錬鉄の魔術使いと魔法使い達 (シエロティエラ)
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Merry Christmas


特別編です

ではごゆるりと





 

 

その日は朝から雪が深深と降り、一面には銀世界が広がっていた。

森の木々は葉っぱの代わりに、雪化粧を纏っている。

冬木の郊外に広がる森林、その中央に聳える城屋敷の窓からは、暖かな光が漏れていた。

 

 

「リーゼリット、そちらをお願いします」

 

「ん、はいセラ」

 

「あとはこれを……これで良し」

 

 

その部屋では二人のメイドが部屋を飾り付け、4つの大きめの靴下にプレゼントを入れていた。左から順に白、赤、桃、緑の靴下が、暖炉の上にぶら下がっていた。

 

 

「紅葉様達が起きる前に、朝食を用意しておきましょう」

 

「ん、私はツリーのてっぺんに着ける星を出しとく。今年はシルフィの番」

 

「ええ、お願いします。それとリーゼリット、シルフィ()です」

 

 

二人が話をしていると、一人の男が入ってきた。年老い、長い銀髪を背中に流した老人は、部屋の内装を見て顔を綻ばせた。

 

 

「ほう、中々綺麗だ」

 

「「おはようございます、ユーブスタクハイト様」」

 

「アハトでよい。曾孫達はまだ起きぬな?」

 

「はい。剣吾様はともかく、他の御三方は未だ安く御休みになられております」

 

「そうか、なら」

 

 

老人、アハト翁はそう呟くと、懐から小さな包みを4つ取り出し、靴下にそれぞれ入れた。片手で収まるほどの小さな包みだ。

 

 

「私もそう長くは生きられん。恐らく、こうして皆で聖夜と聖誕祭を祝うことができるのは、あと一度か二度ぐらいだろう」

 

「ユーブスタクハイト様……」

 

「くれぐれも曾孫達には云わぬように。まあ剣吾は気づいておるかも知れんがな」

 

 

アハト翁はそう言うと、クツクツと含み笑いを漏らした。

 

本当に変わったものだ。

メイドの一人であるセラはそう思った。二十余年前までは妄執に囚われ、血族を血族と思わぬ冷徹な人間だった。

しかし、裏切り者と言われていた衛宮切嗣とその養子が特攻してきたあの一週間、その後は本当に同一人物かどうか疑いたくなるほど、いい方向に人が変わった。

イリヤお嬢様もたった十日だけだったが、実の父親と過ごせて幸せそうだった。切嗣が亡くなったあとも、その養子である衛宮士郎の存在によって、お嬢様の心は救われた。

 

出来損ないとしてしか扱われなかった自分とリーゼリットも、一人の人間として扱われた。それがどんなに嬉しかったか。

 

セラが物思いに耽っていると、アハト翁が質問をしてきた。

 

 

「シロウ達は?」

 

「旦那様と桜様は厨房に。お嬢様と凛様は大広間の飾り付の仕上げをしております」

 

「なるほど、なら私は広間に行くかな」

 

 

アハト翁はそう言い、部屋を後にした。セラとリーズリットも、各々の仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

 

「「「おはようございます、大お爺様。そしてメリークリスマス」」」

 

「おお(大)じいじ、おはよう!」

 

「うむ。おはよう、そしてメリークリスマス」

 

 

冬木四兄妹と呼ばれる四人は、九時頃に食事部屋へと降りてきた。長男である剣吾は、早朝から鍛練をしていたが。

 

 

「あら、皆おはよう。そしてメリークリスマス」

 

「父さんと母さんも、凛ねえも桜ねえも、セラさんにリズさんもおはよう。そしてメリークリスマス」

 

「「「おはようございます(おはよう!)」」」

 

「さぁ。先ずは朝食にしようか」

 

「そうね。士郎の言う通り、先に済ませましょうか」

 

「皆の席はこっちよ」

 

 

桜に案内され、皆は各々の席につく。セラとリーゼリットはメイドであるが、皆の希望で同じ机に着いて食事をするようにしている。食事は和やかに進み、皆食後の休憩と同時に、子供達がプレゼントを開封するのを眺めていた。

 

 

「そういえば皆、このあとの予定は?」

 

「俺は何もないですよ。イリヤと凛と桜は?」

 

「私たちも予定無しよ」

 

「寧ろ仕事を入れてきたら末代まで祟るわ」

 

 

凛が物騒な発言をするが、慣れたものである。

 

 

「子供達は?」

 

「私は一時から冬木会館に行きます」

 

「ああ、冬木少年少女合唱団のコンサートがあったな。紅葉も所属していた」

 

「はい、今日のコンサートは私も参加するので」

 

「なら決まったな。皆で行こうか」

 

「モーちゃんのうたキレイ! シィもきくのー!」

 

 

城屋敷の中は二十年前とは違い、暖かな空気に満ちていた。

 

時刻は昼過ぎとなり、衛宮一家とアハト翁、二人のメイドは冬木会館へと移動していた。道行く人々は、彼らに軽く会釈をし、そのまま自分のことに戻るという行動をとっていた。

この街の人々は、衛宮夫妻を英雄として讃えていると同時に、彼らが特別扱いを快く思っていないことを理解している。彼らの伝承を伝えることこそすれ、せめてこの街にいるときは自然体で過ごせるよう心掛けている。

 

冬木会館に着くと、紅葉と桜は控え室へと向かい、あとの面子は一般観覧席へと移動した。

このコンサート、クリスマスに開かれるというのもあり、このときばかり冬木少年少女合唱団は、児童聖歌隊と言われていた。そして歌唱力も非常に高いので世界的にも有名となり、今や「東方のウィーン合唱団」とも言われている。故に、そのコンサートにはテレビ局のカメラや、他ならぬウィーン合唱団の面子も観覧に来ている。

 

ブザーが鳴り、観覧席は光が落ち、代わりにステージかライトアップされた。三十人余りの少年少女が、ステージ上に並ぶ。指揮者と伴奏の合図で、最初の曲が始まった。

因みに伴奏は、冬木教会の担当シスターのカレン・オルテンシアである。

 

 

「I am the day, soon to be born

 

I am the light before the morning

 

I am the night, that will be dawn

 

I am the end and the beginning……」

 

 

ゆっくりとした静かな曲は、一気にこの空間を支配した。観覧席にいた人々は、その空気に飲み込まれていった。それ程に歌は魅せるものがあった。

 

 

「荒野の果てに 夕日は落ちて

 

たえなる調べ 天より響く

 

グロリア インエクセルシステオ

 

グロリア インエクセルシステオ……」

 

 

数曲歌い、少しの紹介の後、また数曲歌い、あっという間に最後の曲となった。ここで指揮者に呼ばれ、一人の少女がステージの前の方に歩き立った。一人立つ紅葉は手に蝋燭を持ち、息を整えている。そして指揮者の合図で伴奏が始まった。

 

 

Silent night, Holy night(きよしこの夜)

 

All is calm, All is bright(星は光り)

 

Round yon Virgin Mother and Child(救いの御子は)

 

Holy infant so tender and mild(まぶねの中に)

 

Sleep in heavenly peace,(眠りたもう)

 

Sleep in heavenly peace,(いとやすく)……」

 

 

最後の曲である「きよしこの夜」は、紅葉の独唱から始まり、二番は数人、三番は更に人が増え、四番五番で観覧に来ていたウィーンの子達も共に歌うという大合唱となった。観客の中には、涙を流すものもいた。

陳腐な表現になってしまうが、まさに歌だからこそなし得る、魔法のような空間が、冬木会館ホールに形成されていた。

 

 

 

 

 

 

 

------------

 

 

 

 

 

 

「すばらしい歌だったぞ、紅葉よ」

 

「紅葉お姉さま、キレイだった!!」

 

「モーちゃんキレイ!! モーちゃんキレイ!!」

 

 

コンサートも無事に終わり、皆口々に紅葉に労いの言葉をかけていた。紅葉本人は恥ずかしそうだったが。

 

時刻は黄昏時である夕方。人々は各々の聖夜を過ごすため、家路に着いている。

衛宮一家も例外ではない。毎年クリスマスと新年は、郊外の城屋敷で過ごしているので、そろそろ戻らなければならなかった。

因みに剣吾が生まれた時は衛宮邸で過ごしていたが、パパラッチによるプライバシー侵害もあったため、それ以来城屋敷に場所を移している。

 

冬木市立火災慰霊公園を通ったとき、急にシルフィが立ち止まった。次いで紅葉、華憐、剣吾と立ち止まり、ある一点を見つめていた。士郎達もその方向に顔を向けると、その顔を驚愕に染め、次いで柔らかく微笑んだ。

 

 

その昔、黄昏時は生と死の世界が混ざりあうと言われていた。寂しい雰囲気が感じられるのは、一重に死者の思念が現世に来ているからだとも。

 

今、衛宮一家の視線の先には、四人の朧気な人影が写っていた。夕日が差し込む方向に四人は立っているので、シルエットしかわからなかったが、忘れもしない懐かしい人たちだった。

 

ある人はこれを奇跡と称するだろう。ある人はこれを幻覚と一蹴するだろう。

 

だがこのとき、魔導を志す彼らはこれを奇跡と称した。そして各々の胸のうちに止めた。

 

 

「大丈夫だ。俺は、俺達は前を歩いている」

 

 

男はそう呟き、そして人影に背を向けた。妻たち、子供達もそれに倣い、城屋敷へと歩き出した。末っ子は人影に一度振り返り、小さく手を振った。

 

四人の人影は、その背中を柔らかく微笑みながら見送り、日没と共に光の粒となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか。
最後の人影は誰かは決めていますが、皆さんの想像に任せます。
誰に見えたかはやはり千差万別、その方がいいですから。

因みに私はロンリークリスマスを楽しんでおります。

さて、fateの方ではなく、こちらの番外編を執筆しましたが、今日明日の間にfateを更新し、こちらの本編に戻ります。

それでは皆さん、良いクリスマスを。







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バレンタインの騒動



はい、バレンタイン話です。

それではごゆるりと





 

バレンタインデーについて話すには、まず二つは知っておかなければならないことがある。一つ目はバレンタイン司祭について。もう一つは今日のバレンタインデーになるまでである。

 

 

まずはバレンタイン司祭について記述しよう。

 

バレンタイン司祭は3世紀のローマの人である。

一説によると、当時の皇帝クラウディウス2世は、強兵策の一つとして兵士たちの結婚を禁止していた。バレンタイン司祭はこれに反対し、皇帝の命に反し多くの兵士たちを結婚させた。

無論この行為は皇帝の怒りをかい、ついに司祭は処刑されてしまった。この殉教の日が西暦270年の2月14日で、バレンタイン司祭は聖バレンタインとして敬われるようになった。

以来、この日をローマカトリック教会では祭日としているそうだ。

 

 

ではここでもう一つ、今日のバレンタインデーになるまでについて軽く記述しよう。

 

初期の聖バレンタインデーは、司祭の死を悼む宗教的行事であった。

しかし時代が移り変わると共に、14世紀頃からは若い人たちが愛の告白などをするようになった。

一説には、2月が春の訪れとともに小鳥もさえずりをはじめる、愛の告白にふさわしい季節であることから、この日がプロポーズの贈り物をする日になったともいわれている。

これが今でに言う『愛の日(バレンタインデー)』である。

 

日本ではこれに加え、1970年代後半から、女性が意中の男性にチョコレートを送る習慣が根付いた。そしてそれと対になる、ホワイトデーなる日も設けられている。

ホワイトデーに関してはここでは割愛しよう。

 

日本型バレンタインデーが始まった理由は諸説あるが、一番有力なのは、とある製菓会社が『意中の異性にチョコレートを送る』、ということが書かれた広告を新聞に載せたことだろう。

まぁ最近では異性だけでなく、友人同士で交換したり、自分に買う人もいるが。

 

 

 

さて話は変わるが、冬木でもこの話は例外ではない。無論教会もあるので、クリスチャンの中には馬鹿馬鹿しいと一蹴する人もいる。

しかしこの日は学生のとっては一大イベントであり、とりわけ男子は朝からソワソワと落ち着きのないものが多いだろう。

 

これはそんな少年時代を過ごした男の当時と、今を生きる少年の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Part1

 

 

Side シロウ

 

 

時は第五次聖杯戦争が終わった直後。

本来の三つの道とは違い、この世界では5日で終結した。よってバレンタインデーまでには終わっており、冬木は日常を取り戻している。

 

その日は誰もが浮かれていた。まぁバレンタインデーだから仕方がないといえば仕方がない。

さて、ここ穂群原高校でもバレンタインにチョコを渡す人はいる。意中の相手だったり、お世話になっている先生、部活のメンバーだったりと様々だ。貰って喜ぶ者、貰えずに涙を流す者が学舎には溢れている。

 

しかしここで一際目を惹き付ける三人がいた。

柳洞一成、間桐慎二、そして衛宮士郎の三名である。

 

 

柳洞一成は言わずもがな、柳洞寺の跡取りにして生徒会長、加えて容姿もそれなりに上の方なので、人気があるのも頷ける。

 

 

間桐慎二は元から女子の人気は高かったが、冬木で起こった聖杯戦争を境に、無論一般人は聖杯戦争については知らない、嫌みな性格は多少鳴りを潜め、さらに人気が上昇することになった。

 

 

衛宮士郎は容姿も勉学も身体能力も……いや、身体能力は別として、平々凡々にカテゴリされる人間だが、そのお人好しさから意外にも人気は高かった。

加えて、聖杯戦争を境に髪は真っ白、瞳は銀色、肌は麻黒く変化したことから、より一層生徒達から注目されるようになった。

 

穂群原の教師陣は、衛宮士郎の肌と髪の変化に関して黙認している。

それは元々その変化の兆しが確認されており、さらに義姉がそもそも日本人ではないので、そういうこともあると、さして重要視はしていなかった。

中には士郎が、10年前の冬木大火災中心地の唯一の生き残りと知っている者がいた、というのも理由の一つだろう。

 

だか生徒達はそうもいかない。

彼氏や意中の相手がいる者はともかく、学内でも人気のある男子生徒が、様変わりした外見になっていれば、どのようになるかは幾つか想像出来るだろう。反感を買うものも確かにいたが、殆どは『(プラス)』方向に印象がいった。

再度述べるが今日はバレンタインデー。何が言いたいかといえば、

 

 

「はい、衛宮君」

 

「え、衛宮君。こ、これを……」

 

「衛宮先輩、どうぞですー」

 

 

と、なることだ。

上記男子生徒三名は既に中型の紙袋を二つ消費し、早くも三つ目を取り出している。

慎二はともかく、士郎と一成にチョコを渡す者は、紛れもなく勇者だろう。何故ならば、彼らから少し離れたところから、鬼嫁達(笑)が睨み付けているからだ。

 

 

「……何でまた今年はこんなに?」

 

「それは俺にもわからん。今朝は態々寺にまで来る者もいた」

 

「まぁいいんじゃない? 義理も入ってるんだろ?」

 

「まぁそうだと思うが」

 

「というより、全て義理じゃないのか?」

 

「はいはい、鈍感は黙ってろ」

 

 

男子三名は普段通りである。

その空間を睨み付ける、姉御肌の女子弓道部主将と学園のマドンナ。もう一度言おう、この二人が睨み付けているのである。

この空気の中、チョコを渡すことがどんなに勇気のいることか、非常によくわかってもらえるだろう。

 

と、そこで勢いよく教室の後方の扉が開いた。

そして中に入ってくる銀髪の少女、衛宮士郎の姉である、イリヤスフィール。このあとの展開を予想した悪友二人は、その場からそっと離れた。

 

 

「シローウ!! どーん!!」

 

「ほし!? ほしが見えたスター!?」

 

「ウェヘヘ~♪ シロウだ~♪」

 

 

イリヤは士郎に全体重をかけたタックルをかまし、士郎もろとも床に倒れ込んだ。それを見て真っ先に立ち上がり、現場に歩みよる学園のマドンナ。クラスの皆は少し距離をとり、展開を見守っている。

 

 

「ちょっとイリヤ、何してるのかしら?」

 

「あら、リンじゃない? なによ」

 

「なによって、あなたねぇ」

 

「私はシロウと親睦を深めているの。あなたには関係ないでしょ?」

 

 

イリヤの挑発的な物言いに、凛の顔は険しくなった。彼女らをよく知るものは、二人の後方にアクマとコアクマを幻視しただろう。クラスの皆はアクマは知覚できなかったが、これが真の修羅場と察した。

だが甘い。まだあと一人足りない。

 

 

「……っつつ。とりあえずイリヤ、ちょっと退いてくれ」

 

「ええ~」

 

「いつまでも床に寝てられないから、な?」

 

「むぅ~」

 

 

イリヤはむくれつつも士郎から降りる。士郎は一つ息をつき、椅子を立て直して座った。そしてその膝の上に、イリヤは飛び乗って座った。

そのとき、ブチリッと何かが切れる音が()()聞こえた。

……()()聞こえた。

 

 

「……何してるのかしらチミッ子」

 

「クスクスクス、イリヤさんちょっとオイタが過ぎますよ~♪」

 

「あらなに二人とも? 羨ましいの?」

 

「ウフフフ……♪」

 

「クスクス笑ってゴーゴー♪」

 

「アハハハ……♪」

 

 

いつの間にいた間桐桜も交え、三つ巴の修羅場が繰り広げられていた。見物客は皆一様に顔を青くしている。理由はわかるだろう。

『スーパーアクマ大戦』がすぐ目の前で勃発しているからである。これだけでわかるだろう、ハッキリ言って心臓に悪すぎる。

渦中の衛宮士郎はというと……悟りきった顔をして、天井を見上げていた。親父もうすぐ行くよ、なんて言葉が聞こえてくる。

 

士郎の運命やいかに!!

 

 

余談だが、寺の跡取り次男坊は、姉御肌の主将から理不尽な折檻を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Part2

 

 

 

Side 剣吾

 

 

蛙の子は蛙とは、こう言うことを言うのだろうか?

20年ほど経過した冬木の街、穂群原中学ではどこかで見た光景が広がっていた。

 

 

「はい、剣吾君」

 

「間桐君、はいどうぞ」

 

「先輩!! これどうぞ!!」

 

「「「……剣吾の奴、羨ましい」」」

 

 

衛宮士郎の長男である衛宮剣吾と、間桐慎二の長男である間桐悠斗は、父親同様非常に人気があった。しかし間桐悠斗はともかく、剣吾に関しては、貰ったチョコは全て義理と思っていた。

 

 

「今年も大漁だね、剣吾」

 

「悠斗ほどじゃない」

 

「いやいや、君には負ける」

 

 

渦中の男二人は、周りの嫉妬の視線も気にすることなく、べちゃくちゃと駄弁っている。その机の上には、それぞれに満たされた中型紙袋が二つ、新たに取り出された空の紙袋が一つ置いてある。

 

 

「あれだろ? 日本人らしからぬ外見だがらだろ?」

 

「お前ハーフじゃないの?」

 

「いや、母さんはドイツと日本のハーフ。即ち俺は日本人の血が濃いのだ」

 

「まったく、何話してるの?」

 

 

俺たちが駄弁っているなか、一人の女子生徒が近づいてきた。

柳洞綾音、柳洞一成と美綴綾子の娘であり、俺ら冬木御三家四兄妹の幼馴染みである。最近は綾子姉さんに似てきたのか、後輩や同級生からは姉御と……

 

 

「剣吾、何か言った?」

 

「何もないです、マム」

 

「よろしい」

 

 

くそう、俺将来こいつの尻に敷かれる自信がある。

……自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 

「ほい、これ間桐と剣吾の」

 

「おっ、ありがとう」

 

「おう、ありがと……う? 何か悠斗のと違うような……」

 

「おんなじよ」

 

「流石、愛しのかイデデデデテ!?」

 

「ヨケイナコトイウナ」

 

「……マム・イエス・マム」

 

「んじゃ、あたしは昼練に行くから」

 

 

綾音は穂群原中の女子弓道部主将。

母親譲りの実力と姉御肌っぷりに加え、そして時折顔を覗かせる淑やかぶりにより、『穂群原の巴御前』と言われている。その二つ名は、他校にも知れ渡っているほどのもの。

俺からしてみれば、『太陽を落とした女(テメロッソ・エル・ドラゴ)』のほうが合うと思うんだが。

 

 

「剣吾~? あとで覚えておいてね?」

 

 

……なんでさ。

綾音といい、妹達といい、母さん達といい、俺の周りには変に鋭い女性しかいないのか? 今なら父さんの気持ちも、少しだけわかるかもしれない。

というか綾音、お前エル・ドラゴ知ってたのか。

 

 

「おーい、バカスパナいる~?」

 

「……そのバカスパナってのはやめろ。それにそれは父さんの学生時代のあだ名だ」

 

 

蒔寺葵。穂群原中陸上部のスプリンター。

今は一人だが、よく他の二人と一緒におり、『陸上部三人娘』と呼ばれている。なんでも母親同士も昔からの付き合いで、母親達も『陸上部三人娘』と呼ばれていたとか。

 

 

「いいじゃん? あたしのお母さんも士郎さんをそう呼んでたらしいし。だからあたしもあんたをそう呼ぶ!! それにあたしとあんたの仲じゃん?」

 

「どんな理屈だよ……ん? 電話?」

 

「え? 誰から?」

 

 

葵と話していると、電話がかかってきた。それはヴィルヘルムからの着信だった。しかも映像電話と来たものだ。

俺は机の上の筆箱に、携帯を立て掛けて通話を開始した。何故か葵と悠斗も覗き込んでいたが。

 

因みにヴィルヘルムは日本語が話せない。多少は理解できるらしいが、それでも難しいとのこと。だから必然的にヴィルとの会話は、ドイツ語か英語、フィンランド語になる。今はエーデルフェルトの影響で、専らフィンランド語で話すけど。

 

 

「どうした? そっちは夜中だろう?」

 

『仕事だ。エルメロイからの依頼でな』

 

「今からか? まぁわかったけど、場所は?」

 

『お前は動かなくていい。場所はその学校の校庭だ』

 

「……はぁ!?」

 

『冬木市民には、お前と私の力を隠さなくていいと、エルメロイと万華鏡から言われている』

 

「え? ちょっ、まっ!?」

 

『ではな、五分後だ』

 

ブツッ

 

「……うそーん」

 

 

そうぼやいてしまった俺は、悪くないはずだ。

暫く放心していたが気を取り直し、椅子から立ち上がった。序でに母さん達からのメールも確認した。内容は魔術使用の許可であり、セラさんと桜ねえ、母さんで結界を張るそうだ。

なんかこの街オンリーだけど、こういった隠蔽に関してかなりいい加減な気がする。

 

周りから好奇心てんこ盛りの視線に晒されながら、俺は校庭に移動した。すでに学校の敷地には結界が張られている。流石母さん達、仕事がはやい。

五分後にヘリが学校に到着し、ヴィルが戦闘服を着て降りてきた。かくいう俺も戦闘服を着ているけど。周りの視線なんて気にしてられない。

 

 

「……それで?」

 

「エルメロイの話では、この学校の真上に、ワームホールが開いているらしい。万華鏡によると、第二魔法の産物ではないそうだ」

 

「ワームホール? ……ああ、成る程」

 

「調査のために使い魔を放ったが、どうも食われたらしい。そうとうな大きさのようだ」

 

「そう話してる間に、やっこさんの登場だぜ?」

 

 

ワームホールは徐々に大きくなり、一匹の大きな生き物を落とした。それは蜥蜴のようでもあり、魚類の特徴を持つ、全長12メートルほどの生き物だった。

 

 

「……ゲ○ラに似ているな」

 

「ゲス○? 何だそれは?」

 

「日本の特撮に出てくる、巨大海獣の一つだよ。まぁ、こいつは実物よりも一回り小さいが」

 

「……そうか」

 

「なんでここに出たかは知らないけど、もし○スラと同じなら、チョコが好きなはずだ。その匂いに誘われた、と考えるのが自然かもな」

 

「どちらにせよ、あの獣には罪はないか」

 

 

これで基本方針は決まった。最良でもとのワームホールに帰す、最悪殺す。

 

 

「んじゃ、キバッて行きますか、相棒」

 

「ふんっ……そうだな、相棒」

 

「「憑依結合(ユナイト)!!」」

 

 

新緑色の竜巻が俺達を包み込み、立ち上る。竜巻が晴れたときには俺はおらず、代わりに左右に色が分かれたヴィルのみが立っている。さて、始めますかね。

 

 

「な、何だあのでっかいの!?」

 

「今の竜巻とあの怪物はなに!?」

 

「ふ、二人が一人に!? は、半分こになっちゃったー!?」

 

 

……やり辛い。エルメロイさんは何を考えているんだ。

 

 

『……早く終わらせよう』

 

「……そうしよう」

 

 

目の前で雄叫びを上げる生き物に罪はないから、俺達は名乗りをせずに駆け出した。

 

 

 

 

 

--十分後

 

 

 

 

気絶させた生き物を多量のチョコレートごとワームホールに投げ込むと、穴はひとりでに閉じた。もう何も起こらないと判断した俺達は、憑依を解いて二人に戻った。

 

 

「……ったくエルメロイさんも、人使いが荒いよな」

 

「確かに、それよりあれはいいのか?」

 

「あれ? ……あ(汗)」

 

 

いつの間に俺達は囲まれていた。生徒教師問わずにだ。そりゃそうだ、目の前であんな派手なことが起こり、尚且つそれを解決したのがこの学校の生徒となれば尚更。

そして人混みの一番前にいるのは勿論、

 

 

「士郎さん達の子供だから想像はしてたけど、あたし達に隠し事なんて生意気だねえ」

 

「さて剣吾、キリキリ吐いてもらおうか」

 

 

柳洞綾音と蒔寺葵である。なんでこの二人かって? ご想像にお任せします。

 

 

「ウェイ!? いやえっと……これはだな、その……」

 

「「なに?」」

 

「ええ……おいヴィル、っていない!?」

 

「赤マントならあそこ」

 

 

二人が指差す方向には、既にヘリに乗って退散するヴィルの姿が。いつの間に俺を置いていったようである。それに結界も解除されていることから、母さん達は帰ったらしい。

 

 

「ダディャアナザン、オンドゥルルラギッタンディスカッ!?」

 

「「こっち向け」」

 

「ウェイッ!?」

 

 

結局洗いざらい、俺に関してだけ吐かされた。が、俺の両親のこともあってか、特に反感を持たれることもなく、自然と受け入れられた。

ロード・エルメロイⅡ世はこれを見越していたのか? わからん。

 

それと何故かこの騒動のあと、俺とヴィルのファンクラブが堂々と作られてしまい、ヴィルの情報や俺の情報を求めて追いかけ回されることになった。だが、綾音と葵のおかげで鎮圧された。

 

うん、ホワイトデーと誕生日に美味いお菓子を送ろう。そう言えば朝にはジニーさんからも届いていたし、今年は本気を出すかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ とある場所

 

 

 

「あっ、こんなところにいたのか」

 

「ようやく見つけましたね、○ロ」

 

「ったく世話やかせやがって、この水生蜥蜴は。しかも幸せそうに親子揃って寝てやがるし」

 

「ゼ○、子供の方がが握りしめてるのは何だ?」

 

「ん? ああ、確かこれはチョコだな。なんでも地球のお菓子らしい。親父の話によると、原料はゲ○ラの好物の植物の実だとよ」

 

「なるほど、惑星エスメ○ルダにはないものですね」

 

「ま、なんでもいいじゃねえか。さっさとこいつを元の世界に戻そうぜ。焼き鳥、そっちの親のケツの方頼むわ。弟君は子供の方」

 

「だから私は焼き鳥ではない!!」

 

「わかった」

 

「……もしかしたら、こいつの迷い込んだ先は、別次元の地球? なら、機会があれば礼をいわないとな」

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

タイトルをみて気がついたと思いますが、最新話には横に『NEW』をつけることにしました。
この『NEW』表記ですが、更新後3日まで表示します。

今回の内容、何だか最後は纏まりがなくなった感じになりましたが、後悔はしていません。


それではこの辺で





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四月馬鹿企画

世間では四月馬鹿と騒がれている今日。
今回はその波に乗り、嘘のような話を書きました。

それではごゆるりと






 

 

 ある日、衛宮士郎はいつものように土蔵で鍛練に勤しんでいた。時間帯は夜中、家族は既に寝静まっており、起きているのは士郎だけである。

 思えば色々と変わった人種になったものだ。妻を三人めとり、四人の子供にも恵まれている。聖杯戦争に参加していた頃には、考えもしなかった未来だ。間違いなく、今の彼らは幸せと言えるだろう。

 

 ふと蔵の奥に目を向ける。

 そこには一つの大きな魔法陣が刻まれている。聖杯戦争の折に使用した、サーヴァント召喚用の陣である。あれは非常に濃い五日間だった。士郎がセイバーを召喚し出会ったのも、この陣の前だった。彼女の鞘は、今でも自分の体に溶け込んでいる。

 

 

「……『座』で会うことができたら、そのときは返さねばな」

 

 

 物思いに耽りつつ、士郎は陣を指先で優しく撫でた。

 すると突如、魔法陣は光を放ち始めた。

 

 

「何!? 魔力を注いでないし、詠唱もしてないぞ!?」

 

 

 咄嗟に士郎は陣から離れようとしたが、無情にも光に飲み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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 気がつけばまた土蔵にいた。しかし自分の土蔵とは物の配置が異なり、加えて時刻も早朝と相違点が多く挙げられた。そして目の前に広がるのは、修理しかけの電気ストーブ。

 ……成る程。

 

 

「ここは平行世界の私の家、というわけか。どう思うかね、衛宮士郎君?」

 

「そうなんじゃないのか? まぁ俺の家でもないけど。あんたも別世界の衛宮士郎なのか?」

 

「いかにも。む? どうやら家主が来たようだ」

 

 

 士郎と銀のメッシュの入った隻腕の衛宮士郎が床に座って話をしていると、土蔵の扉が勢い良く開かれた。そしてこの世界の衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜、イリヤ、そして何故かサーヴァント三名が駆け込み、戦闘体勢をとった。

 

 

「あんた、何者?」

 

「返答次第では、この場で排除します」

 

 

 やれやれ、なんでセイバーと若い凛は好戦的なのだろうか? 相手が敵意を有してない場合、ほぼ確実に誤った方向に話が進むぞ? 精々アーチャーのように警戒するだけのほうがまだマシだ。

あげくのはてに、隻腕の士郎に気がついていないときた。

 

「そうは思わんかね?」

 

「いや、知らないよ。俺に聞くな」

 

「えぇッ!? 先輩がもう一人!?」

 

「それに一人は腕が……」

 

「いや、正確には三人だろ?」

 

「いや、もう一人いるから四人だ。なぁ、アーチャー?」

 

「なにっ!?」

 

 

 ……ふむ、中々にいい気分だ。

 別世界とはいえ、アーチャーには色々としてやられたからな、ここらで奴をからかうのも一興だ。これは癖になりそうだ。

 だがまぁそれは置いておこう。今は彼らに敵対しないことを伝えねばなるまい。

 

 

「とりあえず土蔵(ここ)から出ないか? こんなところで話し込むこともないだろう」

 

「そうだな。この世界の衛宮士郎、それでいいか?」

 

「え? ……そうだな。じゃあ客間に来てくれ。あんた達も俺なら、場所はわかるだろう?」

 

「ちょッ!? 士郎!?」

 

「先輩!?」

 

「……本気ですか、シロウ?」

 

 

 家主の言葉に異議を唱える面々。まぁわからなくもないが、こちらとしても情報を整理したいから時間が惜しい。

 

 

「こちらの情報は、出来うる限り開示しよう。君もそれでいいか?」

 

「まぁそれが最善だろうな」

 

「というわけだ。こちら二人は敵対の意思はないのだが……」

 

 

 暫くこの世界の面子が議論していたが、結局客間に通された。

 現在セイバーとライダーは、いつでも仕掛けれるよう俺達の後ろに立っており、四人の衛宮士郎はちゃぶ台を囲んでいる。他の面子も、それぞれこの世界の衛宮士郎の側に座っている。

 と、ここでメッシュの衛宮士郎がぼそりと呟いた。

 

 

「……むさ苦しいな」

 

 

 むさ苦しいとは失礼な。

 

 

「君もその一人だぞ?」

 

「ぐぅ、わかってるよ。でも大人のあんたが一番……いや、違うな」

 

「ああ、一番むさ苦しいのは……」

 

「「そこの赤い不審者(アーチャー)だな」」

 

「「「ブフゥッ!?」」」

 

「なっ!? 貴様ら!?」

 

「「あ? 否定させんぞ?」」

 

「ぐぅ……」

 

 

 ふむ、このメッシュの衛宮士郎とは気が合うかもしれんな。主にアーチャーを弄る方面で。それからアーチャーよ、そんなにしかめ面をしていてはだな。

 

 

「皺が取れなくなるぞ?」

 

「……余計なお世話だ」

 

「いや、もう手遅れだろ?」

 

「そうだった、気付かずにすまない」

 

「オイッ!!」

 

 

 おっと、また脱線してしまった。本題に入ろう。

 

 

「さて、言うまでもないと思うが、私は衛宮士郎だ。この世界とは別世界の存在、まぁ四人もいればややこしいだろうから、呼ぶときは『鍛冶師(スミサー)』と呼んでくれ」

 

「じゃあ次は俺だな。俺も別世界の衛宮士郎。たぶんスミサーとも別の存在だと思う。まぁ呼ぶときは『贋作者(フェイカー)』と呼んでくれ」

 

「私は「「いや、お前はいいや」」オイッ!!」

 

 

 とまぁこんな感じでアーチャーをフェイカーと共に弄りつつ、俺達は最低限聖杯戦争終了までの情報を開示した。そしてこの世界の事情を説明された。

 成る程、繰り返される四日間か。私の世界ではそんなことは起きなかった。フェイカーの世界もそうらしい。世界はたった一つの『if』でこうも変わるのだな。

 

 それにしても、

 

 

「アーチャー、お前はずっと現世に?」

 

「いや、聖杯戦争が終わったときに一度『座』に戻ったのだが……」

 

「だが?」

 

「……驚いたことに、『座』が変容していた。雑草も生えない荒野だったはずなのだが、見渡す限りに青々とした草が生え、宙に浮かぶ歯車は錆びて地に落ち、空を覆い隠す雲も消え失せ、黄昏の空は快晴になっていた。あれはどう言うことなのだ?」

 

 

 成る程、早速良い方向に影響が出たみたいだな。私達の行動が、少しでも実を結んだか。

 

 

「……スミサー、貴様何か知っているのか?」

 

「さて、仮に知っていたとしても、私からは話すことはせんよ。無論衛宮士郎にもフェイカーにもな」

 

「そっか」

 

「まぁわからなくはない」

 

「……」

 

 

 アーチャーは未だ疑わしそうな視線を向けてくるが、私はそれに微笑みを返し、受け流した。流石にこれは話してはならない、所謂禁則事項ってやつだろうからな。

 

 と、横から私の着流しの裾が引っ張られた。目を向けると、この世界のイリヤが興味津々な目をして、私とフェイカーを見つめていた。

 因みに言うと、私は着流しに黒足袋、フェイカーは黒のチノパンにグレーの半袖を着ている。

 

 

「ねぇねぇ聞いていいかしら?」

 

「「ん? (む?)」」

 

「二人は自分の世界で何をしてるの?」

 

 

 私達の現状か。はてさて、どこまで話して良いものやら。

 

 

「ん? 何か話せないことでもあるのか?」

 

 

 ……どうやらこの世界の衛宮士郎は、少々鈍いらしい。まぁ話を聞く限り、まともに魔術の世界に踏み入れたのは、極々最近の話みたいだから、仕方がない……のか?

 

 

「いや、どこまで話して良いものやらと思ってな」

 

「なんでだ?」

 

「考えてもみろ。もし余計なことを話して抑止が動けばどうする? 赤い不審者(アーチャー)のように死んだ後に現界しているのなら多少は良いかもしれないけど、俺やスミサーはまだ生きてるんだぞ?」

 

「下手すればこの世界だけでなく、私達の世界も滅びの対象にされかねんからな」

 

「……そうなのか」

 

 

 だが何も話さないというのもあれなので、フェイカーと色々と話し合い、私達の周囲の人間関係を軽く話すことにした。そしてこの世界のセラが入れたお茶を飲み、一息ついてフェイカーから話し始めた。

 

 どうやらフェイカーは私と同じく、聖杯戦争前からイリヤと和解していたらしい。だが私と異なるのは彼には師がいたことと、聖杯戦争前に間桐の『闇』を滅していたことだ。

 残念ながら、私は聖杯戦争が始まるまで、気づくことができなかった。今でこそ幸せだが、桜は辛い経験を何年も重ねていただろう。

 

 そしてこれは驚いたが、フェイカーは三枝を伴侶に選んだらしい。なんでも中学生の頃からの縁で、聖杯戦争を経て結ばれたようだ。

 俺も彼女と関わりがあるが、どちらかと言えば友人という立ち位置にいる。むしろあの『陸上部三人娘』のなかでは剣吾のこともあって、蒔寺と最も関わりがある。

 本当に世界変わればなんとやら、だな。

 

 

「……とまぁこんなとこだ。この腕も聖杯戦争でやられたけど、今は師匠が義手を製作中だな。次はスミサーの番だぞ?」

 

「承知、と、その前にお茶のお代わりをいただけるか?」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう、セラさん」

 

 

 私はセラが入れたお茶のお代わりを煽り、喉を潤した。

 

 

「さて、何から話すか迷うが最初に言っておく。私は子持ちだ」

 

「「「「…………はっ?」」」」

 

「へぇ……」

 

 

 私がそう言うと、客間の空気が凍りついた。フェイカーを除いて、皆が一様に固まった。というかフェイカーよ、お前なかなか肝が据わっているいるな。

 

 

「「「すみません、何て言いました?」」」

 

「だから私は子持ちだ。四人いて一番下はこの前一歳に、一番上はもうすぐ十四だ」

 

「そっか。どうりで赤い不審者と違って落ち着きがあるわけだ」

 

「貴さ…「ああ、赤い不審者と違ってな」…オイッ!!」

 

 

 いやはや愉快愉快、まさに愉悦。

 しばらく客間は混乱に包まれていたが、やがて落ち着きを取り戻し、今度は凛が質問をしてきた。

 

 

「へ、へぇー。スミサーは随分と甲斐性があるのね……因みに誰と?」

 

「あら、私に決まってるじゃない? リンもサクラも押し退けてね」

 

「イリヤさん、それは聞き捨てなりません!!」

 

「私はいないので関係ないですね、ええそうですとも」

 

「お、おいお前ら……」

 

「「「士郎(シロウ)(先輩)は黙ってて(下さい)!!」」」

 

「……酷い」

 

 

 ……成る程。この世界の衛宮士郎は私よりも鈍感なのか。そして家庭内ヒエラルキーは家主なのに底辺と。

 まぁこの光景をしばらく見ているのも悪くないが、変に諍いが起きるのは嫌だからな、ここらで止めるとするか。

 

 

「ああ~すまないが、三人とも違うぞ?」

 

「「「へっ?」」」

 

「まぁその……なんだ。実はイリヤと凛、桜の三人なんだ」

 

「「「「はいぃッ!? さ、三人とも!?」」」」

 

 

 まぁそれは驚くだろうな。

 

 

「そうだ、これが写真だ。あと凛よ、ガンドを飛ばすのは止めろ」

 

 

 ガンドを飛ばそうとしてきた凛を牽制しつつ、私は懐から一枚の家族写真を取り出した。この写真は、ちょうどシルフィの一歳の誕生日に撮影したものだ。

 私が渡した写真は凛に引ったくられ、そして全員で舐めるように眺めていた。

 ……どうでもいいがアーチャーよ、貴様にそんな目をされる筋合いはないぞ? お前の場合は行く先々で女を引っかけて……おっとこれは禁則事項だな。

 

 

「……なんか複雑」

 

「イリヤさん、すっごく綺麗になってます」

 

「先程話を聞いてましたが……いざ私がいないのを見せられると、何ともいえませんね。……子供たちは可愛らしいです」

 

 

 何か多少空気が重い気がするが、気のせいか? いや気のせいだ、気のせいだと決めた。

 と、またしても着流しの裾が引っ張られた。

 

 

「ねぇねぇ、この二人がそっちの私との?」

 

「ん? ああ、そうだ」

 

「……そう」

 

 

 物憂げな表情を浮かべる、この世界のイリヤ。そうなるのも仕方がないか。

 片や妻として、片や姉として本家とも円滑な関係を結び、未来を手にしている。だがこの世界のイリヤを見る限り、本家とはあまり上手くいっていないのだろう。険悪ではないみたいだがな。

 

 だが私は別世界の存在、おいそれと手を出す訳にはいかん。世界の流れを変えるのなら、その世界の行く末を死ぬまで見届けなければな。

 まぁこのときの私は、近い将来そうなるとは考えてもいなかったが。

 

 

「あくまで私の話だよ。この世界でその可能性がないわけではない」

 

「絶対に結ばれる、とは言わないのね」

 

「無責任なことは、あまり言いたくないのでな」

 

「ふーん、まぁいいわ。ねぇねぇ、子供たちのことを聞かせて!!」

 

「いいぞ。私の前に立つ少年は剣吾と言ってな、息子は……」

 

 

 そこからはフェイカーを含めた皆から、子供に関する質問を浴びせられた。ただ子供達の魔術に関する問いは、全て黙秘の姿勢をとった。無論私に関する質問もあったため、私と凛、桜が英雄になっていることは黙秘した。

 

 そしてこの世界の昼少し前、セイバーと手合わせを終えた後に、私とフェイカーの体か透けはじめた。

 

 

「……どうやら」

 

「時間みたいだな」

 

 

 私とフェイカーは誰に言うこともなく、ぼそりと呟いた。この世界の皆は、一様に残念そうな表情を浮かべる。

 アーチャーは相変わらず仏頂面だが。

 

 

「先程も言ったが、皺が取れなくなるぞ?」

 

「ふん、余計なお世話だ」

 

「まぁお前がそれでいいのなら構わんが。少しは笑顔を浮かべてみろ、そうすれば多少は世界の見え方が違ってくるぞ?」

 

「……善処しよう」

 

 

 

 そう、それでいい。仮令英霊となったあとでも、そうしかめ面をしていては幸せは訪れんよ。

 

 

「あの……スミサーさんとフェイカーさんは……消えるんですか?」

 

 

 桜がおずおずと聞いてくる。他の面子も言葉には出さないが、皆が心配そうな顔をしている。

 だから私とフェイカーは、安心させるように笑顔を浮かべた。

 

 

「消えるんじゃない。帰るのさ、元いた場所に」

 

「そもそも俺達は別世界の存在だ。むしろこうなることは必然だぞ」

 

 

 私とフェイカーは言葉を紡ぐ。

 

 

「この世界の俺、お前はお前の道を進むんだ」

 

「焦らなくていい、遠回りしていい。お前が、お前とアーチャーが抱いた想いは、決して間違いではないのだからな」

 

 

 もう足は殆ど消えている。

 

 

「一人だけでできることなんて多可が知れてるからな」

 

「迷ったときは立ち止まるのも大切だ。私も何度もそうしたし、何度も皆に助けてもらった」

 

 

 上半身も殆ど消えかけている。

 最後に彼らに、この言葉を送ろう。

 

 

「衛宮士郎」

 

「……なんだ?」

 

「夢を持て」

 

「……え?」

 

「英雄に、正義の味方になりたければ夢を持つんだ。そして、誇りも。忘れるな」

 

「いつかまた会うことがあれば、そのときは茶でも飲もう」

 

 

 フェイカーの言葉を最後に、私達二人はこの世界から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

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 意識が浮上し、目が覚める。見慣れた天井、時刻は朝の九時頃、三人の娘が顔を覗きこんできた。息子は壁に寄りかかり、こちらを眺めている。ああ、俺は帰ってきたのか。

 

 

「起きたか、父さん」

 

「ああ……おはよう、みんな」

 

「「おはようございます、お父さん(お父様)」」

 

「おあよう、パパ」

 

「シィちゃん、華憐ちゃん。お母さんたちを呼んでくれる?」

 

「「はーい(あーい)」」

 

 

 紅葉の言葉に応え、二人が出ていった。体を起こすと、戸口にいた剣吾が近づいてきた。

 

 

「父さん、大丈夫なのか?」

 

「ああ、特に違和感はない」

 

「本当ですか?」

 

「本当だよ、紅葉。剣吾、俺はどうなったんだ?」

 

 

 俺は剣吾に質問した。どうもあの後、こちらの世界では昏睡状態だったらしい。となると、魂だけが英霊のような形であの世界に連れていかれた、ということになる。

 

 

「シロウ、大丈夫なの?」

 

「まったく、ヒヤヒヤさせないでよね」

 

「目が覚めて良かったです」

 

 

 そこでイリヤ達が部屋に入り、俺に異常がないか検査を受けた。結果としては、幸い何も異常は見つからなかったようだ。

 まだ皆は朝食を食べてなかったらしく、ちょうど俺の目も覚めたから食べることになった。

 

 

「……士郎さん、楽しそうですね」

 

「そうね」

 

「む、そう見えるか……いや、中々に面白い体験をしたものでな」

 

「あら、どんな体験したの、シロウ?」

 

「シィたちも聞きたい!!」

 

「そうだな、なら食べながら聞かせよう「「ワーイ!!」」こらこら、廊下は走るなよ?」

 

「あーい!! モーちゃん抱っこ~」

 

「お兄様、おんぶ」

 

「ふふふ、はいはい」

 

「ほれ、おぶされ」

 

 

 廊下を進んでいく四兄妹。それを優しく見つめ、ゆっくりと後を追う一人の男と三人の妻。

 今日も冬木は日本晴れ。頬を撫でる春先の風は、とても優しく心地好いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

いやはや打ち込んでいて気になっていたのですが、変換しなくていい漢字が変換できるのに、変換すべき漢字が変換できないとはこれはいかに。

さて今回の話ですが、転移先は一応ホロウ後の世界です。そしてもう一人出てきた衛宮士郎は、私のもう一つの小説に出てくる士郎です。
そして子持ち士郎の口調ですが、他人口調になっていることが気になると思います。
この事に関しましては、あくまで子持ち士郎の家族は元の世界の凛達、よって若い凛などは他人と認識しているためです。
まぁ年長者の余裕も幾分か含まれていますが。



それでは今回はこの辺で。




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Two century passed IFルートその①

一発ネタです。
それではどうぞ。





 

 

 1998年、魔法界の命運を左右する戦いがホグワーツで起こった。

 最強の闇の魔法使いと恐れられていたヴォルデモート卿と彼が率いた”死喰い人(デスイーター)”と呼ばれた集団と、アルバス・ダンブルドアが組織した”不死鳥の騎士団”と呼ばれた集団を中心とした反対組織による激突。双方ともに多大な犠牲者を出した末、ヴォルデモートの死亡により終結し、魔法界、マグル界ともに平和を勝ち取った。

 しかし歴史は繰り返される。

 これは、かの戦いから200年経過した世界の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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≪聞こえるか、ホグワーツに立てこもる者達よ。俺様はヴォカントモールテン郷だ。今俺様は貴様らの頭に直接語りかけている≫

 

 

 頭に鳴り響く、寒気を感じさせる冷たい声。近年稀にみる闇の魔術を極めた魔法使いは、自らの名を”死を呼ぶ者(ヴォカントモールテン)”と名乗り、幾人もの手下を従えて魔法界を蹂躙した。

 魔法族至上主義を掲げ、自らに逆らうものは容赦なく殺害してきた彼に対し、人々は昼夜怯えながら過ごしていた。

 今や書物上の存在として語られる英雄マリナ・ポッターも、100年を生きた末に大往生して今はこの世にいない。そしてその遺体、墓の所在は誰にも知られていない。

 書物に書かれている通りの活躍をしたのならば、このような闇の魔法使いはすぐに片づけられただろう。しかし今はもういない存在を求めても、何の慰めにもならない。

 同様に、魔法界に伝わるある伝説も頼ることが出来ない。

 

 

――求めよ、さらば救いは与えられん。汝、真に助けを求むとき、彼の者は必ず来る。彼の者は常世全ての救世主。彼の者は世界の守護者。心せよ、汝真に正しき行いをせし時、彼の者の救いを賜る。

 

 

「ねえシャルル、作戦はあるの?」

 

「…一先ず下級生は外に逃がそう。”必要の部屋”から”ホッグスヘッド”に続く道があるから。あそこの店主は知り合いだからな」

 

「じゃあそうしましょう。みんな聞いて!!」

 

 

 七年間行動を共にしてきた友人たちが指揮を執り、順に幼い子たちから逃がしていく。教員たちとヴォカントモールテンに対する反対勢力、”竜の頭”は学校の防御を固めている。だから今は俺たちが行動するしかない。

 

 

≪さて、お前たちは何やら俺様達に対抗しようと企てているみたいだが、無駄なあがきは止したほうがいい。俺様も魔法族の血が流れることは望まない≫

 

 

 奴の演説は続く。

 

 

≪そこでだ、これから一時間時間をやる。その間に逃げる者は逃げ、戦うものは英気を養うといい。一時間だ≫

 

 

 そう言って奴は念話を切った。さて、1時間でどれほどの準備を整えられるかわからないが、やるだけやってやろう。名前も知らないご先祖様は、自分の持ちうるもの全てを用いて危機的状況を打開したという。ならば、俺もやれるだけやる。

 

 

≪さて。聞こえているか、エミーユよ。今俺様は貴様にだけ話しかけている≫

 

 

 突如俺の頭に響く声。一年の時に偶然奴の計画を阻んで以来、目の敵にして俺を執拗に殺そうとしてくる。俺の運のなさはどうも先祖譲りらしく、問題に巻き込まれるのは慣れてしまった。

 そしていま、重なりに重なった結果、魔法界を左右する抗争へと繋がる間接的要因になってしまった。

 

 

≪貴様だけは俺様が手ずから殺す。首を洗って待っていろ≫

 

 

 一方的に宣告され、念話が切れた。今の俺の実力では、奴に勝つことは到底かなわないだろう。奴に勝つためには……。

 ふと”必要の部屋”の隅っこに目を向ける。そこには不可解なものが置いてあった。この部屋は何度も使ったことがあるが、いままでこんなものを見たことがない。

 そこには小さな台座があった。中央には木彫りの杯のようなものが置かれ、九枚のカードが囲んでいた。其々に剣士、槍兵、弓兵、騎乗兵、魔術師、暗殺者、狂乱者、復讐者、救世主の絵が描かれていた。

 一見何の変哲のない普通のカード。しかし俺にはこれらが、何か重要なものに思えて仕方がなかった。とりあえず一番しっくりとくる弓兵と救世主、復讐者のカードを手に取った。意味はないかもしれない、だがせめてものお守りとして懐に入れた。

 

 

「……シャルル!! 避難は終わったわ!!」

 

「今残ってるのは成人した人と、わざわざ来てくれた人たちだよ」

 

 

 友人二人が知らせに来てくれた。幸い二人にはこの台座に気づいていないらしい。俺は二人に礼を言い、部屋に集まる集団の元へと向かった。

 残り四十分、準備をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 結論から言うとどちらも犠牲者が続出し、戦いは一旦小休止を置くことになった。奴の軍勢は禁じられた森の奥へと籠り、こちらはボロボロになったホグワーツの大広間で治療等を行っている。犠牲者の中には、俺が懇意にしていたもの、俺を擁護してくれたものもいた。

 

 

≪エミーユよ、聞こえているか?≫

 

 

 頭に再び奴の声が聞こえてくる。

 

 

≪このままでは互いにジリ貧だろう。そこでだ、貴様に提案する。これより一人で俺様のもとに来い。一対一の決闘で決着を付けよう。俺様が敗れた暁には軍勢を撤退させよう。条件を飲むのなら準備を済ませ、一時間以内にここに来い≫

 

 

 一方的にまた宣告され、さらには場所まで頭に映し出された。

 さてどうするか。ここで奴の言葉を無視すれば、再び総力戦になるだろう。そうなれば今以上に死傷者が出てしまう。それは俺の望むところではない。

 ならば決闘に応じたら? それこそ負ける可能性が高くなってしまう。奴は俺が死んだあとのことを言わなかった。ということは自身の勝利を確信しているゆえに、言う必要がないと考えたのだろう。

 考え事をしていると、気が付けば俺は湖の畔にいた。そういえば、校長室の肖像画の一つ、アルバス・ダンブルドアの墓もここにあった。

 視線を横に移すと、果たしてそこには()()の墓があった。一つはダンブルドアの墓で相違ないだろう。ならばもう一つは誰のだろうか? この六年間、ダンブルドアの墓は何度も見たことあるから、近くにもう一つ会った記憶はない。俺は気になって近づいた。

 

 

『偉大なる大魔法使い、アルバス・ダンブルドア、ここに眠る』

 

『救世の聖女、マリナ・ポッター、ここに眠る』

 

 

 まさかの人物だった。あちこち探しても見つからなかった曽々祖母の墓。ホグワーツにあり、さらに隠蔽までされてるなんて誰が判るだろうか?

 それにここに張られている結界は俺たちの魔法とは異なるもので、墓を囲むように四方を十字架のような剣で囲まれていた。誰が張ったのかもわからない結界を誰が用いて、そして誰が彼女の墓を守っていたのか。真相はわからない。

 視線を下げると、百年の月日で張り付いた苔に隠れ、何やら文字が見えた。手が汚れることも構わず、その苔を出来るだけ取り除く。そしてあらかた取れたとき、ようやく何が書かれているかを読み取れた。

 

 

『これを見ているということは、貴方は私の血を継いでるのでしょう。私の墓は私の子孫であり、一定条件を満たした人だけが見つけることができます。あなたがどのような状況であるかは、死したみである私にはわかりません。ですがこれだけは伝えます。

 諦めないで。

 力を持つものは、それ相応の責任が伴います。生きていくうえで理不尽なこと、自分の力が及ばないことなど山ほど出くわすでしょう。でも打開する可能性があるのなら、一抹でも望みが残されてるのなら、決して諦めてはいけません。自分を信じて、前を進みなさい』

 

 

 墓の足元にはそう書かれていた。言葉の一つ一つに魔力が込められているかのように、体と心の奥深くに言葉が染み渡った。

 諦めるな、か。

 そうだ、俺はヴォカントモールテンに実力は劣っている。それは考えるまでもないことである。だがそれでも、望みがないわけではない。限りなくゼロに近い可能性でも、残っている可能性を手繰り寄せて最良の結果を導き出す。物心ついた時からやっていたことだ。何故俺は忘れていたのだろうか。

 懐から三枚のカードを取り出す。物言わぬカード、でも確かに俺の手にあるカード。俺は手元に弓兵のカードだけを残し、残り二枚を墓においてその場を離れた。

 杖を抜き、右手に持って森の中を歩く。俺が敵のもとに向かっていることは他の人には知らせていない。この場、そしてこれから向かう場には俺一人しかいない。自然と左手に持ったカードを握る。その拍子に指先が切れ、血がにじみ出た。

 一瞬、カードから弱い鼓動が感じられたが、それもすぐに収まった。気のせいだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 どれほど歩いたのだろうか。長い時間歩き続けると、開けた場所に出た。今は夜のため、森の中には光が一切ない。しかし、木々の隙間から差し込む星々の光や、満月の光によって動くものは分かることが出来た。

 

 

「…来たか」

 

「お望み通り、一人で来たぞ」

 

「そうか、そうか一人か」

 

 

 ヴォカントモールテンはクツクツと笑い、取り巻きも嫌なニヤニヤを浮かべた。さて、奴はさしの勝負を提示したけど、取り巻きにとってはそんなことどうでもいいだろうな。昔の”死喰い人”と呼ばれた奴らとは違って、この取り巻き達には忠誠心がない。死喰い人よりももっとたちの悪い奴らだ。

 

 

「さて、始めようか」

 

 

 言うや否や、杖をひらりと振るうヴォカントモールテン。とっさに近くの木に隠れると、緑の閃光が木に当たって霧散した。

 

 

「逃げるだけか!!」

 

 

 ヴォカントモールテンが叫ぶ。無論こちらも逃げてばかりではいられない。木の陰から飛び出し、木から木へと走り移りながらこちらも魔法を飛ばす。緑と赤の閃光が夜の森を駆け抜け、辺りを照らす。

 互いに呪いを飛ばしていると、意図しない方向からも呪いがきた。咄嗟に木の影に隠れ、周りを見る。予想通り、取り巻きの一部が数名、こちらに杖を向けていた。

 

 

「邪魔をするなと言ったはずだ」

 

「早く終わらせりゃいいじゃん」

 

「待つの面倒だし」

 

 

 しゃべりつつも攻撃の手を緩めない奴ら。こうなったら先に取り巻きを眠らせよう。

 木の陰から飛び出し、無言で四本の失神呪文を放つ。うち三つが敵にあたり、残りはヴォカントモールテンを含めて4人、全員が死の呪いを放ってくる。木を陰にしつつ、さらに二人の取り巻きを失神させた。残る取り巻きは一人。

 しかし俺の運はここで尽きた。

 取り巻きの一人が放った拘束呪文にあたり、魔法で生成されたロープに縛られてしまった。

 

 

「ようやく捕まえた。ったくちょろちょろしやがって」

 

「俺様一人でけりをつけたかったが、仕方がない。さて、覚悟はいいかエミーユよ」

 

 

 ヴォカントモールテンが杖を俺に向け、近づいてくる。次の一手で俺は死ぬだろう。だがせめて、せめて奴に一泡でも吹かせなければ、俺は敗北してしまう。それだけは駄目だ。俺は…俺自身を貫くためにも、ここで負けるわけにはいかない。

 

 

「…死ねない」

 

「何か言ったか?」

 

「死ねないって言ったんだよ」

 

「ふん、往生際の悪い奴だ」

 

 

 奴は俺を一瞥し、杖を掲げた。

 

 

「ッ!? おらぁ!!」

 

「ぐっ!? 貴様ぁ……」

 

 

 体を無理やり動かし、ヴォカントモールテンの脛を蹴り上げる。それによって一時的に奴の気力を逸らせた。しかし悪あがきもここまで、全身金縛り呪文を使われ、指一つ動かせなくなった。

 

 

「小賢しい真似を…さっさと死ねぇ!!」

 

 

 再度こちらを睨みながら杖を掲げる。もう何もできない。せめて指一つでも動かすことが出来れば。

 

 

≪この絶望的な状況で、諦めなかっただけ良しとしよう。流石は彼女の子孫、といったところか≫

 

 

 突如辺りに響く声、しかし誰かが話したわけではない。この場にいる人間で、あのような渋い声を出す人間はいない。とすると誰の声なのだろうか。

 

 

「誰だ!!」

 

 

 ヴォカントモールテンが叫ぶが、誰も応える者はいない。唯一反応を示したものは、俺の懐だけだった。

 懐から光が漏れ出し、輝くカードが一枚飛び出した。カードは俺を縛る呪いとロープを断ち切り、ヴォカントモールテンと取り巻きを吹き飛ばし、身を起こした俺から一歩前の場所で滞空していた。

 やがてカードの光は強くなり、太陽のように輝きだした。

 

 

「な、何だ!?」

 

「眩しい…!!」

 

 

 取り巻き達が叫ぶ。

 太陽のように輝いたカードは一度更に眩しく輝き、やがて光っていたのが嘘のように輝きを失った。

 光が収まった先にはカードではなく、一人の男が立っていた。

 

――その男は、光が差し込まない夜の森でもわかる白髪と白い外套を身に付けていた。

――その男は、日本の武士が着ていたような腰の鎧を身に付けていた。

――その男は、見たものを引き付けるような白黒の双剣を両手に持っていた。

 

 

「貴様、何者だ!!」

 

 

 ヴォカントモールテンが再び叫ぶ。目の前に立つ男は皮肉気な笑みを浮かべ、もったいぶるようにして答えた。

 

 

「もう一度聞く。お前は何者だ」

 

「さて、何者かと問われれば答えに迷うが。一応答えておこうか」

 

 

 そして男は外套を外し、双剣を弓を引き絞るようにして構えた。

 

 

「私は通りすがりの魔術師。世界によっては”錬鉄の英雄”とも、”正義の体現者”とも呼ばれている」

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。
本当に突発的に思いついたもので、アイデアが残っているうちに書き留めた結果こうなりました。
前書きにも書きましたが、一発ネタです。しかしこれをもとに次世代の話を書きたい人は自由にどうぞ。
次回はちゃんと本編を更新します。




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賢者の石
0, プロローグ


まずは手始めとしてプロローグを。
基本的に今後も平均この長さにする予定。

TSはハリーのみです。
この物語ではハリー → マリナ としています。


Side others

 

プリペット通りに住むダーズリー一家は、世に言う摩訶不思議な事象は断固として認めないことでとおっている。そして一家は自分たちは「マトモ」であると豪語していた。

 

しかし、彼らにも秘密はあった。一家のなかではポッター夫妻に関することは決して口に出すことはない。それは彼らのなかで暗黙の了解となっていた。

 

「ポッター夫妻と親戚であると知られてはどうなるかわかったものではない。マトモな自分たちがマトモでなくなる」

 

そういった一方的な拒絶の意識を持っており、関わろうとしなかった。

 

これが11年前に崩れ去ってしまった。ポッター夫妻は死に、その娘が押し付けよろしく玄関におかれていたのだった。無論無視し、施設に預けることもできたがその場合近所からどう見られるかを考えると、育てるという選択しかなかった。

 

 

 

 

Side Marinna

 

11年前、私の両親は死んだらしい。死因を引き取りさきの叔父叔母に聞いたが、はぐらかされてばかりだった。覚えているのは緑色の閃光と女性の悲鳴、そして高笑い。

 

なぜそれしか覚えていないのか、なぜ思い出せないのか。考えてもわからない。微睡みに身を任せながら考えていると、物置を叩く音がした。

 

「いつまで寝てるんだい。さっさと起きな!

今日はダドリーの大切な誕生日なんだからね!」

 

我が従兄弟のダドリーの誕生日か。正直面倒臭い。でも起きなくてはなにされるかわかったものではない。 基本的に、叔父叔母の言うことを聞いていれば余計な波風はたたないと、この11年で学んだ。ならばあとは行動するのみ。長く、憂鬱な1日の幕開けである。

 

そういえばあの変わった東洋のきれいな白髪(はくはつ)の男の子。シロウ・エミヤ君。確かフィッグさんの家に居候してたはず。

元気にしてるかな。

 

 

 

 

 

 

Side ???

この世界に来て5年。飛ばされるとき、何かしら修正が来るとは覚悟してはいたんだが・・・

 

肉体が6歳なっているだなんて誰も思わないだろう!

なんでさ!

幸い魔術回路はそのまま、礼装もサイズ違いがバックに入れられてはいたが。

 

まあ嘆いても仕方がなかったからいろいろ模索していると、一人の老人から声をかけられた。何でもこの世界の魔法使いらしく、予言で東洋の少年が来ると言われていたらしい。

 

何もない空間が虹色に輝きながら裂け、そこから俺が出てくるのが見え、やって来たという。少々、いやかなり胡散臭い出で立ちだったため警戒していたが、予言の中身とこの世界の仕組みを教えられ、あまつさえもう一人の予言の子を守って欲しいときた。正直他にどうしようもなかったのでその話を条件付きで受けることにした。

 

そしてもうすぐ、手紙が彼女と俺に届くはずだ。ホグワーツとやらの魔法魔術学校の入学許可証らしい。さて、いよいよ行動するときがくる、

 

「シロウや、ちょいと手伝ってくれないかい?

窓磨きをしてほしいんだよ。あともしかしたらこのあとマリナが来るかも しれないから、クッキーを一緒に焼いてくれないかい」

 

おっとつい回想に夢中になってしまった。

さて、家主のフィッグさんも呼んでいることだし、いくとしよう。しかし窓磨きか。ふむ、俺を手こずらせたくばこの三倍の汚れを持ってこい!

 

 




今回はここまでです。
レポートや随筆、小論はいくらか書いたことがありますが、二次創作とはいえ物語を書くのは初めてです。

はじめまして、こんにちは、こんばんは、おはようございます、ホロウメモリアルです。

Fateは一応ステイ、ホロウ、ゼロ、エクストラ、CCCは既プレイ、既読ですが、やはり完全把握とは言えません。所々原作と異なる場合がありますが、ご容赦ください。
ハリポタも、最終巻がまだ大きい本の時代に読んでからだいぶ期間が空いているので、いろいろと省かれている箇所があるかもしれません。

文章も酷いかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。

次回は設定及びちょっとした小話を書こうかと思います。




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設定 小噺 ★


予告通り、設定と小噺を入れさせていただきます。

マリーのイメージを追加しました。2018/10/14


 

◎ 衛宮士郎 以後表記と呼称はシロウ

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

本作品の彼は少々特殊。

第4次聖杯戦争の終わり、本来ならば記憶を失って切嗣に救助される。

しかし聖杯の泥に触れてしまい、一時『』に繋がり、果ては守護者エミヤの座にたどり着く。

 

未来の自分との刹那の対面と対話を経て、記憶の一部を読み取ってしまい、魔術回路がすべて開通することになる。

原作同様切嗣の養子になるが、自らが体験したことを切嗣に話し、己が魔術を鍛えあげる毎日となる。

 

五年たったとき、最後の機会として切嗣に連れられ、アインツベルンに特攻する。アハト翁に何度も改心を促し、休みなく一週間かけてようやく説得に成功。(因みにこの時切嗣もイリヤと和解。三日後に安堵した顔で永眠。)第5次聖杯戦争をもって聖杯を解体、浄化する方針を立てる。

 

三家のうち遠坂はこれを了承、間桐は拒絶し独断専行を行う。

聖杯戦争で邪杯にされそうになる桜を士郎と凛で救出、言峰の協力のもと蔵硯を本体もろとも消滅に成功する。

 

一段落ついた矢先に、アーチャーが強制契約解除。自分殺しをして自らの存在を消すために、衛宮士郎と殺し合いを繰り広げる。

しかしUBWルート同様、衛宮士郎の姿に原初の自分の願い、第4次聖杯戦争の地獄で切嗣に救われる前の願い、切嗣との誓いを思い出し、敗北を認める。

その後、一旦衛宮邸に戻ることになったが、天の杯のための衣を取りに行くため、イリヤはアハト翁と共に郊外のアインツベルンの城に向かうことになった。

また、桜救出においてライダーとも和解、協力関係となる。

しかし翌日、郊外のアインツベルンの城にて、もう出現しないはずの影が現れる。拠点を構えていたイリヤを逃がすために、バーサーカーが囮となり、汚染される。急報を聞き、駆けつけたシロウ一行は汚染されたバーサーカーと遭遇。アーチャーの活躍により命のストックを半分まで削り、その技量をコピーして体に覚えさせたシロウとセイバーによって残りのストックを終わらせる。

 

バーサーカーを倒し、イリヤを任された直後にイレギュラーの8体目のサーヴァントたる英雄王が顕現し、急襲。マスターであった言峰と共にイリヤを拐い、十年前の地獄を再現しようと企て、大聖杯のある柳洞寺の地下空洞へと向かった。

追いかけたシロウ一行は、アンリ・マユを誕生させる際に言峰と英雄王をアーチャー、セイバー、凛、桜、ライダーと協力し、これを討ち取る。

なお、その他のサーヴァントは泥に飲まれて既に消滅。

誕生したアンリ・マユを、害をなす前にイリヤとアハト翁の協力のもと、皆で消滅させる。

この時に、その成果が「世界」に認められ、凛、桜、士郎は死後に正規英霊として座に招かれることが確定。アーチャーは衛宮士郎が死ぬまで、代わりとして正規英霊エミヤシロウとなり、その後、1人格として融合することが決まった。

エミヤシロウは、自分殺しこそ果たせなかったが、結果的に守護者の無限殺戮地獄から解放されたことにより、衛宮士郎と和解。他の英霊と共に座に還った。

 

アインツベルンは士郎らの語り部として、後世に語り継ぐ使命を新たに背負うこととなる。

その後凛と桜、イリヤと共に、時計塔、万華鏡、血と契約の姫君、殺人貴、人形師と巡り合い、戦場を転々とした果てに、最終的に封印指定となる。万華鏡の卒業試験という名目のもと、凛の初平行世界運営として、この世界に渡ってきた。因みに封印指定を受けたとき士郎は怒ることなく、変わりに怒り狂う万華鏡と妻達、黒のお姫様を宥めるのに必死だったとか。

 

元の世界では衛宮士郎は錬鉄の(または剣製の)英雄、凛は万華鏡の女傑、桜は落花繽紛(らっかひんぷん)の聖母として語り継がれている。彼が世界を渡る直前に無銘の剣を投影して凛に渡したが、凛のネックレスの宝石を鍔に嵌め、桜のリボンを柄に巻き、イリヤの髪で作った組ひもを柄頭に結びつけて、現在は柳洞寺に納められている。

 

なお、性格は元祖万華鏡や黒のお姫様たちのせいで、少々愉快なことになっている。具体的には、他人をからかうのが好きだとか。

原作と違い、自身を省く思考はそれほど持っておらず、自分を守れない人間が大切な人たちを、他の人たちを守ることはできないと考えている。

 

イリヤとの間には長男の衛宮剣吾。その妹シルフェリア・フォン・アインツベルンを。凛との間に娘の華憐(オルテンシアとは無関係)。桜との間に娘の紅葉をそれぞれにもうけてる。

 

外見はUBWラストの髪を下ろしたアーチャーと同じ。世界を渡って肉体が6歳になっても、髪の色は白、肌は麻黒いまま。

セイバーにアヴァロンは返却しようとしたが断られ、そのまま聖杯戦争が終了。体に埋め込まれたままである。

 

 

 

○ 能力

固有結界:無限の剣製

 

術者の心象世界を現実に侵食させ、具現化する魔術の大禁呪。

今回はUBW2015の後期エンディングのような世界。

 

 

心眼(真):詳しくは自己検索でお願いします。

 

 

執事スキル:EX

 

その他、アーチャーが持つ能力は一通り保有。

 

 

 

○ 戦闘スタイル

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

本作品の衛宮士郎は状況や必要に応じて3つの戦闘スタイルを自在に変更している。刻印として体に術式を体に刻み込み、瞬時のスタイル変更を可能とした。刻印は背中に刻まれている。

 

 

ガーディアン:

2015UBWの回想に出てくる、守護者エミヤのようなスタイル。主に潜伏、狙撃、軽い戦闘を行う際の服装。ただし、外套には令呪の模様付き、黒の布地。

起動詠唱は「刻印接続・起動、形態変化・守護者」

 

 

 

アーチャー:

その名前の通り、サーヴァントアーチャーとしての赤原礼装と戦闘スタイル。

起動詠唱は「刻印接続・起動、形態変化・弓兵」

 

 

ゼロオーバー:

いわゆるGOリミテッド/ゼロオーバーのスタイル。これは英雄王で言う、慢心の欠片もない一生涯に一度あるかないかの本気モード。士郎自身はどのスタイルでも本気だが、自らの理想を捨て置いてでも成し遂げたいモノ、護りたいモノがあるときのスタイル。

起動詠唱は「全刻印接続・起動(オール・スタンディングバイ)最終戦闘形態(アウェイクン)臨界/零点突破(リミット/ゼロオーバー)

 

 

基本的にガーディアンスタイルで行動。三大魔法学校対抗試合(以後表記はT.W.T)、ハリポタ七巻の最終決戦はアーチャーかリミテッドゼロを使用させる予定。

 

 

 

 

本来型月では、人々の信仰により魂が精霊の域にまで祀りあげられ、英霊となるとされている。世界との契約や信仰の力が弱いと、抑止の守護者となるとされている。

本作品ではそれに加えて、生きている間に人類、または世界に害なす事象を未然に防ぐ、もしくは最小限の被害に押さえつつ、確実に元凶を消滅させるなどをすると、「世界」に認められることになり、英霊となることができるようになる。しかし、そういったことはとても零に近い確率でしか発生しないため、本作品の衛宮士郎と凛、桜はある意味異常ととれる。イリヤは一応資格はあったがそれを望まず、アハト翁はいろいろやらかしていたため、そもそも資格はなかった。

 

 

 

○ 各キャラクターへの印象

 

 

マリー:

娘みたいな感覚。紅葉に雰囲気がにている。

 

ダドリー:

ワガママ坊主。親の教育が悪い家庭の極端例。何度か説教をしたことにより、少し対人関係かマトモになったことを安堵中。けど太りすぎ。ダイエットしろ。

 

愉快な仲間たち:

虎の威を借る狐ども。とるに足らない。

 

バーノン:

ダドリーの親。子がかわいいのは同じ子持ちとしてわからなくはないが、甘やかし過ぎ。マリーをいじめるな。太りすぎ。ダイエットしろ。

 

ペチュニア:

素直に慣れないマリーの叔母。影でいろいろ世話を焼くならもっとオープンにすれば楽になるだろうに。

 

ロン:

優しい家族に囲まれる気の許せる同級生。弟みたいな感覚。きれいな赤毛が少し羨ましい。

 

ウィーズリー一家:

暖かい家族の見本。きれいな赤毛が羨ましい。いろいろな面で腐れ縁になると予想。

 

ハーマイオニー:

聡明な子。雰囲気が凛や華憐に似ている。アクマにはならないだろうと安心している。

 

 

 

 

 

 

 

◎ マリナ・ポッター 以後表記はマリー

 

 

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【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

原作ハリーの立場にいる少女。ダーズリー一家からの扱いは基本的には原作通り。性格は少し純粋過ぎる面有り。

 

外見はfateエクストラのザビ子が一番近い。目は親譲りの緑色。髪の色は真っ黒。髪型はザビ子のように毛先にウェーブはかかっておらず、ストレートかポニテである。原作ハリーが額に傷痕を残しているのに対し、マリーは左側鎖骨の少し上辺りに稲妻形の傷痕がある。

 

原作のハリー・ポッターほど精神が幼くはない。目下最大の夢は当たり前の幸せな家庭を持つこと。当たり前=幸福という考え方をしている。自分が幸せになるという夢は、士郎が気まぐれで聞かせた自身の過去(無論、人物の名前はぼかしている。)を聞いた際に決めたもの。

 

好きな食べ物は、シロウがたまに作ってくれるお弁当。

 

 

○ 各キャラクターへの印象

 

シロウ:

気になる幼馴染み。お兄ちゃんみたい。シロウの膝枕は全て遠き理想郷(アヴァロン)。恋愛感情なし?

 

ロン:

魔法世界の最初の友達。気を許せる同級生。恋愛感情なし。

 

ハーマイオニー:

仲の良い同性の友達。ロンへの視線に違和感。否定的なものでなく、むしろ好意的なもののため、気にせず。

 

マルフォイ:

嫌い。最初にあんなこと言わなければ仲良くしようかと思ったのに。

 

ダドリー:

愚従兄弟。おデブちゃん。豚みたい。いつもいじめてきて、いつか仕返しする予定。でも最近態度が変わってきたから考え直し中。

 

 

バーノン:

伯父。おデブ。親豚。いつも理不尽な理由でいじめてくる。一度シロウの説教を受けてもらいたい。

 

ペチュニア:

叔母。いじめては来ないが、態度が冷たい。けどダドリーのお古をできるだけ綺麗にしたあと身繕いったり、ダドリーを甘やかしつつ、自分にも少し情をかけているのを感じて混乱。漏れ鍋に行く前に、自分を大切に思ってくれていたことを知り、好印象に変化。

 

 

 

 

 

 

 

◎ ダーズリー一家

 

 

基本的に原作通り。ただし、ペチュニアは原作に比べて柔らかめ。姉に対する自分の拒絶は、羨望の裏返しと自覚している。マリナにやっていることは見る人が見れば、ただのツンデレ。

 

父、バーノンはでっぷりとして豚のよう。ひげを生やしていて息子love。マリナは自分のマトモさを崩す元凶として嫌ってる。

 

息子ダドリーはバーノンを小さくしてひげを生やしていない感じ。要するにチビ豚。マリナは格好のいじめ対象だったが、最近は思い直し中。シロウは恐ろしい紅いの魔王。

 

母ペチュニアは骸骨と思えるほどガリガリ。この人ちゃんと食事とってるのか?ダドリーはかわいい息子。マリナは大切な姉の忘れ形見だが、最期まで姉と仲直り出来なかったため、どう対応すればいいかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ 他の人たちからのシロウの印象

 

 

ロン:

同級生とは思えないほどの落ち着きを持っている。気の許せる親友。

 

ウィーズリー一家:

自分たちの髪を誉めてくれたいい子。にじみ出る穏やかさと優しさが印象的な不思議な東洋の少年。

 

ダンブルドア:

もうひとつの予言で詠われた平行世界の少年。自分程度ではわからないほどの力を持ちつつ、それを制御できる計り知れない存在。信頼できる人物。

 

マグゴナガル:

今まで出会ったことない存在。ゴーストたちが頭を下げいたことから、彼がただ者ではないと推測。

 

???:

決して敵対してはならない存在。刃向かったが最後、命や分霊箱がいくつあっても足りなくなる。初めて心の底から恐怖した存在。

 

ホグワーツに行く前まで通っていた学校の生徒と先生たち:

壊れたものをすぐに修理してまた使えるようにしてくれる、頼れる生徒。ダドリーと愉快な仲間たちを唯一止められる存在。家事全般が得意で、何度も教師の心を無意識にへし折った。気がついたらいつのまにか教室や学校を掃除している。東洋のブラウニー。スパナの似合う白髪の少年。ホワイトヘアーの家政f

 

「バトラーと呼べっ! …………ハッ、シマッタ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小噺 その1

 

Side マリー

 

 

 

「なぁエミヤ、お前ってどこに住んでるの?」

この言葉をクラスのある男子が発した途端、教室内は静かになった。皆が皆、作業を止めて耳をすましている。

が、等の本人はそ知らぬ顔で食事を続けている。因みにダドリーと愉快な仲間たちは今は教室にいない。

 

「ふむ、こちらもいろいろと事情があってな。おいそれと話すことはできない。けど敢えて明かすとすれば、オレは居候の身だよ。」

 

どうやらフィッグさんの家に居候しているのは秘密らしい。

何でだろう?

 

 

「っと、オレのことより早く食事を済ませたほうがいい。また連中がいろいろとやってくるだろう。君たちもいちゃもん付けられたくないだろう?」

 

 

まだいろいろと聞きたいけど今日はここまでみたい。愚従兄弟グループが近づいてくる声が聞こえる。

 

いつもシロウに怒られているのに、何で懲りないんだろう?

 

結局ダドリーたちは集団でシロウを囲んで、いろいろといちゃもん付けて殴りかかっていたけど、シロウは軽く避けてた。

 

あの体の動かし方、いつか教えてくれないかなぁ。

 

 

 

Side シロウ

 

 

 

全く懲りないものだな、ダドリーたちは。親にどう育てられたんだか。同じ家で暮らしているマリーとは大違いだ。

 

恐らく存分に甘やかされてきたのだろう。でなければここまで酷くはならないはずだ。

 

ふむ、今日は少しお灸を据えるか。

 

 

閑話休題

 

 

 

「「「「すみませんでした」」」」((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

今は悪がき共は正座をしている。さすがに毎日毎日やられてはこちらも我慢ならんものだ。

しかし何故ここまで怯えるのだろうか?悪がきだけでなく、マリーを除いたクラスメイトまでも震えている。オレはただにこやかに説教しただけなのになぁ。紅い魔王?それは遠坂だろう。いや、あれはアカイアクマだった。

さて、教師も来たことだし、あとは、任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

小噺 その2

 

 

Side マリー

 

「今日のこの時間は世界の国々について勉強しましょう。」

 

先生が地球儀を持って授業をしているけど、正直一番聞きたいのは日本についてだ。シロウはそこで生まれたみたいだし、知らないことを知るのはなんか新鮮。

 

「そういえばエミヤ君は日本人でしたよね。もしよければ日本について、皆に簡単な説明お願いできるかな?」

 

先生が珍しくシロウに頼みごとしてる。でもナイスです先生、私も知りたい!

 

ほら、他のクラスメイトも目を輝かせてる。

 

 

 

「わかりました。ではお時間拝借します。」

 

 

 

そこからは一コマまるまるシロウの日本解説だった。けど新鮮なモノが多くてもっと知りたいって思いが出てくる。

 

あれ?ちょっと待って?

 

確かシロウは私と同い年だよね。何であんなに英語が上手なんだろう?それにお弁当も美味しいし。

 

 

「エミヤ君、ありがとう。ところでエミヤ君はどうしてそんなに英語が上手なの?他にもしゃべれる言語はあるの?」

 

 

これまたナイスタイミングです先生、私も知りたかった!

 

 

「ああ、これは今の居候先に住む前に世界中を回っていたので料理と一緒に自然と身に付きました」

 

 

あ、先生固まっちゃった。先生料理下手だもんね。それに世界中って、子供が回れるの?

 

 

「言語については、日本語のほかに英語、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダ、ロシア、中国、アラビア、その他主要な言語は日常会話程度なら話せます」

 

 

 

 

あ、クラスメイトも固まっちゃった。

先生はまるで某ボクサーのように、

「真っ白に燃え尽きたぜ・・・」

状態になっちゃってる

 

天国のお父さん、お母さん。どうやら私の幼馴染みの男の子はすごい規格外みたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?明日のジ○ーってなに?

 




というわけで設定と小噺でした。

いやいや書いていて思ったんですが、長編書いている人すごいですね。尊敬します。

小噺一つ考えるのになかなか時間がかかります。

こんばんは、こんにちは、おはようございます、ホロウメモリアルです。

さて次回ですが、手紙の話は飛ばしまして、ダイアゴン横丁から開始しようと思います。

投稿はいつになるかわかりませんが、できるだけ早く載せるつもりです。

暖かく見守っていてくださると嬉しいです。

ではここらで筆をおきます。

感想待ってます(^ ^)ノシ




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1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁




では予告通り、ダイアゴン横丁編から開始です。

それではどうぞ




Side マリー

 

 

 

この前、ホグワーツってところから手紙が来た途端、叔母さんの様子が変になった。妙にそわそわして落ち着きがなく、叔父さんもダドリーも怪訝そうな顔をしていた。

 

そして今日、更に驚くことがあった。

何と私2、3日ぶんの服を用意させ、週末にロンドンに行くといってきたのだ。これには叔父さんも唖然としていた。

そりゃそうだ。今までこんなこと一度もなかったから、私も唖然とした。

案の定ダドリーが自分も行くと駄々をこねたが、叔母さんはそれを許さなかった。恐らく初めて叱られたのだろう、ダドリーは呆然としていた。

 

私、叔母さんがダドリーを叱るところを初めて見た気がする。

 

 

約束の週末になり、私たちはロンドンにいた。どうやら待ち合わせをしているけど、まだ時間があるらしい。私の荷物を見た叔母さんは何を思ったのか、私に新しい服と靴を買ってくれた。

 

やっぱり叔母さん変だ。いつもはこんなことしないのに。今まではダドリーのお古を繕ったものしか貰えなかったのに。もしかして私は施設に捨てられるのだろうか?

 

そう考えていると、髭もじゃの大男が近づいてきた。ルビウス・ハグリッドって名前みたい。

叔母さんと話をしていたけど、突然叔母さんがハグリッドに頭を下げた。これにはハグリッドも困惑していた。

 

 

「……この子をお願いします。姉の忘れ形見を、ホグワーツまで無事に送り届けてください……」

 

 

……聞こえた。

蚊の羽音のように小さな、小さな声だったけど

確かに聞こえた

 

なんでだろう?目からたくさん水が出てきて止まらない。

でも不思議。少し軽くなった感じがする。

この感じ・・・・・・嫌じゃない。

 

叔母さんはまるで逃げるように、足早に立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

Side ハグリッド

 

 

驚いた。

 

あのダドリーっちゅう息子を見る限り、リリーとは大違いのコチコチマグルと思っていたんだが、まさか頭を下げるとは。

マリーは泣いているし、こりゃさっさと漏れ鍋に行くに限るな。もう一人の男の子も待たせとるし。

 

しかしマリーは年相応な感じ、まぁ少し純粋な感じがするが、だがあのシロウっちゅう少年。同い年のはずなのに、妙に達観してるっちゅうかなんちゅうか。

まぁダンブルドア先生が信頼なさっとるし、大丈夫だろう。

さぁ、そろそろ行こうか。

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

 

何だアレは! この俺様が心底恐怖するなど!

 

あの小娘に呪詛返しされたときは保険があったから、まだ大丈夫だった。だがヤツは何だ!? あの白髪の極東の小僧は!

 

俺様は今ほとんど魂だけの存在だからわかる。

 

アレは、あの小僧はまずい!

あの白髪の小僧は確実に計り知れない何かをその内に持っている。

 

まるで一つの世界を背負っているような、そんな存在だ。

 

いや、それはない。人一人、ましてや子供一人が世界を背負うことができるはずもない。

 

だが、アレを見てるとこちらの推測が正しい感覚になってしまう。

 

彼奴には言い含めなければ。

 

アレに関わるとロクなことにならない。最小限に留めるべきだと。

 

敵対すれば最後、命がいくつあっても足りなくなると!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

ふむ。どうもあのターバンの中から邪な気配を感じるな。

だが殺意と同時に恐怖心も感じられる。推測する限り、あの男の体にはあの男自身の魂と別の魂が宿っているか。

 

もしや、アレがダンブルドア校長の言っていた例の……

何であれ、この場で仕掛けることはないだろうが、警戒するにこしたことはないだろうな。

 

む?ようやくハグリッドがきたか。マリーも一緒にいるな。目元が晴れているが、泣いたのか。だが少しすっきりとした顔になっている。なら心配することはないか。

 

しかしハグリッドよ。時間は守ってくれ。予定より30分遅れるとはどうなんだろうか。遠坂のうっかりは酷かったが、時間に関しては聖杯戦争以来決してうっかりをしなかったぞ……

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

漏れ鍋に入ると沢山の人に囲まれた。少し怖かったからハグリッドにしがみついて皆の顔を見ると、なかには見覚えのある人が何人かいた。

 

あ! シロウがいる!

シロウも魔法使いだったんだ!

(マリーは既に自分が魔法使いであるとハグリッドに教えられています)

 

でもシロウ、ずっとターバンの男の人を見つめてるけどどうしたんだろう?確かにおどおどしててちょっと不思議な感じのする人だったけど、気になるほどじゃなかったしな。

まぁいっか。

 

ハグリッドに連れられて、私とシロウは漏れ鍋の裏路地に入っていた。ハグリッドが何やらぶつぶつと呟きながらレンガの壁を傘で叩いているけど何してるんだろう?すると突然壁が動きだして目の前が開けた。

 

……すごい……!

 

開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろうか?見たことのないお店が商店街よろしく、たくさん並んでいて目移りしてしまう。

シロウもビックリしているみたいで目を見開いていた。

 

とりあえず物色は後回しにしてグリンゴッツ銀行に行くことになった。何でもゴブリン達が経営している、世界中に支店のある魔法界唯一の銀行なんだって。もう建物からして立派だよ。

 

ただシロウが隣でずっと、

 

 

「・・・なんでこんなにも普通に幻想種がいるんだおかしいだろオレがいた世界にはいなかったのに何でこんなにいるんだよなんでさなんでさなんでさなんでさなんでさナンデサナンデサナンデサナンデサナンデサナンデサナンデサ・・・・・・」

 

 

ってぶつぶつ呟いていたけど、大丈夫かな? 人酔いでもして気持ち悪くなったのかな? あとオレのいた世界ってどういうことだろう?

 

まぁいっか。

 

トロッコに乗って、地下深くにある私の金庫に行ってとりあえずお金をひきだしたんだけど……お父さん、お母さん。お二人はどんな仕事なさってたんですか? 明らかに一般家庭が持ってる資産じゃない気がします。ちょっと私には多いです。

 

次にハグリッドの用事を終わらせて(あの小さな包みはなんだったんだろう?)地上に戻ると、士郎はマグルお金をカウンターで両替した。

やっぱりゴブリンたちはお金とかに関してはきっちりしてるんだね。交渉とか一切通じない雰囲気をまとってた。

 

お金も持ったから、あとは道具を買いそろえるだけだね。

あ、募金箱。聖マンゴー……なんだろう? とりあえず病院への寄付ってことはわかった。

うん、ガリオン金貨三枚入れていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

途中取り乱してしまったが、一通りオレとマリーの道具を買い揃えてあとは杖を買うだけとなった。ここでオレに一抹の不安がよぎった。

 

元の世界では、固有結界からこぼれた投影、強化、解析ぐらいしかまともに魔術を使うことができなかった。万華鏡でさえ匙を投げそうになるほど、他の分野に適性がなかった。

 

もし、この世界でもマトモに魔術を使えなかったらどうしよう。こちらの魔術はおいそれと使うことはできない。間違いなく異端扱いを受けるだろう。そうなれば、受けたマリー護衛依頼が完遂できなくなる。

 

そうこう考えているうちに、オリバンダー杖店に着いた。もういいか、鬼が出るか蛇が出るか。運命に任せよう。

 

 

店に入ると老人が、恐らくこの人がオリバンダー老なんだろう、嬉しそうな表情でマリーの杖を見繕い始めた。

何本も何本も試した結果、柊に不死鳥の尾羽根の杖に決まったようだ。だが驚いた。

何と例の闇の魔法使いと兄弟杖らしい。兄杖がマリーの両親を殺し、マリーの首に稲妻形の傷をつけたのか。なんて因果なんだろうな。

それからハグリッドと2、3言交わしたあと、オレの順番になった。

オレを見た瞬間、オリバンダー老は目をこれでもかと見開き、「もしかすると、まさか・・・・」と呟いて奥へと引っ込んだ。しばらくして杖の箱と比べ、大きめの箱を持ってきた。何故だか懐かしい感じがする。

 

開けるとそこにはアゾット剣が納められていた。

 

 

「これは、凛の……」

 

「これは私が五年ほど前、杖の材料を探す際にある男から預かっていました。」

 

オリバンダーは続ける。

 

 

「その男は万華鏡の様に輝く短剣を腰に携えていた。そして私を見つけるやいなやこちらに近づき、こういった。

『いずれお前の店に、白髪の東洋の少年が訪ねてくる。その時これを渡してくれ』と。

そういってこの短剣を、少々私が知るものと趣が異なりますが、アゾット剣でよいですかな? 私に預けた。

それはあなた以外は使えないよう術式が組み込まれていると。あなただったのですね、エミヤ様。彼の言っていた少年とは。」

 

 

万華鏡の老師、はっちゃけ爺さんとは思っていたが。まさかここまでするとはな。まったく、至れり尽くせりだ。

 

 

「それからこちらの手紙を。彼から預かっていたものです。あなたならその封を解き、中が読めるようになると。」

 

 

そういってオリバンダー老はマリーの杖の料金だけ受け取り、店の奥へと引っ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

幕間 手紙 遥か遠き世界より

 

 

 

 

━━ 士郎。これを読んでるってことは、無事大師父から受け取ったようね。

私なりにあなたを送った世界について調べたけど、私たちの世界とは魔法形態が違うことはもう把握してるでしょう。

あなたのことだから自分はここの魔術も使えないのか不安に思ってるでしょうけど、それは杞憂だから安心して。多少は苦労するでしょうけど、魔力さえあればその世界の魔術は使えるわ。

 

あと、そちらの世界でも英霊や守護者の概念があることが確認できたわ。けど恐らく古い文献ぐらいにしかのってないし、その存在を知る人も数える程度しかいないでしょう。

もしかしたら運悪くそれを悪用する人が出てくるかもしれない。その場合、あなたがまず最初に対処を任されると思うわ。そうならないよう祈っとく。

 

さて、あなたのことだからまた一人で突っ走ろうとするのでしょうね。

でも肝にめいじておきなさい。

あなた一人でできることなんてそう多くない。私や桜、イリヤでも一人でできることなんて少ないわ。

 

だからね、士郎。一人でもいい。二人でもいい。あなたが背中を預けることができる人を、もしくはあなたの安寧となる人を作りなさい。守る人がいるあなたは自分は勿論、他の誰にも決して負けはしない。

 

最後に、その世界で幸せになりなさい。私や桜、イリヤがいるからあなたは変に負い目を感じてるでしょう。私たち3人をかこってる時点で今更じゃない? 私の第二魔法が完璧になったら娘たちを連れていずれ遊びに行くけど、幸せになってなかったら捻切るわよ。

 

じゃあここら辺で。みんな元気にしてるわ。あなたも無茶しないように。

 

 

 

凛 ━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






こんばんは、こんにちは、おはようございます、ホロウメモリアルです。


原作でダーズリー一家は、なかなかに酷い家族でしたので、せめて一人でも味方がいれば主人公の心が原作よりスレることはないだろう、と思いました。

で、その中から一番濃く血が繋がっているペチュニアを選出した次第です。やはり子供が一番救われる感情は「母の愛」ではないかと。


ではこの辺で




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2. 出会いと列車の旅、組分け


更新です。

それではごゆるりと。






 

 

Side マリー

 

 

それから私たちは漏れ鍋に2泊した。店主のトムさんはとても親切で、私に魔法世界について色々と教えてくれた。

部屋も子供ってことを配慮したのか、シロウと同室だった。一度少し気になってシロウの寝顔を覗いてみたんだけと、うん。ちょっと可愛いと思ったのは内緒。

それに一回だけ添い寝を頼んでOKもらったから一緒に寝たんだけど、安心して寝れた。とってもぽかぽかして落ち着いたなぁ。

 

っと、ハグリッドが呼んでる。今日はいよいよホグワーツに行く日。とってもワクワクしてくる!

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「ほれマリー、そしてシロウ。9と3/4番線の切符だ。遅れるんじゃねぇぞ?入学初日から遅刻なんて嫌だろう」

 

 

そういって私たちに切符を渡してきた。9と3/4番線か。

あれ?9と3/4番線?

 

 

「ハグリッド、この切符おかしくない?9と3/4番線なん……て……」

 

 

顔をあげると、そこにはシロウしかいなかった。いつの間にかハグリッドはいなくなっていた。

 

 

「まぁ立っていても仕方がない。取り敢えず動こう。なに、オレたち以外にも新入生はいる。時間もある。オレたち側の人達がいるかもしれん」

 

「そうだね。取り敢えずシロウの言う通り、移動しよっか。ちょうどあそこにそれらしき家族がいるみたいだし」

 

 

私が指差す先に、綺麗な赤毛の家族がカートを押していた。梟も一羽連れている。

 

 

「毎年毎年ここはマグルが多いわね。いらっしゃい、9と3/4番線はこっちよ」

 

 

ビンゴ。

 

 

「どうやら当たりだな。マリーの勘もなかなか侮れん」

 

 

えへへ。シロウに誉められた。

少し観察していよう。どうやってプラットホームに行くんだろう?

 

 

「パーシー先に行って。続いてフレッドとジョージよ」

 

 

最初のお兄さんが柱に向かっていったけど、瞬きした途端姿が消えていた。

 

え? なに? どういうこと?

今度はよく見ようと、ふざけていた双子を注視した。

けどまたいつの間にか消えていた。シロウも驚いている。こうなったらあの女の人に聞くしかない。

 

すみませーん。

 

 

「あら、お嬢ちゃんたちも新入生?うちのロンもそうなのよ」

 

 

そういって女の人は傍らの男の子を示す。

 

 

「あ、はい。よろしくお願いします。えっと……その……」

 

 

やっぱり緊張する。シロウがこっちを見ているけど、ダメ!一人でやらないと。いつまでもシロウにおんぶだっこはいけない。

 

 

「プラットホームへの行き方が知りたいのですけど、どうすればいいのですか?」

 

 

言えた。ちゃんと言えた。少し自信が着いた。女の人は優しく微笑むと丁寧に教えてくれた。この人、いい人だなぁ。

 

 

「っとこんな感じね。後ろの男の子も大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

「よかった。ところであなた、顔を見る限り東洋人だと思うんだけれど、その髪の毛と肌は元々?それとも何かの病気?」

 

 

シロウの髪と肌か。

 

 

「いえ、病気ではありません。髪は元々赤銅色で肌は普通だったんですが、少々無茶を重ねてしまいまして。結果髪は色が抜け落ち、肌は麻黒い色に変化したんです。体はなんともありませんよ」

 

 

彼は苦笑しながら言った。

 

 

「あ、ごめんなさい。軽々と聞いていいことではなかったわ」

 

「いえ、気にしないでください。私から見れば、皆さんの赤毛は綺麗で少しうらやましいです」

 

あ、それは私も思った。みんな綺麗な色だよね。

 

 

「まぁ、ありがとう! 嬉しいわ。あ、そろそろプラットホームにいかないと。手順は覚えてるわね?」

 

「「はい、大丈夫です。いってきます」」

 

 

そういって私たちは柱を通り抜けた。抜けた先には、真っ赤な汽車が私たちを待っていた。

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

 

汽車内は幸いコンパートメントが一つ空いていた。マリーと共に乗り込み、窓辺に座ると外からガラスを叩かれた。見ると、先ほどの女性がいた。

 

 

「さっきぶりね。私たちの髪を誉めてくれてありがとう、他の子達も聞いて喜んでいたわ」

 

 

そういいつつ、オレたちにサンドイッチを差し出した。

 

 

「フレッドとジョージに渡そうとしたんだけど、断られちゃって。あなたたちは見る限りお昼持っていないようだし、よかったらどうぞ」

 

 

せっかくのご厚意だ、いただこう。その時、コンパートメントの扉が開き、先ほどロンと呼ばれていた少年が入ってきた。

 

 

「ここ入ってもいい? 他はどこもいっぱいで」

 

 

断る理由がない。

 

 

「あら、ロン。ちょうどよかったわ。はい、これはあなたの」

 

 

そういってさらにサンドイッチを一つ差し出した。ロンは渋りながらもそれを受け取った。

すると女性の隣にいた少女、恐らく末っ子だろう、が突然泣き出した。どうやら自分も行きたいとグズっているらしい。女性もロンもあたふたと動揺している。

……はぁ。

 

 

「ほら、これで顔を拭くといい。泣き顔で見送られても、君のお兄さんたちは困惑するだろう」

 

 

そういって少女の頭に手をおく。少女は、はっとした顔でこちらを見る。

 

 

「何も今生の別れという訳ではない。それも君を見る限り、来年君もこの列車に乗るのだろう? この一年はその準備期間だ。次にお兄さんたちに会うときに、あっと驚かせるようになるためのな」

 

 

できるだけ優しく、諭すように言葉を紡ぐ。そしてマリーがそれに続いた。

 

「そうそう。それに笑顔で見送られるほうが、私たちも嬉しいんだよ。その笑顔が私たちを元気付けてくれるんだ。一年を何事もなく過ごして、また帰ってくるために。次もまた、帰ってくるために」

 

 

少女は俯いていたが、目を擦ると今日見た中で一番の笑顔を見せてくれた。女性も同様に優しく微笑んでいた。

 

ついに汽車は動きだし、ホグワーツへ出発した。

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

 

取り敢えず自己紹介と相成った。

 

 

「僕、ロン・ウィーズリー。ロンって呼んで」

 

「私はマリー。マリナ・ポッター」

 

 

マリーの紹介を聞いた途端、ロンが驚愕していた。そりゃそうだろうな。世間ではマリーは「生き残った女の子」だからな。

 

む?何故オレを見ている?

……ああそうか。

 

 

「オレは衛宮士郎。姓がエミヤ、名がシロウだ。呼びやすいほうでよんでいい」

 

「じゃあシロウって呼ぶね。シロウは東洋出身だったんだ」

 

「ああ、君のお母さんには話したが、色々と無茶をしてな。こうなったのだ」

 

 

まぁ全て話しているわけではないが、嘘ではない。

 

 

「私はシロウの髪は好きだよ? 綺麗な白色をしてて」

 

「それはマリー。君が昔から見てきたからだろう。初めて見る人にとっては奇妙にうつるものさ」

 

 

時間も時間だったから昼食を食べることになり、ウィーズリー夫人からもらったサンドイッチを三人で食べた。ふむ。冷えてパサついてはいるが、子を思う母の情が感じられる。ロンは良い母親を持ったな。

 

 

「これ美味しいね、シロウ。ロン。私これ好き!」

 

 

元々感受性が人より高いマリーのことだ。恐らくサンドイッチになにかしら感じ入るものがあったのだろう。ロンはその言葉に驚いていたが、母親の料理を誉められたためか、若干顔を赤らめていた。

 

しばらくしてマリーがオレの膝を枕にして寝息をたて始めたので(ロンがコンパートメントに入ってきたときに既にマリーはオレの隣に席を移動している)、自然と会話は筆談となった。

 

 

『マリーっていつもこんな感じなの?』

 

『ああ、昔から。といってもオレがこの子と関わり始めたのは4年ほど前なんだが』

 

『なんだか無邪気というか、無垢というか。素直な子だね』

 

『純粋なんだろうな。少し愛情に飢えているきらいがあるが、それが無意識に働いてこういう言動をしているのだろう』

 

『シロウと話してて思ったんだけど、本当にシロウって同い年? まるで年上と話す感じがするんだけど』

 

『さて、もしかしたら年上かもしれんし、生意気な小僧なだけかもしれんぞ? まぁ、世界中を転々としていたからな。それ相応に心が早く育ってしまったのだろうよ』

 

『ふーん。そうなんだ』

 

 

途中車内販売が来たが、販売員の女性もマリーを一目みて状況を察し、筆談で応対してくれた。あまり菓子類は食べない方だが、この世界の菓子類はなかなか面白い。今度カボチャケーキを作ってみるか。

 

 

 

やがてホグワーツ駅に着くとオレたち新入生はハグリッドに連れられ、ボートに乗り込んで目的地へ向かうことになった。

因みにオレ以外のメンバーはマリー、ロン、そしてディーンという少年だった。しばらく船に揺られていると、ついに学校が見えてきた。見えてきたんだが…………デカイな。

いや、元の世界の時計塔も大概だとは思っていたんだが、それを超えるぞアレは。もはや城ではないか。

…………掃除が大変そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

 

建物に入ると、厳格そうな女の人が待っていた。マグゴナガルって名前の先生らしい。この人が副校長なんだ。いかにも先生って感じだな。

そしていかにも魔女ですって格好をしている、トンガリ帽子とか長いエメラルド色のローブとか。先生は準備があるらしく、少し連絡をしたあと、広間にいっちゃった。

 

すると一人のブロンドの生徒が声を発した。

 

 

「マリナ・ポッターがいるって話は本当だったんだな」

 

ブロンドの子がそう言うと、みんながざわつき始めた。

なんか嫌だな、この感じ。

私別に有名になりたくてなった訳じゃないのに。

ブロンドの子が続ける。

 

「僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイ。良かったら僕が君にいい友達の作り方を教えてあげるよ」

 

私の気も知らないでペラペラしゃべってる。この偉そうなしゃべり方からして相当自分の家柄や自分に自信があるみたいだけど。

 

「少なくとも、そこの赤毛でのっぽでみすぼらしい……ペラペラ」

 

 

あ、流石にカチンときた。会って間もない人に上から目線でしゃべられた挙げ句、私の友達をばかにするなんて。いい加減うっとうしくなってきた。どうやって黙らせようか。

 

 

そう考えていると、突然大きな音がした。

そちらを見ると、シロウが壁を拳、裏拳って言うのかな?、で叩いていた。いや、本人は叩いているつもりらしい。

 

だって叩いたところを中心に壁が陥没してヒビが蜘蛛の巣のように広がって欠片がパラパラと落ちてるんだもん。

本人は何事もなかったように手をヒラヒラさせて埃を払ってる。そしてニヒルな笑みを浮かべて、

 

 

「いや、失礼。小五月蝿い羽虫がいたものでね。潰そうとしたんだがついつい力を入れすぎてしまったようだ。いやはやこの壁、存外脆いと思わないかね? うん?」

 

 

と言った。

でもね、シロウ。普通は子供は勿論、大人でも無傷で壁を割ることはできないよ?

ほら、みんなが怯えちゃったじゃん。ブロンドの子、マルフォイだっけ、なんて今にも漏らしそうなほど怖がってガタガタ震えてちゃってるし。ロンでさえ怖がっちゃってる。

 

私?

ダドリー関係で慣れてるから大丈夫。シロウが説教をするときに浮かべる笑顔は今のようなニヒルなものじゃないし。

怒られたダドリー曰く、

 

 

「魔王が見えた。あの笑顔の後ろに恐ろしい紅い魔王が見えた!」

 

 

ってレベルらしい。そのとき珍しく私に助けを求めてきてたなぁ。自業自得だから無視したけど。

とそこへマグゴナガル先生が戻ってきた。

 

 

「何事ですか?大きな音……が……」

 

 

ほら先生も固まっちゃった。

 

 

「いえ、五月蝿い羽虫がいたもので潰そうとしたのですが。ついつい力を入れすぎてしまいまして。後で修復しておきます。自分が蒔いた種ですし」

 

 

あ、自分で修理するんだね。

そういえば前の学校でもストーブとか空調とか時計とかを直していたっけ? そのせいで学校の教師を含めたみんなから東洋のブラウニーって呼ばれてた。

ああ、ここでもシロウがブラウニーって呼ばれる日が来るの、そう遠くない気がしてきたよ。

 

 

まあ色々とあったけど、ようやく大広間に私たちは入った。天井を見上げると、満天が広がっていた。

 

「魔法でそう見せているのよ。『ホグワーツの歴史』って本に書いてあったわ」

 

 

なるほど、そうだったんだ。綺麗な天井だなぁ。

 

 

「これから名前を呼ばれた人から順に前の椅子に座り、この組分け帽子を被ってもらいます。帽子が寮の名前を発表するので、言われた新入生は指定された寮の席に座ってください。では始めます」

 

 

そして組分けが始まった。

博識の女の子、ハーマイオニーって名前らしい、はグリフィンドール。マルフォイはスリザリン、ロンはグリフィンドールという具合に次々と決まっていった。

 

 

 

「マリナ・ポッター!」

 

 

あ、私の番だ。大広間がざわついている。やっぱりこの感じは好きになれないな。むしろ嫌だな。

帽子を被ると、頭に声が聞こえた。

 

 

[ほうほう、なかなか面白い子だ。内に大きな力を秘めている。が、同時に揺るがない心も持ち合わせているな。さて、どうしようか]

 

 

大きな力? 特別な力は要らないかなぁ。だって当たり前が一番幸せなことじゃん。私はそれでいいと思う。

 

 

[殊勝な心掛けだな。だが力を持つということは、本人の意思と関係なく、さまざまなことに巻き込まれることになる。お前さんのご両親も同じだ。彼らの意思と関係なく、君一人を残してしまうことになってしまった]

 

 

そうだね。

 

 

[いやにあっさりとしているな]

 

 

帽子さんはわかるでしょう? 確かに悲しいよ? 寂しいよ? 胸をかきむしって大声で泣き叫びたいよ?

でもね?

 

 

[ん?]

 

 

遺して逝く人たちが一番願っているのはね、遺してしまう人の幸福なんじゃないかなって。

この11年間、いろんなことがあったけど、シロウを見てたり、昔読んだ本やシロウの話してくれたお話を思い返すと自然とそう思えてくるんだ。

 

 

[……親は敵討ちよりも幸せを願うと。力だけが全てでないと、君自身を形作るのではないと言うのだね?]

 

 

うん。たとえ力がなくても大丈夫。私は私の信じた道を歩いて幸せになる。

その過程でどんなに辛いことがあっても、絶対に意味があるから。自分が歩いてきた道は決して間違いじゃないって信じれるから。

 

 

[……わかった。よろしい! 君の寮は……]

 

「グリフィンドール!!!」

 

 

言われた寮の席に向かうと、ロンをはじめとしてたくさんの人が拍手と一緒に出迎えてくれた。

先生たちの机を見ると、ダンブルドア校長がとても温かい、見る人を安心させる微笑みを浮かべていた。コウモリのような真っ黒の服を着た人も、無表情だったけど優しい目をしていた。

 

 

「シロウ・エミヤ!!!」

 

 

シロウの名前が呼ばれた途端、大広間が静かになった。たぶん初めての東洋人だからだろうか。

周りを見渡すと驚いたことに、たくさんのゴーストたちが静まり返ってシロウを凝視していた。

その目から尊敬というか、恐れというか……いろんな感情がないまぜになっているのがわかった。どうしたんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

 

 

名前を呼ばれたので椅子に座り、帽子を被る。すると頭の中に直接声が響いてきた。

 

 

[さて、君の寮……は…………]

 

 

む?どうした?何か不都合でもあったか?

 

 

[これは、そんな……君は……いや貴方はまさか…………]

 

 

ッ!! まさか。

 

 

[貴方はまさか、抑止の守護者なんですか?]

 

 

そういうことか。それなら幽霊たちがあのような目をするのも頷ける。あれはいってみれば亡霊。魂の残り香みたいなものが未練などによって具現化したようなもの。流石に気付くか。

さて帽子の質問だが、答えは当たりであり、外れでもある。

 

 

[しかし、それではこれほどの…………ッ!? まさか!?]

 

 

察しの通りだ。私はそもそもこの世界の人間ではない。

元いた世界でやったことが偶然「世界」に偉業とされ、死後に英霊としてどの世界にいても座に招かれることが決まっている。

今は並行世界の別私が、世界と契約して守護者となった私が座で代理人を務めている。

 

 

[……なんとおそれ多い……]

 

 

後がつかえている。今は寮の選考を優先してくれ。

 

 

[この事は校長に報告しても?]

 

 

ああ、頼む。そちらの方が話が早くすむ。

後日互いの時間が重なるときに校長と副校長。そうだな、あのコウモリのような教師も交えて話す。あの男は一見怪しい雰囲気を纏っているが、信用できる。

 

 

[……わかりました。では貴方の寮を伝えます。といっても最初から決まってました。貴方の信じるもの、信じたもの、その生き様。文句なしの…………]

 

 

 

「グリフィンドール!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マグゴナガル

 

 

私は今日という日を生涯忘れないでしょう。

彼の組分けのとき、この城にいる全てのゴーストたちが、大なり小なり畏怖と敬意を込めた目を彼に、シロウ・エミヤに向けていた。そして寮が発表された途端一斉に整列し、頭を垂れていた。

驚くなんてものではない。

今でこそ日本はよくお辞儀をすると伝わってはいますが、それでも私たちには浸透していない。

ましてや古き時代を生きたゴーストたちは、そのほとんどが頭を垂れることが特別な意味を持つ時代の人たちだ。

 

これには生徒たちは勿論、教師たちも呆然としていた。彼が歩く様は、彼が生きてきた道を表すかのようなものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕間 ゴーストたちの会話 (食事のあと、皆が寝静まった時間)

 

 

「見ましたか?」

「ええ、見ました。男爵殿は?」

「しかと見た。まさか……」

「ええ」

 

「「「「彼の者のような存在を拝謁することになろうとは。」」」」

 

「彼が噂の……」

 

「間違いないでしょう」

 

「その行いが『世界』に偉業として認められ」

 

「座と呼ばれる次元に招かれし存在」

 

「英霊と呼ばれる者たちの一人」

 

「または世界と契約して守護者となったか」

 

「いずれにせよ、彼は既に至っている」

 

「我輩たちがが頭を下げたとき、嫌そうな顔をしていたが……」

 

「きっと彼は見返りがほしくて、英雄になろうとして至ったのではないのでしょう」

 

「いつでも世のため、人のために動いていたのだろう」

 

「そして彼はそれを誇ることはない」

 

「ところでヘレナ殿。先ほどから黙っているが、どうした?」

 

「…………荒野を」

 

「「「荒野?」」」

 

「あの少年を見たとき、一瞬。ほんの一瞬だけ、私は荒野にいました。分厚い雲に覆われた、黄昏時の世界に」

 

「「「…………」」」

 

「空には無数の歯車が浮かんでいた。荒れ果て、命の息吹きが何一つ感じられない荒野には、数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの無限の剣が乱立していた。火の粉の舞うその世界の中心に……彼に似た青年が…………無数の剣に貫かれたまま大地に立ち、前を見据えて…………」

 

「「「ッ!!」」」

 

「……いったい彼は何を見てきたのだろうか」

 

「……わかりません。ただものすごく、その背中が悲しかった。まるで泣き叫びたいのを、必死に耐えているような。そんな……」

 

「……せめてこの城にいる時だけでも、心を休ませていて欲しいものだな」

「ええ、そうですね」

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

こんばんは、こんにちは、おはようございます、ホロウメモリアです。


さて、一応これに投稿する前に紙に下書きするんですが、書いているうちは結構筆がのるんですよね。(笑) そしてたまに余計なこと書いちゃって後で省いちゃたりするんですよ(汗)


そして二日でお気に入り数が60超え、ありがとうございます。
本当に感謝感謝です。


ではではここらへんで






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3. 授業初日

はい、授業編です。

といっても二コマだけですが。

ではごゆるりと。







 

 

Side マリー

 

 

次の日から授業だったから朝食をとったあとに、シロウと変身術の教室に向かったんだけど……。道に迷った。初日から遅刻。加えて授業を担当するのが寮監督のマグゴナガル先生。初日から遅れたとなれば、ものすごく怒られることなんて目に見えている。誰か先輩を探すかどうか考えていたら隣にいたシロウが、

 

「ふむ、時間がないな。……解析・開始(トレース・オン)

 

そう小さな声で呟き、壁に手を当てて目を閉じた。シロウの手先から何か流れを感じたからよくみると、淡い緑色の線がシロウの手を中心にして、電気回路のように広がっていた。魔法世界に関わってからそんなに時間は経ってないけど、いまシロウがやっていることが、普通ではないことがわかる。みんな当たり前のように魔法を使っているけど、今のシロウは結構きつそうな顔をしている。

しばらくすると少し荒い息をしながら、シロウは壁から手を離した。

 

「はぁ、はぁ……フゥ、大体わかった。しかし少し遠いな……」

 

シロウ曰く、ここから何フロアか上の少し遠いところに目的の教室があるみたい。普通に歩けば、確実に遅刻コースまっしぐらだそう。やっちゃったなぁ。初日から遅刻とか運が無さすぎるよ。はぁ、この先私は無事学校生活送れるのだろうか。なんて一人嘆いているとシロウがこちらに近づきつつ、

 

「なに、普通に行けばだ。普通にな」

 

と言いながら私を横抱きに………って、ええええ!? 何で私シロウに抱っこされてるの!? しかもこれってお姫様抱っこってのじゃ……

 

「口を閉じてろ。舌を噛むぞ。怖かったら目を瞑っていい」

 

え?ふわわわわわあああああああ!?!?

 

 

 

 

その日、叫ぶ女子生徒とそれを横抱きにして、廊下と吹き抜けの壁を高速で走り抜ける男子生徒が早朝に確認されたという。

 

 

 

 

 

Side ロン

 

 

 

 

いま僕は変身術の教室にいるんだけど、シロウとマリーがまだ来ていないことに気付いた。もう少しで授業が始まるのに大丈夫かなぁ。

 

「ねぇシェーマス。マリーもシロウも朝食の席にいたよね?」

「確かにいた。マリーは僕の隣にいたし、確かディーンの隣にシロウがいたでしょ?」

「うん、いた。道に迷ったのかな?」

「シロウはともかく、マリーはありそう」

 

 

━━━━━━━━━ ~~~~~~~…………━━━━━━━━

 

あれ?

 

「何か聞こえなかった、ディーン?」

「えっなにが?」

「僕は何も、ネビルは?」

「僕はかすかに叫んでる声が」

 

 

━━━━━━━━ ぁぁぁぁぁぁぁ…………━━━━━━━━━

 

 

「あ、聞こえた」

「今のマリーの声じゃない?」

「あと何かを蹴る音が」

 

とそこへマグゴナガル先生がこちらに近づいてきた。

 

「何を話しているんですか? ところで二人ほど足りない気が……」

 

 

ふわわわわわあああああああ!?!?

 

 

ガッ!! ズザザザッ!!

 

 

「……あふぅ~……」

「ふぅ、ギリギリ間に合ったか。マリー、着いたぞ」

「シ……シロウ……今度やるときは先に言って…………」

「それについてはすまない。時間が惜しかったものでな。次からはそうしよう。幸い間に合ったみたいだしな。む? みんなどうした? そんな狐に摘ままれたような顔をして」

 

残る二人の同級生は片方が抱き抱えられ、もう片方が恐ろしい速さで駆け込むという形で登場した。そしてシロウは、僕たちが呆然としている理由が心底わからない、という顔をしていた。

拝啓隠れ穴にいるお父さま、お母さま、妹のジニー。僕の友達はとんでもない身体能力の持ち主みたいです。

 

 

 

 

 

気をとりなおして、先生は授業を始めた。

 

「変身術は魔法の中でも屈指の複雑さと危険を併せ持つ分野です。不真面目な態度で受ける人は、容赦なくこの教室から出ていってもらいます。」

 

そう前置きして先生は机を豚に変え、また元に戻した。それを見た僕を含めたみんなは早く試してみたくてウズウズしていたけど、あの前置きをするだけあって、さんざん複雑なノートをとったあとに、マッチ棒を針に変える練習をした。みんな全然できなかったけど、ハーマイオニーだけいいとこまでいっていた。マグゴナガル先生は、彼女のマッチ棒がいかに光沢を放ち、尖っているかを誉め、グリフィンドールに五点加点した。

とここでまたしてもシロウがやらかした。

まずシロウが取り出した杖は、僕らのような木製ではなく、金属製の短剣状のものだった。そこから既にみんなの目を引いていた。

あれ?柄に宝石。短剣状の杖。確か昔呼んだ本に同じ感じの物が出てきたような気がする。何だっけ?

 

「それはアゾット剣ですね、ミスター・エミヤ? 過去の錬金術師たちが使用していた」

「ええ、知り合いがオリバンダー老に預けていたみたいで」

 

そう言ってシロウは杖を優しい目で見ていた。そうだ、アゾット剣っていうんだった。魔法族なら一度は聞いたことのある魔法道具だよ。でも実物を見るのは初めて。シロウはアゾット剣を使うのかぁ。今じゃあ珍しいどころか相当レアな人だろうな。

マグゴナガル先生がシロウに変化させてみるよう言うと、シロウは実践して見せた。ここまでは良かった。けど次の瞬間、マッチ棒は細身の投げナイフのようなものに変化した。針じゃなく、ナイフに。そして先生が戻そうとしても戻らない。仕方なくもう一度マッチ棒をシロウに渡してやらせると、今度は小さな矢に変化した。しかもこれまた元に戻せない。先生はこの事について触れないようにし、授業を再開した。気になったのは、ハーマイオニーがまるで親の敵でも見るような目でシロウを見ていたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

次にあった魔法薬の授業は地下牢であったけど、スリザリンと合同授業だった。別にスリザリンは嫌いではないんだけど、ほとんどの人が自分の家を鼻にかけているみたいで、偉そうに振る舞っていた。マルフォイが、組分けの前にあったことを所々自分に都合の良いように寮監に言ったらしく、その寮監のスネイプ先生が授業の担当だったので、シロウはいろいろ言われていた。が、これを論破。ついでにマルフォイに説教をしていた。マルフォイの様子を見る限り、怖がっていても刃向かっていただけまだダドリー達のほうがマシな気がした。

その時のやり取りがこんな感じ。

 

「そういえば組分けが行われる前とはいえ、東洋からのお客様が生徒を脅したときく」

「それには少々誤りがあります。故に訂正させていただく」

「ほう?」

「私はただ壁を叩いただけ。力加減を誤って壁を破壊しかけたことは反省している。だが、私は脅した訳ではありません。加えて勝手に怯えたのはそこの彼です。それに……」

 

そう言ってシロウは今度はマルフォイに目を向け、

 

「お前は自分でどうにかしようと考えはしないのか? それとも今まで自分の失態は親が全て何とかしてくれたのか? 日本にはこのような言葉がある。『いつまでも、あると思うな、親と金』。今のうちに自分で考え、行動するよう心がけねば、いずれ痛い目を見るぞ?」

 

そして今度は部屋全体を見渡し、

 

「今の話はこいつだけに限ったことではない。皆にも、無論オレにも言えることだ。オレは五年前まで世界を転々としていた。その過程でテロや犯罪に巻き込まれたのも、一度や二度では収まらん。オレの例は極端なものだが、回りに味方がいない状況では、一人で何とかするしかなかった。他人のことを頼るなとは言わない。だが、考えることを放棄するな」

 

うん、色々と聞きたいことは多々あるけど正論だったね。スネイプ先生も何か思うことがあったのか、あのあと何も言わずに授業を始めたし。マルフォイはとても憎々しげにシロウを見つめてた。

けど魔法薬の授業、なかなか面白かった。今度スネイプ先生のところに行って色々と教えてもらおう。

 

 

 

でも何でスリザリン以外の生徒はスネイプ先生を嫌うんだろう?結構いい先生だと思うのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、授業編でした。

こんばんは、こんにちは、おはようございます、ホロウメモリアルです。

組分けまでの話にちょいちょい訂正と補足を加え、最新話を書きました。

士郎の変身術ですが、生き物に変えるのはともかく、非生物に変化させる場合には、士郎が持つ剣属性が影響するようにしました。
また、物語中に出すのは当分先ですが、呪詛の閃光の形状も剣か矢の形にするつもりです。
3巻以降に出る守護霊も非生物にするつもりです。

あと魔術行使についてですが、シロウは事情を知る人たちの前や信頼してる人の前では、あまり隠さずに使うようにしています。
といっても、強化や解析ぐらいで、投影は余程のことがない限り、早朝の自己鍛練以外では使わないように気をつけています。



次回は近いうちに、飛行訓練騒動について書きます


では今回はこのへんで。


感想待ってます(^ ^)ノシ




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4. 飛行訓練と真夜中の決闘

飛行訓練、真夜中の決闘編です。

それではごゆるりと。






Side マリー

 

お昼からは飛行訓練の授業が外であるみたい。またスリザリンとの合同授業らしい。どうせならとみんなで向かうことになったけど。

先程からハーマイオニーがシロウに突っかかってる。何でもシロウの変身術の結果と先生の対応が納得いかないらしい。シロウはどう対処すればいいか考えてるみたい。

 

 

「理解した。つまり君はオレの扱いがおかしいと、そういうのだな?」

 

「ええ、そうよ! 普通先生の言う通りにできなかったら減点ないし注意されるはずでしょう? 最初から何も変わらないのならともかく、先生が言ったことと違うことやったのならなおさら!」

 

 

今の言い方はない。自分ができたのはいいけど、だからといってできなかった人を糾弾するのは間違いだ。

 

 

「……はぁ」

 

「なに?」

 

「いや、何もそこまで完璧に拘らなくてもよかろう。オレたちはまだ魔法に関わって間もない。いかに優秀な教師から教えを受けようと、それを即座に理解実践できる人間はそう多くないのだ」

 

「ッ!! なにを……」

 

「まだ齢11なんだぞ、オレたちは。四半世紀も生きていない若造だ。不完全であること、行動に矛盾が生じるのは致し方のないこと。聡明な君ならわかるだろう」

 

「それは……」

 

 

優しく諭すように言葉を繋げる。

 

 

「不完全で何がいけないのだ。矛盾だらけで何がいけないのだ。その数だけ夢が、可能性が存在する。今から肩肘を張っても疲れるだけ。いずれ潰れてしまうぞ?」

 

「……ッ!! あなたに私の何がわかるというの!?」

 

ハーマイオニーは反論しようとしてたけど、結局何も言わずに足早に外に向かって行った。シロウはその後ろ姿を悲しそうに見つめてる。でも、

 

 

「大丈夫だよ。たぶんハーマイオニーも頭ではわかってる。昔何があったか知らないけど」

 

 

そう、私はそう思う。するとシロウは自嘲するような笑みを浮かべて、

 

「……ままならんものだな」

 

 

と呟いた。悲しい。シロウにそんな悲しい顔を浮かべてほしくない。そう思った時には自然と口が動いていた。

 

 

「一人で何でもかんでも背負い込む必要はないんだよ、シロウ。シロウも言ってたでしょう? 他人を頼ることは悪いことではないって。頼り過ぎるのはダメなんだって。ここにはロンも、先生たちも、私もいる。シロウは一人じゃないんだから」

 

 

シロウは目を見開いていたけど、次の瞬間には優しい目をして私の頭に手を乗っけた。

 

 

「全く、自分が言ったことを忘れるとはな。ありがとう、マリー」

 

 

そう言って今度は私の頭を撫で始めた。少しでもシロウの気持ちが軽くなったのなら嬉しいな。

あっシロウの撫で撫で、結構気持ちいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

全く、どうしてオレの回りにはこのような強い女性が多いのだろうな。一度アーチャーと話し合いしたいものだ。

 

まぁいい。取り敢えず今は授業に向かうか。

元の世界ではとある宝具を使わねば空を飛べなかった。しかもそれらは剣の類いではなかったから魔力消費が激しく、あまり多用できなかった。だから今回の飛行訓練はなかなかに興味引かれる。

 

指定された場所に行くと、鷹のような目をした教師、マダム・フーチが箒を並べて待っていた。先生は我々に箒の横に立ち、上がれと念じるよう指示した。ふむ、やってみよう。

 

……………………あれ? うんともすんとも言わない。

ちょっと待ておかしい。

同じ一年のなかではあまりできない方と言われている、オレは単純に度胸がつけば大丈夫と思うが、ネビルでさえ箒は反応をしている。だがオレのはまるで屍のように反応がない。少し調べてみるか。

 

そう思い、箒に触れようとしたら、火花を散らして拒絶された。箒に火花を散らして拒絶された。大事なことだから二度言った。

 

……なんでさ。いやいやおかしいだろう。もう一度触れようとしたら、火花を散らして拒絶された。そして気付けば作業が終わってないのはオレだけだった。仕方がないか。

 

 

「ミスター・エミヤ。何をしているのですか?」

 

「いや、どうやら箒に拒絶されているみたいで」

 

「箒が拒絶? まさか」

 

 

そう言ってフーチ先生の前で実際に見せ、他の箒に取り替えたが案の定同じことが起こった。なんでさ。

 

「仕方がありません。ミスター・エミヤは見学という形でよろしいですね?」

 

「ええ、わかりました」

 

少々、いやかなり残念だ。

やはり箒で空を飛ぶということには少なからず憧れがあった。誰も子供の頃には夢見るものだろう?少なくとも盾やサンダルに比べたら確実に。

 

さて、マダム・フーチの笛の合図で地を蹴るよう指示されたが、置いていかれたくなかっのだろう。ネビルが焦ってフライングしてしまった。

 

そのまま空高くへ……ってまずい!!

あいつ箒を御しきれていない。あのままでは振り落とされかねん。と思った矢先に振り落とされた!仕方がない。

 

オレは懐に入れていた変身術の失敗であるナイフを握ると、ネビルの服目掛けて投擲した。

ナイフが服のみを貫通し、スピードが落ちたところを魔術で強化した跳躍でネビルのそばまでいき、抱き抱えたのちに地面に着地した。ネビルを確認したが、どうやら気絶してしまったようだ。

 

 

「フーチ先生。ネビルを医務室に連れて行きたいのですが」

 

「私もついていきましょう。皆さんはそのままで。ちょっとでも空を飛んだらホグワーツから出ていってもらいます」

 

 

そう言ってオレとともに医務室へ向かった。

 

 

 

ところ変わって医務室

 

 

 

「幸い気絶しているだけで外傷の類いはありません。一体どうやって助かったのですか?」

 

 

医務室担当のマダム・ポンフリーが聞いてきたので、魔術のことはぼかしつつ正直に答えた。

いやフーチ先生がそばで睨み付けていたからではないぞ?

 

事情聴取を受けたのちに大広間へ向かっていると、マリーとマグゴナガル、そして一人の先輩を見つけた。何やら話しているが、マリーの顔が優れない。

 

 

「一体何をやっているのですか?」

 

そう言いつつ近づくと、マリーがすごい速さでオレの後ろに回り込んだ。そして、

 

 

「先生たちがさっきから私の体をなめ回すように見てくる。はっきり言って怖い」

 

 

と言った。……………………は?

 

 

「誤解です、ミスター・エミヤ、ミス・ポッター!私達はただ……」

 

「君がもしかしたらグリフィンドールのクィディッチチームのとんでもない逸材になるかもしれないと思っただけで決して邪な気は……」

 

「クィディッチってなんですか?まさか変なグループなんじゃ」

 

「「違う(違います)!!」」

 

 

どうでもいいが、オレを挟んで言い合いしないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

ネビルの思い出し玉騒動の顛末をロンとシロウに話すと、ロンはとても驚いていた。

何でもクィディッチは魔法界で屈指の人気を誇るスポーツらしい。一年で学校のチームにスカウトされるってのは余程のことらしい。

途中ハーマイオニーが悪いことをして褒美をもらった気でいるのかと説教をしてきたけど、正直よくわからない。

規則ばかり重んじていたらどうしても貫きたいこともできなくなるし、何より息苦しい。

そうこう言い合っているとマルフォイに絡まれた。

 

 

「この学校での最後の食事かい、ポッター?」

 

「……む。違うよマルフォイ。あのあと罰則受けると思ったら違ったし」

 

「そうだぞマルフォイ。マリーはあのあとグリフィンドールのクィディッチチームにスカウトされたんだぞ。やーい!」

 

 

ロンがマルフォイに、私がクィディッチの選手になったと言うと、決闘を申し込まれた。

私は乗り気じゃなかったけど、ロンを放っておいたら暴走しそうだったので着いていくことにした。

時間と場所は真夜中のトロフィールームだけど……たぶんマルフォイは来ないだろうな。まぁ一応行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

時刻は真夜中。案の定ロンとマリー、そしてそれを止めようとしたハーマイオニーが寮を抜け出した。

ある程度予想はできる。奴は来ないだろうな。そういう人間だ。自らの指定した場所に来るだけ、まだ間桐兄のほうがマシだろうな。

 

…………しかしいやに帰ってくるのが遅い。

あれから一時間は経過したが、全く帰ってくる気配がしない。まさか事故にでもあっ……む? 帰ってきたか。どうやらネビルがいっしょらしい。

ハーマイオニーがマリーたちに付き合っているとこちらの身が持たないといっていたが。身勝手だな。どれ、少し話をするか。

ハーマイオニーに背を向ける形で椅子に座った。

 

 

「全くもう! あの人たちは本当に」

 

「ようやく帰ってきたか。ずいぶんと遅かったな」

 

「誰!? ってシロウ?あなた何してるの?」

 

「いや、同輩が夜に部屋を抜け出したのだ。気になってここで待っていたのだよ」

 

「そう、ならあなたからもあの人たちに言ってくれないかしら? あの人たちのやることなすこと……」

 

「すまんがそれはできない」

 

「ッ!! どうして!」

 

「一緒に抜け出している時点で君も同罪だ。あの二人を悪く言う権利はないとオレは思うぞ」

 

 

そう言いつつ、ハーマイオニーに近づく。

 

 

「正義感が強いのは構わない。けどそれだと息がつまらんのか?」

 

「あなたには関係ないわ」

 

「ああ、関係ないな。だが見ていて心配なのだ」

 

オレは言葉を続ける。ハーマイオニーは顔を俯かせている。

 

 

「少々見ていて危なっかしい。それにお前自身が回りに対して壁を作っているようにも見えなくはない」

 

「……あなた本当になんなの? そうやっていつも上から物を言って、まるで私達を子供のように。現に私達は子供だけど、あなたも同じ年のはずでしよう? あなた本当に何がしたいの!?」

 

「…………」

 

「何も知らないくせに知ったような口をきかないで! 今朝もいったけど、あなたに私の何がわかるというの!」

 

 

ハーマイオニーが憤ってオレに言った。そしてその言葉を聞いてようやく気付いた。

オレは相手がどんな思いを持っているかを考えず、他人に自分の思いを押し付けていたのだな。

 

 

「…………すまなかった。どうやらオレも周りが見えてなかったらしい。君に不快な思いをさせてしまったようだ。すまない」

 

「……あなたがそうやって他人と関わろうとするのはなんで? それもこの間魔法薬の授業のときに言った、世界中を回った経験?」

 

「いや、オレ自身のエゴだ。みんなに笑っていて欲しいというな」

 

「……そう」

 

「馬鹿げたものだろう? 自分でも甘いと思ってる。だがずっとそうしてたのでな。おいそれとすぐには変えられんのだ」

 

「……あなたが何を思って私たちに関わろうとするかは大体わかったわ。だから少しだけ、あなたの言うように周りを見てみる」

 

「わかった」

 

 

そして二人ともそれぞれの寝室に向かう。っとその前にだ。

 

 

「すまないハーマイオニー。最後に一ついいだろうか?」

 

「なに?」

 

「あの子と、マリーと仲良くしてやってはくれないか? ここに来る前に在籍していた学校では、少し事情があってあまり仲のいい友人がいなかった。あの子も無意識に気の許せる人を求めている」

 

 

ハーマイオニーは何も言わない。だが真剣に考えている顔をしていた。そしてしばらくして、

 

 

「……ええ、いいわ。私もあの子と仲良くしたいと思っていたし」

 

 

と言ってくれた。そして更にこうも言った。

 

 

「それはあなたもよ? 今改めてシロウと話していて思ったけど、あなた結構世話好きな人でしょう? 本人が見ていないところで、色々とやるようなタイプの。周りの世話ばかりして自分のことを疎かにしちゃダメよ?」

 

「…………ククク、そうだな。ああ、肝にめいじよう」

 

「よろしい! じゃあおやすみなさい。また明日」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

全く、ハーマイオニーはどことなく凛や娘の華憐に似ている節があるな。本当に、いい意味で強い女性がオレの周りに多い。願わくば、互いにこのままいい関係でいたいものだ。

さて、マリーの説教は後日にしょう。次はロニー坊やの番だ。たぁっっっっっぷりと説教してくれる!

 

 

フフフフフフフハハハハハハハハハハハハハ! (黒笑)

 

 

さぁ、ロナルド・ウィーズリーよ! 今回の真夜中寮の抜け出しの元凶よ! 説教を受ける覚悟は十分か! 嘘・即・捻切る、だ!

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、というわけで飛行訓練と真夜中の決闘編でした。

シロウ視点だったので、細かいシーンが結構省かれています。
正直真夜中の決闘と飛行訓練はあまり面白い印象がなかったんですよね。
ですのでどうやったら皆さんが退屈しないかといろいろ思考しまして、ネタを少々盛り込んだりしました。

ハーマイオニーについてですが、最初のあの突っ張り具合は過去に何かあったからではと思うんですよね。
原作の親は見る限り過度な干渉などはしていないもようですが、おそらく昔のクラスメイトたちが原因でないかと。

あとだいたいの人は察していると思いますが、シロウのヒロインはマリーさんです。ただ、砂糖大量生産機にするつもりはないのでご安心?を。


さてさて次回は遂にハロウィーン編です!
おそらく長くなるので二部編成になると思います。


それではこのへんで




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5. ハロウィーンの夜に

遂にハロウィーン編がキタ━(゚∀゚)━!

私のなかでは印象的な場面の一つです!

今回少しオリジナル要素をいれています。

それではごゆるりと。







Side マリー

 

 

次の日の朝、ロンに挨拶したらすごく丁寧に返された。具体的には、

 

 

「おはよう、ロン。よく寝れた?」

 

「おはようございます、マリーさん。今日も天気がよろしいですね。ええ、ぐっすりと眠ることができました」

 

 

って感じ。そしてロンはまるで菩薩のように柔らかい笑みと雰囲気を纏っていた。

 

何があったの?

そう言えば昨晩、寝る前に男子部屋から「殴ッ血KILL!!」って声と誰かの悲鳴が聞こえてきたなぁ。まるでダドリーがシロウに悪さをして説教を受けたときのよう……な…………え? まさかね?

 

結局ロンはそれから一週間、悟りを開いたような雰囲気だった。あとその間に、少しだけハーマイオニーと仲良くなれた。そしてシロウともハーマイオニーは仲良くしてた。

何があったかは知らないけど、やっぱりみんな仲良しでいる方が楽しいよね。

 

一月ほど何事もなく、ハロウィーンを迎えた。先輩たちの話では晩御飯がすごいらしい。楽しみだなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ロニー坊や

 

 

 

おい! 誰がロニー坊やだ! 僕はロンだぞ、間違えるな!

 

まぁそれはさておき。午前中は普通に授業を受けたけど、午後の授業があまり気乗りしなかった。

妖精魔法の授業だったんたけど、レイブンクローとの合同だった。でも隣にハーマイオニーがいた。どうも好きになれないんだよなぁ、この子。

っと、先生が教壇に立った。それにしてもフリットウィック先生は小さいなあ。何でも妖精族の一人って話らしいけど。

 

「こんにちは、皆さん! 今日は浮遊呪文を練習しますよ? 皆さんの前に羽が一枚ずつ配られているでしょう。それを今日は魔法で浮遊させてみようと思います。杖の動きはビューン・ヒョイッ! ですよ? いいですかヒョイッ! ですからね? 昔ヒョイッ! ではなくショイッ! とやった生徒がいて教室にバッファローを呼びだしてしまいましたからね?」

 

 

そんな生徒がいたんだ。そして先生、声が高いね。

 

 

「呪文は『ウィンガーディアム・レビオーサ』です。では皆さん、やってみましょう! いいですかヒョイッ! ですからね?」

 

 

みんなが練習を始めた。よし僕も、

 

 

「ウィンガーディアム・レビオサー」

 

 

でも動かない。

やけになって杖を振るけど何も起こらない。とハーマイオニーが、

 

 

「ちょっと待って、ストップストップ! あなた呪文間違えてるわ。いい? 『レビオーサ』よ? あなたのは『レビオサー』」

 

 

と言ってきた。カチンときた。何だよ偉そうに。

 

 

「そんなに言うのなら自分がやってみろよ。ほらどうぞ?」

 

 

そういうとハーマイオニー一つ咳払いをし、呪文を唱えた。

 

 

「『ウィンガーディアム・レビオーサ』」

 

 

そして成功させた。あの得意気な顔、とても腹が立つ。

 

 

「オオー、よく出来ました! 皆さん見てください、グレンジャーさんがやりました! グリフィンドールに十点! グレンジャーさん、お見事です!」

 

 

何だか面白くない。急激にやる気がなくなった。

とここでもまたまたシロウがやってくれた。

呪文を完璧に唱え、杖も、いや短剣も正しく振るった。ここまではいい。ここまではいいんだ。

けど羽は高速で空中にあがって鋭利な形状になり、妙な金属光沢を放ちながら、まるで矢のように狙いを定めた。

そして今まさに呪文の失敗で爆発しようとしていたシェーマスの羽に向かって射出、射出されて羽を弾き飛ばし、机に刺さった。

 

うん、刺さった。見事に矢の様にに刺さった。スタンッ! って音をたててキレイに机に刺さった!

 

怖いよ! なに!? こないだの変身術といい、どうしてそうなるの!? おかしいでしょう! スッゴい攻撃的に魔法がかかってるじゃん!

本人に聞いてみたところ、変化させようとも射出しようとも思っていなかったらしい。

フリットウィック先生も驚きすぎて何も言えないみたいだった。

 

 

「…………なあハーマイオニー、マリー。オレ泣いていいかな。普通に羽を浮かべるだけなのにこんな攻撃的になるなんて」

 

「だ、大丈夫よシロウ。少し失敗しただけだって(汗)」

 

「そ、そうだよシロウ。魔法が使えただけでもラッキーじゃない。私なんてそもそも羽も動いてないんだよ?」

 

「オレ、いつか誰かを怪我させそうで怖い……」

 

「「…………」」

 

 

うん、同情するよシロウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

「『いい、レビオーサよ。あなたのはレビオサー』偉そうに、だからあいつ友達がいないんだよ」

 

 

授業が終わって寮に荷物を置きにいく途中、ロンがそういっていた。

だがあいつはその後ろに当の本人が、ハーマイオニーが後ろにいることに気付いていない。マリーがロンを諌めようとしたが遅かった。

ハーマイオニーは泣きながら足早に去っていった。流石にロンも気付き、ばつが悪くなったらしい。

微妙な空気のまま、大広間に向かうことになった。

しかし先程から胸騒ぎがする。今夜なにか起きる、そんな予感がする。一応もしものために布石を打っておこう。なにかあってからでは遅い。

オレは寮から持ってきた自分の魔力を込めた宝石を一つ取り出し、マリーに差し出した。

 

 

「マリー、少しいいか?」

 

「なに、シロウ?」

 

「いや、なに。少し胸騒ぎがしてな。君にこれを」

 

「これ、飴玉? じゃあないよね。」

 

「いや、違う。とりあえず、噛まずに飲み込んでくれ」

 

「え? う、うん。…………コクン。これ何なの?」

 

「オレの魔力を込めた宝石だ」

 

「ほ、宝石!?」

 

「問題ない。すでに体に取り込まれているはずだ。なにか流れを感じるか?」

 

「え? ん~と……あ、なんかシロウと繋がってる」

 

「簡易的に君とオレとの間にパスを繋いだ。念話であれば、この城程度の広さならどこでもできる」

 

「要するに、ホグワーツ内で私とシロウがテレパシーできるってこと?」

 

「そういう認識でいい」

 

 

━━ こんな感じでな

 

━━ おお、すごい

 

 

「なにかあったときはこれで伝えてくれ」

 

「うん、わかった」

 

「では大広間に行こう。ああ心配しなくても、心のうちまではわからないから安心しろ」

 

「はーい」

 

 

そうして食事と相成ったが、やはりハーマイオニーはいなかった。

何でもトイレにこもって泣いているらしい。ロンはさらに気分悪そうな顔をしている。

まぁそうだろうな。自分の言葉で人を傷つけたとなれ…………む!? 人外の気配だとッ!?

 

 

「トロールがぁぁぁあ!!」

 

 

そう叫び、クィレルが大広間にに駆け込んできた。途端、広間の中は静寂に包まれた。

 

 

「トロールが……校舎内に……お伝えしなければと…………」

 

 

そう言ってクィレルは地に倒れ、気絶した。

瞬間、大広間は混乱と悲鳴で満たされた。皆が逃げ惑い、収拾がつかなくなっている。いつもは動じないマリーも、流石におろおろしていた。

仕方がない。

変身術で作ったナイフを使うか。確認したが爆散させることが可能みたいで、破片も残らずに魔力に還るらしい。オレはナイフを天井に投げる。

そして、

 

 

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 

 

 

ナイフを爆発させるのと、ダンブルドア校長が杖で爆竹を鳴らすのは同時だった。広間の中は一斉に静まる。

「生徒は速やかに寮に戻りなさい。監督生は下級生の引率を、先生方はワシと共に4階へ」

 

 

どうやら教師陣は侵入禁止の4階の部屋に行くそう。オレはダンブルドアとアイコンタクトを図った。彼はこちらに気付き、小さく頷いた。

パーシーが、

 

 

「みんなこっちに集まって! 焦らないで! みんな集まればトロールなど恐るるにあらず! さぁこちらへ! 僕は監督生だ!」

 

 

と言っていた。

下級生を安心させようとしているのはわかるが、戦闘経験の無いものがいくら集まっても余計な犠牲が増えるだけだろう。それにその発言は下手したら余計な慢心を生みかねんぞ?

 

まぁいい。それよりも今は、

 

 

━━ マリー、聞こえるか?

 

━━ なに、シロウ?

 

━━ すまないが、オレは一人で動く。監督生のパーシー・ウィーズリーにはごまかしといて……

 

━━ 待って、シロウ!私達も今別の場所にいる!

 

━━ なんだと!? どこにいる!

 

━━ 3階の女子トイレに! ハーマイオニーに知らせてあわよくば一緒に寮に行こうと! ロンも一緒にいるよ!

 

━━ わかった! すぐにそちらに行く! 嫌な匂いがしたらすぐに隠れることができる場所に身を隠せ! いいな!

 

━━ え!? あっ、ちょっ、シロ……

 

 

通信を一方的に切り、オレは走ります。トロールがどれ程の大きさと強さかは知らん。だが、一介の生徒が対処できるような類いの相手ではないことは自ずとわかる。

 

 

「シロウ! どこに行く! 戻ってこい! シロウ!!」

 

パーシーが叫んでいるが無視だ。それどころではない。

オレはマリーとのパスを便りに、女子トイレ向かった。

 

 

 

 

 

 

廊下を全力で駆け抜ける。T字路が見えてきたときに、嫌なドブの匂いと大きな影が見えてきた。あそこか!

 

T字路に差し掛かり、左を見ると、いた。灰色の肌をした、身長五メートルほどのトロールが棍棒を引きずりつつ、こちらを睨み付けていた。

よし、まだ女子トイレには行っていなかった。俺たちは互いににらみ合いながら止まっていた。周りに人はいない。ならば、手加減の必要はない。

 

 

 

『---刻印接続・起動(キースタンド・コンプリート)、---形態変化・守護者(スタートアップ・ガーディアン)。』

 

 

 

白髪は自然とかきあげられ、オールバックとなる。左手に持つは英雄トリスタンの『無駄なしの弓(フェイルノート)』、その贋作。慣れ親しんだ袖無しの革鎧に黒の外套。黒のレギンスにブーツ。ガーディアン・スタイル、起動完了。

 

それが合図となった。

 

トロールは雄叫びをあげ、棍棒を振りかざしながらこちらに突進してくる。巨体のわりによく動くが、無駄に図体がでかいから狙いやすい。

 

『---投影・開始(トレース・オン)

頭に描くは十二の剣の設計図。一片のムラもなく、完璧に描く。

 

 

--- 剣を弓につがえる。相手の間合いまで残り3秒 ---

--- 剣を捻り、細く長く作り替える。残り2秒 ---

 

--- 敵〔的〕を見据え、弓を打ち起こし、引き分ける。残り1秒 ---

 

 

 

トロールの間合いに入ると同時に弦を放れる。十二の剣弾は疾ッ! と飛び、外れることなく全てトロールに突き刺さった。

両太もも、両脛、両肩、両腕、腹、水月、喉、額。

 

 

「全十二射皆中。目標殲滅完了」

 

 

全てを射抜かれ、息絶えたトロールはドウッ!と音をたてて後ろに倒れる。これで問題ないだろう。あとはマリーのところn、

 

 

━━ シロウ!!

 

━━ マリーか、どうした?

 

━━トロールが女子トイレに!

 

 

何だと!? まさかもう一匹いたのか!?

 

 

━━ すぐに着く! 耐えていてくれ!!

 

━━ お願い! 急いで!!

 

 

間抜けかオレは!? いつトロールが一体だけど言われた!!

全身を強化し、全速力で女子トイレに向かう。途中で同じ方向にいくマグゴナガル、スネイプ、クィレルを見かけたが無視だ! 構っている余裕は無い!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは、ミスター・エミヤ?」

 

「まさか、それはあり得ん。生徒たちは今は寮に」

 

「いえ、今のような動きが。廊下を全速力で走りつつ、角を曲がったり他人を追い越すときに壁を蹴って移動するようなことができる人は、彼以外この学校にはいません」

 

「と、とと、とにかく。いい急ぎましょう、二人共!」

 

「ええ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子トイレの入り口の大扉を蹴り飛ばすように開けると、ハーマイオニーは腰を抜かし、マリーがトロールに捕まれた状態で宙吊りになり、ロンが杖を構えていたが絶望的な顔をしていた。

どうやら浮遊術で棍棒を奪ったはいいが、トロールが取り返してしまったようだ。ならば、

 

 

「ロン、どけ! マリー、動くなよ!」

 

 

弓を破棄して両の手に干将・莫耶を投影し、トロールの棍棒を切り払いつつ、マリーを掴む腕を切り裂く。トロールは苦悶の声をあげ、マリーは無事脱出した。

 

 

 

『---投影・開始(トレース・オン)

 

 

 

巨大な剣を数本投影し、剣の壁を作ってトロールの足止めをする。

 

 

「マリー、ロン! 動けるならハーマイオニーを連れて脱出しろ!」

 

 

マリーは頷き、ハーマイオニーのもとに向かうがロンは突っ立ってる。何をやっているのだ。ただデカイだけの剣を使った壁だから、この足止めもあまり持たないのに。

 

 

「ロン、急げ! 死ぬつもりか!! さっさと逃げろ!!」

 

「君はどうするんだ!」

 

「お前たちが逃げたらオレも隙をみてあとを追う! さっさといかんか!!」

 

「ダメだ! 君を置いては行けない!!」

 

 

チィッ!

仲間意識が強いことと他人の心配をするのは立派なことだ。だが今、それは邪魔にしかならない!!

 

 

「シロウ!!」

 

「どうした、マリー!」

 

「出口が・・・!」

 

 

どうやらトロールが剣の壁を壊そうとする余波で、出口が瓦礫に塞がれてしまったらしい。クソッ! 仕方あるまい。

『カラド・ボルグ』の一突きを防いだと言われる黄金の盾『オハン』を投影し、マリーに渡した。

 

 

「そいつの陰に隠れてろ。他の二人もだ!」

 

 

マリーは心得たとばかりに盾を構えるが、彼女は盾を重そうに抱えていた。

しまった!

マリーの筋力を度外視していた。まさかここで「うっかり」をやらかすとは!

トロールが剣の壁を壊していく。時間がない。だが、そこでロンがハーマイオニーを抱えてマリーのもとへ行き、マリーに代わって盾を構えた。

よし、これでいい。ならば今のうちに。

 

 

 

『---投影・開始(トレース・オン)。 ---憑依経験。---共感終了。』

 

 

 

頭に描くは剣の設計図。その数、二十七。

 

 

 

『---工程完了(ロールアウト)、---全投影、待機(バレットクリア)!』

 

 

 

オレを中心にプラズマが走り、頭上の空中に二十七の剣が投影される。

ロンとハーマイオニーはその光景に唖然としていた。

出口では先程の三人の教師たちが瓦礫をどけ、中に入ろうとしている。

トロールを遮る剣の壁もあまり持ちそうにない。

 

 

 

『---停止解凍(フリーズアウト)

 

 

 

ついにトロールは最後の邪魔な剣を払い、こちらに向かって突進してくる。同時に出口の瓦礫も払い除けられ、教師たちが駆け込んできた。が、彼らは絶望的な顔を浮かべた。

 

 

「「ミスター・エミヤ(エミヤ君)!!」」

 

 

マグゴナガルとクィレルが叫ぶ。トロールとオレの距離、あと八メートル。

 

 

「「シロウ!!」」

 

 

ロンとハーマイオニーも叫ぶ。距離、残り五メートル。

だが、マリーは黙ってこちらを見ていた。その目は、大丈夫なんだね?、と問うていた。だからオレはただ頷く。残り三メートル。

マグゴナガルとロン、ハーマイオニーが顔を反らす。

 

 

 

 

 

『---全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)!!!』

 

 

 

 

剣が走る、走る、疾る、疾る、はしる、はしる、ハシル、ハシル。

 

 

トロールに向かって射出された剣は、吸い込まれるようにトロールの全身を貫いた。二十七の剣に全身を文字通り蜂の巣にされたトロールは、既にその命を終わらせていた。血飛沫をあげながらトロールは背中から倒れた。

 

 

あとに残ったのは頭から血を被ったオレと、無数の瓦礫、そして沈黙だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

いやはやここまでくるのに長かった。下書きの紙が10枚越えました。
この作品ですが、下書きの時点で一度親しい友人に見てもらい、そこでちょいちょい修正を加えて本書きしています。

さてさて今回のトロールですが、原作とは違って二体用意致しました。理由はロンのハーマイオニーに対する見せ場を作る為です。本作品には描写していませんが、シロウがたどり着くまでに原作のノックアウト前まで起こっていました。そこで分岐として棍棒を取り返す、という展開を加えた次第です。

また前回二部編成する、といいましたが、2つに分けるとどうしても片方の長さが短くなってしまい、ならば纏めてしまえとした次第です。


さて、次回はマグゴナガル先生の説教とシロウの説明回です。いつ投稿するかわかりませんが、今後もよろしくお願いいたします。

あ、番外編として3巻か2巻らへんで没集を書こうかと思います。イヤーお蔵入りの中にはネタに走ったものもありまして。


では今回はここらへんで


感想待ってます(^ ^)ノシ





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6. 説教と新たな絆、そして人生初めての



今回は長くなったので、説教だけです。



それではごゆるりと。






Side シロウ

 

 

ふむ……臭いな。トロールの血がここまで匂うとは。いやはや臭いのは体臭だけかと思えばなかなかどうして、これは体を石鹸まみれにしてもとれんかもしれん。

トロールを串刺しにしている剣と『オハン』の投影を破棄すると、マグゴナガルが鬼気迫る表情でこちらにきた。

 

 

「ミスター・エミヤ、ウィーズリー! ミス・ポッター、グレンジャー! 大丈夫ですか!? 怪我はしてませんか!? それにこれはどういう状況なのですか!?」

 

 

どうやらマグゴナガルは混乱しているらしい。

スネイプも努めて冷静でいようとしている。

クィレルは……ん? いやに冷静だな。いつもの彼ならば気絶しているはずだが。それに妙に目が冷たい。今まで以上に警戒しておこう。

 

さて、そろそろマグゴナガルの話を聞かねば。

 

 

「……聞いているのですか、ミスター・エミヤ!! あなたは一体何をしたのですか!? あの剣は、あの盾は、まるで最初からそこになかったかのように……」

 

「それについてはこのあと直ぐ、スネイプ先生とダンブルドア校長を交えて説明します」

 

「……クドクドクド。え? あ、はい、わかりました」

 

 

オレの一言でマグゴナガルは冷静さを幾分か取り戻したらしい。ここでクィレルが吃りながら、

 

 

「わ、私には、な、なな何も?」

 

 

と聞いてきたが、正直信用ならん。

 

 

「ええ。校長を含め、今あげた三人だけです。それに……」

 

 

ここで一時的アーチャーの口調にする。

 

 

「正直貴様のような人種は信用ならん。貴様のような類いの人間はいくらか見てきたが、誰もが仮面を被り、その下に醜いものを隠していた。貴様がそうでないとは言い切れん」

 

 

オレの突然の口調の変わり様とその内容に皆が目を見開いていた。が、同時にスネイプはどこか感心するような視線をオレに向けていた。

 

 

「……それは一先ず置いておきましょう。それよりも」

 

 

マグゴナガルはそう前置き、マリー、ロン、ハーマイオニーに顔を向けた。

 

 

「なぜあなた方がここにいるのですか! 生徒は寮にいるはずでしょう!」

 

 

マグゴナガルが三人を叱る。三人ともどう答えようか迷っているな。

しかし、ここでハーマイオニーが口を開いた。

 

 

「私の責任です」

 

「ミス・グレンジャー?」

 

「私の責任です。授業で習ったことを応用すれば、私でもトロールをどうにかできると。身の程を知らず、独断で行動しました。他の二人は私を止めようと、説得にきたのです」

 

 

……驚いた。まさかハーマイオニーが教師に嘘をつくとは誰が思っただろうか。マリーもロンも唖然としている。

 

 

「ミス・グレンジャー、何てことを。あなたは自分の命だけでなく、他のひとの命までも危険にさらしたのですよ!! グリフィンドール二十点減点です。ミス・グレンジャー、あなたには失望しました。さぁもう寮にお帰りなさい。今回は無事でよかった。次は決してこんなことはしないよう。今回のことは他言しないように」

 

 

マグゴナガルの言葉に従い、ハーマイオニーはこの場を去っていった。マグゴナガルは残りの二人に目を向ける。

 

 

「あなたたち二人も、行動が軽率過ぎます。止めようと説得することは正しいことです。ですがどなたか教師に報告することもできたでしょう」

 

 

まぁ正論だな。

事後とは言え、こう言われるのは仕方がない。二人も顔をうつむかせている。

 

 

「よって十点ずつ、お二人に差し上げます。さぁあなたたちも寮にお帰りなさい。他の生徒は夕食の続きをしています。あなたたちも今回のことは他言しないように」

 

 

そう伝え、二人に帰るように言う。二人もそれに従い、この場から出ていった。最後にマグゴナガルはオレに顔を向けた。

 

 

「ミスター・エミヤ。あなたについてはこのあと話が有るようですし、早急に校長室に向かいましょう。あそこなら盗聴される心配もありませんから。」

 

 

その判断に、こちらも依存はない。だがその前に、

 

 

「この女子トイレのトロールを始末する前に、同じフロアでもう一体トロールを討伐しました。こいつよりも少し大きい。後処理を頼んでいいでしょうか。」

 

「なんと、もう一体いたのですね。迅速な制圧を感謝します。後始末はこちらに任せてください。さぁ今は校長室へ。セブルス、行きましょう」

 

 

そうしてオレたちは校長室に向かった。

 

 

 

………………やはり臭いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

マグゴナガル先生に言われたので、私とロンはグリフィンドール寮に帰っていた。途中でハーマイオニーがいるのを見つけた。どうやら私達を待っていたみたい。こちらに気付くと駆け寄ってきて、

 

「ありがとう」

 

と一言いっていた。ロンも私も気にしないように言い、三人で寮に帰った。多分私達はこのとき初めてお互いに歩み寄れたと思う。

私達は自然と友達になった。ただ、ハーマイオニーのロンを見る目が少し気になったけど。

帰る途中、廊下が封鎖されていた。そこにいたフィリットウィック先生によると、どうやら十二の剣で急所を串刺しにされたトロールの死体があったらしい。

誰がやったかは知らないけど、当事者の私達以外に知られる前に、後始末をするみたいだ。

 

……絶対シロウだ。ロンもハーマイオニーも納得した顔だった。

私達三人はたぶん一緒のことを考えてる。『シロウに弓か剣を持たせたら、そこらの魔法使いは成す術なくやられる』と。敵にまわしたら命がいくつあっても絶対に足りないと。

 

私達は少々遠回りをして寮に戻った。

談話室に入ると先輩同輩関係なく、こちらに集まってきて質問をしてきた。でもマグゴナガル先生に口止めされていたので、その旨を話すとみんな渋々ながらも納得して夕食に戻った。ロンのお兄さんで監督生のパーシー以外は。

思えばホグワーツで初めて顔を合わせたときから何となく好きになれなかった。

ロンやそのお兄さんである双子のフレッドとジョージとは違って冗談が通じず、それはまだ生真面目ということで許せるけど、監督生ということが誇らしいのか、何かにつけて自分が自分がと目立つようにする。

 

あれだ。

将来権力者の見てくれだけが良い戯れ言にいいように踊らされる典型的な人間の匂いがする。

今もしつこくこちらに質問をし、あわよくば説教をしようとしている。正直とてもうざったい。

マグゴナガル先生から口止めされていると説明したし、軽率な行動も反省もしている。話せるコトは全て話しタのに、それでモまだ聞いテくル。

 

………………………アァ、ホントウニ。

 

 

「……ウルサイナ」

 

自分でも驚くほどの低く、冷たい声が出た。楽しいおしゃべりの声で満たされていた談話室は水をうったように静かになった。ロン、ハーマイオニー、そしてパーシーは絶句してこちらを見ている。

 

 

「……さっきから黙っていればギャーギャーと。やれ本当のことを話せだの、やれ自分は監督生だから知る義務があるだの。お前はそんなに偉い人間なのか」

 

 

パーシーは口をモゴモゴさせてなにか言おうとしているが、関係ない。

 

 

「私はいったはずだ。寮監のマグゴナガル先生から口止めされていて、話すことはできないと。お前の耳は飾り物か。お前は寮監よりも偉いのか」

 

「そ……それは」

 

「「マリー?」」

 

「違うのならその耳障りな口を閉じろ。お前が今やっていることは完全な越権行為だ」

 

「ッ!! 君は!」

 

「口を閉じろと言ったはずだ。理解しているか? 簡単な言葉で言うとしゃべるな、黙れと言ったのだ。

そもそも大広間での発言はなんだ。皆が集まればトロールなど恐るるに足らず?

馬鹿も休み休みに言え、戯けが。

私を含めた戦闘経験の無いものがどんなに沢山いようと、余計な犠牲が増えるだけだ。少し考えればわかるだろう。もうお前に話すことはないし、お前の話を聞く気も毛頭ない。それと……」

 

 

それから私は談話室を見渡して、

 

 

「せっかくの楽しい夕食を台無しにして申し訳ない。部外者は早々に立ち去る」

 

 

そう言って私は寝室に向かった。後ろでなにか騒いでいたけど無視した。ロンとハーマイオニーは私をおってきた。二人にも申し訳ないことをした。ホグワーツでの初めてのハロウィーンを台無しにしてしまったから。

 

その日、私は初めてキレるということをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side others

 

 

 

「おい! マリー、ロン、ハーマイオニー! 戻ってこい! まだ話は終わってないぞ! おい!!」

 

 

パーシーが怒鳴っていたが、結局三人はそのまま寝室にいったらしい。ハロウィンパーティーはそのままお開きとなってしまった。

一人立っているパーシーに、その弟たちである双子のフレッドとジョージが近づいていった。

 

 

「パース。今マリー本人から言われただろうが。マグゴナガル先生に口止めされてると」

 

「フレッドの言う通りだぜ? もうこれ以上何もわからねぇって。やめとけよ。ロンもハーマイオニーも同じこと言っていただろ? 俺達も心配だったからお前の言いたいこともわかるけど」

 

「違うんだフレッド、ジョージ。 それもあるけど、僕が言いたいのは先ほどの態度だ」

 

「いやまあ、流石にマリーがキレるとは思ってなかったけど」

 

「だな。それにあのときのマリー、どことなくシロウと似たような雰囲気してたし」

 

「…………僕がしつこく詰問したことは確かにやり過ぎた。それは反省している。けどそれを差し引いてもあの態度は看過できるものじゃない」

 

「一度互いに頭を冷やしたほうがいいぜ?」

 

「そうそう。今はひとまず、ほらパース。これ飲んで落ち着けよ」

 

「ああ、ありがとう。…………!? ブホッ!! ゲボッゴボッ!! フレッド、ジョージ! なんだこれは! 何を飲ませた!」

 

「あ、それ? それは俺達がマグルの世界で購入した物を色々と混ぜた特性ドリンクだぜ?」

 

「何でもシロウの生まれた日本じゃちょうど俺達ぐらいの年のやつが遊びで作るとか」

 

「待て! お前たち!」

 

「「あーばよー、パーシー」」

 

「待たないか!」

 

 

そして夜は更けていく。

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

下書きの段階でシロウの魔術についての説明がとても長くなったので、題名を変えて投稿することにしました。

パーシーですが、訂正前は結構痛い目なあわせていました。しかし、やはりどうかと思ったので、原作よりも多少物わかりのいい、だけど責任感が強いあまり少々空回りしてしまう人柄にしました。
…………そうなってますよね?


以前ここで少しアンケートをとっていましたが、規約違反ということで、あらためて活動記録にてとらせていただきます。尚、今まで回答下さったかたの数値は変わらず加算させていただきます。



さて、次回こそシロウの説明回です。

今後も本作品をよろしくお願いいたします。





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7. エミヤシロウとは

はい、今回はシロウの説明回です。



それではごゆるりと。





Side シロウ

 

 

今オレたちは校長室にいる。各寮と同じで合言葉を言う必要があった。その合言葉がなかなかふざけたものだったが。なぜ菓子の名前なんだ。しかも海苔煎餅だと? 開いた口が塞がらんかったわ。

 

まぁそれはさておき、そろそろ話を始めるか。トロールの血については、匂いを含めてダンブルドアが消してくれた。そしてマグゴナガルもスネイプも早く話せとばかりにこちらを見つめている。オレは口調をアーチャーのように変えて話はじめた。

 

 

「まず、質問に答えます。ものによっては同時に説明もします」

 

「ではまず私から」

 

 

マグゴナガルがいい、続けた。

 

 

「あの剣はなんですか? それにあの三人が持っていた黄金の盾は、そしてあなたの格好は?」

 

「わかりました、説明と一緒に話します。まず前提として話しますが、そもそも私はこの世界の人間ではありません」

 

「この世界の人間ではない? どういうことですか?」

 

「そのままの意味です。私は無限に連なる平行世界のうち、その一つに住む人間です。訳あって元の世界にいることができなくなり、この世界にいます」

 

「「なっ!? 平行世界!?」」

 

 

ダンブルドアは知っていたため特に反応はなかったが、スネイプとマグゴナガルは絶句していた。

それもそうだろう。いま彼らの目の前にいるのは確認さえされていない、もしもの世界の住人なのだから。

 

「話を続けますね。あのときトロールを仕留めた剣と、あの三人を守っていた盾は、私が投影で作ったものです。

私が使っているのは元々私の世界で魔術と呼ばれているもの。この世界の魔法とはそもそも基盤が違います。

この世界の魔法基盤は、当人にとって最も相性のいい触媒、不死鳥の尾羽根やユニコーンの毛ですね、を通して簡易的な概念として行使すると私は考えています。ガンドと似て非なるもの、と。

で、私の使う魔術とは体にある魔術回路と呼ばれる擬似神経を用いてそこから生成される魔力を直接、または間接的に使用して神秘を行使するものです。例えば古代ギリシャのコルキスの王女メディアの術とか」

 

 

ここで一度言葉を切るとダンブルドアを含め、三人とも信じられない目をしてオレを見ていた。

今の話が本当なら、オレは失われた古代魔術を今のところ唯一行使できる存在ということになる。

しばらくして、今度はスネイプが口を開いた。

 

 

「先程お前の言った投影。それはなんだ?」

 

「私がマトモに使える数少ない魔術の一つです。魔術には基本的に『地水火風空』の五大属性から成ります。ですが稀にこの五大属性では再現できない特異な属性を持つ魔術師も現れます。私もその一人です。私の属性は『剣』」

 

「成る程、変身術や妖精魔法で刃物の特徴をもつ結果は、あなたのその剣の属性が関係しているのかもしれませんね」

 

「そうです、話を戻します。投影とは自らのイメージを元にして物の基本骨子から構成材質、姿形を全て己の魔力で補い、贋作を作り出す魔術を指します」

 

「全てを魔力のみでだと? だがそうであれば長持ちはしないはずだ。魔力はいずれ気化し、強度もそれほど強くはならない。それに人の頭では、完璧なイメージを浮かべるのは難しい」

 

 

なかなか鋭いな、スネイプは。マグゴナガルもダンブルドアもそれに簡単に思い至ったようだ。

 

「ええ、その通りです。ですから本来は儀式などで一時的にレプリカが必要なときぐらいしか使われない、マイナーなものです。刃物を作っても紙一枚切れれば良い方でしょう」

 

「ではあの剣についてはどう説明する?」

 

「あれが私の異常性の一つです。

剣の要素を持つ武具、剣は勿論槍や戦斧、槌などは本物と何ら遜色の無い贋作が造れます。イメージに綻びがなければ、強度も本物のそれと同等。さらに言えば、再構成不能まで破壊されるか私が破棄しない限り、半永久的に存在し続けます」

 

 

ここでオレの異常性をようやく理解したのだろう。三人とも目を見開いている。だがこれで終わりではない。

 

「あの黄金の盾は宝具(ほうぐ)と呼ばれるもの。過去の英雄たちが持つ武具や逸話、伝説が力をもった究極の幻想。

例を挙げるとすれば、この地で有名なのは騎士王アーサーのエクスカリバーやクランの猛犬のゲイ・ボルグあたりがその類いはです。あの盾はカラド・ボルグの一撃を傷一つなく防いだ盾、オハンの贋作です」

 

「と言うとシロウ。君は魔力さえあれば剣の属性を持つもの、仮令(たとえ)それが宝具とやらであったとしても、いくらでも造れるのかのぅ?」

「ええ」

 

「何て出鱈目な……」

 

 

マグゴナガルがそう呟くのも仕方がないか。元の世界でもそのようなことはよく言われていた。そして封印指定を受け、愛する人たちと離れてしまうことになった。

 

 

「成る程のぅ。11年前にあの予言を聞いたときはいまいちよくわからなんだ。じゃが今の説明でようやく納得がいった」

 

「「ダンブルドア先生(校長)?」」

 

 

ダンブルドアの発言に、スネイプとマグゴナガルが疑問の声をあげたが、ダンブルドアはそれを無視して、一つの不思議な光を放つ盆を持ってきた。

憂いの篩と言うらしく、注ぎ込んだ記憶を保存、再確認することが可能となる魔法道具らしい。

 

ダンブルドアはそれを二回ほど杖で叩くと、大きな丸縁眼鏡をかけたトンボのような女性が、ホログラムのように浮かび上がった。

マグゴナガルが「シビル……」と呟いていたが、知り合いだろうか。するとホログラムの女性は、低くしゃがれた声で話しはじめた。

 

 

 

 

 

『彼方より厄災が来る。それは魔法界、非魔法界を選ぶことなく、振り撒かれるであろう。それを止め得るは、無限に連なる世界の調停者たる万華鏡が系譜、錬鉄剣製の英雄のみ。その英雄、無限の贋作を担いし者なり。その英雄、遥か彼方の世界にて、抑止の守護者となりし者と同じ魂をもつ。今より先、錬鉄の英雄が遥か彼方よりきたる』

 

 

 

 

 

おそらくダンブルドアの記憶だろう。

予言については前もって聞いてはいたが、まさかアーチャーと同じ魂を持つ別人であることもも言っていたとは。そしてここでも厄介事に巻き込まれるのだな。……………気が滅入る。

 

 

「よ……抑止の守護者と…………同じですって?……」

 

「こ……この男が…………錬鉄の英雄……だと?」

 

 

マグゴナガルとスネイプが、本気で恐怖した表情を浮かべてオレを見ていた。ここで今まで黙っていた組分け帽子が一言いった。

 

 

「この者は既に至っております。守護者ではなく、英霊に」

 

「「ッ!!」」

 

「……ゴーストたちが頭を垂れていたのはそういうことでしたか」

 

「……なんと…………」

 

「いろいろと言いたいこと、聞きたいことはあるでしょう。だが今回はここまでにさせていただきます。いずれ私自身のことは話します。今はまだそのときじゃない」

 

「それはいつ頃なんじゃ?」

 

「来るべきそのときに。今日のことについては、マリーたちの中からオレのやったことだけ記憶操作させてもらいます。今はまだ、あの子たちは知るべきではない」

 

「…………相わかった。好きにするとよい」

 

「それと今後についてですが、今まで通りの生徒と教師の関係でお願いします。特別扱いはあまり好きではありませんから」

 

「わかりました」

 

「我輩も了解した」

 

「最後に一つ聞かせてくれんかのぅ」

 

「なんでしょう?」

 

「君はわしらの敵になることはないんじゃな?」

 

「あなたたちが外道に堕ちない限り、私はあなたたちに刃を向けることはしません」

 

「それを聞いて安心した。いってよい」

 

「ではこれで失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでミスター・エミヤ。先ほどクィレル先生に対してなかなかの暴言と口調でしたが?」

 

「え? ああ、あれは……」

 

「先ほどミスター・エミヤは生徒と教師の関係のままを望むとおっしゃいましたね? では今回の騒動についての判断です。

トロールを二体、迅速に対応したことにより、グリフィンドールに三十点差し上げます。しかしながら理由があったことは理解しましたが、あなたの教師に対する態度が悪かったことでグリフィンドールから十点減点します」

 

「なんと……」

 

「今回はこれで済ませます。が、次回以降は書き取りの罰則も課しますのでご理解を。寮に戻ってよろしい」

 

 

………………解せぬ。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

最初投稿したときは、タメ口で説明させてましたが、流石に不味いと思って訂正を入れました。
そして前回クィレルに暴言吐いたことについての簡単なお説教も入れさせてもらいました。

予言の部分ですが、スネイプ一度聞いて内容を把握しているということにしています。ですので、平行世界の英雄が来ることは知っていました。流石にそれがシロウとは知らないですが。

次回はエミヤの回想録と少々のおまけを投稿する予定です。

ではまた


嗚呼、クィディッチ編にまだ行けない…………




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幕間. 追憶 そして……

今回はエミヤの記憶編です。
たいへん申し訳ありませんが、結構読みづらいかもです。
段落間に入れている『---』は、場面移り変わりの目印です。



それではごゆるりと






目の前に広がるのは炎の海。地獄とはこういうものだと言われているような光景が広がる。数多の苦しみの声が響き渡る中を、一人の少年が歩いている。耳を塞ぎ、悔しそうな顔をしながら少年は歩く。雨が降り、炎は消えた。少年も倒れ、天に片腕を力なく伸ばす。そしてその手が落ちるところに、一人の男がその手を握りしめた。男は涙を流していた。まるで救われたのは少年ではなく、自分であるかのような顔をして。

 

 

---

 

 

少年は荒野に立っていた。回りには草木は生えておらず、唯一あるのは無限につき立つ剣だった。そして少年の見つめる先には、一人の青年がいた。体に何本もの剣を刺して、ただ前を見据えていた。そのとき少年の頭に、自分のであって自分のでない記憶が流れ込んできた。そして少年は目の前にいる青年が、可能性未来の自分であると悟った。少年はそこで意識を閉ざした。

 

 

---

 

 

病院の一室に少年はいた。回りにも、炙り出された生き残りがいた。そこに一人の男がやって来た。男は自分と施設のどちらを選ぶか少年に聞いた。少年は男についていくことにした。男はそれを承諾し、受け付けに向かう前に一言言った。

 

『僕は衛宮切嗣って言うんだ。僕はね、魔法使いなんだよ』

 

この日から、少年は「衛宮士郎」となった。

 

 

---

 

 

少し大きく成長した少年、衛宮士郎とその養父である衛宮切嗣は、ある一室にいた。そこには美しくもおどろおどろしいステンドグラスがはめられている部屋だった。その中心にユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンはいた。そこでは時間がいくら経過したかわからないほど、長い間口論していた。

 

『あんたらが《天の杯》を求める理由はなんだ』

『知れたこと。《天の杯》成就は、我らアインツベルンの使命』

『そのためにあんたらは、無関係の人が巻き込まれることを容認するのか』

『アインツベルンの崇高な使命の前に、有象無象などどうでもよい』

『おまえらがそうすることを冬の聖女(ユスティーツァ)は本当に望んでいるのか』

『黙れ! 貴様らのような裏切り者が、我らアインツベルンの使命に口を出すのか!』

『黙るのはあんただ、ユーブスタクハイト! おまえらは天の杯を手に入れて何をなすつもりだ!』

『なに?』

『さっきから聞いていれば使命だのなんだの。使命云々の前にその天の杯が必要な理由があるはずだろう! それがなんだと聞いてるんだ!』

『それは!! ………………それは……』

『今すぐに返答できなかったのが答えだ! あんたらは天の杯を求めるあまり、求めた本当の理由を見失ってるんだよ!』

『…………黙れ……』

『あんたらのその行いが、冬の聖女(ユスティーツァ)の想いを汚してるとわからないのか!』

『黙れ!』

 

 

 

---

 

 

 

『我らは……天の杯を…………』

『お前たち、アインツベルンが天の杯を求めていることまでは否定しない。それを使命とすることもね。確かアインツベルンの用意する聖杯にはユスティーツァの記憶も刻まれているのだろう? 娘のイリヤにあっても不思議ではない。正直相当不本意だが、イリヤに刻まれているユスティーツァの記憶を確認しよう』

『…………わかった』

 

 

 

---

 

 

 

『…………衛宮切嗣、衛宮士郎よ』

『『なんだ(なに)?』』

『…………すまなかった。そして感謝する。我々に、もう一度思い出させてくれたことを』

『そうか、それでどうするんだ』

『聖杯は解体、浄化する。遠坂、マキリにも協力を仰ぐ。だが、第四次聖杯戦争は中途半端に終結したため、魔力が安定してない。そう遠くない時期に五回目が始まる。そのときにことを成そう』

『わかった。イリヤは』

『あの子のことは気にせんでよい。戦争が終われば体が動かなくなってしまう。が、今人形師にコンタクトを取り、肉体を用意してもらってる。あれを使えば、人並みの命を得て、人と同じように成長できるようになる』

『それを聞いて安心した。彼女を日本に連れて帰っても?』

『構わない。好きにせよ』

『わかった』

『またね、ユーブスタクハイトさん』

『アハト翁で構わない』

『わかった、アハト翁』

 

 

 

---

 

 

 

真夏の夜。満月輝く空のした、冬木のとある日本家屋の縁側に、衛宮士郎と衛宮切嗣、そして彼らの元に戻った長女、イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンは腰かけていた。衛宮切嗣はもう長くない。

彼は自分は子供の頃、正義の味方になりたかったと二人に話す。やめた理由を士郎とイリヤは聞いた。正義の味方はエゴイストだと。自分が味方したものしか助けることができないと。そして、自分自身と自分の大切な存在を守ることができる人が他人を救ったとき、初めて正義の味方になるのだと。士郎はしばらく考え込み、言った。

 

『そうか、それならしょうがないな。うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。切嗣のいう正義の味方に』

『士郎、それは……』

『大丈夫、わかってるから。それが茨の道で、報われないかもしれないって。だって俺、自分の未来の一つをもう見たから』

『『士郎(シロウ)……』』

 

養父と義姉が悲しそうな顔をする。この二人は士郎の記憶を見て、その果ての一つを知っていた。

 

『……なら私は士郎が一人にならないようにずっといる。』

『イリヤ……?』

『だってキリツグはずっと一人だったからなれなかったんでしょう? なら私は士郎と死ぬまで一緒にいる。一人で無理なことも、二人なら大丈夫!』

『イリヤ姉、それは』

『じゃあ士郎が見た通りの人生にならないって言える?』

『…………できない』

『そうでしょう? だから任せて、キリツグ。私達二人でキリツグの夢を叶えてあげるから!』

 

そこで衛宮切嗣は心底穏やかな顔をした。

 

『……そうか、わかった。…………ああ、本当に……』

 

 

━━ 安心した……

 

衛宮切嗣はそう呟き、その目を閉じた。

 

『……キリツグ? どうしたの? 寝ちゃったの?』

 

イリヤが呼びかけるが、その目を開けない。衛宮切嗣は、静かにその命の火を消した。

 

『……バカよ、キリツグは。本当に大馬鹿。まだ話したいこと、聞きたいこと、士郎と三人でやりたいこと沢山あるのに………キリツグの…………お父様の馬鹿……』

 

イリヤは父の遺体にすがり付き、嗚咽をもらす。衛宮士郎の顔には、一筋の涙が静かに流れていた。

 

 

---

 

 

数年が経過し、士郎が高校二年となった冬の日の夜。第四次聖杯戦争から十年を迎えたその年、遂に第五次聖杯戦争が始まった。士郎は甲冑の少女、セイバーのサーヴァントを伴っていた。士郎は初め、セイバーを召喚したときに、聖杯の真実を伝えた。養父が聖杯を破壊した理由をしり、セイバーはやるせない顔になっていた。今回の目的を伝えて協力を仰ぐと、しばらく考慮したのち、これを承諾した。

そして今、目の前には無数の蟲がいた。聖杯の解体、浄化に反対したマキリが独断で動き、遠坂からの養女であり、後輩である間桐桜を聖杯の贄として邪杯にしようとしていた。これには遠坂も黙ってはおらず、現当主で同級生の遠坂凛がどこかで見た白髪肌黒の青年、アーチャーを伴い、士郎とイリヤに協力を申し込んできた。

無論士郎たちはこれを承諾し、蟲とその手を本体である間桐蔵硯の始末を運営である言峰綺礼に仰いだ。言峰綺礼は利害の一致を理由に士郎らと共に間桐を襲撃し、間桐桜の救出と間桐蔵硯の消滅を達成した。この事からマスターが桜だったこともあり、ライダーのサーヴァントが味方に加わった。

 

 

安心したのもつかの間、突如アーチャーが凛との契約を破棄した。全ては衛宮士郎を抹殺するため。アーチャーの正体は、やはり平行世界にて抑止の守護者となった衛宮士郎本人だった。アーチャーは他ならぬ自らの手で衛宮士郎を殺し、守護者の座から自分を消そうとしていた。

十年前の大火災の跡地に出来た公園で、そこから始まったのは二人の剣製による殺しあい、心と心のぶつかりあいだった。

 

『貴様のような人間が誰かのためになど、思い上がりも甚だしい!』

『なんだと!』

『そうさ! 誰かを助けるということが綺麗だから憧れた! だが自らこぼれ落ちたものなど何一つない! これを偽善と言わずして何と言う! そうだろう、衛宮士郎!』

 

アーチャーは士郎だけでなく、アーチャー自身も断罪するかのように声を荒らげる。

 

『はじめから自分のない者が、世のため人のためなどという理由で走り続けた! それが傲慢ということもわからずに! あの炎の中、衛宮切嗣の顔があまりにも幸せそうだったから、自分もそうなりたいと思っただけだ! お前の正義の味方になるという理想は、ただの借り物だ!!』

『違う! 俺は俺の意思で正義の味方になると願った! 十年前のあの地獄の日、自分以外の助けを求める声を俺は、俺達は振り払って歩き続けた!』

 

戦いの舞台はいつの間に、無限の剣が乱立する世界へと移っていた。空には歯車が回り、分厚い雲に覆われた黄昏の荒野。守護者エミヤシロウの心象風景を現実に具現化した世界、固有結界の中で彼らは戦っていた。

 

『今でも覚えている。俺は願った! この地獄をどうにかしてほしいと願った! 自分ではどうにもできないあの状況を打開してほしいと、だが結局救われたのは俺達だけだった。』

『そうだ。だからこそ衛宮切嗣は幸せそうな顔をしていた! まるで救われたのはあの男とでもいうようにな! そしてあの月夜の晩に呪いを残した。』

『呪いじゃない。最初は借り物だ。 だがだからこそそれを貫き通せば本物になるんだ!』

『それは詭弁だ!!』

『詭弁じゃない! アーチャー、お前は今までどれだけ救ってきた?』

『何を今さら。数えきれないほどだ』

『その人たちにお前は目を向けたか? お前が殺したものにしか目を向けてなかっんたんじゃないか?』

『…………まれ』

『たとえ殺した中に自分の大切な存在がいても構わず切り捨てた。違うか?』

『…………黙れ』

『なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった』

『黙れ!!』

『俺は切り捨てない、無くさない!! 俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりはしない! たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても! 俺達が抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから!!』

『ッ!! そこまでだ、消えろォ!!』

 

だがアーチャーの最後の攻撃は当たらず、士郎の剣がアーチャーを貫いた。ここに勝敗は決した。

 

『……俺の勝ちだ、アーチャー』

『……お前の勝ちならばなぜ止めをささない』

『俺はまだやるべきことがある。この聖杯戦争を、止める』

『協力しろというか。一度裏切ったオレに』

『お前がアーチャーだからじゃない。お前がエミヤシロウだからこそだ』

『……成る程な、理解した』

 

そして二人のシロウは聖杯戦争を終わらせるため、再び手を取り合った。

一旦衛宮邸に戻ることになったが、天の杯のための衣を用意するために、イリヤは単独行動をとることになる。その日のうちに郊外のアインツベルンの城から衛宮邸に帰ることは時間的にキツいため、その晩は城に泊まると報告する。

 

しかし翌日、郊外のアインツベルンの城にて現れるはずのなかった影が出現、バーサーカーが汚染される。イリヤからの急報を聞き、駆けつけたシロウ一行は、バーサーカーと遭遇。アーチャーの活躍により、バーサーカーの命のストックを半分まで削り、残りのストックをシロウとセイバーによって終わらせる。そのときに、バーサーカーからイリヤを託される。

 

『衛宮士郎といったか』

『ああ』

『主を頼む。この戦、最後まで共にいることができなかった、私の代わりにも』

『ああ、もちろんだ。俺に、俺達に任せてくれ』

『……感謝する。…………安心した……』

 

偶然にも養父と同じ言葉を遺し、バーサーカーは去った。

 

だがここでイレギュラーの八体目のサーヴァントたる英雄王が顕現し、急襲。マスターであった言峰と共にイリヤを拐い、十年前の地獄を再現しようと企て、大聖杯のある柳洞寺の地下空洞へと向かった。

 

追いかけた先、大聖杯のもとでは、言峰綺礼と英雄王ギルガメッシュが待ち構えていた。自然とサーヴァントはギルガメッシュへ、マスターたちは言峰と対峙した。エミヤシロウは固有結界を展開し、機動力に長けたライダーがそのなかで天馬を召喚させ、騎士の王たるセイバーがその聖剣を解放して見事英雄王を葬り去った。士郎も桜、凛、イリヤのバックアップのもと、言峰を破る。

 

しかしアンリ・マユの生誕は止められず、再び災厄が振り撒かれようとしていた。ここで士郎が初めて固有結界を展開し、その中でもう一度セイバーの聖剣を使用させ、漏れ出た呪いを一掃した。そしてユーブスタクハイトとイリヤが中心となり、凛の宝石魔術、桜の虚数魔術も応用させ聖杯を完全に浄化、解体した。

 

残ったサーヴァントたちが座に還るなか、アーチャーに何やら異変が生じ、刹那意識を失う。目をさますと、驚いたことに守護者の任から解放されたと知らされた。そしてエミヤを経由して、士郎、凛、桜、イリヤに守護者でなく、正規の英霊となるか世界から聞かれた。士郎はそれを受諾、凛と桜は英霊となっても士郎を支えるために受諾した。イリヤは信仰の不足から三人を守護者にすることを防ぐために、アインツベルン一同で語り部の使命を負うこと宣言し、英霊となることを拒否した。エミヤは結果として守護者から解放されたことを理由に、士郎と完全な和解をした後、他のサーヴァントと共に座に還った

 

こうして第五次をもって聖杯戦争は終結した。

 

 

 

---

 

 

 

時は経ち、数えきれないほどの出会いと別れがあった。魔術師の総本山である時計塔、封印指定の人形師、殺人貴と真祖の吸血姫、黒の姫君に万華鏡の魔法使い。そして弱き人々を救うために、世界を渡り歩く先で出会った人々。

 

愛しき人たちもできた。四人の子にも恵まれた。いつしか士郎は世界から「錬鉄の英雄」と呼ばれるようになった。だが時計塔が士郎の魔術隠蔽のいい加減さと士郎の魔術の異端さを指摘し、遂に封印指定となってしまった。やはりというべきか、万華鏡が黙っているはずもなく、士郎は異なる平行世界に送られることとなった。

指定の日、自分の家族だけでなく、近隣の人びと、故郷の人びとも見送りに来ていた。士郎は一番早くに生まれたイリヤとの子、長男の剣吾に妹たちを守るよう言う。凛がいずれ家族全員で遊びに行くと言った。そして桜、イリヤとも口を揃えて言った。

 

これから行く世界でも幸せになれ、と。

 

俺は愛する人たちに見送られ、世界を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ??? 少女のみたもの

 

 

 

夢を見ていました。

 

見渡す限りの炎。地獄の再現のような光景のなかを一人で歩く少年。彼は悔しそうな顔をしていました。助けを求める人に手を伸ばすことができない悔しさが滲み出ていました。

やがて炎は数えきれない命の灯火と共に消えました。少年は倒れ、天に腕をのばしていました。その手を握る一人の男性。ああ、良かった。そういう思いが顔だけでなく、身体中か溢れていました。

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

今の夢はなんだろう。とても恐ろしい、それでいて最後は救われるような夢だった。そう言えば夢のなかの少年、自分のよく知る幼馴染みとよくにていた。まさか、あの炎の中を歩いていた少年は……シロウではないのか。

 

「……ッ!! うぷ……」

 

あの地獄を思い出す。吐き気が込み上げるけど我慢する。嫌な汗が止まらない。もし自分の推測が正しければ、シロウは何者なのだろうか。それを知ったところで私は態度を変えたりはしないけど。

 

知りたい。シロウがあの地獄の先、男性に救われた先で何を思い、何を感じたのか。

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

ちょっと今回はいつもにも増して読み辛かったと思います。

下書きの段階では、これ以上に酷い状況でした。

回想録って戦闘描写や試合描写にも増して苦手なものです。



さて、次回からようやく本編が進行します。
いや、長かった。たいへんお待たせしました。


今後もこの作品をよろしくお願いいたします


ではこのへんで




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8. クィディッチシーズン到来



クィディッチ編突入です。
今まで投稿した話にちょいちょい修正や加筆をいれたりしていました。

今回は控え室に行く直前までです。

ではどうぞごゆるりと





 

 

 クィディッチとは、魔法界において屈指の人気を誇るスポーツ競技である。2つのチームが箒にのり、赤のクワッフル、全自動の妨害玉である黒のブラッジャー、一番小さくてすばしこい黄金のスニッチ、この三つのボールを用いて行われる。いわばマグルの世界でいうサッカーのようなものだ。

 プレイヤーは各チーム七名で構成され、それぞれチェイサーが三名、ビーターが二名、キーパーとシーカーが一名ずついる。

 

 三名のチェイサーはクワッフルを使い、相手の陣に立つ先に輪のついた三つのポールのいずれかの輪に通して点数を取る。キーパーはそれを阻止するポジション。ビーターは棍棒を使い、プレイヤーを箒から落とそうとするブラッジャーを弾く、または敵のチームに当てることを仕事とする。そして残ったシーカーだが、このポジションのプレイヤーは黄金のスニッチを捕まえることが仕事である。

 

 基本クワッフルで獲得する点数は十点であり、試合終了時間は存在しない。ではどうやったら試合が終わるのかというと、ここでシーカーが重要になる。クィディッチは黄金のスニッチが捕まえられると試合が終了する。加えてスニッチを獲得すると、一気に百五十点獲得できる、いわば逆転の手段であると同時に相手との決定的な差をつけるものでもある。

 

 だが試合終了方法なだけはあり、捕まえるのは少々骨がおれる。先述のようにスニッチは小さく、卓球玉程度の大きさである。そして何よりも速くすばしこい。そしてブラッジャーの様な猪突猛進の動きではなく、非常にトリッキーな動きをする。長ければ一日探しても見つからないこともあり、過去には一つの試合に一週間近くかかったこともあるらしい。

 

 さてこのクィディッチだが、ここホグワーツでも各寮に一つずつチームが存在している。そして寮対抗で試合を行い、その獲得点数がそのまま寮に加算されるシステムである。そんな理由もあり、クィディッチの試合があると、生徒は勿論、教師陣も観戦に向かう。だが生徒が選手であるため、最終学年である七年生が卒業し、そのなかに選手がいると翌年から欠員が出てしまう。今年のグリフィンドールがその類いだった。しかも欠員は試合の要であるポジションのシーカー。

 グリフィンドールチームのキャプテンであったウッドは二年生以上から一番骨があり、上手い生徒を選抜しようと考えていた。だがそこに思いもよらぬことがあった。なんと一人の一年生が飛行訓練中に初心者とは思えない技術を見せて、それを見たグリフィンドールの寮監であるマグゴナガル教授が直々にスカウトしてきたのだ。

 喜ばないはずがない。件の生徒を間近に見たが、シーカーに相応しい、動きが速そうな体格をしていた。後日改めて箒に乗るところを見せてもらったが、マグゴナガル教授がスカウトするのも頷ける技量だった。改めてその一年生マリー・ポッターをチームに入れたことは正しかったと実感した。

 他のチームメイトも交えて本格的な練習にも参加させたところ、皆もマリーの入団に両手を上げて喜んでいた。

 

 ハロウィンの騒動も落ち着き、本格的な冬が到来した十一月上旬。ホグワーツではクィディッチシーズンが到来したことにより、生徒教師問わずに熱気が溢れていた。特に今年は例年と違い、皆落ち着きがなかった。それは学校じゅうで噂が流れていたからであった。

 

 ──- 今年は異例の一年生選手がグリフィンドールで試合に出る。何でもその一年生は先生とチームキャプテンが直々のスカウトを受けたらしい、と。

 

 そして今年の第一戦はグリフィンドール対スリザリンである。皆がソワソワするのもわからなくはないだろう。そして今日はその第一戦。噂の当人であるマリー・ポッターはというと、

 

「ヤバいお腹痛い食べ物入らない緊張するトイレ行きたい誰か助けてお願いブツブツ…………」

 

 結構ナィーブになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side マリー

 

 

 今日は初めての試合がある。しかも魔法界で人気のクィディッチの。私のポジションは一番の要のシーカー。今までしっかり練習していたし、プレゼントされた最新式の現時点最速の箒「ニンバス二〇〇〇」にも体は慣らしてある。それは問題ない。でも…………

 

「だってマグルの世界でもクラブ活動に所属してなかったのに、いきなりすごい人気のスポーツの試合だよ? 緊張しないほうがおかしいよ」

 

 今けっこう気が滅入ってる。食事も喉を通らない。

 

「マリー、少しは食べたほうがいいよ?」

「ありがとう、ロン。でもいい」

「トースト一口だけども」

「ハーマイオニーもありがとう。でも本当にいいんだ」

 

 二人とも心配してくれているのは本当にわかる。でも今は本当にヤバい。

 

「マリー、一度深呼吸してみるといい。お決まりの方法だけど効果はある」

 

 パーシーがアドバイスしてきた。

 あの日の翌日、一度頭を冷やして考え直すと、私けっこう失礼なことをしていた。それにパーシーがあんなにしつこく詰問してきたのも、心配だったからだとわかる。弟とその友人が非常事態にいなかったのだ。普通は心配する。なぜか私とロン、ハーマイオニーはあの夜、トイレで何があってトロールが処理されたのかなんか霞がかったような感じで覚えていないけど。

 まぁその事も踏まえてパーシーに謝罪した。だって私に非があったし。それ以降、パーシーとは良好な関係を築いている。今のようにちょっとしたアドバイスをくれるぐらいに。

 

「うん。………………フゥ…………ダメだ、やっぱり喉を通らない」

 

 ダメだった。実践したけど効果が薄いみたい。どうしよう。

 と、そこで隣のシロウから、

 

「まぁ落ち着く落ち着かないはあるが、一先ず皿にとったものはちゃんと食べておけよ? でないと材料を作った人、送った人、料理を作った人に失礼だからな」

 

 と言われた。うん、正論だ。

 

「…………食べる」

 

 ロンとハーマイオニー、パーシーが

「「「シロウの言うことは聞くのか……」」」

 といっていたけど私ニハキコエナイ。

 お皿にのっている食べ物を無理やりお腹に入れる。あ、ちゃんと丁寧に食べたよ? 詰め込んだり掻き込んだりしません。下品だしね。

 

「ねぇシロウ。マリーって今までこんなにナィーブになったことあるの? 少なくとも僕は初めて会ったときから見てないけど」

「私も見たことないわ。どうなの、シロウ?」

「オレが記憶している限り、殆どないな。マリーは基本的に自分で自分の心を落ち着かせていたから」

「そうなのか。マリー、君はいつもどうしてたんだい?」

 

 ロンとハーマイオニー、シロウの会話を聞いていたパーシーが私に質問してきた。私が落ち着く方法、それは……

 

「可愛いものや生き物をモフモフすること」

 

「「「「………………what? 」」」」

「可愛いものや生き物をモフモフすること」

 

「「「「…………えーっと……」」」」

「可愛いものや生き物をモフモフすること」

「いや、三回も言わなくてもわかるから」

 

 みんながとても困惑した顔をしている。それはそうだろう。今この場に可愛いものや生き物はないし。

 

「君がいつもどうしてるかはわかった。だが残念ながらこの場にはその類いのものはない。他にはないのか?」

 

 シロウが聞いてきたけど、あまり思い当たるものが…………あ、一つあった。

 

「シロウ?」

「どうした?」

「ちょっとごめんね? 失礼します」

 

 私はそう言ってシロウの返事を聞かずに、シロウの膝の上に頭をのせた。

 

 その瞬間みんながポカーンとした表情を浮かべた。

 

 デモ私ニハ関係ナイ関係ナイ。

 うん、やっぱりこれは落ち着く。特にシロウの膝の上というのが。周りから生暖かい視線で見られている感じがするけど、無視無視。心の平穏を優先させなきゃ。ああ、安心する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side シロウ

 

 

 

 はぁ…………昔から甘え癖はあったが、まさかここでそれが出るとは。一時期成りを潜めたから年相応になったのかと思いきや、ただ抑えていただけだったんだな。こうも人目を憚らずに甘えてくるのは、どことなくイリヤや娘のシルフィに通じるところがある。あの二人も大勢の人がいる場で堂々と引っ付いてきたものだから、息子の剣吾が呆れた顔をしていたのは懐かしいものだ。

 …………さて、そろそろ現実逃避はやめにするか。流石に周りの視線が痛い。マリーにいたっては寝息をたてはじめている。

 

「こら、マリー。起きろ」

「……うにゅう」

「ほら、このあと試合があるんだろう? 時間までに控え室に行かねばならんし、君はユニフォームに着替えてもいない。ここで寝ては遅刻するぞ?」

「…………ぅん……もうちょっとだけ」

「本当に遅刻するぞ? 初試合が寝てて欠席なぞ笑い話にもならん。ほら、立って」

「うぅ…………暖かいからやだ……」

「控え室まで着いていってやるから。ほら」

「シロウ、おんぶして」

「自分で歩きなさい」

 

 …………まったく、ここまで甘えん坊だったか、この子は? 

 だが聞いた話によるとハロウィンの日の夜、パーシーにキレたらしい。そのときの様子を聞くと、「悪魔が…………桃色の悪魔が!!」なんて声をよく聞いたし、いったいこの子は何をしたんだ? ただ口調がどことなくオレに似ていたらしい。変な影響を与えてなければいいのだが。

 というか、いい加減みんなはその生暖かい視線をこちらに向けるのはやめろ。ハーマイオニーもロンもそんな目でこちらを見るな。グリフィンドール生だけじゃなく、レイブンクローやハッフルパフ、果てはスリザリンの上級生までも同じような目をしているだと? 

 おい、そこの双子のウィーズリー兄弟、そしてリー・ジョーダン! 砂糖吐くな、カメラで写真撮ろうとするな、新婚夫婦言うな! 

 何が「エミヤ夫妻のおなーりー」だ! というかお前ら選手と実況だろうが、移動しなくていいのかよ! 走って行くから大丈夫? そういう問題なじゃないだろ!? 大丈夫だ、問題ない? 問題ありすぎだ! ジョーダンはここの実況をするな! 「新婚さん、いらっ○ゃ~い」じゃないわ! それ日本のテレビ番組だろうが、なぜお前が知ってる! お前も早く実況席に行けよ! 

 っていつの間にマリーが背中に………………まったく。

 ああもう、みんな砂糖吐くな! というかパーシー、お前は彼女がいるはずだろう! お前まで砂糖吐いてどうする! それとこれとは話が別? 

 

 

 なんでさぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

いやはや、自分で書いたのを読み返して思ったんですが、けっこうシロウさんがはちゃめちゃが過ぎました。
ですので、台詞の口調や表現、会話の内容を改訂しています。

次回はクィディッチの試合とスネイプ先生に疑いがかかります。


今までおもしろいといってくれた方々、ここが悪い気に入らないといってくれた方々、感謝いたします。
これからも本作品をよろしくお願いいたします。

今後の展開がシロウの無双になると考えている方々へ
この作品基本方針について、活動記録に書かせていただきます。
その他の方々も興味のある人たちは、読んでみてください。


では今回はこの辺で

「説教と新たな絆~」の後書きでアンケートをとっておりましたが、規約違反ということで、改めて活動記録にてとらせていただきます。
ご協力してくださる方々、よろしくお願いいたします。





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9. Games begin!!


クィディッチゲーム、スタートです。

そしてただいまのアンケート統計
ランサー兄貴のようなポニーテールを付加: 2票
アーチャーズオールバック: 1票
です。
このアンケートは、賢者の石が終わるまで、活動記録にて受け付けています。

それではごゆるりと





Side マリー

 

 

私は今、他の選手と一緒にクィディッチフィールドに向かってる。控え室でキャプテン・ウッド先輩の激励を受けたのちに先輩を先頭にして歩いている。ちなみに控え室でもフレッドさんとジョージさんはふざけていてウッド先輩に怒られていた。

ユニフォームを着る前に比べると、幾分か気持ちが楽になっているけどやっぱり緊張してる。それと練習中はブラッジャーに当たることは無かったけど、本番でそうならないとは限らない。当たるとどれだけ痛いんだろう?

私は隣にいるアンジェリーナ先輩に聞くことにした。

 

「アンジェリーナ先輩、一つ聞いて良いですか?」

「なに? どうしたの、マリー?」

 

アンジェリーナ・ジョンソン先輩、フレッドさんとジョージさんと同学年で、チェイサーのポジションの一人。ちなみにフレッドさんとジョージさんは二人ともビーターだよ? なんでもウッド先輩曰く、双子のウィーズリー兄弟は人間版ブラッジャーと言っても過言ではないらしい。敵からしたら恐怖だよね。実質ブラッジャーが玉の二個と合わせて四個襲ってくるようなものだし。

 

「ブラッジャーって当たるとどうなるんですか?」

「そんな丁寧じゃなくて、もっと砕けた態度で良いわよ? ブラッジャーに当たるとか、そうねぇ。うーん、私はいつも当り所が良かったから、痛いだけで済んだわ。けど…………」

「けど?」

「…………試合前に言うのもどうかと思ったけど、いった方が気を付けるようになるわね。ウッドが初めてブラッジャーを食らったとき、それが頭らしくてね? 骨を折った挙げ句、一週間後に目が覚めたらしいわよ」

 

…………うん、聞かなければ良かった。

何だろう。クィディッチってプロレスとかアメフトに比べたら、比較的安全な競技と思ってた。でもその実、ものすごいバイオレンスな競技みたい。私大丈夫だろうか?

そんなこんなしているうちに、フィールドの入口に着いた。もう腹をくくるしかないね。いつまでも泣き言いってられないし。

シロウがこの場にいたら、

 

『そのような泣き言、聞く耳持たん』

 

って言われそう。

フィールドから聞こえてきたリー・ジョーダン先輩の実況を合図に、私達選手は箒に跨がって空へ昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ今年もやって参りましたクィディッチ・ホグワーツ杯、今年の第一試合はスリザリン vs グリフィンドール!! 両チーム選手の入場です!!』

 

ジョーダン先輩の実況がフィールド全体に響き渡る。

 

『今年の注目はなんと言っても、ホグワーツ史上最年少選手であるマリー・ポッター!! ホグワーツでは知らない人はいないでしょう、東洋からの新入生と並んで話題の生徒の一人です!! なんでもキャプテンのウッドが直々にスカウトしたとか。今後の活躍が楽しみですね!!

ちなみにマリー選手は普段の様子から、妹・弟にしてみたい新入生ベスト10、将来良妻賢母になりそうなホグワーツ女子生徒、にて共にベスト3にランクインしています!! おっと怖い旦那さんが観客席からこちらを睨んでいますので、ここら辺にしときます』

 

何そのランキング!? 私知らないよそんなの!? それに旦那って誰のこと? いずれは誰かのお嫁になる予定だけど、今はまだそうなりたいと思う人はいないかなぁ。

あ、でもシロウの奥さんになる人、けっこう苦労しそう。なんかシロウ、女難の相が出てそうだし。

 

『ちなみにもう一人話題の東洋からの新入生、シロウ・エミヤ君ですが、ホグワーツの城を掃除している姿や早朝に鍛練している姿がみられるようですね。彼の見た目も合わさって、今やシロウはホグワーツのブラウニーやら白髪(ホワイトヘアー)の家政f

 

執事(バトラー)と呼べ!! …………ハッ、シマッタ!?」

 

…………何か聞こえましたが気のせいでしょう。さて、そろそろ準備ができたみたいですね』

 

フーチ先生がフィールドの中央に出てきて、クワッフル以外のボールを競技場に放った。ブラッジャーは勢いよく飛び出し、スニッチは私とスリザリンのシーカーの周りを飛び回ったあと、何処かに消えてしまった。そしてフーチ先生がクワッフルを構える。

 

『クワッフルが投げられ、試合開始です!! 最初にボールを取ったのはアンジェリーナ選手!! スリザリンの妨害を華麗に避け、ブラッジャーの襲撃を難なくかわします!! いやはや綺麗に飛びますね、何度か誘いましたがまだ一度も彼女は僕とデートしてくれません』

『ジョーダン!!』

『ただの余興ですよ、先生。さて、アンジェリーナ選手、スリザリンのゴールポストに向かいます、キーパーが構える。そして…………ゴール!!!! グリフィンドール、十点先制です!!』

 

アンジェリーナ先輩が得点した。ついつい嬉しくてその場で回ったけど直ぐに私は意識を切り替える。速くスニッチを見つけないといけないから。

 

『変わって攻撃はスリザリンです。キャプテンのマーカス・フリントがクワッフルを持って真っ直ぐウッドに向かいます。そこでフレッドがブラッジャーを打ち込む!! しかしかわした!! そしてそのままシュート!! だがウッドがセーブしました!! 流石ホグワーツでも他に見ない名キーパーです!!

そしてクワッフルはグリフィンドールのアリシア・スピネットへ。アリシア選手、スリザリンのゴールポストに右へ左へ動きながら向かいます。いけっ!! アリシア、シュートだ!! ゴール!!!! グリフィンドールさらに十点追加です!!』

 

アリシア先輩がさらに十点得点した。けど喜びもつかの間、ついにスリザリンチームが動き始めた。

まず最初に向こうのキャプテンのマーカスさんが、ビーターでもないのに棍棒を使ってブラッジャーを打ち込み、ウッド先輩にぶち当てた。当り所が悪かったらしく、ウッド先輩はそのまま落下、地面で気絶してしまった。

 

そこからスリザリンは得点を重ねる。無論こちらも得点を重ねたし、マーカスさんの反則で得たペナルティも決めたけど、今は六十 対 六十の同点になってる。

さらにはこちらのチェイサーに執拗にマークして、観客席のヴェールに誘導して落下させたりした。しかもそれを悪いと思っていないようでたちが悪い。

あれ? 今スリザリンのポールの足元に光る物があったような……。

もう一度目を凝らすと、いた! スニッチが飛んでる。私は直ぐに最高速度に達するように身を屈めて一気に加速した。向こうのシーカーはまだ気付いていない。今がチャンス!

 

と思ったら急に衝撃が横から来た。危うく箒から落ちそうになったけど、なんとか耐えた。そして横を見ると驚いた。ブラッジャーかと思ったらなんとマーカスが私にタックルを食らわせてきたのだ。

 

「わりぃわりぃ、豆つぶみたいにちっこくて見えなかったわ。アハハハハハッ」

 

何て言って離れていった。冗談じゃない。こちらは箒から落ちそうになったのだ。一歩間違えると死ぬ高さに今私はいる。死ぬかもしれなかったんだよ? 貴方人を殺しそうになったんですよ?

 

その後、グリフィンドールにペナルティスローが与えられたけど、アンジェリーナ先輩の手元が狂ってシュートは外れてしまった。そしてそのままスリザリンの攻撃になった。

 

『ええー、誰が見てもはっきりと分かるインチキのあと……』

『ジョーダン!!』

『ええー、大っぴらで不快なファールのあと……』

『ジョーダン!! いい加減にしないと……』

『ハイハイわかりました。ええースリザリンのチェイサーは危うくグリフィンドールのシーカーを殺しそうになりました。誰にもある間違いですよね。きっと…………』

 

 

ええ、ええ。誰にでもあるような間違いでしょうね、スリザリンでしたら。それに私を小さいって……小さいって………………

 

 

 

ウフフフフ…………クスクスクスクス…………

 

 

 

さてマーカスさん、そしてスリザリンの選手の皆さん。覚悟は宜しいですか? 御手洗いは済ませましたか? 神仏様へのお祈りは? フィールドの隅でみんな揃ってガタガタ震えて命乞いする心の準備は宜しくて?

 

『…………なんかグリフィンドールのシーカーから何やら黒いオーラが漂ってますが、気にしないでおきましよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、下書きの段階で長くなったので今回はここまでです。

予定ではスネイプ先生に疑いがかかる、箒暴走から試合終わったあとまでいきたかったのですが。申し訳ありません。今週中に試合は終わります故、もう少々お待ちください。

さて、アンケートの件ですが、現状維持を推す方々も一応お答えいただきたく申し上げます。

ではこの辺で




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10. Games end. And.......



試合後半戦です。

そして現在のアンケート集計は

現状維持: 2票
ポニテ付加: 2票
アーチャースタイル: 2票

と拮抗状態です。
まだまだ受け付けておりますので、奮って投票下さい。
無論、アンケートにのってない項目を提案することも大丈夫です。


それではごゆるりと。







 

 

 

Side シロウ

 

 

一瞬懐かしくも恐ろしい雰囲気がマリーから感じられたが…………気のせいだろう…………気のせいだと思いたい。オレと関わる女性がみんなアクマになるなんて考えたくもない。

 

まぁそれはそれとして。先程から気になっていたが、クィレルの様子がおかしいな。一心に一点を無表情に見つめている。何をしているのだ? あの目、まるで何かに暗示をかけているような…………。

そこで回りから悲鳴が聞こえ、ある一点を皆は指差していた。オレもそちらに目を向けると、マリーが箒のコントロールを失っていた。いや、正確には違うだろう。マリーが箒のコントロールを失ったのではない。誰かがマリーの箒に干渉して箒から落とそうとしている。まさかな…………。

そう思い、再びクィレルのいた観客席を見ると、近くのスネイプが何やらブツブツと呟いていた。クィレルは相変わらず無表情にマリーを見つめているもう一度マリーを確認すると、箒の動きが収まりはじめていた。恐らく、クィレルとスネイプのどちらかが箒に干渉し、もう片方が解呪しているのだろう。正直、今までの様子から、前者がクィレル。後者がスネイプと判断できる。

だが目的がわからん。それになんとか穏便にことを済ませる必要がある。どうすればいい。

と、ここで隣で観戦していたロンとハーマイオニーの会話が聞こえてきた。

 

「思った通りだわ」

「何がだよ?」

「スネイプよ、見てみなさい」

「ハグリッド、双眼鏡借りるよ」

「うむ」

 

ロンが双眼鏡を覗きこむ。

 

「何かしている…………箒に呪文をかけてる」

「だとすれば僕達はどうすればいいの?」

「私に任せて」

 

そう言ってハーマイオニーは自分の席を離れ、スネイプの元に向かった。二人ともクィレルまでには目が向かなかったようだな。だが、今の状況を打開できるのなら任せよう。オレが手を出すと確実に負傷者が出かねん。今はハーマイオニーを信じるとしよう。

しばらくすると、スネイプたちの観客席で騒ぎが起こった。口の動きを見るに、どうやら小火騒ぎらしい。クィレルとスネイプの両方の目がマリーから逸れた。同時にマリーは片腕で捕まっていた箒に乗り直し、一直線に加速した。

あの状況でもスニッチを探し、尚且つ体制を立て直した直後に捕まえに行くとは。ある意味精神面がしっかりしているな。スリザリンのシーカーも漸く気付いたようだが、遅い。既にマリーがスニッチを捕まえられる距離にいる。

む? あれはマーカスか。またマリーにタックルを食らわせたな、懲りないやつめ。今度ばかりはマリーも地面に投げ出された。だが幸い地面すれすれの高さだったため、怪我しても擦り傷程度だr…………ん?

何をしているのだ、マリーは? 口を押さえて、吐くのか? この場で? いやまさかな…………。だがマリーはその場で吐いた。

 

 

黄金に光るスニッチを。

 

 

 

『マリー・ポッターがスニッチを掴んだ!! グリフィンドールに百五十点追加!! 試合終了です、二百四十 対 九十 でグリフィンドールの勝利!!』

 

「あいつは掴んだんじゃない、飲み込んだんた!」

 

マーカスが喚いているが、マリーは何もルール違反をしていない。むしろ今の発言はスリザリンチームの首を絞めかねんぞ? 何せ自分達の所業を棚にあげた発言だからな。それ見ろ、フーチ先生に叱られた。

やはり悪いことはすべきではないな。

しかしあのとき、クィレルは何をしていた? 何やらキナ臭くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

「スネイプだったんだよ、僕たち見たんだって」

 

試合のあと、私の箒がおかしくなったことについて、ロンとハーマイオニーから、ハグリッドの小屋で説明を受けていた。シロウは横で黙って聞いている。ハグリッドも一緒にいる。

 

「ハーマイオニーも見たんだ、君の箒に呪いをかけてたんだよ」

「馬鹿な、スネイプはこの学校の先生だぞ? なぜマリーに呪いをかけなきゃならん?」

「僕たち見たんだよ。ハロウィンの日の夜にに、スネイプが足に怪我していたのを」

「ええ、きっと三頭犬の裏をかこうとして噛まれたのよ。何か知らないけどあの犬が守っているものを盗ろうとして」

 

ハグリッドがビクリと大きく震えた。

 

「なんでフラッフィーをお前さんたちが知っとるんだ?」

「待て、三頭犬とはなんだ? 三つ首の犬がこの城にいるのか? ケルベロスのような?」

「あ、そういえばシロウにはいってなかったね」

 

そして私はロンとハーマイオニーの推測を聞き流しながら、シロウに事の次第を説明した。

ハロウィンの少し前に、グリンゴッツに強盗が入ったけど、襲われた金庫は既に空だったこと。その金庫は、私とシロウがハグリッドと一緒に行った、小さな小包しかなかった金庫だったこと。それから真夜中に抜け出したときに道に迷い、偶然入り込んだ部屋が立ち入り禁止の部屋だったこと。そこにいたのが三つ首の犬だったこと(可愛いと思ったのは内緒)。そしてその足元に引き戸があったこと。偶然とは思えないことを、要点を纏めながらシロウに説明した。

話を聞いたシロウは暫く考えていたけど、何も言わずにただ、

 

「わかった」

 

とだけいった。そして私と一緒にハグリッドたちの所に戻った。

 

 

━━ ……………………ったギリシャ人のやつから買ったんだ。そして俺がダンブルドア先生に貸した、守るために……」

「「何を?」」

「もうこれ以上聞かんでくれ、重大機密なんだ。」

「でもハグリッド、スネイプがそれを盗もうとしたんだよ?」

「だからそれはないと言っとるだろう?」

「ハグリッド、知ってる? 呪いをかけてい時はね、対象から目を逸らさないのよ? 私たくさん調べたからわかるの」

 

ハグリッドもロンたちも一歩も譲らない。

 

でも待って?

目を逸らさないのが必要条件の一つとすれば、近くにいたクィレル先生にも当てはまるんじゃ? あのとき、箒にぶら下がりながら周りを見ていたけど、スネイプ先生はもちろん、クィレル先生もこちらを一心に見つめていた。いつものオドオドした感じじゃなく、なんだか物凄く冷たい目をしながら、瞬きせずに私を見ていた。

 

もしかすると、私達とんでもないことを見落としてるんじゃ…………

 

 

「いいかお前さんたち、よく聞け。お前さんたちは知らんくていいことに首を突っ込んじょる。フラッフィーのことについてはもう忘れるんだ。」

「「でも……」」

「なんでマリーの箒があんな動きをしたかは知らん。だがスネイプ先生は生徒に手を出すようなことは絶対せん。フラッフィーが守っているものについても忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルだけが……」

「「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね(のね)?」」

 

そう言ってロンはシロウを、ハーマイオニーは私を有無を言わさず引きずっていった。

 

 

…………ハグリッド。もうちょっと口を固くした方がいいと思うよ? 自分に腹を立てるのはいいけど、それなら改善しなくちゃ。あとロンとハーマイオニー。二人ともお茶とお菓子を貰ったならお礼言わないと失礼だよ? それに私、まだ飲みかけだったのに、もったいない。

 

仕方ない、今度ハグリッドの小屋にいたファング、少し大きな黒いハウンド犬をモフモフしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。

マリーさんは、思い立ったら吉日、という思考ではなく、先ずは情報整理をしてから判断、行動するタイプです。
これはシロウが身近にいたからこそでしょうね。


さてさて次回からは、クリスマスとみぞの鏡編です。
いよいよ物語もキナ臭くなってきましたね。


ではこの辺で

これからも本作品をよろしくお願いします。








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11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント

現在の集計状況

現状維持: 2票
ポニテ付加: 2票
アーチャーズオールバック: 5票

更に通常は今まで通り、戦闘時にオールバックが1票です。


今回からクリスマス編が始まります。

それではごゆるりと







 

時は師走半ば、外の眺めは一面の銀世界。

故川端康成氏の名作の序文にある言葉がある。

 

『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』

 

流石に学舎にはトンネルはないが、夜が明けた窓からの眺めは、正に雪国に迷いこんだよう。

 

皆がクリスマスを待ち望み、休暇が来ることを楽しみにしていた。

だが、授業はしっかりと受けなければならない。廊下は冷え込み、生徒達は足早に駆け抜けていく。教室も似たようなものだが、それでも人がいるだけ幾分かマシであった。だがそうもいかない部屋もある。魔法薬の授業の教室である地下牢がその例である。

クリスマス休暇が明日に迫った学期最後の授業は、魔法薬であった。加えてスリザリンとの合同授業。グリフィンドールの生徒はげんなりとした様子で授業を受けていた。

 

「かわいそうに、クリスマスなのに帰ってくるなと言われている哀れな生徒がいるとはね」

 

マルフォイが嫌みったらしくマリー達を見ながら言う。他のスリザリン生徒もニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら、マリー達を盗み見ている。だが、当のマリー達はというと、

 

「先生、ヤマアラシのトゲが足りないので、予備の材料を少し頂いていいですか?」

「どれだけ足りんのだ?」

「5本一束ほど」

「ふむ、それならそこの棚の上にある。そこの椅子を使っていい」

「ありがとうございます」

 

大して気にもしていなかった。というかそもそも聞こえていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

ああ本当に寒い。最後の授業が火を使う授業でよかった。魔法薬の中でも火を使わないものもあるから、今日がそんな薬ならどうしようかと思った。材料はスネイプ先生が快く譲ってくださったし、あとは指示通に煮込んで撹拌して完成だ。

なんかスリザリンの子達がニヤニヤしながらこちらを見てたけど何だろう? それにマルフォイがなんか言ってたけど、どうでもいいや。

さて、トゲを刻んですりおろして、粉末を大鍋に入れて混ぜる。おお、言われた通りの色になった。成功だね。いやー杖を振るのも魔法使いっぽいけど、私はこっちの方が楽しいな。なんか料理みたいでワクワクする。いずれは自分で色々と調合してみたいって思う。

あれ? なんか騒がしい…………あらら。マルフォイが余所見してて失敗しちゃったか。自業自得だね。スリザリンに甘い、と言われてるスネイプ先生も流石に擁護できない、基本部分の失敗だし。大体火を使うのだから注意しないと。

まぁそんなこんなで、私の魔法薬の完成度でグリフィンドールに十点貰って最後の授業が終わった。

 

地下牢を出ようとすると、大きな樅の木が足を生やして動いていた。うん、間違い。ハグリッドが樅の木を背負って歩いていた。

 

 

「やぁ、ハグリッド。手伝おうか?」

 

「おお、ロンか。いや、ええ。俺一人で大丈夫」

 

「すみませんけど、そこ退いてくれませんかね」

 

 

そこにマルフォイが来た。あのクィディッチの試合以来、マルフォイは更に嫌みったらしくなった。私にちゃんとした家族がいないと嘲り、さらには他の人も嘲る始末。どういう育ち方したんだろう? あれは従兄弟のダドリーよりも酷い。ダドリーも他人をいじめたりしていたけど、家族までは貶めたりしなかった。あとで理由を聞いたことがあったけど、

 

 

「僕が気に入らないのはそいつ本人だけであって、そいつの家族じゃない。だからそいつの家族については何も言わない」

 

 

って言ってた。うん、そこら辺はきっちり線引きしていたんだね。

 

 

「ウィーズリー、小遣い稼ぎかい? 卒業したら森番として雇ってもらったらどうだい? そしたら少しはそのみすぼらしい身形もマシになるだろうよ」

 

「黙れ、マルフォイ。それ以上言ってみろ。許さないぞ」

 

「何だい? 僕は親切にいってあげてるのに。君たち家族にとっては森番の小屋も宮殿みたいなものだろう?」

 

 

ロンがマルフォイに掴みかかり、今にも殴ろうとしたそのとき、

 

 

「ウィーズリー、何をしている?」

 

 

スネイプ先生が来た。うん、これは好都合。

 

 

「すみません、スネイプ先生。喧嘩は禁止されているのはわかってるんですが、それでも見過ごせないことをマルフォイが言ったので」

 

「何を言ったのだ?」

 

「マルフォイがロンとその家族を侮辱したんです。だから私も止めませんでした」

 

「そうか、わかった。喧嘩両成敗だ、グリフィンドールとスリザリンから共に五点減点。双方とも、もういってよろしい」

 

 

スネイプ先生はそう言って去っていった。うん、やっぱ話せばちゃんとわかってくれる先生だよ。なんかロンが 「僕らと扱いが違うような」 って言ってたけどそれは違うと思う。みんながスネイプ先生を毛嫌いするから不当な扱いを受けるんじゃないかなぁ? 因みにマルフォイは、自分の行動を減点対象にされたことにショックを受けているみたいで突っ立ってた。

 

 

「ほれ、元気を出せ。一緒においで。大広間がすごいぞ」

 

 

私達はハグリッドと一緒に大広間にいった。すると正面には大きなクリスマスツリーがあり、フィリットウィック先生とマグゴナガル先生が飾り付けをしていた。叔父叔母の家でもクリスマスツリーはあったけど、あれとは比べ物にならないほど豪華で大きいツリーだった。

 

 

「お前さん達、休みまであと何日だ?」

 

「明日から休みだよ?」

 

「あ、そういえば…………マリー、ロン、シロウ。図書館に行きましょう」

 

「そうだね」

 

「ん? 明日から休みなのに勉強するのか?」

 

「違うの、ちょっと調べものをね」

 

「ニコラス・フラメルについて僕たちは調べてるんだ」

 

 

あ、嫌な予感。また二人ともシロウと私をつれていく空気だ。

うん、ここはシロウと戦略的撤退を…………っていない!? どこに…………ってシロウ何をしてるの? そのモップはどこから取り出したの? そして何か床を掃除し始めたし、本当にブラウニーだね。

 

 

「小僧、何をしている」

 

「ああ、フィルチさん。こんにちは。いえね、この泥んこを見ると何かこう、ウズウズしてきまして。気がついたらこうしてモップを握っていて…………」

 

「…………なに?」

 

「ああいや、日本の学生はですね、自分の学舎は自分で掃除をするように教育されているんですよ。ですからこう、なんと言うんですかね? ツイツイ癖というかなんと言うか」

 

 

へえそうなんだ。そういえば私達当たり前のように土足で歩いているけど、掃除する人がいなかったらこの城は酷いことになっているだろうね。それじゃあ私も……

 

「小娘、お前まで何を」

 

「こんにちは、フィルチさん。シロウの今の話に私も思うことがありまして。ですからお手伝いしようかと」

 

「いらん、さっさと失せろ」

 

「え? でも…………」

 

「早く失せろ」

 

「…………わかりました」

 

 

拒否されちゃった。まぁいいか。次から自分でやればいいし。

 

そういえばペチュニア叔母さんから手紙が来ていたっけ?

なんでも今年のクリスマスにマージ叔母さん、バーノン叔父さんの妹が来るみたいだから、帰って来ない方がいいって書いてあった。マージ叔母さん、ブルドッグのブリーダーをしてるんだけど、いつも私に必ず一匹けしかけてきた。足を何度も噛まれて病院に行ったこともある。

以来ペチュニア叔母さんが、マージ叔母さんが来るたびに、フィッグさんの家に私を預けていた。うん、正直助かった。もともとこのクリスマスは帰るつもりはなくて、ホグワーツに残るつもりだったけど、帰らなくていい理由が増えて安心している。

あと手紙の最後に、怪我と病気に気を付けるよう書かれていたのを読んだときは、不覚にも泣きそうになった。うん、私叔母さんに嫌われてなかったと改めて実感出来たときだった。

 

 

 

 

━━ ………………ゃあハグリッド、またね。ロン、行きましょう」

 

「またね、ハグリッド」

 

 

そう言ってロンとハーマイオニーは、私とシロウを引きずって図書館に向かった。どうでもいいけど、お願いだから問答無用で連れてかないで。せめて一言言ってね二人とも。

そう思いつつ、私はハグリッドに手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

 

まったく、若い子達はエネルギーが有り余っているのか?

調べものをするのは良いが、しらみ潰しなのはどうかと思うぞ? それにまだスネイプのことを疑っているみたいだしな。

 

あのあと個人的に聞いたが、スネイプは箒にかけられた呪いの解呪に努めていたらしい。とするとやはり怪しいのはクィレルといったとこか。確信は持てないが、スネイプが白であることは間違いな…………おい、お前たちが調べているのはニコラス・フラメルだろう? なんでハーマイオニーは近代のことが書かれている書物を漁っている? あれは14世紀の錬金術師だぞ? そもそも魔法使いではないのだが。

そしてロンもだ。何故に現代の著名な魔法使いの本で調べてるんだ? ああもう、見ていてじれったい。

 

 

「ねぇねぇ二人とも」

 

「「なに?」」

 

「ニコラス・フラメルって錬金術師じゃなかった? ほら賢者の石を作ったことで有名な。確かマグルの世界でも彼についての本も出てた記憶があるし」

 

 

………………マリー、君はなんと言うか、すごいな。二人が必死に探している情報をあっさりと言うとは、しかも魔法界で知ったのではなく、マグルの本に書いてあったとなって、ロンなんて唖然としているぞ?

 

 

「ねえマリー。どうして今まで教えてくれなかったの?」

 

「だって二人とも私達の話を聞かなかったでしょう? 問答無用で私達をつれまわしていたし」

 

「「う…………」」

 

「それに教えてくれるもなにも、思い出したのはついさっきだし」

 

「「…………ごめんなさい」」

 

 

まああの二人は少し視野が狭い気がしないでもないな。まぁ若いゆえ、突っ走ってしまうのも仕方のないこと。むしろマリーが少し成熟しすぎている気がしないでもないが。まぁいい。

 

 

「じゃあ私は明日から実家に戻るけど、三人ともお願いしていい?」

 

「「「うん(ああ)」」」

 

「私も自分なりに調べておくから」

 

 

話は纏まったな。

 

 

「ならそろそろ大広間に行こう。時間もいい頃だ。晩餐に向かおうか」

 

「賛成」

 

 

こうして夜が更けていき、冬季休暇が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

あれから数日が過ぎ、クリスマスになった。着替えて談話室に行くと、プレゼントが置いてあった。ロンとシロウも既にいる。ただシロウの服装を見るに、この寒いなか外で鍛練をしてきたらしい。ノースリーブの黒いシャツと黒いジャージのズボンを着ている。そしてソファーの傍らに、日本の木刀を二本立て掛けていた。元気だねぇ。

 

 

「おはようシロウ、ロン。メリークリスマス」

 

「おはようマリー、メリークリスマス」

 

「ああマリー、おはよう。メリークリスマス」

 

 

私は二人に挨拶したあと、シロウのもとに向かった。

 

 

「ねぇ、あのプレゼントの山ってなに?」

 

「ああ、あれはオレ達三人へのプレゼントだよ。君が起きるのを待っていたんだ」

 

「あ、そうなんだ。二人ともありがとう」

 

「いいよ気にしないで、それよりプレゼント開けちゃおう」

 

「「うん(ああ)」」

 

 

そうして私達はプレゼントをあけはじめた。

先ず私が開けた包みはハグリッドからだった。木彫りの縦笛で、息を吹き込むと、まるで梟の鳴き声のような綺麗な音色が響いた。

次に手に取ったのは、ダーズリー一家からだった。

 

 

『お前の言付けを受け取った。クリスマスプレゼントを同封する』

 

 

そう書かれていた手紙の裏には、五十ペンス硬貨がテープで貼り付けられていた。

 

 

「いつもありがとうございます」

 

「なにそれ? マグルのお金? 変な形!」

 

「これあげる」

 

 

ロンが物凄く喜んでいたのがおもしろかった。

さて、次の包みは。あれ? これもダーズリー一家から? なんで二つもあるのだろう? 送り主をみると、納得がいった。

 

ペチュニア叔母さんとダドリーから別に送られていた。中身はダドリーからが何故か喧嘩の勝ち方の手引き書。ペチュニア叔母さんからは、真新しい白の裾長、長袖のワンピースだった。今まであの家族から貰ったもので、一番嬉しいものだった。因みに今着てるのは、ホグワーツに来る前に叔母さんが買ってくれた桜色のワンピース。

 

更にプレゼントを開ける。すると今度はロンが物凄く驚いていた。

 

 

「シロウとマリーが今持っているプレゼント、送り主知ってる」

 

「へ?」

 

「ほう?」

 

「それ、僕のママからだよ。でも、あーあ。まさかウィーズリー家特製セーターを君たちに送るなんて。しかも僕のより気合い入ってるし」

 

 

包みを開けると、真新しいセーターが入っていた。私のは白い下地に桜色で獅子のエンブレムが胸についている。シロウのは…………赤? 紅? の袖に、残りは真っ黒なセーターだった。それを見てシロウは懐かしそうな顔をしていた。

 

 

「ああそうだ、マリー。ロン。君たちにこれを」

 

 

そう言って私とロンに、シロウが包みを渡してきた。なかを開けると、ロンには獅子を象ったブローチのようなもの。その目の部分に小さな赤い宝石がはめられていた。私にはネックレスが入っていた。

 

 

「ロンのそれは、マントを止めることができる。裏には太陽のルーンを彫らせてもらった」

 

「え? シロウが作ったの!?」

 

「ああ、少し地下牢を借りてな。これでも彫金には少し自信はある」

 

「ねぇシロウ。君ってできないことあるの?」

 

「何を言う? できないことなど山ほどあるぞ?」

 

「あまり信じれないなあ。ところでマリーのネックレスにぶら下がっているの、あれはなに?」

 

 

そう、それは気になっていた。見た感じ剣であるのはわかるけど、まるで鉈のような形をしていたからだ。それにその装飾がけっこう凝ったもので、恐らく鍔にあたる部分に赤い宝石がはめられていた。

 

 

「ああ、それは中華剣の一つでな。伝説の鍛治師夫婦が鍛えた名剣をもとにして作った夫婦剣の片割れだ。もうひとつ箱に入っているだろう?」

 

 

箱を改めて見ると、確かにもうひとつ入っていた。こちらには黄色い宝石がはめられていた。

 

 

「その夫婦剣はな。どんなに離れていても互いに引き合うという性質を持っていたそうだ。いつかマリーが心に決めた人が出来たときに、その残りの片割れを渡すといい」

 

「わかった。ありがとう、シロウ」

 

「僕も、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

因みにハーマイオニーには、ロンのと鏡写しの獅子のブローチを送ったらしい。本当にシロウは器用だよね。

そして私は最後のプレゼントに手を伸ばした。何だろう、すごく軽い。開けてみると、キラキラしたマントのようなものが出てきた。

それを見てロンが目を見開いた。

 

 

「僕それ知ってる! それ透明マントだよ!」

 

「「透明マント?」」

 

「きっとそうだよ! マリー、羽織ってみて!」

 

 

ロンに言われてマントを羽織る。けど何が違うのかわからないから鏡の前に移動した。…………驚いた。首からしたがない。本当に透明になってる。

 

 

「手紙が落ちたぞ」

 

 

シロウに言われて手紙を拾い上げると、こう書いていた。

 

 

『君のお父さんから預かっていた。君に返すときが来たようだ。上手に使いなさい』

 

 

送り主の名前も書かれていない。いったい誰からだろうか。

今年のクリスマスは、今まで生きてきたなかで最高のものだったと同時に、いくつか謎を残したものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばシロウ。僕さっきから気になっていたけど」

 

「ん? どうした?」

 

「その大きな宝石みたいなの何? とても綺麗だけど」

 

「ああ、これは知り合いのハッチャケじいさんからもらったものだ。これを使えば特定の相手と交信できる魔法アイテムさ。謂わば水晶玉のようなものだ」

 

「ふーん。じゃあその手紙の写真は? 何かシロウに似ている子供が何人か映ってるような…………」

 

「世話になった人たちの写真だ。今何をしているかは知らん」

 

「本当に?」

 

「…………さて、朝食を食べに行くとしようか。いくら休暇中とはいえ、不健康に暮らすのはいかん」

 

「あっ。ちょっと待ってよシロウ! シロウってば!」

 

 

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。

今回は少し長めに執筆しました。
シロウがもらった大きな宝石。あれは万華鏡が作ったもので、あれを使うと、ゼルレッチ、若しくは凛と交信だけできる第二魔法礼装です。


次回はみぞの鏡、マリーさんはどんな反応を示すのでしょうか。



それではまた






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12. 空き教室の鏡 そして…………

お待たせ致しました。
みぞの鏡編です。

現在のアンケート統計は
オールバック5票
現状維持2票
ポニテ付加2票
戦闘時のみオールバック、通常は現状維持が1票です。

まだまだ活動記録にて受け付けておりますゆえ、ふるって投票下さい


それではごゆるりと






Side マリー

 

 

その日の夜、私は透明マントが気になって寝れなかった。誰が送ったのか、何故、なんの目的で。考えても心当たりがなかった。まぁこの11年、魔法とはなんの関係もなく育ってきたから、当たり前と言えば当たり前だけど。

そういえば、ニコラス・フラメルや賢者の石についてまだ調べていなかった。でも図書館の普通の本棚には大した情報の書いてある本はないだろう。となると閲覧禁止の棚しかない。けどあそこは先生の許可がないと入れない。しかも許可を貰うには先生のサインが必要、入学したての一年生がもらえることはないだろう。となると、最終的に残る手段は隠れて入ることだけ…………ど……

 

隠れる? それならこのマントは使えるのではないだろうか? 正直差出人のわからないアイテムを使うことに抵抗があるけど、これほどぴったりなアイテムは残念ながら今は他にない。しかも現在時間は夜中ごろ。よほど夜遅く寝る先生じゃない限り、夜に見回りしているのは管理人のフィルチさんだけ。この広い城を一人で見回るとなると、同じ場所に来るのはそうとう時間がたってからのはず。ならば行動するのは早いほうがいい。

私は急いで着替えて (クリスマスプレゼントに貰ったセーターとワンピースね? ついでに寒いから白のストッキングも、あれ? 何だか私白ずくめ?) 、透明マントとカンテラを持って談話室に降りた。幸い一年生女子部屋には私しかいなかったから他の人を起こす心配もなかった。暖炉の前を横切って出入り口に向かおうとすると、

 

「…………やはり行くのだな」

「ッ!? 誰ッ!? …………シロウなの?」

 

シロウがパジャマじゃなくて普段着のユニ○ロでソファに座っていた。

 

「ああ。それで? 何しに行くのだ?」

「うん、これから図書館に行こうと。閲覧禁止の棚のところに」

「賢者の石についてか」

「うん、そう」

「だが大丈夫なのか? そのマントは確かに便利だが……」

「音は消せないってこと? 足音とか呼吸とか」

「ああ、その通りだ」

「その辺は気を付けるとしか言えないかな」

「そうか…………ならオレも着いていこう」

「ふぇ?」

「幸い比較的にオレは気配に敏感だ。ならば誰とまではわからんが、何かが近づいてくることぐらいならわかる」

「…………いいの?」

「ああ、オレも気になっていたしな」

「じゃあお願い」

 

そして私とシロウは図書館に向かった。マントは二人で被っても大丈夫な大きさだったからなんなく移動できた。途中で誰とも会うことはなく、私達は閲覧禁止の棚にたどり着くことができた。

マントを脱いで、ランタンをその上に重石代わりにおく。棚を見ると、流石は閲覧禁止と言えるような怪しい本が何冊も並んでいた。今晩は試しだからすぐに帰る予定でシロウと打ち合わせている。手頃な本をひとつ取り上げ、開いた。いや、開こうとした。なぜなら開いた瞬間シロウが本を閉じたからだ。理由はすぐにわかった。その本が雄叫びをあげているからだった。運良くすぐに閉じたため、雄叫びはあまり響いていないけど早く棚に戻すことが最善と思い、すぐに棚に戻した。

 

「誰だ!」

 

しまった、フィルチさんがきた! いったいどこからきたの!? シロウも驚いているし、急いでこの場を離れないと!

 

「逃げても無駄だぞ。見つけ出してやる」

 

急いで透明マントを被ったけど、ここでまたやらかしてしまった。ランタンの存在を忘れてしまい、床に落として割ってしまった。でも構っている暇はない。急いでシロウと私にマントをかけてその場から離れた。

フィルチさんの気配も遠ざかり、寮に戻ろうとシロウに目配せした。シロウもそれを了承したのか、小さく頷いて移動を始めた。と、

 

「な、何故あなたが、こ、ここここに」

 

あれはクィレル先生の声?

 

「知らないとは言わせませんぞ?」

 

あとはスネイプ先生?

 

「な、なんのことだか」

「しらばっくれるのも程々にですぞ? 我が輩を敵に回すとどうなるか、知らないわけではありますまい」

 

まるでスネイプ先生がクィレル先生を脅しているよう。でもあのクィディッチの試合のときの冷たい目を見たせいか、クィレル先生は今一つ信用出来ない。それよりも今は寮に帰るのが先決だ。私とシロウはその場から離れたけど、運悪く進行方向にミセス・ノリス、フィルチさんの飼い猫がいた。この猫、何の恨みがあるのか、いつも私を執拗に追いかけてくる。基本的に動物ならどんなものでも好きだけど、この猫だけは好きになれない。

とりあえず、見つかる前に移動しようと思ったけど、またまた運悪く後ろにフィルチさんが近づいてくる気配がする。八方塞がりかと思った途端、後ろから急に引っ張られて、一つの部屋に入った。

 

(マリー、静かにしていろよ? あの猫と管理人がいなくなるまでここにいる)

(わかった)

 

アイコンタクトで会話して、私達はじっとしていた。ようやく気配が離れていったので、一息ついて私達はマントを脱いだ。とても緊張していた状態がとけたのか、一気に汗が吹き出した。せっかくお風呂に入ったのに、残念。

落ち着いた後今自分たちがいる場所を確認した。どうやら使われていない教室みたい。机やら椅子やらが、積まれて壁際に集められている。でも妙だ。何て言うかこう…………

 

「長らく使われていない、というわけではないみたいだな。定期的に誰かが出入りしている形跡がある」

「そうだね、それにどんなに見積もっても一年たつかたってないかしか放置されていない」

「だな。埃のつもりかたがまだ新しい」

 

改めて部屋を見渡す。確かに誰かが定期的に出入りしている雰囲気がある。ふと部屋の隅っこ、窓側とは反対の壁際に大きな鏡が置いてあった。シロウも気になったみたいで二人で近づいていった。鏡をのぞきこむと…………ッ!?

 

…………おかしい。今はこの部屋に私とシロウ以外はいないはず。ゴーストの気配もない。でも確かに鏡には沢山の人たちが写っていた。もう一度のぞきこむ。今度は人々の顔を良く見る。そして気がついた。私の両隣に立っている男性と女性は私に似ていた。私と同じ緑の目と黒い髪をした男性。私と似ている長い髪と目鼻立ちの女性。

嗚呼、この人たちが…………

 

「私のお父さんとお母さんなんだね……

「マリー?」

 

シロウがこちらに問いかける。鏡に写る人たちもにこやかに頷いていた。

 

「…………なるほどな…………」

「シロウ?」

「マリー、鏡に刻まれている文を読んでみろ」

「鏡に刻まれている文? 『すつう、をみぞの、のろここ、のたなあ、くなはで、おか、のたなあ、はしたわ』? なにこれ?」

「逆から読んでみるといい。そうすれば意味も、この鏡に写っているものの正体もわかる」

「えっと、『私は、貴方の、顔、ではなく、貴方の、心の、望みを、写す』。ということは今私たちが見ているのは、私達が気づかないうちに、心の奥底で望んでるものってこと?」

「恐らくそうだろう。先程の言葉から推測するに、マリー。君は両親を見たのでは?」

「うん、そうだよ。…………そっか……私は気づかないうちに親に会いたいって願っていたんだね」

「そうだろうな。さて、それで点数はいかほどですか、ダンブルドア先生?」

「ふぇ?」

「…………よく気がついたのう」

「え? ふぇえええええええ!? こ、校長先生!?」

「気配がしましたから。透明になって気配を消しても、生きている以上察知できますよ」

「ぁぅぁぅぁぅう…………」

「なるほどのう。さて、シロウとマリー。君たちの推測だが、正解じゃ。その鏡はのう、人々の心の奥底の強い望みを写す」

「なるほど、やはりそうでしたか。どうりで…………」

 

……死んだはずの切嗣(じいさん)が凛や桜、イリヤやその子供たちと写っていたわけだ……

 

そうシロウは一人ごちるのを、ダンブルドア先生はどこか悲しそうに見つめていた。ようやく私も落ち着いてきた。どうやら怒られる雰囲気ではないみたい。

 

「この鏡はのう……」

 

ダンブルドア先生が話だす。

 

「見る人の望みを写すものだから、何人もの魔法使いが虜になってしまった。現実と向き合わなくなり、いつしか気が狂い始める。そんな鏡でもあったのじゃ」

「目の前に理想の自分が写っているゆえに、ですね」

「そうじゃのう」

「確かに、普通ならそうなりますよね」

「今夜ここで見たことは他言してはならんぞ? 明日にはこの鏡を別の場所に移す。鏡は探さないことじゃ。良いな、二人とも?」

「「わかりました」」

 

あ、ひとつだけ聞いても大丈夫だろうか?

 

「……あの、先生。一つお聞きしてもよろしいですか?」

「よかろう、一つだけじゃ。どうしたのじゃ、マリー?」

「私のあの透明マント。送り主に心当たりがないのですが、先生は何か存じてはおりませんか?」

「ああ、あのマントは君の父君がわしに預けていたのじゃ。じゃから君の入学を機に君に渡すことにした」

「そうだったんですか。お父さんが…………」

「あれは実に便利なマントじゃな。君の父君が夜な夜なキッチンに忍び込んでいた理由がわかったよ」

 

そうダンブルドア先生はクスクス笑いながら話していた。

…………お父さん、貴方学生時代何をしていたんですか? 意外と悪ガキだったんでしょうか? シロウなんて隣で呆れているし、私けっこう恥ずかしい…………

 

「さぁもう夜も遅い。早く寮に戻りなさい」

「「はい。おやすみなさい、ダンブルドア先生」」

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は透明マントを被って、真っ直ぐ寮に帰った。途中誰にも会わなかったのは、恐らくダンブルドア先生が何かしたからだろう。何事もなく、談話室に戻ってきた。

 

「そういえばマリー」

 

シロウが話かけてくる。

 

「なに? どうしたのシロウ?」

「…………いや、やっぱいい」

「別に大丈夫だよ? さっきのことについて聞きたいんじゃないの?」

「…………君は、たとえ泡沫の幻想であったとしても。今回両親に会えて良かったか?」

「…………うん。大丈夫だよ。今シロウがいった通り、鏡でみたのは未来永劫叶わない夢。でもだからこそ、私は将来生まれてくるだろう私の子供に同じ寂しい思いはさせない。今晩お父さんとお母さんに会えたから、私はようやく胸を張って私の夢を追いかけられる。幸せな家族を持つっていう夢をね」

「…………そうか。わかった。すまないなマリー、デリカシーの無いことを聞いて」

「大丈夫だよ。それよりもシロウ」

 

今度は私の番だね。

 

「シロウが見たもの、凛や桜、イリヤって言ってたけど。その人たちって?」

「ああ。それはオレの大切な人たちで、オレが手放してしまった人たち。次はいつ会えるかわからない人たちだ」

「そうなんだ。ねぇシロウ」

「なんだ?」

「シロウはその人たちと離れ離れになって、悲しい?」

「…………悲しくないと言えば嘘になるな。だがそれでも前に進み続けると、彼女たちと、それから()()()と約束したからな」

「シロウ…………」

 

そう語るシロウの顔は、どこか悲しそうに、まるで泣きたいのを必死に我慢しているように見えた。まるで、あのハロウィンの日からよく見るようになった、夢に出てくる赤い外套を着けた白髪の男の人のような。

 

「…………そんな悲しそうな顔をするな、マリー。あいつらはいずれ会いに来ると約束し、オレが前を進み続けると信じてオレを送りだした。なら、オレがあいつらを信じないでどうする?」

「シロウ……」

「オレは大丈夫だ。オレが歩んできた道は、決して間違いなんかじゃない。そう信じて今も、そしてこれからも前を進むんだ」

「……うん」

「…………少し難しい話だったな。さぁもう寝よう。明日もまだ休暇中だか夜更かしはいかん」

「…………わかった。おやすみなさい、シロウ」

「ああ、おやすみ」

 

そうして私達はそれぞれの寝室に戻った。

シロウは大丈夫といっていた。シロウの大切な人たちがシロウを信じてくれるから、自分もその人たちを信じると。なら私がすべきこと、それは私もシロウを信じること。それで少しでもシロウの支えになるのなら…………

 

そう考えつつ私は微睡みに身を任せ、やがて眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢をみた

 

そこは荒野

 

分厚い雲に覆われた黄昏の空

 

無数に浮かぶ大小様々な錆びた歯車

 

命の息吹か感じられない地面に突き立つ無限の剣群

 

悲しい世界の中心に立つのは、赤い外套を纏った白髪の青年

 

 

 

 

━━ I am the bone of my sword(体は剣で出来ている) ━━

 

詩が聞こえる

 

━━Steel is my body, and fire is my blood(血潮は鉄、心はガラス) ━━

 

この悲しい世界を

 

━━ I have created over the thousand blades(幾度の戦場を越えて不敗) ━━

 

あの青年の心を

 

━━ Unknown(唯の一度の) to death.(敗走はなく) Nor known(唯の一度も) to life(理解されない) ━━

 

悲しい心をそのまま表した詩

 

━━ Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う) ━━

 

ここがそうなのだろう、彼が独りでいる世界

 

━━ Yet those hands will never hold enything(故にその生涯に意味はなく) ━━

 

意味のない人生。そんなの悲しいを通り越して辛い

 

━━ So as I pray ''UNLIMITED BLADE WORKS ''(その体はきっと剣で出来ていた) ━━

 

 

 

 

そして私の目の前で赤い外套の青年は、体の至るところから剣を生やした

 

苦痛に歪み、それでも前を見据える彼

 

その横顔は、私の知る人によく似ていて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

少し駆け足になっちゃいました。

マリーさんですが、初め組分けの際に自らの想いを帽子に語っていました。しかしそれでもまだ十と少ししか生きてない子供。親を求める気持ちはあって当たり前と私は思っています。特にマリーさんは両親を知らぬ故に、本人が把握しきれてない部分でそう願っていた形にしました。


さて、次回からノルウェードラゴン、そして禁じられた森編です。

これからも本作品をよろしくお願いいたします。

次はこちらではなく、もう一つの方を更新します。


それではこの辺で






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13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン

はい、予告通りドラゴン編に入ります。

アンケート統計は依然変化なしです。


それではごゆるりと






 

Side シロウ

 

 

 

「さて、私がいない間に調べれた?」

 

目の前には休暇から帰ってきたハーマイオニーがいる。顔を見るかぎり親との時間を満喫してきたようだな。オレはどうだったろうか? ちゃんと子供たちと過ごす時間を作っていただろうか? 戦場での暮らしが長すぎてあまり思い出せない。そうだな、今度あの子らがこちらに来たとき時間を作るとするか。

さて、そろそろロンに手を差し伸べてやるか。まぁマリーやオレはともかく、ロンはすっかりニコラス・フラメルと賢者の石について忘れていたみたいだし、今のハーマイオニーはさぞかし般若のように見えているのだろう。

 

 

「まぁ今はその辺でな、ハーマイオニー。君もそうだがまだまだ遊びたい盛りの子供なのだ。むしろロンのような子が普通だろう? まぁ頼まれ事を失念するのは誉められたことじゃないが」

 

「…………クドクドクドクド、ええそうね。そろそろ許してあげましょう」

 

 

助かった、という顔をしているロンを置いてオレたちは情報交換をしたが、賢者の石に関してもニコラス・フラメルに関しても基本的に情報量は変わらなかった。まぁ14世紀はまだ一般にも魔法の類いが信じられていた時代、彼の者の話が広く伝わっていても不思議ではない。だが賢者の石に関してはもしかしたら詳しく書かれている本があるかもしれない。そう結論付けたオレたちは、図書館へ移動した。

図書館で意外な人物に出くわした。ハグリッドが何やら本を2、3冊抱えて出てきたのだ。正直ハグリッドは本とは無縁の人と思っていたから驚きは大きい。ロンがハグリッドに話しかける。

 

 

「やあ、ハグリッド。何してるの?」

 

「おお、お前たちか。ちょいとな、調べものを。それからシロウ、お前さん何か失礼なことを考えちゃおらんか?」

 

 

…………なんでオレの回りにはこんな妙に鋭い人たちばかりなのだ?

 

 

「いや、何も考えておらんよ」

 

「…………そうか、ならええ。じゃあな」

 

そう言ってハグリッドは逃げるようにこの場を去っていった。怪しいな。何かを隠している。言っては悪いがハグリッドはその性格のせいか、隠し事が下手だ。あんな動きをしていれば明らかに、私は隠し事をしています、と言ってあるようなものだ。

 

 

「あれ、ドラゴンの本だ」

 

 

ロンが呟く。聞き捨てならない単語が聞こえた。

 

 

「ドラゴンだと? 待て、ドラゴンはこの星最古の幻想種ではないのか? この世界には普通にドラゴンが蔓延っているのか?」

 

「シロウどうどう、落ち着いて。チャーリー兄さんがルーマニアでドラゴンの研究をしているんだ。その関係でハグリッドの持っていた本を読んだことがあるんだよ」

 

「でもドラゴンって一般魔法使いの間じゃ取引禁止じゃなかった? 確か私が前読んだ本に書いてあったわよ?」

 

「君色んな本を読むんだね。恐らくハグリッドはどこかから手に入れたんだよ。でもハーマイオニーのいった通り、禁止されている。それにドラゴンその物を貰ったら、こんなこそこそしても直ぐにバレる。多分ハグリッドは卵を貰ったんだ」

 

「じゃあハグリッドは貰った卵をここで孵そうとしてるってこと?」

 

「多分そうだと思うよマリー。賢者の石は一端置いておいてハグリッドのところへ行こう」

 

「そうだね。ところででロン?」

 

「なに?」

 

「こんな大声で話していい内容だっけ?」

 

「え? あ、不味い」

 

「心配ない、人払いはしていたから誰にも聞かれていない」

 

「あ、ありがとうシロウ……って人払い?」

 

「なんでもない、ハグリッドのところに行くのだろう? なら急ごうか」

 

「…………何だかはぐらかされた気がしないでもないけど、今は急ぎましょう」

 

 

ふぅ、危ない。人払いの結界を張ってはいたが、うっかり口が滑ってしまった。これはオレもハグリッドのことを言えないな。さて、さっさと移動するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

私達は今ハグリッドの家の前にいる。時間帯は夕方、まだ夕食までは時間がある。ロンが先頭に立ってノックをした。

 

 

「ハグリッド、今いい?」

 

「あ? ロンか? てぇことは他の三人もいるのか?」

 

「ええ、そうよ?」

 

「ああー、その……今は…………まぁええか。入れ」

 

「「「「お邪魔します(邪魔する)」」」」

 

 

小屋に入ると熱気が私達を襲ってきた。よく見ると暖炉の火ががゴウゴウと燃え盛り、鍋の中の何かを熱している。そして机の上には図書館のものだろうドラゴンの本が置いてあった。ということは、あの鍋に入ってるのはロンの予想通り、ドラゴンの卵ってことだ。

 

 

「ハグリッド、その鍋に入ってるのはなに?」

 

「あー、まぁええか。パブで貰ったもんだ。ドラゴンの卵」

 

「やっぱりそうか。ねぇ、まさかと思うけどここで育てるつもり?」

 

「ああー、その……お? もう孵るのか?」

 

 

ハグリッドは熱い熱いと言いながら鍋の中から黒い大きな楕円をした球体を取りだし、机の上に置いた。卵らしきものは内側からコツコツと音を立てている。そして大きく皹が一つ入ったあと、黒い小さなドラゴンが一体孵化した。

 

 

「…………まさか人生で見た数少ない幻想種の種類にドラゴンが加わるとは」

 

 

シロウが感慨深げに呟いている。確かに私も驚いている。

 

 

「ところでハグリッド、このドラゴン種類は何?」

 

「これはノルウェードラゴンの一つでな。確かノルウェー・リッジバックだったかな?」

 

「ノルウェー・リッジバック!? ハグリッド、それってとても凶暴なドラゴンなんだよ!!」

 

 

ロンがハグリッドに、兄のチャーリーのところに預けるように説得し、ハーマイオニーもそれに加わった。私とシロウは完全に蚊帳の外になっていた。仕方がないから今のうちにドラゴンをよく見とこうと視線を戻したら…………赤ちゃんドラゴンがいつの間にか私に引っ付いていた。そして出来るだけシロウから距離を置こうとしていた。そしてドラゴンは私のシャツとセーターの間に入り込んで顔だけを出した。

 

 

 

…………あれ? 何か私、この子に懐かれちゃってる?

とりあえず頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めていた。

…………可愛い。

 

 

「…………だからこのドラゴンは危険なんだって!! 大丈夫だよ、チャーリーはそんな酷いことをするようなひとじゃないから」

 

「私もロンに賛成よ。ドラゴンって最終的にはとても大きくなるんでしょう? そうしたらハグリッドはどうするの?」

 

「…………じゃがこの子は生まれたばかりだぞ? この子も今は親と……一緒が…………」

 

 

あ、ハグリッドがこっちを見て固まった。仕方がないだろう。だって赤ちゃんドラゴンは孵した本人ではなく私に懐き、加えて大人しく今は私の膝の上で丸まって寝ているのだ。固まらない方がおかしい。

でも大きくなったらそうも言ってられないだろう。今は可愛くても大人なれば危険になる。なら今のうちにしかるべきに場所に預けるのが得策だろう。

 

 

「ねぇハグリッド?」

 

「…………なんだマリー?」

 

「ハグリッドの気持ちはよくわかるよ? この子生まれたばかりだし、可愛いし」

 

「おおマリー、お前さんはわかってくれるか! なら…………」

 

「でもそれは今だけ。この子が大人になったら危険なことには変わりないよ? ハグリッドのことだから自分が躾るって言うと思うけど、ハグリッドは私たちと同じでドラゴン初心者でしょ?」

 

「…………じゃが」

 

「なら、ちゃんとドラゴンのことをわかっている人に預けるのが一番じゃない? 何も今後二度と会えないって訳じゃないんだしさ」

 

「…………」

 

 

結局ハグリッドは暫く唸っていたけど、渋々了承した。うん、やっぱりこういうのは専門家に任せるのが一番だね。それにしても、このドラゴン可愛いなぁ。鱗が固いからモフモフはできないけど。うん、来年梟じゃなくて蜥蜴をペットにしようかな。

 

 

 

------

 

 

 

数日後にチャーリーさんからロンに手紙が届いた。どうやら今度の金曜日の夜に、ホグワーツに秘密裏に受け取りに来るらしい。ハグリッドはその間だけドラゴン、ノーバートって名前にしたらしい、の世話をすることになったけど、髭や髪の毛をちょいちょい焦がされちゃうみたい。私が行くと膝の上に乗ってスヤスヤと眠るのに、変なの。

それで予定の週末が来たけど、問題が生じた。透明マントには体の大きさの関係上、三人までしか入れなかった。そこにシロウが、

 

 

「オレはマントが無くてもある程度は大丈夫だ。だから君たち三人が被るといい」

 

 

そう言ってシロウが目をつむって暫くすると、不思議なことに目の前にシロウがいるのに、そこにいないような感覚になった。これなら大丈夫だろうと思い、私達は出発した。途中先生の一人とすれ違ったけど私達は勿論、なんと堂々と歩いていたシロウまで素通りされていた。何をしているのか知らないけど、これで本当に安心して行動できる。私達は指定された場所に急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

ロンの兄であるチャーリーの遣いにノーバートを渡したのち、オレたちは寮に戻るために引き返した。

ッ!! 不味い、あいつら油断して透明マントを忘れている。オレは急いで来た道を戻り、透明マントをとってまたマリーたちのもとへ戻った。だがときは既に遅し。彼女たちは寮監であるマグゴナガル捕まっていた。大蔵ご立腹の様子だった。そして気になったのがその横でニヤニヤと嫌な笑いを口元に浮かべているマルフォイの姿だった。

なるほどな。大方マルフォイがどこかから情報を仕入れ、マグゴナガルに告げ口をしたのだろう。だがあの顔は完全に自分のことが眼中にないな。夜中に抜け出したのはお前も同罪だろうに。

オレはマントを懐にしまいこみ、殺人貴に教わった気配を出来るだけ殺す呼吸法と認識阻害の結界を解いてマグゴナガルのもとに向かった。夜中に抜け出したのはオレも同罪だからな。

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。


本当は説教まで入れる予定でしたが、ここが切りがいいと思ってここまでにしました。

それにしてもマリーさん、色んな生き物に好かれてますね。マージ叔母さんのブルドッグは例外ですが。
そしてここでも嫌われてしまうシロウさん。魔法生物学では大丈夫なんでしょうか?

さて、次回は罰則の禁じられた森です。

次はこの作品かfateの方を更新するかは決めていません。
先に書き上がったほうを更新します。
下書きが終わったら活動報告にて更新する方を連絡します。


ではこの辺で




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14. 禁じられた森での出来事

では予告通り、最新話です。

いつもに比べて長いです。


どうぞごゆるりと





 

Side マリー

 

「まったく何てことですか! 一晩に生徒がこんなにも抜け出すだなんて、これまで無かったことです!」

 

 

マグゴナガル先生は相当ご立腹のようだ。私も含め、自分の管轄寮から違反者が四人も出ているからだろう。けど隣に立つマルフォイのニヤニヤとした嫌な笑顔が無性に腹が立つ。

 

 

「グリフィンドール生がこんなことをして恥ずかしくないのですか! それとも自分たちは一年生だから多少は見逃されるとでも!? 罰則を与えます!! 更に一人につき五十点減て……」

 

「マグゴナガル先生、落ち着いてください」

 

「何ですかミスター・エミヤ! 私は今この子たちの…………ってミスター・エミヤ!?」

 

「まずは深呼吸をして、それからお茶をどうぞ」

 

「え、ええ…………フゥ…………ズズッ…………ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

 

いや、マグゴナガル先生フツーにお茶を飲んでるけど。シロウ、それどこから持ってきたの? さっきまで私達といたはずだよね、多分。

 

 

「……って違います! 何であなたまでここにいるんですか」

 

「それに関してはきちんと説明させていただきます。とりあえず移動しませんか? ここだと先生も含めてみんな凍えてしまいます。……私は大丈夫ですが……」

 

「……わかりました。では変身術の教室へ行きましょう。あそこが一番近いですから。ミスター・マルフォイ、あなたもです」

 

 

マルフォイは自分まで連れていかれるとは思っていなかったのか、マグゴナガル先生の言葉に驚いていた。けど先生の有無を言わせない空気に飲まれて大人しくついてきた。途中でスネイプ先生とすれ違い、マルフォイはいつも通り先生に助けを求めた。けど当のスネイプ先生は、マルフォイを一瞥してマグゴナガル先生に今回の処分を一任してそのまま去って行った。この場には不相応だけど、マルフォイの絶望した顔を見たとき 「ざまぁみろ」 と思った。

変身術の教室につくとマグゴナガル先生は教卓の椅子に座り、私達五人はその前に並んで立っていた。マルフォイは不満げだったけど、他の私達は違反をしたという自覚はあったため、特にこれといった反発はない。

シロウは再びお茶を差し出し、机の上にポットとソーサーを置いた。うん、本当にどこから持ってきたの?

 

 

「どうぞ、ハーブティーです。夜も遅いため、少し薄めに仕上げています」

 

 

しかもさっき作ったんだ!?

 

 

「ありがとうございます。……ズズッ……さて、今回のことを説明してください」

 

 

その言葉を皮切りに、マルフォイがその自慢の舌を回してしゃべり始めた。その中身はまぁまぁ、私達を悪者にして自分はいい子ぶりッ子しているような内容だった。よくもまぁ悪びれもせずにそんなこと言えるもんだ。親の顔が見てみたい。けど正直に言うとマルフォイの証言は、お世辞にも信用できるようなものじゃない。仮に私達が当事者じゃなかったとしても、その内容では信頼を得ることは難しいと思う。

 

 

「…………というわけです」

 

「わかりました。あなた達から何か言いたいことは?」

 

「では私から」

 

 

そう言って今度はシロウが反論を始めた。

いやいや出てくる出てくる。どこかに台本でもあるの?、と聞きたくなるほどにシロウの口から言葉が出てくる。しかも質の悪いことに、真実を織り混ぜて虚言を吐いているものだから、マルフォイの言い分よりも信憑性がある。更にそれに加えて、自分たちにも非があるように言っているため、尚の事信憑性を増している。

因みにマルフォイが何度か口を挟もうとしたけど、マグゴナガル先生とシロウの鋭い眼光で黙らされていた。

 

「…………というわけです。ですが如何なる理由があっても、許可なく夜間に寮を出たのは事実。罰則は受けます」

 

「わかりました。ではあなたたちの処分をいいます」

 

 

いよいよ処罰内容か。どうなるんだろう。

 

 

「あなた達五人は一人につき二十点ずつ減点です。それから罰則を受けてもらいます」

 

 

二十点か。最初の五十点と比べると随分と優しい処分になった。

これはシロウの証言に感謝すべきだね。本当ならもっと酷いことになっていたかもだから。グリフィンドールから八十点減点されて、スリザリンが寮対抗の点数競争でトップになる結果になったけど、頑張ればまだなんとかなる点数だ。巻き返すことはできる。ただ、その前に上級生たちに謝罪しないと。私達のせいでトップから落ちてしまったんだし。

 

 

「失礼ですが先生、今五人とおっしゃいました?」

 

「ええそうですが」

 

「まさかと思いますが、僕も含まれているので?」

 

「無論です。如何なる理由があっても、許可なく夜間に寮を出たのは事実。あなたも同罪です」

 

 

先生のその言葉にマルフォイは撃沈していた。

いやいや当然でしょう? 自分だけ助かるとでも思ってたの? まったくマルフォイは本当に甘ちゃんだね。

 

 

 

------

 

 

 

 

夜が明けて朝食に向かう前に、私達は先輩方に謝罪してまわった。監督生のパーシーにもお叱りを受けた。ただグリフィンドール生の先輩方も抜け出す正当な理由があったと伝えられてあり、パーシーにもそれは伝わっていたため、さほど白い目では見られることはなかった。ただパーシーからは、今度からはマグゴナガル先生か自分に連絡するようにと注意された。正論だったので、素直に返事をした。

 

それから2、3日なにも連絡が来ないで過ぎていった。周りでは特に変わったことは無かったけど、私には少し、いやかなり問題が起きていた。物心がついてからこのかた、緑色の閃光が光る夢を見たときしか痛むことの無かった左鎖骨の少し上の傷跡が、疼くように痛み始めていた。医務室に行ったけど、呪いによる傷跡だから薬ではどうしようもない、と医療担当のマダム・ポンフリーに言われた。

 

 

「一応痛み止めの薬はあるけど、多分効かない。どうしても我慢できなくて気分が悪くなったらいらっしゃい」

 

 

そういわれたので、今は我慢している。けど何故かクィレル先生の授業のときは、疼くようなものではなく、けっこう激しい刺すような痛みが走る。とりわけ後頭部を見たときが一番痛い。でも授業は受けないといけなかったから、仕方なく先生から一番離れている出入口近くに座っている。ロンとハーマイオニー、シロウにも相談してるけどいい答えは得られなかった。

 

そんなこんなで日にちが過ぎて、ついにマグゴナガル先生から罰則の通知がきた。何でも今日の夜、森のある方の出入口にフィルチさんがいるから、そこに集合するらしい。他の四人も同じ罰則を受けることになっているみたい。

そして夜、指定の場所に行くと確かにフィルチさんがいた。全員集まると、フィルチさんを先頭に歩き出した。

 

 

「今の罰則は甘すぎる」

 

「ほう? というと?」

 

 

フィルチさんがそう切り出し、何故かシロウが興味を示した。フィルチさんはシロウのその反応に気を良くしたのか、いつもに比べて少し饒舌になった。

 

 

「昔は書き取り何て甘いものはなかった。例えば悪いことをした生徒に鞭を打つなんて普通、親指に専用の手錠をかけて上から吊るしたりな。今でもわしの部屋に道具は残っている。もう一度使えるようにきれいに磨いてな」

 

「なるほど。きつい罰を与えて恐怖を刻み込み、二度とやらないように体に覚えさせるのですか」

 

「そうだ、わかっているな」

 

「いえいえ、俺の母国も4、50年ほど前まで似たようなものがありまして」

 

「ほう?」

 

「まだその頃はマグル世界で世界規模の戦争が起きていた時代。親はともかく、戦火から逃れるために一定年齢以下の子供は地方に疎開することになっていました」

 

 

あ、それって確か1945年に終わった第二次世界大戦の話だ。確か日本に核爆弾が二つ落とされたって学校で習った。ハーマイオニーはマグル出身だからか、何の話かわかったみたい。でもロンとマルフォイはちんぷんかんぷんみたいだ。

 

 

「ただ日本は小国。大地主や当時牛耳っていた政治家の内の汚い奴ら、軍の汚いお偉いさん以外は殆ど食料のない時代だ。それに聞いた話だと疎開先では酷い扱いを受けていたらしい」

 

「それで?」

 

「やはり抜け出す生徒も多かったようだ。しかし大半が連れ戻され、罰を受ける。そして罰則は連帯責任として、当事者以外も受けていたらしい。一番有名なのは、太い木の棒で何度も体を殴るというものだったそうだ」

 

「それって虐待じゃない!」

 

 

ハーマイオニーは怒った様子で歩きながらそう言った。けどフィルチさんとシロウはその言葉にかぶりをふった。

 

 

「小娘、それは今のお前達の常識だ。この国でも連帯責任はないが、棒で何度も打つのは少し前までやっていたことだ」

 

「当時はそれが常識だったのさ。時代が移り変わることによって、親たちからの反発が増えて今のようになったのだ。今でも少し探したら、体罰をやっている学校は出てくるだろう」

 

「それにしても小僧、お前なかなか話がわかりそうなやつだ」

 

「こちらもいろいろとありましたから」

 

 

なんかフィルチさんとシロウが仲良くなっている気がするけど気にしないでおこう。

 

しばらく歩くと私達はハグリッドの小屋の前に着いた。ハグリッドは何故か弩を持って私達を待っていた。もしかして私達、これからあの立ち入り禁止の「禁じられた森」に入るの?

 

 

「ほれ、着いた。さっさと行け」

 

 

フィルチさんはニヤニヤしながら城に戻って行った。その顔を見て私は確信した。これからこの森に入ることになると。

 

 

「全員おるか? ほんじゃいくぞ」

 

「ちょっと待って」

 

 

マルフォイがハグリッドを止める。心なしか、その顔はひきつっていた。

 

 

「まさかと思うけど、僕たち森に入るの?」

 

「そうだ、今回の罰則は俺と一緒に森に入る」

 

「嫌だよ、だって…………森には狼男がいるんだろ? それにとても危険だって聞いてる。父上の耳に入ったらなんて言われるか……」

 

「だったら最初から校則違反をしなけりゃええんだ。悪いことをしたら罰を受ける、当然のことだろう。それが嫌ならさっさと荷物を纏めてこの学校から出ていけ!!」

 

 

いつものハグリッドらしくないきつい言葉だった。気のせいか、空気がピリピリしている。だから私はハグリッドに思いきって聞いてみた。

 

 

「ねえハグリッド。ただ森に入るだけならこんなピリピリはしないよね。それを持ってるってことは、今回はけっこう危険な内容なの?」

 

「そうだ、入る前に伝えておく。最近森に生息するユニコーンが何者かに殺されて、血を吸われることが多発している。今日はその調査だ。二手に分かれて森の中に入る。何かあったら空に火花を打ち上げろ。そんで俺が行くまで隠れてじっとしてるんだ」

 

「二手に分かれるってことはどっちかにハグリッドがいるんだね? じゃあもう片方は?」

 

「ファングについてもらう」

 

 

そうして私達はマルフォイ、ハーマイオニー、ロンの組とハグリッド、シロウ、そして私の組に分かれて森に入った。森は暗く、外よりもいっそう肌寒さが感じられた。それに何だか不気味な感じがする。

 

 

「ハグリッド、一ついいか?」

 

「なんだ、シロウ?」

 

「ユニコーンを殺して何の得があるのだ?」

 

「俺にはわからん。じゃがユニコーンを殺すこと事態が罪深いものなんだ」

 

「そうなのか」

 

 

ユニコーンを殺すこと事態が罪深いこと。そういえば聞いた話だと、ユニコーンは純潔の女性の膝で昼寝をするらしい。それ以外では滅多に姿を見せることはほぼないそうだ。気性が意外に荒いとも聞くけど、純潔の女性を好むあたり一応純粋な生き物なのかな。

突然森の別の方角で赤色の火花がうち上がった。あれはハーマイオニー達の入ったほうだ! もしかして何かあったの!?

 

 

「二人ともここにいろ、俺が見てくる」

 

 

ハグリッドはそう言って弩を構えて火花の上がった方へ進んでいった。暫くすると、皆を連れて戻ってきた。良かった、無事だったみたい。でもハグリッドは何だかすごく怒ってる。まさかと思うけど…………

 

 

「信じられん、どういう育て方をされとるんだこの小僧は!」

 

 

ハグリッドはカンカンに怒ってる。話を聞くと、どうやらマルフォイが質の悪い悪戯をしたみたい。わざとロンとハーマイオニーから遅れるように歩き、後ろから忍び寄って驚かせたらしい。勿論二人はパニックに陥り、ハーマイオニーが上に火花を打ち上げたそうだ。悪戯をしたマルフォイ本人はというと、ちっとも反省している様子はない。

 

 

「すまんがメンバーを変える。シロウとマリーはその馬鹿と組んでくれ。あとの二人は俺とこい」

 

 

まぁこの組み合わせが妥当か。シロウならマルフォイになんかさせる前に取り押さえることができるだろう。

 

 

「すまんな二人とも。でもお前さん達ならあの馬鹿も妙なことはしないだろう」

 

「任せろハグリッド。この馬鹿は俺達が見張っておく」

 

「うん、何かあったらすぐに伝えるから」

 

 

そうひっそりと言葉を交わして、私達はまた分かれた。マルフォイは暫くすると私達に悪戯をしようとしたけど、行動する前にシロウがマルフォイにアゾット剣を向けていた。因みに刃のある方を。

 

 

「…………妙な真似はするな。したら最後、お前の首が体と永久に離ればなれになると思え」

 

 

流石にその脅しが効いたのか、マルフォイはすぐに大人しくなった。時々シロウの目がマルフォイを見ているのも理由の一つだろう。

暫く歩いていると少し拓けた場所に出た。今日は満月だったから、こういう拓けた場所はけっこう見えるものなんだ。ふとある一本の木の根本に目がいった。よく見ると何かがその身を横たえてる。

 

 

「シロウ、マルフォイ。あれ」

 

「あれは…………ユニコーンか? それに見たところ既に死んでいる」

 

「な、なな、何を言って……」

 

 

突如そこに一つの黒い大きな影が忍び寄ってきた。その影はユニコーンに覆い被さると、その首もとに頭に当たる部分をくっつけていた。よく耳を澄ますと、何かを啜る音がする。その影はユニコーンの血を飲んでいた。

 

 

「ぎゃあああああああああ!?!?」

 

 

マルフォイが叫び、ファングは吠えながら走って逃げてしまった。私は足が動かなかった。全身が怖さに震え、逃げるどころじゃなかった。影がこちらに顔を向ける。

そのとき、首が引きちぎられたのかと錯覚した。今まで体験したことのない激痛が首筋の傷跡を襲った。私はその場に膝をついた。自分が叫んでいるのか唸っているのかわからない。一つだけわかるのは、シロウが必死に私に声を掛け、私は影からできるだけ離れようともがきながら後退りしていることだった。

影が立ち上がり、こちらに近づく。一歩一歩こちらに来る度に痛みは激しくなる。そのとき、シロウが私と影の間に立った。その背中を見たとたん、私は意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

謎の影がこちらに顔を向けた途端、マリーが突然首もと、鎖骨あたりを抑えて叫び出した。声からしてとてつもない痛みを伴っていることがわかる。

 

 

「マリー、意識を手放すな! オレがわかるか! マリー!」

 

 

何度も声をかけたが、マリーは答えない。それどころか、必死に影から距離を取るように後退りしている。原因はあの影か。そう確信したオレはマリーと影の間に立った。するとマリーは叫び声をあげなくなり、静かになった。一瞬だけ目を向けると、どうやら気を失ったらしい。影は止まらずこちらに近づいてくる。

オレは左腰の鞘からアゾット剣を抜き、影に向けた。影はそれを見て動きを止めた。

 

 

「人語を解するなら警告だ。貴様が何者であろうと、マリナには近づかせん。それ以上こちらに近づくことは許さん。もしその場から一歩でも此方に近づく、またはなにかしらの攻撃動作をした暁には、貴様の命の保証はしない」

 

 

影は一瞬だけ躊躇する気配を見せたが、その懐から杖を取りだしまた近づいてきた。

 

 

「魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな」

 

 

オレは無銘の、だが魔力を掻き消す力をもつ剣を5本、空中に投影して待機させる。切っ先は全て影に向いている。それを見て奴も動きを止めた。まず一つを射出させる。影は杖から銀に光る魔力の盾を作り出したが剣はそれを砕き、影の足元に突き刺さった。

残りの4本も奴に向けて射出すると同時に、蹄の音が高速でこちらに近づき、影の前に躍り出た。影は剣を避け、蹄の主から逃げるように空を飛んでいった。

一先ずは安心か。オレはマリーに駆け寄り、体を抱き起こした。

 

 

「マリー、大丈夫か? マリー?」

 

「…………う……ん…………シロウ?」

 

「マリー、オレがわかるか?」

 

「……うん、シロウでしょ? わかるよ。確か私、変な黒い影がこっちに顔を向けた途端、急に傷痕が痛くなってそれで……」

 

「良かった、覚えてはいたか」

 

「ねぇ、あのあとどうなったの? あの影は?」

 

「あれは……」

 

「マリナ・ポッター。影はこの場から去った」

 

 

静かな透き通る低い声と共に、蹄の音をたてながらこちらに別の大きな影が近づいてきた。それは琥珀色をした体をもつ、ケンタウルスだった。

 

 

「……あなたは?」

 

「私はフィレンツェ、この森に住むケンタウルスの一人だ」

 

「ケンタウルス。ケイローンのいた時代から今まで生き残ってきた、と考えればいいか?」

 

「そうとってくれて構わない。マリナ・ポッター。そしてこの星の護り手となりし者よ。いま、この森は危険だ。一刻も早く出た方がいい」

 

「先程の影のことか?」

 

「それもある。いま、この森は不気味な闇が蔓延っている。純潔の象徴たるユニコーンが殺されていることがその証だ」

 

 

フィレンツェはそうオレたちに説明する。マリーは落ち着いたのか、オレの腕に捕まってはいるが、自力で立てるまで回復している。

 

 

「……あの影は、何でユニコーンの血を飲んでいたのですか?」

 

「ユニコーンの血は、死の淵にある者を行き長らえさせる力を持つ。だがそれは罪だ。純潔の象徴たるユニコーンを殺すだから。その血が口に触れた瞬間、その者は仮初めの生を与えられる。呪われながらの生、生きながらの死だ」

 

「そうなんですか…………でもいったい誰が……」

 

「今ホグワーツに守られているのは? それが持つ力は? それを求めているのは?」

 

「……ホグワーツで守っているのは賢者の石。それは不老不死にさせる命の水の源。確かヴォルデモートは死んだのではなく、消えた。もしヴォルデモートが肉体を失っても生きていたとすれば、オレたちが見たのは…………」

 

「その可能性もなきにしもあらず、です」

 

 

そこに別の声が聞こえ、別のケンタウルスが姿を現した。こちらは深い焦げ茶色をしている。

 

 

「お初にお目にかかる、この星の護り手となりし者よ。そしてマリナ・ポッター。私はベイン」

 

「「初めまして」」

 

「ベイン、どうされたのです? 私はともかく、貴方が人の子の前に姿を現すなど珍しい」

 

「星が、今宵は彼らに協力するようにと」

 

「そうですか」

 

 

ケンタウルスは昔から人よりも博識と聞く。彼のヘラクレスの師匠もケイローンというケンタウルスだったという話だ。今ベインの言った占星術も、遥か太古から行われてきたのだろう。

 

 

「とりあえずこの者たちを一刻も早く森の外へ。今はその方が安全です」

 

「そうですね。星の護り手よ、そしてポッター家の娘よ。私かフィレンツェ、どちらかの背に乗りなさい」

 

「いや、問題ない。道案内さえしてくれればオレがついていく。それとオレは星の護り手という名ではない。オレは衛宮士郎。好きなように呼んでいい」

 

「ではシロウと。ベインもそれで良いですか?」

 

「構いません。ポッター家の娘はどうしますか?」

 

「私は、シロウに抱えて貰います。ご厚意は嬉しいですが、流石に捕まっていられる自信がないので」

 

 

そうしてオレ達は森の中を駆け出した。マリーはオレが抱えながら森の外へ向かっている。先程の疑問とオレの推測。間違っていなければ、近いうちに何かが起こる気がする。

妙な胸騒ぎを覚えながらオレたちは森の外へ行き、ハグリッドたちと合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

何なのだ、あの極東の小僧は!?

ご主人様があいつには気を付けろ、絶対に近づくなとおっしゃっていたが、私はそんなに危険とは考えていなかった。だがハロウィンのときといい、今回といい、やつはこちらが見たことも聞いたこともない魔法を使ってくる。熟練の魔法使いなら無言で魔法を行使することなどわけない。だがそれでも杖の存在は重要になる。

ところがあの小僧は杖も使わずに空中に剣を何本も出現させ、更にこちらに射出してきた。盾が容易く破られるほどの威力だった。しかし狙いが悪かったのか、こちらには一本も当たることはなかった。

 

 

━━ それは違うぞ

 

 

ご主人様?

 

 

━━ やつの剣は外れたのではない。やつはわざと剣を外れるように放ったのだ

 

 

ご主人様? それは真ですか?

 

 

━━ 間違いない。やつは端からこちらに当てるつもり等なかったのだ

 

 

随分と舐められたもn……

 

 

━━ いや、舐めてなどいないだろう。

 

 

というと?

 

 

━━ あの小僧にとって、俺様たち魔法使いを殺すことなど赤子の手を捻るようなものだろう。恐らく俺様は勿論ダンブルドアでさえも、やつが本気になればすぐにやられる

 

 

そんな……あの小僧がそんな力を

 

 

━━ お前とは違い、俺様は肉体を持たない。だからやつの異常性がわかってしまう。言うなれば、やつは古文書に出てくる英霊や守護者の類いと見ていい

 

 

そ……んな……

 

 

━━ 今回お前が生還できたのは、ある意味あのケンタウルスの邪魔のお掛けだ。奴に対抗するには同じ英霊か不老不死しかないだろう。一刻も早く賢者の石を手に入れ、命の水を飲まなければならない。

 

 

はい、ご主人様

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。


マグゴナガル先生がお茶を飲むシーンですが、あくまで飲むタイミングを表現するためであり、実際に音を立てている訳ではありません。


さて次回ですが、まだ下書きが完成しておりません。
ですので、もう暫くお待ちください。なるべく早く投稿しますし、今月中に投稿します。
暖かく見守っていただければ幸いです。



ではこの辺で

本作品もfateも感想お待ちしております






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15. 罰則のその後

はい、更新です。

マリーさんがザビ子にしか想像できないという方々が多かったので、もう外見がザビ子というように設定を変えました。


ではどうぞごゆるりと






 

Side マリー

 

 

あの罰則の日から数日、傷痕はまだ疼くように痛んでいた。それからときどき『闇の魔術に対する防衛術』の授業で、クィレル先生の目が冷たく光るように感じられる。表情と口調は今までと変わらないから、尚一層違和感を感じられる。

 

 

「最近なにも音沙汰がないけど、石は大丈夫なのかな?」

 

「少なくともダンブルドア先生がいる限りは、『例のあの人』もスネイプも手出しできないはずよ」

 

 

廊下を歩きながらぼやくロンに、ハーマイオニーはそう答える。ハーマイオニーの言葉を聞いて思ったけど、まだスネイプ先生を疑ってたんだ。少し視野が狭い気がする。

 

 

「ねぇ二人とも」

 

「「なに(なんだい)、マリー?」」

 

「ずっとスネイプ先生を疑ってるようだけど、クィレル先生も結構あやしいと思うな、私」

 

「あの先生はないぜ? いつもの様子を見てみろよ」

 

「ええ。あんなにビクビクしてる先生が石を盗むなんて」

 

「だってクィディッチの初戦のことだけど、クィレル先生もすごく冷たい目をして私の方を見てたんだよ? 瞬きせずに」

 

「あの先生だからあまりのことに固まっただけだって」

 

「クィレル先生がそんなことをする度胸があると思う? 私は思わないわ」

 

 

むう、結構頑固だな。一度信じたものはテコでも変えないのか。さて、どう説得して視野を広げさせようか。

そう思っているところにシロウが、

 

 

「見た目だけで物事を判断するのは、オレはお薦めしない。例えば、だ」

 

 

そう言ってシロウは近くの階段に足を一歩踏み出した。すると階段だったそこは瞬く間にスロープ状の通路に変化した。校内にいくつかある仕掛階段の一つだった。

 

 

「一見普通と変わらない階段もこんな感じだ。目に見えるもの全てが真実という訳ではないのだ。それはわかるだろう?」

 

「……うん」

 

「ええ……まぁ」

 

 

シロウの説明を聞いて一応は理解したみたいだけど、二人はまだ完全に納得したわけではないみたいだ。シロウはその二人の様子を見て一つ溜め息をつくと、二人の頭に軽く手を置いた。

 

 

「別に全てを疑え、と言っているわけではない。お前達もそれなりの理由があってスネイプを疑っているのだろうし、マリーも理由があってクィレルを疑っている。だがせめて、オレが今言ったことを頭の片隅にでもいいから置いてほしい」

 

 

そう言って軽く2、3度二人の頭に手を当て、二人から離れた。

………………むぅ………………シロウの撫で撫で。何でかわからないけど羨ましい。

 

 

「……シロウ。前々から思ってたけど、あなた本当に私達と同い年?」

 

「僕も思った。何か真面目な話をするときのパパと雰囲気がそっくりだよ」

 

 

それは私も思ってたけど…………シロウの撫で撫で、羨ましい。

 

 

「実は僕らよりも二十歳以上年上だったりとか?」

 

「病気で体の成長が遅いぶん、寿命が長いとか?」

 

「実は薬とかで体を若返らせてるとか?」

 

「何その全世界の女性を敵に回す薬? あったら私も欲しいわよ、三十年後ぐらいに」

 

「「それとマリー、顔が怖いよ?」」

 

 

…………ハッ Σ(゚Д゚〃) いけないいけない、私としたことが。

 

 

「さて……な。もしかしたら見た目以上の年齢かもしれんし、ただの生意気な餓鬼かも知れんぞ?」

 

 

シロウはニヤリと口の端を歪めながら悠然と大広間に歩いていき、私達はそのあとを追った。その後ろ姿が一瞬、ほんの一瞬だけ夢の中の青年に重なって見えた。けど気のせいだろうと思い、頭からその思考を一旦振り払った。

 

もう学年末テストが終わり、あとは結果を待つだけなので午後は特に予定はない。手応えはあったので、全て合格にはなっているだろう。そして今は春真っ只中なため、外はちょうどいい暖かさである。天気も晴れており昼寝に最適なコンディションだ。ここにシロウの膝枕があったら確実に安眠コースに入る。そんなことを考えながら、私は大広間で昼食を摂った。うん。野菜と卵のサンドウィッチ、うまうま。

 

さて昼食も終わり、私達は四人でぶらぶらと歩いていた。ニコラス・フラメルと賢者の石に関しては粗方調べてしまったため、特にやることもない。それにしても今日は暖かい。そういえばノーバートが生まれた日も、春先にしては暖かかった。確かハグリッドがポーカーの景品代わりに知らない相手から貰って……

 

 

「ああー!?」

 

「マリーどうしたのさ? 急に大声をあげて」

 

「なんて間抜け! 私ったら何で気がつかなかったの!?」

 

「マリー。一人合点してないで説明してくれる?」

 

「うん、ええと……」

 

 

それから私は説明を始めた。私とシロウがグリンゴッツに行ったその日に、強盗が入ったこと。狙われたのはハグリッドが持ち出したもの。そしてハグリッドには悪いけど、彼は結構ガードが緩いこと。そのことから、今回ノーバートの卵をくれた相手に、何かしゃべっている可能性があること。

 

 

「…………ハグリッドは前々からドラゴンが欲しいって言ってた。そこに都合よくドラゴンの卵を持ち歩いている人が出てくると思う? それにそもそもドラゴンの卵を持ち歩くのは禁止されているはずでしょう?」

 

「じゃあマリーはその相手が前々からハグリッドのことを知っていて、尚且つホグワーツ関係者が犯人って言いたいんだね?」

 

「うん。こんなこと偶然にしてはおかしいもん」

 

「ならこれからの予定は決まったな。幸い彼の小屋はここから近い」

 

 

シロウの言葉を聞いて、私達はハグリッドの小屋へ走り出した。運良くハグリッドはいた。小屋の前に腰かけて、縦笛を吹いていた。

 

 

「ハグリッド。聞きたいことがあるの」

 

「おお、お前達か。なんだ? 茶でも飲むか?」

 

「今日はお茶はいいや。また今度一緒に飲もう」

 

「ハグリッド。ノーバートの卵を貰ったときのことを覚えてる?」

 

「相手の外見とかしゃべった内容とか」

 

 

ロンとハーマイオニーが中心になって、ハグリッドに質問を被せる。私とシロウはその隣で黙って聞いている。

 

 

「外見っちゅうか顔はわからんかった。フードを深く被っていたからな、男っちゅうこと以外はわからなんだ。じゃが奴さん、フラッフィーに興味を示してたな」

 

「「フラッフィーに?」」

 

「そりゃそうだ。三頭犬なんて珍しいからな。それでな、俺は言ったんだよ。ドラゴンに比べたらフラッフィーなんて、手懐け方さえわかればお茶の子さいさいってな。音楽を聞かせりゃ直ぐに寝んねしちまう…………おおい四人とも。どこにいくんだぁ?」

 

 

私達はハグリッドの言葉を聞いた瞬間、城へ向かって走り出した。そして誰もいないだろう廊下にたどり着くと、立ち止まって息を整えた。シロウは平然としていたけど。

 

 

「まずいよ。ハグリッドが三頭犬の出し抜き方を教えちゃった」

 

「ダンブルドア先生に報告した方がいいかもしれないわ」

 

 

ハーマイオニーとロンがそう言い、歩き出そうとした。けどシロウは立ったままだった。

 

 

「シロウ? どうかしたの?」

 

「いや、大丈夫だよマリー。すまないが三人とも、少し気になることができた。夕食までオレは一人で行動する」

 

「ダンブルドア先生への報告は?」

 

「それは君らに任せる。オレが気になっているのも今回のことだからな。少し情報を整理するために一人になりたい」

 

 

ハーマイオニーとロンは渋っていたけど、シロウの顔は真剣そのものだった。だから私は夕食までに戻ってくるように約束させて、シロウに一人でいっていいように伝えた。

 

 

「マリー、ありがとう。二人も、また夕食のときに」

 

 

シロウはそう言い、走り去っていった。

 

 

「さあロン、ハーマイオニー。私達も早くいこう」

 

 

私達も歩き出したけど、肝心なことを思い出した。私達は誰も校長室の場所を知らない。とりあえず、色んな場所を探してみようと歩き回ってたら、マグゴナガル先生に見つかった。

 

 

「あなたたち、こんなところで何をしているのですか?」

 

「あ、マグゴナガル先生」

 

 

ちょうどいい。マグゴナガル先生なら校長室の場所を絶対に知っているはず。

 

 

「実は校長先生にお話がありまして」

 

「緊急なんです」

 

「直ぐに話さないといけないことなんです」

 

 

上から順に私、ロン、ハーマイオニーと先生に畳み掛ける。マグゴナガル先生も初めは面食らった表情を浮かべたけど、直ぐに普段の顔に戻した。

 

 

「あなたたちがどういった要件で校長先生に話があるかは知りませんが、いずれにせよ今日はできませんよ」

 

「そんな……」

 

「校長はつい先程、魔法省からの呼び出しで急遽ロンドンへ出発なさいました」

 

 

マグゴナガル先生はいつもの調子で私達と応対する。そこでロンが、

 

 

「でも先生。実は…………賢者の石についてのお話なんです」

 

 

そう言うと、流石にその答えは予想していなかったのか、マグゴナガル先生は手に持っている教材を地面に落とした。そしてそれを直ぐに拾わないことから、かなり驚いている。

 

 

「何故……その事をあなたたちが……」

 

「それは……秘密です」

 

「……あなたたちが何故石のことを知ったかは聞きません。ですが、今後この事に関わることはお薦めしません。というより今すぐ手を引き、忘れることを薦めます」

 

「……でもマグゴナガル先生」

 

「くどいですよ、ミスター・ウィーズリー。明日には校長もお帰りになられます。ですから今日はもうここら辺でおさめなさい」

 

 

マグゴナガル先生はそう言い、歩き去っていった。

 

ダンブルドア先生がいない。

ということは、今この城にいる犯人が石を持ち出すには絶好の機会だろう。だとすると、それを妨害するためには私達も夜中に寮を抜け出す必要がある。なら今度も三人で透明マントを被り、シロウには悪いけど単独でついてきてもらうしかない。今度見つかれば、罰則どころじゃすまなくなるため、慎重に動かないといけないだろう。私はそう考えてロンとハーマイオニーには直接、シロウには念話で私の考えを伝えた。

三人ともそれを了承して、皆が寝静まった頃に談話室に着替えて集合することに決まった。

 

 

 

行動するのは今夜。少しだけ胸騒ぎを覚えつつ、私達は時間が過ぎるのを今か今かと待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回はここまでです。

修正もようやくうまくいき、一つ胸のつっかえが取れました。アドバイスを下さった方々、本当にありがとうございました。



さて、次回はいよいよ仕掛けられた罠、二つの顔を持つ男編です。
一巻物語もクライマックスにさしかかってきました。
マリーさんとシロウさんはどう動くのでしょうか?


まぁ某赤い色をした電車に乗った鬼は、最初からクライマックスで行きそうですが


ではこの辺で

fateのほうも修正、書き換えを行いました。





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16. 仕掛けられた罠 【前編】


存外筆がのったので更新します

それではごゆるりと





 

Side マリー

 

 

真夜中。

女子部屋の私とハーマイオニー以外は寝静まった頃に、私達は談話室に降りた。ロンは既にそこにおり、シロウは気配を既に消してこの部屋にいるらしい。全員が揃ったため、私達は寮の出口に静かに向かった。が、

 

 

「また抜け出すつもり?」

 

 

突然ソファの影から声が響いた。私達は身構え、声の主がソファから立ち上がるのを見た。その人物は…………ネビルだった。

 

 

「ネビル? 君だったのか」

 

「もうこれ以上寮の点数を下げさせる訳にはいかないよ。それに今度見つかれば、最悪退学になっちゃう」

 

 

ネビルの声は震えている。でも真っ直ぐこちらを見つめていた。

 

 

「ネビル。僕らはどうしても行かなきゃならないんだ」

 

「だとしても見つかれば終わりじゃないか。僕は君たちに退学になってほしくない。だから……僕は君たちを止める」

 

「ネビル!!」

 

 

ロンは我慢の限界が近づいてきたのか、耳が赤くなってきた。ネビルの気持ちは嬉しい。でも石が奪われるのと私達の退学を天秤にかけるなら、石の方が重要だ。だからネビルには悪いけど、私達も引くことはできない。

 

 

「ネビル。本当にごめんなさい」

 

 

ハーマイオニーがポケットから杖を取りだし、ネビルに向けて呪文を放った。正確には放とうとした。けどその前に、シロウがどこからともなくネビルの前に躍り出て、その目を真っ直ぐ見つめて一言、

 

 

somno(眠れ)

 

 

と呟いた。

途端ネビルは力が抜けたようにぐったりと床に倒れ込みそうになり、シロウに支えられてソファに寝かされた。そしてどこからともなく毛布を取りだし、ネビルに掛けた。その時間、僅か5秒だった。

 

 

「ねぇシロウ。あなたいったい何をしたの?」

 

「眠るように暗示を掛けた。心配ない。朝には目が覚める」

 

 

たぶん、初試合の日のクィレル先生かスネイプ先生のやっていたことと同じようなことをしたんだろう。とにもかくにも、これで寮から出れるようになったからハーマイオニーに杖を戻してもらい、シロウを除いた三人でマントを被って移動した。幸い誰ともすれ違うことはなく、進入禁止の例の部屋に辿り着いた。

扉を開けると、やはりフラッフィーがいた。眠っている状態で。

 

 

「やっぱりだ」

 

 

ロンが言う。

 

 

「スネイプかクィレル先生がもう既に石に向かってるんだ。ほら」

 

 

ロンの指差した先には、勝手に音楽を奏でているハープがあった。ハープが動いている間はフラッフィーが起きることはないので、急いで床の扉を開く。中は暗く、先が見えなかった。…………あれ? 何だか妙に静かな気が……

 

私達は顔を上げると、目の前にはこちらを無言で見つめる6つの目があった。ハープは止まっている。フラッフィーが目を覚ましてこちらを見ていた。

でもおかしい。確かにフラッフィーは顔をこちらに向けている。けど正確には私だけを見ていた。そして顔を三つの頭全てから舐められた。辛うじて後方に見える尻尾は…………パタパタ振っていた。

 

…………え? なにこの状況?

私今度は三頭犬に懐かれちゃった? そう言えば前回この子を見たときも吠えられてはいなかった。……え? 本当に何なのこの状況?

 

 

「今のうちに降りた方が良さそうね」

 

「そうだね」

 

「ならオレが先にいこう」

 

 

そう言ってシロウ、ハーマイオニー、ロン、私の順番で下に降りた。そのとき、フラッフィーは捨てられそうな子犬のような目をしていた。…………私そんなに気に入られちゃったんだね…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

穴に落ちた先は、何かの植物の上だった。ロンは安心したような声をあげたが、オレは嫌な予感が脳裏を掠めた。すると突然、蔓が足に巻き付いた。中々に強い力だ。

 

 

「何だよこれ!?」

 

 

ロンが叫ぶ。オレの予想が正しければ、この類いの植物は強い光を当てるか、動かないかのどちらかが有効だったはず。一番確実なのは燃やすことだが、生憎オレは爆発させることしかできない。宝具や黒鍵を使えば手はあるが、今使うと他の三人を巻き込んでしまう。

 

 

「皆動かないで! これは『悪魔の罠』よ! 動けば余計に締め上げられるわ! 動かなければ解放してくれるわよ!」

 

 

ハーマイオニーが叫ぶ。オレとマリーはハーマイオニーの忠告通りにじっとしていると、蔓の下の固い床に落とされた。ハーマイオニーもすぐあとに落ちてきた。だがロンは完全にパニックに陥り、オレ達の名前を呼びながらジタバタしている。そして余計に強く蔓が体に巻き付いていく。このままだと本当に絞め殺されかねん。

 

 

「ハーマイオニー。こいつに光や爆発、炎の類いは効くか?」

 

「ええ効く。でも薪が無いわ!?」

 

「ならば……」

 

 

オレは黒鍵を投影し、植物に投擲した。できるだけロンから離れた場所に突き刺す。黒鍵に刻まれているのは『火葬式典』。そこから炎が上がり、蔓を燃やす。耐えかねた植物はロンを床に落とし、燃えた箇所を自分で切り離して動かなくなった。

 

 

「ふう、落ち着いたお陰だ」

 

 

ロンがそう言うと、マリーが無表情でロンに近づいた。

…………あ、この雰囲気はヤバイ。オレが凛、イリヤ、桜から説教を受ける前の雰囲気に似ている。オレはハーマイオニーを然り気無く二人から遠ざけた。まだ十一歳の子供には早すぎる。

 

 

「……ねえロン」

 

「なんだいマ……リー?」

 

「ロンが助かったのはハーマイオニーの知識とシロウの機転のおかげだよ?」

 

「うっ」

 

「私達が下に落ちたのを見て心配になってパニックになったのはわかる。でも落ち着いたお陰ってのは違うんじゃないかな?」

 

「…………」

 

「ロンが言うべきことは?」

 

「ハーマイオニー、シロウ。ありがとう」

 

「「どういたしまして(気にするな)」」

 

 

話がつき、オレ達は移動を始める。と、そこに

 

 

「ねぇシロウ」

 

 

マリーが声をかけてきた。ロンは気がついてはいないが、ハーマイオニーもマリーと同じく、何か聞きたそうな顔をしている。まぁ何を聞きたいかわかってはいるが。

 

 

「さっきの燃える剣。あれって何なの?」

 

「すまないが今は話せん。今は胸のうちにとどめておいてくれ」

 

「でも……」

 

「二度は言わない」

 

「……いつか話してくれる?」

 

 

マリーがこちらをじっと見つめる。その目はオレに、今は聞かないけどいつか必ず話してくれと語っていた。……まったく、どうもオレはそう言う目に弱いらしい。精進せねば。

 

 

「然るべきその時に、必ず」

 

 

オレはそう言葉を紡ぎ、二人は承諾した。そして先を行くロンを追った。

突き当たりにはまた扉が一つあった。生き物の気配はない。だがカサカサいう小さな無数の羽音が聞こえる。オレ達は目配せをし、まずオレが中に入った。目の前に広がるのは、羽をつけた様々な種類の鍵。部屋の真ん中にひとりでに静かに浮かぶ一本の箒。部屋の奥にはまた別の扉がある。オレのあとから残りの三人が入り、状況を確認していた。

 

 

「これは…………」

 

「恐らくこの中の一つだけが本物の鍵なのだろう。それを箒に乗って捕まえると」

 

「あら、意外に簡単じゃない。幸いここにはうちの寮のシーカーがいるし」

 

「だね。あとは本物のを見つけるだけだ」

 

「二人とも他人事のように…………あれじゃない? あの片方の羽が折れ曲がったやつ」

 

 

マリーの指差す方向をみると、成る程。確かに一際古びて羽の折れ曲がった鍵がいた。恐らく強引に捕まれたのだろう。さて、

 

 

「マリー、油断はするな。オレの予想が正しければ、君が箒を手に取った瞬間にダミーが君を襲ってくるだろう。ハーマイオニー、ロン。」

 

「「なに(なんだい)?」」

 

「君らは火花でできるだけダミーを打ち落とすんだ。できるか?」

 

「ええ、できるわ」

 

「できるけど、シロウは?」

 

「オレは切り払う。幸いここは天井が程よい高さだし、柱も多い。壁を蹴って移動するには調度いい」

 

「最近シロウのその発言と行動に驚かなくなった自分が怖いよ」

 

「私もよ」

 

 

まぁとにかく、方針は決まった。

マリーは箒へ近寄り、その手に持つ。瞬間、ダミーの鍵が一斉にマリーを襲いにきた。本物は必死に羽ばたいて逃げている。オレ達残りの三人は計画通りに行動を始めた。ロンとハーマイオニーはできるだけマリーに当てないように、火花でダミーを落としていく。オレは壁や柱を蹴って移動し、ダミーや火花の流れ弾を魔力を通したアゾット剣で切り払う。撃ち抜かれ、切り払われた鍵は床に落ちて、為す術なく転がっていた。

ダミーの数が半分程に減ったとき、ついにマリーは本物を捕まえて箒を降りた。急いで開けて鍵を離すと、本物はまた宙を羽ばたきだし、ダミーもこちらを襲わなくなった。

 

 

「これで第二関門突破だね」

 

「恐らく今のは妖精魔法の一つ。となれば、この関門はフィリットウィック教授のだろう」

 

「フラッフィーがハグリッド、『悪魔の罠』が薬草学のスプラウト先生ね」

 

 

そう推測し、オレ達はまた次の部屋へ入った。

そこには二十はある石像が規則正しく並んでいた。石像が立つのは、白と黒のマス模様が書いてある床の上。石像も白と黒の色をしている。もしやこれは……

 

 

「チェスだ」

 

 

ロンが言う。

 

 

「これは魔法使いのチェスだ。それも特大の」

 

 

第三関門。それは部屋一杯に広がる大きな盤で行うチェスゲームだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。

シロウの発言について三人が疑問に思っていない点ですが、三人とも何度かシロウの規格外身体能力にお世話になっているからです。
マリーとロンは言わずもがな、遅刻しそうになったときとか。ハーマイオニーは積雪で魔法でどうにかする前に、とかです。

それから、シロウの暗示。あれはルビを振っていますが、ラテン語です。ドイツ語、イタリア語は余りわからず、比較的英語の次に単語を知っているラテン語を採用しました。


さて、次回は仕掛けられた罠編の続きです。
次は少々オリジナル要素を入れます。


では今回はこのへんで





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17. 仕掛けられた罠 【後編】


お待たせいたしました。


それではごゆるりと






Side シロウ

 

 

チェスと言えば、十と六の駒を扱う戦略ボードゲームを皆は想像するだろう。魔法界でもそれは変わらない。ルールもマグルの世界と同じである。その歴史は遥か昔、紀元前のインドへと遡る。

元となったとされるインドの『シャトランガ』と呼ばれる盤上遊戯が、ペルシャを経由して欧州に伝わったものがチェスとなった、という説が最も知られている。因みに西欧がチェスならば、このシャトランガがアジアに広まったものが将棋であるという見方がある。

 

それはさておき。

前述の通り、チェスの歴史はとても古いため、魔法界非魔法界に関係なく広く広まっている。加えて魔法界のチェスは、(まさ)に自分が軍師になったかのように駒へと指示を飛ばし、動かすものである。しかも駒の形は人形(ひとがた)、それぞれのポジションに順応した形なのだ。例えばナイトは騎乗兵であるとか。そして相手方の駒をとる際、結構バイオレンスなことに、駒が持つ道具、クイーンやキングは玉座、僧侶は杖などで対象の駒を破壊するというものである。

 

さて、今オレ達の目の前に広がるのは、駒の大きさが自分等よりも遥かに大きいチェス盤だ。無論その大きさの駒を人が動かせるはずがない。材質がポリエチレンでもない限り。だが残念ながら駒の材質は、正真正銘石であり、それぞれが持つ道具は金属製ときたものだ。オレの予想が正しければ、これは本当に特大の魔法使いのチェスなのだろう。

 

 

「……さて、どうするかね? 少なくとも敵方、白の駒とのゲームに勝たなければ、先には進めないだろうが」

 

「無論プレイするよ。けど、ここは僕に任せてくれる?」

 

 

珍しくロンが自分から行くといった。彼がここまではっきりと言うのなら、それなりの理由があるのだろう。だからオレ達は黙って先を促した。

 

 

「理由はマリーとハーマイオニーが、悪いけどチェスがうまいとは言えないんだ。何度か二人と試合したけど、お世辞にも上手とは言えない。駒が動かないマグルのチェスならともかく、駒自体に意志がある魔法使いのチェスには、二人は向いていない。シロウはどうかわからないけど」

 

「いや、オレは軍師向けではない。精々尖兵がいいところだよ。あとは狙撃手か」

 

「成る程ね。あと僕の予想だけど、たぶん僕たちが何かの駒に直接変わってゲームをしないといけないと思う。ちょっとあの駒に聞いてみる」

 

 

ロンはそう言うと近くの、あれはナイトだな、の駒までいき、ポジションの変更の要不要を質問した。結果は必要。そこでオレ達は、それぞれロンが指定した駒のポジションに立った。マリーがビショップ、ハーマイオニーがルーク、ロンがナイト、そして何故かオレがキングとなった。そしてゲームが始まった。先ずは先攻である敵方の白の駒が、ポーンを二歩動かした。その時、ハーマイオニーが不安そうな声をあげる。

 

 

「ねぇロン。まさかと思うけどこのチェス、あのちっちゃなチェスみたいなものなの?」

 

 

ハーマイオニーの言葉にロンはしばらく考え込み、様子見としてポーンを一体、囮として前に進めた。次の瞬間、敵方のポーンはこちらのポーンを、轟音をたてながら派手に破壊した。破片の一つがオレの足元に転がってきた。

 

 

「……その通りだよ、ハーマイオニー。これは誤魔化しようもなく、あのちっちゃなチェスがそのまま大きくなったものだよ」

 

 

ロンの言葉にマリーとハーマイオニーは息を飲み、顔を少し青くさせた。オレもある程度は予想していたが、さすがにこれは当たり所が悪ければ、重傷になるだろう。

それからは駒をとってはとり返すゲームとなった。マリーやハーマイオニーがとられそうになるのを、ギリギリ気がついて回避するという場面も、少なくはなかった。だが、ロンは駒をとられつつも、確実に白の陣営を追い詰めていた。そしてまた数手がすぎ、今目の前でマリーと対を為すビショップが、白のクイーンに破壊された。

 

 

「あれ? ちょっと待って。う~ん……」

 

 

ロンが考え込むと、敵のクイーンはロンに顔を向けた。

 

 

「……そっか。やっぱりか」

 

「ねえロン。一人合点してないで教えて?」

 

「……わかった。次の手で僕が駒を進めると、敵のキングにチェックをかけることができる」

 

「……ロン。お前まさか」

 

「どういうことよ、シロウ?」

 

「つまりだ。ロンが今の手で前に進むと、キングをとれる位置に来る。となれば、向こうは障害を排除するか、妨害を置かなければならない。向こうのキングは動けないからな。だがロンはナイト、妨害は殆ど意味を為さない。ならば……」

 

「まさか……ロン! あなた自分を犠牲にする気!?」

 

「これしか今は考えられないんだ! 聞いてくれ。僕が前に進むと、クイーンが僕を取りに来る。そしたらマリーの進路ができてキングにチェックメイトを掛けて勝つことができる」

 

「でもそしたらロンは……」

 

「急がないともう石が盗られているかも知れないだろ! わかってくれ、二人とも。今はこれしかない。これがチェスなんだよ」

 

 

ロンは既に覚悟を決めた顔をしている。なら止めても無駄か。

 

 

「二人ともそこまでだ。ロンは既に覚悟を決めている。なら止めても無駄だ」

 

「……シロウ、ありがとう」

 

「勘違いはするな。オレは納得した訳ではない。だが今はそれしか方法がない。だからお前の判断を尊重したのだ。事が終われば説教だからな」

 

 

そう、納得した訳ではない。誰かを犠牲にする、そんなやり方はどれだけ時間が経とうと認められない。それはオレがオレだから。だが犠牲によって何かが為されるというのもまた事実。幸い今回のチェスでは怪我こそすれ、死ぬことは無いだろう。だから今は無理矢理納得することにした。

 

 

「……お手柔らかにお願いします、シロウさん。さて……」

 

 

ロンは自分の位置を指定し、キングにチェックをかけた。すると向こうのクイーンが動きだし、ロンの元へ近づいた。そしてロンが兵士の代わりに乗っていた馬を破壊した。ロンはその余波で気絶したらしく、地面でぐったりと転がっていた。ハーマイオニーが息を飲み、ロンの元へ行こうとした。

 

 

「動くな!!」

 

 

オレは一喝し、ハーマイオニーを止める。

 

 

「ゲームはまだ続いている。マリー」

 

 

オレがマリーに呼び掛けると、マリーは一つ頷き、盤上を移動してチェックメイトを掛けた。相手のキングはその王冠をとり、マリーの足元へ投げた。

勝った。

そう悟ると、オレ達はロンの元へ急いだ。幸い怪我の類いはなく、気絶しているだけだった。オレ達は白の駒が並ぶ壁までロンを抱えて移動し、ロンを壁に持たせかけた。ここならば一応は安心だろう。そしてオレ達は扉を開けて、先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

扉を開けた先の廊下をしばらく進むと、酷い臭いが鼻をついた。まるでしばらく掃除をしていない、腐った溝のような臭いだ。この臭いは嗅いだことがある。ハロウィンの日に女子トイレに浸入したトロールと全く同じ、鼻が曲がるような臭いだ。目の前の扉を開けるのは躊躇したけど、シロウが先に開けて入った。

部屋は今までで一番広く、入り口近くには、ハロウィンのときよりも更に大きなトロールが、ノックアウトされた状態で転がっていた。正直助かった。いまこのときに、トロールの相手はしたくなかった。私達は目の前にある先へと進む扉に差し掛かると、部屋の奥の方、暗くてよく見えないところから、鎖を引きずる音が聞こえてきた。重々しい足音もする。

 

…………まさか、まだトロールがいたの? しかも音からしてそうとう大きいだろうし、複数いる。私達だと死んでしまう。ハーマイオニーも顔を真っ青にして震えている。私も怖い。まだ死にたくない。

 

そう思った矢先、私達の前に、一つの大きな背中が出てきた。シロウだった。けどその服装は、さっきまでと大きく違っていた。さっきまでのシロウはユニ○ロのシャツにジーンズ、その上にジャージを着ていた。

けど今は黒のレギンスに金属の留め金のついた黒のブーツ。黒の袖無しのレザーアーマーに、不思議な紅いマークのついた黒の外套を纏っていた。その後ろ姿は、騎士のようにも見えた。

 

 

「マリー、ハーマイオニー。この先の仕掛けと石は任せた。ここはオレが受け持とう」

 

 

そう言うと、シロウはその両の手に白黒の双剣をどこからともなく取り出し、真っ直ぐと部屋の奥を見つめて構えた。

 

 

「恐らく、この先にはもう危険なものは、最後の部屋以外は無いだろう。二人なら大丈夫だ」

 

「シロウはどうするの?」

 

 

足音が近づいてくる。そして溝の様な臭いじゃなく、血生臭い臭いが漂ってきた。そしてトロールは姿を現した。

出てきた二体のそのトロールの姿は、私の見たことのあるトロールじゃなかった。体は更に増して硬質である雰囲気を放ち、体のパーツバランスは私達に近くなっている。そこに転がっているトロールの様に、頭が異様に小さいというわけではなくなっていた。更に加えて、その身には鎧を纏い、武器はまるでモーニングスターの様に棘のついた、特大のメイスを携えていた。

明らかにその二体のトロールは改造され、更に強力そうになっていた。普通のトロールでさえ大人の魔法使いは対処に苦戦すると聞く。ならば、それが改造されればどうなるか、想像に難くない。

 

 

「…………し、シロウ……あれは……」

 

「ああ、改造されているな」

 

「そんな……」

 

 

私とハーマイオニーは、恐らく今は絶望した様な顔をしているだろう。それほどまでに、今の状況は絶望的だった。頭にちらっと諦める思考が過った。でもそれは束の間、いつの間に私達の頭に、シロウの手が置かれていた。

 

 

「オレは大丈夫だ。それに、万一お前たちが帰ってきても、こいつらがいては安心できんだろう? だからお前たちが先の仕掛けを破っている間に、オレがこいつらを何とかする」

 

 

シロウはこちらを安心させるような、柔らかな微笑を顔に浮かべていた。その顔を見て、私は悟った。ああ、もうこれ以上は言っても無駄だな、と。

 

 

「本当に、本当に大丈夫なの?」

 

「ああ、オレを信じろ」

 

 

シロウのその強い言葉に、私達は渋々納得し、先へと進んだ。ドアを閉めるとき、部屋の中から、

 

 

「改造されたトロールとやりあうのは初めてだな。だがどんな相手でも、この身にただの一度も敗走はない。改造トロールたちよ、これより貴様らが挑むは剣戟の極致。恐れずしてかかってこい! その体の堅さ、体力は充分か!」

 

 

というシロウの声と、トロールたちの雄叫び、そして地鳴りが聞こえた。でも私達はシロウを信じるといったのだ。なら先に進むだけ。私とハーマイオニーは一つ頷き合うと、廊下を進み、その先にある扉を開いた。

 

 

扉の先に広がるのは、少し小さめの教室ぐらいの部屋と、その真ん中に設置されている、複数の小瓶の置いてある長机だけだった。私達が机まで歩いていくと、その四方を取り囲むように、色とりどりの炎が燃え上がった。私達は机の周りしか、今は動けない状態だった。

ふと机を見ると、小瓶以外に一枚の羊皮紙が置かれていた。私はそれをハーマイオニーにみせた。途端、ハーマイオニーは目をキラキラとさせて、その紙に書かれている文章を読み始めた。

 

 

「これ、これすごいわ!!」

 

「なんなの?」

 

「これは魔法の仕掛けじゃない。論理よ、パズルだわ!! 魔法使いの中には論理は不要なものと考える人が多いけど、それは違う!!」

 

 

それからハーマイオニーは嬉々として論理のすごさについて語り始めた。…………うん、絶対賢者の石についてすっぽ抜けてる。

 

 

「…………!! …………。…………!? …………!!」

 

「…………フゥ…………喝ッ!!」

 

「!?」

 

「ハーマイオニーがどれだけ論理が好きなのかはわかった。でも今は早くことを終わらせないと」

 

「…………ごめんなさい」

 

 

それからハーマイオニーはブツブツと呟き、時折小瓶を指差しながら机の前をいったり来たりしていた。正直パズルの類いは苦手だから、今はハーマイオニーに任せるしかない。しばらく待っていると、ハーマイオニーは指をパチリと鳴らしてこちらに戻ってきた。どうやら謎は解けたらしい。

 

 

「わかったわ。あの小さな黒い小瓶は先に進むための薬よ」

 

「じゃあ後ろに戻るためのは?」

 

「それはこれ」

 

 

ハーマイオニーは黒い小瓶の右隣にある別の小瓶を指差した。

 

 

「ならハーマイオニーがそれを飲んで。私が先へ行く」

 

「マリー?」

 

「たぶんこの先にはヴォルデモートか、その手下がいると思う。そして次の部屋が最後の部屋だと私は思うんだ。だからハーマイオニーには戻って、シロウたちとダンブルドア先生にフクロウ便で知らせて欲しい」

 

「大丈夫なの?」

 

「うん。私は大丈夫」

 

 

ハーマイオニーはしばらく私の顔をじっと見つめていたけど、やがて一つ大きなため息をついた。ついでに片手を額にあてていた。

 

 

「…………まったく、そんな顔されたら何も言えないじゃない。あなた段々シロウに似てきてるわね、本当に」

 

「あ、あはは……」

 

 

笑い事じゃないわよ、と言いながらハーマイオニーはやれやれと首を振ると、今度は真っ直ぐ私の目を見てきた。

 

 

「いい? 絶対に無茶はしないで。無事に帰ってきなさい。わかった?」

 

「……ハーマイオニー、まるでお姉さんみたい」

 

「ならあなたは大きな妹かしら? とにかく、石も大事だけどあなたの命はもっと大切よ。それを忘れないで」

 

「わかった」

 

「よろしい! じゃあ……」

 

 

そして私達はそれぞれの小瓶を手にとり、その中身を一気に飲み干した。私の薬は味がなく、冷たい氷を飲んでいるような感触だった。そして先へと続く道を塞ぐ黒い炎へ一歩踏み出すと、果たして炎の熱さは襲ってこず、服や髪の類いも一切燃えなかった。

 

 

「じゃあ行ってきます」

 

「ええ、気を付けて」

 

 

私達はそれぞれの方向へと歩き出し、目の前の扉を潜った。その先はまた廊下が続いていた。先を進むごとに、首筋の傷跡がズキズキと痛み出す。敵がこの先にいると私はわかった。廊下の端へとたどり着くと、そこには扉があった。傷跡の痛みも激しくなってきた。私は一つ深呼吸をして、一思いにその扉をあけた。

目の前には少し下る階段があり、それは小さな広間へと続いていた。広間の中心には、クリスマスの日の夜に、ダンブルドア先生から探さない様に注意された『みぞの鏡』が置かれ、その前には一人の男がいた。

ああ、やっぱり。

 

 

「あなただったんですね。クィレル先生」

 

「その通りだ」

 

 

鏡の前に立っていたのは、いつものオドオドした雰囲気ではない、冷たく凍りつくような雰囲気を纏ったクィレル先生だった。

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。


今回のオリジナル要素の改造トロールですが、外見や強さは、J.R.R.トールキン氏の「ロード・オブ・ザ・リング」に出てくるトロールを想像していただければよいです。
何故部屋の奥から出てきたかは、元々無許可でクィレルが改造したのを、他の校長を含めた教師陣に秘密で繋いでいたのを、クィレルが部屋を過ぎるときに、鎖を外したからです。それによって自由となったトロールが、シロウに向かって歩いてきた、というわけです。


さて次回ですが回想方式にするか、リアルタイム方式にするか、まだ決めていません。決まり、下書きが完成次第更新いたします。
Fateのほうも、もうしばらくお待ち下さい。


それではこのへんで





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18. 二つの顔をもつ男

今回は終始マリー視点です。

そしていよいよクライマックスです。

某赤いイマジンさんから「最初からクライマックスで行け!!」と言われそうですが。



ではごゆるりと






「よくわかったな。あの黄色い猿の入れ知恵か?」

 

「いえ、クィディッチの初戦のときから何となく」

 

「あの猿じゃなかったか」

 

「他の二人はスネイプ先生を疑っていたみたいでしたが。それとシロウは猿じゃありません」

 

「東洋人はみんな猿だよ。特に極東の島国の猿はキィキィ五月蝿い。それにしてもスネイプを疑ったか。まぁわからなくもない。彼は一見怪しげな雰囲気を纏っているからな。誰もこ、こんな、か、かわいそうな、ど、どもりのクィレルを疑わないだろう」

 

 

クィレル先生、もう先生は要らないか、は鏡に目を戻すと、それをじっと見つめていた。恐らく、いや確実にあの「みぞの鏡」が賢者の石を手にする鍵なんだろう。なら少しでも邪魔をしなければ。

 

 

「クリスマスの夜にあなたの声を聞きました。それからスネイプ先生の声も。言葉だけを聞けば、スネイプ先生が脅しをかけているようにも聞こえるやり取りを」

 

「ああ」

 

 

クィレルは私に顔を向けずに返事をした。

 

 

「実に厄介な男だよ、スネイプは。クリスマスのときもそうだが、その前にも奴には邪魔をされた。ハロウィンのとき、トロールを城に入れたのは私だ。皆が騒いでいる間に石を奪うつもりだったが……」

 

 

クィレルはこちらに一切顔を向けていない。けどその口調は、明らかに苛立ちが込められていた。

 

 

「あの男、スネイプは真っ先に私を疑った。そして三頭犬の前で私を問い詰めた。あのままいけば、三頭犬がスネイプを噛み殺していたのに、そこにマグゴナガル教授がきた。そのせいで、三頭犬はスネイプを噛み殺し損ねたばかりか、あの猿のせいでトロールは君を殺せなかった」

 

「あなたのトロール?」

 

「さよう。私はトロールに関しては特別でね。意のままに操ることも改造することも自在さ」

 

「じゃあここに来るまでの二体は……」

 

「私が改造したものだ。だがそれでも苦労した。トロールや他の仕掛けはどうにかできても、三頭犬だけはどうにもならなかった。だからあの半巨人を騙して情報を聞き出したのさ」

 

 

半巨人って誰のこと? まさか……

 

 

「おや、知らなかったのか? ルビウス・ハグリッドは人と巨人の間の子だよ。魔法は効きづらいが、気性は巨人寄りだ。だから危険な生き物を好む傾向があるんだよ。例えばドラゴンとか」

 

「じゃああの卵も」

 

「全部私だ。御主人様の復活に、どうしても賢者の石が必要だったからね。あの馬鹿な男から情報を引き出す必要があった」

 

「ならユニコーンの血は?」

 

「御主人様は今は力を蓄えなければならない。いくら命の水で復活するとしても、それまでに力尽きれば意味がない。御主人様は常に私と共にいらっしゃる。あの御方は偉大だ。馬鹿馬鹿しい正義論を持っていた私に、真に正しいことはなんたるかを教授してくださった。だから私はあの御方のために、ユニコーンの血を飲んだ。さて…………」

 

 

そこでクィレルは杖を一振りすると、私の体は金縛りにあったかのように、動かなくなった。

 

 

「お喋りはここまでだ。君にはじっとしていてもらおう。私はこの興味深い鏡を調べなければならないのでね」

 

 

口も動かすことが出来ないので、喋りかけることも出来ない。

 

 

「ああ、見える。見えるぞ。御主人様が命の水を飲み干し、復活なさる姿が。だが石は何処だ!! 何故見つからない!!」

 

 

クィレルが鏡に向かって吠える。どうやら石が手に入らずに、イライラしているらしい。そのとき、

 

 

━━ その子を使え

 

 

謎の声が突然響いた。

 

 

「御主人様?」

 

━━ その子を使うのだ

 

「わかりました。ポッター!! ここに来い!!」

 

 

クィレルが杖を再び振ると、私の意に反して体はクィレルの隣へ歩いた。

 

 

「さぁ言え!! 何が見える!!」

 

 

今の私は、言われた通りに鏡を見るしかなかった。鏡に映る私は、とても情けない、心底怯えた表情を浮かべていた。と、突然鏡の中の私は微笑み、スカートのポケットから赤く光る石を取り出した。そして一度ウィンクをすると、そのまま石をポケットに戻した。途端、私のポケットに重たいものが入った。そっと気づかれないように布の上から確かめると、ゴツゴツした固い石が入っていた。

図らずも、私は賢者の石を手に入れてしまった。

 

 

「言え!! 何が見えた!!」

 

「……私が見えました」

 

 

とにかく今は嘘をつかなければ。

 

 

「大人になった私が、子や孫たちに囲まれているのが」

 

「どけ!!」

 

 

クィレルは私を後ろに追いやると、再び鏡の前に立った。今がチャンス。そう思った私は、できるだけバレない様に慎重に後ろに下がった。しかし、

 

 

━━ その子は嘘をついている。

 

 

謎の声が響き、私は足を止めざるをえなくなった。

 

 

「ポッター!! 本当のことを言え!!」

 

━━ 俺様が話す。直に話す。

 

「御主人様。それにはまだ力が……」

 

━━ それを話すだけの力はある。

 

 

声の言葉に、クィレルはターバンをほどいた。何メートルあるか分からないターバンの下には果たして、クィレルの後頭部にもう一つの顔があった。青白い肌に蛇のような鼻、そして紅く光る二つの目。その瞳孔は蛇のように縦長だった。そうか、この人が。

 

 

「……ヴォルデモート」

 

「マリナ・ポッター……」

 

 

首筋の傷跡が激しく痛む。間違いない。この人がヴォルデモートだ。

 

 

「この有り様をみろ」

 

 

低くしゃがれた、しかし力のこもった声が顔から発せられる。それは先程から響いていた声と同じだった。

 

 

「11年前、お前に呪いを跳ね返されてからこの様だ。そこらの塵と同じ、風が吹けば、それだけで消えてしまいそうな弱い存在になった。だがクィレルに憑いてからは、着実に俺様は力を蓄えていった。俺様のためにとこいつはユニコーンの血も飲んでくれた。いい僕だよ」

 

 

ヴォルデモートは言葉を続ける。

 

 

「そして俺様は自らの肉体を取り戻すのに、賢者の石から精製される命の水が有効だとわかった。さて、そのポケットの中にある石を渡してもらおうか」

 

 

やっぱりバレてたか。けど私もはいどうぞと渡すわけにはいかない。

 

 

「嫌です。渡しません」

 

「言ってくれるねぇ」

 

 

ヴォルデモートはクツクツと含むような笑いを、私を見ながら漏らした。

 

 

「お前の両親も最期まで俺様に刃向かった。俺様はまずお前の父親を殺した。勇敢に戦ったがね。次はお前の母親だった。大人しくお前を差し出せばよかったのに、あの女は俺様の前に立ち塞がったがために、死ぬことになった。両親の死を無駄にしたくはないだろう? その石を渡せば、命は助けてやる」

 

「…………一つだけ聞かせて下さい」

 

「まぁいいだろう」

 

 

ヴォルデモートがもしかしたら生きている、と漏れ鍋でハグリッドから聞かされたときから、どうしても本人の口から聞きたい事があった。今、目の前には他人に憑いている状態とはいえ、本人がいる。

 

 

「あなたは今のようになる前、そして復活したあとは何をするつもりですか?」

 

「知れたこと。この世界を我が手に納める」

 

「それは魔法世界、非魔法世界に関わらずに?」

 

「そうだ。そもそも何の力もないマグル風情に、何故力を持つ我々が隠れ忍ばねばならん? そのようなことはあってはならない」

 

「…………本当に?」

 

「それこそが俺様の最終目標。マグルを排除し、力ある魔法族だけの世を作ることがな」

 

「…………わかりました」

 

 

私の言葉に満足したのか、ヴォルデモートは上機嫌な表情を浮かべた。ああ、確かにわかったことがある。

 

 

「理解したか。なら話は早い。その石を「渡しません」…………何だと?」

 

「あなたにこの石は渡しません。自分の本当の願いに気がついていない、あなたには!!」

 

 

そう。彼、ヴォルデモートは自分の本当の願いに気がついていない。それが何なのかは私にはわからないけど、それだけはわかる。彼が自らの野望を語るとき、一瞬。ほんの一瞬だけ、その目に悲しみが感じられた。ヴォルデモートはそれに無意識に気がつかないように、目を向けないようにしている。

 

 

「……小娘風情が……」

 

 

クィレルとヴォルデモートの目に、怒り、憎しみ、怨み等の負の色が浮かび上がった。

 

 

「口で言っても聞かないか。クィレル!! 石を奪え!! 殺しても構わん!!」

 

「御意!!」

 

 

ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わず目をつむり、叫び声をあげた。

けどクィレルも一緒に苦悶の声をあげていた。手を離されると少し痛みが引いたから、目を開けてクィレルの方を見た。彼の右手は爛れて、次いでボロボロと崩れ始めた。

 

 

「何をしている!! 早く石を奪え!!」

 

「しかし御主人様。手が、私の手が!!」

 

「なら魔法を使え!! 小娘を殺せ!!」

 

 

ヴォルデモートの言葉に、クィレルは残った左手に杖を持って、呪いを唱え始めた。私は咄嗟にクィレルの元へ近づき、その顔と左手をむんずと掴んだ。

 

 

「ギィアアアァアァアアァァァアアアッ!?」

 

 

掴んだ左手と顔は、右手と同じように爛れて、そして古い瓦礫のようにボロボロと崩れた。クィレルは末期の声をあげながら、服だけを残して塵となって消えた。

命を奪った、という感覚もあったけど、それ以上に終わったという感情が私を支配し、その場に座り込んだ。しばらく立てなかったけど、ようやく立って歩けるようになってから出口に向かった。

 

でも私は思い出した。

殺したのはクィレルであって、ヴォルデモートではない。恐る恐る振り返ると、人の顔をした霞のようなものが、形作られているところだった。そしてその霞は、雄叫びをあげながら私に向かってきた。しかし私に触れるか触れないかのところで、壁に阻まれたかのように霞は跳ね返り、私はその衝撃で後ろへと倒れ込んだ。霞はそのまま消えてなくなり、私はどっと疲れが押し寄せてきて、そのまま眠ってしまった。

 

 

眠りにつく前に最後に見聞きしたのは、首もとで淡く光る、二振りの剣の形をしたペンダントと、私の名前を呼ぶ誰かの、安心するような声だった。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです


あと一、二話で一巻の内容が終了する予定です。
そしてそのあと、いずれ本作品で出演させる予定の、Fate陣営のキャラ設定とハリポタ世界の人物設定を書きます。

そして二巻に入る前に、一巻の没ネタ(おふざけ)、小話(時系列挿入本編)を書こうと思っています。


では今回はこの辺で


現在シロウのヘアスタイルは、オールバックに一番票が入っています。二巻に入るまでアンケートは受け付けていますので、詳しくは活動報告をご覧ください。


それにしてもクィレル。ヴォルデモートに忠告されていたのに、シロウを猿呼びするとは。アクマたちが聞けば絶対オーバーキルになります、はい。

そして11歳の少女を押し倒すクィレル、端からみればただの変態にしか……









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19. 事件のその後

更新です


それではごゆるりと






Side マリー

 

 

意識がぼんやりと覚醒してきた。目を開けると、まだ周りの様子はわからず、ただ朝と昼の間の時間ということだけがわかった。一度瞬きをすると、目の前に眼鏡が確認できた。もう一度瞬きをすると、目の前にダンブルドア先生の顔があった。

 

 

「おお、目が覚めたかのぅ」

 

 

先生は、見る人を安心させるような柔らかな笑みを浮かべてそう言った。私は上半身を起こし、周りを見渡した。どうやら医務室のベッドに寝かされていたらしい。足元の机には山のようなお菓子が置かれていた。

 

 

「君を心配する者達からの見舞いの品じゃよ」

 

 

ダンブルドア先生は言った。

 

 

「ミスター・ウィーズリーやミス・グレンジャーからのは勿論、他の寮の子やグリフィンドールの先輩達からじゃ。確か双子のウィーズリー兄弟は自分達が作った悪戯魔法玩具を送ろうとして、シロウ君に制裁を加えられていたのぅ」

 

 

ダンブルドア先生はクスクスと笑いながら愉快そうに語っている。

 

 

 

「何でも手に取ればゴムのネズミ等に変わったり、杖の先から特大の爆発音のなるクラッカーを連発したりする『騙し杖』の最高傑作じゃったかな? 病み上がりの心臓に悪い、ということでシロウ君に取り上げられておった。そのあとにとても苦そうなお茶を飲まされておったのぅ。確か『センブリ茶』じゃったか。パーシー・ウィーズリー君はそのお茶を気に入っていたようじゃが」

 

 

うわぁ……センブリ茶って確かそうとう苦かった記憶が。私は結構好きだけどダドリーは噎せ返っていたのを覚えてる。あ、それよりも。

 

 

「先生、あのあとヴォルデモートはどうなりました? 石は大丈夫何ですか?」

 

「マリーや、少し落ち着きなさい」

 

「あ……はい、すみません」

 

「よいよい。まず石じゃがのぅ。あれは砕いてしもた」

 

「え? 砕いたのですか?」

 

「さよう」

 

「それでは、ニコラス・フラメルはどうなるのですか? 確か先生の御友人のはず」

 

「おお、ニコラスを知っとるのか。君はよく調べてことに当たったようだね。ニコラスとその妻は既に十分な命の水を蓄えておる。あの者たちの身辺整理をするには十分な量じゃ」

 

「ならその人たちがもう十分だと感じたときは……」

 

「そうじゃな。彼らは死ぬことを選ぶじゃろう」

 

 

そうなのか。ただただ生きることを求めるのとは違い、身辺整理を完遂するだけの時間を作るために不老不死になる。ヴォルデモートとは違い、フラメル夫妻はそこら辺を線引きしていたのか。ヴォルデモートと言えば。

 

 

「先生、ヴォルデモートはどうなりました?」

 

 

私がそう聞くと、ダンブルドア先生は真面目な顔と目をした。

 

 

「生きてはいるじゃろう。霊魂のような存在になってはおるがな。あのとき、わしは魔法省に着いたときにわしの本当にいるべき場所がどこか気がついたんじゃ。そして急ぎ鏡の部屋に向こうた。じゃがどう足掻いてもあやつと君の間には入れなかった。そこで奴が何かに弾かれた様になり、 どこかへと消えた」

 

「恐らく、これのお陰かと」

 

 

私は首もとに架かっている剣のペンダントを取り出し、先生に見せた。あのとき、このペンダントは炎の光とは別の淡い水色をした光を放っていた。

 

 

「どれどれ。…………これは…………」

 

「これはクリスマスのとき、シロウがプレゼントにくれたものです。何でもシロウ自身が製作したとか」

 

 

先生にペンダントを渡すと、興味深い目をしてそれを物色した。そしてその目を今度は驚愕に染めた。

 

 

「これは……何と……」

 

「何かわかりましたか?」

 

「……わしの推測に過ぎんが、このペンダントは呪詛や魂憑を防ぐ力を持っておる。じゃが直接触れる攻撃、殴るや蹴るや絞めるじゃな、には効果はないと見ていいじゃろう」

 

「そうですか……」

 

 

成る程、だからあのときヴォルデモートは壁に当たったかの様に弾かれたのか。またシロウに助けて貰った。…………あ。

 

 

「先生! シロウはあのとき一人でトロールの相手をしていました! 怪我は無いんですか? 無事なん……「オレはここにいるが?」ふえ?」

 

 

声のした方を向くと、ベッドの横の椅子にシロウは腰かけていた。見たところ怪我はないみたい。良かった。

 

 

「さて、そろそろその手を離してくれないか? 正直ほぼ一日、結構強く握られていて腕が痺れている」

 

 

シロウに言われて目を向けると、私はシロウの左腕を握りしめていた。どうやら寝ている間に無意識に握っていたみたい。急に恥ずかしくなって手を離した。ダンブルドア先生は生暖かい眼差しでこちらを見ていた。余計に恥ずかしい。

 

 

「そ、そういえば先生」

 

「どうしたのじゃ?」

 

「私はどうやって鏡から石を取り出せたのでしょうか?」

 

話を逸らすのと、純粋に疑問に思ったことを私が聞くと、先生はとても嬉しそうな顔をした。ああ、これが一番聞いてほしかったんですね。

 

 

「おお! それを聞いてくれるのは嬉しいのぅ! あれはわしが考えた中でも中々のアイデアなのじゃ。あれはのぅ。『手にいれたい』と思った者だけが鏡から石を取り出せるのじゃ。良いか? 『使いたい』ではなく『手にいれたい』じゃ。どうじゃ? 中々のものじゃろう?」

 

「ええ、中々」

 

「どうじゃ、シロウ? このペンダント然り、採点はどんなものかのう?」

 

 

ダンブルドア先生は目をキラキラとさせながら、シロウに採点を求めた。それを聞いたシロウは苦笑していた。

 

 

「何故私にそれを?」

 

「君は曲がりなりにも『製作者』じゃろう? 熟練の魔法道具製作者でもこれ程のペンダントを作ることは困難じゃ。じゃから君に聞いたのじゃよ」

 

「……本当に食えないお人だ、あなたは」

 

 

シロウはそう言いながら椅子に座り直し、姿勢を正した。

 

 

「まず鏡から。中々に頓知の利いたものだと思います。しかし、少々詰めが甘いかと。今回のマリーのように、偶然取り出してしまうパターンが起こってしまいます。ですので、百点満点中八十五点ですね」

 

「辛口じゃのぅ」

 

 

ダンブルドア先生は結構残念そうな表情を浮かべていた。

 

 

「申し訳ありませんが、性分でして。やるからには徹底的にが我々の流儀です。さて、ペンダントですが、九十五点です」

 

「ほうほう」

 

「ペンダントに付加した力は大方先生の推測通りです。それは余程強力ではない限り、概念や悪霊、魂憑から装着者を守る簡易的な概念武装です。そして二振りの剣のうち、片方を彼女が選んだ大切な人に渡すことにより、その人と彼女により強固な守護を与えます」

 

「成る程成る程。今度は製作過程を見せてもらってもいいかのう?」

 

「構いませんよ」

 

「私もいい?」

 

「いいとも」

 

「さぁさぁ質問は終わりじゃ。そろそろお菓子に移ってはどうかのう? ほっ!? 百味ビーンズではないか!!」

 

 

先生が目を止めたのは百味ビーンズと呼ばれる魔法界のお菓子だった。このお菓子、本当に色んな味のあるゼリービーンズで、レモンやリンゴのような普通の味もあれば、芽キャベツや臓物といった変なものまである。本当に百味なのだ。しかも外見色では味を判断出来ないというおまけ付き。

 

 

「わしゃ若い頃不幸にも耳くそ味に当たってのぅ。それ以来好まんようになったのじゃ。じゃがこれなら大丈夫そうとは思わんかのう?」

 

 

ダンブルドア先生は私とシロウにも一粒ずつ渡し、自身も一粒口に放り込んだ。途端に噎せかえった。

 

 

「何とゲロ味じゃ!?」

 

 

…………先生、御愁傷様です。

因みに私はレモン、シロウは血だったみたい。血の味って…………。

 

先生が出ていったあと、シロウはお菓子のゴミを片付けたり、マダム・ポンフリーと一緒に医務室の掃除をしていたりしていた。その間、私は何もしゃべらなかった。頭の中をぐるぐると纏まらない思考が絡まっていた。しばらくしてシロウは再びベッドの脇の椅子に座った。

 

 

「…………ねぇ、シロウ」

 

「うん?」

 

「私ね? …………人を殺しちゃった……」

 

「…………」

 

 

なぜだかわからないけど、シロウには話しておかなければと思った。シロウなら話してもいいと思った。シロウは黙って私の話を聞いている。

 

 

「自分を守るために無我夢中でやったけど、結果的にクィレルを殺しちゃったんだ」

 

「…………」

 

「今思うと他に方法があったんじゃないかって…………殺しちゃう以外の方法が他にも…………」

 

 

話しているうちに涙が溢れては落ち、ベッドに染みを作っていた。止めることの出来ないそれは、次々とベッドに落ちた。

 

 

「……厳しいことを言うが」

 

 

シロウが口を開いた。

 

 

「起きたことは変えられない。失ったものは戻ってこない。奪い、奪われたものは返らない。それが命ならば、尚更。その者の顔を、名前を忘れることはあってはならない」

 

「…………うん」

 

「…………だが」

 

「ふえ?」

 

 

顔を俯かせていた私の頭に、暖かい手が乗せられた。顔を上げると、シロウが柔らかな笑みを口許に浮かべて、とても優しい眼差しで私を見つめていた。

 

 

「失ったもの、置き去りにしたもの、奪ってしまったもののためにも、君は生きなければならない。決して生き急がずに、生きて生き抜いて、君の思いや願いを遂げるのだ。君の信じるもの、信じたもの、信じていくもののためにも」

 

「!! …………シロウ」

 

「ん?」

 

「ゴメン、少しだけ……」

 

 

限界だった。

シロウの言葉からして、シロウも今までに人の命を奪ったことがあるのだろう。だからか、シロウの言葉は私に何の妨げもなく浸透していった。すると私の目から滝のように涙が溢れては落ちていった。私はシロウの肩に顔を押しあて、泣いた。今まで出したことが無いほどの大きな声をあげながら泣いた。

 

 

「 Ich weiß nicht was soll es bedeuten,Dass ich so traurig bin; ~♪」

 

 

私が泣いている間、シロウは歌を歌っていた。決して上手いとは言えないけど、柔らかで暖かく、包み込まれるような優しい歌だった。確かローレライって歌だったはず。

私はその歌を聴きながら、いつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

泣き疲れて眠ったか。無理もない。

十一の少女が殺しを自覚するのは酷だろう。オレは十七のときに初めて殺しをしたが、魔の道に幼少の頃から踏み入れていたから、ある程度の覚悟はあった。慣れるものではなく、今でも人を殺すのは躊躇われるが。だがこの子はつい一年前まで、そのようなものとは無縁だった。その心労をオレはわかってやることは出来ない。

せめて今は心安くあらんことを。

 

オレはマダム・ポンフリーに一言告げて寮に戻ることにした。その道の途中、ダンブルドア先生とすれ違った。そしてオレの背中に彼から声をかけられた。

 

 

「エミヤシロウ。君は本当にわしらの敵に回ることはないのじゃな?」

 

 

この学校の生徒ではなく、オレという存在に対する問いかけだった。だからオレも相応に返すことにした。

 

 

「以前にも述べた通りだ。あなたたちが外道に堕ちない限り」

 

 

オレの答に理解をしたのか、ダンブルドアは無言で去っていった。

オレもそのまま無言で寮に向かった。

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

ローレライのシーンですが、シロウが幼少の頃、何度か冬木大火災の夢を見て魘される、ということがありました。それに気がついたイリヤが、枕元で歌って落ち着かせていたのを真似した、ということにしています。


さて、次回が一巻の最終回です。
その後、おふざけと小話、息子と娘たちの設定を書いたら、今度はFateの方を進めます。


では今回はこの辺で



因みに、耳くそは英語で「earwax」。直訳で耳の蝋です。それをネタにした表現が、「シュ○ック」の一巻の最初の方に出てきます。


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20. エピローグ

一巻最終回です。


それではごゆるりと





 

Side マリー

 

あれから2、3日経過し、私は無事に退院した。その間、シロウとハーマイオニー、ロンはいつも見舞いに来てくれた。退院したあとは暫く好奇の視線に悩まされた。正直鬱陶しかった。たぶんシロウがすぐそばで鋭い視線を周りに向けてなかったら、私は皆に揉みくちゃにされて質問攻めにされていただろう。学期末までの数日は本当にストレスが溜まった。いつもはしないけど、シロウに膝枕を頼んで昼寝をするぐらいに。

 

 

いつもやってるじゃないかって?

違うよ?

いつもは答えは聞いてないから。

 

 

まぁそれはともかく、学年末試験は全て無事にパスし、今日は一年最後の日だ。四つの寮のトップの点数のところのエンブレムが、大広間の天井から吊るされて飾られるみたい。そして晩御飯も豪勢だとか。グリフィンドールは結局点数は加算が微々たるものでしかなく、今年もスリザリンか優勝らしい。その原因を作ったのは自分達だったから、罪悪感がある。先輩方からは気にしないように言われたけど、やはり申し訳ない気持ちはあった。

因みにマルフォイと愉快な仲間たちが、魔法の練習とかいって私に呪いをかけようとしたけど、シロウのペンダントで跳ね返されて自分にかかっていた。その分の減点と罰則はキッチリ受けていた。

 

スネイプ先生から。

 

けどそれでもトップを保つスリザリン。二位の私達グリフィンドールと何点差があるんだろう? まぁそれは今晩わかるか。

 

 

 

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 

「また一つ、年が過ぎた」

 

 

夜、晩餐会が始まる前にダンブルドア先生の話があった。一年の締めくくりをするための校長先生の話だ。

 

 

「今年は色々なことが起こったが、点数の発表をしよう。

一位、スリザリン、四百八十五点。

二位、グリフィンドール、三百二十五点。

三位、レイヴンクロー、三百二十点。

四位、ハッフルパフ、三百十点。

という結果になっておる」

 

 

点数のが発表された途端、スリザリンの席から歓声が上がった。他の寮の人たちは非常に面白くない顔をしている。やはりあの私達の減点が響いたのか。

 

 

「よしよし、よくやったスリザリン。よくやったスリザリン。しかしのぅ。つい最近の行いの加点をまだしておらんのでのぅ」

 

 

ダンブルドア先生の言葉に、スリザリンは少し落ち着きを取り戻した。けどマルフォイと愉快な仲間たちは、未だにニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてこちらを見ていた。あの呪詛返し以来、更にも増して嫌みになった。いったいどこまで嫌みになるのだろう? あと前を向かないと。

 

 

「さて、加点を始める。まずはロナルド・ウィーズリー」

 

 

まずはロンの名前が呼ばれた。本人はポカンと口を開けている。

 

 

「彼はここ最近、見ることがなかった素晴らしいチェスゲームを見せてくれた。そこでわしは彼に四十点与えよう」

 

 

ダンブルドアがそう言った途端、グリフィンドール席から歓声が上がった。マルフォイは何が起こっているかわからないという顔をしていた。ハッフルパフとレイヴンクローの席の人たちからは緊張した空気が出ていた。

 

 

「続いてハーマイオニー・グレンジャー」

 

 

ダンブルドア先生の声が響き、大広間はまた静まり返った。

 

 

「成人した魔法使いでも、解き明かすこと少々骨が折れる難題を、見事な論理で解決に導いた。よって彼女に四十点与える」

 

 

ダンブルドア先生がそう言うと、またグリフィンドール席から歓声が上がった。スリザリンとグリフィンドール以外の寮からは、更に緊迫した雰囲気が漂っている。

 

 

「次にマリナ・ポッター」

 

 

あ、わたしだ。

 

 

「近年稀に見ない、その勇気と行動に敬意を表し、四十点与える」

 

 

グリフィンドール席からは爆発のような歓声が上がった。ハッフルパフとレイヴンクローの人たちの目は、爛々と輝いている。

 

 

「勇気にも色々ある」

 

 

ダンブルドア先生は言葉を続ける。

 

 

「数多の脅威に立ち向かう勇気は、素晴らしいもの。しかし仲間のことを思い、自らの身を省みずに仲間に立ち向かうには、更に勇気が必要じゃ。そこでわしは二十点授けたい。ネビル・ロングボトムに」

 

 

スリザリン以外の席から歓声が上がり、ネビルは皆に揉みくちゃにされていた。彼は今までに余り点数のを稼いでいなかった。薬草学のときにたまに加点するぐらいだ。それも五点前後の。それが今回は一気に二十点も加点された。彼の空回りぶりを知っているスリザリン以外の生徒のほとんどか彼を称えていた。けど私は思う。この輪にスリザリンも加わればいいのに、と。

 

 

「最後にシロウ・エミヤ」

 

 

あ、シロウの番だ。途端、大広間はしん、と静まり返った。まるで埃が一つでも落ちれば、その音が響くのではないのか、というほどに。

 

 

「熟練の魔法使いでも、トロールを相手にとることは難しい。それが一体でなく、三体いたら尚更。更にそのうちの二体が違法に改造されていれば」

 

 

ダンブルドア先生のその言葉で、大広間にどよめきが走った。というかダンブルドア先生。それ言っていいのですか? 結構ヤバイ内容の話なんじゃ?

 

 

「じゃが彼は被害が出ても自分以外に出ないようにし、これら三体を見事に鎮圧した。ハロウィンのトロール騒動のときと同じように。それは彼自身が今までにそのような、命の駆け引きが行われる世界にいたが故、命を奪い奪われることの意味を知っていたが故じゃろう」

 

 

ダンブルドア先生の話は続く。グリフィンドール生は殆どが、シロウがホグワーツに来るまで世界中を回っていたことを知っている。レイヴンクローもハッフルパフも、一年生は知っている。そして、命の駆け引きが日常的にあったことも聞いている。

 

 

「命というのは一度失われてしまえば、そこまでじゃ。二度も三度も存在しない。仲間の命、自分の命にその違いはない。彼は必ず生きて帰るという信念、仲間たちを必ず守るという覚悟のもと、トロールの相手をした。その覚悟と信念に敬意を捧げ、彼に五十点授ける」

 

 

一瞬大広間を静寂が包み込んだ。そして次の瞬間、大きな歓声と拍手が大広間を満たした。もしも大広間の外に人がいたら、花火に一斉着火したのかと勘違いするだろう。それほどまでに大きな歓声と拍手だった。グリフィンドール生は自分達の寮がトップに立ったことに。レイヴンクローとハッフルパフは、スリザリンがトップから滑り落ちたことに。それぞれ歓びの声をあげていた。スリザリン生は冷めた表情を浮かべ、マルフォイと愉快な仲間たちはもはや阿呆面としか言えない顔をしていた。

当のシロウはというと、何とも言えない表情を浮かべていた。その心情を言うとすれば、

 

 

「あのご老体、本当に食えないお人だ。こちらは言うつもりなかったのにアッサリと言いやがった」

 

 

といったところか。シロウの近くにいた双子のフレッドとジョージは、自作の騙し杖からクラッカーを何度も鳴らしていた。シロウの背面に座っていたレイヴンクローの先輩生徒の数人はシロウを称え、そしてハッフルパフの先輩とレイヴンクローの先輩、グリフィンドールの先輩が一人ずつ三人組を作り、ロン、ハーマイオニー、私とシロウを肩に乗せた。

 

 

「さて、わしの計算が間違っていなければ、飾りを変えねばならんのう」

 

 

ダンブルドア先生はそう言って杖を振ると、天井から吊るされていたスリザリンのエンブレムは、グリフィンドールのエンブレムに変わった。興奮冷めやらぬ中、宴会は始まり、夜はふけた。

 

 

 

時間はあっという間に経過し、私達は荷物を纏めてホグワーツ特急に乗るための駅にいた。私とシロウは勿論、ロンとハーマイオニーも同じコンパートメントに乗る予定だ。そこにハグリッドが近づいてきた。

 

 

「あ、ハグリッド」

 

「おう探したぞ、お前さん達」

 

「夏休み手紙送るね?」

 

「そいつぁ嬉しいこった。おおそうだ。マリーや、お前さんに渡すものがある」

 

「どうしたの?」

 

「ちょいと昔の馴染みに頼んでな、集めとったもんがついに完成したんだ。ほれ、お前さんへのプレゼントじゃ」

 

 

そう言ってハグリッドは、分厚い革張りの本のようなものをくれた。中を開けると、それは私の両親が写っている写真の数々だった。今年一年の物も入っている。

 

 

「お前さん一枚も持っておらんかったじゃろう? そんで……おおっと」

 

 

それ以上はいらなかった。私はありったけの感謝を込めてハグリッドの大きな体を抱き締めた。ハグリッドにもそれは伝わったようだ。とっても優しい手つきで私の頭を撫でていた。

 

 

「さあ、そろそろ出発だ。早く汽車にお乗り。また直ぐに会える」

 

 

ハグリッドはそう言って、私達を送り出した。コンパートメントについたあと、私とハーマイオニーとロンの三人は窓から顔を出した。シロウは座席に座ったまま窓から外を眺めている。大きな汽笛を鳴らして、ホグワーツ特急は動き出した。私達はハグリッドに手を振った。シロウは片手を少し顔の横に挙げて、ハグリッドに挨拶していた。ハグリッドは私達が見えなくなるまで、手を振り続けていた。

それから私達はコンパートメントの中で、チェスをしたり、この一年を振り返ったりして過ごした。そこで私は気になっていたことをシロウに聞くことにした。

 

 

「ねぇ、シロウ」

 

「ん?」

 

「あの三体のトロール、どうしたの?」

 

「あ、それ僕も聞きたい。僕気を失ってたし」

 

「普通のやつはノックアウトしていたから特に何もしていない。改造されていた二体は、部屋の奥まで誘導し、再び鎖で繋いだ」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「シロウの言っていることは本当よ。私も見たし」

 

「証人がいるなら本当のことみたいだね」

 

「オレはそんなに信用ないか?」

 

「いやだって、フレッドやジョージに対する制裁とかみてたら」

 

「確かにそうね」

 

「なんでさ……」

 

 

まぁそう思われても仕方ないかな? あとロンとハーマイオニーの二人は気がついてないけど、たぶんシロウは嘘をついてる。でもそれは知られては不味いって感じでつく嘘のようなものをではないと私は感じた。だから、私はいずれシロウが教えてくれるまでは、指摘しないことにした。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、汽車はキングス・クロス駅に到着した。汽車から降り、駅員の誘導でマグル世界に戻ると、ロンのお母さんがいた。その隣には、あの末っ子の女の子もいた。

 

 

「あっママ! 帰ってきたわ! ほらあそこ!」

 

「ジニー、指差すのは失礼よ? 仮に顔見知りでもよ?」

 

 

ウィーズリー夫人は女の子をたしなめつつ、こちらに近づいてきた。

 

 

「おかえりなさい。忙しい一年だった?」

 

「いえ、楽しい一年でした。クリスマスプレゼントのセーター、ありがとうございました。とても暖かくて嬉しかったです」

 

「私もマリーも、あの日初めて会ったばかりなのに、本当にありがとうございました」

 

「どういたしまして。うちの子供達の友達なら家族も同然よ。ジニーも夫も、シロウ君とマリーからのプレゼント喜んでいたわ。私も嬉しかったわよ」

 

 

あれ? もしかしてシロウは、私とシロウからという名義でプレゼント送ってたの? なら来年は私がやろう。

 

 

「よかったら二人とも夏休みの最後の方、うちに泊まりにこない? 家族も改めて紹介するわ。夫も二人に会いたいといっていたし」

 

「迷惑でなければ、喜んで」

 

「私もマリー共々、宜しくお願いします」

 

「ええ、楽しみにしていてね?」

 

 

私達はウィーズリー夫人達とハーマイオニー一家にに挨拶を済ませたあと、駅の出口に向かった。外にはダドリーとペチュニア叔母さん、バーノン叔父さん、フィッグ叔母さんがいた。

 

 

「シロウ、マリーや。二人ともお帰り」

 

「「ただいま」」

 

「準備はいいか? ならさっさと帰るぞ」

 

 

バーノン叔父さんはさっさと車に向かってしまった。いつもプリベット通りの家に帰るのは憂鬱だった。でも叔母さんの思いやダドリー意外な真っ直ぐさを知ってからは、少しだけ帰るのが楽しみだった。それに隣にはシロウがいる。今年の夏休みは楽しいものになりそうだと感じた。

 

 

 

 

季節は夏、空は雲一つない快晴。

青い蒼い空は、吸い込まれそうなくらい広かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continue...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ダンブルドア

 

 

 

わしは英霊や守護者というものを、心の内で少しだけ侮っていたのかもしれん。

魔法省からホグワーツへと戻り、急いで鏡の間へと向かったとき、チェスの部屋を出て次の部屋へと向かう廊下で、血生臭い、強烈な匂いを嗅いだ。嫌な予感が頭を駆け抜け、わしは急いで次の部屋の扉をあけた。そこに広がっていた光景を見て絶句した。

まず目に入ったのが床に転がる、トロールの小さな頭じゃった。次にわしを襲ったのは、噎せ返るほどの血の匂い。そして最後に目に入ったのが、三体のトロールの死体の中心に立つ、血を被り、外套と鎧と白い髪を血で濡らしたエミヤシロウの姿じゃった。

トロールの死体は、首を跳ねられたものは仰向けの状態で。改造されていた二体のうち一体は、体を右半身と左半身に縦に割られた状態で。残りの一体は口から首の後ろへと剣を貫通させられ、壁に縫い付けられていた。共通しているのは、最低でもそれぞれに五本の剣が刺さっていたことじゃった。そして彼は息を上げず、平然としていた。恐らく一割も力を出していないじゃろう。

 

マリーを連れ出し、一日経過して彼女が目覚めて事後説明をしたのちに、もう一度エミヤシロウに問いを投げ掛けた。結果は以前と同じじゃった。

 

改めてわしは思う。彼が我々の敵に回らずにいて良かったと。

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

ようやく『賢者の石』が終わりました。
第一部、いかがだったでしょうか?

さて、次回はシロウの子供達、そして妻達の本作品での設定を書きます。
敢えてここで書きますが、私は特撮好きです。ですので、本作品ではちょいちょいそのネタが入ります。後程タグに加えて置きます。

さて、奥さんズが優秀であるのに加え、シロウは異端魔術の使い手。どんなハイブリッド(笑)な子供になるのでしょうか?


それではこの辺で







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設定 Ⅱ ★


勢いでやりました。
反省はしていません(爆)


ではどうぞ







 ◎ 衛宮・E・剣吾(けんご)

(イメージvoice, 宮○真守)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シロウ世界移動時、14歳

 父に衛宮・E・士郎、母にイリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンを持つ。士郎と剣吾の「E」はアインツベルン、イリヤと後述のもう一人の「E」は衛宮を指す。

 

 冬木御三家、四兄妹の長男にして最年長で、外伝の主人公。士郎と同じく魔術使い。シルフィは実の妹。紅葉と華憐は異母妹。

 

 父と母達が世界を守る英雄ならば、自分は大切な人や街を泣かせない人になるために、日々修行中。一言で表すならハーフ・ボイルド。本人もそれを肯定しており、むしろ誇っている。

 目標は父、及び話に聞いている平行世界の守護者の父。

 好きな言葉と信念は、「Nobody is perfect. だからこそ人生という名のゲームは面白い」

 

 虹彩はイリヤ譲りの赤色。髪は光の当たり具合で、朱にも銀にも見える。性格は士郎の温和さと芯の強さ、イリヤのからかい好きと愛情深さを併せ持つ。士郎程ではないが、やはりお人好し。母達からは色々な意味で、士郎二世と言われている。

 要するに、その気質と外見が士郎以上にイケメン寄りなことから、結構フラグをたてている。加えて無自覚鈍感も士郎なみ。家事技術はまだまだ士郎には遠く及ばないが、一般専業主婦に迫る腕はある。

 二代目家政f「執事(バトラー)だ!! .あ(汗)」

 

 魔術は最初はイリヤに。次いで士郎、凛を経由して、現在は万華鏡ゼルレッチに師事している。理由は万華鏡に「おもしろい」の一言で気に入られたから。

 魔術特性は「属性付加、憑依」

 魔術属性は五大元素の「火」「風」に加えて、イレギュラーの「鋼」「変質」を持つ。身体強化魔術は士郎以上の腕を持ち、槍や棒や銃の才能がある。しかし、弓は士郎に数段劣る。

 たまに凛の仕事に着いていき、実戦経験を積んでいる。

 魔術は完成しているので、あとは技量をあげるだけ。

 

 五大元素のいずれかの属性を持つ魔術師なら頑張ればできないことはないが、独特の発想の魔術を使うため、万華鏡から特別に専用魔術アイテムを授かる。ピンポン玉程の直径と、厚さ2cm程度の宝石型のアイテムであり、それを用いれば、自身が持たない属性の魔術も使用及び組み合わせ可能になる。

 だが、体に異様に負担がかけられるため、連続の使用は出来ない。加えて、使用時間は十分にも満たないため、使い時を間違えれば面倒なことになる。このチートのような魔術は、文字通り「切り札(ジョーカー)」なため、本人も使用は控えている。

 使用魔術は戦闘に特化したものであり、肉体や武器に属性を付加させて相手に当てるのが基本。投影は「鋼」の要素を持つものなら、槍や棒、剣などの刃物は士郎レベルまでできる。ただし、宝具の投影は出来ない。槍や棒、双身剣と銃の扱いは全盛期にはシロウを超えるが、その他はまだまだ遠く及ばない。

 

 宝石型アイテムはバックル、左腕ブレスレット、右足ブーツ踝、使用武器に装着できる。基本的にはバックルに着けている。

 

 士郎同様に固有結界を所持し、十分だけ展開できる。

 

 戦闘時の服装は、「仮面ラ○ダー THE NEXT」のホッパー1号が仮面を着けず、赤ではなく銀のマフラーをしたようなもの。左腕にはブレスレット、右足ブーツ踝には足輪がついている。この二つとバックルには小さな窪みがある。

 成人して以降は、基本的にこの戦闘装束は使わず、スーツにブレスレット、バックル、足輪が付いている形状。サンプルでは足にホルスターが付いているが、本来は両肩から下げるショルダーホルスターに大口径リボルバーを一丁とマガジン式拳銃を携帯している。

 

 他の血統がいい(笑)プライドしかない魔術師たちからは、というか時計塔の大半の魔術師からは、「四代目のエミヤ」「『厄災のエミヤ』の四代目」「面汚しの三代目」などと畏怖と侮蔑を込めた二つ名がつけられているが、万華鏡や冬木御三家の人々が怖いため、面と向かって言う輩は、余程の馬鹿以外はいない。

 士郎の封印指定の数少ない反対派であったロード・エルメロイ2世からは、ちょくちょく依頼や手伝いを、講義を報酬として受けている。

 

 

 ◯主武装 

 拳銃二丁 : タウルスレイジングブル・カスタム(シルバー)、デザートイーグル10インチバレル(黒)

 尚、両拳銃は共に高威力高反動のため、本来は両手持ちである。それを強化魔術で無理やり片手持ちし、手数を増やしている。

 

 長刀 : 士郎の鍛えた唯一の真作。柳堂寺に奉納されていたものを、とある経緯で継承している。これは後に、養子に受け継がれることになり、以降は魂の系譜に継承されていくことになる。無銘だが、のちには「吾剣は衛らんがために(エミヤ)」の真名で、座に宝具登録される。宝具として真名解放できるのは、士郎と剣吾。一応剣吾の養子もできるが、生涯使わなかった。

 

 

 ○ 各キャラクターへの呼称

 

 ・士郎 → 父さん、親父

 ・イリヤ → 母さん

 ・シルフェリア → シルフィ

 ・紅葉 → 紅葉

 ・華憐 → 華憐

 ・凛 → 凛ねえ

 ・桜 → 桜ねえ

 ・万華鏡 → 師匠、爺さん、はっちゃけジジィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎ シルフェリア・フォン・E・アインツベルン

(イメージvoice, 門脇○以)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シロウ世界移動時、2歳。

 父に衛宮・E・士郎、母にイリヤスフィール・フォン・E・アインツベルン、兄に衛宮・E・剣吾を持つ。通称シルフィ。

 冬木御三家、四兄妹の末っ子で三女。剣吾は実の兄。紅葉と華憐は異母姉。

 

 魔術の存在は知ってはいるが、まだ習得も修得もしていない。

 魔術特性及び属性はイリヤと同じ。加えてイレギュラーの「鋼」を持つ。本人は自覚がないが、剣と暗示の才能がある。

 

 外見はまさしく小さなイリヤ。きめ細やかな銀髪に赤い瞳。性格は純真無垢であり、アクマ成分は持っていない。が、今後の育ちかた次第で二代目小悪魔になるかも。少しだけブラコン、ファザコンの気がある。家族はみんな大好き。その外見と人格で「冬木の雪の精」と密かに言われている。

 

 イメージで言うと、『プリズマ☆イリヤ』におけるパウンドケーキ対決で、士郎の回想に出てきた幼少イリヤが近い。

 

 

 

 ○ 各キャラクターへの呼称

 

 ・士郎 → パパ

 ・イリヤ → ママ

 ・剣吾 → にぃに、お兄ちゃん

 ・紅葉 → モーちゃん

 ・華憐 → カーちゃん

 ・凛 → リンちゃん

 ・桜 → サーちゃん

 ・万華鏡 → じぃじ

 

 

 

 

 

 

 ◎ 間桐紅葉(まとうもみじ)

(イメージvoice, 早見○織)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シロウ世界移動時、12歳。

 父に衛宮・E・士郎、母に間桐桜を持つ。剣吾とシルフィとは異母兄妹。

 冬木御三家、四兄妹の二番目で長女。

 

 魔術特性は桜と同じ。属性は「虚数」でない変わりに、「水」「空」の五大元素に加えて、イレギュラーの「影」「鉄」を持つ。更には士郎に並ぶ弓の才能がある。

 魔術は桜に師事している。まだ完成していない。

 

 外見は小さな桜、瞳は士郎譲りの琥珀色。桜のアクマ成分半減。性格は温和で、年齢に見合わない母性愛を持っている。だが怒らせると怖い。下の妹達が離れた年齢なので、責任感も強い。母達と父、兄は唯一と言っていいほど甘えれる相手。剣吾に対しては少々我が儘になることも。だがブラコンではない。

 

 

 

 ○ 各キャラクターへの呼称

 

 ・士郎 → お父さん

 ・桜 → お母さん

 ・剣吾 → お兄さん

 ・シルフェリア → シィちゃん

 ・華憐 → 華憐ちゃん

 ・イリヤ → イリヤ母さん

 ・凛 → 凛母さん

 ・万華鏡 → お爺様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎ 遠坂華憐(とおさかかれん)

(イメージvoice, 植田○奈)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シロウ世界移動時、6歳。

 父に衛宮・E・士郎、母に遠坂凛を持つ。剣吾、シルフィ、紅葉とは異母兄姉妹(きょうだい)

 冬木御三家、四兄妹の三番目で次女。

 

 魔術特性及び属性は凛と同じ。加えてイレギュラーの「鉄」を持つハイブリッドな子供。更には八極拳の才能がある。

 魔術は凛と万華鏡に師事している。まだ未完成ながら、三人目の第二魔法の使い手となる片鱗を見せている。因みに二人目は母の遠坂凛。

 

 外見は小さな凛。性格もアクマ成分もそのまま。瞳は士郎譲りの琥珀色。一言で表すならチビ凛。けど可愛いもの好きなど、年齢相応な面も。

 

 

 

 ○ 各キャラクターへの呼称

 

 ・士郎 → お父様

 ・凛 → お母様

 ・剣吾 → お兄様、兄様

 ・紅葉 → 紅葉お姉様、紅葉お姉ちゃん

 ・シルフェリア → シルフィ

 ・イリヤ →イリヤ母さん

 ・桜 → 桜母さん

 ・万華鏡 → 大師父

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎ イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルン

 

 士郎の義理の姉にして妻一号。剣吾とシルフィの実母。隠居したアハト翁に変わる、冬木御三家、アインツベルン現当主。もっぱら戦闘よりも心のケアと救済をやっていた。剣吾を身籠ってからは、それに一気に母性愛が加わり、桜に並ぶ「冬の聖女」として世界中に伝わっている。即ち、英霊となることを拒否したのにも関わらず、自らの行いで英霊となることになった。ただし戦闘はしない。

 

 外見はアイリスフィールによく似ている。というかそう言われても違和感がない。現在は衛宮邸を利用して託児所を営んでいる。また、主婦や主夫対象の子供との接し方講座を月一で開き、毎月予約は一杯になるそう。冬木以外からも予約が来るほどに、人気のセミナーである。

 

 また、アインツベルンを古今東西の英雄豪傑を伝える家として再建したので、手始めに絵本や小説、図書館や幼稚園や小学校での読み聞かせなどを行っている。イリヤの書いた絵本や小説は日本だけでなく、世界中の言語に翻訳されて売られている。その中には、士郎達のことを書いた物もある。

 

 家事の腕は士郎や桜に劣るものの、そこらの主婦は一蹴する程の腕。料理は士郎の影響で和食が得意。冬木二大母。

 

 

 

 

 

 

 ◎ 間桐桜

 

 士郎の妻二号。紅葉の実母。士郎同様、最も新しい英霊の一人。冬木御三家、間桐の現当主。虚数魔術の使い手であるが、もっぱら戦闘よりも救済と心のケアを中心にやっていたので、世界中から「落花繽紛(らっかひんぷん)の聖母」と呼ばれている。

 

 戦闘時の服装は、GOの「イマジナリ・アラウンド」と同じ。

 家事の腕は相変わらず高く、士郎に次ぐ腕を持つ。料理は洋食が得意。

 現在は冬木の小学校の教師をやっている。生徒からは男女問わず、悪戯もされないほど慕われている。冬木二大母。

 

 

 

 

 

 

 ◎ 遠坂凛

 

 士郎の妻三号。華憐の実母。士郎同様、最も新しい英霊の一人。冬木御三家、遠坂の現当主。五大元素全ての属性を持ち、二人目の第二魔法の使い手。要するに二代目万華鏡。士郎と共に戦闘と救済を主にやっていたので、世界中から「万華鏡の女傑」と呼ばれている。

 

 戦闘時の服装は、GO「フォーマルクラフト」と同じ。体もちゃんと育ってる。

 家事の腕は、イリヤと同程度。料理は中華が得意。うっかりは相変わらず。現在は魔術師として東奔西走している。

 

 第二魔法を修得したことによってルヴィアとの競争には勝利し、その他の宝石の系譜との差もついたが、ルヴィアの一族とは魔術絡み以外では非常に良好な関係を築いている。ただし、剣吾とルヴィアの娘が許嫁になることは、あらゆる手を尽くして阻止している。柳洞一成の娘に関しては、既に剣吾がフラグを建てているので、本人の意思に任せている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先述の通り、衛宮邸は現在託児所となっている。無論イリヤ一家の住居も兼ねている。近隣の両親共働きで、小学生低学年以下の子供を預かるようになっており、一応料金はとっているが通常託児所にかかる料金の半分以下価格。

 

 夜は間桐、遠坂全て揃っていつも過ごしている。たまに万華鏡や藤村組、血と契約の姫君(アルトルージュ)、ルヴィアゼリッタなども訪ねてくる。

 

 現在冬木の街には、柳洞寺と冬木大火災跡地公園、図書館、市役所前に士郎と凛と桜の像が立てられている。図書館にはその三人のに加えてイリヤの像もある。

 

 

 





 はい、以上になります。
 書いていて剣吾さんのチートぶりがヤバイと思いました。

 でも反省はしていません!!(爆)

 もう気がついていると思いますが、剣吾さんのモデルは「仮面ライダーW」の左翔太郎です。そして能力はまんま「W」を元にしています。

 剣吾さんの固有結界ですが、イメージとしては「ガンダム00」のED、「trust you」のムービー最後に出てくるシーンを想像していただければいいです。
 ガンダムがない変わりに無数の槍、そして地球の変わりに蒼い月、ブルームーンが浮かんでいるのを想像していただければ。


 さて、次回はおふざけと挿入話です。


ではこの辺で




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Extra story

予告通り、おふざけと挿入話です。


それではごゆるりと。






まずは没ネタ、おふざけから。

時系列はメチャクチャです。

 

 

 

 

ネタその1: 森での罰則

 

 

「魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな」

 

 

俺は目の前の影に警告し、剣を一本射出した。影は杖から銀の盾を出したが、出された剣は魔力を掻き消すもの。そのまま盾を砕き、その足元に...

 

グサリ

 

 

「ギャアアアアアアアアアッ!?」

 

「あ、しまった」

 

 

刺さらずに影に刺さった。地に倒れた影からは、霞のようなものが立ち上って来たので、霊魂に有効な剣を投影し、切りつけた。

 

 

「グアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

ハリー・ポッター、これにて完結!!

 

流石にふざけすぎました。

 

 

 

 

ネタその2: 森での罰則, take2

 

 

 

「魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな」

 

 

俺は目の前の影に剣を一本射出した。影は杖から銀の盾を出したが、出された剣は魔力を掻き消すもの。そのまま盾を砕き、その足元に...

 

ぷっす!

 

 

「あ……」

 

 

刺さらずに、代わりにケンタウロスの体に刺さった。序でに残りの三本も。目の前に割り込んできたケンタウロスは息絶えた。オレも影も、しばらくなにもせず、ただただ突っ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタその3: 変身術の授業

 

 

「今日はカナブンからボタンを作ります。黒板を見てください」

 

 

黒板を用いてマグゴナガル先生が複雑な解説をしたのちに、生徒それぞれにカナブンが一匹ずつ配られた。そしてそれぞれ杖を取り、カナブンに杖を振ったけど、やっぱり上手くいったのはハーマイオニーだけだった。マグゴナガル先生はハーマイオニーの出来を褒め、グリフィンドールに十点加点した。

 

 

「他の方々はどうですか? それではミスター・エミヤ、やってみてください」

 

「はい」

 

 

シロウは返事をしてアゾット剣をかまえ、振った。私達は油断していた。今日は尖った要素を持つものは無く、まあ術後も尖った物になるわけでもないので、変なことは起こらないと思っていた。そしてシロウのカナブンはボタンに変わった。

 

......花の牡丹に。

 

 

「へ?」

 

「はい?」

 

「……失敗ですね。確かにボタンですが、ボタン違いです」

 

 

マグゴナガル先生が杖を一つ振ると、牡丹はカナブンに戻った。先生はもう一度シロウに試させた。シロウがアゾット剣を振ると、カナブンはボタンに変わった。

 

......猪の肉に。

 

 

「なんでさ…」

 

「「はい?」」

 

「……もう一度やってみてください。術は確かにかかってはいますから」

 

 

三度めの正直とばかりにシロウはアゾット剣を振った。そしてカナブンに魔法がかかり、その姿を変えた。

 

 

「最初に言っておく!! ここはどこだ……」

 

「俺、参上!!」

 

「千の偽り万の嘘。お前、僕に釣られてみる?」

 

「俺の強さにお前が泣いた!!」

 

「オオーみんなおっきい! ねぇねぇここで踊ってもいい? 答えは聞いてない!!」

 

「降臨、万を辞して」

 

 

なんかよくわからない小さな六人の鬼に。しかも赤青黄色紫白黒と本当に色とりどり。

 

 

「もはやボタンの要素ないじゃないか、誰だよお前たちは!?」

 

「デネ○です。これお近づきの印のデ○ブキャンディー」

 

「オレはモモ○ロス!! 言っとくがオレは最初っから最後までクライマックスだぜ!!」

 

「先輩あとがつかえてるよ? 僕はウラタ○ス。そこのお嬢さん可愛いねぇ。僕に釣られてm」

 

「ウラちゃん次々。僕はリュウタロ○だよ」

 

「ジークという。下々の者、よろしく頼む」

 

「わいはキン○ロス。わいの強さは泣けるでぇ!! 涙は、これで拭いとき」

 

「別の意味で泣きたいわアアアアアアアッ!?!?」

 

 

オルゥゥゥトォォォォォオオオ!!!! 、とシロウは涙を流しながら叫んでいた。黄色い一本角を生やした筋骨隆々の小さな鬼みたいなのは、シロウに小さな紙切れを渡し、日本のカラステングっていうのがつけてそうなお面をつけているのはマイペースにみんなに飴を配っていた。他の四人は好き勝手に喧嘩をしていた。机の上で。青いのは何か軽そうで嫌だな。赤いのは結構好感が持てるかも。白いのは上から目線だけど義理堅そう。紫のは結構可愛い。

 

オルトって誰なんだろう?

 

 

以上、マリーの日記より

 

 

 

 

すみませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタその4: 最後の部屋、鏡の前

 

 

「クィレル!! 石を奪え!! 殺しても構わん!!」

 

「御意!!」

 

 

ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わず目をつむり、叫び声をあげた。

けどクィレルも一緒に苦悶の声をあげていた。手を離されると少し痛みが引いたから、目を開けてクィレルの方を見た。彼の右手は爛れて、次いでボロボロと崩れ始めた。

 

 

「何をしている!! 早く石を奪え!!」

 

「しかし御主人様。手が、私の手が!!」

 

「なら魔法を使え!! 小娘を殺せ!!」

 

 

ヴォルデモートの言葉に、クィレルは残った左手に杖を持って、呪いを唱え始めた。私は咄嗟に彼のもとへ行き、その顔を掴もうとした。そのとき、

 

 

━━ 右に避けろ

 

 

ただ一言シロウの声が頭に響いた。私はなにも考えず、無意識に体を横にずらした。と同時に、一筋の赤い方光が通り過ぎ、クィレルの眉間ど真ん中に刺さった。それは真っ黒な捻れた剣だった。

クィレルは末期の声を上げることなく、この世から去った。

 

 

 

11歳の子供にはちょいときついかな。という訳でボツ。

 

 

 

 

 

 

ネタその5: 最後の部屋、鏡の前

 

 

「クィレル!! 石を奪え!! 殺しても構わん!!」

 

「御意!!」

 

 

ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わず目をつむり、叫び声をあげた。

 

 

「キャァァアアアアッ!! 痴漢!!」

 

「なっ!?」

 

「変態!! サイテイ!! ロリ○ン!!」

 

「なッ!? そんなつもりは……」

 

「女の子押し倒しておいて今更言い訳!?」

 

「ち、違うぞ!?」

 

「誰かー!? ここに淫魔が!! 真性の淫魔がー!!」

 

「おい、やめろ!? それは誤解d「ほう? 貴様か。マリーに変態行為を働いている真性のケダモノは」なっ!? エミヤシロウ!?」

 

 

クィレル(ケダモノ)が驚愕の声を上げると、シロウは右腕を一振りした。すると空中に三十は届くだろう数の剣が、剣先を全てクィレルに向けて浮遊していた。

 

 

「な、ななな、なな!?」

 

「天誅」

 

「ウワアアアアアアアアアア!?」

 

 

 

シリアスが台無しなのでボツ。というよりマリーさんのキャラじゃない気がするので。

 

 

 

 

ネタその6: ハロウィンのトロール騒動

 

 

 

女子トイレに入ると、まさにトロールがマリーを叩き潰そうとしていたところだった。オレは咄嗟に剣を投影し、トロールの腕を切りつけ、マリーを連れて離脱した。マリーをロン達のところに移すと、オレはすぐにマリーとは逆方向の壁へと向かった。今トロールの注意はオレに向いているからだ。

 

 

「三人とも今のうちに出口に行け!! オレもすぐに行く!!」

 

 

そう伝え、オレは巨大な剣を数本投影し、トロールの足止めをした。しかしトロールの注意はオレではなく、マリー達に向いてしまった。オレは咄嗟に手に持った剣をトロールの頭に投げつけた。剣はトロールの口に入り、そこから首の後ろにかけて貫通した。

 

 

壊れた幻想(ブロークンファンダズム)

 

 

ついいつもの癖で剣を爆発させた。結果、トロールの口から上は吹き飛び、そこから血が噴水のように吹き上がった。

 

 

「ふぅ、間一髪だったな……あ(汗)」

 

 

もう大丈夫という感情が大きく、マリー達のことを失念していた。オレの目に入ったのは、頭からトロールの血を被ったマリー達三人と、マグゴナガル、スネイプ、クィレルの三人の教師陣だった。全員こちらをジト目で見つめるというおまけ付きで。

 

 

 

スプラッタ過ぎたのでボツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは挿入話です。それではどうぞ。

 

 

 

 

その1: 談話室にて, 時系列:クリスマス

 

私達がプレゼントを開封したあと談笑していると、フレッドとジョージ、パーシーが部屋に入ってきた。パーシーは普段かけていない眼鏡をしている。そして三人ともイニシャルの入った栗色のセーターを着ていた。

 

 

「おっ、マリーも起きてきたのか」

 

「おはようさん、マリー」

 

「メリークリスマス、マリー」

 

「おはようございます、そしてメリークリスマス」

 

「見ろよ、マリーとシロウもウィーズリー家特製セーターを着てるぜ」

 

「けどマリーとシロウのほうが上等だな」

 

「母さんは身内にもそうだけど、それ以外には特に力を入れるから」

 

 

フレッドとジョージは私達のセーターと皆のセーターの違いを指摘し、パーシーはその理由を説明した。

 

 

「けど心配ないぜ」

 

「ああ、お袋はちゃんと俺たちがどっちかをわかっているからな」

 

「「二人合わせてグレットとフォージだ!!」」

 

「間違えられてるじゃん!!」

 

 

フレッドとジョージのボケにロンが盛大に突っ込んでいた。しかも胸板を手の甲で叩くという動作つきで。それを見ていたシロウが頭を抱えて俯いていた。なんかブツブツ言ってる。

 

 

「……それ日本の漫才だろうが何でお前たちがそれを知ってるんだよおかしいだろこの間のごちゃ混ぜドリンクといいどこからそんな情報を仕入れてくるんだよなんでさなんでさなんでさナンデサナンデサ……」

 

 

シロウ、ストレス溜まってるのかな? 今はクリスマス休暇なんだからしっかりと休まないと。

しばらくしてシロウが持ち直すと、フレッドとジョージはシロウに質問をしていた。なんでも前々から気になることがあったみたい。

 

 

「なぁなぁシロウ、聞いていいか?」

 

「どうしたんだ?」

 

「たまにシロウがもうスピードで走ったりしているとこ見るけど、普通に走っているわけじゃあないんだろ?」

 

「普通は二人以上いないと運べないものを軽々と持ち運んでるらしいし」

 

「「どうやってんだ? そして俺たちにも教えてくれない?」」

 

「それは僕も興味があるな」

 

「実は僕も気になってたよ。 どうやってるの、シロウ?」

 

 

ウィーズリー四兄弟に迫られて、その異常ともいえる身体能力の秘密について聞かれていた。確かに私も気になってた。シロウの身体能力は色々とおかしい。入学初日に校舎の壁を破壊して傷一つなく平然としていたことや、授業初日に壁を蹴って吹き抜けを上っていたのがいい例だ。

 

 

「オレ自身の素の力もあるが、単純に魔力で強化しているだけだぞ?」

 

「肉体を魔法で強化しているってことか。それによって筋力が爆発的に上がるってことかい?」

 

「その通りだパーシー」

 

「いいじゃん!!」

 

「いいじゃん!!」

 

「「すげーじゃん!!」」

 

「オレのやり方は少々特殊で君らには教えれないが、似たようなことはできるかもしれん」

 

「「「マジ(本当)!?」」」

 

 

あ。パーシーと私以外が食いついた。まぁ三人とも男の子だから、そういうのに憧れるよね。パーシーはインドア派っぽいからそうでもないのかな?

 

 

「ああ、たぶんな」

 

「いいじゃん!!」

 

「いいじゃん!!」

 

「「「すげーじゃん!!!!」」」

 

「だが、そのためにまずは肉体の基礎能力が高くないとダメだ。でないと肉体が負荷に耐えられない」

 

「具体的には?」

 

 

三人ともそわそわして落ち着きがないから、パーシーが質問している。こういうとき、一人でも冷静な人がいると話が円滑に進むよね。パーシーの質問に対して、シロウは羊皮紙と羽ペン、インクを取りだして何やら書き込み始めた。数分後にそれを私達に見せてきた。パーシーが代表して読み上げた。いつの間に私達以外に寮に残っていた生徒も集まっていた。

 

 

「何々? 素振り三百回、肩幅腕立て伏せ五百回、腹筋五百回、背筋五百回etc…………。これを一日でするのか?」

 

「なんだ。それなら出来ないことはないな、フレッド」

 

「だな、ジョージ」

 

 

フレッドとジョージの言葉にクィディッチのチームメンバー、そして何人かの先輩達も頷いていた。でも私は知っている。何せ五年間早朝のシロウの鍛練を見てきたから。

 

 

「いや、一時間でだが?」

 

「「「「「「………は?」」」」」」

 

「何を驚いている?」

 

「「いや、そりゃねぇだろ?」」

 

「「「「ウンウン」」」」

 

「いくらシロウでもそれは無理だって」

 

「冗談きついぜ」

 

 

みんなシロウの言うことは質の悪い冗談だと思っているみたい。

 

 

「いや、冗談じゃないが」

 

「「「「「またまた」」」」」

 

「みんな、ちょっといい?」

 

「お、マリー。お前からも言ってやれよ。冗談きついって」

 

「シロウの言うことは本当だよ?」

 

「「「「…………は(゚д゚)?」」」」

 

「私の知る限り五年間ずっとやって来たから。ねえシロウ、今日は何セットやったの?」

 

「うん? 今日は少し遅く起きたからな。2セットしかできなかった」

 

「はい。こんな感じだよ、みんな?」

 

 

私とシロウの会話に、みんな呆然としていた。

 

 

「ふむ。良ければみんなも明日から一緒にしないか?」

 

「「「「結構です」」」」

 

「そうか、残念だ。フレッドとジョージ、ロンはどうだ?」

 

「「遠慮しとくわ」」

 

「僕も止めとく」

 

 

みんなから断られてシロウが少しだけ寂しそうな目をしていた。この日からグリフィンドールでは、シロウは異常体質の持ち主ってレッテルが張られて、更に悲しそうな目をしていた。少しそれが可愛いと思ったのは秘密。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2: ライバル, 時系列: 漏れ鍋の二日目

 

 

私とシロウ、ハグリッドの三人は朝食を食堂で食べていた。シロウは相変わらず鍛練をやっていたらしく、今は簡素な黒のノースリーブと黒のレギンスをはいている。朝食はトーストとトマトサラダ、そして豆のスープだった。

 

事の発端はその豆のスープだった。

シロウはその豆のスープを一口食べたとたん、目を見開いて無言で食べ進めた。そして全て飲み終わると一息ついて、バーカウンターまで歩いて行った。

 

 

「シロウは何をしちょるんだ?」

 

「さあ?」

 

 

私とハグリッドは、シロウの突然の行動に首を傾げていた。そしてシロウの行動を見守っていた。

 

 

「店主殿はいらっしゃるか?」

 

「はい、私が漏れ鍋のマスターのトムです」

 

「豆のスープを作ったのはあなたですか?」

 

「ええそうですが、何か不都合が?」

 

 

もしかしてシロウ、スープの文句でも言うのだろうか? 確かにシロウは料理が上手いけど、店主に文句っていっていいの?

そう考えていると、シロウは鬼気迫る表情でトムさんに顔を近づけた。私達以外のお客さんも、その行動を驚きの表情で見つめている。

 

 

「どうやって作っているのですか!? 是非教えて頂きたい!! 私が食したなかで一番おいしい豆のスープです!!」

 

 

途端食堂中の椅子からお客さんがずっこけ落ちた。クレームをつけるのかと思いきや、まさかのスープの調理課程を聞くということをしたのだ。今までの緊張感はいったい、という思いをみんな持っているだろう。ハグリッドなんて目が点になっている。

 

 

「私からはお教えできませんねぇ。見るのは自由ですが」

 

 

トムさんはニコニコしながら厨房へと引っ込んでいった。その言葉を聞いたシロウは、獰猛な猛禽類のような目をして部屋に行き、着替えて手を洗って厨房に向かった。

 

 

「盗むのは自由ということか。フフフフ…………」

 

 

低い声でシロウは呟いていたけど、そこまでのことのなの?

 

それからはキッチンの方とお客さんは盛り上がっていた。豆のスープだけでなく、シロウ自身も料理を振る舞っていたのもある。

 

 

「店主殿、どうだろうか?」

 

「ん~中々ですね。けどまだ足りないものがありますね」

 

「なんと!?」

 

「そう言えばあなたの手際を見て思いましたけど、ずっと料理をしてきていますね? 何が得意なんですか?」

 

「和洋折衷いけます。ですがそのなかでも和食が一番得意ですね」

 

「なるほど、なら今日の夕食はあなたが作ってみませんか? ここには醤油など、和食に必要な調味料は一通り揃ってますしね」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ、日本の調味料は繊細な味をつけるのに重宝しますから」

 

「是非やらせていただきます!!」

 

 

 

 

----------

 

 

「和食ってのは癖が強いって思っていたが、中々美味だ」

 

「少年、美味しかったぞ」

 

「とってもヘルシーで旨かった」

 

「もういっそのことトムと二人で漏れ鍋やったらどうだ?」

 

 

お客さんにも中々好評だったみたい。私は何度か食べているから、いつも通りの美味しさだと思った。それにシロウの料理は食べるとほっとするんだよね。

 

 

「ふふふ。お見逸れしましたよ、シロウ君」

 

「いえいえ、トム殿にはまだまだ敵いません」

 

「「アッハッハッハッハッハッ」」

 

 

トムさんとシロウは、お互いに笑いながら握手を交わしていた。でもその目は二人とも笑っていなかった。気のせいではないだろう。ハグリッドは冷や汗を流していたし。

二人ともまるで、己の全てを出して競いあえるライバルを見つけたような、そんな激しい火を灯した目をしていた。

うっかり失念していたけど、二人とも魔法使いだよね? 料理人じゃないよね?

 

 

「「HAHAHAHAHAHA!!」」

 

 

そろそろ静かにさせないと近所迷惑になっちゃうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その3: ???, 時系列: ???

 

 

 

 

Side ???

 

 

とある街の秋の夜、俺は一人の男と向かい合っていた。

俺は中折れハットを被り、黒いスラックスにネクタイ、白のカッターシャツに黒のベストという出で立ち。

もう片方は、いかにも怪しい紫色のロングコートに金髪の上には同色のシルクハット、コートの下は派手な色のスーツという出で立ちだ。

 

 

「お前、誰だ? 見たところ一般人じゃないな」

 

「貴様のような猿に語ることはない。それに話したところでお前たちには理解できない話さ」

 

 

シルクハットの男はそう言って宝石を二つ、右手の指に挟んだ。

 

 

「貴様、魔術師か。しかも宝石。遠坂やエーデルフェルトとは別の家系だな」

 

「ほう? 僕のことをわかるとは、君も同業者かい? けどいただけないな。あのような陳腐な家系や猿たちと一緒にしないでくれ」

 

「どうでもいい。何しに来た?」

 

「君も同業者なら知ってるだろう? 極東の猿ごときが第二魔法を修得したとか言う大ボラを。これ以上調子に乗る前に、潰しにきたのさ。この街ごとね」

 

「関係ない人々を巻き込むつもりか」

 

「どこが関係ないんだい? この街は遠坂の管轄だろう? それにこの街の猿共は英雄として奴等を称えているらしいじゃないか? 目障りなんだよね、正直。それに」

 

猿の街の一つや二つ、消えても問題ないだろう?

 

 

 

男の言葉は頭にきた。散々見下した挙げ句、虫を殺すみたいな感覚で街の人々を殺すといったのだ。

 

 

「理解したなら退いてくれないか? 僕は忙しいんだよ。君のような身の程を知らないお猿さんと会話してあげただk「退かない」……何だと?」

 

「退かないと言ったのだ。人々を、この街を泣かせる奴は俺が許さない。俺がお前を止める。戦闘形態(セットアップ)

 

 

俺は父さんと同じように、刻印として体に礼装の類いを刻み込んでいる。魔力を流して起動するだけで戦闘準備は完了だ。

 

 

「やっぱ猿には言葉は通じないか。なら先に死ね!」

 

投影開始(イミテーション)鋼の長槍(メタルランス)

 

 

男が投げてきた二つの宝石を、術が発動する前に切り砕く。

 

 

「言い忘れていた。俺は魔術師ではない。魔術使いだ」

 

「何だと? 猿に加えて面汚しだったとは」

 

「その面汚しの猿に攻撃を防がれたお前は?」

 

「ぬっ!? 五月蝿い!! 猿風情が!!」

 

「さっきから猿しか言ってないな。全身強化(パワーセット)

 

 

俺は投影した槍を構え直し、男と向き合った。

 

 

「魔術使い、衛宮・E・剣吾。お前の業を数えよう」

 

「この青二才がぁ!! 一度防いだぐらいで調子に乗るなぁ!!」

 

 

魔術師は今度は全てよ指の間に宝石を挟み、こちらに投擲してきた。だが、俺にはその軌道がハッキリと見えていたため、全て弾き返した。要するに、魔術師は自分の魔術を自分で食らっていた。

情けない。

こいつずっと部屋にこもっていて、戦闘経験はろくにないな。

 

 

「ぐっ……ゴホッ……」

 

「生きていたのか?」

 

「ぐう、舐めるなぁ!!」

 

 

今度は宝石を握り締めてこちらに殴りかかってきた。

そう言えば凛ねえやルヴィアさんが言っていたな。最近の魔術師は格闘が必須だとか。試しにこいつのパンチを受けたが、片腕で止められた。

軽すぎる。

肉体を強化はしているのだろうが、それにしてはペラッペラだ。おおかた自分には格闘は必要ない、魔術だけでなんでもできると思い込んでいたのだろう。

 

 

「な、何故僕の攻撃が防がれる!? 僕は一族で最も強いし才能があるんだぞ!? それがこんな面汚しなんぞに」

 

「『井の中の蛙、大海知らず』ってのは知ってるか? まさにお前の事を指す」

 

「何だよ……何なんだよ貴様は!?」

 

「通りすがりのこの街を護る魔術使いだ。覚えなくていい。小さな限られた場所で威張れても、一度外の世界に出れば厳しい現実が待っている。あの世でじっくりと学んでこい。属性身体付加(ダイレクト・エンチャント)

 

 

俺は持っている自属性のうち、「風」を右足に付加させる。これは俺が編み出した魔術。だが五大元素の属性を持っていれば、誰でもできる筈のものだ。師匠に面白いと言われた俺が編み出した魔術の一つ。

 

 

「ッ!? その体に直接属性を纏わせる魔術は!? 貴様!! まさか『厄災のエミヤ』の四代目か!?」

 

「厄災とは言ってくれる。この街にとっては、貴様のほうがよっぽど厄災に相応しい。属性、身体、強化臨界(シングルドライブ)

 

「ひっ、ヒィィィァァァアアアアアッ!?」

 

 

右足の風が新緑色の光を放ち、身体中が最大まで強化されたとき、魔術師は悲鳴をあげながら逃げ出した。

本当に情けない。

魔術師が戦闘をするということは、命を奪い奪われる覚悟を必ず持たなければならないのに、こいつはそれを持たずに挑んできた。呆れる。

俺は強化を維持したまま走りだし、そして飛び上がった。

 

 

「ヒィッ!? く、来るなぁ!?!?」

 

「ハァァアアア!!!!」

 

「オデノカダダハボドボドダァー!?!?」

 

 

ドロップキックの要領で蹴り飛ばすと、奴は末期の声をあげながら爆散して消えた。まったく、どんなやつが相手であれ、命を奪うのは慣れないものだ。

 

 

「ふぅ。戦闘終了(リフォメーション)

 

 

戦闘服を解除してもとの服に戻す。そしてベルトに取り付けてる帽子を外し、被り直す。今はまだまだ帽子に被られている状態だ。帽子は一人前の男の証、いつか必ず似合う男になる。

まぁ父さんに見つかるといつも取り上げられてしまうんだが。それに相棒からも受けが悪い。そんなに似合わないか?

それにしてもあの蹴り、名前決めるとするかな。疾風の蹴脚(ハリケーン・ストライク)なんてのはどうだろうか? いや、ないな。

 

 

「終わったか」

 

「師匠ですか? ええ終わりましたが、本当に師匠の系譜の一族なんですか?」

 

「まあな。当時はエーデルフェルトと並ぶ芽のあった弟子だったんだがな」

 

「なるほど、長い年月の間に落ちぶれたと」

 

「何はともあれ、ご苦労だった。さて報酬だが……」

 

「にぃに~!!」

 

「え? はい?」

 

 

唐突に俺の足元に小さな女の子が抱きついてきた。俺の妹なんだが、何故ここにいるんだ?

 

 

「にぃにだ~スリスリ~♪」

 

「へ? なんでここにいるんだ?」

 

「あら、聞いてなかったの?」

 

「か、母さんまで?」

 

「お仕事お疲れ様。それとはい、これ持ってくれる?」

 

「え? あ、うん」

 

 

何が何だかわからないまま、俺は母さんから小さな荷物を渡された。よく見ると、妹は小さなリュックを背にからっている。母さんは少し大きめのバッグを地面に置いていた。

因みにそれらは、師匠があるときの仕事の報酬でくれたもの。凛ねえの家にある、第二魔法を応用した収納箱と同じで、見た目以上の荷物が収まる。

さて、そろそろ現実逃避はやめるか。俺が把握しないままに、話は進んでいる。俺一人だけが蚊帳の外にいる状態だ。どうなってんだ? 予定では早く家に帰って晩飯食う筈だったのに。

 

 

「ありがとう。シィちゃん、こっちいらっしゃい」

 

「はーい!!」

 

「母さん? 何がどうn「では万華鏡殿、宜しくお願いします。」って、は?」

 

「相わかった」

 

 

師匠は腰から万華鏡のように輝く短剣、あれが宝石剣か、を抜いて一振りした。すると俺と母さんと妹の三人の足元に大きな魔法陣がっておい!?

 

 

「師匠!?」

 

「いってこい」

 

「じぃじ~、いってきまーす!!」

 

 

こんのはっちゃけジジィがぁぁぁぁああああああ!!!!

 

 

 

そして俺たちは飛ばされた。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

サイゴハダレナンデショウカネー、ワタシニハムズカシイヨ。


さて今回より、一旦こちらの更新はとめて、もう片方を次は切りが良くなるまで更新していきます。

それではこの辺で






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秘密の部屋
0. プロローグ




秘密の部屋編、開始です。


それではごゆるりと






 

 

ある夏の日の夕方。

プリベット通り4番地のダーズリー一家の家は、落ち着きのない空気が場を満たしていた。

でっぷりとした男性、この家族の家主であるバーノンと息子のダドリーはスーツと蝶ネクタイを着用し、バーノンの妻であるペチュニアは、サーモンピンクのドレスを着ていた。

バーノンは上機嫌にダドリーの蝶ネクタイの調整をし、ペチュニアは豪勢なケーキの仕上げをしている。

 

ところでこの家にはもう一人住人がいる。その人物、マリナ・ポッターはこの家で二番目に小さい部屋で、羊皮紙の上に羽ペンを走らせていた。マリナ、以降はマリーと呼ぶ、はダーズリー一家の親戚であり、魔法使いでもある。

マリーは夏休みにこの家に帰ってきたとき、バーノン・ダーズリーによって、魔法関係の一切を取り上げられてしまった。

物置の中に押し込め、鍵を掛けるまで徹底して、マリーを魔法から遠ざけた。そのせいで、マリーはホグワーツ魔法魔術学校から出された宿題が手付かずとなってしまい、それどころか家の敷地から出ることもできなかった。唯一の救いは念話でのみ、シロウ、シロウ・エミヤと会話できることだった。

 

しかしここで驚くことが起きた。

なんと同じく夏休みだった従兄のダドリーが、物置を開けて魔法関係の道具を少しずつマリーに返し始めたのだ。

マリーは始め唖然としたが、有り難くそれを感謝し、宿題に手を付けることができるようになった。本に興味を示さないダドリーも、私が使わない教科書を読むなどもしていた。

一度その現場をペチュニア叔母さんに見られてしまった。けど叔母さんはそれを咎めることなく黙認し、果てはバーノン叔父さんに見つからないよう注意するということに。

 

それはともかくとして、それらの経緯で、マリーはシロウと念話で話ながら、最後の宿題の仕上げをしていた。

 

 

「マリナ・ポッター!!」

 

 

階下からバーノン叔父さんの呼ぶ声がした。大方このあとの予定確認をするのだろう。これで何度めだろうか。いい加減耳にタコができそうだ。

でもここで無視をすると、何をされるかわかったものでもないため、急いでリビングへと向かった。

部屋に入ると、バーノン叔父さんはダドリーの髪をとかしつけていた。

 

 

「来るのが遅い!! ワシが呼んだらすぐに来るんだ!!」

 

 

……これでもすぐに来たのですが。

それにこの前、そろそろ呼ばれると思って、叔父さんの元へと行ったら呼んでないと怒られ、それで引き返している途中に呼ばれたから急いで向かうと、今度は遅いと言われたことがある。いったいこの人は何がしたいのかわからない。

 

 

「全員集合だ。今から今夜の確認をする。まずはペチュニア?」

 

「応接間に」

 

 

バーノン叔父さんに話を振られた叔母さんが即座に答える。

 

 

「メイソン御夫妻を手厚くおもてなししますわ」

 

「その通りだ。ダドリー?」

 

「コートをお預かりするんだ」

 

「正しくその通りだ。それで……?」

 

 

ダドリーの確認が終わると、まるでゴミを見るかのような目付きで叔父さんは問いてきた。不愉快な感情が出てくるけど、それを押さえ込んで答える。

 

 

「……部屋に籠り、音をたてないで大人しくします」

 

「全くもってその通りにしろ。これは大事な商談だ。うまくいけば夜中のニュースに間に合うかもしれん」

 

 

叔父さんが上機嫌に語っているところに、叔母さんから食卓へと連れていかれた。早めの晩ごはんを私に食べさせるため、既に用意されていた。内容は今夜のご馳走と同じメニューだった。味わいつつも、できるだけ急いで行儀良く口に運んだ。マナーって大切だよね。

 

そこに玄関のベルが鳴った。もしかしてメイソン御夫妻のご到着?

でも叔父さんは怪訝そうな顔をしていたことから、たぶん違うのだろう。ペチュニア叔母さんが応対し、誰かと一緒に戻ってきた。麻黒い肌、真っ白の髪。鷹のような、それでいて優しさがにじみ出る鋼色の目。この一年でぐっと伸びた身長。ざっと165cm。って、

 

 

「久しぶりだな、マリー」

 

「え? えええ!? 何でシロウが!?」

 

「な、なんだ?」

 

「私が呼びました」

 

「ぺ、ペチュニア?」

 

「マリーのお目付け役にと。バーノンもその方が安心でしょう?」

 

「ま、まぁそうだが」

 

 

突然のシロウの登場に、ペチュニア叔母さん以外が呆気にとられていた。加えてダドリーは少しだけ顔を青くしていた。シロウはゆっくりとバーノン叔父さんへと近付いた。

 

 

「お初にお目にかかります。シロウ・アインツベルン・エミヤと申します」

 

「う、うむ。日本人か?」

 

「はい。こんな成りですが、日本人です。外見は世界中をまわっている間にこうなりました。よろしくお願いいたします」

 

「あ、ああ」

 

 

バーノン叔父さんはシロウにたじたじになっていた。どうも今のシロウからは、妙な貫禄が感じられる。気のせいじゃないよね。

それからシロウは、ダドリーに顔を向けた。それによってダドリーは、少しだけ震えていた。シロウはダドリーを暫く見つめると、口許に柔らかな笑みを浮かべた。

 

 

「……青い。だがいい青さだ」

 

「え?」

 

「ダドリー、君は今スポーツをやっているか?」

 

「い、いや?」

 

「そうか、ならボクシングはどうだろうか?」

 

「えっと、どうして?」

 

「筋肉のつきかただよ。正しく練習すれば、君は必ず良いボクサーになる」

 

「そ、そう」

 

 

シロウの発言に戸惑いながらも、ダドリーは悪い気はしなかったようだ。その証拠に、手をワキワキとさせている。ダドリーは機嫌が良いとき、どちらかの手をワキワキさせる癖がある。

男性陣が話をしている間に私は晩ごはんを食べ終え、食器を片付けて叔母さんの手伝いをした。何もしないっていうのは嫌だしね。それに叔母さんの手伝いをし続けてかたから、今は簡単なものなら作れるし。

 

そこにまた玄関のベルが鳴った。今度こそメイソン御夫妻がいらっしゃったらしい。私とシロウは急いで階段をかけあがり、私の部屋へと入った。

 

しかし、そこには先客がいた。

コウモリのような耳をつけ、テニスボール程大きい目をした茶色い生き物が、私のベッドの上で跳ねていた。

 

 

 

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。


いかがでしたでしょうか? 今下書きは一応ロックハートの初授業までできています。
それから余分を削ぎ落としたりして本書きする予定です。


それでは今回はこの辺で




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1. ドビーの警告



連チャンです。

それではごゆるりと






 

 

 

部屋にいた奇っ怪な生き物を確認した途端、シロウが何やら膜みたいなもので部屋を包みこんだのを感じた。生き物もそれに気がついたようで、こちらに顔を向けた。そして恭しく頭を下げた。

 

 

「マリー・ポッター。なんたる光栄」

 

「……あなたは?」

 

「ドビーでございます、屋敷下僕妖精のドビーです」

 

 

生き物、ドビーはキィキィ声でそう言った。妖精の一人なのか。

 

 

「下僕妖精。つまり、ブラウニーのようなものか?」

 

「似て非なるものでございます、東洋……の……」

 

 

シロウの質問に対してドビーは答えたけど、シロウを見た瞬間、大きな目を更に大きく見開いた。そして神様に礼拝するように床に膝をつき、何度も頭を床に打ち付けた。

 

 

「も、もも、申し訳ございません!! このドビー、貴方様に対してなんたるご無礼を!!」

 

 

そう一声叫び、頭をガツガツと床にって!!

 

 

「ドビー待って!! 音をたてないで!!」

 

「ドビーの悪い子!! ドビーの悪い子!!」ガンガンッ!!

 

「お願いだから音をたてないで!! ドビーってば「大丈夫だ」……え?」

 

「ドビーの悪い子!! ドビーの悪い子!!」ガンガンッ!!

 

「遮断結界を張った。こちらからの音と衝撃は漏れることはない。向こうからの音は聞こえるがな」

 

「そうなの?」ガンガンッ!!

 

「ああ。だからいい加減頭を打ち付けるな」

 

 

シロウの言葉で漸くドビーは動きを止め、話をすることになった。私とシロウはベッドに座り、ドビーには椅子に座ってもらった。まぁこのとき、またドビーが頭を打ち付けていたけど。

どうやら今の主人に対して不忠な思考や発言をすると、自分で自分をお仕置きしなくてはならないらしい。

 

 

「いい加減本題に入るぞ」

 

「そうだね。ドビー、話って?」

 

「はい、実は……マリー・ポッター。今年はホグワーツに戻ってはなりません!!」

 

「「……は?」」

 

「恐ろしい、非常に恐ろしい罠が仕掛けられております!!」

 

「……その罠とは?」

 

 

シロウが質問すると、ドビーは突然唸りだした。そして椅子からかけ降りると、箪笥に突進し、またヘッドバンキングをした。いや、しようとした。突然真っ赤な布がドビーの腕に絡み付いて、ドビーの動きを強制的に止めてしまったのだ。布の端は、シロウが握っていた。

 

 

「確信はなかったが、妖精でも男なら効くのだな」

 

「……シロウ、それは?」

 

「これか? これは『マグダラの聖骸布』だ。対男性用拘束具だな」

 

「へ? 聖骸布!?」

 

「ああ」

 

 

ええ~……それってキリスト教の信者が耳にしたら絶対に怒り狂うと思うよ、たぶん?

 

 

「これは動きだけでなく、能力も封じる。だから魔法を使っても無駄だぞ、ドビー?」

 

 

シロウの言葉に、ドビーは泣きそうになっていた。少しやり過ぎ……ん? 何か落ちた?

私はドビーの汚れた服から落ちた、何かの束を拾い上げた。

 

 

「ッ!! ダメです!! それを見てはダメです!!」

 

 

ドビーがキィキィ声で叫ぶけど、私は無視してそれを見た。それは私宛に届くはずだった、友人たちからの手紙の束だった。

 

 

「……やはりな。おかしいと思い、何かに妨害されているとは思ってはいたが。まさかドビー、お前だったとはな」

 

「……ねぇドビー。これってどウいうコト?」

 

「ひっ!? ……マリー・ポッター?」

 

「答エて?」

 

 

私がドビーに問い詰めると、ドビーは渋っていたけど、やがて細々と話し出した。何でも私はこの家にいたほうが安全であるため、こうして妨害したと。手紙が届かなければ、ホグワーツに戻りたくなくなると思い、全て回収していたと。

 

 

「……聞いていい?」

 

「……なんでしょうか?」

 

「私が外に出ようとしたら急に扉が閉まったのも、脚が扉に挟まれたのも、庭に出ると何故かバスケットボール大の鉄球が飛んできたのモ、全部あなたのやったコト?」

 

「……」

 

「コ タ エ ナ サ イ」

 

 

私が詰問すると、ドビーは小さく首を縦に振った。

 

 

「何でそンナことしタノ?」

 

「……マリー・ポッターは……ここにいた方が安全なのです!!」

 

「……それで私が死んだら意味がないでしょう?」

 

「そんな、殺そうだなんて滅相も「知ってる? 人間ってね? やろうと思えばゴムの球でも殺せるんだよ?」……マリー・ポッター?」

 

 

去年から思ってたけど、魔法界って危険認識がかなりおかしいよ。普通なら死んでもおかしくないことを、平然とやっているのだ。

 

 

「たががゴムボールで死んじゃうんだよ? なのに貴方が投げたのは大きな鉄球。あの場で私が咄嗟に避けてなかったら死んでたよ?」

 

「……」

 

「私のことを思って行動したのはわかった。その気持ちは嬉しい。でも私は迷惑してるの。私の生き死を他人に管理されたくない。人生に忠告やアドバイスをするのはわかるけど、貴方がやってるのは、私に決められたレールを歩けと言ってるのと一緒よ?」

 

 

ドビーは黙りこくって私の話を聞いている。私は思う。ドビーは私が「生き残った女の子」だからここまでしている。ならもし私に片親、両親が残っていたら? 彼はこんなことしないだろう。

結局ドビーはマリー・ポッターではなく、「生き残った女の子」を死なせたくないだけなんだ。

 

 

「私はみんなの人形じゃない。ヴォルデモートから生き残った、というだけで特別扱いなんてされたくない! 私は『生き残った女の子』である前に、一人の人間なんだ!!」

 

「そこまでだ。落ち着け、マリー」

 

 

熱くなったところに、シロウからブレーキが掛けられた。階下からは、バーノン叔父さんの上品(笑)な笑い声が響いてくる。私が深呼吸していると、シロウがドビーに話しかけた。

 

 

「さて、ドビーよ。お前の想いは理解した」

 

「……はい」

 

「だがこの通り、本人は迷惑しているのが現状だ。故に、今後そのようなことはしないでもらいたい」

 

「……しかし」

 

「これでも降りかかる火の粉を払うぐらいはできる。それとも……私が信用ならんか?」

 

 

シロウの質問に、ドビーは大きな耳をパタパタさせながら、首を横に振った。とりあえずはドビーは何もしない、ということで話はつき、シロウはドビーの拘束を解くと、ドビーは指をパチリと鳴らして帰っていった。

何だかどっと疲れが押し寄せてきた。でもメイソン御夫妻は、まだ応接間にいるらしい。仕方ないから宿題の仕上げを、シロウに手伝ってもらいながら終わらせた。

 

 

「ああ、そうだ。明日の昼頃、ウィーズリー家のパーシーとモリーさんがオレ達を迎えに来るそうだ」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ、だから準備しておけよ? ペチュニアさんには報告してある」

 

「ありがとう」

 

「礼はいらん。そのまま新学期までウィーズリー家にお邪魔することになるから、忘れ物がないようにな」

 

「はーい」

 

 

メイソン御夫妻は漸く帰ったらしく、下からペチュニア叔母さんに呼ばれた。私とシロウは返事をし叔母さんの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 







はい、ここまでです。


今年は投稿できてあと1回でしょうか?
年末年始は少々忙しいので、もしかすると、これが今年最後の投稿になるかもしれません。

とりあえず、次回は隠れ穴での話になります。お楽しみを。


それでは今回はこの辺で、良い年末年始を。



次回はあの人がでるかも?





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2. 隠れ穴と突然の来訪者


今年最後の更新です。

それではごゆるりと






 

 

昼前に、モリーさんとパーシーが車できた。バーノン・ダーズリーは仕事でいないため、彼らの家には、ダドリーとペチュニアさん以外はおらず、下手に場がややこしくなることもなく、オレとマリーはウィーズリー家の車、フォード・アングリアに乗って『隠れ穴』へと向かった。既に昼食は食べていたため、パーシーの運転でモリーさんと喋りながら、目的地へと向かった。

それにしてもウィーズリー家、五兄妹以外にあと二人成人した子どもがいるとは。オレも子沢山だと思ってはいたが、それを越えるぞ?

 

まぁそれはともかく、オレ達は四時ごろにはウィーズリー家の家、『隠れ穴』に着いた。車から降車すると、ロンが駆け寄り、オレとマリーに手紙の返事がなかった理由を問い詰めてきた。それに関しては、ただ妨害を受けていたことのみを伝え、後程ハーマイオニーにも連絡をいれることになった。

 

荷物の整理をしているとすぐに夕食の時間となった。が、流石に人数が多いため、外に机を出して食べることになった。そこに家主のウィーズリーさんが帰ってきた。ふむ、挨拶をせねばな。

 

 

「やぁやぁただいま諸君!」

 

「「「「おかえりなさい」」」」

 

「いや~今日も疲れたよ。でもお客さんが来るからな、張り切って終わらせてきた!! で、君たちが?」

 

「お初にお目にかかります、シロウ・アインツベルン・エミヤです」

 

「初めまして、マリナ・ポッターです。マリーとお呼びください」

 

「これはこれは、初めまして。私はアーサー・ウィーズリーだ。この子達の父親だよ。ここにいる間はリラックスしていると良い。特にマリー、君も色々と大変だろうからね」

 

 

アーサーさんはそうにこやかに言い、着替えにいった。

成る程、ウィーズリー一家のこの暖かな空気。その大本はアーサーさんとモリーさんだったのだな。他人が世間でどう言われてようと、全てを受け入れる包容力。それはたしかに子供らにも受け継がれている。まさに暖かな家族のみほ……ッ!?

 

魔術の気配だと!? 馬鹿な……何故!?

 

隣に立つマリーも、その敏感な感性から何かが来ることを察知したらしい。隠れ穴からウィーズリー夫妻も駆け出してきた。夫妻は子供らを後ろに下がらせ、オレと同じく、庭のある一点を見つめていた。既に杖も準備している。

オレは懐に手を入れ、黒鍵を一本用意した。魔術の気配が大きくなる。オレは黒鍵を取り出し、いつでも投擲できるように構えた。マリーはウィーズリー兄妹のところまで下がらせている。

 

突然空間に球状の亀裂が入った。そして地面に大きな魔法陣が形成され、虹色の輝きを放ち始め……って、はい? これは万華鏡の世界移動の術式じゃ? 思わずオレは構えを解いてしまった。

 

オレが構えを解いたことにウィーズリー家とマリーが訝しんでいたが、それもすぐに表情を驚愕に変えた。オレも目が飛び出すかと思った。

 

 

「わーい!! ギュ~!!」

 

「ほらほらシィちゃん、走らないの。久しぶりねシロウ、元気だった?」

 

「……色々と聞きたいけど、何で父さん子供になっているんだ?」

 

 

魔法陣の光が消えた途端、幼子がオレの足にしがみついて頬を擦り付け、銀髪赤目の美女が少し大きめの荷物を持って幼子についてき、最後に中折れハットを被った少年が出てきたのだ。間違えようがない。

 

オレの妻であるイリヤと息子の剣吾、娘のシルフェリアだった。

 

 

「な、何故?」

 

「あら? 剣吾もそうだけど、てっきり万華鏡殿が話しているかと」

 

「何も聞いてないぞ?」

 

「カッカッカッ!! 成功だな!!」

 

 

家族の後ろには、高笑いしている貫禄のある老人の姿が。あのハッチャケ爺の仕業かあァァァァァアアアアッ!!

 

 

「……剣吾」

 

「……わかってる」

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ!!」」

 

「今更数えられるか!!」

 

 

オレと剣吾は手に武器(刃もちゃんと付いている)を取り、高笑いを続けるクソ爺に突進していった。全てはあの爺に制裁を加えるため、オレ達は手加減無しで向かっていった。

 

 

 

 

━━ 数分後……

 

 

 

「万華鏡殿、てっきり彼らには話を通しているかと」

 

「なに、あやつらの驚く顔が見たくてな」

 

 

カンラカンラと笑うクソ爺のすぐ側で、オレと剣吾は地に倒れ伏していた。シルフェリア、シルフィはオレと剣吾の顔をつついたり、引っ張ったりと好き放題だ。

 

 

「ハァ……ハァ……あのクソ爺……「ぷにぷに」……いつか絶対に泣かす……」

 

「ハァ……フゥ……その時は……「ぐに~」……ほへおよんへふれ(俺も呼んでくれ)、父さん」

 

「カッカッカッ!! 二万年早い!!」

 

「「クソッ!!」」

 

 

暫くしてオレ達も回復し、唖然としているウィーズリー家のみんなと、マリーに自己紹介することになった。オレ以外の皆が、一列に並ぶ。

 

 

「初めまして、イリヤスフィール・フォン・エミヤ・アインツベルンです」

 

「衛宮・アインツベルン・剣吾です」

 

「シィはシルフェリア・フォン・エミヤ・アインツベルンだよ!!」

 

「は、はあ」

 

「ど、どうも」

 

「「「ん? エミヤ?」」」

 

 

あ、そういえばオレはまだ12才という設定だった。まずい、これは非常にまずい。

 

 

「やっぱりシロウは説明してなかったのね」

 

「う……だ、だがなイリヤ。こんな成りのオレの話なんて、そうそう信用できないだろう?」

 

「まぁわからないでもないけど。万華鏡殿、話しても大丈夫ですか?」

 

「うむ、この者達なら大丈夫だろう」

 

「ですって、シロウ」

 

「だ、だがな……「パパー、抱っこー」……ハァ……」

 

「「「パ、パパ!?」」」

 

「おいで、シルフィ「わーい!! ウェヘヘヘ~」……食事前だから要点だけ話そう。そのあと、質問に答える」

 

 

それからオレは、実はもしもの世界の出身であること。とある事情で元の世界にいられなくなり、別の平行世界に渡ることになったこと。偶々この世界にきたが、その時体が六歳まで若返り、実年齢は三十路に入っていること。オレが普段使っている身体強化等は、全て元の世界の技術であること等々、話しても大丈夫だろう内容は、全て話した。

オレが話し終えて皆の顔を見ると、心の整理がついてないようだった。2、3分ほど経過して、マリー、ロン、ウィーズリー夫妻がまず復活した。

 

 

「……やっぱりシロウ、年上だったんだ」

 

「僕漸く納得いったよ」

 

「私たちとあまり変わらないのでは、アーサー?」

 

「そうだね、モリー。まさか息子の友人が……ダンブルドアはこの事を?」

 

「ええ、既に知っております」

 

「成る程……ダンブルドアが信頼なさっているなら、私たちから何も聞くことはないよ」

 

 

アーサーさんがそう言い、隣のモリーさんもにこやかに頷いた。やはりすばらしい程の包容力だな。と、復活したパーシーがこちらに近づいてきた。

 

 

「えっと、あの。シロウ……さん?」

 

「シロウで良い。君もその方が呼びやすいだろう。それに敬語もいらんよ」

 

「じゃあお言葉に甘えて、僕から質問が一つだけある」

 

「君はこの世界で何かしよう、ってわけで来たんじゃないんだね?」

 

 

その言葉に最初に反応したのは、イリヤだった。

 

 

「ちょっと。その言い方はないんじゃない?」

 

「仕方がないさ。ここではつい12年前まで、誰も安心できない世の中だったんだ。警戒するのもわからないでもない。だからイリヤ、その怒気を抑えてくれ」

 

 

オレはイリヤを宥めつつ、パーシーの方へと顔を向けた。当のパーシーはシルフィから突っかかられて困っているが。

 

 

「にぃに!! このお兄ちゃんパパを苛める!!」プンプンッ

 

「苛めてないから。少し難しい話をしているだけだよ」

 

「むぅ~」頬っぺた膨らませ

 

「大丈夫だよ、シルフィ。さて、君の質問だがパーシー。オレにそのつもりは毛頭ない」

 

「……そうか。わかった」

 

 

パーシーはオレの答えに納得したのか、それ以上は聞いてこなかった。と、フレッドとジョージの腹がなった。まだ夕食を食べていなかったな。

 

 

「それより今はメシ食おうぜ?」

 

「俺たち腹が減って」

 

「そうね、そうしましょう」

 

「ええ、わかりました。イリヤ達は?」

 

「シィとママは食べた!!」

 

「は?」グゥ~~~~

 

 

シルフィの言葉に剣吾が反応すると同時に、剣吾の腹が鳴った。成る程、どうやら剣吾が依頼をこなしている間に、イリヤ達は食べ終えたのだろう。……気持ちはわかるぞ、剣吾よ。

と、地面に膝をついている剣吾の元に赤毛の少女、ロンの妹のジニーが近寄っていった。気のせいか? 若干頬が赤いような気がせんでもないが。

 

 

「あの……」

 

「ウェ? えっと……どなたですか?」

 

「ジネブラ・ウィーズリーです。ジニーと呼んでください」

 

「あ、うん。よろしく」

 

「はい。よ、よろしくお願いたします。そ、それでですね。その……もしよければ、い、一緒に夕食食べませんか?」

 

「え? でもそれは……」

 

「ママ、大丈夫?」

 

「問題ないわ。てことであなたもどう?」

 

「しかし……」

 

 

剣吾は渋っていたが、結局モリーさんの言葉攻めに敗れ、夕食を共にすることになった。オレも息子も、女性には勝てないのだな。特に裏表のない、純粋な厚意には。何か悲しくなってきた。

イリヤ達も席につき、漸く夕食となった。万華鏡は既に帰っている。イリヤとシルフィには、お茶と茶請けを用意した、オレがな。

オレの隣には、イリヤとマリー、シルフィはイリヤの膝の上だ。向かいに座る剣吾の隣には、ロンとジニーが……って、やはり気のせいでないか。

 

 

「なぁイリヤ、あの子」

 

「ええ、間違いなくそうね」

 

「「剣吾、また一人落としたのか(のね)」」

 

「しかもこの世界における、あなたの友人の妹」

 

「確か一成の娘もだろう?」

 

「ま、父親の血を強く引いたんでしょう」

 

「うぐ……」

 

 

イリヤの口撃が地味に痛い。まぁこれに関しては、剣吾に任せるしかないな。オレからは下手に手は出せないし。

 

 

「シロウ、イリヤさんのお尻に敷かれてるね」

 

「アハハ!! そうね、マリーの言う通り!!」

 

「ぐっ、言わないでくれ、マリー」

 

 

まさかの挟み撃ち、オレのライフはもう残り少ない。剣吾、お前は同情する目でこちらを見るな。っと、ジニーが顔を赤くしながら剣吾に手拭きを渡した。オレとイリヤ、モリーさんは自然と顔を綻ばせた。アーサーさんとロン、パーシーは複雑そうな顔をし、フレッドとジョージはニヤニヤしている。

アーサーさん、家の息子がすみません。

 

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「ふぇ!? な、何?」

 

「「あらあら、なにも?」」

 

「「「……」」」

 

「「ニヤニヤ」」

 

「!! ~~~~……」

 

 

双子のニヤニヤ笑いに止めを刺され、ジニーは撃沈し、食べ物を口に運び始めた。そこでパーシーが手を伸ばして剣吾の肩を掴んだ。気のせいか、少し力が入ってるような?

 

 

「……剣吾君」

 

「は、はい?」

 

「ジニーを泣かせたら許さないからな」

 

「ウェイ!?(;OwO) ダディイッデルンディス!?」

 

「いいな?」

 

「は、はい!!」

 

 

……パーシーよ、君はもしかしなくても、シスコンなのか? って嗚呼嗚呼、またシルフィに突っかかられてる。シルフィはどうもパーシーが気に入らないみたいだな。この子が他人を気に入らないとは、珍しい。

 

 

「そういえばイリヤさん達は、今夜どうするんですか?」

 

 

モリーさんがイリヤに質問をした。確かに、今晩どうするつもりだったんだ?

 

 

「近くの宿を探そうかと、無ければ野宿をします。あと敬語とさん付けはいりませんよ」

 

「ならあなたも敬語とさん付けはいらないわ。それにしても野宿?」

 

「わかったわ。ええシルフィは兎も角、私と剣吾は慣れてるから」

 

「ならうちに泊まっていかない?」

 

「え? でも一週間程いますよ?」

 

「大丈夫よ!! 部屋は何とかなるわ!! アーサー?」

 

「勿論ですとも。是非とも泊まってください」

 

 

イリヤも剣吾同様渋っていたが、ウィーズリー夫妻の波状口撃にやはり撃沈した。どうもオレ達家族は、百パーセント善意の口撃に弱いらしい。あれよあれよといううちに、部屋割りも決まってしまった。

剣吾とロン、フレッドとジョージが同じ部屋に入り、イリヤはマリーとジニーと同じ部屋。オレはパーシーとシルフィと同室になった。頼むイリヤ、どうかオレの幼少の頃の話を暴露しないでくれよ? 剣吾も、フレッドとジョージにオレのことを話さないでくれよ? あの双子に聞かれると、色々とネタにされてしまう。

 

そんなこんなで入浴も済ませ、俺達は床に入った。パーシーは自分のベッドに。オレは床にマットを敷いて寝転がり、シルフィはオレの上に乗っている。

 

 

「うにゅ……パパとおねんね……」

 

「流石に疲れたのだろう。けっこうはしゃいでいたからな」

 

「こうしてみると、シロウがお父さんと呼ばれても不思議じゃないね」

 

「少なくとも十四年は親をしていたのだ。であれば自然とな」

 

「……前に言った、見た目が全てではないって言葉。あれはシロウ自身が体現しているよね」

 

「言わないでくれ。オレもまさか体が六歳まで若返りするとは思わなかったのだ」

 

「ハハハ」

 

「くぅ~~~……」zzz

 

 

シルフィがオレの左腕に頭をのせ、寝息をたて始めた。

 

 

「寝たな。なら俺達も寝るとするか」

 

「そうだね。まだ色々と聞きたいけど」

 

「なに、時間はまだあるさ」

 

「……パパ……だいすき……」

 

「父親冥利に尽きるんじゃない?」

 

「まったくだ。おやすみ、パーシー」

 

「ああ、おやすみなさい。」

 

 

別の部屋で騒ぐフレッドとジョージ、剣吾とロンの声を聞きながら、オレ達は眠りについた。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。


今回は2015年、最後の投稿です。
次回は年明けに投稿させていただきます。
番外編にするか、本編にするかは決めていません。

因みにシルフィちゃん、マリーにはとてもなついており、マリーもシルフィを可愛がっています。


では今回はこの辺で。

皆さん、良い年末年始を






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3. 父 vs 子


明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

というわけで新年一発目、本編です。
番外編のお正月ネタは、今回は無しにしました。


それではごゆるりと







 

 

明くる朝、いつも通り早くに目が覚めた。シルフィはオレの上に覆い被さるようにして、熟睡している。パーシーは普段の几帳面さから想像できないほど、寝相が悪いらしい。布団を蹴飛ばしている。シルフィは蕩けそうな顔をして、口をだらしなく緩ませている。

むぅ、シルフィを見ていると罪悪感が湧いてくるな。それほどにまで、寂しい思いをさせていたのか。こちらにいる間は存分に甘えさせてやるか。

そう思いつつトレーニングウェアに着替え、シルフィを寝たまま抱き抱えて階下に向かった。イリヤとモリーさんは既に起床していたようで、オレはシルフィを二人に預けて外へ出た。庭でストレッチをしていると、同じく着替えた剣吾も来た。

お互い無言で日課をこなしていると、続々と皆も起きたようで、着替えて此方を見物していた。シルフィも起きたようで、今はマリーの膝の上に座り、此方を見ている。

 

 

「……毎度毎度思うのだが、見ていて楽しいか?」

 

「う~ん、わかんないな。正直昔から見ていたから私の習慣なのかもね」

 

「そうか」

 

「……シロウが前言っていた鍛練内容。あれ本当だったんだな」

 

「剣吾までやってるし」

 

「それに二人とも喋る余裕もある」

 

 

見物人に声をかけつつ、オレと剣吾は互いの日課を終わらせた。少し汗をかいたか。朝食の前に水で流すかな。剣吾もそうとう汗をかいているみたいだし。

 

 

「二人とも終わった?」

 

「終わりました」

 

「ええ、私も」

 

「そう、なら着替えて手伝って?」

 

「「了解(した)」」

 

 

モリーさんとイリヤに言われ、オレ達は急いで服を着替えた。やはり人数が人数なので、外に机を出して食べるようだ。朝食のメニューはイリヤが中心に作ったらしく、和風なものになっている。む、オレがいない間にまた腕を上げたか。いずれ追い越されるのでは?

そういえばこの世界では、マリー以外に和風料理を食べさせたことはなかったな。果たして口に合うだろうか?

 

 

「!! 美味しいわ、イリヤ!! これはどうやって作ったの?」

 

「ああ、これはこの食材をこうしてね? 因みにこれはどう作ったの?」

 

「ああ、これはね……」

 

 

母親達は料理談義に入ったか。他の皆も気に入ってくれたようだ。ジニーも隣に座る剣吾が気にならない程に夢中になっている。って。

 

 

「ほらシルフィ、口の周りについてるぞ? こっち向いて」

 

「うむぅ? んん、これでだいじょうぶ?」

 

「ああ、キレイになった」

 

「あい!! おくちキレイ!!」

 

「……シロウがお父さんやってる」

 

「でも学年は僕らより下なんだよ? フレッド、ジョージ?」

 

「「不思議だぜ」」

 

 

聞こえてるぞ、ウィーズリー四兄弟。不思議とは失礼な。しかしシルフィも、多少口のまわりは汚すが、あとは大丈夫そうだな。イリヤ達の教育が良いお陰だろう。……剣吾よ。そういう同情する目でこちらを見るな。良いのだ、凛のうっかりには慣れているから。

 

 

「そういえば剣吾君?」

 

「何ですか、マリーさん」

 

「剣吾君とシロウってどっちが強いの?」

 

「あ、僕も気になってた」

 

「僕もだな」

 

「「俺も」」

 

 

マリーの質問に、ウィーズリー四兄弟が食いついた。モリーさんとイリヤの母親陣はこちらをほうっているが、アーサーさんとジニーも興味津々な目でこちらを見ている。

 

 

「さぁ、わからないです。父さんじゃない」

 

「昔は兎も角、今は体格が余り変わらないからな。試さねばわからんだろう」

 

「じゃあメシのあとに本気で試合したら?」

 

 

ジョージの一言で場が盛り上がる。が、

 

 

「「いや、それはやめた方がいい」」

 

 

オレと剣吾の一言で、皆が疑問の目を向けた。マリーは何かを察したようだ。

 

 

「どうしてだ?」

 

「ちょっと色々とありまして」

 

「オレ達が本気でぶつかり合ったら」

 

「「ここらが更地になるぞ(なりますよ)?」」

 

「「「「……は?」」」」

 

 

そうなのだ。いつもは万華鏡が結界を張ってくれるから良いのだが、結界がないと確実に更地を量産する。オレ達が本気でぶつかる、ということはそれを意味するのだ。そこで暫く頭を捻っていた剣吾が、何かをひらめいた顔をした。

 

 

「そうだ父さん、固有k……「「駄目だ(よ)」」……え?」

 

「あれは矢鱈に見せるものじゃないわ。こちらでも禁呪に入るものよ」

 

「それにお前はまだ若い。失敗したときのことを思うと、まださせられん」

 

「父さんまで……」

 

 

オレとイリヤの言葉に、剣吾は暫く渋っていたが、やがて理解はしたようだ。自分は17歳のときに使っただろうって? あれ以来魔術が完成するまで使用禁止だった。って、オレは誰に説明してるんだ?

 

 

「だが純粋な体術ならば大丈夫だろう。アーサーさん、少し広い場所はありますか?」

 

「向こうの方が大丈夫だよ。私も気になってたものでね。是非とも見せてくれ」

 

「というわけだ、食べ終わったら用意しておけよ? オレは先に行ってる」

 

「……ハァ。男の子って本当に……」

 

 

イリヤは呆れた表情を浮かべつつ、食べ終えた人の皿をモリーさんと片付けて、小さな麻袋を片手に下げて着いてきた。オレは着替えて、剣吾が来る前に木製の槍を一本、二振りの木剣を投影しておいた。剣吾も着替えてくると、オレから槍を受け取り、少し離れて構えた。

 

 

「ジョージ、剣吾が勝つ方に夕食一品」

 

「じゃあ俺はシロウに一品な」

 

 

双子は賭けをしているようだ。正直やめてほしいが、金が絡んでないだけマシか。剣吾は槍先を下に向け、オレは両腕をだらんと下げるようにして剣を構える。

 

 

「……なんだろうね、パーシー、ロン。この変な圧迫感は」

 

「僕はわかんないよ、マリー」

 

「僕もだ。父さん達は?」

 

「……あなたたちはまだ経験したことがないと思うから、わからないのも当然よね」

 

「……一流の戦士が相対するとき、互いに打ち負かすという気合いのようなものが、私達第三者には圧力として感じるんだ」

 

「それは魔法使いの決闘でも同じよ?」

 

「でもそれでもこれ程迄に荒々しいものでもない。これ程のレベルは、ダンブルドアクラスの熟練者同士の決闘じゃないと……彼らは一体……」

 

 

ウィーズリー一家の会話も次第に聞こえなくなり、オレは目の前の剣吾はのみが目に入る。剣吾も同じようで、オレから一切目を離さない。イリヤも、認識阻害の結界を張り終えたらしく、こちらに戻ってきた。

 

 

「準備はいいわね? それじゃあこれから三分、始め!!」

 

 

イリヤの掛け声と共に、オレは前へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

まずはシロウが動いた。

突然消えたと思ったら、剣吾君と真正面からぶつかってた。

剣吾君、今の反応できたの?

それからシロウは一度後ろへと飛ぶと、回り込むようにして猛スピードで剣吾君に近づいた。

そこからは何をしているか、わからなかった。木がぶつかり合う音が右に左にと移っていき、どこにいて、何をしているかわからない。膝の上のシィちゃんには見えてるのか気になり、顔を覗き込むと、更に驚愕した。

シィちゃんはいつもの愛らしい笑顔を引っ込めて、真剣な表情で目を動かしている。

まさか、シィちゃんには見えているの? それとも見えてないのは私だけ?

 

 

「……フレッド」

 

「言うな、ジョージ」

 

「「父さん(パパ)……」」

 

「安心しろ。私にも見えてない」

 

「母さんにも見えないわ」

 

 

どうやら見えてないのは私だけではないみたいだ。ウィーズリー一家のみんなも見えないらしい。ジニーも何が何だかわからない、という顔をしている。私は気になって、シィちゃんに話しかけた。

 

 

「シィちゃん」

 

「なに? マーちゃん?」

 

「シィちゃんには見えてるの?」

 

「うん。にぃにとパパが、木の棒でガツンってやってるの。いまあっちにとんでったのがにぃにだよ? パパがにぃにをえいっ!! って押したの」

 

 

どうやらシィちゃんには見えてるようだ。エミヤ家って一体……

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

Side back to シロウ

 

 

何度か槍と剣が交差し、剣吾は大振りの足払いをかけてきたから、オレはそれを跳んで避けた。そして宙にいる状態で、木剣を剣吾のがら空きな背中に叩き付けた。

だが剣吾もそう甘くはなかったようで、足払いの勢いを利用して槍を背に回し、オレの一撃を防いだ。

オレは剣を交差させて無理矢理押し込み、剣吾はそれを流そうとして後方へと飛んでいった。

 

体勢を立て直した剣吾は獰猛な笑みを浮かべ、こちらに突進してきた。攻勢は剣吾へと移り、ありとあらゆる箇所に突きを放ってくる。オレは二本の剣を駆使し、突きを受け流していく。

また足払いを出してきたので、切りもみ宙返りをしつつ、オレは剣吾から距離を取る。しかし剣吾はそれを予想していたらしく、オレが地につくと同時に再び猛攻を重ねてくる。

 

高跳びの要領で空へと上がった剣吾は、空中で切りもみ回転をし、その遠心力で加速した槍をオレに叩き付けてきた。オレはそれを二本の剣を交差させて防ぐ。そして一度はね除け、蹴りを出すが剣吾は槍で防ぎ、再度叩き付けた。

 

オレはバックステップでその一撃をかわし、次いで出される蹴りをも避ける。すると剣吾はオレから距離を取り、クラウチングスタートの体勢を取った。

 

あれは……蒼き槍兵のランサーの投擲の体勢。まさか剣吾は槍を投げるのか?

 

剣吾は先程よりも更に笑みを濃くし、一気にトップスピードで走り出し、そして空へと跳び上がった。

間違いない。あれはランサーの『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』と同じ動きで出される、渾身の槍の投擲。あいつ、完全にスイッチが入ってる。

 

オレは剣の柄頭を組合せ、武器の形状を双身剣にした。そしてオレも地上から投擲する体勢に入る。剣吾は体を弓のように反らし、そのバネを利用して槍を投げ出す体勢に入る。オレは右肩に剣を担ぎ、狙いを剣吾の槍に定め、全身を強化する。

 

 

「ツェァアアラアアア!!」

 

「カァァァアアアアア!!」

 

 

互いに全力で槍を投擲する。槍は互いにぶつかり、一瞬だけ球状の衝撃波を発生させ、そして二本とも粉々に砕け散った。しかしまだ試合は終わっていない。

オレは強化したまま走り出し、一気に剣吾との距離を詰めた。そして空手の基礎技の1つ、正拳突きを地についたばかりの剣吾の腹へとつき出す。

 

 

「そこまで!! 三分経過よ」

 

 

イリヤのやめが掛かる。

オレは剣吾の腹に拳が当たる直前で止める。剣吾はオレの最後の突きに反応できなかったようだ。

久しぶりの親子対決は、オレの勝利という形で終わった。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

改めまして、明けましておめでとうございます。

いかがでしたか?
今回は父と息子をぶつけてみました。そしてそれを目で追えるシィちゃん。
マリーさんの疑問も当然かと。

さて、次回からダイアゴン横丁編です。


それでは今回はこの辺で

感想お待ちしております。



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4. 試合後と書店にて



更新です。


それではごゆるりと






 

 

寸止めした拳を引くと、剣吾は大きく息をしながら地に座り込んだ。汗も滝のようにかいている。そうとう疲労がきたのだろう。今日は昼はスタミナのつくメニューにするか。だがその前に、だ。

 

 

「剣吾」

 

「ん?」

 

「そぉい!!」ゴツンッ!!

 

「オンドゥルッ!? 何すんだ父さん!?」

 

「何すんだ、じゃない。全く、スイッチが入ってたぞ?」

 

「うっ……」

 

「オレが咄嗟に投擲に切り替えてなかったら、ここらに巨大なクレーターが出来上がるところだった。オレとの試合を楽しむのはいいが、周りが見えなければ話にならんぞ?」

 

「そうよ? 今回はシロウが何とかしたけど、そもそもここは人様の土地なんだからね? あなたそれ失念してたでしょう、剣吾?」

 

「にぃに。やりすぎはメッだよ?」

 

「……ウィーズリー一家の皆さん、やり過ぎてすみませんでした」

 

 

オレとイリヤの説教、そしてシルフィの止めの一言に、剣吾はウィーズリー一家に頭を下げた。アーサーさんとモリーさんは戸惑いつつも、にこやかに気にしないよう剣吾に告げた。

 

 

「それにしても、シロウ君に剣吾君。君たちすごいね。私達は君らが何をしているか、全くわからなかったよ」

 

「魔法使いの決闘とは比べ物にならない程の戦いだわ」

 

 

アーサーさんとモリーさんは手放しにオレ達を称賛するが、正直対応に困る。魔法使いの決闘がどのようなものかはわからないが、正しく騎士道のように、礼節に則ったものだろう。だがオレ達の試合は、負け=死、の殺し合いなのだ。余り、いや、決して誉められるようなものではない。

と、マリーとジニーがタオルを持ってこちらに近寄ってきた。因みにイリヤからは、麻袋から取り出した水筒を既に受け取っている。

 

 

「はい、シロウ。汗かいたでしょ?」

 

「ああ、ありがとうマリー」

 

「け、剣吾さん。よければこれを使ってください……」

 

「ウェ? あ、どうもです、ジニーさん」

 

「い、いえ……」

 

 

おや、早速アピールか。ジニーは活発な少女らしいのだが、どうも恥ずかしいとしおらしくなるようだ。まぁオレとしては、彼女が義理の娘になるのは吝かではないが。

 

さて、そろそろ着替えて昼食の準備をするか。

オレはパーシーと剣吾、シルフィを置いて他の面子と共に、隠れ穴へと戻っていった。後ろから剣吾の助けを求める声がしたが、無視だ無視。オレと同じ経験をするがいい。それが今回の罰だ。

 

 

「オンドゥルルラギッタンディスカッ!?」

 

「剣吾君、こっちを向きたまえ」

 

「にぃにをいじめるなー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べたのち、オレ達は煙突飛行という方法で、『ダイアゴン横丁』へと向かった。

この煙突飛行、中々便利なのだが如何せん、発音が少しでも違うととんでもない場所から出てしまう、煙突間の空間転移のようなものらしい。これは凛が見たら発狂ものだな。イリヤも目を丸くしていたし。

 

で、だ。

気を付けてはいたんだが、オレとマリー、剣吾は発音を間違えてしまい、『夜の闇(ノクターン)横丁』と呼ばれる陰湿な街道の、とある店に出てしまった。幸い店から出たときにハグリッドと偶然出くわしたため、オレ達三人は、集合場所である『漏れ鍋』へと辿り着くことができた。この夜の闇横丁、どうやらダイアゴン横丁のすぐ隣に位置するらしい。

 

漏れ鍋に入ると、既に皆は揃っていた。客はオレ達一行以外は、今はいないらしい。ハグリッドも休憩がてら、マスターのトムさんに紅茶を頼んでいる。と、イリヤの膝の上のシルフィのもとに、トムさんがアイスを持っていった。あとで代金を払わねば。

そういえば、ダンブルドアから個人的な手紙が来ていたな。何でもマリーの護衛料として金を振り込んだとか。ご丁寧にオレ名義で金庫をつくり、鍵まで送ってきた。あとで確認しておこう。

まぁそれはさておき。

 

 

「はいお嬢さん、アイスクリームだよ」

 

「ありがとう、おじちゃん!!」

 

「すみません、わざわざ」

 

「いえいえ、子は宝ですから。子供の笑顔は、見る人を幸せにしますからね」

 

 

成る程な。

 

 

「トムさん」

 

「おや? これはこれは、お久し振りです、シロウさん」

 

「ええ、お久し振りです」

 

「あっ、パパきたー!!」

 

「おやおや、やはりシロウさんのご息女でしたか」

 

「ええ、はい……ん? すみません、今なんと?」

 

 

今、トムさんから聞き捨てならない言葉が放たれた。

 

 

「この子はシロウさんの娘さんでしょう? それからあなたの後ろに立つ少年。彼は息子さんかな?」

 

 

……バカな。看破したというのか? 何故わかった? ウィーズリー一家もマリーも、イリヤでさえも、目が飛び出るのではというほどに目を見開き、顔を驚愕に染めている。シルフィはアイスクリームに夢中になっているが。

 

 

「……なぜ?」

 

「面影、ですね。あとは一年ほど前に見た、料理の手際から」

 

「「「……」」」

 

「見た目と技量が釣り合ってませんでしたから。何となく想像はしてましたよ?」

 

「……やはり色々と凄い人です、あなたは」

 

「ふふふ、ああ安心してください。言いふらしたりはしませんよ」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

「おじちゃん、アイスクリームありがとうございました!!」

 

「おやおや、どういたしまして。美味しかったかな?」

 

「うん、すっごく!!」

 

「それは良かった」

 

 

結局トムさんは代金を受け取らなかった。その代わりにと、オレが持つレシピを一品求めてきた。オレは断る理由もないし、何より彼の厚意に感謝しているため、快くそれを渡した。

 

子は宝、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

トムさんの洞察力には本当に驚いた。まさか一目で剣吾君とシィちゃんが、シロウの子供ってわかるなんて。みんな唖然としてたよ、勿論私も。

まぁそれはさておき、私達は再びダイアゴン横丁の喧騒に足を踏み入れた。一年前と変わらず色とりどりで、人で賑わってる繁華街に、剣吾君に肩車してもらってるシィちゃんは、目をキラキラと輝かせていた。

 

 

「……不思議ね」

 

「ん? どうしたんだ、イリヤ?」

 

「この世界の魔法界って、私達と違って暖かい」

 

「ああ、それはオレも感じた。魔術師ならともかく、魔術使いにとっては、これ以上にない住みやすい世界だろうな」

 

 

シロウとイリヤさんが真面目な話をしているのが聞こえた。話の内容からすると、シロウ達がいた世界は、物凄く物騒で排他的みたい。

もしかしてその過程であれを見たのかな? 結構頻繁に私が見る、一人の男の人の夢。紅い外套を纏って剣の丘に独り立つ、悲しい男の人の記憶のようなものの。

 

ふとシロウの後ろ姿が、その男の人と重なった。

初めて夢を見た日から何度も、シロウに男の人について聞こうと思った。でもどうしてか、聞こうとする前に、私自身が躊躇ってしまう。まるでまだ聞くのが早い、とでもいうかのように、私はその質問を言葉に出せなかった。

結局私は、今回もシロウに聞くことができなかった。

 

 

 

ゴブリンが経営するグリンゴッツ銀行からお金を引き出し、私達は『フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店』へと、教科書を買いに向かった。途中でハーマイオニー一家とも出会ったので、私達は結構な大所帯となった。

 

今年の教科書、基本呪文集以外は、全てギルデロイ・ロックハートと呼ばれる人の著書だった。この人、そしてこの人の書く本は、巷で大流行らしい。しかもとても高価ときたものだ。

そしてこの人が人気の理由。ファンの人の会話によると、なんでもチャーミングなスマイルが素敵なんだとか。私はそうは思わないけど。ハーマイオニーもジニーも、胡散臭げだった。

 

それに正直変な感じがする。この人、笑顔は仮面を張り付けたような感じで、その裏には汚いものが隠れてそう。加えて一冊手に取ったけど、中身はスカスカ、まるで他人の手柄を自分のもののように語る、いわゆるペテン師の香りがした。

その事をシロウとイリヤさんに言うと、二人とも感心するような目を私に向けた。

 

 

「シロウ、この子将来有望なんじゃない?」

 

「ああ。本人に自覚はないが、人としても、魔法使いとしてもいい人間になる。加えて『力』について、充分過ぎるほどの答えを持っているしな」

 

「そう。シロウがそこまで言うということは、いい想いと答えを持っているのね。ねぇマリー?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「私は、あなたがどんな想いを持っているかわからない。でもシロウが手放しに称賛するということは、それが本当に素晴らしいものだという証よ。だから、努々その想いを無くさないようにね?」

 

「はい!!」

 

 

どうやらシロウの奥さんに認められたみたい。何だろう? すっごく嬉しい。

 

 

「うーん、この子なら四人目になっても私はOKかな」

 

 

イリヤさんが何か言ってたけど、声が小さくてよく聞こえなかった。まぁいっか。

その後、私とハーマイオニーは自分で教科書を購入したけど、ウィーズリー一家のぶんは、なんとシロウとイリヤさんが出費した。アーサーさんとモリーさんは驚き、慌てて二人を止めようとしたけど、逆に押し込められていた。曰く、「宿代と性分」なんだとか。

 

すると突然、書店の中で黄色い歓声が上がった。何でもギルデロイ・ロックハート本人が登場し、サイン会をするようだ。ロックハートは仮面のような笑顔を振り撒きながら、意気揚々と出てきた。私達は興味がなかったため、さっさと退散した。いや、しようとした。

 

 

「……もしや、マリナ・ポッターでは?」

 

 

ロックハートがそう一言発すると、私は誰かに強い力で腕を引っ張られた。そしてシロウ達から引き離された。誰が引っ張っているか見ると、カメラを構えた小柄な人だった。気がつけば私の回りは人で囲まれていた。

 

 

「ッ!! 離してください!!」

 

「日刊予言者新聞、一面大見出し記事ですぞ!!」

 

「いやです、離して!!」

 

 

強い力で引っ張る人に、私は必死で抵抗した。記事なんてとんでもない。誰が好き好んで、ペテン師と写真を撮られなければならないのか。周りの人も私を助けず、逆に羨ましげな目を私に向けていた。全く羨ましい状況ではない。

暫く抵抗していると、誰かもう一人私の腕を掴んできた。目だけ向けると、私は更に力を込めて抵抗した。なんとロックハート本人も私を引っ張っていたのだ。

 

 

「さぁこちらへ!! 一緒に写真を撮ろう!!」

 

「いやです、離して!!」

 

「そう恥ずかしがらないで!! さぁ、さぁ!!」

 

「いや!! お願い、離s……「「おい(ちょっと)!!」」……ッ!! シロウ!! イリヤさん!!」

 

「何でしょうか、マダム?」

 

 

私達がジタバタしてるところに、エミヤ一家がやって来た。ウィーズリー一家は外に待たせているらしい。

イリヤさんを見たロックハートは、仮面のような笑顔を張り付け、イリヤさんに向き直った。シロウの目が少しだけ険しくなった。周りを取り囲んでいた魔法使いのうち、大多数の魔女はロックハートの仮面にメロメロになっていた。

でもエミヤ一家、シィちゃんまでもが、ロックハートに対して冷たい目を向けていた。

 

 

「先ずは彼女の腕を離せ」

 

「いや、しかし記事の写真が……」

 

「「離せ(離しなさい)」」

 

 

シロウとイリヤさんの気迫に、カメラマンは私の腕を離した。私は急いでシロウの後ろに回った。少しだけ落ち着いたので、改めて周りを見渡した。

何人かの魔法使い魔女たちは、シロウとイリヤさんに釘付けになっていた。顔を青くして震えてる人もいる。ロックハートは気がついていないようだけど。

 

 

「いったいどうされたのですか、マダムにミスター?」

 

「あなた、この子が嫌がっていたのがわからないの?」

 

「嫌がる? まさか? 単に恥ずかしかっただけでしょう?」

 

「「「……は?」」」

 

「そうでしょう? マリー?」

 

 

ロックハートは馴れ馴れしく「マリー」と呼んできた。だから私は無視した。この男、何を言っても、自分に都合の良いようにしか解釈しない。恐らく私の無視も、恥ずかしがりと済ませるだろう。

 

 

「ほらほらお嬢さんも、そんな怖い顔を「キライッ!!」……はい?」

 

 

ロックハートは今度はシィちゃんに話しかけた。でも言葉の途中でシィちゃんは拒絶し、私にしがみついてきた。シロウとイリヤさん、剣吾君の纏う空気が更に冷たくなった。

 

 

「何を言って……「シィこのひとキライッ!! マーちゃんいじめる!! このウソつきのひと、シィだいっきらい!!」……え?」

 

 

人懐っこいシィちゃんがこれ程嫌うとは、余程のことなのだろう。その証拠に顔も見たくないのか、私にしがみついて離れない。顔も足に抑えつけてる。

 

 

「そんな恥ずかしがらないで「それ以上この子に近づくな……」……ひっ!?」

 

 

ようやくシロウとイリヤさん、剣吾君の殺気に気がついたようだ。目を回して倒れ、外に運び出されている人もいる。それほどまでに、三人は怒っていた。

 

 

「み、ミスター? いったい何に怒っているのですか?」

 

 

この期に及んで、まだシロウ達が怒る理由がわからないらしい。この人馬鹿なの? シロウもため息を一つついた。

 

 

「……わからないか。ならその程度の人間、ということだ。みんな、行こう」

 

 

エミヤ一家は軽蔑した目でロックハートを一瞥し、私を連れて書店の外へと出た。

その後、薬問屋でマルフォイ父子と出くわしたけど、マルフォイ父がシロウ達に丁寧な応対をしているのが気になった程度で、その日はそれ以上何も起こらなかった。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。


ギルデロイ・ロックハート、私自身このキャラクターはごっつ好かんキャラでしたので、痛い目にあってもらいました。
まぁ余り効き目はないでしょうが。


さてさて次回はホグワーツに向かいます。車はどうなりますかね?


それでは今回はこの辺で





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5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告

更新です。
ついでに『設定 Ⅱ』にて、剣吾とシルフィに追加を加えました。


それではごゆるりと






Side マリー

 

 

それから数日は何も起こることがなく、私とシロウはシィちゃんの相手をしながら、ロンの宿題とジニーの予習を手伝った。ロン、休みの終盤に焦るなら初めからやっとこうね? ジニーを見習いなよ。

そして勉強以外も何も事件は起こらず、シロウが剣吾君の帽子を取り上げたり、

 

 

「まったく、お前はまた帽子を被って。お前にはまだ早い」

 

「おぁっ!! それ俺の~……」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、何も言ってません」

 

「だろうな。イリヤ、これを頼む」

 

「はいはい。これはお預かりね」

 

「うそーん……」

 

 

シロウがシィちゃんのボディープレス、『トペ・アインツベルン・パート2』をくらって悶絶することになったり、

 

 

「パパー!! どーん!!」

 

「星!? 星が見えたスターッ!?」

 

 

剣吾君にジニーがアピールして、その都度パーシーが過剰に反応してシィちゃんに突っかかられて皆から白い目で見られたり、

 

 

「あ、あの……」

 

「ウェイ? あ、ジニーさん。どうしたの?」

 

「ええっと……こ、このクッキー良かったらどうぞッ!!」

 

「え? あ、どうもありがとう。美味しそうだね」

 

「い、いえ……」

 

「あ、行っちゃった。俺避けられてる? でもクッキー貰えるってことは嫌われてはいないはずだけど……」

 

「けーんーごークーン……ジニーに何したのかな……?」

 

「ウェイ!?(;OwO) パ、パーシーザン? ナ、ナズェミテルンディス!?」

 

「聞かせてもらおうか……ジニーに何をしたぁ!!」

 

「逃げるべし!!」

 

「待ちたまえ!!」

 

「にぃにをいじめるなー!!」

 

「「「「……パーシーは馬に蹴られるといいよ」」」」

 

 

フレッドとジョージの悪戯に剣吾君が参加して、イリヤさんにバレて一時間以上折檻を受けたり、

 

 

「アハハハ、剣吾。何してるのかな?」

 

「げっ!? 母さん!?」

 

「ちょ~っとお母さんとO☆HA☆NA☆SHI☆しましょうか?」

 

「あ、あああ、ああぁぁぁああああああ……!?」

 

「あれ? にぃには?」

 

「どこだろうね? 一緒に探そうか?」

 

「うん!! マーちゃんとさがす!!」

 

 

といったふうに、何事もなく平穏無事に過ぎていった。

 

そしてイリヤさん達は、新年度が始まる前日に元の世界へと帰っていった。そのとき、剣吾君がシロウに綺麗な紅い宝石と、同じく紅い宝石のついたネックレス、そしてもう一つ別のネックレスを渡していた。

紅いネックレスはシロウが身に付けていたけど、余程大事なものなんだろう、とっても優しい表情でそれを眺めていた。

 

九月一日、私達はキングスクロス駅からホグワーツ特急へと乗るために、目的の柱へと向かった。ウィーズリー一家を先行させて、続けて私とシロウの順番で柱を通ろうとした。

けど何故か柱に阻まれてしまった。私の荷物を乗せたカートは柱にぶつかり、音をたてて横に倒れてしまった。周りの人達の視線が痛い……。

 

 

「君たち、何をしているんだ?」

 

「すみません、カートが言うことを聞かなくて」

 

「ん? そうかね?」

 

 

近くにいた車掌さんから話しかけられたけど、何とか誤魔化した。いったいどうして通れないんだろう? 一応出発までまだ時間はあるから、それまでに解決すれば大丈夫だろうけど。

私がそう考えていると、シロウがアゾット剣を取りだし、周りから見えないようにしながら地面に差し込み、何やらブツブツと呟いた。すると何か膜のようなものが、アゾット剣を中心にして広がった。

 

 

「シロウ? 何してるの?」

 

「認識阻害、及び遮音結界だ。少し待ってろ」

 

 

シロウはそう言うと、片手を柱に当てて目を閉じた。すると一年前のホグワーツと同じく、シロウの手を中心にして、淡い緑色の線が蜘蛛の巣のように、柱一面に広がった。今回は辛そうな顔はしていない。

暫くするとシロウは手を離し、変わりに変な短剣を取り出した。

その短剣は刃の部分が歪な形をしていて、且つ虹色の光沢を放っていた。ただし、ゼルレッチさんの短剣のような神々しいものではなく、禍々しい輝きだった。

シロウは慎重にその短剣を、柱のある一点に触れさせると、パキンッと何かが割れるような音が小さく鳴った。

 

 

「これでよし。妨害していたものだけを解除した。他のに触れなくて良かった」

 

 

シロウはホッとしたような表情を浮かべ、私を連れて柱へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

何かしてくるとは思っていたが。あの下僕妖精、やはり妨害してきたか。とりあえずあれが仕掛けた術式だけを解呪することはできたが、ホグワーツでも色々とやって来るだろう。

それにジニーの荷物に、魂憑道具の類いが紛れ込んでいた。しかも怨霊悪霊の類いときたものだ。一応夫妻には警告し、何かしら手を打つことで理解はしてもらった。無論、納得はしてもらってないが。

だが得体の知れないものである以上、こちらからも手出ししようがないということは、夫妻もわかっているらしい。娘を頼むと二人から頼まれた。

 

そのようなことがあったあと、俺とマリーは、ロンとハーマイオニー、ジニーと同じコンパートメントに座り、昼食を摂っていた。無論昼食はモリーさんの作ったサンドウィッチである。

昼食を食べ終わり、皆でデザートを食べているとき、ハーマイオニーがオレに質問してきた。

 

 

「ねぇシロウ。聞いていい?」

 

「うん? どうした?」

 

「何でマルフォイのお父さん、ルシウスさんはシロウとイリヤさんに丁寧だったの?」

 

 

ハーマイオニーは、薬問屋での一件について気になっていたようだ。因みにハーマイオニーも、漏れ鍋でオレ達の関係について説明している。流石の彼女も声をあげて驚いていた。

 

 

「ああ、恐らく姓名を聞いたからだろう」

 

「「「「名前?」」」」

 

「ああ、イリヤの名字に『フォン』というのが入っているだろう? あれはその昔、自分が貴族だったことの証なのだ」

 

「昔? てことは言い方が悪いけど、没落したってこと?」

 

「いや、そうではない。この『フォン』とかは所謂分家筋の証明だ。今でもそうだが、貴族の家督は長男が受け継ぐだろう?」

 

「そうね」

 

「確かに」

 

「だが兄弟姉妹が生まれることもある。今はどうか知らないが、昔は長男以外は成人したら追い出されたのだ。土地を分けられたりしてな」

 

「で、自分が貴族出身であると証明するために、そういったミドルを設けたのね」

 

「そういうことだ。マルフォイ家は魔法界の貴族。そういった話を知っていても不思議ではあるまいよ」

 

「「「「へぇ~」」」」

 

 

オレの返答に、皆得心がついた表情を浮かべた。っと、そうだ。

 

 

「ジニー、君にこれを渡そう」

 

 

オレは懐からネックレスを取りだし、ジニーに渡した。ネックレスは西洋のロングソードの形をしており、柄頭には黄色い宝石がはまっている。

 

 

「シロウさん、これは?」

 

「お守り、護符(タリスマン)のようなものだ。呪詛返し、魂憑防御の力がある。マリーもロンも、ハーマイオニーも同じようなものを持ってるぞ」

 

 

オレがそう言うと、三人はそれぞれ自分のお守りをジニーに見せた。ハーマイオニーがロンのお守りを見たとき、若干嬉しそうにしていたが、無視した。

 

 

「効果はマリーが実証済みだ」

 

「へぇー、ありがとうございます」

 

「ああそれと、それは剣吾が作ったものだぞ」

 

「……へっ?」

 

「今度は会ったらお礼を言っておけ」

 

 

オレの発言にジニーは顔を真っ赤にし、両手で顔を覆ってアウアウ言っていた。うむ、良いことをした。マリーとハーマイオニーはそんな彼女に生暖かい視線をむけ、ロンは我関せずとばかりに菓子を食っていた。

パーシーよ、ここら辺ロンを見習ったほうがいいぞ?

 

 

「なあなあシロウ」

 

「ちょっと俺達の席に来てくれないか?」

 

 

そのとき、フレッドとジョージがオレ達のコンパートメントに来た。何でもオレに見せたいものがあるらしい。オレは皆をコンパートメントに残し、一人フレッドとジョージの席に向かった。

フレッドとジョージのコンパートメントの机には、大きな盆とそれに乗った多量の砂があった。

 

 

「これは?」

 

「「まぁ見てろって」」

 

 

双子はそう言うと、杖を掲げてブツブツと呟き始めた。すると盆に淡い青色の光の線が走り、砂を取り囲んだ。そして線は複雑に絡み合い、一つの陣を形成し始め……って、おい。

 

 

「まさか?」

 

「ああ、剣吾に教えてもらってな」

 

「まだ形も歪だし、大して動かせないけど」

 

「「砂のゴーレムの出来上がりってな!!」」

 

 

双子の声と共に、盆の上には高さ10cm程のゴーレムが出来上がっていた。そのゴーレムは片腕を上げ下げしていたが、数秒で元の砂に戻った。

 

 

「今はこんぐらいしかできないけど」

 

「いずれはもっと凄いのを作るぜ」

 

 

凄い。

何が凄いかって、オレ達の世界の術式を、自分達用に応用する力が凄い。彼らはテストの点数が悪いとモリーさんは嘆いていた。なんてことはない。彼らにとって、勉学は簡単すぎてやる気が起きないだけなのだ。彼らは天才的な頭脳を確実に有している。

 

 

「ふむ、成る程。ならばオレからも一つ、教えようか?」

 

「「マジで!?」」

 

「ああ、使い魔の魔術だ。お前たちならそれを使えるかもしれん」

 

「「是非教えてくれ!!」」

 

「ホグワーツに着いたらな」

 

「「いょっしゃああああッ!!」」

 

 

まったく、とんでもなく良い収穫だ。だが余り人前で使わないように彼らに言い含め、オレは自分のコンパートメントへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツに到着し、オレ達は奇妙な四足の生き物がひく馬車に揺られ、一年生とは別に城へと向かった。それにしてもこの生き物、いったい何なのだ? マリーたちには見えていないみたいだが……

 

大広間につき、組分けもジニーが無事グリフィンドールに決まり、宴となった。

食事の途中、オレは教職員用テーブルの中央に座るダンブルドアに、視線を向けた。彼もこちらに気がついたので、オレはアイコンタクトをとった。ダンブルドアも察したようで、両隣に座るマグゴナガルとスネイプに、二言三言耳打ちした。二人は一度視線だけをオレに向け、小さく頷いた。話が早くて助かる。

そのまま食事は終わり、新年度開始の校長の挨拶となった。改めて視線を広間の前に向け……オレは顔を思わずしかめた。

 

スネイプの隣の防衛術教員の席に、ロックハートが座っていた。

 

スネイプは物凄く嫌そうな顔をしている。他の教職員も、余り良い顔はしていない。何人かの女生徒は、彼の仮面にうっとりとしているが、オレと近しい者達は、皆大なり小なり顔をしかめている。マリーに至っては、オレの陰に然り気無く隠れようと必死だ。

それからは地獄だった。

聞きたくもない奴の話が長々と続き、最早話を聞いてるのは奴のファンだけだ。あとは真面目な子らか。ハーマイオニーは嫌そうな顔をしつつも、奴の話を聞いていた。

 

ようやく話も終わり、各自寮に向かうことになったが、オレはパーシーに一言告げ、入寮のための合言葉を教えてもらい、校長室へと向かった。石像の前で暫く待っていると、ダンブルドアとマグゴナガル、スネイプの三人がやってきた。

場所は校長室内へと移り、オレはダンブルドアが座るデスクの前に立った。他の二人は、彼の両隣に立っている。

 

 

「先ずは急なお呼び立て、申し訳ありません」

 

「よいよい」

 

「貴方から話すということは、余程のことなのでしょう?」

 

「早速本題に入ろう」

 

 

やはりこの三人は素晴らしい。

 

 

「はい。ではまず、ジニー・ウィーズリーの荷物の中に、魂憑の物が紛れています」

 

「それはどれ程の?」

 

「解析をかけましたが、今一読み取れませんでした。ですが、強力な悪霊怨霊が憑いていることは間違いありません」

 

「それは真かの?」

 

 

オレの報告に、三人は少しだけ表情を変えた。が、すぐにもとに戻した。ダンブルドアは一人、考え込むような顔をした。

 

 

「ええ。一応護符は渡していますが、果たしてどれ程効果があるか……」

 

「いや、護符をつけるだけでも随分と違う。エミヤの判断は間違ってはおらん。現時点での最善の判断だ」

 

「こちらも注意を払っておきましょう、セブルス」

 

「無論です」

 

 

やはり報告して間違いではなかったな。この三人が警戒するのなら、最悪の事態は避けられるやもしれん。一応これも渡しておこう。

 

 

「皆さんにはこれを」

 

「ほっ? これは?」

 

「鋼の……鳥ですか?」

 

「私の使い魔です。杖を向け、念じるだけで使えます。急な連絡などは、この鳥の間で行うことができます。勿論、私も所持しております」

 

「ほうほう、これは便利じゃのう」

 

「材質は……剣か?」

 

 

流石はスネイプだ、鋭い。

 

 

「ええ、ですので取り扱いには注意を」

 

「「「うむ(ええ)」」」

 

 

ダンブルドアは机上に鳥を置き、あとの二人はローブの袖口に入れた。

 

 

「それからもう一つ」

 

「ふむ、なんじゃ?」

 

「夏休み中、とある下僕妖精が警告をしてきました。今年、ホグワーツで恐ろしいことが起こると」

 

「何ですって?」

 

「魂憑きといい、警告といい、関係ないとは言えません。同時に関係しているとも言えない、曖昧な状況です」

 

「相わかった。もしものことを思い、警戒を強化しよう。セブルス、マグゴナガル先生、頼んでもよいか?」

 

「「わかりました」」

 

「では私は城内の防衛強化をします」

 

「我輩は城の外回りを」

 

 

二人はそう言い、校長室を後にした。行動も早いな。それにこの城と外回りをそれぞれ一人でやるとは、二人とも魔法使いとして相当の実力者なのだろう。そしてその更に上にたつのがダンブルドアか。果たして彼の実力はどれ程なのだろうな。

実力といえば、だ。

 

 

「……校長先生」

 

「今はわし等しかおらん。楽にして良い」

 

「ではお言葉に甘えさせていただく。防衛術の教師だが、他に人選はなかったのか?」

 

 

二人が出ていって暫くして、疑問に思ったことをオレはダンブルドアに聞いた。

 

 

「君の言いたいことはわかるよ。じゃが去年のようなことがあったからか、誰もこの職に就きたがらなんだ。彼以外のう」

 

「他にいないし、仕方なく奴を雇ったのか。スネイプ教授はダメなのか?」

 

「少し彼には辛抱させとる。セブルスは実力は申し分ないのじゃがのう、少し生徒には難しい気がしての」

 

「成る程な。で、結局奴か」

 

「うむ」

 

「世知辛いな」

 

「まったくじゃ」

 

 

二人して大きな溜め息をつき、温くなった紅茶を煽った。そういえば明日の授業一発目は……ああ。

 

 

「一番目から奴か……急激にやる気が無くなる」

 

「確かピクシーを持ち込むというように報告がある」

 

「ピクシー? 悪戯好きの小妖精か?」

 

「いかにも。悪いが灸を据えてやってくれぬか?」

 

「私としては構わんが……マグゴナガル教授が何と言うか」

 

「構いませんよ?」

 

「む?」

 

 

そこへ仕事が終わったマグゴナガルが再び入ってきた。後ろにはスネイプもいる。どうやら城の防御強化は粗方終わったようだ。しかしマグゴナガルが許可するのか。ならば寮の点数には響かないな。

 

 

「ええ、私は構いません」

 

「我輩もだ」

 

「……わかりました。ではそのように」

 

 

さて教職員三名、その中でも校長と副校長から許可をもらったのだ。ならばできる範囲で手加減はしない。

 

 

「では明日はそうします。奴め、オレの妻と娘にまで手を出そうとしやがって」

 

「うむ……ほっ? 妻? 娘?」

 

「……あ(汗)」

 

 

し、しまったぁぁぁぁぁあああああ!? つい言ってしまった!! 不味い、非常に不味い!! 三人の中では、オレは12歳という設定のはず!!

 

 

「……やはりその実は大人でしたか」

 

「まぁ想像はしていたのう」

 

「子供がいるとは思ってはいなかったが」

 

 

え? まさか三人ともオレが子供でないと予測ずみ? 嘘だろ?

 

 

「ほほう、子持ちのう」

 

 

ダンブルドアの目がキラッと光った。

ヤバイ。

何がヤバイかというと、今のダンブルドアの顔は、オレを弄るネタを見つけたときのイリヤと凛に通じるものがあるのだ。オレの本能が警鐘を鳴らしている。早く逃げなければ弄られると……!!

 

 

「聞かせてもらおうかのう。老人は楽しい話が好きなのでな」

 

「なんでさ!?」

 

 

思わず昔の口癖が出てしまった。

結局オレはイリヤと凛、桜のことを話す羽目になった。そして彼女等との間にできたが子供達の話も。流石に妻が三人いることには驚いていたが、何故か皆納得していた。なんかそれはそれで複雑だ。

オレは色々な意味で疲れはて、寮の部屋に着くと級友と話すこともなく、着替えずにベットに入り、深く寝入った。

 

 

 

しかしスネイプ。まさか年下だったとは驚きだ。

(スネイプは二巻時点で推定年齢33~35、本作シロウは現時点で精神年齢39です)

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。


教職員三名からの制裁許可、果たしてロックハートの運命は?

車のエピソードですが、後々それを補うものを出します。
今回はちょいちょいオリ要素を入れましたが、流れは余り原作と変わらないのでご安心を。


では今回はこの辺で




しかしシロウよ。お前さん最近うっかりが多いのでは?






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6. 岩の心の初授業

更新です。
少し短めです。

ではごゆるりと






 

 

Side マリー

 

 

明くる朝。朝食を終わらせ、気の進まない一時限目へと向かった。そう言えば朝食のとき、コリンって子がカメラを手に挨拶をしてきた。基本良い子とは思うんだけど、矢鱈に写真を撮るのはやめて欲しいかな。本人には悪気ないのはわかるんだけどね。

 

まぁそれは兎も角、二年次授業一発目である『闇の魔術に対する防衛術』に関しては、正直全く期待していない。彼の授業を受けるなら、フィルチさんと校内全てを清掃するほうがよっぽどマシである。

 

私とシロウ、ロンにハーマイオニーは教室の後ろの席に座り、始業を待った。前の方の席は、ファンの女の子達が集まっている。本当にキャイキャイと五月蝿いな。因みに授業はレイブンクローとの合同である。どうでも良いけど、レイブンクローって女の子が多い気がしないでもない。

なんて考えていると、教室の前の方から黄色い歓声があがった。どうやらロックハートが出てきたようだ。

 

 

「初めまして皆さん!! 今年からここホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』を教えることになった、ギルデロイ・ロックハートです!! 皆さんに会えて嬉しいですよ?」

 

 

案の定仮面の様なスマイルで得意気に語るロックハート。そしてそれにヤられる女子生徒。本当に下らない。

 

 

「では授業を始める前にテストを。時間は十分、それでは始め!!」

 

 

自動的に配られた羊皮紙を受け取り、表へ返して……私はその羊皮紙を即座に燃やしたくなった。机にヘッドバンキングしなかった自分を褒めたい。テスト曰く、

 

 

『○, ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?

○, ギルデロイ・ロックハートが誕生日に貰って嬉しいものは?

○, ギルデロイ・ロックハートが今まで成したことで、あなたが最も偉大だと思ったことは?』

 

 

こんなのが100問も続くのだ。燃やしたくなる私の気持ちも解るだろう。

時間の無駄以外の何でもないので私は別の羊皮紙を取り出し、スタミナを付けるのに良さそうな、そして健康に良さそうな食材をピックアップしていった。

なんでも従兄のダドリーがボクシングを始めるみたい。手紙が珍しく届いたし、しかも本人直筆の。なら折角打ち込めるモノを見つけた従兄をサポートしたい、という気持ちが湧くのも不思議ではない。

私は自分の作業をしつつ、隣に座るシロウの回答を盗み見た。そして思わず吹き出しそうになった。曰く、

 

 

『○, 嘘。

○, 嘘。

○, 人の妻と娘に色目を使い、精神的に咎められたにも関わらず、それを反省しないことは成る程、確かに偉業である』

 

 

などなど。いやはや、容赦ないですねシロウさん。

 

 

「時間です!! それでは回収します」

 

 

ロックハートの声と共に、テスト用紙は自動的に回収された。そしてロックハートはそれに目を通し始めた。

 

 

「ちっちっちっ。皆さん勉強不足ですね。私の好きな色はライラックだと、あれほど殆どの書物に書いていたのに。『狼男との大いなる山歩き』を読む必要がある子もいるようだ」

 

 

ロックハートは教室の中をグルグルと歩き回りながら、テストの回答を吟味していた。どうやら列毎に点検しているらしく、ついに私たちの机へと来た。

フムフムと値踏みするように羊皮紙を点検し、ある一枚で止まった。あっ、あれシロウの筆跡だ。ロックハートの笑顔が引き吊ってる。自業自得だね、まぁたぶんスルーするだろうけど。

案の定私たちの机はスルーし、一通りテストのチェックを済ませると、布を被せた籠を教卓の上に置いた。籠はガタガタと揺れている。そしてロックハートは珍しく真面目な顔をした。

 

 

「さぁ気を付けて!! 君達に降りかかる火の粉を払う手段を教えるのが、私の役目です。例えば、こんなのとかね!!」

 

 

ロックハートはそう言って籠の布を取っ払った。籠の中には青色をした、妖精の様な小悪魔のような小さな生き物が、何十匹も入って暴れていた。籠から出せとキィキィ声で騒いでいる。

ふとカチャリという小さな音が、隣から聞こえた。気になってシロウの方を見ると、その手にはアンバランスな剣が一本握られていた。確かあれは、数ヶ月前に『悪魔の罠』を燃やすときに使ったのと同じもの。

 

 

━━ シロウ? 何してるの?

 

━━ ん? ああ、これから騒動起きるかもしれんからな。その対策準備だ。

 

━━ また燃えるの?

 

━━ いや、これは違う。今回は燃やさないよ。少し頼まれていいか?

 

━━ うん、なに?

 

━━ オレが動いたら、ロンとハーマイオニーと共に、教室の全ての窓と扉を閉めてくれ。鍵までしっかりと。

 

━━ うん、わかった。

 

 

シロウと念話で話した内容を、ロンとハーマイオニーにも筆談で伝えた。二人ともそれを快く了承した。その間にもロックハートの話は進む。

 

 

「コーンウォール地方のピクシー小妖精?」

 

 

シェーマスが妖精を見て笑っていた。しかしロックハートは真面目な顔を崩さなかった。

 

 

「笑えるのは今だけだよフィネガン君。コイツらは見てくれは小さいが、中々に凶悪だ。見た目に騙されないほうがいい」

 

 

へぇ。馬鹿とは思っていたけど、たまにはマトモなことを言うんだね。一瞬見直しかけたけど、次の行動でそれが帳消しになり、私のロックハートに対する評価はどん底以下になった。

 

 

「さて、では見せてもらいましょう。君達のお手並みをね!!」

 

 

ロックハートはそう言うと、突然籠の扉を開けた。果たして、籠の中のピクシーは全て教室に放出された。シロウが動いたのはそれと同時だった。私たちは急いで扉と窓に向かい、言われたように鍵まで閉めた。

 

 

「ほらほら捕まえてみなさい。たかがピクシーなんでしょう?」

 

 

教室の中ではピクシーが大暴れし、生徒達の教材を破ったり、インク瓶を割ったりと好き放題だ。もう大混乱だった。その中でネビルがピクシーに耳を引っ張られ、宙に吊り上げられる事態が起こった。

流石に不味いと思ったのか、ロックハートは杖を取り出した。

 

 

「『ピクシー虫よ、去れ(ペスキピクシペステルノミ)』!!」

 

 

ロックハートは呪文を唱えたけど、なにも起こらなかった。それどころか、ピクシーに杖を取り上げられてしまい、自分の事務室に逃げ込もうとした。でもそれは叶わなかった。

全ての窓を閉めたシロウが、例の剣を投擲してロックハートのすぐそばに突き刺した。偶然かどうかはわからないけど、その剣はロックハートの影に刺さっており、ロックハートはバランスの悪そうな体制で動きを止められていた。

気のせいだろうか? シロウの髪がオールバックになってる。

 

 

「こ、これはいったい!?」

 

「『影縛り』。まさかここで役に立つとはな。お前はそのまま見ていろ。お前の不始末の結果を」

 

 

シロウは低い声でそう言うと、すぐ近くにいたピクシーを一匹、何の躊躇もなくアゾット剣で切り捨てた。そのとき出たピクシーの青い血が、シロウの顔に少しかかった。

途端、教室の中が冷水を打ったかのように、しんと静まり返った。ピクシーたちも生徒たちも、皆一様にシロウを見ている。教卓の上に切り捨てられたピクシーの死骸は、暫くピクピクと痙攣していたけど、やがて霧散した。

 

それが合図になった。

教室にいる全てのピクシーが、奇声をあげながらシロウに殺到した。でもシロウは意に介することもなく、殺すたびに血を浴びながら、ピクシーを次々に屠っていった。

あるピクシーは首を分断され、あるピクシーは脳天から縦に切り割られ、あるピクシーは首から下を潰され、あるピクシーは顎から上が潰れた。一分も経つことなく、教室のピクシーは一匹を残して全滅した。

残り一匹のピクシーは、恐怖に駈られて逃げ出そうとしたけど、すぐにシロウに刺されて絶命した。そのときアゾット剣の刃先は、ロックハートの眉間から僅か2cmのところにあり、ロックハートはその一匹のピクシーの血を、その顔に浴びていた。

 

ロックハートは顔面蒼白になっていた。シロウは無言で血の付いた刃を拭うと、ロックハートの影に刺さっている剣を抜いた。そしてそのまま教室の窓と扉をあけ、教室から出ていった。私とロン、ハーマイオニーも荷物を纏めて教室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

その日を境に、ホグワーツ内のファンからのシロウの評価は、駄々下がりとなった。曰く、

 

 

「ギルデロイ・ロックハートの授業で調子にのった。

ギルデロイ・ロックハートの授業を潰した。

ロックハート様の顔に泥を塗った」

 

 

などなど。冷たい視線をその身に受けることになった。いやね、ロックハートに実力があるかどうかは知らないけど、自分だけ逃げようとした人をよく庇えるね。もう少し現実をみようよ。

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

ちょいと中途半端な終わりかたになりましたが、ここらで制裁レベル1は終わります。
ここで少し連絡を。

また活動報告にてアンケートをしようと思います。ご協力お願いします。


さて、次回は時間が飛び、一気にハロウィンまで行こうと思います。
飛ばした期間の話は、二巻終了後の番外編にて語るのでご安心を。
そして次回はマリーさんのペットが出てきます。さて、どんな生き物になるでしょうか?

では今回はこの辺で



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7. ハロウィン夜、危険の始まり



あ、あはは(苦笑)
み、皆さんそれほどにまでロックハートが嫌いですか。

とりあえず原作よりも酷くに多数票が入ってますが、うーん。

まあそれは兎も角、更新です。
今回はマリー視点のみです。

それではごゆるりと






 

 

 

 

ハロウィンが近づくと同時に、クィディッチシーズンも近づいていた。私はグリフィンドールチームのシーカーなので、放課後にチームメイトと練習したり、フォーメーションの確認をしたりと、毎日勉学以外でも忙しい。

因みに防衛術の授業は、ロックハートが何度も本の内容を元にした寸劇をやろうとして、その都度シロウに沈黙させられていた。しかも授業のあとに毎回説教を受けている。もしかしてロックハート、態とシロウから説教を受けようとしてるの? もしかしてロックハートって変態さん? だとしたらドン引きだ。

 

まぁそれは兎も角。

それにしても驚いた。まさかマルフォイがスリザリンのシーカーになっていたなんて。しかもスリザリン選手の全員が最新最速の箒、『ニンバス二〇〇一』を所有していた。どうやらマルフォイの父親が購入したみたい。

 

ここで問題が起こった。

マルフォイは金の力でチームに入ったのだろう。ハーマイオニーがそれについて、グリフィンドール選手は才能で選ばれていると反論した。そこでマルフォイはハーマイオニーに、『穢れた血』と罵った。『穢れた血』とは、魔法族の血がない、純粋なマグルから生まれた魔法使いに対する、最低な侮辱だ。

その侮辱を聞いた私たちグリフィンドール選手は、全員が杖を取り出そうとした。でも瞬きしたときには、目の前からマルフォイは消えていた。

 

一瞬だった。

マルフォイの姿が消えたと思ったら、シロウによって壁に押し付けられていた。その方向にいち早く目を向けたのは、夏休みにシロウの動きを見た人たちだけで、他の人は何が起こったかわかっていなかった。

マルフォイは顔面蒼白になって、シロウに命乞いをしていた。シロウの顔には表情がなかった。それほどにシロウは怒っていた。そのときマグゴナガル先生が駆けつけなかったら、マルフォイはどうなってただろう? 考えたくもない。

 

クィディッチの今年初練習の日は、そのまま練習をせずにお開きになったことは、記憶に新しい。マルフォイもシロウも罰則を受けていた。ただ、マルフォイの罰則のほうが重かったけど。

 

 

でもそんな嫌なことばかりではない。

なんと私に新しい家族ができたのだ。その生き物は、ハグリッドが偶々森で見つけて保護したらしい。でも今まで見たことも聞いたこともない生き物だった。博識のマグゴナガル先生やスネイプ先生、ダンブルドア先生でさえ知らない生物。どういうわけか、私になついてしまったので、ならいっそのことペットにしようということになった。

で、その生き物はというと、

 

 

「パムパム~」

 

 

ダックスフント程の大きさで、全身は基本黄色のふわふわな毛に包まれている。大きな耳に大きな青い目。パタパタと羽ばたく翼。体に入る黒い縞模様。そしてフワフワな尻尾。

そして驚きなのが、私たちの言葉を理解、応答が出来る高スペック。一度テストしてみたら、なんと人間の8歳知能は普通に有していて、これならペットという扱いは、ってことで家族になった。

 

名前は私とロン、ハーマイオニーにシロウの四人が候補を出し、この子が気に入ったものに決められた。そして付いた名前が『ハネジロー』。因みに他の候補は、『パム(by.シロウ)』、『ブルー(by.ハーマイオニー)』、『ウィング(by.ロン)』といったものだった。

 

 

「ハネジロー、おいで」

 

「パムパム~、マリーと散歩」

 

 

パタパタと飛んできて、私の腕に収まるハネジロー。結論、可愛い。

 

 

「本当に不思議な生き物だよね」

 

「ええ、今でも驚きが治まらないわ」

 

「しかも生活能力は人間と然程変わらないときた」

 

 

そうなのだ。

ハネジローは基本的に私たちと同じものを食べるし、なんとトイレも態々お手洗いに行く。しかも男子トイレ。寝る時間帯も私たちと一緒。もうペットなんて言えないよね。因みにハネジローの大好物はピーナッツ。

 

ハネジローの登場によって、グリフィンドールの寮内だけでなく、ホグワーツ内がほんわかな雰囲気に包まれるようになった。スリザリンの生徒でさえ、女生徒はハネジローの影響で他寮差別を控えるほど。ハネジローって凄い。

 

 

そんなハネジローを連れて今はお散歩中。ハネジローに自由に行動させて、私が着いていく形を取ってる。だってその方がいいじゃん? それに、日中は基本的に自由に行動させてるし。

 

と、そこにゴーストのニコラスさんと出会った。

ニコラスさんはグリフィンドールのゴースト。何でも亡くなるときに、とても切れ味の悪い斧を使って処刑されたせいで、首の皮一枚だけ繋がったままゴーストになったらしい。そのことから、ホグワーツの生徒からは『ほとんど首無しニック』と呼ばれている。私はニコラスさんと呼んでるけどね。

 

 

「ニコラスさん、こんにちは」

 

「パム、コンニチハ」

 

「おお、これはこれは。ご機嫌ようマリー殿、そしてハネジロー殿」

 

 

ニコラスさんは明るく返事をしてくれたけど、どこか空元気を出している感じがした。先程からウンウンと頻りに唸って悩んでいる様子だ。

 

 

「ニコラスさん、どうされたんですか?」

 

「パム~、悩み事」

 

「ああ、いや。大したことでは無いのですが……」

 

 

ニコラスさんは言葉を濁す。

 

 

「……実は来週末、丁度ハロウィンの日が私の絶命日でして。その記念のパーティーを開くのです」

 

「は、はあ。絶命日、ですか」

 

「左様。それでゲストを呼ばねばならんのです。すみませんがマリー殿、もし宜しければ来ては下さらんか? 無論ご学友もハネジロー殿も一緒に来ていただいても大丈夫ですぞ」

 

 

絶命日パーティーって言うのか。たぶん参加者はほぼ全員ゴーストだろう。そこに自分等のような生者がいても、場違いにはならないだろうか?

 

 

「確かに参加者にはゴーストが多い。ですが生きてるか死んでるかなど、余り気にしませんぞ」

 

「そうですか。なら喜んで参加させていただきます」

 

「おお、それは誠ですか!! いやはや嬉しいことだ、是非いらしてくだされ」

 

 

どうやらニコラスさんの機嫌は良くなったようだ。彼はそのまま壁をすり抜けて消えていった。

 

結論から言うと、他の三人もハネジローもパーティーに参加した。料理はゴースト専用のものしかなかったけど、寮にシロウが軽食を用意したみたいだから、私たちは帰ってからそれを食べることにした。

因みにパーティー参加した、ホグワーツの外からきたゴーストたちは、シロウを一目見ると畏怖したような視線を向け、同時に羨望と敬服した態度を示していた。シロウは嫌そうにしていたけど。

 

で、パーティーから退場し、私たちは寮に向かっていた。パーシーとマグゴナガル先生には、絶命日パーティーに参加する旨は伝えてあるので、大広間には行かない。

 

 

━━ ……す ……殺す

 

 

「なに?」

 

「どうしたの、マリー?」

 

「……何か声が……」

 

「声だと?」

 

 

━━ ……殺す……殺す……

 

 

「ほら、また!! 三人とも聞こえないの?」

 

「いえ、私は」

 

「僕も何も」

 

「……」

 

 

おかしいな。私には今はっきりと聞こえた。ついでに何かが這い進むような音も聞こえる。ハーマイオニーとロンはきょとんとした表情を浮かべ、シロウは何か考え込む顔をしていた。ハネジローは私の肩に降りてじっとしている。

 

 

━━ ……殺す……殺す!!

 

 

「!! 誰かが殺される!!」

 

 

私は今の声を聞き、その声の向かった方向に走り出した。後ろからハーマイオニーたちが呼び止める声が聞こえるけど、私は無視した。ハネジローは私の背中に捕まり、シロウは私に並走している。

廊下を走っている途中、その床が水浸しになっているのに気がつき、私は足を止めた。何で床がこんなことに。手掛かりを探すために周りを見渡すと、奇妙なものを見つけた。小さな蜘蛛が列を成して外へと向かっている。

 

 

「……蜘蛛?」

 

「何で外へ逃げて……ロンどうしたのよ?」

 

「あ、いやその……僕蜘蛛が苦手で……」

 

 

……この際ロンの蜘蛛嫌いは置いておこう。それよりもこの状況だ。他に何か情報はないのだろうか?

 

 

「マリー、壁、モジ」

 

「壁? 文字?」

 

「パーム」

 

 

ハネジローに言われ、壁を見た。そこには鮮やかな赤で、壁に文字が書かれていた。

 

 

『秘密の部屋・開か・たり。継承━━敵━━つけ・』

 

 

文章はあとの方にいくと、何を書いているかわからなかった。でもどこか書くのを止めようとしている感じだった。誰かが無理矢理書かされたのだろうか? でも近くに人影はない。

ん? あれは……ッ!?

 

 

「……そんな」

 

「なんで?」

 

「……石化してるな」

 

 

フィルチさんの飼い猫、ミセス・ノリスが石になり、壁のランプに引っ掛かっていた。そこに夕食を終えた生徒がやって来た。

不味い。

今のこの状況は、端から見れば私たちがやったように見られる。それだけは避けたい。でも現実は無情か、後ろからも前からも生徒の集団が来てしまった。そして皆壁の文字と石化した猫を見てざわめき出した。

 

 

「秘密の部屋、継承者、敵。成る程ね。次はお前たちだぞ、『穢れた血』め」

 

 

マルフォイは壁の文字をみて、私たちに言いはなった。教師たちも駆け付け、私たちに質問をした。猫を石にされたフィルチさんは冷静でなくなり、私を犯人と決めつけて、先生たちの制止も聞かずに私を連行しようとした。

そのときハネジローの目が青く光り、その目からホログラムのようにここ数時間の私たちの映像が流れた。まずハネジローのその力に物凄く驚いたけど、同時に私たちの無罪が立証されたので、私たちはそのまま寮に戻った。

 

それにしても、秘密の部屋か。まさかドビーが夏休みに言っていた危険って、これのこと? ということは、今回で終わりではないってこと? それに継承者って何だろう。謎は深まるばかりだ。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
こんな中途半端な終わり方ですみません。現在スランプ気味です。

さて、初登場のマリーのペット、もとい家族のハネジロー。
最初は機動で戦士なOOに出てくるボール型ロボ、『ハロ』にしようと思ったのですが、流石に五月蝿くなると思い、第二候補だったハネジローを投入しました。
このハネジローは、所謂平行世界のハネジローであって、ファビラス星人は関係ありません。


さて、次回は狂ったブラッジャーです。

それでは今回はこの辺で。


最近スランプ気味、fateのほうが思い付く今日この頃。




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8. 狂ったブラッジャー


ではでは更新です。

ハネジローの人気は凄いですね。一家に一ハネジロー(爆)

それではごゆるりと





 

 

Side シロウ

 

 

あの猫。

石化こそしていたが、どうにも違和感がある。ライダーの石化魔眼とは違う、本来の効力が弱体化されたような感覚だ。であれば、本来の効力ならば、確実に命を奪う類いのモノ。魔眼かどうかはわからん。

それに壁の中から感じられた不気味な気配に、マリーのみが聞き取れた声。ドビーが警告したのはまさかこの事か?

判断するには情報が足りん。もう少し時間を置くとしよう。せめて死者がでないようには注意せねば。

 

まぁ今の時間はその心配はないだろうが。

なんせ今は今年初めてのクィディッチの試合中だ。スリザリン対グリフィンドール。全校生徒が観客席に座って試合を観戦している。とりあえず、今は問題ないだろう。今は、な。

 

 

『またまたゴール!! スリザリンの得点です!! 九〇対三〇でスリザリンがリード!!』

 

 

やはり箒のスペック違いが大きいか。いくら才能があろうとも、箒のスペックが劣っていれば、厳しい戦いになる。加えてマルフォイは兎も角、スリザリンのチェイサー陣営は、グリフィンドールと負けず劣らず力がある。であれば、こうなるのも偶然ではなかろう。グリフィンドールが勝つためには、早くにスニッチを捕まえるしか有るまい。

 

 

「マリーはいったい何をしちょるんだ?」

 

「パム~」

 

 

ハグリッドの声が聞こえ、俺はマリーに視線を向けた。マリーは全速力で飛行しているが、スニッチを見つけた訳ではないらしい。理由はすぐに判明した。彼女の後ろからブラッジャーが一つ、執拗に追いかけている。見る限り、マリー以外は一切狙っていないようだ。

 

 

「誰かが細工したにちげぇねぇ」

 

「僕が止める」

 

「ダメ!! マリーに当たったらどうするの?」

 

「じゃあただ見てるだけって言うのかい?」

 

 

ハグリッドとロン、ハーマイオニーが隣で騒いでいる。ハネジローは俺の頭の上に乗り、じっとマリーを見ている。それにしてもマリーだけを狙う、か。まさかまたあの下僕妖精の仕業か? だとしたら奴め、まだ諦めていなかったか。

 

 

「そうだ!! シロウ、君なら落とせないかい?」

 

「あんなに複雑に動かれては()()()な。それに観客席(ここ)では狭くて弓も構えられん」

 

「そう……ん? 今あなた弓って言った?」

 

「気のせいだ」

 

 

はぁ。最近凛のうっかりが感染ったのではないか? 本気で心配になってきた。まぁそれは兎も角、今は見ていることしかできないだろう。試合が終わったときが射落とすチャンスか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

なんで?

試合が始まって暫くするとブラッジャーが一つ、しつこく私を狙ってくる。フレッドとジョージが代わる代わるブラッジャーを弾き飛ばすけど、全く効果がない。しかもそのせいか、もう片方のブラッジャーに手が回らず、グリフィンドール選手が何度も妨害された。そこでキャプテンのウッドがタイムアウトを取った。

 

 

「何をしている。ブラッジャーに妨害されてアリシアがゴールできな……ウォッ!?」

 

 

まさかのタイムアウト中のブラッジャーによる襲撃。これ不味いんじゃ? とりあえず私は一人でどうにかする旨を伝え、フィールドに戻った。

やっぱり。

フィールドに戻ったら、みんなじゃなく私目掛けてブラッジャーは襲ってきた。私はそれを必要最小限の動きで避ける。他のメンバーも渋々了解したみたいで、フィールドに戻った。

 

さて、と。

私はスニッチを探しながら、ブラッジャーを避けていた。ん~今一集中できないな。たぶん端から見れば、私は曲芸をやっているように映るだろう。スリザリンの観客席からは指差して笑う生徒たちが見えるし。

そこにマルフォイがやって来た。

 

 

「何してるんだい? バレエの練習かな、ポッター?」

 

 

口許に嫌~なニヤニヤ笑いを浮かべて、マルフォイは私を挑発してくる……ん? マルフォイの耳元、あれはスニッチ!! まさかマルフォイ、私を挑発することに気をとられて気がついてない? ならば好都合!!

 

私は再び襲ってきたブラッジャーを避け、マルフォイ向けて突進した。

マルフォイは私の急な行動に驚き、脇に避けた。序でに私を襲ってきたブラッジャーに巻き込まれそうになっていた。でも私はそれを気にすることなく、逃げるスニッチを追いかけた。マルフォイも気がついたらしく、私を追ってきた。それに着いてくる形でブラッジャーも迫ってくる。

 

私とマルフォイ、ブラッジャーはスニッチを追いかける過程で、カー・チェイスならぬモップ・チェイスを繰り広げた。ところでカー・チェイスやバイク・チェイスってカッコいいよね。でも残念ながら私たちの跨がっているのは箒だ。モップだ、モッピーなのだ。正直少しダサイと思う。まぁロマンがあるけど。

 

それは兎も角、暫く私とマルフォイでデットヒートを繰り広げていると、マルフォイがどっかに飛んでいった。どうやら箒に付いている(あぶみ)の様なものが何処かに引っ掛かったらしく、地面でのびていた。

邪魔者もブラッジャーだけになったので、一気に私は加速した。手を伸ばせばスニッチに届く範囲まで追い付いた。このとき私はブラッジャーのことを刹那忘れ、右手を伸ばした。

 

一瞬のことだった。

伸ばした右腕は、後ろに付いていたはずのブラッジャーのあり得ない加速によって打ち抜かれた。骨の拉げる(ひしゃげる)嫌な音がして、私は激痛に襲われた。腕が千切れたと錯覚した。でも同時に、まだ左腕があるという思考もあった。

今は地面から高さ五十センチ程の位置。箒から落馬しても擦り傷で済むだろう。なら考えるまでもない。私は左腕を伸ばし、今度こそスニッチを掴んだ。けどやはりと言うべきか、私はバランスを崩して、箒から落馬した。

 

 

『マリーがスニッチを掴んだ!! 試合終了です!! 九〇対一八〇でグリフィンドールの逆転勝利だ!! よく頑張ったぞ、マリー!!』

 

 

ジョーダンさんの実況がフィールドに響いた。ああ、やっと終わった。早く医務室に行きたい。フィールドにいたチームメンバーと、観客席にいたグリフィンドール生が、私の元に走ってきた。気のせいか、シロウの姿は見えなかったけど。

 

でも一瞬その動きを止めた。

何故なら試合終了にも関わらず、先程のブラッジャーがまだ私を襲ってきた。しかも今度は頭を狙ってきている。冗談じゃない。こんなところで死ぬなんてとんでもない。

私はこれから無様と思われようと気にせず、地面を横に転がってブラッジャーを避けた。フレッドが最初に駆け付け、手に持つ棍棒で弾いたけど、また戻ってきた。

 

そのときだった。

ふとグリフィンドールの観客席に、人影が見えた。大きな黒い弓を構えている。そしてその人影が一瞬銀色の光を放った。

次の瞬間、再び襲ってきたブラッジャーは、銀に光る流れ星に打ち抜かれた。そしてそのまま地面に縫いとめられた。

縫いとめた物の正体は、極々普通のロングソード。ということは、射落としたのはシロウなのか。こんな出鱈目な狙撃力を持つのは、シロウ以外に私は知らない。

 

ブラッジャーは暫くもがいていたけど、すぐに眩い光と轟音、そして突風に包まれた。私たちはみんな、それが鎮まるまで各々を庇った。光と風が収まり、ブラッジャーが縫い止められていた場所を見ると、半径三メートル程のクレーターがあった。

再び人影の方に顔を向けたけど、誰もいなかった。でもなぜかあれはシロウだという確信があった。何はともあれ、一先ず一件落着だ。早く医務室に行きたい。

 

 

「マリー、大丈夫?」

 

「うん、腕が折れてるだけ。他は何ともない。早く医務室に行こう。それとコリン」

 

「え、なに?」パシャ

 

「珍しいのはわかるし、悪気がないのはわかるけど、今は写真はやめてね? それ、結構不愉快な気分にさせるから」

 

「あ、その、ごめんなさい」スッ

 

「よろしい」

 

 

ハーマイオニーが心配げに問いかけてくる。他の皆も心配そうだ。だから私はできるだけ安心させるため、微笑みを浮かべた。序でにコリン君に行動を抑えて貰いながら。ここで素直に謝罪が出来るから、根は本当に良い子なんだろうね。

 

 

「安心したまえ、私が治してあげよう」

 

「え?」

 

「あ、先生!! ダメ!!」

 

 

ハーマイオニーとは逆方向、折れた右腕の方から声が聞こえ、誰かが止める声も聞こえた。私も突然のことで反応が遅れ、気がつけばロックハートが私の右腕に杖を向け、何かやりきった表情を浮かべている状態だった。

突然右腕に襲う違和感。嫌な予感がして、動かそうとした。でも右腕は上がるは愚か、指先さえもピクリとしなかった。気のせいか、ペシャリと潰れているようにも見える。

 

 

「ああ……ええと……まぁ偶にはこういうことも、ええと、ありますね、はい」

 

 

ロックハートは誤魔化すようにそう言い、私の右腕を持ち上げた。腕はビョンビョンと好き勝手に動く。ロックハートは、もう折れてはないでしょう、なんてほざいている。

私の右腕は、文字通り『骨抜き』にされていた。それをやった当の本人は、ヘラヘラした物凄く不快な笑いを振り撒いている。私の中の何かが、プツンと音を立てて切れた。真っ黒いモノが、身体の奥底から沸々と沸き上がってくる。

そのドス黒いモノが首まで来たとき、目の前のロックハートが突然消えた。そして次に地鳴りと地響きがした。みんなして発信源に顔を向け、そして絶句した。

 

ホグワーツの制服ではなく、いつか見た黒い軽鎧に黒い外套を纏ったシロウが、ロックハートの胸ぐらを掴んで地面に押さえ付けていた。その光景を見て、私は黒いモノが一気に引っ込んだ。

地面はロックハートを真ん中にして、半径二メートル程の陥没地を形成していた。クレーターではなく、陥没地だ。

 

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

「懺悔の言葉は済んだか?」

 

「ヒァァア、あぁあアアアァァああ……!?!?」

 

「……消えろ。いつもいつも貴様は余計なことを……」

 

 

シロウはそう言って自由な右拳を振り上げた。ロックハートは絶望した表情を浮かべ、声すらもでないほど恐怖していた。

 

 

「エミヤ!! そこまでだ!!」

 

 

スネイプ先生の声が響き渡るのと、シロウが拳を降り下ろすのは同時だった。そしてシロウの拳は突き刺さった、ロックハートの顔のすぐ横の地面に。

陥没した地面は、ひび割れながら再び隆起した。

一連の出来事を見ていた殆どの人が、顔を青くして震えていた。ロックハートは白目を剥いて気絶している。夏休みの試合を見ていたメンバーは、比較的平気な顔をしていたけど。

 

 

「抑えろ。お前が犯罪者になることを皆は、あの子は望んではおらん」

 

 

スネイプ先生の言葉に、シロウは無言で拳を引き抜いた。そして深い溜め息を一つついた。立ち上がったシロウは、スネイプ先生に向き直り、そして皆に顔を向けた。若干数名が少し後ずさった。

 

 

「すまない。我知らず感情的になってしまった」

 

 

シロウはそう言うと、頭を深々と下げた。周りの人たちは、また別の意味で唖然としていた。一連の行為と今の言動のギャップが激しかったからだろう。まぁわからなくもないけど。シロウは頭をあげると、またスネイプ先生に向き直った。

 

 

「やってしまったことの責任は取ります。如何様にも」

 

「ふむ、ならば教師に対する暴行並びにフィールドの破壊行為。よってグリフィンドールから二十点減点、そして罰則はこのフィールドを週末に一人で元に戻すことだ。無論魔法は禁止だ」

 

「わかりました。謹んでお受けします」

 

 

シロウはスネイプ先生から罰則を言い渡され、また深く頭を下げた。

みんな罰則の内容にショックを受けてるね。何て理不尽な罰則なのだろう、って。でもシロウのことを少しでも知ってる人たちは、何て優しい罰則なのだろう、と思った。

 

だって夏休み、剣吾君との試合で荒れたウィーズリー家の庭を、剣吾君と二人がかりとは言え、たった三十分で元に修復したのだ。今回の損害は、それに比べたらまだマシな方。下手すれば十五分程度で終わるかも。

そして私は、スネイプ先生とシロウの小声でのやり取りを聴き逃さなかった。

 

 

「狂ったブラッジャーを鎮めたことに、グリフィンドール十点加点だ」

 

「すみません」

 

 

シロウは頭をあげると、私に近づいてきた。シロウに近しい人たち以外、ジニーとコリン以外の一年生とロックハートのファン以外だね、は私たちから距離をとった。

 

 

「マリー、立てるか?」

 

「正直言うと気力がない」

 

「そうか」

 

「運んでもらっていい?」

 

「了解した」

 

 

シロウは私を抱えあげると(勿論お姫様抱っこ)、ロンに私の箒を、ハーマイオニーに私の着替えを持ってきて貰うよう頼み、医務室へと私を連れていった。ロックハートはファンの子達に医務室に運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「骨折を治すのならば簡単ですが、骨を元に生やすとなると……」

 

「先生、治るんですよね?」

 

「ええ、勿論。結構痛みますけどね」

 

 

医療担当のマダム・ポンフリーさんは、入院準備を整えながら、私に薬を差し出した。シロウもマダム・ポンフリーの隣で準備を手伝っている。流石はホグワーツのブラウニー。

薬は無色透明なんだけど、シュワシュワと泡をたてている。うん、これ絶対飲んだら喉が辛い(からい)奴だよ。でも飲まないと治らないので、私は我慢してそれを飲み干した。案の定喉が焼けるように辛かった。

 

 

「今日は医務室(ここ)に泊まってもらいます。良いですね?」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

「パムパムー、マリー、心配」

 

「わかってますよ、あなたもここにいて良いです」

 

「パーム、アリガトウ」

 

 

マダム・ポンフリーは基本的に皆に対して素っ気ない。

でも恐らく、生徒の安全健康を一番考えているのは、確実にこの人だろう。だから私はマダム・ポンフリーの言いつけに、素直に従った。

それからマダム・ポンフリーは見舞いに来た人(何故かシロウを除く)を寮に返し、

 

 

「ここは騒ぐ場所じゃありません、さぁ帰って!!」

 

 

さらに運ばれてきた患者を診察し、

 

 

「ミスター・マルフォイ、あなたは唸らなくていいです。もう大丈夫。仮病は止めて早く寮に戻りなさい」

 

 

ロックハートが目覚めると、ファンの子達共々医務室から追い返し、そして自分のオフィスに戻った。因みに私の着替えは、ハーマイオニーとアンジェリーナさんが手伝ってくれた。

薬の刺激に試合の疲労で、私は夕食代わりのシロウ作の軽食を摂ったあと、すぐに睡眠に入った。

 

夜遅く。

ふと妙な感覚が体を襲い、私は目が覚めた。今回はシロウはいないみたい。右腕は薬が効いているのか、鈍痛がした。ハネジローは私の隣で眠ってる。

まぁ兎も角、ハロウィンの夜と同じ感覚がしたので、私は上体を起こして耳を澄ました。

 

 

━━……引き裂いてやる……殺してやる……

 

 

ッ!! またあの声だ。そして壁の中を何かが進むような音。不気味な感じ、逃げる蜘蛛たち。全てハロウィンの夜と同じだ。声は壁を通り、天井に移動している。

 

 

━━……殺す……殺す……殺す……殺す!!

 

「どーも!!」

 

 

声を追って、視線をそのまま前に向けると、そこにはあの屋敷下僕妖精のドビーが、私の寝ていたベッドの上に立っていた。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。
また中途半端ですみません。

シロウですが、精神が体に引きずられているせいで、頭でわかっていても衝動的に動いてしまう、と言うことにしています。
その例が、クィディッチフィールドでの一連ですね。

そしてマダム・ポンフリー。原作ハリー・ポッターを知ってる人はわかると思いますが、わからない方々は、プリヤのセラが一番近いと思いますので、彼女を思い浮かべて頂ければ。


さて、次回はドビーの説明と決闘クラブです。少々長くなります。


では今回はこの辺で


う~ん、私としては酷い目にあわせたあと、ロックハートを改心させたいな~なんちゃって





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9. 夜中の会話と決闘クラブ


ではでは更新です。

それではごゆるりと





 

 

Side マリー

 

 

「……ドビー?」

 

「マリー・ポッターはホグワーツに来てしまった」

 

 

私が寝ていたベッドの上に、ドビーは立っていた。そして悲しそうな表情をしていた。

 

 

「ドビー、一つ聞かせて」

 

「はい」

 

「あの暴走したブラッジャー、あれあなたの仕業?」

 

「……はい」

 

 

私の質問に、ドビーは顔を俯かせて返事をした。やっぱりそうか。だとすると、その理由は夏休みのときと同じ。それならば、

 

 

「じゃあ駅の入口を塞いだのも?」

 

「……はい」

 

「……ハァ。ドビー、あなた約束したよね? もう私に干渉しないって」

 

「……」

 

 

私の問い掛けにドビーは黙りこくる。でも私はドビーの顔を両手で挟み、こちらに向けさせた。そして私の目を見させた。

 

 

「夏休みに、私とシロウと約束したよね?」

 

「……はい」

 

「じゃあ何で? あなたにとって、私達との約束はそんなにすぐに破って良いものなの?」

 

「ッ!! 滅相もありません!! ですがドビーめはマリー・ポッターの安全のために……!!」

 

「入口を塞ぐのは兎も角、ブラッジャーは確実に私の頭を潰そうとしてたよね?」

 

「そ……それは……」

 

「私言ったよ? 人間はたかがゴムの球で命を落とすって。忘れたわけじゃないよね?」

 

「も、勿論ですとも!!」

 

 

ドビーは大きな耳をパタパタさせながら、頻りに頷いていた。良かった、忘れっぽいことの心配はないみたいだね。

 

 

「もう一度言うよ? ドビーの気持ちは嬉しいけど、私にとっては迷惑なの。だから今後は絶対こんなことしないで。私はドビーの御主人様じゃないから命令はできないけど、一個人として約束することは出来る?」

 

「はい、勿論です!!」

 

「序でに言っとくけど、もし今後やったらたぶん、シロウに殺されると思うよ? 脅しじゃなく、本当に」

 

「それは……確かに」

 

 

ドビーとはそのあと、一つ二つ会話をした。やはりと言うべきか、ドビーが私をホグワーツに戻したくなかったことに、今回の石化騒動が関係してるらしい。流石に詳しいことほ話せなかったみたいだけど。

ドビーは私に念入りに警告して帰っていった。それと廊下の方から、複数の人たちが来るのは同時だった。

私は急いでベッドに寝転がり、狸寝入りをした。

 

どうやらポンフリーさんとマグカゴナガル先生、そしてダンブルドア先生らしい。何かを運んできたようだ。

 

 

「生徒がまた襲われました。今回も石化しています」

 

「この子は確かグリフィンドールの……」

 

「ええ、コリン・クリービーです。近くに葡萄が一房落ちていたことから、寮を抜け出してポッターの見舞いに行こうとしたのでしょう」

 

 

コリンが石化? 医務室に来る途中で?

 

 

「カメラは? この子が構えているということは、中にネガがあるのでは?」

 

 

薄目を開けて見ると、ダンブルドア先生がコリンの手から、カメラを抜き取って裏蓋を開けた。ポンッ、シューと言う音を立てて、カメラからは火花と煙が立ち上った。

 

 

「……熔けてる」

 

「ダンブルドア先生、これはいったい……?」

 

「……それはの。秘密の部屋が開かれたということじゃ。再びのぅ」

 

 

ダンブルドア先生の重苦しい声が、妙に耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日過ぎ、私は無事に退院した。

シロウたちには、ダンブルドア先生の言っていたことを伝えてある。『再び』という言葉にロンとハーマイオニーは疑問を抱いたらしく、ならばハロウィンの日に何か知ってそうな雰囲気を出していた、マルフォイから直接聞き出そうということになった。

でもただでは聞き出せないので、マルフォイが信を置いている人物に成り代わることになった。

 

そこで使うのが『ポリジュース薬』という魔法薬だ。何でも薬に対象の身体の一部分を混ぜることにより、その対象に一時的に変身出来るらしい。魔法って便利だね。

まぁ方針が固まったところで、私達四人は三階の女子トイレ、『嘆きのマートル』と呼ばれるホグワーツ女子生徒のゴーストが取り憑くトイレで、ハーマイオニーを中心にして調合していた。

でもその薬が出来るまで一ヶ月。その間は何もできない。私達はその間も自分達なりに、秘密の部屋について調べていたけど、大して良い情報は得られなかった。

 

更に三日ほど経過したとき、大広間前の掲示板にチラシが張り出された。なんでも週末、明日の昼間に、『決闘クラブ』を開くらしい。担当の教師は、ロックハートにスネイプ先生。まぁスネイプ先生がいらっしゃるなら、滅多なことは起こらないだろう。そう考えた私は、いつもの四人で出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

さて、週末になったが、大広間の中は片付けられ、中央に細長いステージが設置されていた。恐らく、この上で実演が成されるのだろう。

ステージの上にロックハートが立つと、ファンの子達が一斉に前の方に陣取った。因みにオレは、部屋の壁の出っ張りに腰掛けてる。ハネジローはオレの直ぐ下に立つマリーの頭の上だ。そのマリーの両脇を、ロンとハーマイオニーが陣取っている。まぁ十分に見えるし、いいだろう。

 

 

「皆さん!! 私の声が聞こえますか? 私の姿が見えますか? ……よろしい」

 

 

ロックハートは声を張り上げて確認を取ると、マントを肩から外してステージ脇に立つ女生徒に渡した。女生徒はファンの一人らしく、とても幸せそうな顔をしている。

 

 

「最近物騒なことが、立て続けに起きていますのでね。そこで校長先生が、自衛の術を皆さんに学ばせるために、『決闘クラブ』を臨時で開くことにしました!!」

 

 

ロックハートは言葉を続ける。

 

 

「今回は、私ともう一人の教員が担当します。それではご紹介しましょう、もう一人の担当者、スネイプ先生です!!」

 

 

ロックハートが紹介すると、奴が立つ場所とは逆のステージ端から、スネイプはステージ上にあがってきた。いつものコウモリのようなマントは脱いでおり、右手には杖を持っている。成る程、予想はしていたが、彼は中々の手練れだな。

 

 

「それではまずは私と彼が、デモンストレーションを行います!! 大丈夫です、死んだりなんてしませんよ!!」

 

 

ロックハートは意気揚々とそう述べ、ステージ中央に立ち、スネイプと向き合った。

二人同時に杖を顔の前に構え、それをゆっくりと切り払うように、身体の斜め下の位置へと移動させ、そして深く礼をした。

成る程。決闘と言うだけはあり、騎士然とするのが自然か。

それから二人は互いに背を向け、それぞれステージの四分位点で互いに向けて、杖を構えた。ロックハートは気取ったような構え方だな。対するスネイプは王道な、弓を引くように顔の横に右手に持つ杖を構え、左手はロックハート向けて伸ばしている。

 

 

「三つ数えたら、決闘の始まりです。……一……二……三!!」

 

「『武装解除(エクスペリアームス)』!!」

 

 

ロックハートが三数えるのと同時に、スネイプの杖がひらめいた。杖先からは赤い閃光が飛び出し、ロックハートに直撃、そのままぶっ飛ばした。ロックハートはステージの上に大の字で寝ていたが、数秒後に起き上がった。

 

 

「え、ええー今のは武装解除呪文です。ご覧の通り、私は杖を奪われました。それにしてもスネイプ先生。生徒に合わせて武装解除から教えるとは、いやはや感服しました。まぁ私がその気になれば、返すことはできますが」

 

 

ロックハートはそう言いつつ、ステージに落ちた自分の杖を拾った。スネイプは無言を貫いている。それにしてもスネイプの杖捌き、中々に鋭いな。これは本気になれば、彼と並ぶ実力者はそうそういないだろう。

 

 

「さて、では二人一組を作ってください!! そして互いに杖を取り上げる練習です!! いいですか? 杖を取り上げるだけですよ?」

 

 

ロックハートがそう言うと、皆して二人一組を作りはじめた。マリーはマルフォイと組み、ロンはハーマイオニーと組んでいる。さて、オレは……ハブられた。……悲しくなんてないぞ?

 

 

「おや? ミスター・エミヤ? 相手がいないのですか?」

 

「……ええ、まぁ」

 

 

オレを見つけたロックハートが、話しかけてきた。そうだな、こいつに相手してもらうとしようか。

 

 

「なら私が相手をしてあげましょう!! さあさあこちらへ」

 

 

ロックハートはそう言って、オレをステージ上に連れて行った。すると広間にいた皆の視線が、オレとロックハートに向けられた。ファンの子達からは、「ロックハートにやられろ」という嫌悪の籠った視線を向けられ、あとは好奇心、ロックハートの冥福を祈る視線を向けられていた。

 

ふとスネイプと目があった。その瞬間、俺達はアイコンタクトで会話を行った。

 

 

『スネイプ、こいつやって良いか?』

 

『構わん、思いっきりやれ』

 

『加減がわからないから、様子見するわ』

 

『よかろう』

 

 

以上、使用時間0.5秒のアイコンタクト。さて、オレも準備するか。

ローブが邪魔だったから床に脱ぎ捨てたが、ハネジローがそれをマリーのもとへ持っていった。オレは腰の鞘からアゾット剣を引き抜き、逆手に持つ。ローブはマリーが畳んで手に持っている。

 

 

「ロックハート先生」

 

「何でしょう?」

 

「呪文は『エクスペリアームス』で良いんですよね?」

 

「ええ、それで大丈夫です。今回は試しなので、礼は要りませんよ?」

 

 

ロックハートはそう言って杖を構えたので、オレも剣を構えた。剣を握る右手を前に出し、左手を肘裏に添える。

 

 

「……一!!」

 

 

ロックハートの声が響く。ふとオレと近しい者たちが、オレの後ろを指差している。何があるのだ?

 

 

「……二!!」

 

 

更にロックハートのカウントは続く。広間にいた殆どの生徒が、オレの後ろを指差し、騒ぎ出す。だから何だと言うのだ。

 

 

「……三!!」

 

「『武装解除(エクスペリアームス)』!!」

 

 

オレがロックハートのカウントと共に、呪文を唱えた。するとアゾット剣の柄頭の宝石ではなく、オレの後方から二本の真っ赤な光の剣が飛び出した。

その二本の剣は、一本はロックハートの右手に直撃して杖を弾き、もう一本はロックハートの額に直撃した。ロックハートはそのまま『ウルトラC』の要領で後ろに飛び、そして壁に叩き付けられた。

 

 

……なんでさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

ロックハートが壁に叩き付けられた瞬間、大広間は静けさに支配された。というかそれ以前に、シロウの呪文って何なの? 閃光が剣の形だし、一回の呪文で二発出るし、そもそも杖先から出てないし。虚空から発射されるって。

 

とりあえず、ロックハートはすぐに起き上がった。どうやら打ち所が良く、気絶しなかったみたいだった。ロックハートはシロウの呪文について誉め、次に自分の相手をする人を探し始めた。シロウとは誰も組みたがらない。まぁわからないでもないけど。

 

 

「ならば、我輩が行こう」

 

「スネイプ先生?」

 

「どれ、ミスター・エミヤの実力が知りたくなった。エミヤ、相手をしてもらえるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

シロウはそう言うと、スネイプ先生と一緒にステージ上にあがった。先程のことから、みんな自分のことではなく、スネイプ先生とシロウに意識が向いてる。

何人かのスリザリン生徒が、シロウをボコボコにするよう野次を飛ばしていた。

 

でも気のせいかな?

さっきのスネイプ先生の言葉、スネイプ先生自身の力が、シロウにどこまで通用するか、試してみたいって思いが感じられた。気のせいだよね?

 

二人はステージの中央で礼をしたあと、互いに離れて杖を構えた。

 

 

「……一!!」

 

 

ロックハートがカウントを始める。そしてまたシロウの後ろの空間が、歪み始めた。今回は気がついた人が多い。

 

 

「……二!!」

 

 

更にカウントは続く。空間の歪みはやがて形作られ、一本の無色透明な槍になった。剣の次は槍なんだね。スネイプ先生は気がついているのだろう。集中するように、シロウを見つめる。

 

 

「……三!!」

 

「『武装解除(エクスペリアームス)』!!」「『多重防壁(プロテゴ・フラクタル)』!!」

 

 

シロウが武装解除呪文を唱えると、槍は真っ赤な光を放ち、スネイプ先生目掛けて射ち出された。そしてスネイプ先生の杖からは、七枚重ねの銀色の盾が投射された。

 

瞬きする間に、槍と盾はぶつかった。

途端、物凄い衝撃と風が巻き起こった。皆が後ろに少しズラされた。膨大な魔力のぶつかり合いで、私達の杖が共鳴を起こすように振動する。シロウの光の槍は、スネイプ先生の盾を貫こうと、ぶつかってる。

 

盾が一枚壊れた。スネイプ先生が少しノックバックを受けてる。

また一枚壊れた。更にノックバックを受けてる。

一気に三枚が壊れた。スネイプ先生は二、三歩後ずさる。

 

盾が一枚一枚破壊されるたびに、魔力の胎動が起こる。大広間の窓が、壁が、天井が振動し、音を立てている。

 

 

「な……なんなのよ、これは!!」

 

「あ……あああ……」

 

 

魔力の煽りを受けた生徒は、一人、また一人と酔っ払い、地面に座り込む。特にスネイプ先生の近くにいた人が、一番酷そうだ。

盾がまた一枚破壊され、最後の一枚になった。その一枚も、ヒビが入り始める。

 

 

「ッ!! ハァァァアアアアア!!!!」

 

 

スネイプ先生が力を込めた。盾と槍が拮抗する。そして槍と盾は、眩い光と暴風、轟音を立てて爆散した。生徒たちは差があれど、皆後方に吹っ飛ばされた。

 

近くにいたロンの杖は、今の衝撃で真っ二つに折れた。恐らく魔力の胎動に耐えきれなかったのだろう。

ただ、シロウ作の護符を持っていたメンバーは、ロンの杖を除いて、少し後ずさるだけで済んだ。大広間の窓は全て割れ、生徒たちはそのほとんどが、膨大な魔力の胎動で酔っていた。

そしてその発生源にいた二人は、シロウは杖を構えたまま立っており、スネイプ先生は片膝をついて、大きく肩で息をしていた。

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。


スネイプの使った呪文ですが、その名の通り、盾の呪文の重ねがけです。
そしてシロウvsスネイプのシーンは、まんまアイアスvs投げボルグのシーンがベースです。

さて、次回は蛇語騒動とポリジュース薬。


では今回はこの辺で




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10. 蛇語とポリジュース薬



更新です。

それではごゆるりと。






 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

大広間は、スネイプ先生の荒い息遣いだけが響き、あとは風が入り込む音しかしなかった。

 

 

「スネイプ先生。大丈夫ですか?」

 

「……ああ、大丈夫だ。それにしても流石だな、エミヤ。防ぐことに手一杯だった」

 

「今回は魔力を込めましたので。ですが、流石に私もこうなるとは」

 

 

スネイプ先生とシロウが会話をしている。その声で、一人、また一人と現実に戻ってきた。と、大広間の外から、マグゴナガル先生が駆け込んできた。

 

 

「今のはいったいなんですか!? まるで地震のような……セブルス、何をしてるのですか?」

 

「少々力を使いすぎまして」

 

 

マグゴナガル先生はスネイプ先生の言葉に、まずシロウに目を向け、次にスネイプ先生、最後に広間を見渡し、再びスネイプ先生に視線を戻した。

 

 

「……まさか?」

 

「ええ。そのまさか、です」

 

「……わかりました。ミスター・エミヤ?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「余りやり過ぎないよう、お願いしますね?」

 

「……すみませんでした」

 

「よろしい、さて」

 

 

マグゴナガル先生はシロウに注意をしたあと、大広間に杖を向け、ヒビの入った壁に天井、割れた窓を綺麗に修復し、大広間を後にした。あらら。シロウの規格外さって、先生方には知られてるんだね。まぁ去年のトロールのこともあるから、仕方がないと言えば、仕方がない。

 

 

「では今度は生徒同士でやってみようか。ああ、ポッターにウィーズリー。どうだね?」

 

 

ステージの上から二人が降りたあと、ロックハート先生によって生徒同士でやることになった。で、私とロンが指名されたけど、ロンの杖はさっきの余波で折れた。今は芯に使われてるユニコーンの毛で、辛うじて繋がっている状態。流石に使うのは不味いだろう。

 

 

「……ロン。すまない」

 

「あ、いやいいよ。これもお下がりだし」

 

「……新しい杖の代金は、オレに払わせてくれ」

 

「……お願いします」

 

 

漫才のようなやり取りが、隣で行われている間に、私の相手はマルフォイに決まった。私とマルフォイはステージの中央に立ち、互いに杖を構えた。因みにハーマイオニーは、スリザリンのミリセントって女の子とペアを組み直した。

 

 

「怖いか、ポッター?」

 

「いいえ? 結構ワクワクしてるわ。怖いのはあなたじゃないの?」

 

「まさか?」

 

「あら、残念ね」

 

 

互いに挑発し、それからそれぞれステージの端に立つ。私の頭の中には攻撃用、ただし全て武装解除以下の攻撃力しかない呪文を、思い浮かべる。

そういえばシロウにも言ってないけど、威力は大したことないけど『独自魔法(オリジナル・スペル)』を作ったんだよね。この際ここでお披露目しようか? 武装解除よりは弱いし。

因みに今回もロックハートのジャッジで決闘を始める。

 

 

「杖を構えて!! ……一……二 「『エヴァーテ・スタティム(宙を踊れ)』!!」なっ!?」

 

 

マルフォイがフライングで私に呪いを飛ばした。マトモに食らった私は宙を舞い、後方へと吹っ飛ばされた。スリザリン生たちは、皆一様にニヤニヤとした嫌な笑いを浮かべていた。呆れた、卑怯な手ばかり使って、貴族が聞いてあきれる。

私は立ち上がりマルフォイに杖を向けた。彼は驚いた顔をしてる。ただ吹っ飛ばしただけで、勝った気になってるの?

 

 

「『フリペンド・ブライン(乱れ射ち)』!!」

 

「二人とも武装解除だけです!!」

 

 

ロックハートの制止を聞かず、私はオリジナル・スペルを発動させる。杖先から卓球球程の大きさの光球が、マルフォイ目掛けて連続掃射される。

 

元々フリペンド自体は大した魔法ではない。何の呪力もない光球を撃ちだし、対象に当てる、本当にボールを当てるだけのような魔法である。が、飛ぶスピードはかなり速いため、威力などが最大になれば、陶器製の壺を壊すのは勿論、金属甲冑をバラバラに吹き飛ばすのはわけない。

 

今、私が出しているのは、飛行スピードは卓球マシンほどであり、連射スピードはマシンガン、球の大きさと固さはスーパーボールほどである。それが連続掃射されたらどうなるか。

 

 

「アバババババババババババババッ!!」

 

「マリー、落ち着いて!! 武器を奪うだけdアバババババババババババババッ!!」

 

 

と、こうなる。

十秒ほどで連射は終わった。なんか途中で誰か巻き込んだ気がしないでもないけど、無視することにした。

周りの皆は、目を見開いている。スネイプ先生は感心するような顔をしている。シロウも驚いているみたい。やったね!!

 

マルフォイは暫く床に座り込み、ゼェゼェ言っていた。けど、再度立ち上がり、私に杖を向けた。

 

 

「『サーペンソーティア(蛇よ出よ)』!!」

 

 

マルフォイの杖の先から、全長70cm程のコブラが出てきた。ステージに出された蛇は、そのまま動き出す。確かコブラは、強力な毒を持っていたはず。誰かに噛みついたら大事だ。

 

 

「二人とも動くな、我輩が追い払おう」

 

「いや、私にお任せあれ」

 

 

スネイプ先生が歩き出すけど、ロックハートがそれを制止し、蛇に杖を向けた。

 

 

「『ヴォラーテ・アセンデリ(蛇よ去れ)』!!」

 

 

ロックハートの杖先から閃光が飛び、蛇に直撃した。パァンッ!! というゴムの弾ける音と共に、蛇は宙に打ち上げられ、そのまま落下した。また失敗してる。蛇は怒ったようで、近くの生徒に、ターゲットをとった。いけないっ!!

 

 

━━ 手を出すな。去りなさい。

 

 

私は蛇に向けて声を発した。蛇は動きを止め、私に顔を向けた。

 

 

━━ 魔力に還りなさい。ここはあなたのいるべき場所ではない

 

 

蛇は渋るように床に頭を落とし、舌をちらつかせる。

 

 

━━ 還りなさい!!

 

 

今度は強く言った。蛇は諦めたのか、光を放ち、マルフォイの杖の中に吸い込まれていった。

もう大丈夫だ、そう思った私は、襲われそうになったハッフルパフの生徒、ジャスティンに顔を向けた。けど、彼は私を恐れるかのような目で見ていた。

周りを見渡すと、私と余り接点のない人たちは、寮の所属に関係なく、私に同じような目を向けている。私、何かした?

 

 

「えっと……皆どうしたの?」

 

 

本気でわからなかった私は、皆に問いかけた。でも誰一人答えない。突然私は後ろから引っ張られ、大広間の外へと連れていかれた。引っ張っていたのはロンだった。ハーマイオニーとシロウもいる。私達はそのまま暫く廊下を歩き、とある曲がり角で立ち止まった。

 

 

「君『パーセルマウス(蛇語使い)』だったの?」

 

「私がなんだって?」

 

「『パーセルマウス(蛇語使い)』。蛇と話ができる人よ」

 

 

ハーマイオニーが説明を入れる。でも今一ピンとこない。

 

 

「わかんないよ。仮にそうだとしても、今回が初めてだもん」

 

「今まで経験ないの?」

 

「うん」

 

 

そう。仮に蛇と話せたとしても、私は今まで蛇とコミュニケーションをとったことない。だから、もし私が蛇語を話したとしたら、今回が初めてだ。

 

 

「何で皆あんな顔をしてたの?」

 

「それは……サラザール・スリザリンが蛇語使いだったからよ」

 

「ただそれだけ?」

 

「今、秘密の部屋の騒動が起こってるでしょう? そして狙われてるのは、スリザリンの継承者の敵。ならあなたがそのつもりが無くても、皆あなたがスリザリンの継承者かもって思うわ」

 

「そうだよ。もしかしたら皆君をスリザリンの曾曾曾曾孫だと思うぜ?」

 

「そんな!?」

 

「彼の者は何百年も前の人間だ。確率的には、その血を牽いているということは、あり得なくはないのだよ、マリー」

 

「パム~……」

 

 

シロウは重々しく言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

その日から私は、校内の大多数の人たちから、疑いの視線に晒されることになった。普通に廊下を歩いているだけで、皆脇に逸れていく。中には自分は純血だから襲うな、と言ってくる人間もいた。正直ストレスが溜まった。いつも美味しいと感じる食事も、全くの無味に感じられた。

 

救いがあるととすれば、ウィーズリー一家やシロウ、ハーマイオニーは変わらず私に接しており、グリフィンドールの同級生や、何人かの他寮生も私を疑っていないということだ。

 

 

「下~に下に、スリザリンの継承者様のお通りだ~」

 

「者共、頭が高い!!」

 

 

フレッドとジョージがふざけて私の両隣に立ち、ふん反りかえって歩く。そこにパーシーが近づき、二人に注意をする。

 

 

「おい、どけよパーシー。マリー様は行かねばならぬ」

 

「そうだそうだ。牙を生やした手下と、剣の魔王と一緒にお茶をお飲みになるのだ」

 

「ふざけるな!! だいたい剣の魔王って「呼んだか?」あ、シロウ丁度よかった。二人にお仕置きを……って、なんだその格好は!?」

 

「「「「ブフゥッ!!」」」」

 

 

やって来たシロウを見た瞬間、周りにいた人たちも含めて吹き出した。いつものシロウからは想像できない、非常に奇抜な格好をしていたのだ。

 

上半身は裸、両腕両足にはゲートルのように黒い布を巻き付け、左右の腰に二本ずつ、背中に二本の合計六本の剣を身に付けている。

下半身は大きな紅い布を巻き付け、靴は履いていない。そして全身には奇妙な模様が描かれており、頭には腰布と同じ色の布を巻き付けている。

そして背中には何故かお地蔵様を背負っていた。ハネジローはシロウの肩に乗っている。

 

 

「し、シロウ。その格好はいったい……?」

 

「オレはシロウではない。剣の魔王だ」

 

「「ブヒャヒャヒャヒャッ!! m9(^▽^)」」

 

 

シロウの発言と出で立ちに、双子はゲラゲラとバカ笑いし、周囲の生徒たちもパーシーを除き、バカ笑いをした。

騒ぎを聞き付けたマグゴナガル先生が来たけど、その厳格そうな顔を歪め、視線を反らしていた。因みに双子は同じような格好をして、先生とパーシーから怒られていた。

 

こんな感じで、確かに味方もいた。もし彼らがいなかったら、私はどうなっていただろう。想像したくもない。

でも数日後。蛇に襲われそうになったジャスティンが、ゴーストのニコラスさんと共に、石化した状態で見つかり、更に疑心に晒されるはめになった。

 

月日は過ぎてクリスマスを経由し、被害者は更に二人増えた。その内の一人は、パーシーの彼女さんだったらしく、その日からパーシーは沈みこんだままだった。

 

 

そこに漸く、ポリジュース薬が完成した。今はまだ冬季休暇中。マルフォイは学校に残っていた。

今回、秘密の部屋について、何かしら知っていると思われるマルフォイから、情報を引き出すために、彼に近しい人たちに変装することになっている。その変装に、ポリジュース薬は絶対に欠かせないアイテムだ。

 

 

「結局誰が何を飲むの?」

 

「私はミリセント・ブルストロード。ローブに彼女の髪が付着していたわ」

 

「じゃああとはクラッブとゴイルか」

 

「すまんがオレは実行の日の夜、校長に呼び出されている。三人だけに任せる形になるが」

 

「じゃあ私がクラッブのを飲むね。ロンはゴイルで」

 

「わかった」

 

 

クラッブとゴイルの髪の毛はまだ採取していなかったので、今夜採ることにした。因みに二人とも学校に残っている。

私達は少し強めの眠り薬で三人を眠らせ、薬の効く一時間のみ、彼らと入れ替わることになった。ただ、そのまま薬を飲ませるわけにはいかないので、私達はマドレーヌにそれを仕込み、待ち伏せした。

 

大広間の外にマドレーヌを二つおき、魔法で空中浮遊させる。これはクラッブとゴイル用だ。ミリセントはハーマイオニーがどうにかするみたいで、そちらは任せた。

それにしてもシロウ、校長先生の呼び出しってなんだろう?

私が考え事をしていると、大広間から大量のマフィンを抱えたクラッブとゴイルが、実に幸せそうな顔をしながら出てきた。そして宙に浮くマドレーヌを見つけると、何の躊躇もなくそれを手に取り、かぶり付いた。そしてすぐに眠り薬が効き、その場に倒れた。

 

……うん。この子たち馬鹿なのかなぁ? 普通あんな怪しく浮いてるものに、躊躇なく手を出しはしないけど。

まぁ計画はうまくいったので、私達は髪の毛をそれぞれ一本採取し、三階女子トイレの個室に押し込めた。そしてハーマイオニーからコップに入ったドロリとした薬を受け取り、髪の毛を投入した。

 

薬は私のは褐色となり、ロンはカーキ色、ハーマイオニーは黄土色になった。

 

 

「いい? 効果は一時間だけ、忘れないでね? それじゃあ……」

 

 

私達は薬を一気に飲み干した。

……うん、不味い。もう一杯なんて決して言わない。ロンとハーマイオニーはそれぞれ個室に駆け込んだ。

 

体が内側から焼けるようだ。絶え間なく吐き気が私を襲う。中のものが出そうになったけど、私はそれを堪えた。

暫く気持ち悪いのが続くと、今度は私の表面が泡立ち始めた。泡は決して弾けることなく膨張と収縮を繰り返し、私の体を大きくしていった。そして数秒後、私の外見はクラッブとなった。

試しに声を発すると、声までもクラッブになっていた。

なんか複雑。私女の子なのに。

 

まぁ取り合えず成功だ。ロンもゴイルの姿になり、個室から出てきた。でもハーマイオニーはトラブルが起こったらしく、結局私とロンの二人だけで動くことになった。

 

結論から言うと、大した収穫はなかった。

新しくわかったのは、前回部屋が開かれたのは五十年前。そのときマグル出身の女生徒が一名死亡、たったそれだけだ。部屋に潜む怪物については、何一つ判明しなかった。

 

そしてハーマイオニーだけど、どうやら彼女が使ったのはミリセントの髪の毛じゃなく、猫の毛だったらしい。ハーマイオニーは顔は猫になり、毛がはえ、尻尾まで付いていた。

 

ポリジュース薬は、動物の毛を使用してはいけない、人間の一部のみである。けどハーマイオニーは猫だった。

そのせいで、一時間経過しても変化は解けることなく、寧ろ毛玉を吐いたりと酷かったので、私達は彼女を医務室に連れていった。マダム・ポンフリーには、魔法の失敗でこうなったと伝えてる。間違いではないし。

 

結局ポリジュース薬を使った今回の調査は、ほぼ無駄骨となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








はい、ここまでです。

マルフォイとロックハートの呪文、「宙を踊れ」「蛇よ去れ」は、映画オリジナルの魔法です。
マリーの魔法は、ハリパタのゲームオリジナル魔法、「フリペンド、撃て」を元にした、本作品オリジナルです。

マリーの口調ですが、成長するにつれて、徐々に「~だわ」「~よ」「~かしら」という、一般的に女性口調と呼ばれるものにしていきます。
まだ12歳なので、偶にしか出ませんが。



さて、次回はリドルの日記です。


それでは今回はこの辺で





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11. リドルの日記、そして新たな被害者は……


最近「仮面ライダーBLACK RX」のカッコ良さに魅せられてます。
序でにマッハも中々


それは兎も角、更新です。


それではごゆるりと






 

 

ハーマイオニーも無事退院し、私達の日常は少しだけ戻った。

未だ秘密の部屋の化け物に、皆は怯えているけど、それでもいつものメンバーがいるのといないのとでは、だいぶ差がでる。

 

あ、でも一つだけ変なことがあった。

マートルのいる三階の女子トイレに、黒革表紙の本が一冊、マートルの逆流させた水に浸かっていたのを拾った。その本は拾い上げたとき、推測結構な時間水中にあったにも関わらず、乾いた状態だった。

シロウには、怪しいものには手を出すなって言われてるけど、今回私は独断で自己調査することにした。

 

その日の夜、皆が寝静まった頃に机に向かい、本を開いた。中には何一つ書かれてはおらず、どのページもまっさらだった。裏表紙には金文字で「トム・マールヴォロ・リドル」って書かれている。ということは日記帳か。

試しにインクを一滴、適当に開いたページに落とした。すると、インクはみるみる内に吸い込まれ、またページはまっさらな状態になった。ページを捲ったりしたけど、裏写りしたり染みになった様子はない。

今度は余分なインクを落とし、自己紹介文を書いてみた。

 

 

『私は、マリナ・リリィ・ポッターです。』

 

 

すると私の文字は間もなく吸い込まれ、代わりに私のではない文が浮かび上がってきた。

 

 

『初めまして、マリナ・ポッター。僕はトム・リドルです。』

 

 

何と返事が返ってきた。でも少しだけ掠れていた。首もとのネックレスが淡く光る。ということは危険物なのだろう。

そう言えば、ホグワーツで素晴らしい働きをした生徒に贈られる、ホグワーツ特別功労賞なるものがある。そこには、このトム・リドルの名前も刻まれていた。年は確か五十年前。偶然かはわからないけど、秘密の部屋の開かれた年と同じだ。

私は一抹の望みを掛けて、更に文を書き込んだ。

 

 

『あなたは秘密の部屋について、何かご存知ですか?』

 

『はい』

 

 

返ってきたのは肯定。

ならばとそれについて教えてくれるか書き込んだ。しかし返答は否だった。

せっかくの手掛かりが無駄になったと落胆していると、ページに更に文が浮かび上がってきた。

 

 

『見せることならできます。』

 

 

そして日記のページは勝手に捲られ、真ん中ほどで止まった。そして本の()()が、眩い輝きを放ち始めた。私はその中に吸い込まれ、気がつけば周りが白黒の世界にいた。

どうやらここはホグワーツらしい。目の前の階段を見上げると、一人の青年がいた。運ばれてきた担架をじっと見つめている。白い布が被せられたそれからは、右腕がだらりと力無く垂れていた。

担架に乗せられていたのは、誰かの遺体だった。しかも女性のものだ。いきなり嫌なものを見せられたけど、私は我慢して青年に近づいた。

 

 

「すみません、あなたがトム・リドルですか?」

 

 

しかし青年はこちらを見ない。それどころか、私の声が聞こえているかも怪しい。

そこでふと気が付いた。この世界で色を持っているのは私だけ、あとは全て白黒だ。それに日記は私に見せると言った。であるなら、ここは誰かの記憶の中、私は見ることはできても、干渉することはできない。

そう判断した私は、大人しくことの成り行きを見ることにした。

 

 

「リドルかね? こちらに来なさい」

 

 

ふと階上から声が響いた。それは随分と若々しいが、聞いたことがある声だった。そちらへと顔を向けると、そこには今より少しだけシワの少ないダンブルドアがいた。

ダンブルドアに呼ばれた青年、リドルは彼の元へと行き、二言三言話すと立ち去った。私はそのままリドルの後を追うことにした。

 

彼は暫く城内を歩き回ると、ある一つの扉の前で立ち止まり、そして杖を抜いた。扉へと耳を寄せ、中の音を聞いている。私も聞き耳を立ててみた。

 

 

「おいで。お前さんを城内(ここ)から出さなきゃなんねぇ。アラゴグ、こっちに」

 

 

……今の声、それにしゃべり方。まさか。

そのときトムは、その扉を勢いよく開いた。中の人物は、同時に何かの鍵を掛けていた。

 

 

「ハグリッド」

 

「トム!!」

 

 

やっぱりハグリッドか。トムはハグリッドに杖を向けていた。

 

 

「トム、おめぇ……」

 

「ハグリッド、噂は本当だ。女生徒が一人、何者かに殺された」

 

「コイツじゃねえ!! コイツは何もしてねえ!!」

 

「だが真っ先に疑いがかかるのは君だよ。さぁ、そこをどいて」

 

「嫌だ」

 

「どくんだ、ハグリッド!!」

 

「嫌だ!!」

 

「『システム・アペーリオ(強制開封)』!!」

 

 

リドルが杖を振ると、杖先から閃光が飛んで、ハグリッドの背後にあった箱に直撃し、蓋を破壊した。すると箱の中からは、タランチュラが可愛く思えるほどの大きな蜘蛛が、ものすごい素早さで出てきた。蜘蛛はそのまま部屋の外に走り出した。

 

 

「『アラーニャ・エグズメイ(蜘蛛よ去れ)』!!」

 

 

リドルの杖から再び閃光が飛ぶが、蜘蛛は辛うじてそれを避け、そのまま何処かへと去っていった。

ハグリッドは追いかけようとしたけど、再びリドルに杖を向けられ、動きを止めた。そしてリドルはハグリッドを今回の犯人と断定し、そのままつき出すことを告げた。

 

そこまでだった。

 

視界は再び眩い輝きに埋め尽くされ、気がつけば私はもとの時代、自分の座っていた椅子にまた座っていた。日記は閉じられている。

 

確信した。この日記はそうとうな危険物だ。

私は急いで日記を布にくるみ、私用の使っていない、ベッド脇の小棚の奥に仕舞いこんだ。これは使うたびに飲み込まれる。私の本能がそう告げていた。明日、今見たことも含めて、シロウとロン、ハーマイオニーに報告しよう。私はそう考え、遅い眠りについた。

 

 

 

 

明くる日、新学期初日の授業が終わったあと、私は三人に昨晩のことを話した。

シロウは始め、顔をしかめていたけど、話が進むと何やら考え込み始めた。

 

 

「……一ついいか?」

 

「なに?」

 

「箱から出てきたのは、確かに蜘蛛なのだな?」

 

「うん。それにハグリッドがその蜘蛛に関係あるみたい」

 

「蜘蛛に? 秘密の部屋じゃなくて?」

 

「うん、だって秘密の部屋の『ひ』の字も掠らなかったし」

 

「まぁ、そうだけどさ……」

 

 

四人して黙って考え込んだ。暫くすると、ロンは名案が浮かんだとでも言うように、ぱっと顔を上げた。

 

 

「ならいっそのこと聞いてみようぜ? お茶を装ってさ。やぁハグリッド、教えてくれる? 最近毛むくじゃらのおかしなやつを見なかった? ってね「毛むくじゃらだと? 俺のことか?」ウェイッ!?」

 

 

ロンは後ろにいたハグリッドに気づかなかったらしい。突然声をかけられて、まるで剣吾君のような反応をした。

まぁ取り合えず私とロンとハーマイオニーは即座に否定し、シロウは少し間を空けて首を横に振った。

 

 

「……一人怪しい奴はおるが、まぁええ。お前さん達も、余り遅くまで外にいるなよ? 最近は物騒だからな」

 

 

ハグリッドはそう言うと、『肉食ナメクジ強力駆除剤。マンドレイク用』と書かれた容器を片手に、温室の方向に去っていった。

 

 

「……マリー。日記は今何処に?」

 

「ふぇ? あ、うん。今は小棚の奥にある。ヤバイものだと思ったから布にくるんで」

 

「わかった。すまないが、それをオレに渡してはくれないか?」

 

「いいよ? シロウならある程度対処がわかるかもしれないし」

 

 

私達はそのまま寮に向かった。

すると前の方から、同級生のパーバティが走ってきた。そして私達の前で、息を切らしながら立ち止まった。

暫く荒い息を繰り返すと、鬼気迫る形相で私とハーマイオニーに顔を向けた。

 

 

「二人とも!! 部屋が荒らされてる!!」

 

 

私達四人はその言葉を聞くと、すぐに走り出した。流石にパーバティは疲れているので、シロウが抱えていたけど。そして男子二人は談話室に待たせ、私達女子は急いで部屋に入った。

中は散々たる状況だった。

あらゆるものがひっくり返され、壊され、荒らされていた。私の小棚も例外ではない。嫌な予感がしたので、まず最初に小棚に向かった。

 

 

「……これ、犯人はグリフィンドール生しかいないわ。それも女生徒だけよ」

 

「でも何のために?」

 

 

ハーマイオニーとパーバティは話している。私はその間に小棚の中を丁寧に調べていた。そして発見した。

 

 

「何か……重要なものを探していた。それ以外考えれない」

 

「そして見つけた。リドルの日記が盗まれている」

 

「そんな……!!」

 

「? 誰の日記?」

 

 

そう、トム・リドルの日記が盗まれていた。誰かは知らないけど、恐らくその日記に魅せられた人が、この事態を作り出したのだろう。

私は談話室に降りていき、二人にことの次第を説明した。ロンはショックを受けた顔をした。シロウは再び何か考え込む表情をうかべ、そして袖から出した金属製の小鳥に何事か話し、そのまま談話室から出ていった。

そのときのシロウは、何か切羽詰まった表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に日数は過ぎ、今日は今年何度目かのクィディッチのゲームデイだ。今日の勝敗は、今年のクィディッチ優勝がかかる、非常に重要な試合だ。

私は控え室から他の選手と一緒に、ピッチへと向かう通路を歩いていた。ロンは試合前にシロウからハチミツレモンを持たされ、選手に振る舞っていたので一緒にいる。因みに言うと、シロウとハーマイオニーは調べものがあるとかで、あとから観客席に向かうそうだ。

と、通路の向こうからマグゴナガル先生が走ってきた。とても慌てた、そしてショックを隠せない顔をしている。

 

 

「この試合は中止です」

 

「そんなッ!?」

 

 

マグゴナガル先生の言葉に、ウッドは非難めいた声をあげた。仕方がない。優勝がかかる試合なのだ。私も先生の発言に驚きを隠せない。

 

 

「緊急事態です。皆さんは着替えずに寮に戻って。ポッターとウィーズリー三兄弟は私と共に」

 

 

マグゴナガル先生はそう告げると、そのまま私達を伴って歩き出した。ジョーダンさんのアナウンスで、観客席の生徒達も寮に戻るよう告げられる。

 

最初私達五人は何処に向かっているかわからなかったけど、暫く歩くと医務室に向かっているのがわかった。

なんだろう、とても嫌な予感がする。

 

医務室につくと、ある二つのベッドに案内された。マダム・ポンフリーがさその二つの間に立ち、沈痛な顔をしている。……まさか。

 

 

「ショックを受けると思いますが……」

 

 

マグゴナガル先生はそう言うと、まず片方のベッドのカーテンを開けた。

そこに横たわっていたのは……

 

 

「「ハーマイオニーッ!?」」

 

「「石化してる!?」」

 

 

ハーマイオニーだった。

今までの被害者と同じく、石化していた。

 

 

「……彼女は図書館の近くで発見されました。脇にはこれが……」

 

 

マグゴナガル先生は小机の上の、小さな手鏡を手に取った。

 

 

「……何か心当たりはありますか?」

 

 

先生が聞いていたけど、私達は首を横に振った。全く何の心当たりがなかった。マグゴナガル先生は、そのまま隣のベッドに移動した。

一つはハーマイオニーだった。ならもう一つはまさか……

私は予想が違うことを願った。でもそれは、更に上をいく状態で裏切られた。

 

 

「……嘘だろ……」

 

「ありえねぇ」

 

「誰がやったんだ……」

 

「ああ……そんな……シロウ!?」

 

 

カーテンが捲られた先には、苦しそうな表情を浮かべ、頭以外全身を包帯で巻かれた状態で眠ってるシロウだった。石化はしていない、でも包帯には血が滲んでいる。

 

 

「彼はグレンジャーから少し離れたところで。付近では戦闘の形跡がありました。そして襲撃者の物と思われる血痕も」

 

 

シロウは……犯人と戦ったのだろうか……

 

 

「彼は発見されたとき、まだ意識がありました。犯人を聞き出す前に眠りにつきましたが、襲撃者の保有する毒を、サンプルとして私達に……敵はとてつもなく大きな怪物です。彼はその怪物に、大きな顎で一噛みされたようです」

 

 

マグゴナガル先生は重々しく言葉を紡ぐ。

そこにダンブルドア先生が、医務室にやってきた。そして私達の元へと近づいてきた。

 

 

「毒の効力がわかった」

 

「それは何なのですか?」

 

「うむ。あの毒は、本来ならば五分とかからぬ内に、対象を死なせるものじゃ。加えて質の悪いことに、傷も塞がらん」

 

「そんなッ!? じゃあシロウは!!」

 

「ポッター、落ち着いて。まだ話は終わってないですから」

 

 

思わず声を上げたら、マグゴナガル先生に諌められた。

 

 

「本来ならば、じゃ。だがシロウは何でか抗力を持ってるようでの。襲撃から推定30分は経過しておるが、未だ死んではおらん。それに少しずつじゃが、出血量も少なくなっておる。ポピー、薬を塗ったのかのう?」

 

「いえ、私はただ包帯を巻いただけです。恐らくこれは彼自身の治癒力でしょう」

 

 

どうやら話を聞く限り、シロウは死なないらしい。今はスネイプ先生が、急いで血清を作っているらしい。

一先ず安心し、でも悲壮感を隠せないまま、私達はグリフィンドール寮に向かった。

寮に着くと、マグゴナガル先生が手に持った巻き紙を開き、内容を声に出して読み始めた。

 

 

「生徒は本日より、6時以降は食事を除き、寮の外に出ないこと。日中間の教室移動は、教師が必ず一人付きます。クラブ活動、クィディッチも無期限禁止です。それから一人での行動は、決してしないように。例外は認められません」

 

 

先生は再び紙を巻くと先ほどの厳しい表情を崩し、悲しさを隠そうともしない顔をした。

 

 

「残念ながら現在ホグワーツを閉校する、という話も出ています。私達も、今後このようなことが続けば、そうせざるを得ません」

 

「あの……ハーマイオニーとシロウがいませんけど……」

 

 

同級生のパーバティが、マグゴナガル先生に問いかけた。その質問に周りのみんなも、そういえばと二人の姿を探した。

 

 

「……ミス・グレンジャーは今回の被害者の一人となりました」

 

「「「……え?」」」

 

「そんな……」

 

 

寮のみんなはショックを受けた声や、顔を浮かべる。

 

 

「……ミスター・エミヤは……今回の襲撃者と戦闘を行い、意識不明の重体です」

 

「なんだって!?」

 

「嘘だろ……」

 

「あのエミヤが?」

 

 

シロウの重体宣告に、グリフィンドール生はどよめきだした。決闘クラブの顛末を見た人たちは、シロウが規格外人物と認識し、ダンブルドアの次に無敵の存在では? と各々推測を立てていた。

そんな彼が重体となるほどの犯人。絶望は並々ではない。

 

と、そこにマダム・ポンフリーが慌ただしく転がり込んできた。何やら緊急事態のよう。もしかしてシロウになにか?

 

 

「み、ミネルバ!! ミスター・エミヤは!?」

 

「お、落ち着きなさいポピー。エミヤに何かあったのですか?」

 

「……ミスター・エミヤが……消えました」

 

「「「「……はい!?」」」」

 

「何ですって!?」

 

「もぬけの殻です!! ベッドには血の付いた包帯だけが残されており、新品の包帯三巻と共にいなくなったのです!! まだ動ける体でないのに……いったい何処へ……」

 

 

ダンブルドア先生だけでなく、様々な先生が捜索したけど、一切の手掛かりが無かったらしい。

私は気がつかないうちに、床に座り込んでいた。視界が歪み、暖かいものが目から流れ落ちる。

 

 

その日、エミヤシロウは行方不明となった。

 

 

 

 

 

 

 







はい、今回はここまでです。

シロウですが、不意をつかれて重傷を負うことになりました。
これより暫くは、シロウは戦線離脱です。

日記ですが、原作ではハリーが、少々飲まれかけていましたね。
マリーは生来の慎重さ、シロウの護符、持ち前の勘で日記を危険物にカテゴリしました。


さて、次回はアラゴグ編です。
バレンタインネタは入れるかは、わかりません。
少々駆け足ぎみですが、御容赦ください。


それではこの辺で





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12. アラゴグとの邂逅

この場をお借りして、少し補足を。

シロウの油断が過ぎるとの指摘が多々ありましたが、それに対する返答です。
前回不意をつかれたと書きましたが、それがメインではありません。

ハーマイオニーが先に石化し、咄嗟に赤原礼装を身に付けたは良いですが、バジリスクの魔眼によって石化はせずとも動きが鈍る。
加えてすぐ近くに石化したハーマイオニーが転がっていたため、彼女に被害が及ばないように立ち回った結果、重傷負ったとしております。


さて更新です。


それではごゆるりと






 

 

Side マリー

 

 

全てが灰色に見えた。

ハーマイオニーが石化し、シロウが行方不明になった日、私はいつの間にかベッドに寝ていた。周りには心配そうに私を見つめる同級生がいた。

ハネジローも私の側から離れなくなった。食べ物の味も感じられない。無気力に過ごす毎日。フレッドとジョージの馬鹿げた悪戯にも笑えない。ただただ秘密の部屋について、時間があれば食事をとることなく調べていた。そんな私に、同級生や教師陣は休むように言った。

 

 

「マリー、1度休んだ方が良いよ。もう朝と昼を抜かしてるだろ?」

 

「いい。大丈夫」

 

「ミス・ポッター、今日は休みたまえ。そのような状態で我輩の授業を受けさせるわけにはいかん」

 

「大丈夫ですから」

 

 

そんな状態が二月続いた。

バレンタインデーにロックハートが何やらまた騒動を起こしていたけど、どうでも良かった。

その日に変な小さい小人が付きまとってきたので、少し廊下の向こうまで蹴り飛ばし、最大出力のオリジナルスペルをぶち当てただけで、そいつは大人しくなった。だから私の被害は殆ど無かった。

因みに言うと、ロックハートはそのあとすぐに全ての小人を回収し、被害者全員に謝罪していた。自業自得だ、かける情けはない。

 

 

ハーマイオニーが襲われて以来、石化事件が起きないある日の午後、ロンと肩に乗るハネジローと一緒に、大広間へと向かっていた。

最近行方不明だったシロウから手紙がきて、ちゃんと生きていることが確認できた。ただ、何処にいるかは依然判明せず、手紙を持ってきたシロウの使い魔も、その場で砕けてしまった。

シロウとのラインも、受け取り拒否をしているのか、辿ることはできない。でも今は生きていることを知れただけで十分だった。

それ以来、食事と休養は十分にとってる。今も昼食を食べに行くところだ。

 

歩いている間、私は無言で考え事をしていた。行方不明のシロウについてわかるのは、世界を移動したのではないということ。何故なら、世界を移動するときに感じられる、ゼルレッチさんの独特の力の流れを感じなかったからだ。だからシロウは、確実にこの世界にいる。

 

 

「パム、マリー」

 

「ん? どうしたの?」

 

「かーべ、クモ」

 

「クモ? ……あ」

 

 

ハネジローに話しかけられ、壁をみた。ここ最近見ていなかった蜘蛛の行列だった。久しく見る光景だ。

 

 

「……ロン?」

 

「……うぇ~……」

 

「ごめん、でも今は我慢してもらえる?」

 

「……うん」

 

 

何でまた。今回は今までのように、変な声は聞こえてこない。にも関わらず蜘蛛たちは、我先にと行列をなし、外に向かって逃げ出していた。

 

 

「……ロン」

 

「なに?」

 

「今晩ハグリッドの所にいこう」

 

「いいけど、どうやって抜け出すのさ?」

 

「……お父さんの透明マントを使いましょう」

 

 

その夜、二人でマントに入り、できるだけ静かにハグリッドの小屋へと向かった。因みに髪はこの一年で長くなり、背中までかかるようになって少し邪魔なので、今は三つ編みにして先をリボンで結んでる。

小屋の前まで誰にも会わず、無事に扉までたどり着いた。ノックすると、中から弩を構えたハグリッドが出てきた。

 

 

「そこにいるのは誰だ。言っとくがこちらには武器があるぞ」

 

 

ハグリッドは警戒したまま声を発する。あ、マントを脱ぐのを忘れてた。矢を放たれたくなかったので、私達は急いでマントの中から出てきた。途端ハグリッドはホッとした顔を浮かべた。

 

 

「何だお前さんたちか。入れ、丁度茶を入れたとこだ」

 

 

ハグリッドに促され、私達は小屋に入った。因みにハネジローは私のベッドで寝ている。今回は連れてこなかった。

ハグリッドはカップにお茶を注いでいたけど、その手は震えていた。

 

 

「ハグリッド、ハーマイオニーとシロウのこと……」

 

「ああ、聞いた。なんてことだ……」

 

 

ハグリッドはぼやきつつ、お茶を私達に差し出した。私とロン、ハグリッドは、暫く黙ってお茶を飲んだ。そしてカップの中のお茶を飲み干したあと、早速本題に入ることにした。

 

 

「ねぇハグリッド、聞きたいことが……「こんばんは、ハグリッド」ッ!?」

 

 

こ、この声はダンブルドア先生!? こんなときに!?

 

 

(早く、マントに入れ!!)

 

(うん、ロン!!)

 

 

私達は小声で話し、自分達のカップを持って、急いでマントに入った。入ると同時に、ハグリッドの小屋にダンブルドア先生と、見たことのない、小柄で小太り気味なおじさんが入ってきた。

 

このおじさんを見て、私は漠然と感じた。

この人、そうとう高い地位におり、尚且つ権力を御しきれずに逆に踊らされている。要するに権力というものの味をしめている。この人、自分にとって都合の悪いことから目を背け、現実を直視しないタイプだ。

 

 

「ハグリッド、状況が良くない」

 

 

おじさんが喋り出す。

 

 

(パパのボスだ)

 

(え? なに?)

 

(コーネリウス・ファッジ、魔法省魔法大臣。イギリス魔法界のトップだ)

 

 

ロンがギリギリ聞き取れる程の声でおじさんの説明をする。その間にも彼らの話は進む。

 

 

「状況は五十年前と同じだ」

 

「まさか、また俺を疑ってんのか!!」

 

「現に被害者が出ておるんだ。これは暫定的な処置なんだ、わかってくれ」

 

「また俺をアズカバンに連行するのか!! また何もしてねえのにあんな思いをさせられるのか!!」

 

「ハグリッド、落ち着きなさい。わしは君を信じとる」

 

「だがダンブルドア……」

 

 

激昂するハグリッドをダンブルドア先生が宥める。対する大臣は、ハグリッドが前科者として今回も関わっていると決めつけているようだ。

と、再び扉が開かれた。入ってきたのはマルフォイの父親、ルシウスさんだった。

 

 

「こんばんは、皆さんお揃いで」

 

「ルシウス、何しにきた?」

 

「教育委員会を代表しましてね。これを……」

 

 

そう言ってルシウスさんは、巻き紙を一つ取り出し、ダンブルドア先生に差し出した。

 

 

「バカな!? こんなときにか!?」

 

「委員会全員の署名があります」

 

「……成る程のう」

 

 

どうやら重大なことらしい。ハグリッドと大臣の驚きようが普通じゃない。

 

 

「正気か!? いまダンブルドア先生が出てっちまったら、ホグワーツのマグル生まれ全員が被害にあうぞ!? また死者がでてもいいのか!?」

 

「よいよい。ハグリッド、良いのじゃ。委員会がそう言うなら、わしはそれを受諾しよう。じゃが一つだけ、覚えておくが良い。ホグワーツでは助けを求めた者にのみ、それが与えられる」

 

 

ダンブルドア先生はほんの一瞬だけこちらに視線を向け、出口に向かった。

……絶対気づいている。目が笑ってたもん。

 

 

「もし本当のことを知りたければ、蜘蛛の後を追いかけりゃええ。そうすりゃちゃんとわかる。俺が言いたいのはそれだけだ」

 

 

ハグリッドもそう言い、ダンブルドア先生についていった。

 

 

「おっと、俺がいない間ファングに餌をやっといてくれ」

 

 

ハグリッドはそうつけ足し、今度こそ小屋から出ていった。他の面子もそれに続き、小屋から出ていった。

マントを被ったまま窓から外を確認し、皆の姿が見えなくなってから、私達はマントを脱いだ。

壁には、また小さな蜘蛛が行列をなしている。

 

 

「……ロン」

 

「わかってるよ、蜘蛛の後を追いかけたいんでしょ?」

 

「うん」

 

「嫌だけどついてくよ。なんかマリー一人だと心配だ」

 

 

何で蝶々じゃなくて蜘蛛なの?、なんてぼやきつつも、ロンはカンテラに灯をともし、外に出た。何だかんだ言いつつも、こうやって男らしいとこ見せるから、ハーマイオニーは撃ち抜かれたのかな? まぁどうでもいいけど。

 

小屋から出るといつの間にか来てたのか、ハネジローも待機してた。蜘蛛の行列は、森の中までつづいている。私達は蜘蛛を踏みつけないように気を付けながら、森の中へ入っていった。

 

 

 

どれ程歩いただろうか? 少なくとも30分は歩いている。

普通の街中なら30分は大したことないが、森の中での30分は最悪命取りになる。帰るときどうしよう? 非常に心配だけど、それでも私達は先を進んだ。

暫く進むと、開けた場所に出た。その向こうには大きな穴がある。蜘蛛たちはその中に入っていっている。

 

 

(アラゴグ……アラゴグ……)

 

 

何となく蜘蛛達がそう言ってるのがわかった。ということは、あの穴の中にアラゴグがいるのだろうか?

 

 

━━ ……誰だ……

 

 

しゃがれた、年老いた声が響いた。耳に聞こえたわけではない。念話のように、直接頭の中に話しかけられている感じだ。

 

 

━━ ……ハグリッドか?

 

「いいえ。ハグリッドの友人のマリナ・リリィ・ポッター、そしてロナルド・ウィーズリーです」

 

 

声に対し、私はそう応じた。

すると穴の奥から、何かが蠢く音と関節の軋む音、空気が動く音が聞こえた。そして姿を表したのは、軽くワゴン車程の大きさはある、巨大な大蜘蛛だった。その八つの複眼は、白く濁っている。

ロンは私の隣で顔をひきつらせていた。

 

 

「……あなたは、もしや目が」

 

━━ いかにも。この目はもう光をとらえることは出来ぬ。だが音はまだわかる。成る程、先程から話しておるお前が、マリナ・ポッターか。

 

「はい、初めまして。あなたがアラゴグさんですね? ハグリッドのご友人の」

 

━━ 然り。ハグリッドはわしが卵の頃から大事に育ててくれた。それだけでなく、わしのために嫁も見繕ってくれた。そのお陰でこうして子にも恵まれている。

 

 

アラゴグの言葉に、上から何匹もの大蜘蛛が、糸を引きながら降りてきた。殆どがイングリッシュマスティフに迫る程の大きさだ。即ちそうとうデカイ。

 

 

━━ して人の子よ。何故わしらの前に出てきた。

 

きた。

ここからは慎重に話を進めなければならない。下手をすると、私とロンとハネジローは、この子たちの夜のおやつになりかねない。

 

 

「五十年前、ハグリッドが濡れ衣を着せられたことはご存知だと思います」

 

━━ そうだ。あの小僧のせいでハグリッドは無実の罪に問われた。

 

「その日から五十年経ったつい先程、再びハグリッドが濡れ衣を着せられようとしています」

 

━━ なんだと?

 

「私達はハグリッドの無実を証明すべく、秘密の部屋の情報を集めています。もし差し支えなければ、何でも良いです。情報を教えていただけませんか?」

 

 

私は今の状況を、出来るだけ誤解されないよう丁寧にアラゴグさんに説明した。彼は暫く黙っていた。その間にも、彼の子供たちは包囲網を少しずつ、でも確実に縮めてくる。

 

 

━━ わしらはその話を決してしない。だが敢えて言うとすれば、そこに潜む怪物はわしらにとって忌むべき存在であることだ。

 

「忌むべき存在。つまり、天敵ってことですね?」

 

━━ そうだ。

 

 

成る程。だいたい解った。これで怪物の正体に一歩近づいた。

 

 

「貴重な情報をありがとうございました。では私達はこれで」

 

━━ 帰るのか?

 

「え、ええ。早くハグリッドを連れ戻したいですし」

 

━━ 先程から疑問に思っていたが、貴様らは本当にハグリッドの友なのか?

 

「え、ええ」

 

 

ま、不味いかも。このままだとおやつタイムルートにまっしぐらだ。

 

 

━━ 証明するものは?

 

 

周囲の蜘蛛達も、包囲網を縮めてきた。ロンは泣きそうな顔をしている。

私は頭の中に攻撃用の呪文を、いくつか思い浮かべた。そしてポケットに入れてた杖を構える。ロンも、破損箇所をスペロテープで辛うじて繋げている杖を取り出した。

今ここで攻撃すべきか悩んでいると、先程から私の服の中に隠れていたハネジローが飛び出した。

 

 

「パムパムー」

 

━━ む? その声は、ムーキットか?

 

「パーム、アラゴグ、ひさしぶり」

 

 

周りの蜘蛛達は、動きを止めた。というかハネジロー、あなたアラゴグと知り合いだったのね。

 

 

「パム、ハネジロー、マリー、ともだち」

 

━━ お前の友だと?

 

「パーム、マリー、いってる、ホントウのこと」

 

 

ハネジローの言葉に、アラゴグさんは黙りこんだ。暫くすると、アラゴグさんは鋏をカチカチ鳴らした。すると私達を囲んでいた蜘蛛達は、再び木の上に登っていった。

ハネジローは私の元に戻ってきた。

 

 

「……あの」

 

━━ 今回はムーキット、ハネジローに免じて見逃す。だが心せよ。次はないぞ、マリナ・ポッターよ。

 

「……ありがとうございます。ハネジローもありがとう」

 

「パーム」

 

━━ 早く行け

 

 

アラゴグさんはそう言うと、再び穴の中に戻っていった。もう話すことは無いのだろう。長居するとお夜食コースになるので、私達も退散することにした。

でも帰り道がわからない。とりあえずどの方向から来たかは覚えていたから、その方向に歩き出した。

途中から私達の前を、一匹のレトリバー大の蜘蛛が歩き始めた。歩く途中で止まってこちらを確認したり、歩くペースをこちらに合わせている。恐らく道案内をしてくれているのだろう。私達は黙ってその蜘蛛についていった。

 

行きの半分ほどの時間で、ハグリッドの小屋に到着した。ロンは非常にホッとした顔をしている。まぁ苦手な蜘蛛がとても大きく、加えてあんなに沢山いたのだから無理もないだろう。

 

 

「ありがとう。あなたのお陰で無事に出れたわ」

 

 

私がお礼を言うと、道案内してくれた蜘蛛はカチカチと鋏を鳴らした。そしてお腹の先をモゾモゾと後ろ足でいじり始めた。

30秒程すると、蜘蛛はバスケットボール大の糸玉を差し出してきた。私にくれるらしい。

 

 

「ありがとう、大事にするね?」

 

 

この子なりの友好の証なのだろう。だから私はありがたく受けとることにし、代わりに髪を結んでいたリボンを、この子の足に結びつけた。

蜘蛛は再度鋏を鳴らし、そのまま森の中へと去っていった。

 

 

「ねぇ、結局何がわかったの?」

 

 

ロンが聞いてくる。今回確信できたのは二つある。

 

 

「やっぱりハグリッドは無実だったことと、秘密の部屋の怪物は、蜘蛛の天敵となる存在だということ。たぶん蛇関係のね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二、三日経過した。

石化の被害者はあれから増えていないけど、シロウは未だ行方知れずだった。でも教師陣にも彼が無事に生きていることは、スネイプ先生とマグゴナガル先生経由で伝わっているらしい。

グリフィンドールの生徒も、マグゴナガル先生経由でそれを知り、一先ず安堵していた。

 

そんなとき、また寮に生徒が集められた。でも今回は、マグゴナガル先生の顔が綻んでいる。ということは、きっと良いニュースなのだろう。

 

 

「皆さんに朗報です」

 

「犯人が捕まったのですか?」

 

「クィディッチが再開されるんですね?」

 

 

皆口々に質問するけど、マグゴナガル先生は首を横に振った。

 

 

「違います。ですが、薬草学のスプラウト先生によると、もう間もなくマンドレイクが成熟するようです。このまま順調にいけば、今週辺りにも、石になった生徒達を蘇生できるでしょう」

 

 

マグゴナガル先生がそう言うと、談話室は歓声に包まれた。それはそうだ。事件解決への第一歩が踏み出されたのだ。嬉しくないわけがない。

と、パーシーがマグゴナガル先生に近寄っていった。

 

 

「先生、それでシロウに関しては?」

 

 

パーシーの質問が聞こえたのか、少し談話室の興奮が抑えられた。パーシーの質問に、マグゴナガル先生は少し残念そうな顔をした。

 

 

「残念ながら手掛かりの『て』の字もありません。どこに行ったのやら、生きていると確認できただけでも行幸です」

 

 

どうやらシロウはまだ見つからないらしい。フレッドとジョージも、シロウに教えられた使い魔の魔術で独自に調査したらしいけど、足取りは掴めなかったそうだ。

 

 

「……通常であれば彼の受けた毒は、対象を5分以内に毒殺し、加えて傷の治癒も阻害します」

 

 

マグゴナガル先生の説明に、皆は黙って意識を向けた。

 

 

「ですが彼は30分以上は耐えたどころか、普通では考えられない速度で傷口が治癒してました。ですから希望はまだあります」

 

 

マグゴナガル先生はそう言うと、寮を後にした。

先生が出ていくと、談話室は先程とは別の空気で支配された。

 

 

「シロウって本当に……」

 

「あいつ人間か?」

 

「怪物の毒に耐えられる人間って、世界中探してもエミヤぐらいじゃね?」

 

 

……みんな後でシロウの折檻をうけるよ? 何だかんだでシロウはそういうのに敏感だし。

 

事件発生から半年、ようやく希望の光が見え始めた。

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。


マリーが貰った蜘蛛の糸は、後にマリー自身の手によって、シロウとマリーの手袋に生まれ変わりました。
普通の毛糸と同じ保温性に加え、蜘蛛の糸なので滑ることもない素晴らしい手袋です。
これなら冬場の作業も楽チンだね!!


もし間に合えば、バレンタインネタとエイプリルフールネタを、それぞれの日に、fateもこれも投稿します。

次回は二巻クライマックスに差し掛かります。


それではこの辺で






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13. 嵌まるピース、誘拐された生徒


感想やリアルでの知り合い読者に指摘されましたが、改めてここで書きます。
シロウはハリポタの世界にいます。元の世界には帰ってません。


では更新です。

それではごゆるりと





 

Side マリー

 

 

マグゴナガル先生から朗報があった次の日、私とロンはロックハートの引率のもと、魔法史の教室へと向かっていた。

 

魔法史とは、その文字通り魔法界の歴史を学ぶ授業であり、唯一ゴーストが担当する授業だ。でも担当のビンズ先生は一本調子で講義をするので、殆どの生徒は寝てしまうか、窓の外を眺めるかしている。

それはいってしまえば、サボるには持ってこいの授業であることを示す。そして今の引率はロックハート。うまく丸め込めば、ロックハートをやり過ごすことも、授業に行かないことも出来る。

 

それにここ2ヶ月、まともにハーマイオニーの元に行ってない。ロンも私を気遣ってか、見舞いには行ってないらしい。

石化した人間の見舞いは意味がないって言われてるけど、それでも顔を見たくなるのは仕方がないと思う。

 

 

「……ロックハート先生」

 

「なんだい?」

 

「最近先生の顔が(やつ)れてる見たいですが……」

 

「いや、何でもありませんよ? 全然、何でも……」

 

 

ロックハートは焦るように言葉を繋ぐ。でも少し様子がおかしい。

そういえば最近彼の授業も変だ。始まったばかりの頃は、変な寸劇をやらされたり(自身の著作の寸劇)、変なテストをさせられたりしたけど、クリスマス過ぎた辺りからしなくなった。

何故か授業は『忘却術』をメインにやり、課題は一切なし。なんというか、マトモなことをやることが多かった。まぁバレンタインのようなことはしていたけど。

 

 

「先生、無理は禁物です。部屋に戻って一息ついては?」

 

「……だがねぇ」

 

 

ロンの言葉にも渋る。珍しい、こんなに真面目なロックハートは初めてみる。

 

 

「もう次の教室まで近いので、僕ら二人で大丈夫です」

 

「……そうかい? わかった、ならお言葉に甘えさせてもらおうか」

 

 

ロックハートはそう言うと、足早に自分の事務室へと去っていった。

 

 

「ちょっと最近変だけど、まあいいか。それよりマリー。これから医務室に行くんだろう?」

 

「うん、よくわかったね」

 

「そりゃわかるさ。あの蜘蛛と会う前からだけど、医務室の前を通る度に目を向けてたもん」

 

 

私達は方向転換をして、医務室に足を向けた。が、暫く進むとマグゴナガル先生と鉢合わせた。先生は私達を見つけると、これ以上結べないだろうと思わせるほど、口を一文字に結んだ。

 

 

「あなたたち、ここで何をしてるのです!!」

 

「あ、えっと……様子を見に……」

 

「ハーマイオニーの」

 

 

しどろもどろになるロンに代わり、私が応対した。マグゴナガル先生は、私をマジマジと見つめた。

 

 

「あの日から私達は、一度も彼女の元に行けてません」

 

 

私はマグゴナガル先生にそう言った。暫く誰も動かず、誰も口を開かなかった。

 

 

「……そうでしょうとも」

 

 

マグゴナガル先生は静かに口を開いた。気のせいか、目の端に光るものが見える。

 

 

「そうでしょうとも。一番辛いのは、被害者の最も親しい人達に決まってます。ええ許可します、ポッター、ウィーズリー。ビンズ先生には私から伝えておきます。マダム・ポンフリーには、私から許可がでたと言いなさい」

 

 

予想外にもマグゴナガル先生から許可が出たので、私達は一度会釈してその場を後にした。後方からは、小さく鼻をかむ音がした。

医務室のマダム・ポンフリーも仕方がないという顔をし、ハーマイオニーのベッドへと通してくれた。ただ、石化した人には何を言ってもわからないとは言われたけど。

 

ベッドの横に立つと成る程、確かにマダム・ポンフリーの言ったとおり、ハーマイオニーは私達が来たかどうかもわかっていない。私はハネジローが持ってきた花を花瓶に生け、ベッド脇に置いた。ロンは枕元の椅子に座っている。

ハーマイオニーの右手は顔の前、左手は立った状態だろ垂らしてある位置で、硬く固まっていた。触っても生物特有の柔かさと温かさがない。

 

 

「今ほどあなたの力を貸してほしいと思ったことはないわ」

 

 

私はハーマイオニーの左手を握りながらそう言った。ロンも相づちを打つように、悲しそうな顔をしている。

 

ふと握る手に違和感があった。ハーマイオニーの左手は、何かを握りしめていた。どうやら丸められた紙らしい。

 

 

「……ロン」

 

「なんだい?」

 

「……ハーマイオニーが何かを握りしめてる」

 

「本当? ……取り出せるかい? 僕はマダム・ポンフリーから見えないように壁になるから」

 

 

ロンに言われ、私は丁寧に紙を取り出した。何かのページをハーマイオニーが破りとったらしい。小さな活字が並んでいる。流石にここで読むわけにはいかなかったから、医務室から出て少し離れた廊下で改めて読んだ。

 

 

「読める?」

 

「なんとか。これは……怪物の説明? ……蜘蛛が逃げる……雄鶏の鳴き声が命取り……猛毒を持つ牙……大蛇の怪物、バジリスク。大蛇だって?」

 

「まさか……これって」

 

「間違いない。ハーマイオニーは一足先に答えに行き着いてた。それにシロウは戦闘をしたから知ってるはず」

 

「バジリスクって確か、視線だけで人を殺すんじゃ? 何で誰も死んでないんだ?」

 

「それは……誰も直接は見てないんだ。ハーマイオニーは鏡、ミセス・ノリスと他二人のレイブンクロー生は床の水面、ジャスティンはニコラスさん越しに、コリンはカメラだ」

 

「シロウは? 戦闘をしたなら直接見たはずじゃあ……いや、シロウなら魔眼の効果を防ぐ、何らかのアイテムを持ってても不思議じゃないね」

 

「ええ、そうね。でも完全には防げなかったから、重傷を負うことになった。何で毒が効かなかったかは知らないけど」

 

 

成る程、この怪物なら辻褄があう。

確かハグリッドが、いつのまにか雄鶏が殆ど殺されたって、ハロウィン前後に言ってた。蜘蛛に関しても、アラゴグさんは自分達の天敵だと言っていた。でも……

 

 

「それならどうやって移動してたの? シロウの傷からして、少なくとも体の太さは人間の身長ぐらいよ?」

 

「うーん……あ、ここにハーマイオニーの筆跡が」

 

「え? ……パイプ? っ!! そうか、パイプか!! だから私は壁の中から、私だけ声が聞こえたんだ。私が蛇語を理解してるから」

 

「じゃあホグワーツのパイプは秘密の部屋に繋がってると考えられるわけだ!! でもどうやって探す?」

 

 

そう、問題は入り口がどこにあるかだ。蛇用の通路が有るなら、人用の入り口と通路があるはずだ。

 

 

「……っ!! ねぇロン。私一つ思い付いたんだけど」

 

「奇遇だね、僕もだ」

 

「「『嘆きのマートル』が何か知ってるんじゃない?」」

 

「やっぱ君もそう思ったか」

 

「ええ、彼女はトイレを住みかにしてるわ。配管については彼女が一番知ってると思う」

 

「それにもしマートルが死んだとき、それが五十年前らへんなら……」

 

「彼女がそのとき出た唯一の死者の可能性が高くなる」

 

 

みるみるうちに、パズルのピースが嵌まっていく。今まで断片的に判明していたものが、次々に繋がっていく。私達はこのあとマートルの所に行く計画を立てた。

 

 

『生徒は全員、寮に戻りなさい。教職員は至急、三階女子トイレへと続く廊下に集まってください』

 

 

突如校内アナウンスが響いた。マグゴナガル先生の切羽詰まった声が聞こえた。

 

 

「こんなときに、また事件かよ」

 

「現場に行きましょう。もしもの為に透明マントを持ってるから、それに入って話を聞こう。マートルのトイレのすぐ近くだし」

 

 

私達は現場まで走った。途中からマントを羽織り、現場が見えて且つ会話が聞こえる場所で立ち止まった。すぐに教職員は集まった。

 

 

「ご覧ください、スリザリンの継承者がまた伝言を残しました。生徒が一人、部屋に拐われたのです」

 

 

マグゴナガル先生が嘆く。指し示す壁には、いつかの夜のように、赤い血で文章が書かれていた。今回は潰れている箇所が少ない。

 

 

『彼女・白骨は、永遠に秘密の部屋に眠る━━う』

 

 

彼女……白骨……女生徒が拐われたの?

 

 

「誰なんですか? いったい誰が拐われたのですか?」

 

「……ジニー・ウィーズリーです」

 

 

ロンがヘナヘナと、力無く座り込んだ。かくいう私も、立つことがやっとだった。先生たちは、皆一様にショックを受けている。取り分けマグゴナガル先生が酷かった。スネイプ先生は、無表情を崩していなかったけど、内心ショックを受けているだろう。

 

 

「生徒を家に帰しましょう。ホグワーツはもう終わりです。ダンブルドアはいつもそう言っていた「あの~」? ギルデロイ?」

 

「すみません。ついウトウトとしてしまいまして、今到着しました。……してこれは?」

 

「適任者だ」

 

「は?」

 

「なんと適任者だ。生徒が一人、怪物に拐われた。それも秘密の部屋に、ここはあなたの出番ですぞ、ロックハート殿?」

 

「へ? 私?」

 

「名案です。ではギルデロイ、あなたにお願いします。拐われた生徒を連れ戻して来てください」

 

 

遅れてきたロックハートに、スネイプ先生とマグゴナガル先生の波状口撃が襲い、ロックハートはたじたじになってる。成る程、他の教職員も止めないあたり、厄介払いか。

 

 

「……わかりました。では部屋に戻って支度をします」

 

 

ロックハートはそう言うと、事務室へと去っていった。私はロンを立たせ、この場から離れた。

 

 

「……そんな……ジニーが」

 

「ロン、しっかり。まだジニーが死んだと決まったわけじゃない!!」

 

「……うん」

 

「ロックハートの所にいこう。そして私達が知ってることを話して、彼についていく」

 

「……わかった」

 

 

ロンは気を持ち直したらしく、立ち上がって歩き出した。私もロンについていった。後方からはマグゴナガル先生が叫ぶ声が聞こえたけど、気にせずに先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マグゴナガル

 

 

厄介払いも済みましたし、あとは生徒に伝えることをまとめなくては。ダンブルドアにもフクロウ便で通達をしなければならない。

 

 

「寮監はそれぞれの寮へ行き、生徒に荷物を纏めるように言いましょう。明日の汽車を手配します。それから……「失礼、少しよろしいだろうか」すみませんが、今大事な話……を……」

 

 

……私は夢でも見ているのだろうか?

ここ最近姿が確認されず、生きていること以外何も判明しなかった彼が、真っ赤な外套を軽鎧の上に羽織り、私達の目の前にいる。

彼の姿を確認した教師陣は、私も含めて口を半開きにしている。フィリウスに関しては、驚きすぎて腰を抜かしている。

 

 

「な……なな……」

 

「……な?」

 

「なんで貴方がここにいるのですか!? 今までどこにいたのですか!? 傷は!? 毒は!?」

 

「お、落ち着いてくださ……「落ち着いてられますか!?」ウォッ!? 鼓膜が!? 鼓膜が破れるイヤードラム!?」

 

 

とりあえず色々と問いただしたい。どこで何をしていたのか。体は大丈夫なのかと色々と。

 

 

「……っつつ……とりあえず今はこの伝言でしょう」

 

「……はっ、そうでした」

 

 

彼の一言で、場の空気が引き締まった。

 

 

「……ジニーが拐われたのですね?」

 

「……ええ、秘密の部屋に」

 

「我輩も警戒していたが、このようなことに」

 

「ミネルバ? どういうこと?」

 

「あとで説明するわ、ポピー。それで、あなたは?」

 

 

私は、疑惑の視線を向けてくる他の教師陣を一旦無視し、彼に話しかけた。今の彼は、既に戦闘態勢に入っている。それ故の外套と軽鎧だった。

 

 

「部屋の場所は検討が付いています。怪物はバジリスクです」

 

「「「な!?」」」

 

「「バジリスクだと(ですって)!?」」

 

「ええ、片目は私が潰しました。それに傷を負わせているので、奴も万全ではないでしょう」

 

「お前はこれから?」

 

「ええ、秘密の部屋に向かいます。あの二人も、話を聞いていたみたいですし」

 

 

まったくあの二人はすぐに首を突っ込む、何てぼやいている彼。その言葉が本当なら、ポッターとウィーズリーが、陰で話を聞いていたことになる。また彼らが行動するのか。

 

 

「教師を一人、付き添いに。私が行きましょう」

 

「いや、我輩が行こう」

 

「いえ、オレが行きます。バジリスクは傷を負っていますが、まだ生きています。仮にジニーを助け出せても、バジリスクがいれば全員が助かる可能性が低くなります」

 

「ならば尚更……!!」

 

「申し訳ありませんが、私も伊達に一度戦ったわけではありません。奴には魔法の類いは効きませんから、皆さんだと相性が悪い」

 

 

彼の言うことは正論だった。バジリスクは、魔法に対する耐久性が高い。例え教師が三人以上いても、無力化することは難しい。

 

 

「……申し訳ありません。お願いしてもよろしいですか?」

 

「承りました。スネイプ先生、スプラウト先生」

 

「「なんだ(なんですか)?」」

 

「石化した生徒たちを、お願いします。もうそろそろ薬が出来るのでしょう?」

 

「うむ。あと少しの過程で出来る。さすれば、生徒は甦生可能だ」

 

「そちらは私達に任せなさい」

 

「わかりました」

 

 

彼はそう言うと、ロックハートの事務室へと足を向けた。しかし、途中で足を止めた。

 

 

「ああ、忘れていた。スネイプ先生」

 

「む?」

 

「別に、怪物は倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「!! ……ああ、遠慮はいらん。思うままにやれ」

 

「ククッ、了解した」

 

 

彼はそう言い残すと、今度こそ闇に消えていった。彼がいるなら、一先ずは安心だろう。伊達に英雄になったわけではない、ということでしょう。

さて、私は他の教師たちにどう説明しましょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです。


う~ん、少し展開が早いか、それとも丁度良いのか、私にはわかりません。

復活のS、万を辞して彼が降臨しました。バジリスクの運命やいかに?

さて、次回は秘密の部屋です。


それではこの辺で


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14. 秘密の部屋


更新です。


それではごゆるりと






 

 

Side マリー

 

 

ロックハートの事務所に着いた。少し扉に耳を近づけて中の音を聞いたけど、何も聞こえない。まさか逃げた?

そう思った私とロンは、問答無用で扉を開けた。

ロックハートは中にいた、しかし椅子に座り込んで頭を抱えている。私達が来たことにも気がついていない。

 

 

「……ロックハート先生」

 

「ッ!? 誰だ!? ……ああ、ポッターにウィーズリーか」

 

「……先生、何をしてるんですか?」

 

 

部屋は散らかってる。開いたトランクが床に投げたされており、中にものを出し入れした形跡がある。今も中のものを全部出したのか、床の上にぶちまけられていた。

 

 

「……先生、これは?」

 

「……」

 

 

ロンの質問に無言を貫くロックハート。

 

 

「……まさか逃げようとしているのですか?」

 

「……」

 

「防衛術の先生が逃げ出すんですか? こんな非常事態に? 僕の妹はどうなるんですか!?」

 

「……」

 

「答えろよ!?」

 

 

ロンが怒号をあげる。しかしロックハートは無言のまま、顔を俯かせていた。

 

 

「……ロックハート先生、正直に答えてください」

 

「……なんだね?」

 

「あなたの著書、全て他人の手柄ですね?」

 

「……そうだ」

 

「授業でいやに詳しい『忘却術』の解説をなさったのは、あなたがそれを極めたから、それ以外何もできなかったから。他人の手柄を本人から聞き出し、その後忘却術をかけ、最後はさも自分の手柄であるかのように、世に公表した。そうですね?」

 

「……そうだ」

 

「では何で、今ここで私達に忘却術をかけて逃げる、何てことをしないんですか?」

 

「……」

 

「話したくないなら、話さなくても良いです。でも私達についてきてもらいます」

 

 

私の言葉に、ロックハートは力無く顔を上げた。ノロノロと立ち上がった彼は、私たちの前に立った。

 

 

「私が何の役に立つと? 部屋の在処も知らない、忘却術しか能のない私が?」

 

「部屋に関しては、私達が手掛かりを掴んでいます。それに、大人の付き添いがいた方がいいでしょう?」

 

 

私の言葉に、ロックハートは渋々納得し、ロンに杖を預けた。そして私達はマートルのいるトイレに向かった。ハネジローは、今回ばかりは寮に待機させた。

トイレに着くと、案の定マートルはおり、すすり泣きをしていた。でも私達に気かつくと、漂い近づいてきた。

 

 

「またあなたたち? 今度はなに?」

 

「少し話をしたくて。失礼かもしれないけど、あなたが死んだときのことを教えてくれる?」

 

 

私がそう言うと、マートルは途端に嬉しそうな顔をした。ゴースト特有の銀色の体は、若干色がついた。

 

 

「ぉおおおう、あなたがそれを聞いてくるなんてね!! あれほど恐ろしいことはなかったわ!! 丁度五十年前よ、ここで死んだの」

 

「五十年前?」

 

「ええそう!! あの当時も今のような事件があったわ。私はその日、同級生からメガネのことで苛められて、ここの個室で泣いていたの。そしたら声が聞こえてきた。外国語みたいだったわ。嫌なのがそれが()の声だったってこと。だから私は扉を開けてこう言ったの、『出ていけ!!』って。そして……死んだの」

 

「死んだ? どうやって?」

 

「知らないわ。覚えているのはそこの蛇口の辺りに、大きな黄色い目が二つあったことだけ。それに睨み付けられて!金縛りにあったと思ったらフワッて浮いて……幽霊になった」

 

 

マートルはそう言うと、再び啜り泣きながら漂い始めた。

間違いない、マートルは秘密の部屋の事件で、唯一亡くなった女生徒だ。そして彼女の死に方、バジリスクに一睨みされたのだろう。

マートルが目を見たという手洗い台まで近づいた。一見普通の手洗い台と変わらない。試しに蛇口を捻るけど、水は出てこなかった。

 

 

「その蛇口、ずっと壊れっぱなしよ」

 

 

マートルは先程までの啜り泣きはどこに行ったのか、機嫌良くそう言った。

蛇口の横には、本当に小さくではあるが、蛇の彫刻が彫ってあった。間違いない。ここが秘密の部屋の入り口だ。

 

 

「何か蛇語で言ってみたら?」

 

「蛇語って……開けって?」

 

「うん、そ「その必要はない」……え?」

 

「「……はい?」」

 

「どうやら、一足先にお前たちがいたか」

 

 

……うそ……なんで……

 

 

「シロウ!? なんで君がここに!?」

 

「み、みみ、み、ミスター・エミヤ!?」

 

「毒も抜かし、傷も癒し、鈍った勘を取り戻していたからな。あと少しモノを作ってた」

 

 

……遅い、遅いよ……

秘密の部屋のことが一瞬頭から吹き飛んだけど、すぐに頭は冷えた。今はジニーを優先しないといけない。私は最低限伝えることを伝えるため、無言でシロウに近づいた。

 

 

「む? ッ!? ま、マリー? どうした?」

 

「……シロウ」

 

「は、はい!!」

 

「……あとでO☆HA☆NA☆SHIだからね。逃げないでよ?」

 

「わ、わかった」

 

 

これでよし。さてと。

 

 

「で、蛇語を使わなくていいって?」

 

「ああ、それはだな。こうする」

 

 

シロウは手洗い台にいき、手を当てた。そして少し腰を落とすと、一瞬だけ力んだ。

パァンッ、という軽い音と共に、手洗い台は綺麗に崩れ、大きなトンネルが姿を現した。形状からして、下まで滑り降りるらしい。それにしてもシロウ、修理はどうするの?

 

 

「……こんなものか。修理はことが終わればオレがする。ロックハート」

 

「な、なにか?」

 

「お前はオレと共に、下見役として降下する。わかったな?」

 

「……わかった」

 

 

まず二人が降り、大丈夫なら私達が降りるということになった。シロウとの念話も復活してるから、連絡手段は心配ない。

暫くすると、シロウから念話が入った。どうやら降りても大丈夫らしい。私とロンはトンネルに入り、滑り台のように降下した。

 

ベトベトするパイプを一分ほど滑ったあと、私達は広い空間に投げ出された。そうとう長く滑った。たぶんここは学校の何キロもしたに存在するのだろう。成人男性が立ち上がってもお釣が来るほどの、人工と自然が合わさった洞窟に私達はいた。

先に降りていたシロウとロックハートは既に立ち上がり、余分なベトベトを落としている。私とロンもベトベトを落とした。

 

 

「……みんなにはこれを渡しておこう」

 

 

シロウはそう言い、ロンとロックハートにはブローチを、私にはバレッタを渡してきた。ブローチは西洋両手剣の形、バレッタは七枚の花弁のついた花の形をしている。

 

 

「これを着けていれば、最悪目を見ても石化に止まる。ロンとマリーは、元々の護符との相乗効果で、動きが鈍る程度に止まるだろう。まぁ、目を見ないのが一番だが」

 

 

シロウはそう言い、先に進んだ。続いて私、ロン、最後尾にロックハートが後を追った。

暫くすると、より広い空間に出た。そしてどこかに亀裂があるのか、月明かりが差し込んでいる。そうかもう夜なのか。

 

ん? 床に転がってるの、あれはなんだろう?

 

 

「……三人とも、そこにいろ」

 

 

シロウは指示を出すと、床に転がる物体に近づいた。私は今たっている場所からその物体を見た。

……緑色に輝いている。そして長い、15メートルは軽くあるだろう。そして特徴的な形状、鏃のようなの先端。それは巨大な蛇の脱け殻だった。

 

 

「……新しいな。ここ最近脱いだ皮だろう」

 

「そこまでわかるものなのかい?」

 

「確定付ける要素はいくつかあるが、一番わかりやすいのは、ここの傷口だな。奴が脱いだときに裂けたものではない。オレが切りつけたものだ」

 

「そ、そうなの……」

 

 

まあ脱け殻立ったのは良かった。生きていたらどうしようかと思ったよ。私達四人はそのまま先を急いだ。ロックハートは若干腰を引いていたけど。

そのまま進むと行き止まりとなり、目の前の壁には丸い人工物が嵌められていた。表面には数匹の蛇の彫刻が、円と壁を繋ぐように張り付いている。まるで鍵だ。

 

 

「流石にここは蛇語を使うよ? 岩盤が崩れたらヤバイし」

 

「そうだな。頼んだぞ、マリー」

 

 

私は前に立ち、彫刻を見つめた。

 

 

━━ 開け

 

 

自然と蛇語が出た。すると全ての蛇は頭をすぼめ、円形の装飾は扉のように開いた。先が繋がっている。

私達は扉をくぐり抜け、その先にあった梯子を降りた。そして目の前の光景に唖然とした。

 

蛇を象った彫刻が左右にずらりと並び、まるで謁見の間に続くよう。そして奥には大広間ほどの空間が形成され、正面には巨大な老人の顔が彫り出されていた。そして顔の前に寝そべる、一人の影。

 

 

「「ジニー!!」」

 

私とロンは、走り出した。と、突然岩盤が崩れ落ち、私と他の人たちが切り離された。何で落ちてきたはわからない。

 

 

「ロン、シロウ!! 大丈夫!?」

 

「ゴホッゴホッ!! だ、大丈夫だ!!」

 

「こちらは気にするな「アイタッ」お前は邪魔だロックハート、下がってろ。マリー」

 

「なに?」

 

「この岩塊をどけるのは、流石にオレでも時間がかかる。その間に、出来るだけジニーと共に脇に退いとくんだ」

 

「うん、わかった」

 

 

私はシロウに言われ、ジニーの元に急いだ。

 

ジニーは日記を抱えていた。顔は青白く、体は少しだけ冷たい。でも息はある。良かった、間に合った。

と、ジニーのネックレスが少し強めの光を放った。まさか、日記が干渉しているの?

 

 

「彼女は目を覚まさないよ」

 

「ッ!? ……トム・リドル」

 

「初めまして、マリナ・ポッター。会えて嬉しいよ。君と話したいから邪魔者と切り離させてもらった」

 

 

私の目の前には、五十年前と変わらぬ姿のトム・リドルがいる。そのリドルによって、私は一人にさせられたらしい。でもおかしいな、五十年前に学生だったのなら、今は老体の筈。

……成る程、あの日記か。ということは今回の黒幕は

 

 

「あなたが今回の騒動の根元ですね」

 

「少し違うかな? バジリスクを『穢れた血』達にけしかけたのは、他でもないジニーだ」

 

「ッ!? ……日記を介して、か」

 

「ほう? 頭は回るようだね。その通りだよ。馬鹿な小娘は日記にのめり込んだ。彼女の馬鹿馬鹿しい話に合わせるのは苦痛だったよ」

 

 

リドルは苛立たしげにそう言うが、それはすぐに治まり、上機嫌な顔をした。

 

 

「だが、小娘が日記を使ってくれるお陰で、僕は徐々に力を付けていった。そして何度も彼女の意識を乗っ取り、秘密の部屋の怪物を解き放った」

 

 

リドルは甲高い声をあげて高笑いした。それは誰かを彷彿させるような、嫌な笑い方だった。

 

 

「だが、理由はわからないが、小娘は何度か途中で僕を追い出した。今も僕は不完全だよ。本当ならほぼ実体化できるはずなのに。それに僕に流れ込むはずの力も、予想より少ない。まるで何かに阻まれているようだ。

まぁそれはさておき、日記を怪しんだ彼女は、日記をトイレに投げ捨てたんだ。だが、そこで君が現れてくれた、他でもない君が!」

 

 

どうやらリドルは、剣吾君のネックレスに阻まれていたことには、まだ気がついていないみたい。そうか。だから壁の文字は、途中で潰されたりしていたんだ。それに彼が黒幕だということは、バジリスクは彼に呼ばれるまでは来ないのだろう。それにしても……

 

 

「なぜ、そこまで私が気になるの?」

 

「そりゃ気になるさ。小娘の話に何度も出てきたからね。闇の帝王と呼ばれし偉大な魔法使い、ヴォルデモート卿の呪いを跳ね返した人間だ。それも赤子のときに。なぜ跳ね返せた? なぜ傷一つで済んだ? 疑問は尽きないよ」

 

「そこまで気にすること? ヴォルデモートはあなたよりあとに出た人間でしょう?」

 

 

私のその返答に、リドルはニヤリと嫌な薄ら笑いを浮かべた。

 

 

「ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだよ」

 

リドルはそう言い、懐から取り出した杖で、空中に文字を書き出した。

 

 

トム・マールヴォロ・リドル(Tom・Marvolo・Riddle)

 

 

文字を書き終えると、今度は杖を一振りし、文字順を並べ替えた。

 

 

私はヴォルデモート卿だ(I am Lord Voldemort)

 

 

……そういうことか。

 

 

「……あなたが、過去のヴォルデモート」

 

「その通り。僕がいつまでも『穢れた血』の父親の名前を使うと思うか? マリー、答えは『否』だ。なぜサラザール・スリザリンの血を引く母の姓でなく、父親の名前を使わねばならない? だから僕は自分で自分に名前をつけた。いずれは誰もが恐れる、世界一の闇の魔法使いの名前を!」

 

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。ダンブルドア先生か他の人たちに言われなかったの?」

 

「いや? 僕は一応優等生だったものでね。誰も言ってこなかったさ。ああ、でもダンブルドアは終始僕を信頼しなかったね。五十年前の事件からは特に」

 

 

成る程、ダンブルドア先生はリドルの本性をわかっていたのか。

 

 

「君をがっかりさせるけど、誰が世界一と思うかは一人一人違う。現に私は、魔法使いの中で世界一は、ダンブルドア先生だと思ってる。

あなたが世界一? 笑わせないで。ならどうしてあなたはホグワーツを乗っ取れなかったの? 世界一ならダンブルドア先生をも下せる筈でしょう?」

 

 

私の言葉に、リドルの顔は醜悪なものに変わった。彼は怒っている。遠くで何かぶつかる音がした。

 

 

「あなたはダンブルドアを恐れている。強力な力を持っても、それは変わらない。今回のことも、あの人は既にお見通しでしょう」

 

「だが奴は僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城から消え去った!!」

 

「ダンブルドアを必要とする人がいる限り、あの人が本当の意味でいなくなることはない!!」

 

 

突如、美しい歌声が聞こえた。発生源に顔を向けると、美しい赤い色をした白鳥程の鳥が、孔雀のような尾羽を(なび)かせながら、私のもとへと舞い降りてきた。そして私の足元に使い古され、摩りきれた帽子を落とし、私の肩に留まった。

 

 

「……この鳥は?」

 

「成る程、ダンブルドアの不死鳥か」

 

「不死鳥……」

 

「そしてそれは、古い『組分け帽子』。クッククッ、クハハ、ハハハハハ!! ダンブルドアが助けに寄越したのはそれだけか!! 唄い鳥に、古帽子じゃないか!!」

 

 

リドルはツボに嵌まったらしく、暫く甲高い笑い声をあげていた。でもなぜか、私はこの帽子が重要なものと感じられた。

一頻り笑って落ち着いたのだろう、リドルは口の端を歪めつつも、笑いをやめた。そして老人の顔に手を翳し、蛇語を発した。

 

 

━━ スリザリンよ、ホグワーツ四強のうちで最強のものよ。我にはなしたまえ。

 

 

リドルがそう言うと、地鳴りが響き、老人の口がゆっくりと開きだした。あの奥に、バジリスクがいるのか。

リドルは口の端を歪めたまま、私に向き直った。私はジニーを抱えている。

 

 

「小娘を連れ出すか。まぁ無駄だろう、もう暫くしたら、僕が再び生を受ける代わりに、彼女は死ぬ」

 

「なんとかするわ。手がない訳じゃない」

 

「ふん、まぁいいさ。それよりマリー、少し揉んでやろう。

サラザール・スリザリンの継承者たるヴォルデモート卿と、不思議な守りで未来の僕を二度もはね退け、ダンブルドアから精一杯の武器をもらったマリー・ポッターとお手合わせ願おうか」

 

 

成る程、リドルは私とバジリスクを戦わせるつもりか。でもそれは叶わない。老人の口は八割がた開いている。

 

 

「あなたには再度悪いけど、バジリスクと戦うのは私じゃないわ。私がすべきことは、ジニーを連れて出来るだけ隅に行く。そして日記を破壊する方法を考えること」

 

「はっ、ここには君以外誰もいないじゃないか!!」

 

「いいえ、いるわ。ダンブルドアは確かに世界一の魔法使い、でも私が戦士として世界一だと思ってる人がここに」

 

「戦士として、だと? ……ッ!? なんだこの地鳴りは!?」

 

「シロウ!! お願い!!」

 

 

 

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 

 

 

私がジニーを抱えて横に飛び、そう叫ぶと同時に、後方にあった崩れた岩盤の山は吹き飛び、真っ赤な人影が飛び出し、私とリドルの間に立った。

彼は私に背を向け、リドルと今完全に開いた口を睨み付ける。不死鳥は私の肩から離れ、彼のそばに滞空した。

 

 

「遅くなった。待たせたな」

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

シロウを出すタイミングまずったかな~。
でもこのまま行きます。


さて、次回はいよいよ戦闘です。


それでは今回はこの辺で





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15. バジリスクと日記、新手


最近急に冷えましたね。風邪をひかないようにしないと。
では更新です。


それではごゆるりと。




 

Side シロウ

 

ロンとロックハートはマリーの元に向かわせている。一応ロックハートに、簡易的な遮断結界を張るアイテムを渡しているから、瓦礫等の心配は要らないだろう。

 

今、オレの目の前には、一人の半透明な青年がいる。背丈はオレと変わらないか、いや、オレが12歳にしては高すぎるだけか(現在165cm)。

成る程、話は聞こえていたが、こいつが……

 

 

「トム・リドル。過去のヴォルデモートか」

 

「そう。そしてこの人が」

 

「スリザリンの継承者。まぁ大層な肩書きだな。……ふっ」

 

「ッ!? 何が可笑しい!!」

 

「いや失礼。先程の口上と君の見てくれを比べるとね。いやはや、名前負けしているとは、まさにこういうことか。クククッ……それに随分と生にしがみつくと思ってな。いや、それはオレと変わらないか?」

 

「貴様……先程から言わせておけば!! 何者だ!!」

 

 

ふむ、オレが何者か、か。そうだなぁ、ここは剣吾の口上を真似してみるとしよう。

 

 

「通りすがりの魔術師兼魔法使い見習いだ、覚えなくていい。それと、だ。お前は邪魔だ!!」

 

 

バジリスクが姿を現したので、全身を強化して鎌首をもたげた蛇の頭を、ボレーキックの要領で蹴り飛ばした。

轟音をたてながら、蛇は壁に激突した。が、まだ意識はあるらしい。それに蹴った感触、あれは以前より少しばかり硬くなっているな。

 

 

「成る程。脱皮をして成長することによる治癒の促進、加えて体の強度も増したか。だが、潰れた左目は治せなかったようだな」

 

「ッ!! そうか……貴様がバジリスクの目を潰したか。だが無駄だ!! まだ右目がある!!」

 

「いや、今しがた潰されたぞ?」

 

「なにっ!?」

 

 

バジリスクは吹っ飛んだ先でのたうち回っていた。オレが以前潰し損ねた右目は、不死鳥によって潰されていた。

 

 

「クソッ、あの鳥め!! 『鳥と小僧に構うな!! 小娘共を殺せ!! 匂いで嗅ぎ出すんだ!!』」

 

「何を命じたかは知らんが蛇よ、お前の相手はオレだ。お前たち、伏せろ!!」

 

「「うん(わかった)!!」」

 

 

オレの指示でマリー達は伏せたことにより、蛇の尾は彼女らの上を通過した。オレは再び奴を蹴り飛ばし、今度は両の手に持った剣で切りつけた。

が、折れたのはオレの二本の剣だった。

 

 

「ッ!! 予想より硬い」

 

「クハハッ!! バカめ、バジリスクは二ヶ月前より更に強力になっている!! その強さと硬さは二倍以上さ!!」

 

 

リドルの声に答えるように、バジリスクは突進してきた。前よりも素早い。オレは横に回避したが、奴もすぐに方向転換してこちらに向かってきた。

 

 

「……巨体のわりによく動く。--投影開始(トレース・オン)

 

 

今度は弓を投影し、矢の速射を行った。が、こちらも一、二本浅く刺さっただけで、あとは全て弾かれた。宝具を使えばすぐに終わるが、ここの岩盤が崩れ落ちる可能性がある。

 

 

「シロウ!! これを!!」

 

 

マリーが叫び、ロンが何か銀に輝くものを投げてきた。それは柄に大きなルビーの嵌まった、銀の片手直剣だった。オレはそれを受け取り、反射的に解析を行った。

 

 

--解析開始

 

--憑依経験、共感終了。

 

--基本骨子、解明。

 

--構成材質、解明。

 

--全工程完了。

 

 

……成る程。

ゴブリン製の金属、そして切った対象の力を吸い、更に強力になるのか。だか神秘性が低いな、概念武装といったところか。だが、だ。これは上手く使えば、中々に強力な武器になる。

 

 

「ク、クククッ」

 

「小僧、何が可笑しい?」

 

 

突然笑いだしたオレに、リドルと蛇は首を傾げる。マリー達も不思議そうな顔をしている。不死鳥は、オレの傍らで依然滞空している。

 

 

「いやなに、この剣は素晴らしい一品だと思ってな。さてトム・リドルよ、一つだけ忠告だ」

 

「なんだ?」

 

「慢心が過ぎれば、必ず手痛いしっぺ返しを貰うぞ? 何せ彼の人類で初めて、世界を統べた英雄王ギルガメッシュでさえ、そうだったのだからな!!」

 

 

オレはリドルにそう言い放ち、剣を自らの肩に刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

 

「シロウ!? なにし……!!」

 

 

突然シロウは自分に剣を刺した。自殺するつもりなの!?

私はシロウな駆け寄ろうとして、でも足を止めた。

何故ならシロウは、依然として不敵な表情と目をしていたからだ。そして何でだかはわからないけど、シロウの持つ剣は、先程よりも更に輝きを増しているようだった。

剣からは不思議な力を感じた。まるでシロウから力を吸いとっているかのよう。

 

 

「小僧、何をしている」

 

「自分に剣を刺しているだけだが? 見ればわかるだろう? 貴様の目は飾り物かね?」

 

 

先程からはぐらかすような応答ばかりするシロウ。さっきから思ってたけど、態と挑発してない? あ~あ、バジリスクとリドルが怒った。

暫くすると、シロウは剣を引き抜いた。肩の傷は、みるみるうちに塞がった。

 

 

「さて、反撃開始といこうか」

 

 

シロウはそう言うと、再び飛び出した。

私とロンは、シロウの人外的な身体能力を見慣れてるけど、確かロックハートは初めて見るんだっけ? 口をアホみたいにポカーンと開けて唖然としてる。

 

シロウは突進してきたバジリスクを避け、その体を切りつけた。すると今度はバジリスクの体に、長い切り傷が刻まれた。

 

 

「馬鹿なッ!? 何なのだその剣は!?」

 

「お前に教える必要はなかろう?」

 

 

シロウはリドルを挑発しつつ、バジリスクに攻撃を重ねる。あれほど硬かったバジリスクの体は傷だらけになり、体のあちらこちらから血が流れている。

ふと私の足元に目を向けると、牙のような物が落ちていた。そういえばさっき、シロウがバジリスクの顔を切りつけたとき、何かがこちらに飛んできてた。もしかしたらこれなのかも。

 

……ん? これ使えるんじゃない? これならリドルの日記を破壊できるかもしれない。

 

 

「そんな……ありえんッ!?」

 

 

リドルの悲鳴のような声が聞こえ、私の意識は現実に戻された。彼の睨み付ける先に視線を向けると、流石の私も茫然とした。

視線を向けた先には、剣を振り下ろしきった体勢のシロウと、体の半分まで脳天から切り割られたバジリスクだった。

ドゥッ!! という轟音をたて、バジリスクの亡骸は床に倒れた。

 

 

「……バジリスクは倒された。だがもうすぐ僕は復活する!! 更に言えば、バジリスクが倒されれば、僕でさえ制御できない怪物が待っているんだ!!」

 

「……辞世の句は詠み終えたか?」

 

「辞世の句だと? 何のことだ?」

 

「さぁ?」

 

 

リドルが皮算用をしている間に、私とロンは示しあわせた。

私は日記をジニーの手から引き抜き、地面に押さえる。ロンは牙を構え、高く振り上げた。

 

 

「ッ!? よせ、止めろォ!?」

 

 

リドルは気がつき、こちらに走りよってきた。でもロックハートの張った(アイテムはシロウ製)結界に阻まれ、吹っ飛ばされた。

私達はリドルが再び立ち上がる前に、日記に牙を突き立てた。

 

途端に響き渡る叫び声。まるで血のように日記から溢れる黒のインク。リドルが断末魔の声をあげるなか、ロンは一度牙を引き抜いた。そして再度、今度は更に力を込めて牙を刺した。

リドルは耳をつんざくような声をあげ、最後は爆散して消滅した。同時にジニーも目覚めた。リドルの日記は、中に潜む亡霊ごと破壊された。

 

 

「こ……ここは……」

 

「ジニー!! 良かったぁ……」

 

 

ロンは起きたジニーを、力強く抱き締めた。ロックハートもホッとした表情を浮かべている。かくいう私も、安心して腰が抜けそうだった。

しかしジニーは状況を把握したらしく、顔を青ざめさせた。

 

 

「あ、ああ……そうだ、私……」

 

「ジニー、大丈夫だよ。リドルはいなくなった。バジリスクもシロウが倒した、見てごらん!!」

 

 

ロンが私の手元と部屋の奥を指し示すけど、ジニーはしゃくり上げて見向きもしなかった。

 

 

「わ、私……何てことを……「ジニー」……ヒック、シロウさん?」

 

 

バジリスクと自身の血が付着した剣を片手に、シロウは歩み寄ってきた。そして剣は私に渡してきた。

 

 

「え? 何で私に?」

 

「君かロンのどちらかが出したのだろう? なら君らが持っていてくれ。刃には触るなよ。さてジニー」

 

「ヒック……はい?」

 

「ここで寝ていては、風邪をひくぞ?」

 

「……」

 

「こんな居心地の悪い場所で話し込むことはないだろう。出るぞ」

 

「……はい」

 

 

流石は未来のお義父さん、義娘の扱いをわかってらっしゃる。

シロウに促され、ロンに支えられながら、ジニーは立ち上がり、歩き出した。私達も、その後に続いて出口に向かった。不死鳥は私達の上を、ゆったりと飛んでいる。

 

ところが数歩も歩かないうちに、地面が激しく揺れ、後方から大きな音がした。視線を向けると、老人の顔に大きな亀裂が入っていた。

そういえばさっきリドルが、バジリスクを倒せば次の化け物が来ると言っていた。それを彼は制御出来ないとも。亀裂の奥で、複数の光る目が見えた。

 

 

「……マリー」

 

「シロウ?」

 

「急いで出口に向かえ。決して振り返るな」

 

「まさかシロウ」

 

「君は囮になるのか?」

 

「悪いがこの中で、奴の足止めをして生き残る可能性があるのは、オレだけだ」

 

「ダメだよシロウ!? そしたら今度こそシロウは……」

 

「そうだよ!! 一旦退いて態勢を立て直して……」

 

「シロウさん……」

 

 

私だけじゃない。ロンもジニーも、ロックハートでさえも、シロウが残ることに反対している。

でもシロウは溜め息を一つつくと正面に向き直り、白と黒の双剣を構えた。本気なのか、先程までおろしていた前髪も、後ろに逆立ってオールバックになっている。

 

 

「「シロウ!?」」

 

「今、こいつを野放しにすれば、死者負傷者は数えきれないほど出る。そうなる前に、叩いておかねばならん」

 

「でも……」

 

「いいから走れ!! 話は後だ、今は聞く耳持たん!!」

 

 

シロウがそう言うのと同時に、ついに老人の顔は崩れ落ちた。

 

崩れた瓦礫の向こう、大空洞から姿を現したのは、頭が九つある怪物だった。全身は青緑色の鱗で覆われている。九つの頭は全て等しい大きさで、十八の黄色い眼球は、全てこちらを睨み付けていた。

 

昔本で読んだことがある。大陸に伝わる神話、ある男が神から受けた試練の一つで退治した怪物。名前は……

 

 

「……馬鹿なッ!? 何故、ヒュドラがいるのだ!? あれはテュポーンとエキドナの子供で、大英雄ヘラクレスに退治されたはずだぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。

さぁ炸裂しました、シロウによるアーチャー流挑発術。
見事にリドルは手玉にとられてましたね。

先にヒュドラがいる理由を書いときます。
この作品では、サラザール・スリザリンが生前、バジリスクと共に改造して人工的に造り出したヒュドラを、バジリスクの死亡を条件に目覚めさせるようにしていた、というわけです。

やり過ぎたかな?

さて、次回はオリジナルチャプターです。

それではこの辺で





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16. 神話よ再び



だ……誰もFFネタにつっこまない。
やはりDCFF7はマイナーなのか……


まあそれはさておき、更新です。

それではごゆるりと






Side マリー

 

 

 

「お前たち、急いで出口に向かえ!!」

 

 

シロウはそう言うと、ヒュドラ目掛けて飛び出した。

私はようやくわかってしまった。彼は止まらない。私達が逃げ切るか、あの怪物を倒すまで、決して止まることはない。

 

 

「……行こう」

 

「「「マリー!?」」」

 

「……私達は、早くここから出なきゃいけない。シロウが生き延びる可能性を高くしたいのなら、尚更」

 

 

本当は私だって嫌だ、シロウを残して行きたくはない。でもこのまま残れば、シロウの足手まとい以外何でもない。だから私は、私達は走った。

脱け殻のところまで来たとき、一際大きな地鳴りと地響きが起きた。

 

 

「危ない!!」

 

 

突然後ろから突き飛ばされた。強い力だったから、私は前方に転がった。私がいた場所に、上から岩が降り注ぐ。どうやら先程の衝撃で、天井が崩れたらしい。

 

 

「ケホッケホッ……ロン、ジニー、大丈夫?」

 

「ゴホッゴホッ、僕とジニーは大丈夫だ。ロックハート……は……」

 

「え? ……うそ」

 

 

ロンの視線の先を見たとき、私はあまりのことに絶句した。最初は目に写るものを頭が認識してくれなかったけど、徐々に状況を把握した。

岩が落ちた場所、そこでは右半身が埋もれたロックハートが、頭から血を流して寝ていた。幸い呼吸があるから、生きてはいるみたいだ。けど、いつまで持つかはわからない。

 

そこに再度大きな地鳴りと地響きがした。今回は天井は崩れなかったけど、その代わりに秘密の部屋のほうから何かが飛んできた。その何かは、部屋とこの空洞を遮る壁を突き抜け、私達の側に打ち付けられた。

その何かは、血だらけになったシロウだった。

 

 

「あ……ああ……」

 

「そんな……」

 

「ヒッ!? ち、血が……キュウ……」

 

 

ジニーはシロウとロックハートの惨状を見て気絶、私とロンは恐らく顔面蒼白だろう。ロックハートはこのままでは助からない。シロウもこれでは、助かる見込みは低い。

部屋のほうから、ヒュドラの勝ち誇るような咆哮が響く。そして自分が通れる穴を作ろうと、壁を崩そうとしていた。不死鳥がいるけど、この子だけでは太刀打ちできないだろう。

私の頭に、「あきらめる」の五文字が浮かんだ。

 

 

「……不死鳥よ」

 

 

そのとき、私の耳に一つの声が聞こえた。そちらに顔を向けると、彼が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

伝説に違わぬ凶悪さだ。何度首を切り飛ばしたことか。あの銀の剣に力を吸われすぎたか、はたまたオレが子供に戻ったことで、最大魔力量が減っており、全盛期に充たない量なのか。

いずれにしても、宝具の真名解放には、僅かに魔力が足りそうにない。せめてと思い、鶴翼三連を叩き込んだが、徒労に終わってしまった。加えてそのとき奴の牙が掠り、毒を受けてしまった。ヒュドラのそれは、バジリスクとは比べ物にならないほど強力てあり、動きが鈍ったところにやられた。

 

奴の尾に吹き飛ばされ、壁を突き抜けて地面に叩きつけられた。恐らく、最低でも(あばら)を二本はやられているだろう。

地面に横たわり、朦朧とする意識で霞む視界に、真っ赤な鳥の影が見えた。遠くでヒュドラの咆哮が聞こえる。

オレは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、俺は夜の森にいた。木々の葉は全て枯れ落ち、地には雪が降り積もり、今も粉雪が静かにちらつく。俺はヒュドラに吹き飛ばされ、暗い洞窟にいたはず。それがこのような場所に、アインツベルンの森に似ている場所にいる。

 

 

━━ 諦めるのか

 

 

後ろから声が響いた。低く渋い、体の奥底まで染み渡る、懐かしい声だった。

 

 

━━ お前は、諦めるのか

 

「いや、まだだ。あの子達を帰すまで、死んでも食らいつく」

 

 

俺は答えながら、体ごと後ろを向いた。

前方には鉛色の大男が、大理石から削り出したかのような大剣を携え、無言で立っていた。

 

 

━━ ではお前はどうする

 

「無論、俺も生きる。俺はあいつとは違う。最善の結果(ベター)ではなく、最良の結果(ベスト)を掴む。そのために、前に突き進む」

 

 

俺は男の問いに答えた。男は何も言わなかった、が、俺の近くに歩み寄ってきた。

 

 

━━ あのとき、あの子を守ると誓ったときと変わらない、良い目だ。消滅するとき、止めとなったお前の刃とお前自身に、我が思いを魔力に重ねて託したのは正解だったようだ

 

 

男はそう語ると、俺の目の前に大剣を突き刺した。

 

 

━━ この先、このような奇跡は二度と起きないだろう。お前にこれを託す。お前の行く道に立ち塞がる、数多の壁を打ち砕く力となろう

 

 

最後まで口を開かずに語った男は、俺に背を向けて森の奥へと歩き出した。

 

 

「……イリヤを、守ってくれてありがとう。彼女は今も、元気にしている」

 

 

男は一度足を止めたが何も言わず、今度こそ去っていった。

男の思いは伝わった。

狂気に侵されて尚、冬の少女を守り続けた彼の英雄の祈りは、時を越え、世界を越えて届けられた。ならば俺も応えよう。

 

目の前の剣を手に取る。膨大な情報が流れ込む。同時に大英雄の思いも流れ込む。

いつしか周りは真っ暗な空間に変わっていた。それでも情報は流れる。

 

全てを受け止めよう。

衛宮士郎の敵は自分自身、思い浮かべるは最強の自分。ならば、膨大な情報に負けはしない。

そして俺の視界は白で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する。

月明かりのみが差し込む洞窟に、俺は寝そべっていた。近くに不死鳥が佇み、腕と胸の傷口に、真珠のような涙を落としていた。不死鳥の涙は、驚異的な回復力を有しており、バジリスクの毒をも癒すという話だ。

先程までの体の鈍りが取れた。ということは、傷とともに、ヒュドラの毒をも癒したのか。

 

 

「……不死鳥よ」

 

 

オレは立ち上がり、鳥に声をかけた。鳥は一声歌うと、俺の肩に舞い降りた。マリーとロンがこちらに顔を向けるが、今は無視した。

ロックハートは……成る程。ロン達の身代わりになったな。

ジニーはオレとロックハートの惨状を見て、気絶したようだな。

 

オレはロックハートに重なる岩をどけた。幸い奴は生きているが、潰れた右手足は涙を以てしても、治ることはないだろう。

 

剣を造り、ロックハートの右手足を切り落とす。不死鳥はその傷口に涙を落とし、塞ぐ。これで失血等の心配は無いだろう。一つのあるとすれば、『幻痛(ファントムペイン)』ぐらいだが、それは奴の精神力次第だ。

 

 

「こいつを先に医務室へ。その後はこの子達だ、頼めるか?」

 

 

オレの問いに不死鳥はまた一声歌い、ロックハートを掴んで飛びさっていった。さて、と。

 

 

「シロウ、大丈夫なの!?」

 

「さっきまで血だらけだったよね!?」

 

「う、ううん……あれ? シロウ……さん? え? なんで!?」

 

 

この三人をどうしようか。正直ロックハートが五体満足なら良かったが、そうでなかったため、三人を残した。だが、このままでは余波に巻き込まれるだろう。

 

 

「……三人ともよく聞け。一応オレは不死鳥の涙のおかげで、傷も毒も癒えた」

 

「「「……」」」

 

「あのヒュドラは倒さねば止まらん。だからオレは行く」

 

「無茶だよ!?」

 

 

マリーが即座に否定する。同時に部屋のほうの壁にヒビがはいる。もう時間がないか。

 

 

「オレは大丈夫だ、秘策もあるしな。それより、オレが良いと言うまでこの岩場の陰から出るなよ。非常に危険だからな」

 

 

オレはそう言うと、マリー達の制止を聞かず、部屋のほうに向かった。

先程天井が崩れたからか、元から地上に空いていた穴と繋がり、地上に続く大きな空間ができていた。加えて空間は横にも広く、戦うには十分な広さだった。

 

壁から十五メートルほどの場所に立ち、オレは懐から真っ赤な大きな宝石を取り出す。

この宝石は、剣吾の『火』と『風』の属性魔力が込められており、オレが飲むことで一時的にその属性が使える、一種のドーピング剤のようなものだ。

凛の宝石とは違い、純粋な魔力ではないので、飲んだオレが制御できなければ、一発で内側からやられてしまう、諸刃の剣である。

 

だが迷うことはない。

奴の首は切っても再生する。大英雄もその甥に、ヒュドラの傷口を松明の火で焼き塞がせたという話だ。

残念ながら今この場には、それを頼める剣吾も凛達もいない。ならば、初めから使用する武器に炎を纏わせればいい。魔術師ならば、足りないものは他所から持ってくるのだ。

 

オレは宝石を一飲みした。途端、体の内側から焼かれるような痛みが走る。純粋な攻撃力のみを孕んだ剣吾の魔力は、オレを内側から蹂躙した。

視界が赤くなる。己の魔力とせめぎあう。だが。

 

 

「……ここで、やられるわけにはいかない!!」

 

 

そうだ。

衛宮士郎は、他の誰にも負けてもいいが、自分には負けられない。だが、今自分の背中を見守る者達、元の世界で愛した人達のためにも、ここで負けるわけにはいかない。

暴れる魔力を抑え込む。体が熱を持つが、無視をして抑える。

そして魔力は鎮まった。オレの中で一つとなり、体を駆け巡る。

 

壁の亀裂が広がる。あと三秒ほどで壁は崩れ、ヒュドラが襲いかかるだろう。そしてこの十五メートルの距離は、奴にとってはギリギリ間合いの内側、突破と同時にこちらに向かうだろう。

 

思考をクリアに、残りの魔力を見ると一発勝負。

創造理念、基本骨子、構成材質、制作技術、憑依経験、蓄積年月の再現。固有結界は使用不要、そもそも魔力量が足りないし、奴に最適な宝具を、オレは今記録した(しっている)

 

 

「--投影、開始(トレース・オン)

 

 

左手を上に掲げ、まだ虚空の未だ現れぬ剣の柄を握り締める。想像を絶する重量、今のままでは、オレにこれを扱うことはできない。ならば、彼の者の怪力をも複製してみせよう。

 

 

「……行くぞ」

 

 

大剣に剣吾の魔力を注ぎ込む。刀身は火炎を纏い、大剣を取り巻く疾風によって、爆炎となる。両袖が焼け落ち、皮膚も焼ける。だがそれでも全て注ぎ込む。爆炎はいつしか紅蓮の焔となり、岩の大剣は炎の剣となった。

 

壁の奥からヒュドラの咆哮が響き、亀裂が広がる。

 

 

━━ 三

 

 

地鳴りは止まず、寧ろ激しくなる。今の疲弊したオレの体では、限界を超えない限り、奴を一刀のもとに切り伏せるのは困難。

 

 

「--投影、装填(トリガー・オフ)

 

 

故に限界を超える。限界を超えたとき、初めて見えてくるものが、掴み取れる力がある。

脳内に九つの斬撃、二十七の魔術回路を総動員させ、前を見据える。

 

 

━━ 二

 

 

壁が崩れ、遂にヒュドラが姿を現す。その九つの頭、十八の双眼。全てに狙いを定め、大英雄の御技を、今ここに解き放つ。

 

 

全工程投影完了(セット)。--是、射殺す百頭(ナインライブス・ブレイドワークス)!!」

 

 

迫り来る高速を、神速を以て叩き、切り伏せる。

九つの斬撃はヒュドラの首を全て落とし、纏う炎で切り口を焼き塞ぐ。斬撃の余波により、ヒュドラの上の岩盤が崩れ落ちる。岩は全てヒュドラの上に落ち、その体を地に埋めた。

ヒュドラは完全に沈黙した。刀身の炎は消え、剣は魔力に還って霧散する。

 

 

 

 

 

 

あ、不味い。完全にガス欠だ。

流石に無理が祟ったのか、全身の力が抜け、オレは後ろに倒れこんだ。が、地面には倒れず、誰かから支えられた。そしてそのままゆっくりと下ろされ、何かに頭をのせたまま寝転がる体勢となった。

 

 

「……隠れていろと言った筈だが?」

 

「……わかってる。でも心配だったから」

 

「そうか。すまないが、暫くこのままでいいか? 力が入らん」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

不死鳥が帰ってくるまで、このまま魔力を回復させよう。幸いすぐに動けるようになるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ロン

 

 

シロウが部屋の方に行ってからすぐ、僕らは岩陰から状況を覗き見ていた。

シロウが何かを飲み込み、暫く喘いだあと、考えられないほどの大きな剣を片手に掲げた。

前からシロウの身体能力はおかしいとは思っていたけど、流石に今回は開いた口が塞がらなかった。身長の1.5倍はある剣を、あんな軽々と持つことなんて、普通はできない。

 

更に驚くことに、剣は紅く輝く炎を纏い始めた。同時に僕らがいるところに、すごい熱風が流れ込んできた。それとほぼ同時に壁が崩れ、ヒュドラがシロウに襲いかかった。

 

 

「「シロウ!!」」

 

 

僕とマリーは思わず叫んだ。でも瞬きしたときには、既に全部終わっていた。シロウが剣を振り終えたときには、ヒュドラの頭は全て切り落とされ、その体は岩の下敷きになっていた。

 

まるで神話の一コマのようだった。

剣を振り切ったシロウは真っ赤な腰布をはためかせ、力強く立っている。その剣が切り伏せたのは、伝説に語られる、九つ頭の蛇神。シロウの立つ様は、神話に出てくる英雄のようだった。

 

改めてシロウの規格外さを知った。そして本能的に、これは知られてはいけないものとわかった。シロウが表に出るのを嫌がっている、そう漠然と感じた。

それにしても、本当に彼は凄いと思う。魔法界とマグル界を含めて、彼が最強なのではないだろうか? まぁ流石にマグルの『()()()』とかだったらやられるかも知れないけど。

 

 

あっ、剣が消えた。

前から思っていたけど、剣吾もシロウも虚空から剣や槍を出すよね。どうやってるんだろう? 魔法使いが杖を振って呼び寄せるのとは、若干違うような気がする。だってあんなふうに、粒子になって消えることはないし。

 

あっ!? ヤバイ、シロウが倒れる!!

咄嗟に前に出ようとしたけど、その必要性はなかった。

いつのまに移動していたのか、マリーが後ろからシロウを支えていた。そしてそのまま膝枕の体勢になった。

どうやら疲れて力が入らないらしい。上から差し込む月明かりと相俟って、僕の目にはとても神秘的に写った。

 

……もう少しここにいようか。

ようやく終わりを告げた騒動に安堵の息を漏らしながら、僕とジニーは暫く目の前の光景を見ていた。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。


バーサーカーとの邂逅ですが、アニメ版UBWの2期opの歌詞をもとにしました。
そしてシロウの言葉、わかる人はわかると思います。


さて、次回は事後説明ですね。

それでは今回はこの辺で




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17. 帰還


はい、更新です。

もう少しで二巻内容が終わるので、そうしたら今度はfateの更新に入ります。


それではごゆるりと






Side シロウ

 

 

十分ほどすると不死鳥が舞い戻り、岩陰からロンとジニーも出てきた。というか二人とも、出歯亀決め込んでいたの知っているからな。ジニーはともかく、ロンはあとでシメる。

それから、部屋にいたときから気がついていたが、針金の小さな鳥がいるな。おおかた、フレッドとジョージが、使い魔で捜索、ついでにずっと見ていたのだろう。

最悪寮のみんなも見ているかもしれん。ウィーズリー三兄弟以外の寮の面子は、記憶操作したほうがいいだろう。

 

 

「不死鳥、三人を頼む。オレは一人で登れる」

 

 

オレはそう言うと立ち上がり、不死鳥に三人を掴まらせ、そのまま上にあく穴を登っていった。中々に大きな空洞だったので詰まることもなく、全員すんなりと出ることが出来た。針金の小鳥もすぐ近くにいる。

 

 

「疲れているかもしれないが、報告に行く必要があるだろう。不死鳥よ、案内を頼めるか?」

 

 

オレの言葉に不死鳥は一声歌った。了承したのだろう。オレは小鳥の方にも顔を向けた。

 

 

「こいつを介して聞こえているだろう。フレッドとジョージ、パーシーの三人は、マグゴナガルの元に行け。それからもしこいつを介して見たものを記録しているのなら、それも一緒に持ってこい」

 

 

オレはそれだけを言うと、三人を伴って不死鳥についていった。小鳥も城の方へ向かったから、あの三人も来るだろう。オレたちは無言で不死鳥の後を追い、そしてマグゴナガルの部屋の前に着いた。

オレはノックをして、ドアを開いた。

 

オレたち四人が泥まみれ、ヘドロまみれの状態(余談だが、オレはそれに両腕の火傷と血まみれが加わる)で部屋に入ると、始めは沈黙が支配した。

 

 

「「ジニー!!」」

 

 

暖炉の前で俯いていたウィーズリー夫妻はジニーに駆け寄り、二人して末娘を抱き締めた。あとから三兄弟も続く。

部屋の奥には、ダンブルドアとマグゴナガルが並び立ち、こちらを見ていた。マグゴナガルには一応報告をしていたが、やはり不安だったらしい。ダンブルドアの隣で深呼吸を繰り返している。オレはダンブルドアの元へと近づいた。

 

 

「戻ってこれたのだな」

 

「理事たちに戻ってくれと言われてのう」

 

「身勝手だな」

 

「ホッホッホッ、まぁそう言ってやるな」

 

 

オレとダンブルドアが話していると、後ろからモリーさんに、ロンとマリーごと抱き締められた。

 

 

「あなたたちがこの子を助けてくれた!! いったいどうやって?」

 

「私達全員が、それを知りたいと思っています」

 

 

マグゴナガルがボソリと呟く。

マリーはデスクの上に、古い帽子と血にまみれた剣、リドルの日記を置いた。というか、その剣の血の半分は、オレの血なんだよな、あとで拭き取っておこう。

マリーとロンとオレは、全てを語った。流石にオレのいない二ヶ月に関してはわからないので、その部分は二人に任せた。流石に大蜘蛛に会いに行ったのには驚いたが、よく二人とも無事に帰ってこれたな。オレだと蜘蛛を全滅させかねん。

 

 

「成る程、よくわかりました。それで、ミスター・エミヤは? いなくなった二ヶ月、どこで何をしていたのですか?」

 

「む? 言わないといけませんか?」

 

「当たり前です」

 

 

流石に見逃してくれないか。

オレは居住まいを正し、みんなに向き直った。序でに言うとマリーよ、少し顔が怖いぞ。

 

 

「その二ヶ月は、養生と魔法具の制作をしていました」

 

「魔法具? それに養生? どこでですか?」

 

「何処かは言いませんが、ホグワーツのとある場所から続く抜け道の先、ボロボロの屋敷にいました。まぁボロボロが過ぎたので、一部改修しましたが。血清を待つ余裕が無かったので、自分なりの治療を行いました。傷口からの毒物の除去から始まり、それまでにけっこう出血するので包帯を変えたりと。あ、これ毒から作った血清です」

 

「どうも。あとでポピーに渡しておきます。しかし成る程、それで新品の包帯を持っていったのですか。では食事は?」

 

「近くのパブで。アルバイトをしながら魔法具に必要なものを揃えたりしてました。完成品は、ロンとマリーが身に付けています」

 

 

オレがそう言うや否や、マリーとロンはそれを差し出す。マグゴナガルとダンブルドアは、暫くそれを見つめていたが、その顔を驚愕に染めた。

 

 

「のぅシロウよ。これは彼らが身に付けているものと」

 

「ええ、それ一つでは大して力はありませんが、彼からが元々身に付けているのと合わせることで、バジリスクの魔眼をもある程度防げます」

 

「おお、何と……。成る程のぅ、これ程のものなら、時間がかかるのは仕方あるまい」

 

「わかりました。では次にですが、いったい全体どうやって、全員生きて戻ってこれたのですか?」

 

「それに関しては……フレッド、ジョージ。あるか?」

 

「「もちろん」」

 

「え? 二人とも?」

 

「見た方が早いでしょう?」

 

 

フレッドとジョージは持ってきた水晶玉を、部屋の真ん中に置き、それに杖を向けた。

プロジェクターのように壁に映像が映し出され、原理は知らんが音も出ていた。というか二人とも、バジリスクとぶち当たる少し前から見ていたのか。なら何故報告しなかった。

ちゃっかりヒュドラとの戦いも見ていたのか。これはもう、こいつらが使い魔を悪用せぬよう、きつく言っておかねばなるまい。

 

 

「……バジリスク以外にもいたのですか。しかもヒュドラ」

 

「流石に予想外でしたので。正直、倒せたのは僥倖(ぎょうこう)でしょう」

 

「そうですね」

 

 

これに関しては、ダンブルドアもマグゴナガルもホッとしている。ウィーズリー一家は、四兄弟を除いて全員口を半開きにしている。一応夏休みに力の一端を見せていたとはいえ、流石にこれは驚くのも仕方がないか。

 

まぁそれは置いておこう。問題はジニーだ。

残念ながら、日記が破壊された今、ジニーが操られていたと証拠付けるものはない。その話が信じられなかった場合、彼女は最低でも退学になるだろう。果たしてどうすべきか。

 

 

「わしが気になるのは」

 

 

ダンブルドアが口を開く。

 

 

「ヴォルデモート卿が、どうやってその子に魔法をかけたかじゃの。わしの個人的な情報によれば、あやつは今アルバニアにいるらしいが」

 

「その日記です」

 

 

ダンブルドアの疑問にマリーが答えた。

 

 

「ヴォルデモートはここの生徒だったとき、この日記を書きました」

 

「成る程のぅ……ふむ、見事じゃな」

 

 

ダンブルドアは日記を取り上げ、しげしげと眺めた。

 

 

「じゃ、じゃあ。年度初めにシロウ君の言った魂憑とはまさか……」

 

「これ、でしたね。申し訳ありません。任せろと言っておきながら、このような事態に」

 

「いえ、それでもあなたは娘を助けてくれた。ありがとう」

 

「……リドルの洗脳を阻害したのは、剣吾の護符です。お礼は今度、息子に言ってください」

 

 

アーサーさんとモリーさんは頷くと、ジニーに向き直った。ジニーは未だ涙を流し続けている。

 

 

「……ジニー。パパはお前に何も教えなかったと言うのかい? いつも言い聞かせていただろう? フレッドとジョージが作ったもの以外で、『脳みそがどこにあるかわからないのに、自分で考えることができるもの』を信用してはいけないって。どうしてパパとママに言わなかったんだい?」

 

「わ、私知らなかった」

 

 

ジニーはしゃくりあげながら言う。

 

 

「ママの用意した本の中にそれがあって、てっきりママが買ってくれたと思って、つ、使ってた。でもクリスマスあたりから怖くなって、シロウさんに預けようと。でもシロウさんも襲われて行方がわからなくなって……私どうしたらいいかわからなくて、そのまま……」

 

「ミス・ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい」

 

 

ダンブルドアが話を中断させ、出口までツカツカと歩み寄り、ドアを開いた。

 

 

「苛酷な経験じゃったろう。罰はなし。安静にして熱いココアでも飲むとよい。わしゃいつもそれで元気が出る。もっと年上で賢い魔法使いでさえ、あやつにたぶらかされてきたのじゃ」

 

 

ジニーは家族に連れられ、医務室に向かった。ロンはハグリッドを返してもらうための手紙を、ダンブルドアから依頼されたから、家族とは別にフクロウ小屋へと向かった。現在部屋には、オレとマリー、マグゴナガルとダンブルドアしかいない。

 

 

「のう、ミネルバ。今回のことは、盛大に祝う価値があるものと思うのじゃが、どうかのう?」

 

「わかりました、キッチンにそのことを知らせに行きます」

 

「うむ、頼んだ」

 

「ポッターとエミヤ、この場にいませんが、ウィーズリーの処置は先生にお任せしてよろしいですね?」

 

「もちろん」

 

 

ダンブルドアがそう答えると、マグゴナガルは部屋から出ていった。それにしても「処置」か。まぁ確かに、オレたちは数百の規則を粉々に破ったからな。だがマリーよ、オレにしがみつかんでも良かろう。

 

 

「心配せんでも、君たちはそれに見合う結果を導きだした。罰はないよ、君たちには『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それにそうじゃな……一人につき百五十点ずつ、グリフィンドールに与えよう」

 

 

いや、オレはそのなんたら賞はいらんのだが。まぁ罰は無いようだし、一先ず安心か。

 

 

「さて、マリー。まず君に礼を言おう。『秘密の部屋』の中で、君はわしに真の信頼を示してくれたと思う。でなければ、フォークスは君のところに呼び寄せられなかった」

 

 

成る程、不死鳥フォークスがあの場にいたのは、そういう理由か。それとさっきから気になっていたんだが、フォークスよ、何故オレの頭をつつく?

 

 

「……先生、一ついいですか?」

 

「なんじゃ?」

 

「何故、私は蛇語を話せるのでしょうか?」

 

「……わしの推測にすぎんが、それは十一年前、ヴォルデモートが君を殺し損ねたときに、自らの力の一部を移してしまったのじゃろう。本人が意図せずしてのう」

 

「ヴォルデモートの……力の一部?」

 

 

成る程、そう考えれば辻褄が合うな。

マリーはスリザリンの直系の血族ではない。にも拘らず、スリザリンの専売特許たる蛇語を理解し、話すことができる。

ヴォルデモートはスリザリンの直系の子孫、ならば奴が蛇語を話せるのは自然なことだ。その力の一部が移ったのなら、あるいは……

 

 

「それじゃあ、私はスリザリンの適性がある、ということですね」

 

「あくまであるだけじゃよ。大事なのは、どんな力を持っているかではない。今までどのように選択し、生きてきたかということじゃ」

 

 

成る程な。確かに自分が何者かを示すには、有する能力ではなく、生き様見せることが大切だ。だがダンブルドアよ、オレをちら見しながら言うな。反応に困る。

 

 

「もし君がグリフィンドールの者であるという証が欲しいのなら、この剣をよく見るといい」

 

 

ダンブルドアはそう言うと、マグゴナガルの机の上の剣を取った。その剣の腹には、『ゴドリック・グリフィンドール』と刻まれていた。

 

 

「真のグリフィンドール生だけが、思いもかけぬこの剣を帽子から取り出せるのじゃ」

 

 

ダンブルドアの言葉に、マリーは安堵の表情を浮かべた。

と、そこで部屋の扉が勢いよく開かれた。結構乱暴に開かれたため、扉は壁に跳ね返った。そしてルシウス・マルフォイが、小さな生き物を連れて入ってきた。

 

 

(……成る程。こいつがお前の主人だったのだな、ドビーよ)

 

 

その小さな生き物はドビーだった。彼はオレとマリーに気づくと、頻りに日記とルシウスの間で視線を動かした。

ふむ、こいつが全ての元凶か。マリーも気づいたみたいだ。

まったく、息子のドラコ・マルフォイといい、こいつといい。蛙の子は蛙だな、この親にしてあの子あり、か。

 

話はついたらしく、ルシウスは入るときと同じように荒々しく出ていった。マリーはダンブルドアの許可を得て日記をつかみ、ルシウス・マルフォイを追いかけていった。まぁ奴もこんなところで問題は起こさないだろう。

 

 

「……さてシロウよ。君は何をしておるのじゃ?」

 

「気づいていたなら止めさせろ。つつかれすぎて禿げる」

 

「いや、面白いからもう少しこのm「おいジジイ……」フォークス、その辺での」

 

 

まったく、大事な話をするというのに。

 

 

「部屋にヒュドラがいた理由、なにか思い付くか?」

 

「ふむ、後年に誰かが紛れ込ませたか。はたまたスリザリン本人がバジリスクと共に入れていたか」

 

「出来れば後者でありたいものだ。だがそれでも、ヒュドラが今の世にいることが理解できんな。あれは大英雄に退治されたはずだが」

 

「恐らく、純粋なヒュドラではないのじゃろう。改造して人工的に造られた、と見るほうが筋道が通る」

 

「昨年のトロールといい、今回のヒュドラといい。マッドサイエンティストしかいないのか?」

 

「さてのぅ……」

 

 

ダンブルドアは紅茶を一口飲むと、改めてオレに向き直った。

 

 

「それで、ギルデロイはどうなったのじゃ?」

 

「態々聞かなくても、あなたなら開心術で見れるんじゃないか?」

 

「君自身がわし以上の閉心術をしておいてよく言うわい。もしや先程の仕返しかのう?」

 

「さて、どうだろうな。まぁ、それは置いておこう。奴のことだが、再び魔法使いとしてやっていけるかは、正直私にもわからん」

 

「というと?」

 

「まず奴の杖だが、秘密の部屋で紛失した。加えて奴の右半身は、内臓を除いて全て潰れている。寧ろ内臓が無事だったことが奇跡だ」

 

「そうか」

 

「あとは奴の精神次第だ。もし奴が死を望むなら、そのときはオレが介錯しよう」

 

「……わかった」

 

「来年の防衛術はどうする?」

 

「そうじゃのう……君が教えてみるかの?」

 

「あんたは阿呆か?」

 

「ホッホッホッ、年寄りの軽い冗談じゃ」

 

 

最後は軽口たたきあったが、これはこれで話は終わりという合図でもある。オレはそのままマグゴナガルの部屋を後にした。

暫く歩くと、ドビーとマリー、そして少し離れたところで倒れるルシウスがいた。おおかた、マリーに危害を加えようとし、ドビーに吹き飛ばされたか。

通常ではこのような事態はあり得ないが、ドビーは片手に靴下を握りしめている。そしてマリーの靴下が片方ない。加えてドビーの足元には、破壊されたリドルの日記。

マリーがルシウスをはめて、ドビーを自由にしたか。

 

 

「ルシウスさん、何をしているのですか?」

 

「ああ。ミスター・エミヤか」

 

「こんなところで寝ていては、風邪をひきますよ?」

 

「……余計なお世話です」

 

 

ルシウスはそう吐き捨てるように言うと、足早に去っていった。

 

 

「……流石は妖精族、か」

 

「勿体なき御言葉です、エミヤ様。ところで一つお聞きしても?」

 

「ん?」

 

「あなた様の体に溶け込んでいるもの、それはもしや」

 

「想像の通りだよ。あいつに返そうとしたが、逆に持っていろと言われてな。それ以来このままだ。他言無用で頼むぞ? フリットウィックはまだ気がついていないしな」

 

「何と、我らの間でも有名なあの方にお会いしたのですか。わかりました、決して他言しません」

 

 

ドビーは蝙蝠のような耳をパタパタさせながら、頻りに頷いていた。普通にオレの頼みを聞いているが、そういえばドビーはもう自由だったな。

 

 

「ドビーはこれからどうするの?」

 

「次の主が見つかるまで、世界を見て回ろうかと思っております」

 

「そうなの。良い出会いがあるといいね」

 

「はい!! ……さようなら。偉大な魔法使い、マリナ・ポッター。さようなら。彼の者の遺志を継ぎし英雄、シロウ・エミヤ。またいつか」

 

 

ドビーは指をパチリと鳴らし、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。

次回は二巻最終回。
その後、また番外編を書こうと思います。
番外編も終われば、前書きの通りに、fateを更新していきます。



それでは今回はこの辺で





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18. エピローグ





二巻本編最終回、更新です。

それではごゆるりと





 

 

Side シロウ

 

 

医務室に着くと、まずはベッドで寝付いているウィーズリー兄妹が目に入った。ジニーの枕元には、アーサーさんとモリーさんが腰掛けている。

石化した生徒が寝かされていたベッドは、全て空になり、綺麗に畳まれていた。ということは、マンドレイクの薬が完成し、生徒が元に戻ったのだろう。

 

オレはウィーズリー夫妻に軽く会釈をし、一番奥にあるベッドへと向かった。そのベッドはカーテンで仕切られ、外から見えないようになっている。

誰も医務室に来る気配がなかったので、オレはそのカーテンを開いた。そこに寝ていたのは、右手足を失ったロックハートだった。目は覚めているらしく、開いていた。

 

 

「……どうやら、目が覚めたみたいだな」

 

「……ミスター・エミヤ?」

 

「ああそうだ。自分の状況がわかるか?」

 

「……右手足がなくなってるね。あのときの落盤か。……生きていたのか」

 

「死にたかったのか?」

 

「……いや、生きているだけでいい。それだけでも有難い」

 

 

……本当に変わったものだ。一年前からみれば劇的ビフォーアフターだな。

 

 

「……それで? これからどうするつもりだ? 悪いが、お前がこの先魔法使いとして復帰できるかはわからんぞ?」

 

「そうだねえ……しばらく世界を見て回ろうか? 魔法はそのあとでも良いさ。もしくは、今度は他人の手柄じゃなくて子供用の絵本を書いたりね」

 

「……そうか」

 

「ああ。詐欺師のギルデロイ・ロックハートは、秘密の部屋で死んだ。今ここにいるのは、ただのギルデロイ・ロックハートさ。ただの一人の男だよ」

 

 

……ふむ。

こいつの顔に憂いはない。ということは、今の言葉はこいつの本心だろう。この学校(ホグワーツ)での一年は、こいつを良い方向に変えたみたいだな。

オレは投影で義足を作った。といっても、ちゃんとした物を装着するまでの、一時しのぎにすぎないが。

 

 

「餞別だ。出来れば一月以内にちゃんとしたものに付け替えろよ」

 

「悪いね、ありがとう」

 

 

奴の礼には応じず、オレはそのままカーテンを閉めた。奴がこれからどうするかは奴次第、これからじっくりと見極めるとしよう。

さて、急いで大広間に行くか、朝食には間に合うだろ……

 

 

「ミスター・エミヤ? どこに行くのですか?」

 

「え? あ……」

 

 

な、何故だ!?

オレに覚られず、近づいてきたというのか!?

マダム・ポンフリーはアサシンか!?

関係ないが、前から思っていたのだが、マダム・ポンフリーはセラにそっくりだ。

 

 

「不死鳥の涙で傷や毒が癒えても、体力まで回復するわけではないのですよ? それに、そんな火傷を負った両腕でどこに行くのですか?」

 

「い、いやこれはだな?」

 

「問答無用です!!」

 

 

オレはそのまま医務室に連れ戻された。いつの間に起きていた双子のウィーズリーは、オレに向かって合掌していた。

というか見ていたのなら助けてくれ!!

いやだ?

 

なんでさ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side マリー

 

 

本当に色々有りすぎて、朝御飯を食べに行く体力もなかった。何か食べるにしても、先に睡眠をとらないと行動できない。私は真っ直ぐグリフィンドール寮へと向かった。

寝室に着くと、私のベッドの上にはパジャマが畳んでおいてあったので、直ぐにそれに着替えた。ハネジローは私を待っていてくれてたようで、ベッドの上に腰かけて私を見ていた。

 

 

「ただいま、ハネジロー」

 

「パーム、オカエリ」

 

「うん。ごめんけど、早速寝ていい? 流石に疲れちゃった」

 

 

私がそう言うと、ハネジローはパタパタとベッドから離れた。そして私が布団を被ると、隣に入ってきた。この子も私達が心配だったのだろう。安心したのか、私の隣ですぐに眠りに落ちた。

私も眠気が襲ってきたので、抵抗せずに身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風がふく。

 

命の息吹が感じられない、真っ赤な荒野。

 

草木の代わりに、地面に突き立つ無限の剣群。

 

分厚い雲に覆われた、黄昏の空。

 

その空に浮かぶ、大小様々な歯車。

 

嗚呼、私はまたここにいるのか。

 

私は、何度も見てきた悲しい世界を、改めて見回した。でも今回は今までと少し違った。

まず、喧しいまでの剣戟が聞こえた。そしてその方向に顔を向けると三人の人がおり、そのうち二人は、互いにぶつかり合っていた。

 

対峙しているのは赤銅色の髪の少年と、白髪の青年。二人とも何処かで見たような白黒の双剣を構え、互いに激しく論争し、剣を叩きつけていた。

私は二人の側により、青いドレスの上に甲冑を纏った女性の隣に立った。闘う二人の男は、二人とも知っている誰かの面影があった。

二人はとても近い者、下手すれば同一人物と言えると感じた。互いが互いを一番理解しているからこそ、互いが互いの存在を認められない、故に意地と意地がぶつかり合っている、そう漠然と感じた。

 

 

「そうだ、誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた!!」

 

 

青年が吠え、少年に猛攻を仕掛ける。少年は防ぐことしかできない。

 

 

「故に、自身からこぼれ落ちたものなど何一つ無い!! これを偽善と言わず、何と言う!?」

 

 

男は断罪する。少年を、他でもない自分自身も。

 

 

「この身は誰かのためにならなければならないという、強迫観念に突き動かせられてきた!! そして傲慢にも走り続けた!!」

 

 

ふと、隣に立つ女性に顔を向けた。

女性の目は前髪に隠れて見えなかった。でも、その口元は半開きになりつつも歪んでいた。まるで、青年の断罪が、女性自身も裁いているかのように。

 

 

「それが苦痛だと思う事も、破綻していると気付く間もなく、ただ走り続けた!」

 

 

青年の剣は少年の剣を弾き飛ばし、そして少年の腹に突き刺した。

 

 

「「シロウ!?」」

 

 

思わず声をあげてしまった。甲冑の女性も叫んだ。そして声に出して気がついた。いや、気づかなかったふりをやめさせられた。

赤銅色の髪の少年は、本当の意味での若い頃のシロウ。そして白髪の青年は、シロウが至る可能性のある、未来のシロウ。そう考えると、嵌まらなかったパズルのピースが、自然と組合わさった。

 

 

「そんな偽善では誰も救えない。否、もとより、何を救うのかも定まらない。見ろ!! その結果がこれだ!! 初めから救う術を知らず、救うものを持たず、醜悪な正義の体現者が……貴様の成れの果てと知れ!!」

 

 

大人のシロウは、子供のシロウを切り飛ばした。咄嗟に駆け寄って触れたけど、私の手はシロウをすり抜けた。私は今いる場所が、シロウの記憶の中であることを忘れていた。それほどに目の前に倒れるシロウを、何とかして助けたかった。

 

 

「その理想は間違っている!! 誰もが幸福である世界など、空想のお伽噺だ!! そんな願いしか抱けぬと言うのなら、抱いたまま溺死しろ!!」

 

 

大人のシロウはそう叫ぶ。

私は聞こえていないとわかっていても、反論しようとした。でもできなかった。

大人のシロウの顔は、酷く歪んでいた。

憎しみ、怒り、怨みが詰まった表情、でもその目は、哀しみ、絶望、後悔、孤独といったものを孕んでいた。

大人のシロウが何を見てきたかわからない。でも彼は、生きている間、もしかしたら死んだ後も嫌なもの、私が想像できないものを嫌と感じられなくなるほど見せつけられた。故に自分を殺したくなるほど憎んだ。

 

 

「……ざけんな」

 

「なんだと?」

 

「え? ……シロウ?」

 

 

すぐ近くから声が聞こえた。

そちらに顔を向けると、異常としか言えない回復力で、傷がどんどん塞がるシロウがいた。

 

 

「俺の願いが、俺の想いが、間違っているだと? 救うものを、守るべきものを持たないだと!? ふざけるな!! それはお前だけだ!!」

 

「なに!?」

 

「ああ、そうだ!! たしかに俺は『正義の味方』に憧れた!! 切嗣の憧れた正義の味方にな!! だがな、俺は俺の意思で正義の味方になると願った!! 十年前のあの地獄の日、非力な自分のかわりに、あの地獄をどうにかしてほしいと。そして生き延びた暁には、今度は自分自身の手で人々を救うと!!」

 

「その考えがそもそもの間違いだ!! お前はあの男の余りにも幸せそうな顔を見て、自分もそうなりたいと願っただけ!!」

 

「違う!!」

 

 

再び剣戟が走る。言葉を、互いの心をぶつけ合う。

先程までとは違い、今度はシロウが優勢だった。シロウもだけど、大人のシロウも次々に傷を負っていく。お互いが防御を二の次にし、その心を叩きつけていた。

ついには彼らは二人とも、死に体になっていた。

 

 

「……なぁアーチャー。お前は今まで何人救ってきた」

 

「何を今更、数えきれないほどに決まっているだろう」

 

「じゃあ、お前は救ってきた人々に目を向けたか?」

 

「……何を」

 

 

シロウの質問に、大人のシロウ、アーチャーは答えを窮した。

ああ、そうか。

アーチャーは命を救うことだけを見ていた。だから助けた人の心までは救えず、逆に助けられなかった人々だけを見てしまった。

故に歪んでしまったのだ。

 

 

「その人たちにお前は目を向けたか? お前が殺したものにしか目を向けてなかっんたんじゃないか?」

 

「…………まれ」

 

「たとえ殺していく人々の中に自分の大切な存在がいても構わず切り捨てた。違うか?」

 

「……黙れ」

 

「なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった!!」

 

「黙れ!!」

 

「俺は切り捨てない、無くさない!! 俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりはしない!! たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても!! 俺達が抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから!!」

 

「ッ!! そこまでだ、消えろォ!!」

 

 

そうしてシロウの剣は、アーチャーの腹を貫いた。

剣が刺さる前、アーチャーはシロウに止めをさそうと、白の剣を振り上げた。でも結局降り下ろされなかった。それどころか、アーチャーの顔は穏やかなものになっていた。まるで憑き物が落ちたかのように。

 

 

 

 

 

そこで急に目の前の光景は変わった。

今度は私は、また剣が突き立つ世界にいた。

でも今までとは決定的に違うものがあった。

 

草も生えない大地には、見渡す限りの草原が広がっていた。大小様々な歯車は、錆びて地面に転がり、それにはとても小さな花々が咲いていた。そして空は青く、雲ひとつない快晴だった。柔らかな風は、頬を優しく撫でた。

 

そしていつもの場所に、大人のシロウが立っていた。

その髪は重力に逆らわず、オールバックではなくなっていた。何よりも、その顔は満たされたような、穏やかな表情を浮かべていた。

 

そうか。

未来のシロウは、どれ程の時間がかかったかわからないけど、ちゃんと救われたのか。

私はそれがわかって、非常に安心した。何故か知らないが、涙が流れ落ちた。

 

ふと目の前のシロウは、私に顔を向けた。

その顔は最初は驚きが浮かび、でもすぐに柔らかな微笑みを浮かべた。

その笑みを見た瞬間、夢の中なのに強い眠気に襲われた。でも嫌な眠気ではなく、むしろ心地よいものだった。

私はそのまま眠気に従い、意識を手放した。

 

ブラックアウトするとき、低く優しい声が聞こえた気がしたが、何を言っていたかまではわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

結局あのあとポンフリーに捕まり、両腕は包帯でグルグル巻きにされた。『使用禁止』と丁寧に注意書までして。

絶対にそうだ。ポンフリーは絶対に平行世界のセラだ。俺の勘が告げているし、彼女のオレへの態度と瓜二つだ。

 

どうしてオレの周りには、こうも強い女性が多いのだろうか?

一度本気でアーチャーと話し合いたいものだ。

 

 

 

まぁそれはさておき。

結局その日の夕食のとき、オレとロンとマリーは、『ホグワーツ特別功労賞』なるものを授与された。正直オレはいらなかったが。

そして学年末テストだが、事件解決が3月だったため、石化した生徒は補習を受け、例年通り実施された。まぁ今年に限っては、判断が甘いとオレはダンブルドアから知らされていたが。

 

月日はあっという間に過ぎ、また一年が経過した。

今日はマグルの世界に帰る日である。

だがオレは、今度の夏休みは忙しくなると感じていた。理由の一つに、昨日凛から連絡があったことが挙げられる。

 

 

「……ああ、こちらは問題ない」

 

『そう。まぁイリヤ達が一度行ったらしいし、あんたについては、あまり心配してなかったわ』

 

「ククッ、そうか」

 

『フフフッ。ところでそっちにいい子はいたの?』

 

「どういう意味で聞いているかは知らんが、今護衛を依頼されている子は、とてもいい子だ」

 

『そう』

 

 

本当にどういう意味で聞いてきているのやら。

っと、そうだ。聞きたいことがあったのだった。

 

 

「少し気になったことだが、そちらでは一年程度しか時間が経過していないのだろう?」

 

『ええそうね。あなたは?』

 

「こちらでは七年過ぎている。どうもズレが生じているようだ」

 

『ああやっぱり。まぁでも、最近は経験も積んでるし、今後はそういう移動におけるズレは少なくなると思うわ。だから心配しなくても大丈夫よ』

 

「そうか」

 

『ええ』

 

 

まぁそれなら安心だな。まだ凛たちが若いのに、オレだけ爺になってしまうのは少々、いやかなり嫌だ。

 

 

『ところで話は変わるけど、今度の夏休み、あなたにとっては今から過ごす夏休みね、にそっちに行くわ』

 

「一人でか?」

 

『いいえ、私と桜、そしてイリヤよ。子供たちは留守番ね』

 

「む。まぁ剣吾も紅葉もいるし、たしか城にセラとリズがいるから子供たちは大丈夫とは思うが。なんでまた? しかもその面子ということは、御三家関係の用事か?」

 

『まぁそうね、でも安心して。今回の訪問の目的は、あなたの護衛を助けるものだから。冬木でなにかが起こったわけじゃないわ』

 

「それを聞いて安心した。いつだ?」

 

『そっちの一週間後ぐらいかしら。二週間ほど滞在する予定よ』

 

「相わかった。待っている」

 

『ええ、それじゃ』

 

 

その言葉を最後に、通信は切れた。オレの護衛に役立つというが、何をするのだろうか? まぁ魔術関連だとは思うがな。

 

汽車の中では、石化していたハーマイオニーにより細やかな説明をしていた。彼女は補習を受けていたので、大して説明する時間が取れなかったのだ。

流石に『射殺す百頭』に関しては黙秘させてもらったがな。

 

汽車は順調にロンドンに到着し、オレたちはキングス・クロス駅に出た。少し懐かしく感じるマグル世界の喧騒に頬が緩む。

迎えにはウィーズリー夫妻とダーズリー一家がいた。今年はフィッグさんは来ていないらしい。

 

 

「叔母さん、叔父さん、ダドリー。ただいま」

 

「おかえりマリー、シロウも」

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま戻りました。ダドリーも、随分と逞しくなったな」

 

「まぁね」

 

 

この一年でダーズリー一家も少し変わったのだろう。バーノンの纏う雰囲気が、ほんの少しだけ柔らかくなっている。まぁ、未だにマリーは好きになれないらしいがな。

 

ウィーズリー一家に挨拶し、オレたちは外へ出た。

空は晴れ、青い空はその限りを知らずに広がっている。だがその遥か向こうに黒い雲が小さく見える。

恐らくそう遠くない未来に、大きな騒動が起こるだろう。

 

だが何が起ころうと、オレは立ち向かう。この身はただの一度の敗走はない。

オレの大切な人々を脅かすのであれば、オレは剣となって迎え撃とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be contine...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ ……見つけた。ついに見つけた!! 今度こそ殺す!! あの二人を裏切り、今ものうのうと生きているあいつを!!

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。
ちょっと中途半端な終わりかただったか。

さて、書き始めて約三ヶ月経過しました。
二巻も終わりましたね。

正直三巻は士郎を絡ませるのが難しいんですよね、真似妖怪とか吸魂鬼とか。
ディメンターなら兎も角、ボガードは他の生徒を巻き込んで、トラウマを植え付けかねませんよ。
それにシロウの守護霊、ディメンターを追い払わずに消し去りそう……

まぁ何とかしますが。


さて、次回は番外編です。


それではこの辺で





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Extra story Ⅱ +プチ設定

はい、番外編です。
付け加えて少し設定も書きます。


それではごゆるりと





 

その一:剣吾の仕事

時系列:二年目終了後の夏休み

 

 

Side 剣吾

 

 

ボロボロのビル群、瓦礫の積み重なる道、見渡す限りの死体の山。その向こうには、ゾンビのような人々が、唸り声をあげながらゆっくりと歩いてくる。

ここは死都。後天的に吸血鬼となった死徒によって、食屍鬼(グール)が多量に生み出された町。目の前の死体は、俺が倒したグールの山だ。

現在俺はエルメロイさんの依頼で、死都の制圧をしていた。……一人で。

 

 

「流石に一人はキツいだろ!! ったく相棒はまだか!?」

 

 

愚痴を溢しながらも、襲いかかるグールを次々にほふっていく。死体には火が有効ではあるんだが如何せん、こいつらを処分したあとには元凶の死徒を倒さねばならない。なので余計な魔力は使えないのだ。

 

この死徒、主を殺して成り上がったばかりの屑である。ついでに言えば、その主は俺と少し親交があった死徒だ。ある意味これは弔い合戦と言えなくもない。

 

それにしても、なんで今回に限って『教会』の面子は出払っているのだ? 普通これはあいつらの仕事だろう? まぁ結構な大金が入るからいいんだが、俺じゃない普通の魔術師、ああ母さんたちは除いてな、だったら五分で死ぬぞ?

 

そうこう考えながら戦闘を続け、既に一時間が経過している。グールがいなくなる気配はない。本当に何人いるんだよ? しかもいつのまにか囲まれてるし。

先程からおかしいと思ってたんだが、まさかこいつら倒した個体も復活してないか? そんなことがあり得るかは知らんが、もしそうだとしたら、本当に相棒がいないと不味い。

 

まぁとりあえずは前の集団を片付けるか。

そう考えて走り出したとき、目の前の集団は全て誰かに撃ち抜かれた。

 

 

「……ったく遅いぞ」

 

「すまない。使い魔を出してはいたんだが」

 

「その使い魔より早く到着していたら世話ないと思うが?」

 

「む、確かに」

 

 

そんな軽口を叩きつつ、ハンドガンの銃弾を装填する男。先の銃撃で、グールは動きを止めている。

身長よりも長い、真っ赤な外套を身に纏い、同色のバンダナを頭に巻いている。外套の下には真っ黒なライダースーツの様なものを着ており、所々をベルトで締めている。

こいつの名前はヴィルヘルム、愛称はヴィル。俺の仕事仲間であり、俺と同じ魔術使いでドイツ出身。今はルヴィアさんの所に、妹共々間借りしているらしいが。

 

 

「そういや携帯に連絡すれば態々使い魔を……ちょい待ち、お前持ってる?」

 

「……」

 

 

無言で外套を広げるヴィル。その裏にはポケットはなく、ライダースーツにもポケットは見当たらない。

 

 

「……信じられない」

 

「……」

 

 

若干悲しそうな目で、ヴィルは外套をハラリと落とす。こいつまだ持ってなかったのか? 妹さんのライラや、ルヴィアさんとこのシェリアにあれほど言われていたのに?

 

 

「……まぁいいか。この話は後にしよう」

 

「ああ、さっさと鎮圧しよう。こちらの準備は出来ている」

 

「了解。んじゃまぁ、行きますかねぇ!!」

 

 

俺は槍を、ヴィルは銃を構え、次々にグールをほふっていく。今回は槍に火を纏わせているため、切つけると同時に対象を燃やしている。復活の心配はないだろう。ヴィルの方も、銃から火炎弾を連射しているので、問題はない。

三十分ほどで、全てのグールが駆逐された。そして通りの向こうから一人の男が歩いてきた。

 

 

「いや~素晴らしい!! 実に素晴らしいよ君達!!」

 

 

男は拍手をしながら歩いてくる。真っ白なスーツは汚れひとつなく、その目は俺の赤とは違う、血のような真っ赤な色。僅かに口から鋭い犬歯が覗く。

 

 

「……剣吾、こいつがそうか」

 

「ああ。今回の元凶の死徒だよ」

 

「死徒なんて下品な言い方はやめてほしいな。私は芸術家(アーティスト)だよ」

 

「……芸術家とは、聞いて呆れる」

 

「なんでだい? どこからどう見ても私は芸術家だよ。特に今回は力作だ、素晴らしい芸術だっただろう?」

 

「……狂ってる」

 

「ああ、早く終わらせよう」

 

 

こいつは精神からぶっ壊れている。いや、こいつ自身は自分を芸術家と本気で思っているのだろう。それを否定する権利は誰にもない。

だが、こいつをこのまま野放しにしていると、いくつもの命が消え去ることになる。そんなこと、俺は許容できない。

 

 

「ん~? 私を倒す? この至高の芸術家である私を? アハハハハハ!! 無理無理、何百年経っても無理だよ!!」

 

「さて、どうだかな。ヴィル、準備はいいか?」

 

「ああ、シンクロ率は既に最低ラインを突破している。あとは起動詠唱だけだ」

 

「よし。それじゃ行こうか、相棒」

 

「ああ」

 

 

俺はヴィルの後ろに立ち、その背中に両手を当てる。そして互いにその場所に魔力を集める。これは俺とヴィルの二人が揃って始めて出来る魔術。恐らく世界中を探しても、同じことを出来る魔術師や魔法使いはいないだろう。

まさに俺とヴィルだけのオリジナルだ。

 

 

「「憑依結合(ユナイト)!!」」

 

 

新緑色の竜巻が俺達を包み込み、立ち上る。そして竜巻が晴れたときには、既に俺の体はない。その代わり、ヴィルの方に若干の変化がある。

真っ黒な長髪は右半分が銀色になり、バンダナも外套も銀色になっている。ライダースーツは左は黒のままだが、右半分は新緑色になっている。そしてヴィルの首もとからは、槍の形をしたペンダントがぶら下がっている。

 

これは俺の『憑依』の魔術を鍛えた結果、偶然にも修得したオリジナル。もし万華鏡と母さんたちの庇護がなければ、確実に封印指定ものの魔術である。

この状態のとき、ベースはヴィルの体になるので、基本的にヴィルの主導、ヴィルの魔術を中心に使う。だがこれに加えて、俺は憑依したまま俺の力を使える。

要するに、ヴィルが苦手な投影も難なく使用が可能であるし、俺の属性や編み出した技も使用可能である。おいそこ、チート言うな。

 

因みに言うと、このときでも俺は会話可能。ヴィルのペンダントを介して会話している。無論俺の声は、ヴィル以外にも聞こえている。

 

 

「フフフッ、見てくれが変わった所で意味はないさ!!」

 

『んだと!?』

 

「落ち着け。はっきり言うが、こいつは一人では何もできない人種のやつだ。一々言葉に振り回されては疲れるぞ」

 

『っとと悪い。それじゃあ』

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ』」

 

「私に罪はないさ!! 君達も私の芸術の材料にしてあげるよ!!」

 

 

そして俺たちの拳が交わった。

 

 

 

--十分後

 

 

 

「お前の言った通り、口だけのやつだったな」

 

「ああ、こうもあっさり終わるとは。厄介なのはグールだけだった」

 

 

目の前には塵の山があった。この塵はさっきまで死徒だったもの、火を纏わせたドロップキックをぶち当てたら、雄叫びをあげながら爆散した。

序でに言えば、ヴィルは生まれつき破魔の力を持っているため、こういった吸血鬼などと相性がいい。

その力が加わった火の蹴りなので、まぁ復活はしないだろう。

 

 

「で、仕事はこれで終わりか?」

 

「ああ、あとはエルメロイに報告するだけだ。私が使い魔で……」

 

「いや、いい。俺が報告するからお前は帰っていいぞ?」

 

 

こいつの使い魔だったら、絶対に俺たちの方が早く到着する。なら俺が連絡したほうが早い。エルメロイさんの携帯番号は知っているしな。

 

 

「結果は連絡する。報酬はきっちり半分こだからな」

 

「……了解した」

 

 

俺たちはそのまま別れ、俺は時計塔に、ヴィルはフィンランドのエーデルフェルト邸に帰った。

 

 

 

 

--後日、フィンランドのエーデルフェルト邸

 

 

 

「……ライラ、シェリア」

 

「ん? どしたの、お兄ちゃん?」

 

「どうしましたの?」

 

「電話屋はどこだ」

 

 

その日のエーデルフェルト邸からは、二人ぶんの少女の歓声が聞こえたという。そしてその次の日の少年は、非常にゲンナリとした表情を浮かべていたとか。

 

 

 

 

--そのときの日本、冬木の衛宮邸

 

 

「ただいま~。あれ? 母さんたちは?」

 

「にぃにおかえり~。ママたちはお出かけだよ」

 

「お兄さん、お仕事お疲れ様です。お母さんたちは、二週間ほどお父さんの所に行ってくるそうです。何でもお父さんの仕事の少し手助けをしに行くとか」

 

「ああ、成る程ね。マリーさんの護衛か」

 

「お兄様、確かこの前シルフィと一緒に行ったんでしょ? どんな世界だったの?」

 

「じゃあ飯の準備をしながら話すか」

 

 

いつも通りの平和な日常がひろがっていた。

 

 

「あ、今夜綾音姉さんがくるそうですよ? あと葵姉さんも。確かお仕事の一週間、どこに行っていたか話を聞きにくると」

 

「げぇ!? 柳洞と蒔寺が!?」

 

 

……ひろがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その二:クリスマスの一時

時系列:二年目クリスマス

 

 

Side マリー

 

 

最近色々と物騒だけど、ついにクリスマスがやってきた。

 

今年はシロウに頼み、クッキーの作り方を教えてもらい、隠れ穴に送った。去年はシロウが、私達二人からという名聞でウィーズリー家にプレゼントしていたため、今年は私がすると言ったのだ。

というわけで、モリーさんには手作りクッキーを、アーサーさんには簡単なマグルの機械を送った。

幸いペチュニア叔母さんの手伝いをしていたからか、特に失敗することなくクッキーは出来上がった。

 

アーサーさんは相当なマグルオタクで、マグル製品を集めては分解組立をやっているらしい。序でにちょこっと改造したり。

今回送った機械は、その納屋の中にはなかったものだから、きっと喜んでくれるはずだ。

 

 

クリスマスの朝、着替えて談話室に向かうと、既にロンとシロウは起きていた。そして去年と同じように、床にプレゼントの山が置かれていた。

去年と少し違うのは、今年はハーマイオニーやジニーがいることかな? そして相変わらずシロウは鍛練をしていたらしく、腰かけるソファには二本の木剣が立て掛けられていた。

 

 

「みんなおはよう、そしてメリークリスマス」

 

「ああ、おはよう」

 

「「「おはよう、マリー」」」

 

 

私達は挨拶を済ませ、プレゼントを開いた。

まずウィーズリー家からは、真新しいセーターだった。今年は赤の下地に、黄色でライオンの大きな刺繍が施されている。サイズもピッタリで、とても暖かかった。

ダーズリー一家からは今年は一つだけで、中には叔母さんの作ったお菓子が入っていた。ダドリーからは手紙が入っており、学校のボクシングクラブでうまくいっていることが書かれていた。

 

 

「お、今年はちゃんと俺達だな」

 

「お袋も今年は間違えなかったぜ」

 

「「お前()がグレッドでお前()がフォージだ!!」」

 

「またかよ!?」

 

 

双子のボケにロンがつっこみ、ハーマイオニーとジニーはクスクス笑っていた。シロウは相変わらず部屋の隅でブツブツ言っていたけど。

 

そういえばシロウは今年、セーターをもらっていなかったな。その代わり、なんか革製のショルダーホルスターの様なものを、ウィーズリー夫妻から貰っていた。形状と大きさから見るに、アゾット剣用の鞘なのだろう。シロウ早速身に付けており、どうやら気に入ったみたいだ。

 

その後私達はチェスをしたり、外で雪合戦をしたりと、休みの一日を満喫した。その日だけは、秘密の部屋の恐怖を忘れることができ、楽しい一日を過ごせた。

 

余談だけど、夕食の席に何故か八ツ橋が置いてあり、シロウが机にヘッドバンキングをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

設定

 

 

◎ ヴィルヘルム・リヴァイアス

 

魔術使い。年齢は14歳。外見イメージは、金の具足と手甲を着けていないヴィンセント・ヴァレンタイン。

 

両親は死亡。妹が一人いる。

6歳のときにとある魔術師に誘拐され、それから六年の間実験浸けにされていた。他にもサンプルにされた子供はいたが、生き残ったのはヴィルヘルムのみ。

12歳のときに、ルヴィアと剣吾、両親により救出されるが、このとき両親は魔術師に殺される。

 

元々はイレギュラーの『影』の属性のみを有していた。だが実験によって後天的に『火』『雷』『氷』を入手する。また実験の影響で金髪は黒に、碧眼は赤に変色、身体能力も人外レベルとなった。

 

また、体のリミッターを解除することにより、バサクレスと同程度の大きさの鬼に変化する。身体能力も爆発的に上がるが、体にかかる負担が大きいため、滅多に使わない。外見イメージは、CCFF7のイフリート。

起動詠唱は『枷解除、変化(トランスレート)

 

使用武器は主に銃。現在愛用しているのは銃身が三つある『トライハウンド』。それぞれ9発、計27発の銃弾を発射可能。

 

性格は冷静沈着だが、時折天然ボケが入り、加えて不器用である。デリカシーの有無はお察しください。

普段着はスーツを模した服装で、ジャケットの代わりにベストを着用、無論ネクタイもしっかりと締める。髪は戦闘時以外は後ろで括っている。

 

 

 

○ 憑依結合『ユナイト』

 

剣吾とヴィルヘルムの、二人が揃って始めて出来る魔術。剣吾が自分の肉体ごとヴィルヘルムと一時融合し、爆発的な力を得る。

剣吾単体で使用する切り札の『極致(エクストリーム)』、ヴィルヘルム単体で使用するリミッター解除の『枷解除、変化(トランスレート)』とは違い、体への負担は殆どない。

 

格闘センスなどはヴィルヘルムに依存するが、剣吾の能力も切り札と固有結界を除いて使えるようになる。おいそこ、チート言うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ ライラ・リヴァイアス

 

フリーランスの魔術師。12歳。リヴァイアス家現当主だが、さして『根源』には興味ない。今は亡き両親も、『根源』には興味がなかった。

それなりに続く家系であり、魔術刻印も継承している。が、凛やルヴィアなどとは違い、変な薬を飲んだりする必要はない。

 

4歳の頃に兄が拐われる、加えて両親は10歳のときに殺されるという経緯から、魔術師特有の命を軽んじる行為には嫌悪を隠さない、魔術師らしからぬ魔術師。

 

衛宮一家とも親交があり、特に紅葉とは仲がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ シェリア・エーデルフェルト

 

ルヴィアゼリッダ・エーデルフェルトの娘。14歳。母同様、『五大元素(アベレージワン)』を持つ。ルヴィアとは違って落ち着きはあるが、それでも年相応な面もある。

華憐同様、三人目第二魔法の使い手候補者。

 

ルヴィアと凛とは異なり、衛宮四兄妹とは仲がいい。

ヴィルヘルムは下ぼk……もとい所有物。自分好みの男にするために、日々少しずつ計画を進めている。彼の妹であるライラは既に買収済で、『シェリア義姉様』と呼ばれている。

外見は標準より身長が低いが、女性としての魅力を併せ持つトランジスタグラマー。髪型はショートヘアで茶髪。虹彩の色は青。

キャラ外見モデルはDCFF7のシェルク・ルーイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ 柳洞綾音

 

柳洞一成と美綴綾子の一人娘。14歳。

幼少の頃から衛宮一家、冬木御三家と交流があり、衛宮四兄妹とは幼馴染み。特に剣吾に対してはあまり表に出さないが、首ったけ状態、フラグ建築済。蒔寺とは色々な意味でライバル。

 

父のように堅苦しい雰囲気を持つが、恋愛観などは母を受け継ぎ、少女趣味全開。また武芸に秀でており、現在は弓道をたしなんでいる。

面倒見か良く、姉御肌気質なため、後輩からは男女問わず慕われている。外見イメージは、髪が黒くなった美綴綾子。

 

又聞きになるが、ジニーの存在を知っている。

『冬木の巴御前』と呼ばれている。

 

 

注) 原作fateにおいて、美綴綾子は柳洞一成の天敵立ち位置にいるが、本作ではくっつけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ 蒔寺葵

 

蒔寺楓の娘。14歳。

父は婿入りなため、姓は蒔寺を使っている。母親同様、和服が非常に似合う。

幼少の頃から衛宮一家、冬木御三家と交流があり、衛宮四兄妹とは幼馴染み。剣吾のフラグは建築済。柳洞綾音とは色々な意味でライバル。

 

性格外見は母親似だが髪はボブカット、性格は大人しめである。また母親が中距離走者であったのに対し、葵はスプリンター。『冬木のチーター』と呼ばれている。

 

又聞きになるが、ジニーの存在を知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、以上です。

オリキャラ達ですが、あまり本編とは絡ませません。こんな感じで番外編にちょいちょい出てくる程度です。

さて、次はfateの方を進めますが、こちらのバレンタインネタも投稿します。ただバレンタイン当日か、一足早く投稿するかはわかりません。


それでは今回はこの辺で。




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アズカバンの囚人
0. プロローグ




大変長らくお待たせしました。
今回の第三章「アズカバンの囚人」は、「孤高の牡牛~」と並行投稿いたします。


それではごゆるりと。





 

 

 世間もホグワーツも夏休みに入って2週間が経過した。八月に入り、乾いた暑さが続くイギリスのプリベット通り四番地の家では、マリー・ポッターが夏休みの宿題をしていた。

 去年までは「魔法」といった非現実的なものを敬遠していた家主のバーノン・ダーズリーもどんな心境の変化なのか、今年は一切追及したりすることはなかった。今も一人息子のダドリーと共にテレビでバラエティー番組を見ている。

 

 

「今週末から四日ほどマージが泊まりに来るぞ」

 

 

 思い出したかのように突然告げられた叔父の言葉に、思わずマリーは顔を机に打ち付けた。

 マージ叔母さん、マージョリー・ダーズリーはバーノン叔父さんの妹で、ブルドッグのブリーダーをしている。そしてマリーのことを去年までのバーノン以上に毛嫌いしている。今までも数度訪ねて来たことがあったが、その度に最低一匹はブルドッグを(けしか)けられていた。一度叔母のペチュニアに病院に連れていかれたこともある。

 

 

「……それって本当?」

 

 

 思わず叔父の正気を疑うように聞いてしまう。それほどにマリーは動揺し、マージを恐れていた。

 

 

「本当だ。ついでにまた一匹連れてくるらしい」

 

「……そうですか」

 

 

 死刑宣告ともいえる内容に、思わず突っ伏してしまう。今まではシロウがいたから何とかなったが、今年に限って一週間前から不在である。彼の下宿先のフィッグさんも骨折かなんかで入院しているとのことだ。要するに、今年は逃げ道が……あ、あるかもしれない。

 

 

「ねえ叔父さん」

 

「なんだ?」

 

「私だけ先にロンドンに行ってもいい? 旅費と宿代は自前で用意できるし、学友もそこの宿にいるそうだし」

 

「悪いがそれは無理だ。マージには既にお前がいることを伝えてしまった」

 

 

 はい、詰みました。

 

 

「その代わりになるかは知らんが、できるだけマージからはお前を遠ざけよう」

 

「……それで大丈夫なの?」

 

「ペチュニアの側に出来るだけ居させる。それで四日間我慢しろ」

 

 

 仕方がない…か。ならその四日が終わったらすぐにでも「漏れ鍋」に向かうとしよう。幸いガリオン金貨も数枚、換金したポンド硬貨と紙幣も持っているから、旅費も宿代も心配ない。

 ひとまず簡単な計画を立て、私は宿題の続きを再開した。

 それにしてもシロウ、念話拒否までして何をしているんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、世話を焼かせる。

 ダンブルドアの頼みでなければ無視していたぞ。というより、まだお前のことは信用していないからな。

 さて、長話はあとにしよう。俺が何者か、そちらの三人と俺との関係が何なのか。それはこの場から拠点に戻ってからだ。お前は魔法界だけじゃなく、一般社会からも指名手配を受けてるんだろう? ならば早く行動するに限る。

 桜、イリヤ。俺と認識阻害の結界を張ってくれ。お前は犬のまま大人しくしろ。

 凛、頼んだぞ。行先は……

 

「漏れ鍋」だ。

 

 

 





はい、大変長らくお待たせしたことに加え、こんなに短くてすみません。
大学のカリキュラムがなかなかに鬼畜でして、必須科目に留学が含まれていたり、レポート課題が多かったりと、結構多忙な一年目を過ごしております。

さて、前書きでも述べましたが、今回の第三章は「孤高の牡牛~」と並行投稿するため、元々遅い更新ペースが更に遅くなります。
申し訳ありません。

引き続き、私めの小説をよろしくお願いします。



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1. マージの大失敗

あらら。
まさかの連騰でした。自分でも驚いています。

それではみなさんごゆるりと。





 くだんの週末がやってきた。今は叔父さんがマージ叔母さんを迎えに行っている。外の天気は私の心情を表すかのような土砂降り。

 私マリーはペチュニア叔母さんと夕食の下拵えをしていた。ダドリーは新しく庭に作った超小型ジムで自主トレをして、あ、帰ってきた。

 

 

「ダドリー、叔母さんが来る前にお風呂に入ってきたら?」

 

「そうするよ。夕ご飯は?」

 

「今夜ははダドちゃんの好きなラムチョップよ。だから早くいってらっしゃい」

 

 

 叔母さんに促され、ダドリーは着替えを持って風呂場に向い、私は夕食の準備を再開した。

 

 一時間ほど経過した後、外で車が停車する音がした。ああ、来てしまったか。ついでに犬の吠える声も聞こえる。私は無意識にペチュニア叔母さんの袖をつまんだ。叔母さんは一つ私の肩に手を置くと、私を伴って玄関まで出迎えに行った。そして玄関にたどり着くか否かというとき、扉が勢いよく開かれた。開かれてしまった。

 

 

「ダドリーはどこかぇ?」

 

 

 マージ叔母さんが吠える。

 

 

「私の可愛い甥っ子ちゃんはどこだい!?」

 

 

 マージ叔母さんはスーツケースを放り投げながら、私はそのスーツケースに吹っ飛ばされ、リビングのダドリーの元へと突進していった。ダドリーにたどり着いた叔母さんはその頬にキスをし、

 

 

「ペチュニア!!」

 

 

 今度は叔母さんに突進し、その骨ばった頬にまた深々とキスした。あ、ダドリーの右手に10ポンド札が二枚握られてる(投稿時、1ポンド=161,7円)。マージ叔母さんの後から犬を連れたバーノン叔父さんが入ってきた。

 

 

「マージ、ブランデーはどうかね? 犬の食べ物はどうするかね?」

 

「この子は私と同じものを食べるさ。好きだからねぇ」

 

 

 マージ叔母さんはクスクスと笑いながら叔父さんに振り返り、そしてそこで初めて私を見た。

 

 

「おんや?」

 

 

 叔母さんは先ほどとは打って変わった、不快さを露わにした声を上げた。

 

 

「お前まだここにいたのかい!!」

 

「…はい、お世話になっております」

 

「何だいその答えは!! あたしだったらこんな礼儀知らず、すぐにでも孤児院送りだね」

 

 

 あなたに言われたくないわ。一から礼儀作法を学んだほうがいいわよ?

 そう思った私は間違ってないはず。

 

 

 

 

 

 それからの数日は酷かった。

 バーノン叔父さんとペチュニア叔母さん、ダドリーは私をマージ叔母さんから遠ざけようとしてくれたけど、マージ叔母さんは私を側に置きたがった。そして何かといちゃもんを付け、私の怒りを煽った。でも私はそれには乗らない。乗ったら最後、叔母さんの思う壺だ。

 だから私は必死に耐えた。

 ペチュニア叔母さんの見ていないところで、何度も犬を嗾けられ、靴下やストッキングの下には包帯を巻いている。化膿しないように消毒液を染み込ませ、包帯も定期的に交換し、ついに最後の四日目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はペチュニア叔母さんに頼まれ、玄関外の花の手入れをしていた。叔母さんはガーデニングを趣味にしていて、多種多様の花を育てている。何故か中には薬草の類も混じっているけど。でも前々からこれをやっていたためか、ホグワーツの薬草学でも特に苦労したことはなかった。慣れって大事だよね。

 でも平和な時間は長く続かなかった。荒い鼻息と低いうなり声が背後から聞こえた。恐る恐る振り返ると、そこには大きなブルドッグが佇んでいた。まさかと思って家の窓を見ると、それはそれは嫌な笑みを浮かべたマージ叔母さんが見えた。

 突然右足脹脛(ふくらはぎ)に痛みが走った。低く唸ったブルドッグは鋭い犬歯を突き立て、力強く私に噛みついていた。ここで大きく声を上げていれば、楽にことは済むだろう。だがそれはマージ叔母さんに好都合になってしまう。それは私の望むところではない。だから私はこの犬が離すまで我慢することを選んだ。

 

 

「まったく、この犬の飼い主はどんな神経をしているのかしら? 」

 

 

 でもその時は予想以上に早くきた。聞き覚えのある、気品のある声が前方から響いた。閉じていた眼を開けると、そこには一年ぶりに会うシロウの奥さん、イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンが立っていた。

 

 

「え? あ、あの…イリヤ…さん?」

 

「久しぶりね、マリー。迎えに来たわよ」

 

 

 迎えに来た? 彼女はそう言ったのか?

 

 

「でもちょっと待ってね。この犬の飼い主をとっちめないと」

 

 

 イリヤさんはいつの間にか私から離されていたブルドッグを抱え、これまた私の気づかぬうちに私の足を治療し、まっすぐ玄関へと向かった。私を伴ったイリヤさんは躊躇することなく玄関の扉を開けた。戸の音を聞いたペチュニア叔母さんがこちらにくる。

 

 

「マリー? 花壇の作業……は…」

 

「初めまして」

 

「へ? ど、どちらさまでしょうか?」

 

「イリヤスフィール・フォン・E(エミヤ)・アインツベルンですわ。シロウの姉です」

 

「え、あ。ど、どうも」

 

 

 いつの間に叔母さんの後ろにいた叔父さんやダドリーも、イリヤさんの高貴さに気圧されていた。でも事前にシロウからいろいろ聞いていたのだろう。すぐにイリヤさん持ち前の人当たりの良さで打ち解けた。ちゃっかり犬の飼い主まで聞いて。

 

 

「何だい、なんの騒ぎだい」

 

 

 あとからのそのそとこちらへ来るマージ叔母さん。イリヤさんにまったく気づいていない。あ、イリヤさんのこめかみに青筋が出た。正直怖い。

 

 

「あら、ごきげんよう。どなたかしら?」

 

「あん? 誰だいあんた。そんな常識の欠片もない格好して、親の顔が見てみたいよ」

 

 

いや、薄桃の膝丈スカートに白のブーツ、黒のレギンスにヴァイオレットの服を着ているイリヤさん。メチャクチャ綺麗で私も一瞬見とれたのに。

常識の欠片もないのはマージ叔母さんの方だよ。

 

 

「ペチュニアさん、彼女は?」

 

「バーノンの妹のマージです」

 

「あらそう。兄とは違って礼儀がなってないわね」

 

 

 あちゃー早速毒を吐きました。ついでにマージさんを無視する形で。

 

 

「ちょっと誰だいあんた!! 礼儀がなってないんじゃないかい!?」

 

「ペチュニアさん、今日はマリーを迎えに来ました。突然の訪問ですけど大丈夫でしょうか?」

 

「え、ええ大丈夫です。マリー、準備してらっしゃい。ダドリーは手伝ってあげて」

 

 

 叔母さんに言われ、私とダドリーは荷物の用意をしにいった。叔父さんは物置にしまっていた道具を出しに行った。

 数分後にはすべての準備が整い、玄関に向かうと異様な光景が広がっていた。

 

 イリヤさんの銀に輝く長い髪が、シュルルルという効果音が合うほど奇妙な動きをしている。真っ赤な双眼が見つめる先には顔を真っ青にさせ、壁に背を付けて床にへたり込み、ガタガタ震えているマージ叔母さん。犬もそのすぐ側でへたり込んでいる。

 

 

「あら? 準備は終わった?」

 

「はい…あの~、何をしてるんですか?」

 

「え? ただのお話しだけど?」

 

 

 嘘だっ!! ただのお話ならこうはならない!!

 絶対にO☆HA☆NA☆SHI☆彡 のほうに決まってる。アクマ(シロウ談)が降臨したに決まってる!!

 

 

「じゃあ行きましょうか? 忘れ物はない?」

 

「あ、はい。じゃあまた一年後に」

 

「いってら~」

 

 

 唯一ダドリーの返事だけを聞き、私はイリヤさんとプリベット通りの家を後にした。そのとき微かに後ろから、ペチュニア叔母さんとバーノン叔父さんが、マージ叔母さんに呼び掛けているのが聞こえた。

 

 

 




はい、ここまでです。
まさか連投できるとは自分でも思っていませんでした。
次回はどっちを更新するかわかりませんが、早めに更新しますね。

イリヤの服装・外見に関しましては、Zeroのアイリをイメージしていただければ大丈夫です。

それではまた次回。





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2. 誓いをここに

はい、更新です。
今回は少々グダグダになってしまいました。


それではごゆるりと。





 

 

 

 ダーズリーの家を出発した後、私とイリヤさんは「夜の騎士バス(ナイトバス)」に乗って漏れ鍋に向かった。道中はこの愉快な魔法のバスのおかげで退屈はしなかった。イリヤさんとも久しぶりに話せたし、楽しいバスの旅だった。

 でも楽しい時間はそこまで。漏れ鍋に着いたら、私だけ別の部屋に通された。そこには小太りで私と大して変わりない身長の中年の男性がいた。確か魔法省の大臣だったかな?

 

 

「やぁ、初めましてかな? 私はコーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ」

 

 

 いや、知ってます。しかも相変わらず偉そうな人。

 

 

「君に関してだが、今年はちょっと非常事態でね。とある脱獄犯が君を狙っているんだ」

 

 

 いやいや、単刀直入にもほどがあるでしょう。というか、今更命を狙われているといわれてももう慣れちゃったよ。

 

 

「シリウス・ブラックというんだが、気を付けてくれ。出来る限り、こちらも迅速に対応するから安心したまえ」

 

 

 そう言って私は部屋から出された。というか偉そうな態度で矛盾したこと言われても…ねぇ。

 まぁいいや。それより晩御飯がまだだから下の食堂に行こう。私はそう思って食堂に降りると、そこには久しぶりの顔ぶれがあった。

 

 

「やあマリー、久しぶり」

 

「マリー、久しぶりね」

 

「「ようマリー久しぶりだな」」

 

 

 ウィーズリー四兄弟妹がいた。隣にはハーマイオニーもいる。そして……

 

 

「一週間ぶりになるか、久しぶりと言うべきか?」

 

「ん~違うんじゃないかな? 元気そうだねシロウ、ところで…」

 

 

 シロウの後ろに立っている二人は誰だろう?

 

 

「あら? この子がイリヤの言ってた子? なるほどね」

 

「ね? 私の言っていた通りでしょ?」

 

「本当ですね。初めまして」

 

 

 イリヤさんの両隣にいる二人の女性、とっても綺麗だ。

 

 

「こんばんは。私は凛よ」

 

「桜です」

 

「あ、初めまして、マリナ・ポッターです。あなたたちは…」

 

「ん? ああ私たちはね」

 

「三人で士郎さんの妻をしています」

 

「私とサクラ、リンでね」

 

 

 ……ハッ!!

 今とんでもない爆弾を落とされなかった? 妻が三人? なんてハーレム……。

 

 

「あら初めまして、モリ―・ウィーズリーです」

 

「夫のアーサーです」

 

 

 早い!! ウィーズリー夫妻順応が早い!!

 ところで、先ほどから私の足元で尻尾を振っている黒い犬は何だろう? 誰かの飼い犬かなぁ?

 

 

「貴様、先ほどから黙っていれば。部屋で待っていろと言っていたはずだが?」

 

「ウォン!!」

 

 

 シロウの言葉に元気よく返事する黒犬。心なしか、口元が人のようににやけている気がする。なんだか人間っぽい犬だなぁ。なんかシロウも引き攣った顔をしてるし。

 

 

「貴様……いい度胸しているな」

 

「ウォホンッ!!」

 

 

 あー。この犬、明らかにシロウを挑発をしてる。

 

 そんなこんなで夕食をみんなで摂った。明日みんなで学用品を購入することで決定し、私たちはそれぞれの部屋に戻った。あ、そういえばシロウにファッジに言われたことを伝えないと。もしかしたらリンさんたちにも良い意見が聞けるかも。

 思い立ったが吉日。私は部屋を出てシロウの部屋に向かった。戸口の前に立ってノックをする。

 

 

「……誰だ」

 

「私、マリーだよ。ちょっと話があるんだけど大丈夫?」

 

「問題ない。入っていいぞ」

 

 

 シロウに許可をもらったので、部屋に入る。みると部屋にはエミヤ夫妻が勢揃いしており、床には大きく複雑な魔法陣が書かれていてってええええ!? ここ宿!! 宿だから、部屋は借り物だからね四方ぜんはんい!!

 

 

「ああこれ? これは今から使うから安心して」

 

 

 いや、安心できないからね!? って、今から使う?

 

 

「待て、その前にマリーの話を聞こう」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

 それから私は事のあらましを話した。ファッジの忠告、ブラックのこと。ただブラックのことを話したとき、床で寝ていた犬がビクッてしていたのが気になったけど。

 

 

「……というわけなんだけど」

 

「そうか」

 

「お偉いさんの言うことは、どこに行っても変わらないものね」

 

 

 リンさん、結構辛辣ですね。否定はしないけど。

 

 

「結論から言えば、ブラックに関しては心配ない」

 

「え?」

 

「いろいろと当時の魔法省の言っていたことと調べた証拠が矛盾していてな。もしかしたらブラックが冤罪にかけられているのかもしれんのだ」

 

「冤罪ね。まぁシロウがそういうなら」

 

 

 とりあえず胡散臭い大臣よりシロウの言うことの方が信用できる。彼が冤罪の可能性があるというのならそうなのだろう。

 

 

「ところで、この魔法陣は?」

 

「ああこれか。桜、説明を頼む」

 

「はい」

 

 

 シロウに呼ばれた綺麗な女性、サクラさんが一歩前に出てきた。一つ一つの動きが本当に綺麗だなぁ。イリヤさんとはまた違った優雅さがある。

 

 

「この魔法陣で今からある儀式をします。成功すれば、あなたと士郎さんは今まで以上の繋がりができるわ」

 

「一種の契約みたいなものを、士郎との間に結ぶ形になるわ。それに伴い、体のどこかに印が出ると思う」

 

 

 契約、かぁ。小説に出てくる、使い魔との契約みたいなものしますかなぁ?

 

 

「似て非なるものね。ま、とりあえずやるわよ」

 

「士郎さんはそこに、マリーちゃんはそこに立っててね」

 

「シロウには説明してるわ。あとはマリー、私の言う呪文を繰り返してね。杖で魔法を使うように、言葉に魔力を込めて」

 

「はいッ」

 

 

 うう、緊張してきた。こういう、いかにも魔術師ですっていうことしたことがないからなぁ。寝ていた犬も起きてこっちを見てるし。

 

 

「準備はいい? じゃあ、始めるわよ」

 

 

 私たちを三角に囲むようにして立ったイリヤさんたちは目をつむり、意識を集中させ始めた。すると魔法陣は淡い青の光を放ち始め、明かりの消された部屋を柔らかく照らした。

 そして私はイリヤさんの言葉に倣い、詠唱を始めた。

 

 

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

「世界」の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

 詠唱を始めると、魔法陣の光は徐々に強くなり、どこからともなく渦を巻くように風が吹き始めた。

 

 

 ――――誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

 

 ――――されど汝はその眼を混沌に染めることなかれ。

 汝弱きを護り、強きを下す者。

 汝無限の剣を担いし英雄。

 

 汝三大の言霊を纏う七天。

 我が意に従え、天秤の護り手よ。

 さすれば我が命運、汝の剣に預けよう。

 

 

 詠唱が終わる頃には光はとても強くなり、部屋には突風が吹いていた。その中、私の真正面に立つシロウは目を開け、はっきりと結びの句を紡いだ。

 

 

 ――――錬鉄の英雄の御名において、その誓いを受けよう。

 これより我は汝を護りし弓となり、汝の敵を穿つ矢となる。

 契約はここに完了した。

 

 

 シロウが言葉を紡ぎ終えると陣は一度目も眩むほど強く光り、陣を構成していた線もろとも飛散して消えた。同時に私は何かの胎動を感じ、胸元、丁度最近成長が始まったバストの谷間あたりが赤い仄かな光を放った。

 気になったので確認すると、そこには三本の剣が交わったかのような形の、入れ墨のような模様があった。

 

 

「成功したわね」

 

「マリーちゃん、その胸のは令呪と言って、三度きりの絶対命令権よ。対象は士郎さんね」

 

「は、はい……」

 

 

 正直何がなんだかわからない。

 

 

「まっ、今は色々あってパンクしそうだし、明日説明するわ」

 

「は、はい…」

 

 

 イリヤさんの心遣いは正直とてもありがたい。もう色々あって疲れた。

 

 

「明日、朝食を食べたらこの部屋にいらっしゃい。出かけるまで説明してするから」

 

「今晩はゆっくりと休んで下さい、マリーちゃん」

 

「よろしくお願いします。……みなさん、おやすみなさい」

 

 

 明日の確認を終わらせた私は、部屋に戻り、ベッドにダイブした。いやはや、本当に濃い1日だった。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。
本当にグダグダですみません。次回はディメンターデビューです。

それではまた。


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3. 汽車の中で



連投します。
それではごゆるりと。





 摩訶不思議な儀式をした翌日、私とシロウ夫妻、ハーマイオニーにウィーズリー一家はダイアゴン横町に出かけた。シロウは学用品をすでに揃えているらしいが、私たちはまだなので着いてきてもらった。ついでに言えば、ロンの杖は去年折れちゃったため、(確か決闘クラブでのシロウの魔法の余波で)シロウが新しくロンに買っていた。

 そういえばふと思ったのが、ダイアゴン横町の雰囲気が暗い。もっと言えば、そこかしこの壁にブラックの指名手配書が張られている。みな狂暴そうな雰囲気を写したものにしてるけど、どうなんだろう? 魔法省の人たちは、この人の言うことに耳を傾けたのかなぁ?

 

 

「GRRRRR…」

 

「どうしたの?」

 

「ウォン!!」

 

 

 側を歩いていた黒犬が唸り声をあげたので気になった。でも犬はただただ唸るばかりなので、私はどうもできることはない。まぁ誰かに襲いかからないだけマシかな。

 そのまま私とロン、ハーマイオニーはペットショップに向かった。なんでも最近ロンのネズミ、スキャバーズの様子がおかしいらしい。ごはんも余り食さないようだから、一度診てもらうとのことだ。

 

 

「あの、すみません。うちのネズミなんですけど、最近調子が悪いみたいで」

 

「ほう? どれくらい生きているのかね?」

 

「あー、正確には分からないですけど、十年くらい」

 

 

 え? 十年って、相当長生きじゃない?

 

 

「ふーむ、ただの老衰か。それともストレスが原因か。念のためこの『ネズミ栄養ドリンク』を渡しておきましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ロンは代金の3シックルを支払い、私たちは店を後にした。ついでに言えば、ハーマイオニーがクルックシャンクスという名前の猫を購入していた。

 猫…でいいのかなぁ? なんだか異種混合種っぽい気がするけど、まぁいいか。

 

 まぁそれから先、九月一日までの約一ヶ月は漏れ鍋で過ごし、私たちはその間宿題をしたり、横町にウィンドウショッピングをしたりして過ごした。イリヤさんたちは長期休みが終わる一週間前に元の世界に帰った。私はその前にシロウとの契約について大まかな説明を受け、あとはシロウから聞くことになった。真っ黒な犬だけど、あの子はいったんイリヤさんたちが預かり、二月ほどしたらシロウに返されるみたい。犬は一瞬シロウにニヤリと顔を向け、シロウはまた引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろとあったが、現在は列車の中。

 ハーマイオニーの猫は何故か飼い主ではなくマリーに懐き、無論ハーマイオニーを飼い主として認めているみたいだが、マリーの膝の上でお昼寝中である。そしてオレたちのコンパートメントには、恐らく新任の教師であろう人がおり、マントを被って寝ていた。『R・J・ルーピン』という名前らしい。

 オレたちはその人を起こさないように今後のことについて話をしていた。例えば今年から取る選択科目とかの。

 しかしどうも先ほどから冷える。季節は晩夏とはいえ、日本ほどではないが暑さは残る時期である。それこそ長袖に腕を通したくなるほど冷え込むことはない。

 マリーたちも様子がおかしいことに気が付き始めたとき、列車が大きく揺れて停車した。

 

 

「おかしいわ。ホグワーツに着くには早すぎる」

 

「それに変に冷え込んでるね」

 

 

 マリーとハーマイオニーが言葉を発したそのとき、列車の照明が落ちた。外は雷鳴が轟く豪雨。一体何が起こった?

 

 

「何か動いてる、窓の外にいる…」

 

 

 ロンが窓に張り付き、外を眺めている。が、俺はそれよりも凍てついていく窓ガラスが気になった。よからぬものが近づいているとしか把握できない。

 

 

「シロウ…」

 

「お前たち、その場から離れるな。息潜めていろ」

 

 

 俺は三人に忠告し、懐から黒鍵を一本取り出した。

 再度列車が大きく揺れ、冷気の塊のようなものが近づいてくる。そして数刻もしないうちに、俺たちのコンパートメントの前に一つの人影が立った。

 黒く頭が天井に着くほどの影は手を動かさずに扉を開く。途端に一際強い冷気が俺たちを襲う。そして黒い影は顔に当たる部位をぐるりと部屋を見渡す。

 

 

「あ……あああああああっあっぁぁぁああぁああっぁあぁああああぁぁああ!?!?」

 

「ッ!? マリー、どうした!!」

 

「ああああ……あああ…」

 

「!? グゥッ―――」

 

 

 突然頭におかしなビジョンが流れる。

――――目の前に積み重なる幾多もの死体(ヒト)(ヒト)(ヒト)。そこかしこから聞こえる阿鼻叫喚の救いを求める声。血のように染まる空に浮かぶ黒い太陽。

 まさかこれは……俺の最初の記憶……

 

 

――――士郎、逃げるんだ!!

 

 

 ッ!? 誰だッ!?

 

 

――――あなただけでも逃げなさい!! 早く!!

 

 

 誰かの声、俺に逃げろと催促する声だけが響く。いったいこれは何なんだ!?

 頭を振り、意識をはっきりとさせる。目の前には深く息を吸い込み、何か目に見えぬものを吸い取っている黒い影。

 

 

「くッ!! こいつが原因なら!! 貫けッ『火葬式典』!!」

 

 

 鉄甲作用を込めた黒鍵を影に投げつける。それと背後から白銀色に輝く何かが駆け抜けるのが同時だった。気づけば影はいなくなり、代わりに穴の開いた車両と気絶するマリーだけだった。

 

 

「……それで、今の魔法はあんただな?」

 

「そうだけど、私の魔法が当たる前に君のが当たったみたいだね。それに……」

 

 

 そこで先ほどまで寝ていた男、ルーピンは穴の外に目を向ける。釣られて穴の外に目を向けると、遥か下方で激しく燃え上がる黒い物体があった。

 

 

「信じがたいけど、君は吸魂鬼(ディメンター)に直接干渉できるんだね。(あまつさ)え仕留めるとは」

 

「というと?」

 

「現段階で魔法では、奴らを追い払うことしかできない。私がしようとしたのはそれだよ」

 

 

 静かにルーピンは語りながら、杖を一振りして列車の壁を修復する。同時に照明が点灯し、列車が再び動き出した。そこで初めて俺は皆の顔を見た。

 ハーマイオニーとジニーはとても怖かったのだろう。目を真っ赤にさせ、ロンにしがみついている。当のロンも青い顔をしている。気絶していたマリーも意識が戻ってきたらしい。身じろぎをし、上体を起こした。

 

 

「マリー、大丈夫か?」

 

「なんだか…とても寒い」

 

「これを羽織ってろ」

 

 

 俺はなんの変哲のない布を投影し、マリーを包んだ。その際彼女の手に触れたが、冷たく冷えていた。

 

 

 

 その後、吸魂鬼の被害を受けた後の対処としてチョコレートをルーピンからもらい、気まずい雰囲気の中到着を待った。

 二時間ほどして学校に到着した。が、

 

 

「ポッター!! エミヤ!! 至急私に着いてきなさい」

 

 

 マグゴナガルに呼ばれ、渋々医務室に行くことになった。

 

 

「まずミス・ポッター。吸魂鬼の被害にあわれたそうですね」

 

「…はい」

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい。あの場にいたものは全員、ルーピン先生からチョコレートをいただきました」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

 

 その後、マリーはポンフリーとダンブルドアからも軽い診察を受け、マグゴナガルとポンフリーと共に大広間へと向かった。で、俺はというとだ。

 

 

「ブラックについてだが、ある程度の情報が揃った」

 

「というと?」

 

「ああ。奴のことだが、冤罪の可能性が極めて高い」

 

「そうじゃったか…」

 

 

 校長室に移動した俺は、ブラックについてダンブルドアに報告した。俺の報告に顔を曇らせるダンブルドア。薄々感づいていたのだろう。

 

 

「だが、肝心のペティグリューとやらが見つかるか。またはそれに準ずる証拠を提示しなければならんだろう」

 

「ふむぅ……じゃが」

 

「―――問題があるとすれば、あの大臣だろう。奴は権力に溺れてしまっているな。十分な証拠を提示しても、わが身可愛さのために情報をもみ消し兼ねん」

 

「そうじゃな……」

 

 

 一番の強敵は、権力に溺れた政治家だな。

 

 

「とりあえず、今は妻たちと俺の世界に行ってもらってる。しばらくは吸魂鬼に見つかる心配もない」

 

「そうか。なら一先ずは安心じゃな」

 

「まぁここで話していても仕方がない。あんたも締めの挨拶とかあるだろう? そろそろ戻ったほうがいいのでは?」

 

「そうじゃな。では戻るとしようかのう。君も明日から学生として励むようにの。あと吸魂鬼は出来るだけ殺さないでおくれ。あれも不本意じゃが、魔法省の依頼でのう」

 

「奴らが何もしなければ……な」

 

「正当防衛なら仕方がないのう。……正当防衛ならのう」

 

 

 ダンブルドアは最後に意味深なことを言いながら事務所を後にした。なるほど正当防衛ならいいのだな。ならこの先奴らが何かすれば、容赦をすることはないだろう。

 

 

 

 






ここまでです。
皆さんシロウが吸魂鬼を瞬殺することを期待していたみたいですが、すみませんでした。気絶することは流石になかったですが、みんなにはないトラウマを体験していたと考えていたため、このような形にしました。
さて、次回は「真似妖怪ボガード」がデビューします。

それではまた次回。




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4. 「地獄」の再現と占い

では予告通り、ボガードデビューです。
それではごゆるりと。

それにしても、どなたか挿絵書いてくださる方いませんかね。絵がついたらもう少し色がつくと思うんですよね。ですが何分私は絵が下手でして。
詳しくは活動報告で。




 吸魂鬼騒動があった次の日から授業は始まった。俺たち三年の最初の授業は必須の「闇の魔術に対する防衛術」、予想通りルーピンが教授を受け持っていた。

 で、だ。

 去年とおなじ教室に入ると、部屋の中央にはガタガタ揺れる衣装ダンスがあった。

 

 

「やぁグリフィンドール三年生のみんな、初めまして。私はこの授業を受け持つことになったリーマス・ルーピンだ」

 

 

 顔に薄い引っ掻いたような複数の傷跡を残すルーピンの登場により、ざわついていた室内は静まった。ルーピンはそのまま衣装ダンスの前に立ち、みんなを見回すように俺たちに顔を向けた。

 

 

「みんなはこの衣装ダンスが気になっているようだね。この衣装ダンスには『真似妖怪(ボガード)』が入っている」

 

 

 ボガードとは、対象の最も恐れている存在、事象に変化する魔法生物。心の弱いものはそれによって精神を患うことになるらしいが、さてどうだろうな。

 そして今日はその撃退方法を練習するってことか。

 

 

「呪文は『馬鹿馬鹿しい(リディクラス)』だ。これによってボガードを退治できる。でも注意して、この呪文は自分の頭の中で何か面白おかしいものイメージしないといけない」

 

 

 面白おかしいものか。となるとボガードは相手の恐怖対象は詠むことが出来ても、愉悦対象は見破れぬと。

 

 

「じゃあみんな、準備はいいかい? まずはネビルからだね」

 

 

 ルーピンに呼ばれたネビルが前に出て、そのあとに続くように皆が並んだ。俺はシェーマスの後、マリーの前か。しかし、俺の怖いものは……

 一人考え事に耽っていると衣装ダンスが開き、中からセブルスが出てきた。成程、ネビルが怖いのはセブルスだったか。まぁ確かに、あいつは生徒の恐怖の対象でもあるからな。

 

 

「り、り、リディクラス!!」

 

 

 ネビルが恐る恐る唱えた呪文は効力を出し、スネイプの衣装は何とも婆臭い魔女の服装になっていた。生徒たちはそれを見て忍び笑いを漏らし、冷静なルーピンでさえも笑いを堪えられていない。

 

 

「さぁ次行って!! どんどん行こう!!」

 

 

 室内にあった蓄音機からは感じのいいジャズが流れ、指示通り次々に生徒がボガードと対峙していく。ネビルの次のロンでは巨大な蜘蛛に変化し、呪文によって足をなくした。パーバティーは巨大なコブラに変化し、呪文により巨大なビックリ箱に変化した。シェーマスでは『嘆き妖怪(バンシー)』に変化し、呪文によってその声をガラガラに嗄らした。

 そしてついに俺の順番がきた。

 しかし俺が前に立っても、一向に形が定まらない。それどころか先ほどから次々に形を変えている。

 

 

「混乱してきたぞ!! もうすぐだ!!」

 

 

 ルーピンがそう言うと同時にボガードが変化したクマがこちらに双眼を向けた。同時に部屋の中には真っ赤な炎、(ニク)の焼ける匂い、数では数えられないほどの悲鳴、天井を覆う黒く赤い雲。そして……

 

 

「聖…杯…」

 

 

 部屋の中央に立つは、泥をこぼす黒い太陽を掲げた真っ黒な聖杯。

 

 ―― 助けてくれぇ!?

 ―― いやだ、死にたくない!!

 ―― お…か…さん…

 ―― 火が…火がぁ!?

 ―― あおあぁぁああ……

 ―― 熱い…熱いよう…

 

 紛れもなく、俺の原初。ご丁寧に焼ける人間も、聖杯も、煙も瓦礫も、そして一人歩く俺も再現してやがる。

 

 

「まだ見せるか、俺にこの光景を忘れるなと。助けを求める人々を見捨てたことを忘れるなと。『座』に行っても未来永劫忘れるなと、そう言いたいのか」

 

 

 意識せず、自然と口から言葉が出てきた。

 

 

「なに…これ…」

 

「うっぷ…」

 

「いや…いやぁ…」

 

 

 早くこの状況をどうにかせねば、これは他の生徒には悪影響過ぎる。

 

 

「こっちだぁ!!」

 

 

 突如俺の前にルーピンが躍り出た。とたん、ボガードは地獄から満月へと変化した。とりあえずこの状況は脱した。何人かの生徒は気絶しているか。当然だろう、むしろ吐くにとどまっているほうがおかしい。

 マリーは……平気なのか?

 

 

「簡易のラインと契約越しに…何度か見たから」

 

「…既に見ていたのか」

 

「うん…その先も、この世界(ココ)に来るまでの経緯も…」

 

「そうか…」

 

 

 とりあえず気絶した人、体調を崩した人を医務室に運び込み、俺はルーピンに呼び出された。大方、ボガードの件だろう。

 

 

「…なんで呼び出されたかわかるね?」

 

「…ボガードの件だろう?」

 

「ああ、あれ一体なんだ?」

 

「……詳しく語る気はない」

 

「しかし、それじゃあ『だが…』…?」

 

「簡単に答えよう。あれは俺の過去、俺の最初の記憶、俺の原初だ」

 

「なん…だって…?」

 

 

 俺はそれから簡単に、俺が並行世界の住人であることや聖杯戦争、守護者や英霊などのことを除いてルーピンに説明した。最初は半信半疑だったルーピンも、次第に真剣味を帯びた表情になった。しかしまぁ、好奇心旺盛なのは判るが、扉の外で盗み聞きしているのは分かっているぞ、シェーマスにロン、ディーンにマリー、ハーマイオニーよ。

 

 

「とりあえず、今回はここまでだ。詳しいことはまた後日、ついでにある件についても話そうと思う。だが、盗み聞きされている状況ではな」

 

 

 俺は立ち上がると同時に後方の扉を開いた。そして雪崩れこむ同級生たち。唯一マリーだけは立っていたが。

 

 

「気づかないと思っていたか? どうせ最初から聞いていたのだろう?」

 

「あ、あはは…」

 

「…ごめん」

 

 

 謝られてもな、いずれは明かすことになるものだしな。

 

 

「今更だ。それより済まなかったな、あのようなものを見せて…」

 

「いや…まぁ…」

 

「……」

 

 

 とりあえず移動しよう確か次は占い学だったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室を移動すると、少し鼻がおかしくなりそうな香の匂いがささった。そして二人一つの机には紅茶が準備されていた。

 

 

「いらっしゃい、ようこそ私の授業へ」

 

 

 それにしても、この先生は好きになれないな。

 トレローニー先生はしばらく授業の説明をし、今日の講義は簡単な茶の葉占いをすることになった。しかし、紅茶の入れ方がなっていない。お湯の熱、ポットに入れるタイミング、その他もろもろが甘すぎる、ってシロウなら言いそうだ。

 そして残った茶葉の形を占う作業をペアで行うことになった。でも正直全然できない。私にはただの茶葉の塊にしか見えない。シロウも同じみたいだ。

 そうこうしているうちに、私とシロウの座っている席にトレローニー先生が近づいてきた。

 

 

「そちらのお二人はどうですか?」

 

「? まだですね」

 

「でしたら、私が見て差し上げま…は、はぁあ!?」

 

 

 シロウのカップを見た瞬間、先生は悲鳴を上げてカップを取り落とし、カップを割った。いったい何を見たのだろう。

 

 

「あ、あなた……そんな…」

 

「……」

 

「もしやあなたは……『世界』の…」

 

「そこまでだ」

 

 

 トレローニー先生の言葉を遮ったシロウ。その声には有無を言わせない力があった。その発言にはグリフィンドール生はおろか、合同授業を受けていたハッフルパフ生も沈黙していた。それほどにまで聞かれたくないことなのかな。「世界」って、いったい何のこと?

 

 

「占いは当たりもするし、外れもする。不確かであり、確かでもある分野だ。ぞんざいに扱う気は無いが、俺は信じない」

 

 

 シロウはそう告げると有無を言わさず荷物をまとめだした。そして鞄を背にかけると一言、

 

 

「授業には出る。知り合いがルーン占いをするものでな。信じてないだけで興味はある」

 

 

 そう告げて教室を後にした。その後の教室はいたたまれない空気が支配したため、私も荷物をまとめて教室を後にした。なんだか今日は午前だけでいろいろと濃いなぁ。

 

 

 




はい、ここまでです。
というわけで、士郎の無意識下の恐怖は最初の地獄でした。
ハリポタの次回は魔法生物飼育学ですね。

それではまた。次の投稿は……まだどっちにするか決めてません。ですが今週中に更新しますのでご安心を。




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5. 疑問と誇り高き生き物




更新します。
ヒッポグリフデビューですね。
それではごゆるりと。





 

 

 

 

 昼食を済ませた後の最初の授業は、マグゴナガル教授の変身術だった。

 しかし教室内の空気は重い。まぁ仕方がないかもしれない。俺の過去を見た奴らも、回復してこの教室にいるのだしな。

 

 

「いったいどうしたのです? 私の授業でこれほどまでに集中力がないのは珍しい」

 

 

 流石に違和感を感じたマグゴナガルが声をあげるが、生徒は黙りこくったままである。しかしここでラベンダーが、気絶した人の一人がマグゴナガルに答えた。

 

 

「…先生」

 

「なんです、ミス・ブラウン」

 

「午前の授業でなんですが…ボガードの授業で…」

 

「何かあったのですか?」

 

「……」

 

 

 しかしここでラベンダーの言葉は止まった。事情を知っている奴らも黙っている。

 ……そうだな。

 

 

「ボガードが、化けましてね」

 

「…いったい何にですか、エミヤ?」

 

「……私の過去に」

 

「ッ!?」

 

 

 俺の発言に教室中が凍り付いた。ちなみにいうと、あの時響いていた数多の悲鳴は言葉は分からずとも、みんな意味がすんなりと入っていたみたいだ。

 

 

「…どこの場所ですか?」

 

「…俺の始まりを」

 

「……そうですか」

 

 

 マグゴナガルはそれっきり黙り、思考に耽った。しかしハーマイオニーの質問がその思考を遮った。

 

 

「先生、一つお聞きしていいですか?」

 

「ん? ええ、何でしょう」

 

「はい実は…」

 

 

 しかし俺はこの質問が出てくるとは思っていなかった。

 

 

「えっと…『世界』ってなんですか?」

 

「世界? この星のことではないですよね?」

 

「はい…トレローニ先生が言っていたので、その意味ではないのではと…」

 

「そうですか…シビルが…」

 

 

 マグゴナガルはしばらく考え込み、一度俺に視線を投げかけてきた。確かにこれは俺に関わること、下手すれば『エミヤ』のように契約する輩も出かねん。

 俺は首を小さく横に振り、話すことに拒否を示した。しかし隣に座っていたマリーには俺の行動が見えてしまったようだ。

 彼女は静かにこちらを見たが、視線をすぐにマグゴナガルに戻した。

 

 

「…すみませんが、私から話すことはできません。どうしても知りたい人は、校長にでも伺ってください」

 

「ですが…」

 

「くどいです、ミス・グレンジャー。私からは話せません。では授業に戻りますよ、今日は……」

 

 

 マグゴナガルは話を打ち切り、強制的に授業を開始した。とりあえず『世界』から話は逸らしたか。しかしボガードの光景が俺の過去と知られた今、はてさて俺に対する反応はどう変化するのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身術の授業が終わった後、私たちは森に移動した。どうも今年はハグリッドが「魔法生物飼育学」を担当するらしい。そしてスリザリンとの合同授業。絶対に何かが起こるのが目に見えてる。

 

 

「お前さんたち揃ったか? そんじゃあ教科書を開け、ヒッポグリフの項目だ」

 

「わかった」

 

「了解」

 

 

 ハグリッドの指示に従い、「怪物的な怪物の本」という教科書を私とシロウは開いた。でもなんか周りから変な視線を感じる。気になって顔を上げると、みんな革ベルトで縛った教科書を持ったまま私たちを見ていた。

 

 

「みんな、どうしたの?」

 

「どうやってこれ開いたの?」

 

「どうやってって……なんかすり寄ってきて自分から」

 

「俺はガタガタ怯えて自分から」

 

「「「シロウェ……」」」

 

 

 うん、シロウならそうだと思った。なんかシロウに慣れてるのってハネジローだけだよね。

 ハグリッドに教科書の開き方を教わり、ヒッポグリフの項目を開いたところで前方から多数の気配が近づいてきた。顔を上げると、目の前には上半身が鷹、下半身が馬の大きな生き物がいた。一頭一頭は異なる羽毛と毛色をしており、木漏れ日にが反射してきれいに輝いていた。

 

 

「さてヒッポグリフについてだが、こいつらは気高い。絶対に侮辱してはならねぇぞ」

 

 

 ハグリッドが簡単にヒッポグリフについて説明するのを私たち、一部生徒を除いて、真面目に聞く。誰だって怪我したくないからね。

 

 

「じゃあそうだな、マリー!! 前に出てくれ、そしてバックビーク、あの灰色のヒッポグリフにお辞儀するんだ」

 

 

 ハグリッドに言われ、バックビークの前に出てお辞儀した、いや、しようとした。

 バックビークは私のお辞儀を待たずにこちらに近寄り、体を摺り寄せてきた。うん、この展開見覚えがありすぎる。

 

 

「……うん、まぁマリーならそうなるじゃろうな」

 

「ハグリッド…先生」

 

「どうした、シロウ?」

 

「俺が行ってもいいだろうか?」

 

「ん? ああ、いいぞ」

 

 

 シロウはハグリッドに許可を得てヒッポグリフたちの前に出た。対象はシロウの髪みたいに真っ白な子。バックビークとは違って目は少しだけ優しげ。

 

 

「お、そいつはメスだな。メスはオスよりも気難しいが……」

 

 

 ハグリッドの解説を背後に、シロウは黙々とヒッポグリフに近づく。やがてその距離が3メートルとなったとき、事は起こった。シロウがお辞儀をしようとしたとき、白い子は大きく鳴き声を上げた。それと同時に、周りの数頭も、バックビークも一緒に鳴き声を上げ、シロウの周りに集まった。

 そこには異様であり、神秘的な光景が広がった。

 この場にいる全てのヒッポグリフはシロウを囲み、頭を下げていた。円陣を組むように並ぶヒッポグリフの中心には、差し込む木漏れ日に照らされたシロウが立っていた。誰も声を上げない、その空気の中、シロウが歩き出すと道を開けるように円陣が崩れた。

 それでも(こうべ)を垂れ続けるヒッポグリフ達。なんだろう、ゴーストたちもヒッポグリフ達も、トレローニ―先生の言っていた『世界』という単語もシロウの過去も、どういう関係を持っているのだろう?

 

 

「これは……いったい…」

 

「どうやらこいつらは…『何だい、簡単じゃあないか!!』マルフォイ?」

 

 

 空気を壊す、気取ったような声。マルフォイがふんぞり返りながら士郎たちのもとに歩いて近づいて行った。

 

 

「やっぱハグリッド(あいつ)の言うことなんて当てにならないな。そう思うだろ? 醜い野獣君たち?」

 

 

 マルフォイがそう言った瞬間白い子の爪が鈍い輝きを放った。そしてそのきらめきがマルフォイに殺到しようとし…

 

 

Desine(止まれ)!!≫

 

 

 シロウの声が響いて全てのヒッポグリフが止まった。そして全員マルフォイを切り裂こうとする爪を収め、しかしその鋭い眼はマルフォイを見据えたまま直立していた。

 

 

「な、なんだ? いったいこいつらは?」

 

「お前がこの子らを侮辱したからだ」

 

 

 シロウはヒッポグリフ達よりも鋭い眼をして、今にも切り裂かれそうな空気を纏いながらマルフォイに近づいた。マルフォイの取り巻き達は、シロウの剣幕に怯えて近づいてこない。

 

 

「おおかた、問題を起こしてハグリッドを退職、またはダンブルドアを不利な立ち位置に立たせるつもりだったのだろうが…」

 

「な、なにを…」

 

 

 ああ~シロウ怒ってるな。夢で見たマジ切れではないようだけど、それでも相当怒っている。

 

 

「俺の目の届く限り、そのような汚い真似はさせん。親の七光りに頼るだけのボンボンは下がってろ」

 

 

 怒気をはらんだ声を浴びせられ、マルフォイは完全に凍り付いてしまっていた。自業自得だね、この先マルフォイのような生徒は改心するのだろうか? 日本の格言で「雀百まで踊り忘れず」ってのがあるけど大丈夫だよね? 期待していいよね。

 そんなこんなで午後も濃い内容になり、夜に布団に入るころには全身と全心が疲労で重たくなっていた。

 

 

 






はい、ここまでです。
ぶっちゃけやっちゃった感が私の中にありますがすみません、現在スランプ中です。
ですが必ず持ち直し、皆さんが楽しく読めるよう精進していきます。
それではまた次回。



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6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅


更新します。
それではごゆるりと。





 

 そんな濃い一年の始まりを迎えて早一ヶ月。ハロウィンが始まる前にクィディッチのシーズンが始まった。

 相変わらずウッドはその熱い性分で選手を鼓舞し、双子のウィーズリーがそれを茶化し、そしてチームがいい具合に熱くなる。これがグリフィンドール・クィディッチチームの普通である。試合メンタルが完璧となった今では、ちょっとやそっとの土砂降りではどうにもならない。

 そう。仮令雷鳴が轟き、突風が駆け抜け、槍のような雨が降ろうとも、グリフィンドールチームを止めることなどできない。私たちチームは其々の愛箒を持ち、フィールドへと向かった。

 フィールドでは雷鳴に負けない歓声が上がり、私たちと同時にハッフルパフチームが入場した。相手は全体的な強さのバランスがいい。とりわけシーカーのセドリック・ディゴリーはレベルが高く、その実力は四寮トップと噂されている。

 

 

「いいかマリー。セドリックはパワー、テクニック、全てに秀でた選手だ。正直君がいなかったらチームに入れたいと思うほどのな」

 

 

 試合前にウッドはそう語っていた。ウッドはクィディッチに関してはくどいと言いたくなるほど馬鹿正直だ。なので彼がそう言うってことはその通りなのだろう。現に今、目の前にいるセドリックは雨風に踊らされることなく、真っすぐに滞空している。対する私はその控えめな体格のせいか、風にさらわれないよう箒にしがみついている。

 

 クワッフルが投げられ、試合が始まった。

 まず私は上空高くに舞い上がりフィールド全体を一望できる位置に滞空した。風がさらに強くなるけど、箒でバランスをとって何とか耐える。その間にも試合は進み、其々三回づつシュートを決め試合は五分五分に拮抗していた。流石はウッドの認めるチーム、侮れない。

 その時、フィールドの中央地面スレスレに光るものが見えた。それは不規則に煌めき、動いている。間違いなく金のスニッチだった。

 私はその煌めきに向かい、箒を一気に加速させた。

 

 

≪おおーっと!! グリフィンドールのシーカーが動いた!! スニッチを見つけたか!!≫

 

 

 ジョーダンさんの実況がフィールドに響く。同時にセドリックも私を追随するようにマークしてきた。どうやら自分でスニッチを見つけず、私をマークする方にシフトしたらしい。経験からくる判断だろう、私はまんまと引っかかったわけだ。

 

 でも私は引かない。彼が私を利用するのなら、私がそれを上回る速さでスニッチを捕まえればいいだけのこと。私は箒をさらに加速させた。そしてセドリックを引き離す。

 スニッチも私に気が付いたみたいで、フィールド中央から離れて私たちを迂回するように上空に昇って行った。私とセドリックはすぐに方向転換し、スニッチを追った。スニッチはどんどん上昇し、私たちもそれに伴って空へと昇る。ついにはフィールドが指先ほどの大きさに見えるまで高く上った。

 

 

---------------------

 

 

 いつの間にかセドリックの姿はなくなり、私とスニッチだけになった。

 風を切る音だけが聞こえる。視界にはスニッチしか映らない。

 どれだけ飛んだのだろう。長く飛んでいるのか、それともそんなに時間がたっていないのか。まるで世界に私とスニッチしかいない感覚になる。

 

 

---------------------

 

 

 突然スニッチが方向転換し、私は空高い位置にいたままスニッチを見失ってしまった。周りは雲ばかり、自分がどこにいるのか、フィールドからどれほど離れているかがわからない。

 

 とりあえず地面に向かって飛び、視界が開ける場所に出て探そう。そう思い箒をつかみ直した時に初めて気が付いた。箒の柄が徐々に凍り付き、加えて周囲の気温も下がってきてる。顔を上げると、周りには沢山の吸魂鬼が漂い、飛行していた。

 急いでフィールドに戻るために箒の柄を下に向けたとき、一体の吸魂鬼が突進してきた。私がそれを避けると、それを合図に次々に吸魂鬼が襲い掛かってきた。凍てついた箒を必死に動かし、吸魂鬼を避けていく。しかしあまりにも数が多く、だんだんと逃げる空間がなくなってきた。

 そしてほどなくして、ついに一体の吸魂鬼に接近を許してしまった。私の背後に近づき大きく息を吸う吸魂鬼、同時に私から抜けていく何か。自分から幸福が失われていくような感覚に襲われ、次いで女性の悲鳴が聞こえた。

 

 意識が遠のく、全身から力が抜ける。そして次に私を襲うのは浮遊感。私が落下していると自覚したのは、眼下にフィールドが映り込んできた時だった。

 悲鳴が聞こえる、どんどんフィールドが大きくなる。ああ、私はこのまま死ぬのかな。これほどの高さから落下したらひとたまりもないだろう。

 他人事のようにそう思っていると、不意に浮遊感がなくなった。それどころか何か暖かいものに包まれ、とても安心感に満たされた。

 意識を手放す最後に私の視界に移ったのは、地面に向けて落下するいくつもの炎の塊だった。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 目が覚めた。最初に感じたのは柔らかいというもの、そして白い。一度瞬きをすると、視界がはっきりとしてきた。周りを見渡すと、私が寝かされているのは医務室のベッドの一つだった。そしてベッドの周りにはグリフィンドールチームとロン、ハーマイオニー、シロウがいた。ベッドにはハネジローもいた。

 ハネジローは長期休みの間、ハグリッドに預けていた。

 

 

「マリー、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。何があったの?」

 

 

 私はハネジローを膝に乗せながら聞くと、途端みんながシロウに目を向けた。当の本人は一つため息をつくと、口を開いた。

 

 

「試合は君が気絶している間に終わった。グリフィンドールの負けという形でな」

 

「そう…」

 

「吸魂鬼は人間の(プラス)の感情を餌とする。あの時の試合場は奴らにとってまたとない御馳走だらけだった。そして君が襲われ、箒から落ちてきた」

 

 

 シロウが簡潔に説明するのを聞く。彼の説明は要点だけが纏められ、結果だけが報告された。

 

 

「…そう。そんなことが」

 

「それからだが…」

 

「ん?」

 

「君の箒だが、あれは君が落下した後に暴れ柳に衝突した」

 

 

 暴れ柳? 柳ってことは植物だろうけど、『暴れ』とはいったい名だろう。

 

 

「暴れ柳は森と湖の中間近くに生えている魔法植物でな。自己防衛のために枝を腕のように振るい、その名の通り暴れだす。人ならば良くて打撲、骨折もするだろう」

 

「そんな植物があるの…」

 

 

 正直骨折をするほどの威力なら、相当な衝撃を伴うだろう。そしていくら空飛ぶ箒とはいえ、そんな植物に衝突したとなると。

 

 

「察しの通りだ。君の箒は…」

 

 

 シロウがそういうと同時に、ロンが抱えている包みが開かれた。その中には、無残にもバラバラにされた私の相棒、『ニンバス2000』の残骸があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリーは疲れもあるだろうし、今日はこのまま入院させることになった。マリー以外のメンバーは寮に戻り、俺は校長室に向かった。

 校長室の前にはマグゴナガルがおり、二人して室内に向かった。だが、校長室には既に先客がいた。

 

 

「しかし困るよアルバス。吸魂鬼は警備のために配置しているんだ、どかすことはできん」

 

「コーネリウス、君は生徒たちに我慢せよと? 此度のマリーのような事態が起こるかもしれんのじゃぞ?」

 

「それに関してはこちらから厳重に指導している。今年一年だけだ」

 

 

 どうやら魔法大臣が来ているらしい。だが関係ない。

 俺は無言のまま校長室の扉を開いた。すると室内にいた二人の視線が俺に集まった。

 

 

「おおシロウ、来てもらってすまんのぅ」

 

「アルバス? この東洋人は誰だ?」

 

 

 魔法大臣とは初対面、一応礼儀なので挨拶をしておこう。仮令この男が俺を見下しているとしてもだ。

 

 

「お初にお目にかかる、シロウ・E・エミヤという」

 

「そうか。私はコーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ。よろしく頼むよ」

 

「因みに試合場の吸魂鬼を一掃したのは彼じゃ」

 

「何だと!?」

 

 

 ダンブルドアの余計な一言により、ファッジは目を引ん剝くようにして驚いた。ダンブルドアの隣に移動していたマグゴナガルは平然としていたが。

 と、ファッジが掴みかからん勢いで俺に迫ってきた。

 

 

「なんてことをしてくれたんだ!! ブラックを捕まえるための吸魂鬼を!!」

 

「その吸魂鬼が原因で、マリーが死にかけたんだが?」

 

「だが!!」

 

 

 この男、自分が何を言っているのかわかっているのか?

 

 

「ブラックを捕まえるうえでマリーを守るといったのは誰だ? 大臣、私の記憶では貴方のはずだが」

 

「それは…そうだ。私はそう言った。だが!! ブラックを早く捕まえればいい話だろう!?」

 

「……」

 

 

 チッ、話にならん。

 俺はダンブルドアに目配せをした。彼は俺の視線に一つ頷き、息をついた。それは彼の了承を示す答え、この場は俺の一任となった。

 未だ喚き散らすファッジに顔を向ける。

 

 

「――大体だ!! 君のような東洋の小僧風情が私に意見するなど、身の程をわきまえ…」

 

「そこまでにしておけよ、権力に飲み込まれた愚か者が」

 

 

 刻印を発動させ、守護者形態になる。この世界では齢十三だが、体はそうもいかないらしい。俺の肉体は全盛期だった二十代前半まで成長している。即ち、今の俺は『守護者エミヤ』と殆ど遜色ない外見である。

 

 

「黙って聞いておけば、結局はわが身可愛さゆえの行動か?」

 

「ひ、ヒィッ!? いつの間に!?」

 

「子供らの安全よりも、自らの手柄が重要か? 挙句の果てに人種差別、この国の未来が心配だ」

 

「貴様、言わせておけば!!」

 

「そこまでです」

 

 

 棚の上の帽子から渋い声が響いた。組み分け帽子、確か俺の素性のすべてをみていたな。

 

 

「エミヤ殿、今回は引いてくだされ。ダンブルドアもそれでいいか?」

 

「構わん」

 

「わかった。済まなかったな」

 

 

 事情を把握している帽子が言うなら仕方あるまい。俺は一礼し、服装を戻して校長室をあとにした。

 

 

「と、最後に一つ忠告だ。

人は誰しも世界を滅ぼす要因となる危険性を秘めている。大臣、貴方の判断が人類を脅かすことになるならば、世界は貴方に目をつけるだろう。

精々阿頼耶識の気に触らないよう気をつけることだ。でなければ守護者によって、貴方の存在が抹消されることになるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウが出て行ったあと、いくらか溜飲が下がったコーネリウスに顔を向ける。

 

 

「大臣、一旦冷静になることを勧めます」

 

「それに、彼が本気になればわしですら一瞬で殺されるじゃろうな」

 

「アルバスが? 悪い冗談はやめてくれ」

 

「いや、冗談ではない。彼は恐らく、今の魔法族とマグルを含めて最強じゃろう」

 

「それこそ戯言だ!! そんなことがあってたまるか!!」

 

 

 昔はこのような男ではなかったのじゃがのぅ。

 

 

「コーネリウス、目に映るものが全てというわけではないのじゃぞ? 人一人が出来ることなどたかが知れとる、仮令(シロウ)であってもな」

 

「…ふん、私には生意気な小僧にしか見えんな」

 

「コーネリウス」

 

「あんたがそう言うなら、今度試してやる。私の選んだ先鋭たちの相手をしてもらう。拒否権はない」

 

 

 ファッジはそういうと足音荒く部屋から出て行った。悲しきかな、人は己の身に余る力を手に入れると歪んでしまう。シロウのような者は極めて珍しい。

 否、彼もまたその力ゆえに、何かしらの代償があったのだろう。

 いつの世も、力に振り回される者はいるのじゃな。

 

 

 




はい、ここまでです。
なんだかグダグダですみません。ハリポタ、次回は守護霊呪文の練習、忍びの地図入手に入ります。
恐らく次は「孤高の牡牛」を更新すると思います。
ではこのへんで。

感想お待ちしております。




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7. 守護霊魔法



すみません、忍びの地図まで入りませんでした。
それではごゆるりと。





 

 

 

 あの日の試合以来、マルフォイ一団がよくからかうようになってきた。わざとフードを目深にかぶり、ローブの袖を伸ばして吸魂鬼のような恰好をしたり、私が気絶するさまを再現したりと、調子のいいことばかりする。

 そして最近は嫌な夢をよく見る。どこまでも冷たい空間に私は浮かび、幸福と言う者がどんどん失われていく感覚が私を襲い、夢の最後には必ず吸魂鬼が出てきて、そしてそこで目が覚める。シロウの過去とはまた別の恐ろしさに襲われ、体は休めても精神的に休まる気配が全くない。

 私はこの状況が、トラウマから来ていることは何となく把握していた。たぶんだけど吸魂鬼に対抗する手段をもてたら、トラウマを克服する一歩が踏み出せるんじゃないかと思う。そういえば聞いた話によると、新学期の列車の中で吸魂鬼を追い払う魔法を、ルーピン先生が使ったらしい。ということは、もしかしたらルーピン先生なら何かしら手助けしてくれるかもしれない。

 そう思った私は早速事務所に赴いた。

 事務所に着き、礼儀のため三度入口の扉をノックをした。

 

 

「先生、ルーピン先生。マリーですけど、今大丈夫ですか?」

 

「マリーかい? ああ大丈夫だよ、今開ける」

 

 

 中から先生のくたびれたような声が聞こえ、程無くして扉は開かれた。そして中からは声と同じようにくたびれた表情を浮かべた先生が出てきた。

 

 

「すみません、突然お邪魔して」

 

「いや、大丈夫だよ。立ち話もなんだからお入り」

 

「はい、失礼します」

 

 

 先生に招かれ、部屋の中に入る。部屋に入ってすぐ右手のキャビネット棚がガタガタ揺れだした。たぶんボガードがいるんだろうな。

 私は先生に指し示された椅子に腰かけた。

 

 

「聞いたよ、クィディッチの試合中に吸魂鬼に襲われたんだってね」

 

「はい。それ以来よく吸魂鬼に襲われる夢を見てしまうんです」

 

「そうか」

 

「正直、外に出るたびに吸魂鬼に襲われるのでは、という思いがしてなりません」

 

「……」

 

 

 先生は私の話を黙って聞いている。恐らく、私が何のためにここに来たかも察しているだろう。だから私はそのまま話を続けようとした。

 しかしここで扉が開かれた。そして二人の人が入ってきた。一人はゴブレットを片手に持ったスネイプ先生。もう一人はシロウだった。

 

 

「ルーピン、今週分を持ってきた。む、先客がいたか?」

 

「いや、大丈夫だ。いつもありがとう」

 

「早く飲みたまえ。エミヤはどうする?」

 

「丁度私も用事があった。恐らく、彼女と同じ理由だろう」

 

「そうか。構わんか、ルーピン?」

 

「大丈夫だよ」

 

 

 スネイプ先生はゴブレットをデスクに置くと、足早に部屋から出て行った。同時にルーピン先生はゴブレットを手に取り、一気にその中身を飲み干した。その表情からして、あまり薬の味は良くないらしい。

 

 

「さて、本題に入ろうか」

 

「あ、はい。先生、もしよろしければ吸魂鬼の撃退法を教えてほしいのですが」

 

「理由を聞いてもいいかい?」

 

 

 ルーピン先生は真っすぐと私を見つめ、問いかけてきた。なので私もその目を見つめ返し、自分の本心を話した。

 十分ほど話したか。休みなく、要点を的確に話していたため、のどが渇いてしまった。と、横合いから私と先生に紅茶の入ったカップが渡された。こんなことするのはシロウ以外想像できないので、私は躊躇なくカップの中を飲んだ。

 

 

「…ふぅ、ありがとうエミヤ君。さてマリー、君の頼みだけど私でよければ指導しよう」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、それにエミヤ君も同じ相談内容だろう? 理由は違うと思うけど」

 

「ですね。今更ですけど私の撃退法は言葉通り、吸魂鬼を消滅させるものです。こちらでは異端故、こちらの正攻法を覚えておきたいのです」

 

 

 異端ってあの時ぼんやりと見えた炎の雨のことかな。もしかしたらあの十字架のような剣を使ったのかも。

 

 

「教えるのはいいよ。でもこの魔法はとても高難易度の魔法だ、生半可なきもちじゃあ習得できないことを念頭に置いてほしい」

 

「はい」

 

「よろしい、じゃあ早速今から始めようか」

 

 

 先生はそう言うと杖を一振りし、ボガードの入っている棚ごと壁に寄せて片づけた。そして椅子も下げ、私とシロウの前に立った。

 

 

「いいかい? 今の魔法界では吸魂鬼を撃退こそすれ、倒す方法はエミヤ君以外持ち合わせていない。これから教えるのはその撃退魔法だ」

 

 

 ルーピン先生は静かに言葉を紡ぐ。

 

 

「呪文はこう、『エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)』。そしてこの魔法の発動に重要なのが、自分にとっての一番の幸福を思い浮かべること。でないといくら呪文を唱えても魔法は使えない。じゃあ二人とも目を閉じて」

 

 

 ルーピン先生の指示に従い、私たちはめを閉じる。思い浮かべるのは私自身が幸せだと思えるもの。最初に思い浮かんだのは家族。私がいて、父がいて、母がいて。あり得たかもしれない、二度とかなわない光景を思い浮かべた。

 嗚呼、この光景が現実であれば、どんなに幸せなのだろう。

 

 

「思い浮かべたようだね。それじゃあゆっくり目を開けて」

 

 

 言われたように目をあけ、そして杖を取り出す。

 

 

「じゃあ二人とも、頭で思い浮かべたことを忘れないようにして、そして呪文を唱えて」

 

「『エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)』」

 

「『守護霊召喚(エクスペクト・パトローナム)』」

 

 

 二人同時に呪文を唱える。すると私の杖先から幾筋もの靄が出た。シロウのアゾット剣からは、いくつもの剣が形成され、シロウの周りに滞空している。が、その形はハッキリとはしていなかった。

 

 

「……まさか不完全とはいえ、一発で発現させるとは」

 

 

 ルーピン先生はものすごく驚いた顔をしている。でもシロウの剣ならともかく。私の(もや)では数秒動きを鈍らせる程度だろう。

 

 

「先生、もう一度いいですか?」

 

「いいよ。ただし、あと一度だけだ。今日始めたばかりだしね」

 

 

 私は先生のその言葉に頷き再度目を閉じた。

 頭に思い浮かべるのはあったかもしれない過去ではなく、これからあるだろう未来を想像することにした。

 私にとっての幸福とは、ごくごく普通の家庭を築くこと。それ以外は想像できない。

 私は母になっていた。息子と娘、夫、その親類たちに囲まれている情景。夫の顔は――――

 

 

「思い浮かべたかい? それじゃあゆっくり目を開けて、呪文を唱えて」

 

 

 先生に言われたことに従い、杖を取り出す。

 

 

守護霊召喚(エクスペクト・パトローナム)!!」

 

 

 呪文を唱えると同時に、杖先からまばゆい光が放たれた。そして大きな影が杖先から飛び出し、事務室の床に着地し、立ち上がった。

 

 ――その影は人型だった。

 

 ――その人影は今のシロウと同じような体躯だった。

 

 ――その人影はどこか見たことのある双剣を携えていた。

 

 ――その人影はどこか見たことのある外套を身に纏っていた。

 

 しばらく人影は佇んでいたけど、やがて(かすみ)となって消えた。

 

 

「まさか成功させるとは…でも動物じゃなく人型守護霊なんて聞いたことがない。加えてエミヤ君はそもそも生物じゃなかった。これは…」

 

 

 先生が何か言っているけど、正直いまので結構疲れてしまった。私は近くの椅子に座り、大きく息を吐いた。

 

 

「マリー、大丈夫か?」

 

「うん、平気。でもちょっと疲れちゃった」

 

「ああ。今は休んでおけ」

 

 

 シロウに促され、私は襲ってくる眠気に身を委ねた。今なら悪夢を見ることなく眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの少女。

 一度こちらに迷い込んできたが、その時から繋がりが少々強くなった。まぁあの小僧と親密にしているのも理由の一つだろうがな。

 あの子を初めて見たとき、その目はとても澄んだ緑色をしており、一本通った筋を感じられた。あの子なら、凛や桜、イリヤが認めるのも頷ける。才能もあり、しかしその心は人間として間違っていない。オレの一分身の記録に出てくる、月の聖杯戦争の勝者に才能があるような感じだな。

 そして彼女らの世界の守護霊魔法。ここから小僧を通して見ていたが、まさかオレを出すとはな。いやはや、まさか無意識化で「守護する者」にエミヤシロウを選ぶとは、どこか面白く感じる。

 

 

「シロウ、ここにいたのですか」

 

「ん? ああ、少し小僧を通してな。あいつのいる世界を見ていた。なかなかどうして、俺たちの世界とは違って平和だよ」

 

「そうですか。彼がどのような道を歩むのか、楽しみですね」

 

 

 たまにここに来るアルトリアも交え、今見ていたことを話す。正規の英霊になってからというもの、守護者のような仕事には片手の指ほどしか駆り出されていない。以前に比べ、随分と平和な時を過ごしている。癪だが、あの小僧のおかげだろう。

 

 

「それにしても…」

 

「どうした?」

 

「魔法大臣とやらのシロウに対しての態度、可能ならばこの剣で教育し直したい!!」

 

「いや、それ使ったらイギリス滅ぶからな? 小僧も気にしていないだろうし、落ち着くんだ。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を下してくれ」

 

 

 

 




はい、ここまでです。
なんかグダグダですみません。次回は恐らく先にデレマスを更新します。

それでは今回はこのへんで。



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8. 忍びの地図



更新です。
それではごゆるりと。





 

 

 

「…久しぶりだな、小僧」

 

「また顔を合わすとは、想像もしてなかった」

 

「それはこちらの台詞だ」

 

「前置きはこのくらいでいいだろう、要件はなんだ? お前がわざわざ俺に関わってくるなんて余程のことだろう」

 

「察しがいいな、なら本題に入ろう。気をつけろ」

 

「どういうことだ?」

 

「そのままだ。アルトリアが言っていたが、何やら不穏な動きがそちらで起こっている」

 

「…それは今年の話か?」

 

「いや、彼女によれば、向こう3年は大きな動きはないらしい。だが本来そちらの世界では途絶えたはずの魔術師の系譜が、そちらの“闇の帝王”とやらと何やら企んでいるみたいだ」

 

「ヴォルデモートとか。流石に場所まではわからないだろうが、事前に準備できるだけ有難いものだな」

 

「彼女に感謝しておけ」

 

「ああ、本当に助かる」

 

「…こうして干渉できるのも今回限りだ」

 

彼の大英雄(ヘラクレス)も同じことを言っていたな」

 

「少なくとも、あの聖杯戦争で招ばれた者たちは、確実に一度は干渉できる。お前が解体する際、少し泥を浴びてしまったからな」

 

「爺さんのようにならないだけマシか」

 

「それに関してはお前の中にいるやつに聞け。いずれ一つの存在としてお前から出てくるが、人格は我らの影響を受けている。周りへの被害は殆ど考えなくていいだろう、お前以外へのな」

 

「まぁ、なんとかするさ。じゃあな、今度顔を合わせるのは座であることを願うだけだ」

 

「ぬかせ、小僧め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 11月も中旬になり、雨に混じってチラチラと降っていた雪も今では積もるほどになっていた。

 そんな時期のとある週末、三年生以上の生徒はホグワーツ近郊に栄える村、ホグズミードに遊びに行けることになっていた。しかしこれには保護者の許可が必要になっており、私はいろいろあったために叔父さん達から許可を貰い忘れていた。よって私は留守番となってしまい、ホグズミード行は来年までのお預けとなっている。

 救いとなるかどうかはわからないけど、シロウも留守番となっているため、寂しさは少し和らいでいる。なんでも士郎は頼りが届く前に漏れ鍋に移っていたため、許可の貰いようが無かったらしい。でもシロウの実力なら、わざわざフィッグさんに許可貰わなくても大丈夫な気がする。

 

 まぁそんな感じで、現在私は散歩がてら外で妖精魔法と変身術の練習をしている。反復練習は大事だよ? ハネジローはバックビークのところに遊びに行っているし、シロウは大事な用事でルーピン先生のところにいるし、だから現在私は一人、のはずだったんだけど。

 

 

「…何してるの、フレッド、ジョージ?」

 

「なぁに、ちょいと君にプレゼントをね」

 

「糞爆弾じゃあないでしょうね?」

 

「安心しな、あれは有料だ」

 

 

 お金払えば買えてしまうのか。いや、私は買わないわよ?

 

 

「ならどうしたの?」

 

「ここじゃなんだから着いてきてくれ」

 

「これは誰かに見られるわけには、特に教師陣とシロウに見られちゃダメだ」

 

 

 双子に催促され、私たちは瘤のついた魔女の像の裏に移動した。三人で影に入るとフレッドが杖を、ジョージが古く大きな羊皮紙を幾重にも折りたたんだ物を取り出した。

 

 

「それなに?」

 

「俺たちの秘策さ」

 

「“忍びの地図”って言うんだ」

 

「『我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり』」

 

 

 フレッドが羊皮紙を杖先で叩くと、そこを中心として黒いシミが羊皮紙に広がった。シミはやがて流麗な曲線を描き始め、最終的には大きな地図となった。

 

 

「これって…」

 

「察しの通り、ホグワーツの地図だ」

 

「しかも誰がどこにいるかまでわかる」

 

「俺たちはこれに何度も世話になった」

 

 

 聞けば彼らが一年の頃、フィルチさんに捕まった際に掻っ払ったそうな。大胆なことをするものね、この二人は。

 

 

「俺たちはもう覚えたからな」

 

「もう必要ないから、君にこれを進呈しようと思う」

 

「これはホグズミードに通じている抜け道も記載されている」

 

「でも暴れ柳のルートは使わないほうがいい」

 

「一番はこの像の瘤から通じる道だな」

 

 

 双子は交互に口を開き、まるで捲したてるように説明をする。

 

 

「あと使った後は必ず地図をしまってくれ」

 

「『いたずら完了』」

 

「これで元の羊皮紙の束に戻るから、忘れずに使う都度やってくれ」

 

「「じゃないと誰かに見られちまう」」

 

 

 双子がそう締めくくると同時に地図はみるみる折り畳まれ、元の羊皮紙の束に戻った。成る程、彼らはこれを使ってフィルチさんから逃げていたのか。

 

 

「じゃっそういうことで」

 

「楽しんでくれ」

 

 

 そういうと二人は足早に去っていった。手元の束に目を移す。本当は使ってはいけないのだろう。でも使いたい感情もたしかにある。それに、先ほどの様子をみるかぎり、リドルの日記のような危険性はないようだ。

 私は今回試しに使い、それからシロウに相談することに決めた。そうと決まれば早速行動だ。

 私は寮に透明マントを取りに行き、また像の裏に戻ってきた。そして誰もいないことを確認し、地図に表示された呪文を唱え、魔女の瘤に生じた亀裂から通路に入った。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 通路を数十分ほど歩いた先、ようやく見えた出口から出ると、そこは何かの建物の倉庫裏だった。急ぎ透明マントを被り、建物の表へと出ると、どうやら“三本の箒”というパブの裏から出たらしいことがわかった。ついでに言えば、入り口から中に入る複数の教師陣兼魔法大臣兼何故か混じるシロウを見かけたため、私はマントを被ったままその集団について行った。

 集団は奥の部屋に案内され、各々注文した飲み物を一口煽るとマグゴナガル先生を始めとして話し始めた。若干一名、シロウに敵意を込めた視線を送っているけど。

 

 

「それにしても、今年でもう12年ですか」

 

「あの二人が亡くなってそんなに月日が経ってしまったのですね」

 

 

 恐らく、私の両親が殺されたことの話だろう。

 

 

「今も忘れちゃいねぇ。マリーを守るようにして死んでいたあの二人の姿を」

 

「本当に惨たらしいことだ」

 

 

 ハグリッドは涙ぐんだような声を出し、フリットウィック先生はその甲高い声には合わない重みを含んだ言葉を発した。10年経った今でも、私の両親の死は悲しまれているのか。

 

 

「確かブラックの裏切りで居場所が暴露したと、そしてあいつはマリーも狙っているという」

 

「大臣、少し待っていただきたい」

 

「何だね?」

 

 

 大臣が発した言葉に、マグゴナガル先生が待ったをかけた。一体なんだろう? ブラックに関しては冤罪という話が濃いらしいけど。

 

 

「ブラックについてですけど、私とセブルスで独自に調査しました。少しでもポッターを守るためにと」

 

「ほう、それで?」

 

「おかしなことがわかったのです。当時の状況と調査結果に矛盾が生じた。ブラックが冤罪である可能性が浮上してきたのです」

 

「バカな⁉︎ それはありえない‼︎」

 

「ですが現に生じているのです。これを」

 

 

 そう言ってスネイプ先生は羊皮紙の束を取り出し、大臣に手渡した。流石の大臣も目を通さないわけにもいかなかったらしく、嫌々ながら読み始めた。始めは胡散臭げだったその顔は、やがて驚愕に染められた。

 

 

「バカな…信じられん」

 

「ですが事実です。目を背けないでください」

 

「だがこれが事実だったとして、私にどうしろと?」

 

「まだ公表しなくていいです。証拠が足りない今では、彼が冤罪であるか有罪であるかはわかりません」

 

「今は頭の隅に置いておいてください」

 

 

 話は終わったらしく、皆はまた各々の飲み物を飲み始めた。どうでもいいけどシロウ、あなたなんでここに混じってるの?

 

 

「そういえば、大臣は何故エミヤ君を呼んだのです?」

 

 

 ビールらしきものを飲んでいたルーピン先生が、ファッジに質問した。

 

 

「ああ、ダンブルドアが自分よりも彼が強いというのでな。試すことにしたのだ」

 

「…本当に迷惑な話だ」

 

 

 明らかにシロウを見下したような発言をするファッジと、非常にげんなりとした表情のシロウ。二人の温度差は激しかった。

 

 

「「「「「大臣、やめておきなさい」」」」」

 

 

 しかしそれに一斉に反論、いや制止をかける教師陣。その表情はシロウではなく、大臣を心配していることが見て取れた。

 

 

「大丈夫だよ、彼は学生だ。無茶なことはしない」

 

「……」

 

(((((いや、大臣が恥かくだけだから。やっぱバカだろこの人)))))

 

 

 何だろう。教師陣の考えていることが手に取るようにわかってしまう。

 全員が勘定を済ませると、後から入ってきた大臣の選んだ先鋭らしき人たち七人を伴って村の郊外に移動した。何故かその中にいたガマガエルのような女性を見て、私は薄ら寒いものを感じた。

 郊外へときた一行は適度に広がり、先鋭たちは既に真っ赤な外套を纏うシロウを囲むように並んでいた。

 

 

「…大臣。本気でやっていいのだな?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

「…どうなっても知らんぞ」

 

(((((はい、先鋭たち終わった。キングズリー以外は終わった)))))

 

 

 うん、大臣も先鋭たちもバカだね。ただ、キングズリーって呼ばれた人だけは違うみたいだけど。あの人はどうやら力量の差を把握しているのか、戦うそぶりを見せていない。

 

 

「準備はいいね? では始め‼︎」

 

「『麻痺せよ(ステュービファイ)』‼︎」

 

 

 開始と同時に放たれた6筋の赤い閃光。それらは狙い違わずシロウに殺到して……直前で霧散した。

 

 

「バカな⁉︎」

 

「クソッ‼︎」

 

 

 さらに何度も攻撃の魔法を飛ばしたけど、シロウには一つも当たらなかった。背後から飛ばされた閃光ものを同様に霧散し、一切の効果を出してなかった。

 

 

「……終わりか? なら今度は()の番だ」

 

 

 シロウから言葉が紡がれた次の瞬間、瞬き一度の間に七人中キングズリー以外全員地に倒れ伏し、気絶していた。そしてシロウは悠然とキングズリーの前に佇んでいた。

 

 

「あなたはどうする?」

 

「止めておくよ。私じゃ到底かなわないから」

 

「そうか」

 

 

 キングズリーが降伏を宣言した時、魔法大臣の負けが決定した。ファッジは信じられないとでも言うように口をポカンと開き、両膝をついていた。

 

 

「……だから止めたのだ」

 

 

 ボソリと呟いたスネイプ先生の言葉が印象的だった。

 

 

 




はい、ここまでです。
ガマガエルさんをフライングで出演させました。まぁあまり原作の流れに支障はないのでご安心を。
次回もハリポタを更新します。

それではこの辺で、感想お待ちしております。


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9. その後とプレゼント


今回少し長いかもです。
それではごゆるりと。




 

 

 決闘騒動の後、気絶させられた魔法使いたちは起こされた後、ガマガエル女を除いて全員が負けを認めた。道具を使ったのは明白だったけど、シロウ本人も認めていた、魔法が一切効かないことに加えて普通じゃない身体能力。降参の意を示すには十分だった。

 理由は至極簡単、仮令魔法を防いだ外套を使っていなくても、瞬き一つの間に六人を昏倒させ、息一つ上がらぬ身体能力の前では、杖を構える時間すら隙になってしまうためである。杖さえ構えられないのなら、流石のダンブルドアも敵わないだろうと。

 

 しかしここでガマガエル女、アンブリッジとかいう大臣のお気に入りが異を唱えた。シロウのやっていることはインチキであり、実力ではないと。麻痺の呪文は聞かなかったが、”許されざる呪文”や閃光が飛ばない魔法なら効果があるはずだと(のたま)った。

 

 

「しかし、ドローレス。一度負けたところでいちゃもんを付けては…」

 

「私が証明いたします!! 『縛れ(インカーセラス)』!!」

 

「ッ!? ドローレス!?」

 

「卑怯な!!」

 

 

 突如アンブリッジの杖先から放たれた一本のロープは、意思を持っているかのようにシロウに巻き付いて強く縛り上げた。しばらくシロウはモゾモゾ動いていたけど、そのまま雪の中に仰向けに倒れこんだ。

 たぶんあれは態と背中から倒れた。顔が全然焦ってなかったし。

 でもそれに気づいていない皆は、それぞれ反応を示して……訂正。スネイプ先生とマグゴナガル先生は気づいてる。でもマグゴナガル先生はアンブリッジの所業に怒りを示していた。マグゴナガル先生だけじゃない、教師陣はみな一様に怒りの意を露わにしていた。

 

 

「フフフフ。いくらお前でも、この状況では何もできないでしょう?」

 

「……」

 

 

「ェヘン、ェヘン」と変な咳払いをした後に、気持ちの悪いほどの甘ったるい猫撫で声で語るアンブリッジ。どうやら自分の優位だと隠していたらしく口元には虫唾の走る笑みを浮かべている。それを無表情(かつ)無言で見つめるシロウ。

 

 

「覚悟なさい。極東の子猿風情が大臣の顔に泥を塗ったことを、たっぷりと後悔させてあげる」

 

「……」

 

「何ですかその生意気な目は。『苦しめ(クルーシオ)』!!」

 

「グッ!!」

 

「ドローレス!! 流石にそれはいかん!!」

 

 

 アンブリッジが呪文を使ったとたん、周りが大騒ぎしだした。

 どうやら使ってはいけない魔法を使ったらしく、周りはアンブリッジを止めようと動く準備をする。けどやはり権力の犬だからか、大臣の命令がないと動けないらしい。そして肝心のファッジはオロオロして何の役にも立たない。

 

 

「ハァハァ。どうかしら、”磔の呪文”の味は?」

 

「……」

 

「フフフ。痛すぎて言葉も出ないようね」

 

 

 満足そうな笑みを浮かべたアンブリッジは、ファッジのほうへと体ごと顔を向けた。それにしても磔って、拷問をしたことと同じでしょう。

 

 

「どうです大臣。私の仮説は正しかったですよ!!」

 

 

 心底うれしそうな声を発するアンブリッジ。恐らくその目は、彼女の意識は全てファッジに向けられていた。だから気が付かない、彼女の後ろでゆらりと立ち上がるシロウに。

 

 

「やはりこの子猿のさっきやったことはインチキです!! その証拠が……」

 

「こうしてピンピンしている俺か?」

 

「へっ?」

 

 

 間抜けな声を出したアンブリッジが振り返った先には、いつの間にか着替えたのか、以前見た真っ黒なボロマントと黒い軽鎧を身に付けたシロウがいた。髪は先ほどまでとは違い、全て掻き揚げられていた。

 

 

「え、あ…な、なんで…」

 

「まさか、さっきの磔の呪文とやらは危険な魔法、とでもいうつもりか?」

 

「そんな……確かに磔の呪文を…」

 

「あの程度の拷問で満足しているようだが、俺には効かない」

 

『ッ!?』

 

 

 シロウの発言に皆言葉をなくす。

 恐らく磔の呪文というのは、発明されても決して使ってはいけない、その名の通り”許されざる呪文”なのだろう。拷問という言葉通り、痛みを伴う呪いを魔法で行う。それが効かないというシロウは、彼らにとってど映っているのだろう?

 

 

「もう貴様には用はない。せめてもの慈悲だ、眠れ」

 

「なnッ!? グゥ…」

 

 

 瞬きの間に、アンブリッジのドテッ腹に突き刺さるシロウの拳。そして力なく地に伏すアンブリッジ。殺されなかっただけマシ、ということかな。

 

 

「さて大臣。この女のことだが、そちらに任せよう。公正な判断をお願いする」

 

 

 そう言い放ったシロウは服装を制服に戻し、その場から去っていった。私もその後の嫌な空気に耐えられず、早々に抜け道に戻っていった。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 そんなことがあったのが一か月前。結局シロウはお咎めなしで、あの日は何食わぬ顔で帰ってきた。でも本来違法な魔法を使った女もお咎めなしだったようで、シロウはともかく、マグゴナガル先生は若干不機嫌だった。

 そのまま大きな出来事もなく、私はクィディッチの試合を学校の箒で出場しながら学業をこなし、ついに三度目のクリスマスを迎えることになった。

 

 休暇中だったけどいつも通り、朝の七時に起床してタオルと水を用意し、厚着をして外に出る。そのまま外の広間にでると、やはりシロウが鍛錬をしていた。朝も早く、また学校周囲に吸魂鬼が配置されているため、ここ二年よりもさらに生徒数が少ない。そのためか、シロウはいつもの木刀ではなく、白黒の双剣で鍛錬をしていた。

 三十分ぐらい一心に剣を振っていたか、最後に一度大きく左右に切り払うと、シロウは一つ息を吐いた。

 

 

「お疲れさま、シロウ。はい」

 

「む? ああ、ありがとう」

 

 

 タオルと水筒を受け取ったシロウは、全身から蒸気を発しながら汗を拭いていく。ふと彼の足元に目を向けると、彼の周りだけ雪が解けていた。

 

 

「今日も結構やってたみたいね」

 

「ん? ああ、今日は二時間やっているな」

 

「そう。たぶんお風呂場空いていると思うし、ご飯の前に入ってきたら?」

 

「そうしよう」

 

 

 タオルと空の水筒を受け取り、寮に戻って食堂に行く準備をする。タオルは洗濯に出し、水筒は自分で洗う。丁度全部作業が終わったころに、シロウとウィーズリー5兄妹、ハーマイオニーも準備を済ませてきたので、総勢八人という結構な人数で食堂へと向かった。

 毎年同様閑散とした食堂には、教師も含めて三十人程しかおらず、机の上の御馳走も量が少なめだった。でも相変わらず御馳走はとても美味しく、魔法のクラッカーのプレゼントも魔法界ならではの面白いものが多数あった。何故か”騙し杖”が混じっていたけど。

 で、朝食も済ませて寮に戻ると、早速みんなはプレゼントの開封に専念し始めた。私は自室に戻り、みんな用のプレゼントを用意する。今年は学校のキッチンを借り、クッキーとケーキを作ってきた。ダーズリー家とウィーズリー家、そしてエミヤ家には保存のきくお菓子を作った。

 階下に降りると、シロウ以外のみんなはプレゼントを開封し終え、皆お揃いのウィーズリー家特性セーターを着用していた。

 

 

「ごめんね、遅くなって。はい、メリークリスマス」

 

「問題ないさ、メリークリスマス」

 

 

 クリスマスの挨拶を済ませ、プレゼントを渡してから私も開封に移る。最初はシロウからで、中には流麗な剣を象った簪? ヘアピン? で、早速髪を結って付けてみた。そのヘアピンからは微かにシロウの魔力が感じられ、とても暖かい感覚に包まれた。

 次に目についたのは、何やら長くて大きな包み。大きさは私と同じぐらいで、触った感触が箒のようだった。包みをはがし、開封すると、そこには一本の箒があった。柄の部分には、”Fire Bolt(炎の雷)”と金文字で刻印されていた。

 

 現時点で最速最高と言われている箒、”ファイアボルト”が誰かから送られてきた。

 

 

 

 





はい、ここまでです。
次回はデレマスを更新しますが、活動記録にてアンケートを獲ろうと思います。
ではこの辺で。


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10. 帰還者と襲来者



大学に行く前に半分まで執筆して、パソコンをスリープにしてから家を出て(スリープになっていることを確認して)、大学から帰ってきたら勝手にシャットダウンされている状況。
おかげで小説のデータも、課題レポートのデータも消える始末。この怒りをどこに向ければ。



それはそれとして、更新します。





 

 

 

 差出人のわからない新品の箒。しかもそのスペックは現時点で速度、機動性、繊細さが最高である”ファイアボルト”。包みから転がり、床に落ちたそれを見て、箒にそんな詳しくないハーマイオニーでさえも目を丸くしていた。

 

 

「それ…本物?」

 

「うん。そうだと思う」

 

「でも誰から…?」

 

 

 誰から送られてきたのか。それが非常に気になり、包装に使われていた紙を隅々まで調べた。でも手紙などはやはり同封されておらず、結局見つかったのは、大きな包装紙いっぱいに広がる変な印だけだった。

 その印は三本の剣が三つ巴を描くように組み合わさり、そして中央にある一本の剣を囲んでいた。何よりも剣の形に目を引かれた。

 

 一つは剣というより斧といったほうがしっくりくるもので、剣の腹の部分には雪があしらわれていた。

 二本目の剣はまるで釘のような形をしており、その腹には花があしらわれていた。

 そして最後の三本目の剣、それは他の二本とは意匠が異なり、刀身が塗りつぶされておらず、宝石を思わせるような亀裂が入ったものだった。まるでゼルレッチさんの短剣のように。

 宝石に雪に花、いったいこれが指し示すものは……

 

 ふと頭の隅に三人の人物が浮かんでくる。

 一人は凛としてクールな雰囲気を纏った、赤が非常によく似合う女性。

 もう一人は優美という言葉を体現したような女性であり、桜の花が非常に良く似合いそうである。

 最後は聖女という表現が非常にしっくりくるものであり、雪のように混じり気のない純粋な白を身に持つ女性。

 

 

「…ねぇシロウ」

 

「何だ?」

 

 

 唯一混乱する私たちに参加していなかったシロウのもとに行き、包装紙の印を見せる。

 

 

「この印、シロウに…エミヤ家に何か関係ある?」

 

「先に聞くが、そう思ったわけは?」

 

 

 シロウに質問を返されたため、先ほど私が考えたことをそのまま伝えた。説明していくうちにシロウの表情は徐々に変わり、最終的には満足したような顔をしていた。

 

 

「成程な」

 

「それで、答えは正解なの」

 

「ああそうだ。それは遠坂、間桐、アインツベルンが自分の家紋とは別に、衛宮と合わせた四家共通の家紋として使っているものだ」

 

「というとこれは…」

 

「そうだ。その箒は俺たちエミヤ家からのプレゼントだ」

 

 

 やはりというべきか、予想した通りだった。ただそうなると、少し後ろめたい気持ちがある。普通のプレゼントに加え、私は皆よりも一つ多くもらっている。さらに言えば、現時点では相当高価な箒である。

 

 

「いいのかなぁ。私だけ特別扱いみたいで嫌だな」

 

「心配しなくても、皆の分もちゃんと預かっている。箒と同等のものをな」

 

「え?」

 

 

 シロウに指示された先を見ると、なるほど。確かにみんなアクセサリーとは別の物品を持っており、その全ての包装紙にエミヤの紋章が描かれていた。

 ロンとハーマイオニー、パーシーとジニーには学校指定のローブを模した対魔法用ローブ。そしてフレッドとジョージには何か分厚い本を手渡していた。

 

 

「そういえばハーマイオニー。クルックシャンクスはどこ?」

 

 

 膝でお昼寝するハネジローを撫でながら、ハーマイオニーに尋ねる。基本ハネジローと同じで自由行動させているらしいけど、入学してからと言うもの、ほとんど見かけたことがない。

 

 

「あの子は今狩りに行ってるはずよ」

 

「頼むからスキャバーズに近づけないでくれよ? 女生徒ならともかく、動物は雌雄関係なく男子寮に入れるんだから」

 

「その辺はちゃんと言い聞かせてるわ」

 

 

 どうもハーマイオニーはちゃんと躾けてるらしい。まぁあの子は多分ハネジローと同等の知能は持ってるだろう。それに野生の感が加われば、まさに最強の猫といえる。

 ふとシロウに視線を向けると、何やら虚空を見つめてボーッとしていた。でも彼から魔力が感じられるため、恐らく何か自分だけでやっているのだろう。

 

 

「シロウ、どうしたの?」

 

 

 目の焦点が合ったところで、彼に話しかけた。

 ちなみにロンとハーマイオニーは未だにクルックシャンクスとスキャバーズに関する話をしており、双子は書物を読んでは羊皮紙に何やら熱心に書き込んでいる。そしてジニーとパーシーはチェスに勤しんでいる。

 

 

「ん? ああ、少しな。知り合いと話していた」

 

「そう」

 

「ちょっと出てくる。夕餉時までには帰る」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 シロウはものの数分で準備で終わらせ、寮を出て行った。シロウの恰好、学校のローブや私服じゃなく、黒の上下に真っ黒なロングコート、黒い手袋をはめ、首には真っ赤なロングマフラーを巻いていた。

 何だろう、シロウの顔がどうも険しくなっていたような気がする。何も悪いことが起こっていなければいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 談話室で遊ぶ談笑するマリーたちを眺めていたとき、唐突に念話が入ってきた。加えて相手はハッチャケ爺さんことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。応じないわけにはいかない。

 

 

≪師匠、如何しました?≫

 

≪シロウ、問題が起こった≫

 

≪何かまずいことが≫

 

≪うむ、例のブラックという小僧を凛がそちらに送ったのだがな。どうも奴にトラブルが生じたらしい≫

 

≪トラブルというと?≫

 

 

 嫌な予感がする。

 

 

≪うむ。こちらの愚か者の魔術師が一人、隠れて紛れていたらしく、気が付いた時には既に移動を終えていたらしい≫

 

≪で、ブラックが捕まったと。師匠達はむやみに手を出せないから、俺で処理してほしい、というわけですね?≫

 

≪そういうことだ。頼めるか?≫

 

≪無論≫

 

 

 今回ばかりは仕方がない。凛特有の”うっかり”でもないし、ましてや今ブラックは杖を持っていない。

 幸い奴がこの世界に来てから、奴に付けたマーキングでどこにいるかは判っている。あとはダンブルドアから許可が出ればいいが。

 

 

「シロウ、どうしたの?」

 

「ああ、少し知り合いと話していてな」

 

「そう」

 

「少し出てくる、夕餉時までには帰る」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 着替えを手早く済ませ、真っすぐ校長室へと向かう。途中でスネイプに会ったため、合言葉を教えてもらった。

 

 

『牡丹餅』

 

「どうぞお通りください」

 

 

 合言葉で像をどかし、部屋に入る。ダンブルドアは俺が来ることを察していたらしく、既にデスク前に座っていた。

 

 

「どうしたのじゃ? 今は休暇中じゃろう?」

 

「ブラックがこちらの事情に巻き込まれた。これからその処理に向かたいが、いいだろうか」

 

「止めても行くのじゃろう? 付近までわしが送ろう。帰りは君の使い魔で知らせてくれぬか?」

 

「了解した」

 

 

 校長の許可も出たことだし、早速向かうとしよう。遠見の要領でダンブルドアにイメージを送る。大体を察したらしく、彼は杖を構え、こちらに近づく。

 

 

「わしの腕をつかんでくれ。”姿くらまし”をする」

 

「空間転移か。十年ほど前にも同じことをしたが、どうもあの感覚は好きになれん」

 

「慣れれば便利じゃぞ?」

 

 

 そう言いつつ、ダンブルドアは杖をかかげてその場で一回転する。途端に俺を襲う、細いパイプを通るような圧迫感。そして視界に次々と映っては消えていく風景。そしてそれらが落ち着いたとき、俺とダンブルドアはロンドン郊外にいた。

 

 

「あれは…確か」

 

「ストーンヘンジじゃのう」

 

「ふむ…あそこから魔力の胎動を感じるな。龍脈は破格のものが通ってるし、即興の儀式をするには十分だ」

 

「ではシロウよ。またあとでな」

 

「ああ」

 

 

 再び”パチンッ”という音を発しながら、ダンブルドアは姿くらましをした。

 さて、行くか。

 

 しばらく歩くとストーンヘッジから仄かな明かりが漏れているのが確認できたため、一つの岩の陰に隠れる。

 

 

「…私をどうするつもりだ」

 

「君が魔力を持っていることは確認済みだよ。あの憎たらしい遠坂が言っていたしね、君が魔法とやらを使えるって」

 

「こうして台座の上に縛り付けて、生贄にでもするつもりか?」

 

「御名答!! この世界では協会に怯えることもないからね、堂々と他人を巻き込んで私の実験ができるのさ!! これで私も根源に近づくことが出来る。ようやく私も本物の魔法使いになれる!!」

 

「訳のわからないことを」

 

「そのための前段階だ。降霊呪術の生贄として、君を使わせてもらうよ」

 

 

 …なるほど。真っ当な魔術師だな、こいつは。それに、この声、聴いたことがある。

 

 

「光栄に思うといい!! 君はこの私、ビーフス・トロガノフ様の役に立てるのだからな!!」

 

 

 思い出した。確か逃げ足だけが早い小物だった。一度高校を卒業したばかりの時に奴の捕獲を依頼されたが、まだ俺が未熟だったがために、あと一歩のところで逃がしてしまい、行方知れずだった。

 まさかブラックに紛れ、ここまで来るとはな。

 

 

「さて、そろそろ時間だからはじめようか」

 

 

 どうやら儀式を始めるらしく、トロガノフは香を焚き始めた。さて、俺も行動を始めよう。

 岩陰からこっそりと出て、奴の死角へと移動する。寝かされているブラックは俺に気づいたが、特に反応しないところを見ると、俺のしようとしていることを理解しているらしい。

 トロガノフは魔法陣を地面に刻んでいる。こういった陣は一部分でも欠損が出れば効力がなくなる。今奴はこちらを見ていない。

 というわけで、だ。

 

 

「――投影、開始」

 

 

 右手に現れるはコルキスの王女の人生を体現せし短剣。その名を”破壊すべき全ての符(ルール・ブレイカー)”、あらゆる魔術効果を打ち消す、対魔術宝具の贋作である。

 俺はそれを魔法陣に突き立て、次にこの世界の魔法で見えないように術を施す。そして俺は再び岩陰に隠れ、遺跡を囲むように罠を張り終えたとき、奴の準備が終わった。

 

 

「これで良し。さて、早速始めよう!!」

 

 

 相変わらずの大げさな身振りで発言し、台座へと歩み寄る。そして詠唱をはじめ、陣に魔力を流し込む。だが布石は打ってある。

 流れた魔力は短剣に達した瞬間霧散し、効力を失った。

 

 

「む? なんだ?」

 

「貴様のやり方が不完全だったんだろう」

 

「うるさい!! 私が間違えることはない!!」

 

 

 そして奴は台座の周りをくるくる歩き回り始めた。何やらぶつぶつ言っているが、恐らく答え合わせでもしているのだろう。

 俺はもう一度岩陰から出ていき、奴に近づいた。そして切嗣(オヤジ)の礼装だったコンテンダーを懐から取り出す。これはダンブルドアにも黙っていたことだが、俺は目標を確実に仕留める際には、銃を使うことは少なくない。

 この銃の弾には切嗣と同じ、俺の起源を織り込んだ”起源弾”を使用している。俺の場合、目標に打ち込まれたら魔術回路に俺の魔力が流れ込み、最終的には内側から剣が何本も生えてくると言うもの。切嗣よりも非道なものだが、相手を確実に仕留めるには適しており、今まで何度か使ってきた。

 っと、どうやら奴は儀式を再開させるらしい。再び台座のそばに立ち、詠唱を始めたため、俺は奴に照準を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不覚にも移動直後にとらえられ、情けなくも拘束されて生贄にされようとしている。隠れていたシロウが陣に小細工をしていたために問題はないが、いったいどうこの状況を打破するつもりなのか。

 考え事をしていると、再びビーフ……ビーフカリー・ライス? が戻ってきて詠唱を始めた。しかしまた魔力が霧散し、儀式は失敗する。

 

 

「何でだ!? 私の理論は間違っていないはず、だが何故失敗する!!」

 

 

 何故何故と繰り返す、自称完璧な魔術師。そしてその後ろから忍び寄るシロウ。その右手には、銃だと? あれもあちらの世界でいう魔術礼装なのだろうか。

 

 

「くそっくそっ!! 私は完璧なはずだ、間違いなd『それが外的要因からだったら?』なに? ッ!? お、お前は、まさか!?」

 

「久しぶりだな。まさか貴様が生きていて且こちらに来るとは」

 

 

 シロウ、もしかしてこいつは知り合いなのか? そしてその頭に標準を合わせている銃、随分と大きいのは気のせいか?

 

 

「な、何故貴様がここに!? 殺されたという話ではなかったのか!?」

 

「答える義理はないな。二十年越しの任務、ここで果たさせてもらう」

 

「ちぃ!? 食らえ!!」

 

 

 男は地面に何かボールのようなものを投げた。途端視界に広がる白。爆音がないことから、魔術による閃光だろう。私も真正面から見てしまったため、視界がつぶれて何も見えない。

 

 

「猪口才な、そんなものが効くとでも?」

 

 

 シロウの声と共に聞こえる金属音。そして続いて聞こえた銃声と悲鳴、金属が擦れあう音と聞くのも嫌になる肉が裂ける音。視界が回復したため、音が聞こえたそちらに視線を向ける。

 目に入ったのは煙を上げる銃口、無表情で正面を見つめるシロウ。そして全身を剣で串刺しにされた、人だったものだった。






ふえぇ…メインキャラたちの魔改造が進んでるよぅ…
はい、今回はオリジナル回でした。
オリジナルキャラであるビーフスさんですが、この話だけのかませ犬です。今後はアーチャーさんの警告に出た魔術師以外は出さないので、ご容赦ください。

正直に言います、ハリポタ三巻の内容忘れました。現在他の人の作品を読み、大体の内容を思い出している最中です。
さて、次回はスネイプ先生による防衛術授業と、原作から時期の遅れたブラック襲撃事件です。

それではこの辺で。



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11. VS レイブンクロ―

前回シロウが校長室に向かうときの校内。


「おい、あれって…」

「エミヤ君…だよね?」

「あの格好は何だ?」

「まるでマグルの本に出てくる兵隊だ」

「それに今のシロウ君…少し怖い…」

(…なんでみんな俺を見てヒソヒソ話してるんだ?)


自覚のない衛宮士郎君でした。





 結局あの後、シロウは出かけてから一時間足らずで戻ってきた。

 帰ってきたとき煙のような、それでいて酸っぱいような匂いがシロウからしていたけど、ほかの人は気づいていないみたいだったから私は黙っていた。多分懐の盛り上がりが関係しているのかも。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 そして休暇が終わる一週間前、休み明けすぐに行われるレイブンクロ―との試合のために、グリフィンドールチームは集まって練習することになった。

 しかしやはり私のファイアボルトを一目見たいのか、観客席に沢山の野次馬が押し寄せたため、フーチ先生に頼んで人払いを頼むことになってしまった。

 で、いざ練習を始めようと思うと、今度はフーチ先生がファイアボルトに夢中になっていた。

 

 

「このバランスの良さは素晴らしい!! ニンバス系も素晴らしいですが、あちらは尾の先端にわずかな傾斜があり、数年もするとそれが原因でスピードが落ちるでしょう。シャープな握り柄といい、生産中止になった”銀の矢(シルバーアロー)”を思い出しますね。なんで生産中止になったのでしょう…」

 

 

 延々と蘊蓄(うんちく)を垂れるフーチ先生にしびれを切らしたウッドが待ったをかけ、フィールドに入ってから三十分、ようやく練習を始めることが出来た。

 

 ファイアボルトに跨り、地面を蹴る。

 素晴らしいの一言だ。軽く触れるだけで、私の思いのままに箒が動いてくれる。柄を掴んで操作するのではなく、私が考えた動きを箒が実行している、と言ったほうが適切だろう。急加速も急ブレーキも、私が念ずるだけで行われる。

 

 

「マリー、スニッチを放すぞ!!」

 

 

 ウッドの呼びかけに応じ、箒を一旦停止させる。チームの方針で、スニッチを放して一分後に探すことになっている。しかし今回、今まで探してから捕まえるまで十分ほどかかっていた時間が、なんと2分足らずまで縮まった。

 この結果にチームは満足だったみたいで、それからは何度もスニッチを獲る練習をした。

 

 

「今度の試合は敵なしだ!!」

 

 

 中でもウッドの喜びようは半端ではなく、今にも踊りだしそうな雰囲気だった。

 

 

「ところでマリー、吸魂鬼対策はできているのか?」

 

「うん、一応」

 

「それは良かった」

 

「でももう現れないんじゃないか?」

 

 

 ウッドの心配にフレッドが問いかける。

 

 

「流石に今度出てきたら、ダンブルドアが黙っちゃいないと思うぜ?」

 

「それに今度現れたらシロウが容赦しねぇだろうよ」

 

「「というかキレたシロウのほうが怖いぜ」」

 

「それはそうだが…」

 

 

 双子の言葉に渋い顔をするウッド。

 

 

「二人とも、ウッドは心配しているんだよ。吸魂鬼が出たらみんなに影響があるから」

 

「それもそうだな」

 

 

 双子は私の言葉に頷き、箒を方にかけた。

 

 

「さぁ、今日はもう暗い。帰って休もう」

 

 

 ウッドの一声でみんなは箒を手に取り、着替え部屋に向かった。箒の調子も大丈夫みたいだし、今日は何を食べてもおいしく感じそう。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 冬季休暇が明けて最初の週末。今日はレイブンクロ―との試合である。控室にいても試合場の熱気が伝わってくる。

 

 

「いいかマリー。レイブンクロ―のシーカーはチョウ・チャン、これがかなりの選手だ。箒は”コメット260”とファイアボルトとは天と地の差だが、油断しないほうがいい」

 

 

 セドリックの時と同じく、真剣な顔で忠告してくるウッド。やはりそれほどに強い選手なのだろう。

 チョウ先輩とは何度か話したことがある。一つ上の彼女はとても人当たりのいい先輩で、何度か勉強を見てもらったことがある。レイブンクロ―が象徴する聡明さも兼ね備えており、シロウには及ばないものの、その知識量は非常に多い。

 今回彼女が相手となるということは、彼女の頭脳に勝つことが要求されるだろう。さて、どうなるのだろう。

 

 フィールドに入り、全員配置に着いたところでホイッスルが鳴った。

 

 

『全員飛び立ちました。今回の目玉は、なんといってもマリーの駈るファイアボルトでしょう。ファイアボルトには様々な機能が組み込まれており、一例として自動ブレーキが…』

 

『ジョーダン? 試合の解説をしてくれませんか?』

 

『了解です、マグゴナガル先生。さて、クワッフルは現在グリフィンドールチェイサーの手にあります。彼女は――』

 

 

 ジョーダンさんの実況の通り、クワッフルは今アリシアさんが持ってる。そして今、キーパーの防御を潜り抜け、シュートを決めた。グリフィンドール観客席から歓声が響くと同時に、何人かの選手もその場でターンをして喜びを示した。

 その時、スニッチが地面スレスレを飛んでいるのを見つけた。まだチョウ先輩は気づいていない。

 私は箒を傾け、一息に加速して急降下する。ついでに後方を確認すると、先輩が追ってきていた。なるほど、私をマークするのか。なら私は振り切るのみ。

 

 再び一気に加速し、先輩を引き離して一気に加速する。

 しかしもう少しでスニッチを掴めるというところで妨害された。レイブンクロ―のビーターが打ったブラッジャーが私の目の前を通り過ぎ、進路変更をせざるを得なかった。ついでにスニッチも見失い、再び上空に舞い戻ることになる。

 肝心の先輩は未だ私にピッタリとつき、自分で探すよりもマークした私を基準に行動することにしたようだ。

 

 それから試合は動き、八〇対四〇でグリフィンドールが勝ち越している。しかしここで先輩にスニッチをとられれば、グリフィンドールは負けてしまうだろう。先輩もずっと私をマークしている。

 

 

「何を躊躇している、マリー!! 心を鬼にするんだ、箒から突き落とす勢いでやれ!!」

 

 

 ウッドの吼える声が聞こえる。しかし流石に突き落とすことはできないため、フェイントをかけることにした。

 実際にスニッチは見つけてないが私は急降下を開始した。続いて先輩もトップスピードで追いかけてくる。向こうもスピードが乗ってきたときに私は箒を傾け、一気に急上昇させた。急な方向転換に着いてこれなかったらしく、彼女は驚いた表情を浮かべながら箒にブレーキを掛けていた。

 再び彼女が上がってくるまでにスニッチを探す。そして見つけた。スニッチはレイブンクロ―のゴールポスト足元を飛んでいた。

 一息に加速し、スニッチ目がけて一直線に向かう。下方にいた先輩も私の動きに気づき、箒を走らせた。しかし彼女よりも早く、私がスニッチに近づいていく。

 

 

「あっ」

 

 

 その時先輩が一点を指さし、叫んだ。つられて私も視線を向ける。

 そこには三人の背の高い黒い姿が頭巾を被り、こちらを眺めていた。一瞬吸魂鬼と錯覚したけど、奴らが出てきた時とは違い、気温が凍るほど下がっていない。ということは、あの三人は誰かの質の悪すぎる悪戯だろう。

 

 

「『守護霊召喚(エクスペクト・パトローナム)』!!」

 

 

 念には念をいれて、一応守護霊を詠んでおいて私はスニッチに突進した。そして一分もかかることなくスニッチをその手に掴んだ。

 ホイッスルが鳴り響き、グリフィンドールの勝利が告げられる。

 気が付けば私はグリフィンドールチームと寮生にもみくちゃにされていた。

 

 

「いぇーい!!」

 

「てぇしたもんだ!!」

 

 

 ロンとハグリッドが賛辞の言葉を送ってくる。

 

 

「相変わらず素晴らしい守護霊(パトローナス)だったよ」

 

 

 病気(本人談)から回復したルーピン先生が若干嬉しそうに、しかし困惑したような表情を浮かべながら近づいてきた。

 

 

「先生、あれは本当に吸魂鬼だったのですか?」

 

 

 試合から気になったことを聞く。私の問いかけにルーピン先生は苦笑いを浮かべた。

 

 

「その答えはついて来ればわかるよ」

 

 

 先生の言葉に従い、フィールドの端に連れてこられる。そこには真っ赤な布で簀巻きにされたマルフォイ、クラッブ、ゴイル、マーカス・フリントが宙づりにされていた。なるほど、彼らがやっていたのか。

 

 

「悪質で下劣な卑しい行為です!!」

 

「君はマルフォイ君達を随分と怖がらせたみたいだ」

 

 

 マグゴナガル先生の怒声をバックに、ルーピン先生から解説を受ける。

 どうもマルフォイたちは私が吸魂鬼に苦手意識を持っているということで、試合中に妨害しようとしたらしい。彼らの中では、パニクッた私がプレイ続行不可能になることが計画されていたのだろう。

 しかしながらそうはいかなかった。私の杖からは白銀に輝く男が飛び出し、どこからともなく刺突剣(エストック)が複数飛び、マルフォイたちを縫い付けたそう。更には四枚の真っ赤な布が飛び込み、自動で彼らに巻き付いたという。

 

 ああー。その刺突剣といい、この真っ赤な布、たしか”マグダラの聖骸布”といい、絶対シロウだね。聖骸布はマダム・ポンフリーが何やら歌を紡ぎながら管理しているから、暫くはマルフォイ達が解放されはしないだろう。

 

 

「そんじゃっ、帰ったらパーティーしようぜ!!」

 

「祝勝会だ!!」

 

 

 フレッドとジョージの言葉を皮切りに、グリフィンドール生は寮へと浮かれた空気を伴いながら帰って行った。

 それにしても、シロウは試合中も試合後もどこに行ったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後、体は問題ないか? 

 

――問題ないのならいい。

 

――お前の力が必要だ。

 

――証拠の最重要キーの捜索をその子といっしょにしてもらう。

 

――なに、監獄に比べたら恵まれているだろう?

 

――もう少しの辛抱だ。

 

 

 

 




はい、ここまでです。
来週は大学の必須科目で離島研修に行かねばならないので、来週の更新はありません。
その代わり、明日か明後日に番外編か続きを更新しようと思います。

それではこのへんで。
感想お待ちしております。




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12. シビル・トレローニ―の予言



では予告通り更新します。
原作とは更に異なる流れです。





 

 

 

 クィディッチの勝利の余韻も束の間、その他の寮のから私たちは三ヶ月後の試験に向けての授業にアップアップする日々に突入した。先生方は授業のスピードを上げており、正直他のことに目がいかない状況である。

 クィディッチ優勝に王手をかけたグリフィンドールと、同様に王手をかけているスリザリンの試合は試験後に予定され、私は学業に加えてクィディッチの練習が加わり、中々のハードスケジュールになっている。

 そして今年何回目ともわからない占い学の授業、内容は水晶玉占いになっている。二人一つの割合で水晶玉が配られ、私とシロウは何も見えない水晶玉を眺めながら眠気と戦う。

 

 

「水晶占いはとても高度な技術です」

 

 

 トレローニ―先生は語る。

 

 

「残念ながら皆さまがいきなり何か見ることが出来るとは思っておりません。ですから今は精神と『外なる眼』をリラックスさせ、超意識と『内なる眼』顕れ易くしましょう」

 

 

 その声と共にみんなは作業にかかった。

 正直阿呆らしいと思う。未来なんてそう簡単に見通せるものなら、私の両親は亡くなることはなかっただろう。占いなんてはっきりしないものなど、信じるだけ無駄というのが私の持論である。

 

 

「玉の内なる影の解釈に困っている方、私の手伝いが必要な方はいらっしゃいますか?」

 

「別に助けなんていらないと思うわ」

 

「どういうことだ?」

 

 

 私の言葉にシロウが怪訝そうな顔をする。

 

 

「だってこの水晶の(もや)をみてよ。今夜は霧が濃いでしょうって言いたいんじゃない?」

 

「…ククッ」

 

「まぁ、なんですの?」

 

 

 思わず漏らしただろうシロウの忍び笑いに耳ざとく反応する先生。彼女を慕っているパーバティとラベンダーはヒソヒソ話したのち、私たちを睨んできた。いや~あれはもう崇拝の域に入ってるんじゃないのかなぁ。

 

 

「ではよろしければ私が見ましょうか?」

 

 

 頼んでもないのに私たちの水晶玉近づく先生。そして無表情に水晶玉を覗き込む先生。ああどうせ今回も誰かが死ぬ予言をするのかな。それかまたシロウの琴線に触れることを言うのだろう。

 

 

「……」

 

「…?」

 

 

 いつもと違い、ずっと黙りこくる先生。流石におかしいと思い、シロウと一緒に先生の顔を覗き込んだ。

 

 

「…トレローニ―先生?」

 

「――事は近づいている」

 

「……え?」

 

「なに?」

 

 

 突如いつもの眠くなるような声ではなく、低くしゃがれた声を発した先生。流石に驚き、クラス全体が静寂に包まれる。

 

 

「――闇の帝王は友もなく、孤独に打ち捨てられ横たわっている。その召使は十二年もの間縛られていた。近く、彼の召使はその鎖を断ち、黒き淀みを用いて主のもとに馳せ参ずるだろう。闇の帝王は召使いの手を取り、再び立ち上がるであろう。

 召使によって使われた黒き淀みは世界に広がり、魔法界マグル界問わずに闇に包み込むだろう。それを祓えるのは世界を渡りし錬鉄剣製の英雄、『阿頼耶(アラヤ)』よりその役を任されし男のみ。

 今夜…召使が…闇の帝王のもとに…馳せ参ずるであろう…」

 

 

 先生はガクガクと震えたのち、糸が切れたかのように力なく地面に倒れ伏した。しかし誰も動かない。語られた内容と先生の変貌ぶりがあまりにも凄まじく、反応が遅れていた。

 いち早く復活したのはシロウ、次いで私とロンとハーマイオニーが復活し、事の対処に当たった。というかシロウの事情を知っている人だけが復活した。

 私とハーマイオニーはその他の生徒に忘却術をかけて回り、今の言葉の内容を忘れさせた。そしてシロウとロンで先生を医務室に運びに行った。

 事が事だったためそのまま授業は終了、生徒たちは次の授業に向かった。しかし次の薬草学の授業に、恐らく当然と考えるべきものだろう、シロウの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレローニーの予言。あのトランス状態は一度「憂いの篩(ベンシーブ)」を通して見ている。俺に関する予言をしていた時もあの状態だった。

 気になる単語がいくつかある。まずは奴が、恐らくペティグリューだが、ヴォルデモートのもとに戻るということ。これが真実ならば、俺たちは奴を取り逃がすということを示す。

 次に奴が用いるという”黒き淀み”。俺の魔術使いとしての本来の力を必要と示すキーワード、”錬鉄剣製の英雄”と”『阿頼耶』より役を任されし男”。

 ”黒き淀み”は聖杯の泥のようなものを想像すればいいか、はたまた黒化英霊を想定すればいいか。どちらにせよ、夜になる前に万全の体制を整えなければならんだろう。

 

 

「……いるんだろう?」

 

「ウォン!!」

 

「……」

 

 

 呼びかけに答えるようにして出てくる二匹の獣、いや、一匹の獣と獣擬き。

 

 

「今夜事態が動く。目星は付けているか?」

 

「ウォホン!!」

 

「……」

 

 

 其々に反応を示すもの達。事と次第によっては今すぐに行動をするべきだろう。

 

 

「急いで奴の隠れている場所の調査、又は変装している者を確かめて知らせてくれ。事態は事を急する。もし奴が逃げ出そうとした場合はこれを使え、”叫びの屋敷”に繋いである。転移先には捕縛結界が張ってあるから逃げられまい」

 

 

 俺は彼らに札を渡す。どちらが奴に鉢合わせても対処できるよう、自動で動くように細工してある。獣擬き、シリウス・ブラックは兎も角としてこの子は真正の獣体だから手は使えない。ゆえに細工を施してある。

 それに、ペティグリューがこの城の中にいることは、休み明けひと月の間に判明している。本来はもう少し時間を掛けるつもりだったが、この際強硬手段を取らせてもらうとしよう。

 

 

「なら行ってくれ。パッドフット、勢い余って奴を殺すなよ?」

 

「ウォン」

 

 

 奴は一声吼え、もう一匹と共にこの場を後にした。さて、俺は校長のもとに行くとするか。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「……というわけだ」

 

「そうか……困ったのぅ」

 

 

 俺の報告に、心底困惑したダンブルドアが顎に手を当てる。正直な話、予言を行ったその日のうちに予言が真となる。加えてその予言はハッキリ言って悪いもの。困惑するなというほうが無理がある。

 

 

「ハッキリ言う。今回事と次第によっては俺は全力を出す。戦う場所と規模によっては更地が生まれる可能性もあるだろう」

 

「それほどのものなのかのぅ?」

 

「俺も曲がりなりにも英雄に名を連ねる者だ。戦闘は相応の規模になる。相手が理性の欠片もない黒化英霊であればな」

 

「そうか…」

 

 

 顔をしかめるダンブルドア。

 

 

「出来るだけ学校に被害が及ばないようにする。しかし今晩中に何とかせねば意味はないだろう」

 

「……相分かった。ぬしに任せよう」

 

「了解した。ついでにペティグリューに関することも何とかする。大臣を呼んでくれ、あとスネイプに自白剤を持ってくるように伝えてくれ」

 

「承知、すぐに動こう」

 

 

 文字通り羊皮紙を取り出し、何やら書き始めるダンブルドア。恐らく書状だろう。

 

 

「一つ思ったのだが」

 

「なんじゃ?」

 

「気が進まないが、奴を煽てるような文面なら乗ってくるんじゃないのか?」

 

「そうじゃな」

 

 

 ダンブルドアはもう一枚羊皮紙を取り出し、新たに何やら書き始めた。まぁこれで大丈夫だろう。

 

 

「今日は準備に時間をとる。午後の授業はサボりにしていい」

 

「そこらは考慮しよう。頼んだぞ、シロウ」

 

「承知」

 

 

 さて、俺も準備するか。

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。
今週は諸事情により、これ以上の更新は致しません。
早くて来週にデレマスかハリポタを更新します。
もしかしたら来月三巻内容が完結するかもです。




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13. 彼の名は



予告通り更新します。





 

 

 

 薬草学の授業、変身術の授業と本日の学業をこなし、私とロン、ハーマイオニーは寮に荷物を置きに向かっていた。結局シロウはその日の授業を出席せず、念話も通じなかった。

 

 

「シロウはどうしたんだろう?」

 

「知らないわ。時々彼が何を考えてるか分からないことがあるし」

 

「そうね」

 

 

 ときどきシロウの考えていることが分からない。それは私も同じである。生きてきた年数、潜り抜けてきた修羅場の数が圧倒的に違うのも相まって、彼の行動を読むことができない。

 

 

「ん? なんだこの音?」

 

「なにか…鳴き声のような」

 

「ネズミの鳴き声みたいね……ネズミ?」

 

 

 どこからかネズミの鳴き声が聞こえてくる。そしてガサガサと茂みが揺れている。

 

 

「そこの茂みからだね」

 

「ちょっと覗いてみよう」

 

 

 三人並んで茂みに忍び寄る。しかし半歩も踏み出さないうちに二つの影が飛び出した。

 一つはネズミ、どこか見覚えのある大きなネズミ。もう一つは猫で、見覚えのあるつぶれた顔面と、鮮やかな橙の毛並みをしていた。更に言えば、猫は口に札のようなものを加えており、

 

 

「スキャバーズ!?」

 

「クルックシャンクス!? どうしてっ、やめなさい!!」

 

 

 互いにペットの名前を呼び、追いかけるロンとハーマイオニー。咄嗟にかけだしたものだから、二人はその後ろから一匹の黒い犬が出てきたことに気づいていなかった。

 

 

「あなたは…、確かシロウといっしょにいた…」

 

「…」

 

 

 あの日、漏れ鍋にいた真っ黒な犬が、私の目の前にいた。真っ黒の犬は私を見つめ、そして二人と二匹が去っていった方向を見た。

 

 

「追いかけるんだね?」

 

「ウォン!!」

 

 

 私の問いかけに一つ吼えて答える黒犬。そして少し進み、立ち止まって私に顔を向けた。恐らくついてきてくれ、と言っているのだろう。私は黙って先を行く犬の後を追った。

 しばらく歩くと、一本の大木の生えている広場に着いた。一見普通のかなり大きな柳に見える大樹。しかし黒犬が柳に近づいたとたん、その大きな体躯をしならせて枝を振り回し始めた。

 成程、あれが暴れ柳。枝を振り回す光景を見る限り、私のニンバスが砕かれたのも頷ける。

 しかしこの黒犬は先読みしているかのように動き、根元にある一つ飛び出た(こぶ)に近より押した。すると不思議なことに柳は暴れるのをやめ、大人しく元のようにそびえ立った。

 

 

「…その(うろ)に入るの?」

 

「…ウォン」

 

 

 またも私の問いに答える黒犬。根元に開いている空洞のその先、繋がっている場所に二匹と二人はいるのだろう。ならば鬼が出るか蛇が出るか、この犬の言うことを信じて中に入ろう。

 犬が瘤を抑えている間に洞に近づき、空洞に入った。確か忍びの地図によれば、この道はホグズミード村の端も端、叫びの屋敷なる建物に通じているらしい。この道は正直いうと新しい。魔女像の背中から伸びる通路は正直古ぼけており、いつ区連崩れてもおかしくない代物だった。 

 

 比較的安定した地盤の通路を進むと、果たして私と黒犬は建物の部屋の一つに辿り着いた。村で聞いた話とは違い、結構きれいにされている内装は、最近まで使われていた形跡を残している。穴が開いていたであろう壁や床は補修され、腐っていたであろう箇所は張り替えされていた。

 

 

「ウォン!!」

 

 

 黒犬は一言吼えると階段をのぼり、最上階の一つの部屋に入った。一体何があるのだろう。

 疑問に感じた私は杖を構え、部屋の扉を開いて中に入る。そこで目に入ったのは異様で、だけどどこかデジャヴを感じる光景が広がっていた。

 大きめの部屋の中央には魔法陣がしかれ、淡く発光している。その中央には一匹のネズミがおり、エネルギーで形成された鎖につながれていた。

 側にあるベッドには足を怪我したらしいロンが腰掛け、その隣にはハーマイオニーが治療しながら付き添っていた。そして魔法陣の奥、部屋窓からの明かりが届かない位置に…。

 

 

「…やっぱりここにいたんだね、シロウ」

 

「相変わらずの察しの良さだ。それに、俺だけじゃないぞ」

 

「え?」

 

「わしらもおる」

 

 

 シロウの視線の先に目を向けると、そこには校長先生、魔法大臣、ルーピン先生、スネイプ先生がいた。

 

 

「なんか、すごい勢揃いですね」

 

「今回は少しばかり特殊じゃからのぅ。ところで…」

 

「そうだな。そろそろもとに戻ったらどうだ、()()()()?」

 

「…」

 

 

 私の隣に座っていた犬は一目シロウを見ると、次の瞬間にはボロボロの衣装をまとった一人の男になっていた。

 

 

「さて、数か月ぶりに人間態に戻った感想は?」

 

「嬉しいに決まっている。ようやくこの時が来たのだからな」

 

 

 シロウの問いに答える男。犬の時の毛の色同様、黒いボロボロのローブを着た男は部屋をぐるりと見渡し、そして口を開いた。

 

 

「はじめまして、かな? 私はブラック、シリウス・ブラックだ」

 

「そうですか、貴方が今世間では大量殺人鬼と恐れられている」

 

「ああ、世間ではね」

 

 

 私が話しかけた人、シリウス・ブラックは殺人鬼とは思えないほどの綺麗な笑顔、殺しを一度でも喜々として犯した人が浮かべる者ではない笑顔を浮かべて私に答えた。

 

 

 






クライマックスにむけて動き出した事態。ネズミの処刑と黒い淀みの襲来まであと少しです。
次回はもしかしたら今週中に更新します。

では今回はこの辺で。感想お待ちしています。




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14. 降臨



お待たせしました。それでは最新話参りましょう。





 

 

 目の前にいるシリウス・ブラック、殺人鬼として名高い魔法使い、らしい。

 正直いうと殺人鬼にはみえないし、それよりも魔法陣に縛られているネズミのほうが気になる。

 

 

「十二年だ…」

 

 

 シリウス・ブラックは呟く。

 

 

「十二年も待った。リリーとジェームズを殺す間接的原因となった奴を。私に濡れ衣を被せた真の裏切り者を裁く瞬間を!!」

 

「だがその前に説明が必要だ。特にこの子たちや事情を知らない者達へのな」

 

「それもそうだ。しかしこいつは…」

 

 

 ブラックが不安そうにネズミを指差したけど、シロウはニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

 

「心配ない。この束縛結界はちょっとやそっとじゃ敗れんよ。仮令ダンブルドアでもな」

 

「それを聞いて安心した。さすがは衛宮士郎、か?」

 

「それ以上は言うなよ?」

 

 

 そう言えばブラックは一時凛さんたちと一緒にいたんだったね。ならシロウたちの魔術についてちょっと知っていても可笑しくはない。ブラックはドカリと床に腰を下ろすと、私たちを眺めて口を開いた。

 

 

「さて、何から聞きたい? 正直に言うが十二年も待った、今すぐにでも奴を裁きたい」

 

「殺す、と言わないだけマシか。まぁいい、まずはお前とジェームズ・ポッター、ペティグリューの関係について説明してもらおうか」

 

「構わん、リーマスもいいか?」

 

「無論だ」

 

 

 何故か呼ばれたルーピン先生と共に、ブラックは四人の関係性と今に至るまでを説明した。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 彼ら四人は学生時代の親友同士だった。何をするにも四人一緒、悪戯も学問も遊びも一緒だったそうだ。ただその際スネイプ先生が父のいじめの被害にあっていたらしい。何をしてるんですか父さん。

 そして在学中に判明したルーピン先生の人狼化呪縛の秘密。他三人は少しでもルーピン先生の気持ちが楽になるようにと、未登録の「動物擬き(アニメ―ガス)」と呼ばれる、超高難易度な動物変身魔法を身に付けた。

 

 

「この叫びの屋敷が建造されたのと暴れ柳が植えられたのは私が入学したからだ」

 

 

 ルーピン先生は疲れたように語る。

 

 

「今はそこの誰かさんの手である程度修繕されているが当時は変身後、獲物となるべき人間がいなかった私が暴れ、吼えたことでいつ倒壊してもおかしくない状態だった。叫びの屋敷と呼ばれ始めた経緯は私の行動だよ」

 

「月に一度、狼男となった私はシリウスやジェームズらと共に過ごしていた。シリウスは君らも見た通り大型の黒犬、ジェームズは牡鹿、そしてペティグリューは鼠にね」

 

 

 そこで先生は一度言葉を区切った。陣の中の鼠が激しく暴れているが、縛りがびくともしない音だけがしばらく響く。

 

 

「それとスキャバーズに何の関係があるんだ」

 

 

 ロンが足の痛みに声を詰まらせながら問いただす。

 

 

「こいつの前足」

 

 

 ブラックがネズミを指差しながら応える。

 

 

「ペティグリューが死んだと思われた十二年前、奴の小指だけが残り、状況証拠だけで私が周囲のマグルたちをも殺した殺人鬼に仕立て上げられた」

 

「でも…」

 

「ペティグリューが変身したのを何度見たと思っている? 奴の変身後の特徴まで熟知している私が、見間違うと思うか? この鼠は間違いなく奴だ、私にはわかる」

 

 

 そしてブラックは私の両親が殺されるまでの経緯(いきさつ)を話し始めた。

 両親の居場所は一部のものしか知らず、シリウス・ブラックはその秘密を死んでも守る、「秘密の守り人」となる予定だった。しかしブラックは辞退し、代わりにペティグリューを推薦したため、両親もペティグリューを「秘密の守り人」にした。

 

 しかしそれこそが間違いだった。

 実はペティグリューは既にそのころにヴォルデモートと通じており、あっさりとその情報を流した。それによりヴォルデモートはすんなりと守りを突破し、両親は殺された。ブラックがその事実を知ったのは事が終わった後、何とかペティグリューを追い詰めたが逃げられてしまった。

 

 

「…以上がことのあらましだ」

 

 

 ブラックが語り終えると、再び屋敷は静寂に包まれた。

 暫くしてシロウが口を開いた。

 

 

「ここにいる者達の殆どが、彼の説明に疑問を抱いていることだろう。その疑問を解消するためにも、この鼠を調べるのだ。わかるな、ロン?」

 

「……うん」

 

「大丈夫、仮にこの鼠がただの鼠ならば、傷一つつかないから安心しろ」

 

 

 シロウの言葉に渋々頷くロン。隣にいるハーマイオニーも黙ってことの成り行きを見守っている。

 みなの視線が集まる中、シロウは懐から歪な短剣を取り出した。その短剣は一年半ほど前、ドビーの妨害術式を解除した短剣だった。ついでに真っ赤な布、「マグダラの聖骸布」も取り出した。

 

 

「では行くぞ、マリーはこの鼠が変化したら『我に触れぬ(ノリメ・タンゲレ)』と唱えてくれ」

 

「ええ、分かった」

 

「それじゃあ、『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』!!」

 

 

 シロウが言霊と共に鼠に短けんを触れさせると、パキンッと何かが砕ける音がした。それと共に、陣の中央には一人の小柄な男が蹲っていた。

 

 

「『我に触れぬ(ノリメ・タンゲレ)』!!」

 

 

 私が一声叫ぶと、赤い布は自然と男に巻き付き、その動きを封じた。流石は対男性用全体拘束具、女である私が扱うことによって、拘束力も強くなっている。

 

 

「さて大臣、これで証明されたな。ブラックは冤罪だった」

 

「…そのようだな」

 

「あとはこいつを連行するだけ。そうすれば晴れてブラックは自由の身となり、大臣は辞任するが、潔い魔法使いの鏡となる」

 

 

 渋い顔をしながらも頷くファッジ大臣。蹲っている男、ペティグリューは命乞いを繰り返しているが、周りは効く耳を持たない。

 

 

「マリー…マリー……君は両親の生き写しだ……彼らなら…私が殺されることを望まないだろう……情けを掛けてくれるだろう」

 

 

 気安く私の名前を呼ぶペティグリュー、しかし私はそこまで人間はできていない。

 

 

「それはあくまでも私の両親ならばの話よ。私はそこまで慈悲深くない、情けを持たない。あなたの罪を数えなさい」

 

 

 それだけを告げ、私はロンの治療に向かった。シロウや凛さんたちから教わって簡単な治癒魔法なら使えるため、今よりかはマシな状態まで治療できる。

 私がロンの治療に専念している間にペティグリューの処遇が決まったらしく、フクロウ便が魔法省に送られた。そしてペティグリューを拘束したまま屋敷を離れ、使いの者がくるまでホグワーツで拘留することになった。

 屋敷からホグワーツへと向かう最中、ペティグリューはずっと命乞いをしていた。しかし私たちはそれを無視し黙って通路を歩き続けた。彼がこそこそと何かをしているとも知らず。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りた頃に柳の洞から全員出た後、暫く休憩することとなった。理由としては大臣が使いの者の迎えに行く間、ペティグリューが逃げないように見張っているためである。

 現在ペティグリューにはルーピン先生とスネイプ先生が杖を向けて牽制している。空は分厚い雲に覆われ、薄気味悪い雰囲気を醸し出していた。

 休憩の間、ブラックさんは懐かし気にホグワーツの城を眺めていたので、私は近づいた。

 

 

「…懐かしいですか、ブラックさん?」

 

「そうだね、彼らと過ごした学生時代を思い出していた」

 

「まだ老け込むには早いのでは? シロウとさほど変わらないでしょう?」

 

「クククッ、違いない」

 

 

 悪戯気に笑うブラックの姿は、とても十二年収監されていたとは思えないほど若々しかった。

 

 

「しかし、もっと砕けた口調でもいいんだぞ? 誰かに聞いたかもしれんが、私は君の名づけ親だしな」

 

「初耳ですね。でもごめんなさい、まだあまり長く接してきた訳ではないので、暫く抜けないかもしれません」

 

「いずれ抜けるのなら気にしないよ。その時は好きなように呼ぶといい」

 

 

 柔らかく微笑んでいるブラックさんを見ていると、突然悪寒が背中を襲った。ブラックさんもそれは同じだったらしく、二人同時に柳のほうに振り返った。

 そして目に入った。

 

 雲の切れ間からのぞく満月。

 唸り声をあげ、全身を痙攣させながら変化していくルーピン先生。

 スネイプ先生とシロウとダンブルドア先生を吹き飛ばし、宙に浮かんでいる高濃度の魔力を纏ったカードのようなもの。

 拘束を解かれたことでハーマイオニーとロンを昏倒させて逃走するペティグリュー。

 

 上手くいっていたことが全て覆り、午前中に聞いたトレローニ―先生の予言通りのことが起ころうとしていた。

 隣にいたブラックさんは瞬時に犬へと変わり、ルーピン先生の方向へと突進していった。向かう先には地面に転がるマグダラの聖骸布、恐らくあれで拘束して先生を無力化するのだろう。

 

 私はそれを確認した後カードに意識を向けた。

 カードは宙に浮いたまま黒い光を纏い、どす黒い魔力はその濃度を増していく。黒い輝きが眩しいほど強くなった後、台風の風なんてそよ風に感じるほどの突風に襲われた。それにより、倒れている倒れていないにかかわらず、私たちは一様に吹き飛ばされた。

 

 

「イテテ…何だ?」

 

「この…濃密な魔力は…」

 

「何なのだ…今のは…」

 

 

 拘束を完了したブラックさんやスネイプ先生、ダンブルドア先生が各々反応を示す中、狼男になったルーピン先生は本能的な恐怖を感じて蹲っており、シロウは目をこれでもかと見開き、冷や汗を流して歯を食いしばっていた。

 先ほどまでカードがあった場所に目を向ける。そこには直径十メートルほどのクレーターが形成され、中心には人影があった。

 その人影は真っ黒な魔力を身に纏い、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がって私たちに顔を向けた。

 

――その人影は雪のように真っ白な髪をしていた。

――頭に付けているのは目を覆うように巻いてある真っ赤な布。

――上半身は裸で両腕には頭と同じ真っ赤な布が巻き付けられていた。

――足は裸足で黒いピッチリとしたレギンスを履いており、腰にも地面まで垂れるほどの真っ赤な布が巻かれていた。

 

 

「……コロ…ス……エミヤ……シロウ………」

 

 

 人影がつぶやく。標的はシロウらしい。

 

 

「不完全とはいえ、貴様がそこまで身を堕とすとは……皆下がってろ。こいつは俺が相手する」

 

「どうするつもりだ、エミヤ!! 奴は何者だ!!」

 

 

 シロウの言葉に怒鳴るブラックさん。スネイプ先生もダンブルドア先生も杖を構えている。その間にも人影はこちらにゆっくりと近づいてきている。

 

 

「奴は不完全に強制召喚された英霊、加えて汚染されて理性をなくしている」

 

「コ…ロ……ス」

 

「この世界の魔法では全く効果がない。だから早く逃げろ、奴は物量攻撃が十八番だ。だからすぐにみんなこの場を離れろ」

 

 

 シロウは説明しながら服装を真っ赤な外套に変え、白黒の双剣を構えた。人影は気にすることなく、ゆっくりと距離を縮めてくる。

 

 

「随分とあの英霊についてくわしいの」

 

「嫌でも詳しいさ、何せあれは……」

 

 

 ロンとハーマイオニーを抱え、ルーピン先生を拘束しているブラックさんとスネイプ先生と共に離れる準備をしているダンブルドア先生が問いかける。私も逃げる準備をし、彼らのそばに行く。

 その間にもシロウと人影のさは縮まり、一定距離で止まった。そして互いにぶつかり合うために、全く同じ双剣を構えた二人が身を屈める。ここにきてようやく人影の正体が分かった。わかってしまった。

 

 

「エミヤ……シロウ………!!」

 

「あれは俺の、衛宮士郎の別の可能性なのだからな!!」

 

 

 英雄である二人がぶつかったとき、空間が爆発が発生した。

 

 

 






はい、というわけで現れたのはプリヤの黒化アーチャーでした。
次回はマリーのパトローナスと英霊戦決着です。

それではこのへんで。感想お待ちしております。


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15. 勝敗




すみません、守護霊まで行きませんでした。





 

 

 十二年前にご主人様の協力者に手渡された一枚のカードをポケットに入れていたため、指先を切って滴る血をそれに付けた途端、自分を縛っていた赤い布を弾き飛ばした。せっかく隙が出来たから無駄にせず、急いでネズミに変化してその場から逃げ出した。

 暴れ柳はホグワーツの境界の近くにあるため、すぐにたどり着くことができた。でもそのとき、後ろから突風が襲ってきて思わず止まってしまった。恐る恐る振り返り、私は目の前に広がる光景に目を奪われてしまった。

 暴れ柳の近くに大きなクレーターが形成されており、その付近では何度も火花が散っていた。何が起こっているかは夜なのでわからない。だが火花に遅れて鋭利な金属がぶつかり合う音が繰り返し聞こえてきた。

 その時、一際大きな音と火花が起こった。鼠状態だったため、髭による人の何倍も鋭い感覚で何かがこちらに来ることを察知し、急いで右側に動いた。

 そのすぐあと、何かが私のいた位置に勢いよく飛んでき、大きなくぼみを作った。

 それは一振りの剣だった。しかし戦っている場所からここまで、少なくとも100メートルは離れている。その距離をわずか1,2秒ほどで飛んでくるなど、どれほどの規模の戦いか想像がつかない。

 急いでこの場から離れ、ご主人様の元へと行かなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄。

 それは優れた才知を持ち、人の身では到底成し遂げられない非凡なことを行うものを指す。

 今目の前で行われているのはその英雄同士の戦い。今を生きる英雄と、古文書にて書かれていた、「座」という場所にに招かれた英雄の霊。そして戦う彼の話が本当であれば、同一人物同士の戦いが繰り広げられている。

 

 

「■■■■■――■―■■―――コ■■―■ロ■―――■■ス■――!!」

 

「理性を引き換えに、貴様は何を得たというのだ!! ただの殺戮機械になり果てただけか!!」

 

 

 剣がぶつかり、剣が砕け、また剣を取り出し、またぶつかる。剣製を司る英雄だからこそできる戦いであろう、武器の有無など関係のない戦いを繰り広げている。

 

 

「な、何事だね!?」

 

「これは一体なんなの!?」

 

 

 大臣ともう一人、あの眼鏡かけた女性はだれだろう? 補佐官らしき人がやってきたがこの場に近づくのは危険が過ぎる。

 

 

「来てはならん!! 二人ともこの場から離れるのじゃ!!」

 

「マリー、ハーマイオニーと一緒に来なさい!! ロナルド君は私が運ぶ!!」

 

「ルーピンは吾輩が」

 

 

 其々指定された組み合わせになり、城に向かって走り出す。その間にも背後からは轟音と衝撃が伝わってくる。普通の人間どころか、魔法使いですら軽くあしらわれるだろう。魔法使いが杖を取り出す前に殺されてしまう世界が背後には広がっている。

 

 

「あれほど守護者になったことを後悔した貴様がッ!! それよりも堕ちた存在になり果てた自身を許容するとはどういうことだ!!」

 

「正■■■方に、守護者に―――け■■よかっ■ッ!! エ―ヤシ――は存在■許さ■■■もの■―■ッ!! 貴―は、俺はッ!! 生ま■■――■ない存在だ■■!!」

 

「生まれてはならないだと!? そこまで腐ったか、エミヤシロウ!!」

 

 

 剣戟の音に混じり、互いに叫ぶ声が聞こえてくる。その声に、私は思わず足を止めてしまう。何故か呼び出されたシロウのほうの言葉も全て理解できた。夢で聞いた並行世界の世界の彼の叫びよりも哀しい叫び。理由がわからず、目から一筋の涙が流れ落ちる。

 

 

「マリー、早く離れないと!!」

 

「ポッター、急ぎたまえ!!」

 

 

 いつの間にか先に行っていた校長先生たちに呼ばれる。しかし頭でわかっていても目は顔は、体は死合(たたか)いのほうを向いて動かない。恐怖からではない、見届けなければという奇妙な使命感のようなものだった。

 

 

「マリー…」

 

「…頭ではわかってるんです。離れなければならないと」

 

「ならば『ですが』…なんだ?」

 

 

 彼の叫びを、声を聴かねばならないと、私の心が言っている。

 

 

「何故かは分かりません。ですが私の心が言っているのです。この戦いを見届けろと」

 

「君は何を言っているのか分かっているのかね!?」

 

「理解したうえで言っています」

 

 

 問いかけてくる大人たちの目を真っすぐ見つめ、私の意思を示す。シロウにとってこれ以上にない迷惑になることは承知の上だからこそこの場から近づいてみるつもりはない。ただ、見届けるだけだ。

 

 

「…どうしても見るのじゃな?」

 

「はい…!!」

 

「…相分かった」

 

「「校長(ダンブルドア)!?」」

 

 

 校長先生以外の大人が非難の視線を向けるが、私は一つ頷き、再び彼らの戦いに目を向けた。暫くすると人はブラックさんを残していなくなり、戦いを見るのは私とブラックさんの二人だけだった。たぶんブラックさんは私の見張りとして残ったのだろう。

 事態はさらに動き、柳を一本残して辺りは更地になりかけている。森の端っこは地面が抉れ、湖の水打ち際は形成されたクレーターによって形が変わり、草花の生えていた土地は土が表面に出て草が埋まっている。

 閃光を飛ばし合う魔法使いの戦いとは異なり、文字通り戦争のような惨状となっていた。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 もうどれだけ時間がたったのだろうか。腕時計を見る限り満月は既に天頂に差し掛かっているだろうが、戦いは終わる気配がない。

 あれから戦いの舞台は変わり、見渡す限りの突き立つ剣。阻むもののない蒼穹のもと、大小さまざまな錆びた歯車が転がる草花の生えた丘に私たちはいた。

 離れた場所にいたけど、シロウの言霊と詩が響いた瞬間視界が真っ白になり、気が付けばこの場所にいた。ブラックさんも隣におり、目の前の光景に驚きを示していた。しかし戦いが再び始まると二人そろってそちらに意識を向けた。

 

 この数時間の間に彼らは傷だらけとなっている。

 暴走態シロウの体からは光り輝く粒子のようなものを体中から流し、シロウは全身から血を流している。互いが互いに死に体、あと数合で決着がつくだろう。今はお互いに肩で息をし、真正面睨みあっている。

 

 

「…貴様というエミヤシロウがどのような道を辿ったか、俺と貴様だからこそわかった」

 

「エミヤ…シロウ……」

 

「だが、貴様を放っておくことはできん。それは俺が末席とはいえ、英雄に名を連ねているだけではない。俺がエミヤシロウだからだ」

 

「ウ"ウ"ウ"…ウ"ウ"…」

 

「次で終わらす。貴様も理性がないなりに貫きたいものがあるなら、本気で来い!!」

 

「ウ"ォ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」

 

 

 シロウが言葉を投げかけると、暴走態のほうは天に顔を向け、大きく叫んで双剣を構えた。シロウは同様に双剣を構えたけど少し趣が異なっていた。

 双剣は相変わらず白黒だけど、その形状は細く長く、まるで刀のような形状になっており、見慣れた真っ赤な外套は成りを変え、片袖はノースリーブ、頭にはハチマキのように赤い布を巻き、白い外套を上から羽織っていた。

 

 訪れる静寂、常に吹いていた風も今は凪になっている。彼らの周りに立っていた剣たちはひとりでに浮かび上がり、彼らから距離をとった。

 空を舞っていた花弁が一片、ふわふわと舞い降りる。しかし二人は未だ動かない。やがて花弁は二人の間をゆっくりと舞い降りた。そしてその花弁が地面に着いたとき、すでに決着はついていた。

 暴走態は左肩から右腰にかけて深く袈裟に切られており、対するシロウは左頬から顎骨にかけて切られているだけ。敗者となった暴走態は地に膝を付け、魔力に還るのを待つだけとなった。

 

 

「…まさか……貴様に救われる…とはな」

 

 

 暴走態の言ったその言葉にどれほどの思いが込められているのだろう。本人でない私にわかることはできない。でも…

 

 

「エミヤシロウとは……どの世界においても哀しき運命(フェイト/デスティニー)を背負った男」

 

 

 彼らのぶつけ合う剣から感じたこと。それはシロウを含めた数多くのエミヤシロウの中で、少なくとも三人のエミヤシロウが世のため人のために戦い続け、破滅又は一歩手前まで至ったこと。余りにも歪なその在り方が受け入れられなかった現実。

 その結果が様々な形で創り出された。もしかしたらシロウもあの暴走態のようになっていたかもしれない。これから至るかもしれない。

 

 なんだか無性に訳の分からない、相反する気持ちが沸き上がってきた。エミヤシロウという存在に、彼を認めようとしなかった世界に。

 

 前から疑問に思っていた。

 三人の奥さんと四人の子供がいるにもかかわらず、時折見せる迷い。本人は隠しているつもりだろうが、彼は自分が幸せになることを迷っている気がした。恐らくそう思っているのは私だけかもしれない。でもそれでも彼が時折悲しげな眼をしているのは間違いない。

 彼はその在り方によって世界を追われた、会えるとはいえ、家族と引き離された。彼がもし以前の世界と同じような生き方をすれば、また同じことが起こるだろう。頑張って人を助けたのに報われない人生になってしまう。

 

 

「……人を救うために走り続けた私は、結局殺戮機械へとなり果てた」

 

 

 暴走態は全身から魔力を霧散させながら語る。

 

 

「貴様が言った通り、守護者以下の存在に堕ちた。そんな存在が人を救うなどおこがましいとも気づかず」

 

「だがそれでも貴様は、人を救いたいと走り続けたのだろう?」

 

「…ああ」

 

 

 目をも覆っていた布が落ちる。その目は狂気に侵されておらず、穏やかなものだった。

 心は泣いているのに泣かない、哀しいのに、悔しいのにその感情を理解できなかった暴走態。誰かに感謝されたかったわけでなく、一つでも多くの零れ落ちるはずだった命を掬いあげたかった男の結末。

 それは自分自身による断罪と許しだった。

 嗚呼なんて、なんて救いのなかった道のりだったのだろう。長い長い殺戮の果てに、ようやく手に入れた小さな光。その小さな光は、彼にとってどんなに大きな救いだったのだろう。

 

 

「誇っていい。貴様の思いは、俺たちの願いと想いは、決して間違いじゃなかったのだから」

 

「そうか…誇っていいのか……譲れぬもの、誇りとしていいのか」

 

「ああ」

 

 

 もうすぐにでも霧散してしまうだろう。体を作っていた魔力は星へと還り、彼の意思は大元へと戻っていくだろう。この邂逅も時期に終わりを告げる。

 

 

「…エミヤシロウ」

 

「なんだ?」

 

「フッ…私の負けだ…」

 

「ああ…そして、私の勝ちだ」

 

「ではな、核となったカードはお前が持っておけ。何か役に立つだろう」

 

 

 その言葉を最後に暴走態は消滅し、不思議な世界は砕け散った。白い光に再び視界が包まれたのち、私たちは再び元の世界に戻っていいた。カードはシロウの手に握られている。一先ず事態は収拾したようである。

 

 

「ブラックさん、行きましょうか」

 

「そうだね、彼を医務室に連れて行かなきゃだろうし」

 

 

 私は校長に知らせるよと言ったブラックさんに一つ頷き、シロウの元へと歩き出した。彼らの戦いを見て胸に宿ったこの気持ち。燃え盛る業火のようなものと包みこむような木漏れ日のようなもの。

 この気持ちの正体は分からない。わからないけど、この二つの気持ちは大切なものだ。これから先この気持ちがどうなるのか、それは世界のみぞ知るだろう。

 今は、彼のもとに行くことが先だ。

 

 

 






はい、ここまでです。
予告詐欺すみませんでした。ですが次回こそ必ず、マリーさんの完全態守護霊を出します。
あとちょっとしたネタバレですが、アーチャー態守護霊も不完全態です。ですので次回完全態を出します。

では今回はこの辺で。感想お待ちしております。




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16. 真・守護霊召喚

では予告通り、更新します。





 

――よう

 

――貴様がアーチャーの言っていたやつか。何者だ。

 

――それは一番お前が判っているはずだぜ、ククク。いやーお前が奴を倒したことでようやく表に出れた。

 

――お前は…復讐者(アヴェンジャー)か?

 

――おおー御名答。察しの通り俺様は復讐者のサーヴァント、アンリ・マユの真名を持った最弱のサーヴァントさ。

 

――お前は一体何を望んでいる。また冬木の時のように災厄を世にばら撒くか?

 

――おいおい、そりゃ俺がまだ成り損ない(よちよちベイビー)のときの話だぜ? 今はもうそんなことしねぇよ。

 

――その証拠は?

 

――あの気障な正義の味方(アーチャー)も言ってたろ? 俺様の無色の人格はお前に色付けされてるから、そう変なこと起こしゃしねぇよ。

 

――そうか

 

――それより気を付けな、今回の奴でわかったと思うが…

 

――ああ。少なくともあと六体、サーヴァントの出来損ないと戦うのだろう?

 

――そういうこった。まぁ、もしもの時は俺が力を貸すぜ。何せ俺は人間相手にゃ最強だからな。

 

――ふむ、ある意味では心強いな。

 

――嬉しいこと言ってくれるねぇ。それより、そろそろお前さんは休めや。そら、お姫様の登場だぜ。

 

――ならまた後で、色々と聞かせてもらおう

 

――おう

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 アヴェンジャーと話していると、今の戦いを見ていたのだろう、マリーが近寄ってきた。一足遅れてブラックもこちらに来ていた。まぁあの二人に関しては俺の素性を知っているから、見られても余り支障はないか。

 それにしても今回の戦い、今更気が付いたが、奴と打ち合う度に魔力を吸われていた。奴自身ではなく、核となっていたカードに吸われていた。そしてそのカードだが、今は俺の体に溶け込んでいる。意識すると、再び俺の手元に出てくることから、このカードは俺の管轄下にあると考えていいだろう。

 それにしても魔力を使いすぎたし、吸われすぎた。魔力を吸われている状況での固有結界展開は流石にきつかったか。動くことはできても、この世界の攻撃魔法を使う魔力は残っていない。

 

 

「シロウ、大丈夫?」

 

「ああ。動けるが、今日は魔法は使えないだろうな。それより、君らには怪我はないか?」

 

「大丈夫だ。我々は君らの邪魔にならないよう、結構距離をとっていたから」

 

「そうか」

 

 

 それを聞いて安心した。

 

 

「じゃあ校長室に行こう。今後の方針の話し合いに君が必要だからね」

 

「それは分かったが、どうやって連絡を取ったのだ?」

 

 

 この世界じゃあ守護霊を用いて伝言を伝えることが出来るそうだが、今奴は杖を持っていない。ならばどうやって連絡をとったのだ。

 

 

「ああそれはな、剣吾君に使い魔の魔術を教わってね」

 

「なるほどな」

 

 

 あの子が教えたのか。ならば心配ないな。

 すわりこんだ状態から立ち上がり、首を鳴らして腕を回す。どうやら全身にある傷以外には異常はないらしく、体は正常に動いている。その体の傷も持ち前の回復力とマリーの治療によって治りかけている。もう数分もすれば感知するだろう。

 

 

「さて、そろそろ移動を…む?」

 

「? どうしたの?」

 

「どうやら奴らのお出ましだな」

 

「奴らって…まさか」

 

 

 今回の戦いをかぎつけたのだろう、吸魂鬼が大勢こちらに向かってきていた。予想できるとすれば、人よりも大きな魂にそれが抱いた正の感情。奴らにとってみれば最高級料理である。

 

 

「…ブラック、頼めるか?」

 

「分かっている」

 

 

 俺が一言いうと、ブラックは懐に入れていたナイフを取り出し、自分の指先を傷つけた。指先から滴り落ちる血を俺の傷口に近づけ、俺の血と混ぜ合わせる。

 一時的なラインを俺とブラックに繋いだことにより、俺たちの魔力とは異なる、しかし異常を起こさない魔力が流れ込んでくる。立ち上がった俺はアゾット剣を構え、幸福の念を込めた魔力を通す。

 

 

守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)!!」

 

守護霊召喚(エクスペクト・パトローナム)!!」

 

 

 俺とマリーが同時に唱える。俺の短剣からは無数の西洋剣がミサイルのごとく飛び出し、マリーの杖先からは白銀に輝くアーチャーが飛び出した。其々が吸魂鬼を迎撃していくが、個々撃破の形になってしまうため、どうしても撃退が増加に追い付かない。抵抗むなしく俺たちは吸魂鬼に包囲されてしまった。

 

 

「これはまずいな」

 

「そのようだ」

 

 

 正直先ほどから頭痛が絶え間なく襲い掛かり、視界も現実と封じられた記憶が移り変わっている。自分が覚えているはずのその前の記憶までも揺り起こされ、記憶の混濁が起こりそうになる。しかし葉を食いしばってそれに耐える。

 

 

「すまないシロウ。どうやら私の魔力が先に尽きそうだ」

 

「そうか、ならもういい。君が動けなくなったら本末転倒だ」

 

 

 ブラックとのラインを切り、残り少ない自身の魔力を用いて守護霊を形成して迎撃する。マリーの守護霊は俺のと違い使い捨てではないため、未だ懸命に迎撃を続けている、が、マリーの顔は苦しそうに歪んでいた。

 

 

「…仕方ないか」

 

 

 投影は魔法よりも魔力を消費するため、今の今まで控えていた。だがそうも言ってられない事態のため、黒鍵を作れるだけ作って滞空させる。狙いは全方位、自らを中心とした半球をイメージし、その方向に切っ先を向ける。

 

 

「シロウ!? そんなことしたら、シロウの魔力が!!」

 

「一掃できなくとも、これで誰かしらが異常を察知する!! それに少しでも数を減らせるのならば」

 

 

 考えなしであり、いつもの自分らしくないのは分かっている。だが、今はこれ以外の方法が思いつかない。しっかりと狙いを定める。吸魂鬼は何も感じていないのか、ゆらりゆらりと距離を詰めてくる。

 

 

「停止解凍、全投影連続層写!!」

 

 

 黒鍵は狙いたがわず吸魂鬼に飛び、投影した三十弱の黒鍵は全て吸魂鬼に刺さり、それらを炎で焼き尽くし、風で切り刻んで分解し、土塊に変えて崩し、水で圧縮して潰し、真空状態で破裂させた。余波で巻き込んだ数も加えて五十弱の吸魂鬼が消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものシロウらしくない方法で吸魂鬼は討伐されたけど、まだ二十体ほど残っている。私の守護霊も霧散しかかっている。シロウの討伐にも誰かが気づくこともないかもしれない。

 先ほどから視界がチカチカと瞬き、幸福のイメージにほころびが出始める。それに伴い、私の守護霊の動きも鈍くなっていく。魔力をもうほとんど残していないシロウとブラックさんは肩で息をし、膝をついている。加えてシロウは頭を抑えてうめいている状態だ。今この状況では、私の守護霊だけが唯一の戦力である。

 しかしながら私もさっきから現実と幻が混ざり合っている。正直いつ脳が処理落ちして気絶するかわからない。

 

 

『リリー、マリーを連れて逃げろ!! 奴だ!! ここは僕が食い止める!!』

 

 

 男の人の声が聞こえる。まるで記憶が揺り起こされるように頭が揺さぶられる。今の声は、恐らく私の父親の声。そして状況は両親が殺されたハロウィンの夜の情景だろう。

 

 

『ここは通さないぞ!!』

 

『愚かな男だ。死せよ(アバダ・ケダブラ)!!』

 

 

 ヴォルデモートが魔法を使った声が聞こえた。父はこうして殺されたのか、そして母も。どうして吸魂鬼はこうも思い出したくない記憶を掘り起こすのか。そして私たちを絶望させようとするのだろうか。

 このまま身を委ねたら楽になるのだろうか。

 そんな考えが頭に浮かんだ。彼らに捕まったら最後、魂を吸い取られて生ける屍になるそうだ。もう正直守護霊は保つことはできない。諦めてしまおうか。

 

 

『マリー大丈夫よ』

 

 

 不意に女性の声が聞こえてきた。私が聞いたことのない女性の声、しかしどこかペチュニア叔母さんと似ているような声の女性だ。

 

 

『たぶん私も殺されるでしょう。ごめんなさいね、貴方を独りにすることになってしまって』

 

 

 女性の、母の言葉が続く。

 

 

『どうかこの子が争いごとに身を置くことがありませんように。沢山の友達が出来て、沢山の優しい人たちに会って、そしてささやかな…幸せな…明るい未来を歩んでいけますように…』

 

 

 それは、親なら持つであろうささやかな願い。あの夜、母が私に残した願い。

 

 

『どけ、小娘!!』

 

『お願い、この子だけは』

 

『どけ!! 死せよ(アバダ・ケダブラ)!!』

 

 

 悲鳴と共に母の命が果てる。私は人伝でしか両親の最後を知らなかった。しかしいま、声だけだったが両親の死の様子を知ることが出来た。そして母が残した願いも。

 今ここで諦めたら両親の、母の願いを無下にしてしまう。それはできない、させない。

 たったこれだけのことで意識を変える私は、もしかしたらものすごく単純な女なのかもしれない。でも今はそれでいい。この単純さで今の状況を打開できるのなら。

 思い出せ、私の夢を。

 思い出せ、託された願いを。

 思い出せ、受け取った想いを。

 そして思い浮かべろ(イメージしろ)、自らが至高と考える幸福を!!

 

 

「『守護霊召喚(エクスペクト・パトローナム)』!!」

 

 

 イメージを確立し、呪文を唱える。その瞬間、私の杖先からは今までの比ではない、太陽みたいに眩しい輝きが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大の大人が全く役に立たないなど、これほど悔しいことはない。自分の力不足のせいで親友の娘一人に最後を任せることになってしまった。余った魔力を用いてシロウの短剣で守護霊を呼ぼうとしたが、短剣に拒絶され、魔法を使うことが出来ない。

 何か手がないものかと考えているとき、突如頭上で眩しい光が放たれ、私たちを中心にしてまるで昼のような空間が出来上がった。普段日が照っていても余りわからない吸魂鬼のローブの皺の秘湯一つまでが肉眼で見れる。

 

 

「これはいったい……」

 

 

 私は光の発生源に目を向けた。そして不覚にもそれに見入ってしまった。

 マリーの杖先から放たれた光はそれ高く立ち上り、そこで大きくはじけた。キラキラとした光の粒と共に舞い降りたものをみて、私は開いた口が塞がらなかった。

 

――それは人の三倍ほどの大きさだった。

――それはバランスの取れた人の女の形をしていた。

――それは長い羽衣のようなものを翻していた。

――それは八枚の大きな翼をはためかせていた。

 

 驚くなんてものじゃない。そもそも彼女が使っていた守護霊が人型だったことにも驚いた。しかし今度はどうだ? まるでこちらが本来の守護霊とでもいうように、大きな天使はその存在を際立たせていた。

 天使の登場から吸魂鬼の動きが止まる。まるでこれ以上近づいてはならないとでもいうように。

 

 

「~♪」

 

 

 天使は宙に浮いたままゆっくりと口を開き、そして美しい声で歌いだす。それに合わせて全身から発せられる白銀の波紋。球状に展開、伝達された波紋に当たった吸魂鬼は、例外なく弾かれ、はるか遠くに飛ばされ、その場から逃げていった。

 ものの数秒で吸魂鬼は撃退され、私たち三人と守護霊だけが残った。周りにはもう吸魂鬼の気配はない。凍り付いた地面や大気も、マリーの守護霊によって再びぬくもりを取り戻している。

 

 

「二人ともごめんなさい。もう…限界……」

 

 

 力を使い果たしたのか、前方に倒れこむマリー。しかしその体は天使によって支えられ、ゆっくりとシロウに渡された。そして天使は二人を包み込むように一度輝いたのち、魔力へと還っていった。

 後方から複数の足音が聞こえてくる。異常を察知した誰かが来たのだろう。さて、彼女は医務室で休ませて、私とシロウは事後処理にあたるとしますかね。

 

 

 




はい、今回はここまでです。
マリーさんの完全態守護霊は、八枚翼の天使でした。外見イメージは、デジモンのエンジェウーモンを思い浮かべていただければ。
さて、次回は事後処理とクィディッチ優勝杯のさわりまで行こうと思います。

それでは今回はこの辺で。感想お待ちしております。



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17. クィディッチ優勝戦、開幕


「…む?」

「? どうしました、シロウ?」

「いや、どうやら召喚されたようなんだが、どうも様子がおかしい。む? 戻ってき…ッ!?」

「何かあったのですか?」

「……アルトリア」

「はい、なんでしょう」

「急いでメデューサ、メディアを呼んでくれ。私はクー・フーリンとヘラクレスを呼んでくる。あと不本意ながらあの全身入れ墨小僧もな」

「どうやら緊急の様ですね」

「ああ。あのエミヤシロウのいる世界に異物が作られていたようだ。詳しい話は皆が集まってから話す」

「わかりました、待っていてください」





 

 

 目が覚めると私は医務室にいた。空にはすでに太陽が昇りきり、今はどんなに早く見積もっていても10時過ぎだろう。どれほどの時間眠ってしまったかはわからないが、少なくとも数時間は確実経過している。

 ベッドの小脇にあるカレンダー付の時計に目を移す。日付は叫びの屋敷に向かった日の次の日になっていた。ということは丸々一日寝ていた、ということはないだろう。

 

 

「む、起きたのか」

 

 

 小机とは反対側のベッド脇から声が聞こえた。そちらに顔を向けると、ブラックさんが足を組んで椅子に座っていた。手には何やら書物を抱えている。

 

 

「はい、ちょっと体がダルイ程度です」

 

 

 正直な感想を述べる。おそらくあの守護霊魔法を連続使用した弊害だろう、体中の力がほとんど沸いてこない。

 

 

「無理に動かなくていい。今の君は魔力がすっからかんだからね」

 

「なら寝たままの体勢で失礼します」

 

 

 私は大人しくベッドに横たえ、顔だけをブラックさんに向けた。

 

 

「……ブラックさん、あの後どうなったんですか? 正直守護霊を出して吸魂鬼を追い払ったところまでは覚えてますけど」

 

「シリウスでいいよ。あの後私たち三人は回収され、医務室(ここ)に運ばれた」

 

 

 ブラックさん、シリウスさんによると、私が気絶した直後に校長先生たちが戻ってきたらしい。ペティグリューに逃げられ、狼男になって聖骸布で拘束されていたルーピン先生のこともあり、校舎内を通らずに特別に空間移動を使用したそうだ。まぁ先生を見られたらパニックになるだろうしね。

 それでまぁ私は即座に医務室に搬送、ブラ…シリウスさんは魔法薬を用いた尋問で無罪が判明して釈放、シロウの素性が大臣とボーンズ女史にのみ知られるという形になった。ルーピン先生は新しい職場を大臣が工面すると言う条件でホグワーツ教師を今年いっぱいで退職、吸魂鬼は学校からすべて撤退させ、ペティグリュー捜索に移る方針で決まったそうだ。

 

 

「私は無罪になったが如何せん冤罪でも前科(マエ)持ちでね、しばらく就職に困るがまぁ大丈夫だろう。丁度ダンブルドアが新任を探しているみたいだしね」

 

 

 シリウスさんはこともなげに言う。ちなみにシリウスさんの無罪放免はすでに公表されており、真犯人が実は生きていたペティグリューだったことも公然の事実になったらしい。大臣は責任をとって辞職しようとしたが、色々あって職務続行となったようだ。とりあえず、あのガマガエル女が関係しているだろうと睨んでいる。あのオバちゃん、大臣大好きな蛙だったし。

 

 

「ところでマリー、ひとついいかい?」

 

「? 何ですか?」

 

 

 先ほどまでの若干重い空気とは異なり、比較的明るめの声をシリウスさんが出した。

 

 

「実は私の住居はロンドンにあってね、キングスクロス駅とも近い。よければだが、一緒に住まないかい?」

 

 

 突然の同居の申し込み、いや、この場合名付け親が引き取るってことなのかな?

 でもある程度予想はついていた。シロウとシロウの戦いの前に話していた内容からして、シリウスさんは既ににこのことを考えていたのだろう。私は…

 

 

「…ごめんなさい。提案は嬉しいけど、成人するまで住居から移ることはしません」

 

「理由を聞いていいかい?」

 

 

 シリウスさんは特にショックを受けた様子も見せず、冷静に理由を聞いてきた。たぶん私の答えもある程度予想していたのかな。

 

 

「二年前までの私なら、喜んでその提案を受けていたでしょう。でも今暮らしている叔母一家は、最初は私を疎ましく思っていたでしょうが、それでも十二年私を育ててくれました。今は態度も軟化し、私を一員として認めてくれています。彼らに恩返しをするまで、私は彼らの元を離れるつもりはないです」

 

 

 これが私の正直な気持ちだ。それに一年前の9月、マージ叔母さんが来る前に気づいたことだけど、あの家には何やら守りのようなものが働いていた。たぶん、私があの家に来たときに、ダンブルドア先生あたりが魔法をかけたのだろう。詳しいことまではわからなかったけど、先生を安心させるという意味でも、私は今年もプリベット通りに帰る。

 

 

「…そうか。それならしょうがないな」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 

 少し申し訳ない気持ちになり、もう一度謝罪の言葉を出す。しかしシリウスさんに顔を向けると、この人はスッキリとした顔をしていた。

 

 

「まぁ予想はしていたよ。でもたまに遊びに来るといい」

 

「はい」

 

 

 それから私は検査の時間まで昔話を聞いていた。どうやら私の父は何でもできる人気者だったらしいが、どうにもスネイプ先生と馬が絶望的に合わなかったらしい。それはシリウスさんとも同じで、途中でマダム・ポンフリーに補充する薬を持ってきたスネイプ先生と険悪な雰囲気になっていた。

 話を聞いているうちに体も動くようになったので、夕方には退院となった。でも結局シロウは医務室に姿を見せず、シリウスさんに聞いても大事な話をしているの一点張りだった。でも夕食時には現れ、私と一緒にみんなから揉みくちゃにされた。

 

 

「ねぇねぇ、昨晩寮にいなかったけどどうしたの?」

 

「昨日のあの爆発みたいなの、何か知ってる?」

 

「僕もしかしたら昨日天使を見たかもしれないけど、何か知らない?」

 

 

 こんな質問をあちこちから浴びせられた。正直魔力が空になっただけとはいえ、病み上がりにこの事態はきつかったため、出来得る限りの笑顔を浮かべて拒否の意思を示すと、みんな顔を青ざめさせて自分の席に戻っていった。私笑顔浮かべていたはずなんだけどなぁ。

 その日の夕食は、何を食べてもおいしく感じられた。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 シリウスさんが無罪放免になって早二ヶ月経過した4月中ほど、私を含めたグリフィンドール・クィディッチチームは優勝戦にむけて猛練習を重ねていた。今年はロンのお兄さんが卒業して以来の優勝戦らしい。

 ロンの次兄、チャーリーさんがチームにいた時を最後にグリフィンドールは一度も優勝しなかった。それが今年になって急に優勝手前と来たのだ。選手も寮生も、果ては公平さで有名なマクゴナガル先生までピリピリしていた。

 落ち着きがなかったのはグリフィンドール生だけじゃなかった。他の三寮の生徒もまたピリピリしており、特に対戦相手のスリザリンはグリフィンドールチームのメンバーに度重なる嫌がらせをしてきた。

 

 あるスリザリン生はフレッド・ジョージのペアに対して呪いを放ち(シロウの護符で防御・反射済み)、あるスリザリン生はチェイサーの三人に態とおできのできる薬をぶちまけたり(シロウによってお仕置きされた)、あるスリザリン生は箒に細工をしようとしたり(シロウ手製の結界に引っかかってOUT)などなど、考えつく限りの嫌がらせを受けた。

 私もスリザリン生との合同授業の時に嫌がらせや精神的いびりを受けたけど、先生の機転やシロウの機転、私の事前準備もあって効果を為さなかった。それによってマルフォイが非常に悔しそうな顔をしていたのは記憶に新しい。

 

 

「いいか? スニッチを捕るのは必ず俺たちが五十点差つけてからだぞ」

 

 

 試合前日、談話室で行われているミーティングでウッドは私に言う。この話は両の手じゃあ数えきれないほど言われている。

 

 

「いくらスニッチを捕っても、総合得点で二百点勝っている奴らに追いつくことはできない。いいなスニッチを捕るのは俺たちが必ず五十点以上差をつけてからだぞ。わかるな? スニッチをとるのは…『…ウッドさん』ッ!? な、なんだいマリー?」

 

「何度も言わなくても理解しています。明日の試合がとても大切なのも、どういうスニッチの取り方をすべきなのも。ですから、ね? 焦らないで、キャプテンなんですからもっとドッシリと構えてください」

 

 

 前日だからこそ、冷静にいつも通りに振る舞わねばならないのに、肝心要のチームリーダーがこうも不安定な状態だと、ほかの人にも影響が及んでしまう。現にフレッドとジョージなんていつも以上にハイテンションになってしまっている。

 

 

「……ミーティングはこれで終わりだ。各自しっかりと体を休めるように」

 

 

 それから数分後、ミーティングは無事に終了し、皆思い思いの活動に勤しんだ。私は残った課題を唯一冷静なシロウと一緒に終わらせた。

 落ち着かない空気の中、私は早々に寝室へと向かう。既にパジャマは用意されており、ハネジローはその小さな体を布団にうずめて寝息を立てていた。この子の寝顔を見ていると、どんな嫌なことも気にならなくなる。子供を持ったらこんな感じなのだろうか? 愛おしさが溢れてきて、意図せずしてハネジローの頭を優しく数度撫でる。

 手の動きに合わせながら布団から少し出た尻尾を振るハネジローに微笑みつつ、私もベッドに入る。今夜は夢見がよさそうだ。

 

 次の日、待ちに待ったクウィディッチ優勝戦が開幕するということで、観客席はいつもの何十倍もの盛り上がりを見せていた。グリフィンドール側の観客席には大きな垂れ幕がいくつも並び、優勝への期待を膨らませているのが判る。

 

 

「みんな、準備はいいな?」

 

「「「「おう(ええ)!!」」」」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

 ウッドの掛け声とともに各々箒を手に取る。私も身の丈ほどのファイアボルトを担ぎ、フィールドへと向かう。仕切りのカーテンの先からは、喧しいほどの歓声が聞こえる。スリザリンチームが先に入場したのだろう。続いて私たちの目の前のカーテンも開いた。途端聞こえる、先ほどの何倍もの歓声。

 

 

『さぁグリフィンドールの登場です!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が響き渡る。

 

 

『彼らは何年に一度出るか出ないかのベスト・チームとの呼び声が高いです。まずはキャプテンのウッド、続いてチェイサー三人娘のアリシア、アンジェリーナ、ケイティ』

 

『そして人間ブラッジャーのフレッド&ジョージ・ウィーズリー!!』

 

「「俺たち、参上!!」」

 

 

 まるで日本の歌舞伎のようなポーズをとりながら入場した双子に会場は笑い、ウッドは拳骨で叱り飛ばしていた。

 

 

『そしてホグワーツ史上最年少でチーム入りを果たした、マリーの登場です!! 彼女がどのようなプレイをするか、今日も実況の腕がなります!!』

 

 

 いや、変に期待されても困ります。お願いですからいつも通りプレイできるよう集中させてください。そこ、ロンはあとで覚えておきなさい、そんな期待100%の目を向けないで。

 

 

『クワッフルが投げられ、試合開始です!!』

 

 

 心の中で葛藤している間に試合が始まった。なんとも締まりのない始まり方で我が事ながら情けない。

 

 

 

 

 





早いもので初投稿から一年経ちました。
あと2,3話で三巻も終わります。そんでもって間に他を更新ということはせず、続けて四巻の更新に移ります。


今後もよろしくお願いします。




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18. Quidditch Final




「それで、なんで私たちを呼び出したのでしょう?」

「返答次第ではこの場でボロボロにするわよ、坊や?」

「君らも多少は問題視すべき事態が起こっている。それと私を坊やと呼ぶな」

「いいからもったいぶらずに言えって。これだからキザ野郎は」

「お前も挑発するでない。エミヤシロウ、続きを頼もう」

「ああ、実は先ほど召喚されたのだが…」

「それだけ?」

「それが正規の召喚ではなかった。少なくとも、元守護者であった私が看過できないレベルの異物によるものだった」

「ああ、そういうことか。どうりで俺様の分身の力が増えているわけだ」

「まさか、聖杯に関係することが?」

「そこまでは分からん。だが我らが一度、とある並行世界に呼び出された時よりも不味いものだ」

「あの世界か。再び狂化し、剰え幼き主に刃を向けた」

「ああー、俺もおめーもバゼットにやられたっけ」

「私は確か、イリヤスフィールともう一人の黒髪の少女に。確か二人とも自我のあるステッキを持っていました」

「あのときよりも不味いものが…」

「……!?」

「どうやら…」

「次はあんたみたいだねぇ。クククッ、さぁどうする、正義の味方さん」






 

 

 

 試合開始のホイッスルと共に、私は上空に舞い上がった。正直こちらが五十点リードするまで私はスニッチを捕まえることが出来ないので、マルフォイを妨害する以外やることがない。また、箒のスペックが圧倒的に私が勝っているため、向こうが少しでも動けば、回り込んで進路妨害が出来る。

 

 

『グリフィンドールの得点で、現在三十対十とグリフィンドールがリード!! さぁ現在クアッフルはスリザリンチームに—―いや、グリフィンドール――いや!!――スリザリンが取り返し――いや!!!! グリフィンドールが奪い返しました!! クワッフルは現在アリシア選手の手に。そのままゴールに直進してます。いけっアリシア、シュートだ―――あいつめ、わざとやりやがった!!』

 

 

 ゴールに進むアリシアさんをスリザリンが妨害した。妨害するのは問題ではない。論点はその方法である。あろうことかキャプテンであり、チェイサーでもあるマーカス・フリントが、アリシアさんの髪の毛を鷲掴みにして箒から落そうとした。果てはその行為に対し、

 

 

「わりーわりー。クワッフルと間違えたわ、ハハハ」

 

 

 と反省ゼロのこの発言。スリザリン以外の観客席からはブーイングが起こった。ホイッスルが鳴り、アリシアさんがペナルティシュートを決めると、再び試合は流れ出した。現在グリフィンドールが三十点リード中、あと二十点。

 

 

『さぁ気を取り直して、現在グリフィンドールの攻撃、アンジェリーナ選手がクワッフルを持っています。そのまま行けっ。ああ、駄目だ。フリントがボールを奪いました。フリント、グリフィンドールのゴール目掛けて飛びます。――やったー!! 信じられねぇぜ、ウッドがゴールを守りました!!』

 

 

 嬉しそうな声音の実況が響き渡る。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!

  てめえらがウッドの守備を破ろうなんざ十年早ぇんだよぉ!! 顔を洗って出直してきやがれ……すみません先生。ちゃんと、ちゃんと実況しますので許してください!!』

 

 

 ウッドさんがゴールを守ったことにより、スリザリン以外の観客席から歓声が上がった。というか本当に嫌われてますねぇ、スリザリンって。ボールはそのままケイティ選手が取り、スリザリンゴールへと向かっていった。

 

 ヒューッ

 

 突如風切り音が聞こえ、何かが私の耳元をかすめていった。どうやらスリザリンのビーターが私を潰そうとし、行動を起こしたらしい。私を挟み込むようにもう一人のビーターもブラッジャーを打ち込み、私は前後をブラッジャーで挟まれた状態になった。

 

 

『ああっと、グリフィンドールのシーカーがブラッジャーに…!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況に気づいた双子がこっちに来るが、すでに間に合わない距離にブラッジャーはある。スリザリンからは歓声が、他からは悲鳴が聞こえた。しかしだ。

 

 

「――potentiam magicam(魔力)、――circulation(循環)、――Corpus confirmandas(この身を強化せよ)

 

 

 言葉に魔力を乗せ、言霊を小声で紡ぐ。瞬間全身をめぐるエネルギー。同時にブラッジャーが背中と直撃した。

 

 

『ああーッ!? ブラッジャーが二つとも直撃してしまいました!! 大丈夫……ええええ!?』

 

 

 ジョーダンさんの驚きの声と共に四方の観客席、果ては両チームの一部を除いた選手から驚きの悲鳴が上がる。フレッドとジョージはむしろやっぱりという顔をしていた。

 私がしたのは単純。懐に入れた杖を媒体にしてシロウ達の使う魔術の真似事をしたのだ。理論はフレッドとジョージが確立していたので、あとは自分に適性のあるものを探るだけだった。結果、私は身体能力強化に向いていたみたいで、今回は単純に体を硬化させてブラッジャーの打撃を防いだのだ。

 

 

『な、なな、何ということでしょう!? グリフィンドールのシーカーはブラッジャーを食らってもピンピンしています!! 誰がこんなことを予想したのでしょうか!? 少なくとも自分は予想外でした!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が鳴り響く。両チームともに唖然としている中、いち早く復活したグリフィンドールチームが更に点数を加算したと同時に三度試合は流れ出した。

 まぁ確かにブラッジャー食らってピンピンしているのはおかしいかも知れない。それはわかる。けど、それ言ったらウッドさんはどうなんだろう? 最近は腹に受けてもピンピンしてらっしゃるけど。

 

 まぁそれは兎も角、ようやく五十点差が付いたので、ようやく私も動くことが出来る。いつもの高度に箒を持っていき、フィールドを一望するようにスニッチを探す。今日は快晴であるため、スニッチは動けばわずかに反射し、その煌めきを確認することが出来る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 マルフォイは自分で探すことをせず、私をマークすることにしたらしいが、流石に箒の差は理解しているらしい。私よりも低い高度で私を見張っている。更に言えば、私にはブラッジャーは意味がないと思われたようで、スリザリンはチェイサーを潰すことに専念している。しかし双子がそれを阻んでいるので、妨害を成功させることが出来ない。おかげで私はスニッチ探しに専念できる。

 

 互いに点数を取り合いながら十分が経過したけど、未だスニッチは現れる気配がない。グリフィンドールはリードをキープしたままである。私は全体を見渡す方向から、部分分けした範囲を探す方針に切り替えた。

 そして見つけた。グリフィンドールのゴールポスト足元に飛ぶスニッチを。マルフォイはまだ気づいていない。でも直接的に向かえば向こうも気づくだろう。ならスニッチから視線のみを離さず、ジグザグに動いてマルフォイを翻弄させる。

 案の定マルフォイはこちらの策に引っかかり、私が次にどこに行くのか予想できず、オロオロとうろつくばかり。少しは自分でスニッチを探せばいいと思うのだけれど。それじゃあマルフォイ、驚くのはまだ早いわよ。特訓の成果、とくとその目に焼き付けなさいな♪

 

 

『グリフィンドールのシーカーが動き始めました!! しかしついこの前までの試合まで見せなかったトリッキーな動き!! いつの間にか身に付けたのでしょうか? ファイア・ボルトのスピードも加わって何がなんだかわかりません!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が響くが、私とマルフォイはそれどころではなかった。私はスニッチとマルフォイの双方を気にしなければならず、マルフォイは私の動きを先読みしなければならない。

 そこに再び歓声が上がった。どうやらグリフィンドールが点数を増やしたらしい。マルフォイが一瞬私から気を逸らした。私から目を離した。

 

 

――ここだ!!

 

 

 直感に従って一気に加速してトップスピードに入る。恐らくマルフォイには真っ赤な風が吹いたように見えただろう。マルフォイが私に気づき、実況や観客が私に目を向けたときには、すでに私の手にスニッチはあった。

 

 試合場が爆発した。

 

 気が付けば私は揉みくちゃにされていた。女性選手からは抱きしめられ、男性選手からは背中を叩かれ、観客選手問わず声を嗄らして叫びながらフィールドで各々歓喜を表現していた。皆が嬉し涙を流し、飛び跳ね、真っ赤な旗を振った。

 フレッドに肩車され、フィールドの中央に運ばれる。そこには号泣するウッドさんと大きな優勝杯を抱える校長先生がいた。しゃくりあげながらウッドが渡した優勝杯を天に掲げて思う。これほど興奮したのは、これほど嬉しかったのは初めてではないかと。そしてこれは夢じゃないかと少しだけ不安になる。

 

 人だかりを見渡しながら、ふと選手入場口に目を向ける。聖骸布のマフラーはしてなかったけど、そこにはクリスマスの時に見た全身真っ黒けな服を着たシロウがいた。その手には大きなクリスタルが抱えられている。

 その表情は非常に柔らかく、優しげなものだった。少し伸びた髪から覗く鋼色の双眼は、敵と相対したときのような鷹のようなものではなく、まるで暖炉の炎のように暖かいものだった。そこでようやく、これが夢でないという実感が出来た。今この時は、私も自分の気持ちに素直に身を委ねよう。

 

 

 





大ッッッッッ変申し訳ありませんでした。
一ヶ月も更新できず、お気に入りにしてくださった方々をお待たせしてしまいました。
次回はエピローグです。そして次に召喚されるのは誰でしょうか。

今後も完結まで時間がかかると思いますが、よろしくお願いします。



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19. エピローグ

「ただいま~」

「おら、おかえりなさい」

「お兄ちゃんおかえり~。あれ?」

「お兄さん、後ろの方は?」

「ん? ああ悪い、紹介するよ。今回の仕事先のエジプトで会った…」

「…白銀浄ノ助だ」バァーン!!

「皆からはジョジョって呼ばれてるらしい。というかいつも名乗る時そのポーズなのな。あんたの爺さんもそうだし」

「…今度こそ普通にやろうとした…これもジョーンズの血統か」

「あはは、面白い子ね。ところで…」

「後ろに浮かんでる長髪の大男はなに?」

「ッ!? まさかこいつら…」

「ああ安心しろジョジョ。凛姉ぇも俺も、持ってなくても見えてただろ? 元となるエネルギーの使用方法、変換方法が違うだけで俺たち魔術師やシィには見えるんだよ」

「…そうだったな」

「まぁこの霊みたいなのはあとで説明するわ。それより今日の夕食には浄ノ助一行が加わるけど、庭でバーベキューとかどうだろう、母さん?」

「あら良いわね。何人いらっしゃるの?」

「……俺含めて、爺ぃとお袋、お祖母ちゃんのアリーチェFの四人だ…です」

「なら急いで準備しなくちゃね。四人とも手伝って」

「私は姉さんを呼んできますね。たぶん遠坂の屋敷にいますから」





 

 優勝戦から早三ヶ月、興奮が冷めない中でも試験結果は発表され、私たちの同級生は全員試験をパスしていることがわかった。ただまぁ何というか、シロウはちょくちょくシリウスさん絡みで授業を休んでいたため、総合評価で平均点丁度にされていた。

 

 この三ヶ月で目まぐるしく状況が変化した。まずルーピン先生がひっそりと辞めていき、防衛術の授業は一時的にスネイプ先生が兼任することになった。シリウスさんは向こうの世界で家事能力を鍛えられたらしく、学校の長期休暇期間は漏れ鍋で、それ以外は魔法生物飼育学の先生であるハグリッドの補佐をすること担っている。

 そして今日、荷物も汽車に積み終わり、あとは出発するのを待つばかりである。コンパートメントの椅子に座りながら、つい先日ダンブルドア先生と話していたことを私は思い出していた。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「私は、なにか役に立てたんでしょうか」

 

「どうしたのかね?」

 

 

 校長室でシリウスさんの今後について話を聞いていた夕刻。肩に乗っていた不死鳥のフォークスの頭を撫でながら、ぽつりとつぶやいた言葉に先生が反応した。書斎は夕日に染まり、仄かなオレンジ色の空間になっている。

 

 

「ペティグリューは逃げてしましました。それに、シロウの戦いも見ていることしかできなかった。もしかしたら、何か手があったかもしれないのに」

 

 

 既に起こってしまったことにケチをつけるのは間違っているだろう。でもこの数ヶ月、このことが頭から離れることはなかった。

 

 

「…可能性を求めることは間違っておらんよ」

 

 

 ダンブルドア先生は私の正面に座り、真っすぐ私の目を見つめて言葉をつづった。

 

 

「じゃが、起きたことは変えることはできぬ。否、変える方法は存在するんじゃが、それによって因果に狂いが生じて複雑に絡み合う。もしかすれば、今飲んだものか紅茶ではなくコーヒーであるだけで様々な事象がこの先変わるやもしれぬ」

 

「些細なことでも無限の可能性を孕んでおる。今回我々がペティグリューを逃がしてしまったことは、結果的にあやつの命を助けることに繋がった。そして予言通りになるのなら、間接的にヴォルデモートの復活にもつながるじゃろう」

 

 

 ダンブルドア先生は重々しく言葉を重ねる。

 

 

「望む望まぬに関係なく、人の道は繋がりによって形成されておる」

 

「…なんとなくわかります。少し違うかもしれませんが、二年前ヴォルデモートと向かい合ったとき、ほんのちょっとだけあいつの気持ちが流れ込んできたので」

 

「そうじゃな。あとはエミヤシロウとの契約も繋がりの一つと言えよう」

 

 

 そこまで言うと、先生は紅茶を一口煽った。肩にいたフォークスは止まり木に戻り、今は寝ている。

 

 

「……私は」

 

 

 暫く互いに黙ってカップを傾けていたところ、私から口を開いた。

 

 

「私は、まだ十三年しか生きていないのもありますが、人間が出来ていません。ペティグリューは私の両親なら進んで助けるといいました。ですが、私は彼を見捨てました」

 

「両親は両親であって君は君じゃ、思い悩むことはない。子は何かしらの形で親を受け継ぐ。君の場合、視認できるものでいえば髪色と虹彩の色。精神面も然りじゃ。君の守護霊(パトローナス)は天使の姿をしておったのう。魔法を使う前に、何かあったのじゃろう?」

 

 

 先生の問いかけに私は静かに頷く。

 

 

「自らの愛しきものが死ぬとき、その者が永久(とわ)に我々の元から離れると思うかね? 大変なことが我が身に起きたとき、その者に最も強く働きかけるのは経験、そして逝ったもの達の遺志じゃ。母君の願いと愛は、天使という形で君の前に現れたのじゃよ」

 

 

 優しく微笑みながら、しかしその目には悲しみを浮かべながらダンブルドア先生は言葉を紡ぎ終えた。

 

 

 

 

 

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 先日話していたこと思い返している間に、どうやら私は眠ってしまっていたらしい。汽車は既に出発しており、現在ちょうど中間地点に差し掛かるころだった。

 室内を見渡すと、シロウ以外の面子はみんな眠っていた。シロウはシロウで、大きな宝石を通して誰かと話している。あの宝石の虹色に輝いている感じからして、たぶんイリヤさんたちと話しているのだろう。柔らかい表情をしているから、たぶん深刻な話ではないだろう。私は軽く食事をとって再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、今度は家族全員で来るのか」

 

『ええ、紅葉も華憐も楽しみにしてたわよ。あと綾子の娘さんと蒔寺さんの娘さんも同行するわ。あと剣吾の友達も一人』

 

「隠蔽とかは大丈夫なのか?」

 

『ああ、今や冬木は協会公認の魔術・一般混合地として成り立ってるわ。だから世間でいう非人道的なもの以外は受け入れられてるわよ』

 

「そうか。なら安心だな」

 

 

 俺がいない数年の間にそのようなことになっていたとは、冬木だけなら過ごしやすいだろうな。

 

 

「ああそういえば、剣吾に留学の誘いが出てるぞ」

 

『もしかしてあんたの在籍している学校?』

 

「ああ、ダンブルドアが来年度一年間どうかとさ。まぁ、何やら外部の学校と連携してイベントごとをやるらしい。俺一人での護衛だと厳しいかもしれないから、保険として呼びたいそうだ」

 

『まぁ、そこらへんは本人に任せましょう。何ならエミヤ家全員で一年お邪魔しようかしら?』

 

「またイリヤが全面賛同しそうな話だな。そこらは君らに任せる」

 

『ええ。じゃあ来週ね。黒化英霊の話もその時しましょう』

 

「ああ、また」

 

 

 来週来るということは、ちょうどクィディッチ・ワールドカップ三日前にこちらに来るのだろう。どうやらウィーズリー一家と共にハーマイオニーやマリーも見に行くらしい。その時は俺たちもいく予定になってるため、恐らく現地集合になるだろう。

 宝石をしまいながら。自身の内面に意識を向ける。すると手元に一枚のカードが出てきた。

 

 あの日以来カードの暴走は起こっていない。アンリ・マユが言うには、俺が奴を撃破したことである種の封印状態になっているらしい。だが一応持ち主は俺となっているが、専用の道具がないとカードの本当の使い方ができないそうだ。

 頭にふと問題ばかり起こす杖(カレイド・ステッキ)が浮かんだが、頭を振ってそのイメージを祓う。同じ宝石翁製の道具なら剣吾も持っているため、あの子なら使えるだろう。

 

 今年も濃い一年だった。一人取り逃がすという失態をやらかしたが、当初の目的であるブラックの釈放というミッションは果たした。来年は色々と面倒が起こりそうな予感がするが、対処にあたるのが俺一人でないだけ随分とマシである。

 さてそろそろキングス・クロス駅に着く。お姫様たちを起こすとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故だ。

 

――何故あの()の鞘の気配がするのだ。あの鞘は永久に失われたはず。

 

――これは、確かめねばなるまい。この島国に(いにしえ)より在る『赤』として。

 

 

 

 




はい、ここまでです。
一年かけて三巻まで完結させました。今までは間にほかの更新を挟んでましたが、今後はこちらの完結に主軸を置き、閑話として他を更新する形をとります。
今後ともよろしくお願いいたします。

では今回はこの辺で、感想お待ちしております。




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炎のゴブレット
0. プロローグ



「みんな、久しぶりだな」

「「お父様!!(パパ!!)」」

「あらあら二人とも、やっぱ甘えたいざかりね」

「おおっとっと。二人とも、いくつになったんだ?」

「「8歳!!(4歳!!)」」

「そうか、もう二年経ったのだな」

「ふふふ。正確には二年と半年ですよ、お父さん」

「そうか。というと剣吾と紅葉は…」

「ああ、この前17になった」

「そして私は15です。高校一年になりました」

「俺は高校三年だな」

「そうか。時間が過ぎるのは早いな」

「でも、若いころのお父さんを見るのは新鮮ですね」

「そうねぇ。その外見は丁度紅葉が生まれた頃にそっくりだもの」

「というかそのままです」

「まぁ積もる話もあるが、場所を移ろう。葵君も綾音君も、そして初めて会うな、浄ノ助君もよく来た。この世界を楽しんでいくといい」






 最近同じような夢ばかり見る。

 どこかの村の外れにそびえ立つ大きな屋敷、その窓から眺めた先の小屋に、その屋敷の管理をしている一人の老人が見える。こちらが点けている明かりに気づいたようで、懐中電灯を片手に小屋から出てきた。

 ソファに力なく座る『自分』の目の前に一人の鼠面の男が寄ってきた。

 

 

「ワームテール、俺様をもう少し火に近づけろ」

 

 

『自分』の口から発せられるしゃがれた声。ワームテールと呼ばれた小柄な男はソファーを動かし、暖炉に近づけた。

 そこで周りに霞がかかり、周りの人間が何を言っているかがわからなくなった。ただ小柄の男が、何やら『自分』に諫められているのは分かった。しばらくすると霞が晴れ、再び声が聞こえた。

 

 

「もう一人の忠実なるしもべに伝えろ。ホグワーツでのことは逐一報告するようにと。ん? ナギニか?」

 

 

 蛇が『自分』の近くに寄り、シューシューと音を出した。応えるように『自分』もシューシューと音を出す。

 

 

「ワームテール、ナギニが面白い情報を持ってきた」

 

「さ、さようでございますか、御主人様」

 

「ああ。ナギニによれば、この部屋の扉のそばに老いたマグルが立ち聞きをしているらしい」

 

 

 それを聞くや否や、小柄な男は扉をすぐに開いた。すると蛇の言う通り、先ほど懐中電灯を持った老人が立っていた。それを察知し、『自分』はクツクツと喉の奥で静かに笑い声をあげた。

 

 

「どけ、ワームテール。客人をお迎えせねばな」

 

 

『自分』がそういうと小柄な男はどき、老人の姿が見えた。老人は『自分』の姿を見て、悲鳴を上げる。そしてその悲鳴に被せるように『自分』は言葉を発し、手に持つ杖から緑の閃光を飛ばした。

 

 

 

 

 

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 目が覚めた。

 体からは絞れるほどの汗をかき、激しく息をつく。少し落ち着いてから上半身を起こすと、ランプを片手に私を心配そうに見つめる二人の人物がいた。親友のロンとハーマイオニーである。

 

 

「マリー、大丈夫?」

 

「随分とうなされてたけど」

 

 

 ランプを小机に置き、ハーマイオニーは熱を測りながら、ロンはタオルを私に渡しながら訊ねてくる。それに対し私は首肯で返し、コップの水を飲み干した。

 落ち着いたところで、ベッドから体を下す。部屋には私たち三人と、未だスヤスヤとお休み中のジニーがいた。でも扉の外からは数人の気配がした。恐らく、私が魘されているのを聞き、心配してくれたのだろう。

 ズキズキと鈍く痛む首の傷跡を軽くもみ、大きく伸びをした。

 

 

「まぁ丁度いい時間に起きたし、私も準備するよ。大したことじゃなさそうだし。ほらジニー、起きる時間よ?」

 

 

 ジニーを起こし、みんなで階下の食卓に着く。「隠れ穴」は一昨年、アインツベルン家が訪れた際に改築され、ウィーズリー夫妻の希望に近い広さに変わった。なので、前回は外に出ないとできなかった十人以上の食事も、室内でできるようになっている。

 

 

「食事が終わったら、各自荷物を確認するんだ。ビルとチャーリーは大丈夫か?」

 

「いつでも出れるよ。いや楽しみだよ、みんなの言うエミヤ一家に会えるんだから」

 

「チャーリーもか、実は僕もだ」

 

「「二人とも驚くこと間違いなしだぜ」」

 

 

 楽しそうな会話をする五人。確かシロウ一行とは今日合流する予定だ。クィディッチ・ワールドカップの試合会場に直接向かうらしく、私たちもこれから会場に向かう。だが空間転移魔法を使うのではなく、魔法アイテムを使って会場に転移するらしい。「移動(ポート)キー」というそうだ。

 

 食事を終わらせ、各々荷物をまとめてキーのある場所に向かう。なんでもキーは所謂マグルの「ガラクタ」らしい。マグルの目から隠すための措置だそうだ。だから見つけるのも一苦労らしい。

 キーの置いてある林の中を探していると、奥のほうから声が聞こえた。

 

 

「アーサー、ここだ!! 息子や、見つけたぞ!!」

 

 

 声の聞こえた方向に向かうと、血色の良い髭を生やした男と見覚えのある青年がいた。

 

 

「エイモス!! みんな、この方はエイモス・ディゴリーさんだ。息子さんのセドリックは知ってるね?」

 

 

 ウィーズリーさんの紹介でそれぞれ挨拶する面々。ただ私の番になったとき、エイモスさんが過剰に反応したのは少し嫌だった。セドリックは私の落下の理由をしっかり伝えていたらしいが、そこは息子が一番という親ならではの心で頭からすっぽり抜けているようだった。

 

 

「ところで、キーはその二つのボロブーツですか?」

 

「ああ、その通り。指一本でも触れていれば大丈夫だ」

 

 

 エイモスさんに言われ、二手に分かれてキーに触れる。するとへその裏を引っ張られるような感覚に襲われた。二つのブーツを中心に空気が歪み、生じた渦に吸い込まれるようにして猛スピードで移動した。そしてしばらく移動したあと、私たちは地面に投げ出された。

 

 

「なんともまぁ、派手な登場の仕方だな」

 

「道具で空間転移だなんて、やっぱこちらとは違うのね」

 

「でもそれがいいんじゃないんですか?」

 

「それもそうね。みんな大丈夫?」

 

 

 懐かしい声が聞こえた。顔を上げると、長身の男性とその三人の妻の姿があった。シロウとイリヤさん、リンさんにサクラさんだ。

 

 

「これはこれは、お久しぶりです。また会えて嬉しいです。ほらみんな、挨拶だ」

 

 

 アーサーさんの紹介でエミヤ夫妻への挨拶を済ませる。その際エイモスさんとセドリックは、エミヤ夫妻の無意識の気迫に若干気圧されていた。ただ、やはり二人ともシロウとイリヤさんたちが夫婦とは気づけなかったみたいだけど。

 

 

「改めて、こんにちはシロウ。元気だった?」

 

「ああ、問題ない。君は……嫌な夢でも見たか?」

 

「ッ!?」

 

 

 流石シロウ、誤魔化せなかったか。

 

 

「ちょっとね。あとで話すわ」

 

「わかった」

 

 

 話をする際、イリヤさんたちも同席することになった。シロウに加えて奥さんの三人がいてくれるなら、何かしら収穫を得ることが出来るだろう。

 

 

「なぁなぁシロウ」

 

「剣吾はいるのか?」

 

 

 そこにフレッドとジョージが近寄ってきた。どうやら剣吾くんを探しているようだ。因みにディゴリー親子は既にこの場を離れている。私たちもそうだけど、事前に予約していた場所にテントを張るらしい。

 

 

「ん? ああ、今こっちに…」

 

「おっ、いたいた」

 

「ああ来たか。他の子もいるな?」

 

「おう、ちゃんといる」

 

 

 噂をすればなんとやら、剣吾君も合流してきた。ただ初めて会う子も4人ほどいる。

 

 

「ほれ、みんな自己紹介しろ。シィも、会ったことない人がいるだろう?」

 

 

 剣吾君に促され、リンさんとサクラさんにそっくりな子が、シィちゃんが、そして年上のお姉さん二人と大きな男の人が前に出た。

 

 

「初めまして、間桐紅葉です。母・間桐桜と父・衛宮士郎の娘、衛宮四兄姉妹(きょうだい)の長女です」

 

 

 優美さを兼ねて、自然にお辞儀をする紅葉さん。

 

 

「初めまして、私は遠坂華憐。母・遠坂凛と父・衛宮士郎の娘、衛宮四兄姉妹の次女です。以後、お見知りおきを」

 

 

 優雅に片手を胸に当て一礼する華憐ちゃん、流石はリンさんの子供。

 

 

「シルフェリア・フォン・E・アインツベルン!! シィって呼んでね!! 一番下だよ」

 

 

 そして元気よく片手を挙げて挨拶するシィちゃん。可愛らしい彼女の様子に、一同破顔する。後方にいたちょっとゴツい男の人でさえ、口元にちょっとした穏やかな笑みを浮かべている。

 

 

「柳洞綾音、剣吾の同級生で幼馴染だよ」

 

「同じく同級生で幼馴染の蒔寺葵だ!! よろしくな」

 

 

 お姉さん二人が挨拶する。二人とも美人だなぁ、リンさんとはまた違う強さと、シィちゃんとは違う活発さを感じる。

 

 

「…白銀浄ノ助、剣吾(こいつ)の友人で、一応年齢は16だ」

 

「「「「え"ッ!?」」」」

 

 

 最後の浄ノ助さんの紹介に、私たち面々は口を阿呆のように開けた。シロウに迫る身長に、シロウ以上の筋骨隆々な体。そして何というか、シロウやイリヤさんたち、剣吾くんのように命の駆け引きをしていたような気配がする。とても日本の高校生には見えない。

 

 

「まぁ積もる話もあるだろうし、試合までテントで休んでおこう。俺たちの場所はウィーズリーさんたちの隣だ。案内しよう」

 

 

 シロウの先導で私たちはテントの場所に行くことになった。道中女子陣は女子陣で、男子陣は男子陣で友好を深め、テントに着くまでに仲良くなった。

 それにしても剣吾君、ジニーに加えてアオイさんとアヤネさんにまでフラグを立ててたなんて。これじゃあ親子そろって一夫多妻になっちゃうかも。

 

 

 

 




はい、ここまでです。
四巻以降は原作で上下巻あるので、細かく描写すべき部分とそうでない部分を分けようと思います。ですので、今回はプロローグでしたが、ちょっと駆け足に行きました。
さて、ハリポタの世界にきた衛宮一家+α、今後どうなるのでしょうかね。

因みに浄ノ助、この世界の承太郎の位置にいる少年は波紋を使え、剣吾も彼に波紋を教わったので使えます。


では今回はこの辺で。感想お待ちしております。



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1. ワールドカップと襲撃



お待たせしました。では更新いたします。





 

 

 

「いやはや皆さん、息災でしたか?」

 

「ええ、おかげさまで。息子さん達もウィーズリーさんもお元気そうで」

 

「はい。妻共々、家族一同元気にやっております」

 

 

 エミヤ夫人達と談笑しながら、私たちは指定の場所に向かっていた。どうもエミヤ一行と私たちのテントは隣同士らしい。だから結構な大人数が、色とりどり、様々な飾りのついたテントの列を縫うようにして移動する。

 

 

「毎度のことだが」

 

 

 ウィーズリーおじさんは微笑みながら、でも少しの呆れを交えながら口を開いた。

 

 

「大勢の魔法使いが集まると見栄を張りたくなるらしくてね。あんな感じで派手になっちゃったりすることが大概なんだ。認識阻害を張っているとはいえ、一応ここはマグルの土地なのにね」

 

「「まったくだ(ね)」」

 

 

 おじさんの発言に、エミヤ夫妻が同調する。

 

 

「魔の道に入った、いや、『普通』から逸脱した存在である私たちは、隠蔽を常に心がけねばならないというのに」

 

「本当よ。この世界は暮らしやすいのではなく、『魔法』に絶対的な信頼を持ちすぎね」

 

「慢心はいらぬ悪状況を生み出しかねん。そこらへん、この世界は認識が甘すぎる」

 

「あはは…」

 

 

 もうボロクソな言われよう。サクラさんは三人に対して苦笑を浮かべている。でもまぁ、確かにシロウたちの言っていることは的を射ているため、反論のしようがない。彼らの言葉が聞こえた名前も知らない魔法使いたちは、気まずそうな顔や眉を顰めたりしていた。

 辿り着いた場所にはまだテントは立っておらず、エミヤとウィーズリーを示す立札が地面に刺さっっているだけだった。私たちは荷物を置くと、早速テントの設営に取り掛かった。といっても魔法は使わず、手作業で組み立てる、加えて手慣れてるエミヤ一家の指導もあって、何故か十分ほどで二つのテントが立った。

 

 

「よし、と。地図を見る限り、この場所は競技場のすぐ裏手の森の端らしい。とても近い場所だ」

 

「試合はいつからなの?」

 

「試合は明日の夜、8時からだ。それまでの食事等は一切魔法なしでやるぞ!! 一度やってみたかったんだ」

 

 

 夜に試合があるのか。私たちは問題ないけど、シィちゃんは大丈夫なのだろうか?

 

 

「シィ、眠くなったら寝ても大丈夫だからな」

 

「ん、パパかママに抱っこしてもらう」

 

 

 成程。シィちゃんは自分が眠る時間を決めてるわけだ。ならあまり心配はいらないかな。

 それから私たちはシロウたちの指導の下、何故か野営の基礎を学びつつ、食事やお風呂(これまた何故か大きなドラム缶製の)などの準備を済ませた。流石経験者だけあって野草毒草などの知識も沢山あり、私たちは普通じゃ学べない知識を取り込んでいった。

 

 

「そういえば剣吾」

 

「ん?」

 

 

 到着してから次の日、昼食を摂っているときに浄ノ助さんが口を開いた。白銀浄ノ助君、日本の不良のような見た目とは違い、勉強ができるらしい。基本的な会話は私たちに合わせてくれており、英語で話してくれている。ちなみにシィちゃんたちが英語を話せているのは気にしていない。アオイさんやアヤネさんは、魔道具で常時翻訳されているらしい。

 

 

「この前世界を超えたらしいが、何してたんだ?」

 

「ああ、あのときか。あれは師匠に頼まれてな、とある世界に救援に行ってたんだよ」

 

「ならなんであんな落ち込んでたのよ?」

 

 

 アヤネさんも便乗して剣吾君に質問する。ウィーズリー一家、特にパーシーさんやチャーリーさんビルさんは、貴重な体験談に興味津々らしい。でも健吾さんは首を振り、それ以上は語ろうとしなかった。でもそれだけで分かった。彼にとって、重要な出会いと別れがあったのだろう。

 

 

「暗い話はここまでにして、今回の試合、クィディッチって競技の詳しい話が聞きたいけど」

 

「「任せろ!!」」

 

 

 話題を変えた剣吾君に、フレッドとジョージが乗っかった。シロウ以外のメンバーも詳しいことは分からなかったらしく、それから試合の時間まではロンを加えたウィーズリー三兄弟によるクィディッチ解説を聞いていた。ついでに言うと、シィちゃんは途中からお昼寝に入ってジニーが面倒をみてた。

 私はというと。

 

 

「成程。夢という形で経験の共有か」

 

「今までこんなことはあったの?」

 

「いいえ、今年に入ってからです」

 

 

 奇妙な夢についての相談をしていた。エミヤ夫妻におじさんを交えて話を聞いてもらっている。予めどう話すかは要点を纏めていたので、すぐに話し合いは始まった。

 

 

「…一つ考えられるとすれば奴が…ヴォルデモートが力を増していることだろうな」

 

「力を増している?」

 

 

 おじさんが怪訝そうな顔をする。

 

 

「ペティグリューが逃走したことにより、奴を復活させるために動ける部下が一人増えた。恐らく、感覚共有はその過程で発生した魔力の制御ミスによるものだろう。その傷を介してな」

 

 

 シロウは私の首元を指差して言葉を発した。やはり数か月前、ペティグリューを逃がしたことが痛手だった。ヴォルデモートは近いうちに必ず復活する。そして私の前に立ちはだかる。

 

 

「そのヴォルデモ―太? ヴォルヴォロス? ってやつは、今は一人じゃ何もできないんでしょ? だからマリーから覗かれていることにも気づけない」

 

「でもいつか、近いうちに気づくと思います。そして聞いた通りの人間なら、それを躊躇なく利用してきますよ」

 

「サクラの言う通りよ。ロクでもない奴はロクでもない方法を躊躇なく使うわ」

 

「なにか対策はないだろうか」

 

 

 エミヤ夫妻は考え込み、現状を打開する策を練り始めた。私も何かないかと考えを巡らせていた。

 そのときふと一つのイメージが思い浮かんだ。傷跡は、ヴォルデモートと私を繋ぐ、見えない絆のようなものとダンブルドアはおっしゃっていた。ということは、これはシロウとの間に繋がっているラインのようなものではないのか。

 その旨を話すと、満場一致でその方法が取られることになった。そして今年在学中に、基本は一緒にいれるシロウから、たまにリンさんやイリヤさんたちからラインを閉じる方法を教わるということで解決した。

 

 

 

 

 

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 話し合いが終わるころには外は夕方になっており、私たちは早めの夕食をとってスタジアムに移動した。

 スタジアムには既にひとがひしめき合っており、移動するのも一苦労だった。幸い私たちはみんな指定席のチケットだったため、席の心配はしなくてよかった。でもそれでも一つ一つの席の間隔が狭かったため、比較的小柄な私もほんの少し窮屈に感じた。

 その中で、ファッジ大臣の開会宣言のもと始まったワールドカップ。アイルランドとブルガリアの試合は、両チームともに『ファイアボルト』使用しているために、ものすごく目まぐるしく選手が動いている。余りの速さに、アオイさんやアヤネさんはついていくのがやっとみたいだ。エミヤ一家に関しては既に把握しているので、シィちゃんが見えていることには驚かない。

 と、暫く双方が得点しあう状況でシィちゃんがフィールドの一点を指差した。

 

 

「マーちゃん、あれキラキラのボールでしょ?」

 

「え?」

 

 

 シィちゃんの指差す方法に全員が視線を向けると、そこには細かくちょこまかと動いているスニッチがいた。驚いて両チームのシーカー、アイルランドのリンチ選手とブルガリアのクラム選手に目を移すけど、彼ら二人はスニッチを見つけた様子はなかった。改めてエミヤ一族は恐ろしく感じる。潜在能力が計り知れない。

 

 

『おおっと!! ブルガリアチームのシーカーが動いた!! もしやスニッチを見つけたのか?』

 

 

 アナウンスにつられるように、観客の視線がクラム選手に集まる。彼が突進する先には確かにスニッチがあり、アイルランドのシーカーも同様に突進していた。

 観客が応援を飛ばす。実況が喧しいほどの声量で騒ぐ。そして……

 

 

『クラムがスニッチを捕った!! しかし何といことでしょう!? 百六〇対百七〇でアイルランドの勝利です!! スニッチを掴んだのはブルガリア、しかし勝者はアイルランドです!!』

 

 

 実況のアナウンスが鳴り響く。あまりの結果に、私たちは唖然としていた。起きる可能性がある事態ではあるが、実際に直面すると言葉が出てこない。スニッチを掴んだのに勝てないなど、ショック以外の何物でもない。

 

 

 

 試合の興奮冷めやらぬ中、私たちは就寝のためにテントに戻った。私や剣吾君、浄ノ助君やお姉さん二人は既に寝る準備を始めていたけど、ウィーズリー兄妹やハーマイオニーは未だ興奮して騒いでおり、先ほど観た試合内容で盛り上がっていた。外も未だにみんなは騒いでいるらしく、火花が飛んだり、声が聞こえる。

 と、そこで浄ノ助さんと剣吾さんが顔をしかめてテントの外に出て行った。その顔が妙に真剣な時のシロウと重なって見え、私は嫌な予感が頭をかすめた。二人のお姉さんも同じらしく、パジャマに着替えずに身構えていた。

 そこに二人がより不快そうに顔を歪めてテントに戻ってきた。

 

 

「出ろ。上着と杖だけ持って出るんだ」

 

 

 有無を言わさない浄ノ助君の口調に異常を察知したのか、騒いでいたロン達も急いで準備をし、外に出た。

 外に出た瞬間目に映ったのは火の海だった。

 

 

 

 






うーん、纏まりが悪い。
一応学校に行くまでは映画準拠でいってますが、それにしてももう少し書きようがあるのではと感じてしまうホロウメモリアです。
さて、次回は学校に行くところまで行こうと思います。

ではまた。



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2. 闇の印と校長のお知らせ


こんにちは、ほぼ一週間ぶりですね。
それでは更新します。





 

 

 響き渡る悲鳴、鳴り響く轟音、燃え盛る炎、肌を焼く熱気。

 視界に、聴覚に、触覚に働きかけるものすべてが、今の状況を異常だと訴える。

 

 

「…紅葉!! 華憐!!」

 

「はい!!」

 

「ここにいます、お兄さん」

 

 

 剣吾くんが呼ぶと、私たちの後方から紅葉さんと華憐ちゃんが出てきた。確か彼女たちはシロウたちのテントにいたはず。

 

 

「皆を連れて森に入れ。一人も漏らすな。そして遮断結界と防御結界をそれぞれ張れ。シルフェリア!!」

 

「なに、お兄ちゃん?」

 

 

 指揮を執る剣吾君は、次にシィちゃんに声をかけた。まさか4歳の子供にも何かさせるのだろうか。彼女はまだ魔術の類は教わってないと聞いてるけど。

 

 

「お姉ちゃん二人が張った結界に力を入れるんだ。目に力を入れるように、指先から。わかるな?」

 

「あい!! わかるよ」

 

「お姉ちゃんが大丈夫と言ったら力を入れるのはやめていい。二人とも、頼んだぞ」

 

「わかったわ」

 

「はい。浄ノ助さん、どうか兄をお願いします」

 

 

 恐らく剣吾君はシロウたちと一緒に、事態の鎮静化に向かうのだろう。そして浄ノ助さんもそれに同行する。実戦経験の少ない、もしくは皆無な紅葉さんたちは、私たちの護衛にまわってくれているのだろう。

 私たちは剣吾君の指示に従い、森の入口により、紅葉さんたちの張った結界に入った。剣吾君は外装を変え、浄ノ助さんは長髪の大男を出しながら騒ぎの中心に向かっていった。紅葉さんによると、シロウたちは逃げ遅れた人たち、マグル魔法族問わずに救出に向かってるらしい。主犯の鎮圧は剣吾君達に一任したそうだ。

 

 

「な、なんだ貴様ら!?」

 

「俺に質問をするな」

 

「いい加減、うっとおしいぜお前らぁ!!」

 

 

 杖を構える間もなく次々にのされていく、今回の騒動の元凶である黒ずくめの集団。彼らに捕まっていたマグルたちも無事救助され、二人によって捕縛された。燃え移っていく炎はシロウとリンさんによって鎮火され、怪我人はサクラさんとイリヤさんによって治療されていく。

 と、そこにアーサーさんが近寄ってきた。

 

 

「みんな、もう大丈夫だ。結界から出てきていい」

 

 

 おじさんの一言に紅葉さんたちは結界を解除し、シロウさんのもとに寄った。

 剣吾君と浄ノ助さんによって捕縛された魔法使いは、一人を残して全員気絶させられていた。ついでにいうとその一人以外、全員顔が腫れあがっていた。

 

 

「『闇の印よ(モースモードル)』!!」

 

 

 突如後方から響いた声。振り向くと森の中から緑の閃光が打ちあがり、空で弾けた。

 空で弾けた光は緑に発行する靄となり、徐々に形作り、果たしてそれは一つの巨大な髑髏となった。口の部分からは一匹の長い蛇が鎌首を挙げ、胴体を幾重にも巻きながら顔を出した。

 あちらこちらで悲鳴が上がる。まるで再び恐ろしいものでも見たかのごとく、爆発的な悲鳴が上がる。同時に周囲で軽い爆発音、まるで試験管にためた水素に引火させたような音が響き、私たちの周囲が取り囲まれた。

 

 

「!? ◆▼●▼●◆!!」

 

「『麻痺せよ(ステュービファイ)』!!」

 

 

 真っ先に気づいた紅葉さんが結界を張り、恐らくルーン文字による、突如現れた魔法使いによる攻撃を逸らした。しかし魔法使いたちは執拗に攻撃呪文を放ってくる。

 と、急に攻撃が止み、代わりに気絶しそうになるほどの重圧がこの場を襲った。

 

 

「貴様ら、俺たちの子供に手を挙げるとは……死にたいのか」

 

「殴ッ血KILLのと捻ジ切ルの、どっちがいい?」

 

「クスクスわらってゴーゴーですね。ええ、くぅくぅおなかがすきました」

 

「あはははは。死ぬ?」

 

「ハードボイルドじゃないな。男の風上にもおけない」

 

 

 重圧の発生源は衛宮一家。自分たちに向けられているわけじゃないのに、息苦しくなる。二年前のロックハート時の比じゃない、周囲が凍り付くほどの重圧である。

 

 

「わ、わたしは…」

 

 

 魔法使いの中の一人が口を開いた。

 

 

「私は魔法省の役人のバーティ・クラウチだ。この近辺から闇の印が打ち上げられたことを確認し、部下と共に駆けつけたのだ!!」

 

「駆けつけた、な…」

 

 

 クラウチ氏の言葉を聞くや否や、ゴミでも見るような視線でクラウチ氏を眺めるエミヤ夫人たち。シロウと剣吾君は、そもそも目に感情がこもってなかった。言ってみれば、いつでも人を殺せる目、殺しをすることに躊躇がない眼をしていた。

 

 

「それにしては随分と遅い登場だな。既に鎮圧された後に駆けつけるとは、いやはや、魔法省は随分とドッシリと構えているのだな」

 

「ドッシリと構えすぎて、重い腰が上がらなければ意味がないけど」

 

 

 シロウと剣吾君による口撃を受けるクラウチ氏。その顔は真っ赤に染まり、怒りに爆発しそうになっていた。

 

 

「…見る限りあなたは犯罪者を捕まえる機関に所属するみたいだが」

 

「犯罪者の捕縛よりも、あの空の文様のほうが大切なのか? 犯罪者を捕まえることも大事だが、市民の安全を優先すべきではないのかね?」

 

「……」

 

 

 何もしゃべらないクラウチ氏。今この状況は、圧倒的に魔法省の人たちに不利である。

 

 

「まぁ貴様らが犯人を最優先するというなら、勝手に追えばいい。どうせ空間転移でもして追い付けんだろう」

 

「その代わり、こいつらを尋問するのはこちらにすべて任せてもらう。手を出すことは許さないからな」

 

「……君たちは何者かね?」

 

 

 沈黙を守っていたクラウチ氏が出せた言葉。それはシロウたちが何者かを尋ねる言葉だけだった。

 

 

 

 

 

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 

 

 

 

 ワールドカップの騒動から数週間後、私たちは新学期を迎えるためにホグワーツにいた。

 既に新入生の組み分けも終わり、食事も終盤にかかっていた。デザートを腹に入れ、夏の間の近況を話し、校長先生の締めの言葉を待った。

 ついでに言うと、今年は剣吾君が留学という形でグリフィンドールにいる。自己紹介ではイリヤさんの苗字を名乗り、シロウの親戚という形で今年を過ごすらしい。ただ自己紹介の時、思わずシロウをお父さんと呼びそうになったのはご愛敬かな。

 

 

「…さて、皆大いに食べ、大いに話したじゃろう。ここからはわしの話に耳を傾けてもらおうかのう」

 

 

 デザートが下げられた後、ダンブルドア先生が立ち上がった。

 

 

「ではまず、新任の教員を紹介しよう。アラスター・ムーディ先生じゃ、『闇の魔術に対する防衛術』を担当なさる」

 

 

 片方に妙な形の義眼を入れた初老の先生が立ち上がり、会釈をした後に自前の酒瓶から何やら飲んでいた。その顔は古傷で歪み、立ち方は片足に重心がかかるようになっており、義眼はギョロギョロとせわしなく動いていた。

 

 

「そして次にじゃが、今年は寮対抗クィディッチの試合は取りやめじゃ」

 

「うそだろ?」

 

 

 ジョージがぼやく。

 

 

「理由は今年、我らがホグワーツ魔法魔術学校で十月より、一年を通して行われるイベントのためじゃ。このイベントは非常に大きなイベントでの。準備期間等に莫大な時間がかかるんじゃよ」

 

「これはとても由緒ある伝統的なイベントじゃ。過去に夥しい量の死者が出たことにより、ここしばらくは中止されとった。じゃが今年いよいよもって復活することになり、我らがホグワーツで行われることになった。三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)が」

 

「御冗談でしょう!?」

 

 

 今度はフレッドが驚きの声を上げる。正直対抗試合(以下TWT)のことは露ほども知らないため、フレッド含めた生徒たちが騒ぐ理由がわからない。それほどにまで大きなイベントなのだろうか。

 

 

「今回はダームストラング、ボーバトンの二校を招くことになっておる。両校は今月中旬に本項に到着する予定じゃから、失礼にならんように。そして参加者は17歳以上のみとさせてもらう。それは数々の種目が危険なものであり、必要な措置であると考えたからこそである。ああそれと、ミスター・アインツベルンも参加不可能じゃ」

 

 

 校長先生がその後軽くTWTについて説明すると、今夜は解散になった。寮に帰る途中、生徒たちは対抗戦のことに夢中になり、話し込んでいた。

 

 

「17歳以上だけが参戦なんて、不公平だよな」

 

「どんな競技があるんだろう?」

 

「少しぐらいスリルがないと面白くないよ、あーあ、僕もでたいなあ」

 

 

 みんな思い思いの言葉を口にしている。でも忘れていないだろうか、過去に沢山の死者が出たという話を。私はそんな戦闘狂じゃないから出たいとは思わない。そして死を伴う競技なら、率先して観戦したいかというと首を横に振る。

 

 

「…なぁマリーさん、父さん。この世界の学生ってこうまでも危機管理能力がないのか?」

 

「…諦めろ、剣吾。むしろマリーだけでも()()()なのが救いだ」

 

「はぁ…母さん達が今度きたときが怖い」

 

「言うな。特に凛とイリヤはぶちキレるのご想像に難くない」

 

「救いがあるとすれば、母さんたちが今度来るのは来年の6月」

 

「そしてお前が出場しないことだ」

 

 

 私のすぐ隣にいるエミヤ親子。彼らは呆れ5割、絶望4割、怒り1割で会話をしていた。まぁでも、彼らの言うことはもっともだし、いくらか私にも当てはまる事柄もあるため、反論できない。

 私たちは魔法と言うものに絶大な信頼を置きすぎている。それは紛れもない事実であり、私たち魔法族の短所でもある。私たちが杖を振ったり、呪文を唱えている間に、現代のマグルは銃を持って指先を動かすだけで十分な殺傷をすることが出来る。魔法は万能じゃないのに、なんでもできると思いがちである。

 

 

「…そういえば、父さんは参加しないのか? 一応3〇歳だろ?」

 

「ん? ああそのことだが…」

 

 

 シロウは一旦そこで言葉を切り、上空から襲撃しようとしたポルターガイストのピーブスを撃退した後、再び列に戻って口を開いた。

 

 

「で、俺が参加するかだったかな?」

 

「ああ」

 

 

 シロウの言葉を、周囲の人はいつの間にか聞き耳を立てていた。と言っても、シロウと剣吾君について、ある程度事情を知っている人たちしか聞いていないけど。

 

 

「ああ。対抗試合だが、依頼で()()()()()()()()()()()()()()。まったく、迷惑極まりないな」

 

「…この世界においても大変だな」

 

 

 肩を落とすシロウと、その肩に手を置いて慰める剣吾くん。哀愁漂う二つの背中を見ると、やはり二人は親子なんだなぁと感じる。髪形や雰囲気など、異なる部分は多々存在する、が、理屈では説明できない部分で親子と感じさせる。

 

 なんか頭の中に「幸運E」という言葉が響いたけど無視しておこう。

 

 

 





今回はここまでです。
剣吾君が参戦、そしてワールドカップの騒動は衛宮一家+αにより鎮圧されました。これより先ホグワーツ側は剣吾君が、他二校を裏からシロウが対外敵サポートをする形になります。
さて、次回は二校がホグワーツに来ます。それでは皆さんまた次回。




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3. 愚者と来校者



大変遅くなりました。
課題もひと段落着き、ようやく時間もできたので更新しました。
纏まりがないですが、ごゆっくりと。





 

 

 

 新年度が始まって早一週間、ハグリッドとシリウスさんの指導の下で飼育学を学んだり、ロンの失言で占い学の宿題がどっさり出たりと、中々ハードな一週間を過ごしている。

 そして週末金曜日の昼食中のこと。マルフォイが『日刊予言者新聞』という魔法界の新聞を持って私とロンのところにやってきた。満面の笑みを浮かべてい様子からして、私たちにとって不快な話なのだろう。

 

 

「おーいウィーズリー!! 君の父親が乗ってるぞ!!」

 

 

 マルフォイの掲げている新聞の一面めには、ワールドカップの時の魔法省の失態について書いてあった。ワールドカップの時の杜撰な警備。主犯たちのマグルに対する被害。そして理不尽にも非難されているアーサーさんに関する記事だった。

 ロンのお父さん、アーサーさんは魔法省の「マグル製品不正使用取締局」に勤めているけど、今回の主犯たちがマグル製品に魔法をかけていたらしく、それを見抜けなかったとして非難されていた。

 

 

「この写真の建物は豚小屋かい? それともこんなものが君らの家なのかい?」

 

 

 マルフォイの挑発が続く。近くにいたほかの生徒は、スリザリン生を除いて嫌そうな顔をしている。心なしか、私の隣でナッツを食べていたハネジローも毛が立っている気がする。

 

 

「そう言えばポッターはこの家に泊まったそうだね」

 

 

 嫌らしいニヤニヤを浮かべながら、今度は私に顔を向ける。

 

 

「教えてくれ。これは本当に家なのかい? そしてそれともウィーズリーたちは豚と寝床をともにしているのかい? それとも、ウィーズリーの母親は本物の豚なのかい?」

 

 

 流石の言い草に、私もいい加減に腹が立ってきた。でもここで言い返したり殴りかかったりすれば、マルフォイと同類になってしまうから必死に自分とロンを抑えていた。ロンは今にも殴りかかりそうだったので、身体強化をして何とか私一人で抑えている。

 

 

「何の騒ぎだ?」

 

 

 そこに白髪紅眼、長身の男子生徒がやってきた。その肌は黒くなく、東洋人よりも若干白いような色である。シロウの長男の剣吾君だった。どうやら騒ぎを聞きつけてこちらに来たらしく、わざと遠回りしてマルフォイの後ろから近寄ってきた。わざわざ気配遮断まで使って。

 

 

「…何だい君は? 邪魔しないでくれるかい?」

 

「邪魔? なんのだ?」

 

 

 マルフォイがたてついていくが、すっとぼけるような発言をして躱す剣吾君。まるで生意気な子供と大人のやり取りを見ているようで、次第に怒りも収まってくる。

 

 

「だいたい君は外の人間のくせに、僕たちの事情に口出ししないでくれ。どうせ君も、エミヤの親戚なんて嘘で入ってきたんだろう? これ以上その汚らわしい”穢れた血”の口で言葉を発さないでくれ。どうせ下賤な君のことだ、君の家族も低俗極まりない、人というのもはばかれるようなものなんだろう?」

 

「……」

 

「図星かい? まったくこんな奴をこの学校に入れるなんて、この学校も堕ちたものだよ。父上が知ったらなんとおっしゃるか…」

 

 

 挑発と侮辱の対象は、ロンから剣吾君へと移った。聞くのも嫌な暴言にまた怒りを蓄積し始めていると、剣吾君が目配せしているのに気付いた。どうやらわざと標的を自分に向けさせたらしい。その証拠に、マルフォイは体ごと剣吾君のほうを向いている。

 

 

(…マリーさん、今のうちにロナルドさんを)

 

(ありがとう、剣吾君。あとでお礼するわ)

 

(お気になさらず。さぁ早く)

 

 

 剣吾君に促され、急いでロンをつれてこの場を離れる。大広間の出口に近づいたとき、後方から大きな物体が回転しながら飛来し、大広間からでて壁に激突した。壁にぶつかって床に落ちたそれはどうやらマルフォイだったらしく、床に這いつくばって呻いていた。

 

 

「…存外に弱いな。あれほど大口を叩いていたものだから、てっきり力に自信があると思っていたが」

 

 

 背後からゆっくりと近づいてくる人物。振り返らなくてもわかる、濃密な怒気を纏った剣吾君だった。まるでモーゼの海割りのごとく、人込みが分かれる中歩んできた剣吾君は、ゆっくりとマルフォイに近寄った。

 

 

「ノックしてもしもぉーし。生きてるか―?」

 

 

 剣吾君の問いに呻き声で答えるマルフォイ。その反応に、心底呆れたような表情を剣吾君は浮かべた。

 

 

「あ、生きてる。まぁいいや、そのままの態勢で聞け」

 

「小僧、人を貶すときはそれ相応の覚悟を持て。正直今回の貴様の発言は百回殺されてもおかしくない内容だぞ? たかが魔法を使えるだけで神にでもなったつもりか? 人外の化け物と理性持つ生き物の違いは出生じゃない。その者がどのような心を持っているかが重要なのだ。よく覚えておけ。今の貴様は、それこそ人と呼べないほど心が歪みきっている」

 

 

 それだけ言うと剣吾君は立ち上がり、その場を後にした。その後しばらく、マルフォイは悪夢に魘されたらしい。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 更に2週間が経過し、9月末の金曜日となった。この日は授業が早く切り上げられ、全校生徒は玄関近くに集められていた。時刻は夕方六時ごろ、ちょうど夕食時に来るようになっていたみたいで、今はキッチンがてんやわんやらしい(シロウと剣吾君談)。

 暫く待機していると何やら遠くのほう、上空に黒い小さな点が見えた。よく見ると、微妙に上下に揺れている。

 

 

「…父さん。 俺人生で初めて見た」

 

「実に約二十年ぶりだが、まさか再びあの姿を見ようとは。恐らく、ある意味彼女の子孫になるのか」

 

 

 片や興奮した面持ちで、片や辰化しそうな面持ちで言葉を紡ぐ親子。どうやら二人は黒い点の正体が見えているらしい。私ももう少し近づけばわかるのだけれど。

 暫く待っていると黒い点はだんだん大きくなり、ようやくなにかわかることが出来た。

 それは巨大な馬車だった。車を引いている馬はペガサスで、見る者を魅了するような真っ白な毛並みをしていた。車は巨大で、通常のもの数倍の大きさを誇っていた。

 まるで家のような馬車の扉が開くと、ハグリッドと並ぶほどの巨大な女性と十数人ほどの男女生徒が降りてきた。

 

 

「これはこれはマダム・マクシーム。息災かのぅ」

 

「ダンブリー・ドール!! お変わーりありーませんか?」

 

「お陰様で上々じゃ」

 

 

 女性とダンブルドア先生が挨拶を済ますと、女性、マダム・マクシームは自らの生徒たちに手招きすると、生徒たちは全員寒そうにしながらマダムの許に近寄った。見る限り全員17~18歳ほどの年齢に見える。

 ふとペガサスたちに目を向ける。4頭のペガサスは落ち着きなく足踏みしたり、首を振ったりしている。そしてどの子も一様にシロウを見つめてる。でも今までの生き物たちのように敬い畏れるようなものではなく、もっとこう懐きというようなものを感じられた。

 

 

「んー? ウーマたちが落ーち着きまーせん」

 

「ふむ、そうじゃのう……」

 

 

 ダンブルドア先生は考え込むような素振りを見せながら、視線だけシロウに向けていた。あー、先生の考えてることが手に取るようにわかる。あれはシロウに押し付けるつもりだ。

 

 

「のうミスター・エミヤ、そしてミスター・アインツベルン。この子たちをお願いできるかのぅ」

 

 

 校長先生の言葉に、盛大にため息をつく衛宮親子。しかし特に文句を言うことなく、ペガサスに近寄った。(くつわ)を外すと、ペガサスたちは一様に嘶き、シロウに頭を摺り寄せた。そして摺り寄せられたシロウはというと、口元に柔らかな笑みを浮かべながらその子らの額を撫でていた。

 

 

「やはりというべきか、彼女が召喚した彼女の子ともいうべきものの子孫なのだな。魔眼はないみたいだが、その特徴的な瞳と虹彩の色は彼女のだ」

 

「へぇ。父さんの話でしか聞いたことなかったけど、確かに美しい」

 

 

 シロウと剣吾くんに連れられたペガサスたちは、大人しくハグリッドの小屋の方向に連れていかれた。

 暫く待っていると、再び周囲がざわつき始めた。視線を騒ぎの許へと向けると、いつの間にやら湖に巨大な帆船が姿を現した。大きさ的にはホグワーツの大広間ほどはあるだろう。湖の湖畔にその身を寄せた船は、胴体の脇にできた入口から、ダンブルドア先生並みに年老いた先生と多数の厳つい男子生徒が降りてきた。

 

 

「ダンブルドア!!」

 

 

 先頭の老人が上機嫌で校長先生に駆け寄っていく。

 

 

「懐かしいのぅカルカロフ」

 

 

 先生も応えるように老人に駆け寄り、両の手を握って握手をした。その時老人の目が見えたが、私はその瞳奥に非常に冷たいもの、そして感覚的に彼が臆病そうな印象を受けた。そして不自然に左手を隠すように動くさま。カルカロフ本人は隠しているつもりだろうが、事実周りの人や彼の生徒たちは気にしていないが、ダンブルドア先生もチラリとカルカロフの左腕に目を向けていた。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
マルフォイのセリフ、元ホムンクルスで今は人形の体であるイリヤと、彼女を母に持つ剣吾とシルフェリアに対する最大の侮辱と言っても過言ではないです。剣吾君はなけなしの理性を持って素の本気で殴り飛ばすに留めました。
さて次回は炎のゴブレットの登場、マリーは巻き込まれるのか、それとも観戦になるのか。お楽しみに。




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4. 炎のゴブレット



――我は壊すもの
――我は創るもの
――我は古
――我は新
――我は真
――我は偽
――壊そう
――護ろう
――この世界を





 

 

 

 フランスのボーバトン校と北欧のダームストラング校が来た翌日、ダンブルドア先生によって選抜方法が発表された。口から蒼い炎を燃やす巨大な杯、「炎のゴブレット」によって選抜されるらしい。なんでも自分の名前を書かれた紙を今日一日の間にゴブレット入れ、明日発表されるのだとか。

 更に校長先生は念のため、「年齢線」なる結界をゴブレットの周りに張るそうだ。これによって17歳以下は弾かれる仕組みになっているらしい。

 双子のフレッドとジョージが「老け薬」なる魔法役を調合し、ゴブレットに名前を入れようと企んだけど、案の定結界に弾かれてしまった。

 

 

「忠告したはずじゃよ」

 

 

 突然姿を現したダンブルドア先生が、口元に微笑を浮かべながら言葉を発する。

 

 

「過去にもそう考えた人間はいたのでのう。じゃがワシがそれを見逃すとでも思うたかのう。まぁ二人の行動力は素晴らしいと思うがのう」

 

 

 クスクスと笑いながらその場を後にする先生。うん、やっぱり先生はただものじゃない。と、そこに一際大きな歓声と共に一人の生徒がやってきた。ハッフルパフのシーカーである、セドリック・ディゴリーだった。

 セドリックが名前の書かれた紙をゴブレットに入れると、蒼い炎は一瞬紅に色を変え、バチバチと火花を散らして再び蒼に戻った。名前を入れ終わったセドリックは興奮した面持ちで部屋を後にしようとしたけど、その時取り巻きの数人がシロウを後ろから押す形になった。

 

 

「おっと?」

 

 

 考え事をしていたのか、急にぶつかられたことに対応が遅れたため、シロウはその場でよろけた。そしてその時、偶然にもシロウは「年齢線」の内側に入ってしまった。

 ……大広間という沢山の目がある場で。

 

 

「あ、悪……い…?」

 

「……えっ」

 

「おいおい……なんの冗談だ?」

 

 

 シロウも自分が今どこに立っているのかようやく気付き、額に手を当てていた。周りからヒソヒソと声が上がり始める。

 と、そこに偶然にも剣吾君が居合わせた。彼は一瞬で状況を判断すると、シロウの許に近寄った。

 

 

「士郎さん、何やってるんですか」

 

「いや、俺も正直……」

 

「可笑しいと思ったんですよ。俺より年上なのに学年が下だから」

 

 

 剣吾君が咄嗟にフォローの言葉を入れる。流石親子だけあって彼の思惑をすぐに察し、シロウは剣吾君に会話を合わせている。阿吽の呼吸というのはこういうことを言うんだろうか?

 

 

「いくら戦場を転々としていたといっても、自分の年齢を忘れないでくださいよ。ほら、今何歳ですか?」

 

「あーえー、何歳だったかな?」

 

「しっかりしてください、20歳でしょう。エントリーしないのなら離れたほうがいいですよ」

 

 

 剣吾君に促され、「年齢線」の外に出るシロウ。はたから見れば完璧な演技だけど、シロウの事情を知ってる私たちからすれば、非常に苦しいフォローだったと言える。自分がこれ以上にうまいフォローができるかはさておいて。

 

 

「な、なんだ。エミヤって実は年上だったのか」

 

「ハハ、ハハハ…納得してしまう自分が怖いわ」

 

「まぁ……戦場を転々としていたら仕方ないな。うん」

 

 

 しかし事情を知らない人たちはそれで納得したらしい。それでいいのか、シロウには悪いけど少しは疑うことを知ろうよみんな。

 そんな騒動があった一日が過ぎ、シロウは実は17歳以上という大きな衝撃を残したまま選手発表の時間となった。ただシロウはやはり昨日のうっかりが響いているのか、若干、というか結構落ち込んでいる。親子二人して「うっか凛病」なんて呟いている。二人ともリンさんに怒られるよ~。

 豪華な夕食も平らげ、あとは選手発表されるのを待つだけ。シロウは特別出場するみたいだけど、そこらへんダンブルドア先生はどうするんだろう?

 

 

 

「ゴブレットに選ばれたものは隣の部屋に入るように」

 

 

 校長先生がそういうと同時にゴブレットの炎の色が変わり、紅に燃え盛った。そして一度激しく火柱を上げた後、一枚の少し焦げた紙切れが吐き出された。

 ダンブルドア先生が勢いよくそれを掴むと、朗々と力ある声で読み上げた。

 

 

「ダームストラング校代表は、ビクトール・クラム!!」

 

「ブラボー、ビクトール!!」

 

 

 ダンブルドア先生の声が響くや否や、拍手喝采と共にカルカロフの声が響いた。クラムは無言で立ち上がると、皆の歓声を受けながら隣室へと移動していった。

 広間が静かになると同時に、ゴブレットの炎は再び燃え盛った。そして再び吐き出された紙片を、先生は力強くつかみ取った。

 

 

「ボーバトン校の代表選手は、フラー・デラクール選手!!」

 

 

 名前を呼ばれた女生徒は、シルバーブロンドの髪を靡かせながら隣室へと移動していった。どうもあの優雅さは本人の身のこなしではなく、なんかこう遺伝子的なものに刷り込まれた雰囲気を感じる。

 三度炎が激しくなり、また一枚紙片を吐き出した。書かれていた名前はやはりというべきか、セドリック・ディゴリーだった。かれははにかみながらも堂々と隣室へと移動していった。

 

 これですべての学校から選手が選抜されたことになる。このような状況で、シロウはどう介入しようというのだろうか?

 と、ここで先ほど以上に炎が燃え上がり、紙片が二枚排出された。

 流石に皆予想外だったらしく、ダンブルドア先生たち含む教員たちも驚愕に顔を染めていた。紙に書かれていたのはボーバトンとダームストラング、両校の選手が更に一人づつ選出された。またこれに関してはマダム・マクシームもカルカロフも予想外だったらしく、非常に慌てていた。

 

 

「……これはどういうことじゃ?」

 

「わ、わわ、わーたしも、びびびっくーりです!!」

 

「なんなんだ一体!? 一人ではなかったのか!?」

 

 

 どう見ても本当に驚いている様子からして、不正を働いたという筋はないだろう。

 大広間が騒然としている中、そんなことお構いなしにゴブレットの炎は燃え続ける。そして今までで一番激しく燃え上がる炎は長く伸び、一直線にシロウ目掛けて伸びた。そして伸びた炎はまるで縄のようにシロウの腕に巻き付き、ゴブレットに強引に引き寄せた。

 

 

「……これは」

 

「前代未聞じゃ…」

 

 

 炎が巻き付いた部分の布地は焼け焦げており、右腕にも刻印のようなものがついていた。ただ元の地肌が黒い分、刻印は目立ってなかったけど。

 シロウを引き寄せた後の炎はたちまち勢いをなくし、ゴブレットの炎は静かに消えた。しかし本来各校一人づつの代表選手が二人ずつになり、剰え最後の一人は杯に選ばれた気来がある。

 沈黙が支配する中、二人目の代表選手たちは隣室に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて本当に、本当に面倒なことになった。一応介入することにはなっていたが、選手になるつもりはなかった。だがゴブレットに、名前を入れていないに関わらず、選手として選ばれてしまった。

 ハッキリ言おう、面倒くさい。

 

 

「あれ? シロウ、どうしたんだい?」

 

 

 俺たち居ることに疑問を持ったのだろう、セドリックを先頭にして俺たちに三人が近寄ってきた。どうでもいいがフラーとやら、プライドが高いのはいいが、少々その見下すような視線は控えたほうがいいぞ。

 

 

「俺たちも何が何だかわからん。俺たち三人は理由もわからずに選ばれた、各校二人目の代表だ」

 

 

 俺の言葉に残り二人は頷き、セドリックたちは驚愕に顔を染めていた。そして疑問に思うような表情を浮かべると、俺にセドリックは質問してきた。

 

 

「君は名前を入れたのかい?」

 

「否だ。俺が率先してこんなことに首を突っ込むように見えるか?」

 

「……ふーん」

 

 

 この男、信じていないな。視線でわかる。はぁ、紳士と皆に思われているのだろうが、やはりこの男もまた子供であるのが分かった。洞察力が足りない。

 その後、色々と教員たちによって会議が開かれたが、実行委員会の決定によって各校二人体制で執り行われることが決定した。

 さて、詳しい話は今後日を改めて行われることが決定し、今回は解散になった。さて、今回はマリーは巻き込まれないで済んだが、ある意味俺が関わることでより複雑になっているだろう。

 果たして今回の選抜が偶然か、それとも俺を邪魔に思う奴らによる陰謀か。どちらにせよ、警戒しておくに越したことはなかろう。俺はしばらく表立って動くことになるから、俺が動けないときの行動は剣吾に任せることになるだろう。まぁ、あいつならそこらの魔法使い程度なら一掃できるから問題ないだろうが。

 談話室で行われているパーティーをスルーし、寝室にて今後どう行動するべきかを考える。次第に周りのベッドで同級生が寝ていくのを認識しつつ、俺は夜が明けるまで窓辺に腰かけて思考を巡らせていた。

 

 選抜の次の日、俺は前日集められた部屋にいた。なんでも選手の杖の状態を調べるのと、新聞のインタビューのためらしい。

 しかし文屋が酷いのはどこの世界も同じようだ。リータ・スキータなる記者が一人一人インタビューを行っていたが、メモの内容は酷いものだった。捏造八割、疑問一割、真実一割の内容でどんどんメモを取っていく。いい加減腹も立ったので少し脅す羽目になった。

 考えてもてくれ。曰く、

 

 

――その双眼は鋼の様であり、まるで人形の様。何を考えているかわからない。

 

 

 だそうだ。後者は兎も角、俺は歴とした人間であるから人形の目などではない。それにイリヤの体は蒼崎製の人形体、奴の書き方がとことん気に入らなかった。

 加えて何度もエントリーした理由を聞き、その度に否定を無視してメモを取っていた。誰が怖いもの知らずだ、誰が目立ちたがり屋だ。こちらはほとほと迷惑しているというのに。

 

 

「君は戦場を渡り歩いてきたという情報を仕入れたけど、怖かった? どんな影響を与えた?」

 

「……それをきいてどうする?」

 

「へ?」

 

 

 最後にしてきた質問に対し、俺は答えを出さなかった。戦いが俺に与えたもの、それはどんなに手を伸ばしても、零れ落ちる命があるという残酷な現実。それを説明したところでこの女は理解せず、都合のいいように書き連ねるだけ。何も言わないほうがましだった。

 

 さてインタビューも終わって杖調べとなったのだが、ここでもまた不本意ながら周りの注目を集めることになった。それはそうだろう、この世界に今時アゾット剣なんて使う者はいない。

 この日のために招かれたオリバンダー老は全員の杖を入念に調べていく。そして俺の番が来たので剣を取り出すと、ダンブルドアとスネイプ、オリバンダー老を除いた全員が騒めいた。

 

 

「そうじゃ、よーく覚えておる」

 

 

 俺の手から受け取ることなく剣を見つめる老、その目は爛々と輝いており、普段よりも生気が感じられた。

 

 

「万華鏡のように美しい短剣を帯びた人物から受け取ったこの剣、忘れるはずもなかろう。何年も待っておった担い手、それがエミヤさんじゃった」

 

 

 懐かしそうに語る老。最後に剣を床に突き刺して簡易の防音結界を張ると、剣は万全と言われて杖調べは終わった。

 その夜、談話室の隅で宝石を用いて凛たちと交信していた。流石に今回は今まで以上に一筋縄ではいかない事案である。加えてだが、体内に埋め込まれているアヴァロンが若干力を持ち始めているのも、不確定要素の一つだ。

 

 

「士郎、用心しなさい」

 

 

 凛が真剣な声で言葉を発する。

 

 

「去年の黒化英霊のこともあるわ。本来セイバーがいないと機能しないアヴァロンが何かしら反応を示しているのは、彼女関連で何か起こるかもしれないわよ」

 

「だろうな。今年は特に厄介事が多い気がする」

 

「一応剣吾がいるけど、まだあの子は英霊を相手に出来るほど強くはないわ。黒化英霊が出ても足止めがせいぜいだと思う」

 

「あの子には悪いが、もしもの時は頼ることになる。出来るだけこちらの状況は報告する」

 

「ええ、そうして頂戴。一応来年の5月ごろ全員でそっちに行くわ。様子見もかねて」

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 談話室に人が集まり始めたため、交信を切る。対抗試合の試練は三つ、せめて一つ目が妙なものでないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

――ときは近い

――いよいよもって赤が目覚める

――かの宝具を持つに足るものか、試させてもらおう

 






以上です。
次回は時間が飛んで、早速第一の試練に入ろうと思います。
更新は早くても成人式以降になるかもしれません。

それでは皆さん、良いお年を。




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5. 第一の課題



久々の更新です。いやはや、ようやくテストも終わり、束の間の暇が出来ました。
それでは一か月ぶりの最新話、どうぞごゆるりと。






 

 

 

 外部にも代表選手の話が公表され、選手には毎日のように手紙や雑誌のインタビュー申し込みが舞い込んできた。無論俺も例外ではなく、俺を応援する手紙や、俺をズルした卑怯者と糾弾する手紙――寧ろ後者のほうが多い――が毎朝フクロウ便で届き、平穏に過ごせる日がない。

 そして俺たちは代表選手とはいえ一学生でもあるため、課題に備えることに加え、日々の学業もある。ハッキリ言って、いくら俺でも首が回らない状況だ。週一のホグズミード行きが今や数少ない癒しである。

 まぁ、そうも言ってられないか。一週間後まで迫った第一の課題のために、そのホグズミードもそろそろ記者たちの宿泊先となるのだろうが。

 

 

「……はぁ」

 

「エミヤ君。ため息つくのはいいけど、周りに聞こえないようにお願いね」

 

「む? ああマダム・ロスメルタ、すまない」

 

 

 机に突っ伏しているところに、トルコ石色のハイヒールの靴音と共に、一人の女性が俺の許に来た。パブ『三本の箒』を切り盛りしている女店主、マダム・ロスメルタである。

 

 

「代表選手、選ばれたみたいね。まぁ元々ここで接客していた時も、普通の魔法使いとは違う雰囲気だったし、ただ者じゃないとは思ってたけど」

 

「……私としては余り出場したくはないのだがね。まぁ選ばれた以上は出るしかあるまい」

 

「そう。頑張って」

 

 

 そう言って俺の目の前に一つのグラスジョッキが置かれた。琥珀色の液体が五割ほど入っている。

 

 

「これは?」

 

「元従業員への労いよ。当店自慢の蜂蜜酒、年齢的には大丈夫でしょう?」

 

「……ありがたくいただこう」

 

 

 他人の行為は無碍にできない。酒はあまり飲まないが、せっかく出されたのだからいただくとしよう。

 ちびりちびりとジョッキを傾けていると、パブの入口が開く。まぁ日中とはいえ今は昼時、昼食を摂りにこの店に来ても可笑しくないだろう。そろそろ俺もお暇しようか。

 と、覚えのある声が聞こえたのでそちらに目を向けると、そこには大柄なハグリッドとムーディ教授がいた。二人とも俺に気づくと、片やにこやかに、片や相変わらずの仏頂面で近づいてきた。

 

 

「おうシロウ、元気か?」

 

「ああ、エミヤか」

 

 

 席に着くなりハグリッドは蜂蜜酒を、ムーディは自前の酒瓶の中身を呷った。その時わずかに妙な匂いが鼻をついたが、薬の類だろうか? 普通の薬ではないと思うが、まさか風邪薬ではあるまい。

 と、ハグリッドが俺に顔を寄せてきた。

 

 

「……お前さん酒は飲んでも大丈夫なのか?」

 

「これでも年齢的には成人してるぞ」

 

「おお、そうか……」

 

 

 それだけを言ってハグリッドはジョッキをまた傾けた。しかしどこか落ち着きがない。まるで内緒話があるが言いだせない子供の様。

 

 

「……俺に話があるのでは?」

 

「む? おおそれなんじゃが、今日の夜時間はあるか?」

 

「今晩か? 特に予定はない。せいぜい一週間後にある第一の課題の準備をする程度だ」

 

「ならちょっくら俺の小屋まで来てくれ。見せたいものがある」

 

 

 ハグリッドはぼそぼそと俺に耳打ちする。その間ムーディの目はせわしなく動いていた。これの意味することは一つ、隠れてやらなきゃいけないことをするつもりだ。そしてここまで経過し、比較的親しい間柄である俺だけに聞いてきた。まさかとは思うが。

 

 

「……ハグリッド。それは対抗試合関連か?」

 

「むぐぅ!? ゲホッゲホッ!!」

 

 

 俺の問いかけに咽るハグリッド、確定だな。彼には悪いが、今回は彼の嘘をつけない気質を利用させてもらった。

 

 

「だとしたら悪いが断る。確かにそうすれば課題を熟しやすいだろう。だが他の生徒が不公平だろうよ。まぁ、恐らく他の二校の選手はズルするだろうがな」

 

「ならどうして」

 

 

 ハグリッドが納得してないような表情を浮かべている。ムーディはこちらを観察するように、義眼もこちらに向けている。

 

 

「これが試合や実戦であれば成程、先に相手の情報を掴むことは理に適っている。だが今回はあくまで課題だ。それにこの様子からすると、相手は人ではない、それこそ幻想種のようなものだろう?」

 

「ならばこそ、情報を集めようにもわかるのは生態だけ。本番でどのように動くかなど予想もできない。ならば最初から見ないほうがまだマシかもしれん。それに、幻想種で課題に活用できるものとなれば、自ずと選択の幅は狭まるだろう」

 

 

 俺はそれだけ言うと、カウンターにジョッキを持って行った。ついでに一応酒の料金とチップも一緒にカウンターに置く。振り返った先に座るハグリッドは呆然としていた。ムーディはこちらを試すような視線を向けている。

 

 

「まぁ心配するな。なるようになるさ」

 

 

 二人以外のいくつかの視線――まぁ恐らくは文屋だろうが――も背中に受けつつ俺は店を後にした。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 一週間後、俺たち6人の選手は一つのテントに集められた。そこは会場の近く、すでに大きな歓声や野次が聞こえてくる。古来より見世物は大きく盛り上がるとはいえ、これは本当に辟易する。

 

 

「やぁみんな集まったね。楽にしたまえ」

 

 

 テントに一人の男が入ってきた。大会の進行役らしい、ルード・バグマンという男だった。その横には小袋を抱えた別の魔法使いがいる。

 

 

「諸君にはこれからこの袋の中の模型を取ってもらう。そして諸君のミッションは一つ、金の卵を取ることだ!!」

 

 

 バグマンは仰々しく課題内容を発表した。卵となると、他にもダミーの卵もあるのだろう。とすれば、必然的に卵生の生き物に限られてくるわけだ。まぁ恐らく弱めのドラゴンや大蛇になるだろうな。あるいは怪鳥か。

 

 

「レディーファーストだ」

 

 

 バグマンはまずボーバトンのデラクールともう一人を呼んだ。二人が袋に手を入れると、2番と5番の数字をつけたミニチュアが取り出された。

 本物そっくりに動くドラゴンの。

 

 

「2番、ミス・デラクール。ウェールズ・グリーン種。5番、ミス・マルタン。ゲルマニア・ホワイト種」

 

 

 やはりというべきか、袋からミニチュアを取り出した二人は驚く素振りを見せず、逆に毅然とした態度を見せていた。大方、マダム・マクシームから事前に聞いていたのだろう。

 その後に中国火の玉種を引いたクラムと、ハンガリー・ホーンテールを引いたもう一人も同様だった。ただディゴリーも落ち着いていることからすると、この中でドラゴンと知らなかったのは俺だけか。さて、どう対処したものか。

 

 

「次、ミスター・ディゴリーだ」

 

 

 最後に回されたホグワーツ組。先に手を入れたディゴリーの手には、1番の番号が点けられたドラゴンがいた。スウェーデン・ショート-スナウトという種類らしい。

 

 

「では最後に、ミスター・エミヤ」

 

 

 最後に回されてきた俺。心なしかバグマンともう一人の魔法使いの目が語っていた。この子は――対外的には俺はまだ子供――可哀そうに外れくじを引いたと。

 こんなところでも「幸運E」は出るのだな。

 

 

「6番、ミスター・エミヤ……ウェールズの赤き龍、『Y Ddraig Goch(ア・ドライグ・ゴッホ)』」

 

 

 やれやれここで赤い龍とは、どこまで俺たちの因果は深いのだろうな。そう思わないか、セイバー?

 もしかしたらアヴァロンの活性化も、彼の龍の魔力に起因するものなのかもしれんな。さて、本当にどうしたものかな。

 

 

 

 





ああー久しぶりに書くと時間がかかる。こんにちは、ホロウメモリアす。
ほぼリハビリのような感じで書きましたので、もしかしたら今までよりも更に拙い文章になっているかも。
さて、皆さまも予想していたでしょう。ついに次回、赤き龍のお披露目です。試合をどのように運ぼうかなぁ。

ではまた次回。




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6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch



ではバトルパートです。戦闘描写も久しぶりだなぁ。
それと今回後書きにてある通達をします。また同様の内容を活動記録にも載せます。

それではごゆるりと。





 

 

 

 

 第一の課題はドラゴンを出し抜くことだった。

 選手はドラゴンをやり過ごしながら他の本物の卵に混じってる金の卵を取らないといけないらしい。正直言うと、いくら魔法使いで成人している人限定といっても、これは少々オーバーキルなのではないかと思う。

 しかし私の心配など誰も気にしてないのか、会場は進行役が出てきた瞬間大きく盛り上がった。私たちがいる闘技場は新しく作られており、サッカースタジアムが2個ほどある広さは確実に持っている。ここまで広くしないと、ドラゴンもうまく動けないのだろう。

 それでもセドリックさんはスウェーデン・ショート-スナウトとの戦いの時点で、すでに火傷という大怪我を負っている。続くフラーさんにダームストラングの二人、更にもう一人のボーバトンの生徒も、卵を壊した怒りで狂暴化した龍の攻撃を受けたり掠ったりで、大なり小なり怪我を負ってしまっている。

 これでも恐らく一般的なドラゴンよりも本能が強い種類なのだろう。基本的にワイバーンと呼ばれる種類の5体だった。普通に考えるなら最後に残ったシロウもワイバーン型だろう。でも何か胸騒ぎがする。

 そしてその予感は悪いほうに的中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外からバグマン氏の実況が響く中一人、また一人とテントから出ていき、最後に俺一人だけが残された。

 

 

『おおーっと!? ディゴリー選手を火炎が襲う、これは大丈夫か!?』

 

『おー……危うく!! さぁ慎重に……なんと、今度こそやられてしまったと思ったのですが……いやしかし!!』

 

『良い度胸をみせました。そして……卵を取りました!!』

 

 

 どうやら各々金の卵は取れたらしい。ただ卵を破壊したり、大怪我を負ったりとで減点をされているようだ。まぁ正直オレは優勝になんざ興味はない。だからいくら減点されようがどうでもいい。

 

 

『さぁ第一の課題もいよいよ最後の挑戦者を残すだけになりました!! ホグワーツ魔法魔術学校代表、シロウ・エミヤ選手!!』

 

 

 名前を呼ばれたため、椅子から立ち上がって闘技場へ向かう。広く作られたフィールドの中央は(うずたか)くなっており、幾つかの卵と共に金色の卵が安置されている。流石は魔法というべきか、このような会場を短期間で作成する力は称賛ものだ。

 大きな地響きと共に、暴風がオレと観客を襲った。怯むことなく目を発生源に向けると、人の何倍もの大きさはある、それこそ剣吾がよく観ていた特撮の巨大怪獣並みの全長はあるかもしれん。

 混じるもののない、美しい紅に身を染める一体の龍が、威風堂々とオレを見下ろしていた。

 

 

――貴様か

 

 

 突如声が響き渡る。どうやらこの赤き龍の声みたいであり、その声は観客にも聞こえているようだった。

 

 

――なぜだ。なぜ貴様がそれを……

 

「……何の話だ?」

 

――しらばくれるか。ならば力尽くで聞きだすまでだ。

 

 

 これは……不味いかもしれない。目の前の龍の口に魔力が集まっていることがわかる。

 

 

『おおーっと、いきなりブレスが来るのか!? エミヤ選手はどう対処するのか?』

 

 

 実況が何か喚いているが、こちらはそれどころではない。あの集約する魔力の量からして、オレだけが防御しても観客に被害が及ぶ。かといって彼女の聖盾(プライウェン)を使っても、俺にダメージが通りすぎてしまう。ここはアイアスで防御し、残りをあいつに受け持ってもらうとしよう。

 

 

「……剣吾!! 結界を張れ!!」

 

「もう準備してる。水の護り(ラグス・エオロー・ソーン)!!」

 

 

 剣吾の言霊と共に、観客の前に巨大なルーン文字が浮かびあがり、障壁を形成する。水を象徴するラグスのルーンに守護のエオロー、危機回避のソーンの重ね掛けであるため、ある程度の攻撃はしのげる筈。問題はこの場に水がないため、本来の力よりも劣ってしまうことぐらいか。

 

 

――答えろ!! 何故貴様があの娘の鞘を持っている!!

 

 

 怒号と共に、火炎放射器を何十本も束ねたぐらいの太さの火炎が迫る。正直これは投擲攻撃ではないため、アイアスの守護がどこまで効くかわからないが。一応のダミーのために、左手にアゾット剣を握り、右手に添えておく。

 

 

「――投影開始(トレース・オン)、『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

 

 

 右手を掲げると、目の前に七枚花弁の大輪が咲いた。花は俺に向かう炎を防ぎ一本の炎を幾筋にも分割した。いくつかの炎は観客席へと向かったが、剣吾の結界よって防がれた。伊達に人形師や宝石翁の下で修業を重ねたわけではないな。

 暫く炎は浴びせられていたが、三十秒ほどでその勢いは止まった。煙や砂塵が舞う中に、オレは盾を消して武器を取り出す。その時アゾット剣は服の内側にしまい込み、他人に見えないように完全に隠す。これにより、俺の取り出す武器はアゾットが変わったものと錯覚するはず。

 日本神話において鍛冶の神、火の神として祀られている神の名を賜った刀、その贋作品。神造兵器だが、格を落すことによって炎を切り裂く能力を持つ刀として投影できる。

 

 

――我が火炎を防ぐか。ならばこれはどうだ!!

 

 

 もう一度口を開いた龍の口から、次は十数個の火の玉を俺に対し吐き出す。その全てが狙い過たず俺に殺到してくる。

 

 

『あーっと、ブレスの次は火の玉か!? でもどうやって防いだんだ?』

 

――さぁ、これはどう対応する?

 

「……幾つか避けられないな、仕方がない。焔を切り払え、『火之迦具土神(ヒノカグツチ)』!!」

 

 

 空へと放たれた焔玉のうち、いくつかを切り払う。その際発生した爆煙に紛れつつ、刀を消して今度は巨大なトゥーハンデッド・ソードを投影で創り出す。この剣は、ニーベルンゲンの歌に出てくる大英雄、ジークフリートの持つ竜殺しの大剣。

 

 

「贋作とはいえ、貴方ならこの剣の恐ろしさは分かるだろう!!」

 

――何だと!? 貴様は鞘一つだけで飽き足らず、その忌々しい剣も持っているのか!!

 

「竜を()とし、世界を落陽へと至らしめよ。――『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」

 

――小賢しい!!

 

 

 真明解放をした竜殺しを振るうが、オレは奴の振るう尻尾に弾き飛ばされ、地面に激突した。体に響く痛みから察するに、少なくともあばら骨を二、三本やられている。流石に上手く事が運ぶわけないか。

 バルムンクを消し去り、次にもう一度懐からアゾットを取り出す。そのタイミングで煙も晴れ、改めて相手の全身が浮かび上がる。

 

 

『ななななんとぉ!! あれだけのブレスや火の玉を受けても、エミヤ選手は難なく防いだぁ!! しかし流石に尾の攻撃は防げなかったか?』

 

 

 相変わらず実況は五月蠅い。こちらとしては今はもう、課題がどうこう言っている場合ではないのだが。今も緑の双眼を爛々と燃やし、ドラゴンはオレを睨みつけてくる。どうにかして一旦闘技場から離れなければ、オレも満足に全力を出すことが出来ない。

 どうすれば……

 そういえば、昔ハーマイオニーが魔法の練習がてら光を杖から出していたな。魔法の効果は、太陽の輝きを一時的に作り出す。確か呪文は。

 

 

「『太陽の光よ(ルーモス・ソレム)』!!」

 

 

 アゾット剣を掲げて呪文を唱えると、闘技場は目を潰さんばかりの光に照らされた。流石の赤い龍もこれには耐えられず、目を瞑っている。

 

 

――おのれ。だが目を潰しても匂いでわかるぞ、小僧。

 

 

 皆の視線がないうちに俺は急いで体を強化し、跳躍してこの場を離脱した。誰の目も届かず、存分に戦える場となると、俺の固有結界が最適だろう。だが張るとなると、現在監視の目の届かない場所、例えば湖畔とかまで行かなければならない。

 会場の外に出ると、入場までいなかった天馬が一頭、外で待っていた。そしてまるでオレに乗るよう催促するように、オレをジッと見つめていた。

 

 

「湖畔まで行ってくれ。頼めるか?」

 

 

 背に乗って聞くと、天馬は一つ嘶いて翼を羽ばたかせた。後方からは咆哮が聞こえ、会場から大きな影が飛ぶのが見えた。

 さて、ここからは第二ラウンドと洒落込むとしようか。古の赤よ。

 

 

 

 

 






ドラゴンの声は立木ボイスでお願いします。
そして文中に出てきた「爆煙」という言葉ですが、タバコの用語ではなく、本小説のみの表現として使用しております。意味としては、爆発によって生じた煙です。

さて前書きでも触れましたが、皆様に一つ連絡をします。
凍結するとしていた二作品ですが、Fateの方はいずれ再開することにしました。理由につきましては、個人メッセージや感想などで、連載再開を望む声が多かったからです。
とはいえ、流石に4つを同時に書くこともまた難しいです。
ですので、デレマスが終わり次第、連載を再開しようと思っております。

今回の通知は、活動報告でもさせていただきます。

さて、次回は第二ラウンドです。流石に一話に詰め込むのは無理でした。

それでは皆さん、また今度。





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7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.



お待たせしました。それで対赤い龍戦、結末です。





 

 天馬に跨り、空を駆ける。それを追うように龍は飛び、こちらに向かって火炎を放ってくる。

 現状をはっきり述べると、こちらが圧倒的不利だった。一応乗馬の経験はあっても、天馬に乗ったことはない。せいぜいがライダーが乗っといたのを記憶している程度である。

 現在オレは片手に虎徹を握り、上空で龍と向かい合っている。遥か下方の地上では、多くの観客がこちらを見上げているのがわかる。そして龍は緑の双眼をこちらに向け、その瞳を怒りに燃やしていた。

 さて、どうしたものか。天馬は攻撃を避ける以外はオレの意向に従ってくれている。だがこの子にもスタミナはあるだろう。もうかれこれ十分近くはアクロバティックな飛行を続けている。ライダーの子ならば大丈夫だろうが、この子はそうはいかないだろう。

 

 

ーーどうやらここでは無理だな

 

 

 突如龍が口を開いた。そして龍は翼を羽ばたかせると、一直線にこちらに突進してきた。突然の行動に天馬は反応できず、オレはその大きな右手に掴まれた。天馬は嘶き、その場から離脱する。そしてオレは、そのままどこかへと連れていかれた。

 

 暫く身動きが取れないままもがいていると、突如空中に放り出された。しかしそれほど高い高度ではなかったようで、オレは湖畔のぬかるみの上に着地することになった。龍はそのすぐ近くの湖に着水した。

 どうも様子がおかしい。先ほどまでは敵意を露わにしていたのに、今は幾分か落ち着いている。とはいえ、その双眼には未だ怒りがにじみ出ているが。

 

 

ーー貴様、先ほどからヒトの目を気にしていたな?

 

 

 龍が問いかけてくる。その目は虚偽を許さぬと語っていた。

 

 

「……ああ。貴方は分かるだろうが、俺の魔術はこの世界では特異すぎる。あまり見せるものではない」

 

ーーならば質問に答えなかったのは何故だ。

 

「簡単なことだ。『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は仮令俺の世界の魔術師でなくとも、喉から手が出るほど欲しいものだ」

 

ーー知られるわけにはいかなかったと。

 

 

 幾分か龍は溜飲を下げたようだ。だがオレは一瞬たりとも気が抜けなかった。気が抜けた瞬間パクリ、なんてのは話にならない。

 

 

ーーならば再度問おう。何故貴様がその鞘を持っている。いや、持っているだけでなく加護を受けているな?

 

「……彼女に返却しようとしたが、断られてな」

 

ーーいつか眠りから覚めるその時まで?

 

「その通りだ」

 

 

 そこで互いに沈黙する。聞こえてくるのは湖から響く小波の音だけ。風に揺れる木々の枝からは、残り僅かな枯葉が舞い落ちる。

 

 

ーー理解した、貴様に鞘は預けよう。だが心せよ。その鞘を悪しきことに使った暁には、我自ら鉄槌を振るう。

 

「……誓おう」

 

 

 何よりそのようなことに使えば、彼女を侮辱することに他ならないから。互いに制約を交わす。

 

 

ーーさて、続けよう。貴様も次は本気で来い。ここならば、誰も来ないだろう。

 

「その必要はあるのか?」

 

ーー何を今更。何のために我がわざわざこのような遊びごとに付き合ったというのだ?

 

「……? ……!! まさかッ!?」

 

ーー元よりそのつもりよ!! その鞘を持つに値するか、我にその力を示せ!!

 

 

 言葉と共に、龍は特大の火球を放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど時間が経っただろうか。

 ドラゴンとシロウが闘技場から去って、結構な時間が経過した。審査員たちも試合をこのまま続行するかどうか迷っている。そもそもいくらなんでもシロウとはいえ、伝説に名を残す赤い龍相手は分が悪い。どんな人でもオーバーキルになると思う。

 シロウたちがいなくなってから30分は経過した。もう審査員もあきらめているみたいだ。私や剣吾君の席は審査員席に近いため、ダンブルドア先生たちの会話が聞こえてくる。

 

 

「観客席の皆、残念な知らせじゃ。シロウ・エミヤの試練じゃが、此度失格と……」

 

 その必要はない

 

 

 ダンブルドア先生の言葉に被せるように響いた声。それは先ほど飛び去ったはずの赤い龍だった。その右手は何かを握りしめている。

 着地すると同時に右手から降りてきたのは、全身が傷だらけになって、ユニフォームを赤黒く、所々緑に染めたシロウだった。火傷も所々負っており、一刻も早く治療が必要な状態である。対する龍の方も、全身にくまなく傷を負い、夥しい量の緑色の血を流していた。恐らく肌や布についている緑の部分は、この龍の血なのだろう。

 当のシロウはゆっくりとと歩きつつも、しっかりとした足取りで金の卵の許に向かっていく。その光景に、誰一人言葉を発しなかった。固唾を吞んで見守る中、シロウはついに卵の許に辿り着き、それを掲げた。しかし誰も反応しない。皆が皆、シロウの今の状態に大きくショックを受けていたのだった。

 ふと気づくと、一つの拍手が聞こえてきた。そちらに目を向けると、ダンブルドア先生が大きく拍手をしていた。そして後に続くようにマグゴナガル先生、スネイプ先生と次々にホグワーツの教師陣が拍手を始めた。そしてポツリポツリと始まった観客の拍手も次第に盛り上がり、シロウが退場するころには口笛やら魔法の爆発音やらが拍手と共に鳴り響いていた。

 そして肝心の龍はというと、シロウが退場したのちに大きな咆哮を上げながら飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても驚いた。まさか奴め、固有結界の使い手だったとはな。あの龍殺しの能力を持った剣を雨のように降らせてきた時は、流石に肝が冷えた。

 長らく生きてきたが、あれほどの使い手を見たのは初めてだ。奴が龍殺しの剣を複数所持、使用していたのも頷ける。しかし疑問であるのは、どのようにしてあそこまでの数の宝具を記憶したというのだろうか。

 奴の魔術、固有結界は、一度視認した刀剣類を記録して貯蔵するという。この現代において、現存している宝具は、余程丁重に保存されたり、「全て遠き理想郷」のように外界の影響をものでないと、まず残っていない。

 しかし奴の記憶していた宝具の大半は、明らかに現存していないもの、恐らくだが原典だろうものの贋作が多数存在していた。宝具の原点となると、英雄王が所持していたということしか推測できないが、まさか奴は彼の英雄王と会い見えたとでもいうのだろうか?

 いずれにしても、奴の技量はあの娘には及ばぬものの、そこらの英霊とやり合うだけの腕は持っている。いずれは奴に問いたださねばならないな。

 それにしても、今回は傷を負いすぎた。これほどの大傷を負ったのはいつぶりだろうか。それに此度ほどの心躍る闘いも久しいことこの上ない。まぁ奴も尋常ではない負傷をし、我の血も浴びてしまったがな。

 彼の龍殺しの英霊(ジークフリート)のような呪いを受けることはないが、何かしらの影響は出るだろう。幸か不幸か、血を浴びたのは背中だ。まぁ我の血であるから悪いようにはならんだろう。

 せいぜい我を楽しませてくれよ、英雄となる可能性を持つものよ。願わくば、貴様が抱える者に食いつぶされないことを。

 

 

 

 





はい、ここまでです。
士郎ですが、軍配は終始龍のほうに上がっていました。流石に英霊候補と言えど、ジークさんやアルトリアには敵わないですから。
FGOでは槍ニキよりも強いでsけど無視で。

さて、次回からはクリスマスダンスパーティ編です。
それでは今回はこの辺で。




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8. 予期せぬ課題



本当に久しぶりにこちらを更新します。
久しぶりだから一話でどう進めるか鈍ってます。
それではどうぞ。






 

 

 

 

「よろしいですか? 今年のクリスマスは生徒一同、ダンスパーティーに出席することになります。普通の生徒は基本参加、しかし事情で不可能な方は申請してください。代表選手は必ずパートナーを用意し、出席してください。わかりましたね、ミスター・エミヤ?」

 

 

 マグゴナガル先生の言葉により、変身術の教室内は沈黙に包まれた。また何故今年の教材のリストにドレスローブが書いてあったかようやく理解した。隣に座るシロウを見ると、顔に片手をあてて、大きくため息をついていた。

 

 

 

「……先生。私は出なければいけないのですか?」

 

「勿論です。これは由緒ある伝統的な行事ですので」

 

「……ウェイターは」

 

「十分にいますのでご安心を」

 

「……退路なし。捕虜の人権はあるか?」

 

 

 この時のシロウのげんなりとした感じは、私が覚えている限り一度も見たことがない。そんなにこのパーティーが嫌なのだろうか? 私は気になって大広間での昼食中にシロウに聞いてみた。

 

 

「ねえ、なんでシロウはそんなにダンスが嫌なの?」

 

「む? ああそのことか」

 

 

 暫く顎に手を当てていたシロウは、やがてポツリポツリと語り始めた。

 なんでもイリヤさんたちと結婚する前は、ゼルレッチさんに連れられていろんな世界に行ったらしい。その中では貴族といった身分が当たり前に存在する世界に行くことも珍しくなく、そこでパーティーに参加も何度もしていたらしい。

 でも基本的にシロウはダンスするわけでなく、ウェイターやコックとして参加していたらしい。でもいくつかの世界では貴族の令嬢のパートナーを務めたとか。そしてその度に何かを察知したかの如くイリヤさんたちが来てひと騒動あったとか。

 

 記憶に残る限り一番ひどかったのは、この世界と同じように魔法使いがいる世界だったそうだ。そこは魔法至上主義の世界であり、魔法使いが牛耳っていた。シロウはその世界の魔法学校に偶然が重なって召喚されたそうだけど、召喚主の桃色の髪の少女にこき使われていたらしい。そしていざ自分の実力の一端を見せると、皆が、特に女性陣が掌を返して擦り寄り、それによって桃髪の主人の爆発魔法が火を噴くという悪循環の繰り返しだったそうな。

 それ以来シロウはこのような催しがあっても基本的に裏方に専念しようと色々画策していたらしい。それでも今回はどう足掻いても逃げ道がないらしく、校長先生に掛け合っても否の一言だったらしい。そんなに嫌だったんだね。

 

 

「はぁ……仕方が無い。早々にパートナーを決めるとしよう。ということで……」

 

 

 シロウはそういうと私の方を向いた。ついでに椅子から降りて地面に片膝つき、片手を胸あてている。

 

 

「お嬢様。よろしければ宴の当日、私めと踊ってくださらないだろうか?」

 

「……」

 

 

 えーっと返事の前に一言突っ込ませてください。シロウ、最早あなたの言動は上流階級のそれではなく、ただの執事か騎士です。

 

 

「あー、この場合はどういえばいいのかな。えーっと、I'd loved to.(よろこんで)

 

 

 私がそう言うと、シロウは安心したように小さく微笑み、椅子に座り直して昼食を再開した。余りにも洗練されたその動きに私は勿論学友たちは皆固まり、他の大広間にいた生徒も呆然としていた。ああ本当に心臓に悪い。

 

 

 

 

 そんなことがあったのが約二週間前の十二月初頭。ロンはハーマイオニーを誘うことが出来ずに若干不機嫌になり、他の生徒たちも良くも悪くも気分に変動をきたしており、皆授業に集中できていなかった。かくいう私も緊張して思うように授業に身が入らなかった。

 まぁそんな精神状態で迎えたクリスマスのパーティー当日。私とシロウ、その他の代表選手ペアは大広間扉外に待機していた。ちょっと驚いたのが、ハーマイオニーのペアがダームストラング校の代表選手であるクラムだったこと。それとたぶん彼女は、魔法薬かなにかで髪を伸ばしてる。

 

 私はというといつも結んでいる髪は背中に流し、リボンは手首に付けている。肝心のドレスはわざわざイリヤさん達が作ってくれたもので、他の生徒たちほどフリフリしたりもっさりしていない。デザインはいたってシンプルなもので、布地は純白、肩に引っ掛けるように金の帯のようなものがしつらえており、あとは腹部で軽く縛るように金の紐が結ばれているだけ。色と言えばそれだけである。

 更に付け加えるのならば、どうやらこのドレスは魔術的要素が組み込まれているみたいであり、何かの護りみたいなものが働いている。その証拠と言えるかわからないけど、先ほど何度か特徴的な模様のカナブンが私に留まろうとしていたが、その度に弾かれていた。

 で、肝心のシロウの服装だけど。

 

 

「……ねぇシロウ。それ以外なかったの?」

 

「すまないが元々俺は参加する気は無かったものでな。急遽しつらえて違和感がないものは、この燕尾服しかなかったのだ」

 

 

 そう、シロウが来ているのは燕尾服。もうお酒のグラスが乗っているお盆を肩のあたりに持って、フロア中を練り歩けばあら不思議、完璧なウェイターか執事(バトラー)の出来上がりである。いや、マグル界では問題なさそうだけど、魔法界だったらちょっと目立つよな。

 そんなことを考えていると、目の前の扉が開いた。さて、シロウの隣に立っても恥ずかしくないよう振る舞おうか。

 

 

 







はい、今回はここまでです。
いやはや、確かめてみたら約二ヶ月これを放ってました。申し訳ございません。
ようやく一つの小説が完結したことにより、若干気が抜けていたことが否めません。まぁリアルも相応に忙しかったのですが。
マリーのドレスですが、デザインはアイリスフィールが着ていたものと同じものを想像してくだされば。
さて、次回一話を挟んだのち、第二の試練に早速入ろうと思います。
それではまた次回、いずれかの小説で。




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9. 聞屋との対面


更新お待たせしました。ちょいとばかしリアルのほうが忙しかったので、執筆することが出来ませんでした。
それではごゆるりと。





 

 あの後オレは数曲マリーと踊ったのち、オレ達は単独行動することになった。マリーは軽く食事を済ませて踊らずに帰り、オレはそのままキッチンに逃げ込んで料理や皿の片づけを行い、その日は何も面倒ごとに出くわすことなく終了した。ただ夜更かしする生徒が多すぎて、オレが寮に戻れたのは日を跨いだ後だったが。

 今年は学校からフィッグさんのところに帰ることなく、冬いっぱいは次の課題のなぞ解きに挑むことになるだろう。だがその前の最後の休養のために、オレは一人でホグズミード村に赴いた。「三本の箒」のロスメルタさんに頼み込み、一日だけ店員として働かせてもらうことになった。やはり昨晩のような格式ばったものは、参加するとなると疲労がたまる。

 

 ついて早々バーに入り、グラスを拭いていく。キッチンではすでに朝食を食べに来る人たちへの準備も済ませてあり、あとは店主たるロスメルタさんが店を開けるのを待つだけ。

 

 

「ロスメルタさん、今日は無理を聞いてくれてありがとうございます」

 

「いいのよ気にしなくて。対抗戦もあるし、クリスマスだしで私一人だと限界があるもの」

 

「……それでもです」

 

「まぁシロウ君も色々疲れてるだろうし、ほどほどで大丈夫よ」

 

 

 彼女の厚意に甘えて、オレは基本バーカウンターの内側に立つことにした。ここなら余程のことがない限り、客に絡まれたりすることがない。それは二年前のここでの労働で確認済である。

 八時の開店と同時に、数人の客が店に入ってきた。全員この村の住人であり、二年前からの顔見知りである。カウンターにいるオレを見つけた途端、全員カウンター席に座った。。

 

 

「やぁシロウ。今日はここで働いてるのかい?」

 

「ええ。ちょっと息抜きにね」

 

「あんたも大変ねぇ。なんかあったらおばちゃんに言いな。いい食材渡すよ」

 

「気持ちだけで十分だ。ありがとう」

 

 

 このように村民は基本的におおらかで、オレが対抗戦の選手になっても特に騒いだりしなかった。寧ろオレの状況に同情し、何かと気遣う人のほうが多かった。まぁ比較的年の近い―この世界の設定上14歳のため―成人した若者は、男女問わずはしゃいだりしていたが。

 まぁそんな感じでまばらに訪れる客を捌きながら、自らの料理の可能性を模索していた。最近はとんと料理から離れ気味だったから、この機会に自分の技量確認と新しいレシピの開発に勤しんた。

 

 日も天を過ぎて八つ時少し前。昼食も店で済ませた俺は、ホグワーツから来た生徒たちの相手をしながら、相変わらず料理の研究をしていた。新レシピの試食は生徒や遊びに来た村民がしてくれるため、特に余らせたりと困ることはない。

 今は村に遊びに来たマリー一行の相手をしている。カウンター席に座るいつもの三人に加え、剣吾とジニーを加えた五人である。まぁメンバーがメンバーのため、これが生徒以外の村民の目を引く。加えてもうすぐ第二の課題のため、観光客も多い。自然と注目が集まるのも頷ける。

 

 

「そう言えば剣吾。お前昨日はどこにいたんだ?」

 

「「ゴボッ!?」」

 

「む? ジニーまで咽て(むせて)、どうした?」

 

 

 俺の問いかけにバタービールを咽るバカ息子(剣吾)義娘候補(ジニー)。息子はわかるが、彼女が咽る理由が……。ああ、なるほど。

 

 

「まぁ君たちは学生の身だ、剣吾は一応だが。校則に触れることはするなよ」

 

「シロウも一応ホグワーツの生徒だよ?」

 

「……まぁそれは置いといてだ。余り羽目を外すなよ?」

 

「「了解(わかりました)」」

 

 

 注意も程々に、オレは仕事に戻る。流石にいつまでもおしゃべりに興じるわけにもいくまい。返却されたグラスを洗って拭きながら、鍋やフライパンの調子を見る。現在作っているのはスープと弱火で加熱している肉料理。気を付けないとスープは煮立ち、肉は焦げてしまうため、逐一気を配って確認しなければならない。

 あとどれだけの時間熱するのかを確認して注文の料理を熟していると、店のほうが少し騒がしくなった。どうやら妙な客が来たみたいだが。

 気になって裏のキッチンから表に出ると、すぐに出たことを後悔した。バーカウンターの近くのテーブル席にどこぞで見た聞屋、たしかリータ・スキータと言ったか、がグチグチと何かしら文句を耐えれながらメニューを見ていた。

 

 

「注文された飲み物と料理です。ごゆっくりどうぞ」

 

「あら、どうも。ん? このみすぼらしい料理は何ざんす? 名前負けが凄まじいわね」

 

 

 開口一番に料理の文句を言いやがる聞屋の女。人が知れるというのはこのことだろう。今回料理に使用した食材は、オレが自費でわざわざ現物を見て解析して最高の食材を厳選したものだ。無論調味料も自費で購入したものである。名前負けだと? 食べてもないのに品の評価をきめるとは、これだからでっち上げ記事の著者は」

 

 

「あなた? 聞こえてるざんすよ?」

 

「む? おやこれは失礼。ついつい本音が出てしまったようだ。まぁ君のようにでっち上げしか書けない人間にとっては、人の本音ほど新鮮なものはないだろうがね」

 

「あなた、私に喧嘩を売ってるのかしら? それによく見たら、あなたホグワーツの代表ざんしょ? なんでこんなところに?」

 

 

 そういってバッグからすかさずメモ帳と羽ペンを取り出すスキータ。羽ペンは以前見たときと同じ、自動で書いていくクジャクの羽ペンだ。

 

 

「おや? 君は他人の、ましてや子供のプライベートまで暴こうというのかね? ここで労働してようと、君には関係ないはずだが」

 

「記事の読者は面白い話に飢えてるの」

 

「さて、その辺は君の書き方次第になるだろうよ。いずれにしても、今回書こうとしていることは無意味だと思うがね」

 

「おや、どうしてざんしょ?」

 

 

 心底不思議そうな表情を浮かべるスキータ。本当にわかっていないのか、それともわかっていてあえて聞いてくるのか。

 

 

「君が記事を書いたところで、その記事は公表されないからだ」

 

「ほう? たかが小僧一人が、大人に何かできるとでも? 私を脅すなら、君も相応の覚悟をしたほうがいいざんす」

 

 

 始終上から目線でオレを小馬鹿にするように話す目の前の女。だが彼女は気づいていない。今この店には人祓いの結界が張られ、俺と剣吾、そして目の前の彼女以外の人間はいないことを。ロスメルタさんはキッチンにいてもらってる。

 

 

「ならばこの情報を早く魔法省に送ったほうがいいかもな。とある女記者は違法に情報収集していると」

 

「っ!?」

 

「本来『動物もどき(アニメ―ガス)』は登録が必要なのに登録せず、加えて対象のプライベートや過去の傷なんてなんのその、対象がこれから先に負う心の傷を作るだけの記事を書いている。後者は兎も角、前者は今まで何故捕まらなかったか、甚だ疑問だな」

 

「……」

 

 

 女は苦虫を噛み潰したような顔をしている。カウンター席では息子がバタービールを飲みながら、結界の維持を続けている。まぁそろそろ話は終わるため、もう解除してもいいだろう。

 

 

「……それがどうしたざんず? 別に私のことではないから関係ないざんしょ?」

 

「ああ関係ないだろう。これから捕まって裁判、悪くて収容だからな」

 

「……」

 

 

 更に不機嫌な顔になるスキータ。ここらで止めとしておくか。余り話を長引かせるのも良くない。

 

 

「一つ言っておく。私を社会的に潰そうとするのは構わん。が、その時はそれ相応の覚悟を持つことだ。そして魔法による実力行使ならば……」

 

 

 オレはそこで言葉を切り、鞄の中の杖に伸ばした手に陰剣干将を突き付けた。途端にスキータの顔が不快から恐怖に変わる。

 

 

「その時は俺も実力を以て潰しにかかる。よく覚えておけ、私や私の関係者ででっち上げ記事をこれ以上書いたり、その他こちらが被害を受ける事案が起こった場合は、その時は私自ら制裁を加える。(この世界の)魔法よりも確実であり、証拠も残らない方法で」

 

 

 言葉をそう締めくくり、同時に結界を解除した。机の上の料理は冷めてしまっている。スキータは机の上に料金を置き、飲み物だけを飲んで足早に出て行った。

 少しやりすぎたか。まぁこれを機に、彼女が少しでもまともな記事を書くよう努力してくれることを願おう。さてこの冷めた料理は息子に食わせるか。成長期だからか、先ほどから物欲しそうな目でこちらを見ているしな。

 

 

 






はい、ここまでです。
あれ? シロウってここまで好戦的な性格だったっけ? 私自身書いていてわからなくなった次第です。
さて予告通り、次回から2,3話かけて第二の課題を描写していきます。果たして型月関連は出てくるのか。気長にお待ちください。
それと活動報告にてお知らせがあります。
それではまたいづれかの小説で。




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10. 第二の課題 【前編】



「おい贋作者。何やら騒がしいようだが?」

「……英雄王。君は現世には興味を持ってなかったはずだが」

「ふん、全ての世界は余さず我の庭だ。故に我らの座の力が勝手に使われることを、我は決して許さん」

「相変わらずの暴論だが、そのことはある程度把握している」

「ほう?」

「恐らくだが、五次の影が呼び出されるだろう。だが影とはいえ、英霊であることはかわらん」

「それで?」

「私が正規の英霊となる切っ掛けとなったエミヤシロウがそこにいる。奴ならば影に対処できる。それに奴の血を引いた息子もいる」

「贋作者の別の可能性か、まぁ精々足掻くのだな。その世界には……」





 

 

 さて、そろそろ俺も第二の課題に取り組まねばなるまい。冬季休暇が終わってすぐに試練があるため、あと二週間ほどしか期間がない。一応嫌な予感がしたため、談話室に誰もいないときに卵を開いた。結果、耳を塞いでも頭に響く叫び声が発せられたため、急いで閉じることになった。

 金の卵、掠れつつも大きな叫び声。これだけでは全く先が読めない。一つ感じるとすれば、水に浸ければ多少は改善されるのではと感じた程度だ。だが果たしてそれが正しいのか。

 

 悶々とした思考と金の卵を抱えたまま当てもなく歩く。こういう場合は一人で熟考するほうがいい。湖の横の森を歩いていると、遠くで人魚が水面をはねているのが見えた。思えばこの世界は本当に幻想種が多いと感じる。目の前で水を飲んでいるヒッポグリフ然りドラゴン然り。元の世界ではお目にかかれなかったものばかりだ。

 小波の立つ湖の岸辺、一か所飛び出た岩に腰かける。湖の中央で二人の人魚が話しているのが見える。彼らは本来水中に特化した種族のはずだが、まぁ時にはあのように水上に出ることもあるのだろう。そうでなかったら創作物とはいえ、アンデルセンの童話であのような表現はされまい。

 暫く人魚を眺めているとあることに気づいた。彼らの会話の声は妙に掠れ、悲鳴のようになっている。まるで卵を開いた時のように。

 

 

「……まさか」

 

 

 頭に浮いた考えを早速実行するために服を脱ぐ。流石に冬真っただ中なだけあり、俺以外に湖にいる者はいない。少々抵抗があるが、誰もいないので裸になってももんだいないだろう。金の卵を持ち、服を畳んで岩の上において湖におく。近くにヒッポグリフ、去年オレが授業で相手を受け持った純白の個体がいるが、まぁ悪さはしないだろう。

 

 裸のままで湖に入ると成程、とても冷たくて凍てつきそうだ。だが人魚らが活動できるため、氷点下になっていることはまずないだろう。氷も張ってないしな。

 卵を抱えたまま水面の下にもぐり、そして開封する。果たして、俺の予想は正しかった。蓋を開けた卵からは金切り声ではなく、美しい、それこそ人間では出せないだろう歌声で詩が紡がれていた。

 

 

「声を頼りに探す……一時間……大切なものが奪われる、か」

 

 

 歌の内容は三回ほど聞いて覚えた。恐らく今回の試練では戦闘は殆どなく、探索がメインとなるだろう。だが制限時間が一時間、加えて卵がそもそも水中でしか意味をなさないことを鑑みるに、今度の試練は長時間水中に入ることになる。そして魔法が絡むことから、いかに長時間潜水、または一時間水中で呼吸するかが鍵となるだろう。

 だが次の課題までに何をすべきかはだいたい分かった。今日は早く部屋に帰り、体を温めるとしよう。いや、それよりもキッチンに寄ったほうがいいか。そこで働いているしもべ妖精たちから何かしらいい話を聞けるやもしれん。

 で、だ。

 

 

「君は私の服に顔を突っ込んで何をしてる? 君の好物で主食である生肉や死んだイタチなどは入ってないぞ?」

 

 

 私の脱いだ服に顔を突っ込んでる、この雌のヒッポグリフをどうしよう。

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「シロウ、試練の謎は解けたの?」

 

「ああ。何をすべきかも、どう攻略するかもある程度の目途はついた」

 

「そう」

 

 

 時は経過して課題が三日後に控えられた日の夜。暖炉の前でアゾット剣を磨いていると、マリーが話しかけてきた。剣吾とハーマイオニーはこの昼間に呼び出され、この場にはいない。恐らく、試練で見つけ出す対象が彼らなのだろう。

 

 さて水中での呼吸法だが、三つほど考えてある。一つは「泡頭呪文」。これは頭を魔法の空気の泡で包み、酸素のない場所でも呼吸を可能にする魔法だ。こういう類のものは、魔術よりも便利だと言えるだろう。ただ本来は上級生向けの魔法のため、今の俺では成功率が五分だ。

 

 次が魔法植物、「鰓昆布(ギリウィード)」を使うことだ。この昆布は食することで、一定時間(えら)と水掻きを生成し、疑似魚人へと体を変容させる植物だ。ただ、鰓が生成されるときは相当な激痛が体に走るらしい。まぁ体組織を変容させるのだから当たり前だろう。

 

 三つめは正直取りたくない手段。数度に分けて水上に出て呼吸をし、潜水する方法。魔法の「ま」の字もない、原始的且つ個人の身体能力に依存するやり方だ。正直本当にこの方法は取りたくない。いや、身体能力は他の選手と比べても高いだろう。だがそれでも何度も水面に上がるのでは、時間がいくらあっても足りない。

 

 剣も磨き終わり、寝る準備に入る。マリーとロンはとっくに就寝し、他の生徒ももう寝ている。談話室には誰もいない状況のため、一人で何かをするのには丁度いい。時刻も夜中の二時になっているため、魔術の鍛錬には丁度いい時間だ。

 

 

「――投影、開始(トレース・オン)

 

 

 さぁ、心象を現実に浸食させよう(体は剣で出来ている)

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 試練の当日、オレは他の代表選手と共に会場に向かっていた。マリーはロンやジニーと共に観客席にいるらしい。それもフィールドを見渡せるように、最上段列にいるとか。義娘候補も見ていることだし、下手な姿は見せられん。

 ローブのポケットの中には「鰓昆布」が入っている。本来この学校では入手できないが、セブルスとの交渉の末、一塊譲ってもらうことが出来た。対価が向こう一週間の茶請けならば安い御用だ。

 

 制服の下には剣吾から借りた水着を着ている。ただこれは全身タイプではなく膝丈ズボン型、加えて鮫肌のため、上半身は露出して下半身はラインがわかる。ハッキリ言ってオレは全身くまなく様々な傷跡で埋め尽くされている。そのため見慣れてる同級生なら兎も角、他の面々は大なり小なり驚くだろう。実際他の代表選手は目を見開いているし、ボーバトンのデラクールじゃないほうは涙目になっている。

 流石に試練の前に見せるべきでなかった。そう考えた俺は彼女、たしかマルタンだったか、に顔を向けた。

 

 

『……大丈夫かね?(フランス語)』

 

『……っ!? あ、ええ。大丈夫、です』

 

『他の人もそうだが、気分の良いものではないだろう。こんな傷だらけの体は』

 

『……』

 

 

 オレの言葉に目を背ける彼女。他の選手も顔を伏せたり口をきつく結んだりしている。どうやら他の選手もフランス語が通じているようだ。

 

 

『心配しなくていいし、忌避の目を持ったことを悔やむ必要はない。それが普通だ』

 

『ですが…』

 

『これは私が魔法界に関わる前に着いたものだ。まぁこの前のドラゴンのもあるがね』

 

 

 ディゴリーは一応事情を知っているため、特に表情を変えない。だが女性二人は勿論、ダームストラングの屈強な二人も驚愕に染める。当然だろう、彼女らはオレの実年齢が40前後なことを知らないし、オレが妻たちと戦場を転々としていたことを知らない。この世界よりも血生臭く、闇が深いところにいたことを知らない。

 故に彼女らはこう考える。少なくともこの傷跡は、11歳になるまでに形成されたと。

 

 

『同情の必要はない。それよりも深呼吸をするんだ、そして自分の一番リラックスできる情景を思い浮かべろ』

 

 

 オレの言葉に目を閉じるミス・マルタン。さて少々、いやかなり失礼に当たる行為だが、彼女の頭に手を乗せた。彼女は第一の課題でも見ていたが、デラクールと比べるとまだまだ未熟な面が目立つ。無論デラクールもそこまで強いほうではないだろう。しかし第一の課題で毅然としていたのは落ち着いていたのではなく、緊張で表情すら変える余裕がなかったのだ。

 

 

「――同調、開始(トレース・オン)

 

 

 魔術回路を開き、彼女と同調する。オレの魔力を通し、彼女の体内、精神の極度緊張を緩和する。それにより彼女の呼吸も安定し、無駄な力も抜けて自然体となる。

 

 

『……落ち着いたか?』

 

『はい。……何をしたんですか?』

 

『なに、私の血筋に伝わる(まじな)いだ。緊張している君が心配だったものでな、勝手ながら使わせてもらった』

 

『なぜですか? 私たちは敵対校なんですよ?』

 

『魔法は使用者の精神状態に依存する。君の今の状態で使えば、最悪死ぬ可能性もある。君たちは謂わば新芽だ、まだ見ぬ未来のな。その芽が摘まれるのは、私は嫌なのだよ。まぁ身も蓋もない言い方をすれば、ただの偽善、自己満足だ』

 

 

 オレはそこで言葉を切り、控え室から出て所定の位置に着いた。他の選手も自分の場所に着く。観客からの好奇、驚愕の視線が突き刺さる。それに偶々かオレの運がないのか、オレの隣はミス・マルタンだったため、彼女からの視線も痛い。

 

 

「シロウ。君はどうするんだい? 『泡頭呪文』は使えるのか?」

 

「心配するな。それよりも確実なものを拝借したからな」

 

 

 逆の隣のディゴリーが問いかけるも、オレは昆布を見せて応える。一応対戦相手で年齢はオレが上だが、学年はオレが下だ。習ってない魔法もあるため、心配してくれたのだろう。

 

 

『さぁ選手の準備が出来ました!! 課題は号砲と共に始めようと思います。第二の課題は、水中に奪われた選手の大切なものを一時間で探し出し、共にここに戻ってくることです。尚、各々選手の様子は水晶玉で映し出されます。それではいーち、にー、さん!! はじめ!!』

 

 

 実況のバグマン合図と共に大砲の号砲がなる。同時に選手は全員湖に飛び込んだ。オレは水中で昆布を飲み込み、痛みに耐えて鰓を形成させる。痛みが治まって首を確認すると成程、確かに左右に鰓があり、普通に肺呼吸をする要領で水を吸うと酸素が供給される。両手の指間には水かきが形成され、足はオールのように平たく大きい造りになっている。

 さて、時間も限られていることだ、そろそろ行動をするとしよう。

 

 

 

 

 





――おい、大丈夫かよ?

問題ない。お前こそ、最近妙に大人しかったが?

――ちょいとお前とのリンクを強くしてたんだ。ありがたく思えよ?

最弱とはいえ、れっきとした英霊だからな。大なり小なり強弱の影響がでるだろう。

――まぁ頑張りな。俺は聖杯にいたせいか、魔力だけはクソみたいに多いもんでね。気障な紅茶並みに固有結界は張れるぜ?

十分すぎる。まぁ出来れば使う機会がないことを祈る。

――(そうなればいいけどな、どうにも胸騒ぎが治まらねぇ。気をつけろよ、正義の味方)





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11. 第二の課題 【後編】


「ねぇロン」

「何だい?」

「シロウはどうやって課題を熟すと思う?」

「たぶん薬かなんか使うんじゃない? この前スネイプと話してるとこ見かけたし」

「あ、なんか食べてる」

「あ、鰓が出来た。うわぁ、もうシロウさん関係で驚かないと思ってたけど」




 

 水を飲みながら薄暗い水中を進んでいく。思えば湖に赴くことは多かったが潜る、特に中央の深い部分には入ったことはなかった。海ではないため多少視界が悪くなると覚悟していたが、どうも疑似的に魚人になったことで水中でも大して変化なく視界を確保している。

 

 小さな淡水魚の群れの横を抜け、人よりも遥かに大きい水草の群衆の間を進み、悠然と泳ぐ大烏賊(いか)と並行して泳ぐ。水中は自分の泳ぐ音以外何も聞こえない。

 

 

「……静かだ」

 

 

 思えばこれほど静かな世界は初めてだ。一人でいるときであっても、何かしら声や鳴き声などがいつも聞こえていた。ふと泳ぐのをやめ、仰向けの態勢になって水面を眺める。そうすることで耳に聞こえる音は、完全に無となった。剣吾がまだ小学生だったころは、よくパソコンで宇宙中継などを観ていた。その時の動画も無音で、カメラに映る地球が静かに動くさまを見ていた。

 

 暫く無に任せて休憩したのち、俺は再び泳ぎ始めた。腕時計を見る限り残り時間は四十五分、少しゆっくりしすぎたか。観客席ではどのような反応がなされているか少し心配だな。

 暫く泳いでいると、再び水草地帯に遭遇した。微かにだが、奥のほうから綺麗な歌声が聞こえてくる。どうやらこの先が目的地らしい。水草をかき分けて進むと、今までの霞み具合が嘘のように澄んだ場所に出た。そしてオレは目の前に広がる光景に目を奪われた。

 

 ハッキリというと、そこはまさに街だった。地上と変わらない、岩や石で組み立てられた家々に、店のようなものまで存在している。家々の窓や扉の前では、老若男女何人もの人魚が顔をのぞかせている。

 極めつけは市街地の中央にそびえ立つ巨大な岩塊。人を優に超える大きさを誇る岩塊の天辺からは、数本の綱が伸びている。そちらに泳いでいくと、合計六本のロープが一メートルほど伸び、その先に足の括りつけられた生徒(大切なもの)が眠らされていた。六人全員がいるということは、オレが初めに来たのだろう。

 六人の顔を順に見ていくと成程、オレが取り返すのは剣吾というわけだ。そう考えて剣吾に近づいたが、そこでオレは近づくのを辞めた。そして剣吾の顔をジッと見つめる。

 

 

「……おい。まさかお前」

 

 

 気が付いてしまった。このバカ息子の瞼がぴくぴく動いているのを。そして口をつぐんでいるのは、出来るだけ空気を消費しないようにしているのだろう。他の五人が魔法で眠らされているのなら、こいつは何らかの原因で魔法が作用せず、最低二十分息を止めていたのだろう。

 

 

 ――……起きんか。今まで何度お前の狸寝入りを見てきたと思ってる。

 

 ――あれ? 父さん早いな。

 

 ――事情は後で聞く。念のため綱はオレが切るが、自力で泳ぐか?

 

 ――そうするよ。体をほぐしたい。

 

 

 念話で会話を済ませ、アゾット剣でさっくりと綱を切る。だが息子は気づいていないのか、固まって動かない。

 

 

「――同調、開始(トレース・オン)

 

 

 指先に魔力を込め、息子のでこの前で構える。その時その顔を泡頭呪文で覆うこと忘れない。ふとした拍子に窒息されては嫌だからな。そして構えた指を額の前に持っていき、一気に解放する。

 

 

「っ!? いって、何すんだクソ親父!?」

 

 ――お前がいつまでも寝てるからだ、早く水から上がれ。冷えるぞ?

 

「……とりあえず、息できるようにしてくれてありがとう」

 

 

 そう言うと、ゆっくりと水面に向かって浮上する。念のためオレも隣に付き添い、ともに浮上する。遠くのほうでぼんやりと赤い光が数度瞬いたが、気のせいだろう。水面に出ると、大きな歓声が響いた。どうやらオレは課題クリアと判断していいらしい。腕時計を確認すると、残り時間は三十分はあった。そしてスタート地点に目をやるが、ボーバトンの生徒二人がタオルにくるまっている以外選手はいない。

 オレと剣吾は水から上がると、二人の許に近寄った。

 

 

『どうした? 人質のところには来なかったようだが』

 

『……? っ!? 貴方は、熟したんですか!?』

 

『どうなのですか!?』

 

 

 二人はこちらに顔を向けると、鬼気迫る形相で駆け寄ってきた。どうやら様子を見る限り、途中で妨害によってリタイヤすることになったらしい。ということは先ほどの赤い光は彼女らが上げた救難信号か。

 

 

「……剣吾。行けるか?」

 

「問題ない。――礼装装着(セットアップ)

 

 

 オレは水着のまま、剣吾は礼装を装着して再び水に飛び込んだ。『鰓昆布』の効果は切れているため二人とも泡頭呪文をかけ、オレは投影した剣をオールのように、剣吾は風の魔術を利用して高スピードで再び人魚の町に入る。

 

 行き違いになったのか、残った人質はボーバトンの二人だけだった。二人とも、それぞれの選手を幼くした感じの少女であった。時計を確認すると残り時間は十分弱、最初の行きよりは時間がかかった。たぶんここで彼女らを助けなかったとしても、試練終了と同時に人魚が送り届けてくれるだろう。だがだからといってここで彼女らを助けなかったら、オレはオレを許せないだろう。

 息子も同じような考えだったのか、デラクールに似た少女の綱を切り、自分に引き寄せた。オレもマルタンに似た少女を自分に寄せ、二人して水面に上がっていった。

 水面に出ると同時に、意識を取り戻す二人。成程、本来なら剣吾もこうして目を覚ますはずだったのか。水から上がった二人の少女は、それぞれよく似た少女に抱きしめられていた。

 

 

「……まぁ意味はなかったかもしれんが、あの四人の笑顔が見れただけでも、な」

 

「うん。冬木で人助けしてる時も思うけど、この笑顔が見たくて人助けしてるんだよな」

 

 

 どうやら血は争えないらしい。オレも息子も、人助けの報酬は貰うことなく、助けた対象が笑顔を浮かべてくれたらそれで満足してしまう。まぁ息子の場合は自己犠牲の精神がオレよりも薄いため、アーチャーのようになる可能性はほとんどないだろう。

 服を礼装から私服に戻した剣吾は、ルーン魔術を使って服を乾かしていた。もう数分で乾ききるだろう。周りを見ると、どうやらボーバトンの二人以外は自力で人質を助け出したらしい。まぁ他の六人も無事でよかった。

 剣吾が服を乾かし終わり、オレは制服に着替え終わったとき、ボーバトンの四人がこちらに駆け寄ってきた。

 

 

「あなたたちは、私たちの妹を助けてくれました!! あなたたちのいとじち(人質)ではなかったのに」

 

 

 声を詰まらせながら、デラクールが代表してそういった。彼女と、そしてマルタンの隣に侍る少女に目をやる。似ているとは思っていたが、まさか妹だったとは。成人してないだろうから、恐らく付き添いで付いてきたのだろう。

 

 

『ミス・マルタンには課題の前に言ったが、俺たちの自己満足のためだよ。それと話しにくいならフランス語で大丈夫だ。むすk……剣吾も通じるし話せるから』

 

『ええ、ですから気にする必要はないですよ』

 

 

 二人してフランス語で応対すると、デラクールとマルタンは感極まったかのようにオレたちに抱き着き、両頬にキスしてきた。まぁ欧米では頬のキスは挨拶のようなもの、今回は感謝を表したものだろうがな。そして救出した妹たちもオレたちに一度抱き着き、医療テントに戻っていった。

 

 

「あの二人を見る限り、恐らく水魔に襲われたか。お前も見ただろう?」

 

「鋭利なもの、恐らくヒレとかで切られたり、道具で殴られたりしたんだろう」

 

「まぁ幸い怪我は浅そうだ。消毒して薬を塗れば問題ないだろう」

 

 

 見えないように釣りの道具を投影し、ローブから取り出すように外に置く。剣吾も同様にしてリール付竿を取り出していた。

 現在課題の結果について審査員たちは協議している。何やら威厳のある人魚を交えて話をしているが、思うように進んでいないみたいだ。というか、ダンブルドアは人魚の言葉を話せたのだな。

 これは時間がかかりそうだ。そう判断したオレは、息子と並んで釣り糸を湖に垂らした。

 

 

 

 





「ところで、なんでお前には魔法がかかってなかったんだ?」

「ん? ああ、たぶんこのネックレスだろうな」

「む? それは……ハッチャケ爺さん作か?」

「うん」

「まさかと思うが……"うっかり"外し忘れたか?」

「……( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」

「このバカチンが。そういえばお前、オレをクソ親父と言ったな?」

「……あ」

「お前の今日の晩飯は激辛麻婆豆腐だ」

「それだけはやめてッ!?」




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12. 新たな問題



――誰だって良い、何だって良い

「……」

――力を貸せ

「……正義ではなく、ただ一人の味方になる」

――その代わりに

「……それがお前の選択か」

――俺の全てを差し出す!!

「……いいだろう。お前の先に興味が湧いた」


お前という弓に番える【矢】を渡そう。





 

 

「……マスか」

 

「マスだな」

 

 

 二人して釣り糸を垂らしていたが、先ほどからマスばかりが釣れる。まぁ淡水魚となると必然的に種類は少なくなる。加えてここは湖、魔法生物などが湧いたとしても、普通の種は更に限られてくる。

 何が言いたいかというと、先ほどから親子そろってマスばかり釣れており、その数は合わせて三十はいく。

 

 

『レディーズ・アンド・ジェントルメン!! 審査結果が出ました。水中人の長から湖底での状況仔細を伺いました。今回の課題は五十点満点で評価していきます』

 

 

 会議が終わったのか、バグマンの拡大された声が響いた。オレと剣吾は竿を仕舞い、マスを集めて投影で出した容器に移して待機する。このマスは日干しにして保存食にするのもいいだろう。少なくとも、シュールストレミングのように塩漬けにすることはしない。いや、あれは味はおいしいのだが、如何せん匂いがきつすぎる。

 話がそれたな。

 

 

『まずはミス・デラクールとミス・マルタン。二人とも見事な「泡頭呪文」を使用しましたが、途中で水魔に襲われ棄権。ゴールに辿り着けず、人質も救出できませんでした。よって得点は二人とも二十五点』

 

 

 バグマンの発表に拍手が沸いた。デラクールとマルタンは自分は零点だと主張していたが、それでも拍手は鳴りやまなかった。

 

 

『次にミスター・クラムにミスター・アドルフ。ミスター・アドルフは「泡頭呪文」を使い、見事人質を救出しました。ミスター・クラムは変身術で自らをサメに変化、人質を救出しました。変身は中途半端でしたが、有効であることは変わりありません。しかし二人とも時間を少しオーバー。よってクラム選手は四十二点、アドルフ選手は四十三点です』

 

 

 再び拍手が響いた。カルカロフが一番の得意顔で拍手しているのが見える。それにしても第一の課題と合計すると、今のところクラムが暫定一位、次いでアドルフが二位か。ボーバトンの二人はどうしても下二位を争う形になるな。

 

 

『次にミスター・ディゴリー。やはり彼も「泡頭呪文」を使い、最初に人質を連れてきました。しかし彼もまた時間を一分オーバー。よって点数は四十七点です』

 

 

 バグマンの発表に拍手がわく。特にハッフルパフから拍手がわき、救出されたチャンが彼に熱い視線を送っていた。それにしても、またしても最後はオレか。ええい、何か作為的なモノを感じるなぁ。まるでとある仕事で孤島に行ったとき、沢山のゴリウー(アマゾネス)に囲まれた時のような。

 

 

『最後にミスター・エミヤ。彼の使用した「鰓昆布」は特に効果が高い。帰還は終了三十分前と最も早く、その時点で課題はクリアでした。道中何やら休憩する場面などは見受けられたため、それは多少減点の対象になります。しかし二度目の潜水後も、他人の人質を連れてきてなお、時間超過は僅か三分でした』

 

 

 ここで一度バグマンは言葉を切った。というかオレの審査内容長くないか? いや、かなりややこしい行動をした自覚はあるが。

 

 

『殆どの審査員が彼に満点を与えてもいいという判断でしたが、先の話の減点もあり、与えることはできません。しかしながら彼の能力は「鰓昆布」を差し引いても逸脱していることは明白。よって彼に四十五点を与えます』

 

 

 観客席からは大きな拍手が沸いた。しかし逸脱した力量か。これでも抑えたつもりだが、まだまだ抑えねばならんか。いや、次の課題次第では抑えることが難しいかもしれないな。

 

 

『それではこれにて第二の課題は終了とします。次回最後の課題は、六月二十四日の夕暮れより開始しします。選手はひと月前に課題内容について連絡します』

 

 

 バグマンのその声を最後に、第二の課題は閉幕した。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 生徒や他の選手が各々自寮や拠点に戻った中、オレは森の中を歩いていた。バグマンや他の人員は何も言ってなかったが、審査員の一人であるクラウチが行方不明になっている。オレも詳しいことは知らないが、どうやら冬季休暇の期間中に体調不良で誰も見なくなったらしい。

 今回代わりに審査員を務めていたパーシー・ウィーズリーによると、本格的に行方不明になったのは一週間前からだとか。今年からクラウチの部下として働き始めたあの真面目なパーシーが言うのだ、結構な大事なのだろう。

 何やら嫌な予感がしたため、オレはその予感がヒシヒシと感じる森へと向かったのだ。

 

 

「む? ……腐った匂い? これは……」

 

 

 夕暮れの森を歩いていると、何度も嗅いだことのある腐臭が鼻に突いた。これは死体が発する独特の腐臭である。この様子からして、死後硬直は既に終わっている。匂いの発生源は……ここから遠くない。無風でここまで匂うのは距離が近い証拠だ。

 匂いに向かって走ると、やはりというべきか死体が放置されていた。

 

 

「……行方不明ではなく、殺されていたのか。現在は冬、少し硬直が残っている状態からして死後四日目ほどだろう」

 

 

 何者かに殺されていたクラウチ。外傷が一切ないということは、魔法によって殺されたということ。こいつに恨みを持った脱獄囚か、はたまたヴォルデモートの手先か。何れにしても看過できない状況である。

 オレは懐から鋼の鳥を取り出した。ついでに念話で剣吾に、マリーから離れないように指示もしておく。

 

 

「ダンブルドアか? 私だ。緊急事態が発生、クラウチが遺体で見つかった。照明を上空に放つ。生徒などが来る前に遺体を回収、処分したい」

 

 

 用件だけ伝え、アゾット剣を上空に掲げた。

 

 

「『救出せよ(ペリキュラム)』」

 

 

 呪文を唱えると、剣の宝石から赤い火花が打ち上げられた。その数秒後、ダンブルドアが他二校の校長を伴ってやってきた。三人とも腐臭に顔をしかめたが、ダンブルドアは直ぐに表情を戻し、クラウチの遺体を確かめ始めた。他二人は顔を驚きに染めてクラウチの遺体を観ていた。

 

 

「少なくとも最近彼は殺されておるな、それも相当の手練れから魔法によって」

 

「そこの小僧が殺したのではないか? そいつならできそうだが」

 

 

 カルカロフが私に疑いの目を向けてくる。まぁ状況だけを見る限り、オレが疑われても仕方がないだろう。だが安直だな。私よりも長く生きているのだろうが、恐らくこのような場に遭遇した経験は少ないのだろう。

 

 

「失礼だが、どのようにして傷のない遺体を創り出すのだ? 魔法でやられたことは分かるが、人を殺す魔法など私は知らんのだが」

 

「ふんっ!! いけしゃあしゃあと言いよるわい」

 

「それに私にはアリバイが存在する。この遺体は長くても四日前に殺されたものだ。ここ四日間私は必ず誰かとともにいた。まだ疑うのなら、ホグワーツの学生に聞くといい」

 

「……」

 

 

 私の言葉にカルカロフは黙りこくった。マダム・マクシームは手練れだろうが、そもそも死体と出くわす機会が少ないのだろう、毅然とはしているが、微妙に震えているのがわかる。

 オレはクラウチの遺体に目を戻した。

 

 

「どうするつもりだ。最悪試合は中止になるのではないか?」

 

「……審査員とコーネリウスと会議を行う。続行するかはわからんじゃろう」

 

「……警戒を怠らんようにしよう。念のためにマリーの周囲警戒を強化しておく」

 

「頼んだぞ。それと学内の結界強化も頼まれてくれんかのう」

 

「客人たちもいるんだ。大いに強化しよう」

 

 

 話はそこで打ち切り、学校の危機管理結界の強化に向かった。果たしてこのまま試合は続投されるのか、それとも中止になるのか。恐らくだが、続投になるだろう。この手の予感に関しては外れたことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界を強化し終わり、寮へ戻る道すがらオレは考え事をしていた。もしかしたら今回もオレたちに関係する事態が起きるかもしれない。最悪黒化英霊がまた発生するだろう。前回は自分(アーチャー)だったが、次回以降はあらゆる面でオレを超える英霊ばかりである。黒化英霊が信仰の加護を受けるか知らんが、恐らく五次英霊の誰かが来るだろう。

 いい加減手を打つべきと判断したオレは寮ではなく、天文台の天辺へと場所を移した。ここなら人は滅多に来ないし、今日は誰もここを利用しないことは調査済みである。

 

 

「……起きてるか?」

 

 ――ああ、だがいいのか?

 

「問題ない。リスクは覚悟の上だ」

 

 ――二度と元の体には戻れないぞ?

 

「お前ならわかるだろう? オレは引き下がらんぞ」

 

 ――了解した。まったく、人使いの荒い宿主様だな。んじゃぁ、準備はいいな?

 

「……やってくれ」

 

 ――へいへい。それじゃあ、いくぜ。

 

 

 その言葉と共に、オレの体を灼熱と激痛が襲った。特に右手の令呪痕が火を噴くように熱い。

 当然だ。

 いくら最弱の英霊とはいえ、相手は『この世全ての悪』。過去に泥を浴びた俺でもこの苦しみはくるものがある。

 いまオレがやっているのはアンリ・マユとの融合、この先激化するだろう戦いに備えて、完全な一体化をして自身の強化を計った。何かしら正負の影響が出ることは承知済み、この世界のマリーの問題、そして黒化英霊の問題が片付くのなら多少のリスクは負うべきだろう。

 

 

「ア"ア"ッグゥ!? ゥオ"オ"ァ……!?」

 

 ――吞まれるんじゃねぇ!! 気張って自分を持て!!

 

「グアア――アアアアアアアアッ!? ――――――――ッ!!」

 

 ――しっかりしろ!? 手前ェの護りてぇもんも守れなくなるぞ!?

 

 

 アンリ・マユ何か叫んでいるが、全く耳に入らない。

 全身を熱した鋼が貫く。

 喉はつぶれ、肺から空気は吐き出され、それでも声にならない声を上げる。

 手足どころか、体そのものが動かない。

 血液が逆流するように錯覚し、意識が混濁する。

 

 

「――――――――――――――――――――――あ、ガッ」

 

 

 痛みを痛みとして認識しない。

 あまりにもの激痛に、感覚が麻痺してしまう。

 ピシリという幻聴と共に、視界の半分が割れる。

 風などないのに暴風に身を刻まれる。

 焔などないのに身を焼かれる。

 意識と感覚が削られる中、

 オレは幻をみた。

 

 憎たらしい姿。

 こちらを眺め、この風の中歩いてくる赤い影。

 ああ、言わなくてもわかっている。

『この世全ての悪』と同化するなど、自殺行為よりも更にま(おぞ)ましい行いだ。

 仮令エミヤシロウにその側面があったとしても、この行為は愚か意外何ものでもない。

 

 だがだからこそ、奴が俺に到達するのが癪だった。

 あの日追い越した奴の背中が、また(オレ)の前に出ることが容認できなかった。

 だから――

 

 

「二度とてめえに、オレの前を歩かせねえよ」

 

 ――ふぅ、冷や冷やした。じゃあな、楽しかったぜ。

 

 

 オレは奴に背を向け、再び歩き出す。

 これでいい、これでこそエミヤシロウだ。

 他の誰に負けてもいいが、自分にだけは負けられない。

 視界はクリアに、全ての感覚が元に戻る。

 意識の混濁はなくなり、全ての感覚が取り戻された。

 

 大きく息を吸って吐く。時計を確認すると、ダンブルドアと別れてから既に一時間は経過して夜の八時。この分なら、夕食は自分で作る羽目になりそうだ。

 もう一息ついて全身に解析をかける。とりあえず内面の異常は存在しなかった。せいぜい魔術回路が、本来ならば億が一にもあり得ないのだが、二十七本だった魔術回路が、二倍の五十四本になっていること。それと以前竜の血を被った影響が出たのか、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の加護が常時働いていること。

 そして外見だが、右手の甲から首下の右半身にかけて、アンリ・マユと同じような模様が入っていることが確認できた。幸いだが、固有結界も魔術も問題なく扱えるし、模様がある以外の外見の変化もない。

 

 

「……急いで帰るか。皆が寝静まった後に、念のために確認しておこう」

 

 

 服を正し、足早に天文台から去った。

 余談だが、寮に帰ると皆から大いに心配された。マリーが半泣きで怒っていたのは、正直申し訳ないと感じた。

 

 

 






「「!?」」

「? マリー、剣吾。どうしたんだい?」

「いま膨大な魔力を感じた」

「シロウに何か……あれは!?」

「……何だよ…あれ」

「黒い柱?」

「あれが魔力の正体か? だが一体?」

「あそこに……あの中心にシロウがいる!!」




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13. 束の間の安寧と末路



「ワームテール、朗報だぞ」

「な、何でしょうかご主人様」

「お前とは別の忠実なしもべからだ。例の物が手に入ったそうだ」

「そ、それは、真でございますか、ご主人様?」

「実行の日は最後の課題の日だ。邪魔者を一掃する」




 

 

『この世全ての悪』との同化を果たした翌日、魔術と固有結界は特に異常なく使用できることが確認できた。しかし一つ問題が確認できた。それは魔力を通す度に模様が広がり、今や首から下は殆ど模様が張り巡らされ、ウネウネ動いている。そして頭髪だが、以前とは逆に一部黒くなっている状態になった。

 ハッキリ言おう。魔術に身を置く身としても、これは異常であるとわかる。言ってみれば、オレが元の体から投影によって頭髪と肌の色が変化したのと似ている。通常ではありえないことなのだ。

 そして肌は服で隠れるとしても、髪はそうはいかない。そして無害な染髪薬など魔法界にはなく、殆どは悪戯商品の類しかない。結果オレは人生で二度目の、自身の外見変化による注目を浴びることになってしまった。加えて剣吾経由で凛達にも同化の件が伝わり、正一時間宝石の前で正座をするという事態にも陥った。

 まぁそれはいい。魔力の絶対量も上がっているし、弊害が外見変化に留まっているのだ、寧ろこの程度で済んで僥倖だと言えるだろう。それに他校は兎も角、この学校の生徒は直ぐに慣れてくれたため、然したる問題ではなかった。

 

 日にちは過ぎ、今日は聖バレンタインデー。この日はノルウェーもフランスも共通らしく、食堂では寮や学校は関係なく皆が座り、賑やかに食事を摂り、懇意にしている相手に贈り物をしていたりしている。

 オレはいつも通り鍛錬をした後、着替えたりマリーたちへの贈り物やキッチンで朝食の準備をしていたりと、いつもより食堂に行く時間が遅れてしまった。だが正直遅れて正解だっただろう。食堂たる大広間からは次々に生徒が退室しており、皆それぞれ贈り物や持ち帰る食事などを腕いっぱいに抱えている。

 少し大広間を覗くと、もう中には静かに食事をしている人間しか残っていない。静かに食事をしたいオレとしては願ったり叶ったりだ。

 席に着き、手短の料理を皿に取る。と言っても、今朝の朝食のメニューはオレが決めたため、しもべ妖精たちと作っても味は分かる。予想通りの味に満足し、フォークを進める。

 鍛錬を終えた剣吾も隣に座ったとき、俺たちの許に数人の学生が寄ってきた。全部で六人、四人はボーバトンの生徒で二人がホグワーツ、というよりマリーとジニーだ。

 

 

「おはよう。まだここにいたのかね?」

 

「うん、二人を待ってたの。はいどうぞ」

 

「あの、どうぞ」

 

 

 ジニーとマリーが差し出したのは小さな箱。仄かに香る匂いから判断するに、恐らく中に入っているのはウイスキー・ボンボン。オレは教えてないから、キッチンの妖精かモリーさんに教わったのだろう。特に手を加えない基本的なレシピみたいだが、中々上手くできているようだ。

 

 

「ありがとう、おいしくいただくよ」

 

「マリーさんもジニーもありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「は、はい」

 

 

 二人に俺たち親子からのブラウニー(チョコケーキの一種)を渡すと、二人の背後からボーバトンの生徒が出てきた。今更気づいたが、この四人はマルタン姉妹とデラクール姉妹だった。特にマルタンとデラクール妹が何やらモジモジしているが。

 

 

「あ、あの!! これどうぞ!!」

 

「わ、ワタヒも、ど、どうぞ……『あうぅ、かんじゃいました』」

 

 

 マルタン姉妹はオレに、デラクール妹は剣吾に包みを差し出した。ふむ、剣吾は分かるが、オレは彼女に何か気に入られるようなことをしただろうか? 精々説教まがいのことや、彼女の緊張を解いたりした程度だぞ。妹の方は単にお礼という面が強く、姉のように恥ずかしがる様子はない。

 

 

「ありがとう、いただこう」

 

「俺たちからもどうぞ」

 

 

 彼女たちにもブラウニーを渡す。先ほどまでモジモジしていたデラクールの妹、ガブリエルという名らしい、も菓子の魅力には勝てないのだろう。マルタンの妹と共に大喜びしている。

 と、そろそろ授業が始まるな。

 

 

「さて、授業に向かうとしようか。剣吾、育ち盛りで沢山食べるのは分かるが、遅刻したらわかっているな?」

 

「ッ!? 了解です、サー!?」

 

「誰が隊長だ、誰が。敬礼するな」

 

 

 軽くデコピンをかまし、自分の授業に向かう。たしか一限は占い学だったか、また死にネタの占いでもするのだろうな、トレローニーはその話が好きだしな。

 

 

 昼食時、普通はフクロウ便などは朝食の内に届くのだが、昼にも何通か届くことがある。オレや剣吾、マリーには余程のことがない限り便りが届くことはない。例えば剃刀(かみそり)や毒薬の入った便箋とか。

 

 

「これは……剃刀か。そしてこれは……毒薬。これも毒薬……毒薬……剃刀……無……毒薬……剃刀。何ともまぁバリエーション豊かなファンレターだ。嬉しくてお返しがしたいほどのな」

 

 

 そう、先ほどからこのような封筒が多数オレに届いている。理由は分からないが、殆どが学校外部からの便り、時折混じる校内生からの便りは単なる嫉妬の文面なので除外。問題は校外からの手紙である。この手の手紙の対処は慣れているので、手早く開封していく。

 

 

「すごいなこれ。いつの間にこんなファンが出来たのか?」

 

「さてなぁ。だが嬉しくて送り返したいぐらいだよ」

 

「倍返しか?」

 

「四倍返しだ」

 

「「アッハッハッハ!!」」

 

 

 息子と二人で手紙を開封しながら声高々に笑う。するとスリザリン席の一部で身じろぎする気配がする。成程、マルフォイ一味が黒だな。まぁおおかたインタビューか何かであることないこと並び立て、それを信じた読者がこのような便りを送ったと。まぁ、書いたのは恐らくあの女。

 

 

「そういや新聞にこんながあったぞ?」

 

「む?」

 

 

 剣吾が持ってきた新聞を受け取り、目を通す。他の生徒も興味を示したのか、俺の周りに集まってきた。オレは気にせず新聞を読んでいたが、果たして件の記事はすぐに見つかった。

 

 

接近、これがエミヤシロウの信実!!

 異例として選ばれた各校二人目の代表選手の話は、大いに注目を集めている。中でもより注視されているのが、ホグワーツ二人目の選手であるエミヤシロウだろう。彼は名前の通り、ブリテンではなく日本出身である。しかし彼の容姿は、日本人のそれとはかけ離れている。今回彼の日本人らしからぬ容姿と過去、彼の本当の姿にに関して、スキーター女史は多くの声を得ることに成功した。

 彼は以前ホグワーツに来る前はマグルの戦地を転々としていたらしい。マグルの殺害方法は古くから非常に残酷であることを、我々は過去に学んで知っている。そのマグルが絡む戦場にいたのでは、精神状態は普通ではないことは明白だ。

 その影響からか、彼の動きは魔法使いらしくない。魔法使いから見て明らかに邪道である、ジャパニーズカンフーなどを駆使し、魔法はほとんど使わないという徹底ぶり。明らかに魔法族の恥さらしである戦法ほ平然と使い、先の第一の課題をクリアした。

 

()()()()()()()()()()()

 

 ホグワーツの優秀な生徒の一人であるドラコ・マルフォイは語る。

 

「戦争していた人間が、あんな普通の感性を持ってるかい? ありえないね。どうせ魔法族というのも嘘で、"穢れた血"のマグルなのだろうさ。

 僕なんて彼に脅されたことがあるよ。彼の杖、みんなと違ってナイフの様だろ? あの刃の部分を突き付けられたよ。たぶん彼の親戚という奴も同類だね。あんな精神異常者達を学校に入れるなて、ホグワーツも堕ちたものだ」

 

 エミヤシロウの使う杖は正確には「アゾット剣」と呼ばれる物で、過去の著名な錬金術師が用いていたものである。彼が見栄で使っているのか、はたまたそれしか適合しないほど異質だったのか。

 何れにしても、この記事のためにインタビューをしたスキーター女史も、失礼のないように本人に聞き込みをしたにも関わらず、エミヤシロウ本人に応対されなかったどころか、殺害警告までされたという。このことから、彼は他人を傷つけることに何も罪悪感のない、サイコパス人間であることが窺える。

 アルバス・ダンブルドアは生徒の選考基準を見直すべきだろう。彼のような存在が、生徒の安全を脅かす一因となるのもそう遠くないのかもしれない。

 筆者と聞き込みをしたスキーター女史としては、生徒たちの安全のために早急にホグワーツから去るべきだと考える。』

 

 

 成程な。

 真実が入っているが、奴にとって都合がよくなるように捻じ曲げて伝えられ、更にあの女によって脚色されたようだ。殺害警告などしていないし、寧ろ失礼だったのはスキーター本人だ。そして記事では触れてないが、マルフォイの言葉の中に、息子を貶める発言もある。

 殺しに何も感じないのは大間違いだ。寧ろ手にかけなければならないことを悔やんでいるし、人を殺した後は気分がものすごく悪い。サバイバーズギルドの気があるのは自覚しているため、出来るだけ行動も抑えるようにもしている。

 あの女、懲りてなかったみたいだ。忠告したのだがな。

 

 

「まぁ俺がルーンを刻んでるから、居場所は直ぐにわかる。今からいくか、父さん?」

 

「まぁオレも手は打ってる。今は縄についているだろうよ」

 

「流石は父さん。策は無欠にして盤石ってか?」

 

「伊達に四十路ではないということだ。そら、号外が来たみたいだぞ?」

 

 

 話している間に、各生徒に無料の号外新聞が次々と配られていく。内容はリータ・スキーターの記事詐称と法律違反による逮捕の内容だった。

 何故これほど早く逮捕されたのかというと、事前に信用できる闇払い、キングズリー・シャックルボルトとパイプを作り、彼を経由してあの女の情報を流していたのだ。そしてオレの忠告を無視した結果、あの女の今までの罪が一気に露呈し、オレと剣吾のつけたマーキングが反応し、逮捕まで辿り着いたのだ。

 号外を読み、騒然となる大広間。その中でオレと息子、ウィーズリー兄妹とハーマイオニーは、平和に昼食を済ませることが出来た。

 完全に余談だが、スキーターは何人かの教師の間ではずっと忌避されていたらしく、今回の逮捕騒動で喜んでいる者もいた。そして何故かマルタンがオレの許に来て、自分は信じていたと力みながら言っていたのは疑問だった。

 

 

 





「……おっ?」

「どうした?」

「いやぁ、まさかそうするとはねぇ。しかもやり遂げたときた」

「だから何がだ?」

「いやなに、仮にも俺は悪の権化だろ? 分身とはいえ、あれは呪いの塊だ。あのエミヤシロウ、そのオレの分身と完全に同化しやがった」

「何だと!?」

「しかも負の変化は外見だけで、あとは正に働くときたもんだ。流石に今回は素直に脱帽だよ」

「……あの愚か者が。一歩間違えれば死よりも酷だというのに」




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14. 第三の課題と来訪者



「御主人様、準備は整いました」

「よくやった。あとは邪魔者を分断し、こちらの邪魔が出来ないようにする」

「エミヤシロウは如何しますか?」

「奴はオレ様の手札の一つで始末する。奴さえいなければ、我らの悲願に大きく近づける」

「流石はご主人様です」

「いいか、くれぐれも当日失敗するなよ」

「御意」




 

 

 

 バレンタインもとうに過ぎ、時期は五月へと移り変わった。日本では桜の花は散り、葉桜が五月晴れの空に映えているだろう。

 しかしホグワーツではまた別の理由で緊張感が高まっている。理由は至極単純、もうすぐ対抗試合の最後の課題が発表されるのだ。そのため、選手らは勿論、生徒らもピリピリしている。課題をするのはオレ達で生徒らではないのだがなぁ。

 今オレ達代表選手は、課題発表の会場に移動している。といってもクィディッチの試合場が会場らしいのだが、また一度目のように見世物でもするのだろうか? いやはやどの世界でも、ヨーロッパ人は見世物が好きなのだろうか。いや、極端に言えば、水族館や動物園も見世物か。

 

 

「今度は何だと思う?」

 

 

 偶然合流した全代表選手のうち、ディゴリーが聞いてくる。因みにデラクールらはしきりに地下トンネルだとかコロシアムだとか憶測を話しており、ダームストラングの二名はじっと黙っている。

 

 

「クィディッチ競技場を使うということは、よほど広い敷地が必要になるのだろう。一つ目が戦闘力、二つ目が知力とくるのなら、恐らく次の評価対象は判断力と応用力だな」

 

「ということは、突発的に何かが起こる課題ということ()すか??」

 

「それも推測の域を出ないだろう。どうせ今から聞くのだ」

 

 

 ディゴリーやマルタンと談笑しながらフィールドへと向かう。しかし何だな。道中一言もしゃべってないが、ダームストラングの二人も精神的にも物理的にも、最初に比べて距離が縮まっている。流石に約一年も同じ学び舎にいたためだろうか。

 他愛もない話をしていると、オレ達六人はクィディッチフィールドに到着した。しかしフィールドは様変わりしており、一面にまだ低いが木が植えられている。しかもただいい加減に植樹されているわけではなく、何かの法則に従って植えられているのだ。はてさて、これだけの広大な敷地を用い且つまるで道を作るように木が植えられているとなると。

 

 

「なるほど、迷路だな」

 

「その通り、流石はエミヤ君!!」

 

 

 俺が予想を口に出すと、背後からバグマンが大きな声を出しながら登場した。その後方には各校の校長や魔法大臣、審査員たちも控えている。

 

 

「第三の課題は見ての通り、広大な敷地を用いた巨大迷路だ。この迷路の中心に優勝杯が置かれ、辿り着いたら課題クリアという形式だ」

 

「待て、それなら今までの得点にヴぁ何の意味ヴぁあるンだ?」

 

「ああそれはだね、これまでの点数と今度の課題の合計点で優勝を決めるのさ。だから最初に優勝杯に辿り着くに越したことはないが、だからと言って優勝できるわけではないのだよ」

 

「とどのつまり、第三の課題の結果次第では彼女らも優勝を狙えると」

 

「その通りだ」

 

 

 バグマンは単純に第三の課題が迷路としか言ってないが、確実に当日は道中様々な妨害があるだろう。第一の課題は龍、第二の課題は水魔と命の危険が伴うものが普通にあったため、今回もそういうのがあるかもしれない。備えは万全にしておいたほうがよさそうだ。

 

 

「では課題は今日から一か月後に開催する。諸君、十分に準備を済ませ、全力で臨むように。それじゃあ解散!!」

 

 

 バグマンの一声で解散となる一同。

 全員一度寮や自分らの拠点に戻って夕食に行くみたいだが、オレはダンブルドアに頼まれ、ホグワーツ駅に行かねばならない。どうやら第三の課題は選手の親族も観戦可能らしく、オレはその迎えを頼まれたということだ。はて、他の人間は兎も角、凛たちは第二魔法で来るはずなのだが、それ以外にオレの関係者で来るものはいるのだろうか?

 その疑問は直ぐに解消された。

 到着した汽車から降りてきたのはディゴリーの両親の他に他二校の選手の両親たち、そしてウィーズリー一家の残りのメンバーだった。ついでに言うと何故か凛たちも汽車から降りてきた。流石にシィと華憐は疲れたのか、凛とイリヤに抱かれて眠っている。あとで軽食を作っておく必要があるな。

 

 

「直接会うのは一年ぶりね、シロウ」

 

「目を離した途端あれだもんね」

 

「恐らく士郎さんのそれは死んでも治りませんよ。アーチャーさんの例がありますし」

 

「「ホントよねぇ」」

 

 

 久しぶりに顔を合わせるのに、早速嫌味を言ってくる我が妻たち。紅葉はその隣で苦笑いしているし、ウィーズリー夫妻に関しては紅葉と一緒になって苦笑い。ビルとチャーリーに関しては事態を理解していないようだ。

 

 

「……ン"ン"、立ち話もなんだ。他の客人もいるし、校舎に移動しよう。『そちらの皆さま、ホグワーツはこちらでございます』」

 

 

 デラクールたちの親族たちも伴ってオレは歩き出した。時計を確認すると、あと一時間ほどで夕食の時間が終わる。まぁ校長の〆の挨拶の三十分前ぐらいに到着する。ゆっくりとまではいかないが、焦って書き込むような事態にはならないだろう。

 

 夕食には間に合い、両親らは多少好奇の視線を受けながらも比較的平和な夕餉を楽しみ、それぞれの拠点へと向かった。で、ウィーズリー一家が特別に拡張されたグリフィンドール寮に来るのは分かるのだが。

 

 

「可愛い―!! 何歳なの?」

 

「四歳!!」

 

「八歳!!」

 

 

 まさか凛たちもこちらに来るとは。いやまぁ、魔法で空間が拡張されているから十二分に収まるのだが、目を覚まして食事を済ませた二人の下の子がグリフィンドールの女性陣にもみくちゃにされている。ふとした拍子にオレが父親であることが広まりかねない。ウィーズリー一家とマリーは事情を知っているからいいのだが、他の生徒にはあまりバレるわけにはいかないのだ。

 

 

「それで、本当に体に影響はないのね?」

 

「ああ、外見が奴の特徴を受け継いだ以外は被害がない。魔力は前より増えたし、回路も頑丈になった」

 

 

 他の生徒が娘らに夢中になっている間にオレは手早く診察を受けていた。一応宝石を通して報告はしていたが、念のためということで診てもらっている。が、やはり体表と頭髪以外は特に何も被害は見つからなかった。

 三人から特に問題はないということでお墨付きをもらったが、今後はどうなるかわからないという念が押された。まぁ確かに、アーチャーとなら兎も角相手は「この世全ての悪(アンリ・マユ)」、後々爺さんの様に衰弱して死ぬということもあり得る。これに関してはシィや華憐は勿論、紅葉や剣吾にも教えられない。

 

 

「パパ……ねんね」

 

「「「「ぱ、パパぁ!?」」」」

 

 

 ……いや、シィに空気を読むことを期待するのは無理だったか。そもそも幼い子供が両親揃わない環境で過ごし、そして定期的に会えるとなると甘えたくなるものだろう。だからこうしてこの場でシィがオレを父と呼ぶのも仕方がないのだ……たぶん。

 

 

「シィちゃん、ベッドはこっちよ」

 

「んむぅ…パパとねる」

 

「お父さんたちは難しい話してるからね。明日またお願いしようか」

 

「あい……」

 

 マリーが咄嗟にシィを寝室に連れて行ってくれたおかげで変にあの子が寝不足になることはなくなった。マリーには今度好物を作るとしよう。

 さて、非常に心苦しいがこの場にいた関係者以外の記憶は消させてもらおうか。みんな、いい夢を見るといい。

 

 

 






久しぶりに更新しました。色々とリアルが忙しく、つい一昨日らへんに外伝が運よく更新で来たぐらいです。
次回より第三の課題、並びにクライマックスに突入します。
それではまた。




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15. 第三の課題



「よう、正義の味方」

「どうした?」

「いやなに、どうも嫌な予感がしてな」

「不本意だが私もだ」

「杞憂だといいがねぇ」





 

 

 

「……クラウチの息子が?」

 

「そうじゃ」

 

 

 現在夕刻の校長室、オレは「憂いの篩(ペンシーブ)」を通してダンブルドアの記憶を見ていた。その記憶の中ではカルカロフが元死喰い人として尋問を受けており、最後にクラウチの息子と思われる男が拘束される状況で記憶が切れた。

 クラウチの息子は死喰い人として活動しており、ヴォルデモートが失脚した後も色々行動していたらしい。その中でも有名なのは、ネビルの両親を磔の呪文によって拷問し、廃人にしたことだという。それにより奴はアズカバンに収監され、そのまま獄中死したという話だ。

 

 

「……一つ確認するが」

 

「何じゃ?」

 

「その死んだ息子の遺体はちゃんと検死したのか? いくら魔法が発達して他人そっくりに化けられるとはいえ、死後何年も経過していたら効力も切れているはず。本当にそれは息子の死体だったのか?」

 

「……検死はしてなんだ」

 

「そうか。ならこの先は外法の者、魔術師(オレたち)の領分だな」

 

 

 そう判断するとオレは凛とイリヤに連絡を取り、ダンブルドアから聞いた墓を調べてもらった。結果、埋葬されていた遺体は朽ちて骨になっていたが、明らかに骨盤の形などが女性のそれだったそうだ。

 確定だ、クラウチの息子は何らかのタイミングで身代わりと入れ替わっていた。そして身代わりを引き受けるのは、よほど奴と親しい人間か奴を大切に思っている奴に限る。まぁ「服従の呪文」なんて代物があるだけに、この推測は正しいとは限らないが。

 

 

「ダンブルドア。奴は面会を受けたことはあるか?」

 

「流石にそこまではわしにもわからぬ。バーティのしもべ妖精、ウィンキーに聞けばわかるじゃろうが、今は荒れておる。一応ホグワーツの厨房に雇い直しておるが、酒に溺れている状況じゃ」

 

「肝心の情報源は使えずか。ダンブルドア、最悪逃げ出したクラウチの息子が何かやっているかもしれんぞ」

 

「承知しておる。わしも出来得る限り早く調べよう」

 

 

 やれやれ、最終課題の直前だというのに嫌な話ばかり出てくる。

 

 

 

 それから数日後、ホグワーツにいる全生徒と教員は試練の会場にいた。代表選手はそれぞれ迷路の入り口に立ち、開始の号砲を待っている。

 

 

「紳士淑女の皆さん、あと五分ほどで最終課題を開始します。現在の得点状況をお知らせしましょう!!」

 

 

 会場にバグマンの声が響き渡る。正直オレ自身は順位など興味がないので、バグマンの話はあまり聞いていない。まぁ奴によればディゴリーが単独トップ、次いで俺が二位でボーバトンの二人が下位二つだとか。

 そういえばボーバトンで思い出したが、デラクール、姉のほうがビル・ウィーズリーに一目惚れしたみたいだったな。彼を見る目が熱っぽかった。モリーさんが微妙そうな顔していたが、まぁロンと違って魅了は効いていないだろうから大丈夫だろう。それにデラクールもビルの前ではできるだけヴィーラの力を抑えているらしいしな。というより彼女の祖母がヴィーラ、まぁ男を魅了する西洋の妖なんだが、であることを知ったときは驚いた。

 

 

「ではこれより第三の課題、最終試練を始めます!!」

 

 

 バグマンの号令と号砲と共に試練が始まった。どうやら順位降順で迷路に入るらしく、オレはディゴリーの一分後に入るようだ。

 

 

「パパ―!! 頑張ってー!!」

 

「シロウ―!! 負けたら承知しないわよー!!」

 

 

 観客席から響く、イリヤとシィの声。グリフィンドール寮ではあの後も度々シィがオレを父親呼びしたため、実は俺が子持ちだったことが知れ渡ってしまっている。記憶操作すればいいのだが余りに高頻度でやると精神に異常をきたしかねないし、あまりにもの大人数だったために凛たちとの協議の末、もうグリフィンドール生は諦めるということに決まった。

 

 

「では次にシロウ・エミヤ選手、開始してください!!」

 

 

 バグマンの声に従い、オレは迷路に入る。一応外周を教員たちが見回りしており、有事の際は火花で合図すれば救出されるらしい。まぁ余程のおかしな魔法生物じゃない限り、オレは大丈夫だと思うが。

 問題は選手同士の衝突だ。流石に殺傷力の高い魔法は使われることはないだろうが、正直ダームストラングの生徒が要注意だ。気づかれていなかったが、奴ら二人の目が濁っていた。まるで魔術や魔法による干渉を受けた、操り人形のような印象を受けた。まさか、「服従の呪文」にかけられているのだろうか。

 

 

「嫌ぁあああ!?」

 

「ッ!!」

 

 

 突如オレの耳に悲鳴が聞こえた。声の大きさからしてすぐ近くと判断し、オレは最短ルートでその場に向かった。そこで目にしたのは、ダームストラングの二人に杖を向けられ、地面で倒れ伏しているボーバトンの二人。状況を見るに、先に襲われたのはデラクールだろう。そして偶然居合わせたマルタンが庇ったところやられたか。

 

 

「? 誰だ!!」

 

「『苦しめ(クルーシオ)』!!」

 

 

 先にアドルフが気づき、反応したクラムが俺に「磔の呪文」を使ってきた。他の魔法使いのように苦痛でもがきはしないが、いくらオレでも痛みは感じる。少しだけ怯んだが、まずはクラムに駆け寄り、腹に一つ打ち込んだ。それによりクラムは気絶して地に付すが、アドルフがいつの間にか迷路の奥に消えていた。

 まぁいいだろう、どのみち使い魔もつけているのですぐに追いつく。それよりこの三人だ。念のためにクラムに解析を掛けるが、やはり何かしらの魔法がかけられていた。そしてそのクラムは意識を取り戻しかけている。

 

 

「……少し痛いが、我慢しろよ?」

 

 

 奴の肩に手を当て、そこからオレの魔力を流し込んで淀みを正す。一瞬体が跳ね上がったが、クラムの体からは淀みが取れ、外部からの魔法干渉もなくなった。これでいいだろう。

 

 

「『救出せよ(ペリキュラム)』」

 

 

 上空に花火を打ち上げると、すぐさまマグゴナガルとスプラウト、セブルスが箒で来た。状況を説明を終えた後、オレは直ぐにアドルフ追跡に向かった。奴のことだ、誰かに操られたまま今度はディゴリーを襲うだろう。

 迷路を進んで早十五分、アドルフがディゴリーを襲おうとしているときに鎮圧に成功した。奴もやはり魔法の干渉を受けているみたいだったため、クラムと同じ要領で淀みを廃し、救援に処理を任せた。

 

 

「……これで残るはオレ達だけになったが、どうする?」

 

「ホグワーツが勝つことは決定してるけど、この課題は勝たせてもらうよ」

 

「好きにするがいいさ。オレは特別勝ちにこだわっていないからな」

 

 

 そう言ってオレ達は別々の方向に進んでいった。奴はどうもオレに張り合っているみたいだが、何か奴の気に障ることをしただろうか? まぁいずれにせよ、此度の優勝はどうやらオレみたいだ。別れて数分した後には、水色に輝く優勝杯が鎮座するエリアに来た。

 念のために解析をかけると、何やら優勝杯が変質しているのが分かった。どうやらこの優勝杯、何者かによって移動キー(ポート・キー)に還られていた。ディゴリーが先に来ていなくて良かったというべきか。

 さて、これが発動した際どうなるかはわかららない。だが確実に今回の黒幕の許に、ヴォルデモートの許に送られるだろう。

 

 

「鬼が出るか蛇が出るか、試されてやろう」

 

 

 一つ息をつき、オレは優勝杯を握った。

 途端に襲い掛かるのは浮遊感とへその裏を引っ張られる感触、そして優勝杯があったエリアから放出される、()()の膨大なエーテルの乱気流だった。ついでにキーを介して感じる感覚、どうやら転移先にもエーテルの乱気流が発生しているらしい。

 そう、まるでサーヴァントを召喚するときのように。

 すまない、みんな。どうやら面倒ごとを押し付け、ついでにオレも無傷で戻ることは難しそうだ。

 

 

 

 

 

 

「剣吾、戦闘準備しなさい」

 

「了解」

 

「サクラ、モミジ。私たちは避難誘導よ」

 

「はい。華憐ちゃんとシィちゃんはウィーズリーさんたちと逃げててね」

 

「剣吾、心しなさい。これから闘う相手は生半可な覚悟じゃ死ぬわよ?」

 

「そんなにか?」

 

「ええ、私でも士郎の援護がなけりゃ相手をするのはきつい。でも今回は各個撃破でいくからね」

 

「……」

 

「しっかりしなさい。あれは分身体、最初から本気で行けば貴方なら負けないわ。なんたって私とシロウの息子で、私たちエミヤの長男だもの」

 

 

 

 






えー、リアルが忙しくてなかなか更新できませんでした。
再来週以降は一ヶ月ほど安定して投稿できると思うので、もう少々お待ちください。
それではまた。




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16. 死合い



「まさか……」

「三人だな。しかも一人は……」

「行けると思うか?」

「分からんな」





 

 

 

 それは唐突に起こった。

 私たちは観客席でシロウの競技状況を見守っていたんだけど、迷路の中央で一度大きく光が瞬いたとたん、シロウたち魔術師(メイガス)とは違って魔力感知がしにくい私たち魔法使い(ウィザード)でも感じ取れる、膨大なエネルギーが膨れ上がった。直感でただ事ではないと察し、更にこれは未熟な私たちではどうしようもない事態と理解してしまった。

 隣に座るイリアさんたちは状況を察したらしく、すぐに行動を始めていた。そしてシロウだけど、ライン越しに感じられたのは、彼が何かによって遥か遠方に転移させられたことだけだった。

 

 

「剣吾、槍を構えなさい!! 来るわよ!!」

 

 

 リンさんの声が響くと同時に、目の前の迷路の入り口でなにかが勢いよく落下し、砂塵が舞った。その轟音と衝撃に私たちは凍り付き、イリアさんたちは結界を張っていた。

 砂塵が晴れた先には血よりも紅い(あかい)槍を携えた全体的に蒼い男、その顔の上半分は妙な仮面に覆われている。そして更に上空には、蝙蝠のようにマントを広げ、長い杖を構えた女性が浮遊していた。あれは馬鹿でもわかる、戦ってはいけないと。そしてそれら二人の雰囲気は、去年出現した別のシロウと酷似していた。

 

 

「先手必勝!!」

 

「一番、二番!!」

 

 

 剣吾君が槍を構えて男に突進し、リンさんが袖口から出した宝石を女性に投げつける。槍同士の鍔迫り合いの影響で地面がひび割れ、上空ではリンさんの宝石魔術が火を噴く。そのまま剣吾君と男は迷路を破壊しながら衝突を繰り返し、リンさんはいつの間にか開発した飛行魔術で女性と空中戦をやっている。

 

 

「何なのよあれ?」

 

「課題はどうなってるんだ?」

 

 

 周りからぽつぽつと声が聞こえ始め、目の前の二つの戦闘の異様さに目が引かれる。そこに来賓を結界内に連れてきたダンブルドア先生が、サクラさんたちと一緒に避難誘導を始めた。私やウィーズリー一家、ハーマイオニーはこれが私たちの常識外の戦闘であることは分かっているため、すぐにこの避難誘導に従うことが出来た。

 

 

「誰か、早く撃ち落として!!」

 

「なんなのかわからないけど、魔法なら大丈夫だろ!!」

 

「ッ!? 攻撃してはいかん!! ワシの指示に従って退避するんじゃ!!」

 

 

 でもやっぱり馬鹿な人はいるもので。無知は恐ろしいということを痛感してしまう。スリザリン生数名にそれより少ないレイブンクロー生が男と女性に向かって無作為に魔法を放った。ダンブルドア先生や他の先生が必死に制止するも、パニックになった生徒は聞く耳を持たない。グリフィンドール生はシロウの異質さを知っていたため、今回のことも比較的に冷静に対応し、先生方の指示に従っている。

 

 

「っ!? ■■■―――■――!!」

 

「あもっ!? ちょっと誰よ、こんな邪魔な魔法使ってくる馬鹿は!!」

 

 

 案の定彼らの放った魔法は邪魔以外何物でもなく、女性の放つ無数の魔力弾やリンさんの虹色の短剣から放たれる光の斬撃にかき消されている。レイブンクロー生はそれで悟ったのだろう、みんな攻撃をやめ、スリザリン生もただ一人を残して全員攻撃を辞めた。

 残った最後の一人、パンジー・パーキンソンは止まらずに攻撃をしてしまった。

 

 

「―――■■――■ー!!」

 

「しまった!?」

 

 

 その魔法に反応した女性は一段と空高いところに舞い上がり、空一面に無数の魔法陣を形成した。一発一発の威力は少なくとも私たちの魔法よりも高く、変な効果がない分純粋な魔力エネルギーであり、肉体への危険性も高い。流石の凛さんも全てを薙ぎ払うことは叶わず、けっこうな数の弾が私たちに降り注いだ。

 ダンブルドアをも軽く超す実力者のサクラさんにイリヤさんの二人掛かりの結界でも、この量の魔力弾を完全防御することは難しかったらしい。いくつか結界を破り、避難中の私たちに弾が降り注ぐ。間一髪で先生たちによる「盾の魔法」で防がれたけど、衝撃でみんな吹き飛んだ。。

 そしてそこに追い打ち掛けるように、先ほどまで性懲りもなく魔法を放ったパーキンソンに魔力弾が数個殺到した。全員が、ダンブルドアも多少怯んでおり、彼女を護る魔法が間に合わない。

 私たちの目の前で、パーキンソンのいた場所が爆発を起こした。同時に私は何者かに抱えられ、そのまま視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと墓地にいた。

 傍らにはオレが掴んだ優勝杯が転がっている。周りを見渡しても墓石ばかりで、人の気配など何もない。墓場の遠くにはとても大きい屋敷がそびえ立っている。

 

 

「……話に聞いたマリーの夢に似ている」

 

 

 そう、夏休みや今年のカリキュラム中、度々マリーが見ていた夢と景色が似ている。念のためにアゾット剣を引き抜き、魔術回路も開いておく。案の定危惧したように、近くの小屋から人影が出てきた。

 

 

「……やはり貴様か、ペティグリュー。そしてヴォルデモート」

 

「初めましてだな、異端の魔法使い」

 

 

 小屋から出てきたのは去年取り逃がしたペティグリューと、その腕に抱えられているヴォルデモートだった。ヴォルデモートは未だ完全ではないらしく、動かせるのは首から上だけらしい。

 

 

「動けないのなら好機」

 

 

 有無を言わせず、奴らに肉薄して仕留めようとした、が、横合いから長刀でアゾット剣が阻まれてしまった。この長刀、大太刀よりも更に長い鍔なしの刀。本来いるはずのない男、そして本来召喚されないはずの亡霊。

 

 

「……どうりで、気配がないはずだ。貴様らはよりによってこれに手を出していたのか」

 

「お前という存在に対抗するためさ」

 

 

 成程、確かにそれは正解だ。現に俺は奴らに手を出すことが出来ず、アサシン佐々木小次郎の成り損ない相手に、休む間もなく剣を振るっている。自我もなく、不完全な召喚であの時よりも劣化しているとはいえ、天賦の才たるその剣技の冴えはすさまじい。

 その時鞭のような音が二回鳴り響き、墓地の中で一際大きい墓石の前に、一人の少女が現れた。見間違えようのない、凛達の近くにいさせたマリーが、何故かヴォルデモートのいるこの場に転送させられていた。

 

 

「マリー、何故ここに!?」

 

「シロウ!?」

 

 

 一度距離を取ったときにマリーに問いかけたが、彼女も混乱しているのか、答えが要領を得ない。そうこうしている間に再び小次郎がこちらに切りかかってきたため、こちらもそちらの対処に意識を割く。流石に劣化しているとはいえ、奴は稀代の剣豪と違わぬ剣技の持ち主、一瞬たりとも気を抜けばこちらが死ぬ。

 正直言えば早くこいつを倒して核を取り出し、マリーと共に脱出したい。それにこちらがアサシンを相手している間、ホグワーツでは凛たちが向こうのシャドウサーヴァントの相手をしているだろうそちらの加勢もしたいところなのだ。

 

 

「アアアアアアアアアアッッ!?!?」

 

「闇の帝王よ甦れ、再びこの世界に!!」

 

 

 突如響くマリーの悲鳴と紡がれる呪詛。そしていつの間にやら置かれた大鍋から溢れる膨大な魔力。どうやらヴォルデモートの復活を阻止できなかったらしい。

 

 

「ッ!? 容赦なしかね、貴様は!!」

 

「■■!!」

 

「ちぃッ、貴様の相手をする暇はないというのに!!」

 

 

 物干し竿を振り回し、一撃必死の斬撃を放つアサシン。こちらも何本もの剣を砕かれ、幾度となく投影を繰り返す。こんな剣豪から、アーチャーはどうやって生還したというのだ。劣化しているというのに、本当に厳しい。

 こちらがもたもたしている間も事態は動いていく。死喰い人の腕に刻印された闇の印により、現状娑婆にいる死喰い人が召集される。全員が揃うと同時にヴォルデモートの冷たい高笑いが響き渡る。

 

 

「――秘■……」

 

「ッ!? まず……」

 

「――燕返し!!」

 

 

 

 

 






四巻クライマックス。次回はそれぞれの視点を中心に描写していきます。
それにしても、原作が濃いだけにまとめるのが難しい。



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17. 光と剣、裏切りと万華鏡





「ケホッケホッ、みんな大丈夫?」

「私達は大丈夫です」

「あれ、紅葉お姉さまは?」

「え、あれ? どこに……」

「ちょっと、どいてよ!! 逃げられないじゃない!?」

「え? あっ、紅葉!!」

「両足が……まさかあの子を庇って」

「どきなさいってば!!」ドンッ!!

「うう……」

「「「「!?」」」」

「……あの女」

「助けてもらっておいてあの態度……」






 

 

 

「……腐っても英霊か。黒化しても強さは変わらず、かな」

 

 

 目の前で槍を構える男を一瞥し、大きく息を吐く。父さんと刃を交えたことはあるが、あくまで鍛錬の一つだった。殺し合いも確かに慣れてるが、それでも殆どが人の範疇を出ない実力者であり、英霊に届くものは異世界または並行世界にしかいなかった。それも俺一人での相手ではなかったために、ここまでの苦戦はなかった。

 母さんたちはまだしも、父さんは俺と同じ歳のころにサーヴァントと戦ったという。黒化英霊とは強さの規模が違う。

 

 

「それにしても妙だな。先ほどから槍がぶつかるたびに力を吸い取られている気がする。……まさかな」

 

「……」

 

 

 母さんと凛姉さんの話によると、俺が対峙しているのはクランの猛犬・クーフーリン。過去現在において三本の指に入る槍兵らしい。槍の扱いは申し訳ないが、父さんよりも遥かに上だ。黒化しているとはいえこちらは凌ぐのがやっと、攻撃を加えても悉くいなされる。

 そのとき目の前の槍兵に変化があった。先ほどまでのおどろおどろしい雰囲気が薄まり、黒っぽい軽鎧も群青色になり、顔の仮面も外れ、血よりも紅い(あかい)双眼がこちらを見つめた。

 

 

「……ほう。中々いい槍の腕じゃねえか」

 

 

 突如口を開いた槍兵。父さんから話は聞いていたが、まさか俺の魔力を吸い取って理性を持つまで現界するとは。

 

 

「しかしお前さん、誰かに似ている気がするんだが」

 

「……もしかして衛宮士郎か?」

 

「そうそう!! あの坊主に似ているんだ!! にしちゃあ、あの白い髪の嬢ちゃんにも似ている気がするが、まさか二人の子供か?」

 

 

 恐らく白い髪の嬢ちゃんとは母さんのことだろう。周りは俺たちのぶつかり合いで()()破壊されており、俺たちがいる迷路中央部は半径十五メートルほど開けているが、流石に観客席まで声は聞こえないだろう。それに空では凛姉さんがドンパチやってるため、更に声は聞こえづらいだろう。

 

 

「二人は俺の親だ」

 

「は? マジで、あの坊主の子供かよ?」

 

 

 俺の言葉を聞いて驚く槍兵。というか、座に戻ったら記憶は記録になって父さん達のことは忘れるはずだが。これもまた、イレギュラーゆえということか。

 

 

「あの坊主はどこまで足掻いても二流止まりなんだが。まさかその息子に槍の才があるとはねぇ。うちの騎士団でもいいとこ行けるだろうよ」

 

「それは光栄ですね」

 

「まぁお喋りもここまでだ。お前さんの魔力のおかげで自我まで持ったとはいえ、時間が限られてる。第二ラウンドと洒落込もうか!!」

 

「……ッ!! クソッ、さっきよりも強く!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着弾地点にいた生徒は、咄嗟に庇った紅葉のおかげで無事だった。ただ流石の紅葉も稀代の魔女の魔力弾は堪えたらしく、足を負傷して歩けなくなっている。あの女子生徒、自分のせいで紅葉が負傷したってのにあの子を押しのけるなんて。キャスターを片付けたら覚悟なさい、私たちの愛娘を傷つけた報いを受けてもらうわ。

 

 

「にしても妙ね。闘う度に向こうやり方が冴えていく。まるで段々聖杯戦争の頃に戻るみたいね」

 

「フフッ、知りたい?」

 

「!? あんた……やっぱり」

 

「貴方の考えてる通りよ、拳法のできるお嬢さん」

 

 

 これはまずい。

 士郎とは違い、私と剣吾は魔力量が数倍近くある。加えて私とは宝石剣で無限の魔力、剣吾は礼装で無限に近い魔力を使えるから、その分残留する魔力も多い。それを向こうに吸収されれば、一時的に完全にサーヴァントになることも可能なはず。

 

 

「私のこと、なんでか覚えてるようね」

 

「ええ。あなただけでなく、いろんな世界のあなたの記録があるから。それほどまでに本体の私はあなたが印象深いのかもね」

 

「へぇ、それは光栄ね。でも甘いわよ、あんたが知ってるのは子供の頃の私。あの時と違って、今では魔術でもあんたとタメ張れるわ」

 

「あらあら、怖い怖い」

 

 

 ころころと楽し気に笑うキャスター。なまじ素の顔がすごい美人なだけに、笑い顔もまた綺麗だ。

 

 

「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか。下の子も、ランサーとまた始めたみたいですし」

 

 

 そう言ったキャスターは杖を構え、外套の下に幾つもの魔術陣を張り巡らした。流石は高速神言、魔法使いになった今でもこれだけは習得できない。この戦闘、彼女の大規模魔術にどう対処し、接近戦に持ち込むかが重要ね。近接戦闘になればこちらに分があるのは、聖杯戦争の時に実証済みである。

 

 

「じゃあ私も見せましょうか。二代目『万華鏡』の戦い方ってのをね!!」

 

 

 その言葉と共に私は極光の斬撃を、キャスターは無数の魔力弾を出し、それらは空中でぶつかり合って大きな爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらそらそらぁ!! 休んでる暇はないぜ!!」

 

「く、うおっ!!」

 

 

 紅の槍から放たれる無数の刺突を、こちらは鋼の槍で何度も捌く。既に投影された槍は5本を超え、今丁度六本目を投影した。伝説の槍とただの金属の槍じゃあ性能の差はたかが知れている。それに加え、技量の差も一目瞭然である。寧ろここまで食らいついていることに、自分でも驚きである。

 

 

「まだまだ粗削りだが、父親とは違って槍の才があるようだな。だが俺についてこれてんのは、単に(ひとえに)その投影があるからだ。戦場だと死んでるぜ」

 

「ああ、今それを痛感してる」

 

 

 互いに軽口を叩きながら俺は大きく息をつく。あまり長い時間戦っていないのに、こちらの疲労は溜まるばかり、対してランサーは飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さない。これが一流戦士という奴か。確か伝説では、大人数の一部隊を一人で足止めしたとか。

 

 

「っと、どうやら時間の様だ」

 

 

 その声に反応するとの成程、確かに体から魔力が気化し始めている。どうやら黒化時とは違い、完全に現界したことで制限が付いたのか。憶測の域を出ないが、もう彼らは座に還るのだろう。

 

 

「いいもん見せてもらえた。現代じゃあ坊主ぐらいしか俺たちに張り合える奴はいないと思ったが、坊主の子供とはいえ、中々だったぜ」

 

「そいつは……光栄だな」

 

「〆だ。俺の技を特別に見せてやる」

 

 

 そう言ったランサーは槍を構え直し、刃先を下に向けた。途端、槍が周囲から貪欲に魔力を食らい始めた。一度見たことがある。父さんが仕事先で一度だけ見せてくれた宝具の真名解放、それによく似ている。そしてランサー、クー・フーリンとくればその宝具はゲイ・ボルグだろう。

 

 

「安心しな、真名解放はしない。聖杯戦争中じゃねえし、お前を殺すのは惜しいからな。だが……」

 

 ――避けねえと死ぬぞ

 

 

 その言葉と共に、彼の槍は一際紅く光り、一際濃密な魔力を纏う。俺も無意識に短槍を投影し、右手に構えた。左手には先ほどまで持っていた長槍を持ち、ランサーに向ける。彼はそれを見て、獣のように獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「そら、いくぜ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 速い。高速を超え、神速に届くのかという突きが俺を襲った。全身をくまなく強化してもぼやけてしか見えない、神速の突き。

 左に握る槍で(きた)る刺突の軌道を逸らす。しかしやはりこちらの力と速さが足りず、逸らすのが刹那遅れた。その結果、俺の体の真中を貫く槍は逸れ、俺の右わき腹を抉り穿った。激痛を伴いながらも体を無理やり動かし、右手の短槍を突き出した。

 突き出された槍の刃は逸らされたり防がれることもなく、偶然か必然か、ランサーの心臓を確実に穿った。

 

 

「……まさか二槍使いとはな」

 

 

 全身から先ほどの比ではない魔力を霧散させながらランサーは呟く。その声は悔しさではなく、嬉しさのようなものがにじみ出ていた。

 

 

「喜べ、槍に関してお前は確実に坊主よりも強くなる。鍛錬を怠るなよ」

 

「……ああ」

 

「さてと、このカードはお前が持ってな。いつかお前の助けになるだろうよ」

 

 

 そう言い残してランサーは完全に座に還り、俺の手元には金色のカードが残された。さて、脇腹の応急処置を終わらせて母さんの所に行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく鬱陶しいわね……!! Es last frei.(解放)Eilesalve(斬撃)――!!」

 

「なら、これはどう?」

 

 

 私の放つ斬撃を、次々と炎やら氷やら水やら光やらで押し返すキャスター。周りに発散される魔力も使っているため、本来の威力よりも高くなっているのだろう。

 

 

「コリュキオン!!」

 

「ええい!! Eins,(接続)zwei,(解放)RandVerschwinden(大斬撃)――!!」

 

 

 高速神言による連続した魔術攻撃を、こちらは大きな一撃で相殺する。時折宝石魔術による牽制を入れながら攻撃するが、未だに接近戦に持ち込めてない。流石はメディア、彼女以上に魔術に長けてる人は、マーリンなどを除いて恐らく手で数えれる程度しかいないだろう。

 

 

「あら、これで終わり?」

 

「まさか?」

 

 

 こちらを挑発してくるキャスター。上出来じゃない、あとどれだけ現界してられるか知らないけど、こちらの本気も見せてあげようかしら。

 こちらの気配を察したのだろう。メディアも杖を握り直し、魔力を迸らせる。その時、彼女から魔力が気化していくのが見受けられた。成程、捨て身の一撃というわけね。

 

 

「来なさいお嬢さん。あの頃からどれだけ強くなったか、確かめてあげる」

 

 

 その言葉と共に、彼女の前に特大の魔術陣がいくつも重なり合った。あれは直撃すればヤバいわね。

 

 

「なら目をかっぽじってよーく見てなさい。これが第二魔法よ!!」

 

 

 その言葉と共に、私も宝石剣に魔力を込める。すると剣は万華鏡のごとく輝き、夜空は虹色の輝きに染まった。今まで生きてきた中で、ここまで本気を出したのは一度だけ。死徒の姫君、アルトルージュとドンパチやりあったときだけである。まぁあの時はまだまだ未熟で、運よく士郎が彼女に気に入られて生き残れたんだけどね。

 

 

「喰らいなさい、マキア――」

 

Eins,(接続)zwei,(蓄積)drei(解放)――」

 

 

 たがいの最終攻撃魔術により、周囲に魔力の胎動が起こる。このままでは空間に歪が生じるのではと思わされるほどの力が、両者には蓄えられている。そしてそれを今、一息に開放する。

 

 

「ヘカティック・グライアー!!」

 

「Paradigm Cylinder!! 溶かし切れ!! 七色(にじ)の極光!!」

 

 

 キャスターの魔術陣からは極太のビームが、同様に私も斬撃を放った箇所からビームをだした。しかしこちらは刃、相手は物量作戦。私の攻撃はキャスターの攻撃を切り裂きながら進んでいく。しかしその斬撃もキャスターに届く前に途切れるだろう。キャスターは勝利を確信した表情を浮かべた。

 だが忘れていないだろうか? 第二魔法は並行世界の運用、即ち無限にある並行世界から魔力を貰うことも可能なのである。

 だから。

 

 

「もういっちょ!!」

 

「なんですって!?」

 

「ダメ押しにもう一回!!」

 

 

 追加で放たれた斬撃を防ぐ術はキャスターになく、彼女は私の攻撃に切り裂かれた。しかし彼女の表情は満足そうに微笑んでいた。まったく、拍子抜けなのよ、普通倒されて微笑みなんて浮かべる? ランサーじゃあるまいし。

 キャスターが消えた後は、一枚の金のカードが残された。これが前士郎が言っていたやつね。こりゃ本当に危険な代物だ。予想が正しいなら、聖杯戦争の七クラス全てのカードがあるでしょうね。アーチャーにキャスター、それにランサーの三枚がきた。不安なのは最優のセイバーと最悪のバーサーカーがまだ来ていないこと。それと予想が正しければ、各黒化英霊は第五次の者が呼び出されている。

 

 

「士郎、気張んなさいよ。残ってるのは恐らく、どれも今まで以上に手強いわ」

 

 

 とりあえず、一旦魔力を回復させて士郎を探しましょう。

 

 

 

 







試験もレポートもTOEICもいったん落ち着いたので更新しました。
いやはや久しぶりに書いたので全然わからない、自分がどう書いていたか過去話を見てもわからないという状態ですね。
とりあえず今回はここまでです。
来月はひと月、十月一日まで留学でカナダに行くので、その間は更新を停止します。それまではできるだけ進めて四巻終了、出来れば五巻入るまで行くようにします。

ではまた。




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18. 直前呪文



お待たせしました。
それではどうぞ。





 

 

 

 

 宙を舞う赤、倒れ伏す男。

 怨念の塊のような侍が刀を振った瞬間、三つの斬撃が()()にシロウを襲い、三つともシロウを切り裂いた。胸を逆袈裟に斬られ、更に首と胴にも深い切傷があり、そこから途切れることなく血が流れている。

 侍はそれを見て勝ったと思ったのだろう、手に持つ刀の剣先を下げ、構えを解いている。実際勝負はついたのだろう。あの技は二年前、シロウがヒュドラを倒した技に勝るとも劣らない。否、同時の斬撃であることからもしかしたらあれよりも上かもしれない。そんな技を受けて無事であるはずがない。

 

 

「これでいい……これで邪魔者はいなくなった」

 

 

 復活したヴォルデモートとその配下たちの声が響く。配下たち、"死喰い人(デスイーター)"は大なり小なり差はあるが皆口元と声に嘲りを乗せ、対するヴォルデモートは安堵するような雰囲気を出していた。それほどにまでシロウを危険視していたということだろう。

 

 

「さてマリーよ、これで邪魔者はいなくなった」

 

 

 今度は私にヴォルデモートが語りかけてきた。

 

 

「もはやお前を守護する者はいない。ダンブルドアもここには来れない、正真正銘一対一だ」

 

「決闘のやり方は知ってるなマリー? まずは杖を構えてお辞儀だ」

 

 

 そういいながら私から距離をとるヴォルデモート、配下たちはまるで試合場を作るかのように私たちを円形に囲む。これで物理的にシロウとはほぼ遮断された。一応ラインでシロウが生きていることは分かるが、それもすぐに治療しないと時間の問題だろう。いくらとんでもない治癒力を持つシロウと言えど、流石にこのままでは死んでしまう。

 

 

「どうする? ここで決闘せずに俺様に殺されるか? それとも俺様と戦い、生き残る確率を上げるか?」

 

「……」

 

 

 その問いかけに対し、私はゆっくりと立ち上がった。どうせ戦っても負けることは確定している。戦いの年季も知っている知識も、決闘に必要なものは何もかもヴォルデモートに軍配がある。余程の奇跡がない限り、()()()()()()()()()()()は不可能だろう。

 でもここで少しでも抵抗しないのも嫌だ。小娘は小娘なりに最後まで抵抗するとしよう。

 

 

「ほう……」

 

「……その決闘、受けるわ」

 

 

 首の傷跡の痛みを堪え、ヴォルデモートの真正面に立つ。右手には私の杖を持ち、動きやすいようにローブは脱ぎ捨て、スカートの片方の裾は縦に割いてスリットを入れている。生き残るためなら、どのような醜態でも晒そう。たかが足や下着が見えるくらいで生き残る可能性が上がるなら問題ない。

 

 

「……始めるか、『苦しめ(クルーシオ)』!!」

 

「んぐッ!? あああああああ!?!?」

 

 

 ノーモーションで使われた"許されざる呪文"の一つ、"拷問の呪文"を使ってきた。流石は「闇の帝王」を自称するだけはある。本気で私を苦しめ、痛めつけ、殺そうとする意志が呪文を通して私に伝わってくる。シロウはこの痛みを受けても平気だったのか。今までこの痛み以上の苦しみを受けてきたのだろうか。

 

 

「痛いか!! もう嫌か、もうこのような苦しみを味わいたくないか!!」

 

「……」

 

「なぜ答えない。『服従せよ(インペリオ)』!!」

 

 

 間髪入れすに"服従の呪文"を使われた瞬間。私の意識はふわりとおぼろげになった。例えるなら何もない空間に、ふわふわと自分に適度な柔らかさで浮いている感じである。

 

 

(嫌だと言え)

 

 

 突如その空間に声が響く。自分では声に従わないと思っていても、体が言うことを聞こうと動いてしまう。私の口がゆっくりと動くのが分かった。私のように自分を保てる人間もこうなるのだ、対呪術力が低いロンとかなら呪文を受けたことも気づかないだろう。

 

 

(嫌だと言えばいいのだ)

 

 ――言いたくない

 

(嫌ださえといえばいいのだ)

 

 ――言わないわ

 

 

 言いたくないという意識が働いたのか、私の口動きがの止まった。しかしその体勢のまま私は固まり、その様子に周りから怪訝そうな声が聞こえる。

 

 

(嫌だと言え。それさえ言えば良いのだ)

 

 ――……私は

 

『よくもまぁ粘るものだ』

 

 

 私の中に三つ目の声が響いた。振り返るとそこにはいつか見た男が立っていた。シロウにそっくりな白髪を掻き上げて立たせ、上下に分かれた赤い外套を黒い軽鎧の上に纏った男性が、腕を組みながらニヒルな笑みを浮かべていた。

 

 

『……あなたは?』

 

 

 私の考えが正しければ、彼は本来現世に関わることはない存在。シロウの別の可能性の姿のはずだ。

 

 

『なに、カードを介してあの未熟者に喝を入れようと思ったのだがね。こちらが苦戦しているようだから来たまでだ』

 

 

 それは……喜んでいいのかわからないけど、助かることには変わらない。感謝こそすれ、遠慮するのは間違いである。

 

 

『さて、今君は魔法とやらで干渉されているようだが。手助けは必要かね?』

 

『切っ掛けだけお願いします』

 

『全てを頼らないだけ、随分と成熟しているな』

 

 

 口元に笑みを浮かべながら黒い大弓と細く捻じれた男。なにもない空間の一点を見つめ、鷹のような目を細めて弓を弾き絞る。ああやはり、姿や表情は違えど、彼はシロウだということがわかる。彼がどのシロウかわからないけど、魂にまで刻まれたその在り方は隠しきれないものである。特にここは私の精神世界、心の中である分彼のことが伝わってくる。

 

 

『……征け』

 

 

 たった一言呟かれた声、しかしその言霊を受けたかのように矢は飛び、真っすぐ彼の見つめる先に吸い込まれていった。そして。

 

 

『弾けろ』

 

 

 その声が響いた途端、暗闇の奥がひび割れた。その亀裂は一度大きく蜘蛛の巣のように広がった後、徐々に修復されていく。この亀裂が塞がったら最後、二度と呪文は解けず、私は殺されるだろう。

 私は一度彼に方に振り返った。

 

 

『……ありがとうございました』

 

『礼はいい。それよりも早く戻り給え、君にはやるべきことが残っているのだろう?』

 

『はい。行ってきます』

 

 

 それだけをいい、私は亀裂の中心に向かって駆けだした。最後に見た彼の表情、慈しみを含んだその微笑はやはりシロウと一緒だった。この邂逅は夢か現実か、いずれにしても、彼の助けに報いるために今は目を覚まそう。

 

 

(さぁ、嫌だと言え!!)

 

 ――私は……

 

「言わないわよ」

 

 

 私が発したのは、ヴォルデモートの指示を拒否する声だった。そのことに配下たちは一様に驚き、ヴォルデモートは目を見開いていた。だがその目は直ぐに細められ、こちらを見透かすように見つめてきた。

 

 

「……やはり破ったか。あの日記の干渉をはねのけただけはあるな」

 

「……どうやら予想通りだったようね」

 

 

 でも状況は変わらない。振出しに戻っただけだ。

 

 

「では……」

 

 

 ヴォルデモートがゆっくりと杖を掲げる。それに合わせて私も杖を構え、利き腕を顔の右に、そこに左手を添えてヴォルデモートを見据える。相手が使ってくるのは確実に"死の呪文"だろう。それに対抗できる同格の魔法を私は知らない。精々"武装解除の呪文"ぐらいだろう。だが何もないよりかはマシだろう。

 

 

「『死ね(アバダケダブラ)』」

 

「『武器よ去れ(エクスペリアームズ)』ゥ!!」

 

 

 偶然か必然か、私とヴォルデモートは同時に魔法を使った。互いに突き出した杖の先から、緑と紅の閃光が飛び出し真正面からぶつかった。

 次の瞬間光がはじけた。

 ぶつかった場所から一瞬で私たちの杖に光が伸び、繋がった。

 杖は手が痛くなるほど振動し、持ち手は焼けるように熱い。私とヴォルデモートの杖を繋ぐ光の綱は、中央に大きな玉を形成して震えている。その光の玉から放射状の者が上に伸び、私とヴォルデモートだけを入れたドームになった。

 玉は私と奴の杖の間で揺れ動く。私は玉を奴の方に押し込めるように、杖に力を送り込む。するとゆっくりと、しかし確実に玉はヴォルデモートの杖へと動き、そしてついにその杖先に触れた。

 すると次の瞬間、触れた杖先から四つの霞の塊が飛び出し、私のそばに形を作って侍った。一人は見たこともない魔女、一人は夢で見たマグルの老人。そして残りの二人は……。

 

 

「父さん……母さん……」

 

『マリー、ここは堪えるんだ』

 

『少しの辛抱よ』

 

 

 霞の父さんと母さんは私に語り掛ける。霧の彼方から聞こえるような感じだが、私にははっきりと聞こえている。ヴォルデモートはこの現象に驚きを隠せず、これでもかと目を見開き、こちらを凝視している。

 

 

『あの男、わしを殺しやがった。頑張るんだ、嬢ちゃん』

 

『あなたが誰かは分からないけど、あの男は犯してはならない一線を越えた。お嬢ちゃん、あの男を止めて』

 

 

 魔女と老人が私を励ます。たぶんだけど、この人たちは奴がその手で殺した人々なのだろう。もしかしたらこのまま待っていたら、彼ら以外にも人が出てくるかもしれない。でも悠長に待ってはいられない。今は早くこの場を離脱し、シロウと治療しなければならないのだ。

 

 

『奴の限界も近い。そのときにこの綱を切り、あのトロフィーを使うんだ』

 

『母さんたちで時間を稼ぐわ。大丈夫、貴方ならできる』

 

 

 両親も私を励ます。言葉の一つ一つに力が込められているようだ。

 

 

「―――――――ッ!?!?」

 

 

 突如響いた雄叫び、いや断末魔の叫び。それは先ほどまで円陣の外にいた侍の声だった。咄嗟に全員がそちらに目を向ける。それがチャンスだった。

 

 

『『いまだ(よ)!!』』

 

 

 両親の声が響く。同時に私は杖を捻り、綱を切った。同時に霞の人々は一斉にヴォルデモートに群がり、その身を散らして濃い霧を創り出した。別のシロウに両親たち、彼らの作ってくれた機会を無駄にしないために、私は優勝杯へと駆け出した。

 

 

 






はい、ここまでです。
あと二、三話で四巻は完結です。来月ひと月全く更新できない分、今月である程度更新しようと思います。
それではまた、いづれかの小説で。




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19. 結末




「ランサーとキャスターは倒されたか」

「流石は坊主のガキだったぜ。お前さんも手合わせできたらよかったな」

「あのお嬢さんも、魔法を身に付けて強くなっていたわ。前は体術でやられちゃったけど、今回は魔術でもしてやられた」

「さて坊主の方はどうだ?」

「アサシンに斬られたな。ふん、少し喝を入れるとするか」

「どうやって?」

「なに、こちらからアレに働きかければいいのさ」





 

 

 

 アサシンの"燕返し"を回避したが、やはり間に合わずに剣戟を受けてしまった。胸を逆袈裟に、加えて首と腹を切られてしまい、血をたくさん流してしまった。成す術なく背中から倒れたオレにアサシンは追撃することなく、ただその色のない眼でこちらを見据えてくる。

 

 

(チィ……体が動かん……)

 

 

 無理に動こうとするが血を流しすぎて体が動かない。傷も塞がる気配がないし、意識が朦朧とする。目の前が霞がかり、もはや目の前のアサシンもぼやけて見えなくなり、オレの目の前は真っ暗になった。

 

 

『……けないな』

 

 

 なんだ。

 

 

『情けないと言ったのだ、この未熟者』

 

 

 聞こえた声に驚いて目を開けると、真っ暗な空間に、あの憎たらしい弓兵が腕を組んで立っていた。片眼を瞑って腕を組み、口元にニヒルな笑みを浮かべたままこちらを見ている。その顔に腹が立ってくる。

 

 

『あの娘は立ち上がったぞ? まぁ多少私が手助けしたが』

 

『うるさい。もう少ししたら傷も塞がるから、反撃開始だ』

 

『ほう?』

 

 

 オレの言葉に笑みを消し、その鷹の双眼でこちらを見据える。まるでオレを試すように見つめるそいつを、オレも同様にして睨み返す。しばらく睨みあっていると、奴の方から視線を逸らした。ついでにその時に大きくため息をついていた。

 

 

『……全く、私はここまで好戦的ではなかったはずだが』

 

『お前が気づいてないだけじゃないのか?』

 

『気付きたくもない。……まぁ傷が治るというのは嘘ではないらしいな』

 

『ん?』

 

 

 奴の向ける視線が気になり、オレは自らの後方を振り返り、その光景に目を奪われた。

 金色に輝くアヴァロンが宙に浮いており、力強く発光している。その更に後方には紅に輝く巨体を起こし、緑の双眼でこちらを見つめる竜がいた。ああそういえば、数か月前に奴の血を浴びていたな。まさかこんなことで役に立つとは思っていなかった。

 アヴァロンから溢れた光がオレに集まり、柔らかく包んでいく。その様子を見ながら奴は体を背け、暗闇の彼方へと歩いて行った。オレを包む光が眩しくなる。同時に視界も白み始める。成程、そろそろ目が覚めるのか。

 一度強く光がはじけた後、オレは目が覚めた。すぐに周囲の状況を確認する。どうやらヴォルデモートとマリーが一騎打ちをし、何らかのイレギュラーな事態が起きているようだ。黒化したアサシンもそちらに目を向けている。

 

 

(不意を突いたとして、攻撃の機会は一回がいいほうだろう。だとしたら最適な武器は『童子切安綱(これ)』だ)

 

 

 投げ出された右手に刀を投影し、一気に跳ね起きる。そのまま間髪入れずにアサシンに切りかかり、その体を袈裟に切り裂いた。アサシンは驚愕に顔を染めており、その自慢の物干し竿を振るうことを忘れているようだった。

 そのままオレは奴に向かって腕を伸ばし、左手に投影した"破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)"を深く突き刺した。核となっているカードとの繋がりを断たれたアサシンは断末魔の叫びをあげて霧散していった。

 その声が聞こえたのだろう、ヴォルデモートの配下たちがこちらを見ると同時に、マリーが奴らの間を縫ってこちらに走ってきた。どうやら俺と合流してすぐに優勝杯で脱出するらしい。

 その意を汲んだオレは飛び出し、彼女を抱えたままトップスピードで優勝杯まで駆け抜けて掴んだ。そこでようやく配下たちは放心状態から戻り、こちらに魔法を放ってきた。が、遅い。既に転移は始まっており、奴らの魔法こちらに到達するころにはオレ達はホグワーツに戻ってきていた。

 

 

「……帰ってきたの?」

 

「そうみたいだな……ぐぅッ」

 

 

 どうやら塞がりかけてた傷が開いたようだ。致命的だった首と逆袈裟の傷は塞がっているが、腹の傷は回復していなかったらしい。また血が流れだし、俺のユニフォームを赤黒く染めだしている。手に持ったアサシンのカードがオレの体に入り込むと同時に、オレの視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ!!」

 

「士郎、しっかりしなさい!!」

 

「父さん!! 医務室に運ぶぞ!!」

 

 

 駆け寄ってきたエミヤ一家に連れられ、シロウは医務室に運ばれていった。でもその中に紅葉さんの姿がなかった。立ち上がって周りを見渡すと、あれほど完璧な巨大迷路を作っていた生垣は破壊され、地面には大小さまざまなクレーターが作られていた。観客席にはほとんど生徒はおらず、残っている生徒たちも先生方の付き添いで校舎に向かっていた。

 と、そこに私の肩に一つの手が置かれた。驚いて振り向くと、ムーディ先生が立っていた。

 

 

「ポッター。見たところ疲労がたまっているようだが、校舎に向かうぞ」

 

 

 そのまま私は先生に連れられ、先生のオフィスに招かれた。この時点で私は少し疑問に思った。校舎に向かって休むのなら、わざわざ先生のオフィスに向かう必要は何のではないか。それにエミヤ一家と一緒に行っても良かったのではないか。そのまま右腕のナイフで切られたところに包帯を巻かれ、椅子に座らされた。

 

 

「で、何があった? あの襲撃の途中から姿が見えなくなり、また突然出てきたが」

 

 

 義眼と目をこちらにむけて問うてくる先生。いつものような落ち着いた雰囲気ではなく、まるで何かに焦っていた風だ。

 先生の問いに私は先ほどあったことを思い出す。突然夢でみた墓場に連れていかれた途端、拘束された。そしてそのまま目の前に置いてある大鍋に、素体となるヴォルデモート本人、加えて彼の父親の骨、その場にいた下僕ペティグリューの左手、そして私の血を用いて完全に復活を果たしたのだ。その際私の血を取るために手首を切られたのだが、幸い脈は傷つかなかったみたいだった。

 

 

「復活したのか? ヴォルデモートが?」

 

「ええ……」

 

 

 私が肯定すると、先生は少し興奮した面持ちでこちらを凝視してきた。ますますおかしい。疑いたくはないが、まさか疑いたくはないが、誰かが先生に成りすましているのか? いや、だとしたらなんで一年も隠し通せるのだろう。ポリジュース薬は一時間しか持たない。それにあれの材料は普通じゃ手に入らないものばかり。盗むか仕入れるしか方法はないはず。もしものために鎌をかけてみるか。

 

 

「……先生、質問があります」

 

「ん? どうしたポッター?」

 

「先生は、どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

 

「ッ!?」

 

 

 私が問いかけた瞬間、ほんの一瞬だけど先生の眉毛が動き、その目に焦りの色が見えた。まさか本当に誰かのなりすましだったのだろうか。私は目の前の男に対する警戒を高めた。

 目の前の男は一度せき込むと、部屋の中をせわしなく歩き回り、棚の中や箱の中をあさり始める。しかし求めているものが見つからないらしく、段々とイライラした雰囲気を出し、舌を蛇のようにチロチロさせている。これは確定だ。この人はムーディ先生本人ではない。

 

 

「……時間がない。だがこの場で私が奴を始末して脱出すれば、あの方も褒めてくださるはずだ。ならば早速……」

 

 

 何やらぶつぶつ呟きながら懐をゴソゴソしだす男。その懐から杖の柄頭が見えた瞬間、オフィスの扉が勢いよく開け放たれ、飛び込んできたダンブルドア先生の杖先から発射された魔法が、目の前の男に直撃して吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた男はそのまま壁に直撃し、そのまま伸びて気絶した。ダンブルドア先生からは老人とは思えないほどのエネルギーを感じられ、しかし士郎よりも落ち着いたものだった。シロウや剣吾君を荒れ狂う暴風だとすれば、ダンブルドアのそれは猛々しく燃え盛る焔の様。

 

 

「ポッター、怪我はないですか? 魔法を受けたりしませんでしたか?」

 

 

 一緒入ってきたマグゴナガル先生から、体のあちこちを触診されながら問われた。同様に入ってきたスネイプ先生はなにやら小瓶に入った薬を男に飲ませ、ダンブルドア先生と一緒になって尋問していた。横目で男がもとの姿に戻るさまや、本物のムーディが救出される様を見届けてから、私はマグゴナガル先生と医務室に向かった。流石に戦闘は終わり、生足を晒すのは恥ずかしかったため、先生のマントを羽織って移動した。

 医務室に入ると、二つのベッドに先客がいた。一つは勿論シロウで、上半身に包帯を巻いてベッドに寝ていた。そばにはイリヤさんとシィちゃんがおり、シィちゃんはシロウと一緒のベッドで寝ている。

 もう一つのベッドには紅葉さんが寝ており、その両足には包帯が巻かれていた。もしかしたら、パーキンソンを庇って負傷したのかもしれない。呪いではなく純粋な魔力弾による負傷だから、治療には時間のかかるかもしれない。

 

 

「とりあえずその腕の傷の治療をしましょう。そのあと十分に休息をとるように、あとはポピーの専門分野ね」

 

「全く、死者が出なくて本当に良かったわ。さぁポッター、こっちのベッドに」

 

 

 マダム・ポンフリーに案内されたベッドに向かうと、ハネジローがすでに待機していた。ハネジローの頭を数度撫で、渡された服に着替えて床に入る。目が覚めれば、ダンブルドア先生等から詳しい説明を求められるだろう。それまでに、少しでも回復しなければ。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
少し世界観をば。
士郎たちが元いた世界は、ベースは「Fate/stay night」です。そこに登場人物名が異なる「ジョジョ」の一巡目の世界、「ごちうさ」の世界、「食戟のソーマ」の世界、「アイマス・デレマス」の世界、その他いくつかの魔術が絡まない世界が融合しています。
また「孤高の牡牛」に出てくるデレマス勢と剣吾が主人公外伝のデレマス勢は、並行世界の同一人物です。
本小説の原作である「ハリポタ」と剣吾がゲスト出演している「孤高の牡牛」、外伝で取り上げた「NARUTO」の世界は、それぞれ並行世界で全くの別世界となっております。魔術基盤云々の話は出来るだけあまり考えないでください。特に「NARUTO」の世界に関しては。

小説説明欄に外伝のURMを貼りました。興味のある方は私のペンネームを経由するか、URLを添付して検索してください。


それではまた。




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20. エピローグ




今回で四巻の内容は終了です。
念のために述べておきますが、多重クロスしている元の世界の話は、基本的に外伝以外で取り上げるつもりは毛頭ないのでご安心ください。




 

 

 

 あの後目が覚めると、私は校長室に呼び出された。用件は昨晩のこととわかっていたため、話すことは既にまとめてある。今回必ず話さなければならないのは、ヴォルデモートの復活である。その復活の材料に私の血も使われたため、あの男と私の間に、今までよりも強力なつながりが出来たということ。今まで以上に彼からの干渉に対して警戒しなければならないだろう。

 

 

「復活したのじゃな?」

 

 

 今私は校長室にいる。そこでダンブルドア先生と魔法大臣、そしてシロウたちを交えて事の次第を報告している。とりあえず自分に起こったことを包み隠さず話した。ダンブルドア先生は話を進めるたびに視線を厳しいものにし、大臣は顔色をどんどん悪くし始めた。

 私が偽のムーディに攫われてから復活の材料に血を取られ、それから一騎打ちの末に運よくその場を脱出できたところまでを話した時、大臣は口を開いた。

 

 

「まさか死喰い人まで召集していたのか。ということはその場にいなかったのはアズカバンに収監されているモノか恐れて逃げたものだけか?」

 

「そうじゃろうな。この先、召集にはせ参じた者たちが暗躍するじゃろう」

 

「疑いたくはないが、今魔法省に務めている元死喰い人も警戒しておいたほうがいいだろうな」

 

 

 多少は大臣も柔軟な思考ができるようになったのか、意固地になることなく話を進めていく。ヴォルデモートが復活した今、この国内で比較的安全な場所は、このホグワーツぐらいしかないのではないのだろうか? 仮にこのままプリベット通りに還ったとして、叔母たちに被害が及ぶのではないだろうか。

 自身のこれからの身の振り方を考えていると、ダンブルドア先生が何やら部屋中の絵画に向かって何やら指示を出していた。大臣はいつの間にやら部屋から退室し、帰ったらしい。シロウもいつの間にかいなくなり、部屋には私とダンブルドア先生だけだった。

 

 

「……あの、先生」

 

「どうしたのじゃ?」

 

「私は……プリベット通りに帰るべきでしょうか? 叔母たちを巻き込むと考えるとどうしても」

 

「君の心配は大いに分かるよ。じゃが大丈夫じゃ、あそこは確かに魔法省等には君の帰省先と割れてはおるが、わしとミスター・エミヤの守護が働いておる。少なくともわしに迫るほどの魔法使いかエミヤの様な魔術師、それとしもべ妖精の様な存在以外に割れることはない」

 

「それにミスター・エミヤの話では、今年から更に守護を強めるそうじゃ。彼の奥方たちの助力でやるそうじゃから、更に破るのは難しくなろうぞ」

 

 

 ダンブルドア先生は優しげな声で私に語りかけてきた。確かに安心できる。イリヤさんたちの力が加わるのなら、今までよりも叔母たちの安全は保障されるだろう。でも傷を介した繋がりにどこまで効力があるかわからない。そろそろ私も、守られるだけではなく何かしらの自衛手段を覚えるべきだろう。

 でもしばらくは長期間休みで魔法が使えない。フレッドたちが改変した魔法使い用魔術式も、私たちは杖で行使する必要があるために、休み期間中は使用できないだろう。とすれば必然的に精神面を鍛えることになる。そういえばこの前シロウとスネイプ先生が話しているのが聞こえたけど、何やら"閉心術"やら"開心術"という単語が出てきた。言葉から察するに、対象の心の内をこじ開ける術と、それに抗う術という位置づけだろう。あとでスネイプ先生に基礎を教授してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、最終課題からはや二週間、オレ達は帰省の汽車に乗っていた。その間に凛たちは剣吾と共に元の世界に帰り、ホグワーツに来ていた他二校も己が地へと戻っていった。何やらミス・マルタンから住所の書かれた紙をもらったが、まぁ手紙を書いてほしいということだろう。話すことは特に思いつかないが。

 

 

「まさかあんたらが来ていたとは」

 

 

 汽車の揺れに、いつものメンバーが心地よさそうに眠っているのを確認してからカードを出す。手元が光ると、そこには五枚のカードが現れた。それぞれ暗殺者、術者、槍兵、弓兵が描かれた金のカード。そして一枚だけ、鎖にがんじがらめにされた人間が描かれた漆黒のカードがあった。

 剣吾達の話を聞いた限りでは、ランサーでクー・フーリン、キャスターにメディアが呼ばれたらしい。そして彼女の絨毯爆撃に巻き込まれて、紅葉が両足を損傷、全治二週間でその間しばらく車いすらしい。庇われた生徒にはその後娘にやったことに対してお仕置きを敢行したが、まぁ治る怪我で良かったと少し安心している。

 

 

「……できれば、オレがあんたらの力を借りることがなければいいが」

 

 

 アヴェンジャーは既に同化しているため、力を借りる借りない以前の問題である。だがもしこの先、彼らの力を使わざるを得ない事態になったとき、果たして自分は制御できるのか。解析して僅かにわかっていることは、このカードはこの世界ではないどこかで生成されたらしい。そしてカレイドステッキを介して使うことが出来る、若しくは自身に"夢幻召喚(インストール)"することで対象の英霊の力を使うことが出来るようだ。

 そして弓兵のカード。これは他のカード違ってとても不安定なものだった。対象英霊が定まっていないのではなく、そもそもクラスが安定していないようだった。この理由が何なのかわからないが、下手したら弓兵のカードがもう一枚存在する可能性が否めない。警戒するに越したことはないだろう。

 

 

「そういえば、今のところ()ばれているのは五次聖杯戦争の奴らだな。アサシンは亡霊だったはずだが」

 

 

 残るクラスはライダー、バーサーカー、そしてセイバー。さらに最悪の可能性としてもう一枚のアーチャー。このまま順当に五次の英霊が喚び出されたのならば、ライダーはメデューサ、バーサーカーはヘラクレス、セイバーはアルトリア、アーチャーはギルガメッシュ。どれも強敵ぞろいで、しかも全員全てにおいてオレよりも実力が遥か上。英雄王は奴が慢心し且乖離剣を使わなければ勝つ可能性は出てくるだろうが、バーサーカーとセイバーに関しては絶望しか見えない。

 

 

「本当に、オレの運のなさは恨むよ。まさか『 (こんげん)』に既に刻み込まれているのか?」

 

 

 とはいえ、泣き言は言っていられない。今年からヴォルデモートによる攻撃が、大なり小なり始まる。既にイリヤや凛、桜によってあの子の住居の守護は固くなっているが、それでも一抹の不安はある。

 空はオレの精神状態とこれから先の未来を表現するかの如く、鈍い色の曇天である。この先、面倒なことが起こらなければいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――始めましょうか。

――闇の帝王が復活したなんて戯言を言っている大馬鹿を黙らせないと

――ふふふ、安心してください大臣。この私が目を覚まさせてあげますわ。

――あんな老い耄れや小娘の言葉なんて、信じなくてもいいのですから。

 

 

 

 






はい、ここまでです。長らくお付き合いありがとございました。
いやはや、他の小説も書いていたとはいえ、まさか一巻で一年費やすとは思ってもみなかったです。
さて報告ですが、私めは九月の四日から約一ヶ月、カナダに留学に行きます。ですのでその間、私は小説を更新できませんのでご了承ください。
もしかしたらこの二日で、いづれかの更新か新しいネタを書くかもしれません。
ではまた。




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不死鳥の騎士団
0. プロローグ





お待たせいたしました。第五巻に突入です。
今回はプロローグのため、通常回よりも短めにするつもりです。
それではどうぞ。





 

 

 夏真っ盛りの夕方のイングランド、プリベット通りに住む(わたくし)マリーは一人ベンチに座っていた。夏休みの宿題も終わらせ、魔法関係でやることと言えば閉心術の練習ぐらい。一応プリベット通りに入れば安全とは言われているものの、それがどこまでのものなのかは分からない。

 シロウやシリウスさんからの手紙は、ヴォルデモートの情報を探したくても探さないように私を窘めるような内容ばかり。ロンやハーマイオニーからも、今はじっとしておくように言われる始末。ダンブルドア先生に関しては返事すらもない。現状私はまるで魔法界から切り離されているような感覚だ。

 

 

「良い右フックだったぜピッグD」

 

「けどストレートが入らなかったな」

 

「ガードが固すぎなんだよ」

 

 

 ぼうっとしてると複数の男の子の声が聞こえてきた。顔を観なくてもわかる、従兄のダドリーとその取り巻き達だ。そういえば今日は部活の試合があると言っていた。丁度いい、時間も良いころ合いだし一緒に還るとしようか。

 

 

「やっほーダドリー」

 

「ん? あ、マリー」

 

「ええ!? あの子がダドリーの従妹なのか?」

 

「随分と大きくなったなぁ。あのチンチクリンが」

 

 

 チンチクリン言うな。まぁどうやら帰るとこみたいだし、ダドリーのグラブを持って同行した。取り巻きの内、初めて見る私より10cm程身長の高い(155cm)男子がこっちをチラチラ見ながら顔を赤らめては、ダドリーに小突かれていた。なんでか知らないけど、初対面だし、ダドリーが気を使ったのかもね。

 

 私とダドリー以外が別れた後、急に雨が降りだしたため私たちは小さな土手の地下道に避難した。しかし雲一つなかった空から突然雨は降るものなのだろうか。日本の雨で「狐の嫁入り」というのに似た現象であるけど、嫌に風や雨粒が冷たく感じられた。走ったせいもあって少々肩で息をしていると、次第に吐息が白い霧となって目に見えるようになった。それに少々肌寒い。

 

 

「……ダドリー」

 

「な、なんだ?」

 

「私が『逃げろ』といったら文句を言わずに逃げて」

 

「ま、まさかそっち方面の?」

 

「うん。たぶんそう」

 

 

 この異常な冷え込みようといい、後方から聞こえる何かが凍り付く音は、私の知る限り吸魂鬼以外考えられない。この場から脱出するには魔法を使うか、シロウの黒鍵ぐらいしかないだろう。でも私は黒鍵を持っていないし、魔法界における成人年齢十七歳に達していないため魔法は使えない。

 ならできることは息が続く限り走り続け、家に帰ることだけである。

 

 

「走るよ!!」

 

「う、うん!!」

 

 

 私の声に合わせて二人同時に駆け出す。同様に吸魂鬼も速度を上げて追ってくる。そのまま逃げおおせると思ったら前方からもう一体の吸魂鬼が出現した。思わず私は足を止めてしまい、ダドリーは滑って転んでしまった。それが分け目となり、私は首を掴まれて柱刷りになり、ダドリーは寝ころんだまま幸福を奪われていった。

 

 

「こ……の……離……しなさ……い!!」

 

 

 スカートから引き抜いた杖で殴りつけ、吸魂鬼の手から離れる。まさか二体もいるとは思わなかった。この様子なら、地下道の外にまだいても可笑しくない。

 

 

「『守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)』!!」

 

 

 咄嗟に幸福を思い浮かべ、私の守護霊たる天使を出す。出現した天使は直ぐに口を開けて歌いだし、吸魂鬼を追い払うと同時に周囲のぬくもりを取り戻していく。

 一分ほど展開した後守護霊を消し、ダドリーに駆け寄る。幸い魂は取られておらず、彼は寒さに凍えつつ気絶しているだけだった。確かこの場合はチョコレートを食べさせればいいはずだけど、不運なことにこの場に持ち合わせていない。かといって運ばないわけにもいかないと色々試行錯誤していると、前方から何かが来る足音がした。一度しまった杖を出せるように準備していると、前方から来たのはシロウだった。

 

 

「本当にすまない」

 

「話は後、ダドリーの治療をしないと」

 

「チョコレートは持ってきてる。オレが運ぼう」

 

 

 ダドリーの顔一つ分大きいシロウがダドリーを担ぐと、もう片方の腕に私を抱えて一機に駆け出した。一分も立たないうちにダーズリーの家につくと、すぐに私は叔父さんと叔母さんに状況を説明し、ダドリーの介抱にあたった。今の状態でも口にしやすいようにと作ったホットチョコレートは、見る見るうちに顔色をよくするダドリーに安心するも、私宛に一通の手紙が届いた。

 

 

『拝啓マリナ・リリィ・ポッター殿

 魔法省は本日八月五日、午後六時十五分ごろに貴殿が守護霊呪文を使用したことを確認いたしました。これは未成年魔法使い制限事項令に反する行いであると判断し、貴殿のホグワーツから退校処分することを決定いたしました。つきましては……』

 

 

 フクロウに送られてきた手紙には、私の退学通知が入っていた。横から覗き込んできたシロウと叔母さんの顔は、呆れと怒りの表情を浮かべた。尚ダドリーはソファに座らせて毛布で体を温めさせ、叔父さんにはダドリーに湯たんぽを作ってもらっている。

 

 

「大臣は多少マシになったが、その他はまだまだ無能が多いようだな。……戯けどもが」

 

「魔法省って、正当防衛も認めてないのかしら?」

 

「魔法を使ったという結果しか見てないのでしょうよ。それかマリーを邪魔と思っている脳無しどもか」

 

 

 叔母さんとシロウが何やら話していると、更に手紙が四つ届いた。三つはハーマイオニー、アーサー・ウィーズリーさん、シリウスさんからで今は家でジッとしているようにという通知だった。最後の一通はまた魔法省からの通知で、私の放校処分は保留にして後日、後程通知される日に裁判を行うとのこと。また随分と掌を返してきたと思い差出人を見てみると、一枚目は知らない人、二枚目の通知はアメリア・ボーンズ女史からだった。

 

 

「ボーンズ女史は中立だ、信頼できる。一枚目は……カエルか」

 

「カエル?」

 

「マリーを良く思わない愚か者さ。すまないがオレはこの地域を離れる。次会うときは裁判の時だ」

 

 

 シロウはそう言うと外に出て、音もなく消えていった。魔法に出会って五年目、私の気分は非常に落ち込んでいる。そして空は私の気持ちを表すように土砂のような雨が降り始めた。

 

 

 

 





はいここまでです。
ついに来ました、新章突入です。原作でも大きな転換を迎える第五巻ですが、さぁあのガマガエルをどうしてくれようか。
次回もよろしくお願い致します。

ではまた、いずれかの小説で。




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1. グリモールドプレイス十二番地



お待たせしました、不死鳥の騎士団第二話です。
それではどうぞ。





 

 

 

 待機通知が届いてから三日、何の音沙汰もなく時間が過ぎていく。その間私も何かできないか考えたけど何も考えつかず、結局裁判ではどのように応答すればいいかを事前に勉強するしかできなかった。

 そして四日目、シリウスさんから一通の手紙が届いた。曰く、迎えに行くとだけ。恐らくマグルにとって普通でない方法で来るのは確実だ。一応ダーズリー一家に報告してはいるが、出来れば玄関から来てくれることを願うばかりである。

 四日目に入り、私たちは夕食後の紅茶を飲んでいた。するとその時インターホンが鳴った。誰か来たのだろうか?

 

 

「あっ、私が出ます」

 

「そう? お願いね」

 

 

 丁度お茶を飲み終わった私が出ることにし、玄関に向かった。扉を開けると目の前にマグルの恰好をした、でも感覚で魔法使いとわかる人たちが目の前に十人ほどいた。

 

 

「おやおや、彼女がマリーかい?」

 

「あらら、最後に見たときはほんの赤ん坊だったのに」

 

「え、ええと……」

 

 

 私を見た途端に騒ぎ出す面々に戸惑いを覚えてしまう。とはいえ、このまま騒がれても近所迷惑になるだけである。

 

 

「えっと、余り大きな声で離されると近所迷惑になるんですが」

 

「ああ大丈夫、遮音魔法と人祓いやってるから」

 

「……いや、もしものことがあったら大変でしょうに」

 

 

 なんだろう。魔法使いとしてはごくごく普通のことなんだけど、マグルの常識が抜けているぶん、私や他のマグル出身の子たちは非常に違和感を覚えるだろう。それに彼らが魔法を貼ったのはこの家の敷地外であって、この家には張っていない。よってダーズリー一家が玄関に急いでくるのも仕方ないだろう。

 何とか叔父さんを宥め、すでに準備してた荷物を持って再び玄関に向かった。玄関では既にみんな箒に乗っており、いつでも出発可能というふうに並んでいた。

 

 

「お待たせしました」

 

「心配ない。予定より少しだけ早いぐらいだ」

 

 

 集団に混ざっていた本物のムーディさんが唸るように言う。すると鮮やかな紫の髪をした女性が杖を一振りし、私の荷物をどこかへと送った。こういう時確かに魔法は便利だと思う。しかしその直後、女性は私の箒を見るなり興奮して近寄ってきた。

 

 

「わぁ、わぁ!! それってファイアボルトでしょ!? いいないいなぁ!!」

 

「トンクス!! そんなことは後にしろ、時間がないんだ!!」

 

「いいじゃないアラスター、少しぐらい」

 

 

 トンクスと呼ばれた女性はその後私の箒を見続けていたのだが、流石に時間も押していたか観察がすぐに澄んだ。また他の人が杖をその間に振っていたことから、私たちに認識阻害の魔法をかけていたのだろう。

 私は箒に跨ると、叔母さんたちに向き直った。

 

 

「それじゃあ、行ってきます。次会うときは多分、来年の夏になります」

 

「……たまには便りでも書け」

 

「……クスッ、はい」

 

 

 ぶっきらぼうに呟かれた叔父さんの言葉に思わず微笑を洩らしつつ、私たちは地面を蹴った。

 夜のイギリスに舞い上がった私たちは直ぐに空高く舞い上がり、すぐにプリベット通りは小さくなった。私たちが向かう場所、グリモールドプレイスという場所はロンドンの一角にあり、そこまではお空の旅ということである。幸い夜であることもあり、私たちは結構なスピードで飛んでいた。

 途中何度かムーディさんの無茶な指示で向かうのが遅くなったけど、当初聞かされていた予定の時間内に現地につくことが出来た。

 ただマグルの世界では何故か十二番地は存在しない。恐らく、いや確実に魔法使いが購入したために十二番地の表記をしなくなったのだろう。十一番地と十三番地の間にムーディさんが立ち、その身の丈ほどある長い杖で地面を二度叩くとあら不思議、一瞬で目の前に十二番地の戸口が現れた。

 

 

「あれ? たしかここはシリウスさんの」

 

「そのことは後で説明する。観られる前にさっさと入れ」

 

 

 ムーディさんに促されて急いで玄関に入ると、縦に長い屋敷に私たちはいた。横幅は非常に狭く、大勢で暮らすには向いていないことは確実である。トンクスに案内されて部屋に向かう途中年老いたしもべ妖精を見かけたけど、私のことを見向きもせずに踊り場のカーテン依閉ざされた場所の掃除をしていた。

 案内された部屋に入るとすぐ、私はハーマイオニーに急に抱きしめられた。肩越しに部屋を見ると、ロンやジニーもおり、みんながこの屋敷に集合していることが分かった。

 

 

「みんな、なんでここにいるの?」

 

「あなたが魔法を使ったと聞いて、でも詳しいことは分からなくて」

 

「騎士団も『例のあの人』が蘇ったことで活動を活発にしてるし」

 

 

 それだ。その騎士団というのは何なのだろうか。昨年度末もダンブルドア先生が口にしていたし、この建物もまるで組織の本部の様に扱われている風がある。恐らくダンブルドア先生辺りが十五年以上前に結成し、ヴォルデモートに対抗するための組織なのだろう。

 でもここが仮に本部だとしたら、少ないながらも情報が入ってくるのではないだろうか? 若しくはこの四日の間に、少しでも自分たちがどこにいてどのような状況であるかは伝えることができたのでは?

 

 

「ごめんなさい。でもダンブルドア先生に止められて」

 

「余り今はコンタクトを取るべきではないと」

 

「……そう」

 

 

 ダンブルドア先生に止められていたのなら仕方がない。三人とも申し訳なさそうな顔をしているからとやかく言うのは間違っているだろう。でも少し、ほんの少しだけ彼らに対して、そして子供だからという理由で何一つ情報を開示しようとしない大人たちに理不尽な苛立ちが募った。

 

 

 

 






はい、ここまでです。次回は裁判編を書こうと思っております。
カナダでの勉学もあと一週間、ラストスパートをかけて頑張ろうと思います。
それでは皆さん、いずれかの小説でお会いしましょう。




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2. 裁判



さてさて、今回はメインのこちらを更新しました。
ではどうぞごゆるりと。





 

 

 グリモールドプレイス十二番地改め、シリウスさんの実家に来てから早一週間、ついに私の裁判の日になった。とはいえ魔法省への行き方は分かっていないため、その日はアーサーさんに案内してもらった。

 

 

「すまないね。案内は出来るんだが、如何せん私は外来者用の出入り口を使ったことが無くて」

 

 

 そう言いながら故障中の電話ボックスに入り、ダイヤルを押し始める。すると受話器から女性の声が聞こえてきた。

 

 

「あー、マリー・ポッターの裁判で来たのだがね」

 

『かしこまりました。ではこのバッジをつけてください』

 

 

 その音声と共に本来御釣が出てくるところに二つのバッジが出てきた。それを胸に着けると、電話ボックスの中だけがエレベーターの様に地下に入っていった。入口につくと私の目の前には驚きの光景が広がった。

 大きな通路の両側には多数の煙突があり、多くの魔法使いや魔女が出勤している。そして彼らが向かう先には、黄金の魔女やケンタウロス、ゴブリンなどの像で組み合わせられた噴水がある。みんなそれぞれたくさんあるエレベーターに乗り、各々の職場に向かっていた。

 

 

「私の尋問がある場所って、確か神秘部って階層でしたよね」

 

「ああそうだよ。全くなんであんな場所でやるのだか」

 

「変な場所なんですか?」

 

「変というかね、魔法省でも少々変わった人が勤務しているし、ましてや極秘なものが数多くあるという話でね。神秘部について知っている人は、神秘部で働いている人以外知らないという話だ。かくいう私もここについてはほとんど知らないんだ」

 

 

 アーサーさんの解説聞きながら私たちはエレベーターに乗って神秘部に向かった。ついた先は入口とは違って黒いレンガで作られた階層であり、不気味な雰囲気を醸し出していた。成程、アーサーさんが知らぬのも他の勤務者が知らぬのも頷ける。

 回廊を黙って進むと目の前に一つの扉が見えてきた。しかしここでアーサーさんは立ち止まり、私を先に行かせた。

 

 

「残念ながら私はここまでだ。君の裁判には参加できないが、君が無罪であると私は思っている」

 

 

 その言葉を背に、私は虎の中に入っていった。

 

 

「……大丈夫、君は絶対に無実だ。そうだろう?」

 

「無論だ。あの子が罪に問われる謂れはない。地の利はこちらにある。それに……」

 

「……そうか、彼女がいるのか。ならば公平な裁判が期待できるな」

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 扉をくぐると、テレビで見たような光景が広がっていた。ただ異なるのは聴衆はおらず、尋問官たちと部屋の真ん中に空いた椅子が一脚設置されているだけだった。

 

 

「……五分前だな。早く座り給え」

 

 

 裁判官の席に座る魔法大臣が私に促してきた。私は黙って従い、椅子に座る。と、尋問管の中にカエルが混じっているのが見て取れた。訂正、ガマガエルの様な女性が混じっていた。彼女は確か、二年前にシロウに完膚なきまでに潰された女。禁術を使っても平気な顔をしているということは、何かしら汚い手を使ったということだろう。カエルだけに。

 

 

「時間だ、それでは開廷する。本日の裁判官、コーネリウス・オズワルド・ファッジ。副裁判官アメリア・ボーンズ。被告人マリア・リリィ・ポッター。本件は被告人の『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』に抵触する可能性のある行いについてのものとする」

 

 

 ファッジ大臣の声が響く。私は大臣が読み上げる私の罪状について聞きながら、尋問官席に座る魔法使いたちを観察していた。半数は興味本位の、五分の一は敵意の、残りは品定めするように私を眺めている。因みにカエ……ガマ女は敵意ある人にカテゴライズ。ニマニマと嫌な笑いを浮かべている。

 

 

「……以上がこの者の行いである。被告人、何かこの場で発言したいことはあるかね?」

 

 

 ファッジ大臣が問いかけてきたので、私は主観になるけど当時起こったことを事細かに説明し、マグルの従兄にも被害を及ぼしたことを報告した。話を終わらせると、今度は尋問管たちによる質疑が始まった。というか私の裁判、弁護人はいないのだろうか。普通なら一人はいそうなのだが。そう考えてると、何やら一枚の紙が大臣に手渡された。

 

 

「……確認した。では被告人、弁護人が到着したらしいので入場させる」

 

 

 その声と共に後ろの扉が開き、三人の人物が入ってきた。一人はダンブルドア先生、もう一人はシロウ、そして最後の一人は、なんとフィッグさんだった。

 

 

「では弁護人、被告人の弁護を」

 

 

 ファッジ大臣の催促に従い、三人はそれぞれ私の弁護を始めた。それにしても、フィッグさんがスクイブだったとは思わなかった。せいぜいシロウを通して少し知っている程度だと思っていた。

 三人がそれぞれ弁護を終えると、あのカエルが変な咳払いと共にしゃべり始めた。

 

 

「ェヘンェヘン!! 失礼ですがダンブルドア先生とそこの男、私めの勘違いでなければ、まるで魔法省がその子に吸魂鬼を嗾けたという様に聞き取れたんですが」

 

「わしはそのような『そういうニュアンスで述べたのだが?』……シロウ?」

 

「なんですって?」

 

 

 シロウがダンブルドア先生に被せるように言葉を述べると、真っ先にボーンズ女史が食いついた。ガマ女は表情を消し、憎悪な目でシロウを見つめている。しかしシロウは気にするまでもないように口を開き、言葉を続ける。

 

 

「可笑しいと思わないのか? 現在、吸魂鬼は魔法省の管轄下にあるという話だ。しかし最低でも二体の吸魂鬼に彼女は襲われた。記録に残るヴォルデモートの傘下に入っていたわけではない限り、奴らが勝手にアズカバンから離れるとは思えん」

 

「……続けて」

 

「となれば、現状奴らを意図的に動かせるのは魔法省の人間のみ、まぁヴォルデモートが復活していれば話は別かもしれんが?」

 

「……馬鹿な」

 

「元手下どもの腕を確認したか? 奴の刻印が真っ黒に浮き上がっているのが、奴の復活の何よりの証拠だが、まぁこの際置いておこう。問題の吸魂鬼についてだが、独自に入手した資料があってね、目を通してもらいたい」

 

 

 シロウが人数分レジュメを配布すると、全員が目を通し始めた。読み進めていくたびに尋問官たちの目は険しくなっていく。そしてガマ女はというと、本人は隠しているつもりだろうが、とても焦っているのがわかる。まぁ同じ尋問官たちは気が付いていないみたいだけど。

 

 

「……これは真かね?」

 

 

 ファッジ大臣が重苦しそうに口を開く。シロウはそれに対し、沈黙で回答を示した。一体何が描かれていたんだろう。

 

 

「ついでに言うと匿名でな、誰が指示したかは知らん。だが今回の件は確実に魔法省に過失がある事態であり、正当防衛が認められるものだと思うが?」

 

 

 シロウは畳みかけるように言葉を紡いだ後、私の後ろの下がっていった。しばらく沈黙が続いた後、ボーンズ女史が口を開いた。

 

 

「被告人を有罪だとするもの」

 

 

 その声が響くと、ちらほらと手が挙げられるのが確認できた。その中にはガマ女も勿論いる。……それほどまでに私を潰したいのか。それとも自分の地位が崩れるのがそれほどにまで嫌なのか。どちらにせよ、性根が腐っていることは間違いなさそうだ。

 

 

「被告人を無罪だとするもの」

 

 

 ボーンズ女史がそう述べると、尋問官たちのほとんどが手を挙げた。ファッジ大臣もその中に混じっており、明らかに私が無罪であると場が語っていた。

 

 

「……では被告人は無罪放免、此度の事案は正当防衛とする。これにて閉廷!!」

 

 

 大臣はそう述べると木槌を一つ叩いた。ようやく肩の荷が下りたように感じ、ほっと一息つく。でもその時背筋に冷や汗が流れた。咄嗟に振り向くと、例のガマ女が無表情でこちらを見つめていた。

 

 

「……奴に手出しはさせん。絶対に」

 

 

 私の隣に来たシロウがそうつぶやく、が、正直それでも嫌な汗が泊まらない。今回の様にシロウが間に合わない可能性もあるかもしれない。シロウは特殊だ、学業もやりながらヴォルデモートへの対策も練り、更に元の世界のことも請け負っている。去年よりも更に忙しくなった彼に頼りすぎるのもどうかと思ってしまう。

 それでももう少し、貴方を頼らせてください。そう意味を込めて彼の背中の裾をそっとつまんだ。

 

 

 





はい、ここまでです。
いやはや、まさかひと月で色々と更新できるとは思いもしませんでした。
さてこちらカナダでは真夜中ですが、そちらは夕方ですかね。実はこちらで風邪を引きかけております。だって朝とか10℃以下の気温だし。季節の変わり目ですので体調を崩されぬよう。
ではでは、またいずれかの小説で。




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3. 新たな教員と警告



ついに新学期が始まり、五巻のメインパート開始です。
それでは皆様どうぞごゆるりと。




 

 

 

 無罪放免になって早一週間、私たちは明々後日の新年度開始に向けて準備をしていた。結局ヴォルデモートの情報は大して得ることは出来ず、また不死鳥の騎士団のことも大して知ることは出来なかった。両方とも子供にはまだ早いという理由でモリーさんが中心に遠ざけ、食事中以外でも話題に出すことすら憚られる空気を作り出していた。

 

 

「別に私は戦おうとは思っていないのに」

 

 

 スーツケースに新しく買った教科書や新調した服を詰めていく。それにしても最近は二月ごとに下着を新調している気がする。第二次成長期だからどんどん女性らしい体に変わるのは分かるんだけど、せっかく上下揃えて買ったのに上だけ買い替えて揃ってないのは自分としてはなんか気持ち悪い。

 

 

「それにしても『防衛術の理論』なんて本、確かに実践だけじゃなくて理論も大事だけど。なんで今年やるんだろう。普通は一年とかでやるはずだし、今年私たちが受けるO・W・L(普通魔法レベル)試験対策だとしてもこれは……」

 

 

 正直って無駄な気がする。中を読んでみたけど、変に理屈っぽく書かれているけど結局私たちが四年間教わったことが描かれている。それに少なくともグリフィンドール生はシロウや剣吾君によって教授されているし、とくに衛宮一家と親交の深い私たちはその更に先まで教わっている。

 それに何か、まるで私たちに魔法を使わせないようにしているとも見て取れる。

 

 

「考えても仕方がないか」

 

 

 そう結論付けた私は早々に荷造りを済ませ、床に入った。そういえば裁判が終わった後シロウはどこかに行ったけど、どこで何をしているのだろう。流石に新年度初日の晩餐に遅刻、なんてことはないだろうと思いたい。

 

 

 そんなこんなで時間は過ぎ、私たちはホグワーツ特急の長い旅を終えて大広間の席についていた。目の前には豪勢な料理、しかもシロウの味付けのものが並んでいたけど、今までの様に楽しんで食べることが出来ないでいた。

 その理由は教員席にある。「闇の魔術に対する防衛術」の教員席に、なんとあのガマ女が座っていたのだ。しかも口元に笑みを浮かべながら、その目は明らかに私たちを見下しているのがわかる。

 

 

「さて、みんな大いに食べ大いに飲み、腹も満たされたことじゃろう」

 

 

 デザートもクズ一つ残さず完食された後、ダンブルドア先生が立ち上がり演説台に立った。この後は毎年恒例の先生の話と、いくつかの禁則事項、そして新しい教員の紹介だ。去年の様な特別なことがない限り、変に話がこじれたりすることはない。

 

 

「秋は実りの季節とも言われ、木々の葉も衣替えをする季節じゃ。新入生も在学生も『ェヘンェヘン!!』……?」

 

 

 突如先生の演説に割り込んできた甲高い特徴的な咳払い、それはあのガマ女から発せられたものだった。絶対意図的に妨害したものとわかる。暫く先生は何か話すのかと待機していたが女は話す素振りを見せない。しかし話を再開しようとすると、また咳払いで妨害する始末。仕方なく先生が女の紹介をすると、ようやく女は立ち上がり、そして堂々と先生よりも前に歩を進めた。

 

 

「校長先生ありがとうございます。ホグワーツの生徒の皆さん、こんばんわ。ご紹介に預かりましたドローレス・アンブリッジです」

 

 

 ものすごく甲高い耳障りな猫撫で声で話始めるアンブリッジ、シロウは険しい顔をし、他のハーマイオニーやロンも顔を顰めている。そのまま時折気持ち悪い引き笑いを織り交ぜつつ、教育のあるべき姿について語っていたけど、最初一分ほどで聞いている人は殆どいなかった。強いて言えば私やハーマイオニー、シロウとか他の真面目な人たちだけである。

 

 結局アンブリッジが言いたかったのは『魔法省全体(笑)はホグワーツの方針が気に入らないから干渉するぜ、こちらに都合のいいようにな』、ってことだ。まぁ魔法省全体ではなく、一部の反ダンブルドア派の人たちが勝手にやっているのだろうが。

 それにしても厄介だ。O・W・L試験は実技もあるのだけど、防衛術では杖を出すことも御法度になりそうだ。校長先生の話を何の躊躇もなく妨害し、あまつさえ自分の演説を始めるような女だ。罰則などもえげつないものに違いない。要するに自己中腐れだから気を付けるのだ。

 

 

「明日の一発目はあの女、注意しといたほうがいいわね」

 

「そうね。何をするかわからないもの」

 

「とりあえずあのババアが碌な奴じゃないことはわかった」

 

 

 三者三様に意見を言いながら私とハーマイオニーは女子寮に、ロンは男子寮に向かった。シロウは校長室に向かったためこの場にはいない。

 因みにだけど今年からグリフィンドールの監督生はロンとハーマイオニーの二人になり、クィディッチのチームキャプテンはアンジェリーナさんになった。明日からはウッドに変わるキーパーの補充のためにテストをしなければいけないらしい。彼に匹敵するキーパーがいるかは分からないけど、まぁチームワークが出来る人が入るなら歓迎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校長室にはオレとダンブルドア以外いない。今月の合言葉はつい先ほど変更されたばかりで、アンブリッジも入ってくることは出来ない。

 

 

「……彼女を今年は遠ざけるという話だが」

 

「そうじゃ」

 

「……あんたが何故この手法を取るのか理解はできる。が、このままだと彼女がヴォルデモートに体よく利用されるぞ?」

 

「……」

 

 

 オレは問いかけるが、ダンブルドアは沈黙したまま窓の外を眺めている。彼女を信頼して、そしてダンブルドアが手を出さないことでヴォルデモートの警戒心をさらに煽るということらしいが、逆にヴォルデモートに利用される恐れがある。それに今年はアンブリッジが教師として赴任してきているため、内側から情勢が崩されかねない。アンブリッジはヴォルデモートの派閥ではないが、言わば魔法省の回し者、ファッジはまだしもその他の奴らの総まとめみたいな女だろう。

 

 

「それに、あのアンブリッジは油断ならん。誰彼構わず、自分の気に入らん奴は排除するだろう。自分に都合のいいように法を変えたりしてな」

 

「分かっておる」

 

「ならば何故……いや、よそう。これ以上言ってもあんたは意見を変えまい」

 

 

 ずっと外を眺め続けるダンブルドアに、オレは論ずることを辞めた。今年は去年の様に剣吾はおらず、ヴォルデモートも復活したことにより、マリーの護衛が出来ないときがどうしても出てしまう。となるとマリーの周りはどうしても手薄になってしまい、彼女に被害が及ぶ可能性が高くなる。

 

 

「今日は寮に戻る、それと警告だ。あの女、何か企んでいる。最悪あんたがまた学校から追い出される事態になるぞ」

 

「心得た。彼女の行為には目を光らせておこう」

 

 

 話を終わらせ、オレは校長室を出た。そして寮に向かうために目の前の角を曲がると、目の前にアンブリッジが出てきた。……どうでもいいが彼女は小さいため、オレは彼女を見下ろす形になってしまう。

 

 

「あなたはここで何をしてるのです? 生徒は寮にいるはずでは?」

 

「校長先生に呼び出されていたものでね。抜け出したわけではないから校則違反にはならないだろう?」

 

「呼び出されていたという証拠もないでしょう?」

 

「この先にあるのは校長室だけだが? なんなら直接本人に聞いてみるかね?」

 

 

 暫くオレ達は正面から睨みあい、微動だにしなかった。その間に解析魔術を行って気づいたが、彼女の悪趣味なピンクの服の袖には彼女の杖が隠されている。そしてそのの指が杖に伸ばされた。その指が杖に触れる前に、女の動きは止まった。何故なら俺のアゾット剣の柄頭が、彼女の目と鼻の先に既にあるからだ。自惚れるつもりは毛頭ないが、ちょっとした閃光を飛ばすだけのこの世界の魔法使い()()が、オレに勝とうなど百年早い。

 ああ訂正、魔術師(こちら)は空間転移が出来ないが、それが普通にできるのは魔法使い(そちら)の強みだろう。だがそれだけだ。肉体強化も満足にできずに、英霊の末端とはいえ名を連ねる俺の素の速さに付いてはこれない。

 

 

「なん……!?」

 

「こちらのセリフだ。生徒に理不尽な攻撃をしようものなら、正当防衛もまた認められる然るべきものだろう?」

 

「くッ!! 極東の猿が!!」

 

「今の言葉、教師としてあるまじきものだと思うが? 教員が差別主義の愚か者とはやれやれ、魔法省も相当な人手不足らしい」

 

「言わせておけば……!!」

 

 

 オレの挑発にやすやすとのるアンブリッジ。その顔は憎悪に歪み、自分以外のものが全く見えていない。やれやれ、この手の類の人種は厄介極まりない。いつどこで、何をしでかすのかが全くわからないのだからな。

 オレは奴の鼻先に柄頭を向けたまま口を開いた。

 

 

「よく覚えておけ。何を企んでこの学校に赴任したか知らんが、貴様の思い通りには早々ならんぞ?」

 

「小僧が、図に乗るな」

 

「怖い怖い」

 

 

 剣をしまってそのまま通り過ぎる。しばらく歩いてすぐ、オレは振り返りつつ剣を切り払う。すると一筋の閃光が切り払われて霧散した。その奥では杖を構えたアンブリッジがいた。魔法が切り払われたことに対し、奴は驚愕の色を浮かべている。二年前に学習しなかったのだろうか。それに今の閃光の色からして、致傷力の高い『麻痺呪文』を使ったのだろう。

 

 

「……忠告はしたぞ」

 

 

 静かに言葉を紡ぐ。僅かに身をかがめ、ほんの僅か足に力を入れる。そして奴がもう一度魔法を放つために杖を動かそうとして、もう一度動きを止めた。オレの拳が奴の目の前にあり、アンブリッジはそのまま地面に崩れた。その顔は何が起こったか分かっておらず、拳圧で生じた風でその髪はぼさぼさだった。

 

 

「魔法にばかり頼るからだ、戯けが。閃光を飛ばし合うだけで殺し合いを経験したつもりか? 私からすれば、貴様らのそれは子供のお遊戯にすぎん。二年前に学ばなかったのか? 別にあの魔法無効化の魔具がなくとも、貴様程度ならば奇襲を受けても対処できる」

 

 

 オレの言葉が聞こえたのか、アンブリッジは立ち上がろうとした。が、あらかじめ黒鍵で「影縛り」を施していたため、奴は動くことは出来ない。杖も地面に落ちているため、魔法を放つこともできない。

 

 

「今一度言う。この学校で貴様の思い通りになるとは思わないことだ。外部に依頼しても、貴様とは戦いの年季が違う、手段とその対抗策を用意するのは容易い」

 

 

 最後にほんの少し殺気を込めて一睨みすると、アンブリッジは顔を青くして息を詰まらせた。剣吾やイリヤたちはこの状態でも普通にこちらに来るものだが、得意げにしていた割には軟弱だ。マリーでも腰を抜かさずに堪えるぞ。

 さて、明日の一限目はアンブリッジか。忠告はしたが反省せずに何か企てるのだろう。一応気を付けておくか。

 

 

 

 






はい、ここまでです。さて次回はアンブリッジの授業と、クィディッチの選手選抜の様子を書きたいと思います。
あと三日で帰国、早いものですね。帰ったら大学の新学期に開始にヒイヒイ言いつつ、アクエリオンを復習してTOEICの勉強しないとですね。FGOの剣豪はいつくることやら。

それでは皆様、またいずれかの小説で。




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4. 初授業と罰則



お待たせしました、帰国一発目です。
今回は皆さんお待ちかね、カエルと少女の初?コンタクトです。
それではごゆるりと。





 

 

 

 新年度一発目の授業、アンブリッジの講義を受けるために私たちは防衛術の教室にいた。みんなの机の上には例の教科書が置かれており、授業が始まるまで枕にしたり、パラパラとめくったり、そもそも目を向けずに妖精術の練習をしていたりと、皆各々自由なことをやっている。かくいう私も教科書を開かず、パーバティが妖精魔法で動かしている紙の鳥を眺めていた。鳥はのびのびと羽ばたきながら教室の中を飛んでいる。その様子に自然と私の顔はほころんだ。

 しかしそんなことも束の間、突如鳥は灰となって燃え尽きた。一斉に教室の前に視線を向けると、やはりそこには気持ちの悪いニタニタ笑いを浮かべた、ガマガエルによく似たアンブリッジが杖を構えて立っていた。

 

 

「生徒の皆さん、おはようございます」

 

 

 これまた笑みと同じように気持ちの悪い猫撫で声を出すアンブリッジ。もはや頭の上に乗っている小さなリボンでさえも気持ち悪さを感じる。とりあえずみんな挨拶を返したが、点でばらばらだった。それに対しアンブリッジは舌を鳴らした。

 

 

「チッチッチ、いけませんね皆さん。挨拶をされたらしっかり返すように。ではもう一度、こんにちはみなさん!!」

 

「「「こんにちは、アンブリッジ先生」」」

 

 

 教室が共鳴するようにワァンとなった。アンブリッジはそれに満足したようにうなずくと、黒板に文字を書き始めた。

 

 

「皆さんは今年で五年生、年度末にはO・W・L試験が待っています。勉強すればよい成績が取れ、怠ると悪い評価が付きます。では皆さん、早速教科書一ページを開いてください。私語はしないこと」

 

 

 アンブリッジはそれだけを言うと、教卓の椅子に座り、紅茶を飲みながら私たちの観察を始めた。というか砂糖を入れ過ぎじゃないですかね、甘ったるいものを呑むと体に悪い……ああ成程、だからガマガエルみたいにブヨブヨなってるのね、納得。

 みんなつまらないという表情を浮かべながら、教科書を読み進めていくが、殆どの生徒が途中で読むのに飽き、爪垢掃除をしたり、羊皮紙になにか書き始めたりしている。その中で一人、ハーマイオニーがアンブリッジを凝視して手を挙げていた。しばらくアンブリッジは無視していたけど、流石に無視しきれずに十分ほどしてハーマイオニーに目を向けた。

 

 

「ミス・グレンジャー、何かわからないことが?」

 

「いえ、教科書の内容は網羅しているので問題ありません」

 

「あら、じゃあ何が問題なの?」

 

 

 アンブリッジは笑みを浮かべて、しかし目は笑わずにハーマイオニーに問いかけた。ハーマイオニーはそれに臆することなくアンブリッジを睨み返しながら口を開いた。

 

 

「この授業では魔法を使わないのでしょうか?」

 

 

 ハーマイオニーの質問に対し、アンブリッジは甲高い笑い声をあげる。それによって全員の集中力が切れ、アンブリッジとハーマイオニーの応酬の観察を始めた。

 

 

「なにを以てしてこの授業で魔法を使うのです? こんな安全な場所で?」

 

「何者かの襲撃はなくとも、魔法生物による襲来があっても可笑しくないのでは?」

 

「そんなものは魔法生物飼育学の教員に任せればいいじゃない?」

 

「最近は色々と物騒でしょう? ならほんの少しでも防衛手段をもっているほうがいいのでは?」

 

「今それを学んでいるでしょう?」

 

 

 アンブリッジはさも当然とでもいう様に教科書を指差し。これこそ最高の防衛手段と断じる。嘘ね、あの女は防衛手段を示しているのではなく、私たちの知識を制限して自分たちの手綱を握ろうとしているだけだ。顔を見ればわかる。

 

 

「こんな本をもってどう対処しろと? まさか敵前で開いて読み上げればいいのですか?」

 

 

 我慢できなくなってつい噛みついてしまった。途端アンブリッジの顔からは表情が消え、私を凝視した。なんか妙な感覚が体を駆け巡ったが、恐らく彼女は私を威圧しようとしたのだろう。その証拠にエミヤ家と親密に関わっている者たち以外は全員冷や汗をかいている。

 

 

「……ではミス・ポッター。あなたの言う外敵とはなんですか?」

 

 

 アンブリッジは静かに解きかけてきた。この場合何を言っても否定されるのが落ちだろう。でも私は我慢することが出来ず、机の下で隣に座るシロウの制止も聞かずに口を開いてしまった。

 

 

「そうですね、ヴォルデモートとか?」

 

 

 言った瞬間私は後悔した。アンブリッジがしてやったり顔をしていたし、隣でシロウが小さくため息をつくのを聞いたから。

 

 

「グリフィンドール十点減点です。ミス・ポッター、次は減点では済まされませんよ?」

 

 

 アンブリッジは教壇の前にゆっくりと歩を進め、生徒全体を見渡しながらニマニマ笑みを浮かべた口を開いた。

 

 

「皆さんは休み前に色々な話を聞いたと思います。なんでも『例のあの人』がよみがえったとか。いいですか皆さん、あれは全くの嘘です」

 

「なっ!?」

 

 

 余りの言い草に言葉を失った。彼女は去年、対抗試合の観客席に顔を見せなかった。そのため、その時何が起きたかなど直接見てないし、大臣がどんな話をしていたかも知らない。でも元死喰い人の腕の刻印を確かめればわかることを、いったい何を根拠に嘘と断じているのか。

 

 

「何を根拠にそんな自信を持って言えるのですか?」

 

「『例のあの人』は十四年前に消え去った。それは周知の事実でしょう? 死者がよみがえることなどありえないのです」

 

「誰がいつ死んだと言いました? ヴォルデモートは消えただけで死んだとは言われていない。この十数年活動を控えていた、またはできなかったともいえるでしょう?」

 

「罰則ですポッター!!」

 

 

 アンブリッジは喜々としてそう宣告した。このアマ、初めからそれが狙いだったんだね。

 

 

「ダンブルドア教授や他の幾人かの魔法使いたちも主張していますが、いいですか皆さん。これは真っ赤な嘘です!! あの魔法使いが蘇ることなど決してあり得ない!!」

 

「じゃあ元死喰い人の刻印はどう説明するのですか!! 彼らの刻印がはっきりと浮かび上がっていることがヴォルデモート復活の何よりもの証拠でしょう!!」

 

「黙りなさい!!」

 

 

 私の主張に対して、アンブリッジは悲鳴にも近い声で命令してきた。余りにもの近々声に耳が少し痛くなり、私は口を閉ざした。対するアンブリッジも肩で息をしていたが、一度あの特徴的な咳払いをすると、にんまりとまた口元に笑みを浮かべた。

 

 

「ミス・ポッター。放課後私の事務所に来るように、そこで罰則を与えます」

 

 

 その言葉を最後にアンブリッジは言葉を切り、教壇の椅子に戻ってまた甘ったるそうな紅茶を口にした。その後はどの授業もやる気が起きず、普段やらないような失敗をしたりして周りに迷惑をかけたりしてしまった。それこそ、普段スリザリン生以外心配しないスネイプ先生にまで心配されるほどに。

 そして放課後、重たい足を動かしながら私はアンブリッジの部屋に向かっていた。この四年間、色々な事情で通い詰めた防衛術の教員部屋だけど、これほど行きたくないと思ったのは初めてだった。

 ノックして扉を開くと、そこにはこれでもかというほどにピンク色がちりばめられ、そのピンクの壁にはこれまた覆いつくすかのように、猫の絵の描かれた皿が沢山飾られていた。

 

 

「来ましたねポッター。さぁ掛けて、何か飲み物はいる?」

 

「いりません。お茶を飲みに来たわけではないので」

 

 

 ハッキリと断ると、面白くないとでもいう様にアンブリッジは鼻を鳴らし、私の目の前に羊皮紙と羽ペンを置いた。しかし一番肝心なインク便が見当たらない。

 

 

「先生、インクはどこですか?」

 

「あら、それは特別な羽ペンでね。インクは必要のない代物なの」

 

 

 はて、そんな羽ペンは売られていただろうか? 疑問に思いつつも、私は羽ペンを握った。

 

 

「では書き取り罰則です。書く文章は、『私は嘘をついてはいけない』」

 

「どれくらい書くんですか?」

 

「身に染み込むまで」

 

 

 何やらきな臭い言葉を最後に、アンブリッジはティータイムに戻った、仕方がなく私は羊皮紙に言われた文章を書きこむ。

 書き始めると、鮮やかな赤い色で羊皮紙に文字が書き込まれ始めた。でもおかしい。この色は見たことあるし、何やら鉄臭いにおいもする。まさかと思うが、このインクは血ではないだろうか?

 そう考えていると、何やら右手の甲に痛みが走り始めた。一文字一文字、一角一角書き込むたびに痛みは激しくなり、手の甲に文字が刻まれ始めた。『()()()()()()()()()()()()』と。

 

 

「……そういうことね」

 

「何か?」

 

「……いえ、何も」

 

 

 アンブリッジが何か聞いてきたが適当に応え、書き取りに戻る。決まりだね。この書き取りインクは私の血、身に染み込むとは体に刻み付けるということ。明らかな越権行為と違反行為に怒りが湧く。しかしここで爆発させればこの女の思うつぼ、私は堪えて書き取りを続けた。

 手の甲から血が滴り落ちる程まで書きなぐっていると、アンブリッジがこちらの様子を確かめに来た。但し書き取りの量ではなく、私の手への刻まれ具合を。

 

 

「チッチッチ、まだまだ染み込みが足りないようね」

 

 

 これで染み込みが足りないとか、この女は本当に何がしたいのだろうか? あまりもの馬鹿馬鹿しさに呆れつつも、帰ることを許されたので私は足早に部屋を去った。満足そうにクツクツ笑う声を聴きながら。

 寮に還るといち早くシロウが近寄り、私の右手の治療を始めた。血は止まるも、私の右手には生々しい『私は嘘をついてはいけない』の文字が浮かび上がっている。それを見たシロウは一気に無表情になる。別に私に怒気を向けられたわけではないのに、アンブリッジとは違って私も冷や汗が止まらなくなる。間違いなくシロウが発しているのは殺気、少しでも動こうものなら切り裂かれそうな、そんな感じがする。

 

 

「……これはあの女が?」

 

「うん。書き取りって言って」

 

「了解した」

 

 

 シロウは無表情のまま立ち上がり、談話室を出ていった。シロウが去った後室内の空気は弛緩し、談話室にいたみんなが肩で息をついた。

 

 

「初めてシロウが怒っているところに出くわした」

 

「息子さんも奥さんもああなら、一家の大黒柱たる彼も例外じゃないと」

 

「「あれ、剣吾と模擬戦したとき以上の圧迫感だぞ?」」

 

 

 皆口々にシロウについて話し出す。殺し合いなどしたことがない私たちでも、先程のシロウの圧力が殺気だとわかる。本物の戦闘者と偽物の御山の大将の違いをはっきり実感した一時だった。

 

 

 

 






はい、ここまでです。実はこの話、十時間もあるフライトの中で書き溜めていた者なんです。暇でしたので。
さて、次回からガマガエルはどうなるのか、早く蛇に食べられないかなー(棒読み)

では皆さん、またいずれかの小説で。



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5. ホグワーツ高等尋問官



大変お待たせいたしました。何分リアルが忙しかったもので。
そして今回は短めに仕上げております。
では役一ヶ月ぶりの更新をどうぞ。





 

 

 

 ――もう少し先だ。

 

 頭に男の声が響く。私はゆっくりとどこかの廊下を進んでいく。

 いや、この通路は覚えている。私の裁判の日に通った通路だ。確か神秘部だったはず。

 

 ――まだ先だ

 

 声が響き渡る。通路の左右にいくつも連なる扉を通り過ぎ、ついに最奥と思わしき扉の前に辿り着く。

 そして扉に手を伸ばしてノブを掴み、扉を開けようとして……

 

 そこで私の目が覚めた。

 

 

 

 罰則から一週間後、ホグワーツに新たな規定が施行された。ざっくり言うとそれはアンブリッジのホグワーツにおける独断専行を容認するという、何ともおふざけの過ぎた内容のものだった。これは場合によっては、あの女の偏見で教師の免職や生徒の退学が可能ということである。通常では越権行為とされる行動もできるようになったアンブリッジは、それからはホグワーツを我が物顔で闊歩するようになった。そしてこの決定は教育委員会の決定であり、流石のファッジ大臣も干渉することが難しいとシロウが言っていた。

 発足から更に数週間後には、魔法省に努めているパーシーからも手紙が届いた。

 

 

『気を付けたほうがいい』

 

 

 その手紙には警告が書かれていた。

 

 

『魔法省内では「例のあの人」の復活を否定する派閥が多数派だ。復活を認める意見を公言しようものなら、俗に言う汚い手段で消される可能性が高い。そして教育委員会は否定派の巣窟で、アンブリッジを支援している。それに「日刊予言者新聞」もアンブリッジの息がかかっている。過激な行動は控えたほうがいい』

 

 

 手紙越しに心配するパーシーの意見を尊重し、この一ヶ月は行動を自重した。でもそのせいなのか、アンブリッジは気をよくしてより傍若無人に振る舞う様になってしまった。その一つの例が、「ホグワーツ高等尋問官」なる地位を作り上げたことである。そして自分以外の教師の授業視察である。事前に許可を取らず ―これはアンブリッジが入室した際の先生方の顔を見ればわかる― グリップボード片手に授業を眺めては生徒に質問をし、あの独特の咳払いで度々授業の進行を妨害をしていた。

 それはマグゴナガル先生の授業でも変わらなかった。通常通りアンブリッジが来ても無視をしていたマグゴナガル先生だったけど、流石に十回以上も咳払いで妨害されれば、黙ってはいられなかったらしい。

 

 

「のど飴はいりますか、ドローレス?」

 

「いいえ大丈夫よミネルバ、お気になさらず」

 

「そうですか、なら一つよろしいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「私の授業を査察すると言っていましたが、そうであるならば妨害するのはやめてください。あなたがどのような立場であれ、今授業をしているのは私、これ以上妨害をするなら例外なく退室していただきます」

 

 

 先生は毅然とした態度でアンブリッジを言い負かし、反論を受ける前に授業を再開した。流石のアンブリッジも先生の正論にグゥの音も出せず、非常に悔しそうな表情を浮かべながらグリップボードに何かを書き込んでいた。

 そんなアンブリッジの様子に先生は勿論、殆どの生徒も嫌悪を示しており、そんな状況がひと月ほど続いた十月の半ば、ついに事件が発生した。シロウが私用でいないとき、外の広間が妙に騒がしくなった。ロンとハーマイオニーと一緒にその広間を一望できる場所に行くと、何と騒ぎの中心にトレローニー先生がいた。その足元に沢山の荷物が置かれており、現在進行形で更にフィルチが追加のスーツケースを運んでいる。そしてその側には、満足げな顔をしたガマガエルがいた。

 

 

「……あの女、やりやがった」

 

「最初の標的はトレローニー先生なの」

 

 

 ロンが憎々しげに呟き、ハーマイオニーが悲しそうに声を出す。私自身トレローニー先生はあまり好きではないけど、だからと言って理不尽に追い出されていい気分がするわけでもない。

 周囲がざわついている中、トレローニー先生の咽ぶ声がやけに耳に入ってくる。

 

 

「こんな、こんなことが許されるはずがありません!! こんな理不尽な……」

 

「それが出来るのよ。今日からね」

 

 

 咽び泣く先生に追い打ちをかけるように言葉を紡ぐアンブリッジ。その声はこの状況を心から楽しんでいる節があり、私は反吐が出る様な感情が湧いてきた。そんな中でも事態は進んでいき、ついに最後の荷物が先生の足元に投げ出された。

 

 

「こんな勝手なことが許されるはずがありません!! ホグワーツは私の、私の、家です!!」

 

「家だったのよ。これは決定事項ですから、早くこの敷地から出て行って、どこにでも行きなさいな」

 

「そんなッ……!?」

 

 

 あまりにも勝手すぎるアンブリッジの所業に、傍観者たちざわめいた。でも誰ひとり先生のもとに向かわない。下手に行動すると、自分たちもアンブリッジの独断で追放されるかもしれないからだ。

 しかしこの状況を打破するように、ダンブルドア先生が広間に姿を現した。そのまま校長先生はマグゴナガル先生を呼び、トレローニー先生を元の部屋に班内するように指示した。

 

 

「校長先生、どういうおつもりかしら? 魔法省からも来ている筈ですよ? 『教育委員会はドローレス・アンブリッジ女史をホグワーツ高等尋問官に任命す。ひいては女史に』……」

 

「確かに教師陣の免職の権限は貴女の手にもあることは重々承知しておる。しかし学園から追い出す権限は所持していないはずじゃ。なぜならわしがその権限を今でも持って居るし、免職最終決定権もまだわしの手にあるのでのう」

 

「ですが……」

 

「そのわしが、トレローニー教諭はホグワーツに必要と判断し、彼女に残ってほしいと決定したのじゃ。君にはこの決定を覆す権限を与えられていないし、仮に手に入れようとも今回の様に簡単にはいかぬよ。何故なら魔法大臣の認可も必要な事案なのでな」

 

 

 校長先生のその言葉にアンブリッジは非常に悔しそうな表情を創り、その目には非常に強い憎悪を浮かべていた。

 その後、校長先生の一言でその場は解散となり、各々次の授業や休み時間へと向かっていった。かくいう私も次に控える魔法薬の授業のため、地下牢に急いで向かった。走っていけば十分に間に合う時間だったため、私とロンとハーマイオニーは道具を持って急いで教室に向かった。何故かシロウが地下牢にいて、その側に何やら液体の入ってたであろう小さなゴブレットが置いてあったのが気になったけど、今は気にしないことにした。

 

 

 

 

 






「いったい何をしたのだ!?」

「いや、確かに我輩たちにはわからん。お前のほうがよく知っているのもわかる」

「だがこれは異常だぞ? これでは呪いや毒薬よりも……」

「我輩の見立てでは、何もしないで五年。だがお前ことだ、止めても行動するのだろう。だとすれば長くて二年だ」

「隠しても仕方がないことだ、念のために薬を調合しておくが、それでも抑えるだけだ」

「今以上に状況が激化する中で、薬を飲んだとしても三年を覚悟したほうがいい」




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6. アンブリッジの罠




大変お待たせしました。
それでは更新させていただきます。今回は短めで行きます。





 

 

 

 

 トレローニ―先生の事件から早数週間後、ついに今年のクィディッチのシーズンが始まった。今年はアンブリッジの暴走によって楽しい年度初めを過ごすことが出来ず、彼女に賛同する一部生徒を除いて楽しみがクィディッチしかなかった。

 考えてみてほしい。今まで休み時間は湖の畔で昼寝したり大烏賊にちょっかい掛けたり、クラブの練習やクィディッチ選手は戦略練ったりと、比較的自由に各々の時間を過ごしていた。しかし今年は何故かアンブリッジにより休み時間も監視される、クラブ活動をするためにまた活動申請しなければならない。更にはクィディッチチームも強制解散され、アンブリッジの許可を得ないと再結成できない法律まで施行されてしまい、特にグリフィンドールは最後のギリギリまで許可が出なかった。

 そのせいか、新キーパーであるコーマック・マクラーゲンを交えたチーム練習を満足にすることが出来ず、準備不足のまま試合に臨むことになった。今回の相手スリザリンは新メンバーを加え、しかも申請その日に許可が出たために準備万端と言ったところか。

 

 しかしうだうだ言っていても始まらない。万全じゃないけど今のベストを尽くすしかない。自然と私たちチームの箒を握る手に力がこもる。ジョーダンさんの実況と共に空へ飛び出すと、すでにスリザリンチームはスタンバイ済みだった。しかし今年初めての試合だというのに天気は曇天、爽快にプレイすることが出来ないのは嫌である。

 そして気づいたのだが、アンブリッジが校長先生やその他外部から来てる来賓と席を並べているのが見えた。周りの観戦者、特にアンブリッジの隣や前後にいる人たちがあまりいい表情をしていないことから、あそこにいる人たちは好き勝手するアンブリッジにいい感情を持っていないのだろう。

 フーチ先生のホイッスルと同時にチップインし、ゲームが始まる。先攻はこちら、早速攻撃を仕掛ける。スリザリンの新ビーター、クラッブとゴイルがチェイサーやシーカーである私にブラッジャーを打ち込んでくる。しかし私たちもやられるだけではなく、フレッドとジョージが打ち返したり、私たちが誘導してスリザリン選手に当てさせたりと、何とかして勝負を繋いでいる。まぁ元々の得点力は高いほうだし、箒のスペックに左右されない実力をみんな持っているから、多少のハンデも実力と経験でどうにかしてしまう。

 ただ先ほどからスニッチ程じゃないけど気になるものがある。それはアンブリッジの視線だ。先ほどから気持ち悪いほど舐めるようにこちらを見てくる。まるで何か起こるのを待つかのように、それがなんとも不気味でいまいち集中できない。

 

 

「マリー!! 気になるのは分かるけど今はスニッチに集中しなさい!!」

 

「っ!? はい!!」

 

 

 いけない、まずは試合を優先しないと。いそいで上空高くに舞い戻り、フィールド全体を見渡す。すると微かに、新キーパーのマクラーゲンのそばで飛んでいるのが見えた。因みに言うとマクラーゲンはテストを受けて入団したんだけど、まぁ実力は確かにあると思う。でも自信過剰な性格が災いしてか、他の人のプレーに難癖をつけては、それに集中しすぎて相手のゴールを許している。まぁハッキリ言うとチームワークを一から学んでほしい人だ。おかげで点数差はさほどなく、いまは一ゴール分辛うじてグリフィンドールがリードしている。

 

 おっと話がそれた。

 私は急いで箒を傾け、スニッチに向かって突進した。マルフォイも私の動きに気付いたのだろう、私と同じ方向に向かい、そして途中でスニッチに気付いた。こうなるとあとはスニッチの動き次第でどっちが取るかが決まるという微妙なラインである。でも少しでも可能性があるならと、私はスニッチに手を伸ばしながらさらに加速した。

 当然スニッチは動き、私たちから離れようと高速で飛び回る。選手たちの合間を縫い、時には空中で反転し、スニッチから目を離さずにマルフォイと揃って追い続ける。アンブリッジの視線なんて関係ない、生まれの家柄育ちの過程など、もはや今の私達には関係ない。理由は分からないけど、口元に笑みが浮かんだままスニッチを追う。ふと目の端にマルフォイの顔が映る。その顔も私同様、汚いものを含まない、純粋に今の状況を楽しんでいるような笑顔を浮かべていた。今の状態の彼なら、私も人として好感を持てるな。そう感じながら、私は最高速度で飛び、スニッチをその手に掴んだ。

 

 

『マリーがスニッチをとった!! グリフィンドールの勝利です!! 試合終了!!』

 

 

 ジョーダンさんの実況が鳴り響き、試合場が完成で満たされる。来賓の方々も拍手をし、グリフィンドール席に至ってはみんな総立ちである。ふとマルフォイに視線を向けた。彼は純粋な悔しげな顔をしていた。どういう心境の変化があったかは知らないけど、どうも今のマルフォイはずるがしこいことはしないだろう。

 そう思った私はマルフォイの許に近寄った。目の前で彼は私に胡散臭そうな目を向けてくるが、私はそれを気にせず彼に手を差し出した。それをみたマルフォイは驚愕に目を染めていたけど、私は微笑みを浮かべながら手を差し出し続けた。

 やがて恐る恐るマルフォイが手を差し出し、私の手を握る。

 

 

 

 

 ガァアアアアアンンン!!

 

 

 

 前に私の側頭部に衝撃が走り、私は乗っていた箒から投げ出された。地上からあまり高い場所に滞空していなかったとはいえ、それでも私がいたのは頭から落ちれば良くて首を痛める、最悪首の骨折か即死の高さだ。しかし突然のことで私も対処ができない。成す術もなく地上に落ちる私の頭は、しかしながら冷静だった。視界の端に二つの影が映り込む。一つはマルフォイ、彼の表情を見る限りこの事態は全くの予想外なのだろう。そしてもう一つはクラッブ、その姿は棍棒を振り切った姿をしており、どうやら彼がブラッジャーを態と私に当てたみたいだ。

 

 体を襲う浮遊感。全身で受ける風。放っておいたら間違いなく死んでしまうような態勢。ああでも、最初から分かっていたわけではないのに、本当なら自分でどうにかしなければならないのに、どうして貴方はいつも助けてくれるのだろう。

 

 私は地面につく前にシロウに抱きかかえられ、それからゆっくりと地上に降ろされた。いまだ頭が揺れている感じだが私はシロウに支えられながら身を起こした。本来ならすぐにでも医務室に行かねばならないのだが、無理を言って立ち上がった。

 周りは騒然としており、スリザリンチーム側でクラッブ含めた数人はフーチ先生から怒られていた。当然だ、下手すれば死んでいたかもしれない行為なのだから。しかしクラッブは反省する様子はなく、フーチ先生の説教を鬱陶しそうな顔で聞いていた。ついでに言うとフーチ先生が来る前、どうやらクラッブはグリフィンドールチームの選手を貶める発言を何人かとしていたらしく、侮辱の対象となったウィーズリーの双子はチームメンバーから取り押さえられ、その選手もまた怒りに目を燃やしていた。次いで言いうと私も侮辱されていたらしい、聞こえなかったけど。

 でもその後のクラッブの発言には固まってしまった。

 

 

「死ななかったからいいじゃないですか」

 

 

 恐らく結構な声量で叱りつけている先生には聞こえていないだろけど、私の耳にははっきりと聞こえた。気が付けば体が動き、クラッブの頬を貼り飛ばしていた。ビンタをされたクラッブは状況を理解していない。しかし無理が祟ったのか、私は力が抜けて膝をついてしまった。周りも私の行動に呆然としていたが、いち早く復活したフーチ先生とシロウに連れられ。医務室に運ばれていった。その時に見えた、ニンマリと笑ったアンブリッジの顔が印象的だった。

 

 結果として私は暴力を振るったとして、フレッドとジョージも危険行為の未遂として罰則を受けた。しかし罰則を言い渡したのはフーチ先生ではなくアンブリ……糞がえ……■■■だった、そしてその内容がクィディッチの一生涯プレイ禁止という、越権行為なにそれ美味しいの、とでも言いたくなるような理不尽極まりないもの。対するクラッブは書き取りのみ、しかも私の様な呪いの類ではない普通のもの。

 このことを知ったシロウや他の先生方は抗議をしたが、いつの間に制定された御糞な法律や教育令により、アンブリッジの権力は教員や生徒の退学追放権以外はダンブルドアと同等のものになってしまった。それを知ったシロウは度々学校から抜け出すようになり、スネイプ先生とマグゴナガル先生、そして■■■以外の授業は最低限のことだけやって自分のことをするという状態になった。いったいこれからどうなるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――潮時だな

 

――承知している。これは私の責任だから。

 

――では計画に移ろうかの

 

――すまないが君にも協力してもらう

 

――それが最善だというのなら

 

――始めよう

 

 

 

 







 はい、ここまでです。今回は短めに仕上げました。
 いやしかし学校はまだしも、親戚関係が面倒くさい。うちは分家なのに、しかも私自身は分家当主でも当主候補でもないのに、親戚一同集う会に出席しなければならない理由がわからない。何が楽しくて年寄り連中の中に混ざらなければならないか理解不能。そして何が楽しくてお見合い写真を見せられる、私まだ学生、しかも相手は年が一回りも上。勿論断るの一択。
 以上、ここひと月ほど更新できなかった愚痴でした。




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7. ホッグスヘッド・バーにて


こんばんは、約ひと月ぶりのハリポタの更新です。大変長らくお待たせしました。
それでは早速どうぞ。




 

 マリーたちの一生涯クィディッチ禁止がまかり通ると、アンブリッジは以前以上に大きな顔をするようになった。奴の機嫌がよくなることに反比例し、学内の空気は日に日に悪くなるばかりだった。更に冬となり雪も積もることで、例年以上にこの学校では冷たさを感じる。この世界では違うとはいえ、子持ちの親としては、子供たちの笑顔がなくなっていくのは心苦しいものである。

 

 

「……計画の第一段階としては」

 

「生徒たちを思うと辛いが、わしが一旦ここから去る以外にあるまい」

 

「アルバス……いや、君が出ていかずともこちらが……」

 

「魔法省が出来ることは少ない。今大臣がすべきなのは出来るだけ少ない犠牲で、アンブリッジを処罰しやすくすることだ」

 

「……そうだな、私が気づくのが遅すぎたばかりに」

 

 

 今オレ達は校長室にいる。この場にいるのはオレとダンブルドア、そしてファッジの三人でアンブリッジの処遇に関して話し合いをしている。今のところダンブルドアが一時的に学校から姿を消し、あえてアンブリッジをのし上がらせたうえで、魔術師(オレたち)の流儀で消すことが最善策として挙げられている。しかしこの方法だと、多かれ少なかれ生徒たちに被害が及ぶことは、想像に難くない。ましてや奴はマリー否定派の統領とも言っていい存在、ダンブルドアがいなくなれば最後の枷が外れ、見境なく行動を起こすだろう。

 

 

「……だが現状これ以外に方法が思いつかないのも事実じゃろう」

 

「そうだが……」

 

「……私も今はこれ以外思いつかん。一度時間を置き、もう一度考え直そう。次はいつがいい?」

 

「一か月後だ、それ以外は私の予定がどう足掻いても崩せない」

 

「分かった。じゃあダンブルドア、ファッジ。またひと月後に」

 

「「ああ(うむ)」」

 

 

 その言葉を最後に、オレは校長室を後にした。ああ、何やら部屋とオレに盗聴魔法のようなものが仕掛けられていたが、まぁ話し合いを始める前に破壊させてもらった。校長室のものに関しては、まぁダンブルドアもファッジも気づいていただろう。オレにかけられていたものは、「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」で無効化し、念のため聖骸布で魔法無効状態にしているから、追加の魔法も受けることはない。今頃奴は悔し気にハンカチでもかんでいるだろう。

 それにしても妙に静かだ。今日が休日で、生徒たちがホグズミードに行くにしても、それでも外に積もった雪で遊ぶなり比較的暖かい図書館や大広間に人がいても良さそうなのだが……。ああ成程。

 

 

「……作ったそばから風紀の乱れと難癖付けられれば、誰だって楽しくなくなるだろうよ」

 

 

 誰かが作った―恐らく一年生だろう―三体の雪だるまが、アンブリッジによってそこらの雪に戻されていたのだ。その理由が、校風を乱しているかららしい。作った一年生はそんな理由で寮から減点をされている。全く、ここを自分お城と勘違いしているのか、はたまたオレの妨害に腹が立ち、腹いせに理不尽な行いをしているのか。いずれにしても見逃す気は無いため、その騒ぎに近寄る。

 

 

「失礼、少しよろしいか?」

 

「なんです? ……ッ!? あなたは……」

 

「何やら騒がしかったから来てみましたが。たかが雪だるま一つで減点とはいかがなものですか?」

 

「たかが? 学校の風紀を乱しておいて減点するなと?」

 

「ここは牢獄でも何でもないのです。そこまで子供らを縛る権利はないはずですが」

 

「……」

 

 

 オレの言葉に口をつぐむアンブリッジ。一年生たち、どうやらレイブンクロー生の男女三人組の様だ。仲がいいのだろう、その三人は動くこともできず、こちらをはらはらとした表情で見つめている。さて、先程から黙っているアンブリッジに一時的な止めを刺すとしようか。

 

 

「何ならば魔法大臣殿と校長に直談判しますか? 丁度先ほど二人が校長室に行くところを見ましたが」

 

「ッ!? いえ、結構です。そこの三人、罰則と減点は無し、以後気を付けなさい」

 

 

 そう言うとアンブリッジは足早にこの場を去った。その後ろ姿から、奴がいら立っているのが見て取れる。一つため息をつくと、オレは三人に向き直った。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい……あの、あなたはシロウ・エミヤさんですよね?」

 

「そうだが……どうかしたかね?」

 

 

 一応自己紹介を済ませると女子二人は何やらコソコソと話し合い始めた。男子のほうはキラキラとした目でこちらを見る。何というか何やら居心地が悪い。しかも向けられるのが負の感情じゃないだけに、余計に何やらむず痒い感覚に陥る。以前の世界では感謝されることはあっても、オレは戦場に出るのが主な行動だったため、こういう視線にさらされることがあまりなかった。

 

 

「雪で遊ぶのは楽しいだろう。だが今年一年だけ我慢してもらえないか? あの女がいる限り、自由にできるのは各々の寝室だけだ」

 

「「「……はい」」」

 

「すまんな。その代わり、今晩の夕食は楽しみにしておくといい。私と他のスタッフで、とびきり美味しいものを作ろう」

 

「「「はい!!」」」

 

「いい返事だ。さぁ、体が冷える前に談話室に行くといい」

 

「はい!! シロウさん、ありがとうございました!!」

 

 

 三人は元気よく返事をすると、レイブンクローの学生寮に向かって走っていった。やれやれ、元気のいいことだ。さてあの子らにああ言った手前、夕食は腕を振るわんといかんな。

 ……アレはあっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は休日ということで、私たちはホグズミード村にいた。でもいつものように「三本の箒」にいるわけではなく、今回は「ホッグズヘッド・バー」という大人向けのパブにいた。なんでもハーマイオニーが何やらしたいらしく、この店で一番大きい個室を借り、何人かの生徒を寮に関係なく集めていた。

 そしてある程度集まったとき、ハーマイオニーが今回の集まりの主旨を述べ始めた。

 なんでも今のままじゃ、自分たちはアンブリッジの思うままにしか動けず、魔法学校にいるのにろくに魔法も学べなくなる。理論も大事だけど、ヴォルデモートの復活が疑われている今、この先それだけで生きていけるわけではない。それならば、自分たちで魔法を学ぶ集まりを作ろうではないかという話である。ただそんな集団を作ろうとすれば、アンブリッジによって抑圧されることは免れない。というわけで、秘密組織のような集団として活動しようと言うものである。

 

 

「でもバレたらどうするの?」

 

「勿論罰せられるでしょうね。私たちはあの人達の思惑に逆らっているのだから、最悪退学もあり得るでしょう」

 

「なら……」

 

「だからそれが嫌な人は辞退して大丈夫よ。それはあなた達自身が考えて決めたこと、私たちがとやかく言う権利はない」

 

「でもそんなリスクを背負ってでも現状をどうにかしたいと思うなら、この活動を一緒にしましょう」

 

 

 ハーマイオニーのその言葉に、辞退する人と参加する人の二手に分かれ、辞退する人はそのまま帰途についた。参加する人は名簿に名前を記入し、今後の方針に関する話し合いに参加することになった。

 それにしてもこの状況、アンブリッジにバレたら本当にひとたまりもないことになるだろう。恐らく私のような書き取りは確実になるし、そのためにまた変な法律を制定するかもしれない。そんな危険を冒すくらいなら、関わらずに今を受け入れるのもまた一手だろう。でも私としては、今の停滞した状態を抜け出したい。今回ハーマイオニーが考案したものは、その一歩だと思う。シロウは反対するかもしれないけど、私はこの集団に参加することにした。

 

 

「……で、この集団の名前だけどどうする? 流石にダイレクトな名前は駄目だろうし」

 

「それに通信手段もどうにかしないといけない」

 

「場所もどうしようか」

 

 

 みんなで頭をひねらせ、色々と考えを巡らせる。しばらく飲み物を飲みながら考えていると、一人の女生徒、スーザン・ボーンズさんが手を挙げた。

 

 

「確か前の『あの人』の恐怖時代、ダンブルドア先生がなんかレジスタンスみたいなのを率いてたよね」

 

「うん、『不死鳥の騎士団(オーダー・オブ・フェニックス)』ってのを率いてたね。ただ僕も名前しか知らないけど」

 

「だからそれに因んだ名前はどう? 不死鳥だから『不死鳥の尾羽(フェニックス・テイル)』とか。略称で『PT』にすればわからないし」

 

「成程、みんなはどう思う?」

 

 

 どうやらスーザンの意見にみんなは賛成なようで、この集団の名前はそれに決まった。あとは通信手段だけど、それに関してはハーマイオニーがすでに考えているらしい。ガリオン金貨に似たメダルを介し、メンバーのみと連絡が出来る仕様らしい。ぱっと見はガリオン金貨によく似ているため、持っていても怪しまれることはないだろう。

 さて残る問題は活動場所だけど。

 

 

「流石に空き教室はばれるよね」

 

「叫びの屋敷じゃあそんな人数は入らないし」

 

 

 最後の難関、場所についてまたもやみんなで首をひねらせることになった。何度か飲み物を御代わりしながら悩むこと数十分、ネビルが何か閃いたかのように顔を上げ、口を開いた。

 なんでも『必要の部屋』という名前の部屋があるらしく、ある一定条件を満たせば何もない壁に扉が出来、中に使用者が必要としているモノが揃えられた部屋に変化するらしい。フレッドとジョージも使ったことがあるみたいなので、その部屋があることは確実だろう。後日、その部屋が使えるかどうかを確認し、使えそうだったらそこを使うことが決まって解散となった。

 

 

 学校に戻ったころには空も暗くなり、夕食の時間もすぐに来た。今日はシロウがキッチンの料理長だったらしく、机の上には今まで見たこともない料理が並んでいた。私たちは魚は食べるものの、ムニエルやフライなど、結構手間がかかっているもの以外食べることはない。スターゲイジーパイは例外として。

 でも今目の前に並んでいるのは純粋に塩焼きされたものや煮込みハンバーグ、よくわからない黒く細いものと人参などが合わさったサラダなど、いつもより手間がかかっていないように見えてとても美味しそうなものばかりだ。

 

 中でも一番目を引いたのが、真っ赤なスープの様なソースのようなものだった。白い四角いものが確認でき、ひき肉やトウガラシなどが使われているのが匂いでわかる。見ただけで辛い物というのがわかるけど、食べてみたいという欲求も湧いてくる。隣に置いてある白米を今日特別にある茶碗によそい、赤い食べ物を小さい深底の皿に入れて一緒に食べる。

 食べた瞬間、喉が焼ける様な辛さと熱さが体を駆け巡る。体中の汗腺が活発に動き、全身から汗がとめどなく流れ出る。体が水分を求め、カボチャジュースではなく、水を何度も注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返しながらスプーンを進める。今まで食べたことがない料理、でも辛さの中のおいしさがわかり、私は無言でスプーンを進めた。そして自分の皿をすべて食べ終えたさい、全身の汗が蒸気のように登っているのが分かった。

 一息ついて周りを見渡すと、全ての寮のいたるところから蒸気が上がっているのが確認できた。そしてそれを見た周りの人も、一口食べるという連鎖を呼び、他の料理も合わせて初めて御代わり分の料理も含めて、完食されるという事態になった。これには料理長だったシロウも驚いたらしく、

 

 

「何でみんなそんなにアレを食べれるのだ? いや、()()に比べて出来るだけ辛さを抑えてはいるが、それでも西洋人にはきついはずなのに」

 

 

 とか呟いていた。後から聞くと、今晩の料理は一から十までシロウの主導でメニューが決められており、例の辛い料理は麻婆豆腐というメニューだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全な余談だけど、教師には全員に一人分の料理が並べられ、アンブリッジのは格別の辛さだったらしい。隣に座っていたスネイプ先生とダンブルドア先生曰く、アンブリッジの麻婆豆腐は仮令皿に盛られたとしても、絶対食べたくなかったとか。

 

 

 ヨウ、オレ外道マーボー。コンゴトモヨロシク

 

 

 とでも語りかけてきそうな、煮えたぎるマグマのようなものだったらしい。しかしシロウが来てからは、出来るだけ食べ物は残さないという暗黙の了解がホグワーツには出来上がっており、加えてその日の夕食にはファッジ大臣もいたこともあり、自分だけ流石に我儘を言えなかったアンブリッジは、麻婆豆腐を完食したらしい。それが原因か知らないけど、それから二日間アンブリッジは自室から出てくることなく、アンブリッジの授業はスネイプ先生が臨時を務め、非常に充実した授業だった。

 

 

 

 





はい、ここまでです。
いやーついに出てきてしまいました、地獄の窯で作られたと思われても仕方のないアレが。私自身麻婆豆腐は激辛が好きですが、泰山のは食べたいとは思いませんね。

さてようやく更新もできるようになりました。このまま一気に五巻完結まで持っていこうかと思います。剣吾が主人公の外伝はあと数話で簡潔にしますが、ハリポタが完結したら終わらせようと計画しております。

それでは皆々様、またいずれかの小説で。



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8. 不死鳥の尾羽



――黒化しているとはいえ、流石は豊饒の女神といったところか。……左腕が逝ったな。

――■■■■■……

――この気配からすると、次使うのは宝具。石化の魔眼か騎英の手綱か。

――……お兄さん、大丈夫なの?

――大丈夫だ。君たちはオレが守る

――■■■■■!!

――ちぃ、騎英の手綱か!!

――■■■■■!!

――「熾天覆う七つの……





 

 

 

 シロウがあまり授業に出なくなって三週間。特にこの一週間は一日も一限も出ていない。外は未だに寒さが続いている中、私たちは一つの部屋に集まっていた。

 この部屋の名前は「必要の部屋」。校舎内のとある廊下の壁に隠された部屋で、本当に必要としているときにのみ開く部屋であり、室内はその使用者が必要とするもので満たされる。今私たちは「不死鳥の尾羽」の集まりでここにいるため、ここには呪文の練習に必要な的、書物などが揃っている。

 

 

「ええーと、じゃあまずは『武装解除呪文』から始めようか」

 

「対魔法使い戦の基礎魔法だけど、まだ使えない人もいるだろうから。使える人は使えない人のサポートに回って」

 

 

 私とハーマイオニーを中心に、このクラブの方針を決めた。勿論参加者の意見も取り入れている。それによって「武装解除呪文」から始まり「麻痺呪文」やその他呪詛、最終的には「守護霊呪文」を習得していこうということに決まった。今回は最初の集まりなので武装解除をやっていくことになった。私たちのやり方としては、其々の呪詛練習で全員が習得したら次の呪文に行くようにした。

 

 

「呪文は『エクスペリアームズ』。杖は相手をつくように突き出して」

 

「呪文はあの人形に向けてやろう。丁度お腹辺りに当てるとより効果的だよ。杖を奪えるし、暫く動けなく出来るからね」

 

「逆に杖や手元に当てるのもありだけど、その場合相手からあまり離れたところに飛ばなかったらすぐに態勢を立て直される。隙を与えず追撃できるようになるまで、手元に当てる練習は控えるよ」

 

「それじゃあ一つに人形につき三人で組んで。じゃあ始め!!」

 

 

 私の掛け声が聞こえると、部屋の中には呪文を叫ぶ声と閃光が飛び交う音と光に包まれた。武装解除の赤い閃光が飛び交うけど、ちゃんと人形の的に当てれた人は数人しかいなかった。ウィーズリー兄妹と比較的シロウに近い人の中でも数人程度。術が発動しても狙った場所に飛ばぬ者、そもそも発動しないものがほとんどである。

 この部屋を使える時間は精々一時間が限度。それに全員集まれる日など、一週間に二日あるかないかだ。それに、あまり期間を掛けるとアンブリッジにバレる可能性も高くなる。ただでさえ最近学年別に一人一人個人面談を行うなどと豪語し、それを許可するふざけた教育令をまたこの前発布したのだ。恐らくスネイプ先生がポロッと漏らした話―多分意図的に漏らしたと思う。シロウ笑っていたし―が正しければ、面談改め尋問には「真実薬」という自白剤が用いられているらしい。

 ただ先生が渡したのは小瓶三本分、いくら一人三滴が適量だとしても、精々三年生までが限度だそうだ。それにスネイプ先生の設けた設定では、真実薬を作るには三ヶ月必要、加えてアンブリッジに渡したもので在庫まで尽きたとのこと。アンブリッジが先生に対して開心術を用いたみたいだけど、アンブリッジ程度の開心術じゃあ無駄だったみたい。シロウ曰く、ダンブルドアレベルの開心術やシロウが少しキツイと感じるレベルの拷問じゃない限り吐かないそうだ。

 

 

「ああもう、なんで出ないの?」

 

「えっと……うーん真っすぐ飛ばない」

 

 

 どうやらみんな苦労しているようだ。できる人が何とか説明はしているけど、それでもできない人はいる。ハーマイオニーが懇切丁寧に教えているけど、理論的になりすぎて理解できる人が少ない。仕方なく私は今指導していたネビルから離れ、ハーマイオニーが担当していた子に近寄った。

 

 

「魔法は結局使用者の精神面に影響するの。プラシーボ効果とはちょっと違うけど、精神面が不安定だと成功する魔法も成功しない」

 

「でも……そんな単純なことで」

 

「まぁまぁ、騙されたと思ってやってごらん。相手を傷つけたくないなら、相手を無傷で捕まえるためと思えばいい。さ、やってみて」

 

 

 その子に促し、実際にやらせてみる。躊躇していたけどその子は杖を構え、呪文を発した。結果閃光はあらぬ方向に飛んでいき、他の像にあたった。だが先ほどまでの成功しない状態に比べれば大きな進歩である。まさか呪詛が発動するとは思ってなかったのか、その子は呆然としていた。まぁ後は呪詛になれ、狙い通りに打てれば大丈夫だろう。

 私は後をその子のグループに任せ、ネビルの元に戻った。彼は所謂スクイブという、魔法族だけど魔法をあまり使えない事例の一人なのだ。ただ彼の場合魔法を使えないというわけではなく、魔力運用が不得手なだけだと私は睨んでいる。恐らく少しその運用のコツを身に付ければ、彼は瞬く間に魔法が上手くなるだろう。

 でも結局、彼を含めた何人かは呪文を発動できなかった。これにより次回も「武装解除呪文」の練習をし、時間が余れば「粉砕呪文」の練習に入ることが決まった。まぁ私もそんな一回で全員出来るようになるとは思っていない。時間は少しかかるかもしれないけど、アンブリッジにバレる前にせめて「麻痺呪文」習得まで持っていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ハァ……ハァ……

 

――お、お兄さん、腕が……

 

――■■■■■

 

――大丈夫だ……これで完全に左腕が逝ったな。まぁ肩から先がなければ逝くもクソもないのだが。

 

――■■■■■■■■■■■■■!!

 

――遅い。お前を葬ったこの鎌で黄泉に帰るといい、偽りの豊饒の女神よ。不死身殺しの鎌(ハルペー)!!

 

――■■■■ァァァァ…………シ……ロウ……

 

――今際の際に自我を取り戻すか。何だ、メデューサ。

 

――さ……く……らを……お…願い……します……あり……が…と……う……

 

――……黒化しても尚桜の心配をするか。ああ、安心しろ。

 

――お兄さん

 

――大丈夫か? 君たちは……そうか。生き残りは君たちだけか。それも子供ばかり……

 

――仕方ない、オレについてくるといい。幸い部屋は余るほどある、落ち着くまでそこで暮らすといい。身の振り方もゆっくりそこで考えればいいだろう。

 

 

 






 すみません、大変お待たせしました。何分リアルがとても忙しくて書く暇がありませんでした。まだ少しごたごたしているのでまだ更新速度は遅々としています。
 では皆さん、次の投稿もハリポタにいたします。アクエリオンをお待ちの方、もう少々時間をくださいませ。


 それにしても、ネットとは怖いですね。とあるサイトでコメントしたら、それに対してタヒねという言葉が何度もつけられていました。まぁ私の言い方も悪かったと反省はしているのですが、流石にタヒは駄目だと思う次第なのです。
 皆さんも動画サイトや掲示板、本サイトの感想などで匿名でコメントや感想を書かれると思いますが、言葉には十二分に気をつけてください。特にタヒやそれを連想する言葉は使わないほうが良いです。

 個人的な話になるのですが、実は私昔色々な経緯があって目の前で人が亡くなるのを何度か見たことがあります。簡単に人の命が消えるのを知ると、タヒやそれに類する言葉に敏感に反応するようになってしまいました。私は暴言にそういった言葉を使うことはありませんし、少し敏感になっているだけで済んでいます。しかし人によってはトラウマを患っている可能性があります。
 言葉とは不思議なもので、たった一文字で人の喜怒哀楽が変化することもあります。再三書いていますが、に何かを書いたり言ったりする際は、使うべき言葉を考えながら使ってください。

 以上長々と失礼しました。



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9. 夢か現か



お待たせしました。
それでは今回は五感において重要なカギとなるあの話を書きました。サブタイでわかる人がいるかもしれませんが、そこはそれ。
それでは皆様ごゆるりと。





 

 

 

――やれやれ、ようやくこれも馴染んだか。

――お兄さん、大丈夫?

――新しいお手々痛くない?

――大丈夫だ。さぁ、もう夜も遅いから寝なさい。明日早朝に私は出かけるが、いつも通り起きるのだぞ。

――はーい

――お休みなさーい

――朝食と昼食の準備は済んだし、あの子らを寝かしつけたら出るか。何やらマリーが干渉されているみたいだな。

――……思えば切嗣(じいさん)も急に老いたな。やれやれ、床の掃除が増えたが片づけないと、またあの子らに心配かける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近というより夏休みに吸魂鬼に襲われる少し前から妙な夢を見る。最初は何かわからなかったけど、裁判の後から、私がいつも夢で見る不気味な通路は、魔法省最深層の神秘部のお廊下だとわかる。いつものように私は廊下を無音で進んでいた。

 

――まだだ。

 

 自分がそう考えているのがわかる。いくつもの扉の前を通り過ぎ、ついに一つの扉の前で止まった。どれほどの距離を進んだかわからないけど、その扉が目的の場所らしい。扉を開けるために取手に手を伸ばし力を入れたところで目が覚めた。

 寝起きは最悪、加えて目が覚めた時間も朝の三時と、本来ならまだ寝ている時間。隣で寝息を立てているハネジローを羨ましく思いながらも、私はベッドから出て水を飲んだ。クリスマスが近いこともあり、夜は深々と冷え込み、雪は更に降り積もっていく。そしてこの学校は構造上石造りの城でもあるため、ストーブで火を焚いても室内は寒い。

 

 でもこの体がぬくもりを求める理由はもう一つある。シロウの存在だ。彼には色々な事情があることは理解している。この世界では違うけど、英雄としてこの世界でも『』からの仕事をこなしていることも、そしてこの前盗み聞きしちゃったけど、私の護衛をダンブルドアから頼まれていることも知っている。

 今はやむを得ない事情で私の許から離れているけど、彼が事前に打っていた布石のおかげで何とか肉体的には無事に過ごしている。最近は「不死鳥の尾羽」、略して「PT」以外の過激な行動を控えているため、アンブリッジからの理不尽な罰則はなし。まぁその代わり学校生活はかなり抑圧された雰囲気を感じる。まぁその鬱憤をみんな「PT」で晴らしているようなものだけど。

 そのまま眠れない状態で朝を迎え、軽く隈を消すためにメイクした後、私は今日の授業のために寮を出た。幸い今日はアンブリッジの授業はない。加えて夕方は「PT」もあるから、普段よりストレスは少ないだろう。そう考え、一度しい呼吸をして私は駆け出した。

 

 授業を無事に終え、「PT」も無事みんな「武装解除呪文」を習得したところでお開きになり、私はそのままベッドに入った。寝不足なのに加え、いつもよりリラックスして一日を終えられたため、私はベッドに入ってすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 そしていつもの夢を見た。

 また神秘部の暗い廊下を進んでいる。いつもと違うのは妙に視点が低いことと、進み方が床を這うような感じなこと。そして視界も少しおかしい。何やら赤外線と暗視スコープを合わせてみている感じがする。そう()()()()()()()()()()()()()()()

 でもそんなことお構いなく体は進む。視界は私だけど、体を動かしているのは別物。謂わば映像を見ている感じ。そんな状態でいつもの扉の前に辿り着く。今回は目が覚めることなく、扉の中に入っていった。

 扉の中は薄暗かった。部屋の天井は見えないほど高く、その限界まで高さのある棚がいくつも並んでいた。そして異様なのが、その棚には薄く青白い光を放つ弾が、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど陳列されていた。仮に目的のものがここにあるとしても、この中から探すのは骨が折れる。そう判断したのか、「私」は部屋から出ていった。

 帰る道すがら、暗いはずの通路の先に、ぼんやりと光るものが見えた。今は夜、人がいるのはおかしい。人がいないからこそここに来たのだが、人に見られると厄介だ。匂いからして味方じゃないことは分かる。

 

――味方ではない? はて、とすると自分にとって見方とは何か。

 

 今までこの体の持ち主に思考が支配されていたが、ふと持ち上がった疑問によって動きが止まった。いや、正確には止まったのではなく、視界にノイズが走り出し、全ての感覚がおぼろげになってきたのだ。

 そんな状態のなか「蛇」は鎌首をもたげ、光の主に襲い掛かった。蛇らしく何度も突進し、光の主に噛みついていく。光の主―上げる悲鳴からして男だろう―は最初は抵抗していたものの、次第に動きがなくなってきた。床には血が流れだし、放っておけば朝までに死に至ることがわかる。そして一瞬だけノイズが収まり、私は倒れる男に目を向けた。

 そこにいたのは。

 

 

「いやあああああああ!!」

 

 

 悲鳴と共に私は飛び起きた。嫌な汗が泊まらない。鏡を見なくとも、自分が今どんな顔色をして、どんな表情を浮かべているかわかってしまう。そして今の私の悲鳴で、同室のみんなが起きてしまった。最初は眠そうで迷惑そうな顔をしていたみんなだったけど、私を見た瞬間顔色を変え、医務室に連れて行こうとした。

 でも私はそれを断った。これは医務室ではなく、校長室に行くべきだと判断し、汗なども気にせずに寮を飛び出した。いつの間にかいなくなったハネジローが伝えてくれたのだろう、両の入り口にはマグゴナガル先生がおり、すぐに校長室に連れていかれた。

 

 

 

 

 

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「……確かかね?」

 

「はい、急がないとウィーズリーさんが!!」

 

「……わかっておる」

 

 

 急いで要点だけ校長先生につたえると、先生は壁の絵画に向かって指示を出し始めた。今回の事情も関係して、ウィーズリー兄妹も一緒に部屋にいる。

 今は一刻を争う事態、自分のことは後回しにすべきだろう。だが私はどうしてもぬぐえない不安があった。今年よく見る夢、それはヴォルデモートに関係しているのではないのか。今までと違って、そういうことを今年は先生と話していない。それに先ほどから先生が目を合わせてくれないのも、私の不安を煽った。

 

 

「あの……先生……」

 

「さて、アーサーの無事は確認できたし、搬送も済ませた。あとは……」

 

 

 先生の様子にイライラが募る。このイラつきが理不尽なものであり、先生に向けるべきではないことを頭では理解している。それに不安の度合いを鑑みれば、私よりもロン達のほうが何倍も緊張状態にいるはずだ。何せ自分の親の生死が関わっているかもしれないのだ。でもよくわからない衝動が体を駆け巡り、理性で抑える間もなく口を開き。

 

 

 「こっちを見てください!!」

 

 

 怒鳴ってしまった。口から衝動的に言葉を発してしまったことに後悔している。事実、校長先生もこちらを見つめ、黙り込んでしまった。でもそんなことお構いなしに、私の口から言葉は出てきた。

 

 

「……私に何が起こってるんですか?」

 

 

 怒鳴りはしなかったものの、それでも言葉は出てきた。言葉を発した私の声は震えていた。そして意図せずに、私の両目からは涙が流れ始めた。そばに立っていたマグゴナガル先生が背中をさすってくれるけど、私の涙は止まらないままだった。嗚咽こそはないものの、今の私の状態に、校長先生の顔が一瞬だけ歪んだ。

 重たい沈黙が部屋を支配する。そんな中、校長室の暖炉から緑の炎が上がり、中からシロウが出てきた。ただ前と違うのは、左腕全体に真っ赤な布が巻かれていたことだった。外套とは違う、異質な力を感じるその赤い布は、何やら封じ込めているような気配がした。

 

 

「アーサーは一命をとりとめた、心配はない。偶々オレが持っていた血清の中に該当するものがあった」

 

「そうか」

 

「それよりも、このままグリモールドプレイスに飛ぶ。無論彼女達も連れてな」

 

「相分かった。それとフォークスによると、ドローレスがこの子たちがベッドを抜け出したのを察知したようじゃ」

 

「知っている。まぁそのサーチャーは潰させてもらった、今後の物的証拠のためにな」

 

「それは預けておこう。さぁみんな、この暖炉に入りなさい。ミネルバはドローレスを頼んでよいかの」

 

「承知しました」

 

 

 軽い方針決めをした後、私たちは全員でシリウスさんの家に向かった。シロウの話でアーサーさんが無事なのは分かったけど、それでも私の体からは汗が止まらなかった。

 何故なら、そのアーサーさんを襲った蛇の中に、私の意識は確かにあったのだから。

 

 

 






はい、ここまでです。
もう前話から察している方もいると思いますが、今回黒化サーヴァントは本編に出しません。あくまでも今回の五巻内容のメインは、マリーのほうに絞るようにしてます。理由としましては、四巻ではシロウとその家族に焦点をあてたためです。

さてもうすぐ新年度が始まります。そろそろ桜も、地域によっては満開になり始めるころではないでしょうか。春は出会いと別れの季節、皆さまに良い出会いがあることを祈っております。
それではまた次回。




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10. シロウの真実


お待たせしました。
新年度になってからと言うもの、私の所属する学部は高校公民及び中学社会科の教員免許が取れるため、そのカリキュラムを受けたところ全然時間が取れなくて。
この先も時間を見つけながら投稿するという形になります。

ではどうぞ。




 

 

 

 校長室の暖炉から煙突飛行をすると、私たちが辿り着いたのはシリウスさんのアパートだった。シリウスさんは事前に話を聞いていたらしく、すぐにそれぞれの寝室に通された。そのまま夜明けまで睡眠し、最初はモリーさんとシロウだけがアーサーさんの様子を見に行くことになった。

 シロウがついていく理由は、アーサーさんに薬を提供したのが彼だから、モリーさんだけなのは、もしもの時のために子供に見せないため。どちらも話は分かるものの、納得いかないのが現状だ。特にウィーズリー兄妹らは当事者なだけに、不満の声は大きい。モリーさんは分かっているのだろう、でも今日の様子次第で明日以降連れいていくかどうか決めるそうだ。

 

 

「なぁマリー、どういう夢だったんだ?」

 

「僕らも詳しいことを知りたい」

 

 

 ひと眠りしてから朝食を食べていると、フレッドとジョージが私に聞いてきた。ただ食事中に話せる内容ではないため、話はお茶を飲んで一息ついてからにした。

 私が話し始めるころには、食卓にはウィーズリー兄妹だけでなく、シリウスさんやルーピンさんも一緒にいた。そんな大人数に囲まれる中、昨晩見た悪夢を覚えている限り正確に話した。無論、私がアーサーさんを襲った蛇の中にいたことを含めて。話し終わると、皆顔を青くしたり何か考え込んだりと各々行動をしていた。特にジニーは私と一つ違いであれど最も年下なため、フレッドが落ち着かせるために部屋に連れて行っていた。

 因みにいうと学校の心配はいらない。丁度昨日が冬季休み前最後の授業日だったため、今日から冬季休暇に入るのだ。ただその休暇の始まり方が最悪だったのが問題だけど。

 話も終わり、モリーさんたちが戻るまで手持無沙汰になったため、私は建物内を散策することにした。階段を上っていると、一人の老いたしもべ妖精を見つけた。名前はクリーチャー、彼はぶつぶつと何やら呟きながら、踊り場にある出っ張りを磨いていた。そういえばこの踊り場、窓もないのに壁にカーテンがかけられている。それにこのしもべ妖精の様子を見る限り、とても大切なモノらしい。

 

 

「……ブラック家以外のものがまた入り込んでいる。親不孝者もだ。奥様がお知りになったら何といわれるか」

 

 

 どうやらこのしもべ妖精は、私たちがこの屋敷にいることが不満らしい。まぁ当然かもしれない。このブラック家、シリウスさん以外は相当な純血主義の家柄らしい。故にヴォルデモートの考えに賛成だった人たちも多かったようだ。その中でシリウスさんの存在は、きわめて異端なものだったのだろう。きっと家に自分の居場所がなく、学校が安らげる場所だったのかもしれない。

 そんなことを考えながら私はクリーチャーに近寄った。

 

 

「こんにちは、今一時的に部屋を貸していただいているマリーです」

 

「……『生き残った女の子』が話しかけてきた。ただ他とは違う言葉なため、クリーチャーは戸惑っている」

 

 

 どうやらクリーチャーは、ブラック家を持ち上げる様な言葉で話しかけると、あまり失礼なことは言わないらしい。まだ初めてのコンタクトだし、これだけがわかったので十分だろう。

 

 

「ごめんなさいね、急に押し掛けてしまって。申し訳ないのだけれど、冬季休暇が終わるまで居させては貰えないかしら?」

 

「……今の管理者は不本意ながらシリウス様です。あの者が許したのなら大丈夫でしょう」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 私はそう会話を閉めると、そのまま階段を登っていった。背後からまたクリーチャーがつぶやく声が聞こえたけど、先程とは違って少し物腰が柔らかかったから、気にせずにそのまま階上に向かった。

 二階ほど上がると、一つの部屋に入った。その部屋の壁は正面に大きな幹があり、そこから幾重にも枝分かれした木の絵画が描かれていた。そしてその枝には途中途中と枝先に人の顔が幾つも描かれていた。先のほうに行くほど顔は絵画調のものから写真に近い顔に変わって行っていた。そしていくつかの顔は、まるで焦げたかのように潰されていた。

 

 

「『純血よ永遠なれ』。この私が家を出たのも、この家訓が原因と言っても間違いではない」

 

 

 いつの間にか後ろにいたのか、シリウスさんが話しかけてきた。口調こそは穏やかだったけど、部屋を見るその目は決して穏やかじゃない、親の仇でも見る様な目をしていた。それだけで、彼がどれだけ純血主義を嫌っているのかが分かった。

 

 

「顔と名前が消されているのは、この家の家訓に反したものさ。そしてその子々孫々は決して家系に加えられない」

 

 

 恐らく自分の顔があったであろう場所を撫でながら言葉を続ける。暫く無言で佇んでいると、シリウスさんはこちらに顔を向けた。その目にはもう憎悪は宿っていない。

 

 

「君ももう気づいているだろう。君が見た夢はただの夢じゃない」

 

「……」

 

「恐らくヴォルデモートが意図せずに君に見せたのだろう。だが同時にこの繋がりを奴が利用する可能性もあるのだ」

 

「……わかってます」

 

「いいかい、心を強く持つんだ。奴が入り込む隙を持たない様にするんだ」

 

「『閉心術』……ですか?」

 

「……そうだ」

 

 

 互いに真剣な顔をして会話をする。たぶんだけど、今回の一件でヴォルデモートは私との精神的繋がりに気付いただろう。今後は私が騙されるような内容を、夢として見せてくるかもしれない。やはり早くスネイプ先生に「閉心術」を教わったほうがいいだろう。

 その時階下から扉が開く音と、何人かが喜びの声を上げるのが聞こえた。

 

 

「どうやら帰ってきたらしい。それに今のを聞く限り、アーサーは大丈夫らしい」

 

「そうですね。私たちも降りましょうか」

 

 

 そう言葉を閉めると、どちらからともなく私たちは階下に降りた。どうやらアーサーさんの状態は良く、偶然シロウが持っていた血清が効いたらしい。というか、シロウがいつ血清を入手したかわからないけど、とりあえず今は一命をとりとめたことに安堵した。

 

 

「明日はみんなで見舞いに行きましょう。特別な処置とかはそんな必要じゃないみたいだし、この調子ならクリスマスイブには退院できるそうよ」

 

 

 モリーさんのその言葉に皆は喜び、歓声を上げた。モリーさんがいない間にやってきたパーシーも、余程心配だったのだろう、無事の報を聞くと椅子に座り込んでしまった。

 興奮冷めやらぬ中、モリーさんの指示で私たちは一旦自室に戻ることになった。まぁこれに関しては仕方がない、モリーさんは私たち子どもが物騒な話に関わることを、極端に嫌っている。子を大切に思う気持ちが人一倍強いモリーさんのことだ、本当ならこの建物ではなく、実家の「隠れ穴」に私たちを居させたいのかもしれない。

 でもこのご時世、まだ護りを強化していない「隠れ穴」では、やはり不安があるのだろう。そんなことを考えながら食堂の前でぼうっとしていると、モリーさんとシロウの話し声が聞こえてきた。会話の内容から察するに、ヴォルデモート関連のことではないらしい。後ろ髪をひかれる思いがしたけど、私は食堂の扉に耳を近づけた。そして気づいたけど、私以外にもウィーズリー兄妹たちが、何やら妙な道具を使って階上から盗聴していた。

 

 

『それで、アーサーの部屋に行く前に何をしていたの?』

 

『少し個人的な用事でして。まぁ彼に使う薬を担当医に渡していただけですよ』

 

『そう、ありがとう。でも貴方の話、それだけじゃないでしょ?』

 

『ああ、これを見てほしい』

 

『『『『……ッ!?』』』』

 

『シロウ……それはまさか』

 

『ああ。どうやらお互い、同じものを求めていたようだな。まぁ私からしてみれば、こんなものに縛られるのは愚行としか思えないが』

 

『まぁ君からすればそうかもな』

 

 

 一体何の話だろう。騎士団とヴォルデモートは同じものを探しているのだろうか。そしてそれは魔法省に保管されていると。

 

 

『すまないが、これに関しては別に無理に確保しなくてもいいと思う』

 

『正確なものはダンブルドアが有しているからいいかもしれんが』

 

『だがそれでも奴らの手に渡ると考えると……』

 

『あそこに置かれているのは全貌の断片だ。曲解などいくらでもしようが……ゴフッ』

 

 

 何か良くないことが起きている。それは先ほどの咳き込むような音と、何か液体物が床に落ちる音、そして部屋の中が騒々しき鳴る音が証明している。

 

 

『な、何だこの色は? ……く、黒い……』

 

『大丈夫なの?』

 

『……問題ない』

 

『問題ないわけないじゃない!? とりあえず床を拭いて、何か体にいいものを……』

 

『無理だ、もうどうにもならん。これは私の運命(フェイト)、人の身の器でありながら、必要だったとはいえど一時的な力を欲した代償だ。こうなることは覚悟していた。セブルスの薬でも、精々少し先延ばしにするだけだ』

 

 

 シロウの言葉、恐らく一年ほど前の悍ましい、それこそこの世の全ての負の要素を詰め込んだような魔力の奔流が関係しているのだろう。あの時彼は何ともないと言っていたけど、実際は彼の体を蝕んでいたのだ。ならばこの前の小さなゴブレットも理由が分かる。いくらシロウであっても、あの地下牢で何か飲み食いすることは許されない。でもシロウの側にはゴブレットがあり、私たちが入った直後にスネイプ先生がそれを回収した。

 

 

『先ほども言ったが、遅かれ早かれこうなることは決まっていた。私は後悔していないよ。それに未来(さき)の布石は既に敷いている』

 

『……シィちゃんや華憐ちゃんはどうするの?』

 

『それを言われると痛いが、()()を抜きにしても長くてあと数年だった。私の力は体に負担をかけすぎる、髪と肌の変質に留まっていた今までがおかしいだろう。奴を思い出すと、よくもここまで長生きしたと思うよ私は』

 

 

 シロウの言う奴とは、恐らく並行世界のシロウ。シロウの言葉と彼の容姿から察するに、彼は長く生きたとして三十少し前まで。そう考えると確かに長生きである。でも今のご時世から考えると、それでも若い寿命であることには変わりない。

 それにモリーさんも言ったように、まだ幼い二人を思うと悲しくなる。私はそっと扉から離れ、自室に向かった。途中ロン達とすれ違ったけど、彼らも一様に顔を下に向け、何とも言えないような悲しい表情を浮かべていた。

 自室に戻った私は、しかし何もする意思が起こらず、ただ椅子に座って窓から外を眺めていた。外では真っ白な雪ではなく、鈍色(にびいろ)の空から冷たい雨が降り注いでいた。

 

 

 

 





 はい、ここまでです。
 今回はシロウがひた隠しにしていたことが、まさかのマリーたちにバレることを取り上げました。正直この展開は五巻でやろうとは思っていたのですが、まさか自分でもこのタイミングでやるとは思わず、書きながら驚いていました。
さて、Twitterや個人メッセージでよくいただいた質問に一つお答えしようと思っております。
 セドリックの生存如何ですが、彼は生きています。彼が死ぬことになったのは。「移動キー」の転移に巻き込まれたことが間接的要因であると私は考えております。ですので、彼が転移しなければ即座に回収されるだろうとし、生存させました。今後出すかどうかは決まっていません。

 さて新年度も始まり、新入生、新社会人として新たな門出を迎えた方々もいらっしゃると思います。そんな中このような暗い内容になってしまいましたが、どうか今年一年を楽しかったと、胸を張ってい言えることをお祈りいたします。

 それではまた、ハリポタの次話にてお会いしましょう。



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11. 聖マンゴ魔法疾患傷害病院



大変お待たせしました。いやはや、五月獣に間に合ってよかったです。
今回は原作を知っている人ならわかる、あのキャラクターが帰ってきますね。

それではみなさま、ごゆるりと。




 

 

 

 

 明くる日、私たちはシロウとモリーさんについていって魔法使いの病院に赴いた。名前は「聖マンゴ魔法疾患傷害病院」というらしく、本当に呪いや魔法毒薬、その他ありとあらゆる魔法疾患を治療するための大病院みたいだ。

 

 

「本当に、いろんな症状の人がいるね」

 

「ジロジロ見るのはいけないとわかってはいるけど」

 

「……気持ちはわかるが早くいくぞ。彼の病室はもう少し先だ」

 

 

 シロウの言葉で私たちは視線を目に戻し、目的の病室へと向かった。アーサーさんの病室は比較的受付ロビーから近いところにあり、そのあたりの病室には比較的症状の軽い患者たちが集められて入院していた。

 アーサーさんの病室に入ると、顔に少々傷を残し、肌が見える場所には包帯をのぞかせながら、ベッドに座っているアーサーさんがいた。どうやら見た目に比べて元気そうであり、少しだけ安心した。

 

 

「あなた、調子はどう?」

 

「ああ、順調さ!! これも経緯がどうであれ、マリーが早く知らせてくれたのと、シロウが解毒薬を提供してくれたおかげさ」

 

「先生はなんて言ってた?」

 

「検査として明日まで入院、明後日の朝には退院できるみたいだ」

 

 

 それを聞いて安心した。それに、アーサーさんの言葉を聞く限り、私の意識が蛇の中にいたことも知っているらしい。恐らくシロウかモリーさんから聞いたのだろう。

 と、ふとアーサーさんに視線を移すと、私は手招きされていた。それに従ってベッド側に行くと、アーサーさんは口を開いた。

 

 

「君の話は聞いているよ。でもその顔を見る限り、状況の重大さは理解しているようだね」

 

「ええ、今回のことであの人がこの力を利用するでしょう」

 

「そうだね。だからこそ心得ていてほしい、仮令焦るようなものを見たとしても、一度冷静になって考えることを」

 

「はい、必ず」

 

 

 私たちの会話を聞いていたみんなは、特に兄妹たちは驚いた顔をしていた。でもすぐに納得のいく反応を示した。それはそうだろう。学生で実力も未熟な私でさえ気付くものなのだ。年を経て少し柔軟な思考ができなかったとしても、あの人には相応の知識と技量がある。気づかないほうがおかしい。

 その後、今後の私たちの予定などを話し合った後、私たちは病室を後にした。退室するころには、みんなの顔も幾分か色がよくなっていた。私自身も、経緯はアレだったけど、少しだけ気持ちが楽になった。

 出口に向かってボーっと歩いていると、突如私の右で扉が開いた。まぁ他の患者だろうと気にせずにいると、何やら聞き覚えのある声が私たちの耳に入ってきた。

 

 

「じゃあ今度は二か月後にくればいいかな?」

 

「はい、ですがその義肢も消耗品です。雑に扱えばそれだけ交換や整備が必要なのですよ?」

 

「分かってますよ。さて、私はまた出かけますかね。新しい原稿はもう出しているし、また世界中を見て回ろうかな」

 

「その行動が義肢の消耗を早めるんですよ、ロックハートさん!!」

 

 

 え? ロックハートさん? 

 

 

「「「ロックハート先生!?」」」

 

「おや? これはこれは、何と懐かしい面々だ!! みんな元気にしてたかい?」

 

 

 目の前には三年前最後に顔を合わせたときよりも、幾分か憑き物が落ちたロックハート先生がいた。その服装は、まるで右半身を庇うように長いマントを羽織っていた。恐らく先ほどの会話から、その右腕と右足は新たに作った義肢なのだろう。でも彼の顔はそんな憂いを見せないどころか、以前よりも更に爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

「あはは、私はもう先生ではないよ。以前ほど魔法は使えないし、今は古今東西の伝承をまとめ上げているだけさ」

 

「じゃあ以前までの本は?」

 

「あれは出版社に頼んで廃版にしてもらったよ。あの頃に比べて収入は雀の涙だけど、それでも前より楽しいよ」

 

 

 右手足の欠損なんて気にしないとでもいうように、いまの自分の状況を楽しそうに話す。その様子を見る限り、確かに今の生活は充実しているのだろう。そう考えていると、彼は(おもむろ)に一冊の本を取り出した。

 

 

「これは来年出される新書だ。君たちなら興味が惹かれるだろうと思うから、一冊贈呈しよう」

 

 

 その本はまだ暗い紅に染めた革を表紙にしているだけであり、題名も書かれていなかった。いったい何の話が描かれているのだろう? 結構な厚さがある。

 

 

「帰ってから読んでみるといい。そうそう、私の編集した本はマグル世界でも発売されるんだ。是非知り合いにも勧めてくれ」

 

 

 そういったロックハート先生は若干右足を引きずりながら、私たちの前から去っていった。しばらくその方向を見ていたけど、私たちも帰ることにした。

 帰る前にネビルと噂の御婆さまに会ったけど、会話も程々に私たちは帰った。その時知ったけど、ネビルの両親はあの暗黒の時期に、死喰い人によって廃人にされたらしい。治る可能性は低く、そしてそうさせた犯人は今年度初めに脱獄して今も逃亡中らしい。そしてそれほどの事態なのに、かたくなに行動しようとしない魔法省には失望しているとか。ただシロウによると、大臣は動こうとしているけど、その側近が頑固な人たちだらけで思うようにいかないとか。

 

 シリウスさんの家に戻り、私は早速貰った本を手に取った。本当に革張りなだけで、まだ背にも表紙にも題名が書かれていない。妙な本だと思いながらも、まずは表紙をめくった。そして一つの文が目に入った。

 

 

『この本を人の幸せのために戦い抜いたある戦士に捧げる。』

 

 

 人の幸せのため。過去の英雄たちで、人の幸せを願った人はたくさんいるだろう。いったいどの英雄について書いた本なのだろうか。そう考えながら更にページをめくる。すると大きな文字で、今まで読んだ本のように流麗な線ではなく、まるで堅い意志を示すかのような太字のブロック体で題名が表記されていた。

 

 

Fate/Stay night ~Unlimited Blade Works~

『監修:ギルデロイ・ロックハート&ある鍛冶師』

 

 

 ああわかった、何故あの人があんなことを言ったのか。興味が引かれないわけがない。監修の鍛冶師も、十中八九シロウのことだろう。シロウが語ったこれまでの人生、若しくはあの別のシロウの生前と死後を語ったのかもしれない。

 私は高まる鼓動を抑えることをせず、震える手でページを捲った。

 

 

『貴方は信じますか? 一人の男が人知れず平和のために戦っていることを。

 貴方は信じますか? 三人の女が男が傷付くことを涙していることを。

 貴方は信じますか? 一人の男が絶望して自らを消したいほど憎んだことを。

 

 これはそんな人々の話。彼らはその道で何を失い、何を得たのか。』

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。
さて次回はいかがいたしましょうか。あの本の内容を書いていくか、それとも内容を省いて本編を進めていくか。
まぁその判断は次話を書く私にゆだねましょう。
あ、こっちを書いてほしいなどの要望がございましたら、メッセージボックスに送ってください。

さあ梅雨時に差し掛かり、日々の気温も暑くなる時期です。皆さん脱水などには注意してくださいね。ニンニク料理でスタミナをつけることもお勧めです。

それでは皆様ごきげんよう、またいずれかの小説でお会いしましょう。



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12. 閉心術と父の恥




ふぅ、間に合いました。
いやはや、7月になる前に更新できてよかったです。どうも月一の更新となると何年かかっても終わりそうにないですね。これはちょっと長期休みの間に本腰入れて更新しようかと考えております。

では皆さま、どうぞごゆるりと。


 

 

 

 

――少年は言った。死んでいく人を見たくない。

  助けられるものなら、苦しむ人々すべてを助けることはできないかと。

 ――少年が斬り伏せようとしていたものは、自分自身。

  信じていくもののために剣を振るった。

 ――戦いは終わり、引き返す道などもはや存在しない。

 

 ――ただ、答えは得た

 

 ――後悔はある。やり直しなど何度望んだかわからない。

  この結末を未来永劫、エミヤは呪い続けるだろう。

  だが、それでも俺は間違えてなどいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほう、と息を吐く。最後にそう締めくくられたページを捲ると、英語で何やら詩が二つ書かれていた。両方とも文法は滅茶苦茶、それ以外にも文法は合っていても意味が通らない文だ。でも不思議とそれぞれの死の意味が心に、魂に流れ込んできた。

 意味を理解して初めて見えてくるものがある。それぞれの詩は、シロウと英霊エミヤが歩んだ道のり。二人の途方のない戦いの歴史と願い、そして果てに得た答えの証。これ程の過酷で救いのない道を歩んだからこそ、悟ったこと、諦められないものがあるのだろう。

 

「I AM THE BONE OF MY SWORD」

「体は剣でできている」

 

 シロウを表現するために、これほどしっくりくる言葉はないだろう。納得すると同時に哀しさが心を満たす。本人は気にしないというだろうが、人のために戦い続けた果てが、シロウもエミヤも、人による拒絶だった。エミヤは死後も永遠に報われることはなく、シロウも家族はいるけど、実質この世界では孤独の身。本人の気づかないところで、やはりどこか小さくとも傷を生んでいるのか漏れない。

 自分がその傷をいやせるとは思っていない、そんな傲慢なことは考えていない。寧ろ私の守護や援助など、彼らには色々と迷惑をかけている。

 

 手元の本に視線を戻す。深紅の革表紙には、いくつかの水滴跡が見て取れた。そこで私はようやく、自分が涙していることに気付いた。これが悲しみからくるものなのかはわからない。それでも私は流れる涙を止めなかった。ハンカチで本の涙をふき取り、そっと机の上に置く。

 この本は何れ世界を動かす切っ掛けになるかもしれない。そう感じた私は、本を丁寧に綺麗な白布で包み、トランクの中に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇もあと一週間になったある日、私たちはホグワーツに戻った。アーサーさんは無事に退院し、私たちと一緒にクリスマスと新年を過ごした。因みに今年の彼へのプレゼントは、電池で動く簡単なロボットだ。カタツムリの形をしており、線に沿ってまるで生きているかのように動くもの。それを見たときのアーサーさんは、まるで子供に戻ったかのようにはしゃいでいた。

 学校に戻った私は、次の日から新学期初日までスネイプ先生の指導の下に、「閉心術」の修行に昼夜明け暮れた。シロウの下で今まで心を閉ざす練習を少しだけしていたけど、やはりスネイプ先生にとっては紙一枚の妨害もないかのように、何度も心をこじ開けられた。

 

 

「心を閉ざすことは簡単ではない。だが我輩程度の侵入を防げなければ、闇の帝王に対抗することなど夢のまた夢」

 

 

 肩で息をつき、椅子に座り込む私に対し、先生は厳しい言葉を投げかける。それに対し、私は何も言葉を発せない。修業は既に三日目に突入し、未だ私は先生の侵入を防ぐことができなかった。一応今では侵入された後に跳ね飛ばすことは確率でできるようになったけど、侵入前に弾くことは出来なかった。

 

 

「……少し休んでもいいですか?」

 

「……そうしたいのは山々だが、一刻を争う。水一杯飲んだら再開だ」

 

 

 無論時間を使わせてもらっているため、多少休憩の要望は入れつつも、基本的に先生の方針に従って練習していた。コップ一杯の水を飲んだ後、私は再度椅子の前に立ち、杖を構えた。

 

 

「準備は出来たか? ならば行くぞ」

 

「……はい」

 

「いざ……『開心せよ(レジリメンス)』!!」

 

 

 再び先生の杖が振るわれ、私は体内からまさぐられて開かれる感覚に襲われた。でも今までと違い、記憶などが除かれるような気配はなかった。それどころか、いつか彼と出会ったときのように真っ暗な空間の中にいるようだった。

 ふと目の前に巨大すぎる扉が現れた。その扉の前に誰かがいる。扉の隙間から漏れる光の逆光で、その人影の顔などは見えない。その人影が扉に手をかけたとき、私は咄嗟に杖を出し、その人影に向けて振るった。呪文なんて唱えず、ただやみくもに杖を振るうと、杖先から真っ赤な閃光が飛び、人影を闇の彼方へと吹き飛ばした。

 

 

「……ッ!? ハァ……ハァ……」

 

「……ポッター、今何をした?」

 

 

 私は椅子に座り、先生は机に手をついた状態で問いただしてきた。どうやら先ほどのイメージは開心術らしく、扉を開けたら今まで通り術にはまっていたようだ。そのことを推測含めて先生に言うと、最初は疑わしそうに、最後は興味深そうな目をしてこちらを見つめていた。

 

 

「……成程。同じことを次にできると思うか?」

 

「分かりません。でも先ほどのは事前にある程度予測できたからではないかと。」

 

「そうかではもう一度いこう」

 

 

 そう言うと、先生は再び杖を構えた。

 結果から言うと同じように防ぐことができた。今度は私が先に扉の前に降り、出てきた人影を撃退する形で術を防いだ。しかし間髪入れずに掛けられた二度目の術には対処できず、先生の侵入を許してしまった。ということは、現時点で不意の精神干渉に関して私は無防備であるということだ。

 

 

「……先生」

 

「なにかね?」

 

「失礼なことを聞きます。今先生を追い出した時に見えた、あの黒髪の少年は……」

 

 

 そう、二度目の侵入を追い出す際、妙なものが流れ込んできた。黒髪セミロングの少しやせた少年が、数人の男子グループ、特にのその中の眼鏡をかけた少年に色々いじめと称しても可笑しくないことをされていた。それにしてもその少年、誰かに似ているような。

 ふと先生に目を戻すと、表情は変わらずとも、目は少しだけ複雑そうな色を見せていた。その表情が映像の黒髪少年と重なり、眼鏡の少年がとある写真のとある人物に重なった。ああなんだ。

 

 

「……そう言うことですか」

 

「何の話だね?」

 

「いえ……先生、私に言われても意味はないでしょう。でも一言だけ。父が申し訳ありませんでした」

 

 

 見覚えのある少年、それは若き日の父の姿だ。それと隣で一緒に笑っていたワイルドな少年、あれはシリウスさんだろう。ということはあの集団の中にルーピンさんとペティグリューがいるのだろう。

 そしてそんな過去があるのなら、私が多少なりとも忌避されていたり、シリウスさんと犬猿の仲なのも頷ける。ルーピンさんは同僚として接していたから、大して問題はなかったのだろう。

 今日はこれ以上練習を続ける空気にならず、明日まで自分で練習することになった。幸いハーマイオニーがなんでかは知らないけど「開心術」を会得していたため、先生ほどではないが練習することは出来た。それでも私の中には、父の情けない、恥ずかしさで顔を覆いたくなる所業が頭に浮かんでは消えていき、余り集中できなかった。

 

 






はい、ここまでです。
前書きにも書きましたが、いやはや間に合ってよかった。本当に時間が取っれないもので、順調に更新できるのは長期休みぐらいかもしれないです。

次回からですが、そろそろ例の展開に持っていこうと思います。其々の賞を二十話前後でまとめているので、クライマックスに入る前のあのいくつかの事件を取り上げないとですね。さてさて、双子の悪戯、どうしましょうか。

それでは皆様、またいずれかの小説でお会いしましょう。




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13. グロウプ



何とか時間が取れたので更新します。
今回はいつもと比べ、短めにしております。近いうちにまた更新すると思います。

それではどうぞごゆるりと。




 

 

 

 新学期が始まって最初の授業、それはハグリッドの魔法生物飼育学だった。何故か新年度が始まったときにいなかったハグリッドが戻り、授業が再開された。正直O.W.L試験が近い今だと、このように数ヶ月授業が遅れることも致命的になりかねない。それに今年は例年と違い、アンブリッジの査察が入る。ハグリッドの授業は正直、危険生物を取り扱うことが多い。一昨年のヒッポグリフ然り、去年の、恐らく魔法生物を勝手に掛け合わせた「尻尾爆発スクリュート」然り。

 正直私の予想だと、ハグリッドはアンブリッジの基準では停職乃至免職は確実だろう。それに彼はアンブリッジが嫌悪する半人間、巨人と人間の混血である。何がそこまで嫌悪させるかは知らないけど、それもハグリッドを排除する理由の一つになるだろう。そんなこと考えながらハグリッドに案内され、森の中のある場所に向かった。雪の少し積もるそこは、禁じられた森の中とは思えないほど開け、柔らかな日光が差し込んでいた。

 

 

「みんな揃っちょるか? んじゃこっちに寄れや。さて、この中でこの広場の中央におるもんが見えるのはおるか?」

 

 

 ハグリッドの声に大多数の生徒が首をかしげる。それはそうだろう、見えていない人にはそこはただの広い空間にしか見えない。でも私とネビル、そして名前の知らないスリザリンの子が手を挙げた。

 ハグリッドの指し示す場所、そこには黒いガリガリにやせ細った馬のようなものがいた。ただしあくまで()()()()()()()、細部は馬というよりドラゴンのほうがしっくりくる。例えば翼、あるいは口、尾の形、等々。因みに今シロウは授業にいない。今年からちょくちょく進級に差し支えない程度に彼は授業を抜け出し、学外にて何かやっているらしい。その時はパスも遮断されるため、彼が何をやっているかもわからない。

 

 

「うむ、マリーとネビルは分かるぞ。そっちの子は話さんでええ、見えるのはそれなりの理由があるんだ。」

 

 

 見えるようになる、理由がある?

 

 

「今目の前にいるのはセストラルっちゅう魔法生物だ。」

 

 

 ハグリッドが生き物の名前を言う。すると何人かの生徒は何かに気付いたような顔をした。隣にいたハーマイオニーも例外ではない。

 

 

「このセストラルはな、死を見た者だけが視認できる生き物だ。詳しい条件は知られてはおらんが、それが死であると認識出来るものを見るか経験することが最低条件であると考えられとる。」

 

「こいつらは危険生物に指定されておるが、本当はそうじゃない。こいつらはこちらから危害を加えない限り襲ったりせん。それに乗り手と認められれば、乗り手が望む場所まで高速、且つ安定した乗り心地で送り届けてくれる。セストラルが不吉や危険と言われるのは、見える条件と好物が生肉であること、そして血の匂いに敏感だからだ」

 

 

 珍しく大真面目にセストラルについて説明する。まぁ一昨年や去年のようなことがあったから、多少なりとも思うことがあったのだろう。アンブリッジでも粗探しして文句つけるレベルの授業ではある。下手に失敗したりしない限り、授業の進め方に文句を付けられることはないだろう。

 

 ……普通ならば。

 

 ハグリッドにとっては最悪なことに、審査しているのはアンブリッジ。授業が終わった後シロウ直伝の追跡術でアンブリッジを後を付けたところ、アンブリッジが香水のようなもので、ハグリッドの家の玄関にバツを付けるのが見えた。この様子だと、彼が免職になるのも時間の問題だろう。

 

 

「ハグリッド、いる?」

 

「ん? おう、マリーか!! それにロンとハーマイオニーもおるな、丁度いい」

 

 

 丁度いいとな。何やら彼も私たちに用があったらしい。でもハグリッドの顔を見る限り、どうやら表立って言える様な内容じゃないらしい。ならば何処にあるかわからない耳を心配するなら、早く行動を起こしたほうがいいだろう。

 

 

「ハグリッドも話があるみたいだし、早く人気のないところに行こう。幸い私たち次の授業はないから、移動しながら話そうよ」

 

「ここにシロウの魔術礼装(マジックアイテム)を借りてきてるから、遮音結界が張れるよ」

 

「本当、シロウの世界の術式は細かいわよね。私たちの魔法でやろうとすれば、幾つ詠唱を重ねないといけないのかしら」

 

「本当じゃな、まぁそれは置いといてだ」

 

 

 森の中を歩きながら、私たちはハグリッドの話を聞いた。どうやら夏季休暇から今まで、ダンブルドア先生の任務で巨人の許に赴いていたらしい。ヴォルデモートたちが仲間に引き込む前に反乱側に置こうとしたらしいけど、実際は手遅れだったらしい。以前から良くしていた巨人の首領は下剋上によって死亡、今のトップはヴォルデモートよりのものらしい。

 じゃあさっさと戻ってくればという話だが、そうもいかなかったみたい。その巨人の一団の中に、ハグリッドの異父弟がいたそうだ。ただその弟、純粋な巨人ではあるのだけど、通常よりも小柄らしく、一団のなかでいじめられていたらしい。巨人の社会で非力は悪なようで、実の母親も弟に構わず、別の夫との間に()()()子供をもうけているそうだ。

 

 そんな状況を黙ってみていられるほど、ハグリッドは冷徹な人間ではなかった。弟を何とか説得して一団から連れ出し、この禁じられた森に保護しているそうだ。そんなことを話しながら歩いていると、授業の時とはまた別の開けた場所に出た。そこには全長5メートルほどの大きな人型が横たわり、鼾をかきながら寝ていた。

 

 

「ハグリッド……もしかして」

 

「ああそうだ。こいつが俺の弟、グロウプだ」

 

 

 ハグリッドが名前を言った瞬間、巨大な人型はゆっくりとした動きで身を起こし、こちらに顔を向けた。

 

 

 

 






「ん? シロウ、何をしているのじゃ?」

「ああ、ダンブルドア。久しぶりに、と言っても二十年以上時間が経っているが、これを嗜もうとね。ここ、天文台が一番いい場所だからな」

「ほう、葉巻か。しかし二十年以上前とな?」

「息子、第一子がイリヤの腹に宿った際に辞めたからな。元々あまり吸わないが、この場なら多少な。一本いるか?」

「ほう、バニラフレーバーかの。では一つ」

「……奴が感づき始めている。あんたを追い出した後、免職した教員を学外に追い出すだろう」

「心配いらん。既にシビルの手配は済み、ハグリッドの潜伏先も森に用意しとる。ここの森では、ケンタウルス以外に彼以上に森に詳しいのはおるまいて」

「なら、一先ずはいいか。それと、近々あいつらが何かやるかもしれん」

「よいよい、今年はそういったものが必要じゃからな」




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14. 勝利と敗北



お待たせしました。
前回近いうちに更新すると言いましたが、結局ひと月経過してしまいました。少々集中講義やら介護実習やら、期末試験やらで忙しくて更新できなかったのです。
まぁそれは置いときまして、今回もどうぞごゆるりと。





 

 

 

 

 

 グロウプとの邂逅から早二週間、やはりというべきか、ハグリッドは停職になった。まだ森番の仕事はあるものの、恐らくまたありもしない理由で退職になるのだろう。シロウ曰く、最悪を想定してもう潜伏場所を用意しているそうだけど、あのオババのことだから潜伏する前に何かしらアクションを起こしそうな気がする。

 グロウプに関しては一応問題ない。私たち三人はちょくちょく顔を見せに行ったので、今は拙いながらも顔と名前が一致し、私たちを姉や兄のように扱ってくれている。彼は授業で習うような狂暴なものではなく、ハグリッドと同じで優しい気質なのだろう。

 

 まぁそれはそれとして、もうそろそろO.W.L試験が来るということで、私たちの課題の量や授業の進む速度が尋常じゃない。なので「P.T」も活動回数を制限し、各々の寮で自主練しつつ、次の会合を待つ状態である。そんなことを考えながら私は目の前のレポートと向き合う。今現在私がいるのは談話室、ロンとハーマイオニーの二人と一緒に魔法薬学の宿題をしている。今日作った薬についてのレポートなんだけど、「安らぎの水薬」についてまとめるのは難しい。

 何しろ薬を作っても飲んでもらって効果を実証する方法がない。誰かに呑んでもらうのは悪いし、生き物に飲ませるのもダメ。じゃあ自分で飲もうものなら他の二人と何故かスネイプ先生から盛大なストップがかかる始末。そんなこんなでレポート書くのに苦労している現状だ。

 

 

「そういえば『防衛術』の試験はどうなるんだろう?」

 

 

 ふと羊皮紙に書き込む手を止め、ロンが声をあげた。それは私も気になっていた。例年通りなら実技が入ってくるのだけど、あのオババは徹底して教科書を黙読することを強制している。このままでは私たちの世代は、防衛術の成績がガタ落ちした低質な魔法使いになりかねない。これは「P.T」での練習をより短時間で高密度なものにしないといけないだろう。

 そう考えた私は少しでもやることを減らそうと羽ペンを取り、再び羊皮紙に向かい合った。この後、何が起こるのか全く想像することもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件はその日から一週間後に起きた。

 私たちはいつも通り、細心の注意を払いながら「必要の部屋」へと赴き、いつものように練習していた。今日はみんな共通で「守護霊呪文」を練習していた。本来なら習得の難しい高等魔法なんだけど、みんな筋がいいのか殆どの人が最低でも(もや)が出るまで成長していた。そのなか何人かが実態を持った守護霊(パトローナス)を作れるレベルまで成長していた。例えばハーマイオニーはカワウソ、ジニーは馬、ロンは犬と何故かシロウに近しい人から形を成していった。ただフレッドとジョージは靄止まりだったけど。

 そんな時外から衝撃が来た。「必要の部屋」は入り方がわかっている、若しくは誰かが入っていても全く同一のものを必要としない限り、部屋への干渉は出来ないはずである。しかし現に部屋の壁には決して小さくない亀裂が入り、壁の欠片がパラパラと床に落ちている。

 

 

「……皆下がって」

 

 

 私はみんなを後ろに下がらせ、壁の亀裂に近寄った。一際大きな亀裂に穴がいており、そこから壁の向こうを除くことができた。そこから見えた光景に私は思わず固まってしまった。

 胸に銀と緑のエンブレム―スリザリンだーの数人の生徒と共にいるフィルチさん。そしてその一段の戦闘にいる、全身を毒々しいピンク色のふくでまとめ上げた、ギトギト、いやデブデブ、いや丸々と太ったガマガエ……オババがとても嬉しそうな顔で立っていた。それを見て私は悟った。ああ、これはもう逃げられないと。

 

 

「みんな、聞いて」

 

「どうしたの?」

 

 

 私の言葉に不安そうな言葉が返される。もう何人かは悟ったのだろう、諦めの空気が感じられる。

 

 

「見つかった。もう逃げられない」

 

 

 その言葉と、オババが杖を構えるのは同時だった。

 

 

「衝撃に備えて、頭を護って!!」

 

「『最大爆撃(ボンバーダ・マキシマ)』♪」

 

 

 私が後ろに叫ぶと同時に、壁がRPG-7ロケットランチャーを撃ち込まれたかのように吹き飛ばされた。他の子たちはいい。壁から離れ、態勢を低くし、頭を護るようにしていたのだから。でも私は違った。吹き飛ばされた瓦礫にまともに当たり、頭に大きめの欠片が直撃し、倒れたところに幾つもの瓦礫が重なって圧迫されるような感じになった。

 朦朧とする意識の中、私が雑賀に見たのは、これ以上ない至福といった表情を浮かべたオババと、倒れる私に向けられた悪趣味な杖先だった。

 

 

「『麻痺せよ(ステューピファイ)』♪ さぁ親衛隊の皆さん、この反乱分子どもを連行なさい。この魔法界の膿(マリー)は私が連れていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まして最初に感じたのは、体を拘束されている感じだった。ボウッとする頭を無理やり働かせ、周囲状況を把握する。どうやらここは校長室、私は椅子に座らせられ、ロープで縛りつけられているようだ、まるで下手人みたいに。まぁオババにとって私は下手人だろうね。

 

 

「アルバス、その話は本当かね?」

 

 

 私の後ろから魔法大臣の声が聞こえた。そちらに顔を向けると、魔法大臣、キングズリーさん、パーシー、そしてオババがいた。大臣の手には「P.T」のメンバーリストが握られていた。大臣の顔を見る限り、大臣はアンブリッジ側の人間ではないらしいけど、今は当てられた役割を熟さなければならないというのが実情だろう。

 

 

「その通りじゃコーネリウス、わしがこの組織を作った。ヴォルデモートに対抗する後の人間を作るためにの」

 

「え?」

 

 

 校長先生の言葉に私は思わず声をあげてしまう。校長先生がやろうとしていることは、身に覚えのないことで泥を自ら被るような行為だ。当事者が私であるだけに、その行動を取らせたくないと思った。

 しかし何も言いだせない。校長先生と目が合った瞬間、私は黙っていなければならないと感じた、いや黙らされた。校長先生は止まらない、それに私たちがしてきたことをほとんど把握し、大臣と口裏を合わせ、その上でこの学校から一時いなくなるという方法を取るのだと。でも理解しても納得できるほど私は人間が出来ていない。何とかしようと体をよじるけど魔法で縛られているのか、縄はびくともしない。

 

 

「コーネリウス、三年前も言ったの? ホグワーツでは救いを求める限り、それが与えられると」

 

「……うむ」

 

「!? 貴方たち、捕まえなさい!!」

 

 

 アンブリッジが声をあげると、とこからともなく―恐らく扉の外で待機していたのだろう―何人かの魔法使いが殴り込み、杖を構える。そしてその全員が口を開こうとしたとき、校長室の窓を突き破るように何かが飛来し、それらの前に突き刺さった。考えなくともわかる、外からシロウが狙撃したのだ。

 彼の事情を知るものならすぐに対応できたものの、所詮は魔法に依存した有象無象。突然撃ち込まれた剣に反応できず固まっている。

 

 ダンブルドア先生がその隙を見逃すはずがない。

 先生が寮の手を真上に掲げると、綺麗に歌いながら不死鳥が彼の手を掴んだ。途端に先生もろとも燃え上がり、部屋の中は熱気に包まれる。思わず目を瞑り、暫くして目を開けた頃には、既に先生も刺さっていた剣も消えていた。

 

 

「いやはや大臣、彼は色々とやってはおりますが。しかしあの人はとにかく粋ですよ」

 

 

 キングズリーさんのゆったりした声が、静まり返った室内に響き、染み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 








――やれやれ、校長室への狙撃など二度とやりたくない。

――すまないなバックビーク、滞空などという面倒なことをやらせて。

――さて、賽は投げられた。この先、好転するか悪転するかはお前次第だぞ、大臣。





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15. 進路指導



大変お待たせいたしました。
リアルであまり時間が取れず、またちょっとストレスで体調を崩してました。そちらは一応よくなったのですが、今度は秋の花粉症と、色々ダブルパンチならぬ連続ピヨピヨパンチを受けております。
そして原作を図書館で借りて気づいたこと。


「あれ? 俺ルーナの存在忘れとるやんけ、クライマックスどないすると!?」


という状態に陥っております。





 

 

 

魔法省令

 ドローレス・ジェーン・アンブリッジ(高等尋問官)は、

 アルバス・ダンブルドアに代わりホグワーツ魔法魔術学校の校長に就任した。

 以上は教育令第二十八号に従うものである。

 

 魔法大臣コーネリウス・オズワルド・ファッジ】

 

 

 この通知が学校全体に広がるのは少しも時間がかからなかった。ダンブルドア先生が失踪した次の日、オババが魔法省令で校長に就任することになったのだけど。ただ校長室の絵画、ひいては門番の役をもつ石像は彼女を校長とは認めず、彼女を校長室にいれなかったそうだ。そのせいか、今や元々の彼女のオフィスが仮の校長室となっていた。そして残念ながら、私とフレッド、ジョージの箒はその部屋に鎖でがんじがらめにされていた。もうこの人道具を使う資格ないんじゃないかな。

 

 まぁそれは兎も角。「P・T」に参加していた人は全員オババの懲罰を受けた。以前私が受けた、自らの血液をインク代わりに書き取りをするアレである。そのおかげで、次の日の授業は全員右手に包帯を巻き、目の下に隈を作って受けることになった。この状況に殆どの先生は抗議の声をあげたけど、結局は権力を盾にしたオババには馬の耳に念仏な状態だった。悔しそうな教師陣の顔を眺めるオババの顔は、とても生気に満ちた笑顔だったと言っておく。特にマグゴナガル先生が、いつもの先生らしくもなく血が滲むほど拳を握っているのを見たとき、私は例えようもない憤りのようなものが沸き上がり、懐の杖に手を伸ばそうとするのを必死に抑えていた。

 そんな憂鬱で罰則の続く日々がいくらか過ぎたころ、談話室の隅で何やらフレッドとジョージが話し合いをしているのが窺えた。紙に何やらすごいスピードで書き込んでおり、ああでもないこうでもないと意見を突き合せている。どうやら何か計画しているらしい。

 

 

「二人とも、何してるの?」

 

 

 無粋とは自覚しながらも、私は二人に近づき訊ねた。そばにはロンとハーマイオニーもいる。そこでようやく気付いたのか、二人はこちらに顔を向けた。

 

 

「ああ、実はね」

 

「俺達は常に考えていたんだ。色々としでかしてきたけど、問題に巻き込まれたり、退学になるような一線は超えてこなかった」

 

 

 二人とも、魔導書の解析の時と同じぐらい真剣な表情でこちらに語り掛けてきた。その表情から、これから二人が話すことが嘘偽りのないものであるということが窺えた。

 

 

「常に、俺たちは常に大混乱を起こす手前で踏みとどまってきたんだ」

 

「でも今は?」

 

 

 二人の気迫にロンが恐る恐る尋ねた。

 

 

「今は――」

 

「ダンブルドアもいなくなったし――」

 

「ちょっとした大混乱こそ――」

 

「まさに我らが親愛なる新校長にふさわしい――」

 

 

 二人のいつものコンビネーションによって言葉が紡がれる。はじめは冗談だろうと思った。でも彼らの目を見ると、いたって正気で、そして本気で考えているということが分かった。彼らの目は、行動を起こす前のシロウとそっくりな光を宿していた。

 

 

「ダメよ!?」

 

 

 ハーマイオニーが真っ先に、但し囁き声で二人を制止した。気持ちは大いにわかる。私もできるなら止めたい。

 

 

「ハーマイオニー、君は分かっていないよ」

 

 

 そんなハーマイオニーを宥めるようにフレッドが言葉をつづけた。

 

 

「俺たちはもう、ここにいられるかどうかなんて気にしない。本当なら今すぐにでも出ていきたいさ。でもな……」

 

「俺たちはダンブルドアのために、やるべきことをやろうという決意なのさ。これは誰でもない、俺たちの役目なんだ」

 

「それに素晴らしいバックがついているもんでね。いなくなった後の生活も既に確立してある」

 

「三日後だ、三日後に第一幕があがる。楽しみにしていてくれ」

 

 

 そういって二人は寮の自室へと帰っていった。何をしでかすかはわからないけど、正直不安しかない。先ほど彼らが持っていった紙のリストに、「火薬」だの「亜鉛」だの書かれていたけど、何か爆発物でも作るのだろうか? それに彼らの言っていた強力なバックアップ、それは恐らくシロウだろう。退学後の話は私も一枚かんでいるために何も言わないけど、果たしてシロウが行うバックアップとは一体何なのだろうか。行き過ぎたものでなければいいのだけれど。

 

 明くる日から、私たち五年生は寮担当教員による進路指導が行われていた。O.W.L試験も間近に迫った私たちは、二年後には更に試験を受け、本格的に卒業後の進路を決め、就職活動をしなければならない。フレッドとジョージのように、力強いバックアップのもとに店を開くなんてごく少数だ。まぁシロウならバック無しでもできるかもしれないけど。

 それは置いておきまして。この進路相談は私も例外なく受けることになった。其々通達された時間に指定の教室に行くのだけど、私が面談に行ったとき、部屋の中にはマグゴナガル先生だけでなく、クs……御糞なオババの姿もあった。マグゴナガル先生の様子を見ると、どうも私の時だけに見に来ているらしい。先生の一文字に結ばれた口と視線、それとロンの時には出てこなかっただろうピンク色の羊皮紙が一枚、「オレハココニイルゾ」でもいうように存在を示していた。

 

 

「お掛けなさい、ポッター」

 

 

 先生に促され、対面になるように椅子に座る。デスクの上にはこれまでの成績であろう書類と、そのほかに職業パンフレットの様なものが数冊置いてあった。正直教員か魔法省に務めるというもの以外、申し訳ないけど魔法関係の仕事は考えつかない。基本それ以外の職となると、マグルの様なサラリーマンは殆どいないだろう。

 

 

「さて、今回の面談は貴女の進路について話し合い、残り二年でどの教科を専攻、継続するかを決める指導でもあります。ポッター、卒業後に何をしたいか、大まかで構いません、考えてはいますか?」

 

 

 先生に尋ねられ、思考する。後ろで何かカリカリ書いている音が響いているけど、それすらシャットアウトされるぐらい深く思考世界に埋没する。どれほど考えていただろうか、一時間ほど考えたかと思えるような思考の果てに、私は一つの答えを導き出した。

 

 

「お待たせしました」

 

「いえ、五分ほどしか経っていないので大丈夫です」

 

「ありがとうございます。一つ考えられたのが教員です。中でも得意としているのが『防衛術』や『魔法生物飼育学』、『魔法薬学』なのでそちら方面で」

 

「なるほど」

 

 

 マグゴナガル先生は私の話を聞くと、いくつかの羊皮紙、そして何冊かの小冊子を取りだした。因みに私が防衛術と言ったとき、後方から「ェヘンェヘン!!」という咳払いが聞こえたけど、先生共々無視した。

 

 

「成程、教員ですか。確かによく後輩たちの勉強を教えている場面を目にしますね。得意不得意は兎も角、貴方が教えた後輩の成績は確かに上がっています。その知識量も、教え方も素晴らしいという他はないでしょう」

 

「しかしだからと言って、専門分野の知識だけを有していればいいわけではありません。貴女もここの教員を見ればわかると思いますが、自身の専門分野以外の質問をされます。最低でもO.W.Lレベル、加えて貴方たちも二年後に受けるだろうN.E.W.Tレベルの知識も必要となります。」

 

 

 先生はそう言うと、徐に一枚のパンフレットを開いた。

 

 

「これは教員ではなく闇払いの仕事ではあるのですが、ご覧の通り、闇の魔術というのは何も魔法に限ったものではありません。魔法生物や魔法植物など、人以外の対応するこのも多々あります。二年前のルーピン先生の授業でも理解しているとは思います」

 

「はい」

 

「『防衛術』は勿論のこと、貴方の得意とする他の二科目、加えてあなたが比較的不得手とする魔法史も必要となります」

 

「闇の魔術には、勿論我々が用いる現代魔法とは別に古代魔法も存在します。その点『古代ルーン文字学』はグレンジャーと並んで素晴らしい成績を修めているのは素晴らしいでしょう。この成績から考えると、あとは『魔法史』さえ『E:期待以上』となればどの教員になることも夢ではないでしょう」

 

 

 先生の話を聞いていると、どうやら私は教員になれる資格があり、成績に関しても今まで同様、それ以上の努力を重ねれば教師への道が開かれるだろうと。成程、正直自分に教師が務まるか心配ではあるが、ベテランであるマグゴナガル先生が応援してくださるのなら、本気で目指そう。

 しかしここで先ほどよりも大きな音で、後ろから咳払いが聞こえた。そして今回ばかりは先生も我慢できなかったらしい。先生はオババのほうに向きなおった。気のせいか、その眉間には微妙に皺が寄っているように見える。

 

 

「のど飴はいらないのですか、ドローレス?」

 

「あら結構ですわ、御親切にどうも」

 

「ただミネルバ、少し口をはさんでもよろしいかしら?」

 

 

 オババがミネルバと先生を呼んだとき、一瞬だけど先生の眉間がピクリと動いた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうですか?」

 

「ええ、それはとても。私の授業における成績や態度などを記したメモをお渡ししたはずですが?」

 

「これですか?」

 

 

 先生は書類の中から毒々しいピンク色の羊皮紙を取り出した。というかピンク色って、どうやったらそんな色に出来るのやら。

 

 

「ええ目を通しましたよ。そしてその上で、彼女の日常生活を垣間見て、彼女は教員に適性があると私は判断しているんです」

 

「ですがそれでしたら理解が出来ませんわ。ミネルバがどうしてポッターの無駄な望みを……」

 

 

『無駄な望み』。オババがそう言った瞬間、部屋の空気が一気に冷え込んだ、様な気がする。目に見えてわかるように、マグゴナガル先生の怒りの感情が感じ取れた。

 

 

「『無駄な望み』? ドローレス、それは貴女個人の感情で決めつけているに過ぎませんか? 貴女のメモだけでなく、この場には彼女が受講している科目の教員、そしてそれ以外の教員の評価があります。それらを鑑みて判断しているのです」

 

「ポッターが教員になる、いえ、魔法界にて職を得るなど万に一つもあり得ないでしょう」

 

「……どうやら話すだけ無駄なようですね。ポッター、誰が何といおうと、自分の道を切り開くのはいつだって自分自身です。我々教員は、貴女が道を切り開くための助力を惜しみません」

 

 

 どうやら先生との面談はこれで終わりらしい。私は荷物をまとめ、部屋から退室した。後方ではゲロゲロリンと鳴き声を上げるカエルと、それを適当に聞き流す先生の音が聞こえてきた。

 余談だけど、この後はシロウの面談で、噂によるとカエルは面談前後の記憶が消えるほど、ノックアウトする衝撃を受けたそうな。そのおかげか、夕食の席でカエルは頭に包帯を巻いていた。どうやらマダム・ポンフリーは態々カエルのために薬は出さなかったようだ。

 

 

 

 

 






お待たせしました。
いや、本当に申し訳ありません。前書きでも少し書いたように、少々執筆できる様な状態じゃなかったです。ハーメルンもお気に入りを読みつつも、執筆ページ開いても一文字もかけないという感じでした。

さて、今回は進路指導に焦点をあて、原作を覚えている方は改変に気づいておられると思います。原作ハリーは「闇祓い」志望でしたが、マリーは教員志望としました。


次は外伝を更新しようと思います。それでは皆様、また次回。




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16. 「宴」の始まり



では予告通りの更新です。
現在エミヤ四兄妹の人相もカスタムキャストで作ろうとしてはおりますが、いきなり息子の剣吾君で詰まっています。まぁ男ですし、あのアプリは女の子の造形しか作れないですから。

今回は短めです。





 

 

 

 フレッドとジョージが何かやらかすと言ってから早三日。予告通り、大広間に私たちは自習するふりをし、これから二人が起こすことに無関係であるというアピールをする。何故かシロウは参加していなかったけど、まぁ恐らく二人と最終調整でもしているのだろう。

 とはいえ、O.W.L試験も近いため、フリとはいえ、真剣に勉強しなければならない。特に魔法史は本当に苦手であり、ここ四年間、成績の平均は「A:可(まあまあ)」と「E:良(期待以上)」の半々である。確実にするためには、「O:優(大いに宜しい)」を取るぐらいの勉強をしないといけないだろう。

 

 そんなこんなで羽ペンではなくマグル界で購入した鉛筆と消しゴム、そしてノートを使い、一年からの内容を総復習していた。周りから、特に上級生と下級生からの好奇の視線を向けられているけど、やはり十年マグルの学校に通っていたからか、羽ペンよりもこちらのほうが使いやすい。勿論授業レポートなどは羽ペンでやっているけど、自学自習なら好きなものを使ってもいいだろう。

 

 そんなくだらないことを考えていると、僅かに床が揺れたような感覚が生じた。最初は自身かと覆ったけど、気のせいとして勉強に戻った。

 

 

 ――……――

 

 

 しかしまた床が揺れる感覚が生じ、加えて、なにやら大きな音が鳴ったような気がした。

 

 

「……ねぇ」

 

「……たぶんそうでしょうね」

 

「……野次馬に混じったほうがいいかな」

 

 

 段々と大きくなる爆発音と地響きを感じながら、私たちはどう行動するか悩んでいた。このまま無視して勉強を続けても怪しまれる。かといって今更野次馬に我先にと混じるのも気が引ける。

 ならどうするか、私たちの出した結論は、遠巻きに見ると言うものだった。気が引けると言ったけど、何をしたのか興味を持っているのも事実。というわけで私たちは集団から少し離れた場所で傍観することにした。いやだって、火薬使うってわかる内容に、わざわざ危険冒してまで見ようとは思わないし。人間自分の身が一番。

 

 

「すっげえ!! 見てみろよ!!」

 

「わぁお、今度は真っ赤なドラゴンの花火だ!!」

 

 

 眺めていた生徒たちが次々に空と城内を彩る数々の花火に歓声をあげる。その光景は少し離れた位置にいる私たちにも見えていた。誰かが言ったように巨大なドラゴンを模した火の玉が空を飛び回り、その周りを小さな花火が連続して爆発している。更には城内で色とりどりのねずみ花火が、空中をシュルシュルと回りながら爆発をしている。

 とりわけ目を引いたのが、空中で形を保ったままゆっくりと漂っている火花の文字である。現在空に漂っているのは、「クソ~」という文字と、「ゲロゲロクァックァッ」という文字だった。特に後者はオババを思い浮かべてしまい、笑いを抑えることができなかった。恐らく、今年に入ってこれほど笑ったのは初めてなんじゃないのだろうか。それほどにまで私とロン、ハーマイオニーは声をあげて笑った。

 

 そして夜、グリフィンドール寮ではお祭り騒ぎだった。みんな今回のことは、フレッドとジョージがやったと気が付いていた。だから二人が寮の談話室に入ると、もう口笛やら拍手やらで鼓膜が破れる勢いだった。

 まぁそんな歓声の中でも彼らはいつもの態度を崩さない。適度に歓声に応え、みんなのリクエストを聞きまわり、ついでに発明した悪戯グッズを売り、そして次回の構想を練りに自室に戻った。興奮冷めやらぬなか、他の面々も自室に戻る中、私は一つ疑問を覚えた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どうやら花火素材を集めたり、調合を事前に手伝うことはしたらしいけど、今回のことには一切加担していないらしい。では彼は一体どこに行ったのか。最近シロウのことばかり気にしていると思いつつ、私もベッドに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ماذا يحدث!؟(何が起きている!?)

 

تم إيقاف الاتصال من المراقبة!(見張りからの連絡が)

 

「|أنا أفهم شيء من هذا القبيل ، لماذا توقفت!《何故途絶えたか聞いている》」

 

「―――――――!?」

 

「ッ!?」

 

「……やれやれ。世界を渡ってもテロリストの相手とはな。今回はアラブ系、前回は人種差別団体。さて、次は何かねぇ」

 

 

 元の世界でもやっていたテロリストの掃討、今回は隠密重視でやっていたが、存外に手応えのない。前回とは違い、テロリストと言ってもただの素人の集団、戦闘慣れもしていない。ならば骨がないのも頷けるか。

 

 

「さて、この村の生き残りは……子供三人だけか。同じ宗派、民族なのによくもまぁここまでひどいことをする」

 

 

 とりあえず、拠点へと保護しよう。この国の公安への連絡はその後だ。今はこの場から去ることを優先すべきだ。三人の中で最も小さい子が私の外套を掴んだ。不安だったのだろう、恐ろしかったのだろう。そして酷く悲しかったのだろう。涙の枯れた目は真っ赤に腫れ、口元は殴られたように傷がある。見た目三歳ほどの子供にまで、ここまでの仕打ちを。

 

 

「お兄さん、だれ?」

 

「勇者様?」

 

 

 少々怯える目でこちらを見つめる。それはそうだ。家族を敵だったとはいえ、オレは犯人集団を躊躇なしに殺していたのだから。オレはしゃがみ、子供らに目を合わせた。そういえば、これで保護した孤児も二十を超えたな。

 

 

「私は勇者ではないよ。そうだな……私はただの弓兵だ。呼びたければシロウと呼ぶといい、それが私の名だ」

 

 

 

 






はい、ここまでです。
シロウ、まさかの二十人ほどの孤児の親代わり、しかも国籍を問わず。なんだか自分で書いておきながら、非常に変なことになっています。
さて、次回もハリポタを更新しようと思います。更新する際は前日に活動報告でお知らせいたします。




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17. 巣立ち



時間が出来たので、短めですが更新します。
そして皆々様もう察されているとは思いますが、今回五巻の話数は確実に20話を超えます。原作でも一番分厚い内容でしたね。

さて、今回はアレになります。どうぞごゆるりと。





 

 

 フレッドとジョージが騒動を起こしてから一週間が経過した。授業中の教室内に花火が舞い込んだり、小さな魔法生物が沢山侵入してきたりしたけど、特に先生方は何もしなかった。驚いたのがマグゴナガル先生とスネイプ先生の対応で、侵入したものを一瞥すると、オババを生徒に呼びに行かせ、そのまま授業を継続するといったことを続けていた。今日見かけたオババは非常にやつれており、いつものピンクの衣装も、心なしか色あせているように見えた。

 

 

「いやー先生助かりました!! ねずみ花火は私でも対処できたのですが、何分その()()()()()()()()()()()()()もので!!」

 

 

 フリットウィック先生が実にいい笑顔でそう言い、オババの鼻先で扉をピシャリと閉めたのは記憶に新しい。

 

 まぁそんなこんなであまり退屈しない一週間を過ごせた。でも安心しては居られない。試験の勉強をしなければならないし、何より「閉心術」の修行もしなければならない。最近はスネイプ先生も何やら忙しいらしく、今まで週二で教えてくださっていたのが、今は週一ほどに回数が落ちている。一応口頭詠唱による「開心術」は完璧に防げるようになったけど、無言呪文や不意打ちは、まだ一割程度でしか防御できない。

 

 

「なんとか明日修業を取り付けれないかなぁ」

 

 

 談話室で教科書を目の前に開いたままぼやく。はたから見たら私は阿呆面晒しているんだろうなぁ、なんてぼうっと考えていると、私たちの許に話題の渦中にあるフレッドとジョージが近寄っていた。因みに二人、騒動の原因だろうとほぼみんなにバレてはいるのだけど、何せ現行犯で捕まえられないために、未だに罰則を受けていない。ある意味二人の行動力はすごい。

 

 

「何かお悩みかい?」

 

「うん。次の閉心術の練習、明日の放課後にお願いできないかなと思って」

 

「明日か。丁度いいな」

 

「何が?」

 

 

 何やら考え込みだす双子。不穏な空気を察したのか、ハーマイオニーとロン、ジニーもこちらに近寄ってきた。

 

 

「もうそろそろ頃合いかなと思ってね」

 

「今まではちょっとした混乱を繰り返しやっていたけど」

 

「今度一発デカいのやって」

 

「最後の大混乱をやろうとね」

 

 

 最後の一発って。まさか二人とも。

 

 

「もしかして、学校を抜け出すつもり?」

 

 

 ハーマイオニーが声を潜めつつも問いただす。その顔は心配三割、呆れ三割、咎め三割の声色だ。しかし双子はそれを気にせず、着々と最後の計画をたてていく。本当に、男の子って一度走ると止まらないのかしら。ああ、そういえば一番身近に、そういう放っておけない男がいたわね。

 

 

「潮時さね」

 

「いい加減俺たちもここにある在庫がなくなってきたし」

 

「最後の一発で暗ーい空気を吹き飛ばすさ」

 

「止めてくれるなよ」

 

「だからマリー。悪いけど修業は明後日にズラしてくれ」

 

 

 双子はそう言うと自室に戻っていった。正直スネイプ先生次第なので明日も明後日もないのだけれど。一体二人は何をするのだろうか。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 その答えは直ぐにわかった。魔法薬の授業でスネイプ先生に頼み込み、次の日の修行を取り付けてもらったあと、私はロンとハーマイオニーと一緒に大広間に向かっていた。

 暫く廊下を進んでいると、何やら騒がしい音が逝く先のほうから聞こえてきた。どうやら双子が何やらやらかした騒ぎの様で、野次馬に多数の生徒が群がっているようだった。丁度その場所が上階から見れる場所で騒ぎが起こっているようなので、私たちも移動してみると、廊下の中央には沼地が出来上がっていた。

 

 

「さあ!!」

 

 

 双子の前に、オババが勝ち誇った顔で立っていた。その横には今か今かと、乗馬用を鞭をもったフィルチもいた。双子が作った沼地は廊下を塞いでおり、今後誰かが処理しないと確実に通れないだろう大きさにまでなっている。

 

 

「そこの二人、わたくしの学校で悪事を働けば、どのような目に合うか思い知らせてあげましょう!!」

 

 

 オババはこの場を公開処刑場と思っているのだろう。表立った犯行をしている二人を捉え、罰を与える光景を大多数の生徒に見せることができるんだから。となりのフィルチも、嬉しそうに鼻をふんふん鳴らしている。

 でもそれで終わる双子ではない。彼らは人の裏をかくことに関しては、確実にオババたちの何枚も上手である。

 

 

「ところがぁどっこい!!」

 

「思い知らないね」

 

「『アクシオ―箒よこい』!!」

 

 

 二人が杖を構えて魔法を唱えると、どこかから大きな金属音が、続いて何かを引きずる音が高速で近づいてきた。考えるまでもないだろう、没収されていた二人の箒だ。片方は縛られていた時の鎖の残りを、少し残して引き摺っている。

 

 

「またお会いすることもないでしょう」

 

 

 フレッドはひらりと箒に跨り、そういう。

 

 

「連絡もくださいますな」

 

 

 ジョージも続いて箒に乗り、二人して空中に舞い上がった。余りの事態にオババとフィルチは反応できず、オロオロと動揺するばかりである。その光景が少し面白い。

 

 

「今回皆様に見せた『携帯沼地』をお求めの方は」

 

「此度ダイアゴン横町九十三番地に新設された『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店』までお越しください」

 

「我々の新店舗です」

 

「我々の商品ををこの老い耄れババァを追い出すために使うと誓う方々」

 

「それらホグワーツ生には特別割引を実施いたします!!」

 

 

 双子は私たちの上をグルグルと飛び回りながら、新事業の宣伝を行っていた。その二人に対してアンブリッジは魔法を放つけど、動くものを相手にしたこのがないのか、ことごとくを外している。

 双子は一度空中で制止し、頷き合うと外に箒を向けた。どうやら外に続く、おおきな門から出ていくらしい。

 

 

「二人を止めなさい!!」

 

 

 オババの声が響くが、誰も反応できない。そのまま外に出ていくと思われた二人だけど、いままで傍観していたピーブスに近づいていった。

 

 

「ピーブス、俺たちの代わりにあのカエルを手こずらせてくれ」

 

 

 フレッドの一言にピーブスは姿勢を正すと、見事な敬礼の姿勢を取った。階下から生徒たちの喝采をオババや親衛隊からは呪いを放たれつつも、フレッドとジョージは外へと飛び出し、真っ赤に輝く夕日へと吸い込まれていった。

 

 

 






はい、今回はここまでです。
さぁ五巻の印象深いシーン、その一つが終わりました。あといくつかありますが。それもあと数話のうちに出し、エンディングまで持っていこうと思います。

それでは皆様、また次回。




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18. ふ・く・ろ・う


ようやく……ようやく更新することできました!!
非常に長かった。一月かけてようやく一話書き上げることができました。

それではどうぞ、今回はシリアスな死に出来たかなぁ……




 

 

 

 地面は緑のペンキに彩られたように若草が生え、空は阻むものがない真っ青な色。だというのに、陽光は柔らかく、昼寝をするにはぴったりな環境が城の庭には出来上がっていた。現に何人かの生徒は木に背を預けつつ、うつらうつらと舟をこいでいる。しかし私たち五年生はそれらの光景を羨ましく見つめるしかできない。その理由はただ一つ、そうO.W.L試験がついに始まったのだ。

 

 試験までの二週間、先生方―オババ除く―は課題を一切出さず、これまでの総復習に当てる時間の使い方をした。そのおかげか、普段から勉強している私たちは見落としていた部分を徹底的に詰め込むことができ、実技以外はほぼ万全の体制と言っても差し支えない状況で試験に臨んだ。本当ならその間も「閉心術」の訓練はしたかっただけれど、先生も忙しいし、私もそれどころじゃなくて疎かになっていた。試験が終わり次第すぐにでも再開する予定である。

 まぁそれは置いといて、勿論試験までの時間に何かなかったかと言われればそれは間違いだと言える。生徒たちの間では、集中力を増すだの、精神統一に有効だの、そんな妖しい物品の横行が相次いだ。勿論私はそんな妙なものに手を出したくなかったから、外から傍観しつつ自分のことに専念した。

 一度脳活性に有効という話のドラゴンの爪が話に上がったけど、シロウによって全て没収され、売っていた生徒もお説教を受けていた。

 

 

「シロウ!! なんで没収するのさ?」

 

「ドーピングしたくなるのは理解できるが、馬鹿なことは止すんだな」

 

「ドラゴンの爪は効くよ!! 僕たちはそれが欲しかったんだ!!」

 

 

 やいのやいのと買おうとした生徒は抗議の声を挙げたけど、シロウは鼻を一つ鳴らしてそれらの声を一蹴した。

 

 

「解析したら全て偽物だった。それに没収したものは全て焼却処分してある。これに懲りたらドーピングなどせず、自力でどうにかしたまえ。栄養ドリンク程度なら私が作ってやる」

 

 

 シロウのその言葉とで生徒たちは意気消沈、散り散りに自分の部屋に戻り、勉強に勤しむことになった。まぁシロウもちゃんとフォローしてたし、件の生徒もみんなの前でシロウのお仕置きを受けてたから大事にならなかった。というかシロウのドリンクのおかげか、みんなドーピングするよりも集中力が増していた。何か特別なものを使っているかと思ったけど、成分は単なる漢方素材。プラシーボ効果は怖いと思った。

 

 まぁそんなこんなで試験当日、いつものようにシロウ監修の美味しい朝食に舌鼓を打っていると、大広間の入り口に見慣れない人たちが来た。それを見た瞬間、傍らに座っていたハーマイオニーが持っていた教科書を取り落とし、口をパクパクさせていた。余談だけど、落した教科書は大層分厚く、私の手の甲に角から落ちたため、とても痛かったと言っておく。

 

 

「どうしましょう、あの人達かしら? 試験官かしら?」

 

 

 どうやらハーマイオニーは気づいていないらしい。まぁ気持ちはわからなくはないけど。私たちは気配を潜めて入口の集団に近寄った、その際シロウ直伝の気配遮断を怠らない。これを使ったときのオババからの未発見率は百パーセントを維持している。まぁこれに関してはオババが無能というのが正しいところかな。ウィーズリー夫妻は普通に気がつくし。

 入口に近寄ると、オババと集団の一人の女性が何やら話し合っているのが窺えた。話している人はとても高齢であることが窺え、相応に耳が遠いのか、大きな声で話をしている。

 

 

「それにしても、最近ダンブルドアからの便りがない!!」

 

 

 老婆が苛々を隠さずにそう声をあげる。

 

 

「どこにいるか見当はついていないのかね?」

 

「分かりません。しかし魔法省がもう間もなく突き止めるでしょう」

 

「さて、どうかね」

 

 

 オババの発言に対し、老婆は自分の顎を撫でながらまた大声をあげた。

 

 

「あの子が見つかりたくないのなら、まず見つけることは無理さね!! 私にはわかる、あれほどの杖つかいは、それまで見たことのないものだった。彼の『N・E・W・T(いもり)試験』で、『変身術』と『呪文学』の試験官だったからね。よく覚えとるよ」

 

 

 驚いた。

 この老婆、いや魔女はダンブルドア先生よりもさらに高齢らしい。そして杖の動きも見られるということは、それほどに厳しい評価基準と考えていいだろう。

 と、その老婆の視線がこちらに向いた気がした。いや、老婆だけではない、何人かの老いた魔女や魔法使いが、オババに悟られないぐらい自然な動きで、私たちのほうを見た。何人かは少し笑みを浮かべている。

 ……Oh バレテーラ。

 

 

「それに、今年は一年越しに、中々に面白い生徒がいるという話じゃ。一昨年の双子のウィーズリーも、試験に不真面目じゃったが、アレはアレで面白かったがの」

 

「風の噂では、今年はあのアゾット剣を使う生徒がいるのだとか。是非とも試験を受け持ちたいものじゃ」

 

「ええ……まぁ……」

 

 

 アゾット剣や双子の件が出てきた時、オババの顔が引き攣ったのは見逃さなかった。まぁこの二つのことはオババにはトラウマ事案だろう。

 

 

「職員室にご案内いたします。長旅でしたから、お茶などいかがかと」

 

 

 オババはそう言って一団を案内し、階段を上っていった。結局オババは最後まで気づかなかったけど、熟練の魔法使いの恐ろしさを知った。魔法を使わない、呼吸による気配遮断なのに、正確に私たちの位置を把握してるのだもの。最後去る時なんて私たちだけのわかるように折った紙を落していった。それに書いてあった文章で危うく叫びそうになり、我慢したことを褒めてほしい。

 

 

『試験は期待しとるよ、若い魔法使いさんたち。

 P.S 次は魔法も一緒に使うと、もっと上手く隠れられる。精進するといい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間割の指定通りに大広間に再び戻ってくると、スネイプ先生の記憶で見たように中が改装されていた。指示された場所で待っていると、試験官だろう魔法使いの合図で机上の紙を表に返した。まずは呪文学、出だしは浮遊呪文に関する問題で、呪文と杖の振り方についての記述。そういえばこの時シロウは変身術も意図せずかけていたな。

 その後の問題も難なく記述を終え、合図を以って試験は終わった。この調子なら筆記は大丈夫だろう。そう考えながら昼食を摂り、実技に臨む。実技試験も左程難しいわけでもなく、大きなミスもないまま試験は終わった。シロウは私の隣で実技をやっていたけど、やはりというべきか、どうやっても色は鈍色に変化していた。変化が色だけになっているのが救いだろうなぁ。

 

 その日の試験が終わっても、私たちは次の日の準備をしていた。課目は昼と朝に『防衛術』ち『薬草学』の筆記試験があり、午後はその実技。そして夜に『天文学』の実技試験と、中々に詰め込まれたプログラムだ。休憩できるとすれば、食事時間と『天文学』の試験前だけだろう。

 そんなこと考えていたらろくに眠れず、食事中もハネジローをモフりながら、ひたすらウトウトとしていた。そんな中迎えた実技試験。正直『薬草学』が最初で良かったと思っている。ちょっと植物の毒針が掠ったことによって、一気に眠気を覚ますことで来た。毒は勿論、奥歯に仕込んでいた解毒薬で効果をなくし、「牙付きゼラニウム」という植物も難なく対処できた。その時試験官が頷いていたので、恐らく合格点に入っているだろう。

 

 そして『防衛術』の実技。オババも一緒に監督していたけど、まさか実技を禁止していたのに生徒たちが使えるとは思っていなかっただろう。次々と魔法を成功させる私たちに、顔を歪ませながら苦々し気な視線を送っていた。

 

 

 

「おー、ブラボー!!」

 

 

 まね妖怪(ボガード)をミスなく撃退したのを見て、私を担当したトフティという老魔法使いが歓声を上げた。因みにこの教授、件のメモを書いた人でもある。偶然とはかくも恐ろしきもの也。

 

 

「いやはや、実に素晴らしかった!! ミス・ポッター試験はこれで終わりじゃ。だが……」

 

 

 何やら言葉を濁すと、教授は私に近寄ってきた。

 

 

「儂の友人のティベリウス・オグデンが言っていたのじゃが、君は完璧な守護霊呪文を使えるとか。特別点は……どうかのう?」

 

 

 教授の言葉に首肯で応じ、ちらりとオババを見る。脳裏にはオババがこれまでの所業に見合った罰を受けるさまを想像する。詳細な罰は思い浮かばないけど、彼女の蒼白な顔とその前に立つ黒く大きな影を思い浮かべ、杖を構える。

 

 

「『守護霊よ来たれ(エクスペクト・パトローナム)』!!」

 

 

 呪文を唱えるとともに、杖先から輝く人型が飛び出し、広間の真ん中でその六枚の翼を広げた。

 広間の人全員が私の守護霊に注目する。守護霊は皆の視線を気にせずに、口を開けて歌いだした。歌声と共に広がる波動は広間を軽く超え、窓から見える遠方まで広がっていく。歌い終わり、天使はゆっくりと私の許により、膝をついて手を出した。私もそれに合わせ彼女の手を握ると、天使は一つ微笑んで霞となって消えた。

 暫く広間を静寂が包んでいると、トフティ教授がそのゴツゴツとした手で拍手を始めた。

 

 

「素晴らしい!! よろしい、ポッター。行ってよし!!」

 

 

 教授の一声で私は退出した。広間を出る際オババのそばを通ったけど、彼女は憎々し気に私を睨みつけていた。しかし私はそれを無視し、今度こそ家を出た。さて、夜まで時間がたっぷりあるし、ハネジローと一緒にハグリッドの小屋に行こう。バックビークにも久しぶりに会いたいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにいうと、シロウは『薬草学』を難なくこなし、『防衛術』は私同様特別点で守護霊呪文をやったらしい。ただシロウの守護霊は不完全だし、何より形状が浮遊する沢山の剣と言うものなので、私とは別の意味で広間が沈黙したらしい。本人が肩を落としながらぼやいていた。

 

 

 





はい、ここまでです。
いや、本当に長かった。そしてここで区切るということは、察しの良い方なら次回どうなるかわかるでしょう。しかしネタバレは厳禁ですよ、禁足事項です。

それでは次回、いずれかの小説でお会いしましょう。




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19. イナズマノツルギ



お待たせしました。
今回は私的五巻で印象に残ったシーンの一つです。はて、察していた方は何人いたのでしょうね。

それでは皆様、ごゆるりと。




 

 

 

 夕飯はまたもやシロウ監修の豪華料理だった。パエリアには浅蜊(アサリ)や烏賊が使われており、他にもウナギやら牡蠣やら、ナッツ料理やらと精の付く料理が並べられていたのは、単に我々五年生とN,E.W.Tを控える七年生のためだろう。料理の一つ一つにもここまで気を配るのはシロウらしい。

 

 さて、天文学の試験が夜にあるのだけれど、私は一つ肝心なことを忘れていた。『古代ルーン文字学』の試験が夕方にあることを失念していたのだ。幸い試験開始十五分前に気付き、急いで教室に向かった。しかし私が到着した時には既に全員が座っており、駆け込んだ私はものすごい恥ずかしい思いをした。

 で、肝心の試験だけど、それはあまり問題ない。教科書は網羅しているし、文字の解釈なども完璧。さらには現役でルーン魔術を使う剣吾君にも去年手ほどきを受けたから、そこそこ点数を取れている自信はある。

 特に質問の一つ、『ルーンを用いて術式を組む場合、気を付けるべき点と特徴を述べよ。』という問いには、私とハーマイオニー、他に剣吾君と親しかった面子は、完璧と言っても差し支えないほどの答えを書けただろう。

 問題は『天文学』。勿論座学試験は日ごろの積み重ねでパスしているだろうけど、天文図を書くのはまた別。如何に正確に素早く完成させるかが重要なのだ。星の位置は魔法術式にもつながるというのが、この学問の基礎である。いい加減にするわけにはいかない。

 そういう緊張した状態で、殆どのグリフィンドール五年生が天文台に道具を持って集っていた。例外はシロウとディーンの二人で、彼らは受講をしてないから明日の試験に備えるだけでいい。

 

 

 

 天文学の塔の天辺に到着したのは夜の十一時。空は雲一つなく、観測には十分な天候だった。ただまだ夏になっていないこともあり、夜風が少し肌寒い程度。それぞれが望遠鏡を設置し、試験官であるマーチバンクス教授とトフティ教授の合図で星座図を埋め始めた。

 二人の教授は生徒たちの間をゆっくりと歩き、私たちが不正をしていないか監督をしていた。ここら辺はマグル世界と変わらない。まぁこのお二人なら、魔法を使わずとも不正なんて見抜くでしょうね。気配遮断も簡単に見抜くような実力者ですから。

 ……悔しくなんてないもん、グスン。

 

 まぁそれは置いときまして、暫くはペン先が羊皮紙を擦れる音と、試験官の靴音だけが響く空間が広がっていた。私の持つ星座図もマイナーなものが全て埋まり、のこりはメジャーな星座を埋めるだけとなった。

 図に乙女座を書き終えたとき、ふと下のほうから扉の開く音がした。どうしてもそれが気になり、望遠鏡を調節しながらそちらに視線を向けた。何やら五つの人影が夜道を進み、一つの方向に向かっている。加えてただ進むのではなく、誰にもバレないように、隠密を心がけながら進んでいる。隠密行動が素人レベルの私でさえ、余りにもお粗末というレベルだけど。足音普通に響いているし。

 

 というか戦闘の人影に妙な既視感があった。ずんぐりとした姿の歩き方に、高い塔の上と地面という距離とこの暗さからでも見分けのつく、毒々しくケバケバしいピンク色の服は見間違えようもないだろう。

 真夜中過ぎにオババが散歩など考えられない。加えて配下を連れているということは、何かしら良からぬことを起こすのは否めないだろう。金星の位置を正確に埋めながらも、先程の人影について思考を巡らせていた。

 暫く図に集中していると、遠くで扉を叩く音と、大型の犬が吠える声が聞こえてきた。ホグワーツで犬を飼っているのは、ハグリッド以外ありえない。ということは、先程の集団はハグリッドの許にいることは確実である。しかし辞職を通告するのなら、態々真夜中に訪れる理由がないし、従者を連れる必要もない。ということはこれは訪問ではなく、襲撃……。

 

 

 その時校庭にバーンという大音響がした。私を含めた、慌てて反応した人の何人かが望遠鏡のレンズに顔をぶつけた。隣でロンは「アイタッ!?」と小さく悲鳴を上げていた。

 最早試験どころではなく、二人の教授の制止も聞かず、皆が音の鳴ったほうに目を向け、そして恐れおののいた。

 

 

「大人しくしろ、ハグリッド!!」

 

「そんなもん糞くらえだ!! ドーリッシュ、俺はこんなことでは捕まらんぞ!!」

 

 

 どうやらオババと手下がハグリッドを捉えようとしているみたいだけど、どうにも魔法が聞かないらしい。失神呪文が五方向から何度も飛ばされているけど、ハグリッドはその身に受けて尚堂々と立っていた。

 しかしここでハグリッドの愛犬、ファングが呪文で倒された。臆病な子だったけど、必死にご主人を守ろうとして、何度も魔法使いにとびかかっていた。そして弾き飛ばされたところに、オババの魔法が当たったのだ。

 それを見て、ハグリッドは雄たけびを上げた。ハグリッドと出会って五年になるけど、ここまで怒り猛った彼を見るのは初めてだ。ドーリッシュと呼ばれた魔法使いは、その状態のハグリッドのストレートパンチを受け、数メートル吹っ飛んだところで起き上がらなくなった。恐らく気絶したのだろう。

 

 

「何ということを!!」

 

 

 再び下の扉が開き、一人の女性が外に出てきた。声からして、間違いなくマグゴナガル先生だろう。

 

 

おやめなさい!! やめるのです!!

 

 

 闇夜にマグゴナガル先生の声が響き渡る。

 

 

「何の理由があって攻撃するのです!! 何もしていないのに、こんな仕打ちを……」

 

 

 しかし言葉半ばでハーマイオニーとラベンダー、パーバティの悲鳴でかき消された。小屋周り、残った四人から一斉に失神呪文が発射され、マグゴナガル先生目掛けて閃光が走った。誰も反応できない。先生ですら、急な攻撃に反応できず、最早呪いが当たるのは必然だった。そしてついに四本の赤い閃光が先生を突き刺す瞬間、先生が忽然と消えた。

 

 

「え? あれ?」

 

 

 生徒は愚か、教授たちも戸惑いの声を上げている。しかしすぐに先生は見つかった。真っ赤な布を頭からかぶり、不気味な髑髏の仮面をつけている人影が、ハグリッドの隣に佇んでいる。そしてその腕には、抱えられたマグゴナガル先生がいた。そして先生も、突然のことに思考が追い付いていない。

 

 

「南無三!! 不意打ちだ!! 怪しからん所業だ!!」

 

 

 近くでトフティ教授が叫ぶ。今回は助かったからいいものの、もし今の人影がいなかったら、先生は最悪命を落としていたのかもしれない。人影はマグゴナガル先生をハグリッドに託すと、轟音と地面に蜘蛛の巣状の亀裂を残し、その場から消えた。それでようやく気付いたのだろう、オババたちは第二の乱入者に警戒をしつつ、ハグリッド達に再び杖を向けた。

 

 しかし時すでに遅し。

 一瞬のスキを突き、ハグリッドは先生とファングを抱え、森の中へと走っていった。

 

 

「捕まえなさい!! 捕まえろ!!」

 

 

 オババが叫び、更に閃光が発射されたけど、ハグリッドの背中に跳ね返されて無意味に終わった。彼らも敗北を悟ったのだろう、城に戻ろうとしたけど、そうは問屋が卸さなかった。

 彼らのローブやマントにいつの間にか剣が刺さって縫い留めており、オババに至っては剣の檻に閉じ込められていた。

 

 

「あれって……」

 

「絶対にそうだ」

 

 

 グリフィンドール生徒たちは察したのだろう、あれをしたのが誰かを。反対に他の寮生や教授たちは、突如現れた剣に目を見開いていた。

 

 

 ――伏せろ

 

 

 たった一言、脳内に声が響いた。そしてそれだけで私は直ぐに行動を移した。

 

 

「みんな、伏せて!! 教授たちも、伏せてください!!」

 

 

 その声にグリフィンドール生は直ぐに伏せ、一歩遅れて残りの面子も床に伏せた。

 それと遥か上空で、一つの光が瞬いたのは同時だった。

 

 

 ――イナズマノツルギ(カラドボルグ)

 

 

 光は徐々に大きくなり、同時に空気を切り裂く音も聞こえてくる。そして光はやがて渦となり、一つの稲妻となって地面に落ちてきた。

 目の前は真っ白に染まり、遅れる形で鼓膜が破れる程の轟音と振動が私たちを襲った。必死に目を凝らすと、渦上の光の柱が立ち、大気が動き、地面を抉っていた。狙って外したのだろう、小屋は無事だけど、その代わり校庭の真ん中には巨大なクレーターが出来上がっていた。そしてオババたちは吹き飛ばされており、檻で態と守られていたオババを除いて、全員が重軽傷を負い、気を失っていた。

 肝心のオババも腕や足に軽傷を負っており、杖を落して動けない状態だった。そこへゆっくりと、しかしやけに響く足音で、変装したシロウが歩み寄った。オババも流石に理解したのだろう、今の人外の攻撃をしたのは、目の前に佇む人物なのだと。

 

 

「これは警告だ。これ以上罪を重ねるのならばその時は……」

 

 

 そこで言葉を切り、男は何かを上に投げた。そして落ちてきたのは、ナイフで一つにくし刺しにされた、二匹の蝙蝠だった。それを見たオババの下の地面は、何やら濃い色がゆっくりと広がっていた。心なしか、衣服も一部分が色濃くなっているようだ。

 冷ややかに一瞥した男は、登場した時とは反対に、消えるように退場した。いや、正確には消えるように見せかけて、周囲の空気に気配が溶け込んだ。その気配遮断は、私たちのが児戯に思えてくるレベル。そこにいるのにそこにいない、そんな感覚なのだ。

 

 

「うむ……皆さん、あと五分ですぞ」

 

 

 トフティ教授が弱々しくそう言ったけど、もう試験という空気ではなかった。アンブリッジの暴虐に教員への襲撃。止めは地形を変える一撃と、いろんな意味でお腹いっぱいな状態だ。

 マーチバンクス教授も察したのだろう。トフティ教授と一緒に解散を言い渡し、明日に備えるよう通達した。翌朝、件の場所を見に行くと、そこにはクレーターはなく、その代わり底の深い、バジリスクも通れそうな大穴が開いていた。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
さぁさぁ、段々クライマックスに近づいてきました。予想通りだった方は何人いらっしゃったでしょうか?
今回マグゴナガル先生は呪詛の治療ではなく、シロウによるアンブリッジ勢力からの保護という形で退出させました。流石に四本は……ねぇ。

次回は久しぶりに外伝と同時更新をしようかと思っております。まだまだ拙い筆と遅い更新周期でございますが、どうぞよろしくお願いします。


さて、今年もサンタコスをして、子供たちに夢を配りますか。




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20. 現か夢か



新年一発目の投稿、遅くなりました。あけましておめでとうございます。
ちょいと親戚が年末年始に立て続けに往生されたので、その葬儀などで時間が取れませんでした。
ようやく全てが滞りなく終えられたので、執筆を再開しました。


それでは皆様ごゆるりと。





 

 

 

 

 翌日ハグリッドの小屋の近くに行くと、やはりというべきか規制線が引かれていた。そりゃそうだ。その場所には底に見えない大きな穴が空いていたのだから。もしかしたら「秘密の部屋」の深さよりも深いかもしれない。加えて穴の大きさはクィディッチ競技場の半分ほどである。ちょっと躓いただけで穴に落ち、二度と這い上がるどころか、落下の途中でショック死するかもしれない規模だ。事態の収拾を付けるためとはいえ、地形を変えるのは少々やり過ぎではないかと思う。けれども、現状これぐらいしか対策がないのは仕方がない。

 朝食を摂り、変身術の試験場に向かう。とは言っても筆記も実技も大広間で行われるため、朝食時間が終わるまで待機だった。結果は上々、ちゃんと普段勉強していたおかげか、筆記はほぼ完ぺきにできたと思える。加えて最後の論述問題は、珍しく己の思想のようなものも記述できるような出題だった。なので私は問われたことへの現在の常識と、私なりの術式に関する考察を記入した。

 実技に関しても、しっかり「O:優」レベルの点数は取れただろう。唯一不安があるとすれば、蟻を爪楊枝に変身させる際、本来ならば木製の爪楊枝にする予定が金属製の爪楊枝に差せてしまったこと。勿論すぐに気づいて正しく木製爪楊枝に変身しなおしたものの、減点対象になっているだろう。それがどれほど引かれるのかがわからないのが現状だ。

 午後は占い学実技と魔法史の筆記だけで、私の「ふくろう試験」は終わる。それからは夏の結果発表を待つばかりだ。明日からは「閉心術」の修業を再開しようとも考えている。

 

 でもここで問題が起きた。

 占い学の試験ではオババが監視している前ではあった。それは問題ない。

 問題は占った内容だ。茶の葉、ルーン文字、水晶玉、タロットなど様々にある売らないから二つを選び、自らを占うという試験内容だ。これに関しては基礎部分が出来ていれば良いと言うものであったから、内容が変でも基本に則っていればいい。そう考えて私は得意なルーンを一つ目に選び、もう一つは水晶玉にした。

 ルーン文字をランダムに選び出し、円状に配列していく。しかしその結果は良くないものだった。ルーンのそれぞれの意味は「力」や「男」などの意味でしかないが、どのルーンと出てきて、どう並ぶかで意味合いが変わってくる。そして私の占いで浮かび上がったのは喪失。何か大切なものを失ってしまうというもの。それが人か物かはわからないし、いつなのかもわからない。

 

 

「ふーむ、珍しいの。こんな結果が出るとは儂も予想がつかなんだ」

 

 

 目の前の教官がそうごちているのも聞こえなかった。

 水晶玉に関しても変わらなかった。今まで特に意識しなくとも、水晶の中の影が何か形作ることはあった。三年生の時は何も見えなかったけど、四年生の時から、低確率でなにか見えることがあった。しかし今回の試験ではいつもと違い、よりハッキリとしたものが目に映った。

 何やら大きな部屋で二人の人間が向かい合っている。老若男女はハッキリしないけど、言い争っているのが見えた。その時点で靄がかかり、一瞬現実に戻された。どうやら私が妙な状態になっていたのだろう。向かいに座っている試験教官が顔を覗き込んできていた。

 

 

「ミズ・ポッター、大丈夫ですかな?」

 

「あ、はい。問題ありません」

 

「そうですかの。じゃあ何か見えましたかな?」

 

「はい、えっと……」

 

 

 口を開いて内容を話そうとしたとき、また玉の靄が変化した。話すことも忘れ、再び微妙なハッキリさの映像が流れ込んでくる。

 どこか屋外、けどすぐそばには巨大な建造物がある。あちらこちらに火花が散り、数えるのも馬鹿馬鹿しい人々が地に伏し、ピクリとも動かない。怪我しているのかそれとも……。

 場面は移り、どこか開けた場所。二人の人間が向かい合い、火花を散らしている。その二人の周りには無数の剣が散らばって落ちている。折れていたり、刺さっていたりと様々だ。そこから少し離れた場所でも、いくつもの人影が手に剣を持ち、激しい剣戟を交わしている。まさしく死闘、負ければ死の世界が広がっていた。

 

 

「……っは!?」

 

「ミズ・ポッター!? 大丈夫かの!?」

 

「……ええ、はい。ちょっとどう話すか考えていただけで。申し訳ありません」

 

 

 そう前置き、最初に見たものだけを話していく。二回目に見えたヴィジョンは話すべきではない、そう私の勘が告げていた。理由までは分からない。でもそれを話すのは今この時、そしてこの人ではないと直感が告げていた。

 

 

「ふーむ。予言か、警告か。お主の視得たもの、他には映っていなかったかの?」

 

「いえ、それだけです」

 

「……良くないものであるのは確かじゃの。信じきれとは言わぬが、頭の片隅に置いておくとよい。試験はこれまでじゃ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

 一つ会釈をし、私は退室した。オババには目もくれず、急いで自室―と言っても女子寝室だけど―に戻り、見た内容を全てメモに書き込んだ。シロウに見せるのは得策じゃない。予言などの類はシロウの専門外、それに内容からしてトレローニ先生やダンブルドア先生に見せたほうがいい。でも今この学校に二人はいない。となると、次に話すときに欠けた部分があってはいけない。そう思いメモを取った。

 

 そして魔法史に試験、そんなモヤモヤしたものを抱えていることと日々の疲れ、そして大広間にいてもわかる外の心地よい陽気に当てられ、問題を解きながらウトウトとしていた。何度か目を覚ますために太ももをつねったりしたけど、それでも迫りくる眠気に抗うことが難しかった。幸いなのは眠気に負けたのが解き終え、見直しも終えたタイミングだったことだろう。私はついに負けて、微睡みに身を任せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――さぁ答えろ!! ■■はどうした!!

 

――知らんな。知っていても話さない。

 

――ほう? 俺様に逆らうのか。『苦しめ(クルーシオ)』!!

 

――ぐっ!? ああああああ!?!?

 

――さぁ吐け!! ■■は何処にある!!

 

――……吐くわけないだろう。

 

――なんだと?

 

――残念だったな。この程度の拷問、あの十二年に比べたらなんともない!!

 

――さぁ殺せ!! 尤も、この場で俺を殺しても意味はないがな!!

 

――貴様ぁぁぁああ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑の閃光が視界を埋め尽くし、そこで目が覚めた。

 私は床に寝転がり、首の傷跡を抑え、汗をかいてべっとりとした感触に襲われていた。床は私の汗で湿っており、私が悶えたであろう軌跡がわかるような様になっていた。そのせいか、周りの生徒は奇怪なものを見るかのような目で、親友二人は心配するような目で私を見ていた。半ば自分の状態を認識しつつも、私は近寄ってくる試験監督を呆然と眺めていた。

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。
大変お待たせ致しました、ハリポタの投稿でした。前書きでもちょっと書きましたが、リアルで少し立て込んでました。私も成人を迎えた身、「いつまでも、あると思うな、親と金」とも言いますから、両親兄弟、そして自分が死んだときにどうするかを勉強させてもらいました。

まぁそれは置いて置きまして。次回からはいよいよアレです。

一つ。俺は同時更新の告知を守れなかった。
一つ。そして理由があったとはいえ、小説の執筆をしなかった。
一つ。そのせいで心広い読者を待たせてしまった。

俺は罪を数えたぜ。さぁお前の罪を数えろ、■■■■。



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21. 状況確認



さてさて久しぶりの執筆作業、実は下書きのデータやメモが消えてしまい、前話と原作を読みながら、その場で書いていっております。
そして今までのを見返していて気づいたこと。フィレンツェやらルーナやら、存在から忘れていたキャラが多数いたこと。
さて、どうしましょうか?





 

 

 

 

 我ながら今情けないほどの阿呆面をさらしているだろう。床に寝転がり、汗で服や床を濡らし、口を半開きにして荒い呼吸を繰り返していれば、誰でも私が今普通じゃないことは分かるだろう。その証拠に、試験官だったトフティ教授が小走りで私の許へと駆け寄ってきた。

 

 

「ポッター!! ミズ・ポッター!! 大丈夫かの!?」

 

 

 駆け寄った教授は、私の肩を叩いて意識があるか確認してくる。そう言えば、マグルの救命措置の出だしも、この意識確認だったなぁ。なんて関係ないことを頭から追い払いつつ、私は教授を見て首だけ動かした。

 

 

「意識はあるようじゃの。どうじゃ、立てるか?」

 

「……はい、大丈夫です」

 

「そうかの。こうなったのも試験のプレッシャーかもしれんの。回答は終わっておるようだが、このまま続けるかな?」

 

「……いえ、申し訳ありませんが、もう退室させていただきます。私の解答用紙は回収して大丈夫です」

 

 

 そう、正直言って意識はあるけど、またいつ何時倒れるか分かったものではない。服越しでも石の床が変色するほどの汗。加えて一か所に寝そべるのではなく、もがき、動きまわってそれなのだから、脱水状態になっていると言っても過言じゃあないだろう。これはさっさと医務室に行き、水分補給をして安静にしなければならない。ダドリーも言っていた、汗を多量にかいたら、水かスポーツドリンクを必ず飲めって。

 

 

「そうかね。ならば医務室に行くといい。そしてしばらく休んでなさい」

 

「はい、失礼します」

 

 

 そんなこんなで、医務室に行って休眠すること一時間。動いても問題ない状態になり、マダム・ポンフリーの了解も出たので、急いで私は寮に向かった。談話室にはロンとハーマイオニー、そして何故かジニーとネビルがいた。まぁネビルは分からないでもない、私の後ろの席で試験を受けていたし。

 問題はジニーがこの場にいることと、これはやはりというべきか、シロウがいないことだ。まぁシロウの不在は今に始まったことじゃない。特に今年はオババガエル絡みで学校を開けることが多い。正直出席日数は大丈夫なのかと心配になるけど、何やら教師陣は黙認しているようだし、オババの授業は休んでいないので、少なくとも変に怪しまれてはいないと思う、たぶん。

 

 

「よかった、大丈夫みたいだね」

 

「ええ、ごめんなさいね。」

 

「問題ないわ。それよりどうしたの?」

 

 

 ネビルの安堵した声を聞きつつ、何故私が転げまわるような事態になったのか、それを覚えている限り、事細かに説明した。勿論念のために、占いの試験で視た予知も話している。

 話し終えると、みんな一様に眉間に皺をよせ、何やら考え込む。とくにハーマイオニーはブツブツと何やら呟いているため、傍から見れば不気味極まりない。

 

 

「……ねぇマリー。私思うんだけど」

 

「うん。恐らく向こうの仕掛けた罠だと思う」

 

「でも貴方の様子を見る限り、わかってても行きそうじゃない」

 

 

 ジニーの言う通り、罠であるとわかっていながらも敵地に赴くのは、火中の栗を拾うかのようだ。でも同時に、ある人物の無事も確かめたいという欲求にも駆られている。

 夢で聞いた会話、あの時拷問されていた男は、十二年の苦しみと言っていた。私の身近にいる人間でそんな体験をしているのは、シリウスさんかルーピンさん、そしてシロウぐらいだろう。ダンブルドア先生等の教授陣も含まれるだろうけど、拷問をしていた男―恐らくヴォルデモートだろう―にそうやすやすと捕まるようなことはないだろう。

 ということは自然とシリウスさんあたりに絞り込まれる。確認したいが、しかしフクロウ便だと遅いし、もっと早い方法を使いたい。だけど、今すぐ使える方法は考えられるだけで二つ。一つは「姿現し」という一種の空間転移だけど、残念ながら私は使えない。もとよりホグワーツには特殊な結界が張られており、ダンブルドア先生と一部教師以外は「姿現し」を使えない。

 もう一つの方法は、「煙突飛行ネットワーク」を使い、顔だけを対象の暖炉にだして確認する方法だ。ただこれまた厄介なことに、今年に入って新たな条例が出て、ホグワーツの煙突飛行は、オババの部屋を除いて、全てオババに監視されている状態だ。それはマグゴナガル先生の部屋や、スネイプ先生の部屋も例外ではない。権力の間違った使い方と言えるだろう。

 

 

「危険を冒すことになるけど、アンブリッジの部屋に侵入しようと思う」

 

「冗談よね?」

 

「冗談じゃないよ。だってあの部屋からじゃないと、監視無しで煙突飛行は使えない」

 

「ばれたら退学どころじゃなくなるわよ?」

 

 

 ジニーとハーマイオニーが必死に止めてくるけど、申し訳ないことにもう私の腹は決まっている。全く、こんな後先考えず、思い立ったら突っ走るところは誰に似たのやら。ああ、私の父親か。

 

 

「協力してくれなんて言わないよ。あくまで自己満足だから」

 

「でも……」

 

「気持ちは嬉しいけど、ね。流石にこんな個人的なことに、手伝ってくれなんて言えないよ」

 

 

 それだけを言い、私はベッドに透明マントを取りに戻った。はてさて、このマントをまさか教師の部屋への潜入に使うことになるとは。嗚呼お父さま、マリーは貴方そっくりの悪い子に育っちゃったみたいです。お母さまごめんなさい、どうやらポッターの血筋は校則違反と深い因縁がありそうです。

 

 

「じゃあ行ってくるね」

 

 

 そういい、私はマントを被って寮から出た。目指すはカエルの魔境、鬼が出るか蛇が出るか。そおれは神のみぞ知ること。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
久しぶりに書いて、しかも下書きなしなのでグダグダになったかも。それにお腹も空きすぎて大して頭も働いていない疑惑。
一応誤字脱字がないか気を付けましたけど、まぁ後から出てきますよね。

さて、次回は何処まで書こうか。それ以前にいつ書こうかということで悩んでおります。

それでは皆々様、ごきげんよう。




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22. 四戦目開幕



さて、一ヶ月ぶりの更新になりました。
というか前話更新した際、お気に入り登録者数がごっそり減りましたねぇ。少し、いやだいぶこれは堪えました。

さてさて五巻クライマックスの序章に入りますが、皆さま、暖かい心でご拝読お願いいたします。





 

 

 マントを被った状態で廊下をひっそりと歩き、防衛術の教室に向かう。基本的に教師の個人オフィスは各々の専門教室に付属しており、そこはそれぞれの寝室にも繋がっている。今丁度他の試験も行われており、オババはその監督に行っている。だから今は目的地には誰もいない。

 ただオババのことだ、何かしら魔法的な見張りや警報を備えているだろう。教室は兎も角、特にオフィスには厳重に張り巡らされているに違いない。だからこその透明マントである。勿論単純に見えなくなるだけなので、匂いや音は消えない。だからそういうものに反応するものを使われた場合、この透明マントも意味を為さないだろう。でもないよりかはマシだろう。

 教室につき、ゆっくりと扉を開く。幸い教室内には警報の類はなく、オフィスの扉前までは難なく辿り着けた。けどすぐにに扉を開けない。杖を取り、扉の鍵穴に杖先を詰めた。

 

 

敵意を(エクスプロラトレス)探れ(・オスティウム)

 

 

 杖先から部屋に魔法が広がり、部屋の中を視ていく。詳しい構造までは分からないけど、この魔法は一定範囲内の、自身に害を及ぼすものを探るのに重宝する。この魔法はスネイプ先生に秘密に教えてもらったもので、意外といろんな場面で重宝する。例えばトイレに変なお化けが潜んでいないかとか。それにこの「自分に害を及ぼすもの」というのは、広義的解釈がされるみたいである。だから警報やマグルのセンサーの類も感知してしまうのだ。

 というわけでこの魔法を使ったのだけど、早速感知に引っかかった。どうやら壁に何かが沢山かけられているらしく、そのうちの一つがオババに異常を通知する役割を持っているみたい。ただこれが魔法力や熱、音に反応するのかわからない。だから煙突飛行を使う場合、それによって発生する炎も感知対象になってしまうだろう。

 そう言えばフレッドとジョージが私たち魔法使い(ウィザード)が使えるよう改変したシロウたちの術式。確かその中に認識阻害も入っていたはず。ならば話は早く、侵入する前に自分から言一定範囲に指定して魔法を使えばいい。そして念のためにマントも被ればいいだろう。

 そう考え、早速自らに認識阻害をかける。そして取り出すのは一本のヘアピン。魔法で開錠すればいいと思うかもしれないが、これがなかなかに馬鹿にできない。魔法使いは、どうしても魔法が便利すぎるために、それに頼ってしまう。勿論無理やりこじ開けれるため、開錠呪文は重宝するけど、それ故に使われた痕跡が察知されやすい。

 ここで使われるのがマグルのピッキングだ。最近はこれが通用しない鍵が一般化されているけど、一昔前の南京錠や錠前などは、実は特別な道具などなくともヘアピン一本で開錠できる。ホグワーツのドア鍵はそれよりもはるか以前のもので、一度中身を見てみたらヘアピンでも十分すぎる程単純な構造をしていた。

 慎重にピンを差し込み、少し上下左右に動かす。すると小さな音ともに鍵が難なく開いた。ゆっくりと開いた扉の先には、毒々しいピンク色の地獄が私を待っていた。

 

 

(……いつ見ても趣味が悪いわね。壁のたくさんの猫の皿も、まさかこれがセンサーの類だったとは思わなかったけど)

 

 

 運よく認識阻害をかけていたものの、皿の猫の目の動きが気になって仕方がない。今は全ての目が外れているけど、いつ何時認識阻害の効力が切れるかわからない。

 急いで暖炉に近寄り、予め購入していた「煙突飛行パウダー」の袋を取り出す。さて、暖炉には既に火が付いており、あとは粉を落すだけ。今回は安否確認だけなので頭だけを向こうの暖炉に出せばいい。確か頭を暖炉に突っ込み、交信先の住所を正しく言えばよかったはず。

 袋から一つまみ粉を出そうとすると、後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返ると、そこにはオババではなく、ハーマイオニーがいた。

 

 

「ハァ、ハァ……間に合ったわ」

 

「ハーマイオニー……なんで?」

 

 

 ハーマイオニーは肩で息をし、私の肩を掴んでいた。どうやら私を止めるために追いかけてきたらしい。私のことを心配して追いかけてきたのだろうけど、そのせいか認識阻害を書けていない。となると結論は一つ、オババに侵入がバレた。こうなると安否確認どころではない。さっさと逃げ出すに限る。

 

 

「……ハーマイオニー、話は後にしよう」

 

「何言ってるの? あなた本当に……」

 

「それ以前の問題。ハーマイオニーは認識阻害かけ忘れたでしょう? 早く逃げないと……『逃げないと……なんですか?』……存外早いこと」

 

 

 逃げる前に、既にオババが帰っていた。壁に視線を向けると、猫は全て飾り皿にいた。しかしよく見ると、暖炉の上に小さい皿が一つあり、そこには陰から覗く猫の絵が描かれていた。成程、あまりにも小さかったから、私の探知にも引っかからなかったのか。

 

 

捕縛せよ(インカーセラス)。さぁ捕まえましたよ」

 

 

 私たちはそのまま縛られ、椅子に括りつけられた。そしてオババと親衛隊に囲まれる形で尋問を受けることになった。色々と質問してくるけど、余りにも見当違い過ぎて、こちらは尋問されているのになんだか気が抜けてしまう。先ほどからダンブルドアの居場所がどうとか、シロウの弱みがどうだとか言っているけど、私たちが知るわけがない。頬を叩かれたり、つねられたりしたけど、知らないものは知らない。

 

「いい加減、吐く気になったのかしら。言いなさい、ダンブルドアは何処にいるの? そしてあの黄色い猿の弱点は何?」

 

「……」

 

「……あくまで白を切るつもりね。いいでしょう、誰かセブルス・スネイプを呼んできて」

 

 

 オババがそう言うと、親衛隊の一人が退室していき、程無くしてスネイプ先生を連れて戻ってきた。室内に入るとき先生は私を一瞥したけど、流石は閉心術のエキスパート、眉一つ動かさずにオババに目を戻した。ついでに言うとオババは気色の悪いニヤけ面を浮かべており、スネイプ先生はずっと無表情だった。

 

 

「これはこれは新校長殿。御取込み中の様ですが、我輩に何か用がおありで?」

 

 

 おおーいきなりジャブを打ち込んだ。以前たまたま耳にしたけど、先生はどうやらオババが嫌いらしい。それを表に一切出さないのだから、本当にこの先生はすごい。

 

 

「ええ。この小娘二人の尋問に『真実薬』が欲しいの。だから持ってきてほしいのだけれど」

 

 

 オババはジャブに気付くことなく、先生に魔法薬を要求していた。「真実薬」は強力な自白剤、一度(ひとたび)飲まされると、全て質問に本当のことを話してしまうと言ったもの。マグルの自白剤よりも絶対に強く、そして魔法薬なので飲用者のメンタル以外には特に体調面で被害はない優れもの。

 

 

「ほう、真実薬?」

 

「そう、それが今すぐ欲しいの」

 

「それは困りましたなぁ。遺憾ながら現在在庫がない」

 

 

 しかしオババの希望は崩れる。スネイプ先生は薬の在庫がないという。あ、オババの米神がピクピクしている。思い通りにならなくて、苛々しているときのサインだ。

 

 

「お忘れですかな? 以前全校生徒の『面談』に使いましたなあ、あるだけ渡せと仰って。使用法をしっかり報告、連絡していたと記憶していたのですが?」

 

「え、ええ。それで全部使ったから新しいのが欲しいのよ」

 

「それはおかしいですな。我輩がお渡しした量があれば、全校生徒に二回ずつ使ってもお釣りがくる筈。まさかとは思いますが、用法を守っていなかった、とでもいうおつもりですかな?」

 

「え、ええと……」

 

 

 おおー、オババが押されてる。というか全部表情に出ている時点で先生にかなうはずがない。それに、真実薬のレシピを以前見たのだけど、あれは本当に作るのが面倒だ。材料が面倒なのも然ることながら、完成の年月も馬鹿にならない。もしあの面談後に一から作ったとしたら、今はまだできていないだろう。

 だから先生がおっしゃることもあながち間違っていないのだ。

 

 

「私は今すぐその薬が欲しいの!! 『真実薬』がないのなら他のものはないの!?」

 

「あるにはありますが、あとは全て毒薬ですからなあ。強力なものとなると飲ませてから自白させるまでにコロリと逝ってしまいます」

 

「……もう結構よ。役に立たないのなら帰っていいわ!!」

 

 

 オババがヒステリーを起こし、先生は表情に出さないものの、疲れたという空気をほんの少しだけ出して退室していった。

 スネイプ先生がいなくなり、本番はここからだろう。オババは薬による尋問をあきらめた。ということは魔法による尋問を行ってくるだろう。この女のことだ、誰も見ていないことをいいことに、違法なことをするかもしれない。

 

 

「仕方ありません。ええ、仕方がないのです。これも大臣を思い、魔法界を思ってのこと……」

 

 

 何やらブツブツ言いながら杖を懐から取り出し、机の上の写真を伏せた。そして妙に据わった目をしながら、私を見つめてきた。

 

 

「そう魔法界の膿を一掃するために。『磔の呪文』ならば、貴方も口を割るでしょう」

 

 

 さて、ここからが正念場かな。

 

 

 






はい、ここまでです。
序盤に出てきた策定魔法ですが、あれは完全に本作品のオリジナルです。「索敵」というラ単語をラテン語に翻訳しただけです。

さて、原作ではスネイプにしかわからない言葉を放ったハリーでしたが、今回マリーはそうしませんでした。理由としましては、スネイプが騎士団員であることを知っているか知らないかで別れたためです。ハリーは知っていましたが、マリーは知らないのでこういう展開にしました。

さてまた次回お会いしましょう。



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23. 暴虐の末




「まさかと思って来てみたが、やはりそうか」

「まぁライダーの前例があるのだ、こうなることは予想できたこと」

「日本の……この世界の『冬木』にこのような淀みがあったとは」

「アテネ、ロンドン、ダブリン、テヘラン、バグダート、ワシントン、ブエノスアイレス。そして冬木」

「八か所を起点にした、星を一周する術式……いや、地球の表面を結んで一つの円とし、完成する術式」

「間違いなく『抑止』が動くな。さて、守護者が来るのか、はたまた……」

「お前、誰だ!! そこで何をしている!!」

「……全くつくづく運のない。たまにここが並行世界ということを忘れしまいがちだ。どうやらオレやアイツよりも幾分か早く生まれていたみたいだが」

「何者だ、答えろ!!」

「……誰でもない。ただの風来坊さ、――君」

「ッ!?」




 

 

 

 オババ、アンブリッジは尋問のために「磔の呪文」を使うと言い放った。確かこの魔法は余りにも残虐非道で、且危険な類のため、使ってはいけない禁忌の魔法にカテゴライズされていたはず。

 流石に聞き間違いと思ったのか、親衛隊の面々も目を見開いていた。

 

 

「……正気ですか? その呪文は禁忌のはず。それに使ったことが知れたら、あなたの立場も危ないのでは」

 

 

 マリーが口を開くとアンブリッジは狂気に染まった目を彼女に向けた。もはやそこに第三者による正誤判断の有無は関係ない。アンブリッジは己こそが絶対だと確信していた。

 アンブリッジはゆっくりと自分のデスクに歩み寄り、大臣の写真が飾ってある写真立てを伏せた。まるで大臣にわからなくするためとでもいうように

 

 

「これは必要なことなのです。今後の魔法界を思ってこその行動。魔法界を脅かす存在を排除するためには、手段を選んではいけないのです。例えばそう、『例のあの人』が生きていると宣う小娘とか」

 

「魔法を使ったという事実は残るわよ? 貴方がいくら政治の権力者でも、この部屋の人間全員が承認になり得る。それとも、二年前と同じく隠蔽する気?」

 

「二年前? なんのことかしら?」

 

「ホグズミード村、縄縛り、お腹パンチで一発KO……」

 

「ッ!? あなた……」

 

 

 ここでアンブリッジの誤算だったのは、マリーが二年前の一件を観ていたことだ。その時居合わせた政府の役人は買収し、大臣の記憶を書き換え、ホグワーツの教員も、この一年で何とか記憶改ざんした。ただし、エミヤシロウの改ざんは不可能だったが。

 しかしあの一件を知るものがもう一人、しかも当事者ではなく、第三者という事態。

 

 

「私を脅迫する気?」

 

「脅迫? さて、何のことやら?」

 

「……自分の立場を理解してないようね」

 

 

 逆上か、はたまた冷静な判断が出来ていないのか。アンブリッジは杖を振り上げ、間髪入れずに「磔の呪文」をマリーにかけた。勿論シロウと違い、拷問に対する慣れなど、マリーは持っていない。全身を筆舌し難い痛みが襲う。およそこの世全ての痛めつけ方を身に受けている様な、そんな錯覚に襲われる。

 自分が声を出しているかさえも分からない。否、息をしているかすらもわからない。だが彼女は未だ正気を保っていた。彼女の意識を繋げているのは、最早意地だけだった。目の前の女に屈しないという、ただそれだけの、小さな少女の意地。

 

 

「はぁ、はぁ……これで少しは口を開く気になったかしら?」

 

 

 アンブリッジも肩で息をつきながら、それでも口元に笑みを浮かべている。「磔の呪文」は、ただ呪文を唱えればいいわけではない。対象を本気で苦しめたい、憎い、恨みがましい、そう言った負の感情を、魔法の発動中に継続して抱かなければならない。

 

 

「……何度も言うけど、私の知る由ないわ」

 

「まだしらばっくれるか。ならもう一度……」

 

 

 アンブリッジが再度マリーを拷問しようとしたが、それは第三者によって阻まれた。

 

 

「やめて!! 話します、私が話しますから……」

 

 

 それはハーマイオニーだった。それに対しアンブリッジは満面の笑みを浮かべ、マリーは信じられないようなものを見る目をしていた。

 

 

「なに? 彼らは何を企んでいるの?」

 

「……武器です。『例のあの人』に対抗しうる武器を作っていました」

 

「武器ですって? 『例のあの人』が復活したなんていうデマでは飽き足らず、そんな危険なものを作っていたと? やはりダンブルドアは魔法界を掌握しようとしていたのね……」

 

 

 ハーマイオニーの唐突な発言にマリーは驚きで声も出なかったが、アンブリッジの妄想の酷さに呆れ、モノが言える状態ではなくなった。たった五年しか接したことはないが、それでもわかる。ダンブルドアは、魔法界支配なんてことを、今は全く考えていないということを。

 

 

「その口ぶりからすると場所は分かっているようね。案内なさい」

 

「……案内するのは構いませんが、その場合先生だけにしていただきます」

 

 

 実際には武器なんて存在しない。ハーマイオニーの策を完璧ではないが理解したマリーは、咄嗟に口を開き、ついてくる人員を指定した。何をするかはわからないが、親衛隊が付いてきたなら、話が余計にややこしくなる。

 

 

「まぁいいでしょう。この小娘たちの杖は没収しているし、縄で縛っているのです。万が一にも、私を出し抜くなんてできないでしょう」

 

 

 そう言ったアンブリッジは親衛隊に下がるように言い、マリーとを連れて外に出た。その際親衛隊も無理にでも同行しようとしたが、アンブリッジは彼らを強制的に帰還させた。自分が彼らの策にはまってしまったことを知らずに。

 城を出て、明かりの灯らぬ森番の小屋を通り過ぎ、三人は禁じられた森の中にまで入っていった。アンブリッジもこの学校の卒業生だろう、しかし彼女がいた頃から森は幾分か変化している。植生は変わらずとも成長、更に芽吹いたもの、生き物の数。その全てが変化しているのだ。

 だからこのような事態になるのは必然だった。

 

 

「二人とも、どこにいるの!!」

 

「こっちです先生。こっちの方向です」

 

「どっちよ!?」

 

 

 夕方のためにほぼ夜のような暗さの森の中に加え、マリーとハーマイオニーは呼吸による気配遮断を使っている。魔法に寄らないこの技術に対し、魔法に頼り切った者は余りにも無力だった。結果、アンブリッジは森に入って数分で迷い、二人とはぐれてしまった。

 

 

「まさか、こんなことするなんてね」

 

「森番がおらず、且穏便に済ませられそうなやり方が、これしか思いつかなかったの」

 

「穏便って。気配遮断で認識できなくし、わざとあっちこっちに移動して余計に迷わせることが?」

 

「まぁそのままさまよい続ければ良し、錯乱して廃人になれば尚良しってね」

 

「ハーマイオニー、あなた時々えげつないことを平気でするわね」

 

 

 遠くで叫ぶアンブリッジの声を聞き流しつつ、マリーとハーマイオニーは気配を隠したまま森の外へと向かっていった。

 

 

 







「お兄ちゃん、この人誰?」

「柳堂寺の大空洞にいたんだ。どうやら俺たち同様、裏に精通しているらしい」

「まぁ君たちのような陰陽術ではなく、魔術という西洋のものだがね」

「そうなんだ……うん?」

「どうした、立香?」

「お兄ちゃん、ちょっとその男の人と並んでみて」

「なんだよ?」

「何かおかしいかね?」

「ん~、やっぱお兄ちゃんとお兄さん、肌と髪色以外瓜二つなんだよなぁ」

「世界は広い、そっくりな者が一人二人いても、不思議ではなかろう」

「まぁそれは置いといてだ。この気配は……」

「ああ、それはオレの専門だ。幸い、場所はオレの本拠地だから、お前たちに被害はいかん」





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24. 焦燥


 さて、およそ二か月ぶりの更新と相成りましたが、正直ちょっと自己嫌悪におちいっています。

詳細は後書きに書いておりますので、まずは本編をどうぞごゆるりと。





 

 無事にアンブリッジを撒いた私たちは、そのまま無人の小屋へと戻ってきた。そしてその前には、ロンとジニー、そして何故かネビルと見覚えのない金髪の子がいた。

 

 

「みんなどうしたの? それとその子は何方?」

 

「君たちがアンブリッジと一緒に森に入ったって聞いて心配で……」

 

「この子はルーナ・ラブグッド、『P.T』のメンバーだった子よ。ネビルについてきたの」

 

 

 ルーナと呼ばれた子はポウっとした表情のまま、私とハーマイオニーに挨拶をする。その様子に戸惑う二人であったが、しっかりと挨拶を返した。

 

 

「で、これからどうするんだい?」

 

「たぶんアンブリッジの部屋にはまだ親衛隊がいるでしょう。幸いって言っていいのかわからないけど、アンブリッジは森の中を彷徨っているわ」

 

「その隙に、もう一度『煙突飛行』を使う。アンブリッジがいない今、彼女のネットワークの監視は意味を為さない」

 

「じゃあ寮の煙突でもできるわけだ」

 

 

 そう結論を出した私たちは急いでグリフィンドール寮に戻った。

 談話室には誰もおらず、懐に入っていた「煙突飛行粉(フルーパウダー)」を一つまみ暖炉の火にに塗して、首から上だけ突っ込む。暖炉の炎は粉によって緑色に変化しているので、熱くとも何ともない。

 

 

「グリモールドプレイス十二番地!!」

 

 

 地名を叫ぶと、視界が目まぐるしく変化していく。頭だけが、せまっ苦しいパイプを遠ている様な感覚を経て、やがて一つの暖炉から顔を出しているような状態になった。

 因みに言うと、これは「部分煙突飛行」と呼ばれるもので、ちょっとしたことを報告したり、手渡したりするのに使える手段である。

 暖炉から首を出した私は、薄暗い部屋を見渡す。一見誰もいなさそうな部屋、しかし物陰でゴソゴソと動く影を見つけた。その姿の膝丈程までの大きさからして、この屋敷のしもべ妖精クリーチャーだろう。

 

 

「クリーチャー、そこにいるの?」

 

 

 私の問いかけに一度肩をびくつかせた後、その影は私の許へと近寄ってきた。予想通り、年配のしもべ妖精だった。

 

 

「……マリナ・ポッター。何故この屋敷に顔を出した」

 

「ええ、ちょっと貴方に伺いたいことがあって」

 

「……お前は他の者どもとは少し違う。内容によっては応える」

 

「ありがとう。この屋敷に、シリウスさんはいるかな?」

 

「……ご主人様は()()()()()()()。聞きたいことはそれだけか」

 

 

 おかしい。屋敷にいるのかという問いに対し、「ここにいない」という返答。この場合、「屋敷にいない」のか「この部屋にいない」のか、その両方の意味合いで受け取ることができる。これは少し踏み込むしかない。

 

「いいえ、今一つ増えたわ。差し支えなければ、彼がどこにいるか教えてもらえないかしら?」

 

「……クリーチャーは答えられない。もういいか? クリーチャーは忙しいのだ」

 

「え? ちょっと待って? もしかしてこの屋敷にいないの?」

 

 

 しかし私に返答することなく、クリーチャーは部屋から出ていった。結局得られた情報は、シリウスがこの場にいないということだけだった。

 生憎シロウと違い、私とシリウスさんでは通信や念話をできる様なアイテムやラインはない。だから彼の安否を今すぐ確かめる方法が無いのである。

 私の予想が正しいのならば、試験中に見た夢で拷問されていたのは、シリウスさんで間違いない。そしてヴォルデモートが求めるものの秘密を、何かしら知っているから捕まった。

 そう考えると、クリーチャーの発言も何かしら想像をすることができる。クリーチャーは脅されているか、はたまたブラック家の血筋のものに収賄紛いのことをされているか。それならば、あの返答にも納得がいく。

 戻ってきた私は直ぐにローブから私服に着替え、寮から出た。出来るだけ人目が付かない場所から出発するために、再び森のほうへ向かうと、何故かみんなが付いてくる。

 

 

「マリー? どうしたの?」

 

「……シリウスが捕まったかもしれない」

 

『ええ!?』

 

「まだ可能性の話だけど、ヴォルデモート視点で拷問されている夢を見た。クリーチャーに確認してもシリウスがいないことしかわからない」

 

「それって罠の可能性は?」

 

 

 私の報告にハーマイオニーがそう言う。横にいるロンとジニーも、同意するように頷いている。勿論その可能性を私も考えたが、もし本当に人質に取られたとしたら、もはや一刻も争う事態なのである。

 

 

「それは考えた。でも予想が本当なら、早く助けないといけない」

 

「助けるって、どこに行く気よ?」

 

「……魔法省。周囲の装飾を確認する限り、たぶん神秘部に囚われてるかもしれない」

 

「そんな、敵の本拠地に攻め込むようなものじゃない!? 今の魔法省は貴女を魔法省から排除しようとする人たちばかりでしょう?」

 

「うん。だから私一人で行く。本当にこれ以上は私の我儘に付き合わせれない」

 

「そんな!?」

 

 

 一人で行こうとするを私を、みんなが引き留めた。そして口々に、私に同行すると言い始めた。そしてその中の一人であるルーナ。何分あの集まりのメンバーとは聞いたものの、ここまで付き合う理由がない。今日が初対面みたいな少女が、私の都合に付き合う義理はない。

 

 

「ねぇルーナ? なんで私に着いて来ようとするの? これは私の我儘なのに」

 

「わたし? 私が付いていきたいのは私のためだよ?」

 

「ルーナのため?」

 

「お母さんが言っていたわ。迷ったら自分の心に素直になりなさいって。私は貴女を手伝いたいって思った。だからそれに従うのよ」

 

 

 口元に微笑を浮かべながらそういうルーナ。他のみんなも口を開かないけど、彼女と同じ思いなのだろう。真っすぐに私を見つめている。何度も説得しようとしたけど、結局は私が折れることになってしまった。

 

 

「で、みんなで行くのはいいけど、どうやって行くの? 私一人なら箒で行こうと思っていたけど」

 

「たぶん大丈夫じゃない? ほら見て」

 

 

 ここでなぜか私たちと一緒にいたルーナが、森のほうを指差す。みんながそちらに目を向けると、森から七匹ほどにセストラルが出てきた。どうやら先ほど森を移動しながらついたかすり傷から、血の匂いがしていたらしい。私の頬に近づけ、舌で舐めだした。なんだかえもいわれぬ感触に襲われ、一瞬だけ身震いする。

 

 

「それで、何がいるんだい?」

 

「みんなには何が見えているの?」

 

 

 ロンとジニーが私とルーナ、ネビルを見つめて聞いてきた。そう言えばセストラルは見える人と見えない人がいるのだったか。とりあえず私含めてロン、ハーマイオニー、ジニー、ルーナ、そしてネビルの六人のため、セストラルの数は足りている。見える人は自分で乗り、見えない人は私たちが誘導して触れさせ、騎乗させた。

 念のため、気配遮断の魔法を全員にかけて回る。セストラルは死を見る以外に、魔法使いであることが視認の条件だ。それはスクイブであろうとマグル生まれであろうと関係ない。だから街中を飛んだり、道に待機させても問題はあまりない。

 

 

「えっと、魔法省外来入口でお願い。……わかるかな?」

 

 

 私は行き先を指定したけど、暫くセストラルは動かなかった。行き先分からなかったかな。

 そう思ったのは束の間、セストラルは一声嘶くと、その竜のような翼を広げ、一気に上昇した。その速さと安定性は二年前に乗ったヒポグリフの比ではなく、まるで箒に乗っているような感触だった。

 この時の私には、もう一度煙突飛行を使い、屋敷に全身で訪問するという選択肢を忘れてしまっていた。そしてもう少し思慮深ければ、あのような思いをしなくて済んだのだ。

 

 

 





 はい、ここまでです。
 ルーナとのファーストコンタクトは原作とは大きく乖離し、こんな終盤になってしまいました。
 同行する理由ももっともらしいものを書いていますが、たぶん突っ込みどころ満載かもしっれません。



 さて前書きに書いた自己嫌悪の内容ですが、私の更新方法にあります。
 前話までは全てアウトライン制作、それをもとに下書き、投稿執筆過程で削除追加しておりました。
 しかし以前どれかの小説でも述べた通り、それらすべてのデータが紛失、消去されてしまいました。そのため、私の投稿しているダンまち小説と完結小説以外の全ての更新予定内容が大元から変更されています。
 今回のこの話も覚えている限り元に寄せて書いておりますが、内容は思い出せずとも元から変わっているという場面もございます。
 勿論読者様は「そんなこと知る由なし」と思われるかもしれませんが、これは少々更新速度にも影響を及ぼしておりまして。

 今まで以上の亀更新、不定期更新となってはしまいますが、どうぞ私めの拙い小説を
よろしくお願い致します。



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