米軍はグループと言う言葉を好み、任務群と呼んだ。

戦争末期、米海軍のマーク・ミッチャー中将(最終階段:海軍大将)は強大な空母任務群を四個も率いていた。

エセックス級の正規空母2隻ずつ、それに軽空母(護衛空母)も多数も加わっているのだから豪勢である。

この四個群のうち1個群ずつを交替で、太平洋の彼方のクルシー環礁で休養に出すほどの余裕があった。

この時点以降、米海軍は世界最強の艦隊を保持するというタイトルを奪われたことはない。

しかし縮戦においては、日本海軍が世界最強だったことを記憶にとどめて欲しい。

 

「はあ、飛鳥を中核とする空母部隊につきましては、秀真提督の機動部隊と、海自の第四護衛隊群で守らせ、まず鹿児島湾に置いて遊軍としたいと考えております」

 

杉浦の言葉を繋ぎ合わせるように、元帥も説明した。

 

「また万が一に備えて、わたしの連合艦隊と、戦艦空母《富士》たちによる合同艦隊で、別行動するであろうとするギガントスを倒すための支援艦隊も同じく派遣させておきます。

連邦空母部隊、未知の人造棲艦の出方が分かりませんので、これがはっきりし次第、向かわせたいと思います」

 

「それで間に合うのかね?」

 

安藤の問いに、元帥は答えた。

 

「はあ、この艦隊は速力30ノット以上は可能ですし、空母《飛鳥》には米軍主力艦載機に、

さらに土佐・紀伊が搭載可能な艦載機は200機または大型爆撃機《連山改》を4機搭載可能です。また全艦娘たちにもレーザー砲と特殊魚雷もですが、全空母娘たちにも新型戦闘機もレーザー砲が搭載されております。

これで敵の艦載機を翻弄することはもちろんですが、ギガントスに対しても非常に有効的であります」

 

元帥に続き、杉浦が答えた。

 

「空母《飛鳥》も機種は空自も持っていない米軍の空母戦闘団と、元帥たちの超空母娘《土佐》《紀伊》も強力であるということをお忘れなく。

なにしろ艦載機は、世界最強の艦上戦闘機F-14《トムキャット》と、F/A-18《スーパーホーネット》もまた世界最強の戦闘攻撃機であり、艦艇攻撃もできます。

しかもステルス化された無人機ですから人間の操縦する機体にはできない動きも可能です。

空母《天安》が載せているJ-31ないしSu-33に負けることはまずありえません。これらと遭遇した時の連邦軍パイロットと、深海棲艦、人造棲艦の顔が見たいものです」

 

杉浦はじめ自衛隊幹部たちはにんまりしたが、安藤はにこりともしなかった。

また元帥をはじめとする良識派幹部に、秀真・古鷹たちも真剣な顔を崩すことはなかった。

 

「諸君。これはゲームではない。あくまで実戦だ。戦えば負傷者ないし死人が出る。

恐らく我が方にも出るだろう。総司令官として、わたしが一言うならば、緒戦において敵を決定的に叩き、敵の戦意を奪い、戦争を長引かせないようにしてもらいたい。

その方がお互いに犠牲を少なくて済む。我が国土も荒廃せずに済み、そして未来ある彼らと、彼女たちのためにもなる。……分かったかね」

 

「分かりました」

 

自衛隊幹部たちは笑顔を消して答え、元帥たちは「その通りだ」と頷いた。

安藤首相の言う通り、秀真はZ機が登場した時点で深海棲艦たちはもはやショックを受けて矛を収めて、停戦講和ないし和平講和を申し出るのではないかと期待していた。

しかし裏切り者である中岡たち率いる連邦国は、どうするかは分からない。

深海棲艦と同じようにするか、果ては徹底抗戦するかの二択である。

それこそが、中岡たちが戦争を諦めない最大の理由だろう。




灰田「どうも、皆さん。今回はわたしも担当を務めます。作者は少しだけお休みしていますので」

秀真「今回は俺と古鷹たちは無口でしたがだったが、忘れてほしくないな」

古鷹「私も出席しましたけど、ほとんど無口でしたね」

灰田「いよいよ沖縄侵攻では彼女たちこと《土佐》《紀伊》の出番が来ますね。むろん空母《飛鳥》とレーザー砲と特殊魚雷、新型戦闘機もそうですが」

秀真「まあ、そうなるな。その前に次回はその二人の主役のほのぼの話だったな」

灰田「ええ、次回は彼女たちが秀真提督と古鷹さんたちにとある悩みを抱えて、彼の艦娘たちとともに緊急会議をします。その悩みとはいったい何かは次回のお楽しみに」

古鷹「久々のほのぼのですから、緊張しますね」

秀真「普通にしておけば大丈夫さ。慣れていればいい」

灰田「ではそろそろお時間ですので、第四十六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹「「ダスビダーニャ(さよならだ)」」


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第四十六話:土佐姉妹のとある悩み

お待たせしました。
今回は久々のほのぼの回であります。
えっ、なんだかアニメみたい?いいえ、知らない子ですね(赤城さんふうに)。

灰田「それはさて置き、彼の艦娘たちとともに緊急会議をします。その悩みとはいったい何かは本編を見てのお楽しみ」

共同作業という事で、改めて……

作者・灰田「「長話はさて置き、それでは本編であります。どうぞ!!」」


「では秀真提督、始めましょうか」

 

口火を切った灰田に対し、秀真は頷いた。

 

「ああ、これより緊急会議を行なう」

 

秀真鎮守府では緊急会議が行なわれていた。

会議としては、次の大規模な攻略作戦かと思われたが……

灰田がもたらした超空母娘《土佐》《紀伊》のことである。二人は訓練中に無事“改”になれたのは良いことだったが、とある悩みのために緊急会議を行なうことになった。

その悩みは髪型についてのことである。

なぜ、このような状況になったのかは数分前にさかのぼる。

 

 

数分前。

Z機部隊による空爆、第二次南シナ海戦、そして多国籍海軍との各小規模な合同任務などの数多くの海戦、前回の大規模な攻略作戦が成功したことにより、日本のシーレーンは徐々に回復したおかげで、資材も賄えるようになった

元帥はご褒美として、次の攻略作戦あるまでは各自演習と遠征、そして哨戒任務と言った依然と変わらない日々でもあるが、久々の休養を味わっている。

むろん第六戦隊のメンバーである加古はいつも通り昼寝、青葉・衣笠は仲良く鎮守府内の取材および、彼女が発行している新聞『週刊青葉』の編集をしている。

今日もまた灰田は、別室で青葉の取材を受けており、多次元世界の日本および超兵器に関して取材を受けている。

取材に関しては灰田がこれまで支援した超兵器を一部だが、ぎりぎりに答えてくれた質問コーナーが人気である。

灰田は彼女たちにショックを与えないように、気を配っていることは忘れていない。

なお、公表に関してはこの鎮守府限定のみとする。この条件を呑めば、取材を許可するとのことであり、青葉は快くこの要求を呑んだ。

 

青葉曰く「また面白いものが書けます!」とのことで喜んでいた。

余談だが青葉は小説と脚本家を勤め、彼女が自ら監督・製作した映画『ラバウルで朝食を』が代表作がある。

元ネタは1950年代後半に実際に出た小説及び映画『ティファニーで朝食を』である。

主人公は衣笠で、彼女だけでなく秀真、古鷹たちもゲスト出演したが、こうした映画は苦手らしい。

しかし俳優さながらの演技は見事なもので、この映画は大人気を誇り、成功を修めたのである。

いまでも各鎮守府でも放映されており、彼女たちのファンも多いとのことである。

秀真もこの映画が気にいっており、休暇があるときには古鷹たちとともに、この映画を必ず見ている。

そして青葉は文才に伴い、漫画の原作者としても才能がある。

彼女が考案した架空戦記、SF小説、推理小説などのあらゆるジャンルを元に、これを共同制作で郡司と陽炎型19番艦駆逐艦《秋雲》が連載漫画を描いており、今では各鎮守府の人気を誇っている。

彼女たちも各々の休養を楽しんでいた最中、秀真と古鷹の視点に変わる。

 

「提督、痛くないですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」

 

唯一、古鷹はメンバーから外れて、いまは執務室では秀真と古鷹の二人っきりである。

秀真は普段から被っているスカルマスクはテーブルに置いてある。

そのマスクを脱いでいる理由は、古鷹に耳かきをしてもらっているためである。

普段からは自分でもやるが、どうしても肝心なときに耳垢がうまく取れないことがある。

だから、こうして古鷹に頼むことが多い。

耳かき棒で、溜まっていた耳垢をカリカリと優しく取る音が聞こえてくる。

痛みもなく、それが心地よいものであり、久し振りの耳かきだから眠くなるものだなと思い、眠気を誘うような刺激でもある。

 

「はい、提督。次は反対側です」

 

「了解」

 

右耳の掃除が終えると、次は反対側である左耳を掃除する。

静かな雰囲気が続き、こうして二人で過ごす時間は久しぶりだからお互い嬉しいのである。

秀真は両目を瞑りながらも、次の攻略作戦はいかなるものになるのかを考えていた。

敵も厭戦気分が高まり、連邦国と決裂してでも停戦講和を結ぼうとしているのだろうか、もしくは連邦同様に、あのドイツ第3帝国のように国内が焦土化、自国民が国民擲弾兵にしてでも徹底抗戦を最期まで続けるのか、中岡たちは有能な部下と支持派たちを率いり、自分たちだけ何処かの国に亡命する可能性も高いと視野に入れている。

日本もかつては本土がB-29戦略爆撃機に焦土化されても大本営は徹底抗戦を構え、軍と自国民ですらも本土決戦に備え、例え全日本人が玉砕してでも米軍と戦うことを計画していた。

しかしソ連の侵攻とともに、皮肉にも原爆投下により阻止されたのは何とも言えないが。

イラク戦争でもサダム・フセインは「わたしは劣勢であっても国民とともに米軍と戦い続ける」と国民に演説しながらも、自分だけは国民を見捨てて隠れた。

しかし米陸軍第4歩兵師団と特殊部隊により、イラク中部ダウルにある隠れ家の庭にある地下穴に隠れているところを見つかり拘束され、そして最後には死刑にされたのは言うまでもない。

話しが逸脱したので現状に戻る。

 

「提督、そろそろ終わりますよ」

 

「そうか、古鷹」

 

考え事をしている間にも、耳かきは終わりを迎えようとした。

 

「それでは細かいものも取れましたから、仕上げに入りますね」

 

古鷹はそう言うと、仕上げに息を吹きかけた。

 

「はい、これで大丈夫ですよ」

 

「ありがとう、古鷹」

 

秀真はゆっくりと起き上がると古鷹に「ありがとう」と礼を言い、自身の傍にあるテーブル……そこに置いていたスカルマスクを被り、いつも通りの秀真に戻る。

 

「古鷹も耳かきしようか、お礼に」

 

「えっ、いいのですか。提督……?」

 

本心は恥ずかしかったが、提督である秀真から耳かきされるのは滅多にない。

青葉たちのアドバイスでは「ライバルたちに先を越されないように積極的にならないと」という言葉を思い出したので、これはチャンスとばかりと思い、古鷹は照れながらも頷いた。

 

「では、お言葉に甘えて失礼します」

 

いつもならば加古や青葉に膝枕をする古鷹だが、逆にされるのは新鮮だなと思えた。

それに伴い、心臓の音がより高くなり、緊張感も生まれた。

 

秀真は耳かき棒を点検した。

いつも射撃場で多種類の銃を撃つ際にも、護身用拳銃を持つ際にもこうして点検するため、自然に彼の癖が出てしまう。本人は「いつもの癖だ」と述べる。

古鷹たちも何度か秀真が銃器を分解し、組み立てる作業を見たことがあるので慣れている。

 

「それじゃ、始めるぞ」

 

「は、はい。お願いします」

 

古鷹は恥ずかしかったが、嬉しさもあった。むろん秀真も同じである。

しばらく秀真が耳かきをしている最中に、コンコンッと扉を軽くノックする音が聞こえた。

秀真がどうぞと入室許可を出しながら、古鷹の耳かきを続けた。

 

「失礼します。提督」

 

入室してきたのは、土佐、紀伊である。

 

「どうした、二人とも?」

 

「提督と古鷹さんたちに御相談があるのですが……」

 

「相談か、いいぞ」

 

「わたしで良ければ、ちからになります」

 

真剣なふたりに秀真と古鷹は耳かきをいったん中断して、彼女たちの悩みを聞くのだった。

 

 

 

「と言う訳で、みんなに集まってもらったのもそのためなんだ」

 

現状に戻る。

他愛もない会議でもあるが、困ったときは全員で胸を貸すのが当たり前である。

演習と小規模な出撃でレベルが上がり、改装ができるようになった土佐と紀伊をイメチェンするために、この緊急会議が行なわれた。

髪は女の命とも言われているから、こればかりは秀真だけで解決できることではないため、古鷹たちと協力して解決するしかない。

灰田も参加しているが「ここはあなたの艦娘たちとの絆の見せ所です」と言い、見学する。

 

「誰か、良い意見あるか?」

 

全員に尋ねると、誰よりも先に手を上げた者がいた。

矢矧の姉で、阿賀野型1番艦の阿賀野である。

 

「はーい、提督さん。阿賀野にいい考えがありまーす!」

 

「ほう、どんな考えだ」

 

嫌な予感しかないと思ったが、秀真は一応聞いてみた。

むろん姉妹艦の能代、矢矧、酒匂も秀真と同じく嫌な予感しかしなかった。

 

「阿賀野は、このままの状態が良いと思いまーす」

 

どうしてだと秀真が再度聞くと、阿賀野は土佐・紀伊に近づいた。

 

「だって、こうしていれば……矢矧のように割けるチーズができるからー」

 

と言いつつ、土佐の後ろ髪、ポニーテールを「割けるチーズ」のようにいじり始めた。

 

「失礼でしょうが!」

 

「おぶゥ」

 

ナイスな突っ込みをする矢矧は、阿賀野の両頬を軽く叩く。

能代は「阿賀野姉ぇがご迷惑を掛けました」と土佐姉妹と灰田に謝り、酒匂は「ぴゃう」と気絶している阿賀野を見て、矢矧を怒らせてはいけないと知ることになった。

なお、土佐たちは「別に怒ってもないし、気にしていないから」と言った。

能代たちにも聞いたが、能代は自身の髪型である三つ編みを、矢矧は大和と同じ髪型を、酒匂は長門のようにロングストレートにしたら良いとの意見が出た。

土佐たちは阿賀野たちの意見どおりにそれぞれの髪型を変えてみたが、やはり迷いがあった。

 

「ふむ、どれも似合うがな。次に意見がある人は?」

 

「提督、私たちもいいですか?」

 

すぐ傍にいた一航戦の赤城が意見を述べた。

 

「私のようにサイドテールはしてもいいかなと思います」と加賀。

 

「私も加賀さんのように、左右逆のサイドテールもいいと思います」と赤城。

 

そういうと赤城と加賀は、土佐たちの髪型をいじり、自分たちが述べた髪形を再現した。

こちらも似合うが、やはり先ほどと同じく迷いがある。

 

「提督、次は私のようにしたらいかがでしょうか?」

 

雲龍も加賀たち同様に髪型をいじり、長い一本の三つ編みにし、さらに自身の緑の龍玉のようなものが嵌めこまれた装飾をつけ、毛先は黄緑の輪で留めてみた。

なお天城は、髪型はそのままにして自身の前髪左に留めている赤い「楓と結袈裟」の髪飾りを取り付けたり、そして葛城は尊敬する瑞鶴の髪型、ツインテールにしてみたりとしたが、やはり結果は同じく。

 

「うむ……。なかなか決まらないか……」

 

川内・神通は、髪型はそのままにして髪飾りかリボンを身に着ける、那珂は自身の髪型、ビスマルクたちはそのままか、グラーフのようにツインテールにして帽子を被る。

瑞穂も自身の髪型を真似して、髪飾りをなどと述べたが、これまた同じく。全員の意見も試しにしても……

 

「やはりどれもいいですが、土佐さんたち迷っていますね……」

 

青葉たちの意見も試したが、言うまでもない。

因みに加古も自身の髪型を、青葉はポニーテールを、衣笠はサイドテールである。

そして秀真・古鷹はダメ押しに「ショートヘア」と述べたが。

 

「……どうすればいいやら、こればかりは俺も頭を抱えるな」

 

ホワイトボートに書かれた髪型をすべて試したが、もはや万事休すと言ってもよくアイディアが尽きたかと思ったのだが……

 

「そう思いますが、もう解決していますよ」

 

灰田が意味深な言葉を告げるに伴い、土佐が秀真に尋ねた。

 

「提督、コンバットナイフでもありませんか?」

 

「どうしたんだ、土佐?」

 

「お願いします。ナイフをお願いします」

 

「分かった」

 

そう言うと秀真はタクティカル・ベストに収納しているM9コンバットナイフを取り出し、土佐に渡した。

 

「提督、皆さん……わたし、もう迷いません!」

 

もはや迷いを断ち切ったと宣言した土佐は、元に戻していた自身の髪型を、ポニーテールを掴み、秀真から借りたコンバットナイフでバッサリと切った。

土佐に続き、紀伊も同じくショートヘアにした。

 

「提督と皆さんのおかげで吹っ切れました」

 

「ありがとうございます、提督、古鷹さん」

 

ポニーテールから、ショートヘアにした土佐、紀伊は吹っ切れたようだ。

土佐は秀真のコンバットナイフを返しながら、お礼を言う。

 

「似合っているな、二人とも」

 

「はい、二人ともよくお似合いです!」

 

「二人ともよく似合っていますよ。さすがですね」

 

秀真、古鷹、灰田に続き、全員から歓声と拍手喝采が起きた。

たまにはこういうのんびりとした会議も悪くないと思い、会議は無事終了した。

なお後日、元帥が彼女たちの話しを聞いたときには「ふたりとも思い切ったことをしたね」と言い、二人の髪型を褒めたのは別の話である。




灰田「実際には秀真提督、古鷹さんたちは出演していませんが、この世界の『ラバウルで朝食を』では出演しています。なかなか面白い映画でしたよ」

秀真「衣笠の演技は最高だったし、俺も古鷹も緊張したな」

古鷹「すごく緊張しました、先ほどの耳かきもでしたが」

加古「あたしも出演したけど、緊張したよ、ZZZ……」

青葉「わたしは多忙でしたが、いい思い出になりました」

衣笠「ふふーん。衣笠さん最高でしょ?」

ハラショー。そして今回の話、何だか昔見た漫画に似ているのありましたが、思い切ったことをした土佐姉妹たちであります。

土佐「わたしもこの髪型、気に入っています」

紀伊「わたしも生まれ変わった気分ですし、深海棲艦に負ける気はありませんから」

灰田「と時間もありませんから、次回予告であります。
次回は沖縄侵攻作戦《征球作戦》が発令し、それを阻止するための戦いが始まります。
最初は空自・多国籍海軍VS南北連邦空軍による空戦から始まりますので、お楽しみを」

秀真「俺たちは出番があるまで待機だからな」

灰田「その通りです。彼らの活躍は少し先ですので、しばしお待ちを。
ではそろそろお時間ですので、第四十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ(さよならだ)」

古鷹・加古・青葉・衣笠「「「「ダスビダーニャ(さよならだ)」」」」

土佐・紀伊「「ダスビダーニャ(さよならだ)」」

ダスビダーニャ(さよならだ)、次回もお楽しみに。


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第四十七話:激闘!対馬海戦 前編

Извините, что задержал(お待たせしてすみませんでした)
予告通り、ここから沖縄侵攻作戦《征球作戦》が発令し、それを阻止するための戦いが始まります。
最初は空自・多国籍海軍VS南北連邦空軍による空戦から始まります。

灰田「なおコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』に登場している多国籍空軍と懐かしいのキャラ、今回は名前のみですが『超空の決戦』で主人公・左文字尚吾一尉が登場します」

それはさて置き、改めて……

作者・灰田「「長話はさて置き、それでは本編であります。どうぞ!!」」


2月の末にかけて、いよいよ戦機が熟れてきた。

首相・元帥に説明した通り、緊急会議ではE-2D早期警戒機を青森から西部に移動し、連日数機が対馬海峡と東シナ海で哨戒活動をしていた。

また海自の潜水艦群も進出している。

対馬海峡には第一潜水隊群のうち第一潜水隊、第二潜水隊、東シナ海には第二潜水艦群の七隻が占位しており、イムヤたちも協力して哨戒任務に励んでいる。

潜水隊群は、すでに会敵即戦闘命令が出ている。

 

この時すでに連邦軍のチャン・ボゴ級と、ハン級に続き、深海棲艦側は別個体の潜水棲姫たち深海潜水艦隊もまた出撃していたが、未だに会敵していない。

それともうひとつ、特殊作戦として旧式潜水艦、もはや骨董品ともいえるロメオ級潜水艦1隻がいったん釜山に出港してから、日本海に出撃するという一幕があった。

この艦は日本海を迂回して北九州に近づき、日本潜水艦と連邦潜水艦の戦闘を開始するのを待って平戸を迂回して、佐世保湾に接近する意図を持っていた。

このあたりは海上交通が輻輳しているので、潜水艦の存在はかえって露見しにくい。

艦娘たち、自衛艦艇、多国籍海軍艦艇もまさかこの海域は警戒していないだろうという読みがあった。

 

ロメオ級のスペックは、水上排水量1475トン、水中排水量は1830トン。

全長76.6メートル。全幅6.7メートルという第二次世界大戦中のS型潜水艦の系譜を直接に継ぐ艦と言えるほど中型潜水艦に過ぎないが、水中速力13ノットである。

533mm魚雷管発射管8門を持ち、乗組員は54名である。

旧式とはいえ、ディーゼル・エレクトリック艦なので静粛性が高いのが特徴である。

戦闘艦艇としてはすでに時代遅れだが、輸送艦としては充分に使える。

まさにロメオ級潜水艦は、輸送艦の役目を負っていた……特殊工作員20名を乗せていたのである。

これは第八特殊軍から選抜された男女合同隊員たちであり、佐世保港に潜り込み、さらにそこからゴムボートを出して上陸を開始し、佐世保の海自基地または佐世保鎮守府を襲って幹部か提督のどちらかひとり……なお前者はできるだけ司令官ないしその補佐官を誘拐するというのが任務である。

 

まさに大胆不敵な作戦だが、第八特殊軍というのは元々この種の隠密特殊作戦のために鍛えられた特殊部隊である。しかし現実にはゴロツキ集団と変わらないが。

むろん武器・装備も携行している。指揮官はUZI短機関銃とマカロフ拳銃、破片手榴弾で、ほかの部下たちも同じく携行に便利な短機関銃と散弾銃などで武装し、もし作戦が失敗し、発見された場合にはできる限り暴れて回り、命ある限り日本人を殺せと命じられた。

身の毛もよだつ恐ろしい作戦だが、この種の特殊作戦は第二次世界大戦からいくらでも例がある。

 

北アフリカ戦線では、エルヴィン・ロンメル将軍の暗殺を狙って英国陸軍将校デビッド・スターリングの提案により、結成された特殊部隊……のちのSASとなる特殊部隊がリビア海岸から急襲したが、ロンメルの司令部と目された建物はすでに移動していたため失敗に終わる。

ドイツ軍もまた降下猟兵を使い、スコットランド滞在中のウィンストン・チャーチル首相の拉致という特殊任務を企てたこともある。

これまた不運にも作戦が実行される前に、チャーチル首相のスケジュールが突如と変更し、中止となった。のちにこれはイギリスの冒険小説、ジャック・ヒギンズがこれをネタにしたベストセラー小説『鷹は舞い降りた』を書き、映画化もされたのである。

 

日本の連合艦隊司令長官、山本五十六暗殺も一種の特殊作戦である。

日本海軍の暗号を解読し、前線に出る山本搭乗機の動きを掴み、撃墜せよと命令を出した。

当初、ニミッツ提督は強く反対したが、敵の戦意を削ぐためにという意味もあったので、最終的にはフランク・ノックス長官とルーズベルト大統領の許可をとった上で、最終的な命令をハルゼーに下した。

これに応じてP-38《ライトニング》双発戦闘攻撃機が敵地の奥まで侵攻し、ブーゲンビル上空に来るであろう山本搭乗機を待ち伏せして撃墜した。

スケジュールに忠実な山本長官の命取りとなった。これも特殊作戦の一種である。

のちにこの事件は『海軍甲事件』として有名となる。

しかし米軍は暗号解読がバレるのを恐れて、長い間この作戦『ヴェンジェス作戦』に参加した戦闘機パイロットたちに緘口令が敷かれた。

真相がはっきりしたのは戦後になってからのことであり、この手柄を巡ってパイロットたちの間では争いが起きた。なにしろ複数のP-38が山本の搭乗する一式陸上攻撃機(一式陸攻)を銃撃したので、誰が撃墜したのかは永遠の謎である。

また山本長官暗殺に関しては『自決説』『第三者による射殺説』が論じられることがあり、さらには、実は山本五十六は生きていたというオカルトめいたことも取り上げられたこともある。

 

話しが逸れたので現状に戻る。

ともあれ、忠秀軍事委員会からの要請を受けて、中岡は本気で日本自衛隊幹部ないし提督の誘拐を計画。それを実行に移されようとしていた。

 

2月の末までには、対馬・五島列島住民も疎開は完了した。

陸自の中部方面・多国籍軍から抽出された合同一個戦闘団が代わって列島に入った。これらは連隊規模である。

左文字尚吾率いる西部方面隊の二個師団は沖縄に移動したからである。これはキャンプ・ハンセンである。

万が一に備え、五島には戦車大隊、特科大隊、高射大隊が進駐していた。

これは全て大型輸送艦《おおすみ》《しもきた》《くにさき》で運ばれた。

空からの支援は、新田原基地からすぐに受けられるから、かりに上陸があっても持ちこたえられると陸自司令部は踏んでいた。

 

その年はうるう年で、2月は29日まである。

29日早朝、対馬海峡を哨戒任務中のE-2D早期警戒機が、済州島の済州港、また釜山に集結している連邦・深海合同艦隊が出撃しているのをレーダー感知した。

同時に、戦闘機の接近も捉えたので、急遽反転しつつ味方戦闘機の援護を支援した。

この要請を受けて、新田原基地からF-15J《イーグル》がスクランブル発進し、30機が空高く舞い上がった。

釜山方面に向かった15機のアルファ隊は、日連境界線を越えてくる連邦戦闘機を発見し、ただちに戦闘を開始した。

済州島に向かった15機のベーター隊もまた五島列島を指向していると思われる連邦戦闘機を発見し、すぐさま戦闘に入った。

 

これらの敵機は全てかつて韓国空軍の主力戦闘機KAIことF-16《ファイティング・ファルコン》である。その総数合わせて100機。

双方のF-15部隊は直ちに支援を要請。これを受けた新田原基地に進駐していた空自・多国籍空軍両軍合わせて50機が発進した。増援のF-15が20機、F-3《心神》10機に続き、多国籍空軍はユーロ・タイフーン20機含まれている。

 

ふたつの隣接する空域で、激しい空戦が展開され始めた。

双方とも搭載対空ミサイルは4基ずつ。固定兵装はM61A1 20mmバルカン砲である。

しかし、KAIの母体機であるF-16はボーイング社製のベストセラー戦闘機としても取り上げられているが、マクダネル・ダグラス社製(現:ボーイング社)のF-15に比べると、どうしてもスピードが劣り、マッハ0.5の差がある。

同じスピードを誇るユーロ・タイフーンですらも、韓国製のKAI戦闘機はスピードが劣ると連邦パイロットは恐怖を感じたと思われる。

F-3《心神》に至っては、世界最強の戦闘機F-22《ラプター》と同じ性能を持つ。

 

敵のパッシブ熱線誘導ミサイルが飛翔したが、スピードと操縦性に勝るF-15J、F-3、ユーロ・タイフーンはこれを巧みに回避し、代わってKAI戦闘機に命中する場面が目立ち始めた。

やはり多国籍支援空軍は常に戦場で鍛えられているだけであり、レーダー、操縦、戦闘などと言った各機能とともに、機体の性能向上もしているだけあって長年放置されていたKAI戦闘機を上回っており、圧倒的な優位に立っていた。

双方はアフタバーナーを噴かし急上昇および急降下飛行を繰り返し、各機に搭載されている対空誘導ミサイルを発射する。

発射されたミサイルは、まるで意志を持っているかのように目標たる敵機に命中すると、蒼空の上空を爆焔と爆音が鳴り響き、機体はまるで打ち上げ花火のように空中爆破した。

機体を捨てて脱出するパイロットたちが装着しているパラシュートは、戦場に咲いた白い花を思わせる。

 

数分の空戦の結果は、勝利の女神が微笑んだのは……空自・多国籍連合空軍群だった。

逆に見放されたKAI戦闘機を撃墜されるばかりであり、これ以上は損害がひどくならないうちにと思い、連邦空軍は怯み始めた。

そして50機近い損傷を出すと、生き残ったKAI戦闘機は反転し、全機退避した。

なお一部は退避中に、数機が原因不明の故障に陥り、日本海に落下したのは言うまでもない。

 

しかし日本・多国籍両軍も無傷では済まなかった。

4機のF-15が敵ミサイルを喰らい、機体は落下し、パイロットたちはベイルアウトした。

しかしF-3《心神》部隊と、実戦経験豊富のユーロ・タイフーン部隊のおかげで損害を最小限に抑えられたのだから勝利である。

 

日本・多国籍戦闘機隊は深追いをしなかった。

戦闘のためジェット燃料を大量に消費したこともあるが、敵地にまで深追いするなと命令されていたこともある。

第一ラウンドは、無事日本側の勝利に終わったが、その間に連邦・深海合同艦隊は進撃した。

 

 

 

釜山の第三艦隊基地には主力艦隊が集結していた。

チュンムゴンイスンシン級3隻、インチョン級3隻、クァンゲト・デワン級2隻である。

これらが対馬にまず進出、砲撃を浴びせた後に東松浦半島に接近し、艦砲射撃を行なう予定である。

済州島基地からは旧式艦のウルサン級フリゲート8隻が出撃したが、これまた旧式艦であるポハン級コルベット6隻に守られていたのは強襲揚陸艦《独島》に、コージュンボン級揚陸艦を4隻引き連れていた。

前者は最新鋭強襲揚陸艦だったが、後継艦などなくは建造最中に深海棲艦の侵攻に遭い、建造ドッグごと破壊されたため、唯一の独島級強襲揚陸艦である。

後者は国産の最新鋭LST型戦車揚陸艦《チョンワンボン級》が喪失したために、仕方なく駆り出された。

しかし最大速力を出すと、やはり信頼性の薄い中国製と同じく、韓国製も信頼性が薄いのに等しく、故障が生じてため、16ノットにしなければならない。護衛艦群はこれに合わせなければならない。

深海棲艦側は港湾棲姫たち率いる深海艦隊ですらもスピードが出るのに対して、これは致命的である。

本人たちは「無理をしない方が良い」と心配したが、南方連邦海軍指揮官は腹いせなのか港湾棲姫にビンタしたが、お返しに港湾水鬼のゲンコツを喰らったのは言うまでもない。

 

現状に戻る。

空自・多国籍両軍は無人偵察機RQ-4《グロバルホーク》を運用している。

双方の空戦が行なわれている間、無人偵察機は連邦南海岸近くまで進出し、敵艦隊の出撃を確認した後、報告を市谷台の統幕本部に送った。

これは同時に佐世保海自司令部も受信している。

ここは本来第二護衛群の基地だが、第二護衛艦隊は沖縄に進出しているため、かわりに第三護衛艦隊と多国籍海軍と、秀真の艦娘たちが、臨時の艦隊を組んで入っている。

 

杉浦統幕長はこの報告を受けると、これらの艦隊を出撃命令を下した。




灰田「今回は空戦のみでしたが、次回は南北連邦・深海合同艦隊との戦いが始まります」

左文字「俺の出番はあるのか?」←15年ぶりの登場。

灰田「ありますが、作者からの伝言では沖縄戦だそうです」

左文字「ソ連戦よりはマシかな、あはは……」

灰田「まあ、ソ連戦は痛い目に遭っていますものね」

摩耶「おいおいあたし等の出番があるだろう、次回は」

鳥海「こら、摩耶。ごめんなさい、灰田さん。次回予告をお願いします」

灰田「おや、摩耶さんと鳥海さんでしたね。では気を取り直して次回予告です。
次回は先ほど申し上げた通り、海戦ですが、同時に新型戦闘機の正体も分かりますのでお楽しみを、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか」

秀真「俺たちは出番があるまで待機だからな」

古鷹「わたしたちも同じくですが、演習して待機しておきますね」

灰田「では次回もこの続きでありますので、しばしお待ちを。
ではそろそろお時間ですので、第四十八話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ(さよならだ)」

古鷹「ダスビダーニャです」

摩耶「ダスビダーニャ!」

鳥海「ダスビダーニャです!」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第四十八話:激闘!対馬海戦 中編

お待たせしました。
予告通り、まずは対馬海峡で南北連邦・深海両艦隊との艦隊決戦であります。

灰田「なおコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』に登場している多国籍空軍と艦隊、そして轟天の後継機が明らかになります。
そして、作者の好きな『バトルシップ』のとある人物が特別ゲストに登場しています。
むろん今回だけですが」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


対馬海域。

対馬もすでに住民の避難が終わっているので、砲撃されても被害は出ることはない。

ここの守りは空自・多国籍空軍でカバーできるので、陸自・陸軍の兵力は置いていない。

第三護衛艦隊と艦娘たちは、釜山から出てきた敵の主力艦隊を重視し、平戸水道を抜けて壱岐水道に急行した。

 

同じく地方隊の旗艦《あぶくま》はじめとする護衛艦隊と、イージス艦《満月》を旗艦とする多国籍海軍とともに、一部の艦娘たちと五島方面に向かった。

こちらの敵は旧式のフリゲートが主力なので、充分に、圧倒的な火力で殲滅できる。

むろん各艦隊には航空支援が、築城基地からF-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》に、多国籍主力戦闘攻撃機F/A-18《レガシホーネット》の支援攻撃が受けられる。

支援戦闘機の実質は戦闘攻撃機なのだが、自衛隊は攻撃機と言う言葉を嫌う……元よりはこの国独自の気遣いと言ってもいいように、用語を置き換えられている。

本来は各種の対空ミサイルを搭載するが、敵艦隊を攻撃するため対艦装備に換装している。

ひとつは空対艦ミサイル《ハープーン》に、80式空対艦誘導弾(ASM-1)及び93式空対艦誘導弾(ASM-2)の後継ミサイル《17式対艦誘導弾》である。

前者はアクティブレーダー方式、後者はさらに優秀な赤外線画像方式である。

空戦が終わった後は、両国の戦闘機は補給のため、いったん母国の基地に引きあげて、その間に両国の艦隊は高速で進撃を続けた。

 

とくに対馬に向かっている連邦・深海合同艦隊は快速で、2時間で接近すると、東海岸から対馬港に砲撃を、港湾水鬼・港湾棲姫はたこ焼き艦載機を発進させて空爆を、彼女たちの護衛艦は艦砲射撃を開始した。

特に港湾水鬼・護衛艦たちは民家には攻撃しないようにしているが、どうしても爆撃や砲撃に関しては当たってしまうので仕方ないが。

しかし連邦海軍はお構いなく目についたものを砲撃しまくる。いずれも127mm砲である。

それほど日本が対馬を韓国に貢がなかったのか、日本の領土を焦土化したいのかのどちらかではあるが。

本来は港湾水鬼、港湾棲姫は済州島に停泊していた連邦第四艦隊に所属していたが、急遽変更となり、対馬攻略艦隊に転属された。

さすがに旧式揚陸艦との組み合わせはまずいと、戦艦水鬼、彼女を支持する良識派たちが変更したのである。

転属に関してはさほど重大視しておらず、あくまでも陽動だからと連邦幹部は許可したのだ。

 

現状に戻る。

しかし不思議なことに対馬からの日本・多国籍両軍の反撃はなかった。

その代わりに日本・多国籍連合空軍がやって来た。

これは築城基地から発進したF-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》に、そして多国籍空軍機のF/A-18《レガシホーネット》である。

五島方面と二隊に分かれて、それぞれ30機ずつだったが……残りは嘉手納基地に移動している。

両機が装備している空対艦ミサイル《ハープーン》と、17式対艦誘導弾は強力である。

 

連邦艦隊は短SAMとCIWSで防御しつつ、南下を続けた。

かつて韓国海軍が米軍から買い付けた個艦防衛用艦対空ミサイル《シースパロー》と、M61 20mm 6砲身ガトリング砲が威力を発揮し、マッハ以上の高速で飛翔するハープーンと、17式対艦誘導弾を撃ち落した。

しかし3発のハープーンがインチョン級に命中、1隻は大破し、残り2隻は撃沈した。

港湾水鬼率いる深海艦隊にも両機が撃ち放った対艦ミサイルが襲い掛かり、これらを回避しようにも振り切れるわけもなく命中すると、瞬く間に中破した。

彼女たちの護衛艦隊も同じく大破ないし轟沈した。

 

連邦第三艦隊司令官はパク中将だったが、これらを見ても怯まず、南下を続けた。

パクは連邦海軍では珍しく勇敢な海軍軍人であった。いったん出撃してきた以上、日本軍の護衛艦と、港湾水鬼たちも同じく空母水鬼たちから聞いた艦娘たちと交じり合い、その実力を試したいという野望があったのは否めない。

日本・多国籍両空軍が対艦攻撃を終えて去ったので、パク中将は大破した艦艇らに直ちに引き返すように命令、むろん深海棲艦にも同じく命令した。

これで味方は連邦海軍3隻と、深海棲艦は4隻も減ったが、やむを得ない。

こちらには深海棲艦の艦隊がいると、自分に言い聞かせながら艦隊決戦に挑むことを決意した。

 

いっぽう平戸水道を抜けた第三護衛群は、最大速度でF-2支援戦闘機、F/A-18E、F/A-18の戦闘機隊群が報告してきた敵針路に向かった。

彼らとともに行動する水雷戦隊は阿賀野、能代、野分、嵐、萩風、舞風である。

旗艦は阿賀野が務めているが、彼女の補佐として能代も務めている。

彼女たちも灰田の高速学習装置を受けてはいるものの、阿賀野だけは効いているのか効いていないのか最初は分からない状態であった。

灰田ですらも「普通ならば凛々しくなるのですが、不思議ですね」とのひと言である。

脳天気でマイペースな部分は変わらなかったものの、灰田の供与した未来艤装の扱い方には苦労せず、能代たちにある程度は頼ることなく、ある意味では『だらし姉ぇ』から頼れる姉(?)になれたため成功である。

また彼女たちを支援するために鳥海を旗艦とする支援艦隊である。

後者は港湾水鬼たちがいるという事でレーザー砲と共に、三式弾を装備、瑞鳳たちもジェット艦載機《轟天改》の後継機を装備しており、また不知火たちも対艦ミサイルなどを装備している。

むろん各提督たちの艦娘たちも然り。

彼女たちも第三護衛艦群に続くように、最大速度でF-2支援戦闘機、F/A-18E、F/A-18の戦闘機隊群が報告してきた敵針路に向かう。

 

対馬海峡は狭い。

そのうえに両艦隊とも高速を出しているので、12時には敵影を確認した。

 

「いよいよ阿賀野の出番ね。えへへ、待ってたんだから」

 

「阿賀野姉ぇ、緊張感を持って!」

 

「もう能代、阿賀野は大丈夫なんだから。それ、突撃~!」

 

「もう阿賀野姉ぇったら、では各艦、砲雷撃戦始めます!」

 

「駆逐艦野分、出撃します!」と野分。

 

「了解!さぁ、嵐を巻き起こそうぜ!」と嵐。

 

「第四駆逐隊、第一小隊、萩風。出撃です!」と萩風。

 

「了解、舞風。行っきまーす!」と舞風。

 

能代に叱られながらも阿賀野は戦闘準備をする一方、能代たちも気を抜かずに突撃する

第四駆逐隊メンバーも戦意高揚である。

 

「さぁ、行きましょう!摩耶」と鳥海。

 

「おう!いくぜ!防空巡洋艦摩耶、突撃するぜ!」と摩耶。

 

「期待に応えてみせます」と不知火。

 

「さぁ、仕切るで!」と龍驤。

 

「瑞鳳、行くわよ!」と祥鳳。

 

「うん、祥鳳姉ぇ」と瑞鳳。

 

 

むろん能代だけでなく、鳥海たちも戦闘態勢を構える。

 

その間、龍嬢は独特な発艦を開始した。

左手には橙色の“勅令” 術の光を発生すると、彼女が携えている飛行甲板の巻物が手から離れて空中浮遊した。

彼女の周りには陰陽師が使う式紙……それを艦載機の形に模った式紙も現れ、巻き物同様に意志を持っているかのように空中浮遊し、そして式紙たちは飛行甲板を次々と発艦……

彼女が放った式紙たちは、姿を変えて飛び立つ。

龍嬢に遅れないように、瑞鳳と祥鳳は弓を構えて、矢を取り出し、上空へと射った。

直後、炎に包まれた矢はあの逞しい轟音を鳴り響かせながら発進する新型戦闘機は蒼空へと高く舞い上がる。

敵から見れば悪魔(デビル)を思わせるが、彼女たちにとっては自分たちを守ってくれる守護天使のような存在でもある。

最新戦闘機の外観はMe262ではなく、米軍が開発した世界初の実用超音速戦闘機F-100《スーパーセイバー》に酷似しているこの艦載機の正体は、轟天の後継機《天雷》である。

武装は轟天同様、レーザー砲とロケット弾、500キロ爆弾と変わりないが、性能に関しては轟天を上回るほど高性能戦闘機に進化した。また天雷隊の後を追うように彗星改、流星改、閃光改(戦爆)が続くように次々と発艦して行く。

 

敵艦隊を見つけた戦爆雷連合隊は、第一目標である港湾水鬼たちに襲い掛かる。

空母水鬼たちからの話しは聞いたが、以前戦っていた新型機ではなく、別の新型機がいるなんて知らない港湾水鬼たちは驚愕した。

しかし、それでも主力戦闘機《たこ焼き型艦載機》で迎撃する。

また少数ではあるが、連邦と共同開発した初のジェット艦載機《ヴァンパイア》も全機発艦させた。

いわずとも深海艦載機に、ジェットエンジンを搭載しただけで、武装は20mm機関砲に、轟天同様に500キロ爆弾を搭載しているが、速度は800キロである。

しかも最新鋭戦闘機《天雷》に関しては、空飛ぶカモに過ぎなかった。

どちらも戦場では初対面だったが、優先的だったのは、やはり天雷であった。

たこ焼き型艦載機とヴァンパイアも勇敢に攻撃を仕掛けたが、南シナ海戦のように格闘戦に挑んでも幽霊のように消えたと思うと、いつの間にか背後に回れている。

性能の劣る戦闘機を寄こしたなと連邦を恨んでいたが、これはどうしようもなかった。

相手が悪いので仕方のないことである。

天雷から発射されたレーザー砲を喰らった両機の敵戦闘機は、機体内部に発火し始め、そして燃え盛る機体は耐えられなくなると、爆焔に包まれて爆発四散した。

空中戦は数分後には決着が着いた。生き残った深海艦載機隊は殲滅され、すれ違うように攻撃隊も敵の直掩隊および時限信管を装備した対空兵器により、全滅した。

敵機を片づけた天雷隊は翼下に装備していた50mmロケット弾ないし胴体内に収めていた500キロ爆弾を、まだ残弾に余裕がある天雷隊はレーザー砲とロケット弾、500キロ爆弾を同時にお見舞いした。

機関砲よりも強力で紅く光るアイスキャンディーを思わせるレーザー砲に、焼夷弾並みの威力を誇るロケット弾の豪雨は美しくもあり、恐ろしさもあった。それらはまるで中世ヨーロッパで人々から恐れられていた降り注ぐ病、黒死病にも思えた。

これらの攻撃は全て深海棲艦の対空兵器を潰すのには、申し分ない威力であった。

双方の攻撃を喰らった深海棲艦の全ての対空砲ないし対空機銃は閃光に包まれて炎上し、使い物にならなかった。

 

全ての兵装を撃ち尽くした天雷隊と入れ替わるように、急降下爆撃隊と攻撃隊、戦闘爆撃機が急襲してきたから堪らない。迎撃しようにも対空兵器の大半は使い物にならずに、回避に専念する。

彗星が投下した爆弾の雨を回避しつつ、後退するものの港湾水鬼たちの護衛艦隊は大破ないし中破、また彼女たちも爆撃を喰らい、艦載機が発着艦できないほど大破していった。

流星改による魚雷攻撃、閃光改によるスキップボミング(反跳爆撃)による両機の攻撃を回避することなく撃沈し、連邦・深海艦隊は次々と数を減らしていく。

艦載機攻撃で済むのならまだしも、第二次攻撃を開始するように阿賀野率いる水雷戦隊が襲い掛かってきたから堪らない。

 

「阿賀野の本領、発揮するからね!」と阿賀野。

 

「後始末は、この能代に任せて」と能代。

 

「四水戦、突撃する!続けーっ!」と野分。

 

「さぁ、俺たちもやってやるぜ」と嵐。

 

「萩風、撃ちます!」と萩風。

 

「華麗に舞うわよ~!」と舞風。

 

阿賀野・能代はハープーン・ミサイルを、野分たちは17式対艦ミサイルを装填し、港湾水鬼たちを守ろうとする深海護衛艦隊に目標を定めて、躊躇うことなく攻撃を開始した。

サジタリウス……それは決して外れることない神の矢が飛翔し、護衛艦隊に襲い掛かる。

双方のミサイルを喰らった最初の犠牲者は、浮遊要塞・護衛要塞だった。

ミサイルの直撃を受けた両要塞は身体が膨れ上がり、体内から赤く炎とともに眩い光に包まれ、形を残すことなく爆発した。

ツ級はミサイルを迎撃しようと対空射撃を試みるも、なにしろ搭載されているVT信管が作動しないほどの超高速、マッハを誇るので対空砲火をすり抜ける。

悪寒がしたツ級は逃げようとしたが、複数のミサイルを受けて撃沈した。

戦艦クラスでも耐久性を誇りと、長門たち並みの火力を誇る戦艦ル級ですらもミサイルの直撃を数発受けて、雑魚の水雷戦隊ごときに負けるなんてと捨て台詞を吐き、凄まじい爆焔に包まれながら轟沈した。

各敵艦もミサイル攻撃を受けて壊滅状態になりつつも、港湾水鬼たちの護衛を務める。

しかし、鳥海率いる支援艦隊が止めを刺す。

 

「目標、前方の敵艦隊。砲戦用意!」と鳥海。

 

「おう、行くぜ!鳥海」と摩耶。

 

「徹底的に追い詰めてやるわ」と不知火。

 

鳥海と摩耶は、20cm連装砲は俯角を上げて、意志を持ったかのように自動装填された砲弾は、三式弾である。

史実でもガダルカナル島・ヘンダーソン飛行場でも米軍機や燃料タンク、各施設などを焼き払い、さらに米軍機を撃ち落としたとしても有名な焼夷榴弾である。

 

「主砲よーく狙ってー…撃てーっ!!」

 

「ふっふーん!生まれ変わった摩耶様の本当の力、思い知れ!」

 

「期待に応えてみせます」

 

怒りの咆哮を上げた主砲が唸り、不知火は17式対艦ミサイルを発射する。

ライフリングが刻まれた砲身から発射された三式弾は、ジャイロ効果により生み出され、遥か遠くにいる港湾水鬼たちに向かって飛翔した。

目標となる港湾水鬼たちの前に来ると、打ち上げ花火のように爆発した。

火の粉のように降り注ぐ焼夷榴弾を喰らった港湾水鬼たちには、自分たちの苦手な三式弾を喰らったのだから堪らなかったために苦痛の悲鳴を上げて、港湾水鬼たちはついに怯み出した。

三式弾の次には、不知火が放った17式対艦ミサイルは、港湾水鬼たちに襲い掛かる。

しかし、各護衛艦は港湾水鬼たちを庇い、彼女たちの盾となり轟沈した。

港湾水鬼たちは自分の命と引き換えに犠牲になってくれた護衛艦たちが作ってくれたチャンスを無駄にせず、ついに撤退する。

また彼女たちを逃がそうと、生き残った2隻の重巡リ級と1隻の戦艦タ級が援護する。

 

「逃がしません」

 

「逃がすかー!」

 

鳥海・摩耶は、重巡リ級・戦艦タ級の砲戦が始まろうとしていた。

しかし秘かに誰かが発射した17式対艦ミサイルが、リ級たちに直撃、一瞬にして轟沈した。

タ級に関しては3発の対艦ミサイルを受けても轟沈せず、砲戦をし続けた。

だが、突然と横から来た艦娘の砲撃を受けて倒れた。

何者かと思い顔を上げようとしたが、ひんやりとしたものが突きつけられた。

恐怖を感じながらもゆっくりと視線を動かすと……ガチャッとした音とともに、鋼鉄の砲身が突きつけられていた。

 

「沈め…」

 

無慈悲なひと言と伴い、最後に彼女が目にしたのは今まで馬鹿にしていた駆逐艦だったが、タ級にとっては“戦艦クラスの眼光”に見えたのだろう。

そしてさりげなくドスの効いたセリフを浴びせたタ級は悲鳴を上げることなく、不知火の砲撃により頭を吹き飛ばされ、沈黙した。これにより、深海艦隊は壊滅した。

 

「よし、俺たちも彼女たちに続くぞ」

 

ナガタ一等海佐は、各艦に命令を下した。

自身が乗艦している旗艦《みょうこう》に続き、こんごう型護衛艦の後継艦であるあたご型1番型護衛艦《あたご》が先頭に立ち、敵艦から撃ち放たれたハープーンの処理に当たった。

両艦はズムウォルト級同様、フェイスド・アレイ・レーダーは16の目標を処理できる。

レーダーで攻撃目標をロックすると、短SAMが発射され、低速で飛来する敵ハープーンを破壊した。

撃ち漏らした敵ハープーンは後続艦、阿賀野・鳥海たちが装備しているCIWSが始末した。

自衛艦ないし阿賀野たちはハープーン、野分たちは17式対艦ミサイルを発射した。

先の深海棲艦の侵攻により、韓国軍が持つイージス艦は全滅したために処理し切れない。

必死に短SAMやCIWSで迎え撃つが、排除し切れなかった。

飛翔してきたハープーンを各艦に1本ずつ命中、瞬時に大破炎上ないし轟沈した。

現代の海戦はスピードが速く、ハープーンだけの撃ち合いでケリが着くこともある。

 

「日本艦隊に負けてたまるか、全艦突撃せよ」

 

ハープーンを撃ち落しつつ、砲撃戦が可能な距離にまで近づき、砲戦を開始した。

しかし砲戦に長けている阿賀野・鳥海たち、そして自衛艦群もこれに向かい撃つ。

灰田が供与した艦砲ないしレーザー砲のほうが、遥かに高性能であり、砲戦でも優位にしてくれた。

その一方、連邦海軍艦艇の艦砲は所詮は信頼性に乏しい韓国製の主砲のために砲戦しても優位にはならなかった。

 

ここでの海戦は、第二次南シナ海戦よりも早くケリが着いた。

自衛艦・艦娘連合艦隊の高い火力に押し付けられた連邦海軍は被害が増大、パク中将が乗艦する最新鋭駆逐艦《チュンムゴンイスンシン級》にも轟沈の危険が迫るにつれて、ついに全艦撤退を伝達し、港湾水鬼たちの後を追うように戦場から離れた。

しかし不運にも単独で突撃してきた不知火の砲撃ないしミサイル攻撃により、瞬時に2隻が撃沈された。

 

単独で2隻を撃沈した不知火を見たナガタ一等海佐は「あいつは、イカれているのか?」と鳥海たちに尋ねたが、鳥海たちは「いつも通りの彼女です」と答えるのが精いっぱいである。

なお、不知火のお決まりの台詞「不知火に落ち度でも?」と尋ねたが、ナガタは彼女の戦果を褒めた。

 

しかし喜ぶのも束の間であり、こちらも無傷とはいかなかった。

阿賀野・鳥海たちは小破であったのは良いが、第三護衛艦群に所属する護衛艦《ゆうだち》のヘリ甲板にも砲弾2発が命中、SH-60J哨戒ヘリが2機喪失。

幸い、ナガタ一等海佐が乗艦するイージス艦《みょうこう》と、彼を援護していた《あたご》には損傷はなかったものの、僚艦の《ふゆづき》《せとぎり》《すずなみ》が中破の状態である。

 

これは先だって突撃したのが災いである。

しかし、ナガタ一等海佐も喜ぶべきことは損害を抑えて味方の喪失艦はなく、秀真の連合艦隊を誰ひとりも轟沈しなかったことに対しては胸を撫で下ろした。

 

損傷はしたが、勝利には間違いない。

 

なお瑞鳳たちは天雷などを発進させて上空から偵察していると、撃沈された敵艦の周りには生存者が浮いているのだが、敵は救助する気もなく全速力で退避していく。

先ほど戦っていた港湾水鬼が漂流物にしがみ付いて、助けを求めていたのも驚きである。

ナガタ艦長は無事だった《しらね》《まきなみ》を前進させ、阿賀野・鳥海たちも敵ではあるが負傷した連邦兵士、港湾水鬼を助けた。

前者はジュネーブ条約に持ち入り捕虜に、なお港湾水鬼は日本への亡命と、暫らくは元帥の管轄のもとで、監視対象を望むということで正式な捕虜となる。

なお彼女の修復は、元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》《舞鶴》が担当すると連絡で決まったは別の話である。




今回の海戦はわたしがもたらした轟天の後継機《天雷》に伴い、阿賀野、鳥海、ナガタ一等海佐の活躍により、日本側の勝利しました。
みょうこうの艦長は原作では違う人物ですが、バトルシップの影響もあり、特別ゲストに。

灰田「特に不知火さん、より好戦的になっていますね。ご活躍に関しては嬉しい限りですが」

不知火「不知火に落ち度でも?」

灰田「いいえ、フル装備で活躍したあなたを褒めているのですよ」ナデナデ

不知火も頑張ったから、ご褒美ね。

不知火「ありがとうございます。司令、灰田さん///」

阿賀野「阿賀野も活躍したんだから褒めてぇ~、提督さん、灰田さん」

能代「もう、阿賀野姉ぇ……」

作者・灰田((本当に、お艦みたいですね。能代さん……))

野分「…司令、野分もお願いします///」

舞風「のわっちもだけど、舞風もね~」

嵐「俺も頼んでいいかな、司令」

萩風「わたしもお願いします!」

鳥海「司令官さん、わたしも」

摩耶「あたしも、頼むぜ…」

龍驤「うちも頼むで」

祥鳳「提督、わたしもお願いします」

瑞鳳「わたしもお願いね、提督」

ナガタ(大変だな、作者も……)

灰田「彼が彼女たちを撫でているので、彼の代わりに、わたしが次回予告をしますね。
次回は後編、五島列島に向かった第五艦隊の活躍をお送りします。
こちらには『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』に登場している艦隊と、彼らの艦娘たちが活躍しますので、お楽しみを」

秀真「俺たちは出番があるまで待機だからな」

古鷹「わたしたちも同じくですが、演習して待機しておきますね」

灰田「では次回もこの続きでありますので、しばしお待ちを。
ではそろそろお時間ですので、第四十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真一同「「「ダスビダーニャ(さよならだ)」」」

ナガタ「ダスビダーニャ!(なんでロシア語なんだろうな)」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第四十九話:激闘!対馬海戦 後編

お待たせしました。
予告通り、最後の対馬海戦である五島列島に向かった海自・多国籍海軍に、多国籍海軍に所属する艦娘たちに、南北連邦・深海両艦隊との艦隊決戦であります。

灰田「なおコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』に登場している多国籍空軍と艦隊、彼らの元に所属している艦娘たちがゲスト出演していますのでお楽しみを」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


五島列島に進撃した海自・多国籍合同艦隊、一部の艦娘による艦隊、元帥たちはこの艦隊名を、臨時に第五艦隊と名づけた。

艦隊編成は、海自の第12護衛隊(あぶくまDE、せんだいDE、とねDE、うみぎりDD)。

旗艦は護衛艦《あぶくま》が務め、司令官は真田海将補である。

 

同じく行動する多国籍海軍は退役したタイコンデロガ級イージス巡洋艦を近代化改装したイージス駆逐艦《満月》に、あさぎり型護衛艦を改装した《夕潮》《巻潮》がいる。

旗艦はイージス駆逐艦《満月》が務め、司令官はマフムト・バラミール艦長である。

彼は元トルコ海軍将校で深海棲艦の影響が少ない本国に対し、友好国であり、恩人でもある日本の危機に退職願を出して、この海戦に参戦した。

そして彼らを支援する艦娘たちは潮、由良、足柄、飛鷹、比叡、榛名である。旗艦は比叡が務めている。

 

「皆さん、気合い!入れて!行きますよ!」と比叡。

 

「戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」と足柄。

 

「足柄さん…朝からこの調子ですね」と潮。

 

「いいんじゃない。いつもの足柄さんなんだから」と由良。

 

「榛名もこの海戦、負ける気はありません!」と榛名。

 

「私も負けないわよ。私の航空隊の練度もバッチリよ!」と飛鷹。

 

なお彼女たちは、古鷹たちと同じように灰田がもたらした高速学習装置で、ベテランとなり、未来装備を装着している。むろん全員改ないし改二になっている。

彼女たちを見て、各艦の乗組員たちは「俺たちも見習わなければ」と士気が上がった。

 

 

 

戦意高揚な比叡たちとは別に、南北連邦艦隊の視点に移る。

済州島から出港し、目的地である日本の五島列島は200キロしかない。

前にも記したように、本来は港湾水鬼たちがいたのだが、急遽変更となり、対馬攻略艦隊に転属された。旧式艦との組み合わせはまずいと、戦艦水鬼たちが変更したのである。

陽動だからと連邦幹部たちは許可をした。

いかに16ノットの揚陸艦を抱えているにしても、港湾水鬼たちがいた方が良かったなと、ここから出撃した連邦海軍第四艦隊司令官チェ中将は、非常に悔やんでいた。

どうにか敵の攻撃を凌ぎつつ、本気で揚陸しないと考えていた。

軍人特有の功名心であるが、とくに朝鮮民族は感情的で思い込みが激しい。

ウェノム(チョッパリ)や、低能な兵器女に負けてたまるかと、チェは思い込んでいた。

なお上空には50機の旧式戦闘機、F-4E《ファントム》戦闘機が護衛に就いている。

日本の主力戦闘機および、彼らを支援する多国籍空軍機は釜山から出た連邦第三艦隊と、港湾水鬼たちに吸い取れられたはずだから大丈夫だろうと、チェは考えていた。

 

ところが、チェの考えていたのとは違い、日本・多国籍空軍の強力な戦闘機が現われた。

空自のF-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》に、多国籍空軍のF/A-18《レガシホーネット》だったが、空対空ミサイルに、空対艦ミサイルを2基ずつ搭載し、両機とも固定兵装は20mmバルカン砲である。

両軍は戦闘に入ったが、連邦空軍のF-4E戦闘機が撃ち放ったAIM-9空対空ミサイル《サンドワインダー》は原因不明の故障を起こして自爆し、上手く稼働したのは少数に過ぎなかった。

しかし彼らの放ったミサイルは悉く躱され、代わりに空自・多国籍戦闘機群の撃ち放った空対空ミサイルは次々と命中した。

 

現代のジェット戦闘機は進化が早く、少しでも旧式化したものは容赦なく撃ち落される。

対馬上空で行なわれた空戦よりも短く終わり、連邦第四艦隊のエアカバーは殲滅した。

旧式フリゲート《ウルサン級》は、ハープーンを持っているが、対空ミサイルを持っていない。旧式コルベット《ポハン級》も同じく。

そこに日本・多国籍戦闘機群の17式対艦誘導弾に、AMG-84《ハープーン》が襲い掛かってきたのだから堪らない。

 

必死に逃げ惑ったが、たちまちウルサン級3隻が炎上、旗艦《ウルサン》に乗艦していたチェ中将は幹部たちと共に戦死し、同じ旧式艦であるポアン級もまた3隻が撃沈した。

同じく深海艦隊も無傷では済まなかった。

旗艦の戦艦棲姫は中破し、2隻の戦艦ル級flagship、駆逐ニ級後期型elite、軽巡ツ級eliteは大破炎上した。また彼女たちの深海護衛艦隊も撃沈ないし大破した。

チェ中将の、日本領土の足を印すという野望は一瞬のうちに消え去ってしまった。

日本・多国籍空軍の戦力は自分たちが考えていたよりも強力であり、そんなに甘くはなかったのであることを後悔したまま戦死したのである。

 

これを見て独島型強襲揚陸艦に乗艦している指揮官、キム少将は回頭して撤退を図った。

なにしろ兵員200名ずつ、各戦闘車両などを乗せている。

こんなところで撃沈すれば貴重な人材と物資が無くなり、このままでは無駄死にである。

これはあくまでも陽動作戦であり、上陸ではないと自信過剰なチェ中将とは違い、キム少将は本気で上陸するつもりはなかった。ただし深海棲艦は別であるが。

 

空自・多国籍空軍機は、あとは第五艦隊に任せることにして全機反転し、帰投した。

連邦艦隊6隻、深海棲艦12隻、合わせて18隻が撃沈または大破炎上して混乱している最中に、飛鷹が放った攻撃隊が接近してきた。

 

むろん轟天の後継機である最新鋭戦闘機《天雷》である。

天雷隊に続き、流星改、閃光改(戦爆)が容赦なく襲い掛かる。

天雷隊は迎撃すべき敵戦闘機がいないため、流星改、閃光改と共に敵艦に攻撃をする。

天雷隊は爆弾倉に内蔵していた500キロ爆弾を投下すると、両翼下に吊るしている50mmロケット弾を発射した。

生き残った深海棲艦は必死に対空砲火をしつつ、回避行動に努めるが、なぜか自分たちが回避する度に吸い寄せられるように敵の攻撃を豪雨のように浴びた。

敵の狙いは対空兵器だと気付いた瞬間は、時すでに遅し、全ての対空砲ないし対空機銃は原型を留めないほど破壊され、辛うじて撃てるのは数えきれるものばかりだった。

対空砲火が手薄になったところで流星改による雷撃、そして双発戦闘攻撃機《閃光改》が得意とする《スキップボミング(反跳爆撃)》を開始した。

流星改部隊が投下した数本の酸素魚雷が捕捉した深海艦隊に襲い掛かる。

これら全ては雷跡を残さない、この蒼き海の殺人者が近づいた頃には命中した証しを表すかのように水柱が数本と立ちあがる。

流星改部隊が投下した酸素魚雷に続き、飛び魚たちのように風を掴んで跳ね続ける250キロ爆弾が立て続けに命中し、またしても大破炎上する艦艇が増えた。

これも全部、あの無能な連邦幹部たちのせいで連敗ばかりではないかと戦艦棲姫が歯噛みしていたとき……比叡たちもこれらに止めを刺すかのように砲戦を開始した。

 

「主砲、斉射、始め!」

 

「榛名!全力で参ります!」

 

旗艦の比叡、榛名が搭載している主砲、灰田が貸与してくれた41cm連装砲改が俯角を上げて、凄まじい砲撃音を鳴り響かせて、一斉射した。

灼熱の炎を発生した徹甲弾は、闘志がまだ残っている重雷チ級、軽巡ト級に直撃した。

バジルを持たない両艦は耐久性が低いため、一撃で轟沈した。

次発装填。ふたりの装備している主砲は自動装填システムが作動しているので、比叡たちの攻撃が優位である。

ほかの深海護衛艦隊も砲撃をしているが、比叡たちの砲撃に終わらず、次の攻撃が襲い掛かった。

 

「弾幕を張りなさいな!撃て!撃てー!」と足柄。

 

「よく狙って……てーぇ!」と由良。

 

「潮、ミサイル撃ちます。えーい!」と潮。

 

足柄の砲撃、由良・潮のハープーン・ミサイルの嵐が、深海艦隊に襲い掛かった。

これらの攻撃により2隻の戦艦ル級flagship、駆逐ニ級後期型elite、軽巡ツ級eliteは反撃する暇もなく撃沈した。

しかし戦艦棲姫は16inch三連装砲に、12.5inch連装副砲は俯角を上げて、比叡たちがいる場所を捕捉し、搭載している電探を利用して射撃を開始した。

大和型にも劣らない16inch三連装砲から発射された砲弾が飛翔し、比叡たちに襲い掛かる。

放熱を放ちながら徹甲弾は落下してきたが、比叡たちは高速を生かして、回避に専念する。

幾つもの水柱が立つも、比叡たちは奇跡的に中破ないし大破することはなかったが、彼女たちに攻撃を与える暇もなく戦艦棲姫の攻撃、怨恨を込めた砲撃はなおも続いた。

しかも一部生き残った深海護衛艦隊の砲撃も開始したが……

 

「各艦、彼女たちを掩護せよ!」

 

「我が恩人である国と彼女たちを傷つける者は、このわたしが許さない!」

 

真田海将補、バラミール艦長を怒らしたことも知らずに砲撃する戦艦棲姫たちに、イージス艦《満月》は搭載しているハープーン・ミサイルが報復しようと発射した。

砲撃している戦艦棲姫たちに、再びミサイルの豪雨が襲い掛かった。

 

「第二次攻撃隊、全機発艦! 比叡さんたちを援護して」

 

ハープーンに続き、飛鷹による第二次攻撃命令が下された攻撃隊が発艦して行く。

戦艦棲姫ないし連邦艦隊に襲い掛かると、またしても劣勢に追い込まれた。

しかし連邦艦隊もただでは黙っておらず、連邦艦隊は敵艦に攻撃しようとハープーンを発射した。しかしフェイズド・アレイ・レーダーを輻射した《満月》に捕捉され、Mk41垂直発射システムから発射されたRIM-161スタンダード・ミサイル3が白煙を上げて、敵ハープーンに向かい舞い上がる。

捕捉されたミサイルは多くは、スタンダード・ミサイル3により撃墜される。

残りは各艦と比叡たちが搭載している主砲ないしCIWSにより、撃墜された。

敵の護衛艦も同じことだが、近代化改装されたイージス艦《満月》がいるために戦力差が生まれたのは見ても当然だった。

最悪なことに短SAMは持たず、ハープーンと飛鷹の攻撃隊を防ぐには76mm連装砲とCIWSに任せるしかないが、やはり韓国製のためか撃墜するのは至難の業である。

日本の護衛艦《せんだい》《とね》にも1発命中、中破炎上したが撃沈はしていない。

比叡たちも小破したが、戦意は失われていない。

 

同時に、連邦艦隊は3隻、深海艦隊は5隻に命中して轟沈した。

 

これで連邦第四艦隊は12隻も喪失したわけである。

残りはまだ9隻もいたのだが、コルベットの方が多く、日本・多国籍艦隊と撃ち合っても勝負にならない。

 

旧式コルベット《クンサン》に乗艦する次席指揮官イ大佐は、まだ砲戦している戦艦棲姫たちを見捨てて、反転を決意し、全軍に伝達した。

しかし負傷して漂流している兵士、使い捨て当然の戦艦棲姫たちは見捨てる。

 

これを遠望した真田海将補と、バラミール艦長は逃げていく敵艦隊を撃滅する決意をした。

敵はもはや戦意喪失していたが、ここで殲滅させれば脅威を取り除けると考えた。

 

「比叡たちは独島級強襲揚陸艦以下の輸送船団を撃滅し、我々はコルベットを殲滅する」

 

バラミール艦長の命令を受けた比叡たちは、了解とうなずいた。

逃げる敵を撃つのは躊躇う真田海将補だが、バラミール艦長の闘志を見倣わなければなと言う闘志、なによりも過去に危険を顧みず日本人を救出してくれたトルコに恩返しをする番だと思い、敵艦隊を殲滅する決意した。

 

「撃ちます!当たってぇ!」

 

「主砲!砲撃開始!!」

 

独島級強襲揚陸艦以下輸送船団に狙いを定めた比叡・榛名たちの主砲は咆哮を上げた。

耳の鼓膜を破れるほどの発射音が轟かせて発射し、放物線を描きながら飛翔していく。

襲い掛かる徹甲弾は、独島級の全通飛行甲板を貫通し、内部に搭載されていた各戦闘車両と輸送ヘリ、そして攻撃ヘリを内部から破壊した。

しかもこの時は、上陸作戦を視野に入れていたために搭載していた武器弾薬・燃料が誘爆を起こして始めた。

当然キム少将以下、全乗組員たちは脱出することは叶わず、海の藻屑となった。

貴重な兵員と各戦闘車両・輸送ヘリなども艦と共に沈んだ。

ほかの輸送船も全速力を出して離脱しようとして、ほかのコルベットに衝突してしまう。

慌てふためいている様子などお構いなしに、海自・多国籍海軍が放ったハープーン、補給を終えた飛鷹の艦載機群による空襲を受けたから堪らない。

たちまち地獄の業火に包まれた連邦艦隊はもはや壊滅状態になったが、一部は脱出に成功したコルベットには、恐るべきものが待っていた。

 

「こんなんじゃ帰さないわ…。攻撃よ!攻撃ぃー♪」

 

一匹狼の如く、狙った獲物が死ぬまで追い詰めるように足柄が突撃した。

連邦海軍はコルベットに搭載している76mm連装砲で応戦したが、それでもお構いなしに突撃して来る足柄に恐怖を覚えたためか、まったく命中しない。

戦場でも余裕に笑みを見せた彼女はもはや狼ではなく、連邦兵士たちから見たら、自分たちの魂を狩ろうとしている死神だと思えたのだろう。

恐怖に煽られながらも砲撃を続行するが、一度恐怖に支配された者が、そう簡単に抜け出せるはずもなく、彼らを終焉へと誘おうと足柄は宣言した。

 

「私の10門の主砲は伊達じゃないのよ!」

 

砲撃してきたコルベットにお返しとばかりに、全砲門を向け、そして力尽きようとしている獲物に止めを刺そうと、全レーザー砲は狙いを定めて一斉射した。

 

「「止めてくれ!!」」

 

名もなき連邦艦長と連邦兵士たちが慈悲を求めるも強力な威力を誇る紅き砲弾は、易々とコルベットを貫通し、老朽艦のために耐えることはできずに轟沈した。

 

「この侵略者どもが調子に乗るなーーー!」

 

旧式コルベット《クンサン》に乗艦する次席指揮官イ大佐が突撃してきたが、所詮は老齢艦のため自沈するのではないかと思うが、彼の闘志に答えるのか辛うじて耐えている。

しかしここで彼の最後を報せるように、イージス艦《満月》が放ったハープーンが艦橋に直撃し、イ大佐と幹部たちは劫火に包まれて、呆気なく戦死した。

そして最後に止めを刺そうと潮と由良の砲撃ないしハープーンによる攻撃を受けて炎上し、船体は真っ二つに折れて、轟沈した。

 

「敵艦隊壊滅、残りは撤退していきます」

 

比叡の報告を聞いたバラミール艦長は、重畳の結果だと比叡たちを褒めた。

むろん、真田海将補も彼女たちの活躍したおかげだと褒める。

連邦艦隊に大出血を与えたのは良いが、こちらも無傷とはいかなかった。

しかし、勝利は勝利である。

 

なおこちらも飛鷹が放った艦載機からの偵察報告では、撃沈された敵艦の周りには生存者が浮いていた。

バラミール艦長は《夕潮》《巻潮》を、真田海将補は《うみぎり》を前進させて救助した。

また比叡たちも彼らを救助した。

連邦艦隊に見捨てられた戦艦棲姫は自決しようとしたが、力尽き轟沈しそうになった。

しかし誰よりも早く彼女を掴み、救助したのは潮だった。

敵ではあるが、沈みつつある敵を助けたい気持ちは電と同じくらい強かった。

敵味方関係なく助けたい気持ちを持つ心優しい彼女を見た戦艦棲姫は、気絶する前に、潮に「ありがとう」と呟き、ぐったりと倒れた。

なお気絶した彼女を潮だけでは支えきれないため、由良も手伝う。

救助した連邦兵士は正式な捕虜とし、潮が救助した戦艦棲姫は元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》《舞鶴》が担当し、彼女を治療した。

後日、無事回復した戦艦棲姫は、港湾水鬼同様に日本への亡命と、暫らくは元帥の管轄のもとで、監視対象を望むということで正式な捕虜となる。

なお戦艦棲姫の回復を知った潮は、花束を持って見舞いに行ったのは別の話である。

 

こうして敵の囮作戦ではあったものの、ここでもまた日本の圧倒的な勝利に終わり、のちにこの海戦は『対馬海戦』と名づけられた。




前回にやや似た展開ですが、無事『対馬海戦』では日本・多国籍海軍、彼女たちの勝利に終わりました。

灰田「まあ、わたしの未来装備に関すればこのくらいの結果は当然といってもいいでしょう」

潮「最初お会いしたときは驚きましたが…いい人で良かったです」

由良「わたしも驚いたけど、未来装備もなかなかね」

足柄「このおかげで私も戦場の狼のように活躍したから嬉しいわ♪」

比叡「長門さんの主砲を装備しているうえに……」

榛名「従来より強力でなおかつ自動装填システムがあるから、榛名も驚きました」

バラミール艦長(最近、日本が神々しいとケイシーと後藤が言っていたのもこれか……)

真田海将補「ナガタ一佐が言っていたのも納得するな」

灰田さん、次回予告を。

灰田「では次回は、連邦・深海合同艦隊による沖縄侵攻作戦《征球作戦》が発動します。なお左文字一尉がゲスト出演しますのでお楽しみを」

左文字「沖縄戦か、ソ連戦と言い、こちらと言い、地獄には変わりないな」

灰田「まあ、その分活躍がありますから。ではそろそろお時間ですので、第五十話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

潮一同「「「ダスビダーニャです!!!」」」

バラミール艦長・真田海将補「「ダスビダーニャ!(なんでロシア語なんだろうな)」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十話:連邦軍、東へ

お待たせしました。
では予告通り、ついに連邦・深海棲艦による沖縄侵攻作戦《征球作戦》編が開始します。

灰田「まずは言われなくとも初戦、お決まりの空戦から始まります。なお左文字一尉がゲスト出演しますのでお楽しみを」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


3月1日、早朝。

連邦・深海合同艦隊がすでに陽動作戦を繰り広げていることを知った連邦軍部は、征球作戦の発動を各軍に命じた。

港湾棲姫たちからは、南北艦隊は大損害を被り、さらに姉である港湾水鬼は敵の捕虜となり敗退したことを知らされた。

怒り狂った幹部たちは港湾棲姫たちを高速修復剤で修復した後は、罰として北方棲姫とともに出撃して、次の沖縄攻略戦で死ねと懲罰艦隊に配属された。

この艦隊には、第二次南シナ海戦で失態を犯した空母水鬼と装甲空母姫などもいる。

彼女たちは東シナ海戦に出撃させる。最悪なことに、中岡大統領直属の督戦艦隊という見張りもいるので、捨て身の覚悟で前進するしか方法はない。

しかし日本の護衛艦、艦娘たちにもだいぶ損傷を受けているから、陽動作戦は取りあえず成功したと、忠秀は考えていた。

 

東シナ海のかつて日中境界線上を3機のE-2D早期警戒機が哨戒任務中に威海(ウェイハイ)、寧波(ニンポー)、福州(フーチョウ)の三方面からそれぞれ出てくる大艦隊を探知した。

同時に逝江省方面から飛行して来る連邦軍機の大軍を、沖縄本島西海岸に設置された早期警戒レーダーが探知した。

威海にもっとも近かった早期警戒機は空母らしき艦影と、新たな深海棲艦、そして潜航中と思しき敵艦、2隻の人造棲艦《ギガントス》をレーダー探知、司令部に報告した。

 

これら早期警戒機がキャッチした連邦・深海合同艦隊は合わせて500隻にのぼる。

かつての中国艦艇は1000隻に及んだが、その大半が沿岸作戦用小艦艇、旧式化したフリゲート、潜水艦などである。

しかし深海棲艦の侵攻時に多くの艦艇が撃沈され、史実上、中国艦隊は壊滅した。

生き残った艦艇は数えきれるほどであるため、不足分は深海棲艦で補っている。

自衛艦・艦娘たちと対等に戦えるのはドグウ、カメを含め、合わせて20隻程度である。

500隻のなかには空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》と、連邦・深海合同護衛艦隊……空母戦闘群が含まれて、水中からはハン級原潜4隻が守っている。

 

また、三個旅団を乗せた揚陸艦部隊も新鋭艦に守られている。

 

連邦海軍司令部は旧式フリゲート、沿岸用ミサイル艇なども繰り出してきたのである。

数だけ揃えれば敵が委縮すると考えたのだが、前にも記したように現代の海戦は、時代遅れのシッティング・ダッグも同じなのである。

いっぽう早期警戒レーダーが捕捉した敵機は大中小のグリップからなり、大型は重爆H-6K、中型は中爆H-5、最後の小型は多種類の護衛戦闘機である。

最後尾にも大きな機影が映った。これは空挺部隊2個連隊……完全武装兵2000人を乗せたイリューシンIl-76大型輸送機5機、そして新型輸送機Y-20大型輸送機5機だった。

連邦陸軍は本隊上陸前に精鋭最強たる空挺部隊を降下させ、存分に暴れさせるつもりであった。

指揮官にはできるならば嘉手納基地を占領せよと命じてさえいた。

それも道理で、この空挺部隊2個連隊は、同じ連邦特殊部隊の第八特殊軍団には及ばないにせよ鍛え抜かれた特殊部隊だったからである。

ほかにも連邦海軍も作戦変更をしたが、それは後で分かることになる。

 

この報告を受けて統幕本部では、嘉手納基地に待機していた空自・多国籍空軍合同戦闘機飛行隊のスクランブル発進を命じた。

敵の重爆ないし中爆はなるべく沖縄に近づかせない、東シナ海上空で片づける肚である。

空自のF-15、F-3《心神》に、多国籍空軍はF-35《ライトニングⅡ》と、Su-35《スーパーフランカー》からなる合同迎撃戦闘機150機が嘉手納基地から発進して急上昇、四機編隊を組んで、敵に向かった。

F-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》の両機は温存している。

これは連邦艦艇・深海棲艦を攻撃するためで、対艦兵装に置き換えられている。

 

空自・多国籍空軍の両戦闘機隊は高度一万メートルをマッハ二のスピードで飛行して二十分後、同高度で飛行して来る連邦空軍機の大群を発見した。

轟炸6型……ツポレフ重爆は双発ジェット爆撃機で、ソ連では『バジャー』と呼ばれている機体である。最大速度はマッハ1を可能とし、爆弾搭載量9トン、巡航ミサイルも搭載可能であり、これらが嘉手納まで到着すれば脅威である。

さらに双発中型爆撃機《轟炸5型》が続き、いずれも梯団を形成している。

これを殲撃10、11、輸出向け軽戦闘機FC-1を始めとする戦闘機隊が守っていた。

その数は300機も超える。連邦空軍は旧式戦闘機J-7を400機、J-6に至っては2600機も持っている。

沿岸基地から発進させれば、これら旧式戦闘機は辛うじて作戦半径に入る。もっとも空戦時間は取れない。

連邦空軍は元より中国空軍は防衛コンセプトのもとに作られ、渡洋作戦は台湾を除き想定していないに等しい。

これは日本も同様だが、作戦行動半径が変わりないのであれば、守る方に分はある。

連邦空軍のなかでもタメを張れるのは深海・連邦共同開発戦闘機《クラーケン》《ヘルキャット》に、J-21、31だが、前者は参加しているが、後者は温存されている。

それらの代わりに旧式機で立ち向かえるか、どうか分からない。

もともと中国軍機は韓国軍機と同じくらい、エンジントラブルが多い。

完調あたりでようやくF-4EJ戦闘機に立ち向かえるが、その旧式機に代わり、いまでは最新鋭戦闘機ばかりだから勝てる見込みもない。

 

双方とも超音速のスピードを出しているのスピードを出しているので、たちまち両軍は急接近した。

そう思った時には戦闘に入っていた。

 

まず空対空ミサイルの撃ち合いが始まり、熱線誘導ミサイルが飛び交った。

辛うじて両機合わせて30機残った《クラーケン》《ヘルキャット》は、F-15ないしF-3との死闘を繰り広げていた。

同じくF-35《ライトニングⅡ》に、Su-35《スーパーフランカー》部隊も、空自の戦闘機群を援護しながら死闘を繰り広げ始めていた。

 

性能はほぼ互角、あとはパイロットの腕次第である。

しかしスピードにおいても空自・多国籍空軍の方が優れており、実戦経験も豊富である。

同じSu-27を持つ連邦軍よりも、多国籍軍が保有するSu-35の方が有利である。

F-15、F-3は華麗に敵空対空ミサイルを躱し、逆に《クラーケン》《ヘルキャット》は空対空ミサイルを喰らい、空中爆発ないし爆焔に包まれながら撃墜された。

 

F-35、Su-35両戦闘機群は旧式機に襲い掛かる。

連邦軍が持つ殲轟タイプは戦闘攻撃機で、複座タイプのために機体は重く、運動性が低い。

そこをF-35、Su-35両戦闘機群は背後に回り込み、前者は20mm機関砲を、後者は30mm機関砲を浴びせた。

連邦パイロットたちは必死に回避しようにも機体が重いために、両戦闘機の餌食となる。

コックピットには操縦し、今まで生きていて乗っていた機体を操縦していたパイロットたちから噴き出た鮮血が飛び散り、ガラスを真っ赤に染め、彼らの棺桶となった機体は燃え盛りながら落下していく。

旧式戦闘機部隊は戦闘の渦に入りきれずに、外周をうろうろしてミサイルを放つチャンスを窺っていたが、快速の空自・多国籍軍機がその隙を与えない。

慌ててミサイルを発射したが、空自、多国籍軍機に軽々と回避された。

難敵を片づけた空自・多国籍戦闘機群は、爆撃機部隊に襲い掛かった。

自衛用として20mm機関砲を装備しているが、マッハ2を誇る現代戦闘機にあたるものではない。

逆に各機に搭載されているミサイル攻撃を喰らい、搭載していた兵装が誘爆を起こした。

不運にも隣にいた友軍を巻き込み、多くの機体が火達磨ないし空中爆破を起こした。

ミサイルを撃ち尽くした空自・多国籍戦闘機群は、搭載している機関砲で襲い掛かった。

両パイロットたちは機首を狙い、そこにいる爆撃機クルーたちを抹殺した。

機銃掃射により、全身をミンチ状態になった連邦パイロットたちを搭乗させたままの機体は次々と飛行能力を失い、落下していく。

凄まじい空戦のなかで、連邦爆撃隊の梯団は大きく乱れ、パニックのあまり反転する機体、それが災いし激突して墜落する機体も現れ始めた。

しかし、300機の大群である。日本・多国籍戦闘機群を潜り抜けて、沖縄中部に接近する機体もあった。

 

しかし海中からの刺客が、彼らに襲い掛かった。

突然と海中から対空ミサイルランチャーこと対空機雷が作動し、爆撃隊に襲い掛かる。

これもまた灰田が秘かに用意した防空システムであり、絶大な奇襲効果を発揮できる兵器である。突然の出来事により、連邦パイロットたちは理解できなかった。

それ故に、彼らでは理解する時間を与えない出来事無きに等しいが。

 

それでも反転せずに突っ込もうとする爆撃隊に、左文字尚吾率いる陸自の高射群が待っていた。

 

「よし、撃てッー!」

 

左文字尚吾一尉の言葉を合図に、配備されていたPAC-3《パトリオット・ミサイル》が舞い上がり、これら連邦軍機を捕捉して躊躇うことなく撃墜する。

中部沿岸に近い上空では燃え盛る火の玉が次々と出現した。それが消えると、もはや連邦爆撃機の姿はなかった。

 

彼我の戦闘機もまた兵装を使い果たして、互いに全機反転した。

 

“これ以上の進撃は不可能につき、我が軍は反転する。兵装もまた使い果たしたり。

貴隊はどうするや?“

 

爆撃隊指揮官から、この通信を受け取ったY-20大型輸送機に登場している連邦空挺指揮官カン少将は歯噛みした。

これはもはや護衛戦闘機の支援を受けられないことを意味した。

しかし突っ込むしかない。このままおめおめと帰投すれば、臆病者ないし卑怯者と言う名の重罪で死刑になりかねない。

 

どうせ死ぬなら、敵の攻撃で死にたい。

カン少将は、編隊に思い切って高度を下げるように伝え、海面すれすれに飛行した。

これならば敵のレーダー網を潜り抜けられるかもしれない、と考えていた。

この時代が第二次世界大戦だったら、この戦術は成功していた。

しかし、これは実戦経験を疎かにしたブラック提督たちの甘い判断だった。

また自衛隊のレーダー網も甘くなく、海中に潜んでいるものも同じく。

 

機体が通るのを探知した対空機雷が作動し、先頭にいたY-20大型輸送機を撃墜した。

指揮官機が撃墜されたのを見て、反転しようとしてもできない。

そこで低空飛行で侵攻して来るなと察知した左文字は、高射砲指揮官に連絡して空挺部隊が搭乗している輸送機を充分に引き付けてから撃墜しろと命じた。

 

左文字の言葉どおり、レーダーは輸送機を捉えた。

対空機雷を切り抜けた生き残った輸送機を生かして帰さぬよう、レーダー管制のホーク・ミサイルが、これらを撃墜する。

発射されたホーク・ミサイルは、生き残っていたイリューシンIl-76大型輸送機、そして新型輸送機Y-20大型輸送機を棺桶へと変える。

この無駄死にともいえる空挺作戦のため、クルーおよび2000名もの空挺隊員たちを乗せたまま空中で散華した。むろん生存者はなしである。

無能な指揮官を持ったゆえに、これ以上の無用な犠牲はないだろう。

 

ここに連邦空軍の予備爆撃は終わったが、爆撃を行なった機体は1機もいない。

全て日本の空自に圧倒されてしまったのだった。

 

この最悪な報告を爆撃機隊長から受けたキョウ空軍司令員は怒り狂ったが、アジアでも最強ともいえる航空自衛隊の戦力を過小評価したのが原因である。

この汚名返上は、海軍に任せるほかはない。




第一開幕戦ともいえる航空戦は、またしても日本・多国籍軍に、左文字一尉率いる陸自の高射群の勝利になりました。

左文字「当然の結果だな、もっともみんなのおかげでもあるけどな」

灰田「むろん、わたしの用意した兵器もですよ」

とは言え、まだまだ初戦に過ぎませんからね。
では灰田さん、次回の予告をお願いします。

灰田「では次回は、空戦後は艦隊決戦の準備であります。こちらはまず杉浦統幕長たちの会議から始まり、そして郡司提督と、彼の秘書艦の木曾さんが迎え撃つ準備をします。海戦は第五十二話になりますのでお楽しみを」

郡司「僕も緊張するが、木曾たちがいれば大丈夫さ!」

木曾「当然だ、俺がいるんだから安心しな」

灰田「良い雰囲気になっていますが、ではそろそろお時間ですので、第五十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

左文字「ダスビダーニャ!(なんでロシア語なんだろうな)」

郡司「ダスビダーニャ、ようやく言えたな」

木曾「ダスビダーニャだ。流石だな、郡司♪」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十一話:蠢く敵艦隊

お待たせしました。
では予告通り、ついに連邦・深海棲艦による沖縄侵攻作戦《征球作戦》編の続きであります。

灰田「今回は戦闘シーンではなく、艦隊決戦前のご様子なのでご了承ください。
今回の視点は東京・統幕本部のオペレーション・ルームにいる杉浦統幕長たちから始まり、連邦視点に移りますのでお楽しみを」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


空戦の間、いったん戦闘区域を離脱し、基地で退避していたE-2D早期警戒機は再び空へと舞い上がり、敵艦隊の偵察に上がったが、意外にも先だって進撃してくる艦艇群はカメ、ドグウなどの最新鋭艦に、ルーター、ルーフーと言った旧式艦艇揃いの連邦艦隊である。

カメ、ドグウは各2隻ずつ、残りのルーター級、ルーフー級は旧式艦であるが、戦力不足を補うために駆り出された。

彼らと行動する深海棲艦は空母水鬼率いる機動部隊、別名《懲罰艦隊》に、彼女たちを監視する督戦艦隊がいる。

万が一に敵に降伏した場合は即座に対艦ミサイルで撃沈するためである。

そして後続する輸送船団は旧式のフリゲートやミサイル艇などに守られていた。

脅威となるカメ、ドグウ以外の艦艇……旅洋Ⅲ型2隻、改ソブレメンヌイ級2隻、コワンチョウ級駆逐艦1隻、マーアンシャン級フリゲート1隻が最新鋭駆逐艦ないしフリゲートで、ランチョウ級駆逐艦は見られなかった。

これ、また現存艦隊主義の思想が強い連邦海軍の性格が災いしたのである。

 

また空母《天安》に、人造棲艦《ギガントス》も見られない。

 

早期警戒機機長は、築城司令部に打電した。

 

“敵の揚陸部隊は、護衛艦50隻とともに進撃しつつある。なお空母水鬼率いる敵機動部隊もいるものの、空母戦闘群ないし人造棲艦の姿は見られず……繰り返す空母、ギガントスの姿は見られず”

 

これは何度も確認した結果なのだから、間違いない。

しかも先の空爆任務で、有力な戦闘機を投入、消耗してしまったために、J-8戦闘機などと言ったもはやポンコツ機が護衛していた。その数100機。

 

確かに連邦軍は物量だけは多い。

この報告は東京の統幕本部のオペレーション・ルームでも同時に受信され、杉浦統幕長は首をひねったとき、黒川海幕長を振り返る。

 

「敵の空母戦闘群と、2隻の人造棲艦が消えてしまったぞ。これはどういうことだ?」

 

黒川は首をひねった。

 

「わたしの予想では、側面から揚陸部隊を支援するはずですが、台湾を迂回して日本本土沿岸に回ることにしたのかもしれない。本土を攻撃した方が、我が国の方が打撃は大きいと、判断したと思われます」

 

「しかし台湾を迂回すれば時間が掛かるし、バシー海峡通過際には必ず台湾軍に発見される。それを承知でかね?」

 

「確かにその危険はありますが、空母戦闘群および人造棲艦の使い方からすれば、その方が正解です。沖縄侵攻は連邦本隊ないし空母水鬼たちに任せるでしょう」

 

「うむ……」

 

杉浦は唸った。

 

「彼らは中国北部から発進したはずだ。33ノットの高速で南下し、ポンフー諸島を迂回して、さらに台湾を迂回するとすれば太平洋に出てくるまで早くて二日、ことによると三日は掛かるだろう」

 

「しかし台湾とは兼ねてからの密約がありますから、彼らがバシー海峡に出れば、必ず連絡してくれるでしょう」

 

「分かった。しかしそれまでは鹿児島湾にいる空母《飛鳥》と、秀真艦隊は動かせんな。

敵の所在がはっきりするまでは、出撃は見合わせるしかない。

沖縄については郡司提督、海自、空自、多国籍支援軍で充分に対処できるだろう」

 

「本職もそう考えます」

 

黒川も、佐伯空幕長もそう答えた。

 

 

 

黒川海幕長の直感は当たっていた。

連邦軍委員会、具体的に言えば忠秀みずからが、天安と人造棲艦の運用方法を転換したのである。

最初は九州南部に接近し、南北連邦・深海合同艦隊と挟撃して日本を脅かすつもりだったのだが、見事に失敗してしまうと言う有様だった。

対馬を砲撃したのまでは良いが、その後はさっぱりいいところがない。

済州島から出撃した五島攻略部隊と、釜山から出撃した本隊も、迎撃してきた圧倒的な空自・多国籍空軍、海自、あの忌々しい艦娘たちに翻弄されて、散々な目に遭うだけでなく、一部の連邦兵士、港湾水鬼も捕虜にしてしまう始末だ。

 

空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》は、そのとき東シナ海を横断しつつあったが、急遽作戦変更が伝えられて、本国沿岸に戻った。

沿岸に張り付くようにして、最大戦速で南下した。

海軍司令部では福州で高速タンカーを準備して、随伴させることにした。

なにしろ、忠秀が新たに打ちだした作戦というのは、遥かポンフー諸島、台湾を迂回してバシー海峡から太平洋に出ると言う途方もないものだったからである。

空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》に、そして深海護衛艦たちは航続距離が長いが、連邦護衛艦は補給が必要なのである。

高速艦である分だけに大量の燃料を消費するが、太平洋さえ出ればこっちのものである。

燃料が続く限り、自由に行動ができる。

随伴しているハン級戦略原潜は4隻の航続距離は、事実上無限に近いので、こちらの燃料に関しては必要ない。

好きな時に日本沿岸に接近、艦載機の作戦行動半径をフルに使って、好きな場所を攻撃できる。

人造棲艦《ギガントス》も同じく、好きな場所で攻撃ができるから便利である。

忠秀は、むろん首都・東京を攻撃するつもりだった。

 

日本はまさか首都が空母艦載機ないし人造棲艦の攻撃を受けるとは考えてもいないだろう。

その油断を衝いてやるのだ。という裏をかいたのである。

かくして、空母《天安》と人造棲艦《ギガントス》に、彼らの両護衛艦隊は、空自・多国籍空軍の早期警戒機の目を逃れつつ、汕頭(スワトウ)に向かって南下しつつあった。

 

 

 

嘉手納基地に置かれた沖縄防衛軍司令部(日本・多国籍三軍合同司令官『荒井木田』陸将)では、まず敵の予備爆撃を撃退してほっとひと息しているところだったが、早期警戒機から敵艦隊が沖縄中部より100海里(約185キロメートル)の距離に迫りつつあるという報告を受けた。

 

那覇港には郡司率いる連合艦隊、海自の第一、第二護衛群が入っている。

郡司の艦隊編成は以下のとおりである。

第一艦隊は飛龍を旗艦とする空母機動部隊。

第二艦隊は木曾を旗艦とする打撃艦隊。

そして武蔵たちを旗艦とする支援艦隊である。

 

海自の第一護衛隊群の陣容は、

第1護衛隊(はたかぜDDG、むらさめDD、いかずちDD)。

第5護衛隊(こんごうDDG、あけぼのDD、ありあけDD、あきづきDD)。

このうちイージス艦《こんごう》がおり、旗艦も同時に務めている。

 

第二護衛群の編成。

旗艦くらまDDH

第2護衛隊(あしがらDDG、はるさめDD、あまぎりDD)。

第6護衛隊(きりしまDDG、たかなみDD、おおなみDD、てるづきDD)。

このうち《きりしま》が、イージス艦《こんごう》の姉妹艦である。

 

これらはいずれも第三世代と第四世代の護衛艦に、郡司が乗艦するズムウォルト02が入り混じっている。

 

イージス艦は強力な護衛艦として有名である。

敵艦を迎撃するだけでなく、防空能力も兼ね備えているのは言うまでもない。

もともと海自の護衛艦は、対潜・護衛作戦のために特化したものだが、いまではそれを超えて汎用戦闘艦になっている。

それに比べて連邦艦隊は新鋭艦を次々と就役させたが、急激に日本艦隊との差を縮めようと努めているのだが、やはり四個群からなる日本艦隊、そして艦娘たちの方がバランスが優れており、アジア最強の艦隊であることは言うまでもない。

 

これに潜水艦部隊をプラスすれば、さらに有利になる。

連邦国は確かに原潜を持っているが、先に見たように通常型潜水艦が必ずしも原潜に劣ることはない。

潜水艦同士の戦闘ということになれば、静粛性の優れたディーゼル・エレクトリック艦のほうが優位に立つ。

原潜のメリットは、排水量が大きく搭載できる兵装も豊富、航続距離も長いということだが、狭いアジア海域を考えれば、そのメリットは生かされない。

アメリカの攻撃型原潜のように拘束を生かして、広大な太平洋、大西洋を自在に走り回ると言うことになれば、話しは違ってくるが、連邦海軍にはその必要がないはずである。

 

 

 

統幕本部からの命令に従い、郡司率いる連合艦隊、海自の第一、第二護衛群は、ただちに那覇港から出撃した。

エアカバーは補給を終えたF-15、F-3《心神》に続き、多国籍空軍機のF-35《ライトニングⅡ》に、そしてSu-35《スーパーフランカー》だった。

 

現在沖縄に向かい、進撃しつつある連邦艦隊はドグウとカメである。

容姿は古代遺跡で見つかった土偶に、巨大な亀であるため誰しもが笑いでも狙っているのかと思うほどである。

また両艦の武器は強力なものでドグウは敵をも吹っ飛ばすほどの衝撃波を持ち、カメは戦艦並みの射程距離を誇る巨大火球と火炎弾を兼ね備えているだけでなく、強靭な防御力を誇る。ただしコストが高めなために両艦とも2隻ずつで生産終了となる。

しかし現代兵器は、口径が大きいほど威力があるということにはならない。

威力はレーダー管制の正確な射撃と連射速度であり、数ミリの口径の差などは全く問題にならない。

その点は、優秀なレーダー管制能力と連射能力を持つ日本艦隊のほうが高いと言うまでもない。

 

連邦海軍は、その母体は日本海軍もあるが、どちらかといえば彼らが崇拝している特亜に近い。しかし海軍は海洋進出をしているにも拘らず、海戦は得意ではない。

かつての元寇襲来でも陸地では最強と謳われるほどの強さを誇っていたが、不慣れな海上戦では、元来から海戦を得意とする日本に敗れた。

これと同じように未だに連邦海軍は、大艦巨砲主義も引きずっている。

秀真・古鷹たちと交戦したルーター級と混じり、攻略部隊の上空にはエアカバーとして、旧式戦闘機J-8、J-7による合同部隊に守られながら進撃している。

繰り返すが、連邦空軍はこのMig-19やMig-21の改良機を大量に保持している。

しかし現代の空でも性能が互角でない限り、物量がものをいうことはできない。

連邦軍は、元は中国軍であり、陸軍主体で海空軍は下部組織、つまりおまけに過ぎなかった。近代化してもそう簡単に抜ける筈もなく、組織同士の権力争いが頻繁に起こった。

以前は世界覇者を実現させるために不沈空母ともいえる大量の人工島をせっせと建造したが、しかし日本率いる東南アジアに、米軍が包囲するだけでなく、止めを刺されたかのように深海棲艦による侵攻で、海洋進出の夢は空しく崩壊した。

それらがトラウマのため、原点、陸軍主体の物量主義に戻った。

ともかく作戦機の多さを誇る傾向があるのだが、多くても旧式揃いでは何にもならない。

これが如実に示されているのは戦車の世界でも同じだ。

過去の湾岸戦争、イラク戦争でもイラク軍が主力としていたソ連戦車のT-55、T-62などといった第二世代戦車を大量に保持していたが、M1A1など第四世代戦車を大量に配備した米軍率いる多国籍軍に完膚なきまで打倒された。

今日でも陸軍の世界ですらも、物量が問題ではないのである。

 

それが先鋭化されているのは航空機であり、空の世界である。

少しでも性能の劣る戦闘機は、空の掟により、高性能な戦闘機に撃ち落される運命である。

これを逆転させるのにはゼロに近く、両機が戦うことは一方的な虐殺に等しい。

連邦軍事委員会のミスは、いわゆる中華思想と反日思想などに染まり、この征球作戦にまで反映されたことである。

客観的に見れば自国の兵器は、その大半が旧式兵器にも関わらず、深海棲艦が何とかしてくれという楽観的主義に、日本ならび日本的なものに対する侮りがそこに入ってしまう。

そしてなお偉大なる世界覇者となる連邦共和国軍が、日本と艦娘たちに負けるはずがないという日本の悪癖ともいえる根性論と精神論が混入してしまう。

 

連邦軍部が立てた作戦を見ると、そうとしか思えない。

戦艦水鬼とは違い、極度な自己過信がそこにあり、南北連邦海軍と港湾棲姫たちがあれほど痛い目に遭ったのにも関わらず、中岡たちは「役立たずはどんなに頑張っても役立たず」や「有能な大統領閣下が最前線に立てば必勝した」などと言う始末である。

その過信は、慢心ともいえるが……そうとしか言いようがない。

 

ドグウ、カメ、ルーター級と共に、ルーフー級2隻が同行しているが、これは一世代古い駆逐艦であり、艦砲は100mmに過ぎない。

しかし対潜ロケットは多数搭載し、対潜駆逐艦として運用している。

また空母水鬼率いる懲罰艦隊に続き、督戦艦隊もこれらに続いている。

進撃中のさなか、北方棲姫が「お腹がすいた」と港湾棲姫に言ったので、夕食にすることにした。

戦闘糧食を作ったのは空母棲姫であり、本人曰く「好きな人のため」と述べた。

恐らく戦艦水鬼派の連邦幹部か、彼女の従兵である宮本伍長のことかなと思いつつ、空母水鬼たちは竹皮に包まれた握り飯を食べようと手をのばしたが、しかし督戦艦隊指揮官・ヤク政治将校に「貴様たちは弁当を食べる必要なし」と言われ、全て没収された挙げ句、ヤク政治将校と幹部たちが全て食べ切ってしまったのだ。

空腹に耐えられない北方棲姫のために、港湾棲姫は隠し持っていたチョコレートを渡したため、どうにか治まった。

 

そして五海里(約9.26キロメートル)離れて後続しているのは、ユティン型揚陸艦6隻、ユカン型揚陸艦1隻で、上陸部隊は2000名である。

これだけの兵力で先遣隊の空挺部隊と合わせて橋頭堡を築こうというのだから、大胆と言えば大胆、無謀といえば無謀である。

自衛隊・多国籍軍を舐めているとしか言いようがない。

むろん続いて部隊を空輸する予定だったが、一番乗りの空挺部隊も全滅したことは知っているはずだが、作戦に変更はない。

これら揚陸艦を護衛している艦隊は、ジャンカイ型とジャンウェイ型、旧式のジャンフー型フリゲートの混合艦隊で、対艦ミサイル、100mm連装砲を主力兵装としているが、全て時代遅れの旧式艦とは否めない。

しかもジャンフー型は、同型艦でも個体差が生まれてしまうほどバラつきが激しい。

艦隊と言うものは性能が揃っていないと、それを十全に発揮できない。かえって混乱してしまう。

 

提督時代でもまともに艦隊機能ないし艦隊指揮を怠り続けた連邦海軍、近年には海洋進出しても実戦経験の少ない中国軍による悲劇でもある。

むろん海上自衛隊も実戦経験は少ないが、米軍との長年の大演習、多国籍海軍による合同演習、環太平洋合同演習《リムパック》に、そして元帥たちの艦娘たちとの合同演習時でも実戦さながらの演習をしている。

ようやく中国はロシアとの合同演習もし始めたが、ロシア海軍の足を引っ張るばかりではなく、ロシア海域にも手を延ばそうとした中国に危惧して無期限中止をしたぐらい下手なのである。

 

この征球部隊の指揮官は、サイ中将。最新鋭艦のカメに座乗している。

最新鋭艦のドグウ、カメは良いが、ほかの艦隊はとても日本艦隊に太刀打ちできない。

ルーター級なんて1991年に就役した旧式艦、もはや30年以上の老齢艦である。

サイ中将は現実認識能力があり、南北連邦・深海合同艦隊が一方的に敗退し、陽動作戦が失敗に終わったことを知ってから、戦艦水鬼同様にこの作戦自体が無謀であることをうすうす感じ始めていた。

 

日本の自衛隊と艦娘たち、彼女たちを支援する多国籍軍は強い。

日本の軍事評論家の一部は自衛隊を不毛とする輩がいるが、日本の海軍力は米軍並みに強い。

世界の軍事評論家たちがアジア第一の実力、いや世界的に見ても五位以内に入る実力があると認めていることを、サイ中将もまた現実として受け止めている。

海上自衛隊の唯一の泣き所は、空母を持たないことだ。

このため米軍は別格として英仏露には負けるが、そのほかに関しては互角である。

しかも、日本はその空母を持ったと言う情報が入っている。海上自衛隊には死角がなくなった。

 

それなのに自分は、軍事委員会の命令を忠実に守り、死地に突入していく。

これはひとえに「連邦国のためでもあり、自身の面子でもある」と中将は思った。

両方のために死ねる。これで良いではないかと……




今回久々に登場したドグウとカメですが、依然ご説明したかと思いますが、元ネタは『千年帝国の興亡』の隠しマップ『難局!』に出ている架空兵器です。
なお本来のドグウは歩兵で、カメは戦艦です。しかし攻撃力高いです、どちらも。
ほかに敵は、トリ(航空機)、ウチュウジン(軽戦車)がおり、味方増援部隊は士官学校にいた教官、ロドリゲス教官が登場し、しかも軽戦車でレーザー攻撃します。

灰田「その後のEDは観ましたが、あれは伝説になりますね」

俺たちの戦いはこれからだとか言う展開と、第一部完ですからね、あれは……
ともあれ連邦艦隊が持っても活躍できるか、どうか……
しかも空母棲姫さんが一生懸命に作った弁当(戦闘糧食)が、空母水鬼さんたちが食べる前に、大人気ない政治将校たちにより士気低下ですからね。

灰田「まあ、どういう最後になるかは……」

郡司「懐かしい話と他愛のない話をしているところすまないが、そろそろ次回予告しないとまずいんじゃないか?」

木曾「次回は郡司と俺たちが活躍するんだからな、頼むぞ」

灰田「次回はお二人の艦隊、海自の第一、第二護衛艦群による連邦艦隊、空母水鬼たちとの艦隊決戦であります。
なお都合上により、前編・後編に分けるのでご了承ください」

木曾「郡司と俺たち、そして海自の護衛艦群の活躍にも注目してくれ」

郡司「同志並みに活躍できるかな、木曾?」

木曾「大丈夫さ、お前は俺がいる限り大丈夫さ」

郡司「スパシーバ、木曾」

木曾「当然だ、俺がいるんだから安心しな」

灰田「またしても良い雰囲気になっていますが、ではそろそろお時間ですので……。
第五十二話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

郡司「ダスビダーニャ、ようやく言えたな」

木曾「ダスビダーニャだ。それじゃあ、出撃するぞ!」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十二話:奇跡の東シナ海戦 前編

お待たせしました。
では予告通り郡司と木曾率いる連合艦隊、海自の第一、第二護衛艦群が、沖縄に侵攻しようとする連邦艦隊と空母水鬼たちとの艦隊決戦であり、前編であります。
今日は節分ですので、戦意高揚であります。
余談ですが「艦これスタイル・鎮守府生活のすゝめ改」の衣笠さん……
ああ^ ~衣笠さん、最高なんじゃ^ ~
そうか…やはりこれからは第六戦隊の時代だな(日向ふうに)

灰田「と長々とした話ですが、それでは改めて……本編であります。どうぞ!」

気持ちを入れ替えて、本編であります。どうぞ!


嘉手納基地を飛び立った日本・多国籍戦闘機群は、敵機に殺到した。

前にも記したようにF-15、F-3《心神》に続き、多国籍空軍機のF-35《ライトニングⅡ》に、そしてSu-35《スーパーフランカー》である。

これらは全ての戦闘機は、高性能戦闘機であるのは言うまでもない。

連邦戦闘機群はもはや旧式戦闘機だけであり、必死に迎え撃ったが、自分たちが操縦する戦闘機よりも遥かに上回る性能に、スピードを兼ね備えている。

このためF-15、F-3、F-35、Su-35戦闘機などに翻弄され、蠅のように叩き落されてしまう始末で制空権を握ることなく撃ち落されてしまった。

 

連邦空軍が空自・多国籍群による空戦に気を取られていた隙に、敵艦隊を攻撃するために向かったF/A-18E《スーパーホーネット》が敵艦隊に襲い掛かろうと突撃する。

各機の両翼下に搭載しているハープーン・ミサイルを目標に向け、目標にロックオンしたパイロットたちは赤い発射ボタンを押したと同時に、ハープーンは一斉に発射した。

F/A-18E部隊が発射したハープーンが襲い掛かると、短SAMやCIWSを持つ連邦艦艇はそれで迎撃し、持たない旧式艦と深海棲艦は連装機銃ないし対空砲で必死に応戦したが、最終速度マッハ2以上を超える対艦ミサイルは防ぎきれない。

レーダーで確実に目標を捕捉し、命中弾を送るためには、イージス艦のように三次元レーダーシステムとそれと連携する目標割り当てシステム……射撃管制システムが必要なのである。

 

連邦艦隊が夢中で撃ちまくっているうちに次々とミサイルが命中し始め、ルーター級駆逐艦4隻が大破炎上、ルーフー級駆逐艦1隻が撃沈した。

深海護衛艦、懲罰艦隊にも全員中破。付き添っていた督戦艦隊は小破である。

生き残った艦艇は、最大戦速で逃げ惑った。

旗艦ドグウも無事だが、これを座乗しているサイ中将は茫然とこの有様を見守っていた。

エアカバーはたちまち叩き落され、攻略艦隊のすでに半分近くが撃破された。

まだ深海棲艦の数が多いから余裕はあるものの、このあと艦娘の艦載機攻撃、日本艦隊の攻撃を受けたら、いったいどうなるか。

 

しかし、まだ作戦中止の命令を出す決心は掴めなかった。

そのためには、海軍司令部に打電してお伺いを立てなければならないが、拒否されるに決まっている。なお督戦艦隊は空母水鬼率いる懲罰艦隊のみ監視しているため安心できる。

しかし自分が逃げ腰になったことは記録に残り、運が良ければ直ちに更迭、悪ければ死刑になる。

そんな危険は冒せない。

寧ろ滑稽なことだが、サイ中将は目の前の日本軍よりも、背後に控える軍事委員会の方が恐ろしいのである。

 

日本機が去ると、大破した艦はそのままにして態勢を立て直して、進撃を続けた。

揚陸部隊さえ無傷なら、なんとか突入できるチャンスはある。

沖縄の土を一歩でも踏めれば、自分の面子は保てる。

 

しかし、それを潰される出来事が起こった。

津波ブイが幾つか漂流しているなと思いつつ、前進すると、突然と駆逐艦に水柱が立つ。

敵潜かと思い、ソナーで索敵したが潜水艦の影も形も見当たらなかった。

しかも次々と雷跡が友軍艦を襲い掛かり、何者かの手によって轟沈していく。

いったい何が起こったのかと疑問に思いながら、沈みゆく味方艦を見て、泡を食った。

むろん深海棲艦側も損傷を受けながら、恐怖に駆られていた。

これまたサイ中将らは知らなかったが、彼らの真下、海底に仕掛けられた海底魚雷が作動し、襲い掛かっているのだ。

これを仕掛けたのは言うまでもなく、灰田であり、先ほど津波ブイは敵味方識別火器管制装置の光学・レーダーブイである。

 

サイ中将は諦めなかった。

もう一隻いるドグウを利用して襲い掛かってくる敵魚雷を破壊するため、衝撃波を連射した。

これは効果的であり、四方八方から襲い掛かってくる海底魚雷を破壊した。

また生き残った駆逐艦を利用して、対潜兵器をありったけ投下して破壊した。

なお深海棲艦の駆逐艦も爆雷を投下して破壊し、襲い掛かる魚雷に体当たりをするという単純作業を繰り返して、解除していく。

この努力の甲斐があってか、ドグウのおかげで全ての海底魚雷を解除できたものの、敵にチャンスを与えてしまったと全員が思った。

その30分後にドグウのレーダーは敵影を捉えた。

無数の小型戦闘機……これは飛龍たちが放った《天雷改》に続き、烈風、彗星改、流星改、閃光改による第二次攻撃隊が近づいていた。

 

これに負けずと、航空開幕戦が始まる。

空母水鬼率いる懲罰艦隊は、主力戦闘機《たこ焼き型艦載機》《深海艦載機》を放った。

特に空母水鬼はあの恐怖のジェット戦闘機、デビルこと轟天は、第二次南シナ海戦で痛い目に遭ったため、あの恐怖がまた蘇えった。

しかし後継機《天雷改》があるとは港湾棲姫から聞いたが、やはりあの耳を切り裂くような爆音が聞こえてくるたびに、死神が迎えに来たなと思い、冷や汗を掻いた。

装甲空母姫は空母水鬼に落ち着かせるように、大丈夫と励ました。

港湾棲姫も北方棲姫も、彼女を落ち着かせる。

 

しかし、現実は残酷なものだ。

双方の艦載機は初対面だが、圧倒的に有利だったのは飛龍たちの艦載機だった。

たこ焼き艦載機はエンジンを最大限に活かして、天雷改に襲い掛かったが、20mm機関砲を浴びせる前に、天雷改はたこ焼き艦載機を上回る旋回能力で背後に回る。

目標を捉えたパイロットは、搭載しているレーザー砲を撃ち放つ。

紅いマジック・ヒューズともいえるレーザーが、たこ焼き艦載機の機体を貫通すると体内で炸裂したのか空中分解をし始め、爆発四散した。

烈風・閃光改の合同部隊にも襲い掛かるが、烈風もまた深海艦載機群を翻弄していた。

一部の深海艦載機群は攻撃隊を撃ち落すも、敵機を素早く片付けた天雷改・烈風・閃光改部隊が全ての敵機を撃ち落とす。

これは虐殺とも言えるが、前記にも書いたように性能の劣る戦闘機は、高性能な戦闘機に撃ち落されると言う掟、空の掟がある。

 

敵機を片づけた戦闘機隊は攻撃隊を援護の役目を終えると、敵艦に襲い掛かる。

天雷改はレーザー砲、両翼下に搭載した50mmロケット弾ないし胴体内に収めていた500キロ爆弾を敵艦に浴びせた。

例によって対空砲火を余裕にすり抜けて、敵の対空兵器を破壊するという戦法である。

黒死病とも思わせる黒い雨に混じり、紅く美しい豪雨が各艦に搭載している対空砲ないし対空機銃を潰していく。

急降下態勢で250キロ爆弾を投下する彗星、雷撃態勢で低空飛行をする流星改部隊に、流星改に続き、低空飛行をしてスキップボミング(反跳爆撃)による攻撃は激しく回避するにも苦労する。

史実のレイテ沖海戦を思わせるようなものであり、米艦載機が武蔵など数多くの連合艦隊艦艇を撃沈したのも航空機である。

しかも最新鋭艦のドグウ、カメが小破し、他の艦艇も中破炎上していた。

懲罰艦隊、督戦艦隊も損傷は免れなかったが、撃沈はしていない。

なお深海攻撃隊が、敵機動部隊を攻撃しようと向かったが、これまた第二次南シナ海戦と同じように敵空母に小破させたが、ほかの艦娘たちには中破また大破させることができなかったという最悪な戦果が再現されたのだった。

 

飛龍たちの攻撃隊が全機反転、引き上げていくと敵艦隊を捕捉した。

小破したドグウのレーダーが再び敵影を捉えた。

90度の方向から、連合艦隊が二手に分かれて進んでくる。

距離はまだ20海里(約37.04キロメートル)はあるが、30ノット以上の快速だから、たちまち接近するだろう。

 

サイ中将は海戦用意の号令を出した。

こちらにも対艦ミサイルがある。上手くいけば敵艦を数隻沈めることができると……

しかし、彼が思うように連合艦隊は甘くはなかった。

 

 

 

郡司率いる連合艦隊、海自の第一、第二護衛群がすばやく敵艦隊をキャッチしていた。

郡司艦隊は以下の通りである。

第一艦隊(飛龍改二、蒼龍改二、翔鶴改二、瑞鶴改二、白山改、十勝改)。

第二艦隊(木曾改二、夕立改二、暁改二、ヴェールヌイ、雷改、電改)。

支援艦隊(武蔵改、扶桑改二、山城改二、イタリア、ローマ改、リベッチオ改)。

 

「敵艦隊は混乱しています、提督」

 

偵察機《彩雲》からの打電を受けて飛龍は、郡司に報告した。

敵も攪乱している、今がチャンスだと全艦隊に攻撃命令を下した。

 

「全艦に告ぐ、これよりアウトレンジで連邦・深海両艦隊に各艦ミサイル及び砲撃で攻撃を開始せよ。

なお飛龍たちは万が一に備え、第三次攻撃隊の準備を。第二艦隊は攻撃終了後には、飛龍たちの護衛を務めよ」

 

「「「了解!!!」」」

 

まず先制攻撃を仕掛けたのは、連合艦隊だった。

郡司が乗艦しているズムウォルト級に続き、海自のイージス艦《こんごう》《きりしま》なども捕捉した敵艦を捉え、ハープーン・ミサイルを発射した。

 

「任せておきな、提督」と木曾。

 

「さあ、素敵なパーティーしましょう」と夕立。

 

「攻撃するからね」と暁。

 

「Ура!(ウラー)」と響ことヴェールヌイ。

 

「ってー!」と雷。

 

「命中させちゃいます!」と電。

 

「リベの攻撃、見ててね!」とリベッチオ。

 

第二艦隊の放ったハープーンおよび17式対艦ミサイルの後に続くように……

 

「さあ、行くぞ!撃ち方…始めっ!」と武蔵。

 

「全砲門、一斉射」と白山。

 

「全主砲、薙ぎ払え!」と十勝。

 

「主砲、副砲、撃てぇ!」と扶桑。

 

「主砲、よく狙って、てぇーっ!」と山城。

 

「夜の戦いは…私、負けません!」とイタリア。

 

「全力で潰すわよ。全砲門、開け!」とローマ。

 

武蔵の主砲が敵艦隊のいる方向に向けて、46cm連装砲に、扶桑姉妹、白山、十勝の41cm連装砲に、そしてイタリアたちの381mm/50 三連装砲改とOTO 152mm三連装速射砲が各主砲ないしレーザー砲が獲物を見つけた肉食恐竜の雄叫びのように咆哮し、一斉射した。

白煙と放熱を発した徹甲弾、ひときわ目立つレーザー砲が斉射、全弾は敵艦隊目掛けて飛翔した。

 

「敵艦隊攻撃、多数のミサイル、徹甲弾が飛翔してきます!」

 

敵艦も捕捉した時には、敵艦はミサイルないし砲撃をしてきた。

サイ中将もまた対艦ミサイルを発射せよと命じた。

残存する連邦駆逐艦から、ソ連製ないし自国で開発した対艦ミサイルが舞い上がり、連合艦隊に襲い掛かる。

 

しかし何度も言うが、無駄な足掻きに過ぎなかった。

連合艦隊にはズムウォルト級に、海自のイージス艦《こんごう》《きりしま》が前進して、1隻が16の目標を処理できるのだから、2隻で32発の敵ミサイルを処理できる。

また郡司が乗艦しているズムウォルト級に関しては、イージス艦の10倍の防空能力を持つため、強力なものである。

 

改ソブレメンヌイ級と旅洋Ⅲ型などは最大速度2.5に達する高性能な対艦ミサイルを持つが、ここにはいない。

その代わりドグウ、カメに関しては小破だが、射程距離に入る前に撃沈していないかが心配である。

ルーター級、ルーフー級が撃ち放った旧式対艦ミサイルは、だいぶスピードが遅いので、容易くイージス・システムで捕捉された。

短SAM、連装砲、レーザー砲、CIWSなどに叩き落されて、連邦艦隊の放ったミサイルは、2隻のイージス艦、1隻のステルス艦によって無力化されてしまった。

その報復と言うべき数えきれないほどのハープーンと17式対艦ミサイル、そして徹甲弾に三式弾、紅きマジック・ヒューズともいえるレーザー砲弾の豪雨が、一斉に襲い掛かってきたから堪らない。

連邦・深海合同艦隊も同じく、短SAMや連装機関砲、対空砲、対空機銃で対抗したが、まるでパチンコ玉で銃弾を撃ち落すようなものである。

130mm連装砲も吠えたが、これは無駄な努力でしかない。

ドグウの衝撃波、カメの巨大火球を発射しようとしたが、どうも先ほどの海底魚雷を処理する際に連射した影響により、故障が発生した。

サイ中将率いる連邦艦隊、懲罰艦隊、督戦艦隊はミサイル、徹甲弾、レーザー砲弾の嵐に包まれて、ドグウに超低空で突進してきて、いきなりホップアップしたハープーンが二発襲い掛かって来た。

轟音とともに幾つもの揺らめき輝く炎がドグウを焼き尽くそうとしているが、しかし止めを刺すように徹甲弾とレーザー砲弾を喰らうと、ドグウの身体は風船のように膨れ上がりドグウは爆沈したのである。もう一隻いたドグウは大破炎上していた。

なおカメは頭や手足を引っ込めて耐え抜いていたが、しかし両艦の甲羅は耐久性を失い、落下してきた徹甲弾を数発受けて貫通し、こちらもまた撃沈した。

連邦艦隊の駆逐艦は、全ての艦船が大破炎上ないし轟沈している有様だった。

誰が見ても分かるように、連邦艦隊は殲滅されたのであり、無事な駆逐艦は一隻もいない。

また空母水鬼たちも中破ないし大破だった。

しかし督戦艦隊も空母水鬼たちを盾にしていたため、小破ないし中破に止まったため健在である。

 

連邦艦隊からして見れば、信じがたい戦略的失敗だろう。

たった3隻のイージス艦に、ガラクタ同然の兵器女に負けると言う存在が。

何よりも実力、いや、現実認識能力の欠如があるともいえる。元よりイージス艦の能力を甘く見ていたと言ってもいいだろう。

10海里後方にいた揚陸指揮官は、水平線上に立ちのぼる多くの地獄の業火ともいえる炎と黒煙を見て、双方の海戦が行なわれていたのを知った。

味方との通信は督戦艦隊のみであり、味方は壊滅状態になったと知った。

しかし、督戦艦隊は空母水鬼たちとともに突撃せよと命令が下された。

嫌々ながらも空母水鬼たちも最終決戦のために、揚陸部隊とともに突撃をしたのであった。

 

 

 

「敵艦隊は壊滅状態か……」

 

ズムウォルト級のCICから戦況を見た郡司は、これで敵艦が撤退してくれれば良いがと思っていた時だった。

 

「提督、敵艦隊が接近して来るぜ。しかも揚陸部隊を連れてきているぜ」

 

木曾からの通信を聞いた郡司は、素早く気持ちを切り替えた。

 

「よし、これより敵機動部隊と揚陸艦を叩く。飛龍たち第三次攻撃隊を発艦せよ。

制空権確保後は、各艦は砲雷撃戦、また木曾たちの援護を務めよ」

 

「「「了解!!!」」」

 

一同は戦意高揚であるが、空母水鬼たちは消極的になり、士気も低下している。

そんな空母水鬼たちを見た木曾は違和感を覚えたため、郡司に連絡をした。

 

「……郡司、いざとなったら、深海棲艦を捕虜にするからな」

 

「……木曾もやはり気づいていたか」

 

「ああ、無理やり戦わせているようにも思えたからな。あんなに攻撃を受けてもなお大破進撃してくるのだからな」

 

「もしその通りだった時は、後方にいる敵艦隊を撃滅すれば捕虜にすることができるかもしれない。あくまでも予想だけど」

 

「ああ、援護頼むぜ。郡司、愛しているぜ」

 

「援護は得意だから、任せて。僕も愛している」

 

短いやり取りだが、こうしているだけでも彼にとっては心の支えになる。

敵艦隊との最終決戦に向けて、郡司が乗艦するズムウォルト級は微速前進した。




今回はここまでですが、さすが督戦艦隊は自分たちは戦わず弱い者いじめしか出来ない艦隊ですからね。
なお政治将校が乗艦している艦は次回で明らかになりますのでおたのしみを。
ヒントは前回の後書きに出ている兵器です(鯨カツもぐもぐ)
節分だから楽しまないとね。

神通「はい、そうですね。提督」(恵方巻きもぐもぐ)

灰田「今日は節分ですからね、存分に楽しみましょう」(炒り豆もぐもぐ)

郡司「豆まきは戦争なんじゃ~と叫ぶが、僕はいつも鬼役だからね。駆逐艦の子たちが喜んでくれたら嬉しいからね」(鰯の塩焼きもぐもぐ)

木曾「俺も手伝っているが、喜んでくれるなら俺も同じさ」(豆酒ごくごく)

暁・響・雷・電・夕立・リベッチオ「「「鬼は外~、福はうち!!!」」」

扶桑「山城、節分よ」

山城「姉さま、豆を食べて、投げるのですね?」

武蔵「久々の登場は良いな。しかしこの恵方巻き美味いな」

イタリア「日本の恵方巻き。美味しい」

ローマ「これが恵方巻きか……なんだか独特ね」

白山「富士姉さん、高千穂姉さんも楽しんでいるかな?」

十勝「楽しんでいると思うよ。大和さんと古鷹たちの作った恵方巻きを堪能しているんじゃないかな?」

飛龍「この恵方巻き、美味しくて癖になるわね」

蒼龍「本当、戦意高揚しちゃうわね」

翔鶴「今日は節分だから楽しいわね。瑞鶴」

瑞鶴「そうだね、翔鶴姉!」

灰田「では皆さんが楽しんでいるところを邪魔しないよう、次回予告であります。
次回はこの海戦の続きであり、電の勇気ある行動が見れますのでお楽しみを。
ではそろそろお時間ですので……。第五十三話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

郡司一同「「「ダスビダーニャ!!!」」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


一方、秀真たちは……

秀真「今日の節分は大いに盛り上がったね。みんなお疲れ様」

古鷹「今日は楽しまないと損ですからね、みんな喜んでくれて良かったです」

加古「あたしも楽しんだよ、恵方巻き美味いな…Zzz」

青葉「青葉いっぱい撮影しちゃいました!またいい記事が書けます!」

衣笠「ふふーん。節分も衣笠さんにお任せだよ!福はうち!」

郡司たちと同じく、盛大に楽しんだ秀真一同であった。


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第五十三話:奇跡の東シナ海戦 後編

お待たせしました。
では予告通りこの海戦の続きであり、電の勇気ある行動が見れます。

灰田「なお政治将校が乗艦している艦は、こちらも『千年帝国の興亡』の隠しマップに登場したカメ、ドグウと同じく、敵兵器として登場するものです」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


「よしっ、友永隊、頼んだわよ!」と飛龍。

 

「攻撃隊、発艦はじめっ!」と蒼龍。

 

「行くわよ!全機、突撃!」と翔鶴。

 

「艦首風上、攻撃隊…発艦、始め!」と瑞鶴。

 

「航空隊、発艦開始!」と白山。

 

「攻撃隊準備良し、全機発艦!」と十勝。

 

「山城、遅れないで。出撃よ」と扶桑。

 

「はい、扶桑姉様!」と山城。

 

敵艦隊に遭遇した飛龍たちは、弓を構えて、矢を取り出し、上空へと射った。

直後、炎に包まれた矢はあの逞しい轟音を鳴り響かせながら発進する天雷改、烈風改に、彗星改、流星改、閃光改(戦爆)が続くように次々と発艦して行く。

同じく特型戦艦の白山・十勝の攻撃隊、扶桑姉妹の瑞雲部隊が、飛龍たちの攻撃隊の後を追うように飛び立っていく。

この殺到して来る攻撃隊を見た連邦艦隊は、もうお終いだと思ったのだろう。

恐怖のあまり対空戦闘を準備、空母水鬼たちも応急処置した飛行甲板から迎撃機を放った。

もはや最後の直掩隊であるたこ焼き型艦載機・深海艦載機が飛び立つ。

しかも相手は数百機にも拘らず、こちらは100機程度である。

史実でもレイテ沖海戦でも連合艦隊は、物量の誇る米海軍に敗れてしまう。

しかもその多くは艦載機による攻撃である。今度はそれを忠実に再現したかの如く、飛龍たちの攻撃隊が襲い掛かって来たから、このうえ恐怖を覚えたのは無理もない。

しかも後退すれば督戦艦隊の攻撃を受けてしまうため、後退はできない。

例え体当たり攻撃してでも損傷させろと、督戦艦隊指揮官からの命令である。

これでは、ソ連軍を監視していた政治将校と変わらない。

指揮官が立てた作戦でも、必ず横槍を入れたために返って、作戦自体が滅茶苦茶になったことも多い。

 

敵機遭遇。天雷改・烈風改部隊は敵戦闘機に襲い掛かる。

たこ焼き型戦闘機・深海艦載機も突撃したが、いまはベテランとなっている天雷改・烈風改に搭乗する全パイロットたちの方が圧倒的に有利だった。

機体後方に回り込んでは、標的に合わせて強力なレーザー砲、30mm爆裂機関砲弾を敵機に浴びせる。双方の戦闘機が交差しながらの激しい空戦が続く。

敵も対策として、二機一組で突撃した。

しかし天雷改・烈風改部隊にとっては大した意味もなく撃墜されるも、自暴自棄になった艦載機は体当たり攻撃を仕掛け、辛うじて烈風を10機撃墜した。

だが無駄な足掻きとして、結局は天雷改に撃墜される。

敵戦闘機部隊は殲滅。これを好機に攻撃隊・瑞雲隊は突撃を開始した。

ト連送、全軍突撃セヨを繰り返すと、この伝達は全機に送られる。

その命令に応じて、全攻撃隊・瑞雲隊は急降下し突撃していく。

敵の対空砲火により撃墜される機体もあったが、仲間の仇を取ろうと全機突撃してきた。

これほどの闘志を見た連邦揚陸部隊に、懲罰艦隊は懸命に弾幕を張り続けたが、思うように命中しない。やはりVT信管を無効にするようアンチ・レーダー・システムを施してある。

ついに彗星・瑞雲による250キロ爆弾が投下され、応急処置した空母水鬼たちの飛行甲板に命中、爆発の衝撃に伴い、内部を貫通して破壊する。

天雷改による50mmロケット弾と500キロ爆弾、烈風改による機銃掃射で敵の対空兵器と飛行甲板を攻撃も続けざまに受ける。

これらの飽和攻撃により、飛行甲板に穴が開いたため、発着艦が困難だった。

しかし幸いにも全艦載機・航空爆弾・魚雷と言った搭載兵装は使い果たしたため、誘爆は起こらなかった。もし、そうなっていたら轟沈は避けられないからだ。

史実でもあの運命の分け目のミッドウェイ海戦でも、日本海軍は誤った判断をした際に、

米軍の急降下爆撃機群による攻撃を受けて、空母四隻を失ってしまった。

今度は懲罰艦隊がそれに近い体験を味わっているのだ。

 

しかし両艦隊に止めを刺そうと、流星改・閃光改部隊による攻撃が開始した。

水面ギリギリに飛行する両機は、機体下にある航空魚雷・250キロ爆弾を投下した。

蒼海の暗殺者は雷跡を残ることなく、敵艦隊目掛けて推進、ついには幾つもの水柱が立ちあがり、揚陸艦が斜めに傾き始める。酸素魚雷に、飛ぶ魚のように跳ね続ける250キロ爆弾が命中したから堪らない。

揚陸艦指揮官が乗艦する揚陸艦を含め、全揚陸艦は沖縄に上陸する前に海の藻屑となって消えた。

指揮官たちは督戦艦隊を恨みながら戦死した。

揚陸艦が殲滅され、護衛艦隊は全滅、自分たちが被害を被ってもなお空母水鬼たちは前進したが、ついに彼女たちが速度を落とし始めた。

あの攻撃を守るため、北方棲姫を守り続けていたのだ。だから、あの攻撃を受けても中破だけに済んだ。

空母水鬼たちは自分たちは良いから先に言ってと言うが、北方棲姫は首を横に振る。

一緒に居たいと我が儘を言っていた。

それでも叱ろうとした際に、あの政治将校を乗せたウチュウジンが近づいた。

外観は1952年9月12日にウェストヴァージニア州のブラクストン郡フラットウッズの町でUFOとともに目撃されたといわれる有名な「宇宙人」、あるいは未確認生物であるフラッドウッズ・モンスターである。

日本では《3メートルの宇宙人》として有名である。

 

「おいこら、前進しろ。この役立たず!」

 

彼女たちの判断力が鈍いほど負傷していたため返答はない。

しかし、北方棲姫は答えた。

 

「嫌ダ、オマエタチ嫌イ。オ姉チャンタチヲ苛メル奴ハ嫌イ!」

 

「ダ、ダメ……逃ゲテ、ホッポ……」と空母水鬼。

 

「私タチハ大丈夫ダカラ、ハヤク……」と港湾棲姫。

 

「姫様、ハヤク逃ゲテ……」と装甲空母姫。

 

空母水鬼たちの言葉を無視してでも、北方棲姫は逃げることはなかった。

 

「はあ、言うこと聞かないガキは嫌いだな」

 

呆れ顔をしたヤク政治将校は、躊躇うことなく紅い光線で攻撃した。

これを喰らった北方棲姫は大破したが、それでも倒れずに刃向かう。

しかし光線の影響で意識が朦朧になり、倒れそうになった彼女を港湾棲姫が抱き止める。

 

「はあ……そこまで逆らうか、なら死ねーーー!」

 

再度狙いを付けられ、相手は砲撃を開始しようとした。

空母水鬼の艦載機は全機喪失、装甲空母姫は砲撃しようにも16inch連装砲は原型を留めておらず、魚雷発射管も同じく大破により、雷撃もできない。

自分たちはもうここで死んでもいいと諦めかけていたときだ。

ヤク政治将校に付き添っていた後方にいる駆逐艦が、何者かの砲撃によって、林立する水柱が押し包み、発砲とは異なる閃光に伴い、破砕音が煌いた。

 

「この、俺につまらないエンディングを見せつけるんじゃないよ!」

 

映画の主人公のような台詞を言い、彼女たちの前に立つひとりの艦娘がいた。

海賊を思わせる少女、木曾が敵艦を撃沈したのだ。

しかし空母水鬼たちを救おうとしているのは、彼女だけではない。

 

「全艦に告ぐ。連邦艦隊を殲滅し、空母水鬼たちを救助せよ」

 

郡司の言葉を待っていましたとばかり、全艦は攻撃を開始した。

 

「この武蔵の46cm砲、伊達じゃないぜ!」と武蔵。

 

「夜戦なら負けないわよ」と白山。

 

「戦艦空母の恐ろしさ、思い知れ!」と十勝。

 

「西村艦隊の本当の力…見せてあげる!」と扶桑。

 

「敵艦隊発見!砲戦、用意して!」と山城。

 

「一番、二番主砲狙え…今よ、撃て!」とイタリア。

 

「戦艦、ローマ、砲撃を開始する。主砲、撃て!」とローマ。

 

全砲門がオレンジの爆焔を吐き、ライフリングが刻まれた主砲から徹甲弾が咆哮を上げる。

鼓膜をやぶる咆哮が唸り、発射音が聞こえたときには、遥か後方にいる督戦艦隊に向かう。

駆逐艦上空を見上げると焼夷弾のごとし、武蔵たちが放った徹甲弾の嵐が降り注ぐ。

辛うじて回避したものの数隻が数発の徹甲弾を喰らい、大破炎上ないし打ち上げられた魚のように飛び跳ねて、海面に叩きつけられた駆逐艦が存在した。

強靭な火力を誇る現代の駆逐艦でも、自分たちよりも高火力の誇る戦艦中心の支援艦隊に襲われただけでも恐怖を感じた。

しかもヤク政治将校は体当たりしてでも撃沈せよと命じただけでも、恐怖を二度味わう。

これはもはや『士気崩壊』であり、士気の低下が部隊全体に伝染し組織的な戦闘が困難になる前に、攻撃をしようにも木曾が単独で突撃した。

 

「うっ、撃てぇーーー!」

 

もとより優秀な指揮官は国内には少なく、艦隊に冷静さを失ってしまった各指揮官たちはただ単純な命令を出した。

しかし砲撃の嵐をすり抜けながら、木曾は全ミサイルに目標を捉えて攻撃を開始した。

 

「それで戦っているつもりなのか? ふっ、弱すぎる!」

 

木曾の放ったハープーンは自分を砲撃していた敵艦に向かった。

迎撃するも戦闘ではあってはならぬ行為、友軍誤射を頻繁に起こした連邦艦隊は中破し、終焉へと誘おうと、木曾のハープーンを浴びて轟沈した。

 

「僕たちを忘れては困るよ」

 

「もちろん、この武蔵たちもな!」

 

彼女に続き、郡司が乗艦するズムウォルト級、海自の第一、第二艦隊のアウトレンジ攻撃、ハープーン、17式対艦ミサイルに、武蔵たちの徹甲弾の群れが襲い掛かる。

督戦艦隊は各艦に搭載された100mm単装速射砲、CIWSなどで迎撃するが、多勢に無勢という言葉のように、迎撃することもできずに轟沈していく。

ヤク政治将校は部下たちが戦っている間にも攻撃を回避しつつ、味方艦が囮になっている間に、この戦域から離脱しようとしていた。しかし撤退する前にやることがある。

それは空母水鬼たちを救助している第六駆逐隊、彼女たちを援護する夕立、リベッチオを見て、ヤク政治将校はこの偽善ともいえる光景を見て、歯噛みした。

せめてこの偽善者ども、こいつ等だけでも沈めてやると、全速力を出した。

 

「大丈夫ですか。いま救助します」と電。

 

「電、わたしも手伝うけど重いわね」と雷。

 

「わたしも手伝うから、安心しなさい」と暁。

 

「わたしもいるから大丈夫だよ」とヴェールヌイ。

 

救助活動する彼女たちの前に、夕立、リベッチオが声を上げた。

 

「ねぇねぇ、なんかヤバいの来たっぽい!?」

 

「もう、救助中はやめてほしいよ~!」

 

そう言いつつも夕立は76mm連装砲を、リベッチオは120mm連装砲で砲撃した。

しかし敵艦は強靭なバルジを誇るため、主砲だけではダメージを与えることはできない。

ウチュウジンは、光線を連射した。

暗闇を瞬時に照らす複数の紅き光線が、彼女たちに襲い掛かり、そして命中した。

この連続攻撃により、暁、ヴェールヌイ、雷、電、夕立、リベッチオは中破した。

 

「ハハハハハハッ!敵艦を助ける。笑わせるな、この博愛主義者どもめ!

貴様らのやっていることは所詮、偽善行為、虫唾が走るわ!日本人と艦娘たちはそう言いながらアジアの侵略を正当化しているんだろう!」

 

「違うのです!」

 

電は叫んだ。

 

「命を助けるのは当たり前なのです。例え敵味方関係なく助けるのは当たり前なのです。司令官は私の夢を聞いて『カッコいいな』と褒めてくれました。

そして『自分の夢を諦めず、どこまでも強くて優しい自分になれ』と言ってくれました。

だから電は、信念を曲げずに、空母水鬼さんたちを助けるのです!」

 

電はそう訴えるも、ヤク政治将校は嘲笑う。

 

「強くて優しいだと笑わせるな。さっさとガラクタどもと沈め。善人の皮を被った偽善者ども!」

 

ヤク政治将校は、電たちと裏切り者の空母水鬼たちに止めを刺そうと光線をチャージした。

だが光線を発射しようとした瞬間、複数の光の矢が放たれた。

複数命中すると、ウチュウジンの船体から複数の火柱が立ちこもり始めた。

 

「全艦に告ぐ。奴を粛清せよ」

 

郡司の言葉を聞いたヤク政治将校は悪寒がした。

ただ単純でシンプルな命令なのだが、その言葉は無慈悲なひと言に聞こえた。

氷のような眼差し、いや、鋭利の鋭く光るナイフを突きつけられたような予感がしたのだろう。

郡司の言葉により、全艦がウチュウジンに集中攻撃を開始した。

 

「友永隊、みんなを援護して!」と飛龍。

 

「江草隊も、みんなを援護して!」と蒼龍。

 

「直掩隊も攻撃隊も、みんなの援護に回って!」と翔鶴。

 

「第四次攻撃隊。稼働機、全機発艦!」と瑞鶴。

 

飛龍たちの全艦載機が一斉に発艦し、絨毯爆撃のような猛攻を喰らわす攻撃隊に続き……

 

「弱いもの苛めしかできないとはな……つくづく呆れるな!」と木曾。

 

「この武蔵を怒らせるとはな……思い知れ!」と武蔵。

 

「敵艦に止めを刺します!」と白山。

 

「弱い者いじめは感心しないよ」と十勝。

 

「主砲、副砲、撃てえっ!」と扶桑。

 

「主砲、よく狙って、てぇーっ!」と山城。

 

「一番、二番主砲狙え…今よ、撃て!」とイタリア。

 

「全力で潰すわよ。全砲門、開け!」とローマ。

 

大切な仲間たちを傷つけた報いを受けろと言わんばかりに、ハープーンを撃ち続ける木曾と、全主砲を狙いつけて撃ち続ける武蔵たちの攻撃は衰えることなく、咆え続けた。

多種類な攻撃は、強靭なバルジを誇るウチュウジンを打ち破るには申し分ない火力だった。

やがて強靭ともいえるバルジを打ち壊されると、各所に火柱がちらちらと現われた。

しかし止めを刺そうと郡司が乗艦するズムウォルト級、海自のイージス艦、護衛艦による砲撃ないしミサイルによる飽和攻撃は効果的だった。

 

『お願いだ、もう降参するから助けてくれ』

 

CIC越しから聞こえるヤク政治将校の言葉に、郡司はひたすら黙り込んでいた。

 

『話しを聞いてくれ、暴力は反対だ。話し合おう。こちらも謝罪して、何度も許すまで詫びて詫びるから』

 

「聞く耳持たん!」

 

郡司の声に答えるよう、ズムウォルト級に搭載されているレールガンが咆哮を上げた。

怒りの拳ともいえ、渾身の一撃ともいえる放たれた弾丸は垂直を描き、目にも止まらぬ速さで飛翔した。

目にも止まらぬ速さで飛翔したレールガンは、ウチュウジンの頭部を易々と貫通した。

勢いを増した電流は、ウチュウジンを包み込むようにし、艦内にいる乗組員や機関、そして弾薬庫に襲い掛かる。

驚異のスピードで襲い掛かって来た閃光は、艦橋に着き、戦闘指揮場にいたヤク政治将校と幹部たちを包み込む。

 

「嫌だ。俺はただ平和を欲したかっただけなのに、ギャアアアアアアアアッ!」

 

ヤク政治将校が乗艦したウチュウジンは耐えられなくなると、艦体から数本の閃光が照らし出す。

直後、地獄の業火ともいえる轟音が鳴り響き、砕け散ったダイヤモンドのように跡形もなく轟沈した。

むろん生存者も皆無である。

 

これにより沖縄を目指した連邦艦隊は殲滅でき、沖縄上陸作戦は失敗に終わった。

この海戦は東シナ海戦と名づけられ、そして奇跡の救出劇も語り継がれた。

 

それは、敵艦を救助したことである。

郡司・電たちのおかげで、彼女たちの心優しさに胸を打たれた連邦兵士は自分たちの過ちに気付き、捕虜になった後は、彼や彼女たちに感謝の手紙を送った。

危険を顧みず自分たちを助けてくれた空母水鬼たちも郡司・電たちに感謝した。

港湾水鬼、戦艦棲姫と同じくに日本への亡命と、暫らくは元帥の管轄のもとで、監視対象を望むということで正式な捕虜となる。

電の「強さを優しさに」と言う信念が、彼女たちを救ったのだ。

電たちが救助した空母水鬼たちも、元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》《舞鶴》が担当、彼女たちの新たな装備で、空母水鬼たちを治療した。

なお空母水鬼たちの回復を知った郡司・電たちは、花束を持って見舞いに行ったのは別の話である。




郡司・木曾率いる連合艦隊、第一、第二護衛艦隊の大活躍により、連邦艦隊、揚陸部隊、そして督戦艦隊は海の藻屑となり、これにより沖縄侵攻を無事阻止できました。
なお無理やり懲罰艦隊にされた空母水鬼さんたちも、郡司・電たちのおかげで無事救出できました。

灰田「なお政治将校が乗艦していた宇宙人は、有名な『フラッドウズ事件』で検索すれば見られますし、千年帝国の興亡 難局と検索しても見られます。
ただし3mウチュウジンは超兵器のなかでも最弱ですし、軽戦車にも関わらず、戦車の砲撃戦でも負けています」

郡司「しかも派手に光っているんだよな、撃ってくださいとばかりに」

木曾「攻撃時や爆発するときで、キラリンと音を出して爆発するからな」

ロドリゲスにも負けるからね、あれは……

灰田「無事勝利もでき、空母水鬼たちを救助するとはお見事ですね」

郡司「助けるのには理由はないからな」

木曾「郡司はお人よしだが、でも俺はそこが好きなんだよな」

郡司「ス、スパシーバ。同志灰田、次回予告を頼む」

灰田「承りました。では次回はこの海戦後にとある事件が起きます。
その舞台は佐世保であり、連邦国が誇る(?)特殊工作部隊による作戦が実行します。
果たしてどういう展開になるかは、次回のお楽しみであります。
ではそろそろお時間ですので……。第五十四話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

郡司一同「「「ダスビダーニャ!!!」」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十四話:忍び寄る工作員たち

お待たせしました。
では予告通り、連邦国が誇る(?)特殊工作部隊による拉致作戦が実行します。

灰田「今回は一部ではありますが残酷な場面がありますので、お先にご警告いたします」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


寧波に置かれた連邦海軍司令部では、キョウ司令員は激怒していた。

サイ中将が乗艦しているドグウ、揚陸部隊指揮官、懲罰艦隊の空母水鬼たち、そして彼女たちを監視する督戦艦隊のヤク政治将校からの通信が途絶えていたからだ。

サイ中将の“敵艦接近ス、これより戦闘に入る”との通信は良いが、ヤク政治将校からの督戦命令“我これより敵艦隊に特攻する”との通信を最期にぷつりと通信が途絶えてしまったのである。

キョウは、Il-28双発ジェット軽爆撃機を中国でライセンス生産したH-5爆撃機を偵察用に改良した長距離写真偵察機《轟五》を飛ばし、戦闘海域を偵察させた。

上空から搭乗員たちが視察すると、確かに自軍の駆逐艦、揚陸艦、督戦艦隊の艦艇が全艦炎上して漂流していた。しかしあの懲罰艦隊、空母水鬼たちの姿はいっこうに見えない。

彼女たちの護衛艦は全艦轟沈しているが、空母水鬼たちは勝手に沈んだのかと思いきや……搭乗員たちは目を丸くした。

日本の護衛艦、あの忌々しい艦娘たちが空母水鬼たちを救助していた。

むろん運よく生き残った漂流者たちを救助しており、しかも自分たちの敵である艦娘たちに感謝している姿も見えた。

これはできる限り救助せよと言う、郡司と、司令部荒木田陸将の命令である。

この様子を偵察していた《轟五》は撃墜することはなく、飛龍たちの艦載機が威嚇射撃で追い払っただけである。

 

「くそ、多数の捕虜を出しただけでなく、しかも低能な異端者どもにペコペコ頭を下げて、奴らに感謝しよってこの非国民どもがっ!」

 

キョウはこの不愉快な報告を聞くと、また怒りに駆られた。

これは恥の上塗りであり、計算外の出来事である。

 

しかし作戦結果は、中南海の忠秀副主席の元に直接連絡しなければならない。

キョウ上将は忠秀への直通電話を掛けた。

報告を聞いた忠秀はしばらく無言で、それが返ってキョウには不気味だった。

やがて、忠秀の声が聞こえた。

 

「予備爆撃もまったく失敗に終わったと聞いている。

我が軍の爆撃機や護衛戦闘機も、日本・多国籍戦闘機に全く歯が立たなかったそうだ。

沖縄に接近した我が精鋭たる空挺部隊はミサイルで撃ち落とされた。

……残念ながら、征球作戦は失敗に終わったと認めざるを得ない。

これはキミの責任ではない。日本・多国籍両軍、そして艦娘たちが強すぎただけの話だ。

しかし、まだ天安部隊と二隻の人造棲艦《ギガントス》が残っている。わたしはこの部隊に賭けている。

これは必ず東京奇襲をやってくれるだろう。そうすれば、我々の面子は保てる。

それでも駄目となれば、シア級原潜で核ミサイルを東京にぶち込むまでだ」

 

「そんなことすれば、あのステルス重爆で我が国の戦略ミサイルは破壊されるでしょう。

そのとき、我々は米帝に対する抑止力を失ってしまいます」

 

「そんなこと言わなくても分かっている。しかし我が国の面子が立つよう、できることをやるまでだ」

 

忠秀が期待している空母戦闘群と、人造棲艦《ギガントス》は、そのときようやくポンフー諸島を迂回し終わり、バシー海峡の南端に向かい、南下しつつあった。

いまのところ日本・多国籍両軍に、そして艦娘たちに発見された兆候はない。

これならば上手く太平洋に出られるかもしれないという希望を司令官は持ち始めた。

しかしバシー海峡は、台湾軍の駆逐艦、潜水艦、哨戒機により厳重に見張られていたのである。

そしてその夜、統幕長本部ではぎょっとさせる出来事、まさかとは思われるような事件が、そこで起きたのである。

 

 

 

長崎県・佐世保。

高後市と西彼杵半島に挟まれた狭い水道の奥にある。

まさに天然の良港であり、軍港として利用されているのも納得であり、今でも佐世保鎮守府と海自の基地となっている。海軍の街である。

深く入り込んだ佐世保湾の突き当りに港があり、佐世保川の南側に埠頭に並んでいる。

佐世保鎮守府・海自の合同基地は、その背後にある。

かつての日本海軍基地を両軍はそのまま活かしているのである。

ニミッツパークが佐世保川に沿ってあるが、これはむろん太平洋戦争当時のニミッツ大将を記念して設けられたものである。

 

その日の夜……ここを基地としている第一、第二海自護衛艦群は帰投して、埠頭にそのからだを休めていた。

なお彼らに協力した多国籍海軍と、郡司も木曾たちとともに疲れを癒している。

いわば戦時なので、埠頭には海自警備隊と多国籍海軍警備隊が就き、89式小銃ないしM4A1を肩に埠頭に警備していた。鎮守府玄関にも武装した警備隊が配置に就いていた。

 

その日の真夜中。

日付けが翌日に変わる頃、この佐世保湾の沖合に小さな潜望鏡が浮上し、周辺の様子を窺ったあと、1隻の小さな潜水艦が浮上した。

 

言うまでもなく、連邦軍のロメオ級潜水艦である。

水上排水量1475トン。

水中排水量1830トン。

全長75メートル。

全幅6.7メートル。

2700馬力のディーゼル・エレクトリック機関を搭載し、最大速力15ノット。

シュノーケル航行で13ノットを維持する。

乗組員は54名。このほかに20名の特殊工作員が乗っていたから、兵員室はすし詰め状態である。

艦名は109。ロメオ109は日本海を東から迂回し、平戸島と五島列島との間を潜り抜け、ここまでやって来たのである。

これはまさしく冒険的航海であり、旧式のロメオ級潜水艦を操縦してここまでやって来た艦長の腕は、相当ツキがあるにしろ、敵ながらも称賛すべきである。

昼間は沿岸航海の商船、タンカー、遠征用の大型輸送船など錯綜する佐世保湾もこの時間は静まり返っていた。

 

埠頭の沖合には、停泊している船舶の警戒灯が点々と見える。

さすがに湾内を警戒している海保の巡視船などはなく、太平洋戦争当時のような対潜網も張られていない。

統幕長本部と言えども、まさかここまで連邦軍の潜水艦がやって来るとは思いもしなかったのであり、その虚を突かれたのである。

 

ロメオ級潜水艦109は、シュノーケル航行で西側の半島に沿ってゆるゆると進み、赤崎と呼ばれる短い突き出した岬の前で停止、浮上した。

そこから湾の突き当りまでは、僅かな距離でゴムボートでも渡れる。

艦長が赤外線装置で確認すると、そのあたりは木立が多いので隠密行動には持って来いである。

ヘッドライトの明かりが時折見えるのは、その先を道路が通っていることを示している。

 

艦長は、艦橋に上がってきた特殊工作隊隊長と最後の詰めを行なった。

司令部から佐世保港の地図を貰ってきてはあるが、これは帰国在日朝鮮人からもたらされたかなり精密なもので、佐世保鎮守府・海自の合同司令部の位置を記している。

それは平瀬町と呼ばれる街中にあり、周りは自衛隊関係の様々な建物で囲まれている。

隊員たちの宿舎もある。なお情報提供をしてくれた在日朝鮮人は、用済みとして射殺している。

 

特殊工作隊の指揮官で、隊長の三嶋上佐と言ったが、三嶋の立てた作戦もまた大胆不敵なものであった。

ゴムボートで人影の少ない海岸に上陸し、4人の見張りを残した後、残りの16人はスーツに着替えて、司令部を目指す。

 

むろん、スーツの下や自分たちが所持している鞄には武器を仕込んでいる。

チェコ製のVz61短機関銃やAKS74の銃身を限界まで切り詰めたカービンモデル、通称『クリンコフ』と呼ばれるAK-74u、両者とも小型で携行しやすく、しかも威力がある。予備マガジンも3個ずつ携行している。

1937年から現在も販売されている米国のイサカ社製ポンプアクション散弾銃で、ベトナム戦争でも活躍したイサカM37を所持している隊員もいる。

そのほかにマカロフ拳銃、M67破片手榴弾は5個ずつ携行、ベルトに差し込んでいる。

その姿で堂々と佐世保鎮守府・海自合同司令部の玄関を目指し、できるならば警備兵を無音で倒して内部に侵入、当直の提督ないし高位の海自職員を捕らえ、急いでゴムボートまで戻る。

 

むろん極度の戦闘は避けたい。

戦闘が始まってしまったら、たちまち警察が殺到し、ゴムボートまで逃げるのは難しい。

その際は拉致作戦を破棄し、山中に逃げ込み、できるだけ警察や陸自隊員を殺害するのが三嶋の狙いである。

所持している銃が弾切れになれば、ナイフで異端者を殺す。

ナイフが折れても鍛え抜かれた肉体や体術がある。

肉体自体が凶器そのものであり、軟弱で平和ボケの日本人は素手で何十人も殺せるはずだ。

艦長との協議の結果、予定通りゴムボートを下ろすことが決まり、ただちに艦内から4隻のゴムボートが出されると空気を入れた。

音を立てるので船外機は使わない。あくまで手漕ぎである。

男女合同の特殊隊員たちは軍服からスーツに着替え、軍靴も革靴に履き替える。

これらは日本製のスーツである。日本人や朝鮮人も混ざっているが、暗闇であり、同じアジア民族だから大丈夫だろうと安心していた。

しかし日本人との会話をするぐらいならば、三嶋たちは殺害するだろう。

同じ日本人でありながらも末恐ろしいものである。

 

4隻のゴムボートは潜水艦から離れると、ナイトビジョンで海岸をチェックしている三嶋の指示に従い、海岸に近づいて行った。

そのあたりは生い茂った藪地や木立になっていて、ゴムボートを隠すには持って来いだ。

4人の見張り員が海に入って、ゴムボートを引きずりあげ、上陸隊員たちの足を濡らさないようにした。

軍服からスーツ姿に纏った16人の特殊工作員は、三嶋上佐を先頭に木立をくぐり抜けて、その向こうに通る道路際に出た。これは佐世保から赤崎を通り、庵崎にいたる県道である。

真夜中のことで差して交通量は多くないが、何しろ佐世保と言う大きな街の郊外なので、ドライブや夜遊びから帰宅する車がときどき通るぐらいである。

彼らは道路を渡ると、道路から離れて歩き始めた。

 

車が通れば、木立に飛び込む。

しかし、すぐに木立が切れて郊外住宅地となったので、路地に飛び込むこともできる。

三嶋上佐は抜群の土地勘を持っており、はじめての土地でも頭のなかで、ほぼ正確な地図を描ける。

 

「もう道路の向こう側が港だ。佐世保鎮守府・海自合同基地はこの住宅地の向こうだ。距離に関しては、五キロぐらいなもんだ。気を引き締めて行け」

 

部下たちに伝達する。

 

「ここからは路地を抜けていく」

 

三嶋は命じると、住宅地のなかに入り込んだ。

ここまでは上手くいった。しかしここで三嶋たちのツキは落ちてしまった。

 

それは三嶋たちも予知せぬ出来事が発生した。

このところ住宅地で頻繁に泥棒騒ぎが起きているので、西佐世保署のパトカーがこの辺りを巡回していたのである。

パトカーがとある角を曲がったとき、路地を一列になって歩いていく16人ほどの男女をヘッドライトで捉えた。

 

スーツを着ているが様子がおかしい。

しかも全員が肩を強張らせて、なんだがぎこちない歩き方をしている。

それは武器を内懐に抱えているためだった。

そしてこんな夜更けに、なぜ16人もの男女が、一列になって住宅地を歩いているのか?

パトカーの乗員は佐藤と竜造寺という二人の巡査長で、運転は竜造寺だったが、まず佐藤は可笑しいと思った。

 

「なんやら妙じゃのう。こんな夜中に男女が繋がって歩いちょる。とてもピクニックとは思えん。いっちょう尋問を掛けてみるか」

 

「そうじゃな」

 

竜造寺がサイレンを一度だけ鳴らして、パテライトを付けた。

サイレンを一度だけしか鳴らさなかったのは、夜更けなので周りの住民に配慮したのである。しかし男女たちにはむろん聞こえたはずである。

だが男女たちは止まらなかった。それどころか、振り返るなり一斉に走り出し、別の路地に逃げ込んだ。

 

「あやしかぞ、追え。わしは署に応援を頼む」

 

佐藤が言うと、無線機を取った。

運転手の竜造寺は再びサイレンを鳴らし、スピードを上げて、彼らが飛び込んだ角を回り込んだ。

ところが、そこに数人の男女たちがVz61短機関銃やAK-74uに、イサカM37散弾銃を構えて、ふたりが乗るパトカーを待ち伏せしていたのである。

 

先頭にいたのは、むろん三嶋である。

5人の男女が銃口を揃えて、引き金を躊躇うことなく引いた。

フルオート射撃で、パトカーのフロントガラスの正面からVz61短機関銃の銃口から出た32 ACP弾、AK-74uの5.45mm×39弾に、そしてイサカM37のスラッグ弾と言った各種の銃弾を全て受けたから堪らない。

 

ふたりの警官の頭部は原形を留めることはなく、身体はずたずたに断ち切られて即死した。

運転手を失ったパトカーは、一軒家の塀に突っ込んで停止した。

パトカーに発見された時点で、三嶋は作戦失敗と悟ったのである。

 

「これより第二作戦に切り替える。好きに暴れろ」

 

……つまり命ある限り暴れまくり、できる限り日本人を殺戮する。

部下たちはやる気満々であり、同じ日本人でも容赦しないと弾切れになった銃に装填した。

 

「な、何事だ!」

 

突然響き渡ったパトカーのサイレンとそれに続き、けたたましい銃声は、付近の住民たちを震撼させた。

パトカーが突っ込んだ家の主人は、自分の妻子は大人しくするように言いつけ、寝巻き着姿のまま金属バットを護身用に構えて飛び出したが、それが命取りとなった。

へしゃげたパトカーの陰で待ち構えていた三嶋に捕まり、喉を掻き切られた。

なお殺害した男が握っていた金属バットを拝借した三嶋は、玄関先で震えて我が子を守ろうとした妻を撲殺、さらに泣いていた子供たちを躊躇うことなく、金属バットを振り下ろして殺害した。もはや血も涙もないテロリスト集団である。

 

しかし多くの市民たちが110番に連絡し、佐世保署はすぐに警戒態勢を取った。

自動小銃ないし短機関銃の銃声が聞こえたというのは戯言ではない。

これはヤクザの出入りなどと言うものではなく、戦争のにおいがする。

第一、 通報のあたりはベッドタウンで、ヤクザの事務所はない。

三嶋は部下たちに市街戦に移れと命じた。これまた訓練の一部である。

建物を遮蔽物に使い、隙を見て射殺ないし刺殺する。

首を絞めるための取っ手のついたワイヤーも持参していた。

三嶋率いる特殊工作員たちは、住民を恐怖に貶め、さらに殺害していく。

不気味な笑みを見せつつ、遊び感覚で殺害する姿は、悪魔のようだ。

 

しかし、彼らは知らなかった。

 

のちにここで早く死んだ方がマシだったということを味わうことになるとも知らずに……




運よく佐世保に潜入した工作員たちも、勇敢なふたりの警察官に見つかったために失敗に終わりした。原作でもこの警察官は殺されておりますし、一般人も殺されています。
漫画版は銃撃シーンでは顔の原形が留めていません……グロイです、かなり……

灰田「彼らの犠牲は無駄にはなりませんし、必ず仇は取ります」

そうだな、灰田。名もなき家族のためにもな……
では、次回予告を頼む。

灰田「承りました。では次回はこの外道なテロリストたちが暴れるのを知り、ある部隊が駆け付けに行きます。その部隊はどんな部隊か?
それは次回のお楽しみでありますのでお答えすることはできません。
戦闘に関しましては次回の次回になるかもしれませんので、ご了承ください。
ではそろそろお時間ですので……。第五十五話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十五話:佐世保の悪夢

お待たせしました。
この外道なテロリストたちが暴れるのを知り、ある部隊が駆け付けに行きます。その部隊はどんな部隊か?

灰田「ひとつは原作通りのレンジャー部隊、ふたつめはコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』に登場している強襲部隊、そして最後はわたしの十八番でもあるコマンド部隊です」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


佐世保署の全パトカー20輌が、サイレンを鳴らしながら現場にフルスピードで向かった。

すでに二人の警官に続き、住民たちが次々と殺されているとの情報が入っている。

機動部隊も出動が命じられて、装甲トラックで向かった。

 

佐世保署は日本警察の特殊部隊、SAT(特殊強襲部隊)を持たない。

SATは装備体系や訓練方式は、ドイツの特殊部隊GSG9を参考にしている。

東京をはじめ大都市の警察本部に設けられている警察系特殊部隊で、米警察特殊部隊SWATのように突撃銃や短機関銃、そのほかを装備している。

しかし地方の署では、SATのような特殊部隊は配置されていない。

持っているのは拳銃、戦中のいまは緊急時に自動拳銃とショットガンが供与されただけである。

機動部隊の武器は放水車による放水と、機動隊員たちが持つライオッドシールドと特殊警棒のみだけである。

しかし署のなかに気が利く者がいて、長崎県警に通報するとともに、相浦にある陸自の方面隊直轄連隊司令部に連絡した。

 

方面隊直轄部隊は陸自師団には所属せず独立した部隊であり、西部方面は島嶼が多いことから、北朝鮮および中国の工作員が上陸した場合に備えて、特設された部隊である。

ヘリや強力な装備、通信装置、監視機材を持ち、全隊員はレンジャー資格を持っている。

状況を聞いた連隊長は、これは連邦の特殊工作員の仕業だと直感した。

方面隊司令部にその旨を報告、さらに佐世保鎮守府・海自合同基地、そして民間軍事警備会社『The Japanese Spirit』にも連絡した。

元帥・司令部も了解して、ただちに各隊の役目を果たすため出撃した。

今回はベテランの多いTJS強襲部隊とともに、元帥の護衛兵部隊、そして陸自の方面隊が出撃した。

なお方面隊はサポート部隊として、行動することになる。

 

先導隊として、20名のTJS隊員を乗せた2機の軍用ヘリ――ヨーロッパ航空機メーカー『NHインダストリーズ(NHI)』が製造、フランス・ドイツ・オランダ・イタリアの4カ国によって共同開発したNH90戦術輸送ヘリと共に、陸自のレンジャー隊員30名を乗せた2機のUH-60J《ブラックホーク》が現場に急行した。

方面隊員たちは空挺部隊用に改良された折り畳みストック式の89式小銃に、分隊支援火器として、M249 SAWを携行している。

TJS強襲隊のユーリヤ中佐、アレクサンドル少佐、安達少佐の姿も見えた。

ユーリアが持つのはロシア製のドラグノフSVD狙撃銃、アレクサンドルはM4カービン、安達はM27IAR軽機関銃を所持しており、市街戦を意識している装備が中心である。

そしてTJS強襲部隊に混じり、旧日本軍・義烈空挺隊の迷彩服を着た隊員たちもいたが、彼らの携えている武器は自動小銃と短機関銃、手榴弾、拳銃とTJS隊員たちと変わらない。なお全部隊が持つ銃にはサプレッサーが装着されている。

 

また各部隊は破片手榴弾ないしM84スタングレネードを持っている。

通称『フラッシュ・バン』と言われ、これは大音響と閃光により、対象を無力化することを狙って設計された非致死性手榴弾である。使用することにより、敵を一時的行動不可能にすることができる。

 

15分後。相浦から佐世保までひとっ飛びした各特殊部隊は、現場上空に到着した。

そこは佐世保西郊外の住宅だが、パトカーのヘッドライトを錯綜していた。

また万が一に備えて、TJS社は装甲車輌も展開していた。

今回出動したのはロシア連邦の装輪式水陸両用装甲兵員輸送車BTR-90と、歩兵戦闘車の基礎を築いたBMP-1を改良したBMP-2が現場に急行した。

各ヘリと各車輌の無線機は、警察無線に同調させているので、混乱した通信が飛び込んでくる。

 

『5号車もやられ、これでもう10台がやられました!……敵は自動小銃を持っています!』

 

燃えさかる建物を見た各部隊は、恐らく何者かが放火したのだろうと推測した。

またはプロパンガスを撃てば大火災を起こすことなど容易いものだ。警察だけでなく、消防車も現場に駆けつけるまで時間が掛かるだろうと、推測していたときだ。

そのとたん眼下で閃光が煌めき、爆発音が鳴り響いた。

路地裏には炎上した1台の警察車両が、敵の爆発物で吹っ飛ばされたと思われるパトカーが紅く煌めく劫火をちらつかせた。

 

「連邦国のテロリストに間違いない!今のは破片手榴弾だ。サーチライトで捕捉しろ!」

 

方面隊指揮官の蔵野三尉が叫ぶ。

各ヘリは高度を下げ、サーチライトで住宅地を縦横に走る道路を照らし出した。

 

「いた、あそこだ!」

 

蔵野がふたたび叫んだ。

スーツ姿に纏った男女たちが、両手にアサルトカービン、サブマシンガン、ショットガンを抱えながら、路地のひとつを走っていく。

ヘリのサーチライトに気が付くと、彼らは見上げて乱射した。

バチバチと言う銃弾が機体に命中した音が聞こえた。

 

「少し離れろ、ラペリング降下する!」

 

懸垂降下とも言われ、ロープ(ザイル)を使って高所から下降する方法のことである。

ヘリコプターが着陸できない状況下にてホバリング中のヘリコプターなどから降りる際、またはCQBにおいて、建物屋上から内部に進入する際にも用いられる。

 

各部隊の隊員たちは素早く降下装具を身につけるとロープを垂らし、近くに見えた小学校の運動場に、ホバリングしているヘリから蔵野を先頭に次々と降下した。

 

「司令部に連絡しろ、敵は連邦国の工作員だと!」

 

蔵野は降下する前に、パイロットに命じた。

同じくTJS部隊も同じく降下していくが、一部は降下装具を装着しないで降下する隊員たちがいた。

普通の人間ならば骨折は免れない高度から降下する隊員たちを見たときは、さすがの蔵野たちも驚いた。

それを聞こうとしたが、ユリーヤたち曰く『知らない方が良い』と言われた。

蔵野やユリーヤたちは暗視ゴーグルを持っており、それを装着した。

これは赤外線タイプなので、赤く染まるような視野に包まれた住宅地の様子が浮かび上がった。なおこの時も謎の部隊は、暗視ゴーグルを装着しなかった。

蔵野たちもつくづく可笑しな部隊だなと疑問を浮かべたが、今はそんな暇はない。

そして元帥からの命令は下された。全員射殺せよとのことだ。

全特殊工作員たちは捕虜にする必要はない。捕虜になるぐらいならば自爆を平然とこなす連中なのだから捕虜にする必要はない。ましてや捕虜になる相手ではないが。

 

 

 

連邦国の特殊工作員たちは、その時点ですでに10台のパトカーを破壊および警察官などを殺していたが、自分たちが持つVz61短機関銃、AK-74u、イサカM37の各銃器の弾が尽きはじめていた。

しかも相手は装甲車輌まで動員してきたのは予想外ではあったが、三嶋たちは住民を避難するのにいっぱいだろうと思い無視したものの、パトカーを破壊するために、やむなくM67破片手榴弾を使ったところで、ヘリに発見されたのである。

 

「あれは人殺しの陸自と米帝どものヘリだな。なに奴らはただの案山子に過ぎない。

少年漫画に出てくるような雑魚の軍人を瞬殺する子供のように、奴らを遊びながら殺せば良い」

 

三嶋は生き残った部下を集めると言った。

 

「しかし弾は尽き始めています。どうしますか?」

 

ナンバー2のカン中尉が聞く。

 

「この住宅地の裏側には、丘陵地帯になっているはずだ。そこから山岳地帯まで逃げ込む。そこで粘れるだけ粘るぞ。我々は誇り高き精鋭部隊の敵ではない。警察官の武器を奪ったように待ち伏せして武器を奪え!いいな!」

 

おうと部下たちは叫び、一斉に走り出した。

彼らは暗視ゴーグルがなくとも、夜目が利いているのだから必要ない。

 

 

 

赤崎近くの海上では、ロメオ級109が潜望鏡深度まで沈み、マイクを出していたが……

艦長は微かな銃声と、爆発音を捉えた。

 

「拉致作戦は失敗に終わったようだ。彼らは発見されて第二作戦に切り替えたようだ。

したがってもう戻る見込みはない。我々も発見される前に脱出する」

 

艦長の命令を聞き、109の乗組員たちはただちに回頭した。

佐世保湾からの脱出を試みたが、西海町の沖合まで逃げたところで追尾してきた艦娘たち……白露、時雨、村雨、春雨、五月雨、涼風に続き、海自の第三護衛艦群により捕まった。

陸自・多国籍軍から連絡を受けた佐世保鎮守府・海自合同基地は、特殊工作部隊たちは佐世保湾のなかまで潜水艦で運ばれたと推測した。

発見されてまだ待機しているかもしれないと考え、埠頭にいる郡司の艦隊と第三護衛艦群に可及的すみやかに捜索を命じたのである。

 

「さぁー、はりきっていきましょー!」と白露。

 

「残念だったね。見つけたよ」と時雨。

 

「やっちゃうからね♪」と村雨。

 

「対潜戦闘、始めます」と春雨。

 

「お任せください!たぁーっ!」と五月雨。

 

「喰ーらえー!」と涼風。

 

ロメオ級109を捕捉した白露たちおよび海自のDD部隊は、アスロックを発射した。

 

「まずい。敵艦、多数のアスロックを発射しました」

 

「止めろーーー!」

 

艦長は絶叫を上げるも、捕捉されたロメオ級109の運命は決まった。

紙に等しい装甲に多数のアスロックが食い込むと、水圧によりロメオ級109がぐしゃりと音を出しながら、あえなく海の藻屑となったのだった。

しかも魚雷の誘爆もあったため、暗闇のなかでも巨大な水柱が立ちあがる。

 

「敵潜水艦の撃沈を確認!もっちろん!あたしが一番に決まってるじゃない!」

 

「やったぜ!あたいに掛かればこんなもんさ!」

 

「白露型駆逐艦の力、あなどれないでしょ?」

 

白露、涼風、村雨の歓喜に、時雨、五月雨、春雨も微笑んだ。

すると、一通の連絡が入った。

 

『五月雨、敵潜はいたか?』

 

「はい、提督。敵潜を発見、これを撃沈しました」

 

『そうか、ほかの敵潜は?』

 

「大丈夫です。敵は提督の言った通りロメオ級1隻だけでした。ソナーには反応はありません」

 

『それなら良かった。こちらは厳戒態勢で木曾と同志たちが護衛してくれているから大丈夫だ。もっとも鎮守府に来たとしても木曾たちと元帥が派兵してくれた部隊がいるから大丈夫だが、五月雨たちも帰投中は気を付けるようにな」

 

「大丈夫ですよ、提督」

 

『それじゃあ、こちらも忙しいからそろそろ切るな』

 

「はい、提督も気を付けてください!」

 

『スパシーバ。五月雨』

 

五月雨は、郡司との通信が終える。

短いやり取りだが、彼女も彼と話すのは心の支えになっている。

 

「司令官たちは…大丈夫なのですか…?」

 

春雨は尋ねた。

 

「うん、大丈夫だって。木曾さんとあの部隊の人たちが守っているから、気を付けて帰るようにって」

 

春雨はよかったと、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「だったら、提督のところに早く帰らないとね」と白露。

 

「僕たちも早く帰投して、提督たちを守らないといけないね」と時雨。

 

「そうね、私たちも早く帰りましょうね」と村雨。

 

「あたいも提督やみんなが心配だから、さっさと帰ろうぜ!」と涼風。

 

彼女だけでなく、白露たちも郡司たちのことを心配している。

 

「ではこれより帰投します。全艦、単横陣で警戒します!」

 

気持ちを切り替えた五月雨は、引き続き第三護衛艦群とともに対潜警戒をしながら帰投した。

 

 

 

午前二時。

統幕本部では、西部方面隊司令部、佐世保鎮守府・海自合同司令部、そしてTJS社からの連絡を受けて、元帥と杉浦統幕長以下幕僚長たちが緊急召集された。

 

「このコマンドは、連邦国の特殊工作部隊に間違いなしと考えられます。

その戦いは凄まじく、長崎県警・佐世保署のパトカー10台が破壊されただけでなく、警察官や一般市民までも殺害されたと報告が来ました。まことに残念ですが……。

現在、佐世保市外の住宅地の裏山に逃亡中で、西部方面管轄部隊のレンジャー部隊とTJS部隊が追っています。なおTJSは警察とともに住民の避難誘導にも務めています。

しかしかつて韓国で起きた江陵浸透事件を見ても、これを解決するまで何日か……あるいは1週間以上は掛かるかもしれません」

 

西部方面隊との連絡を受け持っていた幕僚長のひとりが言った。

江陵浸透事件とは1996年に韓国・江原道江陵市において、韓国内に侵入していた工作員を回収しにきた北朝鮮特殊潜水艦(サンオ型潜水艦)が座礁し、乗組員たちは自決したが、しかし一緒に乗っていた北朝鮮工作員たちは山中に逃げ込んだ事件である。

韓国軍は2万人も動員させて、彼らを必死に捜索したが、全員射殺して、解決するまでに一ヶ月も費やしたのだった。

 

うむと、杉浦統幕長は苦々しく呟いた。

 

「しかしなぜ佐世保なのだ。奴らはいったい、なにを狙っていたんだ?」

 

「彼らが欲しかったのは情報でしょう。むろん我々がなぜ次々に新兵器ないし艦娘たちの超兵器を手に入れたのかと言う謎を解くために潜入したのでしょう。

そのために佐世保鎮守府・海自合同司令部の幹部を誘拐しようとしたのかもしれません」

 

「そいつは大胆な作戦だな」

 

「おそらくは中岡自身の計画か、あるいは深海棲艦たちからの命令で実行したのでしょう」

 

「連邦・深海棲艦は焦っているのです。是が非でもこの謎を解かないと勝てないと……いや、この謎を解いたとしても勝てないと思いますが」

 

その場に失笑が起きた。

元帥は双眸を落として、まあ、そうなるなと頷いていた。

 

「ともかく、わたしは安藤首相に連絡する。陸幕長、きみは西部方面隊とTJS部隊に連絡、敵を可及的すみやかに殲滅しろと伝えたまえ。彼らは決して降伏しない。

また生け捕りも不可能に付き発見次第、射殺せよと伝えるのだ」

 

杉浦の命令を聞いた元帥は制止した。

 

「それに関してはもう大丈夫だ」

 

「元帥。こんな緊急時のときに、何を呑気なことを、これ以上の市民の被害を抑えるためにも!」

 

梅津陸幕長は声を上げたが、元帥はにっこりと微笑した。

 

「大丈夫さ。わたしの友人たちと精鋭部隊が昼までに奴らを片づけてくれるさ」

 

「他に精鋭部隊がいるのか?」

 

杉浦統幕長の問いに、彼女は頷いた。

 

「ああ、しかも連邦の特殊工作員たちが束になっても敵わないほど、自慢の精鋭部隊さ。きっと奴らも地獄を見ること間違いなしのコマンド部隊でもあるからね」

 

「どういう意味だ、元帥?」

 

「そのままの意味さ。友人たちからの報告が来るまで次の対策を練らないとな……」

 

杉浦たちは元帥の言葉を理解できなかったが、それが証明されるのは後であるということをまだ知らなかった。

元帥は落ち着いた様子で、芳醇な香りがする紅茶を啜ったのだった。

彼女に付き添っていた秘書艦の長門、陸奥も内心に呟いた。

 

何しろ彼らは、私たちでも敵わない不死身の部隊だからと……




今回は工作員たちとの銃撃戦はなく、原作でもここで終了しています。
漫画版では各建物が爆破ないし放火したりしていますので、こちらを採用しました。
今回のタイトル、元ネタは「ソロモンの悪夢」をオマージュしました。
敵潜水艦は原作では撃沈していますが、今回は五月雨ちゃんたちが敵工作員を乗せたロメオ級潜水艦を撃沈するという小規模な戦闘で終わりました。
ドジっ娘だけど、灰田さんの急速学習装置のおかげで逞しくなっています。

灰田「これぐらいは簡単なものですよ」

五月雨「もう、ドジっ娘なんて言わせません」

涼風「と言っていたが、帰ってきて転んだよな」

春雨「はい、司令官のまえで思いっきり転びました」

村雨「その代わり、お姫様抱っこしてもらったもんね~」

白露「あたしも頼むよ、いっちばん長くね!」

時雨「僕も良いかな、提督?」

郡司「さすがに嫉妬されかねないようにしたいが、後でな」

非常時だもんな、いまは。

郡司「状況が落ち着くまで撫でるから、落ち着いたらみんなにするからな」

白露一同「「「わーい!!!」」」

灰田「微笑ましい雰囲気ですが、ここで次回予告に参ります。
次回はこの続きであり、とある観光所が激戦地となります。
むろん私の十八番であるあの特殊部隊が活躍しますので、お楽しみを。
ではそろそろお時間ですので……。第五十六話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

郡司一同「「「ダスビダーニャ!!!」」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第五十六話:最も奇妙な戦闘

お待たせしました。
では予告通り、とある観光地に逃げ込んだ連邦工作員たちを迎撃するためにレンジャー部隊、TJS強襲部隊、そして義烈空挺を模倣した謎の部隊が活躍します。

灰田「謎の部隊の正体が知りたいですか、むろん私の十八番であるあの部隊ですよ。
各作品によって違いますが、それでも彼らを撃退するための力を備えています。
果たしてこの謎の部隊の正体は……?」

では灰田さんのご説明が終わりましたところで、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


弓張岳。

佐世保北部にある山であり、標高364メートルという小高い山である。

佐世保市中心街から見て西側にそそり立っており、南から弓張岳、但馬岳(361メートル)、将冠岳(445メートル)と連なっている。

観光所としても人気であり、特に夜景が美しい場所としても有名な場所である。

なお北側には、かつて旧日本海軍の主要拠点であった佐世保鎮守府の防空のために設けられた円形の砲台跡がある。しかし今は人気の観光地としてもこの場所は、双方の激戦地へと変わった。

夜が明けたと同時に、連邦工作員たちの姿は裏山、この弓張岳に逃げ込んだ。

ゴムボートを見張っていた四人の見張り員も、三嶋たちの銃声を聞こえたので、第二次作戦に切り替えたと悟り、同じく弓張岳を目指した。

たかが400メートル足らずの低山といっても山裾は低く、隠れる場所も無数にある。

この静かな山中に、ひとりの工作員が周囲を警戒していた。

両手にはレミントン社代表であり、傑作ポンプアクション式散弾銃……M870タクティカルを構えていた。むろんこれは長崎県警の装備品を分捕ったものである。

三嶋は、ひと固まりになれば危険だと思い、各隊員たちに散開するよう命じた。

単独行動をする者もいれば、二人一組の者もいる。

その方が敵は混乱すると思っていたが、不運にも敵兵に捉えられたひとりの工作員がいた。

しかもその様子をひとりのロシア美女、ユーリヤは自身が持つ狙撃銃……ドラグノフSVDに装着している狙撃スコープから覗き見していた。

 

「……ダスヴィダーニャ(さよなら)」

 

表情を変えることなくユーリヤは狙いを定め、吸って吐いて呼吸を止めると、ロシア語で引き金を引いた。その銃口から発射した銃弾は、工作員の頭部に命中した。

 

「……ひとり仕留めたよ」

 

彼女は携帯無線機で、アレクサンドルに連絡した。

 

『さすが、中佐。見事な狙撃でしたよ』

 

「……スパシーバ。そっちはどう?」

 

『こっちは安達と行動中、オーバー』

 

「了解、こちらも移動する」

 

短いやり取りを終えたユリーヤは、ドラグノフから接近戦に強いM4カービンに切り替え、次の獲物を仕留めるために移動した。

彼女が移動していた頃、アレクサンドルと安達は別の場所で行動していた。

 

「中佐から連絡だ、ひとり仕留めたと」

 

「やりますね」

 

「まあ、そうなるな。あとで合流するからな」

 

アレクサンドルは安達に向かって、アイコンタクトをした。

それに気がついた安達の眼先には、行動中の連邦工作員たちを見つけたようだ。

敵に悟られないように両者は手信号で二手に分かれると、それぞれの位置に着いた。

しかも敵工作員は男女4人、両手にはVz61短機関銃ないしAK-74uを携えていた。

全員の推定年齢は20前後、大学生クラスである。

 

再びアイコンタクトをしたアレクサンドルと安達は、攻撃を開始した。

サプレッサーが着いた銃口から火が噴いた。

突然の襲撃を目にした工作員たちは攻撃しようとしたが、安達が持つM27IAR軽機関銃のまえでは無力に等しく、二人は蜂の巣にされた。

上手く逃げた二人の工作員は待ち伏せにされていたアレクサンドルが持つM4カービンの正確無比な射撃を数発も喰らい、死亡した。

 

「「クリア」」

 

ふたりが声を揃えると、油断したところを狙い、茂みに隠れていた工作員が飛び出した。

アレクサンドルと安達は振り返ったが、その工作員は二人の目の前に倒れた。

 

 

「……クリア」

 

先ほど連絡をしてきたユーリヤが狙撃をして仕留めたからだ。

 

「ありがとうございます、中佐」

 

「助かりました、中佐」

 

「……スパシーバ」

 

アレクサンドル、安達は彼女に礼を言うが、ここでも彼女の表情は変わらず、ありがとうと返答した。

 

「……残りは14人か」

 

「あの部隊の情報では20人とは聞いたが、本当なのでしょうか?」

 

アレクサンドルの問いに、ユーリヤは頷いた。

 

「……元帥配下にいる部隊は、私たちにはない能力があるから信じている」

 

「しかし、いったい何者なのでしょうかね、中佐、副隊長。本当にあの部隊は全員が何と言いますか、兄弟にしては似過ぎていますが……」

彼女の答えに、安達は顎を撫でた。

 

「……私たちの知らない方が良いかもしれないね」

 

「本当に知るのは後になるかもな、副隊長」

 

「はい、その通りかもしれませんね」

 

「……雑談が終わったら、次に移動するよ。陸自のレンジャー部隊が心配だから」

 

ユーリヤの命令に、二人は了解と返答した。

彼女を筆頭に、彼らは警戒態勢をしながら、次の場所に移動した。

 

 

 

 

ユーリアたちが移動しているさなか、連邦工作員たちも負けてはいなかった。

 

「武器ゲットー♪」

 

「しかも自衛官は本当に馬鹿ね、子供相手に」

 

二人一組で敵工作員を捜索していた名もなきレンジャー隊員たちを刺殺したふたりの工作員は、思わず笑みを殺しながら喉を掻き切り、死体を蹴り捨てて、その死体に唾を掛けた。

ふたりが入手したのは89式小銃(折り畳み銃床式)と、護身用の9mm拳銃である。

武器なら分かるが、あるまじきことにその死体から指輪や金品までも奪い取った。

すると胸ポケットから一枚の写真が見つかった。先ほど殺害したレンジャー隊員の妻か、または恋人と思われる人物が一緒に写っていた写真だった。

だが二人はつまらなそうに、写真を破り捨てて、次のターゲットが来たなと茂みに隠れた。

しかしこの行為に、神罰を下そうとする者たちとも知らずに……

 

しかも人間とは思えぬスピードで接近してきた。

ふたりは武器を持ってきてくれてありがとうと呟きながら、その兵士に発砲した。

しかしその時、目を疑った。

この手で射殺したはずなのに、何事もなかったかのように立ちあがり、こちらに向かってきたのだ。

そんな馬鹿なと疑い、二人は89式小銃に装填された銃弾を全弾ぶつけたが、それでも死ぬことはなかったのだ。

 

「「なんで死なないんだ!」」

 

絶叫をした頃には、その兵士は短機関銃でひとりの男性工作員を射殺した。

しかも上半身を集中的に攻撃され、爆裂弾と思われる炸裂効果により、彼の原形を留めることはなかった。

傍にいた女性工作員は思わず、ひぃと短く悲鳴を上げた。

接近戦なら大丈夫だと思い、彼女はコンバットナイフを取り出し、刺殺しようと試みたが……

しかし背後に違和感を感じ、彼女は振り返ると、いつの間にかその兵士がいた。

よく見ると同じ顔、兄弟かと思うが似過ぎている故に、無表情な顔には不気味さが伝わる。

命乞いをしようと泣いたが、この兵士は表情を崩さなかった。

 

「お願い降伏するから、殺さないで……」

 

兵士は表情を変えず、女性の頭部を握り潰した。

もうひとりの兵士は死んだレンジャー隊員たちの死体を見て、唾のついた顔を綺麗にふき取り、瞼をそっと閉じた。破り捨てられた写真は彼の胸ポケットにしまっておいた。

 

「ツルタ少佐、大丈夫ですか?」

 

蔵野たちが駆け寄ると、彼は大丈夫ですと言った。

TJS隊員たちも順調に連邦工作員六名を射殺したと、戦果報告がきた。

これを聞いたツルタ少佐は了解と返答し、無線を切った。

 

「残りは12名ですが、ここからは我々にお任せください」

 

そう言い残すと、ツルタ少佐はまだ別の工作員を捜索した。

あっという間に自分たちの視界から消えたのを見て、彼らは本当に人間なのかと蔵野たちは思ったが、もしかして人間ではないのでは推測した。

 

蔵野の推測は正しい。

ツルタ少佐たちは人間ではなく、クローン兵であり、超人兵士でもある。

彼らを用意したのは、むろん灰田である。

元帥の暗殺を防いだ彼らは有能なだけでなく、武器も未来的なものばかりだった。

外観は普通の短機関銃と拳銃、手榴弾だが実は違っていた。

どの武器も全て未来素材でできており、この時代の武器をも凌駕するほどの代物である。

だから銃撃の餌食となった工作員の上半身は原型を残さなかったのだ。

そして超人部隊の武器はもうひとつは、彼らにしか持たない特色はその肉体である。

彼らは極めて高速の細胞再生能力を持ち、その肉体はあらゆる攻撃を受けても、例え肉体を引き裂かれようが、焼かれようが、たちまち再生して来るのである。

手足はもちろん、頭を吹っ飛ばされても数秒後には再生し、元通りになるという。

先ほどの殺害されたふたりの工作員が悪夢とも思えたのは、このためである。

ツルタ少佐たちは人間の10倍ほどの体力を持ち、なによりも全てを見透かす千里眼の持ち主でもあるため、工作員たちが何処に隠れようが見つけることは容易かった。

 

何故ここが分かったと哀れな工作員たちが、まだ残弾数に余裕なVz61短機関銃を乱射した。

しかし全弾命中したのにも関わらず、倒れた数秒後には、また立ちあがって進んできた。

これならばとM67破片手榴弾のピンを外し、素早く木陰に隠れた。直後、鼓膜に響くほどの爆発音が聞こえた。

 

「ざまみろ、人殺しども!」

 

しかし普通の人間ならば即死しているが、その兵士たちは何事もなかったかのように前進し続けた。

 

これは工作員たちにとっては、まことに悪夢だった。

まるでホラー映画に出てくる架空の怪物、ゾンビと戦っている心地がした。

元々のゾンビは映画や小説のような不死の怪物とは違い、ハイチの土俗的風習で、死体に呪いをかけて毒薬または麻薬を飲ませて、一種の奴隷にした相手のことを言う。

これは一種の復讐として行われた。決して死者が蘇えったものではない。

呪いをかける時には、ガマガエルやフグ毒、コウモリの血、墓場の土、または人間の死体の一部など、不気味なものが使われた。

そこから、死体が蘇えるゾンビ伝説が生まれたと言われる。

 

「うわあああ!」

 

さすがに不死身の部隊と遭遇した連邦工作員たちは、パニックに陥った。

がむしゃらに撃ちまくっても、超人部隊たちからすれば他愛のない攻撃であり、これは蚊に刺されてようなものでもあった。工作員たちは距離を取って、最後のM67破片手榴弾を全て投擲し、爆殺した。

だが数秒後には、超人部隊は立ち上がり、元の姿で前進し続けると言う始末だ。

逆に超人部隊は両手に携えている短機関銃ないし自動小銃を一斉射した。

これらを浴びた工作員たちは、先ほど殺されていった男性工作員と同じ運命を辿った。

一部は木陰に隠れてやり過ごしたが、それでも短機関銃と自動小銃の高性能炸裂弾は易々と遮蔽物を貫通して六人の工作員を射殺した。残りは六人である。

残りの工作員は殺害した警察官およびパトカーから奪ったM870ショットガンないしM92F拳銃、そして自分たちが持つマカロフ拳銃を撃ちながら逃げて行った。

しかし超人部隊にとっては効果がないものであり、不運にもふたりの工作員に迫った。

その工作員はナイフと体術で仕留めようとしたが、逆に返り討ちに遭い、喉元を掴まれて握りつぶされた。

もう一人の工作員はショットガンを乱射したが、その利き腕を掴まれて引き抜かれた。

残る左腕でナイフを取り出そうとしたが、取り出す前に顔面を掴まれて握りつぶされた。

AK-74uを乱射した一人は、ツルタ少佐の正確無比な射撃を喰らった。

しかもこの南部式自動拳銃も外観とは違い、遥かに高性能な自動拳銃であり、爆裂弾による炸裂効果が発生、脳漿と血が交じり合い、工作員の頭部は形も残すこともなく、数本の白い歯と舌、そして下顎しか残らなかった。

敵兵排除と呟き、あっという間に三人の工作員を始末したツルタ少佐たちは、残る工作員たちの後を追った。

 

「あいつらは一体なんなんだ。本当に人間なのか!?あんな化け物、どう倒せばいいんだよ」

 

「知るか、もう追いつかれてしまう」

 

「マズイな」

 

全力で走っているものの、いずれは追いつかれてしまうと知った三嶋は後方にいたふたりの部下にある物を貼り付けた。しかも赤く点滅しているものだった。

それを凝視すると部下は顔を上げたとたん……

 

「あばよ、人間のクズ」

 

三嶋は、ひとりの部下を蹴りつけた。

超人部隊が来たなと分かると、手のひらに収まる携帯式装置を取り出すとカチカチと音を立てて押した。

三嶋が部下たちに張り付けたのは、C4爆薬であり、彼が押したのはその起爆装置だった。

山全体に響き渡る爆発音を聞き、避難した住民たちを守っていた警察官やTJS隊員たちに、そしてTJS緊急展開部隊の装甲車輌に乗っていた乗組員たちの耳にも届いた。

上空で警戒していた陸自の対戦車ヘリAH-1W《スーパーコブラ》とともに、上空を警戒していたTJS社に所属するロシアの生み出した傑作攻撃ヘリMi-24P《ハインドE》もそれを目撃した。

 

「これならば死んだだろう」

 

「やりましたな、三嶋上佐」

 

さすがにM67片手榴弾をも上回る威力を誇り、戦車ですらも吹き飛ぶ量のC4爆薬ならば、不死身の兵士も死んだだろうと楽観していたが……彼らの考えとは裏腹に、人影の姿が現した。

 

「嘘だろう!なんであれでも生きているのだよ」

 

驚愕している間にも、あの超人部隊が来た。

 

「「ウワアアアアアア!」」

 

さすがの三嶋上佐たちも、恐怖により歪みきった顔でマカロフ拳銃を撃ちまくった。

無駄だと分かっていても撃ちまくったが、巧みに銃弾を躱したツルタ少佐が握っていた南部式拳銃……その銃口から放たれた銃弾により、三嶋の利き腕ごと地面に落ちた。

マカロフを握ったまま地面に落ちた自身の手を見ると、いまの恐怖と痛みを忘れるために胸ポケットから紙に包まれた白い粉を吸った。

カン中尉も同じく、もはや最後の手段と言わんばかりに、その白い粉を吸った。

 

「キョエエエッ」

 

「グババババババッ!」

 

奇声を発した三嶋たちは、壊れかけたラジオのように発しながら突撃して来た。

ツルタ少佐たちがナイフを取り出し、切りかかろうとしたが、しかしジャンプして避けられてしまう。彼らではなく、後から追ってきた蔵野たちに襲い掛かると、殴り掛かった。

蔵野は自身が持っていた89式小銃で慌ててガードしたが、尋常ではない人間のパンチであり、彼の持つ89式小銃をいとも簡単に破壊されてしまう。

寄声を叫びながら三嶋は馬乗りとなり、蔵野を片手で殴りつけると繰り返し、これを行なう。

蔵野は顔面を殴られないようにガードするが、何時まで持つか分からない。

ほかの部下たちが引き離そうとしたが、カンの強力な強烈なパンチを喰らい、倒れてしまう。

邪魔されたのが気に食わないのか三嶋も、カンとともに、ほかのレンジャー隊員たちに襲い掛かろうとしたが……

 

しかし、ツルタ少佐たちが殴り飛ばした。

 

「俺さま正義の味方、最強、最強、最強、最強、最強、最強……キョエェェェ!」

 

「万歳、万歳、万歳、万歳、万歳、万歳……グババババババ!」

 

だが壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返すとともに奇声を発しながら、さらに狂暴になった三嶋たちは何事もなかったかのように、ツルタ少佐たちに襲い掛かった。

しかしツルタ少佐たちは冷静な表情で、これを受けてやると拳を握り、三嶋たちに殴り掛かった。

双方の戦い、素手による白兵戦は想像を絶するもの、これほど凄まじい白兵戦は、かつてないだろう。

激戦のさなか、彼らたちに遅れて、ようやく蔵野たちと合流できたユーリヤたちがこれを目撃した。

しかし彼女は表情を変えることなく、三嶋たちが狂暴化した理由を察知した。

 

「……あいつら、麻薬を吸って狂暴化している」

 

「やはりそう思いますか?中佐」

 

「……うん、スペツナズ時代のとき、麻薬組織が潜伏している倉庫を襲撃したときにああいう嫌な臭いがしたから分かる」

 

「俺もああいうジャンキーな奴を見たことある。もはや同じ人間とは思えないほど狂暴化するからな」

 

「恐らく追い詰められたと思って、薬を吸ったのでしょう」

 

ユーリヤ、アレクサンドル、安達の推測は的中していた。

三嶋たちが吸ったのは麻薬であり、しかも興奮作用と狂暴化作用の両方を含む性質の悪い代物である。

これは恐怖と痛みも忘れるばかりではなく、幻覚を見るに伴い、敵味方を区別することもなく襲い掛かる狂暴性を兼ね備えている。しかも人間の通常体力の四、五倍ほどの力が増すため、このうえ厄介なこともない。

数多くの戦争でも突然と変わってしまった周囲、この泥沼化した自分たちのいた環境を忘れるために麻薬やコカインなどに手を出す兵士たちが後を絶たなかった。

 

現状に戻る。

最初は互角に思えたが、やはり人間の十倍の体力を持つ超人部隊が優位に立った。

やがてツルタ少佐はナイフを取り出して、カンの心臓部分を刺して、そしてえぐり出した。

紅い鮮血が噴出すると、ツルタ少佐は返り血を浴びたが、相変わらず無表情である。

カン中尉に続き、最後まで奇声を上げながら襲い掛かろうした三嶋は、ツルタ少佐に頭を掴まれ、そして人間をも上回る怪力で握りつぶされ絶命した。

蔵野たちだけでなく、ユーリヤたちもさすがに驚きを隠せなかった。

彼らに気にする事なくツルタ少佐は返り血を掃い落すと、無線機で連絡した。

 

「元帥、敵工作員は全滅しました」

 

『そうか、約束どおり昼に片づけるとは流石だな』

 

「いいえ、このくらいは大したことありません」

 

『うむ、では遺体は回収して、撤退準備をしたまえ』

 

「了解です、元帥」

 

短い報告を終えたツルタ少佐たちは、撤退準備を始めた。

本来ならば一ヶ月を費やす覚悟だった一同だが、超人部隊の活躍により1日で敵工作員を殲滅したのだから驚きである。ただし勇敢な警察官2名、レンジャー隊員10名が殉職しただけでなく、民間人にまで被害が出たのである。

死傷者多数を残したこの事件は、『佐世保同時多発テロ事件』として有名になった。

日本国内で起きたテロ事件を遥かに超える、史上最悪のテロ事件として人々たちの記録とともに、深い傷を数多く残したのだった。

 

しかし彼らの犠牲があったおかげで、連邦工作員を殲滅、この事件を解決できた。

佐世保鎮守府・海自合同基地にいた郡司や木曾たちにも何事もなく、無事この危機を回避できた。




無事テロ事件を解決しました。なお超人部隊は各作品によって違いますが、基本的に不死身の肉体は変わりませんし、また未来装備はどれもこれもチートであります。
なお今回は『超海底戦車出撃』に登場したツルタ少佐たちであります。

灰田「わたしに掛かれば容易いですが、さすがにこのチョコレートの量は……」

しかも大量ですね。バレンタインですからね、今日は。

灰田「助けてくれたお礼だと言われたので、断れなくて……(汗)」

大変ですね、あれユーリヤさんたちは。

灰田「郡司提督と木曾さんたちがくれたチョコをお土産にして帰投しましたよ。
また帰投途中に秀真提督、古鷹さんたちのチョコ、そして元帥と大和さんたちからのチョコを貰う任務を遂行するために、ヘリに搭乗しました」

もう少し話したかったが、仕方ないねぇ。

秀真「俺も貰ったが、確かにお返しが大変だが、それでも嬉しいさ」

郡司「僕もだよ、だけど嬉しいよ」

古鷹たち「「「「はい、SEALs提督(司令官)。チョコレートです」」」」

木曾「ほら、チョコレートだ」

神通「提督、神通特製チョコレートです」

嬉しいのであります。罰が当たらないかな。

秀真・郡司「「大丈夫さ、罰は当たらない」」

では感動のあまり忘れてはいけないので、次回予告をお願いします。

灰田「では次回は日本政府視点から始まりつつ、次の作戦に移るという最中に、とある大国がある計画を実行しようと目論んでいます。
あくまでも予定ですので変更するかもしれませんのでご了承ください。
ではそろそろお時間ですので……。第五十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。
わたしはちょっと北海道海域まで出張してきますので、次回もお楽しみを」

秀真・古鷹一同「「「ダスビダーニャ!!!」」」

郡司・木曾一同「「「ダスビダーニャ!!!」」」

作者・神通「「ダスビダーニャ!!次回もお楽しみに」」


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第五十七話:日台秘密同盟、成立ス!

お待たせしました。
予告通りで日本政府視点から始まりつつ、次の作戦に移りとある大国がある計画を実行しようと目論むという話でしたが、今回は事情により、とある大国の目論見は次回に回しますのでお楽しみを。

灰田「理由としてはそれもありますが、次回に回した方が面白いかなという至極簡単な理由でもありますので、ご了承ください」

では予定変更をお伝えが済みましたところで、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


連邦工作員が起こしたテロ事件『佐世保同時多発テロ事件』を解決してもなお、戦争は続く。

この事件終了後でも連邦空母戦闘群、人造棲艦《ギガントス》の両艦隊の消息は、ようとして知られなかった。

 

3月7日。

台湾民進党議員が中華航空特別機で日本に入国し、与党の台湾ロビーの議員と面談した。

ふたりは兼ねてから連絡を取り合っており、今回の来日については、メールでまだ連絡をしてから飛んできたのである。

連邦国は、通信衛星を使った国際電話は盗聴して盗聴してあるはずだから電話は使えない。

メールもまた盗まれる恐れがある。

人間が行くのは確実で、スパイ技術のなかではローテク、所謂『ヒューミント』がもっとも確かなものである。台湾議員の話しを聞いた与党議員は、さっそく如月官房長官に連絡、議員を安藤首相に会わせる。

台湾議員の名前はリウパオと言い、レン総統の懐刀である。

 

官房長官からの連絡を聞いた重大情報を聞いて、安藤首相は、矢島防衛省長官を立ち会わせると、首相官邸に連絡した。

 

リウはさっそく切り出した。

 

「連邦海軍と深海棲艦と、後者に似た敵艦が昨日の早朝、バシー海峡、バタン諸島の北を通過し、太平洋に出ました。我が軍は対潜哨戒機、潜水艦、フリゲートなどを繰り出して、海峡を警戒していたのです。敵に攻撃されるのを覚悟の上でしたが、幸いに攻撃は受けていません。

連邦も深海棲艦も今の時点では、我々を敵に回すことを避けたのでしょう……

これは極めて重要な情報なので、米軍が偵察衛星で教えてくれればいいのですが、さもないと不味いことになりますので、我が総統の指示でわたしがこうして飛んできたわけであります」

 

リウは言った。

 

安藤首相は、矢島防衛省長官の顔を見たが、矢島はかぶりを振った。

アメリカからは何の情報も入ってこないと言う意思表示である。

 

「それは助かります。総統によろしくお伝えください」

 

「実は我々にもお願いがあるのです。ここではっきり申し上げますが、我が台湾はこの機会に独立宣言を行なおうと考えています。

しかし連邦はまだ福建省沿岸部に400基もの戦術ミサイルを持っており、我々が独立すれば、それを持って攻撃を仕掛けてくるでしょう。

台湾の独立は決して許さないのが、中国譲りの連邦国のテーゼですから。

したがって、我々は貴国に頼らざるを得ません。我々はすでに秘密同盟を結んでいることでありますし、あのステルス重爆で、残る戦術ミサイル《東風15号》や《鬼角弾》を叩いていただきたい、と総統の希望であります」

 

その秘密同盟は、日連戦争が避けられないと分かったときに、やはり件の議員の仲介で結ばれた。

なるほど、ギブ・アンド・テイクという事になる。

 

台湾は体を張って、バシー海峡を見張った。その見返りを求めているということだ。

 

「分かりました」

 

安藤は躊躇わずに答えた。

 

「我が国はもともと貴国の独立を支援するにあります。可及すみやかに東風ないし鬼角弾ミサイルへの攻撃を行なうことをしましょう」

 

「その旨、書簡にしていただけますか?」

 

さすがにリウはただ者ではない。確固たる証拠を要求した。

安藤に食言させては堪らないからだ。

 

「良いでしょう。すぐに作りましょう」

 

リウが帰って行ったあと、安藤はただちに国防会議を召集した。

 

「なるほど、連邦と深海棲艦はそう出ましたか」

 

杉浦統幕長の言葉を繋げるように、元帥が口を開いた。

 

「私としては恐らくそうではないかと思いましたが、これで確認が取れたわけですね」

 

「しかし、アメリカの背信はけしからん」

 

秋葉法務相が言う。

 

「知っているくせに、そらとぼけよって」

 

「もはや米軍の情報は当てになりません。いや、当てにしない方が無難でしょう。

ただし、我が国にいる多国籍軍は除いてですが」

 

大洲外相は渋い顔になって言った。

 

「むしろ、アメリカは我々を敵視にかかっていると考えるべきでしょう」

 

「しかし空母戦闘群、人造棲艦に太平洋に出られると厄介です。

なにしろ太平洋は広いですから。敵は好きなように動き回ることができます。

つまり作戦のイニシアチブを敵に捉えています」

 

矢島が言う。

 

「敵の狙いは、いったいなんだと言うのかね?」

 

安藤は尋ねた。

 

「それははっきりとしていると考えます」

 

杉浦統幕長が答えた。

 

「敵は東京ないし大阪を、艦載機および艦砲射撃による奇襲攻撃を仕掛けてくるはずです。沖縄侵攻作戦と佐世保拉致事件の失態で終わったので、連邦軍と深海棲艦は世界の笑い者になりつつあります。どちらも面子を賭けても我が国に一矢報いなければなりません。

それが東京奇襲です。空母戦闘群は快速ですし、艦載機の作戦行動半径ぎりぎりのところから発進させることが可能です。

空母《天安》が載せているスホイ33の作戦行動半径は1200キロ、J-31も同様です。

空母型ギガントスに関しても同じと推測します。

戦艦型ギガントスは南方棲姫と同じく、16inch三連装砲を搭載しており、余裕に射程距離範囲に入ると推測します。

これだけでも余裕があると、我々はそう容易く捕まえられません。

護衛艦隊と潜水艦を総動員させる必要があります。むろん飛鳥部隊とこれを護衛する秀真艦隊も出します。早期警戒機は硫黄島に移し、これから常時警戒させましょう。

ここに対潜哨戒機P-3Cも常駐していることですし」

 

「うむ、そうだな」

 

安藤は唸った。

 

「断じて東京を奇襲させてはならんぞ。そんなことをさせれば、こっちが世界の物笑いのタネになる」

 

「リウ具委員との約束は、お守りになるつもりですか?」

 

如月官房長官が確認した。

 

「それはもちろんやらねばならない。台湾が独立してくれるということは、つまり我々が強力な味方を得たことだ。連邦・深海棲艦の両軍はこの方面にも手当てをせねばならず、東京奇襲作戦が窮屈となる。彼らを早期に屈服させるチャンスが出てくる。

一部の深海棲艦は元帥の管轄で監視し、我が国に亡命している者たちがいるぐらいなのだからチャンスがあるとわたしは見ている。

統幕長、十勝に連絡して栗田空将に空爆準備をさせてくれたまえ」

 

「分かりました」

 

杉浦は答えて、いったい退席した。

 

「しかしわたしの感想では、素直なところ台湾はエビで鯛を釣りましたね」

 

元帥は微笑して言った。

 

「敵がバシー海峡を通るしかないことは、ほぼ分かっていたことです。

確かに台湾軍は危険を冒したでしょうが……レン総統もなかなかしたたか者ですな」

 

「そうでなくては、一国の元首にはなれんよ。キミもそうだろう?」

 

安藤は素っ気なく言った。

 

「私はただ、自分なりにやっているだけですよ。安藤首相」

 

「本当にキミは天才なのか、そうでないのかが分からなくなってきそうだよ。

それよりも、これからはいっそう自衛隊と多国籍両軍、そして元帥や秀真提督たちの艦娘諸君に頑張ってもらわなくてとならん。

もしも東京が爆撃されたら、世界の物笑いになるのは我が国だからな」

 

「むろん、最善を尽くします」

 

こうして日台秘密同盟の密談、国防会議は無事終了した。

 

 

 

空母《飛鳥》を中核とする日本初の空母戦闘群は、第八護衛艦隊と名付けられた。

秀真、古鷹たちも護衛艦隊として所属している。

余談だが秀真たちは、この艦隊を『第八艦隊』と呼んでいる。

その理由としては、三川中将率いる第八艦隊を模倣しているからだということである。

古鷹たちは『懐かしいですね』と言った。

本来ならば少数の重巡洋艦と軽巡洋艦、駆逐艦だけなのだが、空母《飛鳥》と土佐姉妹を付けると立派な機動部隊であり、贅沢なものだなと秀真は呟いた。

空母《飛鳥》の指揮官は、幕僚監部のスタッフだった真崎海将である。

飛鳥の艦長は、海上勤務の長いで、空母《ニミッツ》や《ドワイト・D・アイゼンハワー》に体験乗艦したこともあり、海自初の空母の艦長として最適と考えられた。

もっとも湊海将補には大きな悩みがあった。

預かっていることになっている空母というのが、並の艦ではない。

なんとコンピューターで全て制御されている半自動艦だということである。

マザーと呼ばれる未来のバイオ素子コンピューター、ひらたく言えば人間の頭脳と同じだということだが……実質的には切り替えられるようになっているが、そのすべての作業もコンピューターが行なう。人間はそれをチェックしていれば良いのである。

しかも艦載機も無人機、この無人機の性能には恐るべきものがあり、人間のパイロットではとても不可能なアクロバット飛行も平然とやってのける。

なにしろG(加速度)と言うものには関係ないのだから、それも可能になる。

そして訓練では、見事な戦闘飛行をやってのけた。

 

しかし灰田の言うところでは、マザーはいわゆるロボットに過ぎず、人間の意志に最終的に従うことになっており、湊がよほどヘマな命令を出さない限り……つまり艦の安全を脅かさないかぎり……彼に従うはずだ。

 

しかしいざ実戦になったときはどうなるのか。湊にはさっぱり分からないと言うのが本当のところだった。

 

ともかく連邦空母戦闘群、人造棲艦《ギガントス》が太平洋に進出したときの知らせを受けて、鹿児島湾にいた第八護衛艦隊、秀真・古鷹率いる連合艦隊は九州南方海面に出ると、

八丈島方面に向かった。

元帥、統幕長本部の判断では、連邦空母戦闘群、ギガントスは伊豆諸島から小笠原諸島の中間海域あたりのどこかで、作戦行動を起こすだろうということである。

このため硫黄島に、早期警戒機E-2Cが派遣された。

P-3C対潜哨戒機はすでに常駐しており、これらが哨戒任務を行なうことになった。

E-2Cの作戦行動半径は1200キロ。巨大なレーダードームを背負っており、600個の目標を識別できる。ターボプロップエンジンにより、最大速力は650キロである。

P-3Cの作戦行動半径はさらに大きく、E-2C 早期警戒機の3倍、2000キロ近くである。

空自には大型早期警戒機E-767《ジェイワックス》を持っており、これは両機よりも遥かに航続距離は長いのだが、なにしろ旅客機が母体だから滑走路が短すぎて、硫黄島の飛行場には降りられない。

 

敵はまず潜水艦も伴っていると予想される。航続距離の長さを要求されると言うことから、ハン級原潜を繰り出してくるだろう。そのうち1隻は第二次南シナ海戦で沈められたが、まだ4隻も残っている。通常型戦略潜水艦《ゴルフ級》も出してくるかもしれない。

これはただ1隻存在するだけだが、巨浪2号の戦略ミサイルを搭載できる。

これは核弾頭も搭載可能で、しかもMIRVだという噂もある。

そのミサイルの最大射程距離はおよそ8000キロメートル。

 

そしてこれらの戦略潜水艦の存在は、ワシントンの悩みの種としていた。




日本と台湾が連携しただけでなく、空母《飛鳥》率いる第八護衛艦隊となりました。
なお秀真・古鷹たちの第八艦隊は土佐姉妹がいるから、もはや機動部隊です。
田中光二先生の作品では、三川中将は作品によりますが、機動部隊を指揮したり、戦艦部隊を指揮したりしています。好きな提督のひとりですし、嬉しいのであります。

灰田「本当に第六戦隊、三川艦隊好きですね」

ジパングがきっかけだったけど、艦これと田中光二先生作品のおかげでもあります。

秀真「まあ、無理はするなよ」

アッ、ハイ(ニンジャスレイヤーふうに)、チョコレートを食べれば大丈夫であります。

灰田「このままでは長引きそうですので、次回予告に移りますね。
次回は今回予定するはずだった、とある大国の陰謀と言いますか、ある計画を実行しようと目論むという話です。果たして今後の展開にどうなりますかは、しばしお待ちを」

秀真「どんな敵でも蹴散らして見せるさ」

古鷹「私も頑張ります」

加古「あたしも頑張るよ……Zzz」

青葉「艦隊決戦も青葉にお任せ」

衣笠「衣笠のちから、見せてあげる!」

灰田「皆さんの覚悟が聞けて大いに満足です、ではではそろそろお時間ですので……。
第五十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真一同「「「ダスビダーニャ」」」

ダスビダーニャ!!次回もお楽しみに


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第五十八話:実行される対日計画《チェリー・プラン》

お待たせしました。
本来ならば前回に投稿される予定だった話をとある大国の陰謀と言いますか、ある計画を実行しようと目論むという話です。

灰田「果たして今後の展開にどうなりますかは言えませんが、とある名言に当て嵌まりますね……」

『国家に真の友人はいない』 キッシンジャー

『我が国以外は全て仮想敵国である』 チャーチル

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


首都ワシントン・ホワイトハウス

ハドソン大統領のところには、連邦・深海棲艦両軍の沖縄侵攻作戦が見るも無残な敗戦が終わったことが報告された。

これに先立ち南北連邦、同じ連邦国海空軍・深海棲艦たちが行なった対九州作戦も両軍の決定的敗戦に終わった。

 

「うむ、早くも連邦・深海棲艦は追い詰められてしまったな」

 

ハドソンは、政府と軍部の両幹部たちに顔を見回しながら言った。

 

「軍事的常識からいえば、海洋進出すら素人並みに進み過ぎ、さらに実戦は全て艦娘たちに頼り過ぎただけでなく、深海棲艦にすら劣る者たちが、かつての特アの野望を再現するように敵地に上陸作戦を行なおうとするのが、無理なのです」

 

ヨーク参謀総長が度し難いという表情で言った。

 

「連邦空軍はそれでも持てる重爆や中爆、そして護衛戦闘機を繰り出して、予備爆撃は行ったぞ。いちおう上陸作戦のセオリーには叶っている」

 

ケリー国防長官が指摘する。

 

「それは確かにそうですが、その重爆たるものが旧式爆撃機では話になりません。

爆撃機はともかく、護衛戦闘機も新型は少数であり、多くが旧式戦闘機です。

なにしろ日本はF-15を150機、F-3ステルス戦闘機50機に、そして我が国率いる多国籍支援軍機も持っていますから、防空能力はアジアで日本に敵う国はありません。それに防空網も充実しております。

そのおかげで、連邦軍はまず空戦で悲惨な目に遭い、重爆ないし中爆のほとんどを喪失、さらに多くの戦闘機までも喪失したはずです。

また海戦では残っていた二線級の艦隊を繰り出したためJSMDF及び艦娘たち、そして多国籍支援海軍に敵うはずもありません。

衛星で見たところ、三軍による多数の対艦ミサイル、徹甲弾、さらにレーザーを浴びて、ほぼ殲滅した様子でしたが、それでも上陸船団は深海棲艦とともに上陸しようと試みましたが、敵の攻撃に遭い、殲滅されました。

なお一部の深海棲艦と連邦軍兵士は、日本の捕虜となりました。

上陸作戦は、およそ海軍の作戦のなかでももっとも困難なものであり、70年前以上のD-dayでも、我が国率いる連合国は持てる限りの重爆、戦闘機、地上攻撃機に、そしてあらゆる艦艇を繰り出したことを忘れずに。

投入航空機は1万機を超え、艦船は6000隻。総参加兵員は300万人を達しました。

とくに制空権は完全に確保しましたが、それでも守る立場のドイツ軍が優位で、我が軍は第1師団はオハマビーチで釘付けになり、危うく作戦自体が崩壊し掛かったほどなのです。

連合軍の諜報活動が成功し、ドイツ軍は上陸地点をカレーだと思い込んでいたから成功したようなもので、カレー方面にいたドイツ機甲師団が最初からノルマンディーにいたら、恐らく作戦は成功しなかったでしょう。

わたしの目から見ますと、連邦はこういった歴史の教訓から何も学んでいないようです。

例の超大国意識に毒づかされているのです。

しかも深海棲艦たちの足を引っ張るだけでなく、もはや同盟破棄も時間も問題でしょう」

 

「キミの言う通りだが、連邦国はまだ深海棲艦との同盟を維持している。しかも空母戦闘群に、新型深海棲艦を持っている。……いや、前者はそう呼んで良いのかどうか苦しいところだが」

 

ケリー国務長官が言った。

 

「彼らは太平洋に出たようだな。我々は日本に敢えて知らせなかったが、そこでどう戦うつもりだ?」

 

「恐らく日本の大都市、首都・東京を奇襲するつもりでしょう。なにしろ太平洋は広く、日本の早期警戒システムがいかに優秀でも、これをキャッチアップするのはなかなか困難です。ことによると、今度は連邦・深海両軍がポイントを稼ぐかもしれません」

 

ヨーク参謀総長は、むろんフットボールに引っ掛けて言ったのである。

 

「……わたしが心配しているのは、連邦が持っている戦略原子力潜水艦だ。

連邦がもしそれを使い、日本の都市に核攻撃をしたとしたら、我が国の立場はどうなるんだ?」

 

「我が国は、同盟国としての日本を見捨てたと世界中から思われます。

ここで日本が核攻撃を受ければ、我々は何もせずに傍観するわけにはいくまい。

もし傍観すれば、我が国の威信は地に墜ち、いかなる国も我が国を信用しなくなるだろう」

 

要するに、ハドソンと言う男は気が小さいうえに心配性だった。

 

かつてニクソンと言う男もそうだった。

ニクソンは、大統領としても点数を稼ぎたいと考え、訪中して毛沢東を持ち上げて、ソ連を牽制しようとする毛沢東の術中にまんまと墜ちていった。

この先触れに努めたのが、冷徹なリアリストのはずのキッシンジャー国務長官だが、二人とも中国と言う国がまったく分かっていなかったと言える。

中国と言う国には信義はない。利用できるものは何でも利用する。フルシチョフと蜜月時代だったときは、ソ連から膨大な援助を引きだし、ブレジオフと上手くいかなかった。

海千山千の政治学者キッシンジャーも周恩来(ジョウエンライ)の外交術にころりといかれてしまったのである。

小心なニクソンは、誰が悪口を言っているのか知りたくて、ウォーターゲート・スキャンダルを引き起こして墓穴を掘り、任期途中で降板した不名誉な大統領となった。

ニクソンだけでなく、近年でもレームダックと呼ばれている現役大統領、4年前に我が国を破滅に追い込もうとしただけでなく、日米同盟を破棄しようと企て、特アに媚を売り続け、そして我が国の固有領土を平然と売ろうとした某反日売国政党らも墓穴を掘り、どちらもパフォーマンス好きの不名誉な代表者たちを数多く残している。

このハドソンの資質も彼らに似ているが、モンロー主義者だけにさらに始末が悪い。

孤立主義を自ら選びながら、なおもアメリカの威信を気にしているのだ。

 

「わたしの考えでは、連邦は戦略潜水艦を日本に対して使わないでしょう。あくまで我が国に対する抑止力として使うでしょう」

 

ヨークは言った。

 

「日本はあのステルス重爆を使って、連邦奥地に戦略ミサイル基地を破壊する可能性があります。そうなったら、連邦は我が国に対する切り札をなくしますので」

 

「ふむ。ともかく太平洋の東半分は厳重警戒にしてもらいたい。それから例の対日計画作戦だが……《チェリー・プラン》とか言っていたかな。あれはその後、どうなっているのかね?」

 

「はあ、目下ペンタゴンで問い詰めているところですが、どの程度日本を叩くべきか、そこのところの見極みが困難でして……むろん、我が軍の空母戦闘群を三個も繰り出せば、JSDF及び艦娘たち、そして多国籍支援軍は撃滅できるはずですが、我が軍も相当な被害を覚悟しなければなりません。

なにしろ我々が育てた軍隊に多国籍陸海空軍、さらに先の大戦で猛威を振るった艦娘たちですから、我々の手の内を知り尽くしています。

これは日本そのものを破壊し、占領するわけではなく、我々にはできぬ理由を持って肥大化し過ぎた日本の戦力を落とすプランですから、そこの匙加減が微妙なのです」

 

「いや、うかうかしていると、我々の方が痛い目に遭いかねんぞ」

 

ケリーは同調した。

 

「なにしろあのステルス重爆の威力はすごい。あれを使えば日本は復興中のハワイやグアムを叩くことも容易い。再び母港を失えば、空母戦闘群も使いづらい。

日本はいまや艦娘たちだけでなく、本物の空母も持ったようだが、ほかにもどんな隠し玉をもっとるか分からん。

わたしは《チェリー・プラン》は、全力を挙げて日本を叩くことを考えなければならないと思う。中途半端なプランでは、とても危険だ」

 

「わたしもその意見に賛成だ。なにしろ日本は理解不能な国となった。戦術核兵器を使うことも考慮しなければならない」

 

当初この対日計画に反対していたハドソンだったが、ついに折れて、賛成を挙げた。

2003年に起きた911同時多発テロ事件からアメリカは変わってしまったのだ。

しかしこの事件の発端ともいえるきっかけを作ってしまったのは、アメリカと言っても良い。

このテロを誘引した原因の一つは、「国家に属さない交戦団体も軍隊として取り扱う」という新ジュネーヴ条約が原因である。至極簡単に言えば『どのテロ組織も国家と対等な関係になれる条約』をアピールしている。

この様な条約であれば、本来捕虜に値しない非正規軍であるテロリストも軍人並みに扱われる。

つまりテロリストたちに聖域を与えってしまったと言っても過言ではない。

これに泡を食ったアメリカは、イラク戦争で得た過ちを正すため、2005年の安全保障政策を「直面脅威対応型」から2002年の新戦略にもとづき“緊急・潜在・不確実”事態に対応できる「将来可能性型」へと転換した。

基本的には二つの主作戦正面対応を維持するために、緊急迅速展開部隊を強化するとともに特殊作戦司令部の陣容を増強した。

 

しかしそれでも世界の警察を担うのに疲れたアメリカは、徐々に撤退をしてしまう。

それを待ったかと思い、新たなテロ組織《イスラム国》が生まれた。

この失態は軍隊の目的を間違えたのが原因である。何故なら、軍隊の目的は敵軍撃破であり治安維持ではない。

だから米軍は、イラク戦争では勝利したが、対テロ作戦で損害を増大させてしまったため、国内では反戦運動を加速化してしまった。

元より国家再建は敗北側の責任であり、だから米軍は、あのイラク戦勝利後に撤退すべきだったのが以下に正しかったかを表している。それをもしも実行していれば、良い結果になっていたかは神のぞ知る世界である。

話しが逸脱したので戻る。

 

ハドソンはもはや日本を支援しても意味はなく、今後は連邦・深海棲艦と距離を取った方が良いと考えていた。

今後に備えて、両者との友好関係を築きつつ、対日対策計画を練ろうと結論づいたのである。なにしろ元々、日本というのは敵国だったのだから……

 

「また万一に備えて連邦が深海棲艦との同盟を破棄し、中岡大統領や彼の幹部たちが我が国に亡命したいときは、躊躇することなく亡命を快く受け入れたまえ。例え我が国が長年保ち続けた日米同盟を破棄してでも構わない。

そして彼らが戦力を欲するならば、我が軍と同じく兵器や装備などを惜しみなく与えたまえ」

 

「はあ……では、その線に沿ってプランを練り直します」

 

ヨーク参謀総長は答えたが、内心は不満だった。

戦争のことは専門家にまかせておけばいい。アマチュア大統領の口を出すことではないと思ったが、憲法上大統領が最高司令官である以上、やむを得ない。




日本と台湾の両国による秘密同盟成立に伴い、空母《飛鳥》と、秀真・古鷹率いる第八護衛艦隊が無事編成していた頃に、アメリカは日本を裏切る気満々という展開とともに、対日計画《チェリー・プラン》を計画を採用するという展開に……

灰田「どの架空戦記でもふたつの言葉どおり、アメリカが裏切ることが多いですしね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)。
超日中大戦、天空の富嶽、超日ソ大戦などでも日米講和ないし日米同盟を捨てて、平気で日本を裏切っていますからね。

灰田「それでも『戦争は人間の本質』でありますからね」

パラベラム……ラテン語で「汝が平和を望むならば戦争に備えよ」という言葉もあれば、
ローマ帝国の軍事学者ウェゲティウスの名言でも「平和を願う者は戦争の準備をしなければならない。勝利を望む将軍は兵士を厳しく訓練しなければならない。
結果を出したい者は技量に頼って戦うべきであり偶然に頼って戦うべきではない」

灰田「まあ、そうなりますね」

あまり多く語ると早朝になりかねないから、そろそろ予告編をお願いします。

灰田「次回は第八護衛艦隊とZ機部隊の行動を少しと、連邦空母戦闘群などの様子を見てみましょう。そして連邦空母戦闘群に、空母タイプの人造棲艦《ギガントス》がとある作戦行動に移りますので、どういう展開になるかは次回に明らかになります」

秀真「どんな敵でも蹴散らして見せるさ」

古鷹「私もどんな敵でも蹴散らして見せます」

土佐「いよいよ私たちの出番か、楽しみだな」

紀伊「はい、土佐姉さん。私の艦載機や連山たちも準備万端です!」

灰田「わたしの土佐姉妹はしばらく後になりますが、その時は充分に暴れてください。
ではではそろそろお時間ですので……第五十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真一同「「「ダスビダーニャ」」」

ダスビダーニャ!!次回もお楽しみに


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第五十九話:連邦空母戦闘群、ギガントス、太平洋へ

お待たせしました。
では予告通り、第八護衛艦隊とZ機部隊の行動を少し見てから、連邦空母戦闘群に、空母型の人造棲艦《ギガントス》がとある作戦行動に移ります。

灰田「また予告でお忘れしましたが、もう一つの日本視点がありますのでお楽しみを。なお人造棲艦《ギガントス》の艦載機名も同じく明らかになりますので」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


第八護衛艦隊、秀真連合艦隊とともに、佐世保から郡司連合艦隊、沖縄から第二護衛艦群、二個潜水艦群が太平洋に急行、小笠原諸島の西海域に展開したものの、連邦空母部隊と人造棲艦《ギガントス》の行方は、双方とも行方は相変わらず掴めなかった。

硫黄島からは、連日早期警戒機や対潜哨戒機を飛ばしているのにも関わらず見つからない。

潜水艦群とイムヤたちは護衛艦隊の外周に展開し、索敵していた。

浮上していれば、搭載水上レーダーは水平線を走査できるので、索敵範囲は大きい。

敵艦載機の空襲があり得るので、各方面隊の陸自・多国籍支援軍の高射群は東京周辺はじめ主要大都市に就いたが、対空ミサイルの数にも限りがある。

 

全ての都市は守れない。

あとは国内の空自基地にいるF-3《心神》に、沖縄・九州地方に配備して戻って来たF-15、多国籍空軍機に任せるしかない。

台湾からの情報が入ってから72時間経過したが、空母《天安》と、人造棲艦《ギガントス》の両艦の所在は掴めなかった。

 

このかんに痺れを切らした中岡たちは、親日国である台湾にミサイル攻撃をしろと命じた。

しかし事前に台湾軍からの情報を耳にした統幕長本部の命令を聞いた栗田空将は、Z機部隊を出撃された。福建省にある戦術ミサイル《東風15号》《鬼角弾》だけでなく、なお懲りもなく連邦迎撃機も出撃したが、Z掃射機改の機銃掃射により撃ち落されてしまう始末だった。これにより、台湾に向けられた戦術ミサイル基地および航空部隊は壊滅した。台湾は連邦ミサイルによる襲来を恐れずに済んだ。

これまで長年に渡り、中国が滅んでもなお、連邦・深海棲艦の両者による脅威に耐えていたのだから、台湾国民の安堵は察したのだった。

 

その反対に中南海では忠秀が軍部の幹部、戦艦水鬼派の幹部たちを叱り飛ばしていたが、これは別に両軍に落ち度ではない、敵が強すぎるのである。

湯浅はこのZ機部隊が北京……中南海を襲うのではないかと、にわかに心配していた。

しかし中南海には深い地下壕が掘られていて、その地下道路は車輌が四台も並べても余裕なほどの広さがあり、北京郊外の西山の地下に掘られた防空壕に通じている。

これは軍事センターの機能も持っており、中南海の司令部がそのままそっくりに移転できる。

 

実はこれは毛沢東のために造られたのである。

毛沢東と言う男は、食糧を搾り取って輸出に回して自国民を餓死させるだけでなく、さらに大躍心、製鉄令、文革などを通じて自国民7000万人を死に至らしめた男だが、自身の保身は徹底的にしており、中国各地に別荘があった。そこは全て核攻撃にも耐えられる地下壕を完備していた。

これらを造るためにも膨大な国費が投入され、それは自国民数千万人を何ヶ月も食わせるに足りるほどだったが、毛沢東は一切考慮せず、自分の安全だけを図った。

ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンも政権を取る過程で、軍の大粛清、強制収容所送りなどで約3000万人を殺したとも言われているが、とても毛沢東には敵わない。

むろんヒトラーも敵わない、毛沢東こそ史上最大の殺人者である。

このような無比をしても無意味だと言われても仕方ないが、ヒトラーが強制収容所で殺したユダヤ民族をはじめ少数民族は600万人を虐殺したとも言われている。

その数は100万人にも満たないだろう、前期ふたりとは桁が違うのである。

 

話しは戻る。

秀真・古鷹たち、海自・空自も敵を見つけられなかったが、それも道理だった。

小笠原諸島の南、むしろマリアナ諸島の北端に沿って東に進んでいた。

空母《天安》を守る護衛艦は、最新鋭艦の旅洋Ⅲ型2隻、改ソブレメンヌイ級2隻、コワンチョウ級駆逐艦1隻、マーアンシャン級フリゲート1隻、ランチョウ級駆逐艦1隻で、連邦海軍はこのために温存してきたのである。

深海護衛艦隊は、新たに配属された集積地棲姫、重巡棲姫が加わっている。

前回日本のシーレーン阻止に失敗した軽巡棲姫、軽巡棲鬼、駆逐棲鬼に加え、水母棲姫、駆逐水鬼、防空棲鬼で編成された護衛艦隊……連邦にとっては相変わらず使い捨て部隊だが、もう一つの目的を果たすための部隊である。

戦艦水鬼の命令を受けて、空母棲姫、南方海域およびサーモン海域守備隊として配置されていた南方棲姫、戦艦レ級までも呼び出したから過剰ともいえる火力である。

しかし空母棲姫は不安だった。これだけの高火力を持って勝てるかどうか心配だった。

相手は旧式艦隊なのに高火力かつ現代兵器を屈しており、さらに現代兵器だけでなく、ジェット戦闘機、未来兵器ともいえるレールガンを装備している相手にどう立ち向かえと言うのだと愚痴を零した。

それに指揮を任せられた空母棲姫も渋々了解を受けて、人造棲艦《ギガントス》の護衛に就いた。本心は『こんな非道兵器、外道な兵器が許せるものなのか』と呟いた。

彼女だけでなく、ほかの深海棲艦たちも不安がっていた。もしかして自分たちを襲うのではないのかと思い始めた。コイツの眼だけはなぜかこちらに憎悪が向けており、まるで人殺しのように笑っていない眼で、ワザとそういう風にして演じているのかそういう風な眼でこちらをジロリと睨んでいた。

だが海戦同時に敵艦にダメージを与えてくれるとは言うものの、果たして役に立つかどうかすら疑問を抱いた。

 

これらの大艦隊が空母《天安》と、人造棲艦《ギガントス》を守っている。

これらにハン級潜水艦4隻、潜水棲姫も随伴している。

連邦海軍としては通常型潜水艦キロ級やミン級、ソウ級も出したかったが、速力の点で空母戦闘群に付いてはいけない。もともと旧式であり、これら全ては外洋型潜水艦ではない。

合せて19隻の両艦に守られた空母《天安》と、人造棲艦《ギガントス》は満してマリアナ諸島北端を経過し、その東面に出た。

 

連邦海軍司令部では、出撃間際になって作戦を変更したのである。

当初は東京を主たる目的とし、大阪が第二目標だったが、日本軍がこれらの都市の守りを固めていることは子供でも分かっていた。

いったん発見されたら最後、日本艦隊が殺到し、激しい海戦となることは目に見えている。

作戦原則「火力に予備無し」とし、戦闘の5機能を満たせばいいと思われるが、海戦では優位なのは依然として日本である。

こちらが米軍のように高火力を持つ空母戦闘群だと有利だが、それでも上手く運用できるかが不安であり、当初の作戦を完遂することは不可能である。

 

なにしろ日本は硫黄島に飛行場を持っている。

ここを基地として戦闘機を運用されると、天安の艦載機だけでは防ぎきれない。

深海側の艦載機もあるが、もっぱら艦娘に襲う習性があるため戦力外とみなしている。

 

そこで、ロウ海軍司令員は目標を東京の遥か北に、東北に変更した。

第1目標を宮城県・仙台市、第2目標を北海道・札幌市としたのである。

これらはいわゆる6大都市よりも劣るが、日本にとって重要な地方都市である。

ロウにとっては、ともかく日本の都市を叩くことが第一義で、それはともかく東京でなくて良かった。

 

ともかく日本のどこかであろうと叩けば、今までの恨みを晴らすことができる。

そして国家の面子も保てる。

 

このとき、連邦政府は自国民に対して例の如く徹底した情報歓声を敷き、東北のミサイル基地、福建省、逝江省の戦術ミサイル基地が破壊されたことは公表していない。

もっとも現地の人間は分かる。いかに緘口令を敷いても今では、インターネット、YouTube、そしてTwitteと言うものがあり、いくら政府が管制しても、情報が即時に隅々にまで全国にまで伝わる。

 

どうやら日本は艦娘たちだけでなく、レーダーに感応されないステルス爆撃機を言うものを持ち、それで連邦国の好きなところを空爆しているという噂が伝わり始めた。

また連邦・深海棲艦の両艦隊は空軍と協力して沖縄侵攻作戦を行なったが、ものの見事に失敗したということをおぼろげながらに分かり始めた。

連邦国民や深海棲艦たちのなかから、軍部の戦いぶりの拙劣さに対する不満が高まり始めた。また今まで特亜を称賛していた反日テレビ局も軍部を批判し始めた。

なお後者は今でも『報道の自由が危ない』と言いながらも決して特アの軍は批判することなどなく、常日頃から自衛隊や米軍を批判する。これは失笑ものである。

安全な自国に居ながらも全く説得力なしだからだ。そんなに無力に等しい憲法9条が死ぬほど好きならば自分たちが現地に行き、相手を批判するならば称賛する。

しかし戦争を起こさないためには軍事力を知り、それに備えなければならない。

ウェゲティウスの「汝が平和を望むならば戦争に備えよ」と言う言葉も知らなければならない。

ましてや軍事力を知らないと国際社会ではせせら笑われるだけである。

なお報道陣においては、多くの者たちが粛清されたのは言うまでもない。

 

現状に戻る。

また南北の経済格差も激しく、とくに中国のバブル崩壊後と同じようになっていた。

両者が行なった政策……元より中国が行なっていた大プロジェクト、全国に大規模な電力と天然ガスを賄えるように工事を行なっていたが、工事完成後もやはり長続きしない設計をしているため、うまく機能していない。

これは以前の特亜の最悪な時期と変わらない、より深刻な状況と陥ってしまった。

チベット・新疆ウイグルの反乱は、陸軍が膨大な兵力を惜しみなく使い、そのおかげでどうにか鎮圧できたが、これらがもたらした騒然とたる雰囲気は今も燻っている。

 

いつどこで、暴動が炸裂するか分からない。

 

自称『世界平和のための戦争』を始めた対日戦争が、中岡政権の命取りともなりつつある。

しかし見せしめのために毛沢東のように自国民を殺すために、軍を動員させて黙らせた。

深海棲艦もそうだが、陸軍や空軍も微妙な立場になった。

何処の国の軍隊にも覇権争いがあり、それぞれ仲が悪く、なにしろ大東亜戦争中の日本軍だけでなく、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ソ連などにもあったのだから。

 

 

 

3月12日

空母《天安》戦闘群と、人造棲艦《ギガントス》などは東経150度ラインに達し、南鳥島を北上しつつあった。

そこから一気に仙台市を目指し、J-31、Su-33艦上戦闘機に、空母タイプの《ギガントス》の艦上戦闘機の作戦行動半径に到着し次第、発進させる。

天安が搭載しているJ-31は16機、またSu-33《シーフランカー》は15機。

前者はF-22の発展型として計画されたFB-22と同様に胴体が延長され、カナードが付加されており、なお当時の最大速度はマッハ1.8だったが、深海棲艦の技術により、最大速度はマッハ2.0にまで上昇した。

固定兵装はGSh-30-1 30mm機関砲、6つの外部ハードポイントと4つのウェポンベイ内部ハードポイントを持ち、それぞれ外部に6000キロ、ウェポンベイ内部に2000キロの兵装を搭載可能。

 

後者は独特のカナード翼、双尾翼のスタイルを持ち、最大速力はマッハ2.1。

少しだけだが、J-31よりも上回る。

固定兵装は同じくGSh-30-1 30mm機関砲、最大12箇所のハードポイントに最大8000キロ(空母運用時は6500キロ)の各種ミサイルや航空爆弾の装着が可能である。

 

ギガントスの艦載機は深海艦載機やたこ焼き型艦載機、そして一部の深海棲艦たちが装備している大型・中型爆撃機とは違い、独自の艦載機を装備している。

全身黒く染められた古代の空飛ぶ爬虫類……巨大な翼竜、それが禍々しい姿をしていた。

連邦はこれらを《ヨクリュウ》と呼んでいる。

こちらも深海艦載機同様に、固定兵装は20mmチェーンガン、両翼には5-inchロケット弾ポッドに、500キロ爆弾を4個が搭載可能である。こちらは全ての深海艦載機を上回るほどの高性能機である。搭載機は80機。足りない数は空母棲姫たちなどで補う。

今回は実験と言う名のとある作戦のため、10機を発進させる。

 

連邦艦載機はF-15やF-3に匹敵し、《ヨクリュウ》も同じく《天雷改》と互角に戦えると思っている。ただし全機が各国の第一戦線で活躍するパイロットおよび、ギガントスの艦載機もベテラン深海艦載機であれば、F-15やF-3、天雷改の一大脅威となったはずだが、あいにく両者とも練度は低い。

 

 

 

空自や多国籍軍は、相変わらず硫黄島を中核として索敵活動を行なっていたが、12日になっても敵情を掴むにいられなかった。

むろん、アメリカからの偵察衛星で連邦・深海艦隊の動きを掴んでいるのに沈黙を保ったままである。

ついに統幕本部では、それまでの推定に疑義を抱き始めた。

12日の夜になって、統幕本部で開かれた作戦会議で、佐伯空幕長は次のように発言した。

 

「我々の今までの推測が根本から間違っているかもしれません。敵の目標は、東京あるいは大阪ではなかったのかもしれません」

 

「……というと?」

 

杉浦統幕長は尋ねた。

 

「もしも東京か大阪であれば、我が軍の防備が万全であることは目に見えています。

これとまともに敵は大損害を免れず、作戦を完遂できない可能性があります。

でありますからこれらを捨てて、目標を地方都市に切り替えたのかもしれません。

彼らは我々が想像したよりも遥かに南を通り、東北または北海道に向かった可能性があります」

 

「うむ。とすると仙台、山形、秋田あたり……または北海道が目標だと言うのかね?」

 

「それも充分に考えられます。ともかく西日本はあり得ないでしょう。防備が充分ですから」

 

「うむ。だとしたら三沢や新千歳基地に戦闘機を移さねばならんな。だが、念のため硫黄島にも50機は置いておかねばならん。

第八護衛艦隊は小笠原諸島の北から東経150度ラインを目指し、警戒機・偵察機も三沢に移動する。これでどうかね?」

 

「妥当なところだと考えます」

 

佐伯空幕長が言うと、全員が頷いた。

しかし後ほど、とある地方に悲劇が起きることに衝撃を覚えるのだった。




もはや大艦隊で挑む双方ですが、艦これ改では最大八艦隊も保持できるんですね。
第八護衛艦隊も偶然なのでしょうか、分かりませんね。
なおギガントスの艦載機はそのままの外見から《ヨクリュウ》と名付けました。
元になったのは《キョウリュウ》という兵器です。

灰田「これは昔作者がプレイしていた『ワールドアドバンスド大戦略 鋼鉄の戦風&作戦ファイル』で登場していたキャンペーンモードのアメリカ編『レイテ島上陸作戦』で現れる日本軍の隠しユニットです。日本編では『アメリカ西海岸上陸作戦』で機械化兵、『インド攻防戦』ではハウニブが登場しています」

それからヒントをもらいました。

灰田「まあ、そうなりますね」

あまり多く語ると切りがないので、そろそろ予告編をお願いします。

灰田「次回はこの不安が的中して、とある事件が起こります。どういう展開になるかは次回に明らかになります。果たしてそこで何が起きたのかを見てみましょう。
ではそろそろお時間ですので……第六十話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!!次回もお楽しみに


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第六十話:攻撃目標は仙台市

お待たせしました。
では予告通り、ついに連邦空母戦闘群・人造棲艦《ギガントス》の両艦載機がとある地方を攻撃するために出撃します。

灰田「なお今回はとある都市、サブタイトルからしてネタバレしていますが、そこを攻撃する際に一部残酷なシーンがあることをお先にご警告いたします」

ではこの言葉に伴い、改めて……

灰田「本編であります。どうぞ」


3月1日

早朝にいたり、連邦・深海合同艦隊は、東経150度、北緯37度地点に辿り着いた。

ここから目標である仙台まではおよそ800キロメートル。J-31、Su-33、ヨクリュウの作戦行動半径に余裕に入る。

 

部隊を率いるヤン中将は、奇襲作戦の成功を確信した。

日本軍は我々が大都市・東京ないし大阪を攻撃すると信じ込み、もっと西方を警戒しているだろう。

かつて大東亜戦争では、米軍はドゥーリトル爆撃隊を飛ばして東京を襲った。

これは完全に連戦連勝に浮かれていた日本の意表を衝いた。

これはハルゼー中将が指揮する第18任務部隊の空母《ホーネット》に搭載していた米陸軍の双発爆撃機B-25《ミッチェル》を発進させると言う奇想天外な発想だったのだが、この奇襲作戦は見事に成功した。

日本軍は米空母機動部隊の接近を警戒はしていたが、艦載機の航続距離から逆算したので、警戒を怠ってしまったためにこのような空襲を喰らってしまう。

いままた、皮肉にも彼らと同様なことをやろうとしていると考えると、ヤンは身震いした。

空母《天安》と、空母型の人造棲艦《ギガントス》の両艦は風に立て、J-31、Su-33の合同部隊は全機、ヨクリュウは10機を発進させた。

ただし前者には不調機が双方とも1機ずつあるので、出撃できるのは29機である。

しかしヨクリュウを含めると、39機と言うため攻撃力はかなりのものである。

このうち15機が空対地ミサイルの代わりに、航空爆弾を搭載、仙台市の中心部を爆撃する予定だ。残りの機体は新幹線、そのほかの鉄道、高速道路を破壊する予定である。

この仙台市が、日本・東北地方の交通と経済の要であることは、すでに調べ上げていた。

仙台市は言うまでもなく、宮城県の県庁所在地であり、人口は約100万人、いわゆる100万都市である。町村合併により、さらに膨れ上がっている。

市内を南北に東北新幹線、東北本線、東北自動車道、国道四号。

東西にはJR仙山線・仙台線、国道四五号、四八号、仙台南部道路などが通じる。

杜の都と呼ばれるだけであって緑が深く、学園都市である。

かの有名な東北大学を始めとする名門大学や短大が18も存在する。

ともかく東北大学の要地であり、その点、ヤン中将の狙いは正しかったことになる。

 

天安やギガントスがいまや艦載機を発進させようとしている同時刻。

空母《飛鳥》率いる第八護衛艦隊、秀真・古鷹率いる連合艦隊、郡司・木曾率いる連合艦隊は31ノットで東に急行しつつあったが、東経150度ラインに達するには、まだ10時間は掛かる見込みである。

硫黄島からの早期警戒機・対潜哨戒機・偵察機もむろん、ここまでは届かない。

しかし空自は三沢の第一警戒群を仙台に南下させつつある。これは車載の三次元レーダーで、バッジ・システムの一環であり、車載レーダーの走査半径はおよそ400キロメートル。

三沢基地へのF-15の移転はまだ終わっておらず、10機が移動したばかりで、F-3《心神》は10機だけが基地を守っていた。

 

これは全てを移すと、西日本の防備が手薄になるので、状況を見極めたのである。

連邦爆撃機や戦闘機などが懲りずにまた沖縄にやって来る可能性もある。

そこらあたりは早期警戒機を飛ばして、見極めなければならなかった。

しかし、いまのところそんな兆候はなさそうだった。

東北自動車道を移動中の第一警戒隊が、所定位置のはなまきに辿り着くのは、今日の午後遅くになりそうだった。なにしろトラックに重いレーダーを載せているのだから仕方がない。その代わりに、三沢基地に移動したE-2D早期警戒機1機が、東経150度、北緯38度ラインに向かって南下しつつあった。

このドーム型レーダーの探知距離は250海里(約450キロメートル)。

しかし、これも結果的に間に合わなかったのである。

 

0800時。

空母《天安》からはJ-31は15機、Su-33は14機が舞い上がった。

スキージャンプ台から使うから滑走距離は短くて済む。しかし着艦の方が困難で、数十のアレストワイヤーで強引に止めるために艦載機を傷つけてしまうケースもある。

同じく空母型《ギガントス》でも、10機のヨクリュウが舞い上がった。

連邦戦闘機部隊は3機ずつ、ヨクリュウは2機ずつ編隊(小隊)を組んでいる。

先頭にいるのは指揮官機で、乗っているのはヤンの信頼の厚いチン大校だった。

数々の戦技大会で優勝したことのある人物だ。しかし彼も実戦は初めてである。

 

それぞれの小隊には任務が割り当てられた。

鉄道を襲うもの、道路を襲うもの、官庁街を空爆するもの。

チン自身は東北新幹線を叩くことになっていた。チンの望みは道路だけでなく、走行中の新幹線車輌を対地ミサイルで破壊することで、それが実現できたらさぞかし功績である。

しかし、あいにくそれは実現できなかった……連邦・深海合同艦隊が東北地方を狙っている可能性を察知した日本政府は、東北新幹線の運行を東京から宇都宮までで止めていたからである。

東北自動車も同じく、栃木県以降は通行止めになっている。

南下する車輌は国道6号ないし7号を迂回するように行政命令が出ていた。

しかし仙台市・札幌市民たちに対する避難命令は出さなかった。

これは東京・大阪に対しても同じことだが、全市民を避難させるのはとうてい無理だからである。かえって、パニックによる二次災害の方が恐ろしいからだ。

 

J-31、Su-33、ヨクリュウは900キロメートルの距離をマッハ2の速力で飛び、20分後には早くも日本沿岸が見えてきた。

海岸線上空を飛翔し、高度400メートルで仙台市上空に接近、ここで高度を落としながら各任務隊に分かれた。

チンは高度を急速に落としながら、眼下に広がる都市背景を眺めていた。

なるほど、事前のブリーフ通り、緑が多くて綺麗な街だ。

街のやや南方を一筋の川が曲がりくねりながら流れているが、有名な広瀬川だった。

密集した市街地の向こうには高層ビルが多く見えたが、上海辺りに比べればまったく大したことはなくものの……その向こうに鉄路が光って見える。

 

チンは統合操縦システムからあらかじめ入れていたデーター・マップを呼び出して照合した。あれが新幹線に間違いない。チンは南北を見渡したが、あいにく走行中の車輌はなかった。

その代わりに巨大な駅舎らしき建築物が見えたので、それを狙ってKh-27対地ミサイルを発射した。

命中に伴い、煌めくオレンジ色の炎が噴き上がり、そこにあった可燃物に引火して、巨大な炎と化した。

チンはただちに空母《天安》に向かって打電した。

 

“われ奇襲に成功せり、付近上空に敵機の姿は見えず”

 

仙台市内には、突然と降りかかった災厄に襲い掛かった。

いつもと変わらないのどかな春の朝を迎えようとしたが、突然ジェット戦闘機が襲来してきたのである。これらの機体の胴体には赤い星を付けており、また見たこともない黒い翼竜のような形をしていた。

仙台市民は目を疑った。これは連邦軍の戦闘機、深海棲艦の艦載機ではないか!と……

これらは高速道路に両翼下に搭載していた爆弾をばら撒き、広範囲に渡って寸断させた。

高層ビルに密集した官庁街、繁華街も空爆された。

広瀬川に掛かる橋梁はKh-27対地ミサイルないし5-inchロケット弾で攻撃されて破壊された。破壊の喜びに連邦兵士パイロットやヨクリュウは、いまや見境なく市街地に対地ミサイル、航空爆弾、ロケット弾を叩き込んだ。

市内各地でたちまち火災が発生、消防車や警察車輌が出動したが、連邦・深海合同戦闘機群は低空飛行に移ると、それらを銃撃した。逃げ惑う市民に対しても容赦なく銃撃した。

老若男女問わず小学校に通おうとした子供たちにまでも機関砲弾を浴びせた。

大東亜戦争でも米海軍のF6F《ヘルキャット》艦上戦闘機や米陸軍のP-51《ムスタング》長距離戦闘機の機銃掃射の再現である。もっともそれを記憶している世代は、もはや稀になったが。

この奇襲攻撃は30分間にも渡り、連邦・深海合同戦闘機群は好き勝手暴れまくった。

全機が搭載していた兵装を使い切ると、急上昇して風の如く引き上げ、敵機は海の彼方に消えて行った。

これにより仙台市は少なくとも交通の要としての機能を失うだけでなく、官庁の多くが破壊され、発電所なども爆撃の被害に遭い、そのため停電となった。

市民の被害も大きかった。しかし公園が多かったため、公園に逃げ込んだ市民たちは助かった。杜の都は、確かにその役目を果たしてくれたのである。

 

急を聞いて、三沢基地にいたF-15とF-3《心神》がスクランブル発進したが、仙台上空に到着した時には敵機の姿は見えなく、燃え盛る仙台市の市街地だけだった。

連邦・深海合同戦闘機群はF-15、F-3のレーダー探知範囲から消えていた。

自分たちは何もできなかったことに両機のパイロットたちは悔し涙を流した。

自分たちがもっと早く駆けつけていれば、海上で敵機を撃墜してこの悲惨な出来事を抑えることができたと自責の念にかられた。

彼らだけでなく、元帥や首相官邸・地下コマンド・ルームにいた安藤首相以下の各大臣、統幕本部作戦会議に出席していた杉浦統幕長たち、そして日本を支援しているTJS民間軍事会社、舞鶴たちもショックを隠せなかった。

元帥の管轄で捕虜となり、心を入れ替えた空母水鬼たちは自分たちを責めていた。

あんな奴らに自分たちの技術を供与したのは間違いだっただけでなく、連邦と同盟を結んだことに酷く後悔した。

なお作戦行動中だった第八護衛艦隊や、秀真・古鷹率いる連合艦隊、郡司・木曾率いる連合艦隊などにもこの報告がきた。むろん、秀真・古鷹たちは言葉にできないほどのショックを覚えたのは言うまでもない。

古鷹は『どうしてこんな酷いことを』と涙を流し、天龍・木曾は『卑怯者』と怒りを露わにした。

秀真・郡司はみんなに落ち着くように言い、その甲斐もあって落ち着きを取り戻すことができた。

 

 

 

こうして連邦軍は、ケリー国務長官の言った通り、確かに日本本土を攻撃することにより、自国の面子を稼ぐためのポイントを挙げたのである。

この事件は『第二次日本本土空襲』として取り上げられ、あの『佐世保同時多発テロ事件』同様に、またしても人々の記録に深い傷を残したのである。




腹立たしいですが、連邦の奇襲攻撃により仙台市は大打撃を被りました。
今回は連邦の奇襲が成功したという事であります。
漫画版ではこの場面は逃げ惑う人々に対しても容赦していませんし、一部はミンチ状になっているシーンもありますので、グロイです。

灰田「彼らの犠牲は無駄にはなりませんし、必ず仇は取ります」

秀真「俺たちに任せろ。必ずツケを払わしてやる」

郡司「僕の艦隊で粛清してやる、慈悲はない」

そうだな、次回予告を頼む。

灰田「承りました。では次回は連邦視点と日本政府視点で送ります。なお連邦視点ではとある人物がある決心をしますので注目すると良いでしょう。ではそろそろお時間ですので……。第六十一話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・郡司「「ダスビダーニャ」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十一話:双方の想い、そして決断

イズヴィニーチェ、皆様に長く待たせてごめんなさい。
では予告通り、双方の視点……まずは連邦視点から始まり、次は日本政府視点に移りますのでお楽しみを。

灰田「なお連邦視点ではとある人物がある決心をしますので注目すると良いでしょう。ではではこの言葉に伴い、改めて……」

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」



ヤン司令官から暗号無電でこの報告を受け取った中南海では、久しぶりに明るい雰囲気に包まれた。とくに忠秀副軍事委員会は発狂するように喜んだ。

ついに、連邦軍が日本に一撃を加えたのだ。しかも空母《天安》の各艦載機だけでなく、空母型《ギガントス》の新型艦載機《ヨクリュウ》の能力も充分に発揮できた故に……何よりも味方機の損失もなしに復讐を果たしたのだからだ。

本当ならば戦艦型の《ギガントス》による艦砲射撃の報告も聞きたかったが、次の機会で聞かせればいいと思った。

そう考えると、寧波(ニンポー)から北京に戻って来たロウ海軍司令員は鼻が高かった。

むろん中岡大統領たちの耳にも入り、日本が攻撃されたことに大喜びをした。

なお国民にも歓喜たるニュースとして報道すると、神罰が下ったと喜んでいた。

また各メディアや元著名人たちも輝かしい日として取り上げ、記念日にしようじゃないかネットやSNSなどで掲げていた。

 

「やりましたな。ヤン中将は」

 

ロウは言った。

 

「彼ならきっとやってくれると思いました」

 

「しかし日本の一地方都市を多少破壊したに過ぎません」

 

海軍に手柄を取られて面白くもないと言わんばかりに、キョウ空軍司令員が言った。

 

「これでは、日本の戦力も士気を削ぐことにならないでしょう」

 

「いや、戦力はともかく、士気については違うぞ」

 

忠秀は言った。

 

「日本は太平洋戦争で無条件降伏してから、侵略を受けたことがない。70年以上の平和を享受してきた。朝鮮半島で戦い、またベトナム、インド、チベットで戦ってきた中国様とはちがい、国が侵略されることの心構えが出来ておらんはずだ。空襲を受けてさぞかしショックだったはずだ。しかしこれは始まりに過ぎない。

ヤンの艦隊は太平洋を自由自在に移動して敵を翻弄し、別な都市を攻撃するだろう。そのとき日本人の世論がどう変わるかが見ものだ」

 

この報告を喜ぶ幹部たちに混じり、戦艦水鬼たちは依然として喜ぶことはなかった。

寧ろ自分たちは恥じるべきことだ。

日本が持つ恐るべきステルス重爆は軍港や各基地など軍事施設だけを空爆したのに対して、

連邦国は戦争には関係のない民間人を虐殺した。

軍港や敵基地ならまだしも市街地を空爆して許されるのかと問いかけた。

これでは山本元帥や英霊たちにどのように詫びればいいのかと、そう考えるばかりであり、もはや最後まで戦わない方が良いとも思えた。

あの灰色服の男ことミスターグレイが言った通り、非人道兵器《ギガントス》が平然と使われたことにより、再生産を決意するだろう。彼とともに現れた山本元帥の亡霊が言ったように歯車が狂い始めたに違いない。それに伴い、中岡たちは日本を完全に怒らせたのではないかと推測した。

 

「シカシ彼ラハ報復スルダロウ。マダ連邦国ノ大都市ヲ空爆シテイナイ。コレハ明ラカナ政治的メッセージヲ含ム意図的ナモノヨ。コレデ日本政府ノタガガ外レテシマッタラドウスルツモリナノ?」

 

苛立ちを隠しながらも戦艦水鬼はゆっくりと言い、湯浅も繋ぐように答えた。

 

「あのステルス爆撃機が北京や上海、南京を爆撃したら、とてつもない被害が出るぞ。我が連邦国は、かつての70年前以上の中国、ましてや発展途上国並みに陥ってしまうぞ」

 

湯浅の推測に、戦艦水鬼はむしろそうなった方が好都合だと内心に呟いた。

 

「いいえ、お言葉ですが、わたしはそのような事はないかと考えます」

 

あくまでも強気な忠秀は言った。

 

「これまでの経過を見ますと、日本はあくまでも受け身で、ミサイル基地及び軍港などへの攻撃も事前の災厄を摘み取ったに過ぎません。積極的な攻撃には出ておりません。

これは奴らが長年アメリカに守ってもらっていたために骨を抜かれました。

確かに戦っていますが、我々のような冷酷にはなれないのです。

その気質が突然変わることなんてありません、毛頭ないと考えています。

大都市への戦略爆撃はカーチス・ルメイのように極めて冷酷、残酷な行為を平然とするものであり、いまの日本人にはこのような神経は耐えられないでしょう、くくく。

今度もまた日本の象徴ともいえる場所を空爆しても大丈夫でしょう」

 

忠秀は自信たっぷりに答えたが、その言葉には虚実が入り混じっている。

 

確かに今までの日本の行動は、剣道で言うところの後の先、つまり敵が動き出してから攻撃し、撃退した。つまり積極的に打って出たことがない。

ただし元帥や秀真たち率いるホワイト提督ならば、古鷹たちを守るために先制攻撃をするが。

 

これはROE(交戦規則)が定められているのだが、忠秀はそのようなことは知らないが、おぼろげながら感じ取っていた。

もっとも日本軍も日中事変では九六式陸上攻撃機を運用して、世界初の戦略爆撃を重慶で行なったことがある。

重慶はこのため大打撃を受けたが、陥落はしなかった。

戦略爆撃では敵国を甚だしく疲弊することはできるが、それだけでは勝てない。

最終的には陸軍を投入し、首都ないし国全体を陥落しなければならない。

米軍は日本本土侵攻作戦《オリンピック作戦》《コロネット作戦》などを計画していたのは、そのためである。むろん原爆の開発が失敗していれば、行われた幻の作戦である。

しかし史実では完成し、数百万人の米軍兵士代わりの役目を果たした。

 

ドイツではドイツ国民と第3帝国と共に滅びるまで、ヒトラーは徹底抗戦を宣言した。

その結果、ソ連軍が怒涛の如く侵攻し、民間人も総動員するほどの地獄の市街戦を繰り広げ、ベルリンは地獄の業火に包まれた。守りに徹していたドイツ軍は持久戦略に移り、残党部隊や国民擲弾兵をも総動員した。

持久戦の目的は敵をできるだけ長期的に留めさせるだけでなく、輜重が枯渇するまでの辛抱だということで戦ったのだ。言い換えればソ連軍が兵站枯渇して撤退するのを待ちつつ、米英連合軍が市内に突入、彼らに降伏するまでの時間を稼げということである。

しかし米英軍は、その間にエルベ河沿いに留まって傍観していたのである。

ソ連がドイツと死闘を繰り返し行い、約2000万人の犠牲者を出した。

その報復を行なわせろとスターリンが主張したが、この身勝手な独裁者の主張を聞き入れたために、ベルリンにいた女性たちは死ぬよりも酷い目に遭わされた。

8歳から70歳までの全ての女性はレイプされたと言われ、このため連合軍はのちに堕胎させるための病院を特設しなければならなかったほどである。

強姦の結果、妊娠した女性が膨大な数に上がったのである。

 

もしこの時、米英連合軍がベルリンに突入していたら、このような悲劇は防げたのだ。

そんな彼らは傍観していたのである。

パットン将軍ですらもソ連軍の受け入れに大反対し、次の敵になると主張した。

これがのちに正しいとなったのは戦後である。

 

 

日本人は確かに軟弱になり、サムライの気概を失った。

同じ日本人でありながらも忠秀のその指摘は確かである……

 

しかし完全に喪失したのではない。

 

そのDNAは脈々と目覚めた、いや、もはや完全に目覚めていた。

深海棲艦の登場、連邦国による敵視、そして仙台の破壊がきっかけだったことにより……日本人を完全に目覚めさせたことに気が付いているのは、戦艦水鬼たちだけである。

高らかに宣言した忠秀や彼を支持する幹部、中岡たちは気づいていなかった。

 

コイツラニ、付キ合ウ必要ハナイ、コノ作戦終了後ニハ同胞タチトトモニ脱出ダ……

 

彼女もまた新たな決心をしたのである。

 

 

 

霞ヶ関・首相官邸地下コマンド・ルーム

国防会議が開かれ、連邦・深海棲艦の動きをどう読むかについて統幕長と防衛省長官との間で激論が交わされていた。

まず安藤首相からは、仙台攻撃をなぜ許したのかについて、杉浦統幕長はこう答えた。

 

「残念ながら、両敵は我々の思い込みの逆を衝いたことは確かです。我々は東京・大阪がターゲットばかりと思い込み、こちらの重要防衛を展開していました。

しかし考えてみますと、敵にとってはその防衛ネットワークを躱すことがまず大切で……今回のようにターゲットはどこでも良かったわけです。

空母戦闘群・人造棲艦は快速ですから、いったん先行されると容易に追いかけられません。

東北は三沢基地があるとはいえ、我が国のなかではもっとも防衛優先順位の低い地域でしたから、そこを衝いたわけです」

 

統幕長の言っていることは、別に東北地域を蔑視したわけではなく、軍事的視点からものを言ったまでである。

つまり、従来の自衛隊の最大防衛方面は北海道だった。

冷戦当時のソ連を仮想敵国として見たからである。

しかし1991年にソ連は崩壊し、ロシア極東軍が然したる脅威でなくなると、次の重点地域は南……沖縄県に移った。今度は中国・韓国・北朝鮮と言った日本にとっては最悪な隣国であり、自称『先進国』の皮を被った後進国であり、ならず者国家が仮想敵国となったからである。

 

「ふむ、キミの言いたいことはわかった」

 

安藤はそっけなく言った。

 

「ともかく敵はまだ発見されていない。連邦空母戦闘群、人造棲艦は野放しになっているわけだ。彼らは次にどこを狙うと考えるかね?」

 

「わたしは、彼らがさらに北に上がると考えます」

 

矢島防衛省長官は言った。

 

「札幌市、あるいは我が切り札とも言える十勝のZ機基地を狙うでしょう。これが成功すれば、空母戦闘群の指揮官にとっては殊勲章です。

なにしろ、Z機は彼らにとっては最大の目の上のたんこぶですから……」

 

矢島は古風な言い回しで答えた。

 

「いや、本職は…敵の指揮官の立場に立って、よく考えてみました」

 

杉浦統幕長は静かに答えた。

 

「確かに北上し、北海道を狙うこともひとつの選択肢でしょうが、十勝基地上空には例のシールドで守られ、核ミサイルを無効化したほどですから、敵艦載機による空爆、敵艦の砲撃などのあらゆる攻撃でもびくともしないでしょう。ですが、敵指揮官としては北に向かうと見せかけて空母戦闘群は反転南下して、我々の目を再び欺いて硫黄島を攻撃、その後東京を狙います。

人造棲艦は空母戦闘群から離れ、深海棲艦とともに北上して、北海道攻撃をするかと思います……」

 

「北だ!全敵艦は北に決まっておる!」

 

「いや空母戦闘群は南、人造棲艦は北です!あなたは実戦を知らなさすぎる!」

 

矢島の反駁に、杉浦も負けじと言い返す。

この口論で二人は互いの頬を引っ張り合うほどの展開になった。

 

「「いい加減にしたまえ!!」」

 

安藤・元帥の言葉でようやく治まり、注意を促された矢島・杉浦は深く反省した。

 

「戦闘機主力群は、もう北に移したのかね?」

 

「はあ、三沢基地と新千歳に移動しました」

 

安藤の問いに、佐伯空幕長が答えた。

 

「空母《飛鳥》率いる第八護衛艦隊に、秀真・郡司提督率いる連合艦隊は、いまは何処いるのだ?」

 

「現在地はここであります」

 

コマンド・ルームにはコンピューター・データーに映し出す巨大なスクリーンがある。

黒川海幕長が席を立つと、レーザー棒を持ってそこに近づき、太平洋上の一点を指し示す。

 

「房総半島の真西300海里を30ノットで北上しております」

 

「ふむ、つまり我が軍の主力は北に指向されているわけだな。統幕長の意見が正しく、敵が再び我々の裏をかくつもりでいれば、東京・北海道が危ない。

第八護衛艦隊は房総沖で留めるように。万一敵が北海道を攻撃した場合は、秀真・郡司提督率いる連合艦隊、空自・多国籍両軍の航空隊および高射砲群で対応するように。

我が空母戦闘群は、保険として東京近くに留めておく」

 

「……分かりました」

 

最高司令官である首相の命令には逆らえない。矢島はそう答えるしかなかった。

 

 

 

このとき、空母《天安》はじめ連邦空母戦闘群はどこにいたか。

杉浦統幕長の推測どおり、敵は大胆不敵な行動をしていた。

仙台攻撃を終えた全攻撃隊を収容した両艦隊は、直ちに反転して南東に向かった。

これは急行して来るだろう日本艦隊を撒くためである。

 

おそらく敵は、我々が北上するだろうと考えるだろうと、ヤン中将はそう読んでいた。

 

もちろんそうしても構わない。

 

ヤンの選択肢はふたつ。ひとつは北上して北海道を叩く。

できればあの恐ろしいステルス重爆、Z基地を叩きたいが、核ミサイルで駄目だったものが、両艦載機による空爆が効くとは思えない。

もうひとつは北に向かうと見せかけて、じつは南東から迂回して小笠原諸島の北をかすめ、伊豆諸島の南端まで北上し、そこから東京攻撃に行なう。

おそらく敵の防衛主力、特に戦闘機群はきたにしこうされているだろうと、ヤンは読んでいた。

 

敵は、まさか我々が伊豆諸島にまで近づくとは思うまい。

発見もされにくい、索敵とすればもっと遠力を索敵しているはずだ。

そうすれば、硫黄島を潰す必要もない。むしろ、そうすれば所在がばれてしてしまう。

ヤンの目論みはあくまで敵の鼻面を引き起こすことであり、そのために常に敵に一歩先に行く必要があった。

 

ヤンはものの10分ほども考えた末に、独断を下した。

 

空母戦闘群は東京攻撃を行ない、人造棲艦は深海棲艦と共に北海道を攻撃すること決心をしたのである。これを行なったあとは逃げきれないかもしれない。それでもよかった。

敵の首都およびステルス重爆基地を攻撃したと言う栄誉は、永遠に歴史に残る。

連邦海軍の面子も大いに立つと言うというものだ。




もはや慢心状態の連邦幹部たちを見て、戦艦水鬼さんたちは決意したようですが、これは後ほどどういう展開になるかは、まだ先でありますのでしばしお待ちを。
なお原作では空母《天安》率いる空母戦闘群は、ヤン中将が下した命令通り『東京攻撃』のみを実行しますが、しかし人造棲艦《ギガントス》がいるため、空母棲姫たちとともに北海道にあるZ基地を破壊するために北上し、北海道を目指します。
ここでオリジナル展開となりましたが。

灰田「この前の冬イベントでは派手にしていましたよ。Z機基地も危うかったんですよ。
わたしとしては支援爆撃さえあれば、支援攻撃しても良かったのですが……」

Z機による支援爆撃要請を実装したら、流石に拙いでしょう。富嶽や連山でも同じく。

秀真「もしも爆撃機による支援要請が実装したらしたで、飛行場姫や集積地棲姫たちなどの陸上タイプには大ダメージ与えるだろうな」

250キロ、500キロ爆弾の嵐でしょうね、これはこれで……長くなりかねないから次回予告をお願いしますね。

灰田「承りました。では次回は連邦空母戦闘群を追いかける第八護衛艦隊視点からになります。またマザーも少しですが活躍しますのでお楽しみを」

マザー『私の手に掛かれば、どんな戦況でも大丈夫ですよ』

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第六十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ」

マザー『ダスビダーニャ』

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十二話:連邦空母戦闘群を追え!

お待たせしました。
では予告通り、連邦空母戦闘群を追いかける第八護衛艦隊視点と少し足して連邦艦隊視点も少しあります。

灰田「またマザーも少しではありますが、ご活躍しますのでお楽しみを。ではではこの言葉に伴い、改めて……」

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


夜の闇に紛れ込み、連邦空母戦闘群は南東に向かい続け、北緯30度地点に達すると変針して西に向かった。青ヶ島と鳥島の中間海域である。

このとき日本空母戦闘群は、安藤首相の命令通り房総半島北東西300海里沖合を行ったり、戻ったりしている。連邦空母戦闘群はそのレーダー探知範囲の遥か外にいる。

その一方では秀真・郡司連合艦隊は北海道に北上している。

なお元帥からの命令を受けて、彼らと古鷹たちを支援するために空自・多国籍空軍群が、エアカバーをするという方針である。

 

このとき、統幕本部は八丈島飛行場にE-2D早期警戒機を配備しておくべきだったのである。

硫黄島からでは、青ヶ島周辺までは索敵範囲がぎりぎりだったからである。

一夜が明けたとき、連邦空母戦闘群はちょうど伊豆・小笠原海溝の真上にあり、ここで再び変針、針路を北北西に取った。

なお人造棲艦・深海合同艦隊は途中まで同行し、のちに北北東に針路を取り、あの恐怖のステルス重爆撃機が駐機している北海道を目指す。なお監視艦艇として旅洋Ⅲ型1隻を同行させる。

ヤン中将は秘かに中岡たちをはじめとする連邦海軍上層部から極秘の命令を受けた。それと同時に旅洋Ⅲ型の艦長に“とある作戦コード”を《ギガントス》に入力するように命じた。

 

このようにもたついている結果からすると、これが命取りとなった。

ヤンは伊豆諸島の東に、人造棲艦・深海合同艦隊は西に沿って北上していた。

ヤン中将率いる連邦空母戦闘群は、J-31、Su-33の両艦載機による作戦行動半径1200キロメートルに到着したら発進させるつもりである。

目標は首都・東京。ここには標的となる獲物がいっぱいあり、パイロットたちが迷ってしまうほどだ。

 

ヤンは超高層ビルを狙えと、パイロットたちに命じていた。

超高層ビルが倒壊するときの二次災害は大きい。

アメリカの9・11同時多発テロ事件では、巨大な質量と完成を持つジェット旅客機2機が突入した。しましそれでもふたつの貿易センタービルはしばらく持ち堪えた。

倒壊したのはその建築構造である。中核部に太い支柱が立っておらず、外周から薄い鉄筋コンクリートで持ち送り式に支える構造だったため、上層階から次々に玉突き式に崩壊したのである。

 

しかし悪い冗談だが、東京・浜松町にも貿易センタービルがある。

ヤンがこれを知っていたら、ここの攻撃を狙っていたかもしれない。

だがこれよりも最悪なことに、J-31およびSu-33には皇居と丸の内を狙えと命じていた。

ここは日本の精神的または経済的核心だ。ここを破壊すれば、日本人の精神は確実に崩壊することができるだろうと推測した。

 

以前から政府は皇室に対し、那須の御用邸に避難されるように進言していたのだが、頑として拒否された。国民が避難しない以上、我々も避難しないと言う理屈である。

太平洋戦争の末期には、米軍がさかんに東京空襲を行なっていた頃、皇居は爆撃目標から外された。

マッカーサーはすでに占領後のことを考えており、国民に巨大な求心力を持つ皇室を政治利用しようと考えていたからである。しかしそんな計画は頓挫したが。

 

ヨーロッパ戦線でもヒトラーは、バッキンガム宮殿は“絶対に空爆するな”と命じた。

もしも王族を殺されたらイギリス人が怒り狂うことは目に見えていたことから、その反発を恐れていたのである。

しかし間違って大戦初期は航空機による航焼夷弾や空爆弾が何発かは落ちたことはあるが、これらは幸いにもキング・ジョージ6世以下王族には被害はなかった。

戦争末期になると現代の巡航ミサイル始祖であるV1飛行爆弾《フィーゼラーFi103》と、世界初の軍事用液体燃料ミサイルであり、弾道ミサイルの始祖であるV2ロケットで攻撃するようになるが、こちらの方が危険だった。

前者は辛うじて迎撃機を使えば撃ち落せるが、後者は超音速であり、当時の戦闘機ではとても迎撃不可能なものだった。なにしろ何処へ落ちるかは分からないものだからだ。

バッキンガム宮殿に落下する恐れもあったものの、不幸中の幸いと言うべきか、偶然の産物とも言っても良かったのかそうならなかったのである。

 

 

 

連邦空母戦闘群は期せずして、自ら日本空母戦闘群のレーダー探知範囲内に入っていたのである。

いや、まず敵を発見したのは護衛艦や対潜ヘリでもなく、百里基地から出たP-3C対潜哨戒機だった。このうち1機が南南東に飛び、反転するギリギリの範囲のところで、北上する艦隊を見つけたのである。

スキージャンプ台が艦首にある空母を、数隻の駆逐艦・フリゲートに囲まれ、そして複数の人影らしきものが空母戦闘群から別れて、北上していたのが見えた。

その空母は《飛鳥》に、人影は秀真・郡司の連合艦隊によく似ていたので、誤認しやすいためそのP-3Cは敵ではないかと思い、撃墜覚悟で接近した。

やはり、その護衛艦群と人影は海自および艦娘たちではなかった。

見慣れた護衛艦のシルエット、艦娘たちとも違う。

機長はその上空を旋回しながら、すぐさま打電した。

 

“われ敵空母部隊、人造・深海棲艦の合同艦隊を発見。青ヶ島真東20海里沖合を北上中、針路390、速力30ノット”

 

そこまで通信士が打ったところで、対空ミサイルが襲い掛かって来た。

一発でも速度の遅いP-3Cには避けることなどできず、たとえフレアを撒いて逃げたとしても、それが六発ものミサイルが襲い掛かって来たのだから堪らない。

ミサイルに捕捉されたP-3Cは直撃を受けて、たちまち紅蓮の炎に包まれて空中爆破した。

しかし、彼らの打電は各自衛隊各方面、各鎮守府に届いていた。

 

統幕本部では、黒川海幕長が愁眉をひらいた。

 

「ようやく捕まえたらしいな。やはり敵は東京を狙っていましたか。しかしこれで何とかなりますな」

 

「安心するのは、まだ早い」

 

杉浦統幕長は一喝した。

 

「敵が艦載機を発艦させる前に叩かねばならん。硫黄島に駐機しているF-15は対艦攻撃に向かん。しかし百里基地からのF-3《心神》は届かん。F-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》ならば届くから、これらを直ちに発進させてくれ」

 

佐伯空幕長に命じた。

 

F-2支援戦闘機はF-1支援戦闘機の後継機であり、本来の外観は現物とは違うものだったが、米軍の横槍が入ったため、F-16戦闘機に似ている。

しかし性能はF-1支援戦闘機、F-16戦闘機をも上回り、とくにアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーを始めとする電子統合システムを持っており、これは3種類……対空・対地・対艦の運用に切り替えることができる。

また、ハードポイントも大幅に増えて、13箇所もあり、これは母体となったF-16よりも1箇所多い。ここに多彩な兵器を搭載し、コントロールしやすくするため複座となり、後部座席にはそのための要員が配置される。

 

F/A-18Eは、言わずとも米国製を貸与されたものである。

不足気味のF-2支援戦闘機を補うために、配備されたものである。

第4.5世代ジェット戦闘機に分類され、戦闘攻撃機(マルチロール機)として、F-2支援戦闘機とともに活躍している。F-4EJ改の更新計画「第4次F-X」の候補機種の1つとして取り上げられたが、自国のF-3を取り上げたため見送られるも、多種な航空兵装を搭載できるためにふたたび採用された。

各基地から飛び立った両機は、対艦ミサイルを4発も抱えている。

 

 

 

ヤンはすでにJ-31、Su-33が届く頃合だと考えたが、念のためにいま少し東京に接近することにした。

その方が両機とも長く飛べ、作戦行動が長く取れる。

しかし幕僚たちは反対した。敵哨戒機に発見され、これをミサイル攻撃で沈黙させたが、それが発信した電波はしっかりと捉えている。つまり敵は迎撃態勢に入ったと見るべきだ。

ヤンはもし生還する意思があるつもりであれば、幕僚たちの意見を聞き入れただろう。

しかしここまで日本沿岸に近づいたいま、生還できる見込みは少ない。

そうであれば、できる限り東京に壊滅的打撃を与えるべきだと考えた。

 

指揮官としてのこの判断は一長一短である。発進を遅らせているうちに敵の邀撃を受けかねない。

しかしそれを凌げれば、確かに作戦の効果は上がる。

 

しかし、運命の女神はヤンには微笑まなかった。

運命の女神と言うものは実に気まぐれなものであり、一度だけのときもあれば二度も恵まれることもあるが、よほど雪風のような幸運な女神に恵まれていない限りは無理である。

この貴重な時間が過ぎていくうちに、硫黄島から発進したF-15迎撃戦闘機50機、百里基地から発進したF-2支援戦闘機、F/A-18E戦闘攻撃機が空母《天安》に向かって殺到した。

いずれも対空・対艦ミサイルを両方とも積んでいる。

それと同時に、空母《飛鳥》筆頭の日本空母戦闘群も敵空母の所在を知らされて、南西に急行しつつあった。

その針路は敵艦隊の前方を防ぐ方針だ。

 

0900時。

空母《飛鳥》の第二CICにいた司令官……真崎海将は、マザーが穏やかに語りかける女性の声を聞いた。むろんこれは合成された人工音声である。

しかし生きた人間はもちろん、艦娘たちのように様々に語調を変化させることができる。

 

『敵に対して、艦載機の作戦行動半径に入りました。すでに兵装は対艦攻撃に切り替えています。ただちに発進させますか?』

 

操艦モードはマニュアル・モードに切り替えているが、いざと言うときはマザーが逐一に情報を知らせてくれる。

無人艦載機は格納庫に収納しているが、これは飛行甲板を広く使うためと、各兵装交換はロボットハンドが行なうためだ。そのスピードは人間の整備士がやるよりも早い。

第二CICの戦闘データースクリーンには、敵との距離がデジタル処理で投影されている。

 

「分かった。すぐに発進させてくれ」

 

空母《飛鳥》が搭載する艦載機は4種類である。

主力艦載機はダグラス・ボーイング社製の戦闘攻撃機F/A-18E《スーパーホーネット改》と、ノースロップ・グラマン社の艦上主力戦闘機F-14D《トムキャット改》で、両機ともステルス機だ。

前者は戦闘攻撃機F/A-18《レガシーホーネット》の発展型。対艦用の多彩な武器兵器を搭載することができるが、戦闘データに指示された兵器は対空ミサイルのほかにはレーザー誘導爆弾となっていた。

これもマザーが判断した。もっとも有効だとマザーが考えたのだ。

 

トムキャットの方は、艦隊防空用に特化した戦闘機とも言える。

そのため多目的探索が可能なレーダー/火器管制装置(AN/AWG-9)は、最大探知距離が200キロメートルをも超える画期的な高性能レーダーを取り付け、最大で24目標を同時追尾、そのうち6目標へ長距離空対空ミサイルAIM-54《フェニックス》を備えている。

因みにAIM-54《フェニックス》は、トムキャットのみが使用でき、最大6発も搭載できる。

このため複雑な情報処理をするために、複座でNFO(後席要員)が乗る。

しかし複座ではあるが、可変翼を持つため格闘戦にも強い。

 

《飛鳥》はこの2種類の艦載機を、各20機ずつ積んでいた。

その他には、EA-6電子戦機《プラウラー》4機、E-2C早期警戒機4機、SH-60K《シーホーク》対潜哨戒ヘリも2機搭載している。司令官の了解をとりつけると、《飛鳥》は凄まじいスピードで発進準備を始めた。

自動操艦に切り替わり、自ら回頭して風を立つ。

その艦の動きも全てスクリーンに現れるから、真崎司令官をはじめCIC要員たちは、黙ってそれを見守っていればいいのだ。

エレベーターが動きだし、艦載機が飛行甲板に上がる。

飛行甲板に繋止されていないのは、狭い飛行甲板を有効に使うためだ。

対潜ヘリだけでは飛行甲板に出ているが、邪魔にならない場所に置かれている。

その情報は、艦橋に置かれたテレビカメラから別なスクリーンに映し出される。

まず重量のあるF/A-18E《スーパーホーネット改》から発進した。

恐ろしい速さで次々と発艦して行く姿は、まるでテレビゲームの画面でも見ているようだ。

《スーパーホーネット改》の発進が終わると、F-14D《トムキャット改》が格納庫から上げられ、これまた矢継ぎ早に発艦した。

最後にEA-6電子戦機《プラウラー》が発進した。本機の役割は敵機の通信をジャミングすることである。

人間が介在していれば、これほどとてもスムーズにはいかないだろう。

ハイパー人工知能《マザー》と各艦載機の操縦コンピューターは無線で繋がれ、マザーが機体の動きを全て把握している。しかし戦闘時には機体に搭載した人工脳の判断が優先することになっている。

これら40機は、普通の空母艦載機のように三機編隊を組まない。1機ずつがリーダー並みの判断を行ない、自衛もまた自己判断で行なう。

パイロットたちが編隊を組むのはウィングを組むと言うが、これはお互いに掩護するためである。

しかし《飛鳥》が持つ艦載機は、完全自律型無人機であるから、そんなことは必要ない。

人間よりも遥かに判断力が早く、状況判断して対応できるから、僚機の支援など要らないのである。

このような完璧な無人機を造ることは、人類の昔からの夢で、偵察機に関しては米軍は実用の域を達している。

 

しかし複雑な操縦系を持ち、攻撃力・防御力を行なう戦闘機の無人化の研究はまだ道半ばで、プロトタイプですらも完成していない。

むろん無人機が必要なのは兵士の損害を失くすためだが、そのためには人間よりも優秀なコンピューターを載せなくてはならない。

学習能力を持ち、自己進化するコンピューターで、そのためにはやはり人間の脳細胞に等しいバイオチップが必要不可欠だが、まだ開発されておらず、実用化もしていない。

その一方、自己認知力、つまり自覚能力のあるコンピューターを造ってしまうと……そこに自我が生じて、暴走する恐れもある。それを防ぐためには、フェイル・セイフ回路を造っておかなければならない。

つまり無人機を造ると言うのは、人間のパイロットよりも仕事をできる人工知能を搭載しなくてはならない。……と同時に、暴走するかもしれないという矛盾を抱えている。

 

むろん“もうひとつの世界”の日本からやって来た灰田のいる未来世界では、そんな問題をとっくに解決しているはずだ。

いわゆる有名な『ロボット三原則』が、マザーには組み込まれていると、灰田は宣言した。

これはかの有名なアメリカの科学者であり、SF作家でもあった“アイザック・アシモフ”が唱えたものだ。

 

1、ロボットは人間の命令に服されなければならない。

2、ロボットは人間の危機を救わなければならない。

3、上記の二項に反しない範囲で、ロボットは自分を守らなければならない。……と言うものである。

 

同時に、マザー自身が、空母と言う複雑な戦闘艦船を操る巨大ロボットとも言える。

艦のいたるところに張り巡らされたロボットハンド、全て自動システムは、彼女の手足そのものなのだ。

わざわざ自分たちを乗せるように取り計らったのは、人間のプライドを持たせるためだったのではないかと、真崎は考えた。

 

唯物的に考えれば、この艦には人間など必要ない。

しかしそれでは日本人のプライドが傷つくので、灰田はマニュアル操艦機能も取り入れたのではないかと、真崎はそんな気がした。

自分は恐ろしくリアルなRPG(ロール・プレイング・ゲーム)のなかの登場人物として、ここにいる気がした。




灰田「勇敢なP-3C対潜哨戒機の機長以下、各乗組員のおかげで見つけることが出来ました。では第一ラウンドともいえる空母戦、連邦空母戦闘群VS日本空母戦闘群(第八護衛艦隊)の戦いがいまここに始まりました。果たしてどう言う結果になるでしょうか……」

果たしてどういう展開になるやら。

灰田「連邦艦載機のパイロットも驚くでしょうね、トムキャットを見れば……」

イラン空軍では25機が現役ですね、最近もロシア機の護衛任務に就いたとか聞いたが。
日本も昔はF-14を採用しようとしたけど、F-15になったんだよね。

灰田「まあ、ここでは存分に活躍しますので」

では、次回予告を……

マザー『私が今回だけ次回予告をしますね。次回は空母《天安》率いる連邦空母戦闘群VS空自の迎撃部隊、そして私が放った艦載機群VS連邦艦載機群との戦いが始まります。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか、お楽しみください」

本当に鳳翔さんと間違いそうだな。

鳳翔「同じマザー同士ですものね、うふふ」

マザー『はい、あなたと私は母なる空母ですものね』

灰田「同じ空母同士ですからね、仲良くなれて良かったですね」

鳳翔「はい、私も嬉しいですよ」

マザー『私も嬉しいですよ』

灰田「ではお二人が仲良くなったところで、ちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

マザー『ダスビダーニャ』

鳳翔「ダスビダーニャです、ではお茶にでもしましょうか」

灰田「ではお言葉に甘えて、いただきましょう」

マザー『では、音楽を掛けましょう』つ加賀岬

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。では私も加賀岬を聴きながら、お茶をと……


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第六十三話:空母《天安》の最後

お待たせしました。
では予告通り、空母《天安》率いる連邦空母戦闘群VS空自の迎撃部隊の戦いです。

灰田「そして私が放った艦載機群VS連邦艦載機群との戦いが始まります。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか?」

ではではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


ヤン中将は、結局考えていたよりも20分早くJ-31、Su-33の両機を発艦させた。

幕僚たちの不安に負けたのだが、それが正しい結果となった。

両艦載機を発艦させてから10分後には、レーダーが敵機を捉えたからだ。

敵機は30度の方角から飛んできた。

しかしJ-31、Su-33はほぼ360度の方角に飛んでいるので、両機はクロスすることはないはずだ。

 

「防空戦闘開始!!」

 

ヤンは命令を下した。

数隻の護衛艦は距離を縮めて、ヤン中将が乗艦している《天安》を取り込んだ。

陣形は輪形陣。これで敵機の襲来に備える。

しかし各護衛艦のレーダーに映る敵機は、恐ろしいスピードで殺到してきた。

これは百里基地から飛び立った支援戦闘機群であり、その数は60機。

F-2とF/A-18Eが各30機ずつ入り混じっている。

しかしF-2の方が速力が速いので、F/A-18Eは次第に取り残されるかたちとなった。

これが思いもかけぬ時間差攻撃を生むことになった。

 

旅洋Ⅲ型2隻を始め、連邦護衛艦の対空兵装が上空を睨んだ。

長距離地対空ミサイル《HQ-5》に続き、短SAM、CIWS、130mm単装連射砲などがある。

なにしろ、切り札として温存しておいた中国艦艇……現在は連邦艦隊の能力は侮れない。

空母《天安》自体もCIWSを二基持っている。

F-2支援攻撃機が対艦ミサイルを発射すると同時に、連邦護衛艦群も各対空兵器で応戦した。

F-2が発射した対艦ミサイルは、アクティブ式誘導、連邦側はレーダー管制誘導である。

その精度は然したる違いはない。

各ミサイルの撃ち合いのなかで、《天安》は必死に回避運動に繰り返していた。

目標は自分自身であることは分かっていた。

しかし大東亜戦争ならばいざ知らず、現代の海戦では、対艦ミサイルを回避運動で回避し切れるものではない。あくまでも撃破しなければ意味がない。

連邦護衛艦群の防空兵器は意外に善戦を示しており、日本機が放った対艦ミサイルを半数ほど撃破した。

しかし、残りの対艦ミサイルは《天安》に向かって飛翔してきた。

これを喰らうまいと《天安》に搭載されているCIWSが猛烈な弾幕を張り、ミサイル4発も迎撃できたのは上出来だった。

しかし、連邦海軍の奮闘もここまでだった。

ASM-11の後継ミサイル……17式対艦誘導ミサイル3発が《天安》に命中、暗闇を煌めく巨大なオレンジ色の炎が噴き出した。

1発は艦橋を直撃して、ヤン中将と連邦幹部職員たちは即死した。

2発目が飛行甲板に命中、飛行甲板はミサイルの直撃に耐えきれることができず、命中した箇所にある飛行甲板が捲りあげ、大穴が開いた。

残る1発は艦尾に命中し、梶機室を破壊したので、《天安》は舵が取れなくなった。

今まで之の字運動を繰り返し行っていたが、直進せざるを得なかった。

そこに遅れてやって来たF/A-18E《スーパーホーネット》戦闘攻撃隊が、戦闘に加わる。

先ほど述べた時間差攻撃により、未だに炎上し続ける空母《天安》を無視し、その周囲にいる連邦護衛艦を狙う。

あとの半数は空母《天安》に止めを刺すべく、もはや回避行動が出来なくなった《天安》にミサイルを撃ち込んだ。

 

ここでも思い吹き返すように双方のミサイル攻撃が再現されていく。

連邦護衛艦は再び奮闘、今度は自ら敵に向かって飛翔する複数のミサイルに弾幕を張った。

旅洋Ⅲ型に搭載されている長距離地対空ミサイル《HQ-5》とともに、CIWSによる近接戦闘システムの威力があり、飛翔して来るミサイルをそれぞれ撃ち落した。

しかし迎撃に積極的だった旅洋Ⅲ型1隻に、各1発ずつ17式対艦誘導ミサイルが命中。

改ソブレメンヌイ級にも1発ずつ命中、コワンチョウ級駆逐艦には2発、マーアンシャン級フリゲート、そしてランチョウ級駆逐艦にも2発ずつ命中した。

 

日本の対艦ミサイルは、各艦の艦橋に命中した。

艦橋はずたずたに引き裂かれたため、CICの電子システムは全て無効にした。

これにより旅洋Ⅲ型、マーアンシャンの両艦は半身不随になった。

現代艦船のメカニズムは全て電子システムで動く。

特に旗艦を務めている旅洋Ⅲ型にはイージス能力が喪失したのは痛かった。

2発のうち1発の17式対艦誘導ミサイルが、機関室を直撃、この瞬間に両艦は半身不随になってしまったのだ。

 

 

 

それよりも少し前に、針路220度で敵艦隊に向かって進む《飛鳥》の部隊では、マザーが再び報告した。

 

『敵空母は艦載機を発進させました。その数は30機。飛行針路は360度、東京を目指していると思われます。

トムキャットをこの敵機に迎撃に向け、スーパーホーネットは敵艦隊殲滅に向けたいと考えていますが、いかがでしょうか?』

 

マザーの声はあくまでも穏やかな口調である。真崎はその落ち着きぶりに憤懣を覚えた。

 

「しかし、トムキャットはたった20機だぞ。敵機は2種類……J-31に、Su-33だ。

前者は最新鋭ステルス艦上戦闘機、後者は強力なロシア製の戦闘攻撃機だ。各15機ずつ、両機合わせて30機はいるだろう。20機で立ち向かえるのか?」

 

『その点のご心配には及びません』

 

マザーは落ち着きを払って答えた。

 

『決して連邦戦闘機群は、東京に到達させません』

 

「うーむ、キミがそう言うのなら任せよう。いずれにしろ、スーパーホーネットでは格闘戦は無理だぞ」

 

敵艦隊に向かっていたトムキャット隊は、マザーからの指示を受けると急遽反転し、北西を目指した。

マザーが指示した針路は、敵機の鼻面を押さえる針路である。

 

J-31の最大速力はマッハ2.0で、Su-33の最大速力はマッハ2.1、そしてトムキャットの最大速度はマッハ2.3である。しかし両機ともその気になればマッハ2.5が出せる。

しかしトムキャット隊はショートカットできるから、両機よりも先に東京方面に進出出来る筈だ

たった20機で連邦最新鋭ステルス戦闘機に、ロシアで優秀なスホーイ社が生み出した傑作戦闘機《フランカー》シリーズを叩けると言う、マザーの自信はどこから来ているのか、真崎には分からなかった。

 

もっとも、このとき九州方面から厚木基地に移動したF-3、F-15合同部隊20機がおっとり刀で、この戦闘に参加すべく発進したのである。

その通信を受けて、真崎海将は少し気が楽になった。

両機ならJ-31、Su-33を撃破してくれるはずだ。すでに実績がある。

 

《飛鳥》から発進したトムキャット隊は、編隊を作らず、緩やかなV字形を作り、雁行している。

これが各々の性能を活かすには、もっとも都合のいい隊形である。

東京攻撃隊指揮官は、仙台空襲(第二次日本本土空襲)と同じように同じくチン大校。

しかし彼らは、前方を遮ろうと飛行しているトムキャットなのは知らなかった。

それが分かったのは20分後、大島に近づいてからだ。

 

チンが搭乗する愛機こと最新鋭ステルス戦闘機J-31のレーダーに敵影が映った。

敵機は彼らの前方に向かって、四時の方向から飛んできている。

その意図ははっきりしており、自分たちを阻止するつもりだ。

こいつらは日本空母から発進したものだろうと、チンは見当をついた。

日本空母は恐らく日本本土沿岸の、北東のどこかにいたのだ。

 

あらかじめ受けているブリーフィングによると、突然出現した日本空母は、衛星分析の結果……F-14D《トムキャット》と、F/A-18E《スーパーホーネット》を積んでいたそうだ。

その空母は、連邦空母《天安》よりもひと回り大きく、F-14D《トムキャット》を20機も積んでいると想定される。

言うまでもなくトムキャットは、かつては米帝空母AGC(空母戦闘群)の主力戦闘機で、対空戦闘のスペシャリストだ。

東京攻撃のために兵装を大量に搭載しているSu-33は重量があるため、格闘戦に分が悪いものの、自身やほかの者たちが操縦しているJ-31ならば勝機はある。

それにこちらは30機という圧倒的な数を誇り、旧式戦闘機に我が連邦戦闘機が負けるはずがないと信じていた。

 

『敵機が来るぞ。相手はたかが旧式戦闘機のトムキャットだ。編隊を崩すな。各ウィングはしっかりとリーダー機を守れ!』

 

そのような意味のことを中国語で話している。

高度は5000メートル。左手には噴煙を吐く大島が見え、その向こうに伊豆半島、正面には相模湾の向こうに日本の大地、まだ雪を被った富士山が突出して見え、やや右手には東京湾が鈍く光って見えた。

 

あれが東京メガロポリスだ。

もうひとっ飛びで目標に到着するところだった。

日本に再び悪夢を味あわせることができる故に、我々には愉快な光景がもう一度見られると考えただけでも興奮してきた。

そこに思わぬ邪魔が入った途端、チンは歯噛みした。

何としてでも邪魔者を叩き落として、自分だけでも東京上空に侵入してやる。

その時、チンは右手にきらきらと光る機械の翼を肉眼で確認した。

もはや敵機は、そこまで来ていたのだ。

 

『小日本をぶっ潰せ!我々栄光ある連邦軍に敵わないことを思い知らせてやれ!』

 

チンは中国語で叫び、そして愛機の翼をひるがえして敵機に向かう。

ウィングもこれに従う。

小日本と言うのは、連邦国、かつて中国で流行っていた日本に対する蔑称である。

今は流石に使われておらず、同じ意味を持つ“東洋鬼”と書いて、日中事変当時に日本軍に対して使われた言葉である。

もっとも連邦国は特アに倣い、小学・中学・高校・大学生にまで反日教育に熱心に教鞭を振っている故に、大本営にいた者たちもまた連邦は連戦連勝と嘘を教えている。

だから平然と日本に対する蔑称、反日意識を植え付けているのだ。

 

これに対してトムキャット隊は散開した。繰り返すが彼らは編隊を組んで戦わない。

各機1機ずつがリーダーとしての能力を持ち、全て自己判断で戦う。

J-31及びSu-33の固定兵装は30mm機関砲だが、両機とも多彩な搭載兵装を持っている。

今回のミッションは都市攻撃のための主力機はレーザー誘導爆弾、空地対ミサイルだが、敵機との遭遇に備えて、空対空ミサイルも2発ずつ搭載している。

一方、トムキャットは空対空ミサイル(AAM)2種類合わせて8発も搭載している。

こと空中戦に関しては、優位は明らかである。

 

あとはパイロットの腕が勝負である。

チンは、日本空自パイロットの腕を決して過小評価していなかったが、いま迫ってくるのは旧式戦闘機、しかも退役したF-14《トムキャット》に負けるはずがないと思った。

しかし明らかに自分たちをも凌ぐようだった。

J-31、Su-33は一斉にR-73ミサイルを発射した瞬間、自分たちの目を疑った。

トムキャットはなんとくるりと360度ロールターンして、両機が発射した空対空ミサイルを回避すると、さらに突っ込んできた。

 

推力ノズルを備え、正式採用を見送ったSu-37は宙返りができると聞いたことはあるが、F-22、F-35、PAK FAですらもこんな荒業ができる戦闘機は世界中にいない。

ましてや旧式戦闘機であるトムキャットですらもできないはずだ。

急激なGの増加にパイロットは付いていけず、ブラックアウトをしてしまうか、または推力を失い、失速してしまう。

しかし現時点で、このトムキャットは平然とそれを熟している。

人間が乗っているとは思えない荒業だが、事実、人間は乗っていなかったのである。

人工脳が全てを動かしていたのだが、チンたちにはそれを知る術はなかった。

敵機のAAMをやり過ごしてしまうと、トムキャット群は反転して襲い掛かってきた。

両翼下に搭載していたAAM-9短距離空対空ミサイルを一斉に発射した。

 

なにしろトムキャット1機が8発のミサイルを持っている。

それが20機から一斉に発射されたのだから、おびただしい数のミサイルが噴煙を引いて、J-31、Su-33合同部隊に突入してきた。

 

『避けろ!』

 

チンは絶叫した。

両機は対ミサイル対策として、チャフを放出した。

しかし多勢に無勢であり、ミサイルの数はとても避けきれないものであった。

たちまち逃れることができなかったJ-31及びSu-33がミサイルを浴びて、暗闇に煌めく炎に包まれて、爆発四散した。

パイロットたちは脱出する暇もなく、敵のミサイル攻撃を受けて、機体と運命を共にした。

もっともその方が幸運であり、例えベイルアウトできたとしてもその下は海面であり、助かる見込みは少ない。

 

『やむを得ん、兵器を捨てて応戦しろ!』

 

チンは命じた。生きて母艦に戻れば、再出撃できる。

残った連邦艦載機は搭載兵器を捨てて、身軽となった。かくして空戦は機関砲の撃ち合いに移行したが、いまや敵機の方が優位である。

身軽になったJ-31、Su-33の両機は必死に応戦したが、敵機の敏捷性、その運動性は……チンの知る限りのトムキャットの運動性を遥かに超えている。というよりは、人体の生理を無視していると言っても良い。

横滑り、反転、果ては宙返りとありとあらゆるアクロバット飛行を繰り出して、最新鋭機である両機を翻弄している。

 

連邦パイロットたちは半ば呆気に取られているうちに、敵の機銃掃射を浴びて戦死した。

パイロットは操縦桿を握りながら、燃える棺桶と化した自機とともに墜落していった。

 

『いったいこいつ等は何者だ。本当にパイロットが操縦しているのか!?』

 

チンは唖然とした。

1機のトムキャットがすれ違ったが、そのコックピットにはパイロットの姿は見えなかった。

チンはちらりと見えただけだが、絶句した。

 

間違いない、これは幽霊戦闘機だ。幽霊が操縦しているのか!?

 

それとも日本軍は無人戦闘機を開発したのか。

米軍ですらもUCAVを操縦するには操縦者がいなければ、無理な話しだ。

いったい全体、このトムキャットはどうなっているんだ!?と、チンはショックのあまり先ほどの冷静な判断に伴い、思考力が失っていた。

そこに反転して戻って来た敵機に背後から銃撃されて、エンジンから火が噴き、コックピットを炎が包み込んでいく。

チンは愛機から脱出すべくベイルアウト・レバーを思いっ切り引いたが、しかし残酷にもスタックして動かなかった。

 

『そんな我が最新鋭ステルス機が、トムキャットに負けるなんてぇぇぇーーー!!!』

 

地獄の業火に包まれたチンは絶叫しながら、愛機とともに落ちていった。

大空に連邦戦闘機群の姿はなくなった。遥か下方の海面に彼らが激突する水煙が見えた。

トムキャットはしばらく敵機を求めて旋回していたが、その1機がマザーに“戦闘終了”と報告した。

 

“敵機30機撃墜、我が方に被害なし”

 

 

 

空母《飛鳥》のCICでは、マザーが真崎に報告した。

 

『敵機の東京攻撃を阻止するミッションは終わりました。敵機30機は全滅。味方機は損害ゼロです』

 

全く感情を読めないその声を聞いて、真崎は身震いした。

未来の戦争はこのようになるのか、人間の感情の介在する余地はないのかと呟いた。

 

『まだ敵艦隊が残っています。スーパーホーネットで攻撃を続けます』

 

 

 

連邦空母《天安》率いるは、悲惨な状況になっていた。

すでに3発の対艦ミサイルを浴びて炎上し、停滞している。

舵をやられた《天安》は炎上しつつ、それでも自我を持つように速力30ノットで北東に直進し、艦隊から離れつつあった。

これはむろん彼らの本意ではないが、舵が利かない以上どうにもならない。

機関を止めれば停止できるが、そうしてしまうと敵潜水艦の攻撃を受けてしまう危険性があるので出来ない。

 

ビスマルクの悲劇と似ている。

独逸戦艦《ビスマルク》は初陣にて、僚艦の重巡洋艦《プリンツ・オイゲン》とともに、イギリス巡洋戦艦《フッド》を撃沈、最新鋭戦艦《プリンス・オブ・ウェールズ》を大破させると言う手柄を立てた。

しかし重巡洋艦《プリンツ・オイゲン》は補給のために別行動をしていたときに、アイルランド海峡にいた別行動をしていた英国艦隊に捕捉された。

なんとか占領地のフランス・ブレスト軍港に逃げ込もうとしていたが、英国空母《アークロイヤル》から発艦した旧式複葉雷撃機《ソード・フィッシュ》の雷撃を艦尾に受けて舵が利かなくなり、そしてフランスとは全く逆方向に走り続けた。

そこに集まって来た英国戦艦を中心とした艦隊に袋叩きにあって、沈められた。

舵さえ無事であれば、ブレスト軍港に逃げられただろうし、海戦となっても相当に戦えたはずだ。要するに運命の女神は空母《アークロイヤル》に微笑んだのだ。

 

しかし彼女も《ビスマルク》同様に、不運が襲い掛かる。

ジブラルタルへ帰投中ドイツ潜水艦U-81の雷撃を受けて損傷した。

暫らくは曳航されたが14日の早朝に、ジブラルタルまで残り25マイルの地点で横転沈没した。U-81がビスマルクの仇を取ったのである。

 

護衛艦のうち、旗艦を務めている旅洋Ⅲ型がやられたのは痛かった。

残る4隻はまだ無事で、そのうちマーアンシャン級フリゲート、そしてランチョウ級駆逐艦の2隻が必死に《天安》に追いつこうとしていた。

改ソブレメンヌイ級1隻は、コワンチョウ級駆逐艦と共に、乗組員の救助に当たっていた。

敵機はもう引き上げて行ったからである。

しかし、これで済むものとはとうてい思えない。

ここは日本海だ。敵がうようよ集まってくるはずだ。

史実、300海里近くにいた潜水艦群は、最大速力で北上しつつあった。

佐世保から第二護衛艦群も南回りで急行しつつあったが、これはだいぶ時間が掛かりそうだった。

 

その日本潜水艦群の手前には、連邦原潜ハン級3隻が展開していた。

彼らは水中発射可能な対艦ミサイルを持っている。

敵艦隊が現れたらお見舞いしてやろうと思ったが、手ぐすね引いて待ち構えていた。

しかし、マザーには空母戦闘群同士を海戦で戦わせる意思はなかった。

航空団だけで片を付けられるものを、そんな無駄をする必要はない。

大東亜戦争時でさえ、艦隊決戦というのは滅多になかった。

小規模な艦隊が夜戦を行なうことはあったが、戦艦を含むフルスケールの艦隊が決戦することはなかったのである。

ほとんどが空母同士の戦闘であり、重巡、軽巡洋艦、駆逐艦同士の小競り合いの中心であり、結局『世界最強』とも言われた戦艦《大和》《武蔵》も航空機にやられた。

大東亜戦争ですでに主力は戦艦から、航空機へと変わったのだ。

皮肉にも空母機動部隊を主力にしようと言う画期的アイデアを生み出したのは実は、我が日本海軍であったのだ。しかもあの真珠湾攻撃が仇となってしまったことも然り……

現状に戻る。

 

日がまだ高い頃……

混乱しきった連邦艦隊に今度は、20機の《スーパーホーネット》が襲い掛かって来た。

兵装は対艦ミサイルとレーザー誘導爆弾である。

後者は本来地上の固定目標に用いられるが、速力を失って停滞している艦艇も固定目標に等しい。それに対艦ミサイルよりも遥かに威力がある。

連邦艦艇は全ての対空ミサイルを使い果し、CIWSの残弾数も僅かである。

残弾数に余裕があるのは各艦に搭載されている単装連射砲である。

20機の《スーパーホーネット》のうち10機は迷走している《天安》に、残る10機は連邦護衛艦に襲い掛かった。

CIWSは撃ち続けたが、もはや残弾数はゼロであり、その代わりに咆哮を上げた各連装砲で撃ち続けたが遠吠えにしかならない。ましてやマッハ2を超える対艦ミサイルを撃ち落とすことなど容易いことではない。

たちまち各護衛艦に命中、ミサイルの直撃を受けて機関部も破壊されて炎上した。

迷走していた《天安》を護衛していた駆逐艦も炎に包まれた。

ミサイルを効果的に使い切ってしまうと、レーザー誘導爆弾の出番である。

速力を失った連邦艦隊の上空に、大量のレーザー誘導爆弾がヒューと言う不気味な音を鳴り響かせながら落ちてきた。

まず《天安》に命中して大爆発を起こし爆沈、ほかの護衛艦も同じ運命を辿った。

ここに連邦海軍が誇る空母《天安》率いる連邦空母戦闘群は、別行動をして離れた旅洋Ⅲ型1隻を除き、全滅した。

艦隊次席指揮官は必死に本国との連絡を取ろうとしたが、電波が届かなかった。

ここでも《飛鳥》から発進したEA-6電子戦機《プラウラー》が数海里ほど離れて旋回し、ジャミングしていたからである。

 

残るハン級原潜だが、味方艦隊の全滅する様子を潜望鏡で遠望すると、指揮官は戦意喪失、全速力で南西に離脱を計った。

最大速力で北上していた海自潜水艦群は、これを捉えきれなかった。

皮肉にも原潜の足の速さが生きたのである。

 

ここに日本空母戦闘群……飛鳥率いる第八護衛艦隊の完全なる勝利へと終わったのだった。




空母《飛鳥》が放った無人ステルス艦載機、F-14D《トムキャット》、F/A-18E《スーパーホーネット》による攻撃を受けた連邦空母戦闘群は壊滅し、また連邦艦載機群も予測不能な攻撃を受けて全機撃墜され、飛鳥の勝利へとなりました。ワザマエ!
久々に8000文字以上になりましたが、どうにか収まりました。

マザー『私に掛かれば、この通りです』

灰田「まあ、私の超兵器に掛かればこの通りです」

漫画版でもトムキャット隊は華麗な避け方をしただけでなく、敵機を全機撃墜ですからね。

鳳翔「私もあのような航空機を持つことは出来るのでしょうか?」

鳳翔さんは自衛隊の未来兵器本では海自初の空母《ほうしょう》になっていましたからね、艦載機も《心神》及びデルタ翼に改造されたストライク心神になっていましたし……もし日本が空母を持つならば、このようになるでしょうね。
最新鋭護衛艦も古鷹たちの名前が受け継がれたら嬉しいのであります。

秀真「いつ静のように帰ってくると、俺は信じている」

古鷹「そうなった時は、最新鋭護衛艦の良いところ、いっぱい知ってもらえると嬉しいです!」

郡司「僕の木曾ももちろん護衛艦に生まれ変われるかな?」

木曾「お前が信じ続けていれば必ず願いと奇跡は叶うぞ、郡司?」

これはこれで時間が掛かりそうなのでありますので、次回予告をお願いします。

灰田「はい、承りました。では次回はZ機基地を破壊しようと企んでいる人造棲艦《ギガントス》と深海合同艦隊を阻止すべき、秀真・郡司提督の連合艦隊との海戦です。
なお長らくお待たせしましたが、ここでようやく土佐姉妹が活躍いたしますのでお楽しみを。なお前編・後編に分けるかもしれませんのでしばしお待ちを」

土佐「いよいよ私たちの出番か、胸が熱いな」

紀伊「そうですね、土佐姉さん」

灰田さんの言う通り、やや時間が掛かってしまいますのでしばしお待ちを。

灰田「ではちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

マザー『ダスビダーニャ』

鳳翔「ダスビダーニャです」

秀真「ダスビダーニャ」

古鷹「ダスビダーニャです」

郡司「ダスビダーニャ」

木曾「ダスビダーニャだ」

土佐「ダスビダーニャ」

紀伊「ダスビダーニャです」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十四話:激闘!連合艦隊 前編

イズヴィニーチェ(遅れてごめんなさい)。
オリジナル展開な故に時間が掛かってしまいましたので遅れました。

灰田「では改めて、Z機基地を破壊しようと企んでいる人造棲艦《ギガントス》と深海合同艦隊を阻止すべき、秀真・郡司提督の連合艦隊との海戦です。
なお長らくお待たせしましたが、ここでようやく土佐姉妹が活躍いたしますのでお楽しみを」

ではではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


空母《天安》率いる連邦空母戦闘群が殲滅した頃、秀真・郡司率いる連合艦隊は、敵艦隊を殲滅に伴い、Z基地を守るために北上していた。

ただし灰田がもたらしたバリアのあるおかげで攻撃されることはないが、北海道ないし東北地域を空爆・艦砲射撃を防ぐためである。

 

秀真の艦隊編成は以下の通りである。

第一艦隊は土佐改二を旗艦に、紀伊改二、富士改、高千穂改、伊勢改、日向改。

第二艦隊は古鷹改二を旗艦に、加古改二、青葉改、衣笠改二、天龍改、龍田改。

また矢矧改を旗艦に、水雷戦隊も出撃している

新たに着任した秋月型4番艦の初月も灰田が用意した未来艤装に伴い、それを扱えるように急速学習装置で学習し、演習でも経験を積ませている。

なお土佐たちも訓練で”改”から、”改二”に改装することができたのが幸いだった。

 

郡司の艦隊編成も以下の通り。

第一艦隊は飛龍改二を旗艦に、蒼龍改二、翔鶴改二、瑞鶴改二、白山改、十勝改。

第二艦隊は木曾改二を旗艦にした水雷戦隊も、矢矧隊と共に協力している。

合同支援艦隊としてビスマルクを旗艦にした独伊連合艦隊、赤城改を旗艦にした南雲機動部隊、雲龍改を旗艦とする第一空母支援艦隊に、そして大和改を旗艦にした戦艦打撃艦隊とともに出撃している。

こちらにも新たに着任したZara級1番艦のザラ、夕雲型14番艦の沖波にも灰田が用意した未来艤装に伴い、それを扱えるように急速学習装置で学習し、演習でも経験を積ませている。

 

なお彼らを援護するために、元帥の命令を受けて、多国籍軍はワスプ級強襲揚陸艦《綾鷹》に搭載しているF-35戦闘機、三沢基地からはF-2支援戦闘機、F/A-18《レガシーホーネット》が合流して深海棲艦艦隊を先制攻撃する。

これだけでも過剰ともいえるが、敵の人造棲艦の実力は灰田の情報では、戦艦レ級並みないし戦艦水鬼並みと教えてくれた。

また仙台空爆の際に目撃された怪奇な艦載機《ヨクリュウ》はかなりのものである。

幸いにもジェット艦載機《天雷改》や《烈風改》などの制空権確保のための戦闘機部隊にはレーザー砲、艦攻隊には分子破壊魚雷が備え付けられている。

また土佐姉妹には今回は、敵艦隊を空爆するために四発陸上攻撃機《連山改》を装備している。

 

イムヤたちの情報では敵艦隊は、Z基地がある北海道に向けて北上中との情報が来た。

敵艦隊の数は50隻以上であるが、そのうち1隻のみ連邦イージス艦、旅洋Ⅲ型がいる。

おそらく空母《飛鳥》からの艦載機攻撃から逃れた幸運の持ち主だろうか、果ては人造棲艦《ギガントス》の性能を試すために視察でもするのだろうかと、秀真は推測した。

アウトレンジ方もしても良いが、できる限り接近するようにした。

パイロットの限度は1時間、それ以上に長時間操縦すると疲れが出てくる。

史実でもガダルカナル島を奪回すべき、ラバウル基地から発進した零戦隊の二の舞になりかねないとの事だ。

敵艦が射程距離に入ったら全機発艦させる。

 

しかも艦載機数は過剰になるほど用意した。

土佐姉妹は《連山改》を2機ずつ、護衛用の烈風改25機ずつ。

特型戦艦こと富士たちは各1隻、100機ずつ、合計400機。

伊勢姉妹、扶桑姉妹は水上爆撃機《瑞雲》を前者は47機ずつ、後者は40機ずつ、両者とも合わせて174機。赤城・雲龍たちの艦載機、全艦合わせて400機以上もいる。

鳳翔、龍驤、瑞鳳も合わせて125機である。

つまり全艦載機および偵察用水上機を全て合わせると、1000機以上にもなる。

嬲り殺しと言うもいるが、敵艦相手は徹底的に戦わなければ意味がないし、海戦をやるからには徹底的に叩かなければならない。それが戦だ……

 

 

 

秀真・郡司連合艦隊が万全の準備をしていた頃……

同じくして潜水棲姫から敵艦隊を発見したとの通信が来た。

 

『良し、早く航空隊を発進させろ』

 

唯一連邦空母戦闘群の生き残りである旅洋Ⅲ型《南京》の艦長、李大現(イ・デヒュン)。彼もまたヤンと同じく階級は中将である。

彼はヤン中将からとある電報、正確には栄光高い中岡大統領以下、彼の幹部たちの命令である。これほど光栄なことはない。そう考えるだけで彼の笑みは不気味なものだ。

一部の者たちからは性悪は死亡した明瀬をも上回るものである。

また《サルムサ》と呼ばれる連邦親衛隊のなかでも特別な地位を与えられており、中岡大統領や彼の幹部たちのためならば喜んで死ねると言うイカれた連中である。

なお《サルムサ》と言うのは、東南アジアに棲む毒蛇のことである。

つねに日本人だけでなく、深海棲艦、戦艦水鬼派たちを見下している。

肚の底では『こいつ等の化け物、その親玉なんて所詮馬鹿に過ぎない』と呟いている。

しかし実際のバカは、彼を含めて中岡たちの方であるが。

 

「敵ハマダ見エテナイ。イクラ先手必勝デモミスミス撃チ落トサレカネナイ。モウスコシ距離ヲ……」

 

「お前たちは黙って指揮官の言う事を聞けばいいんだ」

 

空母棲姫は言われるがまま、水母棲姫、集積地棲姫に続き、僚艦の戦艦レ級elite、空母ヲ級改flagship群、軽空母ヌ級群が発艦準備をした。

また彼女たちは不本意だが、人造棲艦《ギガントス》の新型艦載機《ヨクリュウ》に運を掛けた。

しかしこの《ヨクリュウ》も自分たちを攻撃するのではないかと思うほど、いや、いまにでも獲物に飛びかかろうとする猛禽類のような鋭い眼をしていた。

空母棲姫は気のせいだろうと思いつつ、直掩部隊を少数残して発艦させた。

本当ならば飛行場姫、泊地水鬼、中間棲姫、泊地棲姫、離島棲姫などもいれば良かったのだが、彼女たちは戦艦水鬼や彼女たちを支持する者たちを守るために残った。

彼女たちは秘かに脱出計画を立てているし、なお戦艦水鬼は謎の男、灰色服の男ことミスター・グレイに出会ってから連邦国は長くない、また日本に危害を加えるのはこれを最期にして停戦講和を結ぶとの密談で決意し、空母棲姫たちも賛成した。

なお中岡派の深海棲艦は見捨てることになるが、これ以上は戦い続けても流血ばかりだと言うことが分かり、致しかのない犠牲だと覚悟している。

 

「航空隊発進!!」

 

空母棲姫の号令で、各艦に搭載された艦載機は発艦した。

いつも通りのたこ焼き型艦載、深海艦載機群に混じり、新型航空機も混じっている。

外観はたこ焼き艦載機と同じだが、双発爆撃機である。

この機体を持ち主は集積地棲姫が持つ陸上機である。

タイプは2種類。ひとつは陸上爆撃機タイプ、もうひとつは戦闘爆撃機である。

ヨクリュウも遅れながらも発進したが、深海側は相変わらず不気味だなと呟いた。

果たして先手必勝ができるのかと不安に思えた。

 

……艦隊決戦が始まった時は、お前たちと奴らの最後だな。

 

そんな彼女たちを見て、人造棲艦《ギガントス》に“とあるコード”が入力されているとも知らずに、せいぜいお前たちはあの低能な奴らと戦って置けば良いと、サルムサは心のなかで嘲笑っていた。

それまで彼は高みの見物をするのであった。

 

 

 

しかし不運にもこのアウトレンジ戦法は読まれていた。

これらは全て灰田が用意した高性能レーダーを搭載した古鷹たちも全てキャッチしていた。

敵機を確認した秀真・郡司は土佐たちに命じた。

 

「こちらも発艦せよ。全戦闘機は発進せよ」

 

「はい、提督」

 

「では、土佐姉さん」

 

土佐、紀伊は短機関銃を取り出し、赤城たち、葛城は弓を、大鳳はクロスボウを構えた。

雲龍、天城、龍驤は巻物風の航空甲板を用意、富士たち、扶桑姉妹、伊勢姉妹、そしてグラーフも飛行甲板から艦載機を用意した。

 

「全機発艦、制空権を確保せよ」

 

秀真の命令を聞き、土佐たちは了解と返答した。

 

「第一次攻撃隊、発艦してください!」と赤城。

 

「ここは譲れません」と加賀。

 

「攻撃隊、発艦はじめっ!」と蒼龍。

 

「第一次攻撃隊、発艦っ!」と飛龍。

 

「行くわよ!全機、突撃!」と翔鶴。

 

「攻撃隊…発艦、始め!」と瑞鶴。

 

「よし、第一次攻撃隊、発艦始め」と雲龍。

 

「天城航空隊発艦、始め!です!」と天城。

 

「稼働全艦載機、発艦はじめ!」と葛城。

 

「第一次攻撃隊、全機発艦!」と大鳳。

 

「風向き、よし。航空部隊、発艦!」と鳳翔。

 

「さぁ仕切るで! 攻撃隊、発進!」と龍驤。

 

「さあ、やるわよ! 攻撃隊、発艦!」と瑞鳳。

 

「攻撃隊、発艦してください!」と富士。

 

「高千穂攻撃隊、全機発艦!」と高千穂。

 

「第一次攻撃隊、発艦して!」と白山。

 

「十勝攻撃隊、発艦せよ!」と十勝。

 

「山城、行くわよ!」と扶桑。

 

「ええ、扶桑姉様!」と山城。

 

「艦載機、発艦急げ!」と伊勢。

 

「航空戦艦の真の力、思い知れ!」と日向。

 

「攻撃隊、発艦始め!蹴散らすぞ!」とグラーフ。

 

空中に放たれた彼女たちの銃弾や、矢、式紙などは炎に包まれた直後、轟音を立てて空高く舞い上がる。

言わずともジェット艦載機《天雷改》およびレシプロ戦闘機《烈風改》、少数ではあるが、ドイツ戦闘機《Fw-190T改》も混ざっている。

秀真たちは『マリアナの七面鳥撃ち』をこちらで再現するつもりである。

なお古鷹たちには常に対空兵器は全てCIWS、対空ミサイル、五式信管を搭載した対空兵器などで装備した状態を保ち、輪形陣で敵機来襲に備える。

なお攻撃隊も戦闘機隊が発進後、これを追うかのように発進していった。

むろん攻撃隊の主力機は流星改、彗星改、閃光改、瑞雲改、Ju-87C(ルーデル隊)などに続き、ひと回り大きい四発爆撃機《連山改》が次々と飛び立つ。その数500機以上である。

残りは数機ほど直掩隊および攻撃隊は残している。

また彼女たちに遅れてワスプ級強襲揚陸艦《綾鷹》に搭載しているF-35戦闘機、三沢基地からはF-2支援戦闘機、F/A-18《レガシーホーネット》が敵艦隊に攻撃しに向かう。

これだけでも攻撃力はかなりのものである。

なお秀真・郡司はいつでも第二次攻撃隊を発振する準備しており、さらに誘爆を起こさないように注意を促した。

史実のミッドウェイ海戦では油断していたため、艦載機の誘爆を起こしたのである。

 

「慎重かつ大胆にしないといけないときもあるからな」

 

「土佐たちの攻撃隊に賭けよう」

 

秀真、郡司は彼女たちが放った攻撃隊の無事を祈るしかなく、また防空任務および対艦攻撃任務に専念するのであった。

 

 

 

深海側は敵艦を攻撃するために編隊を組んでいた。

前方には敵機はいないと安心どころか、むしろ不気味に思えた。

こちらは全機合わせて400機しかいない。これでアウトレンジ戦法をするのは自殺行為に等しいことを連邦は理解しているのか分からない。

各機は厳重に上空警戒をしていたが、そのときだった。

自分たちの上空よりも凄まじい金属の擦れる音、あの悪魔が襲い掛かる轟音が鳴り響いた。

しかも気が付いたときは、天雷改・烈風改のレーザー砲の攻撃を喰らい少なくとも50機が空中爆発を起こした。不運にも敵僚機も巻き込まれてしまい、20機が墜落した。

敵の奇襲攻撃を喰らった編隊は、敵機を迎撃する。

しかしこの状況では激しい攻撃から逃れる術はなかった。

相変わらず素晴らしい旋回能力を持つ天雷改のまえでは、たこ焼き型ないし深海艦載機は撃ち落されるだけであった。

次々と深海両艦載機が撃ち落されていく一方、あのヨクリュウもこれに参加した。

天雷改はレーザー砲を浴びせた。これを喰らったヨクリュウは『ギャアァァ!』と奇声を上げて墜落した。天雷改に続き、烈風改も同じくヨクリュウを撃ち落した。

よし、臆病風に吹かれず撃ち落せると各機はヨクリュウを落とそうと襲い掛かる。

しかしヨクリュウも学習したのか、巧みに躱し続けて天雷改ないし烈風改の背後についた。

その翼で一閃して、叩き落した。

激しい空中戦を繰り返しは天雷改・烈風改、Fw-190 T改の最新鋭戦闘機が優位である。

あれほど大量にいた敵機は今では200機である。これも灰田がもたらした最新鋭レーザー砲の威力である。

しかしこちらも数機は撃ち落され、一部は相討ちの覚悟として体当たりした味方機もいた。なお生き残った数機の敵艦載機、爆撃機、少数のヨクリュウがくぐり抜けて、秀真・郡司連合艦隊がいる方角へと飛び去った。

その道中にて護衛機群に掩護された連山改を含む攻撃隊、F-35を含む多国籍空軍機とすれ違ったが、これらを襲うという気は毛頭なかった。

お互い敵艦隊に襲い掛かろうと脳裏でいっぱいだったのだろう。

それぞれの任務を果たすために、各攻撃隊は敵艦に目掛けて突っ込んで行った。




もはや原作を上回る連合艦隊による艦隊決戦であります。
因みに李大現(イ・デヒュン)は、某FPS『HOMEFRONT』の外伝小説にて登場する工作員です。この世界では連邦政治将校と同じ立場であります。
こいつは凄い外道で妻を平然と殺すだけでなく、民間人を殺すことを何よりも楽しみ、また仲間ですらも平然とものとしか見ていません。
なお主人公に倒されたときは、赤いサイバトロンの台詞「ざまあみろ(以下略)」を言いました。
詳しく知りたい人は『米本土占領さる!』を読めば、分かります。

灰田「とは言っても大規模な連合艦隊ですね。アニメ版みたいですが」

あれはない、いいね?

灰田「まあ、私がいれば逆転できますが出演させてくれませんね」

貴方が出た時点で、みんな困難するでしょう。その作品でも白昼に幽霊を見たような驚きをしまし、海面でも浮いていましたし……

灰田「私にすれば簡単なものですから」

うむ、長くなりかねないから予告篇をお願いしますね。

灰田「はい、承りました。では次回は中編です。最初は秀真・古鷹たちが敵機を迎撃し、土佐姉妹、赤城さんたちの航空隊、多国籍空軍が活躍しますのでお楽しみを。
なお変更することもありますので、その時はご了承ください」

こちらもまた灰田さんの言う通り、やや時間が掛かってしまいますのでしばしお待ちを。

灰田「ではちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十五話:激闘!連合艦隊 中編

イズヴィニーチェ(遅れてごめんなさい)。
オリジナル展開な故に、またしても時間が掛かってしまいましたので遅れました。

灰田「では改めて、予告通り秀真・古鷹たちが敵機を迎撃し、土佐姉妹、赤城さんたちの航空隊、多国籍空軍が活躍します。そしてとある命令が下されます。
その恐るべき命令とは何か?」

ではではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


「敵機接近、直掩隊は全機発艦。稼働機全機発艦せよ」

 

秀真の命令により、土佐たちの直掩機は発艦した。

なおこれらの機体には灰田が秘かに敵味方識別装置(IFF)を組み込まれているので友軍誤射を防ぐことができる。

迎撃機が一撃離脱戦法を取りつつ、敵機を撃墜する様子が見えた。

それでも200機もいるから撃ち落された機体など気にせず敵機は攻撃態勢に移る。

 

「「各艦対空射撃準備せよ、みんな気を抜くな!!」」

 

秀真・郡司の号令で古鷹たちが装備している各対空兵装が上空を睨んだ。

そして秀真・郡司が乗艦している各ズムウォルト級巡洋艦に搭載されているスタンダードミサイル、シースパローミサイルはいつでも発射できる状態であり、155mm先進砲とCIWSも仰角を上げて上空を睨んでいた。

ズムウォルト級巡洋艦のフェイズド・アレイ・レーダーを輻射し始めた。

緊張のあまり全員の喉の渇きがした頃、ゴマ粒のようなものが見え始めた。敵機200機。その中に数機ほど仙台市を空爆した《ヨクリュウ》がいた。

 

「「主砲三式弾、スタンダードミサイル、シースパローミサイル撃てぇ!!」」

 

目標はすでに複数の敵機を捕捉している。

命令に応じて古鷹たち、大和たちは三式弾を一斉射、各艦は対空戦闘を開始した。

三式弾、スタンダードミサイル、シースパローミサイルは敵機に目掛けて飛翔した。

敵機は散開する直後、古鷹たちなどが放った三式弾が一斉に爆散した。

打ち上げ花火のように空を煌めかせるように、三式弾に詰まっていた焼夷榴弾が散らばる。

数機ほど燃え上がる敵機はいたが、これをくぐり抜けた幸運の敵機に待っていたのは……スタンダードミサイル、シースパローミサイルが来襲してきた。

回避しようにも一度狙われた者は逃れる術はなく、数機が紅蓮の炎に包まれて四散した。

また迎撃に来た天雷改、烈風改などに次々と撃ち落される一方、さらに逃れた敵機は敵艦に攻撃しようと急降下した。

 

しかしこれまた新たな恐怖が襲い掛かる。

五式信管を装備した対空兵器、各艦に搭載しているCIWS、さらに秋月、照月、初月の10cm連装高角砲が待ち受けていた。

 

「さあ、照月、初月、始めましょう。撃ち方、始め!」

 

「うん、秋月姉。ガンガン撃って!長10cm砲ちゃん!」

 

「了解、秋月姉さん。よし、そこだ、撃て!」

 

秋月の号令に、照月、初月が装備している長10cm砲ちゃんたちは、彼女たちの期待に応えるべき一斉射した。

三人の砲撃により、スピードの遅い深海爆撃機が数機ほど落ちる。

またこちらも運よくあの新型艦載機《ヨクリュウ》も3機ほど墜落したのが見えた。

 

「対空戦闘、始めます!」と矢矧。

 

「酒匂も撃ちたかったんだぁ、てぇ♪」と酒匂。

 

「ふふん、灰田さんの用意した兵器を試してみようかしら♪」と夕張。

 

「お願い、当たってください!」と吹雪。

 

「私たちの前を遮る愚か者め。沈めっ!」と叢雲。

 

「私だって本気を出せばやれるし…」と初雪。

 

矢矧に続き、木曾隊も攻撃を開始した。

 

「本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ!」と木曾。

 

「面白いように当たるのね」と夕雲。

 

「へやぁー!ど真ん中命中させますっ!」と巻雲。

 

「ってぇーい!砲撃戦も気を抜くんじゃないぞ!」と長波。

 

「大丈夫、よぉく狙ってください…そう…今です、てーっ!」と沖波。

 

彼女たちが放ったスタンダードミサイル、シースパローミサイル、五式信管を搭載した40mm機関砲弾、迎撃機のレーザー砲が次々と敵機を撃ち落した。

たちまち深海艦載機、爆撃機を火の玉へと変えてゆく。

ただしヨクリュウだけはミサイルを使わなければ、撃ち落さないといけない。

ほかの機体よりも圧倒的に回避力が高いからだ。

連邦軍のようにずる賢く、深海艦載機を咥えるとミサイルに直接ぶつけると言う味な真似をし始めている個体もいた。しかし大量の対空ミサイルを躱すことは困難なため、徐々に数えきれるほどに減少していた。

秋月・矢矧・木曾水雷戦隊に負けないと、古鷹たちも獅子奮迅を見せていた。

 

「主砲狙って、そう…。撃てぇー!」と古鷹。

 

「ブッ飛ばすッ!喰らいやがれ!」と加古。

 

「さあ、青葉も追撃しちゃうぞ!」と青葉。

 

「ほら、もう一発!」と衣笠。

 

「天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」と天龍。

 

「追撃するね~♪絶対逃がさないから~」と龍田。

 

秀真が乗艦するズムウォルト級巡洋艦も、古鷹たちとともに敵艦載機を次々と撃ち落としていく。郡司の乗艦するズムウォルト102も、木曾たちと共に撃ち落していく。

大和はじめ戦艦娘、特型戦艦の富士たち、そして赤城たち空母機動部隊なども損傷なく、順調に敵機を撃ち落としていく。まさしくマリアナ沖海戦を再現しているに等しい。

よし、あともう少しで殲滅と言うときに、数機のヨクリュウが襲い掛かって来た。

爆撃しに来たわけではない、その巨体を生かして……

 

「ふぇ!?」

 

古鷹の両肩をヨクリュウは両脚でがっちりと掴み、そして持ち上げた。

 

「「「古鷹!?」」」

 

恐らく高高度から叩き落とそうとしているのだろう、しかし……

 

「古鷹を離せ!」

 

咄嗟の判断でジャンプした青葉は、ヨクリュウの右翼を掴んだ。

あまりの重さにヨクリュウは飛ぶことに苦労していたが、青葉はそれに構わず装備していたレーザー砲を斉射した。

これを喰らったヨクリュウはたまらず奇声に似た悲鳴を上げて死亡した。

幸い海上との距離はなく損傷はしなかったものの、ふたりとも艦娘らしい特徴、海上に尻餅をついた。

 

「ありがとう、青葉」

 

「いえいえ……」

 

『大丈夫か、古鷹、青葉!?』

 

「古鷹、青葉。大丈夫!?」と加古。

 

「二人とも大丈夫?」と衣笠。

 

「立てるか、二人とも?」と天龍。

 

「ふたりとも怪我はない~?」と龍田。

 

「古鷹さん、青葉さん。大丈夫ですか?」と吹雪。

 

「古鷹さん、青葉さん、大丈夫?」と叢雲。

 

「古鷹さん、青葉さん。大丈夫…?」と初雪。

 

秀真、加古、吹雪たちは駆け寄り古鷹、青葉を心配したが、二人とも大丈夫と返答した。

 

『すまない、古鷹、青葉。俺がいながらも……』

 

「謝らないで下さい。まだ損傷はしていませんし、みんなと戦えます」

 

「青葉だって司令官がいれば大丈夫です!」

 

二人の励ましで落ち着いた秀真は、ほっと胸を撫で下ろした。

 

『各艦、ヨクリュウが掴み攻撃をして来たらレーザー砲のみで攻撃せよ!』

 

秀真の素早い状況判断に、古鷹たちは了解と号令を言う。

ヨクリュウは幾度も掴み攻撃をすれば、ただの脅しなどを繰り返した。

しかし未来位置を予測してさえいれば、容易に撃ち落とすことができたのが幸いだった。

レーザー砲のみを使用する理由は簡単、それは友軍誤射を防ぐためである。

史実では友軍誤射は頻発に起きた。とくに初陣の海兵隊はガダルカナル島上陸から日本軍の夜襲をあったときは、闇雲に撃ち続けたため誤って友軍を殺してしまうことがあった。

また『奇跡の撤退作戦』とも言われるキスカ島でも、日本軍が全軍撤退後に米軍はそうとも知らずに上陸した途端……濃霧のせいで人影を日本軍兵士と勘違いして友軍を撃ってしまい、約100名の負傷者を出した。

レーザー砲のおかげで友軍誤射を防ぐこともできたので、古鷹たちは損傷することはなかった。なお迎撃機も引き返して、レーザー砲を撃ちまくり、ヨクリュウを撃ち落とす。

最後の敵機が燃え盛りながら海面に着水し、爆発した時には敵機全滅。マリアナ沖海戦、または第二次南シナ海戦を再現したのである。

土佐・紀伊にも被弾したが、灰田の言う通り、敵の500キロ爆弾を耐えたのだ。

また彼女たちが提供した和製VT信管こと、五式信管弾頭が敵機を撃ち落してくれたことにより赤城たちも損傷はない。

ここは激戦となったが、果たして土佐たちの航空隊もどうなっているのか、と秀真たちはただ考えているのだった。

 

 

 

秀真・古鷹たちが敵攻撃隊を殲滅した際、攻撃隊も同じく攻撃態勢に移ろうとしていた。

連邦艦隊を見つけた。敵艦はたくさんおり、まさにより取り見取りである。

まず先制攻撃を仕掛けたのは空自のF-2支援戦闘機、多国籍空軍のF-35《ライトニングⅡ》、F/A-18《レガシーホーネット》による対艦ミサイル攻撃から始まった。

対艦ミサイル群に狙われた深海棲艦たちは回避行動に移ったが、一度狙われたものから逃れる術はない。

意思を持った17式対艦誘導ミサイル、ハープーンは各々の目標に向かって飛翔した。

言わずともマッハ2以上の速度を誇る対艦ミサイルを撃ち落とすことができるのは唯一、連邦海軍の旅洋型《南京》だけである。

しかし連邦海軍伝統になっているのか、積極的に攻撃などはせず、自衛範囲で敵ミサイルを搭載している対空ミサイル、CIWSで迎撃するのみだった。

それを持たない深海棲艦はたちまち中破ないし大破した。

たちまち50隻もいた深海棲艦は次々に対艦ミサイルが命中して撃沈される一方だった。

なお人造棲艦《ギガントス》は戦艦型、空母型は死んだ駆逐イ級、ハ級の死骸を掴むと盾にして攻撃を防ぐと、対艦ミサイルから逃れるために水中へ潜った。

その間にも深海棲艦群は攻撃されているのにも関わらずに……

対艦ミサイルを使い果たした合同攻撃隊は反転して引き上げていくが、彼らの代わりに、土佐たちの放った第一次攻撃隊が襲い掛かって来た。

 

「ック、対空戦闘続ケロ!直掩機ハアゲラレルダケ発進サセロ!」

 

空母棲姫の命令で、生き残っていた深海一同は了解と返答した。

しかし相変わらず《ギガントス》は浮上する気もなく、イ・デヒュン中将が乗艦している旅洋Ⅲ型《南京》は攻撃に参加することはなく、高みの見物である。

彼女は秘かに潜水棲姫に、妙な動きをしたら沈めろと命じておいた。

また水母棲姫、集積地棲姫、艦レ級elite、空母ヲ級改flagship群、軽空母ヌ級群は艦載機を放つ。しかしあのジェット戦闘機を撃ち落すことなど無理に等しい。

南方棲姫も艦載機は持っていたが不運にも先ほどの対艦ミサイルの直撃を喰らい、艦戦が発艦できなくなってしまったのだ。

迎撃機は50機未満。全てあの男が発進しろと言わず、距離を詰めて攻撃していればこんな目に遭わずに済んだのにと空母棲姫は歯噛みした。

しかし今は生き残ることだけを考えて、迎撃命令を下した。

 

各指揮官機は無線機で“全機突撃せよ”と命じた。

命令は単純なほど良いものだ。史実でもハルゼー提督は攻撃隊にそう命じた。

獲物は大きいほどやりがいがある。パイロットたちは駆逐艦など眼中にない。

最大目標である鬼・姫・水鬼をやる。

攻撃隊の周囲を援護していた天雷改・烈風改は、迎撃しに来た敵機に襲い掛かる。

連山改、流星改、彗星改、閃光改、Ju-87C(ルーデル隊)、瑞雲隊に、彼らを守るための直掩隊とともに敵艦に突っ込む。

空母棲姫たちは死に物狂いで対空砲火を張る。何しろ500機以上の攻撃隊が、しかも異例も良いところ、四発爆撃機《連山改》もいるのだから恐怖に煽られる。

日本は不思議な力に伴い、奴らはイカれているのかと呟いた。

 

そう呟く間にも先ほど上げた直掩隊は全滅した。たった数分とも持たなかったのだ。

暇を持て余した天雷改、烈風改部隊は急降下態勢を維持しつつ、レーザー砲を掃射した。

紅いアイスキャンディーが瞬く間に降り注ぎ、対空兵装を潰していく。

空母棲姫、南方棲姫、集積地棲姫、重巡棲姫、軽巡棲姫、軽巡棲鬼、防空棲姫、駆逐水鬼、駆逐棲鬼、戦艦レ級などは装備している各々の対空砲ないし連装機銃が噴いた。

しかしどうしてもあのジェット戦闘機は未帰還……沖縄海戦で戦死した空母水鬼、装甲空母姫の言う通り、スピードが速すぎて撃ち落せない。

彼女たちは知らないが、連邦軍は捕虜になったことを知っているが決して彼女たちに教えていない。中岡たちは勇敢に戦死したとしか聞いていないのだから無理はない。

そうとも知らずに必死に撃ち続けた。

四発爆撃機《連山改》は高度を保ちつつ、爆弾倉を開き、250キロ爆弾をばら撒いた。

微かな音を立てながら落下していく。

水平爆撃は命中率が低いが、舵をやられて動けない深海棲艦を爆撃するのには持って来いである。250キロ爆弾を哀れにも直撃したのは空自・多国籍軍の攻撃により、航行不能になった戦艦タ級、ル級だった。

バルジを誇る戦艦でも大量の250キロ爆弾の雨を喰らったのだから堪らない。

爆弾を使い果たした連山隊はすぐさま反転し、引き上げていく。

連山隊に続き、流星改は雷撃、彗星改、閃光改、Ju-87C(ルーデル隊)、瑞雲は急降下態勢を保ちつつ、攻撃を開始した。

 

対空兵装は天雷改、烈風改によるレーザー砲により、使いもにならないほど原型を留めなかった。辛うじて撃てる対空兵器は数えきれるほどになった。

両機の攻撃により、陣形に穴が開いたのを確認した流星改は雷撃態勢を保ちつつ、自機の腹に抱えた分子破壊魚雷を投下した。

この魚雷を回避しようとした駆逐ニ級、軽巡ヘ級、ト級、雷巡チ級flagship、重巡リ級改flagshipは哀れにも数本の分子破壊魚雷が直撃し、撃沈されていく。

艦娘たちはいつの間に、音響ホーミング魚雷を開発・量産したんだと全員が唖然とした。

一部は水中に逃れようと潜航したが、分子破壊魚雷は水中に逃げた敵の熱源を探知して水中に逃げた深海棲艦を撃破、海の藻屑にしたのだった。

雷撃隊に負けるわけにはいかないと闘志を燃やし続けている艦爆隊、戦爆隊、瑞雲隊も理想の高度に達すると抱えていた250キロないし500キロ爆弾を投下した。

またルーデル隊の多くは1.5トン爆弾を抱えており、各機は未来位置を予測して投下した。

投下後は機首を一気にあげて、離脱した。

耳を引き裂くような爆音がいたるところで炸裂したのを確認、これにより空母棲姫、南方棲姫、集積地棲姫、重巡棲姫、軽巡棲姫、軽巡棲鬼、防空棲姫、駆逐水鬼、駆逐棲鬼、戦艦レ級などの深海棲艦たちは瞬く間に中破した。

ほんの数分の間に、これほどの損傷を被るとは……と空母棲姫は歯噛みした。

500機以上もいる攻撃隊の猛攻を受ければ、当然のことだ。

しかしあの《ギガントス》は潜航したまま、姿を見せることはない。

あの役立たずの連邦海軍のイージス艦には何度も支援要請をしているが、応答しない。

彼女だけでなく、他の者たちも愚痴を零した。

 

敵は満足したのか全機引き上げていく。

しかし空母棲姫の電探にはこちらに止めを刺そうと、敵艦隊が近づいているのをキャッチした。

 

「ック、我々ニ止メヲ刺ソウトシテイルノカ?良イダロウ、全艦突撃態勢ニ!」

 

相討ちの覚悟を決めた空母棲姫たちは、秀真・古鷹たちに勝負を挑もうとした瞬間だった。

突然と彼女たちの後方から、巨大な水柱が立ちあがる。

全員が不意に振り返ると、打ち上げられた魚のように落下してきたのは潜水棲姫だった。

しかも彼女も中破した状態になっている。

落下してきた潜水棲姫をキャッチしたのは、空母棲姫だった。

正確には衝突して受け止めたといった方が正しいが。

 

「一体、ドウシタンダ?ダレニヤラレタンダ?」

 

空母棲姫の問いに、潜水棲姫は気絶前にゆっくりと指を指した。

彼女が指を指した方向には旅洋Ⅲ型《南京》最新鋭艦の両脇にいる、あの二体の怪物……人造棲艦《ギガントス》だった。

 

『深海諸君、ご苦労様。ここであの兵器女と共々、海の底に沈みな』

 

あの忌々しいイ・デヒュン中将は無慈悲な命令を下した。

中岡たちがイ・デヒュン中将に打電した密命は “オペレーション・ジェノサイド”である。

今回の極秘作戦で、人造棲艦《ギガントス》を知った空母棲姫たちはいわば実験艦隊……つまりモルモット同然である。

その目的を果たしてもらうために、この作戦を発動したのだった。

 

『やれ、ギガントス。ひとり残らず撃沈しろ!』

 

ここに双方を始末するための“オペレーション・ジェノサイド”は発令された。

 

 

 

その命令が下された一方……秀真・古鷹たちは残りの敵を殲滅させようと艦隊決戦を挑んだ。

本当ならば艦載機で止めを刺したかったが、しかし敵艦のなかに人造棲艦《ギガントス》を倒せたのかを確認しなければならない。

 

「あの攻撃で撃破していればいいのだが……」

 

「僕もそう願っているよ」

 

秀真・郡司はあれだけ艦載機攻撃を受けていたのであれば撃沈して欲しいと願っていた。

緊張のあまりまたしても頬に汗が落ちていく。

だが、ずる賢い連邦軍指揮官並みに深海棲艦を盾にしているかもしれないと推測した。

 

二人だけでなく、古鷹たちもそう願っていた。

なお古鷹の肩には、鳥海が彼女のために用意してくれた熟練見張員が見張っていた。

史実では日本海軍の見張員たちは夜目がとても効き、条件が良ければ10000メートルにいる敵艦も発見することができるため、レーダーを打ち負かしたこともある。

熟練見張員の妖精たちが、遥か彼方にいる敵艦を発見した。

敵艦発見。をすぐさま古鷹に報告、彼女は秀真に連絡をした。

 

『提督、敵艦を発見しました!しかし……』

 

「古鷹、どうした?」

 

『おかしいことに仲間割れをしているんです』

 

「仲間割れ?」

 

秀真は、用済みとして粛清されるのだろうと推測した。

しかしこの場所で戦力を削ぐと言う馬鹿な真似をする連中とは思えないが、もしも意図的に何かを仕込まれているとしたら……

 

「……ありがとう、古鷹。各艦陣形を維持して突撃せよ!」

 

「「「了解」」」

 

古鷹たちも陣形を保ちつつ、敵艦隊がいる方向に突撃した。




とある命令……それは実験体になるためであり、口封じのためでした。
しかしこの言葉『ひとり残らず撃沈しろ!』という命令は後ほど大きく影響しますのでしばしお待ちを。

灰田「ともあれどうなるかは楽しみですね。劇場版の予告で胃が痛くなったようですが、大丈夫ですか?」

大丈夫じゃない、大問題だ。第六戦隊と神通さんが無事なのか考えただけでもね……

灰田「私が提督をやれば……」

いや、絶対無理でしょう。
白昼に幽霊を見たような驚きで全員が『???』になりかねないしかない。

灰田「それは残念」

何だか前回になりかねないから、予告篇をお願いしますね。

灰田「はい、承りました。では次回は後編です。少しだけですが『夜襲機動部隊出撃!』のようなホラー展開が一部あり、そしてギガントスを狩りますのでお楽しみに。
なお変更することもありますので、その時はご了承ください」

こちらもまた今回同様に、やや時間が掛かってしまいますのでしばしお待ちを。

灰田「ではちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十六話:激闘!連合艦隊 後編

お待たせしました。
では予告通り今回は『夜襲機動部隊出撃!』のようなホラー展開が一部あり、そしてギガントスを狩りますのでお楽しみに。

灰田「なおホラー展開も一部あります。ではではこの言葉に伴い、改めて……」

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


『やれ、ギガントス。ひとり残らず撃沈しろ!』

 

彼の命令を受けて、ギガントスは攻撃態勢を取る。

いきなりの裏切り、まるで冷水を掛けられたように、空母棲姫は歯噛みした。

自分たちはモルモット同然に扱わらせた挙げ句、ここで死ぬのかと悔やんでいたときだ。

 

「ザッケンナコラー!スッゾオラー!」

 

誰よりも激怒し突撃したのは、戦艦レ級だった。

また彼女に付き添い、数隻の護衛艦が攻撃を開始した。

 

「バ、バカ、闇雲ニ突入スルナ!」

 

空母棲姫の警告を聞かずに頭に血が昇ったレ級は、16inch三連装砲、12.5inch連装副砲を、彼女に付き添う護衛艦も各主砲をぶっ放しながら突撃した。

これだけの火力があれば無事では済まない、さらに砲撃を続行しながら搭載していた22inch魚雷後期型を旅洋Ⅲ型《南京》と戦艦型、空母型人造棲艦《ギガントス》に照準を合わせた。自発装填。を確認したレ級は魚雷を投射した。

レ級に合わせて阿吽の呼吸のように合わせた僚艦も各自魚雷を投射した。

放熱を出しながら回転を増す徹甲弾に、回避できないほどの大量に投射された各魚雷が、旅洋Ⅲ型《南京》に、二隻の人造棲艦《ギガントス》たちに向かって突入した。

 

「終ワリダァァァァァァ、ギガントス!」

 

レ級は確勝したと高らかに宣言したが……

 

……お前がな、とCIC越しで嘲笑うかのようにイ・デヒュン中将は呟いた。

彼の言う通り、ギガントスはあれほど砲雷撃戦を喰らいながらも傷一つも負っていない。

 

「ック!撃ッテ、撃ッテ、撃チマクレ!」

 

レ級は自分の目を疑いたくなった。

あれだけ浴びたのになぜ無傷なのか、それすらも理解できなかった。

しかしギガントスは砲撃されても、雷撃されても無傷である。

戦艦型のギガントスは搭載している18inch三連装砲に続き、12.5inch連装副砲、5inch連装両用莢砲が向いた。

ピタリと止まった瞬間、獲物に飢えた肉食獣の如く、唸り声を上げた発射音がした。

レ級の傍にいた護衛艦は見る間もなく一撃で轟沈、またしても横にいた護衛艦も同じ運命を辿った。

不意を狙って骨まで噛み砕こうと言わんばかりに浮上して飛びついた駆逐イ級改flagshipが襲い掛かる。

しかしギガントスは予測していたのか、自分たちよりも大きい駆逐イ級改flagshipを掴み、イ級の顎を引き裂いて殺した。

レ級ばかりだけでなく、空母棲姫たちは『我々はなんて化け物を相手にしているのだろう』と絶句した。

 

「ははは、ざまあみろ。血も涙もないお前たちに相応しい最後だ。艦娘どもがいなかったがこいつ等を処理してからも遅くはない。栄光高き中岡様のために死ね!」

 

その一方、イ・デヒュン中将は愉快でたまらなかった。

画面には次々と深海棲艦たちを蹴散らす光景は面白いからだ。

この光景を撮影して映画として公開すれば、さぞかし同志仲岡、彼の幹部たちだけでなく、連邦国民たちはお喜びになるだろうと想像するだけでも笑いが止まらなかった。

また《サルムサ》と言われる中岡直属の私兵部隊のトップを誇るイ・デヒュン中将は……単に妄想を膨らまして楽しんでいるから恐ろしい。

彼の部下たちは誰も笑っておらず、むしろ空母棲姫たちと同じく言葉を失っていた。

ある者は『自分たちはなんて化け物を製造してしまったのだろうか』と嘆き、またある者は神に祈り、そしてある者は恐怖のあまり声を出すことすら失ってしまった。

しかし、その行為がすぐに返ってきた。

すでに大破している深海棲艦を見向きもせず、こちらを……イ・デヒュン中将が乗艦している旅洋Ⅲ型《南京》を見ていた。

その瞬間、戦艦型と空母型《ギガントス》は襲い掛かった。

 

「な、なぜ、我々に襲い掛かってくる」

 

自分でも完璧な命令をしたはずなのに……と聞き返した。

自身の命令を思い出した。彼は『ひとり残らず撃沈しろ!』と下した。

しかしそれは深海棲艦だけでなく……ここにいる自分たちも襲えと命令したものである。

 

「不味い、我々も含まれている。命令を取り消さなければ!」

 

命令を取り消そうと言おうとした瞬間、戦艦型は搭載していた全主砲、その砲門が唸り声を上げた恐竜の如く襲い掛かって来た。

空母型もヨクリュウを放ち、両翼に搭載していた航空爆弾、ロケット弾を投下した。

こちらも回転しながら落ち、噴射してきた数えきれないほどのふたつの凶弾が襲い掛かって来た。幾ら対空ミサイルやCIWSによる弾幕を張っても効果はない。

レーダーで捕捉すること自体は可能だが、それを迎撃するのは賛否が分かれてしまう。

しかも砲弾の滞空時間は長距離ミサイルとは比べ物にならないほど短いものだ。

比較的信管感度が良い零式弾や三式弾ならば至近距離で近接信管を使用すれば撃ち落せるが、戦艦が使用する徹甲弾の場合は感度が低く、しかも直撃しない限り破壊は無理である。

艦内は慌ただしくなった瞬間、ついに眩しい光が遮り、続いて凄まじい爆発が旅洋Ⅲ型《南京》を包み込み、地獄の業火は艦全体を飲み込んだ

燃え盛る艦から小型の高速型複合艇(RHIB)が出てきた。

二人の護衛兵を連れ、奇跡的に脱出したイ・デヒュン中将が「くそっ!」と喚いた。

しかしこれを逃すまいと急降下でひとりの護衛兵は哀れにもヨクリュウに喰い殺された。

相棒が喰われたことに腹を立てたもうひとりの護衛兵が叫びながら携えていたHK416アサルトカービンを撃ちまくったが、彼もまた相棒と同じ運命を辿った。

しかしイ・デヒュン中将はそんな事は構わず、この場から離れようと必死になっていた。

彼は『何とかして態勢を立て直さなくては』と考えていたのも束の間、人影らしきものが近づいた。

 

「なにっ!」

 

自分たちを先ほど守っていた戦艦型、空母型……両者が襲い掛かって来た。

ギガントスは彼を掴み取ると、肉食恐竜のようなナイフに似た歯をチラつかせる。

彼の思考は自分が死にゆくことではなく、神とも言うべき中岡大統領と彼の幹部たちを失望させてしまったことだ。彼らのために尽くしてきた名誉を、東南アジアの毒蛇はこの瞬間に全てを失ってしまったのだった。

イ・デヒュン中将は『お許しを、中岡大統領、わが愛を…』と下らない思想に染まった彼に構うことなく、二隻のギガントスは噛み付いた。

バリバリと紳士服を食い破ると、鮮血を浴びたのも気にせず、肉を貪り食った。

肉もだが、体液に血液も啜った姿は、もはや吸血鬼、いや異界の怪物そのものだった。

大破した空母棲姫たちは恐怖のあまり声を出すことが出来なかった。

自分たちに襲い掛からなかったのは嬲り殺すためではなく、自分たちを喰うために残したのだと察した。

しかし逃げようにも全員動けない、舵をやられているからだ。

 

イ・デヒュン中将の死骸を放り投げると、今度は紅く光る目をぎらつかせて長い舌で唇をなぞりながら、こちらを凝視していた瞬間だった。

突然と戦艦型は怪物のようなガメラのような顔に変身し、空母型はスペイン画家・フランシスコ・デ・ゴヤの絵画作品『我が子を食らうサトゥルヌス』のような姿に変貌した。なおどちらも海藻らしきものが生えた怪物のようである。

もはや美女から醜女になったと言い換えた方が良く、永遠の美貌とはかけ離れていた。

両者は口が裂けて捕食しようと、空母棲姫たちを喰らおうと襲い掛かった。

空母棲姫たちは初めて『諦める』と言う言葉を知った。

 

もう努力しない、もう何もしなくていい。

 

もう何も頑張らなくても良いということを選んだ。

 

全てを委ねるように、そっと目を閉じると……

複数の紅きアイスキャンディーが迸り、両タイプのギガントスに命中した。

これが命中すると、ギガントスは狂い出したかのようにサイレンに似た悲鳴を上げた。

自分たちを襲おうとしたギガントスを撃ったものは何者かと頭上を通り抜ける轟音が聞こえた。

 

「ドウイウコトダ?」

 

空母棲姫たちは目を疑った。

先ほど自分たちを攻撃していたジェット艦載機が我々を守っているだと!と呟いた。

また彗星改とともに、魔女の悲鳴に似たサイレン音を鳴らしながら急降下してくるJu-87C改(ルーデル隊)に、同じく瑞雲隊が急降下爆撃を開始した。

流星改は分子魚雷を投射し、閃光改は250キロ爆弾を投下して両タイプのギガントスに攻撃をした。

さすがの頑丈さを誇るギガントスでも土佐たちの第二次攻撃隊を受ければ、装着していた砲塔なども全て破壊された。

 

「提督、ギガントスの艤装を全て破壊しました」

 

「こちらの直掩隊で空母棲姫たちを守ります」

 

土佐、紀伊の報告を聞いた秀真は、制空権確保を確認して命令を下した。

 

『土佐たちが制空権を確保した間、古鷹や大和たちはギガントスを撃破せよ』

 

『各護衛艦隊は空母棲姫たちを救助しつつ、後退せよ!』

 

秀真、郡司の命令で『了解』と返答した古鷹たちは素早く動き出した。

両者が乗艦するズムウォルト級は、ヨクリュウたちを次々と撃ち落した。

古鷹率いる第六戦隊、大和率いる戦艦打撃艦隊、ビスマルク率いる独伊艦隊、富士率いる戦艦空母、伊勢率いる航空戦艦部隊は搭載しているレーザー砲をギガントスに向けて一斉射した。

 

「主砲狙って、そう…。撃てぇー!」と古鷹。

 

「砲撃を集中だ、いっけぇー!」と加古。

 

「ギガントス退治も青葉にお任せ!」と青葉。

 

「衣笠の砲撃、見せてあげる!」と衣笠。

 

「ギガントス捕捉、全レーザー砲薙ぎ払え!」と大和。

 

「さあ、行くぞ! レーザー撃ち方…始めっ!」と武蔵。

 

「全レーザー砲、斉射!」と富士。

 

「夜戦ならば誰にも負けないよ!」と高千穂。

 

「ギガントスに砲撃を開始します!」と白山。

 

「この十勝の攻撃を思い知れ!」と十勝。

 

「レーザー、四基八門、一斉射!」と伊勢。

 

「新しくなった航空戦艦、その真の力、思い知れ!」と日向。

 

「全レーザー砲、撃てぇ!」と扶桑。

 

「レーザー砲、よく狙って、てぇーっ!」と山城。

 

「腕が鳴るわね!Feuer!(発射!)」とビスマルク。

 

「レーザー砲……よく狙って……砲撃、開始!」とプリンツ。

 

「一番、二番レーザー砲狙え…今よ、撃て!」とイタリア。

 

「全力で潰すわよ。全砲門、開け!」とローマ。

 

「レーザー砲、前方の敵艦に指向して!撃ち方、始め!沈みなさい!」ザラ。

 

古鷹たちのレーザー砲を集中的に浴びたギガントスは堪らず、またしてもサイレンのような悲鳴を上げた。

なお不要となった自分たちの壊れた艤装を引きちぎり、秀真・古鷹たちに向かって、それを思いっ切り投げた。

突然のこの行動に秀真・古鷹たちはこれを迎撃したが、一部はこれが命中して小破ないし中破した子もいた。

全ての艤装を外すと両者は古鷹たちに向かって、最後の悪あがきと言わんばかりに両者はジャンプした。

 

『『全艦一斉射、しこたま喰らわせろ!』』

 

秀真・郡司の命令で古鷹たちは、襲い掛かってくるギガントスに集中砲火を浴びせた。

ジャンプして無防備なギガントスたちはこれには堪らなかった。

とくに両者とも目に命中したため、一時退散とばかり海中に潜った。

 

『『全水雷戦隊は特殊魚雷を投射しろ!!』』

 

二人は命じた。

特殊魚雷を装備していた矢矧・吹雪たちは、ソナーでギガントスのたちの後を追う。

双方ともよほど古鷹たちのレーザー攻撃に応えたのか、海中深く潜って行く。

灰田がもたらしてくれた特殊魚雷は深度1000メートルまで信管が作動するから驚きである。

これ以上潜られたら手の打ちようがない、こいつ等を撃破できるチャンスを逃してしまわないように攻撃を開始した。

 

「雷撃戦、始めます!」と矢矧。

 

「さぁ!片っ端からやっちゃうよ!」と酒匂。

 

「天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」と天龍。

 

「追撃するね~♪絶対逃がさないから~」と龍田。

 

「お願い、当たってください!」と吹雪。

 

「海の底に、消えろっ!」と叢雲。

 

「んっ…あたれっ」と初雪。

 

「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」と秋月。

 

「照月、行っきますよ~!」と照月。

 

「見つけた。そこだ、撃て!」と初月。

 

「それで俺から逃げたつもりなのか?弱すぎる!!」と木曾。

 

「うっふふ、やってきたわね」と夕雲。

 

「へやぁー!ど真ん中命中させますっ!」と巻雲。

 

「服を切らせて、骨を断つのよ!」と長波。

 

「よぉく狙ってください…今です、てーっ!」と沖波。

 

「ギガントス発見、攻撃開始」とレーベ。

 

「ギガントスを捕捉、攻撃開始」とマックス。

 

「リベの本気、行くっよー!」とリベッチオ。

 

全水雷戦隊が投射した特殊魚雷……合わせて60本が急角度で海中深く潜って行く。

これら特殊魚雷は、海上自衛隊や米海軍の護衛艦が装備している艦載用対潜ミサイル……通称『アスロック』とは違い、熱源追尾方式である。

ギガントス……元々は人間で、非人道的に生み出された生物兵器なので体内にある熱や微弱に放出されている熱を発散しているから追尾は容易いのである。

刻々とギガントスたちに近づくと、全ての特殊魚雷は全弾命中して炸裂した。

海中で鳴り響き渡り、その影響か凄まじい大きな水柱が上がった。

その勢いあまり秀真・郡司が乗艦するズムウォルト級は転覆しそうになり、古鷹たちのうまくバランスを取りながら立つのがやっとだった。

何とか転覆を防いだと同時に、不気味な肉片のようなものが多数上がってきた。

しかし空中で変形してクラゲのようになり、全員を襲い掛かろうとしたが……

 

『お前たちの相手をする余裕はない』

 

秀真・郡司が乗艦するズムウォルト級のレールガンに、古鷹たちも最大俯角を下げた。

これらを見たギガントスたちは恐れをなし、攻撃を回避しようとしたが……

 

「「全艦、主砲狙って、そう…」」

 

秀真・古鷹は阿吽のごとし口を揃えて、そして……

 

「「撃てぇー!!」」

 

ふたりの号令で全員のレーザー砲が凄まじい轟音を立てながら一斉射した。

これらを喰らったギガントスたちは、全身から電光石火の如く電流が走り出した。

レーザー・ビームが全弾命中し、もはやサイレンのような悲鳴すら上げる余裕もなく、姿形を残すことなくギガントスは空中で蒸発した。

 

『やった……のか?』

 

「……はい、戦闘終了ですね」

 

秀真・古鷹は額にある汗を拭き取り、呟いた。

土佐たちも艦載機を放って調べたが、ギガントスは本当に消滅したのだった。

他の者たちも抱き合って喜び合い、緊張のあまりその場に座った者たちなどいた。

なお敵であるはずだった空母棲姫たちもギガントスが死んだことに対して、土佐たちと思わず抱き締めて、お互いに喜び合った。

すぐに自重した空母棲姫たちは、気を取り直して秀真たちに降伏した。

彼女たちも日本への亡命と、暫らくは元帥の管轄のもとで、監視対象を望むということで正式な捕虜となった。

なお彼女たちの修復は、元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》《舞鶴》に、また秀真艦隊に所属する明石、夕張も手伝って修理したのは別の話である。

 

かくして奇妙な海戦とも言えるギガントス狩りは、秀真・古鷹たちの勝利へと終わった。

また空母《飛鳥》率いる第八護衛艦隊からの報告で、空母《天安》率いる連邦空母戦闘群も壊滅することができた。

連邦空母戦闘群、人造棲艦《ギガントス》の両者が上げた戦果は『仙台空爆』のみに終わった。




ブーメランは必ず返ってくる。
なお今回のギガントスの変身は原作『夜襲機動部隊出撃!』でも同じく変身していますが……ややホラー展開として映画『バイオハザード』のリッカーが新鮮なDNAを摂取することで変異すると言う設定を付け加えました。

灰田「ともあれ恐ろしいものですね、これは」

秀真「あんな化け物相手はごめんだ」

郡司「僕も同じだよ」

原作では凄まじい悪臭に、肉片になっても生きているなど異世界の怪物ですからね。

灰田「まあ、私の手に掛かれば大丈夫ですよ」

秀真「古鷹たちがいたおかげで勝てたんだ」

郡司「木曾たちも同じくね」

灰田「そういえば古鷹さん、木曽さんたちは?」

秀真「いまは入渠中さ、みんな疲れているからゆっくりさせないとな」

郡司「木曾たちも同じく入渠中だよ」

まあ、そうなるな(日向ふうに)、では灰田さん、予告篇をお願いしますね。

灰田「はい、承りました。次回はこの海戦結果をした連邦視点からお送りします。
果たして今後はどうなるかはお楽しみに。ではちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ」

郡司「ダスビダーニャ」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十七話:連邦の憂鬱

イズヴィニーチェ、皆様に長く待たせてごめんなさい。
では予告通り、海戦結果を知った連邦国視点からお送りいたします。

灰田「なお本来ならばここで第二章が終わる予定でしたが、事情により次回に変更になりましたのでご了承ください」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


突然と空母戦闘群、人造棲艦《ギガントス》の監視員であるイ・デヒュン中将との通信が途絶えたので中南海では戦場を掴めずにイライラしていた。

しかしその日の夕刻……CNNニュースにより何が起こったのかを知った。

これはむろん日本政府が意図的に流したもので、ご丁寧に無人偵察機が撮影した戦闘状況……燃える連邦艦艇の姿を提供した。

また秀真艦隊に所属する青葉が撮影した戦闘状況と共に、連邦自身が生み出した非人道的生物兵器……人造棲艦《ギガントス》の最後まで提供したのだった。

前者は東京湾南方で日連空母戦闘群同士の戦闘があり、連邦艦隊は壊滅。

後者は北海道北上中のさなかに、日本連合艦隊と連邦・深海合同艦隊同士の戦闘があり、多数の捕虜まで出した、というコメント付きである。

ただし、その前に宮城県・仙台市が空襲を受けたこともニュースとして世界には流れている。

 

しかしそれは細やかな戦果に過ぎず、連邦艦隊が壊滅したことが世界中に流れたのだから堪らない。

 

中南海の面目は丸つぶれとなった。

さしもの忠秀も顔色を失った。ここまで作戦指導をしてきたのは自分である。

しかしそれらの作戦は悉く失敗、ついに虎の子の空母、人造棲艦を失った。

連邦中央委員会が開かれれば、自分は弾劾される。

副主席まで外されるだけでなく、国賊扱いされて投獄されるかもしれない。

連邦はかつての中国を模倣しているため、民主国家ではあり得ないことが起こる。

毛沢東もかつて自分の股肱や腹心であった者を次々に粛清した。

共産軍結成以来の同志であり、副指揮官であった林彪(リン・ピャオ)さえ、平然と粛清したのだから恐ろしい。

……しかし実際には毛沢東に粛清されるのを察知した林彪が家族と共に、ソ連人民解放軍が所有するイギリス製旅客機《ホーカー・シドレー トライデント》で逃亡中にモンゴル人民共和国のヘンテイ県イデルメグ村(モンゴル国ヘンテイ県ベルフ市の南方10キロ付近)で墜落死した。これには燃料切れ説と、彼の逃亡を阻止しようとした側近同士が乱闘になり発砲し墜落した説など様々だが。

運よく粛清を免れたのは、最後まで毛沢東に忠誠を尽くした周恩来(ヂョウ・オンライ)だけだったが、晩年に膀胱ガンに掛かったものの、容易に治療してもらえなかった。

毛沢東は自分より早く死なせるように工作をしていたとも知らずに……

 

だから多くの者たちは自分が粛清されるのが嫌なため、それを逃れる方法であり、お得意の手段とも言える……全ての責任を部下に擦り付けて逃げることだった。

 

「何と言う事だ!無様な戦い方をしおって!」

 

まず、海軍司令員のロウに怒鳴りつけた。

ロウは恐怖のあまり言葉を失い、ただ冷や汗を流していた。

 

「せっかく空母の優位を生かせなかっただけでなく、人造棲艦も同じく艦娘どもに負けてしまったではないか、しかも多数の捕虜までまた出しおって!責任はお前にあるぞ!」

 

ロウは黙っていた。どんなに抗弁しても日本海軍に完敗してしまったのだからだ。

彼は粛清されても投獄されてもどんな責任でも取るつもりであった。

その点は怒り狂う忠秀よりはずっと男らしかった。

またこの様子を戦艦水鬼たちも見ていたが、自分たちが発言することはなく、忠秀たちを見て『当然の報いね』と呟いていた。

あの灰色服の男ことミスター・グレイの情報通り、人造棲艦《ギガントス》を出撃させたのだから、寧ろ空母《天安》とともに、怪物を処分する手間も省けたゆえに好都合であり、それらを処理してくれた日本に感謝している。

また空母棲姫たちを助けてくれた提督と艦娘たちにも感謝している、自分たちによる停戦講和後にはひと目お目に掛かりたいと考えていた。

 

「まあ、待ちなさい」

 

重苦しい空気のさなか、湯浅は穏やかに言った。

 

「わたしは最初から空母、人造棲艦を出すと言う作戦は憂慮していたわけだ。ともかく、こちらから出て行くと言うだけでも不利だ。敵は待ち構えていれば良いのだからな。

仙台市を叩けただけでも“良し”とせねばならぬだろう。少なくとも一矢を報いたのだ。

連邦の面子は立ったわけだ」

 

「まだシア級原潜が残っています。これを使えば、東京に核攻撃が可能ですが……」

 

ロウは言い張った。

シア級は連邦海軍が保有する戦略原潜である。二番艦もあったが、不慮の事故で沈んでしまった。

これは核弾頭搭載のSLBMを発射できるが、本来これは“アメリカ”を仮想敵国に攻撃するために造られたものである。

 

「いや、そんな事をしても日本は核爆発エネルギーを消してしまうだろう。

北海道・十勝でやったようにな。十勝基地を守ったほどだから当然……首都・東京も守るだろう。彼らはなぜか我々の打つ手を先読みしているのだ」

 

「それならばどうする?」

 

被りを振った湯浅に、忠秀は尋ねた。

 

「もはや打つ手はなかろう。全ては我々が日本の戦力、艦娘たちなどを過小評価しすぎていたことから起こったことだ。現場で戦った将兵たちの責任ではない。

日本には我々には理解できない味方を持っている。その正体がはっきりしない限り、どれほど仕掛けても無駄だろう……

それよりわたしが台湾の出方が心配だ。わたしがレン総統ならば、このチャンスを逃さず独立を宣言するだろう。我々はそれを阻止する力を持たない」

 

「お言葉ですが、そんな事は断じて許しません!」

 

キョウ空軍司令員が言った。

 

「確かに《鬼角弾》《東風15号》の両ミサイルは壊滅しましたが、我々にはまだ台湾まで届く戦略爆撃機、戦闘機を充分持っています。まだ無事な旧式の揚陸艦も残っています!」

 

「最新鋭艦は喪失しましたが、旧式フリゲートであれば、まだ持っています。

深海棲艦たちと協力して台湾侵攻も不可能ではありません」

 

失地を取り返さんとばかり、ロウが急いで付け加えた。

戦艦水鬼たちは聞こえないように舌打ちし、冗談じゃないと心のなかで呟いた。

こいつ等のせいで同胞は無駄死である故に、ベテランを育てるまでどれだけ時間が費やすか考えているのか?とも呟いた。

ベテランになるまでは訓練が必要であり、実戦経験でも失敗しても良い。

最後まで生き残ることを繰り返して、ようやくベテランになる。

 

しかしそんな事も知らずに、湯浅は被りを振った。

 

「この戦争が始まる以前ですら、台湾空軍、海軍は、我が軍の力はほぼ拮抗していたことを忘れたのかね?

我が連邦の最新鋭機、最新鋭艦、実戦経験豊富な深海棲艦たちをほとんど失ったいま、侵攻しても無駄に消耗を繰り返すだけだ。

それともうひとつ、最近、政務外務省から入手した情報によれば、日本は我々との戦争を始まる前に台湾との秘密同盟を結んだらしい。

これは相互防衛同盟を持ち、我が空母戦闘群、ギガントスたちなどがバシー海峡を通過したことを教えたのも、むろん台湾だ。

だから、もしも我々が台湾と対立姿勢を構えれば、日本は傍観していまい。

さらに我々は叩かれることになるだけだ……」

 

その思い言葉に全員が沈黙した。

 

もともと連邦国も中国同様に、人命軽視である。

かつて中国は朝鮮戦争時に、毛沢東は100万人の中国軍を派兵したが、全員が元国民党軍だったもので、言わば彼らを用済みとして処分するために朝鮮半島に送った。

彼らにはろくな武器を持たずに、人海戦戦術を強いられた。

これは中国軍に限らず、ソ連軍、北朝鮮軍も得意としていた戦術……もはや戦術ではないと言ったものに等しい。兵士たちは前進するしか方法がなかった。

もし撤退すると政治将校率いる督戦隊が後方におり、重機関銃で撃ち殺されてしまうからである。

つまり進んで死であり、退いても死である。

このように兵士を使い捨てにした戦術は、世界史に例を見ない。

そのあまりの凄惨さに、最前線にいた米軍の重機関銃手たちは死に物狂いで撃ちまくり、発狂したとも言われている。

 

現状に戻る。

確かに台湾空海軍の戦力は大きい。

アメリカから買い付けたUSSキッド級ミサイル駆逐艦4隻を買い付け、成功級フリゲー

トに、さらに世界最新鋭の康定級フリゲートを数隻も持っている。

間もなく、アメリカからアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦も来ることになっている。

この艦船はイージスシステムを搭載したイージス艦であり、我が海上自衛隊が保有しているイージス艦……こんごう型・あたご型護衛艦に影響を与えた艦でもある。

これらを統合した防空能力は強力で、連邦空軍の旧式戦闘機や爆撃機がいかに押し寄せても、片っ端から撃ち落されるだけである。

アベンジャーシステムに、米国製のパトリオットミサイルも配備されており、防空能力は以前よりも強力になっている。

 

空軍も同じく純国産戦闘機F-CK-1Aを近代化改修したF-CK-1Dを130機。

ほかに第4世代ジェット戦闘機F-16《ファイティング・ファルコン》を150機。

F-16はA/B型の能力向上から、より高性能なC/D型に更新した。

フランス・ダッソー社が生み出した傑作マルチロール機で、フランス空軍が制式採用しているミラージュ2000-5戦闘機は60機までも保有している。

これらの戦力はかつての中国どころか、今では連邦国を確実に凌ぐ。

 

航空戦でも負け、旧式艦艇や実戦経験の浅い深海棲艦を繰り出しても海戦で叩き潰される。

旧式揚陸艦を出しても近づくどころか、失敗に終わる可能性が高い。

さすがに湯浅は冷静で、これらの状況を読み切っていた。

 

 

 

その一方、この連戦連敗の報告を次々と聞いた中岡は怒り狂っていた。

 

「あの侵略者どもが、皇帝陛下たる俺様の世界征服の邪魔しおって!」

 

妄想も良いところであり、挙げ句は“皇帝陛下”と意味不明なことを述べる始末だった。

自身も日本人でありながらも日本人が全て悪い、嫌いと言う特亜並みの独特な思考である。

かつてのナチス・ドイツのヒトラーも日本人が好きではなかった。

強烈な差別主義者だったヒトラーは、アーリア人以外はまともな人種は認めなかった。

ただし白人……アングロサクソンだけにはひと目置いていた。

彼らも根っこはアーリア人だった。

日本とは、アメリカとソ連を牽制するため必要上のために、同盟を結んでいただけに過ぎない。

 

凄まじい癇癪の発作にチェソンタク次長、人民武力部アンミョンペク総参謀長、そのほかの幹部たちも口を挟めない有様だった。

戦艦水鬼の代理に参加した深海メンバーは、やれやれと頭を抱えたほどである。

ようやく落ち着いたところと、中岡はアンミョンペクに命令した。

 

「アンミョンペク、事態がややこしくなる前にアメリカに亡命する準備をしろ」

 

「アメリカにですか?」

 

アンミョンペクは出来ないとは答えることはできない。

もし不可能です、と答えると、この場で射殺されかねないからだ。

以前は生き残った兵士たちを公開処刑したのだから拳銃ならまだいいが、公開処刑場に連れて行かれた者たちはDshk38重機関銃や迫撃砲で殺された者たちもいる。

 

「はい、外交ルートを通じて努力します」

 

「よろしい、努力しなさい」

 

……見ていろよ、この俺様は皇帝陛下になった日には跪かせて吠え面かかせてやる。




もはや連邦国は崩壊気味であり、アメリカに亡命する気満々な一同たち。

灰田「ともあれどういう展開になるかは分かりませんがね」

秀真「にしても今回は台湾独立が叶うのであれば、日本としてもかなりの戦力だな」

郡司「敵の敵は味方だからね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)、果たしてこれがどういう結果、展開になるかは次回の第二章の最終回で分かるからね、次に第三章に突入ですが……

灰田「ここでもまたどういう展開になるかは、予告しておきますね」

次回はとあるもう一つの大国、アメリカ視点からお送りします。
果たして連邦同様にこの海戦結果を知ったアメリカがどう思い、そしてどう行動をするかが注目されますのでお楽しみを。

灰田「すみませんね、私の代わりにしてもらいまして……」

いや、たまにはキミにも休んでもらわないといけないからね。

秀真「まあ、俺たちもこの間は休んでいるけどな」

郡司「久々の休暇は良いもんだよ、本当に」

灰田「ではちょうどいい時間になりましたので……次回まで、第六十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ」

郡司「ダスビダーニャ」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第六十八話:偽りの平和

イズヴィニーチェ、皆様に長く待たせてごめんなさい。
では予告通り、アメリカ視点からお送りします。
果たして連邦同様にこの海戦結果を知ったアメリカがどう思い、そしてどう行動をするかが注目されます。

灰田「ではこの言葉に伴い、改めて……」

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


湯浅の不安は的中した。

空母戦は『東京湾沖海戦』と、人造棲艦戦では『北海道沖海戦』と呼ばれるようになった日連海戦の三日後……台湾のレン総統は、台湾独立を宣言したのである。

 

正式な国名は『台湾民主共和国』。

次の国連総会で国連を求める要請も発表した。さっそく多くのアフリカ・アジア諸国がこの独立宣言を承諾した。

このニュースもまたCNNそのほかの国際ニュース、ネットなどにも大きく報道されて、世界中に流れた。

 

むろん同時に台湾軍部は臨戦態勢を敷き、台湾艦隊を澎湖諸島まで進出させている。

台湾は遥か南方の南沙諸島にも飛行場を持っている。

台湾本土に近い金門(チンメン)、馬祖(マーツ)両島には連邦国・深海棲艦による両者の攻撃があり次第、いつでも戦闘機部隊を派遣する準備を固めている。

しかし不思議なことに不気味なほど連邦・深海棲艦たちは静かだった。

むろん連邦国内は沸騰し、各都市では、腑抜けの軍部と深海棲艦たちを罵る大規模なデモが行われたが、いつものように一方的な弾圧はなかった。

じつはこのときの中南海は、日本政府からある通告を受け取っていたのである。

かいつまんで言うと、我々日本政府は台湾独立に全面支援しており、もし武力攻撃することがあればステルス重爆ことZ機部隊が河南省、洛陽、および青海省、懐化にある戦略ミサイル基地を爆撃する、というものである。

また深海棲艦が台湾海域に攻めれば、艦娘たち、海上自衛隊、多国籍海軍で攻撃すると言うものである。

 

日本は講和条件として、深海棲艦との停戦講和を求めることだった。

沖縄侵攻そのほかの軍事行動に対する補償は、いっさい求めないという極めて緩やかなものだった。

しかしこれは言い換えると、もしもこれら全ての条件を呑まなければ戦略ミサイル基地はもちろん、各都市を空爆すると言う恫喝があると恫喝を含むことは間違いないと、湯浅は考えた。

なお一度は拒否したものの、脅しでないということでZ機部隊は再び連邦国に配備されている戦略ミサイル基地ないし各都市を空爆した。

これに懲りた連邦国は、72時間後に返答することにした。

 

当然日本国民は、この政府決定に対して弱腰だと怒り狂ったが……久しぶりに大学生たちのデモが吹き荒れ、かつての日比谷焼き打ち騒動のようなことが起きたのだった。

これは日露戦争の勝利の後、ロシアに対する賠償要請が少なかったことに不満を洩らした国民は憤激、暴動が起こり、日比谷の交番を焼き打ちした事件である。

 

だが、安藤首相は冷静だった。

安藤首相を支持する元帥、秀真、郡司のほか各提督たち、古鷹たちを始めとする艦娘たちも同じく冷静だった。

連邦軍の海空軍を壊滅させたことにより、深海棲艦たちは厭戦状態になり、そして日本に敵意を持つ東アジア諸国の潜在的脅威は去り、今回の戦争目的を果たせたのだから。

またロシアも連邦と手を結ぶのではないかと安藤首相は恐れていたが、その事は毛頭なく、むしろ今のロシアは中立の立場であるため、そのような悪夢は去った。

仮にそうだとしても安藤首相の外交センスは、昨今の日本首相のなかではずば抜けていたためそのような失態はあり得ないが。

 

あとは連邦国からの返答待ちになったが、呆気なくこの条件を呑むことにした。

講和会議はインドネシアを煩わし、ジャカルタで開かれることに決定した。

しかしこの直後、事態が思いがけない方向に転がった。

アメリカが突然介入してきて、日本に対し、これらを一切許さないと言ってきたのである。

 

 

 

その1週間前のことである。

ちょうど『東京湾沖海戦』『北海道沖海戦』が行なわれた直後だが、ワシントン・ホワイトハウスでは、オーバル・ルームにハドソン大統領を囲んで各閣僚たちと補佐官、各軍部たちが集まっていた。

NSA(国家安全保障局)が重大な情報をキャッチしたものである。

この諜報機関はNASA(航空宇宙局)と協同で、衛星情報の解析を請け負っている。

 

「今度は何が起こったのかね?また日本が奇跡でも起こしたのか?連邦艦隊及び深海棲艦との戦闘はJSDFと艦娘たちの圧勝に終わったと聞いていたが……」

 

ハドソンはいささか不機嫌だった。

アメリカ抜きの日本が、連邦国と深海棲艦を押さえたことが不愉快なのである。

しかも自衛隊と多国籍支援軍、そして艦娘たちの勝利だ。

この摩訶不思議な戦争が始まるまで、そんな事を予測していた者は誰ひとりもいない。

NSAの担当官が局長に伴われて出席し、持参した衛星写真をテーブルの上に並べた。

これらは衛星が写しだした写真を大きく拡大したものである。

 

「これらの写真を解析すると、不可能なことが幾つかありました」

 

ヨーク参謀総長が言った。

 

「まず日本が突然所有した空母についてです。これは相模湾で艦娘たちと訓練するところを衛星が撮影しましたが、何枚調べても飛行甲板には人影がありません。

この空母は、ロシア空母《アドミラル・クズネツォフ》の発展型と見られ、それよりもひと回り大きいのですが、我々の常識では艦載機を発進するときには、飛行甲板要員が何十人も必要です。しかしいくら写真を調べても、人間の姿は見られないのです」

 

「また連邦空母《天安》の艦載機……J-31とSu-33の両艦載機が日本機と交戦しました。

しかし不思議なことに過去に我々が制式採用していた艦上戦闘機……F-14《トムキャット》なのですが、なぜ日本が持つようになったかも分かりません。

……その空戦を撮影した写真を詳しく解析したところ、トムキャットのコックピットにはパイロットの姿がありません。コックピット自体が狭く、人間の入る余地がないのです」

 

NASA衛生担当者は続けざまに、説明をした。

 

「なお各艦娘たちには大和級と思しき、いや、我々の常識を覆すような2隻の超空母級は

四発爆撃機《連山》を、かつてコードネームではハリーと呼ばれる大型爆撃機を装備していますが、これにジェット艦載機の発進に必要なアングルドデッキまでも装備しています。

ハリーを搭載しなければ、恐らく200機ほどは搭載できると考えられます。

そして各艦娘たちも見慣れない砲塔を装備しており、新型深海棲艦の艦載機はもちろん、その親玉ですらも蹴散らすほどの威力を持つ新型連装砲らしきものと護衛艦並みの装備に、さらに見慣れない魚雷まで装備しているのです。最後に彼女たちを指揮する提督が乗艦している我が最新鋭ミサイル巡洋艦《ズムウォルト》には、レールガンを装備しています」

 

そこにいた者たちは顔を見合わせた。

このような場面は今まであったと、ケリー国防長官は考えた。

日本が奇跡を起こすたびに顔を見合わせたものだ。

 

「どうもキミの言っていることが、よく分からんのだが」

 

ハドソンは顔を顰めた。

意見がブレ、血の巡りのあまりいいと言えない大統領である。

大統領にも当たり外れがあるが、ハドソンは外れの方の大統領だろう。

以前のレームダックと呼ばれた弱腰大統領も、またブッシュ・ジュニアも同じと言える。

 

「一体どうだと言うのかね?まさか空母と艦載機が自動で動いていると言う訳でもあるまい」

 

「それがまさかなのです」

 

ケリーは言った。

すでにそれらの写真を見て、彼なりの結論を引き出していた。

 

「おそらく、この空母は無人化されているに違いありません。内部の人間が乗っているかどうか分かりませんが、少なくとも艦載機の発進は全て自動で行なわれているとようです。

しかも艦載機もまた無人機で、おそらく高性能なコンピューターか人工知能を搭載して、

それで戦闘しているのでしょう。

言うまでもなくパイロットが乗らないのであれば、人間の生理に配慮する必要がありませんから、機体は数十パーセント増しの性能が引き出せます。

連邦戦闘機が役に立たなかったのも当然でしょう」

 

「……無人空母に無人戦闘機だと?」

 

ハドソンは苦笑いした。

 

「私にはSF世界の話しに思えるがね。我が国ですら人工知能を搭載した無人戦闘機はおろか、レーザー砲も開発されていないのだろう?」

 

「目下開発ですが、あと数年も掛かるでしょう」

 

ケリーは認めた。

 

「しかし日本人は開発しました。いいえ、何者からか貸与されたのかもしれません……

あの《ミラクル・ジョージ》に、見られない艦娘たち、彼女たちの装備のことも合わせると、それが妥当だと考えられます。未来技術が投入されているのであれば、未来人が関わっているとしか考えられません」

 

ミラクル・ジョージとは、Z機に対する米軍の付けたコードネームである。

米軍はコードネーム好きなのか、今日までのあらゆる兵器などにもコードネームを付ける。

 

「何と言う事だ。SF世界が現実と化していると言うことか」

 

ハドソンはため息をついた。

 

「しかし、ともかく東アジアの戦争は終わった」

 

ハドソンは他人事のように言った。

グレイ首席補佐官とケリー国防長官、マーカス国務長官たちは秘かに視線を交わした。

こんな鈍感な大統領のもとで働く羽目になった自分たちを嘆いていたのだ。

 

「大統領閣下、日本がこれだけの戦力を手にしたとすると、我が国の安全保障に掛かります」

 

マーカスははっきり言った。

 

「それは分かっている……だからこそキミたちは《チェリー・プラン》を立案中に伴い、連邦国の中岡大統領たちが亡命をした時は、快く受け入れる準備も万端なのだろう?

……しかし、この段階になって本気で日本と戦争をするわけではあるまいな?」

 

「しかし、いまここで日本のこの不可解な戦力を、艦娘どもも同時に潰しておかないと、日本がアジアの覇権国となり、パックス・ジャポニカが出現することになるでしょう。

親日寄りのロシアのことも考えますと、我々はますます孤立し、世界唯一の覇権国家としての我々のプレゼンスも失います。

……強いアメリカであったからこそ、世界平和が長年も保てたのです。

しかし我々が求心力を失えば、アラブ世界でも増々困難が生じ、世界秩序がより大きく乱れます。これは本来の我が国の国是から外れます」

 

なんとも夜郎自大な発言だが、マーカスは本気で言っているのである。

 

「それとも大統領閣下は、日本がアジア全体を支配し、さらにロシアと手を組んで世界の半分はおろか、世界覇者になる事を望まれますか!?」

 

むろん、いまの日本政府はそんな意思は少しも示していない。

しかし超タカ派のマーカスの視点から見ると、強大な軍事力をも握った国家は必ず覇権国家を目指すのである。

日本に負けるまえの連邦国がそうであったように、日本も何時そうなるか分からない。

 

「では、いったいキミはどうしたいのかね?」

 

大統領がケリー国防長官に尋ねた。

 

「我々はふたつの選択肢があると考えています。

ひとつは安全保障を維持したままを条件に、日本に軍に破棄させること。

いや従来の自衛隊と艦娘たち、PMCはそのままでいいのですが、新たに手に入れた戦力を破棄すること。

もうひとつは、もし日本がこれを拒否した場合、太平洋軍の兵力を総動員して、これらの新兵器を潰すことです」

 

「それはちょっと虫が良すぎると思わないかね?」

 

大統領が答える前にマーカスが言った。

 

「……いかに日本人がお人好しでも、長年同盟国を保ってきた我々の要求を簡単に了解はせんだろう」

 

「実は、わたしもそう思う」

 

ケリーは冷ややかに言った。

 

「これは実力で日本の新戦力を、我が国の脅威となる新戦力を叩き潰すための謀略なのだ。

日本はここまで馬鹿にされれば、実力で我が国に刃向かうだろう。その時、我々は国際的非難を受けることなく、これと戦える」

 

「うむ……」

 

大統領は苦しげに頷いた。

 

「キミの言う事はよく分かるが、ひとつ疑問がある。その問題の日本の新戦力だが、我が軍の戦力を持ってすれば撃破は可能かね?」

 

ヨーク参謀総長が頷いた。

 

「いかに無人機であろうと中型空母では、我が空母戦闘群の比ではありません。

またミラクル・ジョージに関しては、修復した我が軍のB-2《スピリット》爆撃機で対抗できます。また本土にいる空母戦闘群を繰り出せば、楽に片づけると考えます」

 

「そうか、それならばいいのだが……」

 

大統領は呟いた。

どうもそう簡単にはいきそうにもない予感がしたのである。

 

「……それで、作戦開始はいつを考えているのだ?」

 

「早ければ早いほど良いと、考えています」

 

ケリーはいった。

 

「第3艦隊やほかの空母航空団をハワイに移動させ、これらをもって進撃すると同時に、回復したばかりのグアムから新たに修復したB-2およびB-52部隊を発進させ、十勝にMG《ミラクル・ジョージ》基地を叩く予定です」

 

「ふむ、そう簡単にことが運ぶと良いのだがな」

 

ハドソンは言った。

 

「だが、ともかくその前に外交努力に最善を尽くしてもらいたい。我々としては日本と戦争はしたくない。第一、国民が納得せんだろう」

 

ハドソンは初めて大統領らしいことを言った。

 

「分かりました」

 

ケリー国防長官は頷いた。

 

 

 

(第二章 了。第三章に続く……)




はい、ということで第二章が無事終わりました。
次回から第三章に突入することになります。
ここでも長い道のりでしたが、第三章も引き続き楽しめてくれたら幸いであります。

灰田「今日は皆さんご存知と思いますが、戦艦大和と矢矧率いる第二水戦が坊ノ岬沖、
五十鈴はスンバワ島のビマにて沈んだ日です。大和たちと彼女たちとともに戦った英霊たちのために敬礼!」

秀真「敬礼!」

郡司「敬礼!」

元帥「敬礼!」

彼女たちのために黙祷であります。
この戦いもまだまだ続きますが、第三章も同じく気を引き締めます。
第三章は早い時もあれば、またオリジナル展開がありますので、そのためにやや遅い更新になるかもしれませんのでご了承ください。
この戦いはどういう展開になっていくのかは、第三章のお楽しみに。

灰田「では今日はこの日は大切な日なので、これにて失礼いたします。
次回からは第三章に突入いたしますので、作者の言葉通りですが、しばしお待ちを……それでは第三章こと第六十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ」

郡司「ダスビダーニャ」

元帥「ダスビダーニャ」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第三章:第二次太平洋戦争勃発!
第六十九話:ワシントン、対策を練る


イズヴィニーチェ、皆様に長く待たせてごめんなさい。
では予告通り、タイトルからして新たな戦いがこれより始まります。

灰田「なお第三章は原作とは一部違い、オリジナル展開がありますのでお楽しみください。故に新しい戦いの始まりでもありますが」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


20XX年4月。東アジアは新たな局面を迎えた。

連邦・深海棲艦の両者を相手にしての戦争において、日本は奇跡の勝利を果たした。

深海棲艦たちとの停戦講和を結ぶべく段取りをつけていた……そこにいきなりアメリカが横槍を入れてきたのである。

アメリカの言い分は、この落とし前は自分たちがする。

また虫のいいように日本が今まで手にした新兵器こと……新富嶽(Z機)と空母《飛鳥》に、そして各艦娘たちの未来艤装を破棄し、さらにアメリカに亡命を求める中岡たち率いる連邦幹部たちを裁かない、つまり無罪放免にすることを条件にしなければならないと告げてきたのだ。自分もやられていながらも、まことに自分勝手な発言である。

 

日本は、当然このような要請を無視した。

元帥たちもこれに断固として反対した。国際社会からの常識からしても当然である。

いかにアメリカと言えど、こんな自分勝手なふるまいは許さない。

日本はまず、最初の要請を無視し、そのあとワシントンの出方を見ることにした。

しかし、4月末に至り、連邦国内ではとある事態が起きてしまう。

連邦国では、兼ねてから心配されていることが起きた。

相次ぐ対日戦争の連敗が原因で、クーデターが勃発したのだった。

また台湾独立に続き、新疆チベット、ウイグル自治区も独立しようと反乱を起こした。

そして本当の民主国家になろうとロシアに亡命していたザオ将軍率いる中国人民解放軍も彼らに協力して、中岡たちを駆逐しようと準備をしていた。

残念なことにそうなる前にアメリカに亡命した中岡たちを拘束することが出来なかった。

捕らえた捕虜たちから聞くと、中岡たちは数隻の潜水艦でアメリカに亡命したとのことである。

なお戦艦水鬼たち率いる深海生棲艦たちも同じく中岡たちと共に、アメリカに亡命した。

だが、一党独裁だった中国、第二の毛沢東とも言われる中岡率いるブラック提督たちなどが恐怖支配する連邦国から、そしてついに本当の民主国家として生まれ変わったのだ。

ザオ将軍は日本の力は借りず、自分たちで国を建て直すと宣言した。

朝鮮半島に関してもイミンジョン大統領率いる親日派の者たちもザオ将軍たち同様、日本の力は借りず、自分たちで国を新たに建て直すと宣言した。

 

これにより史実上、連邦国は崩壊したのである。

連邦国が滅んだことは喜ばしいことだが、深海棲艦との停戦講和が無効になってしまったのは痛感であると同時に、またしても日本は難問が降りかかってきた。

 

 

 

 

霞ヶ関・首相官邸。

安藤首相、各閣僚たち、元帥たちが集まり閣僚会議が開かれた。

 

「ところでアメリカだが、大使はその後何か言って来たかね?」

 

安藤首相は開口一番に口を開いた。

 

「はあ、ウィルソン大使は三日ほどまえに早く返答せよとやいのやいの言ってきましたが、急にぷっつりと静かになりました」

 

大洲外相が言った。

 

「ふうむ、静かになったのか。そうなると返って不気味じゃな」

 

秋葉法務相はメガネを掛け直しながら呟いた。

安藤首相や元帥、秀真たちは、まあ、そうなるなと頷いた。

アメリカの沈黙は、理不尽な要求を突き付けるよりも不気味なものだ。

安保を維持すると言う条件に、日本が手に入れた新兵器を全て破棄せよ、中岡たちを無罪にせよとワシントンの要求を伝えてきたのは、ウィルソン駐日大使である。

 

安藤はこの要求を黙殺した。

これは外交のある国からの正式要請なので、黙殺すること自体は異例だが、安藤たちはそうすることで日本の意思を伝えようとしたのである。

 

「ワシントンは、どうにかして我が国に言うことを聞かせる方策を練ってきたのでしょう」

 

大洲が言う。

 

「大洲外相の言う通り、ことによるとアメリカはとんでもない荒っぽい方策をしてくるかもしれません。

なにしろあの2001年に起きた同時多発テロ事件、911事件や2015年に登場したISILが現われて以来、アメリカは変わり始めた。……いや、よりひどくなった。西部開拓時代に戻ってしまったようなものです」

 

元帥は発言に伴い、嫌な予感を感じた。

秀真たちも同じくアメリカが連邦国の残党と共に、何かを企んでいるのかを考えていた。

しかしこの胸騒ぎとも言える予兆が、ワシントンが中岡たちと共に軍事作戦を主体とした対日計画《チェリー・プラン》なる方策を的中させたかのように練っていたのだった……

 

 

 

ワシントン・ホワイトハウス

ハドソン大統領を囲み、閣僚と補佐官たちが対日政策について激論を交わしていた。

なお亡命してきた中岡元連邦大統領や湯浅主席、忠秀副主席、そして深海棲艦の戦艦水鬼たちも参加していた。ただし彼女たちに至ってはついでと言う事である。

中岡たちは亡命の見返りとして新型航空機《クラーケン》《ヘルキャット》に、あの恐ろしい非人道兵器こと人造棲艦《ギガントス》の製造データーを提供したのである。

 

「日本は相変わらず何も返答してきません。けしからんことです」

 

ケリー国防長官が歯ぎしりしながら言った。

この男は大統領周辺ではもっともタカ派であり、対日強硬政策の急先鋒である。

それ故に中岡や忠秀副主席と良好な関係を築いたほどである。

 

「我々連邦も同じく何だかの形で実力行使する必要があるのではないでしょうか」

 

忠秀が言うと、ケリーが頷く。

 

「日本が無回答については、充分に理解できます」

 

ケリーに比べて、遥かにリベラルで温厚派のマーカス国務長官が言った。

 

「客観的に見ても我が国の言い分は自己中心的ですから、日本が呆れたとしても無理はありません」

 

「国務長官、キミはいったいどっちの味方なのかね?」

 

ケリーが噛み付いた。二人はいわば犬猿の仲である。

 

「まあ、落ち着いてください。我々は共通の敵で結ばれた仲です。ここで仲間割れしても仕方ないことです」

 

「湯浅主席の言うとおり、そうしている間にも日本が得をするばかりです」

 

湯浅の言葉を繋ぐように、グレイ首席補佐官が割って入った。

 

「しかし、日本の沈黙は許せません。我が国を愚弄しています。やはりここは何らかの実力行使に出るべきだと考えていますが、いかがでしょうか?大統領閣下」

 

「……うむ、そうだな」

 

グレイの言葉に、ハドソンは曖昧に頷いた。

まだ任期を2年も残しているが、その残りを無事に過ごし、大統領の汚点を付けたくない。

しかしこの奇妙な戦争で日本が軍事的に予想外の実力をつけ、中岡たちが建国した連邦国を解体するほどに追い込んだ。

だからこそ流石に黙視できなくなり、《チェリー・プラン》の立案に伴い、中岡たちの亡命を承認したのだ。

ハドソンにもプライドがある。アメリカの威信を傷つけた大統領と歴史上の汚点を着たくなかった。

 

「いずれにしろ、本格的な軍事行動に出るのはまだ早すぎるでしょう。

また中岡連邦大統領率いる連邦亡命政府に我が軍の装備品も、軍事行動時には貸与します」

 

中岡たちはこの言葉を聞いてニヤリとした。

自称『地上の楽園』とも言える連邦国は失われたが、まだ徹底抗戦する意志はある。

日本を無条件降伏させた後は、日本を植民地にすれば良いのだという考えもある。

 

「その前に何か策を考えるべきです」

 

マーカスが言う。

 

「うむ。その意見には賛成だが、何か具体的なアイデアがあるのかね?」

 

「うむ、そうですな……」

 

マーカスが顎を撫でたとき、中岡がニヤリとして答えた。

 

「ハドソン大統領。このわたくしに良い考えがあります。よくお聞きください。

奴らを痛い目に遭わせるためには、まず手始めに貴国内の日本投資および産業を凍結したらどうでしょうか。

日本産業は、特に自動車産業においては害虫の如くアメリカに蔓延り、アメリカにおける生産量は、日本自動車産業の40パーセントに達します。

これですら優しい手口ですが、戦争を仕掛けるよりはマシで、貴国のメッセージは充分に伝わると考えます」

 

「それは素晴らしい考えですね、大統領閣下。ついで申し訳ないのですが貴国にいる日系人も抑留してリロケーション・センターに送ればよろしいかと思います」

 

中岡の側近とも言える忠秀が皮肉を込めって言うと、ケリーは『その通りだ』と頷いた。

 

「それは不味いですな。いまは第二次世界大戦の最中ではありません。そんなことをすれば、国内の人権派が騒ぎ出すよりはともかく、国際的にも非難の的になってしまいます」

 

グレイが指摘した。

 

「なにしろ、かつての戦時のときは日系人抑留に対しては、1990年代の末にようやくこの罪を認めて謝罪したのですから」

 

太平洋戦争の勃発とともにアメリカ政府は全米の日系人を抑留、移住センターに押し込んだ。移住センターと言えば聞こえが良いが、実態は強制収容所である。

彼らは営々と築き上げた財産は全て収容された。

ほかの敵性外国人……ドイツ人やイタリア人はこのような扱いは受けなかったのだから、明らかな人種差別である。

もっともドイツ系やイタリア系は、数が多すぎて抑留し切れなかったということもあるが。

しかしアメリカ議会は1990年代に至りようやくこの非を認め、日系社会に謝罪した。

細やかながらも補償もしたのである。

 

「荒っぽくはあり、むろん国際的には違法ですが、しかし経済封鎖だけではなら国際社会もまた日本のあまりに強さに不安と不気味さを感じているはずです」

 

これは確かにマーカスの言うとおりで、アジア各国をはじめヨーロッパ各国でも、日本の軍事力にいったい何が起きているのか、それを調べるため諜報機関がいっせいに活動を始めていた。

とくにイスラエルは関心が大きかった。イスラエルもまた日本と同じ小国で、自国周辺は敵国に囲まれているからだ。

今でこそ幾度も繰り返し行われた中東戦争は過去のものとなったが、アラブ民族はまだ決してイスラエルに気を許しているわけではない。

イスラエルが核兵器を保有していることは、公然の秘密だが、さらに日本がなぜこれほどまで強くなったのか、知る必要があるはずだ。

もっとも日本はスパイ防止法に続き、PMCや自衛隊の諜報部隊ないし特殊作戦群によって情報を阻止されているため、これを知ることが出来ない。

またそれを知ろうと工作活動をしていた者たちもいたが、言うまでもなく拘束ないし射殺されているが。

 

「しかしそんな事をすれば、日本もまた報復するでしょう」

 

サリンジャー財務長官が指摘した。

 

「日本は我が国の国債を四兆ドルも保有しております。むろん我々が政治取引で買わせたわけですが。しかし日本がこれを一気に市場に放出すれば、市場は大混乱になり、ドルが暴落することは目に見えています。我が国は大混乱します」

 

「であれば、日本の不可解な態度、いや好戦的な態度に照らして、日本が保有するアメリカ国債は全て無効であると言えば良い。そして新規に起債すればその穴は埋められるはずです。ドルが暴落することなんてありえません。

何しろ貴国の国債はリスクフリーと言われています。貴国がデフォルト(債務不履行)に陥ることはあり得ないのですから」

 

中岡は言った。

 

アメリカ国債は2種類に分かれている。

無記名の者と記名式のもので、前者はBILLS、NOTES、BONDSと呼ばれており、外国人では誰でも自由に買うことができる。むろん国際金融市場で売買できる。

後者はUS・SAVINGS BONDSと呼ばれ、アメリカ国籍を保有するもの、アメリカに住居

する外国人しか買えない。

日本が大量に保有しているのは、むろん前者である。

 

これで得た多額の資金のアメリカは、今回の戦争につぎ込んだ。

戦費は、総額1兆ドルに達した。これらの戦費はかつてのイラク戦争、米軍がイラクから撤退する際の戦費と同額である。

何のこともない。この費用は日本が出してやったようなものだ。

また各国がせっせとアメリカ国債を買っていることからこそ、その金がアメリカに還流し経済を支えてきた。

アメリカ国債保有国がリスクヘッジのために、一部をユーロに切り替えることになれば、ドルは下落させざるを得ない。

つまり現在繁栄しているアメリカ経済と言うものは、砂上の楼閣である。

一方……1000兆円に達する国債を抱える日本がアメリカ国債をなおも買い続けているのは、ワシントンからの圧力以外の何ものでもない。

かつて、橋本首相がアメリカ国債を売るかもしれないとほのめかしただけで、ワシントンは顔色を変えたことがある。

4兆ドルにも達する国債を日本が放出したら、アメリカ経済の被るダメージは計り知れない。

 

「我が国の国債を無効にする。そんなことが出来るのかね?」

 

ハドソンは半信半疑に言った。

 

「今までどの国もやったことはありませんが、しかしだからと言ってできない訳ではありません」

 

サリンジャーは答えた。

 

「ともかく、そう一方的に宣言すれば良いのです。我が国の国債を買っているほかの国はパニックにかられるでしょうが、これは日本だけに対しての特例だと強調すれば良いのです」

 

「ふうむ、中岡連邦大統領の提案したアイデアは良いかもしれませんね」

 

マーカスは再び顎を撫でた。

 

「日本は今度の戦争でだいぶ金を使い、懐は苦しいでしょう。そのなかで保有する巨額の債券が紙切れとなったことを知ったら、さすがにショックを受けるでしょう」

 

「良いだろう。ともかく在米日本資産と産業活動を凍結するという線で、まずやってくれ。それでも駄目なら、いよいよ国債無効と言う切り札を出すのだ」

 

ハドソンは決断した。いつも決断が遅く人の意見に惑わされる大統領としては異例の決断だった。

 

そんな彼らの会談を見ていた戦艦水鬼たちは悟った。

 

……厄介事になる前に、こいつ等と縁を切るか。と呟いたのだった。




と言うことで、第三章が今日からスタートしました。
やや唐突な展開と言いますが、連邦国は滅んだもののアメリカと結託して日本を膺懲しようと手を結ぼうとしています。
なお戦艦水鬼さんの心情も少しはありますが、果たしてこの心情がいかなる影響を与えるかはしばしお待ちください。

灰田「まあ、前者は膺懲しますが、後者は果たしてどうなるでしょうかね……」

新たな戦いが始まると伴い、次回予告をお願いいたします。

灰田「承りました。では次回は再び日本視点からお送りします。果たしてこの危機に対してどういう対策をするかはお楽しみに」

気を引きしめないといけませんが、やや時間が掛かるときもありますのでご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第七十話:日本の決断

お待たせしました。
では予告通り、再び日本視点からお送りします。果たしてこの危機に対してどういう対策をするという話です。

灰田「まるでタイトルが某『提督の決断』みたいですね」

いま気がついたら、そうなっていました。未プレイですが……

灰田「さて冗談は置いといて、改めて……」

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


霞ヶ関・首相官邸。

ウィルソン駐日大使からあらためて持って来たワシントンからの新しい要請に呆然した。

なにしろ先の要請が受け入れなければ、在米資産および産業を全て凍結すると言うものである。

 

「こんな無茶な!」

 

まず叫んだのは、塩島経済相であった。

 

「これでは太平洋戦争の再現です。まるで喧嘩を吹っかけるようなものです」

 

「まさにその通り、アメさんは喧嘩を吹っかけているのさ」

 

頬に苦い笑みを浮かべながら、秋葉法務相が言った。

 

「こんなことをされれば我が国の産業は破綻してしまう。とくに各自動車工業は壊滅する。

いかにアメリカが911事件やISILなど、そして深海棲艦の登場以降変質したとしても、これはあまりにひどい」

 

安藤は呟いた。

 

「これは、アメリカがいかに我が国の新戦力を恐れている証しです、安藤首相」

 

元帥は冷静に告げた。

 

「かつてのアメリカも妄想めいた戯言で我が国を危惧して、ABCD包囲などをしましたからな」

 

「彼らは、我々や彼女たちに太平洋の覇権を奪われることを過剰に恐れているのです。むろんそんなことはないのですが。しかも安保を自ら反古するとは悪童、いや、もはや暴君と変わりありません」

 

秀真、郡司も冷静に告げた。

秀真たちは恐らくアメリカに亡命した中岡率いるブラック提督たちに吹き込まれたのではないかと推測した。そうであってもなくともアメリカは相変わらず暴君である。

自分の理想だけを掲げて、わがまま勝手に育った悪童でもある。

しかも日米安保を反古して、中岡たち率いる連邦残党と手を結んで全てを暴力で解決するアメリカは、かつての反日三ヶ国で有名な特亜と変わらない。

元帥の言う通り、それ以上に性質の悪いものに変わってしまったといった方が正しい。

 

「しかし、アメリカを相手に戦争するつもりは全くない。第一、どうやっても勝てない相手だからな」

 

安藤が呟いたのは、アメリカはCVGS(空母戦闘群)だけでも6個持っているということである。

空母《ロナルド・レーガン》率いる第七艦隊は中岡率いる深海棲艦たちにより壊滅したが……それでも新たな第七艦隊を編成することなど容易いものだ。

《セオドア・ルーズベルト》

《エイブラハム・リンカーン》

《ジョージ・ワシントン》

《ジョン・C・ステニス》

《ハリー・S・トルーマン》

《ジョージ・H・W・ブッシュ》

などと言ったニミッツ級空母を6隻も保有している。

またPMCが提供してくれた最重要情報ではニミッツ級空母の後継艦《ジェラルド・R・フォード》級空母を就役させている。

因みに艦名は以下の通りである。

《ジェラルド・R・フォード》

《ジョン・F・ケネディ》

《エンタープライズ》

この三隻である。

しかも以前のニミッツ級よりも性能は格段と上がっているため、非常に厄介な存在である。

これらを見て分かるように、歴代大統領の名前が多い。或いは数多くの功績を残した海軍高官が多い。

 

これらの戦力のプロジェクション(投射)は凄まじく、中規模の国ないし小国ならば空母戦闘群だけで壊滅させられると言われているほどである。

しかもこれは空母戦闘群に限っての話しであり、アメリカはほかに3種類の戦略爆撃機、ロサンゼルス級戦略原潜、シーウルフ級と、バージニア級攻撃型原潜を多数持っている。

海軍もだが、空軍、陸軍力もずば抜けた軍事的巨人であり、例えEU諸国が束になっても敵わないと言われている。

彼らに、もしも連邦残党と深海棲艦までも加わったら、どう戦えと言うのか……

 

「心配なさることはありません。いくらアメリカでもまさか戦争まで考えていないでしょう。これは彼ら一流のハッタリなのです」

 

如月官房長官は言った。

 

「ですから聞き流せばいいのです。経済封鎖などと言うことは、敵国ないし対戦国に対して行うことです。もしこれらをやれば、アメリカは国際的な大非難を浴びるでしょう。

国内でも大ブーイングが起こるでしょう」

 

「はったりか……そうであれば良いのだが」

 

安藤は呟いた。

 

「もしハッタリでなく、万が一経済封鎖をしたときは、こちらも報復手段はあります」

 

塩島は言った。

 

「我が国は巨額のアメリカ国債を保有しています。これを全て叩き売ると言ってやれば良いのです。これはボクシングで言えばカウンターパンチのようなものであり、極めて聞くでしょう」

 

「なるほど」

 

秋葉はにやりとした。

 

「こちらもハッタリを交わすわけだな」

 

しかし、大洲外相は顔色を変えた。

 

「それは危険すぎます。そんな事をすればアメリカを本気で怒らしてしまうかもしれません。

あの国は自分からはともかく他国から恫喝されることがもっとも嫌いな国ですから」

 

「いや向こうが恐喝するのならば、こちらも毅然と肚を決めて掛からなければならん」

 

安藤は答えた。

 

「塩島くんの案はなかなか良い案だ。大洲くん、アメリカ大使にその旨を伝えてくれたまえ」

 

「失礼ですが首相、本気ですか?」

 

大洲は念を押した。

大洲は不備の多い日本外相としては有能な方だが、それだけにアメリカを怒らせるの怖さをよく知っている。

 

「ああ、私は本気だ。いまや無法国家になったアメリカに屈することはできん」

 

安藤がきっぱり言ったので、その場の雰囲気が決まろうとした。

しかし元帥や秀真たちは頷くことはなかった。

 

「もしもアメリカがそれを読んでいたら、どうするのですか。安藤首相?」

 

「どういう事だ、秀真くん?」

 

安藤は尋ねた。

 

「ハッタリにはハッタリを持って応酬する。これは基本的な戦略としては良いですが……

もしアメリカ国債を売ろうとしているのであれば、アメリカは我が国の国債だけを無効にすると可能性があると思うのです」

 

それを聞いた安藤たちは驚愕とした。

 

「我が国のみだと……鮫島くん、国際常識に照らしてそんな事は可能なのかね?」

 

安藤は財務相に尋ねると、鮫島はかぶりを振った。

 

「むろん国際常識に照らせばあり得ない話ですが、かといって、アメリカ自身が自らの信用を失う覚悟であればできないことはないでしょう。つまり、これは意図的なデフォルトと考えれば良いのです。国家が破産すれば、国債も紙切れになってしまいます」

 

「4兆ドルの損失は、今の日本には耐えられない」

 

安藤たちが悩んでいる時だ。

 

「安藤首相、彼女に考えがあります」

 

「彼女とは……?」

 

「秀真提督の艦隊に所属している青葉、情報戦は彼女の得意分野ですから、彼女の口から説明します」

 

元帥の指摘に、青葉は説明を始めた。

 

「これを世界中に発表すればいいのではないかと思います、ただし孫子の兵法のひとつ『兵は詭道なり』の如く、少し細工をして世界中に『アメリカ国債を無効、全世界にこの国債を保有する国はデフォルト宣言する』と発信しちゃえば良いのです。

いくら数多くの同盟国だからといって、アメリカの横暴を許すことはありませんから。

その裏をかいてしまえば、流石のアメリカも簡単に手も足も出ません」

 

「なるほど、流石のアメリカも簡単に手出しできなくなるな。流石だな、青葉くん」

 

「どうも恐縮です、安藤首相!」

 

青葉は嬉しそうに敬礼する。

 

「では安藤首相、彼女のアイデアを採用して対抗しましょう」

 

元帥の問いに、安藤たちは『よろしい』と頷いた。

これを聞いた秀真は頷き、古鷹たちも『やったね!』と喜んでいた。

採用されたと同時に、秀真たちは青葉たちと共にネットやTwitterに、YouTubeを利用して発信した。

なお郡司は、ニコライ率いる諜報部隊も動員させて協力した。

元帥はPMC社を通じて、そして安藤首相たちは各通信社を利用して、世界中に『アメリカはこのデフォルト宣言をする』と公言した。秀真たちの言う通り、やや大袈裟にさせたことは言うまでもないが。

これが効果を生んだのか、世界中がアメリカを大非難した。

しかし、この情報を聞いたアメリカは『根拠もないデマである』と反論した。

また日本にはウィルソン駐在大使を通して、ワシントンから『そのような事は一切ない』とだけを伝えたのだ。

秀真たちは見え透いた嘘、下手な嘘だなと皮肉ったが。

 

 

 

 

青葉の提案がこの危機を回避したものの、アメリカは76時間が過ぎても静まり返った。

この危機から対処できたものの、それでも閣僚会議は重苦しい空気だった。

これで一時しのぎではあるのだが、次はどう対処するかが問題である。

 

「本当に秀真くんたちの意見を聞いてよかったが、それでも次は何か別の経済封鎖を……いや、別の方法で圧力を掛けてくる可能性もあり得るな」

 

「返って静かすぎるのも不気味ですな、アメリカは本気を出すかもしれませんぞ」

 

秋葉は今までハッタリ論者だったが、この期に及んで豹変したのである。

最初から危惧していた大洲や、最初から警戒していた元帥や秀真たちは無口のままだった。

しばらく黙考していた安藤は、おもむろに矢島と元帥に声を掛けた。

 

「矢島くん、元帥……これはあくまでも仮定の話だが、もしもアメリカと戦端を開くとなれば、どれだけ戦えるのかね?」

 

閣僚たちは、それを聞いて一斉にたじろいだ。

まさか首相がそこまで考えているとは、誰もが思いも及ばなかったのだ。

 

「うーむ、こいつは難題ですな」

 

「私も同じく矢島長官と同じく深刻な問題ですな」

 

いつもならば冷静沈着の矢島は腕を組んで、彼と同じく冷静な元帥もこればかりは……と顎に手を当てて考え込んだ。

 

「確かに我々はZ機を200機と空母《飛鳥》を持っていますが、もしもアメリカが全ての空母戦闘群を太平洋に集めて攻め寄せてきたら、海自戦力はまず壊滅するでしょう。

Z機でグアム・サイパンを攻撃することはできますし、ハワイまでもなんとか届くでしょう。

しかし空爆だけでは敵戦力を壊滅することは難しいでしょう。

したがってZ機だけでは対応することができず、空母《飛鳥》だけでは、到底ですがアメリカ空母に太刀打ちできず、米軍が艦載機あるいは原潜によって戦術核を使ったとしたら、我が国の主要都市は壊滅するでしょう」

 

「私も大和たちや、秀真提督たちの艦隊に所属する彼女たち、親友がいるTJSの海軍力を合わせても深海棲艦や連邦残党に相手もできますが、米軍が加わると流石に対処しきれません。どれかがひとつが抜ければ楽でいいのですがね……

矢島長官の言う通り、我が国や各鎮守府が攻撃を受けてしまいます。

また連邦残党にたぶらかされたアメリカが、あの非人道兵器こと人造棲艦《ギガントス》を生産するために、太平洋の何処かで製造工場を持っているかもしれない」

 

「しかし、例のシールドがあるぞ」

 

二人の言葉に、安藤はそう答えた。

 

「そうですな。ですがシールドはあくまでも攻撃兵器ではなく、防御するためだけです。

灰田も言っていたじゃないですか……全ての都市を防備することはできないと。

我が国はすでに仙台市が大打撃を被りました。あとふたつか三つの大都市を攻撃され壊滅すれば国民は持たず、ギブアップを余儀なくされます」

 

「なにしろ敵は、最後の切り札として戦略原潜を持っていますから、好きなところからメガトン級ミサイルを撃ち込みます。できればそうならないことを願っているが……」

 

「しかし……アメリカは核兵器を使うのだろうか?」

 

矢島と元帥、そして安藤が問答を交わしながらの光景を見ていた秀真はこれに似た会話を見たことあるなと呟いた。

 

「郡司、この会議、あれに似ていないか?」

 

秀真は周囲に聞こえないように小声で呟いた。

 

「同志もやはりそう思うか?山本長官とあの無能な近衛首相の会話に似ているな」

 

「それだ、ようやく思い出した……」

 

太平洋戦争開始を控えての近衛文麿首相と山本五十六連合艦隊司令長官(GF長官)との対話である。

近衛が、もしアメリカとの戦端になったとき『海軍に勝算はあるのか?』と尋ねた。

これを聞いた山本はいささか憤然として『それは確かにやれと言われれば半年から一年は充分に暴れてご覧にいれます。しかし、それ以上となると責任は負いかねます』と答えたのである。

そして太平洋戦争の経過は、山本の言った通りになった。

しかし軍部上層部たちが闇雲に快進撃命令を繰り返したこと、その後の防衛計画の無防備さ、そして必要もない数多くの諸島などを占領したことが原因である。

自国周辺や資源が豊富な南方海域防衛および米本土に向かう輸送船団やパナマ運河など通商破壊を重視すれば、また違った結果になれたのは言うまでもない。

 

「果たして米軍は本当に使うと思うか、同志?」

 

「俺は使うと思う、最初は使わないが何処かで使うとだけは考えておいた方が良いかもしれない」

 

「本当にそうだと良いが……」

 

秀真は不安だった。彼だけでなく、元帥や郡司、各提督たちも同じ気持ちである。

もしやる時が来たら躊躇わずにアメリカと戦う準備は出来ている。

大切な彼女だけは死なせないことは何としてでも守り抜きたい。

 

愛する彼女を守ると誓ったんだ。

 

もう二度とあの大戦のように誰も悲しませない。

 

みんなで終戦を迎えるんだ……と拳を強く握り締めた。




原作では痛い目に遭っていますが、情報戦が得意な青葉のおかげで回避できました。
もっとも某『提督の憂鬱』に登場している”つじーん”こと辻政信大蔵大臣が加わったら、もっと面白いことになりそうですが(ニヤリ

青葉「青葉、伊達に取材なんかしていませんから。それに青葉の情報戦に勝とうなんて100年早いですよ」

灰田「まあ、あまり過信過ぎないようにしてくださいね」

青葉「どーも恐縮です!」

秀真「まあ、無理はしないようにな」

古鷹「あはは……」

加古「Zzz…」

衣笠「衣笠さんも疲れたな」

みんなお疲れのようだから、予告篇に移りましょう。

灰田「承りました。では次回は秀真鎮守府視点から始まります」

秀真「久々だな、何だか」

灰田「はい、それにわたしの登場でもありますし、新たな戦力を貸与するために出現します、その新たな戦力とはいったい何のかは次回のお楽しみです」

その戦力とは原作通りにするか、時代に合わせて変更するかは執筆中なのでお楽しみを。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹たち「「「ダスビダーニャ!!!」」」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第七十一話:新たな戦力

お待たせしました。
艦これ3周年のために気分が高揚しています。
それでは改めて予告通り、秀真鎮守府視点から始まります。
また久々の灰田さんの登場でもあります。

灰田「久々の登場とともに、わたしが新たな戦力を貸与するために出現しますが、果たしてその新たな戦力とはいったい何のかは本編で明らかになります」

では、またしても改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


秀真鎮守府。

秀真はその日の夜も眠らず、寝室を歩き回ってもの思いにふけていた。

いつもならば『夜戦だー!』と叫ぶ夜戦好きの川内もこの日ばかりは自重しているのか、とても静かな夜だった。

他の子たちも同じく就寝している子もいれば、秀真のように起きている子も少数いた。

古鷹たちは秀真のベッドを借りて、静かに寝息を立てて寝ている。

これで戦争が終わったのかと思うと、今度はアメリカと戦うのかと思うと不安もあった。

またあの超大国が仕掛けた戦争に日本は敗北を味わうのかと……

経済戦争の応酬がエスカレートしたときには、アメリカは本気で日本に対して武力行使をするどうかということだ。

なにしろ70年間以上にも渡り、日米安保、日米同盟を結んできたのだから、そんなことはあり得ないだろうという思いがあった。

 

いや、連邦国と深海棲艦に勝ってからはアメリカの態度は大きく変わってしまった。

確かに連邦国のミサイル燃料注入時は同盟国である以上は、それを教えてくれた。

あの時、連邦の隠し玉である空母《天安》と、非人道的兵器である人造棲艦《ギガントス》を偵察衛星で確認しながらも情報提供をしてくれなかった時点で敵意を感じた。

ワシントンは、日本がどこまでやれるのかと試していたということになる。

そこには明らかに底意地の悪さ……悪意がある。

そして連邦国と深海棲艦に完勝したいま、アメリカは日本に対する警戒を強めたことは間違いない。

 

だからこそ新富嶽ことZ機の廃棄、空母《飛鳥》の廃棄、そして古鷹たちの未来艤装の廃棄も強く言ってきたのだ。

 

今は連邦残党軍と共に手を結び、アメリカは日本を仮想敵国として見ている。

元帥や郡司、各提督たち、そして安藤首相たちも同じくそう考えている。

確かに世界最強ともいえるステルス重爆200機もの存在は、アメリカにとって脅威だろう。

もっとも空母《飛鳥》はとるに足らない存在だが、米空母1個戦闘群だけで片づけられる。

《飛鳥》が搭載するステルス無人艦載機は、彼らの脅威だろうが、しかし結局は物量を誇る米空母戦闘群の戦力には勝てない。

ともかくどう考えても、先の大戦の二の舞になりかねない。

だからと言って、アメリカの恫喝に屈するわけにはいかない。

ましてや要求を呑んだら、次は確実に古鷹たちに牙を剥いてくる可能性が非常に高い。

彼は守り抜くと誓った、例え自身の命が散ろうと必ず守ると心から決意したのだ。

安藤首相や元帥、郡司、ほかの提督たちも同じようにしているのだろうと考えていた時だ。

 

「提督…まだ、起きていたのですか……?」

 

先ほどまで寝ていた古鷹は、眠たそうな目を擦りながら起きた。

 

「すまない、古鷹。起こしてしまったか……」

 

「謝らないで下さい。私は大丈夫ですよ」

 

「そうか、なら良いが……気分転換にコーヒーでも飲もうかなと思っていたところさ」

 

古鷹には顔を見ずに呟いたが……

 

「……提督、相変わらず嘘を付くのが下手ですね」

 

やはり不安を隠しても古鷹にはお見通しである。

彼はいつも背中で語ることが多い、顔を見せることは余程のときしかないのだから。

 

「……ああ、本当は不安で堪らない」

 

本当ならばアメリカと戦争はしたくない。

かつての戦争の原因を起こしたのはアメリカだ。

だからいくら同盟国でも秀真は、先の大戦のアメリカがやった行為や、彼女たちを沈めたことは決して許しを与えることは出来ない。

しかし非情な運命はまたしても来たのかと、秀真は不安で堪らなかったのだ。

 

「私も不安ですよ、提督」

 

「……分かっている。俺がいる限りはそうはさせない」

 

「提督、前にも言いましたよね。簡単に約束しないで下さい、できない約束は」

 

「それでも守ると誓ったんだ。もう誰も悲しい思いはさせないとな……」

 

「提督、わたし怖いです」

 

古鷹は彼の胸元で弱音を吐いた。

 

「またあの時みたいに、みんながバラバラになるのが怖いんです。みんなで終戦を迎えるんだ、って決めたのに……青葉の、本当の気持ちだって聞けて、第六戦隊の絆がまた強くなったのに……」

 

「……古鷹」

 

短い会話をすると、突然と部屋の気温が急激に下がった。

ふたりは彼が、灰色服の男こと……灰田が現われるときの現象だなと悟った。

彼が来るときは必ずそうであり、次元の壁を通るときにこちらの世界の熱エネルギーが奪われるらしい。

次の瞬間、灰田の姿はおぼろかな影から実態となって現われた。

例によって灰色尽くめの服装を纏っているのは変わりない。

 

「しばらくですな、秀真提督に、古鷹さん。連邦国・深海棲艦との戦いは一段落しましたが、また新たな緊急問題が生じたようですな」

 

灰田は言った。

しかしこれは単なる言葉の綾で、灰田がそういう時はすでに全てを把握しているのである。

 

「まあ、そう言うことになるな」

 

「はい……アメリカが無理難題を持ちかけてきましたが、灰田さんは全て承知しているのですか?」

 

古鷹の問いに、灰田は頷いた。

 

「はい、むろん承知しています。あなた方が知らないことも掴んでいますよ。

三日前に秀真提督や青葉さんたち、安藤首相が行なった情報戦に負けたのにも関わらず、ワシントンでは、連邦亡命政府ととともにお仕返しと言わんばかりに強硬に国内経済封鎖と日系人抑留に踏み切るつもりです。

この強硬策の音頭を取っているのはケリー国防長官と、連邦国の秀忠副主席ですが……

彼らにしてみればこれは日本人に対する膺懲……つまり、懲らしめることですな」

 

「何と言う事だ。もうそれはすでに決定されているのか?」

 

「ここ一週間以内にそれを断行されるはずですから、在米資産や日本人駐在員の引き上げは急いだ方が良いでしょう。彼らは日系人を弾圧するつもりですが、しかし人数が多すぎて日本に引き上げるわけにはいかないでしょう。そもそも彼らはアメリカ人なのですから」

 

「相変わらず過去に行なった同じ方法をすれば良いのかと考えているのか」

 

秀真は言った。

 

「それでワシントンは本気なのですか?」

 

古鷹は尋ねた。

 

「むろん本気です。なにしろアメリカの助けを借りず、連邦国と深海棲艦を打ち破った日本をこのままにしておくわけにはいきませんからな。

ともかく、その牙を抜く必要があると言う理由で中岡たち率いる連邦亡命政府……元より残党軍ですが、お互いにそう考えているわけです。

日本が100パーセントの要求を受け入れなければ次に軍事作戦、最初は南シナ海域封鎖に進むでしょう。

今度は連邦国の潜水艦などではなく、アメリカ原潜に日本のタンカーは脅かされるわけですな」

 

「ふうむ、シーレーンを断ち切られれば立ちゆかんな。それでなくとも経済にも回復しないといけないのに……」

 

「これじゃあ、本当にあの時のようになってしまうの……」

 

そう呟く古鷹に、秀真は彼女の頭を撫でて落ち着かせた。

 

「ですから、お二人にお聞きしますが、アメリカと連邦残党軍がこれほど理不尽な真似をしてもじっと我慢するおつもりですか?」

 

灰田の問いに、秀真は迷うことなく言った。

 

「俺はやってやる、みんなを守ると誓ったんだ」

 

秀真の覚悟は変わらなかった。大切な彼女たちを守りたいと言う覚悟は揺るがない。

むろん古鷹も同じことを言った。

 

「私も覚悟は出来ています、提督は私たちに教えてくれました。『運命に翻弄されるな』と言って、私たちを救ってくれました。だから、こんな横車を、理不尽な運命を跳ね返したいんです!」

 

二人の覚悟を聞いた灰田は微笑した。

 

「あなた方の覚悟を承けたまりました。アメリカと連邦残党軍の鼻っ柱をへし折り、一矢報いたいと言う覚悟を聞けて良かったです。ですから私がその手助けをしましょう。

新富嶽と飛鳥にプラスして、さらに新兵器を導入して差し上げましょう」

 

「……しかし新兵器と言っても、アメリカに太刀打ちできるだけの軍事力を持つのは不可能と思われるが」

 

「私たちにも限りがありますから難しいかと思いますが……」

 

「こと太平洋の覇権を握り、アメリカに日本の純然たる主権を認めさせるためだけであれば、それほど困難なことではありません」

 

灰田は平然と言った。

 

「むろんアメリカは戦略核を使い、日本を滅ぼすつもりならば別ですが。しかし、いかにアメリカといえども、それほど無茶なことはしないでしょう。それこそ世界の反発を買い、この地上の孤児になってしまいますから」

 

「ああ……灰田の言う通りだが、具体的にはどう考えているのか?」

 

灰田は微笑しながら答えた。

 

「まず、アメリカの誇る空母戦闘群に対抗するために、ニミッツ級空母を4隻、こちらに送り込むことにしましょう。この空母戦闘群の戦力は米空母とほぼ同等、いいえ、寧ろそれらを上回っています。

なんとなれば全艦載機はステルス化し、例によって無人艦船であり無人機ですから、その運動性は米空母を上回っているはずです。

乗員は1隻につき200名ですむことにしますから合わせて800名、この程度の人員ならば海自からひねり出せるでしょう。

しかしなお通常機関とはいえ、スターリング・エンジンを用いるつもりです。このエンジンについてはご存知ですか?」

 

「むかし聞いたことはあるが、思い出せないな……」

 

秀真はどこかで聞いたことあるが思い出せなかったが、古鷹は頷いた。

 

「確かシリンダー内部に密閉された水素、ヘリウムに外部から加熱と冷却の交互を行ない、ピストン運動を起こさせるもので燃料効率が極めて良いものであり……

また、太陽熱や地熱、放射性同位体の放射性壊変により発生する熱や内燃機関等の廃熱などで熱源として可能な夢のエンジンですね」

 

「その通りです。熱源としてはそれらで利用できますから、事実上、無限です」

 

「ありがとう、古鷹。思い出させてくれて」

 

「いいえ、明石さんや夕張さん、瑞鳳さんが話していたことを思い出しただけです」

 

「そっか……あいつ等らしいな」

 

後日、教えてくれたお礼でもしないといけないなと思いつつ、秀真は聞いた。

 

「しかし米軍は豊富な護衛艦も大量に持っている、しかもその多くがイージス艦だ」

 

「私たちでもイージス艦クラスになると苦戦してしまいます」

 

「その点につきましては、潜水艦を多数用意することで解決したいと思います。

これももちろんロボット潜水艦で、米軍の攻撃型原潜《シーウルフ》または《バージニア》級に匹敵する性能、兵装をもち、速力はそれを上回ります。

これはごく小型の核融合炉エンジンを使い、ノイズはほとんど出さず、最大速力は36ノットを可能とします。

また水中ステルス機能、つまりソナー音波を完全に吸収する外殻を備えています。

乗員は20名程度で済むように設計してありますから、乗員は海自の潜水艦部などから抽出すれば良いでしょう。この原子力潜水艦を100隻用意するつもりです」

 

「空母に潜水艦、ほかにもあるのか?」

 

秀真は尋ねた。

 

「ええ、ほかにも古鷹さんたちの艤装をより最大限にまで強化にしたいと思います。

また土佐姉妹や富士姉妹たち、そして赤城さんたちの艦載機もより強力にしたいと思いますのでこちらも準備万端にいたします。

これらを新富嶽と飛鳥、古鷹さんはじめとする艦娘たちを合わせれば、少なくとも西太平洋の守りは完璧であり、米軍を東に押し返すこともできるでしょう。

それらの艦艇と艤装、そして艦載機などの詳細データを渡しておきますから、研究しておいてください。

むろん安藤首相や元帥たちなどにもわたしの分身……クローンが説明していますのでご安心を」

 

灰田が言うと、一枚のデータディスクを秀真に渡した。

 

「なるほど、凄まじい戦力だな」

 

受け取りながら、秀真は言った。

 

「そこまで好意を示されると、我々としては寧ろ恐縮ですが……」

 

灰田はにやりとした。

 

「ともかく我々、未来の日本人としては対連邦・対深海棲艦戦争にすでにコミットしてしまったわけですから、その結果生じる事態にも責任がある訳です。

アメリカがこのような態度に出ることは、すでに予測されていました……と言うより正確に言えば、我々が予知していたわけですが。むろん、我々の予知が正確なことはご存知ですな」

 

ふたりは頷いた。

未来人が時間を自由に操れるとすれば、予知も簡単なはずである。

 

「……分かった。重要なことだ。俺たちの運命であるからな」

 

「はい、その通りです。アメリカは連邦残党軍とともに《チェリー・プラン》と呼ばれる日本抑圧プラン、対日計画を作成しています。この中核は軍事計画です。

それがすでに動きだしているのですから急いでください。強く念じれば、わたしは現れますから」

 

そう言い残すと、灰田は幽霊の如く、すぅと消えた。




原作同様に灰田さんはニミッツ級空母と原潜をもたらしていますが、最初はニミッツ級空母ではなく、今年就役する最新鋭空母《ジェラルド・R・フォード》にしようとしましたが、田中光二先生の別作品『超日中大戦』では退役している通常空母ことキティホーク級空母が出ていましたから、下手にするよりはね……
ですから変更せずに、ニミッツ級空母にしました。

灰田「まあ、わたしの手に掛かれば《ジェラルド・R・フォード》並みの強さですが、ふふふ」

……そうですね、確かに。

神通「提督……おめでとうございます。今日は、大切な日。神通も……お祝い申し上げます」

ありがとう、神通さん。

秀真「おめでとう、兄弟」

古鷹「私たちを知ってから、執筆し始めたんですよね」

加古「作者も、やるときゃやるもんな」

青葉「青葉も取材しちゃうぞー♪」

衣笠「第六戦隊が大好きだもんねぇ♪」

神通「私も嬉しいです♪」

ああ、古鷹たち、神通さんに、田中光二先生作品に知ってから書き始めましたから。
出会わなければどうなっていたか分かりませんね。
この出会いに感謝です。

郡司「いろいろあったが上手くいったな、同志」

木曾「無理はするなよ、本当に」

元帥「疲れていたのであれば休めばいいのだから」

灰田「私も出会えてよかったですよ」

ああ、本当に感謝です。では予告篇に移りましょう。

灰田「承りました。では次回はこの話を聞いた秀真提督たちはどういう風に対策を練るのかに伴い、アメリカがまたどのような事をするかに注目すると良いかもしれません。果たして今後はどういう展開になるかはお楽しみに」

次回はやや短いか、いつも通りになるかは執筆中ですがお楽しみに。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹たち「「「ダスビダーニャ!!!」」」

郡司・木曾・元帥「「「ダスビダーニャ!!!」」」

作者・神通「「ダスビダーニャ!!次回もお楽しみに」」


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第七十二話:強行される対日経済政策

お待たせしました。
それでは改めて予告通り、秀真提督たちはどういう風に対策を練るのかに伴い、アメリカがまたどのような事をするかに注目という話であります。

灰田「今回は短めですが、楽しんで頂ければ幸いです」

それではこの言葉と共に、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


第七十二話:強行される対日経済政策

 

秀真・古鷹たちは翌日起きたことを加古たちに説明した。

なお灰田の話しを聞いた安藤首相は再び閣議を行ない、同じく灰田から話しを聞いた元帥や郡司なども召集した。

秀真たちは灰田が現れたことと、彼が教えてくれた出来事を知らされると閣僚たち全員絶句した

 

「……するとなんですか、灰田氏の言葉によれば、アメリカは中岡たち率いる連邦残党軍とともに、我々の回答如何に関わらず、再び経済封鎖と日系人抑留を断行すると言うことですか?」

 

塩島経済相は尋ねた。

 

「その通りです、彼は決して嘘をつきません。我々を担いでも何のメリットもありません。だから彼の言葉を真実と受け取り、可及的速やかに経済界にそれを知らせ、在米資産と駐在員の引き揚げを計ってください」

 

「しかしそんな事をすれば、さらにアメリカを刺激してしまう。安藤首相も元帥はもはやアメリカの要求を呑まないように決断するのですか?」

 

秀真の説明に大洲外相は反論したが、安藤は落ち着きを払って答えた。

 

「大洲外相、落ち着きたまえ。これに関しては一週間後のアメリカの行動を見て決断しようと考えている。ワシントンがもし連邦残党軍と手を切り、平和的解決を望めば、強圧的手段は取らないだろう」

 

安藤の言葉を繋ぎ合わせるように元帥が答えた。

 

「しかし、最初から連邦残党軍同様に我が国を弾圧壊滅するつもりであれば、彼らは躊躇なくこの手段を取るだろう」

 

「私には危険な賭けにしか思えませんが、止むを得ないでしょう」

 

大洲は呟いた。

 

「……その、灰田氏が説明した新軍備のことですが」

 

矢島防衛省長官が言った。

 

「本官としては大いに興味があります。これまでアメリカが武力行使をすれば、とうてい敵わないものと諦めかけていましたが、灰田氏が事実そのような兵器を揃えてくれるのであればかつ。いや、少なくとも太平洋においては、互角に戦えるチャンスが出てきます」

 

「しかし対米戦争は望ましくない。国民になんと説明するのだ?」

 

秋葉法務相は言う。

 

「あの戦争の悪夢が襲い掛かってくるのだぞ。まだ歴史の中に葬られたわけではない」

 

「しかし、戦争を忌避するつもりならば、なぜ連邦国と戦ったのですか?」

 

秋葉よりひと回り年の若い榊原国交相が指摘した。

 

「我が国は連邦国の理不尽な振る舞いに対して立ち上がったはずです。これは国家としての“プリンシプル”であり、相手がどこであろうと変わらないはずです」

 

榊原国交相が言った“プリンシプル”とは、原理、原則だが、大義、理念、または主義の意味がある。

 

「安保を反古しただけでなく、連邦残党軍と手を結び平然と我が国を裏切ったアメリカに、もはやシンパシーを感じることはありません。

もしもミスター灰田が助けてくれなければ、我々は連邦国・深海棲艦に負けただけでなく、国土は蹂躙されただけでなく、世界制覇されていたに違いありません。

ミサイル攻撃の嵐を浴びていたのに違いありません」

 

榊原の言葉は正論だったので、秋葉は黙ってしまった。

 

「首相や元帥、秀真提督たちはいったいどうお考えですか?」

 

榊原は詰め寄った。

 

「うむ……実は言えば私は五分五分なのだが、一週間後のアメリカの態度を見て決めようと考えている。ともかく相手はアメリカだ。今度は連邦国・深海棲艦のようなわけにはいかない」

 

「私も大和たちも覚悟している。いったん戦端が開けばアメリカはとことんやるだろう。

我が国はかつてのように玉砕する覚悟を持たなくてはならない」

 

元帥に続き、秀真、郡司も答えた。

 

「私はアメリカもですが、何よりも虎の威を借るキツネのような連邦残党軍を葬ります。

奴らとの決着をつけるためにも覚悟は変わりません」

 

「僕も日本や彼女たちを裏切り、アメリカに亡命した中岡たち連邦残党軍を粛清すべきです。売国奴同然の奴らを見過ごすほど甘い人格などしていませんから」

 

そのあまりにも重い言葉、二人の覚悟を聞いた全員が沈黙した。

誰もがかつての太平洋戦争を思い起こしていた。

最初の半年間は上手くいったが、しかし運命のミッドウェイ海戦に負けてから日本は押されてしまい、ついには二発の原発を喰らい、最後はノックダウンされた。

その苦痛と屈辱の念が、痛いほど刷り込まれている。

 

「つまり、国家の“プリンシプル”という問題と、強大なアメリカと戦う恐ろしい現実との相克なのです」

 

如月官房長官が問題を要約した。

 

「しかしわたし個人の考えを申し上げますと、ここでアメリカに屈すれば連邦・深海棲艦の戦いは何だったのかということになってしまいます」

 

「しかし……喧嘩は相手を見てするものだぞ」

 

秋葉は言う、いかにも老獪な政治家らしい台詞である。

 

「それに対しては、太平洋戦争もまた自衛の要約があったことを指摘したいと思いますが」

 

榊原は応酬した。

 

「白人国家の経済的封鎖にあって、我が国は息の根を止められる寸前だったことをお忘れなく。その意味で、あれは国家としての存続の血路を開く戦いでした」

 

他の者たちが秋葉と榊原にそれぞれ与していっせいに喋り始めたので、安藤は手を上げてその混乱を制した。

 

「まあ待て……ここで決断するのは早すぎる。ともかく、一週間を待ってから決めたいと思うがどうかね。

大洲くん、ウィルソン大使には国内世論が纏まらないにつき、もう一週間を待って欲しいと伝えてもらえないか?」

 

「……分かりました」

 

大洲はしぶしぶ答えた。

ウィルソン大使は日に日に居丈高になっており、猛禽類のような顔つきの男だ。

あの顔をまた見なくてはならないのかと考えると、うんざりしたのである。

 

「キミたちも何時でも準備ができるようにしてくれ。TJS社にも協力するように説明しておくから」

 

「「「はい、元帥!!!」」」

 

秀真・古鷹たちは一斉に敬礼をした。

 

 

 

その日のうちに各経済団体の代表が呼ばれ、鮫島財務相から現状リスクの説明を受けて、在米金融資産の引き揚げ、また駐在員の引き揚げが勧告された。

しかし、アメリカの銀行に置いてある資金だけなら動かせるが、自動車産業のような装置産業はどうにもならない。

アメリカに造った工場をそっくりそのまま持って来るというわけにはいかないのである。

とりあえず操業は中止、駐在員は帰国せよという社命が出された。

またハワイを含むアメリカ領土への民間人の旅行は、政情不安定につき禁止と言う行政命令が出された。

 

各企業は大混乱とも大混乱となり、日米航空路線は突然全便が満席となった。

それでも一週間以内に駐在員全員を帰国できるかどうかは危うかった。

そのために各航空会社とも臨時便を出した。

それほどアメリカに働いている日本企業に、その企業人が多いということだ。

同時に訪日して来るアメリカ企業人も途絶えた。

アメリカ企業体もまたワシントンの意思を秘かに知らされていたのである。

国際市場はこの怪しげな雰囲気を察して嫌気が差し、商いは低調となった。

青葉たちが提案したアイデアは、最初は誰もが信じられない噂としてなったが効果はなかなかのものであった。

また日本が膨大なアメリカ国債を放出するとの噂が流れ始めたのである。

もし事実であれば、ドルは大暴落する。

 

 

 

5月5日。

すなわち、灰田が秀真・古鷹たちのところに現れてからきっかり一週間が経った……

これは日米の時差を見込んでの話であるが……アメリカ政府が突然、全米の日本資産の凍結、または日系人の抑留政策を発表し、ただちに連邦亡命政府とともに行動に移した。

また日本所有のアメリカ国債無効を宣言した。

このアメリカのショッキングかつ理不尽な仕打ちに衝撃を受けたのは世界各国であって、事前に覚悟していた日本は少しも驚かなかった。

むしろ、灰田の予告があまりにも正確なために驚いたのである。

 

さらに、ワシントンはさらに声明を出した。

これは未知の大量に新型兵器を保有することに至った日本がアジアの一大覇権国となり、アジアを支配する野望を持っていることは明らかなので、この災いの牙を摘むための措置だと言うのである。

国連では緊急総会が開かれ、日本大使はこの経済封鎖、日系人抑留という非人道措置に対し、これを常任理事国の権限で無効にすべきだと演説したが、アメリカは拒否権を行使してこの可能性を断ち切った。

アメリカは操業していた全ての日本企業の工場は押収され、合弁は解消された。

逃げ遅れた駐在員も少なくなく全て抑留された。

日本政府は、これはまさに準戦時態勢であると受け取らざるを得なかったが、国連に調停を申し出ることは諦めた。

アメリカと連邦残党軍が牛耳る国連に頼っても全く無駄であることは分かり切っていた。

元より国連が役に立ったと言うことは今までもないに等しいが。

 

アフリカ諸国、インドやインドネシア、トルコ、台湾民主国家などの数多くの親日国は、アメリカに対して抗議の声を上げた。

またザオ将軍率いる中国民主国家やイミンジョン大統領率いる韓国も強く抗議した。

そしてロシアやEU諸国、とくにアメリカと伝統的に仲の悪いフランスは遺憾の意を示すことしか出来ず、またイギリス、ドイツも同じく遺憾の意を示すことしか出来なかった。

 

しかしアメリカは黙殺した。

馬鹿な親日国家や学習能力のない雑魚どもが幾らギャアギャアを喚いても、なんら影響が及ぼすものではないという態度だった。

儚くもアメリカのユニラテラリズムが露骨に、ここに表れたのだった。




原作でも同じくこのような展開になっていますが、この世界では一部変更しています。
この後はどういう風になるかは伏せておきます。

灰田「きな臭い展開になったことは間違いないですがね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
ここからはどういう展開になるかは、予告篇をお願いいたします。

灰田「承りました。では次回はまたしてもアメリカが予想外の行動を実行します。
そしてこの展開にどういう選択を、展開が起きますのでお楽しみを」

次回もまた今回と同じく短いかもしれませんが、お楽しみに。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第七十三話:宣戦布告なき開戦

お待たせしました。
小さな進歩ですが、お気に入りユーザー数が以前よりも増えて気分が高揚しています。
なおUA数ももう少しで20000になるのが楽しみです。
これからも少しずつですが、進歩していきます。

灰田「では改めて、予告通りまたしてもアメリカが予想外の行動を実行します。
そしてこの展開にどういう選択を、展開が起きます」

それは一体どんな展開かはお楽しみに、それではこの言葉と共に、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


アメリカがそのような驚愕と言うよりは、強硬な態度に出てから24時間後が経過した……

アメリカ大使は自ら帰国を申し出て、日米大使交換が行われることになった。

これは戦時の手続きであり、かつては交換船を使っていたが、いまは飛行機でことが済む。

つまり、いまや戦時となりつつあることを意味していた。

 

そのさらに24時間後……南シナ海域において日本に向かっていた重油満載の50万トンタンカー3隻、そして病院船2隻が、何者かの魚雷攻撃を受けて沈没した。

最初は戦艦水鬼たち率いる深海棲艦による攻撃かと思われたが、もはや戦力を失い、厭戦気分が高まっていた彼女たちが南シナ海域にいる時点であり得ないのである。

この攻撃に関してワシントンは沈黙したが、連邦残党軍とともに攻撃したのは明らかだ。

しかも病院船を攻撃したことについて各国は抗議をしたものの、これも黙殺したのである。

仮に抗議をしたとしても連邦と同じように『敵国に補給物資を積んだ他国の病院船が悪い』と言い逃れ、彼らなりの得意とする言い訳を言うことは間違いなしである。

 

これは日本が自分たちの言う事を聞かなければ、武力行使を辞せずと言う、ワシントンからのメッセージだったのである。メッセージと言うよりはヤクザの恫喝であるが。

同時に連邦残党軍は『我々は日本を膺懲するために、日本がこの地上から滅びるまで徹底抗戦をしてやる』と言うメッセージだということも含まれることも確かである。

 

このタンカー・病院船撃沈事件を受けて、安藤と元帥は第一回国防会議を召集した。

閣僚全員をはじめ統幕長、海上保安庁、警察庁のトップたちなどが集まった。

元帥の命令を受けて、秀真・古鷹たちも集まった。

 

これは史実上、アメリカと連邦残党軍と開戦すべきかどうか決定するための会議だった。

皇室の意思はここには反映されず、昭和憲法下では皇室は完全に政治不介入である。

明治憲法下でもそうだったのだが、天皇陛下の意思はおのずから尊重され、終戦に導いた。

 

「アメリカはついに武力行使に踏み切りました」

 

大洲外相は慨嘆するように言った。

 

「我々の外交努力が足りなくて申し訳ありませんでした。安藤首相、元帥……」

 

「いや、事態はもはや外交の枠を超えている。外務省のせいではない」

 

「大洲外相、あなたは最善の努力を尽くしたんだ」

 

安藤と元帥は言った。

 

「いまのアメリカがやっていることは、連邦同様、全て確信的行為でもない。

もはや我々の外交でどうなるものでもない。我々の選択肢はただひとつしかない……

再びアメリカの庇護下に入るというものだったが、ここまで踏みつけにされれば、それはもはやできぬことだ」

 

「連邦残党軍に洗脳されて、奴らに踊らされているアメリカを、彼らを元に戻すために我々が残された道はただひとつしか残っていないのだ」

 

「それでは総理、元帥……いよいよアメリカとの戦争ですか?」

 

鮫島財務相は言った。

 

「しかしアメリカとの戦争になると、我が国の財政が厳しいですな」

 

「鮫島財務相、あなたの言う事は分かっています。しかし幸いにも我が国は世界有数の預金国だ。軍資金は充分です。国債が暴落しない限りは何とか持つことが出来るでしょう」

 

「元帥、僭越ながら申し上げますが、もし戦争になっても長引くものではありません。

現代の戦争はスピードアップしていますから、恐らくは数ヶ月か、せいぜい半年で片が付くでしょう」

 

矢島防衛省長官が言った。

 

「ただし秀真提督が教えてくれた、ミスター灰田が約束した新軍備を我々が入手したとしての話ですが……」

 

「矢島防衛省長官、以前にも言いましたが大丈夫ですよ」

 

「……秀真提督の言う通り、ご心配は要りません」

 

秀真のタイミングを合わせるかのように、突然、壁際から聞き慣れた声が聞こえてきた。

秀真・古鷹たち、安藤首相と元帥、今ここにいるメンバーは、すでにほとんど全員が灰田の姿を見ているので、さしたるショックはなかった。

灰田は、何の前兆もなく現れることもできるのである。

 

「我々は、すでにお約束した戦力……空母戦闘群および特殊原潜、古鷹さんたちの新装備もご用意しています。

各艤装は各鎮守府に送りますのでご心配なく。

ただし前者……双方に関してはどこにそれを持ってくるのかという問題です。それを早急に指示していただきたい」

 

「実は、それはもう用意してあるのです」

 

如月官房長官が言うと、ペーパーを取り出して、灰田に手渡した。

これは安藤や元帥の密命を受けて、如月が防衛省と相談して作成しておいたシナリオである。

ニミッツ級空母4隻はなにしろ巨体なので、横須賀、佐世保、舞鶴、そして呉鎮守府の軍港にしか入れない。

これらの軍港にあるドックはこれらの空母の修理は可能だが、なにしろ灰田が持って来る空母は、人工コンピューターこと《マザー》が操艦する完全自動艦船である。

彼女が装備している艦載機もまた完全ステルス無人機で、艦は自動修理機能を持っている。

それらの機能は、灰田からあらかじめ渡されていたデータを解析して充分に分かっている。

だから、ドックは必要ないと言える。

 

問題は原潜の方で、アメリカの《ロサンゼルス》級原潜に匹敵する巨大な原潜を置いておく軍港と言うものがない。

しかし、これは小型核融合を持つ原潜なので燃料補給の必要はなく、史実上メンテナンスフリーなので、どこにでも停泊させることができる。

矢島たちは知恵を絞った挙げ句、鹿児島湾や陸奥湾、安芸灘といった広い湾に停泊させることにした。

 

むろんアメリカの偵察衛星で全て露見する、それは覚悟の上である。

 

「分かりました。なお皆さんにお伝えしますが、これらに続き新たな戦力が加わります」

 

「新たな戦力だと、我々は秀真・古鷹くんたちに、PMCや在日米軍だけだが、ほかにもいるのかね?」

 

安藤首相は聞いた。

 

「ええ、かつてあなたたちの敵でしたが、戦艦水鬼率いる深海棲艦が加わります」

 

これを聞いた全員が驚愕した。

 

「しかし深海棲艦は連邦残党軍との縁を切っていないのに、なぜなんだ?」

 

矢島は尋ねた。

 

「以前の海戦、秀真提督や古鷹さんたちが戦ったあの《ギガントス》を、中岡たちはそのデータをアメリカ亡命時に、アメリカに提供したのです。

アメリカと連邦残党軍は再び人造棲艦《ギガントス》などを建造しています。

しかも戦艦や空母、重巡などを量産、さらに用済みとなった戦艦水鬼たちを秘かに殺そうと考えているのです。

ただし自分たちに寝返った連邦派の深海棲艦たちは除いてですが……」

 

「……散々使った挙げ句、使えないと知ると見捨てるとはクズも良いところだな」

 

秀真が呟くように答えた。

 

「その通りです。いましばらく時間は掛かりますが、彼女たちが亡命を望む際には必ず快く受け入れてください」

 

秀真は彼女たちの行為は決して許しておけないが、しかしいまは私情を慎み協力すべきだ。

中国のことわざでは確か“呉越同舟”とすべきであると……

 

「本来ならば敵ですが、みすみす困っている者たちを放ってはおけません。安藤首相……

彼女たちが亡命した際は快くお願いいたします」

 

「秀真提督の言う通り、もし彼女たちが亡命してきたら私の管轄で捕虜にしますのでご安心ください。空母水鬼たちもこっちに来てからは友好的な関係になりました。ですから私からもどうかお願いします」

 

「僕からもお願いします、安藤首相」

 

「私たちからもお願いします」

 

秀真、元帥、郡司、古鷹たちの真摯な言葉に安藤は数秒ほど考えて、そして答えた。

 

「うむ、キミたちの真摯な言葉を裏切る訳にはいかない。彼女たちが亡命した時は快く受け入れたまえ」

 

「「「ありがとうございます、安藤首相!!!」」」

 

史実でも駆逐艦《雷》の艦長、工藤俊作は漂流中の英国海軍兵士を救助した。

安藤はこれを知っており、彼らも数多くの功績を残している。

だからこそ日本は、安保を守り戦い抜いたのだ。

そして未来ある若人である秀真・古鷹たちを裏切ることは、自分を裏切ったも同然なのである。

 

「ではお決まりになりましたところで、これらを検討してそのようにします。

古鷹さんたちの各艤装は早急に送りますが、空母戦闘群や特殊原潜は搬送のタイミングを追って知らせます」

 

向こうの日本からの搬送については新富嶽や空母《飛鳥》に、土佐姉妹や富士姉妹たち、そして古鷹たちの未来艤装のような前例があるので、もはや慣れている。

つまりいつも通り、場所と時間さえ決めておけばいいのである。

 

「では、またお会いしましょう」

 

そう言うと灰田は、すうっと消えた。

 

「ところでワシントンは宣戦布告をしてきませんが、本当にやるつもりでしょうか?」

 

大洲がなおも不安気に訊く。

 

「ワシントンはそんなことはせんつもりだろう。彼らはすでにタンカー3隻に、病院船2隻を沈めた。それが宣戦布告の代わりだ」

 

安藤が吐き捨てるように言った。

 

「ともかく、ことは決したとわたしは考える。好むものと好まざることに関わらず……我々はアメリカと連邦残党軍と戦火を交えなければならない。秋葉法務大臣の言葉を借りれば、これは売られた喧嘩なのだ。

我々は誇りある独立国家としてこれを受け入れて立つ。

矢島防衛省長官の言う通り、短期決戦で終結してくれれば良いが、それはアメリカと連邦残党軍の出方次第だ。

ともかく諸君、肚を括って責務を全うしてもらいたい。もしできぬ者がいるならば、ここで辞表を出してもらいたい。国民には私と安藤首相から話をする」

 

安藤と元帥は全員の顔を見回したが、誰ひとりも辞意表明する者たちはいなかった。

サムライはここに揃ったと、二人は感じたのだった。




ついに第三章『第二次太平洋戦争勃発!』に突入します。
果たしてどんな激戦を繰り広げるかは、しばしお待ちを。

灰田「なお戦艦水鬼さんたちの登場はしばらくまだ先ですので、少々お待ちください」

その際はオリジナル展開でもありますから、時間が掛かりますのでご了承を。

秀真「俺たちもアメリカと連邦残党軍の奴らと戦う準備は出来ている」

郡司「僕も同志たちと同じく覚悟はできているさ」

この戦いは次回のお楽しみでもありますし、これ以上はネタバレになりかねませんから、そろそろ次回予告に移りますね。

灰田「承りました。では次回はアメリカ視点になります。そしてついに対日計画《チェリー・プラン》が発動します。果たしてどういう展開になるかは次回のお楽しみに」

今回も前回同様に短かったですが、次回はいつも通り長めに戻りますのでお楽しみに。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ!」

郡司「ダスビダーニャ!」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第七十四話:チェリー・プラン、発動!

お待たせしました。
では改めて、アメリカ視点になります。
そしてついに対日計画《チェリー・プラン》が発動します。果たしてどういう展開になるかは本編を読んでからのお楽しみであります。

灰田「言わずとも私もとある場面で暗躍しているところがあるかもしれませんので、注目してみると良いかもしれません」

それではこの言葉と共に、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


アメリカは、軍を“統合軍”と名称で呼んでいる。

その統合軍はアメリカ大陸においては、北方軍と南方軍である。

ユーラシア大陸においては、欧米軍、中央軍、太平洋軍に分かれている。

指揮系統は大統領を最高指揮官とし、その下に国防長官、それから統合参謀本部議長が来る。議長は副議長を従え、その下に陸・海・空・海兵隊の全四軍……各参謀総長が来る。

ただし海軍は作戦総長、海兵隊は司令官と、それぞれ呼称が違う。

海軍の場合は、かつてトップが作戦部長と呼ばれていたことが名残だろう。

海兵隊については比較的規模が小さいので、そう呼ばれていると思われる。

これら参謀本部は、統合参謀本部に直属、各方面は議長に直属する。

言い換えると、参謀部が作戦を練ることはあっても命令を出すことはない。

 

一方ペンタゴンは、つまり国防総省は陸海空三軍の省を持ち、長官や官房長官が付属し、統合参謀本部も所属している。

この他に機能別の統合軍があり、予備隊の性格を持つ統合部隊軍、輸送車、特殊作戦軍などがある。これは特殊作戦を統括する。

この中で近年、もっとも活動しているのは、中近東とアフリカ北東部を管轄する中央軍で、湾岸戦争、イラク戦争などで活躍している。

 

今回、ハドソン大統領と中岡連邦大統領による両者の決断でいよいよ日米開戦が決まった太平洋方面では、むろん太平洋軍が主役になる。

これは陸海空三軍を持つほか、新たに戦力として加わった連邦残党軍と深海棲艦たちに、さらに少数ほど建造された戦艦、空母、重巡型の人造棲艦《ギガントス》がいる。

一度本土に戻った部隊は再びハワイないしグアムに駐屯していた。

ハドソンは在日米軍とPMC社は見捨てた方が得策だと、中岡たちの意見を受け入れた。

確かに提督や艦娘たち、そして日本に好意的な親日PMC社は厄介払いに丁度良く、さらに少数の在日米軍も予算削減のために見捨てる良い機会だと思った。

さらに細かく言えば、実際に作戦を担当するのは海軍だ。

ハワイとサンディエゴを基地とする太平洋艦隊は第三、新たに編成された新・第七艦隊という二個艦隊を持っており、空母は《ジョン・C・ステニス》《エイブラハム・リンカーン》である。

アメリカは原子力空母を9隻も保有しており、世界中に空母戦闘群として展開している。

 

ケリー国防長官は、連邦の忠秀副主席とともにこのたびの対日戦開始に当たり……大西洋艦隊から第二艦隊、在欧海軍から第六艦隊を持って来ることにした。

これらの空母は《セオドア・ルーズベルト》と《ジョージ・H・W・ブッシュ》で、全てニミッツ級である。

それぞれに護衛艦10隻ずつ、攻撃型原潜2隻ずつが付随しており、護衛艦艇は原子力艦艇を持ち、ほとんどがイージス機能を持っている。

 

ケリーがここまで戦力の充実を計ったのは、中岡たちから得た情報もあるが、日本の持つ不思議なステルス重爆ことZ機……米軍コードネーム《ミラクル・ジョージ》200機の戦力を決して過小評価しなかったからである。

この基地は北海道にあるのだが、連邦国の核ミサイル攻撃を受けてもなぜか生き残った。ほかにもどんな隠し玉を持っているか知れたものではない。

海自の空母《飛鳥》と護衛艦隊、元帥や提督たちの持つ艦娘たち、そしてPMC社の艦隊については心配ない。

これらが出撃してきたとしても、1個空母戦闘群と人造棲艦《ギガントス》などを差し入れるだけで片が付くだろうと誰もが安易に考えていた。

 

 

 

5月15日。

2隻の空母戦闘群が大西洋から回航されて来るのを待つあいだ……ケリーはペンタゴンのオペレーションルームに、ヨーク参謀総長、ジョンソン空軍参謀総長、フォーク海軍作戦部長とその幕僚たち、そして大統領の名代としてのグレイ首席補佐官を集めて、第一回の対日作戦計画を練っていた。むろん湯浅主席と忠秀副主席たちなども参加した。

彼らは日本人であるが、特別な存在として参加している。

 

「ヨーク大将。まず手始めとして、B-1B戦略爆撃機30機をグアムに移してもらいたい」

 

ケリーは命じた。

B-1B《ランサー》は、B-52大型戦略爆撃機《ストラトス・フォートレス》の後継機であり、現在アメリカ本土に100機が配備されている。

少数なのは高価なためであり、もはや現在の低強度紛争では戦略爆撃機の出番はないと考えられていたからだ。

このB-1B《ランサー》よりも高性能戦略爆撃機は、ステルス化されたB-2《スピリット》だが、これは非常に高価であり、わずか21機しか生産されていない。

しかし一度は連邦国の特攻攻撃で数機が失われたが、中岡たち率いる連邦国は深海棲艦たちから得た技術で修復させることが出来たので安心した。

しかし切り札として取っておくことに変わりないが。

 

「分かりました。日本に対する戦略爆撃をお考えですね」

 

ジョンソン大将が尋ねた。

 

「うむ、しかし最初から爆撃するわけではない。日本が屈服しないときの最後の手段だ。ヨーク総長、チェリー・プランの第一作戦ステージについて全員に説明したまえ」

 

「分かりました」

 

ヨークは答えると、楕円形テーブルの向こうの壁面いっぱいを占めるオペレーション・スクリーンの前に立った。

そこには、日本を中心とする西太平洋のマップが投影された。

 

「まず、我々としては例の《ミラクル・ジョージ》を壊滅させる必要があります。

これは今までのデータから見ますと、作戦行動半径1万キロを超え、グアムは元よりハワイまで届く可能性がありますから。この基地は北海道・十勝にある事が分かっています」

 

ヨークがレーザー棒で十勝平野を指し示した。

 

「ここを我が攻撃型原から“ウォーヘッド”を、核弾頭を搭載したトマホーク・ミサイルで攻撃し、壊滅させる予定です。これは当然奇襲となります」

 

「うむ……しかし我々の核ミサイルが通用しなかったことがすでに証明されている。

次の瞬間、そのエネルギーはどこかに消えてしまったのだ。

戯言を言う馬鹿な学者たちの間では、それをナノ秒の間の出来事だったと言う者もいる。

 

忠秀副主席は言った。

 

「そんなことが実際に起きるとは、にわかには信じがたいが、しかし実際に起きたのだ……我が国の偵察衛星が捉えている」

 

「これは、日本側にミサイル攻撃に備える時間があったので可能だったのでしょう。

以前の我々は日本を助けるため、これらを事前に持って警告していましたから。

しかし今回は、純然たる奇襲攻撃であれば上手くいくと考えます」

 

「そうだと良いがね……」

 

ケリーは渋面をつくった。心の奥深いところでは不安が蠢いていたからである。

むろん湯浅主席もよく分かっていたが。

 

「ともあれ《ミラクル・ジョージ》が消えれば、我々の心配のひとつは消える。

あとは中型空母を核とする空母戦闘群だが……空母戦闘群と言ってもちっぽけなものだが……これをどう叩くつもりかね?」

 

「なんとか誘き出して、新たに編成した第七艦隊でと決戦させます。まず硫黄島を潰し、さらに伊豆半島などを叩きながら北上すれば、彼らはやむなく出てくるでしょう。

何となれば東京を攻撃される恐れもありますから。その機を逃さず、叩き潰します」

 

「うむ、まずその線で良いだろう。もし邪魔が入らなければの話だが……」

 

ケリーは呟いた。

 

「邪魔と言いますと、艦娘たちですか?」

 

グレイ首席補佐官が尋ねる。

 

「いや、奴らはすぐに蹴散らせるから脅威ではない。わたしは予想外のことが起きるような気がしてならんのだ。日本がこれだけ強気でいるには何か裏がある。きみはそう思わんかね?」

 

「そうですな」

 

グレイは顎を撫でた。

 

「わたしは、日本は中岡連邦大統領率いる連邦国と深海棲艦たちを破り国家としての誇りに目覚めた。その誇りのためにあえて不利な戦いに踏み切ったと、解釈していますが。

また日本には自暴自棄な戦いの先例があることをお忘れなく。

かつての太平洋戦争末期にはカミカゼ・アタック(神風攻撃)は、そのたるものでした」

 

「ふん、自爆テロの元祖とも言えるな」

 

忠秀は吐き捨てるように言った。

海外ではそのように表現されるが、民間人を攻撃する自爆テロとは一緒にしてほしくない。

彼らは命をかけて愛する国の為に戦い、愛する者たちを守りたいという一途な思いで敵艦に攻撃をしたのであり、決して民間人を無差別に攻撃したアメリカや無差別テロを繰り返す過激派たちと一緒にする外国に言われる筋合いはないのだ。

純粋な想いで戦い散っていたパイロットたちに失礼であると思うのは筆者だけだろうか。

話しは逸れたので戻る。

 

「カミカゼか……」

 

吐き捨てる忠秀とは違い、ケリーは身震いした。

ケリーは50歳だから、むろん太平洋戦争などリアルタイムでは知らない。

しかし、カミカゼの恐ろしさは、様々な資料や映像で馴染みがある。

これはフィリピン攻防戦から始められたが、戦場神経疲労症または戦争後遺症とも言われ、これにかかる将兵が続出したほど恐怖のものに見えたのだ。

もし、日本軍がもっと早くからこの作戦をとっていたら、太平洋の戦況はどう変わっていたか分からない。

 

統合参謀本部のひとセクションである情報部の部長が入ってきたのはその時だった。

衛星データ解析を従えている。主任はハードケースを抱えている。

 

「重要な情報が入りました。議長。衛星でキャッチしたのですが……」

 

「日本に関することかね?」

 

ヨークは大将が念を押したのは、すぐに愚問であることに気付いたようだ。

さもなければ情報部長(大佐)が、自ら飛び込んで来ることはない。

大佐の名前はマッカーシーである。

 

「はあ、その通りであります」

 

マッカーシー大佐が部下に合図すると、スクリーンと繋がっているコンピューターコンソールに、部下はハードケースから取り出したMDディスクを差し込んだ。

コンピューターを操作すると、スクリーン上の日本マップの各場所に赤いスポットと黄色いスポットが現われた。

黄色いスポットのほうが圧倒的に多く、日本の深い湾を埋め尽くした。

 

「なんだね、これは?」

 

グレイ首席補佐官が尋ねる。

解析員がコンピューターを操作すると、今度は映像が現われた。

偵察衛星から撮影した映像から撮影した映像を拡大したものである。

それは明らかに空母だった、しかもニミッツ級空母にそっくりなアングルドデッキを持っている。

 

「最初にお見せした赤いスポットは、全てこの空母の所在を表したところです」

 

解析員が説明する。

 

「呉、佐世保、舞鶴、横須賀と言う日本の最重要軍港であり、艦娘たちを指揮する提督がいる鎮守府の軍港内にこれら我が軍の空母が突然出現しました。

周囲の施設の大きさから比較すると、そのサイズは《ニミッツ》級に匹敵すると思われます」

 

解析員がさらにコンピューターを操作すると、飛行甲板上の艦載機が拡大された。

 

「ご覧の通り、我が《スーパーホーネット》や旧式戦闘機《トムキャット》に、電子戦機、偵察機、そのほか我が空母の搭載機種に瓜二つの艦載機を載せています。

ミラクル・ジョージの性能から推察しますと、性能もまた我々の機体と同等か、あるいはそれを凌ぐでしょう」

 

マッカーシー大佐が言うと、その場にいた者たちは顔を見合わせた。

 

「何と言う事だ、きみは日本が我が《ニミッツ》級に匹敵する空母を四隻も手に入れたというのか?」

 

ケリー国防長官が呻くように言った。

 

「はあ、衛星のカメラは嘘をつきません。日本が何とかして偵察のカメラに細工を施したのではない限り、これらの空母は実在します」

 

「しかし……これはダミーではないのかね?」

 

ジョンソン大将が言った。

 

「昔、第二次世界大戦ではよく使われた手だ」

 

第二次世界大戦では、ダミーで敵の目を欺くことはよく使われた戦術である。

アフリカ戦線ではロンメル将軍の得意戦法であり、またノルマンディー上陸作戦では偽情報やダミーの軍隊などを利用して、ドイツ軍を攪乱させたのは有名である。

ケリーが被りを振った。

 

「日本が今更そんな馬鹿げたことはやるまい。ダミーの空母で我々が怯えるはずはないことは知っているからな。だから偵察衛星が捉えた以上、これらは実在するのだ」

 

「それだけではないのです」

 

大佐が言う。

解析員がさらにデータをいじると、今度は別な映像が流れた。

やはり大きな湾らしき水面に並列して浮かぶ潜水艦の群れである。

 

「これは鹿児島湾と呼ばれる日本本土最南端の湾に浮かぶ潜水艦を映したものです。

デッキに人間が出ているのがお分かりでしょうか?」

 

マッカーシー大佐はレーザー棒を取ると、その部分を指し示した。

 

「この乗員のサイズから艦の大きさを推定すると、我が《ロサンゼルス》級原潜に匹敵すると思われます。しかも日本はこれを100隻、各地の湾に浮かべています。

おそらく多数なので、本来の潜水艦基地に入れることができないのでしょう」

 

「四隻の《ニミッツ》級空母に、100隻の《ロサンゼルス》級原潜だと?」

 

「馬鹿馬鹿しいにも程がある、役立たずで馬鹿な艦娘たちに続き、最強とも言える空母と原潜も持つとは夢を見ているのか、我々は」

 

ケリーに続き、忠秀も思わず笑ってしまった。笑うしかほかはなかったのだ。

 

「しっかりしてください。長官、副主席」

 

ヨーク大将が言った。

 

「これはまた日本が奇跡を起こしたのだと考えざるを得ません。あのミラクル・ジョージが出現したときと同じように起こったのです」

 

「うーむ」

 

ケリーは唸ったが、額には玉の汗が光っていた。

 

「いったい日本をどこの誰が支援しているのだ?……やはり学者たちの言う通り未来人か、未来の別次元からやって来た日本人が助けているのか?」

 

「馬鹿な、そんなものはいない。夢物語に過ぎない」

 

またしても忠秀は吐き捨てたが、湯浅主席は落ち着きを払って答えた。

 

「真相は誰にも分かりません、長官。我々はこの謎を解くために海自の高官ないし提督を誘拐するために中岡大統領に直属する特殊部隊を九州・長崎に派遣したのですが、敵軍および敵特殊部隊との交戦により、見事に失敗しました。

したがって依然として真相は不明です」

 

「ともかく、これで我々の敵はさらに強化されましたな」

 

ジョンソン大将が言った。

 

「作戦を根本から変えなければいけません。これらの新戦力の実力は未知数ですが、ミラクル・ジョージの性能から考えてみて、我々の艦艇と同等の能力を持つものと考えておくべきでしょう。

つまり、日本は我々の空母戦闘群に匹敵する空母戦闘群を四個持ったことになる」

 

「いや、厳密に違うぞ」

 

ヨーク大将が指摘した。

 

「我が空母戦闘群は、強力な護衛艦を持っている。その総数は50隻以上だ。

しかし、日本の海自は30隻程度にしか過ぎない。うちに6隻はイージス艦だったが……

いつの間にか我が軍のズムウォルト級巡洋艦を10隻も持っているがな」

 

ヨークの口調は忌々しげに言った。

 

「しかし、我が軍はずっと多数のイージス艦を持っており、戦闘群の抗堪性が遥かに違う」

 

「おそらくはそのためですな、日本が潜水艦を100隻も揃えたのは……」

 

ジョンソン大将が指摘した。

 

「その護衛艦の弱体をカバーするためのものでしょう。本官の推測では、この潜水艦もまた極めて高性能だと思われます」

 

「……だとすると我々はどうするべきなのかね?」

 

「我が軍は二個空母戦闘群を大西洋から回させていますから、これが太平洋軍と合同すれば、戦力は同等となります。

しかし突然日本が空母戦闘群を持ったとしても、運用経験が無く、これを我々同様に使い熟せるはずがありません。ですから、依然として我々が優位だと考えます。

いや、中型空母はすでに持っていますが、ニミッツ級のような巨大空母になると話は別ですし、ましてや艦娘も同じくですが。

この正体不明の潜水艦には、第三艦隊に、新しく編成した第七艦隊所属の攻撃型原潜を全て出撃させて対応させます」

 

「日本は恐らくこの空母を外洋に出して慣熟訓練を行なうでしょう。新・第七艦隊はすでにハワイに到着寸前ですので、この二個艦隊をただちに日本近海に急行させ、敵が訓練中に叩くべきだと考えます」

 

こう発言したのは、海軍作戦部の主任作戦参謀ドミトリク大佐だが、彼はこの空母がコンピューターの頭脳を持つ無人艦船だとは思いも及ばなかったのである。

空母《飛鳥》の秘密もまだ米軍も、連邦残党軍にも露見していなかった。

艦載機もなぜあれほど強いのだろうと、不思議に思っていたのは事実である。

 

「ついでに艦娘たちの轟沈するところも撮影してくれたらありがたいな、例え出来なくても損害を与えて欲しいが」

 

忠秀は嫌味たっぷりなことを言った。

 

「うむ、まずそうするべきだな」

 

悪趣味なものだなと思いつつも、ヨークは決断した。

 

「ともかく、偵察衛星を続けてくれたまえ、新たな情報がすぐさま知らせるように」

 

マッカーシー大佐は頷いた。

 

しかし、その大佐の約束も反故されることになる。

 

24時間後。

日本上空を通過できる複数の偵察衛星が全てマルファンクション(機能不全)に陥り、映像が一切入らなくなった。

その原因は謎だった。まるで一斉にウイルスに侵されたようだった。

パニックに陥ったペンタゴンでは、新たな衛星の打ち上げ準備を指示したが、衛星はすぐに打ち上げられるものではない。

軌道計算からはじめ全ての準備を含めると、2週間は時間が掛かる。

それまでの間、米軍および連邦残党軍は耳目を奪われた状態で動かなければならなかった。




ついにアメリカは、連邦残党軍とともに対日計画《チェリー・プラン》を発動しました。ゆえに全ての偵察衛星が全てマルファンクション(機能不全)になるのは、田中光二先生作品では日常茶飯事です、たぶんですが……

灰田「藪から棒ですね、本当に……」

(まあ、なった原因は言うまでもないが……)

灰田「何か言いましたか?」

次回予告をね、お願いしようと思いましてね。

灰田「承りました。では次回はアメリカ視点から日本視点に戻ります。以前わたしがご紹介しましたニミッツ級空母、潜水艦が登場いたします。古鷹さんたちの未来艤装はまだご紹介は致しますね、驚かせた方が面白いものですからね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)

今回は久々に長く書きましたから目が疲れましたゆえに、少しとある事情で傷心してしまいましてね。

秀真「まあ、気にするな。兄弟」

郡司「愚痴ならば聞くぞ」

スパシーバ、投稿後は飲んで忘れよう。

灰田「わたしもお付き合いしますよ」

次回は投稿できるかどうかは分かりませんが、しばしお待ちください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ!」

郡司「ダスビダーニャ!」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第七十五話:日本再武装!

イズヴィニーチェ。
大変長らくお待たせしました、では予告通り灰田さんがご用意したニミッツ級空母、潜水艦が登場いたします。

灰田「なお事情により、古鷹さんたちの未来艤装はとある話、オリジナル展開にてご紹介いたしますのでしばしお待ちください」

今回は一部変更がありますが、それでは改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


まだ生きていた米軍の偵察衛星が捉えており、日本主要軍港四箇所(鎮守府)と各地の大きな湾に空母4隻と100隻の潜水艦が出現した。

これは5月14日の出来事で、統幕長が灰田にそう指摘したのである。

 

あらかじめ選抜されていた乗員……空母は200人、潜水艦は20人……が、すぐさまそれらに乗り込み、灰田から渡されていた資料とのつき合わせに掛かった。

艦内の精査が済むと試験運転である。と言っても例の通り《マザー》と呼ばれる中枢人工知能が取り仕切るので、人間は一種の“バックアップ・システム”として、それをモニターしていれば良いと言うわけだ。

 

ニミッツ級空母の艦載機は、米海軍の持つ同艦……かつて艦隊防空戦闘機として活躍したF-14《トムキャット》戦闘機14機、現役のF/A-18E《スーパーホーネット》戦闘攻撃機36機、さらに電子戦機5機、電子偵察機5機、対潜哨戒機8機、対潜ヘリ8機など予備機も含めると90機も搭載している。その全てがステルス機体である。

ヘリのようにステルスし難い形状ものですら、ステルス素材は使われている。

これら全て無人機であることは言うまでもないが、その繋止(けいし)、発着艦、兵器搭載・換装、格納庫に入れて整備など、全て《マザー》が操るロボットが行なう。

そのために艦内の至るところに、マザーの目を務めるテレビカメラが置かれている。

艦橋には空母《飛鳥》同様に、CIC(中枢コンピューター室)がふたつある。

ひとつはマザー用で、もうひとつは人間用である。

 

搭載するスターリング・エンジンは三軸のプロペラを持ち、日照時間は太陽光を取り入れて稼働、夜間は重油を利用して稼働する。

そのために飛行甲板は、未知の半透明なガラス状の物質で覆われ、太陽光が透過できるようになっていた。これは曇天でも太陽光を吸収できるようになった。

日本人がかつて見たこともない……それを言うならば、全人類にとって未知の巨大スターリング・エンジンが二基積まれ、空気から燃料の水素を取り入れる水素分離装置が付いている。最大出力は30万馬力。これによる最大速度は36ノットとされている。

米軍空母より実に4ノット速いのである。

各空母の艦長として抜擢された海自の一佐たちとその部下たちが、全システムを把握するのにたっぷり24時間掛かった。

それから湾外の広い外洋に出て、慣熟訓練ということになる。

針路、速度には艦長が命令する余地がある。戦闘開始を決定するのも艦長である。

しかし、いざ会敵して戦闘になってからは、全てマザーに任せなくてはならない。

なにしろ米軍の空母であれば、3000人が乗り込んで動かしている巨大空母を、僅か200人でコントロールできるわけがない。

いわば、これは一種の強大なブラックボックスといった方が良い。

 

ニミッツ級空母の慣熟訓練を行なっている一方……

鹿児島湾、陸奥湾、若狭湾、播磨湾、安芸灘などに出現した潜水艦には、艦長以下それぞれ20名の要員が乗り込んだ。

これはエンジンが、未だに人類が実現していない超小型の核融合炉だというのだから、空母よりもブラックボックス化されている。

人間の居住区は中央部の艦橋真下にあるだけで、潜望鏡による索敵行動は、マニュアルに切り替えられるが、あとは全てマザーが動かす。

搭載している武器はトマホーク、ハープーン、魚雷と多彩だが……ただし弾頭は通常型だけである。

 

トマホーク・ミサイルの航続距離は200キロメートル。ハープーンは100キロメートル。それぞれ1トン爆弾に匹敵する弾頭を積むので、その威力は高い。

そして何よりも重要なのは、艦殻が全て完全ステルスということだ。

これは、護衛艦や艦娘たちを繰り出してのテストでも確かめられた。

これらの潜水艦はソナーをいっさい受け付けない。音波を吸収されてしまうのである。

したがって、敵が探知しようとすればパッシブ聴音に頼るほかないが、核融合炉エンジンは極めて静粛性が高く、普通の原潜とは全く違うのである。

郡司の艦隊に所属している響ですらもこの原潜を捕捉するのは難しかったと言うぐらい静粛性が高かったことも証明されたのである。

 

原潜と言うのは、本来騒音が高く……特にソ連原潜や中国原潜はうるさくて容易に探知できた。

しかしこの潜水艦に関しては、米軍のベテラン聴音員にしても探知は困難だろう。

艦殻はステルス性を持つと共に、未来の複合合金を使ってあるので、潜航可能限度は600メートル。さらに50メートルのマージンをとってあると、マニュアルには書かれていた。

これこそ驚くべき性能である。かつてソ連はオールチタンの外殻を持つ潜水艦を造り、それは500メートルまで潜れると言われた。

しかし、それが潜水艦としての限界だった。むろん探索用潜水艇を除いての話だが。

これはアメリカ原潜の最大潜水深度300メートルを軽く凌ぎ、それだけでもアドバンテージだった。

これら潜水艦も艦内点検を済ませた後は、外洋に出て護衛艦と艦娘たちと組み、模擬訓練をやることにした。

 

 

 

これらの状況を把握した後は、統幕本部では、艦名を付けると言う仕事が残っていた。

空母はともかく、原潜は100隻もいるのだから、一隻ずつの命名は不可能とすら言える。

旧海軍のようにイロハの記号と数字を組み合わせれば問題ないが、それではあまり味気がない。

統幕本部は頭を捻った挙げ句、全て名称は海龍で統一することにした。

それに伴い、数字を組み合わせる。すなわち海龍101号から200号までが艦名となる。

史実では太平洋戦争末期に開発された特攻潜水艇の名前であるが、ネガティブな名前ではなく、強力な原潜となって復活したわけである。

そこにはある種のノスタルジーがあったことは否めない。収容として死についた陸海の特攻隊員……内実はかなり荒れたのだが……彼らのための鎮魂を意味しているのである。

 

この勢いを駆って、四隻の空母の名前も《アカギ》《カガ》《ソウリュウ》《ヒリュウ》と名付けた。

全艦をカタカナにした理由は、赤城たちと区別するためと、統幕長は開き直ったように言った。

 

安藤や元帥もとくに意見は言わなかった。

第二次太平洋戦争、結構ではないかと言う勢いだった。

アメリカのやり口は目に余る。前の敗戦の雪辱を遂げたいという気持ちになっていたことは否めない。

いずれにしろ、戦争と言うのは綺麗ごとでは済まさない。

もしノスタルジーがエネルギーに変わるならば、それまた利用する必要があった。

 

100隻の原潜《海龍》は10隻ずつの10個戦隊に組織され、潜水艦隊司令官が把握する。

空母は《アカギ》と《飛鳥》で第一空母戦闘群。

《カガ》が第二空母戦闘群。

《ソウリュウ》が第三空母戦闘群。

《ヒリュウ》が第四空母戦闘群。

各艦隊をそう呼ぶと伴い、四個護衛艦群がそのまま付く。

海龍の10個戦隊のうち4個は、これらの機動部隊に所属する。

今まで持っていたそうりゅう型潜水艦と言った通常潜水艦は、これを補佐するが、速力の点ではついて行けないので、予備戦力として待機するのを余儀なくされる可能性がある。

これらが、空母と原潜を手に入れてからの海自のほぼ1週間の動きだった。

 

艦内システムの把握が完了すると、空母戦闘群も原潜も外洋に乗り出した。

いかにマザーに頼るとはいえ、マザーと人間の共同作業の部分について、すり合わせる必要がある。

高度に発達した未来の人工頭脳で感情も持っているから、乗員とのあいだに一種のシンパシーを醸成する必要もある。

 

つまり、信頼関係を持つということだ。

 

それにはやはり1週間から2週間の慣熟訓練、戦闘訓練も一緒だ。

空母《飛鳥》のときの経験が参考となった。

しかし新兵器をいかに使いこなすかと言う問題で、統幕本部ではまだ対米作戦を策定していなかった。

 

これは要するに敵の出方が分からないからである。

そのため第一次作戦会議は紛糾した。

 

まず、アメリカが太平洋艦隊の2個空母戦闘群を繰り出してくることは間違いない。

さらにおそらくバックアップとして太平洋艦隊の2個空母戦闘群も持って来ることもある。

これらの空母は全てニミッツ級原子力空母である。

これが4隻、数の上では互角だが、護衛艦は、ほとんどがイージス機能を持っている。

そして虎の威を借りるキツネのように連邦残党軍もしゃしゃり出てくるだろう。

ただし深海棲艦に関しては動きが分からない。彼女たちの場合はもはや日本と戦う気力はなく、厭戦気分が高まっている。

また灰田の情報では戦艦水鬼率いる深海棲艦たちは日本亡命をすると教えてくれた。

除外として扱うが、備えあれば憂いなしと言うように一部の深海棲艦は連邦派に残るため戦力はあると認定する。

 

なおこちらは、古鷹たちをはじめとする艦娘たちは172人未満。

秀真たちが乗艦しているズムウォルト級巡洋艦10隻。

海自護衛艦DDGは6隻。

こんごう型をはじめとするイージス艦6隻、ステルス巡洋艦は10隻である。

あとはフリゲートクラスのDDに過ぎない。

地方のDEは沿岸防衛用に控置しておく必要があるから、4個護衛隊群32隻しか使えない。

また速力の点で、在来の潜水艦も沿岸用しか使えない。

PMC海軍も強力な海軍力があるため、今回の作戦に参加するが、別の作戦になる可能性が高いため、どうなるかは元帥の命令で決まる。

そのために海龍で埋めなければならないが、どのように配置するのがもっとも効果的か。

 

幕僚のひとりが、秀真たちと同じように漸撃作戦をとるべきだと進言した。

これは主力艦の艦隊比率が10対7に抑えられているので、正面からぶつかっては勝ち目がない。

敵を大西洋から誘き寄せて、日本海軍の十八番とも言うべき夜戦で少しずつ減らしていき、兵力が同等になったところで決戦を挑むと言うものである。

時代が変わっても、太平洋でアメリカと戦うにはこれしか方法がない。

しかし、日本は偵察衛星を持たないままそれをするのは危険極まりない。

敵の衛星が故障をしない限りはこちらの行動が掴まれてしまう一方、日本は偵察衛星を持たないということであり、大きなディスアドバンテージとなった。

 

しかし、その会議の真っ最中に灰田が出現した。

彼の口から『たったいまアメリカの偵察衛星を全て破壊しました』と報告しに来た。

統幕会議のメンバー全員は驚くとともに愁眉を開いた。

考えてみれば、万事周到な灰田がこのハンディキャップを見逃すはずがなかった。

この敵情を掴むと言う点は、両者イープンとなったわけだ。

幕僚たちの大半は、4個空母戦闘群を東経160度のラインに並べ、ここを海の防壁とするという意見に傾いた。

矢島防衛省長官も基本的には賛成した。

 

しかし佐伯空幕長は、このラインの内部には米軍の海兵隊基地とともに空軍基地もある。

敵対前は戦略爆撃機が駐機しており、各深海棲艦の基地を空爆していた。

連邦国登場時には、滅茶苦茶に破壊されたが、自力か中岡たち率いる連邦残党軍が協力して復旧した可能性がある。

敵は、またしても戦略爆撃機を進出させているはずだ。

これをまず叩いておかないと、本土がいつ何時、米軍の戦略爆撃を受けるか分からないと主張した。

これはもっともな主張で、事実このとき米軍はB-1B《ランサー》30機をここに進出されていたのである。

 

ただし、すぐに使う意思はなかった。

ペンタゴンでは、日本の海軍力ないし艦娘たちなどを壊滅させた後、それでも日本がギブアップしなければ、これを使って主要都市ないし各鎮守府、彼らに味方するPMC社を空爆しようと考えていた。

そのときは戦術核を使うのも辞さない。

 

矢島は空幕長の意見を受け取り、十勝基地のZ機100機を動員、グアムを空爆させることにした。同時に、矢島はZ機を使ってのハワイ攻撃も研究させた。

オアフ島・パールハーバー(真珠湾)には、依然として太平洋艦隊基地がある。

こちらもグアム・サイパン同様に、復旧している。

再び太平洋司令部もここに置かれている。

 

ここを叩くことは絶大な戦略的意味がある。

もしタイミング良く、アメリカ空母戦闘群が集結しているときであれば、その効果は絶大で、アメリカはそこで戦争を諦めてしまうかもしれない。

しかし、これは甘すぎる見方もあることは、矢島はじめ幕僚たちには分かっている。

例え、4隻の空母を葬っても米海軍はまだ5隻の原子力空母を持っている。

アメリカが全力を挙げて掛かってくれば、その圧力は恐ろしいものである。

したがって、安藤首相や元帥の基本戦略は、まず太平洋において敵の進撃を食い止めて、その損害を極めて多大なものとなさしめ、この戦果をもってアメリカから和平を引き出すというものである。

 

この意向を向けて、佐伯空幕長はZ機によるパールハーバー空襲を検討した。

十勝からパールハーバーまでは、直線距離にしておよそ8000キロメートル。

Z機の航続距離は2万キロメートル。一応届くには届くが、ぎりぎりのところだ。

少しでも時間を過ぎると、基地まで戻れない。

空自はZ機をなるべく軽量化にすることで、これをカバーする作戦だ。

 

しかし護衛戦闘機を付けられないので、その代役を果たすZ掃射機改は欠かせない。

このZ掃射機改の重量がもっとも重いのである。

100基ものレーダー自動照準20mmバルカン砲を装備しているから当然だが、弾薬の重量だけでも相当なものである。

 

この一抹は不安があった。

不安と言えば、オアフ島は万全の防空体制を敷いているだろうから、そのミサイルの嵐もまた脅威だった。

連邦のミサイル部隊とは比ではないハイテクだからだ。

 

戦闘機も当然邀撃して来る。

これに対して10機のZ掃射機改がどれほど対抗できるか、やってみなければ分からないと言うのが分からないところが、本当のところだった。

 

空自はそのリスクを避けるため、まず100機でグアムを叩き、そののち200機全機でパールハーバーを攻撃することにした。

そうすれば20機のZ掃射機改が使え、防御力も増す。

 

統幕会議では、元帥たちとともにタンカーの安全性も計らなければならなかった。

すでに南シナ海域ではタンカー3隻に、病院船2隻が沈められている。

下手人はアメリカ原潜だということは明らかである。

 

すぐに政府は中東路線のタンカーないし病院船全てにインドネシア回りを命じた。

これは時間も燃料もかなりロスとなるが、安全のためにはやむを得ない。

同時に、このアメリカ原潜狩りに海龍1個戦隊などを差し向けることにした。

 

かくして、複数方面の作戦が動き始めた。




原作では改ニミッツ級空母の名前は漢字ですが、赤城さんたちと区別をするためにカタカナにしました。
なおとある同志がこのアイデアを提供してくれました、本当にありがとうございます。

灰田「今回はかなり手こずりましたが、どうにか完成しましたね」

はい、海龍はこのままで良かったですが、空母はどうしても漢字にするとややこしくなり兼ねないから時間掛かってしまいましたが(苦笑い)

灰田「まあ、そうなりますね」

古鷹たちの未来艤装はとある作戦時に明らかになりますのでお楽しみに。
こちらはしばらく掛かりますのでご了承ください。

灰田「では今回もいろいろありましたが、次回予告に移りますね」

いつもですが、お願いしますね。

灰田「次回はアメリカ視点から移り、その最中にいよいよ第二次太平洋戦争が開始されます。そして準備を終えた日本はついにグアム基地に向けて、Z機を出撃させますのでお楽しみを」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第七十六話:強襲!グアム基地

お待たせしました。
では予告通り、アメリカ視点から移り、その最中にいよいよ第二次太平洋戦争が開始されます。そして準備を終えた日本はついにグアム基地に向けて、Z機を出撃します。

灰田「はたしてどういう展開になるかは本編のお楽しみに」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


現代はインターネットなどのデジタル時代で、いかなる情報も瞬時に世界中を駆け巡る。

アメリカ政府が、日本の保有するアメリカ国債を無効にしたことは全世界を震撼させた。

こんな無法なことがまかり通るのなら、世界経済は成り立たない。

しかしワシントンは日本以外が保有する国債については、20パーセント価値を保証する、利率も上げると称したものの……アメリカに対する根強い不信感が芽生えたことは否めない。

 

この事が、のちにアメリカに大きなしっぺ返しとなって襲い掛かって来た。

またこれだけの情報がオープンになって、アメリカ以外の国が打ち上げている偵察衛星が宇宙を飛び立っている以上、米軍の動きは隠そうとしていても隠し切れるものではない。

アメリカ海軍がサンディエゴの新・第七艦隊をハワイに移したことを英仏テレビが報じ、また大西洋艦隊が移しつつあることも報じられた。

グアムに戦略爆撃機に伴い、地上部隊も配置されたことを報じられた。

 

各国も日本に同情し始めた。

日本は新戦力を手にして以降は、数多くの奇跡を起こし続けている。

世界を破滅にしようとした連邦国、彼らに味方した深海棲艦に勝利し、そしてアメリカのエゴイズムの犠牲になっている日本に同情し、味方をし始めた。

次第に緊張の高まる1週間が過ぎ、アメリカ大西洋艦隊の2個空母戦闘群はようやく太平洋に出て、サンディエゴに到着、補給を終えた後はハワイに向かった。

ハワイ到着後は、5月25日と見込まれた。

 

いっぽう、日本空母戦闘群も慣熟訓練期間が過ぎて配置に就き始めていた。

古鷹をはじめとする艦娘たちも灰田が新たに用意した未来艤装に慣れ、いつでも出撃できるように準備を整えていた。

そして原潜《海龍》の第一戦隊10隻は、南シナ海域に向かった。

空自ではZ機部隊の再整備を終え、グアム爆撃を始めていた。

 

 

 

ワシントン。

ホワイトハウスではマーカス国務長官、グレイ首席補佐官と広報担当補佐官が、ハドソン大統領が集まり、秘かに話していた。

強硬一本のケリー国防長官、中岡連邦元大統領、忠秀副主席は呼ばれていない。

広報担当補佐官は、シャーリー・モートンという黒人女性である。

有能なことで知られており、大手テレビ局のアンカー・キャスターから引き抜かれたのだった。

 

「我が国の評判は、いったいどうなっとるのだ?」

 

ハドソンが尋ねた。

もともと神経質な人物であり、このところの国際的論調がアメリカに批判的なことを気を病んでいる。

 

「素直に申し上げて、実のところあまりよろしくありません」

 

マーカスが答えた。

 

「やはり、日本のアメリカ国債を消してしまったことが堪えたようです。それに日系人の抑留もやりすぎという批判が出ています。イスラム諸国などは『鬼の首でも取ったようにアメリカ帝国主義の地肌が露出した』と、騒ぎ立てている始末です」

 

「……しかし、あれはケリー、中岡連邦大統領、忠秀副主席が言ったことだぞ」

 

「確かにその通りで、国防長官や彼らは日本にやる気を起こさせるためこういった荒療治ですが、少々やり過ぎたのかもしれません」

 

「確かにいささかやり過ぎましたな。日本が手に入れた新兵器は、実は強力なものです。

我が国の四個空母戦闘群と互角に戦えるかもしれません。

……これは極秘の情報ですが、連邦から入手した情報によりますと、日本空母の艦載機は全て無人機らしく、その運動性能はどの有人機よりも優れているらしいのです。

また空母ですら、完全自律性機能を持つと言う噂もありますが、こちらの方は定かではありません」

 

「それは何語だ?英語で言ってくれんか」

 

「つまりロボット艦艇だという事です。極めて高性能なコンピューターが中枢にいて、全ての機能を取り仕切っているのでしょう」

 

「しかし、そんな事が空母はおろか護衛艦のような大型艦艇で可能なのかね?」

 

「未来技術が加わっていれば、不可能ではありません。我が国や他国などでも無人偵察機や攻撃機に関しては持っていますが、ロボット艦艇も研究中です。

しかし、人間や艦娘並みの戦闘機能を持つコンピューターとなりますと、それこそ人間や艦娘たち並みの思考回路を持つコンピューターが必要でして、スーパーコンピューターをいくら並べてもそうはなりません。

あくまでも自己演繹を持つコンピューターが必要なのです。言い換えると人工知能が必要なのです」

 

「私としては、各国が保有する我が国債をリスクヘッジするために分散して売り出すことが心配なのです。恐らく我が国が日本に少しでも痛手を受ければ、そうなりかねません。……それでなくとも我が国の国債のクレディビリティ(信頼性)は怪しまれていますから」

 

「ううむ、利率をあれだけ上げたのにまだそうなるのか? ……我が国はデフォルト(債務不履行)などしないという事がまだ分からんのか?」

 

マーカスとグレイは顔を見合わせた。

ハドソンはアメリカ経済状況について、本当に分かっているのだろうかと、ふたりは考えていた。

 

双子の赤字は巨大さには凄まじいものだ。

アメリカは、つまり借金の上で成り立っている大国である。

得意の自動車産業は斜陽で、トップを走っていたIT産業はインドに株を奪われた。

食料は自給出来るが、エネルギーは輸入大国だ。

製造業もふるわず、航空機メーカーもEU諸国に押されている。

映画産業もかつてのように儲かっていない

 

つまり、アメリカは軍事力のほかに切り札がない。

 

もしアメリカの軍事力に“?”が付いたら……その結果を考えただけでもふたりは恐ろしかった。

 

「明日、大統領はテレビ会見を予定されておりますが、決して弱音を吐かないようになさってください」

 

モートン広報担当補佐官が言った。

 

「いつものように堂々となさり、アメリカは正しい戦いを行ないつつあると主張なさってください。

これは覇権国の野望を持つ日本と、艦娘たちを懲らしめ、アジアの安定を保つための戦いであると……かつての太平洋戦争を引き合いに出されるのがよろしいでしょう。

スピーチライターにもそのように言っておきましょう」

 

ハドソンは頷いた。

大統領は何人ものスピーチライターを抱え、スピーチを書かせている。

かつての太平洋戦争を持ち出すのはもっとも語りやすく、アナロジーも容易だ。

そう考えると、さすがに気の弱いハドソンでもだいぶ楽になった。

あの偉大な大統領……史上初めて大統領四期を務めたルーズベルト大統領のようなわけにはいかないだろうが、国民に耳を傾けることはできるだろう。

 

考えてみると、このふたつの戦争はまさに類似している。

 

双方ともその意図は、力をつけすぎた日本を叩くことである。

 

ルーズベルト大統領は大の日本嫌いであり、そしてドイツと戦いたいがために日本を戦争に引きずり込んだが、いずれは太平洋の覇権を争う運命にあった。

太平洋を挟んで退治している以上、それは避けられない運命だった。

 

 

 

このときペンタゴンでは作戦を練り直し、グアムに置いていた戦略爆撃機をまず使うことを考え始めた。

敵に所在が知られたら、そのまま見過ごすとは思えない……いや、もはや敵に知られたと考えるべきである。

そうなれば、先制攻撃を掛けてくるはずだと戦略空軍司令官が主張し、ヨーク参謀総長もそれを受けたのである。

その根底には、日本がニミッツ級空母4隻を持ったことが確認されたことがあり、グアム基地を叩くことを決定された。

 

作戦発起は、5月27日と決定された。

偵察衛星が謎のマルファンクション(機能不全)により使えなくなったため、具体的には空母や原潜、そして艦娘たちの所在が把握できない。

特に慣熟訓練を行なっていたはずの空母や艦娘たちが、いったん補給のために母港に戻る頃合いだと踏んでいた。

 

B-1B《ランサー》30機が全機出撃……高空から横須賀、佐世保、舞鶴、呉鎮守府や重要拠点とも言える港湾施設を空爆する。

仮に空母や艦娘たちがおらずともこれらが叩かれれば、日本は大打撃を受けるはずだ。

日本からグアムの距離は2500キロメートル、B-1B《ランサー》の最大航続距離は1万2000キロだから悠々と届く。

最初はB-2《スピリット》ステルス爆撃機で空爆しようとしたが、米軍の虎の子で修理したてでもやはり世界一高額な爆撃機を再び失えば痛いものである。

全機は本土に駐屯している。

 

これを護衛するのはF-15E《ストライク・イーグル》の作戦行動半径は1500キロなので、空中給油機を付ける必要がある。

小笠原諸島の西海面でまず給油、空中タンカーはそこで待機させておいて、帰路にもまた補給する。

 

30機のB-1B《ランサー》は7機ずつ編隊を組み、F-15E《ストライク・イーグル》10機ずつこれを護衛する。余った2機が予備機として待機しておく。

すでに日本人や外国人観光客が途絶えたグアム島では……サイパン島もそうだったが……迅速に出撃準備が進められていた。

 

しかし、アメリカ空軍および連邦義勇空軍の作戦変更のわずかに遅かった。

同様な作戦を考えていた日本の空自が、一足早く手を打っていたのである。

 

5月26日。

十勝のZ基地では100機のステルス重爆こと《新富嶽》が飛び立った。

マッハ1の速力でグアム基地を目指した。高度は1万2000メートル。

このうち10機がZ掃射機改である。

 

マツダ少佐率いるZ機アルファ部隊は2時間足らずでグアムに接近した。

グアム島・米空軍防空司令部では、レーダーがこれを捉えることはできなかった。

しかもあいにく低気圧が通過中で雲が多く、飛行機雲の視線も確認できなかった。

ステルス機の威力はここにあり、最大限にまで発揮されている。

しかも《新富嶽》ことZ機は米軍も持たない完全ステルス機……いわば夢のステルス爆撃機だった。

 

ペンタゴンでは日本と連邦・深海棲艦による戦争の経過を見て、このことに薄々気づいていたが、まさか《ミラクル・ジョージ》が完全ステルス機だとは思いも及ばなかったのだ。

したがって、グアム基地の防空態勢は後手に回らざるを得なかった。

 

アンダーソン飛行場には、30機のB-1B《ランサー》が引き出されて最終整備が行われていたが、ヒューと音を立てながら空から航空爆弾の嵐が襲い掛かって来た。

まさに寝耳に水である。

Z機は高度1万2000メートルの成層圏から高性能な赤外線レーザー照準《新型高性能自動全天候標準機》で滑走路を狙ったのだ。

米空軍司令官は、最初は何が起こったのかが分からなかった。

敵襲ならば、当然レーダーが捕捉しているはずである。

しかしレーダー基地は沈黙を保ち、敵の気配を感じる取ることはなかった。

そこにヒューと言う恐ろしく不気味な音を鳴り響かせながら、突然1トン爆弾の豪雨が落ちて炸裂した。

 

空軍基地にいた全員は、その瞬間に思考停止してしまった。

破壊力を誇る1トン爆弾は続けざまに落ちてきて、正確無比に滑走路上で爆発した。

B-1B《ランサー》戦略爆撃機もろとも滑走路を滅茶苦茶に引き裂いていく。

1機2億ドルもする貴重な機体が、自ら抱えた航空兵装……AGM-154 JSOW対地ミサイル、GBU-38 JDAM GPS誘導爆弾、機雷などとともに誘爆した。

 

広大なアンダーソン飛行場は、戦闘機用滑走路も持っている。

これを見て、戦闘機隊司令官はただちにF-15に出撃命令を下した。

これはスクランブル態勢をしていたので、ただちに舞い上がることができたが……いくら上昇しても敵機の姿を見出すことはなかった。

高度8000メートルにかかっていた高層雲を切り抜けると、ようやく敵機の姿が見えた。

 

遥かな高みに巨大な爆撃機……B-52H《ストラトスフォートレス》に酷似した戦略爆撃機が旋回している。その数はゆうに100機を数える。

 

この高度ならば、F-15も楽に作戦が遂行できる。

しかも腕のいいベテランパイロットたちとともに、連邦義勇空軍もいる。

相手は護衛戦闘機を持っておらず、米軍戦闘機隊長ないし連邦義勇空軍戦闘機隊長も同じくもらったと思った。

 

『『タリホー』』

 

米軍伝統の敵機発見の合図を出すとともに、全機は突っ込んで行った。

その時、10機の敵重爆が散開しつつ降下してくるのが目に入った。

米軍隊長にはその意図は分からなかった。

Z機が持っているガンシップ……Z掃射機改など見たことはなかったのである。

ただし連邦義勇空軍隊長は、この重爆《ミラクル・ジョージ》の防御能力が優れているのは知っている。

 

ここに何かがあるのかは聞いていたが、それを知った時には遅かった。

その10機が散開すると、F-15部隊の前に立ちはだかり、次の瞬間、胴体下部一面が真っ白な閃光が生じた。

100基すえつけられていた20mmバルカン砲が、レーダー照準により一斉に火を噴いた。

1機につき100基、合計1000基の火力が降り注いだ。

空対空ミサイルよりも濃密な火力なため、この方が遥かに強力な威力を発揮するのである。

たちまちF-15部隊この強力な火力に捉えられ、一瞬にして空中爆発を起こした機体、両翼を捥ぎ取られ落下していく機体など、悲惨な光景が現出した。

操縦不能となり、必死にベイルアウト・レバーを引っ張り、脱出を図るが、間に合わないものが多かった。

いずれにしろ、この高度からの落下したのでは、酸素不足のため失神してしまう。

パラシュートは自動開傘するが、海に落ちてしまったものも多かろう。

両軍パイロットたちが搭乗したF-15部隊は、ものの数分で殲滅した。

 

アンダーソン飛行場では、炎上するB-1B《ランサー》の機体を救うべく、地上要員たちが必死の消火活動を続けていたが、搭載していた兵装が次々と誘爆するため、とても危なくて手に負えない。

 

手に付けかねて見守っているうちに、全機炎上した。

グアム駐屯空軍司令官・スマック中将はこの結果を見てとると、オアフ・太平洋軍司令部に連絡した。

 

この報告を受けた太平洋司令部司令官・ディエゴ大将は驚愕した。

グアム空軍基地からの連絡では、レーダーには全く機能しなかったと言う。

レーダーそのものに故障は発見されなかったので、この敵機はレーダーに映らない……完全ステルスだとしか考えようがない。

 

しかし、そんな事があり得るのか。

米軍も必死に完全ステルス素材を研究してきたが、まだ発見していない。

それを日本は重爆機体に採用して得たと言うのか。

 

この貴重な情報はペンタゴンにもたらされた、統合参謀本部の二重の衝撃を与えた。

ひとつは、グアム・アンダーソン飛行場に駐機していた空軍機もろとも破壊されたこと。

加えて、これをやってのけた《ミラクル・ジョージ》が完全ステルス機能を持っていることである。

 

そのとき初めてヨーク参謀総長は、中岡たち率いる連邦国がなぜあれほど簡単に《ミラクル・ジョージ》に叩かれたのか理解した。

沿岸にいかにたくさんレーダーを揃えても、それが機能しなければ意味がない。

それにしても高価なB-1B《ランサー》が30機も失ったのは痛感である。

まだ70機あるので本土からまた送ることが出来るが……しばらく見合わせるべきだということで、本部の意見は一致した。

 

ヨーク大将の不安はさらに増した。

日本が完全ステルス重爆を持っているとすると、今度現われた空母に搭載している艦載機はどうなのか、これもまたステルスではないかと……

その推測は当たっていたが、まさか原潜や艦娘たちの未来艤装などにまでが完全ステルス性を持っているとまでは、到底及ばなかったのである。

 

ともかく十勝基地攻撃には、スケジュールに入っている。

ロサンゼルス級原潜2隻が北海道に向かい、今頃は攻撃位置に着いているはずだ。

本来、敵がグアムを攻撃する前に叩くべきだったが、全体作戦の空母戦闘群が揃うまで待つと言うポリシーだったのでやむを得ない。

この2隻の原潜には、初めはトマホーク・ミサイル……搭載弾頭は通常弾を使えと命じられていたが、ペンタゴンは急遽命令を変更した。

 

通常弾ではなく、グアムの報復も兼ねて、ウォーヘッド(戦術核)を使用せよと……




先手を取られたアメリカ空軍は壊滅状態になり、日本の勝利へと終わりました。

灰田「今日は皆さんご存知と思いますが、運命の戦いことミッドウェイ海戦の日であり、空母《赤城》《加賀》《蒼龍》《飛龍》率いる空母機動部隊、重巡《三隈》の戦没日でもあります。
最後まで誇りを忘れることなく戦った彼女たち、そして英霊たちのために敬礼!」

秀真「敬礼!」

郡司「敬礼!」

元帥「敬礼!」

彼女たちのために黙祷であります。
この戦い、第二次太平洋戦争は始まったばかりですが、気を引き締めて執筆します。
今日はとても大切な日でありますので、早いですが次回予告をお願いいたします。

灰田「次回はZ機によるグアム基地を空爆された報復をすべき、米海軍は原潜を出撃させます。果たしてどういう展開になるかは次回のお楽しみに」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真「ダスビダーニャ」

郡司「ダスビダーニャ」

元帥「ダスビダーニャ」

ダスビダーニャ、次回もお楽しみに。


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第七十七話:攻撃目標、十勝基地!

大変長らくお待ちしました。
では予告通り、Z機によるグアム基地を空爆された報復をすべき、米海軍は原潜を出撃させます。
なお本来は退役している艦が登場していますが、この世界では現役ということに設定しています。

灰田「果たしてどういう展開になるかは本編のお楽しみに」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


このときパールハーバーから十勝基地攻撃のために出撃したのは、ロサンゼルス級攻撃型原潜《トピーカ》と《バッファロー》である。

南シナ海域には、日本タンカーないし病院船攻撃に3隻の原潜がひと足先に出て活動している。

これは《ホノルル》《シカゴ》《サンタフェア》である。

アメリカ海軍は、同型艦を実に50隻以上保有している。

 

このロサンゼルス級原潜のスペックは、以下の通りである。

水中排水量6927トン

全長109.73メートル

全幅10.1メートル

加水圧型原子炉1基により蒸気タービンを回し、出力3万5000馬力。

水中最大速力は31ノットである。

 

搭載兵装は533mm水圧式魚雷発射管により、Mk48 魚雷、UUM-44《サブロック》、サブ・ハープーンUSM、各種機雷など多彩な兵器を発射できる。

また、トマホーク・ミサイルSLCM発射用VLS……これを12基装備している。

 

5月27日。

早朝……この2隻が釧路沖合から400キロメートルのポイントまで忍び寄っていた。

トマホーク・ミサイルに搭載する弾頭には様々な弾頭がある。

このロサンゼルス級の搭載兵装……水中発射型の射程距離は460キロメートル。

通常弾頭は450キロの炸薬を持つが、戦術核弾頭の威力は200キロトンだ。

偵察衛星が消滅したため、新しいデータに更新することができず、頭脳部には古いデータマップを入れたままで攻撃せざるを得ない。

トマホークは、頭脳部に衛星情報の敵地の目標まで入っており、これを元に低地飛行し、目標近くになって、ホップアップして襲い掛かる。

ペンタゴンが、早くも戦術核弾頭を使うことを決意したのは、言うまでもなくグアム基地が《ミラクル・ジョージ》により壊滅されたため、その報復である。

ともかく、このステルス重爆を徹底的に叩いておかなければ、今後の作戦に影響が出かねないからだ。

 

0800時。

2隻の原潜は、VLSからそれぞれ2発ずつのトマホーク・ミサイルを発射した。

攻撃の結果は、潜望鏡で確認する。

500キロメートルの距離があっても、きのこ雲が高さ数キロメートルも立ちのぼるので、命中したと分かる。

偵察衛星が機能しないいまは、そのような原始的な方法に頼るしかない。

 

発射準備完了。4発のトマホークの速力は885キロで北海道内陸に向かっていく。

海綿上面数メートルというごく低度を飛ぶので、レーダーに捉え難く、日本の沿岸防衛部隊が気付いたときには、その防空網をすり抜けているはずだった。

 

確かに、そこまでは上手くいった。

 

4発のトマホークは、日本のバッジシステムを通過したのである。

パトリオットもホーク・ミサイルも発射する余裕もなく、亜音速の巨大なミサイルが沿岸部を通過し、十勝地方に向かった。

しかし、当然のことながら空自や多国籍空軍はアメリカ原潜による海からの攻撃を予測、灰田に依頼して例のバリアを張り巡らしていた。

4発のトマホークは目標を探知すると、ホップアップした。

すると最終攻撃態勢を取り、目標の飛行場に最大速力で突っ込み、エネルギー・バリアに触れるとともに核爆発を起こした。

 

しかし結果は、かつて連邦国が行ったミサイル攻撃のときと同じ結果となった。

戦術核弾頭は爆発したが、その核爆発エネルギーはバリアに吸い取られてしまい、別次元に飛ばされてしまったのである。

2隻の原潜に乗艦していた艦長たちは、浮上した艦橋にあった双眼鏡でモニターをしていたが、見張り員が命中時間ですと告げたので、胸を踊らせて目標方向を見つけた。

しかしいつまで経っても核爆発の凄まじい閃光は視認できず、きのこ雲が出現しなかった。

5分待ってからも艦長たちは攻撃ミスを認めざるを得なくなり、ハワイに報告した。

 

“4発のトマホーク・ミサイルで攻撃するも不発と確認ス。敵はなんらかの方法で、戦術核弾頭の爆発を妨害した様子なり”

 

この旨暗号で電信した。

 

“さらに攻撃すべきか否か、指示を待つ”

 

これを受け取った太平洋軍司令部では、ディエゴ司令官が幕僚たちとともにこの結果を検討した。

 

「おそらく、何発撃ち込んでも同じでしょう」

 

幕僚長が発言した。

 

「日連戦争のとき、連邦国はあの戦艦水鬼率いる深海棲艦たちから貸与された技術で開発した戦略ミサイル《鬼角弾》をここにぶち込みました。

それは爆発したかに思えましたが、そのエネルギーは消えてしまったのです。

この事はNOAA(海洋大気圏局)により、ペンタゴンでも確認されています」

 

「ふうむ」

 

ディエゴは唸った。

 

「敵は何らかの核爆発に対する防御手段を持っているというのか。一体それはなんのだ。もしそれが事実ならば、我が軍の戦略原潜ですら無力という事になる。

日本に対するアドバンテージは大きく低下するぞ」

 

幕僚たちは顔を見合わせたが、誰も発言しなかった。

発言できるほどの勇気がなかったのである。

米軍の持つ最終抑止力兵器は戦略核であり、それが全く無効となれば、戦争は直接戦闘と言うかたちで決着を付けなければならない。

この戦争は長引きそうだなと言う予感が、誰もが思っていた。

 

その予感はペンタゴンでも同様に感じられた。

高価な戦略爆撃機B-1B《ランサー》がグアムで全滅したと言う知らせは、統合参謀本部を、またグアム所属の義勇空軍部隊が壊滅したと言う情報を連邦残党軍も同じく震撼した。

ただし中岡や上層部たちは『こいつ等全員が精神・根性が足りないから負けたんだ』と、相変わらず古臭い概念に取りつかれていた。

 

すぐにケリー国防長官に知らせたが、ケリーも最初は信じなかった。

再度ハワイに連絡して確かめさせたが、回答は変わらなかった。

それどころか、ハワイからは北海道にある《ミラクル・ジョージ》の基地攻撃も失敗したと言う報告が返ってきた。

ケリーはヨーク大将にこの事態の説明を求め、ヨークはすぐにケリーのもとに参上してブリーフをした。

ケリーはできる限り早く、ハドソン大統領に報告を上げなければならないので焦っていた。

 

「連邦国がなぜ十勝基地の核攻撃が失敗したか、これではっきりしました」

 

開口一番、ヨーク大将は言った。

 

「日本は、爆発エネルギーを消滅させる恐るべきシステムを持っているらしいのです。

むろん、我々にはまったく分かりません。

恐らく未来からもたらされたテクノロジーなのでしょう。

我々もまた2隻の原潜……ロサンゼルス級からウォーヘッド(戦術核弾頭)をつけたトマホークを4発発射しましたが、艦長たちは核爆発を確認することができませんでした。

4発同時に不発に陥ったとは考えられませんので、やはり爆発エネルギーは消滅しましたか、どこかに転移されたものと考えるしかありません」

 

「どこかに転移しただと!?」

 

ケリーは喚いた。非科学的なことを信じない男だから無理もない。

 

「そんな説明で、大統領を納得させられると思っているのかね、きみは?」

 

「これは我が国の最優秀核物理学者の意見なのです。タイムマシンそのものは、アインシュタインも実在していると発言しています」

 

ヨークは冷静になって答えた。軍人はいかなる時でも冷静であらねばならない。

感情に流されれば適切な判断が出来ない。

 

「おそらくは日本は最重要軍事施設、国内や国外にある各鎮守府、そして主要都市にこの転移システムを備えているはずです。したがってこれ以上の核攻撃は無駄だと考えます」

 

「うーむ…」

 

ケリーは呻くほかなかった。

 

「ともかく、今のことを大統領に伝えよう」

 

 

 

ケリーから事の事態を聞いたハドソン大統領は、ただ茫然として言葉も出ない有様だった。

中岡たちならばすぐさま否定して、ことをややこしく成りかねないから安心である。

今まで我が合衆国に忠誠を誓った米軍は世界最強だと信じていた。

深海棲艦が突如として現れても同じく、圧倒的な軍事力で翻弄してきた。

それはむろん最後の切り札として戦略核を持っているからである。

実際に使うシチュエーションは起こらないようにしても、これで全世界を恫喝することができる。しかし、その手段は失われた。

 

「ご心配なく、大統領」

 

ケリーは言った。

 

「我々は、まだ世界最強の空母戦闘群に、連邦残党軍が貸与してくれた少数ではありますが、各種の兵器を持っています。

日本がいかに艦娘たちを持とうと、我々のような空母戦闘群を真似しようと打ち破れるはずがありません。安心して我々にお任せください」

 

「うむ、しっかり頼むぞ。以前にマーカスが言ったように、我々が少しでも醜態を見せれば世界中のドルが一挙に暴落し、我々は本当にデフォルトに陥ってしまうぞ」

 

「充分に承知しております」

 

 

 

南シナ海において、日本タンカーと病院船撃沈の任務を与えられた3隻の原潜《ホノルル》《シカゴ》《サンタフェア》は、インドシナ半島、マレー半島、ボルネオに囲まれた海域で、

目標哨戒……すでに5隻を撃沈した。

だが、その後は日本タンカーないし病院船がばったりと見かけなくなった。

これはもちろん事態の最重要性をかんがみて、日本政府はタンカーないし病院船にインドネシア・マカッサル海峡回りを命じたからである。

そのあとフィリピン東海面に沿って北上する。

これはマカッサル回りに比べれば、日数に対して1週間程度は掛かり、燃料コストも余計に増大するが、沈められるよりはマシだ。

 

3隻のアメリカ攻撃型原潜の艦長たちは、しばしば浮上しては連絡を取り合った。

しかし先任艦長・ペン艦長は、どうやら日本はタンカーと病院船の航路を変更したらしいという結論に達した。

何しろ偵察衛星からの情報が入ってこないので、上空からは確認できないのである。

目標は恐らくロンボク海峡を抜けてマカッサル海峡を出て、そのあとはセレベス海を経て

フィリピン海域に出るコースだろうと推測した。

もしも南シナ海経路を諦めたのであれば、ほかの選択肢はない。

これは予測されたことなので、ペン艦長は僚艦の艦長たちにジャワ海に向けて南下せよ、と指示した。

ロンボク海峡の出口を押さえてしまえば、目標は逃げられない。

 

かつて太平洋戦争中の最大の海戦と言われた“レイテ沖海戦”で、西村祥二中将率いる艦隊……通称『西村艦隊』はスリガオ島、レイテ島との間にある狭い海域……スリガオ海峡に突入した。

主力艦隊は老齢戦艦《扶桑》《山城》に、重巡《最上》、第四駆逐隊《山雲》《満潮》《朝雲》、第二十七駆逐隊《時雨》である。

しかしこの入口には強力な米艦隊が多数の魚雷艇、駆逐艦、巡洋艦、そして戦艦といった四段構えの布陣で待ち構えていた。

まず雷撃、そして砲撃による……滅多撃ちとも言える集中砲火を受けて《扶桑》《山城》は沈没し、西村中将は旗艦《山城》と運命を共にした。

その後から進入してきた志摩中将率いる第二遊撃部隊は、西村艦隊の残骸を見つめると、敵情不明を理由に撤退を決意すると突撃していた駆逐隊を呼び返し、艦隊は海峡脱出を開始した。数多くのアクシデントなどを起こし、さらに栗田中将率いる戦艦《大和》を中心とした主力艦隊もまた周波の如くレイテ湾手前で“謎の反転”を遂げた。

なお志摩艦隊を待たずに単独突入を西村中将の評価は分かれるが、小沢治三郎中将は『レイテで本当に真剣に戦ったのは西村だけだった』と評した。

 

もっとも栗田中将が起こした“謎の反転”は様々な理由はあるが、一部では、まる3日間と不眠不休で敵機の間断のない攻撃に耐えながらもここまで突撃してきた栗田中将は、ついに正常な判断力が失い、北方の機動部隊がいると誤解して反転したのである。

栗田に与えられた命令は、敵輸送船団を撃滅するべきというもので、これは明らかに命令違反である。

栗田は戦後まで生き残ったが、この“謎の反転”の真相については、生涯口を閉ざしたまま語らなかった。

 

現状に戻る。

要するに狭い海域の出口で、護衛艦ですないタンカーないし病院船を原潜が待ち伏せしたら逃げようがないという事である。

ペン艦長はその日……5月28日いっぱいまで待ち、日付けが29日に変わるとともに南下するよう命じた。




十勝基地は無事攻撃を防ぐことができ、さらに南方海域でも新たな動きが見せたところで今回は終了であります。

灰田「しかし相変わらずですねアメリカの態度は、そして連邦残党もですが」

奴等はまだ”新兵器”もあれば、連邦派深海棲艦たちもおり、アメリカから貸与された兵器を持っていますからね、虎の威を借りた狐の如くですが。

秀真「どぶねずみの間違いでは?」

古鷹「提督、思い切ったこと言いますね」

灰田「追い詰められていることは確かですからね、自分たちを救世主ないし神と自惚れている連中ですから」

神通「この神通が鍛え直し…」

鍛え直すぐらいならば海の藻屑にした方が早いです。
とはいえこうしている間にも、次回予告をしなくては(使命感)

灰田「ではいつもながら次回予告です。次回は十勝基地攻撃から南方海域で海上封鎖を目論もうとする米原潜を撃沈すべく、こちらも原潜《海龍》との死闘を繰り広げます」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹『ダスビダーニャ』

作者・神通『ダスビダーニャ、次回もお楽しみに』


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第七十八話:水中の死闘

お待たせしました。
では予告通り、南方海域で海上封鎖を目論もうとする米原潜部隊を撃沈すべく、こちらも灰田さんの切り札のひとつこと原潜《海龍》との死闘を繰り広げます。

灰田「果たしてどういう展開になるかは本編のお楽しみに」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


その日の日付が変わる直前……すなわち5月28日、2345時

原潜《ホノルル》の司令場では、当直していた副長が、ソナー・ルームから奇妙な報告を受けた。

 

「コン(司令所)、こちらソナー、微妙なノイズをキャッチしました」

 

「ソナー。微妙とはどういう事だ?」

 

副艦長スミザール少佐は聞き直した。

 

「それが……ごく小さな音でして、キャビテーションにしてはディーゼルエレクトリック艦にしても小さすぎます」

 

キャビテーションとは、スクリュウー音が水をかき回す際に真空が発生して、そのために引き起こされるノイズのことである。

 

「音紋のデータはないのか?」

 

「ありません、ともかく今まで聞いたことのないノイズです」

 

これまでの潜水カ級などの深海潜水艦ないし、かつての米国の仮想敵国だった中国潜水艦ではあり得ない……これは日本の潜水艦または潜水艦娘ではないなと少佐は考えた。

日本潜水艦や潜水艦娘たちのノイズパターンは、今まで何度も協同訓練や作戦などで聞いたことがあるので、全てデータに入っている。

 

「……分かった、艦長を起こす」

 

副長は艦長室に通じるマイクを握った。

 

「艦長、すぐに司令所においでください。ソナーが奇妙な音をキャッチしました」

 

「……分かった。すぐ行こう」

 

艦長室で仮眠していたレドフォード大佐が帽子を被って上がってきた。

帽子は士官特有の権威とも言える象徴なので、必ず被らなければならない。

 

「ソナー、こちら艦長だ。詳しく報告しろ」

 

「はい、いまスピーカーに出します」

 

すぐに微かなノイズがスピーカーに響いた。

微かなざわざわと言う音で、キャビテーションに似ているが、そうでもないようである。

 

「ソナー、こいつを出している相手の位置は確認できるか?」

 

「それが不可能なのであります。パッシブ・ソナーでは探知できません」

 

艦長と副長は顔を見合わせた。

 

「……やむを得んな。ソナーを打て、ただしワンピンだけだぞ」

 

アクティブ・ソナーを打てば、敵にこちらの位置を悟らしてしまうためバレテしまう。

しかし、敵の正体を確かめなくてはならない。

ロサンゼルス級原潜は最大速力32ノット出すので、例え敵潜に攻撃されても逃げ切れる自信はあった。

むろん敵が魚雷発射しようとすれば分かる。その発射管の扉が開く音で分かるのだ。

ピーンという音波の発振音が、艦内に響き渡った。

それが敵潜だとしたら、もし近くにいればカーンという反響音が聞こえてくるはずなのだが……しかし、肝心の音が聞こえなかったのである。

 

「コン、探知できません」

 

ソナー員が言ってきた。

 

「うむ……」

 

レドフォードは唸った。

 

「双方じゃなければ、いったい何者なんだ?」

 

原潜《ホノルル》のクルーが困惑したのも無理はなかった。

この相手は普通の潜水艦やイムヤ率いる潜水艦娘たちではなく、海自が放った《海龍》だった。

海龍・第一戦隊……すなわち101から110までの10隻は南シナ海のタンカーおよび病院船撃沈海域に派遣され、2隻がペアを組んでアメリカ原潜狩りに当たっていた。

 

つまり、ハンター・キラー・グループである。

彼らは鹿児島湾から出撃したが、なにしろ最大速力36ノットも出すので、目標海域には48時間で到着した。

《ホノルル》のソナーが耳にしたのは、ハイドロフォンが捉えた海龍のハイドロ推進ジェット音である。

 

海龍の特徴は推進器……つまりスクリューを使わないことである。

スクリューを使うと、どうしてもキャビテーションが生じて敵に探知されてしまう。

未来人の設計した潜水艦は、核融合炉を使うと言う特徴があるが、推進システムはハイドロ(水流)ジェットを使うという特色もあった。

艦首から水を吸い込んで、圧力を加えて艦尾から放出する

この推進はコンピューターで自由自在に操れる……分かりやすく言えばイカやタコと同じ推進システムの調節が可能である。

深海に潜る潜水艇は、やはりこの水流ジェットを用いり、補助用としてスラスターを使うのが、潜水艦のような巨大な艦に使った例はない。

スクリューに比べて推力が落ちるからである。

もっとも旧ソ連が開発した輸送潜水艦として、最大級の原潜《タイフーン》級がこの艦の推進システムを補助用として使った例がある。

音が消えるので、敵から姿をくらますにはこれが理想的だからである。

このとき海龍101と102のペアを組み、パッシブ・ソナーで《ホノルル》を探知し、秘かに接近していた。

 

海龍101号の艦長は、柴崎一佐である。

敵潜がソナー発振したことはすぐに分かった。なにしろ完全水中ステルス潜水艦なので、音波を吸収してしまい、反射音はしないが、そのデータは司令所の統合コンバット・スクリーンに現われる。

海龍101号は現在位置……敵潜から30キロメートルの距離にいて、北東に5キロメートル離れて、海龍102号が追随していた。

敵潜は針路180で南下し始めていた、速力は25ノットである。

 

柴崎艦長は、5キロメートルまで接近してから雷撃するつもりだった。

前部魚雷発射管の四発を全て使う。それだけ接近しても敵に探知されるはずはない。

海龍同士による模擬戦も行われ、その静粛性には驚かされた。

ともかく、エンジンに関するノイズは全く聞こえることもなく、推進音も聞こえない。

極めて耳の良い聴音員に掛かれば、なんだか訳の分からないノイズが微かに聞こえるだろう。

 

しかし、さすがに魚雷発射管扉が開く音は消せない。

そのとき初めて、敵潜はこちらに近くにいることに気付くことになる。

発射された魚雷の急ピッチの推進音を聞きつけ、その方角と速力を割り出して緊急回避することになる。そのときは魚雷を攪乱させるためにチャフを放出する。

模擬訓練は、海自の保有する通常型潜水艦《そうりゅう》などを相手に行なわれ、これはターゲット役を務めた。

しかし安全装置を解除できるギリギリの距離で発射されると、いかに回避しても逃げ切れないことが分かった。

なにしろ海龍の装備している魚雷は、音響ホーミング、さらに熱源双方追尾センサーの両方を兼ね備えており、50ノットの高速である。

炸薬も海自やPMCのよりも威力があり、実験結果は、およそ30パーセント増しの威力と計算された。

 

「針路180維持、深さ250メートル、速力30ノットに上げよ」

 

ホノルルでは、レッドフォード艦長が命じた。

ホノルルの蒸気タービン音が高まり、ぐうっと増速した。

彼はなんだか分からないが、背筋に悪寒を感じた。

なんとかして、こいつを振り切らなくてはいけないとホノルルは速力を上げつつ、深度250メートルに潜っていた。

ロサンゼルス級原潜の安全最大深度は、約300メートル。

プラス50メートルのマージンがあるが、1メートル潜ることに圧壊の危険が増す。

 

「目標は潜りました……速力30ノット」

 

海龍101号では副長がスクリーンを睨みながら報告した。

 

「針路そのまま」

 

「よし、35ノットに増速」

 

海龍はそのまま30ノットで敵に忍び寄っていたのだが、最大速力前後に増速した。

 

「距離10キロメートルになったら知らせろ」

 

柴崎艦長は当初の作戦を変え、距離10キロメートルで雷撃するつもりである。

なにしろ雷速が速いので、それだけ離れていても目標には2分足らずで到着する。

 

「……距離10キロメートルです」

 

副長が報告する。

 

「雷撃戦用意」

 

艦長が砲雷長に報告する。

 

「魚雷管扉開け」

 

艦長の命令とともに、前部の魚雷発射管の扉が開く音が聞こえた。

強い水圧に逆らってモーターで開けるので、どうしても音が発生するのは避けられない。

 

 

 

ホノルルでは、聞き耳を立てていた先任ソナー員の兵曹が顔色を変えた。

 

「魚雷発射管扉らしきものが開きました」

 

「しまった、やはり敵潜だったか!」

 

司令所では艦長が唸った。

 

「敵魚雷が来るぞ、チャフを撒け!」

 

チャフとは、音響探知を妨げる多数の薄いアルミ破片である。

 

「敵、魚雷発射しました。4発、速力およそ50ノット」

 

矢継ぎ早に報告が来る。

レッドフォード艦長と副長は顔を見合わせた。

 

「なんだと、そんなに速いはずがない!」

 

それも通りで、50ノットと言えば時速90キロちかくである。

 

「距離5000メートル、4500メートル」

 

副長が魚雷との距離を読み上げる。

 

「2000メートルでチャフ発射」

 

「了解……」

 

「3500メートル」

 

「針路360、上げ角5度」

 

レッドフォード艦長は命じた。

敵の魚雷があまりにも速すぎるので、振り切れないと覚悟し、急旋回して逆に魚雷に向かっていくことによって、敵潜が安全装置を解除するまえに魚雷と衝突するか、すれ違おうとしたのである。

 

大胆な行為だが、だから返って成功する。

 

「チャフを発射せよ!」

 

命令に応じて、艦尾から大量のチャフが発射された。

 

しかし、このときすでに魚雷は安全装置が自動的に解除されていたのである。

目標との距離が1000メートルを切った瞬間、自動的に解除されるように設定されてあった。

しかもこの魚雷は自艦の音響や熱源は判別して追わないよう、セットされている高性能の優れものである。

……というのも接近戦で雷撃し合うと、敵に逸らされた魚雷が目標を探して迷走、自艦に向かってくることもあり得るからだ。

 

「魚雷振り切れません、インパクトまで10秒!」

 

副長の絶叫が響いた。

 

「くそっ、こいつはいったい何者なんだ!」

 

レッドフォード大佐は叫んだが、それが大佐のこの世での最後の台詞である。

ホノルルはなおも大きく回頭していたが、魚雷4発のうち2発が命中したからである。

凄まじい爆圧とともに、その艦体は真っ二つに裂けて、彼や多くの乗組員が即死した。

司令所にいた全員も即死した。幸いにも一瞬で死ねたことに関しては運が良かったのかもしれない。

ほかの2隻《シカゴ》《サンタフェ》も海龍ペアに追い詰められて、同様の目に遭って沈められた。

しかし、サンタフェは逃げ回ったあと撃沈される寸前、ラジオブイを打ち上げ、敵潜のデータを緊急通信したので、そのデータはハワイの太平洋司令部に届いた。

 

太平洋潜水艦艦隊司令官・ヒメネス中将は、これを受け取って驚愕した。

敵潜は速力推進力35ノット以上。雷速50ノット以上。

静粛性は極めて優秀、キャビテーション・ノイズなし、探知不可能という内容だったからである。

それきり3隻からの定期通信も途絶えたので、3隻とも撃沈されたと認定された。

中将は、ディエゴ大将にその旨を報告した。

 

「3隻とも沈められたというのか、偵察衛星が捉えた例の潜水艦によってか!?」

 

ディエゴはその報告が信じられない様子だった。

 

「キャビテーション・ノイズなしとは、どういうことだ?」

 

「おそらく敵潜は、我々のそれとは違うシステムを持っているものと考えられます。

ジェット推進のような……しかしハイドロジェット・システムではこれほどスピードを出せないはずではありますが、より強力な機関エンジンを積んでいるのでしょう」

 

「しかも、静粛性に優れていると言うのかね?」

 

「我々の常識は反しますが、今の日本では何でもあり得ます。2隻の原潜《トーピカ》《バッファロー》による十勝攻撃も失敗しましたし……」

 

ヒメネス中将は静かに答えた。

 

「おそらく画期的な原子力機関を搭載しているのでしょう」

 

しかし、さすがのヒメネスもそれが核融合炉であるとは思っても見なかったのである。

 

 

 

ペンタゴンにもこの報告が上げられ、ヨーク大将は顔色を変えた。

なにしろ、日本はアメリカの誇る原子力潜水艦《ロサンゼルス》級を100隻も持っていることが確認されている。

 

偵察衛星がない今は、その位置を確認することが出来ない。

余談だが、かつてアメリカ海軍が日本近海に張り巡らせたソーサス、つまり海底潜水艦探知網も機能不全に陥っていた。

ロサンゼルス級があえなく撃沈されているということは、より戦闘性能の落ちる戦略原潜には敵うはずもない。

 

つまり、容易く出動させることが出来ないのである。

これに伴い、空母戦闘群の水中スクリーンも信頼できない。

連邦残党軍は犠牲を払ってでも出動させろと言ってきたが、迂闊に出動は出来ない。

敵を知り己を知れば百戦危からずという言葉を知らない連中の言う事を聞いたら勝つ前に経済崩壊しかねない。

 

現状に戻る。

ペンタゴンでは、必死にこの原潜の喪失のことは隠蔽した。

全海軍に厳重な緘口令が敷かれ、幸いマスコミには嗅ぎ付けられないで済んだ。

もし世界中にこの噂が広がれば、ハドソン大統領のもっとも心配するドルの大暴落が起こりかねなかった。

 

その2日後……5月31日のことだ。

パールハーバーに4個空母戦闘群が揃い、ようやく西太平洋に押し出す準備が整うことになってきた。

また連邦残党軍が提供してくれた技術によって生まれた最新鋭戦闘機《ヘルキャット》や人造棲艦《ギガントス》も準備もできた。こちらは連邦残党軍が担当することに決定した。

 

これからが本番だなと、ヨーク大将は考えた。

 

我が国が誇る空母戦闘群で日本海軍を翻弄させてやると……

 

「見ていろよ、黄色い猿と兵器女ども目に物を見せてやる!」

 

しかし、彼らはまだ知らない。その言葉が自分たちに返ってくることも知らずに……




もはやフラグを立てたヨーク大将の台詞と共に、今回はここまでです。
因みにこの台詞は漫画版でしか見られません。

灰田「人はそれを”死亡フラグ”と言います」ニヤリ

まあ、そうなるな(日向ふうに)

秀真「どぶねずみの味方に付いたアメリカなんてダメリカさ、もう”飴”と言っても良いだろう」

古鷹「相変わらずキツいですね、提督」ニガワライ

……否定はしませんけどね、わたしも。

神通「提督、この神通が行きます!」

海の藻屑にするならば良いけど、無理はしちゃダメ。

灰田「あまり時間を掛けてはいけませんので、わたしが予告編をしますね」

よろしくお願いいたします。

灰田「次回はグアム基地を爆撃したZ機部隊、待機していたZ機部隊とともに大東亜戦争の開戦日に行われた”真珠湾攻撃”を、第二次真珠湾攻撃を開始します。
ここでもまた米軍は自慢の空母戦闘群が少しですが登場します。果たしてどういう展開になるかは次回のお楽しみです」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第七十九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹『ダスビダーニャ』

作者・神通『ダスビダーニャ、次回もお楽しみに』


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第七十九話:第二次真珠湾攻撃、発令!

お待たせしました。
本来ならば先週に投稿する予定でしたが、PC復旧に遅れて申し訳ありません。
では改めて予告通り、グアム基地を爆撃したZ機部隊、待機していたZ機部隊とともに大東亜戦争の開戦日に行われた”真珠湾攻撃”を、第二次真珠湾攻撃を開始します。

灰田「少しですが、米軍ご自慢の空母戦闘群が登場しますが、果たしてどういう運命を迎えるのかは本編のお楽しみに」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


十勝のZ基地では、ハワイ・真珠湾空襲に備えて準備を整えていた。

なにしろ、グアムから100機が戻って来たばかりであり、今度は全機出撃だから準備万端でなければならなかった。

 

出撃日は、6月1日に予定された。

司令官としてはもっと早く出して欲しかったのだが……先制攻撃は早ければ早いほど良い。

200機全機の時間が掛かる。

 

この出撃判断が遅れたことが、今度は米軍に味方した。

このときすでにパールハーバー(真珠湾)には、第三艦隊、新・第七艦隊が揃っていた。

これはそれぞれ空母《ジョン・C・ステニス》《エイブラハム・リンカーン》を旗艦とする。

これらをエスコートするのは、ミサイル巡洋艦を筆頭に、ミサイル駆逐艦、駆逐艦およそ10隻からなる護衛艦隊群。さらに水中では2隻の原潜がエスコートし、前路掃討することになっている。

これらの護衛艦は全てが、イージス艦であることは言うまでもない。

 

空母自体も防空戦闘機としてF-35C《ライトニングⅡ》14機を持つことから、防空態勢は完璧とも言える。

攻撃力としてはF/A-18E《スーパーホーネット》を36機搭載している。

またナイトアタック……つまり夜間攻撃が可能な機体も18機は持っている。

地上攻撃機としても、対艦攻撃にも運用可能な世界最強の戦闘攻撃機でもある。

今回は日本空母戦闘群ないし艦娘たちとの戦闘が予測されるため、AAM(対空ミサイル)を多く搭載、また一部は対艦ミサイルも搭載している。

 

ディエゴ司令官は、最初は大西洋艦隊を待つつもりだったが、すでにグアムとサイパンで戦闘が始まったことを考えてみて、2グループだけ先に出すことにしたのである。

空母《エイブラハム・リンカーン》に乗艦するのは、先代艦長・デュバル大佐である。

同じく空母《ジョン・C・ステニス》の艦長は、シューメイカー大佐。

このグループは第13任務群と名付けられ、司令官・ノース中将が《エイブラハム・リンカーン》に乗り込んだ。

中将に与えられた命令は、まず硫黄島の日本軍基地を潰し、そののち北上して東京を窺う素振りを見せろと言うものである。

そうすれば、日本空母戦闘群は必ず迎撃してくる。そこを潰せと命じられた。

 

連邦残党海軍も同じく少数だが、米海軍が制式採用している《アーレイ・バーク》級駆逐艦を貸与された。

また連邦派の深海棲艦たちもおり、少数の人造棲艦《ギガントス》もおり、これらも空母戦闘群と同じくまず硫黄島の日本軍基地を潰し、そののち北上して東京を窺う素振りを見せろと命令された。

そうすれば艦娘たちも必ず迎撃して来るということであり、両者ともそこを潰せということである。

 

至極簡単明瞭な命令だが、命令と言うものは単純なものが良い。

迷わなくて済むからである。

 

このとき偵察衛星がないため、すでに日本空母戦闘群が東経160度ラインに向かい、南端は北回帰線、北端は北緯40度ラインの間で散開待機していることを知らなかった。

 

 

 

早朝。パールハーバーを出港した第13任務群、西北西に針路を取り、速力28ノットで小笠原諸島に向かった。

このため、第13任務群は1日の差でZ機の猛爆を免れた。

しかし不運だった連邦残党海軍はかつての真珠湾攻撃で悲惨な目に遭った米海軍のように、知能の劣る日本人がここまで来て爆撃に来るわけないだろうと慢心していた。

その行為でZ機による猛爆により、連邦艦隊は壊滅となった。

 

この間に、Z機の大軍がオアフ上空に現われ、例によってレーダーでは探知できなかったが、パールハーバーに到着すると同時に、爆弾の雨を降らせた。

 

爆撃に先立って、Z機に偵察用カメラを搭載した偵察機が先行したが、パールハーバー湾内には空母戦闘群の姿は見えない。

少数の小型艦船ないし連邦残党海軍、そして深海棲艦たちがいるだけである。

最重要目標である空母が、見当たらない。

 

このあたりは、かつての太平洋戦争の始まりとも言える史実の真珠湾攻撃と同じである。

あのとき戦艦《アリゾナ》をはじめとする戦艦群は全て停泊していたが、空母はいなかった。

その空母は、当時太平洋艦隊にいた2隻の空母……空母《エンタープライズ》《ホーネット》である。

しかも外洋中で、2隻ともミッドウェイとウェーク島に航空機を届けに行ったため留守だったことが、日本軍にとって不運だった。

もっともハルゼー中将が乗艦する《エンタープライズ》は任務を終え、帰投途中だった。

日本機動部隊の作戦行動範囲内にいたのだが、史実が示すように南雲司令官はパールハーバーを二度叩いただけで、満足しただけで引き上げてしまう。

 

このとき、源田航空参謀は捜し求めるよう進言したが、無視されたと言われる。

南雲忠一はよく言えば慎重派、悪く言えば小心者である。

彼にとって虎の子の空母6隻を無事日本に持って帰ることが最優先事項で、敵地で粘ることなどと言う事は思いも及ばなかっただろう。

もし山口多門少将か小沢治三郎中将ならば、敵空母を撃沈するまで留まるだろう。

 

ともかく、高高度からパールハーバーを偵察したZ偵察機は暗号通信を本隊に送った。

 

“湾内に連邦主力艦隊は見当たるも、敵空母戦闘群は見当たらず……”

 

爆撃隊司令官・木村一佐だったが、一瞬躊躇った。

敵空母戦闘群は確かにいたはずだが、すでに出撃したのかもしれない。

ここで引き返す選択もあったのだが、連邦残党軍をここで一気に壊滅できるチャンスのため、進撃命令を下した。

パールハーバーの港湾施設、陸海空三軍の飛行場を叩くことに攻撃目標を変更したのである。

そうしておけば、遅れてやって来る大西洋艦隊の補給整備が困難となる。

このときオアフ島上空は晴れていたので、レーダーは例の通り効かなかったが、おびただしい飛行機雲が向かってくるのを見て防空司令官は、ミラクル・ジョージの来襲を探知した。

空軍基地からはF-15、海軍飛行場から連邦残党軍から貸与された《クラーケン》と《ヘルキャット》が飛び立った。

各機50機ずつ、合計150機が迎撃に舞い上がった。迎撃機として十分な数である。

しかも後者は以前よりも性能がアップしているのでこれで撃ち落せると誰もが思った。

またF-15は《ストライク・イーグル》も30機含まれており、これはウェポンシステムを更新したタイプである。12基の搭載兵器ポッドを持ち、最大速力マッハ2.5である。

しかし、この《ストライク・イーグル》など率いる迎撃機がマッハ2.5で駆け上がっていった先には、Z掃射機改20機が散開し、強力な防空スクリーンを張り巡らせて待ち構えていたのである。

 

飛んで火にいる夏の虫の如く、掃射機改のまえに突っ込んだのだから堪らない。

各機に搭載していた空対空ミサイルを発射する前に、猛烈な20mmバルカン砲の弾幕に包まれた。

 

この強烈な火力は、Z掃射機改・指揮官機のコンピューターによって制御され、攻撃目標が振り分けられる。

ただやたらに撃っているわけではなく、1機ずつレーダー照準されている。

 

米軍司令官と連邦残党義勇空軍は自信を持って送り出した《ストライク・イーグル》《ヘルキャット》は、この弾幕に包まれて全機撃墜された。

ベイルアウトしたパイロットたちもいたがごく少数であり、ほとんどが愛機と運命をともにした。

続いてやや性能の劣るF-15《イーグル》と《クラーケン》が突撃を敢行した。

しかし、同様にバルカン砲の20mm機関砲弾の弾幕の餌食となり、次々に落ちていった。

地上の防空指揮所から見上げていた各軍の司令官たちは茫然とした。

次々と炎に包まれて落ちてゆく機体は小柄で、味方の戦闘機なのである。

ものの10分も経たないうちに、合同迎撃戦闘機部隊は殲滅されてしまった。

太平洋司令官では、日本の切り札《ミラクル・ジョージ》が掃射機を持ち、その火力は極めて強力であることをグアム空襲での戦訓からしっていたが、これほど強力なものとは思わなかった。

 

ここに米軍の過信がある。

全てにおいて、世界最強と言うタイトルないしプライドを長く持ち過ぎために起きた慢心が生じたのは言うまでもない。

慢心……つまり自己過信が高ずると真実をまともに見極められない。

グアム基地が、あれだけ悲惨な目に遭ったのにも関わらず、ミラクル・ジョージの脅威は太平洋軍司令部には正確に伝わっていなかったと言える。

 

そのツケが回ってきたのである。

パールハーバー上空は無防備、つまり敵が制空権を握ってしまったと言える。

ここに迎撃用ミサイルPAC-3《パトリオット・ミサイル》の備えもあったが、味方戦闘機との友軍誤射を防ぐために、あえて飛ばさなかったのである。

そこを機銃掃射で叩かれ、防空ミサイル基地も全滅してしまうことになる。

そこに《ミラクル・ジョージ》本隊180機が悠々と侵攻してくると、1トン爆弾の豪雨を降り始めた。

これは赤外線カメラによるレーザー照準、しかもこの爆弾には最終段階で弾着修正する小型ロケットが付いているレーザー誘導爆弾である。

 

当然、狙いは正確無比だ。

パールハーバーの重要施設……ドッグ、燃料タンク、フォード島の海軍滑走路、バース、そして各司令部も航空爆弾の洗礼を浴びたが、ディエゴ大将はじめ司令部職員たちは防空隊が全滅した時点で、地下シェルターに避難していたので人的損害はなかった。

ミラクル・ジョージの一部は、カネオヘにあった空軍基地を爆撃した。

湾内に停泊していた各艦艇……連邦主力艦隊や深海棲艦たち、そして米駆逐艦やフリゲートもことごとく撃沈された。

ミラクル・ジョージはたっぷり20分、悠々と空爆を行なったあとは、搭載していた爆弾を使い果たして全機反転、遥か上空に姿を消した。

 

このことを知らされて、シェルターから出てきたディエゴ大将はじめ幕僚たちは、あまりの惨状に茫然とした。

各施設はことごとく破壊され、重油タンクは未だに燃え盛っていた。

湾内のバースは、全ての艦艇や深海棲艦たちも姿を消した。

前者に関しては横転か、大破着底状態が多く、後者に関しては火だるまになりながら死んでいる者たちが多かった。

ディエゴ大将は、空母戦闘群をひと足先に出撃させたことを神に感謝した。

今日彼女たちがここにいたら、2個空母戦闘群が全滅していただろう。

まだ我が軍にはツキがあると考え、このツキを生かさなければならないと……

 

 

 

この悲報はすぐにペンタゴンに知らされ、ケリー国防長官は激怒した。

グアムに続き、オアフ島への空爆も許したのである。

我が空軍ないし連邦残党軍は何をやっとるのかと、デスクを叩いて怒鳴った。

もっと酷かったのは言うまでもなく、連邦残党軍は火病を起こす者たちが続出した。

 

しかし幕僚のひとりは、冷静に《ミラクル・ジョージ》のグアム空襲の際の防空戦闘の様子をケリーに思い起こさせた。

グアムでもF-15や連邦戦闘機は飛び立ったが、全く役に立たなかったではないか。

空対空ミサイルも発射したが、ことごとく撃墜された。

要するに、ミラクル・ジョージ隊の持つ掃射機はいまのところ無敵である。

これを潰すには、迎撃機による体当たり攻撃を仕掛けるほかはない。

ケリーは、こんなはずではなかったと何度でも思った。

……我が軍は無敵じゃなかったのか。

第二次世界大戦以降、世界最強のスタイルを把持してきたはずだ。

深海棲艦らが現われようとそれは揺るぐことはなかった。

 

また兵器開発も、全て世界最先端をリードしてきた。

輸出用に一段劣る各種兵器やモンキーモデルの自国兵器ですらも製造する余裕もあった。

そしてステルス戦略爆撃機も開発し、これは米軍以外の軍は持っていなかった。

少なくとも、今まではそうだった。

しかし、日本は恐らくB-2やF-117よりも優秀なステルス爆撃機を入手したのである。

それが《ミラクル・ジョージ》である。

 

その性能はまさにミラクル、これで日本が圧倒的である。

これはスコアで言うと、4対0という事になる。

 

まずグアム空襲でB-1B《ランサー》がやられ、十勝のミラクル・ジョージ基地攻撃も失敗に終わった。

南シナ海ではロサンゼルス級原潜3隻が行方不明となったが、日本潜水艦に撃沈されたと判断される。

 

そして止めが、ハワイ空襲だ。

ワシントンは必死にこれらのニュースを隠蔽し、ホワイトハウス報道官の定期発表でも、曖昧な表現に終始発表をさせたので、プレス連中には、いまどうなっているのかさっぱり分からず、もっとはっきりさせてくれと迫られる始末だった。

勘の良い記者やキャスターたちの何人かは、何か思いがけないことが起きたのだと気付いた様子である。

 

しかし、パールパーバーが空襲を受けたことは流石に隠せない。

ハワイ住民からインターネットやYouTube、SNSなどで流れてしまう。

鉄壁の電網(インターネット)チェック網を敷いていた連邦国ならばいざ知らず、民主国家のアメリカでは一定以上の規制は出来ない。

 

ケリーは大統領に電話した。

 

「大統領、率直に申し上げますが、またもや悪い知らせです。パールハーバーが二度目の空襲を受けました。……幸いにも、我が空母戦闘群が出撃していて被害は免れましたが、もはや、海軍基地としての機能はしておりません。

しかし今日の夕方の記者会見では、確かに空襲を受けたが、被害はさしたることはなく、基地機能は無事であると発表しています」

 

「うむ、分かったが、それではいよいよ我が軍の敗勢を知ることになるわけだな」

 

ハドソンの声には力が無かった。

 

「私としては金融市場の動きが気になる。幸い、まだドルは投げ売りされてはおらんようだな」

 

「市場はまだ様子見でしょう」

 

ケリーは答えた。

 

「しかしご心配なく。もし投げ売りされそうになったら財務省が買い支えるはずです。

また我が空母戦闘群による第13任務群がいよいよ出撃しましたので、今度こそ勝利を収めるはずです。日本がいかに同様な空母戦闘群をそろえたとはいえ、その運用経験には天地ほどの差があります。必ず我が軍が勝利します」

 

「うむ、そうでなくては困る。しっかりと頼むぞ」

 

ケリーはこのとき、いかなる運用経験よりもスマートな頭脳が日本空母に積まれていることを知らなかった。

 

さらに言えば、実はアメリカ空母戦闘群は、いわゆる海戦、太平洋戦争のときのようなフルスケールの空母同士の海戦をしたことがない。

アメリカ空母戦闘群は、湾岸戦争はじめ各地の紛争地帯に派遣され、その航空団はもっぱら地上攻撃に使用された。

 

したがって本格的な空母戦闘群同士の戦闘は史上初めてであり、いかなる展開を遂げるか、ペンタゴンの誰にも見当がつかないと言うのが本当のところである。

 

しかし、ケリーはそんなことを大統領に言うわけにはいかなった。

 

だいぶ神経が参っているので、辞職すると言いかねない。

そんなことになれば、いよいよアメリカ建国以来の危機である。




フラグを立てたヨーク大将の台詞が見事にブーメランとなって帰ってきました。
これにより第二次真珠湾攻撃は戦略的勝利として、重要拠点でもある海軍基地は機能停止となりましたが……

灰田「惜しいことに空母を逃しましたが、のちにどうなるかはお楽しみに」

彼らにはまだまだ出番がありますからね、ニヤリ。
ゆえにもう一部の艦隊が出ていますが、それは後ほどお楽しみに。

灰田「あまり時間を掛けてはいけませんので、今回もまたわたしが予告編をしますね」

よろしくお願いいたします。

灰田「次回は私が用意したニミッツ型空母4隻の出番となります、果たしてどのような活躍をするのかはお楽しみに」

なお都合上により、前編・後編に分けるかもしれません。
ゆえにまたしても次回も遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十話:決戦!日本空母戦闘群VS米空母戦闘群 前編

お待たせしました。
予告通り、難を逃れた米空母戦闘群がいよいよ日本空母戦闘群との戦闘が始まります。
なお長文のため、いつもながらですが、前編・後編と分けます。

灰田「私が用意したニミッツ型空母4隻の出番となります、果たしてどのような活躍をするのかは本編を見てのお楽しみです」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


このとき、東経160度ラインに沿って展開していた日本空母戦闘群は、北から第1空母戦闘群(空母《アカギ》基幹)、これを第1護衛艦群がエスコートしている。

さらに水中では海龍第2戦隊が展開していた。

 

その南には、第2空母戦闘群(空母《カガ》基幹)。

エスコートは第2護衛艦群+海龍第3戦隊。

 

その南には、第3空母戦闘群(空母《ソウリュウ》基幹)。

エスコートは第3護衛艦群+海龍第4戦隊。

 

最南端には北回帰線上には、第4空母戦闘群(空母《ヒリュウ》基幹)。

エスコートは第4護衛艦群+海龍第5戦隊。

 

南シナ海域にいる海龍第1戦隊を除き、まだ5個戦隊が余るが、これは予備兵力として横須賀鎮守府に待機している。

アメリカ原潜や連邦残党海軍、そして連邦派の深海棲艦たちがいつまた本土を襲撃して来るとも限らない。

 

これら4個空母戦闘群は『第10艦隊』と名付けられ、司令官は鬼頭海将(旧海軍でいえば大将級である)。

 

第1空母戦闘群司令官・鳴沢海将。

 

第2空母戦闘群司令官・春日海将。

 

第3空母戦闘群司令官・野尻海将。

 

第4空母戦闘群司令官・塩瀬海将。

 

つまり、空母戦闘群司令官は全員大将クラスである。

海自の将官階級……海将は2ランクしかなく、大将と中将は肩の星の数を見分けるしかない。かつての少将は海将補だから分かりやすい。

因みに、アメリカ海軍将官は4ランクに分かれている。

大将、中将、上級少将、少将であり、これまた肩の星の数で見分けられる。

鬼頭海将は護衛艦隊叩き上げの将官で、実際に護衛艦隊司令官を務めた猛者である。

護衛艦隊よりも“第10艦隊”の方が、遥かに強力なので実質的な昇進である。

各々の空母戦闘群司令官たちに、海自はより選りすぐれの者たちを揃えた。

といっても、旧日本海軍の司令官と赤城をはじめとする空母娘たちとは違いが生まれる。

 

赤城たちは自分の意思で考え、行動する自分たちと同じ人間である。

しかし本物の空母となると実際に動かしているのは、未来コンピューターであり、人間はあくまでバックアップシステムなのである。

この空母と護衛艦群はリンクシステムに繋がれていることは言うまでもない。

 

この哨戒ラインは、ほとんど2000キロメートルに及び、各部隊の開距離は500キロ。

海里に直せば……ほぼ1100海里。開距離277海里である。

ともかく太平洋は広く、大西洋とは比べものにならない。

開距離300海里近くあれば、かつて大艦隊がすり抜けることも可能だった。

しかし今は早期警戒機と言うものがあり、哨戒用潜水艦がレーダーにより水平線を監視しているので、まず気づかれないと言うことはあり得ない。

問題はどちらが早く敵を発見するかで、飛行甲板を先に潰されれば終わりである。

この先手必勝と言う要素はいまでも変わらない。

対艦ミサイルを搭載した敵機が殺到し、イージス艦はよくこれを防ぐことができるが……敵対艦ミサイル1発でも撃ち漏らし、空母の飛行甲板をやられてしまえば、こちらが負けたも同然である。

 

この点では、イージス艦を多く持つアメリカ艦隊の方が有利である。

米空母戦闘群の護衛艦隊の多くが、最新鋭ミサイル駆逐艦《アーレイ・バーク》級である。

また一部はタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦も健在である。

各空母戦闘群は、これらの護衛艦を各々4隻ずつ持っており、あとは通常駆逐艦から構成されている。

 

しかし、そのハンディキャップを超高速潜水艦《海龍》とその豊富な搭載兵装が補うはずだ。

 

 

 

同じ6月1日。

早朝から、日本空母戦闘群は早くも艦上対潜哨戒機S-3B《ヴァイキング》を飛び立たせ、針路90度を中心に500海里進出させ、哨戒任務を務めていた。

同時に海龍部隊も艦隊前方200海里まで進出、水中哨戒していた。

S-3B《ヴァイキング》の作戦行動半径は、1800キロである。

赤外線センサー、MAD(磁気探知機)、ソノブイ、ESM、FLIRなどを備えている。

搭載可能兵装はAGM-84《ハープーン》に、Mk.46対潜魚雷、Mk.54/60対潜爆雷、機雷、各種爆弾、ロケット弾を持つことができ、敵潜水艦を発見すれば、その場で攻撃できる。

 

また早期警戒機E-2C《ホークアイ》も出して、警戒していた。

本機の作戦行動半径は、400キロ足らずに過ぎないが、搭載している巨大レーダードームに収められたAPS-145レーダーは、索敵可能半径500キロ以内にいる目標ならば同時に650キャッチし、敵を追尾することができる。

つまり、レーダー有効距離を合わせれば、作戦行動半径は1000キロとなる。

 

日本空母戦闘群は、これらの艦載機を2機ずつ飛ばし、常時交替させている。

全索敵哨戒線に対して8機である。

一見、少ないように見えるが、太平洋戦争当時は多数飛ばした。

現代の哨戒機は高性能であり、1機の哨戒範囲が広大なので充分である。

対潜哨戒機はソノブイを大量にばら撒いているが、ヴァイキングの搭載しているコンピューターは、海龍から発する微量なノイズは無視するようにプログラムされている。

また哨戒範囲をダブって、E-2Cが飛び回っていたから、敵がやって来ればミスすることはあり得なかった。

 

いっぽう、ハワイから出撃したアメリカ艦隊は、2個空母戦闘群がほぼ平行しつつ50マイルの距離を開けながら針路270で西進。

その日の夜は日付変更線を越えていたが、司令官・ノース中将は東経160度ラインを超えるまで哨戒機、警戒機を出す気はなかった。

日本軍はおそらく小笠原諸島近くにいて、南北どちらにでも動けるように待ち構えているだろう。それが本来の日本軍作戦であることは、戦史に記している。

 

しかし、帝国海軍のとった漸撃作戦であって、快速の空母戦闘群には当て嵌まらない。

ノース中将は、ここで思い込みによるミスを犯してしまったのである。

 

翌日……6月2日。

1200時過ぎにはウェーク島の北を通過した。

しかし1300時には、もはや日本軍の哨戒範囲に入り込んでしまったのである。

暁天02から出た《ホークアイ》が、500キロの探知距離ギリギリのところに敵艦隊らしき複数の目的を捉え、第10艦隊司令部に通信した。

 

“われ空母戦闘群らしき目標を探知す。敵艦隊はおよそ10隻からなり、距離270海里、速力28ノット、針路270で西進中”

 

この電波は当然米軍にもキャッチされ、ノース中将は敵がこれほど近くにいたことに愕然とした。

 

この電波を送ったものは、当然《ホークアイ》対潜哨戒機だろう。

日本空母戦闘群が我が軍の空母航空団をそっくりコピーしたらしいことは、すでに海軍司令官から知らされている。

 

「どうやら敵は、東経160度ラインまで進出している」

 

ノース中将は幕僚たちと話し合った。

 

「我が偵察衛星が機能しない今は、敵勢力を空から確認するわけにはいかない。

最新情報では、敵は我が軍のニミッツ級空母を入手したとのことを言っていたが、護衛艦隊については海自の護衛艦群のままらしい。……という事は敵のイージス艦は6隻と限られているという事だ。

我が軍は8隻ずつ持っている。また火力についても我が軍のエスコート艦の方が強力だ。

なにしろ、ミサイル巡洋艦をもっているからな。

敵襲の方が早いとしても冷静に対処すればいい。まず敵攻撃機と戦闘機を撃破するのだ。

そのあと敵空母をゆっくり料理すればいい。この旨を全軍に伝えてくれ」

 

この命令は2隻の空母の艦長に伝えられ、了解の回答があった。

もはや味方の位置は露見したので、無線封鎖は必要ない。

両軍はさらに接近すれば、日本はステルス電子戦機EA-6B《プラウラー》の出番となる。

米軍の場合はF/A-18Fを改修した電子戦機……F/A-18G《グロウラー》になる。

これらはジャミングを行ない、敵の通信を妨害する。

この場合、双方とも電子戦機を持っているわけだから条件は同じとなる。

艦隊リンクシステムもまた妨害される。

 

ノース中将の言った通り、米海軍が持つミサイル巡洋艦は満載排水量1万トンに近い。

海自が持つ最強の戦闘艦DDGよりもふた回り大きい。

搭載兵装も豊富で、スタンダード、アスロック、トマホーク、ハープーンを持っている。

発射機は全部合わせて120セル以上だ。

このうち最も脅威なのが、トマホーク・ミサイルであることは言うまでもない。

これは本来対地攻撃ミサイルだが、通常弾頭をハープーンに搭載されている誘導装置を付け替えて、対艦ミサイルとしても運用できる。

その場合の有効射程距離は、480キロである。

 

 

 

空母《カガ》の早期警戒機から、敵発見の報せを受けた空母戦闘群では、鬼頭司令官が全軍にAMG-84《ハープーン》の有効射程距離に入り次第、攻撃せよとの命令を出した。

護衛艦はハープーンしか持たないからである。

これはトマホーク・ミサイルの半分の有効射程距離しか持たない。

誘導のためのデータは、警戒機から送られる。

 

同時に、距離400キロでF/A-18E《スーパーホーネット》の出撃命令を下した。

F/A-18E《スーパーホーネット》の作戦行動半径は、850キロである。

また《スーパーホーネット》は戦闘機としても運用できるので、F-35《ライトニングⅡ》は出さない、あくまで防空用として取っておく。

 

日本空母戦闘群が保有する艦載機は、全て無人機。

ただし早期警戒機と対潜哨戒機だけはパイロットが乗り込んでいた。

人間の判断が時には必要だからである。

 

艦載機……F/A-18E《スーパーホーネット》と、F-14《トムキャット》は完全なる無人機、つまりロボット機である。

しかし、搭載されている人工知能はありとあらゆる戦闘テクニックがダウンロードされ、駆け引きのアプリケーションも身につけている。

また人間パイロットには不可能なアクロバット飛行も可能だ。

灰田はそれを見越して、これらの機体を全て強化していた。

また空母や別行動をしている古鷹たちの未来艤装にも秘密があったのだが、それらは全て分かることになる。

 

早期警戒機はなおも粘り強く続け、敵艦隊が距離400キロとなったところで再度報告した。

すでにF/A-18E《スーパーホーネット》の発艦準備は完了していた。……言うまでもなく、これらは全て自動的に行われる。

搭載兵装は空対空ミサイル2発、空対艦ミサイル2発、GPS誘導爆弾2発を持ち、固定武器としてM61A1 20mmバルカン砲を持っている。

これら《スーパーホーネット》部隊が、第2と第3空母戦闘群からまず36機ずつ発艦した。

第1と第4空母戦闘群からは、目標との距離がまだ遠いので見送られた。

その代わり敵の未来位置に向かって、速度を上げて急行しつつあった。

 

しかし、この時には米軍も早期警戒機を発進させて、敵との距離を測っていたのである。

この警戒機は2個空母戦闘群……つまり第2と第3空母戦闘群を発見し、そのデータを《セオドア・ルーズベルト》に送った。

第1と第4空母戦闘群は離れすぎていたので、レーダー探知できなかったのである。

ノース大将はほかにも2個空母戦闘群はいるはずだと思ったが、ともかく目の前の敵を減らすのが先決である。

450キロになったところで、トマホークをVLSから発射した。その数、合わせて18発。

日本軍にとって、脅威となる数である。

トマホークの速力は885キロ。海面を這うようにして飛行するからレーダーで捉えにくい。

最初は慣性飛行で、最終飛行段階では赤外線探知で突入する。

 

このとき日本空母戦闘群では護衛艦が前に出て、各イージス艦が防空態勢を取っていた。

第2と第3空母戦闘群では《こんごう》と、対馬海戦で活躍したナガタ一佐が乗艦している《みょうこう》である。

しかし、イージス・システムは同時に60の目標を処理できるとはいえ、2隻しかいないのではいささか心細い。敵には少なくとも16隻はいるはずだ。

 

ノース中将は、敵は恐らく我が主力戦闘攻撃機《スーパーホーネット》を出したと考え、味方機をすぐに出すとともに、防空用として待機していたF-35C《ライトニングⅡ》を上げるように命令を下した。

発進準備が出来ているので、まず《スーパーホーネット》が発艦。続いて《ライトニングⅡ》が上がった。後者はAV-8B《ハリアーⅡ》のようにVTOL飛行で発着艦が可能だが、緊急時がない限りは通常飛行で発着艦もできるように訓練されている。

しかし全て自動化された日本空母に比べて、いくら熟練しているとはいえ、時間を食うことは否めない。

米軍側からは《スーパーホーネット》72機が、2隻の空母から上がり、《ライトニングⅡ》28機が上空カバーに就いたときには、すでに護衛艦のレーダーは敵機の接近を捉えていた。

 

日本の放った《スーパーホーネット》である。

ミサイル巡洋艦《バンカーヒル》《プリンストン》《カウペンス》《シャイロー》らは任せておけとばかり散開し、距離をあけて前に出た。各ミサイル巡洋艦4隻ずつそれに従った。

これらは全てイージス艦である。

各艦に搭載しているイージス・システムに伴い、最新鋭戦闘機F-35C《ライトニングⅡ》を持ってすれば、敵機は全て食い止められるはずだった。

 

しかし、結果からすると、ノース中将の思うようにそうはならなかったのである。




最初の戦闘ともいえる航空戦は次回のお楽しみです。

灰田「そういえばナガタ一佐が登場していましたね、名前だけですが」

あの後読み直しましたが、イージス艦《みょうこう》が登場していましたのでね。
私としたことがミスを犯しました、大変失礼しました。

灰田「まあ、仕方ないですね。ミスは誰にもありますから」

はい、しかも今回で八十話を迎えました。
あと二十話で一〇〇話になりそうです、執筆している自分が恐ろしいです。
本当に夢見たいです。
あまり長くしているのは大変ですので、次回予告をお願いします。

灰田「承りました。次回はこの続き……日米空母戦の航空戦から始まります。
果たしてどのような戦果になるかはお楽しみに」

次回は来週になるかもしれませんのでご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。後編……次回まで第八十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十一話:決戦!日本空母戦闘群VS米空母戦闘群 後編

お待たせしました。
予告通り、日米空母戦の航空戦から始まります。
この日米航空戦は、果たしてどのような戦果になるかはお楽しみでもあります。

灰田「この開幕航空戦とも言うべき、最大ともいえる航空戦になることは間違いないでしょうね」

ではこの言葉に伴い、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ」」


米護衛艦隊群は、その三次元レーダーで敵機を捉えると、それぞれスタンダードミサイルを発射した。

 

敵機は、やはり72機を揃えている。

速力はマッハ2に近く、これはF/A-18E《スーパーホーネット》に間違いない。

味方機を攻撃しているようなもので、何とも奇妙な気分だと担当員は思った。

しかし、スタンダードミサイルはそれ以上なので、各艦のCIC戦術処理スクリーンには、目標に向かい艦対空ミサイルが殺到していく様子が表示された。

数秒後には、敵機消滅を示す表示が現われるはずだった。

 

だが、そうはならなかった。

多数の目的……つまり《スーパーホーネット》は、非線形にちかい軌跡を描くとともに、全てのスタンダードミサイルを躱したのである。

 

全ての航空機は線形の軌跡で飛ぶのが常識である。

つまり急角度に折れ曲がるように飛んだりはしない。そのような動きをするのは、航空力学上不可能である。

だからこそ、いかにうまく逃げたとしてもミサイルは追尾できる。

ところで、UFO(未確認飛行物体)というのは非線形の動き、すなわちぎくしゃくと直角に曲がったりするので有名である。

 

この飛び方のため、地球外飛行物体として考えられた。

地球には、このようにして変則的に飛べる飛行物体は存在からである。

だが、コンピューターが操縦する機体各部を強化された《スーパーホーネット》は、角度を自在に変えられる推進ノイズをいくつか持ち、そのために45度以上の急角度ターンが可能だった。

 

人間がこれをやったらたちまち失速してしまうが、そもそも米軍オリジナルの《スーパーホーネット》は、そのように改良されていない。

言い換えると、灰田は各空母4隻に搭載する戦闘機と戦闘攻撃機を全てUFOにちかい飛び方ができるように改良を加えたのである。

このためスタンダードミサイルによるホーミング・システムは混乱し、あさっての方角に飛び去ってしまった。

 

ミサイルの第一撃を躱した《スーパーホーネット》はなおも進撃をつづけ、米空母のCIC戦術処理スクリーンには恐ろしいスピードで距離を縮めてくる敵機の座標が映った。

驚愕すべきことに、スタンダードミサイルで撃墜されたものは1機もいない。

つまり、米海軍自慢のイージス艦はコケにされたのだ。

 

しかし、こちらにはまだ自慢の短距離防空ミサイル《シースパロー》がある。

続いて、各護衛艦はこの短距離対空ミサイルを撃ち放った。

このときには、肉眼で見えるほど敵機は迫っていたので、その動きがよく分かった。

ノース中将はわざわざ艦橋に上がり、幕僚たちとともにその動きを確かめた。

なぜスタンダードミサイルが不調だったのか、と確かめるためでもある。

双眼鏡でそれを眺めていたノース中将は、思わず我を忘れて叫んだ。

 

「なんだ、あいつ等は? ……本当に我が軍の《スーパーホーネット》のコピーなのか!?」

 

70機に及ぶ敵機は、見たこともない飛び方をしていた。

ジグザグに角度をつけて曲がりながら距離を詰めてくるが、それでもマッハを遥かに超えたスピードなのだ。

この奇妙な飛び方のため、シースパローミサイルもことごとく躱されてしまった。

ノース中将や幕僚たちは、思考停止した。

 

どうやったら、ジェット機にあんな飛び方ができるのか?

連邦国・深海棲艦たちから技術援助された戦闘機ですらもあんな飛び方はできない。

ましてやかつては友軍だった艦娘たちのレシプロ艦載機ですらも不可能である。

全ての米軍機はデジタル式フライ・バイ・ワイヤだが、それをもってしてもあんな……UFOさながらの飛び方はできるはずがない。

 

そこに先に上がっていたF-35C《ライトニングⅡ》が飛びかかると、搭載していた空対空ミサイルを発射した。

しかし、結果は同じく躱されてしまった。

ともかく、ミサイルが飛んでくると敵機はひょいと飛び退くように軌跡を変えたのである。

その直後、20mmバルカン砲の一連射でミサイルを破壊した。

対空ミサイルを破壊されたことに怒り狂った《ライトニングⅡ》のパイロットたちもお返しとばかり、25mm機関砲をぶっ放しながら、空戦に持ち込んだ。

しかし、敵機は全てを見透かしたかのように華麗に避けながら、両翼下に搭載していた空対空ミサイルを発射した。

あまりの距離が詰まっていたので、《ライトニングⅡ》は逃げ切ることが出来なかった。

次々ミサイルを喰らい、運よくミサイルから逃れた機体も《スーパーホーネット》の20mmバルカン砲による機銃掃射を喰らい蜂の巣と化し、燃えながら落ちていった。

多くのパイロットたちは思った。空戦能力はF-35Cが上なのに格闘戦の苦手なF/A-18Eに撃ち落されるとあり得ない、と呟いたに違いない。

この奇妙な空戦で、ベイルアウトできたものはほんの数機だけだった。

米軍自慢のエスコート艦の防空能力も用をなさなくなった。

最後の切り札は“R2D2”ことCIWS《ファランクス》だが、この射線もまた敵機はスーパーアクロバット飛行で切り抜けると、日本版《スーパーホーネット》群は空母上空に殺到した。

 

「我が軍のスーパーホーネット、ライトニングⅡ、CIWS《ファランクス》……全て切り抜けられました!」

 

ひとりの幕僚が叫んだ時だった。

敵機は両翼下に搭載されていた空対艦ミサイル《ハープーン》に、GPS誘導爆弾による一斉攻撃されたのでひとたまりもない。

8万トンクラスを誇るニミッツ級空母は、いかに巨大な出力を持っても、巨体すぎて太平洋戦争当時の空母のような緊急回避をすることは不可能である。

つまり俊敏な運動性を持っていない。

 

何故かと言えば、空母自体が攻撃を受けることは想定されていない。

空からの攻撃も、水中からの攻撃も喰らうまえにイージス艦中心の護衛艦部隊に始末するようにデザインされているからである。

それでも必死に回頭し始めたが、とうてい間に合うものではなかった。

2隻の空母《ジョン・C・ステニス》《エイブラハム・リンカーン》とともに、2発ずつの対艦ミサイルとGPS誘導爆弾を飛行甲板に喰らい、大穴が開いてしまった。

 

その瞬間、両空母の機能は喪失した。

 

もっとも、米軍には優秀なダメコンチームがいるのは伝統だ。

彼らの必死の消火活動が開始されたが、現代のミサイルと航空爆弾は、太平洋戦争時代に使われた航空爆弾やロケット弾よりも上回る威力があり、これらによって開けられた大穴を急速に埋められるものではない。

太平洋戦争時には、日本機の二十五番(250キロ爆弾)による損傷した穴ならば、鉄板を張ってすぐ修復できたのだが、現代ではそうはいかないのである。

しかも、1発のミサイルが格納庫まで貫通して爆発し、不運にも予備機が誘爆を起こして大火災を発生した。

 

ノース中将たちがいた艦橋には、幸いにも直接被害は受けなかったが、誘導爆弾の1発は幸いにも艦橋の横にあるCICの真上に落ちたので、CIC機能も失ってしまった。

ペンタゴンは、今回の戦争が始まるまで、我が軍の中核である空母戦闘群の原子力空母が攻撃され、撃沈されるまでは夢想だとしか考えなかった。

 

しかし、まず台湾海域に哨戒任務を行なっていた《ロナルド・レーガン》率いる第七艦隊が深海棲艦・連邦潜水艦により壊滅した。

次はサイパン・グアムに駐屯していた戦略爆撃機・戦闘機を中心とした航空部隊や地上部隊が壊滅し、そして最後は海軍の重要拠点とも言えるパールハーバーが特攻機ないし自爆機能を搭載した無人機の襲撃により壊滅した。

 

この神話は過去のものとなった。

 

そして、いまは……2隻の空母が炎上しつつある。

ノース中将や幕僚たちから見れば、信じがたい光景である。

奇怪な飛行システム、まるで未確認飛行物体の如く飛行する日本機は両翼下に搭載していた兵装を使い果たすと、全機反転した。

これを追いすがるべき《ライトニングⅡ》をノース中将は、すでに持っていなかった。

それどころか繋止(けいし)してあった電子戦機、対潜哨戒機、対潜哨戒ヘリーなども同じく誘爆炎上しつつあった。

 

「反転退避せよ!第二次攻撃隊が来る前に…!」

 

ノース中将はやむなく、乗組員たちに鎮火活動をしつつ反転退避せよと命じた。

敵の第二次攻撃隊がやって来たら、または艦娘たちの艦載機攻撃がやって来たら本当に止めを刺されるかもしれない。

なお彼女たちは別行動をしているため、ノース中将の予想は外れたが。

しかし、発艦した我が軍自慢の《スーパーホーネット》部隊が日本空母戦闘群や艦娘たちを撃破してくれるかもしれない。

 

それに望みをかけるほかなかった。

 

 

 

いっぽう、このとき日本空母戦闘群もF-14《トムキャット改》28機が舞い上がっていた。

なおかつ、第1と第4空母戦闘群から間もなく戦闘海域に突入するという通信があった。

そこに敵の第一波攻撃……トマホーク・ミサイルの大群が襲い掛かって来た。

イージス艦《こんごう》《みょうこう》は、その三次元レーダーで全天を見張っていたが、海上3メートルの超低空でアプローチしてくるトマホーク・ミサイルはさすがに捉え難い。

護衛艦の防空システムは、超低空で飛んでくるミサイルに対抗できるように造られていない。

 

ナガタ一佐たちが気付いたときには、トマホークは直前まで迫り、目標たる空母に目掛けてホップアップしていた。

ようやくレーダーがこれを捉え、シースパローが発射されたが、後手に回ってしまった。

しかし、DDのそれも含めCIWS《ファンクラス》が火を噴き、4発のトマホークを撃墜したが、まだ10発以上も残っている。

これらがホップアップすると、空母《カガ》《ヒリュウ》に襲い掛かった。

空母自身も搭載兵装……シースパローミサイル、CIWS《ファランクス》を持っている。

人工知能《マザー》がこれを恐ろしいスピードで働かせ、さらに4発も撃墜した。

 

残るトマホーク・ミサイルは10発である。

 

5発ずつのトマホーク・ミサイルが飛行甲板に襲い掛かった。

広大な目標だから、ミスしようがない。

ミサイルは飛行甲板に突入して爆発したかに思えた。

しかし次の瞬間、その爆発エネルギーもまた消えてしまったのである。

《カガ》も《ヒリュウ》も飛行甲板は、半透明ガラスを思わせる奇妙な新素材で造られていることは前にも言った通りだ。

 

これは人間の皮膚のように《マザー》のバイオチップの一部“神経細胞”に繋がれている。

これらは太陽光線を通過させ、スターリング・エンジンを取り入れるためである。

 

しかし、ほかの機能も持っていた。

 

《マザー》はこれを傷つけるエネルギーを探知するとともに、ナノ秒のスピードで例のエネルギー転送システムを働かせ、ミサイルの爆発エネルギーを消滅させてしまったのである。

 

春日司令官は《カガ》のCICにいたが、トマホーク・ミサイルの接近警報に続き、10発を撃ち漏らしたのを戦術処理スクリーンで確認後、内心は『しまった』と叫んだ。

だが、続いて《マザー》からのメッセージがスクリーンに浮かぶのを見た。

 

“突入したミサイルを全て無力化、我が艦に損傷なし”

 

至極あっさりとしたメッセージであり、《マザー》にとっては簡単な仕事なのだろう。

しかし、灰田がこの機能については伏せていたのは、あまりにニミッツ級空母は強力なディフェンス機能を持っていると事前に知らされると、乗組員が安心してしまい、作戦行動に緩みが出てしまうからだろうと鬼頭艦長は考えた。

 

事実その通りで、灰田は《マザー》の機能の全てを彼らに教えたわけではなかった。

これは意地悪をしたのではなく、彼らに緊張感を保たせたのである。

続いて、各護衛艦のレーダーはマッハ2近くのスピードで接近する複数の目標を捕捉した。

敵空母《ジョン・C・ステニス》《エイブラハム・リンカーン》が放ったF/A-18E《スーパーホーネット》に違いない。

 

今回の戦闘は奇妙なもの……中国の古い故事のひとつ“矛盾”と思わせるようなものである。

 

とある商人が、矛と盾を売っており、この盾で防げぬ矛はなく、またこの矛で貫けない盾はないと宣伝したが、ひとりの野次馬が『それならばその矛でその盾を衝いたらどうなるか?』と尋ねると、商人は答えることなく立ち去ったという話である。

一世代ほど違うが同じ装備で戦っていることと同じであり、それで攻撃し合うのである。

イージスとは前にも記したように、ギリシャ神話の中で最高神ゼウスが娘アテナに与えたという盾(胸当)アイギスのことであり、この盾はあらゆる邪悪を払うとされていると言われる。

 

もっとも米軍が多数保有しているが、日本はそれを補うために、航空団の飛行性能を非線形化した。

イージス艦は《スーパーホーネット》ですら撃墜できる能力を持っている。

しかし、米海軍のイージス艦16隻は、不可解なUFOのような動きをした日本機の前では無力だった。

米軍自慢のF/A-18E《スーパーホーネット》の攻撃を受けようとしている、第10艦隊の方はどうか?と誰もが思った。

こちらの主役は、前方で待ち構えていた28機のF-14《トムキャット》だった。

70機ほどの《スーパーホーネット》群に突入すると、猛烈な空戦を展開した。

 

最初は定石通り空対空ミサイルによる撃ち合いになったが、しかし《トムキャット》群は、まず敵機に撃たせ、例の如く非線形の動きで全ミサイルを回避した。

なんだ、あの動きはと唖然したパイロットたちに対して、容赦なく攻撃を開始した。

各米軍機は散開したが、普通の回避運動しか出来ず敵ミサイルの攻撃を受けて撃墜した。

必死にフレア(欺瞞体)をばら撒いたが、無駄骨に過ぎなかった。

灰田が用意した《トムキャット》のミサイルは、通常のAAM空対空ミサイルにホーミング機能を従来よりも遥かに超える頭脳を搭載した高性能AAM空対空ミサイルである。

 

たちまち、米軍機《スーパーホーネット》70機のうち40機がこのミサイルの餌食となる。

生き残った30機は、《トムキャット》の20mmガトリング砲の追い撃ちを喰らいながらも敵空母に向かったが、そこで護衛艦から発射されたスタンダードミサイル、続いてシースパローミサイルの追撃を受けた。

普通の飛び方しかできない《スーパーホーネット》は、これらのミサイル攻撃を躱すことはできなかった。

それでも5機が、対艦ミサイル《ハープーン》を発射した。

空母《カガ》《ヒリュウ》に命中した。その飛行甲板にハープーン4発が爆発した。

 

しかし、両艦の乗組員たちは微かな振動を感じただけで、爆発したように感じられた刹那……その破壊エネルギーはトマホークのときと同様に消えてしまったのである。

生き残った《スーパーホーネット》部隊は旋回し、急上昇した。

いち早くこの戦場から離脱しようとしたが、より高性能な《トムキャット》に追いすがれ全て撃墜された。

 

ここに第一次戦闘は終了した。

信じがたいことだが、日本海軍の損害はゼロである。

米海軍の損害は《スーパーホーネット》と《ライトニングⅡ》の両艦載機部隊は全滅。

空母2隻は飛行甲板に損傷を受けて、急速退避しつつあった。

戻るべき航空隊がいなかったのだから、それでも良かったのだ。

 

ノース中将の司令部では、出してやった《スーパーホーネット》部隊から突然通信が途絶えたところから、全機喪失したと考えざるを得なかった。

これはEA-6B《プラウラー》によるジャミング電波ではなどというものではない。

通信そのものが途絶えてしまったのだ。

ハワイを出たとき、こんなことになると誰が予想しただろう。

 

ノース司令官から通信を受けた太平洋軍司令部でも、最初は誰も信じなかった。

ディエゴ司令官は、通信内容を再確認しろと命じたほどである。

しかし、再度送られてきた内容は、前回同様に悲惨なものだった。

 

第3艦隊、新・第7艦隊の2個空母航空団は100パーセント壊滅した。

空母もまた飛行甲板損傷に伴い、戦闘航行不可能となった。




航空戦は日本軍の圧倒的性能により、日米空母戦は日本側の勝利へと決まりました。
原作や漫画版では米軍の艦上戦闘機はF-14《トムキャット》でしたが、時代に合わせて現在の艦上戦闘機に採用される予定のF-35《ライトニングⅡ》に変更しています。
なおF/A-18E《スーパーホーネット》はそのままであります。

灰田「しかし最新機ともいえる戦闘機が、一世代前に落とされるのは皮肉ですがね」

……もう別物と考えたら、それに相手が不幸すぎますから。

灰田「慢心したのも運の尽きでもありますから」

確かにね、あれは慢心し過ぎですね。

神通「本当に戦場で慢心できないほど、私が鍛え直します!」

米軍も泣いて逃げ出しそうです、もう仕方ないねぇ。
……と長続きになりそうですので、ここで次回予告をします。
次回はZ機による『第二次真珠湾攻撃』にて、とある人物たちが日本亡命すると言う視点に移ります。
果たしてこの別艦隊とは誰なのか、そしてとある作品のキャラも出ますのでこちらもお楽しみに。
オリジナル展開なので時間が掛かりますので、何時もながらですがご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで第八十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。

神通「ダスビダーニャ!ではお茶にしましょうか」

頂きます。

灰田「では、お言葉に甘えていただきます」


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第八十二話:とある艦娘との長い逃走……

お待たせしました。
予告通り、Z機による『第二次真珠湾攻撃』にて、とある人物たちが日本亡命すると言う視点に移ります。
果たしてこの別艦隊とは誰なのか、本編を見てのお楽しみに。

灰田「そして、作者の好きな『バトルシップ』のとある人物が特別ゲストに登場しています。むろん今回だけですが」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


某海域。

日米空母戦闘群による海戦が行われていた最中、こちらでも別の戦いが始まっていた。

戦いと言うよりは、彼女たちの果てしない長い逃走と言った方が正しいだろう。

 

「本当ナラバ、同胞ハ撃チタクナイガ悪ク思ウナ!」

 

そう告げ戦闘態勢を取り、指揮しているのは戦艦水鬼である。

他にもとある艦娘と水鬼派の深海棲艦たちとともに逃亡をしたのだ。

 

「アイオワ、アノ外道ハナニカヲ隠シテイル、オタガイ油断スルナ!」

 

「OK!合衆国(ステイツ)の名に懸けて戦うわ!」

 

彼女の名は、アイオワ型1番艦《アイオワ》である。

アメリカ初の艦娘であり、唯一のアメリカ艦とも言っても良い。

なぜお互い敵同士だった者たちが、このような共闘関係になったかは時間を少し遡る。

アメリカが連邦国(正確には残党軍だが)と秘かに手を結んでから変化した。

当初は同盟国の日本を、いきなり敵視した挙げ句、日本を膺懲しようと政府は方針した。

彼女はそれを嫌い、日本に亡命しようとした。

しかし、亡命しようと計画していた最中にそれがバレてしまい連邦残党軍はここでも同じく彼女を痛い目に遭わせた。

疲労があろうと意識が朦朧としても無理やり訓練をさせられた。

連邦残党軍・連邦派もまた彼女を日本の艦娘たちを懲らしめるためとして練度上昇をするためだと言い聞かされた。

訓練とは言うが、実際には新兵いじめと言った方が正しい。

その多くはもっぱら“標的艦”として扱われ、演習場でも毎日同じことを繰り返された。

訓練の度を越えていると多くの米海軍提督たちは抗議したが、連邦残党軍は『逆らうと更迭だけでなく、政府に言いつけて二度と提督業をできなくしてやる』と恫喝した。

これを聞いた者たちは仕方なく抗議をやめ、見て見ぬふりをした。

一部は抗議し続けた提督たちもいたが、いわずともその場で粛清されてしまった。

アイオワは希望を断たれたと絶望に陥っていたが、本来は敵ではある戦艦水鬼たちも連邦軍のやり方にうんざりしていた。

戦艦水鬼たちも中岡たち率いる連邦残党軍を敵視し、さらにそいつ等に加担するアメリカ政府はもはやアメリカではないと告げた。

アイオワは日本とは戦いたくない、決して日本の艦娘や提督たちが許してもらわなくても自分の罪が償えるのであれば死んでもいいと考えていた。

しかし、戦艦水鬼はそんな彼女にビンタをした。

 

『贖罪ダトフザケルナ、オマエハ祖国ノタメニ尽クシタンダ、ホコリヲ忘レルナ!』

 

この言葉に自分を見失っていたアイオワは、自信を取り戻し戦艦水鬼たちと絆が生まれた。

また戦艦水鬼たちも彼女との絆が出来た。

二人の友情が出来た途端、アメリカ政府・連邦残党軍は対日計画《チェリー・プラン》を発動した。

本格的な対日計画により、各基地に配備され、とくに真珠湾は海軍の重要拠点のため集中的に米艦隊や連邦艦隊、そして深海棲艦が配備された。

停泊していた彼女たちは、秘かに脱出計画を立てていた。

彼女たち同様、同盟国日本を裏切りたくないとアレックス・ホッパー大尉率いる少数の米海軍提督たちも、水鬼派の連邦提督たちも日本亡命に惜しみなく協力した。

戦艦水鬼たちはホッパーたちから『米軍の偵察衛星が原因不明のマルファンクション(機能不全)に陥り、映像が一切入らなくなった』との情報を入手した。

彼女たちはチャンスとばかり、脱出計画を実行した。

 

その結果……見事に成功した。

第三、新・第七艦隊が出港した後、少し遅めだが、彼女たちも出港した。

運が良いことにアイオワたちが出港した後、真珠湾が何者かに空爆されたとの情報が通達された。

恐らく日本のステルス重爆、一度だけだが、以前出会った灰色服の男ことミスター・グレイが日本にもたらした超兵器だと戦艦水鬼は悟った。

山本長官の言う通り、歯車は狂い始めたと言う瞬間でもあった。

同胞の多くは連邦側に寝返ったため真珠湾に停泊した状態で戦死しただろうと双眸を落としながら考えた。

しかもあれほど破棄しろと促した忌まわしい生物兵器……人造棲艦《ギガントス》を生産し始めた。

今度もまた実験材料には街のホームレス、特に女性ホームレスが集められた。

アメリカ政府も日本を膺懲するためならば、悪魔とも手を結んだ。

非人道的な生物兵器を製造することすら許す民主国家は存在しない。

だが、これも軍国主義……アジア覇権国家になる日本の野望を打ち砕くためだとして許された。中世ヨーロッパ時代ならば誰もが神に祈りを捧げたものであるだろう。

もっとも優柔不断なレームダック……ハドソン大統領よりも中岡連邦大統領の方がよほどリーダーシップのある大統領だ、と戯言を言い始めた。

 

 

 

現状に戻る。

こちらもまた日本空母戦闘群を殲滅するために、真珠湾から米空母戦闘群が出港した。

その同時に日本のステルス重爆部隊による空爆により、真珠湾基地はパニックを起こした。誰もがアイオワたちを追う暇もないと思われたが、しかし彼女たちを見逃すほど中岡たち率いる連邦残党軍は甘くはなかった。

秘かに彼女たちが逃げることを知っていたかのように、追尾者たちを用意しておいたのだ。

かつての同胞……いや、裏切り者たちと等しい連邦派の深海棲艦たちはもちろんのこと、虎の威を借りる狐の如く米軍から兵器を貸与され、強化した連邦残党海軍である。

もたらされた駆逐艦は当然イージス機能を搭載した《アーレイ・バーク》級駆逐艦である。

姿は見せてはいないが、必ず人造棲艦《ギガントス》が潜伏しているはずだ。

敵艦数はおよそ20隻。その多くは連邦側に残った深海棲艦、少数の連邦艦隊だった。

あの人造棲艦《ギガントス》の姿はいない、思い込みだったのかと戦艦水鬼は呟いた。

しかし、追尾者たちは撃破してでも日本に亡命することに変わりはない。

 

「全艦戦闘隊形、味方であろうと容赦するな!」

 

日本亡命艦隊旗艦《ジョン・ポール・ジョーンズ》に乗艦しているホッパー大尉が各艦艇に命令を下した。

味方の駆逐艦であろうとももはや日本に亡命する自分たちやアイオワ、そして戦艦水鬼や水鬼派の深海棲艦たちは味方では敵として見られている。

奇妙な気分に襲われながらもホッパーは、仲間たちと共に戦闘を開始した。

 

「やはりミーたちを追って来たのね……」

 

「ソノヨウダナ、ヤレルカ?」

 

「Absolutely(もちろんよ)、Nameshipが伊達じゃないことを見せてやるわ!」

 

「全艦戦闘隊形、同胞デアロウト容赦スルナ!」

 

戦艦水鬼の命令で各艦は散らばり、戦闘隊形を取る。

陣形はもっともポピュラー、砲雷撃戦を短時間で済むことが出来る単縦陣である。

できる限り、手っ取り早く終わらせるためでもあり、また長時間も無駄に相手にしていたら足止めされているのと同じである。

 

戦闘態勢を整えた頃には、まずは決め手となる艦載機同士による空戦である。

第二次世界大戦から今日の現代戦でも、もっとも欠かせないのは制空権の確保だ。

空を制する者は戦を征する、と言われるほど航空機による制空権確保は重要な役割である。

例え最新鋭地上や海上兵器を持とうが、空からの攻撃のまえでは無力に等しい。

こちらはヲ級たちが持つ最新鋭艦載機、いつも通りの“たこ焼き型艦載機”だ。

しかし練度は最大限、艦戦・艦爆・艦攻部隊の全機が精鋭部隊である。

水鬼たちには戦艦・重巡・軽巡・駆逐艦は全てelite、flagship、改flagshipである。

またアイオワは改装されており、いまは“アイオワ改”である。

戦艦でありながらも金剛姉妹のようにスピードも早く、長門たちと同じ攻撃力とともに、対空能力は秋月姉妹を凌駕するほどの実力を兼ね備えている。

そして少数だが、ホッパー大尉たちが乗艦しているイージス機能を搭載した《アーレイ・バーク》級駆逐艦がいる。

 

連邦残党海軍も同級艦だが、だが米軍は必ずしも高性能兵器を貸与するはずがない。

大抵がスペックダウン……つまりモンキーモデルが多い。

アメリカだけでなく、ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエルなどもどの国に兵器を売却時には、自国の高性能兵器で返り討ちにされたらたまらない。

だから性能を少し落とした兵器を購入させる。

事実では湾岸戦争ではイラク陸軍の主力戦車T-72も、米軍が持つM1A1や英国陸軍が持つチャレンジャー戦車など最新鋭戦車に敗れたことは有名である。

中国・韓国の場合は、両者とも性能は最悪であり、しかも必ずどこかが故障を生じる。

特に後者はひどく自国兵器ですらもまったく信頼性が低い。

パキスタンは中国との仲がいいが、基本的には日本寄りである。

しかも輸出用戦闘機FC-1戦闘機ですらも飛行訓練中に墜落した事件もしばしあった。

 

「裏切り者の異端者どもを殺せ、もっと殺せ!」

 

追尾艦隊こと連邦残党海軍……この艦隊を指揮しているチョン上級政治将校が命令を下した。

 

命令と言うものは簡単なものほど良い。

考えることなく、ただひたすら目の前にいる敵を倒せばいいのであるからだ。

あの猪突猛進のハルゼー中将も日本海軍との戦闘でも『ジャップを殺せ、もっとジャップを殺せ』と部下たちに命じたぐらい口が悪かったが、部下たちからの信頼は高かった。

 

「突撃せよ、誰ひとりとして帰すな!」

 

この上級政治将校もこれを模倣しているのだろう。

または多くの連邦軍は、自分たちを“神”と自惚れている。

しかも自分たちは世界覇者になれた時には、世界中の人間がひれ伏し、我々を新世代の神として崇められると言うことを本気で信じている。

だからと言って、模倣したとしても必ずしも有能な指揮官とは限らないが。

 

突入して来る連邦深海棲艦たちを見たホッパーたち率いる護衛艦隊が標的を合わせた。

 

「一斉撃ち方、始め!」

 

ホッパー大尉の命令により、旗艦《ジョン・ポール・ジョーンズ》を含めた各艦は突撃して来る敵艦をマークした。

何度も記したように1隻が16の目標を処理できる強力な攻撃力を兼ね備えている。

3隻だから48の目標を捉えることが出来る。

戦闘態勢万全。ホッパーの命令により、全艦は目標を捉えてスタンダード・ミサイルを発射した。

彼らに続き、アイオワと戦艦水鬼たちも各砲塔の俯角を取り、敵艦に向けて一斉射した。

 

「本当ナラバ、同胞ハ撃チタクナイガ悪ク思ウナ!」

 

「Nameshipは伊達じゃないのよ、見てなさい……Fire!」

 

両者の主砲に伴い、各水鬼派深海棲艦たちの主砲が唸り声を上げた。

古代から最強とも言える恐竜のような雄叫びの如く、放熱を出しながら各砲弾ないし20mm機関砲弾や40mm機関砲弾などの対空機銃も一斉に撃ち方を始めた。

奇妙とも言える同じ兵器を持つもの同士の戦いが始まった。

先手を打ったのは《ジョン・ポール・ジョーンズ》を含めた各駆逐艦から発射された対空ミサイルが深海艦載機に直撃した様子がCIC画面越しには敵機が次々と空中爆発を起こし、打ち上げ花火のように四散した。

水鬼派たちは友軍誤射を防ぐために米海軍と同じ迷彩色、ブルーカラーにしている。

その一方、連邦派は派手なものが好きな中岡たちの趣味なのか全ての機体は真っ赤である。

アイオワたちが対空戦闘を繰り広げていた最中に、別の敵攻撃隊が現われた。

自分たちには“神”が付いていると連邦独特の自惚れに毒されたため、対空警戒を怠っていた。

 

その時だった、上空から20mm機関砲の嵐が襲い掛かって来た。

水鬼の命令で遥か上空で待機していた直掩部隊である。

先導する敵隊長機が撃墜されると敵直掩隊が、自軍の攻撃隊を守るために散らばった。

しかし先手必勝を取られたために、またしても各機入り乱れた状態に陥る。

格闘戦、敵味方が入り混じっている空戦は迫力のある物だった。

両深海艦載機はどちらも甲乙つけがたいが、やはり水鬼派のヲ級たちの艦載機の方が有利だった。

日頃から通常艦隊よりも厳しく鍛えられ、常に精鋭艦隊として磨き上げられたのだから当然とも言えるが、自意識過剰な連邦艦隊や連邦派深海棲艦とは天地があり過ぎる。

直掩隊を失った攻撃隊は、もはや丸裸も同然だった。

水鬼派の艦載機部隊は仲間でも躊躇うことなく、次々と敵攻撃隊を撃墜していく。

ヲ級たちも奇妙であり、複雑な気持ちを持ちながらも自分たちが生き残るために心を鬼とする。

それでも生き残った敵攻撃隊が遥か上空から急降下してアイオワたちに襲い掛かる。

しかしアイオワたちにはVT信管を搭載した対空兵器による猛烈な対空射撃、ホッパーたちが乗艦する各護衛艦の短距離SAMに、CIWSが火を噴き続ける。

ここでも皮肉とも言えるが、敵である艦娘たちのように第二次南シナ海戦を再現している。

 

「敵攻撃隊、投弾してきます!」

 

「取り舵、いっぱい!急げ!」

 

ホッパーたち率いる米海軍艦隊は回避行動に移りつつ、敵機を攻撃する。

投下された爆弾は全て躱された挙げ句、水しぶきに伴い、巨大な水柱が立った。

 

「私の火力、見せてあげるわ…… Open fire!」

 

アイオワの搭載していた40mm四連装機関砲が火を噴き続ける。

彼女が持つ優秀な対空電探に捉えられ、さらに優秀な対空機関砲による対空射撃で、次々と敵機をあの世に送って行く。

 

「全艦、敵攻撃隊ヲ逃ガスナ!ウテ!ウテ!」

 

戦艦水鬼たちも両者には負けていられないという意気込みを込めて命じる。

連邦の無能指揮官どもと違い、士気は高い。

彼女の働きに応えるよう、友軍艦隊の対空砲火は激しさを増した。

 

激しい対空砲火をしている最中だが、優位はアイオワたちにある。

しかしこの海戦で連邦艦隊が“新たに開発した秘密兵器”を隠し持っていることに関してはアイオワ・戦艦水鬼たちは、まだ知る由もなかった。




本来は迷っていたのですが、アイオワさんを登場させました。
当初は出すことを躊躇いましたね。

灰田「まあ、あなたのお気持ちは分かりますけどね」

色々な意見はありますが、彼女も登場させることに決めましたので。
ゆえに戦艦水鬼さんとの絆を築くということも良いかなと思いまして……

灰田「まあ、これ以上は時間が掛かりそうなので次回予告に参りましょうか?」

スパシーバ……それではお願いいたしますね。

灰田「承りました。次回はチョン上級政治将校が言っていた“新たに開発した秘密兵器”が登場しますね。こちらも田中光二先生作品に登場していた米軍が開発した秘密兵器です、その正体を明らかになりますのでお楽しみください」

オリジナル展開なので時間が掛かりますので、何時もながらですがご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで第八十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十三話:脅威の特殊深海棲艦

お待たせしました。
それでは予告通り、チョン上級政治将校が言っていた新たに開発した秘密兵器が登場します。

灰田「ヒントは田中光二先生作品『超戦艦空母出撃』に登場していた米海軍が開発した秘密兵器です、その正体を明らかになりますのでお楽しみください」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


敵攻撃隊を全て撃墜した水鬼派の艦載機部隊が攻撃態勢を取る。

しかし、この先制攻撃だけならばまだ対処できるが、艦載機攻撃よりもイージス艦による対艦ミサイル《ハープーン》の大群が襲い掛かった。

いくら優秀な駆逐艦《アーレイ・バーク》級駆逐艦を貸与されているからと言っても大量の対艦ミサイル攻撃を受けたらひとたまりもない。

 

「迎撃せよ、特にギガントス、例の新型兵器を搭載した特殊艦隊は死守せよ!」

 

チョン上級政治将校は命令を下した。

ギガントスに続き、新型兵器を搭載した高速艦を必ず死守せよと全艦に伝えた。

自身やこれらの切り札が生き残れば良い、ほかは轟沈しても構わない使い捨て艦隊、また建造すれば良いだけの話、ゆえに彼らにとっては痛くもかゆくもない。

新兵器だけの威力はお墨付き、アイオワや水鬼派たちの深海棲艦たちなどを“標的艦”とした際に徹底的に研究した新型兵器を試すときがやって来たのだ。

ほかの艦娘でも先制攻撃で中破ないし大破できることはもちろん、しかも上手くいけば戦艦や正規空母級を一撃で大破できる代物である。

そう考えるだけでチョン上級政治将校は、ニヤニヤが止まらない。

大切な艦娘たちを目の前で失い嘆き悲しむ提督たちの姿を、その絶望に満ちた表情をみるだけでも、彼にとっては最高の快楽でもある。

また自分は選ばれし者、自分自身を、チョンは超能力者だと思っている。

誰もが『何が超能力者だ』と言うように、まったくの無能力者である。

しかし当の本人はそれに対して怒り狂い、子どもがよく遊びで多用する “指ピストル”を真似し、自分が気に入らない者たちに対して自身の部下たちに射殺させた。

なおそれでも気に喰わない場合は、鈍器で撲殺した。

 

「ミサイル迎撃後はこの“新兵器”の実験体へとなってもらうぞ」

 

迎撃している様子をCIC画面越しから映像を見るチョンは深海側の被害状況など気にしない。

1隻、また1隻とハープーンと徹甲弾による攻撃で轟沈していく様子を見ても動揺しない。

味方の連邦艦艇が轟沈してもさほど気にすることはない、自分たちと特殊深海棲艦と最高傑作《ギガントス》さえ生き残ればいい。

今回は重巡洋艦タイプを用意した、例によって命令は忠実である。

なお艤装に関してもやはり深海側と同じように強力な8inch三連装砲、22inch魚雷後期型を装備しているが、こちらもまた例の“新型兵器”を搭載している。

なお初期である戦艦型、空母型のように人を捕食する能力があった。

しかしアメリカ政府はこの強力な生物兵器であることに関しては歓喜だったが、自分たちが喰われたら堪らないので、万が一に備えて自爆機能を搭載している。

これならばいかに頑丈である艦娘たちですらも損傷は逃れられないからである。

自殺はキリスト教では禁忌であるが、戦争となればその行為も許されると思い始めた。

もしアメリカがあの戦況で不利になった場合は、日本と同じく神風攻撃をしていた可能性も否定できない。

連邦残党軍は強力なアメリカを失ったら堪らないので、すんなりと許可をした。

また保険としてとある島に“人造棲艦建造ドッグ”を配置しているため安心はしている。

それでも物量を誇るアメリカがいる間は安心であるが、当分封印している。

なおここには大量の陸海空三軍を配置しており、かつて海洋進出を目論んでいた中国などのように人工島も建造しており従来の島と言うよりは、もはや要塞島とも言える。

史実の硫黄島を模倣しており、敵艦の砲撃、敵機による空爆にも充分耐えられるように設計された地下トーチカ、重機関銃座・野砲陣地などに伴い、連邦側に寝返った砲台小鬼に、そして新たなる試作兵器として陸上タイプの人造棲艦《ハンター》を複数配備している。

これらが語られるのは後々になる。

かつての“絶対国防圏”のように、連邦残党軍にとって最後の楽園でもあり、自分たちがこの戦争“聖戦”に勝利するための場所、彼らは“聖なる楽園”だと言い始めていた。

 

話が逸れたので現状に戻る。

以前の旧式駆逐艦《ルター》《ルーフー》に、最新鋭駆逐艦とも言われた改ソブレメンヌイ級と旅洋Ⅲ型に比べたら、米海軍主力駆逐艦《アーレイ・バーク》級は天と地である。

ある程度被害は抑えられたものの、大量のハープーン、アイオワたちの徹甲弾の嵐を完全に防ぐことはできず、2隻が轟沈した。

連邦深海側に至っては数隻いた戦艦ル級改flagship、タ級flagshipなどは数発のハープーンを受けて悲鳴を上げることなく一瞬にして撃沈された。

また前者と同じく空母ヲ級改flagship、軽空母ヌ級flagshipたちも避ける暇もなく、同じ運命を辿った。

例の“新型兵器”を搭載した重巡型《ギガントス》に、各軽巡、重巡の被害は抑えられたが、それでも3隻中破、1隻が撃沈した。

それでも被害を押さえられたことは不幸中の幸いでもあったに間違いない。

 

「よし、全艦に告ぐ。裏切り者たちを痛めつけろ!」

 

チョンは“指ピストル”を作り、画面越しにバンッと呟いた。

全乗組員たちは『インチキが始まった』と内心に呟きながらも、このチョンたちの切り札でもある“新兵器”を搭載した特殊艦隊たちに戦果を期待するのだった。

連邦海軍は亡命してもなお精神論・根性論に縛られていた。

また年功序列と言うものも然り、年上の意見が正しく、年下の意見は全て間違っているという古い体質から抜けることが出来なかった。

しかしある程度は見直されたものの、体質はそう簡単に変わることはあり得ない。

 

「我々にひれ伏す時がきたのだ!」

 

むろん、このチョン上級政治将校も当て嵌まるが。

 

 

 

「Shit!これじゃ切りがないわ!」

 

圧倒的な物量の前に、自慢の大火力を誇るアイオワでも敵艦隊の恐ろしさを感じた。

 

「弱音ヲハクナ、オマエニモ頼モシイ仲間タチガイルジャナイカ」

 

戦場でも清々しく冷静に励ます戦艦水鬼を見て、アイオワはニッコリとした。

 

「Thank you!水鬼、ミーも負けていられないわ!Fire!」

 

「全艦、アノ無能ドモヲ蹴散ラセ!」

 

戦艦水鬼の勢いで、水鬼派の深海棲艦たちが砲撃を繰り返す。

戦艦水鬼たち率いる深海棲艦たちは勇敢で忠実、第一慢心しないことを心掛けている。

ゆえに仲間思いが多い。

その一方、連邦派深海棲艦の方が圧倒的に数は多いが、主と同じくあまり練度は高くない。

どちらかと言うと脳筋な者たち、つまり愚行な者たちが多い。

連邦派に残った者たちは未だに脳筋な中岡たちの言う事を、世界の救世主になれると言う絵に描いた餅、夢のまた夢という幻想に取りつかれている。

しかし自滅覚悟を持っており、実際に戦う相手ではとてつもなく厄介である。

これらを足して、さらに“新兵器”を搭載した特殊深海棲艦および人造棲艦《ギガントス》が突撃して来た。

 

「What!新たな増援だけど奇妙な敵がいるわね」

 

「マサカ……ギガントスカ?」

 

「For real!?(本当に)、厄介な相手になるそうね」

 

「アア…シカシ奇妙ナ兵装ヲ搭載シタ同胞モ気二ナルナ……」

 

戦艦水鬼は同胞……今は連邦派深海棲艦たちの高速艦だけで水雷戦隊ないし重巡洋艦部隊だけが突っ込むのがおかしいと察知した。

戦艦部隊が突撃すらならまだしも、圧倒的な火力を誇る自分たちの前に突撃して来るのは明らかに可笑しいと奇妙な気分、何か恐ろしい悪寒に襲われたのだ。

しかし怖気づいてしまったら、敵の思うつぼである。

 

「全艦、敵水雷戦ヲ雷撃セヨ!」

 

戦艦水鬼は一か八を賭けて、突撃して来る敵水雷戦隊に対して雷撃戦を挑めと下した。

猪突猛進しかしない、元よりただひたすら前進せよ!としか無謀な命令しかできない連邦海軍が何か隠し玉を持っていなければいいのだが、この攻撃で証明するしかない。

そう考えている間にも雷巡チ級率いる水雷戦隊に続き、新たに配属された駆逐古姫率いる精鋭水雷戦隊たちが単縦陣で突入して先制雷撃を喰らわす。

前者は21inch魚雷後期型および22inch魚雷後期型に、駆逐古姫は特殊潜航艇……北上・大井・木曾たち雷巡と、軽巡阿武隈、潜水艦娘や水上艦娘が装備できる特殊兵器《甲標的》と同類である。

史実では真珠湾攻撃で初陣とされた計画では真珠湾奥深くに雷撃するつもりだった。

しかし、哨戒中の駆逐艦にバレてしまい失敗に終わる。

しかも全て失敗に終わり、そして大東亜戦争第1号と言うべく捕虜1人を出すこととなる。

軍部はこれを隠蔽するために『9人の軍神』として祀る。

甲標的は2人乗りの小型特殊潜水艇であり、出撃したのは5隻である。

人数が合わないという真実が語られたのは戦後であり、なお捕虜第1号となった人物は、掌を返した如く周囲の者たちに冷遇された。

 

現状に戻る。

先制雷撃で撃滅できると期待していた駆逐古姫たちは、次々と雷撃を喰らわす。

放たれた魚雷は数十本……例え上手く避けきれても次の魚雷が襲い掛かる。

獲物を求め、飢えているサメのように捕食しようと、一気に喰らい付こうとしたが……

 

 

「That’s Impossible!(あり得ないわ!) 全ての魚雷が命中していない!?」

 

「ソ、ソンナコトガアリエルノカ……?」

 

「ソンナアリエナイ!」

 

『敵艦隊はジャミング装置を持っているかもしれない』

 

アイオワたちが驚いていることに対して、ホッパー大尉は敵が新たに開発した魚雷回避装置だと見抜いた。

彼の言う通り、連邦残党軍は切り札ともいえるひとつの兵器は “オクトパス”と名付けられた魚雷回避装置である。

強力な磁性を艦の後ろに流し、ダミーとして利用しているため全ての魚雷はあらぬ方向に推進してしまい、全魚雷は外れたのである。

魚雷に使われる鉄は、磁気に引き付けられる性質を持っている。

艦娘たちや深海棲艦の艤装は、自然に磁気に帯びる。

また現代の艦艇は消磁作業を行なうのは、敵の魚雷攻撃を避けるためである。

連邦は稀土類元素《きどるいげんそ》が強い磁性を発見し、これらをアメリカ亡命後に完成することが出来たのが“オクトパス”である。

幾度も秘密裏に試してみた結果、敵魚雷攻撃を完全に無力化することが出来た。

ただしホーミング魚雷は実戦で試さなければ分からないため、今回は使い捨ての水雷戦隊や一部は戦艦や空母クラス率いる特殊艦隊のみに、この魚雷回避装置“オクトパス”を装備している。

アイオワたちが知らないのも無理はない。

だが、もうひとつ彼女たちが知らない秘密兵器が今まさに使われようとしている。

 

1隻の重巡型《ギガントス》がカタパルトを構えた。

誰もが『着弾観測機を射出するのだろう』と思ったが、しかし観測機とも似つかぬ奇妙な外観をした飛行物体を射出した。

 

ジョン・ポール・ジョーンズの艦橋では、アイオワから報告がきた。

 

「Admiral、高速推進音多数接近、速力50ノット」

 

「敵の魚雷か?」

 

ホッパーが問い合わせる。

 

「I don’t know(分からない)……だけど魚雷独特の水しぶき音が聞こえなかったわ、それに……」

 

「それにどうしたんだ?」

 

「ピッチが速すぎる、全艦に回避運動を!」

 

「分かった、取り舵いっぱい!」

 

全員が了解と言い、回避行動に努める。

だが、それに合わせたかのように“新兵器”がアイオワたちを追尾する。

しかしあとから考えると、アイオワのいち早い報告のおかげで、多くの者たちを救ったと言える。

 

数本の“新兵器”が3本ずつアイオワ、戦艦水鬼たちに殺到した。

そして高速物体は彼女たちの艤装ないしバルジに喰いこみ、双方を貫通するとともに炸裂した。通常の魚雷よりも強力な兵器が爆発したのである。

 

「Ouch!やってくれたわね!」

 

「ナンダ、コノ威力ハ通常ノ魚雷ヤ爆弾トハ桁違イダ」

 

「一体なんだったんだ、あの兵器は?」

 

ホッパーたちが呟いている間にも、被害状況は凄まじいものだった。

戦艦水鬼たちも周囲を見ると、駆逐古姫は大破した。

ほかの水雷戦隊は一瞬にして全滅、装甲が脆弱なために“新兵器”の威力に耐えられずに撃沈した。一部の重巡洋艦も大破ないし撃沈されたのだった。

辛うじて生き残った重巡や戦艦、空母クラスなども中破ないし大破が多かった。

そしてホッパーたちが乗艦する護衛艦部隊はこの高速物体を回避することが出来た。

この高速飛行物体が襲い掛かろうとしても撃破することが可能だったが。

 

「ほら見ろ、私の超能力に掛かればこれぐらいはお手の物、私は神からのお告げを聞いた。『必ず損害を与えられる』とな!それを実現できるのは連邦で中岡様たちと私だけだ」

 

連邦兵士たちは拍手大喝采、彼を“超能力者”から“神”へと進化したというチョンの敬いであるものの、実際はそうしなければこの場で彼の手によって粛清しかねないから嫌々仕方なくやっているに過ぎない。

 

「しかしこの“新兵器”……特殊魚雷“トマホーク”は中々の代物だ」

 

チョンが言う“新兵器”こと特殊魚雷《トマホーク》とは、いままでの深海魚雷とはひと味違い、連邦が秘かに開発した大型魚雷である。

大型なゆえにモーターとガソリン・エンジンを両方積む余裕がある。

これは現代のハイブリット・エンジンを搭載している。

それが水の抵抗を掻き分けて、高速を生み出す秘密でもあった。

しかもソナーと磁気感知との連携運動だから、いったん目標を捕捉すると外しようがない。

この魚雷は、現在多くの海軍が使用する磁気魚雷を模倣したものである。

魚雷を発射すれば当然水しぶきが上がる。しかし《トマホーク》の場合は、あまりにも長かったので水しぶきをほとんど上げず、水中に滑りこんでしまったのである。

現代のハープーン・ミサイルですら、搭載弾頭の重量は220キロだから、炸薬量はもっと小さい。

しかしトマホークの場合は、搭載弾頭の重量が800キロとハープーン・ミサイルの3.6倍である。

これならばフリゲート・クラスならば一撃で葬る威力がある。

アイオワたちもそれを3本ずつ喰らい、これが炸裂したのだから堪らない。

 

たちまち彼女たちの艤装ないし装備が破壊されてしまった。

砲塔も辛うじて無事なところがあったものの、一部は破壊されて使い物にならなかった。

特殊艦隊によるトマホーク攻撃によって、攻撃力を奪われてしまったのである。

 

「よし、じわじわと嬲り殺しにしてくれる。私は優しいからな」

 

チョンは傷ついている彼女たちや裏切り者の異端者どもの泡を食っている表情とともに、自分の前に命乞いをする裏切り者たちの姿を妄想しながら、ニヤニヤした。

そしてひと足早くその姿を見るべく、最大速度を出して近づいて行った。




連邦艦隊が開発したこの二つの兵器は、本来は米海軍が開発した現代兵器の走りです。
しかも威力は高く、さらにオクトパスも日本海軍の必殺兵器《酸素魚雷》を悉く無効にしています。
因みに灰田さんは最終巻に登場して日本を助けています、トラック空襲を阻止したり、さらに原爆を搭載した潜水艦をハワイまで送り返しています。
そして満州では300機ぐらいの無人攻撃ヘリAH-64《アパッチ》を送り、ソ連軍を壊滅状態にしています。

灰田「まあ、あれは不可抗力でもありますからね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
なおチョン上級政治将校は某FPS『HOMEFRONT the Revolution』に登場していた小物な尋問官をモデルにしています。
調べても名前が出ていなかったので、オリジナルであります。

灰田「超能力ならば私を超えられる能力がないと無理ですがね」

あなたの超能力はチート過ぎます、時間を戻したり、搭乗員をコントロールしたりしていますから。

灰田「本来ならば禁忌ですが、致し方ないことですがね」

もう突っ込んだら負けてしまいそうです。
因みに覚えている限りでは『超空母出撃』『超戦闘機出撃』『天空の富嶽』ですね。
他にあったかな?長くなりかねないので予告編に行きましょうか。

灰田「はい、承けたりました。次回はこの海域で戦っているアイオワ・戦艦水鬼率いる日本亡命艦隊とは別視点に移ります。なおとある艦娘のカッコいい姿も見せますのでお楽しみください」

いつも通りですが、またしてもオリジナル展開なので時間が掛かりますので、何時もながらですがご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで第八十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十四話:誇り高き彼女の意志

お待たせしました。
それでは予告通り、とある艦隊視点に移ります。
なお、とある艦娘のカッコいい姿も見せますのでお楽しみください。

灰田「今回は古鷹さんたちではなく、木村中将がとある奇跡の作戦時にともに戦った娘ですのでお楽しみください」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


戦艦水鬼・アイオワたち率いる亡命艦隊が連邦・深海特殊艦隊が特殊魚雷“トマホーク”と敵の魚雷攻撃を回避させると言う驚くべき魚雷回避装置“オクトパス”を装備した特殊艦隊により形勢逆転していた頃……

 

同海域とは別の、少し離れたところに遠征任務のためにとある艦隊が帰投途中でもあった……

 

「まさか同じ海域での遠征任務の帰りとは、本当に偶然ですね」

 

郡司艦隊に所属する特型戦艦こと戦艦空母の白山が口火を切った。

長門並みの火力を備え、さらに空母としての機能を持つ彼女たちは北方海域で強行輸送船団任務遠終了後に、同じくこの海域にて遠征任務を終えた阿武隈たちと偶然出会う。

白山たちは強行輸送船団任務、阿武隈たちは哨戒任務に就いていた。

この海域でも当初と比べて深海棲艦の数は少なくなったが、彼女たちの代わりにアメリカ海軍ないし連邦海軍が本土近くに空襲に来るのではないかと懸念が上げられた。

 

「哨戒任務だけど、本当に提督の言う通り、ここは近寄りがたいね」

 

阿武隈の言う通り、米海軍でもこの北方海域に好き好んで侵攻することはできない。

この海域では夏は視界を遮るほどの濃霧が発生し、冬は氷塊による航海に支障を来すため、誰も近づかない言わば一部の提督たちからは“魔界の海域”とも言われた。

下手をすれば深海棲艦よりも自然現象の方が怖いのは言うまでもない。

史実では占領価値はないのにも関わらず、大本営はどうにか打開しようとMI作戦開始と同時に、北方海域にあるアリューシャン諸島・キスカ島などを占領した。

しかし当初は良かったものの、本来ならば占領する価値もない島に過ぎなかった。

前者の言う日本軍にとって辛い環境もあり、なにしろ本土からの物資がままならない状態と共に、連日米軍の戦爆連合による空爆が相次いだ。

ましてや最初からこの地域を余り重視せず、申し訳程度の守備隊と偵察機部隊しか配置しなかった日本軍にも落ち度があったのは言うまでもない。

対するアメリカは日本軍に占領されたのを黙って見過ごす訳もなく昭和18年5月12日、アメリカ軍はアッツ島に上陸、攻略作戦を本格化させた。

物量を誇る米軍に対し、補給も増援も見込めない日本軍は猛攻に対して必死の抵抗を続けたが、結局は追い込まれてしまう。

5月30日……司令官山崎保代陸軍大佐以下残存兵約300名の身命を投げうった決死の突撃により玉砕した。

玉砕と言う言葉が初めて使われ、以後は当たり前のようにこの行為をする事となる。

グアム・サイパン諸島、ペリリュー島、硫黄島、沖縄戦などで当たり前に使われるようになった。

現状に戻る。

 

「連邦艦隊・深海棲艦たちの次は、米海軍か、私としては胸が熱いな」

 

十勝は改装されてから口調も長門と木曾のように勇ましくなった。

大和たち戦艦、扶桑たち航空戦艦、赤城たち空母とも仲が良い。

その近寄りがたい外観とは裏腹に面倒見が良く、駆逐艦の子たちからも人気がある。

また郡司のことも木曾同様に気遣う面もある。

 

「ほンとうに十勝さんは武蔵さんや木曾さんのように闘争心が熱いな、江風も負けてられないな」

 

白山たちと同じく遠征メンバーにいた江風が言った。

彼女もようやく改二が実装され、さらに逞しくなった。

郡司も『夕立と同じようになった』と言うぐらい彼女も容姿は変わった。

 

「でも……提督には敵わないよねぇよな。江風は」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「江風ちゃんは提督の事が大好きだよね」

 

「ちょっ、そ、それは言わないでくれよ」

 

涼風・海風・五月雨のからかいに、江風は頬を紅め染めた。

逞しくなっても郡司は、江風のことを可愛い女の子として見ている。

その証拠に夕立や時雨のように撫でられると、犬耳のような跳ねた髪の毛がピコピコと喜んでいる様子を周囲にアピールしている。

 

「今日はなんだか遠征がピクニックみたいですね、阿武隈さん」

 

初春型4番の初霜が言ったが……

 

「あの阿武隈さん、具合悪いのですか?」

 

「……あっ、ごめんね、大丈夫だよ、ここに来ると昔のことを思いだしちゃってね……」

 

阿武隈は呟くと、初霜はそれを察した。

先の大戦では彼女はこの海域で“ひげのショーフク”こと木村昌副中将とともにこの海域で救出作戦を実施した。

米海軍に囲まれた友軍を救助するのは誰もが諦め、相次ぐ連戦で艦艇の消耗が激しく続いていた連合艦隊はそこまでする余裕すらなかった。

しかし、誰よりも人命を大切にする木村中将だったからこそ実行したのだ。

一度目は突入を目前にして霧が晴れてしまい、その後も燃料の許す限り留まり続けたが、結局濃霧が発生しなかったために作戦決行を断念した。

その時、強行突入を主張する部下たちに対して彼は『帰ろう、帰ればまた来れるから』と言い、再び来るチャンスに備えて撤退した。

二回目は奇跡とも言える隠密作戦に都合の良い濃霧の発生が発生、救出作戦は開始された。

流石の米海軍も悟ることはできず、木村中将は味方に全く犠牲を出す事も無く濃霧に紛れ、再度の出撃でキスカ島の守備隊5200人を短時間で救出し、そして現代に語り継がれる奇跡の救出作戦こと『キスカの奇跡』を果たした。

 

「あ、あの、ごめんなさい。阿武隈さん」

 

初霜はすぐに謝ったが、阿武隈は短く横に振った。

 

「大丈夫だよ、気にしなくていいよ。今でも私とあの人の誇りでもあるんだから」

 

以前の彼女は人しくちょっと自信がなさげで神経質だったが、無事“改二”が実装されてからは、第一水雷戦隊旗艦としての自信を取り戻したように態度が自信に満ちた特殊部隊指揮官の如く凛々しくなった。

だからこそ、阿武隈はこの誇りを忘れない。

いや、彼女たちの信念は決して揺らぐことなく、決して誰にも奪えない、そして壊されることはない信念なのだ。

例え辛い過去が脳裏から離れることがなくとも、秀真のような強くて優しい提督たちと共に戦い、大切な仲間たちといれば、どんな海域でも乗り越えられるのだから戦える。とこの想いを旨にしている。

 

「じゃあ、皆さん。早く提督が待っている鎮守府に帰投しましょう」

 

「はい、そうですね!」と初霜。

 

「了解した」と若葉。

 

「はい…了解しました」と磯波。

 

「了解」と叢雲。

 

「はい、阿武隈さん」と吹雪。

 

阿武隈がそう言うと、初霜率いる遠征メンバーが元気よく返事をした。

 

「ふむ、秀真提督の古鷹たちもだが、彼女たちも士気が高いのは良いことね」

 

「そうだな、白山。では我々も提督が待っている鎮守府に急ぐか?」

 

阿武隈たちを見倣うように江風たちも元気よく返事をする。

誰もが早く帰投しようと気分が高まった時だった。

 

ドカァァァンッと何かが爆発したような音が遠くから聞こえた。

 

「なんだ!今の爆発音は!?」

 

「どうやら向こうの方ね」

 

ふたりの言葉に答えるように先ほど上空で警戒していた偵察機からの報告がきた。

 

“敵艦隊見ユ、なお敵艦は連邦艦隊及び深海棲艦ナリ、尚、艦隊にはひとりの艦娘と戦艦水鬼率いる米艦が襲われている”

 

この報告を聞いた白山は顎に手を当てた。

私たちの生みの親でもある灰田から聞いた話しでは戦艦水鬼たちは日本亡命をする計画は郡司から聞いたが、危険を冒してこの海域ルートを選んだかもしれない。

しかし、艦娘のことに関しては初耳である。

もしかして連邦海軍に囚われ、戦艦水鬼たちが脱出時に連れてきたのかもしれない。

どちらにしろ日本政府や元帥、そして秀真率いる提督たちは彼女たちの日本亡命を快く受け入れている。

元帥の管轄で捕虜となっている空母水鬼たちも自分たちの過ちに気付き、日本のために遠征や元帥の護衛を務めている。

元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》《舞鶴》の二人とも友好関係を築いており、「潜水輸送艦」の設計を完成に協力した。

いわばタイフーン級戦略原潜を参考にし、弾道ミサイル発射区画を貨物区画に変更している。なおタンカー仕様は貨物区画に油槽ダンクを装備しただけで基本設計と変わらない。

しかも入渠させて仕様変更が簡単にできるという優れた潜水輸送艦である。

 

「十勝……」

 

「ああ……分かっている」

 

白山の問いに、十勝は頷いた。

 

「みんな遠征任務を中止し、戦艦水鬼たちを救助する!」

 

十勝の発言に驚いたが、旗艦の命令は絶対服従、そして部下たちに下す判断(命令)は、つねに冷静で素早く決めなくてはならない。

この場に秀真たちがいなくとも危険を顧みることなく、遠征任務を中止してでも彼女たちを救出するために作戦命令を変えていただろう。

 

「物資はどうしますか、十勝さん?」

 

阿武隈の問いに、十勝は答えた。

 

「仕方ないが放棄する、本来ならば輸送中だが、時は一刻を争う」

 

「……」

 

阿武隈は双眸を落として、判断を決めた。

 

「分かりました。皆さん、各物資を放棄、これより救助に向かいます」

 

阿武隈は『あの人』ならば、木村中将ならば同じ判断をする。

誰よりも人命を大事にした彼の誇り・信念を貫くと言う覚悟とともに。

 

「初霜ちゃんたちは、各兵装の確認してください!」

 

『了解です!!!』

 

阿武隈の命令に、初霜たちは現在装備している主砲や酸素魚雷発射管などを確認した。

幸いにもこちらには火力が高い装備で充実している。

阿武隈も幸いにも先制雷撃可能な秘密兵器“甲標的”を持っていた。

またバランスのとれた15.2cm連装砲改を装備している。

以前のレーザー砲はすべて撤去されたが、灰田が新しい未来艤装を提供している。

ただし全艦娘たちが装備するまで時間が掛かるため、阿武隈たち遠征組は装備していない。

しかし阿賀野たちが懸命に開発した15.2cm連装砲改を生産したおかげで、全軽巡洋艦の子たちには火力が高くなり、バランスも良くなった。

全駆逐艦の子たちも10cm連装高角砲を装備している。

魚雷も全て酸素魚雷を装備しており、雷撃戦ならば圧倒的火力を誇る。

本来ならば灰田の超兵器を装備したいが、敵艦を混乱させる必要もあり、そして以前の装備の扱いを忘れてはならないため双方を交替ずつ使うときもある。

 

「白山、艦載機なしでもやれるな?」

 

「もちろんです、戦艦空母の恐ろしさを見せてやりましょう」

 

「もちろんだ、我々の力を侮っては困るな」

 

白山・十勝は闘志を見せており、海風たちも初霜たち同様に現在装備している主砲や酸素魚雷発射管などを確認中である。

 

「全員、準備は良いか?」

 

十勝の問いに、海風たちは『大丈夫です!』と返答する。

 

「皆さん、準備は良いですか?」

 

阿武隈の問いに、初霜たちも『いつでも戦闘可能です』と答えた。

 

「それでは、これより全艦は戦艦水鬼さんたちを救出します!」




今回は阿武隈ちゃんをカッコよくさせました。
改二の姿は特殊部隊さながらでしたので、凛々しい性格にしました。
なお今回の水雷戦隊編成はオリジナルで、とある同志のアイデアでもあります。
本当にありがとうございます。

灰田「阿武隈さんは『スーパー阿武隈ちゃんタイム』の影響でもありますがね」

初めて観ましたが、改二実装回ではカッコ良かったので大いに影響を受けました。
この話とクリスマス会の話が好きです、青葉のメイド姿可愛いです。

灰田「まあ、そうなりますね」

ともあれ次回予告に入らなければいけませんので、急ですがお開きと致しましょう。

灰田「次回はこの続き…阿武隈さんたちの救出作戦に移りますが、連邦のドブネズミどもが汚い手を使って彼女たちを苦しませます。同時に戦艦空母こと白山と十勝が持つ秘密兵器が明らかになります、兵器と言うよりはとある仕組みですが」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十五話:連邦艦隊、一矢を報いる

お待たせしました。
それでは予告通り、阿武隈さんたちの救出作戦に移りますと同時に戦艦空母こと白山と十勝が持つ秘密兵器が明らかになります、兵器と言うよりはとある仕組みです。

灰田「なお前回登場しなかった『バトルシップ』の主人公の兄も少しだけですが登場しますのでお楽しみください」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


白山・阿武隈たち率いる救出部隊は、連邦・連邦派深海棲艦合同艦隊との苦戦している戦艦水鬼たち率いる日本亡命艦隊を救出するために駆けつける。

輸送物資は全て放棄、しかし燃料・弾薬だけはこの救出作戦で一戦交える可能性があるため拝借した。

補給を終えた両者は、先ほどの打電が上手く届くように祈るだけである。

そして鎮守府ないし近くに友軍艦隊が居ることも祈った。

 

最大速力を上げながら、偵察機が目撃した海域に急ぐ。

無事ならば良いが……と両者たちが祈っていると、またしても遠くからでも鳴り響く爆発音が木霊するように聞こえてきた。

 

「みなさん、これより戦闘海域に突入します。気を抜かないように!」

 

初霜たちは『了解しました』と返答した。

 

「敵は快速部隊と小規模だがあの人造棲艦《ギガントス》が……しかも新型の重巡洋艦型らしいが……」

 

「怖気づいたらこちらが負けだ。友軍艦隊が来るまで我々が時間を稼ぐ」

 

白山は不安を感じたが、そんな彼女を気遣うように十勝が励ました。

特型戦艦のなかでも四女の十勝だが、本当に改装されてからは見違えるように成長したわねと内心に呟くと、気を取り直して命令を下した。

 

「これより全艦、戦闘海域に突入します!」

 

「我らの力を、連邦艦隊に思い知らせてやれ!」

 

海風たちも同じく『了解しました!』と初霜たちに負けないほど声を高くした。

水雷魂とともに、救うことも守ることという教訓が彼女たちを強くしている。

秀真の艦隊に所属している第二水雷戦隊旗艦を務めている神通たち、また秀真艦隊の切り札として全鎮守府でもはや知らない者はいない古鷹たちも協力している。

神通と衣笠は、第二水雷戦隊旗艦を務めたこともあり、お互いの仲は良好である。

特に神通たちが教官の日は、駆逐艦の子たちはへとへとになるまで訓練に付き合っている。

なお、訓練後に神通たちは駆逐艦の子たちのためにアイスやジュースを用意するという強くて心優しい教官たちである。

また水雷戦隊旗艦を務めている阿賀野たちも同じく駆逐艦の子たちと訓練をしており、時には厳しく鍛えている。

 

秀真・古鷹たちも同じく彼女たちのおかげで戦えるのである。

駆逐艦の子たちは期待に応えるべく、船団護衛や鎮守府近海警備、ときには艦隊決戦の支援艦隊として活躍している。

秀真は『キミたちがいるから我々は戦い続けられ、勝利することが出来る』と彼女たちを大切にしている。

秀真だけでなく、元帥も、郡司も、ほかの提督たちも彼女たちにとても感謝している。

いや、頭が上がらないとも思っている。

彼女たちを大切にしているひとりの人間として当たり前の感情である。

米軍も仲間を助けるために、駆逐艦や航空機を駆り出し、そして特殊部隊を出撃させてでも『生存者は必ずいる』『仲間は見捨てない』という信念を持っている。

 

「まもなく敵艦隊を捕捉した。全艦突撃する!」

 

 

 

白山・阿武隈率いる救出艦隊が駆けつけている間にも、アイオワ・戦艦水鬼たち日本亡命艦隊は劣勢へと追いやられた。

 

「このままじゃ、厳しいぞ!」

 

さすがのホッパー大尉、彼の兄ことストーン・ホッパー中佐も苦戦を強いられた。

なにしろ敵はこちらと同じ駆逐艦……イージス艦《アーレイ・バーク》級を持っている。

そして敵艦は特殊魚雷《トマホーク》に続き、魚雷回避装置《オクトパス》を装備した特殊艦隊もいる。

アイオワ・戦艦水鬼たちもこの《トマホーク》攻撃により、攻撃力を奪われた。

ほかの水鬼派の深海棲艦たちも壊滅状態に陥ってしまうというほど追い込まれたのである。

生き残っている者は援護しながら後退しているが、ひとり、またひとりと撃沈された。

 

「ワタシガ囮ニナル……」

 

「Stop it!(ダメよ!)…そんな身体じゃ標的にされるだけだわ!」

 

「ソレデイイ、コノ戦況ヲ悪化サセタノハ、スベテ私二アル……ダカラ……」

 

戦艦水鬼の言葉にアイオワは彼女にビンタした。

 

「Hold on!(ダメよ!)…あなたはミーに『誇りを忘れるな』と言いました。そして『贖罪などするな』と言いました」

 

「アイオワ……」

 

「私や、Admiralたちは戦友を見捨てない。だから弱音を吐かないで、奇跡は必ず起こるから!」

 

戦艦水鬼は彼女の言葉で目が覚めた。

自分がアイオワを救いながら、今度は自分が救われたことに。

自分こそ自暴自棄になったらこの先どうなる、これでは中岡たち連邦残党軍の良い宣伝に利用されかねない。

だからこそ生き残り、この戦争を終結しなければならないという目的もある。

この戦争はこれで終戦を迎えるためには、連邦残党軍を殲滅しなければならない。

アメリカを元に戻すには、この『ドブネズミ』とも言える後者を片づけるしか方法がない。

もっともアメリカもある程度は膺懲し、その傲慢な鼻をへし折る必要もあるが。

 

「スマナイ、アイオワ……ヤツラニ負ケルワケニハイカナイナ」

 

「Any Time(気にしないで)……それに『ありがとう』って言ってくれたら嬉しいわ」

 

「アリガトウ、アイオワ」

 

「Sure(いいよ)……水鬼」

 

中破してでも無事な砲塔を敵艦に向けながら砲戦を再開した。

ホッパーたちも全兵装や、一部の乗組員たちは艦内にある武器庫からM82対物ライフルやM249分隊支援火器まで装備してでも敵艦に攻撃をしていた。

意外にも効果を上げており、数丁でも重機関銃並みの破壊力を生み出した。

 

「のこのこと抵抗しやがって諦めろ、この博愛主義者どもがッ!」

 

チョンは苛立っていた。

自分たちは『神』にも相応しい存在であり、中岡たちには刃向かうものは味方であろうと、敵であろうと『異端者』に過ぎない。

超越した自分たちが人類の幸福を約束し、この世界を住みよい世界にする創設者でもあるのだ。と自惚れている。

 

「終わりだ、この博愛主義の豚どもがーーー!」

 

しかし、チョンの言葉を遮るような爆発音が聞こえた。

隣にいた駆逐イ級が爆沈したのだ。

 

「何者の仕業だ!」

 

「チョン上級将校、博愛主義の艦娘どもです!」

 

チョン以外は慌てる様子をしていたが、不運にも隣にいた名もなき兵士がチョンに射殺された。

 

「ほかに怯えている者はいないか?」

 

この威圧とも言える言葉に、CICは静まり返った。

耳障りに等しい雑音を消したかのように、チョンはひと安心していたが、その言葉はまるで喉元にナイフを突きつけられたような威圧感があった。

 

「言っておくが我々には“中岡様”が見守っておられる、心配するな」

 

そう言うと腰にあるホルスターに金色に輝いた大型自動拳銃《デザート・イーグル》を収納した。

連邦幹部や上級政治将校たちなどはなぜか黄金(純金)を纏った愛銃を持たないと気が済まない者たちが多い。

史実では悪名高いイラクの独裁者『サダム・フセイン』も黄金銃を持っていた。

しかし、米軍から押収されたのは何とも皮肉であるが。

かくして二つの切り札が艦娘たちに効くと思うと、チョンはそう考えるだけでニヤリとした。

 

 

 

 

「こちら日本艦隊、無事ならば返答してください!」

 

阿武隈は所持していた無線機で応答がないかと発信した。

 

『こちら旗艦《USSサンプソン》艦長……ストーン・ホッパー中佐だ、貴艦の救助に大いに感謝する!』

 

阿武隈の声に反応するように、ストーン中佐が応答した。

 

「ストーン中佐、これより私たちが援護します!戦艦水鬼さんたちにもお伝えください」

 

『分かった、こちらは損害大、弟や仲間たちの援護を頼む!』

 

「了解しました。できる限り早く急行します!」

 

『ありがとう、敵には一部《ギガントス》ないし魚雷攻撃が効かない敵艦もいる。油断するな!』

 

「……分かりました、それまで耐えていて下さい」

 

短いやり取りを終えると、阿武隈たちは命令を出した。

 

「白山さん、十勝さん。援護射撃をお願いします!」

 

「了解。気を付けて!」

 

「武運を祈っているぞ、阿武隈!」

 

「はい、皆さんこれより砲雷撃戦を開始します!」

 

阿武隈の掛け声で、全員が『了解』と頷く。

 

「では行きます。敵艦隊に向けて、撃てぇー!」

 

「全砲門斉射!てぇー!」

 

まずは白山・十勝ペアの40cm連装砲が、敵艦に目掛けて一斉射した。

両者の攻撃力は元帥の秘書艦として活躍しており、通称『ビッグセブン』として有名な長門・陸奥と同じ攻撃力を兼ね備えている。

これに艦載機100機が加われば、一航戦の赤城・加賀ペア並みの攻撃力を誇る。

しかし彼女たちにもまた秘密兵器がある。しかしそれは“とある条件”を満たさないといけないので余程のことがない限りは披露されることはない。

 

砲弾がジャイロ効果により、敵艦隊に向かって飛翔した。

着弾の証拠を現すように、大きな水柱が立ちあがる。

いきなり、チョンが乗艦する《アーレイ・バーク》級駆逐艦などが巨大な水柱に包まれた。

白山・十勝が撃ち放った徹甲弾……そのうちの数発が至近弾となり、弾片《だんぺん》が上部構造物に喰い込んだ。

また上手く回避できた連邦深海棲艦たちも同じく転覆しそうにもなったが、その代わりに弾片が各腕や腹部に喰い込んだ。

 

「あれが噂の『特型戦艦』ことフリーク・クラスか、さすが敵ながら凄いですな」

 

チョンの隣にいた参謀長が言った。

 

「トマホーク部隊で奴らを海の藻屑にしろ、水雷戦隊旗艦にはオクトパスを装備した特殊艦隊でいたぶってやれ!」

 

チョンの命令を聞いたトマホーク部隊、連邦深海棲艦は二手に分かれた。

前者は白山・十勝に向かい、後者は阿武隈たちに向かった。

しかしチョンは援護射撃をするために後方にいる、元より自分たちが死にたくないにためにいるのだが。

 

「砲雷撃戦開始します!撃てぇー!」

 

「必ず助けます!」と初霜。

 

「大丈夫だ、いける!」と若葉。

 

「撃ち方始め! いっけぇー!」と吹雪。

 

「逃がしはしない!」と叢雲。

 

「ていっ、当たって!」と磯波。

 

「こちらも撃ち方、始めます!」と五月雨。

 

「がってんだ! 喰ーらえー!」と涼風。

 

「よく狙って、てー!」と海風。

 

「やったるぜぇ、合戦準備!」と江風。

 

阿武隈は携えていた15.2cm連装砲改を撃ち始めた。

彼女に続き、初霜・海風たちの10cm高角砲を一斉射した。

小口径でも野砲並み、その威力と伴い、数多く撃てば威力は重巡洋艦並みの火力となる。

砲弾の嵐が襲い掛かると、不幸にも敵駆逐艦や軽巡洋艦、雷巡クラスは被弾した。

重巡洋艦クラスでも被弾したが戦闘可能であり、戦艦ル級たちなどの戦艦クラスに至っては強靭なバルジを誇るため、例えこれらが被弾しても戦闘能力に支障はない。

ただし強靭な防御力を誇る戦艦でも阿武隈たちの持つ酸素魚雷には敵わない。

しかし連邦海軍はそれを克服する奇跡の魚雷回避装置“オクトパス”を装備している。

 

「よし、行けます!全艦雷撃戦用意!」

 

阿武隈は事前に用意していた『特殊潜航艇』こと《甲標的 甲》を発進させていた。

少しでも敵艦を混乱……敵に潜水艦がいるように偽装するためである。

二発の魚雷を装備し、敵艦に肉薄して雷撃する特殊兵器でもある。

恐らくもう少しで到着して先制雷撃で敵艦を1隻、運が良ければ2隻撃沈してくれる。

しかし阿武隈の期待を裏切るような出来事が起きた。

 

“こちら《甲標的》部隊、敵艦に雷撃するも全魚雷命中せず、繰り返す命中せず!”

 

彼女は驚愕した。必殺とも言える《甲標的》の魚雷攻撃が全て命中しなかった。

これも連邦が用意した魚雷回避装置“オクトパス”のせいである。

阿武隈はホッパー大尉が言っていたのは理解できなかったが、本当に存在していたんだとようやく理解した。

つまり砲撃戦のみしかできないと言うことである。

 

「雷撃戦は中止、敵艦は私たちの魚雷攻撃を無効にする兵器を持っているようです!」

 

阿武隈が雷撃を中止するように命じた。

しかし、一歩遅く初霜・海風たちは酸素魚雷を投射した。

蒼き海の殺し屋こと通称《ブルー・キラー》とも言われる彼女たちの酸素魚雷は敵艦に向かって言ったが……

 

「うそ、酸素魚雷が……」

 

「違う方向に進んでいる」

 

初霜・海風たちの目には自分たちが投射した酸素魚雷が全て何者かに引き寄せられるかのように連邦艦隊・連邦深海棲艦たちがいる方向ではなく、別の、違う方向へと進んだ。

やがて目標を見失った魚雷は、海中に沈んで行った。

彼女たちも驚きを隠せなかった。寧ろ言葉を失ったといった方が良い。

連邦・連邦深海棲艦たちの“オクトパス”は成功したのだ。

もはや艦娘たちの必殺兵器“酸素魚雷”など怖くないとチョンは、これは見事に成功したと狂喜した。

 

「無駄無駄無駄、貴様らの酸素魚雷などおそるるに足らず、ハハハハハハッ!」

 

チョンは確信的な勝利を思い、高らかに笑ったと、例のトマホーク部隊を前進せよと命じた。

これを機に突撃したトマホーク部隊は阿武隈たちに向かって、搭載していたトマホークを投射した。

しかも全トマホークは旗艦である阿武隈に向かった。

 

「逃げて下さい!阿武隈さん!」

 

初霜が言うがこのトマホークは一度狙った獲物をそう簡単に逃すことはない。

しかも助けたいが自分たちの事で精いっぱいである。

何しろソナーと磁気感知が連携して運動をしているため、一度捉えられたら目標が外れようがない。

阿武隈も来ないでと言わんばかりに撃ちまくる。

15.2cm連装砲改から撃ち放たれた砲弾が奇跡的に2本の魚雷を破壊したが、それでも残りのトマホークが阿武隈を撃沈しようと襲い掛かる。

 

「阿武隈さん!」

 

誰もが絶叫した時だった。

 

6本のトマホークは阿武隈に命中することはなかった。

阿武隈は自身が轟沈したのではないかと、ゆっくりと目を開けた。

 

「大丈夫か、阿武隈?」

 

「と、十勝さん!」

 

十勝が透かさず彼女の元へ駆けつけ、庇ったのだ。

幸い十勝が携えていた右舷飛行甲板が破壊されただけに留まった。

しかしこれで十勝の機動力が悪くなると思いきや……

 

「あ、あの私のせいで……」

 

阿武隈は泣きながら謝ったが、十勝は彼女を落ち着かせるためににんまりした。

 

「なにを言っている、お前のおかげでもうひとつの私を敵に見せることが出来る!」

 

「もうひとつの十勝さん……?」

 

「いまに分かるさ、白山!」

 

「了解しました、これより左右飛行甲板を廃棄します!」

 

ここに特型戦艦こと戦艦空母のもうひとつの特徴が現われた。

伊勢姉妹や扶桑姉妹にはない特徴……左右にある飛行甲板は万が一飛行甲板が破壊された時に限り、空母と戦艦の複雑な連携部分(飛行甲板)を、火薬によって切り離すように改装されている。

まるでロケットブースターを切り離すようなものである。

これはいわば緊急時、この緊急措置は飛行甲板が破壊されない限り発動できないシステムである。

白山・十勝はその場に飛行甲板を放棄した。

これにより彼女たちは戦艦空母から、長門や陸奥たちと同じ純粋な戦艦へとなった。

しかも20ノット出せる予備機関を持っており、富士級が30ノット以上を出せるのは驚愕である。

 

つまり自由の身になったと言っても良い。

 

「どんな相手でも容赦しません!」

 

「貴様らこの十勝、戦艦空母の恐ろしさを思い知れ!」

 

二人の怒りを表すかのように、怒涛の如く40cm連装砲が立て続けに火を噴いた。

このチャンスを逃さずに阿武隈たちはホッパー大尉たち率いる米艦隊を誘導した。

なお負傷した戦艦水鬼たちと……

 

「もう大丈夫ですよ、安心してください」

 

「Thanks…ミーたちを助けてくれてありがとう」

 

「スマナイ、恩ニキル……」

 

阿武隈はアイオワ・戦艦水鬼を励ましながら救助する。

初霜たちはホッパーたちを救助、海風たちは殿を務めながら阿武隈率いる救助部隊を掩護する。

白山・十勝が援護射撃をしているが、ここはやはり連邦艦隊の方が火力は高く、戦力も多いから油断できない。

救助する間がもっとも危なく、敵にとってはこれほど狙いやすい獲物はないからだ。

史実でも救助しようとした日本海軍を狙った米軍機や潜水艦もこの方法で数多く撃沈したことも度々あった。

 

「救助か、偽善ぶった行為だな。ならば……私がこの手で轟沈させてやる!」

 

阿武隈たちに向かって標準を合わせたチョンが乗艦する《アーレイ・バーク》級駆逐艦から発射されたミサイルの嵐が襲い掛かる。

 

「ミサイル接近、各艦は彼女たちを援護せよ!」

 

「全火力を敵ミサイル迎撃に努めろ!」

 

ストーン中佐が乗艦する旗艦《サンプソン》とともに、ホッパーたち率いる護衛艦も同じく各兵装で敵ミサイルを迎撃する。

数発は撃墜を確認したが、しかし狙いは自分たちではない。

連邦艦隊の本当の狙いはアイオワと戦艦水鬼、そして阿武隈たちを狙っている。

とくにアイオワ・戦艦水鬼を救助している阿武隈に多数のミサイルが殺到した。

 

「阿武隈さん、回避してください!」

 

海風の声に振り向いた三人は空を見上げた。

自分たちに接近している多数のミサイル、これら全てがスローモーションに見えた。

人間誰しも交通事故などで死に直面した際は、あらゆる物や周囲などがゆっくりと動くように見えてしまう。

そして周囲の声も聞こえないほど無音の世界へと誘うのだった。

 

「……ごめんなさい、木村中将。ごめんね、由良お姉ちゃん」




今回はアニメ版艦これ最終回寸前みたいな終わり方になりました。
えっ、アニメ? いいえ、知らない子ですね(赤城さんふうに)

灰田「気にしたら負けですので突っ込まないでください」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
ともあれ今回の戦艦空母のお二人は、この重装甲飛行甲板を破棄することで戦艦空母から純粋な戦艦になるのが特徴です。
原作『超戦艦空母出撃』でも白山・十勝ペアが被弾した際に、双方の飛行甲板を破棄して戦艦になっています。しかも長門級の火力を誇るため最強です。
しかも30ノット以上を出せる高速戦艦としても活躍します。

灰田「あの世界では日米講和が成立後にわたしが登場し、講和を踏みにじったアメリカを痛い目に遭わせ、さらにソ連にひと泡吹かせてやりましたが」

両国が悪いもんね、しかもソ連は北海道を占領しましたが、連合艦隊に敗れましたからね。

灰田「まあ、そうなりますね」

ともあれ次回予告に入らなければいけませんので、またしても急ですがお開きと致しましょう。

灰田「まあ、そうなりますね」

灰田「次回はこの続きになりますと同時に、古鷹さんたちの未来艤装の正体が分かります。まあ、とある作品の超兵器をコピーしたと言っても良いですが」

またコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』のTJS艦隊が少しですが登場しますのでお楽しみを。

秀真「ようやく俺たちの出番か、待ちくたびれたな」

古鷹「はい、重巡古鷹、頑張っていきます」

灰田「その勢いが大切です」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・古鷹『ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十六話:超連合艦隊VS連邦特殊艦隊 前編

お待たせしました。
それでは予告通り、古鷹さんたちの未来艤装の正体とともにコラボ作品『艦娘、PMCと共に水平線にて戦えり』のTJS艦隊が少しですが登場しますのでお楽しみを。

灰田「また土佐姉妹たちの艦載機も更新しています。お楽しみください。とある同志が提供してくれました。本当にご協力と共にお心遣いありがとうございます」

それでは、改めて……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


「……ごめんなさい、木村中将。ごめんね、由良お姉ちゃん」

 

阿武隈が自分はそっと瞼を閉じたときだった。

 

「えっ!?」

 

阿武隈たちに殺到していたミサイルが突然と全て空中爆発した。

 

「どういうこと……?」

 

「いったい……」

 

「誰が撃ち落したの?」

 

阿武隈たちはもちろん、初霜・海風たちは理解できなかった。

後者には短SAMやCIWSなどといった未来艤装は装備していない。

 

「ホッパー、お前が全部撃ち落したのか?」

 

「いや、兄貴。俺は撃ち落していない」

 

ストーンも、ホッパーも理解できなかった。

誰よりも理解できずブチ切れていたのはチョン上級政治将校だった。

ヒステリックと化したヒトラーの如く、感情に耐えきることなく怒りを露わにした。

 

「くそっ、私の楽しみを台無しにしたのはどこのどいつだ!」

 

しかしチョンの怒りなど知らずに、またしても予想もできぬ出来事が起こった。

チョンの隣にいた護衛艦が突然と爆発した。

しかも目にも止まらない物体が直撃して、反撃する暇もなく、呆気なく爆沈した。

正体を知ろうと生き残ったヲ級に命じて、艦載機を発艦しようとした時だ。

またしても艦載機を発進することなく、ヲ級たちに猛烈な絨毯爆撃が襲い掛かる。

高速機が上空を通過した時に、チョンは歯噛みした。

 

「クソッ、奴らには空母がいないはずなのにどうしてここに!?」

 

もはや状況が分からぬまま、チョンの思考は乱れていくもまたしても爆発音が鳴り響く。

隣にいた護衛艦が何者かの攻撃を受けて爆沈した。

しかも攻撃したら捕捉できるが捕捉できないという理解不能な出来事だった。

 

「主砲、よく狙って…そう、撃てぇー!」

 

とある人物の掛け声に伴い、またしても標的にされた哀れな深海棲艦が轟沈した。

 

「十勝、もしかして……」

 

「ああ、分かっている」

 

白山・十勝は誰よりも早く理解できた、その者たちの正体が……

 

「大丈夫ですか、白山さん、十勝さん」

 

「ありがとう、助かった」

 

「ありがとう、古鷹……しかし、どうやって来た?」

 

「灰田さんが用意してくれたワープ・ゲートで来ました!灰田さんが『阿武隈さんたちがピンチだ』と教えてくれたんです」

 

「なるほど……もうひとりは誰なのですか?」

 

「見かけない顔だな、誰なんだ?」

 

白山・十勝の問いに、古鷹は答えた。

 

「彼女は長良型4番艦の由良です、元帥の知り合いのPMC『TJS』に所属しています。

提督が乗艦するズムウォルト級以外にも、TJS艦隊もいます!」

 

「そうか、元帥からの増援とはありがたい」

 

安堵の笑みをしたとき、聞き覚えのある声が古鷹の所持している無線機から聞こえた。

 

『古鷹、彼女たちや日本亡命艦隊の様子は?』

 

「はい、白山さんたちと米海軍率いる日本亡命艦隊は無事です。後者は由良さんたちが救助に向かっています」

 

無線機越しからは秀真の声が聞こえた古鷹は返答した。

 

『よし、土佐たちが攻撃隊を発艦させているが油断するな、俺たちも急いで援護に向かう』

 

「了解しました、提督」

 

秀真の言う通り、上空には土佐たちが発艦させた攻撃隊が通過していた。

上空には耳を切り裂くような音速……例のジェット戦闘機《天雷改》と《轟天改》だ。

また和製P-47戦闘攻撃機《サンダーボルト》と言われた《天弓改》がともに飛行していた。

制空権は先ほどの戦闘の影響もあり、何よりも連邦派のヲ級たちは瞬く間に殲滅された。

 

「白山さん、十勝さん、戦えますか?」

 

古鷹の問いに、ふたりは頷いた。

 

「飛行甲板がやられて小破しただけだ、こちらも砲撃戦ぐらいはできます」

 

「奴らにはお返しをしないといけないからな」

 

「それでは援護をお願いします、私は由良さんたちと突撃して連邦艦隊を倒します」

 

「分かった、あいつ等を倒してくれよ」

 

「分かりました、古鷹さん武運を!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

白山・十勝に敬礼をした古鷹は連邦艦隊を葬るために突撃した。

古鷹たちの期待に応えるために、白山・十勝は40cm連装砲の俯角を取り、一斉射した。

 

「何人来ようと同じ事だ、増援を寄こして良かったな」

 

チョンは近くにいた連邦派深海棲艦がいないかと問いかけた。

数は15隻だが、いないよりはマシで撃沈された10隻を埋めるのに丁度良い数でもあった。

大半が重巡洋艦や軽巡洋艦だが、こちらには特殊魚雷こと《トマホーク》を装備した重巡・軽巡を含め、敵魚雷を無効にする《オクトパス》を装備した戦艦部隊もまだ残っている。

しかも相手はレーザー砲を装備していない重巡洋艦部隊と言った快速部隊のみ。

脅威となる戦艦空母と超空母思しき両者はこの重巡部隊を片づけてから、自分たちが乗艦しているイージス艦《アーレイ・バーク》級駆逐艦で片づければまだ勝機はある、そして逃げることもできると確信した。

いざとなれば、人造棲艦《ギガントス》による自爆攻撃で撃沈させれば良いと躊躇う事もないのだから。

しかし連邦は依然として自信過剰に伴い、慢心と言うことを知らない。

普通の軍人ならば『勝って兜の緒を締めろ』という言葉を肝に銘じている。

だが連邦国は至って特殊でもあるが、ある意味『愚鈍』といった方が良いだろう。

古鷹たちは以前のレーザー砲は装備していないが、しかし外観は依然として変わりないがここにもまた灰田が用意した未来艤装だと知らずに、チョンは勝てると慢心していた。

彼ら連邦国は、国家が亡び、残党軍に陥ってしまったのにもかかわらず相変わらず『自分たちはまだ負けていない中岡大統領閣下が“奇跡の力”を起こし、連邦国は再び復活し、世界の覇者になり、アメリカとともに世界の救世主となる』と宣告した。

しかし、連邦の多くの者たちは狂信的宣言を信じているほど救いようがない。

 

「最後に勝つのはこの私だ、貴様ら等に怯える連邦軍ではない!」

 

しかしチョンの期待を裏切る出来事が起こった。

上空から高速音を叩き出しながら急降下して来る機体がちらほら見え始めた。

襲い掛かって来たのは天雷部隊、轟天・天弓改部隊が突入してきた。

しかも全てこの機体は改良されている事も知らずに、輪形陣で対抗しようと連邦深海棲艦たちは対空砲火を開始した。

相変わらず灰田が用意した対VT信管が効いているので撃ち落すことは困難である。

手始めに天雷改が駆逐イ級に向けて攻撃を開始した。

しかし、いつもの機関砲を遥かに上回る威力を持つものが撃ち込まれた。

 

「ア、 アイツガモッテイルノハ機関砲ジャナイ、大砲ダ!」

 

隣にいたリ級は撃沈されたイ級の頭脳にはこれまでにない大穴を見て、驚愕した。

しかも爆弾ではなく、たかが低威力の機銃でもない、これは対戦車砲並みの威力を持つ大砲を搭載した地上攻撃機と同じである。

天雷改の一部には48口径75mm機関砲を1門搭載している。

かつてドイツが生み出した『空飛ぶ缶切り』と呼ばれ、連合軍から恐れられていたヘンシェルHs129地上攻撃機と同じ攻撃力を誇る。

なお通常型は50mm機関砲から30mm機関砲に変更された反面、威力と発射速度は以前の天雷改よりもバランスよく改良されており、相変わらず敵機ないし敵快速艦を倒すのには申し分ない威力と性能を発揮したのである。

たちまち機銃掃射により、連邦艦隊の持つ対空兵器は悉く潰された。

しかも運が悪いことに轟天改・天弓改部隊による第二次攻撃が開始された。

しかし両機とも翼下に奇妙な形をした兵装を装備していたものに連邦深海棲艦たちは気がついた。

最初はいつもの戦闘前に投下する航空機用の落下式増漕タンクかと思ったが、しかしよく目を凝らしてみると航空機用増漕タンクにはない銃身がキラッと不気味に光っていた。

 

「シ、シマッタ、ニゲロ!」

 

次の瞬間、両翼下に搭載されていたそれが一斉に火を噴いた。

回避しようとしたリ級の頭部は数発の大口径弾を喰らい、脳漿が飛び散り沈黙した。

スイカが砕け散るように頭部は破壊され、前倒れでゆっくりと倒れた。

他にもこれを喰らった彼女たちの各艤装をえぐり取るかのように破壊された。

轟天改・天弓改部隊が装備していたのは、ガンポッド……つまり30mm機関砲である。

史実では地上攻撃機は上空から30mm機関砲クラスを搭載して、敵戦車ないし装甲車など数多くの戦闘車輌に、上陸用小型艦艇などを破壊したドイツのJu-87G急降下爆撃機や米軍のP-39《エアラコブラ》に、そして『黒死病』としてドイツ軍に恐れられたソ連傑作機イリューシンIL-2《シュトルモビク》などが活躍した。

これだけに終わらず天雷改が装備していたものと同じ、75mm機関砲を胴体下に取り付けた機体が攻撃を開始した。

 

「すごい…さすが灰田さんが用意した新艦載機部隊……」と古鷹。

 

「青葉たちの常識を超えていますけどね……」と青葉。

 

「あたしらの兵装も強力なのも頷けるな」と加古。

 

「本当に味方で良かった、敵ならば嫌ね」と衣笠。

 

『確かにな、ありがたい味方だ』と秀真。

 

古鷹たちはもちろん、秀真も土佐たちの新艦載機に驚愕していたが、こちらも負けていられないという闘志を燃やした。

 

『俺たちも突撃するぞ、古鷹』

 

「はい、了解しました!重巡古鷹、突撃します!」

 

秀真・古鷹たちが突撃すると一通の交信が入った。

 

『こちらTJS艦隊旗艦由良、こちらも突撃します、古鷹さん武運を!』

 

「由良さんたちも気を付けてね!」

 

古鷹の命令で加古・青葉・衣笠は突撃した。

由良たちは阿武隈たちを襲うとする連邦艦隊の撃破に向かった。

 

 

 

「砲戦、開始します! てぇー!」

 

古鷹たちは20.3cm連装砲を構えると、一斉射した。

連邦派深海棲艦は『あの超兵器ではないな』と連邦艦隊と同じく慢心していた。

外観は古鷹たちが以前から装備している20.3cm連装砲として見ていなかったが……

しかし砲弾ではなく、あの紅きレーザー砲が発射されたのだった。

これを目にした連邦深海棲艦は目を丸くして思考停止に陥る前に、これを喰らい雲散霧消……正確には跡形も残らなかったといった方が良いだろう。

 

「な、奴らはいつの間に光学兵器を装備したのか!?」

 

チョンは驚愕するのも無理はなかった。

これらの兵器は灰田が用意した光学兵器であるとある艦隊の兵器を模倣したのだ。

もはや自分たちの持つ兵器よりも、いや、人類の科学力を軽く凌駕した超兵器だと思考停止した。

しかも深海棲艦は次々とレーザー砲ないし砲撃で轟沈していく。

灰田は古鷹たちの装備する連装砲をレーザー砲ないし砲弾を両方攻撃可能なように自動切り替えシステムを装備している。

 

「えい、こちらにもトマホーク部隊がいる突入させろ!」

 

特殊魚雷ことトマホークならば中破ないし大破させることが出来る。

誘導装置を仕組まれたこの魚雷ならば艦娘たちを上手くいけば轟沈させることが出来るとチョンは自信を持っていた。

万が一に備えて、ギガントスを忍ばせて自爆させる覚悟もあった。

艦娘を一撃で轟沈させるほどの高性能爆薬を仕込ませているからこれに賭けるしかないとチョンは考えた。

また例え相手が必殺技の酸素魚雷を撃とうとも魚雷回避装置《オクトパス》がある。

上手くいけば敵が持つ酸素魚雷はもちろん、音響ホーミング魚雷ですらも無効にすることが出来ると自信を持っていた。

生きて帰ってこれらをまた改良してすれば、我々にはまだ勝機があると信じてもいた。

日本にもかつては神風が吹いたならば、我々も今の劣勢を跳ね返すこともできると……

連邦国が負けるはずがない、強大国家アメリカがいる限り負けることはない。

しかしチョンは日米空母同士の戦いでも日本が奇跡の完勝をしたことを否定しており、米軍に慢心があっただけと論破した。

事実は日本の完勝であり、米空母戦闘群は敗れたことを知らない。

 

「あの兵器どもにトマホークを使え!」

 

チョンの命令で全特殊深海棲艦たちは古鷹たちを標的に、トマホークを発射しようとしたときだ。

 

「私たち戦艦空母を忘れたの?」

 

「我々が単なる戦艦空母だと思うな!」

 

白山・十勝は搭載している40cm連装砲の仰角は敵艦に向けると、凄まじい砲撃音を鳴り響かせた。

まるで獲物を求める飢えた肉食恐竜の唸り声の如く、鳴り響く砲撃音でもあった。

特殊深海棲艦たちが気付いたときには、徹甲弾の豪雨が降り注いだ。

もはや古鷹たちを狙うどころか、逆に自分たちが狙われている状況になった。

 

「第二次攻撃隊、敵艦を殲滅せよ!」

 

「敵艦を葬ります!」

 

土佐・紀伊の第二次攻撃隊が襲い掛かる。

先ほどの天雷改・轟天改・天弓改中心の戦爆雷連合部隊が襲い掛かる。

もはや地べたを這い回る蛇と思わせる特殊深海棲艦たちは回避するものの……ひとり、またひとりと撃沈されていく。

悪運強く、最後のひとりである重巡ネ級が構えようとしたら……

 

『古鷹たちには指一本触れさせない!』

 

ズムウォルト101から発射された対艦ミサイル……ハープーンが殺到した。

発射する前に逃げようとしたが、これらから逃れることができずに撃沈した。

こうして連邦艦隊が誇るトマホーク艦隊は殲滅されてしまったのだ。

 

「ええい、異端者相手に全滅とは!」

 

チョンは頭に血が昇り、顔を真っ赤にして激怒した。

指揮官たる者どんな状況でも冷静に判断しければならないにも関わらず、連邦軍は冷静に指揮する者たちはごく少数……しかも一部は日本に亡命した。

ほとんどが烏合の衆であり、まともに現場指揮をする者たちは感情任せに命令することは禁句である。

 

「もう良い、もうたくさんだ、ギガントスを敵艦に体当たりさせろ!」

 

チョンはとんでもない命令を下したが、参謀長が反対した。

 

「チョン上級将校、それでは我が艦隊の攻撃力が失いかねません!」

 

この反論に対して、チョンは指ピストルを向けて恫喝した。

 

「私の命令は絶対だ、貴様は私の超能力でいつでも殺せるんだ、覚えておけ!」

 

言われるがままに、ギガントスを最大速度で突撃した。

 

『ギガントスだ、気を付けろ!』

 

秀真が乗艦しているズムウォルト級ミサイル巡洋艦から報告がきた。

前にも記したとおり、搭載している新型レーダーは対艦巡航ミサイルに対する索敵範囲を3倍に拡大されている。

なおかつこのレーダーは高性能であり、イージス艦の持つ艦隊全体の防空能力を10倍ほど上回っているのだ。

 

「提督、例の兵器使用許可をお願いします!」

 

古鷹の問いに……

 

『ああ、遠慮はいらん。奴らにひと泡吹かせてやれ!』

 

秀真は命令を下した。

 

「了解しました、加古、青葉、衣笠……用意して!」

 

古鷹の命令に、加古たちは『了解』と頷いた。

そして猪突猛進に突撃して来るギガントスに標的を合わせた。

 

「 古鷹、突撃します! 撃てぇー!」

 

「ブッ飛ばすッ!」

 

「青葉にお任せ!」

 

「逃げても無駄よ!」

 

魚雷発射管から発射された奇妙な魚雷がギガントスに向かった。

ギガントス自体は避ける気配はない、もはや突撃あるのみで突入してきた相手を狙うことは容易い。

その一方、自滅覚悟する相手ならばこのうえ厄介な敵はいない。

ギガントスの場合はどちらかと言うとただ目の前にいる敵を殲滅したいだけである。

この突撃が往生際の悪さを物語っているが……これが命取りとなったのだった。

この奇妙な魚雷は全てオクトパスに吸い寄せられることなく、全弾が命中した。

命中した途端……目標に貼り付くと、ギガントスは全身を黒く染めていく。

幽霊船のようにボロボロ状態になったギガントスは、古鷹たちを目の前にして崩れ去ったのだった。

 

「す、すごい…灰田さんの用意した“振動弾頭”の威力……」

 

「ギガントスを一瞬にして撃沈した」

 

「だけど、これはあくまでも抑止力のためです」

 

「連邦艦隊の戦意を削げば良いけどね、これで……」

 

この振動弾頭はとある世界の敵艦隊を倒す魚雷として開発された。

これを使えば連邦派深海棲艦はもちろん、人造棲艦《ギガントス》ですらも倒すことが出来る超兵器である。

灰田から言わしてみれば試作品よりも完璧なものであるが、秀真はあくまでも抑止力として少数ながらも生産した。

灰田もそれを了承して、今回は特別に開発した。

終戦後にはこれを回収すると約束もしているため、少数に留めたのだ。

 

『これでギガントスは死亡か。もう一匹いなければ良いが……』

 

秀真は連邦の事だから隠し持っているかもしれないと不安に駆られた……

その時だった。

 

古鷹たちの後ろから大きな水柱が立ちあがるとともに、重巡型のギガントスが姿を現した。

先ほどの奴は致しかない犠牲……つまり古鷹たちを倒すための“使い捨て”である

古鷹たちは砲塔を向けたが、ダメージを受けても躱す気もないギガントスを見た秀真は、もしかしてと気付いた。

 

『古鷹、加古、青葉、衣笠…今からそいつから離れろ、奴は自爆攻撃をする気だ!』

 

警告は遅く、射程距離に入ったギガントスをCIC画面越しからチョンは狂気に満ちた笑みで命令を下した。

 

「よし、ギガントスとともに海のゴミになれ!」

 

チョンは携えていた遠隔操作による自爆スイッチを押した。

すると、ギガントスの体内から数本の閃光が照らし出す。

直後、大爆発とも言える爆発音が鳴り響き、古鷹たちに衝撃波と爆風が襲い掛かる。

古鷹たちは逃れる術もなく巻き込まれた。

 

「嘘だろう……」

 

秀真は目を疑った。

命よりも大切な古鷹たちを轟沈させてしまった。

いくら応急修理女神を装備しても跡形もなく消えてしまえば、復活は出来ないからだ。

 

「う、嘘ですよね」

 

「嘘だろ……」

 

「そんな古鷹さんたちが…」

 

「轟沈したの……」

 

白山・十勝だけでなく、土佐・紀伊たちも含めて全員が驚愕した。

 

「やったやった!ざまあみろ!血も涙もないこと言うから轟沈したんだ。反省しろよ!わはははははは!」

 

チョンが高らかに笑うと、周りの仲間も大笑いした。

これほど愉快な光景を見れたのだ、ようやく艦娘たちにひと泡を吹かせたのだと勝利を確信していた一方……

 

「俺は……なんて事を……慢心してしまった……」

 

古鷹たちを轟沈させてしまった罪を、約束を守ることが出来なかったと悲しみに包まれたときだった。

 

『…く、……とく』

 

無線機から声が聞こえた。

 

「もしかして……」

 

『提督、私たちは無事です!冷静に指揮を取ってください!』

 

「古鷹なのか?みんなは無事なのか!?」

 

奇跡が起こったことに驚いた。

 

『はい、みんな無傷です!』

 

『提督、あたしも無事だから安心しな!』

 

『司令官、青葉も大丈夫です!』

 

『提督、衣笠さんも無事だよ!』

 

古鷹・加古・青葉・衣笠の声を聞いた秀真は嬉しかったが、しかしどうして轟沈を免れたことに疑問を抱いた。

あれほどの彼女たちを轟沈させると思われた高性能爆薬を連邦軍は作動させたのに、この奇跡とも言える瞬間が不思議で堪らなかったときだ。

 

「あれは無人空母《アカギ》などと同じように、古鷹さんたちの未来艤装にも同じように施し、さらには彼女たちを傷つけるエネルギーを探知するとともに、ナノ秒のスピードで例のエネルギー転送システムを働かせ、ミサイルの爆発エネルギーを消滅する力もあります。

いわば鉄壁のバリヤーとも言える存在……とある世界の『クラインフィールド』に近いものと考えて頂ければ幸いですね」

 

「灰田、いつの間に……」

 

秀真の後ろには、灰色服の男こと灰田が立っていた。

さすがに今回ばかりは驚かされてしまう。

 

「寿命が縮んでしまったな、特に今日は……」

 

「すみません。わたしも決して意地悪をしたのではなく、緊張感を保たせたのです。

この機能については伏せていたのは、あまりに強力なディフェンス機能を持っていると事前に知らされると慢心しかねないと思いましてね」

 

「知っていても慢心するどころか、逆に不安になりかねない」

 

秀真はかぶりを振りつつも、内心は感謝の気持ちでいっぱいだった。

灰田の場合は、借りなど求めない主義でもあるが。

 

「それではわたしは一度退散しますので、ご武運を」

 

灰田はそう言い残すと、すぅと消えた。




古鷹たちの超兵器は無人空母《アカギ》率いる日本空母戦闘群も少しはありますが……以前、艦これとコラボした作品として『蒼き鋼のアルペジオ』に登場した兵器……厳選してこの三つにしました。
多すぎますと『蒼き鋼のアルペジオ』になりかねませんので今後は追加はしません。
なお今回の土佐たちの艦載機は、とある同志のおかげで完成しました。
本当にありがとうございます。

灰田「もう一つ未登場でしたがより強化された連山改もあります、当分先ですが次の機会に登場しますのでお楽しみください」

暫くは執筆するとともに、今はまだイベントもありますので遅れますが、自分のペースに合わせて書いていきますので。

灰田「まあ、無理はしないでくださいね」

某提督の憂鬱みたいに、強力な栄養ドリンクがあればね。
26時間だったかな、確かあのドリンクの効果は……たぶん……
考えただけでも……う~ん……次回予告に行きましょう。

灰田「次回はこの続きになりますが、TJS艦隊視点……大天使ユラエルこと由良さん無双が始まります。なお水戦妖精は出ませんのでご理解ください」

由良さん見るたびに艦これIL-2の影響ですにて、由良しゃん∩(・ω・)∩ばんじゃーいと水戦バンザイ!を思い出します。

灰田「まあ、そうなりますね」

由良「さぁ、次回は由良の良いところ見せてあげるね!」

作者・灰田『由良しゃん∩(・ω・)∩ばんじゃーい、水戦バンザイ!』

由良「うふふっ、楽しみにしてくださいね♪」

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

由良「ダスビダーニャ!」ウインク

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十七話:超連合艦隊VS特殊深海棲艦 中編

お待たせしました。
それでは予告通り、大天使ユラエルこと由良さん無双が始まります。

灰田「では今回は特別に例の言葉を言いながらの本編開始です」

では、ご一緒に……

作者・灰田『由良しゃん∩(・ω・)∩ばんじゃーい、水戦バンザイ!』

ともあれ本編です、どうぞ。


秀真たちが安堵の笑みをしていたさなか……チョン上級政治将校だけは顔を真っ赤にして憤慨していた。

 

「えいっ、神である私の完璧な戦略をまたしても潰しやがって、クソどもがッ!」

 

しかしいくら画面越しに映し出されている古鷹たちに向かって罵声を言おうが、状況は状況であり、現実に起きたことである。

チョンはもはや冷静に指揮をするどころか、単純明白の命令しかできない。

命令と言うものは何度も言う通り、簡単なものほどしやすい。

ただし指揮官たる者、過去の偉大なる提督たちを真似るほど偉大になれる者とは限らない。

大東亜戦争でも自称『作戦の神様』と言われた者は悉く作戦を妨害したり、捨て身の特攻作戦を考案した者たちは『自分たちは後から必ず行く』と言うものの、わが身の可愛さから台湾に逃げたり、終戦まで逃げのびた。

きちんと責任を取ったのは大西大将と宇垣纏中将のみである。

ただし後者の場合は以前も記したように評価が分かれ、さらに江田島に祀られることはなかったと言われる。

 

「えい、もう旧式艦相手は良い、今度は米帝どもを救助している金の亡者たちとゴミどもを殺せ、殺して海のゴミにしろ!」

 

「りょ、了解しました……」

 

憤慨しているチョンをこれ以上刺激しないように参謀長は弱々しく答えた。

二面作戦をしている時点で負けているも同然である、戦力を分散せずに集中していれば活路は生み出せるのに、チョンのせいで勝機は失われた。

しかし命令は命令である、今度はTJS艦隊に襲い掛かるのである。

 

 

 

由良率いるTJS艦隊は、日本亡命艦隊を襲撃しようとする連邦艦隊を追撃していた。

彼らのような卑怯な者たちは必ず殲滅し、戦艦水鬼・アイオワたちを救出して皆で帰ることだけは成し遂げる。

 

「由良お姉ちゃん、本当に由良お姉ちゃんなの?」

 

阿武隈は泣きながら抱きしめ、由良は彼女を落ち着かせるために背中を摩った。

 

「私以外に他に由良は居ないはずよ♪」

 

「由良お姉ちゃんに、本当に会えてよかった」

 

「よく頑張ったね、阿武隈。もう大丈夫よ」

 

「Beautiful…姉妹愛と仲間たちとの友情は美しいわね」

 

「アア…本当ダナ」

 

かくしてアイオワたちが二人の姉妹愛に感心していた時だ。

 

「由良お姉ちゃん…後ろに気を付けて!」

 

水柱とともに姿を現したのは、戦艦ル級2隻、重巡リ級2隻、軽巡ホ級2隻、輸送ワ級elite4隻など合計10隻が由良の背後から襲い掛かった。

ル級たちはこれで終わりだと叫びながら、砲塔を剥き出したが……

 

「ここはお姉ちゃんにまかせて!」

 

ニッコリと笑みを見せると、阿武隈たちを庇うように前に出た。

 

「ヨシ、全員コロセ!」

 

無慈悲なひと言とともに、ル級の合図で全砲門が唸り声を上げて、一斉射した。

これで避ける暇もなく全艦轟沈だと確勝したのか、思わず笑みを浮かべたが……

 

「ソ、ソンナバカナ!? アレダケノ火力ヲウケテ無傷ダト!?」

 

あれだけの攻撃を受けたのに無傷なのが理解できなかった。

いや、理解しようにも素早く脳の整理をするほど冷静な分析力がないと言っても良い。

由良たちが無傷であるおかげは、灰色服の男……灰田の用意したあのシールドである。

これも古鷹たちと同じく秘かに仕込まれた未来艤装のおかげでもあるが。

攻撃が止むと……

 

「……よくも私の大切な妹を傷つけたわね、私が見過ごすほど甘く優しい人格はしてないわよ」

 

ル級たちは背筋が凍った。

自分よりも弱い軽巡洋艦なのに、由良が放った言葉は鋭いナイフが突き刺さったかのような雰囲気を思わせる。

 

「お返しよ!」

 

由良の短い言葉と伴い、砲塔から紅きレーザーが放たれた。

避ける暇もなくル級の頭部を吹き飛ばされてしまい、頭部を失った身体は暫らくはよろめきその場に前のめりした直後、爆沈した。

残りも襲い掛かってきたものの、次に由良がレーザーとともに向けたものは……

 

「これだけじゃ、終わらないわよ!」

 

第二次南シナ海戦で連邦艦隊攻撃時に加古・衣笠が披露したあの超兵器《レールガン》を撃ち放った。

凄まじい轟音を発し、放たれた弾丸は垂直を描き、目にも止まらぬ速さで迸りながら目標たる重巡リ級、軽巡ホ級、輸送ワ級eliteたちに音速を超えて襲い掛かる。

目を丸くした襲撃艦隊はこれを避けることはできなかった。

レーザーを喰らい、爆発四散したのは4隻の輸送ワ級eliteである。

威力は以前よりも強力に改装されたために、もはや敵艦のバルジなんて紙も同然であった。

レールガンを喰らったのは……軽巡ホ級、重巡リ級である。

ホ級は艤装に蓄積された弾薬庫が感電して体内から閃光を発した後に跡形もなく消えた。

文字通り木端微塵となったのである。

リ級に関してはひとりは頭部を破壊されて即死し、もうひとりは上半身ごと肉食恐竜に引きちぎられたように破壊され、死亡した。

運よく最後まで生き残った戦艦ル級が、主砲で由良を狙おうとしたが……

 

「みんなを傷つけたこと、そして由良を怒らせたこと後悔しなさい!」

 

止めの一撃とも言えるレールガンを喰らい、悲鳴を上げることなく死亡した。

由良が放ったレーザー砲とレールガンによる両方の攻撃を喰らった襲撃艦隊は、由良ひとりに瞬きする間もなく殲滅されたのである。

例えレールガンを避けたとしても無駄に終わっていた、なにしろ対艦ミサイルも由良は発射準備が出来ていたが幸いにもそれを使用するほど危険な敵ではないと判断したからだ。

しかし万一に考えて装填はしていたが、強力な超兵器のおかげで使わずに済んだ。

 

「すごい……由良お姉ちゃん、いつの間にレーザー砲とレールガンを装備したの?」

 

阿武隈も驚いたが、由良はいつも通り優しい笑みを浮かべて答えた。

 

「灰田さんが由良たちのために用意してくれたのよ。先ほどの阿武隈たちをミサイルの嵐から助けたシールドも、ここまで早く来たのも灰田さんが用意したワープ・ゲートのおかげよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「Oh!レーザーにレールガン、バリア、ワープゲート……本当にSF小説に、いいえ、SF世界に転生しみたいね、水鬼!」

 

「アア、ソウダナ……」

 

またしても驚いた阿武隈、目を輝かせるアイオワ、夢でも見ているのかと思う彼女とは違い、戦艦水鬼は以前にこの話を聞いていたのですんなりと理解した。

やはり、この件も灰色服の男がわたしを助けているのかとも内心に呟いた。

 

「シカシ、戦力ハ大丈夫ナノカ?」

 

戦艦水鬼の問いに由良は答えた。

 

「大丈夫ですよ…… それに由良たちや、TJS艦隊を舐めては困りますね!」

 

天使のような笑みを浮かべるとともに、由良はウインクした。

彼女の言う通り、各ペアが連邦艦隊との熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

 

 

「攻撃隊、全機発進!」

 

飛鷹の発令に式紙は航空機……こちらも同じく土佐姉妹が装備している驚異のジェット戦闘機《天雷改》を筆頭とした直掩隊、これに続くよう艦上戦闘攻撃機《天弓改》が次々と発艦して行く。

また飛鷹の攻撃隊に遅れて、TJS艦隊所属のワスプ型空母《綾鷹》と共に、第二機動艦隊・インド軽空母《ヴィラート》を改め《雲鳳》からF-35《ライトニングⅡ》戦闘機もこれに続き、全機発艦して行く。

大量の兵装を抱えた両部隊は連邦深海棲艦たちを見つけると獲物を見つけた隼の如く急降下をし、襲い掛かる。

 

「ック、撃テ!撃テ!」

 

連邦深海艦隊旗艦・戦艦タ級が発令すると、各艦は一斉に対空戦闘を開始した。

しかし何度でも言うが、彼女たちの持つVT信管は全て無効化されることを学習しない。

焼け石に水のように、音速を超える航空機を撃ち落すことなど至難の業である。

連邦艦隊も自分たちを守ることにしか、護衛艦に搭載されている短SAMやCIWSなどの現代火器を使用することはない。

先ず先手を打ったのは、天雷改・天弓改部隊による攻撃が開始された。

先ほどの土佐姉妹が装備していた75mm機関砲を搭載した天雷改、30mmガンポッドを装備した天弓改部隊、そして通常型の30mm機関砲などによる攻撃が始まった。

戦艦クラスならば蚊に刺された程度だが、しかし装甲力の薄い重巡、軽巡、駆逐艦、さらに武装した輸送船にとってはこのうえ脅威なものはない。

現代でも航空機による地上攻撃は絶大なものであり、制空権を確保してから発揮できる。

イラク戦争でも開戦早々に地上に駐機していたイラク空軍機は、多国籍空軍に破壊された。

例え舞い上がったとしても旧式戦闘機なゆえに、訓練不足もあり、そして士気も高くない。

戦う以前の問題でもあり、なにしろ多くのベテランを持ち、そして豊富な物量を誇る多国籍空軍には勝てない。

 

「クソッ、オチロ、オチロ!」

 

タ級がいくら罵声を浴びさせても、艦載機による攻撃は止むことはない。

自身の隣にいた軽巡ツ級は75mm機関砲を数発受けて瀕死の状態になり、そして止めに天雷改による急降下爆撃を喰らい、悲鳴を上げることなく爆沈した。

共にいた戦艦ル級たちなどはまだ戦闘継続可能だが、辛うじて対空戦闘をしている者たちは数えきられる者しかいない。

次々と怪しげな怪鳥ども……いや、あれは全て悪魔《サタン》だ、自分たちは悪魔と戦っているのだと思い、攻撃を続行していたときだ。

またしても航空攻撃が襲い掛かる。

しかも今度は対艦ミサイルを両翼下に搭載したTJS所属の戦闘攻撃機F-35《ライトニングⅡ》による攻撃が開始された。

この時間差攻撃は、空母《天安》率いる連邦空母戦闘群でも同じ光景が見られた。

空自・多国籍空軍による対艦攻撃の前に、深い傷を負ってしまう。

そして止めを刺したのが灰田のもたらした無人ハイテク空母《飛鳥》の艦載機攻撃により殲滅された。

 

まさにこの出来事を再現したかのような攻撃に掛かるF-35部隊が搭載していたAMG-84《ハープーン》対艦ミサイルを一斉に発射した。

 

「マズイ、ミサイルダ!回避シロ!」

 

第一次攻撃隊による攻撃が済んだと思えば、今度はTJS航空部隊による攻撃に見舞われる。

まさに『一難去ってまた一難』である。

阿武隈たちにした行為が、自分たちにもお返しと言わんばかりにハープーン・ミサイルの嵐が襲来してきた。

回避しようにも無誘導魚雷ならば容易いが、誘導ミサイルを回避することは不可能である。

ましてや音速を超える物体を回避するよりは、短SAMやCIWSなどによる艦搭載用自衛火器で迎撃した方が効率的に良い。

しかし連邦深海棲艦は使い捨て部隊に過ぎない、現代火器を搭載せさせるよりは《ギガントス》を生産した方が遥かに良く、低コストで協力的だからと判断された。

また誘導魚雷《トマホーク》や魚雷回避装置《オクトパス》を量産し始めているため、連邦残党軍の軍事費は火の車も同然である。

いちいち深海棲艦に装備させるぐらいならば自分たちないし《ギガントス》の方が良いという身勝手な理由、他人から見れば訳の分からぬ理由でケチをつけている。

また使い捨て部隊として、一部では特別攻撃隊用兵器……もっぱら爆薬を抱えた自爆深海棲艦部隊も用意している。

追い詰められてもなお、自分たちに勝機があると信じている。

 

「……コンナコトニナルナラバ、水鬼様ノ警告ヲ聞イテイレバッ!」

 

後悔するタ級に3発のミサイルが直撃、連邦残党軍を恨みながら死亡した。

ほかの深海棲艦部隊にもミサイルが直撃し、たちまち大破ないし撃沈した。

とくに舵をやられた者たちに関しては、動かない的とされて簡単に撃破されてしまう最後を遂げた。

生き残った者たちで辛うじて戦える者は数隻しか残っていなかった。

またこの状況に耐えかねたのかチョンは、部下に命じてカプセルを投下しろと言った。

成人女性が収納可能なほど大型カプセルを3個も海に投下した。

数秒ほど海を漂ったが、そのカプセルを突き破るおぞましい手が現われた。

カプセルを突き破った者は重巡型《ギガントス》だった。

いざと言うときに隠し持っていたのだ。

 

『前進しろ、敵艦を葬れ!』

 

チョンは命じた。

先ほどは爆薬の量が足りず、何らかの原因で葬ることが出来なかったチョンは考えた。

非科学的なことは起きるわけがない、全ては失敗の原因はアメリカにあると考えた。

チョンもまさか未来の日本人が手助けしているとは知る由もなかったが。

なお彼の独断というよりは、勝手に新型……重巡型《ギガントス》を持ち込んだものでもある。

 

CICではチョンはまたもうひとつのカプセルも状況に応じて、すぐに投下準備できるように命じた。

こちらには人造棲艦《ギガントス》ではなく、連邦深海棲艦の予備戦力として用意された小型艦……駆逐艦よりも小柄な赤子のような姿をしている魚雷艇群を用意している。

史実ではソロモン沖海戦以降大量に投入したPTボート群は、意外な活躍をしている。

レイテ沖海戦時のスリガオ海峡夜戦でも阿武隈に魚雷を命中大破させた他、西村艦隊の隠密性を破り主力部隊へその全容を通報するなど多大な貢献をしているなどの功績を残している。

連邦にとっては地上の楽園を滅ぼした怨恨と『艦娘憎し』という事もあり、採用した。

しかしこれらには連邦十八番ともいえる性能も隠されているが、あくまでもギガントスと使い捨ての深海棲艦部隊が殲滅されたときに自分たちが逃げるために使うものである。

もちろんこれらも試作段階だが、チョンは大いに期待していた。

 

「私の神の鉄槌で貴様らは必ず惨敗させてやる!」

 

しかしチョンの高らかな予言とは裏腹に、由良たち率いるTJS艦隊はそれほど甘くはなかった。

 

 

 

チョンがヒステリックを起こしていた頃……

 

「それじゃあ、私もそろそろみんなの援護に回るからね」

 

「由良お姉ちゃん……」

 

「ほら、泣かないで。名取姉との再会の分まで取っておきなさい」

 

「うん、分かった。阿武隈も名取お姉ちゃんと由良お姉ちゃんのために頑張る」

 

涙を拭き取り、阿武隈は笑顔を見せた。

 

「いい子ね、阿武隈」

 

由良は阿武隈を優しく抱きしめながら、頭を撫でた。

アイオワ・戦艦水鬼は『本当に姉妹愛は良いね』とハンカチを取り出して感涙していた。

そこに救助を終えた初霜・海風が駆けつけた。

 

「阿武隈さん、ストーン大佐たちの艦隊は無事に戦闘区域から離脱しました」

 

「ほかの深海棲艦たちも吹雪さんたちが無事に離脱させました」

 

報告を聞いた阿武隈はアイオワを、初霜と海風は戦艦水鬼をそれぞれ支えた。

 

「由良さんご武運を」

 

「由良さん気を付けてください!」

 

「由良にまかせなさい!」

 

海風と初霜の言葉に対して、由良はウインクを見せた。

阿武隈はいま自分にできることに集中して、彼女たちを護送するために離脱した。




今回は特別編の如く、大天使ユラエルこと由良さん無双でした。
そして浴衣姿の由良さん美人です、まさに浴衣美人であります。
由良しゃん∩(・ω・)∩ばんじゃーい、水戦バンザイ!

灰田「まあ、今回はわたしも言いましたが、なかなか気に入りましたね」

艦これIL-2は航空戦がリアルであっという間に観終わってしまいます。
最新話ももちろん見ました、キス島怖いです。

灰田「まあ、こちらの本編でも同じ海域ですからね」

まあ、そうなるな。こちらは激戦ですが……
ともあれ書き遅れた分は取り戻さないといけませんから、そろそろ次回予告をしましょうか。

由良「今回は由良におまかせ!次回もこの続き……由良たちの所属するTJS艦隊と共に、秀真提督と古鷹さんたちも大活躍する話に伴い、またしても連邦の新兵器が少しだけ登場します」

なお後篇ですが、事情により別のサブタイトルで続くかもしれません。
どうかご了承ください。

灰田「いたしかない事ですね、文字数は限られていますから」

由良(メタイこと言っていいのかな?)ニガワライ

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

由良「ダスビダーニャ!」ウインク

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十八話:超連合艦隊VS特殊深海棲艦 後編

お待たせしました。
それでは予告通り、大天使ユラエルこと由良さんたちの所属するTJS艦隊とともに、秀真提督と古鷹さんたちも大活躍する話、そしてまたしても連邦の新兵器が少しだけ登場します。

灰田「新兵器は史実上にあった非人道兵器でもあります、果たしてどんな兵器なのかは本編を見てからのお楽しみに」

それではいつも通り……

作者・灰田「「本編であります。どうぞ!!」」


「皆しゃん、わたひに!私に付いてきてください!」

 

噛みながら勇敢に突撃命令を言ったのは、長良型軽巡洋艦3番艦・名取である。

彼女もTJS部隊に救出された艦娘たちのひとりであり、由良と同じく水雷戦隊旗艦を務めている。

 

「さーて♪ 次はうちらの出番じゃ!」

 

「よっしゃぁ!この谷風の見せ場だねぇ〜!」

 

陽炎型駆逐艦11番艦・浦風に続き、姉妹艦14番艦・谷風もあとに続いた。

切り込みならば水雷戦隊の得意分野でもあり、快速を誇り、雷撃戦となれば重巡洋艦にだって負けない。

事実でもガダルカナル島でも重巡洋艦部隊に対して、ネズミ輸送中だった駆逐艦中心の第二水雷戦隊は味方艦1隻を失いながらも、敵巡洋艦4隻を撃沈したこともある。

当初米軍は『駆逐艦ごとき何ができる』と慢心していた結果……これほど手痛い結果に苦虫を噛んだ悔しさはさぞかししたと思われる。

 

「名取たちに良いところを取らせるわけには行かないわ、みんな突撃よ♪」

 

「あ、足柄さん、ま、待ってください!」

 

「私も突撃します!」

 

「榛名も掩護します!」

 

「私の艦載機たちも準部万端よ!」

 

名取たちの援護のために、足柄・潮・比叡・榛名・飛鷹も突撃する。

名取たちと共に突撃した比叡たち、無事比叡と合流した由良も加わるだけでなく……

 

「敵艦隊発見、古鷹突撃します!」

 

「よっしゃ、あいつ等との最終決戦だね、行くぞー!」

 

「最終決戦も青葉におまかせ!」

 

「衣笠さんも追撃するわよ!」

 

「私たちもお供します!」

 

「この十勝も助太刀するぞ!」

 

「行くわよ、紀伊!」

 

「はい、土佐姉さん!」

 

古鷹たち率いる第六戦隊に続き、白山・十勝に、そして土佐姉妹も加わる。

これにより超連合艦隊が集結した。

 

『俺たちも負けていられませんよ、バラミール艦長』

 

「ああ…お互い全力で戦いおう、秀真提督!」

 

通信とのやり取りで秀真たちも突撃する。

 

『さあ、みんな突撃よ!!』

 

古鷹・由良たちの了解とともに突撃を開始した。

 

 

 

古鷹・由良たちの声に反応したかのように、重巡型《ギガントス》も同じく突撃した。

撃沈すべき獲物たちが近づいたとなると、今度は女性の悲鳴とサイレンを足したようなうめき声を出した。

ギガントスにとってはより取り見取りと思うかのような数だが、その反面では連邦深海棲艦たちにとっては地獄絵図を見ているかのような景色だった。

物量を誇っていた自分たちがいつの間にか追い詰まられている状況だった。

それでも突撃しなければならない……さもないと味方から撃たれる。

味方に撃たれて死ぬぐらいならば、せめて敵艦に撃ち殺された方がよほどマシだと大半の者たちがそう思った。

先ほどのギガントスの自爆攻撃すらも無効にする艦娘たちにどう立ち向かえば良いのかと愚痴を零したと同時に、舌打ちをした。

そうしている間にも、災厄が今まさに襲い掛かって来た。

 

「前方敵艦隊、全艦撃てぇー!」

 

秀真が乗艦するズムウォルト級101とともに、第一艦隊旗艦・改くらま型護衛艦《早潮》を筆頭にハープーン・ミサイルが発射された。

対馬海戦で活躍したマフムト・バラミール艦長が乗艦しているタイコンデロガ型イージス艦《満月》に続き…

改オリバー・ハザード・ペリー級フリゲート《巻風》《速風》

改バレアレス級フリゲート《荒雪》

改あさぎり型護衛艦《夕潮》《巻潮》

改顎州型駆逐艦《岳風》

全艦は発令とともに、深海棲艦に向けて攻撃を開始した。

ギガントスが姿を現していない今は、通常兵器で深海棲艦に対処する方法を選んだ。

なおワスプ型空母《綾鷹》は第二次攻撃隊のために補給・兵装整備をしている。

同じく第二機動艦隊旗艦・旗艦はインド軽空母《ヴィラート》を改めて《雲鳳》も同じく兵装準備・補給をしている。

 

「主砲、全門一斉射!」

 

「全主砲、てぇー!」

 

比叡は41cm連装砲改を、榛名はダズル迷彩が刻まれた36.5cm連装砲の仰角を取り、敵艦に向けて一斉射した。

 

「潮、弾幕を張るわよ!」

 

「敵艦を倒すわよ!」

 

「は、はい。やります!」

 

比叡たちに続き、足柄・由良・潮ペアも各主砲の俯角を下げ、背一斉射した。

こちらもまた灰田が用意した対《ギガントス》用に開発されたレーザー砲である。

外観は普通41cm連装砲ないし36.5cm連装砲だが、古鷹たち同じくに彼女たちの持つ連装砲も実弾とレーザーを両方撃てるように改装されている。

レーザー弾ないし、各TJS艦隊から発射されたハープーン・ミサイルの嵐は連邦深海棲艦たちに襲い掛かる。

 

いくら『回避しつつ迎撃せよ』と命じてもこれらの超兵器を持たない連邦深海艦隊は回避ないし迎撃することは不可能である。

血塗れになってもなおTJS艦隊ないし比叡たちを砲撃し続ける連邦深海棲艦には悲惨な結末……撃沈という未来しか残っていなかった。

 

「ッチ…突撃セヨ!肉薄攻撃ナラバ我々ノ方ガ有利ダ!」

 

重巡リ級が命じた。

接近して砲雷撃戦をすれば、こちらの方が有利であると思えたからだ。

万歳突撃のように心理攻撃と伴い、相手に恐怖心を植え付けられれば反撃のチャンスが生まれると思い、これに賭けた。

しかしTJS第二機動艦隊が捕捉しており、すぐさまに攻撃準備を整えた。

第一機動艦隊に続き、第二機動艦隊は……

タイコンデロガ級イージス艦はもちろん……

ネウストラシムイ級フリゲート《潮月》《朝雪》

ブラウンシュヴァイク級フリゲート《春霜》《雪霜》

改(Ⅱ)クリヴィアⅢ級フリゲート《春雪》《秋雪》

ソヴレメンヌイ型駆逐艦を改装した《滝風》《龍風》《満風》《潮風》

TJS全艦隊は突撃して来る連邦深海棲艦部隊を目標に捉えた。

 

目標を捉えた直後、各艦は搭載しているハープーン、ロシア製の3M24《ウラン》からドイツ製のRBS-15 Mk.3、そして17式対艦ミサイルなど各種類の対艦ミサイルを一斉射した。

舞い上がった各国の対艦ミサイルは突撃して来る深海棲艦に目掛けて落下した。

散開しろと命じても、何度も記したように一度狙われたものから逃れられる術はない。

目視できないほどマッハ6以上のスピードも誇るゆえに、例え標的が逸れようと現代のミサイルの多くは自動誘導式なため、これらを外しようがない。

逃れるにはやはり現代火器で対抗しなければならない……しかも連邦深海棲艦は旧式火器しか装備していないから悲惨である。

一部は分かっていながらも迎撃した者たちもいたが、全てが無駄に終わり、哀れにも四散したのだった。

 

攻撃を掛ける前に壊滅状態となり、またしても無駄に戦力を削いでしまったことになる。

重巡型人造棲艦《ギガントス》が3体同時にやって来ると、今度は逆襲と言わんばかりに突入してきた。

 

「敵艦捕捉、撃てぇー!」

 

古鷹の号令に、加古・青葉・衣笠が一斉射した。

ギガントスは以前に比べて強化はされているものの、相変わらずレーザー攻撃には弱い。

紅きレーザー砲はギガントスに命中すると、異形の化け物の肌を焼き尽くす。

三体とも古鷹たちの攻撃を受けて、サイレンと女性の声を掛け合わせた悲鳴を上げた。

悲痛な悲鳴を耳にしても情け容赦はしない。

連邦が生み出した感情のない殺戮本能だけしかない非人道兵器は生かしては置けない。

だからこそ自分たちの手で倒さなければならない。

 

「あと一息! みんな振動弾頭の準備を!」

 

古鷹たちが振動弾頭を装填最中に、水柱が大きく立ちあがった。

その中から一体のギガントスが不意を衝いて古鷹たちに奇襲攻撃をしようと飛びかかったが……

 

「古鷹さんたちを援護します!」

 

「谷風、うちらも合戦じゃー!」

 

「がってん!お任せだよ!」

 

名取・浦風・谷風も古鷹たちを支援攻撃したことにより、奇襲攻撃は失敗した。

彼女たちの兵装も同じく灰田のもたらした未来艤装である。

名取たちも同じくレーザー砲ないしレールガンを装備している。

両兵器の攻撃を喰らったギガントスは右腕を引きちぎられたように喪失した。

喪失しても闘争心は健在しており、古鷹たちを無視して名取たちに攻撃を仕掛けた。

なお残りの左腕で砲撃をしたが、それも無駄な足掻きとして終わってしまった。

 

「全砲門……撃ち方、始め! 敵艦を薙ぎ払え!」

 

「新たな我々の力、侮るなよ……全主砲、放てぇ!」

 

白山・十勝メンバーによる砲撃が襲い掛かって来た。

放熱を発しながら落下してくる徹甲弾がギガントスに襲い掛かる。

避ける余裕もなくギガントスはこれを大量にダメージを喰らう。

白山たちの砲撃により、搭載している兵装は全て破壊されてしまう。

しかし北海道海戦でのギガントス同様に、破壊された艤装を取り除いた。

今回は技術大国アメリカの援助もあり、各艤装にはロケット・ブースターが装備しており、装着している艤装は、いつでも着脱可能なように改装されている。

これを利用して健在している左腕の艤装と、ギガントスたちは大きく屈むと背中に背負っていた艤装を名取たちに向けて射出した。

音速を超えるミサイルとまではいかないが、名取たちに向かって飛翔した。

 

「ふぇ、撃ち方始め!」

 

「なんちゅう面倒なものを取りつけちょるんじゃ!」

 

「本当、冗談じゃないよ!」

 

名取は驚いたが、灰田の高速学習システムのおかげで素早く判断できた。

浦風・谷風も同じく搭載している短SAMないしCIWSで迎撃する。

秀真たちもだが、古鷹たちもこれは予想外だった。

やはり以前よりも強化されているのもアメリカが支援してからこそできたことだ。

どうにか迎撃に成功したが、ここでもギガントスの往生際の悪さは健在していた。

迎撃されたことに腹を立てたのか、体当たり攻撃をしようと準備をしていた。

闘牛のように体当たりをしようとしていたが……

 

『攻撃隊、攻撃開始!』

 

土佐・紀伊の掛け声に合わせるように、攻撃隊は突撃していく。

今にでも突撃しようとしたギガントスに機銃掃射を浴びせた。

上空からの攻撃に怒り狂ったギガントスは艤装を全て放棄したために攻撃しようにもなすすべがなかった。

天雷改に続き、轟天・天弓改攻撃部隊による制圧射撃は効果抜群だった。

たちまち攻撃力を奪われただけでなく、攻撃隊に夢中になって咆えていたギガントスたちを見た古鷹たちはチャンスと言わんばかりに振動弾頭を向けた。

 

『サセルカ、コノ旧式艦ドモガァァァァァァァッ!』

 

ギガントスを守ろうと襲い掛かってきたのは、チョンの命令によって突撃して来た哀れな使い捨て部隊と言うべきか、連邦側の重巡ネ級・リ級たちによる重巡部隊である。

だが眼中の敵に集中しすぎたため、予想外の奇襲を喰らう。

 

「由良たちのこと忘れては困るわね」

 

レールガンでネ級を葬った由良に……

 

「この足柄に敵うとでも思っているの?」

 

「み、皆さんをお守りします!」

 

「私たちも付いています!」

 

「榛名も全力で援護します!」

 

次々と突撃して来る重巡部隊を一網打尽に撃破する足柄たちが圧倒的に有利だ。

史実でもガダルカナルで幾度もなく行われた海戦を模倣したかのように再現したが……

しかし飛び交う砲弾ですらも由良たちのバリアによって全ての攻撃が無効化されてしまう。そのお返しは強烈なレーザーないしレールガン、対艦ミサイル攻撃が殺到した。

敵重巡部隊は満足な戦果を上げられないまま、あっという間に殲滅された。

いや、玉砕と言う道を選んだが。

 

「よし、みんな攻撃するよ!」

 

古鷹の問いに、加古・青葉・衣笠は振動弾頭を装填して狙いを付けた。

さすがのギガントスも学んだのか恐怖を覚えて、後ずさりをして逃げる態勢を整えていた。

 

「これで終わりよ!」

 

「逃がすか!」

 

「青葉からは逃れられません!」

 

「私たちから逃げられないわよ!」

 

古鷹・加古・青葉・衣笠の渾身の一撃ともいえる放たれた振動弾頭が逃げていくギガントスを捕捉、これらに向かって直進した。

音速を超えるものから逃れる術など無く、それらがギガントスの身体に喰い込んだ。

直後、壊れたブリキロボットのように動きがぎこちない動きとなり、先ほどと第一被害となった重巡型同様に、全身を黒く染めていく。

幽霊船のようにボロボロ状態になったギガントスは、前のめりに倒れると風化した如く跡形もなく消し去った。

 

「提督、ギガントス殲滅に成功しました!」

 

古鷹は携帯無線機《イヤマフ》を通して、提督に連絡した。

 

『ああ…だが敵の大将が健在しているから挨拶に行かないとな』

 

秀真の本心は安心していたが、残りの敵艦隊を殲滅してから全員で帰投してからこそ真の勝利とも言える。

 

先ほどのお返しを返さなければならない。

 

だからこそ敵の大将を討ち取り、全員帰還を果たすためにも秀真・古鷹たちは前進した。

 

 

 

「ウキィィィーーー! 何故だ、どうしてだ!? 私の完璧な戦略がこんなにも崩れ去る!」

 

チョンはもはや発狂寸前と言うまでにヒステリックを起こしていた。

もはや深海棲艦は殲滅状態であり、残るは自分たち連邦艦隊のみとなった。

4隻に対して相手は、相手はその倍を攻撃力と戦力を保有している。

誰もが勝ち目はないと確信していたが……このヒステリック無能指揮官のチョン上級政治将校だけは『まだ終わっていない』と減らず口を言うばかりである。

 

「艦娘どもが来ました!」

 

「例の兵器を投下せよ、投下次第、我々は離脱準備をする!」

 

乗組員たちは言われるがまま、ギガントスの次に用意していた小型カプセルを幾つか投下した。

誰もが対潜兵器の代名詞とも言える爆雷か、輸送用ドラム缶でも放棄したのかと思った。

しかしそのカプセルが自動に開くと……中からは数隻とも言える小型艦が出現した。

外観は赤子のような姿をしており、それらには深海棲艦独特の特徴とも言える駆逐艦の姿を模倣した帽子を被っていた。

三体で一体なのか同時に続々と現れ始めた。

チョンが言っていたのはもうひとつの『秘密兵器』とは、このPT小鬼群である。

ただし普通のPT小鬼群ではなく、連邦がとある兵器を模倣している……

彼はこれを見た途端、良い考えがあると言い、通常型よりも強力にした。

小型のPT小鬼群を利用……元より『パブロフの犬』と言うものを利用した兵器にした。

因みに『パブロフの犬』と言うのは、ロシア出身のイワン・ペトロヴィッチ・パブロフ生理学・医学者が行った犬を用いた条件反射を指し、ある行動に対して特定条件付けを行なうと、条件指示だけで行動することを証明したことを由来する。

この条件反射を利用できると連邦軍は、かつてソ連が開発した動物特攻兵器『対戦車犬』を模倣した。

ただし背中に背負うのは爆薬が入った木製レバーではなく、PT小鬼群の体内にギガントス同様に爆薬を埋め込み、艦娘たちを破壊しようと考察されたのがこの特攻兵器である。

なお皮肉を込めて名称は『震洋』と名付けられた。

かつて平洋戦争で日本海軍が開発・使用した特攻兵器……小型のベニヤ板製モーターボートの船内艇首部に炸薬を搭載し、搭乗員が乗り込んで操縦して目標艦艇に体当たり攻撃を敢行すると言う特攻艇である。

なお陸軍もこれを模倣して攻撃艇マルレと呼ばれた『四式肉薄攻撃艇』と言う特攻兵器を開発した。

しかし実戦では部隊ごと全滅してしまうことが多かったことから、特に実戦投入に関する実情は不明なところが多く爆発事故で死亡したこともある。

だが、チョンは大いに期待した、なにしろ双方の兵器よりもスピードがあり、さらに砲撃もできる故に、近づいた頃には巻き添えを喰らうことも可能だからだ。

こいつらが相手をしている間に、我々が艦娘たちを撃沈すれば良いと思った。

しかしこの兵器には意外な欠陥があることを知らなかった……




超連合艦隊と化した両艦隊の活躍により、連邦艦隊は壊滅的なダメージを追いました。
なおギガントスの艤装ですが、ロケット・ブースターが内蔵されていた新艤装は映画『ゴジラxメカゴジラ』に登場した三式機龍の装備取り外しをヒントを得ました。
ある意味苦し紛れの新型艤装でもありますが……
ともあれあの新兵器もどういう結果になるやら……

灰田「もう嫌な予感しかしませんが」

あの台詞『私にいい考えがある』はなかったとしてもね……

灰田「名言中の名言でしょうね」

ゆえに指揮官もあんなのですから。

秀真「脳筋ゴリラことブルート並みの頭だろ、あれは」

古鷹「はっきり言いますね、間違ってはいませんが」ニガワライ

まあ、そうなるな(日向ふうに)
ともあれ前回同様に書き遅れた分は取り戻さないといけませんから、そろそろ次回予告をしましょうか。

古鷹「今回は古鷹が担当しますね♪ 次回もこの続き……連邦艦隊との最終決戦になります。なお私たち第六戦隊無双があります。私たち第六戦隊の大活躍たくさん注目してもらえると嬉しいです!」ニッコリ

作者・灰田・秀真『大天使フルタカエルだ』

前回の後書きのように事情により別のサブタイトルになります。
どうかご了承ください。

灰田「いたしかない事ですね、文字数は限られていますから」

秀真・古鷹(由良さんの時と一緒のこと言っているな(いますね))ニガワライ

次回もまた遅くなるかもしれませんので、ご了承ください。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第八十九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

古鷹「ダスビダーニャです!」ウインク

秀真「ダスビダーニャ」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第八十九話:暁の北方海戦の果てに……

お待たせしました。
それでは予告通り、連邦艦隊との最終決戦になります。
なお同じく、大天使フルタカエル率いる第六戦隊無双が始まります。

灰田「では今回は特別に例の言葉を言いながらの本編開始です」

では、ご一緒に……

作者・灰田『フルタカエル∩(・ω・)∩ばんじゃーい、第六戦隊バンザイ!』

ともあれ本編です、どうぞ。


接近してきた敵の2個敵水雷戦隊に対して、ズムウォルト級101とTJS合同艦隊とともに、そして古鷹たちは迎撃していた。

 

『目標捕捉……ファイア!!』

 

秀真とバラミール艦長の阿吽の如く、下した命令によって各艦はハープーンなどの対艦ミサイルをお見舞いした。

豪雨の如く降り注ぐ対艦ミサイルを避けきることなど無茶なもの……ましてや対空対ミサイルを装備していない深海棲艦は無残にも撃沈されるだけである。

生き残ったとしても大破した者が多く、逃げるにも舵がやられている者たちが多かった。

そこに古鷹たちとの砲雷撃戦を挑んでも無駄死に過ぎなかった。

何しろ未来艤装で守られた古鷹たちに砲雷撃戦を挑む時点で自殺行為であるのだから堪らない。

さらに制空権も握られているうえで、新たに敵迎撃艦隊が来ても土佐姉妹の艦載機ないしTJS艦隊所属のF-35による攻撃で餌食になった。

 

古鷹の肩にいる熟練見張員が『敵小型艦艇を多数発見!』と知らせた。

 

「提督、妖精が新たに近づいている敵小型艦艇が多数接近との報告がありました」

 

『ありがとう、古鷹』

 

古鷹の報告によると外見は赤子だが、深海駆逐艦を模倣した帽子を被っている。

レイテ海戦の西村艦隊に攻撃を仕掛けたPTボート部隊のように攪乱させる気なのかもしれないが、それならば戦艦や重巡洋艦部隊などがいないのは不自然であると見抜いた。

バラミール艦長も同じく見抜いていた……またしても自爆兵器だということを……

 

『全艦、敵は全艦自爆艦だ!艦砲ないしCIWSに、各場所に配置されたM2重機で攻撃準備をしろ!』

 

秀真・バラミール艦長の命令で全員が了解と返答した。

敵艦隊……元より小型艦艇が接近したのを確認した秀真・古鷹たちは迎撃態勢を取ったが……

 

『どういう事だ?(どういう事なの?)』

 

秀真・古鷹は声を揃えて答えた。

加古たちももちろんだが、その場にいた全員が驚愕した。

一部は攻撃対象である自分たちに向かっている者たち以外は秀真・古鷹たちをそっちのけて、多くのPT小鬼群たちは連邦側へと向かっていく。

 

「原因は分からないけど……迎撃開始!」

 

古鷹の号令で加古・青葉・衣笠が砲撃を開始した。

 

「私たちも遅れちゃ駄目よ!」

 

「護衛ならお任せください!」

 

由良・名取たちも支援攻撃を開始した。

こちらに向かってきた自爆機能付きのPT小鬼群の多くはまだ実戦経験が浅いため躱すことで精いっぱいだった。

しかし不運にもその1隻が古鷹たちの放ったレーザー砲を喰らい、爆発した。

1隻が爆発したため、周囲の数隻が爆発の連鎖により跡形もなく爆沈した。

生き残った者は自爆しようと飛びつこうと構えたが……

 

「怪我する前に、とっとと帰りやぁ!」

 

浦風の極道じみたドスの利いた声を聞いただけで、PT小鬼群は涙目になり、よほど彼女が怖いのか全員が慌てて逃げ出した。

 

「浦風さん、凄いですね……」

 

さすがの古鷹も苦笑いした。

 

「なぁ~に、うちが強ければ大丈夫じゃけん。古鷹さん」

 

「ふふふっ、ありがとう。浦風さん」

 

「どういたしまして」

 

まるで大船に乗ったような気持ちになれと言わんばかりの浦風の言葉は頼もしいと思ったのはここにいる全員でもあった。

 

 

 

「ど、どういう事だ、なぜこっちに来るんだ!?」

 

これを目にしたチョンたちは自分たちに返ってくるなんてありえないと思ったに違いない。

双方が分からなかったのも無理はない。

実は元になった対戦車動物兵器『対戦車犬』を開発したソ連軍自身が痛い目にあった。

理由は自国の戦車で訓練したことが原因だった。

ドイツ軍戦車の扱うエンジンや燃料の匂いと機械音は、ソ連戦車とは違うものである。

いかに訓練しようと犬の習性を簡単にコントロールできるわけがなく、双方の戦車が原因で混乱してしまい、ドイツ軍の銃撃や火炎放射攻撃により追い払われるなどして『飼い主』であるソ連軍に逃げ帰ってきて自爆するという目に遭った。

この被害に遭ってからは、ソ連軍の実行部隊はこの大損害をきっかけに運用中止にした。

一説では300輌を撃破していると言われているが、ソ連の記録は怪しいものなので信用はできない。

つまりチョンたちが行っていた時は、連邦深海棲艦たちないし連邦艦隊で訓練をした。

秀真・古鷹たちを見ても一部を除き、自分たちを敵として認識していたのだ。

ソ連軍が痛い目にあったように、今まさに自分たちが痛い目に遭うと言うことになった。

 

「えぇい! 原因は知らん!ともかく迎撃しろ!艦砲とCIWSはもちろん、全乗組員たちは銃を携行して、各所に配備されたM2重機とともに応戦しろ!」

 

自分は神であると自惚れていたチョンは、慌てふためきながら命令を出した。

また『私の完璧な戦略はどうすればこのように崩れ去る』と思ったに違いない。

チョンはヒステリックする間にも乗組員たち、各護衛艦に、そして深海棲艦全員が遠くからでもゴマ粒のような物体に銃撃ないし砲撃を開始した。

五月雨式に撃ちまくるも小さく素早いものに当てるのは至難の業である。

運良く撃沈しても人海戦術のようでもあり、WWⅡで英軍およびオーストラリアの特殊部隊が得意としたラット・パトロールと共に実行する『ヒッド・エンド・ラン』をも思わせる。

ついに数匹が深海棲艦に飛びつくと伴い、信管が作動したため爆発した。

これを三体同時に喰らえば、いかなる戦艦クラスでも大破は免れなかった。

子どものような無邪気に笑い声を発しながら飛びつくPT小鬼群たちは、紛れもなく悪魔の子と言っても良いだろう。

むろん深海棲艦だけでなく、各連邦護衛艦もこれらの被害を喰らった。

アリが自分よりも巨体な像を倒すかのように群がり、自爆攻撃を繰り返した。

連邦ダメコン・チームも必死になりながら、轟沈しないように補強作業を繰り返す。

艦内や甲板でも誰もが死に物狂いで戦闘を、補強作業に全力を注いだ。

 

「これは艦娘と異端者どもが猛烈電波を発信させて狂わせているんだ、両者の仕業に間違いない!」

 

チョンはついに発狂したかのように訳の分からないことを述べた。

誰もがチョンを恨んだに違いない、余計な新兵器のせいでこちらが轟沈しかねない。

しかしことを急ぐと元も子もなく無駄になると言うことを再現したに違いないが。

 

「敵艦隊接近しています、我が軍の倍はあります!」

 

CICではざわめいたものの、チョンの決意は固かった。

 

「我々は離脱する、我々だけでも生き残って中岡様に大戦果を報告するのだ!」

 

その間にも迎撃は続いていた者たちは見捨てる、もはやお家芸でもある。

連邦にとって仲間は常に使い捨てとしか見ておらず、見捨てるのが当たり前という特亜を模倣しているため人命軽視である。

ほかの深海棲艦たちは壊滅状態、各護衛艦も同じく大破したものが多い。

彼らに止めを刺そうかと言わんばかりに、超連合艦隊が接近した直後、眩い紅きレーザーに、音速を超えるレールガン、さらに空を覆い尽くすような艦載機群が殺到した。

また古鷹たちを援護しようとする秀真・TJS艦隊もハープーン・ミサイルを発射した。

 

「敵艦攻撃してきました!」

 

ひとりの連邦乗組員が通告した。

 

「うっきぃぃぃぃぃぃ!!!!?」

 

チョンは相変わらずヒステリックな声を上げて、迎撃しろと命じた。

辛うじてチョンが乗艦する《アーレイ・バーク》級駆逐艦は無傷であり、僚艦として傍にいた護衛艦1隻が無傷なため迎撃を開始した。

Mk.45 5インチ単装砲が火を噴くと伴い、スタンダード・ミサイルも迎撃せんと空高く舞い上がり、迎撃できなかったミサイルなどは最後の砦とも言えるCIWSやMk.38 25mm単装機関砲で迎撃する。

チョン艦隊の迎撃は成功したものの、損傷してもなお航行している連邦護衛艦や深海棲艦たちは悲惨だった。

F-35《ライトニングⅡ》部隊の対艦ミサイル攻撃と、土佐姉妹の新型艦載機による双方の攻撃が襲い掛かる。

逃げ場を失いながらも這うようにする蛇を喰らおうと襲い掛かる鷹の如く、急降下した。

各艦載機の両翼下に搭載された各種兵器が一斉に発射された。

攻撃しようにも各兵装はPT小鬼群の自爆攻撃により、全て使いものにならなかった。

そのため回避行動しかできない……とは言え回避行動をしても無駄な足掻きでしかなく、たちまち猛烈な攻撃を浴びた両者の命運が尽きたように轟沈した。

爆沈ならば一瞬の死でまだ救いがあるが、艦と運命を共にした者が多かった。

なお脱出した連邦乗組員たちは少なく脱出してもスクリューに巻き込まれて死んだ者と、轟沈と共に漏れ、流れ出た燃料を飲み込んで内蔵を焼かれて死んだ者、そして前者よりも運が悪いものは火達磨となり悶え苦しみながら死亡した。

 

血と油が混じった海をチョンたちは平然と後退した。

もはやこの海域にいるのは、危険だと言うことぐらいは分かる。

ましてやこんなところで死ぬのはごめんだと言うが本心であった。

 

「チョン上級将校、艦娘どもが来ます!」

 

「えいっ、さっさと迎撃しろ!」

 

乗組員の通告に対して、チョンは簡単な命令を下した。

最初から簡単な命令を出していれば、こんな事にはならなかった。

ましてや二面作戦は愚行中の愚行だと、傍にいた参謀長は呟いた。

旗艦を守らんと護衛艦は前進し、フェイスド・アレイ・レーダーで目標を捉えた。

米海軍制式採用としているイージス艦《アーレイ・バーク》級駆逐艦はこんごう型駆逐艦の影響を受けて、開発されたイージス艦だ。

全ての性能は完璧とも言えるほど高く、各兵装も高性能なものばかりである。

ハープーンやトマホーク、艦砲射撃に重機による制圧射撃などをたっぷりとお見舞いしてやろうと全火力を集中して、古鷹たちに一斉射したが……

 

「そんな馬鹿な、あり得ない!」

 

ここでもまた灰田のもたらした未来艤装……これらに仕込まれたバリアがこれらの攻撃を全て防いだ。

全攻撃が打ち上げ花火のように、空中爆発したという結果に終わってしまう。

 

「全員うろたえるな、これは幻覚剤で脳が麻痺して幻を見ているのだ! 敵の幻覚剤に惑わされてはならない!」

 

しかし、チョンの言う事は誰も信じない。

現実に起きていることから目を逸らして、ファンタジーなことしか言えない特亜とは違うと目撃しているのだから。

先ほどのお返しとばかり、大量の攻撃が降り注ぐ雷光のように襲い掛かって来た。

チョンたちを前衛していた護衛艦は弾数の少ない各兵装で迎撃したが、ついに全ての兵装を使い切り回避行動しか出来なくなった。

何度も言うように無誘導兵器ならば回避することは可能だが、ハープーンと言ったミサイルを避けることは不可能であり、迎撃した方が早いのである。

不運にもチョンのために前衛を務めていた護衛艦の運命は決まっていた。

 

「撃ち方始め、てーぇ!」

 

「弾幕を張るわよ!」

 

「潮もやります!」

 

「撃ちます!当たってぇ!」

 

「主砲!一斉射!」

 

「さあ、止めを刺すわよ!」

 

由良・足柄・潮・比叡・榛名・飛鷹の攻撃に続き……

 

「ほ、砲撃開始します!」

 

「砲雷撃戦、開始じゃ!」

 

「がってん!砲撃開始!」

 

「全火力を集中させます!」

 

「お前たちの好きにはさせるか、全砲門放てぇ!」

 

名取・浦風・谷風の砲撃に伴い、白山・十勝の砲撃が襲い掛かる。

 

「うわぁ、回避しろ!」

 

目の前で由良たちの攻撃に伴い、各TJS艦隊のハープーンおよび艦載機による攻撃も加わったから恐怖を覚えるのも無理はない。

しかし目の前の攻撃を目撃した哀れなコウノ艦長と乗組員たちの運命は決まっていた。

それは決して逃れられないと言う、撃沈と運命を避けることはできなかった……

これらの攻撃を全て受けた護衛艦は無残にも見るも形もなく艦体もろとも炎上してしまい、直後、耐えきれなくなった艦体はチョンの目の前で爆発してゆっくりと沈み始めた。

 

「は、早くこの場から逃げ出すのだ!」

 

チョンが慌てふためいているところに古鷹たちが突撃して来た。

 

「先ほどギガントスが爆沈しようとした艦娘どもが来ます!」

 

「えいっ、全兵装を最大火力にして、さらに我が全乗組員たちは銃を携行し、各所に配備されたM2重機で応戦しろ!」

 

相変わらず指揮官として不向きなチョンはヒステリック状態である。

正常なのは辛うじて傍にいた参謀長と乗組員たちのみと言う有様だった。

左右両甲板にはFN MAGやM4A1など様々な銃を携えた者や配備されたM2重機でいつでも射撃態勢で構えていた。

 

「加古は私と一緒にきて!」

 

「お、あたしらの本気を見せる時がきたか♪」

 

「衣笠、青葉たちも負けてはいられませんよ〜♪」

 

「分かってる♪ 行こっ、青葉!」

 

古鷹・加古ペアは右を、青葉・衣笠ペアは左に分かれた。

古鷹たちが見えたのを確認した連邦兵士たちが一斉に射撃を開始した。

しかし、ようやく連邦兵士たちは現実を受け止める事実が起きた。

 

「そ、そんな馬鹿な!あれだけの制圧射撃を全て跳ね返しているだと!」

 

各銃弾は古鷹たちに命中はしているものの、全て弾かれてしまう。

 

「チョン上級将校、艦娘どもにいくら攻撃しても効果なしとの報告が!」

 

「そんな非科学的な事が起こってたまるか、重火器を使ってでも撃沈しろ!」

 

チョンだけは未だに現実を受け入れず、手に負えないほどヒステリックさは徐々に増した。

しかしCICからだけでなく艦全体に響き渡る振動と共に、爆発音が鳴り響いた。

 

「行くよ、てぇー!」

 

「よっしゃー! 喰らいやがれ!」

 

古鷹・加古は銃撃をしてくる連邦兵士たちに向けて砲撃をした。

小型でも攻撃力は計り知れないものであり、数人の連邦兵士たちを吹き飛ばした。

迫撃砲以上の威力があるため、周囲にいた兵士も重傷にさせるのには充分である。

同じく古鷹・加古ペアに続き……

 

「砲撃するよ!」

 

「了解、青葉!」

 

青葉・衣笠も左甲板にいた連邦兵士たち及びM2重機などを破壊した。

こちらも同じくいくら攻撃しても無効にされるだけであり、無駄骨にしかならなかった。

後方に配備されたCIWSも同じく青葉・衣笠に向け、攻撃を仕掛けようとしてきたが……

しかし素早くこれに気付いたふたりが主砲を構えて、CIWSを砲撃、破壊した。

古鷹たちが砲撃続行中にチョンの命令通り艦内の武器庫から苦労して持って来たであろう対物火器M82A1対物ライフルに伴い、秘かに持って来たであろう対戦車火器FFV M3《カールグスタフ》を構えて古鷹たちを狙い、撃った。

12.7mm弾は古鷹・加古に、ミサイルは青葉・衣笠に命中した。

誰しもがこれならば撃沈したと歓喜に溢れていたが、しかしお返しはすぐに来た。

 

「先ほどのお返しです!」

 

「全員ぶっ飛ばす!」

 

「青葉からのお返しです!」

 

「これは衣笠さんからのお返しよ!」

 

灰田の用意したバリアのおかげで無傷だったため、古鷹たちのお返しは凄まじかった。

もう一度《カールグスタフ》で攻撃しようとしたが、古鷹たちの方がひと足早く、攻撃はできずに死亡した。

その挙げ句には指トリガーをした状態のままだったためショックで引いてしまい、乗組員たちとともに艦体にも損害が出た。

もはや右甲板にいた連邦兵士たちは士気崩壊を起こし、全員が艦内へと逃げた。

そして大破した《アーレイ・バーク》級駆逐艦は幽霊船のような姿になった。

これに対してチョンは怒り狂いながら、古鷹たちに体当たり攻撃をしようと敢行してきた。

 

「神の前で死ねえぇぇぇぇぇ! この兵器が……!」

 

チョンの奇声とも言える雄叫びが言うとともに、古鷹たちは巧みに避けた。

 

「くそっ、小癪な!」

 

チョンは舌打ちをし、もう一度体当たり攻撃を仕掛けたようと見せかけて砲撃しようとしたが……

 

「私たち第六戦隊を舐めないで!」

 

古鷹・青葉は華麗に舞い上がる蝶のようにアクロバティックなジャンプと伴い、20.3cm連装砲で艦橋に狙いを定めた。

 

「抜かせ! 兵器どもが!」

 

最大仰角を取っていたMk.45 5インチ単装砲が火を噴いた。

ようやくチョンも否定することはできず、もはや無駄な足掻きしかならなかったと後悔した。砲撃を喰らっても無傷であり、しかもダメージは皆無であることを……

 

「お前の相手はあたしと……!」

 

「衣笠さんよ!」

 

ふたりは古鷹・青葉を狙っていた5インチ単装砲に狙いを定めて、レーザー砲を撃った。

加古・衣笠のレーザー攻撃を喰らった単装砲は破壊され、全兵装は使い物にならなかった。

二人に感謝しつつ、古鷹・青葉は躊躇うことなく砲撃をした。

 

『これで終わりです』

 

放熱を放ちながら回転する徹甲弾はチョンたちのいる艦橋を目掛けて飛翔した。

砲撃後、古鷹・青葉が見事な着水態勢をしたと同時に、幽霊船と化した《アーレイ・バーク》級駆逐艦は動きを止めた。

誰もが無人化したと思いきや……

 

「神は滅びぬぞ、私の超能力さえあれば……」

 

負傷しながらもチョンは未だに自身を“神”であると宣言した。

この世に及んでまだ言うかと誰もが思ったときだ。

ドオオオンッと鳴り響く砲撃音と伴い、チョンは目を凝らしてみた。

1隻の巡洋艦に搭載された単装砲から撃ち放たれた球体がチョン目掛けて飛翔した。

逃げようとしたが、銃弾や砲弾よりも早く逃げられるのは漫画やゲーム、映画のなかだけである。

着弾と同時にチョンは原形を留めることなく、悲鳴を上げることなく蒸発したのだった。

自称『神』と名乗っていた男のみじめな最期でもあった。

 

「神になりな、地獄でな」

 

砲撃した者の正体は、秀真が乗艦するズムウォルト級駆逐艦に搭載されていたレールガンが止めを刺したのだった。

艦橋を失った《アーレイ・バーク》級駆逐艦は、ピタリッと動きを止めた。

生存者は皆無であり、本当の幽霊船になったのだった。

艦長を失った艦艇は、せめて砲撃ないし雷撃で止めを刺すのが決まりである。

古鷹たちは距離を置くと、砲撃で幽霊船と化した《アーレイ・バーク》級駆逐艦を沈めた。

大量の砲撃を喰らった敵艦は、抵抗することなく冷たい海へと静かに沈んでいった。

 

「作戦終了です、提督」

 

敵艦を処理した古鷹は、秀真に連絡した。

 

『みんなお疲れさま、だが帰投するまでは作戦終了じゃないぞ』

 

「はい、了解しました!」

 

古鷹との交信が終えると、連絡がもうひとつ入ってきた。

 

『提督、こちら阿武隈。日本亡命艦隊と戦艦水鬼・アイオワさんたち無事に護送できました』

 

「分かった、お疲れさま。阿武隈」

 

「はい、提督!」

 

こちらの戦闘も一次はどうなるかと思ったが、無事完勝できたことは幸いだった。

 

『全艦に告ぐ、これより本土に帰投する!』

 

古鷹たち全員が了解と返答した。

同じくTJS艦隊も全艦反転して本土に帰投した。

帰投後は郡司たちの艦隊が出迎えてくれ、阿武隈は由良と名取の再会を喜び合った。

そして日本亡命艦隊と戦艦水鬼・アイオワたちは日本への亡命と、暫らくは元帥の管轄のもとで、監視対象を望むということで正式な捕虜となった。

また戦艦水鬼も阿武隈と同じく、空母水鬼たちとの再会を喜んだ。

因みに彼女たちの修復は、元帥の艦隊に所属している舞鶴型移動工廠艦《神戸》たちが担当することとなり、なお秀真は夕張と明石を派遣して共に修理したのだった……

 

こうして北方海域を舞台とした激戦は、のちに『第二次北方海域海戦』は秀真・古鷹率いる超連合艦隊の完勝となり、また日本亡命艦隊と戦艦水鬼・アイオワたちを無事救助するという完璧な勝利へと終わったのだった……




……と言うことでオリジナル展開が終えました。今回もまた長かったです。
今回は最終回のタイトルみたいですが、まだまだ続きますのでお楽しみを。

灰田「まだまだ長いですが、よろしくお願いいたします」

それから今日はとても大切な日……今日は青葉の誕生日です。
ですから……

一同『青葉、お誕生日おめでとう~!!!』パンパン(クラッカー音)

青葉「えへへ、ありがとうございます///」

作者・秀真・元帥・神通『青葉(青葉さん)、誕生日おめでとう』つ花束&プレゼント

郡司・木曾『僕と木曾は共同で作ったロシア料理のフルコースさ』

古鷹・加古・衣笠『はい、青葉みんなで作ったケーキだよ!」

灰田「私は護衛艦《あおば》の艤装です」

青葉「司令官、みんな…青葉嬉しいです!」

青葉が喜んで何よりです、

神通「では忘れてしまう前に次回予告です、青葉さんお願いします」

青葉「今回は青葉がが担当しますね♪ 次回はアメリカ視点から始まります。なお少しですが日米潜水艦同士の戦いがありますのでお楽しみを!」ニッコリ

ようやく原作に元通りですが、慢心しないように気をつけます(赤城さんふうに)

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『ダスビダーニャです!』

作者・神通『ダスビダーニャ!次回もお楽しみに!』


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第九十話:度重なる不運

お待たせしました。
それでは予告通り、アメリカ視点から始まります。
なお少しですが日米潜水艦同士の戦いがありますのでお楽しみを。

灰田「今回は久々の短めですが、楽しんで頂ければ幸いです」

それではいつも通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


第3艦隊、新・第7艦隊の2個空母航空団は100パーセント壊滅と共に、両艦隊の空母はハワイに向かい退避し、さらに新たな報告では戦艦水鬼とアイオワ率いる少数の米海軍が逃亡をしていると察知し、これらを追尾していた連邦・連邦派深海棲艦との合同艦隊との通信が途絶えるなどと言った相次ぐ不運な報告はペンタゴンに送られて、ケリー国防長官もまた信じがたい思いに駆られることになった。

 

キティホーク型通常空母よりも遥かに強力なニミッツ級などを始めとした原子力空母が誕生し、これを中核とした空母戦闘群が編成されて以来……

これと真正面から戦い、撃破し得る艦隊など、この地球上に存在しなかった。

これはかつて人類が生み出した史上最強の戦力であり、これが米軍のドグマだった。

NATO諸国艦隊が束になっても敵わない。

 

それなのに赤城たち率いる空母娘ならまだしも、本来ならば空母すら持たず、持っていたとしてもせいぜい空母に似たヘリ搭載護衛艦《ひゅうが》型に、後継艦《いずも》型と、少数のイージス艦ないし護衛艦、通常型潜水艦しか持たなかった海自……いや……いまはかつて栄光を誇っていた『日本海軍』と呼ぶべきだろう。

これらが我が軍に堂々と立ち向かい、しかも自慢の空母戦闘群や連邦海軍などを一方的に撃破したのである。

 

こんなことを誰が信じると言うのか……

 

ケリーもハワイ司令部に対して何度も再確認させたが、戻ってくる回答は同じだった。

やむなく、ケリーは大統領に報告した。

ケリーの電話を受けたハドソンの声は、さながら病人のようだった。

 

『なんということだ。空母戦闘群までやられた挙げ句、我が第一艦娘でもあるアイオワを逃がしたと言うのか……これからキミたちはいったいどうするつもりなのだ』

 

「なんとか連邦軍とともに打開策を練ります。我々にはまだ連邦海軍と五個空母戦闘群がありますし、特殊作戦軍、戦略爆撃機部隊、戦略原潜部隊も持っています。

なんとか日本と艦娘どもをひと泡吹かせ、これらを叩く手段が見つかるはずです」

 

ケリーは、必死に頭を巡らせながらそう答えた。

 

「敵にも必ず弱点があるはずです。それを見つけます」

 

ケリーは、この時ほど偵察衛星を失ったことの大きさを痛感したことはなかった。

その撮影画像さえあれば解析して、何が起こったのか正確に判断できたか正確に判断できたはずである。

新しい衛星は、まず一基が3日後に打ち上げられることになっている。

 

「この海戦については、こちらが発表しない限りプレスも掴めないはずですから、記者発表では、我が軍は優勢で日本軍は退避したと言うことにしておいて下さい」

 

『……分かった。国民を欺くことになるが仕方あるまい』

 

アメリカと言うものは情報に関しては開かれた国であり、虚報は一切流さないと言うイメージがあるが……実はそんなことはない。

過去にも数多くの国益を損なう重要な情報については隠蔽したり、虚偽の情報を流したりする。真実は長年に渡って伏せられている。

ケネディ大統領暗殺事件の真相も同じく50年に渡って公開不可となっている。

真珠湾の謀略……すなわち日本軍の方から仕掛けてきたと言うことも長年伏せられていた。

かつての特亜はもちろん、連邦国のように自分に都合が悪い情報(戦況)はひたすら隠蔽すると言う硬直した姿勢を取らないが、寧ろ情報を自由自在に操作すると言った方が正しいだろう。

 

どちらが悪質と言えば、アメリカの方が悪質かもしれない。

第一としてNSA(国家安全保障局)は“エシュロン”と言うシステムを使い、世界中の通信を傍受している一大盗聴国家でもある。

ともあれ今の時点で、空母戦闘群が大損害を被ったと公表すると不味い。

アメリカが作り上げたイメージが根元から崩れて世界中がパニックになってしまう。

ハドソンは誰よりもそれを理解していた。

 

 

 

米軍の損害は水上艦だけではなかった。

このとき海中でも静かな戦い……言うまでもなく潜水艦同士の戦いが始まっていた。

両軍の艦上対潜哨戒機S-3《ヴァイキング》から大量のソノブイは投下し、それぞれ味方に情報を送っていた。

しかし日本側の《ヴァイキング》が投下したソノブイが、敵の繰り出した4隻のロサンゼルス級原潜《トレド》《ツーソン》《グリーンビル》《シャイアン》の立てるノイズを拾った。

それに比べ、米軍側の《ヴァイキング》はいかなる手段を持ったとしても日本潜水艦……すなわちステルス原潜《海龍》を捉えきれなかった。

 

このときアメリカ原潜の前面には…… 第四、第五戦隊の《海龍》の4隻が展開していたのだが、2時間置きにアンテナ深度まで浮上してソノブイからの情報をキャッチしていた。

米軍側の《ヴァイキング》が敵潜をキャッチするとしたら、この時だったが……

あらかじめ集音ワイヤマイクを水面まで出して爆音が聞こえないことを確かめて浮上したので、それは困難だったろう。

米軍《ヴァイキング》が《海龍》を捉えきれなかったのは、磁気も完全に消し、ソナーも利かず、パシッブソナーが拾えるようなノイズも出さなかったからである。

通常潜水艦のように静粛性を誇るステルス原潜《海龍》からして見れば、米軍が誇る原潜ロサンゼルス級などは騒音のかたまりのようなものだった。

ただしソ連のタイフーン級原潜や中国が持つ092型(夏型)原潜などに比べれば、ずっと静かなものだが……

 

ソノブイの情報から、敵潜を探知した4隻の《海龍》はそれぞれの目標に忍び寄っていた。

 

アメリカ原潜艦長も、日本潜水艦部隊が当然展開しているはずだと考え、極めて慎重に行動しているはずだと思ったが……

なにしろ、南シナ海域ですぐに3隻の姉妹艦がこの日本潜水艦に沈められたと考えている。

いかに優秀な聴音員が聞き耳立てても、《海龍》の出すジェット水流音は、様々な海中の物音に紛れて捉えきれなかった。

海中と言うものは我々が考えているものよりも、ずっと騒々しい。

海洋生物たちの出す音ばかりではなく、遠くの海底火山活動の音まで伝わってくる。

鯨やイルカたちなどの鳴き声まで聞こえてくる。

《海龍》はパシッブソナーを駆使して敵に近づき、雷撃準備に掛かった。

このとき、魚雷発射管扉が開く音はどうしても消せない。

魚雷そのもののハイビッチのスクリュー音も同じく。

 

この音を聞きつけ、初めてアメリカ原潜の艦長は愕然としたが、魚雷はそのときすでに発射され、ダブルホーミング誘導で目標に向かっていた。

速力60ノットに達する猛速。弾頭にはやはり優秀な人工脳が付いているので、あらゆる欺瞞策に対抗できる。

アメリカ原潜は必死にマスカー(または『ノイズメーカー』)をまき散らしながら逃げ惑ったが、この魚雷に捉えられ、次々を撃沈されていった。

反撃出来た友軍原潜は1隻もいなかった。

いや、スナップショットで発射した僚艦もいたが、《海龍》の人工脳は正確にその軌道を割り出し、超音速で回避したのである。

ここにもまたもや4隻のロサンゼルス級原潜……それも建造年度が新しいものが失われた。

これはパールハーバー、すなわち太平洋艦隊に所属する攻撃型原潜がすべて失われたことを意味する。

このことがアメリカ海軍に与えたショックも大きかった。

もっとも連邦海軍にも同じことだが。

 

唯一の救いは……日本空母戦闘群がハワイに向かって退避するアメリカ空母戦闘群を追撃してこなかったことである。

日本にはまだF/A-18E《スーパーホーネット》を残していたので、第二次攻撃隊を編成できる。

 

しかし敢えてそうしなかったのは、事前の作戦会議で、今回の戦闘はこちらが優位を知らしめるためだけに留めると決定されていたからである。

2隻の空母を沈めれば、完全にアメリカの面子を失わせ、アメリカは総力を挙げて反撃して来るだろう。

 

日本政府としては、それは避けたい。

戦力の差があまりにも大きく、灰田のテクノロジー兵器を持っていたとしても苦戦は免れない。

この新たな戦い……第二次太平洋戦争があまり深みに嵌まらないうちに、決着を付けたいというのが本音だった。




今回のサブタイトルは『米軍にとって』の不運です。
原作でもこれぐらいの目に遭っていますが、次回のオリジナル展開でももっと痛い目に遭いますが……

灰田「次回予告は彼女におまかせしますが……」

それから今日はとても大切な日……今日は衣笠の竣工日祝いなのです(電ふうに)
ですから……

一同『衣笠、竣工日おめでとう~!!!』パンパン(クラッカー音)

衣笠「えへへ、ありがとねぇ!///」

作者・秀真・元帥・神通『衣笠(衣笠さん)、竣工日おめでとう』つ花束&プレゼント

古鷹・加古・青葉『はい、衣笠のために作ったケーキだよ!』

郡司・木曾『僕と(俺は)共同で作ったシチーさ』

灰田「私はとあるヒューな人が使う、サイコガンです」

衣笠「提督…みんなありがとねぇ!これからも強くなるからね!」

衣笠が喜んで何よりです(またあの編隊飛行の人たちが来るかもな)

神通「では忘れてしまう前に次回予告です、衣笠さんお願いします」

衣笠「今回は衣笠さんが担当するね♪次回はオリジナル展開になります。もう一つの戦いがとある海域で行われますので楽しみにねぇ」ウインク

またしてもオリジナル展開ですので、慢心しないように気をつけます(赤城さんふうに)

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『ダスビダーニャです!』

作者・神通『ダスビダーニャ!次回もお楽しみに!』


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第九十一話:眼下の敵

イズヴィニーチェ(ごめんなさい)
皆さん、大変長らくお待たせして申し訳ありません。
では予告通り、オリジナル展開になります。
この海域でももう一つの戦いがとある海域で行われます。

灰田「なおサブタイトルは映画『Uボート』さながらであり、緊迫した状態を描いています。お楽しみください」

それではいつも通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


珊瑚海海域

日米潜水艦同士の戦い最中、こちらでも小規模な戦いがいま始まろうとしていた。

 

「潜望鏡を上げろ」

 

連邦潜水艦こと214型潜水艦《安重根》艦長・ヤン中佐の命令に従い、昼間用潜望鏡がスルスルと上がっていく。

ヤン中佐は帽子を後ろ向きにすると、アイピースに顔を押し付けた。

連敗続きの連邦海軍は少しでも日本を膺懲し、鼻をへし折ってやろうと別行動していた。

連邦に寝返った深海潜水艦部隊も然り、同じ気持ちだった。

せめて一矢報いてやろうと士気が高かったのは当然と言えば、当然だった。

中岡たちから与えられた命令は実に簡単なものだった。『何としてでも艦娘ないし日本海軍の艦船を沈めろ』とのことだ。

単純なのか、それとも焼石に水と言う言葉のように現場任せなのかと言うぐらいだ。

ともあれ彼らにしても、彼女たちにしても日本軍と艦娘たちが連勝しているのが面白くない。

手柄を上げれば中岡様からお褒めの言葉と伴い、賜物と階級昇進が受け取ることが出来ると士気は高かった。

僚艦の潜水ソ級たちも同じく士気が高かった。

 

ヤン中佐が覗いていた潜望鏡には、1.5メートルはある波浪を透かして、蒼い水平線が映っていた。

ニューギニア島は50マイル北方にあり、低い潜望鏡の視野では見えない。

しかし今のところ、敵影も姿も見えなかった。

ぐるりと潜望鏡を一周させて全周走査したが、何も見えなかった。

何もないかと、ヤンが考えていたとき……、水平線上にきらりと何かが光った。

哨戒機だ。フロートがかすかに見える。日本海軍の最高傑作機のひとつとも言われ、米軍からも高く評価されたエミリーこと、二式大艇に違いない。

珊瑚海のように透明度の高い海では、例え海が少し荒れていても潜水艦のシルエットはくっきり透けて見える。

 

「潜望鏡を降ろせ! 急速潜航!」

 

ヤンは叫んだ。

副艦長のキム大尉が、命令を復唱する。

連邦潜水艦《安重根》は素早く潜望鏡を降ろすと、前部バラストタンクのバルブを開け、最大角度で潜航し始めた。

 

「深度報告しろ!」

 

ヤンが命じる。

 

「三十……四十……五十フィート」

 

航海長が深度計を睨みながら報告する。

深度70フィートに達したとき、頭上でレシプロ機独特の爆音が聞こえた。

あの二式大艇はむろん爆弾を搭載しており、遠くから《安重根》を発見するとともに、潜航したとみしたポイントに投下したに違いない。

しかし、爆雷でなくてよかった。

海面で爆発する爆弾は、何のダメージももたらさなかった。

敵は恐らく、自分たちを嗅ぎ付けに来たのだろうかと思った。

 

「こう敵機がうろうろしていては、うっかり浮上できませんな」

 

キムが言う。

 

「瑞雲ジャナクテヨカッタ……」

 

なお潜水ソ級たちは、素直に気持ちを述べた。

二式大艇もだが、特に対潜攻撃可能な航空機……通称『何でも屋』や『下駄履き』とも言われる水上偵察機ないし水上爆撃機の方がよほど怖い模様だ。

 

「うむ…聴音とソナーに頼るほかありません」

 

「うむ……敵はもっと北を通っているのかもしれない。針路四五、速力八ノット」

 

命令に従い、《安重根》はさらに北東を目指し、30分が経過した。

聴音・ソナー室からは、何も報告がない。

艦隊が接近して来るときは遠くからでも、凄まじい騒音が伝わってくるはずだから聞き逃しがない。

スクリューによる騒動音が混じっている。

 

しかし、海は不気味なほど静かだった。

あの二式大艇が哨戒に来たのは単なる偶然なのかもしれないと、ヤンがそう考えていたときだ。

 

「高速スクリュー音… 接近してきます!」

 

「駆逐艦か?」

 

「おそらく。しかしすごい速力です、40ノット近くだと思います」

 

「深度300潜航」

 

ヤンは命じた。

 

300フィートとは、メートルに直せば……100メートル弱である。

214型潜水艦の最大潜航深度は400フィートである。

 

40ノットの駆逐艦だと?

 

ヤンは考えた。

いくら日本海軍でも高速な駆逐艦がいるはずはない、それでは魚雷艇並みの速さだ。

しかしそれが現実である証拠に、シャワシャワとスクリュー音が急速に接近して来た。

まるで自分たちの位置が分かっているように、真っ直ぐ接近して来た。

ヤンたちの心臓が凍った。

対潜専門家である軽巡や駆逐艦の近づく音は、全ての潜水艦部隊にとっては悪魔の足音だ。

先ほどの二式大艇が潜没拠点を教えたのかもしれないが、そこからでも《安重根》はかなり移動した。だとすると、どうやってこっちを感知したのか?と呟いた。

 

「各艦無音を保て、機関停止、ホパリング開始」

 

ヤンは命じた。

 

「ソナー探索が始まるかもしれない」

 

むろんソナーを使うには、速度を落とす必要がある。

機関音に探知音が紛れてしまうのを防ぐためであるからだ。

ホパリングとは、ツリム(つり合い)をとって水中に水平状態で釣り上がることである。

前後の荷重と水中重力とのバランスが完全にゼロであれば、それができる。

前後の荷重のツリムを取るには微妙な仕事で、ときには乗組員を移動させる必要がある。

 

航海長の腕の見せ所だ。

《安重根》と各僚艦は推進音を止めると、水中に吊り上がった。

しかし、スクリュー音に変化はなかった。

まっすぐ《安重根》など各艦の頭上を通り抜けると、たちまち遠ざかった。

ヤンは額に浮いた汗を軍服の袖で拭いた。乗組員たちも汗びっしょりになっていたはずだ。

なお潜水ソ級たちは《安重根》の乗組員たち同様に、水中に紛れて汗を搔いていただろう。

駆逐艦と遭遇したのは、全くの偶然だったに違いない。

 

「やれやれ、敵は単なる哨戒任務だったようだ。偶然に針路が交錯したわけだ」

 

ヤンは呟いた。

 

「念のために、もう三十分待ってから潜望鏡深度まで浮上して確認する」

 

「アイ、サー」

 

副艦長・キム大尉は復唱した。

その30分が刻々と経過して行く……この時の30分が……3時間のようにも思え、そして長くも感じた。

ようやく浮上時間になると、ヤン艦長は浮上命令を下した。

ヤン艦長が乗艦する《安重根》や各僚艦は緩やかに浮上した。

再び昼間用潜望鏡がスルスルと上がって行き、ヤンは海面を覗いた。

潜水ソ級たちもヤン艦長と同じく、周囲の様子を窺う。

もっとも警戒すべき、北方には何も見えなかった。

ぐるりとヤン潜望鏡を回して南を見たとき、ヤンたちは仰け反りそうになった。

1マイルほど向こうに、1隻の駆逐艦が浮いている。

米海軍資料を目に通したことがあるが、同じくズムウォルト級巡洋艦だ。

その巨大な巡洋艦は機関を止めて漂流しつつ、付近の海面を見張っていたらしい。

1隻の駆逐艦の後ろに隠れていたのか、数人の人影が現われた。

 

ヤンたちは『こんなことあり得ない』と思考停止状態に陥った。

なぜ敵艦は《安重根》や各僚艦が浮上する場所とタイムングが分かったのだろうと……

こちらに向けている砲塔らしきものが反射光を浴びて、きらりと光った。

 

「潜望鏡下ろせ! 全艦緊急潜航!」

 

再び叫んだ。

旗艦《安重根》や各僚艦は、またもや急角度で水中に突っ込んだ。

 

「どうしたんです!?」

 

キムが叫んだ。

 

「敵艦隊が真上にいる。どういうわけか待ち伏せしたんだ! …潜航を急がせろ、攻撃して来るぞ! ソナー、敵が動き出したら教えろ!」

 

ヤンは矢継ぎ早に命令を下した。

命令しながら、こんなことはあり得ないと考えた。

原潜ならば捕捉されやすいが、通常艦……ディーゼル・エレクトリック艦である本艦を捕捉することはあり得ない、敵の艦長がこっちの心を見透かしている以外には、こんな事が起こるはずがない。

 

しかし、起きたことは事実である。

 

「敵艦の機関と艦娘ども、動き出しました!」

 

ソナー室から聞こえた。

 

「深さは?」

 

「250フィートです」

 

「よし、400フィートまで行け!」

 

「しかし、いくら最大潜航深度でも本艦が持つかどうか分かりません!」

 

キムが反論する。

 

「そんなことは言っておらん、今こそは博奕を打つときだ」

 

「敵、爆雷を投射しました」

 

聴音員や潜水ソ級たちからの悲鳴に似た報告などが聞こえた。

 

「全艦、爆雷に備えろ!」

 

魚雷を回避するための囮《デコイ》であるが、旧式装備の爆雷は無理である。

アナログ兵器は、ときには恐ろしいほど威力を発揮することが多い。

何しろ日本や艦娘たちは奇跡を起こし続けているから不思議ではない。

 

やがて、カーン、カーンと言う不気味な音が聞こえた。

投下された爆雷が《安重根》の艦殻に当たっている音が聞こえた。

ヤンたちはまた新たな恐怖を覚えた。

敵はこちらの意図を見抜いているかのように、最初から此方がこうなることを把握しているかのように……

 

「来るぞ!」

 

キムが叫んだ時には、幾つもの炸裂音と衝撃が《安重根》の周囲から響き渡る。

真下から来る衝撃なので、艦全体を激しく揺さぶられるのだ。

上下で炸裂する爆雷は怖くないが……爆発エネルギーは全て上に行ってしまうからだ。

しかし、真下で炸裂する爆雷は怖い。

至近弾も数発、そのショックで各艦は電路が断ち切られ、艦内は真っ暗になった。

幸いにも非常灯がすぐに点灯した。

 

「全艦潜航450フィートまで潜れ!」

 

ヤンは命じた。

450フィートまでの潜航……本艦が持つかどうか、本物のギャンブルである。

 

「潜航が効きません」

 

「前部のバラストタンク破損、ツリムが取れません!」

 

矢継ぎ早の報告が飛び込んで来る。

 

「バッテリー室に浸水!」

 

これは最悪の報告である。

バッテリー室に海水が浸水すると、たちまち塩素ガスを発生させる。

これを吸い込んでしまうと、乗組員たちは昏倒し、最悪の場合は死に至る。

 

「全艦操艦不能、浮上します!」

 

「全艦潜航不能ダ、浮上スル」

 

航海長や潜水ソ級たちからの報告がきた。

ヤン中佐の全潜水艦部隊は急速に浮き上がっていく。

 

「やむを得ない。浮上して戦う。ソ級たちは砲撃戦用意し、各艦乗組員たちはライフジャケット着用。ライフルなどを持って応戦せよ!」

 

ヤンとキムもライフジャケットを着用した。

《安重根》は浮き上がるにつれて次第に浮力を増し、ついに水面を割って躍り上がった。

ヤンほか戦闘要員は、司令室から艦橋の真下にとり付いた。

 

「ハッチを開け!」

 

司令室員のひとりがラッタルをよじ登り、ハッチのバルブを開くと、海水がどっと流れ込んできた。

 

「上がれ、上がれ!」

 

ヤンの叱咤とともに、乗組員たち全員が艦橋によじ登る。

見張り艦橋は胸までのブルワークに囲まれた狭い空間だ。後部にはアンテナと潜望鏡が二本並んでいる。

全員背中に背負っていたライフル……95式歩槍を構えた。

なお一部の者は、気休め程度だが、空挺軍仕様でパラシュート降下用に砲身を前後2つに分割可能したRPG-7Dを用意した。

潜水ソ級たちも連邦海軍と協同開発した40mm連装機関砲と5インチ単装砲を装備したが、これも装甲力がない小型哨戒艇ならば効果はあるが、気休め程度にしかない。

そのとき問題の巡洋艦と艦娘たちが、白波を蹴立てて突入してきた。

 

彼らはとくに速度が速い艦娘を見て、驚愕した。

 

『全艦、連邦潜水艦部隊を全て撃沈せよ!』

 

彼らを待ち伏せしていたステルス巡洋艦《ズムウォルト》級から命令が下された。

もちろん本艦に乗艦しているのは、郡司である。

彼の命令で突撃を開始したのは、もちろん……

 

「お前たち、新装備だからって油断するなよ!」

 

この海域に相応しい海賊とも言え、また郡司を愛するパートナーの木曾である。

郡司と木曾とともに行動する部隊は……

 

「島風、出撃しまーす!」

 

「さぁ!潜水艦狩りといっきましょう!」

 

誰よりも早く突撃する島風・長波は闘志を燃やしている一方……

 

「にひひ、沖波も提督に撫でられるように頑張ろうぜ!」

 

「ふぇ、こんなときにやじらないでくださいよ、朝霜~!」

 

「何だか、すごいかも」

 

二人を見た朝霜は、沖波をやじった。

朝霜のからかいに、沖波は顔を真っ赤にして照れていた。

ふたりの会話を聞いた秋津洲は苦笑いしつつ、彼女のパートナーこと大艇ちゃんとともに戦闘に突入した。

 

 

 

「くそっ、異端者どもめ!」

 

彼女たちを見たヤンは、躊躇うことなく命令を下した。

 

「全艦攻撃しろ!蜂の巣にしてやれ!」

 

ヤンが命令を下すと、各乗組員たち一斉射撃を開始した。

95式歩槍からRPG-7Dに続き、ソ級たちは40mm連装機関砲ないし12.7cm単装砲が一斉に火を噴いた。

 

「そ、そんな……馬鹿な!」

 

「我々ノ攻撃ガキカナイダト!」

 

ヤン中佐とソ級たちは知らなかったのも無理はない。

現在、北方海域で戦っている古鷹たちと同じくように彼女たちの艤装に灰田の未来技術が仕込まれていたのだった。

 

「大艇ちゃん、攻撃開始かも!」

 

秋津洲は、改装された大艇ちゃんによる航空攻撃が開始された。

両翼下に搭載された8発の250キロ爆弾が投下された。

不気味な音が鳴り響いたと同時に、上空を見上げた時にはすでに遅かった。

不運にも連邦潜水艦2隻に命中して、反撃することなく撃沈された。

 

「俺たちも砲撃開始!ってぇー!」と木曾。

 

「連装砲ちゃん、行くよー!」と島風。

 

「ってぇーい!」と長波。

 

「始めるっきゃないね。撃てぇー!」と朝霜。

 

「よく狙って、撃てぇ!」と沖波。

 

木曾の20.3cm連装砲の砲撃と伴い、島風たち全員が砲撃を開始した。

なお爆弾を使い果たした大艇ちゃんは大量に搭載していた20mm機関砲や7.7mm機銃を利用して機銃掃射、ガンシップとして上空から木曾たちを掩護する。

木曾たちが一斉に発射した幾つもの砲弾と銃弾が、弾着の水煙に包んだ。

1発が潜水ソ級とヨ級に命中、僅かな抵抗をしただけで撃沈した。

旗艦《安重根》は艦首に命中、ショックで《安重根》を震わせ、煙を噴き上げた。

容赦なく続く砲撃の最中に、今度は司令塔のすぐ目の前に命中した。

艦橋にいた全員が爆風で艦橋もろとも吹き飛ばされた。

ヤン中佐とキム大尉を含め、多くの乗組員たちが死亡した。

この状況ではどうしようもなかった。

例えこの戦いで運よく帰還したとしても中岡や幹部たちから『臆病者』扱いされ、最後は粛清される可能性もあったため幸運と言うべきかもしれない。

数発の砲弾を受けた《安重根》は、ついに耐え切れなくなり爆沈した。

 

「ヤン中佐の仇だ、殺せ!」

 

「せめて一隻だけでも沈めろ!」

 

「仲間タチノ仇ダ!」

 

生き残っていた連邦潜水艦部隊は、なおも攻撃を緩めることなく攻撃を続けた。

しかし、やはり灰田が提供した未来艤装にはバリアーが彼女たちを守っているため、悪足掻きでしかならなかった。

 

『撃ち方、始め!』

 

郡司が乗艦するズムウォルト級による155mm先進砲の砲撃で、またしても連邦潜水艦が同じく僅かな抵抗をしただけで沈黙した。

こちらも艦橋に命中したので多くの乗組員たちは死亡した。

 

「小娘どもに負ける連邦ではない!」

 

改良したキロ級潜水艦……本来ならば搭載しないはずの20mm連装機関砲ないし、5インチ単装砲で攻撃を開始した。

これらは対艦用と言うよりは、対地攻撃に加えて、船団から脱出した乗組員たちを皆殺しにするために装備させている。

かつてのドイツUボート艦長は非情であり、泳いでいる乗組員たちを平然と射殺した。

戦争のセオリーからすれば正しい、敵の人的資源を減らすことは国益に大きく影響するからである。

ただし連邦の場合は、闇雲に快楽殺人を楽しんでいるだけのならず者たちに過ぎない。

手柄を立てようと島風たちを狙っていたが、しかし……

 

「おっそい、おっそーい!」

 

島風は40ノットのスピードも誇るゆえに、灰田の未来偽艤装により絶対防御を誇っている。

ほかの娘たちも同じく、絶対防御たるバリアーによって全ての攻撃が無効化されるだけだった。

 

「この朝霜に掛かって来い! もっと! もっとだっ! 撃って来いやぁ!」

 

「この調子でいける!いける!」

 

戦意高揚状態の朝霜・長波ペアに続き……

 

「よぉく狙って、てぇー!」

 

「私もみんなと頑張るかも!」

 

二人に負けないように沖波・秋津洲ペアも同じく攻撃を緩めなかった。

 

「中岡様のために戦い続けるのだ!」

 

無駄だと分かっても、連邦潜水艦部隊はなおも銃撃を繰り返したが……

 

「お前たちの無能指揮官のためにだと、笑えるな!」

 

木曾の挑発に乗ったのか、緊急時に指揮官として務めるチョウ少佐は顔を真っ赤にして激怒した。

 

「黙れ、神である中岡様を馬鹿にするレイシストどもは地獄行きだ!」

 

チョウ少佐は乗艦している214型潜水艦《孫元一》に取り付けている20mm連装機関砲に取付き、木曾に向かって銃撃を浴びせた。

 

「何処に消えた!?」

 

「俺はここだ!」

 

上空を見上げるとアクロバティックなジャンプをする木曾がにんまりとした。

慌てたチョウは部下たちと共に、対空射撃を喰らわそうとするが……

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 

チョウの絶叫に対して……

 

「言っておくが、安い挑発に乗るのは無能指揮官の証しだ!」

 

木曾の言葉を聞いたチョウは、なにっと思ったのだろう。

その言葉を理解したのは、数秒後のことであった。

 

「いまだ、全艦雷撃開始!」

 

木曾の合図で、島風たちは雷撃態勢を整えていた。

 

「五連装酸素魚雷!いっちゃってぇー!」

 

「よっしゃー、雷撃戦開始!」

 

「完膚なきまでに蹴散らしてやるぜ!」

 

「目標捕捉、てーっ!」

 

「大艇ちゃんも雷撃開始かも!」

 

島風・朝霜・長波・沖波たちは五連装酸素魚雷発射管から酸素魚雷を投射した。

そして秋津洲は補給し終えた二式大艇ちゃんで攻撃を開始した。

なお大艇ちゃんの両翼下にも同じく酸素魚雷を投下した。

合計22本の酸素魚雷が、一斉に連邦潜水艦部隊に向かっていく。

ようやく木曾の言葉を理解したチョウ少佐たちの前には、酸素魚雷が見えていた時には、もはや手遅れだった。

 

「これでチェックメイトだ!」

 

木曾は着水と同時に、酸素魚雷を投射した。

挟み撃ちにされた連邦潜水艦部隊は潜航も回避することもできないまま、木曾たちが投射した酸素魚雷を全て喰らった。

その証拠に大きな音を鳴り響かせると共に、巨大な数本の水柱が立った。

各敵艦は魚雷による命中弾を喰らうと連邦潜水艦は、多くは搭載していた各種の兵器が誘爆を起こし、きのこ雲が立ちあがるほどの勢いで爆沈した。

潜水ソ級率いる部隊は……生き残りは誰ひとりもおらず、木曾たちに殲滅された。

元々潜水艦乗組員たちは脱出することは考慮されていない。

水上艦ならば助かる見込みはあるが、潜水艦は助かる確率は無きに等しい。

今回は浮上した連邦潜水艦の乗組員たちの多くは脱出することはできず、艦と運命を共にしたが、少数のみが泳いでいた姿がいた。

 

これが連邦艦長ならば、Uボート艦長と同じように漂流者たちを銃殺していた。

しかし郡司は非情な提督ではなく、話が通じれば敵でも助けるという心優しい提督である。

カッターを出して、木曾たちと共に連邦乗組員たちを救助した。

運よく生き残っても艦に乗り上げられただけでも死んでしまう者も多い。

救助できた連邦乗組員たちは極僅かであった。

救助されても何をするか分からないため、ボディーチェックも忘れずに行った。

案の定だが、彼らには分解可能な小型拳銃やベルトに偽装した護身拳銃など抜かりなく用意していた。

艦内を掌握しようとしても海軍スペツナズがいるため、制圧されるのがオチだが。

また朝霜が笑顔でお話し合いをしたおかげか、怖さのあまり全員が正直に出したのは別の話である。




今回はオリジナル展開であり、郡司提督たちの戦いでありました。
今月は思うように上手くいかず、また呉・江田島に友人と共に行く用事などがありましたので時間が掛かりました。

灰田「まあ、古鷹さんたちと楽しめて何よりですね。古鷹山にも登りましたし」

長迫公園と青葉慰霊碑なども行けたから良かったです。
古鷹の戦没日と重なりましたから、偶然です。
出発前と慰霊碑の前は黙祷を忘れずに、感謝と敬意を込めてしました。
今月もいろいろ多忙でしたので、遅れを取り戻さないといけませんが。

灰田「無理はなさらずにしてください」

スパシーバ(ありがとう)。

郡司「ロシア語ならば僕がいるだろう」

木曾「俺も郡司のおかげで少しは話せるようになったさ」

島風「それより予告編、おっそーい」キーン

朝霜「早くしないといたずらするぞ」二ヒヒ

長波「さっさと予告編して、エビチャーハン食おうぜ!」ニカッ

沖波「予告編はきちんとしないと……」アセアセ

そろそろしないといけないね、

秋津洲「今回はこの秋津洲が予告編をしちゃうかも!次回はこの戦いから打って変わり久々のアメリカ視点に移るかも……移るよ!アメリカが何かをたくらんでいるかも!
楽しみに待ってほしいかも!こういう風で良いのかな?大艇ちゃん」

大艇←頷く大艇ちゃん。

秋津洲「わーい♪ 嬉しいかも!」

一同(曖昧な予告編だけど、可愛いから良いかな……?)ニガワライ

灰田「ともあれ次回はアメリカ視点であり、彼らが日本に対して反撃計画を企てます。また彼らはとある兵器を投入しようとも考えていますのでお楽しみを」

お疲れ様です、灰田さん。
次回も無理なく、慢心せずに執筆やっていきます。
オリジナル展開とか原作に戻ったりもしますが、気合入れて、やっていきます(比叡ふうに)

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『ダスビダーニャです!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに!


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第九十二話:米軍反撃計画

イズヴィニーチェ(ごめんなさい)
皆さん、大変長らくお待たせして申し訳ありません。
では予告通り、アメリカ視点であり、彼らが日本に対して反撃計画を企てます。
また彼らはとある兵器を投入しようとも考えています。

灰田「それは果たして何のかは本編を見てのお楽しみです」

それではいつも通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本政府は、いったん空母戦闘群を基地に引き揚げさせたあと、宣伝戦に取り掛かった。

太平洋中部ないし北方海域で戦闘があり、前者は日本空母戦闘群とアメリカ空母戦闘群が戦ったが、日本海軍が優勢で敵にダメージを与え、退避させた。

後者は日本亡命のために逃亡した戦艦水鬼・アイオワたち、そして少数の米海軍提督たち率いる日本亡命艦隊が日本・多国籍合同艦隊に救助され、さらに彼女たちを抹消しようと連邦・深海合同艦隊と激戦を繰り広げた。

そして郡司たちも日本のシーレーンを脅かそうとする連邦潜水艦部隊狩りを行なった。

日本海軍の優勢で殲滅したという双方のニュースを偵察機ないし青葉たちが写真入りで、インターネット、SNS、ヨーロッパ通信社などありとあらゆる媒体を駆使して世界中に流したのである。

 

むろん、これでもアメリカ・連邦の面子を失わせることが出来る……

写真はいくらでも複製ができる。

 

アメリカはこれに対して、反対のニュースを流した。

アメリカ空母戦闘群と連邦・深海合同艦隊が勝ったと主張したのである。

アメリカのプレスは強力なので、世界各国はどちらかと言うと、アメリカのニュースを信じる者たちが多かった。

 

しかし、これは日本政府の計算済みだった。

すぐさま早期警戒機ないし青葉が撮影したビデオ映像をYouTubeなどに流すことができるとほのめかしたのである。写真よりも、遥かに信頼性が高い。

むろんアメリカはこれに反論し、全て日本政府が制作したでっち上げだと主張することもできる。

日本政府が、なぜこれほど回りくどいやり方をしたかと言えば、アメリカの面子を失わずに連邦と同盟を解約し、なんとか和平に持って来ようとしたからである。

英仏、あるいはロシア政府をもわずらせ、和平への道筋をつけようとした。

 

しかし、それらの努力は全て無駄だった。

アメリカの面子はすでに失われているからである。

グアムでB-1B《ランサー》部隊が全滅したこと。

南シナ海ではロサンゼルス級原潜3隻が日本潜水艦部隊に沈められたこと。

パールハーバーが空爆を受けて、壊滅状態になったこと。

そして今回の、言わば『第二次太平洋海戦』も、実は日本軍の圧勝だったと言う噂がいつの間にか世界中に流れ始めた。

 

今の時代……情報は光よりも早く世界を駆け巡っている。

これは言葉のみだが、世界中を移動しつつある人間の口コミで情報が流れる。

当のアメリカからも流れる。

 

それは誰も止められるものではない。

 

 

 

世界一強大国家・アメリカは、プライドをずたずたに引き裂かれた挙げ句、その修復するためにあらゆる手段を厭わぬ決心である。

そのための会議がペンタゴンやホワイトハウスで連日のように開かれた。

ペンタゴンでは、ケリー国防長官が幕僚たちや四軍の司令官たちを叱咤し、日本を叩き潰すアイデアを出せと迫っていた。

中岡たちも連邦残党軍も同じく叱咤し、日本を膺懲するアイデアを出せと迫っていた。

その会議の席上で、フォーク海軍作戦部長が発言した。

 

「我が軍は大西洋艦隊から二つの空母戦闘群を太平洋に回して、さらに二個空母戦闘群をサンディエゴに回しました。

この四個空母戦闘群を持ってすれば、なおかつ敵の先手を打つ作戦を取れば、前回のような失態はなく必ずや敵を叩き潰すことが出来るでしょう。

しかし、衛星は残念ながら未だに役に立ちませんが……」

 

フォークが言ったのは、新たに打ちあげた偵察衛星が、軌道に乗ることともにまたもや不調に陥ったからである。

まるで宇宙に衛星を壊す何者かが潜んでいるとしか考えられない。

それが宇宙生命体であればSF世界だが、これはもちろん灰田の仕業だった。

ソーサスを破壊したのももちろん灰田である。

 

かつて第7艦隊の中核だった《ロナルド・レーガン》は壊滅した。

新たに編成された新・第7艦隊もドッグで修理中である。

大西洋から持って来たのは《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》《ハリー・S・トルーマン》《ジョージ・H・W・ブッシュ》である。

 

この他にも新型空母……ニミッツ級空母の後継艦《ジェラルド・R・フォード》級空母3隻を持っている。

護衛艦艇は無数と言って良いほど持ち、空母航空団も同じくである。

フォークの言う通り、戦力に欠けることはない。

 

「今回の敗戦は敵を甘く見たがためと、本職はそう考えています。しかし……セオリー通りに三倍をも誇る兵力で持って掛かれば……」

 

フォークがそこまで行ったとき、幕僚のひとり……スコット中将が発言した。

 

「失礼ですが、作戦総長。本職はそうは考えられません。今回の敗戦は敵を甘く見たがためでなく、敵の兵装に秘密があったためと考えます。

我が軍の二個空母戦闘群の空母航空団が敵に全く損害を与えることなく全滅したとは考えられません。

通信記録を解析しても、明らかに攻撃を加えた痕跡が見られます。

トマホークも数発命中したのと、本職は推測します。

なにしろ、あの時には敵イージス艦が二隻しかなかったのですから……

しかし、敵にダメージが与えられなかったのです。

言い換えると、敵は我々の兵装ではダメージを与えられない何らかの防御システムを持っていると考えられます。

また敵の《スーパーホーネット》と《トムキャット》は、極めて不自然な非線形に近い飛行軌跡を描いたことが記録されていますが、これは人間パイロットにできることではなく、

我が軍の無人機のようなものであることは確かでしょう」

 

スコット中将は、そこで大きく鼻を吸った。

 

「ここからは本職の推測ですが、恐らく敵空母はコンピューターで動く完全自動空母だったのではないでしょうか。

未来人が日本に加担していると言う、今までの仮説から推測すると……

この空母には極めて高性能な未来コンピューターないし人工知能(AI)が中枢にあって、全ての機能を掌り、無人航空団も操ることが出来たと考えられます。

機体そのものに手が加えられていて、推力ノズルがほうぼうあり、無人機があるがゆえに急激で幾何学的な運動ができると思います。

いずれも未来戦の専門家に確認したことですが。

我々のテクノロジーも日々進化していますが、専門家に言わせれば『我々もあと三十年以上すれば、このような無人機と航空団の組み合わせを手に入れることができる』と推測されるそうです」

 

「ふむ…面白い推測だが、もし我々の《スーパーホーネット》や《トマホーク》による両攻撃が成功したのなら、なぜ敵空母は無傷だったのかね?」

 

ケリーがそう言ったのは日本が昨日……基地に停泊している無傷のニミッツ級空母の写真や動画などをインターネットで公開したのである。

 

「それもおそらく……日本空母の構造に秘密があるからでしょう」

 

スコットは答えた。

 

「日本の十勝にあるミラクル・ジョージ基地への核攻撃のエネルギーを消しましたが、あれと同じシステムを空母にも組み込んであるのではないでしょうか」

 

「なんということだ!!」

 

ケリーは顔を真っ赤にして、忌々しげに言った。

 

「それではいくら戦っても同じことではないか。いくら攻撃しても傷つかない、その代わり我々の航空団はアクロバットな飛び方をする敵機にやられてしまう。ミサイルも効かないわけだ。もしかすると艦娘どもも同じようなことになっていたら、我々はますます太刀打ちが出来なくなるぞ!」

 

「いや…必ずしも打つ手がないわけではないと本職は考えます」

 

別の幕僚……カーン大佐が言った。

彼は特殊戦のオーソリティーである。

 

「スコット中将の言われるとおり、敵の空母がコンピューターないし人工知能で動く全自動艦船であれば…… EMP爆弾で無力出来るかもしれません。無人機もまたその頭脳を破壊できるかもしれません」

 

EMP爆弾とは電磁パルス爆弾……エレクトリック・マグネティック爆弾の省略である。

これは強力な電磁波を発生させて、敵の電子兵器及びあらゆる電子機器を焼損させて無力化する特殊爆弾である。

およそ5ギガワット程度の電磁波を発生し、半導体を持つ敵の兵装を全て無力化する。

 

「我々はこれを保有していますが、まだ実戦で使ったことはありません。

ただし実践では極めて有効なことが確認されております」

 

「うむ、それはなかなか良いアイデアではないか」

 

ケリーは少し守備を開いた。

 

「その倍のパワーを持つ爆弾は造れるのか?」

 

「もちろん可能です、爆弾そのものを大型化してやれば良いわけですから」

 

「よろしい、大至急その特殊爆弾の製造に取り掛かって貰いたい。ところで非線形で飛ぶ敵機を追尾できるようなミサイルは作れるのかね?」

 

カーン大佐は首をひねった。

 

「専門家の意見を聞かないとはっきりしたことは分かりませんが、恐らく無理でしょう。

しかし、追尾して命中させなくても落とすことはできます。すぐ近くで爆発させれば可能です。

かつて太平洋戦争最中に、我が軍はVT信管と言うものを発明して大戦果を上げましたが、あれと理屈は同じです」

 

VTとは『バーチャル・タイミング』の省略である。

高角砲や機関砲弾の各弾頭にマイクロレーダーを組み込み、敵機が近くを通過しただけで爆発する。このため日本機の撃墜効果が劇的に上がった。

 

「敵機に一定の距離まで接近すれば、爆発するようなアルゴリズムをミサイルの弾頭に組み込むことは可能でしょう」

 

「それも良いアイデアではないか」

 

ケリーはいっそう愁眉を開いた。

 

「連邦軍も得意分野だから、彼らと協力してその研究に取り掛かって貰いたい」

 

「本職には、いまひとつ気になる事があるのですが……」

 

幕僚のひとり……潜水艦作戦担当のマッコイ大佐が発言した。

 

「それは言うまでもなく、我がロサンゼルス級原潜が敵潜に手もなくやられたことです。

いや…真相ははっきりしませんが、断片的に送られてきた通信・交戦時の状況を考えますと……どうもこうもまたこの敵潜もロサンゼルス級を遥かに凌駕する高度なテクノロジーを持っていると考えられています。

また我々には想像もつかない動力源を使っていると考えられます。

もし敵潜のノイズをキャッチできれば、これほど一方的にやられることはなかったはずですから……ともかくロサンゼルス級が葬られると言うのは、我々の完全なる想定外でして、この調子で連邦海軍や深海棲艦諸共、我が海軍も含め潜水艦部隊を喪失してしまいます」

 

「うむ……」

 

ケリーは唸った。

 

「それでキミには、何かいいサゼスチョンはあるのかね?」

 

マッコイ大佐は躊躇った。

 

「それが今の時点ではないのですが……なんとかして1隻捕獲できたらと考えます。

これは敵潜を浅い海に誘い込み、核機雷で攻撃すればさしもの敵も耐えられずに沈没するでしょう。それを引き揚げると言う寸方ですが……」

 

「うむ、昔ハルゼーがよく言っていた『汚い戦争』だな」

 

ケリーは苦笑いした。

ハルゼーの汚い戦争と言うのは、太平洋戦争末期のことである。

敵艦隊を誘い出すために、わざと神風特攻隊による特別攻撃で損傷艦を敵の目に行くように陽動させて、日本空母部隊を誘き寄せた。

ともかくハルゼーは戦争末期に巨大な戦力を持っていたくせに、巧妙なトリックもずいぶん使った。

ハルゼーと言うのは猪突猛進の提督としてのイメージも高いが、こういう汚い一面もあった。

 

「しかし、如何にして敵潜のそのような状況のもとに誘き寄せるかが問題ですな」

 

ヨーク参謀総長が言った。

 

「敵がハワイにやって来れば、そのチャンスはありますが……しかしまたハワイを叩かれると痛し痒しですな」

 

「私としては、日本がこのままじっとしているかどうかが、気になります。敵としては、今は押せ押せ状態で、絶対的有利な立場ですから。

私がもし日本司令官ならば、ハワイを再攻撃するでしょう。

今度は占領するつもりでやって来ます。もしハワイを取れば、本土は《ミラクル・ジョージ》の作戦行動可能範囲に入りますから」

 

オアフからカルフォルニア州まで距離にして、およそ4000キロ弱である。

ステルス重爆こと《ミラクル・ジョージ》の推定2万キロを持ってすれば、実に往復可能である。

 

「そいつは不味いな……」

 

ケリーは渋面を作った。表情に忙しい男だ。

 

「パールハーバー基地の修復は進んでいるのだろうな?」

 

「現在60パーセントと言うところです。完全修復がなって、連邦艦隊と深海棲艦に、我が艦隊が運用できるようになるまであと二ヶ月は掛かるでしょう」

 

ヨークは答えた。

 

「一ヶ月…… いや、できれば三週間でやるのだ。そのために必要なことは何でもやってほしい。資材も人材も最優先で手配する。大統領の許可も得ている」

 

ケリーは、今度は厳しい顔になった。

 

「もしハワイを占領されるようなことになれば、我が国はデフォルトに陥り兼ねんぞ」

 

ここに米軍・連邦残党軍による反撃計画が始まろうとしていた。




今回は最初の冒頭を読み返すと、某『映像の世紀』のBGM『パリは燃えているか』が脳裏から流れてきました。またナレーションも同じくですが。

灰田「まあ、『古に鷹舞い降りし青葉山』も思い出しますがね」

まあ、そうなるな(師匠ふうに)
第六戦隊提督である私としては良い動画に巡り合えましたよ。
心痛いシーンもありますが、奇跡を起こることを願いますよ。
ともあれ逸脱したらいけないから話に戻るが、今回は米軍が次の反撃計画にEMP爆弾とVTミサイルを新たに開発します。
登場はまだ先ですが、どういう脅威になるのかはしばしお待ちを。

私事ですが、リメイク版を執筆して1年になることに気がつきませんでした。
10月からスタートして、ここまでやって来れたのも皆さんのおかげです。
これからも『超艦隊これくしょんR -天空の富嶽、艦娘と出撃ス!-』を応援よろしくお願いいたします。

灰田「前回も言いましたが、無理はなさらずにしてください」

スパシーバ(ありがとう)。

そろそろ時間になるから、次回の予告に移りますね。

加古「今回はあたしが担当するね、ねみぃけど……」

(映像の世紀のBGMを聴く度に名前が重なるからね)ニガワライ

加古「それじゃ次回は打って変わって日本視点だよ。米軍・連邦が反撃計画をしている間、日本も同じく”とある計画”を、大胆な作戦を計画するから楽しみにね!」

また遅くなるかもしれませんが、お楽しみに。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

加古「ダスビダーニャ…ふわぁ~それじゃ寝るね」スヤッ

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに…加古寝るの早いです、流石だね。ヨシヨシ


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第九十三話:オペレーション・オメガ

イズヴィニーチェ(ごめんなさい)
皆さん、お待たせして申し訳ありません。
では予告通り、日本視点から始まります。
米軍・連邦が反撃計画をしている間、日本も同じく”とある計画”を、日本もまた大胆な作戦を計画します。

灰田「果たしてそれはどんな計画なのか、本編を見てのお楽しみです」

それではいつも通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


人間の考えることは同じである……と言うよりは、純軍事立場から太平洋と言うものを考えると、ちょうど真ん中にあるハワイ諸島は、全太平洋を制覇するためのキーストーンである。

例えるならば東南アジアを制覇するためには沖縄も同じ立場であり、キーストーンである。

それほど重要な役割を果たすと言うことでもある。

 

ヨークが、日本はハワイを狙ってくるだろうとした推測は当たっていた。

 

いや……実は日本政府は困惑していたと言った方が正しい。

正確に言い直せば、今回の日米海戦の結果から、アメリカとの和平を引き出せるものと踏んでいたからである。

陸海空全ての面に置いて、これほど一方的な勝利であったことは疑いもない。

これほど卓越したテクノロジーを見せつけられれば、アメリカは経済的観点から和平に応ずるだろうと日本政府、特に外務省は楽観的に踏んでいた。

日本が保有する国債を自ら棒引きするという暴挙を冒したので、世界中にドル不安が広まっている。

 

アメリカ政府が利率を上げると言明したので、何とか収まっているが……

もし世界最強の軍事国家とも言えるアメリカのイメージが落ちたのならば、ドル売りが燎原の火のごとく広がることは疑いない。

それが世界的規模で発生すれば、さしものアメリカと言えど、デフォルトを免れないかもしれない。

そのため英仏駐日大使、ロシア大使を煩わし、本国を経由してそれとなくアメリカ大統領府に当たらせたが、はかばかしい結果は得られなかった。

アメリカが太平洋海域で70年ぶりに起こった日米海戦において、一敗地に塗れたと言うニュースは世界中に流れたが……と言うよりは故意に日本と各海戦記録を青葉たちが流したのだが。

……アメリカとそのおまけと言うべきか連邦残党軍は却って、そのために硬化したようである。

 

和平に応じる様子は全く見られなかった。

政府の甘い考えに危惧を感じる秀真たちは『相変わらず俺たちの国は弱腰外交に伴い、外交下手』と言われ、その挙げ句は『有能な敵より無能な味方が怖い』と言われる始末でもあった。

 

秀真たちの言う通り、日本は外交が下手くそに伴い、相変わらず甘いものである。

 

その甘さは太平洋戦争以前から変わっていない。

寧ろこのために外交に向いていないと言われても仕方ないのである。

何しろ国内では日本領土を特亜に明け渡そうとした愚かな反日政党やテロリストたちなどを、未だに野放しにしているのだからである。

よくおめでたいお花畑思想の連中は『平和を愛するヨーロッパを見倣え』と眉唾な戯言を平然と豪語するが、ヨーロッパの外交もアメリカ同様に汚いものである。

 

ヨーロッパ各国(ロシアを含め)は、有史以来……合従連衡しつつ幾度もない戦争を繰り返した歴史を歩んでいるので、シビアな外交やテクニックを育てている。

外交と言っても喰うか、常に喰われるかの弱肉強食の世界でもあり、戦いでもある。

だからこそ二枚舌、三枚舌も当たり前で、裏切りも日常茶飯事も然り。

常に笑顔で握手はしても、短剣ないし銃は隠し持っている。

 

その点……日本の外交は両手で握手をすると言うほど大甘に等しい。

これはむろん島国で300年間鎖国に守られてきたことから来るのだろうと思われる。

パレスチナの悲劇でも、イギリスは二枚舌を使ったことから来ている。

イギリスはアラブの対トルコ独立戦争時では、アラブ民族に軍事援助を行ない、この戦争に勝った暁にはパレスチナも与えると約束した。

しかし約束は守られず、しかもパレスチナは……イスラエルに与えられた。

厳密に言うと、イスラエルと言う国家はそれまでに存在しなかった。

2000年もの間……ユダヤ民族に与えられたと言った方が正しい。

その結果、現在でも膨大なパレスチナ難民が生じて増加していく一方である。

 

かつて大東亜戦争開始前でも、日本はドイツとソ連に手玉を取られた。

ヒトラーは、ベルリンを訪れた松岡外相を歓待し、松岡を大感激させて大のドイツびいきにさせた。

日独伊三国同盟の誕生には、このことが影響している。

しかし……ヒトラーは日本びいきした訳ではなく、アメリカを牽制するために日本を利用したのである。

当の本人は日本人を野蛮人ないし猿と見下していた猛烈な人種差別主義である。

日独伊三国同盟こそが『日本にとって有害無益である』と、山本五十六率いる軍人や良識派の者たちはこれに危惧を感じていたが、無能総理ともいえる近衛文麿は彼らの反対意見を聞かず、同盟を結んだ。

このことが原因で、英仏蘭及びアメリカを硬化させた。

その結果……太平洋戦争が引き起こされたのである。

 

戦争末期には、和平工作をスターリンに託した。

むろんソ連は連合国であり、寧ろ日本領土を狙っていた敵国である。

日本の頼みなど聞く耳など持たず、どさくさに紛れて北海道を手に入れようとしたほどだから、失笑である。

 

このように日本外交は一貫にして甘く、この体質が抜け切れていない。

一度だけ叩けば、アメリカは中岡たち率いる連邦残党軍と手を切り、両者とも屈服すると考えた方が間違っている。

それは太平洋戦争の真珠湾奇襲攻撃でも証明されているのだが、元帥・秀真・古鷹たちはこれらを理解しているが、そのほかの日本人はまだ理解していないに等しかった。

 

 

 

政治的決着がつかないとすれば、どうするべきか……

政府は安全保障会議を開き、次に日本の取るべき行動について模索した。

実質的には、防衛省長官と元帥が仕切る軍事会議である。

その会議の席上で、安藤首相はもの思いにふけていた。

これ以上戦争を続けたくなかったが、アメリカと虎の威を借るキツネのような連邦残党軍はやる気満々でいる以上は、こちらも戦い続けなければならない。

もっとも最初に仕掛けたのはアメリカだから、売られた喧嘩を買うのは当たり前だというのは言うまでもない。

 

アメリカの言い分は、連邦国を崩壊に導き、アジアの覇権国家となった日本は、将来の自国の安全保障を脅かすと視野に入れて戦争を仕掛けた。

 

これに応じた日本は独立国家として、やむを得ない選択肢だったという言い分だ。

 

つまり言い分においては、双方はイーブンなのだと安藤首相は思い直した。

これは決して洒落ではない。

 

「……首相、大丈夫ですか?」

 

心配げな元帥の声が耳に入ってきたので、安藤は我に返った。

 

「ああ……大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ。会議はどこまで進んだのかね?」

 

「我々としては、アメリカと連邦残党軍が行動を出る前に次の手を打たないといけないと言うことです。それについては、矢島防衛省長官が説明します」

 

「統幕長ともすり合わせましたが、率直に言って、アメリカと連邦残党軍が次にどのような手を打って来るのか分かりません。

戦略原潜を使って、東京を狙ってくるかもしれません。もっともミスター灰田はそんなことは許さないと約束してくれましたので、そのような核攻撃は功を奏さないでしょう。

米軍もそれを承知していると考えます。連邦はしたくてもできないでしょうが。

となると、特殊作戦軍を使い、オーストラリア・フィリピンを経路して沖縄を狙うか。

同時に、北海道も狙って我々の戦力を分散させることも考えられます。

敵はZ機の基地をなんとしても破壊したいのですから。

むろん、グアムからも日本への戦略爆撃は可能ですが、Z機にまた叩かれる恐れがあります。

しかし……沖縄であれば日本領土なので我々もむやみに爆撃破壊はできません。

いずれにしろ、パールハーバー基地を徹底的に破壊しましたので空母戦闘群や連邦艦隊などを運用する以上は、まず基地を修復しなければいけません。

これには二ヶ月は掛かると踏んでおります。

その間に、我々としては米軍や連邦残党軍、連邦派深海棲艦に対して致命的な一手を打ちたいわけですな」

 

「現場の意向では、ハワイを占領するのがもっとも効果的だと考えられます」

 

杉浦統幕長が答えた。

 

「ハワイを押さえられれば、ここからZ機を飛ばしてアメリカ本土を攻撃できますので、そうなればアメリカもギブアップするでしょう。

この作戦は極めて困難ですが、やるだけの価値はあると考えます。

ましてチェックメイトとなり得る可能性があるとすれば、全力で傾けるべきと考えます」

 

「技術的には可能かね?」

 

「はい。海自は連隊規模の1個戦闘団を運べる《おおすみ》型大型輸送船を3隻持っていますし、また輸送艦・支援艦機能を持つ《いずも》型護衛艦、また輸送艇1号型などでも兵員を運べます。これでおよそ1個師団。

またZ機を輸送機として使えば、第一空挺師団も下ろせます。

取りあえず兵力は2個師団ですが、Z機による空輸を反復すれば兵力は増強できます。

空母戦闘群と艦娘たちがあれば、上陸時の事前攻撃で在ハワイの米軍と連邦軍を制圧できると考えます」

 

矢島の説明が終わると、元帥も付け加えて説明をした。

 

「彼女たちはハワイ占領作戦後には本土に引き返すように命じています。

なお同じく、PMCも国内に残っているだろうと思われる工作部隊の一掃に伴い、大規模な作戦……ミッドウェー海戦でも、深海棲艦が襲撃に対しての備えでもあります。

また戦艦水鬼たちからの話では中岡たちは、どこかに元ある島を人工島で拡大させ、要塞島を秘かに建設中であると言われ、これらを潰すための最終決戦艦隊を編成するためです。

こちらの作戦は彼女たちとPMCの全戦力を注ぎ、この要塞島を葬るために待機と言うことでもあります」

 

戦艦水鬼たちも元帥たちに友好的になっており、こうした情報提供はありがたいものだなと安藤首相は頷いた。

 

「いやぁ…これはどちらも大作戦となってきましたな……」

 

秋葉法務相が遠慮のない大声を上げた。

 

「いかに憲法を改正したとしても、これはちとやり過ぎではないでしょうか?」

 

秋葉は全閣僚のなかでも最も高齢なので、遠慮のない発言ができる。

 

「確かに我が自衛隊は元々……専守防衛のために創られたもので、海外派兵には向いておりません」

 

矢島防衛省長官は冷静な口調で答えた。

秋葉の挑発に乗せられないように用心したのである。

このような発言は、当然予想されたことであり、元帥は矢島の言葉を繋ぐように言う。

 

「しかし、すでに戦端は開かれてしまったのです。このまま座してアメリカ・連邦残党軍の反撃を整うのを待ち、両軍が持てる力を総動員して攻撃を掛けてきたら、とうてい我々は持ちません。ミスター灰田に頼んで、核兵器をプレゼントして貰うならば別ですが……

しかし、首相はそんなことを望まないでしょう?」

 

安藤は頷いた。

 

「むろん望まない。我が国は連邦とアメリカから核攻撃を受けているから、核によって反撃する資格はあるかもしれんが、国民感情が許さないだろう。私はそんな気はない」

 

「私もそう思います」

 

「むろん私もだ」

 

矢島と元帥は答えた。

 

「だとすれば…ハワイ占領と連邦要塞島攻略が我々に可能な選択でしょう。逆に言えば、ハワイ攻略には空母戦闘群をこのために使うべきだと考えます」

 

「うーむ…」

 

安藤は長嘆息した。

 

「法相の言われるとおり、これはまさしく大作戦だが、しかしほかに選択肢はないのであれば、致し方ない。最高司令官として作戦を許可しよう」

 

自分の名前は、第二次太平洋戦争を引き起こした首相として後世として残るだろうと、安藤は考えた。

 

しかし、甘んじてこの汚名を着るつもりである。

 

……国家としての存続の瀬戸際なのであり、その意味は緊急避難と言っても良かった。

 

 

 

統幕本部では、さっそく作戦の細目を練りにかかった。

まずZ機で再び予備爆撃を行ない、修復中のパールハーバーを再度破壊する。

ただし敵の飛行場は無傷で占領するため、攻撃目標から除外される。

その理由は占領後に、Z機用滑走路として必要だからである。

在ハワイ米陸軍・海兵隊基地はもちろん、連邦残党軍基地も徹底的に叩く。

上陸作戦を阻止する部隊を排除し、味方上陸部隊を容易ならしめるためである。

 

これに対し、米軍・連邦残党軍は当然、サンディエゴに基地を置く海兵隊・海外遠征部隊を送り込んでくる可能性が高い。

これは1個海兵師団、1個航空団、さらに支援兵站部隊からなり、かつて佐世保基地にいたエセックス級強襲揚陸艦4隻に乗り込んで駆けつけて来るはずだ。

陸自としては、この兵力ともっとも激戦となるだろうと踏んでいた。

 

海兵隊は言うまでもなく殴り込み部隊として最強である。

海外派兵の際には必ず彼らが先遣隊となって、戦地へと足を踏み入れる。

ガダルカナル島の戦いでも彼ら無しでは、戦況を変える事は出来なかったとも言われている。

ただしそれは彼ら海兵隊が上陸に成功すればと言う話で、空母戦闘群がこれらを阻止するから問題はない。

 

米軍は、恐らくハワイ防衛に当たりに少なくとも4個空母戦闘群を繰り出してくるだろう。

一方、中岡たち率いる連邦残党軍はアメリカがこの戦いに敗れたら、自分たちはどのような扱いを受けるかは当然把握しており、戦艦水鬼たちが言っていた何処かにある要塞島に戦力を整えているだろうと推測した。

前回の戦闘を学び、兵装を変更するか、新たなメカニズムを追加したかもしれない。

漫然と同じ構えでやって来るとは思えない。

米軍の強さはこの先端軍事技術にもあるわけだから、日本空母戦闘群に対抗し得るなにか新たなメカニズムを開発するだろう。

そこまでは統幕本部の推測は当たっていたが……しかし、それが超大型のEMP爆弾とVTミサイルだと思いも浮かばなかった。

 

ハワイまでは、なにしろ6000キロに及ぶ海路を進撃するわけだから、慎重な部隊編成が必要なのである。

あらゆる予測不能な事態にも耐え得る姿勢が必要である。

しかし、これが自衛隊始まって以来の長征というわけではない。

深海棲艦が現われる前は、イラク戦争から湾岸戦争、そしてソマリア派遣と南スーダンなどにも参加した。

いやもっとも言えば、第一次世界大戦のときに連合国の要請で帝国海軍の巡洋艦と駆逐艦が地中海に遠征しており、最長の遠征である。

そう考えてみれば、ハワイまではむしろ楽と言えた。

 

作戦コードネームは“オメガ”

 

これを持って望まない戦争を終わらせようとする意思が込められている。

 

Z機部隊による爆撃ミッションは6月15日。

上陸部隊進発は5日後……6月20日である。

空母戦闘群に守られつつ、陸自部隊は進撃する。

海龍部隊もむろん全部隊が参加する。

 

要塞島攻略作戦は、全連合艦隊・PMCでこれを殲滅する。

むろんハワイ攻略後は、Z機の空爆ミッションも加わる。

かつてのサイパン・グアム島攻略作戦のような大規模な上陸作戦と化す可能性も高い。

しかし痛いことに未だに発見されていないことだ。

元帥たちも戦艦水鬼たちに尋ねたものの、当の本人たちですらも分からない模様だが……

発見後は速やかに作戦が開始されると言うことだ。

 

しかし、ハワイには未だにたくさんの日系人がいる。

それを考えると、安藤の心境は複雑だった。

不思議なことに、太平洋戦争当時もハワイ・ホノルルには3000人もの日系人がいたが……米軍は彼らに対しては、何の措置もしなかった。

本土にいた日系人が全員抑留され、リロケーション・センターに送られたにもかかわらずである。

ハワイの日系人が、真珠湾攻撃の手引きをしたと言う言説をなすアメリカ人もいたが、むろんこれは当たらない。

彼らは全く奇襲攻撃など知らなかったのである。

日系人の苦悩は戦争が進むにつれて、深まってきた。

1世は日本人としてのアイデンティティーを持ち続け、連合国の一員となって祖国と敵対するつもりはなかった。

高齢だったためでもあり、アメリカ国籍も持っていなかったためでもある。

しかし、ハワイやアメリカ本土で生まれた2世は自動的にアメリカ国籍を獲得したので、アメリカ人としてのアイデンティティーを示すため、米軍に志願するのが生まれた。

アメリカ陸軍首脳の多くは、最初は祭儀の目で見たが、ともかく使ってみることにした。

アメリカ将校を指揮官とした442部隊が編成され、イタリアに送られた。

死傷率は全米軍中もっとも高く、獲得した勲章の数ももっとも多かったと言われる。

これは彼らが単に勇敢だったわけではなく、自分たちを認めさせるため、普通の米軍兵士よりも数倍に戦わざるを得なかったのである。

次に米軍首脳は彼らを太平洋戦線でも使ってみることにした。

さすが戦闘部隊に入れるわけには行かないので、間違って友軍誤射を起こしかねないためだが……情報部隊に入れて、通信や尋問官として使った。

これが大成功をおさめた。

日本語が解る者が、米軍にはほとんどいなかったからである。

戦争末期には頑丈に抵抗する日本兵に対して、降伏を求める役目も果たした。

彼らによって救われた日本兵も少なくなかった。

 

ともかく、ハワイの日系人にはそのような歴史があるのだが、再びハワイが占領されたら、彼らはどう考えるか。

 

安藤にも予測はつかなかった。彼らを純粋なアメリカ人として考えるほかはなかった。




今回は安藤首相と元帥たちによる会議であり、日本もまた『ハワイ攻略作戦』と言う大胆な作戦を計画すると言う事を決意しました。
なお、その時は空母戦闘群と海龍部隊、海自のみで制海権を取ります。
秀真・古鷹たちはとある話で重要な任務をするために待機であります。
余談ですが気がつけば、あと7話で100話になります。
一年前にリメイク版を投稿してから、ここまで執筆した自分が怖いです。

灰田「自信持ってやったことですから大丈夫ですよ」

もう少しで第三章も終わりに近づいていますから、もう少しで第四章に突入します。
なお第四章は原作とは違い、オリジナル展開が多くなる予定です。
原作とは違った展開でも楽しめて頂ければ幸いです。

灰田「今後の作品予告が終えたところでそろそろ時間になりますから、次回の予告に移ります」

元帥「今回は私が担当する、次回はまたアメリカ視点に戻る。その多くが反撃計画の戦力などが多いがこれからどういう展開になるかは次回のお楽しみだ」

また遅くなるかもしれませんが、楽しみに待っていて下さい。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

元帥「ダスビダーニャ!」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第九十四話:進みゆく日本反撃計画

お待たせしました。
では予告通り、またアメリカ視点に戻ります。
その多くが反撃計画の戦力などの詳細が分かる話です。

灰田「なお少しですが、連邦残党軍の戦力が分かりますので注目すると良いかもしれません」

また今回はZ機も少しだけ登場しますのでお楽しみを。
それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


パールハーバーが修復され、また超大型EMP爆弾が開発されていた頃……

 

ペンタゴンでは次期作戦を練っていた。

ミサイルの弾頭部をいじり、VTシステムを取りつけることに対し苦労は要らない。

各ミサイル・メーカーはおおわらで各ミサイルを改造に取り込んでいた。

ただ連邦残党軍との共同開発なために手間が掛かることは否定できないが。

連邦も秘かに前回の兵器《トマホーク》《オクトパス》に続き、双発爆撃機でも搭載可能な小型滑空爆弾も開発に取り込んだ。

これらは万が一に備えて、秘密の楽園にせっせと運び込まれた。

アメリカに見捨てられたときのために、これらは最終決戦で使うのが中岡たち連邦残党軍の思惑でもあった。

また特攻兵器も陸上型人造棲艦も少数だが、生産している。

 

その一方で米軍統合参謀会議内部でも二つの意見が分かれた。

この前のように、敵空母戦闘と正面からぶつかるべきか。

それともこれとの決着を避けて、搦め手から行くべきなのかと言う意見である。

強硬派は、EMP爆弾が装備され次第に再び艦隊決戦を挑むべきだと主張する。

今回は4個空母戦闘群を投入することになっている。

その一方……慎重派は、正面からぶつかるのを避けて、敵兵力を分散させるべきだと主張した。

 

なにしろ日本は4個空母戦闘群しか持っていないのに対し、こちらにはまだ予備がある。

南北に細長い日本と南の両面から攻めれば、敵は兵力を分散させざるを得ない。

各個撃破するチャンスが生まれる。

慎重派の将官たちは、日本軍と艦娘たちの強さに何とも言えない不気味さを覚えていた。

特に空母航空団を例の《スーパーホーネット》《トムキャット》の、さながら未確認飛行物体ことUFOの如き飛行性能に脅威を感じた。

 

常識ではあり得ないことである。

航空機と言うものの概念をひっくり返す画期的な事実である。

日本がそうやって、これを可能にしたのか分からない。

あのエネルギー転送システムや艦娘たちの艤装や装備なども謎のままだ。

核兵器を回避でき、常識以上の超兵器を持てるのであれば、どんな戦争にも勝てる。

 

謎の潜水艦の存在も不気味だ。

味方潜水艦やソノブイが全く敵潜のノイズを探知できなかったことから、米海軍所属の潜水艦タクティクスの専門家たちに聞くと、この敵潜はスクリューを使わない画期的な推進システムを使っていると推測した。

かつてソ連が大型潜水艦で使用したことがある、ジェット水流推進システムである。

これによって無音化はできるが、高速は出せず、敵の探知を振り切るための一時凌ぎにしかならない。

これを打破するには、ともかく敵の位置見当をつけて、核爆雷を撒くしかない。

極めて乱暴な手段だが、戦争と言うものは暴力的かつ残酷行為でそのものである。

米軍が得意とする戦略爆撃などと言うものはその典型である。

 

慎重派の立てた作戦は、大西洋艦隊の応援を得て、3個空母戦闘群に分けて、北方軍は北海道を脅かし、できるならば《ミラクル・ジョージ》の十勝基地を破壊する。

南方軍はフィリピン方面を迂回して、沖縄を窺う。

海兵隊遠征軍を投入し、できれば沖縄を占領する。

敵は2個空母戦闘群と連合艦隊でしか対応できないから、兵力においても圧倒し、新型兵器を使えば、撃破するチャンスは充分にある。

これに対して強硬派は、その新兵器を駆使して一気に決着を付けようと言うものだが、結局のところケリー国防長官が決断を下した。

新兵器と言うが、EMP爆弾が敵にどれほどの効果をもたらすか見当がつかない。

VTミサイルもまた、非線形の飛行をする敵機にどれほど有効なのか分からない。

敵空母の飛行甲板にも何か秘密がありそうだが、これを探る手段はない。

なお彼らは知らなかったが、古鷹たちにも《アカギ》率いる空母戦闘群と同じくバリアーがあることは知らない。

再び艦隊決戦を挑み、負けようならば、米軍の権威は地に墜ちて二度と這い上がれないだろう。

軍事・経済面と言うふたつの観点から見て、建国以来の一大危機に見舞われることになる。

さすがのタカ派のケリーもそれほど危険な冒険は出来なかったと言うのが、本当のところである。

ともあれ、EMP爆弾の完成は2週間後であり、パールハーバー修復は3週間後。

そしてVTミサイルに関してはすでに交換が始まっていた。

なお今回、連邦残党軍は参加しない。

理由は艦隊が手痛い損傷を被ったと言うことで見送られた。

これら全てを勘案して、次期作戦の発動は6月20日と決まった。

大統領にまでスケジュールが上げられ、大統領も承認した。

 

10日後には残りの大西洋艦隊も到着する。

サンディエゴとサンフランシスコに分かれて、実に6個空母戦闘群が勢ぞろいした。

先に2隻の空母が損傷しなければ、8個空母戦闘群となるところだが、それでも史上空前の兵力である。

 

中核となる空母は《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》《ハリー・S・トルーマン》《ジョージ・H・W・ブッシュ》である。

南方軍は、エセックス級強襲揚陸艦4隻を動員、第1海兵隊遠征軍を載せて沖縄に向かう。

これを《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》《ハリー・S・トルーマン》《ジョージ・H・W・ブッシュ》のニミッツ級空母が支援する。

南太平洋から迂回していくので時間が掛かり、北方軍よりも先に出なければならない。

寄港地をなるべく減らしてその行動は秘匿したいものの、必ず他国の商船などに目撃されてしまうため、光のように早く世界中に広まってしまう。

ヨーク大将は東北空爆を行なった連邦空母戦闘群のように奇襲攻撃を望んだが、恐らくは無理だろうと言う判断だった。

しかしこれらの作戦は、またしても日本軍・艦娘たちの思いがけない出方によって、根本的に覆されるのである。

 

 

 

東京日付・6月15日(ハワイ日付・6月14日)

パールハーバーは、再び恐怖のステルス重爆《ミラクル・ジョージ》ことZ機による空爆を受けた。

これは全Z機200機が参加すると言う大規模な空爆作戦だったから堪らない。

せっかく修復寸前になっていた港湾施設もまた灰燼に帰してしまった。

再建したばかりの燃料タンクも炎上、ここで空母戦闘群に給油することは不可能となった。

 

しかし、反復攻撃は予想内の事である。

どの戦争でも攻撃と言うものは、反復攻撃するのは当たり前のことである。

その観点から米軍・連邦空軍は優先的に飛行場の修復をし、迎撃用戦闘機を充実されていたが、連邦戦闘機と米軍戦闘機の合同部隊は迎撃機を前回同様上げたが……

結果は同じく全機損失と言う悲劇的な結果にしかならなかった。

全てZ機改二ことガンシップ部隊により、掃射されてしまったからである。

ともかくこのガンシップの威力は猛烈なもので、その発想はZ機胴体下部にレーダー照準器付き20mmバルカン砲100基を並べていると言うごく単純なものだが、米空軍はおろか連邦空軍の誰でも考え付かなかった。

その理由は、重爆自らを守らせるという発想を持たなかったのである。

 

戦略爆撃機が出撃するときは原則として単独行動、または途中まで護衛戦闘機が随伴してこれを守る。

第二次世界大戦以来、戦闘機の届かない遠方に重爆を送ると言うようなミッションがなかったので、これで良かったのである。

第二次世界大戦ではそうはいかず、ドイツ工場や基地など重要拠点を空爆するときには当初は英米連合爆撃部隊には護衛戦闘機などおらず、ドイツ戦闘機に多く喰われた。

長距離戦闘機P-51《ムスタング》やP-47《サンダーボルト》が登場してから、ようやく被害を抑えることが出来た。

また日本を空爆したB-29《スーパーフライングフォートレス》も同じく、当初は護衛戦闘機はおらず丸裸状態で出撃したため、帰投時には墜落や不時着する機体が多かった。

硫黄島を占領したのはB-29を援護するP-51発進基地のためである。

 

しかし、今ではそう言うことはない。

ベトナム戦争当時、B-52部隊がハノイを空爆したときも、トンキン湾に展開していた空母戦闘群の艦載機がこれを援護した。

イラク戦争時も重爆はサウジアラビアから出撃し、ペルシャ湾に展開していた空母戦闘群から護衛された。

もっともイラク空軍そのものは開戦と同時にミサイル基地や高射砲陣地なども同じく壊滅していた。米空軍には実際的な脅威はなかったのだが。

 

しかし、日本はなぜか重爆を戦闘機で守ると言う発想は持たなかったのである。

この発想は、太平洋戦争中期に日本軍が発想した《富嶽》と言う巨大爆撃機を発端するのではないかと唱えた統合本部の参謀長がいた。

カーチス中佐と言う名のこの参謀長は、太平洋戦争戦史……特に日本軍の軍用開発史を詳しく調べ、このような結果論に達したのである。

史実の《富嶽》は設計上では1基に付き、約5000馬力を誇るレシプロエンジンを両翼合わせて6発も持ち、太平洋を越えて渡洋爆撃も可能な超重爆だが……

戦争末期の日本にそんなものを造る余裕はなく、結局は計画倒れになってしまった。

だが、日本はその思想を受け継いでいるのではないかというのである。

彼の意見は空軍司令官にも取り上げられたが、しかしそれが史実だからと言って、どうにかなるものでもない。

単なる参考意見として、デスクの引き出しに放り込まれただけで終わった。

上層部の反応のないことにカーチス中佐はがっかりしたが、今度は建設的なアイデアを出した。

 

Z機改二ことガンシップに対抗するために、B-52Hをガンシップに改造すると言うアイデアである。

機体の至る所に、20mmバルカン砲と、Z機同様に全機レーダー照準射撃装置を搭載して機体周辺を対応可能とする。

そうすればZ機が来襲した時にこのガンシップが舞い上がれば、Z機改二に対抗できるのではないかと言うものである。

このアイデアはヨーク大将の興味を引き、ボーイング社に開発を命じた。

しかし、この改装が採用されたとしても就役までには時間が掛かる。

とうてい次期作戦には間に合いそうにもなかった。

なお余談だが、中岡たちはZ機や艦娘たちのいる鎮守府に突っ込める特攻機として運用すべきだとアイデアを出したが、謂われなくとも採用は却下されたが。

 

ともかくパールハーバーがまた空爆されたと言う事実は、ペンタゴンには甚大なショックを与え、作戦変更を余儀なくされた。

この第三次ハワイ空爆には、いかなる意味があるのか。

この解釈でまた参謀本部内での意見が分かれた。

日本軍・艦娘たちはハワイ占領を目論んでいる者の意見は、オアフ島爆撃機専用飛行場を確保できれば、Z機で米本土を空爆することが可能であると言う理由だ。

また、日本軍はそこまで大胆不敵な作戦をすることはしまいと主張する一派もいた。

日本は元々、この戦争はやりたくて始めたのではない。

そもそも国内にいた中岡率いるブラック提督たちが日本を裏切り、深海棲艦たちと共に、日本を滅ぼさんと連邦共和国を建国した。

手持ちの自衛隊や各鎮守府に所属している艦娘たち、そしてPMCでは連邦国のミサイルと深海棲艦の攻勢に抗う手段は限られていた。

アメリカとの支援を断ち切られた日本は、絶対的存亡の危機に追い込まれた……

 

その時に奇跡が起こった。

量子物質学者の仮説によれば、遠い未来…… 恐らくは別な次元に存在する世界から日本人がタイムスリップしてきて、今の日本と艦娘たちを助けているのではないかと推測した。

これにはエイリアン説もあったが、つまり宇宙生命体が日本・艦娘たちを助ける理由はないとして退けられた。

前者の解釈なくして、日本・艦娘たちが様々な超兵器を入手した理由が解明できないというのである。

これはSFじみた発想だが、辻褄が合う。

ペンタゴンも渋々ながら、この解釈を受け入れ始めた。

そう考えれば艦娘たちの未来艤装、人工知能が全てを操る無人空母の存在、非線形飛行するジェット戦闘機などの存在も理解できる。

 

ともあれ、パールハーバーが再び破壊されたことにより、予定されていた作戦の変更を余儀なくせざるを得ない。

なお作戦名は、かつて日本本土侵攻作戦時に行なおうとした《コロネット作戦》である。

九州侵攻作戦《オリンピック作戦》で得られた九州南部の航空基地を利用し、関東地方へ上陸する作戦である。

開始予定日はYデーと呼ばれ、1946年3月1日が予定されていた。

このコードネームが付けられたのは、日本侵攻作戦および日本を滅ぼさんと再現する意味合いを込めて、連邦共々に採用したのは言うまでもない。

 

問題は、敵の意図を正確に確かめられるかどうかであった。

今でも偵察衛星が機能しないことを、ヨーク大将は残念に思ったことはない。

偵察衛星さえあれば、敵の動きは手に取るように分かると言うのに……

敵情を掴むと言う点では、太平洋戦争時代に逆戻りしたのだ。

ここにも敵の思惑が働いているのかもしれない。

 

ペンタゴンはNSAに依頼して、日本から世界に発している情報源や通信などを全てチェックするように取りかかった。

これは通常の国際電話から始まって、GPS付き携帯電話、衛星携帯電話、インターネットなど現代では欠かせない全ての通信手段が含まれる。

NSAには巨大盗聴用アンテナ《エシュロン》をいくつも持ち、この情報システムを運用している。

《エシュロン》を掌る巨大なコンピューターにはいくつものキャッチ・システムが仕込まれ、アメリカについて保安上問題のある言葉……例えば『テロ』『アラブ』『爆弾』『ホワイトハウス(コードネーム:ウィスキーホテル)』などと言う言葉が出て来れば、全てその発進舷をチェックするようになっている。

これはアメリカ国民そのものも監視しているのだが、NSAの実態は謎に包まれており、現役大統領ですらもはっきりしたことは分からないと言っている。

日本国内に置いて交わしている通信も、無線情報やインターネットを使っていれば……すくい上げられるので、そのなかに軍事情報が含まれているのかもしれない

これは言わば『苦肉の策』だが、はかばかしい結果は得られなかった。

日本もむろん《エシュロン》の存在は知っているので警戒し、通信は全て有線通信で行なっているのかもしれない。




今回は米軍の壮大なる反撃計画の戦力に伴い、戦史などを含めた話でした。
米軍にですが、相変わらずドブネズミの連邦残党軍もしぶといものですが……
なお後者が開発した兵器は、第四章に登場しますのでしばしお待ちを。
《トマホーク》《オクトパス》もですが、双発爆撃機に搭載可能な小型滑空爆弾も原作『超戦艦空母出撃』にも登場します。
原作では米軍ですが、この世界では連邦残党軍が開発しています。

灰田「追い詰められているにも関わらず、しつこいのが腹立たしいですが」

第四章はオリジナル展開が多いですから、原作崩壊かもしれないです。

灰田「前回も言いましたね、それは」

確かに、同じことを言ったような気がする。
そろそろ時間になりますから、次回の予告に移ります。

灰田「承けたまりました。次回もアメリカ視点から始まります。なおとある偵察機も登場します故に、少しだけですが哲学的な話もありますのでお楽しみを」

また遅くなるかもしれませんが、楽しみに待っていて下さい。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第九十五話:日本人とは何者か?

お待たせしました。
では予告通り、今回もアメリカ視点から始まります。
そして少しだけですが、サブタイトルと同じようにとある偵察機も登場します故に、少しだけですが哲学的な話もあります。

灰田「前者は『トランスフォーマー/リベンジ』や『ヘルシング』にも登場した偵察機であり、後者は戦史研究でもあります」

今回も久々の短めです。
それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


太平洋艦隊司令部では、喪失した原潜の代わりにサンディエゴから持って来た《ロサンゼルス》級原潜4隻を日本海に派遣して、情報収集に当たらせた。

また1998年に退役した超音速・高高度戦略偵察機SR-71《ブラックバード》を近代化改修して投入、日本上空に送り込んだ

この偵察機は実用ジェット機としては世界最速のマッハ3で飛行、ステルス性能を持ち、まさに究極のステルス偵察機である。

この機体をハワイに送り、空中給油機KC-135R《ストラトタンカー》を付け足して、日本との中間地点でハワイまで帰投できるまで給油した。

 

さしもの日本も気付かなかったようだ。

SR-71は無事帰還に伴い、貴重な情報を持ち帰ることに成功した。

横須賀鎮守府を始めとする、佐世保鎮守府、呉鎮守府、舞鶴鎮守府など主要な軍港の撮影に成功したが、写真を解析してみると……明らかに出撃準備を整えていた。

しかも、海自が誇る《おおすみ》級揚陸艦が出撃準備を行っている。

なお艦娘たちの姿は見られなかったが、恐らくは海自と共に出撃するであろうと考えた。

しかし、元帥からは『別名あるまで待機』だと言うことを、彼らは知らない。

これらの事からして、ペンタゴンでは日本の次期作戦は『ハワイ攻略作戦』だと判断した。

かつて運命の海戦と言われたMI作戦ことミッドウェー作戦でもミッドウェー島を占領後に行なわれる作戦でもある。

ハワイ占領の橋となり、ここを占領すればアメリカは必ず講和を結ぶと考えられた。

米海軍の重要拠点であり、太平洋海域を抑えるにはハワイは必要不可欠だからである。

なお真珠湾攻撃後に、同時に占領すればアメリカ政府は度肝を抜いただろうと思われる。

日本軍が真珠湾に停泊していたアリゾナ率いる太平洋艦隊や他の艦艇だけでなく、ここにある燃料タンクや港湾施設、空母などを同時に葬っていれば完全勝利になっていたかもしれない。

運命は奇遇にも空母部隊は外洋に出ており、さらに重要拠点などを爆撃しなかった。

ニミッツの回顧録には『もし日本軍が燃料タンクなど重要拠点を破壊していたら、反撃が半年か1年ぐらいは遅れていた』と記しているほどだ。

 

ともあれ、寧ろこれは好都合だとヨーク大将は判断した。

敵をハワイ近くに引きつけて戦えば、オアフ島の海兵隊機や陸軍機も参加できる。

地の利が生まれるのは良いものの、70年以上から戦争と言う言葉を遠ざけていた日本としてはずいぶん大胆な作戦である。

 

「果たして、こう判断していいものだろうか……」

 

ヨーク大将はいまひとつ自信がなく、統合参謀本部・戦略アナリストからの意見を徴した。

アナリストとは……分析官であり、敵国の民族性までも読み込んで敵の動きを予測ないし分析する。なお軍服を着ておらずシビリアンである。

 

「ここでは、戦後の歴史を経た日本人の国民性がキー・ファクターとなります」

 

アナリストは、まずそう指摘した。

アナリストの名は、サラ・ジョーンズと言う女性である。

しかもIQは160もあり、大学の現代史教授から引き抜かれた。

 

「つまりワシの言いたいことはな……日本の戦いは全て受け身だった。我が国とも戦いにおいてもそうだ。東経160度という防衛ラインを設定し、そこで我が軍は迎え撃った。

連邦は未だに分からない連中だが、我が軍と同じようにしているだろう。

しかし、今度はハワイまで出てくると読んだのだが……

戦後、日本人のメンタリティからして、そのモチベーション裏付けられるのか?」

 

「なかなか微妙な質問ですね」

 

サラは答えた。

 

「まずヨーク大将の御質問は戦後、日本人とはいかなるものかと言う重大な問題を含んでいると私は考えます。

私はその点についてはずいぶん研究をしてきましたが、確かに定説どおり、占領とともにGHQが日本に叩き込んだ『ギルティ・フォーメーション・プログラム』が効き過ぎて、日本人は腑抜けたような民族になりました。罪悪感が深層心理にこびり付いてしまったのです。

また憲法が紛争解決の手段としての戦争と言うものを放棄し、日米安保により自ら戦う必要がなくなったことも日本人が独立心を失ったことが原因でしょう。

およそ国家と言うものは、外交と自衛力のふたつの柱が重要です。

しかし、日本は我が国に防衛力を委ねてしまったために、極めて歪んだ国家になってしまったわけですね。

日本は余ったエネルギーを経済活動に注ぎ、世界でも有数な富裕な国家となりました。

 

しかし地政学的には、中国・朝鮮民族と言う敵性国家に囲まれていました。

これえらの国々は内政が危うくなると反日政策で、日本を叩くと言う習性があります。

つまり日本は彼らにとって一種の危機緩和装置として機能していたと言うわけです。

 

そのような状況のときに、突如と現れた深海棲艦により、この敵性国家は消滅しました。

この危機を察知したかのように深海棲艦に対抗できる手段として、艦娘たちも現れました。

先の戦争に戦い散った軍艦の魂、日本神話で登場する式神のようなものかもしれません。

今の危機と艦娘たちの登場により、日本を目覚めさせたことは否めません。

 

日本は戦国時代、秀吉が朝鮮半島に攻め入ったように、戦争と言うものに嫌悪感を持たない、ある意味では普遍的な民族であったわけです。

そして日清、日露戦争の勝利以降は、振り子が大きく振り過ぎてしまい、戦争によって全て解決すると言う思考の民族に変わりました。

その頂点が太平洋戦争ですが、この戦いで惨敗した結果……今度は振り子が反対側に振れてしまい、非戦民族となってしまったわけです。

そして我が国との援助を打ち切られて孤立した結果、また振り子が振れ、好戦的気質が目覚めました。なにしろ深海棲艦と連邦国と言う強大な敵がいますので、その危機感が奇跡を呼び、現在のような兵力を持つと言うことに至ったわけですが……」

 

「ちょっと待ってくれ、ドクター・ジョーンズ」

 

ヨーク大将は遮った。

サラ・ジョーンズは『現代史論』と『戦争歴史学論』と言う博士号をふたつ持っている。

あまりにも長すぎると1日が終わりかねないと思ったからだ。

 

「私はキミのレクチャーを聞きたいのではないのだ。日本がハワイに攻めてくるガッツはあるかどうか……それだけのメリットがあるのかと考えているのか。

そして何よりも大切なことだが、この戦闘について自信を持っているかどうかを聞きたいのだ」

 

サラは微笑した。彼女の歳は35歳だが、中々の美貌の持ち主である。

 

「日本はすでにルビコン川を渡ってしまったのです。我が国はここで和平交渉をしない限り、その兵力をとことん駆使するでしょう。

戦争と言うのは、いったん始めたら止められないものです。それだけのモーメンタムを持っています。

まして我が国は、日本に対して連邦同残党軍同様に不法な仕打ちをしました。

国際法を照らしても許されない行為を行ないました」

 

これはむろん国債を無効にした行為を言っている。

 

「もし日本がハワイまでやって来るとすれば、リベンジの要素もそこに含まれていると、私は考えます。ええ……私はここで断言します」

 

サラはきっぱりと答えた。

 

「日本は、必ずハワイを占領しにやって来るでしょう」

 

「うむ……」

 

ヨーク大将は唸った。

 

「キミの意見はよく分かった。もう引き取ってもよろしい。ご苦労」

 

ジョーンズ博士が退出した後、ヨーク大将はしばらく考え込んだ。

 

「なるほど、日本はリベンジをするためにハワイまでやって来るのか……」

 

それは、もっとも筋の通った話ではないか。

 

 

 

日本は米軍のスパイ機こと、SR-71《ブラックバード》の侵入に気づかなかったわけではなかった。

 

バッジ・システムは、その動きをしっかり捉えていた。

しかし戦闘機や対空ミサイルで迎撃しなかったのは、むしろ手の内を見せたかったのである。

 

今度こそ正念場だ。

この戦いに敗れれば、さしものアメリカもこの戦いを諦めて、中岡たち率いる連邦残党軍と同盟を決裂してでも和平を応じるだろう。

統幕本部では、オアフ島占領はできればしたいものと考えたが、極めて困難であるゆえに損害も大きいだろうから、それほど固執していたわけではない。

米軍は連邦残党軍と協力して当然太平洋軍を増強し、自衛隊の上陸に備えるだろう。

これは生やさしい戦いではない。

しかし、ハワイを占領すると言う意図を示すことは大切である。

この意図も当然世界中に流れ、世界は太平洋に注目するだろう。

ハワイと言うのは、太平洋覇権を争う者のシンボルである。

だからこそ、アメリカはハワイにまず牧師を送り込み、現地人のクリスチャン化に務めた後は、軍を送り込んで武力で制圧して植民地にした。

その勢いを駆って、フィリピンにまで進出、ここを植民地化した。

スペインによる長年の抑圧に喘いでいたフィリピン国民は、むしろアメリカを歓迎した。

しかし、植民地にされたフィリピン国民は虫けらのような扱いを受けた。

暴行やレイプは当たり前、挙げ句は娯楽のために殺された者が大勢いた。

白人以外は人間ではないという猛烈な差別思想が、彼らフィリピン人を苦しめたのだ。

アメリカはイギリスと同じように、中国本土の一部を狙っていた。

しかし、アメリカの西進は、元より野望は日本によって阻まれてしまう。

フィリピンでは今でも『アメリカは鉛筆をくれたが、日本は鉛筆を作る技術をくれた』と言われるほど感謝されている。

 

アメリカにとっては、あの時の挫折感が深層心理の中にあり、為政者に受け継がれている。

太平洋戦争はその文脈の中で起こっている。

いままたハワイが争われることになったわけだが、これは日米決戦の正念場だ。

負けた方の国家は消滅しかねない決戦でもある。

そしてパワー・オブ・バランスは大きく変化し、新たな世界構造ないし秩序が生まれるだろう。

そろそろパックス・アメリカーナ……つまりアメリカ一国から世界構造が変わっても良い頃だと世界中が考えている。

その意味ではアメリカを憎んでいる中東各国やアジア諸国、そしてフランスは元より、全ての発展途上国が日本を応援していると考えられる。

元帥・秀真・安藤たちはそう考えていた。




今回は米軍視点に伴い、やや哲学的な話になりました。
そしてもう退役しましたが、究極のステルス偵察機SR-71《ブラックバード》も登場しました。

灰田「アメリカもしつこいですから、本当に困りますね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
ともあれ本編で少しですが、日本もハワイ攻略作戦に向けて準備中です。
次回で明らかにもなりますが。
気がつきましたが、あと少しで第三章も終わりに使づきました。
それに相応しい戦いに終わり、第四章に突入します。
そろそろ時間になりますから、次回の予告に移ります。

灰田「では次回予告に参ります。次回は米軍が秘かに開発した二つの新兵器に伴い、前哨戦とも言える日米潜水艦同士の戦いがまたしても始まりますのでお楽しみを」

なお予定ではこれを機に前編・中編・後編と分けて、第三章を終えようと思います。
また予定変更するときもありますが、楽しみに待っていて下さい。

灰田「ではそろそろお時間になりましたので……。次回まで、第九十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第九十六話:ハワイ攻略海戦 前編

お待たせしました。
では予告通り、米軍が秘かに開発した二つの新兵器に伴い、前哨戦とも言える日米潜水艦同士の戦いがまたしても始まります。

灰田「なお新兵器はひとつは《VTミサイル》ですが、もうひとつの『EMP爆弾』は名前出来すのでお楽しみください」

今回は前哨戦でありますが、それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


ヨーク大将は、敵はハワイにやって来ると断じたので陸軍も海兵隊も忙しくなってきた。

太平洋軍における陸軍主力部隊は、歩兵第25師団である。

司令部は本土に置かれていたが、これを大至急ハワイに移し、さらに1個師団を増やした。

元来、日本にいた海兵隊第3遠征軍はハワイにいたが、第1遠征軍も本土からハワイに移した。少数だが、連邦残党軍も彼らに協力した。

以前の連邦国内で放置された韓国・中国・北朝鮮軍制式採用兵器から、全て米軍制式採用兵器を貸与された連邦軍は、火力がより強化された。

 

これで、オアフ島の防衛力は高くなった。

空軍はなけなしのB-1B《ランサー》10機を、オアフ島の陸軍飛行場に持って来た。

重爆は艦船攻撃には向いていないが、この部隊はようやく完成した特大EMP爆弾を敵艦隊上空に投下するための特殊任務部隊でもある。

1トン爆弾サイズを誇り、敵艦隊上空で炸裂すると10ギガワットの電磁波(電磁パルス)を発生する。

実験結果ではその半径は100キロにも及び、全てのコンピューターから電子機器をダウンさせた。

この巨大EMP爆弾を2発も浴びせれば、日本空母戦闘群はコンピューターが全てシャットダウンし動けなくなり、艦娘たちの未来艤装も同じく使えなくなる。

コードネームが好きな米軍は、この巨大EMP爆弾を《バンザイ・ボム》と名付けた。

 

また空母戦闘群の航空団が運用する全ての空対空ミサイルは、連邦残党軍と共同開発した例のミサイル……VT信管付きミサイルに交換された。

これは標的に、最大3000メートルの距離を通過、または接近すると爆発するようにセットされており、広範囲に弾片が飛び散るように設計し直している。

これは太平洋戦争で使われたVT信管の再現である。

戦争中期、米軍がこれを制式採用した途端……日本機の撃墜が増したのである。

大本営は不審に思ったが、最後までその理由には気付かなかった。

仮に気づいたとして回避方法を、つまり“アンチ・レーダー・システム”を開発しても遅過ぎたのである。

ローテク兵器は、時にハイテク兵器に勝るはずだと統合参謀本部は考えた。

オアフ島の飛行場ではB-1B《ランサー》以外にも、陸海の戦闘機も増勢された。

全島……特にパールハーバーを含む南岸と北東部・カネオへ海岸には要塞や陣地が構築され、ミサイル陣地、高射砲陣地、重砲部隊などが配置された。

かくして、日本軍迎撃の準備は整った。

空母戦闘群はそれぞれの港から出ると、パールハーバーの北東海面へ散開した。

パールハーバーでは補給が受けられないので、タンカーや補給艦が付き添っている。

 

同じく日本軍も、それぞれの基地から出撃、ハワイを目指していたのである。

空母戦闘群が先に立ち、揚陸艦部隊は100海里後方に離れて航行していた。

何しろ道中が長いので、こちらも補給艦・タンカーも連れて行くのはこちらも同じだ。

今回は中型空母《飛鳥》も参加して、揚陸艦部隊の支援を行なっている。

ステルス原潜《海龍》も、全部隊出撃している。

上陸と言うものの、空母戦闘群同士の戦いが勝利を決定する。

赤城たちと同じように、空母部隊が敵機を打ち破り、制空権を確保しない限り揚陸艦部隊は前進することはできない。

 

その時はZ機が再び出撃する。

100機は敵の海岸陣地ないし基地を叩き、残りの100機は第1空挺師団を乗せて、敵の反撃が弱まり次第、全隊員を降下させて橋頭堡を確保する。

その後、輸送艦《おおすみ》率いる揚陸艦部隊が接岸して陸自でも最強と言われる北部方面隊・第2師団が構成されていた。

しかし、敵も4個空母戦闘群を繰り出していると目撃された。

それに対して、こちらは《飛鳥》を加えても4個群。

兵力では、こちらの方が1隻多く優勢である。

先の戦いでは、この比率が逆だったので余裕があったが、今回はどうなるか分からない。

確かに日本海軍の無人空母および無人戦闘機・戦闘攻撃機の性能は卓越しているが、兵器の数は敵と変わらず、消耗戦に持ち込まれると不利である。

攻略部隊である揚陸艦部隊司令官・都筑海将、その支援部隊である空母戦闘群第10艦隊の司令官は変わらず鬼頭海将である。

23日早朝には、第10艦隊は日付変更線を越え、ミッドウェー島の北北東50海里のポイントに達していた。

 

ミッドウェー島は、ハワイ諸島・西北端に位置する。

太平洋戦争当時は、ここに米海兵隊基地が置かれていた。

だが、今は不要とされてアホウドリたちの自然保護区域となっている。

太平洋軍は、このとき早期警戒管制機(AWACS機)E-3A《セントリー》をこの海域に飛ばして哨戒任務に当たっていた。

このE-3Aが搭載しているレーダードームに第10艦隊は引っ掛かり、ただちに太平洋軍司令部に報告された。

この通信は、4個空母戦闘群を統合指揮する旗艦《セオドア・ルーズベルト》に乗艦するキンケイド大将にも伝わった。

キンケイドは太平洋戦争でも登場するが、こちらのキンケイドとは親類ではない。

太平洋戦争当時のキンケイド中将は、レイテ沖海戦のとき旧式戦艦を率いて上陸部隊の支援に当たっていたが、有力な敵艦隊が迫ることを知ってハルゼーの第3艦隊を捜し求めて、

“第3艦隊はいずれにあるや、全世界はこれを知らんと欲す”と言う無電を打たせたことで有名である。

この電文の後半……とくに有名になった部分は別に意味は持たず、通信担当の少尉が言わば、語呂合わせのために付け加えたのである。

 

しかし、この電文がハルゼー大将の心を大きく傷つけてしまった。

この時、ハルゼーの強力な艦隊は小沢艦隊の吊り上げ作戦に引っかかり、遥か北にいたのだが、この電文を受け取って地団駄を踏んだ。

帽子をむしり取り、自身が侮辱されたと思い、フロアに投げつけたのだ。

ハルゼーは高速戦艦と巡洋艦だけの部隊を編成し、大急ぎで栗田艦隊に向かい南下したが、肝心の栗田艦隊が反転してサンベルナルジノ海峡から立ち去った後だった。

ただ1隻だけ、駆逐艦《野分》が機関部故障を起こしたために海峡に残されていた。

ハルゼーは猛烈な砲火を浴びせて、撃沈した。

彼は駆逐艦ではなく、巡洋艦を沈めたのだと嘘の戦果を言い張った。

ハルゼーにとって、実はこれが初めての実戦だった。

その猛将ハルゼーは、陸軍のアイゼンハワー元帥が大統領にまで出世したのに比べ、晩年はつまらない企業の広告塔に使われたりして、ぱっとしない余命を送った。

これに関しては硫黄島の英雄たちも同じである。

 

また彼らだけでなく、軍人の末路は様々である。

ハルゼーとその闘魂が並び称される陸軍のパットン将軍は、戦場ではかすり傷ひとつ負わなかったのに、ドイツの占領地で交通事故に遭い、呆気ない死を迎えた。

日本を占領して、神のような権勢を振るったマッカーサーは、朝鮮戦争でトルーマン大統領と原爆使用などで衝突して、退役を余儀なくされる。

この時にマッカーサーは“老兵は死なず、ただ消えて行くのみ”と言う言葉を残した。

敗戦国となった日本の提督や指揮官たちに至っては、彼らよりも悲惨である。

東京裁判と言う茶番劇で、容赦なく戦犯と押し付けられ、死刑になった者。

罪一等を減ぜられ、放免された者も戦後は一切口を閉じて語らず、隠遁生活を送った者。

中曽根元総理のような戦後連合国や特亜の犬となった哀れな裏切り者たちなどがほとんどであり、掌を返したように反日活動を行なっている。

話は戻る。

 

E-3A《セントリー》が放った電波をキャッチして、敵に発見されたことを知った鬼頭海将は、敵の位置を把握すべく早期警戒機を180度の範囲に3機放った。

恐らく敵はパールハーバーには近づかず、その北東ないし北北東海面で我々を待ち構えているものだと考えた。

 

オアフ島・南方海上で待ち構えると言う選択肢はあるが、それは取らないだろう。

攻撃距離は長くなるが、それだけ燃料と時間を使うことになり、逆に不利になる。

このとき日本空母戦闘群は、第1から第4群が順列を作り航行していたが、敵に探知されたことにより陣形を変えた。

オアフに対し、縦列を作る陣形に変えたのである。

最南端に位置するのは、空母《ソウリュウ》を中核とする第4群だが、これはオアフ島から出てくるだろうと思われる敵機を阻止する任務に就いていた。

敵は、オアフ島に大量の航空機を蓄積いるに違いない。

本来ならばZ機でこれを叩きたいところだが、Z機は別の任務に就いているため使えない。

鬼頭海将は、第4群の奮闘に期待すること大だった。

なにしろ、残り3群の航空団だけで、強大な敵空母戦闘群と戦わなければならない。

鬼頭海将は、ステルス原潜《海龍》部隊の奮闘にも大きな期待に賭けていた。

空母群よりも高速である《海龍》部隊が先行し、今では敵に接近しているはずだ。

敵も同じく攻撃型原潜《シーウルフ》級などのスクリーンを張っているだろう。

したがって、まず潜水艦同士の戦いから始まると思われた。

鬼頭の睨んだ通り、新たに補充されたロサンゼルス級原潜《ダラス》《オーガスタ》《ヒューストン》の4隻に続き、攻撃型原潜《シーウルフ》級《シーウルフ》《コネチカット》《ジミー・カーター》の3隻が加わり、空母群の前に散開して哨戒していた。

 

なにしろ米海軍にはロサンゼルス級潜水艦を、実に60隻以上も造っていた。

10隻ぐらいは退役したが、それでも膨大な数であることは変わりない。

次期潜水艦こと《シーウルフ》級は、ロサンゼルス級よりもふた回り大きな新鋭艦だが、あまりに高価なため3隻だけで建造が打ち切られた。

なお次期原潜《バージニア》級は、虎の子として温存するとの方針である。

こちらは22隻も保有しているから驚きである。

 

米軍潜水艦司令部は、この《シーウルフ》級だけでも、謎の日本潜水艦部隊を撃破してくれるだろうと期待して送り出したのだ。

90度で東進した《海龍》部隊……第4と第5戦隊は、この《シーウルフ》級3隻と正面から向かい合うかたちとなった。

各《シーウルフ》級の艦長たちは、日本潜水艦は極めて静粛性が高く、探知が困難だと聞かされていた。

しかし万難を排しても探知し、その後は浮上して位置を知らせて、速やかに退避せよとのことである。

なぜなれば、核爆雷を搭載した《ヴァイキング》が急行して機雷をばら撒くからである。

核と言ってもむろん戦術核であるが、5キロトンの威力を誇り、直径20キロの海中にいる全ての物体を破壊する。

 

米軍が得意とする物量作戦である。

日本潜水艦との戦闘はリスクが極めて高いので、交戦は避けろとの厳命である。

しかし当然ながらの事だが、3隻の艦長たちは不満だった。

なにしろ、攻撃型原潜として最強の《シーウルフ》級に乗っているからである。

探知したらさっさと逃げろと言われても、おいそれと従うつもりはなかった。

命令違反を覚悟で、探知したら戦うつもりだった。

因みに《シーウルフ》艦長の名はサースガード大佐。《コネチカット》艦長はミラー大佐、

そして《ジミー・カーター》艦長はノーマン大佐である。

考えてみると、ジミー・カーター大統領は哀れな大統領である。

ほかの大統領はみな原子力空母名として付けられているのに対し、彼だけは潜水艦だ。

カーターは人権外交や親中外交など、またCIAの規模削減による情報収集能力の低下や、急速な軍縮を進めたことによる軍事プレゼンスの低下などがきっかけになり、イラン革命やその後のイランアメリカ大使館人質事件及び人質救出作戦『イーグルクロー作戦』の失敗、アフガニスタン紛争を許したことなどから、共和党などから『弱腰外交の推進者』と言われたほどレームダックだった。

大統領を辞めた後も、どこぞの愚か者と同じく自称『平和の使者』として世界中を回ったハト派であり、また『史上最低の大統領』として名を残した。

これが軍部などの癇に触ったことになり、皮肉を込めて付けられたのだと思われる。

 

6月23日 時刻2000時。

各《シーウルフ》級3隻は、開距離50マイルを取り、哨戒海域を旋回しながらソナー員が耳を立てていた。

各艦長たちは、熟練ソナー員たちの耳があれば、必ずや敵潜を探知できるはずだと確信していた。

これまでロサンゼルス級がやられたのは、こちらの静粛性も劣っていたかもしれない。

要するにソナー員たちが未熟だったためだと考えた。

実はそうではなかったのだが、強力な原潜に乗っていると言う自覚が、自己過信に変わっていた。または赤城がよく口にする『慢心』であり、連邦軍がよく犯した罪でもある。

これは人間の本性として、無理もない。

往々にして人間と言うものは自分で体験しない限り、真実を発見しないものである。

 

これも偶然にも太平洋戦争前夜、中国戦線においてこれまでにない強力な日本戦闘機が米軍機はまったく歯が立たなかったと言う報告を、当時の武漢《ウーハン》にいた対日作戦の指揮を執り援蒋ルートの確保に当たった米陸軍のジョーゼフ・スティルウェル中将の幕僚が本国に送ったが、本国は誰ひとりもこの報告を全く信じなかった。

猿真似しかできない日本人が、そんな高性能な戦闘機を作れるはずがないと言う思い込みがあった。

この上層部たちの過信、そのツケは真珠湾奇襲攻撃において、零戦に痛い目に遭う。

ハワイに駐機していたP-40《ウォーホーク》やF2A《バッファロー》戦闘機のパイロットたちにも払われた。

運よく迎撃に空に舞い上がっても、零戦隊の餌食となる一方だった。

米軍は衝撃と伴い、現実から目が覚めた。

この恐るべき戦闘機……零戦を《ゼロ・ファイター》または《ジーク》と名付けられた。

なお戦争中期まで零戦に悩まされることになったのだ。

つまり、思い込みが激しいと危険なのである。

いま太平洋の海中でも同じく、それに似たことが起こっていたのだ。

 

各3隻の《シーウルフ》級原潜のソナー員は、必死になって聞き耳を立てていたが……

聞き慣れた海中の物音のほかには何も聞こえない。

しかし《コネチカット》のソナー員が奇妙な物音……何物かがため息をつくようなノイズを捉えて司令部に報告したが、ミラー大佐はクジラか何かの海洋生物の立てる音だろうと判断した。

日本潜水艦も原潜だということだが、原潜である以上、はっきりとしたノイズが聞こえる。

それをミスするなどあり得ないと考えていた。

 

しかし、それは海洋生物ではなかった。

これは《海龍》部隊の1隻……第4戦隊の《海龍》の放つノイズだった。

30分前に《コネチカット》の立てるノイズを探知して忍び寄ったのである。

 

2025時

突然《コネチカット》のソナー員は、悲鳴に似た声を上げた。

 

「魚雷発射管の開く音が聞こえます。敵潜です!」

 

ミラー大佐は一瞬驚愕したが、ベテラン艦長であるため、すぐに立ち直った。

 

「敵潜の位置はどこだ?」

 

「本艦の真後ろです」

 

「全速、急速回頭、スナイプショットで二発発射!」

 

《コネチカット》は38ノットに速力を上げながら、急速旋回し、旋回し終わる寸前に魚雷を2発発射した。

スナイプショットは標的を正確に探知する時間がない、いわば当てずっぽうである。

しかし当たらないとは限らない、ともかく敵潜を脅かすための緊急処置でもある。

 

「敵魚雷二本迫ります、雷速60ノット!」

 

ソナー員が報告した。

これは《海龍》が放ったホーミング魚雷で、すでにセンサーには《コネチカット》のノイズをキャッチしていた。

同じく《海龍》では敵潜が回頭して魚雷発射を知り、艦長もまた急速回頭を命じ、デコイ放出準備を命じた。

 

ミラー大佐は180度への変針を命じ、何とか迫ってくる敵魚雷を逸らそうとした。

しかし、音響と熱源を兼ね備えたホーミング機能を持った日本魚雷を躱すことはできなかった。

 

「デコイ放出」

 

大量のデコイが放出されたが、魚雷は惑わされることなく《コネチカット》に2本とも命中した。

この時、深度200メートルだから堪らない。

裂けた艦殻に凄まじい水圧が掛かり、《コネチカット》の1万近い巨体はズタズタに引き裂かれ、艦長も含め全乗組員は水圧に叩き込まれて即死した。

その仇を取ろうとした《コネチカット》の魚雷は空しく、《海龍》は楽々と回避した。

元よりあさっての方向へと発射されたのだから無理もない。

 

海中では音が遠くまで聞こえる。

《コネチカット》の爆発音は、日米双方の潜水艦にキャッチされ、互いに味方艦が敵艦を沈めたものと考えていた。

 

《シーウルフ》と《ジミー・カーター》は勇躍して、さらに前進した。

しかし、このノイズはやはり《海龍》2隻にいち早く探知され、距離を縮めた。

20分後には《コネチカット》と同じように2隻の米潜水艦のソナー員は、正体不明のノイズを探知したが、やはり戦死したミラー大佐と同じように敵潜ではないだろうと慢心したのである。

その間にも《海龍》はなおも接近、距離200メートルの近距離からそれぞれ雷撃した。

米潜水艦が、《海龍》の魚雷発射管を開く音に気づいたときには遅かった。

逃げるどころか、反撃するチャンスも失われたのである。

《コネチカット》の後を追うように、《シーウルフ》と《ジミー・カーター》も同じように撃沈され、海底へと沈んで行った。

 

キンケイド司令官は、各潜水艦3隻から定時連絡が途絶えたので、トラブルが遭ったか、もしくは敵潜か艦娘たちに撃沈されたのではないかと悟ったが……にわかに信じられなかった。

 

「水中排水量1万トン近く、最大速力38ノットを達する米海軍最強を誇る攻撃型原潜がこうも易々と沈められるとは……」

 

しかも依然として敵潜の位置は分からないので、核爆雷を搭載して待機状態の《ヴァイキング》の出しようもない。

 

翌朝……夜明けとともにE-3A《セントリー》が再び飛び立ち、日本艦隊の位置を確認した。

彼らは、味方任務群から500マイルの距離まで迫っている。

キンケイドは、オアフ空軍司令部にB-1B《ランサー》の出撃を要請した。

これを受けた《バンザイ・ボム》を搭載したB-1Bが5機飛び立った。

この特殊任務部隊は、高高度から《バンザイ・ボム》ことEMP爆弾を敵艦隊上空にお見舞いすることになっていた。

この爆弾は気圧感知式スイッチを持ち、高度500メートルで爆発することになっている。

この高度での電磁パルスが、もっとも有効的だと実験結果で確かめられた。

 

5機のB-1B《ランサー》特殊任務部隊は、キンケイド大将の期待を担って北西に向かった。

この《バンザイ・ボム》が炸裂して、敵空母戦闘群のコンピューターが全てブラックアウトした後に、全軍で攻撃を開始する。

しかし、キンケイド大将には不安予想がひとつだけあった。

 

果たして未来人が作ったらしい無人空母に、我が軍のEMP爆弾は有効なのだろうかと……




今回は潜水艦同士の戦いでしたが、日本の完全勝利へと終わりました。
今日は本編では触れていませんが給糧艦『間宮』の戦没日であり、そして私の大好きな古鷹たち第六戦隊は、青葉を残して呉鎮守府籍から除籍された日でもあります。
給糧艦『間宮』と第六戦隊と、そして多くの英霊の方々、心からお祈りします。
私がこの作品を書くきっかけを教えてくれたのは古鷹たち第六戦隊であり、とても特別な想いもありますゆえにですね。

灰田「あなたの信念は壊れることはありませんから大丈夫ですよ」

秀真「俺もいるぞ、兄弟」

郡司「僕もいるぞ、同志」

古鷹「私もお手伝いします」

加古「あたしもいるぞ、提督」

青葉「青葉もお手伝いします」

衣笠「衣笠さんもいるからねぇ!」

神通「私も提督と古鷹さんたちを護る覚悟はいつでもあります」

ありがとう。みんな。

彼女たちのために黙祷であります。
この戦いもまだまだ続きますが、第四章も同じく気を引き締めます。
とは言いますが、あと2話で第三章が終わります。
気がついてみましたが、この海戦後に第四章であります。

灰田「では今日はこの日は大切な日なので、これにて失礼いたします。
次回は刻々と迫る《バンザイ・ボム》を搭載したB-1B特殊任務部隊に対し、日本空母戦闘群と潜水艦部隊がどのようにこの危機を乗り越えるかと言う話になります。
またあと2話で第三章が終わりますが、最後まで楽しんでください。
……それでは第九十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・郡司・古鷹一同『ダスビダーニャ』

神通「ダスビダーニャ

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第九十七話:ハワイ攻略海戦 中編

お待たせしました。
では予告通り、刻々と迫る《バンザイ・ボム》を搭載したB-1B特殊任務部隊に対し、日本空母戦闘群と潜水艦部隊がどのようにこの危機を乗り越えるかという展開を迎えます。

灰田「果たして米軍に勝利が微笑むか、それとも日本の圧倒的な勝利に終わるかは本編を読んでからのお楽しみです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本艦隊では、こんごう型護衛艦《こんごう》に搭載している三次元レーダーが、高度1万2000メートルで接近する5機の重爆らしき機体を探知した。

空母《アカギ》のCICでは、鬼頭司令官が《マザー》からの伝達を待った。

これは次に《マザー》がどう行動するか、人間側に知らせてくるのである。

それが攻撃フォーメーションのデーターとなって、人間側のCICの戦術処理スクリーンに現われる。

敵機が接近した時は、F/A-18E《スーパーホーネット》か、F-14《トムキャット》の順番で出すことを知らせてくれる。それは1機ずつが出る時刻まで、秒単位で知らせてくれるのである。

 

しかし不思議なことに《マザー》は、今は沈黙している。

たまりかねた鬼頭は部下に命じて、彼女に連絡した。

 

「重爆らしきものが接近して来たぞ。これらを撃墜する必要はないのかね?」

 

『放っておきなさい。彼らは無駄な努力をしに来たのです』

 

合成された《マザー》の柔らかい声が、スクリーンに取り付けられたスピーカーから流れてきた。

 

『彼らは特殊任務部隊、おそらくEMP爆弾を投下するつもりでしょう。

その電磁パルスが強力であるならば、これから一時ブラックアウトしますが、これは全システムのチェックのためで、再起動には10秒も掛かりません。

なお動力については全く影響がありませんから、ご心配なく』

 

「分かった」

 

鬼頭としては、こう答えるしかなかった。

この旨を全軍に伝達した、もっとも各空母の人工脳は自律的に通信し合っているので、人間がわざわざ知らせることもないのだが。

 

「敵機、我が軍の上空に散開しました」

 

レーダー区画担当員が報告する。

鬼頭は《マザー》を信頼するしかないと分かっていても、手に冷たい汗がにじむことが避けられなかった。

もしも彼女の推測が間違っていて、戦術核爆弾でも投下されたら、全艦隊が蒸発する。

 

「敵機、爆弾を投下しました」

 

担当員が報告した。

この時の日本空母戦闘群の態勢は、第1、第2、第3、第4空母戦闘群の順に開距離に30キロで縦列をつくっている。

 

鬼頭は戦術処理スクリーンをじっと見つめていた。

おそらく各艦の艦長や全乗組員たちも不安な気持ちで、いても立ってもいられないだろう。

もしかして《マザー》は、わざと我々の忍耐力を試しているのだろうか。

彼女はバイオチップで構成された自己演繹機能を持つハイパー・コンピューターで、豊かな感情を持っている。

また現代の地球、人類について大量の知識を持っている。

なお古鷹たち全艦娘の知識に関しても心得ている。

暇なときは鬼頭とチャット(お喋り)することもあれば、ゲームなどをしている。

しかし鬼頭がいかにカマを掛けても、灰田がやって来た未来世界については一切答えなかった。

おそらく教えれば、あまりの格差に現代の日本人が絶望してしまう。

その危険を避けるために決して教えないように、プログラムされているのかもしれない。

 

その時、艦隊上空では爆弾が炸裂した轟音が微かに聞こえ、同時にスクリーンがブラックアウトした。

しかし《マザー》の言ったとおり、照明はそのままで、艦の動力源であるスターリング・エンジンも止まっていないようだった。

鬼頭は壁に掛けられていたクロノグラムを見つめた。

秒針はゆっくりと動いている。

電子時計ではなく機械式なので、電磁パルスの影響は受けない。

きっかり10秒経ったとき、スクリーンが復活した。

 

『全システムをリチェックしました。全艦異常なしです』

 

鬼頭は思わず、ふうとため息をついた。

この時にB-1B《ランサー》が投下したのが、10ギワットものの電磁パルスを発生するEMP爆弾だと知っていたら、とても平静ではいられなかっただろう。

《マザー》はわざと情報を伏せた、そこにも人間らしさが現われていた。

 

B-1B特殊任務部隊指揮官・クリフォード中佐は、敵ミサイルや戦闘機も迎撃に上がって来ないことに不審に伴い、不安を覚えた。

敵は我々の任務を見抜き、それが果たされるのを待っているかのように思えた。

このとき全護衛艦も、EMP爆弾が500メートル上空で炸裂したとき、ほんの一瞬、強烈な電磁パルスを感じて全システムが乱れたが、すぐに復旧した。

核爆発の際にも同様な現象が起きるので、各艦も自動復旧バックアップ・システムを備えている。

《マザー》は、核爆発エネルギーを吸収転送した時と同じシステムを使い、電磁パルスの発生とともにそれを転送フィールドを作り出すことによって、別次元に転送してしまったのである。

 

「任務完了、これより帰投する」

 

クリフォード中佐は基地に連絡、翼をひるがえした。

B-1B自体も投下したEMP爆弾の電磁パルスにやられないように、全ての電子システムに自動復旧バックアップ・システムをあらかじめ組み込んでいた。

だから墜落する心配はなかったのだが、敵が全く反撃してこなかったことが、基地に帰投するまで異様な不安だけが残っていた。

 

 

 

キンケイド大将は3時間ほど待ってから、オアフ空軍基地に再びE-3A《セントリー》を飛ばすように命じた。

計算通り、敵艦隊のコンピューターがダメージを受けたのであれば、戦闘を諦めて引き返す可能性が高い。

それどころか、操縦不能となって、漂流しているのかもしれない。

しかし、早期警戒機が送って寄こした報告は予想外のものだった。

 

“敵艦隊は依然として前進中、速力25ノット。陣形に乱れなし。我が軍の《バンザイ・ボム》によるダメージを受けた様子は見られず”

 

「何と言うことだ、こんなことが信じられるのか!?」

 

キンケイドはやるかたなく幕僚たちに訴えた。

 

「10ギワットの電磁パルスを合わせて5発、全て50ギワットも発生してやったんだぞ。ダメージを受けて当然だ。特に敵イージス艦のイージス・システムがやられていないはずがない。

それが整然と前進しているだと? ……いったいどうなっとるのだ」

 

「本職には分かりません」

 

訴えられた幕僚長・サンズ大佐は、そう答えるしかなかった。

 

「しかし、それだけの電磁パルスを発生させたのなら、これだけ離れていても我が軍の方も干渉を受けるはずなので、バックアップ・システムを完全にさせておいたのですが……干渉を受けたと言う報告が来ません。

B-1B特殊任務部隊からの報告では、確かにEMP爆弾を投下したとのことですが、この現実と矛盾しています」

 

「……奴らはまたあれをやった。核攻撃のときと同様に、電磁パルスも消してしまいやがったのだ」

 

キンケイドの目が狂人じみていた。

 

「くそっ、なんて奴らだ。艦娘たちだけでなく、深海棲艦のような化け物じみた日本と戦わなければならないのだ!」

 

「ご心配なく、司令官。我が軍にはVTミサイルの備えがありますから」

 

サンズ大佐はそう言ったが、果たしてこれが有効なのかどうか俄かに信じがたくなった。

 

敵は25ノットの速力でほぼ真東に進み、米軍も同じ速力で西に進んでいる。

1200時頃には、距離300マイルに接近した。

キンケイドはこの時点で攻撃隊を発艦させることにした、敵も同じような考えをしていると考えていた。

この時の米空母は《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》《ハリー・S・トルーマン》《ジョージ・H・W・ブッシュ》で1個群をなし、残りが別の任務群を構成して、その背後を進んでいた。

前者は第88任務群と、後者は第89任務群と呼ばれた。

ふたつの任務群の開距離は100マイルで、後者は前者のバックアップの性格を持っていたが、キンケイドは全空母の航空団を全機出撃することにした。

これはかつて運命の分け目と言われた海戦……ミッドウェー海戦におけるスプールアンス中将と同じ決断である。

太平洋戦争初期、ミッドウェー島を巡ってめぐって日本機動部隊と米機動部隊が激突した。

しかし日本海軍は絶対的優位になっており、さらに連勝をしていたため慢心していた。

普通ならば『勝って兜の緒を締めよ』と言うことを心掛けるべきだった。

その一方、米軍は必死だった。

スプールアンスは全攻撃隊をぶつけることで、乾坤一擲の勝負を賭けていた。

言わば危険な賭けであり、失敗すれば全てが水の泡と化す作戦でもあった。

しかも米軍パイロットたちの技量の拙劣が返って巧まざる時間差攻撃となり、奇襲攻撃が成功した。

 

艦載機の兵装換装さえなければ、日本海軍の勝算はあった。

これを全て台無しにしたのは南雲中将と、源田実大佐である。

今でもあの激戦を生き残ったパイロットたちはこの両者のせいだと唱えている。

特に前者は水雷戦隊出身者で航空機のいろは知らず、後者は人命軽視であり、戦闘機不要論である。この愚将に空母機動艦隊指揮官や参謀長を任せたことが大間違いである。

幾度も言うように小沢冶三郎か、山口多門中将に任せていればミッドウェー海戦はまた違った形で勝利していた可能性も高い。

元より年功序列や大艦巨砲主義などから抜け出されなかった上層部の責任は重い。

信賞神罰に厳しく、適材適所を取り込んだ英米海軍と同じようにしていれば良かった。

つまり日本海軍の落ち度、古い体質から抜け出せなかったせいでもある。

現状に戻る。

 

キンケイドは、ミッドウェー作戦のことは当然知っている。

スプールアンスの戦略を倣ったと言うわけではないが、ともかく敵機の兵装を使わせて消耗戦に持ち込むつもりだった。

攻撃機の機数は圧倒的にこちらが優位なので、敵に攻撃を使わせた後は空母で攻撃させる。

キンケイドは、全空母に搭載されている《スーパーホーネット》を全機発艦せよと命じた。

そのあと、艦隊防空用に《ライトニングⅡ》を上げよと命じた。

全米空母は慌ただしく発艦準備に取り掛かった。

こちらは人間が行なうので、どうしても時間が掛かってしまう。

何故かと言えば、人間はどうしてもミスをしてしまうことは当たり前である。

所謂『ヒューマン・エラー』だ。

細かな事故が起きてしまい、これらが全て重なってしまいスケジュールがずれてしまう。

全世界の空母の中でも、熟練度が高い米空母でも例外ではなかった。

それでも第88任務群の《スーパーホーネット》が発艦し始めた。

それぞれ36機も搭載しているのだから、3個空母群から発艦するのだから全機合わせて108機である。

これは通常戦闘では圧倒的戦力であり、もし小国の都市攻撃または重要拠点の空爆ならば、全都市破壊することはもちろん、敵軍の重要拠点も跡形もなく破壊することは容易い。

これらの《スーパーホーネット》の両翼下には空対空ミサイルに伴い、対艦ミサイルを各2発ずつ搭載している。

その時、旗艦《セオドア・ルーズベルト》の南方にいた《ジョージ・ワシントン》がいきなり右舷から水柱を噴き上げたのである。

 

敵潜に雷撃されたのは明らかだ。

しかも2本の水柱が立ちあがり、敵魚雷2本とも命中したと言うことである。

キンケイドはCICにいたが、この第一報告を受けて艦橋に駆け上がった。

すると信じられない光景が、双眼鏡の視野から見える。

8万トンの空母《ジョージ・ワシントン》が黒煙を噴き上げ、明らかに右舷に傾きつつある。

繋止されている対潜ヘリや対潜哨戒機がずり落ち始めているのが見えた。

飛行甲板上は甲板員たちが駆けずり回っており、各場所に発生し始めた火災に対して消火活動をしているのだと思われる。

第88任務群は中核に空母を置き、周囲を24隻の護衛艦で固めた。

護衛艦は《タイコンデロガ》級ミサイル巡洋艦を筆頭に、お馴染み《アーレイ・バーク》級ミサイル駆逐艦であり、その多くはイージス艦である。

また双方と同じく対潜能力に特化した駆逐艦もいる。

さらに艦隊周辺の上空には、対潜ヘリと対潜哨戒機《ヴァイキング》が飛び回って哨戒任務を行なっているので、敵潜は絶対に近づかないはずだった。

 

しかし、決して起こりえない事態が起きたのだ。

 

むろんこれは《海龍》の仕業である。

完全水中ステルス機能を持った《海龍》は、米軍が有するいかなる潜水艦探知システムを潜り抜けてしまう。

《海龍》第4戦隊のうち1隻が護衛網の間から一瞬だけ潜望鏡深度まで上がって目標推測し、前部発射管から4本発射した。

そのうち2本が《ジョージ・ワシントン》に命中したのだった。

発射し終えた《海龍》は、すぐさま深度500メートルまで潜航したのだった。

そうとも知らずに《ジョージ・ワシントン》の周囲を旋回し始めた《ヴァイキング》や対潜ヘリは復讐と言わんばかりに航空爆雷を投下したが、無駄骨としかならなかった。

ともかく、敵潜が近づかないように牽制するためにも必要だった。

なお《ヴァイキング》は核爆雷を持っていたが、それをここで使うわけにはいかない。

キロトン級の核爆発は、味方艦隊にも被害を及ばすからだ。

 

キンケイドは《ジョージ・ワシントン》に被害状況を問い合わせた。

 

“右舷の浸水はなはだし、目下全力で排水中なるも注水を免れぬ見込み。

艦内四区画で火災発生、これを消火中。ただし機関部にダメージなし!“

 

以上の報告が返ってきた。

キンケイドは《ジョージ・ワシントン》艦長・マクドナルド大佐ならば、この危機を切り抜けるだろうと思った。

マクドナルド大佐は、冷静無比でタフなネイビーであるから安心できる。

 

キンケイドは、さらに全艦隊に伝達した。

 

“探知不能な敵潜が潜入しつつあり、各艦とも警戒を厳重にせよ”

 

その瞬間、《セオドア・ルーズベルト》もまた衝撃が襲い掛かった。

 

「まさか!?」

 

「左舷2本、魚雷命中しました!」

 

キンケイドは艦橋にいたので、報告を受けなくとも左舷中央に立ちのぼる巨大な水柱を目撃することができた。

空母に乗っていて…… いや、いかなる艦船に乗っていても見たくないものだ。

 

現代の潜水艦が装備している魚雷は、昔とは比較にならないほど強力になっている。

第7艦隊旗艦《ロナルド・レーガン》も連邦潜水艦《キロ》級にやられた挙げ句、深海潜水艦部隊に止めを刺された。

空母にとって潜水艦が天敵なのは、当然浸水すると艦は傾き、飛行甲板の傾斜が生じて艦載機の運用が不可能になるからである。

米海軍のように艦載機を飛行甲板に出していると、最悪の場合は全機喪失になる。

排水が出来なければ、飛行甲板を平行にするためには注水する必要がある。

艦は重量増加に伴い、従来の速力が低下し、より敵襲に晒されやすくなると言う悪循環に陥ってしまう。

これは今も昔も空母の共通点でもある。

 

「タービン損傷、二軸運転となり速力が落ちます!」

 

機関長から報告してきた。

 

「格納庫から火災発生!」

 

「すぐに消せ!」

 

副長の報告に、キンケイドは怒鳴った。

 

「注水もせんぞ。破孔を塞いでから全て排水するのだ!」

 

しかし、これは言うは容易く行なうは難しい命令である。

旗艦《セオドア・ルーズベルト》は三軸運転から二軸運転とはいえ、まだ25ノットの速力で走っている。

このため破孔に掛かる水圧は凄まじく、流れ込む水量も巨大である。

破孔そのものが巨大なので、これを塞ぐのは至難の業だ。

浸水した区画をロックしてこの作業に時間も掛かり、そして極めて危険な作業だ。

 

「くそっ! 敵潜はいったい何処から侵入して来たのだ。対潜部隊は何をやっとるのだ!」

 

命令を出した後、キンケイドは毒づいた。

しかし、これは対潜部隊を責める方が間違っている。

完全ステルス機能に伴い、静粛性の極めて高い《海龍》を探知することは不可能である。

まるで幽霊を……そう、彼らが相手にしている《海龍》部隊はゴーストそのものだ。

ともあれ米軍では、合計200機を超える《スーパーホーネット》がすでに発艦した。

全機は日本空母戦闘群に向かっていた。

その速力はマッハ2に近く、300マイルの距離などひと飛びである。

 

 

 

日本空母戦闘群でも《スーパーホーネット》と《トムキャット》全機発艦させ、前者は敵艦に向かい、後者は前進して防空態勢に入った。

発艦した《スーパーホーネット》は、中型無人空母《飛鳥》も含めて180機である。

ほかに《プラウラー》《ヴァイキング》に、対潜ヘリも出していた。

これには半ば空中退避の意味合いもあり、敵機の攻撃に備えて飛行甲板を空けておく必要がある。

もっとも、鬼頭海将は飛行甲板が損傷することは心配していなかった。

未来素材で造られた飛行甲板は、敵ミサイルの爆発エネルギーを吸収転送する。

事実上《アカギ》《カガ》《ソウリュウ》《ヒリュウ》《飛鳥》は、不沈空母だ。

 

しかし、太平洋戦争時の空母ほど脆弱なものはなかった。

特に飛行甲板に航空機を出している際に、攻撃されるとどうにもならない。

爆弾を喰らっただけでも誘爆が始まり、取り返しのつかない事態となる。

欧米ではこの状態の空母を“卵を詰めた籠”と表現するほどである。

ミッドウェー海戦でも全艦とも、このためにやられた。

ただしその条件を作ったのは南雲と源田実が原因であり、両者の慢心のために敗北したのは言うまでもない。

しかし、灰田が建造した空母《アカギ》《カガ》《ソウリュウ》《ヒリュウ》《飛鳥》の5隻はその限りではない。

 

日米の《スーパーホーネット》部隊は空中ですれ違ったが、相対的に高速のため、各指揮官たちが目撃したのは、ほんの一瞬である。

しかし日本軍指揮官《アカギ》所属《スーパーホーネット》隊長・新堂一佐だったが……あまりの敵兵力にさすがに戦慄した。

味方空母の抗堪性の高さはよく知っているが、なにしろ敵機は200機以上だ。

不測の事態が起きるとは限らない……




ここでもやはり灰田さんの超兵器の勝利になりました。
原作では《マザー》は鬼頭司令官に説明して喋っていますが、漫画版ではこのシーンは省かれて、ただ沈黙しているのみです。
敢えて、心理戦でもさせようとしたのかもしれませんけどね。

灰田「私の手に掛かれば、このくらいは容易いですが」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
別作品『超日中大戦』でもキティホーク級空母《赤城》《加賀》《翔鶴》《瑞鶴》も同じく改キティホーク級空母、パイロットたちも熟練操縦士、クローン兵が操縦したり、そして米軍の艦載機攻撃も謎の光源体がミサイル攻撃を防いでいましたからね。

灰田「まあ、そうなりますね」

気がつけば次回で第三章が終わり、第四章に突入です。
原作で言えば、最終巻に突入ですね。
以前に申しあげたようにオリジナル展開が多くなることもあります。
次回ですが今週に投稿できるかどうかは分かりませんが、間に合うように頑張ります。

灰田「なお次回は航空戦に伴い、この空母戦闘群同士の戦いの最終決戦にもなります。
そしてアメリカにも少しだけですが、新たな動きもありますので最後まで楽しんでください。……それでは第九十七話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第九十八話:ハワイ攻略海戦 後編

С Новым годом!(あけましておめでとうございます)。
今年もよろしくお願いします。
昨年同様、今年も新年早々ですが、最新話を投稿することにしました。

灰田「では新年の挨拶がは終わりますが、前回予告した通り航空戦に伴い、この空母戦闘群同士の戦いの最終決戦にもなります。そしてアメリカにも少しだけですが、新たな動きもありますので最後まで楽しんでください……」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本軍の《トムキャット》が待ち構える最中、米軍の《スーパーホーネット》部隊が突入した。

まず《トムキャット》はAIM-120A中距離空対空ミサイル4発を持ち、これが使い果たされればM61A1 20mmガトリング砲で戦うしかない。

しかも兵力差は、相手が圧倒的優位である。

敵は200機に対して、こちらは70機あまりである。

米軍の《スーパーホーネット》の大群に、たちまち日本軍の《トムキャット》部隊は飲み込まれた。

 

高度6000メートルの空戦がここに始まった。

空戦と言っても、第二次世界大戦のようなレシプロ戦闘機が行なうようなドッグファイトにはなり得ない。

両機は互いにマッハ2前後のスピードなので、見えたと思った瞬間にすれ違ってしまう。

したがってレーダーでロックオン次第、遠方からミサイルを発射せざるを得ない。

現代のミサイルを躱す方法としてはチャフを使うしかない。

漫画やゲームのように敵ミサイルを躱すことは不可能である。

 

米軍の《スーパーホーネット》の放った空対空ミサイルの数は400発。

これらが全て《トムキャット》に向かい、さしもの無人機もこの大量のミサイルの前からは逃れることはできないかに見えたが……

しかし、そのスーパー・アクロバック飛行は健在していた。

ミサイルをギリギリまで引き付けておいて、90度で急ターンする。

文字通り、直角に曲がっている。

これは機体自体が頑丈で、補助翼も可変角・フラップがよく利き、なおかつ数箇所に補助推力ノズルがあり、メインノズルも角度が可変になっているから出来る神業である。

突然、目の前にいた目標が消えてしまったミサイルは熱源探知機能がそこで断たれてしまい、ほかの熱源を探して直進するしかない。

 

これまでは上手くいった。

しかし、今度はだいぶ様子が違っていた。

米軍機が撃ち放ったミサイルは《トムキャット》が急旋回する直前に爆発したのだ。

命中せずとも接近しただけで爆発する。

このタイミングが有効なのは、ほんの数コンマ1秒の時間である。

目標とミサイルを合わせてマッハ5以上のスピードですれ違うからである。

連邦と共同開発したVTミサイルの発想は、ある意味ではミサイル本来の意味から外れるが、極度にハイテク化された無人ステルス機の弱点をついた。

無人機を操作する人工脳は、ギリギリまで敵ミサイルを引き付けておいてから、回避するように自己プログラムしていたからである。

そのため、たちまち20機の《トムキャット》が餌食となった。

しかし、人工脳《スーパーコンピューター》の学習能力は速かった。

何が起こったのか理解すると、限界までVTミサイルを引き付けるのを止めて早めに急回避した。

ミサイルが熱源を求めて旋回しているところを20mmガトリング砲で破壊した。

これにより、せっかく苦労して共同開発したVTミサイルも20機の敵機を撃墜しただけで終わってしまった。

 

《トムキャット》部隊がVTミサイル処置に手間取っている隙に、この極僅かな時間を利用して、防衛線を突破した米軍《スーパーホーネット》部隊が、日本空母上空に殺到した。

各護衛艦も搭載しているRIM-161《スタンダード・ミサイル》とRIW-7《シースパロー》がこれらを発射して敵機を迎撃する。

撃墜される《スーパーホーネット》が続出したが、なにしろ200機以上もいる。

旗艦《アカギ》を含む正規空母4隻を目標に、米軍機のAGM-84《ハープーン》が少なくとも20発以上は発射され、飛行甲板を目掛けて殺到した。

これを目撃した《スーパーホーネット》部隊指揮官・ホーガン中佐は『もらった!』と思った。

 

敵空母は高速で回避運動を続けているが、少なくとも各艦に3発ずつ命中した。

しかし、ホーガンの期待した炸裂炎は上がらなかった。

いや、一瞬オレンジ色の炎が見えたが、次の瞬間、魔法のように消えてしまったのである。

飛行甲板は無事で、何事もなかったかのように敵空母は疾駆している。

この出来事はホーガンの理解を、元より混乱させた。

3発の《ハープーン》対艦ミサイルが全て不発などあり得ない、しかし現実に起きていることだから否定しようがない。

ホーガンは高度を下げて確認しようとしたが、これが命取りとなった。

護衛艦が発射した《シースパロー》のセンサーに捕らえられた機体は逃れる術はなかった。

ホーガンは後部座席にいたパイロットと、火達磨の機体とともに戦死した。

さらに運動性能をリ・プログラミングしたF-14《トムキャット》部隊が襲い掛かり、機体下部に搭載した対空対ミサイルが《スーパーホーネット》部隊を背後から襲った。

《トムキャット》のような変幻自在の飛行能力を持たない《スーパーホーネット》には、これを躱すことは不可能である。

敵護衛艦からの攻撃とともに、50機が撃ち落されたのを見た《スーパーホーネット》部隊は全機反転し、退避を始めた。

パイロットたちは、AGM-84《ハープーン》が飛行甲板に命中しても損傷がないことを見て、意気阻喪をしてしまったのである。

退避する間も《トムキャット》部隊の追撃は続いた。

ミサイルを使い果たし、固定兵装の20mmガトリング砲で機銃掃射した。

これにより、捕捉された20機の《スーパーホーネット》が撃ち落された。

キンケイドが多大な期待を持って送り出したVTミサイルを装備した《スーパーホーネット》部隊は、脅威の《トムキャット》部隊に対して、ほんの一瞬という勝利をあげただけで終わってしまったのだった。

 

 

 

日本《スーパーホーネット》部隊は、米海軍が制式採用した最新鋭ステルス艦載機F-35C《ライトニングⅡ》が待ち構える空域に突入した。

日本の《スーパーホーネット》は単座型のF/A-18Eだが、日本機の場合は無人機だから身軽であり、その上に非線形飛行も可能となっている。

この驚異な運動性能によって、敵の空対空ミサイルを回避する。

米軍の《ライトニングⅡ》は、高速で突っ込みミサイルをぶっ放したが、信じがたいアクロバット飛行でことごとく躱されてしまったのだ。

なにしろ、いきなり直角にどの方向にも曲がるのである。

多くの《ライトニング》部隊のパイロットたちは『こんなジェット機は見たことない』と、口をあんぐりと開けてしまった。

しかし、この《ライトニングⅡ》部隊にも例のVTミサイルを装備していた。

通常型の空対空ミサイルの効果がないと見て、これを発射した。

戦果はそれなりにあり、数機がこのVTミサイルの餌食となった。

しかし、数機が撃墜された時点で敵も学習したらしく、その手は効かなくなった。

遠方でミサイルを躱してから、旋回して来るところを20mmガトリング砲で破壊する戦術に切り替えた。

《ライトニングⅡ》がミサイルを使い果すと、今度は《スーパーホーネット》部隊の逆襲が始まった。

敵機のような驚異なアクロバット飛行を持たない《ライトニングⅡ》は逃げ切れず撃墜される機が続出した。

 

この間に50機の《スーパーホーネット》が、まず第88任務群上空に到着した。

空母2隻が黒煙を噴き上げているのを人工脳の全天候センサーがしっかり見届けた。

この2隻に対して集中攻撃をせよと、全機に伝達した。

自己プログラミングを持つ無人機は、プログラムに従い、彼らはAGM-84《ハープーン》対艦ミサイルをこの2隻に対して発射した。

 

《ジョージ・ワシントン》は未だに消火活動が続いており、さらに兵器庫まで火が及ぶと言う危険が迫っていた。

艦長はやむを得ず、艦の速力を20ノットに落としていた。

速く走っていると、炎が煽られ消化しにくいからである。

むろん兵器庫には自動消火装置を備えているが、万が一と言うこともある。

浸水はほぼ止まり、傾斜は復旧していた。

護衛艦を始め、空母自身が装備している対空兵器が猛烈に撃っているが、例の《スーパーホーネット》は非線形飛行でそれを躱し、ミサイルを発射したのである。

 

《セオドア・ルーズベルト》の方は、事態が深刻でまだ浸水が止まらず、続けざまに防水区画が破れて、寧ろ傾斜が深まった。

こちらも止むを得ず、速力を落とさらざるを得なかった。

その時、2発の《ハ―プーン》対艦ミサイルが飛んできたから堪らない。

ミサイルは、飛行甲板を突き抜けて格納庫で大爆発を起こして、その瞬間《セオドア・ルーズベルト》は完全に空母機能を喪失してしまった。

同じく《ジョージ・ワシントン》も2発も喰らったが、そのうち1発が艦橋に直撃した。

艦長・マクドナルド大佐もこの時、艦橋に上がっていたので不運にも彼の肉体は艦橋もろとも吹き飛んでしまった。

艦橋には無数のアンテナが林立しており、多様な用途もあり、レーダーもある。

CICは艦内にあるから戦闘能力は失われていないものの、通信手段が失われ、事実上《ジョージ・ワシントン》は耳目を喪失してしまった。

1発は飛行甲板を貫通し、格納庫内部で爆発した。

どうも日本軍の対艦ミサイルは、異様なほど高い貫通能力を持っている。

新たに火災が生じた《ジョージ・ワシントン》は手が付けられない混乱状態となった。

攻撃を終えた日本機は、風のごとく姿を消した。

その進退すら人間離れして鮮やかだった。コンピューターが操縦しているのだから当然と言えば当然だった。

 

 

 

第一次攻撃隊が帰投した後、両軍司令部では戦況を整理した。

鬼頭海将は、まずまずの戦果を挙げたと報告した。

例の《スーパーホーネット》部隊の報告では、空母2隻にダメージを与え、空母機能を喪失させた。

喪失した味方空母は皆無だが、例のVTミサイルのため《トムキャット》20機と《スーパーホーネット》5機は撃墜されたが、戦力は未だに健在である。

充分に第二次攻撃隊を編成できる。

 

しかし、敵にはまだ健在な2隻の空母が残っている。

このまま退避するとは、考えられない。

《マザー》の分析によると、敵は機体に接近しただけで炸裂するVTミサイル《バーチャル・タイミング・ミサイル》を発明したと告げた。

これは太平洋戦争当時のVT信管と同じ発想だが、接近と炸裂は遥かに速いスピードで行なわれ、弾頭の破片が高速で広く飛び散るため、20機の《トムキャット》と5機の《スーパーホーネット》が喰われた。

しかし、味方航空団は対VTミサイル戦術をプログラミングしたと《マザー》は説明した。

今後は同じ目には遭わないだろう。

鬼頭海将は、敵はあと何隻空母にダメージを与えれば、戦闘を諦めるだろうと考えていた。

米空母の情報はPMCから提供したが、最新鋭空母3隻を就役しているがそれでもいたずらに挑むことはないだろうと読んだ。

これだけでも致命傷を与えたのだから、もはや展開することはできないだろうと……

 

鬼頭海将の推測は、恐ろしいほど当たっていた。

太平洋軍司令部・ディエゴ司令部は、キンケイド大将から第88任務群の空母《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》の両艦が戦闘航海継続不能の損傷を受けたことを聞くと、この戦闘を継続すべきかペンタゴンにお伺いを立てた。

なにしろ、空母の損傷は大きい。

米海軍の原子力空母は、文字通り“不沈艦”とされ、いかなる攻撃にも損傷は受けることはないと言われた。

しかし幾度も言うようにその神話を壊したのは、皮肉にも今は味方となっている連邦残党軍と連邦深海棲艦たちである。

そして今では敵となった日本によって脆くも壊されつつあるのだった。

 

ニミッツ級空母の建造費は、数億ドルと桁違いに高い。

当然だが損傷をすれば、修理費も高い。

しかし、問題はそれではなく戦意高揚イメージの喪失であった。

報告を受けたケリー国防長官は、今更ながら日本のしぶとさに驚いたが、それより米軍最強神話が危険に瀕していることに気が付いた。

 

「これは不味い……」

 

ハワイを取られるよりも、こちらの方がよほど深刻である。

ケリーは任務群に引き揚げさせるか、それとも戦闘を続けさせて空母喪失の覚悟という危険を冒すか、そのジレンマに襲われたのである。

しかも時間がない…… 今にも敵は次の攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

しかし、日本軍にはこちらの様子を見ているところがある。

こちらが引けば、無暗には追撃してこないだろう。

ケリーは大統領に電話して、最終決断を仰いだ。

 

『何と言うことだ、国防長官。キミは我が国が誇る空母戦闘群が壊滅に瀕しつつあると言っているのかね?』

 

「いいえ、そこまで言っているわけではありません。しかし、このところ空母のダメージが大き過ぎます。連邦潜水艦と深海棲艦の攻撃によって失われた《ロナルド・レーガン》を除き、我がニミッツ級空母4隻が大破して修理を余儀なくされるのは、極めてリスキーな状態です。我が海軍のシンボルを失ったこととも言えます。

それぐらいであるならば、寧ろハワイを失った方がマシであると私は考えます。

大統領のご決断をお待ちしています」

 

『しかしハワイを失うことは……太平洋を失うことになり、太平洋は日本の海となってしまう』

 

ハドソンは反論した。

 

「仰る通りですが、これは一時的のことで、取り返すチャンスがあると考えます」

 

『国防長官、キミは連邦と同盟を切り、日本と和平を考えているのかね?』

 

「まだ結論を下すのは尚早でしょうが、その選択肢も頭に入れておきませんと……」

 

『うむ、そうしてくれ』

 

ハドソンは唸った。

 

『……分かった。キミの意見を尊重しよう。ディエゴ大将には『任務群はサンディエゴに戻せ』と伝えてくれたまえ。

しかし“ハワイは戦力が続く限り死守せよ”と命じるのだ。戦わずしてハワイを明け渡すことは許さん。国民も承知せんだろう』

 

ここに来てハドソンは初めて、大統領らしさ気概を見せた。

 

「分かりました、そのように措置します」

 

 

 

第10艦隊では午後の攻撃に備えて、F/A-18G《グロウラー》を飛ばして、敵の様子を偵察させたが、敵は損傷した空母を守りつつ、1個任務群とともに退避しつつあると報告してきた。

敵は速くも戦闘を諦めたらしいと、鬼頭海将は判断した。

これ以上、空母喪失はできないと統合参謀本部が考えたのだろう。

第10艦隊では第二次攻撃隊の準備をしていたが、鬼頭はその目標を変更させた。

これらはハワイの上陸時点に築いている陣地を叩くからだ。

明朝より攻撃を開始する、Z機部隊にも連絡して空襲を行なうよう、日本に連絡した。

 

 

 

ペンタゴンから連絡を聞いたディエゴ司令官は、本土から見捨てられたことを悟った。

大統領からは『ハワイ防衛は連邦と共々、キミの双肩に掛かっている』とわざわざ連絡してきたが……これは独力で戦えと言うことではないか。

 

「それならば結構だ、独力で立派に敵を撃退してやる」

 

ディエゴ大将は決心するとともに全軍に通達した。

 

“最後の一兵になるまでハワイを守り抜け、これが我が米軍の伝統だ”

 

連邦残党軍も同じく、最後の一兵まで米軍と戦えと中岡たちから伝達があった。

 

 

 

ハワイを見捨て、空母戦闘群を温存すると言うケリー国防長官、ひいてはハドソン大統領の決断は後々正しかったと言える。

その日の午後判明した。

 

 

 

連邦残党軍緊急司令部

 

「これを日本までに運ぶとなれば、さぞかし一泡喰うでしょう」

 

こう告げたのは中岡元大統領である。

今でも自分は連邦国大統領と言う威厳は衰えてない、寧ろそれにしがみ付いていると言った方が正しいが。

 

「ハワイを見捨てた大統領を椅子から下ろせば、私が大統領になると言うわけか」

 

とある人物は思わず自身が大統領になることにニヤリとした。

あの大統領よりも自分自身が大統領になった方が、かつてのアメリカを取り戻せるからである。

 

「さすれば日本もさぞ驚くだけでなく、こちらに優位な和平交渉が出来るでしょう」

 

「そうある事を願うな」

 

中岡たち率いる連邦残党軍はどうにかして日本にひと泡を喰わせようと“とある作戦”を計画していた。

日本がハワイを陥落した後に、狂気とも言えるこの作戦を発動するつもりでもある。

全てはアメリカと連邦残党軍の輝かしい未来のためである……

 

 

 

(第三章 了。第四章に続く……)

 

 




はい、ということで第三章が無事終わりました。
次回から第四章に突入することになります。
因みに漫画版だとかなり省略されています、この海戦は。
ともあれ日本空母戦闘群の完全勝利となりました、この海戦も然りですが。

灰田「ここまで長い道のりでしたが、第四章も引き続き楽しめてくれたら幸いであります。とは言え、第四章で最終章でもありますがよろしくお願いいたします」

では早めですが、次回に移ります。
次回から第四章、元より最終章が始まります。
まずはアメリカ視点、そして連邦視点から送ります。
原作とは違った展開、オリジナル展開が多いため投稿が遅れることもありますがご了承ください。

灰田「……それでは第九十九話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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最終章:未来への道標
第九十九話:アメリカの悪夢


お待たせしました。
予告通り、ついに第四章、元より最終章が始まります。
原作『天空の富嶽』とは違った展開、原作にはないオリジナル展開が多いため投稿が遅れることもありますがご了承ください。

灰田「ではこちらも予告通りまずはアメリカ視点に続き、そして連邦視点から送ります。果たしてどんな展開が待っているのかは本編を読んでからのお楽しみです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


20XX年6月末

第二次日米戦争(第二次太平洋戦争)が行われている最中、アメリカ政府視点に移る。

 

ワシントン・ホワイトハウス

 

「……以上はこれらの報告です」

 

コットンCIA長官は重い口調で重要情報を告げた。

 

「……なるほど、分かった」

 

ハドソン大統領は深刻なストレスに直面していた。

普通の常人でも相次ぐ理不尽な報告を聞いたら、胃に穴が開くほどだ。

または胃薬や栄養ドリンクが手放せない状態でもあるに等しい。

 

まずはCIAからの報告だった。

CIAは国外情報・諜報活動など軍事活動を行なう。

その一方、かつて911事件では事前にいくつかの情報を察知したのにも関わらず、あの攻撃を見逃したとして国内から非難の嵐を浴びた。

深海棲艦出現後もどうにか汚名を返上したものの、連邦誕生時や日本の謎の重爆などにはまたしても汚名を着たため、焦っていることに変わりない。

コットンCIA長官からの報告では、国外では他国はアメリカに味方するものなどおらず、多くの国々が中立な立場を貫いている。

ましてやNATO同盟国の多くは、ほとんどが自国の防衛などで精いっぱいであると同時に、連邦残党軍に関わりたくないと言うのが本心である。

過去に行なった国連会議でも某三ヶ国のせいで散々な目に遭ったのだから関わりたくない。

ましてや反日しかできない連中とは関わらない方が良いと言う過去の教訓を得心得ているのだから。

 

次はFBIからの報告だ。

FBIは国内情報・安全保障活動を行なう。

国内ではいつの時代でもテロリストは潜伏しており、FBIや警察の捜査でも追いつかない状態でもある。

ハリソンFBI長官からの報告(主に国内情勢など)では国内では厭戦気分が高まって来た。

そのほとんどが連邦残党軍と言う他者をここまで擁護する必要はない、同盟を決裂すべきだと言うデモ運動も高まって来たのは言うまでもない。

また彼らを追い出すべきだとレジスタンス運動をする者たちも少なくはない。

ハドソンはテレビで観ているから知っていると皮肉ったが。

 

双方の報告を聞いて参っているハドソンを見守るかのように、グレイ首席補佐官を始めとする各補佐官たち、マーカス国務長官、ケリー国防長官も出席した。

なお珍しく、コンドン副大統領も顔を見せていた。

アメリカ合衆国における副大統領ほど、曖昧な立場にあるものはない。

俗に『花婿の介添え人』と呼ばれる。

普段はほとんど仕事などなく、あるとしても各国との親善行事に参加するぐらいである。

簡単に言い換えると『大統領の影武者』であり、現役大統領が仮に唐突な死を遂げたあと、ピンチヒッターとして大統領職を受け継ぎ、大統領任期が終われば正規の選挙で選ばれた大統領にとって代わられる。

もっともかの太平洋戦争時後期でルーズベルト大統領亡き後のトルーマンに、冷戦時代のケネディー暗殺後のジョンソンのようにそのまま大統領に横滑りするケースもあるが……

このコンドンは共和党だが、中々の野望家であり、ケリー国防長官と強い気脈を通じているとも言われている。

なお最近では黒い噂として、中岡たち連邦残党軍との人脈なども築いているとも囁かれている。

 

「ところで……肝心のハワイの最新状況はどうなっているのかね?」

 

ハドソンは、先ほどの嫌な報告を忘れるかのように話題を切り替えた。

その言葉で、その場にいた全員、そして雰囲気が氷のように凍りついた。

言い換えれば慙愧《ざんき》の念である。

ここに参謀総長がいれば、情けなさのあまり舌を噛みかねなかっただろう。

何故かと言えば、ハワイを見捨てたからである。

ハワイを見捨てた理由は、アメリカの切り札とも言える空母戦闘群の消耗があまりにも大き過ぎたのである。

 

今では味方である連邦残党軍・連邦深海棲艦により、旗艦《ロナルド・レーガン》率いる第7艦隊をやられ、日本との第二次太平洋戦争の戦闘では《ジョン・C・ステニス》《エイブラハム・リンカーン》に、そして今度の海戦では《セオドア・ルーズベルト》《ジョージ・ワシントン》《ハリー・S・トルーマン》《ジョージ・H・W・ブッシュ》をやられた。

さすがに喪失しなかったものの、全艦大破した。

米海軍に残されたのは最新鋭空母……ニミッツ級後継艦《ジェラルド・R・フォード》に、姉妹艦《ジョン・F・ケネディ》《エンタープライズ》の3隻となった。

しかも日本海軍は4個空母戦闘群に対して、こちらは1個空母戦闘群しかない。

戦時中ならば巡洋艦の船体を利用した軽空母……元より護衛空母で穴埋めできる。

史実では米海軍は、この護衛空母を実に大量保有していた。

搭載可能な艦載機数は50機と少ないが、大量にあれば正規空母にすら負けないほどの量である。

しかし、軽空母を持っている国は限られている。

しかもNATO同盟国である英国やイタリアなどは、中立の立場を貫いており貸与してもらえない。自国の防衛で精いっぱいでもあるが、何者かに操られているのかと言うぐらい言う事を聞かない状態でもあった。

まして今から多数の軽空母を建造しようとしても、とても無意味である。

これらが出来ないため、米海軍は艦隊保有するしか方法がない。

かつての日本海軍と同じ思想だが、これらを失えば、海外への戦力プロジェクションを完全に消失してしまい、覇権国家としての地位を失いかねないからだ。

 

事実、その恐るべき可能性はあった。

何しろ日本海軍にはソナーに映らない探知不能なステルス原潜がいる。

その数は100隻だが、米軍は艦娘と同じ数ほど持っているのではないかと思った。

空母の多くは、この原潜にやられたのだ。

まだ損傷も何ひとつもしていない無傷の最新鋭空母《ジェラルド・R・フォード》など3隻もハワイ近海に配備しておけば、双方にやられる可能性が高い。

そのため損傷した各空母を守りつつ、サンディエゴとサンフランシスコに引き揚げさせたのである。

 

「最新情報では、日本軍はダイヤモンドヘッド周辺とカオネに上陸し、我が防衛軍との死闘を繰り広げています」

 

ケリーが答えた。

 

「なにしろ、日本軍には《ミラクル・ジョージ》と言う強力なステルス重爆がいますので、これで海岸防塁をやられ、浸透を許してしまいました。

陸上兵力……特に機構兵力においては、我が軍が遥かに有力でしたが……

戦車を含め各種の戦闘車輌に、火砲などが敵空母戦闘群の艦載機攻撃に狙い撃ちされて消耗し続け、今ではその優位も失われつつあります」

 

「うむ……」

 

ハドソンは唸った。

 

「なんとかこっちも援軍を送りたいところだが、空からでも海からでも敵にやられてしまう。これではどうにもならん」

 

つまり言い換えると制空権も、制海権も日本海軍に奪われたのである。

ハドソンが言っていることは、米空軍は輸送機で、米海軍は輸送船団を組んで増援部隊を送ろうともしたが、なにしろ空母の護衛ができない。

輸送船は例の原潜《海龍》にやられ、ことごとく沈没した。

輸送機部隊は敵艦載機の攻撃に晒されて撃墜されてしまう一方である。

このおかげで2個師団を失ってしまった時点で、ハドソンは増援を送るのを諦めた。

しかし、ハワイには2個歩兵師団と2個海兵隊遠征軍が頑張っている。

特に後者の戦力は強力で、太平洋軍・ディエゴ司令官の支えとなっているはずだとハドソンは期待していた。

 

何とでも思え、もうすぐお前はその椅子から引きずり降ろされるのがオチだ……

 

この会議室の片隅に小さなハエ……これに偽装した偵察UAVでこの会議を観察していた中岡と連邦残党軍の側近や幹部たちと、そしてもう一人の立役者は、頭を抱えているハドソン大統領を見て嘲笑っていた。

コイツに冤罪を押し付ければ、晴れて大統領になれるのだからだ。

さすれば連邦残党軍の中岡たちと共に、日本に膺懲できるのだから楽しみで仕方ない。

しかし当の本人は、自分がそう追い込まれていることをまだ知らなかったのだった……

 

 

 

この会議が始まる前にさかのぼる。

連邦残党軍は、どうにかして日本と艦娘たちに痛い目に遭わそうと考えていた。

連峰建国記念と言うべき『第二次南シナ海戦』では惨敗。

次に行われた通商破壊作戦でも、沖縄侵攻作戦『征球作戦』も惨敗。

日本に潜入した工作員によるコマンド作戦も、切り札として用意した連邦空母戦闘群に、人造棲艦《ギガントス》なども参加したが、ことごとく返り討ちどころか連戦連敗をし続けた挙げ句、連邦国は三日天下の如く崩壊した。

今では残党軍と化してしまったため、今までの雪辱を果たせないままである。

そして戦艦水鬼たちと少数の米艦隊が、日本に亡命を許してしまったことで中岡たちはヒステリック状態でもあるため、どうにか良い戦果を残したいのが本音である。

さもないとアメリカも見捨てるだろうと言う結果になりかねないからだ。

寧ろ世界の笑い者とされていることが事実だろうと思われたが、実際は本物の『世界の笑い者・連邦軍』と言われたほどである。

そうこうする内に、忠秀がひとつのアイデアを持って来たのである。

 

なお、この作戦名は『トロイの木馬作戦』と名付けられた。

トロイの木馬とは、トロイア戦争において、ギリシャ勢の攻撃が手詰まりになってきたとき、ギリシャ神話の英雄ことオデュッセウスが木馬を作って人を潜ませ、それをイーリオス市内に運び込ませることを提案した。

転じて、内通者や巧妙に相手を陥れる罠を指して「トロイの木馬」と呼ぶことがある。

現代で言えば『欺瞞作戦』のひとつである。

連邦残党軍はこれを再現して、日本にひと泡食わせようと考えたのだ。

 

「今度は小型化した原爆を、これを潜水艦に積めばいいと思います」

 

忠秀は言った。

 

「積めることはできるのか?」

 

中岡元連邦大統領は言った。

未だに過去の栄光をすがっている哀れな凡人と化した、哀れな独裁者と言っても良い。

自分が世界覇者になる夢は脆くも崩れ、栄光を誇った連邦共和国も崩壊した。

かつての北の独裁者と同じ運命を辿っている。

しかし殺されていないだけまだマシであり、彼よりも長生きしている。

だからこそ生きて日本に仕返ししたいのが最高の快楽であり、生き甲斐でもあるのだ。

 

「はい、後部魚雷室を空にすれば搭載可能だと思われます。ただし艦内で組み立てなければなりませんが……」

 

湯浅主席は落ち着いた口調で答えると……

 

「それが可能ならば、俺様に良い考えがある。我が軍の潜水艦に原爆を積み、タイマーを付けて、日本近海に放置する。蓄電室に浸水して塩素ガスを発生し、本艦を捨てたように見せかける。

つまりこの潜水艦は東京に接近して、東京湾に潜り込み、自爆攻撃を目論んでいたが、事故のため放棄されたと見せかける。

当然、この潜水艦には無人になる直前まで乗組員たちが乗り込み、僚艦も付き添う。

そして放棄する時が来たら、僚艦に乗り込む。

この際に救難信号を発信させる。これを聞きつけた日本海軍ないし多国籍海軍が来る。

その時は神にも劣る馬鹿な駆逐艦たちを派遣して、この潜水艦を調べるだろう。

そして無人であることを確かめれば、調査のために母港に曳いて行こうとするでしょう。

しかし、母港に入港した時は……ドッカァァァァァァン!と原爆が炸裂することだ。

艦を放棄するところ、ポイントはここだ。おい!」

 

中岡の命令を聞いた、アンミョンペク総参謀長は海図を開いて指を指した。

そこには野島岬の東……東経150度近いポイントであった。

この経度まで日本海軍ないし多国籍海軍は、哨戒線を張っていると考えられる。

 

「だとすれば、当然馬鹿な馬鹿どもは横須賀鎮守府に潜水艦を持っていこうとする。

ここで愉快に爆発したら、東京も巻き込まれて汚染地域になること間違いなし。

そして日本は降伏するだろう」

 

『ううむ……』

 

全員が唸った。

 

「お言葉ですが日本海軍などはそれほど単純と思えません。潜水艦魚雷室にあるのが原爆だとバレたら、すぐに撃沈されると思います。危険を避けるためには……」

 

名もなき指揮官の言葉は途切れた。

自分に反対するものは要らないと判断した中岡自身が射殺したのだから。

その利き腕には御自慢の黄金銃《白頭山(ハクトウザン)》が握られていたからだ。

連邦や左翼が好きなお家芸とも言える内ゲバでもある。

自分に反対する者は『レイシスト』『裏切り者』と決めつけて、こうして殺処分することを躊躇わないのである。

現実でも気に入らないと殺す手口は頻繁に行い、近年でも快楽殺人者のように殺すことを悦びとする。

 

「他に文句のある奴は?」

 

ドスの利いた中岡の声を聞いた者たちは、誰ひとり否定することはなかった。

この場にいた忠秀は『死んだ馬鹿の死体は、ゴミと一緒に焼却場に捨てろ』と部下たちに命令した後、何事もなかったかのように冷静な顔に戻り、中岡を褒めた。

 

「私はそうは思えません。これを調査するために必ず曳航して行こうとするでしょう。

そしてタイマーは、容易く中断できるようにセットしておけば良いのです。

しかしこれはダミーでして、本物のタイマーは本体の奥深く隠しておきます。

その設定時間は……そうですな…… 48時間から60時間と言うところでどうでしょうか?」

 

忠秀の助言を聞いた中岡は、苛立っていた顔から真剣な顔に浮かんだ。

 

「なるほど、よく考えているな。細部を詰めれば上手くいくかもしれない」

 

中岡たちは、アンミョンペク総参謀長たちなどを集めて検討に取り掛かった。

第一の問題は、日本海軍がこれを原爆だと分かった場合、どのように対応するのかである。

次第に恐怖よりも好奇心が勝ってしまい、潜水艦を曳航して行けばいい……

あるいは罠と悟りつつ、それが本物の原爆かどうか確かめるため、曳航していくかもしれない。

いずれにしろ、横須賀鎮守府まで曳航すれば、味方の作戦勝ちである。

侃々諤々《かんかんがくがく》の議論の結果…… これをやってみる価値はある作戦だと言う結果に纏まった。

むろん、最後のチャンスかもしれないかもしれない。

しかし、それは危険を冒さなければ形勢逆転できない。

 

それに、この作戦は日本にダメージを与えるだけでなく、あのレームダック大領領ことハドソン大統領を貶める作戦でもある。

第三者こと、彼のコードネームは『ディープ・スロート』の協力も必要不可欠である。

現役大統領よりは劣るものの、武闘派なので日本反撃時には彼失くして成功しない。

仮に失敗したら、殺せば良いのだからと連邦残党軍の決定事項でもある。

そのための特攻機も用意してある。

 

ともあれ中岡たちはこの計画を纏めると、湯浅主席に託して第三者の協力者『ディープ・スロート』のところに持っていった。

 

「こんな馬鹿げた作戦を、本気でキミたちは考えているのかね?」

 

計画書を読み通した『ディープ・スロート』は、唖然とした表情になった。

 

「馬鹿馬鹿しいからこそ、上手くいくと考えます」

 

湯浅主席は、怯まずに答えた。

 

「全ては日本軍の好奇心に掛かっていますが、どこの民族であれ、好奇心には負けるのではないでしょうか」

 

「ふむ……」

 

『ディープ・スロート』は唸った。

 

「そうかもしれんな。確かになかなか興味深い作戦ではある。これを持って国務長官に相談してみよう」

 

この作戦が行われるのは、秘密裏に行われた結果……ハワイ陥落後に発動することに決行した。




と言うことで、第四章が今日からスタートしました。
またしても新たな展開と言いますが、アメリカもですが、追い詰められた連邦も同じく怪しい動きを注目すると良いかもしれません。
なお『ディープ・スロート』の元ネタは、田中光二先生の記念すべき超空シリーズ第一作『超空の艦隊』からです。
なお正体は日本人であります、裏切り者でもありますが。
決して某ステルスゲームの彼ではありません。
なお章タイトルは『荒鷲の大戦』の最終巻タイトルです。
本来ならば原作では別タイトルですが、最終章に相応しいかなと思い、このタイトルにしました。

灰田「『ディープ・スロート』の正体はしばしまだ先ですのでお待ちを」

余談ですが今年は重巡改二実装と聞きましたが、青葉じゃなくて別の娘でした。
おめでたいことに変わりはないですが、次こそは来ると信じています。
髪型が変わると予想します、簡単に言えば『にゃがつきのいる鎮守府』のロングポニテの青葉のようになると思います。

灰田「ともあれアーケード版では青葉さんと衣笠さんが実装しましたから来ると思いますよ」

青葉「青葉の活躍見てください、司令官」
衣笠「衣笠さんの活躍もよろしくねぇ!」

動いている古鷹たち可愛いです、某動画サイトで観ました。
可愛くて気分が高揚します(加賀さんふうに)

灰田(ようやく気分が戻り、安心しました)

では新たな戦いに伴い、次回予告に移りますね。

灰田「では次回は、お二人にお願いいたします」

青葉「ついにいよいよハワイ・オアフ島が激戦地になります。日本の自衛隊と、米軍・連邦陸軍の合同部隊の戦いが始まります」

衣笠「果たしてこの戦いの結果はどうなるのかは次回で明らかになるからねぇ!」

次回もアメリカ視点ですので、お楽しみを。

灰田「それでは切りの良いところになりましたが、第百話までダスビダーニャ(さよならだ)」

青葉・衣笠『ダスビダーニャ!!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第百話:南海の激闘

お待たせしました。
予告通り、ハワイ・オアフ島が激戦地になります。
ここに日本の自衛隊と、米軍・連邦陸軍の合同部隊の戦いが始まります。

灰田「果たしてこの戦いの結果はどうなるのかは、本編を読んでのお楽しみです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


中岡率いる連邦残党軍の『トロイの木馬作戦』を、第三者の協力者『ディープ・スロート』と共に決行している最中だった……

ケリー国防長官がハドソン大統領にブリーフしたように、オアフ島に日本軍が浸透中……

オアフ島を守る米軍2個歩兵師団、第2海外遠征軍、彼らに協力する連邦軍は、陸上自衛隊との激しい死闘を繰り広げていた。

太平洋軍・ディエゴ司令官と連邦残党司令官たちは、死力を尽くしてオアフ島を守り抜くと前者たちはワシントン、後者は中岡たちに誓ったが……

米海軍の御自慢の空母戦闘群が、日本空母戦闘群に完膚なきまでやられて、全艦が本土に引き返したことの衝撃は大きかった。

 

特に、将兵たちの士気に著しく大きく影響した。

ここでも、世界最強と言われた米軍の不敗神話が敗れたのだった。

いや、米軍は冷戦時代やテロとの戦いの時代でも敗れていた。

アフガンやソマリア、イラクなどの小国には勝ったのにも関わらず、失敗した時と同じように味わっているようだった。

しかし、今度はかつての同盟国だった日本に煮え湯を飲まされているだから堪らない。

しかも日本の恐るべきステルス重爆《ミラクル・ジョージ》……Z機《新富嶽》の存在が、

米軍将兵および連邦将兵たちに与えた心理的ダメージは計り知れないものだった。

これは爆撃機としても、掃射機としても、そして輸送機としても凄まじい性能を持つ。

爆撃機としては大量に搭載された1トン爆弾の嵐を降らせ、海岸防塁を殲滅させた。

何しろ、灰田が未来改良した新型高性能自動全天候標準機に搭載されているレーザー照準で狙いは正確であり、推進ロケットを尾部にもつ精密誘導爆弾(スマート・ボム)、いわゆるレーザー誘導爆弾だから外しようがない。

米軍・連邦軍の両者が営々と築いたパールシティからダイヤモンドヘッド地区海岸の防塁は、あの忌まわしい《ミラクル・ジョージ》にほとんど破壊されてしまった。

 

しかもその後、味方空母戦闘群本土に逃げ帰ってしまったので、ハワイ沖合いの海は日本空母戦闘群の天下となり、連日その航空団が襲来し、米軍・連邦戦車や重砲を破壊した。

また双方の空軍も叩かれた…… 空母戦闘群・航空団が歯が立たなかったように、オアフ空軍基地所属の戦闘機部隊も日本艦載機には敵わなかった。

航空機としての先進度が全く違う以上、これは止むを得ないことである。

ある意味では、太平洋戦争末期の日本陸海軍の様相を繰り返しているとも言えた。

ただし、今度はやられるのは米軍側であり、一方的に勝っているのは日本軍側であるが。

ともかく米軍・連邦残党軍の損害は大きく、保留していたM1A1戦車、99式戦車、M777 155mm榴弾砲、05式155mm対戦車自走砲などを始めとする主要火器や戦闘車輌は、その70パーセントも消耗してしまった。

何しろ双方とも補給が受け入れないことがハッキリしているので、その損害は大きい。

米軍・連邦残党軍は地対空ミサイル《アベンジャーシステム》や携帯地対空ミサイルの代名詞FIM-92《スティンガー》などで反撃をしたが、日本機版の《スーパーホーネット》と《トムキャット》はミサイル攻撃を全く受けなかった。

 

ディエゴ司令官は、これらが全て無人機であると言う情報を得ていた。

現在には存在しない高度な人工知能が操作する無人機で、まるでUFOみたいに非線形飛行が可能である。

言い換えると、いきなり直角に曲がったり、鋭角にジグザグに飛んだり、むろん宙返りなどもお手の物だ。

これは無人機だからこそできるもので、その高度なテクノロジーは米軍・連邦将兵たちの想像を絶していた。

米軍だけでなく、各国の軍隊も無人機は実用化しており、偵察機や攻撃機として運用しているが、日本機とは比べものにならないものだ。

 

日本軍がこれらを攻撃したのは、自軍が持つ揚陸艦部隊の数が少なく、運べる戦車や重砲なども大量には運べないからだ。

大型輸送艦《おおすみ》クラス3隻で、ようやく10式戦車15輌と99式自走155mm榴弾砲15輌を揚陸させた。

それ以外の軽装甲車輌などは、あの《ミラクル・ジョージ》が大型パラシュートを使って投下した。

しかし、さすがの《ミラクル・ジョージ》を持っていたとしても下ろせるものは、軽装機動車や高機動車などが良いところだ。

これは米軍のM1151《ハンヴィー》に担当し、MINIMI分隊支援火器や89式小銃を据え付けて射撃することができ、必要とあればM2重機関銃や01式軽対戦車誘導弾を装備することも可能である。

しかし、米軍・連邦歩兵部隊相手ならば勝てるが、重装甲車輌には太刀打ちできない。

揚陸地上部隊司令官・小暮陸将は、敵の銃火器や装甲車輌を鹵獲して活用する肚だった。

そのため空母航空団には、これらを徹底的に殲滅させることを控えさせたのだ。

 

 

 

日本軍の快進撃は、次のような経過を辿った。

空母戦闘群・航空団が両空軍・ミサイル基地を無力化した後、まずZ機100機が襲来して来て、カネオヘとカハラ地区の防衛陣地を叩いたが、その後には輸送機版のZ機が後続しており、空挺部隊を降下させた。

この空挺部隊は東部方面隊の第1空挺師団であり、総員155名の連隊規模である。

この部隊は巧みにカネオヘ地区に降下……爆撃直後で混乱している米軍・連邦軍を尻目に海岸に橋頭堡を築いていた。

戦闘機に掩護されていたので、米軍・連邦軍はこれを叩くことが出来なかった。

続いて、やはり戦闘機に掩護された揚陸艦が接近して来ると、兵員と10式戦車15輌に、99式自走155mm榴弾砲7輌を揚陸させた。

各種迫撃砲やM2重機、そして地対地ミサイルなども揚陸させたのは言うまでもない。

これらの揚陸を確保し、橋頭堡は強固なものになった。

兵力は3個連隊、つまり1個師団近くになった。

 

続いて、揚陸艦部隊はカハラ地区に回り、航空支援の元に残りの部隊も揚陸させた。

その兵力も同じく3個連隊であり、第二の橋頭堡を確保した。

実は米軍・連邦軍も緒戦からから、敵を殲滅するチャンスがあったのだった。

橋頭堡の確保と言っても小規模部隊、包囲して殲滅することが可能だった。

しかし、双方が攻撃に移ろうとすると敵の航空支援に阻まれ、有効な攻撃を仕掛けることができなかった。

現代戦において、制空権確保は戦争の勝利の決め手となる。

米軍・連邦軍は重砲や自走砲で攻撃したくても、敵の高度な無人戦闘機ないし戦闘攻撃機によって無力化されてしまう。

両軍は必死になって自走機関砲や対空ミサイルで反撃をしたが、目を奪う幾何学的な動きで躱されて、ほとんど効果が無かった。

 

兵力が足りないことを充分承知している日本軍は、翌日には輸送機版の《ミラクル・ジョージ》で大規模な空挺降下を始めた。

これは師団規模であり、狭いオアフ島よりもさらに狭いカネオヘとカハラ地区にこれだけの兵力を降下させるのは、米軍・連邦司令官にとっては狂気の沙汰に見えた。

一歩風向きを間違えれば、海に落ちるか、山に突っ込んでしまう。

どうやら運は日本に味方したらしく、約80パーセントが無事降下に成功した。

彼らの一部は、多数が米軍・連邦軍支配地域に降りて激しい銃撃戦となったが、橋頭堡から日本軍が押し出して彼らを助け、約60パーセントを救うことが出来た。

 

しかし師団規模で降下したのに、助かったのはその半数……2個連隊のみである。

この不運な部隊は東部方面・第1空挺師団だが、危険を承知で降下したのだった。

むろん降下作戦は、日本軍の大きな博打でもあった。

しかし、揚陸艦を往復させている時間がない以上、そのリスクを冒さなければならない。

これでも、まだ兵力は米軍・連邦軍が有利だ。

日本軍がカネオヘとカハラに揚陸または降下したのは、防備が固いと思われるワイキキ地区を避けたのである。

確かにディエゴ司令官と連邦司令官は、ワイキキ地区からパールシティまでを最優先防衛地域とし、兵力を充実させた。

しかし、カネオヘとカハラ地区に敵が橋頭堡を築いたことを知ると、援軍を振り向けた。

両指揮官はすでに空軍を失い、戦車や重砲なども80パーセント近くが空爆にやられた。

手持ちの銃火器の数はさほど日本軍と変わらなかった。

しかし、さすがに陸軍と連邦軍とは違い、米海兵隊の士気は旺盛だった。

ロケット弾や迫撃砲、重機関銃などを主たる武器として日本軍に襲い掛かった。

 

その一方…… 日本軍も精鋭部隊らしく勇敢で一歩も引かなかった。

カネオヘとカハラ地区では激戦が繰り広げられたが、日本軍は少数の10式戦車と99式自走155mm榴弾砲を活用して、兵力差を埋めることに成功しつつあった。

かつて日中戦争や太平洋戦争中、中国戦線における日本軍の得意戦法は軽火器を抱えての肉薄攻撃である。

中国では、この戦法で中国兵を押しまくり、日本軍が突撃して来ると、彼らを見た中国兵は逃げ出す始末だった。

しかし、米軍相手では違った。

開戦当初は良かったが、次第に火力を増すと形勢逆転となった。

史実では、太平洋戦争における地上戦の天王山となったガダルカナル島の戦いでは、これでやられたのである。

しかし、今のオアフ島ではその得意な戦法が使えない。

味方空母戦闘群の航空支援はない、上空を飛び回っているのは敵機のみ。

しかも、絶妙なタイミングで《ミラクル・ジョージ》が襲来して来ると、移動中の米軍・連邦軍を捉えると爆撃した。

ここに至り、さしもの米海兵隊の士気も阻喪として、日本軍に押され始めた。

 

カハラ方面では、日本軍はダイヤモンドヘッドを回り込み、ホノルルに向かった。

ホノルルでは市民に疎開命令が出され、住民たちは西部の山脈に逃げ込んでいた。

皮肉にもその中には多数の日系人が混じっていたが、日系人の若者たちの中には太平洋軍司令部や連邦軍に出向いて、すぐに徴用してもらいたいと申し出るものも少なくなかった。

最初の移民から、すでに第五世代を迎え、彼らのメンタルティーは完全にアメリカ人である。

いや、太平洋戦争当時から二世たちのメンタルティーは、アメリカ人だった。

だからこそ、最強の日系人部隊が誕生したのである。

これを繰り返すかのように、歴史と言うものは皮肉なものだ。

日本の自衛隊の若者たちと、日系アメリカ人の若者たちが戦うことになった。

 

これはハワイと言う島の宿命だろう。

太平洋海域真ん中に位置することで、いざ日米戦争になれば戦場とならざるを得ない。

責任は彼らにあるのではない、このような状況を招いたアメリカ政府にあるのだ。

よく『戦争でよく犠牲になるのは我々民間人だ』とリベラルや平和主義者を気取った反日主義者は壊れたラジオのように繰り返し言うが、しかし、最初の犠牲者は国を守る兵士である。

アメリカと言う国は、この点では異彩を放っている。

自由を確保と言う“大義”を守るため朝鮮戦争では約3万人、ベトナム戦争では約5万人の戦死者も出した。

その後もソマリア、アフガニスタン、湾岸戦争、イラク戦争などと自らの大義を貫くために血を流し続けた。

アメリカの不幸は、それによって世界中から尊敬されるどころか、寧ろ迷惑がられている。

そして、何よりも悲劇的なのはアメリカ人自身が、そのことに気づかなかったことである。

 

 

 

ディエゴ司令官は、カネオへ地区の敵がついに峠を越えたと言う報告を受けた。

このカネオへ峠を越えさえすれば、眼下にはパールシティが広がり、その先にはパールハーバーである。

ディエゴがもっとも問題視しているのは、日本軍に飛行場を奪われることだった。

爆撃機専用飛行場が確保されれば、《ミラクル・ジョージ》が進出することは火を見るよりも明らかだ。

そうすれば、本土の西海岸が爆撃圏内に入ってしまう。

 

その時、ペンタゴンはどうするつもりか。

このことだけを考えても、ハワイ防衛を破棄することはあり得ないはずである。

しかし、ペンタゴンは空母戦闘群の安全のために本土に引き揚げた。

ディエゴは、明らかに国防総省の戦略は誤っていると考えた。

いったい、ケリー国防長官が何を考えているのか分からない。

それとも、国防総省は連邦と同じような思想になったのかと思えた。

 

ディエゴは、ついに苦渋の判断として飛行場の完全破壊を命じた。

もはや援軍が望めない今は、少しでも時間稼ぎをするしかない。

仮に日本軍に飛行場を占領された際には、敵はおおわらで修復作業に入るだろうが、燃料も運んでいなければならないとすると、時間は掛かるはずだ。

その間、敵重爆《ミラクル・ジョージ》が本土を戦略爆撃しても、のちで来るであろうと思われる艦娘たちに本土空襲や砲撃されようと時間が稼げる。

涙を呑んで、ヒッカム、フォードなどの各飛行場には施設と燃料タンクの完全破壊、滑走路は掘り返して、対人地雷や対戦車地雷などを埋めよと命じた。

パールハーバーにある海軍の燃料タンクにも火がつけられ、濛々たる黒煙がパールハーバーを覆った。

 

まるであの悪夢の日…… 日本軍奇襲の日を思い起こさせる。

もっともあの時は、日本軍の艦載機は燃料タンクを破壊しなかった。

ほかに攻撃目標が多数あったためだが、そのため太平洋艦隊は助かった。

生き残った空母2隻が、すぐに行動に移ることができたのである。

しかし、今のパールハーバーの燃料タンクに火がついたということは…… すなわちディエゴ司令官が、もはやオアフ島防衛に見切りをつけたと言うことでもあった。

あとは何日抵抗できるかだが、どれだけ粘っても来る見込みはない。

ワシントンでは、ハワイはもはや忘れられた島となっていた。

もはや国内は厭戦状態が続き、下手をしたら内戦が起こるのではないかと懸念されていた。

これらに対応するのが忙しくて、それどころではなかった。

ハワイを取られても戦略的価値には然したる問題はない。

その代わり、《ミラクル・ジョージ》の戦略爆撃を受けるが。

 

戦闘4日目に突入したが、両軍の士気の阻喪はより一段と進んだ。

ディエゴと連邦指揮官は緘口令を敷いたが、重大な情報と言うものは必ず洩れるものである。

もはや見捨てられ、混沌と化した国内事情を知った両将兵たちは、自分たちは祖国と味方から見捨てられたのだと悟っていた。

ディエゴ大将たちは『最後の一兵まで戦え』と言う命令はまた続いていたが、これを遂行するのは困難な状況だった。

 

それを見抜いたかのように、日本軍が意外にも軍使を送って来た。

白旗を掲げて、ワイキキ方面の最前線から進み出てきた日本軍使は、慣例通り目隠しをされると、パールハーバーの太平洋軍司令部まで《ハンヴィー》で連れて行かれた。

司令部のディエゴ大将の部屋で目隠しを取られ、司令官と対面した。

 

「本官は第1空挺師団大隊長の二宮一佐であります」

 

日本軍将校は流暢な英語でしゃべった。

 

「我が司令官の小暮陸将のお言葉を伝えに来ました。我が司令官は『これ以上の戦闘は無意味だ』と言っておられます。

何故ならば貴軍には増援が望めず、いっぽう我が軍の方は、そのつもりであればZ機を用いてパールシティ、パールハーバーの全てを破壊できるからです。

しかし、我々はそれを望みません。閣下も恐らくそうでしょう。

この美しい島を戦闘によって破壊するのは、我々にとっても耐えがたいことです。

ぜひ、ここで停戦に応じていただき、戦闘中止されることを願うものであります」

 

「我々に降伏しろと言うのかね?」

 

ディエゴは顔を歪めた。

 

「この美しい島を破壊したくないとキミは言うが、戦争を始めたのはキミたちの方ではないか。今さら何を言うのかね。

……残念ながら我が米軍と同盟軍・連邦軍の辞書には“降伏”という文字はない。

戦力が残っている限り、抵抗は続ける。そう、キミの司令官に伝えたまえ」

 

「いいえ、降伏ではなくあくまでも停戦です。あなた方の武装解除はしません。

ただし、軍施設と飛行場は引き渡していただきたい。ご希望とあれば、パールハーバーで残っている輸送船で撤退していただいてもよろしいのであります」

 

「それは単に降伏を綺麗ごとに言い換えたに過ぎん。本職は承服できない。

あくまでも徹底抗戦するのが、我々の意思だ」

 

二宮一佐はもっと何か言いたそうだが、その言葉を飲み込むと答えた。

 

「我が司令官にそう伝えします。閣下と閣下たちの司令部において、もし停戦に傾いたときは、いつでも無線でお伝えください」

 

それを言うだけで、日本軍使は戻っていた。

太平洋軍司令部では、ディエゴを囲んで、連邦軍司令官も含め各部隊のトップや参謀たちが顔を合わせた。

 

「敢えて申しますが、これは絶好のチャンスを逃したのかもしれません」

 

米陸軍司令官・コナー中将が発言した。

 

「日本人は生真面目で、争い事で決着をつけるのを嫌う傾向のある民族ですから、停戦と言うからには本気でそうするつもりでしょう。実際に降伏しても我が軍は降伏と言う不名誉を受けずに済んだはずです」

 

「それは我が連邦軍が味わった不名誉な降伏だ、チョッパリは我々を捕虜にして皆殺しにするつもりだ!」

 

キム司令官は怒鳴り声を上げた。

得意である『息を吸うように嘘を吐く』と言う戦法を言い、日本軍の捕虜虐殺を主張した。

しかし、連合軍の捕虜虐殺に関しては黙っている。

ソ連軍の捕虜虐殺も酷いが、米軍も負けてはいなかった。

捕虜とした日本軍を遊びで殺す将兵たちも多く、特に金歯を取るために殺害することはもちろん、捕虜を縛り付けて射撃の的や輸送機に乗せた捕虜を高度から突き落とす、さらに日本兵の骸骨を土産物として持って帰るなど数えきれないほどの罪を犯したことに関しては、茶番劇とも言える東京裁判では裁かれることはなかった。

 

「キム司令官の言う通り、日本軍は太平洋戦争では残酷だったことを忘れてはならない。

我々の油断を見澄まして皆殺しにするかもしれない。到底あの条件は受け入れられん」

 

キムに洗脳されたかのようにディエゴの口調は、ヒステリックだった。

コナーに続き、他の将官たちは顔を見合わせた。

今や司令官は、正気の沙汰を失いつつあるのかもしれない。

もしそうだとしたら軍規により職を解くか、自分たちで射殺せざるを得ない。

この出来事……日本軍の申し入れを一蹴したことにより、オアフ島の戦火はまだ続くことになった。




ハワイを舞台とした激戦は、圧倒的な火力を誇る日本が優位と言う結果になりました。
劣勢になっても徹底抗戦するアメリカもアメリカで、連邦も連邦ですが。

灰田「今日は皆さんもご存知かと思いますが、本作品は皆さんの応援のおかげで……」

今日で無事に第百話を迎えることが出来ました。

\ぱんぱかぱ〜ん/←クラッカー炸裂音

古鷹一同『第百話記念おめでとうございます!!!』つ花束

みんなありがとう、これからも頑張ります。
艦これと架空戦記『天空の富嶽』をクロスした小説は最初は挫折しましたが、皆さんの温かい応援のおかげでここまで来ました。
本当に不安でいっぱいでしたが、無事に百話を迎えることが出来て感謝です。
余談ですが、某ニコ○コ静画で灰田さんのイラストを見つけました。
しかもチート級の特典です、本当に偶然とは怖いものです。
因みに別作品、『天空の要塞』の灰田さんですが、こっちも好きです。
原作『天空の富嶽』では帽子を被っていません。
実装したら、もう艦載機はおろか、航空基地隊も最強になります。

灰田「実装するとしたら、イベント甲作戦報酬でしょうね」
元帥「まあ、そうなるかな」
秀真「富嶽なんて実装したら、かなりの量のボーキサイトや鋼材が溶けるだろうな」
郡司「富嶽だけでなく、ほかの艦載機や航空隊も絶対制空権取るだろうな」

轟天や天雷の同じだと思うが……

灰田「積もり話もいろいろありますが、そろそろ予告に参りましょうか」

神通「今日は提督と古鷹さんが予告いたします」ウインク

次回はこのハワイ激戦の続きに伴い……

古鷹「アメリカ政府が予想外の行動を起こします、果たしてこの戦いの行方はどうなるかは今後のお楽しみに♪」

最終章は以前も予告下通り、遅くなることもあります。
しかし最後まで楽しめて頂ければ幸いです。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

元帥・秀真・郡司一同『ダスビダーニャ!!』

作者・古鷹・神通『ダスビダーニャ!次回もお楽しみに』


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第百一話:予知せぬ講和宣言

お待たせしました。
それでは予告通り、日本の自衛隊と米軍・連邦陸軍のハワイ激戦の続きに伴い……

灰田「アメリカ政府が予想外の行動を起こします、果たしてこの戦いの行方はどうなるかは本編を読んでのお楽しみです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


ハワイでは、いよいよ大詰めのときがやって来た。

米軍・連邦軍の両軍は後退を続け、パールハーバー一帯の狭い地域に押し込まれた。

何しろ狭い島なので、後退するのには限度がある。

ワイアラエ山脈に逃げ込み、ゲリラ戦に展開する手段を取る海兵隊と連邦軍もいた。

しかし、両軍の抵抗は終わってしまった。

ディエゴ司令官が降伏を決意したのは、日本軍はあくまでも停戦と称しているが……その武器弾薬が底をついたからである。

キム司令官は敵の武器を奪って徹底抗戦か、捨て身の特攻作戦をすべきだと主張した。

ディエゴたちは『これ以上は無駄な抵抗は無意味だ』と言い、却下した。

この言葉に痺れを切らしたのかキムは命令を無視して、本当に実行しかねなかったため、やむなく米軍将官たちは彼を射殺した。

 

何しろ本国から補給が受けられない。

島は完全に日本潜水艦部隊に包囲されているので、輸送船団はいっさい近づくことができず、近づけばたちまち撃沈させてしまう。

本土からの空輸も無理であり、例えC-17大型輸送機《グローブマスターⅡ》を用いた作戦もプランニングをしたのだが、空もまた空母戦闘群により封鎖されているため思い止まった。

強行すれば犠牲を出すだけである。

いま一度、大規模な空襲を受ければ、味方は全滅してしまうだろう。

 

そう考えたディエゴ大将は、ペンタゴンに停戦を受け入れる旨を求めるべく通信した。

ケリー国防長官もさすがに全滅せよとは言えない。

この状況を知ったケリーは、やむなくディエゴの降伏権利を認めたのである。

ディエゴは軍使を送って、日本軍司令官に『前回の停戦条件は、まだ生きているのかどうか』と確認した。

 

つまり、武器を持ったまま降伏するということである。

米軍のプライドの問題である。

 

小暮陸将はそれを受け入れた。

あっさりとこの寛大な措置を取ったのは、いくら銃があっても各弾薬がないことを見通していたからである。

弾薬が無ければ、銃は全てただの鉄の棒である。

連邦軍は除き、米軍にプライドを持たせて降伏させるには必要な判断だった。

 

ハワイでは、ついに銃声が止んだ。

2週間も続いた激戦は、日本軍の勝利へと終わったのだった。

オアフ島にはいくつかのゴルフ場があり、日本軍はここに仮キャンプを設営した。

また米軍・連邦軍を収容する措置を取った。

ともかく飛行場とパールハーバー諸施設を抑え、整備に掛からなければならない。

しかし燃料タンクも炎上し、各ドックも破壊されていたので、すぐにこれが使えるということはならない。

 

だが、海自・空母戦闘群は補給艦を連れていたので、とりあえずはパールハーバーで補給の必要はない。

海自司令部では、《アカギ》《カガ》の2個空母戦闘群を残して、残り《ヒリュウ》《ソウリュウ》《飛鳥》率いる2個空母戦闘群は、日本に帰投せよと命じられた。

補給と整備が必要なのでこれらが終了次第、残りも2個群と交替することになっている。

海自では米本土に避難した米空母戦闘群が、ハワイにやって来る可能性が低いと踏んだ。

例のニミッツ級後継艦も出しても返り討ちにされると思い、温存したに違いないと見た。

事実上、米海軍はニミッツ級空母4隻も大破されたので懲りたのであるが……

何よりもそれに在欧米軍支援のためにも必要でもあるが。

 

ともあれ、最優先で爆撃機専用飛行場が整備され、Z機100機がまず進出した。

これで何時でもアメリカ西海岸を爆撃することができる。

これらの状況を背景に、スウェーデン政府を仲介役にして、三度ワシントンに講和を申し出た。

 

ただし条件として、無効にしたアメリカ国債を復活させること。

次に中岡たち率いる連邦残党軍と同盟を決裂、こちらに国際裁判を有利にさせること。

そしてアメリカ在住の日系人を連邦残党とともにした暴挙に対して、1億ドル(約117億円)の賠償金を要求する。

その代わり、これらの条件を全て受け入れられれば、全軍ハワイから撤退する。

これらを受け入れなければ、カルフォルニアなど重要拠点なども空爆するという暗黙の圧力を掛けている。

仲介したスウェーデン政府は『数日の余裕を持って決めたい』とワシントンの意思を伝えて、日本政府は了解した。

 

なにしろ、いま世界各地でのドルの暴落は凄まじい。

アメリカ財務省は第三国を経由してロンドン、パリの金融市場……ウォール街はいまや機能していない。

 

またシンガポールの市場では必死に買い支えているが、とうてい追いつかないほどの暴落ぶりである。

やはり日本の持つ国債をチャラにしたという暴挙が、いまになって効いてきたのである。

そのアメリカがチャラにした日本保有のアメリカ国債は、実に4兆ドル(約446兆円)にのぼる。これを容易に調達するのは困難である。

回復した証拠に、日本の息のかかった第三国の銀行にその金を組み立てねばならないからだ。

さもなければ、日本は信用しないだろう。

そんなアメリカの苦境が分かっているから、日本も了解したのだが、この辺りは日本側の詰めが甘い。

アメリカが連邦残党軍とともに、勝手に陥ったのだから妥協すべきではなかったのである。

やはり一部の日本幹部政府たちの間では、例の『ギルティ・フォーメーション・プログラム』が徘徊しており、両者を徹底的に叩くのは躊躇われるものがあったのだ。

 

 

 

ワシントン・ホワイトハウス

このところ連日のように政府幹部、各軍トップたちを集めての国家安全保障会議が開かれていた。

全員の疲労はもちろんだが、特にハドソン大統領の疲労には見るに耐えなかった。

かつて代々のアメリカ大統領で、これほどの苦境に追い込まれた者はいるのだろうか。

ニクソンやクリントンは苦境に立ったことがあり、それも自ら招いたスキャンダルだった。

世界が敵に回ったわけではなく、常にアメリカの味方だった。

ニクソンは失脚し、1972年6月に起きた民主党全国委員会本部への不法侵入・盗聴事件、いわゆる『ウォーターゲート事件』の責任を取り辞任した。

クリントンに至っては不倫、いわゆる『モニカ・ルインスキー事件』がきっかけで第17代のアンドリュー・ジョンソン以来の弾劾裁判にかけられた。

常識ある国民は呆れたが、幸い内政に成果を上げたので弾劾されずに済んだ。

先の戦争では日本が東南アジアを席巻し、太平洋艦隊が沈められていたときも落ち着いていられた。

 

なによりもまだ国力もあった。

いつでも反撃に出られると言う自信があったからだ。

だからこそルーズベルト大統領は、泰然としていられた。

国民もまた味方であり、国の苦難を前にして一枚岩に纏まっていた。

今とは、全く違う状況になった。

アメリカ合衆国は、バラバラに分裂どころか崩壊しようとしているからだ。

ドルの暴落が甚だしく、国内経済も混乱を極めた。

なお国民は厭戦状態であり、各州ではイスラム原理主義者のテロも続出した。

国内はもはや混乱状態と言う有様である。

 

「今日は日本との講和を受け入れるかどうか、まずそこから議題を進めたいと思います」

 

マーカス国務長官が、まず発言した。

 

「うむ…… オアフ島では我が軍や連邦軍の捕虜の残虐行為などは発生しておらんのか?」

 

こめかみを揉みながら、ハドソンは尋ねた。

かつてイラク戦争やアフガン戦争などで、自軍の兵士たちがイラク人やアフガン人などに対して、多くの非人道的行為を行なった記憶があるからだ。

特にキューバ・グァンタナモ基地におけるイラク人捕虜の扱いは国際問題になった。

元々、敵国であるキューバに米軍基地があるのはおかしなものだが、これは冷戦時代の際に、アメリカが作った基地がそのまま残ったのである。

カストロが政権を握り、アメリカ企業が撤退したときも米軍はここを引き払わず、そのまま居座り続けた。

カストロは追い払いたかったが、最後まで叶うことなく2016年11月25日に死去した。

なおアメリカ政府は彼が死去、キューバと国交を結ぶまで1年に100ドル(約1万2000円)の土地代を払い続けた。

むろんキューバ政府は受け取らないと言う、誰もが笑えない冗談が続いてきた。

 

「いや、国連査察団あるいは赤十字査察団はいつでも受け入れると日本は言っておりますので、その心配はないでしょう」

 

マーカスは答えた。

 

「寧ろ、最大の問題は講和条件にある日本保有の我が国の国債復活です。何しろ4兆ドルと言う驚愕なものです。これを日本指定の銀行に送金しない限り、日本は『うん』と言わないでしょう」

 

「講和を蹴ったら、どうなる?」

 

ハドソンは尋ねた。

 

「おそらくあの《ミラクル・ジョージ》を持って爆撃して来るでしょう。ロサンゼルスやサンフランシスコは大被害を受けます」

 

「爆撃されたら、我が政権は持ちません」

 

グレイ首席補佐官は指摘した。

 

「………!?」

 

ハドソンは『それでも構わぬ』と言いたいが、さすがに思い止まった。

心痛のあまり正気を失いかけてもいたが、何もかも放り出したい心境である。

しかし、最後は自分なりのけじめをつけようとした。

 

「よく分かった…… 諸君、私は連邦残党軍と同盟を決裂して、日本と講和を結びたいと思う」

 

その一声で、全員が一斉に騒ぎ出した。

 

「なぜですか、大統領。まだ日本に負けたわけではありません」

 

そう言ったのは、ケリーだった。

 

「ハワイを取られたとしても我々が負けたわけではありません。その間にオアフを奪回する計画をなんとか練るのです」

 

ヨークは言った。

 

「まあ、待ちなさい」

 

両手を上げて、ハドソンは喧騒を制した。

 

「キミたちも見ただろう、我が空母戦闘群は最新鋭空母を除き、ほとんどが大破した。

グアムの空軍基地だって、日本の重爆部隊にやられ孤立状態だ。

そして止めと言うべきハワイも占領されたのだ。これ以上戦い続けると我が国は今よりも大混乱しかねないことは勿論、いまよりも取り返しのつかないことになる」

 

ヨークは返す言葉がなかった。

事実上、日本軍にハワイ島を占領された挙げ句、国内情勢も不安定だからだ。

これ以上悪化の道を辿る前に、何とか打開しなければならない。

もう自分はどうなっても良い。

最後まできちんと任期を務められるのであれば、それで良いではないかと思った。




予想外の展開と言いますか、急遽アメリカが『停戦講和』を宣言しました。
ハワイまで占領されたら国民は厭戦気分が高まり、このような状況になるのも無理はないかと思いますが……

灰田「因みに『海底戦艦イ800』ではハワイを占領されてこのようになったりしています。また『天空の要塞』『超日米大戦』などでも同じくハワイが占領されて同じような事になっていることもありますが」

果たしてどうなるかは不明ですね、今後は。
原作と同じくこの戦いはまだまだ終わりませんので、連邦残党軍も往生際が悪いものですから。

灰田「元よりこの最終章に突入した時点でもう崩壊していますからね」

まあ、そうなるな(師匠ふうに)
積もり話もいろいろありますが、そろそろ予告に参りましょうか。

灰田「承けたりました。次回はこの停戦講和後の話しです。しかも日本はもちろん、ハドソン大統領がとある人物『ディープ・スロート』の正体を知るべくとある人物との会話をする最中に誰もが予想外の事件が起こります」

最終章は以前も予告下通り、遅くなることもあります。
しかし、最後まで楽しめて頂ければ幸いです。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二話:『ディープ・スロート』現る!

お待たせしました。
それでは予告通り、この停戦講和後の話しです。しかも日本はもちろん、ハドソン大統領がとある人物『ディープ・スロート』の正体を知るべくとある人物との会話をする最中に誰もが予想外の事件が起こります。

灰田「因みに元ネタは以前も申した通り、『超空の艦隊』です。この世界ではいったい誰が『ディープ・スロート』なのかが分かります」

今回は少しだけですが、気分を害する表現が含まれます。
この警告に伴い、読まれる際にはご注意ください。
それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


ハワイ占領後に突然、アメリカと連邦残党軍から講和を申し出られた日本は驚いた。

一面予期するものであった。

この作戦はかつてMI作戦後に開始される予定だったハワイ攻略作戦……ハワイを人質に取ることにより、和平を引き出そうとしたのである。

 

つまり日本の奇想が、和平への道を生み出したのである。

日本政府は元帥たちとの連絡会議を開き、各軍の戦争継続について議論した。

全員異存はなかった。元帥や秀真たちはきな臭いと思いつつも承諾した。

元々やりたくて始めた戦争ではない、原因を作った連邦国が発端だった。

講和の仲介はスウェーデンで、両外務大臣(アメリカはマーカス国務長官)は日本が占領したハワイで会合した。

細目について話し合うこと、元より日本が出した条件に付いて話し合った。

もちろん自衛隊がハワイを占領しているので、砲火は止んでいる。

日本が出した条件については、一部は遅れるとアメリカ側の主張を通した。

何しろ巨額な大金は、これに関しては仕方ないと寛大的処置をした。

ともあれ、これを機に自衛隊はハワイから全軍撤退すると言うかたちとなった。

 

日米両国の国民は歓喜した。

双方とも戦争に、かつての同盟国と戦うことにウンザリしていた。

しかし自衛隊が撤退後、元よりこの会議が終了後に、事態は誰しもが想像つかなかったという急展開を迎えたとも知らずに……

 

 

 

後日。

ワシントン・ホワイトハウス

講和成立後、ハドソンはとある人物をホワイトハウスに呼び込んだ。

上院の院内総務と言えば、隠然たる権力を誇る。

とある人物は、テキサス出身で南部出身議員の大御所のドールだ。

ドールは190cmほどもある大男で、赤ら顔の白髪、見るからに押し出しの良い風采である。

その長身を仕立ての良いロンドン製のスーツに包んでいる。

彼の祖先は、南北戦争時代では1、2位を争う大農園の持ち主であり、数万人の黒人を奴隷として扱ってきた。

 

「大統領、お呼びでしたか?」

 

「ああ、キミにちょっと話がある。まあ、座りたまえ」

 

ハドソンは自分のデスク前の椅子を勧め、ドールはゆったりと座った。

 

「吸うかね?」

 

ハドソンは葉巻の箱を開けたが、ドールはかぶりを振ると、自分の葉巻ケースをスーツの内懐から取り出した。

 

ふたりはめいめい葉巻に火をつけると、しばらく無言でその紫煙を楽しんだ。

アメリカでは、しばらく禁煙ムードが盛んだったが、ここに来て振り子が揺れ戻り、喫煙者がまた増え始めた。

ストレスを取るには、タバコがもっとも手頃な手段だからだろう。

 

「……で、お話と言うのは何です、大統領?」

 

ハドソンが黙っているのを見て、堪り兼ねたドールは質問を促せた。

ハドソンは何かを決心したかのように葉巻を灰皿にこすり付けて消すと、ドールに面と向かい合った。

 

このような出来事が起こる前に遡ること、以前の会議のことである。

 

ハリソンFBI長官が口にしたのがきっかけである。

 

「重要な問題として、国務長官は南部で秘かに復古的な不穏な動きが行われているのはご存知でしょうか?」

 

「復古的な問題とは?」

 

マーカスは眉をひそめた。

 

「どうもテキサス出身の上院の院内総務のドール議員が音頭を取っているようです。

南部諸州の議員たちを秘かに集め、定期的会合を持っていると言う情報を……私の部下たちが掴みました」

 

「ふむ、その目的は?」

 

ハドソンは愕然興味を引かれたらしく、身を乗り出した。

 

「それがどうも……謎の人物『ディープ・スロート』と共にドール議員は新南部連合と言うものを作り、南部独立を果たしたいと言う考えらしいのです」

 

「なに、南部独立だと!?」

 

ハドソンは、さすがに奇声を発した。

他の者たちも顔を見合わせた。

 

「そんな馬鹿なことが信じられるか。ドール議員は150年以上前の歴史に逆戻りさせるつもりか!?」

 

ケリー国防長官が吐き捨てるように言った。

 

「いや必ずしも馬鹿げたことと決めつけるわけにはいかないでしょう」

 

グレイ首席補佐官は冷静な口調で言った。

補佐官と言うのは、常に冷静でないと大統領を補佐できない。

ハドソンやこの場にいないが中岡のような感情的な大統領では、尚更である。

 

「テキサスのダラスで、かつて何が起きたか思い出してください…… アメリカ大統領が暗殺されました。

あの暗殺は予告されたものですが、若いケネディーは敢えて火中の栗を拾いに行きました。

その結果、暗殺されたのです。

あれはリベラルな大統領を嫌った石油資本が背後にいました。

ジョンソン大統領も絡んでいたと言う話がありますが、それはないでしょう。

しかし、極右の連中が、ケネディーを殺したのは確かです。

そしてテキサスと言うのは、極右の連中の巣窟なのです。

彼らは自分たちこそがアメリカの代表であり、一州で独立しても構わないと、未だに思っているはずです」

 

テキサス州のローンスター、つまりひとつ星である。

ただ一州で独立し得るという気概を込めてある。

 

「キミに教えてもらわんでも、そんなことは承知している」

 

マーカスが不機嫌に言った。

 

「確かにドールは典型的南部男だ。しかし、まさか本気で、今更アメリカを二つに割ろうとしているわけではあるまい」

 

「それはどうでしょうか、大統領ご自身で、一度確かめる必要があると思いますが……」

 

FBI長官が言うと、ハドソンは顎を撫でて答えた。

 

「……分かった。私はドールを呼びつけて話をつけてやる。その『ディープ・スロート』の正体も突き止めて、こんな馬鹿げた陰謀を放っておくわけにはいかん」

 

ハドソンはしわがれ声で言った。

 

「あくまでも慎重に、冷静に御行動お願いします」

 

現状に戻る。

グレイの言葉を思い出すように、行動したかったが……

 

「実は…… キミについてはなはだ興味がある噂を聞いたが、キミは謎の人物『ディープ・スロート』と共に、なんと南部連合の復活を目論んでいるそうだな?」

 

ハドソンはずばり切り出した。

さすがに大統領になったのは、伊達ではない。

いざとなれば、大胆不敵に攻めてくる。

 

「ほう、大統領閣下はだいぶ良い耳をお持ちのようですな」

 

ドールは全く慌てず、葉巻を吹かし続けた。

 

「キミは否定しないのかね?」

 

「否定しません。仰る通り、『ディープ・スロート』と共に新南部連合を立ち上げることを考えていることは確かです。そしてその計画は大統領閣下、あなたが考えおられるよりも早く進んでいます」

 

「何と言う事だ。キミはアメリカを二つに割るつもりかね。150年以上前の南北戦争の頃に戻すつもりか?」

 

「好き好んで、分裂を求めるのではありません。

できるならば、無意味な軋轢は避けたいと思いますが……現政府がこれを認めなければ、南北戦争の再来となるでしょうな」

 

ハドソンは顔色を変えた。

 

「とんでもない、発狂的なことを。そんなことになればアメリカは国力を失い、覇権国家どころか二流国家に転落してしまうぞ」

 

「恐らくそうなるでしょうな。しかし、すでに我が国はかつてのカリスマ性を失い、世界唯一の覇権国家から没落しつつあります。

それと、ドルの暴落と日本軍に負けたことをどうお考えですか?

もはやこの崩壊の責任は大統領、全てあなたにあるのです……私は南部諸州の力を結集して、いまこそ強いアメリカを取り戻すつもりなのです」

 

「キミの言いたいことは分かったが、しかし議会はキミの意向を承知せんだろう。

むろん、私も承知しない」

 

ハドソンは言った。

 

「それどころか、キミを国家反逆罪で逮捕させるつもりだ」

 

ハドソンはデスク上に置いてある電話の受話器を取り上げると、ホワイトハウス警備隊詰所を呼んだ。

ホワイトハウスは、海兵隊によって警備されている。

余談だが『ドアマン』と呼ばれる海兵隊歩哨は海兵隊の中でも選り抜きの人材が就き、大統領がホワイトハウスの西棟にいる間、入口に立ってドアの開閉を行なわれている。

槍が降ろうと微動はせず、常に直立不動である。

なお大統領個人の警備は、財務省のシークレット・サービスの役目で、常時部屋で待機している。

 

「海兵隊分隊を寄こしてくれ。即刻、逮捕して貰いたい人物がいる」

 

しかし、ドールは落ち着き払った態度をしていた。

 

「いや、大統領。逮捕されるのは……罷免されるのはあなたの方ではないでしょうか?」

 

「何だと!」

 

その時、ドアがノックもされずにM16A4を構えた海兵隊とともに、95式自動歩槍を携えた連邦親衛隊“サルムサ” も入って来た。

遅れてコンドン副大統領とグレイ首席補佐官、そして中岡元連邦大統領たちが一緒だった。

ハドソンは、その顔触れに見張った。

グレイが現われても不思議ではないが、コンドン副大統領、副大統領と中岡たちがいったい何の用なのだ。

しかし、ドールを逮捕させるのが先決だ。

 

「伍長、この男を逮捕してくれ。罪名は国家反逆罪だ!」

 

ハドソンは、その中で上級者に命じた。

しかし、海兵隊は銃を構えたまま動かなかった。

その銃口はあろうことかドールではなく、大統領自身を指しているようだ。

 

「中岡大統領、すまないが彼らを逮捕して欲しい!」

 

しかし、中岡たちはせせら笑った。

彼らの連邦親衛隊隊員たちは、戸惑うハドソンを見て不毛な笑いをしながら銃口を向けた。

 

「役立たずのハドソン大統領に祝福のお言葉があります」

 

「いったい、この状況がどう祝福なの、ふざけているのか!?」

 

ハドソンは感情的になったが……

 

「トマス・ハドソン大統領。あなたを我が憲法の……大統領罷免条項により、罷免します」

 

コンドン副大統領が言った。

 

「キミこそ何を言っているのだ。キミにはそんな権限はないぞ!?」

 

ハドソンは叫ぶように言った。

 

「いや、副大統領には憲法の罷免条項にのっとり、大統領を罷免する権限があります。

それはすなわち、現大統領が職務を全う出来なくなったときです。

我々はあなたの行動をこのところつぶさに見てきましたが、ついにその結論に達しました」

 

グレイが言った。

 

「何だと、貴様まで背くのか、この裏切り者が!」

 

ハドソンは叫ぶと、忠秀は不毛な口調で反論した。

 

「全てを裏切ったのはあなた自身ではないでしょうか、レームダックのハドソンさんのせいですよ~。グレイ首席補佐官は国益に沿って行動しているんですよ、バカですか?」

 

「貴様、何を言っているのだ!」

 

「忠秀連邦主席の言う通りです。私は国益に沿って行動しているまでです。マーカス国務長官も賛成しています」

 

グレイも反論した。

 

「残念ですが、大統領閣下…… あなたにはもうアメリカを指導する能力はありません。

議会もそう決めました」

 

「ふん、そして後釜には、このコンドンが座る訳か。キミはこの男が無能ぶりをよく知っているだろう、グレイ首席補佐官。

そんなことをすれば、我が国は余計に混乱を増すどころか、下手をすれば二つに分裂になるか、連邦国のように崩壊し兼ねないんだぞ!」

 

「すでに混乱の極みを達しています。この窮地を治めるには強力な指導者が必要です。

私はコンドン新大統領を補佐して、中岡連邦大統領と新南部連合の強力な結束のもとにアメリカを建て直してみます、ここにいる『ディープ・スロート』ことコンドン新大統領と共に……」

 

ドール議員は言った。

 

「もしかして、お前が『ディープ・スロート』だったとは……」

 

立ち上がっていたハドソンは、ついに椅子にへたり込んでしまった。

つまりあの会議後に『ディープ・スロート』がいたのだ、しかも副大統領のコンドンという人物こそ残党連邦軍と共にこの機をきっかけに反乱を決行したのだ。

つまり、クーデターである。

 

「しかし、軍部の方はどうなのだ。軍部がキミを支持するとは思うかね。『ディープ・スロート』……いいや、ビル?」

 

「すでにヨーク参謀総長には話を付けているよ、トム」

 

ハドソンが自分の愛称を呼んだので、コンドンもハドソンの愛称を馴れ馴れしく呼んだ。

 

「このワシントンDCも、すでに我々に味方する我が陸軍と盟友の連邦軍が固めている。

他の州も従わざるを得ないだろう」

 

ハドソンは考えた。

確かに憲法には、現大統領が職務を遂行できなくなったとき…… 例えば急病ないし事故により判断能力が欠ける、行方不明などいくつかの緊急の場合には、副大統領がその職を継ぐとある。

 

彼らは拡大解釈した。

 

「国務長官まで賛成と言うのであれば、是非もないな」

 

ハドソンは嘆息した。

 

「それでは、キミが大統領にやってみるが良い…… 参考までに聞くが、最初に何をするつもりだ?」

 

「まず、戦時戒厳令を全米に敷く。今まで敷かなかったのは遅かったのだ。我々に反対する者は全て武力で潰す。そして日本を連邦とともにゆっくり料理する」

 

「ふむ。忙しいことだが、お手並み拝見と言うところだな」

 

ハドソンは今や冷静になっていた。

 

「しかし、核戦争になったらどうするつもりだ?」

 

コンドンは肩をすくめた。

 

「敵が核を使ってくれば、むろん我々も核で報復する。だが、核保有は圧倒的に我々だ」

 

「何と言うことだ…… 下手をすれば他国は黙っておらず我々は世界の孤児になりかねないぞ!」

 

ハドソンは反論した。

 

「はいはい、元大統領の言葉は耳障りですから黙りましょうね!」

 

忠秀はそう叫び、一発のパンチをハドソンの腹に見舞った。

ハドソンは苦痛のあえぎを洩らし、たまらず前のめりになった。

 

「き…貴様らを…亡命を受け入れず…日本と艦娘たちと協力して…殲滅すれば…良かった……」

 

「レイシスト(人種差別主義者)大統領の戯言か! やれ!」

 

「日本に味方するレイシストは、人殺しのヘイトジャップと兵器女どもとともに地獄に落ちろ!」

 

中岡の命令を受けて美女秘書官が前に出ると、次にシャツを掴んでハドソンを引き起こし、思いっ切り頬を殴りつけ、床に倒れさせた。

 

ハドソンは自分を憎み、日本を敵対視したことを後悔した。

 

「最後は引退お祝いに、俺様直々の祝福のパンチです!」

 

忠秀と秘書官に無理やり起こされたハドソンに、中岡は思いっきり拳で殴った。

 

「このゴミはホワイトハウスの外に捨てろ、ただし殺すな。生き恥を晒しておけ!」

 

中岡の命令で、二人の兵士に連れて行かれた意識濛々のハドソンは小さく呟いた。

 

「アメリカよ……この国に神のご加護があらんことを……」




突如と停戦講和が成り立つと同時に、連邦残党軍と共に、『ディープ・スロート』ことコンドン副大統領たちのクーデターにより、再び無に帰ると言うことになりました。

灰田「今回は、少しオリジナリティを加えました」

原作ではこの話し合いはありますが、漫画版では大幅に省略されており、ハドソン大統領が部屋で発狂して、それから罷免されて最後の台詞『アメリカよ……』を言うところで退場します。
今回はオリジナル展開を付け加え、中岡たち連邦残党軍がいかにもクズであることを、より知ることもできれば、それ以上に同情もできない連中でもありますが。

秀真「まだドブネズミ相手とは、まったくやれやれだぜ……」

古鷹・加古・青葉・衣笠(今度は承太郎ふうかな……)ニガワライ

灰田「まあ、そうなりますね」

郡司「僕もさすがに頭が痛くなるよ、木曾」ギュッ

木曾「大丈夫だ、俺がついているからな」ナデナデ

元帥「また胃薬と栄養ドリンクが欲しくなるよ」

と言いつつ、次回予告に移りますね。

秀真「今回は久しぶりに俺たちが担当する、次回はコンドン大統領・連邦残党軍がアメリカ新政権を発足すると同時に、とある作戦を発令する」

郡司「狂気とも言える新アメリカ政権と連邦は、ついに決行する!」

元帥「またこの作戦名も次回に明らかになるから、注目すると良い」

予告編に伴い、余談ですが新作も今執筆中です。
気ままに書いており、のんびりと書いていますのでお楽しみを。
何かありましたら、活動報告に報告します。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

元帥・秀真・郡司『ダスビダーニャ!!』

古鷹・加古・青葉・衣笠『ダスビダーニャ!!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三話:発令!”トロイの木馬作戦”

お待たせしました。
それでは予告通り、コンドン大統領たちがアメリカ新政権を発足すると同時に、とある作戦を発令します。

灰田「またクーデターきっかけにより、連邦残党軍から連邦亡命政府に昇進しますことをあらかじめお伝えいたします」


それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


3日後――

ワシントン・ホワイトハウス

コンドン新大統領は執務室でマーカス、ケリー両長官と向かい合っていた。

またグレイ首席補佐官ほかの補佐官たち、そしてヨーク参謀総長と交替した新参謀総長ことアーサー・ギャラガー大将が陪席していた。

むろん、あの中岡率いる『連邦亡命政府』の側近や幹部たちも陪席していた。

グレイは中岡たち秘かに口説かされ、今回のクーデターに加わる決心をした。

実はハワイを見捨てたときから、ハドソンに見切りをついている自分に気づいた。

残虐性の中岡たちと、超タカ派のドール議員が、新大統領を補佐してくれと頼んだので引き受けたが、これは異例のことである。

ワシントンでは大統領が代わった場合、各閣僚や補佐官たちは全員交替するルールがある。

自分の地盤から腹心を連れてくるのが常識となっており、彼らのこと『マフィア』と呼ばれた。

 

コンドンは連邦の協力を得て、大統領の座を奪うと、積極的に動いた。

まず弱腰だったヨークを更迭し、後任者として攻撃的な性格を持つギャラガーを据えた。

補佐官もグレイのほか、一新した。

その多くが南部出身であり、コンドン自身もテキサス出身である。

 

それからテレビやネット番組などに出演して、国民に今回の大統領罷免の正当性について訴えた。

そもそもアメリカが今日のような困難に陥り、威信が甚だしく低下したのは、ハドソンが東アジア対策に誤りがあったからだと口説いた。

具体的には対日政策で、日本と協同作戦として深海棲艦撃滅作戦から全て始まった。

しかし、中岡のようなろくでなしブラック提督たちが反旗を起こして、かつての仮想敵国の中国・韓国・北朝鮮を一体化した国家『連邦国』を建国した。

だがこの国と深海棲艦らに包囲され、孤立無援となった日本に何らかの奇跡が起こり、圧倒的戦力を手にした。

その結果、連邦国と深海棲艦を圧倒し、連邦国は三日天下の如く崩壊し、深海棲艦も内乱まで起きると言う始末だ。

この日本の艦娘と急激な軍拡に不安を覚えたハドソンは、今度は連邦の助言を得て、武力で恫喝する手段に出て、なおかつ日本が抱えるアメリカ国債を一方的に解消した。

この措置が、日本を怒らせたのである。

その結果、第二次太平洋戦争が始まり、予想に反して、我が太平洋は日本軍と艦娘たちに圧倒されまくられ、一時的だがハワイ・オアフ島などまで占領された。

自国の御自慢の原子力空母4隻まで大破の状況となり、アメリカ空母戦闘群の無敵神話は崩壊した。

アメリカが困難になったのは全てハドソンの失策と言うことで押しまくったのだ。

なお連邦亡命政府の助言を得て、日本と艦娘たちのせいと言うことも然り。

常識人から見れば『訳の分からぬ特亜の主張』と同じであるが。

 

これらが原因でドルは暴落、アメリカ経済はかつてない経済危機という混沌を極めている。

しかし、自分たちが新南部連合と連邦残党軍を率いて大統領を就任したからには、これまで以上にない強いアメリカを必ず取り戻して見せる。

 

自分を信じて従って欲しいと、大見得を切ったのである。

厭戦気分があったのにも関わらず、これを見ていた国民は熱狂した。

アメリカの未曾有の危機に瀕して国民が欲していたのは、かつてのルーズベルト、ケネディーのような果断な判断力を持った大統領だった。

 

必要ならば、日本を膺懲するために再戦も辞さない。

ケネディはキューバ危機でもその直前まで行ったが、実はフルシチョフとのハッタリ合戦でケネディの押しに、フルシチョフが敗れたに過ぎないが。

コンドンのこわもての風采に伴い、断定的な弁財はそのイメージにぴったりと当て嵌まったのである。

実はドール議員に操られている操り人形であり、そのドール自身も中岡たちに操られている操り人形などとは国民は知ることもなければ、誰も気づかなかった。

 

「国務長官、他の州を統合する案は、纏まったのかね?」

 

コンドンは尋ねた。

マーカスはバージニア出身なので、そのまま留任した。

ケリー国防長官は北部出身だが、兼ねてタカ派と知られていたので、そのまま留任した。

 

「東部諸州、中西部、西部のブロックで緩く統合し、新南部連合を補佐してくれれば、もっとも良い形になると思い、そのようなメッセージを送ったのですが、各州知事とも了解してくれました。

彼らも祖国の危機が、よく分かっているようですな」

 

東部諸州と言うのは、首都・ニューヨークを含めて、マサチューセッツ、メイン州のような大西洋沿いの諸州から五大湖周辺の各州を含む。

今でもリベラルな伝統を持ち、シカゴのような工業都市を持つところが多い。

しかもテキサスには油田があり、南部の強いところだ。

中西部は、アメリカ穀倉地帯およびロッキー山脈の麓で、カンザス・オクラホマ・ネブラスカ・ノースダコマ・サウスダコマ・ワイオミング・モンタナ・アイダホ・コロラド・ニューメキシコまでをも含む。

西部はカルフォルニア・オレゴン・ワシントン州を指す。

 

「ふむ、まあ今は大いにそれで良いだろう。おいおい事態が落ち着けば、人種問題が解決するために各民族の自治州を作るつもりだが……」

 

中岡たちはにやりとした。

 

「では諸君、現状では日本をどう懲らしめるかに移ろう」

 

コンドンが言うと、ギャラガーに視線を向けた。

 

「ギャラガー大将、例の潜水艦の準備は整ったかね?」

 

「はい、必要とあればいつでも出せますが、よく考えませんと」

 

ギャラガー参謀総長は答えた。

かねてから連邦のアイデアとして採用された作戦『トロイの木馬作戦』は決行された。

マーカスは、さすがにたじろいだ。

この原爆搭載の潜水艦を出すと言うことは、核戦争も辞さないと言うことである。

自分はパンドラの箱を開けてしまったかと、マーカスは思った。

 

しかし、もはや後戻りはできない。

 

「ほかに日本の措置はどうしますか?」

 

マーカスは尋ねた。

 

「そろそろ考えておかないと日本激怒させて、またハワイの時のように我が国が報復されかねないと思いますが……」

 

「ふむ。ケリー、キミの意見はどうかね?」

 

ケリーはにやりとした。

 

「国務長官の言う通り、日本は焦れてくる頃でしょう。もう一度我々にプレッシャーをかけるべく、また奇想天外な作戦をするかもしれません。今度は艦娘たちを使ってカルフォニアを砲撃か空爆するかもしれません」

 

「本当に彼女たちはやると思うのかね?」

 

「いや、難しいと思います」

 

「もしそうなったら構わん。カルフォルニアなど攻撃されても痛くもかゆくもない。

どうせ、あそこはまともな白人はおらん。いるのはエスニックの連中だけだ」

 

コンドンは平然と言った。

 

「ジャップの奴らが、どう料理して来るかはどうでも良い。この作戦で倍返しすれば良い」

 

「いっそ、原潜もかしづけて核ミサイルでジャップを日本本土ごと、提督や艦娘たちは鎮守府ごと始末してしまった方がどうでしょうか? 連中も少しは考えるでしょう」

 

ギャラガーは同調した。

 

「うむ、そうだな」

 

コンドンはあっさりと賛成しそうになったので、グレイは慌てて割って入った。

 

「待ってください。日本本土には我が在日米軍やPMCもいれば、我が国の艦娘アイオワもいるのですよ」

 

「そんなことは分かっとる」

 

コンドンは、ぶっきらぼうに言った。

 

「在日米軍はもちろんだが、ジャップ寄りのPMCと、日本に寝返ったアイオワは我々アメリカと連邦を裏切った。そんな弱兵は我が国にはいらん」

 

致しかない犠牲と言うべきか、これは戦争犠牲者になれと言う意味である。

 

「ともかく、この作戦で日本の出方を見る方がよろしいかと思います」

 

「私もマーカス国務長官と同じだ。日本はまた奇想天外なことをするかもしれない」

 

マーカスと、連邦副主席・湯浅はやんわりと言った。

自分たちの役目は、ウルトラ・タカ派……と言うよりはまともな思考力がないコンドン新大統領と中岡たちをコントロールすることだと思った。

しかしアメリカ大統領は、ローマ皇帝よりも強大な権力を握っている。

自分たちのコントロールが果たして利くのだろうか。

 

 

 

様々な意見(ただし反対意見は除く)もあったが、無能なウルトラ・タカ派であるコンドン新大統領や各参謀、そして中岡たち率いる連邦亡命政府の決断は全て一致した。

日本報復作戦とも言える“トロイの木馬作戦”を決行された。

 

使用される潜水艦はできる限り静粛性の高い連邦潜水艦が選ばれた。

今回は核ミサイルを使用するのではなく、原爆を搭載した潜水艦を自爆させるため、米海軍の多くが運用するロサンゼルス級原潜などであるから採用が見送られた。

採用された潜水艦は、かつて中国海軍の最新鋭攻撃型潜水艦039A型潜水艦改(元型潜水艦改)である。

中国海軍所属・潜水艦の名称は基本的には統一性であり、日本のステルス原潜《海龍》同様にあとは番号のみである。

選ばれたものの、問題は狭い魚雷室で魚雷を全て撤去したとしても、原爆を組み立てられるかどうかである。

しかし中岡たちは、深海棲艦と連邦技術者たちと考えて、原爆を極力小型化したのだ。

これは魚雷室のモデルを作り、その中で実際に原爆を組み立てて見た結果である。

 

囮艦となる潜水艦名は《ブルーフィッシュ》と名付けられた。

また付き添っていく艦の名称は《バラクータ》である。

連邦としては珍しく、かつて米海軍が運用していたガトー級潜水艦の名称にした。

中岡たち曰く『艦娘たちを懲らしめるにはトラウマを蘇らせた方が面白い』に伴い、『親米国との信頼の証しでもある』との事である。

誰が見ても快楽殺人者思想であり、まして彼女たちのトラウマを喜ぶ者たちはサイコパスだと言うべきだろう。

ノーフォーク海軍基地のドッグ内で、さっそく連邦技術者たちによる原爆組み立てが開始された。

後部魚雷室をほぼいっぱい占めており、それは直径3メートルほどのほぼ球形物体で、その表面を無数の電線が這いずり回っていた。

さらに技術者たちがでっち上げた偽物のタイマーが取り付けられていた。

そのタイマーをわざとストップできるように、簡単なトリックを仕掛けている。

そしてその中に、本物のタイマーが隠されていると言う工夫がされている。

ウラニウム爆弾は爆縮型と呼ばれる方式で、濃縮ウランを核心に置き、周囲を爆薬で覆う。

その爆薬に点火すると、爆発エネルギーが内部に指向され、ウランが一気に濃縮されて分裂連鎖反応が始まるのである。

タイマーの時間設定は、50時間と言うことに決定された。

日本が救難信号をキャッチして、自爆潜水艦《ブルーフィッシュ》を見つけるまで8時間。

内部を調べるのに2時間、専門家がやって来て調べるのに、さらに5時間。

曳航が決定して、横須賀にまで引いていくのに20時間。

これらを全て合わせて35時間だが、それに予備時間を見込んでものである。

これは《ブルーフィッシュ》に乗り込んでいる連邦技術者たちが、艦を見捨てる間際にセットする。

いったんセットすれば、解除されない仕組みである。

全ての作業が終わり、いよいよ“トロイの木馬作戦”が動き出した。

2隻の039A型潜水艦(元型潜水艦)は深海棲艦に護衛されて、パナマ運河を渡り、日本軍の占領から解き放たれたハワイに向かった。

 

 

 

この時、日本はどうしていたか視点に移る。

ホワイトハウスの予想したとおり、日本政府は驚愕していた。

講和を結んだ直後に、大統領の交替劇のニュースは世界中に流れ、むろん日本も把握している。

 

日本政府もショックを受けた。

せっかく講和が成立したと思いきや、クーデターで台無しにされた。

さらに新南部連合(NSU)と言うものが生まれ、それが連邦とともにアメリカの中核となり、大統領以下政府幹部たちが全て南部出身者中心で、連邦とともに合衆国を導いていくと言うのである。

 

これは時代錯誤のように思われるが、そうではない。

ハドソン前大統領はリベラル主義者となっていたが、実は信念のないその場の限りで動く、軽佻浮薄な人物だと言うことが分かった。

その反動として、振り子があらぬ方向に動き出したと言うことだ。

大統領が代わったことで、対日政策はまた動き出した。

ハワイを一時的占領された報復として、必ず何かをしてくるはずだと元帥・秀真たちは考えた。

連邦の魔の手にとり付かれたアメリカは、もはや怪物そのものだ。

より手に負えない恐竜となったと言っても良く、その執念は計り知れない。

だから、日本に報復として必ず手を打ってくるはずだ。

航空機がダメならば、海から攻めてくる可能性が一番高い、恐らくは潜水艦による自爆攻撃の可能性が高いとして、安藤首相は元帥に依頼して警備を強化した。

主に東経150度ラインに濃密な哨戒ラインを張ることにし、秀真たちは古鷹率いる哨戒部隊を、PMCも協力して哨戒部隊を編成して警備任務に就いた。

なぜ150度ラインかと言えば、かつてドーリットル空襲が行われた際にもハルゼーが指揮する第18任務部隊と第16任務部隊が、この150度ラインの外側から空母《ホーネット》から数機のB-25《ミッチェル》双発爆撃機が発進させたと言う教訓が生かされたのだ。

だからこそ元帥たちは敵艦隊が、ここに来ると推測したのだ。




狂気ともいえる作戦”トロイの木馬作戦”がここに発動しました。
田中光二先生作品では、必ずと言っても良いほど何かしらこうした報復作戦を米軍はしています。
作品によっては超空母《アメリカ》級に、空中給油を通してトラック島に報復作戦などもしています。
余談ですが今回のイベントですが、E-2をした際は第二章『空母戦闘群激闘!』を思い出しました。

灰田「ともあれ本当にアメリカと言い、連邦のドブネズミと言い面倒くさいですね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)←この台詞の癖になっている。
同情もできない連中でもありますから。

灰田「どうなるかは見物ですが」ニヤリ

私にいい考えがあるぐらいの連中ですからね。
なお今回は本編に登場していませんでしたが、古鷹の進水日であります。
古鷹、おめでとう!

\ぱんぱかぱ〜ん/クラッカー炸裂音

古鷹「ありがとうございます!////」

イベント中ですが、盛大に祝わないとね。
私も第六戦隊提督として当然だからね。

秀真「もちろん、俺も同じだ」

古鷹「古鷹、嬉しいです////」

加古・青葉・衣笠『ハラショー(地声)』パチパチ

灰田「積もり話もいろいろありますが、そろそろ予告に参りましょうか」

神通「今回は古鷹さんが予告いたします」ウインク

古鷹「次回はこの続きに伴い、今回のこの作戦自体の行き先をどのような行き先を迎えるかをお伝えします、ネタバレになり兼ねないので伏せておきますが」

予告編に伴い、余談ですが新作もそろそろ投稿しようと思います。
前回活動報告に書いたように、もう少しで投稿できますのでお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・加古一同『ダスビダーニャ!!』

作者・古鷹・神通『ダスビダーニャ!次回もお楽しみに』


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第百四話:招かざる潜水艦

お待たせしました。
新作『第六戦隊と!』で遅れてしまい、大変申し訳ありません。
たまにどちらか更新、または同時更新がありますがよろしくお願いいたします。
それでは気を改めて予告通り、前回の引き続きとともにこの”トロイの木馬作戦”の行く末を知るための出来事を送ります。

灰田「果たして上手く行くかは、本編を読んでのお楽しみです」

今回は少しだけですが、気分を害する表現が含まれます。
この警告に伴い、読まれる際にはご注意ください。
それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


某海域

2隻の連邦潜水艦は浮上航行しつつ、いったん北に向かうと北緯40度線で西に針路を転換、さらに西南西に針路を取って日本に向かった。

039A型潜水艦改は、改装されて浮上航行では20ノット出せる。

およそ1週間で、目標海域に到着する

自爆艦《ブルーフィッシュ》の艦長はパン中佐。僚艦《バラクーダ》の艦長はカン中佐である。

ふたりの艦長ともに、この“トロイの木馬作戦”については半信半疑だった。

古代ギリシャ軍が作った木馬をトロイ軍が城内に引き入れたように、日本軍が《ブルーフィッシュ》を東京湾に引き入れてくれるだろうか。

日本軍が《ブルーフィッシュ》を東京湾から横須賀基地に引き入れれば、東京一帯は壊滅することになるが、果たしてそんなに上手くいくのだろうか。

立案者の中岡たちよりも、作戦実行者の艦長たちが疑念を抱いたと言うことは、敵の考えることがよく分かるからである。

原爆と分かって、みすみす東京湾内にまで持っていくはずはない。

ふたりともそう考えていたが、大統領承認の命令だ。

いかに度外れた命令であろうと、勝利のために実行しなければならない。

航海は順調に進み……とは言うものの、北半球の海が予想以上に荒れており、しばしば潜航しなければならなかったので予定よりも遅れた。

 

あと少しで自爆艦を放棄するXポイントに辿り着く。

東経155度ラインを超えてからは、敵艦警戒に神経を集中しつつ進んだ。

哨戒機にも注意を払う必要があるが、幸いにも悪天候なために哨戒機の姿も見かけることもなく、出くわすこともなかった。

 

ついにXポイントに到着したのは、7月中旬である。

 

自爆艦《ブルーフィッシュ》に乗り込んで、船酔いに苦しんでいる連邦技術者たちが、二種類のタイマーのスイッチを入れた。

 

《ブルーフィッシュ》のクルーたちが、ガスマスクを被って、排水パイプを逆操作して海水を蓄電池室に取り入れ、塩素ガスを発生させた。

むろん日本軍が《ブルーフィッシュ》を発見した後に換気させて、これを曳航することになるだろう。

以上の段取りが終わると、《ブルーフィッシュ》の60名の全乗組員は、僚艦《バラクーダ》

に乗り移った。

パン中佐は“メイデー”の救難信号を平文で打ったのち、急速潜航してその場をあとにした。

日本海軍は、なぜアメリカ潜水艦が平文で救援を要請したか、よほど慌てていたと思うに違いない。

そして艦に備え付けのボートで、脱出したと考えるだろう。

しかし冷静に考え合わせれば、これが罠と気づくはずだ。

その上で好奇心に負けて、《ブルーフィッシュ》を横須賀基地に曳航していくかどうかに、全て掛かっていた。

 

 

 

そこから50海里近くにいた護衛艦が、この信号をキャッチし、横須賀基地に信号を送った。

司令部では、明らかにアメリカ潜水艦ないし連邦潜水艦に何か事故が起き、艦を放棄した可能性があると考えた。

この時、偶然にもTJS社の海軍基地に『第二次北方海域海戦』をお礼に伴い、元帥の命令により、元より艦隊異動のためにTJS社に訪問した秀真と古鷹たちがいた。

なお古鷹たちに続き、白雪と初雪もいたのでTJS社所属海軍とともに、調査のためにこの海域に派遣にした。

 

万が一のために、下手な巡視船よりも突発的な事故が起きたときに対応ができる。

過去に北朝鮮との追尾でも途中でイージス艦《みょうこう》が代わりに行なったが、結局は取り逃がしたのだ。

当時の官房長は、北朝鮮を擁護する一方でもあったのだから訳が分からないものだ。

普通の国ならば拿捕ないし撃沈するが、日本は相変わらず躊躇うのである。

誘拐された子どもを黙って見過ごし、テロリストを護衛する国なんてあってはならない。

戦前ならば拿捕ないし撃沈したが、今ではある程度対応されるも自称『人権屋』『反戦主義』の皮を被ったテロリストや犯罪民族などと協力している反日政党もいるから余計に性質が悪い。

国外からも国内からも攻撃を防ぎ、外交上手な大日本帝国を見倣うべきであるのだ。

話が逸脱したので戻る。

 

司令部では、最初から何か胡散臭いなと考えていた。

米軍ないし連邦海軍が、平文で電報を打つなどと言うことは、滅多にあることではない。

しかし、先ほど元帥が首相たちから『キミたちの調査後は曳航して、横須賀基地で専門家チームの元で調査するから拿捕しろ』と報告がきた。

しかし、秀真たちはかつての日本軍を引っ掛けたトリックを思い出した。

それはミッドウェー海戦前夜で、この似たトリックが行われた。

この暗号の中に“AF”と言う符号が何度も出ることに気が付いた米軍は、これはミッドウェーではないかと考えた。

しかし、確証が得ることができない。

これを得るために“ミッドウェーでは水が不足している”という電報をわざわざ平文で打ったのである。

日本軍はこれに引っかかり、次の暗号の中に“AFは水が不足している”という情報が出た。

また軍とは関係のない一般人ですらも、海軍に『次はミッドウェー海戦ですね、頑張ってください』と行き渡るほど情報が漏洩していた。

戦後にこれを知ったのは言うまでもないが、暗号に長けていた陸軍、また諜報戦に長けていた陸軍中野学校出身者が作った暗号も最後まで解読されることはなかった。

真珠湾攻撃時のように、緘口令を敷くべきだったのである。

ましてや慢心した上層部たちの口元が緩んだとしても過言ではない。

秀真たちは『相変わらず撃沈しても国の運命よりも、自分優勢と出世しか頭のない官僚どもの命令か』と毒づいたが、命令は絶対である。

ともあれ調査艦隊を編成して、その問題の潜水艦のいる海域に急行するのだった。

 

 

 

秀真はいつも通りにズムウォルト級に乗艦し、古鷹を旗艦とした調査艦隊を編成した。

メンバーは加古・青葉・衣笠に伴い、対潜警戒として白雪と初雪が護衛する。

同じく秀真・古鷹とともに協力するのは、TJS調査艦隊は――

艦艇は遠雪蘭艦長(階級は中佐)が乗艦する、改バレアレス型フリゲート《荒雪》である。

特に彼女は中国人民解放軍潜水艦のスクリュー音を全て記憶しているので潜水艦の探知・異変を感知しやすいとのことで今回の調査に積極的に協力してくれた。

またTJS所属する艦娘……榛名を旗艦とした調査艦隊を編成した。

彼女のほかに、名取・飛鷹・潮・浦風・谷風である。

対潜重視の準水雷戦隊編成だが、飛鷹を加えたのはイザと言う時の航空支援である。

飛鷹が選ばれた理由は正規空母にはできない、対潜攻撃ができるのが心強い。

艦載機はジェット戦闘機《天雷改》に、通常爆弾から対潜爆弾を搭載した《天弓改》などを搭載している。

もしも深海潜水艦がいたときには、これで攻撃して沈めることが出来る。

軽空母ヌ級、また正規空母ヲ級がいた際は《天雷改》や対艦攻撃に特化した《轟天改》がいる。

また人造棲艦《ギガントス》が潜伏した時に備え、古鷹たちはレーザー砲に伴い、あの悪魔を一瞬のうちに倒すことが出来る“振動弾頭”も装備した。

白雪たちには特殊魚雷も装備させているから、調査でも重装備をすることで緊張感を持たせるのが大切でもあった。

 

しかし……

 

「もうやだ、鎮守府に帰りたい……」

 

現場急行中、いきなり初雪が愚痴を零した。

外にいるより、自分の部屋に引きこもって布団の中に寝たいからだ。

しかしこう見えても衣笠と同じく射撃の名手であり、武勲艦でもある。

 

「もう、あんまりそう言うと吹雪姉さんに言いつけるよ」

 

初雪に注意を促すのは、白雪である。

叱っていても姉妹だから心配するのは当然である。

 

「初雪ちゃん、すぐに終わる任務から頑張ろうね」と古鷹。

 

「これが終わったら、暫らくは待機だから頑張ろうな」と加古。

 

「頑張ったら、司令官がスイーツを奢ってくれますよ」と青葉。

 

「だから、提督とみんなで一緒に頑張ろうね」と衣笠。

 

『初雪、お前は誰よりも頑張り屋なのは分かっている。だから普段通りに行けばいい』

 

古鷹たちと、提督の言葉を聞いた初雪は頷いた。

 

「分かった、頑張る……」

 

「うん、頑張ろうね」

 

同じく榛名たちも――

 

「榛名、全力で調査します!」

 

榛名は旗艦を務めているため、やる気満々である。

 

「はい、護衛ならばお任せください!」

 

彼女を補佐するのは名取に伴い――

 

「偵察機からの入電はまだね…… 潮ちゃん、大丈夫?」

 

偵察機《彩雲》の入電が来るまで気にしていた飛鷹は、隣にいた潮を心配した。

 

「は、はい大丈夫です……」

 

「緊張しなくても大丈夫よ、私たちが付いているから!」

 

「潮ちゃん、うちと谷風がいるから大丈夫じゃけんね!」

 

「そうそう、この谷風さんが入れば大丈夫、大丈夫!」

 

緊張する潮に対して、飛鷹・浦風・谷風が緊張感を解かした。

三人の言葉に潮は、ニッコリとした。

飛鷹たちのおかげで緊張感は解けたのである。

 

『普通の調査で終われば良いけど、少し不安ね』

 

遠雪蘭が呟いたときだ。

飛鷹の飛ばした《彩雲》から入電が来たとの報告が来た。

連峰の潜水艦を1隻が、しけの中で波にもまれている1隻の連邦潜水艦を発見した。

 

『よし! 全員気を引き締めて、現場に急行する!』

 

『全艦、火器はいつでも放てるようにフルにしろ!』

 

秀真・遠雪蘭の号令を聞き、古鷹・榛名たちは現場へと踏み入れる。

 

 

 

某海域

一同は現場に到着し、その潜水艦を目にした。

 

『古鷹たちは榛名たちと共に、慎重に近づけ』

 

『榛名たちも古鷹さんたちと慎重に近づいて、飛鷹は万が一に備えて直掩隊を展開して』

 

秀真・遠雪蘭の命令を聞いた古鷹たちは『了解』と返答し、各主砲を構えつつ近づいた。

飛鷹はジェット戦闘機《天雷改》を率いる直掩隊を展開させた。

秀真が乗艦しているズムウォルト級は155mm先進砲を、遠雪蘭が乗艦している《荒雪》はMk42 5インチ砲を連邦潜水艦に照準を合わせて近づいたが、明らかに無人状態である。

 

『何らかの理由で艦を放棄、恐らく塩素ガスが発生しているから放棄したのでしょうか?』

 

『そうだろうな、ともかく……調査部隊を編成して、艦に乗り込みしかないな』

 

秀真・遠雪蘭たちはこの旨にTJS司令部に報告すると同時に、直ちに調査部隊を編成―― カッターを下ろして近づいた。

むろん塩素ガスが発生していることに備え、全員分のガスマスクを用意していた。

荒波のなかを苦労して、連邦潜水艦の甲板に近づいた。

また各自は艦内に隠れている連邦乗組員たちが攻撃して来るかもしれないために、MP5を構えつつ、順番に乗り移った。

 

潜水艦のメインハッチは、開いたままだった。

海水がそこからなだれ込み、もうしばらくすれば自沈してしまう状況だった。

艦内を覗き見ると独特のガスの嫌な臭いがぷんとした。

やはり何らかの事故で塩素ガスが発生し、艦内に蔓延っていたのだ。

これは極めて危険なガスで、ひと口吸い込んだだけで卒倒して、やがて死に至る。

調査部隊は全員ガスマスクを装面すると、中に乗り込んだ。

司令塔から、機械室、魚雷室、そして蓄電池室を調べたが……やはり蓄電池室に海水が浸水していた。

ただちにこの排水作業を行ない、他の甲板ハッチも開放して換気に努めた。

後部魚雷室を調べた者たちは、そこに奇妙な代物を発見した。

直径3メートルほどの球体で、表面には無数の電線が這い回っている。

その表面にはタイマーらしきものがあるが、針はゼロを指している。

つまりこれが何かは分からないが、起動はしていないことを示している。

むろんこれはダミーであり、本体深部に本物のタイマーが仕掛けられており、今でも時を刻んでいる。

調査部隊は急いで艦に戻ると、この不思議な物体について秀真たちに報告した。

秀真・遠雪蘭たちも首をひねったのも無理はなく、その正体が分からなかった。

そのためTJS司令部に連絡しようとした時だ。

 

「青葉、どうしたの?」

 

「どうした、青葉?」

 

「青葉、大丈夫?」

 

「青葉さん、大丈夫ですか?」

 

「青葉さん…大丈夫?」

 

古鷹たちが心配する声が聞こえた。

 

『青葉、大丈夫か。気分でも悪いのか?』

 

秀真も心配した。

 

「司令官…… あ、青葉……嫌な予感がします。あの日……呉で見たあの光が……」

 

青葉はその場に座り込んで酷く怯えていた。

しかし彼女だけでなく……

 

「は、榛名さん、大丈夫ですか?」

 

「どうしたん、気分でもえらいんか?(えらい:中国地方の方言で『つらい』『きつい』などとのこと)」

 

「大丈夫ですか、榛名さん!?」

 

「榛名さん、大丈夫ですか……?」

 

「は、榛名も嫌な予感がします、あの日に江田島で見た……あの光が……」

 

同じくTJS艦隊に所属する榛名も同じく怯えていた。

決して触れてはいけない物を触れてしまった表情…… まるでホラー映画に登場する化け物の封印を解いてしまった主人公たちが浮かべた絶望的な表情だった。

それとも……何か別のものなのかと秀真は察知した。

 

「やれやれ、連邦のドブネズミたちもまた物騒なものを置き土産にしたものですな」

 

灰田はすうっと現れた。

 

「灰田、もしかしてコイツは……」

 

「ええ、秀真提督の言う通り、まさに本物の原爆です。青葉さんと榛名さんが酷く怯えているのもそのためなのです。連邦は苦心して作り上げた小型化したウラニウム弾ですよ。

アメリカと連邦は“トロイの木馬作戦”と称して、これを本土まで持ち込むように謀略を練りました。

私はどうなるか様子を見ていましたが、双方の謀略に引っ掛かる事もなかったので安心しました」

 

「その言葉は俺たちより、青葉たちに言ってくれ」

 

秀真は素振りを振った。

 

「あとで必ず伝えます。しかし、これをどうするおつもりですか?」

 

灰田は尋ねた。

 

「元帥の命令、元より政府からだが、これを横須賀港に持ちかえり調査するとの方針だが、いささか嫌な予感しかないと思う」

 

秀真の言葉に、その場にいた全員が頷いた。

 

「確かにこれを持ち帰るのは、少し危険があります」

 

灰田は深刻に言った。

 

「現にこの内部では、本物のタイマーが今でも時間を刻んでいます。私の透視をするところでは20時間ですね」

 

「なんだと、別のタイマーがあるのか!?」

 

流石の秀真も青ざめた。

 

「そこがアメリカと連邦の巧妙なところで、表面に止まっているタイマーはダミー、つまり偽者です。

本物は本体の奥深くまで隠されていますゆえに、偽装された装置を作動させなければ止まりません」

 

「もし爆発したら、被害はどうなる?」

 

「もしも爆発したら横須賀と横浜はおろか、東京まで瞬く間に崩壊するでしょう」

 

灰田が淡々と言うと、秀真たち全員がショックを受けて沈黙した。

青葉と榛名が察知しなければ今頃、そのようになっていたに間違いなからだ。

 

「では、元帥に伝えて…… 許可が下り次第、これを外洋に持って行って撃沈すべきだな」

 

最初に立ち直ったのは秀真だった。

 

「まあ、それもいいでしょうが…… せっかくですからアメリカと連邦にしっぺ返ししてやると言うのはどうでしょうか?」

 

灰田が言う。

 

「……というと?」

 

「問題のタイマーは私が止めます。その上で少しだけですが3時間後に爆発するように設定して、これをハワイ近海までこの潜水艦を持っていき、再起動させます。

パールハーバー沖合でこれを爆発すれば、アメリカと連邦もさぞかし魂消るでしょう。

……他人様に投げた石が、自分のところに跳ね返って来たようなものですから」

 

「そんなことは可能なのか、灰田?」

 

「もちろんです。再起動させるのは私がやりますから、あなた方はこの潜水艦に乗員たちを乗り込ませ、操艦してハワイ沖まで持って行けばいいのです」

 

「なるほど。早速政府と元帥たちなどと協議の上で決定することにしよう。遠中佐もTJS社の協力をお願いします」

 

『了解、社長たちには私が説明します』

 

秀真の報告に、遠雪蘭たちもそれで良いと納得した。

灰田はいったん問題のタイマーを止めてくれたので、心置きなく善後策を講じることができるようになった。




狂気ともいえる作戦”トロイの木馬作戦”は、無事に調査艦隊のおかげで阻止することが出来ました。
なお今回の灰田さんは、毒舌なのは気にしてはいけません。

灰田「連邦軍のコードネームとしても良いじゃないですか」

確かに、そう言われても仕方ないねぇ(兄貴ふうに)
これまで振り返っても情けはないどころか、同情もできない連中だから。

灰田「どうなるかは見物ですが」ニヤリ

秀真「少しだけ本編でネタバレもしてはいるけどな」

遠雪蘭(楽しそうね、何だか)

色々ありますが、前書きに書いたとおり、私の新作『第六戦隊と!』と本編をよろしくお願いいたします!
こちらも古鷹たちメインですが、甘々+架空戦記と言う風変わりな小説になりますのでお楽しみください。

秀真・灰田『宣伝してやがる(しています)』

遠雪蘭(ふむ、面白い小説ね)←読んでいます

灰田「ともあれ、予告篇に行きましょうか」

秀真「久しぶりに俺が担当する。次回はこの鹵獲した連邦潜水艦《ブルーフィッシュ》を使って、報復作戦をする俺たちも参加するが別行動になるかもしれない。
その真相はこの報復作戦後に分かるから、待っていてくれ」

遠雪蘭「私たちの出番はあるかな?」

それは次回のお楽しみであります(あきつ丸ふうに)
予告編に伴い、少し新作の宣伝をしましたが、これからもお楽しみに!

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・遠雪蘭『ダスビダーニャ!!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百五話:フラッシュ作戦、発動!

お待たせしました。
今回も同時連載『第六戦隊と!』と共に、同時投稿であります。
それでは気を改めて予告通り、この鹵獲した連邦潜水艦《ブルーフィッシュ》を使って、報復作戦を実行します。

灰田「原作とは違ったオリジナル展開でもありますが、お楽しみください」

今回も少しだけですが、気分を害する表現が含まれます。
この警告に伴い、読まれる際にはご注意ください。それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


またもや予想外の事態の秀真たちに、元より灰田のおかげで助かった日本政府は顔を青ざめた。

もしも調査のためにコレを持ちかえれば、横須賀と横浜はおろか、首都・東京までも巻き込まれて日本機能は麻痺したどころか、負けたも同然だった。

安藤たち全員は、連邦もだが、この“トロイの木馬作戦”を賛同し、実行したアメリカに対しても『狂っている』と口にしたほどショックを受けた。

 

もはや狂気人間、いや、それを逸脱して神と自惚れている中岡率いる連邦残党軍に操られたアメリカはかつての保守派のアメリカではない。

元々アメリカ人の本質は保守(コンサバ)であるが、コンドン大統領になってからは超保守の面が目立つばかりだ。

時の大統領は代わっても、対日政策は基本的にはがらりと変わるとは考えられない。

 

「要するにアメリカからの、元より連邦のメッセージも含めて徹底抗戦を決め込んでいるわけですな。我々を舐めきっている訳です」

 

秋葉法務相がぼやいた。

 

「どうでしょう、首相。そろそろひとつガツンと思い知らせなければないでしょうか。

せっかくこの自爆艦を鹵獲したのですから、これを使うべきではないでしょうか」

 

矢島防衛省長官が発言した。

 

「うむ……」

 

最初は躊躇った安藤たちが、しかしこれほどまで徹底抗戦をするというメッセージを伝えたのであれば、このチャンスを逃すわけには行かない。

つまり毒を持って毒を制すと言う作戦、報復作戦を決行した。

作戦名は『フラッシュ』と名付けられた。

元帥も基本的に了解し、秀真たちも同じくこの案をオーソライズした。

今回はこの鹵獲潜水艦《ブルーフィッシュ》を操艦するのは、TJS社に託された。

むろん、これをハワイ沖まで持っていくには、僚艦の潜水艦こと鳥取沖海戦で活躍したスコルペヌ型(AIP仕様のAM-2000)の《伊601》が付き添い、最後の瞬間に乗り移るわけだ。

敵側がやって来たのをそっくりそのまま、同じようにやるわけである。

訓練は1週間で終わりに伴い、いよいよ、この報復作戦“フラッシュ”が開始された。

付き添うのは、鳥取沖海戦で活躍したスコルペヌ型(AIP仕様のAM-2000)の伊601である。

艦長は元スペイン海軍ベテラン潜水艦乗りのグレゴリオ・ロブレス少佐だ。

原爆搭載艦を操艦するのは、彼のエルナン・ゲルラ大尉である。

両潜水艦は作戦を整え、横須賀を出ると、恐らく敵が用いたとされる同じ航路を通ってハワイに向かった。

なお秀真・郡司は、別作戦のため不在である。

 

いっぽう、アメリカ・連邦亡命政府はどうしていたか。

この“トロイの木馬作戦”が失敗したのかと思うと、連邦亡命軍はがっくりと気落ちした。

むろんアメリカ政府も同じく、本当に成功したのか疑心暗鬼をしていた。

作戦通りにいけば、敵がこの正体を知ろうと横須賀基地ないし鎮守府に持ち込み、調査のために解体しようとしたとすれば原爆が爆発している。

横須賀から横浜、そして東京に掛けて今頃は灼熱の炎が襲い掛かり、かつて米軍が非道の限りに尽くした東京大空襲よりも悲惨、元より広島や長崎で行なった非人道兵器で軍や民間人はおろか、少数の米軍捕虜ですら躊躇うことなく見殺しにしたあの原爆と同じ光景になっているはずである。

 

しかし、その様子は見なれなかった。

念のために東京湾近くまでに監視用の連邦潜水艦部隊を派遣していたが、決められていた時間になっても爆発はなかったとの報告が後を絶たなかった。

結局、どうなったのかは誰にもわからなかった。

日本海軍は、放棄された《ブルーフィッシュ》をきな臭いと見て、その場で撃沈したのかもしれないと考えた。

それと同時に、中岡たちは日本人の好奇心を強く見積もり過ぎていたと考えた。

それよりも警戒心の方が勝ち、この“トロイの木馬作戦”は、敵の疑心暗鬼が弱くなければ成立しない作戦でもあった。

つまりは、中岡たち連邦亡命政府軍の計算違いだった。

こうしてアメリカ・連邦は、大いに期待していたこの作戦を無駄に終わらしたということになった。

 

 

 

横須賀から出てから2週間目に、連邦潜水艦《ブルーフィッシュ》とTJS潜水艦《伊601》の2隻は、あらかじめ定められたXポイントに到着した。

オアフ島・東北東沖合20海里のポイントである。

ハワイ解放後は、この辺りは当然の如く敵の哨戒も厳しいので、2隻はだいぶ前から潜航して、接近しなければいけなかった。

ここにXポイントを定めたのは、パールハーバーはオアフ島の南側にあるからである。

北からはダイヤモンドヘッドに守られているので、津波を起こさせて今現在も行なわれている修復中のパールハーバーを襲わせるのも、邪魔になるからだ。

ダイヤモンドヘッドを避ける位置に、潜水艦を持って行かなくてはならない。

原爆の炸裂によって巨大な津波が発生するのは分かっているが、それで修復中のパールハーバーを襲わせると言うのが、日本政府と日本海軍が考えた報復手段だった。

海上で炸裂させるのはだから、空中でそうするような威力は望めない。

すなわち、熱風効果は大して望めないが、その代わりに巨大な津波を引き起こすことができる。

これにパールハーバーを襲わせよう、と言うのが作戦の骨子である。

この津波にはむろん放射能を含んだ海水だから、これを浴びた人間は二次被害を生じさせるのだから単なる津波ではないのである。

 

よく真珠湾と広島・長崎の原爆投下を天秤と掛けて、アメリカはこれで御相子だと言う。

しかしこれほど戯言、矛盾した言い訳は滑稽としか言いようがない。

真珠湾攻撃時に日本軍は太平洋艦隊や飛行場などだけを攻撃した。

決して民間人がいる市街地や病院などを無差別に爆撃したと言う記録は残されていない。

それに対し、アメリカは罪のない民間人を大量に虐殺した。

連日の無差別爆撃や民間人に対して、ハンティングをするかのように笑いながら機銃掃射をしたことに飽き足らず、原爆2発で大量虐殺をしておきながら、これを平等と言うのは極めておかしいことでもある。

しかし戦後は、日本人には核兵器に対して様々な感情が生まれた。

むろん被害者意識も生まれたが、しかし不思議なことにアメリカに対してではなかった。

原爆を投下したのはアメリカなのに、この惨禍はどういう理由か日本自身が招いたとして、日本人自身が被害者に詫びたのだ。

広島の原爆慰霊碑に刻まれた文言は、そのことを語っている。

 

“安らかにお眠りください。あやまちは二度と繰り返しませぬ”

 

これに対して、今でも正しいと言う愚者たちがいる。

怒りの矛先はアメリカなのに大して対して、戦後はアメリカの援助を受け、世話になったこともあり、その意識はどこかへ消えてしまったしか言いようがない。

日本も同じく戦後は核兵器を保有すべきだったが、戯言のように非核三原則を作り、核廃絶を訴え続けているから堪らない。

戦前の軍部はアメリカとの戦争を最期まで反対していたのにも関わらず、多くの一般人や文民たちは戦争を望んだ。

まさに『戦争を嫌う軍人、戦争をしたがる文民』と言っても良い。

戦後は故郷に帰って来た軍人たちに対して、掌を返した後者たちは彼らに罵倒や罵声、そして石ころを投げつけ、挙げ句は朝鮮人・中国人と一緒に集団リンチをした。

これほど厚顔無恥にも等しく、祖国のために戦った者たちに全ての責任を押し付け、自分たちは最後まで開戦に反対したとデタラメを吐く日本人は日本人ではなく、差別主義の激しい白人たちに寝返った裏切り者たちと言っても良い。

現状に戻る。

 

2週間目に明け方、2隻の潜水艦は浮上した

幸いにも敵哨戒機の姿はない。

連峰潜水艦《ブルーフィッシュ》の後部魚雷室にある原爆には、専門家たちが集まった。

そこに灰田が灰色の霧の中から、すうっと姿を現した。

 

「それではいよいよタイマーを起動します。この潜水艦が安全な海域に逃げる時間は、3時間と見ておけば良いでしょう」

 

「分かった、浮上航行すれば充分な時間だ。しかし万が一的に見つかり潜航した場合に、爆発の影響は避けられるのか?」

 

この自爆艦を預かって、ここまで航海してきたエルナン・ゲルラ大尉が尋ねた。

 

「そうですな」

 

灰田は顎を撫でた。

 

「だいぶ酷いショックはあるでしょうが、100メートル以上も潜航していれば、耐えられると思います」

 

現在の潜水艦技術は向上しており、最大深度200メートルも潜航することができる。

恐らくこのために言ったのだろう。

 

「分かりました、さっそく艦長にそう伝えます」

 

エルナンは、グレゴリオ艦長に伝えた。

 

「よろしい、それでは早速やってくれ」

 

伊601のグレゴリオ艦長が言うと、灰田(正しくは分身だが)は頷いた。

その後は原爆のおびただしいツタが這ったような電線を弄り、内部に通じている部分に指を触れて、何事か念を込めた。

この男は透視能力だけでなく、また念力でも持っているかのような仕草である。

 

「よろしい、これで3時間のタイミングで再起動させました。すぐにこの艦から退去してください」

 

その言葉に応じて、全員が傍らに寄り添っていた《伊601》に乗り移った。

無人となった連邦潜水艦《ブルーフィッシュ》に最後の一瞥をくれると、最後のひとりであるエルナン大尉が、ハッチをくぐった。

《伊601》は浮上したまま全速力で、その場から離れた。

針路は真北である。

無人と化した《ブルーフィッシュ》の艦内では、原爆が不気味にタイマーの針を刻んでいた。

 

 

 

その頃――

米軍・連邦亡命政府軍も全く無策であったわけではない。

或いは、このことを予測していたひとりの指揮官、パク・キョン大将である。

ディエゴ大将はハワイ解放後、コンドン大統領から『合衆国大将の面汚し』と言われた挙げ句、太平洋軍司令部から解任されて更迭された。

ディエゴ大将だけでなく、コナー中将たちも更迭されて、多くの連邦亡命政府軍指揮官がこのハワイを掌握したと言っても良い。

連邦は自分たちが好きな日系人以外は全員粛清し、代わりに連邦深海棲艦や上級連邦貴族たちなどをここらに移住させて、第二の楽園を築こうとしていた。

むろんハワイ解放後、すぐさま連邦・米太平洋艦隊再編成に伴い、各軍事施設なども修復作業を行なっている最中にまたしてもZ機こと《ミラクル・ジョージ》の空爆や、または日本空母戦闘群や全艦娘たちを連れて報復作戦に来るかもしれないと予測していたからだ。

パク大将は日本軍が我々の陰謀を見抜き、どうやったかは分からないが、起爆装置……本体のタイマーを止め、ハワイ近海に持って来て原爆を再起動させる可能性もゼロではないかと考えていた。

しかし、中岡たちのあまり奇想天外な考えなので、中岡ほか連邦・米太平洋艦隊幹部たちに報告するわけにはいかず、その代わり哨戒活動を厳重にするように進言しただけだった。

これはルーティン・ワークをただ強化するだけの話だったので、抵抗なく受け入れられた。

 

これを受けて、中国の最新大型飛行艇SH-6(AG-600)が哨戒任務のために引っ切り無しにオアフ島近辺を飛ぶことになっていた。

また一部の哨戒機部隊は、ミッドウェー海域方面まで飛んだ。

その1機が波間に漂う潜水艦を発見した。

それは《伊601》が立ち去ってから2時間50分のことであった。

SH-6連邦機長は、それが自国の潜水艦だと気付き、直ちに司令部に打電した。

 

“039攻撃型潜水艦1隻漂流ス、ただし無人の様子ナリ”

 

これを受信した太平洋軍司令部は愕然とした。

自分たちが立てた日本報復計画“トロイの木馬作戦”のことは、むろんよく知っている。

あの時は2隻の潜水艦はパールハーバーから出撃したのである。

 

『艦名を確かめよ』

 

その指示が来ると、SH-6はゆっくり旋回し、潜水艦の傍から少し離れた距離に着水した。

直後、機内に積んでいたゴムボートを下ろして、司令塔に近づいた。

その下部には、艦名が刻まれていた。

 

「……艦名は《ブルーフィッシュ》です」

 

この艦名を読むと、すぐさま打電した。

調査隊の変電を受け取った太平洋軍司令部では再び愕然としたと同時に、悪寒がした。

やはり日本軍は報復に来たのかと……

 

『何だと、あの自爆艦《ブルーフィッシュ》が自力で帰ってきたのだと言うのか!?』

 

キョン大将は叫んだ。

まさにその直後、《ブルーフィッシュ》が爆発した。

海上での爆発だから、閃光や熱球もあまり発生しなかった。

その代わり、幅数百メートルを上回る巨大な水柱が立ちあがり、天に伸び上がった。

不運にも調査のために着水していたSH-6大型飛行艇は逃げる暇もなく、水柱に飲み込まれてしまいスクラップとなった。

またSH-6と同じ運命を辿るかのように、調査隊と乗組員もその衝撃により全員即死した。

放射能物質を含んだ水柱は、スローモーション・フィルムでも見るかのようにゆっくりと伸び上がると、やがて同じスピードで落ちてきた。

 

この時、メールシュトロームのような大渦巻きが発生した。

自爆艦《ブルーフィッシュ》は言うまでもなく、爆発と同時に跡形もなく蒸発した。

大渦巻きは、やがて巨大な津波に姿を変え、四方に向かって走り始めた。

この津波の伝達速度は驚異的な速さで、南東方向にあるオアフ島に向かった。

津波の一部は、真っ直ぐに修復中のパールハーバーやパールシティ、ワイキキに向かった。

移住したばかりの連邦住民・連邦深海棲艦たちには、遥か沖合で巨大な水柱が立ちのぼるのが見えたが、それが何かを理解できなかった。

 

……これを理解できたのは、太平洋軍司令部の者たちだけである

 

これは、日本軍の報復攻撃だと漸く悟った。

彼らはどうにかしてタイマーの秘密を見つけ、ここまで《ブルーフィッシュ》を持ってきて、原爆を再起動させた。

次に連邦住民や深海棲艦たちが見たのは、恐ろしい勢いで迫ってくる津波だった。

その高さは30メートルにも及び、ぐんぐんと迫って来た。

ワイキキの浜辺に押し寄せた波は、ここで新たに建築した要塞や陣地などに待機していた連邦兵士たちを次々と飲み込み、また立ち並ぶホテル群を直撃した。

この打撃は凄まじく、最新ホテルから木造ホテルを容赦なく破壊し尽くした。

 

もっとも悲惨だったのが、修復中のパールハーバーだった。

この場所は誰もが知るように、湾口が狭い。

ここを無理矢理通り抜けた津波は、津波の原則に従ってより大きく盛り上がり、湾内を襲った。

そこに停泊していた少数の連邦艦船はおろか、深海棲艦たちも被害を受けた。

ある艦船は転覆し、並んで係留していた艦船は衝突して損傷した。

しかし深海棲艦たちはもっとも悲惨で全員が津波に飲み込まれ、全て溺死したのだった。

これによりパールハーバーに停泊していた連邦合同艦隊は全て損傷し、壊滅した。

津波はその後も陣地に上陸、漸く勢いが治まると、今度は地上のものを洗い流し、一切合切を抱き込んで海に戻って行った。

その中の物体には建物の破片、樹木、各車輌とありとあらゆる物、また日本を裏切った連邦市民や連邦深海棲艦たちの死体などが浮かんでいた。

数千人以上の連邦軍や市民、深海棲艦たちが、パールシティからダイヤモンドヘッドに押し寄せてきた津波により、本当に修復不可能と言うほどのダメージを受けた。

ただし灰田は秘かに放射能汚染を防ぐために、数分後には浄化できるように高性能浄化剤を仕込んでおいた事だけは不幸中の幸いである。

もし放射能汚染状態が続けば、太平洋は死の海と化しかねないからだ。

これを知ったコンドン大統領は、怒りを含んだ電報を中岡たちに送ったが後の祭りだった。

皮肉にも“トロイの木馬作戦”はそのままそっくり返されただけでなく、ハワイ島と言う海軍重要拠点だけでなく、兵力や人材なども多くが失った。

 

しかしこれだけではなく、アメリカにとって重要拠点や象徴がまた失われることを知る由もなかった。




今回は灰田さんの言う通り、本編では違ったハワイ島消滅回であります。
原作では米軍が原潜を使って、敵味方ごと核ミサイルで消滅させています。
作戦名は原作同様”フラッシュ作戦”にしていますが、作戦自体は違います。
元の作戦は『超戦艦空母出撃』をモチーフにしました。

灰田「基本的にハワイ島は占領されるか、稀にこういう事もあります」

原作『天空の富嶽』では、もう見捨てられた島になりましたからね。
また違う作品でお気に入りですが、某『提督たちの憂鬱』では米本土が壊滅状態になりました……

エルナン・グレゴリオ艦長((未来人マジパナイ))

そう言えば社長たち以外、初めてでしたね。

灰田「原作でも私に会える人は多くが政治家や元帥など階級の高い人、ごく一部のパイロットや各軍の兵士たちだけですからね、初期の『超空の艦隊』『超空の決戦』は例外ですが」

エルナン「一生にあるかないかですね、艦長」

グレゴリオ艦長「確かにそうだな」

ほとんどが時を止めたり、航空関係者の場合も例外ですね。
ともあれ、次回予告に移りますね。

灰田「承けたまりました。次回はハワイ消滅後に行われる奇襲攻撃であります。
ここでもまた奇想天外な兵器で奇襲攻撃になりますが、その兵器とは次回で明らかになります」

こちらとしてもどちらかが早く、どちらかが遅く更新になりますのでご了承ください。
自分のペースが大切ですからね。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

エルナン・グレゴリオ艦長『ダスビダーニャ!!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百六話:海底からの脅威、”自由の女神”死す!

お待たせしました。
今回は同時連載『第六戦隊と!』の更新は休載ですが、本作のみの更新です。
それでは気を改めて予告通り、ハワイ消滅後に行われる奇襲攻撃です。

灰田「タイトル通り、ネタバレですがどのような奇想天外な兵器で奇襲攻撃、その兵器の正体が少しだけ分かります」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


ハワイが原爆によってショックを受けていたアメリカ・連邦亡命政府軍に対して、さらにそれを追い詰めるかのように新たな脅威が襲い掛かって来た。

 

 

 

ニューヨークは早朝0600時、まだ朝の静けさの中にあった。

ここロングアイランド南東沖合の海上では様々な船舶が行き交っている。

ロングアイランドの漁港に帰る漁船、マンハッタン南端にいくつかある埠頭に入港する客船《クイーン・メリーⅡ号》のような世界最大級の客船もいる。

深海棲艦が突如としても現れたものの、米軍のおかげで港は戦前と変わらず賑わっていた。

北西の方角にはスタッテン島が見え、この島の北東にはリバティ・アイランドがある。

ここはアメリカの象徴である、自由の女神が立っているので有名な島でもある。

ここはニューヨーク港の玄関とも言える。

元々フランス革命の象徴でもあった自由の女神は、アメリカに移され、この国のパワーの源泉たる移民たちを出迎える象徴となっていた。

また悪趣味にアメリカのクーデター、元よりハドソン元大統領を追い出した中岡たちは自由の女神の隣に、某北の将軍たちよろしく自身の立像を置いて掲げていた。

しかも本国からわざわざ脱出時に、コンテナ船を改良した大型仮装巡洋艦《平壌》に載せてまで持って来たものだ。

コンドン大統領の友愛の証しとして置くことを歓迎し、今では新たな観光名物として注目されている。

 

そのスタッテン島から南東15キロの海面から、突然なにかが浮上した。

近くを航行中だった船の船長たちは目を見張った。

そいつは黒光りする怪物だが、生き物ではない。

人間の手で造られた人工的な曲線に伴い、艦橋と思しき構造を持つものだ。

彼らが見たものは潜水艦だが、しかし明らかに原潜すらも大きい巡洋艦並みの大きさを誇る潜水艦だった。

しかも艦橋の後部には砲塔が付いており、その砲塔からは2本の砲身が突き出ていた。

人間、元より同じ顔をした乗組員たちが二つのハッチからどっと繰り出てきた。

彼らが素早く、人間よりも早く動き回り、砲身の先端からカバーを取り除いた。

海水が入らないようにするためのカバーである。

それが済むと、またハッチの中に消えた。

それから3キロほど南に、スタッテン島にある中岡連邦大統領の立像に忠誠心を行なうため、米・連邦亡命政府軍籍に所属する定期船《ステートフェア丸》がスタッテン島に向かって進んでいた。

船長の名前は、ボク・スチウェルである。

スチルウェル船長もこの奇妙な潜水艦の出没に気づいたひとりである。

彼は韓国系アメリカ人で連邦支持者でもあり、また元海軍所属の軍人出身者だから、各艦船の艦砲サイズには熟知していた。

そいつの口径はどう見ても20.3cm連装砲以上の大きさはある。

それよりも上回り、金剛型高速戦艦や伊勢姉妹、そして扶桑姉妹が持つ36cm連装砲並みを誇るかもしれないと悟った。

そいつが2本の砲身を振り立てて、スタッテン島に照準を合わせた。

 

次の瞬間、ドオォォォン!と耳の鼓膜が破れるような轟然たる砲撃が開始された。

殷々たる砲声が海を渡って船長の耳まで届いた。

 

「いったい目標はどこなんだ?」

 

船長は双眼鏡越しで、実際には目には見えないその砲弾の行方を追っていた。

数秒後…… リバティ・アイランドにある自由の女神と中岡連邦大統領の立像が茶色い煙に包まれた。

 

「着弾した…… 奴らの狙いは自由の女神と中岡連邦大統領様の立像だ!」

 

この狙いに気づいたが、まだ至近弾を喰らっただけに過ぎず、双方は無事である。

しかし第二斉射が行われ、ライフルリングによりジャイロ効果を生み出され放たれた徹甲弾は躊躇することなく、双方の立像に命中した。

まず自由の女神が木っ端微塵に打ち砕かれ、破片となって崩れ落ちた。

そして隣にあった中岡立像も同じく影も形もなく、自由の女神と同じ運命を辿るかのように破壊されたのだ。

 

「畜生! よくも神聖たる中岡連邦大統領様の立像を!」

 

ボクは叫んだ。

自由の女神が掲げる自由の象徴たる松明と、その彼女の隣にいる中岡が掲げている連邦国旗がクルクルと宙に舞って、海面に落ちるのが見えたからだ。

 

「クソ、なんてこった。慈悲深い中岡大統領様直々のお褒めの言葉を頂いた立像を破壊したレイシストは何者なのだ!?」

 

「船長、どうするのですか?」

 

第一航海士のトムソンは叫んだ。

 

「あの怪物に捨て身の特攻作戦を掛ける!」

 

「船長、本気ですか!?」

 

「本気だ、商船でも体当たりぐらいはできる!」

 

しかし混沌している間にも、その正体不明の潜水艦の砲塔がぐるりと旋回してこっちに向かうのが見えた瞬間、船長たちは悪寒を感じた。

 

「うわ、来るな!」

 

「やっぱり命令を取り消す、全力で逃げる! 針路180!」

 

命令を変更し、船長は逃げることを選んだ。

商船《ステートフェア丸》は針路を真南に取り、一目散に逃げようとする。

しかし商船の悲しさで、いかに機関を回しても逃げ切れるわけがない。

ボクは歯を食いしばりながら、なおも双眼鏡で砲身の動きを追っていた。

そいつは仰角を取り、こちらを狙っていた。

それを見たときには、容赦なく砲撃がまたしても開始された。

ヒューン!と空を切りながら飛翔する徹甲弾が聞こえた瞬間だった。

徹甲弾はブリッジに命中して凄まじい轟音を上げて炸裂し、《ステートフェア丸》を真っ二つに折り曲げた。

ボクと乗組員たちは哀れにも撃沈された《ステートフェア丸》と運命を共にした。

正体不明の巨大な潜水艦は浮上したまま、悠々と針路を北に取り、ロングアイランド島に近づいた。

 

これはマンハッタン島の東に延々と100キロにも渡って伸びている島である。

先端にはモントーク岬があり、島の南岸には観光地で有名なロングビーチを始め、幾つもの町がある。

潜水艦はロングビーチまでの有効射程距離に近づくと、再び砲門を開いた。

何しろ邪魔者たちはおらず、好きに砲撃ができる。

美・連邦亡命政府軍所属コースガード(沿岸警備隊)の巡視船がニューヨーク港から駆け付けるまでにはまだ時間が掛かるし、巡視船が積んでいるのはせいぜい機銃だけであり、こちらはアウトレンジで撃沈できる。

監視ヘリがやって来ても搭載しているCIWSや対空ミサイルなどで対応できる。

徹甲弾の嵐がまたもやロングビーチに向かって来襲する。

海岸沿いのホテルやレストラン、遊園地で炸裂音が鳴り響いた。

 

まだ早朝だから人数は少ないが、人員を殺すのが目的ではない。

ともかく米本土を砲撃された恐怖心を利用し、アメリカ国民の厭戦気分を高まらせるのが最重要目的である。

 

「各員、砲身に塞栓せよ!」

 

たっぷり50発ほど撃ち込み、目的を充分に果たしたと判断した。

艦長の命令を聞いたクルーたちは出てきて、砲身を塞栓すると、素早くハッチから姿を消した。

潜航警報のブザーが艦内に鳴り渡り、巨大な潜水艦は潜航を開始した。

その巨体には似合わず、海自の誇る《そうりゅう》型潜水艦と同じく潜るのが素早かった。

1分も経たないうちにその巨体は姿を消して、あとは渦が残るばかりだった。

 

 

 

ホワイトハウス・会議室

時刻 0630時

 

『潜水艦に自由の女神と、中岡連邦大統領の立像が同時に砲撃されただと!?』

 

コンドン新大統領と、ホワイトハウスを我が物顔で占拠をして“我が家”同然で謳歌している中岡は声を揃えて答えた。

因みにこの会議室は、対日作戦会議室《チェリー・ルーム》である。

ホワイトハウスの会議室には、全て色彩の名前が付けられている。

かつて米軍は仮想敵国との作戦名にも色彩の名前を付けており、奇しくも対日作戦でもコードネーム“オレンジ・プラン”だった。

日露戦争後は日本がロシアに勝利した直後に立てた計画も“レインボー・プラン”だった。

同席しているのは、サイモン副大統領。

グレイ首席補佐官、ケリー国防長官、マーカス国務長官、ギャラガー参謀総長、各軍トップたちが招集した。

同じく連邦亡命政府軍は中岡連邦大統領をはじめ、湯浅主席、忠秀副主席、ほか各軍トップたちも緊急に召集した。

 

「どういう事なのだ、ギュラガー参謀総長?」

 

コンドンは、ギャラガー参謀総長に尋ねた。

 

「この攻撃が日本のまた新たな兵器によるものではないかと思うか?」

 

「はい、その通りだと思います」

 

さすがのギャラガー参謀総長もそう答えざるを得なかった。

コンドンはハワイが消滅しても痛くも痒くもなかった、よほど本土攻撃をされない限りは考え方も変えない無能大統領なのだから

 

「パナマ運河は通過できませんから、少なくともハワイ消滅後と同時に日本のどの鎮守府かは不明ですが、同時に出撃しないといけません。

航路はホーン岬ないし喜望峰回り以外にはありえないのですから。

これが例のステルス原潜のようならばステルス機能も持ち、未知の原子炉を持っていたならば捕捉できません、我々はコイツを《クラーケン》と名付けました」

 

ギャラガーが言う《クラーケン》とは、あの異形の潜水艦のコードネームである。

日本の《ミラクル・ジョージ》と言い、米軍はコードネームを付けるのが好きである。

クラーケンとは古代から中世・近世を通じて海に生きる船乗りや漁師に恐れられている海の魔物である。

その多くはタコやイカといった頭足類の姿で描かれることが多いが、ほかにも、シーサーペント(怪物としての大海蛇)やドラゴンの一種、エビ、ザリガニなどの甲殻類、クラゲやヒトデ等々と、様々に描かれている。

なおヨーロッパやアフリカにおいては、タコやイカをデビル・フィッシュ(悪魔の魚)と呼び、食べることも嫌う地域が多いからそのように描かれているのかもしれない。

 

「やられたのは自由の女神と、カリスマ溢れるイケメンの俺様の神像だけか?」

 

中岡は怒りを抑えながらもドスの利いた声で尋ねた。

 

「いいえ、敵はそのあとロングアイランド沿岸に向かい、ロングビーチほか3カ所を砲撃しました。そのほか商船を3隻撃沈しました」

 

「なんということだ、我々の鼻先でそんな事が起きたのか!?」

 

コンドンは呻いたが、中岡はそんな事などどうでも良いと言う態度を取った。

自分のカリスマある立像が破壊した日本が憎くて堪らなかったからだ。

 

「しかも問題はそれだけではありません」

 

ギャラガーは一瞬躊躇った。

 

「報告によると、その潜水艦は重巡洋艦クラス並みで、主砲を2門搭載、2000トンクラスの商船を一斉射で撃沈したところからすると、主砲の口径は20.3cmまたはそれ以上ともいわれます」

 

「重巡洋艦並みで、主砲は20.3cm以上だと……」

 

ケリー国防長官が怒鳴った。

 

「そんな馬鹿なことがあるはずない。その情報は確かなのか? ジャップがそんな怪物潜水艦を作れるはずがない」

 

「しかし複数の証言があるのです。デッキに姿を現したクルーたちは、明らかに東洋人だったという証言があります」

 

ギャラガーは躊躇いながら言った。

 

「何と言うことだ…… ともかくレイシストジャップどもに報復攻撃をせよ!」

 

忠秀副主席は、感情的に怒鳴った。

相変わらずその発言を聞くだけでも、同じ日本人とは思えないほど好戦的な発言である。

 

「そうだ。見つけ次第に《クラーケン》を鹵獲して、乗組員たち全員を引き摺り下ろして細切れにした公開処刑動画を見せしめに日本政府に公表すれば、さぞかし薄汚いレイシストどもは震えるだろう!」

 

アンミョンペク総参謀長も同じく感情的に怒鳴った。

 

「落ち着きたまえ、まずはコースガードや警戒部隊を総動員させて沿岸を警備することが第一優先的なことだ」

 

「湯浅主席の言う通り、航空隊と共に警戒させることが優先だ」

 

比較的良識な湯浅主席と、マーカス国務長官の意見にコンドンは頷いた。

サンディエゴなどに避難していた艦船は無事だが、ハワイに停泊した艦隊はもう使えない。

艦隊保有主義ではないが、敵潜の脅威ならば致し方ない。

 

「パナマ運河の方はどうなのだ?」

 

コンドンはぽつりと言った。

 

「ここは我々の生命線だ。ここをやられると大変なことになる。こちらの警戒も抜かりないだろうな?」

 

「はい、我が連邦軍の陸海空の派遣軍ががっちり警戒しています」

 

中岡が答えた。

 

「必ずパナマに敵潜は辿り着くことはありません」

 

「うむ、我が同盟として大いに期待しているぞ」

 

「ジャップの潜水艦など捻り潰してごらんに入れます!」

 

コンドンの言葉に、自信満々に答えた中岡だが、この予想を裏切るような事態が起こると言うことをまだ誰も知らなかったのである。




今回はこの奇妙な潜水艦による砲撃攻撃により、アメリカの象徴である”自由の女神”が木端微塵の如く破壊されました。
対処できなかったアメリカ・連邦亡命政府軍にも落ち度がありますが。

灰田「おまけ程度ですが、ブタゴリラの立像とともに、ろくでなしの連邦の商船も撃破と言う凄まじい威力を見せましたが」

あんな立像を象徴もですが、友好の証しとして観光地に置くなんて滑稽も良いところですから。

灰田「海にゴミをまいたようなものですよ、本当に」

まあ、そうなるな(日向ふうに)ニガワライ

灰田「今回は本作と同時に、同連載『第六戦隊と!』の投稿予定でしたが、少しお待ちください」

かと言って、すぐにあっちの世界に行かないで下さいよ。

灰田「はい、もちろんしばらくは待機しますよ」←絶対に待機するとは言っていない。

大丈夫かな、ともあれ次回は同時更新はできるかどうかは分かりかねませんが、両作品の更新お楽しみください!

灰田「では気分を切り替え、予告篇です。次回は今回の続きである奇襲攻撃後にまた同じく新たな展開が起こります。
そしてこの奇妙な潜水艦の正体も分かります故に、この潜水艦ならではの新たな装備も御見せいたします」

気がつけば、本作品もあとどのくらい続くかは分かりませんが、最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百七話:パナマ運河の災厄

お待たせしました。
今回は同時連載『第六戦隊と!』の更新に集中したので、本作のみの更新です。
それでは気を改めて予告通り、続きである奇襲攻撃後にまた同じく新たな展開が起こります。

灰田「そしてこの奇妙な潜水艦の正体も分かりますと同時に、艦長と乗組員たちの正体も分かります」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


大西洋と太平洋を北緯8度地形に結ぶパナマ運河は狭い地峡である。

その長さは50キロメートルに過ぎないが、パナマ運河そのものは80キロメートルもある。

これは高低差があるために途中で、2カ所の人工湖と3カ所の閘門を作り、船舶を湖に入れたあと、閘門によって順番に送らなければならないためである。

この工事は最初、スエズ運河を10年前に完成させたフランス人”フェルディナン・ド・レセップス”によって始められたが、スエズ運河とは比較にならない難工事となった。

スエズは自然のまま、ほぼ平坦な地峡を掘り広げるだけで済み、途中まで自然に存在する湖を利用することができた。

しかしパナマ地峡は高低差が大きく、最高点は168メートルもある。

加えて乾燥した砂漠地域のスエズとは比較にならないほど過酷な自然に守れていた。

熱帯雨林地帯もあり、黄熱病とマラリアの猖獗地《しょうけつち》でもあった。

レセップスが雇った労働者たちはばたばたと倒れ、結局レセップスは建設を断念した。

その後はアメリカ政府が引き継いだ。

元々パナマはコロンビアの一部だったのだが、アメリカが手を貸して独立させたと言う経路である。

キューバと同じく、アメリカの準州みたいなものだった。

 

アメリカにとっては、この運河はふたつの大洋を結ぶ生命体である。

工兵隊を大量に動員して強行工事を行なった。

それでもレセップスが手を染めてから、完成するまで実に34年間も掛かった。

その総経費は約4億ドル(約455億円)である。

現在運河を中心とする地峡一帯を、アメリカがパナマ共和国から租借し、租借料を払っている。

 

かつて日本軍もこのパナマ運河を攻撃すると言う極秘作戦の一つとして『パナマ運河爆破計画』を立てていた。

極秘裏に特殊攻撃機《晴嵐》を3機搭載した海底空母《伊400》型潜水艦からなる潜水艦隊の建造を進めた。

しかし2隻が完成した頃の日本は沖縄戦が始まり、そして敗戦濃厚と言われた時期である。

結局この作戦は破棄され、伊400号型潜水艦は南洋のウルシー環礁へ攻撃目標を変更した。最終的には《伊400》型潜水艦も同諸島沖合で終戦を迎え、その後米軍により標的処分および自沈・解体され姿を消した。

もし日本軍が真珠湾攻撃時にここを攻撃していたら、経済麻痺はもちろん、戦略的勝利が出来たかもしれない。

 

深海棲艦出現後はもちろん、今日までカリブ海側のコロン、太平洋のパナマシティに米・連邦駆逐艦主体の艦隊が駐屯し、少数だが空軍や陸軍もいる。

しかし正直なところ、日本軍がここまで攻めて来ることを、米軍・連邦残党軍首脳は想定していなかった。

ハワイは消滅したものの、新たな攻撃目標がサンディエゴだと見た。

ここならば攻撃する艦艇は豊富であるからだと言う理由で、ここに哨戒線を張った。

それでもパナマ湾一帯では連日、P-8A《ポセイドン》対潜哨戒機が哨戒任務を繰り返し行い、《アーレイ・バーク》級駆逐艦も太平洋まで出て哨戒を行なっていた。

ニューヨークが正体不明の潜水艦によって攻撃されたと言う知らせが入ったため、パナマ運河守備艦隊司令官であるチャールズ少将は、警戒レベルを上げるように命令を出していた。

例え対地ミサイル《トマホーク》が来襲して来ても、対空ミサイルや対空砲部隊がいる。

それに砲撃しようが対潜哨戒機や駆逐艦、連邦派深海棲艦で迎撃可能である。

航空機ならば別だが、敵はそんな潜水艦を持っているわけがないと連邦残党軍同様に考えていた。

人間が自分の持つ常識で敵情を判断する。

ときにはその常識が通用しないことを、チャールズ少将は気づくべきだったのである。

 

 

 

翌日――

時刻 0600時。

パナマ湾沖合・マラ岬の南西50キロの海面に、巨大な怪物が姿を現した。

途方もない巨大な潜水艦である。

全長150メートル、特徴的なのはデッキ上に大きな容積を占める筒状の構造物である。

その前部が艦橋で、艦首に向かってカタパルトが装備されているのである。

後部デッキには主砲が2門並ぶ砲塔である。

昨日ニューヨーク沖合に現われた巨大潜水艦と同じであるが、むろん同じ艦ではない。

1日でホーン岬を回ることはできない。

浮上すると同時にデッキにクルーたちが飛び出し、機関砲および主砲配置に就いた。

特徴のある30cm主砲の射程距離は2500メートル、艦橋に3メートルの射撃測距儀を持っている。

しかもレーダー射撃装置なため、その照準は正確である。

さらに対空機関砲と対空ミサイルもあり、敵機やミサイルが来てもこちらも撃墜できる自信がある。

駆逐艦や深海棲艦が来ても、鉄壁の壁に守られているので堂々と航行できる。

またこの強力な主砲で対処できるということもある。

その筒状の構造物・前部ハッチが開くと、レールに沿って航空機が引き出された。

これは航空機格納庫である。

 

引き出された艦載機は両翼が折り畳まれていたが、たちまち広げると固定された。

この艦載機は《晴嵐改》と言う、かつて《伊400》号潜水艦に搭載された特殊攻撃機と同じ名前を、血筋を引いている後継機でもある。

外観はジェットステルス攻撃機《アヴェンジャー》に酷似しており、この怪物潜水艦に搭載できるように小型に改良されている。

だから射出後は帰還を待たなくても良い、この機体自体が武器なのだから。

1番機がカタパルトに載せられると、轟音とともに撃ち出された。

飛び立った《晴嵐改》は宙を舞い上がり、高度を上げ、北東の空へと消えた。

格納庫から次々と《晴嵐改》が引き出され、発艦して行く。

全機合わせて4機の《晴嵐改》が、敵の妨害もなく無事に舞い上がった。

 

パナマ湾では敵駆逐艦が警戒し、P-8A《ポセイドン》対潜哨戒機が哨戒任務をしているはずだが、それほど熱心ではなかったのだろう。

まさか日本潜水艦がここまでやって来るとは、例え警報が出ているとしても信じがたいと言わざるを得なかった。

 

無人機を射出し終えると、怪物潜水艦は全てハッチを閉じて潜航を始めた。

無人機なのでこの場に水中待機する必要はなく、離脱することができる。

任務を終えた怪物潜水艦は、誰にも気づかれることなくこの場からせっせと離れた。

 

 

 

4機の《晴嵐改》は高度2000でパナマ湾を北上し、パナマシティを目指した。

市街地に対空部隊があるとは考えにくいので、敢えて市街地を目指した。

あるとすれば郊外に配備しているはずであり、恐らく運河に沿って据えてあるだろう。

 

目標は、太平洋側の最初の閘門……ミラフロレス閘門の破壊である。

これはミラフロレス湖の入り口にある。

パナマ運河には3つの閘門があり、ひとつでも破壊されたら運河としての機能は失われる。

これは奇襲だが、完全な奇襲にならないことを艦長たちは承知している。

昨日は僚艦がニューヨークを砲撃したので、守備軍が警戒配備についているだろう。

必ず敵の対空部隊と伴い、迎撃機が出てくるかもしれない。

何度も言うように射出されたのは無人機である、これがただの無人機ならばたちまち撃墜されているが……

 

 

 

パナマシティ対岸・バルボアを構える海軍司令官・ウッド大佐は、沿岸監視隊からの報告を聞いて起きた。

 

「我が軍のジェットステルス攻撃機《アヴェンジャー》らしきもの数機、運河に沿って北上しつつありますが……」

 

「そいつらは我が軍の《アヴェンジャー》に似ているだと……」

 

ウッドは一瞬混乱したが、もしやと思い吠えた。

 

「全軍に警報を出せ! 敵の狙いは閘門だ、閘門を破壊されてはならない!」

 

バルボア後方には、小規模ながらだが連邦亡命政府の空軍を新たに設立した。

だからと言って高価な機体は貸与されず、アメリカ合衆国のノースロップ社が1950年代に開発した小型戦闘機F-5《タイガー》だ。

小型軽量で取得や運用も容易であったため、近代化改修されているほど扱いやすい。

 

司令部からの通報で、F-5E《タイガーⅡ》が押っ取り刀で舞い上がった。

しかし、このときすでに4機の日本機は運河内部・コロサルを超えて、ミラフロレス湖に接近していた。

飛び越えていく4機に対して、運河沿いに配備された米・連邦合同対空砲部隊がようやく撃ち始めたが追い撃ちになり、撃墜できなかった。

すると1機の無人機が、何かを見つけたように突っ込んで行くのが見られた。

この時、ちょうど1キロ南に2000トン級の商船が北上したのである。

無人機が針路を変えることなく、商船に突っ込んだ。

すると同時に、商船は凄まじい爆発を起こした瞬間に爆沈し、着底したのである。

運河の幅は33メートルしかないのが、アメリカの泣き所である。

かつて海軍でも同じく、これ以上の幅を持つ戦艦を建造不可能はもちろん、砲塔サイズも幅に左右されるからである。

だから40.6cm以上の主砲を搭載する戦艦は持てなかったのである。

この狭い水路が沈んでしまったと言うことは、閘門を破壊する前に運河をロックしたことを意味する。

閘門の破壊はダメ押しと言うことになった。

突っ込んだのは最後に発進した4番機である。

残りの3機はなおも進撃を続け、ミラフロレス閘門が視界に入って来たとき、ようやく緊急発進した連邦空軍が追いすがって来た。

 

たちまち追いつくと、ミサイルでの撃墜はもったいないと言うこともあるが、中岡大統領の忠誠に伴い、千里馬精神《一晩で千里を走ると言う意味》で撃墜したいと言う気持ちが強かった。

M39A2 20mm《リヴォルヴァーカノン》を発射したが、全機は全て蝶が舞うように華麗に避けた。

この野郎と思い、今度はAIM-9《サイドワインダー》を発射した。

しかしこれまた無人機とは思えぬ回避……例の非線形で回避したあのステルス艦載機の如くミサイルを回避した。

それどころかパナマシティに被害を増やすだけのことをしてしまう始末である。

これに気付いて2番機と3番機が反転し、敵機に立ち向かった。

閘門の破壊は機体内に爆弾が内蔵されたこの自爆機1機で足りるからである。

追いすがった連邦空軍機は10機で、《晴嵐改》2機が突っ込んだ。

敵機パイロット全員が『気でも狂ったのか』と思った瞬間だった。

彼らの視界を遮るような閃光がF-5E《タイガーⅡ》部隊に襲い掛かった。

気がついた頃には、全機はきりもみしながら市街地に落ちてゆく。

またしても防空どころか、その周辺に被害甚大を犯すばかりだった。

 

単独になった1番機は閘門上空に接近、充分な照準を付けると母艦に打電を打った。

 

“リュウハネムッタ…… 0710”

 

龍は眠った…… これこそ運河が封鎖されたことを意味し、数字は時刻である。

任務完了の成功を知らせると終わると同時に、無人機は凄まじい轟音とともに突っ込んだ。

その威力は計り知れなく、爆発とともに主水管が吹っ飛び、猛烈な水柱が噴き上がった。

謎の艦載機はパナマ運河上空で散ったが、任務は全て成功した。

遅くも駆け寄った米軍機が来たときは、すでに遅かった。

上空からパナマ運河が破壊されたことに唖然としていたからだ。

連邦亡命政府は汚名を返上するどころか、更なる汚名を着た瞬間でもあったことは避けられなかったのである……

 

 

 

某海域

 

「提督、作戦は成功しました!」

 

この異形の潜水艦に乗艦していたクローン乗組員は、秀真に報告をした。

 

「そうか、これで奴らの首元に致命傷を与えた」

 

加古が『行きはよいよい、帰りは恐い』とよく言うから帰投するまでが任務だ。

気が抜けないなと言い聞かせ、秀真が一服しようと、コーヒーを飲んだ時だ。

 

「ご満足いただけましたかな、秀真提督」

 

灰田が現われた。

 

「ああ。この海底戦艦イ800は申し分ない性能だ、ありがとう」

 

「いいえ、新富嶽ことZ機のように現代に対応できるように改良しただけです」

 

この異形の潜水艦は、海底戦艦イ800と呼ばれており、用意したのは灰田である。

現代の潜水艦を基準に、さらに《海龍》と同じ性能を兼ね備えている。

艦載機は少数だが、全て《アカギ》が搭載しているステルス艦載機と同じ非線形飛行が可能な自爆機《ハンターキラー・ドローン》である。

標的となるものを入力すれば、あとはミサイルのように標的に向かって破壊する。

通常のミサイルではできないことを、灰田はこれをやってのけるほどの技術力を持っている。

この潜水艦は別次元の日本にも大量に保有しているが、秀真は2隻までと決めた。

万が一の時に備えて、支援はできるだけ少なくした方が良いとの判断だった。

後先のことを考えた戦略を、元帥たちも同じように考えているからだ。

全力を成す場合は、連邦亡命政府の隠れ家でもある地上の楽園である。

一部では太平洋のど真ん中に自然できた島を、人工島としてカモフラージュしているのではないかと元帥は推測した。

戦艦水鬼たちも同じように考え、調査に協力している。

この戦争を終わらせるには、アメリカの重要拠点を潰して干上がらせるしかない。

しかし事実、アメリカはハワイを失い、秀真たちによってパナマ運河も破壊された。

これ以上、日本に報復するのであれば、もはや自滅の道を歩んでいることも当然である。

 

「この戦争終息は、そろそろかもしれないな」

 

秀真はそう考えていたときだ。

 

『同志。パナマ運河破壊作戦、お疲れ様』

 

「郡司か、そっちもニューヨーク攻撃お疲れ様」

 

郡司が通信で報告をした。

 

『アメリカと、連邦のドブネズミどもが大慌てしているそうだ』

 

「まあ、そうなるだろうな」

 

『これで考え直すと良いが、果たしてどうなるだろうね?』

 

「内ゲバでもしてくれたらいいが、そうならないだろうな」

 

『なるとしてもCIAなどが真っ先にやりそうだな、または不満が堪っている米軍特殊部隊かもしれない』

 

曖昧な推測かなと郡司は、モニター越しで首を傾げた。

秀真もそうなるかなと、自分なりの推測をした。

 

「今頃、アメリカ政府は激怒しているか、責任の擦り付け合いでもしているかもしれないな」

 

秀真はそう言うと、郡司も頷いた。

 

『原潜とニミッツ級空母級じゃない限り、この海はもうかつての米海軍の制海権ではない。

もう各島に駐在している米軍ももはや降伏することもあり得る、こちらから降伏するかもしれないか、追い詰められた連邦のドブネズミどもが勝手に離反して、そのうち見つかるかもしれない隠れ要塞に逃げるかもしれない。

その時はアメリカ政府もどう動くか、それとも連邦亡命政府が動くか……』

 

「もしかしたらホワイトハウスごと破壊するか、同時にコンドン大統領たちを殺して逃亡するかもしれないな」

 

『あり得るかもしれないな、ともあれ僕たちのこの重要任務でどう動くか今後次第だな……』

 

「そうだな、郡司」

 

『これ以上、交信したら傍受される可能性も高いから通信終了する』

 

「ああ、鎮守府で落ち合おう」

 

『了解、同志もな』

 

お互いの交信を終え、ひと息ついた秀真たちは我が家で待っている古鷹・木曾たちがいる鎮守府へと帰投するのだった。




という事で、今回はハワイ島壊滅後の作戦である報復作戦が終了しました。
またこの奇妙な潜水艦こと2隻の《イ800》海底戦艦は、本来ならば旧式でしたがオリジナルにZ機同様に現代に対応できるようにカスタムしています。
なお自爆機はCoD:Bo2のマルチプレイに登場する《ハンターキラードローン》と共に、
艦載機は無人攻撃機《アヴェンジャー》をヒントにして生まれたものです。
余談ですが、田中光二先生のお気に入り作品だと言うことを後書きで知りました。

灰田「もしも実装したら、大変でしょうね」

もし艦娘化したら、伊13ことひとみちゃんと、伊14こといよちゃんに近いと思います。
30cm連装砲と晴嵐改、対空機銃、そして酸素魚雷を装備した海底戦艦ですからね。
覚えている限りでは《伊812》号までいたと思います……
生き残った艦は少数でしたし、因みに1隻のみ米軍に鹵獲されています。

秀真「語呂合わせとか大変そうだな」

郡司「弾薬と燃料、資材は長門並みだと思うな、ボーキサイトは軽空母並みかな……」

同時に敵の駆逐艦なんて先制爆雷攻撃して来そうで怖いです……
しかも敵のプレデター級駆逐艦は、ヘッジホッグ装備だったら……

灰田「ともあれ、長くなり兼ねませんので予告に移りますね」

お願いいたします。

灰田「次回はこの報復作戦後、アメリカ・連邦視点に移ります」

秀真「もうあいつらの相手は疲れる」

郡司「本当だよ」

取りあえず、それは置いといて……

灰田「またしても日本に報復しようと作戦を立てます。果たしてその作戦はどんな作戦かは次回で明らかになります」

本作品と共に、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

秀真・郡司『ダスビダーニャ』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百八話:新たな日本報復作戦

お待たせしました。
それでは予告通り、秀真たちによるイ800海底戦艦による本土攻撃およびパナマ攻撃が終了後のアメリカ・連邦視点に移ります。

灰田「またしても両者による日本報復作戦を立てます。果たしてその作戦はどんな作戦かは次回で明らかになります」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


8月初め

時刻 1400時

ワシントン・ホワイトハウス

 

ホワイトハウスで・作戦会議室でコンドン大統領がまたもや驚愕すべき報告を聞いた。

正しくは聞かされたと言った方が良いだろう。

パナマ運河が攻撃を受け、そのひとつの閘門が破壊された。

しかも同時に通過していた商船も1隻を沈められ、運河は少なくとも1年間は使用不能という有様である。

コンドンや中岡たちの慢心はおろか、マーカス国務長官たちの不安は的中した。

自分たちの警戒心が無かったにも拘らず、コンドンは激怒した。

 

「この役立たず、貴様らジャップにおめおめとパナマ運河を破壊された恥さらしどもが!」

 

電話の受話器を手に取り、パナマ駐留軍およびアメリカ工兵隊司令官に直接電話した。

もはや連邦亡命政府の幹部たちの如く、酷い罵声と言うよりは子どもが喧嘩のときに言うような悪口大会でもある。

 

『申し訳ありません、我々も警戒はしていたのですが……』

 

「言い訳は無用だ、いかなることがあっても半年で復旧せよ!」

 

『りょ、了解いたしました……』

 

コンドンは怒りを露わに叩き壊すのではと思うくらい、ガチャッと強い音を立てながら受話器を置いた。

ハワイ島はもはや壊滅となり、その束の間にニューヨークが砲撃され、そしてパナマ運河が破壊されて不幸の連続だった。

ニューヨークでは自由の女神が破壊され、ニューヨーク市民はじめ多くのアメリカ国民に計り知れないほど精神的ダメージは大きい。

挙げ句は、日本軍がアメリカ本土まで上陸して来るのではないかと言う噂もあっという間に広がった。

今度こそ本格的に日本を怒らせ、かつて何し遂げることができなかった夢のアメリカ本土上陸作戦で米本土全体が日本軍に占領されるのではないかと言う噂も囁かれた。

はてまた核攻撃をされてでもアメリカは戦い続けるのかと言うことに対し、アメリカ国民は耐えられるのか、マーカスたち率いる良識派は考えた。

 

かつてのアメリカも日本本土侵攻作戦“オリンピック作戦”や“コロネット作戦”などを考えた。

しかし計算上ではこれ以上の兵士を死なれると、民主主義国家としては痛い。

また戦時国債でどうにか凌いでいる状態でもあったが、それでも足りないぐらいだった。

長引けば国民の厭戦気分も高まり、勝利とは言えない勝利もできない。

だからルーズベルト大統領の死後、後継者となったトルーマン大統領は日本に原爆を落とし、終戦を迎えた。

この決断のおかげで終戦を迎えたと言われているが、これほど愚かな神話はない。

米軍はこの完成したばかりの原爆の威力を知りたかった。

降伏をさせるならば原爆1発でも良かったのに対し、2発も投下したことだ。

もうひとつは前記で書いたとおり、ソ連を牽制するのに必要だったことだった。

アメリカの戦後処理はとても下手くそであり、今日までその国の政府に任せれば良いのに余計なことをして新たな混沌を生み出す。

 

日本と同じ手をすれば良いと思いきや、これが上手くいかなった。

冷戦時代では各国に支援をしたものの米軍撤退後は、イスラム聖戦士と名乗るテロリスト―― タリバーンやアルカイダなどが現われ始めた。

イラク戦争後でも同じく、イスラム国と名乗るテロリストが現われた。

アメリカは自国の軍隊の役割に伴い、本来の目的を間違えた。

何故なら軍隊の目的は敵軍撃破であり、自国や各国の治安維持ではないのだからだ。

だから米軍は戦争では勝利したが、対テロ作戦で損害を増大させた。

各軍の特殊部隊を導入しても同じく犠牲を増すばかりであり、交戦規定(ROE)と言う軍隊や警察がいつ、どこで、いかなる相手に、どのような武器を使用するかを定めた基本的なことですら危ぶまれた。

なおイラク戦争でも自衛隊の交戦規定は曖昧であり、幸い一人の被害も出すことなく撤収することができた。

馬鹿馬鹿しいことに、もしも敵兵を殺したら傷害罪・殺人罪に問われることになる。

他国の軍でもこんな罪に囚われることはない。

よほど日本が愛国心に目覚められたらマズイと偏見に伴い、反日思想を持つ連中の法則と言っても良い。

彼らは普段から『軍隊=悪』としか見ていない、その割には仮想敵国であるろくでなしの隣国の軍隊に対しては何も語らないどころか、保護と言う名の被った残虐行為を応援しているという。

それを象徴している連邦国……今では落ちぶれて、自分たちが連邦亡命政府になってでも例えアメリカに寝返ってまででも日本を滅ぼさんとした。

しかし、今ではこの状況に追い込まれているのだから自業自得でもある。

またしても、この重苦しい空気が漂う会議に移り変わったのは言うまでもないが。

連邦が付いてから世界最強を誇っている米軍が、日本に翻弄されてここまで追い詰められるのは前代未聞だったからだ。

 

「ジャップと兵器女どもに、負けるとは海軍の奴らも情けないな」

 

ギャラガーは海軍と空軍嫌いだ、自分のような攻撃的な指揮官がいないから言えるのだ。

実際に日本海軍と戦えば同じような台詞を言えるかどうかは怪しいが。

 

「何としても厭戦気分が高まっている国民の、不安と怒りを押さなければ……」

 

サイモン副大統領の言葉に伴い、全員が顎に手を当てながら考えると……

 

「私にいい考えがある!」

 

中岡はこの空気を打開すべき、また新たな作戦を考案した。

 

「海上がダメならば、空から攻めればいいのです!」

 

「しかし、空から攻めても日本上空に辿り着くのは難しいぞ」

 

ギャラガーの言うとおり、米本土から直接爆撃機を飛ばしてもパイロットの体調を考えなければならない。

パイロットたちの操縦時間は、1時間が限界である。

長時間の操縦は疲労が増し、戦闘するにも苦労するどころかできない可能性が高い。

かつてガダルカナル島の飛行場を奪還、または無力化をしようとしてラバウル基地から出撃した零戦や一式陸攻部隊もそのような目に遭っている。

特に零戦部隊は15分と非常に限られた時間で空戦しなければならず、それ以上の時間になるとラバウル基地までの帰投が難しい。

撃墜王のひとり、坂井三郎中尉も不運にSBD艦上爆撃機《ドーントレス》の7.62mm後部旋回連装機銃の集中砲火を浴び、その内の一弾が坂井の右前頭部に命中・挫傷して左半身が麻痺したのに加えて右目を負傷して(左目の視力も大きく低下)計器すら満足に見えないという重傷を負った。

しかし、坂井は奇跡的にラバウル基地まで戻ることができた。

しかもその愛機は燃料切れと言う状態で戻って来たのだから驚かされる。

オカルト話では母親の声に導かれ、ここに辿り着いたのだとも言われているが、真相は定かではない。

現状に戻る。

 

しかし連邦はお構いなし、限界はないと論破するどころか、もはや口癖のように言う精神論と根性論で誤魔化す。

 

「そこで我々の自慢の捨て身の特攻作戦部隊をご用意しています、ですから大統領閣下の御許可があればいつでも実行可能です」

 

「ふむ……特攻作戦か……」

 

中岡大統領の言葉に、コンドンは顎に手を当てて唸った。

 

「特攻と言っても何処を攻撃するつもりなのだ?」

 

ケリー国防長官は訊ねた。

 

「むろん陽動と本隊に分けて作戦を致します、ただし本命は日本攻撃であります」

 

「ほう、囮はどこなのだね?」

 

コンドンが訊ねると、中岡はにやりと不気味な笑みを浮かべて答えた。

 

「我々は真珠湾を失いました。ですからこちらも天秤にかけるように日本の真珠湾であるトラック諸島か、またはマリアナ海域に囮艦隊を出撃させつつ、この報復作戦の切り札とも言える本隊である特別攻撃隊を日本本土まで突っ込ませます」

 

「つまり陽動部隊はトラック泊地空襲か、マリアナ沖海戦を再現するのかね?」

 

コンドンが言うトラック泊地空襲とは、太平洋戦争中の1944年2月17と18日になされた米軍機動部隊による日本軍の拠点トラック島への航空攻撃である。

日本では『海軍丁事件』としても有名である。

この攻撃により日本軍は多数の艦船と航空機を失い、トラック島は無力化された。

現在でも日本海軍の重要な前線基地、日本の真珠湾と言われている。

もうひとつのマリアナ沖海戦は、日米がマリアナ諸島沖とパラオ諸島沖で行われた海戦。

日本の作戦名は『あ号作戦』とも言われ、アメリカ側の作戦名は海上作戦を含むサイパン島攻略作戦全体について、『フォレージャー作戦(掠奪者作戦)』と命名されていた。

米軍がここを落とすには、当時最新鋭の戦略爆撃機B-29《スーパーフォートレス》の発進基地として重要な場所でもあった。

 

「その通りです、少数ですが我々の新兵器も実験を兼ねて投入したいと思います。

我が艦隊としても改良された新兵器も試したいものですから、丁度良いでしょう。

そちらとしてはB-52と護衛機を貸与していただければ、いつでも実行可能であります。

B-52には原爆を搭載します、なお奴らを欺くために日の丸を付けて置きます。

なおB-2ステルス爆撃機に使用しているステルス塗料を機体に塗ればステルス機能が発揮して欺けること間違いないでしょう。

護衛機はF-15SE《サイレントイーグル》を、これらを30機が良いでしょう」

 

「果たして、そう上手くいくか分からないな」

 

「うむ、私もそう思う」

 

普段は、マーカス国務長官の意見には何でも反対するケリー国防長官もこの時ばかりは同調した。

 

「しかし、我々も日本に報復すべきです。大統領の意見をそれで日本は少しでも考え直すだろう」

 

サイモン副大統領は言った。

彼の言葉を聞いたマーカスは、不味い状況になったと考えた。

これ以上、この戦争に長引けば兵士を無駄に死なせてしまいかねない。

これは民主主義国家そのものを破壊してしまう。

 

「いや、しかしこれ以上にこの戦いを終止符に考えるべきではないですかな?」

 

サイモンに言う。

 

「あくまでも最後の交渉と言うべきでもあるとして、考えておくべきだと……」

 

「そんな弱腰なことは言っておられんだろう!」

 

サイモン副大統領は怒鳴った。

テキサス人気取りの荒っぽい男でもある。

 

「また本土があの艦娘どもに砲撃か、あの《ミラクルジョージ》などによる空爆を受けたらどうするのだ。キミは祖国の破滅の責任を取れるのか!?」

 

「少しお待ちください」

 

戦略空軍司令官・ゴードン大将が言った。

 

「本職としては、連邦亡命政府軍に協力すべきです。今度こそ日本はこのことを考え直す時かもしれません」

 

「うーむ……」

 

サイモンは唸った。

 

「……だとすれば、やってみる価値はあると思います」

 

ギャラガーは言葉を繋いだ。

さすがに攻撃的な思考を持たなかった、及び腰のディエゴ大将とは大違いだった。

 

「しかし、実行しなければ分からないではないか」

 

サイモンは反問する。

 

「確かにそうかもしれませんが、本職はやる価値があると考えます。

何としてでも我々は決して日本に屈しないこと、太平洋は永遠に我々のものだと言うこと強い意思をこの際に見せつけてやるのです」

 

「しかし…… 日本には不思議な力、未来の日本人が介入しているから阻止される可能性が高いだろう」

 

マーカスが指摘する。

 

「その時はその時だ。しかしこの報復作戦をやるべきだ」

 

「その通りだ、私も中岡連邦大統領の名案を採用したいと思う」

 

この議論にケリを付けたのは、コンドン大統領だった。

先ほどから全員の意見を聞き、決めるか否かを考えていた。

中岡たちはそのことをよく知っているため、誘導されたと言っても良いだろう。

しかし本人は、ハドソンよりも超がつくほどのレームダックであることを知らない。

 

「さっそく、この特攻作戦を実行する準備をしよう」

 

かくして米連協同作戦であり、日本報復作戦“ネメシス作戦”が実行されることになった。

ネメシスはギリシャ神話に登場する、復讐の女神として有名である。

だからこそ、この作戦が名づけられたのである。




海を諦めた両者は、今度は空からと言う米軍が得意とする空爆計画を採用し、さらに巧妙と言うよりも偽装作戦と言う形になりましたが。

灰田「因みに作戦名の元ネタは『超空母出撃』で米軍が考案した作戦であります。
本来ならばアメリカ級空母で原爆を搭載したB-17を使いますが、本作品でのオリジナル展開として空中給油をしつつ、日本本土に核爆弾を投下すると言う作戦です」

また別次元『超戦闘機出撃』でも同じことしていましたね、作戦名は『ルシファー作戦』でしたが、どちらにしろ失敗していますけどね……
言わずともですが……

灰田「気にしてはいけません」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
ここまで来たら、あと数話で終わるのかと思うと寂しくなりますね。
原作でも米軍がこういう作戦を考えると、終盤に近くなりますからね。

灰田「最終決戦はまだまだ先になりますけどね、この物語は」

余計なサブタイトルを思い出さなければ大丈夫ですし、同時連載『第六戦隊と!』でもいろいろな展開とシュガーテロを考えて時間が遅くなることもありますが、最後まで本作品を完結させますのでご安心ください。

灰田「では、これ以上話しますと長くなり兼ねませんので次回予告に移ります」

お願いいたします。

灰田「次回は両者の視点から、日本視点と米軍・連邦視点による各々の視点に移ります。
日本は米軍・連邦亡命政府軍に対して、どういう風に策を練るかを考えるか。
また米軍・連邦亡命政府軍の”ネメシス作戦”の計画内容が明らかになります」

本作品と共に、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百九話:最終決戦への前触れ

お待たせしました。
それでは予告通り、両者の視点から、日本視点と米軍・連邦視点による各々の視点に移ります。

灰田「また日本は米軍・連邦亡命政府軍に対し、どういう風に策を練るかを考えるか。また米軍・連邦亡命政府軍の”ネメシス作戦”の計画内容が明らかになります」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本政府は前回の“フラッシュ作戦”で、双方はこれで根が上げると思っていた。

重要拠点であるハワイ島は壊滅して、さらに2隻の海底戦艦《イ800》で本土を砲撃された挙げ句、アメリカの生命線であるパナマ運河の機能を失ったのだからと考えていた。

しかし、秀真たちは違っていた。

いくら攻撃されてもアメリカ・連邦亡命政府は次の報復作戦を考えていることと推測した。

米本土が核攻撃をされるか、大統領が暗殺されない限りは決して降伏しないのだ。

 

「奴らは手に負えない、奴らはフォン・クライゼヴィッツの有名な言葉“戦争とは政治の延長である”と考え、諦めるわけがない」

 

秀真はこう述べ、元帥に関しても―――

 

「石原莞爾の予言したようにこの戦いで我が国の未来が決まる」

 

こう述べたぐらいなのだからだ。

石原莞爾は熱心的な日蓮宗信者で、史実では関東軍参謀として、板垣征四朗司令官とともに満州建国に尽力を注いだ。

参謀としても有能だったが、彼の場合は独自の戦争論を持つ異能な人物でもあった。

彼の予言は『有色人種と白色人種が地球上の覇権を巡って、戦わねばならぬ』と残した。

簡単に言えば、日本とアメリカであり、この時を1970年代と予言した。

これは仏王的な計算から出たもので、これを『最終戦争論』に著している。

 

彼は、これからの戦いは科学の時代だと日本も原爆を持つべきだと力説した。

開戦前に日本もこれを持っていれば、日米の睨み合いとなり、また違った冷戦が生まれたことになるがろくでなし国家とやるよりはマシな方になったかもしれない。

また東亜連盟を唱え、中国との和解を力説したものの、彼の思い通りには行かなかった。

結局は蒋介石と仲違いして、東亜連盟の夢は終わった。

ともかく頭の冴える人物だったため、GHQ(連合国最高司令官総司令部)も石原莞爾を戦犯としては面倒なことになり兼ねないと思い、リストから外した。

だが彼の盟友・板垣大将は戦犯となり、死刑となった。

石原は獄中の板垣大将に、友情溢れる手紙を書いている。

石原莞爾と言うのは異端とまで言われたほど、そう言う人物であるのだ。

元帥も彼を倣い、彼女に言わせてみれば、この戦いこそが最終戦争に当たる。

この戦いで連邦亡命政府と同時に、アメリカにも勝てば、もはや白色人種は手を出さない。

つまりかつての大東亜戦争で成し遂げることが出来なかった最重要目的―― 未来あるアジア諸国のための大東亜共栄圏が、そして艦娘たちの希望ある未来が実現することが出来る。

 

だから、この戦争を終えた瞬間こそ“未来の道標”が実現するからこそ護り抜き、そして勝たねばならないのだ。

 

再び日本が誇り高き国と、艦娘たちと提督たちの輝かしい未来を取り戻すためにも……

 

 

 

同じ頃、アメリカ・連邦亡命政府は何をしていたかと言うと―――

日本報復作戦“ネメシス作戦”の準備に伴い、新たな人造棲艦《ギガントス》と新兵器がいくつか開発されていた。

選抜された機体は、中岡たちの助言通りにステルス重爆《ミラクル・ジョージ》に瓜二つである米軍の戦略長距離爆撃機B-52《ストラトフォートレス》だ。

旧式の戦略爆撃機であるが、威力は申し分ないため、米軍は未だに運用し続けている。

可能な限りこれを改造して電波吸収体技術を取り入れたのに伴い、6機ほど護衛として役立つように掃射機に改造―― 護衛機が全滅してもこれで援護すると言うことである。

これで多少は憎き日本の《ミラクル・ジョージ》を誤魔化せると確信した。

 

これらを護衛機はF-15Eをベースに機体前面に限り、レーダー反射率を第5世代ジェット戦闘機に匹敵するまでに軽減させたと言われる発展機―― F-15SE《サイレントイーグル》である。

当初は米空軍を含め、5ヶ国(イスラエル・サウジアラビア・日本・韓国・シンガポール)に提案していたが、採用されることはなかった。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が2010年7月6日に行われたオバマ大統領との直接会談の際にF-15SEの輸出を促進してほしい旨を要請したが、オバマ大統領はこの要請に対しての返答はしなかった。

その後、イスラエルは最新鋭ステルス機F-35《ライトニングⅡ》を採用した。

深海棲艦たちに国ごと滅ぼされた韓国に限っては、日本を敵対するため採用を否定した。

その理由は『竹島をめぐって紛争が起きた際、我が国ステルス機を保有していないことで日本に独島を取られるだけでなく、我が軍が不利になるからだ』と、もはや日本人を抹殺することを娯楽としていることを宣言したものに等しい。

連邦亡命政府軍も、米軍も同じく日本を膺懲すべき本機をこの特別攻撃作戦に採用した。

本作戦には途中までは、空中給油機KC-46《ペガサス》2機が使用される。

なおこれらは全てB-52部隊のみとなり、護衛機群は外装式増漕タンクを3個取り付けると言うことに決定した。

 

両機とも敵の目を欺くために機体には星条旗マークではなく、日の丸で塗りつぶした。

パイロットたちの服装まで、日本の空自が使う戦闘服に着替える。

志願パイロットは、米軍と連邦亡命政府軍もだが、連邦派日系アメリカ人たちも採用した。

彼らは日本によって滅ぼされたハワイ島と、アメリカ・連邦国のプライドを貶されたと思い込み、とてつもない復讐心に燃えている。

しかし普通の国から見れば、これらはもう戦時国際法に違反している。

ハーグ陸戦条約・第23条:特別の条約のひとつとして『軍使旗、国旗その他の軍用の標章、敵の制服またはジュネーヴ条約の特殊徽章を濫りに使用すること』に反する。

しかし、両者にとっては知ったことではないのだ。

彼らは日本と艦娘たちに懲罰を与えれば、それでいいとしか考えていない。

それほど復讐心に伴い、もはや狂気に取りつかれている。

 

同じく連邦深海棲艦たちも同じく、トラック泊地を襲撃したくてウズウズしていた。

多くが空母機動部隊に、また新型兵器を搭載している巡洋艦クラスが中心である。

前者が本隊であり、後者は日本海軍を引き寄せるための囮艦隊である。

要は連邦お決まりの使い捨て艦隊である。

今回の目的には、もしも自分たちの要塞こと『地上の楽園』の居場所が知られ、あの激戦でもある『グアム・サイパンの戦い』『マリアナ沖海戦』のようになった場合に備えてである。

もしも自分たちが負ければ、戦犯として歴史に刻まれてしまう。

それだけはしたくないため、今回は囮艦隊としても“玉砕命令”は下されていない。

しかし『使い捨て』と言うのは、もはや、彼らの風潮として取りつかれている。

共産主義者が支配する国は人命なんて至極軽いものだ。

ソ連のスターリンは『兵士は畑で採れる』や、毛沢東に関しては『核戦争が起きたら、増えすぎた人口を減らすのに丁度良い』などと平然と言ったぐらいだからだ。

こういう風に人命軽視を伝統行事さながらにして、このような今日までろくでなし国家を築き上げたのだから堪らない。

彼らに賛同するアメリカもアメリカであり、あの先の戦争相手を間違えた。

本当の相手は共産主義国家にも拘らず、あのルーズベルト大統領と言う名のレームダックを大統領に就任させ、ソ連の偽装工作に騙された時点で日本と戦うことを選択した時点で今日までの混沌の世界を進めたのだ。

いや、もっとも何百年経っても学習する気がない反日民族と同類である。

そして歴史は繰り返すように、白人主義および対日計画を進めたアメリカはもはや盲目の如く、ただひたすらに泥沼の戦いに踏み続けていることすら気づいていない。

 

アメリカからして見れば、もはや先の大戦のアメリカのようになった。

その理由も『日本はアジアの脅威と化した、国際正義からして許しがたいために制裁する』という片腹痛い理由でもある。

アメリカこそ虐殺などと言った手段を実行し、イギリス並みに次々と植民地を手に入れた。

開拓時代、インディアンを滅ぼしたことは不問に付すとしても、その西方進出政策に従ってまずハワイを武力で占領し、そのまま植民地にした。

続いてスペインに喧嘩を売り、キューバ・フィリピンも植民地として手に入れた。

日本がいなければ、イギリスのように中国にも迫って領土を割譲させるところだったが、その前に日本と言う存在に阻止された。

日本さえいなければ世界は、白人の楽園になっていたのだ。

自分たちの野望を阻止された上に、日本には国策上の積年の恨みがある。

さもなければ、対等にならないからである。

かつて日露戦争後も、同じように対日研究をする理由はなかった。

むろん日本だけでなく、他国に対しても行なわれた。

兄弟国でもあるイギリスに対しても、遠慮なく行われたのだ。

 

つまり、アメリカにとって世界のあらゆる全ての国家が潜在的敵国だったと言える……

 

 

 

 

8月上旬――

サンフランシスコから、壊滅したオアフ島の間を哨戒線に散開していた1隻のステルス原潜《海龍》が、阿部3等海佐の指揮する《海龍》106号がいた。

早朝から浮上して海面を見張っていた《海龍》106号は、正面から直進して来る連邦深海棲艦や連邦艦隊を捉え、直ちに潜航した。

 

目標が正面から向かってくるなどと言う幸運は、滅多に来ないものではない。

《海龍》106号は、潜望鏡を出したり引っ込めたりしながら、いつでも敵艦隊に魚雷を撃ち込む絶好の機会を狙っていた。

絶好の位置―― それは目標に向かって、斜め前方45度の角度である。

前部魚雷室から4本の音響ホーミング魚雷を発射したとなると、敵艦は一瞬にして撃沈されるだろう。

 

「こいつは大艦隊だな、まさにより取り見取りだな!」

 

阿部艦長は笑いながら言った。

 

「よほど重要な作戦なのかもしれない」

 

「もしかしてあの中岡大統領か、幹部クラスを乗せているのではないでしょうか?」

 

副長が真顔で切り返すと、阿部は苦笑いした。

 

「それならば好都合だが、ともかく重要な任務を帯びていることは確かだ。いずれにしろ我が国か友軍泊地に向かっているかもしれない。気づかれないように追尾しよう。

また本国や友軍に打電しておけ、いつでも強襲に備えるようにと」

 

雷撃はいつでもできるため、阿部艦長はこの奇妙な艦隊を捕捉しつつ、友軍艦隊や日本にこの重要な情報を打電したのだった。

 

 

 

 

 

 

連邦艦隊は、ステルス原潜《海龍》106号に追尾と同時に作戦自体がすでにバレていることに気が付いていない。

彼らは囮であっても構わない、日本の真珠湾ことトラック泊地を襲撃したくて堪らない。

海軍丁事件こと、あのトラック島空襲のようにせよとの命令も受けている。

史実のトラック島空襲は、衝撃のあまり言葉を失うことばかりだった。

米軍は戦意高揚のために『ジャップを完膚なきまでに皆殺しにせよ!』と、最終命令を下したルーズベルト大統領たちによって実行された。

彼らは目的である艦船だけに飽き足らず、すでに戦意・戦闘手段を持たぬ者たちに対し、米軍パイロットたちは笑いながら、民間人を逃げる鹿と重ね、まるでハンティングをするかのように機銃掃射でひとり残らず殺害した。

 

そして執拗以上の攻撃を、戦艦部隊による艦砲射撃で島ごと砲撃した。

燃え盛るトラック島を見つつ、米軍は歓喜を上げたのだ。

これほど戦時国際法を守らずにこのような虐殺を行なったのにも関わらず、茶番劇とも言える『東京裁判』では裁かれることはなかった。

パール判事や日本擁護の米軍弁護士が証言・反論しようとすると、ことごとく無視された。

これほど滑稽な米軍有利の茶番劇とも言えるが、一部の頭のおかしな連中は『正しい裁判だった』と言う始末である。

自分たちの国のために戦った英霊たちに対してもだが、自分の祖先たちを貶していることに等しい。

仮に自分の祖先が眠っている墓標に見知らぬ輩が『参拝するな!』に伴い、爆薬を仕掛けて壊され、そして食用油などを掛けられるなどの卑劣な行為に我慢できるのならば話は別だが……

話しは逸れたので現状に戻る。

 

もしも裏切り者のアイオワがいたら、かつての『トラック島空襲』のようにも出来たが、米海軍御自慢のニミッツ級空母があれば、一瞬にして壊滅できた。

また後継艦《ジェラルド・R・フォード》級空母3隻があれば、跡形も残らない。

しかし米海軍は消極的であり、腰抜けは連邦亡命政府海軍にはいらない。

いてもお荷物になるか、例のロボット空母にやられるだけだとして見送られた。

バカな日本人や艦娘どもを愉快な花火で家畜肉処理場の、家畜の如く流れ作業で殺害できたら問題もないのだ。

そして本隊である《ミラクル・ジョージ》に化けたB-52部隊が、自分たちが戦っている間にも東京または、各大型都市に核を落とすことが出来たら作戦は完了である。

ある意味、これが本当の米軍との最後の共同作戦になるかもしれないと囁かれている。

しかし最後は少しでも日本と艦娘どもを懲らしめてやりたいと言うのが悲願でもある。

 

「ジャップと兵器女どもにひと泡喰わせてやるぞ、連邦万歳!」

 

『連邦万歳!』

 

また自分たちが再び『神』と呼ばれ、崇められることを信じて前進し続けた。

 

 

 

デコイである連邦艦隊がトラック泊地を目指している最中、日本はステルス原潜《海龍》106号から来た緊急打電を受けて、作戦会議を行なっていた。

元帥も今回はマリアナか、トラック泊地を攻めて来るに違いないと見抜いた。

哨戒任務をしていた《海龍》106号の功績のおかげで、ひと足早く準備することができた。

ただちに《アカギ》率いる空母機動部隊とともに、各支援艦隊を編成した。

予定通り編成すると、即刻、トラックに向かわせた。

ここに配置すれば、敵がマリアナ沖に来ようと、或いはニューギニア方面に来ようと対応できる。

本作戦に参加する艦娘たちは古鷹たち第六戦隊に、富士たち率いる超戦艦部隊、赤城たちに、そして阿賀野たち率いる水雷戦隊に決定されたが……

 

「それじゃ、俺たちと共に戦うぞ。古鷹、アイオワ」

 

「はい! この戦い負けるわけにはいきません!」

 

「Sure! かつての日米の友好を取り戻すために!」

 

今回は元帥たちの元で管轄されていたアイオワを出撃させることが許可された。

多くの提督たちはこれに反対したが、アイオワと戦艦水鬼たちの直談判を聞いた元帥と秀真、そして郡司提督と少数の提督たちは、彼女たちの揺るぐことのない信念を信じた。

アイオワはトラック島を、今度は護るために出撃が許された。

戦艦水鬼たちは、万が一と言うときに備えて、予備戦力として本土に残ることにした。

かくして最終決戦とも言える、史上最大の海戦がいま始まろうとしていた……




今回は史上最大の作戦級ともいえる海戦の前触れでもあると同時に、まさかのアイオワさんが参加することにより、よりスゴイことにもなります。
水鬼さんたちは本土防衛と言うことになります。
それにしても相変わらず卑怯な手段を使う連邦亡命政府の欺瞞作戦がいよいよ準備されました。

灰田「まあ、ここまで来るとスゴイことになりますね」

こういう海戦になると、原作で言えば最終章の前触れでもありますけどね。
確か『超戦闘機出撃』『超空母出撃』『超戦艦空母出撃』でも似たような展開でもありますが……

灰田「気にしたら負けですよ」

分かった分かった負けや負けや負けた!><(兄貴ふうに)
気分を改めて艦これ四周年と言うめでたい日は、同時連載中の『第六戦隊と!』でおめでたい回になりました。

灰田「この作品も1年ちょっとという記念でもありますがね」

どんなことがあっても楽しく更新かつ、自分のペースでやって来ました。
でも、もう少ししたら本作も完結に近づくと寂しくもなりますね。
ともあれ、次回予告に行きましょう。

灰田「次回はこの史上最大となる海戦の前触れとともに、双方の戦力紹介になると思いますのでお楽しみを」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十話:第二次トラック諸島沖海戦 前編

お待たせして申し訳ありません。
それでは、まずはこの史上最大となる海戦の前触れとともに、双方の戦力紹介になります。

灰田「今回はサブタイトル通り、2015年の冬イベント【迎撃!トラック泊地強襲】のE5【Extra Operation】トラック諸島海域で行われる海戦をモチーフしています」

イベント中でも投稿ではありますが、それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


連邦囮艦隊は無事に日本艦隊の勝利後には、余裕があるならばこの強力な打撃艦隊で空軍よりもひと足早くもう一度、日本本土まで大打撃を与えたいと考えていた。

しかも嫌味たっぷり、嫌柄を込めて、連邦艦隊名は以下の通りに名づけられた。

主力となる艦隊は、第50任務部隊“トラック空襲任務艦隊” である。

この艦隊の指揮するのは司令長官・マケイン中将。

空母ヲ級9隻を率いる戦艦7隻、巡洋艦各10隻、駆逐艦28隻と強力な水上打撃艦隊。

補佐として富士たちを模倣した新造艦―― 戦艦空母型《ギガントス》が務める。

こちらも富士たち同様に40cm連装砲に、装甲飛行甲板を装備している。

外観こそ模倣しているが、しかしほど遠いものである。

中岡たちも知らないため、緊急時にその飛行甲板を放棄するような構造はされておらず、また艦載機数も50機と少ない。

なお艦載機は“仙台空襲”で運用した最新鋭艦載機《ヨクリュウ》から、かつてMI作戦の勝利へと導くきっかけを作ってくれた日本本土空襲『ドーリットル空襲』のときに、運用した米陸軍の傑作双発中型爆撃機B-25《ミッチェル》を採用した。

これを数機搭載、むろんこれは無人機として改造されたと同時に、連邦亡命政府軍が秘かに米軍と協同開発したとある新型兵器を搭載している。

 

またこの部隊を支援するのは、第58任務部隊“高速空母任務部隊”

この艦隊の指揮するのは、司令長官・ノーラン中将。

第1郡任務部隊指揮官・チョウ少将。

第2群任務部隊指揮官・コウ少将。

第3群任務部隊指揮官・ユン少将。

第1郡・第2群・第3群と更に分かれており、いずれも各任務部隊には空母ヲ級3隻や各艦種が含まれている強力な空母戦闘群でもある。

この艦隊名は、かつて“トラック島空襲”作戦に参加した艦隊だ。

つまり囮とは言え、今度こそ日本と艦娘たちに復讐を果たしたいと言う恨みが籠った艦隊名でもある。

 

しかし彼らにも不安だったこの強力艦隊の皮を被った囮艦隊が、日本艦隊相手にどこまでやれるかと言うことだった。

大戦前ならばレーダーなどの現代兵器の要となったものなどは各国もまだ初心的なものであり、対空ミサイルなどの誘導兵器と言ったものは信頼性が低かった。

しかし、現代兵器の進化はとてつもなく早い。

いくらデコイとは言え、この大艦隊を編成してもF-2やF/A-18と言った対艦攻撃が得意な戦闘攻撃機に襲われたひとたまりもない。

今回は新兵器の実験とも言われるが、多くの艦娘たちは対空・対艦ミサイル、ジェット艦載機などと言った優秀な兵器ばかりを取り揃えている。

ある程度の対策をしてもことごとく自分たちの手を読まれていると思うが……

実際には使いどころを見極めて、相手を困難させるために旧式と超兵器を入り混じって使用していることを彼らは知らないのだった。

つまり、シンプルな兵器が一番良いこともあるのだ。

もはや無駄な血を流していることに過ぎないと分かってはいたが、終止符が見えない。

本当に日本本土に核ミサイルを投下しても、それ以上の報復作戦で米本土や楽園を滅ぼされたら元も子もないと考えながら、前進し続けたのだった……

 

 

 

秀真・古鷹たちが来ると同時に、トラック泊地でもステルス原潜《海龍》106号と、日本との情報を聞いた友軍は敵艦隊と敵機がいつでも撃滅できるように基地航空隊と連携して偵察活動をしていた。

基地航空隊に配備されているのは、言わずとも防空用戦闘機と配備されている《天雷改》に、少数の対艦攻撃用の《天弓改》《轟天改》とともに、双発陸上攻撃機《一式陸攻改》と大型四発爆撃機《連山改》を中心とした戦爆連合軍である。

なお偵察として《一式陸攻改》《連山改》とともに協力するのは海自のP-3C対潜哨戒機、早期警戒機E-2D《ホークアイ》が基地航空隊として配備しており、これらが偵察任務を連日行っていた。

 

したがって日本索敵機が、これを発見する時間は充分にあった。

連邦亡命政府軍はかなりの気まぐれであり、幾度もなく作戦変更は単純なものだが……

今回も果たしてトラック泊地襲撃か、または第二次マリアナ沖海戦を望みに来るか、それとも学習して別の海域か、果ては日本本土海域まで直接来るのかは誰にも分からなかった。

秀真の予感は当たっていたのだが、まさか敵はZ機に偽装したB-52戦略爆撃機を筆頭にして編成され、同時に核爆弾を搭載した“ネメシス部隊”だとは思わなかった。

この部隊は囮艦隊が交戦中に、手薄になった日本本土に突入、これを首都・東京か、または大都市に投下して、そして罪なき民間人とともに日本本土を焦土化すると言う、かつて幻の作戦として終わった東京原爆投下作戦を実行しようとしていたのだ。

東京もだが、京都にも落とされることはなかった理由として前者は戦後復興のためと、後者は日本文化を破壊したらアメリカの恥と言われて外されたと戯言を植え付けさせ、言うまでもなく、まるでカルト神話のように美化されている。

しかし、実態には戦後に作られたアメリカを美化するための洗脳作戦に過ぎない。

アメリカは首都と同時に、皇居もろとも消そうとした計画もしていた。

京都を空爆しなかった理由は、新型爆弾の実験地として候補されたからである。

しかし天候悪化として北九州・小倉市と同じように免れた。

また日本の降伏が仮に早くても、アメリカは原爆を日本に投下しようとしていた。

戦後には米軍たちは『本当の敵は日本ではなかった』と酷く後悔したと言うほど、戦争と言うものは狂人に変えてしまったのだ。

皮肉にも人類の歴史はそうして進み、世紀の時代を歩んできたのだ……

現状に戻る。

 

秀真たちが悩んでいたところ悩んでいたところ、この疑問はすぐに氷解した。

マリアナ、オアフの間に網を張っていた《海龍》部隊が敵艦隊は針路を変えずにトラック泊地を目指しているとの知らせがきたからだ。

これでトラック泊地を目指していることは明白だった。

秀真たちはただちに全艦隊を出撃させ、古鷹たちとともにトラック諸島海域に向かった。

 

 

 

X-day

トラック島空襲艦隊を率いるマケイン中将は、警戒しながら前進していた。

囮とは言え、輸送ワ級率いる補給・輸送船団も連れてきているのでどうしても遅れてしまいかねないのが悩みだが福州さえ果たせれば関係ないと考えた。

 

しかし、前記にも言ったようにこれが日本軍にチャンスを与えるきっかけとなる。

トラック諸島海域で哨戒に当たっていた《連山改》がこれを発見、連合艦隊に知らせた。

元帥たちは敵も執拗かつ、これまでの失敗では懲りないこと、そして報復すべき時を待ち延びたかのように来たかと考えた。

索敵機の報告では、戦艦空母1隻、戦艦8隻、空母多数と言う大規模艦隊である。

秀真たちは索敵機からの報告を聞くと、かつての“トラック島空襲”艦隊だと見抜いた。

悪趣味が嫌いな秀真たちにとっては、血に飢えた化け物と化した連邦亡命政府軍を許しておくことはさほど無いに等しい。

 

「ならば、こちらも受けて立つか」

 

「そうだな、同志」

 

秀真と郡司たちは、いつも通り前線で指揮および古鷹たちを援護するために《ズムウォルト》級ミサイル巡洋艦に乗艦し、前線で指揮を取る。

赤城・富士たちも偵察用艦載機を発艦させ、敵艦隊を発見するために務めていた。

なお阿賀野たち水雷戦隊は輪形陣を保ちつつ、敵潜または敵機迎撃のために備えていた。

敵潜は潜水カ級などもいるが、クローンとして姫級以上もいるかもしれない。

学習はしているのか、それとも警戒しても襲い掛かることも少なくなったものの、依然として対潜哨戒は重要不可欠であり、攻撃力の要となる古鷹たちや赤城たちを護るための重要な役割でもある。

かつてこれを怠ったせいで本来ならば天敵のはずの駆逐艦が潜水艦によって雷撃されると言う皮肉なことが起こった。

泡を喰った帝国海軍は急遽と言うか、遅すぎた対応をしたため、南方からの本土まで物資を満載した輸送船の護衛に必要不可欠な護衛艦が不足したため、輸送船は少数の護衛艦か、時には単独行動せざるを得ない状況に陥ったこともしばしばあった。

そのため好きなように敵潜や敵機、そして敵がばら撒いた機雷による戦果を受けて撃沈してしまうことも当たり前になってきた。

大戦前に護送船団方式、対潜哨戒任務などと言ったシーレーンを守り続けて行ける戦力を維持していれば、少しは違った結果になっていた。

 

とある駆逐水雷長は言った。

いたずらに戦線拡大などと言う兵力を少なくすることなく、日本本土と南方海域だけを重視していれば無駄な戦力を投入し続けていたガダルカナル島の悲劇もなかった。

ましや無駄な輸送作戦『鼠輸送』と言うもの貴重な物資を、敵の機銃掃射で被害を増やすと言う運任せの輸送作戦をすることもなかったと述べた。

 

本当にこの言葉の重みは最前線で戦ったものだから分かることであり、本土でなにひとつ戦場を知らない官僚軍人や上層部、そして戦後に我が身の大切さのあまり、連合国に掌を返して祖国のために戦った者たちに対して罵声や暴力を振るった者たちこそ愚か者とどころか、真の裏切り者といった方が良い。

現状に戻る。

 

トラック島空襲艦隊司令官・マケイン中将は、日本軍が各諸島や島々に基地航空隊が築いていることを暗号解読により知っていたが、衛星は相変わらず故障のままであることが悩みだった。

これらがトラック泊地空襲に邪魔になることは確かだが、場所が分からないのであればこの大規模な兵力で簡単に捻り潰すことが出来ると楽観的に考えた。

それを察知したかのように各基地航空隊は、頻繁に哨戒機や早期警戒機などによる索敵を行なっていたので、まずトラック泊地から出たE-2D早期警戒機がこの連邦艦隊を先駆けて発見した。

早期警戒機から敵艦隊を捕捉したと報告は、瞬く間に秀真たちに知られることとなる。

これを聞いて、トラック泊地に待機していた基地航空隊450機と合わせて、赤城たち、そして無人空母《アカギ》の艦載機部隊の出撃準備を命じた。

 

このときマケイン中将は、連邦亡命政府軍同様に敵をアンダーエスティメイト《過小評価》していた。

海自の最新鋭護衛艦や例の空母戦闘群はともかく、艦娘たちは相変わらず旧式の装備しか持っていないものと考えていた。

こちらには連邦と共同開発した新兵器があるため、その自信過剰と慢心が持っていたのかもしれない。

だが、基地航空隊には空自のF-15とF-3に、対艦攻撃が得意なF-2やF/A-18Eをはじめ、なお新兵器を搭載した四発大型爆撃機《連山改》などが翼を連ねていたことを知らない。

 

この事態が、連邦艦隊の第一錯誤となる。

赤城率いる機動部隊とともに、同じく無人空母《アカギ》率いる空母戦闘群は索敵第一を厳にしていた。

翌日早朝には、トラック諸島沖に侵攻している敵機動部隊を発見した。

例の人造棲艦《ギガントス》と筆頭に、空母ヲ級9隻と戦艦ル級などが護衛している。

艦載機は、およそ900機以上と言う大規模な兵力である。

囮艦隊とは言え、兵力としてはこちらが断然勝っていると思い、進撃を続けた。

 

しかし、偵察機からの報告を聞いてショックを受けた。

 

敵艦隊は正規空母9隻と例の空母5隻、さらに超戦艦空母4隻、強力な戦艦部隊と各高速艦隊多数と言った布陣である。

連邦艦隊の位置は、トラック泊地の基地航空隊も届く距離からでもあり、なおかつ前方には強力な空母戦闘群と機動部隊がいる。

 

囮とは言え、自ら死にいくようなものではないか。

 

だが、引き返すわけには行かない。

 

自分たちが殲滅されても例の報復作戦“ネメシス作戦”が成功すれば、それでいいではないか。




今回は史上最大の作戦級ともいえる海戦の前触れでもあると同時に、両艦隊の戦力を知るという回でした。

灰田「イベント中ですが、お疲れ様です」

ありがとうございます。
今回は伊13ことヒトミちゃんを迎えることが最重要であります。
彼女入手の長い道のりになると思いますが、古鷹たちみんなの力を信じて頑張っています。

灰田「ともあれ、無理しないでくださいね」

分かっています、無理は禁物ですからね。
今回のイベントで敵の新型艦載機、まるで《ヨクリュウ》みたいでした。
あれで掴み攻撃されたら、もうバイオのBOWやサイレンの羽屍人みたいなものですが。

灰田「ある意味、また予言が当たりましたものですね」

まさか、敵の新型艦載機があの姿とは思いませんでしたので。
あれがロケット弾など搭載していたら、もう怖いですが。

灰田「ともあれ、まだ時間はありますが無理しないようにしてください」

衣笠の言う通り、もしも危なくなったら中断します。
報酬よりも、古鷹たちの無事が何よりも大事です。
誰かを失う勝利は敗北であり、全員帰還こそ真の勝利ですから。

灰田「はい、これこそが真の勝利ですからね」

ともあれ長くなりかねないので、そろそろ次回予告と行きましょう。

灰田「分かりました。次回は艦隊決戦の開幕戦である航空戦から始まります。なお次回は双方の新兵器が登場しますのでお楽しみに」

なおイベント終了後に投稿できたらいいですが、時間が掛かりますのでご了承ください。

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十一話:第二次トラック諸島沖海戦 中編

お待たせしました。
艦隊決戦の開幕戦である航空戦から始まります。
なお申し訳ありませんが、今回は日本の秘密兵器がまず登場します。
連邦に関しては、次回の最新話で登場しますことをお伝えします。

灰田「今回もその新兵器が登場しますので、お楽しみください」

内容変更を伝え終えたと同時に、それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


早くも、両艦隊の決戦が訪れた。

マケインは、日本軍が強力な空母戦闘群がいると言うことを確認したものの、これほど早くこの機会が来るとは思わなかった。

囮《デコイ》とは言え、今にでも殲滅されるほどの戦力である。

もはや空母《天安》部隊や数多くの指揮官を失い、急遽と言うよりはお茶を濁した程度しかない機動部隊司令官なって日の浅いマケインは、負ける気などしなかった。

なにしろ、味方機は900機以上の艦載機を保有している。

 

「囮とは言え、我々がジャップや兵器女どもに負けるはずがない!」

 

敵の基地航空隊に配備されている航空部隊など目ではないと、経験が浅い司令官ほど慢心するほど自分有利だと考える。

反対に経験豊富な元帥や秀真、郡司、他の提督たちは敵の企みや戦術など新たに変えて襲い掛かると深く考え、そして褌を引き締める。

さらにマケインがここまで自信過剰になるのは、人造棲艦《ギガントス》が搭載している遠隔操作可能な使い捨て無人機に改装したB-25双発爆撃機には秘密兵器が搭載されている。

本来ならば陸上機だが、どうにか飛行甲板を改装して、これを搭載できるようにした。

試験的なため、25機が本作戦に実戦投入された。

史実では、空母《ホーネット》から発艦したドーリットル部隊が日本本土を空襲した。

慌てふためいた日本海軍は敵空母を撃滅すべき、中途半端とも言える撃滅作戦とも言える、必要のない海戦《ミッドウェー海戦》を計画させたため敗北の道を歩められたのである。

この機体が今度こそ、自分たちに奇跡が起きて大逆転するに違いないと過剰なまでに信じていた。

 

夜明け前から、両艦隊とも偵察機を放った。

日本軍はいつも通り早期警戒機を放ち、いかに偵察を大事にしているかを表している。

秀真たちは米軍式偵察と伴い、古鷹たちは水上観測機や偵察機、赤城たちは艦上偵察機《彩雲》や艦爆《彗星一ニ型甲》に、艦攻《流星改》を臨機応変に使い分けた。

また《天雷改》や《轟天改》、《天弓改》なども無線機を持っているので、索敵機としても使えた。

 

その一方―― 連邦艦隊の偵察機はヲ級が持つたこ焼き型艦載機だった。

各ヲ級たちから出されたので、合計32機の偵察機が偵察任務に務めた。

秀真たちは無人空母《アカギ》のE-2D早期警戒機とともに、古鷹たちの水観や水偵を8機それぞれ出し、日本空母戦闘群と機動部隊は主軸を北北東に置いた。

しかし、連邦艦隊はその逆だった。

 

前夜でもマケインは、あまりに敵と接することを嫌がって艦隊を北上させていたので両者の距離は、500海里(約926キロメートル)に広がっていた。

マイルに戻せば、700マイル(約1126キロメートル)である。

 

明け方になって、ようやく南進に転じた。

このため、両艦隊とも敵を発見するのに手間取り、ようやく連邦艦隊が日本連合艦隊を発見したのは、2時間後のことだった。

兵力についての報告は、前回同様に変わらなかった。

 

“正規空母9隻、無人空母4隻、フリーク・クラス空母4隻、戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦多数”

 

自分たちも大艦隊だが、偵察機の報告を聞いて、自分たちよりも強力なことにゾッとした。

 

「速力25ノット、味方より距離600マイル」

 

600マイルはちと遠いとマケインは思ったが、現代戦は先取必勝であると言うほどの知識は持っていた。

 

そのため、すでに待機させていた第1次攻撃隊を発進させた。

その数450機。

制空権確保のための艦戦100機

各艦艇を攻撃するための艦爆・艦攻は各機175機、双方合わせて350機である。

また特殊機であるB-25双発爆撃機《ミッチェル》を50機。

艦爆・艦攻が極めて多いのは、連邦艦隊の伝統であり、エアカバーなどは二の次である。

ともかく攻撃力がある内に、敵艦隊にダメージを与えると言うことしか考えていない。

 

 

 

日本偵察機が発見したのは、すでに連邦艦隊よりも20分も早かった。

これを発見したのは、無人空母《アカギ》の早期警戒機だった。

現代の早期警戒機は高性能なレーダーのおかげで、1機だけでも広範囲の索敵能力を備えているため、素早く敵艦隊を見つけることなど容易い。

その兵力は以前と変わりなく、前回と同じ報告だった。

 

“針路200、速力25ノット、味方よりの距離400海里”

 

400海里と言うと、約740キロメートルである。

往復距離は1480キロメートルを超えるので、ベテランの日本パイロットたちにとっても遠いことは遠い。

 

この報告を聞いた秀真たちは、躊躇なく出撃待機していた

赤城と富士たち率いる第1次攻撃隊450機、無人空母《アカギ》の攻撃隊を発進させると同時に、友軍基地ことトラック泊地の基地航空隊からは四発大型爆撃機《連山改》30機が発進した。

しかも爆撃機としては速く、そのうえ搭載爆弾量は一式陸攻よりも多く搭載できることが魅力的であり、これが全弾命中すれば恐るべき威力を発揮する。

なお今回は新兵器も搭載しているため、絶好の機会とも言える。

トラック泊地の基地航空部隊は、秘密兵器を搭載した《連山改》のほかに200機に及ぶ戦爆雷攻撃隊を発進させた。

圧倒的な数を誇る航空機――― 全機合わせて650機が連邦艦隊に向かったのである。

 

 

 

双方の航空戦が、刻々と近づいた。

壮絶な航空戦でも、やはり最終的に勝つのは各航空隊率いる指揮官の技量だ。

当然、雲のなかを進むことになる。

ナビゲーションがしっかりしていないと、隊列が乱れてしまう。

その結果が史実のミッドウェー海戦の艦爆隊の遅れのような僥倖に繋がるのだが、普通はそんなことはあり得ない。

 

ベテラン揃いの日本攻撃隊は無線機を活用して編隊を崩さず、離れることなく進撃した。

しかし、連邦艦隊のヲ級たちの攻撃隊は初陣が多く、無線機は持っていたが上手く活用できないほどの新兵ばかりである。

したがって、450機もの長大な隊列は次第に距離が開いて、編隊を崩し始めた。

この攻撃隊のなかには、あらぬ方向に進む機体もいた。

これでは450機の攻撃隊を一丸となって、敵を翻弄させることができない。

ミッドウェー海戦の米軍艦爆隊と同じような状況だが、いくつかの不運が幸運を呼んだ。

しかし、同じような状況でも必ずしも奇跡が起きるとは限らない。

約2時間の飛行後―― 連邦攻撃隊は敵がいると思われる座標に到着したが、いくら雲の間を透かしても見ても敵艦隊を見つけることが出来なかった。

指揮官機はたちまちパニックになり、雲の下に降り、部隊を分散させて、敵を発見した機体は味方を呼び寄せるように命じた。

判断としては正しかったが、この行為が時間を費やしてしまった。

 

空母ヲ級から出た攻撃隊がようやく日本連合艦隊を発見したとき、日本攻撃隊はすでに敵を発見して攻撃を開始した。

 

「対空戦開始、ジャップを海に叩き落せ!」

 

マケイン中将が命じると、艦隊は輪形陣を形成した。

空母ヲ級たちは各自ペアを組み、その彼女たちを戦艦や水雷戦隊が守っている。

この輪形陣は旗艦や空母を守ることだけでなく、対空砲火の威力を最大限にまで上げることができる。

つまり、敵機は外側から内側に至るまで猛烈な対空砲火を突破しなくてはならない。

 

マケインは、《アーレイ・バーク》級駆逐艦《ルーズベルト》の艦橋で敵機の接近を見守っていたが、あらゆる大戦機は知っていた。

しかし、そのなかで大型機が含まれているのを我が目を疑った。

敵はいつの間にこのような爆撃機か、陸上攻撃機を開発したのだろうと驚いた。

しかも自分たちの友好国アメリカが運用しているF/A-18E《スーパーホーネット》とともに、かつて艦隊防空用戦闘機として運用していたF-14《トムキャット》が混じっていた。

前者はトラック泊地の基地航空隊、後者は敵空母から発艦したのだろうと見抜いた。

マケインは、かつて先の大戦で英国東洋艦隊旗艦・戦艦《プリンス・オブ・ウェールズ》と巡洋戦艦《レパルス》が日本の陸上攻撃機に沈められたことは知っている。

 

「水平爆撃しかできない爆撃機が、艦攻のように肉薄して来るのか?」

 

そう呟く間にも、敵戦爆雷部隊が迫って来た。

これらを見たヲ級たちが放った直掩機部隊との間にも空戦が展開された。

敵機は相変わらずジェット戦闘機と、重戦闘機部隊を率いっていた。

話し程度までは聞いていたが、これほどにまで日本軍の航空戦力は強力になったのかと思った時点で思考が停止しそうになった。

しかもあっという間に、艦隊上空を務めていた直掩機部隊は殲滅された。

もはやエアカバーを失った連邦艦隊は、各艦の対空兵器による対空砲火に頼らざるを得ないこととなった。

 

「くそっ…… 何としてでも撃ち落とせ!」

 

ここで猛然と対空ミサイルとCISWなどが噴き上げた。

これらの対空砲火が一斉に火を噴いているにも関わらず、死ぬことを恐れずに激しい対空砲火のなかに突入して来る勇敢な日本機に恐怖を覚えた。

 

これらの攻撃を喰らうまいと必死になって、対空射撃をするしかない。

空母ヲ級たちを真っ先に狙い定めた日本艦爆隊と艦攻隊の数十機が、被弾して火だるまとなる機体、空中で爆散した機体、海中に落ちた機体など様々だった。

しかし、ほかの攻撃部隊はこの攻撃をくぐり抜けて敵艦に殺到した。

 

同時攻撃をすべく、艦攻部隊と戦闘攻撃隊ともに襲い掛かって来た。

大型機《連山改》は5機ずつ空母攻撃に参加することになっており、この日のために用意された新兵器を装備している。

このとき2隻ずつの空母ヲ級たちが、日本軍の空母攻撃隊に振り分けられた。

艦攻隊は通常魚雷と音響ホーミング魚雷を、《轟天改》と《天弓改》率いる戦闘攻撃隊は活気に搭載された重装備―― 《轟天改》の75mm機関砲による砲撃、《天弓改》の30mm機関砲と対艦攻撃用に開発された大型対艦ロケット弾を発射した。

これらの攻撃を見たヲ級たちや護衛艦隊は、たちまち回避行動をした。

しかし、回避行動に出遅れた者たちは、たちまち敵攻撃隊の餌食になった。

駆逐イ級や軽巡ホ級のように一撃で死んだ者はまだ良いが、頭を半分吹き飛ばされてもなお手を伸ばし助けを求めた重巡リ級やネ級たち、上半身と下半身が別れる者や傷口を押さえて腕や足を無くしてもなお逃げようと抗うル級たちに続き、これらの恐怖に駆られて誤って味方を撃ち殺したワ級たちなどと、まるで地獄絵図を描いたような絶望的な光景が瞬く間に再現されたのだった。

 

「ナンダ、アノ爆撃機ノ翼下ニアルノハ?」

 

回避に成功した空母ヲ級たちが、こちらを攻撃しようと数機の《連山改》の翼下に奇妙なものに気が付いた。

しかし彼女たちが気付いた頃には、その翼下にロケット弾を一斉に発射した。

ミサイルのようだが、あからさまに大型対艦ロケット弾と言っても良いだろう。

しかもあの大きさからして200mmクラスの大型ロケット、あれを喰らってしまえば、一撃で轟沈は間違いなしだと察した。

 

運の悪いヲ級たちがこれを喰らうと、一撃で撃沈した。

 

「全艦回避!取リ舵イッパイ、急ゲ!」

 

回避行動をする最中、別部隊の《連山改》が攻撃を開始した。

グランドスラムボマーよろしく、10トン級爆弾を一発おなかに吊り下げていた《連山改》部隊がスキップボミングを、また追い打ちを掛けるかのように現われた新たな別の《連山改》部隊はトスボミングを開始した。

長放物線を描いて、長距離目標に着弾させると言う爆撃方法でかなり昔から存在している。

異常な有効射程距離を誇るが、重量系の爆弾では目標に命中させることすらできない。

しかし、地獄絵図と化したこの海域ではたとえ外れても負傷して動けない者たちに対しては有効的な攻撃方法でもあった。

我先に回避しようとしても輪形陣を取っているため、避けきれることが出来ない。

そのために衝突事故を起こす者たちが、次々と続出した。

 

「クソッ!マタ新タナ兵器ヲ!」

 

ひとりの空母ヲ級もだが、多くの者たちは『日本軍と艦娘たちはまた新たな兵器を開発したのか!?』と呟いた。

これらもまた灰田が用意し、新たに改良された《連山改》と言うことは知らない。

しかも従来の《連山改》も性能も格段にアップし、さらに搭載爆弾量も10トンと言う驚愕な搭載量にまで改良されていたことを連邦艦隊は知らない。

 

しかし、例え知っていたとしても理解しようがない。

日本軍が新たに開発したとしか見当がつかないだろう。

例え対等の力を持っていたとしても、自分たち優先且つ新兵器を装備している精鋭艦のみと少数精鋭のみであり、使い捨て部隊のために貴重な新兵器をわざわざ装備させることはしない。

 

元より無駄に、もはや連邦亡命政府軍の伝統行事でもあるからだ。

大事なのは自分たちの命だけであり、他人様のために自己犠牲をするほど、自身の命を投げ捨てるなど馬鹿げたことはしない。

 

そうしている内に、《流星改》部隊の雷撃が始まった。

音響ホーミング魚雷や通常の酸素魚雷だから、敵艦はまたしても困難した。

猛烈な対空砲火を掻いくぐって、デビルと呼ばれる《轟天改》と和製版P-47《サンダーボルト》戦闘攻撃機こと《天弓改》の砲撃とロケット弾攻撃に続き―― 《彗星一ニ型甲》が搭載していた250キロ爆弾の嵐が襲い掛かる。

 

ひとりの空母ヲ級は、250キロ爆弾と酸素魚雷2本を喰らい、たちまち空母としての機能を失ったどころか、火だるまとなった。

同じく別のヲ級にも250キロ爆弾3発とロケット弾数発命中。

続いて傍にいたヲ級には音響ホーミング魚雷2本が命中、なお攻撃隊の搭載していた連鎖的に起きた誘爆のため、彼女たちも全身火だるまとなった。

もがき苦しむ仲間を見て、隣にいた戦艦タ級とル級は『許せ』と言い、そして各々の主砲を向けて、感情を押し殺してヲ級たちに介錯を与えた。

 

これで、一瞬にして空母ヲ級3隻を喪失した。

またほかの深海棲艦も撃沈、または中破か大破の状態が続出した。

なにしろ敵機は戦爆雷連合軍や大型爆撃機と、そしてジェット艦載機を合わせて、全機650機の大群である。

 

深海棲艦たちに続いて、艦隊旗艦《アーレイ・バーク》級駆逐艦《ルーズベルト》率いる連邦艦隊にも災厄が襲い掛かる。

日本戦爆雷連合軍だけでなく、連邦空母《天安》を撃沈、米軍が誇る空母戦闘群をいとも簡単に蹴散らした例のUFO(未確認飛行物体)さながらに、非線形飛行を得意とするあの脅威のステルス艦載機が襲い掛かって来た。

 

「何としてでも撃ち落とせ、ジャップの艦載機など―――」

 

しかし、僚艦であり、姉妹艦《ハルゼー》が一瞬のうちに爆沈した。

各艦から発射されたシースパローはおろか、CISWの攻撃すらではあの奇妙な艦載機の前では無意味に等しかった。

その場にいた者たちは凍りついた、あれが我が軍の連邦空母《天安》を撃沈、米軍が誇る空母戦闘群を、そして深海棲艦をいとも簡単に撃破したと言うことを。

 

だが、驚愕な表情をする連邦艦隊に対しても無慈悲に攻撃を開始した。

まずF/A-18E《スーパーホーネット》部隊が両翼下に搭載していたAMG-84《ハープーン・ミサイル》を発射した。

敵機の攻撃を喰らうまいと必死になってこれを迎撃するが、不思議と思うくらいに次々と命中し、各艦はたちまち中破に追い込まれた。

深海棲艦に至っても、輸送ワ級率いる補給部隊が真っ先に狙われた。

補給艦だから自衛用火器も最低限しか積んでおらず、迎撃能力も乏しい。

避けようとしても《ハープーン・ミサイル》は誘導能力を持っており、避けても無駄な足掻きとして終わり、撃沈されるだけだった。

また両翼下に搭載した兵装が切れたら、搭載している20mm機関砲を、各機を護衛していたF-14《トムキャット》部隊が共同して、止めを刺すように機銃掃射で撃沈した。

 

相手が日本攻撃隊ならば各艦に搭載した新兵器が役に立ったが、こうも例の艦載機の前では無力に等しい。

ともかく敵機に関しては、各艦や深海棲艦たちの猛烈な対空砲火で30機ほど撃ち落すことが出来た。

 

「あっち行け、このレイシストジャップ!」

 

連邦指揮官がそんな事を言っても、攻撃隊の攻撃は止むことはなかった。

艦攻隊は人造棲艦―― 戦艦空母型《ギガントス》にも攻撃を開始した。

このとき、飛行甲板を持っていると言う戦艦空母型《ギガントス》の弱点が災いした。

なにしろ上空から、狙ってくださいと言わんばかり目立つからだ。

同じ戦艦空母の富士たちが持つ飛行甲板は、大鳳や翔鶴姉妹、土佐姉妹と言った装甲空母並みの防御力を誇るのに伴い、彼女たち独自として中破した際には自由に飛行甲板を放棄して長門たち並みの戦艦の攻撃力を兼ね備えている。

 

しかし、この戦艦空母型《ギガントス》は富士たちのようなことはできない。

簡単に言えば、見様見真似として製造されたものなのである。

つまり艦載機は基本的に使い捨ての無人機であり、敵機などに飛行甲板を破壊された場合も富士たちのように自由に放棄することはできない紛い物といった方が良い。

 

ただし想定しているのか、バルジに関しては長門型並みを誇っている。

艦攻隊の放った酸素魚雷を喰らっても、バルジがその爆発エネルギーを食い止めることに成功した。

これで日本連合艦隊とようやく対等に戦うことが出来ると思いきや、この楽観的な考えを打ち壊す出来事が起きた。

 

艦攻隊に続き、あの《連山改》部隊が襲い掛かった。

いきなり、四発爆撃機が覆い被さるように襲い掛かってきたので威嚇した。

威嚇するように猛烈な対空機銃や高角砲を撃ちまくったが、なにしろ《連山改》は速力600キロも誇るため、追い撃ちとなった。

そのため40mm機関砲を被弾しただけだが、これに充分耐え得る防弾性能を持っていた。

《連山改》が黒い魔雲のように追加したと同時に、巨大爆弾が2発ずつ落ちてきた。

投下した巨大爆弾―― 1トン爆弾はそれぞれ前部砲塔と飛行甲板付近で爆発した。

威力は桁違いであり、強靭な装甲を誇る連装砲塔と飛行甲板を吹き飛ばした。

しかし、それでも《ギガントス》は顔半分の皮膚が垂れ落ちるほどの火傷と右腕が喪失するなどの重傷を負っても戦意喪失をすることはなかった。

 

残りの《連山改》部隊は、無傷の空母ヲ級たちに襲い掛かった。

味方機よりもひと際目立ち、蹴散らすような勢いで殺到すると1トン爆弾を投下した。

しかし不運にも高角砲の直撃を受けた2機が被弾、その直後に火災を起こして海面に墜落した。

 

だが攻撃した代償は大きく、1トン爆弾2発を受けた2隻の空母ヲ級はその瞬間に撃沈した。

空母を瞬く間に、合計5隻も喪失した。

 

僅か20分と言う短い戦闘で、連邦空母戦闘群はその機能をほとんど喪失してしまった。




今回は《連山改》の改良と言いますが、従来とはかけ離れた搭載量を超えた航空爆弾を搭載可能なようにした改良機が登場しました。

灰田「なおヒントになりましたのは、『超空母出撃』の際に登場した《連山改》がその改良機としてソ連軍を蹴散らしています」

今回のイベントでも北海道海戦で当てたのが、怖いです。

灰田「次の夏イベントもまた近海でしょうかね?」

地元でなければ良いですが、あの冬イベントでは驚きました。

灰田「また予言が当たると思いますね、この発言は」

今度はフランス戦艦でも来たら、スゴイですよ。

ともあれ長くなりかねないので、そろそろ次回予告と行きましょう。

灰田「分かりました。次回は艦隊決戦の開幕戦である航空戦―――日本連合艦隊視点から送りますゆえに、連邦の新兵器が登場します。果たしてどういう兵器なのかは次回で明らかになります」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに






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第百十二話:第二次トラック諸島沖海戦 後編

お待たせしました。
艦隊決戦の開幕戦である航空戦―――日本連合艦隊視点から送りますゆえに、連邦の新兵器が登場します。

灰田「その登場兵器の元ネタは『超戦艦空母出撃』でドイツ軍が開発したものを米軍が偶然にも同じものを開発したものです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


連邦艦隊が攻撃を受けている際――― 秀真・古鷹たち率いる日本連合艦隊に向かった空母ヲ級たちと戦艦空母型人造棲艦《ギガントス》が放ったB-25双発爆撃機《ミッチェル》は新兵器を装備しており、例え無駄に終わっても無人機であるため体当たり攻撃を可能としている。

ともあれ、これらの連邦攻撃隊は目標上空に到着、攻撃を開始しようとした。

不運にもほかの空母ヲ級たちが放った攻撃隊は、まだ到着していなかった。

しかし、突入しようとした最中――― 上空で待機していたジェット艦載機《天雷改》部隊と《烈風改》部隊を含む150機の直掩隊の攻撃からの機銃掃射が襲来してきた。

一撃離脱のため、たちまち敵編隊は混乱と化した。

だが、B-25部隊は直掩機付きのため撃墜されることはなかった。

どんな事であろうと新兵器を搭載したB-25部隊は『全機死守せよ!』と、マケイン中将率いる連邦指揮官たちからの厳命を受けている。

この兵器をどの艦娘でも構わないから、ダメージを与えよとも言われているため死守しなければならないから困難な任務なのは承知していた。

この新兵器を戦艦クラスに攻撃すれば、敵はさぞ魂消るだろうとも期待していたからだ。

こうしている間にも敵戦闘機部隊は数を減らしていったが、その代わりに遅れてやって来た深海艦載機部隊が駆けつけてきたので、より激しいと化した空中戦になった。

同時に攻撃隊と、秘密兵器を搭載したB-25部隊が突入を開始した―――

 

 

 

『全艦隊輪形陣を維持しつつ、対空射撃を開始せよ!!』

 

敵攻撃隊をレーダーで確認後、秀真たちは号令した。

ふたりの号令を聞き、こちらに向かってくる敵機を撃ち落とすための対空砲火が始まる。

まずは《ズムウォルト》級から発射したSM-3《スタンダード・ミサイル》が発射された。

回避しようとしても誘導性を誇るため無意味に終わり、たちまち15機が撃ち落された。

これらは秀真と郡司が旗艦として乗艦する《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦2隻から発射された対空ミサイルだった。

 

「みんな、三式弾装填。撃ち方始め!」

 

「よっしゃ、喰らいやがれ!」

 

「青葉も追撃します!」

 

「絶対に逃がさないんだから!」

 

古鷹の号令を聞き、加古・青葉・衣笠は撃ち方を始めた。

 

「次弾装填、三式弾てぇーーー!」

 

「よし、撃ち方始め!」

 

「Meたちもフルタカエルたちに負けていられないわ!」

 

大和・武蔵・アイオワたちの周囲を轟かせるが如く、鳴り響かせる対空砲撃に続き―――

 

「私たちも大和さんたちに遅れないように!」

 

「対空戦闘開始、撃てぇーーー!」

 

「どんな相手でも受けて立ちます!」

 

「この十勝の火力をお前たちに見せてやる!」

 

特型戦艦こと富士・高千穂・白山・十勝も三式弾とともに、12.7mm高角砲や25mm三連装機銃などの対空兵器が一斉射した。

土佐姉妹たちが開発した和製VT信管―― 五式信管を組み込まれた機関砲弾の威力とともに、赤城たちの艦載機部隊が次々と撃ち落とした。

 

「よし、阿賀野たちもいっくよーーー!」

 

「うん、私たちも阿賀野姉に負けてられないわよ!」

 

「そうね、能代姉!酒匂も遅れちゃダメよ!」

 

「了解ぴゃあ! 矢矧お姉ちゃん♪」

 

阿賀野たちも敵機を捕捉、同じく未来艤装に装備しているRIM-7《シースパロー》及びCIWSで敵攻撃隊を次々と撃墜する。

 

「俺たちも負けてらないぞ!」

 

「村雨も良いところ見せちゃうんだから!」

 

「僕も本気で行くよ!」

 

「対空戦闘もおまかせ下さい!」

 

「皆さんを守り切ります!」

 

木曾を旗艦に、第二駆逐隊の村雨・時雨・五月雨・春雨はRIM-161《スタンダード・ミサイル3》を一斉射した直後――― 62口径76ミリ単装速射砲で敵機を火だるまに変えていく。

彼女たちもまた海自の《むらさめ》型護衛艦と同じようにその装備と誇り、そして闘志が受け継がれている。

 

「秋月たちも皆さんに負けていられません!」

 

「うん、照月たちは艦隊防空の要だもんね!」

 

「僕も古鷹さんたちに負けないように援護しないと!」

 

同じく、古鷹たちを護衛する秋月姉妹たちも対空兵装を備えている。

相棒の長10cm連装砲ちゃんたちも今では、海自の《あきづき》型護衛艦が装備している62口径5インチ単装砲並みの連射速度を誇り、秋月姉妹と長10cm砲ちゃんたちの見事な連携は流鏑馬が放った矢の如く、この正確な射撃で敵機を撃ち落していく。

 

「全艦、敵機を撃ち落とせ!必ず1機も残さず生かして返すな!」

 

『はい!』

 

「さすが赤城さんたち、怒らしたくないな〜」

 

「私たちも負けてられないわよ、瑞鶴」

 

「私たちも行きますよ!瑞鶴さん!」

 

「わ、分かっているよ。翔鶴姉、大鳳!」

 

古参兵として、ベテランの赤城も闘志を燃やして喝を入れる。

彼女の号令に、加賀・蒼龍・飛龍は勢いよく返答した。

翔鶴・瑞鶴・大鳳も同じく赤城たちに続き、秋月姉妹たちと協力して自分たちが護衛用として装備している対空兵装で次々と敵機を撃ち落していく。

 

「私たちの《連山改》部隊も戦果を上げているようね」

 

「そうですね、土佐姉さん。だけど慢心は禁物です」

 

連邦艦隊の最大のミスは彼女たち、土佐姉妹を正規空母として見逃したことが致命的だった。

基地航空隊の《連山改》だけでなく、4機ほど土佐たちの《連山改》部隊もいた。

忍者の如く忍ばせて置き、対艦攻撃後はトラック泊地の基地航空部隊に帰投すると言うことになっている。

彼女たちも改装され、改三で通常動力型としてより強力になっている。

護衛機は50機の《天雷改》を搭載しており、万が一トラック泊地に戻ることのできない味方の損傷機がいた場合は、彼女たちに着艦せよと命じられている。

修理が終え次第、トラック泊地に戻れるようにしている。

搭乗員たちは貴重な人材であるゆえに、彼らを育成するのに平時でも4年間、戦中では最低でも2年間を費やさなければならない。

史実でもこれで痛い目に遭っており、特にミッドウェー海戦では致命的なミスを犯したために、貴重な熟練搭乗員たちをたくさん失った。

以後は100時間でようやく飛行できることが出来る未熟な搭乗員ばかりだった。

本来ならば本土での訓練ではなく、ガソリンが豊富かつ資材も充実した南方方面で訓練をさせていれば、こんなことにはならなかった。

また無線機などと言った物を使っていれば、なおさら良い結果になった。

それ等を軽視した大本営や上層部たちの罪は重いと言っても良い。

官僚軍人だった彼らは、ミッドウェー海戦敗北で思考停止して自暴自棄になったと言っても良く、彼らの無計画が敗戦に繋げたのかもしれない。

現状に戻る。

 

同じく秀真・郡司たちも無人空母《アカギ》率いる空母戦闘空母群を、ナガタ一等海佐が乗艦する旗艦《みょうこう》率いる海自の護衛艦隊をともに、襲来する敵機を迎撃する。

だが、秀真たちだけは妙に胸騒ぎがした。

 

「しかし奇妙だな、本来ならば対艦攻撃に不適なB-25がいるとは……」

 

秀真は顎を撫でた。

 

『同志もそう思うか?』

 

無線で通信して来たのは、郡司だった。

 

「ああ、相手がスキップボミングをするならば別だが……」

 

「同志の言うことも一理あるが、またお得意の体当たりにしては不自然過ぎる」

 

「スキップボミングならば別だが、もしや隠し玉を持っているかもしれない」

 

その時だった。

B-25双発爆撃機の機体下部からに搭載したもの、グライダーに似たものが切り離された。

直後―― ロケット推進エンジンを吹かしながらこちらに向かってきたとの《天雷改》部隊からの報告が来た。

 

“B-25部隊から奇妙な兵器を発射した、しかもハープーンらしきものなり!”

 

『各艦、こちらに向かってくる敵の対艦ミサイルを撃ち落とせ!』

 

秀真たちの警告を聞いた古鷹たちは、驚愕した。

連邦軍の新兵器、しかも対艦ミサイルをいつの間に開発したのかと思ったからだ。

阿武隈からは魚雷攻撃を無効にするダミー・システムや、十勝の飛行甲板を破壊した新型誘導魚雷は全員知っていたが、対艦ミサイルを開発したのは初耳だった。

ともあれこの警告を聞いた赤城たちの《天雷改》部隊はもちろん、その例の敵対艦ミサイルに追い越し射撃を行なうも気がはやっているため撃墜できたのは3発だけだった。

残りは古鷹たちに向かうが、幸いにも阿賀野と木曾たちが搭載しているRIM-7《シースパロー》やRIM-161《スタンダード・ミサイル3》、そしてCIWSによる対空迎撃戦により、数発は撃墜したが―――

 

しかし、低空飛行をする忍び寄る別のB-25部隊が、これらを発射した。

直後―― 不運にも富士たちの対空砲火により、5機中2機が海面に墜落して爆砕した。

だが、一矢報いるかのように敵機が放った対艦ミサイルが富士に命中し、凄まじい爆発と紅蓮の炎が木霊した。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

命中した途端――― 彼女の右艤装の砲塔はへしゃげ、さらに右飛行甲板と艦載機を全機破壊しただけでなく、富士の戦闘能力を一瞬にして奪ったのだ。

 

『富士姉さん(富士姉)!!!』

 

難を逃れた白山たちは大破した富士に駆け寄り、倒れそうになった彼女を高千穂と白山がそれぞれ支える。

 

「もしかして連邦の奴ら、アレに近い物を開発したな」

 

「ええ、あのSI攻略作戦時に米軍が使ったもの、アレと同じものを……」

 

富士を護ろうと十勝たちは輪形陣を組み、敵機を寄せ付けまいと対空射撃を続行した。

同時に連邦海軍が使用した新兵器は、もしかして、アレと同じなのではないかと察知した。

 

“こちらB-25部隊、これより敵艦に体当たり攻撃を開始する!”

 

新兵器を使い終え、自分たちの役目を終えたB-25部隊は急降下――― 古鷹たち率いる連合艦隊へと突入する。

だが、突入前にその多くが《天雷改》や《天弓改》部隊などの攻撃で撃墜される。

元々無人機だが、相変わらず連邦の十八番と言うべき戦法となっている。

皮肉にも彼らよりも、ヲ級の攻撃隊が戦果を上げていた。

 

「被害状況を報告しろ!」

 

『こちら古鷹、損傷なしは多数ですが、富士さんは大破。赤城さんと蒼龍さんが敵攻撃機の攻撃により被害状況を確認しています!』

 

「分かった。富士に護衛を付けさせてトラック泊地まで後退、赤城と蒼龍は急いで消火するように!もしもの時は富士とともにトラック泊地まで後退させる!」

 

『分かりました!』

 

古鷹の報告が終えると、郡司が報告した。

 

「同志。富士は五月雨たちを護衛に付けさせる!」

 

「すまない、郡司」

 

『秀真提督、あとは五月雨たちにおまかせ下さい!』

 

「ありがとう、みんな」

 

大破した彼女をこのまま死なせるわけにはいかない。

負傷した富士は、五月雨たち第二駆逐隊とともに撤退する。

また基地航空隊の零戦21型(熟練)部隊が、撤退する彼女たちを護衛する。

なお赤城と蒼龍の被害状況を問い合わせると、ふたりとも爆弾による攻撃を受けたものの、作戦行動と航行に異常なしとの報告が来た。

 

「奴らは、とんでもない兵器を……ドイツがかつて開発した“滑空爆弾”を開発したな」

 

秀真が呻くように言った。

 

『ああ…… イタリアやローマから聞いたアレを、奴らは《フリッツX》と同じ物を開発したと思う』

 

富士たちと同じように、秀真たちは思い出した。

イタリア艦娘のイタリアやローマから、アレを聞いたことがある。

彼女たちの言うアレとは、ドイツが第二次世界大戦中に開発した誘導爆弾《フリッツX》である。

またその改良として、ヘンシェル社の“ヘルベルト A. ワーグナー”教授により、小型機の機体下部に過酸化水素を使用する液体ロケットエンジンを装備、母機より投下し、目視下において無線を介した手動操縦で誘導し目標に到達、命中を可能にさせたのが《Hs293》と言う世界初の動力付き誘導爆弾であり、現在の対艦ミサイル(空対地ミサイル)の始祖と言える兵器を開発した。

双方とも遠距離から艦船に損傷を与えることもでき、史実ではイタリア戦艦《ローマ》を撃沈、さらに戦艦《イタリア》を大破させた。

連合軍では英戦艦《ウォースパイト》や米軽巡洋艦《サバンナ》を大破させたと言う戦果を上げている。

しかも改良型では、テレビ照準装置型もあったがドイツの敗戦と伴い、連合国側にその技術が活かされ、現代の対艦ミサイルが誕生したとも言われる。

 

しかし、今回は無人機に搭載可能なように開発したのだろうと推測した。

なにしろ連邦亡命政府軍のバックアップにはアメリカがおり、開発することは容易い。

だからこそ少数精鋭且つ、実験としてこの海戦に運用したのだろうと考えていた。

 

幸いにも敵攻撃隊は兵装を使い果たしたらしく、一斉に引き揚げて行った。

例の新型兵器がもしも大量にあったのであれば、どれだけの被害が来たのだろうと身震いしたときだった。

 

味方攻撃隊指揮官からの報告が来た。

 

“敵艦隊は壊滅状態なり。敵艦多数が中破ないし大破せり。しかし未だに進撃中”

 

この報告を聞き、秀真たちは唸った。

 

「奴らはまたしても玉砕覚悟なのか……」

 

『果ては何かを企んでいるのか……』

 

「ともあれ、敵が挑むのであれば受けて立つほかないな」

 

富士には、五月雨たちをつけてトラック泊地にまで護衛すると言う形で戦線から退いた。

応急修理要員たちがいても、小さな傷でも取り返しのつかないことになり兼ねない。

五月雨たちと、トラック泊地の基地航空隊のおかげで富士を無事護送も完了したとの通信が来た。

また赤城たちの第一次攻撃隊及び、トラック泊地所属の《連山改》率いる基地航空隊に、そして土佐姉妹たちの後方支援のおかげで敵艦隊を壊滅することが出来た。

しかし、敵艦隊を殲滅すべきために秀真たちは夜戦を挑む。

 

 

 

同じく、マケイン中将たちも同じような考えをしていた。

元より自分たちはデコイであるものの、せめて1隻でも多く沈めれば、一矢報いることが出来ると考えてもいた。

偵察機からの報告では、あの戦艦空母1隻を大破させたことは喜ばしいことだった。

これでアメリカと協同開発した“滑空爆弾”こと《アローヘッド》の功績も認められた。

秀真たちが想定したように、これはドイツの滑空爆弾こと《フリッツX》などを参考にし、さらにこの兵器は米軍に見倣い、コードネームは《アローヘッド》と名付けられた。

種類は長距離型と、短距離型と言った2種類を持ち、試作だが運用した。

前者はあらかじめ想定された目標地点に対して、自力で滑走する。

後者は無誘導により、ミサイル後部から発光するフラッシュライトを目視しながら、これを操縦する機体が誘導するものである。

外観はドイツ空軍の長距離滑空ミサイル《BV206A》に酷似しており、グライダーにも似ていて、滑走距離も長い。

今回は双方がいきなり実戦に使われたが、戦果を上げたので今後も量産されることは間違いない。

 

例え深海棲艦と人造棲艦《ギガントス》を全艦喪失しようが、ラジコン機と言った無人機にこれを搭載すれば心強いことは確かだ。

しかし、全兵器に言えるが、両兵器にも弱点はあった。

長距離型の弱点は、敵の座標と未来針路を把握しなければならないため、偵察機か指揮官機からデータを貰わなければならないこと。

その一方、短距離型の弱点は操縦者が意識を集中している間が無防備になりやすい。

目視で無線操作するため、目標に張り付いていなければならないことである。

いずれにしろ危険な賭けであり、敵機や敵艦に狙われやすくなるということだ。

しかし全機喪失したため、もはや第二次攻撃をすることが出来ない。

また空母ヲ級にも言えたことで中破または大破した者が多く、空母としての機能を失っていた。

ほかの深海棲艦たちも友軍艦隊も壊滅状態になっている。

少数の巨大魚雷《トマホーク》を装備した巡洋艦と駆逐艦のみが辛うじて残っていた。

損傷した者たちは使い捨ての盾として使い、全火力を持って艦隊決戦に挑むことを決意した……




今回は連邦亡命政府軍の新たな兵器、滑空爆弾《アローヘッド》と言う対艦ミサイルを登場させました。

灰田「実際に元ネタ『超戦艦空母出撃』でも米軍が開発し、初陣ではありましたが戦艦空母部隊に大打撃を与えています。
のちに連合艦隊もとある工夫をして、これを阻止しています。
富士たちも後にこれらを装備しますのでお待ちください」

なお土佐姉妹たちも登場しましたが、これを見逃す連邦艦隊ももはやダメでしょう……
因みに『超空母出撃』でも彼女たちの《連山改》部隊活躍しています。
気がつくと、あと数話で最終回を迎えるのかなと考えてしましますね。
今のところはですが。

灰田「自分なりに進んできましたから良いのではないでしょうか?」

そう思うと嬉しさもあり、寂しさもありますからね。
ともあれ長くなりかねないので、そろそろ次回予告と行きましょう。

灰田「分かりました。次回は予定では夜戦による艦隊決戦を行ないます。
双方の視点を交代且つ、アイオワさんの未来艤装も明らかになりますのでお楽しみを」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十三話:第二次トラック諸島沖夜戦

お待たせしました。
今回は次回の新たなる展開のために、短めであります。

灰田「少しだけですが、双方の視点を交代且つ、アイオワさんの未来艤装も分かりますのでお楽しみを」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


まもなく日が暮れる。

古鷹たちの肩に乗っている熟練見張員たちは、暗闇でも5000メートル先を見通せる優れた視力を持っている。

同時に装備している水上電探とともに協力して敵艦隊に接触し、これらを撃滅するために微速前進した。

アイオアが搭載している電探は対水上・対空を兼ね備えているほど高性能である。

彼女にも秘密兵器が備えており、アウトレンジによる攻撃で撃滅させる。

支援攻撃は秀真たちが乗艦する《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦とともに、ナガタ一佐が乗艦する《みょうこう》部隊と、そして上空には無人空母《アカギ》率いる第二次攻撃隊が支援する。

優先的に狙うのは敵空母やイージス艦、そしてまだ生きている人造棲艦《ギガントス》にミサイル攻撃でこれらを撃沈させるように命じられている。

 

敵艦隊も大人しく攻撃はさせてはしないし、必ず反撃はしてくる。

中破くらいならば、敵艦もこちらと同じように《ハープーン・ミサイル》で反撃してくる。

撃墜する自身はあるが、どこまで無傷でいられるかが秀真たちでも分からない。

最悪の場合は、連邦艦隊十八番の戦術的体当たりか、自爆艦による自爆攻撃ぐらいはしてくる可能性も視野に入れているため、できる限りはアウトレンジで戦力を殲滅できれば理想的だ。

 

 

 

4時間が経過した―――

人造棲艦《ギガントス》は30ノットで進み、日本海軍は25ノットを出しているので相対速力は55ノットである。

連邦艦隊は徐々に近づき、マケイン中将が乗艦している旗艦《ルーズベルト》では、早くもレーダーに敵艦隊を探知した。

有効探知距離であり、まだ《ギガントス》が搭載する40cm連装砲の射程距離外であるために距離を詰めて砲雷撃戦を挑むつもりだったが―――

 

『敵機捕捉、例の艦載機です!』

 

『各艦、対空戦闘開始!』

 

マケイン中将の号令で、全艦は対空戦闘に移る。

しかし彼の号令よりも早く、無人空母《アカギ》《カガ》《ソウリュウ》《ヒリュウ》《飛鳥》の中核部であり、頭脳として指揮する各《マザー》たちによって遠隔操作されたステルス艦上戦闘攻撃機F/A-18《スーパーホーネット》中心の第二次攻撃隊の攻撃が襲来した。

本機の両翼下に搭載された《ハープーン・ミサイル》は発射された直後、微速前進している敵艦隊を捕捉した。

この際に狙うのは、対艦ミサイルを搭載したイージス艦が集中的に狙われた。

中破または大破した連邦艦船と深海棲艦たちが多かったため、たちまち撃沈された。

 

一部は各艦に搭載しているCIWS《ファランクス》の設計を踏襲し、対空FCSを持たない艦への簡易的な防空兵器としてより広範に対空戦を可能にしたMk.15 Mod.31《SeaRAM》と、RIM-7《シースパロー》で撃墜しようと反撃した。

普通ならば撃ち落とせるが、相変わらずUFOのように奇妙な飛び方を――― 非線形飛行でジグザグな動きをしたため、全ての対空ミサイルはことごとく躱されてしまった。

その挙げ句、心ばかりのお礼とばかりに両翼下に搭載した《ハープーン・ミサイル》もだが、動けなくなった艦艇や深海棲艦に対してはGBU-39と言う名の小型航空爆弾を、精密誘導爆弾(スマートボム)を投下した。

動かなくなった艦船は航空機にとっては恰好のいい標的であり、現代艦船ならば一撃で、バルジを誇る戦艦でも数発も直撃して撃沈した。

 

『艦載機を出せ、どんな事でも奴らにひと泡吹かせるのだ!』

 

マケイン中将が命令を下し、2隻のヲ級たちは頭部の艤装から艦載機を発艦させようとした時だった。

その発艦口に奇妙なロケットのようなものが突入した直後――― 凄まじい爆発音と伴い、そのヲ級たちの艦載機が搭載していた航空爆弾や魚雷に引火し、これら一斉に連鎖反応を起こして爆発した。

哀れにもそのヲ級たちは一撃で撃沈したが、唯一の救いは苦しまずに死んだことである。

跡形もなく、吹き飛ばされてしまった光景を見た深海棲艦たちは我が目を疑った。

まだ射程距離に近づいてもいないにも関わらず、凄まじい威力を持つミサイルが飛翔した。

しかもそれは米軍が持つ対艦ミサイルとしてはもちろん、敵基地や飛行場をいとも簡単に破壊できるBGM-109《トマホーク》巡航ミサイルだった。

最大3000キロ、速度は最大巡航が880キロも誇り、また通常弾頭もだが、必要とあらば核弾頭なども搭載できると言う驚異のものである。

 

『この兵器を扱えるのは、もしや………!』

 

マケイン中将たちは、すぐに察知した。

 

 

「Meの未来艤装もパーフェクト!」

 

彼らの予想通り、この《トマホーク》攻撃を行なった者の正体は――― 合衆国艦娘であるアイオワの攻撃だった。

彼女もまた灰田が用意した未来艤装と伴い、高速学習装置を受けている。

艤装も艦船時代を元に、1983年代に近代化改装された兵装を装備している。

巡航ミサイル《トマホーク》とともに、《ハープーン・ミサイル》はもちろん、CIWSも備えている。

 

「どう? Admiralに、フルタカエル?」

 

アイオワは、秀真と古鷹に問いかけた。

 

『良いぞ、アイオワ!』

 

「アイオワさん、すごいカッコいいですよ!」

 

「Thanks!」

 

アイオワは、ウインクをして答えた。

彼女が撃沈した2隻のヲ級たちが炎上したことにより、敵艦隊が多数いると言う目印にもなった。

 

『撃ち方、始め!』

 

秀真・郡司の号令で旗艦《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦とともに、ナガタ一佐が乗艦する《みょうこう》率いる護衛艦群の支援攻撃が開始された。

発射された《ハープーン・ミサイル》の嵐が、連邦艦隊に襲来した。

連邦艦隊と深海棲艦たちは迎撃をしたものの、思うように迎撃できなかった。

 

実はこの時、マケイン中将たちが乗艦する旗艦《ルーズベルト》以下、多くのイージス艦に搭載しているイージス・システムに支障が来し始めた。

強力なAN/SPY-1D 多機能型レーダーにジャミングが入り、役に立たなくなったのだ。

この多機能型レーダーのおかげで、米軍と彼らから貸与された連邦艦隊の主力駆逐艦こと《アーレイ・バーク》級駆逐艦は強力無比な艦隊防空能力などを発揮できるイージス艦となり得るが、戦術機や敵艦のジャミングによる攻撃を受ければ、ただの駆逐艦同然となる。

双方の海軍は、全艦イージス機能を搭載しているものだから裏目に出てしまったのだ。

他に搭載しているAN/SPS-67(V)3 対水上捜索用とAN/SPG-62 ミサイル射撃指揮用を活かして、必死に防戦に努めるしかない。

次々と襲来して来る敵ミサイルに対し、各艦に搭載している《スタンダード・ミサイル》や短SAMとともに、CIWSを駆使して防戦に努めた。

またアメリカ合衆国が開発した艦載用のデコイ展開システム――― Mk.36 mod.12 SRBOCを稼働させて、チャフを放出した。

全兵装が悲鳴を、いや、もはや断末魔を上げようとこれらに頼るしか方法がなかった。

 

こちらも報復として怨恨を掛けた連邦艦隊は、秀真・古鷹率いる日本連合艦隊に《トマホーク》と《ハープーン・ミサイル》を発射した。

しかし、日本連合艦隊は《ズムウォルト》級が搭載するAN/SPY-3多機能式と、僚艦《みょうこう》が装備しているSPY-1D 多機能型レーダーなどのイージス・システムが健在しているため、その多くを撃ち落とした。

特に古鷹たちが装備するクラインフィールドおよび、阿賀野たちの対空ミサイルがこれらを全て撃ち落としたことにより、これらの攻撃を無効にすることが出来た。

 

その一方では、連邦軍担当官がイージス・システムの回復に必死に復旧している間にも、両艦隊の撃ち合いが続いていたときだ。

 

『クソッ……《ロサンゼルス》級原潜はどうしているんだ!』

 

マケイン中将は愚痴を零したが―――

 

『こちら《シャイアン》!支援攻撃するも我々を除いて、5隻が撃沈された!』

 

《シャイアン》艦長・コルブト少佐は、味方の窮地を知って、日本連合艦隊を攻撃すべく最大速力で突進し、魚雷の有効射程距離に入る前に謎の潜水艦ことステルス原潜《海龍》の攻撃を受けて撃沈された。

しかも残ったコルブト少佐が乗艦している《シャイアン》も今まさに―――

 

『魚雷振り切れません!』

 

『馬鹿な、そんな潜水艦があってたまるか!』

 

それがコルブト少佐と、乗組員たちの絶叫が最後の遺言だった。

凄まじい爆圧とともに、その艦体は真っ二つに裂けて、彼や多くの乗組員が即死した。

監視を終えていた《海龍》部隊は万が一、敵潜水艦が連合艦隊を攻撃しようとした際は、これらを攻撃せよと秀真たちから命令を受けていた。

その多くが連邦艦隊の戦術は全て、秀真たちによって手を読まれていたのだった。

ただし、まだ囮《デコイ》である事は知られていないが。

味方潜水艦が撃沈されたことに悔やんでいたマケイン中将たちに、さらに悪い報告が来た。

 

『味方潜水艦撃沈!さらに我が艦隊は甚大な被害続出です!』

 

『なに、仕方ない…… こちらの切り札でもある《トマホーク》を装備した深海棲艦たちに相手にさせろ!』

 

マケイン中将は追尾魚雷《トマホーク》を装備した深海棲艦たちに、敵戦艦部隊を攻撃せよと命じた。

邪魔な大和たち中心の連合艦隊を葬れば、まだこちらにも勝算があると確信したからだ。

 

『古鷹たちは阿賀野と吹雪たちともに小隊を組んで、敵艦隊を攻撃せよ!』

 

「はい、了解しました!」

 

こちらも敵の戦術を読み、大和たちを撃沈させようと突撃して来る深海棲艦たちに挑む。

秀真の号令を聞き、古鷹たちは素早く四組の小隊を組み始めた。

古鷹たちを指揮官とし、阿賀野姉妹は副官、そして吹雪たちが各々の小隊を組んだ。

編成された小隊は、以下の通りである。

古鷹を旗艦とし、阿賀野を副官、護衛として吹雪を組んだ第1小隊。

加古を旗艦とし、能代を副官、護衛として深雪を組んだ第2小隊。

青葉を旗艦とし、矢矧を副官、護衛として白雪を組んだ第3小隊。

衣笠を旗艦とし、酒匂を副官、護衛として初雪を組んだ第4小隊。

彼女たちを中心に切り込み艦隊と言う名の小隊を各々突撃していく。

 

「ッチ、ナメタ真似ヲ!」

 

各々の小隊で迎撃して来る古鷹たちを見た重巡リ級は舌打ちをし、こちらもお望みならば受けてやると言いつつも連邦らしく数で物を言わそうと突撃した。

その数は30隻―――古鷹たちよりも多く、深海棲艦の方が圧倒的優位である。

しかも、なおかつ攻撃力の高い巨大魚雷《トマホーク》を装備とした打撃艦隊でもある。

運が良ければこれらに打撃を与え、さらに側面から雷撃をすれば、まだこちらにも勝機はあるとマケイン中将と同じように確信した。

 

『撃テェーーー!!!』

 

重巡リ級とネ級たちの命令とともに、各自搭載していた《トマホーク》を次々と投射した。

この巨大魚雷《トマホーク》は、速力35ノットを持つものの、通常魚雷よりも巨大すぎて遅いのが泣き所である。

しかし、古鷹・加古・青葉・衣笠たちに目掛けて襲い掛かろうと、投射された全20発の巨大魚雷《トマホーク》が疾走した。

古鷹たちの肩には熟練見張員たちが、こちらに疾走してくる巨大な雷跡を発見して彼女たちに報告した。

見張り員たちの超人的な視力と伴い、多機能型レーダーとソナーが備えている。

古鷹たちは敵の《トマホーク》をギリギリ引き付けて―――

 

『回避!!!!』

 

各々の小隊は、急速回避をした。

吹雪たちほどではないが、これほど驚くべき急速回避をしたおかげで狙う標的を見失った連邦海軍自慢の巨大魚雷《トマホーク》はあさっての方角に逸れてしまい、そして出力を失うと静かに海中に沈んで行った。

 

「今度はこっちの番ね!」

 

古鷹の号令を聞くと、全員は頷いた。




今回はアイオワさんの艤装強化に伴い、連邦艦隊に打撃を与えたことにより、追い詰められていますが、これがどんな展開を迎えるかはお楽しみに。

灰田「艦隊決戦に反してしまいますが小隊規模に分かれて、特殊艦隊に挑みます。
未来艤装がどれほど強いのかを証明するためでもありますのでおたのしみを」

たまには路線変更もしても良いかなと思い、思いっきりしてみました。

灰田「まあ、たまには悪くないかと思います」

ともあれ長くなりかねないので、そろそろ次回予告と行きましょう。

灰田「承けたまりました。次回はこの激戦の最終戦になります。同時に衝撃的な事実が秀真提督たちにも襲い掛かります」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十四話:奮闘!第六戦隊! 前編

お待たせしました。
今回はサブタイトル通りに、長くなりかねないために前編・後編に分けます。

灰田「なお事情により、前回の予告とは異なりますが楽しめて頂ければ幸いです」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


「今度はこっちの番ね!」

 

古鷹の号令を聞き、全員が頷いた。

古鷹率いる第1小隊と加古率いる第2小隊は右舷にいる敵艦隊を、青葉率いる第3小隊と衣笠率いる第4小隊は各々に向かってくる敵艦隊を迎撃するために散開した。

 

「小癪ナ! 数デ攻メレバ勝算ハアル!」

 

重巡リ級たちは米軍が得意とする物量作戦を、それを再現しようと言うべきに先ほど30隻の仲間たちを用意したのはこのためである。

これらを二手に分かれて、こちらに突撃してくる古鷹たちに襲い掛かる。

 

「砲戦用意して!」

 

『はい!!』

 

古鷹の号令にふたりは従って、各連装砲の仰角を取って行く。

 

「よく狙って……撃てぇーーー!」

 

「撃つよ!」

 

「はい!撃ちます!」

 

凄まじい轟音と伴い、身を震わせるような飛翔音を上げる砲声が、パッと一瞬ほど暗闇を照らす閃光のごとく走り出した。

オレンジ色に輝く発射焔が、放物線を描きながら前進して来るこちらよりも数で圧倒する15隻の深海棲艦たちに襲い掛かった。

正確無比な撃ち放った古鷹たちの砲弾が重巡リ級のバルジをいとも容易く打ち破り、奇声に似た悲鳴を上げながら爆沈した。

深海側も懸命に撃ち返しているものの、巧みに回避する古鷹たちの前で吹き上げる水柱の輪は全てが無駄であることを告げた。

古鷹たちは単縦陣を組みながら神業に等しい回避を繰り返しながら、正確無比な射撃で深海棲艦たちに叩き込む。

 

「コウナレバ…… 一斉ニ襲イ掛カレ!」

 

この艦隊を指揮していた重巡ネ級は、猛スピードで古鷹たちを包囲した。

しかし、包囲されてもなお古鷹たちは冷静だった。

そんな事もお構いなく不敵な笑みを浮かべたネ級は、スッと手を出して各艦に命じた。

 

「殺セーーーーーー!」

 

各主砲を構えて、全方向から砲撃を喰らわした。

これだけの攻撃を、ましてや各砲弾の雨を全弾躱すことなんてできないと思いきや―――

 

「跡形モナク、吹キ飛ンダカ……」

 

しかし、ネ級の言葉を裏切るようなことが起きた。

先ほどの砲撃で周囲を煙幕が出来るまで砲撃したのにも関わらず、三人の人影が姿を現した。

 

「ソ、ソンナ……馬鹿ナ!」

 

ネ級は冷や汗を掻きながら、自身の瞳で確認した。

あれだけの砲弾の雨を浴びながらも、全員無傷であると同時に周囲に不思議なものが展開していた。

これは古鷹がクライン・フィールドを展開して、ネ級たちの攻撃を全て阻止したのだ。

先ほどの砲撃後に周囲には自動的に展開したため、完全に驕り切っていたネ級たちはこれに気づくことなどなかった。

仮にできたとしても、すぐ迫りくるこの危機からは逃れることが出来なかった。

 

「行くよ! 付いてきて!」

 

『はい!』

 

古鷹が時計の秒針を刻みが如く旋回して、魚雷発射管に装填していた魚雷を全て投射した。

阿賀野と吹雪も同じく息をぴったりと合わせ、時計回りをしながら一斉に全魚雷を投射した。

 

「全艦回避!」

 

ネ級の号令を聞き、包囲していた友軍艦に伝えたときには手遅れだった。

古鷹たちが一斉に敵艦隊に向けて投射した魚雷は言われなくとも、音響ホーミング魚雷だ。

ネ級たちは危険を察知して回避行動をするように促したが、回避しようにもこの魚雷も同じように方向を変えて追尾していく。

努力の甲斐もなく、運よく免れたネ級を除く全深海棲艦たちはこの音響ホーミング魚雷の餌食となった。

 

「ナ、ソンナ…… アリエナイ!」

 

慌てふためいたネ級はこの状況をどう打開するかと考えずにあっという間に殲滅されたことに呆気を取られていたときだ。

 

「連邦深海棲艦ニ降伏ナドナイ!」

 

もはや連邦の伝統と言うべき自暴自棄になり、戦術的衝突を行なうために突っ込んだ。

 

「死ネ……オンボロ重巡娘ガーーーーーー!」

 

猛獣の叫びのように衝突攻撃をしようとしたが―――

 

「隙だらけですね」

 

ネ級は後ろをすぐさま振り返った。

そこには目の前にいたはずの古鷹がいつの間にか、後方に回り込んでいたことに我が目を疑った。

しかし灰田が用意した未来艤装と新型機関部に取り換えられ、従来の速度よりも高速と化しており、その高機動を活かした戦術を得た古鷹の前では、重巡ネ級は鈍足のカメ当然であるという始末だった。

 

「これで終わりです……!」

 

「ッ!?」

 

古鷹の艤装から――― 彼女が装備する20.3cm連装砲の薬室には砲弾が装填されていた。

今の台詞とともに、ライフリングを刻みながら回転していく砲弾が放たれた。

ネ級は瞳を細めた瞬間に、悲鳴を上げることなく頭部を吹き飛ばされた。

古鷹が去りゆく際に、その死体には爆薬が仕込まれていたのか引火して誘爆を起こした。

暗闇を一瞬にして、紅の炎が古鷹たちを照らす陽炎のようでもあった。

 

「敵艦隊撃破です」

 

古鷹がそう言うと、阿賀野と吹雪も同じく安堵した。

しかし、まだ散開した加古たちの戦闘はまだ続いているため油断できない。

気を引き締めて、古鷹は命じた。

 

「……それでは阿賀野さん、吹雪ちゃん。提督と合流して援護に行きます!」

 

『うん!(はい!)』

 

この後の最終決戦に向けて、残りの敵艦隊を殲滅するために駆けつけた。

全ては愛する者たちを護るために―――

 

 

 

「よっしゃー、古鷹たちに負けないように行くぞーーー!」

 

「はい、加古さん!」

 

「よぉしっ!突入だあ!!」

 

加古率いる第2小隊も同じく、別行動中の敵艦隊を捕捉していた。

こちらは大至急救援に駆け付けたと思われる連邦艦隊所属の護衛艦《アーレイ・バーク》級駆逐艦と、先ほどのネ級艦隊とは分かれた5隻の深海水雷戦隊が襲来してきた。

 

「たかが、3隻だ。叩き潰すぞ!」

 

豪語した連邦指揮官は、Mk 45 5インチ砲を旋回させた。

同時に、各種類のミサイルと《ハープーン》をあるだけ使い、飽和攻撃をし続ける。

その間に虎の子の巨大魚雷《トマホーク》を搭載した軽巡ヘ級率いる深海水雷戦隊たちがこれで止めを刺すと言う作戦である。

 

「撃てぇーーー!」

 

指揮官の号令と伴い、Mk 45 5インチ砲が火を噴いた。

先ほども言ったようにイージス・システムが故障しているために、目視射撃である。

正確無比な射撃は出来ないことは痛快であり、下手撃ちゃ数が当たると言うように撃つしか方法がない。

取りあえず深海棲艦と協力して撃ち合うものの、見当違いの方向に水柱を吹き上げる。

加古たちは怯むことなく、回避しつつ砲戦準備をしていた。

 

「そんな射撃じゃ、あたしらは効かないよ!」

 

「そうですね、神通さんが見たら命中するまで猛特訓なレベルですね」

 

「神通さんの猛特訓なら死んでるな、あいつ等〜」

 

加古・能代・深雪は、各々の感想を述べながら砲塔を敵艦隊に目掛けて―――

 

「よっしゃー、一斉射いっくぞーーー!」

 

『はい!(おうよ!)』

 

加古は搭載した20.3cm連装砲の砲口からオレンジ色の炎が弾け、重々しい砲声が響き渡る。

続けて能代と、深雪も各々の連装砲を斉射した。

凄まじい砲声が暗闇に鳴り響くたびに、周囲には火焔の花が咲き乱れる。

不運にも軽巡ヘ級とともに行動していた駆逐ハ級に砲弾が命中し、ギエエエと悲鳴を上げながら沈没した。

その中を砲戦しつつ、必殺の巨大魚雷《トマホーク》を有効射程距離まで詰めながら敵水雷戦隊とともに接近して、ついに標的を捉えて投射した。

 

「標的を捉えました、ダンカン艦長!」

 

「よし、撃てぇー!」

 

連邦指揮官ことダンカン艦長は、これを聞いて同じく《アーレイ・バーク》級駆逐艦も加古たちを捉えると、《ハープーン》と《トマホーク》などを撃ち込んだ。

 

「あたしらにはお見通しだよ!」

 

こちらに向かってきた全誘導兵器を見た加古は拳を握り、そして海上を思いっきり拳を海面に突き立てた。

これを見た連邦指揮官は苦し紛れの悪足掻きかと嘲笑ったが、すると加古の艤装から激しい稲妻が迸り、意思を持つかのように雷槌《いかづち》が周囲を駆け巡った。

すると巨大魚雷《トマホーク》と伴い、《ハープーン》を含む全誘導兵器は正確に加古たちを狙ったはずなのにあらぬ方向に飛翔していくもの、その影響のせいで多くの《ハープーン》などが空中衝突して打ち上げ花火のように暗い夜に咲く紅き花のように咲き乱れた。

 

「な、なんだ……あれは?」

 

呆気に捉えていると、ダンカン艦長に最悪な報告を耳にした。

 

「先ほどの攻撃で主砲以外の全兵装とシステム使用不可能です。EMP攻撃に似た障害も生じています!」

 

「なに!そんな馬鹿な!?」

 

先ほどの雷槌による衝動波で全ての兵器システムなどに異常を生じた。

軽巡ヘ級率いる深海棲艦たちは辛うじて主砲や通常魚雷は使える。

しかし必殺の《トマホーク》とともに、対艦ミサイルが使えない現代の護衛艦としては致命的なものでもある。

 

「復旧急げ……!」

 

ダンカン艦長が促している間にも、味方の軽巡ヘ級率いる深海水雷戦隊が攻撃された。

自身が乗艦している艦の修復中でも、艦隊同士の戦いは続いている。

負けずとも砲戦しているが、加古たちの各連装砲が放つ砲弾の、近距離からの衝撃に耐えきることはできなかった。

やがて膨れ上がった身体が限界に達し、内側から裂けた。

体内からは膨大な量の火焔が吹き上がり、焼死しながらその火焔の中に倒壊した。

 

「急げ、早く!」

 

ついにダンカン艦長にも運が尽きた。

 

「ぶっ飛ばす!」

 

加古の叫び声に撃ち放たれた砲弾が、艦橋に命中した。

艦内に侵入した砲弾がチッと舌打ちをしたかのように信管が作動すると、CIC全体を地獄の業火が逃げようとした者たちに閃光と火焔は周囲を包み、地獄と化した。

この攻撃によりダンカン艦長以下、副官や各乗組員たちが戦死したため、たちまち指揮は混乱と化した。

反撃をしようにも全兵装とシステムが麻痺しているため、不可能である。

 

「能代、深雪……止めを刺すぞ!」

 

加古の号令で、ふたりは頷いた。

 

「後始末は能代に任せて下さい!」

 

「深雪スペシャル、行くぞー!」

 

能代と深雪は先ほどのお返しとばかりに、《ハープーン》を発射した。

打ち上げられ、飛翔した《ハープーン》は地獄絵図と化している《アーレイ・バーク》級駆逐艦に目掛けて襲来した。

艦首に命中、次にど真ん中、そして後部飛行甲板に次々と命中した。

主砲塔が艦体から押し剥がされて、くるくると空中を舞いながら落下した。

先ほど援護していた最強と呼ばれたイージス艦が、自身が放った火焔と爆圧に耐えきれず、猛火を巻き上げて沈んで行った。

 

「敵艦隊殲滅か……」

 

「やりましたね、加古さん!」

 

「深雪さまたちに掛かれば、こんなもんよ!」

 

燃え盛る敵艦を見て、加古は額の汗を手拭いで拭き取った。

 

「でも……提督と合流しないといけないから寝るのはお預けだな」

 

あくびを抑えて、両手で頬を軽く叩いて気合いを入れた。

 

「そんじゃ、あたしらも合流するぞ!」

 

『はい!(おうっ!)』

 

加古たちも同じく、この後に行なわれる艦隊決戦に向けて駆けつけた。

 

 

 

古鷹率いる第1小隊と、加古率いる第2小隊は敵艦隊を葬り、秀真たち連合艦隊と合流しようとしていた頃―――

 

「さあ、ガサ。青葉たちも追撃しますよ!」

 

「了解、青葉!」

 

同じように青葉率いる第3小隊とともに行動していた、衣笠率いる第4小隊はこちらに向かっている深海特殊艦隊(決死隊に近いが)を迎撃しようと進んでいた。

 

「夜戦なら負ける気がしないわね!」

 

「白雪も頑張ります!」

 

ふたりは闘志を燃やしていたが―――

 

「頑張ろうね、初雪ちゃん♪」

 

「もうやだ、帰って寝たい…」

 

矢矧たちと同じように酒匂も初雪を励ましたが、逆効果だったため酒匂は思わず転びそうになった。

 

「もう、初雪ちゃん〜」

 

どうすれば良いのか分からなかった酒匂に、衣笠が助け舟をした。

 

「初雪ちゃん、この海戦で頑張ったら提督からのお休みが来るから頑張ろう♪」

 

彼女が言うと、休日と言う言葉に反応した初雪はシャキッと目が覚めた。

 

「分かった、頑張る……」

 

誰もが、この言葉でやる気スイッチが入ったことに驚いた時だった。

 

「水上電探に反応です、距離およそ30海里(約55キロメートル)。北東より27ノットで接近中の多数の深海棲艦を捕捉!」

 

青葉の報告を聞いた一同に緊張感が走ったが、士気は依然として高いままだ。

 

「近いね、みんな砲雷撃戦の準備は良い?」

 

衣笠の問いかけに、青葉たち全員が頷いた。

 

「それじゃあ、ガサ。武運を!」

 

「青葉もね♪」

 

お互いの拳を軽く相討ちして、それぞれ自分たちを狙っている敵艦隊を捕捉するために分かれたのであった。




今回は古鷹率いる第1小隊と、加古率いる第2小隊による無双で敵艦隊を葬りました。
もはや最強の重巡部隊と言っても過言ではありませんがw

灰田「たまにはこう言う路線変更もしても良いですね、次回もこのノリで行きますが」

まあ、たまには悪くないかと思います。
同連載『第六戦隊と!』でも同じようなノリがありますけどね、お馴染みの架空戦記ネタも今回は加えましたものなのでw

灰田「あの作品は中々楽しめますからね、当初はいろいろありましたが」

ともあれ、どちらの世界の古鷹たちの活躍を楽しめて頂ければ幸いです。
重巡洋艦の良いところと、古鷹たちの良いところをたくさん知って頂ければ私も古鷹たちも嬉しいものです。

古鷹「今日もまた活躍しましたね♪」

加古「あたしらに掛かれば、こんなものさ♪」

ともあれ長くなりかねないから、そろそろ次回予告と行きましょう。

古鷹「はい、次回はこの海戦の続きから始まります!」

加古「青葉と衣笠たちが活躍するから、みんなお楽しみに〜」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

古鷹・加古『ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十五話:奮闘!第六戦隊! 後編

お待たせしました。
予告通り、前回の続きです。

灰田「青葉さんと衣笠さんたちが活躍する海戦であります」

古鷹・加古の活躍に伴い、青葉・衣笠の活躍もお楽しみに!
それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


「ギエェェェェェェ!」

 

荒々しい気性を、狂人の如く奇声を上げながら青葉たち率いる第3小隊に襲い掛かったのは、戦艦ル級改flagship率いる打撃艦隊だった。

この部隊は運よく《アカギ》の無人ステルス艦載機部隊の攻撃から逃れ、今まさに復讐しようと連合艦隊に勝るとも劣らない機敏な動きを見せつけて突撃した。

彼女に続くのは、重巡ネ級eliteや軽巡ト級eliteに、そして駆逐ニ級後期型eliteたちと言った上級の深海棲艦たちだ。

夜戦による進撃攻撃ですらも自分たちに敵う者はいないと、豪語できるほどの連邦艦隊のなかでもエリート艦隊でもある。

だからこそ、手短に済ませて連合艦隊を葬らんと、同じように闘志を燃やしている。

 

「敵艦隊変針! 取舵90度、同航戦を挑んで来るようですね!」

 

青葉が報告したが、矢矧と白雪は驚いた様子は見せない。

 

「もしもT字を描かれたら堪りませんが…… 望むところです!」

 

「受けて立ちましょう!」

 

「そうですね…… では、付いてきてくださいね!」

 

『はい!』

 

同じくル級たちは嘲笑うように吠えた。

 

「馬鹿メ、戦力ト射程距離デハ此方ガ有利ダ!」

 

ル級は両手に携えた艤装を、猛獣が威嚇するかのように海面上に叩きつけた。

彼女と同じく短期決戦を望み、先ほどよりも闘志を燃やしていた重巡ネ級eliteや軽巡ト級eliteに、そして駆逐ニ級後期型eliteたちも猛獣のように吠えた。

しかも連邦としては珍しくレーダー射撃装置を組み込まれた連装砲であり、自動装填装置もアメリカと協力して開発して出来たことだから負けやしないと確信した。

相手が進む方向に徹甲弾の嵐を降り注がせれば、撃沈することは間違いなしと読んだ。

しかし、今からこれらが全て無駄なことになることはまだ知らなかった。

 

「今から青葉から距離を保ちつつ、離れないで下さいね!」

 

青葉の言葉を聞いて、ふたりは頷いた。

決意を籠めた青葉たちの戦意が乗り移ったように、最大戦速を振り絞り、波を踏み砕いて突進する。

青葉は同航戦に持ち込むかと思ったが、相手も全艦を砲戦に参加させるべく、浅い角度ながら交差する針路を進んでいると見抜いた。

しかも自分たちが進む方向に、徹甲弾の豪雨でも降らそうかとも見透かされた。

ならばと思い、青葉たちはとある装置を起動させた。

 

「今です、例の装置を起動させてください!」

 

「了解、それ!」

 

「分かりました、起動させます!」

 

青葉が命じると、矢矧と白雪はその装置を起動させた。

 

「コレデオワリダ、哀レナ艦娘ドモ!」

 

青葉たちを誘い込んだル級たちが、今かと制圧射撃をしようとした瞬間だった。

 

「キ……消エタダト!」

 

青葉たちの各艤装から水蒸気が凝結して無数の小さな水滴が散布し、やがて霧のような煙が発生して、彼女たちを包み込むと暗闇と一体化して姿を消した。

それは米軍が実際に開発段階に進んでいるステルス迷彩服と伴い、日本の切り札であるステルス重爆Z機と、そして米空軍が所有する世界最強ステルス戦闘機ことF-22《ラプター》のように敵が放つレーダー波を全て吸収し、なおかつ敵レーダーおよび、それらを応用して自動追尾できるレーダー射撃装置は、ステルス化した青葉たちを探知できなくなった。

 

「全員ソノ場カラ動クナ!」

 

ル級が吠えるように号令を、実際には冷静になることが出来なかったと言った方が良い。

慌ただしい号令を聞いた一同は、その場を動かずに周囲警戒することしか出来なかった。

アメリカ製のレーダーで、青葉たちを探知しようにも反応は一切なかった。

各艤装に取り付けられたレーダー射撃装置で探知しようとしても、前者と同じ結果だった。

まさに完璧とも言えるステルス迷彩服と言ってもよく、ル級たちの自慢とも言える両兵器は瞬く間に、役に立たなくなったのである。

またいくら夜目が良くても、熟練見張員たちのような超人的な視力には敵わない。

 

「……一体、奴ラハ何処ニイルンダ……」

 

単縦陣を解き、輪形陣になったル級たちは周囲をもう一度くまなく探した。

暗闇の中をじっとするだけでも、微かな呼吸ですら恐怖を覚える。

すると、どこからともなく唸りを上げて旋回した各砲身が上下する音が微かに聞こえた。

気のせいだろうと思ったが、もう一度周囲を警戒して見るが――― 自分たち以外には誰も存在せず、それ以外は姿形どころか人影もない……

あの艦娘どもは一体、どこにいるのかと再度警戒しようとしたときだった。

後ろにいた1隻の駆逐ニ級後期型eliteが、一瞬のうちに砲撃されて抵抗することなく撃沈された。

 

「ソコカーーーーーー!」

 

ル級たち全員が後ろを振り返ると、すぐさま辺り構わずに目の前にいるであろうと思われる青葉たちに向かって、砲撃を開始した。

全連装砲が遠雷の轟きにも似た空気中の酸素と摩擦して白熱しつつ、自分たちの前に落下していく。

 

「撃ッテ、撃ッテ、撃チマクレ!」

 

自分たちが睨んだ通りに、姿を現した青葉たちに憎悪を込めた砲撃、各自の叫び声、そして大音響と伴い、あらゆる大きさの水柱が奔騰した。

煮え滾った海水が数百十メートルの高さまでに、まるで大槌で叩き潰されたかのように大きくくぼみ、その中央から吹き上がる水柱を中心に、放射状に衝撃波が吹き伸びる。

ル級たちは数十メートルも放たれた着弾だったが、凄まじい衝撃は身体中でも伝わる。

 

「ヤッタカ……」

 

そう思うとニヤリとあざ笑う表情を浮かべたが―――

しかし自分たちがあれほど集中攻撃したのにも関わらず、青葉たちは全くの無傷であると同時に、本来ならばあり得ない現象が起きた。

 

「……カ、影ガ揺ライデイルダト!?」

 

本来ならばあり得ない現象で、またしても我が目を疑った。

ル級たちが見た青葉たちは、偽者であり、しかも本人たちそっくりな分身でもあるホログラムでもあった。

やがて時間が切れたかのように、投影されたホログラムの青葉たちが消滅した。

呆気に取られていると、またしても後ろにいた重巡ネ級eliteや軽巡ト級eliteに、そして駆逐ニ級後期型eliteたちが次々と撃沈されていき、気が付けばル級しかいなかったことに気が付いた。

 

「残ルハ私ダケカ……」

 

唇を噛み締め、怒りを露わにさせながら周囲を探すと青葉がいた。

ル級は今度もまた幻想ともいえるホログラムだと見抜いたのか、自身が両手に携えていた両艤装を再び海面上に突き立てて、危機的状況になったル級は先ほどとは比べられないほど凶暴化し、最大戦速で突撃した。

この際に砲撃をすると凄まじい衝撃のあまり、転覆しかねないために砲撃は控えた。

しかしホログラム相手ならば、徹甲弾など不要且つ、体当たり攻撃で対処可能と考えた。

この両艤装による打撃と伴い、体当たりすれば大破、上手くいけば撃沈できると確信したル級は北米神話最強の雷神(戦神)と言われたトールが持つ鎚《ミョルニム》を、トールハンマーという名でも知られた神器は、同神話に登場する毒蛇の怪物・ヨルムンガンドを打ち斃そうとするシーン思わせるようだった。

 

「ホログラムニ、ビビルル級様ト思ウナーーーーーー!」

 

しかし、彼女が振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「ホログラムかと思いましたか、残念!本物です!」

 

「……シマッ」

 

青葉の装備していた20.3cm連装砲は全て最大仰角を取り、ル級の顔に目掛けて斉射した。

接射とも言える砲撃。例えイヤマフをしていても鼓膜の奥まで叩きつけるような砲声に、双方の身体中から振動が伝わる。

蹴り上げるように飛沫を貫いて放たれた砲弾は、ケリを付ける意思に燃えて飛翔した。

空気中を摩擦して白熱を放った数発の砲弾を喰らったル級は、よろめきながら後退りした。

青葉は依然として、何事もなかったように砲撃を繰り返した。

 

「コノ重巡風情ガーーーーーー!」

 

流石はバルジの誇る戦艦でも接射によるダメージは尋常ではなかった。

しかし、怒り狂ったル級はもう一度体当たりしようとした。

その時、ル級の両脇から眩い炎が迸った噴流を上げたロケットらしき飛翔物体が彼女の両艤装に直撃した。

戦艦と言っても全てが鉄壁ではない、両脇は精々機銃を防ぐ程度の防弾能力しかない。

全てを重装甲で覆ってしまうと、戦艦といえども最大速力も落ちてしまいかねない。

しかし、いくら頑丈な構造で製造された艤装でも大量のロケット弾が続けざまに突き刺さるとバルジが耐えることは難しかった。

無数の爆焔が吹き上がり、ほとんど一瞬に全ての16inch三連装砲が砕け散り、破片を浴びた40mmと20mmの各機銃座も叩き落されて戦力が大幅に削られた。

また先ほど青葉の砲撃により、顔半分を灼熱の劫火によって焼かれた部分に激痛が走った。

辛うじてル級の右目が生きていたとき、またしても衝撃的なことが起きたがもはや意識が朦朧としていた。

 

「全弾命中ね!」

 

「それでも、これだけの弾幕でもしぶといですね……」

 

ようやくステルス迷彩を解除した矢矧と白雪が姿を現した。

先ほどのロケットの正体は言わずとも、矢矧たちが装備していた《ハープーン》である。

合計8本の《ハープーン》も受けたのにも関わらず、未だにル級が健在している。

否や、地獄の門をふらふらと彷徨っている亡者になっていた。

 

「青葉が止めを刺します!」

 

青葉は魚雷発射管に音響ホーミング魚雷を装填。

惰性に前進する屍と化したル級改flagshipに止めを刺すべき、必殺の意気を込めた音響ホーミング魚雷を撃ち放つ。

ほとんど雷跡を残さずに、ただ海中を突進している影は鮫に似ていた。

その鋼鉄の鮫は、苦悶するル級に、続けざまに突き刺さった。

血を流すように生きる屍となりかけたル級は、音響ホーミング魚雷を数発受けてもなお炎上しながら微速でよろめき進んだ。

だが、猛火に包まれたまま、力尽きた彼女はそのまま沈没した。

双眸を落とした青葉は深呼吸を一度行い、矢矧と白雪に伝えた。

 

「敵打撃艦隊、無事殲滅しました」

 

青葉の状況報告を聞いたふたりは安堵の笑みを浮かべた。

しかし、未だに戦いは続いていることに変わりない。

 

「青葉たちも古鷹と加古、そして司令官たちに合流しますよ。大丈夫ですか?」

 

『はい!!』

 

波を蹴り飛ばして回頭する青葉たちは、最終決戦に挑むべく前進した。

 

 

 

そして最後に残っていた衣笠率いる第4小隊は―――

 

「コレ以上、奴ラヲ近ヅケサセルナ!」

 

衣笠たち第4小隊を迎撃しようと、巨大魚雷《トマホーク》を搭載した多数の重巡リ級改flagshipと連邦護衛艦群ともに、禍々しい左目からは探照灯を思わせるかのように蒼き炎が迸っている戦艦タ級改flagshipと言う名の最新鋭深海戦艦が混じっていた。

新たな戦力として連邦軍が生み出した…… 正確的には空母護衛用の高速戦艦を主力にしていた米海軍の艦隊運用を見倣っている。

以前ならばル級よりも堅牢な装甲を持つ反面、火力は控え目だったが、主砲を16inch三連装砲に換装し、さらに電探射撃装置も組み込まれている。

対空兵装に関してもアイオワと同じように試験的だが、CIWSを装備しており、従来の連邦軍ではあり得ない完璧な深海棲艦と言っても良い。

ただしあくまでも連邦亡命政府軍は、自分たちの科学力の方が世界一に優れていると言うプライドもあり、少数しか建造されていない。

新造艦といえども、この海戦で期待以上に活躍すると誰もが思った。

 

「突撃艦隊、連携デ行クゾ!」

 

『了解!!!』

 

タ級の号令に、リ級たち護衛艦群は勇ましく返答した同時に―――

 

「あと、もう少しね……」

 

こちらに向かっているタ級たちの姿はくっきりと、水平線上に浮いている。

衣笠が睨む方位盤のレンズでは、デジタル式観距儀が捉えた深海棲艦たちが、上下に微妙なずれを見せていた。

その像が手元のダイヤル微調整によって重なり、やがて完全に一致した。

そのデータが、衣笠たちに送られた。

また各兵装を担当している艤装妖精たちの統括の元――― このデータに従って調整を行ない、砲塔側の指針が射撃指揮場のそれとピッタリと重なった。

 

「酒匂ちゃんは《ハープーン》の支援攻撃。目標、巨大魚雷を搭載した重巡リ級たちを。初雪ちゃんは連邦護衛艦群を狙って。私は連邦護衛艦と、あの禍々しい戦艦タ級を叩くから!」

 

「ぴゃあ♪」

 

「…分かった」

 

衣笠は矢継ぎ早に指示を下すと、酒匂と初雪は頷いた。

 

「来たね……!」

 

敵影確認。衣笠が裂帛の気合いを発した。

 

「撃ち方、始め!」

 

『てぇーー!!』

 

衣笠の号令が命じると、酒匂と初雪は同時に満を持って引き金を引いた。

全てのデータが送られ、標的となる敵艦隊を捕捉した。

正確無比な各兵装は敵艦隊に指向し、対艦ミサイルAGM-84《ハープーン》を装填。

そして神の矢とも言える《サジタリウスの矢》が、超音速で叩き出す。

一瞬の鳴動、そしてあらゆる海戦でも、この全身に堪える発射音。

1発ずつの斉射だが、この《ハープーン》の雄叫び声が飛翔した姿は勇ましいものだ。

 

そして、衣笠が携える20.3cm連装砲も同時に咆えた。

目にも止まらぬ早撃ちにより放たれた合計12発の砲弾が、周囲を波打たせる勢いと大気を揉み込みつつ飛翔して、標的に向かって駆け巡る。

 

「次はこの攻撃で攪乱ね!」

 

衣笠は乾いた唇をペロッと短く舐めて、次の攻撃で敵艦隊の支援艦でもある連邦護衛艦に標準を合わせた。

 

 

 

同じように敵艦隊も衣笠たちを捕捉したのか、発砲の閃光が煌めいた。

最新鋭艦戦艦タ級改flagshipとは言え、初陣のために手探り状態で砲撃した。

同じように重巡リ級改flagshipとともに、連邦護衛艦こと《タイコンデロガ》級ミサイル巡洋艦《ヴィンセンスⅡ》と言う名の護衛艦である。

指揮官は連邦軍では珍しく誰もが見返るような美女――― クインシー艦長と言う名の女性である。

また偶然なのか、彼女の副艦長として乗艦しているのは、アストリアである。

史実では彼女たちの名前は、三川艦隊に葬られた重巡洋艦の名前である。

まるで彼女たちに復讐すると言う気持ちで蘇えったようなものと言った方が良い。

彼女たちも日本に憎し且つ、合衆国の正義を踏みにじった日本に懲罰行為を与えるべしと戦意を燃やしていた。

 

「攻撃―――」

 

しかし、この号令を下す直前に、クインシーたちがいた艦橋は瞬時に吹き飛んだ。

城郭と思わせる連邦護衛艦《ヴィンセンスⅡ》の艦橋構造物が大きく形を変わり、戦闘指揮場と情報処理室は跡形もなく吹き飛ばされ、CICを納まっている巨大な艦橋は、倒産寸前まで抉れていた。

クインシーたちは気がついた頃には、あの世で死者たちの列に並んでいるだろう。

先の海戦『第一次ソロモン海戦』の如く、悲運にも反撃に移る前に第八艦隊の夜襲攻撃により、撃沈された3隻の同型艦と同じようになすすべなく、復讐も果たせないまま戦火に散ったのだった。

止めを刺そうと炎上しながら航行している大破した《ヴィンセンスⅡ》に、形容しがたい轟然と鳴る砲声を上げて、暗闇をかき消すひと筋の光の矢が襲い掛かった。

艦首から鋭利な日本刀のように切り裂かれた彼女は、名手の殺陣を喰らわされたように、全長172メートルを誇る艦体は、綺麗に艦首から艦尾まで、真っ二つに両断されてしまう。

後ろを振り返ったタ級たちとともに、連邦護衛艦《ヴィンセンスⅡ》の船内にいた連邦乗組員たちは何が起こったのか唖然とするばかりだった。

謎の攻撃に切断された部分から濃密な蒸気が吹き出したと見る間に、左右に分かれた艦体が海面に倒れて、真っ白い飛沫を空中に舞い上がらせた。

次の瞬間、大爆発がタ級たちの全身を震わせた。

各弾薬庫に火がはいったのだろう。哀れにも《ヴィンセンスⅡ》は自らの各兵器で壮絶な自決を遂げたのだ。

 

「ひゅー、さすがレーザー砲での一刀両断は威力抜群ね!」

 

ウインクをした衣笠とは裏腹に―――

 

「オノレェェェェェェ!」

 

タ級の表情が、般若を思わせるものに変わった。

 

「攻撃開始、殲滅サセロ!」

 

凄まじい叫び声と伴い、突如として酒匂と初雪が発射した《ハープーン》の嵐が襲来してきた。

タ級は装備されているCIWSを起動させて、音速を超えて襲い掛かる対艦ミサイルに標準を合わせ、自動追尾機能システムの対空機銃が次々と撃ち落した。

しかし、リ級たちは対空砲火を開始する前に、両者の《ハープーン》の方が早かった。

形容しがたい轟音が着弾すると、膨大な火柱が奔騰した。

胴体を貫かれたひとりのリ級は、その大穴から鮮血を噴き出した直後、大爆発を起こした。

圧倒的な破壊力を見せつけられ、なすすべのないリ級たちはパニックに陥った。

タ級は苛立ちのあまり、傍にいたリ級を見て、その自慢の全主砲を咆哮させた。

轟いた砲声は直下の海面を大きく窪ませ、吹き千切れた波頭が、細かなオレンジ色の火矢に染め上げられる。

傍にいたリ級は上半身を失っても、数秒の間は動き、そして身悶えするように転倒した。

 

「戦闘中ニ目障リダ」

 

冷酷さを見せたタ級は何事もなかったように、砲撃を開始した。

生き残った2隻のリ級たちは恐怖心に駆られながらも、タ級と同じように砲撃態勢を取る。

砲塔を旋回しつつ、衣笠がいる方向へと狙いを定めた。

 

「撃テェ!」

 

吹き上がった砲炎が黒い発射煙に覆い被さり、空気を切り裂いて飛翔した徹甲弾が、叫喚を上げて殺到した。

 

「面舵一杯、最大戦速!」

 

衣笠の号令一下、猛然と速度を上げて回避した。

彼女たちの傍には特大の特急列車が通過するような轟音と伴い、衝撃波が叩きつけられる。

海水を被り、全員びしょ濡れになったものの、誰ひとりも負傷することはなかった。

 

「みんな、大丈夫!?」

 

「大丈夫、びしょ濡れだけど大丈夫だよ」

 

「…びしょ濡れだけど、大丈夫」

 

「私もびしょ濡れだけど頑張ろう!」

 

『ぴゃあ!(…うん)』

 

「あるだけ《ハープーン》を撃ち続けて! 私が援護するから!」

 

戦意高揚状態。衣笠たちの闘志に答える気持ち、彼女たちの気持ちがひと塊の魂魄と化したかのように、攻撃をしつつ進撃した。

凄まじい姿を見たタ級は、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 

「重巡ノ分際デ、力ノ差ガアルト知リナガラモ突撃シテ来ルトハ蛮勇ニ過ギナイコトヲ教エテヤル!」

 

再び襲来して来る《ハープーン》の前に対しては、自慢のCIWSが再び銃身を回転させて、熾烈な火線を吹き伸ばして、精一杯旋回して咆哮した。

圧倒的な対空射撃の前でも、酒匂と初雪が放ったサジタリウスの矢とも言える《ハープーン》を撃ち落としていく。

 

3隻のリ級たちはCIWSのような防衛追尾火器は一切しておらず、ただひたすら躱そうとするも、上空から襲来する《ハープーン》の前では無意味だった。

爆発音とともに、破片と爆煙の混じった水柱が吹き上がる。

右艤装をやられたリ級は、その一撃で大きく速度を落としていた。

同じように2隻目のリ級は撃沈寸前までの全身やけどと言う致命傷を負い、3隻目は不運にも頭部が破壊されてしまい、気が付かない間に一撃で撃沈された。

みるみる落伍するふたりのリ級たちには、上空から降り注ぐ猛禽を、撃退する力は無きに等しかった。

数秒後――― 弱った豹のように襲い掛かる禿鷹のように《ハープーン》が殺到した。

この間に《ハープーン》を、合計7本も叩きつけられたふたりのリ級は、ほとんど瞬時に炎上して、波間に姿を消した。

そして抵抗をし続けてきたタ級にもまた、命運が尽きてきた。

ついにCIWSの回転が止まってしまった、つまり弾切れになってしまったのだ。

残弾数など気にせず、敵対艦ミサイル迎撃に集中するあまり、見落としてしまったのだ。

残っていた《ハープーン》が殺到して、一斉にタ級に襲来した。

轟音と伴い、大きな水柱に混じった破片が舞い上がった。

数発の《ハープーン》がタ級の艤装を破壊した。この証拠に被弾した砲塔からはひしゃげるように歪み、吹き飛んだ。

残された砲塔で反撃するものの、先ほどの攻撃でレーダー射撃装置も故障してしまい、目視射撃に徹するしかなかった。

 

「よく狙って、撃てぇ!」

 

がむしゃらに斉射していたうちに、衣笠たちの各連装砲が咆えた。

叩きつけるような砲声は、蹴り上げる飛沫を貫く勢いを出して放たれた。

空気摩擦によって弾頭自体が白熱し、緩やかな弧を描いて飛んだ砲弾は、必死の抗戦を続けるタ級の周囲に、爆炎の混じりの水柱を噴き上げた。

休み暇もなく斉射し続けると、偶然にも最後の砲塔に徹甲弾が命中した。

しかも不運にも引火爆発を起こし、ひと際大きい爆発とともに最後の砲塔が吹き飛ばした。

 

 

「ギャアアアアアアア!」

 

身悶えし、悲痛な悲鳴を上げつつも、全速力でこの場から離脱しようとスピードを出している、タ級に災厄はまだ終わらない。

 

「よし、止めを刺すよ!」

 

先ほどの徹甲弾から、再びレーザー砲に切り替えた。

やがてデジタル微調整により、微妙なずれを生じていた標的がぴったり重なった―――

 

「これで終わりよ!」

 

衣笠は躊躇うことなく、連装砲の引き金を引いた。

その瞬間、轟然と鳴り響かせながた砲声と咆哮が重なり、一筋の紅色の閃光が駆け巡った。

衝撃波を放ちながら紅く輝くレーザー砲は、タ級の背中から胸元まで貫いた。

何が起こったのかとゆっくり後ろを振り返ると、衣笠の姿はまるで中世の美しい銃士を思わせるようだったのかと思い、ついにゆっくりと前のめりで倒れた。

送り火とも言える轟々と炎を巻き上げながら、戦いに満足した笑みを浮かべたタ級は沈んで行った。

現われに連合艦隊に辿り着くどころか、必殺巨大魚雷《トマホーク》を発射できない艦隊が多く、第六戦隊の前に敗れたのだった。

 

「ふぅ… これで敵遊撃艦隊は殲滅出来たね……」

 

敵艦隊殲滅。衣笠は安堵の息を漏らした。

だが、最後の敵本隊を叩かなければ意味がない。

 

「酒匂ちゃん、初雪ちゃん…… まだ辛いけど行ける!?」

 

「酒匂は大丈夫だよ!」

 

「私だって、まだやれる……」

 

衣笠の言葉に、ふたりは頷いた。

再度、波間を蹴り飛ばして回頭する衣笠たちも最後の艦隊決戦に望むべく前進した。




今回は前回より、また久々に9000文字近くになりました。
こう見返すと久々にこれくらい執筆しましたから時間が掛かりました同時に、同連載『第六戦隊と!』で執筆時間の双方をしていましたので遅れました。

灰田「また某有事の影響なのか、PCの具合も微妙でもありましたからね」

それ故に、第六戦隊ニウム補給が出来ない私は萎れかけた花になることもしばしばでもありますから、仕方ないねぇ(兄貴ふうに)
ともあれ、無事最新話を投稿することが出来ましたから何よりです。

青葉「青葉たちの活躍でき、お役に立てて嬉しいです!」

衣笠「私は某『奴さ!』のような活躍したから凄いけどね」

某イラストサイトでは、ネタにされていますけど好きです。
ともあれ長くなりかねないから、そろそろ次回予告と行きましょう。

青葉「はい、次回は艦隊決戦に終止符が打たれますが……」

衣笠「しかし、この戦い後に衝撃的な真実を知ることに!」

内容は変更と伴い、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

青葉・衣笠『ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十六話:偽りの勝利 前編

お待たせしました。
少し予告を変更の形になりますが、今回は前編・後編となります。

灰田「なお今回の海戦は、やや驚きの展開がありますので注目するのも良いでしょう」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


古鷹たちが秀真率いる連合艦隊に合流する間にも、艦隊同士の戦いは続いていた。

大和と武蔵、アイオワ、そして高千穂・白山・十勝率いる戦艦部隊も同じく―――

 

『目標、敵二番艦。撃てぇーーー!』

 

秀真の号令を聞いた大和たちは、電探が位置を特定した目標に向かって砲塔が動き、砲身を上下して、やがてぴたりと静止した。

その瞬間、艤装内に張り巡らせていた電流が主砲発射回路に飛び込み、装薬に点火した。

装填された発射薬が一気に燃焼し、各連装砲から徹甲弾が、轟然と放たれた。

周囲を揺るがす振動に、荒波に打たれたかのように秀真たちが乗艦する《ズムウォルト》級巡洋艦や、《みょうこう》率いる海自護衛艦などの艦体から、艦内部全体に響き伝わる。

もしも興味範囲で甲板上に見に行くと、生き残ることはできない。

根こそぎ引き剥がれ、海中に叩き込まれることは間違いなく、内臓が押し潰されて、冥界に旅立つことになるはずだ。

大和たちが装備している破壊力抜群の46cm三連装砲などの爆風は、計り知れないのだ。

秀真たちが乗艦する各艦の内部でさえも、鳴り響いた。

 

同じく連邦艦隊も負けていない。

連邦艦隊の《アーレイ・バーク》級駆逐艦群の周囲に弾着を報せ、艦全体を覆い被さるほど水柱がリズムよく立ち上がる。

しかし激戦の末に、VLSに内蔵された全ミサイルを使い果たし、秀真率いる連合艦隊相手に気休め程度に1基のMk.45 5インチ単装砲を撃っていると言う有様である。

だが、連邦の切り札でもある戦艦空母型人造棲艦《ギガントス》が装備している連装砲は富士たち戦艦空母と、長門たちと同じ41cm連装砲である。

《ギガントス》の巨体をぼうと照らし出すと、連邦護衛艦よりもひと回り大きなオレンジ色の火矢が噴出した。

膨大な衝撃波を打ち続けられた直下の海面は、途方もなく大槌の一撃を喰らったかのように大きく窪み、次いで激しく波立った。

 

「全艦、砲撃を絶やすな。敵艦隊を殲滅せよ!」

 

「この攻撃など、まだ気休めに過ぎんな!」

 

「さぁ、私たちの火力、存分に見せてあげるわ!」

 

大和の号令に、武蔵・アイオワも同じく闘志を燃やして轟然たる砲声を鳴り響かせた。

 

「富士姉さん率いる―――」

 

「私たち特型戦艦こと―――」

 

「戦艦空母の力を見ろ!」

 

高千穂・白山・十勝は綴りを合せるように後退した富士の名に懸けて、暗闇の海上を並進しつつ、各連装砲を投げつけ合うように砲戦を続行する。

 

大気を鳴り響かせて飛翔する互いの徹甲弾は空中ですれ違い、弾道の頂点に達した直後は、急速に突入角度を深めつつ、突入して来た。

徹甲弾は大気との摩擦により紅く燃え、両者が叩きつける砲火は、暗夜の海上をも綺麗に染め上げていく。

 

「取舵一杯、急げ!」

 

《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦と、大和たちの周囲に上がる水柱は、天空から投げ落とされた神々の牢獄とも思える。

秀真たちなどが乗艦している各護衛艦のCICからリアルタイムで確認できる。

海を振り動かしての砲撃戦を続ける大和たちが守護神軍団であれば、連邦海軍の人造棲艦《ギガントス》は『現代の大海魔《リヴァイアサン》』と聖書に記された神々たちの大海戦を表現していると、言った方が相応しい。

 

戦艦同士の砲撃戦は、両者とも一歩も退くことなく続いていた。

圧倒的な数にも屈することなく、女性の悲鳴に似た声を上げながら《ギガントス》が持つ41cm連装砲から、長いオレンジ色の火矢を模した徹甲弾を撃ち放つ。

灼熱した12発の徹甲弾が、距離も詰めたこともあって低弾道の放物線を描いて飛び渡り、大和たちに目掛けて殺到した。

無数の水柱が奔騰し、その中に真っ赤な爆焔が煌めいた。

 

『大和(大和さん)!!!』

 

《ギガントス》の撃ち放った徹甲弾を喰らった大和は、左艤装に装備した46cm三連装砲塔が被弾し、折れ砕けた砲身が高々と舞い上がって、水飛沫を上げて落下した。

 

「大丈夫……です、これくらいで大和は沈みません……!」

 

多少の攻撃力を失えど、健在な46cm三連装砲塔から、徹甲弾装填完了。

先ほどの損傷を与えたお返しとばかりに、全身を震わせて、大和は撃ち放った。

その瞬間感じた手応えに、彼女は拳を握り締めた。

 

「……直撃ですね!」

 

その思いが形となり、砲撃中の《ギガントス》に徹甲弾が突き刺さった。

衝撃音が轟き、深い暗闇の中に鮮やかな爆焔が舞った。

富士たち戦艦空母を模した《ギガントス》と言え、大和の一式徹甲弾を受け止める装甲は施されていない。

直撃を受けた左舷――― 41cm連装砲とともに、航空爆弾にも耐え得る重装甲飛行甲板が無惨にも原形を留めることなく破壊された。

次の瞬間、憤怒の形相を刻み込み、耳鳴りがするような奇声を上げた。

 

「キエェェェェェェ!」

 

『連邦艦隊に勝利あれ!!!』

 

6門の砲口と、各連邦護衛艦のMk.45 5インチ単装砲が、これまでにない怒りを孕んで咆哮する。

音速を超えて叩き出された砲弾が、いまや切らんばかりにまで近づいた大和と武蔵に目掛けて閃き飛んで、彼女たちに打ち据えた。

同じく怒りの込めた砲弾が、大和たちに襲い掛かり、傷をひとつふたつと増やしていく。

並みの戦艦娘ならば、たちまち大破しているところだ。

 

しかし――― 堪えない。

大和や武蔵は、その強靭な防御力を備えており、これに見合うだけの砲弾を受けながらもふたりは撃ち続けている。

 

『全艦、大和たちを援護せよ!』

 

『同志たち、

 

『了解!!!』

 

秀真と郡司が乗艦する《ズムウォルト》級巡洋艦や、彼らを支援するナガタ一佐が乗艦する《みょうこう》率いる海自護衛艦から《ハープーン》による支援攻撃が開始された。

連邦艦隊はもはや多くの兵装を使い果たしたため、これを迎撃する能力は乏しかった。

Mk.45 5インチ単装砲も連射するが、隼の如く俊敏な動きを誇る《ハープーン》の前では無力に等しい。

ただし、マケイン中将が乗艦する旗艦《ルーズベルト》だけは敵の動きを読み、常に考えながら使用していたため、迎撃する力は残っていた。

連邦艦隊は多くは航行をすることがやっとの艦が多く、ダメコンも限界を超えていた。

大破状態のままで奇跡的な航行していた《ハルゼー》は、ついに火柱を上げて、その場に停止した。

先ほどの攻撃で、艦は艦底までぶち抜かれ、大量の海水が、沸き出すように入ってきた。

間もなく限界を超えた《ハルゼー》は、喫水を深めつつ横倒しになり、海中に引き込まれていった。

連邦護衛艦・先頭艦《ルーズベルト》と、各連邦護衛艦群も数箇所で火災を起こし、火焔をなびかせている。

しかし闘志は衰えを見せず、勢いづいたように各艦船の全砲門が咆え盛る。

 

「次は直撃が来るぞ!」

 

秀真が呟く。

砲弾の飛翔時間が経過し、魔女が集団で飛翔してくるような轟音を上げて、敵艦が放った各砲弾が落下する。

次の瞬間、周囲に突き刺さった砲弾が、水中衝撃波を叩きつける。

秀真・郡司が乗艦する《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦はもちろん、大和たちなどにもこの強烈な衝撃波が平等に襲い掛かる。

 

「……くっ、こちらも負けてたまるか!」

 

郡司が叫ぶ。艦隊同士の殴り合いだ。

それぞれ砲弾を投げつけ合い、水柱がリズムを合せるように煌めく。

 

「私たちも負けずに、大和さんたちを支援するわよ!」

 

「はい、分かっています!」

 

「負けはしないぞ! 撃てぇーーー!」

 

「Name Shipの名に懸けて、行くわよ!」

 

高千穂・白山・十勝に、そしてアイオワたちも支援砲撃に加わる。

彼女たちは各々主砲9門を全て合わせて12門に対して、《ギガントス》のそれは6門。

三割三分も多い門数と、戦意の差が、確率を超える命中弾を生み出した。

一時に五つの花が、中破状態の各連邦護衛艦群の艦上に咲き乱れた。

死と破壊を糧として、咲き誇る紅蓮の花は、その苗床となった各艦船の艦内深くに根を差し込んで、弾薬庫に蓄えた少数の主砲弾などを誘爆させた。

砲撃の火焔が、霞んでしまうほどの閃光が煌めいた。

マケイン中将が乗艦する《ルーズベルト》と、各護衛艦もその流麗な艦体が裂け、内側から押し開くようにして、膨大な火焔の塊が、天まで届けと言わんばかりに吹き上がった。

人よりも大きい砲塔が台座から外れ、砲身を好き勝手な方向に向けながら回転して、水柱を上げて海に沈没した。

マケイン中将と全乗組員たちは死亡したが、戦果は少しだけ上げる事も出来た。

またこの作戦で形勢逆転も狙えると思えば、それで満足だったと笑みを浮かべて戦死した。

 

連邦護衛艦群や深海棲艦たちが殲滅してもなお、未だに砲撃戦は繰り返される。

《ギガントス》を倒さんと大和たちの轟いた砲声は、その足元を、直下の海面を大きく窪ませ、吹き千切れた波頭が、細かな霧となってオレンジ色の火矢に染め上げられる光景は凄まじいものだ。

大和たちの砲火は止むことなく、斉射し続けた。

中破した《ギガントス》は、ついに堪り兼ねたのか、果ては40cm連装砲などの弾が切れたのか抵抗する様子もないと思いきや―――

 

『なにっ!?』

 

《ギガントス》は取り付けていた艤装を自ら外したところまでは以前と変わらない。

その無傷だった右舷の重装甲飛行甲板は盾代わりに使用するのではなく、こちらは十勝たちに目掛けて思いっ切りプロ野球選手の如く、剛腕まかせに投擲した。

 

「その手は通じん!」

 

十勝は41cm連装砲で回転しながら飛翔する重装甲飛行甲板に対して、冷静な表情で向かってくるこれを狙い定めて、全門を開いて咆え猛る。

周囲に轟く砲声と伴い、空気摩擦をして飛翔する徹甲弾はこちらに向かって回転飛行する重装甲飛行甲板に命中した。

この砲劇に耐えることが出来なかった飛行甲板は内部から亀裂が走り、やがて空中爆発を起こし、黒煙とともに破片となって散り散りとなったが―――

 

「なにっ!?」

 

しかし、その黒煙の中から現れたのは《ギガントス》ではなく、先ほど富士を大破させた滑空爆弾《アローヘッド》がその黒煙から不気味な姿を見せて、十勝に目掛けてまっしぐらに突入した。

 

「ちっ!」

 

短い舌打ち。十勝は咄嗟の判断で各対空機銃をがむしゃらに撃ち込んだ。

その火線の奔流が、白煙の尾を曳いて襲来する破壊の凶鳥もしくは小さな火龍を包み込む。

幸いにも《アローヘッド》の弾頭を貫き、炸薬が引火したのだろう。

空中に、いくつかの爆発の花が咲いた。

 

ホッと短い呼吸も間もない時、黒煙が落ち着きを払ったように消えた。

圧倒的な戦力差を見たのか、不思議なことに《ギガントス》は戦意喪失のような仕草を取った。

海上で間抜けにも踊っている姿を見た大和たちは、首を傾げながら近づいた。

警戒しながらゆっくりと近づいたものの、未だに背中を見せて踊っている《ギガントス》は、その場で座り込んだと思いきや―――

 

『きゃあ!!!』

 

直立した状態から上体を後方に反らせた《ギガントス》は、探照灯を照射した。

この閃光により、大和たちは突発的な目の眩みにより、かすみ目の前が暗くなる。

非致死性兵器として分類される探照灯だが、一時的な失明、めまい効果などを生み出し、それらに伴うパニックや見当識失調を発生させたのだ。

 

「しまった、目がっ!」

 

「Shit!この卑怯者!」

 

連邦譲りの卑劣なとも言える、不意打ち攻撃を喰らい、一時的な失明になった大和たちに構わずに、《ギガントス》は剛腕に任せたストレートパンチと、蹴り攻撃を見舞った。

アイオワはストレートパンチを喰らわせようとしたが、簡単に避けられてしまう。

余裕の笑みを見せながら、さらに同じ攻撃を繰り返した。

双方の攻撃を喰らった大和たちは、思わず苦痛の喘ぎを漏らした。

しかし、《ギガントス》は罪悪感の欠片もない蟻を潰しながら遊ぶ子どものように大和たちをいたぶり続けていたが―――

 

「この武蔵と……」

 

「十勝を……」

 

『舐めるなーーーーーー!!!』

 

しかし、この状況を打ち破ったのは武蔵と十勝だった。

ふたりは拳を思いっ切り握り締めて、そして《ギガントス》の顔に目掛けて、上半身全体を回転させると伴い、勢いよく、そして体重を右手に乗せ、速度・重量ともに申し分のないストレートパンチをお見舞いした。

彼女たちの攻撃により、《ギガントス》の顔に、互いの拳が、グシャッと相手の両頬にめり込む感触が伝わった。

あまりの攻撃に、《ギガントス》は両者の拳を防ぐこともできず、最大速力で走行する特急列車に跳ねられたかのように吹き飛ばされた。

 

『ふんっ…… 他愛もない!』

 

武蔵・十勝は、ようやく一時的な失明から解放されて、元に戻った大和・アイオワ・高千穂・白山に『みんな大丈夫か?』と問いかけた。

 

「私は大丈夫です」

 

「Meも大丈夫ね」

 

「私も大丈夫よ、心配しないで」

 

「私もまだ戦えます!」

 

大和たちの無事確認。

しかし、二人の拳を見舞った《ギガントス》は、ゆっくりと起き上がった。

大和たちが各砲塔を動かして照準を合わせ、起き上がった《ギガントス》に狙いを付けた。

だが、ここでもまた予想外の出来事が起きたのだった……




前回とは違い今回は、やや少なめ5000文字以上がもう平均文字でもあります。
ようやくPC不調から直りましたので、暫くは大丈夫だと思います。

灰田「ともあれ、時間が掛かりましたことに関して申し訳ありません」

こればかりは仕方ないことですけどね、本当に。
なお今回の《ギガントス》は、、かなりずる賢い戦術を得意とする個体にしました。
以前までは簡単にやられましたが、今回ばかりは本気モードになっているかなと思います。

灰田「なおマニアックですが、《ギガントス》がした目くらまし戦術は、ウルトラセブン第41話『水中からの挑戦』に登場するカッパ怪獣テペトの戦術を参考にしています」

同じ水棲生物みたいなものですから、しても違和感がないと思います。
探照灯で目くらましも史実でも対空射撃の際には効果抜群と言われましたから。
基本的に連邦亡命政府軍は、だまし討ちや不意打ちなど卑怯戦法を好みますので、この《ギガントス》もその遺伝を受け継いだと言っても良いでしょう。
今回の補足をここまでとして、次回予告に移りますね。

加古「今日はあたしが、次回予告するね!」

なお今日は加古の誕生日であります、加古おめでとう。

加古「次回はこの海戦の続きに伴い、漸く終止符を迎えたとき、恐るべき真実が明らかになるからね、お楽しみに〜」

同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

加古「ダスビダーニャ!」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十七話:偽りの勝利 後編

遅れて申し訳ありません。
PC不調や、友人と呉訪問などで遅れてしましました。

灰田「予告通りこの海戦の続きに伴い、漸く終止符を迎えたとき、恐るべき真実が明らかになります」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


「降参スル、コレ以上乱暴シナイデ!」

 

その場にいた全員が驚愕した。

律儀に両手を合わせて、『降伏する』と言わんばかりに何度もお辞儀をした。

連邦亡命政府軍によって、人体実験により、そして戦うために非人道的兵器へ改造されてもなお、人間らしさ感情もほんの僅かに残っているのかと思った。

 

「本当に降伏しますか?」

 

大和は多少だが、鋭い口調で威圧を与える。

一瞬の空気を変える言葉を、この言葉を聞いた《ギガントス》は頷くように降伏した。

大和たちは警戒しながらゆっくりと近づいたが、艤装に装備していた兵装は全て破壊尽くされたのに伴い、先ほどの戦闘でもはや抵抗する手段は無きに等しい。

大和が《ギガントス》の目の前に立った瞬間―――

 

「掛カッタナ!アホガ!」

 

大和の両脚を掴むと、二度目の不意打ちを掛けた。

両脚を掴まれた大和は《ギガントス》を攻撃する前に、バランスを崩して尻餅をついた。

 

「きゃあ!」

 

『大和(大和さん)!!!』

 

「貴様、よくも大和を!」

 

しかし、激怒した武蔵が砲撃する前に《ギガントス》は素早く水中に隠れる。

予想外の出来事に対して、秀真たちは《ズムウォルト》級ステルス巡洋艦に搭載している水中ソナーを利用して、水中に隠れた《ギガントス》を急いで探索したが、先ほどの激戦の影響のため、敵艦のあらゆる金属破片が混じっているために時間が掛かる。

いわゆるデコイの役割をしているために、《ギガントス》が海中に逃げたのはこのためであるのかと、秀真たちは推測した。

 

大和たちはその場に動かずに、じっと堪えて警戒していた。

周囲には血と火薬の匂いが漂っていた激戦だったが、いっきに静寂が増して不気味にも月夜が連合艦隊を照らしている。

大和たちも周囲警戒をしているが、己の肌から滲み流れる汗と、心臓の鼓動はゆっくりと徐々に高まり、そして息をすることすら恐怖を感じる。

水中に隠れる《ギガントス》は、もしかしてナポレオン時代のとうに接舷切り込みでも仕掛けてくることも信じがたいと口走ったが、あり得ないことでもないだろうと考えた。

連邦は幾度もなく捨て身の特攻作戦をしたが、今回ばかりは研究をアメリカと重ねて、戦力・戦術を変えたとしても不思議ではないな、と秀真は呟いた。

 

「何処に……」

 

「何処にいるんだ、奴は……」

 

「……水中に潜り込まれると、Meもお手上げね」

 

大和と武蔵、アイオワと同じく―――

 

「まるでホラー映画さながらね……」

 

「あの時の夜戦…… 第二次ミッドウェー海戦を思い出すね」

 

「ああ…… あの海戦では敵の巨大魚雷には参ったが、今回は潜水できる敵とはな……」

 

高千穂・白山・十勝も水中に潜り込んだ《ギガントス》にはなすすべなしだ。

彼女たちが周囲警戒最中に、海中から鋭い光を双眸から放ちつつ、波を踏み分けて後ろから出た。

巨大なクジラを思わせるどころか、人喰いザメを思わせるようにスピードを上げる。

重い主砲塔や艦上構造物を備えた艤装は先ほどの戦闘で失われている。

そのおかげだろうか。速力は32ノットを超えている。

 

『奴は何かを企んでいるぞ。撃てぇ!』

 

秀真の号令に伴い、各艦と大和たちは攻撃を再開した。

全主砲が立て続けに咆哮を続け、水柱のなかに爆焔が轟くが、《ギガントス》はさらに突進する。

8本の水柱が、またしても立ちのぼる。

今や身軽となった《ギガントス》は、ぶるっと身震いしたように見えた。

しかし、速度は緩まない。

 

『まるで奴は《ルサールカ》のようだ!』

 

郡司が言うルサールカとは、スラヴ神話に登場する水の精霊だ。

ただし精霊というよりは幽霊のようなもので、若くして死んだ花嫁や水難事故で死亡した女性がルサールカになると信じられている。

ロシア神話でも有名であり、気候や地勢に合わせるようにその姿や性質が各地方によって異なる。

南ロシアではルサールカは素晴らしい美少女の姿をしているとされ、長い金髪を持ち、透けるような白い服に身を包んでいるとも言われている。

その一方、北ロシアのルサールカは、青白い顔をした醜い妖怪のような姿で、緑色の髪と緑色のぎらつく目を持ち、巨大な乳房を垂らしているとされる。

南ロシアではルサールカは妖艶で愛嬌もあるが、北ロシアでは嫉妬深く気まぐれ、且つ邪悪な性質と考えられている。

 

「覚悟シロ、兵器ドモ!」

 

何処からか隠し持っていたのか、罪人の首・手・足などにはめて、身体を自由に動かせないための刑具――― 2本の巨大な枷《かせ》を取り出した。

直後、これを鎖の両端に錘のついた投擲武器《分同鎖》のように扱い、そしてブンッ、と思いっ切り、大和たちの足めがけて投げつけた。

 

『回避!!!』

 

大和の号令に伴い、各自は散開する。

しかし、回避する大和たちを見た《ギガントス》は不気味にもにやりと嘲笑う。

枷は獲物を見つけて集団で襲い掛かろうとするシベリアの人食いトラの如く、一度狙った獲物を捕らえ、相手の息の根を止めるまで追尾していく勢いだった。

 

『!!!』

 

先ほど顔を殴られた仕返しと言わんばかり、真っ先に狙われたのは武蔵と十勝だった。

意思を持ったかのように枷は、武蔵の右腕に、十勝の左腕に絡め、そして二人の手首に嵌まった。

 

「しまっ……うわっ!」

 

「この放せ……うわっ!」

 

「先ホドノ御礼ヲ、タップリシテアゲル!」

 

《ギガントス》は最大戦速を上げて、ふたりを引きずり回す。

大和たちの周囲を包囲して、ふたりを引きずり回すのを楽しむように喜悦な表情は、もはや狂人的な笑みと化し、そして幼児語を口にしながら、激しくスピンする。

 

「回転シマス回転シマス回転シマス、キャハハハハハハハハハ!」

 

同じ言葉を繰り返し、武蔵と十勝を引きずり回す姿は、恐怖のメリーゴーランドである。

 

『武蔵と十勝を助けるんだ!』

 

『了解!!!』

 

各自は各主砲塔を振りかざし、轟然と撃ち放つ。

この衝撃は自分たちの身体を、各護衛艦の艦体を震わせて、砲弾が飛んでいく。

大空を切り裂くような轟音を引き連れたように、《ギガントス》に目掛けて、巨弾が襲い掛かる。

しかし、不思議なことに《ギガントス》の周囲には水柱が立つことはなかった。

逆に大和たちに海水が湧き上がり、砲戦に慣れている大和たちですらもこの数本の水柱が、まるで嵐に揉まれる木の葉さながらに翻弄された。

 

「Ouch!やってくれたわね!」

 

「攻撃を跳ね返すスピンを持つなんて!」

 

「私の攻撃すら跳ね除けるなんて……!」

 

「なんて技なの!」

 

アイオワたちは、思わず舌打ちした。

この《ギガントス》の目にも止まらぬ回転スピードは―――島風の言う『速きこと島風の如く』と言わんばかりのスピンの影響のために、あらゆる攻撃を跳ね除け、最強とも相応しい大和の46cm三連装砲の攻撃ですらも通じない。

それどころか、各砲弾は跳ね返り、逆に大和たちに襲い掛かると言う恐るべき技を持っていた。

 

「ソロソロ疲レチャッタカラ、カエスヨ!」

 

スピンを止めると、ソラッ!と言わんばかりに、自身の巨大な枷で拘束した武蔵と十勝を大きく振り回し始めた。

二人は振り落されぬように、両手で鎖を持つことしか出来なかった。

眼下を見下ろして凝視すると、自分たちの下には大和たちがいた。

このワイヤーアクションとも似るこの攻撃は、天地を揺るがすような雄叫びを上げる。

空気を裂いて落下してくるふたりは、今まさに大和たちに目掛けて殺到した。

 

「まずい!」

 

「みんな避けろ!」

 

武蔵と十勝が大和たちに警告を促すも、すでに手遅れだった。

この世の終わりのような轟音を伴って、真下の海面が、槌で打たれたように圧迫される。

水柱に包まれた直後――― 雪崩落ちる海水に覆われた大和たちが姿を現した時には、大和以外は全員大破状態に陥る。

二人を助けようと、大和たちは受け止めたがあまりに重力によって増した威力とともに、放たれる衝撃波によって、彼女たちのバルジは耐えることができなかった。

 

「す、すまない……」

 

「武蔵が無事ならば大丈夫だから」

 

「姉貴、すまない……」

 

「十勝が無事ならば大丈夫ですから」

 

「姉妹を助けるのは当然のことよ」

 

安心するのは束の間―――

 

「ハハハハハハッ」

 

大破した大和たちを見て、《ギガントス》は嘲笑いながら喜悦な声を上げながら止めを刺そうと近づく。

だが、大和たちを助けようと秀真率いる護衛艦隊が、各艦砲を再射する。

 

「ウルサイ、軍国主義ノゴキブリドモメガ!」

 

多数の水柱を浴びながらずぶ濡れ状態となり、楽しみを邪魔された《ギガントス》は舌打ちをして毒づく。

苛立ちをしていると、《ギガントス》は何かを思いついたのか、先ほどの枷とは打って違い、

鎖の先端に、右手には『く』の字型を、左手には『プロペラ』の形状をした左右非対称のブーメランが装着した両鎖を振りかぶり、これらに回転を付けながら投擲する。

投擲された鎖付きブーメランは回転しながら飛翔する。

威力を増した両武器は、高速で回転しながら前進して行く。

回転軸の上側の翼は下側の翼よりも対気速度が高速になるため、より大きな揚力を発生させる。

左右の方向に旋回したブーメランは、とある2隻の護衛艦の艦体に突き刺さった。

 

『郡司、ナガタ一佐!!』

 

『しまった!』

 

郡司が乗艦する《ズムウォルト》102番艦と、ナガタ一佐が乗艦する《みょうこう》の艦体に《ギガントス》の放った鎖付きブーメランの餌食となった。

 

「衝突事故攻撃!」

 

再び幼児語を放ちながら、両艦を輌突させた。

両艦の衝撃により、内側の鋼鉄をも押し潰して、みるみる傷を深めていく。

敵の至近弾を受けたように、《ズムウォルト》102番艦は左舷後部飛行甲板に直撃に伴い、VTS操作不可能や射撃管制装置が発火した。

しかし、優秀な複製隊員率いるダメコンチームによる応急処置のおかげですぐさま鎮火した。

僚艦《みょうこう》は艦首部分と、艦砲塔を残して全ての兵装が破壊され、そして少数の乗組員たちが負傷したしたが、ナガタ一佐の冷静な判断とダメコンチームのおかげで中破に留まることが出来た。

また共通として、両艦とも航行に支障なしと言う奇跡とも言える損傷で済んだ。

《ギガントス》は縦横無尽に動き回り、無敵を誇るか如く、海自の護衛艦群にも同じように衝突事故を模倣した攻撃で全兵装を使えないようにする。

 

「博愛主義ガイル旗艦ハ……特別ニ兵器女トトモニ、海底マデノスクラップコースヲサービスシマス……アハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

再び喜悦な表情と伴い、耳を聾する嘲笑う声が戦場に響き渡る。

両手を掲げた《ギガントス》は、西部劇のカウーボーイが携えるロープのように巧みに操り、敵を絡め取らんと投げつけた。

 

『CIWSで、あの鎖付きブーメランを迎撃せよ!』

 

秀真の号令に応えて、《ズムウォルト》101番艦に搭載しているCIWSが火を噴いた。

毎分3000発以上の発射速度を誇る近接防御火器システムが、敵の鎖付きブーメランによる攻撃を駆逐せんと咆哮する。

双方の鎖付きブーメランのひとつ――― プロペラ型は20mm機関砲弾を浴びて弾かれたコインのように回転直後は引きちぎられたように砕け散った。

しかし、もうひとつの『く』の字型をした鎖付きブーメランが《ズムウォルト》101番艦の艦首に深く突き刺さった。

 

『しまった!』

 

全速後退で引き抜くことが出来ない。

標的である獲物から離れないよう返し針のような役割を担い、下手に動かすと艦体に損傷を与えてしまいかねない。

 

「ソロソロアバズレ共々、コノ人殺シノレイシストヲ公開処刑ニシテヤル!」

 

『させるか!』

 

抵抗するように、155mm先進砲がオレンジ色の閃光が噴出した。

同時に噴き出した砲煙が周囲を覆い隠し、主砲の真下の海面が、槌で打たれたように圧迫される。

抵抗の意志に苛立った《ギガントス》は、顔を真っ赤にして咆えた。

 

「堪忍袋ノ尾ガ切レマシタ…… サッサト死ネ!!!」

 

勢いよく投げようとしたが―――

 

『死ぬのはお前だがな』

 

「ナニ?」

 

呆気に取られている最中に、自身の右腕を確かめる。

見知らぬ間に何者かに鋭利な日本刀で一刀両断された右腕が、真下の海面に浮いていた。

 

「ギャアアアアアアアアア!」

 

激痛のあまりに《ギガントス》は堪えかねなかったのか、その場で傷口を押さえて暴れる。

 

『間に合ったな……』

 

「提督、遅れてごめんなさい!」

 

『大丈夫だ、みんな無事か?』

 

「はい、全員大丈夫です!」

 

秀真を救ってくれたのは、古鷹たちだ。

敵特殊艦隊を葬り去り、この危機を察知して駆けつけてくれたのだ。

 

「オ、オノレ。ヨクモ私ノ右腕ヲ!」

 

怒り狂った《ギガントス》は残りの左腕に新たに予備として用意しておいたのか、装着した鎖付きブーメランを振り回しながら突撃して来た。

 

「みんな、散開して!阿賀野さんと、吹雪ちゃんたちは提督と大和さんたちの救助を!」

 

『了解!!!』

 

古鷹の号令に伴い、加古たちは素早く散開した。

しかし、古鷹だけは散開せずに真正面から《ギガントス》に挑む。

 

「真正面カラ挑ムトハ愚カナ女ダ!」

 

《ギガントス》の挑発を耳にした、古鷹は落ち着いた口調で答える。

 

「落ちた武器を再び持つというのは素手では、私たちに勝てないと認めたということですね」

 

穏やかな古鷹も激戦を乗り越えたからこそ、心理的にダメージを与えることも戦略の内でもあると理解している。

案の定、彼女の言葉を聞いた《ギガントス》の顔は真っ赤に紅潮した。

 

「ヨクモ世界一美シイ、コノ私ヲ馬鹿ニシタナ!」

 

トサカに来た《ギガントス》は、さらにスピードを上げて突撃した。

 

「安い挑発に乗るのは負けたも当然です!」

 

すると誰よりもレーザー主砲の扱いに長けた古鷹は、各主砲から発射した光源体を空中に停止させ、これを胸の前で交差した腕を上下に素早く伸ばして右手刀と左手刀の間に大きな三日月型の光源体を形成し、これを発射した。

蒼く輝く三日月型の光の刃物は、《ギガントス》の左腕を切り裂いた。

無惨に切り裂かれた左腕は、紅き鮮血とともに空中を舞い上がった。

先ほどの右腕もこの攻撃により、切り裂かれたのだ。

 

「ウワアアアアアアアア!」

 

両腕を落とされた挙げ句、もはや追い詰められたも同然だった。

 

「今度コソ本当ニ降伏スル、本当ダ!」

 

古鷹の前にしゃがみ込み、頭を下げて謝った。

 

「嘘でないですね……」

 

「本当ダ、約束スル!」

 

泣きじゃくる《ギガントス》の顔を見た古鷹は、刻々と近づくものの……

 

「でしたら、口内に隠している武器も捨ててください!」

 

古鷹がレーザー主砲の銃口を突きつけられると、《ギガントス》は―――

 

「バレタラ仕方ナイナーーー!」

 

表情を変えた《ギガントス》は、古鷹に体当たり攻撃を喰らわせた。

古鷹は両腕をクロスさせて、受け身でカバーした。

 

「コレデモ喰ラエ!」

 

隙を与えず《ギガントス》は、口内に隠していたロケット弾の発射準備を整える。

憎悪を込めた破壊力抜群のロケット弾で、周囲に乱射しようと試みるも―――

 

「計画なしの攻撃は自滅ですよ?」

 

口を開いた瞬間に、青葉が待っていましたとばかり、発射機に向かって斉射した。

青葉が放った砲弾は飛翔を繰り返して、飲み込むように口内に直撃した。

2連装のカタパルト式ロケット弾発射擲弾器を貫通した直後、《ギガントス》の醜い顔を爆炎に包み込み、灼熱の劫火に包み込んだ。

 

「絶対ニ許サンゾ!今度ハ首ヲ切リ落トシテヤル!」

 

口から噴水の如く、《ギガントス》は吐血しながらも戦意はまだ失うことはない。

足元に装着していた剣状の刃物を投げようとした直後、さらに後方から予想外の攻撃が来た。

 

「させねぇーよ!」

 

加古は凄まじい勢いを込めた飛び蹴りを《ギガントス》の後頭部に喰らわせた。

彼女の蹴り攻撃を諸に喰らった《ギガントス》は、顔から眼球が飛び出した。

突如と視界が遮られ、激痛のあまり眼球が飛び出た状態で走り回り、もはや敵わないと知り逃げようとした。

 

「逃げても無駄よ!」

 

災厄はまだ終わらない。

逃げようとする《ギガントス》の背中を、衣笠は狙撃した。

放たれた徹甲弾を浴びて、吹き飛ばされる衝撃波を浴びた《ギガントス》は航行不能に陥ったものの、最後の反撃と言わんばかり足元に装着していた隠し剣を射出した。

勢いよく射出した剣は、古鷹に向けられた。

 

「ヨクモ世界一美シイ私ヲ汚シタ神罰ダーーーーーー!!!」

 

これで相討ちが出来ると思いきや、裏切る結果を目にした。

古鷹は撃ち放たれた剣を両手で受け止め、止めを刺すためにこれを投げ返した。

奪い取られた己の武器が、自身に返ってきた。

避ける気力を失った《ギガントス》は、吸い付かれたように自身の剣が胸に突き刺さり、力尽き、その場で絶命したのか完全に倒れた。

 

「作戦終了です……」

 

ホッと胸を撫で下ろした古鷹の言葉を掻き消そうと、《ギガントス》は立ちあがった。

 

『ハハハハハハッ!馬鹿な博愛主義者どもご苦労さん!』

 

《ギガントス》の深海棲艦のような片言ではなく、紛れもない中岡の声そのものだった。

口内にあった破壊されたロケット弾発射擲弾器から、ラジオらしき物に切り替わっていた。

連邦らしい挑発行為だなと、秀真は言った。

 

『お前たちが馬鹿な囮艦隊を相手にしている間に、我々の本隊がもうすぐ本土に核ミサイルを搭載した戦略爆撃部隊で神罰を与えます!日本は世界中の多くの馬鹿に看取られながら三度目の神罰たる核兵器に伴い、日本本土は我々神に浄化される記念すべき日へとなります!

想像しただけでもアハハハッ! アハハッ! アハハハハハハッ!』

 

不毛する笑い声を高らかにした直後、《ギガントス》の身体から電気が漏電した。

 

『お前たちは日本が滅び行く最後が見れなくて残念でした!最後にお祝いの言葉を贈ります。お前たちの大事な元帥たちとともに、日本死ね!』

 

捨て台詞を吐き終えたのか《ギガントス》は、放電と火衣を纏った状態で突撃した。

連邦の十八番である自爆攻撃と察知した古鷹は、各主砲から発射した光源体を再射――― 先ほどの三日月型の切断力場とは同じだが、今度は垂直ではなく水平に形成したものを発射した。

切れ味抜群の光源体は、《ギガントス》の首に喰い込むと容赦なく切り落とした。

首が切り落とされたことにより、ゆっくりと錆びついた機械のようにぎこちない動きをしていた。

 

「みんな、止めを!」

 

『分かった!(分かりました!)』

 

止めを刺さんと、古鷹・加古・青葉・衣笠の各レーザー主砲を斉射した。

蒼きレーザーを一点に集中させて、これらを《ギガントス》に浴びせた。

彼女たちの集中攻撃を浴びた《ギガントス》は、ついに耐えることが出来ずに爆焔の花が周囲に咲き乱れ、見る者全てを終焉へと誘うように膨大な火焔の塊となり、やがて大きな水柱を上げて爆発四散した。

 

『安堵は束の間だ、奴らの戦略爆撃部隊を迎撃するようにTJSや空自に連絡するんだ!』

 

『任せろ、同志!すでに通信を送った!』

 

古鷹たちも疲労と伴い、大和たちは満身創痍であるため、一時的だが赤城たちなどが待機しているトラック泊地で緊急処置と補給をした後に、本土に戻らなければならない。

 

『全艦隊、この場から撤退する!空母《アカギ》は上空警戒して、他は単横陣を維持しつつトラック泊地を目指す!』

 

全艦反転。無事勝利したとは今回は敵の策略に嵌まってしまったため、苦い勝利とも言えるこの戦いを教訓として、各艦隊はトラック泊地に向かった。




今回は久しぶりに8000文字未満になりました。
なお今回は古鷹にも限定グラが出て、流石に気分が高揚します(加賀さんふうに)
余談ですが呉で最新鋭ヘリ搭載護衛艦《かが》を友人と見ることができて、こちらも戦意高揚になります。
もちろん長迫公園と、青葉慰霊碑にも訪問して手を合わせました。

灰田「ともあれ、時間が掛かりましたことに関して申し訳ありません」

こちらも遅れて申し訳ありません。
今回の《ギガントス》は、前回述べた通り本当にずる賢い個体にしました。
もはや超獣武器庫こと、殺し屋超獣バラバみたいになりましたが。
口内に隠していた兵装は『アカメが斬る!』からヒントを得て、銃からロケット弾に変えました。
幼稚言葉で罪悪感なし且つ、残酷さも加わりました。

そして今回は古鷹無双になりました。
浴衣古鷹可愛いです、古鷹可愛いよ古鷹!
ここで述べますと語りきれないほどにならないので以下略しますので、ご了承下さい。
この調子で古鷹たちの四季限定グラ増えて来て欲しいです。

古鷹「嬉しいですが、恥ずかしいですね////」

灰田「あまり長くなり兼ねませんので、私が予告しますね。
次回は連邦の戦略爆撃部隊が、日本報復作戦“ネメシス作戦”が実行されます。
なお彼らを迎撃するためにTJS社などの航空部隊がこれらを迎撃します。
果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかは、次回のお楽しみに」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
最終回まで自分のペースで執筆していきますので、お楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

古鷹「ダスビダーニャ!」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十八話:”ネメシス作戦”発動!

お待たせしました。
事情により、少し内容変更にアメリカ・連邦の双方の報復作戦”ネメシス作戦”の詳細と伴い、日本視点を送りますのでご了承ください。

灰田「なお久々に私もご登場いたしますのでお楽しみを」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


連邦・深海棲艦による合同囮艦隊が秀真・古鷹たちと交戦中に、連邦とアメリカが考案した日本報復作戦とも言える“ネメシス作戦”は着々と準備されていた。

アメリカ政府としても、連邦亡命政府軍としてもZ機こと《ミラクル・ジョージ》に偽装したB-52部隊を伴い、護衛機の作戦に賭けざるを得なくなった。

 

もはや囮艦隊が全滅しても、悠長なことはやっていられない。

日本の中枢都市を狙うべきだと考え、コンドン大統領の承認も取ることもできた。

先の大戦では単機で行なったが、再び訪れたとも言えるこの報復作戦では多数の囮機も交えて日本本土を目指すと言うものだ。

その方が敵を混乱させることもでき、さらに成功率も高くなるだろうと考えたからだ。

 

囮機としてZ機に偽装したB-52を10機あまりだし、他に観測機、そして本命の核ミサイル搭載機を出撃させる。

恐らく敵の攻撃は熾烈且つ、生還率の低い特攻作戦となるだろう。

ましてや中部の都市にまで戦略爆撃機が襲ってくると言うのは、彼ら日本人にしても由々しき事態だからでもある。

 

各囮機は消耗品―――つまり使い捨て部隊と言うことになる。

本命機である《エクスカリバー》だけが守られ、日本本土に核ミサイルを撃てば良い。

非情な連邦戦略爆撃司令官は、そう考えた。

また護衛機として用意されたF-15SE《サイレントイーグル》には、米連双方から選抜された技量・実戦経験豊富なエースパイロットたちが護衛することに決まった。

日本本土まで護衛したら、迎撃機を妨害して飛行すればいいだけである。

ただし本土までは都合により、給油は一度だけの空中給油を除き、ほかは全てB-52部隊のみとするために、各機には増漕タンクを3つ取り付けることにする。

F-15SEの最大航続距離は、通常は3862 キロ。

しかし増漕タンクを取り付けることにより、最大航続距離5750キロも伸びる。

日本本土上空に侵入すると同時に、ドロップ式増漕タンクを落として、身軽になって敵機と戦えるようになる。

それでも航続距離は片道として、帰投は望まれない。

しかし味方潜水艦が待機しているが、日本近海を探知される可能性があるので敵艦にやられる可能性は高いが、可能な限り留まることにしている。

多少の不満はあるものの、双方の司令官はそれで満足せざるを得ない。

米本土にある軍用基地には、着々と日本機に偽装したB-52及びF-15SE部隊が次々と準備を終えて、発進した。

《エクスカリバー》を含むB-52部隊12機に伴って、エースパイロットたちが操るF-15SE部隊30機、空中給油機3機が参加すると言う長距離遠征作戦である。

しかし、ようやく日本本土に殴り込めるかと思うと、米連双方は胸が高まった。

その一方では、一部の米空軍司令官たち側は必ずしもこの擬装部隊を使った報復作戦とも言える奇襲計画を考えていたわけではなかった。

奇襲ならば、かつての広島・長崎の原爆投下をしたように1機であるのが望ましい。

またはステルス爆撃機B-2《スピリット》を使って、奇襲をした方が良い。

このイカれたとも言える報復作戦(実質は特攻作戦)では、日本の《ミラクル・ジョージ》に偽装したB-52戦略爆撃機12機にしたのは、日本本土領空は守りが厳しく、どうあがいても奇襲は無理だと判断したからである。

最悪の場合、この10機を犠牲にしても核ミサイル搭載機《エクスカリバー》だけを日本の大都市に到着させれば良いと言うことだ。

 

問題は攻撃目標である。

双方の計画では日本の大都市であり、首都とも言える東京に核ミサイルを発射すれば良いと提案された。

だが、当然と言うべきか日本も馬鹿ではない。

何かしらの対策を打っているに違いないと言うことで却下された。

以前ならば小笠原諸島周辺はレーダー基地がないため、気付かれることはなかった。

だが、中国が海洋進出を狙おうとした際に防空識別圏などを、皮肉にも日米共同で強化したことも加えて、連邦海軍と深海棲艦による合同囮艦隊による第二次トラック泊地襲撃作戦で目撃されないためにも、どうしても迂回をしなければならない。

しかし、彼らは秀真・古鷹たちが勝利した直後――― 爆発寸前の《ギガントス》の体内に隠されていたラジオで中岡元連邦大統領がこの機密を漏らしたことは知らなかった。

例え知っていても回避する術はなかったに違いない。

 

 

 

第二次トラック諸島沖海戦での激戦で勝利したものの、中岡元連邦大統領の核ミサイル搭載機部隊による日本本土攻撃を聞いた安藤首相たちは蒼ざめた。

日本は過去に、あの大東亜戦争で二度も原爆と言う核兵器の攻撃を喰らった。

多くはアメリカ人の命を救うために使用したと言われているが、実際にはこの実験成果をアメリカ政府は知りたかったために投下したのが現実だ。

しかし、戦後では洗脳教育によりこの真実は隠蔽されてしまった挙げ句、誇りと愛国心を奪われてしまったのだ。

しかも戯言に等しい、今日まで非核三原則を謳っている。

原爆慰霊碑でも『安らかに眠ってください。過ちは犯しません』と言うが、これでは日本が投下したように聞こえる。

ルーズベルト大統領や、彼の死後に後継者となったトルーマン大統領たちと言った者たちが投下命令を出したのにも関わらず、戦後はアメリカに御世話になったのか忘れている。

普通の国ならば二度と悲劇を繰り返さないためにも、核兵器を保有するのが普通であるが。

会議中に例によって、部屋の一隅と霧のようなものが出ると、そこから灰田が現われた。

 

「みなさん、お久しぶりです」

 

全員は彼の登場に驚かずに冷静だった。

 

「第二次トラック諸島沖海戦では囮ではありましたが、無事敵艦隊を葬ったようですね。

しかし、戦いに良いことばかりではありません。秀真提督たちの緊急情報も大切ですが、また新しい危機的状況が出現したので、お知らせに参りました」

 

「ふむ。なんだね。危機的状況とは?」

 

元帥は訊ねた。

口調は穏やかだが、胸の内は穏やかではない。

大和たち大破を始め、駆けつけた護衛艦隊は撃沈されなかったものの多くが中破ないし大破と言う報せを受けて、冗談ではない。

不幸中の幸いと言えば、もはや敵艦隊は殲滅されたため、太平洋海域を進出する力は失われたと言っても良いが。

ともかく双方とも、執拗な相手だ。

元帥は双方ともやりかねないと察していたつもりだったが、ここまで粘り強く抵抗することに驚かされている。

 

「実は例の核攻撃のことです。ご承知の通りアメリカと連邦亡命政府は横須賀攻撃に失敗したわけですが、ハワイ諸島壊滅と合わせて、その新たな報復作戦を打ち出しました。

それは米本土の空軍基地を基点とする日本本土中部……正確に言えば名古屋の核攻撃です。

私の入手した情報では、横須賀攻撃は使い捨ての潜水艦と僚艦だけでしたが、今回はTJS社の空軍部隊と空自の迎撃が予想されるので、Z機に偽装した護衛機を含めて囮機を10機、観測機を1機、そして核ミサイル搭載機1機と合わせて12機。

これらを護衛する双方のエースパイロットたちを搭乗させた30機ほどのF-15SE《サイレントイーグル》部隊が護衛すると言うことです。

さらに迂回するために墜落を防ぐため、空中給油機3機も伴っています。

なお護衛機部隊は大型増漕タンクを装備しており、日本上空に侵攻したら切り捨てます。

帰投は日本近海に不時着して、潜水艦で救助されるようです」

 

全員顔を見合わせた。

この新たなる情報が事実とすれば、由々しき事態である。

 

「なんと、横須賀の次は名古屋なのか」

 

安藤首領は呟いた。

 

「性懲りもなく、両者とも本腰を入れに掛かってきたな。元帥、杉浦統幕長。これらを阻止するだけの戦闘機部隊は手当てできるか?」

 

「ケリー社長たちの御自慢の部隊はいつでも大丈夫だ」

 

「はあ、問題ないと考えます」

 

元帥と、杉浦は答えた。

 

「空自はF-15Jを始めF-3《心神》、F-2支援戦闘機、F/A-18E《スーパーホーネット》を全て北九州に集めて、TJS社の空軍部隊とともに迎撃しましょう」

 

「ふむ。頼んだぞ」

 

安藤が念を押した。

 

「ふむ、それでどこでB-52部隊を迎撃するのですか?」

 

灰田が訊ねる。

 

「それはむろん九州だ」

 

杉浦が答える。

 

「五島列島と天草、薩摩半島には空自の対空レーダーを備えている。九州上空をどこを通っても対応できる」

 

深海棲艦が出現する際に、日本は中国・韓国・北朝鮮の脅威に晒されていた時に防衛費を増やして配備した。

特に中国軍機による領空侵犯は年々増加してきたが、尻馬に乗って韓国軍も同様の侵犯行為をして来たのである。

現在でもこのレーダーは大いに役立ち、先の戦いでも貢献したほどだ。

 

「なるほど、それで結構でしょう。敵機は飛行ルートを誤魔化しつつ大遠征をしなければならないので、九州を通過することは明らかですな」

 

灰田は言った。

 

「ではぜひともその線で準備を進めて下さい。それでは健闘を祈ります」

 

灰田はそう言うと、すうっと消えた。

残された安藤・元帥たちは一瞬呆然としたが、すぐに現実に立ち戻った。

秀真たちの情報に伴って、灰田が寄こしてくれた新たな情報が事実だとすれば……これは大変なことである。

万が一、迎撃に失敗したときのことを考えて、名古屋の住民を避難させておかねばならないが、現実問題としてとても無理なためできない。

ここは一致団結して、これらを殲滅しなければならない。

 

これが当時の日本海軍と、陸軍ならば協調はしなかった。

どこの国でも犬猿の仲は存在しており、あのアメリカも例外ではなかった。

もっとも重要なときには、例え仲が悪かろうと現実に立ち戻って協調した。

それがアングロサクソンの現実主義である。

 

しかし、日本の陸海軍は最後まで互いに協調することを知らなかった。

その極め付きは、海軍に要請するはせず、陸軍が自前の揚陸艦と輸送用潜水艦を造ろうとしたほどである。

こうした馬鹿なことをやっていたら、アメリカに勝てるわけがない。

双方の主力戦闘機でも1機共同などせず、資源の奪いなどしてお互いの足を引っ張った。

もしもお互い犬猿の仲であろうと、戦うときは手を取り合っていれば少しは違った結果が生まれたかもしれない。

現代はそのような事を忘れて、陸海空の全自衛隊は協調している。

 

次は、九州一円の何処かに主力部隊を配備するかと言う話になった。

杉浦は北九州を通るに違いないと主張し、北九州にある飛行場に航空機を集めるべしと主張した。

元帥は敵の針路を見て、九州南端をかすめてくる可能性が強いと推測した。

なにしろ敵も馬鹿ではない、我々が迎撃機を出すことぐらいは承知しているはずだ。

したがって、南九州一帯の飛行場に主力部隊を置くべきだと主張した。

 

議論は数分ほど交わされたが、お互いの協調を忘れずに九州全体にある各空自基地に両者の主力部隊を配備することになった。

抜擢された部隊は、連邦の沖縄攻略作戦『征球作戦』時に活躍したTJS社の空軍―――F35、Su-35、ユーロファイター、タイフーン部隊である。

空自のF-3《心神》部隊もともに協力する。

そして九州で撃ち漏らした場合に備えて、中部地方でもF-15J率いる迎撃機を待機することに伴い、PAC3を重要都市部に、海自は敵護衛機のパイロットたちを回収するだろうと思われる海域を哨戒することに決定した。

これらはあくまでも保険である。

 

双方のパイロットたちは最高のベテランが選ばれている。

B-52はもちろん、F-15SE部隊も元々は米軍の機体であり、今までの旧式機を大半に保持していた連邦亡命政府軍とは強さの桁が違う。

 

灰田の情報では敵は奇襲攻撃を考えているが、B-52のような大型戦略爆撃機12機も飛行して来る時点で、どの針路を飛行しても奇襲には成り立たない。

そこが解せない、連邦らしいと言えば言えたが。

 

ともかく、時間が足りない。

二日以内に全部隊を配備ないし、展開しなければならない。

各軍は目が回るほど、忙しくなったのだった……




今回は少し内容変更に伴い、前回では明らかにされなかった連邦軍が攻撃しようとした大都市は名古屋を目標にしています。

灰田「因みに元ネタは『超戦艦空母出撃』で、B-29部隊による攻撃をしています。
なお私の久々の登場に気分が高揚しています」

なお余談ですが、某FPS『レジスタンス3』では名前のみですが、とあるステージで放置されたラジオの放送で名古屋が出ています。
崩壊した世界でもキメラ相手に善戦しているようです。

灰田「ほかの世界では大阪も宇宙人の兵器を撃破したこともありますからね」

最近では『CoD:IW』では、ズールー級DDX誘導ミサイル駆逐艦《エクリプス》が埼玉県で建造されていると言う場面は驚きました。
ニンジャスレイヤーのように、ネオサイタマになったと思います。

灰田「おそらく影響を受けたのではないかと思います」

駆逐艦と言っても《タイガース》などの連装砲は、かつての重巡洋艦みたいです。
遠い未来では復活していると思います。

灰田「あまり長くなり兼ねませんので、今回も私が予告しますね。
次回は彼らを迎撃するためにTJS社と空自の航空部隊などがこれらを迎撃します。
果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかは、次回のお楽しみに」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百十九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百十九話:ネメシス部隊、東へ

お待たせしました。
予告通り、ネメシス部隊を迎撃するためにTJS社と空自の航空部隊などがこれらを迎撃します。

灰田「果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか?」

それでは改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本に報復しようと飛行中のZ機こと、《ミラクル・ジョージ》に擬装したB-52部隊と、彼らを護衛するF-15SE《サイレントイーグル》部隊は1万メートルの高度を保ちつつ日本を目指していた。

これらは高高度を飛ぶほど、燃費が良いからである。

最終的に行程としては、北九州を通り、瀬戸内海、紀伊半島まで通過することが理想的だが、言うまでもなく当然この当たりも敵の防空網も密だろう。

したがって、航続距離が伸びることを承知の上で、九州地方の海上を通り、四国地方沖、紀伊半島沖合を抜けてから、一気に北上することに決定した。

ここであれば、迎撃機の妨害を受ける危険が少しでも減らすことが出来る。

双方の空軍司令官としては、できる限り無駄な危険を冒すことは出来なかった。

もはや連戦で疲れ切っているのだが、中岡たち依然として『艦娘たちを滅ぼし、世界を支配するのは我が連邦と、偉大なるアメリカ合衆国だ!』と、狂人じみた発言をする狂人たちとともに進むしかないのだった。

 

日本報復作戦“ネメシス作戦”に集った日本本土侵攻爆撃部隊は、飛行針路を迂回しつつ、一路東シナ海に向かった。

 

その一方、日本では―――

前日の朝から、各軍は警戒を怠らなかった。

これらの攻撃が一日も早まる恐れもあったからである。

しかし、この日は敵影など確認なしで何事もなく、後日を迎えた……

九州各地の空自基地では、TJS社と空自の合同部隊は緊迫の度合いが高まった。

資料で見たことのあるハワイ諸島沖の原爆の威力を海自の潜水艦が、秘かに撮影した映像を見ているので、これがもし名古屋まで発射されて爆発したらと言う恐怖がある。

現在の核兵器は、過去に日本に投下された原爆よりも威力も桁違いである。

仮に名古屋に核ミサイルが炸裂した場合、あの悲劇以上よりも悲惨になることは確かである。

だからこそ、命を懸けてでも護らねばならないのだ……

 

 

 

B-52部隊は、フィリピン海を過ぎた辺りから順次給油を始めた。

F-15SE《サイレントイーグル》部隊は、その前方と上空を旋回しつつ、警戒態勢を怠らなかった。

このF-15SE《サイレントイーグル》部隊の指揮官は、米軍はノックス大尉と、連邦空軍は

サンヨブ・キム中尉だった。

双方とも操縦技量も豊富且つ、実戦経験豊富なパイロットであり、エースでもある。

しかし、ノックス大尉は悲壮な決意を固めていた。

日本本土に殴り込み、つまり報復をせんと言うのに、僅か30機の《サイレントイーグル》に護衛させると言うことだ。

せめて最低限でも、護衛機100機が必要不可欠だ。

こんな作戦を立てた指揮官―――あのハゲメガネゴリラこと中岡元連邦大統領と、その無能に服従する双方の指揮官たちは、馬鹿だと言うのが内心の思いだった。

帰投時は機体ごと何処かに着水して、潜水艦が回収してくれると言うが敵の制海権のなかで白昼堂々と出ることはない。

浮上するとしたら、夜になるためそれまでは待機している。

その一方、サンヨブ・キム中尉率いる連邦空軍パイロットたちは戦意高揚状態であるのは気楽だと言うことは何時もと変わらないが。

 

これはノックスの意見の方が正しい。

連邦亡命政府軍と、アメリカ合衆国政府は功を焦ったのか、このような報復作戦を立てたのだが、日本本土の防空網の分厚さを考えれば、12機のB-52と30機のF-15SE部隊ではどうにでもなるものではない。

かつて日本本土を空襲したB-29部隊は、100機単位で行なわれた。

当初は護衛機なしと言う裸状態であるために、当然日本軍の猛烈な攻撃により、B-29部隊は一度の空襲ごとで、数十機と言う犠牲を出した。

米軍が硫黄島を欲しがっていた理由は、ふたつあった。

ひとつは空襲の際に、日本機の追撃で損傷した機体の緊急着陸基地とする。

もうひとつは当時、最速長距離護衛傑作戦闘機としても有名なP-51《ムスタング》の発進基地として占領することでもあった。

ここまで作戦段階を計画していたからこそ、成功したのである。

 

今回は空中給油を利用してから作戦であるから不要である。

だが、あまりにもお粗末と言うべきか、中途半端な作戦であることに変わりない。

日本中部に進攻するならば、少なくとも100機のB-52部隊が必要だが、それだけの機数を与えるほど合衆国は甘くない。

最近ではマーカス長官率いる講和派が薄々、日本に講和を求めているために工作をしたとの噂もあるが定かではない。

ともかく、コンドンや中岡たちは日本に一矢報いたいと言う思いで立てた拙速の作戦だったのである。

連邦は元より、これをオーソライズした双方の上層部たちも同罪である。

しかし、誰にもこの放たれた矢は止めることは出来ない。

 

B-52部隊は給油を行ないつつ、東シナ海を通って、一路九州南海海域に向かった。

すでに全機補給は終わり、役目を果たした給油機は全機引き返した。

給油機も後に合流場所で、別の給油機から補給を受けて米本土まで帰投することも抜かりないようにしている。

屋久島の南方上空をかすめて、擬装部隊は九州沖合に進攻した。

 

しかし、その前にここで米連合同軍にとって思いがけない出来事が起こった。

薩摩半島に据えられていたレーダーが前日に故障を起こしたため、その代わりに空自のE-767早期警戒機(AWACS)がこの周囲を警戒していたのである。

したがって国籍不明機をキャッチした空自は、米連合同空軍―――通称『ネメシス部隊』が襲来して来たと打電した。

早期警戒機は気づかれないように、この擬装部隊を警戒しつつ、偵察して行った。

そうとも知らずに南九州の警戒網を悠々と飛行する『ネメシス部隊』はあと少しで目標針路である四国沖合を目指していた。

 

この時の『ネメシス部隊』のB-52部隊指揮官は、シマード少佐である。

少佐は、核ミサイル搭載機の機長である。

友軍が提供してくれた情報では、四国にはレーダー基地は存在しない。

しかもここを空襲すると言ったメリットもないに等しく、ここでは自分たちは捕捉されないと言うことは聞いている。

しかし、紀伊半島南端潮岬にはレーダー基地があるため、捕捉される可能性は高い。

だが、こちらにはステルス塗料を機体に塗っており、さらに日の丸を付けて擬装しているため、捕捉されても誤魔化すことが出来ると確信した。

まさか自分たちの《ミラクル・ジョージ》だと思い、敵は友軍機には攻撃してこないだろうとも安易に考えた。

そしてこの九州沖合を抜けたら、四国沖合、次に紀伊半島沖合から志摩半島沖合に針路を変針しつつ、伊勢湾を超えたら、攻撃目標である名古屋上空に進攻して、自分たちが操縦する指揮官機《エクスカリバー》に搭載された核ミサイルを発射する。

この無茶な作戦が成功すれば、奇跡とも言える勝利を掴むことが出来ると考えた。

また戦前に見た写真では、紀伊半島から志摩半島のリアス式海岸を任務中に見ることができる。

この目で飛行中に本物の双方のリアス式海岸を見ることができたら良いな、少佐はそう考えた。

 

少佐とは反対に、サンヨブ・キム中尉率いる連邦空軍部隊は真逆である。

名古屋上空に辿り着いたら、兵装がある限り、破壊の限りを尽くすつもりである。

宮城・仙台で起きた空襲をしたように、日本人を虐殺したくて堪らない。

漸く自分の手で日本を一矢報いることが出来る、このために生きてきたと思うだけでも嬉々な気持ちに伴い、気分が高揚して行く。

ここまで開き直れる軍隊は、共産圏ならではの伝統なのかもしれない。

 

人命なんて紙切れと同じく、軽いに等しい。

彼らが崇拝している自称『アジアの偉大なる指導者』と滑稽・無能とも言える毛沢東と、彼の愛人こと江青とともに『大躍進政策』や『文化大革命』の名を付けたプロジェクトと言う無能な計画では、ソ連と言う存在に嫉妬心を抱いたために多くの餓死者を出した。

それにも関わらず、自分たちは自己弁護を最期までして贅沢三昧をした。

また金日成でも朝鮮戦争時には、アメリカ率いる国連軍に負けた際にも自分が立てた作戦で敗戦の責任は全て自分の部下たちに罪を擦り付けて、全員射殺した。

ことある事に責任転嫁を後継者、金正日から、その息子もその祖父を真似して側近たちを次々と粛清した。

スターリンにいたっても疑心暗鬼を常に持っており、赤軍大粛清でも多くの指揮官などをいとも簡単に粛清した。

彼ら連邦亡命政府軍は劣勢でも必ず勝利することができる、太陽と輝く存在に相応しい中岡連邦大統領様の御加護があると洗脳されたも当然だった……

 

 

双方のそれぞれの思いが重なったとき、シマード少佐の隣にいた副操縦士が叫んだ。

 

「前方に敵機、100機以上はいる模様!」

 

彼だけでなく、《サイレントイーグル》部隊の指揮官―――米軍のノックス大尉と、連邦空軍のキム中尉も同時に、敵影を捉えた。

 

『タリホー!!!』

 

無線マイクでキツネ狩りのときに、獲物を見つけたと叫ぶハンターの掛け声が響き渡る。

 

『各機油断するな!』

 

ノックス大尉の号令で、各《サイレントイーグル》部隊は増漕タンクを捨てて、加速させると前方に出て、各機散開した。

 

自分たちが日本上空を進攻した時点でレーダーに察知されており、敵機はやって来るのだと、ノックスは思った。

このまま名古屋に到着させるほど、日本軍は甘くない。

 

『敵機は多国籍軍も混じっているが、俺たちの敵ではない!連邦の根性を見せてやれ!』

 

キム中尉が言う敵機とは、TJS社所属の精鋭パイロットたちが操縦する米軍自慢の最新鋭ステルス戦闘機F-35とロシアの傑作機Su-35に続き、英国を始めとするヨーロッパ各国で制式採用されているユーロファイタータイフーンである。

そして空自部隊も同じく精鋭パイロットたちが操縦するF-15J《イーグル》部隊に、日本独自且つ、和製版F-22とも言えるF-3《心神》ステルス戦闘機部隊が各機20機ずつ、合計100機が襲い掛かって来た。

 

互いにアフターバナーを噴かせつつ、蒼空とダンスを交わすように熾烈な空戦が展開する。

各《サイレントイーグル》のパイロットたちは、日本戦闘機部隊に対して、絶対の自信を持っていたが―――

 

数多くの実戦経験を誇る自分たちよりも、ひと味違っていた。

寧ろ自分たちよりも実戦経験が高く、神業とも思われるパイロットたちが多いとも思えた。

ノックスと、キムはたちまち奴らは並々ならぬ相手にぶち当たったと悟った。

 

敵機の半数機は、《ミラクル・ジョージ》に擬装したB-52部隊に襲い掛かった。

だが、大人しく撃ち落されてなるものかと、Z掃射機を模倣した改装されたB-52掃射機が装備した20mmバルカン砲が火を噴いた。

輪形陣を模倣するように、飛行編隊を組んで対空射撃で敵機を近づけさせない。

しかしZ機掃射機改が搭載している未来の自動追尾照準機ほど遠く、数撃てば当たるようなものである。

 

必死の抵抗も空しく、F-35を筆頭にTJS空軍部隊とともに、空自のF-3《心神》とF-15J部隊の猛烈な各対空ミサイルの攻撃に3機が被弾、やがて烈火に包まれて火達磨と化した機体は空中爆発を起こす。

だが、シマード少佐が操縦するB-52核ミサイル搭載機はまだ無事ものの、護衛の掃射機は次々と撃墜された。

空中戦が始まり、自分たちの作戦が不利になるとあらかじめ定められた信号を送り出していた。

このサインはもしも搭載機が撃墜されたら、これ以上は進撃せず、直ちに引き返せと言う手順になっている。

 

TJS社と空自合同部隊の闘志が猛烈なのは、むろんの名古屋を死守することの意味を聞かされているからである。

日本を三度目の核攻撃を、核ミサイルを名古屋上空に発射させてはならなかった。

米連合同部隊の《サイレントイーグル》も善戦して、空自のF-15Jを5機撃墜したが、同等の犠牲を払った。

実戦経験のレベルに伴い、数が多いTJS社と空自が有利になる。

 

ノックス大尉と、キム中尉も自分たちの腕を信じてドックファイトを繰り返して、なんとか撃墜しようと奮戦していた。

この時、両者は各3機ずつF-15Jを撃墜したが、それ以上は限界だった。

それ以上に搭載兵装も全て使い果たしたゆえに、両者の疲労と精神力も限界に達していた。

 

ノックス機にはF-35とSu-35、ユーロファイターの各TJS社の空軍機によるミサイル攻撃が襲来して来た。

だが、搭載していたフレアはすでに使い果たしたために回避することも出来ずに、空中で爆散した。

燃える棺桶となり、墜ちていく操縦席では死体となった彼を迎えるように蒼海に着水して静かに沈んだ。

 

キム機には空自のF-15JとF-3《心神》の20mm機関砲による機銃掃射を喰らった。

双眸をギョッとした直後、操縦席ごと破壊された。

噴き出た鮮血が飛び散り、ガラスを真っ赤に染めた。

人体ごとミンチ以下となり、パイロットを失った機体はきりもみをしながら海面に着水すると、大きな水柱とともに消えて行った。

 

護衛の掃射機は日本の《ミラクル・ジョージ》の改良版―――Z掃射機改のように威力を発揮出来ず、米連合同護衛部隊の《サイレントイーグル》は全機撃墜された。

周囲にいる戦闘機部隊は、全てTJSと空自の戦闘機である。

 

Z機に擬装したB-52部隊は6機が生き残り、諦めずにまだ進撃していたが、悪運強くシマード少佐の核ミサイル搭載機もそのなかにいた。

 

しかし、ついに彼らの強運も尽きる時が訪れた。

シマード少佐が操縦する機体の真正面に向かって来たTJS社所属のユーロファイターの機銃掃射により、コックピットを撃ち抜かれた。

この攻撃でシマード少佐と、隣にいた副パイロットも悲鳴を上げる暇もなく即死した。

また両翼とターボファン・エンジンも撃ち抜かれた核ミサイル搭載機《エクスカリバー》はあえなく海面に向かって急降下し始めた。

 

このシマード機には目印として、尾翼に黄色のストライプが巻かれている。

これが撃墜されて行く様子を見た生き残ったB-52のパイロットたちは、たちまち意気喪失して反転し始めた。

敵機の攻撃を避けて旋回を繰り返したため、各機は高度8000メートルに落としていた。

 

そこに増援として追撃しに来たTJS社と空自の合同戦闘機部隊が襲い掛かった。

合計50機に完全包囲された挙げ句、生き残ったB-52部隊も全機撃墜された。

 

ここに中岡たち連邦亡命政府と、アメリカの野望はあえなく潰れた。

 

奇襲か―――

 

強襲か―――

 

それをはっきりさせなかったと言う両者の落ち度、つまり戦術的敗北でもあったのだった。

元より第二次トラック諸島沖海戦で、情報を洩らした時点で彼らの負けでもあったのだ……

 




今回は危機一髪とも言える米連合同部隊ネメシス部隊の作戦は見事に阻止されました。

灰田「本編にはないオリジナル展開でありましたが、楽しめていただければ幸いです」

なおキム中尉の元ネタは『CoD:IW』の登場敵勢力SDFに所属するエースパイロットです。
宇宙戦争でも連邦軍に似た敵勢力いるとは……
ともあれ、馬鹿な大統領が情報を洩らした時点で負けフラグを立たせてもいましたけどねw

灰田「原作の『超戦艦空母出撃』では、間一髪の展開でありましたけど……一難去ってまた一難でありましたが」

次回でついに本作品は120話を迎え、あと少しで完結することが出来る嬉しさに伴い、寂しさもあります。

灰田「最終回まであと少しですが、頑張って行きましょう」

張り切って行きましょう!(魔王睦月ふうに)
では、次回に移ります。

灰田「次回はアメリカ視点から送りたいと思います。
この報復作戦後に、誰もが予想しなかった出来事が起こります。はたまたどんな展開かは次回で明らかになります」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十話:ホワイトハウス、炎上ス!

お待たせしました。
予告通りアメリカ視点に伴い、誰もが予想しなかった出来事が起こります。

灰田「原作とはまたひと味違った展開になりますが、楽しめていただければ幸いです」

そして皆様の応援のおかげで、本作はついに……
第120話を迎えました!ありがとうございます!
気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


アメリカ本土から精鋭部隊を収集して、編成された擬装部隊こと『ネメシス部隊』は《ミラクル・ジョージ》に擬装したB-52はむろん、エースパイロットたちが搭乗した護衛長距離戦闘機《サイレントイーグル》も1機すら帰投しなかった。

それどころか、日本本土で戦術核ミサイルが爆発して名古屋が壊滅したと言う発表すらなかった。

 

これがないと言うことは、米連合同の日本報復作戦”ネメシス作戦”は完全に失敗したとケリー長官は判断した。

また大統領に、どういうふうに説明すれば良いかと悩んでいた。

 

この長距離遠征作戦を改め、中岡たち率いる連邦亡命政府の十八番とも言える捨て身の特攻作戦がもしも形勢逆転として名古屋上空で起爆、報復に成功したら……

 

報復として、アメリカの非道さをなじめるためにも必ず日本は世界中に公表するはずである。

仮に出来たとしても、北海道・十勝基地にある日本のステルス重爆こと《ミラクル・ジョージ》を破壊しようとロサンゼルス級攻撃型原潜《トピーカ》と《バッファロー》に搭載されたウォーヘッド(戦術核弾頭)を付けたトマホーク・ミサイルを4発も発射したが、全て不発に終わったことを覚えている。

また未来人が供与したあのシステムのように妨害された可能性も高いと推測した。

 

「これらを説明すれば大丈夫か……」

 

ケリーはむろん、後の集会でそう説明すれば良いと思った。

 

 

 

かつてアメリカの世論では、誰もが先の大戦での日本の原爆投下は正当化された。

しかし、近年のアメリカの若者や常識人たちは『間違いだ』と反論することが多くなった。

そして『日本と戦うべきではなかった』と主張する者たちも言うぐらいあの戦争を泥沼化させたのだった。

これらを作った黒幕は、サイコパスと伴い、レームダックのルーズベルト大統領率いるアメリカ合衆国政府そのものである。

何しろアメリカは参戦したいために、日本の生命線とも言える南方のシーレーンを封じた。

日本は外交でなんとか大東亜戦争そのものを回避しようとしたのである。

当時の今上天皇の意思であり、そう願った。

 

アメリカもその素振りを見せていたが、実際は違っていた。

ルーズベルト大統領としてはイギリスを助け、ドイツとイタリアと戦うためには、どうしても日本に攻撃してもらわなくてはならなかった。

そうすれば、ドイツとイタリアも三国同盟により自動的にアメリカに宣戦布告せざるを得ない。

三選されたとき、非戦公約を掲げたルーズベルトとしては、こうせざるを得ないと策を練っていた。

またソ連と言うろくでなし国家もホワイトハウスに潜り込み、妨害活動をしていた。

日本が到底受け入れられない、あの有名な『ハルノート』を書いたのはハル国務長官でなく、その側近こそがソ連の諜報員だったと言うことが近年で明らかにされた。

 

つまり、日米両国はソ連に操られていた。

もしも早々気づいていれば、先の大戦は防げていたかもしれない……

 

このときの日本の苦衷を理解していた連合国GHQ最高司令官ことダグラス・マッカーサー元帥である。

彼は最後まで『日本は最後まで安保を守り、自衛戦争をした』と擁護したとのことだった……

 

現代では、もはやアメリカ優位ではなくなった。

 

マーカスたち政府内の少ない良識派の反対にも関わらず、日本に核攻撃をしようとした。

報復作戦自体、中岡が第二次トラック諸島沖海戦の際に人造棲艦《ギガントス》の口内に隠していたラジオらしき物で勝利を確信したかのように、あっさりと機密を洩らしてしまったからである。

この漏洩は、かつての日本海軍の失態とも言える。

開戦間近ーー 真珠湾攻撃が行われる前は徹底的に箝口令が敷かれており、搭乗員たちも上官たちの報告が来るまでは冗談かと思われるぐらい驚愕した。

しかし、連勝した浮かれのせいかミッドウェー海戦開始前では何処から漏洩したか定かではないが、民間人まで知られるようになった。

この教訓を生かすことなく、中岡本人と身内に甘く全て部下に責任を擦り付ける連邦亡命政府の機密事項の甘さが”ネメシス作戦”の失敗、そして最後の切り札と勝利を失わせたと言っても過言ではない……

 

マーカスだけは心を痛めていた。

日米共同の深海棲艦撃滅が始まって、正確に言えば連邦国との戦い以来、日本は大きく変わってしまった。

未来人らしき何者かの支援によって、各種の強力な超兵器から艦娘たちの艤装まで入手したことが、提督や彼らの艦娘、そして日本人にこれまでにない自信をつけたのかもしれない。

 

ともかく、今の日本人は日本人ではない。

果断で攻撃的、国益を、言い返ると国家の誇りと愛国心を護るためならば、如何なる戦闘も辞さない。

艦娘たちも彼らと同じだが、人類を超越する存在でもあり、人間以上の心を持った人間でもある。

 

今までの両者の概念を捨て、中岡率いる連邦亡命政府から決裂しなければ、とんでもないことが起きると予感がしてならなかったのである……

 

これらの状況を踏まえ、アメリカ国内でも情勢の変化が起こりつつあった。

 

今までの対日戦争への敗戦などのショックから国民は新南部連合、コンドン大統領と連邦亡命政府を歓迎し、武力行使を容認して来たが、今回の報復作戦自体がやり過ぎではないかと言う空気が醸成されて来た。

 

日本軍と艦娘たちはともかく、同胞を見捨てて見殺しにすること、いかに日本を恫喝するためであっても正当化出来ないと言う議論が生まれたのは当然のことである。

 

これはむろんリベラルな北部と、西部の各州から始まり、新南部連合以外の州に広がり、密かに強固な連帯が形成されるに至った。

この取り纏め役となったのは、マーカス国務長官である。

 

軍部もまた、冷静を取り戻しつつあった。

特に米海軍は、自分たちが日米最終戦争の引き金を引いてしまったかもしれないことに、今更ながら気づいたのである。

日本本土にいる同胞を危うく殺し兼ねないことに自責の念に耐えられなかった。

 

米空軍は、中立の態度をとっていた。

なにしろ《ミラクル・ジョージ》の脅威と、トラウマが強かった。

日本とは出来れば戦いたくないと言う立場に伴い、様子見と言う雰囲気だった。

 

しかし、陸軍はハワイ上陸作戦時の日本軍に対する復讐心は激しく、コンドン大統領及び連邦亡命政府に服従する構えだった。

陸軍出身のギャラガー参謀総長は、元々空海軍を信頼はむろん、信用すらしていない。

陸軍すら掌握すれば、いざ全面戦争に対処出来ると信じていた。

 

現代戦のドクリンクからすれば、信じがたい時代錯誤であり、ホワイトハウスも軍部も時代錯誤者の集まりになってしまったのである。

 

 

 

ホワイトハウス―――

今のアメリカ政府は、南部のタカ派の集まりで、かつてないほどの愛国主義国家に変貌している。

コンドン大統領はこれまでの如何なる大統領よりも独善的且つ、強権的である。

 

ケリー国防長官の報告により、”ネメシス作戦”が失敗したと聞いて、コンドン大統領は怒り狂った。

この報告を聞き、ホワイトハウスにはケリー国防長官以外に、ギャラガー参謀総長、サイモン副大統領、各軍トップが召集した。

 

中岡たち率いる連邦亡命政府も召集したかったが、忙しいと言う理由で見送られた。

この場にいたら、さぞ火薬庫が爆発したような展開になり兼ねないと思い、大統領側近は呼ばなかったとも言えるが。

 

そして、マーカス国務長官は呼ばれなかった。

この頃には、すでに大統領側近たちはマーカスの裏切りに気づきつつあったからである。

しかし、これが結果的にマーカスの命を救うことになる。

 

コンドンはガウン姿だった。

そのままの格好で側近たちを召集したのは、いかにショックが大きかったかを物語っている。

実際に攻撃と言うものは、命令する側は何の痛痒も感じない。

例え戦略原潜、または地上からミサイルを発射するだけで済む話なのだから、実感が湧かないのである。

 

しかし、いざ何度も日本報復作戦を立てても煮え湯を飲まされ続けられたら、失われたものの大きさが実感できる。

 

「ほかに情報詳細は入ったのか?」

 

コンドンは、ギャラガー参謀総長に矢継ぎ早に尋ねた。

 

「目下、派遣した連邦潜水艦部隊が調査中ですが、おそらく我が軍と連邦空軍により、編成されたネメシス部隊は全滅したはずです。核ミサイル搭載機《エクスカリバー》が発射するチャンスもなく、日本機に撃墜されたと推測します」

 

「またしても忌々しいジャップが!」

 

コンドンは呻いた。

 

「……ジャップどもは、如何なる攻撃でも屈しないと言うわけか?」

 

コンドンがケリー国防長官に聞く。

ケリーがもっとも筋金入りの日本軽視論者だったからである。

 

「……おそらく、我が国に対する警告でしょう。もしも我が国が日本本土を攻撃すれば、報復としてあの空母戦闘群と艦娘たちを率いる大艦隊などで我が国の西海岸沖もむろん、ワシントンを攻撃する肚でしょう」

 

「これでは結局、元通りの睨み合いになりますな。つまり大平洋海域は日本のものになったも同然です!」

 

ギャラガーはヒステリックに言う。

全員顔を見合わせた瞬間に、ぞっと悪寒がした。

コンドンはじっと目を瞑った。

目を閉じれば、災厄は行き過ぎて行くかもしれないと言う自己防衛でもあったが……

 

「どうしますか、大統領。このままだと我が国の権威はますます傷つき、NATO諸国からも笑い者になり兼ねません!」

 

サイモン副大統領の言葉を耳にして、コンドンは目をカッと見開いた。

 

「もう一度、日本報復作戦を実行せよ!」

 

そう叫んだ直後―――

 

『おはよう、コンドン君!』

 

この場にいないはずの中岡の声が響き渡る。

それに伴い、かつて日米両国で人気を誇ったドラマ『スパイ大作戦』のテーマ曲『MISSION:IMPOSSIBLE』が流れ始めた。

 

「中岡大統領!何処だ!?」

 

コンドン大統領は訊く。

彼だけでなく、サイモン副大統領たちも見渡したものの、中岡の姿は見えなかった。

 

しかし―――

 

「大統領、ありました!」

 

コンドン大統領の傍で護衛していたひとりのシークレット・サービスが、一台のノートパソコンを見つけた。

その動画に中岡が演説する姿が映っていた。

 

『今回の君たちの任務は今までの御礼に伴い、ここにいるコンドン大統領君たちと馬鹿な連中は全員死んでもらうことになりました!』

 

「死んでもらうだと……ふざけるな!」

 

コンドン大統領は、先ほどとは比べものにならないくらい、顔を真っ赤にして憤慨した。

憤慨する彼とは違い、中岡は不毛するように答える。

 

『カリスマ溢れる俺様たちの素晴らしい作戦をことごとく無駄と失敗ばかり、その挙げ句は連戦連敗やスペックダウン兵器を貸与などをし続けるアメリカに愛想が尽きました。は〜い』

 

中岡はコンドン大統領たちを侮蔑するように舌を出して、アッカンベーを見せつける。

 

「このクソジャップがッ!」

 

コンドン大統領は怒り狂い、シークレット・サービスからノートパソコンを奪い取り、それを叩きつけた。

しかし、叩きつけられても壊れないように造られたのかノートパソコンは壊れず、さらに苛立たせるが如く中岡の演説は終わらない。

 

『そんなレイシスト大統領と馬鹿な仲間たちが殺された場合は、我々偉大なる連邦共和国の選ばれし神々は『地上の楽園』で満喫中であり、一切の戦争犯罪は関知されない。

このあと君たちに素敵なプレゼントが、このホワイトハウスに災厄と混乱が贈り届けられます!

なおこのノートパソコンは自動的に消滅する。それではさよなら……そしてアメリカ死ね!」

 

侮蔑に伴い、挑発するように中指を見せつけた中岡の映像が終了した。

その直後、ノートパソコンから白煙がいびり立った。

どうやら化学反応で自然発火する仕掛けにより、データが消滅し、二度とノートパソコン自体を起動出来ないに細工したのだった。

 

「ふざけおって……」

 

裏切り者の中岡たちを探し出して、全員叩き潰せと叫ぼうとしたとき、別のシークレット・サービスが駆け込んで来た。

 

「すぐに避難してください、大統領!正体不明の小型ジェットが接近しています!」

 

「時間の余裕は?」

 

新任の首席補佐官が訊く。

この時すでにグレイもコンドン大統領たちのやり方に愛想を尽かして辞任した。

彼の後継者となった男は、南部出身のハワードと言う人物がその任期に就いた。

 

「それではヘリに乗っている時間はないな。大統領閣下、地下道に避難してください!」

 

ハワードが言った。

有事の場合に備えて、ホワイトハウスには頑丈な地下道があり、外部に逃げられるようになっている。

 

一同は取るものも取り敢えず、地下道に向かった。

しかし、あと一歩、地下道に入ろうとした瞬間―――問題のリアジェット機が突入した。

 

これはチェサピーク湾、そしてポトマック河上空を水面すれすれに飛行し、ここホワイトハウスに接近したため、シークレット・サービスも気づくのが遅れた。

米空軍のレーダー基地も探知出来なかった。

 

このリアジェット機を操縦していたのは、中岡たち連邦亡命政府軍の使い捨てパイロットだった。

使い捨てパイロットには、国内にいた三流パイロットを拉致した直後、あらかじめ用意しておいた覚醒剤などを注射して興奮状態にさせた。

その使い捨てパイロットが操縦するリアジェット機の機内には、極めて強力なC4爆薬が500キロ以上も積んであるから、その威力は計り知れない。

 

突入と同時にホワイトハウスに周囲に鳴り響かせる大爆発に伴い、建物全体を振動が走った。

アメリカ合衆国の政府機能の中枢にして、合衆国を象徴は見るも無残にも崩壊し始めた。

建物内は瞬く間に圧壊させ、膨大な重量と瓦礫の豪雨がコンドン大統領たちを押し潰し、その命を奪った。

最後まで彼らは共闘などなく、中岡たち連邦亡命政府の手の上で踊らされていたに過ぎなかった。

 

紅蓮の炎に染まる祖国の姿―――同じくアメリカの象徴である星条旗は炎を纏いながら、この国の終焉を知らせるように靡かせるだけだった……




今回は原作『天空の富嶽』最終巻でも同じように、コンドン大統領たちもリアジェット機による自爆攻撃により、全員退場しました。
なお原作では某スパイ大作戦の任務台詞に伴い、ああ言う出来事は一切ありません。
アメリカ嫌いと言いながらも押し付け憲法と、ドラマや文化など好きと言うよくあるものです。

灰田「原作では本土攻撃に遭い、最後は呆気ない最期を迎えたものですからね」

本土攻撃されて、最後は呆気ない最期です。
一難去って、また一難と言っても良いでしょう。
ともあれ……

一同『第120話記念、おめでとう!!!』

\ぱんぱかぱ〜ん/←クラッカー音

前書きに書いた通り、ついに本作も無事第120話を迎えることが出来ました!感謝です(翔鶴ふうに)

灰田「あれこれ2年費やしましたね」

色々とありましたが、みんなの応援のおかげであるから感謝しかないよ。

灰田「どうも致しまして」
元帥「うむ、ありがとう」
秀真「ありがとう、兄弟」
郡司「ありがとう、同志」
古鷹・加古・青葉・衣笠『えへへ、ありがとう////』
木曾「ありがとう」
神通「ありがとうございます」

次回からは、いよいよ最後の戦いに突入致します。
最終回まであと少しですが、最後までお楽しみください。

灰田「なお次回はアメリカ視点に伴い、久々の日本視点になります。どんな展開かは次回で明らかになります」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『 ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十一話:日米戦塵、ついに消ゆ

お待たせしました。
やや少し内容を変更してアメリカ視点に伴い、久々の日本視点になります。
そしてとある人物のおかげで―――

灰田「その人物のおかげで、ついに連邦亡命政府が言う『地上の楽園』も明らかになります」

果たしてどこなのかは、本編のお楽しみに。
気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


コンドン大統領と彼の側近たちの突然の死により、新南部連合はその求心力を失った。

 

事実上はハドソン大統領を、コンドン大統領と中岡たち率いる連邦亡命政府とともに失脚させた『ディープスロート』こと、ドール上院議員は自ら大統領となる意思を示した。

しかし急速に連帯を深めた北部及び、西部州連合のパワーを背景にマーカス国務長官が、それを断固として阻止した。

 

国民もこれを歓迎した。

連邦亡命政府の傀儡と化した現政権に伴い、常に武力一点ばかりのコンドン大統領たちに、国民は愛想を尽かし始めていた。

ハワイ島の壊滅、謎の海底戦艦による本土攻撃、そして今回の日本本土攻撃などの切っ掛けも含め、今度は本土自体に核攻撃が実施されるのではないか、と言う危機感が深めた。

 

遥かに理性のある大統領がアメリカを統治しない限り、取り返しのつかない世界になると言う危機感が全米に生じた。

サイモン副大統領もコンドン大統領と側近たちとともに、あの自爆攻撃により死亡してしまったので、早急に大統領を決めなくてはならない。

 

憲法に定められた選挙を行っている時間はない。

アメリカ大統領の選挙は、本来ならば直接選挙と間接選挙を兼ねたもので、まず州民が投票権を持つ選挙人を議員のなかから選び、その選挙人が投票し、過半数を得れば、選挙人の推す政党候補者が大統領となる。

 

しかし、これらの手続きのためには長い時間が掛かる。

だが、憲法ではまた不測の事態で正副大統領を失ったときには、国務長官がこれを代行すると記されている。

因みにアメリカ大統領が死亡した場合、その他の理由により、責務を果たし権限を執行できない場合の継承順位は、1位の副大統領から始まり以下―――下院議長、上院議長、国務長官、……と18位までが大統領継承法で定められている。

 

この条文に乗っ取り、マーカス国務長官が大統領に就任することになった。

 

マーカスが最初に行ったことは、新南部連合の解体とともに、ドール上院議員の上院議会に措ける弾劾決議提出―――これはアメリカ国家を混乱に導いた罪に対するものでだった。

そして全軍部を完全に掌握するに伴い、国内に潜伏している連邦亡命政府の残党掃討を宣言した。

これにより、国内に潜伏していた工作部隊は壊滅することに成功した。

また中岡率いる連邦亡命政府が亡命したことにより、アメリカはまた大きく振り子が振れ、一挙にリベラルに戻ることができた。

 

マーカス新大統領は、さらに外交を活発に再開した。

日本との和平交渉を早々に推進した。

安藤首相もむろん、ノーとは言わず、日米和平交渉を宣言した。

これにより、第二次日米大戦は終結したのだった……

 

しかし―――

 

日本政府は日米和平交渉を結び、第二次日米大戦が無事に終結したものの、ひと安心は出来ずにいた。

何しろ中岡たち率いる連邦亡命政府は、未だに『地上の楽園』と呼ばれる場所に潜伏している。

今もなお戦力増強をしているか、かつてのろくでなしな独裁者たちのように怯えながら、ただ息を潜めていると誰もが考えられていたが………

 

 

 

首相官邸では、最終決戦に向けた会議が行われた。

そして中岡たち率いる連邦亡命政府の嫌がらせとも言えるべきメッセージが送られて来た。

秀真たちにとっては、もはや退屈なとも言えるメッセージを……かつて反日偏向報道、且つ反日国家擁護などのろくでなし放送局の報道番組を観ていることと変わりなかった。

 

『我々は盟友アメリカに見捨てられ、その潤沢な支援を失えど、要塞化した我々の新たな『地上の楽園』で最終戦争及び、最終決戦が起きようと、我々連邦と崇高な我が連邦国民たちが最終的に勝利へと導くであろう!

もはやアジア諸国の覇王と、いや、アジア諸国を武力で支配し、アメリカに謀反を掛けたアジアの侵略王と同時に、軍事独裁国家日本の世界征服と独裁下による恐怖支配を打倒するには、我々連邦が世界平和のために武力を持って挑まなければならない!

狼の皮を被った豚どもを、この地上から抹消すれば世界平和が必ず来る!連邦万歳!』

 

中岡たち率いる連邦亡命政府幹部の演説を聞いた連邦国民たちは―――

 

『偉大なる中岡皇帝様万歳!万歳!万歳!万歳!』

 

狂信者とも言える連邦国民たちは、直立の姿勢で右手をピンと張り、一旦胸の位置で水平に構えてから、掌を下に向けた状態で腕を斜め上に突き出すジェスチャーによる敬礼―――ナチス式敬礼(大戦中はドイツ式敬礼)を拍手喝采のごとく送ると伴い―――

 

『……ありがとう。我が偉大な連邦国民たちが主役であることを……余は誇りに思い、これ以上に嬉しいことはない……!』

 

中岡は連邦国民たちの戦意高揚に感涙する。

その姿を見た国民たちは、声援を送る。

 

「ふっ、大根役者並みのウソ泣きだな」

 

「下手なプロパガンダも良いところだ」

 

これらを観た秀真と郡司は、鼻で笑った。

傍にいた古鷹は苦笑い、木曾は『そうだな』と双眸を落として静かに頷いた。

また同じように連邦万歳!と、プロパガンダ演説を何度も繰り返している演説映像を観れば、誰もがうんざりするのも無理もない。

 

『余は誇り高い連邦国民たちを率いると伴い、我々は最後までアジアの侵略国家日本を必ず打倒する!

余が建国の父と呼ばれるのであれば、我が連邦国民たちは余の家族であり、可愛い息子と娘たちである!

アンドルフ・ヒトラーと女狐元帥率いる世界の破壊者が先導する悪の枢軸国、軍事独裁国家の日本の野望を阻止しなければならない!

さすれば我々連邦は世界の英雄、世界皇帝である余と我が連邦国民たちは歴史に名が刻まれ、我が子孫たちも未来永劫の繁栄と自由と、そして莫大な富と幸福が約束されるだろう!』

 

安藤首相と元帥は、少しだけ眉をしかめた。

アンドルフ・ヒトラーは、安藤首相とヒトラーを足して掛けた蔑称である。

彼らは毛沢東とスターリン、ポル・ポトたちなどと言ったろくでなし指導者たちの悪口は決して言わない。

常に自国民の命を軽視、且つゴミのように簡単に捨てることすら何の抵抗力もなく虐殺することを美化はおろか、寧ろ虐殺王である彼らを『偉大なる指導者たち』と心酔している。

 

『アジア的優しさに伴って、我々連邦が軍事独裁国家となり、世界の覇者と謳歌する日本を潰せば、世界中の人々は大喜びするだろう!

我々の話し合いを拒む罪人たちは誰だろう!?』

 

中岡の問いに、連邦国民たちは答えた。

 

『安藤ガー、元帥ガー、艦娘ガー!!!』

 

『その通り!我々連邦が神罰を与えて戦おうではないか!連邦万歳!そして……』

 

『日本死ね!!!』

 

中岡たちとともに、彼らと同じく中指を立てた連邦国民たちの映像で終了した。

 

『………………』

 

最後まで徹底抗戦に伴い、日本政府を侮辱する演説映像を見終えた一同は暫く黙り込んだ。

堪り兼ねたように口を開いたのは、秋葉法務相だった。

 

「要するに、連邦亡命政府は徹底抗戦を決めているわけですな。我々を舐めきっているわけです。

どうでしょう、首相。そろそろガツンと思い知らせてやらなければならんのではないでしょうか?」

 

「何をすると言うのだ。『地上の楽園』を知るために捕虜を尋問など許さんぞ」

 

「むろん、そんなことはしません。だが、ここまで来た以上は……毒を盛って毒を制す。我々も最終決戦に望まねばなりません」

 

元帥が発言した。

 

「具体的には、彼らの『地上の楽園』を攻略することです。彼らも惨敗し続け追い込まれている時点で、その覚悟しているでしょう」

 

「覚悟していればこそ、その攻略作戦は利かないかもしれません。無辜の市民たちがいると思います。

彼らを殺すことで新たな抗戦に繋がり兼ねません!」

 

如月官房長官が反論した。

 

「今度の戦いには、いろいろと芳しからぬことかもしれません。そもそも『地上の楽園』は……まだ情報不足だった頃の北朝鮮でしたが、その朝鮮半島にはもうありませんが、中岡たち率いる連邦亡命政府は何処かでそっくりそのまま作り、かつて冷戦時代に存在したジム・ジョーンズ率いる”人民寺院”のようなことをしかねないとの噂もあります」

 

「そのカルト宗教団体のように、連中は本気で決戦前にそんなことをしようと思っているのだろうか」

 

安藤首相が呟いた。

 

「中岡たちが、妄想と紙一重の異常な反日の持ち主でもあると同時に、幾度の逃げ道を作り永らく泳ぎ抜いた悪運の者たちです。

今までの敗戦により、求心力は衰えたことは明らかですから、この演説による最終決戦への備えと結束力がより固ければ玉砕、または集団自殺もあり得るでしょう。

……つまり、強い連邦共和国を取り戻す、と言う幻想を与え続けているのです。

多くの連邦国民は、反日組織や売国奴たちなどでもありますから」

 

これまでの調査も含め、彼らは中核派の面でもある。

いわゆる戦後のアメリカが用意した『日本国憲法』にある憲法9条に伴い、共産主義を崇拝するサイコパス集団であり、国家転覆こそが平和に繋がると目論んでいることを教え込んでいる。

今では滅亡したが、一部の噂では連邦亡命政府の兵士たちになっている。

 

「しかし、そのためには我々がこれを阻止しなければなりません。これ以上の犠牲は抑えなくてはなりません」

 

元帥の言葉に伴い、全員が頷いた。

 

「首相、降伏勧告でも致しますか?」

 

如月官房長官が尋ねた。

 

「うむ……そうだな」

 

安藤はこめかみを揉んだ。

秀真たちも安藤の苦渋の決断に伴い、これ以上は戦争を続けたくないことを理解している。

 

そのとき、秀真の背後の壁に灰色の靄が掛かり、部屋中の空気が冷たくなった。

灰色服の男―――灰田が現れる前触れである。

果たして灰田の姿が朦朧と現れ、すぐに実体化した。

ここにいる全員が、そのプロセスに慣れているので、今さら驚かない。

初めて見る者たちが見たら、幽霊が出現したかと思うだろう。

 

「皆さん、お久し振りです」

 

灰田が、秀真の横に立つと発言した。

 

「ここまでのお話を聞いていました。しかし、それで良いのですか?彼らはアメリカ以上の暴君です。

自分たちの理想を掲げただけでなく、日本を裏切り、最後まで我が儘、且つ武力で言うことを聞かせようとする悪童です。そんな非情な指導者たちを野放しにすると言うのですか?」

 

「キミの言うことはよく分かる。だが奴らの言う『地上の楽園』が何処にあるのか、我々にも分からないのだ」

 

安藤は言った。

 

「しかし、この深刻な事態を解決するために私が手助けしましょう。そのためにある人物を連れて来ました」

 

灰田の言葉に伴って、遅く姿を現したのは―――

 

『戦艦水鬼!』

 

彼女の姿を見た全員が驚愕した。

 

「初メマシテ、皆サン」

 

戦艦水鬼の挨拶に、すぐさま我に帰った元帥と秀真、郡司、そして古鷹たちは冷静に頷いた。

安藤首相たちは初めて見る深海棲艦を目にして戸惑いながらも、自分たちの冷静さを保とうと努める。

 

「今マデアノ連中ノ暗号解読二手コヅッテシマッタガ漸ク奴ラノ居場所『地上ノ楽園』ト言ウ場所ガ分カッタ」

 

全員が顔を見合わせた。

 

「それは何処だ?」

 

秀真の問いに、戦艦水鬼は答えた。

 

「カツテ貴方タチガ『絶対国防圏』ト言ッテイタ場所……マリアナ諸島海域ヨ……」

 




今回も原作『天空の富嶽』最終巻でも同じように、コンドン大統領や側近たちが退場した後に新南部連合も崩壊し、マーカス新大統領が日本に講和を申し入れて、アメリカは再び正常に戻りました。

灰田「原作ではここで終わり、すべて私が仕込んだシナリオや神のぞ知る世界で終了することが多いですからね」

そしてドブネズミたちこそ、中岡たち率いる連邦亡命政府が言った『地上の楽園』は架空戦記ではよく激戦となるソロモン諸島と、マリアナ沖海戦が多くて迷いました。
やはり現代解放されている海域で、MS諸島防衛作戦がありましたのでこれをヒントにしてマリアナ諸島に選びました。

灰田「各『超〇〇出撃』シリーズでも、この海域は必ず米軍と戦うことになりますからね」

ともあれ、最終決戦準備前になるかなと思います。

灰田「なお次回はこの続きに伴い、久々の連邦視点になります。予定ではその戦力詳細になると思います」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『 ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十二話:最終決戦に向けて

お待たせしました。
今回も事情により、やや少し内容を変更して前回の引き続きに伴い、連邦の特殊兵器が明らかになります。

灰田「なお連邦らしいなと言う点もありますので、お楽しみに」

果たしてどこなのかは、本編のお楽しみに。
気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


一同は、息を飲んだ。

 

最初は因縁の場所―――かつて先の大戦で日米激戦地とも言われたポートモレスビー、またはガダルカナル諸島だと予想していた。

前者はMO作戦(珊瑚沖海戦)で、後者は数多くの海戦と地上戦を兼ねた激戦である。

どちらも日本が敗北した因縁の場所―――特に多くの艦娘たちにとってはガダルカナル諸島海域、今でも日米両艦船が多く戦没した姿が見られるこの海域は『アイアンボトムサウンド』と今日まで呼ばれている。

その名の通り、海底に日米両艦船の鉄が多いためこの名称が付けられたと言う………

 

「しかし、奴らは本当にマリアナ諸島いるのかね?」

 

安藤首相が尋ねた。

 

「エエ。アノ溝鼠連中ハ常ニプライドガ高イ反面、情報処理ナド重要事項ニ関シテハ筒抜ケモ同然。

幾度モ『地上ノ楽園』ト電報ヲキャッチシタガ、最初ハ私タチ全員デ解読シタガ解読不可能ダッタ………

シカシ、空母棲姫ガ考案シタ事ヲシテミタノ」

 

「……その考案とは?」

 

矢島防衛省長官は、おそるおそる尋ねる。

戦艦水鬼もやれやれ状態であるが、歴戦の兵士である彼女の冷静な表情は崩さない。

 

「単純明白ヨ。カツテ……ミッドウェー作戦ノ暗号ヲ解読シタ米軍ノヨウニ私タチモ同ジヨウニ平文ヲタメシニ『MS諸島』打ッタノヨ。

ソシタラ、連中モ『MS諸島ハ我々ノ楽園ダ』ト、ソックリ御丁寧ニ居場所ヲバラシテクレタノヨ」

 

秀真たちは『居場所を教えてどうする』と突っ込みをいれたくなった。

連戦連勝に伴い、不要な海戦ことあの『MI攻略作戦』開始までの出来事と重なる。

米軍は頻繁に『AF』と言う符号が何度も出てくることに気づき、ミッドウェーのことではないかと推測。

確証はないが、この情報を得るために『ミッドウェーでは水が不足している』と電文をわざと平文で打った。

これに日本海軍はこの罠に掛かり、次の暗号のなかに、AFは水が不足していると情報が出現した。

 

これが敗戦する原因とも言われるが、暗号が解読されていることを日本軍は最後まで知る由もなかった。

一部の提督たちは、あまりにも敵に先回りされるので暗号を解読されているのではないかと疑った。

しかし、無能な官僚軍人や上層部たちは能天気にも『我が軍の暗号は強固であり、絶対の自信がある』と取り合わすどころか、決してその負けを認めなかった。

 

元々、アングロサクソンは昔から暗号を扱い慣れている民族である。

また暗号を解くことに喜びを得る。

 

ドイツが使用した天文学的な組み合わせを兼ね備えた最高難度の暗号《エニグマ》に対して、イギリスは巨大な原始的コンピューターを発明し、ついに解読に成功したのである。

ドイツも敗戦まではこのことに気づかなかったが、解読されているのではないかと、暗号のキーコードだけは頻繁に変えていた。

その度にイギリスの暗号解読陣は必死に奮闘して、最後には解読した。

特にUボートの通称破壊作戦に関する作戦は重要不可欠であり、《エニグマ》が解読されたおかげで救われた連合軍の輸送船団は数知れない。

 

しかし、日本海軍は解読で情報漏洩されたのにも関わらず、敵の暗号は全く解けないと言う不思議なことが日常茶飯事だった。

情報戦で負けていたと言われる由縁である。

ただし、日本陸軍(特に陸軍中野学校出身者による)の暗号は海軍よりも難度が高く、敗戦まで解読されることはなかった。

日本海軍も暗号解読が出来なかった変わりに通信解析と言うものをやった。

これは敵の通信を傍受して、敵の作戦内容は理解せずともその頻度及び、量などから敵の動きを把握するものである。

 

これは意外にも的中することが多く、相当程度に敵の動きを掴むことが出来た。

米軍のマリアナ攻略作戦のときでも通信解析班は、敵はマリアナ諸島にやって来ると解析し、軍令部に報告した。

だが、軍令部や連合艦隊司令部も燃料の関係から、敵がフィリピン方面にやって来て欲しいものだから、この報告を無視してしまった。

燃料の関係と言うのは、フィリピンに近いインドネシア及びスマトラ方面には油田がたくさんあり、これらは軽油質でそのまま使えるのだから、此方に来て欲しかったのである。

しかし、敵が此方の望み通りに動くことを願望すること自体が間違いであり、もはや作戦とは言えない。

その願望が魔法使いでない限り、あらゆる戦争には勝てない。

あの運命の分け目と言われたミッドウェー海戦の敗北に伴い、ガダルカナル諸島でのソロモン海戦の度重なる敗北により、冷静な判断を失ったと言われる。

元より日露戦争後に対米計画を練るか、大和型戦艦建造終了とともに、同時に富嶽や原爆なども開発していれば少しは違っていたかもしれない……

 

「ナオモ連中ノコトダ、マリアナ諸島全体ヲ要塞ト化シテカラ此処ハ世界一安全ニ伴イ、最強ノ砦ダト宣言シテイルコトカラ、カナリノ防御陣地ガ多イト推測スル。

タダ……」

 

戦艦水鬼は顎を撫でた。

 

「ただ……どうしたのだ?」

 

元帥は訊ねた。

 

「モハヤ連中ノ海軍力ハ、元ヨリ我々ノ仲間ハ小国並ミノ海軍力ダカラ制海権ニ関シテハ

問題ナイ。例ノ《ギガントス》モ製造中止ノヨウダガ……

タダ暗号ニテ陸上タイプデ抵抗スルト言イ《ハンター》ト、溝鼠ドモノ象徴ヲ模倣シタ特殊兵器ヲ配備中トノ情報モ入手シタワ」

 

『……《ハンター》と特殊兵器だと?』

 

一同の口調と素振りに、灰田は答えた。

 

「連邦亡命政府は、人造棲艦《ギガントス》はもはや製造は諦めたものの、今度は港湾棲姫たちなどを模倣して陸上タイプも製造しました。

同じく女性がベースであり、人造棲艦《ギガントス》と変わりません。

陸上タイプですから陸上攻撃機を備えて、海上と陸上用に対応した15インチ要塞砲による攻撃はもちろんですが、連邦軍なりの改装として対艦ミサイルも装備しています。

また陸上部隊が上陸した際には、《ギガントス》同様に装備を放棄して突撃攻撃もします。

大型且つ、その皮膚はとてつもなく強靭で耐久力も高く、戦車砲や重火器などでもない限りダメージを与えられませんが、幸いにも少数でもあると同時に陸上タイプですから、三式弾が有効です」

 

灰田は《ハンター》の説明を終わると、次の特殊兵器の詳細を言った。

 

「特殊兵器はふたつありますが、双方とも陸上兵器です。

ひとつはかつて北朝鮮、各アフリカ諸国などが国の象徴として銅像を設置しました。

連邦軍は上陸部隊を攪乱させようと、これを動けるように改造して特殊兵器として運用しています。

武装は口から火炎放射器を出し、指からは対地ミサイルなどを搭載しています。

なお目くらまし目的のために両目は、探照灯を装備しています。

これを応用して、灯台の姿にした大型重戦車も同じように配備しています。

これらのロボット兵器は《ハンター》同様に、少数ですから大丈夫です。

最後にひとつは特殊部隊です。特殊部隊と聞こえが良いですが、これは事実上は強化兵士です。

これらも《ギガントス》と《ハンター》とは違い、こちらは精鋭部隊の男性兵士からです。

彼らにも特殊ウイルスを投与しており、肉体が強化されています。

彼らは《ブルート》と呼ばれています、外観がゴリラのような巨体であり、狂暴性も増しております。

こちらは大量にいますから、ご注意ください」

 

「他の兵力はどうなんだ、灰田?」

 

秀真は訊ねた。

 

「先ほどの特殊兵器を除けば、陸軍は旧イラク軍並みであります。

同じく空軍に関しても旧イラク空軍並みになり、最新鋭機は少数となりました。

海軍に関しては少数艦艇に伴い、かつて敗戦間際に生産し続けた《震洋》を模倣した特別攻撃艇部隊が存在します。

ただし工廠施設などを設けているため、こちらも潰す必要があります」

 

灰田の情報は正確なものであり、戦艦水鬼の情報も正しければ由々しきことだ。

背水の陣として追い詰められた連邦軍の割りには、かなりの兵力であると一同は呟いた。

中岡たちはマリアナ諸島沖海域に亡命するまでは、アメリカが後ろ盾にいた。

このアメリカの支援があったからこそ、この兵力を整えることができたのだろう。

兵力が増強したからと言って、果たして上手く使えるかは問題でもある。

ただし工廠を設けているとなると、これも潰さない限りは何度でも補充が出来るから潰さなければならない。

これらはZ機部隊が空爆することは決定した。

《ブルート》は元帥を護衛ないし、TJS部隊とともに『佐世保同時多発テロ事件』を解決したツルタ少佐たち率いる超人部隊が相手にする。

灰田は助言として、各部隊には必ず無反動砲や対潜戦車兵器を装備させておくとともに、接近戦は超人部隊に任せることを念入りに伝えた。

元は人間であるため、強化兵士《ブルート》はナイフで心臓を抉れば簡単に即死することを伝えた。

 

問題は特殊兵器の対策となるが、これに関して―――

 

「それらの兵器は巨大ですから、私に考えがあります」

 

灰田が言った。

これらは前回の条件として、戦艦水鬼たちとともに戦うことである。

こちらに関しては以前の条件として、問題なく事が済んだ。

一同は灰田が持ち込んだ考えを聞き、驚愕した。

 

「本当にできるのか、そんなことが……」

 

「幾度も言うように私の世界からすればおもちゃを作るようなものです。従来よりも強化して此方の世界に、最後の支援だと思って送ります」

 

灰田の言葉に、一同は頷いた。

これ以上は甘えるわけには行かないと伴い、安藤首相と元帥、秀真たちも自分たちの独立と誇り高き日本を守るために覚悟を決めていること。

古鷹たちも同じく、自分たちが暁の水平線に勝利を刻み、本当の平和を築くためにも覚悟を背負った。

そして戦艦水鬼たちも同じく決して罪は許されないが、中岡たち率いる連邦亡命政府を打倒に伴い、同胞を助けるための覚悟を決めた。

 

「分かりました、では2週間後にそちらの世界に送ります」

 

情報を伝え終えた灰田は、いつも通りすっと消えた。

しかし、秀真の耳元では灰田の声が聞こえた。

 

「ただしあなただけに、最後の支援がありますのでお忘れなく」

 

「………?」

 

秀真は分からずじまいだったが、ともかく今は最終決戦に向けての準備を整えるのであった。

なお元帥もTJS社に、現状について報告した。

連絡しなくとも灰田(彼のアバター)が現状報告をしていると思うが、念のためである。

いよいよ、最終決戦だと思うと誰もが緊張状態になるのも無理もなかったのである。

 

そして作戦符号は、“Z作戦”と名付けられた。

 

究極且つ、最後の作戦と言う意味である。

全員は肚を決め、運命の作戦実行日まで大規模な準備を整えるのであった………




今回は連邦の戦力情報に伴い、新たな陸上型人造棲艦《ハンター》などと言った戦力を知ることが出来るという回でもありました。
名前の由来はHALOシリーズに登場する敵エイリアン、ハンターからです。
特殊部隊のブルートも同じくです。
なお銅像や灯台が変形してロボットになるネタは、前者は『バイオハザード4』のサラザール家の古城ステージで登場する動く像とややロボットらしさを加えています。
なお後者はシューティング『ソニックウィングス』シリーズに『2』と『3』に登場する敵組織が使用するロボットに似ています。

灰田「思い切ったように、特殊兵器の登場になりましたね」

イ2000では、サイボーグ・タコが登場しましたからね。

灰田「まあ、出てもダイオウイカで対抗しますけどね」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
なお連邦亡命政府軍は、湾岸戦争時のイラク軍からであります。
装備はあらゆる国から購入していますゆえに、独裁者にピッタリでもありますので良いかなと思い、こちらを採用しました。
今回の作戦名も同じくイ2000からであり、最終決戦に相応しいと思い名付けました。

灰田「ここまで来ました故に、私の最後の支援でもありますが全力で参りましょう」

最後の支援はどういう展開になるかは、しばしお待ちを。
いよいよ、最終決戦に突入でもあります。

灰田「次回は予定では、連邦視点になると思います。少しですが敵の特殊兵器が登場しますのでお楽しみください」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

一同『 ダスビダーニャ!』

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十三話:偽りの楽園

お待たせしました。
連邦視点に伴い、敵の特殊兵器などが明らかになります。

灰田「追い詰められてはいるものの、工夫はしているなと言う場面も注目すると良いでしょう」

果たしてどのような兵器かは、本編のお楽しみに。
なお、一部過激なシーンがありますので御注意ください。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


秀真・古鷹たち率いる連合艦隊に伴い、各陸海空軍共同作戦でもあるZ作戦の準備を進めていた頃―――

 

 

マリアナ諸島海域―――

中岡連邦大統領率いる連邦亡命政府軍も同じく、日本との最終決戦に向けて進めていた。

こちらも負け戦続きだったが、せめてこの最終決戦でも一矢を報いたい気持ちで挑むと決意した。

その際の仲介は、スウェーデンに任せると言う方向性で決まった。

 

マリアナ諸島海域を中心にグアム及びサイパン、そしてあらゆる島々は海に浮かぶ要塞と化した。

これらも全てハドソン前大統領及び、彼の後継者であり、今は亡きコンドン大統領率いるアメリカ政府のおかげである。

アメリカとの同盟を決裂する前に、計画的に備蓄した潤沢な食糧や医薬品、武器弾薬などの援助物資を利用して新たな新天地でもある『地上の楽園』を築くことも出来たのである。

 

兵力に関してはそれなりだが、最新鋭及び特殊兵器、特攻兵器を除くと陸海空全軍は、かつて『世界第4位の軍事大国』として歴史に名を刻んだフセイン政権時代の旧イラク軍や新生イラク軍に、さらに多国籍軍の装備も含まれているから余計に酷似した。

もっとも連邦軍にとっては我々はアメリカを凌駕する多国籍軍並みに進化した、と胸を張っていたが。

 

兵器と装備品については―――

陸軍は特殊兵器を除けば、米軍製など様々である。

貴重且つ、日本軍の10式戦車と互角に戦える虎の子の米主力戦車M1A2《エイブラムス》×20輌。

次に旧ソ連製の傑作戦車―――T-55をライセンス生産した中国製の69式戦車×20輌。

あとは対戦車火器、または対空機銃を搭載した少数の軽装甲車輌が中心と言った物寂しい機甲部隊である。

不足な火力は、自走砲や榴弾砲部隊などで補う。

沿岸にも榴弾砲部隊とともに、タワラやペリリュー島の要塞を模倣して、椰子の丸太を束ねて隙間には珊瑚礁を敷き詰めて補強された掩蓋トーチカに、コンクリート製掩蔽壕や要塞、迫撃砲陣地、そして重機関銃座が配備されている。

連邦海軍歩兵部隊と協同して、浅瀬には椰子の丸太で束ねて作られた防塞を沈めただけでなく、コンクリートに角材を縛り付けた対人障害、上陸防御用バリケード、対戦車障害物、機雷原も築いた。

これらはLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇(上陸用舟艇)による妨害であり、上陸部隊を水際撃退するためでもある。

 

空軍はF-16《ファルコン》と伴い、今日までロシアの傑作機を数多く生み出したミグ設計局のミグシリーズである。

アメリカの技術で近代化改修型に施して取り揃えたMiG-29《ファルクラム》主力戦闘機を中心とした最新鋭部隊である。

ここまでは聞こえは良いものの、これらを除けば、あとの大半が旧式機である。

支援戦闘機として、MIG-21《フィッシュベット》も配備している。

他にMIG-23《フロッガー》と、MIG-25《フォックスバット》迎撃戦闘機も、旧式のため傑作機としても有名なスホーイ設計局の傑作攻撃機Su-24《フェンサー》とともに、Su-25《フロッグフット》は、地上部隊・艦船攻撃を主力とする戦闘攻撃機として運用する。

同じ役割を務める少数のTu-22《バックファイヤー》と、轟炸六型(H-6)戦略爆撃機は対艦ミサイルを装備して、爆撃機専用基地に配備している。

地上部隊が運用するヘリ部隊は、Mi-24《ハインド》を中心としたソ連製とともに、連邦軍では珍しくBo105CBやSA316などと言ったドイツ、またはフランス製を配備した。

湾岸戦争の際にも旧イラク軍も保有しており、多国籍軍を混乱させるために、導入した。

アメリカを中心とした多国籍軍は、これを恐れて友軍誤射を防ぐために機体正面及び、尾部に識別用の帯を記入したほどである。

 

なおAC-130を模倣したAn-12輸送機を急遽ガンシップ・タイプに改造した。

これはTu-22・轟炸六型合同部隊とともに、前者と協同して日本軍を迎え撃つ。

 

そして海軍は、小国並みの海軍に落ちぶれた。

潤沢だった連邦海軍の陣容は、連邦派深海棲艦は数えきれるほどしかいなかった。

主力戦艦や空母の大半は、中岡たちの無謀な捨て身の特攻作戦のために大量に撃沈された挙げ句、これ以上の消耗を避けるために防空任務を当てられた。

そのせいか出撃可能な艦隊は重巡洋艦2隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦5隻などと、第二次世界大戦中のオーストラリア海軍と同じ海軍力と化した。

お馴染み大量に保有した連邦潜水艦部隊も連邦派深海棲艦たち同様に壊滅状態。

海軍力を補うために、特攻兵器《震洋》を模倣した小型自爆艦艇を製造した。

ただし現代の技術のおかげで、以前は取り付けられなかった脱出装置付きの自爆ボートに進化した。

もはや上陸作戦はなく、無用の長物扱いにされた輸送船を急遽改装工事を行った。

様々な口径を持つ艦砲と対空機銃などを針ネズミの如く装備させて、これを海上要塞にして沿岸警戒任務に当たらせた。

連邦派深海棲艦たちは前者通りの戦力だが、新たに砲台小鬼と言う陸上型深海棲艦を導入した。

例の銅像と同じくらいの大きさだが、攻撃力と防御力に関しては戦艦並みに誇る。

対空型もおり、敵機を落とすのには充分である。

追加装備として、無誘導対空ロケット弾を装備させた。

これぞ正しく難攻不落の要塞と言っても過言ではないと、連邦派深海棲艦は豪語した。

 

そして、連邦国民たち全員が義勇兵として動員した。

彼らは北朝鮮の労農赤衛隊やドイツの国民突撃隊を真似して、結成された民兵組織である。

隊員は、18歳から65歳までの男女全員を網羅する。

武器などの装備品は可能な限りは連邦軍から貸与されるが、基本的に隊員各自が用意することになっている。

RPGと軽機関銃、小銃は全軍に行き渡らず、不足分を補うため個人所有の猟銃から弓矢・刀剣・銃剣付き訓練用木銃のほか、鎌などの農具や、刺又・突棒のような捕物道具、連邦陸軍が発行したマニュアルに基づいて自作した竹槍など駆り出される始末だった。

戦車などの車輌はないものの、個人所有自家用車を改造して製造した臨時装甲車が3台配備された。

これは大戦中のイギリスのホーム・ガードに配備された兵器を模倣して製造した。

装甲鋼板ではない単なる鉄板を貼りつけたもの、コンクリートを盛り付けたもの、車体に木枠を取り付けて板と車体の隙間に石を詰めたものだった。

これは上陸した敵兵に対して、轢き逃げ攻撃を行う。

彼らは最前線送り、つまり使い捨て部隊として玉砕して貰うことを意味する。

なお彼らを指揮するのは、政治将校率いる督戦部隊。

要は使い捨て部隊の監視・粛清を担う。

ある意味では、ソ連の懲罰部隊と言っても過言ではない。

 

しかし、彼らはそのような知識はない。

全て化石思考者に洗脳された邪教者たちでもあることも知らないまま、最終決戦に備えて訓練をしていた。

さらに『我々は戦艦大和に、竹やりで臨むような感じだ。ただ、量より質なので、少数精鋭部隊で頑張って貰いたい』と精神・根性論を叩きつけたのであった。

平和主義者は、過去に『日本は戦力を持たず北朝鮮にお金あげて解決しよう』と、蛙の楽園のような発言を心酔していた。

しかし、実際は共産主義に近い考えを持ち、言うことを聞かない人物は『総括』と言う名で平然と息をするように軽く人を捻り殺すこともお手のものである。

総括の本来の意味は過去を振り返る『反省』だが、今日までの左翼や反日運動家などの間で好まれ、暴力による指導ないし実行支配である。

当時から、現代まで多くが幼稚な理由で殺害された者たちが多い。

当の本人たちは『若いころは学生運動でかましたもんだ』と反省の顔色もないどころか、今でものうのうと武勇伝のように自慢気に語る連中は、テロリスト以外何者でもない。

今回の最終決戦では、その団塊世代によって反日指導で洗脳された哀れな連中と言うことに気づかない。

 

 

 

「完全に要塞化になってはいないものの、これほどの火力はかなりのものだな!」

 

 

深夜にもなろうが、部下たちが懸命に最終決戦に迎えて準備をしているのにも関わらず、中岡は見晴らしの良い頂上で優雅にと言うか、呑気と言うか彼の側近たちが自ら用意してくれた最上級の赤ワインとともに、同じく用意されたを盗んだエビ(本名:トヤマエビ)で作ったソテーと、同じエビで作られたエビフライを酒の肴を堪能していた。

 

「タルタルソースなどよりもこれに合うものは、我が連邦国が生み出した390年前の熟成醤油をたらりっと掛ければ……」

 

自称『390年前の熟成醤油』を両料理に惜しみ無く、たっぷりと掛け回した。

これを口に放り込み、赤ワインで流し込む。

 

「まさに至高の味!ジャップの醤油は我々の熟成醤油を盗んだバッタもんだからな!」

 

だが、彼の味覚はむろん、連邦国民全員の味覚が可笑しいだけである。

不味いものは、幾ら寝かしても不味いものは不味い。

あらゆる食材や調味料だけでなく、日本や他国の文化ですらも平然と韓国起源にするのである。

最近では世界初の空母と、車椅子や歩行器の飛行機を生み出したことですらも韓国起源だから呆れさせる。

それに伴い、告げ口や他人の不幸を喜ぶために正当化する共産圏と同類である。

共産主義はむろん、社会主義は誰でも平等だと言う割には実際のところは資本主義よりも性質が悪く、格差社会を推進したりしている。

下っ端には粗末なものを与え、自分たち上層部は『神』だと自惚れており、常に大金や最上級の品などを兼ね備えている。

また何処かに亡命する際は、脱出用潜水艦のなかには金塊やなどを隠し持っている。

つまり自分たちが優先であればそれで良い、としか考えていない。

共産圏は何時になってもろくでなし国家と言われるのも無理はない。

キューバのカストロ議長は、誰よりも国民の幸せを願っていた社会主義国家を除き、彼らの崇拝する共産圏は至極人命など軽く、常に虐殺と血塗られた歴史などで築き上げた国家でもあるのだから……

 

「大統領閣下、我が楽園の防衛線は順調に配備しております」

 

忠秀の報告を聞き、中岡はにんまりとした。

 

「ほうほう。陸上人造棲艦《ハンター》や特殊兵器、そして我が精鋭特殊部隊《ブルート》もか?」

 

「はい。今回の最終決戦で成功すれば今後の奇襲攻撃に使えると思いますゆえに、専用生産工場での稼働も充分かと思われます」

 

「そうか、役立たずの湯浅より役立つな。忠秀新主席」

 

「いいえ、私は大統領閣下のお役に立っているだけであります」

 

湯浅は役立たずと言うレッテルに伴い、ある程度穏健派だったことが仇となり、使えない存在として家族もろとも米本土に置き去りにされた。

今頃は置き去りにされたことも知らずに、米軍特殊部隊による拘束とともに、CIAなどの尋問で妥当な扱いはされないと思うと、愉快で堪らなくなった。

彼が居なくなったおかげで忠秀は副主席から主席へと出世し、副主席は中岡たちの信頼が厚いアンミョンペク総参謀長が推薦された。

これにより、中岡たちの理想でもある恐怖政治と洗脳支配を増進することに成功した。

自分たちの理想国家は、ロシア以上の共産圏。

だからこそ、この最終決戦で一矢を報いれば世界がこの海域に聳え立つ理想国家を、独立国家として認めて貰えるとまで妄想した。

 

「この戦いは負けるわけにもいかない。このことを良く覚えておくことだ」

 

「もちろん、承知しております」

 

ふたりの会話に―――

 

「大統領閣下、連中の作業に活を入れますか?」

 

アンミョンペク副主席が尋ねた。

 

「むろん、そのつもりでやれ!人間に限界はない!足りなければガキでも使え!物資は近くを航行する輸送船団から強奪すれば良い。乗組員は全員射殺しろ!」

 

「仰せのままに!」

 

アンミョンペク副主席は返礼する。

 

「よろしい、努力しろ!」

 

「はっ、仰せのままに!」

 

アンミョンペク副主席は、返答して退室した。

御満喫な笑みを浮かべた中岡は、彼の報告を聞き終わると優雅にワインタイムを再び堪能した。

 

しかし―――

 

耳を聾する爆発に伴い、水柱が数多く見えた。

 

「何事だ!」

 

中岡は、モニターで現場指揮を担う指揮官に連絡した。

 

『こちら工作部隊指揮官、どうやら機雷敷設艦が爆発して……」

 

「爆発だと、何故だ!?」

 

『恐らくは投下作業中による事故だと思われます』

 

「敷設した機雷は無事か!?」

 

『いえ、爆発のショックで誘爆して全てが……』

 

苛立ちを隠せずに、中岡は言った

 

「そいつらは?」

 

『全員死亡しました。なお敷設機雷部隊が新たに……」

 

「敷設機雷部隊指揮官たちを総括しろ、今すぐに!

その機雷敷設部隊は神聖且つ、我々の楽園、そして余の愛を汚した恥晒し。我々は今そいつらに総括要求の限界を打破しなければならない。

その指導のために殴ると言う方法で言い聞かせろ!

野門と奥口たち率いる赤軍親衛隊にも手伝って貰え!」

 

『了解しました!』

 

中岡は、工作部隊指揮官は敷設機雷部隊指揮官たちを総括するように命じた。

 

「全く俺様のような、誰もが羨む大統領みたいに見習って欲しいものだな」

 

中岡は愚痴をこぼしつつ、赤ワインを飲み干した。

 

「そして、世界大統領の名を刻んでやるんだ!」

 

 

 

中部海域辺り―――

 

「えへへ、無事機雷処理できたのね!」

 

「うん、これで上陸部隊の障害をひとつ減らせたね!」

 

「ゴーヤたちの仕業とは思っていないでち!」

 

「少しの攻撃でも大戦果だね!」

 

「ろーちゃんたちも一撃離脱は得意ですって!」

 

先ほどの機雷爆破は事故ではなく、イク、イムヤ、ゴーヤ、しおい、ローたちの破壊工作である。

以前の通り、灰田から貸与された《反磁力波装甲》素材が含まれた服装により、機雷に触れても起爆せずに接触が出来る。

この利点を利用して、今回の機雷爆破処理を活かすことに成功した。

 

『みんな、お疲れ様』

 

『みんな、大丈夫?』

 

無線機から、郡司とハチの声が聞こえた。

ハチは郡司が乗艦しているイ801の護衛を務めていたため機雷爆破処理から外れていた。

 

「うん、イクたち全員無事なのね!」

 

イクは無邪気な笑みで答え、イムヤたちも微笑んだ。

 

『よし、分かった。我々も素早く本海域から離脱する』

 

「分かったのね!みんな付いて来るの♪」

 

郡司とイクの号令で、全員『了解!』と返答する。

刻々と近づく、最終決戦に向けて少しでも嫌がらせ戦法で相手の士気に影響することに成功したのだった。

 




今回は兵力詳細に伴い、嫌がらせ攻撃で締めくくる展開でもありました。
連邦軍兵器は、前回述べたように新旧イラク軍を参考にしていますが、新たに国民義勇隊やホーム・ガードなども参考にしています。

灰田「実際に両軍とも槍など製造しています。竹ヤリは『超空の決戦』では一部活躍していますが」

本土決戦では、左文字一尉が援助する際に沖縄戦で登場していましたからね。
追い詰められた狐は、なんとやらかな。
米軍やソ連軍はやりましたのが、衝撃的でした。
ともあれ、別世界の日本と同じように我々も負けてはいられないです。

灰田「まあ、そうなりますね」

あともう少しで最終決戦でありますゆえに、最終回も刻々と近づいて来ますがお楽しみに。

灰田「次回の予定では日本視点、且つ最終決戦の準備になると思いますのでお楽しみください」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十四話:決戦準備

お待たせしました。
今年も本作品をよろしくお願いいたします。

灰田「今年も本作品とともに、第六戦隊と!もよろしくお願いいたします」

今回はなお一部ホラー要素もあります所以に、いつも通りですが、一部過激なシーンがありますので御注意ください。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


かつて大東亜戦争では『絶対国防圏』と言われたMS諸島ことマリアナ諸島全海域は、中岡たち率いる連邦亡命政府による恐怖支配で統治された。

本人たちは『決して日本は我々の楽園はバレない』と豪語に伴い、この海域全体を『鉄壁の要塞』とも絶対の自信を持っていた。

 

だが、現実には戦艦水鬼たちにより、暗号と居場所がバレていることすら誰ひとりも気付かなかった。

しかし、少数の賢い連邦指揮官たちはいたものの、粛清を恐れて報告をしなかった。

報告をすれば、たちまち銃殺もあり得るからだ。

現に彼らの好きな総括で、1日に数百人の死傷者が続出する日々が絶えなかった。

寧ろ戦力を減じることばかりに繋がり、立てる者たちは狙撃主や手榴弾など爆発物を括り付けた決死隊『連邦自爆部隊』に転属された。

基本的には素人集団、且つ使い捨て部隊。

北朝鮮の自爆部隊と同様、10時間以上の洗脳教育を施し、死ぬことも躊躇しない。

そういう部隊に転属されたくない、まだ死にたくないと言う我が身の可愛さのためでもあった。

 

今回の、実際にはUDT(水中破壊工作部隊)を模倣して、連邦軍の機雷源を無効に伴い、機雷事故と見せかけた郡司提督とイムヤたちの水中破壊工作を知らぬとは言え、敷設機雷部隊指揮官たちは総括された。

赤軍親衛隊の指揮官以下隊員から散々殴られたうえにロープで吊るされ、さらに激しい暴行を加えられたため、少数の男女隊員たちが死亡した。

彼らは総括対象者を殴って気絶させ、目覚めたときには対象者は別の人格に生まれ変わり、共産主義化された真の革命戦士になれるという論理を持つ。

野門や奥口たちは『ネトウヨ民族のレイシストチョッパリと快楽殺人のヤンキーに、戦争犯罪者である黒幕のアンドルフ・ヒトラー、そしてファシスト元帥や提督、艦娘どもに完勝するために指導した』と述べた。

むろん、精神混入行為としてお咎めなしである。

同時に連邦軍は追い詰められたため、各軍用から民間物資まで貴重なため容易に補給出来ない。

貴重な物資を無駄にした重罪であり、反論するだけでも総括されるからだ。

 

これ以外にも、総括理由は様々だった。

脱走と密告はむろんだが、男女交際や化粧をし、妊婦、幹部志願者、自己批判が下手だったりなど幼稚な理由でも総括対象に含まれた。

 

だからこそ、誰も都合の良い報告しかしない。

共産主義国家独特の伝統と、反日政策を徹底的に施されたので常に模造報告で中岡や忠秀首席、連邦幹部、そして連邦国民たちの御機嫌取り、戦意高揚のためでもあった。

 

しかし、彼らは気付くべきだった。

日本もまた灰田の『最後の支援』で新たな戦力を整えている事に……

 

 

 

連邦亡命政府がマリアナ諸島海域を要塞化にしていた頃―――

 

日本も同じく最後の大規模作戦である“Z作戦”の準備を行っていた。

全鎮守府はむろん、陸海空の全自衛隊、そしてTJS社所属の全軍も支援するのだから多忙でもある。

灰田の貸与したZ機はむろん、無人空母《飛鳥》と《ニミッツ》級無人空母率いる空母戦闘群に伴い、ステルス原潜《海龍》部隊、そして自力として陸上自衛隊などが行った大規模二段作戦『ハワイ攻略海戦』及び『ハワイ上陸攻略作戦』のように大規模作戦並みだと囁く者たちも少なくない。

 

今回もZ機全部隊に、攻略作戦部隊を総動員させて、この最終決戦に挑む。

万が一のために、本土防衛打撃艦隊も配備して置き、各鎮守府の警備に当たらせる。

Z機部隊の空爆では、連邦亡命政府の要塞などには大打撃を与えられるが、最終的にはマリアナ諸島海域を解放するためには全軍の協力が鍵となる。

空爆だけしか出来なくなったアメリカも、ベトナム戦争以降は『地上戦アレルギー』となった。

元より『首都を制圧すれば相手は降伏する』こと自体が古い知識でもあったが。

 

なお、灰田はときどき現れては、新兵力を順調に各鎮守府に送り出していることを報告しに来た。

特に秀真の鎮守府にもその新たな戦力は、優先的に送られた。

 

「これは……」

 

「……とても懐かしいです」

 

「俺は夢を見ているようだ」

 

秀真は驚愕したが、古鷹たち全員にとっては懐かしい光景でもあった。

秀真は、郡司やTJS社も同じように驚いているだろうな、と感想を述べた。

 

「これらは全て近代化改修されています。従来よりも遥かに高性能、且つ強力であります。

今までの能力もより引き立てることも可能であります事もお伝えいたします。

そして前回も申したように、これらは各鎮守府に贈る最後の支援です。

ただし、秀真提督……貴方にだけは最後の支援がありますからお忘れなく」

 

灰田はいつも通り伝え終わると、すぅと消えた。

秀真は分からなかった、俺にだけ最後の支援とはいったい何なのだろう、と顎を撫でた。着々と最後の戦いとも言えるこの大規模作戦は、順調に進行し続けた。

 

最初に行う作戦は、空爆と同時にグアム・サイパンを占領して前線基地にすることが重要不可欠だった。

潜水艦と高高度ステルス無人偵察機による偵察や情報収集、郡司提督とニコライ諜報部隊の報告からでは連邦空軍前線部隊と、連邦国民義勇部隊率いる連邦陸軍が構えているとのことだ。

連邦海軍は、輸送船を改造させて配置した連邦海上要塞と同じく輸送船を改造して哨戒任務用の連邦海防艦、そして上陸部隊を水際撃滅を行う砲台小鬼と、同じく使い捨て部隊が操縦する自爆ボート部隊が中心だった。

灰田が教えてくれた例の陸上型人造棲艦《ハンター》と、悪趣味な銅像ロボット、そして《ブルート》強化兵と言う特殊部隊も配置されていなかった。

これらは全て重要拠点である、中岡たちがいるマリアナ諸島のみ限定配備に留まった。

 

本作戦は陸海空軍共同作戦はもちろんだが、もっとも重要且つ、主力部隊は空挺部隊である。

参加部隊は特殊作戦群とともに、第1空挺団、TJS社、そしてツルタ少佐率いる超人部隊だ。

特殊作戦群は陸自の特殊部隊であると同時に、隊員たちの大半は第1空挺団出身者が多く、実戦経験も豊富なため作戦に抜擢された。

 

第1空挺団は特殊作戦群が創設されるまでは、陸上自衛隊唯一の空挺部隊であった。

前記に述べた通り、特殊作戦群の母体となった本部隊は、現在でも最強の部隊として知られている。

隊員数は1900名。特科群、対戦車隊も付属している。

 

ケイシー社長・後藤たち率いるTJS社も全力を尽くし、準備を整えている。

長崎・佐世保市や各地で起こった連邦工作員部隊や連邦テロリスト、彼らに協力的な左翼勢力など対テロ戦掃討作戦から、秀真や古鷹たちとともに支援艦隊など派兵するなど正規軍並みの活躍を見せている。

元帥の情報では空挺部隊とともに、今回の支援ではロシアから購入したTu-96《ベア》戦略爆撃機10機を巡航ミサイルキャリアーと、TJS社所属艦娘、由良たちに加えて、新たに第2艦娘艦隊(名取・浦風・谷風)に加え、リシュリュー・サラトガ・アークロワイヤルなどが加わり、出撃する方針である。

 

そしてツルタ少佐率いる超人部隊は元帥の護衛が主だが、長崎・佐世保市で起きたテロ事件ではTJS社所属の特殊部隊とともに、連邦工作員部隊を殲滅した功績に伴い、今回の空挺作戦時には連邦軍に心理的ダメージも与えることも出来る。

ましてや不死身の兵士を見ただけでも士気低下、または練度の低い連邦軍が一気に士気崩壊になることを祈るだけだが、自滅覚悟の敵兵は意外な力を発揮するから油断出来ない。

事実では旧軍も特攻部隊による神風攻撃を行った。

彼らを目にした米軍将校や指揮官、兵士たちは精神異常に陥り、ノイローゼや自殺する者たちが続出するほど恐れていた。

 

同時に神風特別攻撃隊に敬意を払った。

1945年4月11日・鹿児島県喜界島沖に戦艦《ミズーリ》の右舷艦尾に突入した零戦が突入した。

後部甲板に突入した零戦搭乗員・石野節雄二等飛行兵曹は上半身が千切れ、その突入ショックにより、その場に投げ出されて転がった。

当時の米兵たちは敵国である日本に対して乗組員たちは、彼の遺体を踏んだり蹴ったりなどをして取り囲んだ。

この光景を見た《ミズーリ》艦長、ウィリアム・キャラハン大佐は若者たちに言った。

そして石野二等飛行兵曹の遺体を見て、『この日本のパイロットは我々と同じ軍人である。生きている時は敵であっても今は違う。激しい対空砲火をかいくぐってここまで接近してきたパイロットの勇気と技量は、同じ武人として称賛に値する。よってこのパイロットに敬意を表し、水葬に付したい!』と敬意を払い、感銘も受けた。

石野二等飛行兵曹の遺体は、乗組員たちが艦内に有った赤と白い布で旭日旗を作り、彼の遺体を包み、静かに海へと葬った。

なお、翌日と言うこの日には全員が海軍制服に伴い、トランペットを吹いて、彼に敬意を込めたほどである。

現在でも記念艦として現存する《ミズーリ》には、石野氏を水葬した際の米軍兵士たちの足跡が再現して刻まれている。

そして限定だが、知覧特攻隊記念館から特攻隊員の手紙と遺品などを展示して、多くのアメリカ人に感銘を与えた。

なお、70年以上前に起きたあの大東亜戦争の始まりとも言える真珠湾攻撃が舞台となったハワイには現在でも大日本帝国に敬意を抱く者たちも多く、今日まで彼らの強さと勇気を尊敬している。

その証しとして、太平洋航空博物館パールハーバーの展示館入口には、真珠湾攻撃時、空母《赤城》から最初に出撃する様子を再現した《零戦》とともに、真珠湾攻撃時に使用された木製安定板付《九一式改良2型魚雷》が展示されている。

いかに日本の技術及び、物作りが素晴らしかったかを物語っている。

同じくパールハーバーヒストリックサイトでは、記念館前にあるパネルには―――

 

“日米は共に世界のステージで指導的な役割を持つために勃興してきた”

 

対等な役割も同時に果たしただけでなく、一文にあるBoth hope to avoid war. には―――

 

“日米は共に戦争を避けようとした”

 

つまり日本が軍国主義であり、戦争に狂奔したなどひと言も書かれておらず、日米ともに公平に刻まれている。

展示場館内では、空母《赤城》の模型には真珠湾攻撃当日の朝の様子を再現している。

模型には《零戦》などだけでなく、重要な役割を持つ作業員、防空を務める機銃士、そして真珠湾に向けて飛び立つ部隊を見送る乗組員たちが生き生きと忠実に再現されている。

隣にある戦艦《アリゾナ》の模型は、艦橋に艦長と、甲板にいる乗組員ひとりと言う実にシンプルなものだ。

展示されている文章でも、大艦巨砲主義を打ち破った日本を高く評価している。

反日国ならば、このように丁寧なことはしない。

寧ろ彼らの場合は、あり得ないこと作り話をして悪口外交の切り札に使う。

 

よく開戦後に言われていた『リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)』は恨み節を言われているが、本当の意味は別にある。

 

“常に世界を見て、備えなければならない”

 

本土とは違い、ハワイでは本当の意味で伝えられているのだ。

そして日本は航空基地及び軍港など軍事施設を的確に攻撃した。

当時の目撃者たちは、彼ら日本軍を今日まで評価したおかげで日米の絆が奇跡の日米同盟を築き上げたきっかけを教えてくれたのだ。

 

しかし、左翼や反日国家は『模造だ』と訳の分からない理由と主張で憤慨した。

日本海軍航空隊が病院や民家を爆撃した、『日本海軍は素晴らしかった』と英語で書かれた文章を中国観光ガイドは『日本人は悪魔だ』と、組織的に嘘を付いている。

また射殺された民間人写真が展示されているが、実は友軍、米軍による射殺された写真ですらも日本軍がやったなどとデタラメを吐いている。

 

今や反日のるつぼでもある連邦軍も同じように、日本=絶対悪と認識しており、英霊たちは悪魔の化身及び、快楽殺人者集団などと貶める宣伝、プロパガンダで日本を貶めた。

彼らが尊敬する毛沢東やスターリン、ポル・ポトはむろんだったが……

かのルーズベルト大統領は善人且つ、正義の鉄槌で軍国主義国家の日本に神罰を与えた、などと宣伝するほどだった。

日本を打倒すれば、世界の覇者になることだけを生き甲斐とした哀れな集団である。

 

だが、そんな彼らにもいよいよ神罰が下る時が訪れたのだった……

 

 

 

中部海域―――

 

この日、夜間にも関わらずご苦労かと言うくらい連邦海軍所属の警備海防艦《ウォーマン》が警戒態勢を密にしつつ、通常任務より少しだけ足を伸ばして警備を行なっていた。

本来の海防艦は海上警備専門の艦ではなく、航路警備を目的とする艦だ。

駆逐艦よりも小型だが、そうした海軍本来の任務に就くことを主眼として建造されているため、艦隊に組まれることはない。

しかし、連邦海防艦の場合は輸送船並みの大きさを誇り、警備だけでなく、海賊行為をするために運用している。

 

兵装は76mm単装速射砲1基、JM61 20mm機銃1基に伴い、海賊目的のために対人攻撃は充実している。

対戦車ミサイルとして有名なTOWミサイル、中国製対戦車発射擲弾器《69式ロケットランチャー》などの重火器、AK-74やM16A4などの小火器も積んでいる。

機関も最大戦速25ノットも発揮出来ると、豪語している。

この“地上の楽園”と化したこの海域に侵犯してくるものはいない、と警備任務に当たっている。

しかし、今回は珍しくこの海域では海の色さえどこか不吉な濃霧が周囲を包み込んでいた。

 

「艦長、交代します」

 

今日も今日とて、周囲の状況に変化はない。

周囲を警戒する下士官、のんびりとコーヒーを飲みつつ、音楽を聴いている乗組員たちを見守っていた《ウォーマン》艦長、本村中佐の元に、艦内から堀川豊少佐が呼びかけた。

 

「おう、副長。ご苦労。今のところ、変化なしだ」

 

顔をほころばせた本村が、自分の当直していた間の出来事を記録した綴りを渡す。

ひと通り眼を通した堀川が、視線を向けて話し掛けた。

 

「本当に退屈ですね、艦長」

 

「ここは地上の楽園だからな、俺たちは選ばれし人類として中岡大統領様の御加護があるおかげでこうして極楽な毎日を謳歌できる」

 

「そうだな。まさにここは地上の楽園だからな」

 

「ましてや武器を持って他国から侵略されないように自衛するのはチンパンジーがすることだ。沖縄を中国から盗ったことに関しても反省すれば良いし、侵略されたら白旗上げて降伏すれば良いのに、日本はアンドルフ・ヒトラーに踊らされている馬鹿であり、俺も無知だけど神である俺たちに喚く頭の悪いチンパンジーどもと、人殺しの兵器どもを愛する低脳はひれ伏して死ねば良い」

 

「本当、国のために戦うか。バーカ」

 

両者の雑談を聞きながら、乗組員たちは云々と頷きをしているときだった。

 

突然、レーダーを務める担当員が声を上げた。

振り向いた顔が、緊張して紅潮している。報告する声音にも、張り詰めたものが滲んでいた。

 

「艦長、レーダーに感あり。距離は本艦の―――」

 

全員が周囲を確認すると、濃霧の中から音もなく幽霊船が目の前に現れた。

濃霧から現れたのは、1隻だけではなかった。

数隻。しかも様々な大きさを誇る幽霊船であると同時に、彼らの双眸、その瞳に映る姿は霧の向こうにある黄昏の国から美しき死神たちが迎えに来たかのように……

 

「回避しろ、俺は死にたくない!」

 

幽霊船を見た本村は冷静さを失い、泡を喰ったように回避しろと命じた。

艦長命令は厳命だ。舵を思いっ切り回した。

しかし、恐ろしい衝撃が連邦海防艦《ウォーマン》に、襲い掛かって来た。

目の前にいた中型の幽霊船艦首が、艦体を一刀両断するように切り掛かって来た。

《ウォーマン》の艦体中部に衝突をすると、耳を聾する轟音を立てながら艦体に、日本刀の先端部分が切り裂いていく。

みるみると深い傷を負い、踏み潰されていく《ウォーマン》は火焔を起こしていく。

燃料に伴い、搭載していたあらゆる弾薬類が引火し始めた。

乗組員たちは脱出する暇もなかった。本村を含め、艦内にいる乗組員たちを、プレスハムのように圧縮された。

辛うじて息がまだある本村と、堀川は少しずつ変形していく自身の身体を目にして、断末魔を上げようとしたが……

爆焔交じりの水柱が立ちあがり、断末魔すらも消し去った。

 

幽霊船を目撃した者は海上で事故が起こるか、あるいは幽霊船を見た者がその後不幸に襲われるなどと伝えられている。

 

この言葉通り、連邦海防艦《ウォーマン》は静寂な濃霧のなかで誰にも看取られることなく、謎の幽霊船による衝突事故に遭い、沈没した。

 

幽霊船団を護るように上空には、渡り鳥を連想させるように大型航空機の群れが目的とするとある島を目指していた……

 




今回は戦力準備詳細に伴い、一部ホラー要素が含まれた回でもありました。

灰田「この幽霊船の正体は、果たして何なのかはちょっと先になるかもしれませんがお楽しみください」

そして一部ですが、大東亜戦争で我々の先人たちがいかに素晴らしかったことも然り。
この話を知り、涙なくしては語れないです。
因みに今でも彼らの勇姿は尊敬されています。
なお、《ミズーリ》の艦長を務めたウィリアム・キャラハン大佐はダニエル・ジャドソン・キャラハン少将の弟だと言うことも初めて知りました。

灰田「敵ながらも名称であり、天晴ですね」

そうですね。日米の絆も大切ですが、対等になることも大切ですね。
ここでは語りつくせないほどたくさんありますが、長くなりかねないので省略しますね。

灰田「では、次回に移りますね」

次回はいよいよZ作戦開始の幕開けとも言える、空挺作戦を開始します。
なお『超空の決戦』に登場したキャラも登場いたしますので、お楽しみください。

灰田「本作戦で最終回に近づきありますが、お楽しみください」

いつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十五話:空挺団降下す!前編

お待たせしました。
いよいよこの究極且つ、最後の作戦、そして大規模作戦こと、“Z作戦”に突入します。

灰田「長い戦いの始まりとも言える空挺部隊が活躍する回でもあります」

なお一部は過激な部分がありますので、ご注意ください。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日付 X-day

時刻 0615

グアム・サイパン諸島付近

 

黎明が近づく頃、この両海域付近だけ、不思議な現象とも言える濃い霧に覆われていた。

この濃霧の中から転々と光の輪が光った。

艦首が水を切り裂く感触を感じながら、同時に湿った空気を震わせて、幾つものスクリュー音が静かに響き渡る。

この巨大な影が現れた。異様な厚みのある重そうな艦首がずっしりと、鉛色の海を航海している。

霧を縫って飛ぶカモメがかすめた艦首には、紛れもなく、菊の紋章が燦然と輝いていた。

 

「提督、まもなくグアム・サイパン諸島沖に到着します!攻撃隊もいつでも発艦出来ます!」

 

第一次攻撃及び航空支援などを務める赤城が、秀真に報告した。

 

『うむ。今回は赤城たちと空挺部隊の連携攻撃が重要だから、頼んだぞ!』

 

「おまかせください。私たちもこの戦いで、この暁の水平線に勝利を刻みます!」

 

『ああ、健闘を祈るぞ!』

 

赤城は「はい!」と、甲高い声を発した。

秀真と短い通信を終えた赤城は、見開いた双眸と伴い、強い口調で命じた。

 

「全員に命じます!第一次攻撃隊、発艦せよ!」

 

風向きとともに、艦載機を発艦させるに理想な揚力を造り出している。

そして彼女の意志に応えるように、次々と艦載機が爆音を上げて滑走を始めた。

多数の戦爆連合部隊が、空中で集合し、いくつもの梯団を組んで、南西の空に消えていく。

どんよりとした陽光を翼に受けて、飛び去る大編隊を見送って、赤城はその凛々しい顔に、万感の想いを込めていた。

 

私たちも運命を打ち砕いて見せると―――

 

 

 

時刻 0630

連邦空軍基地 飛行場

 

連邦空軍基地での警備態勢は厳重に敷かれていた。

滑走路にはアメリカと同盟を破棄するまでF-16戦闘機とともに、MiG-29やMiG-21、MiG-23とSu-24など中心とした戦闘攻撃機、そしてTu-22戦略爆撃機と言った多国籍軍さながらの様々な航空機が待機していた。

 

連邦航空部隊だけでなく、警備隊が運用する装甲車輌が順次警戒態勢を行っている。

基地警備用として、85式装甲兵員輸送車と、BMP-3が少数配備に伴い、敵機攻撃に備え、周辺には95式自走対空機関砲や対空自走車《アヴェンジャー》とともに、歩兵にはFIM-92《スティンガー》、SA-7《ストレラ》などのMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)と言った携帯式個人火器も装備していた。

 

しかし、警戒態勢が敷かれている最中、基地の命とも言える司令塔では―――

 

「ドはドーナツのド………」

 

『ファはファシズムのファー♪』

 

連邦空軍司令官・香川ニカ少佐は、野門と奥口率いる赤軍親衛隊と、その隊員と一部忍者の姿をした隊員たちとともに、酒を酌み交わしながら宴会をしていた。

 

「本当、ヘイトチョッパリは全て地獄に落ちれば良いんだ!この世から抹殺してやる!」

 

眼鏡を掛けた口髭を生やした隊員が、酔った勢いで日本の悪口を言った。

 

「日本が好きで何が悪いとか馬鹿どもはよく言うが、日本は帝国軍国主義に洗脳されて、アジア各国に侵略戦争で反省もせず、再びアンドルフ・ヒトラーが世界を侵略しようとしていることも知らずに馬鹿な劣等民族は、哀れにも従っているんだ!」

 

「僕たちが酒を交わし合う外交を、あのヘイト首相どもが邪魔したんだ。僕の素晴らしき演説をしたのに恥をかかせるように、安藤と元帥が仕込んだんだ。ヘイトかましたら、この世におれないようにしてやるんだ!」

 

野門と奥口も酔った勢いで愚痴を零した。

 

「奴らを好き勝手させるな、レイシストどもは自己批判せよ!自分の顔を自分で殴れ!

両目を潰して四肢を切断せよ!憎き我ら連邦共和国の宿敵であり、平和の敵でもあるA級戦争犯罪者の安藤と元帥たちの喉笛を食いちぎれ!

ジャップは人類のクズで女はみんな売春婦、だからこそ速く死ね!今死ね!毒飲め!早く死ね!レイシストどもは殺されて当然、そしてレイシストどもの赤ん坊は豚のエサにしてやる!」

 

高嶋少佐は自身の拳を挙げながら、日本の悪口を高らかに叫んだ。

 

「そうだ。極右性人格障害の戦争犯罪人とファシストどもと、ネトウヨを野に放っているのならば……泣く子も黙る中岡様直属の赤軍親衛隊こと、精鋭チョッパリキラーズの指揮官様であるこの俺様自慢の《チョッパリキラー》と《チョッパリサック》の同時攻撃で、レイシストどもを一匹残らず殲滅してやる!」

 

「僕もこの聖剣《ピース・ラッパー》と、中岡大統領様から賜りし素晴らしき聖書『我が連邦革命』で磨いた知識でネトウヨどもを論破した後、この大罪を浄化するために斬首、または火あぶりの刑にして焼死させてやれば賢い僕たちの言葉を聞いてくれるし、酒を交わしながらの話し合う仲良し外交が一番だと言う証拠にもなるんだ!」

 

高嶋少佐に負けず、野門と奥口は自分たちの御自慢たる得物で日本人を虐殺することに自慢げに宣言する。

因みに野門が両手に携えている《チョッパリキラー》と《チョッパリサック》、《ピース・ラッパー》は、前者はただの釘バットとメリケンサック、後者はただのマイクである。

彼らは軍用銃相手でも勝てると信じているが、実際にファンタジー世界のような奇跡が起こることはない。

 

「まだまだね、貴方たちは。私ならば、この香川神拳奥義『香川百裂拳』で充分よ!」

 

この香川神拳奥義と言うのも、中指を立てたまま行う某有名漫画の見よう見まねのパンチである。

 

『さすが、香川司令官!!!』

 

連邦親衛赤軍メンバーの絶賛を聞くと、ドヤ顔をしながら香川は彼らに自慢するように続けた。

 

「これで5人相手まで出来るから、中岡大統領様の超越した御力且つ、努力の賜り物よ。

そしてチョッパリどもを倒した後は、私が得意とするロボトミー手術で極右性人格障害の戦争犯罪者たちと、協力者である知能遅れのネトウヨとレイシストどもは、我々の栄光たるスターリン閣下が築いたソ連時代に行った妙妙たる人体実験『ラボラトリー12』のように、私の手で精神状態を安定化しなければね」

 

香川ニカは中指を立てながら、満面の笑みを、非道な人体実験を考えただけでも不気味な笑みを浮かべた。

彼女が言った『ラボラトリー12』と言うのは、ソ連が冷戦期に強制労働収容所で実際に行った人体実験だ。

”チャンバー(部屋)”と呼ばれる場所で、秘密警察が恐ろしい実験をしており、グラークという強制労働収容所の精神病患者や囚人などの食事や飲み物、あるいは治療薬と称した薬に、マスタードガス、リシン、ジギトキシンなどの毒物を混入して、被験者たちの様子を観察していたと言われている。

 

「本当に実験がお好きですね、香川司令官は」

 

ナース姿の親衛赤軍隊員が言った。

 

「当然、戦争犯罪者たちのファシスト信者どもの自己満足主義で下らないものを崇めるより良い知識だし、この人体実験は、世の中のためにでもなるわよ!」

 

香川ニカは、自慢気に言った。

元より、彼女からして見れば、人体実験は遊びだ。

おもちゃを与えられて、何時までも好きなように楽しめるおもちゃのような感覚でもある。

所以に生きながらに相手を少しずつ切り刻み拷問して楽しみとともに、生き甲斐を感じている。

例え無力な女性・子どもたちでも、自身の欲求を満たすためならば、容赦なく人体実験の材料とする。

ナチス並み、いや彼ら以上の残虐な人体実験を行うことも躊躇わない。

 

「我々の楽園に侵攻するならば、全員揃えば無敵よ。

しかもここは中岡大統領様の、中岡大統領様による、中岡大統領様のための地上の楽園。

中岡大統領様の楽園自体、侵入されることはないから安心よ。

もし勝利した際には、捕らえた戦争犯罪の捕虜どもは海水飲水実験や低圧・酸欠実験などもの実験材料も良いけれど、娯楽用として射的用の案山子、硫酸プールに突き落とすゲーム、そしてレイシストどもの頭蓋骨は戦利品として飾りつけも良いわね。

その際は中岡大統領様のために献上金及び、私たちの裕福な老後生活を送るために、これを観賞用として、ネット販売してしこたま儲けるわよ!」

 

「おお!良いアイデアですね!」

 

「我々の老後の生活も安泰ですな!」

 

香川司令官たちは、このあとに凄まじい恐怖が訪れることも知らずに、宴会を謳歌し続けたのだった……

 

 

 

白銀色の翼を輝かせながら、赤城たちの艦載機部隊は目標たる飛行場上空にたどり着いた。

その正体は、空母《アカギ》のステルス無人艦載機F-14D《トムキャット》と、F/A-18E《スーパーホーネット》部隊だ。

さらにTJS社のF-35《ライトニングⅡ》部隊に続き、主力ジェット艦載機《天雷改》と戦闘攻撃機《轟天改》と、遅れて大型や小型レシプロ機も飛翔して来た。

これらの猛禽たちは、眠れる小動物の群れを模倣させるかのように無防備状態の連邦空軍機や地上部隊などを見つけると次々と降下する。

 

まずは魔女の悲鳴に似たアフターバーナーを唸らせて、F/A-18E部隊は両翼下にいくつもの抱えたEGBU-28《ペイブウェイ》精密誘導爆弾を投下した。

密集態勢及び、陳列されていた連邦戦闘機部隊に達するなり、凄まじい爆発と衝撃波とともに機体は四散し、次いで機体に搭載された空対空ミサイルなど武器・弾薬類などが誘爆して、周囲に炎の手を上げる。

 

F/A-18Eに続き、F-14DとF-35部隊がパニックに伴って、逃げ惑う歩兵部隊に機銃掃射を見舞った。

断続的に炎を発し、アスファルトを跳ね上げて弾痕を穿っていく。

逃げ惑う連邦兵士たちは、死神たちに切り刻まれた操り人形のごとく、鮮血に混じって地面に倒れた。

 

仲間の仇を取らんと、各種の対空ミサイルや機関砲による迎撃を開始する。

彼らに加わり、警備用地上部隊も迎撃に参加した。

 

「なんで……日本のジェット機に混じって、米軍のF-86《セイバー》に、烈風改と流星改、彗星一二型甲、ソードフィッシュ、スカイレイダーなどもいるんだ!?」

 

ひとりの名も無き連邦兵士が蒼空を見上げて叫んだ。

彼らの瞳に映るのは、紛れもなく現代の戦闘機並みの大きさを誇っていた名機たちだった。

連邦兵士たちが常に見たのは、手のひらに収まるほどのサイズだった。

しかし、幻でもなく現実だった。

両翼から出た金属の筒から、リズムよく刻むように30mm機関砲が火を吹いた。

絶叫した連邦兵士たちを地獄に引き摺り下ろすと、機首を上げて蒼空へと舞い上がる。

 

「そんな事はどうでもいい。撃て!撃て!」

 

飛行場を取り囲むように配置された対空ミサイルと対空機関砲部隊指揮官たちが絶叫した。

しかし、唖然としている部隊もあり、あのステルス機に翻弄されるがごとく、UFOのように非線形飛行やフレアで躱された挙げ句、御返しをするように空対地ミサイルや機関砲による機銃掃射などで赤子を捻るように、次々と破壊される始末だった。

さらに魔女の悲鳴に似たサイレン音を響かせながら、獲物を捕捉した《彗星一ニ型甲》と、雷撃機でありながらも急降下爆撃可能な《流星改》は機体の腹に抱えた500キロ爆弾を、旧式ながらも第二次世界大戦で『タラント港空襲』と『ビスマルク追撃』、そしてUボート狩りに活躍した《ソードフィッシュ》は両翼下のロケット弾を投射、または機体の腹に抱えた250ポンド及び500ポンド爆弾、究極の艦上攻撃機とも言える朝鮮戦争からベトナム戦争で活躍したA-1《スカイレイダー》は2000ポンド爆弾及び、ロケット弾を空へと舞い上がろうとする先頭にいたF-16やMiG-29部隊の目の前に投下した。

コックピットから見たパイロットの双眸には、爆弾やロケット弾に吸い寄せられるように激突した。

コックピットごと押し潰されたパイロットは押し潰されて死亡した途端、信管が発火して爆発音と伴い、衝撃波に包まれた。

この火の海と、地獄絵図と化した飛行場から空に逃げようと飛び立とうとした両部隊は滑走路に大穴が出来た以外に、先頭にいたF-16の機体が二次被害を及ぼした。

 

この地獄から上手く舞い上がった少数のMiG-21、MiG-23とSu-24などを中心とした旧式の戦闘攻撃機部隊は、いたずらに免れない死を、その命を引き延ばしただけだった。

ひと安心して頭上を見上げると、突入して来たのはあの非線形飛行を披露したF-14DとF/A-18E部隊と伴って、精鋭を誇るF-35《ライトニングⅡ》部隊に、そして《天雷改》と《轟天改》、F-86《セイバー》合同部隊が待ち伏せをしていた。

各機の空対空ミサイル及び、搭載していた30mm機関砲及び、《天雷改》と《轟天改》、F-86《セイバー》は前記の機関砲を上回る50mm機関砲を一斉射した。

被弾した敵機は、誰ひとり生き残る事もできず、機体と運命を共にした。

燃え盛る機体は、きりもみしながら落下して、第二次、第三次被害をもたらす。

まるで神が、悪魔たちに神罰を与えるように―――

航空基地に甚大な損害を与えると、攻撃隊は高度を上げて反転、そして空の彼方へと消えていった。

 

 

 

「な、なによ!この光景は!?まるで戦前の軍靴の響きが聞こえる前兆じゃない!」

 

司令塔からこの様子を香川司令官と、野門と奥口率いる赤軍親衛隊隊員たちは茫然と燃え盛る飛行場を見渡した。

必死の努力で補充した航空部隊は壊滅したと言っても過言ではない。

実際には20分足らずだったが、数時間の空爆が行ったような感覚に襲われた。

レーダー基地及び各施設、掩蔽壕なども炎上して、生き残った兵士たちが懸命の消火活動と修復作業などを行なっていた。

燃料庫などに攻撃がなかったのは幸いだったが、同時にここを占領するためだと考えた。

呆然とする彼女たちの考えが後ほど、第二の悪夢が襲い掛かってくることも現実になるのだった……

 

 

 

「まもなく目標に到着します!」

 

機長からの声が、ベンチシートに肩を並べて部下たちと座っている西条一佐のヘッドセットに入ってきた。

両諸島にはレーダー基地があったが、攻撃隊が破壊して機能停止してはずだ。

 

「目下のところ妨害なし。連邦空軍基地まであと20分」

 

機体はぐっと傾き、充分な距離をとって飛翔する。

 

ようやく、空が明るくなってきた。

近海が見える手前で針路を右にとり、内地に向かう。

まだ敵ミサイル及び高射砲も撃ってこなければ、敵機の迎撃もない。赤城率いる艦娘と、

秀真とTJS社率いる合同空母戦闘群の空爆が功を奏したのか、敵が油断しているのかは分からないが、西条一佐は両方だろうなと捉えた。

 

「目標まで、あと10分」

 

「全員、最終点検をしろ!」

 

西条一佐が号令した。

全員パラシュートと背嚢を背負った空挺完全装備。誰彼の顔も迷彩ペイントを施している。

武装はHK416及び、89式小銃(カービンタイプ)、9mm機関拳銃及びUSP拳銃、M9コンバットナイフを装備している。

黎明時の降下のため、暗視ゴーグルは装着していないが、背嚢に収納している。

これらの装備だけで、約30キロはある。

また分担支援火器《MINIMI》を携えている隊員たちもいる。

対人及び対戦車戦に備えての重火器―――M2重機、84mm無反動砲《カールグスタフ》や110mm個人携帯対戦車弾こと《パンツァーファウスト3》、01式対戦車誘導弾、各種迫撃砲などは梱包されており、パラシュートで降ろされる。

また、軽装甲機動車や機動戦闘車も同じくパラシュート投下されることになっている。

連邦空軍基地を事前に入手したマップを念入りに研究して、確保地点を全員頭に叩き込んでいる。

要するに最大の目的は、滑走路の確保だ。

後に来るZ機やTu-96、C-130などが降りられるようにすれば潤沢な補給物資が受けられる。

 

「降下5分前!」

 

「スタンバイ!」

 

機内に赤ランプが灯り、それが緑に変わったときが『ゴー!』である。

水平に吊るしてあるワイヤーに、一佐はパラシュートの開傘ワイヤーが繋がるフックを引っ掛けた。

輸送機から飛び出すとともにワイヤーが引っ張られ、2秒で自動開傘する。

 

「やや西風あり、秒速3メートル!」

 

副パイロットから報告して来る。

 

「聞いたか、やや西に流されるぞ。上手く調整しろよ!」

 

秒読みが始まり―――

 

「ゴー!」

 

ライトが緑ランプに変わり、扉が開き、ごうっと風が吹き込んでくる。

西条一佐は大きく深呼吸すると飛び出した。

これに続き、中隊長以下、各幹部や隊員たちも続いた。

 

「我々も降下するぞ!」

 

超人部隊を乗せた輸送機からも超人部隊が次々と降下して行き―――

 

「我々も同じくひと暴れするぞ!」

 

そして、TJS社所属の空挺部隊と援軍も次々と降下していく。

 

合計3320人以上の空挺隊員が、目的地である飛行場に降下して行くのだった……




今回は一部ネタバレもありましたが、この先のお楽しみとして黙っててくださいね(千歳ふうに)

灰田「空挺作戦は『超空の決戦』に登場した部隊でありますが、時代背景に合わせて装備品も一部変わっています。なおF-86《セイバー》は米国に加担したミスターパープル仕様の機体であり、50mm機関砲や航空爆弾を装備して従来よりも強力です」

今後も驚愕な展開ばかりが待っていますので、お待ちください。
とある人物たちは『テコンダー○』似のキャラたちでありますので、本人たちではありません。後ほど連中の運命も次回で明らかになります。

灰田「では、次回に移りますね」

次回はいよいよZ作戦開始の幕開けとも言える、空挺作戦の続きです。
激戦となりつつ、彼らの活躍もお楽しみください。
なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十六話:空挺団降下す!後編

お待たせしました。
予告通り、Z作戦開始の幕開けとも言える、空挺作戦の続きです。
激戦となりつつ、彼らの活躍に伴い……

灰田「休日ぐーたら暇人さん作品のチートーズたちとのコラボをお楽しみください」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


「なんだ、あれは?」

 

鎮火活動及び、大破した機体の残骸処理作業を行う工作部隊などは唖然として見上げる蒼空に、忽然といくつもの白い花が咲いているのに気づいた。

もっとも察知の良い兵士が、憎しみを込めた叫びを上げた。

 

「パラシュートだ!ジャップの空挺部隊だ。連中、空から襲って来たぞ!」

 

恐慌が再び起こった。

艦載機による空襲に続き、空を覆って降下する精鋭さを誇る空挺部隊の恐ろしさは、身にしみて知っている。

連邦軍兵士たちは、徴兵前はプロ市民、元より平和活動の皮を被った妨害及び、破壊工作を中心とした工作員時代で目撃した際の空挺部隊は、普通の兵士よりも連携と機動力、戦闘力も高いから理解している。

あの大東亜戦争初期で展開したジャワ・スマトラ諸島攻略作戦で活躍した落下傘部隊は『空の神兵』と言われ、連合軍からも恐れられていた。

 

香川ニカ司令官及び、野門・奥口率いる率いる赤軍親衛隊が仰天したのは、空挺部隊の降下など全く予想もしていなかったことである。

しかも、先ほどの激しい空襲により、せいぜい使える稼働兵器は高射砲4門、機関砲台10基、基地警備用の軽装甲車輌1輌に過ぎなかった。

連邦歩兵の武器はAK-74及び、AK-47、M16A4などの各種類の軍用銃とともに、M2重機、迫撃砲が主である。

ゴンザレス少佐率いる警備大隊も含め、兵員数は500名。

基地機能と、航空機をほとんどが破壊された。

敵は、それで満足したのかと思いきや、今度は空挺部隊が襲来するなど、誰も示唆してくれなかった。

 

やって来た輸送機部隊は、数千と言う多数のパラシュートをばら蒔くと、機体を旋回して、高度を上げて蒼空の彼方へと消えて行った。

数少ない連邦軍の高射砲及び、機関砲台が迎撃したものの、1発も輸送機に命中することはなかった。

 

空挺隊員が滑走路周辺に着地し始めたとき、香川たちは我に返った。

 

「何してんの、さっさと目の前のジャップどもをやっつけろ!」

 

香川の号令により、野門・奥口率いる赤軍親衛隊と、連邦軍兵士たちは各々の得物を携わり、戦闘態勢に移った。

 

「喰らえ、クソチョッパリ人への我らの連邦軍の力を、チョッパリキラーブーメラン!」

 

野門は、30メートル先に着陸しようとしている空挺隊員に向けて、釘バットを力いっぱい投擲した。

偶然にもひとりの空挺隊員に命中し、身をよじらせて絶命したかと思いきや―――

 

「お、俺のチョッパリキラーブーメランが!?」

 

命中したのにも関わらず、何事もなかったかのように空挺隊員は釘バットを素手で握り潰した。

野門が最初に倒したのは、灰田が元帥のために護衛した超人部隊のツルタ少佐である。

むろん不死身の彼や、他の超人部隊隊員たちからすれば痛くも痒くもないものだ。

 

「ひいっ!ゴンザレス少佐、奴らを射殺しろ!」

 

恐怖に駆られ、怯えて逃走する野門は、すれ違いざまに警備隊長のゴンザレス少佐に命じた。

ゴンザレスはM16A4を構えた瞬間、ツルタ少佐が携えた未来自動小銃で脆くも射殺された。

銃弾を浴びたのは、警備隊長だったため、連邦軍はたちまち混乱して、各所で乱戦が始まった。

 

連邦軍兵士たちは、降下して来る空挺隊員を撃ちまくった。

 

しかし、ツルタ少佐率いる超人部隊だけでなく、西田一佐率いる第1空挺団や特殊作戦群、TJS社の空挺部隊などが降下しながら応戦する。

降下する友軍を援護するため、すでに着地した合同空挺隊員たちが腹這いに伴い、円陣を作り、分隊支援火器や突撃銃を構えて火箭を形成する。

特に分隊支援火器《MINIMI》など、軽機は猛烈な火力や凄まじい発射速度、射程距離を兼ね備えていた。

素人に毛が生えた程度の徴兵制度で微兵された連邦軍兵士たちは、銃のいろはも知らずに、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていった。

 

さらに別方向では―――

 

「あいつら、不死身かよ!?」

 

「連中、不死身部隊を持っているなんて聞いてないぞ!」

 

「化け物相手にどうやって勝てば良いんだよ!」

 

ツルタ少佐率いる超人部隊の攻撃を受けて、泡を喰い、ただ無闇に撃ち続けた。

なにしろ彼ら超人部隊は、人間の5培の体力及び、跳躍力、そして肉体的耐久力もずば抜けている。

例え射殺しても、超人部隊隊員たちは極めて迅速な細胞再生能力を持ち、五体満足ですぐに起き上がり、両手に携えた二百式自動小銃に、短機関銃、南部式自動拳銃改、手榴弾など自前の未来武器で反撃して、自衛隊の第1空挺団及び、特殊作戦群隊員たちとともに、連邦軍兵士たちを蹴散らし続けた。

 

別方向で銃撃戦を展開している連邦軍兵士部隊も、同じく悲惨だった。

 

「うきっー、侵略軍の日本軍の落花傘部隊や義烈空挺隊がいるんだ!あの旭日旗は血と骨で出来たものだ!あんな国旗と、ジャップも見たくもないのに!」

 

「旭日旗など見たくもなければ、見るだけで発狂と心臓麻痺が起きそうだ!」

 

「我が楽園に侵略するな!ネトウヨども!出てけ!」

 

怒り狂う猿たちのように、一部の連邦軍兵士たちは、顔は真っ赤に紅潮して、盛大に火病を起こしていた。

アジア諸国の平和を壊し、恐怖支配による植民地支配をし続けたアジアの侵略軍『日本軍』のコスプレをしたネトウヨ集団だろうと思い、侮っていた。

多くの連邦軍兵士たちは、こちらが数発ほど撃てば泣きべそ掻いて逃げるだろう、と思い、発砲した。

だが、そのコスプレ軍団と決めつけて戦って見ると、現実と想像では違っていた。

 

彼らと戦っている空挺隊員たちは、自衛隊の第1空挺団や特殊作戦群と変わらなかった。

ただし、彼らの鉄帽覆いには、海軍の錨マークとその下に『日本帝国海軍』と施されていた。

同時に自分たちよりも、遥かに高い攻撃力及び、一糸乱れぬ動きを兼ね備えた連携攻撃を披露したのだった。

そして、彼らの強さは大日本帝国陸軍並みでもあったのだった。

 

連邦軍が、その部隊を知らないのも無理はない。

彼らの正体は、 別名『親衛中隊』と呼ばれ恐れられている、第七独立機動艦隊所属海軍陸戦隊・第六歩兵中隊と言う名の日本帝国海軍所属の精鋭陸戦部隊だった。

彼らを指揮する者たちは、福本勇気中将・セルべリア少将夫妻及び、山城正人少将・シルヴィア大佐夫妻だ。

 

「ふん、我々を舐めるとは馬鹿な奴らだ」

 

「連邦の方がレイシストだ。全部隊、遠慮は要らん。潰せ!」

 

そう言って愛刀を抜いて突撃する福本中将と山城少将に続いて、セルべリアとシルヴィアも同じく抜刀突撃する。

 

「両夫妻方に続け! 遅れれば日本帝国の恥だ! 掛かれ!!」

 

第六中隊を率いる石田少佐は、自ら小銃を撃ちつつ突撃命令を下す。

精鋭且つ、最強を誇る空挺部隊の攻撃を受けた連邦軍は、少しずつ追い詰められ―――

 

「下がれ!管制塔まで後退!!そこを死守するんだ!!」

 

戦死したゴンザレス少佐に代わって、臨時に指揮に務めるクロフォード大尉が命じた。

命令に応じて、連邦軍部隊は各拠点や塹壕などから飛び出し、各銃器独特の乾いた銃声による弾幕を張り合いながら管制塔まで後退する。

クロフォード大尉のこの命令は、連邦軍にとっては不運となり、空挺部隊にとっては味方となった。

 

投下された装備―――重火器や軽装甲車輌などを回収する時間ができたからだ。

 

着地したコンテナを開封しようと、近くにいた超人部隊たちが走り寄る。

彼らは周囲警戒しつつ、コンテナを開封し、収納された重火器などの兵器を取り出した。

M2重機や各種の迫撃砲など、一部は組み立てる必要なものがあるが、超人部隊たちにとって、迅速にこれらを組み立てることぐらいは容易いものだった。

 

次に投下された軽装甲車輌こと、軽装甲機動車や16式機動戦闘車の回収だった。

 

軽装甲機動車2輌のうち1輌が、不運にも掩蔽壕のてっぺんに落ちて横転したが、残り1輌及び、16式機動戦闘車は無事に滑走路の端に降りていた。

放置された塹壕のひとつに入っていた西条一佐は、双眼鏡で確認した。

 

「よし、あいつを取ってこい!」

 

西条は、部下たちに命じた。

軽装甲機動車は、陸上自衛隊の普通化(歩兵)部隊向けに開発された装輪装甲車で、愛称は『ライトアーマー』、または『LAV』と呼ばれている。

小銃や拳銃弾に耐えられる防弾機能を備えており、車輌の天井のオープンハッチに、盾付きの《MINIMI》、或いはM2重機を据え付けるか、各種の対戦車携行ミサイルを持った隊員が身を乗り出して発射することで、対戦闘車輌戦も可能である。

 

もう一方の16式機動戦闘車は、普通科(歩兵)に対する直接火力支援と軽戦車を含む装甲戦闘車両の撃破などに使用するための車輌である。

米陸軍のM1128 ストライカーMGSを運用する『ストライカー師団』を模倣したと言われている。

対戦車戦ではなく、ストライカー同様に、4種類の砲弾を使用して、市街戦や歩兵の火力支援を行うために運用されている。

対戦車戦に関しては、10式及び、90式戦車を率いる機甲部隊などが上陸するまでは貴重な火力だ。

 

「各部隊、よく聞け!」

 

西条一佐は、無線機を通じて連絡した。

 

「A部隊と、B部隊及び、C部隊は管制塔を占領する。我がDE部隊は計画通り滑走路の三点を確保しろ!」

 

A部隊は、ツルタ少佐率いる超人部隊。

B部隊は、TJS空挺部隊

C部隊は、福本勇気中将・セルべリア少将夫妻及び、山城正人少将・シルヴィア大佐夫妻率いる第七独立機動艦隊所属海軍陸戦隊・第六歩兵中隊。

そしてDE部隊は、西条一佐率いる第1空挺団及び、特殊作戦群。

 

各部隊長から、了解の返事が返ってきた。

部隊たちが軽装甲機動車及び、16式機動戦闘車に取りつきエンジンを掛けると戻ってきた。

西条一佐は、自ら軽装甲機動車に乗り込んだ。

 

軽装甲機動車は、M2重機を搭載している。

エンジン音の唸りが響き、走行する軽装甲機動車は水を得た魚のように迅速に駆け巡る。

その言葉に呼応するかのように、M2重機の発射音が鳴り響いた。

 

同じくエンジン音を桁ましく鳴り響かせて走行する16式機動戦闘車も一本槍を連想させる105mmライフル砲が旋回し、管制塔周辺の火点に指向した。

人間相手ならば、無敵の猛威を見せる銃弾の豪雨でも鋼鉄に覆われ、機動力に優れた軽装甲車輌には役に立たず、虚しく火花をあげるか、躱されるのみだった。

走行しながら、16式機動戦闘車は轟然と発砲した。

撃ち放たれた105mm砲弾―――正確には『キャニスター弾』は、ほぼ水平弾道で、目標とされた連邦軍歩兵部隊のど真ん中を直撃した。

 

一瞬の閃光と爆発のただ中、多くの連邦軍歩兵部隊の隊員たちが悲鳴をあげて吹き飛んだ。

散華した仲間の仇を討とうと、連邦軍の攻撃は続く。

しかし、2輌の軽装甲車輌に対して、各銃器で攻撃しているが、双方とも速すぎて捉えられない。

 

その隙にA、B、C部隊の各隊員たちは、空輸されたコンテナの中身から回収した重火器―――M2重機、84mm無反動砲《カールグスタフ》及び、110mm個人携帯対戦車弾こと《パンツァーファウスト3》、01式対戦車誘導弾などを抱えながら前進する。

各部隊ごとに通信兵とともに、衛生兵(メディック)がいる。

 

各拠点を確保しては、空挺隊員たちが携えた84mm無反動砲《カールグスタフ》及び、110mm個人携帯対戦車弾《パンツァーファウスト3》、01式対戦車誘導弾とともに、各種の迫撃砲が火を吹いた。

正確無比な射撃に、舞い上がった各種のロケット弾や対戦車ミサイルが、淡い白煙の尾を曳いて、連邦軍に向かって飛んで行く。

 

やがて、いくつもの爆発が起こった。

戦車相手でも凄まじいが、歩兵部隊相手でも充分過ぎる火力でもあった。

 

遅れて、各種の迫撃砲も火を吹いた。

進撃する空挺隊員たちの頭上を通り越し、迫撃砲弾も着弾した直後、信管が作動する。

迫撃砲弾の爆発は、炎に炙られて脆くなった急拵えの陣地を組み上げたマットレスや土嚢が飛び散り、重機関銃銃座、塹壕を、ひとたまりもなく粉砕した。

 

連邦軍も重火器―――RPG-7や火炎放射器、迫撃砲を持っていたが、接近戦になれば使えない。

しかも空挺隊員たちの練度はむろん、装備品も充実している。

 

「戦車だ。戦車が必要だ!」

 

管制塔前の塹壕で、M4A1を携えながらも死守しているクロフォード大尉が、傍にいる通信兵に向かって怒鳴ったが、通信兵は返答せずに前のめりで倒れた。

 

「なっ……貴様!」

 

クロフォード大尉は、通信兵をナイフで刺殺したツルタ少佐に銃口を向けようとしたが、ツルタ少佐が素早く南部式自動拳銃を突きつけて射殺した。

躊躇う様子などなく、無表情で仕留めたのである。

クローン人間と言うものは、感情すら殺せることを物語っている。

いや、最初から持っていないようにプログラムされているのかもしれない。

 

管制塔入り口にいた連邦軍兵士たちも各々と銃を構えたものの、ツルタ少佐率いる突入部隊の攻撃を受けて死亡した。

ツルタ少佐は、他の部下たちには管制塔入り口を守備するように言い残すと、10人の部下たちを連れて指令室がある最上階に駆け上がる。

階段でも抵抗する連邦軍兵士とともに、連邦赤軍親衛隊隊員たちもいたが、その抵抗は虚しく瞬く間に、ツルタ少佐率いる突入部隊に射殺される運命でもあった。

 

「No,PASORAN(奴らを通すな!)……レイシストジャップは誰ひとりと―――」

 

高嶋少佐が、自身の拳で攻撃しようとしたが、ツルタ少佐率いる超人部隊が持つ200式小銃及び、短機関銃の一斉射撃により、呆気なく絶命した。

 

「おのれ!高嶋少佐の仇は俺が取ってやる!喰らえ、対レイシスト用決戦凶器《チョッパリキラーMk-Ⅱ》の威力を!」

 

野門は新たな釘バットを振りかざし、こちらに突撃して来る空挺隊員たちに襲い掛かったが―――

 

『他愛ない!!』

 

福本勇気中将・セルべリア少将夫妻の愛刀により、野門は上半身と、下半身を一刀両断にされて絶命した。

 

「おのれ!豚にも劣るチョッパリどもが!高嶋少佐と野門さまの仇は、このコリアンニンジャが倒してやる!」

 

「我ら中岡大統領様の前でひれ伏せ!ジャップ!」

 

「劣等民族チョッパリは、世界最高民族たる連邦国民に勝てないと思い知らせてやる!」

 

「薄汚いイエロージャップは、ここで死ぬが良い!」

 

車椅子に乗った忍者のコスプレをした赤軍親衛隊隊員と、同じ忍者コスプレをした3人の連邦軍兵士たちが雄叫びを上げながら突撃して―――

 

『くたばれ、ファッキンジャップ(チョッパリ)!!!フェニックス・トゥーハンドチョップ!!!』

 

コリアンニンジャたちは、一斉に華麗なジャンプをしながら、チョッパリピースを披露した両手でチョップによる攻撃を喰らわそうとしたが―――

 

「忍者は我が国起源だ!」

 

「朝鮮忍者とは笑止!」

 

山城正人少将・シルヴィア大佐夫妻の目にも見えぬ抜刀―――時代劇で披露される殺陣を決めた。

コリアンニンジャたちは、両腕に伴い、縦に一刀両断されて野門同様に呆気なく絶命した。

 

「もう終わりだあ!」

 

「助けて!」

 

『笑止!!!』

 

口々に喚きながら怖じ気づいて、逃げるしか出来ない連邦軍兵士たちは、歴戦練磨を誇る空挺部隊の前にやられ、ついに―――

 

「ここで決めます!」

 

ツルタ少佐たちは、塔内の連邦軍兵士たちを排除し、ついに管制塔司令室に辿り着いた。

彼は隊員たちに指示を出し、扉にC4爆薬を貼り付ける。

ツルタ少佐が、やれ!と眼で合図を送ると、別の超人部隊隊員が右手に持っていた起爆スイッチを押した。

耳を聾する轟音と爆発が、一度に巻き起こり、ツルタ少佐たちは一気に突入した。

 

「No war No lifewe will stop!低脳連中は、マニラ国まで飛んどけ! 」

 

奥口が携えていたピースラッパー、ただのマイクから刃物が飛び出した。

逆光を浴びて煌めいたナイフが、ツルタ少佐を刺そうと襲い掛かった。

しかし、ツルタ少佐は南部式拳銃を突きつけて、躊躇うことなく引き金を引いた。

強力な炸裂弾が、奥口の顔面に銃創が出来た直後、従来よりも強力な炸薬弾により、スイカのように砕け散った。

 

香川ニカを守ろうと、前に出た兵士たちが銃口を上げるよりも突入部隊たちによる攻撃の方が速く、マズルフラッシュの閃光が走り、次々と正確的に射殺して行く。

銃撃、残った敵も掃討される。管制塔司令室にいた香川ニカ司令官を除き、護衛の敵兵たちを一人残らず排除した。

彼女は咄嗟にホルスターから、金色に施した九二式手槍を掴もうとしたが、ツルタ少佐が素早く銃口を突きつけた。

 

「無駄な抵抗はしない方がよろしい、連邦司令官閣下。自殺される覚悟ならば、別ですが」

 

「この、クソファシストどもが……」

 

嫌いな日本軍に、憎悪を込めた双眸で睨む。

むろん香川は自殺するなど毛頭ない。寧ろそのような勇気はない。

ツルタ少佐は、念を入れたままである。

 

「こうなれば……」

 

香川は、九二式手槍を捨てた直後―――

 

「喰らえ!香川神拳奥義『香川百裂拳』!」

 

罵声とともに、中指を立たせながら、自称『香川百裂拳 』をツルタ少佐に喰らわせた。

 

「馬鹿野郎!ファシストジャップ!死ね!豚野郎!馬鹿野郎!ファシストジャップ!死ね!」

 

しかし、予想外なことに―――

 

「なん……だと!?何故……私の香川神拳が効かない!?」

 

香川は、慌てふためいた。

自分の究極奥義でもあるにも関わらず、相手が倒れないことなく無傷であることを。

所詮は、ただのパンチに過ぎないことを本人は理解出来ずに戸惑ってもいることに過ぎないこと―――

 

「ぎゃああああああ!私の中指がああああああ!」

 

そして無理且つ、無意味な中指立てパンチをしたために中指とともに、右腕ごと複雑骨折を起こした。

 

「あなたが腐れ外道だからです。それに……」

 

ツルタ少佐は、香川の首もとを鷲掴みすると―――

 

「手榴弾は、胸に飾るものではありません」

 

彼女が胸に飾っていたM67手榴弾のピンを抜き取った直後、香川を投げ飛ばした。

管制塔指令室の窓ガラスを突き破り、投げ飛ばされた彼女は手榴弾を外そうとした瞬間―――

 

「ファシストのファァァァァッーーー!!??」

 

断末魔を叫んだ香川は管制塔最上階で、爆焔に混じった華となり、木っ端微塵になった。

文字通り、血肉が混じった花火となり消えたのだ。

 

上空を見上げた西条一佐と、彼の部下たちは勝利を確信した。

逆に連邦軍兵士たちは、香川ニカ司令官の戦死に伴い、さらに戦意を砕く光景が、遥か空から現れた。

高空から伝わるエンジン音が、大地を震わせる。

赤城たちの艦載機部隊とともに、前者とは比べ物にならないほど重く、低い振動が連邦軍の戦意を挫いた。

陽光が射し染める空に、四発爆撃機の編成が現れた。

土佐と、紀伊が放った四発爆撃機《連山改》4機に、赤城たちの《天雷改》を護衛に従えて、グアム・サイパンの空を飛翔する。

 

その光景を眺めた連邦軍は、我先に逃げ出した。

別の連邦軍指揮官が、逃げるな!と檄を飛ばすも誰ひとりも聞く者などおらず、人海の波に飲み込まれて押し潰されて死亡した。

 

逃げる連邦軍とは違い、空挺隊員たちは、戦意高揚の喝采を上げた。

 

「油断するな!我々の任務はまだ残っている!この飛行場機能を回復及び、維持であることを忘れるな!」

 

『おうっーーー!!!』

 

西条一佐が檄を飛ばすと、部下たちは返答した。

この戦い、一戦にありと言う気持ちを持ちつつ、飛行場確保を部下たちとともに専念した。




今回は大規模作戦の始めとなる、空挺作戦は成功に終わりました。
今回の第一期最後のイベント『レイテ沖海戦』並みに長くなるかなと思います。

灰田「レイテ沖海戦と言えば、私もあらゆる超兵器を貸与したことを覚えていますね。《烈風》はむろん、超大和型戦艦と装甲空母《斑鳩》、超人部隊など貸与したことを思い出汁ます」

アメリカとソ連相手もだけど、今回のイベントも泣けるぜ(レオンふうに)
こちらは『不沈戦艦紀伊』の、米軍側でもあるから……

灰田「では、こちらも富嶽などで対抗しますか?」ニヤッ

ミスターホワイトなどが介入しかねないのでダメ。
精神的に参ります、ようやく最終海域に辿り着くのに、相手がジェット戦闘機装備は死にます。

灰田「その件に関しては『第六戦隊と!』で……」

いまのネタバレは皆さん聞かなかった、イイネ(憲兵=サンふうに)

灰田「では……時間も来ましたので、次回に移りますね」

次回は第二のZ作戦開始の幕開けとも言える、上陸作戦に移ります。
元ネタ『超空の決戦』などいろいろと壮絶な激戦となります所以に、少しだけネタバレも含まれるかもしれません。
なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十七話:日本軍逆上陸

お待たせしました。
イベントや事情により、遅れて申し訳ありません。

灰田「皆さんもお疲れ様でした。次の第二期イベントも楽しみですね」

超超弩級戦艦《紀伊》も欲しいぐらいです、架空艦ですが。
では気分を改めて、予告通り、上陸戦に伴い、少しだけネタバレも含まれるシーンもございますがお楽しみください。

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


時刻 0700

サイパン諸島沿岸

 

連邦軍司令部に腰を据えていたスチルウェル中将は状況を把握することに務めていた。

無人偵察機が撮影したカメラ映像を確認情報からは、敵空母戦闘群率いる敵艦隊及び、敵輸送船団多数通過しつつあり、と言う報告が届いた。

敵がここを目指しているとすれば、あと2時間でやって来ると推測した。しかし、上陸地点はまだ確定しておらず、部隊を簡単に動かすことが出来ない。

 

マリアナ諸島に温存している航空部隊を出すべきか?

 

敵の上陸まで待ち、水際撃滅すべきか?

 

連邦軍の恐怖支配に耐え兼ねて、ついに島民のゲリラ活動とも言える騒擾も始まったことに対して、彼らを武力鎮圧すべきか?

 

決断すべきことが多すぎる。

そこに、自分たちの飛行場に敵空挺部隊が降下したと言う報告も入って来たのである。

敵の狙いは飛行場の確保及び、ここを爆撃機や護衛戦闘機基地などの中継基地にすることだ、と見抜いた。

第二次世界大戦から今日まで、米軍が得意とした戦術的及び、戦略的価値の高いものである。

飛行場を確保すると同時に、制空権維持に必要な戦闘機や地上部隊を援護する攻撃機や爆撃機の援護なども容易くなるからだ。

 

飛行場に待機した航空機は空襲で破壊されるなど被害が続出したものの、滑走路は修理すれば辛くも使える。

マリアナ諸島の航空部隊が呼び出せるが、後ほどのことを考えれば援軍要請は不可能だと察した。

 

滑走路を爆破せよ、との命令を出すべきか?

 

あくまでも死守せよ、と命じるべきか?

 

このあたりも悩ましい。

しかも飛行場を救うために部隊を割けないことがもっとも悩ましいものだった。

敵軍の上陸と言う緊急事態を抱えているからだ。

その兵力が判明しない以上、無暗に部隊を動かせない。

ともかくウォーカー少将は、飛行場死守のためにあらゆる手段を尽くせ、と連絡してやった。

 

 

 

2時間後―――

 

時刻 0900

移動司令部を構えていたウォーカー少将は、ついに水平線に敵輸送船団が浮かび上がるのを確認した。

 

距離は、およそ2キロメートル弱。

 

海岸地帯には、強靭な防御陣地を築いている。

こちらにも二階建て住宅並みの大きさを誇る砲台小鬼が10門が配備されている。

対艦攻撃だけでなく、対空ロケット弾や機関銃を兼ね備えているため、対空攻撃も可能となっている。

これに各種の野砲や機関銃陣地などを水際撃滅のために動員された防御部隊を配置している。

 

「撃てぇ!」

 

ウォーカー少将の号令に従い、海上に向けて据えられた砲台小鬼たちが砲撃を開始した。

そればかりか、同じく海岸に据えた野砲や対空砲も競うように、一斉に射撃の火蓋を切った。

砲声が轟き、海上には弾着の水柱が咲いた。

しかし、悲しいことに距離が余りにも遠すぎて、1発も敵輸送船団に命中することはなかった。

この砲火は、敵に居場所を教えるようなものだった。

 

再び空爆任務を担った赤城率いる機動部隊に伴い、同じ名前を引き継ぐ《アカギ》率いる無人空母戦闘群などの第二次攻撃隊による空爆が開始された。

制空権はもはやない連邦軍は、各諸島の防御力を強化していた。

しかし、所詮は穴熊状態の連邦陸軍及び、連邦義勇軍中心の予備兵力を持たない要塞基地だけに、徹底した航空攻撃の前にはひとたまりもなかった。

 

上空からF-14D《トムキャット》の空対地ミサイルAGM-154 JSOW及び、GBU-31(JDAMを装着したMk.84爆弾)が投下された。

F/A-18E《スーパーホーネット》は、AGM-65《マーベリック》空対地ミサイルに伴い、より強化な精密誘導地中貫通爆弾《ペイブウェイⅣ》も不気味な投射音を轟かせながら落下した。

TJS社所属のF-35《ライトニングⅡ》部隊もAGM-88E AARGM空対地ミサイル及び、GBU-39誘導爆弾を一斉に放った。

そして遅れて赤城たちの艦載機部隊が機体に抱えた800キロ爆弾など各種の航空爆弾を投下する。

輸送船団を護衛した護衛艦からも本来は、対艦攻撃用の《ハープーン》も対地攻撃にプログラムし直しており、一斉に一糸乱れぬこともなく、上空に撃ち放された。

上空から降り注ぐ空対地ミサイル及び、各種の航空爆弾の猛威のなかを艦載機が飛び交い、連邦軍の各防御陣地を潰すと言う戦法『槌と金床』攻撃をお見舞した。

 

海上に向けて据えられた砲台小鬼たちも上空に飛び交う艦載機部隊に対して、対空砲火の火蓋を切った。

数機ほど、赤城たちの艦載機部隊に被弾させた。

被弾した機体が炎を纏って、力尽きたように海上に墜落する機体を見て、彼らは身体を揺さぶり歓喜する仕草を見せた。

しかし、僅かな戦果に過ぎず、空を覆いつくす航空部隊の前に為す術もなく、ミサイルと爆弾の豪雨に砕け散った。

各種の野砲部隊や機関銃陣地なども、兵士たちごと火柱の華に巻き込まれて霧消する。

塹壕やトーチカ、露出していた野砲や対空砲が次々と破壊された。

辛うじて生き残った陣地は少数に過ぎなかった。

かつてタラワの激戦で、米軍の潤沢な航空支援や艦砲射撃などにも耐え抜いた陣地もある。

椰子の丸太を大量に積み重ね、間には珊瑚の欠片や砂を詰めた掩蓋トーチカが素晴らしい強度を発揮した。

米軍がいざ上陸用舟艇を発進させると、日本軍の守備隊は反撃して、米軍に度肝を抜かせた。

生き残った陣地は恐らく旧軍のトーチカなどを真似して建築されたのだろう、と秀真は見抜いた。

 

「古鷹たち及び、各護衛艦に告ぐ。主砲に徹甲弾装填、撃ち方始め!」

 

『はい、提督(司令官)!!!!』

 

秀真は、古鷹たちに号令を下した。

かつて米軍が頑丈な掩蓋トーチカなどを撃滅するために米軍はハワイに同じものを造り、攻撃方法を研究した。幾度も試した結果、艦砲の徹甲弾と航空機のロケット弾による攻撃が最も有効とされた。

だからこそ、これらの掩蓋壕やトーチカには徹底した攻撃を敢行したことも知っている。

 

「目標、敵掩蓋壕及び、トーチカ!撃ち方始め!」

 

「よっしゃ!撃ちまくるぞ!」

 

「ガサ、青葉たちも攻めますよ!」

 

「分かっているよ、青葉!」

 

古鷹の号令一下、彼女の連装砲が火を吹いた。

直後、加古・青葉・衣笠なども砲撃し始めた。

砲台小鬼たちの脅威が取り除かれて、射程距離まで接近した古鷹たちとともに、各護衛艦が止めを刺した。

そして、海上に遠雷に似た轟音が轟き、20センチ徹甲弾などが降り注ぐ。

弾着の衝撃に、大地震さながらに翻弄されるサイパン諸島からは、復讐に燃える特別攻撃艇や連邦海防艦の群れが、眦を決して出撃する。

フィリピンのスリガオ海峡夜戦などのような小島の多い海域に伴い、夜襲ならばともかく、グアム・サイパン諸島で使用するのは無謀に過ぎた。

 

護衛艦の主砲が火を吹いた。

接近さえ許せば敵艦を葬る高性能爆薬及び、重火器を持ちながら、突撃する両艦の連邦乗組員たちは、蒼海を紅く染め上げて散華した。

運良く、連邦海防艦《エンペラー》が装備していた艦対艦ミサイルがとある巨大な艦船に命中したものの、その艦には全く損傷を与えることが出来なかった。

 

「そんな馬鹿な!命中したのに無傷だと!」

 

マイク連邦海防艦長は、驚愕した。

 

「ぎゃあああ!!」

 

次の瞬間、飛翔した12.7センチ砲弾が、連邦海防艦《エンペラー》を、短い断末魔を上げた彼と乗組員の血肉もろとも、粉々に粉砕したのだった。

ガーリ中佐、連邦陸軍部隊、連邦国民義勇軍たちは、降り注ぐ火弾のなかで必死に耐えた。

日本軍が上陸さえすれば、存分に報復出来る。

その一念を支えに、防衛火器や小銃の引き金に指を掛けて待ち望んでいた彼らだったが、日本軍は徹頭徹尾、沖合いから艦砲射撃を放り込むばかりだった。

しかし、自分たちの嫌いな日本軍に仕える艦娘たちがいないことが気掛かりだったが、今は罵声を上げることしか頭になかった。

 

「卑怯者どもめ!チョッパリどもは低脳なアジアの侵略猿だ!俺たち偉大なる連邦軍と戦うのが、そんなに怖いのか!」

 

ガーリが絶叫した瞬間、彼が立てこもる防衛陣地に、徹甲弾が直撃した。

防衛の要―――海岸防衛部隊が消滅したとき、ウォーカー少将は生き残った部隊とともに、海岸防衛線から撤退することを下した。

 

「よし、あきつ丸たち率いる輸送部隊に上陸準備を行えと電報だ。古鷹」

 

「はい、分かりました!」

 

双眼鏡で確認した秀真は、傍にいた古鷹に伝えた。

彼女は、海岸防衛部隊の脅威が取り除かれたことを、あきつ丸たち率いる輸送部隊に伝え、そして上陸準備を行え、と電信した。

 

「了解であります。あきつ丸におまかせください!」

 

古鷹に電信が送られ、あきつ丸は受諾した。

直ちに各攻略部隊に、上陸準備せよ、と連絡した。

ビーチまで5000メートル近づいたあきつ丸とともに、海自のおおすみ級大型輸送艦《おおすみ》《しもきた》《くにさき》なども上陸準備を行っていた。

あきつ丸は特大発及び、大発を下ろし、おおすみ級大型輸送艦と、TJS社は元アメリカのアンカレッジ級ドック揚陸艦4番艦フォート・フィッシャーこと《泰平丸》を中心としたTJS社海軍所属の揚陸艦部隊がLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇を艦尾から海へ下ろす。

LCAC-1には完全武装の兵員10人とともに、各戦車1輌ずつを乗せていた。

特大発及び、大発にも同じく完全武装の兵員10人に、四式戦車が搭載されていた。

兵員だけならば30人ほど乗せられるが、現在最優先は各戦車部隊の揚陸である。

1輌でも多く揚陸させれば、橋頭堡を確保することが容易い。

 

「上空援護の《アパッチ》及び、《コブラ》部隊、急ぐのであります!」

 

あきつ丸に応えるように、甲板に待機していたAH-64D《アパッチ》とAH-1《コブラ》部隊が気たましいローター音を鳴らして、次々と発艦する。

TJS社からはMi-24《ハインド》とAH-1W《スーパーコブラ》も同じように発艦して行く。

航空支援を得た上陸部隊は、次々と上陸して行く。

破壊の跡が著しい海岸に、エンジン音が轟き、浜辺に乗り上げられた特大発と大発に、海自やTJS社のLCAC-1から、鋼鉄の猛牛とも言える四式戦車や10式戦車、T-62とM1《エイブラムス》戦車など機甲部隊が這い降りる。

 

「敵が揚陸艇や大発を上陸させました」

 

海岸線から、2キロほど後退したウォーカー少将は報告を受け取った。

 

「反撃しますか?」

 

「もう少し待て。敵が兵員を上げてから戦車を進出させろ」

 

敵が兵員を上げ始めたときが、ビーチがもっとも混乱することが出来る、とウォーカー少将の狙いだが、この判断が命取りとなった。

この際に早々、攻撃していれば打撃を与えられたのに不意にしてしまったのである。

 

数隻の特大や大発が兵士や四式戦車改を、海自とTJS社のLCAC-1が10式戦車やT-62、M1《エイブラムス》などを上陸させる。

続いて、海自のSH-60J輸送ヘリとともに、TJS社のNH90戦術輸送ヘリとAB-412、UH-1の後継ヘリ、UH-2ヘリを中心とした各輸送ヘリ部隊が兵員200名を揚陸させて、戦車を中心に橋頭堡を形成した。

 

橋頭堡確保。直後、連邦戦車隊が進出して来た。

少数の69式戦車が100mライフル砲を撃ちまくり、突進して来た。戦車隊に続くようにRPGや火焔放射器、重機を携えた随伴歩兵部隊もやって来た。

これらを想定して四式戦車改や10式戦車、T-62、M1《エイブラムス》戦車群は横列に伴い、火線を形成していた。

69式戦車の最大速力50キロ且つ、搭載しているディーゼルエンジンをけたましく吹かして突撃して来る。

 

敵戦車隊が距離500メートルまで近づくと、各戦車群も火を吹いた。

いくつもの眩い発射焔が上がり、各砲身から砲煙が宙にわかだまる。

それを吹き飛ばすように真っ赤な線が吹き伸びて、105mm砲から115mm滑腔砲、120mm滑腔砲の砲撃に晒された69式戦車の前面装甲に、真っ赤な火が散った。

36トンもの重量を持つ戦車が、巨人の拳で殴られたようにつんのめった。

最大の防御力を持つ正面装甲が貫通され、後部エンジンルームまで紅い火が走る。

瞬きする間に眩い閃光が走り、吹き上がる火柱が69式戦車の砲塔を吹き飛ばして、次いで車体そのものが木っ端微塵に砕け散った。

同時に5輌の69式戦車が、あるいは大穴を開けられて横転し、あるいは砲塔を叩き飛ばされて爆発した。

随伴していた歩兵部隊たちも同様、爆発などによる二次損害を被り、死傷者たちが続出した。

最後の手段としてソ連や中国、北朝鮮軍の十八番『人海戦術』をすると思いきや、69式戦車が撃破されたところで歩兵部隊は後退する。

 

後退する連邦歩兵部隊に災厄、黒死病を連想させるように、AH-64《アパッチ》率いる攻撃ヘリ部隊が襲来して来た。搭載している30mmチェーンガン及び、ハイドラ70ロケット弾、AGM-114《ヘルファイア》をお見舞いした。

戦意喪失して敗走する連邦歩兵部隊を攻撃した攻撃ヘリ部隊は、飛行場に向かった。

彼らに課せられた任務は、敵戦車や歩兵部隊の撃滅ではなく、飛行場に降りた空挺部隊の支援に伴い、飛行場の確保だった。

 




上陸戦は、無事橋頭堡を確保しました。
これから地上戦が続くと思いますが、どうぞお付き合いください。
なお少しネタバレ部分は、敵小型艦艇迎撃とあきつ丸さんの部分です。
まだ先ですが、今回は少しだけ披露しましたが、後々に某作品並みになるかなと思いますがお楽しみくださいませ。

灰田「因みに四式戦車改は『超戦闘機出撃』などで魔改造された戦車です、ネタバレですが私が持ってきました」

因みに本来の四式戦車は、75mm砲ですが、超戦闘機出撃などでは105mm砲を装備して攻撃力に伴い、スターリン重戦車の攻撃にも耐えれるほどの防御力を兼ね備えています。
ある意味『74式戦車』並みになっています。
ソ連のスターリン戦車やドイツ軍のティーガーⅡなど以上にもなっていますが。

灰田「『改』になっているのは、そのためです」

最初は『超海底戦車出撃』の超海底戦車《海龍》でした。
しかし、超海底戦車《海龍》は、今出ているステルス原潜《海龍》と同名でややこしいことになり兼ねないので没にしました。
なにしろ伊400並みの大きさ誇る戦車ですからね、第六戦隊と!で出そうかな。
あと、WA大戦略の『キョウリュウ』なども良いかなと……(ボソッ…

灰田(前回少し出ましたけどね、私は)

ともあれ、そろそろ時間が来ましたのでそろそろ次回予告になります。

灰田「はい。では次回は上陸戦の続きになります。『超空の決戦』や『荒鷲の大戦』などのように対戦車戦や歩兵部隊による攻略が行なわれます」

なお、なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十八話:激戦再び

お待たせしました。
少し変更ですが、予告通り上陸戦の続きになります。

灰田「今回は、赤城さん率いる機動部隊の皆さんも活躍しますのでお楽しみください」

では気分を改めて、予告通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


ウォーカー少将の第29師団は、西から上陸してきた敵戦車部隊に圧迫され、空軍基地からは攻撃ヘリ部隊に圧迫された所以に、後方に待機せざるを得なかった。

反撃する手段もなく、水際撃滅も失敗に終わった。

北に上がる選択肢もあったが、地元民たちによるゲリラ活動に悩まされつつ、後方に配備している砲台部隊や要塞、トーチカなどを築き上げたのでここで撃滅するのが、スチルウェル中将の基本的戦略だった。

挟み撃ちにしたかったが、敵も馬鹿ではないと言うことで却下したのだった。

 

スチルウェル中将は同時に飛行場を奪還せよ、と命じた。

しかし命じるのは容易いが、実行するのは難しい命令だった。

飛行場を守備していた香川ニカ司令官率いる警備隊はすでに全滅、日本の空挺部隊が彼女たちを撃滅した直後、占拠した。

むろん管制塔や滑走路周辺に築いた拠点も占拠に伴い、彼らは強力な火力や装甲車を持ち、しかも援護に来た大型四発爆撃機と護衛戦闘機、そして後に合流する攻撃ヘリ部隊も加われば、こちらが制空権を奪回しない限り、飛行場は攻撃出来ない。

 

もはや滑走路の破壊も、奪回も手遅れだ。

 

ウォーカー少将はそれでも1個連隊(第103連隊)の増援を待ち、彼らとともに飛行場奪回のチャンスを狙うつもりだ。

それが来るまで、かつてのサイパン上陸戦に米軍を迎撃した旧軍のように耐え忍ぶのみ。

築き上げた陣地で籠城とともに、迎撃することを決意したのだった。

 

そのとき、大型四発爆撃機《連山改》がやって来て、高空からビデオカメラで状況を撮影していった。

その結果、機上で解析され、すでに無線機で第8師団司令部に電報された。

日本の第8師団は、海岸近くの見晴らしの良い場所に司令部を設置に伴い、海岸の西端として半径5キロに至る橋頭堡を形成していた。

 

上陸作戦から2時間が経過した。

1個連隊の兵員はすでに上陸、装備も全て揚陸された。

陸自で言う場合、戦闘団が形成されていた。

戦車は10式戦車や四式戦車改、TJS社のM1《エイブラムス》とT-62戦車部隊に伴い、99式自走155mm榴弾砲と、同じくTJS社フランス製カエサル装輪自走榴弾砲及び、スェーデン製アーチャー装輪自走榴弾砲率いる自走榴弾砲部隊と、多連装ロケットシステム自走発射機M270《MLRS》、工作車や輸送車、そして歩兵用の各誘導兵器と誘導弾システム、補給物資が揚陸された。

兵員は空挺部隊と合わせて、3600名以上。

しかも計算上の戦闘力は米軍1個師団並みでもある。

 

数々の近代兵器がこれを可能にしている。

接近戦となると互角かもしれないが、個々の兵士のキャリア及び資質が問題になって来る。

夜になると自衛隊などに大きなアンバンテージが生まれる。レーダー、暗視装置などが活躍するからだ。

 

《連山改》から得た情報では、師団規模の有力な連邦軍が南下中、自走榴弾砲50輌。

連邦軍は、飛行場の空挺部隊と第8師団に挟撃されていたものの、飛行場を奪回しようとする連隊規模の連邦軍が北上中である。

彼らの移動手段は一部の機械化歩兵部隊を除けば、徒歩が多い。

この情報を受けて加納陸将は、戦車隊10輌とともに、99式自走155mm榴弾砲、カエサル装輪自走榴弾砲及び、アーチャー装輪自走榴弾砲、多連装ロケットシステム自走発射機などを北から来る敵に当てることにした。

制空権を喪失した連邦軍は、当然自走砲や野砲などで押し立ててやって来る。

万が一のときは、海上に待機している秀真・古鷹たちが支援砲撃及び、無人空母《アカギ》とともに、赤城たち率いる機動部隊の航空支援も充分に受けられる。

これらを撃破すれば、自然に足止めすることが出来る。

闇夜に紛れて歩兵が浸透して来ようとすれば、レーダー照準仕様のロケットシステム、暗視装置やゴーグルを装備した特殊部隊やスナイパーの出番である。

空挺部隊に1個大隊などを増援に、残りの兵力は反撃しようとする連邦軍を迎撃する。

おそらく玉砕覚悟か、または北上して来る増援部隊と合流して防衛線を作るかもしれない。

こちらも増援部隊が到着しない限り、積極的に打っては出られない。

 

1200時

スチルウェル中将は、生き残りの増援部隊が来たことに、ホッとした。

しかし、その兵員数は600名に過ぎなかった。

3個師団の兵力のうち助かったのは彼らだけであり、しかも装備は猟銃や竹やりなどと心細い物しか装備していない。

それでも増援は増援であることを喜ぶべきだ。生き残った連邦義勇軍部隊にM16やAK-74などを貸与した。

問題は、自分たちがどこまで持ちこたえられることが重要課題である。

海上には日本艦隊、制空権も日本が優先になり、そして内陸まで追い込まれたと言う報告が入ったからである。

これらを撃退して撃破できる見込みは、はなはだ薄かった。

かつての日本が味わった『サイパンの戦い』を、今度はこちらが味わう番である。

または『グアムの戦い』でも、友軍は同じように味わっているかもしれない、と推測したのだった……

 

 

 

連邦豪邸・緊急会議室

中岡を中心に、忠秀主席、連邦陸海空軍と戦略情報部、幹部たちを集めて緊急会議を開催した。

中岡自らサイパンの情勢を検討したが、地図上では日本軍は、南北から挟撃されている形だ。

 

「このまま攻勢に出て、敵を押し潰すことは出来ないのか?」

 

中岡は尋ねた。

アンミョンペク総参謀長が彼の傍らにおり、アンミョンペクは軍部と大統領との連絡役と伴い、調整役も務めている。

その中岡は、日本軍が上陸した瞬間、恐ろしく機嫌が悪い。

連戦連敗に続き、日本を世界地図から抹消とともに、屈服させる可能性が、限りなく遠のいてしまったことを悟ったからである。

このままだと深海棲艦と自分たちが始めた戦争を終わらせられかねない。

無能な大統領はおろか、史上最低の戦犯者として裁かれる挙げ句、死刑になる可能性も高い。

 

「敵が我が楽園にこれほど容易く見つけるとは……それは疑わしいと考えざるを得ません」

 

忠秀は素っ気なく答えた。

実は戦艦水鬼たちが仕掛けた単純な罠とともに、情報が漏洩していることを知らない。

 

「敵は我が軍を凌駕する兵力を持っているべきです。しかも旧軍や旧式兵器も混ざっているのに連携が取れています。ジャップを叩き落とす兵力を割く余裕がないですし、何よりも制空権を失っとるわけです」

 

これを聞いた連邦空軍司令官こと、セザール・マガナ大将は苦い顔になった。

現在戦において、制空権の喪失は痛いものだ。

もはや飛行場を取られた今は、連邦の存命事態も危うくなったとも言える。

 

「それは海軍の責任でもある。これからどうするつもりだ?」

 

海軍に話題を振った。

いつも通りの責任転嫁をすることもあると思うと、今度はスプールハウゼー作戦部長が苦い顔になった。

 

「我が海軍力を再建する余裕はもはやない今は、残存艦艇で対処するしかない」

 

「我々はもっとも現実的にならなければならん、諸君」

 

中岡は流石に、落ち着きを取り戻していった。

 

「このままサイパン諸島の防衛が困難なのであれば、増援を送るべきだろう。忠秀主席、グアムからいつ増援を送れるかね?」

 

「はあ、すでに命令は出してありますので大丈夫ですが、問題は護衛艦隊ですが……」

 

「グアムに待機している連邦海防艦と武装輸送船10隻と、護衛機20機を手配しました」

 

スプールハルゼーは言った。

兵力は出来る限り割くことを避けたいが、今は致し方ない。

一矢でも報いらなければ、この会議の誰かが粛清されかねないからだ。

 

「問題はグアムからサイパン諸島に増援が来るまで、スチルウェルが持ち堪えられればいいのですが……」

 

「ふむ……その見通しはどうかね?」

 

中岡が訊く。

 

「敵はすでに飛行場を確保しました。これは自由に空輸を受けられることを意味します」

 

アンミョンペク総参謀長が言った。

 

「なんと言うことだ!我々はどうすれば良いのだ?」

 

忠秀は吐き捨てるように言った。

全員顔を見合わせると、深刻な顔を浮かべた。

 

「我々には、もうひとつ選択肢がある」

 

中岡がゆっくりと言った。

 

「我々には秘密兵器がある。すでに出発もしており、5日後には北海道に到着する。陸上で忌々しい日本を上陸部隊が北海道を占領すると言うわけだ」

 

「まさか、あれを出撃させたのですか!?」

 

アンミョンペク総参謀長は驚愕した。

 

「ああ、我にとっては奥の手の奥の手である『プロジェクト621』部隊が北海道に到着するまでスチルウェルたちが粘ってくれればくれるほど、我々の情勢が変わるときまでが勝負だ……」

 

 

 

サイパン諸島内陸部

第一戦線とも言える激戦地では、迎え撃つ第4連邦陸軍及び、連邦義勇軍の合同部隊と、陸自の第8師団改めて『機動師団』の1個大隊とTJS部隊の合同部隊による戦闘が展開していた。

日本側の予想通り、連邦軍は穴熊状態などで待ち構えていた。これに対して10式戦車とともに、灰田が用意した四式戦車改、TJS部隊のM1《エイブラムス》とT-62戦車部隊が前進して、歩兵部隊が彼らに随伴する。

上空には赤城たちの艦載機及び、無人空母《アカギ》の直掩部隊が上空援護、後方には陸自とTJS社の自走榴弾部隊が控えている。

このとき、《おおすみ》などに陸自の観測ヘリOH-1《ニンジャ》も積んでいた。

各1機ずつ南北に配備されており、《ニンジャ》が搭載している可視光線カラーテレビ、赤外線モニター付き索敵サイト、レーザー距離測定装置が敵上陸地点を昼夜問わずに監視することが出来る。

各自走榴弾砲部隊の活用には、レーザー距離測定装置搭載の観測ヘリやUAVは欠かせない。

連邦軍の戦車がいない今は、対歩兵や要塞などが多いから威力を発揮する。

 

連邦軍は穴熊状態。

もっぱら各塹壕やトーチカなどに立て籠もり、防御戦に徹していた。

秀真・古鷹、TJS艦隊などが高火力で叩いたのにも関わらず、連邦軍は自走砲や重砲などを大量に配備していた。

 

戦車部隊に守られながら、日本合同部隊は勇敢に前進して行く。

彼らを迎撃せん、と連邦歩兵部隊は塹壕から汎用機関銃や小銃などで抵抗する。

上空には赤城たちの艦載機部隊が、各々搭載していた航空爆弾やロケット弾を喰らわす。

 

「各員、我が軍の歩兵部隊を援護せよ!連邦のドブネズミどもを一兵たりとも活かすな!」

 

艦橋では赤城が活を入れる。

 

「各機、損傷機及び負傷者の収納も速やかに」

 

加賀も同じく活を入れて、補充機の準備急げ!と指示を出した。

熟練整備妖精たちも気合いを入れて、帰還した攻撃隊の補充に取り掛かる。

 

「江草隊のみんな急いで。赤城さんたちに負けないように戦果を上げるわよ!」

 

「友永隊も急いで。徹底的に空爆するわよ!」

 

蒼龍と、飛龍も競うように航空支援部隊に活を入れる。

 

「第3次攻撃隊急げ!赤城さんや加賀姉に遅れを取るな!」

 

「連山隊の補給急げ。敵に目にもの見せてやれ!」

 

同じく土佐と、紀伊も切り札である《連山改》を運用している。

護衛機は少ないが、少ない分は赤城たち及び、《アカギ》のステルス艦載機、TJS社の空母艦載機部隊が補ってくれる。

明日には補給部隊及び、爆撃機部隊がやって来てくれるから遠慮はいらないのである。

 

 

「サラの子たちも、赤城さんや加賀さんたちに負けないように!」

 

「我々も遅れを取るな!Ark Royal攻撃隊!発艦せよ!」

 

TJS艦隊に所属するサラトガと、アークロイヤルも航空支援に徹する。

彼女たちも灰田の高速学習装置を利用して、練度は高く、赤城たちにも勝るとも劣らないほどの腕前が……

 

『攻撃隊…… 撃って、撃って、撃ちまくれ!』

 

「赤城さん。赤い台詞が多いわね……」

 

「ああ、あそこまでなると、我々も負けていられないな!」

 

ふたりの日本語も流暢になることも然り。

 

『ふたりとも!喋る暇があるなら我が軍の援護をする!』

 

イヤマフから赤城が聞こえ、ふたりは注意を促された。

 

『アッ、ハイ!!』

 

気を取り直したサラトガと、アークロイヤルは艦載機部隊に発艦準備を下した。

 

 

 

「進め!進め!」

 

「兵を散開させろ!」

 

自衛隊やTJS社の合同歩兵部隊指揮官の号令とともに、前進して行く。

両戦車部隊が歩兵部隊を援護し、赤城及び、《アカギ》の艦載機部隊が障害物を取り除くと言うドイツ軍の電撃戦を思わせ、豊富な火力支援は米軍を模倣している。

第一次世界大戦のように塹壕から各銃器及び、重火器を撃つ連邦軍歩兵部隊、要塞やトーチカなど次々と蹴散らしていく。

自走砲も遠距離攻撃、アウトレンジ戦法だからこそ力を発揮するが、接近されるとすこぶる戦車の餌食となる。

 

しかし、そんな見晴らしの良い場所からとある連邦兵士たちが大声を上げた。

 

「レイシストジャップどもが近づいたぞ!」

 

サムソン・トーマス連邦指揮官の号令とともに、要塞から砲身が飛び出して前進して来た。

 

「ジャップども。ここに眠るお前らの戦争犯罪者共のように、我々が現代に蘇えらせたこの加農砲で蹴散らしてやる!」

 

双眼鏡で攻撃目標を決めると、砲兵たちに伝達した。

少数精鋭且つ、熟練砲兵たちが素早く砲弾とともに、炸薬を装弾する。

砲身の俯角を取り、各員復唱しながら目標を合わせた。

 

「よし!ジャップどもに中岡様から賜れた、この《リーゼ・ファウスト》で正義の鉄槌を下してやれ!」

 

トーマス連邦指揮官が命令を下すと、《リーゼ・ファウスト》と名乗る加農砲が轟音と伴い、火を吹いた。

見晴らしの良い難攻不落の要塞とも言えるこの砲台陣地とともに、反撃の狼煙とともに地獄の業火を味あわせてやると報復の意志とともに……

 




今回もまたきな臭い部分も残しつつ、終了です。
連邦軍が言っていた『プロジェクト621』は、とある国が開発した巨大兵器を模倣しています。
事実では無用の長物とされ開発中止になりましたが、近いものは開発され、一時期は極秘任務で運用しています。

灰田「後にこの巨大兵器の正体については、後ほど明らかになりますので暫しお待ちください」

最後に登場した《リーゼ・ファウスト》と愛称が付けられたオリジナル加農砲の正体も明らかになります所以に、コピーが得意な某国クオリティーもありますので。

次回でUA50000になる嬉しさに伴い、次回予告に移ります。

灰田「次回は某戦争映画に似たこの砲台要塞の攻略に伴い、日本軍の快進撃をお送りします。
なおこの要塞攻略には、とあるメンバーが活躍しますのでお楽しみくださいませ」

なお、なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百二十九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百二十九話:砲台要塞を撃破せよ!

お待たせしました。
今年で艦これ五周年記念と言うめでたい日ですね。
本作品も恥じないように、頑張っていきます。

では予告通り、某戦争映画に似たこの砲台要塞の攻略に伴い、日本軍の快進撃をお送りします。なおこの要塞攻略には、とあるメンバーが活躍しますのでお楽しみくださいませ。

灰田「なお連邦軍の加農砲の正体も分かりますので、こちらも然り」

なお遅れながらですが、今回でUA50000以上突破しました。
いつも応援ありがとうございます。

では気分を改めて、予告通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


日本合同部隊の戦闘は、激しさを増した。

かつてここも絶対国防圏とも言われた、このサイパン諸島でも日米の両軍が激戦を繰り広げた。

今は日本合同部隊が『地上の楽園』と名付けられた連邦軍最後の拠点で行われると言う皮肉もあった。

 

そして、ついに《リーゼ・ファウスト》と言う連邦軍が名付けた加農砲が、猛然と火を吹いた。

砲声が轟き、日本合同部隊に襲い掛かった。

弾着の火が咲く。同時に周囲にいた歩兵部隊を巨人の鉄拳が払い退けるように吹き飛ばす。

一度ならず、二度も、三度も地上に、巨人の拳骨が上空から降り注いだかのように大地を揺るがす衝撃波も伝わる。

それでも、戦車部隊や航空部隊に守られた日本合同歩兵部隊は怯まず前進し続ける。

負傷兵は、自衛隊とTJS社の衛生兵たちが治療して、護送用装甲車を運用して、素早く後方へ下げる。

四式戦車改が至近弾を喰らい、砲弾で出来た穴に落ちて擱座した。

自衛隊とTJS社の戦車回収車率いる支援後方部隊は後ろで待機しているため、それまで待機しなければならない。

 

自衛隊とTJS社の合同部隊は、一斉に突っ込んだ。

連邦歩兵部隊指揮官が青竜刀を抜刀とともに、雄叫びを挙げた。勢い付いた連邦歩兵部隊も突撃した。

89式やM4A1、MINIMIなどの分隊支援火器を携えた日本合同部隊が連邦歩兵部隊を薙ぎ倒すように突撃する。

連邦歩兵部隊も同じように蹴散らさんと言う勢いで射撃する。

 

味方の援護射撃の最中で、煙幕を利用して爆薬を携えた工兵部隊たちが有刺鉄線を張り巡らして構築―――対人障害として厄介な鉄条網や対人・対戦車地雷など、自分たちの前進に阻む障害物を除去する。

その先に抵抗する連邦機銃陣地は、84mm無反動砲《カールグスタフ》や01式対戦車誘導弾などといった重火器で陣地ごと吹き飛ばした。

 

「敵機が来たぞ!」

 

上空からは赤城たちの《天雷改》や《轟天改》、F-86《セイバー》によるロケット弾や対戦車機関砲、機銃掃射に伴い、《彗星一二型甲》と《流星改》部隊及び、A-1《スカイレイダー》と《ソードフィッシュ》による空爆が襲来する。

補給を終えたF/A-18Eに続き、F-14Dと、TJS社のF-35部隊の猛攻撃も受けるのだから、ひとたまりもない。

 

しかし、いくら航空攻撃でもこの砲台要塞だけは損傷を与えることが出来なかった。

掩蔽壕に守られている所以に、いくら攻撃しても効果は乏しい結果となった。

 

「見たか、ジャップども。貴様らごときに連邦の牙城を崩せるものか!もっと撃ちまくれ、ジャップ狩りだ!

この《リーゼ・ファウスト》こと、我が連邦軍が開発した25式173mm加農砲で蹴散らしてくれる!」

 

この加農砲は、かつて旧軍にて制式採用されていた《八九式十五糎加農砲》や《九二式十糎加農砲》などの旧軍の加農砲を模倣している。

現代の牽引砲技術も加えており、口径はむろん、連射速度や攻撃力、そして射程距離も大幅に向上に成功することが出来た。

しかし、あまりにも高価な重砲且つ、少数のみ配備されているため、連邦軍にとっては貴重な対戦車火器でもあり、精密に製造された加農砲でもある。

 

砲台要塞は簡単に破壊されないように、敵ミサイルや航空爆弾、戦車砲弾などの攻撃にも耐え切れる強靭なコンクリート構造とともに、敵機襲来に備えた対空兵器、敵歩兵部隊を掃射するトーチカや機関銃座、野砲陣地、さらに容易に近付けないように、前方には対戦車用に配置された鉄骨と対歩兵用の鉄条網地帯も設けている。

 

「よし!どんどん砲撃を加えろ!」

 

トーマス連邦指揮官の言葉に応じて、砲兵たちは25式 173mm加農砲《リーゼ・ファウスト》に、榴弾を装填する。

観測員の伝言を聞くと、撃てと号令すると言う精密機械のように行う。

電探で観測された射撃データが、最寄りの要塞射撃指揮所に転送される。

測距データが駆け抜け、これを砲測で受け取った射撃手が、砲の方位、仰角を調整する。

地下に設えた弾薬庫から、補充の弾薬が給弾レールに乗って運び込まれるから隙が生まれないのだ。

 

狙いを定め、戦車及び、歩兵集団の真ん中に目掛けて引き金を引いた。

腹に堪える砲声とともに、再び砲口から火が吹いた。

 

それを合図に周囲に配備しているM119A3 105mm榴弾砲部隊もオレンジ色の発砲焔とともに、榴弾砲を叩き出す。

ソ連軍は砲兵力に注ぐように、今の連邦軍もまたかつてのソ連軍を模倣している。

砲兵は戦場の女神。そう公言していたソ連砲兵部隊は最強を誇っていたと過言ではない。

凄まじい砲撃が、緊張を吹き飛ばしてぶちまけられると思うと、戦意が高揚した。

数十発の榴弾砲が着弾した瞬間、火焔地獄が繰り広げられた。

歩兵や戦車部隊を襲いかかる。なおも着弾区域から免れた戦車部隊が、歩兵部隊を守りながら前進して行く。

 

「怯むな!前進!」

 

砲台要塞に近づいていく自衛隊・TJS社の両軍は、連邦歩兵部隊の脅威を排除しつつ、前進して行く。

全員が遮蔽物を利用して、要塞付近を死守している連邦歩兵部隊と銃撃戦を展開していた。

ここを排除しなければ、大隊はおろか、後方部隊の連中も攻略することも出来ないから、前線にいる自分たちが攻略しなければならない。

双眼鏡から見える鉄の城壁とも言える、砲台要塞からはなおも砲火は止むことはない。

後方にいる部隊が出血を伴いながら、前進し続けている。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!貴様ら低脳な黄色い猿どもが難攻不落且つ、神の要塞を破壊することなど不可能なのだ!ハハハハハハッ!」

 

トーマス連邦指揮官は嘲笑いつつ、豪語した。

 

「神の拳で、正義である我々の神罰の前にひれ伏すのだ!連中をゴミのように吹き飛ばし続けろ!」

 

彼の言葉は、戦地に火焔の渦を告げる預言者のように実現した。

榴弾の豪雨に見舞われ、着弾の跡も次々と出来ていくほど砲撃は勢いを増していく。

勢いの乗った連邦野砲部隊もだが、自衛隊及び、TJS社による両軍の自走砲部隊なども同じく撃ち続ける。

しかし、見晴らしも良く、大量の自走砲や野砲部隊を持つ連邦軍をいくら潰しても切りがない。

戦意を削ぐには、あの砲台要塞を潰す必要があった。

 

「艦隊に連絡!艦砲射撃で敵の砲台要塞を潰せ!」

 

これを見抜いた前線部隊指揮官・加納陸将は、双眼鏡を片手に命じた。

こちらには、座標を伝える通信兵が傍にいる。

 

「目標座標D-1 右700 標高050!」

 

加納は地図を広げて、通信兵に目標座標を伝える。

 

「早く伝えるんだ!キムラ大尉。ここの要塞さえ潰せば連中の士気は低下するからな!」

 

キムラ大尉は、了解と返答して座標を伝える。

 

「アリゾナ!アリゾナ!」

 

独特の言葉、元より訛りが混じった英語で無線機に通信を発した。

当然この無線内容は、連邦軍に傍受される。

 

「指揮官殿!」

 

砲台要塞防衛を務めるトーチカが、無線機で傍受したことを報告する。

 

「無線のなかで喋っていますが、英語でしょうか?」

 

指揮官である少尉は、首を傾げながら耳を澄ましたが、独特の訛りが混じった英語を聞いたが理解することが出来なかった。

しかし、一部の者たち、その通信兵部隊には理解することが出来る内容だった。

リレー方式で後方に砲弾で出来た穴に立て籠もる別の通信兵に通達され、そして湾内にいる秀真たち連合艦隊に通達された。

とある艦内では通信係員が、通信内容をメモ用紙に書き込み、傍にいた別の通信係員に渡した。その内容を理解した彼は、地図に目標座標を復唱した。

 

「目標座標D-1 右700 標高050!」

 

キムラ大尉たちのリレー方式で伝わるその通達を聞いた者たちこと大和及び、アイオワたちは、ニッと唇を矢型に変えた。

 

「アイオワさん、行きますよ?」

 

「そうね、大和……さぁ、私たちの火力、見せてあげるわ……!」

 

音を鳴らしながら、砲塔は旋回する。

湾内に待機している大和たちは、目標座標たる連邦軍の砲台要塞に照準を合わせた。

各砲塔にいる艤装妖精たちも送られてきたデータを調整しつつ、砲身に徹甲弾を装填する。

全ての砲身が側的どおり、敵砲台要塞に指向したと同時に、射撃妖精が満を持して引き金を引いた。

送られた電流は、装薬を爆燃させて、2トン近くの徹甲弾を叩き出す。

 

「全砲門、撃ち方始め!」

 

「Open firing!(撃ち方始め!)」

 

一瞬の鳴動に伴い、腹に堪える轟音。

各砲塔弾は1発ずつの斉射だが、分厚い装甲板に囲まれても耳も聾する雄叫びが、大和・アイオワを震わせる。

 

「我々もいくぞ!全主砲、一斉射だ。全ての連邦軍を薙ぎ払え!」

 

「もちろん行くわ!Feu!Feu!(撃て、撃て!)」

 

「榛名、全力で撃ちます!」

 

「私も気合い入れて、撃ちます!」

 

同時に武蔵と、リシュリュー、榛名、比叡の砲塔も咆えた。

多数の徹甲弾が、大気を揉み切りつつ飛翔して、敵砲台要塞に向かって駆け巡る。

 

「弾着まで、あと30秒……だんちゃーく!」

 

大和の声と同時に―――

砲台要塞の周囲で死守した機銃陣地及び、コンクリートで堅固に構築した小型のトーチカですら容易く破壊された。

その証拠に、細かい黒煙と一緒にオレンジ色の火柱がいくつも立ち上がった。

トーチカ内に立て籠もっていた砲兵部隊及び、機関銃兵たちなどは火中の華に巻き込まれて即死した。

次々と各連邦陣地が爆砕され、コンクリートの破片が飛翔を上げて、戦場に散っていく。

この分では攻撃力を削ぎ落とし、攻略部隊が進撃しやすくなる。

各所とも燃える松明と化しながらも効果抜群だったが、主力として配置している《リーゼ・ファウスト》を潰すことは出来なかった。

加納は再び目標座標を修正するように、指示を出す。

 

「右200に修正、上050 効力射!」

 

「了解しました」

 

再びキムラ大尉は、独特の訛りが混じった英語を発して、リレー方式で艦砲射撃を要請する。

このキムラ大尉は、ツルタ少佐たちと同じく灰田が用意した超人部隊で編成された通信部隊である。

かつてナバホ族や、他の先住部族と同様に、米軍兵として第一及び、二次の両世界大戦に徴用され、『コードトーカー』として活躍した通信部隊を模倣した部隊である。

暗号と言うものは複雑なものほど作成や解読に時間が掛かるため、史実では日本軍も最後までナバホ語通信の解読に成功することが出来なかった。

逆に日本軍も模倣して、早口の薩摩方言を使用したが、不運にも加治木町に縁がある日系アメリカ人の伊丹明によって、最終的に薩隅方言だと特定、解読されたと言われる。

そういうことも知らずに、砲台要塞に立て籠もっている連邦軍は狼狽する者もいれば、反撃をし続けている者たちと混沌していた。

 

再び、目標座標を聞いたアイオワは砲身を取り上げて効力射を開始した。

 

「Let’s drop some lead those mother!(痛いのをぶっ食らわせるわよ!)」

 

渾身の一撃で、敵砲台要塞を打ち砕かんと斉射した。

再び迸る巨大な火焔の影響で、海面が炎の色を映して赤く染まり、轟音に混じった爆風を受けてさざ波が立った。落雷のような砲声が鼓膜の奥まで聾した。

大気を熱するように、ジャイロ効果とともに、回転を増した徹甲弾は機銃陣地を粉砕した。

機関銃や小銃を捨ててでも逃げようとした連邦軍兵士たちは、逃げること間もなく戦死した。

 

未だに地獄の業火に伴い、日本軍に神の裁きを、と自惚れているトーマス指揮官や連邦砲兵部隊などが立て籠もっている砲台要塞に向かって、大和・アイオワたちが撃ち放った数発の徹甲弾が飛翔した。

 

「撃てぇーーー!!!」

 

トーマスの号令と引き換えに、25式173mm加農砲《リーゼ・ファウスト》がそびえ立つ砲台要塞は火花とともに、地獄の業火を模した爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。

さしもの砲台要塞も、大和・アイオワたちなどが持つ各種砲塔は分厚い敵戦艦などを撃ち抜くため、敵艦の心臓部を破壊するために造られた徹甲弾を跳ね返すことは出来なかった。

 

敵砲台要塞沈黙。海上から眩い爆焔を確認した大和・アイオワたちは歓喜した。

 

「やりましたね、アイオワさん」

 

「Thanks!ヤマト。あなたも中々よ!」

 

むろん彼女たちだけでなく、秀真・古鷹たち、連合艦隊及びTJS艦隊、そして両攻略部隊も然り。

 

「重畳の結果だな、良いぞ!」

 

「これで攻略部隊の進攻しやすくなりましたね、提督」

 

「ああ、そうだな。古鷹」

 

敵砲台要塞を撃破したおかげで、連邦軍の攻撃力及び、士気は低下した。

生き残った要塞やトーチカなどの陣地は、補給し終えた赤城や《アカギ》、TJSの艦載機や攻撃ヘリ部隊の猛攻を受けて壊滅的なダメージを受けた。

連邦軍もどうにか自分たちのものだった飛行場を奪回しようと、少数のトラックや装甲車部隊を中心とした増援部隊を出したが、制空権とともに、制海権を失った彼らは上空からでも、海上からの攻撃によりいたずらに被害を出したに過ぎなかった。

 

秀真の狙い通り、防御陣地などを張っていた連邦軍との戦闘は膠着し始めた。

分厚い防衛線では対戦車及び、対人地雷も敷いている可能性も高いため、無暗な前進は危険を伴うため、自走砲部隊や工兵部隊などがこれらを除去する。

 

両軍の修理班と、衛生部隊も多忙を極まる。

負傷者は沖で待機している病院船などで送られて、さらに船内で治療したりなどを繰り返すと言う時間との勝負も伴っているからだ。

 

これだけで日が暮れて、双方の戦闘は自然と終息した。

 

明日には両軍のC-130輸送機を中心とした輸送部隊及び、航空部隊が到着する。

2日後には速吸率いる海上輸送部隊と、武蔵率いる支援艦隊などが到着する予定だ。

合同部隊の補給物資とともに、増援部隊なども充実している。

 

つまり2日後には、連邦軍は包囲されたも同然となってくるのである。

 

攻勢をかけるのは、それからだ。

 

しかし、秀真たちは連邦軍に休息の暇を与えない。

彼らに恐怖を植え付けるために、とある作戦を開始するのだった……




今回は、とあるメンバーとは、『潜水空母イ2000』で活躍した超人部隊です。
彼らもまた特殊能力で仲間たちと交信する場面がありましたので、決して解読されない暗号などを持っています。

灰田「彼らで米本土強襲したのはいうまでもありませんが」

《リーゼ・ファウスト》は、『砂漠の獅子-ドイツ軍4号戦車1942』で終盤に登場した自走臼砲の名前を拝借しています。
中里融司先生が最後に原作を務めた作品でもあります。
アイオワさんが言った英語の台詞は『バトルシップ』の元ミズーリ号のおじいちゃんが言ったから。
最近こういう話をすると、某笑顔サイトで見つけたゆっくり実況、架空戦記小説を紹介する動画を思い出します。
いろいろな架空戦記作者が出版した作品があり、面白かったです。
なお、田中光二先生の作品も紹介されていたことも嬉しかったです。

灰田「私は、某アイドルマスターの社長さんみたいに影だけでしたが」

漫画版によって違いますから、仕方ないねぇ(兄貴ふうに)
私は『天空の要塞』の灰田さんが一番理想的ですね。

灰田「本作及び、第六戦隊と!でも、こうした架空戦記ネタを入れていますので、見てにんまりとすることもありますのでお楽しみください」

では、次回は……

次回は少しだけ恐怖の夜に伴い、二日後の戦闘を描きます。
この夜襲で、とある作戦を行ないますのでお楽しみください。
なお、なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十話:恐怖の妖光

お待たせしました。
色々遅れて申し訳ありませんでした。
食糧回収イベントに伴い、いろいろな事がありましたので。

灰田「今のところお米の回収率が高い所以に、梅干しやお茶、海苔も地道に集めていきましょう」

なおお気に入り数110になりました。やりました(加賀ふうに)
皆様の応援、いつもありがとうございます。

では気分を改めて、予告通り……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



戦闘が終了した連邦軍は、再び明日の戦闘に備えて休息に伴い、出来る限り地雷原を作るように命じた。

夜間に対人及び、対戦車地雷を埋めるのは危険な作業だが、時間がないため致し方ない。

連邦工兵と、第二次世界大戦でも活躍した米軍の《シービーズ》のような建設作業を得意とする連邦建設部隊とともに、パワーシャベルを持ち出して共同作業を行った。

因みに隊章はスパナとハンマー、そして機関銃を持っている蜜蜂が特徴である。

なお《シービーズ》は海兵隊の上陸同様に上陸、最前線で建設作業をすると同時に、道路や鉄道、兵舎・燃料タンク・野戦病院、その他生活用品まで何でもつくれる技術屋が揃っている。

ただし連邦軍は、必要なシャベルカーやブルドーザーなどの重機は、全て日本軍の空爆や艦砲射撃により、友軍機ともども破壊されたため、今は旧軍同様に手作業による塹壕や地雷原作りのみだ。

ともあれ共同作業により、地雷原だけでなく、敵戦車部隊の襲撃に備えて対戦車壕も作った。

 

航空機は前に述べた通り、日本軍の航空機部隊によって、無惨にも全て破壊されてしまった。

飛行場は、敵空挺部隊の奇襲攻撃を受けた直後、占領された。後に修復後、数機の爆撃機やヘリ部隊が駐機しているらしい。

そして海岸に停泊及び、警備などに務めた艦艇も同じ運命を辿った。元より小型艦艇ではとても日本の連合艦隊には敵わない。赤子当然だった。

それに双方を喪失したら、負けたも同然である。

制空権及び、制海権があれば食い止められたのに、とスチルウェス中将は痛切に願った。

 

第二次世界大戦、ベトナム戦争や湾岸戦争など、今日までの戦争でも双方を握ることによって、勝敗を左右するとも言え、過去から現代、そして未来でも変わることはない、と言うぐらい重要事項でもある。

 

温存しているマリアナ諸島所属の航空部隊は呼べないとなればサイパン諸島の陥落及び、降伏することも由々しき問題だったが、新たなる問題も夜に出てきたのだった……

 

スナイパーによる夜襲だった。

 

実は秀真は、加納陸将に、各軍からスナイパー小隊による夜襲を進言した。

夜襲は史実でも日本軍の御家芸でもあり、米軍は散々な目に遭い、レーダーを備えるまでは夜襲や、海上の夜戦でも日本軍が優位でもあった。

初めてこの戦法に遭遇したガナルカナル諸島に上陸した米軍はノイローゼ気味になり、同士討ちも多かった。

現代でも受け継がれており、日米共同訓練で米軍兵士たちからは『忍者』と言われ、彼らを驚愕させた。

暗視ゴーグルを装備した各スナイパー小隊が、敵戦線後方に潜入して、暗闇のなかを自由自在に動き回り、連邦将校など階級の高い指揮官を狙撃した。

スナイパーと言う者たちは『戦場の死神』と異名を持ち恐れられていた。同時に憎まれる存在だった。

ギリースーツを身に纏い、遠距離から狙い撃ち、そして精密機械の如く、正確無比に相手を葬るから恐ろしいことはない。

 

自衛隊が制式採用している《対人狙撃銃》こと、M24 SWSボルトアクション式狙撃銃とともに―――

一部の特殊作戦群が制式採用しているバレット社製対物ライフルこと、バレットM82A3を携えている。

そして各狙撃銃には静粛性や被弾率回避などを高めるために、銃口にはサプレッサーも装着している。

これらを携えた狙撃手、観測手たちはギリースーツを含む隠密行動用戦闘装着セットを身に纏い、さらに顔には迷彩色をペイント、そして全員が暗視ゴーグルを装着している。

 

静寂な夜は一瞬にして、恐怖の夜に変貌した。

いきなり赤ワインとフランス料理を食べて心身共々、満喫していた連邦指揮官のひとりが、狙撃されたのだ。

しかもひとりだけでなく、ひとり、またひとりと階級が高い者たちが狙われた。

迎撃しようにも目に見えないスナイパーは巧みであり、ひっそりと暗い森のなかに消えていく。

追撃に出た連邦偵察部隊も返り討ちにされてしまい、生き残っても恐怖を覚えて身動きが取れなくなるほどの始末だった。

これにより、各連邦軍兵士たちは恐怖で眠れない夜を過ごすことになった。

 

秀真は、連邦軍を休ませる気はない。

戦場の死神とも言われるスナイパーの影に怯えさせて、眠れぬ夜を過ごさせる心理作戦で疲労させる。

それが日本を裏切り、多くの血を流させ、そして世界征服を目論んだ侵略者及び、裏切り者たちの受けるべき報いでもあるのだ、と秀真は呟いた。

さらに各特殊部隊にレーザー照射装置を持たせて、連邦軍の補給物資がある重要拠点を狙い定めて、これらを各自走砲や砲兵部隊が、M712《カッパーヘッド》レーザー誘導式砲弾などを装填して、送られて来た座標ポイントに向かって、ピンポイント射撃で破壊した。

武器及び弾薬庫はむろん、特に食料や医療品を徹底的に破壊するように命じた。

敵の継戦能力を断ち切るには、後者の損害の方が効率的であり、さらに士気崩壊を導かせるには有効な戦法でもある。

史実でも米軍は散々と言ってもよく、日本軍の夜襲に悩まされた。

ガダルカナル諸島やニューギニア戦線、ペリリュー島、硫黄島、そして沖縄戦線でも日本軍の夜襲は恐怖そのものでもあった。

音もなく歩哨兵の背後から喉を切り、数人の米軍兵士たちがやられ、朝になると仲間の死体を目にした米軍兵士たちは狼狽した。

忍者のごとく、静かなる夜襲を受けた米軍は日本軍兵士たちを倒そうと血眼になった挙げ句、同士討ちになることも珍しくなかった。

 

破壊された重要拠点がから立ち上がる火柱が目印となり、海上で待機していた秀真・古鷹たち率いる連合艦隊の艦砲射撃が開始された。

古鷹・加古・青葉・衣笠率いる重巡部隊から、大和・アイオワ率いる戦艦部隊の徹甲弾及び、三式弾は重要拠点にいた連邦軍を吹き飛ばした。

その効果は空爆にも等しく、森林や草原地帯などを煉獄の炎は全てを焼き尽くし、多くの連邦軍兵士たちに恐怖を植え付けた。

特に連邦義勇兵など素人集団が狼狽した。

何しろ日常でも平和ボケ及び、日本を潰すために暴力革命や罵声などを掲げていた者たちが戦場に立つだけのまともな訓練を受けておらず、戦場において怯える、泣き叫ぶ、その場にうずくまる、武器を捨てて逃亡を図る者などもおり感情の変化が激しい者たちの集まりだった。

普段から反日を掲げて、日本をこの地上から無くすために費やした同情も欠片もない哀れな連中の醜態だった。

さらに苛立った連邦指揮官たちが、部下たちに総括及び、粛清をしたために二次被害が生じた。

攻撃を受けているのにも関わらず、総括中に地獄の業火のごとく、三式弾のなかに大量に内包された焼夷弾子が炸裂すると、総括行為中の連邦軍指揮官や敵前逃亡中の連邦軍兵士たちなど誰彼も関係なく襲い掛かるからひと堪りもない。

同じように降り注ぐ徹甲弾も、野戦司令部や山積みの補給物資、弾薬庫などを破壊し尽くす。

各夜戦司令部や補給物資貯蔵庫など重要拠点を初日から失ったのは陸上だけでなく、海上でも同じ目に遭っていた。

 

スチルウェルが、空中及び、海上でも良いからこの窮状を打開すべく援軍を要請するように訴えたので、中岡たちは援軍を送るため、夜間に護衛艦に輸送船団を守らせて、強引に補給することを決定した。

その夜間、日本軍がサイパン諸島に気を取られている間ならば、大丈夫だろうと出港した。

補給物資を満載した輸送船5隻とともに出港した、護衛艦群は心細いものだった。

護衛艦と言え、ほとんどが攻撃力の乏しい連邦砲艦群や輸送船に武装を駆逐艦並みに取り付けた武装輸送船と言ったものである。

航空機及び、艦娘、そして潜水艦などの攻撃がいつ襲ってくるか分からないのにも関わらず任務を全うすることが軍隊である。

島の味方には連絡をしているので、待機している友軍からの誤射はない。

 

しかし、海上封鎖任務を務めるステルス原潜《海龍》部隊がこれらを捕捉した。

眼下からサイパン諸島を目指すであろうと思われる輸送船団に対して、艦長・小菅二佐は躊躇うことなく攻撃命令を下した。

各《海龍》部隊は、羊を襲う狼の群れを思わせるように襲い掛かった。

撃ち放ったのは音響ホーミング魚雷だから、回避行動をすることなく瞬く間に連邦輸送船は撃沈された。

対潜を得意とする駆逐艦などもいないため、狩り放題である。

燃え盛る輸送船団及び、護衛艦を殲滅した《海龍》部隊の仕事は、瞬きする間に狩りと言う名の仕事を終えた。

空中の方も然り。マリアナ諸島から出た12機のMi-17《ヒップH》部隊には歩兵部隊を乗せ、日本軍の後方に奇襲攻撃を実施した。

しかし、護衛の戦闘機など付けず、またヘリ編隊が300メートル以上の高度を飛行したため、自衛隊・TJS両軍の対空レーダーにキャッチされた。

これを迎撃するために、両軍の戦闘機部隊による迎撃を受けて、全機撃墜と言う最悪な結果に終わった。

これにより、海上からも、空中からの強行輸送作戦は挫折したのである。

 

そして止めと言わんばかりに、島民たちによる騒動が起きたのだった。

連邦MPや親衛隊に『敵性行為あり』や『レイシスト』、『ネトウヨ』などと、連邦軍が崇拝するかの有名な独裁者のひとり、カンボジアを恐怖のどん底に突き落としたポル・ポトのように次々と理不尽なレッテルを貼り付けて、連邦新鋭赤軍などに睨まれた男たちは、各キャンプ(と言う名の収容所)に放り込まれていたが、女、子ども、老人たちが騒ぎ出したのである。

一部は連邦警備兵たちを殺害、鹵獲した銃器を手にして襲撃する元軍人たちと、手製の火焔ビンなどを使用して放火する少年少女たちもいた。

なかには、単独でロケットランチャーや軽機などをぶっ放す者もいたと言う。

スチルウェル中将は、次々と報告される知らせを聞いてショックを受けた。

夜襲に反乱など、祖国の多民族や国民たちと同じように起こすとは、と内心に呟いたのだった……

 

 

 

翌日―――

夜明け。連邦軍にとって、恐怖の一夜が終えた。

多くの者たちは、恐怖の一夜に伴い、味方による粛正も起きたため、各補給物資にも損害を被った。

各連邦将校や指揮官もトイレをするために起き上がり、報告のために移動した最中、頭部及び、胴体に銃弾が命中して死亡することが多かった。

特に階級の高い大隊指揮官など、佐官たちが狙撃されたため、司令塔を失ってしまった。

援軍中止報告に伴い、夜間砲撃、住民たちによるレジスタンス攻撃などにより、精神的に追い詰められた。

 

秀真たちの読み通り、心理戦が成功したのだ。

 

日本・TJS両司令部にとって最大の関心は、各増援部隊とともに、補給物資を運んでくるC-130輸送機部隊が無事に着陸出来るかどうかに掛かっていた……

修復された滑走路は念入りにチェックされて、着陸に支障がないことは確認済みである。

こちらには陸自の99式自走155mm榴弾砲と、長射程の阻止砲撃用及び、対地制圧を得意とする《MLRS》とともに、TJS軍のカエサル装輪自走榴弾砲やアーチャー装輪自走榴弾砲率いる自走砲部隊、そして155mm榴弾砲 FH70を中心とした両軍の榴弾砲部隊も展開している。

しかし、着陸する輸送機部隊を狙って、連邦軍がここを砲撃しに来ることは確かだ。

 

これを排除しなければならない。

加納陸将は赤城たち率いる空母機動部隊、《アカギ》筆頭の空母戦闘群、TJS海軍に再び航空支援及び、そして古鷹たち率いる連合艦隊に艦砲射撃を要請した。

これに応えた、彼女たちは各攻撃部隊を発艦させた。

空を覆い尽くす各攻撃部隊は、敵防衛線後方の野砲及び、高射砲陣地とおぼしき場所に空対地ミサイルや航空爆弾、ロケット弾、機銃や機関砲弾などを大量に撃ち込んだ。

そして残党掃射ともいうべき、海上にいた秀真・古鷹たち率いる連合艦隊の徹甲弾や三式弾による対地制圧射撃も行なった。

再び来た悪夢だ、と連邦軍兵士たちは脱兎のごとく、逃げ出した。

しかし逃げられることなく、昨夜のように恐怖の弾幕とも言える砲弾の豪雨が降り注ぎ、生き残った連邦軍各陣地や地雷原、地下壕などを跡形もなく吹き飛ばした。

特に大和やアイオワたち率いる戦艦部隊の打撃力が凄まじい艦砲射撃は効いた。

なにしろ上空から、全てを焦土化せんと神の雷槌のように、天誅を喰らわした。

所々出来る地獄の業火に似た火柱と伴い、衝撃波で陣地も兵器、そして連邦兵士たちも巻き添えにして消滅した。

しかし、赤城たちの航空攻撃及び、古鷹たちの艦砲射撃を受けたのにも関わらず、数え切れるほど、少数の連邦軍榴弾砲や自走砲、高射砲、迫撃砲が生き残っていた。

至極、悪運強く往生際が悪い連邦軍ならではかもしれない……




今回は心理及び、精神的に追い込む各夜襲をお送りしました。
なお連邦軍の空輸の元ネタは、第四次中東戦争時にエジプト軍がイスラエル軍の後方を強襲すべく実行した作戦です。上空掩護もなし且つ、低空飛行しなかったそうです。
TF777でも救助作戦失敗するほど運用がガサツ……最近は米軍や英国の特殊部隊の共同訓練を受けて汚名挽回に向けてしていますが、印象がね……

灰田「対してイスラエル軍は、ヘリ運用がとても上手く反撃の一歩に貢献したと言われています。上空掩護及び、地上軍の支援攻撃を上手く使っているからこそ作戦は成功するものですね」

制空権及び、制海権を失えば負けたも当然ですよ。
ましてや夜襲を喰らえば、尚更ね。
今回のイベントでも、深海棲艦たち食料だけ奪っていくと、連邦軍のように内部に裏切り者がいるのじゃないかと思いますね。

神通「食糧回収は、この神通におまかせ下さい。提督」←久々の登場

神通さん、小説や資料集め補佐ととして頑張っていますが、無理しないでくださいね。
水雷魂も敵に見せて、古鷹たちとともに奪還しています。

神通「第二水雷戦隊旗艦として、おまかせ下さい!」

単発任務で入手できる四連装酸素魚雷後記型及び、試製カタパルト入手まで地道に頑張りましょう。

灰田「では、次回の予告と参りましょうか。次回は拡大する戦線、どのような展開を迎えるかと言う話に伴い、連邦軍をまた徹底的に追い詰める回でもあります」

なお、なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

神通「ダスビダーニャ!イベント頑張りましょうね♪」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十一話:戦線拡大す 前編

お待たせしました。
前回でうっかりして、本作はついに百三十話を突破しました。最終回までお楽しみくださいませ。
なお、食糧回収イベントでは、炎の妖精の御加護があるぐらいお米のドロップ率が多いです。
補給物資に因んで、今回は輸送機部隊が到着する回に伴い……

灰田「休日ぐーたら暇人さん作品のチート中のチートキャラとのコラボをお楽しみください」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



敵砲台要塞を中心とする連邦軍防御陣地を攻略とともに、嫌がらせ攻撃を兼ねた夜襲、そして空爆や艦砲射撃による連邦砲兵陣地などを片付けたことにより、精神的に追い詰められただけでなく、壊滅的なダメージを負った連邦軍の戦意は大きく低下にも成功した。

その一方、連邦軍は孤立無援。空からも、海からの補給及び、増援部隊も昨夜の日本軍の攻撃により阻止された。

壊滅的な打撃を被り、陸でも空でも海でも、そして中岡連邦大統領たちにも見捨てられた挙げ句、連邦軍の運命は、もはや敗北と言う形が決まったようなものだった―――

 

時刻 0845

サイパン飛行場管制塔まで進出した自衛隊・TJS両司令部は、C-130を中心とした輸送機部隊の到着を待っていた。到着時刻予定は0900時と打電で知らされた。

滑走路周辺には、各軍の歩兵部隊などを展開して、厳戒態勢を敷いていた。

連邦軍による殴り込み作戦、捨て身の特攻作戦もあり得ることもある。

史実の沖縄戦で、義烈空挺隊による殴り込み作戦のような作戦を仕掛けて来ることもあり得る。連邦肉薄部隊の襲撃に備えて厳重にしている。

飛行場まで赤城たちなどが飛ばした護衛機部隊とともに、海上を大きく迂回して来るので問題はないと思ったとき、ターボプロップエンジンの独特の爆音が鳴り響いた。

数機の両軍の大型輸送機部隊とともに、赤城たちの《天雷改》や《烈風改》部隊などが上空から姿を現した。

飛行場からも周囲警戒のために、陸自のAH-64D《アパッチ》とAH-1《コブラ》と伴い、Mi-24《ハインド》とAH-1W《スーパーコブラ》と言った各攻撃ヘリ部隊が飛び立った。

 

先導機(指揮官機)が理想的な高度に下げると、滑走路西側から着陸態勢に入った。

滑走路の空いた穴には、その周りにペンキで大きなマークが付けられている。

1番機は無事着陸に成功した。エプロンに入るとサイドハッチ、リアハッチが開き、素早く各兵員と軽装甲車輌などが展開した。

 

加納陸将・柴田副師団長率いる各軍の指揮官たちは顔を見合わせて、ほっとした。

 

「このままスムーズに行くと良いのですが……」

 

柴田がそう呟いたとき、敵の迫撃砲、迫撃砲弾が着弾寸前に響かせる独特の音が滑走路の端っこに着弾した。

次に、生き残った少数の連邦軍の野砲部隊が撃ち始めた。

迫撃砲弾を上回るほどの火力を活かし、滑走路に着弾、そして爆炎を吹き上げたのである。

 

「やはり撃ってきたかな!」

 

加納陸将が叫ぶ。

 

「両パイロットたちに通信。間隔を詰めて速やかに着陸せよ。両ヘリ部隊が掩護する!海軍の護衛機部隊も攻撃を許可する!」

 

合計20機の両ヘリ部隊及び、輸送機部隊を援護していた赤城たちの護衛機やTJS社のF-35部隊も加わり、敵の砲兵部隊を探して殲滅に掛かる。

さらに両軍の自走砲や榴弾砲、ロケットシステム部隊も撃ち始めた。

滑走路には次々と着弾して、黒煙に覆われた。

しかし、砲撃と言うものは見た目には派手だが、意外と効果がないものなのである。

ともかく輸送機を守るため、敵の砲兵部隊や歩兵部隊などの攻撃を沈黙させるしかない。

かつて日本軍が1発でも撃てば、米軍はお返しに1万発の砲弾を報復として撃ち返した。

これを再現するかのように、両軍は凄まじい砲撃戦を展開した。

しかし、火力の差は圧倒的であり、少数ほど生き残っていた連邦砲兵部隊はたちまち見つかり、空対空誘導ミサイル及びロケット弾、航空爆弾、機関砲弾や機銃掃射により破壊されて言った。

制空権を握っていること、自衛隊やTJS社の実戦経験も度重なる戦いで、ベテランの域に達していることが勝利の貢献へと繋がっている。

 

その黒煙のなかを各輸送機部隊は、勇敢に着陸した。

敵砲撃が止んだ頃合いを見て、各部隊はエプロンからタキシングすると、荷卸しをし始めたときだった。

 

『偉大なる中岡連邦大統領様!万歳!万歳!万歳!』

 

「アンドルフ・ヒトラーの犬どもを殺せ!」

 

「この侵略戦争の発端は、アンドルフ・ヒトラーのせいだ!その犬どもを懲らしめろ!」

 

雄叫びを叫びながら、フェンスを破壊したフォード・セダンを筆頭に随伴歩兵部隊が突撃して来た。

かつて第二次世界大戦中の英軍は、予備兵力として、一般人たちが集った民兵組織《 ホーム・ガード》でも、セダンなど家庭にある自動車を改造して、簡易装甲車として運用したことがある。

フロントウィンドウ部の装甲は普通のボイラー鋼板製とともに、ラジエーター防護のためのフロントグリル部の装甲は、金属製の箱のなかに防弾性向上を目的とした小石を詰め込んだもので作られている。

 

また同じもので、コンクリート製の代用装甲で作られた移動トーチカやベドフォードOY型トラックに木製の厚板で作った代用装甲を取り付けた装甲ローリーまでも作られた。ただしドイツ軍上陸を阻止する力は本当にあったのかは未明だったが、英国空軍部隊の粘りがドイツ軍上陸を阻止出来たことが幸いだった。

 

連邦軍もそれを真似して、作ったのである。

なお、このセダンに乗車するコマンド部隊《ラヴェジャー》指揮官・大竹福造大佐と、副指揮官・大橋まこと中佐が指揮している。

主に敵兵に対して、轢き逃げ攻撃及び、後部座席に座っている護衛兵ふたりが銃撃などを浴びせる攪乱攻撃である。

彼らとともに、突入して来たコマンド部隊の装備品は、全員が手榴弾所持。AK-74やMP5、各自動拳銃で武装し、さらに持てる限りのC4爆薬を身体に巻き付けていた。対戦車火器を抱えている者もいる。

M72 LAWやRPG-7と言った使い捨て携行式対戦車火器である。

 

総員50人。むろん、最初から生還は考えていない。

偉大なる中岡大統領及び、連邦国のために喜んで死ぬつもりである。

出来る限り、日本兵などをひとりでも多く道連れにして死んでやる、と狂気じみた表情を浮かべていた。

 

この気迫は、圧倒されるものでもあった。

 

基地警備に配置された歩兵部隊などが駆け付けた。

むろん空挺部隊や超人部隊、TJS軍、第六歩兵中隊も加わり、分隊支援火器《MINIMI》やFN MAG汎用機関銃、M2重機、96式40mm自動擲弾銃、Mk19自動擲弾銃などで応戦し、猛烈な撃ち合いとなった。

各隊員たちは89式小銃や9mm機関拳銃、二百式短機関銃などを携行し、無我夢中で弾幕を、各銃が咆哮するマズルフラッシュが眩しいほど撃ちまくった。

火力及び、兵力の乏しい連邦コマンド部隊は、糸の切れた操り人形のごとく倒れる。

しかし、一番厄介なのは、かつて第二次世界大戦で『砂漠のネズミ』と言われたオーストラリア軍のラット・パトロールのように車輌を使ったヒット・アンド・ランをする。

主にアフリカ戦線で、ロンメル率いるアフリカ軍団を悩ませた部隊で有名である。

主に偵察任務とともに、隙あらば敵飛行場や補給部隊など、ドイツ軍の手薄なところを、機銃付きジープで襲撃して損害を被らせると、砂漠に消えることから『砂漠のネズミ』と言われて恐れられていた。

 

「くたばりな!このくそったれ、イエロージャップが!」

 

セダンを運転する大橋は、アクセルを思いっ切り踏んで、銃撃している自衛官たちのなかに思いっ切り体当たりした。

体当たりを喰らった自衛官たちは、空中に舞うと、そして地面に転がった。

 

「大丈夫か!?」

 

「まずいぞ、重症だ。急いで後方に下げろ!」

 

各隊員たちは、重傷を負った自衛官たちを後方に下げる。

 

「なんちゅうか、ほんまっちゅうか……アジアの侵略軍こと、日本軍がこれほどまでに反民主的な殺人集団の癖に、これほど雑魚とは思わなかったな。アハハハハハッ!」

 

「戦争好きのアンドルフ・ヒトラーの犬どもは、俺のアクセルパニッシャーで殲滅してやるのみ!」

 

重傷を負った自衛官たちを見て、大竹福造と大橋まことは、ゲラゲラと嘲笑った。

彼らにとって自衛官たちを殺すことは『綺麗な殺人』に伴い、軍隊=悪人だから、殺人罪の認識もなければ、反省もない。寧ろ彼らは『正義の行為』と開き直っている。

 

「今度は、ジャップの輸送機に素敵なプレゼント攻撃だ!」

 

大竹は、駐機しているC-130に向かって、迫撃砲弾を取り出した。

 

「殺人輸送機に、ドカーン!」

 

黒縁メガネを光らせた大竹は、手に持っていた迫撃砲弾を、C-130輸送機に向かって、思いっ切り投擲した。

迫撃弾頭を喰らったC-130輸送機は直撃を受けて、偶然にも燃料が誘爆して機体は炎に包まれた。

補給物資は降ろしているが、機体は破壊された。

 

「もう1発、ドカーン!」

 

今度はC-130輸送機と胴体及び、左翼が破壊した。

周囲にいた整備士たちも巻き添えを喰らって、火傷や重傷を負った。

大竹は、ニヤニヤと快楽的殺人者独特の笑みを浮かべながら、次々と迫撃砲弾を投擲していく。

大橋は、アクセルパニッシャーと名付けた轢き逃げ攻撃とともに、護衛兵がライフルで銃撃を繰り返す。

 

「ドカーン!ドカーン!ドカーン!アハハハハハッ!最後は人殺しのリーダーたちを数人轢き殺して、最高級のフランス産赤ワインとカマンベールチーズ、そして俺の大好きなカナダ産のスモークサーモンで乾杯や!」

 

「シメは、安藤おろしそばにしましょうよ!イライラをキレイさっぱりと!」

 

『アハハハハハハッ!』

 

双方ともに、傲慢な口調且つ、作戦行動中にも関わらずのんびりと高らかに笑ったとき―――

 

「なんだ、この音は?」

 

「後ろからだ、なんだ?」

 

大竹たちは、後部座席から奇妙な音を耳にした。

なんだろう、ふたりはゆっくり振り替えると、その瞬間に恐ろしい光景を目にした。

先ほどまで銃撃していた護衛兵が死亡していた。

ふたりの護衛兵は、後頭部を撃たれ、紅い鮮血と灰色の混じった脳漿が床下にまで飛び散っており、そして後部座席を紅く染めていた。

目を凝らすと、後部座席の窓――リアデフォーガーには銃跡が残っていた。

 

「人殺しか?だけど、いつの間に……」

 

すると、今度は前方から軋む音が聞こえた。

ふたりは顔を見合わせて、ゆっくりと前を向いた。

フロントウィンドウ部に取り付けた装甲を剥がしている日本軍兵士を見て、恐怖のあまり言葉を失った。

振り落とそうと、大橋はハンドルを左右に動かして、車体をジグザグ運転を繰り返したが、日本軍兵士は振り落とされることなく堪えていた。

 

「落ちろ!食肉用家畜のように大人しく―――」

 

大橋は護身用に用意した拳銃に手を延ばしたが、日本軍兵士は大橋の首根を掴み、外へ放り投げた。

放り投げられた大橋は、不運にも大竹福造に破壊されて炎上しているC-130輸送機、その左翼エンジンのプロペラに顔から身体まで突き刺さり、生きたまま串刺し、痙攣を起こしながら死亡した。

しかも突き刺さった遺体は、燃え盛る機体のなかに導かれるようにペラごと倒れ、そのまま火葬されるという呆気ない最後を迎えたのだった。

 

「よくも俺の戦友を!落としてやる!」

 

大竹は、護身用拳銃で日本軍兵士の足を狙撃しようとしたが、いつの間にか消えていた。

 

「まあ、良い。友の仇として、目の前にいる殺人集団の指揮官に、アクセルパニッシャーの生みの親である俺流のアクセルパニッシャーで轢き殺してやる!」

 

邪魔者がいなければ好都合、と大竹はセダンのアクセルを最大限にまで踏み倒し、自身の双眸に映った日本軍指揮官に向かって突入した瞬間―――

 

またしても目の前に消えたか、と凝視した。

 

「私はここだ、日本の敵さんよ」

 

上を見上げると、アクロバットなジャンプで躱し、さらにセダンの運転席に着いた男は両手に拳銃を携え、両銃の銃口を大竹に向けた。

 

「殺人集団の指揮官に相応しい死を!だから……」

 

大竹は、護身用拳銃を男に向けたが、引き金を引くことが出来なかった。

 

「ジャップにドカ……ぎゃああああああ!」

 

大竹は、突然の悲鳴を上げた。

自身の利き手、右手が吹き飛ばされていたため、激痛に堪えられずに悲鳴を上げたのだ。

 

「おのれ……神聖なる中岡大統領様と、平和憲法、この偉大なる連邦軍指揮官の大竹福造指揮官様の前に跪くように大人しく殺されろ!このアジアの侵略戦争民族の猿どもがああああああ!」

 

座席に隠していたMP7を左手で掴んだ。

しかし、男は素早く二挺拳銃を発砲し、大竹福造が掴んだMP7とともに、左手ごとを吹き飛ばした。

一瞬にして、大竹福造の両手は原形を止めることなく粉砕されたのだった。

 

「ぎゃああああああ!痛いよ!痛いよ!俺の両手が!両手がああああああ!」

 

大竹は自身の両腕を見て、泣き叫んだ。

しかし、目の前にいた男は泣き叫ぶ大竹を見ても動揺せずに呟いた。

 

「因果応報。今こそ日本を裏切った報いを受けるが良い」

 

無慈悲なひと言。大竹は悪寒を感じた。

蛇に睨まれた蛙のように、恐怖のあまりに言葉も、逃げる余裕も失っていた。

大竹が最後に見た光景は、目にも止まらぬ速さで抜刀して自身の乗るセダンを、運転席ごと切り裂いたと言うものだった。

 

日本刀でセダンを切り裂いた男は、再びアクロバットなジャンプでセダンから離れ、体操選手のように見事な着地をして、最後に日本刀を鞘に収めた。

その瞬間、大竹が乗車したセダンは真っ二つに切断された。コントロールを失ったセダンは横転してガソリンに引火、直後、大破炎上したのだった。

 

時代劇ならではの、華麗なる殺陣を決めたのだった。

 

「これで終わりだ」

 

双眸を落として、短く深呼吸をした。

謎の男の行動により、コマンド部隊指揮官たちは殲滅することが出来た。

 

「お見事です。首相閣下」

 

ツルタ少佐が言った。

超人的な腕力を利用して、セダンの防護を剥がし、後部座席にいたコマンド指揮官の護衛兵と、大橋を片付けたのは彼である。

最後の仕上げ、セダンごと大竹を倒したのは男、ツルタ少佐が言った『首相閣下』と言う謎の男である。

 

「いいや、君のおかげで久々に暴れることが出来た」

 

「私も任務を全うしたのみです。閣下」

 

すると、加納陸将・柴田副師団長は駆け寄った。

 

「ツルタ少佐、大丈夫ですか?」

 

加納が訊いた。

 

「私ならば大丈夫です。敵コマンド指揮官たちも殲滅しました。今は部下たちにテレパシーを送って残存部隊の確認をとっていますが、敵兵たちは敗走しました、と伝達しましたので」

 

「ならば、良いのですが……」

 

柴田は、その報告を聞いて安心した。

 

「ハハハ!ツルタ少佐は良き上官たちを持っているな!」

 

ツルタたちの会話を見て、男は嬉々した声を上げた。

 

「失礼ですが、あなたは一体……?」

 

加納は尋ねた。

男は、にんまりと笑い答えた。

 

「私は元海軍大将で、今は日本帝国首相……福本伊吹だ。キミたちとともに戦っている第七独立機動艦隊所属海軍陸戦隊・第六歩兵中隊の最高指揮官でもある。私の息子と、戦友たちが上手くいっているか様子を見に来たんだ」

 

『失礼しました!!』

 

加納・柴田は敬礼した。

別次元に存在する日本の首相でも、礼儀は忘れない。

彼らの敬意を込めて、福本伊吹も敬礼で返すとともに、二人に握手を交わした。

 

「手短な挨拶が終えたところで、作戦続行をしようではないか?加納陸将、柴田副師団長、ツルタ少佐」

 

『もちろんです!!!』

 

「我々とTJS軍の作戦は……」

 

彼らは作戦内容に余もない、あとから来た報告を聞いた。

連邦コマンド部隊は殲滅できたものの、こちらにも傷を負った。

C-130輸送機2機が破壊工作の犠牲になり、迎撃していたAH-64攻撃ヘリ1機が連邦コマンド部隊の携行式地対空ミサイルの攻撃により、未帰還となった。

整備士たち5人と、警備小隊6人が負傷、3名が重傷を負ったが奇跡的に一命を取り留めることが出来た。

 

油断はしたものの、両軍合わせて2個大隊が増員。さらに必要な補給物資も補充された。

明日には、武蔵率いる支援艦隊なども到着するから、また潤沢な航空支援が受けられる。

TJS社から、爆撃機部隊も到着する報告も聞いた。

それまで時間を消費するのは不味く、敵側の増援が来る可能性も考えている。

幸いにも海上には、秀真・古鷹率いる連合艦隊とともに、ステルス原潜《海龍》部隊が海上封鎖及び、睨みを効かしているため、失敗する可能性が高い。

 

各司令官たちは話し合い、増援部隊が来たいま、北部を攻略すべきだと言う結論に達した。

まず北部を制圧すれば、危険な二面作戦をせずに済むからだ。

 

そこで司令部では、両軍連隊とともに、空挺部隊を北部の敵に当てることにした。

 

連隊長は林田一佐。

TJSの戦車隊指揮官は、エアハルト・ベッカー中佐(25)

彼は、元ドイツ国防軍所属であり、乗車戦車兼指揮車はM1《エイブラムズ》である。

 

兵力は二手に分かれ、主力戦車を先に立てて中央突破。空挺隊はビーチ沿いに進攻。

自走榴弾砲やロケットシステム、無反動砲、各攻撃ヘリ部隊が彼らを援護する。

 

次の輸送部隊到着とともに、航空部隊が加わることになっている。

 

黎明時から、作戦開始となった。

偵察より、敵が防衛線前面に地雷を埋めていることが分かった。

その多くは対戦車地雷や対人地雷だろうが、こちらにも対策はある。

こちらには地雷処理車が数輌あり、敵地雷原を突破するのに用意しておいたのだ。

 

戦意高揚且つ、士気も高い両軍。

 

彼らに比べて、連邦軍はもはや崩壊するのも問題であった。

 




今回は連邦軍が一矢報いりましたが、結局は失敗に終わると言う……

灰田「まあ、えげつない攻撃でもありましたね。指揮官は」

因みに元ネタは『超空の決戦』で沖縄戦及び、満州戦のコマンド攻撃を合わせています。
オリジナルとして、第二次世界大戦で起きたアフリカ戦線で実際に英軍と、オーストラリア軍が行なった奇襲攻撃も足しています。
タイトルは忘れましたが、昔、漫画で読んだ際に日中で起きた戦争で抗議団体と言う名のテロリストが空自の基地を襲撃していたのも加えています。

灰田「超日中大戦のようですが、そういうことに限って、冷や水浴びて、手のひら返す人間がいましたが、のちに痛い目に遭いますものですが」

まあ、そうなるな(日向ふうに)
抑止力が高ければ、戦争が起きないのに、軍縮すると起きやすいですよね。
ましてや自国を裏切ると大変な目にも遭います。
フィンランドのように見習うべきでもありますけどね。

今回のイベントでも何度も言いますが、大本営などに裏切り者がいると思うくらいですしね。食糧庫など手薄なことはないですので、内部に手引きしたのがいるとね……

灰田「まあ、そういう裏切り者たちは恐竜時代などに送れば大丈夫ですから」

では……時間も来ましたので、次回に移りますね。

灰田「次回は戦車隊の活躍と伴い、連邦軍の意外な反撃、そして少しだけですが、夜襲がありますのでお楽しみを」

なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十二話:戦線拡大す 後編

お待たせしました。
伊勢改二実装で気分が高揚しているSEALsです。
私的には、架空戦記に登場する戦艦空母が実装したと思うと、流石に気分が高揚します(加賀ふうに)

灰田「流石に特型戦艦姉妹のようには、100機搭載及び、コンバート改装で戦艦になることはありませんですが、今後も架空戦記に登場する艦船が登場すると、私も気分が高揚してきます」

某『超ワイド&精密図解 日本海軍艦艇図鑑』で見ましたが、大淀さんも軽空母改装計画あったことに驚きました。もしかしたら改二実装時はこれだな、と思いました。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



時刻 0915

 

各地雷原処理車から、地雷原処理用ロケットが発射されたことにより、北進作戦は開始された。

 

敵の戦線距離は、約2000メートル。

周囲の地形は、沖縄に近い丘陵地帯だが、双方ともそこに塹壕陣地を急速形成―――連邦軍はトーチカを作っている余裕はなく、重機や迫撃砲を据えて睨み合っているが戦車はない。貴重な重砲のみ。

逆に自衛隊・TJS軍は、こちらも連邦軍同様、重機や迫撃砲を据えて睨み合っているが、後方には重砲や戦車が控えているため、攻撃力はこちらが勝っている。

 

地雷原処理用ロケット弾内に収納された26個の爆薬(導爆索)が空中で末端部のパラシュートが開き、ロケット弾本体の中から数珠繋ぎ状になった爆薬がパラシュートに引き出された。

大量の爆薬は縦一列に連邦軍の地雷原上に落下し、全て同時に起爆して、埋設された対人及び、対戦車地雷を爆破処理した。

爆破処理の影響に、各種類の地雷は誘爆が起こり、黒煙に交じった爆発が次々と連鎖した。

 

昨夜から夜襲の脅威に怯えながら、夜間に配置した地雷原は、脆くも啓開されてしまった。

 

「アジア的優しさを持つ中岡大統領様を弱いものいじめや恫喝し、『正義』と叫ぶアジア諸国侵略軍及び、安藤と元帥応援団たる日本軍を蹴散らせ!」

 

第4連邦軍師団長・室井陽子少将は、敵の攻撃を察知し、貴重な重砲部隊に砲撃を命じた。

M37 152mm砲と、南アフリカ製榴弾砲のG5 155mm砲を併せて50門を保有している。

 

これを予期して、林田一佐たちは日本軍は戦車隊を後方に下げて、丘陵地帯の陰に遮蔽させていた。

さしもの10式戦車など榴弾砲の直撃には敵わない。

 

その一方、日本軍の自走榴弾砲とロケットシステム部隊で制圧射撃を命じた。

榴弾砲の火は止むことなく、集中砲火を浴びせる。

双方とも負傷者は出たが、ヘルメットと防弾チョッキを身に着けた自衛隊やTJS軍は致命傷を免れた者が多く、防護手段が不足及び、欠ける連邦陸軍や義勇軍兵たちは死体の山を築くほど死傷者が多かった。

 

史実のベトナム戦争で起きたケサン攻防戦でも米海兵隊とベトナム北軍との小競り合いでこのような出来事が起きたのだから、不思議である。

元より緒戦にいたベテラン連邦指揮官が戦死した今は、戦闘経験皆無の連邦指揮官と素人同然の義勇軍などが戦闘指揮を務めているから雲泥の差がある。

 

その間にも、MLRS多連装ロケットシステムが発射したロケット弾が襲来して来た。

弾内に収納された子弾が広範囲に拡散すると、耳を聾する炸裂音に伴い、爆風に交じった火焔地獄が連邦野砲陣地及び、砲兵、歩兵部隊を包み込んだ。

 

古鷹及び、大和たちが持つ三式弾の構造に似ている。

砲弾のなかに約400発の子弾を詰め込んだ対空及び、対地焼夷弾として活躍した。

 

ともかく連邦軍の野砲部隊が沈黙すると、林田一佐と、エアハルト・ベッカー中佐は戦車隊の進出を命じた。

 

個人携帯火器(89式小銃やMINIMI、対戦車火器など)を持つ歩兵部隊、迫撃砲小隊、分隊支援部隊などが随伴する。

 

10式戦車及び、M1戦車や62式戦車、四式戦車改を先頭に合計20輌の戦車隊が前進し、啓開路を切り開く。そのあとに歩兵部隊が続く。

両者が協調してこそ意味があり、お互いに足りないところを補完するからこそ、真の力も発揮する。

戦車隊だけで動けば、必ず敵の対戦車火器にやられてしまう。

 

前線にいた連邦歩兵部隊や義勇軍兵たちは、RPGなど対戦車火器で盛んに応戦して撃ちまくって来た。

しかし、複合装甲を纏った各戦車には対戦車火器での攻撃は効果なしだった。

 

「こちらもお返しだ!」

 

ベッカー中佐たちは、データ入力された自動照準システムのおかげで、各戦車の砲の角度調整を行い―――

 

『撃てっ!』

 

各車はひと声を掛けて、引き金を引く。

各種の戦車砲が咆え、吐き出された榴弾が塹壕に命中して機関銃座、迫撃砲陣地、そして傍にいた連邦歩兵部隊とともに粉砕した。

なお、連邦歩兵や義勇軍兵たちは直撃を受けて、肉片に変わり果て宙に舞い上がった。

 

後続の戦車も砲塔を回しながら撃ち始めた。

前線背後に配備している迫撃砲及び、機関銃座陣地を集中砲火を浴びさせて、歩兵部隊の進行を阻止する障害物を沈黙させた。

 

連邦軍の損害は前日同様、うなぎ登りに増大した。

日本軍の猛攻により、恐怖に堪り兼ねた室井少将は戦線を離脱しようと、司令部の傍に駐車していた1台のSUV車―――ジープ・ラングラーに乗車した。

 

「室井少将、どこへ行くのですか!?」

 

ひとりの連邦指揮官が訊く。

 

「あたしは死にたくないから、ここから逃げる。殺人軍隊相手と、戦闘指揮は貴方たちに任せる。じゃあ!」

 

「困ります!指揮官が戦線を離脱するなんて!戦場に男女も関係ありません!」

 

「うるさい!この男尊女卑野郎!粛清だ!」

 

室井少将は苛立ち、反論した連邦指揮官を自慢の護身用として用いられる鉄扇(親骨を鉄で作った扇子の一種)で、彼を躊躇することなく殺害した。

 

「これだから戦争好きな安藤首相と元帥、アメリカのポチと化した馬鹿な提督や人殺しどもも気に入らない。

艦娘どもなんて、強制連行されて男どもに洗脳された哀れな兵器女どもだよ。あたしのような強い女こそ正しい女であり、指導者に相応しい。

そして、アジア的優しさを持つ中岡大統領様と、連邦女性幹部様たちを見習えってんだ!」

 

名も無き連邦指揮官を殺害した室井は、鉄扇に付着した血糊を払いのけ、車のキーを差し込んだときだった。

後方から聞こえた轟音。彼女が振り向くのも束の間、室井の瞳に映ったオレンジ色の火矢が、ジープ・ラングラーを貫通する異音が響いた。直後、破壊音に続いて轟く爆発音。

直撃の火花が散り、運転席からエンジングリルまで大量の黒煙が噴出し、さらに真っ赤な炎を吹き上がった。

 

「た゛す゛け゛て゛! た゛す゛け゛て゛ ーーー!!!」

 

逃げる隙もなく、室井陽子少将は、焼けただれた手で助けを求めたが、誰も見向きもしなかった。

彼らは目の前の戦闘で精一杯であり、指揮官不在となった今は、逃げることで精一杯だったからだ。

彼女は苦痛を味わいながら、生きたまま焼死した。

 

室井少将が行方不明(実際は戦死だが)になったことにより、連邦軍は膠着状態と化した。

双方が慌てる間にも、日本戦車隊の砲撃音と機銃掃射は激しさを増した。

ただし、歩兵部隊が追い付ける速度で前進する。

戦車にとって、敵歩兵の攻撃は天敵であるからだ。

だからこそ、歩兵部隊と協同するからこそ、無敵の強さがあるのだ。

 

自衛隊・TJS合同歩兵部隊が追い付くと、両軍の戦車隊は再び前進し始めた。

 

各戦車に搭載したM2重機などが火を吹き、敵兵たちが潜んでいそうな場所を機銃掃射した。

戦車隊の後ろからは迫撃砲小隊が絶えず、戦車隊と歩兵部隊のために援護射撃を行い、連邦軍陣地に撃ち込んで行く。

 

このとき、生き残った連邦歩兵部隊と義勇軍合同小隊は、あることを思い付いた。

元より、かつて大東亜戦争末期、爆薬を抱えた日本兵が戦車に突っ込む肉弾攻撃『神風特別攻撃』を実施しようと決断した。

 

これを提案したのは、ユン軍曹。

小隊長の少尉が戦死したので、小隊編成。

自爆小隊指揮官として、この小隊を預かった。

ユン軍曹たちは、戦車隊の進路横にある深い溝に、背曩に詰めた戦闘工兵が使う破砕爆薬を背負って隠れていた。いよいよ逆襲するときが来た、と告げて―――

 

「日帝どもをやっつけろ!」

 

ユン軍曹が叫ぶ。

彼の叫び様に、自爆隊員たちも溝から飛び出した。

先頭に10式戦車に向かったユン軍曹は、携えていた起爆装置を押し、その前方に身を投げ出した。

10式戦車の車体が彼の肉体を巻き込んだ途端、膨れ上がる火焔に呑み込まれ、爆発の火球と膨張した。

文字通り、凄まじい爆発音を響かせて破壊されたからひと堪りもない。

 

「中岡大統領様の御加護を!」

 

「レイシスト大国日本に神罰を!」

 

「アジアのレイシスト侵略民族は地獄へ行け!」

 

ユン軍曹の部下たちも戦車隊に飛び掛かったが、後ろにいた両軍の歩兵部隊の小銃や汎用機関銃などの攻撃により、ことごとく阻止された。

それでも最後のひとりが成功して、四式戦車改を大破させた。

連邦軍の自爆攻撃を受けたと言う報告を受けて、林田一佐と、ベッカー中佐たちは歩兵部隊を前に出して、潜んでいる敵兵たちを掃討させることにした。

 

 

 

西部海岸方面では、西条一佐率いる合同空挺団が海岸を北上している。

こちらには砲兵や戦車部隊は伴わない。歩兵部隊と軽装甲車輌部隊だけで前進である。

M2重機及び、擲弾筒装備の軽装甲車輌と、16式機動戦闘車が援護、また連邦軍が放棄したM134《ミニガン》を搭載したM1151 装甲ハンヴィー2台を先頭にして進んだ。

これはあくまでも歩兵相手の構えであって、機甲部隊と遭遇すればひと堪りもない。

ただし上空には、AH-64やAH-1、Mi-24とAH-1W部隊が燃料の続く限り、航空支援を約束している。

敵主力は壊滅状態且つ、撤退したらしく、置いてけぼりなどと言った残存部隊による微弱な抵抗のみであった。

 

敵が山などに立て籠もっているとしたら、戦略的に不味い。

高地を押さえることは、陸戦の定石である。

撃ち下ろしてくる砲弾や銃弾などは、撃ち上げるよりも重力関係などにより威力が増す。

さらに相手の動きを把握しやすい。

 

史実のイタリア戦線でモンテカッシーノ山に構築された山岳要塞に立て籠もるドイツ軍を攻略するために、連合軍は半年を費やして攻略した。

 

西条一佐たちが考えていたとおり、ガルベス少将も考えていた。

生き残った虎の子の重砲及び、自走砲部隊を集結させて、陣地を構築する。

敵の強力な戦車隊も山岳地帯のような複雑な地形では自由に活動することが出来ないはずだ。ここに地雷原を作って護りを固めて防衛線を築いた。

そうすれば、敵はやすやすとは押せないはずだ、と推測した。

 

 

 

敵の自爆攻撃で、10式及び、四式戦車改と合計2輌を失ったことを知らされた合同司令部はむろん、海上にいる秀真たちの耳にも入った。

 

「ずいぶん思い切った……元より本当にして来たな」

 

秀真が呟いた。

 

「もはや満足な補給及び、増援が来ないと知ってやり始めたのでしょう。これが次々と組織的にやって来たら深刻ですね」

 

古鷹も同じく呟いた。

 

「数少ない戦車を潰されれば、こちらとしても由々しき問題だ」

 

 

ふたりが困っていた最中―――

 

『司令官……色々考えましたが……泥縄的手段ですが、戦車の周囲にワイヤーフェンスを張り巡らせてはどうでしょうか?』

 

青葉が無線機を通じて、ふたりに助言した。

 

「その話は聞いたことがある」

 

秀真は言った。

史実では、ノモンハンでソ連軍が戦車の周囲(下部)に鉄条網で覆い、旧軍の肉薄攻撃を防いだことがある。

 

「早速、加納陸将たちにもアドバイスをしよう!古鷹、青葉!」

 

「はい、分かりました!」

 

『おまかせください、司令官!』

 

幸い、ワイヤーフェンスは装備のなかに含まれている。

 

 

 

再び連邦軍にとって、恐怖の夜が訪れた。

暗視ゴーグルを装備した空挺隊員たちが真夜中、連邦軍陣地に夜襲を掛けたのである。

この夜襲が効き、連邦軍陣地は大混乱となり、対処出来ぬまま連邦軍2個中隊が全滅したのである。

 

戦術的常識では夜襲と言うものは、大隊規模が限界である。それ以上の大規模部隊になると連携及び、友軍誤射などを起こしやすいからだ。

 

ただし、例外として日露戦争では、黒木為楨陸軍大将率いる第1軍隷下で九連城攻撃・遼陽会戦・沙河会戦・奉天会戦に参加した。遼陽会戦では弓張嶺の夜襲と呼ばれる師団規模の夜襲を敢行した。

後に師団長の独断且つ、命令違反だったことが判明されたものの、見事に成功をおさめた。

それ以後、『夜襲の仙台師団』の異名を取った。

 

現代戦となった今は、暗視ゴーグルと優秀な通信設備など装備品を携えれば、夜襲は容易くなる。

 

連邦軍には暗視ゴーグルや通信設備は乏しかった。

少数はあるものの、こういう貴重な装備品は全て、中岡大統領たちが立て籠っているマリアナ諸島所属の精鋭部隊が優先的に装備している。

使い捨て部隊である一般兵や義勇軍兵たちに渡す事は無いほど中岡大統領たちは悪魔であり、血も涙もない鬼でもあったのだ。

本人たちは何も知らず、混乱するあまりに多くの連邦軍陣地では、同士討ちするほど精神錯乱した。

動くものは何でも撃ちまくり、何でも刺しまくった。

 

ようやく照明弾を撃ち上げて、襲撃した敵兵を確認しようとし、たときには、日本軍は忍者のように一目散に姿を消してしまったのである。

 

しかし、複数のスナイパー部隊を残していった。

再び陣地が暗闇に包まれたとき、スナイパー部隊は行動を開始した。たえず場所を変えて隠蔽しながら、敵陣に銃弾を撃ち込み、将校や指揮官たちを狙撃した。

あらかた片付けると、その場から移動して、スナイパー部隊はレーザー照照準器を利用して、海上にいる秀真・古鷹たちに砲撃要請を出して、補給物資などをピンポイントで破壊させた。

 

前日同様、スナイパーや夜間砲撃のせいで、連邦軍は眠れない夜を過ごすことになった。

 

スナイパーは、ときには戦局の行方を左右する要素になり得るのだ。

 

フィンランドで有名な狙撃手『シモ・ヘイヘ』は、フィンランドとソ連の間で起こった冬戦争では、ソ連軍からは“白い死神”と呼ばれ、恐れられていた。

 

ソ連軍の有名な狙撃手は、スターリングラード攻防戦で活躍したヴァシリ・ザイツェフが有名だ。

彼は戦中にソ連邦英雄と、戦後にはヴォルゴグラード名誉市民などの称号を得た。

またソ連軍には数多くの女性スナイパーもおり、リュドミラ・パヴリチェンコとローザ・シャーニナも有名である。

彼らのようなスナイパーは、自国のシンボルとして、不敗神話さえ醸成した。つまり自分たちのスナイパーが生きている限り、自分たちは負けない。

 

逆に敵軍からすれば、士気を挫ける絶好のチャンスでもあった。

敵側は本国から優秀なスナイパーを呼び寄せて勝負を挑んだが、ことごとく返り討ちされたほど実力差があった。

前者はフィンランドの独立を勝ち取り、後者たちは独ソ戦の勝利に繋がったと言っても良い。

 

スナイパーと言うのは、それほど頼もしい存在であり、恐れられている存在でもある。

 




今回は地上部隊による攻略に伴い、連邦軍の肉弾攻撃部隊『連邦自爆部隊』と夜襲による攻撃を受けて、辛くも連邦軍撃破を成し遂げました。

灰田「このネタは『超空の決戦』を、沖縄戦の米軍と満州戦でのソ連軍が90式及び、74式戦車に対して自爆攻撃をしています。双方とも地獄ですが、特に満州での戦闘ではソ連軍の物量及び人海戦術が恐ろしいです」

スタ-リンが暗殺されなければ、左文字たちは危なかったでしょう。

灰田「別世界では酷い目に遭ったり聴いたりしていますが、神のぞ知る世界ですね」

ネタバレになりますが、次回で元ネタ『超空の決戦』から……
少しですが、北海道戦に移ります。
ただしこっちは、小規模な戦闘であり、元ネタ『超戦艦空母出撃』と『荒鷲の大戦』のように長期戦にはなりません。

灰田「あくまでも計画ですが、お楽しみください」

なおいつも通りですが、同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
先ほども述べた通り、あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十三話:連邦軍、肉弾兵と化す

お待たせしました。
今回は『第六戦隊と!』と同時更新です、こちらもお楽しみくださいませ。

灰田「今回でサイパン諸島の戦いから、新たな戦いの場所になりますのでお楽しみくださいませ」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


戦闘3日後

時刻 1200

 

「こちら武蔵。これより、秀真提督の指揮下に入る!」

 

武蔵率いる支援艦隊が到着した。

支援艦隊旗艦を務める彼女は、大和より一足早く、改装されている。以前の服装は首に大和と同じく艦首をモチーフとした金属輪を付けている以外は、さらし姿だったが、改装後の今は儀礼用軍服をアレンジした七分袖のシャツに伴い、新たにコート調の羽織を両肩に装備しており、より凛々しい姿に変貌した。

 

凛々しいのは、彼女だけでなく―――

 

「山城、私たち西村艦隊も行くわよ!」

 

「はい、扶桑姉様!時雨、最上、満潮、朝雲、山雲!気合い入れるわよ!」

 

『うん!』

 

西村艦隊メンバー全員が、闘志を燃やしている。

その証に、彼女たちは必勝を込めた鉢巻きを締めている。

 

「皆さん、補給物資持って来ました!」

 

「たくさん補給して、頑張ってください!」

 

「お代わりもたくさんありますから、皆さん食べてくださいね!」

 

瑞穂と速吸、神威たちを中心に食料や医薬品など補給物資を満載した両軍の輸送船団が到着した。

 

秀真・古鷹たち率いる連合艦隊の補給及び、地上部隊の補給などの揚陸作業の開始するのを、手を束ねて見守っているわけにはいかない。

スチルウェルは、温存していた高速ボート部隊に嫌がらせ攻撃を命じた。

 

高速ボート部隊指揮官は、尾崎実准将。

連邦海軍情報部隊から抜擢された直後、反日工作や諜報活動が認められて、大佐から准将に昇進した。

効果的な戦術は何もないに等しく、ましてや小賢しい戦術も通用しない。

最大速力を利用して、RPGなど対戦車火器で重傷させれば、と報復する気持ちを抱いた彼らは最大限にエンジン出力を上げて、単縦陣を組んで突撃した。

 

「提督!こちらに少数の高速ボートが接近しています!」

 

古鷹が緊迫した声を上げた。

秀真は、彼女が搭載する水上レーダーが感知した敵影とともに、CIC映像で確認した。

言わずとも、連邦軍の高速ボート部隊。

恐らく嫌がらせ攻撃、または自爆部隊と見抜いた。

連邦軍は諦めることなく、一矢報いたい、と言う敢闘精神と言うべきか、学習能力がないの方が正しいが。

 

「各自及び、各艦は主砲及び、高角砲や機銃などを使用して迎撃せよ!」

 

秀真の言葉に応えると、古鷹たちは閃光が放つほど凄まじい弾幕を張り、突撃してくる連邦軍の高速ボート部隊を迎撃した。

 

回避不可能なほど、飛翔する砲弾や銃弾の豪雨が彼ら連邦高速ボート部隊に襲い掛かった。

防弾性の乏しい高速ボートにとっては致命的であり、数発の銃弾及び、1発の砲弾を船体に被弾しただけでも大破炎上、または搭乗員専用の棺桶として、海の藻屑となり、儚くも殲滅されるだけだった。

自分の部下を持ち、昇進したばかりの尾崎実准将は憎しみの込めた表情を浮かべて、吠え面を掻いた。

 

「このKYジャップども!二度も三度も俺たちの素晴らしき地上の楽園に破壊しに来やがって!」

 

尾崎は罵声を言い、RPG-7を携えたものの―――

古鷹たちの機銃掃射を受けた彼は、悲鳴を上げることなく、棺桶と化したボートとともに死亡した。

遠くからでもいくつもの立ち上がる黒煙を双眼鏡から確認した連邦指揮官は、ギギギッ、と歯斬りした。

 

20分ほど起きた小規模な海戦は、呆気なく終わった。

もはや奇跡が起こることない。ただ絶望の戦い、地獄より生温い泥沼の戦いが続いていくのみ。

 

せめて、敵に一泡吹かせてやる、と言う気持ちが高まっていく。

 

義勇軍など合同1個小隊が爆薬を背負って敵戦車に自爆攻撃を敢行、2輌を大破炎上させたと言う報告を聞いたふたりの連邦指揮官は、複雑な感慨を味わった。

追い詰められた彼らにとって、これしか方法がなかったほど自暴自棄になっていた。

降伏したら生き恥、生きて帰ったら中岡大統領直属の親衛隊によって粛清されることとなれば、死は救済と言えるかもしれない。

 

 

 

二度目の補給作業に伴い、武蔵たち率いる支援艦隊と合流出来ることに成功した。

敵は散発的に榴弾砲を斉射して来たが、損害はほとんどなく、寧ろ居場所がバレてしまい、殲滅される一方だった。

このとき、飛行場を確保したため、本土からサイパン飛行場に飛行して来たTJS所属のTu-96《ベア》戦略爆撃機10機が、巡航ミサイルによる支援攻撃を開始した。

気づいた連邦野砲部隊は、巡航ミサイルの洗礼を受けて全滅した。

 

第二次輸送作戦により、兵力など大幅に増強された。

両軍の戦車を合わせて、合計40輌。

警戒車や装甲車などの類は、合計8輌。

各榴弾砲も5門ずつ補強され、ロケットシステムは5輌。

対迫撃砲及び、対空レーダーシステムも揚陸されており、これで敵の野砲や迫撃砲の居場所を突き止めることが出来る優れた装備品だ。

第三次輸送作戦も計画されているが、この際は施設機材を大量に運ぶ予定である。

 

古鷹たち率いる連合艦隊も無事補給が完了して、弾薬や燃料などの各資材が最大限にまで回復し、赤城たちと無人空母《アカギ》率いる空母戦闘群、各護衛艦の消費した艦載機や航空燃料、各種類のミサイル、航空爆弾などと言った各資材も然り。

息を取り戻した連合艦隊は、味方にとって天使であり、連邦軍にとっては黄泉の国に誘おうとする死神であり、または悪魔の存在でもあった。

 

北進部隊には、さらに1個連隊とともに、空挺部隊が増強される。

戦車隊と自走砲部隊、ロケットシステムに伴い、各種類迫撃砲や誘導兵器、戦闘車輌などが主力となる。

航空支援部隊は、両軍のヘリ部隊が掩護する。

状況に応じては、赤城たちの艦載機部隊が北進部隊を掩護すると言う形になる。

 

南進部隊は、加納陸将自ら率いる。

まずは赤城たちの《彩雲》などの偵察機を飛ばして、情報を取ってもらう。

機上から通信部隊に送られてきたデータを収集して、これらを解読した。

情報集をした結果―――連邦軍は北に掛けて、防衛線を築いていた。

陣地は塹壕陣地を速成したもので、頑強な陣地を作る暇などなかったのだ。

しかし、ここにも生き残った重砲や自走砲が少数おり、兵力は連邦軍や義勇軍などを含めて2個師団。

 

ここが正念場、最後の反攻ならばサイパン諸島での戦いは終了し、中岡大統領たちがいるマリアナ諸島攻略の近道ともなることを信じて―――

 

 

 

翌日。

作戦会議終了に伴い、1日休暇と再編成などを整えた一同は南北ともに進行を開始した。

 

戦闘開始の合図は、重砲部隊による撃ち合いだった。

連邦軍は野砲と自走砲部隊を持つが、命中率が低下し始めたために損傷を与えることが出来なかった。

しかし、日本軍は対空レーダーシステムと言う補助兵器があるおかげで連邦軍の重砲及び、自走砲部隊を次々と大破炎上ないし、破壊していった。

レーダーから複数のビームを照射して、敵軍が撃ち放った砲弾が過ると、探知精度や中・高空域の目標情報の迅速・正確な収集・処理・伝送を行うおかげで命中率も極めて高いのだ。

数分の撃ち合いで、南北ともに連邦軍の重砲部隊と自走砲部隊は壊滅的ダメージを負い、補給及び、補充がない今は砲撃を止めざるを得なかった。

 

連邦軍の攻撃が弱り始めた、と各司令官たちは、各々と進撃命令を下した。

 

10式戦車とM1《エイブラムス》、T-62、四式戦車改戦車隊が筆頭に、後方は両軍の自走砲及び、装甲車輌部隊に搭乗した機械化歩兵部隊と歩兵部隊が後に続く。

彼らの頭上には、両軍の攻撃ヘリ部隊とともに、赤城と《アカギ》たちの艦載機部隊が援護する。

 

各戦車隊には、秀真の助言通り、ワイヤーフェンスで利用して製造したスカートを取り付けていた。

これで連邦自爆部隊の自爆攻撃が来ても、これを防ぐことが出来る。

 

北部戦線では、日本軍の戦車隊の進撃が始まった。

待ち構える連邦軍は、島の住民から強奪した数輌の農業用トラクターに、BM-21《グラート》多連装ロケット砲を装備した簡易対戦車車輌を配備していた。

この車輌は、対戦車壕に隠れており、出来る限り敵の戦車隊を誘き寄せる陽動部隊としての任務を果たす。

その他に、自爆攻撃部隊に志願した連邦合同2個小隊が待機していた。

彼らは迷彩服を着用、顔は真っ黒に塗り立て、爆薬物が詰まった背嚢を背負っていた。

 

日本軍の戦略は主力は西側を進み、空挺団は戦車5輌の援護付きで東側の海岸沿いに進む。

主力部隊の戦車隊は、連邦軍が築いた最終防衛線に向かって進み続けた。

起伏だらけの地形だが、各戦車に装備されている自動姿勢制御装置を持っているから、スピードを落とす必要はない。

 

「待つんだ……待つんだ……」

 

連邦軍陽動部隊指揮官・アリソン少佐は、無線機を通じて復讐せんと焦る部下たちを制止し続けた。

緊張感と焦る気持ちのため、喉の渇きとともに、嫌な冷や汗が全身から滴り落ちてきた。

双眼鏡で覗くと、ワイヤーフェンスで造られたスカートが戦車隊に装着されているのを確認した。

 

「くそっ!敵の戦車隊は自爆攻撃用フェンスを付けているぞ!司令部に伝えろ!」

 

アリソンは、傍にいた通信兵に命じた。

司令部に駐在したガルベス少将は、この報告を聞いたものの、今更どうすることも出来ない。

せめて、侵略軍である憎き日本軍に一泡吹かせてやろう、と言う思いだった。

 

「今だ、撃てぇ!」

 

アリソン少佐は、憎しみを込めた声で怒鳴った。

BM-21《グラート》多連装ロケット砲が火を吹こうとした瞬間、獲物を捕捉した猛禽類たちのように、赤城たちの艦載機部隊及び、攻撃ヘリ部隊が強襲して来た。

急降下する彼女たちの艦載機部隊は機銃掃射や対戦車機関砲、両翼下に抱えた豊富な航空爆弾やロケット弾などによる攻撃と伴い―――

両軍の攻撃ヘリ部隊も艦載機部隊同様に、機関砲やロケット弾、《ヘルファイア》対戦車誘導ミサイルなどの制圧射撃により、破壊されていった。

 

航空支援に続き、戦車隊の後方から迫撃砲と重機、各種類の誘導兵器部隊が支援攻撃を開始した。

レーダーシステムも兼ね備えているから、連邦軍防衛線に次々と塹壕陣地などに損傷を与える。

 

そして仕上げと言う形で戦車隊の砲撃が開始された。

大地を揺るがす履帯の桁ましい走行音に伴い、闘志を燃やす闘牛のように唸るディーゼル・エンジン音。

これらを聞いた連邦軍は『戦前の日本、アジア諸国を侵略する戦車隊の音だ!』と発狂した。

 

しかも日本軍の戦車隊は、ワイヤーフェンスで造られたスカートを張り巡らせている。

自爆攻撃どころか、爆薬を投げることも出来ない。

しかし、やらればならないと同時に、復讐心も高まった連邦自爆部隊は、起爆を遅らせてから戦車隊の前面に飛び込み、フェンスごと戦車の腹に潜り込もうと決心したのだった。

 

「中岡大統領様、万歳!」

 

ひとりの連邦軍曹が叫び、飛び出して来た。

先頭に立つ戦車の前に飛び込むものの、ワイヤーフェンスに身体ごと引っ掛かり、身動きが出来なくなってしまった。直後、起爆装置が作動して爆薬が轟然と爆発した。軍曹は、悲鳴を上げることなく戦死した。

彼の肉体は爆発により、無惨に四散したのだった。

 

しかし、連邦軍曹の攻撃は無駄に終わった。

もうもうたる黒煙に包まれた10式戦車には実害はなく、損傷することはなかった。

秀真たちの助言、考案したスカートは、立派な成果を発揮したのである。

 

自爆部隊隊員たちは次々に飛び出したが、いずれもスカートに跳ね除けられ、引っ掛かって身動きが出来なくなったところを、機銃掃射の餌食となった。

さらに北進部隊指揮官・林田一佐と、TJS戦車隊指揮官・ベッカー中佐は連邦自爆部隊の突撃を阻止するために歩兵部隊を展開していた。

連邦自爆部隊は、次々と阻止されてしまい、殲滅されたのだった。

 

 

 

最後の反攻、防衛線も陥落したも同然だった。

スチルウェル中将たちは、この報告を受けて考えていた。

 

「もはや、この戦いは無意味である」

 

彼の副官・ハリス大尉と、MPたちは頷いた。

これ以上の戦いは、無駄死に等しく、中岡大統領たちのために死んでも意味も名誉もない。

自分たちも使い捨て部隊にされて、ようやく気づいたスチルウェル中将たちは、司令部内にいた全ての連邦指揮官たちを射殺した。

 

「よし、全軍に戦闘中止及び、停戦せよ。と打電せよ。同時に日本軍司令部に『我々は降伏する』と打電せよ」

 

ハリス大尉たちは返答し、日本軍司令部に打電した。

全軍の武装解除に伴い、全軍降伏を条件にと言う日本軍司令部からの電文が対しても拒むことなく、スチルウェル中将たちは受け入れた。

 

「我々にとって、これが名誉ある降伏だ」

 

1200時の時刻を指す前、ホテル上空に数機のヘリ部隊や地上には軽装甲車輌部隊が姿を現した。

スチルウェル中将たちは、数多くの降伏条件を受け入れて、数多くの命を救うことが正しいと受け入れた。

サイパン諸島の激戦は徹底抗戦よりも、ひとりでも多くの命を救うことを選んだ連邦指揮官の英断により、幕を閉じた。

 

サイパン諸島は無事解放されて、マリアナ諸島の道に近づいたのであった。

 

しかし、サイパン諸島の激戦とは裏腹に北海道にも連邦軍の魔の手が忍び寄っていた―――

 

 

 

某海域

 

ひとつの潜望鏡が、とある島を見ていた。

文字通り、北海道である。

これを見た連邦海軍所属の特務潜水艦艦長・本山益造がニヤリと笑っていた。

 

「ただいまより、中岡大統領様の特殊任務・北海道解放戦線『サンタクロース作戦』を開始する!我々が偉大且つ、崇高な同志中岡大統領様の意志を受け継ぎ、日本独裁政府の抑圧に苦しむ北海道市民の解放と伴い、敵のステルス重爆を我が手に収めて、世界帝国たる日本を石器時代に戻してやる!」

 

この意気で、特務潜水艦艦隊とも言える《プロジェクト621》部隊の士気は高揚した。

 

「中岡大統領様たちの御加護とともに、アンドルフ・ヒトラーに神罰を!」

 




今回でサイパン諸島の戦いは、無事終了となるものの……

灰田「北海道で新たな戦いが始まる予兆を見せて、今回は終えました」

この『サンタクロース作戦』は、同じく『超空の決戦』で起きた戦い、米ソ共同北海道進行作戦の名前から拝借しました。
こちらも圧倒的な米軍の貸与した艦船及び、ソ連の爆撃機部隊など物量は恐ろしいものの、各自衛隊の兵器により蹴散らせましたが、ここから米軍も特別攻撃隊を結成して、護衛艦《くらま》に体当たり攻撃をしました。

灰田「これを影響に、沖縄ではもちろんですが、満州でもこの自爆攻撃部隊が自衛隊を襲っています。
最後はソ連軍元帥たちが、スターリンとベリヤを暗殺して満州戦も無事終了しました」

ベリヤは、提督たちの憂鬱みたいに漫画好きな綺麗なベリヤであれば、まだマトモだったでしょうね。
では、次回は北海道進行作戦の予告です。

灰田「新たな戦い、北海道進行作戦『サンタクロース作戦』では、連邦軍の秘密兵器『プロジェクト621』の正体、これがただの潜水艦ではありません。
果たしてどのような特殊潜水艦なのか、次回で明らかになりますのでお楽しみくださいませ」

同時連載『第六戦隊と!』の更新で遅れることもありますがご了承ください。
あと少しで最終回を迎えますが、自分のペースで執筆していきますので最後までお楽しみください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十四話:蝦夷の釣鐘作戦、発令ス!

お待たせしました。
予告通り、連邦軍による北海道進行作戦『サンタクロース作戦』に伴い、例の秘密兵器『プロジェクト621』の正体、その正体も明らかになります。

灰田「なお私も久々の登場ですので、お楽しみくださいませ」

今回のサブタイトルの元ネタは、『荒鷲の大戦』です。
北海道戦車戦に伴い、ロシアと同盟を結んでいる日本もユニークな作戦名であります。

では、改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



北海道海域上空

時刻 0300

 

サイパン諸島激戦から、15時間経過―――

 

夜空を舞い上がるフクロウのように、この上空を飛行する1機の水上偵察機―――零式水上観測機(通称『零観』)が哨戒任務を行っていた。

その機内で、操縦桿を握る零式水上観測機妖精(以下『零観妖精』)は、不満げな顔で一人ごちた。

 

「昔は水上偵察機などは、不要だとか、誰か言ってなかったか。それが今では必要不可欠なのだから、世の中なんていい加減なもんだ」

 

一部搭載出来ない娘は仕方ないが、なんだかんだ言っても索敵及び、偵察、着弾観測から通信などは、電探同様に必要不可欠である。

そして稀に敵機との格闘戦まで加わると、一人でこなさなければならない。

連邦派深海棲艦の艦載機が向かって来ても固定武装の7.7mm機銃と、両翼内に搭載された20mm機関砲で、2機までならば充分、渡り合える自信がある。

 

「仕方ない。もう少し、高度を落としてみよう」

 

搭乗員は自分だけだ。

どうしても、哨戒任務中は独り言が多くなる。

彼女は速度を落として、高度を1000メートルから600メートルまで下げ、風防を開けて周囲を見渡した。

 

「いつもと変わらないか……ん?」

 

零観妖精は、小首を傾げた。

右手下方の海に、何かが光ったように見えたのだ。

一瞬、夜光虫かと思った。が、夜光虫は南方の産物で、夏でも北海道海域にも棲息しているとは思いがたい。海自の護衛艦、または友軍のTJS社所属の護衛艦かと思った。が、ここで両軍が哨戒任務を行うとは聞いていない。

 

不安を感じた零観妖精は、そちらに機体を向けた。

そのまま飛行すると暫し、そろそろ真上と思った零観妖精は、爆弾投下索を引いて、抱えてきた吊光弾を投下した。

ガクン、と機体が突き上げられるような感触が伝わり、吊光弾が主翼を離れた。

 

待つほどもなく、眼下に眩い輝きが出現した。

満月ほどの明るさが見えた。もう1発投下だ。もう一度満月の輝きを、暗夜の洋上にもたらした。

機体を傾け、光源を発した未確認物体を確認しようとして、彼女は言葉を失った。

 

眼下には、巨大な潜水艦2隻が浮上していた。

外観は、かつてソ連が開発して建造した世界最大級の戦略潜水艦―――タイフーン級潜水艦に酷似していた。

あまりに巨大であったため、運用に窮したソ連海軍では、一時的、鉱石を大量輸送するための輸送潜水艦として使用していた秘話がある。

 

しかし、タイフーン級潜水艦とは似て非なる巨大な潜水艦であることに気づいた。

発令所たる艦橋構造物と一体化した上甲板には、伊号400型潜水艦と同じく円筒形格納庫と、艦首部分には上陸部隊が上陸するための上陸用ランプが兼ね備えており、そして後部には防衛火器が配置されている。

海上要塞でもあれば、巨大ザメ・メガロドンとも思わせる容姿だった。

メガロドンは約1800万年前から約150万年前に存在していた太古のサメである。

世界最大のサメ、ジンベイザメ以上の大きさを誇っているとも言われている。

メガロドンは絶滅したと言われているが、現在でも目撃情報が残っており、事実、恐竜よりも遥か昔に誕生した古代魚―――シーラカンスは、深海に適応することで現代まで生き残ることが出来た。

このような例もあることから、メガロドンなどの古代生物が、深海に生息している可能性も否定出来ない。

 

「いかん!連邦の奴ら、巨大輸送潜水艦で北海道に上陸する気だな!」

 

思わず驚愕の声を漏らした零観妖精は、思いっきり操縦桿を引いた。

 

その瞬間、眼下が真っ赤に燃えた。

巨大輸送潜水艦が配置している防衛火器の100mm砲と、対空機関銃が撃ち出して来たのだ。

撃ち上げられた曳光弾が、輝きの尾を曳いて、猛烈な勢いで迫って来る。

全ての砲弾が自分を目指しているように思えて、零観妖精は歯を食いしばり、スロットルを全開にして上昇する。

電探連動の対空砲火とは言え、なかなか命中するものではなく、炸裂を始めた砲弾も閃光の華を咲かせているのみでいる。

 

しかし、零観の機体近くに炸裂する砲弾の衝撃で機体が風に揺れる木の葉さながらに揺れ動く。

 

「死んでたまるか!この情報を必ず持って帰らなきゃいけないんだから!」

 

肝を奪われた思いで、彼女は振り返った。

その頃、ようやく射程内から離脱したのか、対空砲火は止んでいた。

海上に出現した対空砲火は唐突に火箭を収め、吊光弾も燃え尽きて、再び静寂な闇に戻った。

 

しかし、彼女には、その姿は忘れなかった。

闇のなかに静まる、メガロドンのような巨大輸送潜水艦が今まさに北海道本土に襲い掛からんと航進している。

 

「よし。この情報を元帥や郡司提督たちに打電しなければ!」

 

その姿を思い浮かべつつ、零観妖精は緊急打電を送ったのだった……

 

 

 

「零観より入電。北海道海域に《タイフーン》級輸送潜水艦に似た連邦軍の巨大輸送潜水艦2隻見ゆ。北海道の釧路目指して進行中!とのことです」

 

零観妖精からの緊急打電に、司令部にいた杉浦統合幕僚たちは唇を噛み締めた。

 

「連邦軍の巨大輸送潜水艦となれば、手薄な北海道に上陸する部隊規模が1個師団以上になると、本格的な侵攻作戦だな。警戒の厳重な択捉方面を避け、北太平洋方面から来たのかもしれない」

 

元帥が言った。

思案に沈んだ杉浦たちよりも、元帥と同席していた郡司が答えた。

 

「偶然、零観妖精の教えてくれた座標に、無人攻撃機MQ-1《プレデター》を送り、その場所で撮影したものが来た。零観妖精が言っていた《タイフーン》級輸送潜水艦に似たこの巨大輸送潜水艦の正体は、恐らくは《プロジェクト621》だ」

 

「なんだ、《プロジェクト621》とは……?」

 

杉浦が訊いた。

 

「かつて冷戦時代に旧ソ連が、アメリカ筆頭の西側諸国に対抗するために様々な巨大且つ、奇妙な兵器を数々開発しました。社会主義体制な所以に、コストや人件費を全く考慮することなく、自分たちの党や軍を思うまま、或いは政治的な駆け引きのための道具として生まれた巨大兵器《プロジェクト621》も、そのひとつとも言われています。

全長は不明ですが、排水量が約15950トン。上陸専用輸送潜水艦ですから、兵員745名とともに、戦車10輌、輸送トラック12輌、牽引式火砲12門、そして当時の戦闘機3機を搭載可能です。艦内は各車輌や乗組員たちなどを搭載するため、三層に分かれています。

幸いにも無用の長物となって、1隻も建造されていませんが……連邦軍がこの資料を見つけて、さらに現代技術を加えているなると、恐らくは《タイフーン》級輸送潜水艦になっている可能性も高くなっています」

 

郡司の答えに、杉浦たちは身震いした。

この巨大輸送潜水艦は、旧ソ連がかつて開発したものだが、それを現代技術を加えて完成させたのが連邦軍は、正気の沙汰ではなかった。

かつてスターリンも北方領土や朝鮮半島だけでは収まらず、北海道から、果ては日本まで占領しようとしていたほどの狂暴な独裁者でもあった。

北海道に侵攻したのは、もしかしてZ機を鹵獲することが第一目的かもしれない。

中岡大統領もだが、スターリンの亡霊が今でも日本を占領せん、と言う思いで甦ったのかもしれないと……

 

「現地部隊には、援軍編成まで頑張って貰わないとな……」

 

杉浦が重く答えたのも無理はない。

北海道駐屯部隊は、野村陸将率いる第7師団1個とともに、偶然に共同慣熟訓練兼演習を行っているTJS軍所属の戦車小隊(T-72-120戦車4輌)が駐屯している。

司令部は旭川にあり、2個旅団からなり、その内の1個連隊は札幌に駐屯している。

 

「北海道にいる現地部隊に打電しましたので安心してください。迎撃命令も、住民の避難勧告も送りました。

東北地方にある空自の三沢基地及び、能代基地に配備している基地航空隊の援護も要請しました。

可能な限り、輸送機部隊で現地に兵力を送っています」

 

郡司が答えた。

 

「そうか。しかし、北海道救出艦隊編成は準備万端なのか?」

 

杉浦が訊いた。

 

「今からでも出撃可能です。ただし到着は昼間になります」

 

「それでは間に合わず、敵が上陸してしまうぞ。第一戦車小隊だけでは敵の戦車大隊相手では防ぎきれないぞ!」

 

杉浦の補佐を務める、宮崎補佐官が吠えたときだった。

部屋の隅に白い霧が湧き、部屋の温度が下がった。灰田が現われる前触れである。

次元の壁を越えて来るときに、こちら側の熱エネルギーが奪われるらしい。

霧のなかから、灰色服の男こと、灰田が現われた。

 

「どうも、皆様のご心配は分かりますが、この問題に関しては大丈夫です」

 

灰田は、ことなく言った。

 

「やはり、また新たな兵器でも配備したのかね?」

 

元帥は穏やかな口調で言った。

もはや彼女にとって、彼とのやり取りは慣れており、友人と対話するようなことである。

 

「もちろん対策を取っております。我々の超人部隊とともに、彼らが操縦する戦車部隊を北海道に配備いたします。もちろん作戦行動可能な充分な物資を含めて、そちらに送りますのでご安心ください」

 

灰田は、手のひらに収まる小さなブリーフケースのようなものを携えていると、これを操作すると、デスク上にホログラム映像が現われた。

 

映像に移ったのは、10式戦車以上の大きさを持つ戦車だ。

外観は現代戦車と変わりないが、とてつもない巨大な重戦車だった。

郡司は、この戦車をひと目見ただけでも分かった。

 

「これは試製超重戦車《オイ》じゃないか!?」

 

彼の答えに、灰田は、にっと微笑した。

 

「その通りです。郡司提督の言われるとおり、かつて日本が秘かに開発した試製超重戦車です。11人の搭乗を可能とし、砲塔3基を備えて、重量は120トン。

しかし、非常に高価であったことから1輌しか製造されておらず、満州に分解して輸送した際に終戦を迎えました。

当時の日本陸軍の戦車のなかでは最大且つ、充分な数と補給などが整えていれば、ドイツのティーガーやパンター戦車並みの力を発揮していたでしょう」

 

「ふむ。確かにこれを送れば、連邦軍は泡を喰うでしょう」

 

杉浦が言った。

 

「もちろん我々の未来技術を加えて、105mm砲と火炎放射器を砲塔に据え、どんな重戦車や歩兵部隊も殲滅可能であります。ロケットランチャーのランプも備えており、精度は低いものの一斉射撃で大打撃を与えられます。

当時のドイツ軍のティーガーIと同等の装甲を施されており、重量級ながら機動性も良く、この重戦車はクローン兵士が乗り込んで自己修復機能及び、我々独自の砲弾生成能力技術も可能です。

さらにいくつかの発展性のもの、アタッチメントを取り付けた《オイ》もご用意しておきます。これを1000輌と伴い、1個師団の超人部隊などもご用意いたしましょう」

 

「うむ、分かった。全てキミに任せよう。作戦名は『蝦夷の釣鐘』作戦だ!我々で秀真提督たちのように日本の未来を護るために進むのだ!」

 

元帥が答えた。

史実の海軍作戦名『翔号』作戦などのように、漢字一文字を好む海軍に対して、陸自との共同作戦の意味合いも込めて、どこか文字の香り漂う、元帥独特、彼女らしい作戦でもあった。

日本本土防衛作戦のためには北海道第二の都市、旭川と伴い、Z機基地を敵手に委ねるわけには行かない。

 

「郡司提督。もちろん……彼女たちも加わるからまかせたぞ」

 

「了解です、元帥」

 

 

 

早朝。

北海道・釧路周辺の海岸に上陸した連邦軍は、着々と進撃準備に掛かった。

歩兵や戦車のみならず、火力を誇る重砲、そして輸送トラック部隊なども準備万端であった。

北海道全体を制圧する足掛かりにしつつ、札幌、函館などを制圧後には、青函海峡を押し渡って本土上陸、或いは仙台、東京、大阪と、日本の三大都市をひとしなみに、鹵獲したステルス重爆による戦略爆撃の嵐に包み込む、と言う計画である。

 

「朝まで待たせた分、たっぷり暴れてやるぞ!」

 

学習したのか、早朝に上陸した。

闇夜に紛れて、早朝にここまで最善を尽くしたのだ。

なお、北海道侵攻作戦『サンタクロース作戦』を務める連邦指揮官・鳥嶋俊次郎大将は大いに喜んでいた。

北海道を占領及び、制圧すれば、自分は『北海道の父』であり、『北海道連邦共和国の国王』と昇進すること間違いなしだと思うと嬉々するのだった。

 

「我々の作戦で北海道及び、沖縄を苦しめたアンドルフ独裁政権は、さぞかし狼狽するでしょうね。ふふふ」

 

副指揮官・桝山要三中将は言った。

 

「その通りだ。それでは我々の上陸に対して、花束を抱えた美女や市民たちに伴い、抑圧的な独裁政権解放からの大歓迎な迎え酒をしない無礼なジャップどもに、我々の温かいプレゼントをしようではないか!始めろ!」

 

鳥嶋が号令した。

M119A3 105mm榴弾砲中心の連邦砲兵とともに、M120 120mm迫撃砲中心の迫撃砲部隊は、微調整照準を行い、目標である近くの街に照準をに合わせた。

使用弾は榴弾及び、白燐弾。これらを装填する。

 

「我らの偉大なる中岡大統領様に伴い、北海道解放戦線に栄光あれ!」

 

『砲撃用意!目撃……日本独裁の傀儡!!』

 

桝山の号令に伴い、砲兵と、迫撃砲部隊指揮官が復唱した直後―――

 

『撃てぇぇぇ!!』

 

彼らの号令とともに、各砲口から灼熱の火焔が渦を巻き、榴弾や白燐弾などが矢継ぎ早に放たれる。

大気を裂く飛翔音を撒き散らし、無数の火矢が町のただ中に落下した。

雷鳴すら霞ませる、凄まじい爆発音が轟いた。

密集していた町一帯が、地獄の業火に包まれる。

人々の悲鳴、鼻にこびりつく硝煙の臭い、そして戦意高揚の雄叫びが連邦軍にとって、心地よい絶景でもあった。

 

「続いて航空隊発艦!我が世界最強の戦車隊も歩兵部隊も前進せよ!アジア諸国を虐げる黄色い猿どもを皆殺しにせよ!」

 

千里馬精神、一晩で千里を走るように貫徹する連邦軍も全速前進し続けるのだった……




今回は、序盤戦と言う形で終了しました。
今回登場した《プロジェクト621》は、実際に計画されたソ連の巨大輸送潜水艦です。
冷戦時代に開発されたものの、幸いなことに計画中止になっていますが、もし建造したら日本及び、米本土上陸作戦に使われたと思います。
ソ連はWWⅡでは、猿人部隊量産計画もあったように試作及び、計画兵器はソ連が印象強いです。

灰田「『超戦闘機出撃』でもミスターブラックが言ったようにソ連の大艦隊もあったら抑止力として牽制出来たと思います」

また試製超重戦車《オイ》こと、オイ車も満州に運ばれる最中に終戦を迎えました。
今回のアイデア提供者、同志炒り豆に感謝です。
ありがとうございます!
因みにオイ車を初めて知ったのは、WA大戦略シリーズで知りました。外観は良いのに、弱いと言うことは悲しかったです。今では見直されて強化されていますが。

灰田「次回から本格的な戦闘に移りますので、お楽しみくださいませ」

次回は、灰田さんの言う通り、本格的な戦闘に移ります。戦車戦など起きますのでお楽しみに。
最終回に近づく本作品とともに、同時連載『第六戦隊と!』も、お楽しみくださいませ。
所以に、ゆっくり執筆なので申し訳ありません。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十五話:奇跡の戦車師団

お待たせしました。
今回は一部変更していますが、予告通りあの重戦車師団が出現しますのでお楽しみくださいませ。

灰田「今回のサブタイトルのように、どんな時でも奇跡を信じて行きましょう」

では、改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


釧路沿岸地帯

時刻 0800

 

彼らが通ると同時に市街地を駆け抜ける風は、鋼鉄や硝煙、火薬の匂いを孕んでいた。

連邦軍は、連戦連敗の腹いせとして釧路町や住宅街などにいる民間人ごと、戦車と野砲部隊による砲撃に加えて、連邦軍歩兵部隊が無差別攻撃を展開していた。

 

「俺たちは米軍よりも強い世界最強の連邦軍兵士様だ!ジャップは屠殺場行きの家畜のように大人しく殺されろ!」

 

「俺たちの戦争は正しき戦争であり、綺麗な戦争だ!中岡大統領様の御告げは神の御告げだ!」

 

「女や貴金属など金目のものは、全て俺たちが頂いた!」

 

毛沢東などろくでなしな独裁者たちを心酔して止まない、おぞましい大虐殺事件、通州事件・南京事件・尼港事件から、チベットやウイグルで生きたまま婦女子や子どもで言えども生きている人間の肉をそぎ落とす凌遅刑などの拷問をするために連行及び、少女たちを強制的に慰安婦にして強姦から殺害、そして強制不妊手術など非人道的な行為を行なった中国軍のようなサイコパスたちに―――

 

「チョッパリが死ぬまで集団で鈍器などで撲殺、または溺れた犬を棒で叩くようにチョッパリを落として、仕上げに手榴弾を落とせ!」

 

「ジャップのホーム焼きだ。連邦軍秘伝の放火でうるさい黄色い猿どもを家ごと焼くが決めてなのさ!」

 

「だから、薄汚いジャップどもは世界の害虫。もう一度洞窟に住む猿に戻るのがお似合いさ!これは世界常識である!」

 

ベトナム戦争でベトナム人の村を襲撃し、民家ごと放火及び、焼死させる。女性から子どもまで強姦や四股を切断及び、無抵抗な女性や子どもを井戸に落とし、助けを求める声を無視して手榴弾を投げ込み、 死んだ者の目玉を取ってアルコール漬けにしたり、または、片方の耳だけを切って集めて針金に通して、幕舎前に掛けたりする韓国軍のように行う者たちもいれば―――

 

「治療してやんよ。この銃剣やナイフで全身を切り刻むか、死ぬまで刺し殺すのが優しい治療方法さ!」

 

「よくも中岡大統領様と俺たちの悪口言ったな!だから死刑や!」

 

「中岡大統領様と連邦共和国的優しさで、幸せ抱いて、誰もが全員あの世行き!あはははははは!」

 

そして彼らが大好きなポル・ポトの理不尽なレッテル貼りによる殺害に伴い、その私兵部隊でもある少年兵たちなどが行った手術、患者たちの傷口を思い切り引っ張ったり、適当にメスで身体を切ったりとリアルお医者さんごっこを、ポル・ポト政権の不平不満など呟いたら強制的に収容所に連行し、収容所にいる少年看守たちの拷問が待っている。

老人、病人、女関係なく、ペンチで乳首を引きちぎり棒で死ぬまで叩き続けると言うゲーム感覚で人を虐殺する。

そのうえ、火炎放射器による放火、集団暴行、無抵抗な人々を虐殺して身に付けていた戦利品と称して貴金属類や食料の強奪などを行なった彼らも、また同じ人間とは思えない残虐行為をし続けながら進撃して行く。

 

「空からの贈り物だ。たっぷり喰らいやがれ!」

 

「起床ロケット弾だ!朝食代わりに喰らいな!」

 

地上部隊に続き、上空には爆装したJ-31戦闘機部隊とともに、空飛ぶ円盤に似たVZ-18《アブロカーⅡ》戦闘攻撃機が放ったロケット弾が住宅街を破壊した。

 

「ハンティングの時間だ!」

 

「避難の妨害は、大震災時からのお手のもの!」

 

「これはアンドルフ・ヒトラーたちの天災であり、我々は悪くない」

 

「まるで家畜の屠殺場と温泉街に来たみたいですね」

 

釧路空港から偶然に駐機していた夕日航洋の報道ヘリ―――3機のベル412及び、民間用ヘリとして運用されていたMi-8《ヒップ》2機を確保した。

これらには機動歩兵部隊が搭乗するヘリとして運用されており、両機の扉付近に取り付けたバンジーコード(ゴムワイヤー)で吊るし、固定されたM134《ミニガン》による機銃掃射に伴い、MADS(迫撃砲弾空中撒布システム)と言う81mm迫撃砲弾をヘリから投下するもので、ヘリのキャビン内に滑り台式投下装置を設置するだけで、爆撃機のような働きを見せる。

迫撃砲弾の豪雨を降らせて、『神罰だ!』と嘲笑いながら空爆して行く。

彼らからすれば遊びで、人を殺すのが何よりも楽しみであった。

 

「誰か助けてくれ!」

 

「もうおしまいだ!」

 

「連邦軍の襲来だ!」

 

逃げ遅れた人々は、この世の終わりか、と思えた。

連邦軍の奇襲攻撃は、WWⅡで起きた有名な事件『ロサンゼルスの戦い』を模倣するような出来事だった。

人々は日本軍の襲撃だと騒動し、米陸軍は対空砲火を中心とした『迎撃戦』を展開、その模様はラジオ中継されアメリカ西海岸のみならずアメリカ全土をパニック状態に陥れた。当初は日本海軍の襲撃だと思われたが、この当時、日本潜水艦部隊はロサンゼルスに展開しておらず、今でもこの騒動の真相は未だ不明である。

一説では未確認飛行物体、UFOによる、地球外生命体の襲撃とも言われる。

 

「……さあ、愚息で哀れな北海道市民たちよ。この私を北海道の救世主、または北海道共和国建国の父と崇め、救いを求めなさい!」

 

戦車隊などに守られ、自分たち専用車こと、T-90戦車に乗車する鳥嶋大将は、拡声器を使って高らかに宣言した。

 

「北海道共和国建国の父である国王を崇め、救いを求めないと反逆者と見なし、貴様らの腸を引きずり出して、野犬や豚どもに食わしてやるぞ!」

 

鳥嶋たち率いる連邦軍は航空機部隊の援護とともに、T-72とT-55合同戦車隊を先頭に、報復攻撃をしながら前進し続けた。

 

 

 

釧路防衛司令部

同時刻

 

「元帥の増援部隊及び、連合艦隊が来るまで、我々が食い止めなければならない!先人たちの教えと冷戦時代の教訓を忘れるな!」

 

野村陸将は叫ぶと、彼らを見た。

 

「まさか……昔、俺たちの英霊たち、じいちゃんや先輩方の言った北海道防衛出動の再現になるとはな……」

 

因縁。当時の北海道防衛出動を再現するように、偶然合同訓練のために待機していた10式戦車2輌を筆頭に、完全武装の自衛官100人が先遣中隊として集った。

彼の言う通り、かつて北海道は、大東亜戦争と冷戦時代でもソ連の脅威に襲われた。

 

終戦時、北海道・占守島でソ連軍が停戦を無視して上陸を開始した。

占守島に配備された日本守備隊は、民間人たちを護りながら我が身を盾にして戦った。

第91師団部隊などとともに、『戦車隊の神様』と言われた池田末男大佐(戦死後、陸軍少将)率いる戦車第11連隊を率いて、占守島に侵攻したソ連軍と戦闘、降伏を受けるまでソ連軍をあと一歩駆逐出来るまで奮闘した。

占守島の戦闘を報じたソ連紙はその社説で『満州、朝鮮の戦闘よりも損害ははなはだしい8月18日はソ連人民の喪の日である』と書くほど痛い目に遭った。

守備隊全将兵は、やがてシベリアに抑留された。

そして最後の兵士が、ようやく日本の地を踏めたのは昭和31年のことである。

逸話として占守島を護った彼らの意志は、北海道に駐屯する陸自の戦車隊、第11旅団隷下第11戦車大隊では、陸軍戦車第11連隊(通称:士魂部隊)の奮戦と活躍を、その精神の伝統を継承する意味で、『士魂戦車大隊』と自ら称している他、部隊マークとして装備の74式戦車・90式戦車の砲塔側面に『士魂』の二文字を描き、その名を今なお受け継がれ、そして彼らの記憶は今もなお生き続けている。

 

冷戦時代の北海道でも自衛隊防衛発令が下ったこともあった。

ベレンコ中尉亡命事件時に、当時ソ連空軍の最新鋭戦闘機MiG-25《フォックスバット》を、ソ連軍(特殊部隊など)が『機体を取り返しに来る』、または『機密保全のため破壊しに来る』との噂が広まり、函館に駐屯する陸自が緊急展開すると言う出来事もあった。

幸いソ連軍は上陸することなく、ことを終えたが、危機管理のある彼らに対して、国会は現在のように、当時の首相を辞任させることを最優先且つ、国防や有事対策に関しても平和ボケのあまり無関心だった。

ソ連軍が上陸しなかったから良かったが、ベレンコは亡命時に『日本は攻撃しないから亡命しても大丈夫』と舐めていた可能性も高い。

もしも函館の強行着陸ではなく、市街地攻撃だったならば、甚大な被害が起きていた可能性も高い。

このベレンコ中尉亡命事件で日本は、数多くの曖昧な対策や失態などは世界中どころか、有事に対する危機管理の無さを後世にも伝え、負の遺産を受け継いだしまったのだった。

その失態を防ぐために、早期警戒機を購入するなど力を注いだのである。

 

「全車急げ。出撃準備を整えろ!」

 

TJS社所属戦車小隊を指揮及び、小隊長を務める彼女の名前は、西壱華(にしいちか)。年齢27歳。階級は大尉。

苗字が示す通り、オリンピックの馬術の金メダリストで、硫黄島の戦いでは第26戦車連隊の連隊長を務めたかの有名な西竹一中佐の子孫である。

彼の血の影響か、彼女は自衛隊時代は機甲科志望だったが、女性である為、偵察科に回され、更に自衛隊の時代遅れさに飽き飽きしてTJS社に入社した。

北海道にて受領したばかりの、T-72-120戦車の慣熟訓練中だったため、現地の第7師団とともに協力している。

 

彼女たちが搭乗するT-72-120戦車はウクライナのKMDB社の改修キットによって改修されたT-72であり、この為、本体はロシアから購入した純正のT-72を使用している。

最大の特徴はNATO規格の120mm滑空砲に換装され、それに対応する主砲発射式ミサイルも使用可能である。

 

「しかし、夏なのにこの濃霧は何なのでしょうか?」

 

野村陸将の補佐官を務める松宮一佐が言った。

夏の北海道は、1年中でもっとも過ごしやすい季節と言っても良い。

少なくとも、本州で味わう骨身に染みるような猛暑は、この地方には無縁なものである。

にも拘わらず、司令部全体を包むように濃霧が発生していた。

 

―――元帥の言われた通りの援軍の登場ならば……

 

野村陸将が呟いた瞬間。

司令部全体を包み込んだ濃霧が緩やかに晴れて行った。直後、草原には夥しい数の重戦車に伴い、無数の戦車乗組員たちが姿を現したのである。

 

「これは……!」

 

彼は、自身の瞳に映った重戦車と、灰田とともに同じ顔をした戦車乗組員及び、歩兵部隊を見て驚愕した。

10式及び、90式戦車とは打って違い、従来の戦車とは一線を画する重戦車だ。

分厚い装甲に幅広い足回りを持ち、角張った装甲は、あたかも戦国時代の戦国大名が纏った鎧を思わせる。

そして、その新型戦車を印象づけているのは長砲身に伴い、副砲や機銃などを搭載している重装備を誇る陸上戦艦でもあれば、陸上の怪物とも思わせる。

 

「……これが元帥の言った増援部隊か」

 

野村陸将が呟いた。

驚愕する彼に対して、灰田と指揮官らしきクローン兵がゆっくりと近づき、野村陸将の前に立った。

 

「お迎えありがとうございます」

 

灰田は穏やかな口調で言った。

 

「ご紹介します。こちらが戦車及び、歩兵師団指揮を執るアイズ中将です」

 

アイズ中将は50歳前後の風采で、整った顔立ちをしている。その顔付きが他のクローン兵とほとんど変わらない。

 

日本陸軍及び、陸自でも中将の平均年齢は、50歳から55歳である。灰田はそれに合わせたらしい。

中将が、キリッとした敬礼をすると、野村陸将たちも答礼した。

 

「アイズ中将と言ったね。到着早々悪いが、キミたちの戦車師団とともに、連邦上陸部隊を撃滅して欲しい。

我が軍と、TJS軍の戦車小隊とともに協力してくれるかね?」

 

「分かっております」

 

アイズ中将は、にっこりした。

 

「我々は任務を必ず果たします。それ以外のことはご心配なく」

 

「うむ。よろしく頼むぞ」

 

かくして北海道を舞台に、大戦車戦が今まさに始まろうとしていた。

 




今回は超重戦車師団の登場回に伴い、連邦軍の珍兵器が、元より元ネタはアメリカが冷戦時代に開発された地球製円盤機VZ-9《アブロカー》をモデルにした架空機です。なお元ネタの機体はバズーカが搭載される予定でしたが、ロケット弾の方が良いかなと思い、こちらを採用しました。

灰田「実験機は作られたものの航空力学的な安定性があまりにも悪く、実用化には失敗と言われていますが、真相は未だ闇のなかです」

Xファイルでは三角形、言わばデルタ機のUFOが登場していますから不思議ではないです。
F-117やB-2などですら、知られるまではUFOと勘違いされたようです。

灰田「無人戦闘機ですらも一時期はUFO扱いだったそうですからね。本当に分からないことばかり。
嘘にも小さな真実を混ぜるからこそ、人は信じて行くこともあります」

鮫は泳ぎを止めれば死んでしまう。だからこそ泳ぎ続けるのが大切です。

灰田「Xファイルのディープ・スロートみたいにかっこよさに伴い、信念と真実を貫く強さは見習わなくてはいけませんね」

では、次回は……
戦車戦が開始されます。
架空戦記シリーズなどの各娯楽でも北海道戦では、大戦車戦もメインであります。
双方の激戦もどういう展開を迎えるかは、次回の最新話で明らかになりますのでお楽しみくださいませ。

今回は色々とありましたが、負けずに奇跡を信じて行きましょう。
我々が全力を注ぐからこそ、彼女たちも助けてくれるのですから。

神通「私もお手伝いいたします、提督」

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

作者・神通『ダスビダーニャ!次回もお楽しみに』


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第百三十六話:北海道大戦車戦 前編

お待たせしました。
今回も事情により、変更しています。
御理解に伴い、御了承ください。
艦これ二期も始まり、夏イベントは第二次欧州作戦ですね。CoD MWシリーズの米軍みたいです。

灰田「あと、最新鋭イージス艦《まや》も進水しましたからおめでたいこともありましたね」

今回は、休日ぐーたら暇人さん作品のとあるアンドロイドたちが登場しますのでお楽しみくださいませ。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


釧路市街地

時刻 1200

 

「急げ!無停止攻撃でアンドルフ独裁政権に抑圧されている市民たちを次々に解放せよ!もたもたするな!」

 

「神であり、偉大な優しさを兼ね備える中岡大統領様と、我ら連邦貴族の神聖な解放戦線と千年の恨みを思い知るが良い!劣性遺伝子のチョッパリ民族ども!」

 

「俺たちはこの苦境を乗り越えた。この神聖なる解放戦線に虐殺など間違ったことなどひとつもしていない!」

 

釧路市街地を破壊や略奪、虐殺の限りを繰り返す連邦軍は各部隊の補給を手早く済ませ、各部隊とも中岡大統領たち率いる連邦共和国への忠誠心に伴い、北朝鮮軍独特の精神、千里馬精神を兼ねつつ、連邦軍はスピードを落とさないように進撃し続ける。

WWⅡのドイツ軍が得意とし、現代でも近代戦争の戦術として活かされている電撃戦を繰り返した。

航空機部隊による制空権確保に伴い、敵地上部隊を空爆直後、後方陣地に配備された砲兵部隊による支援砲撃、機動力が誇る戦車や装甲車中心の機甲部隊の打撃力を活かし、そして最後には機械化及び、歩兵部隊が重要拠点などを占領すると言う形である。

 

「俺たちは北海道解放の歴史を作っているんだな」

 

「天皇制及び、アンドルフ独裁政権のレイシスト傀儡どもは総崩れだ!」

 

「俺たち連邦軍の戦争は、綺麗な戦争だからギリギリセーフ!」

 

「北海道の食糧や酒類などは、全て神軍である連邦軍のものだ!」

 

連邦歩兵部隊は持ち込んだ輸送トラック及び、釧路市街地で調達した無傷の自動車やトラック、バスを利用して機械化歩兵に変貌した。

ガソリンスタンドも所々あるため燃料の補給も問題はなかった。

これらに乗車する連邦歩兵たちは同じく、釧路市街地にある店舗から略奪及び、放棄されたスーパーマーケットなどから入手した大量の食料、飲料水や酒類、多種類のスナック菓子類などを手にして美味そうに頬張った。

 

「独島は我が島、流そうぜ!」

 

「もちろん、日の丸燃やしながらな!」

 

「アンドルフ・ヒトラー人形と女狐元帥の人形とポスターもついでに燃やそうぜ!」

 

敵の妨害も我が軍の損害もない気楽な戦争だなと、彼らは音楽を掛けながらのドライブと伴い、家族団欒の行事であるピクニックを楽しむように浮かれていたときだった。

 

「ジャップの戦爆部隊の襲撃だ!」

 

ひとりの連邦軍兵士が叫んだ。

上空には編隊を組んで飛行する航空機の群れ、三沢や能代基地所属の基地航空隊が到着したのだ。

戦闘機と爆撃機中心に編成された戦爆連合部隊が、猛禽類のような勢いで、地上に這いずる獲物を狩り取ろうと襲い掛かった。連邦軍も黙ってはいない。

上空援護を務めていたJ-31と、VZ-18《アブロカーⅡ》も迎え撃つ。

連邦地上部隊は、各戦車などが搭載するKord重機及びM2重機、連邦歩兵部隊は携えていたAK-47やFADから、PKP《ペチェネグ》などの各分隊支援火器、そして携行式SAMを構えて迎撃を開始した。

 

数の多さでは基地航空隊が有利だったが、数機ほど連邦空軍機により撃ち落とされてしまった。

地上部隊を爆撃しようと攻撃隊も突入しつつ、航空爆弾を投げ落としたものの、凄まじい対空砲火に襲われてしまい、3機の一式陸攻が撃ち落とされてしまった。

しかし、運良くJ-31を2機撃墜及び、少数の輸送トラック部隊に損害を与えることが出来た。

兵装を使い果たし、引き揚げて行く基地航空隊とともに、味方の損害を見た鳥嶋たちは歯軋りした。直後、叫んだ。

 

「なんと酷いことを、我々は独裁者どもからの抑圧からの解放したいだけなのに!ジャップどもはそれすら理解出来ないアジアの輝かしい未来を否定し、過去にこだわるこんな馬鹿な国が未だにあるということが、私には信じられない!」

 

と、怒りの演説を述べた。

 

「アンドルフ・ヒトラーどもと言うレイシストで強いものに依存して、かわいそうな少数民族を叩く心情は現代に通じる。関東大震災時での朝鮮人虐殺を見ると、今のレイシスト国家になった日本を成敗すべき心を忘れてはならない!

人権・反戦・反差別と言われた戦後民主主義が培ってきた“常識”の否定する野蛮で殺人大好きなレイシストジャップどもに、我々の愛を教えるのだ!」

 

『ガン・ホー!ガン・ホー!ガン・ホー!』

 

鳥嶋の演説に、兵士たちは叫んだ。

この言葉は、第二次大戦中の米国海兵隊の標語且つ、士気を上げるための掛け声である。

元は中国語の『工和』に由来され、現代では米海兵隊特殊作戦連隊『MSOR』の部隊マークでもこの二文字が右下に記されている。

意味は『がむしゃらなさま』や『熱心なさま』、そして『忠誠心なさま』である。

この感銘を受けた連邦軍も標語のひとつにした。

彼らにとっては『中岡大統領に忠誠心を尽くし、劣等民族のジャップを嘲笑い、軍国侵略主義国家・日本から全てを奪い尽くし滅ぼすのだ』と言うスローガンであるが。

 

「恐れるな!中岡大統領様たちのご加護がある!北海道市民たちで使える若者などは捕まえて、真剣に連邦共和国の歴史を学ばせるために生け捕りにしろ!我々も遅れを取るわけには行かない!千里馬精神で前進するのだ!」

 

鳥嶋の号令で、再度士気を取り戻した連邦軍は、釧路市街地郊外及び、帯広市街地を目指すために前進した。

 

 

釧路市街地郊外

時刻 1215

 

鳥嶋大将率いる特殊機動部隊よりも早く、鹵獲したベル412とMi-8《ヒップ》輸送ヘリを利用して辿り着いた特殊先行隊は偵察任務と言いつつ、釧路市街地と同じように略奪行為を平然と行っていた。

 

「おら!ジャップども!世界一賢い吉山大尉様の命令に従わんかい!こら!」

 

特殊先行隊指揮官・吉山大尉が郊外地帯の住民たちを収集に伴い、腹いせに暴行を加えていた。

 

「民間人虐待で解放戦線しながらの食糧や金目のものゲットは最高にうめぇ!」

 

「もう日本オワタ。俺たち連邦軍に一気に攻め込まれて植民地!ブハハハ!」

 

「俺たち連邦軍の行為は、全てノットギルティ……つまり愛国無罪で綺麗な犯罪行為なのだ!」

 

彼以外にも、部下たちも両手に携えた小銃及び、手榴弾などを利用して破壊、或いは屋根から屋根へ飛び移りつつ手製の松明を利用して放火し廻っていた。

史実の関東大震災時では横浜から品川方面では朝鮮人集団の如く、この震災の混乱に乗じて略奪、放火、凶器、爆弾や毒薬携帯、婦人略奪などを行っていた。

日本橋の倉庫に朝鮮人が火を放ち、深川や墨田などの食糧倉庫に時間を置いて同時多発テロを行った。

四ツ木では朝鮮人が少女を輪姦した上に殺害し、荒川に放り投げ逃走したという、凄まじく恐ろしい記録が現在でも残っている。

 

なお彼らと結託して、国内の社会主義者たちも同様なテロ攻撃を行い、さらにはクーデターも企てていた。

震災時では『震災で被災者たちの泣き叫ぶのを聞いて革命歌を歌っていた』ほど、国家転覆と共産国家の建国を目指すテロ組織でもあった。

当時の新聞記事で『不逞鮮人および主義者』及び、『主義者と鮮人一味』と掲載されている主義者の正体は、要するに共産党及び、共産主義者たちのことである。

震災後の混乱に乗じて多数の共産主義者たちが無差別テロ行為を行っていたことも数多く記録に残っている。

 

吉山大尉率いる特殊機動部隊は、この両者が実行したテロ攻撃を『崇高なる革命指導』と言い、現在のISISが行ったテロ攻撃を加えて、両者の残虐行為を甦らせるように再現して、苦しむ人々を見て楽しんでいた。

 

『日王とアンドルフ、女狐どものA級戦犯、ネトウヨ首相や人殺し軍人、そしてレイシスト大臣などは、アジアに謝罪と賠償直後、戦争犯罪者として重罪を認めて、我々連邦市民のために死んで詫びろ!だから今すぐ死刑にしろ!公開処刑だ!アジアと日本、連邦市民の平和と繁栄のために死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』

 

中指立てながら、吉山大尉たちは唄っていた。

連邦軍に収集された老若男女問わず、人々は恐怖のあまり、言葉を出すことすら出来なかった。

子どもは母親に抱きついて、恐怖を堪えていた。

恐怖で支配する連邦軍を遠くから眺めている第三者たちは、各場所に配置して合図を待っていた。

 

『各自配置につきました』

 

『了解。こちらも配置完了』

 

『狙撃のタイミングはおまかせします』

 

『了解』

 

第三者たちは短い通信を終え、狙撃の合図を機に突撃することを決行した。

そうとも知らずに、連邦軍は油断しており、周囲警戒を解いて新たな命令を下した。

 

「……さて、若い女たちは中岡大統領様及び、俺たち連邦軍専用の慰安婦にして……あとは全員殺せ」

 

吉山大尉の言葉を聞いた部下たちは嬉々した笑みを浮かべた。

 

「だけど、最初は俺様からピストルで殺して、死体の山は俺様専用のTwitterとSNSに挙げておくわ」

 

吉山大尉は腰のホルスターから愛銃を、FN FNP自動拳銃を取り出した。

それを片手で構えて、躊躇うこともなく、子どもをあやしていた女性に銃口を向けた。

 

「なぜ低脳なジャップは、こんな無抵抗なことしかできひんのやろ。でもおかげで中岡大統領様及び、俺たち連邦軍様に感謝できると思いな。ありがとう、食物連鎖と世界住民の一番下のイエロージャップ♪」

 

吉山大尉は不毛な言葉に伴い、引き金を引こうとした瞬間―――彼が持っている自動拳銃とは打って変わり、拳銃独特の軽い発砲音ではなく、それを凌駕し、鼓膜を聾する銃声が周囲に鳴り響いた。

 

「ぎゃあああ、俺様の右腕があああ!」

 

吉山大尉は、右腕を吹き飛ばされた。

失った右腕は、拳銃を握ったままだった。

のたうち回り、呼吸と心拍数が上がりつつも左腕でその傷口を必死に抑えたが、何しろ12.7mm弾の威力は凄まじく、例え応急処置を施したとしても簡単に止血出来ないほどの銃創である。

 

「スナイパーがいるぞ!どこだ!」

 

「待って、まずは指揮官の傷を最優先に治せ!」

 

「ヘリを上げて、捜索した方が!」

 

「なんだ!ジャップの癖に強すぎるぞ!」

 

彼がやられたため、各隊員たちは、どう行動に移れば良いか分からずにパニックを起こした。

抵抗するものの、所詮は素人に毛が生えた程度の実力しかない連邦軍兵士たちは的確な命令もままならず、烏合の衆と化した彼らに構わず、謎の狙撃手とともに、迷彩服を纏った複数の兵士たちと、ワイヤーアクションさながらのアクロバティックなジャンプ射撃をする兵士による精密射撃で、次々と連邦軍兵士たちを射殺される運命を辿った。

しかし、往生際の悪い連邦軍は、鹵獲したMi-8《ヒップ》を2機を上げて、上空を空中停止飛行すると―――

 

『おい、こら!ジャップども!これ以上、我々連邦軍の市民解放戦線の邪魔をすると無慈悲なヘリのミサイル攻撃で綺麗に吹き飛ばすぞ!今すぐ降伏しろ!さもなくば、人質どもとともに吹き飛ばすぞ!』

 

悪運強く銃創を負った吉山大尉は、ヘリから顔を出して、左手に握った拡声器を使って警告を促した。

しかし、その特殊部隊隊員たちは誰ひとり武器を捨てる者はいなかった。

 

『心優しき我々連邦軍の警告を無視するとは……』

 

吉山大尉が言おうとする最中―――

白煙の尾に伴い、凄まじいスピードで追尾するスティンガーミサイルが接近して来た。

吉山大尉の傍にいた同機のMi-8《ヒップ》がミサイル攻撃を受けた。その直後―――

 

「回避しろ!」

 

僚機はバランスを崩し、機体を回転しながら吉山大尉が乗る同機は、回避することが出来ずに衝突した。

衝突とともに、回転したローターが操縦席に激突して、ふたりのパイロットたちを切り刻んだ。

 

「わあっ!こっちに来るな!」

 

その言葉も空しく輪切りにされた哀れなパイロットたちに続き、勢いを増したローターは機内にいた吉山や連邦軍兵士たちにも襲い掛かり、そして躊躇することなく切り刻んだ。

食肉加工処理工場にある生鮮肉加工製造機に放り込まれた肉塊の如く、ものの数秒で吉山たちの人体をいとも容易くバラバラに切り刻んだ。

無人と化した両機は幸運にも機体同士の衝突により、人質たちの頭上を飛び越えて、少し離れた無人の田畑地帯に墜落して炎上した。

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

連邦軍排除に伴い、周囲の安全確保。

恐怖支配から解放された人質たちは、あっという間の出来事が長く感じられた。

実際には数分間という短い時間だったが、1時間以上の時間帯を過ごしたかのように思えて、その場に腰が抜けた者、伏せている者たちも少なくなかった。

 

「もう大丈夫ですよ、皆さんを防護車で安全な場所まで避難させますから」

 

擬装を施した数輌の輸送防護車《ブッシュマスター》の周囲を謎の特殊部隊隊員たち、むろん灰田の用意した超人部隊隊員とともに、避難指示を促している一体の近接戦闘型戦闘用アンドロイドが支援する。

彼女の名前はケルベロスだ。

ギリシャ神話の地獄の番犬を由来とする彼女が得意とするのは接近戦である。

主にアサルトライフル・サブマシンガン・拳銃・ナイフによる戦闘を十八番とし、その高い運動能力を活かした跳躍はもちろん、ジャンプで空中にいながら、銃を乱射出来るほどの強さを誇る。

三体のアンドロイドの長女役で、故に妹思いだ。

 

「さっきの狙撃はなかなかのものよ、ヒュドラ」

 

「はい。どんな強敵も逃しません」

 

ケルベロスに褒められて、中・遠距離戦闘型戦闘アンドロイドの名はヒュドラである。

ケルベロスと同じくギリシャ神話では不死身且つ、全ての強敵も、己の自慢の毒牙で仕留めるヒュドラから由来されている。

主に狙撃・対物ライフルによる狙撃・支援を得意とし、時には爆撃・砲撃の誘導手として活躍する。

普通の兵士より強いが、本人曰く『接近戦はケルベロス姉さんの方が強い』とのことであり、運動能力はケルベロスに比べて低いが、狙撃ならばお手のものだ。

三体のアンドロイドの次女役で、読書が大好きである。

 

「ここで罠を仕掛ければ、連邦軍も大混乱且つ歩兵と戦車の連携の分断や士気低下にも繋がるわ」

 

「分かりました。では此処等に仕掛け罠を配置しましょう」

 

データを元に、超人部隊と協力する支援型戦闘アンドロイドの名は、ヘベである。

彼女も同じく、ギリシャ神話に登場する青春と若さをつかさどる女神ヘベから来ている。

その名に恥じない彼女は、別名『歩くイージスシステム』と言われているほど、そのデータリンクシステムを活用し、ふたりのアンドロイドや各種取得情報を収集・分析し、作戦を支援するために作られたアンドロイドだ。第七艦隊陸戦隊(三体共、第七艦隊陸戦隊第六中隊所属)ではその能力から対空戦闘時、特に航空機などから発射されたミサイルなどの迎撃に活用はもちろん、普通の地上戦もしている。

彼女自身も専用のM2重機関銃で迎撃するほど良い腕の持ち主である。

三体のアンドロイドの三女役であり、心優しい性格を持つ。

 

彼女たちも急遽、サイパン島で灰田から北海道襲撃を知った福本伊吹が、灰田に頼み投入したのだ。

超人部隊と協力し合い、まさに鬼に金棒、虎に翼でもある。

 

「私たちもだけど……」

 

「次の主役は、戦車隊の出番です」

 

超人部隊とケルベロスたち、そして鋼鉄の闘牛たちを模倣するように戦車隊も動き、連邦戦車隊を迎え撃つために前進した。

 




今回も変更になりました所以に、戦車戦の前触れになりました。敵の目を潰すことも大切です。
今回も歴史の真実及び、猛暑日のために頭が沸騰しかねないことがありましたので、色々あって変更しましたことに対して、申し訳ありません。

灰田「皆さんも熱中症などには気をつけてください。身体の冷やしすぎにもご注意です」

体調維持しつつ、二期の夏イベントの準備中です。
今回はネルソン級が実装されますが、ネルソンとロドニー、どっちが先に実装されるか……
私は未プレイですが、アズレンでは、ネルソンとロドニーが実装しているのですね。
今回は、どういう救助作戦なのか……
お目当ての娘も何人迎えるかも分からないですね。

灰田「今回の夏イベントたる第二次欧州作戦では、どういう展開もあるやら分からないですが、悔いのないように準備しましょう」

では、猛暑で倒れたらいけませんので次回予告に参りましょう。

灰田「次回は戦車戦です。北海道を舞台にした戦車戦の始まりです。米本土上陸戦を思い出しますね」

天空の要塞や超日米大戦、超海底戦車出撃でありましたね。特に後者は伊400並みの大きさで海底に潜れる超巨大戦車です。
何時もながらですが、最終回に近づく本作品とともに、同時連載『第六戦隊と!』も、お楽しみくださいませ。所以に、ゆっくり執筆、数多くのストーリー変更などで申し訳ありません。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十七話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十七話:北海道大戦車戦 中編

お待たせしました。
今回は卑劣な連邦軍の野望、何時もながらの取らぬ狸の皮算用が分かります所以に……
戦車戦(少しですが)及び、とある戦争で米軍が苦しんだ戦術が登場します。

灰田「今日はあの日、終戦であります。英霊の方々のために黙祷しましょう」

また本来は3日後ですが、占守島の戦いで北海道を守るために戦った池田大佐たち率いる戦車第11連隊と占守島守備隊の彼らのためにも忘れずに黙祷を。

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



釧路市街地

時刻 1400

 

連邦軍の進撃は止まらない。

鳥嶋大将たち及び、一部の部隊は、後方指揮を務めるために緊急司令部を設置した。

鹵獲した消防車を利用、周囲の鎮火に成功した。

ここまでの上陸及び、強襲作戦は順調だった。

しかし、苛立つことに吉山大尉たち率いる特殊先行隊からの連絡及び此方からの通信に応答がないことに違和感を覚えた。

 

「まったく。吉山大尉たちはジャップ狩りに手こずっているのか、女狩りでサボっているのか……」

 

鳥嶋大将は愚痴を零した。

所詮、吉山大尉たちは自意識過剰且つ、横暴な態度と自己中心的のならず者部隊に過ぎない。

ただし、その狂暴で攻撃的な性格に伴い、各員とも武器を持てば、金のためならば嘲笑いながら殺すことが出来ることが最大のメリットである。

 

「もしも後者ならば、然るべき対応をせねば。ただし若い女たちは見つけ出して、私の子どもを産ませてやるんだ。私が女たちにするのは綺麗な強姦だから問題ないからな!異端を述べるジャップの男たちは皆殺したいほどだ。川に飛び込んで自殺することを望む。 これは連邦共和国の文化だからお前たちが理解しろって言いたい!」

 

「私は自慢のサバイバルナイフでチョッパリどもを手当たり次第に投げつけて刺し殺してやるんだ。投げナイフの桝山様と恐れられるようにな!」

 

鳥嶋大将は気味の悪い笑みと手をわきわきと卑しく動かし、桝山中将もつり目で気味の悪い笑みを浮かべ、齧歯類のように前歯を出して嘲笑いながら述べた。

ともあれ吉山大尉たちとの合流後、いくらでも報告を聞けば良い、と、ふたりは思った。

敵機による空爆をやり過ごした今は、快適なドライブとともに、自分たちに敵うものは絶対にいない、と、無敵モードの気分を味わっていたのだった。

無線機を取り、進撃中の連邦戦車隊指揮官に通達した。

 

「ここまでは上々な進撃だぞ。同志諸君!敵は戦意喪失で我々に屈したも当然だ!あとは怒りの報復攻撃と突撃あるのみ!視界に映ったジャップどもや目障りな障害物などは撃ち殺せ!」

 

しかし、鳥嶋大将たちは計算違いをしていた。

勝利したと言う驕りとともに、過小評価をし過ぎたために警戒心を忘れていたのであった。

しかも遠くからでも聞きつけるほどの激しい音を鳴らしていたことがどれだけ危険なことすらも忘れていた。

 

 

 

釧路市街地郊外

時刻 1500

 

『なんと言うことだ!?』

 

辿り着いた連邦戦車隊指揮官たちは双眼鏡越しで眺めた風景を見て衝撃のあまり、口を揃えて答えた。

鹵獲した報道ヘリと、吉山大尉たちの特殊先行隊が殲滅されていたことに驚愕したからである。

 

「ここにジャップどもが殲滅させたと言うのか!いいや、あり得ない。平和憲法を狂信的に崇拝した戦犯民族に限ってこれほどの力があるとは考えられない」

 

「ここに守備隊などの存在はなかった。かと言って殺人精鋭部隊のレンジャー部隊などもいないのに、ここまで吉山大尉たちを殲滅出来るなんて信じられない!」

 

自問自答する彼らは、信じたくなかった。

馬鹿が多い所以に、万歳突撃と自爆攻撃しか出来ない自意識過剰な時代遅れの精神主義の根性論集団と、亡き戦争体験及び、被害者たちから聞いたことがある。

だが、基本的に戦争体験者たちと言ってもほとんどが安全な内地にいた者たちが多い所以に、敗戦後は連合国に擦り寄り、手のひらを返した者たちが多い。

あまつさえ戦場に帰って来た兵士たちに対して、暴言や罵声を浴びせ、さらに石ころなどを投げつけ、挙げ句は朝鮮人と中国人たちとともに、寄って集って集団リンチすらも行った。

これらに関しては黙り且つ、都合の悪いことは全て開戦を拒否した日本軍のせいにし、開戦を望み煽らせた新聞社や自分たちは『自分たちは軍の被害者だ』と平然と嘘を付き、今日まで自己弁護を繰り返した。

 

『平和憲法を踏みにじったアンドルフに神罰を与えねば!同志諸君。北海道解放後、東京にいるファシズムどもにどんな神罰を下したいか!』

 

クアッド・ドローンが吊り下げた液晶テレビ越しで、気に入らないこの報告を聞いた怒りに取り憑かれた鳥嶋は、部下たちに訊いた。

 

「日王一族やアンドルフ・ヒトラーどもを捕らえ、善良なフランス市民たちによるフランス革命で行った貴族や異端者どもをギロチン台にあげて公開処刑だ!身体もバラバラにして、ニコライ二世皇帝一家どものように焼却処分したいぞ!」

 

「侵略戦争の戦犯どもを奉り、アジアの侵略戦争を正当化する靖国神社を我々の手で砲撃で破壊、二度と復興出来ないように徹底的に破壊するのだ!」

 

「靖国神社だけでなく、日本国内にある全ての神社や寺院、墓標、そして戦犯どもの慰霊碑など破壊しても罰は当たらない!寧ろ呪いなんて嘘っぱちだ!俺たちは雲の上にいる神々だから無罪である!」

 

「もちろん、皇居や皇居外苑なども徹底的に破壊して中岡大統領様と幹部の方々専用の皇帝城にするのだ!目障りなオンボロ建物より、素晴らしき皇帝城を!」

 

「国会議事堂や東京スカイツリー、東京タワーなども目障りでセンスの欠片もないジャップの腐った建築物なぞ全て壊して、黄色い猿に相応しい石器時代に戻してやれ!ジャップ狩りのテーマパークを建築するぞ!差別主義思想のチョッパリどもには相応しい牧場、いいや、家畜用処理施設だ!」

 

『うむ。素晴らしき夢だ!偉大なる中岡大統領様と幹部様たちはお喜びになるぞ!全軍、突撃せよ!恐れる必要などない。我々には慈悲深き、我が神にも等しい偉大なる中岡大統領様たちの御加護がある!全軍突撃!突撃!突撃せよ!』

 

鳥嶋大将の号令に、連邦軍兵士たちは突撃した。

全員嬉々した表情とともに、うきうきするほど心を踊らせながら戦利品を漁ろう、と我先に走って行く。

食糧や飲料水を初めとしてあらゆるものを残さず、全て自分たちのものにせんと仕掛けるばかりだ。

欲望を満たそうする彼らは、テロリストと匪賊、盗賊と何も変わらない。当の本人たちは罪意識は無きに等しい。

しかし、これらが自ら墓穴を掘り、飛んで火にいる夏の虫を知らせる出来事が起きた。

 

「ぎゃあああ、助けてくれ!」

 

ひとりの連邦軍兵士が悲鳴を上げた。

その兵士の足は、2枚の板に挟まれていた。

目を凝らして見ると、板一面には釘が大量に打ち付けられており、抜こうとして動けば動くほど、釘がさらに食い込む仕掛けだ。

 

「誰か、取ってくれ!」

 

「ぐわあああ!痛てぇよ!」

 

「お願いだ。引き揚げてくれ!」

 

落とし穴に引っ掛かった連邦軍兵士たちには、反し付きの金属製の可動スパイクを利用した仕掛け罠『ビーナスのハエ取り器』。

シーソー付きにスパイクの付いた板が飛び出し、相手を突き刺す『スパイク・ボード』。

落とし穴の上に竹で編んだゴザを乗せて塞ぎ、その上に草の付いた土でカモフラージュされ、穴の中には大量の竹槍が仕掛けられている『スパイク・ピット』。

頭上注意。見えない仕掛け線に触れた瞬間、頭上から振り子式と落下式でスパイクを打ち込んだ丸太が襲い掛かる『スパイク・ラグ』などにやられた。

 

「また味方が殺られたぞ!」

 

「足元だけじゃない、敷地や室内にも!」

 

「戦利品にまで爆弾が仕掛けられてあるぞ!?」

 

「どこが安全だよ!ここは危険区じゃないかよ!」

 

安全且つ、雨露を凌げる無傷な建物や家に土足で踏んだ連邦軍兵士たちも無事でなかった。

戸を開けたり、家具や日常品を動かした瞬間、手榴弾のレバーが外れ、複数の兵士たちを引き飛ばした。

しかも赤外線暗視ゴーグルでなければ、見えないレーザー照射装置付きの地雷《レーザーマイン》による被害を受けて戦死する者たちも多かった。

そして戦利品漁りを利用して壁に打ち込んだ銃剣を抜き、置き去りにされた狩猟用散弾銃やライフルを持ちあげると爆発する罠から、憎き人物たちのポスターを撃つ、または銃剣で付いたり、日の丸と旭日旗を引き抜いた直後、地面に埋められた地雷が爆発して彼らの手足を奪った。

 

「くそっ。俺たちの先輩たちが起こした安保闘争で助けてやった恩と、我々の中国韓国北朝鮮の偉大なる指導者たちの恩恵を忘れ、恩を仇で返すだけでなく、アジア的優しさを持つポル・ポト様と彼の楽園を破壊、ポル・ポト様たちを追い詰めた薄汚いベトナム軍などのようなブービートラップをあちらこちらに仕掛けおって!」

 

彼ら連邦軍にとって、ベトナム軍も憎い存在だった。

理由は単純明白。安保闘争時は同志として見ていたものの、自分たちの崇拝する中国軍と韓国軍兵士たちを殺め、慈悲ある要求を拒否したこと。

そしてポル・ポトの築いた楽園に侵略して、その楽園を破壊、ポル・ポトを懲らしめたと言う理由だけで憎い存在でもあった。

もっともベトナム軍を近代化に育成した連邦軍の大嫌いな日本軍は、もっとも憎い存在だが。

 

現代のベトナム軍、彼らに基礎を教えたのは旧日本陸軍である。史実では、ベトナムに残留した日本軍将兵たちはベトナム独立のために共闘し、さらにグエン・ソン将軍を校長とする指揮官養成のための『クアンガイ陸軍中学』が設立された。この学校は、教官と助教官が全員日本陸軍の将校と下士官というベトナム初の『士官学校』であった。

実戦経験豊富な日本人教官から日本陸軍の戦術をはじめ指揮統制要領を教え、彼らのおかげでベトナム軍は現代のように近代化へ進むことが出来たのである。

第1次インドシナ大戦でも、最前線で元日本兵たちはベトナム人たちと戦い、彼らに勇気と希望を与えた。

そのおかげで、ベトナム戦争でも日本陸軍兵士たちが教えた戦術も活かされたのだ。

 

「もう良い、面倒だ!歩兵部隊を下がらせろ!こうなれば低脳なレイシストベトコンのようなジャップどもは我が戦車隊で猿どもの家を吹き飛ばしてやる!連邦に背くと酷い目に遭うことを思い知らせてやるんだ!戦車隊前進せよ!」

 

連邦戦車隊指揮官の号令を受けた戦車隊は前進した。

直後、先頭にいた1輌のT-55が眩い閃光に包まれて爆発した。

 

「くそっくそっくそっ!連中、ブービートラップだけでなく、対戦車兵器まで仕掛けてやがる!」

 

実際には対戦車兵器ではなく、戦車砲だった。

そんな事実も知らず、狼狽する連邦軍に、止めを刺すかのように攻撃したものが正体を現した。

巨人の足音に似た履帯を鳴り軋ませ、姿を現した日本軍の戦車を見て驚きを隠せなかった。

10式や90式戦車よりも砲塔の数、なによりも縦横無尽に駆け巡る要塞のような戦車など聞いたことも見たことすらもなかったからだ。

しかも次から次へと、巧みに擬装された掩蓋壕などから姿を現した直後、日本軍の戦車は一斉射した。

戦車砲及び、装備されたロケットランチャーを一斉に撃ち始めた。

現地で放置されたトラクターを改造、M2重機を搭載した連邦テクニカル車輌がロケット弾の制裁を受けて、四散した。

 

「いかん、全車後退せよ。急げ!」

 

連邦戦車指揮官が叫ぶ。

束の間、歩兵部隊が将棋倒しの如く、銃弾の嵐を浴びてなすすべなく倒れていく。

連邦軍兵士たちは応戦して敵兵を倒すが、超人部隊は何事もなかったかのように起き上がり、小銃や汎用機関銃、短機関銃を撃ちながら突撃してきた。

 

『失礼』

 

銃撃を行う集団の輪に、ケルベロス・ヒュドラ・ヘベの3人が割り込むように入り、置き土産として数個の手榴弾をばら蒔いた。

気づいた連邦軍兵士たちは、悲鳴を上げる前に閃光に交じり爆発と衝撃波が掻き消した。

恐怖のあまり、逃亡や味方撃ちまでする連邦軍兵士たちも少なくなかった。

所詮は実戦経験すらない素人集団。同時に、無抵抗な相手をなぶり殺しにしか出来ず、殺人経験などと武勇伝と口自慢することしか出来ないテロリストと変わらない。

 

反撃の狼煙を上げる要塞戦車隊を率いる日本戦車隊に対し、連邦軍は各個撃破される一方だった。

 

「ジャップの戦車隊に負けてたまるか!撃て!」

 

連邦戦車隊指揮官の一声。狙いを正面から迫る要塞戦車こと、超重戦車《オイ》に向けた。

 

「プレゼントだ!受け取れ!」

 

一声唸った砲手が、主砲の引き金を引いた。

轟音が上がり、数秒間、両耳が聞こえなくなる。

ギアを動かし、T-55は唸りを上げて動き出す。

砲手が放った徹甲弾は紅い尾を曳いて、《オイ》に命中した。正面装甲が貫通された《オイ》は、つんのめったように停止した。

 

「やった!所詮ジャップなど……」

 

しかし、予想に反して、命中弾を浴びせ、撃破したはずの《オイ》が無傷な状態に戻っていた。

元通りになった途端、長砲身主砲が動き、車内のクローン兵士が引き金を引いた。

 

「まずいっ!回避!」

 

言うより早く、《オイ》の主砲が閃光を発した。

反撃の砲弾。T-55に搭乗する連邦戦車隊指揮官に目掛けて勢いを増した徹甲弾の威力は止まらない。

因縁、偶然なのか報復の意を込めた徹甲弾は正面装甲に見事貫通し、戦闘室に飛び込んだ砲弾が、狭い車内を跳ね回り、殺戮の限りを尽くした。

脱出用ハッチから紅蓮の炎が吹き出た直後、御椀のような砲塔が宙を舞うように吹き飛ばされた。

燃え盛るT-55に気にすることなく、超重戦車《オイ》はすぐさま前進して、さらに残りの2輌を撃ち取った。

 

 

 

 

「なんたることだ……」

 

唯一無傷だったクアッド・ドローンのリアルタイムで撮影された映像を見て、鳥嶋は唖然とした。

上陸から数時間で圧倒的な戦力と奇襲を利用して、北海道・釧路市街地郊外まで攻略出来たのに、まるで運命の歯車が狂い始めたのだった。

しかもあの要塞みたいな巨大な戦車、超人的な歩兵部隊を巧みに隠して、吉山大尉たち特殊先行隊だけでなく、数分で我が偵察部隊を殲滅させたのか?と、考えるだけでおぞましかった。

不運なことにドローンに気づいたのか、対空射撃によりドローンは自らが落下していく様子を映し、敵歩兵の姿を映したことを最後に映像が途絶えた。

 

「………不味いぞ」

 

しかし、恐怖に支配されている最中、追い打ちを掛けるように衛星電話が鳴り始めた。

鳥嶋は深呼吸をし、受話器を取り、耳に当てた。

 

「もしもし。北海道解放戦線指揮官の鳥嶋大将だ」

 

『私だ……』

 

鳥嶋は、すぐにその正体が分かった。

 

「……! 偉大なる空に輝く連邦の星にして、国家主席様!」

 

相手は、中岡だった。

北海道攻略作戦『サンタクロース作戦』に、攻略する時間が掛かり、ステルス重爆基地占領の報告が入らないことに痺れを切った中岡は、特別回線を利用して司令部に繋いだのだ。

 

『挨拶は結構。北海道攻略及び、ステルス重爆基地占領はまだか!今すぐ出来ないでは良心がない!』

 

「はい。必ずや……今すぐにでも出来ます」

 

『また電話する。急いで努力しろ。人間に限界はないんだからな』

 

「はい、国家主席様………」

 

威圧的な厳命に、鳥嶋は全身に冷や汗が流れた。

どうにか今ある部隊で急いで攻略せねばならない、と言う焦りが出てしまった瞬間―――

 

「……別の偵察ドローンが、こちらに向かって来る日本軍の戦車隊を確認しました!」

 

通信兵が叫んだ。

 

「全軍に告ぐ。あるだけの兵器を使い切ってでも侵略軍を殲滅せよ!足りなければ潜水艦乗組員たちも海軍兵士にし、車輌も其処らにある自動車など使っても構わない!」

 

鳥嶋は、単純な命令を下した。

自滅覚悟に伴い、全力を挙げれば日本軍なぞ蹴散らせると思ったのだ。

 

しかし、遠くからでも砲撃音が木霊した。

戦闘する気ならば掛かって来い、と言わんばかりに鳥嶋大将たちは映像を睨んだ頃―――

 

「戦車前進!」

 

西壱華大尉が言った。

彼女を筆頭に、各戦車隊と機械化歩兵師団は、鳥嶋大将たちがいる司令部に前進する。

後にケルベロスたちの部隊と、基地航空隊の支援攻撃が来る予定だ。

 

「この戦、必ず勝つぞ!」

 

鋼鉄の武者たちは、各エンジンを唸らせて、連邦戦車隊及び、各連邦軍のただ中へ、まっしぐらに突入して行った。




今回は連邦軍の士気及び、心理状態を不安にさせるためにベトナム戦争で実際にベトコンたちが仕掛けたブービートラップを味合わせ、戦車戦と超人部隊で攻めると言う戦法で反撃に出た回です。

灰田「今回登場したブービートラップは一部を除き、ベトコンのブービートラップなどは劇画ミリタリーで有名な上田信先生の『U.S.マリーンズ ザ・レザーネック』と、柘植久慶氏のSASが得意とする戦法など描いた『SAS戦闘マニュアル』などを参考にしています」

他にも銃弾を利用した実包地雷やドロ団子地雷、ヘリコプター・トラップなどあります。
なお、一部は目印を見つけたりして回避しましたが、それでも米軍は最後まで悩まされ続けてました。

灰田「今回も彼らの憎い日本にここまで酷い目に遭わされることも因縁でもありますね。日本軍のおかげで今この今日があるのに恩を仇で返す時点で御察しですが。
日本のおかげで独立したベトナムなどアジア諸国は多い所以に、あの大東亜戦争で今の日本はあること。
日米両国は、最後まで開戦回避を望んだこと。
そして戦いのなかで日本軍は英米軍に恐れられ、人物や兵器も高く評価され、そして尊敬されていたこと。
これら全てを忘れてはいけません」

では、早いですが……
次回にはようやくケリをつけるこの北海道戦車戦で、この北海道戦線が終了します。
何時もながらですが、最終回に近づく本作品とともに、同時連載『第六戦隊と!』も、お楽しみくださいませ。所以に、ゆっくり執筆、数多くのストーリー変更などで申し訳ありません。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十八話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十八話:北海道大戦車戦 後編

お待たせしました。
一部変更して、この北海道大戦車戦を終了します。この戦いの行く末は、どうなるか。

灰田「艦これ二期開始に伴い、来月のイベント、次のイベントでも秋刀魚漁など楽しみですね。
今回は『第六戦隊と!』の最新話同時更新です。こちらもお楽しみくださいませ」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



連邦戦車隊を蹴散らさんと、鋼鉄の武者たちを思わせる日本戦車隊は総力を注ぎ込む勢いで戦いを挑む。

連邦軍と言う侵略者たちに対し、各戦車隊は自我から醒めたのか、怒ったようにギアが入り、履帯が唸りを上げた。一斉に各主砲がぱっと火を放った。

 

「命中、敵戦車2輌沈黙!」

 

西壱華大尉が搭乗するT-72-120戦車の主砲からは発射煙が白くわだかまり、構わずとも全力で前進するかに答えるように各車はギアを入れ、履帯が土煙を巻き上げた。超重戦車《オイ》と10式戦車、T-72-120戦車が最大速力を振り絞り、猛然と突進を開始した。

 

撃ち放った対戦車ミサイルの攻撃を受けた瞬間、鉄の棺桶と化し、燃え盛る2輌のT-55戦車を見た鳥嶋は怒りを露わにして口を開いた。

 

「おのれ!ジャップの戦車隊どもめっ!我が精鋭戦車隊と、対戦車車輌部隊前進せよ!独裁者の戦車を蹴散らせ!

北海道の父の怒り、アンドルフ・ヒトラーの犬どもに怒りの雷撃、神罰を下すのだ!ただし女指揮官は捕虜にしろ。私の女にしてやることを忘れるな!」

 

「失脚に追い込んだ嫌韓派・嫌中派のチョッパリどもよ!チョッパリの侵略戦争で連邦国に対してのヘイトスピーチが蔓延しているなど、とんでもないことだ!

アジア的優しさと、世界平和を望む中岡大統領様に敬意を払うのは当然のことなのに、礼儀知らずのレイシストチョッパリどもなぞ、地獄に叩き落とせ!」

 

鳥嶋大将と、桝山中将は号令した。

T-72とT-55戦車隊も同じようにギアを入れ、履帯が唸り上げて前進し始めた。

対戦車車輌部隊は、路上に放置されて、無傷な自動車やバス、ハーフトラックに溶接した鉄板を装甲板にして張り付けた車輌に、攻撃方法はRPGやミラン3などと言った対戦車火器を携えた歩兵部隊が搭乗しただけである。

手持ちの戦車隊と出来る限りの数を揃えた簡易装甲車輌に加え、遠距離支援攻撃は、後方にいる徹甲弾を装填したM119A3 105mm榴弾砲部隊などが務める。

制空権は握っており、現在補給中のJ-31部隊には対地ミサイルと爆弾を搭載し、これらで敵戦車隊を空爆で蹴散らす方針である。

 

鳥嶋たちは、何時でも逃げられるようにT-90戦車から機動力の高いパジェロSUVに乗り換えていた。

言わずとも、無傷で手に入れた盗難車だが、彼らは略奪したのではなく、戦利品として確保したのだ、と自慢気に胸を張り、さらに後部座席及び、トランクのなかにはアタッシュケースが数個ほど隠し持っていた。

そのなかには大量の金の地金やダイヤモンド、各貴金属など、高価な実物資産を詰め込んでいる。

中岡たちへの献上品でもあり、自分たちの裕福な老後生活のための資産でもある。

 

「我々も巻き添えを喰らいそうだ。もう少し後退したまえ」

 

「はっ!」

 

鳥嶋は、ドライバーに指示した。

軍曹の階級を付けたドライバーが、素早く車を旋回させる。土煙を上げて、鳥嶋と桝山のふたりを乗せた自動車は、今まさに始まろうとする戦車戦に背を向けた。

この戦いで、自分たちは死にたくない。

味方が戦死し、味方の戦車隊が入り乱れ、味方の誤射で破壊されようが関係ない。

例えひとつの都市を破壊、または手持ちの攻略部隊が全滅しようが、痛くも痒くもない。

寧ろ中岡や自分たちの輝かしい連邦国の幕明けとして散っていた軍神として奉るだけとしか考えていない。

 

「砲兵隊!撃てぇ!」

 

鳥嶋の号令を受けて、連邦砲兵部隊が支援砲撃の火蓋を切った。M119A3 105mm榴弾砲が轟音と吼える。

アウトレンジの砲弾が、続けざまに放物線を描いて、日本戦車隊の周辺に落下する。

釣瓶撃ち。ずらりと並んだ野砲が、続けざまにオレンジ色の発射焔を吹き出して、砲弾を投げ飛ばす。

飛び渡った砲弾が、目標地点に着弾する頃を見計らい、より近距離に配された野砲部隊も、猛然と撃ち出した。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

 

号令一下、野砲が吼え、咆哮し続ける。

ソ連軍伝統『砲兵は戦場の女神』且つ、得意の、徹底した火力を叩き込む制圧射撃。

白熱の尾を曳いて飛翔する砲弾は無数の弧を描き、地獄の業火を浴びせかけた。

 

「各部隊、前進せよ!チョッパリどもを踏み潰し、破壊尽くし、ひれ伏せさせろ!」

 

砲兵部隊の支援砲撃後、連邦戦車隊指揮官の号令一下、数輌と言うエンジンの唸りが轟いた。

踏みしだく履帯、陽光すら灰色染まった視界を埋め尽くして、黒色の車体を持つ連邦軍戦車隊が前進した。

各車輌とともに前進する連邦戦車隊指揮官こと、水原穂波少将は眼を疑った。

彼女が駆る戦車は、鳥嶋たちから賜ったT-90戦車だ。

T-72をベースに大幅に改良して、より高価なT-80Uのレベルに近づけた第三代戦車だ。愛称は『ヴラジーミル/ウラジーミル』と呼ばれている。

古代の亀にも似た車体が地面を踏みしめる。

突進して来る日本戦車は、自軍よりも遥かに強そうに見えた。

 

「どうせ見かけ倒しよ。全軍前進!」

 

胸中に兆した不安を振り払い、穂波は叫んだ。

同時に愛車にギアを入れ、履帯が軋みながら地面を蹴り上げた。

轟然と咆哮する戦車隊が、戦意を剥き出しに距離を詰めていく。

 

「全車砲撃せよ!アンドルフのレイシストネトウヨどもをしばき倒し、全員の身体全てに連邦軍伝統道具、呪いの五寸釘をぶち込め!」

 

罵声を放った穂波が、発砲命令を下した。

彼女の射撃手が引き金を引き絞り、T-90の主砲が鋭い叫びを上げて、各車は必殺の一弾を撃ち放つ。

いくつも発射煙が吹き上げ、豪煙に包まれた。

その中を飛翔した徹甲弾は、一番目立つ鉄の巨獣に似た巨大戦車に向かった。

 

「よぉし。レイシストネトウヨ戦車数輌片付けた!」

 

瞬間の手応え。彼女が撃破を確信した歓声を上げた刹那―――

 

各車が放った砲弾は、狙い過たず、日本戦車の前面装甲に命中したと思いきや、何ひとつ損傷を与えることが出来なかった。

 

「ば、馬鹿な!直撃弾なのに無傷だと!?」

 

穂波は、眼を疑った。

叫んだ瞬間、命令弾を受けて猛り立ったかのように、日本戦車の主砲が吼えた。

空気摩擦により、赤熱させて飛翔する砲弾は、T-90の前面装甲を、紙のように貫通した。

驚愕の表情を貼り付けたまま、穂波の頭部が四散する。次いで車内を跳ね回った徹甲弾は、T-90の乗員をことごとく切り刻み、肉片に変えていた。

やがて停止したT-90が、貫通孔から紅蓮の炎を噴き上げ、爆発した。

 

「敵指揮官戦車撃破!各員砲撃続行」

 

アインズ大将が操る、超重戦車《オイ》の一撃は凄まじく、なお且つ未来素材と、自己修復機能が施されているため、難攻不落の移動要塞とも言えた。

大混乱な戦場を疾駆し、鋼鉄の流鏑馬たちの如く日本戦車隊も、巨体を軋らせて正確無比な射撃で、連邦軍戦車及び、軽装甲車輌部隊を次々と破壊する。

連邦軍戦車戦や軽装甲車輌部隊も、お返しとばかりに撃ち続けた。しかし、指揮官の水原穂波少将が開始直前に戦死したため、半狂乱で反撃している。

ハンマーのような殴った異音が響き、跳ね返された砲弾があらぬ方向に飛んでいく。

雨霰と撃ち込まれ、爆焔に包まれる戦場を駆け巡る超重戦車《オイ》部隊などが主砲を放つ。

無数の発砲炎が閃いて、徹甲弾が飛翔する。

大気を裂く異音が響き、発砲炎で位置を曝け出したT-55戦車と、傍にいたテクニカル車輌部隊が、続けざまに炎上した。

 

T-72-120戦車及び、10式戦車の砲塔が旋回を終え、自慢の砲身が、T-72戦車の正面に向けられた。

次の瞬間、オレンジ色の火矢が吹き延びて、驀進するT-72戦車の正面に、眩い火花が散った。

双方の一撃で、敵車体が押し止められたように見えた。紅い火が走り、車体を彩ったかと見る間に、鋼鉄のドン亀は、大音響を上げて爆発した。

丸みを帯びた砲塔が浮き上がり、傾いで落ちる。

砲身が大地に突き刺さり、首を跳ねられた連邦軍戦車は、炎を吹き上げて燃え出した。

 

「怯むな!側面側に回り込んで、レイシストどもをしばき倒せ!」

 

その隙に側面側から反撃を企てながら疾駆し、対戦車火器を携えた歩兵部隊には、日本戦車隊の後方から、凄まじい炎の帯が立ち上がる。

まるで教会のオルガンを悪魔が弾いているような、心を震わせる火焔の旋律。その正体は何百発もののロケット弾。これら全てが炎の尾を曳いて飛翔する。

ロケット弾が着弾した瞬間、火焔地獄が車輌部隊に襲い掛かって来た。元々非装甲車輌だった自動車に耐爆システムなど施しておらず、いとも簡単に破壊された。

車内にいた歩兵部隊たちの多くは、脱出出来ず、生きながら焼き殺された。運良く脱出出来た者も重度の火傷、半狂乱で叫び、さ迷うゾンビのように歩き回るだけだった。

 

「間にあったようだな」

 

西が呟いた。

このロケット弾攻撃を行った者たちは、釧路市街地郊外で連邦偵察部隊を殲滅したケルベロスたち及び、超人合同戦車隊である。

 

「これより、我々も残りの連邦軍を殲滅する!」

 

ケルベロスたちも追撃して来た。

エンジンの轟音と、敵味方の砲声。ロケット弾が飛翔する風切り音。そして破壊された戦車の炎上する音。

さらには、戦車の隙間を縫うようにして駆け巡る彼我の歩兵が撃ち合う自動小銃や汎用機関銃、重火器の銃声と爆発音に、怒号と悲鳴が混じる。

連邦歩兵部隊は、まだ数はいたものの、押し寄せて来る彼女たちの勢い、威圧感を見て、ライフルなど携えた銃器を捨てて、恐怖のあまり我先に逃亡する者、果ては発狂し、何故か北海道にも関わらず、歌いながら両手を頭上に挙げて、手首を回しながら左右に振り踊るカチャーシー(沖縄踊り)をする者たちも少なくなかった。直後、戦車部隊に轢き殺された。

 

敵味方が入り乱れ、遥か後方から黒衣の死神とも思わせるJ-31部隊が姿を現した。

両翼下に対空地ミサイルや航空爆弾、機首に搭載されている30mm機関砲を備えている。

高速を利して、戦車と歩兵部隊を叩こうと襲い掛かる合図を響かせ、機体を翻する様は、ギリシャ神話のハルピュイアの乱舞を思わせる。

 

しかし、太陽と重なる黒い機影がJ-31部隊に襲い掛かった。

 

両翼に装備された機関砲が一斉に吼えた。

撃ち放たれ、切り裂くような灼熱した火線が、J-31の操縦席に降り注いだ。

鮮血に染まったジュラルミンの破片が飛び散り、機体が揺らぎ、やがて錐揉みを始め、北海道の大地に落ちていく。

不意打ちを喰らった僚機も同じく、血とジュラルミンの爆焔が咲く最中、もう1機も黒煙を上げて、為す術もなく、撃墜されていく。

 

運良く攻撃を回避出来た1機の命運も尽きる。

対空攻撃を得意とするヘベ、彼女が連邦偵察部隊から鹵獲した携帯式地対空ミサイル《FHJ-18 AA》を構えて、標的を捕捉するロック音が響き、引き金を絞った。対空ミサイルに捕らわれたJ-31もチャフを撒こうとするも、一足早くミサイルの餌食となり、逃げ惑う連邦歩兵部隊の群れに墜落して二次被害をもたらした。

 

「我々の切り札も来たな……」

 

西壱華たちの頭上を通り過ぎていく友軍機。

J-31部隊を撃墜した黒い機体、空母娘たちが主力とするジェット戦闘機《天雷改》及び、《轟天改》部隊が天使のように蒼空を自由に駆け巡り、両翼を左右に揺らした一方―――

 

「おのれ。こうなればジャップども全員黒焦げの死体にしろ!砲兵部隊、白燐弾装填。ジャップども全員焼き殺せ!俺の合図で―――」

 

鳥嶋は激怒しながら、命令を下そうとした瞬間、彼の鼓膜まで響き渡る特急列車の汽笛を思わせる音に伴い、巨人の拳が大地を振動、そして山びこのように木霊する爆発音が叩き込まれた。

 

『うわあああああああ!!!』

 

彼らが乗車するパジェロSUVは、空から降り注いだ凄まじい衝撃波に襲われ、直後、操縦不能に陥った愛車はスピンオフしながら、近くの電信柱に激突した。

操縦不能となったが、悪運強く、鳥嶋たちは頭部に傷が出来たものの、幸いにもエアバッグのおかげで軽傷で済んだ。

 

「あの衝撃波は、いったい……」

 

車から降りた鳥嶋は、傷の痛みに堪えつつ、首に掛けていた双眼鏡を覗き、じっと見つめた。

直後、信じられない光景を眼にして疑った。

まず、海上に待機していた巨大輸送潜水艦1隻が黒煙に混じり、火焔に包まれて撃沈していた。

次に残る1隻は、僅かな抵抗を見せた少数の乗組員たちは敵うまいと全員降伏、同時に白旗を揚げていた。

そして最後におびただしい数の艦船、憎むべきあの連合艦隊が、今もなお異形の戦艦空母からの艦砲射撃及び、各軽空母から発艦していく多種類の艦載機部隊、それらによる空爆が開始されているのだった……

 

「我々は挟み撃ちにされてしまった……」

 

 

 

釧路沿岸部

時刻 1430

 

「全艦、この十勝に続け!」

 

彼女の号令に伴い、海面が、より巨大な衝撃に叩き据えられ、一瞬窪んだ後にさざ波だって、さらに波濤が吹きちぎられる。膨大な爆焔が噴き出し、オレンジ色の火光が閃いた。力感溢れる砲身から叩き出された砲弾は、衝撃波を振り撒きつつ、天空へと掛け上がり、雷神の轟きを伴って落下した。

大気を踏み轟かせて落下した徹甲弾は、十勝が意図した通りの位置に落下した。

 

「着弾、成功!」

 

十勝からの報告に、郡司は頷いた。

 

「良いぞ。各員も十勝に続き、攻撃を続行せよ!木曾、僕たちも行こう!」

 

「ああ!もちろんだ、郡司!」

 




今回は北海道大戦車戦は、ここにて終了となります。
架空戦記『荒鷲の大戦』など、迫力ある戦車戦を参考にしています。今回の超重戦車《オイ》を提供してくれた同志炒り豆さん、ありがとうございました。

灰田「R.U.S.E.に伴い、各超重戦車《オイ》の資料及び、『超海底戦車出撃』に登場した空中戦艦《新富嶽》の自己修復機能なども加えています」

因みに超重戦車《オイ》を初めて知ったのは、ワールドアドバンスド大戦略シリーズ『鋼鉄の嵐』と『作戦ファイル』ですね。ただし試製ですから弱いです。
しかし、外観は格好いいですから好きな戦車です。
つじーんなどの意見が通っていたら、三式戦車、四式及び五式戦車の登場が早ければ、六式及び、七式戦車と言った後継戦車も登場していたかもしれません。

灰田「因みに私が介入した世界では、四式及び、五式戦車に続き、『超日米大戦』では六重式戦車、『超海底戦車出撃』では巨大海底戦車《海龍》も登場しています」

因みに、どれも最強です。
海底戦車《海龍》は、伊400型並みの大きさです。
100mm砲と、20mm機関砲を搭載。その名の通り、潜水艦のように潜れ、最大深度1000メートルまで潜航が可能な海底戦車です。
最初読んだ時は、某海底軍艦かなと思いました。

灰田「ほかにも、ドイツの巨大戦車《ラーテ》など色々な戦車が登場する架空戦記もあって、個性豊かで面白いのがミソですね。因みに《ラーテ》は、荒鷲の大戦に登場しています。しかも米国とドイツ・ワイマール共和国共同製造し、ロシア内陸で暴れまわりました」

長くなり兼ねないので、次回予告に移ります。
次回は、鳥嶋たち連邦軍を陸海空による掃討作戦に伴い、これを機にして中岡大統領たちに、またアクシデントが起きますのでお楽しみください。

灰田「なお、同時連載『第六戦隊と!』の連載もお楽しみくださいませ。私がとある回に出ていた?果てどうでしょうかね?」

北海道大戦車戦編から、またマリアナ諸島での最終決戦に戻りますので、最終回まで頑張ります。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百三十九話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百三十九話:北海の咆哮

お待たせしました。
1ヶ月も待たせてすみません。
イベントなど色々とありましたので遅れました。

灰田「二期の初めてイベント、みなさん大変お疲れ様でした。今回も架空戦記ネタがありました所以、新たな装備、そしてミニイベントこと秋刀魚漁も始まりましたね。これからどうなるかは楽しくて奥が深いですね」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



釧路海域沿岸部

時刻 1435

 

十勝及び、木曾を筆頭とした郡司艦隊は、釧路沿岸部地帯や市街地にいる連邦軍を掃討する。

彼女たちだけでなく―――

 

「我々モアノ提督ニ借リヲ返サネバナ。同時ニアノブタゴリラ大統領ニハ、タップリト御返シセネバナ」

 

冷静な表情で言いつつも、内心では連邦軍に対し怒りを込み上げる戦艦水鬼は、空母水鬼たちと共に日本連合艦隊の一員として出撃した。艦載機には敵味方識別装置搭載に伴い、各機体には緑色の塗装と日の丸が施されている。

郡司は、『まるでHALOみたいだな』と呟いた。

今まで敵対していた者同士だったが、今はこうして奇跡の共闘で連邦軍を駆逐している。

 

―――不思議ダナ、コウシテ共闘シ合ッテイルコトガ。

 

戦艦水鬼は呟いた。

彼女や彼女の派閥の深海棲艦たちは、中岡大統領率いる連邦軍の目論んでいた世界征服の暁には自分たちを食肉用家畜のように殺処分される運命だった。

ろくでなし大統領こと、中岡大統領たちと同じ穴のむじなだったとは言え、戦艦水鬼は心の底から後悔していた。共通の敵だった艦娘たちを葬ることを条件に軍事同盟を結んだものの、実際は日本征服、挙げ句は世界征服を正当化した世界の混沌を、自分たちとともに戦い抜いた仲間たちを生け贄にさせたこと。

そして、長い戦いを終わらせたい一心で、道を誤ってしまったことに深く後悔した。

だからこそ、自分たちの蒔いた種は、自分たちで摘むべきである。

 

「全艦、私ニ続ケ!獣ドモヲ蹴散ラスゾ!」

 

『ハイ、水鬼様!!!』

 

彼女とともに、空母水鬼たちも後に続いた。

 

「全主砲、一斉射!てぇーーー!」

 

十勝号令一下、ライフリングが刻まれた41cm連装砲から炸薬により、灼熱の焔に包まれ、白い発射炎を吐き出した三式弾が撃ち放たれた。

 

「俺たちも撃つぞ!てぇーーー!」

 

抜刀する木曾に担い―――

 

「行くよ!てぇー!」と五月雨。

 

「合点だ。撃ちまくるよ!」と涼風。

 

「きひひっ。よーし、やったるぜぇ!」と江風。

 

「撃ちます、てー!」と海風。

 

「撃つよ。てー!」と山風。

 

随伴艦を務める五月雨たちも連装砲を撃ち放つ。

15.5cm三連装主砲、12.7cm連装砲C型改二、長10cm連装高角砲が立て続けに撃ち放たれる。

1発ごとの威力は到底大型艦船相手ならば敵わないが、敵地上部隊相手にはうってつけだ。

しかもタタタッ、と、リズムに合わせた連射速度で撃ち続け、残りの連邦上陸部隊を蹴散らしていく。

 

「ドブネズミドモヲ蹴散ラセ!全門一斉射!」

 

『テェーーー!!!』

 

戦艦水鬼の号令に伴い、戦艦棲姫、重巡棲姫たちなど各深海メンバーたちも各主砲を一斉射した。

各砲口から叩き出された砲弾は、毎秒60回転を与えられて大気中を突き進み、轟音を上げて落下する。

形容した大音響を上げて大地に突入した各砲弾は、連邦砲兵陣地と歩兵部隊をいとも容易く薙ぎ払った。

 

「祥鳳攻撃隊発艦!」と祥鳳。

 

「新653空、発艦、始めてください!」と瑞鳳。

 

「戦闘ヘリ部隊の皆さん、やっちゃってください!」と千歳。

 

「護衛隊も戦闘ヘリ部隊も、千歳お姉に負けないようにね!」と千代田。

 

『攻撃隊発艦!連中ニ恐怖ヲ刻ミコメ!』と空母水鬼たち。

 

水雷戦隊に引き続き、祥鳳率いる高速軽空母部隊の艦載機部隊―――艦戦《天雷改》及び、各種の戦爆型《轟天改》に伴い、AH-64《アパッチ》攻撃ヘリに混じり、空母水鬼たちのたこ焼き型艦載機部隊が、連邦上陸部隊を空爆及び、機銃掃射をお見舞いする。

特に後者の場合、猛烈な空爆及び、機銃掃射をしこたま連邦上陸部隊に喰らわせたが。

 

海上だけでなく―――

 

「夏ノ戦、初メテミルカ?」

 

戦艦水鬼たちより、一足早く上陸した港湾水鬼を筆頭に陸上深海メンバーたちは両手を、ポキポキ、と、心地良い指鳴らしをし、睨みを利かせて対峙する連邦上陸部隊に威圧感を与えた。

 

「連邦アーマーは絶対防御だ!貴様らの攻撃など効かんぞ!!俺のバールとゲバ棒で殺してやるーーー!」

 

右手にバールを、左手にゲバ棒を携え、全身を対爆スーツ及び、ハズマットを纏った連邦軍兵士たちが突撃して来た。直後―――

 

「他愛ナイ!」

 

『うわあああ!!!』

 

港湾水鬼のひと振るいで、呆気なくはね除けられた。

 

「死ね!中岡大統領様の裏切り者、例えガキでも容赦しないぞ!」

 

「慈悲深く連邦的優しさだと思え!」

 

連邦歩兵指揮官と副官が、北方棲姫にゲバ棒を振り落とそうとした瞬間―――

 

「貴方タチ、ヨクモ可愛イホッポニ……!」

 

「姫様ニ刃ヲ向ケテ……」

 

「只デ済ムト思ッタラ大間違イヨ?」

 

港湾棲姫・飛行場棲姫・離島棲鬼たちなどの逆鱗に触れてしまい、哀れな連邦歩兵指揮官と副官は、死よりも辛い鉄槌がくだされた。

 

『降参降参降参!もう降参するから許して!!!』

 

港湾水鬼たちの威圧に堪えきれず、連邦軍兵士たちは両手に携えていた銃器及び、重火器を放り投げて、彼女たちに見えるように、その両手を上げて降服した。

やがて内地からやって来たアイズ大将が搭乗する超重戦車《オイ》を筆頭に北海道戦車隊及び、守備隊に追い詰められ、敗走した連邦歩兵部隊の生き残りも次々に降服した。

生き残った彼らはほんの一握りに過ぎず、本当の戦闘を体験し恐怖のあまり、ようやく戦場に立てるのが精一杯、そして表情すら絶望の淵に立たされた挙げ句、顔を青ざめていた。

非武装相手に対し自分たちが無敵と自惚れた挙げ句、戦争は楽で愉快なもの、と思い込んでいた。

そして『サンタクロース作戦』自体を、彼らはバカンスにでも来たつもりだったのだろう。

同時に、自分たちの異を唱える者たちを虐殺に虐殺を繰り返したため、誰もが同情することはなかった。

可愛そうとは思わない。寧ろ、当然の報い。因果応報である。

 

「全車前進!連邦兵を拘束しろ」

 

西壱華大佐たちのT-72-120戦車部隊に続き、陸自の戦車隊、そして超人部隊と陸自歩兵部隊、ケルベロスたちが連邦歩兵部隊を拘束する。

港湾水鬼たちも協力し合い、捕虜たちを拘束する。

その光景を遠く離れた場所から隠れながら見ていた者たち―――鳥嶋・桝山は舌打ちをしながら見ていた。

 

「っち。役立たずのゴミどもが」

 

「本当ですよ。役立たずは馬鹿な都民とアンドルフの犬どもで充分ですよ」

 

「……ともあれ、ここから脱出しなければな」

 

鳥嶋たちはネズミのように隠れ進み、なんとか海岸付近に辿り着いて、漁港に放置されている適当な漁船を盗み出して沖合まで脱出、その後は救難信号を送り友軍潜水艦に救出して貰うまで沖合に待機する、と言う脱出方法である。

 

「私は諦めんぞ。必ず中岡大統領様たちとともに形勢逆転のチャンスを掴み、日本を再び占領下に置いた時は『日本連邦人民共和国建国の父』として復活してやる。日本は中岡大統領様たちの物だ!」

 

「私は総督になった暁には、私を追い込んだヘイト日本人どもを人民裁判に掛けて、私のナイフで屠殺場行きの豚どものように刺殺しまくりますよ」

 

ふたりの会話に堪り兼ねたドライバーが口を開いた。

 

「そろそろ脱出致しましょう。敵が来る前に」

 

脱出用自動車が無き今は鳥嶋たちの護衛兵として務めている。優秀な秘書としてあらゆる車輌及びヘリ操縦技量も豊富且つ、護衛兵としても優秀。

北朝鮮の工作員のようにひとりで5人も相手に出来るほどの実力も兼ね備え、身の回りの世話もこなす女性秘書官でもある。

 

「分かった。覚えてろ、ジャップども。必ず中岡大統領様の予言通り、今すぐに神罰が……」

 

鳥嶋たちは、静かにこの場から立ち去ろうとした瞬間―――

 

「神罰ガ下ルノハ、ドブネズデアル貴様ラノ方ダガナ」

 

その声に鳥嶋たちは、ゾッと悪寒がした。

おそるおそる振り返ると、禍々しい雰囲気を伴い、鋭い刃物を尖らせたように睨み付ける戦艦水鬼がいた。

なお、彼女は冷静な表情を浮かべていた一方、鳥嶋・桝山は冷や汗を掻き、青ざめた表情を浮かべていた。

ただし、女性秘書官は躊躇うことなく、戦艦水鬼を射殺しようと両手に携えた95式歩槍を構え、ハンドガードの下に装着されたM320グレネードランチャーの引き金に指を掛けた直後―――

 

「遅イ!」

 

戦艦水鬼の一言。彼女の相棒、深海艤装の拳が、勢いよく女性秘書官の頭上に目掛けて振り落とした。

地面に震動が伝わり、女性秘書官がいた場所は脆くもガラスのようにひび割れていた。

深海艤装は、ゆっくりと自身の拳を上げていく。

その手には鮮血がこびり付いており、巨人の拳にはめり込まれた地面から引き揚げられた死体は、まるで蚊を押し潰したように原型をとどめなかった女性秘書官の死体が姿を現した。もっとも死体と言うよりは、もはや肉塊でもあるが。

 

「サテ……貴方タチモコノ哀レナドブネズミノヨウニナリタイカシラ?降伏スレバ捕虜トシテ丁重ニ扱ウワヨ?」

 

戦艦水鬼が言った。

これを聞いた桝山は顔を紅潮して、懐から数本のナイフを取り出して投げつけた。

しかし、戦艦水鬼の深海艤装の巨大な両手が、彼女を覆うように守り、桝山の攻撃を防いだ。

 

「中岡大統領様は間違ったことなどしていない!間違いはアンドルフの犬どもと、馬鹿な裏切り者の貴様らだーーー!」

 

桝山は右手に大型サバイバルナイフを取り出し、怒りにまかせると同時に、通り魔殺人のように狂気に満ちた表情を浮かべてナイフを振り回した。

しかし、戦艦水鬼は余裕の笑みを見せつけた直後、勢いよく掌全体を突き上げて桝山の顔をつかみ、指先で握力を使って締め上げた。

 

「相手ヲ殺スナラサッサト殺ス。戦場デノ無駄口ヲ叩イテイル暇ナゾナイゾ」

 

説教を終えた彼女は、桝山の顔を握り潰した。

戦艦水鬼によりリンゴを素手で握り潰したように、頭を至極簡単に握り潰され、桝山は首なし死体と化した。

足場に落ちたそれは、数秒ほど痙攣を起こした。

 

「……」

 

戦艦水鬼は、無言で右手に付着した血糊及び、脳漿を払い除けた。

彼女は見下ろし、その首なし死体を見ても躊躇することはなかった。寧ろ因果応報。当然の報いだ、と、呟いた。

 

「次ハ、貴方ノ番ネ」

 

戦艦水鬼が言った。

 

「ひいぃぃぃ!く、く……来るなぁぁぁ!」

 

それを見た鳥嶋は、悲鳴を洩らしたと同時に、恐怖のあまり、その場に尻餅を付いた。

鳥嶋は腰から素早く護身用と携行している、2丁のコルト・アナコンダを引き抜き、そして発砲した。

しかし、恐怖に支配されているため全て戦艦水鬼に当たることなく、瞬く間に2丁のコルト・アナコンダのシリンダーに内蔵された.44マグナム弾を全て使い切った音が空しく鳴り響いた。

 

「ひいぃぃぃ!」

 

再び情けない悲鳴。目の前に聳え立つ戦艦水鬼を見た鳥嶋は立ち上がり、全力で逃げようとした。だが、彼女がそう簡単に見逃すはずもなかった。

 

「何処ヘ行コウトイウノカシラ?」

 

彼女は思いっきり、鳥嶋の両脛を潰した。

 

「ぎゃあああああああ!」

 

両脛を潰された彼は、悲痛な悲鳴を上げた。

全身が地面に叩き付けられる。

 

「指揮官ノ癖ニ情けケナイワネ」

 

不敵な笑みを浮かべる戦艦水鬼が、刻々と近づく。

鳥嶋は立とうとしたが、両脛とも折れているため、そのまま転倒した。

 

「ならば……草木を使って這ってでも……」

 

「逃ガサナイワヨ」

 

彼女の一言で、背後にいた深海艤装が鳥嶋を逃がさないように巨大な手で取り押さえる。ただし、すぐに殺さないように加減はしている。

 

「ひいっ。頼む、殺さないでくれ!命だけは!命だけは!」

 

鳥嶋は命乞いをした。

 

「ソノ言葉デ今マデ、私ノ仲間ヤ命乞イシタ者タチナドノ声ヲ聞カズニ殺シタ癖ニ、イザトナレバ自身ガ命乞イトハネ……」

 

「違う。中岡大統領様の命令で仕方なく。それに私は多く殺していない。それに多くの北海道市民たちを虐殺したのは桝山たちだ!」

 

責任転嫁。戦艦水鬼の言葉に、鳥嶋は自分は悪くない、あくまで命令だから実行したまでだ、と自己弁護を繰り返した。

一応、彼の最後まで聞いたものの彼女は無言で冷たい表情を鳥嶋に向ける。

 

さすがの鳥頭並み且つ、私腹優先な鳥嶋も察した。

このままでは屠殺場の食肉用家畜のように殺され兼ねない、と察した彼は―――

 

「本当に後悔しているし、反省もしている!だから頼む!私を見逃してくれ!見逃してくれたら一生遊べるだけの資産を、いいや、私の妾として衣食住を約束しよう!私が直々に中岡大統領様の赦しを請うように約束する。そうすれば、中岡大統領様の恩恵もあれば、私の妾として!妾としての至福、これ以上にない幸せを約束する!悪くない取り引きだろう?」

 

「………取リ引キネ」

 

戦艦水鬼は、短く呟いた。

しかし、彼女は、フッ、と失笑した。

 

「断ルワ。アノブタゴリラ大統領ノ恩恵ヲ受ケテ再ビ利用サレテ捨テラレル事ニ変ワリナイ。ソレニ私モ意志ガアリ、優シインダ。オ前ノヨウナ操リ人形デモナケレバ、深海的優シササ……」

 

彼女は、憐れみに伴い、冷血な瞳で彼を見下ろした。

取り引きを断ったことに、鳥嶋は顔を豹変しながら、憎しみの怒鳴り声を放った。

 

「……貴様、今から地獄を見るぞ!私を殺しても中岡大統領様の御力、我が連邦の神罰の前でひれ伏すが―――」

 

「我々ヲ見クビルナ!」

 

戦艦水鬼は、鳥嶋の顔面に蹴りを喰らわせた。

鳥嶋は諸にそれを喰らい、彼は意識を深く失って気絶したのだった……

 

 

 

「……うん、ここは?」

 

鳥嶋は、意識を取り戻した。

潮風に伴い、冷たい海水の飛沫も浴びている。

そして風景は日没前、オレンジ色に染まった夕日であることに気づいた。

 

「私は、一体……」

 

何処にいるのか、と見下ろすと、自分たちが乗艦した巨大輸送潜水艦《プロジェクト621》の甲板だった。

自身は艦橋部分にある潜望鏡に括り付けられていた。

空中に浮いているのか、と思ったが、空中浮遊が出来た理由は自身の身体には、鎖で拘束されていたからだ。

しかも、そう簡単に外れないように徹底的に溶接作業が施されており、いくら暴れても振りほどうこうにも、空しくもがいくしかないのだった。

 

「助けてくれ。誰でも良いから助けてくれ!助けたら多額の報酬をやる!頼むから誰か!」

 

鳥嶋は、なおも壊れたラジオのように叫び続けたが、聞く者は誰一人もいなかった。

磔にされた彼を助けるほど、郡司たちも優しくない。

戦前から戦後まで反日且つ、親ソ中派などを掲げたろくでなし反日新聞はカンボジアの独裁者―――ポル・ポトの虐殺行為に関して、『アジア的優しさ』と主張したのである。最近では現在のホロコーストとも言われる中国のウイグル人虐殺行為ですらも『民族融和せよ』と言い、虐殺行為を称賛している。

 

そんな連中を助けること自体が、お人好しなのだ。

常に加害者視点と加害者の人権が優先、そして被害者面する加害者の特権を与えること自体間違いなのだ。だからこそ、彼らの心酔する『○○的優しさ』を実行しているだけなのだ。

 

「サテ……覚悟ハ良イカシラ?」

 

フフフッ、と不敵な笑みを浮かべた戦艦水鬼は巨大輸送潜水艦に近づいた直後、躊躇うことなくガシッ、と艦首を思いっきり掴んだ。

その部分から、メキメキッ、と軋む音が響く。

静かに深呼吸をし、呼吸を整えた彼女はいとも軽々と巨大輸送潜水艦を持ち上げた。

 

「わあ、何をする!止め―――」

 

鳥嶋の言葉に、耳を貸すことなく―――

 

「ゴミハゴミ箱ニ!連邦軍ハ地上ノ地獄ニ!」

 

戦艦水鬼は、鳥嶋の最後の言葉を聞くこともなく、巨大輸送潜水艦を思いっきり投げ飛ばした。

弾道ミサイルの如く、空高く投げ飛ばされ、姿を消したのだった。

 

「……」

 

見送った彼女は―――

 

「……フッ。吹ッ切レタワ」

 

成し遂げた証として吹っ切れた表情を浮かべ、額の汗を拭った。なお、深海艤装も同じく。

これにて万事解決、と思いきや―――

 

『水〜鬼〜様〜!!!』

 

空母水鬼たちが、ジト目で言った。

 

「エッ、ナニ?ミンナ?」

 

「ナニジャナイデスヨ!」

 

「ゴミヲ海ニ捨テタラ、イケナイジャナイデスカ」

 

「ドブネズミドモノ汚染物質デ海ト……」

 

「プランクトンガ可愛ソウジャナイデスカ」

 

「秋刀魚モ可愛ソウ!マグロモ可愛ソウ!」

 

彼女たちの正論に対し、戦艦水鬼は『しまった!』と口ずさみ、その場で落ち込んでしまった。

感情のあまりつい大人げないことをしてしまった、と深く反省した……

 

「大丈夫さ。同志諸君。さっき取り付けた発信器の予測では、グアム島当たりに着地するから」

 

『エッ?』

 

郡司の一言で、戦艦水鬼たち全員が唖然とした。

 

「着地後には、さらにプレゼントも……」

 

郡司が上空を見上げ、それにつられて彼女たちも見上げると、渡り鳥の如く、編隊飛行を組んでいるステルス重爆こと、Z機部隊がグアム島に向かって飛行する勇姿が見られた。

 

―――アレガ我々ヲ苦シメタ、ステルス重爆カ……

 

戦艦水鬼たち全員は、夕陽に染まり飛行するZ機部隊を、彼らを見送る形で、自然に敬礼を交わしていたのだった……




今回は一部変更して、なんだか昭和のアニメの如く夕陽に包まれた雰囲気、戦い終えた一同がZ機部隊を見送ると言う場面で終わりました。

灰田「架空戦記ネタとして、北海道戦は日本最大の陸戦且つ、終盤戦に近づく展開でもありますからね」

そして今回は深海メンバーとの共闘も書けて良かったですし、こういう風になるかなとも思い描けたことも楽しめて良かったです。

灰田「最後のオマージュも楽しめましたね。某有名漫画の台詞や場面ですが」

ゴジラ小説『怪獣黙示録』のように色々とあり、私も楽しんでいますけどねw 東宝特撮作品が登場していますからね。轟天号が純粋な潜水艦になり、モゲラが地底戦車などになっていたり云々。

灰田「本作品も田中光二先生及び、コラボ作品など登場していますからね。私の超兵器なども」

あとは、私の好きな作品などもですね。
次回もネタがありますからね、オリジナル展開として楽しんで行かないと損ですからね。

灰田「そうですね。では、次回予告に移りましょう」

次回は北海道戦から打って変わり、再びマリアナ諸島に戻りますが、グアム諸島に災厄が降り注ぎます。
その災厄は御察しの通り、黒死病の如く、グアム諸島にいる連邦守備隊に襲い掛かります。

灰田「なお、同時連載『第六戦隊と!』の連載もお楽しみくださいませ」

北海道戦も終わり、次回から再びマリアナ諸島編に戻りますのでお楽しみくださいませ。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百四十話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百四十話:Return to Sender 《送り主返送》

お待たせしました。
予告通り、北海道戦から打って代わり、マリアナ諸島海域に戻ります。同時に災厄が連邦軍に襲い掛かります。

そして前回間違えて、百四十話でした。
申し訳ありません。

それから遅くなりましたが、2015年10月16日の投稿に伴い、皆様の応援で……

灰田「本作品は今年で3周年を無事迎えました。これからも本作品をよろしくお願いいたします」

同時に、秋刀魚漁イベントも無事にクリアしました。
GFCS Mk.37が強く、命中率も高くて有り難いです。
缶詰めも3個出来ました所以、あとはネジや資材に代えました。やりました(加賀ふうに)

灰田「では、気分を改めて……」

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』



グアム諸島

時刻 2055

 

北海道解放作戦こと、連邦軍作戦名『サンタクロース作戦』が実行されて数時間が経過した。

サイパン諸島が日本軍に占領されてから、グアム諸島の連邦軍も緊張感が日々増していた。

次は自分たちが、日本軍と戦う番だと思うと、誰もが緊張感を無くすこと自体が無理である。

喉の渇きは癒えず、食事を取っても空腹状態で満たされない、吐き戻す者たちなどが多かった。

しかし、彼らは知らなかった。

訪れる終焉の瞬間、空から降り落ちる災厄が来ることすらも……

 

「おい。差し入れ持って来たぞ」

 

「ありがとう。助かる」

 

とある連邦指揮官が、同僚のために酒保で購入した差し入れを持って来た。

彼ら連邦軍は、反日意識が強いにも関わらず、購入して持って来た各種類のカップ麺や菓子類などは、全て日本製である。建国前に物質の横流しなどを繰り返し、彼らにとっては『最高の戦利品』とも言えるこの嗜好品にありつけた。

しかし、連戦連敗を繰り返した挙げ句、今では日本製食品及び、嗜好品も貴重品になりつつあるため、上官クラス及び、物々交換でなければ購入出来ないほどだ。

それらの代用品として大量にあるのは、アメリカと一時期同盟を結んだ際に、大量に購入した米軍制式の戦闘糧食『MRE』や、スイス軍の『カンプラシオン(戦闘糧食)』を模倣し、市販品を軍用に包装されたもの、外国製煙草などの嗜好品で凌いでいるが、やはり日本製が一番だと思う連邦軍兵士たちも多いのが現状である。

 

「日本製食品及び、嗜好品が少なくなって来やがったから困るぜ」

 

「なあに、我々が日本に勝ったら、いくらでも日本製食品や嗜好品など飽きるほどありつける」

 

「それもそうだな。同志大林」

 

「ああ。同志鈴木」

 

ふたりは、他愛のない会話を交わし、早速購入したばかりのカップ麺に湯を注ぎ入れる。

本来ならば、蓋を止めるシールを使用するが―――

 

「カップ麺の蓋を止めるのは、これだ!」

 

大林中将が取り出したものは、安藤首相と言う名が刻まれた位牌である。これをカップ麺の蓋の上に置いた。

これも酒保に販売されており、悪趣味さながら、反安藤派の者たちによって作られたものである。

他にも今上陛下や元帥の位牌もあり、雛壇を射撃訓練用などもあるほど、民主主義も、文化も否定することも躊躇わないのだ。

 

「特製『安藤首相の位牌』だ。これでカップ麺の蓋を止めるのが面白いんだ!このマリアナ諸島などにあった全ての日本軍慰霊碑破壊したかのように面白いんだ!」

 

「ダハハハハハ。同志大林さん最高!アンドルフ・ヒトラーの位牌でカップ麺の蓋を止める役割って、アハハハハハ!レイシスト独裁者の位牌に相応しい役割だ!アハハハハハ!アハハハハハ!」

 

これを見た鈴木中将は、腹を抱えて爆笑した。

なお、彼が持っているカップ麺は『安藤おろしそば』と言うものである。

こうした悪趣味な小道具を販売及び、マリアナ諸島に奉られた日本軍慰霊碑なども全て破壊したことに対しても罪悪感はないのだ。

寧ろ開き直って、善意をしたことしか思っていない。

彼ら連邦軍に限らず、共産圏では神仏はおろか、あらゆる宗教が敵であり、自分たちは常に神だと自惚れているものだ。だからこそ、中共ではウイグルやチベットでの弾圧行為及び、強制収容施設を偽り、再教育施設に収容しているとしたうえで、彼らを拷問や虐待が行い、そして臓器を取り出し、密売行為など非人道行為すらも平然と行う。まさに現在のホロコーストである。

自称『リベラル』と言った者たちは、見て見ぬふりどころか、共産圏の『民族浄化』と言う名の虐殺行為及び、監視社会を見倣い、そして共産及び、社会主義を誉め称える者たちが集っている連邦軍にとっては、日常茶飯事だ。

 

「アンドルフ・ヒトラーたちは、カップ麺の蓋を止めるシールはおろか、値段もなども知らない低脳な連中〜♪」

 

「不都合な機密を隠蔽するアンドルフ独裁政権は地獄行き。連邦市民が望んでる〜♪」

 

『そして、日本軍は世界征服を企てる悪魔の軍隊で、我々は悪魔どもを成敗する正義の軍隊だ〜♪』

 

『サンタクロース作戦』は成功しているものと思い、浮かれ気分で侮辱を込めた歌い始めた。

彼らにつられて、非番の連邦軍兵士たちも勝利を確信して祝杯を楽しんでいた。

この作戦が成功したら、日本軍は泡を食い、サイパン諸島から兵を引き揚げ、手薄になった瞬間、奪還出来ると信じていたからだ。

 

仮にこのグアム諸島に日本軍が上陸しようとも、アメリカと共同建築した地下工場で各武器弾薬及び、兵器を1年ほど補充することも出来る。

さらに完成したばかりの人造棲艦製造施設も増設したおかげで、《ギガントス》や《ハンター》などの量産も可能である。

沿岸要塞やトーチカ、高射砲陣地なども設けており、サイパン諸島に配備されたものよりも優れている。

少数ながらも良質な戦闘機や戦闘攻撃機、爆撃機なども配備され、グアム諸島の防空能力も充分だ。

戦車や装甲車輌は無くとも、人造棲艦で補充出来る。

そう思う連邦軍兵士たちが、こう浮かれるのも無理もないのだった。

 

「今度は、日帝の位牌を使うぞ」

 

「アハハハハハ!アハハハハハ!いいねいいね。ますます酒が進むよ!」

 

その瞬間だった。

上空から特急列車の如く、勢いを増しながら巨大なものが落下して、グアム諸島に着弾した。

直後、島全体に巨大地震及び、津波でも襲われたように想像を絶する凄まじい震動が伝わった。

そして震動の影響を受けたため、各司令部及び、要塞陣地なども被害を受けた。たちまち島全体及び、地下施設にもサイレンが鳴り響き、警戒発令が促された。

 

《緊急事態発令!緊急事態発令!我が島に何かが直撃した!繰り返す。我が島に何かが直撃した!》

 

「なんだ。今のは!?」

 

「爆撃でも起きたのか!?」

 

「いや。爆撃ならば、俺たちは無事では済まされない」

 

大林と、鈴木は軽傷を負ったものの、無事であった。

辺りに散らばった差し入れ及び、自分たちの得物や装備品を確認する。すると―――

 

「なあ……この黒い壁、あったけ?」

 

大林が言い、鈴木が確認した。

 

「これ……壁じゃない。潜水艦の艦殻だ!?」

 

しかも見覚えのある潜水艦の艦殻に、大林は叫んだ。

 

「もしかして、これは……我が軍の巨大輸送潜水艦か?」

 

「でも、どうして!?北海道解放戦線、サンタクロース作戦に出動していたんじゃないのか!?」

 

彼らは知らなかった。

鳥嶋大将たち率いる巨大輸送潜水艦部隊《プロジェクト621》は北海道に上陸したものの、灰田の用意した超重戦車《オイ》や超人部隊などで編成された戦車師団により、強化された日本軍とともに、郡司・木曾率いる連合艦隊と、彼らとともに共闘した戦艦水鬼たちによって、『サンタクロース作戦』は完膚なきまで叩きのめされ、失敗したことに気づかなかったのだ。

そして止めと言わんばかり、戦艦水鬼によって、北海道から投げ飛ばされ、このグアム諸島に着弾したのだった。文字通り『ホールインワン』である。

同時に、グアム諸島に設けた要塞陣地及び、地下施設の工廠施設や防空壕天井などを貫通、破壊されたのだった。

 

『我が軍の解放戦線が破れたってことは……』

 

ふたりが顔を見合わせたときだ。

 

「……けて、頼む……誰でも……良い……から……」

 

途切れながらも助けを求める声。

ふたりは、この聞き覚えのある声だった。

大林と、鈴木は声の聞こえる方向に視線を移した。

 

『と、鳥嶋大将!?』

 

「お願いだ……私を……た、助けてくれ……頼む……」

 

鎖で括り付けられた鳥嶋が助けを求めた。

突入の影響で、彼の顔はおろか、身体中にも深い傷を負い、生きていること自体が奇跡とも言えた。

地下施設突入時に、鉄骨などが当たり、不運にも生き長らえながら、全身刃物で切り裂かれたような状態で見るに堪えがたい苦痛を鳥嶋は味わっているのだ。

もはや助からない、そう悟った大林は、腰に携えた拳銃を取り出して介錯をしようとしたが―――

 

《非常事態発令!非常事態発令!敵重爆部隊が上空到着!各員防空壕に避難せよ!繰り返す。各員防空壕に避難せよ!》

 

「避難しましょう、同志大林!」

 

「下手に動くより、ここにいた方が安全だ!」

 

「しかし……」

 

「大丈夫だ。我々には中岡大統領の御加護がある」

 

「……ああ、そうだ」

 

ふたりは、大人しくこの部屋に籠るようにした。

 

 

 

グアム諸島上空。

追い討ちを掛けんと、グアム諸島上空に到着したZ機部隊の空爆が開始された。

Z機の胴体に備えた爆弾倉の扉が開き、はるばると抱えてきた500キロ爆弾やGBU-28レーザー誘導地中貫通爆弾《バンカーバスター》、GBU-57A/B大型貫通爆弾が不気味なほど黒々と光りつつ、生け贄に捧げられたグアム諸島と、突き刺さっている巨大輸送潜水艦を睥睨する。刹那―――

 

『用意!投下!』

 

裂帛の気合いとともに、指揮官機のクローン搭乗員が投下レバーを押し込んだ。

束縛を解かれた各爆弾が、次々と虚空に躍り出る。

白々と降り注ぐ月光を浴び、解き放たれた航空爆弾は、夜の大気を切り裂きながら、グアム諸島に目掛けて降っていく。

尾部の安定翼に裂かれた大気が、悲鳴を上げた。

魔女の悲鳴にも似た響きとは趣が違い、聞く者たちの命を吸い取るような叫喚を鳴り響かせた。

ステルス重爆により、追い詰められた恐怖の戦慄を思い出させるように、連邦軍兵士及び、市民たちは肩を震わせながら、死の交響曲と表現した。

 

指揮官機に続き、後続機が次々と投弾する。

空爆すら防ぎようもない状態、めくるめく閃光に伴い、爆発音が重なった。

GBU-28やGBU-57A/Bの直撃を受けた要塞やトーチカの屋根が、高射砲陣地が、ひとたまりもなく陥没する。コンクリートで固められた各要塞の屋根をぶち抜いて、内部に到着後、内部爆発を起こした。

オレンジ色の爆発光を放ち、一瞬浮き上がり、継いで積み木細工を崩すのように崩壊していく。

 

むろん要塞陣地だけでなく、地下施設なども無事ではなかった。

 

「早く!早く!全員避難しろ!」

 

工場に働く連邦技術者や動員学徒を救おうと、警備担当者たちなどが必死に誘導した。

しかし、パニック状態且つ、我先に逃げ惑う工員たちが多く、上手く誘導出来ない。

彼らに容赦ない死の雄叫びを上げ、群れをなして降り注ぐ爆弾が、連邦工員たちの頭上から、殺意を剥き出して襲い掛かる。

 

コンクリートと鉄骨を一緒くたにぶち抜いて、稼働中の各機械類に突入する。咄嗟に降り仰いだ彼らの頭上に、打ち割られたコンクリートの塊が落下する。

それは老若男女問わず、無差別に一薙ぎに薙ぎ倒す。

倒壊した機械がベルトコンベアを粉砕、跳ね上がったベルトが連邦技術者たちを巻き込み、身の毛もよだつような異音とともに練り潰す。

 

「誰か、助けてくれ」

 

鉄骨の直撃を受けた熟練工員が、泣き出しながら助けを求めた。が、数秒後、工場の床に突き刺さったGBU-28の信管が作動する。

凄まじい爆発が、そこかしこで巻き起こる。

より強力なGBU-57A/Bが連邦が苦労して設けた工作機械類はおろか、生産ラインを構成するベルトコンベアを爆砕して、鉄骨とコンクリートの塊が入り交じった廃墟と化す。

 

燃え盛り、崩れ落ちるグアム諸島。

かつての楽園は打って代わり、煉獄の島と化した。

この地獄の中、生き残った者たちは、辛うじて各敷地及び、地下施設に設えた防空壕に身を隠す。

悪運強く大林と、鈴木はその場から動かず、に身を隠した。

 

「くそっ。俺たちがなにしたって言うんだ!」

 

「アンドルフどもめっ!非道な空爆を!無垢な連邦市民たちの命を奪いやがって!」

 

ふたりが、叫んだときだ。

偶然にも1発のレーザー誘導爆弾が、天井を貫通して、ふたりと虫の息だった鳥嶋大将、そして巨大輸送潜水艦の側に落下した。

 

『あっ……』

 

間抜けな声を洩らした後、爆焔が部屋中に拡がり、大林たちを巻き込んで、凄まじい閃光に包まれた。

不運にも爆発のショックにより、巨大輸送潜水艦に残った僅かな燃料が引火した。

 

その影響か、突然、グアム諸島が明るく輝いた。

幾つもの地上に設えた地下施設用換気口や排水口など、外部に通じる部分から発光した。

その全てから眩いオレンジ色の輝きが洩れ、内側から押し出されるように吹き飛んだ。

 

その後、眩い炎が吹き上がった。

さらに、それが合図ででもあったかのように、凄まじい爆発がグアム諸島全体を揺らし、地中をどよもす。

相次ぐ爆発音に伴い、眩い爆焔、天を覆い隠すほどの炎、地獄の業火に焼かれる連邦軍兵士たちの絶叫。

煉獄の炎が包まれ、かつての美しき諸島は異形と化し、巨大輸送潜水艦が突き刺さっていた場所が起爆したため、島の中心部は巨大な隕石が衝突したかのように巨大な穴が出来た。

地上にいたあらゆる生物や建築物などはおろか、地下施設すら影も形も何ひとつ残さなかった。

全て無になり、グアム諸島の守備隊は殲滅された。

歴史上、稀に見ない空爆のみで地上部隊を壊滅したのだ。米軍も空爆のみで降伏させようとしたが、結局は地上部隊を投入せざるを得ない状況になったが。

 

この出来事に上空に飛行するZ機部隊、サイパン諸島で駐屯していた秀真・古鷹たちはむろん、自衛隊やTJS軍、伊吹たちなども目撃した。

しかし、不思議なことに、マリアナ諸島周辺に津波は起こらず、グアム諸島のみに被害が止まった。

恐らく灰田がこれを予測して、事前にバリアでも張り巡らして置いたのかもしれない、と秀真は推測した。

グアム諸島が壊滅した今は、補給を整え、マリアナ諸島での最終決戦に備えなければならない。

 

 

 

マリアナ諸島。

むろん秀真たちだけでなく、マリアナ諸島にいる中岡や連邦軍もグアム諸島消滅を目撃した。

さらに北海道解放戦線こと、『サンタクロース作戦』とともにZ機部隊による空爆、無人偵察機による調査ではグアム諸島の守備隊壊滅に伴い、そして本諸島に設けた地下施設すらも失うなど、相次ぐ不幸な出来事に中岡は苛立っていた。

 

「……と報告及び、調査で分かりました」

 

貧乏くじを引いた報告係を務めた情報員が中岡に伝えたことが余計に顔を真っ赤に紅潮させた。

 

「そんな間抜けな報告をしたら、どうなるか思い知らせてやる!」

 

彼の怒鳴り声が響き渡るとともに、情報員を殴り飛ばした。殴り飛ばされ気絶した情報員は、秘書官が廊下に放り投げて退室させた。

苛立つ中岡を見ても何事もなかったように、彼女は冷静さを保つだけであった。

 

「いよいよ本丸となったか……いいだろう!我が島に来るがいい!地獄をとくと味あわせてやる!」

 

モニター越しに見える巨大な銅像、栄光なる自身をデザインした巨大ロボが映った。

 

「俺様に似て、ジャップのロボアニメに登場するロボットや怪獣王に似た機械怪獣よりも格好いい。もしもポンコツな両者がこの世に存在しても、俺様のロボットの方が最強!世界一の強さを誇る皇帝ロボでもあるのだ!」

 

別の映像では―――

 

「それに《ハンター》も人殺しどもの戦車及び、装甲車輌などの攻撃にも堪えられ、破壊力も格別だ!」

 

カプセルに収納されている陸上型人造棲艦《ハンター》は、さながら戦場の戦乙女や陸上型深海棲艦たちを模倣させている。

 

そして、最後の映像にて―――

 

「いざと言うときは、こいつで奴らを……」

 

巨影。異形とも言えるこの巨大兵器を見て、勝利を確信したかのように、にやりとした。

彼の期待に応えるように、その巨大兵器が備える鋭利なドリルが不気味に光っていたのだった……




前回にて戦艦水鬼さんが投げた巨大輸送潜水艦が見事に着弾し、Z機部隊の空爆に加え、グアム諸島壊滅と言う結果になりました。ほとんど消滅に近いですが。
所以に神罰でもありますが。

そして最後の秘密兵器はどんな兵器なのかは、しばしお待ちを。

灰田「因みに島が壊滅するネタは、『夜襲機動部隊出撃』の異形と化したガダルカナル諸島です。異形の怪物たちを消滅させるために特殊爆弾で消しました。
私のライバル、ミスターブラックも米軍に貸与し、日米共同作戦で消滅させました」

なお、今回のサブタイトルはCoD:MW3のキャンペーン、第二章のソマリアステージからです。
お気に入りステージのひとつであり、今回のサブタイトルに相応しく、実際に巨大輸送潜水艦ごと連邦軍に返送していますからね。
タブレット操作による攻撃ヘリの航空支援攻撃、ウキウキしました。

島の要塞化は、『不沈空母「硫黄島」』などからです。
史実なども交えています所以、連邦軍の場合は、突然の返送で活躍することなく、壊滅(消滅)しましたが。

灰田「島丸ごとバリアを張るのは、私にとっては容易いものです」

ようやく次回から、マリアナ諸島上陸作戦編、最終決戦の始まりです。3周年を迎えました所以、これからもお楽しみくださいませ。

では、次回予告に移りましょう。

灰田「次回からマリアナ諸島上陸作戦に移ります所以に、最終決戦の幕開けが始まります。双方の激戦且つ、連邦軍の秘密兵器も登場します」

なお、同時連載『第六戦隊と!』の連載もお楽しみくださいませ!

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百四十一話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百四十一話:マリアナ諸島の泣く頃に

お待たせしました。
予告通り、マリアナ諸島上陸作戦に伴い、最終決戦の幕開けが始まります。そして双方の激戦且つ、少しですが、連邦軍の秘密兵器が登場します。

灰田「同時に、古鷹さんたちも同じく私の技術でそれが明らかになります」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


マリアナ諸島海域

時刻 0600

 

グアム諸島消滅後、当然ながらマリアナ諸島に配備された連邦軍の緊張さは、より激しさを増した。

最後の砦であり、地上の楽園なのだから当然である。

最新鋭兵器に伴い、連邦軍は残り少ないM1戦車を含む貴重な高性能兵器を総動員させつつ、各要塞やトーチカ、鉄条網などと言った防衛設備で身を守りながら待ち構えている。

 

出来れば、海上撃滅が望ましい。

沿岸要塞などにも限りがあり、海上撃滅は難しい。

海上にいる海上要塞や僅かな深海棲艦、特攻ボート部隊で出来る限り侵攻を食い止め、上陸した敵軍は沿岸要塞などで出血を与えつつ、不利ならば内部で敵軍を引き寄せて撃滅する方針である。

海上及び、沿岸要塞部隊などは言わば、足止め部隊でもある。しかし、彼らは『崇高な中岡大統領様のためならば、喜んで死のう!』と言う部隊でもあった。

 

カルト宗教信者の如く、中岡たちのためならば命知らず且つ、死も恐れない。

それぐらい、狂信的な兵士たちでもある。

ジム・ジョーンズの人民寺院など、最終戦争で滅びるならば潔く散ろう、と決心も兼ねていたのだった。

 

「……しかし、なんや。この異常な濃霧は?」

 

金髪且つ、ヤンキーのような人物こと、第18海上要塞部隊指揮官を務める泉尾正治少佐は、この異常な濃霧を見て呟いた。

マリアナ諸島海域は雨期と乾期に分かれ、12月から6 月までが乾期、7月から11月までが雨期となる。

特に雨期において7月から12月は、台風(熱帯低気圧)が発生し停滞する地域でもある。

しかし幸運にも雨期だと言うのに台風は来ず、温暖な天候が続いていたため、濃霧が発生することは極めて異例だった。

 

「こんな湿気た天候じゃあ、せっかくの飯が不味くなってしまうぜ」

 

愚痴を零しながら、大盛りナポリタンを頬張る。

 

「うん、ウマイッ!やっぱサイコーやで!」

 

泉尾は先ほどの発言した愚痴さえ忘れ、満面な笑みを浮かべた。戦闘では悠長に食事は取れないため、早めに済ませておくことがセオリーである。

だが、戦闘前の食事は血の巡りを悪くし、さらに緊張のあまり吐き気に襲われてしまう。

負傷時には、これが原因で腸などが圧迫されて戦死し兼ねないこともある。

このような規律や知識不足に伴い、ベテラン指揮官が戦死したため、新人指揮官が務めている。

なお彼等は実戦経験はおろか、指揮能力なども低い。

 

「中岡大統領様たちの慈悲深さも知らん低脳なレイシストどもみたいなんが他所から来て、今さら中岡大統領様たちとワシらの楽園を潰せると思うと馬鹿なもんや」

 

「本当ですよね。あんな人殺したちが中岡大統領が実現しようと努める世界平和を踏みにじっているのですから」

 

泉尾の隣にいた副官を務める平野雄二大尉も同じく、食事を取りながら呟いた。

 

「ワシらが活躍すりゃ、ボケレイシストどもに一泡吹かせ、世界平和を踏みにじる日本軍の非道をネット中継すればきっと世界も分かってくれる」

 

「はっはっはっ!甘いなぁ、マサさんは!鹵獲した日本軍兵士の軍服を僕たちが着用して、収容した地元の売春婦たちを全員殺すくらいでなきゃ!」

 

「なっ、なんやと!そりゃええ考えやな!」

 

「でしょう?」

 

『ははははははっ!!!』

 

互いに顔を見合わせて、ふたりもだが、その話を聞いていた連邦軍兵士たちも高笑いしたときだった。

 

耳を聾する轟音とともに、爆焔混じりの水柱が高々と、天に向かって上がった。

直撃を受けた友軍の海上要塞が、船首と船尾を持ち上げて、ひとたまりもなく沈没する。

 

「なんや!今の!」

 

「敵の艦砲射撃です!少佐!」

 

泉尾少佐が叫ぶと、マストの頂上で見張りについていた兵士が、甲板に向けて叫び下ろした。

 

「くそっ!全要塞、深海ども攻撃せい!」

 

泉尾の号令一下。そのときになって、ようやく各海上要塞や深海棲艦たちから、各連装砲が放たれた。

しかし、射程距離はおろか、レーダー射撃すらも上手く機能しないため無駄撃ちに過ぎなかった。

同じく対艦ミサイルに関しても、いかせん目標に突き進むものの、全弾命中することなく消滅した。

敵護衛艦に全弾撃ち落とされた、または幻影なのか、と誰彼もが疑い始めた。

しかし、泉尾少佐たちはそのような奇跡は信じたくなかった。誰もが各兵器が整備不足で故障したのだ、と思っていたのだ。

そうでなければ、このような事態は起こらない。

整備不良さえなければ、必ず敵艦隊の数隻ほど中破ないし、大破させることが出来た。

 

「あとで整備士どもに、喝を入れんにゃいけんな!」

 

泉尾が苛立ちを隠せなかったときだった。

 

「マサさん!今度は飛行機の編隊です!機数……100機

以上、数え切れないほどです!」

 

「なんやと!?」

 

平野の報告を聞き、泉尾が慌てて双眼鏡を覗いたとき、陽光を跳ね返す各機体には、日の丸とともに、白い星や日の丸に似たラウンデルが見えた。

 

「っち!ライミーとヤンキーどもがカスレイシストどもに加担しよって!」

 

泉尾が叫ぶと、すでにジェット機に伴い、レシプロ機特有の各エンジンの轟きは間近に迫っていた。

赤城たち筆頭の日米英戦爆連合部隊などのジェット戦闘機やレシプロ機の凄まじさに驚かされた。

その中で特に一際目立つ機体、重戦闘機とも思わせる地上攻撃を得意とする艦上爆撃機、AD-4の編隊は、海上に舞い降りるなり、両翼下に抱えて来たハイドラロケット弾を発射した。

大量に吹き上がる白煙を靡かせる噴進弾は、死神が振るう大鎌の軌跡のように、対空ミサイルや機関砲、機銃を撃ち放つ海上要塞の横腹に突き刺さる。

直後―――海上要塞は炎を吹き上げ、大破した。

元々、輸送船を簡易に改装したに過ぎず、装甲は無きに等しい。たちまちロケット弾や投下された航空爆弾などが続けざまに命中する。

 

「おどれそうはさせんど、レイシストども!」

 

泉尾が罵声を込めて叫ぶと、彼は走り出した。

修復作業且つ、鎮火活動中の連邦兵士たちの群れを掻き分けて、自身はZU-23対空機関銃座についた。

せめて1機ぐらいは撃ち落としてやる、と、仰角を取り、上空を飛び回る猛禽類の群れを睨んだ。

 

「このマリアナ諸島海域は中岡大統領様と、ワシらの楽園やカスども!全機落ちんかこらぁ!」

 

「出ていけ!侵略者たち!」

 

泉尾と、遅れてやって来た平野大尉はSA-16携行地対空ミサイルを持ち込み、両者の怒りと罵声に混じり、反撃を開始した。自分たちの海上要塞が損傷してもなお、各部に配置されて生き残った各連射砲、各対空ミサイルや対空機関砲の奔流が、上空にいる鋼鉄の猛禽類たちに反撃する。が、泉尾たちが落とせたのは、F6F《ヘルキャット》と《烈風》各1機、《流星改》2機と《彗星一二型甲》1機だけであった。

僅かな空しい戦果と引き換えに、彼らの海上要塞にも最後の時が訪れてきた。

 

低空飛行する《天雷改》、対戦車機関砲を装備した飛行隊が、凄まじい砲撃をお見舞いした。

機関砲弾を浴び、甲板にいた泉尾たちごと肉塊に変えてしまい、魂のない肉体は灼熱の劫火に焼かれた。

なお且つ、彼らに報復せん、と、加賀の攻撃隊も急降下爆撃態勢に移り、両翼や機体下に抱えた500キロ爆弾の豪雨を浴びせた。か細い対空砲火を潜り抜けて爆弾が海上要塞に突き刺さる。

身動きの出来ない海上要塞に、加賀の《轟天改》部隊が放った航空爆弾が突き刺さった。

集中攻撃を受けた海上要塞及び、深海棲艦たちは、連合艦隊の艦砲射撃と、日米英戦爆連合部隊により殲滅されてしまい、水際撃滅作戦は失敗に終わった。

海上要塞部隊や深海棲艦たちに続き、海上で待機していた自爆ボート部隊すらも出撃前に、連合艦隊と日米英戦爆連合部隊により、殲滅された。

 

海上要塞部隊に似合わない、呆気ない最後だった。

あの神秘な宝石箱さながらに輝かせる美しい珊瑚礁が、エメラルドのように透き通った海岸は、今は鮮血で赤く染めつつ、吹き上がる火焔は、最後の段階に突入した戦いを象徴するかのように、濃霧が消え、そして降り注ぐ陽光が差したのだった……

 

 

 

「よし。古鷹や大和たちは砲撃続行せよ。徹甲弾装填!土佐たちは、第二次攻撃隊発艦後、第一次攻撃隊の《天雷改》やAD-4攻撃機など収容後、各機体の補給を済ませ、準備完了次第、艦隊防空と、攻撃隊発艦!

阿賀野や秋月たちも友軍上陸部隊の援護、対空警戒、吹雪たちは各員、対自爆ボート部隊や敵潜警戒に移れ!」

 

『はい!提督(司令官)!!!』

 

秀真の号令一下に、古鷹たちは返答する。

海自の護衛艦やTJS軍所属の由良たちも、あきつ丸率いる各上陸部隊の援護に務める。

 

「連邦軍は硫黄島の地下要塞、タラワ島などの掩蓋壕トーチカなどを模倣しているから、出来る限りロケット弾と、徹甲弾で潰しておかねばな!」

 

日米両軍の激戦地として、有名なタラワの戦い、硫黄島の戦いなどでも米軍は、日本軍が構築した地下要塞や掩蓋壕トーチカ攻略に手を焼いたほど苦戦したのである。

連邦軍も馬鹿ではない。サイパン諸島でも同じ構築物が多くあり、持久戦を挑んでいた。

今度も地下要塞や掩蓋壕トーチカなどによる持久戦に持ち込みつつ、総力を上げて、残された兵力に伴い、連邦軍の最新鋭兵器を投入すると、灰田が教えてくれたから間違いない。

その新兵器の性能も聞いたが、実際にこの双眸で確認しなければならないものだ、と、秀真は呟いた。

 

 

 

「侵略軍の上陸部隊が来たわ!」

 

秀真・古鷹筆頭の連合艦隊の猛攻を受けてなお、悪運強く生き残った女性連邦指揮官・辻井清美が叫んだ。

連邦軍からすれば、悪夢そのものだった。

自分たちの楽園が脅かされる、この瞬間が、終焉が訪れたと思うと、唖然としたのだ。

 

 

「……なによ、あれらは!?」

 

女性連邦指揮官・辻井清美は思わず叫んだ。

連邦軍からすれば、悪夢そのものだった。自分たちの楽園が脅かされるこの瞬間が、終焉が訪れたと思うと、唖然としたのだ。

直後、消えゆく濃霧から現れ、黄泉の国から舞い降りた死神の如く、彼ら連邦軍を黄泉の国から訪れ、伏して拝ませる終焉の影。

見覚えのある世界最大、最強の戦艦はむろん、海上に聳える二重の天守、塔のすっきりとした檣楼に伴い、平たい飛行甲板を備え付けた異形の戦艦、海上要塞に相応しい巨大空母など様々な艦船だった。

 

「なんで、あの侵略戦争で轟沈した日本海軍の艦船などがいるんだ!?」

 

「我々に劣るジャップどもは、いつの間にあんな短期間に大量建造したんだ!?」

 

「我々の楽園を破壊する気満々なのか!?」

 

秀真・古鷹筆頭の連合艦隊の猛攻を受けてなお、悪運強く生き残った連邦軍指揮官や兵士たちが狼狽した。

連邦軍が、知らなかったのも無理はない。

これも全て灰田が、転生する前の古鷹たち、前世の姿を従来よりも強化に伴い、彼女たち自身で艦を操舵出来るように未来技術で施している。

別世界では、メンタルモデルと言われているらしい。

濃霧で隠し続けたのは、連邦軍の戦意を削ぎ、士気崩壊起こすためである。

AD-4など新しい艦載機に加え、決戦前にも補充も施したことも抜かりなかった。

 

「我々は戦艦大和に対し、私たちは竹やりで戦っているものだが、我々の正義とともに一気団結すれば必ず勝てるわ!我々は連邦精鋭の関西生―――」

 

辻井は連邦国旗付きの竹やりを掲げ、正義の反旗を翻そうとした宣言した矢先、頭上から妖しく煌めく巨弾の群れが勢いよく降り注ぎ、やがて着弾した。

妖光が閃いた直後、意志を持ったかのように煉獄の業火が襲い掛かった。

 

「熱いよ!熱いよ!誰か水を!」

 

「死ぬ前に、天ぷらが食いたかったのに!」

 

「9条を土足で踏みにじる連中に神罰を!」

 

死に際に、各連邦指揮官たちが言い放った最後の言葉。虚しい言葉。これらが遺言となるが、誰もこの言葉を記憶することなどなかった。

戦死した辻井たちの代理を務める他の連邦指揮官たちは『日本軍の上陸部隊を迎撃せん』と、生き残った沿岸部隊の態勢を立て直さなければ、と必死だった。

しかし、その間にも日本軍は、各軍の歩兵や戦闘車輌部隊を乗せた大発や特大発、LCAC-1揚陸艇を次々と発進させた。彼らの上空には攻撃ヘリや艦載機部隊が、海上では連合艦隊が援護している。

秀真たちはタラワや硫黄島の激戦などで実施した米軍式の上陸支援砲撃や防御陣地への有効な砲爆撃法、上陸海岸の水深や潮位のデータ入手などで、いかに犠牲を少なく、敵軍の防備を固めたた要地を攻略する戦訓を活かした。この戦訓は大いに役立っている。

 

一方、連邦軍は戦略や戦術について歴史から学んでいるものの、全ては教科書通り。

あらゆる戦略や戦術での臨機応変にすることなど考えておらず、言わば筆記試験やテストでの満点を取ることしか出来ない烏合の集団しかなり得なかった。

中岡の口癖。全て精神論や根性論が叩き出されており、誰ひとり反論する者はおらず、全て中岡たちの言葉が正しいと思い込んでいたのだった……

 

「アンドルフどもの犬を殺せ!」

 

連邦政治将校・有山吉夫大佐は、戦死した辻井たちの代理を務め、自分の部隊に攻撃命令を下した。

中岡側近の指揮官たちの精鋭部隊は優遇されており、比較的質のいいM16A4やAK-74、RPG-7などを装備しているが、それ以外は質の悪い56式歩槍、個人所有の狩猟用散弾銃やライフルと言った銃器類を持った部隊はまだ良い方であり、まともな武器が行き渡らない新兵部隊、女性のみだけで編成された部隊などは飛び道具は弓矢のみ、あとは鎌、斧、鉄パイプ、ダイナマイト、手製の槍、竹やりなどである。

 

「出来る限り、レイシストゴキブリどもの侵攻を食い止めるんだ!」

 

有山の渇を聞いた連邦赤軍親衛隊は、殺意を膨れ上がらせながら、銃弾の豪雨を日本軍に浴びせる。

はらわたまで響く銃撃と轟音。銃弾や砲弾が立て続けに炸裂し、揺れる地面。リズムに合わせて噴き上がる土砂。誰もが耐えられるはずがない、と、誰もがそう思える光景だった。

 

「来るぞ!ピンピンしてやがる!」

 

「ゾンビだ!化け物だ!」

 

「撃て、撃てっ!」

 

土煙のなかから姿を現した不死身の兵士たちを見て、連邦赤軍親衛隊兵士たちは驚愕した。

50発の砲弾及び、1000発以上の銃弾が撃ち込まれたのに、死ぬどころか、迅速な動きを止めようとせず、海岸堡を確保、塹壕を跨ぎ、有刺鉄線を軽々と解除していく超人部隊を見た有山大佐は歯噛みした。

 

自分たちとともに、強制連行した地元民たちと苦労して拵えた塹壕や待避壕が役に立たなくなった。

噴き出している黒煙。土煙や炎、水蒸気によって視界が閉ざされた直後、要塞に似た戦車、超人部隊が操縦する超重戦車《オイ》や10式戦車、TJS軍のM1戦車隊などが次々と上陸し、報復せんと有山たちが籠城するトーチカなどに集中砲火を浴びせた。

上空からは、空を覆い尽くす鋼鉄の猛禽類を模倣させる各航空部隊が両翼下に抱えたあらゆる空対地ミサイルや爆弾などを投下、使い果たすと機関砲による機銃掃射で一掃する。

連合艦隊は、上陸部隊の障害物となる頑丈なトーチカはむろん、掩蓋に隠れた長距離牽引砲部隊や砲台要塞を見つけては、艦砲射撃などで破壊していく。

 

地上からは各口径の戦車砲、海上からは凄まじい閃光を放つ艦砲射撃、上空からは空爆日和とも言えるほどの爆撃の洗礼を受けたトーチカとともに、掩蓋壕や機銃陣地などは、攻撃能力を失う。

連邦赤軍親衛隊兵士たちは、日本軍が放った榴弾砲や空対地誘導ミサイル、機関砲などにより、頭部や身体を引き千切られ、側に設けた塹壕や待避壕にいた連邦軍兵士たちは、適当に造ったために、これが仇となり、不運にも生き埋めになり絶命した。

 

「……おのれ。ゴキブリどもめっ!」

 

悪運強く軽傷で済んだ有山は、憎しみの顔を浮かべ、日本軍を睨んでいたときだった。

 

突然と、地響きが鳴り始めた瞬間―――

 

『ブワアアアアアアーーー!』

 

何かの金属が擦れるような甲高い奇声。

それが木霊すると同時に、巨大な足音も鳴り響いた。

僅かな森林地帯に生息する動物たちが、迫り来る恐怖に耐え兼ねて逃げている。

日本軍の誰もが地震が来たと思いきや、有山たち連邦軍だけは様子が違っていた。

 

直後、その正体を現した。

大きさは20メートル、櫓のように高く、全身が金属塊で出来ていたロボットが姿を現した。

ただし、見覚えのある顔は印象的だった。

眼鏡型に型どった探照灯の下には、細くつり上がった両目や潰れ気味の鼻、両頬にはイボのようなそばかすまで気味悪く、独裁者らしく服装までも忠実に再現されていた。

 

『キエエエエエエーーー!』

 

女性の泣き声に似た奇声を発しながら現れたのは、欧州のギリシャ神話に登場する戦乙女『ワルキューレ』の如く、全身に甲冑を纏っている。

両手には武器を携え、さらに港湾水鬼たちが装備する深海艤装も兼ね備えていた。

 

「あれが、灰田の言っていた兵器か……」

 

秀真は、古鷹が出したCIC画面を見て呟いた。

さながら怪獣映画やロボットアニメに迷い込んだかのように思えた。直後―――

 

「提督。Mig-21率いる敵攻撃隊、現れました!およそ100機!」

 

古鷹が言った。

おそらく艦砲射撃及び、空爆させないための妨害部隊や自爆部隊だろう、と、秀真は悟った。

 

「上陸部隊には申し訳ないが、敵機を駆逐するまで堪えてくれ、と打電してくれ!」

 

「はい!」

 

秀真の号令に、古鷹は返答した。

最終決戦は、まだ始まったばかりとも伝えん、と、旭日旗とZ旗、双方の旗が靡かせたのだった……




今回は古鷹たちがアルペジオのように、メンタルモデル方式になりました。艦これMMDドラマ作品でもありますから多少はね。

架空戦記『第二次宇宙戦争』に登場する火星人が残した歩行戦車の大きさも参考にしています。
日米英がこれらを採用、自国の防衛として活躍しています。長門型は熱線砲、対空火器や防衛火器、自走砲なども熱線砲や、火星人が持つ猛毒の黒煙を無効にする兵器も登場しています。
連邦軍の新兵器ハンターはまだしも、あの気持ち悪いロボがね……

灰田「B級映画では、ナチスの残党が南極基地でヒトラーを、メカヒトラーとして改造したと言う映画がありましたからね。ここからヒントも得ました」

B級映画のナチスの科学は世界一ィィィ!と言うぐらい未来兵器登場しますからね。

灰田「因みにロボットではないですが、私も『超日ソ大戦』で装甲スーツ、言わばパワードスーツを貸与しています」

装備描写からして、CoD:AWに登場するASTスーツに似ています。私から見ればですが。

灰田「同連載作品にも後に登場させても良いかな、と……」

なにか言いましたか?

灰田「いいえ、別になんとも」

では、次回予告に移りますね(敢えて知らぬふり)
次回は、このポンコツロボたちを倒す回に伴い、新たな不吉な前兆の前触れが起きる回になります。
何時もながらですが、一部変更もある場合がありますが御了承くださいませ。

なお、同時連載『第六戦隊と!』の連載もお楽しみくださいませ!

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百四十二話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに

灰田「では、私はそろそろ『第六戦隊と!』での介入準備をしますね」

ネタバレ、やめて!


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第百四十二話:鉄血の巨魔

С Новым годом(あけましておめでとうございます)、同志諸君! 今年も本作をして宜しくお願いいたします。
何時もながら新年早々ですが、最新話を投稿することにしました。

灰田「では新年の挨拶が終わりますが、少しばかり予定を変更しますが、新たな不吉な前兆の前触れが起きる回になります」

では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


陸上型人造棲艦《ハンター》と、中岡に酷似した奇妙な戦闘ロボ《中岡ロボ》率いる鋼鉄の魔物たちが吼えると同時に、上空にはMIG-21やMIG-23などの鋼鉄の猛禽類たちが襲来して来た。

 

「戦車隊、前へ!」

 

「対空戦闘開始!」

 

各号令一下、襲撃相手を迎撃するのであった。

前者は上陸して来た日本軍に、後者は対艦ミサイルや航空爆弾、ロケット弾などと言った対艦兵装を装備して、海上にいる秀真・古鷹率いる連合艦隊に向けて殺到したことに対し―――

 

「あははは!さすがカリスマ性溢れ、容姿端麗な俺様に似たロボットとともに、さらに戦乙女ワルキューレと、役立たずの陸上型深海棲艦どもの艤装をモチーフにした艤装を装着した《ハンター》の勇姿は、いつ見ても惚れぼれするな」

 

司令部では、中岡は高らかに宣言しながら、忠秀たち率いる連邦赤軍親衛隊が用意した最高且つ、最高級の食材で作られたフルコースに伴い、演奏者たちが奏でるクラシック音楽とともに、この優雅な食事を楽しんでいた。

 

「このスープは海ガメか?」

 

「スッポンのコンソメスープでございます。中岡大統領閣下直々の御訪問に伴い、決戦の激励を記念、そして勝利の祝賀記念日を願い、メニューとして御用意しました」

 

湯気が立つほど芳醇な香りを漂わせ、スッポン独特の旨味やコク、各種の香草、野菜など複雑な味を持つスープを一口啜った中岡が尋ねると、側にいた連邦シェフが穏やかな口調で答えた。

 

「まさに俺様に相応しいメニューだな。オードブルのスモークサーモンも最高だったな」

 

「御満足いただけ光栄です。サーモンはスコットランド産を厳選し、上質なサクラチップでスモークいたしております」

 

「うむ。そうか」

 

中岡は唸りつつ、キンキンに良く冷えたワインを飲み干した。

空になったワイングラスに、女性秘書官はワインを注ぐ。

クラシック音楽を聴きつつ、簡易だが、司令部内装や調度はほぼ全てフランスなどの欧州製豪華客船にいるようなこの優雅な雰囲気に、中岡は大いに気にいった。

 

「次の料理はなんだ?」

 

中岡は訊ねた。

 

「次は甘鯛のポワレ・トマトソース添えです。サラダはイサキのサラダ・キノコ入り、肉料理は最高級の三田牛のサーロインステーキ、デザートは桃のチーズケーキでございます」

 

「そうか。我が最新鋭兵器の活躍を堪能しながらのフルコース、見事であるぞ。忠秀主席」

 

「光栄であります!」

 

彼の言葉を受けた忠秀は笑みを浮かべた。

 

「ブルート部隊の準備は、あとどのくらいだ?」

 

中岡が訊ねると、忠秀は答えた。

 

「あと少しすれば、ブルート強化兵部隊の準備も終えます」

 

「俺様の食事が終わる頃には、ブルート部隊が仕上げにジャップどもの上陸部隊も海に叩き落とされている頃だろう」

 

中岡は豪語しながら、シェフが運んで来た甘鯛のポワレ・トマトソース添えを食べ始めるのだった……

 

 

 

中岡たちが高みの見物をしていた頃、陸海空での戦いは、より激しさが増していた。特に陸上では鋼鉄の巨魔たちが上陸部隊を、悪ガキがアリなど小さな昆虫を面白いがって踏み殺すように甚振っていた。

 

「邪魔なんだよ!ゴキブリどもが!」

 

中岡ロボは、足下にいた陸自の10式戦車を一気に持ち上げ、腹いせにこれを思いっきり投げ飛ばした。直後、投げ飛ばされた10式戦車は脆くも破壊されて炎上した。

 

「ジャップの10式はブリキ缶だぜ!」

 

「おらおら!怪獣王ゴジラでも、人類最後の希望メカゴジラでも、ゲッターロボのような艦隊などでも連れて来な!」

 

「来てもすぐに返り討ちだ!なにしろ俺たちは超強いんだからな!」

 

『あはははははは!!!』

 

中岡ロボの操縦士たちは高らかに嘲笑った。

咆哮しながら口から放出する火炎放射、指先からミサイルを放ち、上陸部隊を苦しめた挙げ句、勝ち誇ったかのように勝利のポーズを取るなどして余裕だった。

彼らに続き、ハンターたちも強力な人造兵器だった。

彼女たちが持つその強靭な防具で身を包んだ巨大な体格、陸上型深海棲艦たちが持つ非常に強力な攻撃を誇る砲台などを兼ね備えた艤装で上陸部隊を攻撃し、歩兵や戦車隊から多数の攻撃を正面から喰らっても平然としていた。まさに戦乙女だ!

また撃滅及び、上陸部隊を助けようとする赤城たちの精鋭艦載機部隊、無人空母《アカギ》のステルス艦載機部隊、そしてあきつ丸たち率いる攻撃ヘリ部隊の攻撃すら怯ませることがやっとだった。

何れにしろ連邦軍が押し返しているのが現状であったことは間違いなかった。

 

―――っち。なんて頑丈なんだ。

 

CIC映像を見た秀真は短く舌打ちした。

灰田から貸与された土佐たちの最新鋭機AD-4艦上攻撃機のロケット弾や航空爆弾すらも怯まない両者の強靭な防御力に手を焼いた。

同時に上空で対艦攻撃を行おうとする連邦空軍の攻撃隊を阻止するため、対空戦闘や回避指示することに精一杯だった。

連邦軍パイロットたちの練度は、応援に駆けつけに来た航空隊―――

サイパン島から発進した基地航空隊と、赤城たちやアカギの合同艦隊防空隊からすれば、ヒヨコ同然だったが、闘志は健在だった。

古鷹たちが装備している五式信管装備の対空機銃や機関砲、各種の艦対空ミサイル、CIWS、上空にいる各直掩隊の攻撃などで犠牲が出ても彼ら連邦空軍は退くことはなかった。

 

自身の死や自滅を顧みず、刺し違えても相打ち覚悟する人間、狂信的になった人間の方が何よりも遥かに恐ろしい。

ソ連はむろん、北朝鮮や中国などの共産圏は人命を遵守しないことすらも知らず、人民を守る綺麗な軍隊と言う戯言を信じる連邦軍にとっては『綺麗な粛清』や『綺麗な殺人』と済ますだけだった。

中岡たちのために命を捧げれば、来世で永久の楽園で永遠の命と身体が手に入り、理想の自分になれる、と、本気で信じている。

カルト宗教の教祖や快楽殺人思考を兼ね備えるサイコパスとも言える中岡たちの洗脳を受けたも同然であり、だからこそ、平然と命を投げ捨てることすら厭わないのだ。

中岡たちは、そんな彼らのことは、自分たちに忠実な都合のいいゴミ信者や使い捨て部隊としか見ておらず、さらに自分たちを、第二のチェ・ゲバラやカストロと自惚れているのだった。

 

「っち!こいつはフルコースだな。外基地ロボにハンター、要塞陣地や連邦砲兵の阻止弾幕の次は、対戦車壕に機銃陣地、おまけにミグ戦だ。

俺たちが手を焼いている内に、上陸部隊が全滅しかねない!」

 

焦る彼を見た古鷹が言った。

 

「提督慌てないで、大丈夫です。焦ったら負けですよ!」

 

「古鷹……」

 

「いつも通り、私たちと心をひとつに戦い抜いたのですから、私たちを信じてください!」

 

「ああ。すまない。危うく取り乱し兼ねなかった」

 

「いえ。提督と一緒ですから、私は強くなれるんです!」

 

「そうか……」

 

古鷹の言葉を聞いた秀真は嬉しかった。

彼にとっても、古鷹や仲間たちがいるからこそ強くなれたのだ。

秀真は照れくさくなったため、誤魔化すように、こほんっ、と、軽く咳き込みをひとつした。

 

「古鷹……ありがとう」

 

「あっ、いや……私こそ戦闘中にこんな事を言うなんて」

 

「いや、俺は嬉しいさ。ここまで気遣ってくれて感謝している」

 

「はい。どういたしまして」

 

古鷹は笑みを浮かべた。

 

「俺たちならばできる。全てに打ち勝てると信じて、ここまで来たことを」

 

 

『その通りだ!(ソノ通リダ!)』

 

第三者の声とともに、木枯らしのような音を立て、飛翔する物体が秀真たちの頭上を乗り越えた直後、上空を飛んでいた連邦空軍機部隊を覆うように三式弾が炸裂した。

焼夷散弾を真っ向から浴びたMIG-21などの機体には、炸裂した散弾や破片の嵐が襲い掛かり、瞬く間に数十機が撃ち落とされた。

これに続き、白い機体と黒い機体、空母水鬼たちの深海艦載機部隊が残りの連邦空軍機を次々と撃ち落としていく姿が見えた。

文字通り予想もしなかったのか、第三者の襲撃を受けて反撃をすることなく、力尽きた連邦空軍部隊は戦果を上げることなく殲滅されるのだった。

 

『あ、あれは!?』

 

秀真と古鷹たちが声を上げた直後、CIC画面に映し出されたのは元帥率いる精鋭支援艦隊とともに、戦艦水鬼たちが映っていた。

 

「元帥!」

 

「それに戦艦水鬼さんたち!」

 

秀真と古鷹が言った。

なお、元帥が旗艦として、乗艦している指揮艦は長門だ。

彼女の秘書艦として務める長門自身も、妹の陸奥とともに出撃出来ることが何よりも嬉しく、胸が熱くなるほどだ。

大和や武蔵たちなどとは、また一味違う迫力ある黒鉄の城を連想させる前檣楼、凄まじい威力を放つ41cm連装砲を持つ姿は、戦場の戦乙女に相応しい。

 

「本当ならば、最高指揮官が最前線に出るのは禁忌だが、私も君たちと戦う提督であり、元帥として責任を担わなければな」

 

「私モ彼女ト同様ダガ、ナニヨリモ秀真提督、古鷹。私ハアナタタチニ借リヲ返スタメデモアリ、我々ヲ散々利用シタアノブタゴリラドモニ鉄槌ヲ下スタメ二来タ」

 

彼女たちの言葉を聞いた秀真と古鷹は、なるほど、と、頷いた。

 

「ありがとうございます。元帥、戦艦水鬼」

 

「私たちのためにありがとうございます!」

 

ふたりの言葉に、元帥と戦艦水鬼は双眸を落とした。直後、再び両眼を見開いて言った。

 

「私も秀真提督に続くぞ!全艦砲撃開始!」

 

「我々モ続クゾ。全艦攻撃開始!」

 

『はい(ハイ)!!!』

 

彼女たちに応えるように、長門たちは一斉に艦砲射撃を再開する。

キリキリ、と軋んだ音を立て、強靭な要塞のような砲塔が再び旋回、仰角を取り上げて、陸上で暴れている中岡ロボ及び、ハンターたちに狙いを定めた。

 

「撃ち方始め!てえぇぇぇーーー!」

 

元帥の号令一下、長門と戦艦水鬼たちが一斉射撃を行なった。

ライフリングが刻まれた各主砲からオレンジ色の爆焔に交じり、彼女たちの周囲からは荒波を思わせる衝撃波が加わった三式弾の群れは、流星群のように飛翔し、やがては隕石の如く、地上に落下した。

直後、着弾した砲弾に内蔵された焼夷散弾が炸裂した。

この災厄を、真っ先に地獄の業火を受けたのは、陸上型人造棲艦《ハンター》たちだった。

 

皮肉にも絶対防御として、身に付けたあの装甲甲冑が仇となった。

高熱が全身に素早く伝わり、甲冑は無惨に溶かされ、それが彼女たちの皮膚にくっ付いた感覚も伝わった。

灼熱地獄に堪えられず、発狂した各個体は、皮膚がこびり付いた甲冑を脱ぎ捨てたが、不運にも炎を余計に全身を纏い決して消せない火焔地獄を味わい、焔に包まれながら苦悶の表情を浮かべ、この世のものとは思えない苦痛に混じった奇声を叫びながら焼死した。

無事に生き残れた個体も、反撃のチャンスに移った上陸部隊の戦車隊や砲兵部隊、重火器を携えた歩兵部隊によって各個撃破された。

効果は抜群。灰田の言う通り、三式弾が攻略の鍵となった。

幸い、決戦前に駆けつけてくれた速水たちや各軍の輸送船団が大量の資材を補給したことにより、対策は施していることも忘れなかった。

 

同時に《ハンター》たちが撃破される中、中岡ロボ軍団は悪運強く、火焔地獄から遠ざかろうと後退し始めた。

この兵器も同じ弱点を持つことが証明された瞬間でもあった…

しかも彼らが後退したことにより、足下にいた味方の連邦軍部隊を構わずに踏み潰したていったため、せっかく編成し直した部隊や虎の子の兵器まで破壊し、次々と被害が出る一方だった。

 

「貴様ら下がるな!偉大なる中岡大統領閣下の前で醜態を晒すとは何事か!敵軍の笑いものだぞ!逃げる貴様らも同じ非国民だ!」

 

拡声器を携えた有山芳雄大佐が命じるも、パニックに伴い、三式弾の制裁から逃げようとする中岡ロボの操縦士たちには聞こえることはなかった。苛立った有山は、逃げる兵士たちを構わず撃ち殺した。

しかし、不運にも哀れな1体の中岡ロボが三式弾の直撃を受けた。

砲弾内に仕込まれた可燃性液体が機体に侵入、操縦士たちを炙り殺していった。それはまるで古代ギリシャ時代に設計された死刑装置『ファラリスの雄牛』のような光景だった。

この死刑装置は、有罪となった者を真鍮の雄牛の中に閉じ込めたのちに牛の腹の下で火が焚かれ、やがて真鍮は黄金色になるまで熱せられ、中の人間を炙り殺すという恐るべき死刑装置である。

しかも雄牛の頭部は複雑な筒と栓からなっており、苦悶する犠牲者の叫び声が、仕掛けを通して本物の牛のうなり声のような音へと変調されると言われている。

中岡ロボもその死刑装置と同じように、機内にいた操縦士たち全員の苦悶な叫び声が聞こえたが、やがて全員が焼死すると糸が切れ、力尽きた操り人形の如くゆっくりと倒れ始めた。

 

「貴様ら、それでも誇り高き連邦市民―――」

 

有山の頭上から黒い影が覆い被さり、それに気づいた彼はふと見上げた瞬間、黒炭と化した中岡ロボに踏み潰されて戦死した。

まるで虫を躊躇わず殺すように、呆気なく踏み潰されたのだった。

だが、連邦兵士たちは寧ろ清々する方だった。

史実ではソ連政治将校が指揮する部隊は、全滅することが多かった。

政治的権威が強いことを良いことに、指揮官を差し置いて余計な口出しで部隊を危険に晒してしまうから堪らない。

共産国家の軍隊は、敵軍よりもこの政治将校も恐れていた。

だか、再びパニック状態に陥った連邦軍を追い込もうと、態勢を整えた各上陸部隊とともに、最後の連邦空軍部隊を殲滅した秀真たちの報復の刻が来たのだった。

 

「残りの2体も片付けるぞ、古鷹!」

 

「はい、提督!」

 

 

 

思わぬ増援者たちと自慢の新兵器が破壊される光景を見た中岡は、言葉を失うどころか、顔を真っ赤に紅潮して憤慨していた。

 

「あの女狐と裏切り者どもめが!よくも俺様の自慢の新兵器を破壊しおって!」

 

中岡は激怒したあまり、料理を運んできたコックの右手をフォークで刺した挙げ句、空になったワイン瓶でコックの顔面に殴りつけた。

理不尽な八つ当たりをされたコックは死亡した。

中岡は鼻息を荒らしており、怒りが治まることなどなく、高らかに宣言した。

 

「全ブルート部隊投入しろ!時間を稼いでいる間、各なる上は俺様自ら相手になってやる!例の兵器を稼働させろ!」

 

秀忠とアンミョンペクは顔を見合わせた。

 

「お言葉ですが、大統領閣下!アレは一部の装甲に不完全な部分がありますが」

 

「それでも構わん!準備するのだ!」

 

『……分かりました』

 

怒りに支配された中岡を宥めるために、彼らは総動員して、例の兵器の準備をした。

 

世界を支配する蛇の名を受け継いだ兵器、今度こそ姑息なジャップどもを懲罰を、そして世界を我が手に、と、中岡は宣言したのだった……




今回は秀真たちが苦戦するも、元帥と戦艦水鬼率いる支援艦隊による胸熱及び、共闘回でした。
元帥たちの登場描写は、アニメの最終回を元にしています。
ややネタ投下したかな、と思います。
中岡ロボの操縦士たちは、『トランスフォーマー アニメイテッド』の敵キャラ、ヘッドマスターをモデルにしております。

灰田「なお彼らがゲッターロボを発言したかと言いますと、ゲッターロボをモチーフにした架空戦記『龍神の艦隊』で竜宮帝国の技術などで建造した大和率いる連合艦隊が活躍しているからです。中里融司先生の架空戦記ではSF要素が強い作品であります」

大和・武蔵・信濃が合体して、米本土に殴り込みは爽快です。
某笑顔静画の艦これ魔改造図鑑で見たコメントで、恐竜帝国がどうとかありましたから恐らくは、この作品かと……

灰田「私の世界のように現代を上回る科学技術を持つのは、誠に興味深いですね」

本当に期間限定イベントでコラボしたら、面白いですけどね。

灰田「気長に待つのも良いかと思いますね」

新年早々、架空戦記談話などは面白いですが……
では、次回予告に移りますね。

灰田「次回は、中岡ロボ率いる連邦軍を掃討しますが、中岡たちが言ったもうひとつの秘密兵器がいよいよ登場致します。
この兵器は、かつてドイツが計画していた巨大兵器です。
ヒントは『世界蛇』という名のついた計画兵器ですね。お分かりの方々もいますが、おっと、これ以上は。
何時もながらですが、一部変更もある場合がありますが、どうか御了承くださいませ」

今年で本作品ももう少しで完結しますが、最終回まで楽しむに待っていてください。

灰田「それでは切りの良いところになりましたので、次回もまた、第百四十三話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百四十三話:マリアナ諸島に潜む巨竜

お待たせしました。
今回で本作は、UA6万になりました。
皆様の温かい応援があったからこそ、今日まで辿り着けました。
本当にありがとうございます。では……

灰田「予告通り、中岡ロボ率いる連邦軍掃討に伴い、彼らの最後の秘密兵器、連邦軍の手により『世界蛇』と言う名を持ち、ドイツがかつて開発した特殊兵器が現代に蘇ります」

また強化兵部隊《ブルート》も同じく正体が明らかになります.
では、気分を改めて……

作者・灰田『本編であります。どうぞ!!』


中岡たちが、例の秘密兵器を準備していた頃。

引き下がっていく連邦軍や予備軍とは引き換えに、体勢を整えた日本軍が反撃の狼煙を上げていた。

灰田が貸与した超人部隊、彼らが操縦する超重戦車《オイ》率いる各軍の精鋭合同戦車隊とともに、彼らの後ろには対戦車火器を装備した各歩兵部隊などが続いている。

 

例の中岡ロボは『でかいだけの見掛け倒し』、または『かませ犬』の比喩とも証明することが出来たことは確かであり、なによりも1体が減り、残り2体を片付ければ、勝利を収めることが出来たも同然だ。

 

「撃ち方始め!てえぇぇぇ!」

 

履帯を軋ませながら、各々前進する超重戦車《オイ》の砲塔に備えた戦車砲から徹甲弾が撃ち放たれた。

10式戦車やM1戦車、四式戦車改など合同戦車隊も各自の砲塔を旋回し、1体の中岡ロボに集中砲火を浴びせた。

悪魔『ベヒモス』の様な巨漢を持つ標的だから外すことはない。

特にロケット弾を装備する両腕に、嵐の如く、各種様々な徹甲弾の群れが襲い掛かって来た。

連邦操縦士が日本戦車隊を攻撃しようとするも、上空からは赤城たちや無人空母《アカギ》の合同艦載機部隊及び、サイパン島基地航空隊が阻止しているため、思うように隙がなかった。

しかし、ついに両腕から亀裂が生じてしまい、最後の止めと言わんばかりに徹甲弾の直撃を受けた両腕から閃光が発生した。

直後、両腕から爆発が起こり、自由を失った両腕は地面に落ちた。

 

「なにすんだよ!このゴキブリども!消毒してやる!」

 

両腕を破壊された怒りを抑えられず、感情を露わにした連邦操縦士。

彼に応えるように、中岡ロボの両眼からはメガネ型探照灯を照射し、怒りの雄叫びを上げて、日本合同戦車隊を火焔放射器で破壊しようと、火焔砲を口から出した瞬間―――

 

数発の白煙が、戦車隊の横合いから吹き延びた。

その白煙の流星群が、中岡ロボの頭部や顔面に突き刺さる。

その瞬間、両眼に備えたメガネ型探照灯や火焔砲に突き刺さり、命中した数発の84mm対戦車弾は、爆薬の熱を一点に集中するモンロー効果で中岡ロボの装甲を打ち破る。

鋼鉄の顔は身震いし、メガネ型探照灯は撃ち砕かれ、火焔砲は砲台ごと破壊された。

 

「薬は注射より飲むのに限るぜ、ブタゴリラさんよ!」

 

発射口から白煙が揺らめいたM84無反動砲を撃ち終えた権藤一佐が、小粋なジョークを言った。

彼率いる部隊は、陥落寸前の中岡ロボに対し、攻撃を続行する。

戦車隊や航空隊が陽動し、その隙に権藤一佐が側面から攻撃するという作戦であったのだ。

かの有名なギリシャ神話のダビデが、自分が見上げるほどの背丈を持つ巨大な敵ゴリアテに対し、ダビデは投石器を使い、ゴリアテを昏倒させて、その隙に後者が携えていた刀を奪い、その剣でゴリアテを打ち倒したように、中岡ロボの急所、つまり顔面及び、側面に重火器による攻撃で行動不能にさせようと言うものであった。

 

「やめろぉ!ぼぼぼ、暴力はやめろ!やめてくれえええええええっ!!」

 

紅蓮の火焔を纏った鋼鉄の顔、その破壊された両眼から露出した操縦席に座る連邦操縦士が必死の表情を浮かべ、命乞いをした。

日本合同戦車隊と歩兵部隊の連携攻撃により、更に左脚を破壊されたことでパニックを起こしても無駄に終わった。

連邦軍の命乞いは、卑劣な攻撃の前触れであるため、日本軍は学習したのだから、連邦操縦士は知る由もなかった。

そして鋼鉄の城は瞬く間に崩壊の道を辿り、日本軍の連携攻撃の前で呆気なく2体目の中岡ロボは、全身から黒煙を噴き上げて擱座した。

連邦操縦士や全乗組員たちを失い、あの力感に満ち溢れていた鋼鉄の巨獣は、今は焼け爛れ、生命の失せた抜け殻となって、屍を晒していた。

 

「よくも仲間を!許さねぇぞ。ジャップども!!!」

 

最後の1体である中岡ロボが前進した。

だが、今度は土佐姉妹や赤城たちの艦載機部隊と、無人空母《アカギ》率いるステルス艦載機部隊が相手だった。

また、彼女たちなりの奇策を用意しており、実行するには中岡ロボの両脚の高さに合わせて低空を飛行しなければならない。

ジェット艦戦《天雷改》と《轟天改》の精鋭部隊などに続き、F-14《トムキャット》部隊、そしてTJS軍のF-35部隊が、中岡ロボの両脚の高さに合わせ、攻撃を開始した。

 

「蠅どもに殺られる皇帝ロボじゃないぞ!」

 

最後の中岡ロボを操縦する連邦操縦士は、両手の指に備えたロケット弾を連射、口内に備えた火焔放射器を投射する。

しかし、自身を荒ぶる神及び、不屈の皇帝ロボと自惚れている鋼鉄の巨獣が繰り出す凄まじい弾幕を躱し、双方に怯むこと無く各精鋭部隊は散開しつつ、複数の機体が同時に中岡ロボの一点を集中攻撃し、攻撃後にまた散開して敵の反撃を阻止する。

上手い具合に数機のF-14が中岡ロボの足元に近づき、その脚部に狙いを定め、すかさずケーブルを発射した。

付着成功。確認後、F-14部隊は各機体を接触をしないように、各機とも間隔を取りつつ、そのまま中岡ロボの脚部を絡め取る。

これを数回に渡り、中岡ロボの足元を旋回飛行したF-14部隊はケーブルを切り離して離脱した。

 

「いい加減にしろ……って、なんで倒れんだ!?」

 

上空に気を取られ、気がつかなかった連邦操縦士が自身が操る中岡ロボが転倒してことに気づいたときは手遅れだった。

役目を果たした古びた煙突が崩壊するように、哀れな姿を晒しながら中岡ロボは、ゆっくりと前のめりで転倒したのだった。

 

「卑劣なジャップどもめ!正々堂々と勝負しろ!早く切り離さないと!」

 

慌てて脚部に絡まったケーブルを切り離そうとしたが、転倒したところに上空から攻撃隊、F/A-18Eや《轟天改》、AD-4、彗星一二型甲、流星改、ソードフィッシュなど合同攻撃隊が、中岡ロボの操縦室と乗員室を繫ぐ脆弱な首に集中攻撃を開始した。

各機の両翼下や機体腹に装着したあらゆる種類のレーザー誘導爆弾、対戦車機関砲、航空爆弾、ロケット弾が降り注いだ。

慌ててケーブルを解こうとした瞬間、1発の対戦車機関砲が操縦席の壁を突き破り、操縦士もろとも突き刺さり、彼の身体を無惨にも引き千切るのだった。

 

「うわあああっ!!中岡大統領様ぁぁぁぁっ!!」

 

壮絶な断末魔と引き換えに、黒死病を連想させる空からの災厄の群れは、瀕死状態且つ、まだ意識がある連邦操縦士の命を躊躇うことなく奪い取った。同時に、中岡ロボの頭部も激しい空爆に堪えることなく叩き潰される空き缶のように脆くも破壊されたのだった。

耳を聾する爆発音。黒煙に交じり、紅い火焔が噴き出したまま、その屍を晒すと思いきや、不思議なことに自身の首を喪失した鋼鉄の身体は抗おうと、ゆっくりと巨体を起き上がろうと動いたのだ。

これを見た日本軍は一斉に照準を合わせ、止めを刺そうとした。

だが、戦闘時に出来た各部の損傷のせいか、各部に亀裂が生じて、やがて全身に廻ったときには無残にも崩れ落ちたのだった。

全ての中岡ロボやハンターを撃破した日本軍は歓声を上げ、反撃の狼煙を上げて再び突撃体制で、士気低下に伴い、敗走する連邦軍を追い詰めていく。

 

僅かに反抗する連邦軍や義勇軍部隊、野砲及び迫撃砲陣地、機関銃座を中心とした防御陣地が戦線維持を務めていた。

虎の子のM1戦車と99式戦車率いる連邦戦車隊、BTR-60やテクニカル車輌中心の軽装甲車部隊、なお一部隊は無能且つ、無慈悲な命令しか出来ない政治将校たちが指揮する連邦親衛赤軍部隊や督戦隊に続き、連邦軍十八番の自爆部隊も激しく抵抗していた。

 

だが、制海権と制空権の双方を日本軍が確保しているため、海上にいる秀真・古鷹率いる連合艦隊と戦艦水鬼率いる深海連合艦隊などの艦砲射撃やミサイル攻撃、空を覆い尽くすほどのです航空支援、陸揚げした各軍の自走砲や重砲部隊の支援砲撃などが繰り出された。

なおも頑丈に設けた各連邦軍陣地や部隊に対し、これほどの高火力の支援攻撃及び、五月雨撃ちの前では赤子同然でもあった。

火焔に交じり妖しく光る鋼鉄の流星群は、恐ろしい巨人たちの拳となり、なおも必死に抗う連邦軍陣地を嘲笑うように薙ぎ払った。

大地を揺るがす振動と衝撃波は、多くの連邦軍兵士たちはむろん、彼らの操る兵器、そして構築したあらゆる陣地を全て破壊した。

防衛線を破壊され、すぐさま立て直そうとしても、日本合同戦車隊が突撃して来た。後方からは高機動車及び、兵員輸送車輌を主力とする機械化歩兵部隊が前進して、新たな陣地を次々と確保していく。

 

「待て!貴様ら、今に中岡大統領閣下の援軍が来るから食い止めるのだ!」

 

「もう少しでブルート部隊が来るぞ!持ちこたえるんだ!」

 

この戦いは酷く厳しく、話が違うじゃないか、と、パニックに陥った連邦軍兵士たちは、またしても指揮官や政治将校たちの制止を振り切って後退する一方だった瞬間。

 

「ブウアアアアアアーーー!!!」

 

1匹の怪物の雄叫びが聞こえた。

雄叫びを上げた怪物が走ると、後を追うように、数百体もの怪物たちが現れて突撃して行く。

顔つきは悪魔のように醜く変形し、もはや人間の面影などない。

醜い顔つきをより恐ろしく象徴するかのように、口には類人猿たちが持つ独特且つ、非常に鋭い牙が生えていた。

またゴリラや熊のような筋骨隆々の巨体、その各部には装甲をボルトで装着し、そして武器は持たず、自慢の武器とも言える鋼鉄の様に硬い爪を煌めかせていた。

 

「ブルート部隊だぞ!中岡大統領閣下が我らを助けに来たんだ!」

 

連邦軍指揮官や兵士たちは、怪物映画に登場するような異形の生き物、強化兵ブルートたちがやって来たことに歓喜した。

ブルートたちの戦闘意欲は凄まじく、例え防具を全て破壊されても戦意を喪失することは無く、驚異的な跳躍力と腕力を用いて玉砕覚悟の格闘戦に戦術をシフトするほどのタフさも兼ね備えている。

戦線を駆け巡るブルートたちが、日本軍を殲滅しようと突撃した。

 

しかし、灰田から情報を聞き出した日本軍は対策を持っていた。

ブルートたちが今にでも襲い掛かろうとした瞬間、大量に設置していたM18クレイモア地雷が炸裂した。

直後、起爆によって内包された数百万の鉄球が一斉に投射、広範囲に渡る爆焔の嵐がブルートたちに襲い掛かった。

またこの強化兵部隊を倒すため、一撃で破壊可能な各軍が保有及び、連邦軍から鹵獲し集めた対戦車火器と火焔放射器などを装備したり、白兵戦を挑んだブルートの場合は、ツルタ少佐率いる超人部隊が挑み、弱点の心臓をナイフで抉り出して破壊した。

ナイフで挑む超人部隊だけでなく、愛刀で挑んだ伊吹や山城たちがブルート部隊を数体ほど蹴散らしていく凄まじい光景も見えた。

そして未だに生き残っているブルート部隊には、通信兵たちが目標座標を古鷹や赤城たちに伝え、これを艦砲射撃やミサイル攻撃、艦載機部隊などによる空爆で怪物たちをいとも容易く蹴散らしていく。

むろん使用した砲弾は古鷹たちは三式弾であり、ミサイルは対地用にプログラミングした《ハープーン》、赤城たちなどの艦載機部隊や基地航空隊はナパーム弾を使用してブルート部隊を焼き払う。

地獄の業火に焼かれたブルートたちは、永遠の苦痛に交じった悲鳴を上げながら、黒焦げと化した死体へとなったのだった。

 

 

 

「では、作戦通りに実行するんだ。忠秀主席」

 

「はい。偉大なる中岡大統領様のご期待に答えます!」

 

日本軍がブルート部隊を相手にしている間、中岡たちは最後の親衛隊を率いて、最終決戦に挑む準備を整えた。

中岡は親衛隊とともに、世界蛇と名乗る秘密兵器に搭乗する。

忠秀は別部隊とともに、ある役目を果たすために見晴らしの良い場所で特殊任務を遂行するために地上に残る。

 

「行くぞ!忌々しいクソジャップども!俺様が正義の鉄槌を貴様らに下してやるんだ!」

 

『中岡大統領様、万歳!万歳!万歳!』

 

「行くぞ、諸君!我が最強の秘密最終兵器《ミドガルドシュランゲ》発進!!!」

 

部下たちの喝采を浴びた中岡は、自ら秘密兵器の名前、北欧神話に伝わる大蛇『ヨルムンガンド』の名を高らかに叫び、地上に飛び出そうと勢いよく発進した。

 

この影響を受け、地上では地震が起きた。

地上部隊はむろん、海上にいた秀真と古鷹たち連合艦隊も、この地震は一体なにが起きたのだ、と呟いた瞬間、サイパン島から巨大な怪物が姿を現した。それは古代の巨大蛇『ティタノボア』という怪物に見えたが、先端に鋭利なドリルを持ち、履帯を駆動する多数のユニットを一列に連結した大蛇のような形態だった。

かつてドイツが計画していた幻の特殊兵器《ミドガルドシュランゲ》と同じく、先頭ユニットに装備されたドリルで地中を掘り進み、敵要塞や軍港の地下に爆薬を設置し、破壊するという設計思想で生まれた特殊兵器である。しかも驚くべきことに陸上だけでなく、水中航行も可能な特殊兵器であり、その自慢のドリルで敵艦船の腹を突き刺して攻撃すると言う計画も立てられていた。

これに注目した中岡たちは世界が無理ならば、全ての海を支配しようと生み出した最後の秘密兵器でもある。

北欧神話に登場するヨルムンガンドのように、海を実効支配するに相応しく、なお且つ日本軍を懲罰及び、自分たちゲルマン民族以外を認めないナチスを見習い、中岡たちは先の戦争犯罪を認め、またドイツに敬意を込めて、この名前を採用したのだ。

 

「さあ、世界皇帝たる俺様の怒りをたっぷりと味わうが良い!はははははは!」

 

中岡は豚のような鼻に伴い、平べったい顔の持ち主にも関わらず、その顔に似合わない黒いサングラスを掛け、自身をロボットアニメの主人公の様に気取りながら日本軍には目もくれず、憎き秀真と古鷹たち率いる連合艦隊がいる海上を目指し、自ら《ミドガルドシュランゲ》を再び操縦し始めた―――




今回はポンコツロボの破壊、ブルート部隊との激戦も無事終了。
分かる人には、分かるマニアックネタ満載でもあります。
そして連邦軍最後の秘密兵器、その正体は《ミドガルドシュランゲ》と言うドイツが計画していた特殊工作車輌です。
書店で計画兵器図鑑で、初めてこの兵器の名前を知りました。
もしも完成していたら、全長は戦艦大和すら超えており、世界最大の工作車になって歴史に名を残していたでしょうが、残念なことに運用も限られ、コストなども掛かることで没に……

灰田「世界蛇の名の付く兵器と言えば、紺碧の艦隊と旭日の艦隊に登場したドイツの超重爆撃機Ju390《ヨルムンガンド》の方を想像したと思いますが、この水陸両用特殊工作車輌《ミドガルドシュランゲ》も元を考えれば同じ名前、その別名であることも面白いですね」

同じ名前の兵器は、いくつもあります所以に、稀にネット手調べる際に画像を見ないと間違えてしまうことがあります。うっかり……

灰田「架空戦記でも史実の兵器で同じものが登場しますから仕方ないですから。飛龍も空母と陸軍爆撃機の名前が重なりますから。間違うことはしばしばありますので」

名前が違っても元の兵器(MiG-21など)をライセンス生産許可を得た兵器もあるから、こっちも同じ間違いをすることがありますが、悩んでも仕方ないですね。

灰田「ともあれ無事に今回で漸く本当の最終決戦、ラスボスとの戦いに辿り着きました。いよいよラスボスとの戦いですね」

次回で秀真と古鷹が、中岡大統領が操る《ミドガルドシュランゲ》との対決の時、最後の戦いが始まりますのでお楽しみください。
長い場合は、もしかしたら前編・後編に分けるかもしれません。

灰田「では切りの良いところになりましたので、次回の第百四十四話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百四十四話:対決の時 前編

お待たせしました。
今回もまたですが前回に引き続き、嬉しいことにお気に入り数130人に伴い、感想欄500件以上超えました。最終回が近づきますが、本当にありがとうございます。

灰田「では、改めて最終決戦の始まりです。予告通り、中岡大統領が操る《ミドガルドシュランゲ》との対決の時です」

案の定、長くなりましたので前編です。

作者・灰田『それでは本編であります。どうぞ!!』


マリアナ諸島から姿を現し、中岡が自ら操る恐るべき鋼鉄の世界蛇《ミドガルドシュランゲ》は、すぐさま海上を目指した。

その途中で日本軍の合同戦車隊や自走砲部隊による砲撃及び、赤城たちなどの艦載機による機銃掃射を受けたものの、双方の攻撃に怯むことなくスピードを上げつつ前進し続けた。

 

「褒めたくはないが、さすが深海の雑魚どもが貸与した技術と、ナチスの豚どもが計画した特殊兵器は最高だな!同時に……」

 

中岡は、自身が鎮座する戦闘室に備わっているデジタル画面を見つつ戦闘コマンドを入力し、戦闘態勢を完了した。

 

「現代兵器様々だから、従来よりも強力だぜ!」

 

中岡は報復の刻が来たという勢いを兼ねて、上空にいた赤城たちの艦載機部隊を数機ほど撃ち墜とし、周囲にいた日本合同戦車隊の戦車や自走砲を数輌も破壊した。

本家ドイツは計画当初《ミドガルドシュランゲ》の搭載可能な自衛火器は機銃のみと、いささか実戦に役立つかどうかは疑問に思うほど心細かった。仮に完成できたとしても要塞や防衛陣地、塹壕を利用した籠城戦が主役だったWWⅠ時代ならば、これらの攻略戦には大いに活躍出来たかもしれない。

しかし、WWⅡでは先の大戦で活躍した航空機や戦車、機関銃など様々な最新鋭兵器が次々と恐竜的進化の極みを遂げた。特に航空機は現代戦の基礎及び、戦略空軍などを築き上げ、戦場での偵察から空戦、そして敵重要拠点を破壊する戦略爆撃などあらゆる面で活躍した。こうした鋼鉄の猛禽類たちの前では、鋼鉄の大蛇《ミドガルドシュランゲ》も、地面に這い蹲って捕食者たちから逃げ惑うことしか出来ないただの蛇に過ぎなかった。

余談だが、似たもので日本軍も『要塞攻撃用秘密兵器』として開発しようとしたモグラ戦車(制式名称は《潜航掘鑿車》)という強力な地面掘削車を陸軍技術研究所で密かに研究していたと言われている。

しかし、様々な理由などにより、実用化することなく時代の波に飲み込まれ、計画のみに終わったが、連邦軍の技術の進歩によってより凶暴性が増し、恐ろしい鋼鉄の世界蛇として蘇った。

しかも深海棲艦たちの技術貸与を受けたことにより、従来よりも機動性や防御力が向上し、乏しかった攻撃力は現在技術を活かして解決した。中岡たち連邦軍にとって、まさに現代に蘇った《ミドガルドシュランゲ》は移動可能な難攻不落の城でもあった。

 

また同じく自動車や航空機の発達によって、前線付近での軍事輸送における鉄道への依存度が大きく低下したなどで姿を消した兵器《装甲列車》を模倣して対戦車や対空、対艦ミサイルなど高火力な兵器を搭載可能なVLS車輌もあれば、水中攻撃も可能な潜水艦発射式の《アイダス》対空・対艦ミサイル搭載車輌、そして敵ミサイルを躱すチャフやデコイ搭載車輌などもある。奥の手は敵に体当たり、一発必中の衝角戦法を得意とする掘削用ドリルも兼ね備えている。

中岡は、この戦法を取る際は圧倒的優位や火力が乏しい相手のときにしか使わない。衝角戦法は死を伴う攻撃だからしたくないのだ。

ただし自分の部下たちには精神及び、根性論を述べて、挙げ句は洗脳させては自爆攻撃を平然とさせる。

我が身の可愛さ。何しろスターリンや毛沢東たちなどのように、他人を犠牲にしてでも自分が生き残ればそれで良い身勝手なろくでなし独裁者なのだからだ。

 

「俺様の楽園を破壊した侵略行為及び、神である俺様を冒涜行為は万死に値する!」

 

中岡はそう叫んだ瞬間、彼が操縦する鋼鉄の世界蛇は海に潜り込んだ。まるでヘブライ語で『渦を巻いた』という意味に伴い、旧約聖書に登場する悪魔、海の怪物(怪獣)としても有名な『リヴァイアサン』のように海中を潜行していく。陸上兵器でありながらも潜水艦のように海中深く潜り込み、その巨体に似合わず、水を得た魚の如く《ミドガルドシュランゲ》は素早い動きを披露した。

 

「まずはコイツでお見舞いしてやる。だが、気づいたときは終わりだな」

 

何かを企てる笑み、コンドン大統領たちを殺し、無辜の命を奪うことを快楽とし、相手を不毛する気味の悪い笑みを浮かべ、水中に潜り込みながら巧みに操縦する中岡は、操縦席から後部車輌にコマンド入力をし、その車輌に搭載された数個の533mm魚雷発射管を模倣した発射管が開き、発射管内に装填された4発のYJ-8艦対艦ミサイルが発射されたが、これだけでは終わらなかった。

現代技術の進歩であり、同時に未来の賜物でもある3Dプリンター技術、これを軍事用に改良した自動ミサイル製造機にしたおかげで、車内では次々と新たなYJ-8対艦ミサイルを製造、そして自動装填装置の威力により、機関銃のように絶えることなく連射する。

大量に撃ち上がるYJ-8対艦ミサイルの大軍が海上に辿り着いた直後、壮大な水飛沫に交ざった水柱が大量に出現、勢いよく成層圏まで目指そうとオレンジ色の火矢に変貌し、搭載したロケットエンジンが勢いを増し、何十本の火焔龍の白煙の尾を曳きながら飛翔した。

やがて咆哮を上げた火焔龍たちは、理想の高度まで舞い上がると海上にいる獲物たちを狩り取る姿勢に移り、より推進力を加速する。

 

「全艦対空戦闘開始!赤城たちを護るように輪形陣に移る!」

 

秀真が命じた。

古鷹率いる連合艦隊、元帥・戦艦水鬼率いる支援艦隊、由良率いるTJS艦隊に海自・TJS合同艦隊が搭載している全ての対空兵装が一斉に火を噴いた。

灰田の未来技術を兼ね備えた古鷹たち全艦娘は、あらゆる種類の対空ミサイルから三式弾、超10cm砲を含め、各艦に乗艦する装備妖精たちも負けずに、手慣れた五式信管付き機関砲弾を装備した40mm機関砲や25mm三連装機銃集中配備、12cm30連装噴進砲改二などを使い、災厄の群れを落としていく。

そして『イージスの盾』の名に伴い、鉄壁の守りを兼ね備え奮闘する海自のまや型護衛艦やあたご型護衛艦、TJS海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦などVLS搭載護衛艦群からはRIM-161《スタンダード・ミサイル3》から、RIM-162 ESSM《発展型シースパロー》、127mm連射砲や76mm連射砲、CIWSなどで迎撃を繰り返した。

 

その光景は、さながら湾岸戦争時で一夜として有名になった映像――イスラエルやサウジアラビア軍が保有するPAC-3地対空パトリオットミサイル部隊が、旧イラク軍が保有していたスカッドミサイルを迎撃するために、双方のミサイルが飛び交う光景を再現したように凄まじい対空射撃を模倣した。

数分間も続く猛烈な対空射撃が、1時間も撃ち続けているような感覚に襲われた。実際には短い時間が、始まる前はずっと長くなる。

戦闘時間はいつも短時間で片付くことが多い。一刻一秒でも気が抜けない。さもなくば敵に先を越されてしまい死ぬことになるからだ。

凄まじい対空砲火。空中には至る場所に爆焔の華が連続的に咲き乱れる。これら全てが妖しく蒼空を紅く染め上げていく。

恐ろしく照らされるものほど美しさを感じるから不思議なものだ。

しかし、全て迎撃出来たわけではなく、すり抜けたミサイルも数本が襲い掛かり災厄を撒き散らした。

 

『護衛艦《まきなみ》命中。艦首中破、負傷者多数!』

 

『こちら上陸部隊!輸送船3隻、戦車用揚陸輸送船4隻大破炎上!』

 

『こちら大和。左舷に至近弾!同時に後部砲塔付近に直撃!ですが航行に支障ありません!なお病院船を守る為に庇ったアイオワさんや戦艦水鬼さんたちなども同じく中破状態ですが大丈夫です!』

 

『Battle Shipが簡単に沈むものですか!!』

 

『相変ワラズ卑怯ナブタゴリラメッ!』

 

次々と被害状況報告が秀真と古鷹の鼓膜に響き渡る。

対艦ミサイルは当たりどころによっては撃沈はされないが、艦体及び、乗組員たちには損傷を与え、なお且つ戦力を削ぐことが出来る。

中岡たちの場合は、じわじわと嬲り殺すのが目的であるため、わざとこの様な回りくどい攻撃をしたに違いない。だが、中岡たちの攻撃はYJ-8対艦ミサイルだけで終わることはなかった。

 

『な、なんだ。艦体に衝撃が!……違う。巨大なドリルが艦内に侵入してくる!?』

 

『クソッ、浸水が止まらない!』

 

『総員退艦せよ!繰り返す!総員退艦せよ!』

 

最新鋭護衛艦《あいづ》から悲痛な叫びを上げる艦長の声。彼を含め、乗組員たちも海中からドリルによる衝角戦法にはなす術はなかった。艦内にいるダメコン・チームが艦体を修復する時間より、敵の衝角攻撃の方が遥かに早くとても阻止出来るほど余裕もなく、やむなく総員退艦命令を下すしかなかったのだ。

現代では衝角戦は滅多にないが、古代から近代までは頻繁に行われていた戦法であり、これで敵艦を撃沈した記録も残されている。

戦後でも日本が、戦後初の国産護衛艦として建造した《はるかぜ型護衛艦》でも、造波抵抗の低減を図るためにバルバス・バウとされた船首水線下先端部には『対潜用衝角』として用いることを考慮し、構造が強化されていた。しかし、世界初となる米海軍のジョージ・ワシントン級原潜に続き、ソ連・イギリス・フランスなどが原子力潜水艦の実用化に伴い、潜水艦の潜水航行能力が飛躍的に向上したこと、更には水上艦艇が装備する対潜兵装の性能が向上したため、この『対潜用衝角』は廃止され、今では装備されることはなくなった。

だか、デジタル技術が発達した現代戦で、古代から伝わる戦法により最新鋭護衛艦が無惨にも、ドリルによる衝角攻撃を喰らい、艦体後部が破断し、ほんの3分で護衛艦がなす術なく水没した光景を目撃した秀真と古鷹たちは、自分たちの目を凝らしたほどだった。

 

「秋月たちは、ただちに《あいづ》の乗組員たちを救助せよ!すまないが、由良たちTJS艦隊は対潜警戒しつつ秋月たちの援護に回ってくれ!」

 

「了解しました!司令!」

 

「任せてください!提督!」

 

「分かった!ここは僕たちに任せろ!」

 

『了解です!!!』

 

秀真は我に返ると、近くにいた秋月・由良たちに救助命令を下した。

潜水艦狩りを得意とする護衛艦も、時にはやられることがある。

数多くの戦いで部下たちを犠牲にしながら見て研究した中岡たちは、戦法を研究し、自分たちが勝てる様に《ミドガルドシュランゲ》を生み出した。同時に自分たちなりの賢明な戦い方も学んだ。

先ほどの対艦ミサイルの嵐を起こした際に、自分たちがやられないように海中にデコイを撒き散らした可能性が高い。

デコイ搭載車輌にも使用出来るデコイの搭載量に限りがある。それが一度っきりの可能性も高いが、まだ大量に保有しているのであれば、ソナーや水中蓄音機は正確に反応することはおろか、下手をすれば対潜兵器も上手く機能しない。

 

「……奴らも学習したな」

 

秀真が呟いた瞬間、中岡たちが操る鋼鉄の世界蛇は勢いよく海中を突き破って出現した直後、高らかに宣言した。

 

「連合艦隊の者ども、よく聞くが良い!これは謂わばデモンストレーションだ。我が《ミドガルドシュランゲ》は瞬時に壊滅的なダメージを与えることが出来る。だが我が楽園を攻略し、余をここまで本気に闘争本能を震わせた敬意を表すると同時に、これ以上は無駄な流血を避けるため、余はここで1対1の勝負を提案する。もちろん余と戦うのは、そこの古鷹型重巡洋艦に乗艦する秀真提督と正々堂々と勝負を申し出たい。お前の噂は余が提督時代の頃からよく聞いている。数多くの功績に対して褒めてやろう」

 

挑発。何かを仕掛けたか、またはハッタリかと思えば、どちらかは分からない。連邦軍の十八番は息を吸うように嘘を吐く、残酷な作戦を実行することが多い。もしも本当ならば、全員が死ぬことになることは確かだ。

 

「さあ……どうする、秀真提督?もしも断れば元帥を含め、ここにいる全員が死ぬことになる。むろん嘘ではない。ならば今ここで試しても……」

 

「……分かった。正々堂々、1対1の勝負だ」

 

秀真は迷うことなく答えた。

 

「それでこそ元帥が見通したお気に入り提督よの。ふふふ」

 

中岡は嘲笑うような口調に伴い、拍手を送り答えたが、秀真は冷静に眉一つ動かすことはなかった。

 

「ならば、邪魔者抜きで勝負だ!」

 

中岡が告げると、今度は海中に潜航することなく、《ミドガルドシュランゲ》は、スイスイと地面を這うヘビのように海上を移動して行く。深海技術により、海上でも這うことが出来るように履帯などを改装しているため、海上を駆け巡る艦娘や深海棲艦たちのようなことが出来るのだ。

 

「行こう。古鷹!」

 

「はい。提督。私たちで決着を、この戦いを終わらせましょう!」

 

「ああ。みんなで日本に帰るために!最大戦速!」

 

「はい!」

 

お互いに顔を見合わせ、ふたりは手を繋いた。

未来への道標を掴むために、ふたりは正々堂々と中岡に挑むのだった。

 

しかし、中岡は内心では『馬鹿な男だ』と嘲笑した。

先ほど主張したことは秀真に対する罠であり、正々堂々と勝負する気など毛頭ない。寧ろ勝てばそれで良い男なのだ。

つまり1対1の決闘に誘い込んだ振りをして、秀真と古鷹を不利な状況に追い込もうとするための時間稼ぎに過ぎず、中岡たちの《ミドガルドシュランゲ》以外にも、マリアナ諸島にある見晴らしの良い場所に、忠秀たち率いる精鋭連邦親衛赤軍が切り札をもうひとつ存在したのだった。

 

「急げ!中岡様が直々に時間を稼いでいる間に、何時でも撃てるように準備しろ!」

 

『了解しました!!!』

 

忠秀が命じると、親衛赤軍隊員たちは返答した。

彼らが陸上に残された理由は、連合艦隊旗艦を務める秀真と古鷹に止めを刺す及び、連合艦隊や日本軍の士気低下を企てるために、忠秀たちが切り札として地上発射型ハープーン発射機を配備して置いたのだ。つまり、事実上では2対1と言うわけである。

 

「栄光ある中岡様に楯突く愚かな養豚場の豚は、大人しく流れ作業のように死ねば良い。それまで精々と哀れな兵器女と足掻くが良いさ!ははははははははは!」

 

「ジャップどもは本当に未だに武士道と騎士道を信じている低脳なキモい猿ばかりだからな!あはははははは!」

 

「死ぬほど悔しがっていた我々が、ついにジャップをひれ伏させる報復の刻が来たのだ!」

 

忠秀たちは、各々と高らかに勝利を宣言しつつ、今や開始される海戦を双眼鏡で覗き見したのだった。

 

 

 

 

「艦砲及び、ミニ砲台小鬼を展開させろ!オープン・ファイヤリング!(砲撃開始!)」

 

中岡の号令一下、《ミドガルドシュランゲ》に繋がれた各連結車輌から4基の艦砲と4体の陸上型深海棲艦が姿を現した。

前者は各国の海軍、米海軍及び沿岸警備隊の両艦船に大量採用されているボフォース社が開発した対艦・対空両用の傑作艦砲『ボフォース 57mm Mk3』速射砲及び、後者は車輌に搭載出来るように改装された陸上型深海棲艦・ミニ砲台小鬼である。従来の大きさに比べて小さいが、攻撃力は深海軽巡並みに威力もあり、非常に取り回しも良いため搭載されている。攻撃目標である秀真と古鷹を見つけた双方は、すぐさま一斉射、全ての主砲からオレンジ色の火を噴いた。

 

「敵発砲!距離2000!全門斉射です!」

 

「奴は修正なしで撃ってきたか」

 

古鷹が言うと、秀真が呟いた。

ふたりが操艦する最中、艦体を包み込むような6本の水柱とともに、ふたりがいる艦橋から、艦全体を揺るがす衝撃波が伝わる。

 

「提督。こちらも弾道修正なしの全門斉射でお願いします。私が修正します!」

 

「分かった。こちらも悠長に修正している暇はなさそうだな。主砲6門急斉射!右砲雷戦、最大戦速!」

 

提督の号令一下、艤装妖精たちなどが火器システムを始動させる。

灰田の未来技術もあり、今は自動装填装置に伴い、電探射撃装置も兼ね備えているほど強力なものである。

20.3cm連装砲塔が旋回、砲弾に伴い、装薬も同じく装填される。

各主砲に装填される独特の重々しい音が艦内に響き渡り、尾栓が閉鎖され、自慢の20.3cm連装砲がゆっくりと動き、白波を蹴り立て、目標に指向した。

 

「撃てーーー!」

 

秀真の言葉に応え、全連装砲が一斉射した。

耳を聾する壮絶な咆哮、全ての砲口から凄まじい火焔が噴き上がり、合計8発の徹甲弾が雄叫びを上げて飛翔した。

上空では意志を持つかのように同じく、中岡たちが操る《ミドガルドシュランゲ》からも合計8発の砲弾が発射され、互いの砲弾がすれ違う形で交差していく。

 

「夾叉されたか。次は直撃が来るぞ!」

 

「こちらも夾叉しますから大丈夫です!」

 

古鷹の言うとおり、再び敵の砲弾が襲い掛かるが、全弾命中することはなく虚しく外された。が、彼女が撃ち放った8発中3発の徹甲弾が、ボフォース 57mm Mk3速射砲及び、ミニ砲台小鬼を搭載した後部連結車輌に命中した。前者は1基が破壊されるも、まだ健在なもう1基の艦砲は反撃を緩めることなく開始した。しかし、側にいた後者が載る車輌には、2発の徹甲弾がミニ砲台小鬼たちの砲台、元より頭上天蓋装甲を叩き割り、運動エネルギーを減じつつ、身体内部に突入した。

徹甲弾による内部貫通と、炸薬による内部爆発が同時に重なり合い、双方の爆発力が解放された瞬間、ミニ砲台小鬼の体内、弾薬火薬庫の隔壁を押し破り、両者は異様な形に膨張した。

そして閃光が駆け巡り、火焔に覆い尽くされた武装車輌は爆発した。同時に、無事な2体のミニ砲台小鬼たち及び、他の武装連結車を巻き添えに消滅したのだった。

 

「初弾命中!《ミドガルドシュランゲ》の武装連結車輌4輌撃破!」

 

古鷹が言った。

 

「ああ。だが、奴はまだくたばってない。この調子で撃ち続ける!」

 

秀真の言うとおり、中岡は道連れを喰らう前に、操縦席の側に設置していた自動解結装置のスイッチを運転位置から解放位置に操作、まだ車内には生き残った仲間たちがいることも構わず連結を解放、そして燃え盛った後部連結車輌を切り離していた。

 

「危なかったな。だがよ……連結車輌を解結すればするほど、こいつのスピードも上がるし、また各連結車はな、こういう使い道もあるんだよな!」

 

中岡は、再び操縦席に設けたとある装置を押した。

すると切り離された5輌の連結車輌からは、Mk44 30mm機関砲1基と12.7mm連装機銃2基、そしてシースクアSSM連装発射筒2基とともに、車輌両横にはハイドロフォイル(水中翼)も展開し、各車輌は瞬く間に特殊ミサイル艇に変形した。

 

「量は質にも勝るからな!哀れな猛禽類どものように大人しくハンターの餌食にでもなりな!」

 

中岡は捨て台詞を吐くと、再び《ミドガルドシュランゲ》を海中に潜らせた。なお展開した特殊ミサイル艇部隊は、全て特別攻撃部隊。

中岡や戦死した同志たちなどに貢献できることが栄誉だと考え、最後の戦いで奇跡を起こし、後世に受け継がれるためにも連邦国及び、自らの犠牲すら厭わない囮部隊でもある。

忠秀たちが配備した切り札の射程距離内まで誘導させて後方からミサイル攻撃をお見舞い、そして戦闘航行不可になった秀真たちに止めを刺すために、この自慢の鋭利なドリルを使った衝角戦で撃沈させるのである。馬鹿な博愛主義者たちが絶望に満ちた表情を浮かべ、堕ちて死んでいく者たちが後悔しながら死に行く姿を想像するだけでも、口もとを矢形に変えるほど愉快で堪らなかった。

 

「さあ……絶望へのカウントダウンの始まりだ」




もはや魔改造されています所以、某ソニックウイングスシリーズに登場するボスのように、本体から新たな機体を出して攻撃するなどという本物の超兵器と化した《ミドガルドシュランゲ》との前哨戦まで終えてました。案の定、卑劣な戦法を取っていますが。
なお、砲台小鬼は護衛艦の速射砲のような形をしていましたので、従来よりも小型化させて搭乗させたら良いかな、と思い乗せました。
なお、今回は久々に8000文字近くになりましたから、やり遂げたときの爽快感はたまらないですね。

灰田「次回でいよいよ最後の戦いを締めくくりになりますからね」

本作品も順調ならばあと2話で終了です、最終回でも本作品を最後までお楽しみくださいませ。

灰田「では、次回の最終決戦の結末を迎える最後の海戦を、お楽しみくださいませ。それでは第百四十五話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに。


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第百四十五話:対決の時 中編

お待たせしました。
前回に引き続き、最終決戦・中編です。

灰田「今回もまた迫力ある海戦をお楽しみくださいませ」

本来ならば今回を含め、次で最終回を迎える予定でしたが、あと二話ぐらい続きますが、楽しめて頂ければ幸いです。それでは……

作者・灰田『それでは本編であります。どうぞ!!』


中岡たちの罠に飛び込んだことも知らずに、秀真・古鷹は《ミドガルドシュランゲ》を追い掛けつつ、切り離された連結車輌からさながら超機械生命体のように変形した特殊ミサイル艇部隊と戦っていた。

 

「中岡様の勝利を収めるためにも、我々が大いなる勝利に導くためにも!」

 

特殊ミサイル艇部隊は自慢の機動力を活かし、艦体両脇を挟み撃ちにして機関砲や機銃による嫌がらせ攻撃を行いつつ、敵が油断した隙に《シースクア》ミサイルをお見舞いすると言うのが方針だ。

SSMの搭載量が限られているため、撃ち切ったときは衝角戦をしてでも敵と刺し違える覚悟である。だが、自分たちは貴族のように崇高なハンターたち。その名に相応しく上質な水平二連散弾銃を携えた狩人たちの瞳に映った鳥獣たちを追い詰め、最後には必ず狩り取るのが任務である。なお最後に『連邦よ。我らは永遠に貴方様の忠臣になろう』や『連邦万歳!』とのメッセージを含んだ電波が発信した。

最後の遺言を返信後、全艦1発ずつSSMを撃ち放ち、そして時間差を利用し、もう1発撃ち放った。

 

「敵、ミサイル撃ちました!」

 

「古鷹、シースパロー発射用意。また装備妖精たちは、敵のミサイル艇による嫌がらせ攻撃に備え、高角砲や各機銃銃架などはいつでも対処出来るようにしろ!」

 

「了解しました。提督!」

 

通信妖精が言った。

秀真・古鷹は敵ミサイル及び側面攻撃に対応出来るように、RIM-7《シースパロー》、前後部にはCIWS(近接防御火器システム)、側面防御用に備え付けられた12cm単装高角砲、ボフォース 40mm四連装機関砲やM2重機関銃、M134《ミニガン》銃架などを含め、対空及び、対人機銃銃座を大幅に増強して置いたのだ。

これらは各装備妖精たちが、敵の嫌がらせ攻撃及び、もう1発撃ち放たれた敵対艦ミサイルの時間差攻撃を防ぐためである。

 

「シースパロー撃ちます!てぇーーー!」

 

古鷹の言葉に従い、後部甲板から撃ち放たれた《シースパロー》は、勢いよく白煙の尾を引きながら急上昇した。

加速度を上げ音速を超えて飛翔する数発の鋼鉄の矢は、ギリシャ神話に登場する神、あらゆる東西南北の各方角を司り、全ての風を自由に意のままに操る神『アネモイ』のように垂直方向から、ふんわりと風を靡かせるように方向を変えて、敵SSMに向かって突入した。

地獄の急降下を始めた敵SSMの群れは回避する暇もなく、彼女が撃ち放ち上昇して来た《シースパロー》により、空中で迎撃された。

運良く切り抜けたものも、CIWSなどの迎撃により全て撃墜されたのだった。だが、僅かな隙を見て、ミサイルを撃ち切った特殊ミサイル艇部隊は散開、突入態勢に移っていた。

 

「敵艦艇、衝角戦に移っています!」

 

「各高角砲及び、機銃銃座で迎撃!接近戦闘にも対応出来るよう超人部隊や陸戦妖精たちを待機せよ!」

 

『了解しました。提督!!!』

 

秀真の号令一下、古鷹たちは動いた。

接近攻撃などはまるでトラファルガー海戦時代の戦闘だが、もしも連邦軍乗組員たちが甲板に上がり、時間稼ぎの攻撃及び、古鷹を拿捕する場合に備え、灰田が手配した超人部隊と陸戦部隊を展開させた。

これで衝角戦対策は出来たが、いかに上手く攻撃を躱しつつ、全ての敵ミサイル艇部隊を撃沈していくのが鍵である。

 

「撃ち方始め!」

 

装備妖精たちが12cm単装高角砲や40mm機関砲、CIWS、M2重機関銃からM134銃架などを猛然に撃ちまくった。

艦艇による機銃掃射は対不審船及び、ソマリアの海賊船などで日米など多国籍海軍が行なった戦術及び、経験が活かされている。

また熟練射撃指揮官たちなどが取り付いて、各兵装を巧みに操りながら迎撃する。

 

しかし、連邦軍も馬鹿ではない。

回避行動し、雷撃機が行なった二手に分かれて挟み撃ち攻撃が出来るように迂回しつつ散開した。

自分たちの楽園、地上の楽園とも言える場所を日本軍に奪われた復讐心に伴い、秀真たちに屈することなく、全員が中岡のために一矢を報いたいと言う闘志を兼ね備えていた。

敵艦を横切る最中、魂を狩る死神たちから逃れられない恐怖にも躊躇うことなく、全て突撃一択の思いで、搭載していた機関砲や機銃などで攻撃した。しかし、紙同然の装甲しかない巡視船ならば蜂の巣、乗組員ならば人体を破壊し尽くし原型を留めないほどの火力を誇るものの、相手は巨艦であるため通じることはなかった。

ならば、と連邦乗組員たちは、かつて九州南西海域工作船事件に、北朝鮮の工作船が海上保安庁の巡視船に2発のRPG-7を発射したが、幸いにも揺れる海上からの射撃であったため、2発とも巡視船には命中していない。不運にも彼らの失態を繰り返したように撃ち放った対戦車弾頭は閃光を発し、白煙を噴きながら、駆け回る秀真たちから通り過ぎていく。

 

「次で終わりだ!ジャァァァップ!」

 

一番槍をお見舞いしようと、指揮艇がスピードを上げた。

罵声とともに、速度を上げた瞬間、不運にも40mmと20mm機関砲弾、12.7mm、7.62mm機銃弾が集束した太い火線が、1隻のミサイル艇の艦体を、火線が包み込み操縦席ぐるみ粉砕した。

海上に爆煙に交じった一輪の花が咲き、指揮艇は砕け散った。

仲間が死のうと、連邦乗組員たちは決して臆病ではない。

血走った眼で行く手を見据え、必殺の執念を、憎悪の滾る叫びを張り上げた。

 

「1発でも……せめて1発でも!貴様ら卑劣なジャップに喰らわせてやる!」

 

難攻不落の城を模倣させる美しさと逞しさを併せ持ち、熾烈な一斉射撃を繰り返しつつ、あらん限りの速度を振り絞り続ける重巡洋艦に向かって、怒りも露わにしながら挟み撃ち、十字架を切るようにして突入する。前方と右側による衝角戦を躱そうとしたらどちらかにも当たる確率は高い。だからこそ二手に分かれた。

その後は敵艦の甲板に上陸し、自分たちの艦内にある小銃や散弾銃、銃剣、釘バットなどの武器を携えて、命の限りを尽くし乗組員たちをひとりでも多く道連れにすれば報われるだろうと言い聞かせ、見えてきた標的に対して突入態勢に移ったが―――

 

「今だ。取り舵一杯!」

 

「取り舵一杯!」

 

秀真の命令を受け、古鷹は操艦した。

取り舵に当て舵を当てると、巨艦もふたりの命に応え、スルスルと艦首から左に振り旋回し始めた。

衝角戦を覚悟し二手に分かれたミサイル艇部隊は、なにっ、と驚くのも束の間、艦体ごと向かい、接触してもおかしくない擦れ擦れの距離で躱したのだから無理もなかった。が、同時に。

 

『なにっ!?』

 

連邦乗組員たちがすれ違う最中、鋼鉄の要塞に似た砲塔が睨んでおり、隊列を解除せよと命じようとしたときには遅すぎた。

前方突入部隊には後部砲塔、右翼突入部隊には前部砲塔に聳える中口径の連装砲は旋回済みであり、双方とも2隻同時に重なりあった瞬間―――

 

「撃てぇぇぇーーー!!!」

 

秀真の命で、古鷹は撃ち放った。

細かく螺旋状に刻まれた砲口から、視界を遮るほど眩い閃光が走り、紅く炸裂したレーザーが発射された。

貫通能力を誇る紅き熱線は、1隻目のミサイル艇の艦体を溶解から貫通して一点に集束し装甲を焼き切って、もう1隻の敵艦に続き、そして左舷にいた全ての敵艦も熱線の洗礼が見舞った。

地震にも及ばないものの、それに似た振動に伴い、地獄の業火が連邦乗組員たちの頭を割らせ、手足を折って苦鳴や悲鳴を上げることも、堪え難い苦痛を味わう間もなく生きながら蒸し焼きにされていく。

燃え上がるミサイル艇は、艦内に蓄積した弾薬が爆発し、燃料に引火して、燃え盛る炎がさらに華麗な死の舞踏を披露した。

 

「敵ミサイル艇部隊、全て殲滅しました!」

 

「ああ、見事だ。古鷹」

 

「提督の咄嗟の判断がなければ、危なかったです」

 

「なに……兄部艦長の『伝説の取り舵一杯』に、砲撃を命じただけだ」

 

秀真が言った『伝説の取り舵一杯』とは、史実のレイテ沖海戦で戦艦《長門》の艦長を務めていた兄部勇次艦長が、《長門》に襲来して来た米軍機部隊の攻撃を巧みな回避行動命令を下し、全ての爆弾や魚雷を躱したほど、この武勇伝が今日も生き続けているのである。

この回避行動が出来た理由は、兄部艦長は第三水雷戦隊司令官を務め、さらに巡洋艦艦長出身だったため、あらゆる魚雷のいろは及び躱し方なども熟知していたからである。これにより日本だけでなく、米海軍からも称賛されたほどの逸話としても有名である。

 

「提督。潜航中の敵発見しました!」

 

ソナーで潜航中の《ミドガルドシュランゲ》を見つけたソナー員が言った。

 

「よし。古鷹、対潜音響ホーミング魚雷3発同時、遅れて1発撃て!」

 

「はい!」

 

報告を聞いた秀真は、すぐさま命じた。

古鷹は右舷甲板に設置された61cm四連装魚雷発射管から圧搾空気が解放される噴出音が響き、管内に積まれた対潜音響ホーミング魚雷が一斉に海中に投げ込まれた。

海中に潜む巨鯨を仕留めようと、鋼鉄の鯱たちが動き出した。

先端部分に装着している音響ホーミング装置が作動し、目標を探知して海水を掻き分けて潜行し始めた―――

 

「撃ってきたな!こっちも魚雷発射!」

 

中岡も命じた。

推進エンジン全開、水深100メートルに潜航中の《ミドガルドシュランゲ》も、無事な連結車輌に備えられた魚雷発射管の扉が開き、2本の魚雷が発射された。後部連結車輌から発射され、海面にいる獲物を、憎き白鯨に喰らい付かんと勢いを増した鋼鉄の鮫たちが、水面を目指すように上昇していく。

 

「聴音探知!魚雷3本……いや、4本接近!」

 

連邦聴音員が張り上げた声を聞き、中岡は命じた。

 

「急速潜行!前進一杯、潜れ!」

 

言い聞かせるように深海に潜る鯨を模倣する鋼鉄の世界蛇は、回避行動を取る。

 

「我々の魚雷の状況は!?」

 

秀真が声を上げた。

 

「敵を探知しています!命中まで1分30秒!」

 

「敵も撃ち返しているはずだ!古鷹は面舵一杯!同時に各員はマスカー起動と音響デコイ発射!」

 

『了解しました!!!』

 

ソナー員の言葉に、秀真は素早く命じた。

古鷹も回避行動をし、装備妖精たちも敵が撃ち放った魚雷のピンガーを吸収及び撹乱させるため、艦体の周りには気泡が立たせつつ、もうひとつの隠れ蓑として音響デコイを展開させた。直後、2本の雷跡が獲物を仕留めようとする人喰い鮫の如く、推進音を桁ましく咆哮させながら突入しようと襲い掛かって来た。

が、双方による撹乱に惑わされた敵魚雷は、エンジン音やスクリュー音を捉えることなく、目標を見失なったまま、鋼鉄の人喰い鮫たちは明後日の方向へと迷走して行った。

 

回避成功と同時に、眼下では古鷹が撃ち放った音響魚雷は、目の前にいた標的―――急速潜行で回避する鋼鉄の世界蛇を捕捉し、推進エンジンを蹴り上げてスピードを増して突き進んだ。

迫り来る鋼鉄の鯱たちが獲物に喰らい付きいた瞬間、海底火山を連想させる凄まじい爆発音に混じった水柱が立ち上がった。

距離が離れても自分たちの双眸から耳を聾する爆発音、そして身体中から独特の振動も全て伝わって来た。

 

「目視で確認!敵は誤魔化している可能性もある充分に注意せよ」

 

敵が完全に沈黙したかを確かめるべく、秀真は命じた。

彼の命を聞き、熟練見張員たちが双眼鏡を携えて確認した。

撃沈していれば中岡たち乗組員の死体が浮かぶはずだが、WWⅡ時代のようにゴミや油などを放出して欺くこともあるからだ。

駆逐艦や軽巡洋艦、海防艦による爆雷、軽空母の艦載機部隊による対潜爆弾攻撃ならば誤魔化せるが、現在の各国海軍が保有する対潜魚雷《アスロック》などの音響探知方式搭載の対潜魚雷には、デコイなどと言った対策を取らない限り、逃れることは出来ない。

 

『こちら見張員!水柱が見えた場所には少数の死体及び、ゴミや油などが散乱しています!』

 

「……少数だと?」

 

CICに響き渡るほどの大声を出した見張員の報告に対し、秀真は違和感を感じた。いや、寧ろ不吉な予感に襲われたのだ。

敵はまだ多いはずなのに、少数の死体などしか浮遊していないとなれば中岡たちはまだ生きている証しを伝えたも同然だ。

 

「……もしも生きているならば、奴は何処かにいるはずだ」

 

秀真が呟いたとき、左舷から突如として巨大な水柱が現れ、その中から水面に投げ出された獲物を丸呑みにしようと襲い掛かってくる肉食獣の如く、高速で回転するドリルの先端が姿を現した。

 

「勝負はまだ1回の表だ!あの程度で死ぬ世界皇帝ではないわぁ!」

 

やはり、中岡たちが操る《ミドガルドシュランゲ》は生きていた。

先頭車と後部車輌には至るところに雷撃を喰らった損傷が、癒えない傷跡が残っていた。だが―――秀真・古鷹は浮上して来た鋼鉄の世界蛇は、先頭車と後部車輌には各々と雷撃による損傷はしているものの、3輌のうち1輌の後部車輌がなかったのに気づいた。

恐らく自分が生き残るため、中岡は仲間がいた後部車輌を切り離して囮として利用したが、不運にも残りの魚雷が命中したため水没を逃れるために浮上し、今の水上戦に挑んだのだろうと、ふたりは推測したが、今は緊急回避に徹した。

 

「古鷹!緊急回避!面舵一杯!急げ!」

 

「面舵一杯!いそーげ!」

 

秀真の命に、古鷹は復唱しつつ緊急回避に移る。

彼の迅速な対応に伴い、緊急回避のおかげで螺旋状に回るドリルを回避することが出来た。艦船による衝角戦は最大戦速を行なうと転覆し兼ねないため、どうしても速度を調整しなければならない。今の相手の速度は約7ノットに見えたが、襲い掛かってきた《ミドガルドシュランゲ》の衝角による攻撃で破壊しようという強烈な意思を見せつけた姿は、まるで異形の怪物でもあった。

 

また、古鷹は究極の個艦防衛システムとも言える《クライン・フィールド》の多用は控えている。念入りに今も展開はしているが、敵の攻撃を喰らう度に低下及び、膨大な量のエネルギーを消費し兼ねないのが最大の弱点でもあるからこそ短期決戦で挑まねばならない。

だが、相手もドリルによる衝角戦及び、1基しかない貴重なボフォース 57mm Mk 3速射砲や連邦乗組員たちによる攻撃しか出来ないため、同じく不利な状況に、中岡たちも短期決戦を望んでいるはずだ。

 

秀真たちは史実のアルマダの海戦(1588年)で、衝角戦を仕掛けようとするスペイン海軍艦隊に対し、英国海軍艦隊のように回避しつつ、両舷にいた艤装妖精や超人部隊たちなども高角砲や対空機銃、各機銃銃架などを精いっぱい力を振り絞り、獅子奮迅の勢いで戦っていく。

 

 

同じく中岡たち連邦軍も《ミドガルドシュランゲ》が装備しているボフォース 57mm Mk 3速射砲を撃ちつつ、隙を見ては幾度もドリルを使って衝角戦によるダメージを与えようと試みているが、全ての攻撃が虚しく回避されてしまうなど苛立ちを覚えた。

こちらの操縦も自他を認めるほど上手いが、敵の操艦技量や戦術なども見事なものであることは認めざるを得ない。が、時代遅れな精神とも言える武士道や騎士道、そして文武両道があろうとも所詮は陳腐な精神主義に毒された独裁者に過ぎないものだ。

日本はやれ神の国だ、精神の絆で歩んで来た国だと思うばかりだから国内はおろか、アジア諸国、そして世界平和すらも遠のく。

そういう馬鹿げた思想や教育勅語などを大切にするよりも、チュチェ思想を崇め、自己優先しなければどんな戦でも勝利出来ないものだ、と内心に呟いた。

 

「どうにか敵のバリアだけでも無効にしなければ、ミサイル攻撃をしても無駄に終わる」

 

中岡は対策案を考えるあまり苛立ちを抑えようと、無意識のうちに、ガリガリと親指の爪を噛んでいた最中、ふと脳裏にアメリカ亡命時に暇つぶしに観たとある海外ドラマで、主人公が敵のバリアをすり抜ける攻撃方法を思いつき、実戦で功を奏したことを思い出した。

 

―――これならば、奴の絶対防壁を破ることが出来るぞ!

 

中岡は呟くと、すぐさま車内にいた殴り込み部隊に連絡した。

兵は詭道なり、自分の理論が正しいことを信じて、今度は衝角戦ではなく、接舷して殴り込み部隊で攻撃するように言い聞かせた。

 

「今度は接舷を行なう!同時に殴り込み部隊を射出する!」

 

《ミドガルドシュランゲ》は、瞬時に脇腹に喰らいつく体勢を構え、真正面から前進していくのだった。

 

 

 

「今度は騎士の馬上槍試合のように、真正面から突撃か」

 

秀真は、少し皮肉を込めながら言った。

中岡たちが槍を構えて正面きって一騎打ちというのが、まさに豚に真珠でもあったからだ。

当時のトーナメントでは槍(ランス)に限らず、スピア、ナイフや剣などのあらゆる武器の使用が許可された。

敵対心を持たない相手が正々堂々と槍を構えて、己の実技の練習と勇敢さの披露のために行われる軍事演習するのに対し、中岡たちの場合は敵対心や嫉妬心などを常に持ち続け、槍と同時に懐や脇などに隠し持っていた拳銃を取り出し、美徳を投げ捨ててでも相手騎士を殺害するほど卑劣な戦法をやってのけるからだ。

彼がそう考えている内に、前方から睨んだ蛙を喰らわんとする大蛇のように《ミドガルドシュランゲ》が刻々と近づいて来た。

 

「奴が来るぞ。面舵15度」

 

「はい。提督!」

 

秀真たちは再び回避行動に移りつつ、近接戦闘で損傷を与える戦法を取り、行動不能になったところで、距離を置いてから主砲による集中砲火を浴びさせて止めを刺す方針である。

戦争というものは常に時の運であり、神のぞ知る世界で神同士が行なうチェスの駒のように動かされていくものでもある。

同じ戦法が二度も通じるとは考えないが、運よく効く場合もあるから戦争と言うものは分からないものだ。

 

回避行動最中に艦全体に、ドォンと独特な鈍い音がした。

幸い《クライン・フィールド》が、ドリル攻撃を防いでくれた。

今にでも接舷しそうな距離を、互いの巨体をすれ違うように重なり合った瞬間、中岡の真の目的は達成されたも同然だった。

 

「今だ!」

 

中岡が声を上げた瞬間、後部車輌の屋根から収容式発射台が現れた。

姿を見せた3台のカタパルトは、地対空と地対地ミサイル運用に用いられる輸送起立発射機を模倣しており、人間ひとりが搭乗出来るほどの大きさ、さらに素早く収納及び、高さを自在に伸縮出来るように小型化にカスタマイズされている。

それに搭乗する3人の連邦軍兵士。しかもあの強化兵のブルートだ。

しかし、彼らはいくら強化兵でも小銃や短機関銃などの最低限必要な小火器はおろか、手榴弾、対物ライフルやRPGと言った重火器すら持っておらず、それらの代わりに両手に携えていたのは―――

 

「不味い!古鷹は回避、左舷にいる乗組員たちなどは素早くカタパルトごと自爆兵を排除せよ!決して射出させるな!」

 

携えているものを見て、気づいた秀真が古鷹たちに伝えたとき―――

 

「発射ーーー!!!」

 

中岡の号令が響き渡り、カタパルトからブルートたちが射出された。勢いよく飛び立つブルートたちは、手に持っていた代物、本来ならば速射砲が使用する榴弾砲弾。事前に弾頭部を緩め、信管を作動状態にさせたものを、まるで仇討ちを取る武士が抜刀した刀のように掲げるように飛んでいく。

しかし、彼らの射出後、カタパルトは全て敵に破壊されたが、中岡にとっては痛くも痒くもないものだった。

 

「いっけーーー!栄光ある我が精鋭戦士よ!必ず軍神として奉るからな!」

 

 

 

「対空戦闘開始!奴らを海に叩き出せ!」

 

蒼空を背景に、降下するブルートを眼にした乗組員たちは対空射撃を再び開始した。各自に就く装備妖精や乗組員たちの双眸を落としてでも分かるほどのマズルフラッシュに伴い、叫び声を遮り、紅蓮に染まり、今にでも暴発しかねない銃口から撃ち放たれた銃弾の嵐に捉えられた哀れにも2体のブルートの肉体を引き裂いた。

絶命した2体が携えた砲弾が水面に叩きつけられた瞬間、艦橋まで覆い尽くさんという勢いを見せた水柱が立ち上がった。

装備妖精たちなどは、冷たい海水を浴びたものの、機関銃の銃身を冷やすための恵みの雨だと感謝した瞬間。

 

「うわああああああ!」

 

安堵するも束の間。仕留め損ねた1体のブルートが雄叫びを上げながら降下する。しかも《クライン・フィールド》をすり抜けて。

大至急、左舷にいた超人部隊や陸戦妖精たちが短機関銃や軽機などで仕留めようとしたが―――

 

「中岡大統領閣下万歳!」

 

着地と同時に、砲弾の信管が作動した。

眩い閃光に包まれたブルートは高らかに笑みを浮かべた直後、ドカンッという激突音に伴い、衝撃がマリアナの海に轟いた。




今回もまた良いところで、終了となりました。
なお今回もまた悩んで時間が掛かり、海戦に力を注ぎまくりました。
兄部艦長の伝説の取り舵一杯は、某ライブ配信の報道番組のレギュラーコーナー『昭和の英雄が語る 大東亜戦争偉大なる記憶』で元長門の乗組員の話を聞いて知りました。

灰田「他にも有名な偵察機の搭乗員や瑞鶴の暗号解読員などと貴重な話は涙無くしては聞けない昭和の英雄たちがこうして語り、我々が受け継ぐことを忘れてはいけませんね」

真実と記憶は生き続けることは出来ますからね。
なお、今回の《クライン・フィールド》をすり抜けるという元ネタは、某海外ドラマ『スターゲイト SG-1』を元にしています。
オニール大佐が、バリアーを張ったアポフィスに対し、投げナイフで打ち破るという場面がありましたから参考にしました。
あのシーン、いつ見てもカッコ良く印象に残ります。

灰田「実際に米軍が今、バリアーを開発しているようですし、本当に私の世界やHALOシリーズなどSF世界になりつつありますね」

レールガンやステルス迷彩なども開発中ですからね。
次の新作でも出して良いかな(ボソッ)

灰田「今のは冗談だと聞き流してくださいね」

あぁん、ひどぅい! (兄貴ふうに)
時間は掛かりますが、また上げようかなと思いますので楽しみに待ってくださいませ。あくまで今の段階ではですが。
本作品もあと2話で終了ですが、最終回でも本作品を最後までお楽しみくださいませ。

灰田「では、次回の最終決戦の結末を迎える最後の海戦を、お楽しみくださいませ。それでは第百四十六話までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!次回もお楽しみに


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第百四十六話:対決の時 後編

お待たせしました。
いよいよ今回で最後の海戦に終止符を打ちます。
風邪と戦いつつ、今回は9000文字以上になりました。

灰田「なお、私も少しだけ登場します。田中光二先生作品愛読の方々ならば、私の力が分かります回でもあります」

それでは……

作者・灰田『それでは本編であります。どうぞ!!』


「左舷中央に被弾しました!」

 

「ダメコン班、左舷中央に急げ!」

 

古鷹の報告に対し、秀真は電話の用いて、消化活動指揮を行った。

受話器越しからでも、応急処理要員や複製乗組員たち率いるダメコン班の張り上げた声や駆け足の音などが聞こえた。

 

『提督に報告!左舷中央・第4甲板に火災発生!』

 

『弾薬庫に火災発生!弾薬庫に火災発生!』

 

彼女たちの報告。そのなかで一番最悪な状況報告、弾薬庫に火災発生という言葉を耳にした。

 

「弾薬庫に注水!急げ!」

 

秀真の号令一下、すぐさま誘爆を防ぐため、弾薬庫に注水された。

史実上では数多くの海戦でもありふれたものであり、また前者だけでなく、人災による爆発事故でもしばしば起きていたほど恐ろしいものでもある。

 

「提督、左舷シャフトがダウンしました!左舷動きません!」

 

「シャフト区画閉鎖!針路290!回避行動継続!同時に隔壁閉鎖、72から124!」

 

「隔壁閉鎖!72から124。甲板第4・5・6!」

 

秀真の命を古鷹たちは、迅速に対応する。

艦内ではサイレンが鳴り響き、全員が閉鎖区画から退避する。

彼の迅速かつ的確な命令により、古鷹たちの命が救われたのは不幸中の幸いだった。しかし―――

 

「注水完了しましたが、搭載武器のほとんどが使用不可能です」

 

「使える水上火器は?」

 

「20.3cm連装砲が辛うじて使えます」

 

「残弾数は?」

 

「徹甲弾4発だけです。提督」

 

彼女の報告を聞き、秀真は命令を下した。

幸い予備の操舵装置は生きている。上甲板などを覆った炎は、無事に鎮火して火災は収束し、応急修理も完了した。

攻撃力の大半は失われたが、予備機関も舵も作動している。何よりもまだ自分たちは生きている。

 

「……針路295。浅瀬に向かう。次で終わらせる。最後まで戦うぞ、古鷹!」

 

「はい。提督!」

 

深刻な状況と化した秀真たちは、最後の瞬間まで諦めず、最後の戦いにケリをつけるべく浅瀬に向かうのであった。

 

 

 

「見たか!所詮貴様らにバリアなぞという自惚れた未来技術を持つアジアの侵略者など豚に真珠に過ぎんわ!」

 

中岡は狂気の満ちた笑みを浮かべながら、秀真たちに打撃を与えたことに嬉々した。彼に続き、連邦乗組員たちも同じく歓喜した。

自爆兵による特別攻撃を成功させて、一旦は離脱し、距離を置きながら移動する《ミドガルドシュランゲ》も無事ではなかった。

自爆兵射出用カタパルトは全て喪失、近接攻撃による銃創などの傷を負ったものの、中岡たちにとって小さな損傷は寧ろ気にすることもなければ、男の勲章でもあった。損傷は被ったものの、敵艦にダメージを与えたことを考えれば安いものであった。

そして誰もが中岡大統領がいる限り、こちらに勝算がある。負けという二文字はないと活気付いたのだった。

しかし、実際には偶然観ただけの某スターゲイトで敵が張り巡らせた個人用シールドにより、主人公たちが携えるエネルギーガンや銃などを通さないほど強靭なシールドに苦戦したが、主人公が投げナイフなどスピードの遅いもので無効にした場面を思い出し、それを単に自爆兵部隊に置き換えて実行しただけであるが。

 

「こ~んな良い考えがあるとは、お釈迦様でもご存知あるめぇ!う~ん、自分で言ってもこの美顔と頭の良さにクラックラ来るぜ!」

 

テクノロジーに自惚れ堕落した日本海軍に一矢報いたことは、日米のくだらないテレビ番組よりも遥かに面白い眺めだったから、自重することなど忘れるぐらい気分が高まっていた。

 

「このまま敵艦を、ミサイルの射程距離に誘う!真正面に移動するように努力しろ!」

 

中岡もまた同じ方向に向かいつ、最後の勝負に挑もうとした。

もう一度だけ、フェアを装い、最後は挟み撃ちで仕留めるという作戦を成功させるために正面から挑むのがミソである。

成功したら、撃沈には最高の日だと思うと歓喜な気持ちを隠せなかったのだった。

 

 

 

刻々と報復の刻が近づく。

見晴らしの良い場所から忠秀率いる精鋭連邦親衛赤軍が、地上発射型ハープーン発射機の準備を完了しつつあった。

敵艦が有効射程距離内に入り、中岡たちの操る《ミドガルドシュランゲ》が攻撃体勢を取ったら、4発の対艦ミサイルを全でお見舞いする方針である。成功した際は憎き敵提督や艦娘を含め、全ての乗組員639名の命を奪うことが出来る。

例え生き残ったとしても、この世界一深い海溝と言われるマリアナ海溝で誰にも知らず冷たい海底で寂しく死ぬか、また生きて浮上しても中岡たちは敵を捕虜とはせず、生存者は全て機銃掃射で殺害し、その後は海に捨ててサメたちの餌にしてやるまでだ、と捕虜に恩情に必要ないと呟いた。

 

「もう少しだ。この瞬間を待っていた」

 

双眼鏡越しには遥々と遠くから、こちらに向かってくる秀真たちを凝視した忠秀が呟いた。むろん彼だけでなく、提督死亡と艦娘轟沈と言う名の最高のショーと、元帥たち率いる連合艦隊が絶望に陥る姿を見れるのではないかと、親衛赤軍隊員たちも、ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべながらその瞬間を楽しみに待っていた。

この場所まで来た道には自分たちの足跡などを残しているが、仮に敵が見つけたとしても、こちらはすでに敵艦を屠り、そして自分たちは地下洞窟まで逃げ込み、そこに用意している脱出用の潜水艦で逃げている最中だ。

 

「日本の希望を壊すのが、我々の使命だ。大人しく中国や韓国、北朝鮮様という偉大な国家の奴隷はおろか、中岡大統領様や我ら連邦共和国に楯突いたことを後悔しながら、この海に彷徨う侵略者たちの魂と鉄屑とともに死ぬが良い!」

 

忠秀直々に近づきつつある目標に照準を合わせようと、調整していた際に、ふと幻影とともに威厳のある声が脳内に響いた。

 

―――彼らを攻撃してはならない。反航戦になるまで何もしてはいけない。

 

その不思議な幻影は灰色服の男の姿をしており、まぶたの裏を過るとともに、その声は抵抗し難い説得力に満ちていた。

もしかして、この幻影たる人物が日本を助けた未来人、果ては異星人なのかと推測した。敵艦を葬るまでは堪えなければと内心ではその声と必死に抗っていたが、ついには灰田の声に負けてしまい彼の言うとおりになった。強力な暗示と言ってもいい。

 

「ハープーンの有効射程距離まであと少しだ。各員周囲警戒を」

 

『ラジャー!!!(了解!!!)』

 

誰ひとりも忠秀の不審な行動に違和感を感じることはなかった。

部活たちは中岡たちからの与えられた命令を実行しているだけなのだと、暗示に掛かっていることすら気づかないか。またはこの場にいた者たちも暗示に掛かってもいたが。

 

その頃、双方の海戦は―――

 

「提督。まもなく浅瀬に入ります」

 

「もう少しだ。あと少しで終わる」

 

浅瀬ならば、中岡たちは隠れることすらも出来ないが、こちらも下手をすれば浅瀬に座礁するという最悪な状況になり兼ねない。

だが、秀真たちは最後まで諦めずに闘志を燃やしながら移動していると―――

 

「敵艦。方位290。もう少しで我々の勝利は目前だ!前進一杯!速射砲及びドリル用意!」

 

中岡は声を上げながら、連邦乗組員たちが行動に再び移る。

損傷してもなお堪えて動く《ミドガルドシュランゲ》は、反転しながら真正面で身構える容姿は槍を構える騎士のようだった。

槍の代わりに、速射砲とドリルを構えるという二刀流を兼ね備えているが。

 

「6時方向に敵。距離2100メートル、針路295です!増速しています!」

 

熟練見張員の報告が響き渡る。次いでCICから直通の電話が切迫した音声を吹き出した。秀真は、敵は速射砲や魚雷などが搭載されている武装車輌を利用し、こちらにある程度ダメージを与えた直後、再び衝角戦を挑むと推測したと同時に―――

 

「300メートル、真っ直ぐに向かってきます!」

 

「古鷹!面舵一杯だ!」

 

レーダー員からも新たな報告を受け、こちらに接近して来る鋼鉄の世界蛇を操り、背中に跨ぐ哀れな世界皇帝を睨んだ彼は素早く命じた。

 

「はい!」

 

面舵一杯。古鷹も秀真の命に応え、操艦する。

また彼女に応えてフル稼働する予備機関と操舵装置は、巨艦を震わせて中岡がいる真正面に向こうと動かした。

檣頭には大日本帝国海軍の戦闘旗、燦然と輝く旭日旗を翻し、中将座乗を示す中将旗をはためかせて、距離を詰めるべく猛進する古鷹。

そそり立つマストに、無数の電子装備を施して新たに生まれ変わった彼女の姿は、逞しき黒騎士を護るため、白銀の完全鎧に身を固め、大剣を振りかざして戦場を疾駆する華麗な戦乙女とも見えた。

 

「主砲、右砲戦。一番、二番主砲塔、砲撃用意!」

 

秀真は逸る心を落ち着けつつ、緩やかに旋回する砲塔を見つめて、発砲のときを待ち、必勝の意志を刻み込むために叫ぶ。

 

「右砲戦!徹甲弾装填!」

 

秀真の檄に応えるかのように、古鷹も叫んだ。

主砲塔内、艦底近くの弾薬庫から給弾室を経て、艦内から遥々と長い旅を続けた旅人のように、最上部の換装筒に至った徹甲弾が、漸く目的地たる装填機へと移される。

主砲の砲尾が開き、装填機が前進して、砲弾とともに、炸薬が装填される。そして尾栓が音を立てて閉じ、2基4門の主砲が緩やかに旋回した瞬間、中岡たちの《ミドガルドシュランゲ》もこちらに照準を合わせて捕捉する独特のロックオン音が鳴り響いた。

 

「提督!ロックオンされました!」

 

通信員の上擦った叫びが、秀真たちの鼓膜を直撃した。

 

「解析終了。敵艦にいつでも攻撃出来ます!」

 

秀真たちに挑む中岡たち。張り上げた声を出した連邦砲術長の叫びは、中岡の鼓膜まで響いた。

報告を聞き、世界皇帝の口元が、微かな笑みを浮かべている。

―――もう少しだ。敵との殴り合いはおろか、所詮は戦争。勝てば官軍となり、負けたら賊軍と言うことを思い知らせた後は、溺れる犬は棒で叩けというように下手をすれば、後々、面倒になり兼ねないからせめてこの冷たいマリアナ海溝に沈めて、人喰いサメたちの餌にしてやるのが武士の情けだ。

 

「博愛主義の戦犯と時代遅れのボロ艦は、今こそ未来永劫の侵略戦争の贖罪を果たすこの瞬間のために死ぬのだ!針路そのまま!砲撃用意!」

 

中岡は唇の内に呟いた言葉を発し、勝利を確信したとき―――傲慢な世界皇帝の予想を裏切る展開が襲い掛かった。

岬から白煙の尾を引いて、音速を超えた大剣が鋼鉄の世界蛇の背後に突き刺さった。直後、轟音と衝撃が交じった爆発音が鳴り響く。

 

「なんだ!敵の卑劣なる攻撃か!?」

 

「いえ、あれは我が軍の、忠秀主席率いる精鋭親衛赤軍部隊です!」

 

中岡の言葉を、掻き消すように連邦通信員が張り叫んだ。

 

「何故だ!1発だけでも誤射では済まないぞ!繋げろ!」

 

「は、はい!」

 

部下たちは緊急回線を通して、忠秀たちに無線で呼び続けていたが、彼らは沈黙を守っていた。やはり無線を傍受されることを恐れて切っているか、本当に切っているかのどちらかだ。

しかし、そうとも知らずに中岡たちに対し、ミサイル攻撃をした忠秀たちは灰田の暗示に掛かっていたため、知る由もなかった。が、突如として、彼の暗示は消えていく。

灰田による暗示から、漸く忠秀率いる連邦親衛赤軍部隊は、いま起きている光景を見て、唖然としていた。

 

「誰だ!中岡様に刃を向けた!」

 

張り叫ぶ忠秀主席に、この場にいた隊員たちは互いの顔を見合わせたが沈黙していた。沈黙を破るように彼は叫んだ。

 

「ミサイル整備班責任者の田渕大佐がこの革命的な聖戦を汚したんだ!だからこそ我々は今の彼に対し、総括要求の限界を打破しなければならなくなった。その指導のために殴る蹴るという方法を取る!」

 

『異議なし!!!』

 

忠秀の命を受けた親衛赤軍隊員たちは、恐怖に怯えていた田渕大佐の両脇を抱えて拘束した。

 

「田渕大佐!中岡様の革命的な勝利を台無しに伴い、我が共和国に対する国家反逆行為を自己批判し、中岡様の要求されている総括に応えろ!総括は全員で行なう!」

 

総括行為を宣言した忠秀主席は己の拳を握り締め、躊躇うことなく、思いっきり田渕の頬を殴った。彼に続き、この場にいる人間が交代で殴り、最後は全員が殴る、蹴るをひたすら繰り返すという壮絶なる集団リンチを行なった。この行為により田渕の両頬は赤黒く膨れ上がり、口からは突き出した前歯、それでも自己批判が足りないと判断され、全員が銃剣を両腕や両脚に突き刺し、挙げ句は喉や胸をめった刺しにされ続けられた。が、それでも人間という生き物の生命力は中々のものであり、生命力もたまげたものだ。まだ生きていた田渕を、忠秀たちは今度は抱え上げて崖から突き落として殺害した。

 

「これぐらい簡単なことも自己批判すらも出来ない敗北主義者めっ!」

 

彼ら連邦国家からして見たら、総括は『真の連邦市民や戦士となるために反省を促す』と称して行なわれたが、実際にはただの凄惨な集団殺人に過ぎなかったのだ。密告や敵前逃亡はおろか、戦闘による銃やナイフを傷つけた、連邦軍幹部になりたいという訳の分からぬ理由から、挙げ句はキスをした、男女交際をした、妊婦だったからなど幼稚な理由ばかりで総括対象となった。

しかし、この行為が貴重な時間はおろか、失われた勝利という事態を自分たちで作ってしまったのだった。

 

「この汚名を挽回し、今度こそ革命的勝利を収めれば、中岡様もきっとお許しになさると同時に、我ら連邦共和国が世界に輝くときだ!」

 

臥薪嘗胆。漸く恨みを晴らせると思ったとき、入り口を警戒していたふたりの歩哨兵が、グワッ、と短い悲鳴を上げて倒れた。

むろん倒したのは、日本軍の特殊部隊だ。

しかも日本刀を携えた指揮官とともに、見たこともない日本軍の特殊部隊、恐らく不死身の部隊と、開戦時にサイパン諸島を襲撃したあの空挺部隊という情報は嫌と言うほど聞かされたから、忠秀たちはすぐに理解した。

 

 

「こんなときに敵襲だと!どいつもこいつも邪魔ばかりしよって!我らの革命的平和の邪魔をするな!」

 

忠秀主席は、直ちに排除しろと命じた。

連邦軍、特に中岡たちの私兵部隊とも言える精鋭親衛赤軍部隊は実力は本物であり、選りすぐれの精鋭隊員たちを中心に集結された特殊部隊でもある。AK-12やM27 IARなど最新鋭の装備に伴い、韓国の大韓民国海軍特殊作戦旅団や特殊戦司令部、北朝鮮の軽歩兵教導指導局、ロシアや中国、親中国家のパキスタンなど各国の特殊部隊が行なう戦術及び、ナイフやスコップなどを利用した格闘術を心得ている。

 

また中世ヨーロッパの甲冑を纏った重装甲兵士を模倣したアーマーを着用したブルートには、右腕にRID ストライカー12という回転式弾倉を持つ散弾銃を拳銃代わりにし、さらに左腕にはライフル弾の貫通にも耐える高い防弾レベルを誇る大型のバリスティックシールド(防弾盾)を構えて前進した。いざという時にはこの盾で殴るなどによって、接近戦も出来るように改造されている。

 

忠秀は勝ち誇った笑みを浮かべ、発射台を調整した。

双方が一団となれば、さすがの日本軍が誇る不死身の部隊や精鋭部隊なぞ赤子同然、我らの精鋭親衛赤軍部隊には敵うまいと思っていたのだが―――想定内はおろか、期待は大いに裏切られた。

 

悲痛な悲鳴がまた聞こえ、ふと後ろを振り返った。

最初の銃撃戦では互角に戦えたものの、徐々に我が精鋭部隊が日本軍の特殊部隊に押されているではないか、と、我が目を疑った。

日本軍の迅速的確な連携に伴い、一斉射撃。彼らの一方的な火線が抵抗を続ける親衛赤軍隊員たちに向けて、凄まじい連射速度を誇る短機関銃や軽機関銃から放たれる銃弾の雨及び、日本刀による一刀両断を受けて、精鋭親衛赤軍隊員たちは次々と倒れていった。

 

さらに弾切れとなったストライカー12散弾銃を捨てた2体のブルートは、日本刀を携えた指揮官らしき男を挟み討ちにして襲い掛かり、盾を思っ切り振り落とした瞬間。ヒュンと鳴った風切り音。その人物に向かって振り落とされる前に、両者の左腕を眼にも見えぬ速さで斬り落とされ、腕から真っ赤な鮮血が噴き出した。

2体の強化兵はガラガラの濁声で、お世辞にも聞きとりやすいとは言えないが、耳をつんざくような苦痛の叫び声であることは確かだ。

 

「よくも中岡様の大事な子どもたちを!殺してやる!」

 

忠秀は堪え切れなくなり、懐ろからタウルス レイジングブルを取り出し発砲した。同時に戦闘意欲と殺意の眼を見せ、己の拳で撲殺しようとしたが、再びヒュンと空気が鳴り響いた。

だが、勝負は一気に着いた。

彼らはその時、何が起こったか理解出来なかったが、すぐに理解した。ボトッ、と球体らしきものが足元に落ちていく。

彼と、2体の強化兵の瞳に映るのは膝をついた自分自身の身体、やがて力尽きうつ伏せに倒れたという光景だった。

 

「他愛もない」

 

敵の首を刎ねるという華麗なる殺陣を決め、伊吹は日本刀を収めた。

周囲を見渡すと、ツルタ少佐の超人部隊と福本たち第六歩兵中隊の合同部隊も連邦軍兵士たち全員を殲滅していた。

 

「伊吹首相、御時間がありません。彼らに止めを」

 

ツルタ少佐は変わらず、落ち着き払った口調で答えた。

灰田の暗示と、彼の教えがなければ、秀真たちは危なかった。

それを阻止してくれたことに感謝した。

 

「分かった。私が直々に秀真提督を援護する」

 

 

 

「忠秀主席!答えろ!どうしたんだ!」

 

通信機器に向かって怒鳴る中岡の声が《ミドガルドシュランゲ》指令室内に響いた。

しかし、彼とは打って違い車内にいた生き残りの連邦乗組員たちは悲痛の声で満ちていた。もう持たない、早く逃げないと。

ミサイル発射台が日本軍に占領され、袋の鼠にされたのは自分たち。

ならば、ここから逃げなければと、パニック状態に陥っていた。

 

「持ち場に戻れ!命令だ!我々は今こそ限界を超えるときだ!我らは選ばれし神々なのだ!」

 

中岡は、金ピカ仕様のデザート・イーグル自動拳銃を向けて、全員を脅したが、誰も言うことなぞ聞かなかった。

中岡たちは自分たちの最期が来たと認めなかった、自分たちは神になるまで死にたくないという願望を叶うまでは、と。

 

 

突然のミサイル攻撃、中岡たちが無防備になっていることに戸惑いを隠せなかったものの、やはり隠し玉を持っていたか、と悟り、そして秀真は最後の砲撃を命じた。

 

「古鷹、砲撃で沈めるぞ」

 

「はい、提督!」

 

古鷹が放つ、最後の砲撃。活火山の噴火と見紛う火焔とともに撃ち放たれた徹甲弾は、大気を揉み込むように飛翔して、浮遊する《ミドガルドシュランゲ》に目掛けて突入する。

爆発的な轟音を上げて、2発の徹甲弾は前檣楼構造部に命中。前檣楼を囲む装甲を突き破り、凄まじい運動エネルギーで分厚い装甲を歪ませ、車体を浮き上がらせた。

続いて、伊吹たちが放った1発のミサイルが後部連結車輌に命中し、2発目のミサイルは速射砲を備えた武装車輌を瞬く間に沈黙させた。

3発目は推進スクリュー車輌に命中、もはや逃げ場を失った。

 

半身不随に陥った哀れな世界皇帝と鋼鉄の世界蛇に最期を、止めを刺そうと秀真が、古鷹の意思を確かめる。

こくりと頷いた彼女が、彼に視線を向けた。

 

「撃てぇぇぇ!」

 

秀真の号令一下、連装砲は轟然と咆哮する。

主砲塔に猛打を加え、白熱する砲弾が飛翔し、宙を飛び渡る徹甲弾の唸りが聞こえた。次の瞬間、耳を聾する爆発音、車輌が裂ける独特の異音、数発の攻撃を浴びて炎上し、破滅の音を上げて《ミドガルドシュランゲ》は横転し、ゆっくりと深い海に沈んでいった。

 

「やりました、提督」

 

「ああ。そうだな……」

 

長い戦いを終えた安堵の笑みを浮かべ、弾んだ声で言う古鷹。

スカルフェイスマスクを脱ぎ、こちらも笑みを含んだ秀真。

 

「早くみんなに知らせましょう、提督」

 

「ああ。さっそく知らせないとな。我々の勝利に伴い、終戦の知らせもな」

 

それから少しして、艦内や遠くから聞こえる歓声を感じた。

またミサイル攻撃による援護射撃をしてくれた伊吹たちにも、感謝の信号を送った。なお本人たちは『最高の眺めだ』と送り返して来た。

 

「……帰投後は、サイパン諸島で傷の手当てが先だな」

 

「はい!」

 

緩やかに艦を反転させ、ふたりを待っていたのは、勝利の報告を聞き駆けつけ尽きた青葉や元帥たち、戦艦水鬼たちが迎えてくれた姿に、ふたりは見つめながら微笑したのだった。

 

 

 

 

秀真・古鷹に破れ、鋼鉄の世界蛇こと《ミドガルドシュランゲ》の車内には火花が散り鳴らし、ソナーや通信機器などは点滅を繰り返しながら作動していた中、頭部を負傷した中岡が朦朧とした意識を保ちながら起きた。傍にいたアンミョンペク参謀長たちの死体を見た瞬間―――

 

「うわああああああああ!」

 

しかし、絶叫を上げるも無駄に終わった。

深海技術に加えて重量感を誇る《ミドガルドシュランゲ》は、世界一深い海溝として有名なマリアナ海溝に沈んでしまった挙げ句、車内にある酸素ボンベも壊れてしまい、あと数分後には酸欠状態に陥ってしまう恐怖が彼に襲い掛かる。が、酸欠で死んだ方が幸せだったことを知るという恐るべきものが刻々と近づいていた。

 

「あ、あれはもしかして、助けてくれ!俺はここだ!」

 

ふたつの怪しい妖光を見て、もしかしたら生き残りの深海潜水艦部隊かもしれないと、窓を叩きながら必死に助けを求める中岡。

しかし、それは彼女たちではなく、自分の両眼を疑うほど巨大な海洋生物が姿を現し、周りを遊泳しながら彼を睨みつけていた。

猛禽類よりも鋭く獰猛な双眸に伴い、肉食獣よりも鋭利なノコギリ状の歯、巨大な背鰭や胸鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭を備えていた。

 

「こいつ、とうの昔に絶滅したメガロドンじゃないか」

 

中岡の言うとおり、いま周囲を泳いでいるのはメガロドンだった。

都市伝説では『生きた化石』として有名なシーラカンスと同じく、今でも僅かな生き残りが、マリアナ海溝にいるのではないかと言われていると噂が囁かれている。

本当に実在したこともだが、驚くべきことに最大では全長20メートルはあるが、こいつは遥かに超え、30メートル以上はあるのではないかと推測した。

恐怖のあまり、中岡は腰を抜かしてしまった挙げ句、決してしてはいけないことをやってしまった。

 

突如として、メガロドンが壊れかけた鋼鉄の世界蛇に噛み付いた。

 

「なぜだ!俺は怪我はしているが、血の匂いなんて外に漏らしてなんかないのに!?」

 

サメと言う生き物は嗅覚よりも、実は、聴覚の方がもっとも優れていると言われており、その発達した聴覚によって、非常に遠いところにいる動物を発見でき、サメは40ヘルツ以下の低周波で不規則な音を、約2キロも先から感知することが出来る。

その中岡が助けを求める際に、大声を出し、窓を叩いたことは獲物のもがく時にでる、不規則なパルス状の音に似ていたため、餌であることを知らせたようなものだった。

 

ミシミシと車内や屋根から亀裂が生じる音が鳴り響いた。

次第に酸素が外に漏れ、装甲も堪え切れず、玉子を纏う殻のように壊れていく恐怖心が加速されていく。

 

「た、助けてくれ!お願いだ!これまでの罪を償う!日本は良い国だと世界中に言う。だから、今までの争いを、ローデシア内戦のようになかったことにしてくれ!」

 

それが哀れな世界皇帝の最期の姿と、最期の言葉でもあった。

巨大ザメの嚙みつきに堪えきれず、強靭な顎で押し潰された車内から浸水、さらに水圧による影響で内部から《ミドガルドシュランゲ》は破壊され、内部から吐き出された中岡は水圧に堪え切れず、身体は腫れながら、原形を留まることさえしなかった。

漸く餌にありつけることに嬉々したメガロドンは、車内から吐き出され、肉塊となった中岡に喰らい付き自分の胃袋の中に納めた。

食事にありつけ、空腹も満たされたメガロドンは、また自由気ままにマリアナ海溝を遊泳し、姿を消していったのだった。

 




最後は秀真・古鷹の勝利、約束された勝利で終わりました。
哀れな世界皇帝がメガロドンに喰われるという。
後者の元ネタは、田中光二先生作品の『異獣艦隊』です。
某笑顔動画で、ゆっくりが語る架空戦記紹介動画で知りました。
マリアナ沖海戦でこの大きさを誇るメガロドンが登場し、のちに日本海軍の味方となって、イルカたちとともに米艦隊を撃沈する手助けをしています。その前は漂流した米海軍人など食べていますが。

灰田「因みに私はダイオウイカを操るように、その世界ではイルカを超能力で操る女性が主人公と結婚して超能力が今より強くなり、イルカたちが連れて来たメガロドンを操るという描写がありますように、摩訶不思議な架空戦記ですね」

灰田さんも超空シリーズなどでは、時間を止めたり巻き戻したりするだけでなく、超能力を使って原爆搭載機を鹵獲したり、果てはオーストラリアに投下させたりなどもしています。
またNATO艦隊を操り、米海軍を翻弄させるなどと色々と。

灰田「あれでも抑えている方ですが、やり過ぎも反省していますよ」

やり過ぎたら、別の未来人が来ますからね。
同連載作品に出るかもしれませんが。

灰田「出たら出たでやり返すだけでもありますが」

ともあれ、漸く次回で最終回を迎えることが出来ます。
次回は、灰田さんの最後の支援が分かります。
それは我々提督たちが貰うある物であり、彼女たちにとってもかけがえのない大切なことでもあります。

灰田「それでは次回で最終回になりますが、最後までお楽しみくださいませ。それでは最終回までダスビダーニャ(さよならだ)」

ダスビダーニャ!最終回もお楽しみに


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最終回:暁の水平線に。

お待たせしました。
予告通り、灰田さんの最後の支援が明らかになります。
それは我々提督たちが貰う物であり、艦娘たちにとってもかけがえのない大切なことでもあります。

灰田「最後くらいは私なりに締めくくれたら良いかなと思います」

それでは……

作者・灰田『それでは本編であります。どうぞ!!』


終戦から数ヶ月が過ぎた。

日本政府は、戦艦水鬼たちと連絡を取り、停戦協定を結んだ。

中岡たちの死により、呆気ない形で終戦を迎えたのだ。

無事に終戦を迎えたと同時に、中岡たちが建国した連邦共和国及び、マリアナ諸島に構えた連邦亡命政府も、事実上解体されて消滅した。だが、生き残った彼らには過酷な運命が待っていた。

解放されたマリアナ諸島を舞台に、英国から曳航した豪華客船『クイーン・エリザベスⅡ》で、戦争犯罪を断罪する軍事裁判が開延され、湯浅たち幹部からアメリカなど他国の協力者たちが裁かれた。

日本を含め、アメリカなど各国の判事や検事たちなども協力し合い、湯浅たちなどを裁いた。連邦軍の戦犯たちは禁固20年以上の者から死刑判決を下される者たちが多数を占めており、閉延後には本国へ帰国、禁固刑以上の者は刑務所内特別棟・特別病棟に収容された。

死刑囚らは全員決められた日付で、一日を掛けて処刑されたが、誰も同情することもなかった。因果応報。当然の報いだった。

マリアナ軍事裁判が終わり、連邦国が大量に隠し持っていた貴金属やダイヤモンドなどの宝石類を含む軍需物資などの押収資産は、戦後日本の復興・賠償に費やし、国内のインフラ整備と言った復興支援などに役立つことになるが、やる事はまだたくさんある。

しかし、不思議なことに、どの国も日本が重爆や空母戦闘群などを持ったことについて、どの国も不審を唱えることはおろか、艦娘排除宣言などなかったということである。

もしかしたら、灰田が暗示を掛けていたのかもしれないが。

 

 

 

 

 

秀真鎮守府

日付 X-Day

時刻 1700

 

「どうやら、あなたたちの仕事も大団円となりつつありますね」

 

灰田が穏やかな口調で言った。

以前の緊急会議に、秀真のみに対し脳内で『最後の支援がある』と言い残し、それっきり姿を現さなかったが終戦から数ヶ月ぶりにいつもの執務室で姿を現した。

 

「ああ。そうだな」

 

秀真が言った。

春の陽気に誘われるとともに、ありふれた爽やか日和というものがあるが、終戦までには味わうことを知らなかった一日でもあった。

古鷹も一緒に呼ぼうとしたが、灰田は『ふたりっきりで話したい』と言い出したのである。未来人の考えは分からないが、秀真は彼の言うとおりにした。

 

「それで灰田、今日は最後の支援のために来たのは良いが、いったい何なんだ?」

 

秀真が訊ねた。

 

「それはあなた方のために、御用意した特別なものです」

 

灰田が微笑しながら言った。

その彼が秀真に差し出したのは小さな箱、リングケースだ。

秀真はそれを受け取り、リングケースを開けた。その中にはキラッと煌めく純銀製の小さなリング、指輪があった。

 

「これは指輪……」

 

「はい。あなた方の絆をより深く、いつまでもどこまでも末永く築き上げるあなたたちの未来のために特別に御用意した代物です。この指輪はどんなときでも助け、必ず良き未来へと導き、そしてあなた方を護ることでしょう」

 

「俺たちのために用意するなんて、最後までありがとう」

 

秀真は嬉々した。

これが灰田による最後の支援、自分たちが今後の未来を、未来への道標を築かなければならない。

 

「いいえ。私として、あなた方の善意と正義を信じ、その信念を楽しませてくれた細やかなお礼だと思って受け取ってください。では、私は次なる多次元世界に存在する日本へ介入するために行きますね。

秀真提督からお話があると、古鷹さんにはお伝えしております。

おそらく数分後に来ますので、御武運を。……それでは、いつの日かまたお会いしましょう」

 

遠まわしな別れの言葉。

灰田はその言葉とともに、姿をすうっと消えていった。

秀真には知覚出来ない次元の谷間に溶け込み、消えてしまった。

白昼夢でも見たほど不思議な体験、彼が消えてから数分後、その言葉どおり、執務室の扉をノックする音が微かに聞こえた。

 

「提督、古鷹です」

 

「どうぞ」

 

古鷹の声が聞こえた。

秀真は入室許可を言い、彼女を執務室に入れた。

 

「提督、お話と言うのは……」

 

「ああ。話というのはな……」

 

ふたりは見つめ合い、緊張感のせいか上手く喋ることもままならなかったが、最初に口を開いたのは秀真だった。

 

「……古鷹、これを受け取って欲しい」

 

彼はさっと、リングケースを出した。

ぱかっと開き、指輪を古鷹に見せた。

 

「て、提督。これ……!」

 

彼女は驚いた。

秀真からのプレゼント。藪から棒ということわざのように驚いた。が、同時に嬉しさを隠し切れなかったのだ

 

「古鷹……俺はキミのことが好きだ。大切なお前を護れた今日までのことを嬉しかった事はない。今日まで俺と一緒に戦い、そして共に歩んだことをこの上なく幸せだった。そしてこれ以上の幸せを望まずにはいられない。だから、俺と結婚してくれ」

 

精いっぱいの告白を言った秀真。

彼の告白を聞いた古鷹は、にこっと微笑して答えた。

 

「はい。提督……私、嬉しいです。古鷹も……提督のこと……出逢ったときから……ずっと、ずっと……お慕わしていました」

 

「古鷹……」

 

「不束者ですが……よろしくお願い致します……っ」

 

「ああ、よろしくな。古鷹」

 

古鷹は嬉し涙を流し、秀真のプロポーズを受け取った。

たくさん言いたいことはあるが、ありふれた言葉で返した。

上手く伝わらないが、確かなもの、愛しているという言葉を伝えた。

彼女の返事と想いを聞き、ふたりは嬉しさを隠せず、そっとお互いに抱き締め合ったのだった……

 

 

 

「これで良かったんですよね……司令官と、古鷹が、幸せならば……青葉は……」

 

ふたりの未来を執務室前で聞いた青葉は、その場に座り、自身の顔を両手で覆い、声を殺しながら涙を流していた。

これで良い、ふたりが幸せならば自分はそれで良いと。

自分がまだ艦時代、生前は自分のせいで第六戦隊は解体、罪を償うことすら出来なかったあの海戦、あの日以来、仲間を失いながら数多くの激戦を潜り抜け、最後は動くことはおろか、呉市の江田島で古鷹山を護ることしか出来ず、最期まで生き残ってしまった罪を、重い十字架を背負って来たが、今日でその贖罪を漸く果たせたのだから良いと。だけど、自分は幸せになってはいけないと責めた。

泣いている青葉に、何処からともなく吹いたそよ風が彼女の頬を優しく撫でるように、あの人物の声が聞こえた。

 

―――青葉さん、大丈夫ですよ。秀真提督は、あなたたち第六戦隊を決して不幸せにさせることなどありません。

 

灰田の声だ。

どうしてと彼に問い掛けようと顔を見上げたら、秀真と古鷹が側に、今迄物陰に隠れ、ひょいっと顔を覗かせた加古と衣笠も出てきた。

 

「司令官、古鷹、加古、衣笠……?」

 

涙ぐみながら声を出した青葉。

彼女を見た秀真たちは、穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。

 

「青葉、大丈夫だ。俺はお前も加古も衣笠も家族として迎える。お前はもう独りじゃないんだ。いつの日も、どこまでも俺たちと一緒だ」と秀真。

 

「青葉もさ、生前はあたしらの分を、今はみんなと一緒に、今日まで最後まで戦い抜いて……」と加古。

 

「色々あってこうしてみんなが出逢い、思い出ある呉や江田島の街を護ったようにみんなを護り続けた」と衣笠。

 

「だから、今度は私だけでなく、みんなで一緒に幸せな未来と明日を築いて行こう!」と古鷹。

 

みんなの言葉を聞いた青葉は、涙を拭い、笑いながら言った。

 

「司令官、みんな。青葉、嬉しいです!」

 

彼女もまた救われ、より絆を深め、明日という未来の道標を築いたのであった。

 

 

 

日付 X-Day

時刻 1230

 

4月の末。

秀真と古鷹は、青葉たちを連れて、広島県・江田島市に新しく出来た海軍ホテルのプライベートビーチを散歩していた。

なお青葉たちもふたりを気遣い、今は部屋でのんびりし、あとでみんなで食事をするために合流する予定だ。

 

ふたりにとっては、初めての小旅行というべきだろう。

これは政府や元帥たちなどからのささやかな贈り物であり、休暇でもある。因みに広島旅行は古鷹たちのアイデアである。

一週間後は通常通り、結婚して妻となった古鷹、家族として迎えた青葉たちとともに艦隊指揮、元帥に書類などを提出しなければならない鎮守府生活が待っている。また同時に新しい未来、戦艦水鬼たち率いる深海棲艦たちと手を結び合い、この和の国の明日を造るという未来を叶えるために共に歩んでいく。

なお、戦艦水鬼たちも元帥や舞鶴たちの秘書及び、助手を務めたり、ケイシー社長たちのTJS社に所属した者などもおり、それぞれ新しい人生を送っているとのことだ。

 

「綺麗だな。いつもは戦いばかりの海だったが、初めて見た静かな海がこんなに綺麗だということを俺は忘れていたようだ」

 

紺碧の海を眼にした秀真は、感心したように独語した。

幾つかの戦いを、生涯を戦いに明け暮れた先人や今の自分たちも、本当の未来を誰よりも願い、信じ続けて来たのだ、と。

英霊たちの意思を受け継ぎ、護り信じたその結果として、誇りを取り戻した日本は、彼女たちと歩む未来を築き上げた。

その営みを余すことなく見守ってきた海が、秀真や古鷹たちの未来を祝福するように、蒼く輝き、静かな波音を響かせた。

 

「はい。私もこの静かな海を取り戻すまで、提督と一緒にこうして見るまで待っていました。だけど、今日で願いが叶いましたから嬉しいです」

 

彼の傍らに立つ古鷹は、はにかみながら微笑した。

秀真も嬉しくなり、古鷹の肩に手を置き、抱き寄せた。

肩に置かれた彼の手に、古鷹はそっと自分の手を載せた。

お互いの手のひらを通じて通い合う温もりが、ふたりはむろん、そして青葉たちとの家族愛や絆を深め合っていく。

そしてふたりの未来、いつか生まれてくるふたりの愛の結晶、自分たちの子どもと過ごしながら一緒にこの静かな海を眺める未来が待ち遠しくて堪らない。

 

「提督、私、とても幸せです」

 

「ああ。俺もだ。古鷹」

 

灰田が用意してくれたこの特別な指輪がくれた確かなこと、ともに歩む幸せの未来を感じたとき、ふたりの瞳に、ふと彼が遠くで見守るかのように微笑している姿が浮かんでいた。

 

「ありがとう、灰田」

 

「ありがとうございます、灰田さん」

 

灰田の幻影を見た秀真と古鷹は、感謝の言葉を述べた。

これからは自分たちが日本を、大東亜戦争で日本を護るために戦い抜いた英霊たちの意思を、彼らの意思を背負い、今でも生き続ける記憶を受け継いだ自分たちとともに歩んで行く姿を見守るように、幻影を見せたのかもしれない。

そして、日本人が過去に置き忘れた誇り、アイデンティティを取り戻したことに感謝したかのように。

 

「提督。そろそろホテルに戻りませんか?約束の時間ですし、その後は私たちの時間をたくさん過ごしましょう」

 

「ああ、もちろんだ」

 

ふたりは手を繋ぐと、白い砂浜を歩き、ホテルへと戻って行った。

 

 

 

 

 

超艦隊これくしょんR -天空の富嶽、艦娘と出撃ス!- 完




初めての長編作品・架空戦記でもあり、艦これ二次創作物として、四年間連載した本作品も無事に完結しました。
皆さまの応援や励ましなどのおかげで、今日で本作品を最終回まで迎えたことに感謝です(翔鶴ふうに)

最終回の元ネタは『真珠湾軍事裁判開延ス』と『超空の決戦』です。
前者は戦勝国となった日本が英国豪華客船、その船内ホールで史上初の軍事裁判を行います。元はハワイでしたが、マリアナ諸島で終戦を迎えましたから、この場所にしました。
後者は、左文字一尉が恋人のかすみを連れて政府からの贈り物、つまり休暇を利用して沖縄に小旅行とする場面で物語を終えるシーンが好きなのでオマージュしました。漫画版では左文字がミスター・グレイの正体を知り、別れ、最後に礼を言う場面で終わっています。
基本的に灰田さんしか今後の日本の道のり、意味深な言葉で終わることが多いですが。

秀真と古鷹、青葉たちみんなで小旅行は、やはり呉と江田島にしたのは言わずとも古鷹と関わりある古鷹山があり、ここに呉鎮守府に配備された記録などがありますから、最後はこの場所で決めました。
今日の最終回も、古鷹の竣工日に合わせたのも然り。
なお、ケッコンカリボイスでは、古鷹は恥ずかしがり屋だから『重巡洋艦の良いところ』と誤魔化しているのではないかと思いますね。
本作品では素直な気持ちを伝えて、結ばれるという形も私なりの理想を描いたものですね。
本作品で古鷹はもちろん、第六戦隊好きが増えたら嬉しいです。

灰田「もちろん田中光二先生の架空戦記シリーズなども興味を持つ方々も然りですね」

秀真「いろいろと長話はしたいが、無事に連邦国も倒し、深海棲艦たちとの講話も無事になったな」

古鷹「提督も灰田さんも作者さんもお疲れ様でした」

加古・青葉・衣笠『お疲れ様!(です!)』

神通「提督の方々も大変お疲れ様でした」

ありがとう。
最初は不安だらけでしたが、投稿日の度にお気に入り数及び、感想欄が徐々に増えていき嬉しくて書き続ける力にもなりました。
本当はまだ後書きには収まりきれないほど、たくさん話したかったですが、キリが無くなるから仕方ないねぇ♂(兄貴ふうに)

秀真「俺たちの物語は終わるが、また別作品で受け継がれる意思もあるから楽しみにな」

古鷹「別世界の私、同連載中『第六戦隊と!』の私たちの活躍もお楽しみに!」

加古・衣笠『また架空戦記展開もあるからよろしくね!!』

灰田「前にも宣言した通り、私も介入します所以、新たな展開もありますので応援宜しくお願いいたします」

青葉「なお、予告ですが……作者であるSEALsさん、また新作を出しますのでこちらもお楽しみを!」

神通「その点に関しましては、また活動報告で発表します。また助手として腕をかけますね!」

活動報告は、予定では来週ぐらいになりますね。
新作予告なので短めに纏まる時間が掛かりますが、それまで気長に待っていてくださいね。では……

最終回は嬉しくもあり、寂しくもなりますが、無事に最終回まで完走出来たことに達成感を覚えます。

最後に本作品に御協力いただいた同志たち、応援してくれた読者の皆さんに心からお礼を申し上げます。

次の新作まで、ダスビダーニャ(さよならだ)

一同『ダスビダーニャ(さよならだ)!!!』


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