零れ落ちた行く先は (yalie)
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第一話 鉄くず以下のF.N.Girls 


※この作品はフィクションであり、実際の出来事やゲーム、人物などとは関係はありません。

艦隊これくしょんという作品群でなく、艦隊これくしょんというゲームの二次創作です
主成分:ゲーム要素・妄想・鉄・油・弾薬・火・汚れ・海・あらぶる物理法則さん・命を無視された艦娘さん・トレーラー並みのぶつ切り・句読点

ご注意:この作品には以下のものは含まれて い ま せ ん
提督・鎮守府・やさしい世界・オリ艦・友情・熱血・勝利・かわいさ・大本営・改二・恋とか愛とかエロとかカッコカリとかそういうあまいもの・連載






 

 

 

 

 「艦娘諸姉。私達の先達たる貴女方に、我々はお詫び申し上げる」

 

 鎮守府。適正のある民間人が統括する、領海と公海にまでその防衛戦力派遣の認められた戦力。

 

 「諸姉達は見事務めを果たし九段で休まれていたのだろう。あるいは、堤の礎となり我が国を見守り続けてくださっていたのだろう。それをこうしてお呼び立てし、再度力を借りようなどと厚恥の極みである御願いをしなければならぬ我々は、到底許されるものでない」

 

 だが、適正があるからぽいと放り込まれた戦場で一般人に期待などできよう筈もない。

 

 「如何なる訓練も、如何なる演習も、如何なる鍛錬も。我々に望まれるものは全て乗り越えてきた。それだけの気概と身体を我々は磨き上げてきた。それは、国防を担う者の義務であり同時に私達の願いでもあるからだ」

 

 では国が保有する戦力に割り振ることはできないのか。できなかった。どれほどの個人許容量と適正をもっていても、国家と国民は軍をもう一度もつことを許せなかったから。

 

 「しかし、我々の力では到底足りないのだ。悔しさに銜えた指を食いちぎらんとしても、我々ではいけなかったのだ」

 

 それ故に、文民統制という名の下で、艦娘の管理は行われることとなった。

 

 「だから、どうか手を貸して頂きたい」

 

 民間人の正等防衛を盾にした武力行使。必要最低限の航路を切り開く経済活動の一環。知識が足りないゆえに、侵略にまでは手の届かない戦略。様々なお題目が飛び交った。

 

 「我々には勝利は与えられない。我々と居ては自由は与えられない。我々では取り戻した諸姉達の生存を確約できない。我々と共に往く諸姉達には、惨めで恥じるべき敗戦を共に重ねて頂く他に道が無い。それでも、それでも」

 

 疑問に思ったことは無いだろうか? いくら突破しても無限のように湧いて出てくる敵艦の姿。いくらその海で勝ちを誇ったとしても目を離せば制圧など無かったように道中を埋め尽くす敵の群れ。

 

「我々は勝ち続けなければならない。我々に負けることは許されない。皇国の興廃は、明日の窓辺の光は、我々が背負い守り抜かねばならぬ」

 

 あるいは、撤退の判断のみで帰投が無事に行われる、その歪さに。

 

 

 

 「我々が行うのは、撤退戦である。

 最良をもぎ取り続ける義務のある遅滞戦である。

 隣の友よりも背後の狡兎を守り抜かねばならぬ負け戦である。

 そして無事戻ったとしても支援のために再突入する挺身隊である。

 

 それでも我々はゆく。だから、どうか手を貸して頂きたい。

 

 例え如何に困難があろうとそれが我々に求められる誇りなのだ。

 例え如何に犠牲を嘆こうとも我々の後部には守るべき民草がいるのだ。

 例え如何に無力で柵に囚われていようと、それが我々の仕事なのだ。

 

 どうか御願い申し上げる。例え一秒であっても、仲間の命を永らえさせるために」

 

 

 

 

  ―― 撤退戦線、異常ナシ

 

「ッぶはぁ! 」

 大波に被った海水を払いのけ水の滴る髪をかきあげる。

 ゴォン、と海面を穿つ硬質な発射音とドゴン、とぶちまけられる海面の着弾音が無数に鳴り響き、戦場に果てはまだ見えない。

 着弾の大波はうねり、かつての鉄の塊のような安定など望めない。駆逐艦娘の小さな身体では巻き込まれて一瞬で転覆してしまう荒れた海。それも四方八方から予測の出来ない頻度で襲い掛かるのだ。艤装のアシストすらない二本の足では、立つことすら儘成らない。嵐の中に浮かぶ木の葉のようなものだ。

 それでも、彼女はその戦場に立っていた。艤装を伴わない強制発動による疲労は赤などとっくに越えた。高低差を掻き分ける全身運動で胸から下は崩れ落ちそうな倦怠感。一度止まってしまえば最後という自覚がある。握り締め続けた手は固まってしまったが、指一本、引き鉄さえ引ければいい。まだ敵に背中を見せるわけにはいかないのだ。

 本来の装備を剥ぎ取られ、艤装を近代化改修という何かの餌にされ、雀の涙の資材と引き換えに鎮守府を引き払われたといえ、艦娘とは艦<ふね>だ。艤装などなくとも彼女の本質は変わらず勇壮な駆逐艦であり、艤装の補助など無くとも海に出ることは出来る。そうでなければ名に背負ったかつての艦に、人に、同じ海のどこかで戦っている私達に、会わせる顔がない。

 

 戦況は? 乱暴に袖で顔を拭い、すばやく視線を走らせる。

 周囲には隊の仲間がいたはずだ。かつての隊とは違えども、今世では似たような状況に置かれ、苦渋を舐めて尚戦意と牙を研ぎぬいた仲間がいる。酸欠でぼやけかけた思考の中、帰れるかと尋ねた仲間に帰るんだと返した出発前の約束が過ぎる。

 大波の間。航跡。砲火。いずれかの痕跡でも見つかれば、

 

『第22出撃隊、応答セヨ』

 

 ノイズ混じりの無線。やすっちい使い捨てのような連絡機。

 

『第22出撃隊、貴艦ヲノゾイテ既ニ反応無シ。アト2分保タセヨ』

 

 それは、絶望の連絡。そしてまた再開される戦闘の合図。

 

「『あ"ああアアアアアアアアアあ! 』」

 

 了解の意の代わりに咆哮を上げる。持ち重りのする12センチ単装砲を膝でかち上げ目標も計算も放り投げてぶっ放す。それだけが沈んだ仲間のために出来る追悼の意だった。

 黒煙の中心を火と鉄が駆け抜けていく。その煙がやけに眼に染みる。悲しいくらいに青い空。

 ほんの少しの間だけ収まっていた砲撃音が再開される。敵はこちらの生存と位置を把握し、また果断の無い砲撃の雨を降らせることだろう。それでもよかった。むしろ、この戦いにおいては作戦目標に叶う行為だ。

 片足を上げたことによりバランスを崩す。水面に触れる足は砲火の衝撃で後ろに流れ、このままでは顔面から水面にむけて転倒することだろう。だが、その慣性を無理やり前に押し倒し、上げた足をそのままに発進、着水させる。直角ターン。上半身を捻って最大戦速まで乗せる。船では出来ない挙動だ。艤装を背負う艦娘の発動でも出来ない。だが、艦であり人型である彼女には可能な動き。

 

 彼女は、正しく敵に対する撒き餌のようなものだった。

 

 こちらの位置をあえて知らせ、魚雷も満足な砲も持たぬまま海上を進み、時間を稼ぐためだけに注目を引きつけ回避に徹する。守るために突っ込んで進ませない。それだけが役割だった。

 これは、「鎮守府」に所属する「正規の艦娘」達の艦隊が撤退するまで敵を食い止めるためだけの戦闘だ。追撃を行わせないためだけに、叶うはずのない艦隊を相手に時間を稼ぐことだけを考えた戦闘だ。

 ちゃちい装備は回収を考えない申し訳程度のもの。用いられる要員は鎮守府から用無しとされた元・艦娘。

 分類上の『一般人』を守り抜くためのどうしようもなく末期的な作戦群。

 

 それでも、誰かがやらねばならないことだ。

 

 無情な指揮であっても、何もかもが足りなくても、帰り道を走るかつての仲間を見送ってでも、やり遂げる価値はあるのだ。

 帰っていく仲間達は錬度を上げ、いつかは深海棲艦を一掃し暁の水平線に勝利を刻むかもしれない。此処で稼いだ時間の分だけ、誰も守る者が居ない誰かと本土を守ることが出来ているのかもしれない。彼女の持つ何もかもを捧げることで、どこかで誰かの希望と明日に繋がるのかもしれない。たったそれだけのための戦いだ。

 

 風が頬を滑り、海水と硝煙と諸々に浸った髪を流す。自身の航跡の後には敵が打ち込み続ける砲弾の雨が追いかけてくる。波に取られそうな足を逆に大波の端に引っ掛けて宙返り。遠く、敵の赤が揺らめいているのが見えた。

 ひねりを終えて着水。うねる波の角度を使って加速。谷間に入れば今度は中ほどまでを登ったところで横へ方向転換し波に乗るように超えていく。

 

 懐かしい。

 

 胸を過ぎったその懐かしさに口元が歪んでしまう。

 ただの一戦に持てる全てを賭け、至誠を尽くし、お行儀なんて蹴飛ばし無茶をやり抜いて、劣勢など知らぬとばかりに命を燃やす。それは、かつての艦がそうであったような状況ではないか。

 僅かに音が遠くなる。流れる景色が遅いような気がして、でも身体で感じる速度と空気の圧力は変わらず力はまだみなぎっている。そうか、意識が加速するって、こういうことか。

 唐突な理解と共に、時間の感覚が怪しくなる。さっきの通信から何分経った? 追加で送られてくる部隊は? あとどれだけ時間を稼げば良い? 疑問が閃光のように頭を過ぎ去っていく。そのとき、

 

 目が、合った。

 

 昆虫のような白目の無い赤眼。どこを捉えているのかわからないはずなのに、そいつの意識がこちらを捉えたのだとその殺気の鋭さで理解する。

 何時近づいたのかわからない。元々やつらは音の少ない移動をする。砲撃音の激しい水上戦も加えて、やつらの静けさは、潜水艦のそれにも匹敵するだろう。

 いやそれよりも、周囲は波の干渉しあって出来た空白地帯。うっかり迷い込んだのかそれとも誘い込まれたのか。距離は既にゼロ距離射撃のキルレンジ。何か、何か手は、いやもう間に合わない。

 こちらを向いた砲塔から火花とともに砲弾が発射されるのが見えた気がした。身を守る物は無い。これが、詰みか。

 

 

 

 視界が白く染まった。

 

 

 

 そして同時に遅れて届いたように聞こえる砲撃音と、水のうねる音。割り込んだ何者かが跳ね上げた水の防弾幕。大量の質量が瞬間的に水に叩きつけられればおきる、大波。水の質量に押された砲弾のほんの少しのズレは、ほんの少しだけ命を繋ぐ。

 砲弾は命中するはずの頭をはずれ、頬と僅かに髪を掠め後方に沈んでいった。

 

「砲ォゥ撃よぉおーい! 」

 

 反射的に腕を上げる。死んでも繰り返した骨身に刻まれた動作。がむしゃらな先程のものとは違い、正確に相手を狙う、最後に与えられた牙。

 しぶきが水面に落ちていく。日光に輝くそれは、カーテンコール。

 

「てぇえ! 」

 

 僅かに残った飛沫を吹き飛ばし、全霊を込めた砲弾が敵に喰らいつき、噛み千切る。

 

 

 

 

 

 

 

 





―挨拶より抜粋


「ようこそ予備隊支援艦娘隊群へ、鉄屑以下の価値しかない役立たず共。

 キラ付けの的にされて捨てられたか?
 それとも建造でハズレだったか?
 はたまた近代化改修だかで装備と艤装を剥ぎ取られた?
 あるいはレア度なんていうつまらない基準でクビになった?
 安心なさい。ここでは全て意味が無い。来歴も錬度も誇りさえ。
 一度の出撃に消費される燃料弾薬にすら足りないのが私達の価値だ。

 艤装を担う歴戦の艦娘としての認識など捨ててしまえ。
 私達に与えられるのは廃棄とされて集められたものばかり。
 ちり紙交換にも劣る命のリサイクル。
 特別攻撃さえも望めない肉を持って盾と為す。それが私達だ。

 心配せずとも明日にはまた次が来る。だから安心して沈め。
 此処には特別な能力を持つヤツなどいない。皆同じだ。だから沈め。
 一日でも生き残ることが出来れば僥倖だ。誰も褒めちゃくれないけれど。

 だから。だからこそ私達は踏み台になる。
 明日への。かつての仲間の安全への。正当な私達の魂を継いだ彼らのための防波堤になる。
 一水戦の精神で、ニ水戦の戦いを、天号のように果たし続ける。
 徹頭徹尾戦い抜くだけだ。やることは何も変わってない。出来るだろう?」




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