ワナビな俺とライトノベルを創るアイツら (楠富 つかさ)
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プロローグ

出版の街、東京。日本の首都である東京の、閑静な住宅街の一角に店を構える『たかさご書店』そこが俺―来籐和斗―の目的地だ。

 

「こんにちわー」

店の戸を開けると、中にいるのは女の子。同級生であり、この店の看板娘である高砂智恵だ。

 

「や、カズ君。ボクのオススメはどうだったかな?」

 

おっとりした表情にセミロングより少し長い黒髪、お店のエプロンを押し上げる膨らみと、およそ女の子らしさに事欠かない彼女の一人称は何故かボク。理由は知らない。

 

「ほんと、智恵のオススメは俺の好みを的確に突いてくるよな。面白かったよ」

 

この高砂書店は俺が通っている高校から徒歩圏内にある書店で、高校受験用に下見した帰宅途中に寄ったのが智恵との出逢いだった。それから暫らく経ち、受験した高校にも合格した四月の第一週。俺は智恵と学校で再会した。それからほぼ毎日のペースで店に通っている。大型の店ではないが明るい雰囲気であり、なによりライトノベルの取り扱い量が多いのだ。俺自身、中二からライトノベルは読み漁っていた(ただし三年は心を鬼にして封印していた)が、持っている3シリーズから俺の好みを当てた智恵には脱帽である。

ちなみに、その時言ったシリーズは

『灼眼のシャナ』

『とらドラ!』

『ガジェット』

の3つ。勧められた作品は『それがるうるの支配魔術』と『銀狼』

 

「そういえば、カズ君は銀狼の最終巻は買ったっけ?」

「智恵は相変わらず俺に貸すということをしないよなぁ。買うけど」

 

高校生になって初の土曜日。時刻は午後六時過ぎだが何となく足が向いていた。取り敢えず、発売されたばかりの和泉先生の銀狼最終巻と、新シリーズを何か買ってみようか。

 

「そういえばカズ君ってパフェブラは持ってたっけ?」

「当たり前だろ。講ラノで持ってるのはあれだけだ」

 

パフェフラ――パーフェクトブラックは講談社ラノベ文庫より全五巻が刊行された人気シリーズで、誰が呼んでも引き込まれる作品だ。あれに対抗できるとしたら、小学館ガガガ文庫から刊行されている可児先生の『景色』シリーズくらいだろうか。どちらも若い女性の作品らしい……。もっとも、銀狼の和泉先生も若い部類らしいが。

 

「おい、ちょっと待て」

 

俺へのオススメだろう、智恵がカウンターに並べているラノベ。それは……

 

「なんで『SILLIES』なんだよ!?」

「だってカズ君、新世界の創妹記は全部買ったじゃん。イラストレーター繋がりで取り敢えず」

「いやいや、俺は別に尻派じゃないから! あれは斜向かいさんが勧めてきて、それで買っただけだよ」

「あぁ、あの羽島先生を推してる人ね。あと、尻派じゃないってことは胸派かい?」

 

そう妙に艶の有る声で言って智恵は腕でぎゅっと胸を持ち上げる。襟はそこそこ開いた服だがエプロンのお陰で谷間は見えない。だがどうしても眼は背ける。横目で見ているかもしれないが無意識だからノーカン。

 

「いやぁ、健全な男子高生じゃないか」

「その行為が不健全だっての。ったく、智恵は……人の気も知らないで」

「なんか言った?」

「……いや、なんでもねぇよ」

 

こういうやりとりって男女逆だよな、普通なら。

 

「はいはい。まぁ落ち着きなさいって。でもまぁ、カズ君は山田エルフ先生や千寿ムラマサ先生、不破春斗先生だとか、抑えなきゃいけないとこはしっかりしているし……これから勧めるものはどんどんマニアックか、知っているけど持ってはいない、そんな作品ばかりになると思う。君の出費はそうとう増えるけど、平気かい?」

 

……完結したばかりの長編とかはいっそ古本屋でもいいんだけど、智恵の目の前でそんなこと言えないしなぁ。俺がどうしようかと悩んでいると、智恵がちょっと上目遣いで

 

「こ、ここでバイトするなら……直接値引きはできないけど、ポイント面で優遇してあげられるよ?」

 

なんて言うんだ。……智恵と一緒にバイトかぁ。心惹かれないと言えば嘘になるが、どうにも俺は忙しい。

 

「いんや、バイトなら従姉のとこで雑務やらされるからいいよ。ま、主に炊事なんだけどさ。なんなら家に来ればいいのにな」

「あれ? 税理士さんだっけ?」

「そうそう、なんか吸血鬼っぽい人」

「すごい言い様だね」

 

母の兄が国際結婚して生まれたハーフの娘、大野アシュリー。見た目なんかは俺と大差ないけど出版関係に強い税理士として一定の顧客層を得ているらしい。

 

「まぁ、従姉は作家さんの顧客が多いから、俺が買ったラノベもレシートもって行くとたまに経費になって金返ってくるんだけどな。不破先生とか」

「ほうほう、さらに雑務をこなしてバイト代も得られる……そもそも君、お金持ちっぽいよね」

「きゅ、急になんだよ」

 

図星を突かれてどもった俺の耳に、店の戸が開く音が届いた。

 

「おや、今度はムネ君か」

「あれ……確か、和泉だっけ?」

 

店に入ってきたのはクラスメイトの和泉という男子。あれ、そういえば名前は何だっけかな? ……あれ?

 

「和泉正宗、だよな?」

「あぁ。そうだが」

 

やや低音だが爽やかさを感じさせるまるで中村悠一のような声で答える和泉。そう、和泉正宗。和泉マサムネ。

 

「何で気付かなかったんだぁああ!!」

 

俺の驚愕の叫びが夕方から夜になりつつある世田谷に響く中、和泉と智恵が苦笑している。

 

「そっか。カズ君とムネ君、ここで会うのは初めてだっけね。じゃあカズ君、改めて紹介するね。こちら和泉マサムネ先生。ここの常連の一人」

「と、智恵。うん、まぁ、そういうことだ。よろしくな、来籐」

「さ、サインとか貰った方がいいのかな?」

 

驚きで落ち着かないまま智恵の方を向く。

 

「いや、やめといた方がいいと思うよ」

 

飄々と答える智恵に今度は和泉が驚く番だった。

 

「いや、何でだよ!?」

「だって、ムネ君のサイン、落書きみたいじゃん」

「そうだ! その話だよ! 誰だよ、んなこと言ったの」

 

頭を抱えて崩れる和泉を眺めながら智恵は店のカウンターに置いてあるタブレットを持つ。あれ、注文とか在庫整理に使うんじゃないのか?

 

「ちょっと待ってね。調べるから」

「なぁ、和泉せ」

「先生はいらない」

 

遮られてしまった。

 

「じゃあ正宗。何で自分じゃ調べないんだ?」

「……エゴサーチはしないって心に決めたんだ」

 

……なにかあったんだろうなぁ。心砕けるような事件が。あるあるだよな。うん、アマチュアの俺でもあったもんな。

 

「調べ終わったけど、これ……ムネ君の小説のイラストレーターさんだよ」

「「え?」」

 

野郎二人もタブレットを覗き込むと、『エロマンガのブログ』との文字が。文面だけだと我々が見てはいけないサイトのようだが、実際はイラストレーターであるエロマンガ先生のサイトだ。ちなみに、名前の由来は島であってえっちな漫画とは関係ないとのことだ。

 

「マジか……俺たちいいコンビだと思ってたのに……」

「へぇ。エロマンガ先生って動画配信までしてたんだぁ」

「んあ? あぁ、俺は見たことあるぞ。お絵かき動画」

 

大手動画配信サービスであるニコニコ動画では、リアルタイムで映像を配信する生放送という仕組みがある。いわゆるニコ生だ。エロマンガ先生もそれを使って、コメントでのリクエストに沿ったお絵かきをしている。他にも普通にアップされた動画でゲーム実況なんかもしているようだ。

 

「おや、今日もあるみたいだよ」

「そうか。なら早速、ちょっと見てみるかな。ありがとな、智恵。んじゃ、来籐もまた明後日」

「おう、じゃあな正宗」

「またね、ムネ君」

 

こんな感じで、俺は和泉マサムネ先生と思わぬ遭遇をすることとなった。




需要があるなら頑張って更新しようと思います。
どんな内容でも構いません。感想を頂ければなによりです。


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