不幸な人生を歩んだ俺は死んでからも無能勇者にしかなれなかったらしい (larme)
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有能な仲間を作ろう

過大要求法を皆さんはご存知だろうか?

一般的な交渉術の一つで詐欺の手段としても使われることがあるらしい。

本当にどこにでもありふれているもので、普通に説明されたら、誰もが納得してしまうことだと思う。

この俺も生前にこの手段を用いた軽い詐欺に20回は引っかかった。

まあ、ここから、俺がこの手法を用いてみよう。

 

周りには西洋風の煉瓦造りの家が並んでいる。

ガヤガヤと騒がしい酒場の前である程度の情報を仕入れた俺はある人を探していた。

その人のことを簡単に説明するなら、この街一の魔法使い。

単独行動を好むらしいので、仲間に引き込むなら手っ取り早く、そして、強い。

そんなに簡単に済む話ではないような気はしないがな……。

探している人物は案外簡単に見つかった。

さて、ここからどのように話しかけるか……。

その少女は果物のようなものを袋に詰め、重そうに持ち歩いていた。

都合よく一つ落としてくれればそれを拾って話しかけられるのだが。

うーん、どうしよう。

何かいい方法がないかと試行錯誤していたら、なんと、その少女を見失ってしまった。

しまった、と慌てていると幼く高い声が目の前の低いとこから響いてきた。

 

「ちょっと、あんた! さっきから私のことを見てたでしょ!?」

「え?いや、はい……」

 

あまりにも突然のことで驚いてしまった。

 

「言い訳あるなら、そこの酒場で聞くわ」

 

そう言って幼い手、小さな体で俺の手を引っ張っていった。

酒場の前ではガヤガヤと騒がしかった声が一層増した。

エリーゼ様に手を出してるアホな男がいるぞ

という声があちこちから聞こえてくる。

なんだかんだで街一番。ものすごく強いのだろう。

酒場前のガヤガヤは自然とザワザワに変わりそれは酒場の中まで続いた。

 

「で、目的は何?」

 

目的って……。

さっきから少女、少女と言ってきたが、目の前に座られてみると完全に幼女。

言い過ぎかもしれないが、小学校高学年から中学1年くらいの体つきだ。

そんな子供が目的なんていうと少し笑えてきてしまう。

そう考えていると、その幼女と目があうとキッと睨んできた。

 

「今、こんなチッセーのが何言ってんだって思ったでしょ!!」

 

ばれた。すごく怒ってる……のだけど、小さい体をピョンピョン跳ねさせながら怒りを表現してる姿が可愛らしい。

 

「あんた、ますますバカにしたような表情になってるよ。私ね、こっちの隠り世に来てからもう4年経つんだからね! あんた、その服装的にまだ、1日か2日くらいでしょ?」

 

なんか、勝ち誇られてる。でも、確かにそう。こっちの世界に来てからまだ、2日でよくわからないことが多い。

そして、この二日間、何一つとして口に含んでない。

そのことを再認識するとさらに空腹が増してきて、気分が悪くなってきた。

 

「ちょ、あんた、顔色悪いわよ?」

「うううう……」

「ほんと、大丈夫?」

「な、なんでも……いい」

「ん?何よ?」

「飯を……飯を恵んでくれ……」

 

2日ぶりの飯に箸が進んで進んで仕方ない。

ただの白米しか恵んでもらえなかったがこれほどおいしい白米を食べたことがないくらいうまい。

空腹は本当に最高のスパイスだ。

 

「ストーカーに飯を奢るってどんだけ私、お人好しなのよ」

「ホント、バカだよね。ロリっ子さん」

「あんた、急に毒舌ね」

 

そう言って俺のご飯を奪う幼女。

 

「急にと言われてもな。俺も体力が減ってなければこんな情けないことにならなかった」

 

幼女の手からご飯を奪い返す。

 

「じゃあ、その口で説明してもらおうかしら。私をストーカーしていた理由を……」

 

お、本題か……。

確かに理由がなく探していたわけではない。

この酒場で話を聞いて集めた情報の結果、この幼女にたどり着いたのだから。

 

「率直に言おう。俺と魔王討伐をしてくれ」

「はあああああ!?!?」

 

もちろん、そんなつもりはない。この世界での魔王というのは人間との平和協定を結んでいるらしく戦う意味がほとんど皆無らしい。

ほとんどとつける理由は一つ。

魔王の無意識下で強力な魔力から生み出される魔物が野生の状態で好き勝手暴れることが問題になっている。

でも、その野生の魔物はそれぞれの街の勇者たちによって討伐されているのでなんら問題なく平和に暮らせているのだ。

だから、魔王討伐なんてバカみたいなことをする必要なんて全くないのだ。

 

「あ、あんた、自分が言ってることの意味わかってる? 私のことを調べたってことはこの世界での魔王の立ち位置も知ってるのよね?」

「あ、ああ」

「はぁ?」

 

ホントに何言ってんだこいつって表情をしてる幼女。

でも、これは過大要求法への下準備。

いうならここからが本題。

 

「魔王討伐が無理なら俺とパーティを組んでくれ」

 

これで過大要求法が成立したはず。まあ、自分が誰かに使うのが初めてなものだからうまくいったかよくわからないが……。

過大要求法とはまず、ホントは要求していないような、絶対に承諾されないような大きい要求をぶつける。もちろん、相手は拒否をする。その後にそれに比べるととても簡単な本来の要求をぶつけそれなら仕方ないと承諾させるものだ。

これは日常の中にもよく見られるだろう。

そして、この戦法を使ったからにはこの幼い幼女はイチコロで承諾だろう。

 

「うーん。魔王討伐に比べたら多少は賢い交渉だけど……。私が単独行動を好んでることくらい知ってるわよね? あんたと組んで私に何か得あるの?」

 

え? 承諾してくれないの!? このパニックが顔に出ないように頑張りつつ、次の手を考えている。

俺が引っかかった詐欺……。

希少性……!

 

「俺と組んだら、唯一の魔力値0の勇者と組めるぞ」

 

希少性を示したが……。

当然これに食いつくはずもなく。

 

「ま、魔力値0って……!?」

 

でも、驚愕の表情を浮かべている。

かくいう俺も驚愕だ。冒頭からあれだけ引っ張ってきた過大要求法がこんなにあっさり破られたのだから。

 

「少し、あんたに興味がわいたわ」

 

……!? 希望の光が……!

 

「でも、簡単には仲間にはならないわ」

 

ですよねー。

世の中そんなに甘くない。こんなこと現世で散々思い知ったわ。

 

「うーん。私、魔術師としてのランクはAあるのにいい武器がないのよね……。だから、あんた、3日以内に私のためにSランク武器を持ってきなさい」

 

Sランク武器……。それぞれの街に一つあるかないかと言われている武器で、SSランクに次いで強力な武器とされている。

正直、普通に考えて無理な話である。

 

「その間だけならご飯も賄ってあげるわ。私の家の部屋も貸してあげる」

 

……! 悪い条件じゃない。2日間の空腹はできる限り味わいたくない。

 

「それ、乗った」

「わかった。じゃあ、ついてきなさい」

 

すると、さっと立ち、金だけを置いてずかずかと歩いていく幼女。

それに慌てて立ち上がり後をつける俺。

街はまだ騒がしい。ザワザワにガヤガヤがかさなり、一層うるさい。

そんな人ごみの中幼女を見失わないように追いかける。

 

「あ、私の名前はエリーゼ=グレヴィ」

「じゃあ、エリでいいか?」

 

すると、突然足を止め少し考えるようにしてから幼女が振り返った。

 

「3日後に一緒にいたらそう呼んでくれて構わないわ」

 

そう言って再び歩き始めたが、また、その足を止めて振り返った。

 

「あ! あんたの名前と……。現世の話も聞いていい?」

「名前は……思い出せない。好きにつけてもらっても構わない」

 

忌まわしき記憶。それを忘れることがなく、自分の名前なんてどうでもいいことだけ忘れてしまうなんて。

自分の現世の記憶なんて残ることがなければなかったらよかったのに……。

 

「……現世のことは3日後に一緒にいたら……」

 

すると、何かを察したように頷き、俺の顔を見つめて幼女は言った。

 

「なら、3日後が楽しみね」

 

そう言って微笑んだ。その笑みが非常に子供らしく、可愛らしかった。

街はまだまだ騒がしい。現世ではこんなに楽しい雰囲気を味わったことがなかった。

ハプニングに次ぐハプニングでもあったような気がするが平和すぎるこの世界が俺にとっては優しい気がした。



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Sランク武器を手に入れよう

Sランク武器は人間の力で作り出すことは不可能である。

魔王の生み出した魔物の体内にあることがほとんどであり、その魔物を倒すことでなぜか体内から直接、武器の形をしてあらわれる。

ランクの高い武器というのはイコールで持ち主の魔力を増幅させる力の量である。

これは人間にだけ当てはまることではなく、魔物の体内に含まれてる場合も同じであり、ランクの高い武器を体内に含んでいる魔物は強力な魔力を持つ。

つまり、ここに来て2〜3日の俺がこんなにレベルが高い魔物を倒すのはほぼ不可能。

ましてや、俺には魔力がないのだ。

さらに勝てない可能性が増す。

……じゃあ、どうするか。

頭を使う。これしかない。

昨日、3日以内にSランク武器を手に入れるという約束を幼女としてから今まで情報集めをしてきたのだが、わかったことはいくつかある。

まず、武器にも種類があるということ。

まあ、普通に考えてそうなのだけどそれぞれの人がそれぞれに特化している武器があって、Sランクともなるとその武器の種に特化している人しか扱えないらしい。

エリーゼは魔法に特化していることを考えると扱える武器は杖か魔道書だと思われる。

そして、もうひとつ。

この街にもSランク武器を扱っている人がいるらしい。

剣に特化したその人物は相当な剣技を持ち合わせていて、魔力値も相当高いらしい。

その剣士が今、クエストに出ているため、俺は昨日の酒場で待っている。

クエストの受注も酒場で行っているため、必ずここに戻ってくる。

昨日あれほど騒がしかった酒場だが、今の昼という時間帯には人がポツポツとしかいなく、閑散としていた。

静かな酒場だからこそ昨日は気づかなかった木製のテーブルや椅子の傷が目立つ。

そんな静かな酒場が少しざわつき始めた。

ある男がクエストから帰ってきたらしい。

その男の左肩に深い傷がうかがえる。

そいつはカウンターでクエストの報酬を受け取るとサッサとその場を去ろうとした。

その時に俺の席の前も通ったのだが、剣の柄と鞘のデザインの差に少し違和感を覚えた。

まあ、そんなことより間違いない。

俺が探していた人物はこいつだ。

俺はその人物に話しかけることはせず、酒場のカウンターに向かった。

 

「あの、さっきの人が受けたクエストの内容、確認させてもらってもいいですか?」

 

俺はその日はもうしばらく情報集めをして、次の日また、街に出た。

幼女と決めた、3日という期間。正確には明後日の夜10時が締め切りだ。

その期限を守るため、俺は昨日の男との接触を試みた。

街の中を歩き回っていると案外簡単に見つけ出すことができた。

前回、幼女に話しかけるときは少しミスをしたが、今回は違う。

1日という考える時間で俺はどのようにこの男から武器をとるのかを考えた。

まあ、昨日のこいつの様子とクエストの内容からもう、武器を持っていない可能性が高いのだが……。

俺は冷静にその男に近づき、目の前にたった。

そして、一言。

 

「昨日のクエスト、大変だったみたいだね」

 

すると、男の顔色が変わったのが明らかに伝わった。

恐怖心を煽る。詐欺の基本的なテクニックだ。

だから、俺はさらに続けた。

 

「昨日、あなたが犯したミスを知っている。名声を落とされたくなかったら少し話をしないか?」

 

男は目を見開き、俺の発言に怯えながら頷いた。

俺が昨日調べた、こいつの情報。

この男はプライドが高いらしい。クエストはほとんど1人でいき、モンスターに関しては討伐にこだわっているらしい。

しかし、昨日は違った……。

俺は男を連れ、酒場に入った。

俺はこの段階で一石二鳥の作戦を考えていた。仲間をいっぺんに2人手に入れる方法。

 

「君は、昨日、キマイラの討伐に失敗してるね」

 

これは自分の推論だった。

クエストの内容がキマイラの討伐or封印。

この世界でのクエストでの封印というのはどこかの洞窟の中でモンスターにバインド魔法をかけ、さらに洞窟の出入り口に結界を張る。

結界はモンスターが中から外に出ることもできないし、魔力を持つものなら人間でもモンスターでも中に入ることができない。

そして、この男は討伐ではなく、その封印を選択した可能性が高い。

男の動揺の色が強くなったところを見ると、間違いないらしい。

 

「で、君、武器をキマイラに食われた……だろう?」

「い……いや、そんなことは……」

「明らかに違うんだよ。昨日持ってた鞘と今日の鞘」

 

すると、慌ててその鞘を手で覆い隠す男。

わかりやすい男である。

恐怖心を煽るのはこのレベルでいいだろう。

次のステップへ進もうか。

 

「で、俺はあることさえ約束してくれたら、このことは誰にも言わない」

「あることって……?」

 

恐れながらも聞いてくる男。もう、落ちたも同然なんだが、なんか、かわいそうになってきた。

仲間になってもらうために返報性の心理を用いよう。

 

「本当は仲間になってもらいたかったんだけど、そんなに簡単にお願いすることはできないだろう。だから……」

 

俺は紙にある場所の住所を書き込み渡した。

 

「明日の夜の10時にここに来てくれ。ここでSランク武器を返してやる。そうしたら、仲間になってくれ」

 

すると、ばんと机を叩いてその場で立つ男。

プライドの高いこいつを一方的に攻めるのは間違いだったか?

俺にも少し焦りが出てきたが、そいつがむすっとした顔をして

 

「わかった」

 

と、少し納得がいかないようにその場を早足で去っていった。

さて、ただでさえ静かな酒場が緊張のせいかさらに静かに感じる。

明日はキマイラと戦う。多分、Sランクを取り込んだキマイラに普通に魔力を用いて勝つことは不可能なのだろう。

しかし、結界の中でバインド魔法をくらっているキマイラにだったら、俺なら勝てる。

俺が集めた情報を総合した結果、そのはずなのだ。

俺は覚悟を決めると、明日に備えて体力を蓄えるために酒場を後にすることにした。

気がつくと日はすっかり落ち、酒場はよるの賑わいを見せていた。

自分の初のクエストがSランク武器を取り込んだモンスターとの戦い。

緊張しないわけがない。



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