バカと渡世と半人前 (順風)
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第1章 文月学園での初週編
第1話


バカテスト 

 

第1問 あなたが行ってみたい外国の国はどこですか? またその理由も答えてください

 

 

 

【姫路瑞希の答え】

 

行きたい国 フランス

 

理由 とてもおしゃれな国だから

 

【教師のコメント】

 

イメージで選んだようですね。

 

 

 

【坂本雄二の答え】

 

行きたい国 ない

 

理由 どこに行こうともハネムーンにされてしまうから

 

【教師のコメント】

 

霧島さんとお幸せに

 

 

 

【吉井明久の答え】

 

スカンディナヴィア

 

【教師のコメント】

 

ドヤ顔でこの回答を書いた君の表情が目に浮かびます

 

※スカンディナヴィアとは北欧諸国(ノルウェー・スウェーデン・デンマーク)を指す。一国の名前ではない。

 

 

 

 

物語はいつだって前触れなく始まる。

 

そこに明確な理由なんて存在しない。進んだ道が物語という領域に入っただけなのだろう。

 

Scrittore ignorante

 

 

 

「物語って言ってもねぇ……」

 

元の住人が忘れて行ったと思われるその本を閉じて本棚に戻す。今住んでいる家は男一人が暮らすには少々広い。元々はファミリー向けのマンションなのだろう。

 

「なんでこうなったかなぁ……」

 

和泉剣(いずみ つるぎ)。それが俺の名前だ。関東の某私立大学の文学部に通っていた。

 

そう。通っていた(・・・・・)

 

今俺はその学校には通っていない。いいや、通えないのだ。

 

……いちいち回りくどく言うのも面倒になってきたから単刀直入に言おう。

 

どうやら俺は異世界に来たらしいです。

 

  ○

最後に残っている元の世界の記憶は教育実習中の学校の校庭でサッカーボールだったか何かがいくつか同時に頭部に激突したことだけだ。気が付いたらどういうわけだか文月学園という聞いたこともない学校の保健室で寝かされていた。

 

俺を見つけたという西村先生にいろいろと聞いてみたところここは日本ではあるがどうやらまったくの別世界であることが分かった。

 

別世界に来てしまったということを西村先生に伝えたところ驚いた様子ではあったが思ったより驚いていなかったのはなぜなのだろうか?

 

戸籍なし、住居無し、金なし(所持品は着ているスーツのみ)の三重苦に見舞われていた俺だったがここの学園長は臨時職員として俺を雇ってくれるそうだ。(なんでも教師が足りていないそうで)ただ教員免許は持っていないのでこの世界で教員免許を一年以内にとることという条件が付けられたけども住まいと支度金をもらえただけでもありがたい。戸籍に関してはなんとかしてくれるらしいが大人の世界にわざわざ首をつっこむ必要はないだろう。

 

そういえばあの学園長も違う世界から来たと言ってもあんまり驚いてなかったような気がする。むしろ近くにいたいかにも出来そうな先生の方がよっぽど驚いていた。

 

……現状説明はこんな感じでいいかな? そんなわけで今はその住まいにいるわけなのだがもう夕方に近い。当然腹が減る。

 

調理器具は一通りそろっているし食材の買い出しにでも出かけますか。

 

  ○

「うーん……ここ数日塩水続きだからなぁ。今日は奮発して砂糖水に……」

 

いったいなにを言っているのだろうかこの子は……みたところ高校生みたいだけど大丈夫なのか?

 

「いや、しかしムッツリーニに頼んでいる秀吉の写真分を引くとギリギリ足りない……だけどさすがに……」

 

もしかして写真のために食費ケチっているのか? たぶん一人暮らし何だろうけどそこまでいくほどのひどさとは……

 

「うん、今日はやめておこう! あと数日は塩水で踏ん張れるし」

「いや死ぬから」

「うわっ! ……どちら様?」

 

おもわず反射的に突っ込んでしまった。まぁいいか。

 

「塩水だけで過ごしてたらいずれ死ぬよ? 今の内は平気でも倒れてから遅いんだって」

「な、なぜ僕の思考が読まれているんだ……」

「普通に聞こえていたんだが……」

 

この子、頭大丈夫かな?

 

「君高校生でしょ? 一人暮らし?」

「はい、文月学園に通っています」

 

なん……だと!?

 

「それほんと?」

「そうですけど……」

「俺その学校で今度から働くことになっているんだけど」

「ええーっ!?」 新しい先生!? 女性だったらよかったのに……」

「聞こえているぞ」

 

本音と建て前という言葉を知らないのだろうか。

 

「とにかくだ。一人暮らしなら余計に健康には気をつけないと本当に体壊すぞ。これから働く学校なのに死人が出られては困る」

「でも今月はもうぎりぎりで……」

 

さてどうするか……このまま注意だけしたところですぐに改めるとは思えないし……

 

「まったく……とりあえずうちに来い。食事くらいはなんとかしてやる。さっきの話を聞く限りあと数日で仕送りがあるんだろう?」

「ほんとですか!」

 

食費の所に多少上乗せして学園長に請求しておこう。



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第2話

第2問 保健体育

 

医療を受ける際によりよい決断をするため当事者以外の専門的な知識を持った第三者に求めた「意見」、または「意見を求める行為」を何と言うか答えなさい。

 

【姫路瑞希の答え】

 

セカンド・オピニオン

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。患者自身が自分に適した治療法を選択するべきという考えから生まれました。

 

【木下秀吉の答え】

 

インフォームド・コンセント

 

【和泉剣のコメント】

 

覚えていたのが混ざってしまったんでしょうか。これは患者が医療に対して説明を聞いた上で自由意思で契約できるということを示す言葉です。

 

【吉井明久の答え】

 

アドバイス

 

【和泉剣のコメント】

 

間違っているはずなのにまんざら間違ってもいない……でも間違いです。

 

 

 

「自己紹介をしてなかったから名乗るが和泉剣だ。一応臨時職員ってことになっている」

「吉井明久です」

 

買い出しを終えて名乗り忘れていたことを思い出したので名乗っておく。

 

「あれ? 和泉先生の家ってここなんですか?」

「ああ、そうだが」

「僕の家もこの近所なんです」

 

どうやら道を隔てた近くのマンションに住んでいるようだ。学生の一人暮らしなのに贅沢だな。

 

その後夕食を作る際に「働かざる者食うべからず」の精神で手伝わせてみたんだが……えらく手慣れている。

 

俺も料理は得意だが吉井の手つきは俺と同等かそれ以上はあるように見えた。なんかすごい宝の持ち腐れな気がする。

 

さて、そんな驚きがあったあと料理が完成し食事を終えたのだがまだあの学校について知らないことが多いので在校生である吉井に聞いてみた。

 

元々それも目的だったしな。試召戦争とかいうシステムとかクラス分けとかある程度は聞いているけど教師の目線と生徒の目線はまるで違うし。と思って吉井の所属しているというFクラスについて聞いたのだが……

 

最初はちょっと変わってるなぁと思っただけだった。女子が2人で男子48人というアンバランスなクラス。最下位クラスだが試召戦争で戦った時の事、変わり者な友達(名前は伏せていたが)についても話してくれた。幼馴染に好かれているというクラス代表、妄想癖がありすぐに鼻血を吹く友達、男子女子の枠を超えた性別を持つ友達。……後ろに行けばいくほど違和感を感じるが今は気にしない。

 

女子にかかわると完全武装で追いかけてくる結社、関節技で骨を折れるクラスメイト、料理に化学薬品を使う人……

 

…………

 

「僕、なんで生きていられるんでしょう?」

「ごめん、俺もよくわからない」

 

 

どうやら初の赴任校は想像以上に癖が強いらしい。

 

   

あのあと明日の準備があると言って吉井は帰って行った。帰る時は元の明るい感じに戻っていたのできっと根はいいのだろう。

 

ところで今思い出したが今日は土曜日だった。俺も部活の見学をしていたらこんなことになったわけだ。きっと吉井も明日はどこかに出かけ……出かける金あるのか?

 

まぁさすがにそこまで気にするのもどうかと思うので話を元に戻すが学園長からは明日の午前中は業務の説明に充てられている。

 

何をするかはわからないが大方雑用か何かだろう。働かせてもらえる事には感謝しかないが。

 

 

 

で、翌日の文月学園。現在の俺の状況だが

 

「というわけで召喚獣の説明は以上だ。わからないことは西村先生に聞きな」

 

なぜかこの学校のシステムである試召戦争の説明を受けていた。前日の予想は半分当たって半分外れていたらしく雑用と担当教科(言っていなかったが担当は社会全般)の授業を全クラスに行うというものだった。まぁ授業時間はそこまで多くはないが。

 

ただ雑用の方は召喚獣を使って行うのでわざわざ召喚獣の説明を受けていた……というわけだ。

 

あとこのとき初めて知ったのだが前日あった吉井は観察処分者という学園長曰く「バカの代名詞」という称号を持っていることも判明した。

 

……現実世界にこんなのあったら完全にいじめの対象にしかならないが大丈夫なのだろうか

 

学園長は忙しいらしいので西村先生に今後の予定とかを聞くために職員室へと向かう。

 

「失礼します」

「おお来たか」

 

西村先生って何度見ても(実際2度目だが)プロレスラーとかそういう格闘技しそうな人にしか見えないのは俺だけなんだろうか? 見た目からしてある程度ベテランの先生だから40代ぐらいだとしてもすごいな……

 

「どうした? じっと俺を見て」

 

おおっと。こんなんでも今度から先生なんだ(免許ないけど)。目上の人に対して無礼は働かないようにしないと。

 

   ○

数十分ほど西村先生との問答のあと教材等の説明を受けた。担当するのは二年の日本史の授業の一部ということになった。なんでも一番人手不足なのだそうだ。そして授業の時間でない時は雑用、そしてなぜか進路相談という名のカウンセラーの仕事まであるそうだ。

 

なんでも学園長曰く「歳も若いし生徒との距離を近付ける意味と受験のアドバイスができるだろう」とのこと。

 

就活の過程を経てないせいかなんだか実感がないがどんな形であれ教師としての生活が始まるんだ。気合を入れないと。

 

そう決意を固めた俺だったが……この十分後、そんなことを落ち着いて考えている場合ではない事態に遭遇してしまった……。



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第3話

バカテスト 現代文

 

第3問 危険や困難に陥るかどうかの、きわめて危ない瀬戸際のことを何と言うか答えなさい。

 

【坂本雄二の答え】

 

危機一髪

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です……がこの4文字から本当に危機が迫っている感じがするのはなぜなんでしょうか。

 

【吉井明久の答え】

 

危機一発

 

【和泉剣のコメント】

 

非常に間違いが多い例です。黒ひげとかド○ゴンの影響なのかこういった間違えは多いので正しく覚えましょう。

 

【須川亮などFクラス生徒25人の答え】

 

ファイト一発

 

【和泉剣のコメント】

 

○ポビタンDですねわかりません。しかし25人ですか……西村先生の補習行きですね。

 

    

西村先生によるチュートリアル? が終わった後俺は学校内の見学をしていた。学校の中って思った以上に複雑なことが多いからしっかりとした確認をしないと迷うことになると思ったからだ。

 

というか実際大学に入った当初確認を怠ってひどい目にあったのでその反省ともいうが。

 

が、しかしそんな校内探索をする予定だった俺の眼前に広がっているのは

 

「今日……家に来ない? ちょっとだけでいいから……」

 

はぁはぁと危ない感じの音が聞こえてくるうえじりじりと迫ってくる先生。それに冷や汗をかいている俺がいた……

 

   ○

 

新校舎の一階にある職員室から旧校舎の一階を経て旧校舎の二階……文化系部活動の部室があるエリアでその人と会ってしまった。

 

「あなた、誰?」

「えーと……来週からここで働くことになった和泉剣と言いますが……」

 

目の前にはおそらく四十後半ぐらいのベテランといった感じのおばゴホンゴホン……女性の先生がいた。そもそも俺の採用に関しては学園長の独断といっても過言じゃないくらいだから西村先生や高橋先生以外の先生にはあっていないので自己紹介をする。

 

「そっか……先生なんだ。なら……」

 

ん? なんかつぶやきを始めたんだが……

 

「ねぇ……君今日うちに来ない?」

「はい??」

「大丈夫よ。私が(性的に)おいしく食べてあげるからね……」

 

拝啓 元の世界の流行の発信源の方々

 

世の中にはどうやら肉食系を上回る猛獣系と呼ばれる種類がいるそうです。記事にしてみてはいかがでしょう?

 

って現実逃避してしまった……推定だがどうやらこの先生この年齢になっても彼氏がいないせいで男ならだれでもいいみたいな思考回路になってしまっていると思われる。肉食系の果てみたいな状態なんだろうか。

 

と、ここまでの思考時間約三秒。え? 遅い? 普通の人ならこれぐらいが限界だと思うんだけど。

 

とにかく逃げなければ……しかし今を背を向ければ間違いなく追ってくる。説得するなり気をそらすなり何かしないと……死ぬ。主に社会的に。

 

頭の中では警報(アラート)がガンガン鳴り響いている。しかし逃げられない。くろいまなざしを使われている状態ってこうなのかも。ポケモンが逃げれないはずだ。

 

……仕方がない。あんまり使いたくはなかったんだけど間違っていることをするわけじゃないし。

 

「さぁ……一緒に……ひっ!?」

 

それを俺が使った直後この人は明らかな怯えと共に後ずさりした。別に超能力を使ったわけじゃない。

 

「すいませんがいい加減にしてもらえませんか?」

 

語気を強めてそういった俺に対してまた明らかに後退した。まぁ簡単に説明すると怒っただけ。しかし小学生の頃いじめにあった時に似たようなことをしたらいじめた側が泣き出した。そのせいでその親が勘違いして攻めてきたりしたのでこれまた怒って引かせたりと。要するにだ、俺は眼力が異様に強いのである。

 

確認であるがあくまで眼力が強いのであって目つきが悪いわけじゃない。よく勘違いされる事もあるが……

 

そういうわけでその眼力を使って引かせることにした。中学・高校の時はえらく使う機会が多く気がつかないうちにだいぶ強化されてしまったようで……

 

何があったかというとカツ上げに会ったり、ヤクザに遭遇したり、先生にいちゃもんつけられたり、電車で知らない爺さんに絡まれたり、噂を聞きつけた他校の生徒に絡まれたりとヤンキーの高校生ですか? と聞かれても仕方のないような生活だった。

 

ちなみにヤクザに遭遇したと言ったがその時になぜか勧誘をされたりとか不良が更生したとかで警察から感謝状もらったりとかしてた。

 

さて、目の前のをなんとかしましょうか。

 

「あ……あ……えっと……」

「…………」

「そ、その……」

「…………」

「本当にすいませんでした!」

 

睨みつけること三十秒。この人はきれいに土下座を決めた。昔なら逃げ出す程度だったがまだ精度が上がっている。よろこんでいいものなのか……

 

   ○

「あー……使ってちゃったからなぁ……もう腹へってない……」

 

危ない女性教師を撃退した後西村先生にことのあらましを説明した。その際なぜか謝られた。……そうとう飢えていたようだ。

 

で、説明も終わり現在帰宅している所なのだが腹が減っていない。これはあの眼力の副作用みたいなもので怒ることで興奮するせいか空腹を感じなくなってしまう。

 

「あれ? 和泉先生?」

「吉井か。また会ったな」

 

とりあえず興奮が収まった後の夜食をどうしようかと考えていると吉井に声をかけられた。

 

「出かけてたのか?」

「ちょっと知り合いの恋路を応援してきたんです」

「……それって昨日言ってたクラス代表の事か?」

 

どうやらこの予想は当たっていたらしくトラブルはあったものの成功した……らしい。らしいっていうのはアイアンクロ―が決まっている写真とか見せられてたら果たしてうまくいったのか? と思ってしまう俺は悪くないはずだ。

 

まぁ……いいか。深入りするのもどうかと思うし。

 

「あ、そうそう。俺Fクラスの補助も担当することになったからこれからよく会うと思う」

「えっ!?」

 

実はあのあと眼力のことを説明したら西村先生が「バカ共に効くか試してみたい」ということでFクラスの補助の任も与えられた。

 

……吉井の話しか聞いていないからどうとも言えないがあの人が手を焼くぐらいだから相当なんだろう。

 

「会ったのも縁だしまた夕飯食っていくか?」

「すいませんお願いします」



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第4話

バカテスト 化学

 

第4問 塩酸は社会でどのようなものに使われているか答えなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

工業用の洗浄剤や洗剤、化学研磨剤など

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。私は専門じゃないので前者の回答ぐらいしか知りませんでしたが実際にこういった使われ方をすることもあるようですね。いずれにしろ正しい使い方をすることが重要です。

 

【土屋康太の答え】

 

理科の実験

 

【和泉剣のコメント】

 

まぁ予想の範囲内ではありますが不正解です。

 

【姫路瑞希の答え】

 

料理

 

【和泉剣のコメント】

 

死人を出す前に家庭科だけ小学生からやり直して来てください。

 

 

 

「先生! 助けてください!」

「……何があった?」

 

廊下を歩いている俺の目の前に突然現れた吉井。こっちは午前中の授業のまとめを書かないと……

 

「このままだと……僕死にます」

「吉井、大げさだろう。お前が死ぬわけがないだろう。バカなんだから」

「バカは風邪引かないみたいなノリでいわないでください!」

 

指導室から声を聞いて出てきた西村先生からもさんざんな言われようだな……いいのか文月学園……ん? 昼休み……昼食……おとといの吉井の話に確か……

 

「まさか……まさかと思うが……」

「そうです! それです!」

 

化学物質を混入した料理を出すというクラスメイトがいるとか言ってたあれか!

 

    ○

さて……いきなり話が跳んでいたので補完的な意味も込めて今日の俺の行動を簡単に紹介しよう。

 

まず登校。特に変わったことはない……と思いきや目の前でスタンガンから逃げている男子生徒がいた。女子生徒の方は美人なのにもったいない……というか傷害容疑寸前だぞ。警察仕事しろ。

 

……そういえば吉井の話に似たような状況があったような気がするが……まぁいずれわかるか。

 

登校後の職員会議。正式に教師として(しつこいが免許はまだない)初めてのことなので緊張はする。自己紹介をしたが昨日会った危険な人は若干震えていた。多少呵責は感じるが俺は悪くないので気にしないことにする。

 

三回目になるがまだ免許がない。なのでしばらくは授業見学とそれについてのレポートを出すことになっている。一時間目はDクラスの現代国語の授業だった。

 

このクラスはごく平均的な教室という感じで授業もいたって普通だった。がしかしえらく目につくのは元の世界なら速攻で校則違反でとっ捕まる事確実のオレンジ色のツインテール……もといドリルテール。登校時見た2人も紫と赤毛だったがこれも大丈夫なのか? と聞きたくなったので西村先生に聞いたところ「一応は問題ない」とのこと。

 

自然に会話してたから忘れていたけど吉井も金髪っぽかったと思いだしたのはその時だったりするが。

 

二時間目はCクラスの化学。一言で言うなら大学の講義をする場所といったイメージだろう。つい最近まで大学にいた身だから懐かしい感じがする。

 

三時間目はEクラスの英語。ここはなんというか小学校の木工室とかそういった表現が的確な感じの教室だった。ちなみに俺は英語はからっきしなのでこのクラスの英語でもギリギリだったりする……

 

そして四時間目。Aクラスの日本史の授業にお邪魔したが……

 

(ここ……どこのホテル?)

 

まず内装。絨毯にどうみても高価そうな椅子……というかソファ。一人がけの。さらに手元には紅茶か何かを汲むためのティーセット、何か知らんが冷蔵庫まであるし。

 

……この環境で勉強できる自信ないな……友人なら間違いなく堕落するレベルだ。

 

そんなぶっ飛んだAクラスの授業を眺めこういうところで耐えられる人間が一流なんだろうなぁとか中堅大学在学だった以前を思い出しながらふけったりしているうちに昼休みになった。

 

   ○

 

で、ようやくここで冒頭に戻るわけだが……

 

「……そのクラスメイトは何を作ってきたんだ?」

「……クッキーです。木イチゴの」

「クッキー?」

「『酸味が足りないので水の代わりに酢酸を入れました』って……」

「…………酢酸? ちなみにどれくらい?」

「……200ミリリットル」

「…………」

 

一同に沈黙が走る。化学は専門外だから確か……あっちょうどいい所に

 

「布施先生、酢酸の致死量教えてもらえますか?」

「はい?……一般的には160ミリリットルと言われていますが……」

「ありがとうございます」

 

それを聞いて吉井はすごく震えている……200ミリリットルも入れたということは……

 

「俺の考えが正しければその子かなりの量のクッキーを持ってきていると思うんだが……どうなんだ?」

「はい、かごいっぱいの量でした」

「……クッキーの標準配合は小麦粉100グラムにつき30ミリリットル。つまり計算上650グラムオーバーのバイオクッキーが存在していることになる……」

 

なんか……考えただけなのに恐ろしさで身震いしてきた。

 

「で、その子は今どうしてるんだ?」

「意地でも僕らに食べさせようと追いかけてきて「どこにいるんですか明久くーん!」ひっ!?」

 

あれか? 料理の腕を自覚していないヒロインって感じの子なのか?

 

「……とりあえず職員室に来い。俺のスペース隅の方だから邪魔にならないだろうし次の時間Fクラスの授業見学だしな。いいですよね西村先生?」

「……ああ、吉井に同情することはめったにないんだがさすがにこれは俺も同情せざるを得ない……」

「あれ……なんかこの期に及んでもバカにされたような気が……」

 

     ○

遅い昼食を食べながら吉井の話を聞くどうやら原因はあの料理だけではないこともわかった。

 

事の発端は間違いなくバイオクッキーなんだろうがそこに関節を曲げられる女子(吉井は美波と呼んでいた)が自分の弁当の料理を食べさせようとしたという。……その状況どうみても吉井に好意があるんじゃないか? と聞いたところ

 

「あの二人が僕に好意なんて持つわけないですよ! 特に美波にはいつ殺されるかと……」

 

……吉井の鈍感+女子の過剰なツンデレか……まるでライトノベルだな。

 

話の続きに戻ると美波という女子が弁当を食べさせようとするとその子を愛している(ガチの百合だと聞いて引いた俺は悪くない)Dクラスの清水という女子生徒が乱入、なぜか学年主席も乱入してきて(こちらは別件だったらしい)殺されないために逃げ延びてきた。大まかにまとめるとこういうことらしい。

 

元の世界なら訴えれば確実に勝てるレベルのことが平然と繰り広げられているというからまた愕然とした。

 

本当に大丈夫かこの学校……



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第5話

バカテスト 世界史

 

第5問 1814年から1815年にかけて、オーストリアのウィーンにおいて開催された国際会議で数ヶ月経っても議論が進まずに滞る様子を評した言葉を何というか答えなさい。

 

【木下優子の答え】

 

会議は踊る、されど進まず

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。9か月にわたって行われた会議ですが外交交渉よりも夜行われていた舞踏会の方が目立っていたことからこのような評価になりました。しかしナポレオンの脱出により妥協して条約を締結することでこの会議は終結となりました。

 

【清水美春の答え】

 

愛は膨らむ、されど進まず

 

【和泉剣のコメント】

 

進まない方がいいことも世の中あるものです。

 

【吉井明久の答え】

 

罵りあって進まない

 

【和泉剣のコメント】

 

どこぞの国の国会みたいですね。

 

   ○

「そういえば西村先生は補習担当ということですがなんでFクラスの授業もやっているんですか?」

 

次の五時間目はFクラスの世界史。そこしかし本来は補習担当兼生活指導の先生である西村先生は授業を受け持つとは思えなかった。

 

「Fクラスは授業時間が不足しているからだ。試召戦争をすると授業が減ってしまうからな」

「……生徒のやる気を出させるためのシステムなのに授業時間が減るのは本末転倒な気がしますが……」

 

まぁ新しいシステムにはそれなりに弊害があるものだしこれからってところか……

 

「さて、そろそろ時間ですね」

「ああ、そうだな。どうした吉井?」

「……いえ、逃げてきたので戻ったらどうなってしまうのかと」

 

ああ……そういえばバイオクッキーから逃げてきたんだったな。あと関節曲げる女子から。

 

「……状況次第で手助けぐらいはするよ。というか西村先生、バイオクッキーとか関節曲げとかほっといていいんですか?」

「あれはスキンシップじゃないのか?」

「……失礼を承知で言わせてもらいますがこれらをスキンシップなんて言ったら俺がいた世界なら世間から袋叩きですよ」

「……他にもバカが多くて手が回らないというのもあるんだがなぁ」

「????」

 

あ……そういえば吉井には俺が別世界から来たこと言ってなかったな……完全に混乱している。

 

「吉井、今の説明は後でしてやるから今は教室に行くぞ」

 

  ○

なんというか午前中に隣のEクラスに来た時にもちらっと見たがめちゃくちゃボロい。吉井曰く「これでもまだマシになった方」とのこと。これよりまだひどい時期があったのかよ……

 

ただどうも教室が騒がしい。何かあったんだろうか?

 

 

「横溝が窓から逃げたぞ!」

「横溝! 貴様木下秀吉に告白するとは万死に値する!」

「A隊からE隊は異端者の捕獲、F、G隊は処刑の準備だ!」

「「「異端者には死を!」」」

 

…………

 

「西村先生。本当にあれがFクラスですか?」

「いや……間違いなくここがFクラスなんだが」

「まったく横溝君は懲りないね」

「…………とりあえず俺は中に入りますね」

「俺はあのバカ共の捕獲に行ってくる。残っている奴には自習だと伝えてくれ」

「わかりました」

 

教室に入ったが机はちゃぶ台、下は畳、椅子は座布団と寺子屋? みたいな状況だった。

 

「アキ! ウチの弁当は食べれないっていうの!」

「明久君! このクッキー最高傑作なんですよ!」

「……一応もう授業時間なんだが。あああとこの時間自習だから」

「噂になってた先生ってあんたか」

 

口悪いなー……まぁこんなものか?

 

「ああ、臨時職員って形けども。和泉剣だ。担当は一応日本史だ」

「俺は坂本雄二。Fクラスの代表だ」

 

へぇ……朝見た赤毛のこの子が代表か……何というか頭が切れそうだなぁ

 

「というか他の子たちはみんな誰か追いかけて行ったけどここにいるのは……六人だけ?」

「ま、こういうクラスだ」

 

……感覚麻痺ってやつなんだろう。西村先生にしろそうだけど。

 

「吉井は知ってるからそのほかの子自己紹介してくれないか? そこの男子から」

「ワ、ワシが男子だと分かるのか!?」

「いや、だって男子の制服着てるし……」

 

確かに中性的な顔立ちだから女子と間違われても仕方がない。

 

「ワシは木下秀吉じゃ」

「そういえばAクラスの木下って……」

「ああ、ワシの姉じゃ」

 

道理で似ているわけだ。

 

「…………土屋康太」

「……趣味は写真撮影でいいのか?」

「……別に女子の……なんでもない」

 

……犯罪者予備軍? 今は気にしないことにしよう。

 

「島田美波です」

 

クッキー持ってないから関節折る方の子だろう。

 

「姫路瑞希です。よろしくお願いします」

 

よろしく……じゃない! 手元のクッキー!

 

「みんなよろしく……さっそくだけど姫路。カゴのクッキーに何を入れたか確認していいか?」

 

俺がクッキーの事を切り出したところ吉井だけではなく後ろの方にいた男子三人も明らかにびくついた。

 

……どうやら被害者は一人だけじゃなかったみたいだな。

 

「ええっと……酸味を出すために酢酸を」

「はいダウト。そんなもの入れたら人が死ぬ。ちゃんと味見した?」

「味見すると太っちゃうので……」

 

ちょっときつく行った方がいいなこれは……

 

「……味見する程度で太るなんてない。味見しないでいい料理はできない」

「で、でも……」

「そのクッキー、酢酸どれぐらい入れた?」

「200ミリリットルです」

「一般的に200ミリリットルも入っていれば人は死ぬ」

「でもこれは酸味を出すうえで必要で……」

「クッキーに過剰な酸味は必要ない。というかなぜ酢酸を使う」

 

だめだ……この子無駄に意志が固い……いずれ必殺料理人とかあだ名つけられて捕まるぞ。このままじゃ教師半人前の俺では説得は不可能。なら……

 

「姫路、放課後に調理室で正しい料理の作り方を教えるので必ず来るように」

「私はちゃんと料理はできます!」

 

っとに……じゃあ奥の手だな。適当な紙に書いてと。

 

「これを渡しておく」

「?」

 

読んだ瞬間仰天しているな。まぁ当然だろう。来たばっかの教師にそんなことを知られていると考えれば。

 

「……わかりました。それなら行かせてもらいます」

「瑞希? 何が書いてあったの?」

「だ、だめです!」

 

当たり前だろう。「吉井の事が好きだろう? 料理ぐらいできないと振り向いてもらえないぞ」って書いたから見せられる代物じゃないな

 

「和泉先生」

「坂本、どうかしたか?」

(俺からもよろしく頼む。あれは恐怖のレベルなんでな)

 

小声で言っていることからいままで相当あったなこういうこと

 

(分かった。だけど君たちから言えなかったのか?)

(本人に悪意が感じられなかったんで……)

(…………難しい)

(言い出しにくくてのぅ……)

 

いつのまにか男子全員が集まっていたが姫路に言いにくかったのは性格的なものだろう。まぁ普通の男子がああいった子にダメだしはしづらいだろう

 

(……たとえそうでも言わなきゃいけない時もあるってことだけは覚えて置いた方がいいよ? 命にかかわるならなおさら)

 

気を使うのもほどほどにしないと自分の首を絞めるからなぁ。そういう経験あったから言えるんだけど。

 

「あと、俺の悩みも聞いてもらえるか?」

「俺にか? 他に聞いてもらえそうな人いないの?」

「なんというか俺の周りは変わり者しかいないからな……親とか。それと先生ならまともに話をきいてもらえそうな気がする」

 

……なんかよくわからんがま、いいか

 

「自習だし話聞くよ。これもいい機会だ」

 

俺も今日の朝のことが頭に引っかかっていたし解消できるからな。



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第6話

バカテスト 感想文編

 

第6問 走れメロスから学んだことを簡潔に書きなさい

 

【姫路瑞希の答え】

 

友情や人を信じることや人に信じられることの大切さを学びました。

 

【和泉剣のコメント】

 

模範回答ですね。今後は料理の腕を周りに信じられるように努力してください

 

【坂本雄二の答え】

 

感情で行動を起こすと碌なことにならないということ

 

順風(さくしゃ)のコメント】

 

……結構ぐさっと来たんですが。あと冒頭からの全否定ですねわかります。

 

【木下秀吉の答え】

 

友人はよく選ぶべきだということ

 

【和泉剣のコメント】

 

まぁいきなり人質にはされたくはないでしょう

 

【吉井明久の答え】

 

気まぐれな王さまへの対処方法と生け贄の作り方

 

【和泉剣のコメント】

 

生きている間には役に立ちそうなものではありませんね

 

   ○

「そういえば朝誰かにスタンガンで追いかけられてなかったか?」

「その追いかけてきたやつの事で悩んでるんだ」

「あの紫の髪の子か……」

 

俺が朝坂本を見たことを話すとどうやら話に関係していたらしい。

 

「そいつは俺の幼馴染で今は学年主席なんだが……あいつは俺の家に上がり込んできたり怪しい料理を持ってきたり手錠をかけて映画館に連れて行かれたりして求婚してくるんだ」

「……ちょっと頭を落ち着かせる時間をくれ」

 

今の話を聞く限りただの不法侵入に拉致に食中毒を引き起こしているようにしか見えないのだが……で、求婚?

 

「……お前は幼馴染の事をどう思っているんだ?」

「……昔いろいろあってな。俺にあいつの隣にいる資格はない。幼馴染以上にはならないさ」

 

……何となくだけど話が見えてきた。過去の負い目から付き合いに悩んでいるってとこか。これだけじゃ情報不足だな。といっても人の過去を聞き出すのはよろしくない。

 

「じゃあきっぱりと断ればいいんじゃないか?」

「だがその前に俺はあいつから婚姻届を取り返さないといけない!」

「え? なんで?」

「それはワシから説明するぞい」

 

木下の説明によると四月に行った試召戦争で坂本と学年主席の霧島(今名前聞いた)が戦った際「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞くという条件を付けて戦ったそうな。結果的に霧島の勝利でその時に婚姻届に判を押すというのもあったらしい(この時はうやむやになったらしいが)しかしその1ヶ月後の清涼祭(文化祭)の際に無理やり押印されて役所に持って行ったそうだが当然年齢が足りないので受け取ってもらえず霧島の手元に婚姻届が残ってしまっている状態とのこと……

 

「長いな……」

「しかたなかろう……全て話すとこの話の展開からして2話ぐらいにまたがりそうじゃったしのぅ……」

 

簡潔に説明するっていうのも大事だよね。それはともかくこの件坂本に聞いただけでは解決しそうにもない。それだけは確実だと言える。

 

(誰が好きだとかそういうことなら話は別だがこういうことだとなぁ……)

 

「取り返すとか取り返さないとかそれ以前に学年主席の坂本に対する思考がおかしいということだけはわかった」

「俺は一体どうしたらいいんだ!」

「霧島と少し話してみる。どうもこの話は向こうにも聞かないとよくわからない」

「……頼む。なんとか翔子を説得してくれ」

 

いろいろな話を今まで聞いていたがやっぱり人の心はよくわからない。

 

   ○

ところで俺が吉井や姫路、坂本にいろいろと世話を焼いているのを見て(姫路のは少々別件だが)疑問に思った人もいるかもしれない事……新人教師にそんな悩み相談なんてできるのかといことを俺自身で解説させてもらう。

 

実を言うと中学・高校のころはしょっちゅう人の悩みを聞いていた。友人関係だったり恋の悩みだったり、不良生徒の学校への溶け込み方だったり結婚できないとわめく先生の相談に乗ったりとこれもいろんなことを経験したがゆえに出来ることだ。

 

……最も一番の原因は俺にあるといっても過言ではない。最初のきっかけが俺の友人が好きだというある女子が落としたラブレターにダメ出しをしたことだった。

 

それがうまく行き噂が広まってしまった結果文化祭とかでは相談所をやらされたりしてた。余談だが俺の友人とその女子は俺がこの世界に来る数ヶ月前に学生結婚したそうだ。

 

結果的に大学でもそういった相談が後を絶たなかった。上級生が就活の相談に来た時にはどうしようかと思ったが……

 

……総括すると俺はなんだかんだで人に世話を焼いてしまっているようだ。

 

  ○

さて五時間目は一応は自習時間だったが姫路の料理への指摘や坂本の悩み相談を聞いているうちにほぼ授業時間を消化してしまったのでそのまま自由時間となっていた。

 

……なおその十分の間に関節曲げ……もとい島田が暴力をふるいだしたのでイイ笑顔(眼力)を使ってやめるように忠告した。いい笑顔ではなくイイ笑顔なので御間違いなく。

 

六時間目に最後のクラスであるBクラスの見学に行ったあと放課後になる。もちろん予告しておいたので……

 

「というわけでこれより放課後クッキングタイムを始めるー」

 

もちろん西村先生の許可は得ているのでそこらへんの心配は不要だ。名前がどこかのバンドに似てるって? 不可抗力だ。見逃してくれ。

 

「ところで坂本や土屋たちも来ているが……わざわざ来なくてもよかったんだぞ?」

 

この放課後の料理指導(という名の矯正作業)は姫路のみで行う予定だったんだが坂本、土屋、木下、島田、どこから聞きつけたのか霧島までいる。

 

「それと霧島、明日の昼休みに坂本の件について話があるので指導室まで来るように」

「……雄二の事?」

 

新任教師が普通そこまでできるか? といわれれば普通ならできないというのが模範回答だがバイオクッキーの件もありちゃんとした指導をするのならという条件である程度の行動はさせてもらえるようにした。

 

……西村先生も「忙しく手が回らないからちょうどいい」と言っていたので人手不足も深刻なのだろう。

 

「さて本題だが冷蔵庫を探してきたところ今日調理実習でムニエルを作ったそうだ。材料が余っているのでそれを拝借してきたのでムニエルを作ってもらう」

「……先生、じゃあなんで僕はここに立たされているんでしょうか?」

「物のついでだ。吉井には後で模範解答の調理をしてもらう」

 

一応打てる手は打ったが……果たしてどうなるか……

 

 

「とりあえず一回目は口は出さないつもり(・・・)だ。じゃ、調理開始!」



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第7話

バカテスト 日本史

 

第7問 1918年に成立した原敬内閣は、外務大臣、陸軍大臣、海軍大臣を除いて全員が同じ政党で組織されていた。このような内閣を何と言うか答えなさい。またこの政党の名前を答えなさい。

 

【工藤愛子の答え】

 

内閣名 政党内閣

 

政党名 立憲政友会 

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。近代的な政治の始まりですが同時に今の政治につながっていると思うと複雑な心境ですね……

 

【土屋康太の答え】

 

内閣名 お友達内閣

 

【和泉剣のコメント】

 

これまたまんざら間違ってもない答えが出てきましたが残念ながら不正解です。

 

【吉井明久の答え】

 

政党名 いい国作ろう会?

 

【和泉剣のコメント】

 

鎌倉時代の勉強でもしていたんでしょうか……政党名を疑問形で答える人も初めてみましたが……

 

   ○

「これはひどい……」

 

現在窓全開+換気扇が絶賛フル稼働中の調理室の中には調理過程を見て唖然とする者、ポーカーフェイスを装っているように見えるが冷や汗を流しているもの、小刻みに震えているもの、目をそむけるものといった具合にとてもいたたまれない雰囲気になっていた。それと約一名逃走しかけた者もいたが捕まえた。

 

が……当の本人はというと……

 

「先生、わたしは料理は下手じゃありませんよ! 明久君だって喜んで教室を飛び出して行ったじゃないですか!」

「いやどう考えても途中で塩酸と硝酸を入れたせいだから」

 

そう。彼女が作ったムニエルには塩酸と硝酸……つまり超が付く有害物質である王水が入っていた。この料理に名前をつけるなら「鮭のムニエル 王水仕立て」とでもいったところだろうか。

 

途中までは問題なかったんだけど鮭を焼き始めた辺りに一体どこから取り出したのか(そもそもどこでどうやって手に入れたのか)分からないが塩酸と硝酸を取り出し慣れた手つきで調合、それを醤油の代わりなのか鮭にぶっかけた。……正直言えばこの時点で止めたかったが最初に口出ししない言った手前止められない。この時できるのはすべての窓を全開にして換気扇を回して匂いを処理することしかできなかった。

 

「とりあえずなんで塩酸と硝酸を持っているのかその辺の説明を求める」

「料理人の基本です!」

「それが基本だったらこの国もう滅んでいるから。というか渡した紙の事もう忘れているな……」

 

必死なのは分からなくもないが必死になりすぎて吉井を必殺してしまうのは困る。事前のデータではFクラスの中で一番の成績優秀者は彼女なのだがこれをみると頭がいい=常識があるというのはどうやら間違いのようだ。

 

「じゃ、吉井。模範回答の調理を……とその前にちょっと来い」

「へ?」

 

効くか効かないかは別として少なくともぐらつかせることはできる策が一つあるのでそれを吉井に伝えた。

 

(いや無理だよ! 僕がそんなことを姫路さんに言うなんて)

(さりげなく言えばいい。それで命が助かるなら安いものだろう)

(……言われてみればそうかも)

 

吉井に策を伝えたあと調理を始める際に姫路によく見るようにと伝えている。こうしないとうまく伝わらない危険性が高いからだ。

 

「えっ!? ここで塩酸は入れないんですか!?」

 

だからほんとどこから持ってきてるんだろう。四次元ポケットでも常備しているのだろうか。

 

ん……吉井の視線がこちらに向いている……よし、いまだな。

 

「姫路さん」

「なんですか明久君?」

「僕は塩酸より醤油とバターのみのムニエルの方が好きなんだ」

「そ、そうなんですか? あ、明久君の好みがそういうのならそうします!」

 

……とりあえず少しだがバイオテロの確率は

 

「鮭のムニエルだけ(・・)はそうしますね!」

「う、うん……」

 

あ、まだ駄目か……。先は長そうだ……。

 

  ○

「悪い、どうやら一発じゃあまり効果がなかったらしい……」

「……でも姫路さんから使わないって言葉が出てきただけでも」

「毎日ムニエル作ってこないといいけどな」

「否定できない……」

 

場所は変わって俺の家。説明ができなかった部分の補足といったところだ。

 

「でだ……ついでだしここにいる全員に言っておくがこれから言うことは基本的には口外しないでほしい」

 

要するにあの後「続きの話をするから一度帰ってから家に来い」と吉井に言ったのだが暇だからということで男子三人も一緒に家に来た。

 

吉井だけに話しておくのも変なことだし彼らなら(一人微妙だが)ばらすこともないと思って言うことにした。

 

「まずはじめに俺はこの世界の人間じゃない」

「「「えっ!?」」」

「なるほどな」

「坂本は気付いていたのか?」

「いや、翔子を異常と思える奴がこの世の人間だとは思えなくてな」

 

……なんだろう喜んでいいのかよくわからない。まぁそんなことはどうでもいいか。

 

「俺のいたのも同じ地球なんだが文月学園なんて学校はなかったんだ」

「文月学園が?」

「早い話が試験召喚システムそのものがないってことだな」

「頭の回りが早くて助かる」

 

そんな目立ったシステムの学校なら多少なりとも噂になるはずだし。

 

「なるほどのぅ……」

「…………だがなんでこの世界に?」

「教育実習中に何かボール当たって気が付いたらあの学校で倒れていたらしい。2日前の事だ」

「2日前か……」

 

ん? 坂本が何か考え込んでいるが……

 

「ああ、なんでもない。続けてくれ」

「それで敷地内で倒れていた縁と俺が教師半人前だった事もあって臨時教師として雇ってもらったということだ。教員免許を取るという条件はあるけど」

「あのババァなら考えつきそうなことだな」

「以上説明終わり。何か質問のあるものは?」

 

もともとたいした説明じゃないし(え? 大したことじゃないの?) そんな時間はかからなかった。……変な声が聞こえたのはたぶん気のせいだろう。

 

「……特にないみたいだな」

 

ま、魔法のある世界から来たとかそういうわけでもないし質問とかはないと思っていたけども。

 

「さて時間も遅い。そろそろ解散とするか」

「あの……先生。できれば夕飯を……」

「……仕送りの日は?」

「……明日」

「「嘘だな」」

「間髪いれずにばれたのぅ……」

 

吉井は分かりやすいからな。

 

「ったく……もうちょっと金のやりくりは工夫しろ。俺も人の財政にはあまり踏み込みたくはない」

「……ごめんなさい」



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第8話

バカテスト 日本史

 

第8問 織田信長が魔王と呼ばれる理由を簡潔に書きなさい

 

【久保利光の答え】

 

織田信長は延暦寺などの寺社と戦い焼き討ちにしたりした。この時僧などから「天魔の所業」といわれ信長と敵対する者の蔑称として使われたが信長が書いた書状にも残っていることからそれを利用していたともいえる。

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。といってもよくゲームなどで描かれるような人ではなく普通のおっさんだったでしょう。……信長が今のゲームとかを見たらどんな反応を示すか何気に気になりますね。

 

【吉井明久の答え】

 

ゲームで自分で名乗っていたから

 

【和泉剣のコメント】

 

……大学で歴史の勉強をするとその幻想は打ち砕かれますよ?

 

【土屋康太の答え】

 

星を砕く魔法を撃ちまくったから

 

【和泉剣のコメント】

 

それは別世界の白い魔王です。悪魔でも可。

 

  ○

日付は変わって火曜日。その昼休みのこと。

 

「ま、立ち話じゃ何だし座りなよ」

「……ありがとうございます」

 

二年学年主任の霧島を生活指導室(本来の生活指導室は広すぎるので隣に作ってもらった)を呼んだ。つまるところ昨日の続きだ。

 

「霧島は坂本の事をどう思っているんだ?」

「……私の夫」

「…………」

 

もうその領域? 好意という言葉が臨界点を突き破っているな……今の霧島からはピンク色の空気が出ているように見える。いや、出てる。素人目でもわかるぐらい。

 

……どうしよう。昔の事がすべての原因であると思われるから聞きたいところなんだけどな……坂本も意識しているのは間違いないんだろうけど霧島の攻めがおかしなやり方だからな。少なくとも霧島のやり方だけは改善させるべきだな。

 

「でも坂本はなかなか素直にならないと」

「……雄二は照れ屋だから」

「…………一応参考として今までどんなアプローチをしてきたか教えてもらえる? もしかしたら原因が分かるかも知れないから」

 

霧島がしたことを聞いたところ手錠をつけたりスタンガンを押し付けたり拉致したり監禁したり精力剤を混ぜたりとえらく犯罪まがいな行為が目立つものだった。

 

「…………こりゃ無理だな」

「……なんで?」

「これは嫌がるよ。というかこんなやり方でよく嫌われなかったね」

「……雄二に嫌われる?」

 

やば……泣きそうになっているんですけど!?

 

「……ちなみに誰に教わった?」

「……吉井」

 

あいつか! なんてこと教えてるんだ! 

 

「わかった。俺がもっといいやり方を教える。だから今までの方法はしないと誓ってくれ」

「……本当に?」

「ああ。ただし今後今までのようなことをした場合は一切責任は取らないしアドバイスもしない。恐らく嫌われる一方だろうけど」

「……教えて!」

「わかった! わかったから身を乗り出すな!」

 

そういえば前世でもこんな光景何度もみたな……最初があれだったし……

 

「まず一つ目。暴力まがいの行為は決して取らないこと」

「……でも雄二は浮気性」

「……悪いけど霧島の方が異常だと思う。眼つぶしとか拘束とかスタンガンとか傷害罪なんだからやっちゃダメ」

「……………わかった」

「本当に分かったのか?」

「……大丈夫」

 

本当かな……あ、そうだ。ちょうど窓も近いし

 

「あ、坂本がテニス部の女子に」

「……浮気は許さない」

「破局確定かな」

 

そういったとたん霧島の動きが止まった。

 

「……やっぱりわかってないな。ちなみに今のは嘘だ」

「…………ごめんなさい」

「……今のはノーカンにするけど次やったらもう何も言わないからね。思いが強いのはいいことなんだけどさちょっと違うところに行っちゃっているのが良くない」

 

何というか惜しいんだよね。本当に。

 

「じゃあ二つ目。メリハリをつけること」

「……メリハリ?」

「常時アプローチされっぱなしだと相手だって嫌になる。一人にさせてやるのも思いやりだ」

「……なるほど」

「で三つめ。目移りしていた場合は……」

「……場合は?」

「『私の事、嫌い?』って言えばたぶんなんとかなる。あ、もちろん優しく暴力無しで。いい顔しているんだしもったいない」

 

なんというか坂本はふっきりが付いていないと思うんだよね。少しでも状況が変われば……上のような状況ならまず間違いなく嫌いなんて言えないはずだ。

 

「そして四つ目。坂本が他の男子にお仕置きをされそうなときは助けてあげること」

「……?」

「夫が妻を守るなら夫を守るのも妻の仕事だ」

「……! わかった。雄二を支えるのは私」

 

ついでに力のはけ口も作っておこう。悪いのはFFF団とやら何だし理屈は通る。西村先生の負担減になるかもしれない。

 

「最後に一つ。婚約届は返してやれ。本当に坂本が霧島を大事にしているならまた戻ってくる」

「……わかった。頑張る」

「がんばれ。未来の良才賢母」

 

……若干の不安は残ったが少しは変えられた……のかな? 

 

       ○

「すまないな……本来なら若い教師にやらせることじゃないんだが……今の若い奴の考えていることはわかりづらくてな……」

「いえ、前の世界でもやり慣れていたことですし。変わり者だらけですし逆にやりがいがあります」

 

今俺は昨日の姫路の事の結果を報告しているところだ。西村先生も大変なんだろう。体力とかすごいのだろうけどそれでも疲れるということが先生の大変さを物語っているのだと思う。

 

「席につけ! 授業を始め……なんだこれは」

「どうかしましたか西村先生……って……」

 

Fクラスの教室内は死屍累々という言葉がふさわしい惨状になっていた。

 

「……何があった」

「実は先ほどまで霧島がおったのじゃが雄二に擦り寄っていたのを見た男子が暴走してそこにある武器で殺りにかかったところ霧島にすべて迎撃されて倒れたというわけじゃ」

 

見ると床には鎌とか縄とか蝋燭といったものが転がっており一部からは畳が焦げた匂いもする。

 

「…………一応正当防衛ですね」

「……確かに霧島の非をとがめるのはおかしなことだな」

 

愛のためなら人は強くなれるということだろうか……すごいものだなぁ……

 

「さぁお前ら起きろ! 授業の時間だ!」

 

西村先生がそういったとたん死んだように倒れていた生徒が全員起き上がった。すげぇ……この人の声にも俺の眼力に似た物があるのだろう。

 

「あ、そうだ。吉井!」

「え、なんですか?」

「お前後で説教な」

「えっ!?」

 

変な知識吹き込んだから当然だ。



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第9話

バカテスト 学校編

 

第9問 文月学園の学園長の名前をフルネームで答えなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

籐堂カヲル

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。ヲの部分はオではありませんので間違えないようにしてください。

 

【平賀源二の答え】

 

籐堂……下の名前は忘れました。

 

【和泉剣のコメント】

 

仕方ないといえば仕方ないですね。奇襲のように出ることはあるので特に就職を考えている人は頭の片隅ぐらいには覚えておいてもいいと思います。

 

【吉井明久の答え】

 

人の皮をかぶった妖怪

 

【坂本雄二の答え】

 

鬼ババァ

 

【土屋康太の答え】

 

一千年生きた化け物

 

【和泉剣のコメント】

 

……何か散々な言われようですが何があったんでしょう?

 

   ○

「で、親友に仕返しするいい機会だと思ってそういった間違ったやり方をする物を渡したと」

「ほんとマジすいませんでした」

 

放課後になり予告通り吉井に対するお説教をおこなった。もちろん眼力仕様で。

 

「……この前も思ったがあの先生怒らせると怖いな」

「…………迫力がある」

「演劇の参考になるかの?」

 

三者三様の反応を示しているが俺は普段そんなに怒ることはない。以前も言ったがこれは若干の副作用(興奮による食欲の麻痺など)を起こすため必要最低限しか使わない。

 

といっても俺には西村先生のような強靭な肉体はない普通の学生だったのでこれしかできない。なので必要な時は使わないと。

 

……そういえば西村先生の拳骨が体罰なのか考えてみたが……うん。最初は体罰だと思った。だけどFクラスのぶっ飛び具合と照らし合わせると仕方ないのだろう。やったことに対しては相応な対応が必要ということだろう。……まぁだからと言ってそれを肯定しているわけではないが。

 

「で、坂本。霧島の様子はどうだった?」

「……近日中に婚姻届を返してくれるそうだ」

「それはよかったのぅ」

 

うん。よかったよ本当。

 

「だけどな! 一体何を吹きこんだ!? おかけでさっき殺されそうなったじゃねぇか!」

「でも霧島が排除したんだろう?」

「…………ああ」

 

後は坂本がどうするかだな。いや本当に。

 

「坂本、ないと思うがまた元に戻ってしまったら教えてくれ。今度は全力の話し合いをするから」

「……まぁわかったが」

「んじゃお前ら早く帰れよ。俺は学園長に呼ばれているから」

「「「ババァ長に?」」」

「……一応あんなんでも学園長なんだがそれでいいのか?」

 

    ○

「失礼します」

「来たかい」

 

そんなこんなで学園長に呼ばれたわけだが……何の用だろうか?

 

「用件は二つ。一つ目はあんたには明日明後日試験を受けてもらう」

「試験……ですか」

「担当である日本史も含めた全教科だよ」

「全教科!?」

「教える側も相応の学力があるべきというのがこの学校の方針だからね」

 

なんというか面倒くさい……仕方ないか

 

「わかりました」

「予定はこの紙に書いておいた。九時スタートだから遅刻なんてしなように」

「当たり前です」

 

……社会人どころか一般的な常識だろう。

 

「それと二つ目。あんたがこの世界に飛ばされた原因が召喚システムにあるかもしれないことが分かった」

「!?」

 

召喚システムがトリップの原因!?         

 

「それはいったいどういうわけなんです!?」

「興奮するんじゃないよ。あんたが飛ばされた日召喚システムのメンテナンスを行っていたんだけどその作業中に一度だけ動力の装置のエネルギー値が暴走を起こした時ぐらいまで増えてねぇ。西村先生があんたを見つけたのがこの一時間半後。偶然ではない可能性もあると考えたわけだ」

「つまり機械の暴走に巻き込まれて飛ばされてきたと」

「あくまで可能性だけどね」

 

…………どう反応していいのかわからない……原因(かもしれない事)が分かったところで元の世界に戻れるわけでもないし。お礼を言うのも変な感じだし。

 

「……原因がわかったのかもしれないってのにうれしそうじゃないね」

「……まぁ分かったところで解決するものでもないですし」

「……ところで働きだしてからずいぶん精力的に動いているみたいじゃないか」

「……気を紛らわしているとも言いますけど」

 

街を歩いているとときどき元の世界のことを思い出していしまうんだよなぁ……なまじここが地球であるが故か。

 

「あんまり気を張りすぎない方がいいよ。適度の休みだって必要だ」

「……ありがとうございます」

 

     ○

「…………何だいこの点数は」

「担当教科ですから」

「だからといってここまで取るのはこれを作った先生でも無理さね!」

 

二日後の学園長室。そこでテストの結果を教えてもらっていたのだが……とにかく何点取ったのかというと

 

和泉剣のテスト結果

 

日本史 976点

世界史 878点

 

「『日本史・世界史だけなら国公立大余裕なのに』って高校の時の先生に言われたこともありますね」

「……その割には英語が低いんだけど……どう説明するつもりだい?」

「………………普通に苦手です」

 

英語  157点

 

「いくらなんでもこれじゃ駄目だ。英語は最低でも200まで上げるようにすること。わかったね?」

「……わかりましたがなぜ200点?」

「増やしてほし「いえそのままでいいです」……よっぽど苦手なんだね。200点はうちの学校のAクラスと同等のレベルだよ。今のあんたじゃCクラス程度のレベルしかない。これじゃ示しが付かないからね」

 

……やっと英語の勉強から解放されると思いきやまさかこんな所で英語の勉強をすることになろうとは……

 

「んじゃテストも終わったことだし召喚獣の調整をするかね」

 

  ○

「これが召喚獣……」

 

別の部屋で召喚獣の召喚コード? である試獣召喚(サモン)と叫んで出てきた召喚獣。

 

「初めてみるけど小さいな……」

 

しゃがんでもまだ見下ろすような状態になるくらい小さい召喚獣。これが人の何倍ものパワーを持つというから驚きだ。

 

「持っている武器は日本刀、なのに服装は西洋風の鎧ですか……軽装だけど」

「日本史と世界史の点が極端に高いことが反映されたんだろうね」

 

……あの二つだけで総合科目の3分の1程度を占めている以上こうなって当然なのかもな

 

「操作に関してはあたしや他の教師より吉井の方が慣れているだろうから明日雑用をやらせるときにでも聞いておくといい」

「わかりました」  



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第10話

バカテスト 現代国語

 

第10問 知らないことを聞くのは恥ずかしいことだが、知らないままでいると一生恥ずかしい思いをするということをことわざで何と言うか答えなさい

 

 

【木下優子の答え】

 

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。わからなければ聞くことは大事ですがそのことを何度も聞くことはないようにメモをするなりしてきちんと覚えましょう。

 

【吉井明久の答え】

 

ズボンのチャック開いてますか?

 

【和泉剣のコメント】

 

聞く前に自分で確認すればいいと思います。

 

【土屋康太の答え】

 

…………女子のパンツの色が何(以降鼻血がぶちまけられている)

 

【和泉剣のコメント】

 

……それはわざわざ知るべきことではないでしょう……

 

   ○

「へぇ……召喚獣の操作って直感に近い感じに動かすのか……」

「うん。でも先生はいいよね……物理干渉ができるのにフィードバックがないなんて」

 

あーそういえば吉井の召喚獣は観察処分者仕様で操作者にもダメージが及ぶと学園長が言っていた。

 

「えーっと……こうやって……うん? あまりうまく動かないな……」

「召喚獣の操作にはコツがあって……」

 

そんな感じで吉井から召喚獣の操作を教わりながら一時間ほど、この日の雑用が終わった。

 

「想像以上に難しいな……」

「あはは……僕だってすぐにできたわけじゃないし……」

 

吉井は一年の頃から雑用で召喚獣を扱ってきたため他のクラスメイトよりも召喚技術が優れているらしくそれで三年生と互角に戦ったりしたそうだ。

 

「……Fクラス全員が吉井クラスの操作技術を持っていたらAクラスといえど危ないんじゃないか?」

 

といってもFクラスは現在試召戦争を仕掛けることはできないらしいので意味は……いやこういう時だから意味はあるんだろうけど。まぁたぶんやろうと思っても練習にならない(つまり上達の見込みがない)からなのだろう。教師の俺が口出しできるものじゃないしそういうものこそクラス代表の統率力が試されると思う。

 

……だけどこの試召戦争の仕組みってクラス間の交流をなくすのに等しいシステムでもある。世間ではどうやらこういったシステムの問題も騒がれているようで西村先生によるとFクラスが試召戦争を仕掛けることはあまりないのだそうだ。

 

……落ちこぼれと呼ばれた生徒がやる気を出さなくなってしまった学校……どこぞの白い(ヨメ)が大好きな社長が運営している学校も似たようなことがあったなぁ……まぁあれはアニメだったけど。

 

   ○

水曜日、木曜日と吉井から召喚獣の操作を教わった後の金曜日。この二日もFクラスの暴走は相変わらずなのだが西村先生によると

 

「最初のころは胃痛がひどかったんだがなぁ……いつからか胃痛がしなくなったんだ」

 

とのこと。先生それ重症です。病院行ってください。

 

さて、本日の俺の仕事はと言いますと……

 

「島田、お前には説教が必要だ」

「ウチは何も悪いことはしていません! そこをどいてください!」

「吉井が手紙を受け取ったから暴力なんてネジが外れた答えは赤点だ。小学校からやり直してこい!」

 

やっぱりFクラスに対しての説教である。本日は島田であるが。

 

「暴力じゃなくてっこれはれっきとしたお仕置きです!」

「……お仕置きと暴力を一緒にするな。なぜそこまでこだわる。吉井がモテると困ることでもあるのか?」

 

ちなみにだがこのやり取り、すでに五分ほど続いているのだが……徐々に会話が無限ループに差し掛かっていた。

 

「そ、それは……」

「昨日もおとといも言ったがそこまでこだわるのはあれか? 吉井に彼女ができるのが困る……つまるところ自分のスペース(恋人的な意味で)がなくなるからってことか」

 

実を言うとこの説教、軽いものも含めればほぼ毎日繰り広げられておりさすがに俺も一週間ほど毎日やっていれば人間関係の様子がわかってきたわけで。

 

「せ、先生は黙っていてください!」

「生徒に暴力振るって黙っていたらそれは先生じゃない。ただの動く銅像だ」

 

吉井はというと後ろで「爪切りでもやってやるー!」と木刀に立ち向かっているようだ。声しか聞こえんが。

 

「吉井! 逃げたりなんてしたらお仕置きを「いい加減にしろよ小娘」こ、小娘って……ひっ!?」

「今話しているのは俺だ。よそ見をしている余裕なんてないはずなんだが?」

 

一週間毎日説教したのはこいつだけだ。なので眼力もいつもよりは本気で行かせてもらう。

 

「……お前が吉井に特別な感情を持っているのは分かっている。だが関節を折るなんて行為を続けて関係が良くなるなんて思わないことだな」

「そ……それでも……ウチは……」

 

だいたいの奴はこれぐらいになると言い返すことはできないことが多いんだがな……変なところだけ無駄に強靭なのは「想いすぎ」だからなのかどうなのか。

 

「……じきに西村先生が来る。頭を一度凍るぐらい冷やしてよく考えろ」

 

俺は爪切りで須川に立ち向かっていた吉井をとっ捕まえて生活指導室に向かった。

 

  ○

「木下からだいたいの事情は聞いているが……なんで屋上に行こうとした?」

「いやだって手紙の中に『屋上で待っていてください』って書いてあると思って……」

 

やばい……吉井の馬鹿さ加減が俺の考えていたものの上を行っていた……

 

「? どうしたんです先生。頭抱えて」

「……西村先生が言っていたことが良くわかっただけだ。で? その手紙どうするんだ? ここにいるのは俺達だけだから読んでもいいぞ。俺は衝立は向こうにいるから」

「……ところでその衝立は何のためのものなんですか?」

「ま、いずれな」

 

そういって俺は衝立の向こうに向かった。その後紙を取り出すような音が聞こえてきたので恐らく手紙を呼んでいるのだろう。

 

三分ほどたち吉井がもういいと言ったので戻ったが

 

「でもやっぱりこれってラブレターってやつだよねだけどもしかしたら書き間違いという可能性もあるしそもそも姫路さんが僕に好意を持っているなんてそんなばかげたことは考えられないしもしかしたらこれはドッキリなのかもしれないうんそうだドッキリだそうに違いない僕がそんなにモテるわけがない」

「……お前、よく息継ぎせずにそんな長台詞しゃべれるな」

 

何言ってたかは部分的にしか聞き取れなかったけど。早すぎて。後最後の方某ラノベタイトルみたいになっていたが……

 

「じゃあさっさと教室に戻るぞ」

「え?」

「今授業中だってこと忘れているだろ」

「あはは……ごめんなさい」

 

     ○

「失礼します」

「来たかい」

「新任にこんな仕事があるなんて思いませんでしたよ。報告書はこちらになります」

「確かに。どうだいFクラスは?」

「……なんというか常識が通用しないとでもいいましょうか。西村先生の苦労が良くわかりました」

 

 

まとめるとこういうことになる

 

吉井→バカではあるが基本的な部分は良い。が、バカである部分が強調されていたり今までの行いが悪かったせいか人間扱いしてもらえていない傾向あり。一部先生にも見受けられることからこれについては早急な改善が必要。Fクラスの騒動の三割程度を占める(原因として)

 

坂本→Fクラス代表であり頭脳。しかしやり方が味方の犠牲もいとわないなど(主に吉井)保身に走る傾向あり。しかしやはりやる時はやるが吉井と同じ傾向も見受けられる。というかFクラスの騒乱の二割は彼が煮え切らないせい。

 

土屋→裏で写真屋を経営。直接の騒乱の原因になることはないが間接的な原因になっていることは多々ある。写真屋については他クラスの利用者も多いうえいくらでもやり口はあるので撲滅は困難。

 

木下→こちらも間接的な原因になりうるのだが本人に悪意はない。男として見られていない件については早急な対処を。

 

島田→吉井に対する暴力が過剰。骨を折る音が聞こえる等警察沙汰になってもおかしくない

 

姫路→バイオ料理など人体に有害なものの所持。一部改善傾向にあるが先は長い

 

その他Fクラス生徒→騒動の根源

 

~【報告書】Fクラスの現状 編 和泉剣~より一部抜粋

 

 



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幕間 プールサイドの喧騒
第11話







バカテスト

 

第11問 プールなどで遊ぶ前に必ずしないといけないことを答えなさい。

 

【吉井明久の答え】

 

準備運動

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。どんなスポーツをするにも欠かせないことです。サボらないようにしましょう。

 

【土屋康太の答え】

 

輸血の準備

 

【和泉剣のコメント】

 

……そもそもその輸血パックはどこから買って来たのですか?

 

【木下秀吉の答え】

 

係員を説得して男性であることを納得させる

 

【和泉剣のコメント】

 

それはもはや水泳をする以前の問題です

 

   ○

「……高校に宿直ってあるんですね」

「まぁ文月学園は私立校だが学費が安い。警備員を雇う経費がないということだろうな」

 

スポンサーは多いらしいけど基本的には召喚システムに関するものであって警備員を雇うことには直結しない。そんなわけで本日俺は西村先生と共に宿直の見回り中です。

 

「しかし君がこちらに来てもう二週間か……早いものだな」

「ですね。一応教員免許の勉強はしてますけど試験は来年ですし……」

 

元の世界の人達どうしているかなぁ……やっぱ捜索願とか出されているんだろうか……そう六月に入り曇りがちな空を見た。

 

「ん?」

 

そんなことを考え外を眺めていると何か違和感を覚えた。何やらプールのあたりに人影が見える。

 

「西村先生、ちょっと」

「どうした?」

「プールの方に誰かがいるみたいなんです」

 

プールの方には間違いなく2人ほどの人影が見える。

 

「む……確かにそうだな。すぐに行くぞ」

 

     

「「で、何か言い訳は?」」

「「こいつが悪いんです!」」

 

なんといたのは吉井と坂本だった。……夜の学校で何してるんだ。

 

「元はといえばお前が水道代を払っていないのがいけないんだろうが!」

「雄二がちゃんとしたもの買ってくればこんなことにはならなかった!」

 

なんかすごい不毛な争いをしているな……あ、西村先生が拳骨入れた。っていうか

 

「吉井……おまえまた仕送り使いこんだのか……」

「あはは……欲しいものが多くて……」

 

あれだけお金の使い道には気をつけろって言ったのに……。結局2人にはこの週末にプール掃除をさせることにしたそうです。まぁ妥当なところかな?

 

   ○

「それでそのプールサイドの監視をすると」

「ああ……本当は俺がするべきなんだが何分もうすぐ強化合宿があるから仕事が多いんだ」

「それは分かりましたけど……強化合宿ってなんです?」

「……そういえば説明してなかったな」

 

西村先生の説明によると勉強合宿で個人のモチベーションの向上が目的なのだそうだ。

 

(そういえば私立の学校に通ってた知り合いがそういうのあったって言ってたな……)

 

「電車で二時間ですか……結構遠いですね」

「土地代が安く近所迷惑にならないからだそうだ」

 

なるほど……確かにこれだけの土地となると郊外じゃないと難しいな。

 

「ところでクラスごとに移動手段が異なるそうですけどFクラスはどうなるんですか?」

「次のページを開けてみろ」

 

そこに書かれていたのは……

 

「現地集合だ」

「……全員集まれるんですか? いろいろ不安なんですけど」

 

   ○

「なんだかんだで結構人数集まったな」

 

吉井と坂本に加えて土屋に木下、島田とその妹に姫路と霧島も来ていた。

 

「…………人が多ければ早く終わる」

 

その言葉の奥に何か別の目的を感じるのはたぶん気のせいじゃないはずだ。

 

「というわけで俺がプールサイドの監視をすることになった。遊ぶのは構わないがちゃんと掃除もしろよ」

「わかってるよ」

「俺は先にプールサイドに行っているからな」

 

安全確認とかシャワーの調整とかやっておかないと。

 

「こらこら葉月ちゃんと秀吉はあっちでしょ?」

「ワシは男じゃ!」

「大丈夫だ秀吉」

 

女子更衣室の向こう側に見える秀吉更衣室を指差す坂本。いいのか文月学園。これで……

 

   ○

「あのさ、いい加減にしてくれない? 新任だからとかで舐めてるならその幻想叩き壊すよ?」

「でもアキが!」

「というか吉井。お前もなんでここまでされて反論しないんだ?」

「いやだって……友達だし。一応……」

「一応ってなによ!」

「言葉のままの意味だろうが」

 

何があったかというと島田の妹が島田の用意していたパッド(要するに偽乳)を勝手に持ち出したがために用意した水着が使えずそれを当然見られたことを忘れさせようと手を出した結果が島田の正座+説教という状況になっている。

 

しかしプールサイドに来てまでなぜに説教しないといけないのか。ここにいないFクラスの男子生徒大半もそうだが学習能力というものがないのだろうか。

 

ちなみにだが今ここにいるメンツの中でこの二週間、俺が説教を喰らわせた回数が多いのはダントツで島田がトップだ。その後に姫路、吉井、坂本、霧島、土屋の順で続く。木下? あいつには特に叱る理由はなかった。Fクラスのまともな生徒は木下だけだろう。

 

……というかここまで毎日続けば胃も痛くなるに決まっている。

 

十分ほど説教を加えて解放したがこれが続くようならそれなりの事をしないといけないだろうな……

 

……鼻血を出して倒れている土屋に関しては自爆なのでスルーということで。

 

    ○

「……雄二、私の水着どう?」

「……いいんじゃないか?」

「……本当?」

「ああ」

「……雄二」

「こら翔子! 抱きつくんじゃねぇ!」

 

あっちは大丈夫だろう。今のところ。ただし……

 

「雄二……貴様なんてうらやましいことを!」

「…………万死に値する」

「お前らちょっとこっちこい」

 

こちらはすぐに何とかしないとな。

 

「雄二が美人の霧島さんに抱きつかれているんだよ!」

「…………妬ましい」

「じゃあお前らも彼女作ればいいじゃないか」

「……そう簡単にできれば苦労はしないよ」

「…………同じく」

 

そういえば吉井はともかく土屋の女子との関係ってどうなんだ? なにせ女子からはエロいやつの象徴みたいな感じだし。……まぁ写真屋の顧客には女子生徒もいるようだが。姫路とか島田とか。

 

「少なくとも今のままじゃ一生かかっても彼女ができるか怪しいな」

「じゃあいったいどうすればいいのさ!」

「……真面目に生きろ」

 

勉強にしろ恋愛にしろ真面目にならなきゃ報われない。割と当たり前の事だけどな。

 

「ところで和泉先生、ワシも聞きたいことがあるのじゃが……」

「ん? 何だ?」

「ワシに彼女はできるかの?」

「……少なくともきちんと男だと認識できる女子なら大丈夫じゃないのか?」



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第12話

バカテスト 

 

第12問 1960年代前半に日本のバレーボールチームが欧州遠征で22連勝した後、東京オリンピックの際も圧倒的な力で金メダルを獲得したことでつけられたニックネームを答えなさい。

 

【霧島翔子の答え】

 

東洋の魔女

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。東京オリンピックから採用されたバレーボールですが一時は引退も考えていたそうです。しかしオリンピックまでは続けてほしいという社会の願いから出場し回転レシーブや変化球サーブといった現代のバレーボールの基になった技術を駆使して金メダルを獲得しました。

 

【土屋康太の答え】

 

黒薔薇の魔女

 

【和泉剣のコメント】

 

それは黒薔薇龍(ブラック・ローズ・ドラゴン)を使う人のデレる前です

 

【島田美波の答え】

 

シャルロッテ

 

【和泉剣のコメント】

 

……わざとなのかはわかりませんがえらく重い何かが垣間見える答えですね。

 

   ○

「危ない僕!」

「……吉井、一体何をやっているんだお前は」

 

自分で眼つぶしを敢行するような奴はお前ぐらいだろう。

 

「それと土屋、あんまり血が出るようなら……」

「…………輸血の準備は万全」

「……救急車をと言いたかったところなんだがとりあえずは様子見ることにする」

 

なぜまたこんな状況になっているのかというと

 

「あ、あの明久君! 一体どうしたんですか!?」

 

姫路の水着姿のせいだ。……確かに元の世界でもこんな体型の奴はそうはいない。まぁうちの高校はプールの授業そのものがなかったし実際どうなのかは知らないが。

 

「―――――、―――――――――――!? ―――――――!」

 

何か島田が狂乱状態で日本語ではないなにかをつぶやいているのだが……

 

「み、美波?」

「お姉ちゃんはショックな出来事があるとドイツ語に戻っちゃうんです」

 

ああ……そういえば島田はドイツからの帰国子女だったっけ。大方姫路の体型に絶望した! のだろう。たぶん。まぁ特にかかわることでもないし放っておこう。

 

「後来てないのは木下だけか」

「どんな水着なんだろう!」

 

いやなんで男が男の水着気にするんだよ。

 

「…………トランクスタイプ」

「……そうだった」

 

そしてなぜへこむ。

 

「すまぬ、遅くなったの」

「お姉ちゃんかわいいです!」

「ワシは男なのじゃが……」

「でもその水着、女の子用ですよ?」

「なぜじゃ! 店員には『普通のトランクスタイプの水着』を頼んだはずじゃ!」

 

……木下の言っていたトランクスタイプとはトランクスではあったものの上もある女物だったらしい。……店員も分からなかったのだろうが案内された場所で気づけ。

 

「……もう鼻血も出てこない」

「…………打ち止め」

 

前回同様これに関してはスルーで。

 

    ○ 

「バカなお兄ちゃん!」

「なあに葉月ちゃん」

 

……バカなお兄ちゃんって……それでいいのか吉井よ。表情を見る限り悪意はなくあくまで本心なんだろうけど……

 

「水中鬼をやるです!」

「水中鬼?」

「どんな遊びなの?」

 

水中でやる鬼ごっこじゃないのか? 字面から考えて。

 

「鬼の人がそうじゃない人を追いかけて溺れさせたら勝ちです!」

「鬼だ! それはたしかに鬼だ!」

「……それ一体だれから教わったの? それと吉井。悪かった」

「……何について謝られているのかよくわからないんだけど」

 

主にお前の頭をバカにしたことについてだ。

 

「でも葉月ちゃん、その遊びは危ないからやっちゃダメだよ?」

「ああ、吉井の言うとおりだ」

「ダメですか?」

「じゃあ実験を……」

「坂本を犠牲にするつもりなら来週一週間補習コースにしてもいいんだけど」

「……ごめんなさい」

 

だんだんと吉井の行動パターンが分かってきた。いいことなのか悪いことなのか……

 

「……とにかく人をおぼれさせるのは危ないことだからそういう遊びはしないようにね」

「分かったです……」

 

というか今どきの小学生の間ではこんな危険な遊びが流行っているのか……恐ろしい。

 

   ○

「あれ、代表?」

「……愛子?」

 

あの妙に目立つエメラルドグリーンの髪形の子は確か……Aクラスの工藤だったか。どうやら水泳部に所属していて、学校に忘れ物を取りに来たらなんだか騒がしかったので来た……とのこと。

 

「ボクの他にもいるよ。ほら」

「お姉様!」

 

ドリルテール……ってことは

 

「美春! どうしてここに!?」

「美春にはお姉様の関する特別な情報網がありますから!」

 

……それはプライバシーの侵害じゃないのか?

 

「じゃあボクは着替えてくるね。……覗くならばれないようにね♪」

「「「!?(本人公認の覗き許可!?)」」」

「(とか思ってんだろうなぁ……こいつらのことだし)はいそこ三人、殺気を出さない。殴りかかったり掴みかかったりしてないだけ進歩はしているけど。後工藤もからかいすぎだ」

「ごめんなさーい♪」

(絶対反省してないな。今後要注意ってところか)

 

   ○

監視をするついでにそれぞれの状況を観察してみた。まずは坂本の場合……

 

「……雄二、私じゃ駄目なの?」

「何がだ」

「……雄二の持っている本には私によく似た人が多くいた」

「ちょっと待て! それは厳重に保管しておいたはずだ!」

「……お義母さんが見せてくれた」

「……なんてことしてくれるんだお袋!」

 

そんな具合に坂本に密着している霧島だが(本に関してはスルー)坂本も引き離そうとしているように見えるが実際の所迷いからか全力ではそれを出来ていない。坂本曰く『ただの幼馴染』でも相当大切にはしているってところかな。

 

「……ダメなの?」

「うっ……」

 

正直言っていつ落ちてもおかしくない。坂本が言う『隣に立つ資格がない』という枷さえ消えれば今すぐ婚姻届でも出しに行きそうな勢いだ(今は無理だけど)

 

順調ではあるけどもうひと押しというところか。あの二人は。

 

さて、次に吉井だが……

 

「ウチが泳ぎ教えてあげようか?」

「本当ですか? よろしくお願いしますね美波ちゃん」

「姫路さんがFで美波がAって感じだね!」

「寄せてあげればBぐらいあるわよ! あっ……」

 

……島田は相変わらず反省はしてないと。今のは速すぎて止めようがない。確かに主語を省いている吉井も悪いが(たぶん泳ぎのクラスのことを言おうとしたのだろうだが)間髪いれずに(恐らく勘違いで)手が出る島田は反射的にやっているだろうからな。ATSC吉井専用版とでもいうべきか。

 

ま、だから吉井からの評価が上がらないんだろうけど。初めて会った日に聞いた島田の評価は

 

『ちょっとでも気を抜くと体に激痛が走るんだ……自己紹介のとき趣味が僕を殴ることなんだって言っていたぐらいだし。友達以上にはならないかな……』

 

とのこと。上がらないのも納得だ。ギャルゲー(この場合違うが)の選択肢で間違った選択肢を選び続けている状況だ。バットエンドにならないのは確実に吉井の性格のおかげだろう。

 

さて、姫路の方だが吉井争奪戦においては現在のところ彼女の方がリードしているとみて間違いない……のだがご存じのとおり料理がてんで駄目でそこら辺を直さないことにはダメだろう。あと本人がかなり消極的でお互い気はあるのに……という状態だ。

 

それより問題なのは汚染だ。FFF団という暴走材料を抱えるFクラスはそれに毒される人間がでてくるということがわかった。推論なのだけども。

 

吉井曰く姫路もお仕置きに参加するようになったのは五月ごろからだとのこと。つまり一月ほどいるとFクラスに汚染……もとい毒されておかしくなる可能性が確認できた。ちょっと前に出したあのレポートにもそれを記載してはある。

 

……話を戻すが吉井争奪戦については吉井本人の鈍感さと決定打不足が原因とみられる。それをなんとかしない限りは進みすらしないだろう。

 

「どうしたんですか和泉先生、考え事ですか?」

「……工藤か。ま、いろいろとな」

 

……今は考えてなかったが工藤も騒ぎを起こす一因になりかねないからな。

 

「さっきも言ったがあまりからかいをするな。度が過ぎるとこっちもそれ相応の対処をしないといけなくなる」

「あはは、先生ずいぶん真面目ですね」

「そういう性格だからな」

「あんまり真面目すぎると疲れちゃいますよ」

「今後のためだと思えば大したことはない」

 

今までだってそう思って相談を受けていた。今になってそれが変わるものじゃない。



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第13話

バカテスト

 

第13問 河川が山地から平野や盆地に移る所などに見られる、土砂などが山側を頂点として広がるように堆積した地形のことを何というか答えなさい。

 

【姫路瑞希の答え】

 

扇状地

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。扇状地は様々な土地利用もされ扇頂部では宿場町や交易路、扇央部では果樹園や桑畑、扇端部では集落や水田が広がります。なおこうした場所では集中豪雨時土砂災害や洪水がおきたりすることがあるので注意が必要です。

 

【木下秀吉の答え】

 

広状地

 

【和泉剣のコメント】

 

問題に必ずヒントがあるわけではないのできちんと覚えましょう。

 

【土屋康太の答え】

 

煽情地

 

【和泉剣のコメント】

 

……何に煽情するのでしょうか。あまり聞きたくないですが。

 

   ○

「……先生」

「……何だ吉井」

「バレーボールってこんなに激しい音出しながらするスポーツでしたっけ?」

「一般人がする場合そんなことはないな」

 

が、しかし目の前ではその空気を入れるタイプのバレーボールを破裂させる勢いで打ち合っている2人……

 

「美波ちゃんに負けるわけにはいかないんです!」

「ウチだって負けるわけには!」

 

お察しの通り姫路と島田である。一人でバレーボールができるわけではないのでパートナーとして姫路には霧島、島田には清水が付いているが……

 

「あっと手が滑ってしまいましたー」

「十三対二で姫路・霧島ペアに一セットじゃ」

 

まったくもって役に立っていない。わざと手を抜いているのが明白だ。

 

「事実上の1対2になっているのもあるが翔子がうまくフォローしているな」

「雄二。あれ? その飲み物どこから?」

「和泉先生にもらった」

「ワシももらったぞ」

「…………同じく」

 

各々俺が事前に用意しておいた飲み物を掲げている。

 

「吉井も持ってこい。入口あたりにあるクーラーボックスに入っているから。脱水症状になってからじゃ遅いからな。それとそこの四人も好きなもの持っていっていいぞ。ただ飲みすぎないようにな」

 

水泳では意外と体力を使う。浮力などの影響で普段使わない筋肉を使うことや知らず知らずのうちに汗をかくこと、疲労感などを感じづらい、プールサイドも暑いこともあり水分補給を怠ってしまうケースも多い。……なんで体育の教師でもないのにそんなこと知っているのかというと中学の時プールの授業中に友人が倒れたのだけどその原因が脱水症状だったからだったりする。

 

「それにしても遊んだからお腹空いたね」

「そうだな」

「あ、あの明久君」

 

……なんかいやな予感がするのだが

 

「実はお弁当を作ってきたんですけど……」

「第一回!」

「ガチンコ水泳大会!」

「「おぉーっ!」」

 

突然四人が大声で叫んだのに驚いた。確かに今までの経験でおびえているのは分かるが最初から否定していちゃ上達が期待できない。最悪元に戻ってしまう可能性だって考えられる。

 

「お前ら落ち着け。というかこの二週間姫路は料理を作らなかつたのか?」

「はい、ムニエルに合わせるバターと醤油の研究をしていたので……」

 

研究熱心なのはいいんだが今後は間違った研究だけはしてほしくないものだ。

 

「で姫路、一体何を作ってきたんだ?」

「おにぎりと鮭のムニエルです!」

「……薬品入れてはないよな?」

「もちろんです!」

「具体的に何を入れた?」

「明久君の好きな醤油とバターです!」

 

ミスマッチではあるが使っていないと言っている以上は処分するわけにはいかない。

 

「皆さんもぜひ食べてくださいね♪」

 

そういって姫路が取り出したのは二つのタッパー。しかし片方にはおにぎり、もう片方にはムニエル(大量)が入っていた。

 

「……ついでに聞いておくがおにぎりの具は?」

「シンプルなものがいいかと思って塩むすびにしました!」

 

とりあえずは大丈夫か? さすがに塩を調理するなんて事はしないだろうし。

 

「「「「……………」」」」

 

男性陣はまだためらいがあるようで誰も動かない。無理もない。今まで散々兵器の犠牲になっているんだし。

 

「姫路、一つもらうぞ」

「あ、はい!」

 

おにぎりとムニエルを一つずつ取り皿に載せる。男子達はそれを非常に心配そうに見つめているな……

 

「……心配なら一応蘇生手段の用意でもしといてくれ」

 

そういった後おにぎりを一口食べる。四人はこの世の終わりを見るような表情だったが。

 

「……うまいな。やればできるじゃないか」

「そ、そうですか! ありがとうございます!」

 

ついでムニエルを一口。うん、これも問題ないようだ。一口食べた瞬間に変な味がしないのと倒れていないから。

 

「四人とも、ちゃんと食えるものだから心配しなくても大丈夫そうだ」

 

その言葉を言いながら四人を見たが

 

「ムッツリーニ! AEDは!?」

「…………保健室から拝借した」

「秀吉! 予備のタオルをここに敷いて!」

「了解じゃ!」

「……何やってるんだお前ら。ちゃんと食えるぞ」

 

本気で蘇生準備を進めていた4人はその言葉に全員固まっていたので俺は手元のおにぎりを食べてみせる。すでに霧島や葉月ちゃん、工藤も食べ始めている。

 

その後四人は何かに感謝しながら姫路作の料理を食べたのだが特に吉井は泣いて喜んでいた。こんな表情を見れば料理を作る意識も変わるんじゃないだろうか。

 

「あ、水酸化ナトリウムを隠し味にしたスポンジケーキがあるんですけど……」

「第一回!」

「ガチンコ水泳大会!」

「「「おぉーっ!」」」

「焦げちゃったので今日は持ってきてないんです……あれ吉井君に坂本君!? なんで殴りあっているんですか!?」

「……ホッ」

 

坂本と吉井、土屋の三人は即座に現実逃避のためか水泳大会(吉井と坂本は互いの牽制で殴り合いになっているが)を始めてしまった。とっさの事で逃げ遅れた木下だけがその場に残ったのだが……工藤がちゃっかりスターターを務めていた。騒動を面白がっている節があるな。今は大丈夫だけど。

 

(これでもやっぱりまだまだかぁ……生徒を育てるって何度も思うけど大変だ)

 

すでに半分を折り返した土屋に吉井と坂本が襲いかかっているのをみてそろそろ掃除に切り替えないといけないと思いながら制止とこの後の事を考えていた。

 

 

 

 

 

ちなみに……姫路が弁当を出した直後

 

「お姉様! 美春が愛を込めて(怪しげな薬を入れて)作った特製弁当を食べてください!」

「ちょっと美春! ウチはアキに弁当を……」

「あんなブタ野郎にお姉様の弁当はもったいないです! さぁそれをこちらに!」

 

こんな争いが繰り広げられていたのだが明久から葉月ちゃんまでそれどころではなかったのでまったくもって気付かれていなかったのは別のお話だったりする。実をいうと俺も忘れていた。



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第2章 強化合宿騒乱編
第14話


強化合宿日誌 1日目編

 

第14問 強化合宿1日目の感想を書きなさい

 

【久保利光の答え】

 

1日目は移動だけで終わった。しかし車中でも勉強をしている人をみかけこういう時にも努力を欠かさないことは大切だと思い少し苦手な数学の勉強をしたりしながら過ごした

 

【和泉剣のコメント】

 

学年次席でも慢心はないということは素晴らしいことだと思います。これからもがんばってください

 

【木下秀吉の答え】

 

Fクラスは現地集合だったがそれでも仲間と交流を深めることができたことはとてもよかった。

 

【和泉剣のコメント】

 

勉強も大事ですが人間関係の構築も学校生活では大事なことですからね

 

【吉井明久の答え】

 

記憶にございません。というか思い出したくありません。

 

【和泉剣のコメント】

 

どこぞの大臣みたいなことを言っていますが事情は把握しているので強くは言えませんね……

 

   ○

プール掃除から一週間ほどが経ち文月学園では二学年で恒例であるという強化合宿の時期となった。

 

「修学旅行のときとかに先生楽そうだなとか思った自分をぶん殴りたくなりました」

「ははは。先生の仕事はそう簡単なものじゃないってことだ」

 

その下準備を西村先生と共にやっているのだがいかんせん仕事が多い。勉強合宿なのでそれに伴う教材づくりの手伝いや宿泊場所での割り振りの確認など裏方の仕事って大変だなということを思い知らされた一週間だった。

 

……そういえばこの一週間の終わりのころ吉井達が何やらそわそわしていたような気がするのだが何かあったんだろうか。なにかひと波乱ありそうな気がしないでもない

 

「そういえば俺の世界の修学旅行の時も男子の一部が女子風呂を覗きに行っていたなんてことがありました」

「……どこの世界でもそういうことがあるんだな」

「そう言い方からして去年も?」

「ああ、去年はFクラスだけだったがな」

 

あの濃いメンツのFクラスが何もしないわけがない。

 

「対策とかしないんですか?」

「ああ、これを見ろ」

 

そういって西村先生が出したのは旅館の内部図

 

「……一本道になっていますね」

「ここに教師を配置して召喚獣で防衛を行う。向こうも必死になって勉強するだろうからもってこいだ」

 

……まさか覗き騒ぎを勉強の糧にしてしまうとは

 

「たしかに正攻法の覗きにたいしてだけならこれだけでも大丈夫だと思いますが……」

「正攻法だけならとはどういうことだ?」

「この学校無駄にカメラの技術を持っている生徒だっているんですよ?」

「……確かにな」

 

主に土屋の事なんだけどな。

 

「鍵は確か西村先生が男女ともに管理するんですよね?」

「ああ。そういう予定になっている」

「ならたぶん大丈夫だとは思いますけど……」

 

西村ん先生から鍵を強奪することはほぼ不可能に近いだろうし。

 

「一応常に身につけるようにした方がいいかもしれません」

「なんだ、えらくこのことに執心だな」

「……さっき話した事の続きになるんですが覗きがあったことで翌日男女の状態が良くなかったんですよ。先生もピリピリムードでしたし。そういうのを防ぎたいっていう個人的なわがままです」

 

本当にあのときはよくなかった。それがあったのは中学の時のことだが翌日の朝にそれがあったことを知ったのだけど男子間の間では犯人の探り合い(すぐに広まったが)、班行動もあったので女子との微妙な間隔を味わう羽目になってしまったり、その日以降(といっても一日だけだが)先生の目が厳しかったりとろくなことがなかったからな。

 

「わがままか……そうかもしれないが生徒の事を考えられられているなら問題はないだろう」

「……ありがとうございます」

 

さて、もう一仕事するかな……それこそ生徒のためになるように

 

   ○

強化合宿当日……の午前六時。

 

「ここから目的地まで三時間ぐらいでしたっけ?」

「そうだな。電車ならもう少し早いんだが荷物がある以上そうもいかん」

 

現在俺は先乗り班である西村先生、大島先生、長谷川先生と共に文月学園にいた。ちなみに車は荷物が多いので大島先生の○レナでの移動となる。なお他の先生たちは各クラスのバスに分乗して引率だ。

 

準備が済んで出発となったのだが何せ三時間の移動である。ぶっちゃけ暇だ。

 

「和泉先生、何やっているんです?」

「教員試験の単語帳ですよ。まだ一応正式な教師じゃないので……」

「勉強もいいですけどひと眠りしておいた方がいいと思いますよ? 私達の仮眠の時間は一番最後ですし」

 

……そういえば確かに先乗りの人の仮眠時間は後ろの方だったな。それだと少しは寝ておかないとまずいかも。

 

「アドバイスありがとうございます長谷川先生」

「いやいや、私も先生に成りたての頃仮眠時間の前に限界が来てしまったことがあったから。経験あってこそですよ」

 

結局到着するまで寝かせてもらった。運転は途中で西村先生に交代していたそうだ。どっちみち俺は免許持ってないし手伝えなかったけど。

 

     ○

「はー……広いですね。これ使わないときはどうしてるんですか?」

「使っていない時期は一般向けにも開放しているそうだ」

「……確かに部屋も見てきましたけどいかにも合宿って感じの部屋でしたね。和室だし四人部屋だし」

 

小学校の時の修学旅行を思い出す光景だ。あのときはその倍の人数だったから部屋が暑くなったのをよく覚えている。ただ一つの階に三十を超える部屋数があるため廊下がすごく長い。だけど幅は学校のと同じくらい。

 

……試召戦争のシステムが使えるって話だから試召戦争をみる機会になるかもしれない。……でも覗きのためにするのを見るのはなんだか複雑な気が……

 

「準備は済んだことだしあとは召喚システムの状況を見れば休憩だな」

「そうですね。今まだ十一時ですから到着までは少し時間がありますし」

「長谷川先生、一戦しますか?」

「大島先生とは最近やってなかったしいいですね。科目はどうします? 自分の教科をつかうのはまずいですし」

「そうだな……和泉先生がいるし日本史でどうだ?」

「わかりました。和泉先生!」

 

!? あっと……考え事してたからいきなり呼ばれてびっくりした……。

 

「なんでしょう?」

「日本史の召喚許可をお願いできますか?」

「わかりました。それじゃ承認!」

「「試獣召喚!」」

 

うわー……すごい速い動き……点数の差も437と451で差がない。生徒では400点越えは片手で数えるぐらいしか取れる人がいないみたいだからこんな戦いみるのは貴重かも。

 

……日本史900点オーバーで動かしたら壁に激突したりしてうまく動かなくて大変だったけど。

 

この勝負は大島先生が長谷川先生を下したが点数をゼロにはしなかった。理由を聞いたところ

 

「先生の場合どれかの科目がゼロになるとその科目のテストをすぐに受けなおさなくてはいけないからですよ」

 

と長谷川先生。生徒が補習なら教師は即再テスト。容赦ないなこの学校……



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第15話

バカテスト

 

第15問 特定の目的を持っている場合、障害があると逆にその障害を乗り越えてでも目的を達成しようとする気持ちが高まる心理現象の事を何というか答えなさい。

 

【木下秀吉の答え】

 

ロミオとジュリエット効果

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。演劇部である木下君にはピンと来たのでしょう

 

【霧島翔子の答え】

 

……私は雄二とどんな障害も乗り越えて幸せな家庭を築く

 

【和泉剣のコメント】

 

自分の事じゃなく問題を答えてください……

 

【吉井明久の答え】

 

この泥棒猫!

 

【和泉剣のコメント】

 

そういう障害の事を言っているのではありません。

 

    ○

昼食を済ませ教員用の部屋でしばしの休憩を取っていると西村先生が部屋のドアを開けて入ってきた。高橋先生から間もなく到着するという連絡が入ったので最終確認をするとのことだ。

 

十分ほどで確認が済み合わせたかのようにA~Eクラスのバスも到着した。

 

生徒たちの表情を見てみると勉強合宿とはいえどどこか楽しげな表情だった。まぁ学生時代の遠出ならそんなものだろうな。

 

さて今は高橋先生が説明をしているがその後職員会議がある。初の課外での仕事だ。気合を入れていかないとな。

 

「では先ほど配ったプリントに書かれた部屋に移動してください。夕食までは自由時間ですが節度をもって過ごしてください。教師は会議を行うので集合してください」

 

呼ばれたのでここにいる教師全員が集合する。

 

「では会議を始めます。まず夕食時までの見回りですが……」

 

こういうのって生徒の時は遠目に見るだけだったからあまり感じなかったけど目が真剣だ。(当然だが……)

 

「西村先生はこれから来るFクラスの生徒に説明をお願いします。和泉先生はその補佐を」

「わかりました」

「それでは後は階ごとに分かれての話し合いとします」

 

各階の担当者ごとに分かれていくのを西村先生と見送り玄関から外を見る。まだ誰も到着はしていないようだ。

 

「ところで西村先生、ここにくるだけなら電車の方が早いはずなのになんで誰も来てないんでしょう?」

「あいつらの事だ。大方道草を食っているんだろう。それに見ろ」

 

西村先生が示したのは教員用に配られたしおりの一ページ。そこには『Fクラスは15時までに合宿所に到着すること』と書かれている

 

「ああ、なるほど。遅めの時間設定になっているのもあるんですか」

「こういう時間設定である以上わざわざ早く来たりはしないだろう」

 

……確かにそれならまだ来ていないことに納得できる。

 

「たぶん後1時間は来ないだろう。楽にしていていいぞ」

「わかりました」

 

   ○

本当先輩の経験は侮れない。先ほどの会話から1時間ほど経った頃Fクラスの生徒数名が姿を現した。ただし……

 

「「「じゃんけんぽん!」」」

「グーリーコ!」

「横溝! 一歩がでかすぎる! やり直しだ!」

 

……なぜかグリコをやりながら。普通はグリコって階段でやるものじゃなかったっけ?

 

「貴様ら! 遊んでいないでさっさと来い!」

 

西村先生の雷も落ちました。集合場所の前でこんなことやっていればそりゃ怒られるでしょ。

 

その後もFクラスの生徒たちは様々な状態でこの合宿所にやってきた。

 

「森! もう500歩行ったんだからじゃんけんだろう!?」

「「「あばよー!」」」

「てめぇら最初から最初からそのつもりだったな!」

 

荷物を押し付けられてそれを置いてきたり

 

「抜け駆けして電車内で声をかけるなど万死に値する!」

「「「異端者には死を!」」」

 

死の追いかけっこをしていたりとここに来るまで人に迷惑かけていないか心配になるぐらいの状況だった。

 

が、それはまだ序の口であることをその時の俺は知る由もなかった。

 

   ○

「後来てないのは……吉井達だけか……」

「のようですね……」

「西村先生……ちょっとよろしいですか?」

「ああ……和泉先生、少しここを任せます」

「わかりました」

 

時刻は現在15時十分前。もうじき集合時間なのだが……

 

「来たみたいだな……ん?」

 

なんだろう。えらく焦っているように見える。坂本が何かをおぶっている……

 

「和泉先生! 明久が!」

「吉井!? 何があったんだ!?」

「詳しい説明は後だ! とにかくAEDを!」

「わかった! 部屋に運ぶからついてきてくれ!」

 

入口にあったAEDを取り出してそう言うが島田と姫路が見当たらない。

 

「残りの二人は!?」

「途中から飛ばしてきたからまだこの敷地の入口あたりにいるはずじゃ!」

 

まいったな……処置は必要だし……あ、ちょうどいい所に!

 

「遠藤先生! ちょっと頼みがあるのですが!」

「あ……はい。なんでしょう?」

「ちょっとここを離れなくてはいけなくなってしまったのですこしだけここをお願いしてもいいですか? 後女子2人ですぐそこまで来ているらしいので」

「はぁ……わかりましたが」

「後西村先生には336にいると伝えてください!」

 

さっき西村先生がどっかいってしまったから仕方がない。

 

「坂本! 336に運べ! 俺も手伝う。木下、AED頼む」

「わかった!」

「了解じゃ!」

 

     ○

「一時はどうなるかと思ったな……」

「まったくだ」

「……前世の懺悔をし始めたのにはワシらも相当焦ったからの」

「…………無事で何より」

 

部屋に運び込んだあと大島先生も呼んで処置をしてもらったおかげで吉井は何とか息を吹き返した。……ただここまで二時間近くかかった。救急車も呼ぼうとした……正確には呼んだのだが偶然に偶然が重なってすぐには来られず到着が一時間後。そのあと運ばれる直前に息を吹き返し病院に行った方がいいと勧めたのだが本人が固辞した。

 

「……先生、本当にごめんなさい」

「……理由が理由だ。責めたりはしない」

 

実はこの騒動の原因はまたもや姫路の料理だった。なんでも『ゼリーにクロロ酢酸と水酸化ナトリウムをいれたんですけど』というこれまた料理人が驚く発言が飛び出した。ただ復活した吉井によると

 

「今までのと比べればずっとマシ」

 

とのこと。中和されたのか?……ちなみに姫路は俺以外にすでに事情を詳しく知っている西村先生の所で指導中である。

 

「……とりあえず後三十分ぐらいで夕食だ。無理はするなよ?」

「ありがとうございます!」

 

    ○

「西村先生、遠藤先生すいませんでした」

「いえ……あの状況では仕方ないですよ」

「そうだな。生徒の事を第一に動くのは大事なことだ」

 

今回の場合だと一部のという前置詞が付きそうだけど……

 

「ところで姫路は?」

「指導の後、家庭科関係の課題を出した。満点が必須になるようにしておいたからいやでも知識に叩き込まれるだろう」

「……それは考えてませんでした」








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第16話

バカテスト

 

第16問 春の七草のひとつで若苗を食用とし、別名をペンペン草とも言う植物の名前を何というか答えなさい

 

【木下優子の答え】

 

ナズナ

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。ナズナは荒廃した土地でも生育し、昔は冬季の貴重な野菜でもありました。

 

【吉井明久の答え】

 

ロールプレイングゲームのモンスター

 

【和泉剣のコメント】

 

ペンペン草とという言葉で反応したのでしょうがもっと全体を見て回答しましょう。

 

【姫路瑞希の答え】

 

なずなちゃん

 

【和泉剣のコメント】

 

……なぜひらがなでちゃん付けなのでしょうか。これが人間なのかはわかりませんが……

 

  ○

夕食時。遠目に吉井の姿が見えたのでさりげなく様子をうかがっていると一応食事は取っていたので大丈夫そうだ。……だけどまたなにか話し合いみたなことをしていたけど。

 

夕食を終え再び職員会議。一日四回五回あるのはやっぱり万全を期すということなのか。

 

「これからですが20時から入浴時間になります。昨年もFクラスがこの時間に覗きを敢行したこともあるので警戒は怠らないようにお願いします」

 

といっても浴場前に西村先生を置いて、地下や一階などの重要なところに教師を数人配置しておくだけだが。

 

「ではここまでとします。頑張りましょう」

 

高橋先生のその一言で解散となった。俺の仕事としては三階……つまりE・Fクラスの階の巡回だ。

 

……一応吉井の様子も見に行くか。やせ我慢して倒れていたら大変だ。そう思い336の前に来たんだが……

 

「…………犯人は尻にやけどの跡がある女子」

「「お前は一体何を調べたんだ!」」

 

なんかすごい不穏な言葉が聞こえてきた。

 

「吉井、入るぞ」

「い、和泉先生……」

 

吉井がえらく動揺しているが……さっきの話に何か関わりがあるのだろう。

 

「体調の確認に来たんだが」

「大丈夫。今までいろいろあったからすこしは頑丈にできているからね」

「薬品食って生還することは頑丈というのか?」

 

若干疑問は浮かんだがとりあえずは良しとしよう。

 

    

 

「というわけで吉井はとりあえずは大丈夫そうです」

「……そうか。あいつはバカだがときどき無理をしすぎることがあるからな」

 

無理というより優しすぎるとも言うんだけども。

 

「さて……そろそろ時間だな。和泉先生、男子の方の鍵お願いします」

「20時からでしたね。了解です。最初はA~Cクラスでしたよね?」

「ああ、その30分後からD~Fクラスだ」

   ○

「和泉先生、交代の時間です。それと西村先生が呼んでいるそうなので」

「? はい、わかりました。お願いします」

 

現在時刻20時30分。男子側の入り口で監視の仕事で三十分で交代となったが西村先生が呼んでいるとのことで大島先生に後をまかせて教員室へと向かった。

 

「西村先生、和泉です」

「来たか。入ってくれ」

 

ノックをした後部屋に入ると西村先生がいたが、備え付けの机の上に何かが置いてある。

 

「とりあえず座ってくれ」

「あ、はい……」

「これ……どう思う?」

 

そう西村先生が机に置いてあったものを手に取る。

 

「カメラ……ですね」

「ああ……さっき女子の脱衣所にあったそうだ」

「嫌な予感が当たってしまったということですか……」

 

何となく起きるかもしれない……とは思っていたけど本当に起きるとは……

 

「それで仕掛けたのは?」

「それがよくわからない。Cクラスの小山とEクラスの中林が最初『覗きです! これが証拠です!』とだけ言ってどこかに行ってしまったからな。このカメラはその後回収したものだ。……大方土屋の……」

「……何か引っかかりますね。ところで吉井達は?」

「覗きをしようと突撃してきたから補習室送りだ」

 

……何かよくわからなくなってきた。

 

「西村先生、私も補習室へいっていいですか? この騒ぎ何か裏がありそうです」

 

   ○

補習室に行くとひたすら反省文を書かされていた四人の姿があった。そういえば初めて補習時の光景って見るけど鬼の補習と言われるだけはあると思った。二十枚ぐらいプリントが重ねてある。これでもまだ優しい方らしい(西村先生談)

 

補習がひと段落したようなので吉井達に聞くべきことを聞こうと思ったのだが……

 

「吉井と坂本と土屋……なんか足怪我したか?」

「いや……たいしたことじゃ……」

「石畳を正座させられて膝に乗せられた」

「……それは世間で拷問というんじゃないのか?」

「ちょっと雄二!」

「明久! 悔しくないのか!? 脅迫犯のせいでこんな目にあったんだぞ!」

「脅迫犯?」

 

事情を聴いたところまず坂本は愛の告白が入った元を消すため(なぜそんな物があるかについては聞かない)、吉井は女子に近づくなという脅迫文の犯人を探そうとしていたので土屋が調べたところ同一犯で女子で尻にやけどがあることが判明した。すると先ほどカメラを見つけたという小山と中林が姫路、島田他20人ぐらいの女子と共に拷問を開始、疑われるぐらいならと尻にやけどのある女子を探すために特攻。今に至ると……

 

「……さっき来た時はそんなこと一言も言っていなかったぞ」

「これ冤罪なら大変ですよ。下手すればマスコミにたたかれ放題ですね。ただでさえ目立ってるんですからこの学校」

 

……まぁ教頭室を爆破したりした時など隠蔽が多いらしいが

 

「坂本、そういえば霧島が拷問に来てないだろうな?」

「あのあと話を聞きには来たが拷問ってことはなかった」

 

ならよし。もし参加してたらこれ以上なにも言わないつもりだったからな。

 

「確かに今の話を聞く限りそのカメラは物的証拠でも状況証拠でもない」

「? どういうこと?」

「カメラがあったからと言ってそれが土屋の物であることが証明できなければなんの意味も持たないってことだ。現時点ではいいがかりで拷問したことになる」

「…………カメラが見つかるようなヘマはしない」

「いろいろ突っ込みたいけど今は飲み込む」

 

ばれなきゃ犯罪じゃない……まぁそうなんだけど実際。

 

「……西村先生、この件俺に預けてくれませんか?」

「なぜだ?」

「西村先生が動くと犯人が警戒すると思うんです。協力はしてもらいたいですが表向きの捜索は俺がします」

 

学園最強の教師は味方だと心強いが同時に相手の警戒心もあおることになる。

 

「……わかった。生徒のために動くのが俺たち教師の務めだ」

「それとさっきの拷問の件を学園長の方に報告しておきます。最終日来るそうですけど」

 

視察のために学園長が最後の日に来るらしい。

 

「「「「…………」」」」

「どうした?」

「いや……今までこんなに親身になってくれる先生っていなかったなと思って」

「……俺も似たようなものだったけどな」

「「「「えっ!?」」」」



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第17話

バカテスト

 

第17問 いくら努力しても、少しも手ごたえや効き目のないことをことわざで何と言うか答えなさい

 

【坂本雄二の答え】

 

のれんに腕押し

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。他にも糠に釘、馬の耳に念仏、四字熟語では馬耳東風など様々な言葉があります。

 

【木下秀吉の答え】

 

暴走女子に言葉

 

【和泉剣のコメント】

 

不正解ではありますが言いたいことはよくわかります。

 

【吉井明久の答え】

 

こんな心に刺さるようなこと問題に書かないでください!

 

【和泉剣のコメント】

 

ごめんなさい。問題作成者にきつく言っておきます

 

    ○

「……昔何かあったのか?」

「ま、いろいろあるんですよ人には」

 

人には言いたくないことの一つや二つはあるものだし。

 

「さて、まだ補習終わってないんだろ? とりあえずそれ終わらせておけ」

「「「えっ!?」」」

「やった以上は仕方ないし英語で反省してますって書く奴だから勉強にはなるし。その間に俺は拷問した側の事情聴取にでも行ってくる」

 

そういって俺は補習室を後にして小山と中林の部屋へ事情聴取へと向かった

 

 

     

「私達がお風呂からあがって着替えようとしたら誰かがカメラがあるって言ったんです!」

「誰かって誰?」

「知りませんよ! 騒ぎで誰が見つけたかわからなくなったんですから!」

(見つけたのが女子ならわざわざ隠れているはずはない……自分にもかかわる問題である以上当然だ。となるとそいつが脅迫犯である確率は高いな……)

 

「カメラを見つけたのは分かった。そのあと吉井達の所に踏み込みに行ったらしいが……」

「こんなことをやるのはあのバカたちぐらいしかいないでしょう!」

(同時にFクラスへの偏見がひどいってこともよくわかった)

 

    ○

「だいたい聞いてきたのでまず聞きこんだ結果……お前たちがあのカメラを置いた可能性は限りなくゼロに近いことが分かった。要するにほぼシロだ。あとFクラスへの偏見がひどいこともよくわかった。まぁこれは日ごろの行動がいけないとも言えるが」

「うっ……」

 

……思い当たる節はやっぱりあったようだな。

 

「……とりあえずそれは置いておくけど。西村先生、鍵はずっと持ってましたよね?」

「20時に開けるまでは俺が持っていたな」

「開けるときにピッキングをしたような形跡はありましたか?」

「……なかったと思うが」

 

ピッキング無し……そして最初に見つけた人物が不明となるとやっぱり……

 

「この騒動を引き起こした女子は脱衣所にカメラを置いてそれをわざと見つけさせた可能性が高い」

「わざと!?」

「……何が言いたいのか少しわかってきた」

 

さすが坂本。頭の回りがやっぱり早い。

 

「つまりだ。犯人は自分自身がカメラを見つけたふりをして女子を焚きつけたって事だ。しかも俺たちに矛先が向くのを見越してだ」

「事実最初に見つけたのは誰か2人に聞いてきたが分からないの一点張りだったからな」

 

吉井が首をかしげているが今はそれどころじゃないので話を進めよう……

 

「西村先生、カメラが見つかる直前に女子風呂に出入りはありましたか?」

「……あったな。時間としても交代のころだったからな。ちょうど中林が通った直後だった。さすがに全員の顔は覚えていないが」

「……そこから絞り込むには少々きついか」

「一旦状況を整理する。犯人像としてはこんな感じになる」

 

1、姫路もしくは島田に吉井が近づいてほしくない人

2、吉井に恨みがある人

3、カメラ技術がある人

4、動きからして相当慎重な性格な人

5、尻にやけどの跡がある

6、女子

 

「……ずいぶん並んだが思ったより手掛かりが少ないのぅ……」

「さて吉井。思い当たるような人物はいるか?」

「え? 僕!?」

「少なくとも上二つに関してはお前の答えるべきことだろう」

 

吉井はえらく考えているようだ……らちがあかないから次行こう。

 

「土屋、お前以外でカメラの技術が高そうな奴は?」

「…………知っている限りはいない」

 

こちらは手掛かりゼロか……

 

「うーん……あ、清水さんとか?」

「「「「…………」」」」

「え? 僕変なこと言った?」

 

いや……変じゃない。プールの時のあの態度……

 

「「「「それだ!」」」」

「えっ!?」

「そうだ。清水だ。あいつ確かガチの百合だったよな秀吉!」

「確かにの。女子が女子を覗く理由としては十分じゃ!」

「…………すっかり忘れていた」

「だけど証拠がない。現時点だと容疑者どまりだな」

 

とはいってはみるが……

 

「「「でも他に百合の奴はいない」」」

「いれば目立つだろうしな。隠してたら分からないけど」

 

あとわざと見つけさせたということは恐らくだが……

 

「証拠についてだがまだ脱衣所にカメラがある可能性が高い」

「……今日見つかったのはダミーってことか」

「さっきも言った通りただ焚きつけるためだけのものなんだろう。」

「じゃあ早く清水さんを取り押さえて……」

「今は無理だ!」

「なんで!?」

 

今現在では証拠に乏しいということが一番の理由でその本命のカメラが見つかっても先ほど同様清水の物であることが証明できなければ逃げられる可能性が高いということを説明しようといたが先に坂本が吉井におおまかを説明してくれたので説明の手間が省けた。

 

「一番いいのは犯人がカメラを回収に来た時に取り押さえることだな。時間外は厳重に鍵が閉まっている以上そうするしかない」

「確かにそうだが……すぐには動かないだろう?」

「……慎重な犯人の事だ。四日目……つまり帰る前日までは動かない可能性が高い」

「じゃあどうすればいいのさ!」

「犯人がカメラを回収できる隙が絶対欲しいはず。だから隙を作る」

「何をするつもりじゃ?」

 

一つだけ考えた確実に隙を作る方法。しかしこれを実現するにはあの人物の協力が絶対に欠かせない。

 

「……せっかくの合宿なんだ。何のイベントもなしに黙々と勉強するよりは何かみんなが盛り上がることをしたくないか?」

 

    ○

「……先生」

「霧島、どうかしたか?」

「……雄二は本当に覗きを?」

「……ほぼ間違いなくやってない」

「……よかった」

「お前の事だから浮気は許さないとか言って拷問しに行くんじゃないかと思っていたけど」

 

嘘偽りない本音である。少なくとも一か月前ならそうしていただろう。

 

「……少しそれは思った」

「思ってはいたのか……」

 

やらなかっただけましか?

 

「……でも雄二が謝っていた時の目が真剣だったから」

「……ちょっと前だったら感情に任せてただろうに」

「……前の自分が少し恥ずかしくなった」

「そうか……」

 

正直姫路とか島田にも見習ってもらいたい。すぐには無理だろうけど

 

「そろそろ消灯時間だ。部屋に戻れよ」

「……ありがとうございます」

 

そういって霧島は部屋に戻って行った。

 

「……この分なら坂本翔子になる日も近いかもな」

 

俺はそんな事を思いながら見回りを続けていくのだった。




次回からは2日目に入ります。


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第18話

強化合宿日誌

 

第18問 強化合宿2日目の感想を書きなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

……雄二と一緒に勉強できて嬉しかった。でも雄二には負けたくないから頑張る。

 

【和泉剣のコメント】

 

強化合宿の感想と言えるか微妙なところではありますが感想ではあるので良しとします。

 

【工藤愛子の答え】

 

吉井君をいじることが楽しかったけど和泉先生に怒られた。また今度からかいたい。

 

【和泉剣のコメント】

 

……ちょっとおふざけが過ぎるので指導室に来るように。

 

【木下秀吉の答え】

 

ふつつか者でも少しは勉強ができるようになったと思う

 

【和泉剣のコメント】

 

たいしてうまいことは言えていません。

 

    ○

強化合宿2日目。強化合宿の基本的なスケジュールは朝食後から授業時間の間ぐらいまでの合同授業という名の自習となっている。しかし、昨日の夜に頼んだ事があるので昼食後にはその説明もある。だが今はAクラスとFクラスの合同授業の監督中だ。

 

西村先生によるとこの授業の目的はFクラスはAクラスを見てああなりたいと思わせること、AクラスはFクラスを見てああはなりたくないと思わせること、らしいのだが……

 

どう前者に関しては本人たちは何にも考えてないようで寝ていたり、ゲームをしていたりとまるでやる気がない。一応自習なので抜けだしたり過剰にふざけでもしない限りは注意する必要はないとのこと。……ただし開始直後にFクラスの面々が坂本にカッターを投げようとしたのでそれを阻止する一幕もあったりしたが。

 

とか考えて吉井たちの一角を見ると工藤が小型録音機を使い録音した音声を合成して遊んでいた。しかもそれを真に受けた島田と姫路がっておいこら

 

「そこの二人。またか、またなのか?」

「「くっ……」」

 

親の仇を見るかのようにこちらをにらんでくる2人。……そこまで吉井を処刑したがる理由は何だろうか。ちなみにだが姫路に暴力癖がある(ただしこちらも吉井限定)を知ったのは割と最近だったりする。今まで料理関係で叱ってきたことはあったがこっちは知らなかった。(居合わせなかったともいう)しかも島田同様思い込みが激しいと来ると……どうしよう? まぁ俺が声をかけただけで手が止まってはいるが、いつ暴発するか分からない。先生って本当に大変だなぁ。ま、それよりも

 

「工藤、この前も言ったが無闇に騒動を引き起こすな」

「えー……おもしろかったのに」

「……人に暴力振るう現場見て面白いなんて言うのはお前ぐらいだ」

「え? スキンシップじゃないの?」

「……どう見たらそういう判断になるんだ?」

 

……この学校本当に常識を持った人間が少ない。なにせ学年主席や実質の学年次席までも常識外れの行動を取っているし。(一部過去形)しかも正直俺は工藤のような人をおちょくったり化かしたりするタイプの人間は苦手だ。学生の時にそういうタイプの奴(男子だったが)に最大出力の眼力を浴びせたぐらいだ。(言葉や手は出さなかったけど)

 

……もっとも、工藤が何を考えているかにもよる部分もある。実は虚勢を張っていたなんてのもよく見るケースだ。

 

(もしもこんな事実が世間に流れようものならこの学校消えるよな絶対……)

 

   ○

工藤への注意喚起をしたあと時間は流れ午前の自習は終わった。午後は自習の前にあることの説明があるので一度全員が集合することになっている。

 

「……話は聞いていましたがこれを行う意味はあるんですか?」

「このイベントを開催する表向きの意味は生徒のやる気の増幅、裏の意味は覗きの予防です」

「予防?」

 

高橋先生にイベントを起こす意味についてそう答える。

 

「昨日の一件を聞いた限り覗きを達成するには召喚獣で戦うことが不可欠です。なら最初から点数を削っておけば万が一の際には防衛が楽になります」

「……確かに補習ではテストの点は回復できませんしその通りですがまだ意味があるはずです」

「……高橋先生に隠すのは無理そうですね。このことを知っているのは学園長と西村先生だけなんで一応口止めはさせてもらいます」

 

高橋先生には真の目的を隠しておくのは無理そうだったので昨日の話を含めてすべて話しておくことにした。

 

「……なるほど。この学校の存続自体に問題がありますね」

「まじめにやってる生徒に損をさせるのはまずいと思うんです。学園長にもそこのところを考えてもらうように言いましたし」

 

覗きで学園の評判が下がることで騒動にかかわっていない一般生徒が損をするのはよろしくない。それに三年の進路への影響も阻止する。これが一つ目の真の目的。そしてもう一つが……

 

「それは本当ですか?」

「ええ……完全な冤罪ですね。といってもほとんど犯人は割れているのですが」

 

その犯人を確定させるための手段。

 

「勝負は最終日です」

 

    ○

「これより男女対抗試召戦争の説明を始めます」

 

説明がはじまるが少々長い(三十分ほどかかった)ので簡単にまとめておいた資料……という名のルールブック(Fクラス配布用)を大まかにまとめると……

 

1、男女別で行い大将が倒されれば終了

 

まずは大本のルールです。大将の選出は自由となっているのでどのクラスから選んでも問題ありません。

 

2、三日間行い勝利チームには学食券進呈(1,000円程)

 

……特に説明はいりませんよね?

 

3、チームとは別に個人での表彰もあり

 

詳細は後述

 

4、召喚獣を倒すとその召喚獣の元々の点数がポイントになる。

 

このあたりのルールはFクラスでも上位が狙えるようにしたものです

 

5、両陣営ランダムに2~5倍のポイント補正がかかる。(全員ではない)

 

強くなるわけではありません。また生徒から誰が対象者かを確認することはできません。

 

6、本陣は大浴場前とし交戦時間は16時~18時とする

 

なお決着がつかない場合は残り人数で、残り人数が同じ時は残っている全員の総合得点、それでもだめなら引き分けになります。

 

7、その他のルールは通常の試召戦争に則る

 

「というルールになります。なお午後の自習時間は14時半ですので16時まで休憩して構いません。結果は最終日に発表します」

 

高橋先生の説明が終わり各クラスが自習室へと戻っていくのを見ていると携帯に着信が入った

 

「説明が終わったころだろうと思ってかけたけどこれでいいのかい?」

「はい。無理を言って申し訳ないです」

「よく言うよ。集団暴行に覗き騒ぎ、ただでさえぐらついている文月学園の足元がさらにぐらつくような案件を持ち込んでおいて」

「……俺も働く場所なくなるのは困りますし」

 

学校潰れたらどうすればいいのか分からなくなるし。

 

「賞品は用意できました?」

「なんとかね。まったく、とんだ出費だよ」

「評判下がってスポンサーが減ったり生徒数が減らないだけましだと思うんですけどね。中長期的戦略ってことで」

「ま、最終日に顔出すけどしっかり管理しな」

「ありがとうございます」



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第19話

バカテスト

 

第19問 江戸時代の1643年に、儒学者・林春斎がその著書『日本国事跡考』において書き記したことがきっかけになったといわれる日本三景を全てあげなさい。

 

【坂本雄二の答え】

 

松島・天橋立・宮島

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。これらの地を題材にした詩歌や絵画が古くから残っています。

 

【土屋康太の答え】

 

女子のスカートの中・女子の水着姿・着替え中の女子

 

【和泉剣のコメント】

 

それが日本三景になるのはあなたの中だけでしょう

 

【吉井明久の答え】

 

島田美波の関節技・FFF団の攻撃・姫路さんの料理

 

【和泉剣のコメント】

 

……絶景という言葉の意味を間違えていると思います。

 

    ○

さて、午後の自習の時間が終わった。一時間半後からは男女対抗試召戦争の開戦時間となる。実を言うと、元々は自由参加という手もあった。がしかし、下手に逃げられても困るし不参加者が多いと戦力に差が出ることが予想されたので全員参加ということにした。

 

生徒からすれば休憩時間だが、俺からすると休憩時間ではなく準備の時間なので召喚システムのチェックをしなくてはいけない。といっても部屋でノートパソコンを使ってチェックするだけなんだけど。

 

「西村先生、補習室の準備終わったんですか?」

「ああ。和泉先生が教室の監督をしてくれていたからな。もう準備は済んでいる」

 

どうでもいいけど西村先生の声ってどっかで聞いたような気がするんだけど……どこだっけ?

 

「西村先生は今回の試召戦争どっちが勝つと思います?」

「……正直よくわからん。戦力差をひっくり返したケースを見ているからな……和泉先生はどう見る?」

「そうですね……今現在の段階だけで言えばかなり女子有利と見て間違いないと思います。例の件で一部の女子がヒートアップしているのに対し、男子側はFクラスという士気が上がっていないのが三分の一を占めています。これを動かせるかがカギになるでしょうね」

 

それにこの勝負、補充試験を受けることは難しい設定にしてある。補充試験を受けられる教室は一階にあるが本陣は地下一階の大浴場前とかなり距離がある。それに二時間という短期決戦なので受けられても1科目程度。

 

「それともう一つ重要なことがあるとすれば科目変更でしょう。補充試験はしにくいですからある戦力を最大限に生かすにはそういう方法をとるのではないでしょうか」

「教師が忙しくなりそうだな」

「ま、そういうシステムな以上仕方ないでしょう」

 

    ○

16時になりいよいよ開戦。両陣営ともに開戦直前には教師の確保に走り回っていた。さて、俺は何をしているのかというと……

 

「和泉先生! お願いします!」

「承認します!」

「木内先生、遠藤先生、お願いします!」

 

二階の廊下で試召戦争の承認をしていた。システム管理の仕事があるとはいっても一応は教師であり、学園長からも試召戦争の承認を行えることは周知されているのでこうなるのは当然と言えば当然だ。

 

「「試獣召喚!」」

 

    Dクラス 大沢桃  Dクラス 佐々岡達也

日本史    145点  VS   156点

 

    Aクラス 須藤紗枝 Cクラス 栗本正&金城良樹

数学     236点  VS   158点&164点

 

    Eクラス 三上美子&源涼香  Bクラス 小野了

 

英語     106点&103点    VS   193点

 

 

現在目の前ではDクラスの子や書いていないがその他のクラスの生徒も含めて七・八人が入り混じっていて戦っている。他教科の所もクラス入り混じって戦っており、両陣営ともバランスをとった戦力だと思う。

 

ところで教師の張る召喚フィールドは人によって微妙に大きさが違うがだいたいが十メートル前後。しかし俺が張る召喚フィールドは通常より少々大きいようで、以前他の先生とやった時に干渉が起きてしまったこともあった。

 

さて、戦争の方に戻るが……そうこうしているうちに点数がゼロ、すなわち戦死になった男子生徒が出た。……戦死者は補習室で戦争終了時まで補習を受けなければならないとマニュアルにあったが……

 

「戦死者は補習!」

 

やせいの にしむらせんせいが あらわれた!

 

あまりに突然の事でギャグに突っ走ってしまったが、あながち間違っていないという……

 

「鬼の補習は嫌だー!」

「好きなことは勉強、尊敬する人物は二宮金次郎という理想的な生徒に育ててやるから覚悟しろ!」

 

戦死した生徒を担ぎ、そう言いながら去って行った。

 

(それなんて洗脳? というか勉強が好き+二宮金次郎を尊敬する生徒って実在するのか? 東大生でもないかぎりいないだろそんなの。知らないけどさ)

 

西村先生が軽々と運んでいたことに同じ人間なのかという疑問を抱いたが気にしないことにする。

 

「戦死者は補習!」

「「いやぁぁぁぁ!」」

 

……下の階でも戦死者が出たようでまた西村先生の叫び声がこだました。

 

     ○

開戦から一時間ほど経ち両軍の戦死者数を確認したところ80人程になっていた。内訳をみると地力の差なのか男子側の戦死者が多い。

 

二階での戦闘は終了しており女子側が辛勝という結果になった。

 

生徒はいるが女子だけなので部屋に戻ろうと一階に下りるとまだ戦闘が続いているようだった。が

 

「戦死者は補習!」

 

現れた西村先生と共にまた連れ去られる男子。

 

「このまま男子を叩くわよ!」

「ちょっと小山さん! 出る前に言われたことを忘れたの!? もう相手全滅してるじゃない!」

 

……どうやら作戦内容と相違があったようで木下姉が先鋒を担当している小山を叱っていた。

 

「Fクラスの坂本ごときに負けるとでも!? 全員突撃よ!」

 

小山率いる先鋒部隊30名程が男子の大浴場に続く階段へと突撃して行った。しかし階段の下から聞こえてきたのは

 

「やっと来たか小山……いくぜ!」

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

「なっ……本隊がこんなところに!?」

 

というやり取りとその数分後に

 

「戦死者は補習!」

 

補習室に担いで運ばれる三十人の女子の姿だった。

 

どうでもいいけど補習室から駆けてくる西村先生の速さと三十人を担いで補習室に入って行った怪力にただただ唖然とするしかなかった。……同時にかすかに聞こえてきた悲鳴に近い絶叫については元の世界にこんな学校なくてよかったと強く実感した。

   ○

前線部隊が全滅後、霧島率いる本隊がやってきたものの男子側は吉井の操作能力にやる足止め(日本史フィールドでやっていたのできちんと見た)や土屋の保険体育の火力などに阻まれた。しかし女子側の大将である霧島を倒すこともできずに18時を迎えたため終戦。

 

最終結果は人数で上回ったため男子側の勝利となった。

 

(結果だけ見ると男子側の勝ちだけど女子側は暴走による失策っていうところも大きいからな……明日は一筋縄じゃいかないだろう……)



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第20話

バカテスト

 

第20問 一つがだめでも、たくさんやってみれば中には当たりもあるというたとえをことわざで何と言うか答えなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。目上の人に使うと失礼になる時があるので気をつけましょう

 

【坂本雄二の答え】

 

吉井明久の考え

 

【和泉剣のコメント】

 

さすがにそういう言い方はないと……

 

【吉井明久の答え】

 

坂本雄二の考え

 

【和泉剣のコメント】

 

思っていたら似たようなことを考えている人がいましたね

 

 

    ○

試召戦争終了後夕食の時間となったが、俺は生徒たちとは少し離れたところで他の先生達と食事をしながら今日の戦争についての考察をしていた。

 

「しかし意外でしたね。男子が勝つ結果になったのは」

「まぁ結果だけ見ればそうですがどちらかといえば女子のチームワークの悪さが露呈しただけとも取れます」

 

遠藤先生の感想はもっともだ。男子は多少人数が女子より多いが正直誤差の範囲。戦力的には上回っていた女子が負けたのだから。

 

「チームワークの悪さというと……最後の男子の本隊との戦いでの事か……」

 

最後のあたりで地下一階でフィールドを展開していた大島先生が一部始終を見ていたのか話に入ってきた。

 

「まぁ大本の原因はそこらへんですね。前線を率いていた小山と中林が出すぎたせいで囲まれて全滅させてあとは守戦に徹してましたし主力をあまり出していないみたいようでしたし」

「そういえば一階の戦闘の際途中からFクラスの生徒が多くなりましたね」

 

男子側は恐らく坂本が指揮しているはず……Aクラスの久保はそこまで強硬な策は取れないだろうし、Dクラス代表の平賀、Bクラス代表の根本は試召戦争で坂本に敗北経験がある。故にFクラスだからと言って発言を阻止することはできないだろう。

 

しかし女子側は霧島と木下というツートップに加え、Cクラスの小山、Eクラスの中林という指揮官がいるが正直この二人では坂本相手には荷が重い。どちらも初日の騒動から見るに血の気が多く、並以上の働きは難しいだろう。

 

「木下さんが進むのを止めようとしてましたが振り切って行ってしまってましたが……」

「序盤は互いに様子見の展開でしたがFクラスの男子を攻撃し始めたあたりから少しおかしくなりましたし……」

 

長谷川先生が一階の戦況を説明してくれた。二階にいたから詳しい戦況は知らなかったがそんなことになっていたのか……

 

「明日以降は早い展開になるかもしれませんね」

「確かに……忙しくなりそうですね……」

 

お茶をすすりながら先生たちとの食事は進んでいった。

 

     ○

「ところで前々から思っていたんですが、この学校って一般から見るとかなり常識はずれなことが平然と行われてませんか?」

「どんなことです?」

 

……いわなきゃだめなのか?

 

「主に集団リンチとか」

「……着任した当初は確かにおかしいとは思ったんだが、なぜかすぐに復活するものだから特に気にすることはないと思うようになってしまってな」

「……自然と慣れてしまって」

「……気にしたら負けだと思って」

 

上から大島先生、遠藤先生、長谷川先生の弁。この学校には非常識を常識にできる力があるとでもいうのか?

 

「他にも写真販売をしている生徒がいますし……」

「俺も噂には聞いているが……」

「生徒の利用率がとてつもないらしいですからね。無理やりやめさせようものならとんでもないことになるでしょうね……」

「そ、そうですよね!」

 

……なんだか遠藤先生が挙動不審だ。なんというか目線が泳いでいる。

 

「……遠藤先生、まさかあなたも?」

「ち、違います! 生徒が話しているのを聞いて」

 

大島先生が尋ねるが否定する遠藤先生。

 

「ところで遠藤先生、先ほどから目線が右上に向いているようですが何かあるのですか?」

「は、はい……あの蛍光灯が切れそうになっていて……」

「目線が右上に向いていると嘘をついていると聞いたことがありますね」

「そうなんですか!? 今度から気をつけないと…………あっ……」

「「「…………」」」

 

うっかり今度からと言ってしまった遠藤先生に無言になってしまう俺を含めた三人の男性教師たち。

 

「仕事しますか」

「そうですね……」

 

実際は買っていたわけではなく、廊下とかで写真を拾っただけとのこと。ものすごく必死に弁明していたということを追記しておく。

 

      ○

「で、一日目の個人結果が気になるから聞きに来たと。でも教えられないよ?」

「やっぱり……」

「…………こうなるのは予想できた。でもシステムが複雑だから俺も気になる」

 

複雑なところは認める。でもこうしておかないとまずい理由もある。

 

「ところで賞品はどのようなものになっておるのじゃ?」

「1位には如月グランドパークのチケットと学校のある街にあるショッピングモールの買い物券10,000円分と学食の食券5,000円分」

「如月グランドパークだと!?」

 

坂本がいきなり大声を上げたがどうかしたのだろうか?

 

「まだあったんだ。あのチケット……」

「そうじゃなくてつい最近送られてきたらしい。なんでもウエディング体験にご協力してもらった謝礼だとか」

 

学園長も処理に困っていたらしくもしこういったイベントがなければ他の時に使うつもりだったらしい。

 

「2位から5位まではショッピングモールの買い物券5,000円分と学食の食券3,000円分。6位から10位まではショッピングモールの買い物券3,000円分と学食の食券1,000円分。11位以下にも賞品はあるけど非常用の手回し充電器とか、キーホルダー詰め合わせとかなんかいろいろありすぎてよく覚えてない」

「……あのババァがよくそんなに奮発したな。勝利チームに学食券を配るのだって10万以上はかかるはずだ」

「そこら辺は先行投資ということで納得してもらった」

 

ごり押しとも言うけどね。

 

「これで十分?」

「……ああ」

「まだ用事がある顔だね?」

「……その通りだ」

 

先ほどの戦争の際どうやら工藤がもう一つのカメラを見つけた事を教えてくれたらしい。しかし……

 

「当面はそれは放置だ」

「なんで!?」

「初日にも言ったがそのカメラが誰のものであるかが証明できないと追及は難しい。高橋先生に頼んで場所については特定しておくけど回収はしない」

 

回収したところで設置者を特定できるものがある確証がない以上下手には動けないからだ。

 

「和泉先生、Fクラスの男子が覗きを!」

「えっ!?」

「ワシらはそんな指示しておらんぞ!?」

「いや、単なる暴走だろう。あいつらならどこかしらでそこにたどりつくのは目に見えている」

 

……実を言うと俺もそうだと思っている。さっき食堂で夕食を待っている最中Fクラスの男子がなにか密談しているのを見かけたし彼らは夕食を早々に済ませて部屋に戻った。何か企んでいるだろうとは思っていた。

 

「ちょっと片づけてくるから部屋を出ない方がいいぞ」

「……なんで?」

「そんなこともわからんのか……」

「雄二! まるで僕がバカみたいに聞こえるじゃないか!」

「事実だろうが」

 

ぎゃあぎゃあ言い争っている吉井と坂本。一方的に吉井が絡んでいるだけだが。

 

「今出たら俺たちまで覗き犯にされてしまうだろうが。先生に弁明はできたが女子には伝わってないんだぞ」

「あ……そっか」

「しっかりしてくれよ……」

 

うん。それに対しては俺も同感だ。



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第21話

強化合宿日誌

 

第21問 強化合宿三日目の感想を書きなさい

 

【木下秀吉の答え】

 

前略(※坂本雄二に続く)

 

【和泉剣のコメント】

 

日誌をリレー形式で綴るのはどうなんでしょうか……そういえば中学校の同級生に卒業文集をつながるようにしていた人達がいましたね。

 

【坂本雄二の答え】

 

ふと眼を開けるとそこには着物をはだけさせた翔子が迫っていた。拷問道具で抑えられていたわけではないが翔子の顔が近付いてきて(※土屋康太に続く)

 

【和泉剣のコメント】

 

……とんでもないタイミングで切りますね。積極的すぎるのもどうかと思いますが……

 

【土屋康太の答え】

 

中略(※吉井明久に続く)

 

【和泉剣のコメント】

 

まだ続くんですか……

 

【吉井明久の答え】

 

横を見ると雄二が霧島さんに迫られていて使えない。目の前には暗殺に来たと思われる美波が。その時突然ドアが開いて現れたのは……(※島田美波に続く)

 

【和泉剣のコメント】

 

……なんでその人に繋ぐんですか。

 

【島田美波の答え】

 

後略

 

【和泉剣のコメント】

 

嫌なら嫌なりの対処をしてください。

 

    ○

強化合宿三日目。スケジュール自体は前日と同じなので朝に関してはこれと言って特筆することはなかった。

 

ああ、そういえば昨日の覗き騒ぎもあったのでそのダイジェストから。

 

 

 

「どけぇぇぇ!」

「今の俺たちを止められる物は何もない!」

「「「いざ、理想郷(アガルタ)へ!」」」

 

本当に馬鹿ばっかりだ。

 

「やっぱりこうなったか……」

「和泉先生か!?」

「いや、和泉先生は臨時教師だから召喚獣を出せないはず……」

 

まぁ特に伝えたわけじゃないからな……当然か。

 

「ちゃんと出せるから心配するな」

「ちっ……出せるのか……日本史で減らしていない奴は行くぞ!」

 

須川が指示を出して向かってくる。確かに全教科で点を削ったわけじゃないから教科ごとに分ければまだ決行はできたってことか。選択肢は縮められたけど。

 

「「「「「試獣召喚!」」」」」

 

   Fクラス 須川&朝倉&速水&野中&竹倉

日本史     78&86&67&69&88

 

「ここは俺達が抑える! いけお前ら!」

「「「おおーっ!」」」

 

足止めをしてその間に他の連中を通す。間違った選択じゃない。しかしそれは

 

    臨時教師 和泉剣

日本史   988点

 

きちんと足止めができたらの話だけども。

 

「何だあの点数は!?」

「1000点目前だと!?」

「んじゃ……いくぞ!」

 

      ○

もちろん結果は言うに及ばず。全員の召喚獣を真っ二つにして西村先生が連れて行った。……ただ正直全力で戦えたわけじゃない。一番点数の近い高橋先生(全教科800点近い)にも教わったが慣れしかないとのこと。

 

そのため自分で制御できるレベルで先ほども戦っていた。とはいっても召喚獣の点数=強さが変わるわけではなくただ単にスピードを操作できる範囲にしただけなので強いのは変わらない。でもそうしないと自滅してしまうので仕方ない。

 

……話が盛大にそれたが本日もFクラスとAクラスは合同での自習となっている。今日は西村先生も目を光らせているがFクラスの生徒のほとんどは昨日の試召戦争と覗き騒ぎのせいで補充試験の真っ最中。最初の一時間から二時間はテストの監督をしていたけど今ここにいるのはAクラスの生徒と、覗き騒ぎに参加しなかった吉井達ぐらいだ。つまり騒ぎの原因がほぼいない。

 

……なんかやることないな。Fクラスの補充試験は午前中いっぱいはかかるようなので戻ってこない。しかも西村先生もいるし騒ぎを起こしそうなのは吉井達のみ。そこまで気を張る必要もないし先生には『休めるときには休んでおいたほうがいい』と言われている。かといって寝るなんて論外だ。というかありえない。

 

どうしようか考えていたが

 

「ん? 和泉先生、何を書いているんですか?」

「ちょっと久々に絵でも描こうかなと。スケッチですけど」

 

鉛筆とスケッチブックを取り出して書きだすのを見て西村先生が声をかけてきたのでそう答える。元々絵を描くことは好きでよくキャラ絵とかを書いていたのだがこのドタバタの間に書くことはほとんどなかった。なら今書こうと思い立ったからだ。

 

「といってもそこまでうまくはないですけどね。下手とは言われないぐらいです」

 

    ○

自習メインといっても休み時間はある。教室を見ていながらも絵を描いていた俺が気になったのか吉井がやってきた。

 

「先生、何を描いているんですか?」

「見るか?」

 

俺が見せたのは坂本と坂本一筋の霧島を描いた絵。霧島が坂本の膝に乗っていた時のもある。

 

「う、うまい……」

「そうか? 俺よりうまい奴なんてごまんといるぞ?」

「……先生」

「……急に背後に現れるな霧島。で、どうかしたか?」

「……この絵ください」

「ただのスケッチだし、こんなのじゃなくても」

「……雄二との思い出だから」

 

まぁ……そこまで言うならいいか?

 

「わかった。暇つぶしで描いたものだがそれでもいいなら」

「……ありがとうございます」

 

心なしか嬉しそうに席に戻る霧島。喜んでくれたなら問題ないか。

 

「霧島さん嬉しそう……」

「まだあるけど見る?」

「あ、はい」

 

見せた絵は西村先生だったり、Aクラスの女子をまとめて何人か描いたものだったり、男子が集まっているのを描いていたりと人物絵中心、背景は最低限のスケッチだらけだ。吉井とかの絵もある。

 

「いや、それでもうまいですよ!」

「俺からするとまぁまぁだけどな」

 

そんなことを言っていると坂本がトイレから戻ってきた。霧島がうれしさからトリップしかけているのをみて俺が描いたスケッチを見て……愕然とした。

 

「和泉先生! なんであんなものを!?」

「何か問題あったか? 単にさっきの状況をスケッチで描いただけだけど」

「あいつあれをアルバムにして家宝にするって……」

「いや確かに家法にするということはぶっ飛んでいるけどそれは別に問題ないだろう? 直接被害があるわけでもないし」

「……先生、時間があればまた書いてほしい」

「……まぁ時間があればな」

 

坂本が勘弁してくれとか言っているけど、もう少し自分の感情に素直になるべきじゃないか? しかしアルバムか……よく考えたら俺がこの世界にいるのは召喚システムの不具合が原因の一つではないかと見ているらしい。今のところ俺もこの世界にずっといようとは思っていない。できれば帰りたい。しかしこの世界で培ったり出会ったりした人達の事を何かの形で残しておくのも大事。そう思った。

 

(時間があれば積極的に描いていくか。今度はスケッチじゃなくてちゃんと色付けをした物を)

 

いつか帰るときに備えて思い出を残す意味で絵を描こうと思った強化合宿三日目の午前中だった。








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第22話

心理テスト

 

第22問 あなたの家の前にゴミが置かれていました。そのゴミ袋の数はいくつありましたか?

 

【姫路瑞希の答え】

 

4個

 

【和泉剣のコメント】

 

この心理テストはあなたの周りにいる敵の数を示しています。どうやら姫路さんには四人の敵がいるようですね。

 

【吉井明久の答え】

 

56個

 

【和泉剣のコメント】

 

……少し多すぎませんか?

 

【清水美春の答え】

 

32億8千万個

 

【和泉剣のコメント】

 

多すぎです。そんなにあったら邪魔になるでしょう。

 

    ○

「そういえば来たときから気になっていたんですけど、この学校ってなんで生徒会や委員会みたいな生徒主導の組織がないんでしょう?」

「それはこの学校のシステムに理由があるそうですよ? 私も最初は知らなかったんですけど……」

 

隣で昼食を食べていた布施先生が箸を止めてそう言った。

 

「システムって……試召戦争の事ですか?」

「ええ。この学校では生徒会は作れないんです。委員会は一応ありますけどね」

「作れないんですか?」

「システムの都合上必ず勝者と敗者が存在することになりますからね。なかなか一枚岩になりにくいんです。だからそういった委員会は清涼祭などの学校行事の際にしか組織されないようになったんです。まぁ学年主席を実質的にトップに据えた方が都合がいいというのはあるのでしょうけど」

 

……確かに生徒会なんてあったら仮に生徒会のメンバーのクラスが試召戦争で負けたとしたら生徒会の権限を使って仕返しをするなんてことが考えられなくはないからな

 

「……もっとも原因はそれだけではないと思うんですけど」

「え?」

「学園長ですよ。試召戦争のシステムの開発者だから学園長になっていますがあの人は生徒の育成をする学園の長には向いていないと思うんです」

「……布施先生、そう言うことをいうのは……」

 

壁に耳あり障子に目ありとも言うし……

 

「いえ、あくまで学園長に向いていないというだけですよ。餅は餅屋という言葉もありますし研究に集中させた方がいいんじゃないかと思っただけです」

「確かにその言葉に理はありますが……」

「それに竹原のような人間もまた出てくるかもしれませんし」

「竹原?」

 

竹原というのは文月学園の元教頭だったが清涼祭の際に学園をつぶそうと暗躍していたらしい。結局はばれたそうだが……

 

「研究者が学園長をするより、もっと生徒の事を考えられる人が学園長をするべきなのではないか……そんな風に思っているんです」

 

生徒の事を第一に……考えていてもうまくいかないこともあるということを知った、そんな昼下がりだった。

 

    ○

さて、時間は流れて夕方の試召戦争。今日は男子側に同行してのスタートとなった。最初の30分ぐらいは互いに小競り合いが続いていたが

 

「…………敵本陣はまだ動いていない。主力3人を確認」

「そうか……なら、防御部隊を除いた全部隊は進撃だ! ただし深入りはするな!」

「「「おおーっ!」」」

 

第1隊を平賀、第2隊を久保、第3隊を坂本が率いている。大将は今日はAクラスの男子を充てている。本人曰く『攻撃は最大の防御』とのこと。

 

生徒が動けば先生も動かなくてはならないのでダッシュでついていく。ちなみに俺がいるのは坂本たちがいる第3隊だ。

 

しかし1階……最短距離で行くなら必ず通らなければならない食堂を通るためにに第3隊階段を上がっている最中

 

「…………食堂に伏兵! 囲まれた」

「なんだと!?」

 

どうやら先発した部隊が待ち伏せにあい囲まれてしまったらしい。

 

「…………しかもあの3人がいる」

「そんなバカな! とにかく救出に向かうぞ!」

 

階段を上がるとすでに戦闘は行われており開けっ放しになった食堂の扉の向こうでは女子の部隊と男子の部隊が戦っているが不意を突かれたせいか明らかに男子側が劣勢なのが見て取れる。

 

「くそっ……一度部隊をまとめて防衛線を引くぞ!」

 

そう言い部隊を食堂に突入させていく坂本。さて、俺も仕事しないと。

 

「和泉先生! お願いします!」

「承認します!」

「「試獣召喚!」」

 

日本史のフィールドを展開し召喚した生徒が戦闘を始めた。といっても俺がすることは何もないので坂本の様子でも見てみるか。

 

「……雄二」

「翔子、お前本陣にいたんじゃ……」

「……あれは似た人にかつらをかぶせただけ」

「なにっ!? なんでそんなものが!」

 

かつらかよ……坂本の言うとおりどこから持ってきたそんなもの。

 

「ボクが持ってきたんだ。もっともこんな目的で持ってきたわけじゃなかったんだけどね。ま、ムッツリーニ君をひっかけられたからいいかな?」

「…………不覚」

 

お前か工藤。かつらを持ってきた本来の目的はなんなんだ。土屋は……まぁ仕方ないな。人はやっぱり特徴のある物に目が行きやすいのだろう。

 

「雄二! なんでそんな缶けりみたいな作戦に引っかかるのさ! 昨日やった僕の作戦の方がよっぽどましだよ!」

「あんなの作戦と呼ぶか! 昨日は最悪負けてもよかったからやっただけだ。それに偶然が重なってうまく行っただけだろうが!」

 

……どうやら昨日の作戦の立案は坂本ではなかったらしい。偶然というのは間違いなく前線と本陣の意思疎通の失敗とかその辺のことを指すんだろう。

 

「……雄二、決着をつける」

「ここにいる以上お前も大将じゃないだろうからな」

「……大将は美穂に任せてきた」

「……佐藤か」

 

佐藤美穂、確か学年4位の成績を持つ生徒だったかな?

 

「「試獣召喚!」」

 

もはや混戦というか乱闘といってもおかしくない状況になってきた。そんな中坂本や平賀などの指揮陣は戦線を下げて階段のあたりを防衛線にするようだ。補充試験を行える教室もあるのでちょうどいい場所でもある。

 

一方の女子側も点数が減った人を補充に行かせ一部の生徒を2階から回り込ませるために割いていた。

 

……とはいってもすでに伏兵の奇襲で打撃を受けた男子側に攻め手はほとんどん子っていないといっても過言ではなかった。坂本も『時間があれば別なんだが……』とかつぶやいていたし

 

その後も必死に防衛線を敷く男子側であったが手がない。試召戦争では基本的に降伏という物はされない事が多いが一応ルール的には可能ではある。しかし、男子側を率いているのは坂本なのでそれはおそらくない。

 

和平というのもあるがこれは代表(今回の場合大将)が倒された後に行われる事なので選択肢に入らない。

 

つまり全員と倒されるか大将が倒されないと終わらない。しかし、倒されれば鬼の補習……まさに八方ふさがりだった。

 

そんな感じで士気が下がっていた男子側を女子側が駆逐するのはそう時間のかからないことだった。

 

「戦争終結! 勝者、女子チーム!」



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第23話

バカテスト

 

第23問 徳川幕府第8代将軍である徳川吉宗の別名を答えなさい

 

【坂本雄二の答え】

 

米将軍

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。徳川吉宗は御三家出身では初めての将軍でもあります。幕府財政に直結する米相場を中心に改革を続行していたことから米将軍と呼ばれました。

 

【吉井明久の答え】

 

暴れん坊将軍

 

【和泉剣のコメント】

 

必ずそう答える人がいると思っていました。

 

【須川亮の答え】

 

異端審問会を行い貴様を処刑する!

 

【和泉剣のコメント】

 

死んだ人に対してまでするつもりですかあなたたちは。

 

     ○

「試召戦争、昨日とはうって変わって女子が勝ちましたね」

「坂本も言っていましたが短期決戦なので流れをつかんだ方が勝ちに直結しますから」

 

もはやおなじみになりつつある夕食時の先生たちとの会話。今日は数学の木内先生と高橋先生だ。

 

「それに無駄な動きをする要因がなくなったというのもあります」

「私は昨日は女子の方のフィールド展開を担当していましたが確かにいまひとつ協調性に欠けるところがありましたね」

 

それに対し今日は霧島を中心にしっかりとした戦いを見せていた。ただ男子の敗因はそこだけではない。

 

「ただ男子の士気って思ったより高くないんですよね……最終日に向けた課題はその辺でしょうか」

 

今日戦争を見ていて思ったのは男子の士気の低さ。上がりが鈍く補習が嫌だから頑張っている……という印象を非常に感じた。

 

「指揮官に課せられた使命みたいなものですね」

 

木内先生がもう食べ終えたのかふきんで手を拭きながらそう言う。

 

「そういえば木内先生って採点が早いってこの前聞いたんですがでどうしてですか?」

 

坂本が先ほどの戦争前にそんなことを言っていたので聞いてみた。

 

「単に手が慣れて早くなっただけですよ」

「そうでしたっけ? でも私の記憶が正しければ奥さんに負けないようにするために早くなったと聞いていますが」

「……そう言えば高橋先生は知っていたんでしたっけ」

「木内先生の奥さんも先生なんですか?」

「……ええ。私は以前他の学校で勤務していたんですが、五年ぐらい前にこの学校に転勤した際に一番採点が早かったのは私ではなく当時高橋先生の教育係をしていた私の妻になった人なんです」

「……それと採点が早くなったのと今一つうまくつながらないんですが」

 

なんというか端折られ過ぎてよくわからない。

 

「転勤してきた当初は私の採点速度はどの先生方より遅かったんです。当時まだ仮採用だった高橋先生よりもです」

「試召戦争では採点の特徴も反映されやすいですからね。そんなこともあって生徒から試召戦争では使えないと見られていたんです」

 

……確かに採点が早ければそれだけ反映されるまでの時間が短くて済む。採点は遅いけど甘い世界史の田中先生のような特徴があれば別なんだろうけど木内先生にはそれはなく、むしろ採点は厳しめの方だ。

 

「それを見た良美さん……木内先生の奥さんが煽ったんです。『生徒の役に立てない教師じゃ意味はない』って」

「あのときは本当にイラッと来ましたね……本当に」

 

当時を懐かしむように言う木内先生。

 

「でもそうしないと生徒のためにもならないと思って彼女の採点の速さを目標にすることにしたんです」

「それでいつの間にかライバルみたいになってしまって……競っているうちに互いに惹かれあってしまったんですよ」

 

なるほどね……争っていたらなんだか互いが互いを必要とするようになってしまった……っていうことなのかな? 木内先生、そこまで言わなくていいとでも言わんばかりに高橋先生を見ていますけど。

 

「今でも妻とたまにやるんですよ。でもいまだに私が負け越してますけど必ず勝ち越して見せます」

 

そうつぶやいた木内先生は心底悔しそうだった。

 

     ○

夕食も済み、風呂の警備をしていたらまたFクラスの男子が攻めてきたのでこれを撃退したり、今日の分の個人成績を整理したりした後、ちょうど見回りの時間だったので各フロアを回っていた時の事。

 

さりげに防音性能が高いこの合宿所ではあるがそれでもうるさい時はうるさいわけで

 

「静かにしろ!」

 

と叫んだのは一回や二回ではなかった。その原因はまくら投げだったり、言い争いだったり、処刑だったりとこれまたFクラスの生徒ばかりだった。

 

そんな中残りの巡回もするため歩いていると

 

「あれ、西村先生。なんでここに?」

「ああ、なんだか吉井達が騒ぎを起こしそうな気がしたから来たんだ」

 

いやまさかそんなことは

 

「てめぇどうしてくれる! 訂正メール送れないじゃねぇか!」

「そう、そうだよその気持ち! それが今僕が雄二に抱いている感情だよ!」

「静かにしろお前ら!」

 

……西村先生は吉井達の行動の予知でもできるんだろうか。あまりにも的確すぎる。

 

     ○

夜の見回りも俺と西村先生の担当があるので時間になった後、気になって吉井達の部屋に行こうとした。廊下は電気が付いているので暗くない二階の見回りが終わって三階へ向かうための階段へ向かっていたそのとき

 

(あの特徴的な髪形は……)

 

オレンジ色の髪にドリルテール、絶賛疑いにかかっている清水美春だった。合宿所には西側と東側の二つの階段があり俺が上ろうとしていたのは東側、清水が向かっていったのは西側の階段だ。

 

また何かやらかすきじゃないと東側の階段を上ると一つの部屋のドアがちょうど閉まるところだった。

 

(あの部屋は確か……姫路と島田がいる部屋か?)

 

ゆっくりと廊下を歩いているとドアが乱雑に開き清水が飛び出てきた。こちらには全く気付かずFクラスの面々が宿泊している西側のフロアへ入っていく。

 

……もうなんとなく次の展開が読めてきた

 

「助けに来ましたわ! お姉様!」

 

大方そんな事だろうと思った。うん、こいつが女子風呂に仕掛けていたとしてもやっぱり違和感感じない。

 

高橋先生に頼んで工藤から場所を聞きだし、施錠する前に探してもらったところ、やはりもう一台のカメラはあったそうだ。

 

「み、美春!? どうしてここに!?」

 

……なんか知らんが島田までいるのか。面倒だけど仕方ない。

 

「で、お前らは何をやっているんだ?」

「て、鉄人……じゃなかった。まだ話が通じる……」

 

……一応話が通じる人だとは思ってもらえているらしい。というか西村先生は話が通じない人扱いか。

 

「そこ三人、消灯時間過ぎてるんだから早く部屋に戻れ」

 

霧島と島田はしぶしぶと言った感じではあるが指示には従ってくれた。さて、問題は……

 

「私はお姉様の純情を傷つけたこの豚野郎を抹殺しないといけないんです」

「戻れと言っているんだが?」

「嫌です!」

 

もちろん清水(コイツ)だ。とはいっても大丈夫だ。

 

「そっか。じゃあ……」

 

そういって後ろを振り返れば……

 

「清水、貴様には補習が必要なようだな」

 

恐らく騒ぎを察知して飛んできた西村先生がいるはずだから。



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第24話

強化合宿日誌

 

第24問 強化合宿を通して学んだことや期間を振り返って感想を書きなさい。

 

【吉井明久の答え】

 

初日から覗き騒ぎがあったりで散々な目にあった。周りからの評価がそういうことになっていることを知ってそれに悩まされた。でも覗きに関しては早々に事情を説明ができたからよかったものの、もしも話していなかったらただでさえ不名誉な称号がまた増えたのかもしれないと思うとぞっとした。

 

【和泉剣のコメント】

 

……確かに不名誉な称号はなかなか取れにくいですね。少しでも変わるきっかけになってくれれば幸いです。

 

【土屋康太の答え】

 

…………良い商品が手に入らなくて残念

 

【和泉剣のコメント】

 

何の商品か知りませんが、強化合宿の感想ではないので書き直しです。

 

【西村宗一の答え】

 

生徒との関係を築くことの大変さを俺も考えさせられた。少なくとも俺に気軽に何かを相談しに来る生徒は少ないように思う。そういったことを今後重視していきたい

 

【和泉剣のコメント】

 

……なんでここに西村先生の感想があるのでしょうか。

 

     ○

「正直……そろそろきついですね。まさかこんなに大変だとは……」

「初めてならそんなものだ。俺も新任の時は結構きつかった」

(いや、それは絶対嘘だと叫びたい)

 

強化合宿四日目の早朝、西村先生と見回りをする俺は、どう考えても学生時代からスポーツをやっていたであろう西村先生が新任でこう言った引率をした際きつかったということにそれはないだろうと突っ込みたかったが疲れもあって(面倒くさいとも言う)声に出すのはやめた。

 

「見回りしていて思いましたけどやっぱり遅くまで起きている生徒が多いですね」

「まぁクラスメイトと外泊なんて機会はめったにないからな。はしゃぎたくなる気持ちは分からなくもない。俺もそうだったしな」

 

西村先生がはしゃぐ姿なんて想像できないんですが……

 

「さてと……そろそろ起床時間か……」

「昨日一昨日もそうでしたけど必ずと言ってもいいぐらい寝坊する生徒はいますからね。……三百人もいれば当然かもしれませんが」

 

これより少なかった俺の高校でさえもそうだったし。……小学校の時は俺も寝坊したしな。

 

「……そういえば今日は学園長も視察に来るんでしたよね? 何時からでしたっけ?」

「確か三時ぐらいからのはずだ。夜には帰るらしい」

「……視察にしてはやけに長い時間いますね。温泉入りたかったんでしょうか?」

「……もしかするとそうなのかもしれないな」

 

      ○

「先ほど学園長から連絡があったが今日の第三戦には特別ルールを入れるそうだ」

「特別ルール?」

 

朝食を取っていると西村先生からそんな話を聞いた。しかしずいぶん急だ。

 

「何でも作るのに昨日から寝ていないらしい」

「……いい年こいて徹夜って。でもそれと急なルール追加に関係が?」

「単に早く試したかっただけだろう」

 

……理由はもうどうでもいいや。

 

「それでどんなルールなんです?」

「これだ」

 

プリンターで出力したのであろう用紙を受け取って追加ルールを確認する。

 

「これって……もしかしなくてもあの……」

「なんでも孫とやった際に気にいって使用許可までもらったそうだ」

 

よくオッケーしたなあの企業。まぁ確かに召喚システムに関係ありそうなところではあるけど。

 

「俺にはこれは説明できない。和泉先生なら分かるだろうと思うんだが……」

「まぁ分かりますけど……これを分かりやすくすればいいってことですよね?」

 

このプリントは文字がびっしりの状態なので非常にわかりにくい。もう少し見やすくする必要があるだろう。

 

「わかりました。いつまでに終わらせればいいですか?」

「そうだな……14時までに頼む。チェックと印刷もしなくてはいけない」

「わかりました」

 

西村先生も食べ終わったようで食器を片づけに向かいながら確認する。こういった雑務は俺の仕事である以上しっかりやらないと。

 

「離して秀吉! このバカの頭をカチ割ってやるんだ!」

「落ち着くのじゃ明久!」

 

どうでもいいが木下もやっぱりFクラスの人間なんだな。けっこう細いのに暴れる吉井を押さえられるとか。……しかし段々とこの光景に違和感を感じなくなりだしているな。気をつけないとな。

 

     ○

資料の作成は午前中で片付いたので午後は自習時間の監督をしているが、今日は妙に男子生徒のテンションが高い。特に男子の比率が多いこのF・Aクラスの自習室ではというと……

 

「……………(ゴゴゴゴゴゴ)」

 

異常に静かだった。普段騒ぎの原因であるFクラスが静か(なにか燃えているようにも見えたが)という状況にあったことがなかったので俺も驚いている。しかもFクラスだけでなくAクラスの生徒も何か気合が入っているようで周りのAクラス女子も驚いているように見える。

 

(何となくだが……吉井達が何かしたような気がする)

 

たぶん事実上の最終日である今日のために何か仕込んだ……と考えるのが自然だろう。もしかしたら昨日の騒ぎも今起きているこの状況と何か関係しているのかもしれないが……まぁいいか。作戦を話すとは思えないし静かなら別に問題ない。強化合宿の目的であるモチベーションの向上になっているなら尚更だ。……ただ、気のせいかもしれないがFクラスの男子から邪な何かのオーラを感じるんだけど……気のせい、じゃないかもしれない。

 

      ○

「本当に徹夜したんですね。クマが……」

「これでもさっきまで寝ていたんだよ……思っていたようまくいったものだから一気に終わらせたからねぇ……」

 

自習時間が終わった後、お疲れ状態の学園長とシステムに協力した某会社の社員が合宿所に到着した。今の状態の学園長が暗がりから突然現れたらそういった類が苦手な人は間違いなくおびえてしまうだろう。

 

ついでに言っておくと某会社の社員はすでにシステムの調整に入っているそうだ。あれが試召戦争化されるとか混沌の予感しかしないが……

 

「前から思っていたんですが学園長と研究者の両立って無理があるんじゃないですかね?」

「そんなことは前からわかっているよ。だから以前は竹原を入れていたんだ……ってこれはアンタは知らないことだったね」

「いえ、他の先生から少し聞いてはいたので特に問題はありません」

 

ちなみに竹原の悪事を暴けたきっかけは吉井達が教頭室を花火で爆破したからだそう……なのだがその前に何があったかは未だによくわからない。

 

「ところでシステムの変更はどうしますか?」

「開発者としてちゃんとやるさ」

「無理して倒れられても困るんで体は大切にしてくださいよ」

「余計な御世話だよ!」

 

……気遣っているのにそりゃねーだろと思うが今までの事を鑑みるに自分はまだ元気だという自信があるからなんだろうな。外から見る限り実際そうだけど。

 

さて、今日の男女対抗試召戦争はこのシステムの試験導入となるわけだが……どう転がるかな?



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第25話

バカテスト

 

第25問 主に階段を使って行われる、じゃんけんによって勝った者が階段を上っていく遊びの事を何というか答えなさい。

 

【工藤愛子の答え】

 

グリコ

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。皆さんも小学生のころにやったことがあるかもしれませんね。地域によっては勝った時の言い方が違うこともあるそうです。(グリコをグリコス、パイナップルをパイナップルーなど)

 

【土屋康太の答え】

 

…………勝ち続ければ勝てるゲーム

 

【和泉剣のコメント】

 

確かにそうですがゲームの名前ではありません。

 

【吉井明久の答え】

 

無限1UP

 

【和泉剣のコメント】

 

1面の最初のステージで頑張ってください。

 

     ○

「というわけで学園長がさっき持ってきたルール変更の詳細だ」

「……変更というより追加」

 

確かに霧島の言うとおり勝利条件も対戦時間も変わっていない。実際のところあるものが戦場に出現するというだけだ。

 

「しかしあのババァがこんなルールを持ってくるとはな。だがこれでは女子から不満が出ないか?」

「大本はは変わらないし大丈夫だろう。交戦しないと出ないようにしているみたいだからそっちに気を取られて理うと倒されてしまうからな」

 

ところで、実際の所学園長が持ってきた追加ルールとは何なのか。それは……

 

『戦闘中にアイテムの出現』

 

……どうみてもス○ブラです。本当にありがとうございました。前回現れた社員さんも当然のごとくこの世界で赤ひげの配管工を主人公にしたゲームを数多く売っている会社の社員で、召喚システムのスポンサーもしているそう。……確かにゲーム関連の会社ならこういった技術に興味を持つのは当然か。元の世界でも3Dのゲームがなんかたくさん作られていたぐらいだしな。……まぁ俺としては3Dうんぬんよりゲームの内容の方に力を入れてほしいなんて思ったりもしたけど。

 

さて、このルールの詳細だが先ほど坂本に言った通りアイテムの出現に関しては交戦しているエリアのみに出現するので貯め込むことはしにくくなっている。また、元が元なので食べ物のアイテムが出現したりするが回復するのは固定値で自身の点数以上は回復しない。木箱などの重いアイテムはそれぞれ持ち上げられる点数が設定されておりそれ以下の場合は二人以上で持ちあげなくてはならない。などなど……実際の元ネタにかなり近付いたものになっている。たださすがに全てのアイテムを入れるのは時間が足りなかったようで食べ物、武器とその他の一部の物しか入れていないらしい。

 

ちなみにそもそも必殺技などないので空中で漂うボールは出現しない。

 

以上のルールで本日は行い集計を行い発表という形になる。もちろん覗き騒ぎの事を忘れたわけではないのでそれも片づけるつもりだ。

 

     ○

「そういえば西村先生はなんであのゲームの事を知っていたんですか?」

 

開戦前に職員の会議が一階で行われていた。それが終わったもののまだ時間に多少余裕があるので、ああいったゲームと縁がなさそうな西村先生が少なくともゲーム名は知っていたのが不思議だったので聞いてみた。

 

「いや、詳しいことは知らなかったが当時ニュースにはなったからな」

「まぁ確かに……」

 

実際販売延期していたし……一週間だったけど。

 

「店頭で見たこともあった。ただ俺はそのハードを持っていなかったからやったことはないが……」

「というか西村先生ってゲームやるんですか?」

「やるぞ? 格闘ゲームとかをやるな……」

「へぇ……」

「最近はメ○ルギアにはまっている」

 

……ああ、あのダンボールで移動する傭兵さんですね。俺はあんまり知らないが何か合ってる気がする。よくわからないけど。

 

「女子も男子も関係ねぇ! 行くぞお前ら!」

「「「おおーっ!」」」

「……すさまじい士気ですね」

「昨日とは大違いだな。大方坂本あたりが鼓舞したんだろう」

 

地下から聞こえてきた坂本の声とそれに賛同するように大声を出す男子の声。一体何をしたらここまで気合が入るんだろう……

 

「ルールの追加に関しては俺も読んだがアイテムとやらはどこから出てくるんだ?」

「この宿泊所全体にアイテムが湧く場所……ポップポイントがあるんです。本来ス○ブラなら上から落ちてくるのが普通なんですがそこまでやると容量とかがまずいそうでそうなったそうです」

 

ついでに言うと先ほどの仕組みが没になった理由は他にもあり、上から落ちてくると召喚獣にダメージになってしまうので気が散る恐れがあったためでもある。

 

「そのポップポイントは何カ所ぐらいあるんだ?」

「正確には知りませんが200以上はあると思います。といっても両軍がいないと作動しないようになっていますが。あくまでアイテムは補助なんで」

「……なるほどな」

 

……あくまで実験。大人の事情が絡んでいるかは別として。

 

「さて、そろそろですね……」

「これが終わってもまだ終わりじゃないけどな」

 

強化合宿四日目、男女対抗試召戦争(追加ルール版)、始まります。

    

     ○

……なんてなんとなくシリアス風に言ってみたけどそんなことはなかった。

 

「明久! 回収だ!」

 

すでにアイテムのリポップの時間を割り出したのか坂本の指示が飛ぶ。

 

「させないわ!」

「まずい! いいアイテムであってくれ……」

 

アイテムが実体化していき吉井の手に現れたのは……

 

「ボール! いっけぇ!」

「今度は何が出てくるの!?」

 

ちなみにだが先ほどまで見えた限りでは少し遠くでペンギンが波乗りをした結果、戦死者が発生したようで。さて、一体何が……

 

「コォ、コォッ」

 

ピチャピチャとその場ではねる(・・・)赤い鯉が現れた。

 

「なんで跳ねるー!?」

「明久……」

「…………これはひどい」

「引きが悪いのぅ……」

 

吉井が繰り出したのはお分かりの通りようつべなどの動画サイトに一匹クリアを目指したものが投稿される事が多いあの鯉だ。繰り出している技は当然のごとくはねる。何千回何万回何億回はねても何も起きることはなく元ネタのゲーム的にはハズレと言って間違いない。

 

「もらった!」

「やばっ!?」

 

召喚獣の攻撃を寸での所で回避する吉井。あれだけの操作能力がある吉井なら多少格上の相手でもなんとか戦えるそうだ。清涼祭のときは自身の二倍の点数を持つBクラスの相手を易々と倒したぐらいだから(ビデオで見た)推測だが点数差が三倍くらいの相手ならほぼ互角に戦えるのではないだろうか

 

「私が行くわ!」

「き、木下さん!?」

 

    Fクラス吉井明久  Aクラス木下優子

数学    98点    VS  347点

 

とかいってたらなんだかフラグを建ててしまったのか果てまた警戒なのかAクラスの木下がやってきた。どうなる吉井?



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第26話

バカテスト

 

第26問 そうなるであろう、またはそうなる条件が成立したようだ、と物語中の伏線を感じたときに使われる言葉を何というか答えなさい。

 

【木下秀吉の答え】

 

フラグ

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。最近ではフラグを逆手に取った物語も数多く見受けられます。

 

【土屋康太の答え】

 

…………フラグメント・グレネードを投げて異端者を抹殺する。

 

【和泉剣のコメント】

 

物騒なことをテストの回答に書かないでください

 

【吉井明久の答え】

 

恋愛フラグがほしいです

 

【和泉剣のコメント】

 

……君の周りにはいろいろとフラグが多すぎるせいで見えていないのでしょうか。

 

     ○

Fクラス吉井明久  Aクラス木下優子

数学    98点    VS  347点

 

前回のあらすじ……俺がフラグを建ててしまったせいか知らないが点数差が四倍近い木下がやってきてしまった。

 

どうなる吉井!

 

「「…………」」

「何してんだ?」

「なんかずいぶん長いこと止まっていた気が……」

「確かにそうね……具体的には一カ月ぐらい」

「メタるんじゃねぇよお前ら……」

 

一応作者も気にしているらしいんだから。あ、これが一番メタか……

 

「そんなことはいいとして、いくわよ!」

「くっ……なにか、なにか使えるものは……」

 

木下の召喚獣をかわしながら使えるものを探す吉井

 

「明久ぁ! これを使え!」

「さすが雄二! こういうときは頼りになるね!」

 

坂本が投げてきたのは白いチャージ砲。チャージ砲以外にも細かい砲弾を出すことができる地味にうざったい奴だ。

 

「よーし! 喰らえ!」

 

スカッ……

 

「へっ?」

 

スカッスカッ……

 

「…………」

 

どう見ても空砲だった。

 

「使えないじゃないか雄二! ってうわっ!」

「そんな時間稼ぎがいつまで通じるかしら!」

「落ち着け明久、このゲームじゃよく言うじゃないか『道具は投げるもの』と」

「聞いたこともないよそんなこと! あ、でも雄二よく道具投げているような……」

 

そんなことはいいから戦闘しろよ……

 

「お前ら、出番だ!」

「「「おうっ!」」」

 

と思っていたらFクラスの面々が様々なものを女子側に向けて放り投げていた。すっぽ抜けたハンマーやらさっき吉井が使った空のモンスターボールやコ○キングそのもの……

 

それに負けじと女子側も投げ返してくる。なんだか雪合戦みたいになってきたけど……

 

「明久行け!」

「了解!」

 

物をぶん投げて意識をそらすつもりか。回避しながら攻撃なんて高等技術ができるのは吉井ぐらいだろうしある意味吉井用の状況になったと言える。

 

「このっ! くっ……こうなったら!」

 

細かく攻撃を決める吉井に対し木下は最初は誤爆やらちょこまかとした吉井の攻撃に戸惑っていたようだがほとんどのものは当たってもダメージが少なくノックバックすらしないものが多いことに気付いたのか吉井めがけて突進してきた。しかしその瞬間……地面に埋まった。

 

「!? なによこれ!」

 

!マークの種の効果だった。

 

「ムッツリーニ!」

「…………覚悟!」

 

天井に忍者のように張り付いていた土屋が爆弾(Bと書かれたもの)を投下した。

 

Aクラス 木下優子 

数学  0点

 

「……あたしの負けね」

「木下さんがやられた!?」

「一時撤退!」

「向こうが引いたか。よし、じゃあこっちも態勢を立て直すぞ!

 

女子側が引いていくのを見て坂本もいいタイミングだと思ったのだろう。追撃をせず状況の整理をすることにしたようだ。

 

       ○

「やっぱり被害が大きいな……」

「まぁ一勝一敗で迎えた最終日だから向こうも必死になると思うよ」

 

開始間もなく一時間というところを迎えた。ここまでの被害は男子側だけで五十人近くすでに三分の一ほどが消耗した計算となる。女子側の確認はしてないが(むしろ知られたら問題が大きいから)恐らく同数程度の損害が出ているのではないだろうか。

 

「和泉先生」

「あ、西村先生」

「学園長が呼んでいるらしい」

「え? 学園長が?」

「なんでも今後の予定を聞くのを忘れたとかで」

 

ああ……そういえばまだ言ってなかったな報告はしてあったけどそれ以降あの件については報告してない。

 

「分かりました。報告だけすればいいんですよね?」

「たぶんそうだろう」

 

早い所終わらせて観戦に戻るとするか

 

      ○

「犯人の目星は付いているんだね?」

「ええ、Dクラスの清水でほぼ確定でしょう。すでにカメラも発見しています。中身がどうかは知りませんけどね」

「知ってたらそれこそ問題だよ」

 

確かにそうだ。それこそ問題になりかねない。

 

「さてと、ここからが本題だ」

「……変なタイミングで呼び出したと思ったら」

「そういうんじゃないよ。この前召喚システムの不具合が原因かもしれないという話をしたのは覚えているかい?」

「……すいませんちょっと第十話見返してきます」

「メタな発言するんじゃないよ!」

 

なんか作者もその設定忘れかけていたらしいから仕方ないんじゃないかな!

 

「まぁいいさ。とにかくその暴走の際のエネルギーの動きを調べていたんだけどね。その際に召喚獣が戦死した後暫定的にデータが送られる所にエラーが起きていたことが分かったのさ」

「はぁ……それが俺の現象とどう関係が?」

「……知っていると思うけど召喚システムは場所を食わないために地下に設置してある。あんたを見つけた場所がその装置のちょうど真上だったんだよ」

 

……はい?

 

「あんたの話だとボールか何かに当たってこっちに来たそうじゃないか。あくまで推論だが何らかの力が働いてあんたを召喚獣と誤認識してこっちに送ってきてしまったんじゃないかと思ってね」

「なんですかその何らかの力って」

「あたしに分かるわけないだろう。そもそもこの召喚システムだってほとんど偶然の産物みたいなもんだからね」

 

そういえばそんなこと言ってたな……

 

「……とにかくだ。一応原因は特定したけどこれからあんたを返す方法を考えるよ。その方向でいいね?」

「ええ。よろしくお願いします学園長」

 



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第27話

バカテスト

 

第27問 物語などで大勢の人間が心待ちにしている内容、定番ネタといったお決まりの内容などの事を何というか答えなさい。

 

【土屋康太の答え】

 

お約束

 

【和泉剣のコメント】

 

あなたが鼻血を出すのもお約束ですね

 

【坂本雄二の答え】

 

明久が口を滑らせて島田にお仕置きされるのはお約束だ

 

【和泉剣のコメント】

 

例文を作れとは言っていません。

 

【清水美春の答え】

 

読者はは必ず私とお姉様のベットシーンを

 

【和泉剣のコメント】

 

望んでいないのでさっさと帰って謹慎していてください

 

     ○

「すさまじいことになっているね……」

「あんなシステム入れればそうなると思いますけどね」

 

なんか衝撃的な事実を聞いた後特にやることもないので特設のテレビ(監視カメラ?)で戦況の観察をしていた。男子側が地下への階段を切り開こうとしている。

 

「ところでアンタ、戻らなくていいのかい?」

「戦場に何もしない教師がいたら邪魔なだけでしょう……こんな状態である以上もう呼びに来ることもないでしょうし」

 

試召戦争は教師の承認が必要だがもちろん全員が同時にフィールドを展開するなんてことはまずない。必ず暇になる教師が出てくるものでたまたま今回それにあたっただけの話だ。さて、戦況はどうなっているのか……

 

「今どっちが有利なんだい?」

「……開発者である以上そういうデータ確認のとかないんですか?」

「あるにはあるけど今回の責任者はアンタだ。年寄りに仕事を増やすんじゃないよ」

 

……まぁこの後もう一仕事してもらうことになるだろうから今はいいか。さてと……

 

「男子側の生存者が七十五人、女子側の生存者が六十九人といったところですね。ですが総点数的にみると平均の問題なのかほぼ互角といったところでしょうか……」

「ここからお前さんはどうなると思う?」

「そうですね……男子側は姫路、工藤、佐藤といった高得点もちをなんとかしないといけないでしょうが……あ、佐藤は今倒されたみたいですけど代表の霧島は学年主席ですし……男子側の戦力がいまいち心もとないというのもありますけど。霧島の得点を純粋に越えられるのは土屋ただ一人ですからね……」

「あのガキンチョ保健体育だけはできるからね……」

 

画面を見ると工藤と土屋が対峙している様子が映し出されていた。

 

「……やっぱり足止めで工藤が出てきたか」

 

予測はしていたが思った通りになったな。倒せなくても点数さえ削れれば土屋は怖くはない。

 

「それと恐らくですけどこの戦い男子の敗北条件は坂本が倒される以外にもう一つ」

「もう一つ?」

 

いくつもの画面に映る生徒の内その生徒をとらえた画面を指差す。

 

「吉井の戦死。恐らくこの事態が起きたら男子にもうなすすべはないでしょう」

「吉井が? なんでだい?」

「知っていると思いますが吉井の操作能力は教師並です。それが故Fクラスの坂本がジョーカーとして切れる最高の戦力なんです」

 

画面を見ると坂本、吉井、木下らが廊下を突っ切ろうとしてそれを女子がさせまいと邪魔をしようとしているが男子側も応戦……といった状態だ。

 

「学年次席の久保もいるじゃないかい」

「確かにそうですが単純に点数が高い久保と点数こそ低くても操作能力のある吉井。この二人の戦略上価値はほぼ同列……下手すれば吉井の方が上かもしれませんね」

「そういうもんなのかい?」

「……あの、自分で作ったシステムですよね?」

「あたしは技術屋だからそういうことには疎いんだよ……」

 

……本当に大丈夫なのかこのシステム

 

「とにかく、そんな切り札が喪失することになればただでさえ若干不利な状況にある男子側の勝目は薄くなってしまうだろうと思います。ただどうやら坂本はもう勝負をつけるつもりですね」

「……まぁもう後二十分もないからね」

 

      ○

学園長に状況を説明している間もどんどん戦場の様子は変わっていった。坂本は霧島を倒すためか吉井と木下を引き連れて本陣へ。そこまでの道を他の面々で止めて自分たちで大将の撃破をすることを狙っているのだろう。

 

『ここから先はいかせません!』

『おとなしくお縄につきなさい!』

 

なんかまだ引きずっているのか暴走モードのままで対峙してしまっているらしい。

 

……召喚獣って全長三十センチぐらいのはずなのにあの召喚獣はどう見ても人と同じぐらいのサイズがあるんですが

 

「どういうことなんです学園長?」

「恐らくだけど召喚者の感情を読み取ったんだろう。そのせいか威力も上がっているね」

「……なんですかその特殊モード的な機能は」

 

そんな機能ゲームで言えば裏技みたいな感じだと思うんですけど

 

『秀吉!』

『了解じゃ!』

 

あ、木下が煙玉投げた。ゲームではそんなに支障がなくても現実で目の前が煙に包まれては面倒なことこの上ないだろう。事実2人は動け……ん?

 

「…………姫路が戦死した? なんでだ?」

 

姫路自身の点数は400点とはいかないが389点。削られ方から見るに男子に無抵抗で削られたとしか思えない状態になっている。

 

(なんかあったのか? あの煙の中で……)

 

戦死した姫路の表情が少し見えたが怒っているんだかうれしいんだか……なんか複雑な表情をしていた。一体何があったんだ……

 

ちなみに島田は普通に倒されていたけどね。清水が『豚どもにお姉様は触らせません!』とか言って自滅していった。人付き合いを選ぶのはよくないけどこれに限っては選んでも問題ないと思う。

        ○

「最後の1秒で決着ですか……なんかアニメみたいですね」

「まぁアタシとしてはデータ取りができれば何でもいいけどね」

 

そんな身も蓋もない事言わなくても……

 

対戦の結果終了1秒前に坂本と霧島が交錯して霧島の点がゼロになったといういかにもアニメチックな決着で終わりを迎えた。

 

……戦死した生徒の分から集計を始めていたから本当に最後のところしか見てないので途中経過がどうなったかはわからないけど召喚獣がボロボロなところを見るに相当な激戦だったことがうかがえる。

 

「さて早い所終わらせないと。最後の仕上げがありますし」

「……アンタ、何か謀略家みたいだね」

 

        ○

生徒たちが夕食を食べている間に俺は試召戦争の結果をまとめていた。自分で作ったルールではあるがここまで複雑にしすぎなくてもよかったのかもしれない。集計している俺が四苦八苦していたし。

 

そして現在。入浴時間が終わって間もなく結果発表を迎えるちょうどそのころの女子風呂。

 

「私は何もしてませんわ!」

「あいにくだがさっきの妄想に満ちた言葉はすでに録音済みだ。なぜそこにカメラがあると知っていた?」

「そ、それは……」

 

入浴が終わった後、のこのことカメラを回収に来た清水をとっ捕まえていた。ちなみに録音機は土屋提供。

 

「和泉先生、遠藤先生から清水の所持品に盗聴器とカメラがあったのを確認したそうだ」

「ここにあったカメラと部屋にあるものを調べればわかることだが?」

 

といった警察の捜査みたいなやり方でこの事件は終幕を迎えることとなった。

 

ちなみにだがそのころ発表会場では……

 

「いやー風呂上りに飲み物を配るなんてババァ長も気が利くところもあるんだね」

「まったくだな。頑固な石頭だと思っていたんだが」

「余計なお世話さね!」

 

……風呂上りって喉かわくよね。ということで飲み物を一本、発表会場で無料で配ることにしたんだけど基本早い者勝ち。となると21時発表でも早めに来る生徒がたくさんいる。(ほとんど経験則なんだけど)当然もうすぐ発表だし集計が複雑なせいで順位の予測が難しいから『俺は入っていないだろうから』とか言って帰られる可能性も減らせる。

 

となるとそんな状況で会場にいない生徒というのは異質な存在になる。そんな生徒は調子が悪いか、本当に興味がないかぐらいのものだろう。そしてどちらにも当てはまらないとすれば……それが犯人だということだ。

 

「お、お姉様の姿を保存しておきたかったんです……」

 

やっと認めたか……まったく面倒なことだ。

 

「じゃあ西村先生、後はお願いします」

「わかった」

 

これでようやく一件落着ってところかな?

 

ちなみに賞品に関しては一位が久保、二位木下姉、五位土屋、七位姫路、意外にも十位に吉井が入った

 

ああそういえば処分についての話が抜けていたけど暴力に関しては停学一週間、清水に関してはそれに加えて観察処分者の指定が行われた。甘いような気もしなくもないが平以下の教師にそんなことを決める権限は存在しないので仕方ない。



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幕間 束の間の日常?
第28話


バカテスト

 

第28問 大きな事件や異変が起こる前の一時的に訪れる不気味な静けさのことを何というか答えなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

嵐の前の静けさ

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。先生とかがいつもと違う態度だと何かあったのかと驚いてしまいますね。

 

【木下秀吉の答え】

 

男子に告白される直前の空気

 

【和泉剣のコメント】

 

……まぁ頑張ってください

 

【吉井明久の答え】

 

処刑直前

 

【和泉剣のコメント】

 

……なんであそこまで本気で殺しにかかるのやら

 

        ○

さて陰謀渦巻く強化合宿が終了し再び学園生活に戻るわけだがこの週に以前から準備していた事を始めることになった。

 

何をするかというと平たく言えば相談室。俺がこの学校に雇われた理由である生徒の相談に乗るために以前から準備をしていた。生活指導室に衝立を置き一応ボイスチェンジャーも導入してプライバシーを保護するようにしてようやく開室にこぎつけた。……まぁ来るかどうかは知らないけど。一応月・木の放課後に開いてその他の時間は要相談といった形を取らせてもらった。俺も仕事あるんだから。

 

ところで臨時職員として働き出してしばらくたっているが教師になるためにするべきこととして教育実習があり俺がここに来るまでそれをしていたことは以前話した通りだがまだ実習授業をしていない。そのため二週間後ぐらいに行うことになっていたのでそれの準備もあり割と忙しい。

 

……先生ってやっぱり忙しい。

 

      ○

「その割に全く来ないこの現状は何なんだろう」

 

この日の放課後、相談室を開室したのだが今のところ誰も来る気配がない。三年にも伝えているはずだから誰かしら来てもいいような気もしないでもないんだけど……

 

「こんなシーンどっかで見たことがあるような気がするんだけど……どこだっけ?」

 

なんだか状況にデジャブを感じたのだがよく思い出せない。

 

コンコン

 

「どうぞー」

 

そんなことを思っていたらやっと相談者がやってきた。ちなみにだが衝立はガラスが曇りっぽい感じになっているので俺から見ると制服と髪形で性別を判断できる程度だ。どうやら最初は男子生徒らしい。

 

『あの……匿名でいいんですよね?』(ボイスチェンジャーを通した声)

「出したければ構わないけど匿名で大丈夫だ」

 

……相談に来る生徒は大概何かを抱えているから来るものだ。なのでこんな反応は当然だと思う。

 

「それで何についての相談?」

『この前の強化合宿の時にちょっとひ……女の子と気まずくなってしまって』

 

強化合宿ってことはこの生徒は二年生か。

 

「具体的にはどういうことだ?」

『男女対抗試召戦争のときなんですけど……その女の子に運悪くぶつかってしまって。絶対嫌われたと思うんです……』

 

まぁ乱戦になっていたからそんなことがあってもおかしくないだろう。にしてもずいぶん被害妄想が激しいな……

 

「ぶつかったぐらいなら謝れば許してくれると思うが……」

『その子のむ、胸にぶつかってしまって……』

 

……ラッキースケベとはこういうことを言うのかどうなのか。

 

『しかもその子は今謹慎中みたいで……ババァ長に文句を言ったんですけど聞いてもらえなくて』

 

……そういえば今日午後に学園長にあった時、処分に不満があった奴が学園長室に乗り込んできたっていっていたような。確か……

 

『そういうわけで姫路さ……女の子と仲直りするにはどうしたらいいでしょうか?』

 

……というか吉井だなこれ。となるとぶつかった女子っていうのはたぶん……というか間違いなく姫路だろう。強化合宿最終日に一時的に姫路の調子がおかしかったのは吉井との交錯が原因だったということか。

 

「……さっきも言ったけどちゃんと謝れば許してくれるんじゃないか?」

『で、でも女の子にあんなことしちゃったし……』

 

思い出したけど吉井も無駄に意地を張るところがあったな。特に女子関係の事になると。

 

「ところで少し話を変えるがこの相談室のある意味ってなんだと思う?」

『相談室のある意味? えーと……悩みを相談する場所?』

「まぁそうなんだけど……相談室のある意味っていうのは最後のひと押しをするっていうことが重要になる」

『一押し?』

「実を言うとさ、確かに相談室に来る人のほとんどは悩みを抱えている。それを何とかしたいからここに来るわけだ。でもそういう人のほとんどが実はもう答えを見つけているような人が多い。要するに答えが見つかっても不安だから相談に来る。それを読み取って一歩を踏み出すサポートをする。それが相談室とかのある意味だと思っている」

 

……まぁ今の話ほとんど受け売りなんだけど。

 

「たぶん君にも何をすればいいかの答えは出ていると思う。だけど決心がつかない、嫌われるかもしれない。そんな不安があるからここに来たわけだ」

『…………』

「自分の考えたように進んでみればいい。自分で納得ができれば後悔もないはずだ」

『分かりました。やってみます』

 

そういって男子生徒(たぶん吉井)は相談室を退室していった。

 

「青春やってるねぇ……俺はそうでもなかったけど」

 

自分の高校時代と比べて俺はそんな物思いにふけっていた

 

       ○

吉井(おそらく)が来たあとそれを皮切りにして何人かが相談室にやってきていた。が、しかし……

 

『女子にモテるにはどうしたらいいんですか!』

「とりあえず自分本位で動かず相手の気持ちを考えられるようになった方がいい」

 

『木下秀吉に告白したんいんです! いい方法を教えて下さい』

「一生かかっても無理だと思うからあきらめた方がいい」

 

『とにかくモテたいんです!』

「そんな考えじゃモテるモテない以前の問題だと思う」

 

……こんな感じでFクラスの生徒(きっと)が三人ほどやってきたが正直真剣に答えるほどの事でもなくそれ以前の問題といった印象が強かった。

 

……だってねぇお互いにお互いが牽制しあううえに常識を伴っていない状況でモテたいとか女子と付き合いたいとか言われてもどうしようもない。出直してこいと言って帰したが。優しくすることだけが教師ではないということだ。

 

コンコン

 

「どうぞー」

 

どうやら五人目の相談者が来たらしい。時間的にもこの一人で今日は終わりだろう。

 

『よろしくお願いします』

「よろしく。どう言った相談で?」

 

五人目も男子生徒のようだ。さっきまでの三人と比べると随分落ち着いているな……少なくともFクラスの男子ではないだろう。

 

『実は……好きな人がいるんですが気持ちを伝えるべきか迷っていて……』

 

あーこういうパターンか。パターン付けしてはいけないということは分かっているけど(千差万別だから)それでもある程度の傾向みたいなものは見えてくるものだ。

 

「どうしてその人を好きになったんだ?」

『それは……可憐で何事に対しても真剣に取り組んでいるということが特に……』

「なるほどね……」

『そしてなにより……一目ぼれしてしまったんです。吉井君に』

「なるほどねー吉井……はい!?」

 

たぶん職員室ぐらいまで聞こえるぐらい大声で叫んでしまったが俺は悪くない。そう信じたい。



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第29話

バカテスト

 

第29問 思いがけない出来事に驚きあきれて声も出ない様子の事を何というか答えなさい

 

【木下優子の答え】

 

唖然

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。ちなみに呆然は気を失うぐらいの衝撃という意味です。使い間違えないようにしましょう。

 

【工藤愛子の答え】

 

鼻血を出すムッツリーニくん

 

【和泉剣のコメント】

 

あきれたり笑ったりする前に人命救助はしてください

 

【吉井明久の答え】

 

ムッツリーニと同列なんて納得いきません!

 

【和泉剣のコメント】

 

君の古典の点数には私も唖然としました。

 

       ○

俺はここに来る前大学で歴史を学んでいたということは以前も少し話をしたと思う。専攻はみんな大好き戦国時代を中心にやっていた。

 

当然戦国大名について調べることもあったのだが文献などを調べるとかなり昔から(古代から)男性同士の同性愛は存在しているうえそれを縛るような法律はなかった。(明治期には一時期だが違法だったことがあるようだが)

 

これらは男色と呼ばれ明治初期ぐらいまでは公然と行っていたという。俺が専攻していたのは戦国時代だったので戦国時代の話で進めるが森蘭丸や前田利家といった小姓と呼ばれた人たちはそういったこともしていたらしい。実際日本にやってきた宣教師たちはこのような行為が行われていることにかなり不快感を示していたという記述もあるぐらいだ。

 

……何が言いたいかというと昔は久保が望んでいることが当たり前に行われていたが今は必ずしもそれを肯定する社会状況ではないということだ。少し前にドイツの大臣が同性愛者であることを告白したりしたのがニュースになる、そんな世界だ。

 

では、こんな世界で同性愛を告白した男子に教師はどんな言葉をかけるべきだろうか?

 

…………

 

「分かるかぁ!!」

『先生!? どうかしましたか?』

「あ、あぁ……悪い。ちょっと叫びたくなってな」

 

分かるわけねぇだろ! 俺もそういう世界で生きてきた人間だし何をどうしたらいいのか分かるわけがない。恐らく吉井は普通の人間だからこの男子(誰だかわからないが)の恋が実ることはないと思われる。

 

……高確率で失敗するであろうこの状況、一体どうしたらいいのか……無理だと言い切った方がいいのかあるいは……

 

相談するにしても先生たちもこんな案件を持ち込まれても困るんじゃ……(似た理由で犯罪行為をして謹慎している奴はいるけどあんま関係ないし……)

 

とりあえず今のそういったことに対する現状とこの子自身の考えを聞き出すことにしよう。何分情報が少なすぎる。

 

「……はっきり言うと今の社会でそういうことに対する視線はいいものじゃないしそういう事で不快に思われる事もあるかもしれない。それについて君がどう思っているのか聞きたい」

『確かにそう思われる事もあるかもしれないですがそんなことは些細なことでしかないと思います。時と場所を選べば問題ないと思います』

「……近隣住民とかが文句を言いにきたら? あり得ない話じゃないと思うし」

『そうなったら同姓婚が認められる場所に引っ越します!』

 

……なんでこの学校ここまで頑固な奴が多いんだろうか。よく言えば意志が固いというんだろうけど。

 

ピーンポーン

 

「下校時間のチャイムか……悪いけど今日はここまでいうことでいいかな?」

『分かりました。できれば明日もお願いしたいんですけど……』

「…………わかった。予定に入れておく」

 

       ○

時間切れで今日はなんとか帰ってもらえたけど明日も来ることになってしまった……マジでどうしよう……。

 

確かに今まで元の世界じゃいろんな相談を受けてきた。しかしこれはまったく経験のない事だしどうしたら……

 

もう悩んでいてもしょうがない! この際迷惑とか考えない!

 

「というわけなんですがどうしたらいいでしょうか?」

「…………俺に言われてもな。木下の事がとか言った奴と同じことを言うことはできなかったのか?」

「かわいければ何でもいい連中と同じにするのはどうかと思いまして」

「とはいっても俺も長いこと教師をやっているがそういうのは経験がない」

 

ですよねー……まぁそんな生徒に遭遇することはそうないだろうし……

 

「事情を知っているからこそそういう悩みが出てくるんだと思うが違うか?」

「……確かにこんなに事情を詳しく知っている状況で相談を受けたことはあまりなかったと思います」

「だからといって気を張るな。いつも通りやればいい。それが誰だか俺にはわからん。生徒を支えるのは教師だが経験させることで教えるというのも教師の教え方だと俺は思っている」

 

生徒に陰口叩かれるのも仕事の内……確かに生徒だったころは嫌いだった先生でもいざ卒業して離れてみてみると役に立っていたこともあった。たとえばいいノートの作り方とか。当時は面倒で仕方なかったのに何時の間にか癖になっていたりした。

 

それに俺が受けてきた相談の中にもそういうものもあった。状況こそ違うが全てがハッピーエンドに行ける世の中甘くはない。ただそれでも俺はそんな状況でもなんとかそっちに無理にでも持っていこうとしていた事もあった。どこかそういう事を認めたくない気持ちがあったんだろう。後変なプライドも。

 

「わかりました。一応最善は尽くします」

「まだ半人前なんだ。何かを恐れず中途半端で動くな。やって後悔だ」

「……すいません」

 

やっぱりまだまだ学生の延長線。教師としても大人としてもまだまだだ。

 

       ○

翌日の放課後、昨日の相談者は時間通りやってきた。

 

「んじゃ再開するけど……先に言っておくことがある」

『? なんでしょうか?』

「今から言うことは君にとっては相当きついことだと思う。でもあいにく俺もそれ以外の解決法を思いつかなかった。聞きたくないと思ったのならこの部屋から出ていってもいい。それで誰に文句を言われるわけでもないしね」

 

そういったところ向こうでは考え込んでいるのかしばらく沈黙が続いた。

 

『いえ、大丈夫です』

「……本当に大丈夫?」

『はい』

「…………じゃ続けるよ」

 

注意はした。この先どうなるかはわからないが精神力が持つことを信じたい。

 

「単刀直入に言うけど君のその感情が今の状況下で実る確率は一パーセントもないと断言してもいい」

『!?』

 

ガタッという椅子を倒してしまった音と同時に立ちあがったようだ。睨んでいるのか絶望なのか表情をうかがい知ることはできないが動揺しているのだけは分かった。

 

真面目そうな生徒である以上余計な隠し立てをするよりもはっきり断言してしまった方がいいと思っての事だけど……どうなるか……



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第30話






バカテスト

 

第30問 邪念がなく、澄み切って落ち着いた心のことを四字熟語で何と言うか答えなさい

 

【霧島翔子の答え】

 

明鏡止水

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。この学校の生徒にはぜひ身につけてほしいものです。

 

【吉井明久の答え】

 

クリア・マインド

 

【和泉剣のコメント】

 

それは英語に訳した意味です。しかも中点が付いているということは間違いなくアニメの影響ですね。きちんと正しい答えを書いてください

 

【とある世界のメ蟹ックの答え】

 

オーバートップ・クリア・マインドォォォォ!!

 

【和泉剣のコメント】

 

オゾンより上なら問題大アリです。というかなんでこの人の答えがあるんでしょう?

 

      ○

『一パーセント以下……』

「一パーセントといったのはそこは人だからどう転ぶかわからないという部分を反映させたものだ。まぁ要約すると吉井に告白するのかは知らないけどうまくいく確率は相当低いってこと」

 

マイクに声がしっかり当たっていないからか加工音声だけでなく地の声も聞こえてくる。

 

ついでに言うと確率一パーセント以下というのにも根拠があり以前吉井と話していた際『雄二と付き合っていると勘違いされたことがある』と言っていた時に心底嫌そうな顔をしていた点も含めての事だ。

 

「それでだ。はっきりいって迷……」

『……そうか、吉井君にまだ僕の良さが伝わっていないということなのか』

 

ん? なんか変な方向にいっているような……

 

『ありがとうございました先生! これから頑張ります!』

「え……ええ?」

『失礼しました!』

 

なぜか納得したらしく元気に挨拶をした後部屋から出て行った。

 

「……これ……失敗した感じ?」

 

       ○

勝手に納得して勝手に帰っていってしまった相談者。結局誰だったかはわからなかった。……最後の言葉から考えるに吉井の様子を観察すれば何か分かるかもしれないが。

 

「何かわかりませんが失敗しました」

「……すまん、よくわからないんだが」

「勝手に納得してしまったので……すいません」

「……いや、和泉先生のせいではないだろう。俺でもそんな相談を受けたらどうしたらいいか悩むだろうしな」

 

……吉井の貞操が大丈夫か不安だが様子を見守っていくしかないな。

 

プルルルル……

 

「はい、文月学園です。はい……はい……それに関しては事実である以上そういった措置を取るのが学校としては……」

「……また……ですか」

「ああ……まただ」

 

なにが「また」なのかというと……強化合宿の際に処分を下した生徒の保護者のクレームだ。

 

「……確かに突然謹慎処分を下されて一回かかってくるのは分かるんですけどね……月曜日は電話対応に追われて大変でしたし」

「だが小山や中林の両親はもう毎日かけてきているからな。時間からしてあの電話もどちらかからだろう」

 

これが俗に言うモンスターペアレントという奴なんだろう。Cクラスの担任である布施先生やEクラスの担任の先生は胃が痛くてしょうがないそうだ。

 

「あの親ありてあの子ありって感じですね」

「それは絶対本人たちの前で言うなよ」

「分かってます」

 

他にも清水の両親からもかかってきて俺が応対したのだが……親父がヤバい。なんだあれは。ブッ殺すとかいってたし……。

 

さらに姫路の母親からもかかってきた。ただこちらは話の通じる人だったのだが……いかんせん声が若い。最初母親って聞いた時は目が飛び出るかと思った。事情を説明したところ「きっちりお仕置きしておきますので♪」とのこと。しかしこの言葉を聞いた時この人が母親だということは間違いないということが良くわかった。そこだけ電話越しなのに威圧感が半端なかったから。

 

……これで少しは懲りるといいんだけど。世の中ってそんなにうまくいくものじゃないからな……

 

「布施先生たち体調崩さないといいんですけど……」

「ストレスでということか……」

「……小学校の時一学年下であまりに荒れたクラスを担当した先生がストレスで倒れたんです。確か教頭が代わりにやってましたけど」

 

結局あの人その年俺たちが卒業するまでに戻ってこなかった。高校と関係はないとはいっても生徒に追い込まれるのこともあるってことだ。

 

「まぁ俺たちがどうこういってもしょうがないことだ」

「そうですね……仕事します」

 

そういったところでこの会話は打ち切りになり俺もまた仕事に戻っていく。

 

        ○

『次のニュースです。試験召喚システムを使用した教育を行っている文月学園で先日暴力沙汰があり女子生徒二十七名を一週間の謹慎処分に処していたことが分かりました』

「まったくどこから情報仕入れてきているんやら……」

 

その後他のニュースやネットなどのニュースもみたが、ゲーム感覚の教育はどうなのかとか覗きをしたという男子生徒も処罰するべきとかそもそも責任者は首切れとか外野なのをいいことに好き放題教育評論家とか名乗っている連中がいたりした。……マスコミって無責任だよねまったく。

 

ちなみに某掲示板の反応も気になってみてみたのだが……

 

(一部抜粋)

 

『女の子に踏まれるとかうらやましい』

『踏まれるわけじゃないだろう……』

『文月の女子ってレベル高いの?』

『高いのもちらほら。普通の高校よりはまず上』

『リアル男の娘がいる』

『kwsk』

『俺文月の学園祭行ったときにすごいかわいい女子見たわ』

『画像よこせ』

 

といった具合に段々と本題からずれていき最終的には女子談義と男の娘の話題だけになっていた。

 

        ○

その後も報道はされたものの早急に対処したことが功を奏し一応は沈静化の方向に進んでいた。日数がたつにつれ正確な状況(男子の事とか)が入ってきたことやまた新しいニュースが入ってきて風化しつつあったことも要因だろう

 

そして……謹慎明けとなった月曜日の文月学園校門前。

 

「あ、先生おはようございます」

「おはよう」

 

だんだんと顔を覚えられてきたようで時折話しかけられたりあいさつをされる事も多くなってきた

 

「あ、和泉先生。おはようございます!」

「お、おはようございます……」

「吉井に姫路か。おはよう」

 

姫路の反応が少々おかしいが恐らく強化合宿の際にやったことに多少なりとも引け目を感じているんだろう。俺が怒ると怖いの知っているし。

 

「……姫路、何かおびえているみたいだけど家でこっぴどく怒られたんだろ?」

「は、はい……10時間ほど」

 

……俺でもそこまで怒られたことないぞ。すごいな。

 

「別に反省している人にこれ以上長怒ることはないし余計な心配をするな」

「そ、そうですよね!」

 

反省することは大事だが反省のしすぎもよくない。どこかできちんと前に向かうようにしないといけない。

 

「あ、美波! おはよう!」

 

島田も登校してきたようだが……こっちは反省しているんだが

 

「ア、アキ目をつぶりなさい!」

「え!?」

「いいから!」

 

こいつは何をするつもり

 

「み、美波ちゃん……」

 

島田は……吉井にキスをした。そしてダッシュで立ち去った。朝の校門というとんでもないタイミング。そして……

 

「「「吉井殺す!」」」

 

こういった人物が多々いるこの学校の中で。

 

……かくして謹慎明け一日目は開始早々島田がまた余計な爆弾を散布するという教師として収集をつけることが面倒なことこの上ない事件から始まるのだった。



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第31話

バカテスト

 

第31問 軽はずみに何も考えずに行動することという意味の四字熟語をを何というか答えなさい。

 

【木下優子の答え】

 

軽挙妄動

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。

 

【土屋康太の答え】

 

妄想爆進

 

【和泉剣のコメント】

 

それはあなたが何も考えず本能に従って動いているということです。

 

【清水美春の答え】

 

お姉様とキスなど言語道断です! 美春が成敗しますわ!

 

【和泉剣のコメント】

 

あなたの事です。観察処分者になった以上身をわきまえてください。というかそもそも四字熟語じゃないんですが。

 

       ○

前回のあらすじ

 

なんだかんだあって島田が爆弾を撒いて行きました!

 

「なんて現実逃避をしている場合じゃないんだよねこれが」

 

吉井は思考処理が追い付いていないのかそのままの状態でフリーズしているし、姫路は恋敵が目の前であんなことをやらかしたせいか顔からエンジンがオーバーヒートするがごとく煙みたいなものを噴出している……ように見える。周りの生徒の一部は生徒で襲いかかってきそうだし。今は人数こそ少ないが噂の広まるのが早いことは過去の学生生活の中ですでに理解している。なので……

 

「正気に戻れ」

「いっ!」

「はうっ!」

 

軽くチョップして正気に戻す。

 

「とりあえず動くぞ。ここにいたらいろいろとまずい」

「で、でも頭の整理が……」

「…………死にたいなら別にかまわないが」

 

殺気立ち今にも肉食獣のように襲いかかろうとしている男子の一団の方を指さしてそう一言いった。

 

「すいませんすぐ行きます」

 

そりゃ死にたくはないだろう。そもそも仮にも先生がいる前で殺気も殺意も隠そうともしない彼らにも問題は多々あるんだが。

 

「あ、あの……和泉先生!」

「ん?」

 

早いところ離脱しようとしていたところに放心状態から立ち直った姫路が声をかけてきた。

 

「明久君と2人で少し話をさせてくれないでしょうか?」

「…………」

「ひ、姫路さん!?」

 

先ほどの状況と姫路自身の思いを考えるに……そういうことか。吉井が慌てているのはたぶん間違った方向に頭が働いているんだろう。

 

「……まともな話ならいいが。間違えても手を出したりしないようにな」

「え!? て、てじゃなくて……その」

 

……この子大丈夫か? なんか少し不安になってきた。

 

「い、和泉先生! 姫路さんは何を……」

「追っかけリーチをしようとしてるんだと思うが」

「何の話!?」

 

まぁ吉井次第だろうな。俺は知らんしそこまでは。どうでもいいが吉井は麻雀知らないのかな?

 

……ちなみに吉井は被害にあわなかったものの坂本がとばっちりを受けて暴行を受けたことを知ったのはこの一時間後だったりする。

 

        ○

「……和泉先生、今日は何があったんですか?」

「そう言われても私もはっきり把握しているわけではないので……」

 

職員室に行きとりあえず二人を生活指導室に入れて置いたあと、俺は高橋先生に事情を聞かれていた。

 

「強いて言うなら……青春ですかね?」

「そんな抽象的な……」

「吉井も以前そんなこと言っていたな」

「あ、西村先生。おはようございます」

 

西村先生が外の仁王立ちを終えて戻ってきたようだ。

 

「今日は何やら生徒が騒がしかったのだが……なぜなんでしょうか?」

「……一応理由は分かりますけどプライバシーの保護はさせてもらいます」

「……どういうことだ?」

 

やたらめったら先生たちに伝えていいことではない以上しかたがない。とりあえず島田に事情聴取が必要なのは事実だが……今放送で呼び出すと野次馬がたまる可能性があるからできないし……

 

「とりあえずもう時間ですし教室行きましょうか。吉井達ももう終わったか?」

「吉井がそこにいるのか?」

「諸事情で」

「吉井! ホームルームの……」

 

あれ? 西村先生が黙った。俺も近づいて中を見てみると……簡潔にいえば口づけ間近だった。完全にラブコメ展開じゃないですかこれ。

 

「なんか……すまん」

 

あまりの衝撃に西村先生は耐えきれずに扉を閉めてしまった。

 

「和泉先生……あいつらに謝っておいてくれ」

「はい……わかりました」

 

さすがに罪悪感がすごかったのかそのまま職員室から出て行ったが……

 

『貴様ら! さっさと教室に行かんか!』

 

こういう切り替えの早さはやっぱり大人だなと思う。年長者から学ぶことはやっぱり多い。

 

        ○

あまり見たくないものを見てしまった西村先生に代わって今日は俺がホームルームをすることとなった。ついでにいっておくと吉井と姫路もきちんと回収したうえでだ。すごく挙動不審だったけどな。

 

ただ……問題なのはクラスの方のようで……

 

「朝倉」

「吉井ぶっ殺す」

「有働」

「吉井ぶっ殺す」

「江田」

「吉井ぶっ殺す」

「よーし今言った奴とこれから物騒なこと言った奴補習受けてもらうから」

 

あまりにも荒れていた。一体どうしろと。とりあえず釘……では足りないのでボルトを刺してみたところ一応はおさまった。しかし連絡事項を伝え、ホームルームが終わりに近付いているのを感じ取っているのか今にもとびかかりそうな状況になっている。

 

「んじゃホームルームを終わるけどっ!」

「「「!?」」」

「余計な動きをしようとするんじゃねーぞ」

 

眼力を使って無理やり動きを止める。パントマイムみたいな感じで止まっている奴もいるが知ったことじゃない。

 

一時間目の先生が来るまでの五分間、完全に生徒とのにらみ合いの様相を呈していた。

 

「皆さん、これから授業を始め……何してるんですか和泉先生。なんか怖いですよ?」

 

発動しすぎて段々表情が戻るか不安になっていたりもした。いや、ちゃんと戻ったけど。

 

           ○

午前中、昼休みが来るまで続いたこの攻防は一応はこちら側の勝利となった。ただこのままでは俺としてもクラスとしても色々とまずいので、昼休みの間に屋上で話を聞くことにした。

 

「というわけで今朝の件についてはここにいる全員が把握していると思う。西村先生からも『原因を追及して処理するように』と言われているんだが……何か思い当たる節あるか?」

 

「あるな」

「あるのぅ……」

「…………ある」

「ええっ!? 僕にはそんなことまったく」

「当事者がわからんってどういうことだよ……」

「「「それが明久だから」」」

 

呼び寄せた四人のうち坂本、木下と今遅れてやってきた土屋には思い当たる節があるらしい。なぜか当人にはないらしいが。

 

「その思い当たる節ってなんだ?」

「強化合宿の三日目に携帯を壊したからだ」

「……悪い、脈絡がなさ過ぎて何の話だかまったくわからん」

 

なんで携帯を壊しただけで今朝の状況につながるんだ。

 

「正確には作戦のために島田と姫路を呼ぼうとしたときに明久が解釈を間違えそうなメールを送ってしまったのじゃがそれを訂正する前に雄二が携帯を壊したことが原因じゃな」

「…………(コクコク)」

 

あーなるほど……つまり

 

「お前のせいじゃん」

「勘違いした島田も悪いだろうが!」

「いやそうだけど!」

「…………それよりまずい情報がある」

 

生徒とタメ口で言い合っていると土屋が口を開いた。

 

「…………Dクラスが試召戦争の準備をしているらしい」

 

どうやらまだこの騒動の終わりではないらしい。



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第32話

バカテスト

 

第32問 世間で噂話をしていても、それは長く続くものではなく、やがて自然に忘れ去られてしまうものだということを何というか答えなさい

 

【姫路瑞希の答え】

 

人の噂も七十五日

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。それだけ世間が動いているということでもありますね。

 

【坂本雄二の答え】

 

明久と付き合っているなんて噂よ、早く消えろ!

 

【和泉剣のコメント】

 

だからいずれ消えると思うんですが……

 

【吉井明久の答え】

 

僕がバカみたいだという噂もいずれ

 

【和泉剣のコメント】

 

それは噂ではなく事実です。もっと精進してください。

 

       ○

「……つまり吉井たちを逆恨みした清水がクラスを煽動したと」

「Dクラスは若干女子が多いし、無駄に団結力が高い。代表の平賀も無難にまとめようとしたんだろうが押されると弱いからな……能力自体は決して低いわけじゃないんだが」

 

坂本の平賀に対する評価が高めなのは、描写にはなかったものの先日の強化合宿の際男子をうまくまとめていたことが大きいのだろう。男子に限ったことではないが指揮ができる人間はそう多くない。信頼と判断力がないとなかなか務めあげられないものだからだ。

 

ただそんな平賀でも清水が強硬に押し進める事を止められなかったのだろう。指揮をする人間にも得意不得意があるということだ。タイプが違うとも言うのだと思うのだが。

 

「…………ついでに盗聴器も見つけた。一応ジャミングしている」

「……また盗聴器か」

「抜くと動きに気付かれるしそれが妥当だろう」

 

坂本の言うとおり動きを感づかせないようにするにはそれぐらいがいいのだろうが……土屋よ、そんな技術どこで覚えた?

 

「Dクラスが攻めてくるのは分かったけど……雄二、勝算はあるの?」

「うちのクラスで補充がすんでないのは島田と姫路だけだ。対するDクラス側だが……」

「…………謹慎者が多いから朝から補充をしている。ただ明日まではかかると思われる」

「点数だけならある程度は太刀打ちできる。作戦を使うことが前提だがな」

 

坂本が現状をまとめているが……こうしてみるとやっぱりクラス間の戦力の差は大きいな。Fクラスはジョーカーが多いのもあって他のクラスとも太刀打ちできているが一つ上の三年のFクラスは普通に成績下位者の集まりだった。他のクラスもそのクラスにあった成績の生徒が集まっている。そのためか三年で試召戦争が起きたという話は今のところ聞いていない。

 

「現状確認はこんなものか。さて、まず島田の事についてだが……早急に真実を伝えるべきだと思う」

「それはその通りだな」

「確かにのぅ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 勘違いなんてことが分かれば美波に……」

「それは俺がさせないから心配するな」

「ムッツリーニ、島田を連れてきてくれるか?」

「…………分かった」

 

忍者のように消えた土屋を見て俺はこの学校がやはりどこかおかしいということを再認識させられた。

 

        ○

「……それで、あのメールは間違いだったってこと?」

「そ、そういうことです……」

 

屋上に島田を連れて来ての話し合い。一通り話が終わったその時、島田が拳を振り上げたので

 

「はいストップ」

「なんでそんな紛らわしいメール送ってくるのよ!」

「それを確認もせず余計なトラブルを起こした島田が言える義理か!」

 

じたばたと暴れ今にも吉井に襲いかかろうとしている島田を抑えつけながらそう付け加えた。五分ほど格闘した結果なんとか襲いかかるのをやめる程度までは沈静化したので島田を放した。

 

「にしてもまた面倒なことになったな」

「これは俺としても頂けないな。まさか写真争奪のために召喚獣を使った争いになっていたとは……」

 

土屋が島田を連れてくる時一度教室に戻ったらしいのだが、その時西村先生が戦死者を担いで出てきたらしい。話を聞くと教室内で写真の争奪をしており、その延長で召喚獣での戦闘になったらしい。

 

……ちなみにその話の最中、土屋が血涙を流していたのは完全に余談だ。

 

「写真を使ってこっちの戦力を落としにきやがったか……」

「戦争としては間違ってないんだが……やっていることは相当陰湿だな」

 

味方同士で戦わせるというのを戦略と見るか陰謀と見るかでずいぶん評価の変わりそうなことだと思う

 

「とにかく早いこと清水を鎮めた方がいい。ムッツリーニ、頼む」

「…………わかった」

 

血涙を拭き終わった土屋が盗聴器のスイッチを入れて誤解であったことを清水にそれとなく伝えられたようでDクラスとの戦争は回避することができたらしい。その場にいたらまずい島田をこの場から離し、昼食を取っていたのだが……

 

「…………さらに面倒なことになった」

 

十分もしないうちにまた情勢が変わり再びFクラスに危機が訪れようとしていた。

 

         ○

「Bクラスが試召戦争を?」

「…………これがそのテープ」

 

土屋はテープを取り出し再生する場所を選んでボタンを押した。

 

『あ、あのっ、明久君の女装写真を持っているって本当ですかっ?』

『…………一枚100円。二次配布は禁止』

『あるだけ全部お願いしま……』

 

「…………間違えた」

「何!? 今の何!? 今の会話のほうが僕にとってよくない状況なんだけど!」

 

どう聞いても違うテープだった。……男子の女装写真が売れるってどんな学校だよほんと。

 

「うるさい明久。つまらんことで騒ぐな」

「つまらないことじゃないよ! なんで僕の写真が秀吉の写真と同じように裏取引されてるの!?」

「待つのじゃ明久! 今のお主のセリフの方がワシにとってよくない状況なのじゃが!?」

「一応教師の前なんだからそういう裏とか言うな。見て見ぬふりも大変なんだ」

 

さらっと注意したのは以前も言った通り土屋が運営している写真店は文月学園内でもかなりの力があるため仮に廃止でもしようものなら暴動が起きるレベルだからだ。……学園長も黙認しているみたいだったし。

 

「…………こっちが本物」

 

『Fクラスの様子はどうだ?』

『仲間割れを起こしたようでかなり点数を消費してます。それにこちらの動きには気づいていないようです』

『手間が省けたな。よし、補充を済ましていない奴の補充を続けろ。向こうが気づいたら即宣戦布告する』

 

「なるほど……清水が策を弄さなかったら根本の野郎が何か仕掛けてくるつもりだったってわけか。根本の陰湿さを考えればある意味清水が策を弄してくれて助かったともいえるな」

「どういうこと?」

「聞いた話だが根本は一学期の試召戦争の際もかなり陰湿な策を取ったと聞いているが?」

「うん、姫路さんのラブレターを人質に」

 

……有機物を人質にとったと言っていいのかわからんがまぁいいだろう。

 

「清水が仕掛けたのは単なる同士打ちだ。それを根本が仕掛けたとしたら……」

「そうとう陰湿な策に……」

「そういうこと」

「というか和泉先生、アンタ教師なのにこんなことしていていいのか?」

 

坂本が俺がここにいることが気になったようでそう尋ねてきた。

 

「別に協力さえしなければ問題ないらしい。Fクラスに有利になるように動くとかしなければ特にそう言った罰則はない。単に興味を持っただけだしな」

 

たまたま昼食をともに食べていただけだが試召戦争がどういう風に行われるのか、坂本の策って言うのも見てみたくなったというのもある。

 

とりあえず今は話の続きを聞くとしますか。



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第33話

バカテスト

 

第33問 アイスクリーム類の種類を一つ上げ、その特徴を答えなさい。

 

【霧島翔子の答え】

 

アイスクリーム 特徴 乳固成分と乳脂肪分が一番含まれていて風味が良く、栄養的に優れているが比較的高価。

 

【工藤愛子の答え】

 

アイスミルク 特徴 乳固成分と乳脂肪分は牛乳と同じくらい。植物性の脂肪が含まれることもある。

 

【坂本雄二の答え】

 

ラクトアイス 特徴 植物性脂肪を多く含む。比較的安価。

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。それぞれに特徴がありますが実はアイスクリームと呼べるのはそんなに多くないというのが実態です。ちなみにアイスは一度溶けると味がかわりまずくなることがあります。購入するときはドライアイスをもらったりして溶かさないようにしましょう。

 

【吉井明久の答え】

 

ハーゲ○ダッツ 特徴 高い

 

【土屋康太の答え】

 

ジャ○アントコーン 特徴 長い

 

【木下秀吉の答え】

 

スー○ーカップ 特徴 安い

 

【和泉剣のコメント】

 

伏字になっていないですし、商品名を聞いているのではありません。そして特徴のところ雑すぎです。

 

【どこかの陽気な古典部員の答え】

 

氷菓 特徴 文集の名前

 

【和泉剣のコメント】

 

……時々異世界の回答が混ざっているのはなぜなんでしょうか?

 

          ○

 

「それにしてもいくら僕らに仕返しがしたいからって、BクラスがFクラスに試召戦争を申し込むなんて……」

「根本の目的は多分それだけじゃ無いだろうな」

「え? 違うの?」

 

目的が仕返しだけじゃないか……となるとやっぱり……

 

「雄二、他の目的とは何じゃ?」

「簡単な話だ。自分への非難を抑えること」

「? さっきの話とあまり繋がってこないんだけど」

「根本は元々人望が皆無だったが、四月の試召戦争では卑怯な手を使っても俺たちに勝てなかったことで更にクラスの中での地位は厳しいものになった。今のあいつに代表としての力はほぼないだろう」

 

以前も言ったと思うが、ここの制度の問題として単純にそのクラスで一番だったものが代表になるという点がある。点数が高いものが代表になるが、人望などは一切考慮されない。……代表者を決めるという事はもう少し重要視されてもいいと思うんだけどな。

 

「ここで問題だが、国情の不安が顕著になった場合、為政者はどういった対応をすると手っ取り早く大衆の不満を抑えられると思う?」

「? え、えっと……」

 

……坂本が難しい言葉を使ったせいか吉井は混乱している。

 

「明久。わかるか?」

「ごめん。もう一回言って貰える?」

「そんなに難しい問題だったか?」

「理解できるキャパシティを超えているんだろう。もう少し噛み砕いて言ってやれ」

 

どうにも吉井が理解していないと思ったので坂本にそう助言する。

 

「だから、『たくさんの人の不満を抑える為にはどういった行動が適切か』ということだ」

 

吉井は何かをひらめいたようだ。一瞬豆電球が見えた気がした。

 

「糠と塩につける」

 

さすがにこの答えには俺も唖然とした。

 

「恐ろしい解答だな」

「…………度肝を抜かれた」

「お主は不満を抑えるために溺死者を出すつもりか!?」

「え!? だって、テレビで『たくあんを作るには糠と塩につける』って言ってたよ!?」

「たくあんじゃなくてたくさんだ。お前は人を糠につける気か」

 

人って言っていたし完全に思い違いなんだろうが……なんでたくあんの作り方の話になっているんだ。

 

「いや、そういう意味ではないのじゃ明久。不満一杯のたくさんの国民を宥めるにはどうしたら手っ取り早いかという話なのじゃが……そうじゃな。恐怖で抑えつける、とかはどうじゃろうか?」

「それも一つの手段ではあるが、あまり手っ取り早いとは言えない。恐怖政始にはまずそれを行うだけの圧倒的な力が必要だからな」

「だとすると何がいい方法なの?」

「『外部に共通の敵を作ること』だ。俺たちの日常生活でもそうだが、同じ敵を持つ人間というものは若干の不和があったところで結束し易い。歴史上でもそういった手法を取っていたヤツは大勢いるしな」

「確かにな。そういう人物はいる」

 

歴史をやっていた俺にも心当たりのある話だったので何人か例を挙げたところ吉井や木下も納得したようだ。しかし、日常生活でそういうことをやっているのもどうなんだ?  

 

「発言力のない根本でも、『覗き騒ぎの主犯であるFクラスを粛清する』という大義名分があれば、クラスを動かすことが出来る。今の状況はヤツにしてみればまたとないチャンスだ」

「覗き騒ぎはできる限り小さくはさせたけど結局のところ始めたのはFクラスだからな」

 

坂本たちが発端だし、その後もFクラスを中心に覗きが敢行されていたし。全部未遂で終わっているけど。

 

「しかし、ワシらは仕掛けてくるBクラスと違って試召戦争を断ることもできるはずじゃが……」

「その通りだが一度断れば根本は何らかの策を仕掛けてくるはずだ。クラスを扇動して無理やり開戦に持っていかれるかもしれねぇ」

「それはわかったけど結局どうするのさ?」

「他のクラスとうちのクラスが試召戦争をするんだ。試召戦争をすればやっている最中と終了後に回復試験を受けられる時間ができる。そうなれば慎重な根本の事だからBクラスを動かすにことはないはずだ」

 

試召戦争は連戦を回避するために一度戦争をしたクラスは回復試験を受けられる時間が与えられ、その間に他のクラスに宣戦布告を行うことができない。逆に仕掛けられることはあるだろうが宣戦布告して即戦闘ということはそうめったにはない上、下位クラスの補充試験の最中に宣戦布告をして容赦なく襲いかかるようなことがあれば自身の評判を落としかねない。(元々そんなものないようだが)

 

「他のクラスって?」

「Dクラスだ」

「……そんな無茶な」

 

つい十分ぐらい前に誤解であることをそれとなく伝えたばっかりなのに今度は戦わせるように持っていくのは無理がある。一体どうするつもりだ?

 

「そうだよ! せっかく誤解を解いたばかりなのに!」

「と言ってもこれ以外策はない。恐らくBクラスは万全の状態で攻め込んでくるはず。とりあえず午後に補充試験をしなければ攻めては来ないだろうが、早急にDクラスとの戦争を始める必要がある」

 

Fクラスで補充がまったく済んでいないのは謹慎処分を受けた島田と姫路の二人のみ。戦力的に不安はあるもののある程度の勝負はできると思ったのだろうが……問題はどうやって戦争に持っていくかだ。

 

「そこでだ。今朝の一件を利用させてもらう」

 

今朝の一件って……おいまさか

 

「明久、お前が島田の恋人役になって清水を焚きつけろ」

「僕が!?」

「お前がやらないで誰がやるんだ」

 

……なんか坂本が相当な無茶振りをしているんだが。まぁそれはともかく

 

「とりあえずもう昼休み終わるぞ。次の時間もあるんだしこの話は一時間後だ」

「先生がサボりを見逃して」

「くれるわけないだろうが。……まぁあんまりやっていいことじゃないが最悪何とかはしてやるよ」

「? どういうこと?」

「試召戦争を行うには申請書が必要ってことは知っているよな?」

 

宣戦布告を行ったあと仕掛けた側のクラスが理事長に提出するものだ。戦う側のクラスの代表がそれに同意すれば戦争が成立する。

 

「理事長がその仕事を俺に割り振ったんだ(たぶん面倒だからだろうけど)」

「なるほどな……正に奥の手ってことか」

「たださっきも言ったが特定のクラスに有利になることは行ってはいけないとある。そういう事態にならないことを願うだけだ」

 

そのカードを切る機会なんてない方がいいんだけどな。ただ坂本の作戦がうまくいくとは到底思えないんだが……どうしたものか。



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第34話

バカテスト

 

第34問 演劇や小説など物語を書く際に作られる枠組み・構成の事を何というか答えなさい。

 

【木下秀吉の答え】

 

プロット

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。プロットはストーリーとは別物であらすじや事件、相関図や世界観などもプロットに含まれます。小説冒頭に世界観をひたすら書き続けるのがよくないと言われるのはストーリーではないからだと言えます。

 

【霧島翔子の答え】

 

私の人生のプロットはもう出来上がっている

 

【和泉剣のコメント】

 

予定は未定ともいうので先走らない方がいいと思います。

 

【玉野美紀の答え】

 

アイデアがまとまらない! コ○ケ近いのに!

 

【和泉剣のコメント】

 

すいませんがよそでやってください。

 

 

         ○

「はぁ……」

「ほんとなんでこうなったのかしら……」

「明久、島田。これはお前たちにしかできないことだと……」

「分かっているよ」

 

5時限目が終了したので屋上に向かう階段に向かうとちょうど坂本たちが先行して階段を上っているところだった。

 

「これからやるのか?」

「あ、和泉先生」

「なんとか脚本も完成したからのぅ」

 

わざわざ脚本まで作るか……少し見せてもらったが中々にラブコメ色が出ているが……

 

(この後半部の告白するセリフ、島田が言えるとは到底思えない……)

 

口より手が先に出る人間がこんな傍から見れば恥ずかしいことこの上ないセリフを言いきれるとは考えにくいんだよな……坂本はどうするつもりだ?

 

ところでこの脚本は演劇部に所属している木下が作ったようだが、声帯模写もできるって演劇部の先生が言っていたな。……怪盗にでもなれるんじゃないだろうか? 変装ができれば完璧だろう。

 

「それじゃあ屋上に出るが……少し静かにしてくれよ?」

 

坂本がそう言った後土屋とアイコンタクトを交わす。次の瞬間土屋が屋上の端にあった何かを回収してきた。

 

「……カメラ?」

「ああ。さっきもムッツリーニに細工してもらってたんだ」

 

本当に何者だよ土屋。何度も言っているけど。

 

「それじゃあ明久と島田はこっちに来るのじゃ」

 

木下が吉井と島田を呼んだのは何かの主人公が屋上に来た時にとっさに隠れそうな校舎が影を作っている部分だった。つまり……

 

「カメラがあって盗聴器があって……あそこで読ませるってことは聞こえるのは声だけってことだよな?」

「そういうことになるな」

 

坂本に確認を取ってみると思った通りのようだ。だけどそれ故に気になることがある。

 

「わざわざ島田連れてくる必要あるのか? 木下が声まねすれば後は吉井次第になるけど不安要素減らせるのに」

「…………秀吉の声まねだけだと清水に気付かれ」

「だったら最初の部分だけ島田にやらせればいいんじゃないのか? 脚本見る限りじゃ島田が後半部分のセリフを言いきれるとは思えないし、清水も火さえ付ければ判断能力なくなるだろう」

「…………完全に盲点だった」

「そうか」

 

俺の指摘に最初は反論していた坂本だったが反論できる要素がなくなったようで作戦の変更を伝えにいった。

 

そして演技が始まってしばらくしたところで重要なところにさしっ買ったので島田のセリフを木下が引き継いだ。

 

『わざわざこんなところに呼び出してごめんね、アキ……。あのね、ウチは……アキのことが好きなのっ!』

 

確認だがこれを言っているのは木下だ。決して島田ではない。

 

『あの薄汚い豚野郎!』

 

そのセリフが言い終わったとたん二つ下のフロアあたりからそんな叫び声が聞こえてきた。というかどう聞いても清水です本当にありがとうございました。

 

「調べるまでもなく煽れたみたいだな」

「…………一応こっちでも確認する」

 

坂本がそう断言した。土屋は念には念を入れて確認に行くらしい。

 

「き、木下! あんたアキに……こ、告白を!?」

「これは作戦じゃ! 島田の声でやっておったのに告白なにもないじゃろ!」

「……だったら自分で言えばいいのに」

 

……木下は男子なのに告白も何もないだろう。なんかおかしいよなこの学校。今更だけど。

 

          ○

清水を焚きつける(木下の)芝居が成功し、坂本たちが戻った直後Dクラスの使者が戦争を仕掛けに来たようだ。六時間目からの戦争となりすでに終業のホームルームの時間であるがまだ戦闘を続行しているようだ。俺は職員室に戻って雑務を続けていたのだが……放課後になってある人物がやってきたので指導室で応対していた。

 

「それで霧島。一体何の用だ?」

「……雄二と真剣にキスがしたい」

「…………」

 

開口一番これだ。まぁ聞かれたくないっていうのは分かるが……

 

「ずいぶんと突飛した話だな」

「……吉井は島田とキスをした」

「体を乗り出すな。そしてあれは勘違いの産物だ」

「……勘違い?」

 

霧島に今日の経緯を簡単に説明したところ納得したらしい。さすがに頭の回転は速いようで。

 

「……雄二とは雄二が寝ている間にしかしたことがない」

「…………もうやってるじゃん」

「……唇にキスしたい」

 

なんでそこまでこだわるんだろう。以前の霧島は坂本に対してそうとう押しまくっていたらしいからな……欲求不満か? しかしキスをしたいなんて依頼今までなかったけど……あ……

 

「……一つだけ、あるにはある」

「……本当?」

「『気になります』とか言い出しそうなぐらい乗り出してくるな霧島!」

「……気になります?」

「悪い。こっちの話だ。忘れてくれ」

 

思わず正直な感想が出てきてしまった。

 

「相手の好意が分からなければできなかった物なんだけどな。簡単に言えばゲームのどさくさまぎれにやる」

「……勝ったら一つだけ言うことを聞くって言う」

「まさにそれだ。ただこういうのはできる限り運が絡むゲームの方が望ましいんだけどな。トランプとかだと逃げられるかもしれない」

「……それなら私に心当たりがある」

 

何のゲームがいいかと考えていると霧島に案があるらしい。

 

「……ちょうど試作品のゲームのモニターを探していると父が言っていた。基本運頼みのゲームだから雄二も参加してくれるはず」

「……それ、どんなゲーム?」

 

霧島がカバンの中から企画書を出して俺に見せてきた。

 

「…………でかいな」

 

一目見たら恐らく誰でもそうつぶやきそうなぐらいそれはでかかった。というかなんでこんなの作ったし。

 

「……ちなみにこれどこでやるんだ?」

「かなり大きいものだから大きな場所を借り切って。以前大きな空気砲を作って実験していた場所だから大きさは十分」

「さすが霧島グループ……やることが派手だ」

「……ちなみに次期社長は雄二」

「勝手に決めたらかわいそうなんじゃ……」

 

そんな事を言いながらも計画は組み上げられていった。坂本の心境の変化につながるといいんだけどな……



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第35話

バカテスト

 

第35問 麻雀における役のひとつであり、カンを行い、不足した牌を補充するため嶺上牌を引いた際に、引いた牌が自らの和了牌であった場合に付く役の事を何というか答えなさい。

 

【とある世界の元文学少女の答え】

 

嶺上開花

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です……が、魔王らしき何かを感じるのはなぜでしょうか?

 

【とある無名校の同卓者の答え】

 

そのカン、成立せず!

 

【和泉剣のコメント】

 

成立した役の事を聞いているんですが……

 

【とある強豪校の同卓者の答え】

 

なんだ……何なんだよこいつ!

 

【和泉剣のコメント】

 

気持ちは分からないでもありません

 

     ○

『全国1億2千万人の青ひげ危機百発ファンの皆さま、お待たせいたしました! これより霧島グループプレゼンツ、第一回青ひげ危機百発チャンピオンシップトーナメント決勝戦を開催いたします!』

「「「…………はい?」」」

 

文月学園の所在地の街にある大きなホールで剣がそう放送したことに翔子以外の全員が首をかしげた。

 

『霧島から話聞いてないか?』

「翔子には試作品のゲームのテストプレイヤーを頼まれたんだが」

 

雄二がここにいる全員を代表してそう答える。

 

『今回霧島グループが製作した青ひげ危機百発のテストプレイだ。勝った人には商品もあるみたいなんだが……霧島、そこの点については説明を頼む』

「……優勝者には優勝者の望むものを霧島グループで用意する。もちろん、物でなくても可」

 

そう言い雄二のほうに目を向ける。

 

「おい、翔子……お前まさか……」

「……私が勝ったら私は雄二にキスをする」

「……ムッツリーニ、処刑の用意は?」

「…………もうできている」

『おいこらそこ二人。一応開発者さんたちも見てるんだからそういう行為はやめろ。一応SP配備してもらっているから暴れても止められると思うけど』

 

翔子がキスをすると宣言したのを聞いて明久とムッツリーニは完全に嫉妬全開になっているのを鉄人顔負けのガタイの霧島家のSPが止める。一方宣言された坂本は真っ白になって固まっているのだが。

 

「あはは。なんか面白いことになってきたね。ムッツリーニ君、賭けしない?」

「…………何をだ」

 

SPに解放されたムッツリーニが工藤と向かい合う。

 

「もしムッツリーニ君が勝ったら僕のスパッツの中、見せてあげてもいいよ?」

 

その言葉を聞いたとたん、鼻のあたりが膨れ上がったかと思ったらそこから鼻血が水道の蛇口から水を流すがごとく流れ出てきた。しかし……

 

「…………これは花粉症のせい」

 

あくまで強がるのだから困ったものである。知らない人間が見たら殺人現場か何かと勘違いしそうなぐらいは鼻血を出していた。ちなみに日常茶飯事なせいかその後の無駄に輸血のスピードが速いのがほめられることなのかは剣にはよくわからなかった。

 

『……工藤。余計な煽りをするなと言っているだろう』

「えー。だってムッツリーニ君面白いんだもん」

 

相変わらず反省の気配がない愛子に剣の口調も少々きついものになっている。ただ直接的に手を出したりしているわけではないのでなかなか対応に困っているというのが剣の正直な感想だった。

 

「そういう少しエッチなのもいいんですね……」

「ちょっとアキ! 何じろじろ見てるのよ!」

 

瑞希は愛子の行動に少々妄想に入ったようでぶつぶつと何かをつぶやいており、美波は相変わらずの言動といったところだろうか。

 

「何でもってことはこの前手に入れ損ねたあの本も……いや、今度発売される限定版の」

(完全に自分の世界に入っていってしまっているの……)

 

優子は完全に自分の世界に入って行ったのを秀吉が少々あきれ気味で見ていた。

 

『参加者は九人か。まぁちょうどいいか。さて、それではルールを説明します! 目の前にある青ひげ危機百発に一人ずつ剣を刺していき、青ひげが飛び出した時点で失格となり、それが最後の一人になるまで続けます。そして最後に残った一人が優勝となります!』

「それにしても大きいですね」

 

瑞希が目の前にある青ひげをみてそうつぶやく。この青ひげは高さ三メートルほど。通常サイズの何倍なのかはわからないがとにかく大きい。

 

『大きなイベントのために作られたものらしいからな。大きいほうが見栄えやインパクトもあるからだろう。さて、その青ひげの外側にボウリングのボールが出てきそうな機械がいくつか見えると思う。一人に一つずつ割り振られるから剣を刺さない人はそこで待機になる。ちなみにだがどれを選んでもゲームの有利不利はないからな。それと坂本ー! いい加減目を覚ませ』

 

真っ白になったまま固まっている雄二に剣が声をかけるが全く反応がない。『返事がない、ただの屍のようだ』というのが適切なぐらいの固まりっぷりだ。

 

「雄二……」

 

それを見た翔子は何を思ったのか顔をどんどん雄二に近づけていき……

 

「なっ! 翔子なんのつもりだ!?」

 

寸でのところで危機察知でもしたのか雄二が気付いたようでかわされた。

 

「……眠っている王子を起こすのにはキスが有効だと」

「それは立場が逆だろうが!」

「……じゃあ逆なら雄二はやってくれるの?」

「そういうことじゃなくてだな!」

『……とりあえず坂本、霧島。始めるから移動してくれ』

 

           ○

「機械から剣が出てきたけど……何色かに色分けされているね」

 

機械から排出された赤や青、黄色に緑といったカラフルな剣。これらはすべて大きさは同じで一見するとなんの意味もないように見える。

 

「何か剣に文字が書いてありますね……えっと『三回まわってワンという』? なんですかこれ?」

 

瑞希が剣に彫られている文字を見つけたようで剣にその意味を尋ねる。

 

『見ての通り罰ゲームの内容だ』

「「「罰ゲーム!?」」」

『さっきも言ったけどこれイベント用に作られた奴だからな。そういった要素もある。ちなみにだが罰ゲームの種類は100や200では足りないぐらいあるらしい』

「……翔子、いったいいくつあるんだ?」

「……確か800ぐらいあったはず。さっきみたいな簡単なものから腕立て100回みたいなのもあった」

「う、腕立て100回なんて……私にはとても無理です」

 

雄二が翔子に個数を尋ねたが想像以上の数に作った人間にあきれることしかできなかった。一方の瑞希は運動が苦手なこともあり800の中に腕立てのほかにも入っているだろう運動系の罰ゲームに戦々恐々としていた。

 

『まぁ基本的に青ひげを飛ばさなければ罰ゲームはないからな。運も実力のうちってやつだ。じゃあそろそろ始めようか?』

「要は勝てばいいんだろ! 勝てば!」

「……雄二、覚悟してもらう」

「これに勝って新作ゲームを!」

「いざ尋常に勝負だよ! ムッツリーニ君」

「…………お前には負けない」

「何か不安になってきました……」

「大丈夫よ。坂本の言うとおり勝てばいいんだから」

「限定品のためにも!」

「まったく……なんだか荒れそうじゃの」

『その意見には正直同感なんだが……』

 

各々意気込みを見せたりしたところで試合開始のブザーが鳴り響く。

 

『一回戦、スタート!』



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第36話

バカテスト

 

第36問 宴会などで行われる多人数が集まって楽しみながらプレイするゲームのことをなんというかこたえなさい。

 

【霧島翔子の答え】

 

パーティーゲーム

 

【和泉剣のコメント】

 

正解です。こういったゲームをする際は個人の資質にあまり左右されない偶発的要素が強いゲームがよいとされます。楽しむことが前提なのでそこは忘れないようにしましょう。

 

【吉井明久の答え】

 

友情破壊ゲーム

 

【和泉剣のコメント】

 

もう少し楽しむことに重点を置いたほうがいいのではないでしょうか。

 

【清水美春の答え】

 

豚野郎破壊ゲーム

 

【和泉剣のコメント】

 

リアルファイトはやめてください

 

 

        ○

『さぁ全員が所定の位置につきました! それではこれから親を決めます』

「どうやって決めるんだ?」

『ここは一番東側にいる吉井選手にサイコロ二つを振ってもらい、出た目の数だけ反時計回りに数えて決めます』

「完全に麻雀の親決めじゃねーか……」

 

ただのパーティーゲームのはずなのになぜか麻雀の親の決め方で進行するゲームに雄二は呆れ顔だった。

 

「……製作者の中に麻雀好きがいたから。それに何にしろ回す順番は決めないといけない」

「……まぁそうだけどよ」

 

翔子の言うことはもっともではあるが他にもっと決め方はあるということを雄二は言いたかったのだろうが反論するだけの材料もないのでそれ以上のことは言わなかった。

 

『それでは吉井選手、出てきたサイコロを振ってください!』

「うわっ! 床が開く光景なんて初めて見た……それっ!」

 

床が開いてサイコロが出てきたことに驚いてはいたがすぐにサイコロを振る。

 

「出た目は10……ってことは」

「一周回って明久に戻ったの」

『……まぁこういうこともあるから気にしない方針で行くけど。とりあえず詳しいルールをできる限り簡単に説明します! プレイヤーは各々一つずつ割り当てられている機械から出てくる四本の剣のうち一本を選んで刺していきます。先ほど説明したように青ひげを飛ばしてしまうと剣に書かれている罰ゲームをしてもらます! 罰ゲームが書いていないアタリのもあるからどの剣をを残すか、どの剣を使うかもポイントになるでしょう。なお1ゲームにつき1度だけ順番を飛ばせるパスを使えます。青ひげを飛ばすか、罰ゲームを実行できないと失格になります』

「……おい、今どう聞いても矛盾しているルールが」

『それでは始めましょう! ゲーム開始です!』

 

雄二が剣の説明の中にあった違和感に気付くが剣はそれを受け流してゲーム開始を告げる。

 

一人目の明久から順番に優子、秀吉、雄二、翔子、ムッツリーニ、愛子、美波、瑞希の順にゲームが進行する。

 

「じゃあ僕からだけど……いったいどんな恐ろしい罰ゲームがあるんだ……」

 

とりあえず明久は4本の剣の罰ゲームを確認する。

 

・メイド服を着る

・ドレスを着る

・浴衣を着る(女性用)

・セーラー服を着る

 

「全部女装じゃないか!」

 

明らかに悪意がこもっているのではないかと思うぐらいにひどい手札だった。どれ一つ救いがない。

 

『……資料には罰ゲームの一覧もあったんだが……執事服とかそういうのもあるはずなんだけどな……どうしてこうなった?』

 

もはや放送席にいる剣も困惑を隠せずにいる。

 

「さっさと進めろ明久」

「…………遅延行為」

「二人だってこんなの嫌でしょ!? そしてムッツリーニ! そう言いながらカメラの準備をしている理由を説明してもらおうか!」

「いいから早くしてくれ。こちとら間が空きすぎて感覚狂ってんだ」

「それここの都合じゃないよね!? 間違いなく外側の都合だよね!?」

 

明久の突っ込みは理にはかなっているものの、この空間に生じたメタな空気には通じなかったらしい。

 

「はぁ……冷静に考えたら一回目だしいきなり当たるなんてことはないよね……たぶん。それに……勝てばいいんだし」

 

明久はおもむろに剣を選んで刺す場所を選択し始めた。

 

「さて……行くよ!」

「待ってください明久君!」

「へ? どうしたの姫路さん?」

 

刺す場所を決めた明久に瑞希が声をかけた。

 

「そ、その……どの剣を選んだんですか?」

「え……メイド服のを……」

「そうですか! ちょっと待ってくださいね!」

 

瑞希はムッツリーニのもとに駆け足で向かい、少し話をした後元の位置に戻った。刹那、明久の背筋に何か冷たいものが流れた気がした。だらりという擬音がおそらく的確だろう。

 

「お待たせしました」

「待つんだ姫路さん、今のひそひそ話になぜか僕の貞操の危機が迫っているがするんだ。って美波!? なんで美波もムッツリーニとひそひそ話を!?」

「気にしないでさっさと刺しなさい!」

「そうですよ! 決して明久君を世界でby……いえ何でもないです」

「中途半端で切るのはやめて! 怖いから!」

(話題が尽きない奴らだな……)

 

放送席の剣は少々疲れていたようで突っ込みを入れる気も起きなかったようだ。

 

       ○

『えー……紆余曲折ありましたが吉井選手の刺した剣は青ひげを飛ばさなかったのでセーフとなります』

「…………チッ」

「残念です……せっかく女装姿が見れると思っていたんですけど」

「そうよ! アキはもっと流れを考えるべきよ!」

「僕、なんで責められているんだろう?」

 

成功したはずなのに明久にかけられる言葉はなぜかお叱りの言葉だった。

 

『やり方はわかったと思うから早めに進めてくれ。ちょっと時間が押しているからな』

 

剣がそう言ったあとからゲームは徐々に進んでいく。

 

「飛ばさなければいいのよ。飛ばさなければ!」

「選択肢は多分に残っておるしの」

 

木下姉弟がクリアしたのを皮切りに雄二、翔子、ムッツリーニ、愛子、美波、瑞希と回り一巡が経過。二巡目に入り明久と優子がクリアし秀吉が二本目を刺したところで異変が起きた

 

『ピーッ』

「なんじゃ? 今何か音がしたような……」

『えーと木下、今刺した剣の内容読み上げてもらえるか?』

「んむ? えーっとじゃな『コスプレ(女性用高校制服)』じゃが」

『さっきの音は失格にはならないけど罰ゲームを受けないと失格になるということだ。』

「なんじゃそれは! 初耳じゃぞ!?」

「なるほどな……さっき微妙に矛盾したルールがあると思っていたがそういうことか」

「……元々そういうルールだった」

「あんまりじゃ!」

『ただ拒否するかは個人の自由だからな。これで失格になってもダメージはない』

 

ちなみに剣がもうひとつのルールについて微妙にぼかしていたのはそのほうが面白いからというだけである。この男の頭にもこの世界の感覚が入ってきているのだろう。

 

「さすがにリタイヤしたくはないからの……着替えてくるぞい」

「「(ワクワク)」」

(ダメだこいつら早く何とかしないと……)

 

男に興奮する時点でいろいろとあれだとは思うのだが元の世界でも割とそういう風潮があるのが恐ろしいものだ。

 

           ○

「なぜかウィっグまで用意されておった……なぜじゃ?」

 

帰ってきた秀吉は紫色のツインテールのウィッグに赤を基調とした女子制服……ま、要するにひらがな四文字のタイトルのマンガのキャラの格好になっていた

 

「……これは、いい!」

 

凝視する吉井に周りをカメラでひたすらにシャッターを切っている土屋。

 

『これ……ちゃんと最後まで終わるのか?』

 

そんな思いはもはや昴の中だけでは処理しきれずについ言葉にしてしまうほどであった。



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