第二次スーパーロボッコ大戦 (ダークボーイ)
しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP01

「磁場、重力場、双方に異常発生を確認。時空湾曲前兆と推測」

「規模はCレベル、現状では脅威無しと判断」

「前回から更に期間が短縮、大規模行動の前兆の可能性、上昇」

「本部に連絡、対策を協議されたし………」

 

 

 

AD1946 扶桑 海軍ウィッチ養成学校

 

「いつからだ?」

「つい先程です、坂本教官」

 

 僅かに伸ばした髪を後ろで括り、海軍士官服に身を包んだ凛々しいという表現がぴったり来る女性の背後、まだ幼さの残る顔つきの兵学校の制服に身を包んだ、長髪の少女が続く。

 

「他に異常は?」

「今の所は………皆怖がって必要以上に近寄りません」

 

 つい先程、教官室に飛び込んできた少女に告げられた異常事態に、士官服の女性、元501統合戦闘航空団副隊長、坂本 美緒少佐はそれが起きた格納庫へと急いでいた。

 開きっぱなしになっていた格納庫の扉を潜り、そこに広がっていた光景に美緒の足が止まり、それを凝視する。

 

「坂本少佐!」

「こ、これは一体………」

 

 美緒の姿を見た教え子の訓練生ウィッチや、練習用ストライカーユニットを整備していた整備員達が一斉に声を上げる。

 それは、漆黒の渦としか言い様のない物だった。

 直径は2m程、それが格納庫の中央に突如として垂直に出現し、そのまま存在していた。

 見た事も無い異常な現象に、誰もが怯えている中、ただ一人それを見た事の有る美緒は総毛立つのを感じていた。

 

「誰かこれに入った者は?」

「い、いえ………」

「では逆は? 何か出てきたという事は?」

「あ、ありません………」

 

 美緒の質問に、訓練生ウィッチや整備員が首を左右に振る。

 少し考えてから、美緒はこの事態を教えに来た少女が首にかけていた汗拭き用と思われる手ぬぐいを手に取る。

 

「服部、少し借りるぞ」

「あの、何を…」

 

 服部と呼ばれた少女が困惑する中、美緒はその手ぬぐいを渦へと向って投げる。

 ゆっくりと宙を待った手ぬぐいは、そのまま渦の中へと飲み込まれ、そして消えた。

 

「!?」

「う、後ろに出てきてないぞ!」

「消えた!?」

「というか、飲み込まれた………」

 

 明らかに渦の中に消失したとしか思えない状況に、皆が一斉に困惑の度を深める。

 ただ一人、美緒だけはそれがかつて見た物と同じだという事を確信していた。

 

「格納庫を緊急閉鎖! 動かせるウィッチとユニットを全部待機体制! 上層部に非常事態発生を報告、宮藤博士に第一級招集を!」

「は、はい!」

「坂本少佐!? まさかあれは!」

 

 皆が一斉に驚く中、遅れて格納庫に入ってきたまだ若い男性軍人、美緒の従兵を務める土方 圭介が一度だけ見た事のあるその渦に身を硬直させる。

 

「土方、ちょうどいい。宮藤博士は今休暇で自宅にいるはずだ。すぐに迎えに行ってほしい」

「あの、何と言って来てもらえば………」

「………《門》が開いた、と」

 

 そう言いながら美緒は、その渦、かつて幾多の世界を跨いだ激戦の元となった転移ゲートを、睨むように見つめていた。

 

 

 

太正十八年 帝都東京 大帝国劇場

 

 万座の客席から、割れんばかりの拍手が鳴り響く。

 先程公演を終えた出演者達を称える拍手は、その公演の評価をそのまま評価していた。

 ゆっくりと幕が降ろされ、それでもなおしばらく鳴り響いていた拍手も収まった所で、ようやく出演者達は顔を上げる。

 

「お疲れ様でした~」

「おつかれ~」

 

 この時代では珍しい、多種多様な国籍の出演者達が互いに労をねぎらい、声を掛け合う。

 そこに、一人の若い男が現れる。

 

「みんな、ご苦労様。最終公演は何時にもまして盛況だったよ」

「大神さん!」

 

 短く刈った髪を撫で上げ、ベストにスラックスという格好の男性、大神 一郎が皆に声をかける。

 この大帝国劇場の支配人の職を前任者から受け継いでまだ一年と経っていないが、試行錯誤ながらも出演者達、帝国歌劇団の女優達と共に、劇場を盛り立てていた。

 

「本当に今日はすごかったですね~」

 

 主演を務めた黒髪の二十歳位の女性、真宮寺 さくらが今だ熱気が残っていそうな幕の向こう側を見る。

 

「ロミオとジュリエットのリバイバル公演も、好評の内に終わって何よりです」

 

 もう一人の主演を務めた、短い金髪に男装の衣装を纏った落ち着きのあるロシア系の女性、マリア・タチバナが笑みを浮かべて安堵する。

 

「ね~ね~お兄ちゃん、打ち上げ準備出来てる? アイリスお腹空いちゃった」

 

 フランス人形そのままのような姿と雰囲気を持った金髪の少女、アイリスことイリス・イリス・シャトーブリアンが大神にねだってくる。

 

「はっはっは、それもそうやな。もっとも片付け終わってからやけど」

 

 そう言いながらアイリスをなだめるメガネをかけた中国系の女性、李 紅蘭が今だ舞台衣装のままの皆を見回す。

 

「とっとと着替えて飯にしようぜ。あたいも腹減っちまった」

 

 その場の中でも一際高い上背と日焼けし鍛えた体を持つ女性、桐島 カンナが笑いながら腹を抑えてみせる。

 

「皆さんせっかちデ~ス。公演成功のお祝いに、豪華にいきまショウ、豪華に」

 

 褐色の肌に黒髪で少し変わった口調のラテン系の女性、ソレッタ・織姫が皆を煽る。

 

「それだと時間がかかる。本格的なのは後日行うとして、まず簡易的な物を行うのはどうだろう」

 

 白髪で少年に見えるようなドイツ系の少女、レニ・ミルヒシュトラーゼが提案を出してくる。

 

「大丈夫、かえでさんが準備してくれてるそうだから。早く着替えておいで」

『は~い』

 

 大神の一言に、彼女達は一斉に楽屋へと向かっていく。

 

「さて、オレも打ち上げ準備でも…」

「支配人が板に付いてきたわね」

 

 その場を離れようとした大神に、舞台の反対側の袖から現れた、妙齢の女性が声を掛けてくる。

 

「かえでさん、まだまだですよ」

 

 その女性、大帝国劇場の副支配人を務める藤枝 かえでに苦笑を返す大神だったが、そこで彼女の隣にもう一人いる事に気付いた。

 

「そんな事ないわ。男ぶりが上がったわよ」

「琴音さん! 帰ってきてたんですか?」

「今日ね。最後の方だけだけど、舞台見させてもらったわ」

 

 やたらと華美な旅装束で女言葉でしゃべる男性、元この大帝国劇場のメンバーの一人だった清龍院 琴音が大神へと話しかけながら、かえでと大神のそばへと近寄ってくる。

 

「斧彦さんと菊之丞さんも一緒ですか?」

「今打ち上げの準備をしてるわ。二人も舞台、絶賛してたわよ」

「みんなのお陰ですよ」

「今回の変更点は大神君の発案でしょう? 充分頑張ってるわよ」

 

 大神を賞賛する二人だったが、ふとその顔が引き締まる。

 

「今回、私達が急に帰国したのは、ある理由があるの」

「打ち上げが終わった後、その事で話があるわ」

「!」

 

 二人の言葉に、大神の顔つきも鋭くなる。

 それが、この大帝国劇場に所属する帝国歌劇団のもう一つの役割に関する事だと悟った大神だったが、すぐに二人の顔は柔和な物へと戻る。

 

「まずは私達の帰国記念も兼ねて、打ち上げ楽しみましょう」

「それがいいわね。急ぎという訳でもないから」

「一郎ちゃ~~~ん!!」

 

 その場の雰囲気をぶち壊すような、野太い男の声が響き渡る。

 

「斧彦さん!?」

「どうしたの斧彦? あんた打ち上げの準備してたんじゃ」

「そ、それが大変なのよ、大変!」

 

 角刈りに大柄でいかつい体格、なのに女物のメイクに内股で女言葉、というちょっと悪夢に出てしまいそうな異質な男性、琴音と共に帰国した大田 斧彦が明らかに慌てふためいている。

 

「何が大変なの?」

「いいから! 私達の部屋に来て! とても説明出来ないのよ!」

 

 かえでが首を傾げるが、斧彦のこれまで見た事無いほどの狼狽ぶりに、大神と琴音も顔を見合わせる。

 

「仕方ないわね、お二人共ちょっといいかしら」

「別に構いませんが、一体何が?」

「そもそもあそこは、また倉庫にしてたはずよ?」

「いいから早く!」

「ちょ、引っ張らないで! 腕! 腕が!」

 

 大神を強引に引きずっていく斧彦の後を、二人も慌てて続き、地下へと続くエレベーターから倉庫となっている一室へと向かう。

 

「一体何が…」

 

 半信半疑の大神が、部屋に一歩入ると同時に、完全に硬直する。

 

「ちょっと、どうしたの?」

「大神君?」

 

 琴音とかえでが硬直して動かない大神の左右から室内を覗き込み、二人も同時に硬直した。

 

「な、何よあれは………」

「分からないわ………」

「あ、大神さん! かえでさんも! あれ、さっきからあんな…」

 

 大神同様絶句する二人に、室内にいた女性にも見える小柄な上に女物の服を来た男性、丘 菊之丞がそれを指差した。

 それは、倉庫の中に浮かぶ、直径2m程の漆黒の渦だった。

 

「何なのよあれ! なんで私達の部屋だった場所にあんなのがあるの!?」

 

 混乱した斧彦が思わず叫ぶ。

 誰も説明は出来ない、と思われたが、ただ一人、口を開いた者がいた。

 

「ゆらぎ、いやまさか、クロスゲート………」

「大神君、知ってるの!?」

「多分………でも何と言えば………」

 

 かえでが問い質す中、大神が言葉を濁す。

 

「あっ!?」

 

 そこに菊之丞が上げた声に皆がそちらを見る。

 そして、渦の手前でゆっくりと床へと落ちていく一枚の手ぬぐいに気付いた。

 

「そ、それ今その渦の中から出てきました!」

「私も見たわ!」

「………」

 

 菊之丞と斧彦が驚愕の声を上げる中、琴音は渦の手前まで近寄り、その手ぬぐいを手にとって見る。

 

「濡れてる、しかも汗の匂いがするわ。感じから行って、多分若い女の子ね」

「………そんな所まで分かるんですか?」

「香水使わなくて済むのは10代の女の子までよ。覚えておきなさい」

「はあ」

 

 琴音の断言に大神は感心するべきか呆れるべきか迷うが、そこで琴音はポケットから無駄にフリルの多いハンカチを取り出すと、それを渦に向って投じる。

 宙を待ったハンカチは、渦に触れたかと思った瞬間、そのまま渦の中へと消えていった。

 

「き、消えたわよ!?」

「この渦、どこかに繋がってるんですか!?」

 

 悲鳴を上げながら抱き合う斧彦と菊之丞だったが、他の三人の顔は鋭い物となっていた。

 

「大神君」

「かえでさん、花組の皆を呼んできてください。薔薇組の人達はこれの監視をお願いします。オレはちょっと刀を取ってきます」

「………つまりこれは、危険な物という事かしら?」

「そう、かもしれません」

「分かったわ、斧彦は右、菊之丞は左からあれを監視警戒」

 

 険しい顔つきの大神に、琴音は小さく頷くと素早く指示を出す。

 

「それで、何が起きようとしてるのかしら?」

「………分かりません。ただ、見た事も無い物を見る事になると思います」

 

 琴音の問いに、大神はそう答えるしかなかった。

 程なくして、着替えて一息つこうとしていた帝国歌劇団の面々が、倉庫の一室に集う。

 

「これって………」「司令、これは!」「なになに?」「何だぁ!?」

 

 誰もが謎の渦に驚く中、一人だけ違う反応をする者がいた。

 

「大神さん、これってまさか………」

「多分間違いない、クロスゲートだ」

「司令、クロスゲートとは?」

 

 さくらがその渦に似た物を大神と共に見た事が有るのに気付いたが、マリアがその事を問い質す。

 

「少し前、オレとさくら君が少し留守にした事が有っただろう?」

「ええ、急な任務と後から聞きましたが」

「それは半分ウソなんだ。とても本当の事を明かせなかったから、そういう事にしたんだ」

「何だよ隊長、あたい達に明かせない事って?」

「それは…」

 

 カンナが不思議そうに問う中、大神がどう説明するかを迷った時だった。

 

「また来ました!」

 

 菊之丞の声と共に、今度は渦の中からレンチが飛び出してくる。

 

「最初は手ぬぐい、次が帽子、今度はレンチね」

「何か、そこらにある物適当に放り込んでるみたいね」

「それはこっちも同じでしょ」

 

 斧彦の率直な感想に、レンチを拾い上げた琴音が返答のつもりか、身につけていたブローチを外すと、渦の中へと弾いて入れる。

 

「間違いない、このクロスゲートはどこかに繋がっている」

「どこかって、どこに………」

「分からない。だから調査を…」

「面白そう♪ 次アイリス行ってみる!」

 

 大神とさくらがどうするべきかを思案する中、突然制止する間も無く、アイリスが渦の中へと飛び込んだ。

 

「アイリス!?」

「消えたぞ!」

「司令!」

「皆はここで待機だ! オレが行く!」

「待ってください大神さん! 私も今刀を…」

 

 誰もが突然の事で慌てていた。

 だが………

 

 

AD1946 扶桑 海軍ウィッチ養成学校

 

「うわっ!?」

「何!?」

 

 突如として、渦の中からフランス人形のような格好をした少女が現れ、渦を警戒していたウィッチや整備員達が仰天する。

 現れた少女は左右を見回し、首を傾げる。

 

「ここどこ?」

「ここは扶桑の海軍ウィッチ養成学校だ。君は?」

「アイリス!」

「私は坂本 美緒だ」

 

 美緒も多少驚いたが、名乗った少女、アイリスに美緒も名乗る。

 

「君はどこから来た?」

「帝都の大帝国劇場! アイリス帝国歌劇団の女優なの!」

「大帝国劇場? 誰か保護者は?」

「ん~と、じゃあお兄ちゃん呼んでくるね!」

 

 そう言うや否や、アイリスは再度渦の中へと飛び込む。

 

「…その保護者とやらに会ってくる」

「けど教官! 危険じゃ…」

「あんな小さな子が一緒なら大丈夫だろう」

 

 制止の声に軽く答えながら、美緒も渦の中へと入っていった。

 

 

 

「戻ってきた!」

「アイリス無事…」

 

 今しも飛び込もうとする寸前、渦の中からアイリスが現れる。

 だが、続けて現れた軍服姿の若い女性に、全員が目を丸くする。

 

「あれー、お姉ちゃん着いて来ちゃったんだ?」

「不躾な訪問、失礼する。私は扶桑海軍所属、坂本 美緒少佐だ。ここの責任者にお会いしたい」

「自分が、そうです。ここの支配人、大神 一郎です」

 

 美緒が名乗ったのに、大神も名乗る。

 

「互いに聞きたい事は色々あるだろうが、まず二つだけ聞いておきたい。一つは、この渦を今まで見た事があるかどうか。もう一つは、ここはなんらかの軍事施設ではないか」

『!?』

 

 美緒の問いに、その場にいた全員が一斉に緊張する。

 

「クロスゲートの事を知っているんですか?」

「クロスゲート? こちらではそう言うのか?」

「そっちでは違うんですか?」

「こちらではただ転移ゲートとだけ呼んでいた。つまり、これがどういう物か知っているんだな?」

 

 大神とさくらの問いに、答えつつも美緒はそれが向こうに既知の物だと確信する。

 

「知っているのは、オレとさくら君だけだ。君もこれに関する事件に巻き込まれた事が?」

「事件? そんな生易しい物ではなかったな。それで二番目の…」

「坂本教官!」「ご無事ですか少佐!」

 

 美緒の言葉を遮るように、渦の中から武装したウィッチ候補生や整備員達が顔を覗かせる。

 

「何事!?」

「なんだあんたら!」

「大神君!」

 

 思わず身構えた帝国歌劇団に、大神も刀に手を伸ばしかけるが、そこで美緒が渦から顔を覗かせた者達を手で制する。

 

「あ~、お前達、こっちは大丈夫だから頭を引っ込めろ。すまない、驚かせてしまったようだな」

「しかし…」

「あ、いや服部。お前はこっちに来い」

「り、了解」

 

 身構える歌劇団に美緒は頭を下げ、一番最初に顔を出した少女がおっかなびっくりに渦の中からこちらに出てくる。

 

「まずはこちらからだな。このゲートの向こうは扶桑陸軍のウィッチ養成学校の格納庫に繋がっている」

「ウィッチ、魔女?」

「見せた方が早いな。服部、魔法力発動。そうだな、彼を持ち上げて見せろ」

「了解です」

 

 敬礼した少女、ウィッチ候補生の服部 静夏は全身に力を込める。

 すると、静夏の全身を燐光が多い、その頭部に四国犬の耳が、腰に尻尾が生えてくる。

 

「え?」

「耳と尻尾が出たぞ!」

「これは一体………」

「それでは、失礼します」

「え?」

 

 誰もが困惑する中、静夏はその場で一番大柄で体重が重そうな斧彦の前に立ち、漂ってくる化粧品と香水の匂いに若干頬を引き攣らせながらも胴を両手で掴むと、彼の体を自分の頭上まで軽々と持ち上げて見せた。

 

「ウソォ!?」

「すげえな、これは」

 

 持ち上げられた斧彦が驚き、その場で一番の力自慢のカンナも感嘆の声を上げる。

 

「これがウィッチの力の一端だ。そちらも、似たような事が出来るのではないか?」

 

 静夏が斧彦を床へとゆっくり下ろす中、美緒の問いに大神が少し迷ってから口を開く。

 

「ここは大帝国劇場、帝国歌劇団の本拠地であると同時に、帝都防衛の秘密組織、《帝国華撃団》の基地でもある」

「やはりか。劇場の支配人が自分なんて軍人名乗りは使わないからな」

「大神君!?」

 

 機密事項をあっさりしゃべった大神に、かえでが驚くが大神は手で制して続ける。

 

「やはり、この渦の向こうは異世界に通じてるという事か」

「分かっているなら話は早い。確かに、ここがその華撃団の世界なら、向こうはウィッチの世界という事になる。ちなみに西暦で言えば1945年だ」

「こちらは大正十八年、西暦では1927年になります」

「あの、異世界って………」

「そもそも18年も未来ってどういう事よ?」

「え~と、なんて言えば………」

 

 話についていけないかえでと琴音が声を上げる中、さくらがどう説明するべきかを迷う。

 

「似ているが少し違う、そういう世界が存在する。それこそ、この世界には華撃団がいるように、私達の世界にはウィッチがいる。他にもいろんな世界がそれぞれ存在しているという事だ」

「坂本教官、何を…」

 

 こちらも事情を飲み込めない静夏が問おうとするのを、美緒が手で制す。

 

「そして、私の経験上、これを潜った先に敵がいて、戦闘になる」

「確かに、そうだった………」

『!?』

 

 美緒と大神の意見が一致し、全員に最大の緊張が走る。

 

「しかし、私が見た転移ゲートはもっと巨大で、しかも一瞬しか開かなかった」

「そういえば、クロスゲートもそうだったな………それに、今の所帝国華撃団はそちらと敵対する理由は無いし」

「てっきり私は敵がこっちから来るのかと思っていたが、違うようだ」

「じゃあ、これは?」

「分からん………」

 

 そこで互いに考え込んだ所で、その場を妙な音が響く。

 

「なあ隊長、アタイ腹減ってんだけど」

「アイリスも!」

 

 腹の虫を響かせたカンナに、アイリスも同意する。

 

「あ、食事前だったか。それは済まなかったな」

「そう言えば打ち上げの事をすっかり忘れてた」

「確かにそうね」

「どうやらずいぶんと間の悪い時に来てしまったようだな」

「大丈夫のようだから、皆は打ち上げに行っててくれ。オレはもう少し話がある」

「え~、お兄ちゃん来ないの?」

「どうせなら、ちょっと狭いけどここですればいいじゃない。聞きたい事も色々あるようだし」

「それもそうだな」

「そうと決まれば、斧彦、菊之丞。ここ片付けなさい」

『了解!』

「服部、彼らを手伝え」

「了解です、坂本教官」

「じゃあお料理運んできましょう」

「飲み物もね」

「いいんだろうか?」

「ここで打ち上げも面白そうデ~ス」

 

 皆が三々五々に準備を始める中、美緒は少し考えていた。

 

(こちらに転移ゲートが出現したという事は? 他の世界にも?)

 

 

 

AD2085 日本 追浜基地

 

 広大な敷地に滑走路と僅かな建物だけが並ぶ、簡素と言ってもいい基地に、大勢のギャラリーが押し寄せていた。

 

「うわあ、結構来てるね」

 

 茶髪ボブカットの元気そうな少女が、居並ぶ軍将校やマスコミを前に声を上げる。

 

「ソニックダイバー隊のラストフライトだもの。これでも少ないって」

 

 その隣にいる小柄で長い金髪の幼い印象を与える少女が、腕を組んでふんぞり返る。

 

「そう考えると、少し寂しい気もしますね」

 

 灰色の髪をツインテールにした大人しそうな少女が、ぽつりと呟く。

 

「音羽、エリーゼ、可憐、そろそろ準備よ」

『は~い』

 

 黒髪を後ろで束ねてポニーテールにした、生真面目そうな軍服姿の少女に三人が返答する。

 かつて、人類を滅亡させるかの勢いで侵略してきた侵略機械兵器群《ワーム》のコアを浄化し、人類滅亡の危機を救った伝説の部隊、ソニックダイバー隊。

 それぞれの道を歩み始めた四人の少女達が共に飛ぶ最後の時間が、刻一刻と迫っていた。

 

「あの~、瑛花さん。亜乃亜ちゃん達来てます?」

「そう言えば見てないわね。正式に招待状は送ったはずだけど」

 

 元気そうな少女・桜野 音羽の問いに、軍服姿の少女・一条 瑛花が首を傾げる。

 

「急なお仕事かもしれませんね。向こうも忙しいみたいですし」

「案外寝坊してたりして」

 

 おとなしそうな少女・園宮 可憐が心配するが、金髪の少女・エリーゼ・フォン・ディードリヒがいじわるそうに笑う。

 

「必ず行くからって昨日言ってたんですけど………」

「確かに急な任務かもしれないわ。Gの事はこっちからじゃ全く分からないし」

 

 かつて共に戦った戦友、表向きは存在が秘匿された組織に所属する友達の事を思いつつ、四人はラストフライトの準備へと向かう。

 

「よ~しお前ら、偉いさんも来てる事だし、気合いれていけよ!」

『は~い』

 

 フライトジャケットを着た中年男性、元ソニックダイバー隊指揮官、冬后 蒼哉大佐が葉っぱを掛けるのを、四人が声を上げる。

 

「それじゃあスカイガールズの最後のお披露目と頑張っていこう!」

「はい!」「お~!」

「後輩も見てるしね。カッコ悪い所は見せられないわよ」

 

音羽が音頭を取る中、瑛花はそう言いながら、向こうで準備を手伝っている少女達、設立したばかりのソニックダイバーレスキュー隊候補生達を見る。

 そこでふと、瑛花は空の方を見つめる。

 

「まさか、RVでこっち向ってるって事無いわよね………?」

 

 

 

「寝坊したああぁぁ~!」

 

 悲鳴とも絶叫とも取れる声を響かせながら、高度なステルス機能を働かせた小型の戦闘機のようなユニットを駆る少女が急いでいた。

 伸ばした髪を二つに分けて長いお下げ髪にした少女の背後をそれぞれ形は違うが、似たようなユニットに乗った三人の少女が続く。

 

「だから任務が終わったらすぐ帰ったらよかったのよ! 亜乃亜がショッピング行こうなんて言うから!」

 

 淡いピンクの髪を後ろでくくってポニーテルにした少女が、先頭を行く少女に声を荒らげる。

 

「だってエリュー! せっかくニューヨークの間近まで行ったんだから、ちょっとくらいいいじゃない!」

「時差って物を考えなさい!」

 

 そう言い返す先頭の少女・空羽 亜乃亜に、ポニーテールの少女・エリュー・トロンが言い返す。

 

「でも、さすがニューヨーク。すでにスィーツ関連も復興してきたし」

「美味しかった」

 

 二人の背後、長い金髪を二つのお下げにし、他のと比べると随分とファンシーなユニットを駆る少女がその時の事を思い出し、一番最後、短いお下げに眼帯という妙に目立つ割に口数の少ない少女が頷く。

 

「これで電車の時間間違えてなければ問題なかったんだけど」

「亜乃亜が悪い」

「マドカもティタもひどい!」

 

 金髪の少女・マドカと眼帯の少女・ティタ・ニュームが立て続けに文句を言い、亜乃亜が言い返すが、その通りなのであまり強くは言い返せない。

 

「まったく、リーダーが許可出してくれたとはいえ、RVを私用で使うなんて………」

「トゥイー先輩も来ればよかったのに」

「本部に呼び出されたって話だけど」

「要件不明」

 

 この場にいないリーダーのジオール・トゥイーを含めた五人が、秘密時空組織「G」グラディウス学園ユニットに所属する天使と呼ばれる戦士達、かつてソニックダイバー隊と共に激戦を戦い抜いた戦友達だった。

 

「あ、始まってる!」

「これ以上はまずいわね。停止を」

 

 亜乃亜が曲芸飛行の噴煙を見つけた所で、エリューの声に全機が停止する。

 

「やってるやってる♪」

「綺麗な飛び方」

 

 音羽の騎乗する《零神》、瑛花の騎乗する《雷神》、可憐の騎乗する《風神》、エリーゼの騎乗する《バッハシュテルツェ》の四機の飛行外骨格が、見事なアクロバット飛行を繰り広げている。

 周辺に悟られぬよう、距離を置いた所からその光景を見つめる四人だったが、ふと思い立って通信スイッチを入れた。

 

「こちらG。通信許可いいですか?」

『あ、亜乃亜さん? 今どこいるんですか? 皆して来ないって心配してたんですよ』

「ゴメン、タクミさん。ちょっと寝坊しちゃって、今そちらから500m程離れた所から見てる」

『了解、ソニックダイバー隊に繋げますね』

 

 タクミが仲介して、双方の通信ウインドゥに互いが写される。

 

『亜乃亜ちゃん! 来てくれたんだ!』

「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

「亜乃亜が寝坊して亜乃亜が電車の時刻間違えた」

「ちょっとティタ!」

『予想してた通りね』

『まさか本当にRVで来るなんて………』

「リーダーが急ぐなら使っていいって許可を取ってきてくれて。後で問題にならないといいんですけど」

『ちゃ~んと見てる? 私達の最後の大舞台なんだから』

「録画もしてるよ~」

 

 互いに連絡は取っていたが、直に話すのは久しぶりの戦友達の会話に華が咲く。

 

『ソニックダイバー隊各機へ。緊急連絡です』

『タクミさん?』

『今周王博士から連絡が入りました。アイーシャが目覚めたそうです』

『アイーシャが!?』

「それ本当!?」

『全て異常無し、アイーシャはもう大丈夫。あの子のためにも、思いっきり飛んで欲しいとの事だそうです』

「良かった~」

 

 ワームとの最終決戦の際、昏睡状態に陥っていた仲間の嬉しい知らせに、ソニックダイバー隊、Gの天使達が歓喜の声を上げる。

 

『アイーシャのためにも最高のフライトにしなくちゃね』

 

 瑛花の声に、ソニックダイバー隊は全員頷いた。

 

「頑張って!」

 

 天使達も声援を送る中、ソニックダイバー各機は更に速度を上げていった。

 

 

同時刻 秘密時空組織『G』本部

 

「これは………」

『ここ一ヶ月、次元変動が活発化しています。近い内に大規模な次元災害が起きる可能性が上昇と判断されます』

 

 本部に呼び出されたジオールは、そこであるデータを見せられ、驚愕していた。

 

「半年前、あの時との類似点は?」

『複数認められます。ただ、現状だと被害報告はありません』

 

 Gオペレーションシステムのオペレッタからの報告を、ジオールは深刻な表情で聞いていた。

 

「こちらだけで済めばいいのだけれど………スカイガールズは今日がラストフライトと聞いてるし」

『影響の予測は不確定です。次元変動の要因を現在調査中』

「あの子達が戻ってきたら、こちらでも調査に出た方がいいわね………」

 

 ジオールが考え込んだ時の事だった。

 突如としてけたたましい警告アラームが鳴り響く。

 

「何!?」

『大規模な次元変動を確認! 次元間大規模転移の可能性大! 反応場所をサーチ!』

 

 オペレッタの報告が響く中、投影された3Dマップが次元変動の場所をサーチ、拡大していく。

 

「ここは、まさか!?」

『反応場所を特定。場所は日本 追浜基地』

「そんな!?」

 

 

 

「あれ?」

 

 ソニックダイバー隊が最後の大技に入ろうとした時、一番最初に気付いたのはエリーゼだった。

 

「どうしたのエリーゼ?」

「なんか、曇ってきてない?」

「これ、雲じゃなくて霧?」

「待ってください! この気象条件で霧なんて…」

「そもそもこの高度よ!?」

 

 周辺を急に白い霧が漂い始めた事に、全員が気づくが、それがおかしい事にも即座に気付いた。

 

『な、なんですかこの霧!?』

『今周辺状況のサーチを…』

『音羽ちゃん!!』

 

 タクミと七恵も驚く中、突然亜乃亜の声が響き渡る。

 

『こちらのセンサーで大規模な次元変動を確認したわ! 何かが起きる!』

『跳んでくるか、跳んでいくか』

『すぐに退避して!』

『飛行中断! すぐに着陸しろ!』

 

 天使達の矢継ぎ早の警告に、冬后は即座に中断を命令するが、それよりも状況の変化の方が早かった。

 

「! 風速及び気圧の変化の確認!」

「見てあれ!」

 

 可憐が風神のセンサーが異常を知らせる事を叫ぶが、そこでエリーゼが周囲を指差す。

 そこでは、立ち込めていた霧が渦を描くように回り始めていた。

 

「全機急降下! 強行着陸用意…」

『待ってください! アイーシャが何か伝えてきています!』

 

 危険を察し、強行着陸を試みようとした瑛花だったが、そこへ七恵の声が響く。

 

『え、何て…呼ばれてる!? 何が!? え、そちらでも何が…』

 

 七恵にしては珍しい要領を得ない通信だったが、その状況でも渦巻く霧は速度を増し、完全な竜巻と化して上空のソニックダイバーごと、追浜基地を包み込んでいた。

 

 

「音羽ちゃん! 可憐ちゃん! エリーゼ! 瑛花さん!」

「今救助に…」

「ダメ!」

 

 ただならぬ事態に隠密性を捨てて救助に向かおうとする亜乃亜とエリューをマドカが止める。

 

「何で!?」

「空間グルグル、見た事無い方法」

「とんでもない湾曲反応! こんなのデータにも無い!」

「外から入ったらすごい危険。近寄れない」

「でも!」

 

 ティタとマドカが見た事も無い転移現象の危険を示唆し、亜乃亜を止める。

 そんな中、霧の竜巻は更に強さを増していく。

 

「全機退避を!」

「でもスカイガールズの皆が!」

「周辺の湾曲率が一番高いわ! RVでも巻き込まれたらただじゃすまない! ここで私達が行動不能になったら、誰が彼女達を助けるの!」

 

 半ば己にも言い聞かせるようにエリューが叫び、強引に皆を下がらせる。

 そんな中、霧の竜巻は更に激しさを増していった。

 

 

「磁気反応に異常発生! これは、あの時と一緒、いえもっと強い!」

「またどこかに跳ばされるっての!?」

「ええ~~!?」

 

 可憐の報告に、エリーゼと音羽が思わず声を上げる。

 霧の竜巻はさらにその強さを増し、周辺を凄まじい豪風が吹き荒れる。

 だが、程なくして豪風は消えていった。

 

 

「皆無事!?」

「こっちは大丈夫!」

「一体何が…」

 

 RV各機から鳴り響いた警報も止む中、天使達が顔を上げる。

 そして、そこに広がっていた光景に絶句するしかなかった。

 

「え…………」

「何も、無い…………」

 

 それは、何も無い平野だけが広がっていた。

 つい先程まで見事なアクロバット飛行をしていたソニックダイバーも、その下に広がっていた追浜基地とそのギャラリーも、何もかもが無くなっていた。

 

「うそ………音羽ちゃん! 可憐ちゃん! 瑛花さん! エリーゼちゃん! どこ!?」

「こちらエリュー、大規模転移現象を確認! スカイガールズが………追浜基地が消失しました!」

 

 亜乃亜の友を呼ぶ声が響く中、エリューが大慌てでG本部に緊急連絡を入れる。

 

「………誰?」

 

 ふとそこで、ティタが虚空を見上げる。

 何者かが見ていた事に気付いたのは、彼女と、もう一人だけだった………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP02

太正十八年 帝都東京 大帝国劇場

 

「なるほど、巫女としての役割と併用するため、演劇を行う、か。かつてウィッチにもそういう者達がいたらしいが」

「世界規模で侵略者との戦争か………こちらも下手したらそうなっていた可能性もあるな」

 

 打ち上げのご馳走が振る舞われる中、美緒と大神は真剣な顔で互いの状況を確認していた。

 

「似て非なる世界とは言った物ね。そちらの方が深刻みたいなようだけれど」

「いや、まだマシなようだ。前に一緒に戦った者達の中には、世界地図その物が変わってしまうような激戦をしていた者達もいた」

「それって一体………」

「あの~」

 

 琴音とかえでも真剣な顔で話を聞く中、同席していた静夏が恐る恐る手を上げる。

 

「どうした服部?」

「私達、こんな事していてよろしいのでしょうか?」

「これなかなか美味しいデ~ス」

「そっちの回して~」

「それあたいが狙っていたの!」

「本場物のコカコオラなんてどこから?」

「はいはい皆慌てないで」

 

 取り敢えず危険は無いと判断した華撃団、ウィッチ双方が先程の緊迫感と裏腹に、打ち上げを楽しんでいた。

 そう言う静夏の手にもジュースの入ったグラスが、目の前には打ち上げ用の料理が分けておかれ、のみならず、先程から転移ゲートの向こうからウィッチ候補生達が急遽用意した料理やお菓子を持ち込んでいた。

 

「問題はそこだ。前は跳ばされたらすぐに戦闘に巻き込まれたが、こちらだと今の所その様子は無い」

「帝都は平和その物だ。異常はどこからも報告されてない」

「いえ、そうじゃなくて…」

「まあまあ、難しい事はこちらに任せて、貴女は楽しみなさい」

 

 口ごもる静夏に、琴音が強引に盛り上がってる華撃団の方へと静夏を押し出す。

 

「はあ………」

「お~い、早く食わねえと無くなっちまうぞ~」

「追加作ってきます?」

 

 盛り上がってる者達を横目で見ながら、琴音が真剣な顔をする。

 

「坂本少佐、ひとつ聞きたい事があるわ」

「何だ」

「大神司令にも聞くけど、これと似たような事が前にもあったのね? 一つ聞くけど、それってどれくらいの規模だったのかしら?」

「規模?」

「私達見たの。あれはエジプトにクレオパトラの美容法を調べに行った時の事よ」

「そんな所まで行ってたの………」

 

 かえでの呆れた声に構わず、琴音は続ける。

 

「砂漠を移動してた時よ。突然の事だったわ。いきなりすごい霧が立ち込めたかと思ったら、凄まじい突風が吹き荒れたの。何が何だか分からないで皆で抱き合ってたら、すぐに収まったわ。そしたら、目の前にとんでもない物が広がっていたわ」

「………何があったんです」

「海よ。砂漠のど真ん中に、明らかに潮の匂いのする巨大な水たまりと、そこで跳ねてる海のお魚がいたわ」

「琴音さん達が急遽帰国した理由って、それですか………」

「帰路を急ぐ中、私達独自に調べたの。他にも世界のあちこちで、急に何かが現れたり、消えたりする現象が起きてたわ」

「………海か。それなら前に見た事が有る。もっとも、一緒に来たのは巨大なエビのような敵だったが」

「待って! それじゃあ、同じ事がここでも起きるって事!?」

 

 美緒の返答に、かえでが慌てる。

 

「いや、あの時は戦闘の最中に、敵側が増援として呼び寄せた物らしい。何もなくただ海だけというのは妙な話だ」

「いや、確かあちこちの世界の物が跳ばされてくるのはオレも見た。魔界だの宇宙を行く船なんて所に跳ばされた事もあったし」

「宇宙を行く船なら私も乗ったぞ。共に戦いもしたし」

「………何か、私達が見たのが急にせせこましく感じてきたわ」

「私には何が何やら………」

 

 大神と美緒の説明に、琴音とかえでは思わずため息をもらす。

 

「だが、ここで何かが起きようとしている、という可能性は高いだろう。こちらでかもしれんが」

「う~ん」

 

 美緒の指摘に、大神は思わず唸りを上げる。

 その場の雰囲気を、別の声が遮った。

 

「ねえねえお姉ちゃん、もう一回耳と尻尾だして♪」

「あの、みだりに魔法力を発動させる物では………」

「私も見てみたいデ~ス」

「さ、坂本教官………」

 

 アイリスと織姫にねだられ、静夏がすがるような目を美緒に向けるが、美緒はしばし考えてから手を打つ。

 

「構わんぞ。そうだ、どうせならストライカーユニットを持ってこい。こちらの手を見せておく必要がある」

「いいんですか?」

「必要がある、と言ったぞ」

 

 その言葉の意味する事に、聡い者達は気付いた。

 

「紅蘭」

「なんでっか大神はん」

「後で彼女達に格納庫を案内して、霊子甲冑の説明を頼む」

「構わへんけど、部外者によろしいんでっか?」

「恐らく、部外者でいるのは今だけだと思うから」

『!』

 

 大神の一言に、他の者達も薄々気づき始める。

 何かが起きようとしている事に。

 

「もう直、こちらの専門家が到着する。詳しい事はその後でだな」

「専門家?」

「宮藤 一郎博士、我々の使うストライカーユニットの開発者で、一時別の世界で研究を進めていた事もある人物だ。恐らくこの転移ホールの事も何か分かるかもしれない」

「そんな人が………」

「彼以外には何も分からない、というのも事実だがな。もっとそちら方面が分かる者達が来れば話は別だが」

「それって、貴方達以外にも誰か来るかもしれない、って事かしら?」

「かもしれない、だがな。顔見知りか話の分かる相手だといいのだが………会ってすぐ交戦しかけた例もあるらしい」

「あまり不安な事は聞かない方がいいわね」

 

 琴音とかえでが不安要素が増えていくのを感じながら、手にしたコップの中身を飲み干す。

 

「教官、ストライカーユニット持ってきました」

「そうか。余興がてら、見せておいた方がいいだろう。どこか、人目に付かずにそれなりの飛行スペースが取れそうな場所があるといいのだが………」

「飛行スペースって、それで飛ぶのか?」

「へ~」

 

 静夏が持ってきた、レシプロ機の尾翼を小型化したような、左右一対のストライカーユニットに、華撃団の面々が興味津々といった顔で見つめてくる。

 

「人目に付かなくて、飛ぶ位広いスペース………」

「轟雷号の発射スペースなんてどうや? 仕組みは調べてみないとようか分からへんけど、これが飛ぶ位の広さはあるやろ」

「面白そうデ~ス」

「じゃあ皆で移動しましょう」

 

 マリアの先導で、皆が食いかけの料理を手にぞろぞろと地下へと移動していく。

 移動しながら、その先々に広がる帝国華撃団の設備に美緒と静夏は目を見張る。

 

「これはすごい物だな」

「帝都防衛の重要施設だもの。本来は関係者以外は立ち入り禁止なのだけど」

「あの、よろしいのでしょうか?」

「そちらの話が本当なら、むしろ見てもらっておいた方がいいだろう」

 

 繁々と設備の数々を見る美緒に、かえでが説明するのを静夏はどこか恐縮していたが、大神はむしろ積極的に見せていた。

 やがて一行は地下に広がる、巨大な転車台の広がる空間へと辿り着く。

 

「ここは?」

「帝国華撃団の出撃用蒸気列車、轟雷号の出撃場所よ」

「なるほど、あれがそうか」

 

 転輪台の向こう、大型の蒸気機関車が鎮座しているのを見た美緒が、その分を含めた距離を目算する。

 

「向こうのトンネルのような物は?」

「各方面に繋がる大型垂直トンネルになってるわ」

「それなら都合がいい。正面の扉を開けておいてくれ。服部、ストライカーユニットを装備して起動、訓練の成果を見せてみろ」

「はい!」

 

 静夏は轟雷号の隣にまで下がると、そこで魔法力を発動させながらストライカーユニットを装着。

 ストライカーユニットの下部にエーテルプロペラが発生し、やや前傾体勢のまま滑走を始める。

 

「お、動いた!」

「へ~、おもしろ~い!」

 

 皆が興味深々で見つめる中、静夏は滑空を続け、垂直トンネルへと飛び込むと同時に、上昇していく。

 

「本当に飛んでますよ、大神さん!」

「すご~い!」

「確かにこれは一見の価値はある」

「なるほど、これが…」

「ああ、これがウイッチだ」

 

 巨大な垂直トンネルの中、自在に飛んでみせる静夏に皆が喝采を上げる。

 

「ようし服部、そろそろ戻れ」

「はい!」

 

 美緒の指示で静夏が速度を落としながら戻り、ゆっくりと着地する。

 そこで皆の拍手が出迎えた。

 

「すごいすごい!」

「面白い物見せてもらったぜ」

「動力はどうなってるんやろ?」

「面白そうデ~ス」

 

 皆が囃し立てるのを、静夏は少し気恥ずかしそうにしながらストライカーユニットを外す。

 

「なるほど、これは………」

 

 簡易計測装置を持ち込んできていた紅蘭が、計測したデータを興味深そうに解析していく。

 

「詳しいデータが知りたいのなら、宮藤博士に聞くといい。正直、ストライカーユニットの中身の事までは私には分からなくてな」

「ええんか? これホンマ面白いわ」

「そろそろ来てもいいはずなのだが…」

『一郎ちゃ~ん、宮藤博士と名乗る人が来たわよ~娘さんも一緒に~』

 

 美緒が紅蘭に助言をしていた所で、留守番で残っていた斧彦からの施設内通信が響いてくる。

 

「お、宮藤も来たのか」

「宮藤博士の娘って、宮藤 芳佳少尉の事ですか!?」

 

 その通信に、ストライカーユニットを抱えた静夏が一番過敏に反応する。

 

「少尉? 博士の娘さんも軍人なんか?」

「ああ、私の元部下で、多少軍人としては問題な所もあるが、優秀なウィッチだった」

「……だった?」

「ウィッチは二十歳を超えた頃から魔力が減退するが、私はその時期に無茶をし過ぎてな。結果、それに彼女を巻き込み、彼女のウィッチとしての力まで失わせてしまった。私の現役時代の一番の失態だ」

「そんな事あったんですか………」

「宮藤 芳佳少尉といえば、501統合戦闘航空団でガリア方面及びヴェネチア方面でのネウロイ殲滅に多大な貢献をした、すごく優秀なウィッチだって坂本教官から聞いてます!」

「ほ~、そりゃすげえ」

「人事じゃないわね。こちらでも長期に渡って霊子甲冑に乗っていると、霊力が低下するわ。紐育でも似たような件で負傷者が出たそうだし」

「どこの世界も似たような事をしてる、とは前に共に戦った指揮官が言ってた台詞だが、その通りのようだな」

 

 興奮している静夏の説明に、華撃団の隊員達は相槌を打ちながらも、元いた倉庫へと戻っていく。

 室内に入ると、そこには転移ゲートを計測している白衣姿でメガネをかけた男性と、菊之丞が入れたお茶を手にしている小柄な少女の姿があった。

 

「坂本さん! これって!」

「やあ坂本君か、少し待っててくれ」

 

 お茶を手に興奮している少女、芳佳と淡々と計測を続ける男性、宮藤 一郎博士が美緒を見てある意味真逆の反応をした。

 

「急な呼び出しですいません、宮藤博士」

「いや、これを調査出来る人は他にいないだろうからね。それに気になる事が幾つもある」

「宮藤博士ですか? 自分は帝国華撃団司令、大神 一郎です」

「宮藤 一郎だ、くしくも同じ名前だね」

「ええ」

 

 思わず微笑む二人の一郎だったが、そこで双方の顔が険しくなる。

 

「それで、このクロスゲートの事は何か分かりますか?」

「そちらだとそう呼んでるらしいね。まだ詳細は分からない。だが………」

 

 そう言いながらも、宮藤博士は持参したらしいノートに、ある数式を書いていく。

 

「それは………似たようなの見た事あるで。確か聖魔城が出現した時の観測データや」

「分かるのかい? それじゃあそっちでも計算をお願いしていいかな?」

「お任せや! 蒸気演算器にかけてみるで」

 

 宮藤博士から数式を受け取った紅蘭が、急いで蒸気演算器の方へと向かっていく。

 

「こっちは土方君だったか、彼に大本営に持って行ってもらって向こうで計算するしかないな」

「すぐに手配しよう」

「………多分、とんでもない数値が出てくるはずだ」

「それは、どういう事?」

 

 宮藤博士の言葉に、かえでが首を傾げる。

 

「本来、異なる世界と繋がる程の次元湾曲には、膨大なエネルギーが必要になるんです。幾ら小さいとはいえ、それが常時繫がっているとなると、どれ程のエネルギーが必要になるか、見当もつかない………」

「そんなに………」

「もう一つ、坂本少佐は敵襲の可能性が有ると言ってたが、宮藤博士の見解は?」

「………偶発的にゲートが発生したとは思えない。引き起こした要因が必ずあるはずだ」

「そして、繫がっているのはウィッチ養成学校と帝国華撃団の秘密基地、露骨としか言えないだろう」

 

 大神の問いに宮藤博士は少し言葉を濁すが、美緒はむしろ断言する。

 

「それって、戦闘が起こるって事ですか!?」

「その可能性は高い、という事ね」

 

 芳佳が思わず声を荒げるが、マリアは冷静に判断する。

 

「私、治療道具揃えてきます!」

「あ、宮藤少尉!」

「服部、お前も基地に戻って兵装を準備してこい。それと土方に基地内の警戒体勢を維持、ただし長期化の可能性があるので交代制にせよと伝えてきてくれ」

「了解です。坂本教官」

「皆、疲れてる所悪いが、帝国華撃団、準戦闘態勢! 出撃に備えよ!」

『了解!』

 

 芳佳が何故かお茶片手にゲートへと飛び込んでいき、服部が慌てて後を追う。

 大神の号令に、華撃団全員が復唱した。

 

「済まないが、こちらの装備を見せてもらいたいのだが」

「案内するわ、紅蘭がいたらよかったんだけど」

「こちらも動かせるウィッチを集めておこう。ただ訓練生で使えそうなのは服部くらいだし、腕利きは全員海外に行ってるから、どれほど集まるか………本土防衛部隊を動かせるよう掛け合うか?」

 

 そう言った美緒の脳裏に、前に共に戦った仲間達の事が思い起こされる。

 

「彼女達は、今どうしているかな………」

 

 

 

AD2085 追浜基地跡地

 

「観測班、到着しました!」

「情報封鎖、完了しています」

「周辺封鎖、完了!」

 

 かつて、追浜基地があったはずの場所に、軍とGの人員が入り乱れ、厳重な封鎖網がしかれていた。

 突如として起きた転移現象は、表向きは突風事故として公表され、Gと委託を受けた人類統合軍情報部による厳重な情報封鎖が行われていた。

 

「見事なまでに、何も残ってないわね………」

 

 その場に降り立ったエリューが、各種施設どころか滑走路の跡すら残ってない状況に、ため息を漏らす。

 

「スカイガールズの皆、大丈夫かな………」

 

 亜乃亜がぽつりと呟き、エリューは表情を曇らせる。

 

「ちょっと待ってて。今オペレッタと合同で転移先を割り出してるわ。すぐに迎えに行けるよ!」

 

 マドカがGの観測班と一緒に、集められるだけのデータを集め、転移先の特定を行おうと必死になっていた。

 

「………跳ばされた、誰かに」

 

 それを手伝っていたティタの一言に、全員の視線が集中する。

 

「誰かって、誰!? まさかまた…」

「違う、何か。後は分からない」

 

 声を荒らげる亜乃亜だったが、ティタは極めて端的な説明のみをして作業を続行していた。

 そこへ、一騎のRVが来たかと思うと、着地してそれからメガネをかけたどこか大人びた少女が降り立つ。

 

「トゥイー先輩!」「リーダー!」

「待たせたわね皆」

 

 その少女、グラデゥス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーの姿に、亜乃亜とエリューが思わず駆け寄る。

 

「今状況観測中です。転移先の特定はまだ…」

「そう、いいニュースと悪いニュースの二つを持ってきたわ」

「え!?」

 

 マドカの報告を聞きながら、ジオールの告げた言葉に亜乃亜が興味を持つ。

 

「いいニュースは、転移されたはずの人間が一部見つかったわ。ここから然程離れてない場所に、半ば放置されてたみたい。全員気絶してたけど、無事だそうよ。ただ、彼女達はその中に含まれてないみたい」

「そうですか………」

「で、悪いニュースは?」

 

 ジオールのニュースに亜乃亜は肩を落とすが、エリューはもう一つの方に興味を持っていた。

 

「転移現象が起きたのは、ここだけじゃないわ」

 

 そう言いながら、ジオールは一枚の写真を差し出す。

 それを受け取ったエリューと亜乃亜はそれを覗き込み、同時に首を傾げた。

 

「あの、これどこですか?」

「軍病院の一つ、アイーシャの病室だった場所よ」

『!?』

 

 ジオールの一言に、二人は再度写真を凝視する。

 そこに写っていたのは、全く何も無い、まるで造られたばかりのような室内の様子だった。

 

「じゃあ、アイーシャも!」

「周王博士も、ね。一緒にいた医療スタッフ二名は、先程の見つかった人達と同じ場所で発見されたわ」

「そんな………」

 

 予想以上に悪いニュースに、亜乃亜は愕然とする。

 

「アイーシャも気付いてた。多分一番の狙いはアイーシャ」

「どういう事?」

「ティタは、誰かが狙って転移現象を起こしたらしいって言ってる。確かに、偶発的にこんな綺麗に跳ばされるはずないし」

「それに、人員も選抜されてるわ。転移させられたのは前回攻龍に乗っていた人達と、ソニックダイバーレスキュー隊候補生の人達。露骨過ぎると言ってもいいくらいね」

「早く見つけないと! 音羽ちゃん達、絶対苦労してる!」

「次元歪曲から転移座標割り出せればいいんだけど、どうにもGの思いっきり管轄外に転移してるみたい………」

 

 皆が焦りを覚える中、ただ時間だけが過ぎていく。

 いつでも後を追って転移出来るよう、自機のビックバイパーの準備だけはしながら、亜乃亜がまんじりと待っていた所で、ふと騒がしい声に気付く。

 現場を封鎖している軍人やGの関係者と口論しているらしい声に聞き覚えが有った亜乃亜が、何気にそちらへと向ってみた。

 

「だから、関係者だって言ってるだろうが! それに保護者に何の情報も無いってのはどういう事だ!?」

「せめて、安否だけでも教えて下さい。なんで家族にまで知らされてないんですか?」

 

 封鎖用に緊急で張られたシートの影から、ちらりとそちらを見た亜乃亜が、押し問答している初老の男性と、スーツ姿の若い男性の二人を見つける。

 初老の男性の方に見覚えが有った亜乃亜は、思わず声を上げた。

 

「おやっさん!?」

「ん? 亜乃亜の嬢ちゃんか! エリーゼは今どこにいるんだ!? こいつら何も教えてくれねえんだ!」

 

 その初老の男性がかつてのソニックダイバー隊旗艦、攻龍の料理長・源だった事に亜乃亜は驚くが、源は亜乃亜に思わず詰め寄る。

 

「え~と、何て言えば………」

「どうした!? エリーゼは無事かどうかって聞いてるだけだぞ?」

「こちらも聞きたい。妹は、可憐はどうなっているんだ?」

 

 もう一人、スーツ姿の男性の言葉に、それが可憐から聞いていた彼女の兄だと悟った亜乃亜が、更に言葉を詰まらせる。

 

(ど、どうしよう………おやっさんはともかく、可憐ちゃんのお兄さんに何て説明すれば………)

 

 焦りまくる亜乃亜に、可憐の兄はしばし考えてから、予想外の言葉を口にする。

 

「ひょっとして君は、Gの人間かな?」

『!?』

 

 突如として出た言葉に、亜乃亜だけでなく源も驚く。

 

「あんた、どこでそれを………まさか可憐か?」

「いや、妹は何も。けど、これだけ完璧な情報操作を出来る組織に心当たりがあってね。

建築業界で、たまに妙な依頼が来る事がある。緊急で倒壊家屋の解体・補修が来るが、依頼主は不明。相場以上の代金は振り込まれるが、その送付元も不明、ただ作業内容は完全機密扱い、そして作業に当たった人間は、奇妙な物を見る事も多い、ってね。

それがGと呼ばれる組織からの依頼だって噂を聞いた事が有っただけで」

「引っ掛けやがったか。どうするよ?」

「う~ん、可憐ちゃんのお兄さんなら、大丈夫かな?」

「ちょっと亜乃亜、何を………って源さん?」

「お、エリューも来てたのか。エリーゼの保護者として聞かせてもらう。今、この中はどうなっている?」

「………そちらは?」

「可憐ちゃんのお兄さん。Gの事聞いた事はあるって………」

「………一切口外しないと言うなら、中へ」

 

 しばし考えたエリューだったが、思い切って二人を中へと招く。

 シートを潜った二人は、その先に何も無い事に絶句する。

 

「お、おい! 追浜基地はどこ行った!?」

「施設だけでなく、滑走路まで消えている………こんな事が………」

「消えたんです。基地も、ソニックダイバー隊も、突然に」

「おい、それってまさか、前みたいにどっか別の世界に行ったって事か!?」

「別の世界?」

「一般的にはパラレルワールド、Gではメガバースと呼ばれている物です。そのメガバースに改変を加えるために襲撃してくるバクテリアンに対抗するために設立された秘密時空組織、それがGです」

「ま、待ってくれ。急にそんな事言われても…」

「私も、こことは違う世界から来ました。今から半年程前、ワームとの最終作戦が発動する直前、ソニックダイバー隊、G、他にも幾つもの組織と世界を掛けた戦いが有りました。何か可憐さんから聞いてませんか?」

「そういえば、変わった友達が出来たとは言ってたが………」

「恐らく、その時の事が何か関係してると思われます。消失したのは、ソニックダイバー隊本拠地であるこの追浜基地、そしてソニックダイバーの関係者のみです。現在、Gが転移先を鋭意捜索中です」

「………どうにも、信じらないな」

「安心しな、こっちも今だあん時の事は信じられねえ。だが、ここは任すしかないって事位は分かる」

「しかし………」

 

 エリューの一般常識の外にある説明に、可憐の兄は口ごもり、源も顔つきを険しくする。

 

「その異世界とやらに、仲間になってくれる奴が居る事を祈るしかねえな」

「いるんですか、そういう人達が」

「前はそうだった。次もそうだといいんだが………」

「仲間、か………」

 

 文字通り祈るしかない状況に、二人が表情を暗くしかけた時だった。

 

「時空振動確認!」

「空間歪曲発生! 次元転移発生!」

「この数値、間違いなく違う次元から…」

 

 突如としてGの観測班が口々に観測機が感知した異常データを報告し、マドカがどこか違う世界からの転移が起こると確信した時だった。

 

「え………」

「おい、こいつは!」

 

 突然その場にいる者達の中央に、直径2m程の黒い渦のような物が出現する。

 それこそが、かつて数多の世界に招いた転移ゲートだと知っている者達が一斉に警戒するが、そこから何かが出てくる前に、行動を起こした者がいた。

 

「えい!」

「亜乃亜!?」

 

 ためらいもなく、亜乃亜が転移ホールに首を突っ込む。

 予想外の行動に、誰もが絶句するしかなかった。

 

 

 

AD2301 香坂財団 超銀河研究所

 

「システム、オールグリーン」

「エネルギーバイパス、導通確認」

「ジェネレーター、出力20%」

 

 厳重なシールドが複層に施されたラボの一つで、文字通り世界を変える実験が始まろうとしていた。

 

「理論は完璧、システムも一から再構築した。セキュリティも万全、これなら!」

 

 何人もの科学者達が準備を進める中、その場で最年少ながら、実験の指揮を取るメガネを掛けた三つ編みの少女が入念にチェックをしていた。

 その科学者達からシールド一枚挟んだ向こう、実験の監視所から三人の女性がその様子を観察していた。

 

「今更だけど、本当に大丈夫なの?」

 

 三人の一人、長い銀髪のドイツ系少女、リアことリーアベルト・フォン・ノイエンシュタインが不安を口にする。

 

「理論構築と演算には銀河最高のハイベタコンピューターで何度も試算しましたし、システム構築とセキュリティには念には念を入れましたわ。万が一の備えもしてますし」

 

 栗色の髪の少女、この実験のスポンサーで銀河最大財閥の香坂財団の令嬢、香坂 エリカが胸を張って断言する。

 

「チルダで使用されていた転移プログラムも流用しています。実験その物は成功する可能性は高いはず」

 

 最後の一人、幾分他の二人よりは年かさに見える赤髪の女性、実体は局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》が成功率の高さを肯定する。

 

「問題は、どこに繋がるか、ね」

「Gの次元間転移データがあればよかったんだけど、機械化惑星に残ってるのは最低限のだけのようでしたから」

「データの流出を危険視したのでしょう。あながち間違ってはいません」

「さすがに、あんな大きいのもう一個作るわけにもいけないしね………」

 

 今ここで行われてようとしている実験、半年前の戦闘の際、相次いだ異世界への次元間転移技術の実用化実験に、三人はそれぞれ違う感慨を抱いていた。

 

「今回はあくまで小型の転移ホールの精製ですし、観察ポッドを送るだけですから、問題は無いでしょう」

「こちらの準備も万端です。カルナ」

『はい、観測体勢準備完了、エグゼリカ、フェインティアも準待機状態です』

 

 非常事態に備えて、クルエルティアが待機させている自分達の母艦、カルナダインのAI・カルナと連絡を取る。

 

「鬼が出るか蛇が出るか、と言った所かしらね」

「この実験が成功すれば、香坂財団の異世界進出という大目標の大いなる一歩となりますわ」

「侵略じゃなくて進出というのが気になりますが」

 

 クルエルティアが今まで経験してきた中でもまず無かった、異世界への商業的進出目的の転移実験に、微妙な顔をする。

 

「ひょっとしたら、貴女達トリガーハートの世界に繋がるかもしれませんわよ?」

「それは、ひょっとして程度でも構いません。エグゼリカもフェインティアも、この世界が気に入ってるようですし、お父さんもよくしてくれます」

「本当に馴染んだわね、貴女達………」

『そろそろ始めます』

 

 指揮を取っていた少女、教養のエミリーことエミリア・フェアチャイルドが実験開始を告げる。

 

「始まるわよ」

 

 リアの一言に、その場に緊張が走った。

 

同時刻 超銀河研究所接続ポート カルナダイン艦内

 

「始まるってさ」

「あ、はい」

 

 ブリッジで送られてくる映像を見ていたオレンジ色の髪の少女、TH44 FAINTEARが、ブリッジの一角で作業していたすみれ色の髪に童顔の少女、TH60 EXELICAに声を掛ける。

 作業の手を止めたエグゼリカに、フェインティアが何気に作業の内容を見て顔をしかめる。

 

「そういや、レポートの期限明日だっけ………」

「ええ、もう終わる所だけど」

「全く、舞の奴授業適当なのに、きっちり宿題だけは出すのよね~」

「学校では徳大寺先生、でしょ」

 

 前回の戦いの後、地球で私立白丘台女子高等学校の学生としての生活を始めたエグゼリカとフェインティア(※クルエルティアは大学部)だったが、今は転移実験の際の不足の事態に備え、アルバイト警備員として待機していた。

 

『装置起動、ジェネレーター出力上昇中』

「都合よくチルダにでも繋がってくれないかしらね~」

「ここも結構いい所だよ、フェインティアだって馴染んできたし」

「それは認めるけどね………トリガーハートが三人そろって学生やってるなんて、チルダの連中が聞いたら何て思うのやら」

『空間歪曲発生、これなら無事転移ホールが精製出来そうです』

「いきなり妙なの出てきたりしないでしょうね?」

「それに備えて私達がここにいるんだし、姉さんが向こうで監視してるから大丈夫」

 

 カルナからの報告を聞きながら、フェインティアが怪訝な顔をしていたが、やがて映像に映る転移装置の中央、あまりいい思い出のない転移ホールの黒い渦が精製される。

 

『実験は成功したみたいです』

「問題はどこに繫がっているかね」

「案外、顔見知りの人がいるかしれま…」

 

 エグゼリカの言葉が終わるより早く、転移ホールの中からいきなり少女の生首が飛び出す。

 

『………え?』

 

 

 

「あの~、ちょっと聞きたいんですけど、スカイガールズこっち来てません?」

 

 転移ホールの安定と同時に、観察ポッドを送るはずが、いきなり出てきた少女の生首に科学者達が仰天する。

 

「あら? あの人………」

 

 その少女に見覚えがあったエリカが首を傾げるが、クルエルティアとリアは慌てて観察室から実験室へと飛び込んでいく。

 

「ひょっとして、亜乃亜さん!?」

「じゃあこの先は、貴女達の世界!?」

「あ! クルエルティアさんと、………どちら様でしたっけ?」

 

 見覚えの有る顔に亜乃亜が声を上げるが、ふとリアの顔を見て首を傾げる。

 数秒間リアは考え、徐ろにポケットを弄ってポリリーナマスクを取り出し、装着する。

 

「ポリリーナさんじゃないですか! ここ、ユナさん達の世界なんですか!?」

「ええ、そうよ」(私、これで覚えられてる?)

 

 リアが少し顔を引き攣らせるが、それよりも気になる事が有った。

 

「亜乃亜、さっきスカイガールズがいないかって聞いたわね?」

「そうなんですよ! 音羽ちゃん達、基地ごとどっかに跳ばされちゃったんです!」

「それは本当!?」

「ちょっと亜乃亜……あら?」

「エリューも!」

 

 亜乃亜を追って思わず転移ホールに首を突っ込んだエリューも、その向こう側にいる見覚えの有る顔達に驚く。

 

「あの、この転移ホールは…」

「こちらの実験よ。エミリー、ホールを安定させて常時接続!」

「今やってます!」

「エグゼリカ、フェインティア!」

『聞いてました!』『今随伴艦とリンク中!』

「実験段階をフェーズ1から3に上げます! 至急調査隊を組織なさい! 全責任は私がどうにかしますわ!」

 

 亜乃亜からもたらされたソニックダイバー隊消失の情報に、一気に研究所内が各所で忙しくなる。

 

「また始まるって言うの? 新たな戦いが………」

 

 自らも準備をするべく、一度実験室から出ようとしたリアが、ふと転移ホールを見ながら呟いた………

 

 

 

太正十六年 帝都東京 大帝国劇場

 

「これが帝国華撃団の主戦力、霊子甲冑《光武二式》です」

「ほう、これは………」

 

 かえでの案内で格納庫に案内された宮藤博士と美緒は、そこに鎮座する大型の搭乗型装備に感心していた。

 

「なるほど、完全に内部搭乗型か。まさしく甲冑だな」

「かつてストライカーユニット開発の黎明期の資料に、これによく似た物を見た事がある。もっとも出力的問題で試作機が何機か造られただけだったはずだ」

「なるほど、似て非なる世界ってそういう事もあるのね」

「ああ、前の場合、私の部下だった者の子孫まで出てきたくらいだ」

「え?」

「正確にはクロステルマン君のパラレル存在の子孫だったけどね」

「つまり、似て非なる同一人物、という事かしら?」

「そういう事になるらしい。案外こちらとそちらにもいるかもしれんぞ」

「………?」

 

 自分で言いながらも今一理解出来ないかえでに、美緒は笑いながらその事を思い出していた。

 

「ふむ、基礎システムもストライカーユニットに酷似してる。ひょっとしたらウィッチでも動かせるかもしれないな」

「それは、逆に華撃団の子達もストライカーユニットを使える、という事になるわね」

「互換性があるのは戦場では重要だが、慣れない装備は危険だ。ましてや、陸戦と空戦では運用方が違い過ぎる」

「それは一理ありまんな。自力で空飛べたら面白そうやけど」

 

 そこに、レポートを覗き込みながら紅蘭が姿を見せる。

 

「後でウチもストライカーユニットの詳細、教えてもらってよろしか?」

「もちろんだよ、技術的に近いなら、双方技術交換はしておいた方がいい」

「おおきに、それと………」

 

 宮藤博士に礼を言うと、紅蘭が難しい顔をしてレポートを睨む。

 

「宮藤博士、あの計算式、本当にあってるんか?」

「簡易計測と概算からだから、精密とは言いかねるが、大体は有っているはずだ」

「………さいでっか」

「どうしたの?」

「これがホンマなら、あの奇妙な渦にミカサの主蒸気機関を全開で回した以上の動力が必要な事になるんや………」

「それ本当!? 帝都一つをまるまるまかなえる蒸気機関よ!」

「やはり、そうなるか………そしてそれは、今尚消費され続けている………」

 

 転移ホール一つに、都市一つ分のエネルギーを食い続けている現状に、宮藤博士の表情も険しくなる。

 

「あんな小さな渦に、それだけの動力が必要とは………」

「正直、どうやって発生しているのかは見当もつかない。前回は一瞬だけだったから、何とかなっていたんだろうが………」

「そちらの調査も必要ね………」

 

 次々湧き上がる謎に皆が腕組みして唸っていた時だった。

 突然、格納庫内に警報が響き渡る。

 

「何事!?」

『ミカサ記念公園上空にて異常事態発生! 花組は至急司令室へ! 繰り返します、ミカサ記念公園上空にて異常事態発生! 花組は…』

「………始まったか」

 

 警報と共に響く報告に、美緒は手にした愛刀の柄を強く握り締めた………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP03

 

「これは一体………」

 

 司令室に集まった花組隊員達、それに宮藤博士と美緒、そして芳佳と静夏も、司令室の大型画面に映し出される光景に絶句していた。

 

「竜巻、でしょうか?」

「でも、霧みたいなのも見えるぜ?」

「ありえへん! 竜巻と霧じゃ発生条件が全然違うんや!」

「前回はこんな物は見た事も無かったな」

「だが、これは間違いなく次元転移の前兆のようだ」

 

 映し出された、ミカサ記念公園を完全に飲み込むような巨大な霧をまとった竜巻に、誰もが口々に驚きを述べるが、宮藤博士は観測されているデータを手早く解析し、いち早く結論に辿り着く。

 

「しかもかなりの大質量と考えられる。何が来るかまでは分からないが………」

「服部! すぐに偵察に飛べ!」

「り、了解しました!」

「帝国華撃団、出撃準備! 臨戦態勢を取れ!」

『了解!』

 

 美緒の号令と共に静夏が大慌てでストライカーユニットの元へと向かい、大神の号令で花組も霊子甲冑へと搭乗するために向かっていく。

 

「坂本さん、私は!」

「宮藤は負傷者が出たらすぐ治療出来るように待機! 戦闘が市街地に及んだら、手が幾らあっても足りんぞ!」

「帝都に非常事態宣言! 市民は避難の準備を!」

 

 皆が慌てて動き出す中、霧をまとった竜巻が強さを増したかと思うと、急激的に弱まっていく。

 

「来るぞ………」

 

 宮藤博士とかえでが、固唾を飲んで大型画面を見つめていた。

 何が現れるかを確かめるために。

 

 

 

「服部 静夏軍曹、出撃します!」

「轟雷号のトンネルを使って! 指示灯を出すわ!」

「はい機関銃! 重いわね、これ」

「気をつけてください!」

 

 ストライカーユニットを装着した静夏が、薔薇組が出撃準備を手伝う中、一気に滑走を開始する。

 

「花組も状況が分かり次第、出撃するそうよ! 無理は禁物ね!」

「はい!」

 

 琴音が声を掛ける中、静夏はトンネルを滑空して発進していく。

 

「………大丈夫かしら? あの子、多分初陣よ」

「とんだ初陣ね~」

「私達も準備しましょう! 市街戦の可能性もあるそうです!」

 

 琴音と斧彦が心配そうに静夏の後ろ姿を見送るが、菊之丞に促され避難誘導の準備に向かう。

 

「いっそ、友好的なのが来ないかしら?」

 

 琴音の呟きはこれから起こる不安を端的に表わしていた………

 

 

(大丈夫、ただの偵察。落ち着けば問題無い………)

 

 内心自分に言い聞かせながら、静夏はトンネルから帝都の空へと舞い上がる。

 

「正面、目標を補足!」

 

 ちょうど真正面に見える巨大な霧の竜巻に向って、静夏は速度を上げる。

 だが彼女の目の前で、霧の竜巻は急激的にその威力を弱めていった。

 

「目標に変化! 小さくなっていきます!」

『何かが来るかもしれん! 気をつけて接近しろ!』

「はい!」

 

 坂本からの警告を聞きながら、静夏は更に接近する。

 やがて、消えていく霧の竜巻の向こうから、何かが見える。

 

「機影らしき物確認! 接近します!」

 

 

「皆無事!?」

「大丈夫!」

「各機の状態を確認します!」

「一体何よ~!」

 

 突如として発生した異常現象に、ソニックダイバー隊はかろうじて墜落を免れ、Aモードに変形して滞空していた。

 

『全員無事か!』

「四人とも大丈夫です、冬后大佐!」

「ソニックダイバーも全機問題なし!」

「………ねえ、あっち見て」

 

 冬后からの慌てた通信に瑛花と可憐が返信した所で、エリーゼが引きつった顔で一方を指差す。

 

「何か、レトロというかそんな感じの町並みが………」

「ひょっとして、私達またどこか別の世界に跳ばされた!?」

「い、今状況確認を……!? こちらに急速接近中の飛行体確認!」

「ええ!?」

 

 向こうに見えるレンガ作りの町並みに、皆が驚く中、可憐が風神のセンサーをフル作動させた所で一番最初に感知した情報を叫ぶ。

 

(敵? 味方? まずい、今ソニックダイバーは全機、武装を外している………!)

 

 元々ラストフライト後、退役予定の機体だったため、戦闘が起きる事すら考慮していない状態に瑛花が焦りを覚える。

 

『何が近づいてきてる! いや、全機撤退を…』

「ま、待ってください! この反応、類似したデータが有ります!」

「ちょっと、アレ!」

 

 エリーゼがバッハの光学センサーを使って、近付いてくる飛行体の映像を確認、それを各機に送る。

 

「うそ、ウィッチ!?」

「間違い有りません! これはストライカーユニットの反応です!」

「じゃあ、ここはウィッチの世界なの!?」

「うわあ、来た!」

 

 見覚えのある姿に、ソニックダイバー隊が更に混乱する中、ウィッチはすでに目前まで迫っていた。

 

「貴女方、何者ですか! 所属を名乗りなさい!」

「ストップ! たんま!」

 

 突如として現れた、見た事も無い機体に搭乗した四人に向って、静夏は九十九式二号二型改機関銃を向ける。

 慌てて音羽は両手を上げ、他の者達も同様に交戦意思の無い事を示す。

 

「私達は人類統合軍・ソニックダイバー隊の者よ! 貴女、日本、じゃなくて扶桑のウィッチ? だったら坂本 美緒少佐か宮藤 芳佳曹長に問い合わせて!」

「………坂本教官と宮藤少尉の事を知ってるんですか?」

 

 瑛花の口から覚えの有る名が出た事に、静夏の警戒心が緩む。

 

「このソニックダイバーは、退役目前で武装は付いてないわ。このまま、下の基地に着地したいのだけど」

「待ってください。坂本教官! 出現した者達は、人類統合軍ソニックなんとか隊と名乗っています!」

『本当か!? だったら彼女達は敵ではない! 繰り返す、彼女達は味方だ…何だと!?』

「ど、どうかしましたか!?」

『いかん、帝国華撃団が出撃した! すぐにそちらに到着するぞ! 全機着地して交戦意思が無い事を示せ!』

「り、了解! すぐに着地出来ますか!?」

「分かった! でも一体何が…」

「早く!」

 

 静夏が慌てる中、ソニックダイバー各機はAモードのまま下降を始め、静夏も弧を描きながら、真下の追浜基地の滑走路へと着地する。

 

「こちらに向かってくる巨大な飛行体確認!」

「何か来る!」

「あれって、飛行船!?」

「武装飛行船なんて大時代的な………」

 

 ソニックダイバー隊と静夏が向かってくる帝国華撃団の霊子甲冑輸送用武装飛行船・翔鯨丸から、何かが次々と投下されるのに気付き、全員の顔色が変わる。

 

「投下された物体、接近中!」

「今度は何!?」

「いや、本当に何あれ………」

 

 それは、全体が丸みを帯びた、無骨な起動ユニットのような物だった。

 各機体がそれぞれのカラーリングで染め上げられた機体は、ソニックダイバー隊の間近まで来ると、見事に着地する。

 

『帝国華撃団、参上!!』

 

 口上と共に、全機が構えを取る。

 あまりに見事な登場に、ソニックダイバー隊全員が、唖然としていた。

 

「大神司令! この人達は敵では無いそうです! 我々の早とちりみたいです!」

「え?」

 

 慌てて静夏が前へと出て帝国華撃団を制止する。

 

『大神君! 聞こえる!? 出現したのは、かつて坂本少佐達と一緒に戦った、別の世界の部隊だそうよ! 戦闘状態を解除して!』

 

 そこへ遅ればせながら、かえでからの通信が飛び込んでくる。

 

「え? じゃあ皆さん、いきなりここに跳ばされてきたんですか?」

「そうなんですよ。もう何が何やら………」

「ちょっと待って。その機体、ストライカーユニットとも違うみたいだけど、私達が転移してきたって何で知ってるの?」

 

 さくらの問いに音羽が何気なく答えた所で、瑛花が違和感を感じる。

 

「それは、オレとさくら君が、同様の事件に巻き込まれた事が在るからだ」

『………え?』

 

 

 

「統合人類軍 極東方面大隊 第十三航空団所属ソニックダイバー隊指揮官、冬后 蒼哉、階級は大佐だ」

「帝国華撃団司令、大神 一郎大尉です」

 

 互いに自己紹介しながら、冬后と光武二式から降りた大神が握手をかわす。

 

「どうやら驚かせちまったみたいだな」

「いえ、こちらも少し過剰反応でした」

「なにせ、こっちもいきなりの事だったんでな。状況が通じるってのは有り難い。前はそれで一戦交えた事も有ったからな」

「そうですね。もっともこちらで経験したのはオレとさくら君、後は巴里華撃団のエリカ君と紐育華撃団のジェミニ君だけですが」

「同様の組織がパリとニューヨークにもあるって訳か」

「ええ、けど前の事件は、身一つで跳ばされて戦いました。ここまで大掛かりじゃない」

「基地一つ丸ごとキレイに、ってのは前回は無かったな。滑走路まで揃ってやがる」

「まるで狙ったように建て直したかのようだ」

 

 大神がそう言いながら、ちらりと互いの機体を見ているソニックダイバー隊と帝国華撃団を見る。

 

「うわ~、すごいゴツさ」

「ひょっとしてこれ、蒸気機関ですか?」

「なんかあんまりかっこよくな~い」

「何やて!?」

 

 口々に感想を言うソニックダイバー隊だったが、エリーゼの一言に紅蘭が過敏に反応する。

 

「ウチの光武二式をそないな風に…!」

「紅蘭、落ち着きなさい」

「設計概念が違う。イメージの差は仕方ない」

「そっちこそ、凧の骨組みみたいデ~ス」

「何ですって!」

 

 紅蘭をマリアとレニがなだめるが、織姫の余計な一言に今度はエリーゼが激高する。

 

「他のならともかく、私のバッハを!」

「エリーゼ、落ち着いてください」

「他のって何、他のって!」

「あの、私から見たらどちらも変わってますが………」

 

 エリーゼをなだめる可憐と違う意味で起こる音羽だったが、静夏のぽつりと漏らした一言に一応双方が留まる。

 だがそこで、華撃団がこっそり円陣を組む。

 

「ねえ、それよりもあの格好………」

「かなり、大胆ね」

「ウイッチの人達も足丸出しや思ったけど………」

「足どころか全身のライン丸出しデ~ス」

「未来の連中って聞いたけど、未来って暑いんじゃね?」

「高速飛行するという機体に、あの格好は非合理的だ」

「でもちょっとかわいい♪」

「そこ! 何こそこそ話してるの!」

「これはモーションスリットと言って、ソニックダイバー専用のパイロットスーツなんです」

「これの良さが分かるって、少し見直したわ」

「無駄話は後にして。ソニックダイバー全機、ASモードで格納庫まで帰投。私達も着替えるわ」

「だってゼロ。格納庫まで行ける?」「風神、ASモードで格納庫まで帰投」「行くわよバッハ」

 

 格納庫の方に一時行っていた瑛花が、他の三人に指示を出すと、三人もそれぞれの機体に音声指示を出し、自動操縦モードのソニックダイバーがパイロットの後に続けて動き出す。

 

「乗ってなくても動くんかそれ!?」

「単純動作しか出来ないけどな。そっちの機体も出しっぱなしでいいのか?」

「そうだな………そっちの格納庫のそばに置かせてもらっていいか? 今後何が起こるか分からない」

「それは構わないが」

「よし、帝国華撃団も後に続こう。それと帝都の非常事態宣言を解除。警戒体制は続けるように連絡」

 

 冬后の許可をもらい、再度搭乗した帝国華撃団がソニックダイバーの後に続く。

 

「何か、すごい絵ですね………」

「そうだな。あんたもそれ格納庫に持ってったらどうだ?」

「え~と、坂本教官の指示を仰がないと」

「後でオレから言っとくよ。つうかマシンガン持ってそこいらうろつかれると、ウチの新入りが驚く」

「わかりました、大佐」

 

 ソニックダイバーと霊子甲冑が動く様を茫然と見ていた静夏だったが、冬后にうながされ、魔法力を発動させてストライカーユニットと機関銃を両方背負って後に続く。

 

「………地味にあれが一番すごいと思うんだがな。さて、今度はどんな厄介事が起きるんだ?」

 

 三者三様で格納庫に向かう様に冬后がぽつりと呟きながら、冬后も後に続こうとした所で、こちらに向かってくる蒸気自動車に気付く。

 その車内に、見覚えのある顔が幾つかある事に、冬后は僅かに安堵する。

 

「頼れる相手がいるってのは、悪くないか」

 

 助手席にいる美緒に向って手を上げながら、冬后は車を出迎える事にした。

 

 

 

「うわ、何だありゃ!?」

「なんか、すごいの来たで」

「やっぱここ、異世界なんやろか」

 

 格納庫にいたソニックダイバー専属メカニックの零神担当、橘 僚平、雷神担当の御子神 嵐子、風神担当の御子神 晴子がソニックダイバーの背後から来た霊子甲冑に驚きの声を上げる。

 

「驚くのは後だ! すぐに機体に問題出てないか調べろ!」

「は、はい!」

 

 そこへメカニック班長で、バッハシュテルツェの整備も担当している大戸 代治の声が響き渡り、三人は慌てて準備に取り掛かる。

 

「あちらにも機体があるようだが………」

「あっちは83式飛行外骨格、ソニックダイバー試験機をレスキュー訓練用にカスタムした物だ。本当ならこっちのソニックダイバーも今回のラストフライトの後、退役する予定だったんだが………」

「それは少し先になりそうだ、私もだが」

 

 大神が興味深そうに見るのに大都が説明していると、そう言いながら老齢に達した将校用の礼服をまとった男性が姿を表す。

 

「あなたは?」

「ソニックダイバー隊元旗艦・攻龍艦長の門脇 曹一郎中将だ。正確には元中将になるが」

「失礼しました。自分は帝国華撃団司令、大神 一郎大尉であります」

「話は少し聞いている。大神司令、率直な意見を聞きたい。君の前回の経験上、今後どのような事態が想定される?」

「………襲撃の可能性は高いかと」

「………私も同意見だ。冬后大佐、臨時に指揮権を復帰させたいが、よろしいか」

「しかし長官、一条はともかく、他の三名はすでに除隊しています。臨時措置とはいえ、当人達の意思を確認しないと………」

「それは君に一任する。大戸班長、ソニックダイバーの再武装は可能か」

「………この後軍倉庫へ返却予定だった武装が残ってはいます。しかし、残弾は戦闘一回分がせいぜいです」

「構わん、至急再装備を」

「了解。聞いてたか」

「はい! 至急準備します」

 

 門脇の命令で、大戸が重い声で部下に指示を出し、僚平達は急いで返却予定だったコンテナを開封し始める。

 

「こっちから手ぇ貸そか?」

「そりゃありがたいが、多分規格全然違うぜ?」

「接続はそっちで頼むわ。部品の受け渡しくらいなら出来るやろ。ええよな? 大神はん」

「もちろんだ。至急他の整備員も呼ぼう」

 

 忙しく動く始めたソニックダイバー整備班に、紅蘭が手伝を申し出、大神も増援の連絡を入れる。

 

「忙しい事になりそうだな」

「君も来ていたのか、坂本少佐」

「お久しぶりです、門脇艦長」

「宮藤博士もか、これはありがたい」

 

 そこに冬后と共に姿を表した美緒と宮藤博士に、門脇は声をかける。

 

「なぜか、こちらのウィッチ養成学校と、そっちの帝国華撃団の基地が繫がっている、という繋がりっ放しの状態になっています」

「常時繫がっている、と?」

「そのようです。ただそんな大きくはないようなのですが」

 

 美緒から聞いていた説明を、冬后も門脇に説明する。

 

「原因は不明です。だが、どうやらこちらを優先させた方がいいらしい」

「こちらにその方面の専門家はいないからな。その件は宮藤博士に一任しょう」

「あの、すいませんけど、坂本さんも私も、ウィッチとしては引退しちゃってるんですけど………」

 

 恐る恐ると言った感じで、美緒らと共に来た芳佳が手を挙げる。

 

「あれ、まだ二十歳に行ってないよな?」

「まあ、あの後に色々有って」

「有り体に言えば、私の責任だ」

「こっちも色々有ったからな」

「じゃあ、坂本さん眼帯つけてないのって」

「魔眼も使えなくなったからな、必要なくなった」

「カッコ良かったのに、もったいない………」

「あの………」

 

 そこへ、格納庫におずおずとモーションスリットの上から軍用コートを来た少女が顔を出し、背後に同様の少女達が困惑した表情をしていた。

 

「冬后大佐、一体何がどうなってるんでしょうか?」

「こちらにも説明が欲しいのですが………」

「あ、悪い忘れてた」

 

 その少女達、ソニックダイバーレスキュー隊訓練生達の顔を見て冬后は今更ながら彼女達に何も説明してなかった事を思い出す。

 

「そちらの新入りか?」

「今度設立したソニックダイバーレスキュー隊の訓練生だ。今ここには、前の戦いで攻龍に乗っていた人間と、彼女達だけが跳ばされて来ている」

「………説明は必要だな。今後のためにも」

「それはこちらでしておきましょう」

 

 そう言いながら、鋭利な目つきをした若い男性士官が姿を表す。

 

「緋月少尉か、どうやら本当にあの時のメンバーがそろってるようだな」

「攻龍クルー全員、とはいきませんがね。そちらの方々もご一緒に」

 

 その男性士官、冬后の副官でもある緋月 玲の姿に、美緒は改めて現状を認識、緋月は訓練生だけでなく帝国華撃団も招こうとする。

 

「嶋少将から前回の戦闘データの拝見許可をもらってます。今後に必要でしょうから。坂本少佐と宮藤曹長には補足説明をお願いします」

「宮藤は今少尉だ、退役扱いだがな」

「それは失礼」

「いやぁ~、興味のある話だね~」

 

 突然何処かから響いた男の声に、全員が一斉にそちらへと振り向く。

 

「格納庫はいいね~。鉄臭いけど」

「おわ!? アンタどこから湧いた!」

 

 点検・再武装中の零神の隣に、白のスーツにオールバック、ギター片手で無駄に爽やかそうな男が立っていた。

 全く気づいてなかった僚平が驚く中、男はギターを一度かき鳴らす。

 

「加山!? いつ帰ってきたんだ!?」

「ついさっきさ、大神~」

「何だ、そっちの関係者か?」

「ええ、まあ………」

 

 その男、加山の事を説明するべきかどうか大神が悩む中、美緒は無造作に加山へと近付いていく。

 

「悪いが、関係者以外は立ち入り禁止、だ!」

 

 最後の一言と同時に、美緒は持参していた刀で無造作に抜き打ちの一撃を放つ。

 

「うひゃあ!?」

 

 いきなりの事に僚平が思わず尻もちをつくが、その斬撃の軌道から、加山は瞬時に消え去る。

 

「おやおや、物騒なお嬢さんだ」

 

 瞬時に零神の頭上まで跳ね上がり、零神の頭部に着地した加山が再度ギターをかき鳴らす。

 

「なるほど、先程の隠行にその身のこなし、情報部の人間か」

「さあてね」

 

 加山の正体を見極めた美緒に、加山、正確には帝国華撃団の隠密行動部隊・月組隊長 加山 雄一はあくまで惚けてみせる。

 

「情報部だ? 資料なら全部渡すから、ここでスパイ活動は勘弁してもらいたいんだがね」

「だそうだ。だから潜り込もうとしている連中を退かせてもらいたいのだが」

『え?』

 

 冬后が渋い顔をし、美緒が更に危険な事を言って周囲の人間の動きが止まる。

 

「そこまでバレてたか。いやいやなかなか出来るね~」

「彼らに他意は無い、というかオレの前の経験上、突発的にここに来たらしい。無理に探りを入れなくてもいいと思うぞ」

「そうか大神。それでは、紳士淑女諸君、さよ~なら~」

 

 大神がうろんな目になりつつある周囲をなだめるように加山に進言すると、加山は大人しく頷き、再度ギターをかき鳴らしながら零神の後ろへと背中から飛び降りる。

 

「おい!?」

 

 慌てて僚平が零神の背後に回りこむが、そこに加山の姿は無かった。

 

「あれ、今確かに………」

「おったよな?」

「まるで忍者みたい………」

(みたい、じゃないんだよな………)

 

 首を傾げる皆に、大神は内心冷や汗をかいていた。

 

「え~と、坂本さん。他にスパイがここに入ってきてるって本当ですか?」

「もう去ったようだな。当たり前と言えば当たり前の反応だ」

「そうなんですか?」

「501の基地にもたまに潜り込もうとしてる奴らがいたぞ、ウィッチの動向を探りにな」

「そ、そうなんですか?」

 

 美緒から音羽と芳佳がさらりととんでもない事を言われ、思わず顔を見合わせる。

 

「それでは会議室へ。今準備をさせてます」

「話半分で聞いとけ。本気で悩んだら泥沼だからな」

「それはそうかもしれないが………」

「それと冬后大佐、少し私は所用があるので後を頼みます」

「てめえも妙な事するなよ」

 

 冬后が状況を理解出来ない者達にかなりアレな助言を出し、大神も思わず肯定するが、緋月が席を外す事に冷めた視線を送る、

 

「亜乃亜ちゃん達がそばにいたから、今頃一生懸命探してくれると思うけど………」

「そうだね、他の子達も大丈夫かな………」

 

 音羽と芳佳がそれぞれの心配をしながら、音羽は更衣室へ芳佳は会議室へと向かっていく。

 格納庫に残った人間と出て行った人間と完全に別れたのを確認した後、緋月は一人で資料室へと向かい、そこで普段使わないプリンタを起動させて現在会議室で行われている説明と同様の内容の資料を印刷し始める。

 

「そろそろ出てきたらどうですか」

「そうさせてもらうか」

 

 他に誰もいないと思われた資料室に、緋月の呼びかけに呼応するように、加山が姿を表す。

 

「よく気付いたな」

「いえ、全く。ただ、自分がそちらの立場ならどう行動するかを考えたまでです」

「なるほどな。それで、今何を刷ってるのかな?」

「こちらで前回起きた次元転移の際の戦闘その他を簡易的にまとめた物です。もうじき印刷が終わるので、これをそちらで一番階級が上で一番話が分かる方に持って行ってください」

「それだけ重要な機密情報を、あっさり渡さなければいけない事態。そう判断していいという事か」

「はい」

 

 加山の問いにいとも簡単に答え、機密情報を印刷する緋月に加山の顔つきが先程とはうってかわって鋭い物になる。

 

「分かった、大至急持って行こう」

「お願いします、紛失に気をつけてください。こちらだと紙は貴重品なので」

「紙が貴重? これだけ進んだ技術を持っていて?」

 

 加山の問いに、緋月は壁に掛かっている地図を指差す。

 そこにある、かつてのワームとの戦闘であちこち欠けている世界地図に加山の視線は更に鋭くなっていった。

 

「何の冗談かと思ったが、これ本物か?」

「それがこちらの世界です。何ならそれも持って行ってください。最悪、その程度では済まなくなります。もっとも世界をそうしたのは他ならぬ、我々人類統合軍ですが」

「大神の出した異世界とやらの報告書は呼んだが、壊滅しかけた世界とはこういう事か」

 

 先程のおちゃらけた雰囲気とは程遠い、深刻な顔をした加山に、緋月は印刷を終えた資料をまとめて手渡す。

 

「これを。早急に頼みます。今ここで戦闘が始まっても、不思議ではありませんから」

「ありがたく頂戴する。悪いようにはしないと約束しよう」

「お願いします。はっきり言ってしまえば、我々は今丸腰に近い状態なので」

「それでは」

 

 資料を受け取った加山は敬礼するとその場から即座に消える。

 

「さて、間に合えばいいのですが………」

 

 

 

 会議室に急いで設置されたパイプ椅子に座り、着替えを終えたソニックダイバー隊と研修生、ウィッチ、帝国華撃団の面々が、映し出される映像を見入っていた。

 

「そうそう、ここでミーナさんと出会ったのが始まりだったっけ」

「あれは、宇宙船って奴かな?」

「うわあ、なんかすごいのと戦ったんだね」

「いきなりこっちに来たのは驚いたな」

「あの、何ですかこのすごい数の船団とウィッチ………」

「何かすごいのが………」

「え? なんか巨大なロボットが………」

 

 かつての幾つもの世界を股にかけた激戦に、その時を懐かしむ者、質問を次々出す者、ただ絶句する者、反応はそれぞれだった。

 やがて映像が終わり、見ていた者達がそれぞれそばにいる者達と小声で話し合う。

 

「みんな、言いたい事は色々あるだろうけど、一つだけ言える事がある」

 

 各自討論状態になる中、宮藤博士が口火を切る。

 

「これは前回の事をおおまかにまとめた物だが、君達にとって、決して他人事ではない」

「同様、もしくはそれ以上の事が起きる可能性が高い、という事か」

 

 宮藤博士の言葉を代弁するように、大神が放った一言に、その場に動揺が走る。

 

「………桜野、園宮、エリーゼ。もしそうなったら、再度戦線に復帰してもらうかもしれん。いいか?」

「うんいいよ」「分かりました」「ja(はい)」

 

 冬后が慎重に聞いてきた復帰意思の有無に、三人はあっさりと快諾する。

 

「いいの? 今度はいつまで戦うかも分からないのよ?」

「瑛花さん一人だけじゃ、ソニックダイバー隊にならないでしょ?」

「戦闘になったら、風神の索敵能力と私の解析能力は必須でしょうし」

「新入りに私の実力を見せるのも面白そうだし」

 

 瑛花も思わず問うが、三者三様の返答が返ってくる。

 

「それに、亜乃亜ちゃん達が助けに来てくれうだろうし」

「ま、それを待つしかないってのもあるが………」

「先程出てた、あの大火力の機体に乗ってた子達だったか」

「異世界転移技術をこちらで持っているのは彼女達Gだけなんです。問題はこちらから知らせる方法が無くて………」

 

 救援が来る事を一切疑っていない音羽に、冬后も渋い顔をして頷く。

 大神は先程まで見てた資料映像の説明を思い出し、瑛花がそれを補足する。

 

「取り敢えず今の所、仕掛けてくるような連中は来てないが、そのまま来ないたぁ、まず思えないしな」

「確かに」

「即座に防衛体制を整えた方がいいだろう。ここにあのソニックダイバーとかいう機体以外の軍備は?」

 

 冬后と宮藤博士が考えこむ中、大神の出した質問に冬后が無言で首を左右に振る。

 

「それでは、ソニックダイバーの再武装が終るまで、帝国華撃団がここの警備に当たろう。どれくらいかかるかだが………」

「明朝までには何とか、っておやっさんは言ってたが………」

「文字通り突貫作業か………こちらで隊員を半数ずつに分けて当番制で警備しよう。マリア、カンナと織姫君とすぐに就寝して四時間交代、サクラ君とアイリス、レニはオレとそれまで光武に搭乗して警備に当たる。紅蘭は、ずっと再武装の手伝いしてそうだな」

「了解しました司令」

「服部、準戦闘体勢で待機だ。ソニックダイバーが使えない以上、すぐに動ける航空戦力はお前だけだ」

「は、はい! 了解です!」

「私は一度戻って戦力を集められないか上層部に進言してくる。その間、宮藤少尉の指揮下に入れ」

「了解です!」

「え? あの坂本さん、私指揮なんて………」

「新人一人に防空任せるわけにはいかん。飛べなくても、飛んだ経験がある事が重要だ」

「よろしくお願いします! 宮藤少尉!」

「あの、冬后大佐。私達は………」

「取り敢えず飯食って寝とけ。シミュレーション訓練ようやく始めるたって連中にやれる事は今の所無い」

 

 幾つもの指示が矢継ぎ早に飛び交い、急遽各種シフトが組まれていく。

 

「どうやら、随分長いラストフライトになりそうね………」

「そのようだ。問題は、私も宮藤も飛べないという事だ。国内防衛に回っているウィッチをかき集められればいいのだが………」

「間に合うかしら、こちらも、そちらも」

 

 瑛花と美緒の会話は、現状の一番の問題を表わしていた………

 

 

 

「脇を締め、骨格で銃を支え、距離を詰めてスコープからはみ出るくらいに………」

「はい静夏ちゃん」

 

 追浜基地の寮の屋上、傍らにストライカーユニットを置き、銃を手に教えられた事を反芻していた静夏に、芳佳がお茶と夜食を持ってくる。

 

「こ、これは宮藤少尉! 上官に夜食を運ばせるなど!」

「いいからいいから。あまり緊張してると、持たないよ」

「その通りよ、見張りなんて周囲の景色楽しむくらいの気持ちでやらないと」

「下がちょっとうるさいのが難点ですけど」

「斧彦さんに、菊之丞さんでしたっけ? お二人もどうぞ。あれ、もう一人の方は?」

 

 静夏と一緒に警戒任務に当たっていた薔薇組だったが、人数が足りない事に芳佳が首を傾げる

 

「ありがとね。琴音ならさっき急用で呼び出されて行っちゃった」

「何か上で色々揉めてるみたいです。ここは前に大規模な戦闘が有った場所なので、変に警戒されてるらしくて」

「はあ~そう言えば華撃団の人達もそんな事言ってましたね」

「あら、芳佳ちゃんこそ、前の戦いじゃ大活躍したって聞いたわよ」

「まあ、それほどでも。あ、お茶冷めちゃいますよ。静夏ちゃんも」

「そ、そうですか………」

 

 恐縮しながら、静夏が夜食を受け取る。

 にこやかにその様子を見ている芳佳と、先程見せられた激戦の中心で奮戦する芳佳、その両者がどうにも重ならず、静夏は困惑していた。

 

「あの、宮藤少尉」

「何? 静夏ちゃん」

「敵は、やはり来ると思いますか」

「う~ん、どうだろ? 何も無くて、音羽ちゃん達が無事帰れるのが一番なんだろうけど、大神さんも何か起こるって言ってるし………」

 

 芳佳の最後の台詞に、静夏は思わず生唾を飲み込む。

 

「一郎ちゃんがそういうなら、そうなんでしょうね」

「大神さんは帝都、巴里、双方の華撃団の隊長をしてた人ですからね。前に異世界とかで何があったかまでは知りませんけど、今回もそうなるって考えてるんでしょう」

 

 薔薇組の二人の言葉に、静夏の顔が更に深刻さを増す。

 

「でも、帝国華撃団の人達も強そうだし、ソニックダイバーも今晩中には戦えるようになるっていうから、もし何かあっても、無理はしない方いいよ」

「そうそう、ウチの花組は強いわよ~」

「他の組の人達も緊急招集が掛けられてますし、臨戦態勢は完璧です」

「だってさ」

「しかし、自分は軍人です。軍人である以上、敵が来たなら戦わなければ」

「私は、軍人として戦ってたなんて思ってないけど」

「えっ………」

 

 意外な言葉に、静夏は絶句する。

 

「お父さんの口癖、知ってる? 「その力を、多くの人を守るために」私は、ずっとその気持で飛んでた。軍人じゃなく、誰かを守るウィッチとして」

「軍人でなく、ウィッチとして………」

「立派なお父様ね」

「はい! でも普段は娘の行事事に顔も出せない駄目な人なんですけどよ」

「それは残念ね」

「忙しそうですからね、今も下で色々やってるみたいですし」

「あ、さっきのは坂本さんには内緒ね。そんな事言ったなんて知ったら、怒られそうだから」

「私には分かりません。ウィッチになったからこそ、軍人になったのです。軍人として飛び、戦う事こそがウィッチとしての本懐ではないのですか!?」

 

 思わず語気を強くする静夏だったが、それを芳佳は微笑で受け止める。

 

「いつか静夏ちゃんにも分かるよ」

「そう、なのでしょうか………」

「うん。それじゃ、あまり力まない程度に警備お願いね。薔薇組の人達も」

「了解しました………」

「任せてちょうだい」

「夜食ごちそうさまでした」

 

 芳佳に手を振って見送った二人が、静夏が先程の芳佳の言葉にまだ悩んでいるのに気付く。

 

「静夏さん、私達が見てますので少し休んだ方が」「何かあったら、すぐに起こすから心配ないわよ」

 

 二人の提案に静夏は首を横に振る。

 

「私が任されたのです。休むわけには」

 

 力なく返事をしながら静夏は夜空を見つめる、そして芳佳の言葉を理解出来ぬまま、夜明けを迎える事になった。

 

 

 

「零神の接続は終わった! チェック走らせる!」

「ちょっとこっち手伝い頼むわ」

「給弾するで、離れてや!」

「FCSをちゃんと立ち上げとけ! 無駄弾撃たせる余裕はないからな!」

「う~ん、口径はなんとかなりそうやけど、中身はまるで別物や。こっちのは使えそうにないで」

「さっきすみれ君と連絡が取れた。光武用の武装を幾つか持ってきてもらう。機体全高は似てるから、使えない事は無いと思うんだが………」

「おやっさん、外接でFCS連動出来るか?」

「いじってみねえと分からねえな。今度はこっちが武装で悩む番か」

 

 追浜基地の格納庫で、夜通し行われていたソニックダイバーの再武装は、ようやく最終チェックの段階にこぎつけていた。

 帝国華撃団も作業に関わり、ソニックダイバー隊はかつての戦闘部隊としての様相を取り戻しつつあった。

 

「何とか、間に合いそうだな」

「ええ、正直作業中に敵襲があったらどうしようかと思いましたが」

 

 作業に徹夜で付きそう事になった冬后と大神がそう言いながら、自分達自身の言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

 

「なあ、気付いてるか」

「もちろん、何かがおかしい」

「どうして、襲ってこない?」

「まるで…」

「大神君!」

 

 何かを言いかけた所で、かえでが慌てて飛び込んできた事で大神は出しかけた言葉を中断させる。

 

「かえでさん、何か起きましたか?」

「それが、軍のタカ派が動き始めたそうよ。ここを制圧するため、部隊を派遣するみたい!」

「なんだって!?」

「そりゃ、首都の眼と鼻の先にこんなもんが出現すりゃそうなるわな………」

 

 ある意味、真っ当とも言える軍の反応に、大神が狼狽し、冬后も口調とは裏腹に焦りを感じる。

 

「そっちの力で抑えられるか?」

「難しい………帝国華撃団はあくまで帝都防衛のための独立部隊だ。軍その物に影響力は少ない」

「さすがにここを制圧されたらやばいが、こっちから手出すのもやばい。どうする?」

 

 悩む二人だったが、複数の軍用蒸気トラックが向かってくるのが見えて、即座に警戒レベルを引き上げる。

 

「格納庫を閉鎖し、外から見えないようにしててくれ。何とか話をつけてくる」

「そうは言ってもよ」

「誰か来る!」

 

 緊張する大神と冬后だったが、かえでの一言に、大神は急いでそちらへと向かっていく。

 だが、こちらへと向かってくるのがたった一人という事にまず疑問を感じ、それが見覚えのある人物だと気付いて目を大きく見開く。

 

「よう、大神~」

「よ、米田司令!?」

「司令はテメエだろう」

 

 向かってきた将校用軍服に身を包んだ小柄な初老男性、帝国華撃団・前司令、米田 一基 元・中将の姿に大神は絶句せざるを得なかった。

 

「米田中将………どうしてここに?」

「ん~? こういう訳だ」

 

 大神の後を追ってきたかえでも驚く中、米田は一枚の紙を渡す。

 それは大日本帝国軍元帥府からの指令書で、米田 一基 元・中将を、特例で現役に復帰、今回の件の全件を委任する旨が記されていた。

 

「これは………」

「ま、そういうこった。こっちの方はオレっちが抑えとくから、気にすんな」

 

 そう言いながら米田は大神に近づくと、小さな声で囁く。

 

「賢人機関が動いたぜ、オレの再任は花小路伯爵による物だ。加山が夜の内にあちこち動きまくったらしい。おかげで朝飯も食わねえでこんな事になっちまったが」

 

 華撃団構想を提案・設立した、世界的影の思考組織の名に、大神とかえでの顔色が変わる。

 

「あれ、知り合いか?」

「よお、邪魔するぜ」

 

 そんな事もつゆ知らず、何か話し込んでいる三人の元に冬后が姿を現し、米田は気楽に挨拶する。

 

「オレは帝国陸軍の元・中将の米田って者だ。まあしばらく元が取れそうだが。ああ後ろのは気にする事ねぇぜ。オレがいりゃ手を出す事は無ぇだろ」

「これは失礼しました。自分は人類統合軍の冬后 蒼哉大佐です」

「帝国華撃団の前司令に当たる人です」

 

 将校と聞いて冬后が慌てて敬礼し、大神がそっと米田の正体を明かす。

 

「ここで一番えらいのってアンタかい?」

「あ、いや今は臨時指揮権で別の人が」

「じゃあその人に会わせてもらえねえかい? 聞きたい事があるんでよ」

「了解しました。失礼ですが、こちらの事情は…」

「加山から多少聞いたぜ。正直、老いぼれの頭には何が何だか分からねえが」

「誰もが、ですよ」

「じゃあ行くとすっか、大神~テメエも来い」

「はい、司令……じゃなくて中将」

 

 つい前の呼び方をした大神が慌てて言い直し、冬后の先導で追浜基地へと向かう。

 最後尾となったかえでがちらりと後ろを見ると、トラックから降りてきた兵隊達が、ある者は緊張した顔で、ある者は渋い顔でこちらの方を睨んでいた。

 

「米田中将じゃなかったら、抑えられなかったわね………花小路伯爵と加山君に感謝しないと。けど、事態はそこまで深刻になっている?」

 

 

 

「人類統合軍極東方面軍、門脇 曹一朗 元・中将です」

「大日本帝国陸軍、米田 一基 元・中将だ。あんたも楽隠居引っ張りだされた口かい?」

「ええ、まあ」

 

 追浜基地の会議室で、二人の老将が握手をかわす。

 

「資料は読ませてもらったが、今一分からねえ、異世界ってのがよ。だが、この部屋に来るまでに見た物が、少なくても帝都に無さそうだっての位は分かる」

「それだけでも理解していただければ、話は早い」

 

 米田が格納庫で見せられたソニックダイバーや会議室の各種電子機器を見ながら呟き、門脇は小さく頷く。

 

「それらを踏まえて、聞きたい事が二つ。これからあんたらがどうしたいか、そしてこれからどうなるか」

「最大の目的は、無論元の世界への帰還という事になります」

「あては?」

「前回共闘した組織で、こういう異世界への関与への対処を目的とした《G》と呼ばれる組織との関わりが若干あります。我々がここに来る直前、そのGの者が間近におり、今こちらを帰還させるべく、尽力している物と」

「帰るあてはあるって事かい。ただ」

「正直には帰れない」

 

 門脇の言葉に、米田の顔が険しくなる。

 

「米田中将、彼らの転移は、明らかに人為的な物です。こちらに来た人間は、明らかに選別されている模様です」

「ま、こんなどでかい施設が自然に出たり消えたりされても困るけどよ」

「たまにあるってGの連中言ってたような………」

「だが、人員選別となれば話は別では?」

「確かに、な」

 

 同席していた冬后の呟きに、大神もある種の確信を込めて反論する。

 

「最大の問題は、別に在る。と言うよりも、更に大きくなりつつある」

「なぜ、仕掛けてこねえのか」

 

 門脇の言わんとする事を、予感していた米田が代弁し、門脇は頷く。

 

「確かにおかしいです。自分の時は、大抵戦場に跳ばされる事が多かったんですが………」

「そりゃこっちも同じだ。行く先々でひでえ目に有った」

「今回は違う。これだけのお膳立てをしておきながら、何もリアクションが無い」

「確かに、おかしい話だな。仕掛けるなら、向こうが気付く前に一気にけしかけるのが戦術の基本中の基本だ。政治的取引があるって訳でもあるめえし」

「これをしたのが何者かも分からないのに、政治的取引も何も………」

「それこそ、向こうから姿を現して行う物では?」

「もしくは………」

「失礼します」

 

 ある可能性に四人がたどり着きかけた所で、ドアがノックされ、険しい顔つきの初老の将校、攻龍の元・副長の嶋 秋嵩 元・少将が顔を出す。

 

「ソニックダイバーの再武装を終了、追浜基地設備の各種点検も終わりました。ただ、自家発電でどこまで電源が持つかまでは………」

「仕方あるまい。元々訓練基地だ、軍事基地ではない」

「電源ならすみれ君が、いや帝国華撃団の技術的後援の神埼重工が最新型蒸気機関を用意してくれている。規格が合うかどうかが問題だが………」

「ワーム大戦の時を思い出すな、あの時も使える物は何でも使った物だ」

「全くです。動力源なら、発電機に繋いでしまえば使えるはず」

「自転車こいだ時よりはマシですな」

「どんだけ切羽詰まった戦いを?」

「さすがに自転車こいだ事はねえな………」

 

 人類統合軍の三人がかつての大戦を思い出し、その内容に帝国軍の二人が僅かに引く。

 

「つまり、ほぼ戦闘準備が整った」

「それを、待ってたってのか? それならつじつまは合うが、理由が分からねえ」

「ソニックダイバー隊と、帝国華撃団を、一緒に戦わせるために?」

「そういう事に、なるのか?」

「なぜ、わざわざこちらの戦力を増やすような事を………」

「大神さん、いますか? すみれさんが色々持ってきてくれたそうです」

「分かった、今行くよ」

 

 誰もが疑問だらけの中、さくらの声に大神が返答する。

 

「すいませんが、資材が届いたようなのでこれで」

「オレも行こう、中身を確認したい」

「そちらは頼む」

「オレも一度帝国劇場に行ってくる。何が起きるかは分からねえが、華撃団だけじゃなく軍に準備させる必要もありそうだしな」

「坂本少佐はまだ戻らないのか?」

「先程従兵から直に戻ると連絡が」

 

 予想される敵襲が近づいてきているであろう可能性に、指揮官達の動きがにわかに慌ただしくなってくる。

 

「何が攻めてくるのか、そして我々だけで対処出来るのか………」

 

 門脇の呟きは、彼の内心の焦りを現していた………

 

 

 

「それはこちらに! 蒸気機関はどちらへ?」

「あっちの発電室だ! 僚平、繋いどけ!」

「うへえ、久しぶりの徹夜仕事の後なのに」

「手伝うで」

「皆さ~ん、朝ごはんですよ~」

「たくさん食べてくださいね」

 

 大型トラック数台が乗り付けた格納庫前で、すこし強気そうな雰囲気をまとった女性、元帝国華撃団花組、現・神埼重工取締役の神埼 すみれが荷降ろしを指示し、タクミとさくらと芳佳が三人で作ったオニギリを配っていた。

 

「お久しぶりです、すみれさん。すみれさんもどうですか?」

「せっかくですからいただきますわ。それにしても、随分と変わった機体がありますのね」

「ソニックダイバーの事ですか? 話どこまで聞いてます?」

「詳しい所までまだ。昨日の深夜、いきなり大神大尉に電話で起こされて協力して欲しいと懇願されたとしか。他でもない大尉のお願いですから、こうやって赴いたまでですの」

「それはすいません。こっちもあるだけので足りなくて………」

 

 タクミがすみれに頭を下げる中、幾つかの武装が降ろされていく。

 

「霊子甲冑用の武装試作機、20粍機関銃とシルスウス複合鋼剣と槍、その他持ってきましたけれど、そちらの方々、霊力持ってますの?」

「あ~、それはちょっと………」

「念のため、徹甲弾と炸裂弾の複合弾帯を用意させましたわ」

「これ、FCSつけられるやろか?」

「つうか、こっちの剣、零神なら使えるかどうか………」

 

 各種武装を嵐子と晴子がチェックする中、トラックの一番奥に、すみれ色の霊子甲冑があるのに芳佳が気付く。

 

「これって………」

「私の光武二式ですわ。手が足りない時はご助勢をしようかと思いまして」

「でもすみれさん、霊力が………」

「あらさくらさん、一線には出れなくても、まだまだ操縦の腕は衰えてませんわよ?」

「メシだメシ~ってすみれじゃねえか」

「あらカンナさん。あなたは相変わらずのようですわね」

「朝食が済んだら、試射させてもらっていいかしら?」

「FCSの取り付けが先や」

「これ、ゼロで持てるかな~」

 

 起きてきた者達や徹夜明けの者達が朝食と武装に群がり、格納庫内は喧騒に包まれる。

 それが、嵐の前の静けさである事を知るのは、それ程の時を必要とはしなかった。

 

 

 

同時刻 足立区上空

 

 東京湾上とは大帝国劇場を挟み、ちょうど対極線上にある地点に、異常が起き始めていた。

 

「あれ、何だ?」

 

 朝一で家の前を掃除していた住人が、虚空に浮かぶ奇妙な物に気付く。

 最初は雲かと思っていたが、すぐにそうでないと知る。

 それは始終形を変え、漂うそれは霧のようだったが、やがて渦を巻き始める。

 一人、また一人と住人達が異常に気付く中、渦巻く霧はどんどんその大きさを増していき、やがて竜巻と言っても過言ではないレベルにまで成長した。

 

「なんだぁ!?」

「旋風だ! 家の中に入れ!」

「あれが!?」

 

 住人達が騒ぎ、慌てて屋内に避難しようとする中、更に予想外の事が起きる。

 霧の竜巻の中から、何かが飛び出してきた。

 鋭角な胴体を持ち、三角形を組み合わせたようなその異形に、気付いた者達は絶句する。

 それは、まだこの時代に存在しないはずの物、ジェット戦闘機にも見える存在だったが、その表面は縞模様のような物が明滅し、更にまるで振動でもしているかのようにその姿はぶれて見える。

 

「何じゃありゃあ!?」

「誰か警察、いや軍隊、いや帝国華撃団に連絡だ!」

「華撃団の連絡先なんて知るか…」

 

 住人達が騒ぎ始める中、突如として出現した謎の機体から、噴煙を上げて何かが発射される。

 

「え…」

 

 発射されたそれは、そのまま一気に下降して建物に激突、爆発を起こす。

 

「こ、攻撃だ!」

「逃げろ~~!!」

「おい、他にも出てくるぞ!」

 

 悲鳴と絶叫が飛び交う中、霧の竜巻の中から、似たような物が次々と出現していく。

 のみならず、同じように鋭角に尖った胴体に、不自然に尖った足を持つ奇妙な物体、未来ならば歩行戦車と呼ばれる兵器に似た物も次々と降下してくる。

 それらこそが、まごうことなき、《敵》だった……………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP04

 

「超空間通路、発生確認。敵機多数出現」

「出現規模はBレベル。現地勢力及び転移勢力、迎撃行動を開始」

「本部に連絡、観察対象レベルをオーバーする可能性あり………」

 

 

 

「足立区に謎の物体多数出現! 市街地に攻撃をしています!」

「次々と火災発生! 避難民多数!」

「敵機は南西に進行を開始、直線上にこの大帝国劇場が有ります!」

 

 大帝国劇場の地下、帝国華撃団司令部にて、急遽呼び戻された帝国華撃団の支援部隊風組の三人娘、藤井かすみ、榊原 由里、高村 椿が突然の敵襲に声を張り上げる。

 

「大神!」

『今翔鯨丸にて急行中!』

『こちらソニックダイバー隊、発進準備完了! 敵機迎撃のため出撃します!』

 

 もう座る事もないと思っていた司令席で米田が声を張り上げ、大神が返答する中、追浜基地からタクミの通信が入ってくる。

 

「頼む! 向こうは空飛んでやがる! 光武じゃ空までは戦えねえ!」

 

 叫ぶように返信した所で、思わず米田は苦笑する。

 

(機械か魔物かも分からねえ謎の敵に、どうやって飛んでるかも分からねえ機体に乗った嬢ちゃん達、老いぼれの頭にキツイぜ………)

 

 米田は視線を司令部の大型画面に映し出されている、戦地へと向かう翔鯨丸へと移す。

 

「大神、この事態にはお前の判断力が必要だ。最前線での判断は全てお前に委ねる。後方支援ぐれえは俺がなんとかしてやる。躊躇わずに行って来い」

『はい!』

「海軍省にも連絡! 陸軍の手に余るかもしれねえ! 避難民の海上輸送の準備を打診!」

「了解!」

「こっちはどうにかする、そっちは頼んだぜ………」

 

 矢継ぎ早に指示を出しながら、米田は戦場へと向かう若者達に、小さく呟いた。

 

 

「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」

「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」

「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」

「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」

『ソニックダイバー隊、発進してください』

「雷神 一条、発進!」

「風神 園宮、出ます!」

「零神 桜野、ゼロ行くよ!」

「バッハ エリーゼ、テイクオフ!」

 

 発射台から噴煙を上げ、四機のソニックダイバーが次々と発進していく。

 

「くそ、やっぱり攻めてきやがったか!」

「なんぼくらい来てるんや!? 弾は積んだので全部やで!」

「やっぱこっちのにFCS付けといた方いいやろな」

「敵がどれくらいいるか分からねえ! 使える物は使えるようにしとけ!」

 

 速度を上げていくソニックダイバーを見送った後、整備班のメンバー達が大慌てで光武用の武装をなんとかソニックダイバーで使えるよう、細工に入る。

 そこに、やたらと華美な装飾が施された、悪趣味一歩手前の蒸気自動車がタイヤをスピンさせながら格納庫の前へと止まる。

 

「斧彦! 菊之丞! 敵は足立区から大帝国劇場に向ってるわ! 直線上の避難誘導、するわよ!」

「分かったわ!」「じゃあ私達も行きます!」「待ってください! 私も!」

 

 運転席で叫ぶ琴音に、斧彦と菊之丞が慌てて乗り込むが、そこに医療箱を担いだ芳佳も加わる。

 

「医療班は大歓迎よ、早く乗って!」

「はい!」

「芳佳はん! 無理したらアカンで!」

「もうウィッチやないんやから!」

「大丈夫です!」

 

 作業しながら叫ぶ御子神姉妹に片手で返しながら、芳佳を含めた薔薇組の乗った蒸気自動車が走り去っていく。

 

「くっそ、攻龍がありゃあ………」

「あっても市街地にミサイル撃てるかい!」

「敵はステルス機能持っとるらしいで」

「何が攻めてきたんだ何が!」

 

 

 

「大神司令! 投下予定地点に到達」

「何だよ、あいつら見た事もない奴らだ」

「相手が何物であれ、我々のすべき事はかわらない!」

「当然です! 大神さん」

「投下開始や、行くで」

 

 翔鯨丸から投下された光武改二は、一直線に最前線へと着陸。と同時に皆が一斉に敵へと向き直る。

 

『帝国華撃団、参上!!』

 

 降り立った帝国華撃団の勇姿を見た市民達が一斉に喝采をあげる

 

「華撃団だ! 帝国華撃団が来てくれたぞ!」

「そいつら倒してくれ!」

「お前ら、そんな声援送る暇会ったら避難だ! 早くこっちへ来い! 彼らの邪魔になるぞ!」

 

 声援を送る市民が陸軍によって誘導されるのを脇目で見ながら、大神は正面の敵を観察する。

 

(見た事無い相手、というのは確かだ。昨日見た映像にこんな連中はいなかった。だが!)

「隊長、相手の能力が未知数だ。ここは慎重に様子を見…」

 

 レニの言葉が終るよりも早く、大神の乗る純白の光武改二は敵へと向けて突撃していった。

 

「大神はん?!」「大神司令!」「大神さん!」

 

 いきなりの先行に隊員達が驚く中、大神機が突撃していった先、4脚の歩行戦車とも言うべき漆黒の相手は大神機へと連射式の銃撃を放つが大神はそれを巧みに交わし、相手へと肉薄、敵は銃撃を止め脚の一本を振り上げて攻撃しようとするが、大神はそれを左の刀で受け流しつつ、右の刀で一瞬にして斬り飛ばす。

 

「お兄ちゃん、スゴーイ!」

「まだだ! せやぁぁ!」

 

 脚を失った為バランスを崩した敵に、大神は気迫と共に両刀を突き刺し、左右へと切り開いた。敵はその攻撃でダメージの限界を迎えたのか、爆発・四散する。

 

「最初から、オイシイ所持っていきすぎデース」

「まったくだぜ」

 

 大神の無謀とも取れる行動に、華撃団の皆があっけにとられる中、大神は新たな敵へと向かい直る。

 

「見たか皆、こいつらは硬いが決して敵わない相手では無い。臆する事は無い!」

 

 その言葉に華撃団の誰もが抱えていた未知の敵への恐怖を消し飛ばした。

 

「行くぞ! 帝国華撃団! ここを絶対に守りぬくんだ!!」

『了解!』

 

 

 

「こちら雷神 一条。敵機を確認! 敵機多数!」

「風神 園宮、敵機解析を開始、順次データを転送します!」

「撃ってきた!」

「各機散開! 迎撃を開始!」

「このっ!」

 

 見た事も無い、戦闘機ともそうでないとも取れる奇妙な敵機から放たれたミサイルのような物を、ソニックダイバーはフォーメーションを一時散開させて回避、音羽が零神のビーム砲でそれを迎撃、爆発四散させる。

 

「やっぱりミサイル! 敵機は高速誘導兵器を所持!」

「だけじゃない!」

 

 エリーゼが叫びながらバッハシュテルツェをロールさせ、それを追うように別の敵機から光条が伸びる。

 

「光学兵器まで!」

「敵機は高速機動兵器と推察! 有人無人は不明!」

「たあぁぁぁ!」

 

 瑛花と可憐が叫ぶ中、音羽は零神をAモードへとチェンジ、すれ違い様にMVソードで敵機を斬り裂く。

 斬り裂かれた敵機は煙を上げながら墜落していくかに見えたが、途中で爆発、文字通り粉々に砕け散った。

 

「今の消え方………」

「ネウロイに似てるわね。けどネウロイとは違う………」

「多分だけど、アレ誰も乗ってない!」

「もうどうでもいいわよ! 次々来る!」

「フォーメーションをスクエアに! 音羽とエリーゼは攻撃、私と可憐でサポートするわ!」

『了解!』

 

 帝都と、自分達の双方を攻撃してくる。

 それ以外何も分からない敵にソニックダイバー隊は応戦するべく、向っていた。

 

 

 

「何なんだこいつら………」

 

 追浜基地の管制塔に急遽造られた指揮所にて、門脇、嶋、そして冬后の三人の指揮官は送られてくる謎の敵の映像を凝視していた。

 

「ワーム、ヴァーミス、ネウロイ、バクテリアン、どれとも一致しません! これは、全く未知の敵です! 常時ジャミングを発生させてるらしく、詳細な解析も不可能です!」

「こいつらが、今度の敵って訳か………」

 

 断片的ながら送られてきたデータを解析した七恵の報告に、冬后は苦虫を噛み潰したかのような顔で謎の敵と、交戦するソニックダイバー隊を睨みつける。

 

「帝国華撃団は!」

「現地に到着、敵地上部隊と交戦を開始した模様!」

「空戦機と陸戦機、双方を繰り出してくるとは、敵は制圧戦を狙っているのか………?」

「それならば、最初に出撃する前のこちらを叩けばいい。わざわざ、離れた場所に出現した意味があるはずだ」

「帝国華撃団から報告! 敵は霊力の攻撃に弱いらしく、善戦してるそうです!」

「ソニックダイバー隊に連絡、防衛線を構築。市民の脱出まで時間を稼げ」

「ソニックダイバー隊、防衛線を構築して市民の脱出時間を稼ぐようにだそうです!」

『一条、了解しました。しかしこの数は………』

「坂本少佐が増援を連れてくる予定だ! それまで持ち堪えろ!」

『了解!』

 

 瑛花の焦りを通信越しに感じつつも、鼓舞させるために冬后は声を張り上げる。

 

「ウィッチの増援が来るのが先か、ナノスキンの限界が来るのが先か………」

「残弾数の問題もある。このままで済めば…」

「敵、更に増加!」

 

 指揮所の不安を更に増大させるように、七恵の悲鳴のような報告が響いた………

 

 

 

「はああぁぁ!」

 

 気合と共にさくらの駆る文字通り桜色の光武二式が白刃を一閃。

 一刀の元に敵機は両断、直後に爆発しながら粉々に砕け散る。

 

「何だよこいつら!」

「こっちが聞きたいデ~ス!」

「落ち着け皆! 攻撃を確実に当てれば撃破出来る! 何も問題は無い!」

 

 見た事も無い敵に困惑する花組隊員達を鼓舞しながら、大神も自機の双刀を振るい、次々敵機を撃破していく。

 

「大神はん! 多分これ自立型の無人機や! 上飛んでるのも同じらしいで!」

「見た事の無い奴だ。前回はこんなのはいなかった………」

『大神! 市民の避難までそこから敵を通すな! 今陸軍が総力を上げてる! 海軍の増援部隊も向ってるそうだ!』

「そちらは頼みます米田司令!」

『司令はてめえだろ!』

「帝国華撃団花組、ここから敵を一体も通すな!」

『了解!』

 

 つい昔の癖で言ってしまった事に怒鳴り返されつつ、大神は花組全員に指令を出し、自らも先陣を切る。

 

「司令! 敵が翔鯨丸に!」

「全速で後退させろ! 速度が違い過ぎる!」

 

 マリアが上空を見ると、そこに敵機に狙われる翔鯨丸の姿が有った。

 大神が後退を指示するが、そこに敵機のミサイルが飛来、直撃するかと思われた時、翔鯨丸の前に魔法陣の描かれたシールドが展開、ミサイルはそれに阻まれて爆発四散した。

 

「私が援護します! 早く撤退を!」

 

 ミサイルをウィッチのシールドで防いだ静夏が、翔鯨丸に撤退を促す。

 

『静夏君か! 助かった!』

「早く! 一斉に攻撃されたら、私だけでは持ちません!」

 

 静夏が叫びながら、撤退していく翔鯨丸の殿を受け持つ。

 撤退を確認した静夏は、全身を冷たい汗が流れるのを感じつつ、目の前に広がる光景を見る。

 

「これが、戦場………」

 

 上空ではソニックダイバー隊が、地上では帝国華撃団がそれぞれ奮戦しているが、敵の攻撃は市街地を容赦無く破壊していき、市民達が帝国陸軍の兵士達に促されながらも、逃げ惑っていた。

 

『静夏ちゃん!』

「は、はい宮藤少尉!」

『そこから7時方向後方300m! 逃げてる人達を護衛して!』

「了解しました!」

 

 下から見ていたのか、芳佳の昨夜とは違う鋭い声に、静夏は即座に復唱し、指定された場所へと急行する。

 

「ひえええぇ………」

「急げ爺さん!」

「来た!」

 

 逃げ惑う市民達に、敵の陸戦型が迫る。

 老人が一人、それに腰を抜かし周りの者達が慌てて救い起こそうとするが、突然陸戦型が爆発四散する。

 

「何だぁ!?」

「急いで下がってください! 向こうの通りに軍の救援隊が来ています!」

 

 驚く市民に、上空からの銃撃で陸戦型を撃破した静夏が叫ぶ。

 

「おい、女の子が空飛んでるぞ!」

「しかも耳と尻尾が生えてる!」

「まさか、帝国華撃団の新型!?」

「いいから早く!」

 

 さっきとは違う意味で驚いてる市民に思わず怒鳴りながらも、静夏は機関銃を向かってくる陸戦型に向けて構える。

 

「市民を一人でも多く逃がす、それが今の私の任務!」

 

 自分を鼓舞させながら、静夏はトリガーを引いた。

 

 

 

「急いでくれ!」

「はい!」

 

 あちこちから爆音が響いてくる中、美緒は月組の一人が運転する蒸気自動車で追浜基地へと向っていた。

 

「総員、避難する市民を護衛! それ以外の交戦を許可しない! いいな!」

『了解!』

 

 車の中で通信機に怒鳴る中、後方で何人ものウィッチが上空へと飛び上がり、市民の元へと向かっていく。

 

「く、私が飛べれば!」

 

 こちらの世界に影響が出ていないため申請していたウィッチの増援は間に合わず、急遽自分の教え子の研修生達を駆り出す羽目になった美緒だったが、全員が初陣という状況では苦戦しているソニックダイバー隊の援護にまでは向かわせる訳にはいかなかった。

 

「こちら坂本! 追浜基地、応答せよ!」

『こちら追浜! 坂本少佐、戻られたんですか!?』

「すまん! 防衛隊は動かせなかった! 今こちらの新人ウィッチ達を市民の護衛に向かわせたが、それ以上の事は期待できない!」

『ええ!? このままだと、ナノスキンの効果が切れる前に、残弾が切れちゃいます!』

「なんだと!? クソ、何か手は…」

「手ならあります」

 

 そこで響いた声に、美緒は驚き運転していた月組隊員は自分達だけしか乗ってないはずの車内を見回す。

 

「お久しぶりですマスター」

「お前は!」

「え………」

 

 何時の間にか、車のアタッシュボードの上に立つ、文字通り小さな人影に二人は驚く。

 それは、全長が15cm程しかないような白いスーツをまとったような人形のような存在だった。

 

「アーンヴァル!」

「増援に参りました、マスター!」

 

 その人形のような存在、前の戦いで皆をサポートするために送り込まれた武装神姫と呼ばれる者に美緒はその名を呼んだ。

 

「人形が喋ってる!?」

「彼女は武装神姫、アーンヴァル。味方だ!」

「今回、機体をバージョンアップ、正式名称は天使型MMS・アーンヴァルmk2です。アーンヴァルのままで結構です」

「早速だがアーンヴァル、行けるか?」

「はい! マスターはこれを!」

 

 そう言いながら、アーンヴァルはどこかから半透明のHMDのような物を取り出す。

 

「これは?」

「新開発されたRIDE ONシステムです! 装着してください!」

 

 似たような物を前回見た事が有った美緒は、見よう見まねでそのHMDを装着する。

 

「行きます、RIDE ON!」

 

 アーンヴァルのボイスコマンドと同時にシステムが作動、突如として美緒の視界に自分自身を見上げる画像が映し出される。

 

「これは、アーンヴァルの視点か?」

「はい! マスターの代わりに、私が飛びます!」

「そうか、では出撃だ!」

「はい!!」

 

 美緒の命令にアーンヴァルは大きく答えながら、背部のシンペタラスユニットを発動、その小さな体からは想像できない速度で、一気に空へと舞い上がる。

 HMDに映る、久しぶりの空を舞う感覚に美緒は僅かに笑みを漏らす。

 

「10時方向、新人ウィッチ達が市民の避難護衛にあたっている! 援護しろ!」

「レーダーに感知、急行します!」

「三時方向、敵機だ!」

「攻撃開始!」

 

 アーンヴァルはGEモデルLC5レーザーライフルを構え、右手に見える小型の飛行型に銃撃。

 放たれた光条は小型を貫き、爆散させる。

 

「よし、どんどん行くぞ!」

「はい、マスター!」

 

 

 

「たああぁぁ!」

 

 気合と共に音羽はMVソードを一閃、だが浅かったのか、敵機はダメージを追いつつ、体勢を立てなおしてくる。

 

「もう一撃…」

 

 こちらも零神をひるがえし、二撃目を放とうとするが、そこである警告表示が視界内に表示された。

 

「MVソード損傷!?」

 

 敵の装甲が予想以上に厚かったのか、斬撃を放ち続けたMVソードに限界が来始めている事に音羽が愕然とする。

 

(予備は無いぞ!)

 

 出撃前に僚平に言われていた事を思い出した音羽はとっさにビーム攻撃に切り替えて追撃、両腕のビームを速射させてようやく敵機にトドメを刺す。

 

「音羽! あなたMVソードが…」

「まだ行ける! ゼロはまだ…」

 

 損傷報告を確認した瑛花が思わず叫ぶが、音羽は剣戟とビームの双方攻撃に切り替え、MVソードの負担を減らそうとする。

 だが攻撃パターンを変えた事を好機と判断したのか、敵の攻撃が零神に集中し始める。

 

「ゼロ、行くよ!」

 

 音羽は零神を高速飛行のGモードに変更、高速飛行と回避パターンを併用して攻撃をかわしていくが、そこに執拗に敵のミサイルが飛来する。

 

「なんて陰険!」

「音羽避けて!」

「音羽さん!」

 

 攻撃が零神に集中した事に気付いたエリーゼと可憐も援護するが、フォーメーションのほころびを狙うように、敵は零神を攻撃し続ける。

 

「まずい…」

「危ないよオ~ニャ~」

 

 ミサイルを回避しきれないと感じた音羽が迎撃を試みようとした時、響いてきたどこか眠たそうな声と共に、突然ミサイルが明後日の方向へと狙いを外す。

 

「今のは…」

「助けにきたよ~」

 

そう言いながら、速度を落とした零神と並走して飛ぶ小さな人影に音羽は気付いた。

 

「ヴァローナ!」

「久しぶりオ~ニャ~。何か大変な事になってるね」

 

 黒いスーツをまとったどこか眠そうな雰囲気の武装神姫、悪魔夢魔型MMS・ヴァローナの姿に、音羽は声を上げる。

 

「武装神姫!? 何でここに!」

「何って、助けに来たに決まってるよ~。あたし以外にもあちこちに来てるよ」

「他にも武装神姫が?」

「もうどうでもいいから、手貸しなさいよ!」

「OK~」

 

 他の三人も驚く中、更に多くなる敵にエリーゼが叫び、ヴァローナもあっさり了承する。

 

「行くよ、ヴァローナ!」

「分かったよオ~ニャ~」

 

 

 

「狼虎滅却・天地神明!!」

 

 莫大な霊力を乗せた双刀の斬撃が、向かってきていた大型の陸上機を一撃で斬り裂き、吹き飛ばす。

 

「全員状況は!」

『全機無事で交戦中です! ただ、防衛線を構築するので手一杯です!』

 

 大神の誰何に、マリアが銃撃を続けながら報告する。

 帝国華撃団は奮戦を続けていたが、敵は次々と新手を繰り出し、誰もが目の前の敵を迎撃するのに必死だった。

 

「やむを得ない………巴里華撃団に増援要請!」

『それが、さっきからやってるんだけど、通信が繋がらないの!』

『こちらでも確認しました! 広域の電波妨害が行われてます! 長距離通信帯を狙った、極めて高度なECMです!』

「なんだって!?」

 

 かえでとタクミからの通信に大神が声を上げた瞬間、遠くから一際大きな爆発音が響いてくる。

 

「隊長! あっちになんかデカイ火柱が上がってる!」

「アイリスも見えた!」

「あの方向、まさか………」

『大神司令! 敵の別働隊よ! 大電波塔が破壊されたわ!』

「そこまで………」

 

 琴音からの緊急通信に、大神は光武二式の中で思わず歯を食いしばる。

 

(市街地に攻撃してこちらに注意を集中させ、電波妨害に大電波塔の破壊、こいつらは極めて高度な戦術で運用されている!)

 

 一見無差別攻撃に見えた敵の攻撃が、理論的な戦術であった事に気付いた大神が、それでもなお戦意を奮い立たせる。

 

「帝国華撃団、市民の避難が完了するまで、その場を死守! この場はオレ達だけで守り切るぞ!」

「増援ならいるぞ! ここに一人な!」

 

 隊員達の返答よりも早く帰ってきた声に、思わず大神の動きが止まる。

 

「今の、どこから?」

「どこを見ている、ここだ。すぐ目の前にいるぞ!」

 

 光武二式の外部モニターにはそれらしい人影は映ってない事に大神が更に不審に思い、何気に視線を僅かに下に移す。

 

「そう、ここだ!」

「え?」

 

 文字通りすぐ目の前、光武の中に小さな人影が立っている事に、大神は一瞬思考が停止する。

 

「ボクは武装神姫、ケンタウロス型MMS・プロキシマ。次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。今から君がボクのマスターだ」

「しゃべる人形が光武の中にいる~!?」

 

 全く予想外の事態に、大神が奇声を上げそうになる。

 

「いや、武装神姫? そう言えば昨日見た資料にそんなのがいたような………」

「そういう事だ、これからボクがマスターを全力でサポートする」

「全力って………」

「それでは行くぞ!」

 

 唖然としている大神を差し置き、プロキシマは勝手にハッチを開け、外へと出て行く。

 

「たああぁぁ!」

 

 凛とした掛け声と共に、小剣ハダルとアゲナを振りかざし、その小ささを利用して陸戦型の脚部を一気によじ登り、付け根を双剣の斬撃で切断、バランスを崩した所で大きく後方に飛び退きながらイクシオンライフルを掃射、超小口径とは思えない破壊力を発揮し、動きが完全に止まった所で大神機の斬撃がトドメを刺す。

 

「なるほど、確かに出来るな」

「さあどんどんやるぞマスター!」

「おお!」

 

 頼れる小さな増援に大神は僅かに驚きつつ、己も双剣を振るい、防衛線を死守するべく奮戦する。

 だが、小さな増援達の力すら上回る程、敵は更にその数を増してきていた………

 

 

 

AD2085 日本 追浜基地跡地

 

「転移空間の概要把握が出来ました」

「何よこれ………」

 

 超銀河研究所から調査隊として来たエミリーがトリガーハート達と協力して出来た転移した空間の詳細が3Dディスプレイに表示される。

 

「追浜基地の施設とソニックダイバー隊がいた上空部分のみ、綺麗に転移した模様です」

「信じられないけど、滑走路まで完全に水平に削りとって転移してたわ。チルダよりも圧倒的に上の転移技術ね………」

「Gでもここまで精巧な転移は不可能よ。こんな事が出来る存在はデータバンクに存在してない………」

「そんなのはどうだっていい! 音羽ちゃん達はどこに行ったの!?」

 

 あまりに高度な転移技術に誰もが愕然とする中、亜乃亜が声を荒げる。

 夜を徹した調査が行われていたが、転移先の特定にまではまだ至っていなかった。

 

「落ち着きなさい亜乃亜。あちら側の協力で転移エネルギーの概算は出せたわ。今からそれで転移可能範囲のメガバースを探索すれば」

「それってあとどれくらいかかるの!?」

「全力でやるわ。少し休んだ方がいいと………」

 

 声を荒げる亜乃亜を、エリューとエミリーがたしなめる。

 誰もがあまり休んでないが、ずっと臨戦態勢で待機していた亜乃亜が、一番憔悴しているように見えた。

 

「せめて四次元座標の方角だけでも分かればすぐなんだけど」

「まずその選定から…」

「! ゲートから転移反応! これは、外部から!?」

「何!?」

 

 エミリーの言葉に、全員が一斉に常時接続状態にしている転移ゲートを見る。

 だがそこからは、予想外の物が飛び出してきた。

 

「すまないが、警戒態勢を解いてくれないかマイスター」

「え………」

「ムルメルティア!? 何で!?」

 

 転移ゲートから出てきたのは、全長15cm程の、小さな人影だった。

 それがかつてフェインティアをマスターとしていた武装神姫、戦車型MMS・ムルメルティアだと気付いた一同が驚く。

 

「どうしてここに?」

「非常呼集だ。第一種非常事態発生のため、私を含めた武装神姫達が各所に配備された。無論、ソニックダイバー隊の所にも」

「! 皆がどこにいるか知ってるの!?」

「こちらで座標の特定に成功した。私はそれを知らせるために派遣された」

 

 ムルメルティアの告げた驚くべき情報に、亜乃亜を筆頭に全員が色めき立つ。

 

「すぐにそこへ…」

「待って欲しい。こちらで確認した事だが、どうやらその座標で大規模な戦闘が起きているようだ」

「………ま、予想通りね」

 

 ムルメルティアの告げた更なる情報に、その場の緊張が高まっていく。

 

「座標は教えるが、転移は臨戦態勢を整えてから…」

「もう、出来てるよ」

 

 そう言いながら、亜乃亜はビックバイパーにまたがり、起動させる。

 それを見ていた他の者達も、一斉に戦闘準備に取り掛かる。

 

「そういう事よ、ムルメルティア」

「了解した、座標をそちらに転送させる」

「オペレッタ」

『受け取りました、これから転移準備に入ります』

「エリカ7! 準備はいいわね!」

『はい、エリカ様!』

 

 Gの天使達が、トリガーハート達が、緊急招集されていたエリカ7が全員臨戦態勢を取り、転移の瞬間を待つ。

 ふとそこで、クルエルティアがある事を口にした。

 

「ユナさんには………」

「………まだ知らせてないわ」

 

 ポリリーナとなっているリアが、小さな声でクルエルティアに呟く。

 

「あの子は、今頃全銀河ボランティアコンサートの最中よ。この事を知ったら、すぐにでも予定をキャンセルして飛んでくるわ。出来れば、私達だけで解決したいの」

「………そうね。彼女には随分と世話になったし」

 

 自分達が今、地球の学生としてやっていけるのも、彼女が積極的に友達として接してくれた事を思い出し、クルエルティアは小さく頷いた。

 

『座標設定完了、目標メガバースへの転移を開始します』

「音羽ちゃん、今行くから!」

 

 

 

太正十六年 帝都東京

 

「お願いします!」

「私達にも出撃許可を!」

「出来るわけがねえだろ!」

 

 ソニックダイバーレスキュー隊の訓練生達が、臨時指揮所に談判しに来たのを、冬后は一蹴した。

 

「考えてもみろ! まだ基礎訓練段階、シミュレーションも数えるくらいしかしてない連中に、実戦出撃させられるか!」

「しかし!」

「それに武装もねえ! どうするつもりだ!」

「貸与された光武用の武装があります!」

「ド素人に扱えるか!」

 

 双方激しい論議をしながらも、指揮所にまで遠くから上がる炎と戦闘音が響いてくる。

 じっとしていられないのは冬后としても分かるが、練習用の機体と訓練を始めて間もない者達を出す訳にはいかなかった。

 

「ソニックダイバー隊、ナノスキンの残時間が半分を切っています!」

「大佐!」

「駄目だ!」

「待ってくれ」

 

 頑として出撃許可を出さない冬后だったが、そこにようやく到着した美緒が指揮所に飛び込んでくる。

 

「戦闘以外は可能か?」

「それはどういう…」

「今私の教え子達が市民の避難援護に向かっているが、如何せんこちらもまだ不慣れでな。救助活動を行える人員が欲しい」

「レスキュー隊として出動させろと? だが…」

「許可する」

 

 美緒の提案に冬后がまだ否定的なのを、門脇が鶴の一声で賛同する。

 

「長官!」

「この状況だ、使える物は使う。だが、戦闘は一切許可しない」

「………了解。83式にレスキューパックを! ソニックダイバーレスキュー隊、初出動だ!」

『了解!』

 

 冬后の号令に、訓練生達が急いで出撃準備に入っていく。

 

「長官、ソニックダイバー隊の指揮権を委任します。オレはこっちの指揮があるので」

「了解した。そちらは任せる」

「こちらの新人を護衛にあたらせる。ウィッチのシールドなら大抵の攻撃は防げるだろう」

「そうは言うがな、こっちの新人は戦闘訓練なんて受けてもいないんだぞ」

「分かっている」

 

 そう言う美緒が、愛刀を強く握りしめている事に気付いた冬后が、それ以上は口をつむぐ。

 

「幸い、武装神姫達が増援に来てくれているようだ」

「こちらでも確認しています! しかし…」

 

 状況を報告する七恵だったが、誰もがある事に焦りを感じ始めていた。

 刻一刻と減っていく、ナノスキンの残時間に………

 

 

 

「市民の避難、順調に進んでいます!」

「現在花組は防衛線の維持に全力を注いでいます!」

「ソニックダイバー隊から救助部隊が発進したそうです! ウィッチ隊と組んで市民の救助と援護にあたるそうです!」

 

 次々と飛び込んでくる報告に、米田は刻一刻と変化していく戦況図を険しい目つきで睨みつけていた。

 

「ソニックダイバー隊とウィッチ隊のおかげで、被害は予想以上に少なくて済みそうですね」

「ああ、それはいいこった。だが………」

 

 かえでが最前線と避難市民の距離が大分空いた事に安堵するが、米田はちらりと画面隅に表示されている物に視線を送る。

 そこには、説明されていたソニックダイバーの活動限界である、ナノスキン耐久時間が表示されていた。

 

「まずいな、今の状況でソニックダイバー隊が退いたら、押し込まれるか?」

「市民の避難が終わり次第、坂本少佐がウィッチ隊で防衛線を構築してくれるそうですが………」

「初陣の連中に期待はできねえ、何か手は………ん?」

 

 ふとそこで、米田は戦況図に違和感を感じる。

 市街地に攻撃してきたはずの敵が、何故か避難する市民の方には全く戦力を向けていない事、そして市民の避難を優先させるため、帝国華撃団が基地である大帝国劇場から離れている事に。

 

「まさか、これは………やべえ! 花組を呼び戻せ!」

「中将、それは…」

「こいつは、罠だ!」

 

 

 

「ソニックダイバーレスキュー隊、延焼地区に消火弾投擲開始しました!」

「相対距離を保て! 上嶋、グライド、荘はAモードにチェンジ、倒壊家屋を撤去して避難路を確保!」

『了解!』

「猿飛、加藤、石川は撤去作業中のソニックダイバーの直援に当たれ!」

『了解!』

 

 ソニックダイバーレスキュー隊、ウィッチ隊双方の新人達が協力して救助作業を進める中、指揮所内の誰もがある事に焦っていた。

 

「ナノスキン耐久時間、五分を切りました! ソニックダイバー各機、残弾僅かです!」

「交戦しつつ、撤退を」

「残弾の少ない機から戻らせろ! 霊子甲冑用の装備は使えるのか!?」

「一応調整は終わりましたが、実際に使ってみるまでは…」

 

 門脇と嶋、二人の指揮官が双方撤退を指示した時、ふと門脇は表示される敵の状況に違和感を感じた。

 

(この配置、そして動き。これは………)「すぐにソニックダイバーを全機撤退。レスキュー隊もだ」

「長官!?」

「これは、罠だ!」

 

 二人の老将が、同時に敵の目的に気付く。

 だがそれは、僅かに遅かった。

 

「て、敵がソニックダイバー隊後方にも出現! 挟撃されます!」

「何だと!?」

「遅かったか………」

「ウィッチ隊! ソニックダイバー隊の撤退を援護しろ!」

『教官! こちらにも新手が出現! 囲まれました!』

『こちら帝国華撃団! 敵の新手によって完全に包囲された!』

 

 次々と飛び込んでくる報告に、指揮所の全員が顔色を変えていく。

 

「最初からこれが狙いか………!」

「いや、これだけとは…」

『きゃあああぁぁ!』

 

 嶋が歯ぎしりした所で、門脇が更なる可能性を考慮したが、そこで誰かの悲鳴が響いてくる。

 

「何事だ!」

『て、敵がワイヤーのような物でこちらを狙ってきています! 恐らく、鹵獲兵器です!』

「鹵獲だと!?」

『教官! 坂本教官! 敵が、こちらを捕まえようと…きゃああ!』

「アーンヴァル!」

『了解しましたマスター!』

 

 捉えられようとした新人ウィッチをアーンヴァルが救助に向かい、かろうじて鹵獲を紛れるが、送られてくるアーンヴァルからの視界からは、同じような鹵獲兵器を構える無数の敵の姿が有った。

 

「これが、最初からこれが狙いか………!」

「わざと離れた場所に出現・進軍し、適時戦力を追加してこちらの戦力を根こそぎ出させ、そして鹵獲する」

「私も行く! このままでは…」

「もう力の使えないアンタが出て行ってどうするつもりだ!」

「! 敵機反応、真上!?」

 

 指揮所も混乱状態になる中、七恵の声が悲鳴のように響き渡り、直後に振動が響き渡る。

 

「くそ、ここまで来やがった!」

「出る!」

 

 冬后が悪態を付いた所で、美緒が我先に愛刀を手に指揮所を飛び出す。

 階段を駆け下り、外に出ようとした所で突然熱風と共に業火が辺りを照らす。

 

「これは…」

「神崎風塵流・孔雀之舞」

 

 業火をまとった薙刀の一閃で敵機を片付けた紫の光武二式が、残火を振り払って構える。

 

「あら先程の。坂上少佐、でしたかしら?」

「坂本だ」

「こちらはご心配なく、客人を守るのも務めですわ」

 

 そう言いながらすみれが他の敵を警戒するが、先程の会話に僅かな乱れが有った事を美緒は気付いていた。

 

「正直に言ってほしい、あとどれくらい持つ?」

「何の事かしら?」

「先程の一撃で、息が切れ始めているのだろう? 私もそうだった」

「………なるほど、そう言えば貴女も力の低下で引退なされたのでしたわね」

「無理はするな、援護くらいは出来る」

「お言葉に甘えさせてもらいますわ、赤元少佐」

「坂本だ」

 

 今一名前を覚えていない事に苦笑しながら、美緒はすみれ機の隣で愛刀を抜き放つ。

 

「おい、また来たぞ!」

「そう簡単に落とされてたまるかい!」

「そうやそうや!」

 

 そこにありったけの銃火器をかき集めてきたソニックダイバー隊整備班も加わる。

 

(アガリが二人と非戦闘員、どれくらい持つ?)

 

 こちらはそれほど重要視されてないのか、数こそ少ないものの押し寄せてくる敵に、美緒は内心の焦りを押し殺し、構えた。

 

 

 

「来るな~~~!!」

 

 エリーゼが悲鳴を上げつつ、ビームを乱射しまくる。

 小型の飛行型が、編隊を組んでソニックダイバーを一騎ずつ包囲、奇妙な粘性を持つワイヤーのような物を射出してくる。

 

「動きを止めないで! こいつら、ソニックダイバーを鹵獲する気よ!」

「ゼロだけじゃなく、私達も狙ってるんじゃない!?」

 

 瑛花が叫びながら小刻みに機体を揺らして敵の狙いを避け続けるが、MVソードを振るう音羽は明らかに機体だけでなく、搭乗者をも狙っている事に気付いていた。

 

「オーニャー、来るぞ!」

「風神、もうミサイルがありません!」

「バッハももうレーザー砲限界!」

「二人とも下がって! 雷神の残弾が一番多いわ!」

「それだってもうほとんど…危ない!」

 

 瑛花が殿を受け持とうとするが、そこに迫ってきていた敵機に音羽は思わずMVソードを投げつける。

 

「音羽!」

「なんとか…」

 

 MVソードが突き刺さり、墜落していく敵機を見向きもせず、音羽は用心して持ってきていた霊子甲冑用の脇差しを零神の脚部ハードポイントから抜き放つ。

 

(重い………)

 

 材質の違いで、構えただけでも僅かにバランスが狂う事に音羽は気付いていたが、敵の 包囲は容赦無く狭まってきていた。

 

「全機Gモードで高速離脱! 包囲網を突破する!」

「そんな事言っても!」

「! 上空に磁場異常! 転移反応です!」

「そんな!?」

 

 逃げる事もままならない状況に、更なる可憐の報告が絶望をもたらそうかとした時だった。

 

「来ます!」

「くっ…」

 

 音羽が狙いを上空に出現した転移ホールに向けようとした時だった。

 

「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」

「行って、デイアフェンド!」

「行け、ガルクアード!」

 

 ホールから飛び出した、紫、白、紅の三つのアンカーが、ソニックダイバーを包囲していた敵機をキャプチャーし、スイングして一箇所にまとめていく。

 

『ドラマチック・バースト!!』

 

 更にそこへ、レーザー、スプレッドボム、ゲインビー、機械の触手、ビームが炸裂し、敵をまとめて撃破する。

 

「あれは…!」

「どうやら、間に合ったみたいです」

「ごめん音羽ちゃん。ちょっと遅れちゃった!」

 

 転移ホールから、随伴艦を装備した三人のトリガーハートと、RVにまたがった五人の天使達が出現する。

 

「ううん、ちょうどだったよ!」

「状況は!?」

「こちらはもう残弾もナノスキンも限界よ! 後詰をお願い!」

「了解。さあて、久しぶりに派手にやるわよ!」

「援護しよう、マイスター」

 

 ソニックダイバーの撤退を援護しながら、トリガーハートとムルメルティアが敵機に狙いを定める。

 

「上は任せたわ!」

「下はお願い!」

 

 続けてきたポリリーナがジオールに叫びつつ、前回宮藤博士が制作した光の戦士用ホバーユニット、ライトニングユニットで下へと援護に向かっていった。

 

 

 

「いや~~来ないで~~気持ち悪い!」

「アイリス、下がれ!」

「何だ何だこいつら! さっきと全然違うぞ!」

 

 射出されたワイヤーをカンナ機が力任せに払い、アイリス機を援護する。

 

「まさか、狙いは光武?」

「にしても悪趣味デ~ス」

 

 マリアが敵の狙いに気付き、織姫と共に銃弾とビームで弾幕を張って何とか敵の接近を阻止しようとする。

 

「市民の避難は!」

『戦闘区域からはほぼ脱出済みよ! でも大神君!』

「こちらは何とかします! くっ!」

 

 先程の無差別な動きと違い、確実に一機ずつ集団で狙ってくる敵に、帝国華撃団は徐々に劣勢になりつつあった。

 

「隊長、上からも反応!」

「まだ来るのか!?」

 

 レニの報告に思わず上を向いた大神機だったが、そこで上空から来るのがやけに小さい事に気付いた。

 

「人?」

「あれは…」

 

 さくらも気付いた所で、人影が何かを投じる。

 

「お待ちなさい!」

 

 凛とした声と共に、一輪のバラが路面へと突き刺さり、敵の動きが僅かに止まった。

 

「かよわき花に迫る悪の影………けれどこの私が散らせはしない! お嬢様仮面ポリリーナ! 愛と共にここに参上!!」

 

 名乗りと共に、ステッキを手にしたマスク姿の少女がライトニングユニットから地面へと降り立つ。

 見事な登場に、帝国華撃団は思わず動きが止まった。

 

「なんやアレ………」

「かっこいい!」

「マスター、増援が到着したようだ」

「増援?」

 

 口々に感想が漏れる中、プロキシマの言葉に大神は思わず疑問符が漏れる。

 

「バッキンビュー!」

 

 ポリリーナが宙を舞いながら手にしたステッキを投じ、旋回しながら飛来したステッキが陸戦型の脚部を根本から斬り飛ばす。

 

「エレガントソード!」

 

 動きが止まった隙を逃さず、上空から落下しながらエリカがエレガントソードの一閃で陸戦型を両断する。

 

「さあこの香坂 エリカとエリカ7がお相手差し上げますわ!」

『はい、エリカ様!』

 

 エリカを取り囲む様に次々とライトニングユニットから飛び降りたエリカ7が、一斉に敵に向って攻撃を開始する。

 

「そちらのリーダーは?」

「自分が、帝国華撃団司令の大神 一郎大尉だ」

「大神大尉、お互い詳しい説明は後にして、まずはこいつらの殲滅に協力するという事でいいかしら」

「了解した!」

「ボクも協力するぞ!」

「武装神姫? 新顔ね」

「詳しい事は後、だろう?」

「その通り、ね!」

 

 ポリリーナ、大神、プロキシマは、押し寄せる敵に向けて、得物を構えた。

 

 

 

「ソニックダイバーが帰還するぞ! 予備は用意できてるか!」

「何とか! ただ使い物になるかは…」

「あ、あれは!」

 

 無反動砲を担ぎながら怒鳴る大戸に僚平は言葉を濁すが、そこで嵐子がソニックダイバーを護衛する見覚えのある影に気付く。

 

「アールスティア、シュート!」

「MISSILEセット、発射!」

 

 滑走路にいた陸戦型に向って、ビームとミサイルの同時攻撃が炸裂、一撃で爆散させてソニックダイバーの着地点を確保する。

 

「遅れてゴメン!」

「皆さん無事ですか!?」

「亜乃亜だけでなく、エグゼリカまで?」

「なんでや?」

「後にしろ! 増援は多い方がいいだろ!」

「その通り、だな………」

 

 予想外の援軍もいる事に御子神姉妹は首を傾げるが、大戸に一括されて慌てて補給作業に入ろうとする。

 

「美緒さん!? 大丈夫ですか!?」

「何………ちょっと無茶をしただけだ」

 

 愛刀を手に、呼吸が荒い美緒の姿にエグゼリカが慌てる。

 

「また変わった増援です事………」

 

 美緒とほとんど二人で敵を迎撃し、こちらも更に呼吸が荒くなっているすみれが、そう言いながらも機体を何とか立て直す。

 

「今ここの座標をオペレッタに送信して、弾薬を転送してもらいます!」

「姉さん! ソニックダイバー隊の帰還を確認、再出撃まで防衛にあたります!」

 

 矢継ぎ早に動く二人に、美緒とすみれはなんとか一息つく。

 

「ふふ、少しなまったかな」

「お互い様ですわ。ですくわーくが続いてましたし」

「違いない。もうひと踏ん張りだ」

 

 呼吸を整え、美緒が敵襲に備えて再度刀を構え、すみれが機体の状態を確認する。

 

「これなら、焦ってアレを出す必要は無かったかしら?」

「アレ、とは?」

「霊子甲冑の初期試作機を、華撃団候補生の乙女組の数名に乗せて援護に向かわせましたの。そろそろそちらの隊に合流するはずなのですが………」

「どこもかしこも新人を投入か、末期総力戦のようだな」

「エグゼリカ君が来たって本当か!」

 

 そこへ、別室で状況整理にあたっていた宮藤博士が外へと飛び出してくる。

 

「宮藤博士、どうかしましたか?」

「至急空間状況のデータを送ってくれ! 空間変動数値が安定していないようだ! まだ何か来るぞ!」

「何ですって!?」

「今サーチします!」

「こっちも!」

 

 宮藤博士のとんでもない発言に、エグゼリカと亜乃亜が同時に双方のセンサーをフル稼働させる。

 

「! 大規模な空間湾曲と重力変動感知! 何か、しかも大質量が転移してきます!」

「こちらでも確認! これって、ボスクラス!?」

 

 二人が悲鳴じみた声を上げた時、上空に再度巨大な霧の竜巻が発生し、そこから何かがゆっくりと、その姿を現そうとしていた………

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP05

 

「来る………!」

 

 美緒は気力を奮い立たせ、霧の竜巻から出てくる物を凝視する。

 

「な………何ですのあれは………」

 

 隣に立つ光武二式の中で、同時にそれを見たすみれは、ただ絶句するしかなかった。

 それは、あえて言えば海洋生物のマンタを上下に重ねたような双翼を持った存在だった。

 距離感が狂いそうな巨体を持ったそれは、他の敵同様に全体を明滅させながら振動させ、その異様さを更に際立たせていた。

 

「全長約600m、全幅約1200m! 敵の空中母艦と思われます!」

「何かいっぱい出てきてる! 間違いなくあれがボス!」

 

 即座に出現した巨大な敵のデータを解析したエグゼリカと亜乃亜が、予想以上のスケールに愕然とする。

 

「ふふ、ミカサより小さいですわね………」

「ミカサ、戦艦三笠の事か?」

「正確には超弩級空中戦艦ミカサ、帝国華撃団の切り札、だった船ですわ」

「だった、か」

「ええ、前回の戦いで暴走、損傷し、完全封印されましたの」

「じゃあ意味無いじゃん!」

「それ以前に、この時代の船では歯が立たんだろう」

 

 僅かに声が震えているすみれの説明に、亜乃亜が思わず声を上げるが、美緒は冷静に状況を分析していた。

 

「………永遠のプリンセス号をここに転移させる事は可能かな?」

 

 険しい顔つきをした宮藤博士の問いに、エグゼリカと亜乃亜は顔を見合わせる。

 

「永遠のプリンセス号の修復は完了していますが、あのクラスの次元間転移ともなると、かなり準備が必要かと………」

「そもそも、ミラージュに連絡してたっけ?」

「いえ。彼女に伝えたら、間違いなくユナさんに筒抜けなので………」

「つまり、間に合いそうにないという事か」

 

 唯一対抗出来そうな存在の参戦が難しい事を悟った宮藤博士は思わず生唾を飲み込む。

 

(あれに対抗できる戦力が必要だ、だが、今ここには存在しない。永遠のプリンセス号到着まで、持ち堪えるだけの戦力も………)

 

「何あれ!」

「まさか、空中母艦………」

「デカ過ぎ!」

 

 再出撃のためにナノスキンの再塗布を準備していたソニックダイバー隊が、出現した敵母艦に気付き、口々に声を上げる。

 

「せめて、反応兵器でもあれば………!」

「オペレッタに救援要請! 他のチームの天使達も増援に…」

「待ってください! 次元歪曲、重力子反応がまだ収まってません! 他にも何か転移してきます!」

「何だと!?」

「反応は………すぐそばです!」

 

 瑛花と亜乃亜が何か手は無いかと試行錯誤していた時、エグゼリカが更なる転移反応に気付き、誰もが驚愕する。

 

「反応は空中母艦よりも小さいですが、かなり巨大です! しかもこれ、水中!?」

「水中って、沈没でもしてるんですの!?」

「あれ見て!」

 

 亜乃亜が指さした先、そこに彼女達が使った転移ホールのような物が現れ、海面が激しく荒れ狂う。

 

「今度は何!?」

「何か来た!」

「あれは、潜水艦?」

 

 海中に何か影のような物を見た者達が、口々に叫ぶ。

 やがて体勢を立て直すためか、転移してきたそれは艦首を大きく持ち上げ、そのまま艦体を安定させるように海面に浮上する。

 それは目の覚めるような蒼い艦体をした、一隻の潜水艦だった。

 その艦橋部分に、部隊章なのか、鳥を模したロゴと艦船名がある事に何人かが気付く。

 

「BLUE STEEL、蒼き鋼?」

「イー401、だと?」

 

 

 

イー401 ブリッジ内

 

「船体、安定しました!」

「被害報告!」

「兵装関係、問題ねえ!」

「センサー系及び通信機器、正常稼働中!」

『動力炉、急速冷却中! 何がどうなったの!?』

 

 ブリッジ内で矢継ぎ早に報告が告げられる。

 だがその報告を上げている者も聞いている者も、誰もがまだ10代と思わしき若者ばかりだった。

 

「イオナ」

「原因不明。私に分かるのは重力エンジンが突然暴走した事、そして空間の異常湾曲に飲み込まれた事だけ」

 

 報告を聞いていた、ダークスーツを着て負傷しているのか、右腕を固定している少年と青年の中間期の年齢と思わしき男に、その隣にいる座席にも座らずブリッジの一部に座り込んだ、長い銀髪の青いセーラー服の10代半ばくらいの少女が答える。

 

「待ってください! 戦闘音確認! 大規模な戦闘がそばで発生しています!」

 

 ソナー席に着いていた、メガネに長い黒髪の少女が予想外の事に驚きながら報告する。

 

「霧か!?」

「いえ、違うようですが………」

「待ってください。先程までいた場所とは水深が浅すぎます。それに、すぐそばに陸地があるようです」

「な!? ハワイにつくのは明日のはずだぜ!」

 

 艦長と思わしきダークスーツの男の質問にソナー手の少女は首を傾げるが、そこへ副長席に座った頭部を完全に機械仕掛けのマスクで覆っている風変わり過ぎる男が周辺の探索結果を報告、火器管制席に座っている褐色の肌をしてゴーグルを掛けた男が思わず声を上げる。

 

「映像出せるか」

『任せて艦長』

 

 ブリッジ内の大型モニターに写っていた青い長髪を結い上げた女性が喜々として外部の状況を観測し始める。

 

『………何よコレ』

「どうしたタカオ」

『いや、その………取り敢えず映すわね』

 

 眉根を寄せたタカオと呼ばれた女性が、困惑しながらも外の映像を映し出す。

 そこには、炎上する町並みと、それを守って戦っている見た事も無い装備を使っている者達、そして始終その機体を明滅、振動させる奇怪な敵の姿だった。

 

「何だぁ!?」

「こ、これは何と言えば………」

「えと、本当にこれ外で起きてる事なんですか?」

「タカオ」

『映像補正以外の加工は一切してないわ。紛れも無く、事実よ』

「こちらでも確認した。ここはどこかの都市の近海、そして戦闘中」

 

 ブリッジクルーが驚愕する中、銀髪の少女・イオナもそれを肯定する。

 

「あ、外部から通信です! すぐそば、って隣?」

「確かに、何か施設があるようですが」

「繋げてくれ」

 

 混乱しているブリッジ内で、艦長は少しでも情報を得るべく、通信を受諾する。

 

『あ、繋がりました! こちら人類統合軍、ソニックダイバー隊! そちらの潜水艦の方々、所属をお願いします!』

「人類統合軍? 統制軍ではないのか?」

『あ、そっちだとそういう組織なんですね』

「そっち?」

 

 通信をしてきた若い通信手の言葉に、ブリッジクルー達は全員首を傾げる。

 

「こちら蒼き鋼、旗艦イー401。オレは艦長の千早 群像だ」

『蒼き鋼、それがそちらの組織名と取っていいいんですね。長官、転移してきた潜水艦と繋がりました』

『初めまして蒼き鋼の諸君、私は人類統合軍極東方面軍、門脇 曹一朗中将だ。恐らく事情を理解していないだろうが、聞いておく事がある。現在、我々は所属不明の敵群と戦闘中だ。貴艦はそれと交戦可能な戦闘力を持っているか』

「それは…」

 

 艦長の群像が、中将を名乗る老将の問いに答えようとした時だった。

 

「艦長、どうやら部外者ではいられないようだ。攻撃している敵の一部が、こちらに向かってきている」

 

 長い金髪をツインテールにし、体が見えない程大きなコートを着た女性が敵襲を告げてくる。

 

「問題無い、対空迎撃用意!」

「了解!」

『こっちはまだ冷めるのにかかるわよ! しばらくマトモに動けないと思って!』

「それ以前に水深が浅すぎます。潜行は難しいでしょう」

 

 機関手らしき、短い金髪ツインテールの少女の報告に、マスクの副長の報告が重なる。

 

「接近中の物体から発射音確認! ミサイルのようです!」

「警告も無しに攻撃かよ!」

「撃ち落とせ!」

「あいよ!」

「市街地上空に大型反応! 空中空母と思われます!」

「一体何が起きてんのよ………」

 

 ブリッジ内がにわかに慌ただしくなり、矢継ぎ早に指示と報告が入り乱れる。

 

「門脇中将、どうやら我々も同じ敵に狙われているようだ。現在、自衛のための戦闘を開始した」

『こちらでも確認できている。どうやら君達は高い技術と戦闘力を所持しているようだな。なら理解出来ているだろう。我々と、この町は圧倒的脅威にさらされている。不可解な状況で無理な話とは思うが我々への協力を要請したい』

「…少しだけ精査と考える時間をいただきたい』

『了解した』

 

 通信を一時的に打ち切った群像は、クルーたちが次々と報告してくる周辺状況を脳内で熟考する。

 

「空中空母の映像出ます!」

「でけぇ! 合体したコンゴウ並じゃねえのか!?」

「問題はそこじゃないわね、ジャミングのせいか、中身の構造が分からないわ」

 

 皆が驚く中、白衣姿にモノクルをかけた女性が己の周囲にグラフサークルのような物を発生させ、空中空母を解析していく。

 

「ヒュウガ、なんとか解析出来ないか?」

「やってはみてるけど、とんでもなく固いわね。私ら以上の演算力持ってるわよ」

「周辺の小型機も同様だ。こちらは解析出来ないわけではないが、精査できない」

「一体何だこれは! ここはどこで何が起きてるんだ!」

 

 コートの女性も己の周囲にグラフサークルを発生させ、小型機の解析を試みる。

 その隣りにいた、大きなクマのぬいぐるみがなぜか怒鳴りながら地団駄を踏んだ。

 

「群像、すぐそばに私達に似た存在がいる」

「何?」

「接触してみる」

 

 そう言いながら、イオナは意識をその存在に飛ばしてみた。

 

 

 

「え!? これは、まさか概念伝達!? そんな、トリガーハートでも仮設しかされなかったのに………」

 

 エグゼリカは突然視界が変わり、自分が庭園のような場所にいる事、そしてそれが高度な電子空間である事に同時に気付いた。

 そしてその中、白いテーブルとそこに座る長い銀髪の少女が居る事にも。

 

「私は霧のイオナ。イー401のメンタルモデル。あなたは?」

「私はTH60 EXELICAです」

 

 イオナと名乗った少女に、エグゼリカは自分も名乗り返す。

 

「メンタルモデル………そっか、貴女はイー401のAIですね?」

「そう考えてもらっていい。エグゼリカ、私達は突然ここに来た。何が起きてるか教えてほしい」

「えと、私達もさっき来た所で………今データを回してもらいます。あ、これを」

 

 エグゼリカは各所からのデータと、前回の戦闘の詳細をまとめたデータをキューブ上のデータブロックにしてイオナに手渡す。

 

「すいません、今忙しいのでこれで!」

「一つだけ教えて。貴女は、何故戦ってるの?」

 

 概念伝達を切ろうとしたエグゼリカに、イオナは問いかける。

 その問に、エグゼリカはチルダにいた時は考えもしなかった言葉を告げた。

 

「友達を、助けるために」

 

 それだけ言って、エグゼリカは概念伝達を切る。

 

「………タカオ、ハルナ、キリシマ、ヒュウガ」

 

 イオナの呼びかけに応じるように、青い長髪の女性・タカオ、コートの女性・ハルナ、くまのぬいぐるみ・キリシマ、白衣の女性・ヒュウガがその場に現れる。

 

「何か分かったの?」

「これを」

 

 タカオの問いに、イオナは渡されたデータブロックをコピー、全員に渡す。

 受け取った四人はそれを解析、全員が一斉に首を傾げる。

 

「おい、これは何の冗談だ」

「多分冗談じゃない」

「幾らイオナ姉様でも、これはちょっと」

 

 キリシマとヒュウガが流石にあまりにも理解不能なデータに懐疑的になるが、イオナは素直にその内容を受け止める。

 

「で、これ艦長にどう伝えるの?」

「そのまま言う。群像は少しでも情報を欲しがっている」

「信じてくれればいいがな」

 

 タカオとハルナも困惑するが、イオナは事実として受け止めていた。

 そして、五人の意識がリアルへと移行する。

 

 

「データをもらってきた。ここは太正十八年 帝都東京近海」

「何っ!?」

「おいおいイオナちゃん、担がれたんじゃねえか?」

 

 唐突なイオナの発言に、群像は思わず声を上げ、火器管制手の橿原 杏平は呆れた顔をする。

 

「太正十八年、大正なら十五年までのはずですが。もし本当なら、130年前という事になりますね」

 

 マスクの副長・織部 僧が冷静に年号を計算し、導き出された年数に群像の顔が険しくなる。

 

「実は先程から気になってたのですが、通信電波にすごい古い型のアナログ波が多いんです。もしこれがここで軍用に使われてるとなると、ひょっとしたら本当に過去なのかと………」

 

 おずおずとソナー手の八月一日(ほづみ) 静が手を挙げる。

 

「マジかよ………」

「正確には、130年前に相当する異世界。エグゼリカはそう教えてくれた」

「異世界? パラレルワールドだとでも言うのか?」

『あの、イオナちゃん? 杏平に何か変なアニメ見せられなかった?』

 

 機関手の四月一日(わたぬき) いおりが恐る恐るイオナに聞くが、イオナは首を左右に振る。

 

「ねえハルハル、これ見て」

 

 ブリッジ内で一番若い、というか小学生にしか見えない少女が自分の席の前の画面を指差す。

 そこには、体の各所から蒸気を吹き出しつつ奮戦する、彼女の知識にも無いパワードスーツの姿が有った。

 

「これって、ひょっとして蒸気機関? 何か他のエネルギー源も並列使用してるっぽいけど」

「蒸気機関? 蒸気の圧力を使うという最古の外燃機関の事か?」

「マジかよ………蒸気機関の実物なんぞ見た事ねえぞ………」

「周りのもどうやって動いてるかよく分からないのばっか………あ、この変形するのはなんとか分かる」

「蒔絵に分からないとなると、確かにこちらには存在しない兵器群と考えられるな」

 

 幼い少女・刑部 蒔絵の説明に、隣にいたハルナがある結論に辿り着く。

 

「つまり、ここは太正十八年が存在するパラレルワールド、という事ですか」

「エグゼリカはもっと違う世界から来たらしい。バラバラな装備を使っているのは全て違う異世界から来たせい」

「信じたくはないが、信じるしかなさそうだな………」

 

 群像は謎の敵と戦う者達、蒸気機関のパワードスーツ、可変型飛行骨格、獣耳を生やして脚部に飛行ユニットを装着した者達、生身とは思えない高速機動ユニットを装着した者達、大火力の騎乗型ユニット、個性的なバトルスーツをまとった者達、そして手の平サイズとは思えない攻撃力を誇る人形、どれもが見た事も聞いた事もない装備に、改めて認識を変える事にした。

 

「これより蒼き鋼は、謎の敵との全面攻勢に入る。各所に通達! 現在の戦況を送信してもらえ!」

「了解しました。こちら蒼き鋼、これよりそちらに助勢します! 戦況を送ってください!」

『こちらソニックダイバー隊、了解しました! すぐに送ります!』

 

 送られてきた戦況図に、群像の表情が険しくなる。

 

「空と陸、両方に敵群。上空には大型母艦か………」

「目的は戦闘中の部隊の鹵獲? これだけの戦力を展開して鹵獲とは、妙な話ですね」

「じゃあなんでこっちにも攻撃してくんだよ! 明らかに目付けられてるぜ!」

「こちらも鹵獲対象として目を付けられた、という事だろう」

「勘弁してくれよ、霧だけで手一杯だってのに………」

 

 向かってくる飛行型に、イー401の滅多に使わない対空兵装で迎撃している杏平が思わず愚痴る。

 

「現在の状況を打開しない事には、どうにもならない。いおり! 動力炉の冷却状況を!」

『まだまだかかるわよ! なんでここまで負荷かかったんだか! まともに動かせるまででもあと10分はかかるわ!』

「水深が浅くて潜る事も無理ですね、ここで釘付けという事ですか」

「むしろ好都合だ。イオナ、市街戦の方、援護出来るか?」

「難しい。複数勢力が乱戦状態の上、敵は始終ジャミングを掛けてる。しかも家屋の半数が木造、私の兵装だと延焼を招く可能性がある」

「木造って、こんな都市部で………」

「誘導兵器の類は誤射の可能性ありか………」

「どうする、艦長」

 

 ハルナに言われた群像は、そこでふとメンタルモデル達を順に見ていく。

 

「この手しかないか」

「あれか、大丈夫かよ?」

「あの中に混じっても、違和感無いと思いますが」

「それはそうかもしれませんけど………」

 

 

 

「弾薬届いたぞ!」

「すぐに給弾しろ! 急げ!」

「イー401が護衛してくれている! 安心して補給作業を!」

「それにしてもすごい船です事」

 

 ようやく転送されてきたソニックダイバー用の弾薬が大急ぎで分配される中、美緒とすみれは警戒を続けつつも、イー401の圧倒的な戦力に目を見張っていた。

 

「うひゃあ、すごい重装備。潜水艦ってあんなに色々付いてるんですね~」

「おかしいです、水中専用の戦闘艦に光学兵器なんて………水上戦も想定してるんでしょか?」

 

 亜乃亜も驚く中、エグゼリカは違和感を感じていた。

 

『こちらオペレッタ、カルナダインの転送準備が整いました。転送座標を送信してください』

「カルナダインが! 現状で転送出来る安全圏は…」

 

 オペレッタからの通信に、エグゼリカは慌てて周辺をサーチする。

 

「イオナさん! 私達の旗艦が転移してきます! そちらの後方に座標指定しますけど、いいですか!?」

『問題無い。今ちょうどいい囮が出る』

「囮?」

 

 エグゼリカがイオナからの返信に首を傾げた所で、イー401のミサイル発射管が開き、そこから大型の巡航ミサイルが発射される。

 

「ちょっと!?」

「何を発射した!」

「帝都に向けてなんて物を!」

 

 亜乃亜、美緒、すみれが全員驚くが、すぐに通信が入る。

 

『大丈夫です、中身は抜いてあります。代わりの物が入ってますが』

「代わりって………」

「あの、なにかおかしな動きをしてますけれど?」

 

 静の説明に、亜乃亜が疑問を浮かべるが、すみれは発射されたミサイルが敵の飛行型の攻撃を巧みに避け、時たまフィールドを張っている事に気付く。

 

「誰か入っているのか、あの中に?」

「え? ミサイルですけど………」

 

 美緒の指摘が間違ってない事を知るのは、そのすぐ後の事だった。

 

 

 

「司令! 上空に飛来物体!」

「巡航ミサイル!? 私達ごと吹っ飛ばす気!?」

 

 奮戦していた陸戦部隊の中、マリアとエリカが同時に飛来する大型ミサイルに気付く。

 

「大丈夫だマスター、推進剤以外の危険物は入っていないようだ」

「つまり、空って事かい?」

「いや、別の物が入っているらしい」

 

 サーチしたプロキシマの助言と、上空にいる空戦部隊が何故か攻撃しない事に大神は飛んで来るミサイルは危険ではないと判断、直後にちょうど真上でミサイルの弾頭が分離、分解してそこから何かが落下してくる。

 

「おい、高過ぎる!」

「パラシュートも無しに!?」

 

 エリカ7の闘魂のマミとストライカー・ルイがそれが人影らしい事と、生身で落下するには高度がありすぎる事に驚くが、更に予想外の事に、人影は落下速度を緩める事もパラシュートすら無しに、地面へと自由落下。

 真下にいた敵の陸戦型を巻き込み、粉砕しながら着地する。

 

「え………」

「無事か!?」

 

 ポリリーナも絶句し、大神が慌てて駆け寄ろうとするが、平然と人影は立ち上がった。

 

「き、君達は一体?」

「私達は霧の艦隊のメンタルモデル。私はイオナ」

「ハルナだ」「キリシマだ!」

「ヒュウガよ」

 

 生身なら死傷確実の所業を平然と行った青いセーラー服の少女、分厚いコートを来てクマのぬいぐるみを連れた女性、卵型のポッドから出てきた白衣姿の女性に、全員が唖然とする。

 

「そうか、君達はアンドロイドとかいう存在か」

「少し違うが、そう思っても構わない」

「アンドロイドを知ってるの!?」

「前に共に戦った者達の中に、何人か人間そっくりの機械っていう人達がいたんだ。彼女達もかなり先の未来から来たんだろう」

 

 大神がメンタルモデルを人でない存在とあっさり認識した事にポリリーナが思わず聞き返す。

 

「興味深い話だ。だが、聞くのは後回しのようだ」

「来るぞ!」

 

 ハルナもその話に興味を持つが、敵がメンタルモデル達を敵と認識したらしく、即座に包囲を狭めてくる。

 

「随分と奇妙な連中です事。生体反応はありませんが、無駄に有機的な動きですわ」

「無人なら遠慮しなくていいと群像が言っていた」

「分かりましたイオナ姉様~♪」

 

 ヒュウガが喜々としてイオナに猫なで声で答えると、片手を持ち上げてそこから伸びるレーザーストリングが、乗ってきた卵型ポッドを操作、ポッドの一部がレーザー砲へと変形して迫る陸戦型へと発射される。

 

「変形、いや完全に変化した?」

 

 ポリリーナがあまりに唐突なヒュウガの攻撃に違和感を覚えるが、それだけに留まらなかった。

 

「じゃあ行く」

 

 右手にドリルを思わせる小規模フィールドを発生させたイオナが陸戦型に突撃、小柄な体躯と細い腕から繰り出された一撃が、不釣り合いなまでの異常な破壊力で陸戦型の一体を貫いた。

 

「な………」

「とんでもない破壊力だな………」

 

 さすがに大神も絶句し、プロキシマも自分の事を棚に上げて驚くが、驚愕は更に続く。

 

「数だけは無駄に多いな」

「問題無い。潰れろ」

 

 キリシマが周辺の敵機をカウントし、ハルナがそれに照準、直後にそれぞれの敵に黒い光球が出現し、それに引き込まれるように陸戦型はひしゃげ、押し潰されていく。

 

「重力子攻撃!? こんな小規模な!?」

 

 観測装置片手の教養のエミリーが、観測結果から出た光球の正体に愕然とする。

 メンタルモデル達の圧倒的な戦闘力は目を見張る物が有ったが、程なくして何人かがもう一つの違和感に気付いた。

 

「姉様危ない!」

「おっと」

 

 ヒュウガが狙っていた陸戦型にイオナが攻撃を仕掛け、慌ててヒュウガは狙いを逸らす。

 

「向こうからも来たぞ!」

「分かっている!」

 

 キリシマが包囲を固めようとする敵群を指摘すると、ハルナが次々と重力球を発生させて圧壊させていく。

 だが見る者が見れば、その攻撃は場当たり的で、無駄が多い物だった。

 怪訝に思った大神が、思わず声を掛けた。

 

「ちょっとハルナ君だったか」

「何か用か」

「その攻撃、どれくらいの威力が出るかな?」

「演算処理をフルに使えば、こんな物ではない」

「なるほど、ならもっと使い方を考えた方がいい。マリア、織姫君とカンナ君と右翼から敵を押し込んでくれ!」

「了解!」

「さくら君と紅蘭、レニとアイリスは左翼!」

「はい!」

「セリカ、ミドリ、後方に回りなさい! ルイ、マミ、ミキは敵を分断! アコ、マコ、包囲に押し込みなさい!」

「はい、エリカ様!」

 

 大神の意図を察したエリカもエリカ7に命じ、帝国華撃団とエリカ7が素早く展開、攻撃を開始する。

 

「織姫! カンナ!」

「分かってマ~ス」

「セイヤァ!」

 

 マリア機の銃撃と織姫機のビームで敵の動きが止まった所で、カンナ機の格闘攻撃が敵をまとめて吹き飛ばす。

 

「行きます!」

「援護するで!」

「突撃する」

「行くよ~♪」

 

 さくら機が突撃するのに紅蘭機がロケット弾で相手の動きを止め、続いたレニ機のランスが的確に相手の脚を貫き、アイリス機が念動力で相手を押しこんでいく。

 

「遅い!」

「確かに」

 

 スピードに長けたハイスピード・セリカと氷のミドリが敵群の包囲をすり抜け、背後からバックファイアーとオーロラ・ファンネルで動きを止める。

 

「ガード突破は得意だぜ!」

「守備が甘い!」

「出過ぎないようにね!」

 

 ストライカー・ルイと闘魂のマミが包囲を立てなおそうとする陸戦型を的確に見抜き、ハリケーンシュートと大リーグシューターでそれを阻止、ミキは包囲の崩れた箇所にスポットライトビームでダメ押しを叩き込んでいく。

 

「行くよマコちゃん!」「分かったよアコちゃん!」

『サイクロンカット!』

 

 双子の閃光のアコと疾風のマコが、仲間達が崩した包囲に向って、スピンで巻き起こした竜巻でまとめてこちらの包囲へと叩きこむ。

 

「今だ!」

「なるほど」

 

 敵がまとまった所に、ハルナが大型の重力球を発生、敵はなす術も無く重力に飲み込まれ、押し潰されていく。

 

「そうか、まとめてからやればいいのか」

「確かに効率的だ」

「………貴女達、戦闘経験はどれくらい?」

「霧の艦隊としては無数にあるが、メンタルモデル個体での戦闘は二度目だ」

「私も」

「硫黄島のを数に数えるなら私もそうですわね」

 

 大神の指揮に感心していたメンタルモデル達にポリリーナがある疑問を問いかけるが、返ってきたのは半分予想通り、半分予想以上に危ない返事だった。

 

「………大神司令」

「彼女達、まさか素人なのか? これだけの戦闘力を持ちながら?」

「戦術プログラムがインストールされてないのかもしれない。考えにくい事だが」

 

 ポリリーナが僅かに頬を引き攣らせ、大神も驚く中、プロキシマがある可能性を口にする。

 

「つまり、彼女達は戦い方は知っているが、戦術を知らない?」

「そうとしか考えられない。我々武装神姫にすら、初期段階から簡易的な戦術プログラムはインストールされてるんだが………」

「小さい割には、鋭い事言いますわね」

 

 プロキシマを興味深そうに見たヒュウガが更に驚きの言葉を口にする。

 

「確かに私達には戦術がありませんの。霧の艦隊が人間の使う戦術を理解するために創りだした、人間的思考をするための擬人的思考システム、それがメンタルモデルなのよ」

「………オレには理解しきれないけど、一時的にこちらの指揮下に入ってもらいたい所だが」

「私は群像の船、群像が認めない限り、他の人間の指揮下に入る事は有り得ない」

『イオナ、他のメンタルモデルも、臨時的にそちらの指揮下に入ってくれ。こっちは航空戦力の迎撃と空中母艦の撃破に向かう!』

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 大神の提案をイオナが断ろうとするが、群像からの通信が大神の提案を認証する。

 だが、続いた言葉にポリリーナが思わず口を挟んだ。

 

「撃破って、あれを撃破可能な兵装があるって言うの!?」

『有る』

「まさか、反応兵器の類じゃないでしょうね?」

『いや………超重力砲だ』

『待ちなさい! 超重力砲って、重力子兵器を大気圏下で使うつもり!? 正気!?』

 

 群像の告げた兵器名に、通信を聞いていたフェインティアがいの一番に反応する。

 

「重力子兵器? それは一体どういう物かな?」

『制御に失敗すれば、この都市どころか周辺平野まとめて消滅するわよ! チルダでも惑星影響下じゃ使用禁止だったのに!』

「待て、そんな物を帝都で使うつもりか!」

「大丈夫、制御は完璧。タカオがやってくれる」

「そうは言ってもね!」

 

 あまりに危険過ぎる兵器の使用発言に、皆がこぞって反対するが、敵襲が再度激しくなり、迎撃に専念せざるをえなくなる。

 

「確かに、あの空中母艦を破壊しない限り、勝機は無い………ミカサは封印された以上、こちらにあれを破壊する手段は無い」

「こちらも、あれだけの大型艦を破壊出来るだけの攻撃力は無いわ」

『だが………』

 

 大神とポリリーナは、自分達に空中母艦を破壊出来ない事を認識してはいたが、それを破壊可能な兵器を使用させる事にためらいを感じずにはいられなかった………

 

 

 

「タカオ、超重力砲使用時の周辺被害をシミュレート! 杏平、射角計算! 静は射線上にいる者達に退避勧告! いおり、超重力砲発射までに必要な冷却時間を!」

「待ってください。ここで超重力砲を使うのは得策とは言えません」

 

 群像が矢継ぎ早に指示を出すが、そこへ僧が異論を挟む。

 

「オレもそう思うぜ。今計算してるが、どうやっても建築物巻き込んじまう。角度如何じゃ、東京湾から帝都のど真ん中まで水路出来ちまうぞ!」

「分かっている! タカオ、シミュレート結果は?」

『今やってるけど、厳しいわね。被害出さないようにすると当てるのは難しいし、その前にあれ、落としていいの?』

「戦闘記録を見たか? あれが他の小型と同じ構成なら、一定程度のダメージを与えれば、崩壊するはず」

「しかし、それが与えられず、不完全な破壊状態で墜落させれば、被害は甚大な物になります」

「分かってる。周辺への被害を最小限に抑えつつ、一撃であの空中母艦を破壊しなくてはならない」

『ちょっと待って! だとしたら、超重力砲をフルで撃つって事!? 今の状態だと機関と砲自体が持つか分かんないわよ!?』

「待ってください! 本艦上空に次元湾曲反応!」

「敵か! 迎撃用…」

『待ってください! 来るのは私達の旗艦です!』

 

 群像が上空の反応を敵襲かと思ったが、エグゼリカの慌てた通信が入る。

 

「艦長、味方であるならば先程通信のあった艦と思われます」

「転移ってまじでいきなり現れるのかよ」

『そっち方面は霧よりも上の技術を持っているわね』

 

 程なくして、イー401の上空に、白い空中艦が出現する。

 

『遅れました! トリガーハート支援艦《カルナダイン》到着しました!』

『カルナ、ブレータ、今から送信する通信プロトコルにリンクして! タカオさん、データリンクを!』

『分かりました!』『了解です』『OK、やっとマトモなデータリンクが出来そうね』

 

 カルナダインの登載AIのカルナとサポートAIのブレータが、タカオを通じてイー401とデータリンク、即座に双方の情報を送受信する。

 

『重力子発射砲!? こんな所で使うんですか!?』

『危険と判断します。オペレッタからの送信データによれば、現状は都市防衛戦、都市その物を破壊する兵器の使用は作戦目標に抵触する可能性が』

『それならアンタ達も手伝いなさい! そっちに何か代わりの付いてないの!』

『カルナダインはトリガーハート支援艦で、自衛以上の兵装はありません!』

『目標との相対体積から、対艦クラスもしくは要塞破壊クラスの兵装を必要と判断出来ます』

『そんなの言われなくても分かってるわよ!』

 

 カルナとブレータからの返信に、タカオは思わず怒鳴り反す。

 

『破壊は出来なくても、注意を引く事は出来るわ。カルナ、自衛モード最大、敵空中母艦をターゲッティングしつつ、周囲を旋回して目標を海上まで誘導!』

『やってみます!』

 

 クルエルティアからの指示に、カルナダインは空中母艦と距離を詰めていく。

 

「囮になるというのか?」

『なんとしても、あれを都市部から離さないと、撃てないでしょう!』

「確かに。タカオ、クラインフィールド準備。杏平、音響魚雷一番二番に装填、敵空中母艦への効果範囲ギリギリで炸裂するようにセットして発射」

「空中の敵に向って撃つのかよ!? 効果あるかどうか分からないぜ?」

「こちらとカルナダインに注意を向かせる! ミサイル発射管開け、侵蝕魚雷三番四番に装填! 目標体積を削れるだけ削る!」

「空中大型機と正面戦闘する潜水艦は本艦が初かもしれませんね」

「次があるかは知らないがな」

 

 僧の呟きに群像も呟きつつ、群像は小型機を定期的に放出し続ける空中母艦を睨みつけていた。

 

 

 

「敵空中母艦、更に戦力を投下! 戦況は拮抗しています!」

「ソニックダイバー隊、再出撃しました!」

「イー401及びカルナダイン、敵空中母艦に攻撃開始しました!」

 

 風組三人娘の報告が次々と届く中、米田は険しい顔で戦況図を睨みつけていた。

 

(味方が増えてくれたのはありがてぇ。相変わらずなんなのか分からねぇ連中だが。それでも戦況は五分、撃破できうる兵器はあるようだが、それまでにあの空中母艦がどんだけの戦力を保有してるのかが分からね………撃破可能だとしても、帝都に落ちたらとんでもない事になる。だがあのデカブツ、どうやって動かす?)

「あれ、なんだろこれ?」

 

 レーダー反応を確認していた椿が、ふと妙な事に気付いた。

 

「どうした?」

「いえ、それが妙な霊力反応が有るんです。しかも、この上で」

「上って、帝国劇場でか?」

「今詳細を………でも、ここって」

「私の部屋?」

 

 花組も出払っているはずの帝国劇場、その内部のしかもかえでの部屋から検知された反応に、かえでは少し悩んでからある事を思い出す。

 

「確認してきます」

「おう早めにな」

 

 かえでは慌てて司令室を飛び出し、エレベーターに乗って自室へと向かう。

 部屋のドアを開けた時、室内に何か淡い光が満ちている事に気付いた。

 

「これは………」

 

 かえではその光源、室内に飾ってあった一振りの剣へと歩み寄っていく。

 

「神剣・白羽鳥が、何かに、いえ誰かに反応している?」

 

 姉から受け継いだ、退魔の力を秘めた剣が見た事もないような反応をしている事に、かえだは思わず唾を飲み込む。

 

「でも、一体何に………」

 

 かえでは白羽鳥に手を伸ばそうとして、止める。

 徐々に、だが確実に白羽鳥から漏れる光は輝きを増していた。

 

「姉さん、何が起ころうとしてるの………」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP06

 

「避難地域が帝都全域に拡大したわ!」

「帝国華撃団が防いでる間に、ここも移動して!」

「大きいのがまた新手出してきてます!」

 

 薔薇組の三人が、逃げ惑っている避難民を誘導し、動けない者をかついで避難用の蒸気トラックへと乗せてゆく。

 

「もう大丈夫だよ。じゃあ他に怪我してる人は?」

 

 避難の車が出るまでの間、芳佳は怪我人達に応急手当を施していく。

 その様子を見ながら、上空には静夏が護衛のために待機していた。

 

「急いで下さい! こっちはもう予備弾倉残一です!」

「もう少しだけ持たせてちょうだい! 後少しで終るわ!」

「4時方向、飛行型が来ます! 7時から陸戦型!」

 

 静夏の悲鳴のような通達に琴音が思わず声を荒げそうになるが、菊之丞の報告に顔色が変わる。

 

「斧彦!」

「お任せよ~♪」

 

 琴音が自分達が乗ってきた蒸気自動車から用心して持ってきていた機関銃を取り出し、斧彦が軽々とそれを構える。

 

「急いで! 多分足止めになるかどうよ!」

「もうすぐ最後の便が来ます!」

「迎撃します!」

 

 こちらに向かってくる飛行型に向って静夏が突撃していき、斧彦がトリガーを引こうとした時だった。

 突然、向かってきていた陸戦型が何者かの攻撃を受けて吹き飛ぶ。

 

「あら?」

「あれは………」

 

 陸戦型に向って、白、黄色、紫の三色の霊子甲冑が突撃し、陸戦型を破壊していく。

 

「あれは………」

「驚いた。三色スミレじゃない」

「三色スミレ?」

「霊子甲冑の試作機よ。誰が乗ってるのかしら」

「すいません、遅れました! 帝国華撃団乙女組、今到着しました!」

 

 白の三色スミレから、まだ幼さの残る少女の声が響いてくる。

 

「乙女組って、花組の候補生達よ………呼んだのは大神大尉、じゃないわね。すみれさん辺りかしら。貴女達、ちょうどいい所に来たわ。このまま避難済むまで、警護お願い出来る?」

『了解です!』

 

 三機の三色スミレ、そのどれもから幼さの残る声が響いてくるのに、中身を想像して琴音は僅かに眉根を寄せる。

 

「静夏ちゃんは?」

「今交戦中、最後の一機!」

 

 菊之丞が双眼鏡を手に、向かってきていた数機の飛行型を静夏が美緒に教えこまれた技術をフルで発揮し、撃墜していく。

 

「これで、最後!」

 

 最後の一機に残弾を撃ちこみ、撃破した所で装填済みの弾倉が尽きる。

 

「最後の弾倉です! 一度補給に戻らないと」

「こっちも今最後の便が出たわ」

「なんならこっちも使う?」

 

 最後の弾倉を叩き込んだ静夏に斧彦が用意していた機関銃を差し伸べた時だった。

 どこから飛来したビームが、油断していた静夏に直撃する。

 

「ああっ!」

 

 かろうじてシールドで防いだ静夏だったが、疲労も重なり、吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。

 

「静夏ちゃん!」

「今の攻撃、どこから!?」

 

 芳佳が驚いて静夏へと駆け寄り、薔薇組は周囲を最大級の警戒をする。

 

「い、いました! 10時方向、見た事も無い飛行型!」

 

 菊之丞が双眼鏡越しに、かなり離れた所にいる長い砲身を持った飛行型を発見する。

 

「あの形状、行けない! 逃げなさい!」

「え?」

 

 それが狙撃特化機だと気付いた琴音が乙女組に警告を発するが、僅かに遅く発射されたビームが三色スミレをかすめていく。

 

「きゃあああ!」「わああっ!」「ひえええぇ!」

 

 三機の三色スミレから三人の悲鳴が漏れる中、長距離からの狙撃が確実に三機の足を止め、それを見計らったように新手が押し寄せてくる。

 

「2時、8時、11時方向からも来ます!」

「なんて事! 撤退、撤退するわよ!」

「足をやられました! 動きません!」

「しっかりして! 目覚まして!」

 

 奇襲を食らった三色スミレは一機擱坐、一機が操縦者が失神し、残った一機が必至に仲間を守ろうとしている。

 

「避難が終る隙を狙っていたっていうの!? 陰険にも程が有るわ! 乙女組、機体を捨てなさい! こっちに乗って!」

「し、しかし!」

「あんな訳の分からない連中に捕まったら何されるか分からないわよ!」

「敵、更に接近してます!」

「来るんじゃないわよ~!」

 

 琴音の指示に戸惑う乙女組だったが、すでに敵は目前まで迫っており、斧彦が少しでも時間を稼ぐべく、機関銃を乱射する。

 

「静夏ちゃん! しっかり!」

「う………」

 

 芳佳は静夏を揺するが、ダメージが大きかったのか、静夏は目を覚まそうとしない。

 

「菊之丞! 二人を連れて来て! もう持たないわよ!」

「分かりました! 芳佳さん、こっちへ!」

 

 菊之丞が手を貸すべく、芳佳の方へと近寄ろうとした時だった。

 再度狙撃機の砲撃が、両者の間に命中する。

 

「きゃあ!」

「邪魔するつもり!? こちら薔薇組、大至急救援を!」

「させない!」

 

 芳佳がかたわらに転がっていた九十九式二号二型改機関銃を手に取り、魔力の無い今の芳佳には重すぎるそれを抱え上げ、迫ってくる陸戦型へと向ってトリガーを引く。

 いかなる偶然か、放たれた弾丸は砲撃寸前だった陸戦型の砲口に飛び込み、誘爆させて一体を撃破する。

 

「や…」

 

 芳佳が声を上げそうになった瞬間、爆発に巻き込まれた他の陸戦型の狙いが狂い、威嚇のために放っていた銃撃が、芳佳の腹部を貫いた。

 

「宮藤さ………!」

 

 自分の顔に何か生暖かい物がかかった事で目を覚ました静夏だったが、それが自分を守っていた芳佳から飛び散った鮮血だと気づくと、一気に覚醒した。

 

「宮藤さん!」

「芳佳さん!」

 

 地面へと倒れこんだ芳佳に、静夏と琴音が絶望的な声を上げる。

 

「菊之丞!」

「は、はい!」

 

 先程まで芳佳が使っていた医療箱を手にした菊之丞だったが、陸戦型が素早く間に入り、二人を取り囲んでいく。

 

「誰か、誰か来てください! 宮藤さんが、宮藤さんが!」

「宮藤少尉が重傷! 超大至急で誰か来なさい!」

 

 静夏と琴音の報告は、電撃のようにその場で戦っていた者達へと伝わっていった。

 

 

 

「芳佳ちゃんが重傷!? 待ってて、今行くから!」

「全機、零神を援護して宮藤少尉を救出!」

 

 急いで向かおうとする音羽だったが、その隙を作りまいと、空戦型が立ち塞がる。

 

「どいて! 急がないと!」

 

 音羽は全力で届いたばかりのMVソードを振るい、包囲を突破しようとする。

 

 

 

「アーンヴァル!」

『こちらも包囲されてます! でもなんとか行ってみます!』

「急いでくれ!」

 

 美緒がアーンヴァルから送られてくるデータを元に、最短通路を導こうとする。

 だが敵は多く、周りには防戦一方の新人ウィッチ達がおり、不用意に離れる事も難しかった。

 

「頑張れ宮藤! 今救援が向かう!」

 

 

 

「ポイント確認! オペレッタ!」

『相次ぐ転移で、周辺空間が不安定です。回収は不可能』

「じゃあ私が行く! 待ってて芳佳ちゃん!」

 

 亜乃亜がビックバイパーの機首を回すが、周辺の敵は数を減らす度に更に増援が来る。

 

「どいて~~!!」

 

 亜乃亜の絶叫は、何よりもの焦りの証拠だった。

 

 

 

「私が向かいます!」

「援護するわ!」

「カルナ、治療ポッドの準備を!」

 

 急行しようとするエグゼリカだったが、運悪く目的地からは一番遠い。

 十重二十重の敵陣を突破するのは、極めて困難だった。

 

「芳佳さん、今行きます!」

 

 それでも、エグゼリカは向かう事をためらわなかった。

 

 

 

「芳佳君が重傷!?」

「大神さん!」

「行ってくれさくら君! ここはなんとかする!」

「ボクも向かおう!」

「私も行くわ!」

 

 さくらとムルメルティア、ポリリーナが救援に向かうが、突出を阻むように敵が現れる。

 

「どいて下さい! 芳佳さん!」

「芳佳!」

 

 さくらとポリリーナは、声を上げずにはいられなかった。

 

 

 

「宮藤さん、今みんなが来ます! もう少しだけ頑張ってください!」

 

 静夏は自らのインカムを外し、芳佳へと付ける。

 そしてそれまで芳佳を守るべく、銃を手に立ち上がった。

 

「この人は渡しません! 絶対に!!」

 

 絶望的な状況に、涙を流しながらも、静夏はありったけの銃弾をばら撒く。

 薬莢が飛び散る中、芳佳は朦朧とした意識の中、声を聞いていた。

 

『芳佳ちゃん!』『宮藤!』『芳佳ちゃん!』『芳佳さん!』

 

 音羽が、美緒が、亜乃亜が、エグゼリカが、共に戦った仲間達が必死になって自分を呼んでいる。

 

(みんな…………)

 

 傍らでは、静夏が残った力の全てを持って、戦っている。

 

(静夏ちゃん………)

 

 ぼやける視界に、戦っている者達の姿が映る。

 そこに向って、芳佳は手を伸ばしていた。

 

(呼んでる………みんなが………行かなくちゃ………)

 

 芳佳は伸ばした手を、強く握りしめる。

 今そこへ、戦場へ向かわんと。

 

 

 

「これは!」

 

 かえでは、最早直視出来ない程に輝いている白羽鳥に愕然とする。

 そこで、突然白羽鳥は台座から外れたかと思うと、まるで自らの意思でもあるかの様に窓を突き破ってどこかへと飛んでいった。

 

「白羽鳥が………誰かを、選んだ?」

 

 

 

 乾いた音を立てて、残弾が尽きる。

 

「あ………」

 

 静夏は何度もトリガーを引くが、すでに放たれるべき弾丸は全く残ってなかった。

 

「そんな………宮藤さん………ごめんなさ…」

 

 絶望に包まれながら、静夏が謝罪を口にした時、閃光が天空から降ってきた。

 

「何!?」

「何か来ました!」

「今度は何よ!?」

 

 奮戦していた薔薇組の三人も、予想外の事に思わずそちらへと振り向く。

 降ってきた何かを確認する間もなく、目がくらむほどの閃光が、辺りを染め上げた。

 

 

(あれ、ここは………)

 

 芳佳は、自分が淡い光が満ちた空間にいる事に気付く。

 

「私、ひょっとして、死んじゃったの?」

『いいえ、貴女は死んではいません』

「誰?」

 

 響いてきた声に、芳佳はそちらを見る。

 淡い光の中に、人型の影がおり、そこから穏やかな女性の声が響いてきていた。

 

『貴女はまだ死ぬべき宿命ではありません。そして、貴方の力も失われたわけではありません』

「え、本当ですか!?」

『貴女の力は、眠っているだけです。もし必要ならば、その力を目覚めさせてあげましょう』

「それじゃすぐに…」

『しかし、それは戦場を離れ、平穏な人生を歩む機会を失う事にもなります。よく考えなさい。貴女は何故、再び戦おうとするのですか?』

 

 諭すような声に、芳佳は迷う事無く、答えた。

 

「友達が、戦っているんです。私はあそこへ、戻らないと」

『………それが貴女の答えですか。分かりました』

 

 声は頷くと両手を前へと差し出す。

 その手に光が集まり、やがてそれは一振りの剣となった。

 

『この神剣・白羽鳥が貴女の眠っている力を呼び起こしてくれるでしょう。そして行きなさい、貴女の居場所へ』

 

 芳佳は手を伸ばし、白羽鳥を受け取る。

 その時、相手の顔が僅かに見えた。

 ある人物に似た、柔和で自愛に満ちた顔に。

 

「かえでさん、じゃない?」

 

 そこで一気に芳佳の意識は覚醒していく。

 

 

 

 閃光が晴れると同時に、別の光がその場を照らし出す。

 とてつもなく巨大な、魔法陣の光が。

 

「何が起きてるの!?」

「あれ、芳佳さんが!」

 

 訳の分からない琴音が、菊之丞の指差す方向を見た。

 そこには、重傷を負っていたはずの芳佳が立ち上がり、手に一本の剣を手にしている。

 鞘に収まっていたその剣を芳佳がゆっくり抜き放つと、体から魔力の燐光が漏れだし、頭と腰にはウィッチの証である使い魔の耳と尻尾が出現していた。

 

「あれは、神剣・白羽鳥! 何故彼女が!」

「な、何かすごそうよ………」

 

 溢れ出る魔力の光に、その場にいた者達が唖然とする。

 

「宮藤、さん?」

「静夏ちゃん、ありがとう。後は休んでて」

 

 自分とは比べ物にならない、ケタ違いの魔力を放つ芳佳に静夏は信じられない物を見るような顔をしていた。

 芳佳はそっと礼を言いながら、確かな足取りで静夏の前へと出た。

 

「宮藤 芳佳、行きます!」

 

 力のこもった宣言と共に、芳佳は駆け出し、手前にいた陸戦型へと白羽鳥を振り下ろす。

 莫大な魔力のこもった斬撃は、一撃で陸戦型を両断、文字通り吹き飛ばした。

 

「すごい………」

「これが、あの子の本当の力………」

 

 静夏や琴音、他の薔薇組や乙女組の者達も、圧倒的な芳佳の力に呆然とするしかなかった。

 それに目をつけたのか、他の敵は一斉に芳佳へと狙いを定め、向かってくる。

 

「はああぁっ! たああっ!」

 

 芳佳は白羽鳥を振るい続け、敵を次々撃破していくが、数の多さに不利を悟っていた。

 そこで横目に、失神した搭乗者を降ろしている最中の三色スミレが入ってくる。

 

(ひょっとしたらウィッチでも動かせるかもしれないな)

 

 父の言っていた事を思い出した芳佳は、三色スミレへと駆け寄る。

 

「すいません、コレ借ります!」

「え?」

 

 乙女組が唖然とする中、芳佳は白羽鳥を鞘に収め三色スミレへと搭乗し、ハッチを閉める。

 

「霊子甲冑はそう簡単に…」

 

 琴音も思わず声を掛ける中、新たな搭乗者を得た三色スミレが蒸気を吹き上げ、再起動した。

 

「………ウソ」

 

 

 

「な、な、なんやさっきの!? 霊力計が吹っ飛ぶかと思ったで!」

「霊力、と微妙に違う。これはウィッチの魔力反応のようだ」

「それにしてもすさまじい力やで!? 一体誰や!」

 

 紅蘭とレニが突然出現した魔力反応に驚く中、機能停止していたはずの三色スミレの再起動に気付く。

 

「すごい出力や! 誰が乗ってるんや!?」

『宮藤 芳佳です!』

「宮藤はん!?」

 

 通信に映る芳佳の顔に、紅蘭は再度驚く。

 

「ちょ、いきなりで動かせるんかいな!?」

『やってみます!』

「無理だ、そう簡単には」

『お願い、動いて!』

 

 声と共に、三色スミレが動き出す。

 膨大な魔力に突き動かされ、先程とはまるで違う動きで、敵へと向かっていった。

 

 

 

「たああぁぁ!」

 

 芳佳は三色スミレを駆り、陸戦型へと巨大な白刃を振り下ろす。

 一撃で敵を両断したのみならず、余波だけで周辺の陸戦型を巻き込み、数体まとめて粉砕していた。

 

「そこです!」

 

 霊子甲冑用拳銃を構えて速射、一発で一体ずつを確実に破壊していく。

 

「すご過ぎ………」

「こ、これが宮藤少尉の実力………」

 

 圧倒的な戦いに、誰もが絶句していた。

 その戦いが、別の問題を起こす事に、見ていた者達は気付いていなかった。

 

『な、なんやこの凄まじい数値は!? あかん、機体が耐えられへんで!』

「なんですって!?」

 

 紅蘭からの大慌ての通信に、琴音の声が裏返る。

 それを証明するかのように、三色スミレの各所から、蒸気漏れが起きつつあった。

 

「まずいわ! やっぱり誰か早く来て!」

 

 

 

「間違いありません、これは宮藤少尉の反応です!」

「彼女は、力を失ったと聞いていたが………」

「まあ、完全に失ってなかった、という事ですかね?」

 

 七恵の喜色を含んだ報告に、門脇と冬后は若干首を傾げる。

 

「敵、宮藤少尉に向かい始めました! 完全に狙われてます!」

「そりゃあ、あんだけ目立つ事すりゃあな………」

「ソニックダイバー隊を宮藤少尉の援護に」

「ソニックダイバー達、宮藤少尉の元に向って下さい」

『了解!』

「ソニックダイバーレスキュー隊、帰投しました!」

「すぐに再出撃の準備を…」

『宮藤博士はそこにおるか!?』

 

 指示が飛び交う臨時指揮所に、紅蘭の慌てた通信が飛び込んでくる。

 

「今格納庫の方ですが………」

『芳佳はんが霊子甲冑乗っ取るんやけど、芳佳はんの力が高過ぎるで! このままじゃ持って数分や! 専用武装がいるで!』

「何だって!? 宮藤博士に至急連絡!」

「でも確か、宮藤さんのストライカーユニットって、彼女専用って言える特殊な物だって坂本少佐が言ってたような………」

「取り敢えず連絡を!」

 

 紅蘭から告げられた情報に、冬后と七恵が顔色を変え、タクミが慌てて格納庫に繋ぐ。

 

「宮藤博士! 今華撃団から通信がありまして…」

『状況は分かってる。可能性は考えていた。震電型ストライカーユニットも持ってきてはいたが………問題は、どうやって芳佳の元まで運ぶかだ』

『今宮藤はどうなっている?』

「戦場のど真ん中で孤軍奮闘してます!」

『高過ぎる魔力が、かえって敵の目標に

なってしまっているか………どうすれば………』

『冬后大佐! 私達が持って行きます!』

 

 そこに帰投したばかりのソニックダイバーレスキュー隊からの提案が飛び込んでくる。

 

『映像資料は見させてもらいました!』

『彼女の能力なら、戦況を変えられます!』

『私達に運搬命令を!』

「…長官」

「宮藤少尉は、ウィッチの中でも抜きん出た力を持っているのは知っている。あの大型航空母艦と戦う以上、彼女の力は必要になるだろう」

『先程の解析不能なエネルギー源が個人の物だと言うのなら、こちらも援護する』

 

 判断を迷う冬后に、門脇は芳佳の有用性を解き、群像も援護を申し出てくる。

 

「ソニックダイバーレスキュー隊、宮藤少尉のストライカーユニットを当人の元まで輸送せよ!」

『了解!』

『タカオ、輸送部隊を援護攻撃!』

『もう何がどうなってんのよ!』

 

 ナノスキンの再塗布を終えたソニックダイバーレスキュー隊が次々と発進していき、イー401から援護攻撃が始まる。

 

「間に合ってくれ………」

 

 宮藤博士は、ただ娘の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

「敵は宮藤少尉に集中してる!」

「そりゃ、あれだけ目立つ事したら………」

「けどあの包囲、どうやって突破したら………」

 

 勢い込んで輸送任務を受けたソニックダイバーレスキュー隊だったが、芳佳を包囲する敵の多さに、僅かに躊躇する。

 

『こっちで突破口開いてあげる! つうか武装くらいしときなさい!』

「これはレスキュー用の練習機なんです!」

「一応武装は借りてきましたけど………」

 

 援護のミサイルを放ちながらタカオが文句をつけてくるが、ソニックダイバーレスキュー隊は用心のために持参した霊子甲冑用の武装を手にしながら、速度を上げる。

 

『敵群の一部が向ってきています! こちらの動きを察知された模様です!』

『こっちにも向かってきてるわ! ミサイルが撃墜された!』

「そんな!」

「来た!」

 

 タクミとタカオの通信が示すように、敵群の一部が、恐ろしい程的確かつ迅速な動きで、ソニックダイバーレスキュー隊を包囲していく。

 

「冬后大佐!」

『戦闘は自衛に留めろ! つうかお前ら戦闘訓練なんて受けてねえだろ!』

「了解!」

 

 震電型ストライカーユニットを守るべく、ソニックダイバーレスキュー隊が有時用にインストールされていた戦闘プログラム頼りで戦闘態勢を取ろうとした時だった。

 

「アールスティア、フルファイア!」

「ドラマチック・バースト!」

 

 速射されるビーム砲撃と無数のサーチレーザーが、包囲しようとした飛行型を次々と撃ち落としていく。

 

「それをこちらへ!」

「後は任せて!」

 

 エグゼリカがそう言いながらアンカーを伸ばし、亜乃亜は素早くガードにあたる。

 

『一任しろ! そいつらなら任せられる!』

「すいません、後お願いします!」

 

 冬后の即断に、ソニックダイバーレスキュー隊は震電型が入った搬送用ポッドを投擲、エグゼリカは即座にそれをキャプチャーしてたぐり寄せる。

 

「私がサポートするから、エグゼリカちゃんは芳佳ちゃんの所へ!」

「お願いします! アールスティア、オートファイア!」

 

 ビックバイパーのありったけの武装をセットする亜乃亜に護衛を任せ、エグゼリカは敵の間を高速ですり抜ける事に集中する。

 

「敵群、更に戦力を分散。完全にこちらの目的を予測されている………けど、これをなんとか芳佳さんに!」

「増援は皆が抑えてくれてる! ここを突破すれば!」

 

 芳佳へと一直線に向かうエグゼリカに何かを察したのか、敵の攻撃が更に激しくなる。

 亜乃亜は他のトリガーハートや天使達が増援をしのいでくれている事を確認しながら、向かってくる敵を次々と迎撃していく。

 そこへ、今までのより更に小さい新型の飛行型が混じっている事に気付く。

 

「ここに来て新しいの来た! 注意して!」

「アールスティア…」

 

 亜乃亜の忠告に、エグゼリカが砲口を向けようとした時だった。

 小型飛行型が、突然尋常じゃない速度で友軍機の間をすり抜け、一気にエグゼリカへと迫ってくる。

 

「え…」

「突撃機!?」

 

 亜乃亜の反応速度を超え、搬送用ポッドを抱えて速度に欠くエグゼリカに突撃、というよりも特攻してくる小型飛行型が目前まで迫る。

 だが小型飛行型はいきなり狙いを反らし、明後日の方向へと向ったかと思うと、両断されて爆散する。

 

「ジャミング成功!」

「間に合った! こっちへ!」

 

 ヴァローナを連れた音羽が、MVソードを仕舞ってエグゼリカへと零神のアームを伸ばす。

 

「ルートを作ります! ディアフェンド、アールスティア!」

 

 搬送用ポッドを零神へと渡したエグゼリカが、アンカーで敵をキャプチャー、最大出力でスイングしてリリース、放たれた敵が他の敵を巻き込み、誘爆していく所にビーム砲撃を更に撃ちこみ、敵の包囲に穴を開ける。

 

「援護お願いヴァローナ!」

「OKオーニャー! FL015 エクスタス・ジャミングユニット、最大出力!」

 

 エグゼリカが開けてくれた包囲の穴に、音羽は零神を突っ込ませ、ヴァローナが最大出力でジャミングを掛ける。

 

「全機、零神を援護!」

「敵、再包囲体制に入ってます!」

「させない!」

 

 両手がふさがっている零神の周囲を、他のソニックダイバーが囲み、敵を迎撃していく。

 

「芳佳ちゃんの所に行かせて!」

「距離あと300、もう少し!」

 

 芳佳の元に向かおうと必至な音羽に、ヴァローナもジャミングを続けながら、距離を計算する。

 僅かに地上で奮戦している三色スミレの姿が見えた時、飛来した光条が零神をかすめた。

 

「うあ!?」

「オーニャー!」

「音羽!?」

「大丈夫、でもどこから!」

 

 僅かに体勢を崩しかけたのを、何とか立て直した音羽だったが、再度の光条がかすめる。

 

「気をつけて下さい! 狙撃機です!」

「ジャミングが効いてない! 光学照準!?」

 

 可憐とヴァローナが警告する中、三度目の狙撃が、零神の腕を直撃する。

 

「ああ!」

 

 零神の損傷は小さかったが、衝撃に耐えかね、搬送用ポッドが滑り落ちる。

 

「そんな!」

「間に合え…」

 

 瑛花も驚き、エリーゼが何とか回収しようととするが、それよりも敵が群がる方が早かった。

 

「破邪剣征・桜花天昇!!」

「静寂が支配する銀の楽園、リディニーク!」

「熱く…激しく…輝け! オーソレミーオ!」

 

 搬送用ポッドに敵の攻撃が今にも放たれようとしたが、地面から噴出した莫大な霊力を伴った斬撃が、凍てつく冷気を伴った銃撃が、バラの花弁がごとき霊子レーザーの嵐が群がった敵を軒並み吹き飛ばし、落下した搬送用ポッドはそこにいた光武二式に受け止められる。

 

「これを芳佳さんの所に持っていけばいいんですね?」

 

 下で搬送用ポッドが落下してくるのを見た帝国華撃団らがとっさに敵を迎撃し、さくら機が搬送用ポッドを無事に回収した。

 

「お願い! 早く芳佳ちゃんの所へ!」

「はい!」

「急いだ方がいい、向こうの機体の限界が近い」

「追手はここでなるべく食い止める!」

「これで役立たずだったら承知シマセ~ン」

 

 さくら機の肩にいるプロキシマがナビを務め、マリア機と織姫機が殿を務める中、さくら機が搬送用ポッドを手に走り出すと、その横にイオナが併走し始める。

 

「貴女は…」

「エグゼリカが言っていた。友達のために戦っていると。それはその友達のための物?」

「そうよ」

 

 同じくさくら機の横へとついたポリリーナが、イオナの問いに答える。

 

「分かった、援護する」

「ありがとうございます!」

「お礼は、届けてからにして」

 

 イオナが率先して前に出て、包囲しようとする陸戦型をドリル型フィールドと重力球で露払いし、ポリリーナがバッキンビューで左右や後方の敵を牽制する。

 

「見えました!」

「芳佳!」

 

 さくらが視線の先に芳佳の乗る三色スミレを捉え、ポリリーナが思わず叫ぶ。

 だが芳佳の高過ぎる魔力にとうとう限界を迎えた三色スミレは、機体の各所から蒸気を噴出し、その場に擱坐してしまう。

 

「ああっ!」

「いけない!」

 

 芳佳を助けようとポリリーナがテレポートしようとするが、その脇を小さな純白の影が高速で通り過ぎる。

 

「行きますマスター! これこそ天翔ける天使の騎馬!」

 

 アーンヴァルが叫ぶと、体の各所の武装がパージ、合体して支援機《ラファール》へと変化、それにアーンヴァルが飛び乗る。

 

「グランニューレ!!」

 

 ラファールが周辺に弾丸をばら撒きながら更に加速、アーンヴァル共々白い閃光と化して三色スミレに群がろうとしていた陸戦型へと突撃、次々と貫通破壊していく。

 

「ボクも行くぞ! 今が駆け抜ける時!」

 

 サクラ機の肩からプロキシマが飛び降りると、背部パーツが展開、人身四脚の文字通りケンタウロス形態となると、フィールドを纏いながら突撃していく。

 

「オメガスターロード!!」

 

 四脚で一気に空中を駆けながら、プロキシマは双刃の鎌ケイローンを振りかざし、アーンヴァルと共に陸戦型を穿ち、斬り裂いていく。

 

「武装神姫、データよりも更に戦闘力が増強

されてる」

「カッコいい………」

「今の内に!」

 

 アーンヴァルとプロキシマが文字通り包囲に穴を開けている間に、三人は三色スミレへと駆け寄る。

 

「芳佳! 無事!?」

「大丈夫です!」

「これ持ってきました!」

 

 ポリリーナの掛け声に芳佳は三色スミレから降りながら元気よく答え、さくら機が搬送用ポッドを地面に置いて展開、中から震電型ストライカーユニットが姿を表す。

 

「震電………私、帰りたいの。みんなのいる、あの場所に………だから、お願い………もう一度、飛ばせて」

 

 呟きながら、芳佳は震電型ストライカーユニットへと足を入れる。

 すると、先程よりも更に巨大な魔法陣が相場に発生、震電型ストライカーユニットが力強い音と共に起動する。

 

「エネルギー構成不明、人体のオルゴンエネルギーに酷似」

「みんな、ありがとう。今、そこに行きます!」

「芳佳ちゃん、使って!」

「こ、これを!」

 

 イオナも流石に驚く中、芳佳は激戦の続く上空を見つめ、斧彦が使っていた機関銃を手渡し、静夏は空になったマガジンベルトを芳佳の腰に回すと鞘に収めた白羽鳥をそこに挿した。

 

「宮藤 芳佳、出撃します!!」

 

 掛け声と共に、仲間達に見送られ、芳佳は魔力の残光を振り巻きながら天空へと飛び上がっていった………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP07

 上空へと舞い上がった芳佳に向かって、敵が一斉に攻撃を開始する。

 

「このお!」

 

 芳佳は前方にシールドを発生、放たれた攻撃全てを受け止める。

 

「防御は私が受け持ちます! 部隊の再編を!」

「ソニックダイバー隊、フォーメーションD!」

「グラディウス学園ユニット、集結!」

「トリガーハート各機、敵空中母艦周辺に展開!」

 

 芳佳を中心に、空中戦を繰り広げていた者達が素早く再編作業へと取り掛かっていく。

 

「なんだあれは!? クラインフィールド並の防御力だぞ!」

「なるほど、皆頼りにするわけだ」

 

 上空を見上げるキリシマが、芳佳の驚異的なシールドに思わず声を上げ、大神は納得して僅かに微笑む。

 

「帝国華撃団! 敵地上機の掃討に入る! 敵の注意が上空に集中してる間に片付けるぞ!」

『了解!』

「母艦からの降下が止んでいる。戦力を出し尽くしたか、彼女を警戒しているのか」

「タカオは何をしている! あれを超重力砲でさっさと撃ち落とせ!」

「私達は構いませんけど、現地の方々はどう思うかしら?」

 

 掃討戦に入る華撃団をメンタルモデル達が勝手な事を言いながらも助勢する。

 

「ある程度片付けたら、こちらは上に上がらせてもらいますわ」

「頼む、光武じゃ空には上がれない!」

 

 同じく掃討戦をしていたエリカが大神に提言し、大神は彼女達が使っている飛行可能なユニットを見ながら叫んだ。

 

「大神さん!」

「マスター、今戻った!」

「地上機はこちらに集中してきてる」

 

 そこへさくら機、プロキシマ、イオナが押し寄せてくる敵に応戦しながら合流してくる。

 

「好都合だ、ここで迎え撃つ!」

「上空からの援護は望めないようだ」

 

 奮起する華撃団だったが、イオナが上空で繰り広げられる激戦を見ながらぼそりと呟く。

 

「だからこっちは飛べないんですって!」

「群像が戦局は複合的要因で構成されると前に話していた。部隊を二分して戦場が別れるのは効率がよくない」

「君、話聞いてる?」

「だったら戦場を上に移せばいい」

 

 淡々と話すイオナにプロキシマは微妙な視線を向けるが、続いた言葉に周囲の者達は一斉に首を傾げる。

 

「上って………」

「ハルナ、キリシマ、ヒュウガ、力を貸して」

 

 そう言いながらイオナはある提案を他のメンタルモデルに転送、同時に演算処理用のグラフサークルを展開させる。

 

「なるほど、こういう手があったか」

「正気か401!」

「イオナ姉様、艦長に似てきてません?」

 

 納得、驚愕、疑惑などのそれぞれの反応を見せながらも他のメンタルモデル達もグラフサークルを展開。

 そして、自分達の周囲から上空へと伸びる階段上のフィールドを形成していく。

 

「これは………」

「ここを登りながら戦えば、上の戦力と敵を挟撃出来る」

「強度は大丈夫なんですの?」

「そちらの自重その他は計算済み。ただしあまり広範囲には無理」

「よし、帝国華撃団は各機、敵を引き寄せつつ、上へと登って挟撃する! 殲滅完了次第、敵母艦への攻撃を…」

『大神~~!!』

 

 そこへ、拡声器越しに加山の声が響き、一台の大型蒸気トラックがこちらへと向かってきていた。

 

「加山!? こっちは危ないぞ!」

「こっちの切り札を持ってきた! 使え!」

 

 巧みに敵地上機の間をすり抜け、大神機の前でドリフトして止まった大型蒸気トラックの荷台が展開していき、そこに光武二式より更に大型の霊子甲冑が姿を表す。

 

「そうか、調整が終わったのか………恩に着る加山!」

「オレとお前の仲でそれはないぜ、大神~」

「さくら君!」

「大神さん!」

 

 大神とさくら、二人が同時に自分の機体から飛び降り、大型霊子甲冑へと乗り込む。

 

『双武、起動!』

 

 二人の声が同時に響き、蒸気と霊子の噴煙を上げて帝国華撃団決戦用二人乗り霊子甲冑《双武》が帝都の激戦に決着を付けるべく、動き出す。

 

「行くぞみんな!」

「おお~!」

 

 

 

「各部隊、上空の敵母艦周辺に展開完了、攻撃開始しました!」

『帝国華撃団、敵地上機の掃討戦に移行します!』

『こちらイー401、超重力砲はいつでも発射可能です。ただ、やはり射線の問題が………』

 

 次々と報告が飛び込んでくる中、臨時指揮所で門脇、嶋、冬后の三人は険しい顔で戦況モニターを睨んでいた。

 

「やはり、問題はあの母艦だな」

「ええ、巨大過ぎます。確実に破壊できない限り、市街地上空での破壊攻撃は避けた方が無難かと」

「しかし、放置もしておけないでしょう。どうにか市街地上空から誘導する方法は無い物か………」

『それにもう一つ。こちらの超重力砲は本来は大戦艦用の鹵獲品を強引に装備した物だ。一発撃てば再整備が必要になる。実質、一回しか使えないと思ってほしい』

 

 群像からの説明に、更に三人は表情を険しくする。

 

『こちらには他に侵食弾頭という兵器が有る。そちらの空中戦力で敵小型機を迎撃、射線を確保して侵食弾頭で敵空中母艦を削れるだけ削り、最終的に超重力砲を撃ち込んで撃破するというプランはどうでしょうか』

「向こうの耐久力が分からない。現状を見る限り、かなりの耐久力を持っているようだが、中途半端な攻撃で空中分解なぞされたら、直下の市街地は壊滅する」

『確かに………だが………』

「相手が何者で、どのような特性を持っているのか、それすら我々にはまだ分からないのだ」

『分かってんのは一つだけ。倒さなきゃならねえ敵だって事だけだ』

 

 群像の提案を門脇が否定、嶋と通信を聞いていた米田も問題点を指摘し、群像も思わず口ごもる。

 

「ワーム大戦の愚を再度犯すわけにはいかない。だが、覚悟はしておいた方がいいかもしれん」

『おい待て、帝都を虫食い煎餅にするようなこたぁ許可するわけにはいかねえな』

『オレも反対です。何か、何か手があるはず………』

 

 帝都上空に鎮座する、あまりに巨大過ぎる空中母艦にそれぞれの指揮官達の意見が対立する。

 

「せめて、弱点みたいな物が分かればいいんだが………」

「敵母艦のジャミングは遥かに強力で、内部構造は全く分かりません………カルナダインが攻撃をしながらサーチしてみたようですが、結果は同じみたいです」

『こっちも同じね。動力炉の場所が分かれば、そこに超重力砲撃ちこめば一発かもしれないけど』

 

 冬后の呟きに七恵が外装データ以外全く不明の空中母艦のデータを表示させ、タカオも同じく内部が全く不明のデータを転送させてくる。

 

「突入探索を命じてみては?」

「それこそ危険だ。前回は内部構造が分かっていたから出来たが、全く不明の巨大飛行艦への突入は無謀過ぎる」

『あのジャミング、あれさえどうにか出来れば!』

 

 

 

「そこだ」

 

 わざと細い路地に入り、追ってきた陸戦型をまとめて重力球で押し潰したハルナだったが、ふとそばで教養のエミリーが幾つもの観測機器を抱えているのに気付く。

 

「そこで何をしている?」

「なんとか、敵の解析をしようと思ったんですが………どんな小型機でもきっちりジャミングしてて。鹵獲か、直接接触出来ないかと思ったんですけど」

「メンタルモデルを持ってしても内部解析は出来ないぞ、ましてや鹵獲と言ってもだな」

 

 ハルナの肩にすがっていたキリシマが呆れた声を上げるが、ふとハルナは何かを考えこむ。

 

「キリシマ、私は今上空母艦へとの通路となるフィールドの形成に演算の半分近くを使用している」

「私もだ、それがどうした?」

「だから頼む」

「何を…」

 

 首を傾げるキリシマを、ハルナは無造作に抱き上げると、そのまま全力でこちらに向かってくる陸戦型へとぶん投げる。

 

「うわあああぁぁ!?」

 

 突然飛んできたクマのぬいぐるみにさすがに向こうも判断に困ったのか、運良く攻撃もされずに陸戦型の装甲へと直撃する。

 

「覚えてろハルナ!」

 

 怒声を上げながらもキリシマは装甲に鉤爪(※なけなしのナノマテリアル製)でしがみつき、残った演算力をフル使用して解析に取り掛かる。

 

「クソ、接触しててこれか!? だがなんとか…」

 

 高度なジャミングをかいくぐり、キリシマはなんとか敵機の内部構造を解析していく。

 

「これは、ほとんどがナノマシンか? だがこの配置、まるで生物を思わせるような…」

 

 キリシマが解析を進めていく中、ふと響いた金属音に顔を上げる。

 そこには、極至近距離からこちらに向けられている、銃口が有った。

 

「しまっ…」

 

 銃口が火を噴く瞬間、キリシマの体が何かに引っ張られて弾丸は僅かに体表をかすめて地面に弾痕を穿つ。

 

「大丈夫ですか!?」

「すまん、助かった!」

 

 キリシマを耳を引っ張り上げる形で危機を救ったアーンヴァルに、キリシマが礼を言いながらも不完全だが解析結果をまとめ、一斉送信する。

 

「これで突破口になればいいが………」

「ナノマシン………ひょっとしたら………」

 

 送信されてきたデータを受け取ったアーンヴァルが、ある可能性を考える。

 対ナノマシンの切り札の可能性を。

 

 

 

「キリシマから敵機の解析データ来ました!」

「なんだこりゃ!? 機械か生物か、どうにも分からねえぞ?」

 

 静の報告に、杏平の素っ頓狂な声が重なる。

 

『確かに妙な構造ね。あえて言うなら、霧の艦隊構造に似てなくもないけど』

「あの空中母艦も似たような構造、と考えられるか。内部構造を予測できるか?」

『サイズ差がありすぎよ。あの大きさじゃ同じ手も使えないだろうし』

「一体キリシマはどうやって解析したんです?」

『…後で教えるわ』

 

 タカオと群像が解析結果から空中母艦への突破口を模索するが、僧の疑問にはあえて答えないでおく。

 

『こちらアーンヴァル! 解析データは見ました! クアドラロックシステムの転用は出来ませんか!?』

「クアドラロック?」

『ソニックダイバーの切り札です。ただあれに効くかどうかは………』

『クアドラシステムのデータ送ります』

 

 アーンヴァルの提案に群像が首を傾げた所で、タクミと七恵が説明する。

 

『ナノマシンへのホメロス効果を利用した自壊システム? あんた達も結構物騒なの使ってるのね』

『しかし、ナノマシン特性の違いを加味したプログラムの変更が必要になるのでは? 最悪システムその物を組み直す必要が…』

『まって! これなら私わかる!』

 

 タカオと僧が送られてきたデータを流し見しながら否定しようとするが、そこで予想外の声が上がる。

 

「今のは?」

「子供?」

『これをこっちの組成崩壊に書き換えればいんだよね?』

 

 通信ウィンドゥに顔を出してきた蒔絵に、皆絶句するが自信満々の様子に思わず顔を見合わせる。

 

「失礼だが、本当に出来るのかね? 事は緊急を要するのだが………」

『分子の振動破壊固有周波数よりも、ずっと仕組みは簡単。それにヨタロウが構成密度の概要を送ってきてくれてるから、あの大きいのの体積と質量にそれを当てはめてやれば、組成崩壊とはいかなくても、機能不全にまでなら出来るかも!』

 

 嶋が聞き返すと、蒔絵の口から幼い外見からは想像もつかない専門用語が次々と出てき、聞いていた者達は再度絶句する。

 

「………ソニックダイバー隊のナノスキン残時間は?」

「あと、10分切ってます!」

「プログラムの変更にどれくらい必要かな?」

『えと、6、いや5分で!』

「至急頼む」

 

 門脇の問いかけに七恵と蒔絵が返答し、即座に作業に入る。

 

「一時的にでも、あの空中母艦のシステムを停止させられれば、内部解析が出来るかもしれん」

『そして動力炉の位置を特定し、超重力砲を撃ち込む』

『その前に、あれを撃っても大丈夫な場所に誘導しねえとな』

 

 門脇、群像、米田の三人が意見の一致を見、同時に頷く。

 

「ソニックダイバー隊に連絡、クアドラロックの準備に入れ」

「了解、ソニックダイバー各機、クアドラロックの準備に!」

『タカオ! 超重力砲がもっとも都市部に被害が少ないポイントをシミュレート、総員に伝達!』

『展開中の全部隊に空中母艦直下から緊急退避させろ! 万が一だ!』

 

 三人の司令官から矢継ぎ早に指示が飛び交い、それぞれの部隊が行動を開始する。

 激戦の決着の時が、近付いてきていた。

 

 

 

「空中母艦にクアドラロック!? 本気ですか!?」

『前もやったろ。あのジャミングが停止出来れば、弱点が分かるかもしれん!』

「しかし、サイズ差が………」

「フォーメーションを変更してみます!」

 

 冬后から届いた作戦に、瑛花が思わず声を荒げるが、可憐は作戦の意図を組み、即座にフォーメーションの変更を試みる。

 

「…分かりました。音羽、エリーゼ、聞いてたわね!」

「聞いてた! クアドラロックね!」

「サポートするよオーニャー!」

「ちょ~っとサイズ大きめだけど、なんとかやってみよう!」

「こちらで援護します! 変更したフォーメーションを送ってください!」

「私が前に出ます! 音羽ちゃんは後ろから来て!」

 

 音羽、ヴァローナ、エリーゼが力強く答え、ジオールと芳佳も協力を申し出る。

 

「RV各機、ソニックダイバー隊を援護! クアドラロックに備えて!」

「周辺の小型機はこちらで受け持ちます! そちらの準備を!」

「右翼側の敵はこちらで!」「エリカ7、行きますわよ!」

 

 ジオールの指示でRVが集結する中、クルエルティアを先頭にトリガーハート達とポリリーナとエリカを先頭に光の戦士達が周辺の掃討に取り掛かる。

 

「問題は、やはりあのサイズです。現状のソニックダイバーの出力では、ホメロス効果を完全に発揮出来ない可能性が………」

「つまり、削らなきゃダメって事ね」

「あれの質量を削るのはかなり困難なミッションだぞ、マイスター」

 

 フェインティアとムルメルティアが残った火力でどうするか思案する中、地上の敵機をほぼ殲滅した帝国華撃団とメンタルモデルが上がってくる。

 

「こちらも手伝おう! 帝国華撃団、敵空中母艦に攻撃開始!」

「大丈夫、侵蝕魚雷を使えば充分削れる。タカオに座標を送る」

「あまり激しく動きまくるな。フィールドの演算が間に合わなくなる」

 

 攻撃を開始しようとした所で、空中母艦の各所の銃座が一斉に攻撃を開始、動きの遅い霊子甲冑とメンタルモデルに銃撃が集中する。

 

「自己防衛モードに入ったようだ! 注意しろ!」

「マリア、紅蘭、織姫君は機銃を攻撃! アイリス、カンナ、レニはそれぞれ援護に! オレとさくら君は直接攻撃してみる! ハルナ君、あの開口部までの足場を!」

「了解した」

 

 即座に対応指示を出しつつ、双武が白刃を手に空中母艦へと突撃する。

 

「大神さん!」

「内部から攻撃出来れば、あるいは!」

 

 双武が空中母艦の複層構造になっている下部カタパルトに突入しようとしたが、そこでカタパルトのみならず、開放している部分全てにレーザーバリケードが出現する。

 

「くっ! やはりそう簡単にはいかないか!」

「中には入れなくてても!」

 

 急制動をかけつつ、双武の手にした両刀が空中母艦の構造材を斬り割く。

 膨大な霊力の込められた斬撃は、予想以上に大きな威力となって空中母艦の構造材を破壊したが、それでもその巨体の前には微々たる物だった。

 

「大神さん!」

「こちらの攻撃が効かないわけじゃない! 分担して、翼端を破壊する!」

「要所だけ破壊してくれれば、後はこちらで侵蝕魚雷を撃ち込む。そちらの攻撃はなぜかこちらの演算以上のダメージを与えられてるから、ちょうどいい」

「マスター達の生体エネルギーに対する耐性が無いんだな」

「なるほど」

 

 イオナの提言にプロキシマが補足し、イオナは小さく頷く。

 

「じゃあ一気に行くぞさくら君!」

「はい大神さん!」

『狼虎滅却・桜花絢爛!!』

 

 膨大な霊力を伴った大斬撃が、空中母艦の翼を大きく抉っていく。

 

「確かに、すさまじい破壊力だ」

「原理が理解出来ない」

「プロキシマ!」

 

 そこへ、ムルメルティアが複数のボトルを吊り下げて運んできた。

 

「先程転送されてきた生体エネルギーの回復剤だ。あれだけの攻撃、消耗は激しいはず。ウィッチに効いたから、そちらにも効くはずだとマイスターから言われて運んできた」

「ありがとう、マスター達に渡しておく」

「急いだ方がいい。他の人達も決着をつけに来ている」

「ここが勝負どころか!」

 

 イオナがそこかしこで帝国華撃団が必殺技を繰り出し始めたのを確認、プロキシマが慌てて回復ドリンクを持っていく。

 

「敵空中母艦被害状況を確認、破損状況から侵食魚雷の攻撃ポイントを策定、タカオに送信」

 

 周辺では華撃団、上空では天使が中心となって空中母艦に攻撃を加える状況を解析したイオナが、次の手を打つべく攻撃ポイントを送信していく。

 

「………追伸、確認出来る全戦闘ユニットの戦闘力の低下を認識。長期戦による疲労と判断。これ以上の長期戦は困難」

 

 はためには気づきにくいが、誰もが激戦を繰り広げ、動きが鈍くなりつつあるのを確認したイオナは、少しでも決着を早めるべく、空中母艦への攻撃を開始した。

 

 

 

「イオナからの攻撃ポイント、来ました!」

「1番から8番、全てに侵蝕魚雷装填!」

「大判振るまいだな! だが魚雷であってミサイルじゃねえぞ!」

「分かっている! 敵空中機の掃討率は!」

「75、80%を突破! 母艦のは出尽くしたようです!」

「蒔絵、プログラムはどこまで進んでる!」

「あと90秒待ってて! このプログラム振動弾頭の時あったらな~」

 

 蒔絵の幼い手が想像できない速度でコンソールを叩く中、群像は激しい空中戦の様子を凝視していた。

 

「タカオ、敵防空網を掻い潜り、侵蝕魚雷を全弾当てられるか?」

『あれがこれ以上何も隠してなければね。ああもう! このジャミングが無かったら兵装も何もスキャン出来るのに!』

「プログラム変更終わったよ! 送信お願い!」

「これが一体どこまで効果が有るかが勝負の分かれ目だな………」

 

 資料に目を通しただけのソニックダイバーの切り札、しかも急場の変更をしたプログラムで果たしてどれほどのダメージが与えられるのか、あまりに賭けの要素が多過ぎる状況に、群像もさすがに焦りを感じる。

 

「周辺の避難状況は?」

「市民の避難は完了、展開していた救助部隊も現在撤退中だそうです」

「………敵空中母艦が本艦破壊レベルの攻撃を行う可能性が出たら、独断で超重力砲を発射する」

「おい、いいのか?」

 

 杏平が思わず群像の方を見るが、群像の決意は固いのが見て取れた。

 

「向こうが何らかの大規模破壊兵器を使用しようとした場合も同様だ。被害が抑えられないなら、少ない方を選ぶ」

「後で問題になるのでは?」

「どうせオレ達は異邦者だ。遅かれ早かれ問題にはなるだろう」

「そんな人達には見えませんでしたけど………」

 

 淡々と告げる群像に静は思わず首を傾げるが、群像はただ冷静に戦況を見つめていた。

 

「対空ミサイル、状況に応じて発射! 敵空中母艦を攻撃して侵食魚雷発射の隙を作れ!」

「あいよ、周りの子達に当たんねえだろうな?」

「警告は必要だろうが、そんなぬるい連中でもなさそうだ」

 

 杏平の疑問に、群像は映しだされる空中母艦と交戦している者達、誰もが見事な動きと的確な攻撃をしている事に余計な心配は不要と判断していた。

 

『クアドラロック変換プログラム、確かに受け取りました! ソニックダイバー隊に転送します!』

『空中母艦損傷率、10%未満! このままだとクアドラロックは不可能です!』

『下の部隊の撤退までもう少しかかりそうだ! つうか本当にあれ破壊できんだろうな!?』

 

 次々と飛び込んでくる通信に、群像の表情が更に険しくなる。

 

「前方味方機に警告後、対空ミサイル1番から5番まで発射、続けて侵食魚雷発射!」

「了解!」

「こちらイー401、これより敵空中母艦への援護攻撃に入ります! 周辺機は退避してください!」

 

 最早猶予も無いと判断した群像が一斉攻撃を指示、警告の後にイー401から次々とミサイルが発射されていく。

 

「ミサイル着弾まで4、3、2…着弾確認!」

「侵食弾頭発射!」

 

 続けて、霧の艦隊の最も恐れられる兵装である、侵食魚雷が一斉発射、未だ爆炎の立ち込める空中母艦へと水中から飛び出し、突き進んでいった。

 

 

 

「!? この反応、タナトニウム!」

「まさか侵食反応兵器!? 冗談でしょ!」

「皆さんさらに退避してください!」

 

 飛来する侵蝕魚雷に、まっさきに気付いたトリガーハート達が一斉に声を上げる。

 

『確かにタナトニウム反応です! 一体どこから………』

「カルナ、予想被害範囲を算出! かかってる人はいないかをすぐに…」

 

 カルナも慌てる中、クルエルティアが危険域に誰かいないかを確認させようとするが、そこで空中母艦に動きが生じる。

 今まで無かった場所に銃座がせり上がり、向かってくる侵食弾頭へとビームを発射。

 直撃した侵食弾頭が二本、空中で爆発した。

 

「迎撃した!? 敵もタナトニウムを知っている!?」

「誰か、落ちた破片を完全に破壊して!」

「このままじゃ他のも! ディアフェンド!」

 

 先ほどのミサイル攻撃は食らったのに、侵蝕魚雷は迎撃した事にトリガーハート達はある可能性を考えていたが、それよりも残った侵食魚雷へと向けてアンカーを放つ。

 

「カルノバーン・ヴィス!」「ガルクアード!」

 

 3つのアンカーが同時に飛び、侵食魚雷をキャプチャーすると強引に軌道を変更、空中母艦のビーム攻撃を回避させ、そのままリリースして命中させる。

 侵食魚雷が命中した箇所は、爆発の代わりに黒い球体のような物が出現、そしてその球体が消失すると、その部分がごっそりとえぐられていた。

 

「な、何あれ!?」

「見た事も無い兵器ね」

 

 撃ち落とされた侵蝕魚雷を撃破した亜乃亜とエリューが、見た事もない破壊をもたらした兵器に唖然とする。

 

「離れてなさい! あんたらのシールドでも持たないかもしれないわ!」

「また来た!」

「ここまでストレートに削れる兵装があるなんて」

 

 フェインティアの警告に、亜乃亜とエリューが慌てて距離を取り、再度飛来した侵食魚雷を迎撃される前にトリガーハート達がアンカーで軌道を変えて空中母艦へと叩きつけていく。

 

「すごい事になってるな~」

「なるのはこれからよ」

「クアドラロックの準備に入るわ! ソニックダイバーの援護に!」

 

 文字通り削られていく空中母艦に亜乃亜は思わずノンキな声を上げるが、エリューがたしなめようとした所でジオールの指示が飛んだ。

 

「可憐から変更プログラム送られてきた! 配置位置を転送するよ!」

「亜乃亜は零神、エリューは雷神、マドカは風神、ティタはバッハの援護に! 私はウィッチ達とクアドラロック発動まで目標の攻撃を続けるわ!」

『了解!』

 

 即座にRVが散開し、配置に付こうとするソニックダイバーの元へと向かう。

 

「おそらくこれが、最初で最後のチャンス………」

 

 この巨大な敵を破壊する、僅かな可能性を確かにするために、ジオールはRVを加速させた。

 

 

 

「クアドラロック可能質量まで、75、85…」

「各機、座標固定位置に移動! ソニックダイバーの出力だと、ロックに持ち込める限界ギリギリなのを忘れないで!」

「ナノスキン再塗布してる暇無いわよ! 音羽、一発で決めなさい!」

「もちろん!」

 

 目標が巨大過ぎるため、あらかじめ固定位置に移動しながら、各ソニックダイバーが準備へと入っていく。

 

「行くよゼロ、私達に全てがかかってるんだから」

「あたしもいるよ~」

「大丈夫、こっちも援護するから」

「防御は任せて下さい!」

 

 MVソードを構える零神に音羽が呟きかけていた所に、ヴァローナの定位置の音羽の頭に降り、亜乃亜と芳佳がサポートのために左右へと着く。

 

「目標質量に到達!」

「零神、行きます!」

 

 侵食魚雷と各所の攻撃であちこち破砕している空中母艦へと向けて、音羽は零神を一気に加速させる。

 

「芳佳ちゃん!」

「分かってる亜乃亜ちゃん!」

 

 その両脇、亜乃亜が残った敵が向かってくるのを次々撃ち落とし、芳佳が何者も近づけまいとシールドを張って零神を守る。

 

「行っけええぇ!」

 

 空中母艦のちょうど中心点、その一点に向かい、音羽はMVソードを深々と突き刺す。

 

「座標、固定OKっ!!」

「4!」「3!」「2!」「1!」

『クアドラロック!』

 

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、空中母艦をロックしようとするが、さすがに質量差が有り過ぎて完全にはロック出来ない。

 

「ゼロ、頑張って!」

「あたしも! プログラム、強制インストール!」

 

 音羽は零神の出力をフルにまで高め、ヴァローナも己の電子戦能力を最大に発揮し、空中母艦に変更プログラムを強引に書き込んでいく。

 

「そっちお願い!」

「分かった!」

 

 動けない零神に向かって、残った敵と空中母艦の機銃が一斉に攻撃を開始するが、亜乃亜と芳佳が必死になって迎撃、飛来してくる銃火を自らのシールドで受け止める。

 

「亜乃亜ちゃん! 芳佳ちゃん!」

「こっちは大丈夫!」

「そちらに集中して!」

 

 背後から聞こえる銃撃と弾着の音に音羽は振り向こうとするが、二人の声に歯を噛み締めながらもロックに集中する。

 

「オーニャー、もう少しで………!」

「ゼロ、お願い………」

 

 ロックが効くかどうかのギリギリの所だったが、そこで突然重力場の発生ラインに沿うように、次々と重力球が打ち込まれていく。

 

「手伝う。この重力場に固定すればいいの?」

「お願い!」

「分かった」

 

 フィールドで足場を作りながら登ってきたイオナが、芳佳のお願いに頷くと空中母艦の周囲に重力球を次々と打ち込んでいく。

 

「これなら!」

『固定、確認!』

 

 イオナの援護で完全にロックが発動、ホメロス効果を強制発動させる。

 次の瞬間、空中母艦の不気味な鳴動が、停止した。

 

「ヴァローナ!」

「任せて!」

「マドカ!」

「OK!」

「カルナダイン、全センサー発動!」

『了解、アナライズ開始!』

「タカオ!」

『もうやってるって!』

 

 その隙を逃さず、それぞれが一斉に空中母艦の解析に入る。

 

「停止してこのプロテクト、すごい高度なシステム積んでる!」

「基礎フレーム、なんて密度…」

『兵装システムが幾つかまだ残ってる! 注意してください!』

『下部中央部、高エネルギー反応! 動力炉見つけた!』

 

 幾つものデータが飛び交う中、もっとも探していたデータをタカオが見つけだす。

 

「エネルギー総量から超重力砲攻撃時の破壊係数を概算! 地表落下までに破壊可能かをシミュレートしろ!」

『ちょっと待って艦長! ………この高度なら、ギリギリ行けそう!』

「静、空中母艦直下の状況は!」

「避難民は避難終了、救助部隊は今最後の部隊が撤退しました!」

「いおり! 動力炉の状態は!」

『冷却完了! 超重力砲いつでもいけるよ!』

「よし、敵空中母艦動力炉に照準! 超重力砲、発射体勢!!」

 

 群像の号令と共に、イー401の艦首が空中母艦に向けられると、突然その船体に光るラインが走ったかと思うと、艦体その物が中央部を残して左右下の三方向に展開、内部に大小5つのコイル状で構成された超重力砲を露わにする。

 

「………どういう仕組みだ」

「さあ………」

 

 隣で見ていた美緒とすみれが思わず呟く中、イー401はアンカービームを発射、軌道上の水面が割れ、その先にある空中母艦を完全に捉える。

 

「軌道上の全味方機に退避勧告!」

「了解!」

「やっぱこのままだとちょっぴり街えぐっちまうぞ!」

「やむをえまい! 今しかない!」

『しかたねえ! 壊れたら直すから、撃っち…』

 

 これを唯一の好機と見た群像と、同じくそう見た米田が発射許可を出そうとした時だった。

 突然、空中母艦がその質量と出力に任せ、急降下を開始する。

 

「うおい!? 下がる、いや落ちてくぞ!」

「まさか、これは………」

「特攻!?」

『艦長! すでに地表までの母艦崩壊推定高度を割り込んでる!』

「何!」

「野郎、最悪な手段で超重力砲を封じやがった!」

「撃つな! 今撃ったら、味方機諸共、市街地をかなり巻き込む!」

 

 予想外の相手の反撃に、群像が発射を停止。

 だが、空中母艦は更に高度を下げていく。

 

「アンカービーム出力最大! なんとしても止めろ!」

『無茶言わないで!』

「やべえ、やべえぞこりゃ!」

「ただ落ちただけでも、市街地が壊滅しますね」

「で、でもどうしたら!」

 

 イー401のブリッジ内もパニックになる中、群像はある事に気付いた。

 落下していく空中母艦の真下へと向かう、芳佳の姿に。

 

 

 

「止まれええぇ!!」

 

 頭上を完全に覆い尽くす空中母艦の真下、そこに回りこんだ芳佳はシールドを全開で張る。

 

「芳佳! 幾らなんでも無茶よ!」

「分かってます! でも、少しでも止めないと!」

 

 そばにいたポリリーナが仰天して止めようとするが、芳佳は止めようとせずに、シールドに大質量が激突する。

 

「く、ううう………」

 

 シールドもストライカーユニットも魔力を全開で送り込むが、落下速度がほとんど変わらないのを芳佳は理解していたが、それでも止めようとはしない。

 

「もっと、もっと私に力があったら………!」

 

 止まりそうにもない落下に、芳佳が思わず苦悶を漏らす。

 だがそこで、隣で同じように落下を止めようとする手が有った。

 

「ゼロ、フルバーニア!」

 

 芳佳の隣で、音羽が零神のバーニアを全開で吹かす。

 

「音羽ちゃん!」

『音羽何してるの! 退避命令が出てるのよ!』

「ここで止められなかったら、下の街が無くなっちゃう!」

 

 瑛花が予想外の行動に戻るように促すが、音羽は離れようとしない。

 

「私もお手伝いします!」

「ええ、もうやけくそだ~!」

 

 更に芳佳のそばに、回復ドリンクの空ボトルを投げ捨てながら、静夏も己のシールドで空中母艦を受け止め、音羽の隣にエリーゼも並んでバッハシュテルツェで空中母艦を受け止める。

 気付くと、ウィッチ達が次々と己のシールドを発生させ、芳佳に並んで空中母艦を受け止めようとする。

 

「あなた達は撤退しなさい!」

「いや、お手伝いします!」

「プラトニックエナジー全開! シールドに集中、ビックバイパー最大出力!」

「フィールド全開、空中母艦下部に収束」

 

 更に瑛花を先頭にしたソニックダイバーレスキュー隊や亜乃亜を先頭にRVやイオナ達メンタルモデル達も加わり、なんとか落下を押し止めようとする。

 

「エリカ7!」

『はい、エリカ様!』

「ちょっとでも、遅く出来るなら!」

「ズンズン行く」

「お姉さまがやるなら、私も!」

 

 最早空中戦を行っていた全ての機体が、落下を止めるべく、全力で空中母艦を受け止めていた。

 

『何をしてる! 早く撤退しろ!』

『イオナ!』

 

 指揮官達は必死に撤退を促すが、誰も聞こうとはしない。

 

「ディアフェンド、出力最大!」

「カルナ!」

『もう出力限界です!』

 

 上部では、トリガーハート達とカルナダインがアンカーを空中母艦に打ち込み、全開で引っ張り上げようとしていた。

 皆の努力の成果か、僅かに落下速度が緩んでいく。

 

「もう少し! みんな!」

 

 芳佳が残った魔力すら使い果たさんばかりに注ぎ込もうとした時だった。

 突然、空中母艦の真下の装甲が開き、そこに巨大なビーム砲の砲口が現れる。

 

「うそ!?」

「今コレを撃たれたら!」

 

 音羽と亜乃亜も絶句する中、ビーム砲にエネルギーがチャージされる燐光が灯り始める。

 

「まずい!」

「そんな…」

 

 一瞬、皆の心に絶望が訪れた。

 しかし、それは全く予想外の結果となった。

 

『! 上空から高速飛来物! ミサイルだと思われます!』

「上空!?」

 

 カルナの報告通り、複数のミサイルが超高速で飛来したかと思うとそのまま散開、空中母艦の側部へと次々と命中、爆発していく。

 

「援護攻撃!」

「でも誰が!?」

 

 トリガーハート達がおもわず上空を見るが、そこにはもう一つ何かが高速で迫ってきていた。

 

「爆撃!?」

「いや、マイスター。何か見覚えが………」

 

 巨大な爆弾のような物が飛来してくるかに見えたフェインティアが思わず声を上げるが、突然爆弾が動きを変えて空中母艦の周囲を旋回しつつ四方が開き、ムルメルティアがある事に気付いた。

 

「ガス散布確認!」

「いかん、離れろ!」

 

 クルエルティアが爆弾からガスが噴出している事に気付き、ムルメルティアも叫ぶ。

 トリガーハート全機が一斉に離れた瞬間、噴出したガスに着火、すさまじい爆発が空中母艦を直撃した。

 

燃料気化爆弾(サーモバリック)!?」

「誰よこんな破壊兵器使うの!」

 

 広範囲殲滅兵器の使用にエグゼリカは驚き、フェインティアは思わず声を荒げながら、上空へとセンサーを向ける。

 

「高度20000、何か、いや誰かいる!」

「後よ! 今は!」

『いや、間に合った!』

 

 今まで気付かなかった、高高度に反応がある事にフェインティアが叫ぶが、クルエルティアは先程の援護に敵ではないと判断する。

 そして大神の声と共に、空中母艦の真下へと向かう翔鯨丸とその甲板上に居並ぶ帝国華撃団の姿が有った。

 予想外の援護攻撃に空中母艦のビーム攻撃が止まった隙を逃さず、翔鯨丸が空中母艦の真下に停止する。

 

「みんな、準備はいいな!」

『はい!』

「この回復ドリンクで外傷や生体エネルギーはある程度回復出来ますが、疲労までは回復できません! 無理はしないでください!」

「この状況でそれは無理じゃないかな」

 

 転送されてきた回復ドリンクを華撃団全員に配布したエミリーが注意点を告げるが、プロキシマは笑って首を左右に降る。

 

「帝都は、オレ達が護る!! 行くぞ!!」

『はい!!』

「はああぁぁぁ!」

「やああぁぁぁ!」

 

 双武に乗った大神とさくらが気勢を上げると、双武の機体から霊力の燐光が輝き始める。

 

「私達も!」「おうよ!」「アイリスだって!」「行くで!」「フィナーレで~す!」「これで終わらせる!」

 

 それに呼応するように、他の華撃団も鼓舞の声を上げ、それぞれの機体から同色の霊力の燐光が輝いていく。

 

「す、すごい………!」

「上空の連中は退避だ! マスター達の切り札が行くぞ!」

 

 すさまじい霊力の放出に、エミリーは絶句し、プロキシマは慌てて退避勧告を出す。

 

「行くぞみんな!」

『帝・国・華・撃・弾!!!』

 

 霊子甲冑から立ち上る霊力の燐光が、融合して巨大なエネルギー弾となって天空を駆け上がり、空中母艦へと直撃する。

 圧倒的な質量を破砕しながら、霊力の砲弾は落下していた空中母艦を押し留め、そして一気に押し上げていく。

 

「はああああぁぁぁ!!」

 

 帝国華撃団全員が霊力全てを振り絞り、霊力の砲弾へと力を込める。

 空中母艦の巨体が更に押し上げられ、当初の高度よりも更に上空へと打ち上げられていった。

 

 

 

「射線確保!」

「全味方機の退避確認!」

「超重力砲、発射!!」

 

 皆が作ってくれたチャンスを逃さず、群像は超重力砲の発射を命令。

 イー401に内包された超重力砲から、漆黒の高密度重力子が発射され、狙い違わず空中母艦の動力炉を撃ち抜く。

 帝国華撃弾と超重力砲、二つの高エネルギー攻撃が直撃した空中母艦は内部から爆風が吹き出し、各所が次々と誘爆したかと思うと、大爆発を起こし、文字通り木っ端微塵となって吹き飛んでいった。

 

「や、やった………」

「目標完全消失確認だよ、オーニャー」

 

 爆煙が風に吹き流され、後には砕け散った光の粒子しか残ってない事を確認した音羽が、思わず呟き、ヴァローナも頷く。

 

『空中母艦、完全に消失しました!』

『残存敵機、撤退していきます!』

 

 僅かに残った敵機が、発生した小規模な霧の竜巻の中に飛び込んで消えていくのを見た者達は、ようやく自分達の勝利を確信した。

 

「勝った、私達勝ったんだ!」

「やった~~!!」

「いやっほ~!」

 

 誰も彼もが勝利を喜び、手近にいた者達に抱きつく。

 

「くっ!」

「大神さん!」

 

 霊力の過多使用で、機体、搭乗者共に限界を迎えた双武が翔鯨丸の上で擱座し、開いたハッチから大神が崩れるように出てきて慌ててさくらが支える。

 

「大丈夫だ………みんなは?」

「全員無事です、司令」

「今回復ドリンク追加で転送してもらいます!」

「無理はするなマスター」

 

 他の機体からも隊員達が降りてくる。

 誰もが疲弊していたが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「みんな、お疲れ様」

「私達だけの力じゃありませんよ」

「そやな」

「その通りだ!」

 

 突然背後から響いた声に皆が振り向くと、足場にしていたフィールドを解除したキリシマとハルナ、それに続けてヒュウガとイオナも翔鯨丸へと降りてきた。

 

「協力ありがとう、君達と君達の母艦が無ければ、勝つ事は出来なかった」

「礼なら群像に言って。私達はただ群像の命令に従っただけ」

「自己防衛も兼ねてたけどね」

「私が危険を犯して相手の内部構成をスキャンしたんだぞ!」

「ちょっとそこどいてどいて!」

 

 メンタルモデルが各々の反応をする中、上空から声が響いたかと思うと、半ば落下のような勢いでソニックダイバーが強引に着陸してくる。

 

「うわ!」

「何だ何だ!?」

「すいません、ナノスキンの時間限界が来ちゃって、帰投できなくなりまして………」

「大神司令、すいませんが少しの間乗船許可を貰いたいのですが………」

「それは構わないが、そうか君達の機体も限界状態か………」

「光武二式も大掛かりな整備が必要やで。ちょ~っと無茶しすぎや」

 

 頭を上げる可憐と瑛花に大神は快く許可を出すが、そこで各所から煙を上げている霊子甲冑に紅蘭が渋い顔をする。

 

「あ、そういえばアレ、まだしてませんでしたね」

「おっとそう言えばそうだな」

「アレって?」

「実はですね…」

 

 さくらが唐突に言った事に、音羽が首を傾げるが、〈アレ〉について耳打ちする。

 それを聞いた音羽の顔が一気に明るくなった。

 

「ちょっと待って、芳佳ちゃん! 亜乃亜ちゃん! エグゼリカちゃんもポリリーナさんもこっちこっち!」

 

 声を張り上げ、帰投しようとしていた者達を音羽が呼び寄せる。

 

「どうかしたの?」「何々?」「なにかあったんですか?」「まだ何か…」

「あのね、今華撃団の人達から聞いたんだけど…」

 

 今聞いたばかりの事を音羽が教え、少し考えてから皆が頷く。

 

「やるのオーニャー?」

「ほらヴァローナも」

「みんなもこっちに!」

「それじゃあ………」

 

 機体から降りたり、戦闘態勢を解いた者達が集まり、全員が頷く。

 

「せ~の!」

『勝利のポーズ! キメッ♪』

 

 帝国華撃団のお約束とも言えるキメポーズに、集まった者達が一斉参加した。

 

「み、宮藤さん! 何してるんですか!」

「あ、静夏ちゃん入ってなかった?」

「音羽! あなた!」

「ああ、瑛花さんも! もう一回、もう一回全員で!」

「やりません!」「やらないわよ!」

「あははは………」

 

 誰からともなく笑いがもれ、それは広がっていく。

 激戦の終わりを告げる、楽しげな笑い声が響いていった。

 

 

 

「いた!」

「あれか」

 

 戦闘終了と同時に、フェインティアはムルメルティアを連れて上空を目指していた。

 上空から援護攻撃をした謎の存在を確認するべく、現状出せる最高速度で上昇するフェインティアだったが、急接近してくるこちらに気付いたのか、向こうも突如として身を翻す。

 

「そこのアンタ! ちょっと待った…」

 

 フェインティアが全周波数で呼びかけるが、相手は答えず、急加速して離れたかと思うと、転移して姿を消した。

 

「逃げられたな、マイスター」

「なんて逃げ足の早い奴………でも」

 

 フェインティアは相手が姿を消す直前、望遠状態だが取れた画像を表示し、解析に入る。

 

「サイズはトリガーハートとほぼ同じ、状況から見て生身って事は無いわね」

「私も同意見だ。だが、目的は何だ?」

「そして、いつから居たかよ。ひょっとしたら、最初っから?」

 

 トリガーハートを持ってしても断片的にしか分からなかった謎の存在に、フェインティアは首を捻る。

 

「ぬ、マイスター。ここを拡大」

「これは………」

 

 ムルメルティアが画像の一点を指差し、フェインティアが拡大。

 人型程度しか分からない画像の一点、黒い武装のような物の腰の部分に白地の漢字が書かれており、予想解析も加えてフェインティアはそれに該当する文字を割り出した。

 

「《雪風》、それがあいつの名前?」

「部隊名かもしれない。以降、雪風と呼称してはどうだ?」

「そうね。カルナに送信しとくわ。戻りましょ、疲れたわ」

「私もだ」

 

 ため息をつきつつ、フェインティアとムルメルティアは地表へと向かって、降下を開始した。

 

 

 

「敵の完全撤退を確認しました。ソニックダイバーはナノスキン限界を迎えたため、翔鯨丸に緊急着陸したそうです」

「ソニックダイバーレスキュー隊は順次帰投しています」

「なんとかなりましたな」

「ああ」

 

 半数はかつて激戦を共にした戦友、だがもう半分は互いの事すらよく知らない者達との連携、出せる物は全て出し尽くした作戦、そしてかろうじて得られた勝利に、臨時指揮所内に安堵の吐息が漏れる。

 

「千早艦長、協力感謝する」

『いえ、こちらも自衛行動を行っただけです』

『謙遜すんな。正直、あんたらがいなかったら手に負えなかったかもしれねえし』

 

 米田が笑いながらも両者を称える。

 だが、その後二人の老将の口から出た言葉に、全員が硬直した。

 

「今回は、なんとか勝てたが………」

『…あんたもそう思うかい』

「今回、は?」

 

 門脇の言葉に、米田も一転して険しい表情になり、思わず冬后が聞き返す。

 

「どう考えても、敵の動きはおかしかった」

『あんだけの戦力、一気に出せばそれでカタがついてた。だが、あいつらはやたらと小刻みに戦力を出し、それでいて周到にこちらを狙っていた。鹵獲目的にしても、おかし過ぎる』

「考えられるとしたら………」

『………威力偵察』

 

 二人の老将の言わんとする事を、群像が代弁する。

 

「威力偵察、ですと!? あの大戦力で?」

「そう考えれば、つじつまは合う」

 

 嶋の声も思わず裏返りそうになる中、門脇は俯きながら肯定する。

 

『考えられんし、考えたくはねえ………だが、そうとしか考えられねえ。そして、もしこの仮説が当たってたとしたら、もっとイヤな可能性がありやがる』

『あの、米田中将、それは………』

 

 かえでも呆然として聞き返す中、その可能性を口にするべきかを二人の老将は悩む。

 

『確かに、これが威力偵察ならば、最悪のシナリオが在り得る』

『あの、先ほどから皆さん何を………』

 

 群像もそれに気付いたのか、表情を険しくする。

 静が聞き返すが、群像も黙ってしまった。

 そんな中で口を開いたのは、門脇だった。

 

「つまり、これが威力偵察で、しかも母艦まで繰り出して撤退しないというのは、向こうに取って今回の戦力は完全消費しても構わない、と捉える事が出来る」

『要は、捨て駒って奴だ。帝都壊滅させるに充分な戦力がな』

「捨て…」

「駒って………」

「………だとしたら、今回の敵はこれ程の戦力すら使い捨てられる程の戦力を保有している、と」

 

 誰もが絶句する中、嶋のみが固唾をのみながら、端的にその可能性を口にし、二人の老将と若い艦長は同時に頷く。

 

『ま、あくまで可能性だ。深く悩まねえ方はいいだろうよ』

「だが、考慮はしておくべきだろう。確かユナ君は来ていなかったな?」

「あ、はい。ポリリーナさんとエリカさんは来てましたが………」

「二人に連絡を、エルナー君を呼んでほしい、と。最早我々の頭脳では状況の把握すら不可能だ」

「分かりました」

 

 門脇の指示をタクミはすぐに伝えるべく、回線を開く。

 

「次は勝てるのか? オレ達、いやあいつらは………」

 

 待ち受ける最悪の可能性に、冬后はただ自分の部下達を信じるしか出来なかった………

 

 

 

「戦闘行動終結を確認」

「複数の転移戦力を確認、詳細は帰投後に」

「緊急避難により、自衛による戦闘行動を報告」

「FRX―00、帰投する」

「………間違いは無い。あれは…JAMだ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP08

 

帝都防衛戦と同時刻 アメリカ合衆国 紐育(ニューヨーク)

 

 摩天楼を夕闇が訪れようとする中、激戦が繰り広げられていた。

 

「はあっ!」

 

 若い気勢と共に、振り下ろされた白刃が目前の敵を両断する。

 

「まだ来るよシンジロウ!」

「分かってます!」

 

 蒸気を噴出しながら、紐育華撃団・星組採用霊子甲冑 《STAR Ⅴ》がフォーメーションを組む。

 まだ若い、というか幼ささえ感じる童顔の青年、紐育華撃団・星組隊長、大河 新次郎が駆る紅白のカラーリングが施された《フジヤマスター》が手に双刃を構え、押し寄せる敵と相対する。

 その隣、サムライに憧れる赤毛のカウガール、ジェミニ・サンライズの駆る茜色の《ロデオスター》が新次郎をサポートするべく、並んで白刃を構えた。

 

「ここを突破されたらやばいよ!」

「大丈夫! リカ撃ちまくる!」

 

 凛々しい顔つきをした黒人女性、サジータ・ワインバーグの駆る黒色の《ハイウェイスター》が両手にチェーンを構え、いつも元気なおさげの少女、リカリッタ・アリエスの駆る緑色の《シューテイングスター》が二丁拳銃を構える。

 

「敵、更に増えました!」

「全く、何がどうなっているのやら」

 

 メガネをかけた研修医でもある女性、ダイアナ・カプリスの駆る青色の《サイレントスター》が新たに敵機を捉え、性別・年齢共に不詳の謎の天才、九条 昴が駆る紫色の《ランダムスター》が不敵に笑いながら鉄扇を構える。

 紐育華撃団のメンバーの困惑は、今戦っている場所に有った。

 紐育のシンボルである自由の女神像の前、それには違いない。

 だが、本来ならば自由の女神像の前に広がるはずのニューヨーク湾は無く、そこに広がるのは広大な砂漠だった。

 そして困惑のもう一つの原因は、共に戦っている者達にあった。

 

「FIRE!」

 

 号令と共に、一斉に砲弾が発射される。

 霊子甲冑よりも遥かに小さい、キャタピラ状のパーツで構成された陸戦用ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチ達の一斉砲撃が、自分達と共に突如としてこのニューヨークに現れた敵、漆黒の体に赤い光を灯すネウロイに攻撃を開始した。

 

「私達にも分かりません! けど、ここで食い止めないと!」

 

 陸戦ウィッチ隊の隊長、ブリタニア陸軍 セシリア・グリーンダ・マイルズ少佐が部下達に号令を出しつつ、自らも砲撃を繰り返していた。

 

「そっちは任せたよ! 右翼を抑える!」

 

 黒地の戦闘服で統一されたリベリオン陸軍所属陸戦ウィッチ隊、通称 《パットンガールズ》が世界は違えど、自分達の国の象徴を護るべく、押し寄せる四角い体に鋭い足が生えた陸上ネウロイに突撃を掛ける。

 

「敵陣中央に穴を開けるわ! 魔導榴弾装填!」

「はい!」

 

 STAR Ⅴにも劣らない大型の陸戦型ストライカーユニット、試作重戦車ユニット6号「ティーガー」が指導役の顔に傷跡のあるやや年かさのウィッチ、フレデリカ・ポルシェ少佐の指示でティーガーを駆る小柄なウィッチ、シャーロット・リューダ軍曹が88mm砲弾をネウロイの中央に撃ち込み、盛大な爆炎が上がる。

 

「胴体部下中央、そこにコアがあるわ! そこを狙って!」

「簡単に言ってくれる!」

 

 フレデリカが叫ぶのを聞きながら、サジータがハイウェイスターを突出させ、両腕のシザーズチェーンを地面を撃ち込む。

 そのままチェーンは砂の中を進み、真下から陸上ネウロイのコアをそれぞれ貫き、破砕させる。

 

「ボクとジェミニが突撃します! サジータさんとダイアナさんはサポート、リカと昴さんは上空に上がってください!」

『了解!』

 

 陸戦ウィッチと協力して、新次郎は攻勢に出る。

 だが戦場は、地表だけではなかった。

 

 

「小型2、中型3、大型1!」

「それくらいなら、問題ない!」

 

 ジェット戦闘機を彷彿させるシルエットやUFOその物のようなネウロイを従え、大型爆撃機のような巨体の飛行ネウロイを前に、四人のウィッチが待ち構える。

 巫女装束にも似た扶桑陸軍ウィッチの軍装に身を包んで首からカメラを下げたウィッチ、第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子少佐が素早く敵をカウントし、ピンクがかった金髪をし、使い魔らしい猛禽の翼を頭部に生やして自信にあふれた顔をしたストームウィッチーズのエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉が平然と突っ込んでいく。

 

「ライーサはマルセイユのサポート、真美は大型を足止めして!」

「了解!」「了解です!」

 

 マルセイユと同じ猛禽の翼を生やした童顔のウィッチ、マルセイユの僚機を務めるライーサ・ペットゲン少尉が後に続き、圭子と同じ扶桑陸軍ウィッチの軍装を着た小柄でおかっぱ頭のウィッチ、稲垣 真美軍曹がその体躯とはあまりにアンバランス過ぎる巨大な砲を構え、大型飛行ネウロイへと向けて発射する。

 

「すごいなそれ! リカも欲しいぞ!」

「援護する!」

「大型でも弱点は同じよ! 外装を破壊してコアを探して!」

 

 STAR Ⅴの最大の特徴であるフライトフォームに変形したシューティングスターとランダムスターが上昇してきたのに、圭子が指示を出して二人はそれに従い、攻撃を開始する。

 

「陸戦と空戦、両方出来るなんてすごいですね」

「可変型はこの間もいたけど、それとはまた違うわね」

 

 地上と空中、両方で戦えるSTAR Ⅴに真美が感心し、次弾装填を手伝っている圭子も興味深々にウィッチと華撃団、双方が混じった空戦を見つめていた。

 

「陛下、感想は後です」

「分かってるわサイフォス」

 

 圭子の隣にいる全身甲冑の騎士その物の格好をした武装神姫、騎士型MMS・サイフォスが圭子を守護するべく両手剣コルヌを構える中、圭子は普段の癖で空戦の様子を撮影する。

 

「小型と中型はもう片付くわね。真美、大型を下の連中の頭上に近づけさせないで」

「分かりました! 撃ちます!」

 

 真美が再度砲撃を叩き込み、大型ネウロイの動きが鈍くなる。

 

「予想以上に固いわね………」

「でも効果は出ています!」

「残弾が豊富な訳じゃないからね。マルセイユが来る前にコアだけでも…いけない!」

 

 そこに大型ネウロイの表面が赤く光ったかと思うと、そこから極太のビームが発射され、圭子は慌てて下がり、真美はシールドを張ってなんとかガードする。

 

『ケイ! マミも大丈夫か!』

「こっちは大丈夫!」

「このネウロイ、装甲だけでなく火力もかなりあります!」

 

 マルセイユの通信に答えながら、圭子は砲の再装填を急ぐ。

 

「こちらからも行くぞ!」

「行け行け~!」

 

 ランダムスターとシューテイングスターからミサイルが次々と発射され、大型ネウロイに命中していく。

 ネウロイの装甲が大きく破壊されるが、破壊される端から再生していくのを見た昴が歯ぎしりする。

 

「再生するのか! 普段君達はこれをどうやって倒してるんだ!」

「だからコアを探すのが最優先よ! 悪いけどウチに探知系のウィッチいないから!」

「探知系なら分かるんだな?」

 

 圭子が思わず叫んだ事に、昴が敏感に反応する。

 

「新次郎! ダイアナをこちらによこしてくれ! この大型のコアの場所を探ってもらう!」

『分かりました! こちらはウィッチの人達と何とかします!』

「攻撃を続けて! コアの場所が分かるまで、向こうの注意を惹きつけないと!」

 

 ウィッチと華撃団の攻撃が続く中、変形・上昇してきたサイレントスターが大型ネウロイの周辺を旋回しつつ、検知に入る。

 

「これは………中央部後方、何か有ります! けどかなり奥の方です!」

「装甲のど真ん中か………厄介ね」

 

 ダイアナが叫ぶが、そこへ大型ネウロイのビーム攻撃が多数発射され、空中にいた者達が全員散開してかわす。

 

「しかもこの火力、コアまで到達するのは困難ね」

「ケイさん! あれ!」

 

 圭子が攻めあぐねる中、ビームを回避したランダムスターが、急旋回しつつ大型ネウロイへと迫っていく。

 

「霊力制御、解除。走馬灯!!」

 

 膨大な霊力の閃光を放ちながら、突然ランダムスターが三機に分裂、そのまま三機で旋回しながら霊力の塊を形成し、大型ネウロイへと叩きつける。

 

「すごい固有魔法ね………」

「だが陛下、外したようだ」

 

 昴の必殺技が炸裂する直前、狙いすましたかのような大型ビームがランダムスターを狙い、わずかに軌道を変えざるえなかったために、コアのあると思われる辺りをずれ、中央部を大きく穿っていた。

 

「く、ずれたか………」

「でも相手の火力を削げたわ! 再生部からは攻撃してこないから、そこから狙って! 真美も!」

「行くぞ~!」「はい!」

 

 大型ネウロイの攻撃が弱くなった隙に、シューティングスターと真美が急上昇、攻撃の穴を目掛けて急降下しながら、ミサイルと砲撃を叩き込む。

 

「何か出ました!」

「コアよ! あれを…」

 

 ダイアナと圭子が同時に露出したコアを見つけるが、次の瞬間、狙い澄ました銃撃が叩きこまれ、コアが破砕。

 続けて大型ネウロイも木っ端微塵に砕け散った。

 

「おっと、いい所だけもらったか?」

「そうだな」

 

 他の飛行型ネウロイを全て片付けたマルセイユが、コアの露出した瞬間を逃さず撃破した事に、昴は淡々と答えるが、全員が即座に次の行動へと入る。

 

「陸戦隊を援護、マンハッタン島に一体も上陸させちゃダメよ!」

『了解!』

 

 圭子の指示にウィッチのみならず華撃団も思わず返答しながら、押し寄せる陸上ネウロイへと向けて、急降下していった。

 

 

 

「上は片付いたようです、姫」

「だってさシンジロウ!」

 

 ロデオスターの肩に止まり、上空の交戦状況をデータリンクで随時教えていた墨色の和風装束に身を包んだ武装神姫、忍者型MMS・フブキがマスターに選んだジェミニにそれを伝え、ジエミニはそれを新次郎に伝える。

 

「そちらの機体、対地攻撃は出来るの!?」

「少し難しいです! 昴さん、リカ、ダイアナさん! 降下して防衛線に参加してください!」

「遊撃は上のウィッチ達に任せて!」

「ここから一体も通さないのが任務です、隊長!」

 

 マイルズが手にした52口径砲を連射しながら叫び、その傍らで陸戦ウィッチをそのまま小型にしたような武装神姫、砲台型MMSフォートブラッグがFB256 1.2mm滑腔砲を同じく連射していた。

 

「増援が止まったわ! 今の内に!」

「紐育華撃団、突撃!」

 

 ネウロイの勢いが弱ってきたのを見たウィッチと華撃団は、同時に攻勢に打って出ていた。

 

 

 

「いやはや、すごい絵だね~」

「確かに」

 

 上空から戦闘の様子を見ていた紐育華撃団の移動母艦、武装飛行船 エイハブのブリッジ内で、メガネをかけてやけに芝居がかったしゃべり方をする白スーツの男、紐育華撃団総司令、マイケル・サニーサイドと、その隣で険しい顔をしているスーツ姿の容姿端麗な女性、副司令のラチェット・アルタイルがウィッチと華撃団が総力を上げてネウロイと戦っている光景を観察していた。

 

「この仕事始めて色々見てきたけど、まさか自由の女神の前に砂漠とはね。ちょっとユーモアにしては面白く無いかな?」

「しかも未確認の敵も大量にね。味方もだけど」

「果てさて、本当に彼女達は味方かな?」

 

 サニーサイドは口調だけはおどけて、だがその目は鋭くウィッチ達を見つめていた。

 

「少なくとも、今は敵じゃないわ」

「今は、か。けどだとしたら、ジェミニ君の言ってた事を信じなくちゃいけない」

「異なる世界、そこにいる戦士達………ウィッチの隊長さんも同じ事言ってたわね」

「あと武装神姫とかいうお人形さん達かな? あの子達が現場で間に立ってくれなかったら、危うく三つ巴だったけど」

『サニーサイド司令』

「どうだった杏里君、プラム君」

『ダメです。帝都、パリ共に連絡が取れません。帝都は非常事態宣言が出てたはずですが、それ以降は………』

『武装神姫って子達の言う事が本当だとしたら、同じ事があっちでもそっちでもって事かしら?』

 

 通信に小柄な和風少女と肉感的な美女、支援を任務とする紐育華撃団虹組の吉野 杏里とプラム・スパニエルが映って、他の華撃団との通信途絶とある可能性を口にする。

 

「という事は、東京とパリにもウィッチ達が来てるのかな?」

「敵もって事になるかもしれないけれどね」

『! 大型反応! 何か来るわよ!』

「ああ、見えてるよ」

 

 プラムがレーダーの反応を報告するが、サニーサイドの目には、砂漠が出現したのと同じ霧の竜巻と、そこから出てくる巨大な何かの姿が見えていた。

 

「どうやら、あちらの主役の登場だ」

「あれは………!?」

 

 

 

「ケイ! あれは!」

「何て事………」

 

 霧の竜巻の中から、巨大な陸上ネウロイが姿を表す。

 船をひっくり返し、それに無数の足を付けたようなデタラメなデザイン、実際鹵獲した駆逐艦の船体をそのまま使っている、かつて苦戦した駆逐艦ネウロイの姿に、圭子は絶句した。

 

「陛下!」

「分かってる! マイルズ! 華撃団と協力して右舷に攻撃集中! まずは足を止めて!」

『了解!』

「私達は上空から攻撃して注意を惹きつけるわ!」

「あいつは厄介だからな。マミ、残弾は?」

「あと3発しかありません!」

「じゃあ残しておけ、行くぞライーサ!」

「はい!」

 

 マルセイユが突撃し、ライーサが後に続く。

 発射されるビームの嵐を掻い潜り、シールドで防ぎながら、二人は銃撃を撃ち込んでいく。

 

「さっきの奴にコアを探させろ! 掘り出すだけで一苦労だ!」

「多分もうやっているのでは………」

 

 

 

「ミフネ流奥義、ランブリングホイール!!」

 

 ロデオスターの放つ必殺技が、駆逐艦ネウロイの足をまとめて吹き飛ばす。

 

「奥義………蕾散らし!」

 

 ロデオスターの真上から振り下ろされようとした足に向かってフブキが忍刃鎌 散梅を投じ、旋回した鎌が螺旋を描くように足を駆け上っていき、その軌道に沿って切断された足が零れ落ちていく。

 

「もっとです! まずは足を破壊して動けなくしてください!」

「再生よりも早く破壊すれば!」

 

 新次郎とマイルズの声が飛び交い、ありったけの攻撃が駆逐艦ネウロイに叩きこまれていく。

 

「バランスが崩れてきたわ!」

「よし、ダイアナさん!」

「多分、中央やや前よりの部分です!」

「シャーロット!」

「了解!」

 

 ダイアナが探り当てたコアらしき反応に、ティーガーから放たれた88mm弾が撃ち込まれる。

 

「もう少し後ろです!」

「真美!」

「はい!」

 

 駆逐艦ネウロイに巨大な弾痕が穿たれるが、僅かに位置が違ったらしく、今度は真美が上空から砲撃を叩き込む。

 再度巨大な弾痕が穿たれるが、それでもコアは見えなかった。

 

「また違う場所ですか!?」

「いえ、場所は合ってるはずです! もっと奥の方なんです!」

「じゃあリカも撃つ!」

 

 シューティングスターの連続射撃が弾痕を更に穿っていくが、コアは露出してこない。

 

「固いぞこいつ! もっと撃つ!」

「あんたらこいつと戦った事あるんだろ! どうやって倒したんだい!」

「通常部隊とも合同で、総攻撃してコアを露出させて、ティーガー壱号機を自爆させたの!」

「最後の手は却下だ!」

「パットンガールズは足の再生を阻止! こいつをここに釘付けにするのよ!」

「イエス、マム!」

「上空から狙ってみます! 皆さん援護を!」

 

 放たれたビームを飛び退って避けたフジヤマスターが、フライトフォームに変形して上空へと舞い上がり、大きく旋回して駆逐艦ネウロイを狙う。

 

「弾幕!」

「分かっている!」

「胴体部に一斉斉射!」

 

 新次郎への注意を逸らすべく、空中、地上双方のウィッチ達が一斉攻撃を叩き込む。

 

「罪を償え………バーディクト・チェイン!」

「いただきま~す! モア! モア! ショット!」

 

 ハイウェイスターの鎖の乱舞と、シューティングスターの高速速射が駆逐艦ネウロイの足をまとめてなぎ払い、バランスを崩した駆逐艦ネウロイがその場に転倒する。

 

「退避~!」

「無茶苦茶だ向こうの連中!」

「そっちこそ!」

 

大質量の転倒に皆が慌てて退避し、周辺を砂塵が巻き上げる。

 

「行くぞ! 狼虎滅却・雲雷疾飛!!」

 

 砂塵を突き抜け、フライトフォームのフジヤマスターから新次郎の霊力が吹き出し、巨大な霊子の双翼の刃と化す。

 そのままフジヤマスターの機体を横転させ、霊子の刃で一気に駆逐艦ネウロイを斬り裂いた。

 

「見えた!」

「あれを…」

 

 新次郎の一撃で破壊した部分に見えたコアに、狙える者達全員が狙いをつけるが、いち早く飛来した何かがコアを直撃、粉砕する。

 

「今の…」

「銃でも砲でもなかったような…」

「鷲の神を煩わせるまでもない」

 

 駆逐艦ネウロイの全身が光の粒子となって砕けていく中、昴とサジータが違和感を感じて振り返ると、そこにいる槍とスリングというかなり変わった装備をしたアフリカ系ウィッチが、トドメの投石を叩き込んだ事に気付いて頬を引きつらせる。

 

「見事だったぞマティルダ」

「はい鷲の神」

 

 自分の従兵であるマティルダにマルセイユが声を掛け、マティルダが頭を垂れる。

 

「ちょっと、あれ!」

「あ………」

 

 そこでウィッチ達が自分達とネウロイが潜ってきた霧の竜巻が霧散していく事に気付く。

 

「今なら…」

「お待ちを陛下。次元歪曲が不安定になっています。どこに飛ばされるか分かりません」

「全員待った!」

 

 サイフォスの指摘に、圭子は慌てて飛び込もうとしていたウィッチ達を止める。

 その間に、霧の竜巻は完全に消えてしまっていた。

 

「………消えたな」

「消えちゃいました………」

「私達、戻れない?」

「さあ………」

「大丈夫です隊長。他の武装神姫が各組織に派遣されています。帰還の可能性は充分に在り得るかと」

「つまりそれって、こういう事が起きてるのはここだけじゃないって事?」

 

 唖然とするウィッチ達にフォートブラッグが安心するように告げるが、そのもう一つの意味にフレデリカが僅かに顔を曇らせる。

 

「とりあえず残存敵機無し、これ以上出てくる様子も無いし、一応戦闘終結って事かしら?」

「もう残弾1発しか残ってません………」

 

 上空から空戦ウィッチ達が降下し、改めて紐育華撃団と相対する。

 

「改めて自己紹介させてもらうわ。第31統合戦闘飛行隊・《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子、階級は少佐よ」

「自分が紐育華撃団星組隊長、大河 新次郎少尉です」

「あら、随分と若い隊長さんね」

「一応19なんですけど………」

 

 ハッチを開けて敬礼した新次郎に、圭子は握手を求め、新次郎もそれに応じる。

 

「それで、この後私達どうしたらいいんでしょう?」

「ですよね………」

 

 周囲を見回したマイルズが漏らした言葉に、シャーロットも呆然と呟く。

 ネウロイは殲滅したが、砂漠はそのまま、異世界らしい事は確かだが、今後の宛も無いウィッチ達は途方に暮れる。

 

「大丈夫です、陛下」

「私達はここに転移現象が起きてる事が確認されたから派遣された。プロフェッサーから直に連絡が来るはずだ」

「そういう訳ですので姫、しばらく彼女達をここで預かってもらえませんか?」

 

 そこで武装神姫達が告げた情報に、双方が顔を見合わせる。

 

『OKOK、ゲストはこちらで面倒見よう!』

「司令、いいんですか?」

『彼女達はニューヨークを共に守ってくれた、言わば戦友だよ? 丁重にもてなさないと、ボクの沽券に関わるさ』

「分かりました、そう伝えます」

 

 サニーサイドからの快諾に、新次郎はその旨をウィッチ達に伝える。

 

「ねえシンジロウ、そういえばアレまだだよね?」

「そうですね」

「やろうやろう! 大勢でやると面白そうだ!」

「何かあるのか?」

「あのね…」

 

 ジェミニとリカが何かを囃し立てるのをマルセイユが不思議そうに見た所に、ジェミニがそれを教える。

 

「ほほう、それは面白そうだ」

「や、やるんですかティナ?」

「ウィッチ全員集合!」

 

 にやりと笑ったマルセイユにライーサが身構えるが、マルセイユはそのまま集合を掛ける。

 

「え? やるんですか?」

「いいねそれ!」

「もっと寄って! それじゃあ…」

「せ~の」

『勝利のポーズ、キメっ!!』

 

 ウィッチ、華撃団、そして武装神姫達がポーズを決めた所で、圭子の指がシャッターを押した。

 

 

「戦闘行動終結を確認しました」

「転移戦力と現地戦力の共闘により敵を撃破、敵は特徴からネウロイと称される個体と思われます」

「大規模な周辺転移と思われる砂漠はそのままです。今後、同様のケースが増える可能性が在り得るかと」

「FFR―31MR/D、帰投します」

 

 

 

帝都防衛戦と同時刻 フランス 巴里(パリ)

 

 本来ならば夜の帳が静けさをもたらずはずの時間、それとは裏腹の光景がそこには広がっていた。

 

「戦士の魂よ…ここに集え! ゲール・サント!!」

 

 膨大な霊力で構成された水柱が吹き上がり、眼前の敵を吹き飛ばす。

 

「こちらは片付いた!」

「グリシーヌ、こちらももうすぐです!」

「こっち来てくれ! また新手だ!」

 

 手に巨大な斧を持った青い機体、巴里華撃団・花組採用霊子甲冑・《光武F2》を駆る金髪碧眼の貴族にしてバイキングの末裔でもあるグリシーヌ・ブルーメールが即座に仲間の応援に向かう。

 その彼女の前に立ちふさがるように、小型の空中機が立ちふさがる。

 

「く!」

 

 走りながら斧を構えるグリシーヌ機だったが、小型機は彼女が応戦するよりも早く、飛来した銃弾に撃墜される。

 

「空はこちらに任せてもらえるかな?」

「頼む!」

「って、それだけ?」

 

 小型機を撃墜した者に短い礼だけ言ってグリシーヌは仲間の元へと急ぐ。

 ちょっとだけ顔をしかめた犬の耳を持った長身のウィッチ、第502統合戦闘航空団《ブレイブウィッチーズ》所属、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉はすぐに気を取り直して戦闘を続行する。

 

「はてさて、さっきまでペテルブルグのはずが花のパリ、しかも夜戦の真っ最中とはね」

「中尉! 無駄口叩いてないで行きますよ!」

「はいはい」

 

 クルピンスキーの背後、白クマの耳を持ったヘアバンドをしたウィッチ、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉が怒鳴りつけ、二人は敵へと向かっていった。

 

「それで大尉はアレ、何だと思う?」

「前に見たワームとかバクテリアンとはどこか違うみたいですが………」

 

 突如としてセーヌ川に現れ、市街地に破壊活動を行っているその敵の姿に、二人は首を傾げていた。

 それは、巨大な魚のような形をしていた。

 大きさだけで言えば大型のサメかクジラに見えなくもないが、川岸の街灯に照らされたその体表は金属質の光沢を帯びており、口には人間を思わせる四角い歯が並んでいる。

 そしてその目には青白い炎が灯り、迎撃していて見えた、足のような物まで生えている。

 何より、口から砲撃を放つ魚類なぞという物が存在するはずもなかった。

 

「この際、敵の正体は後回しだ。運の良い事に、我々の攻撃も彼女達の攻撃もよく効いているようだからな」

 

 二人の前、コルセットを付けた狼の耳を持つウィッチ、ブレイブウィッチーズ隊長 グンドュラ・ラル少佐が謎の巨大魚が放つ砲撃を回避しつつ、銃撃を続けながら呟く。

 

「弾幕を張り、川岸に追い込んで向こうにトドメを任せよう。破壊力は向こうの方が上みたいだからな」

「その方がいいです、マスター。厄介なのもいるみたいですし」

 

 ラルのそばでメガネにナースキャップ、手に注射器型デバイスまで持った武装神姫、ナース型MMSブライトフェザーが注射器型ランチャー、バスターシュリンジで援護射撃を行いながら敵を確認する。

 

「魚はそんなに怖くありません!」

「問題はあっち! 今、管野少尉が相手してる方です!」

 

 ガリア空軍の制服に身を包んだお下げ頭でペルシア猫の耳を持つウィッチ、ジョーゼット・ルマール少尉と、扶桑海軍の藍色の士官服に身を包んだショートヘアのウサギの耳を持つウィッチ、下原 定子少尉が巨大魚の向こうにいる二つの人影を指差す。

 

「こいつ! こいつめ!」

 

 レザージャケットにマフラーを巻いた小柄なウィッチ、管野 直枝少尉が、迫り来る小型の眼と口を持った奇怪な小型機を次々と撃ち落とす。

 その先、そこに一見、人を思わせるシルエットが有った。

 それは白いボディスーツをまとい、手に杖を持った少女のような姿をしていたが、その目には巨大魚同様、青白い炎が灯っており、そして水面になんの支えも無しに何故か立っている。

 それだけでも異常なのに、少女の頭部には更に異質さを際立たせるように、まるで巨大魚の頭部を横に伸ばして貼り付けたような、怪物の頭が乗っていた。

 その奇怪な頭部の口から、次々と小型機が吐き出され、ウィッチと華撃団を苦しめていた。

 

「一体何匹出てくるんだこいつら!」

「下がって管野少尉! 一対一で戦える相手じゃないわ!」

 

 キリのない小型機の襲撃に直枝が悪態をつくが、そこで小柄なベスト姿の狐の耳を持つウィッチ、エディータ・ロスマン曹長が援護射撃を行いながら撤退を促す。

 

「あっちにも妙なのがいる! ってうわあっ!」

 

 スオムス空軍仕様のセーターにショートヘアで雪イタチの耳を持つウィッチ、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン(通称ニパ)曹長が新手を指さすが、直後襲ってきた砲撃に慌ててシールドで防ごうとするが、防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 

「ニパさん!」「大丈夫か!」

「な、何とか………結構強烈………」

 

 仲間が声をかけてくる中、何とか体勢を立て直したニパが上昇しながら、砲撃を放ってきた敵を見る。

 砲撃を行ったのは更なる異形で、怪物の口が三つ連なり、そこから腕が生え、その腕で当たり前のように水面に立っている、という最早生物としての体すらなしてなかった。

 その異形の左右の口の上に生えた砲塔が、ウィッチ達を狙う。

 

「回避して!」

「ダメだ小さいのが来た!」

 

 次に狙われた直枝とロスマンが回避しようとするが、小型機に周囲を囲まれ、退路を絶たれてしまう。

 だが砲撃が放たれる直前、立て続けに放たれた矢が砲塔に直撃、爆散させる。

 

「あれは私がお相手します!」

「頼んだ!」

 

 川岸にいた巨大蒸気弓を構えた黒い光武F2、それの搭乗者の北大路男爵家の令嬢にしてフランス人のクォーターの北大路 花火が、今度は異形の中央に向けて矢を番える。

 そこで異形の中央の口が大きく開いたかと思うと、飛び出した黒い塊が水面へと飛び込み、高速で花火機へと向かっていく。

 

「魚雷!?」

「避けろ!」

 

 予想外の攻撃にウィッチ達が叫ぶが、魚雷は花火機の手前で突然爆発する。

 

「間に合った! 花火大丈夫!?」

「はい、ありがとうコクリコさん」

 

 サーモンピンクで両肩に蒸気砲を搭載した光武F2、搭乗者の巴里歌劇団最年少の東南アジア系の少女、コクリコが寸前で魚雷を迎撃し、再度の雷撃に備える。

 異形が次弾の魚雷を放とうとするが、突如として口から魚雷ではなく鉤爪が飛び出し、更には鉤爪から炎が吹き出して口内で魚雷が爆発、異形自身も吹き飛んでしまう。

 

「あんま舐めた真似すんじゃねえよ」

 

 爆煙の向こうから、深緑で両腕に鋭い爪を装備した光武F2が現れる。

 その搭乗者、銀髪にメガネを掛けたどこかガラの悪い女性、その実パリ始まって以来の大悪党と言われた人物ロベリア・カルリーニが自機の鉤爪を振るって焦げた血肉を払い落とす。

 

「ちっ! 今度はあっちって言ってんだよ!」

 

 足場代わりにしていた巨大魚にロベリアは鉤爪を突き刺し操ろうとするが、激しく抵抗され、止む無くトドメを刺すと川岸までなんとか跳躍する。

 

「無茶するね、君」

「こっちは飛べねえんだよ」

 

 クルピンスキーが呆れる中、ロベリアはセーヌ川内の敵を睨みつける。

 

「どうやら、向こうは水上か水中にしかいれないようだね」

「分かってんなら、こっちに追い立てな。斬り裂いて、燃やしてやる」

「はいはい」

 

 明らかに機嫌の悪いロベリアに、クルピンスキーは素直に答えながら銃を構える。

 

(原因はアレだよね………)

 

 こちらに口腔を向けてくる巨大魚に向けてトリガーを引きながら、クルピンスキーは街灯に照らし出されている、翼を持った赤い光武F2を横目で見る。

 完全に沈黙している赤の光武F2、その搭乗者がどうなったかをウィッチ達も見ていた。

 

「多分大丈夫、って言っても信じてもらえないかな?」

「ブツブツ言うのは後だ! 手付きが向こうにもいるぞ!」

「帽子付きを包囲して! かなり厄介よ!」

「花火、コクリコ! どうにかあの帽子付きを川岸に追い立てられないか!?」

「やってみます!」「ちょっと遠いけど!」

 

 砲撃をかわし、防ぎつつ、ウィッチと華撃団が徐々に敵を減らしていった。

 

 

「敵、更に撃破! 残り僅かです」

「市街地の火災は現在消化中! 被害は思っていたよりも少ないみたいです!」

「あの子達のお陰だね、あたしらだけじゃ手に負えなかった」

 

 パリ・モンマルトにあるダンスホール・テアトルシャノワール、更にその地下にある巴里華撃団本部で、ショートカットの生真面目そうなメイドとゆるやかなロングヘアーの天然そうなメイド、巴里華撃団オペレーターのメル・レゾンとシー・カプリスが状況を報告する。

 それを司令席に座って黒猫を抱いた中年婦人、巴里華撃団総司令 イザベル・ライラック、通称グランマが映しだされている華撃団と共に戦うウィッチ達を見て嘆息する。

 

「それで、エリカの方は?」

「通信を呼び出してはいるんですが、まだ………」

「東京とニューヨークの方は?」

「そっちも繋がらないですぅ。大神さん達に何かあったんでしょうか………」

「…そうかい。今は敵の撃破に集中させておき」

「そう伝えます」

「エリカさん、どこに行っちゃったんでしょうか………」

 

 

 

「おりゃああぁぁ!!」

 

 直枝が突撃し、手にした扶桑刀で手付きを真横に両断する。

 

「残る一匹!」

「あの帽子付き、随分と身持ちが固いね~」

 

 再現無く小型を吐き出してくる帽子付きに、ウィッチも華撃団も攻めあぐねる。

 

「川の中央から動こうとしない。こっちの攻撃範囲を完全に読んでいるな」

「グリシーヌ、矢の残りが………」

「おいあんたら! どうにかこっちを運べないか!」

「その機体、何kgあるんです? 戦闘中にはちょっと………」

「こちらの残弾も少ない、一気に勝負を決めるべきか?」

「けどマスター、あの敵個体は外見以上に頑強そうです」

「オレが突っ込む! 援護してくれ!」

「ナオちゃんだけじゃ危ないよ、ボクも行こう」

「こちらで何とか川岸まで追い込む。トドメを頼…」

「あれ?」

 

 ウィッチ達が突撃を敢行しようかとした時、コクリコがある事に気付く。

 

「あの胸の大きいお姉ちゃんの、燃えてない?」

『え』

 

 帽子付きの周辺を旋回包囲していたウィッチ達の中、ニパのストライカーユニットが突然のエンジン不良で火を吹く。

 

「え? え? うわあああぁぁ!!」

 

 本人が気付いた時にはすでに遅く、バランスを取ろうとするもかなわず、墜落していく。

 しかも、帽子付きへと向かって。

 

「ヲ………!」

 

 帽子付きの口から、言葉とも言えない声が漏れ、向かってくるニパへと向かって小型機を集中させる。

 

「うわああぁぁぁん!」

 

 自分に向かってくる無数の小型機に、ニパは涙を流しながらシールドを張り、小型機を弾き飛ばし、何割かは防ぎきれずに食らいながら、そのまま帽子付きの怪物頭部へと直撃した。

 

「ヲ………」

「よくやったニパ!」

 

 体当たりは全く想定してなかったのか、帽子付きの体勢が大きく崩れる。

 その隙を逃さず、直枝が最大速度で突撃、固有魔法の圧縮シールドを拳に形成、帽子付きへと叩きつける。

 

「ヲ…!」

 

 帽子付きは必殺の一撃を杖で受け止め、しばらく拮抗したかのように見えたが、限界に達してへし折れ、圧縮シールドの拳が腹へと叩きこまれる。

 

「こいつ、硬ぇ……!」

 

 だが直枝も、シールド越しに拳に伝わってくる感触の異常さに気付いてた。

 ダメージは確実に有ったのか、帽子付きの体がくの字に折れ、口からは人の物とは明らかに違う青い血が吐き出される。

 トドメを刺そうと直枝は背に吊るした扶桑刀に手を伸ばすが、そこで帽子付きの怪物頭部の触手が腕と首に絡みついてくる。

 

「この、離せ!」

 

 間違いなく絞め殺すに充分足りえる力が込められた触手だったが、飛来した銃弾が直枝を絞殺の窮地から救った。

 

「離れてナオちゃん!」

「行きますわ!」「はい!」「了解です!」

 

 クルピンスキーが狙いすました銃撃で直枝と帽子付きを引き剥がし、直枝が離れた直後、ポクルイーシキン、定子、ジョゼが三人がかりでシールドごと帽子付きへと体当たりする。

 

「ヲ……!」

「なんて硬度してるの!?」

 

 ウィッチの切り札とも言えるシールド突撃を帽子付きは受け止めようとするが、三人がかりの全力突撃の勢いは止めきれず、その体が水上を押されていく。

 

「3、2、1!」

「今っ!」

 

 ポクルイーシキンが謎のカウントをすると同時に、三人が一斉に離れる。

 そこで帽子付きが体勢を立て直そうとした時、その体の左右から鉤爪と斧が突き刺さった。

 

「ヲ………」

「何言ってるか分からねえよ」

「背後からとは卑怯かもしれないが、千載一遇のチャンスを逃すわけには行かなかったのだ」

 

 川岸まで押し出された帽子付きを、ロベリア機とグリシーヌ機が己の得物で完全に捉え、花火機とコクリコ機がほぼゼロ距離で構えていた。

 

「ご容赦を」

「喰らえ~!」

 

 ゼロ距離で蒸気弓と蒸気砲が発射され、巴里華撃団四人がかりの攻撃の前に帽子付きの体は限界に達し、粉々に吹き飛んでいく。

 

「どうやら、終わったようだな」

「ええ、ただ………」

 

 敵がいなくなった事を確認したラルとロスマンだったが、華撃団の面々は次々と自身の光武F2から降りると、赤い光武F2へと駆け寄る。

 それを取り囲むようにウィッチ達も次々と着地していく

 

「ハッチを開けるんだ!」

「分かってる!」

 

 グリシーヌとロベリアが急いで緊急開放手順を踏むと、ハッチが開いてそこから一人の少女が出てきた。

 

「これは………」

 

 その光武F2の本来の搭乗者、初代巴里華撃団隊長だった大神 一郎から二代目隊長に指名されたエリカ・フォンティーヌの姿はそこに無く、代わりにセーラー服をまとい、僅かに伸ばした髪を後ろで結んだ一人の少女がそこにいた。

 

「この子………」

「知ってる奴か?」

「いんや、けどこいつ………」

 

 クルピンスキーと直枝もその少女を見るが、傷つき、気絶しているらしいその少女は、背に船舶の機関のような物を背負い、足にはこれまた船腹のような物を履き、手には小型の砲塔すら持っていた。

 

「海戦用ストライカーユニットなんて聞いた事ある?」

「無い、そもそもこいつウィッチなのか?」

「それよりも、エリカどこ行っちゃったの!?」

「そうです! エリカさんは………」

 

 首を傾げるウィッチ達に、コクリコと花火が戦闘中ずっと言うまいとしていた事を口走る。

 

「………彼女をこの中にかくまった直後、敵の攻撃で霧の竜巻の中に飲み込まれた。それはこの目で見た」

「その後に帽子付きが現れると、直後に霧の竜巻は消えてしまいました」

 

 グリシーヌが状況を確かめるようにつぶやいた言葉に、ロスマンが続ける。

 

「まさか跡形もなく吹き飛んじまったとか………」

「不吉な事を言うな! エリカがそう簡単に…」

「それなら大丈夫だな」

 

 混乱している華撃団に、近寄ってきたラルがある事を教えようとする。

 

「なぜそう言える?」

「私も見たが、確かにあの妙な奴らの現れた霧の竜巻に入っていった。そして、私達もその霧の竜巻に飲み込まれてここに来たからだ」

「何だと!?」

「実を言うと、私達も行方不明になった仲間を探している最中、ここに飛ばされたんです。いなくなった二人、ユーティライネン中尉とリトヴャク中尉は最後に『霧の竜巻が…』と通信してきた後、行方不明になったんです」

「そうか………だが残念だがその二人の事はこちらにも分からない」

「そうですか………」

 

 ロスマンの説明に、グリシーヌは小さく首を左右に振り、ウィッチ達も華撃団同様、項垂れる。

 

「大丈夫ですマスター、彼女にも武装神姫が一体、付いています」

「そういや戦闘が始まるとほぼ同時にエリカの所にも来てたな」

「さっきの戦闘じゃ、そっちの小さいのは役立ってたのは見たが、本当にエリカも大丈夫なのか?」

「ここに居ない、という事はエリカさんと一緒だと思いますけど…」

「そちらもこちらも、互いの無事を祈るしかない、か。とりあえずジョゼ、その子の応急処置を」

「はい」

 

 ブライトフェザーがサポートの武装神姫が付いていた事を説明するが、皆の顔は晴れない。

 ラルの指示で、ジョゼが固有魔法の治癒魔法を謎の少女へと使う。

 

「エリカみたいな事出来るんだな」

「エリカさんという方も治癒魔法持ちなんですか? 私のは応急処置がせいぜいで………あら?」

 

 ロベリアが興味深そうに見る中、ジョゼは治癒を続けるが、妙な事に気付く。

 

「何か、効きが弱いような………魔力が少ないせいでしょうか?」

「ん~?」

 

 更にロベリアが謎の少女に顔を近付け、花をひくつかせる。

 

「おいこいつ、血から妙な匂いしてるぞ。油みてえな」

「油? 光武の物ではないのか?」

「いんや、明らかに違うぜ」

 

 ロベリアが無造作に少女の傷から流れていた血を指先で取ると、口に入れる。

 途端に顔をしかめ、舐めた血ごとツバとして吐き出した。

 

「汚~い」

「こいつ、人間じゃねえ! 油臭え血が出てやがる!」

「何?」

 

 コクリコが顔をしかめるが、ロベリアの発した言葉に華撃団に緊張が走る。

 

「人間じゃない、確かアンドロイドとか言ったか?」

「はい、前回の戦いではトリガーハートや機械人と言った方々も参加してました。ただ、この人はそのどちらでもないようですが………」

 

 ラルが前の戦いにいた者達を思い出すが、ブライトフェザーはセンサーで少女の反応が明らかに生物に限りなく近い事に首を傾げる。

 

「う………ん」

 

 そこでジョゼの治癒魔法が効果を発揮したのか、少女が目を覚ます。

 

「気が付きましたか?」

「ここは………」

「パリのセーヌ川だ。君の名前は?」

「私は横須賀鎮守府所属艦娘、特型駆逐艦 吹雪です………」

 

 少女、吹雪の自己紹介に、華撃団とウィッチは顔を見合わせるしかなかった………

 ちなみにその頃、流されかけていたニパはポクルイーキシンによって救出されていた。

 

 

 

「戦闘行動終結を確認」

「敵は未確認の戦力、該当データは皆無ね」

「現地戦力一名、戦闘中超空間通路に飲み込まれ、MIA(※戦闘中行方不明)」

「FFR―31、帰投するわ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP09

 

「うう~ん、サーニャ………」

 

 一緒に飛んでいた戦友の名を呟きながら、雪色の髪を無造作に伸ばした少女が目を開く。

 そこで自分を覗き込んでいる紅瞳の三白眼と目が合った。

 

「うわああぁ!」

 

 絶叫しながら少女、元ストライクウィッチーズメンバー、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉は跳ね起きる。

 

「目が覚めたか」

「なんダお前は! は、サーニャ!」

「それはそいつの事か?」

 

 跳ね起きたエイラは、色素の薄い金髪を左右で結び、どこか無表情な三白眼に紫のドレス姿、という風変わりな女性が指差した方向、先程まで自分が寝ていた隣に寝ているグレイの髪の少女を確認すると、すぐさま駆け寄る。

 

「サーニャ、おいサーニャ!」

「エイラ………」

 

 ゆっくりとグレイの髪の少女、同じく元ストライクウィッチーズメンバー、サーニャ・V・リトヴャク中尉が目を覚まし、エイラは胸を撫で下ろす。

 

「ここは?」

「私達、奇妙な霧の竜巻ニ巻き込まれテ、その後………どうしタっけ?」

「何かにぶつかったのは覚えてる。けどその後は………」

「そうか、私と同じだな」

「同じ?」

 

 ドレスの女が言った所で、エイラは彼女の後ろに見える砲塔に気付く。

 そして、自分達が甲板の上に寝ていたという事も。

 

「私がこの海域に出現した直後、お前達が上から落ちてきた。その奇妙なユニットと一緒にな」

「そうカ。壊れてないヨな?」

 

 甲板の上に置いてある二人分のストライカーユニットをエイラとサーニャは確認するが、ドレスの女は少しばかり首を傾げていた。

 

「サーチした限りは、部品の破損は無い。だが、原理が不明だ。外部からの何らかのエネルギーを供給して動くらしい事は分かるが、どうやって供給する?」

「ああ、こうダ」

 

 そう言うとエイラは魔力を発動、使い魔の黒狐の耳と尻尾を出してみせる。

 

「私らはウィッチだからな。このストライカーユニットはウィッチの魔力で動くンだ」

「ウィッチ? 魔力? 今お前の体から判別不能なエネルギーが上昇しているのは分かるが」

「詳しくは後でナ。今は現状を把握しないト」

「あれ、前の渦と似たような反応だった。向こうに何も感じない、というか感じられない」

「じゃあここ、また違う世界って事カ!?」

「どういう事だ?」

「その前に、貴女は?」

「つうかこれ戦艦だヨな、他のクルーは?」

 

 ドレスの女が聞き返した所でサーニャとエイラが逆に問い返す。

 ドレスの女は小さく頷くと同時に、周囲に突然グラフサークルが展開、それに呼応するように、戦艦の各所が動き始める。

 

「なんダこの船!」

「これは霧の大戦艦コンゴウ、私はそのメンタルモデルだ」

 

 ドレスの女、コンゴウの名乗りにエイラは唖然とする。

 だがサーニャが魔力を発動、黒猫の耳としっぽが出ると、同時に頭部にアンテナを思わせる光、彼女の固有魔法の魔導針を展開させる。

 

「エイラ、この人、人間じゃない」

「そうなのカ? そうか、アンドロイドとか言う奴カ」

「違う、メンタルモデルだ。意外と驚かないのだな」

「前ニそういう人間っぽいケド、人間じゃナイって奴らと一緒に戦った事アッテナ」

「どういう事だ?」

「ウ~ン、どこから説明したら………」

「そもそも、この船は他に誰か乗ってないの?」

「乗っていない、正確にはこの船こそが私だ」

「………カルナとかブレータみたいナ物か」

「みたいだね」

「説明する前ニ、この船、どこに向かってンダ?」

「お前達のいう霧の竜巻とやら、私も巻き込まれた。気付いたらこの海域にいたが、戦術ネットワークから断線し、現在位置不明だ」

「不明って、コンパスとカ海図ハ?」

「だから断線して、不明だ」

「………オイ、マサカお前………」

「この船、漂流してる?」

「そういう事になるな」

「ナンダッテ~~~!!」

 

 エイラの絶叫が、周辺に何も無い海原に響き渡った………

 

 

 

太正十八年 帝都東京

 

「市街地の消火活動、順調です」

「避難した市民は順次、緊急避難場所に向かっています」

「海軍の救援部隊の増援が半日以内に到着するそうです」

「やれやれ、後片付けが大変だな………」

 

 あげられる報告に米田はため息をつきつつ、人的被害こそ最小限に抑えられたが、市街にはかなりの被害が出ている事に肩を落とす。

 

「翔鯨丸、五分後に帰還します。だいぶオマケがついてるみたいですが………」

「みんな頑張ってくれたからな。風呂くらい準備させとけ」

「分かりました」

 

 翔鯨丸の甲板に結構な人数がいる事に米田は笑みを浮かべるが、そこでタクミから通信が入る。

 

『米田中将』

「何だい」

『イー401が艦体の点検のためにどこか使用可能なドッグが欲しいそうなのですが………』

「あ~、かすみ。海軍に問い合わせてどこか用意させろ」

「了解しました」

『それとソニックダイバーですが、ナノスキンの切れた現状だと、こちらへの帰還が不可能なので、取りに行くまで預かってもらいたいそうです』

「例の活動限界時間ってやつだな。燃料切れか何かか? それくらいなら構わねえ。嬢ちゃん達には汗でも流して待ってもらうさ」

『最後に門脇中将から、今後について話し合いたいそうなので、そちらの手が空いたら知らせてほしいそうです』

「了解、つってもちいとばかり片付けにかかりそうだって伝えといてくれ」

『分かりました。こちらも色々立て込んでまして………』

「かえでがそっち向かってる。入用な物あったらそっちに言ってくんな」

『重ね重ね、ありがとうございます』

 

 通信が切れた所で、米田は腕組みして小さく唸り声を上げる。

 

「どうかしましたか司令…じゃなくて米田中将」

「いや、報告書になんて書いたらいいかって思ったらよ。大神に全部書かすか?」

「大神さんも困ると思いますけど………」

「そもそも、何がどうなってるんですか?」

「さあ………」

 

 司令室で見ていた三人娘も、自分達が見ていた事を理解出来ず、首を傾げる。

 ちょうどその時、翔鯨丸から通信が入る。

 

『米田中将』

「おお、大神。ご苦労だったな」

『いえ、ただ気になる事が………』

「何だ言ってみな」

『プロキシマ、オレに付いてる武装神姫が、この世界の他の場所にも武装神姫が送られたって………』

「待て。そいつは、まさか………」

『他の場所にも、転移現象が起きてるかもしれない。そして、戦闘も………』

「どこか分からねえのか!?」

『正確な座標までは不明だ。なにせ急な事で、プロフェッサーも次元変動に基づいて、その場所にボクらを急いで送り込んだからな』

「正確じゃなくてもいい、大体の場所は?」

 

 プロキシマが告げるとんでもない事実に、米田は嫌な予感を感じつつ、詳細を聞く。

 

『え~と、ヴァローナ、転移情報持ってたろ?』

『ちょっと待って~』

『現地の地図情報は…』

 

 武装神姫達があれやこれやとデータを突き合わせ、大体の転移場所を算出していく。

 

『大体だが、ニューヨークとパリの辺りかな?』

『紐育と巴里だって!?』「そいつは本当か!」

 

 武装神姫の算出した予想位置に、大神と米田が同時に声を上げる。

 

『何かあるんですか?』

『二つとも、華撃団の存在する都市だ! 双方と通信を…』

「無理だ、大電波塔がやられちまってる。通常出力じゃ届かねえ」

 

 首を傾げる音羽に大神が慌てながら説明、だが現状を確かめる手段が無い事を米田が俯きながら告げる。

 

『そうだ、追浜の通信機なら…』

『それも無理ね。さすがに中継点無しじゃ届かないわ』

『原始的な通信ね~』

『この時代じゃ仕方ないわ。重力子通信の概念すら無いでしょうし』

『まずは通信網の確保ね。予備の重力子通信機の在庫は…』

『こちらで用意してますわ。次元間通信はまだ実験段階ですので無理ですけど』

『カルナダインの速度なら、半日もかからず両方回れますが』

『誰か、話を通じさせる人がいないと…』

「やけに慣れてるな、オイ」

『前回の戦いでは、色々有ったので………』

 

 手際よく話を進めていく面々に、米田が驚くが、ポリリーナが前回の苦労を思い出し、苦笑する。

 

「翔鯨丸、着艦しました」

「おうよ、大神にはこっち来るように言ってくれ」

 

 片付いたかと思えば、更なる問題の山積みに、米田は頭を抱え込んだ。

 

 

 

「どうだタカオ?」

『ダメね、規格が違い過ぎるし、太平洋とユーラシア大陸の向こう側の電波なんてさすがに拾えないわ』

「衛星通信なんて無い時代ですからね。電波塔で通信できてたってのもすごいですけど」

「まさしく異世界って奴だな」

「どうにか、電波塔を修復してもらうしかありませんが、この状況では何日掛かるか………」

 

 話を聞いたイー401のブリッジ内で、クルー達がどうにか他の二箇所の現状を確かめようとするが、難しい事にため息を漏らす。

 

「ヒュウガに連絡。こちらの点検修理は後回しでいい、大電波塔をどうにか修復出来ないかと。イオナとハルナにも協力させてくれ」

『ヒュウガに? どんな修理されるか分かった物じゃないわよ?』

「通信機能さえ使えればいい、間に合わせでもいいから、速度を再優先にさせてくれ」

『了解艦長。こっちは私がセルフチェックだけでもしておくわ』

「帝国華撃団から連絡、寄港可能なドッグを今検索中だそうです」

「………なんか、本来の仕事からどんどん離れてってね?」

 

 杏平のボヤキは間違いなく的を射ていた………

 

 

 

AD2301 地球

 

「それじゃあみんな、今日は本当にありがとう~~~」

 

 客席から鳴り止まぬ拍手に答えながら、ロングヘアーをポニーテールにまとめ、天真爛漫を絵に描いたような少女がステージから降りていく。

 

「お疲れ様ですぅ~」

「ユナ、本当にご苦労様でした」

「いや~、結構楽しかったし」

 

 ステージ袖に待機していた赤髪のショートボブの少女がタオルとドリンクを手渡し、宙に浮かぶ機械のような妖精のような、風変わりな形の小型ロボも労をねぎらう。

 ポニーテールの少女、全銀河的お嬢様アイドル・神楽坂ユナの銀河縦断ボランティアコンサートの最終ステージが終わり、ユナも一息ついた。

 

「ユナちゃんお疲れ~」

「それじゃあ、しばらくはオフにしておいたから」

「ありがと~」

「お休みだったら食べ歩き行くですぅ!」

「今回はボランティアだから、ノーギャラですよ」

「大丈夫大丈夫。さっき竹内プロデユーサーから協賛企業さんからの戴き物だって割引チケット貰ってきたから」

「割引対象店を間違えないでくださいね」

「楽しみですぅ~」

 

 スタッフ達が声をかけてくる中、楽屋に向かうユナの後ろをショートボブの少女、相棒というか妹分というかのユーリィ・キューブ・神楽坂が呑気に提案し、小型ロボのような存在、正確には《光のマトリクス》と呼ばれるアンドロイドの一体、英知のエルナーが呆れた声を上げる。

 

「それにしても、今日は一際すごかったね~」

「ここ、テアトルシャノワールは、ボランティアコンサートの殿堂とも言われてる、由緒正しい所ですからね。由来は20世紀初頭、ある見習いシスターが貧しい人達の救済のため、ダンサーとしてステージに立ったのが始まりだとか」

「へ~」

 

 エルナーの説明にユナが頷きつつ、楽屋に入って腰を下ろす。

 

「確かに古いけど、随分立派だよね~ここ」

「数度の大戦を経てもなお、再建され続けた名門ですからね…!?」

 

 そこで突然エルナーが視線を上に向け、ユナとユーリィも吊られて上を向く。

 

「これは、次元転移反応!」

「ええ!? また!?」

「でも、前と比べると小さい気がするですぅ?」

 

 エルナーの言葉に、ユナは思わず前の戦いの始まりを思い出すが、そこで楽屋の天井辺りに小さな漆黒の渦が発生し、そこから人影が落ちてくる。

 

「きゃああぁ!」

 

 悲鳴と共に人影はユナの前に落下し、床に激突して目を回す。

 

「だ、大丈夫? えと、誰?」

「これは………」

「女の人ですぅ」

 

 三人が恐る恐る目を回している人物、赤を基調とした戦闘服らしき衣服に身を包んだロングヘアの女性に目を向けるが、そこで彼女の上にもう一つ、小さな人影があるのに気付いた。

 

「みぎぃ………」

「エルナー、この子………」

「武装神姫、ですね」

 

 少女の上で同じく目を回している黒い翼を持った武装神姫に、ユナは思わずエルナーと目を合わせる。

 

「あいたたた、ここは………」

「ここは西暦2301年、パリの劇場、テアトルシャノワールです」

 

 身を起こした黒い武装神姫に、エルナーは説明する。

 

「あ、データ一致。光の救世主・神楽坂 ユナに相棒ユーリィ・キューブ・神楽坂。それに英知のエルナー」

「ユナ達を知っているって事は………」

「ボクは戦乙女型MMS アルトアイネス、でこっちが………ってマスター! しっかり!」

 

 そこでようやくアルトアイネスが下で目を回している女性に気付いた。

 

「えへへ、プリンもっとおかわりです………」

「マスター!」

「あれ? プリンは?」

「………なんだかユナと似たような反応しますね」

 

 女性が身を起こし、左右を見回す。

 

「あの~、ここどこですか?」

「テアトルシャノワールって劇場の楽屋だよ」

 

 今度はユナが説明するが、少女は再度左右を見回す。

 

「え~、違いますよ~。テアトルシャノワールの楽屋はこんな所じゃありませんよ」

「知ってるの?」

「だって、私そこで踊ってるんです物」

「戦っているの間違いでは?」

 

 少女の呑気な反論に、エルナーが鋭く聞き返し、少女が驚いた顔でそちらを振り向き、エルナーの姿を見て首を傾げる。

 

「え~と、この子も武装神姫?」

「違うよマスター、彼女は英知のエルナー、光のマトリクスの一人」

「そして私は神楽坂 ユナ、こっちはユーリィ」

「あ、エリカ・フォンティーヌです!」

 

 

 アルトアイネスの説明に続けるようにユナが自己紹介し、女性も名を名乗る。

 

「アルトアイネス、彼女はいつから来ました?」

「確か、西暦1929年です」

「今は、西暦2301年です」

「ええ~? 本当ですか~?」

「マスターマスター、この人達もマスターが言ってたような、異世界の戦士なんだよ」

「そうだよ、改めまして全銀河的お嬢様アイドル 兼 光の救世主、神楽坂ユナ!」

「シスター 兼 巴里華撃団二代目隊長、エリカ・フォンティーヌです!」

 

 まったく同じ調子で改めて自己紹介しながら、ユナとエリカが手を握り合う。

 

「早速ですがシスターエリカ、貴女はどうしてここに?」

「そうでした! エリカ、セーヌ川に現れた怪物達と戦ってたんです!」

「ボクが送られたのは戦闘開始直後だね。相手は前回までのデータに無い、全くの新種だった」

「その怪物達、水の中にしかいれないらしくて、光武F2、あ、巴里華撃団で使ってる霊子甲冑なんですけど、川の中相手じゃ苦戦してたんです。そうしたら…」

「そこに、新たに転移してきた者達がいたんだ。502、ブレイブウィッチーズと一致した」

「ウィッチ!? 確か、芳佳ちゃんがいたのって………」

「彼女がいたのは501、別の部隊のようですが、ウィッチまで転移してきてるとなると………」

「それが、他にもいたんですよ。水の上をスケートみたいに走って、怪物と戦う女の子が」

「ボクも確認したよ、こちらも一致するデータは無し。武装はウィッチの物に似てたみたいなんだけど………」

「それでそれで、その子が怪物の攻撃で吹き飛ばされて怪我しちゃって、エリカ慌ててその子を助けにいったんですけど、その子失神してて、取り敢えず光武F2の中にかくまおうとしたら………」

「今度はマスターが敵の攻撃を食らって、消える直前の転移ホールにボク諸共飛び込んで、気付いたらここにいたって訳」

「へ~」

 

 エリカの説明にアルトアイネスが補足する中、ユナとエルナーが熱心に聞き、ユーリィは一人差し入れの菓子をぱくついていた。

 

「気になる事だらけですね。謎の敵の出現もさる事ながら、ウィッチ達も転移されてきたというのが………」

「ひょっとして、他のウィッチの子達も?」

「なんとも………確かめる術が………」

 

 そこで楽屋に置いておいたユナの携帯が鳴る。

 

「あれ、誰だろ」

 

 ユナが着信ボタンを押すと、香坂 エリカの立体映像が映しだされる。

 

「あ、エリカちゃんだ」

「エリカはここにいますけど」

「彼女もエリカって名前なんです」

 

 首を傾げるエリカに、エルナーが説明するが、それよりもエルナーは向こうのエリカの顔がこわばっている事に注意が向く。

 

『ユナ、そろそろ終わったかと思って』

「うん、大盛況だったよ。エリカちゃんの後援もあったからね」

『それはよかったわ。それで、ちょっと言い難い事なんだけど………』

「また、転移現象が起きている事ですか?」

 

 向こうのエリカが言う前に、エルナーが言った事に向こうの表情が変わる。

 

『どうしてそれを………』

「こちらにもつい今しがた、明らかにパラレルワールドから転移してきた人がいるんですよ。巴里華撃団のエリカ・フォンティーヌと名乗っています」

「はい! エリカここです!」

『華撃団!? 私達も先程まで、帝国華撃団を名乗る人達と共闘してたんですのよ!?』

「え? 大神さん達とですか!? 東京に何があったんです!?」

『………とてもすぐには説明出来ませんわ。すでに迎えを向かわせてます。それに乗ってこちらに来てください。エルナーに来てほしい、と門脇中将からの依頼がありましたの』

「門脇中将が? まさか………」

『ええ、ソニックダイバー隊も帝都にいますわ、ウィッチやトリガーハートの方々も。今、こちらとGで協力して転移ポートを固定化してますの』

「え、という事は、音羽ちゃんや芳佳ちゃんやエグゼリカちゃんに亜乃亜ちゃんも!?」

「………つまり、事態はそこまで」

『………ユナ、エルナー、そしてユーリィ。あとそちらのエリカさんも、急いで来てください。何かが、とても私達の手だけでは負えない何かが起きようとしてるわ………』

「うん分かった!」

 

 いつになく深刻な表情をする相手に、ユナは普段通りの明るい顔で返答し、通話が切れる。

 

「ユナ、すぐに支度を」

「待ってて今着替えるから!」

「え~と、私も行けば、大神さん達の所に行けるんですか?」

「多分ですが」

「芳佳のご飯食べられるんですか!? ユーリィはりきって行くですぅ!」

 

 今一状況を理解しているか分からない三者三様に、エルナーはどこか不安を感じつつ、状況を整理する。

 

「アルトアイネス、他に派遣された武装神姫は?」

「それなんだけど、実はかなり大規模に送られたらしく、他の武装神姫がどうなってるかよく分からないんだ。前回派遣された子全員に、ボクみたいな新型も多数派遣する気だってプロフェッサーは言ってた」

「プロフェッサー、それが武装神姫を送り込んだ人ですか………」

「状況が落ち着いたら、連絡するっても言ってたよ」

「つまり、誰も現状を正確に把握できていない、と」

「多分ね。こうなるなんてプロフェッサーも考えてなくって、民間にロールアウトされる寸前だったし」

「一体、何が起きてるんでしょうか………」

 

 

 

「そろそろカ」

 

 水平線に日が没しようとするのを見たエイラが、軍備品の懐中時計で時間を確認、その時間を万年筆で甲板に書き記す。

 

「何をしている?」

「お前ガ場所分からないって言うから、こうやて調べてんダロ」

「六分儀が有ればいいんだけど………」

 

 コンゴウが聞く中サーニャはその前、影の長さからの大体の南中時間と日没時間から、大体の日照時間を割り出していた。

 

「長いナ………あとは星の配置カ」

「星?」

「星座の配置と、日照時間から大体の場所が分かるの」

「これ、海軍でモ空軍でも常識ダロ」

「そうなのか。待て、星の配置が知りたいのか」

 

 そう言うや否や、コンゴウはようやく光り始めた星とまだ見えない星を観測、それを目の前に3D映像として映し出す。

 

「おわ! お前、こんナ事出来たのかヨ」

「エイラ、これって、南十字星?」

「ゲ、マジかよ………だとしたらここ、赤道にかなり近イ?」

「温かいし、多分そうだよ」

「まずいナ~、見慣れてるのナラ位置分かるけど、これじゃ………」

「何がまずい?」

「どっちニ向かえばいいカ、これじゃあ判断出来ないんだヨ」

「ひょっとしたら、太平洋か大西洋の真ん中あたりかも………」

「最悪なんダナ」

「まだ他の星じゃないだけ良いと思おうよ」

「先程行ってた話か。正直信じられんが」

「体験したアタシ達でも未だに夢だと想う時がアルからナ」

「それ以前に霧の艦隊の存在を知らない、というのが何よりの証明、か」

「違う世界の事だもの。貴女が人類の敵だった、とは今とても思えない」

 

 サーニャの言葉にコンゴウは何ともいえない表情を浮かべる。

 

「コンゴウ、はっきり言って、お前は現在位置よりも自分を見失ってル感じなんダナ」

「アガリを迎えたウィッチに、そんな表情の人がたまにいるよね」

「そうだな、私にはもう人類と敵対する理由が分からなくなった」

「だったら今の間だけでも、このまま協力するんダナ。一人で漂流し続けるよりも、よっぽどマシなんダナ」

「……そうだな」

「分かれば良いんダナ」

 

 ため息をついた所で、エイラの腹が鳴る。

 

「………とにかく、ご飯にシヨウ」

「そうだね」

 

 エイラとサーニャはポーチを弄り、そこから非常時用の戦闘糧食を取り出す。

 

「定時巡回だったからナ~持たせて3日カ」

「コンゴウさん、この船に他に食料ってある?」

「無い、そもそも人間が乗っていない」

「ウ~ン………せめて飲み物だけでも」

「………それなら用意できる」

 

 エイラが日持ちと栄養以外考えられていないレーションをかじりながらボヤくと、コンゴウは小さく呟き、突然甲板にテーブルとティーセットが現れる。

 

「おわっ! お前、こんな事も出来たノカ!」

「この船はナノマテリアルで構成されている。自在に変化させられる」

「変化っテ………」

 

 エイラが恐る恐る出現したティーポットに鼻を近づけるが、漂ってくるのは間違いなく紅茶の匂いだった。

 

「………飲めるのかコレ?」

「成分は前に飲んだ物と完全に同一にした」

「シタって………」

 

 ティーポットに手を伸ばそうとしたエイラだったが、そこでサーニャが服の裾を掴み、首を左右に降る。

 

「やめた方いいと思う」

「………サーニャがそう言うなラ」

「嫌なら無理には薦めない」

「ゴメンナサイ。用意してもらって申し訳ないけど、私にはその紅茶もティーポットも同じ物としか思えない」

「判別が出来るのか? 余程高度な化学分析でないと判別できないと思うが」

「サーニャが感知系ウィッチだからなんダナ。無害とは思うが感覚的に受け入れない物は無理できないんダナ」

「そういう物なのか」

「ケド、飲み水の問題はあるナ~携行のは残ってないシ」

「下から組めばいい」

「人間は海水そのまま飲めないんダヨ! お前とことん世間知らずだナ!」

「………塩分を抜けばいいのか。それくらいなら簡単だ」

「それと一応煮沸ダナ。このティーポット借りるぞ。それト火は………」

「燃料何かある?」

「燃料………」

 

 コンゴウはしばし考えると、突然今度はバーベキューコンロが出現する。

 

「お前、全然加減も出来ないヨナ………」

「すまないが、他に知らん」

「もうちょっと温度低くして」

「分かった」

 

 コンゴウがろ過した水を煮沸し、それを飲みながらエイラとサーニャは一息つくが、ふとエイラがレーションをコンゴウへと突き出す。

 

「一応礼。やるヨ」

「私は有機物の摂取は必要ないが………」

「私ラだけ食べてたら、嫌がらせみたいダロ」

「私は構わないが」

「いいから食べて。明日はお魚でも釣ろう」

「そうダナ、サーニャ」

 

 サーニャも薦め、エイラが頷くのでコンゴウは黙ってレーションを受け取り、それをかじる。

 

「………これはなんと言えばいいのだ?」

「言うナ、旨くないってのは分かってるシ」

「そうか、これは旨くないという物か」

「そうだね」

 

 相変わらず無表情のコンゴウにサーニャが笑うと、エイラもそれに吊られて笑いだす。

 

「………所でこの船、ベッドルームあるカ?」

「ベッドルーム?」

「寝たり休憩するのに使う場所の事」

「………似たような物を造っておく」

「待テ、私ノ見てる前でヤレ」

「分かった」

 

 しばし後、何故か銀髪の少女のフィギュアが大量に飾られている応接室のような部屋を造ったコンゴウに、エイラは冷め切った視線を向ける事になった。

 

 

 

『直りましたわよ』

「え? もうですか?」

 

 ヒュウガから届いた大電波塔修復完了の方に、七恵は思わず声を上げた。

 

『それが本当なのよ、あっという間に直しちゃったわ』

『こちらでも確認しました。まだ三時間と経ってないんですけど………』

 

 手伝っていた薔薇組の報告に、帝劇の方でも確認したらしく、かすみもどこか驚いた顔をしている。

 

『使うなら早くした方がいい。長くは持たない』

「………え?」

『壊れた破片を持ってきたナノマテリアルでくっつけただけ。どれ位機能を維持出来るかは不明』

『壊れた模型をごはん粒で貼り付けてるみたいでした………』

 

 淡々とハルナとイオナが説明する背後で、その様を見ていた雪之丞が呆然と呟くが、折しも吹いた強風に修復したばかりの大電波塔が大きくたわむ。

 

『ちょ、傾いでるわよ!』

『補強の骨組はまだ届かないの!?』

『早くても明朝みたいです!』

『あの、本当に使えるんでしょうか?』

『だから早くした方がいい』

『分かりました。取り敢えず距離的に近い方から。こちら帝国華撃団、巴里華撃団、応答してください』

「タクミさん、通信繋がりそうです」

 

 薔薇組が騒ぐ中、かすみが慌てて通信を入れ、七恵も席を離れていたタクミを呼び戻す。

 

『こちら…里華撃団。帝国…撃団、どうぞ』

 

 やがてノイズ混じりだが、巴里華撃団のメルが現れ、タクミは追浜の設備で何とかノイズリダクションを試みる。

 

『こちら帝国華撃団、通信が遅れて申し訳ありませんでした』

『いえ、こちらも。帝都で何かあったんですか?』

『…とんでもなく大規模な敵襲です。なんとか撃破には成功しましたけど、市街地にはかなり被害が出ました』

『…それはひょっとして、未確認の敵による物でですか?』

『ええ、それに…』

『違う世界から来たという人達もいる』

 

 メルの口から告げられた言葉に、聞いていたタクミと七恵は思わず顔を見合わせる。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! こちらソニックダイバー隊、帝国華撃団に加勢した者ですが、そちらに現れた人達は何て名乗ってましたか!?」

『502統合戦闘航空団、そう名乗ってました。それに…』

「502!? ちょ、ちょっと待って下さい! ウィッチならこちらにもいます!」

「坂本少佐呼んできます!」

『大神司令! 大神司令! 至急司令室に!』

 

 七恵が慌てて美緒の居場所を確かめ、かすみも自分だけの手に余ると判断して大急ぎで大神を呼ぶ。

 数分後、エリカが慌てて用意させた空間投影型の通信枠で蒼き鋼の面々等も加わって主な司令官が通信機前に集まった。

 

『久し振りだね、ムッシュ。改めて帝国華撃団司令就任おめでとう』

『ありがとうございます。グランマ』

『502隊長のグンドュラ・ラル少佐だ。確かに見覚えのある顔ぶれだな』

『それじゃあ、どこから話そうかね………』

『あまりに多過ぎる』

「まずは急を要する物を」

『急を要する………一つあるんだけど、そっちに艦娘ってのはいるかい?』

 

 グランマが大神に祝いの言葉を送り、ラルが通信枠の顔ぶれを確認した後、思案する二人に門脇が端的に申し出、グランマは一番の懸念事項を告げる。

 

『いえ、そういうのは聞いてませんが』

「こちらも知りませんね」

『こちらもです』

 

 皆が首を傾げ、それを見たグランマがため息をつく。

 

『その艦娘って名乗る子が今こちらにいるんだけど、どうにも人間じゃないらしいんだ。それで、怪我してるんだけど、どう治療すりゃいいんだか分からなくて困ってるんだ』

『こちらに簡易的だが治癒魔法を使えるウィッチが一応応急処置はしたのだが………』

『分かっているだけでも、その艦娘のデータを送ってくれませんか』

『今送るよ』

 

 送られてきたデータを皆が見るが、何人かが顔をしかめる。

 

「鉄分量が異常に多いわね。それと重油に似た成分?」

『これに似たデータが有るわ、機械人の機械血液ね。これなら、カルナダインの設備で修復出来るかもしれません』

『本当かい? けどこっちまで来るのに…』

『最大速度なら、二時間もかかりません』

『は? 私を担いでるんじゃないだろうね』

 

 ポリリーナとクルエルティアが血液データを読み取り、治療手段を講じ、しかも早過ぎる所要時間にグランマが不審な顔をする。

 

『いえ、それ位技術格差が開いているという事でしょう。前回見た事がある』

『どうにも、まだ信じられないね』

 

 ラルが前に見たトリガーハート達を思い出して助言、未だにグランマは不審な顔をしていた。

 

『それとエリカが、行方不明なんだ。こちらに現れた奇妙な渦に巻き込まれて…』

「あの、すいませんがそれは巴里華撃団のシスターエリカに間違いありませんね?」

 

 表情が陰るグランマに恐る恐るポリリーナが問いただす。

 

『何か心当たりがあるのかい?』

「心当たりというか、ユナの、私達のリーダー的な子の所に、巴里華撃団のエリカを名乗る女性が現れたと連絡が。今大神司令にお知らせしようと思ってたのですけど」

『じゃあエリカは無事なのかい!?』

「今こちらに向かってます。数日中にはそちらに送り届けられるかと」

『良かったよ、これ皆も安心する』

『取り敢えず、カルナダインには至急巴里に向かってもらおう。その艦娘って子の治療と、現状の把握が必要だ』

「重力通信機は用意してあります。ただそちらの設備との変換をどうするか…」

『それだけじゃないよ、紐育華撃団とも連絡が取れないんだ』

「こちらの情報だと、ニューヨークも似たような状況になっている可能性が高いと………」

『一体全体どうなってんだい? こんな状況じゃなきゃ、リボ…ー…ノンで…援』

 

 矢継ぎ早に幾つかの事が決められていく中、再度通信画像が乱れる。

 

『あ、ゴメン。やっぱ持ちそうないわ』

『待った、他にも…』

 

 ヒュウガの無責任な謝罪に大神が慌てた直後、突如として巴里華撃団との通信が途切れ、どこか遠くから何かが崩れ落ちるような音が小さく響いてきた。

 

「………とにかく、パリに急行する必要があるようね」

『すぐにでも行けます』

 

 ポリリーナがその件に触れないようにする中、カルナが即答して航路設定を開始する。

 

「怪我人がいるなら、宮藤を連れて行くといいだろう。もっとも相手が特殊だとどこまで彼女の治癒魔法が通じるかは謎だが」

「それと、もう一つ気になる事が………」

 

 美緒が芳佳の同伴を申し出る中、ジオールが先程オペレッタから送られてきたあるデータを表示させる。

 

「これは?」

「次元歪曲率を示したマップです。こちらが通常時の物、そしてこちらが先程計測した、今のこの地球の物」

 

 ジオールが表示させた二つの地球の立体画像に、片方には綺麗な縞模様を思わせるラインが入っていたが、もう片方には丸で幾何学模様のような不自然なラインが入り乱れ、特に東京、パリ、そしてニューヨークがひどい状態だった。

 

「丸で違うようだが」

「はい、本来ならこんな事はありえません。今現在、この地球ではいつ何処で転移現象が起きても不思議ではないくらい、次元歪曲現象が起きているんです」

『意味はよく分からねえが、その縞模様、もう一箇所にも集中してんな』

「ええ………」

 

 米田の指摘に、ジオールも言葉を濁す。

 そのもう一箇所、太平洋に複数の次元歪曲が集中している事、その意味に誰もが薄々気付いてた。

 

「何かが転移しているか、これから転移してくるのか」

「どちらの可能性も有ります。空間が不安定過ぎて、短距離転移も難しい状態で………」

『ニューヨークに通信が繋がらなかったのもそれが原因かな?』

 

 ポリリーナとジオールが深刻な顔をする中、大神の問にジオールは小さく頷く。

 

「この状況では、通常電波ではまず届きません。それと、こちらと同じく電波塔が破壊されている可能性も………」

「………となると、太平洋の偵察とニューヨークの状況確認が必要か。可能な機体は?」

 

 状況を整理した門脇の問に、皆が顔を見合わせる。

 

『パリに行った後に、ニューヨークに向かうならば可能ですが………』

「RVだけで太平洋の探索は少し範囲的に無理があります」

「旗艦と成り得る大型艦を用意するべきかしら………」

「すぐには無理、という事か」

「残念ながら」

『翔鯨丸でそこまでの長距離飛行も難しいですし………とにかく、パリとニューヨークに向かうなら、自分が紹介状を書きます』

「頼む。この時代では、我々も彼女達も、異物でしかない」

「ほとぼりが冷めた後の方が問題でしょうな」

『それもまあ………何とかします』

 

 やらなければならない事が山積みとなる中、今更ながら門脇と嶋が民間人に多数目撃されていた事を思い出し、顔をしかめる。

 

『面倒事はオレっちの方でどうにかするさ、そんために老いぼれ引っ張りだしてきたんだろうし』

『すいません、米田中将』

『あんたらも余計な事は考えねえで、これからの事に集中しといてくれ。正直、何が何だか聞いてて分かりゃしねえ』

「同感です」

 

 米田の愚痴に、門脇が賛同した所で皆がそれぞれの作業へと戻っていく。

 そして、作業の続きに入ろうとしていた七恵とタクミが門脇と米田が通信状態のままでいる事に気付く。

 

「米田中将、どこまで動かせますか?」

『陸軍、ならばある程度動かせる。海軍はちっと畑が違うが、現状だと融通は効きそうだ。だが、はっきり言える事が有る。またあいつらが来たら、華撃団以外の連中は戦力にはならねえ………』

「我々の時代の戦力でも、どこまで相手出来るか、でしょうからな」

『三つの華撃団、そして更なる戦力がいる』

「あるいは、もっと………」

 

 

 

「あちィイ!」

 

 悲鳴と共に、造ったばかりのシャワールームからエイラが飛び出す。

 

「コンゴウ! だから温度は40℃位って行ったダロ!」

「すまない、そこまで微妙な温度調整はした事がなかった」

「まったク………サーニャが入ってなくてヨカッタ………」

 

 そっとシャワーの水温を確認したエイラが再度シャワールームへと入っていく。

 

「お前サ、もうちょっと物事覚えた方イイゾ」

「そうか、だが機会が無かった」

「こんだけデカいのに、シャワーもトイレも無い船なんて前代未聞ダ」

 

 ブツブツと文句を垂れ流しつつ、エイラがシャワーを浴び終え、持ってたハンカチを巨大サイズで作らせたナノマテリアル製の代用タオルで体を吹く。

 

「サーニャは?」

「甲板にいる。周辺状況を調べると言っていたが、私のレーダーにも何も感知出来ないのを、彼女が分かるとは思えないが」

「サーニャは魔導針持ちのナイトウィッチだからナ。機械に分からないのがナニか分かるかモ」

「そういう物なのか………」

「それじゃ私は仮眠取るけど、サーニャに妙な事するナヨ」

「妙な事とは?」

「それくらい自分で考えロ!」

 

 何度目か分からない怒声を浴びせつつ、エイラは応接室のソファーに横になる。

 それを確認したコンゴウが甲板に戻り、そこで固有魔法を発動させながら、歌を口ずさんでいるサーニャを見る。

 

「何か分かったか」

「ううん、何にも。通信電波の類も引っかからない」

「私もだ。感知範囲内でだが、空間湾曲の余波も残っている。これでは感知の類は効きにくいだろう」

「さっき、ガラス瓶が流れていくのを見たから、誰もいない時代とかってわけじゃないと思う」

「そうか」

 

 コンゴウが頷くと、サーニャはまた歌を口ずさみ始め、コンゴウは黙ってそれを聞いている。

 しばしそのまま波間にサーニャの歌だけが響いていたが、一曲分歌い終えた所でサーニャがコンゴウの方を振り向く。

 

「歌が好きなの?」

「………好きな知り合いがいた。他の歌というのは聞いた事は無かったが、おそらく下手だったんだろう。だが、歌っている時の彼女は楽しそうだった」

「友達?」

「どう表現したらいいのかは分からない。だが、そう思っていたのは私だけだったようだ」

「………亡くなったの?」

「………それなら、まだマシだったろうな」

 

 それ以上何も言わないコンゴウに、サーニャはそれ以上聞こうとせず、再度歌を口ずさみ始めた。

 

 

 

「さて、と。一応全員そろったな」

「ええ」

 

 帝国華撃団指揮所に、指揮官達が勢揃いしていた。

 帝国華撃団から現司令・大神 一郎、副司令・藤枝 かえで、前司令・米田 一基。

 人類統合軍から門脇 曹一郎中将並びに嶋秋嵩少将。

 ウィッチから坂本 美緒少佐、光の戦士からポリリーナ、Gからジオール・トゥイー、トリガーハートからパリに向かったクルエルティアの代理にエグゼリカ、そして蒼き鋼から千早 群像艦長と織部 僧副長とイオナ。

 ついでに大神にはプロキシマが、美緒にはアーンヴァルも付いていた。

 

「こうして改めて見ると、なかなかすげえ絵だな」

「オレが前に見た異世界の戦士達はもっとすごかったですけど」

「初見の時は我々もそうだった」

 

 米田がぽつりと呟いた言葉に思わず大神が苦笑するが、門脇も前を思い出して少しばかり遠くを見る。

 

「軍人半分に、そうじゃないのが半分か。つっかそこのあんた、その鉄仮面苦しくないのかい?」

「このマスクですか? アレルギーなのでお気になさらずにお願いします」

「マスクつけたままのなら他にもいる。気にするような物でもあるまい」

「まさか、それ私の事?」

「おやおやマスク仲間ですね」

「…そうね」

「ともあれ、面倒な自己紹介は予め資料を渡してたはずだが、読んだかい?」

「一応は。ただ、どうにも信じられない事ばかりで………」

「オイらもだよ………」

 

 米田の確認に、群像はフィクションとしか思えない事ばかり書かれた資料の事を思い出していた。

 

「オレとさくら君、そして蒼き鋼を除く全員が似たような状況になった事があるが、君達は初めて、という事かな?」

「ええ、そういう事になります。異世界という物が実在するとは考えてもいませんでした」

 

 大神の問に僧が答えるが、ある意味常識的な答えに皆が僅かに苦笑する。

 

「誰だって最初はそうだ。だがまたお前達はマシな方だぞ? 私なぞ気付いたら宇宙船の中にいた」

「そもそもマスター、どこかの惑星の雪原で孤軍奮闘した上、遭難しかけてましたよ?」

「こっちは魔界にも行ったな………」

「それはデータに無い世界だな」

「………冗談、ですよね?」

 

 前回の事を思い出し、遠い目をする美緒と大神にアーンヴァルとプロキシマが一応補足するが、僧は思わず聞き返し、二人共静かに首を左右に降る。

 

「その件はともかく、君達蒼き鋼は〈霧の艦隊〉と呼ばれる存在と戦っていたと渡された資料には書いてあったが………」

「はい、かつての人類の戦艦に酷似した謎の存在、霧の攻撃により、オレ達の世界は完全に海洋が封鎖されています」

「こちらもワームによって海洋が封鎖されていた事が有った。ある種、似たような状況か」

「違いは、彼女か」

 

 強引に話題を切り替えた大神の更なる問に群像は答えるが、門脇と嶋が群像の隣にいるイオナへと目を向けた。

 

「彼女を含め、メンタルモデルと呼ばれる彼女達はなぜ君達に協力している?」

「最初はそういう命令だった。今は、私自身の意思」

「命令? 誰の?」

「不明、何故かは私自身も認識できない。私は兵器、群像の船」

「兵器って………」

「私もですけど」

 

 イオナの発現に大神を含め、眉を潜める者がいたが、唐突にエグゼリカも手を上げる。

 

「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》。イオナさんと同じ、造られた存在です」

「………造った連中、何考えてんだ? まあこの際それはどうでもいいとして」

 

 米田が色々諦めきった顔をしつつ、群像へと視線を戻す。

 

「他の連中は大なり小なり経験があるみてえだから腹は決まってるみてえだが、あんたらはどうするんだい?」

「どうする、と言われても、我々は大事な仕事の途中なので、元の世界に戻らなくてはなりません」

「次元座標さえ分かれば、元の世界に戻す事は可能です」

「本当ですか?」

 

 険しい顔をする群像だったが、ジオールの提案に僧が一番に反応する。

 

「だが、正直に帰れるとは思わない方がいい。前はそうだった」

「ああ、その通りだ」

 

 厳しい顔をする大神に、門脇も賛同する。

 

「また呼び戻される可能性がある、と?」

「状況から見て、その可能性は高いわ。敵の動きも明らかにおかしかったし」

 

 僧の確認の問に、ポリリーナも険しい顔をして答える。

 

「そもそも、あいつらは何なんだ? 無人の機械ってのは確かだが、それ以外何も分からねえ」

「Gのデータバンクで酷似した存在らしき物は一応有ったんですが、詳細は全く不明で………」

「分からない事尽くし、か。前回も分かったのは最後の決戦の時だったからな」

 

 米田の一番の疑問にジオールは顔を伏せながら呟き、嶋もため息を漏らす。

 

「ポリリーナ君、エルナーが来るのは何時頃になりそうかな?」

「今ユナと一緒に全速で向かってますから、明日中には何とか………」

「我らの頭脳では、現状対処が精一杯だろう。現状を把握出来る可能性がある者の到着を待ってから、今後の事を話し合うのが妥当かと思うのだが」

「賛成だ、もうオレっちの頭は煮こぼれちまってる………」

「同感です。こちらも幾つか考えたい事があるので」

 

 門脇の提案に、米田と群像が揃って賛成、会議は一時お開きとなった。

 

 

 

「どう思う」

「少なくても、こちらの軍上層部よりは信用出来ますね」

 

 帝国劇場の廊下を歩きながら、群像と僧が会議で感じた率直な意見を交換する。

 

「こちらでは霧相手にあれだけ窮地に陥りながらも、内部闘争に利用しようとする人達ばかりでしたからね」

「見習ってもらいたい物だな、話の分かる人間ばかりがたまたま集まっただけかもしれんが」

「エグゼリカは初めて会った私を信用して全データを渡してくれた。だから私も信じる」

「私も兵器、か」

「似た者同士、という奴でしょうか?」

「うわあああぁぁ! あ、401助けてくれぇ!」

 

 イオナも意見を述べるが、そこで通路の向こうから悲鳴と共に何故かゴシック調の服を着たキリシマが駆けてくる。

 

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたも…」

「いた!」

「ダメだよヨタロウ!」

 

 後を追ってきたアイリスと蒔絵がキリシマを指差した時、突然キリシマの体が宙を浮く。

 

「ま、またか!」

「ほらほらこっちこっち! お洋服はまだまだいっぱいあるんだから!」

「あれやそれも似合うと思うよヨタロウ」

「あ~れ~~~………」

 

 時代劇の連れさらわれる町娘のような声を出しながら、宙に浮いたままのキリシマが二人に引っ張られるように元来た通路を戻っていく。

 

「………余計な心配はいらないようだな」

「まあ、確かに」

「今、妙な力でキリシマは連れて行かれた。解析出来ない」

「念動力だな、複数の固有魔法持ちらしい」

 

 背後からその光景を見ていたらしい美緒に、三人は振り向く。

 

「そう言えば、貴女方は特殊な能力を持ってる人がいるんでしたね」

「魔法なんて信じられなかったが、実際に体験した以上、信じるしかないからな」

 

 群像がそう言いながら己の右腕、つい半日前まで固定していたはずが、パリに向かう前にと芳佳の治癒魔法で治してもらったそれを見つめる。

 

「私から見れば、そちらの方が不思議だ。船体を自由に組み替えられる船なぞ、とても信じられん」

「ナノマテリアルだから出来る芸当です。ただ、おそらく今回の修復で底をつくでしょう」

「補給の問題は重要だぞ。技術格差がある分、使い回しが効かない可能性もある。前回苦労した事の一つだ」

「ウィッチ専用銃器を、一から作ったそうです」

「どう有っても、互いに協力せざるを得ない状況、という事かな」

「無理にとは言わない。なんなら、こちらを利用すればいい。こちらもそちらを利用する。そういう事にすればいい」

 

 思案する群像に、美緒が変わった提案をしてくる。

 

「ご経験が?」

「私達の世界では、ネウロイと呼ばれる存在と人類の戦争が行われているが、特にネウロイの勢力が強い所には、各国の派遣ウィッチからなる統合戦闘航空団が配置される。各国の精鋭抽出、と言えば聞こえはいいが、ようは国力と国威を誇示するためにどの国もこぞって送り込んでいるだけにすぎん。現場ではそんなの気にしてるウィッチはほとんどおらんがな」

「どこも一皮むけば同じ、か」

「そのようだ」

 

 群像がため息を漏らし、美緒も思わず苦笑する。

 

「4、401………助けて………」

 

 そこに十二単のような衣装を着せられたハルナがよろよろとした足取りで現れるが、突然その場から消えたかと思うと、同じ体勢のまま180度反転した状態で現れ、正面に向き合う形となった蒔絵とアイリスに強引に手を引かれていく。

 

「ダメだよハルハル。ファッションショーはまだまだこれからなんだから」

「そうそう、ヨタロウはどっか行っちゃったし」

「あうう………」

 

 少女二人に連れ去られていくメンタルモデルを無言で見送った四人と一体は、思わず顔を見合わせる。

 

「まあ、蒔絵に同年代の友達が出来たのはいい事としましょう」

「メンタルモデルを手玉に取るとは、空恐ろしい友達のようだが」

「楽しそうでいいじゃないか」

「やられてる当人達は悲鳴上げてましたが………」

「いつもの事」

「そうなんですか?」

 

 アーンヴァルだけが釈然としない中、四人はその場を離れていく。

 

「今の内に聞いておきたいんですが、明日来るエルナーさんとかいう人は、本当にこのデタラメな現状を整理出来るんですか?」

「多分大丈夫だろう、前回も大分世話になったからな。それともう一人、神楽坂 ユナという人物が来る。彼女ならば皆をまとめられるだろう」

 

 僧の疑問に美緒が答えるが、後半の言葉に僧と群像が首を傾げる。

 

「まとめられるという事は、それだけの大人物という事か?」

「いや全く。私も最初理解出来なかったからな。だが、前回は彼女がいたから、皆が結束出来た」

「意味が不明」

「段々分かるようになるさ」

「だいぶかかりそうですけどね」

 

 小首を傾げるイオナに、美緒は含みをもたせ呟き、アーンヴァルはむしろ更に首を傾げていた。

 

「さて、そろそろ宮藤達は着いたろうか………」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP10

「むゥ………」

 

 釣り竿(※ナノマテリアル製)を垂らしたエイラが、ボートの上で唸りながら当たりを待つ。

 やがて、彼女の使い魔の黒狐の耳と尻尾が出ると同時に、ウキが僅かに沈む。

 

「まだダ、まだ………」

 

 何度かウキが上下するが、エイラは竿を引こうとせず、固有魔法の未来予知で一番引きが強くなる瞬間に合わせ、一気に竿を引いた。

 

「ぬ、この、よっシゃ~!」

 

 途中リールが引っかかるが、完璧なタイミングで引き上げられた中々の大物を手に、エイラは笑みを浮かべる。

 

「よ~し、上げてクレ~」

 

 エイラの合図と共に、大戦艦コンゴウから吊り下げられていたボートが引き上げられていき、甲板の上へと乗せられる。

 

「これ位取れれバ、今日の分は大丈夫なんだナ」

「調味料がお塩しかないけど、何か工夫してみる」

「海水から調味料という物が作れるとはな」

「お前、ホント世間知らずだナ………」

 

 バーベキューコンロの隣でコンゴウがサーニャの注文で造った簡易キッチンが準備され、コンゴウはエイラが釣ってきた魚の調理を始めるサーニャを興味深そうに見る。

 

「そうカ、食う必要が無いって事ハ、料理も知らないノカ」

「一度ヒュウガが用意しているのは見た。ほとんどナノマテリアル製だったが」

「腹壊さないノカ、ソレ………」

 

 エイラが呆れる中、サーニャがウロコを落とした魚に塩を振り、バーベキューコンロに載せる。

 

「コンゴウさん、火力もう少し」

「こうか」

 

 コンゴウがバーベキューコンロの火力を制御するが、突然温度が上がり、コンロの上の魚は消し炭と化す。

 

「強すぎ」

「ぬ、済まない」

「サーニャが火傷したらどうしてくれンダ!」

「まあ初めてなんだし」

 

 怒声を上げるエイラをサーニャがなだめ、再度下ごしらえに入る。

 

「あ~、宮藤や坂本少佐だったラ、サシミとか言って生で食うんダが」

「そういうのもあるのか」

「私らがいた統合戦闘航空団ってのハ、色々な国からウィッチが来てるからナ。料理上手い奴は自分の国の料理作ってくれたりするンだ。独特過ぎて食えない奴もいたケド」

「ペリーヌさんなんて特にそうだったね」

「坂本少佐が食うナラ食ってたけどナ」

 

 思い出しながらサーニャが笑う中、エイラも思い出して笑う。

 その様子を見ていたコンゴウが、僅かに表情を崩す。

 

「さて、今度こそちゃんと焼けヨ?」

「保証はしかねる」

「今度はゆっくり温度上げてみて」

 

 試行錯誤を重ねていく中、結局エイラはもう一度釣り竿を垂らす事となった。

 

 

 

「あれがそうかい。驚いたね、本当に二時間で来たよ………」

 

 テアトルシャノワールの支配人室から、朝日の中に溶け込んでいる影に気付いたグランマは、驚きながら抱いている愛猫ナポレオンを撫でてやる。

 毛を逆立て、光学迷彩で姿を隠したまま近づいてくるカルナダインを威嚇するナポレオンに、グランマはそれをなだめようとするが、やがてナポレオンは窓際から逃げ出してしまう。

 それと入れ替わりに、メルが支配人室を訪れる。

 

「支配人、通信入りました。降りれる場所の有無を聞いてますが………」

「さすがにあれだけデカイとね………郊外の飛行船発着場を押さえられるかい?」

「連絡します」

「支配人、貿易商の加山さんが緊急の要件が有るとかで来てますけど………」

「ああ、通しておくれ」

 

 今度はシーが入れ替わりに報告に来、グランマ以外に自分の正体を知らない事を理由にカルナダインに同乗してきたが、途中で先に降りてテアトルシャノワールに向かった加山が、大神からの親書を手に支配人室へと訪れる。

 

「お久しぶりです、グランマ」

「こちらこそお久しぶりだね、ムッシュ加山」

「まずはこれを」

 

 そう言いながら、加山は親書を手渡し、グランマは半ば飛ばし読みで大体の内容を読んでいく。

 

「そうかい、そっちは相当すごかったようだね………」

「ええ、帝国華撃団だけでは対処出来なかったでしょう」

「それはこっちも同じだよ。今はウィッチの子達は半分程は休んでるよ。うちの子達は先程の通信でエリカの無事を聞くまで、何か手がかり無いかと探しまわっててね。全員過労で休ませたばかりさね。起こしてこようか?」

「お疲れならまた後で。まずは治療が必要な子を先に」

「そうかい、正直色々お手上げさ」

「私は少し市街の情報収拾を」

「頼むよ、こっちは後片付けで手一杯さ」

 

 一礼して下がる加山に続いて、再度メルが支配人室を訪れる。

 

「支配人、客人が参りました」

「お通ししな」

 

 入ってきた二人の人物に、グランマの眉が僅かに跳ね上がる。

 

「お初にお目にかかります、超惑星規模防衛組織チルダ所属、ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》です」

「扶桑海軍所属、宮藤 芳佳そう、じゃなくて少尉です!」

「あたしが巴里華撃団司令さ、グランマと呼んでおくれ」

 

 タイトなボディスーツ姿の若い女性と、海軍の軍服に身を包んだ少女というアンバランスな二人組に、グランマは判断に迷うが、大神からの親書に従う事にする。

 

「それじゃ早速、治療が必要な方はどこですか?」

「地下の医務室さ。容体は安定してるけど、これ以上どうしたらいいか分からなくて困ってる所だよ。メル、案内しておあげ」

「分かりました」

「他二名程もカルナダインを繋留したら来る予定です。治療と情報収集が終わったら、次はニューヨークに向かいます」

「忙しいこったね。リボルバーカノンをすぐに使えるようにしとくかね………」

 

 メルの案内で地下へと向かう二人を見送りながら、グランマはぼやきながら、大神からの親書を再度読み直す。

 

「華撃団クラスで対処しきれない超次元的災害の可能性在り、とはね。あんなの見なかったら正気を疑う所だよ、ムッシュー………」

 

 

「こちらです」

 

 案内された医務室には、ベッドに寝ている少女と、その脇にいる別の少女の姿が有った。

 

「貴女方が、連絡の有った………あ、502のジョーゼット・ルマールです。ジョゼでいいですよ」

「元501の宮藤 芳佳です」

「宮藤、ああエイラさんとサーニャさんが言ってた、有数の治癒魔法の持ち主の方ですね」

「トリガーハートのクルエルティアよ。よろしく」

 

 芳佳とクルエルティアと交互に握手したジョゼだったが、早速ベッドで寝ている少女、吹雪の方を向く。

 

「私の治癒だと、ここまでが精一杯で………」

「ちょっと待ってて」

 

 まずクルエルティアが前へと出ると、センサーを総動員して吹雪をサーチしていく。

 

「これは………」

 

 突然クルエルティアの前に現れる解析情報にメルは目を丸くするが、解析結果に今度はクルエルティアが目を丸くする。

 

「驚いた………身体構成は人間と全く一緒、けど構成成分が人間ではありえない物が多いわ。有機部分には治癒が効くと思うけど、後はカルナダインの設備を使うしかないわね」

「じゃあ、ここで出来るだけはしておきますね」

 

 それを聞いた芳佳が魔法力を発動、吹雪の治療へと入る。

 

「う………」

 

 そこで吹雪が目を覚まし、そばにいる人影に気付く。

 

「ここは………」

「巴里華撃団本部の医務室です。貴女は負傷されてここに保護されました」

 

 周りを見る吹雪にメルは端的に説明するが、吹雪の視線は自分に治癒魔法を施す芳佳へと向けられる。

 

「これは………」

「私の固有魔法の治癒能力です。完全に治せるかは分かりませんけど、楽にはなると思いますよ」

「治しきれない部分は、こちらで直すわ。そのために私達は来たのだから」

「一体、これは………」

「さて、どこから説明したらいいのやら? これだけは言えるわ。ここは貴女のいた世界とは、別の世界だって事が」

「え? それは一体………」

「私達も、違う世界から来たんです。詳しい話は、治療が終わってからしますね」

「実はこちらも理解出来てないんですけど………」

 

 クルエルティアと芳佳の説明に吹雪は首を傾げ、ジョゼも少しばかりバツの悪い顔をして頬を掻く。

 

「これで、大体大丈夫だと思います」

「う~ん、芳佳さんの治癒でここまでだと、かなり特殊な体の作りしてるようね」

「艦娘は、古の戦闘艦の魂を宿し、具現化した存在なんです。本来は専用の入渠設備が必要なんですけど………」

「魂を具現化? どういう意味?」

「さあ………」

 

 今度はクルエルティアと芳佳が首を傾げる中、吹雪がふとある事に気付く。

 

「そう言えば、深海棲艦は!?」

「あの怪物の事? それなら全部倒しました」

「え?」

「私達ブレイブウィッチーズと、巴里華撃団の総力を上げてね」

「そんな、深海棲艦は艦娘でしか倒せないはず………」

「言ったでしょ、ここは違う世界だって。もっとも似たような事やってる人達ばかり集まってるから、対処出来る人達がいても不思議じゃないわ」

「はあ………」

「とにかく、カルナダインへの搬送用意を」

「分かりました」

 

 釈然としない吹雪だったが、クルエルティアの指示でメルが搬送準備へと入っていく。

 

「さて、あとしなければいけないのは………」

 

 

「これで、多分大丈夫ね」

「随分原始的な方法だがな」

 

 持参した重力通信装置を、半ば強引に巴里華撃団の通信設備と接続したフェインティアとムルメルティアは一息ついた。

 

「電波を一度出力して再変換なんてね。こういう手もあるのね………」

 

 手伝っていたポクルイーシキンが、見た事もない通信装置への変換方法に無駄に関心していた。

 

「思いついたのは宮藤博士よ。一度未来に飛ばされただけあって、こういう事に機転が効くみたい」

「通信網の確率は戦術的にも戦略的にも必須事項だ」

「それは分かってるわ。地元の人達が協力的だったってのも幸運でしたけれど」

「それじゃあ、繋いでみますね~」

 

 接続が終わった通信装置を起動させたシーが、すぐに表示された画面を見て安心する。

 

「あ、繋がりました」

『シーさん、通信回線の接続をこちらでも確認。以後有事に備えて常時繋いでおくようにとの大神司令からの指示です』

「分かりました~」

 

 繋がった先、こちらも重力通信装置を繋いだらしい帝国華撃団のかすみからの通信にシーが変動する。

 

「こちらは今宮藤さんという方が負傷者を治療中、処置が終わったらカルナダインとかいう飛行船に移動させて完治させるそうです~」

『詳しい事情も聞きたいので、出来ればこちらに連れて来てほしいそうです。この後、カルナダインはニューヨークに向かうそうですし』

「忙しいですね~」

「という訳で次行くわよ次」

「あれとそれね………」

 

 

「これは………」

 

 カルナダインに娘と一緒に同乗してきた宮藤博士が、回収された怪物=吹雪が言う深海棲艦の遺体を見て絶句していた。

 

「何か分かるかい」

「見ただけでは、なんとも」

「こっちも何が何だかわかりゃしないよ」

 

 様子見も兼ねて案内してきたグランマだったが、怪物としか言えない存在の断片に、険しい表情をするしかなかった。

 

「後天的に改造されたのかと思ったが、違うようですね。完全に装備と融合している」

「こっちの解析班も首を傾げるよ。これじゃあ、初めからこういう姿で生まれてきたとしか思えないって」

「あるいは、その通りなのかも」

「………全然笑えない冗談さね。もっと悪い事教えてあげるよ。実は、似たような物のデータが華撃団にはある」

「え………」

「帝国華撃団が戦った事があるという怪物、《降魔》。それと幾つか類似する部分があるんだよ。もう少し詳しい話を聞きたいんだけど、まだ治療中じゃあ聞けやしない」

「………降魔の詳細データを帝国華撃団から送ってもらって、相互解析する必要がありますね」

「こっちじゃ調べきれないから、サンプルは好きなだけ持っていきな。もっともこちらで厳重に封印梱包する必要があるだろうけどね」

「お任せします。次が…」

 

 宮藤博士は、更に別の物へと取り掛かる。

 そこには、巴里華撃団の整備班が吹雪から取り外された装備を調べていた。

 

「何か分かったかい」

「グランマ、大体ですが、どうやらこいつは霊子甲冑と同じ用途で造られたらしいって事が分かってきました」

 

 整備班長のジャンが分かった事を報告してくる。

 

「つまりは、霊力かそれに類似した力を使う事を前提としていると」

「そういうこった」

 

 宮藤博士の仮説に、ジャンは頷く。

 

「それだけじゃない。変わった部分も有る。例えばこれだ」

 

 巴里華撃団と一緒に調べていたラルがそう言いながら片手を宮藤博士とグランマの前に差し出す。

 

「何がだい?」

「いや…」

 

 そこに何も無い事にグランマは首を傾げるが、宮藤博士にはラルの手の上に何かがぼんやりと見えた気がした。

 

「やはり見えないか………」

「お父さん、こっちは終わりました。後はカルナダインで…」

 

 説明に困るラルだったが、そこに治療を終えた芳佳が現れ、ラルの差し出した手に気付く。

 

「うわ、かわいい! 何ですかこれ!?」

「? 何かいるのかい」

「え、見えませんか?」

「他にも試してみたが、どうやらウィッチと華撃団にしか見えないらしい」

「私のセンサーでも何かエネルギー体がいるらしい事しか………」

 

 そう言いながらラルは手のひらにいる物、作業服のような物を着て工具を持った小人を撫でてやる。

 ラルの肩にいたブライトフェザーも肩から腕を伝って降りてきながら目をこらしているが、見えている様子は無かった。

 

「吹雪が言うには、装備は艤装と呼ばれ、この小人、妖精と呼ぶらしいが、この子達によって運用されるらしい」

「へ~、変わってますね」

「ウィッチと華撃団、という事は霊力や魔力を持った人間にしか見えないという事か」

「吹雪を連れて行くなら、この子達も忘れずにな。見えない人間の方が多いらしい」

「分かりました」

「艤装も持っていきな。使う当人が一緒の方が調べやすいだろうし」

「分かりました。一刻も早く、修理する必要もあるでしょうし」

「………そうかい」

「前もそうだったしね」

 

 宮藤博士の漏らした言葉の意味を一瞬で悟ったグランマとラルが、二人そろって険しい顔をする。

 

「そうだ! ジョゼさんに聞いたんですけど、エイラさんとサーニャちゃんが行方不明って本当ですか!?」

「本当よ。てっきり、こっちに来てるのかと思ったんだけど………」

「別の場所か別の世界か、恐らくこれからもっと増えるだろう」

「あっちもこっちも行方不明者だらけかい。ひどい話さね」

 

 グランマのぼやきは、現状を一番端的に表わしていた………

 

 

『有機部分の治癒はほぼ完了しています』

『無機部分の修復開始、2~3時間もあれば完治出来ると推測』

「そんなに早いんですか!?」

 

 搬送されたカルナダインのトリガーハート用整備ポッド内で、カルナとブレータが吹雪の状態を診断、トリガーハートや機械人のデータを元に修復作業に取り掛かるが、予想時間に吹雪が驚く。

 

「生体部分はジョゼさんと芳佳さんが治してくれてたし、機械人のデータに似てたから。普段はどうやってるの?」

「あ、入渠って言いまして、専用の活性剤を入れたお風呂に浸かるんです。ただ、空母や戦艦の人達は丸一日以上掛かる事もあるんですけど………」

「チルダでは考えられない原始的な方法ね………」

 

 クルエルティアが吹雪の説明に眉を潜めるが、再度カルナやブレータが出した吹雪の身体データを精査する。

 

「つくづく変わってるわね………機械改造でもないのに、ここまで機械的特徴を備えているなんて」

「それが艦娘です。まあ、私も細かい所は分からないんですけど………」

「詳しい話は後で聞かせてもらうわ、直るまで休んでなさい」

「はい、そうさせてもらいます」

 

 吹雪が目を閉じるのを見たクルエルティアは、ブリッジへと向かう。

 

「カルナ、ニューヨークの状況はまだ不明?」

『はい、かなり大規模な転移と思われる時空湾曲の余波が確認されてますが、その影響のためか、通常電波での通信は不通のままです』

「やはり、こちらが終わったらすぐ向かうべきね………彼女を積んだままになるけど」

『艤装と呼ばれる専用装備は、カルナダインでも整備は不可能です。華撃団、もしくはウィッチの技術が必要と推測』

「似たような技術があるだけ運がいいわね。私達も前回、機械化惑星で直してもらったし」

 

 ブレータの報告に前回の事を思い出しつつ、クルエルティアは嘆息する。

 

「宮藤博士とフェインティアに連絡、搬送物資を積みこんだら、すぐに出発。加山隊長は?」

『市街地を探索中の模様、呼び戻しますか?』

「こちらの準備が終わってからでいいわ。諜報はさすがにトリガーハートの仕事じゃないし」

『了解です』

 

 あれこれと状況を整理しつつ、クルエルティアは新たに入手した情報をまとめて追浜へと送信していく。

 

「………あまりに展開が早過ぎるわね。華撃団に蒼き鋼、それに艦娘………向こうが幾ら戦力が有ると言っても、この世界にここまで戦力を集める物かしら?」

『そうですね。Gの情報だと、他にも転移してきている人達いそうですし』

『ニューヨークにもいるのは確実でしょう。ただ、規模がかなり大きいので追浜基地クラスの転移の可能性が高いです』

「………まずはニューヨークで何か起きてるかを確かめてからね。壊滅状態、って事は無いと思うけれど………」

『クルエルティア、そっちはどうなってるの?』

「フェインティア、治療は順調よ。そちらは?」

『通信機器は問題無いわね。念のため、しばらくこっちに留まろうかと思うんだけど』

「そうね、機動性のある戦力がいた方がいいかもしれないわね」

『まんざら、知らない連中でもないしね。前にイミテイトに脳天から突っ込んだウィッチ、またやったらしいわよ』

「よく無事ね………」

 

 クルエルティアが呆れる中、外部映像に厳重に封印梱包されたコンテナが搬送されてくるが見えた。

 

「カルナ、運ばれてきたサンプルは二番格納庫にAクラス搬入、多重ロックして」

『了解、そんなに危険なんですか?』

「分からないわ。そもそも私達とは違う技術の産物だもの。もしもの時は、芳佳さんに頼る事になるかも知れないわね」

『深海棲艦の対処法を早急に考慮する必要があると思われます』

「ブレータ、向こうの武装神姫から戦闘データもらって詳細解析をお願い。私達で対処できるかどうかを確かめておく必要があるわ」

『了解、今回は敵の正体が分からない事ばかりです』

「その通りよ。ひょっとしたら、今もどこかで誰か戦ってるかもしれないわ………」

 

 

 

「む?」

「どうしたコンゴウ?」

 

 コンゴウが何かに反応したらしい事に、釣った魚を一部干し魚に加工しようかとしていたエイラが気付く。

 

「ここから10km程先、戦闘が起きているようだ」

「何だっテ!?」

「待って………本当みたい。ウィッチとは少し違う反応と、すごく不気味な反応がある」

「急ゲ! 誰かは知らないケド、ほっとくわけにはいかないダロ!」

「分かった」

 

 サーニャも魔導針を発動させて確認、エイラが魚をさばいていたナイフ(※サバイバルキットの一つ)を前方に向け、コンゴウが頷くと同時にいきなり船体を加速させる。

 

「うわァ~!?」

「きゃっ!」

 

 あまりの急加速にエイラとサーニャは甲板にひっくり返り、さばいていた魚がその上に降り注ぐ。

 

「いい加減、物事ノ限度を覚えロ!」

「急げと言ったのはそちらだ」

「エイラ、急いだ方がいいみたい。苦戦してる………」

「分かっタ! でもこれ以上スピードだすナ!」

 

 脳天から開いた魚をかぶりつつ、エイラが怒鳴る。

 コンゴウが水上艦としては信じられない速度で海上を突っ走り、やがて目標が見えてくる。

 

「居たぞ」

「四人、それに攻撃してる敵が多数いるみたい。援護しないと」

「速度落とせコンゴウ! 誰かは知らないけド、多分こっちと似たような状況ダ!」

「援護すればいいのだな」

 

 そう言いながらコンゴウは艦速を落とし、各種兵装が一斉に動き出す。

 

「ちょっと待テ…」

「一掃する」

 

 エイラの制止も聞かず、コンゴウは各種兵装を斉射、無数のビームやレーザーが水平線の向こうに見える影へと発射されていった。

 

 

「もう、なんでこんなに!」

 

 セーラー服に軍帽を被った小柄な長い黒髪の少女が、水面を滑走しながら手にした小型の砲を連射する。

 

「包囲が狭まってきている。ここで迎え撃つしかない」

 

 同じくセーラー服に軍帽姿、こちらは銀髪の寡黙な少女が、黒髪の少女に背を預けるようにして同じく砲を連射していた。

 

「右舷から新手!」

「左舷からも!」

 

 隣で同じセーラー服姿のよく似た顔立ちの栗色の髪の二人の少女、片方は勝ち気そうな、もう片方は穏やかそうな雰囲気の少女が、腰に装備した魚雷を同時に発射しながら叫ぶ。

 彼女達の周囲には、青白い炎を灯した魚類や半端に人の形をした異形達が押し寄せ、劣勢は明らかだった。

 

「どうにかして退路を確保しないと!」

「もう背後にはあの島しか残ってない」

「それこそ袋のネズミよ!」

「あそこには博士がいるのです! 何としてもここで…あれ?」

 

 四人の少女が焦りを覚える中、何かの反応が有ったかと思った瞬間、無数の光が飛来し、異形達へと直撃する。

 

「きゃああ!」

「これは!?」

「何なのよ~!」

「解らないのです!」

 

 光が振りそそいだ場所からすさまじい水柱が吹き上がり、四人の少女達は悲鳴を上げる。

 周辺がしばし荒れ狂い、やがて落ち着きを取り戻した頃には、四人以外の動く影は見当たらなかった。

 

「す、すごい………」

「攻撃? 今のが?」

「あ、あれ見て!」

「何か来るのです!」

 

 四人が唖然とする中、こちらに向かってくる異質な艦影に気付く。

 

「あれが、さっきの?」

「かなり巨大、戦艦のようだが………」

「あんな真っ黒な?」

「しかも変な模様が光ってるのです」

 

 波間に浮かぶ異形達の破片をかき分けながら迫ってくる異質過ぎる戦艦に四人は警戒するが、やがて手前で停止すると、甲板から人影が見える。

 

「お~い、無事カ?」

「怪我は無い?」

 

 呑気に声をかけてきた二人の少女に、四人は顔を見合わせ、取り敢えず敵ではないらしいと判断して頷く。

 

「こっちは無事よ! さっきの攻撃は、貴方達が?」

「こいつがやったんだけド…」

 

 海面に浮かび、小型の砲塔や魚雷発射管を付けている変わった四人組にエイラが内心首を傾げつつ、背後にいるコンゴウを指差す。

 

「まったく、これはやり過ギ…じゃない! サーニャ右なんダナ!」

「分かった」

 

 突然そこでエイラが叫び、サーニャがフリガーハマーを構える。

 破片と思っていた異形の一部が、突然コンゴウの船体へと向けて砲撃を放ってくる。

 

「何!?」

 

 完全に直撃させたはずの相手からの反撃に、コンゴウは困惑するが、エイラとサーニャは甲板の上から攻撃してくる異形達を迎撃する。

 

「こっちも行くわよ!」

「残敵を掃討する」

「私達はこっちへ!」

「これならなんとかなるのです!」

 

 四人の少女達も即座に左右に分かれ、掃討に入る。

 

「まだ動けるのなら、侵食兵器を…」

「何か知らないケド、巻き込みそうだからヤメろ!」

 

 再度兵装を起動させるコンゴウを怒鳴りつけながら、エイラは次々と動き出す前の異形達を銃撃し、完全に破壊していく。

 

「エイラ、これ………」

「魔力の攻撃に弱いんダナ、生き物っぽいケド………」

 

 コンゴウの砲火に耐えた異形達だったが、ウィッチの攻撃や四人娘の攻撃の前にはもろくも崩れていく。

 それに違和感を覚える二人のウィッチだったが、程なくして掃討を終えた。

 

「どういう事だ………」

「あいつらニ聞けばいいダロ。階段出セ」

「分かった」

 

 未だ首を傾げているコンゴウだったが、下の四人が手慣れた対応をしている事に、何かを知っていると判断したエイラがコンゴウに命じてフィールドの階段を作らせる。

 

「こっちに来て。いろいろ話したいから」

「………分かったわ!」

 

 すこし悩んだ少女達だったが、リーダー格らしい黒髪の少女が返答し、おっかなびっくりフィールド製の階段を登ってくる。

 

「こりゃまた、随分ちっちゃいナ………」

「これでもレディよ! 馬鹿にしないで!」

「ゴメン、私はオラーシャ陸軍586戦闘機連隊所属ウィッチ、サーニャ・V・リトヴャク中尉」

「スオムス空軍第24戦隊所属ウィッチ、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉なんダナ」

「中尉!? 失礼しました! 私は横須賀鎮守府所属艦娘、第六駆逐隊・暁型一番艦、暁です!」

「暁型二番艦・響」

「暁型三番艦・雷よ」

「暁型四番艦・電なのです」

 

 自己紹介をした暁型艦娘達に、エイラとサーニャは顔を見合わせる。

 

「新顔、なんダナ」

「変わった反応してる、ベースは人間みたいだけど………」

「あの、そっちの人は?」

 

 そこに恐る恐る電がコンゴウを指差す。

 

「私は霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ」

『え??』

 

 コンゴウが名乗ると、艦娘達は一斉に疑問符を口にする。

 

「霧の、コンゴウさん?」

「人違い?」

「でも、戦艦って………」

「そっか、博士が言ってたパラレル存在なのです?」

 

 四人が口々に言う中、幾つか聞こえた単語にエイラとサーニャが反応する。

 

「博士って誰ダ?」

「パラレル存在って事は、状況が分かってるの?」

「私達、資材集めの遠征中だったの」

「そうしたら、突然すごい霧と竜巻に巻き込まれた」

「それで、気付いたら全然違う海域にいて、無線も何も通じなくなってたのよ」

「仕方なく、見かけた島に一時上陸しようとしたら、そこに博士がいて色々教えてくれたのです」

「正直、パラレルワールドとかいうのは全然分かんないけど、さっきので分かったわ」

 

 暁がじっとコンゴウを見つめ、コンゴウは首を傾げる。

 

「で、その博士ってのはドコにいるんだ?」

「あの島なのです!」

「すぐそこ、流れ弾当たってないよね?」

「人間らしい反応は感知出来てたから、一応外した」

「島端っこ焦げてんだガ………」

 

 艦娘達が指差した小さな島に、コンゴウは船体を寄せると、ボートを下ろす。

 

「この船他に誰も乗ってないんだ」

「全部こいつが動かしてんダと」

「すご~い」

 

 艦娘達は自前の艤装で島へと向かい、エイラ・サーニャ・コンゴウがボートが乗り込むと、ボートは勝手に島へと向かう。

 

「アレ、エンジンついてたかコレ?」

「必要ない。これ位なら簡単に動かせる」

「なんか光ってる………」

 

 ボートの船腹にコンゴウの船体と同じ模様が浮かんでいる事にサーニャが気付く中、ボートは島の砂浜部分へと辿り着く。

 

「確かに誰かいるナ」

「そうだね」

 

 砂浜に大きく石や枝で造られたSOSを見ながら、三人は先に上陸した艦娘達の後を追う。

 

「博士~」

「お客さん! 何か知ってるみたい!」

 

 暁と雷が声をかけると、林の中から人影が現れる。

 

「あ」

「貴方達………」

 

 互いの顔を見たウィッチと人影が絶句する。

 

「周王さん?」

 

 それは、かつて攻龍に乗っていたソニックダイバー開発責任者、周王 紀里子に他ならなかった。

 

「何でここニ?」

「それはこっちの、と言っても多分状況は同じでしょうね」

「あれ? 知り合いなのですか?」

「貴女達に話した、私の乗ってた船に一番最初に乗り込んできたパラレルワールドのウィッチ、それが彼女達よ」

「周王さんがいるって事は、アイーシャやソニックダイバー隊の人達も?」

 

 サーニャの問に、周王は首を左右に降る。

 

「ここにはいないわ、けどこの子達の話を聞く限り、一致してる事が一つある」

「霧の竜巻」

「ラストフライトのデモ飛行中だったソニックダイバー隊がそれに巻き込まれたのは私も見たわ。けれど、同時に入院していたアイーシャの病室も霧に包まれて………」

「確かに同じパターンなんダナ」

「私もそうだ」

 

 そこで今まで黙っていたコンゴウが口を開く。

 

「そちらの人は?」

「霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ」

「カルナやブレータの同類っぽいんだナ」

「あの赤い戦艦の物理AI? 一体何時から来たの?」

「私がいたのは西暦2056年だ」

「2056年?」

 

 それを聞いた周王が眉を潜める。

 

「私がいたのは2085年よ、どう見てもオーバーテクノロジーの産物に見えるのだけれど」

「私は霧だ。人類に造られたのではない」

「またその言い方カ? 一体どういう意味ナンダナ?」

「そのままの意味だ。それ以上は私自身分からない」

「なんか、ホントに私達の知ってる金剛さんと全然違う………」

「パラレルワールドって怖いのです」

 

 それぞれが口々に言う中、周王はしばし考え口を開く。

 

「つまり、今ここにはソニックダイバーの世界、艦娘の世界、ウィッチの世界、霧の世界から来た者達がいる。全員が霧の竜巻に巻き込まれ、見知らぬ所に飛ばされ、仲間とも通信が途絶している」

 

 周王の言葉に、艦娘、ウィッチ、メンタルモデルが一斉に頷く。

 

「だとしたら在り得る可能性が一つ、ここはそのどの世界でもない。全員が全く知らない世界に飛ばされている可能性があるって事」

「マジかよ」

「私達の通信機の通信範囲にいないだけって事は」

「在り得るわね。実は大体だけど場所は分かってるの」

 

 エイラとサーニャが顔を見合わせる中、周王はポケットから携帯端末を取り出す。

 

「GPSに接続出来なかったから正確とは言えないけど、大体の緯度と経度はこれで観測出来たわ。ここは太平洋の中央部、やや西よりね」

「………考えてたけど、マジで太平洋かよ」

「他には?」

「バッテリー切れを起こしてて、これ以上は………」

「貸してくれ」

 

 完全に沈黙している携帯端末を借りたコンゴウはグラフサークルを展開。

 

「きゃっ!」

「これは?」

「あ~、こいつ何かする時こんなん出るんダ」

「私達のこれと似たような物みたい」

 

 驚く艦娘達に、サーニャは使い魔の耳と尻尾を出してみせる

 艦娘達がそちらにも驚く中、コンゴウの手の中で携帯端末が再起動する。

 

「!? 何をしたの?」

「ナノマテリアルでバッテリーを再活性させた。ついでに中の情報もコピーさせてもらった」

「この短時間で? そんな事が………」

 

 周王が驚く中、コンゴウは目の前に半透明の地球儀を投影、携帯端末のデータを元に現在地を表示させる。

 

「うげ、ここかよ………」

「確かにこれじゃ通信届かないね、私の固有魔法でも」

「おかしいのです、こんな所まで来る予定は無かったのです」

「地球なだけマシだぞ。全然違う星に行ってたって仲間も居タ」

「ともかく、今後について…」

 

 まとまらない話に、周王が一度中断しようとした所で、変わった音が響く。

 

「?」

「あの………」

 

 音がした方向を見ると、電が恥ずかしそうにしていたが、再度その腹から小さな音が響く。

 

「持ってた糧食食べつくしちゃって、今日は何も食べてないのです」

「そうだったわね」

「あ~、魚で良かったラ、釣ったのあるから食うカ?」

「いいの!?」

 

 エイラとの一言に艦娘全員が目を輝かせる。

 

「という事は、周王さんも」

「私じゃサバイバル知識も無くて。端末頼りに食べられそうな物探してたら、あっという間にバッテリー切れで困ってたの」

「じゃあコンゴウ、戻って飯ダ飯」

「いいだろう」

 

 ボートと艤装でコンゴウ(※船体)に戻り、甲板にぶちまけられていたさばいてる最中だった魚に皆が苦い顔をするが、綺麗に洗ってコンロで焼きに入る。

 

「取り敢えず、座標が分かったノはよかったんダナ」

「問題は、どの地球か分からないって事ね」

「私達は鎮守府に戻らないと! あ、そろそろ焼けたかしら」

「でも、そもそも鎮守府があるか分からない。お皿ある?」

「皿、こうか」

「うわ、急に現れた!」

「すごいのです、あとお箸は?」

「箸、これか」

「これ、菜箸って奴。鳳翔さんがお料理の時に使ってる………」

「食事用の箸はもう少し小さい奴」

「小さく、これくらいか」

「早々これくらい。とりあえずいただきます!」

「お醤油がほしい所です」

「確かにね。それと状況は好転、とは言い切れないわね」

 

 皆が口々に色々言いながら焼いた魚をつつく中、コンゴウは先程周王の携帯端末からコピーしたデータを見直していた。

 

「ソニックダイバー、これがそっちで使われていた装備か」

「ちょっと、まさかロックしてた機密データまでコピーしたの!?」

「そうか、あれはロックだったのか」

「あ~、こいつ常識すらない世間知らずだかラ、言うだけ無駄ナンダナ」

「この際だから、お互い持ってる情報は交換してた方が」

「交換出来る程の情報があれば、なんだけどね」

 

 自分の分を食べながら、周王がため息をもらす。

 

「取り敢えず、一緒に行動するのがいいんダナ」

「そうね………それしかないわね」

「この船は強い、防御には最適だ」

「でも、どこに向かうの?」

「それなのです………」

 

 暁型四姉妹の指摘に、皆が顔を見合わせる。

 

「………取り敢えず、日本に向かいましょう。誰かの世界だったら、連絡が取れるかもしれないわ」

「もし私の世界だったら、問答無用で攻撃されるぞ」

「その前に私ラだけ降りて近寄ればいいダロ」

「せめて、通信が繋がれば状況が分かるんだけど」

「この世界の通信環境も分からないんじゃね………」

「とにかく、ご飯が終わったら出港の準備よ!」

「島から僅かだが運ぶ荷物もある」

「私らも手伝うゾ。コンゴウはその間にもう五人寝れるようにしておケ」

「確かに、あの部屋じゃちょっと狭いかも」

「周王博士は監修頼ム。艦内見れバ、こいつの常識外れ分かるゾ」

「お願いね。あと海岸のSOS片付けてくれる?」

 

 食事を終えた艦娘は艤装で、ウィッチはストライカーユニットで島へと向かっていく。

 

「ベッドルーム………なるほど、こうすればいいのか」

 

 コンゴウは先程周王の携帯端末からコピーしたデータから辞書ツールを検索し、ベッドルームの制作へと取り掛かる。

 

「組成を自由に変えられるの?」

「私もこの船体もナノマテリアルで出来ている。その気になれば何にでも作り変える事は出来るが、兵装以外を作ったのはあの二人が来て以後だ」

「ひょっとして、それまで人間と接触した事は…」

「一度だけ有る。その結果、私は異端と判断され、色々な物を失った」

「そんなに人間といる事は、霧とやらには危険な事なのかしら?」

「………分からない、今でも。これから先、どうすればいいのかも」

「じゃあどうして、ウィッチ達と一緒にいて、艦娘達を助けたの?」

「………それも分からない。だが、数日だがあの二人といて不快ではなかったし、救援の申し出を断る気もしなかった」

「気に入ったって言うのよ、それは」

「そうかそういう物か………」

 

 しばし何かを考えていたコンゴウだったが、そこでいきなり周王の方に振り向くと、先程コピーした地図を投影する。

 

「通信途絶の件だが、一つの可能性がある」

「これは………」

 

 周王は投影された地図に、奇妙な縞模様が描かれている事に気付く。

 

「先程の端末からコピーした位置情報と地図、そして私の観測データを相互照合してみた。ここが私が出現したポイント、ウィッチの二人もほぼ同一。そしてこっちがあの島周辺、次元転移とやらの影響で、周辺空間の歪曲が確認出来ている。通信途絶の原因の可能性が高い」

「待って、じゃあこれは………」

 

 周王はそう言いながら地図のある一点、他の二つとは比べ物になら巨大な渦が描かれているポイントを指差す。

 

「ここから大分離れているが、それでも観測出来る程の巨大な空間湾曲だ。もしこれが次元転移による物なら、相当な巨大質量だという事だ」

「………前の戦いで巨大な敵が出てくるのは何度も見たわ。けどこの船体が転移したのと比べても、巨大過ぎる………」

「何かが、ここに来るのか、来ているのか」

「どうするの? 行ってみる? 少し回り道になるけれど」

「………判断材料が無い。これが敵なら、私だけでは対処出来ないかもしれない」

「判断材料が何か分かるまで、あの子達にも黙っていた方がいいかもしれないわ」

 

 深刻そうな顔をしていた周王だったが、そこでもう一つの懸念要素を呟く。

 

「私がここに一人いたのは、実は理由があるの。アイーシャの病室が霧に包まれた時、アイーシャは咄嗟に私を突き飛ばしたのよ。『狙いは私だ』って叫んで」

「狙いは、私? アイーシャ・クリシュナム、彼女か」

 

 コピーしたデータから該当人物を検索したコンゴウだったが、付随したデータに僅かに眉を動かす。

 

「ナノマシンとの融合体? そちらではこんな事をしているのか」

「あくまで彼女のは治療のため、そして地球を救うための物だったわ。けど、アイーシャが狙われるとしたらそれしか考えられない………」

「ならば、私達も?」

「次の狙いがこの中の誰か、の可能性も高いわ」

「正体不明の敵、か。霧と相対した人類もこんな感じだったのだろうか………」

 

 波間の向こう、姿すら見えぬ幾多の謎を感じながら、コンゴウは呟いた………

 

 

 

「う~、さすがにこの歳だとちときついか………」

「おはよう、ソニックダイバーの状態は?」

「おはようございます、嶋少将。何とか全機整備完了しました。ただ…」

 

 早朝、伸びをしていた大戸に早起きした嶋が声をかけ、整備状況を確認する。

 その二人の背後では、二連続徹夜でソニックダイバー全機を整備した他の整備班が、半ば躯となって転がっていた。

 

「臨戦態勢を取るには、整備の人員を増やさなくてはな」

「83式まで臨戦態勢となると、そうなりますな。華撃団の連中に手伝ってもらうにも、技術格差はいかんとも出来ませんし」

「問題は山積みか………物資の搬送もGに頼るしかないのではな」

 

 嶋も難しい顔をする中、そこに場違いなベルの音が響き、一台の自転車がやってくる。

 

「朝刊で~す」

「………契約した覚えは無いのだが」

「米田さんからですよ」

 

 そう言いながら数束の朝刊を差し出してきた新聞配達に、嶋は首を傾げながらも受け取る。

 

「情報操作はこちらでしておきました、ご安心ください」

 

 渡し際に囁かれた言葉に、嶋は相手がただの新聞配達員ではない事に気づくが、あえてそれを口には出さなかった。

 

「朝刊なんて、久しぶりに見ましたな」

「ああ、こちらでは新聞自体無くなって久しいからな。一つどうかね?」

「片付け終わってから見るんで、食堂にでも。みんな見たいでしょうし」

「若い連中は新聞自体見るのも初めてだろうがな………」

 

 そう言いながら、嶋はコーヒーでも飲みながら読もうかと食堂へと向かっていく。

 残された大戸は、工具をしまいかけた体勢で寝息を立てている整備班達を取り敢えず格納庫の控室へと運ぶ事にしていた。

 

 

「え~と、暁ノ襲撃、帝國華撃団奮戦ス………」

「帝國華撃団新戦力!? 天空舞ウ乙女達大活躍!」

「帝都ノ怪異? 小サナ妖精ガ市民ヲ救ウ?」

「敵カ味方カ? 謎ノ御嬢様仮面、帝都ニ出没………」

 

 食堂にあった朝刊を、起きてきたソニックダイバー隊やウィッチ達が目を通す。

 

「冬后さ~ん、私達勝手に帝国華撃団の一員になってるんですけど~?」

「そうしときゃ都合がいいだろ」

「アーンヴァルも載ってるな、ボクのは無い?」

「写真もピンボケなのはわざとだろうな」

「あの、なんで私だけこんなはっきり映ってるのかしら………」

「そりゃ全部ピンボケじゃ話にならないからな。小さい写真だからいいだろ」

 

 感心したり呆れたりしている面々を前に、冬后も流し読みで内容に目を通す。

 

(肝心の所は巧みにぼやかしてるな、上手い情報操作だ)

「ちょっと、私とバッハが映ってないんだけど!」

「金髪だと目立つからじゃないでしょうか?」

「これ家のおみやげに貰っていいかな?」

「日付考えなさい………」

 

 皆でワイワイと騒いでいる中、ふと音羽は外にプレハブの建物が増えている事に気付く。

 

「あれ、何か増えてる?」

「ああ、香坂財団で用意した転移装置を設置するそうよ。次元転移を安定させるためにね。一番最初にユナ達が来る事になってるわ」

「え!? ユナちゃん来るの!?」

「そろそろ設置が完了するから、出迎でもする?」

「するする!」

 

 嬉々として食堂を出て行く音羽をポリリーナは見送りながら、再度新聞に目を通す。

 

「エルナーが来たら、再度対策会議だそうだな」

「ええ、対策がまとまれば、の話だけれど」

 

 隣で同じように新聞に目を通していた美緒に、ポリリーナはエルナーでもまとめられそうにない状況に思わずため息をもらす。

 

「香坂財団は全面協力してくれるそうよ、元から異世界と交流する予定が幾つか段階飛ばす事になったそうだけれど」

「それだけでもありがたいな。兵站が無くては戦えん。そういえば今頃、土方がこちらの世界に502が転移してきた情報を上層部へ報告しているだろう。さすがに他人事ではいられない筈だ」

「問題は蒼き鋼ね、まだ返事は保留してるし」

「それはそうだろう、いきなりこの状況は経験が無かったら我々でも混乱するからな」

「あの戦力はすさまじいけれど、どう説得するべきか………」

 

 二人が思い悩む中、外から話し声が聞こえ、転移してきたらしいユナとユーリィにエルナー、そしてエリカ・フォンティーヌを音羽達ソニックダイバー隊がにこやかに出迎えていた。

 

「来たようね、私も行ってくるわ」

「そうか、おや?」

 

 ポリリーナが席を立とうとした所で、美緒がもう一人長い黒髪を二つに分けた少女がいる事に気付いた。

 

「あれはミサキではないか?」

「あら本当? 来るなんて聞いてなかったんだけど………」

「あるいは、本業か」

 

 その最後の一人がかつて共に戦った光の戦士の一人 一条院 美紗希、またの姿を銀河連合評議会安全保障理事局特A級査察官、コードネーム『セイレーン』だという事を知っている二人の顔が僅かに険しくなる。

 

「私も行こう。彼女には前回世話になったし、少し聞いておきたい事もある」

「そうね」

 

 二人が食堂を出ようとした時だった。

 突然甲高い警報音が鳴り響く。

 

「何事だ!?」

「まさか、敵襲!?」

 

 

「到~着!」

「久しぶり!!」

「音羽ちゃん!! 元気だった!?」

「うん!」

「ボクもいるよ~」

 

 転移してきたユナが、出迎えてくれた音羽+ヴァローナに破顔して駆け寄り、お互い手を握りしめて勢い良く降る。

 

「まさかこんな形で会う事になるなんてね」

「お久しぶりです」

「相変わらずね」

「皆さんお久しぶりですぅ!」

「事情は聞いています。無事で良かったですね」

 

 他のソニックダイバー隊も迎える中、ユーリィとエルナーも挨拶をかわす。

 

「この人達が、ユナさん達のお仲間なんですね?」

「うんそう! あ、この人は巴里華撃団のシスター エリカ・ファオンティーヌさん」

「エリカ・フォンティーヌです。よろしく!」

「ソニックダイバー隊の桜野 音羽。こちらこそ!」

 

 にこやかにエリカと音羽が握手する中、転移装置からもう一人出てくる。

 

「あら、貴女は…」

「お久しぶりね、ソニックダイバー隊」

「確かミサキさん、でしたね。前回は色々お世話になりました」

「お互い様ね、今回は仕事で来たから」

「仕事?」

 

 ユナの後ろに続いてきたミサキの言葉に、瑛花は前に聞いた彼女の職業を思い出す。

 

「香坂財団研究所に不穏な動きあり、の調査に赴いたら、ユナにばったり会って」

「どうせだから一緒に行こうって誘ったんだ♪」

「で、来てみたらこうなっているとはね………」

「外見たらもっと驚くわよ? 蒸気機関のパワードスーツに重力兵器搭載の潜水艦もいるから」

「………エルナーが呼ばれた理由がなんとなく分かったわ」

 

 エリーゼの説明に取り敢えず現状を確認しようと、何か話しながらプレハブから出て行くユナの後をミサキは追う。

 そしてプレハブから数歩出た時、甲高い警報音が届いてきた。

 

「何? 何?」

「こちらの警報じゃないわ!」

「え? え?」

「指揮所はどこですか!?」

「あっち!」

 

 困惑する皆だったが、エルナーが素早く聞いた事に音羽が指揮管制室を指差す。

 

「何かが起きたようです!」

「敵襲!?」

「で、でも何も見えないような………」

 

 エリーゼと可憐が周囲を見回すが、敵影も転移ホールのような物も見当たらない。

 エルナーはいち早く、飛行できる利点を持って指揮管制室へと飛び込んでいく。

 

「何が起きました!?」

「何事だ!」

 

 偶然にも、エルナーと共に門脇少将も管制室へと飛び込んでくる。

 

「Gから緊急警報です!」

『こちらオペレッタ、該当メガバース内に大規模な時空湾曲反応、大規模次元転移と思われます』

「場所は!」

『正確な座標は検索中、概算だと東経172°、北緯25°近辺』

「つまりそれは………」

「太平洋、だと?」

 

 

「太平洋だあ?」

「………はっきり言えば、ここからじゃ何も出来ませんね」

「しかし、今度は何が………」

「今に分かるだろうマスター」

 

 突然の警報に帝国華撃団司令室に飛び込んできた米田とかえで、大神+プロキシマがその報を聞いて唖然とする。

 

『質量、超大規模。何らかの大型施設の可能性あり』

「………今度は要塞でも現れるってのか?」

「覚悟はしておいた方がいいかもしれません」

「さすがに要塞は勘弁してほしいな」

 

 米田の冗談に、大神は半ば本気で答え、プロキシマは引きつった笑みを浮かべる。

 

「けど、そもそも何が起きてるかも調べようがないわ?」

「そうなんだけどな、ただあちらだとどうかな?」

「何かあればいいんですが………」

 

 

「大規模転移!? 今度は何が来るの!?」

「分からないわ!」

「亜乃亜さん、エリューさん! 現地に向かって!」

 

 もたらされた情報に、追浜基地内も混乱し始め、ジオールは偵察に飛んでいた二人を急遽確認に向かわせる。

 

「どいてください!」

「危ないわよ!」

 

 そこへ、何かの発射装置のような物をエミリーとマドカが運んでくる。

 

「それは…」

「香坂財団で用意していた観測衛星よ。本当は最終調整してお昼に打ち上げる予定だったのだけど………」

「調整は打ち上げてからしよう! カウントダウン省略!」

「発射!」

 

 エミリーが発射スイッチを押すと、全天候型小型観測衛星が小型重力カタパルトから超高速で発射されていく。

 

「うひゃあ!」

「すごい速度ね」

「最新型ですから。目標高度まで5、4、3」

「目標高度到着、衛星展開」

「データリンク開始、各通信施設に接続」

「観測開始、観測データ補正プログラム起動」

「目標座標まで移動開始します」

「私達も指揮所へ! 何か分かるかもしれないわ!」

 

 手早く衛星を操作していく二人に周囲の者達は唖然としていたが、ミサキの一言に慌てて指揮管制室へと向かう。

 

「ミサキ!」

「美緒! 来てたの」

「まあな、だが今はそれよりも…」

「ええ」

 

 途中合流した美緒と共に、誰もが我先に管制室に向かい、狭い管制室は半ば寿司詰めとなっていた。

 

「押すな!」

「見えない~」

「落ち着け! 何か分かれば知らせる!」

「映像、来ました!」

 

 口々に誰もが喚く中、七恵の一言に全員が一斉に画面に視線を集中させる。

 画面には、前回同様の霧の竜巻が、ただし画面端の縮尺から、それが前回とは比べ物にならないサイズだという事が見て取れた。

 

「でけぇ………」

「この規模、Gでも数えるくらいしか………」

「今度は、何だ?」

「分かりません………」

 

 冬后、ジオール、美緒、アーンヴァルがそれぞれ呟く中、やがて霧の竜巻は晴れていき、何かが姿を表す。

 それは複数の建築物で構成された、施設のような物だった。

 

「これは………」

 

 

「おいおい、マジかよ………」

「大型施設がまるごとか」

「私達なんて可愛い物だったようね」

 

 401のブリッジで、警報で集まったクルーやメンタルモデル達もその映像を見つめていた。

 

「この世界の地図情報を信じるならば、そもそもこの座標には島は存在してません。施設とそれを支える土地。合わせての転移という事になります」

「どれだけの質量と体積になんのよ?」

「見当もつきません………」

『だが、これは何だ?』

『軍事施設には見えないが…』

 

 僧といおりがあまりの異常さに愕然とする中、通信枠にハルナとキリシマも表示される。

 結局昨夜は蒔絵と共に帝国劇場に泊まったハルナ(※頭部にナイトキャップ付き)とキリシマ(※両耳にリボン付き)が映像を精査していき、首を傾げる。

 衛星が施設上空をスイングバイしながら複数角度から観測した情報で3Dモデルが制作、各所に表示されていくが、それを見た誰もが違和感を感じていた。

 

「何か、不自然ですね?」

「複数の建物が融合しているような点が見られます。元からだとしたら随分と前衛的ですが」

「つうかさ? これ、何かに似てね?」

「………やっぱそう見えるよね?」

 

 静と僧も違和感を感じる中、杏平といおりは建物の種類や配置に、ある事を連想していた。

 

「これ、グラウンドだよな? トラック書いてるし………」

「こっちのは体育館に見えるし………」

「じゃあこれは校舎でしょうか? 小さいですが、人影も見えますね」

 

 杏平といおりが連想している物を画像を当てはめ、僧も二人の言わんとする事を悟る。

 確かに小さい上に不鮮明だが、スポーツウェアや制服らしき物を来た人影も複数写っていた。

 

「群像、これって………」

「ああ、オレにもそう見える。これは、学校だ」

『学校?』

「艦長、当たりかもよ」

 

 イオナと群像も結論付け、タカオが唖然とする中、ヒュウガが3Dモデルのある一点を拡大、修正していく。

 

「これは、校章?」

「ってことはマジで学校かよ!?」

「しかし、二つありますが?」

「どういう事でしょう?」

「さあ………」

 

 ヒュウガが見つけた校章らしきエンブレムは、ISのアルファベットを意匠化した物と、帝の漢字の意匠化した物の二つが確認出来た。

 

「まさか、二つの学校が融合している?」

「群像、これ………」

 

 イオナが画像のあるポイントを指差す。

 大型のアリーナのような建造物の中央に、大型パワードスーツのような物を着た人影と、プロテクターのような物をまとった人影が複数あった。

 

「どうやら、ただの学校じゃないようだな………」

 

 群像の過程が現実として認識されるのは、然程時間はかからなかった………

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP11

「う~ん………」

 

 ふらつく頭を振って、少年は目を開ける。

 

「えと、オレは………」

 

 どちらかと言えば穏やかな顔立ちをした少年、織斑 一夏はどこか混乱する中、何をしていたかを思い出す。

 

(そうだ、オレは箒に誘われて早朝訓練を…)

 

 同級生で幼なじみと共に、訓練をしていた事を思い出した一夏は、自分の手を見る。

 その手のみならず、彼の全身は白を基調にしたパワードスーツで覆われていた。

《インフィニット・ストラトス》、通称ISと呼ばれる飛行パワードスーツ、本来なら女性しか扱えないはずのそれを、何故か唯一動かせる男性として、IS操縦者育成を目的としたこのIS学園に在学していた彼だったが、そこである事に気付く。

 

「む~~~!」

 

 何らかの理由で地面に尻もちを付いていた一夏だったが、その腹の辺りに何かもがく存在がいた。

 

「………何だこれ?」

 

 最初に目に入ってきたのは、何か尖った金属質の物体だった。

 しかもそれがゆっくりとだが、回っている。

 

「ドリル?」

「むが~~~!」

 

 更にそこで、ドリルの下から小さな手足がもがいている事にようやく気付き、それがドリルのような物を被った人影だという事に思考が辿り着く。

 

「え、と………」

「ぶはぁ!」

 

 ようやく、一夏の腹でもがいていた人影が顔を起こす。

 それは金髪碧眼、それでいてかなり小柄な少女だった。

 

「ちょっとあんた! 危ないでしょ! 何でいきなり出てくるの!」

「え? え?」

 

 金髪でドリルを被った少女が、顔を上げるなり顔を荒げる。

 

「オレには何がどうなってんだか………」

「何って、私が練習中にいきなり前に出てきて邪魔したんでしょ! 串刺しになっても知らないんだから!」

 

 そこまで言われ、一夏は改めて少女をよく見る。

 少女の体は各所プロテクターのような物に覆われ、その右手には明らかに武器と思われる巨大なドリルが握られていた。

 

「IS、じゃない?」

「パンツァー見た事ないの? そっちこそ何よそのゴツいの?」

「これはオレ専用ISの《白式》だ。そちらは…」

「一夏!」「どりす! 周り見ろ周り!」

 

 こちらに掛けられた声に、二人は同時に振り向く。

 声の先には長い黒髪を持ち、赤いISをまとった少女と、プロテクターをまとった褐色の肌の少女がいた。

 

「周り?」

「それが…」

 

 一夏とどりすという名らしい少女が同時にそれぞれ左右別方向を見る。

 そして同時に凍りついた。

 

「な………」

「え………」

 

 それは、自分達が先程までいたはずの練習場と、そうでない物が入り混じった奇怪な空間だった。

 

「ここは…」「どこ~!?」

 

 二人が同時に発した問は、その後幾つも響く事となっていった………

 

 

 

「つ、何が起きた!」

「わ、分かりません! 急に霧が起きて、そこから竜巻が…」

「そこまでは覚えているのですけど」

 

 学園の管制室で、ちょっとした作業をしていた者達が、情報をまとめようとして違和感に気付いた。

 

「誰だお前!? この学園は関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

「いつの間に!?」

「それはこちらもなのですが………」

 

 スーツ姿に鋭い目つきをした女性、IS学園教師にして一夏の姉の織斑 千冬と、メガネをかけた温厚そうな顔をした女性、千冬の同僚の山田 真耶が、先程までいなかったはずのロングヘアーでメガネをかけたおだやかな女性に思わす声を掛ける。

 

「織斑先生! これ!」

「な、これは………どうなっている!?」

 

 真耶がふと管制室の画面に映る光景に異常が起きている事に気付く。

 

「し、周辺が360°全部海に!? しかも見た事の無い建物が混ざっています!」

「何だと!?」

「あの、これはこちらの学校の建物ですね」

「それって………」

「間違いありませんわ。これは私がいた東方帝都学園の一部です。あら、申し遅れました、私は東方帝都学園特別講師の、瑠璃堂どりあと申します」

「………IS学園教師一年一組担任の織斑 千冬だ」

「同じく、副担任の山田 真耶です」

 

 慌てた様子がほとんど見られないどりあに違和感を覚えつつ、千冬はどりあが差し出した手を握る。

 

(あら、この人………)

(かなり、出来る………)

 

 一瞬で互いに只者ではないと判断したどりあと千冬だったが、今はそれよりも優先事項が幾つもあった。

 

「山田先生、生徒の安全確認を」

「はい!」

「何故かは分かりませんけど、お互いの学校がいきなり合併したみたいですわね」

「………普通は物理的に合併はせんがな」

「それはそうですけれど」

「IS学園の生徒は全員無事を確認しました! けれど、所属不明の反応が多数!」

「多分それはこちらの生徒だと思いますわ。ざっと見ですけれど、建物が一部だけという事は、総数はそれ程多くないはず………」

「双方合わせての総数は?」

「双方合わせては………823人!?」

「………本校全生徒教員の倍になってるな」

「あら、こちらの一部だけで済んでますわ。もしこちらの全部だったら、桁が一つ上がってますし」

「………何が一体どうなっているんだ?」

「さあ………」

「取り敢えず………」

 

 

 

「成る程、ISという特殊兵器操縦者の方々専門の学校なんですのね」

「ああ、そちらはそのパンツァー専門という訳でないのだな?」

「ええ、多く在籍はしてるのですけれど」

 

 取り敢えず、無事だった食堂(※ただしこちらも合併して巨大化)で朝食を取りながら、どりあと千冬は双方の事情を確認していた。

 

「ともあれ、ここが無事だったのは不幸中の幸いだったな」

「食事が取れなくなるのは、一番の問題ですし」

「おそらく今朝用の調理済み料理は揃ってましたけど、厨房には誰もいませんでしたね」

「一体、どういう基準で人がここに来てるんでしょうか?」

「さあな。何がどうなっているのかはさっぱり分からん」

「お互い、霧の竜巻に飲み込まれたという所までは一致してますが、それが何だったのか………」

「攻撃、というのも変だな」

「何か狙いがあるのは…」

「何ですって~~!!」

 

 そこで、食器が転がる音と共に大きな怒声が鳴り響く。

 二人が振り向くと、そこには小さな体で仁王立ちするどりすと、その前で慌てている一夏の姿が有った。

 

「いやすまん、別に悪く言うつもりは…」

「言った! 今絶対言った!」

 

 一夏が謝るが、どりすは構わず声を荒げる。

 

「何をしている一夏」

「あらあら、どうしたのどりすちゃん」

「千冬姉………」「どりあお姉さま」

 

 近寄ってきた千冬とどりあに、一夏とどりすが双方姉の姿を確認する。

 

「あら、弟さん?」

「ああ、そちらは妹か。で、何がどうなっている?」

「こいつがパンツァーの事を馬鹿にした!」

「オレは、簡易的なISみたいかなって言っただけで………」

「また言った!!」

 

 明らかに一夏の失言と、必要以上に騒ぎ立てるどりすに千冬はため息をもらす。

 

「落ち着けどりす」

「だってねじる!」

 

 どりすの後ろから、同じ練習場にいた褐色の肌の少女、我王 ねじるが肩を掴んでどりすを諌める。

 

「馬鹿にはしてないと思うぜ。ただ、下には見られてるな」

 

 どりすを止めつつ、ねじる自身も鋭い殺気を一夏へと向ける。

 

「いや、あの…」

「焦るな一夏、中学生相手に」

 

 一夏が焦る中、同じく練習場にいた黒髪の少女、篠ノ之 箒が落ち着くよう促すが、その一言が火に更なる油を注いだ。

 

「中学生だから下ってのか?」

「いや、年下相手にムキになる必要は…」

「聞き捨てなりませんわね」

「どういう意味かしら?」

 

 気付くと、双方の背後にそれぞれの学園の生徒が集まり、にらみ合いが始まっていた。

 

(これ、ひょっとしてオレが原因?)

 

 双方殺気を飛ばし始めた所で、一夏が更に焦る。

 必死になって打開策を思案する一夏だったが、そこで小さく手を打つ音が響いた。

 

「それじゃ、戦ってみましょう」

『え?』

 

 どりあの予想外の一言に、全員が絶句するしかなかった。

 

 

 

『皆さん、お待たせしました! 何故か突然に物理的合併をしてしまった東方帝都学園とIS学園! 何が起きているか全く分かりませんが、片やパンツァー、片やIS、似て非なる二つの存在が、今ここでぶつかろうとしています!』

 

 東方帝都学園のパンツァー闘技場、IS学園のアリーナと融合して若干設備が混じっているが、システム自体には異常が無かったため、急遽生徒達はそこに招集され、これから始める試合を前に歓声が上がっていた。

 

『実況はこの私、東方帝都学園一年80組・報道部所属 銀乃つばさ、解説は』

『IS学園一年一組副担任、山田 真耶がお届けします』

『それでは、簡単に説明を。パンツァーとは各自の能力が具現化した能力(アビリティ)を素材とした鎧(重甲)をまとい、武器(ツール)を使い闘う特殊能力者の事を言います。東方帝都では10人に1人がパンツァーである程一般化しており、当学園にも多くのパンツァー達がパンツァーリーグで日々ランキングを競い合っております!』

『次はこちら、ISは天才科学者、篠ノ之 束博士が開発した、開発された宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツですが、その驚異的な性能により兵器転用されましたが、国際条約により現在はスポーツとして扱われております!』

『画して、この似てるようで違う二者ですが、試合の基本ルールは一緒、相手を攻撃してエネルギーゲージをゼロにした方が勝ち! 極めてシンプルです!』

『今回は互いの性能差を考慮し、若干のルール改定が行われております』

『ルールはパンツァーバトルを基準とし、三分間2セット、間に一分のブレイクが入ります! 相手をダウン出来ない場合はポイント勝負、また今回は特別ルールとして、ISの飛行は許可されますが、一定以上相手から距離を取るのはルール違反、一回で警告、二回で減点、三回で試合放棄と見なされ失格となりますので、注意してください!』

『また、今回は双方の交流も目的となるため、チームでの星取り戦形式となります』

『それでは双方、そろそろ出場選手が決まった模様です!』

 

 

「なんか、妙な事になったような………」

「だが口論するよりは建設的かもしれん」

 

 ISチーム控室で一夏が引きつった顔をするが、箒はむしろ嬉々とする。

 そしてその二人を中心に、一年生の専用機持ちの生徒達が集結していた。

 

「それで、誰が出るの?」

 

 やるき満々の小柄なおさげの中華系少女、一夏のセカンド幼馴染で中国代表候補生の凰 鈴音(ファン リンイン)が拳を手のひらに叩きつける。

 

「五人となると、二人余りますわ」

 

 長い金髪で碧眼、そして上品な仕草のイギリス代表候補生、セシリア・オルコットがその場にいる者を見回し、指折り数える。

 

「原因の一夏は当然として、あと四人か………」

 

 僅かに伸ばした金髪を後ろで束ね、どこかボーイッシュなフランス代表候補生、シャルロット・デュノアがまず一夏を指差し、その後指を迷わせる。

 

「あ~、その事なんだが」

「実は…」

 

 小柄で銀髪、さらに眼帯をしているどこか硬い雰囲気のドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒと水色の髪でどこか弱気そうな雰囲気をした日本代表候補生、更識 簪が手を挙げる。

 

「織斑教官から、学園の現状調査を命じられた」

「私とラウラさんの二人、それにあちらからも人が来るそうです」

「ラウラと簪がいないなら、ちょうど五人か」

「なら面倒が無くていいわね! 先鋒、私が行くわ!」

「構いませんわ」

「ボクもいいよ」

 

 鈴音の宣言に、セシリアとシャルロットは了承、そこで試合開始間近のアラームが鳴る。

 

「準備はできてるかお前達」

「いつでもいいわよ織斑先生!」

「先鋒は鳳か。いいだろう。それではボーデヴィッヒと更識は調査の方を頼む」

「了解であります」

「それじゃ」

 

 様子を見に来た千冬に、鈴音は元気よく答え、自分の専用機・《甲龍》を展開させる。

 赤と黒を基調とし、せり出した肩部と双刃型青龍刀・《双天牙月》を手にした甲龍をまとった鈴音は、試合開始の合図を待ち構えた。

 

 

 

「という訳で、急ですが皆さんに試合をしてもらう事になりました~」

「それは別に構わないんですけれど」

「どりあ様が言うのでしたら」

「ただ………」

 

 どりあの招集で、東方帝都学園中等部の中でもパンツァーランク上位者、長いおさげ姿のどこか皮肉な雰囲気の高枝 はさみ、ショートカットで丁寧口調の栗奈 のずる、ランクトップで髪を肩口まで伸ばした光井 あかりが頷きながら、視線を隣にいるどりすとねじるに向ける。

 

「私達はともかく、どうしてあの二人が?」

「あら、元々の原因の二人には出てもらわないと困るでしょ」

「前回の引き分けで、ランクは一応上がってますしね」

「じゃあどの順で出る? ランク順?」

「やだ! 私が大将やる!」

「お前、意味分かってるのか?」

「あらあら。ここは公平にじゃんけんで決めたら?」

「そうね、それじゃあ」

『じゃんけん…ポン!』

 

 

 

『それでは先鋒戦、パンツァーチーム、二年57組、高枝 はさみ! パンツァーネーム・ラージコーン ビートル! ISチーム、一年二組、鳳 鈴音! 使用機体・甲龍!』

 

 観客席の生徒達が一斉に歓声を上げる中、出場選手の名が告げられ、試合開始のカウントダウンが始まる。

 

『3、2、1、スタート!』

 

 カウントゼロと同時に、双方のベースゲートが開き、両者が飛び出す。

 

「3分と言わず、30秒で片付けてあげる!」

 

 意気揚々と飛び出した鈴音だったが、そこで相手のはさみの姿を確認する。

 

(両手に大型シザー、見るからに近接戦用ね。だったら!)

 

 そのままの勢いで激突するかと思われた両者だったが、直前で鈴音は甲龍を急上昇させる。

 

「ギリギリの距離から、砲撃戦で…」

 

 パンツァーの飛行能力は低い、と聞いていた鈴音は規定距離限界まで一気に上昇しようとする。

 

「そう来ると思ってたわ」

「え…」

 

 だがそこで、急上昇したはずの甲龍の真正面にはさみがいるのに気付く。

 

「てえぇぇ~!」

 

 鈴音の顔が驚愕している隙に、はさみが右手のシザーを思いっきり相手へと切りつけた。

 

「きゃあぁ!」

『ラージコーン ビートル、ファーストヒット!』

 

 実況のつばさの興奮した声が響く中、続けて左手のシザーを繰り出すはさみだったが、鈴音は双天牙月でかろうじてそれを防ぐ。

 

「ちょ、これどうなって…」

 

 訳が分からない鈴音だったが、その視界に背部のホバーバーニアで体勢を整えながら着地し、素早く背後に回り込もうとするはさみの姿が入ってくる。

 

「こいつ、動きが早い! そっか、飛んだんじゃなくて…」

 

 振り向いた鈴音の前に、再度はさみが現れ、今度は左右の連続シザーアタックを繰り出すが、なんとかそれを防ぐ。

 

「ちっ!」

「貴方、何m跳べるのよ!?」

 

 限界まで距離を取ろうとした鈴音だったが、相手が楽々そこまでジャンプしてきたという事実に、今更ながらルールの意味を悟っていた。

 

『鳳選手、再度の攻撃は喰らいませんでしたが、パンツァーの力は思い知った模様です!』

『私も驚きました、三次元機動力はIS程ではありませんが、機体運動性はいい勝負のようです』

『両選手、ここからどう動くでしょうか!?』

「なら、近付けないだけよ!」

 

 鈴音は高度を下げながら、両肩の空間圧作用兵器・衝撃砲《龍咆(りゅうほう)》を連射、はさみは巧みにフィールド内の建築物の影を縫って不可視の砲撃をかわしていく。

 

『鳳選手、砲撃戦に持ち込みたいが、ラージコーン ビートル、巧みに動いてそれを防ぐ! あっと、今かすめました!』

『甲龍の龍咆は砲身、砲弾共に不可視のため、回避は極めて難しいんですよ』

『しかしラージコーン ビートル、ここで一気に加速! 鳳選手これに答えた!』

 

 大型シザーと双天牙月がぶつかり合い、双方が至近距離で睨み合う。

 

「結構便利なの持ってるわね、当たらないけど」

「そっちこそ、中々やるじゃない。それにかすってるわよ」

 

 互いに笑みを浮かべてにらみ合いながら鍔迫り合いを演じるが、やはりパワーはISに分があるらしく、じわじわとシザーが押し込まれていく。

 

(長期戦はまずい!)

 

 はさみは鍔迫り合いから力をこめて弾きながら、後ろへと跳ぶ。

 

「そこっ!」

 

 鈴音は好機とばかりに龍咆を叩きこもうとするが、はさみはシザーで地面を大きく穿ち、即席の煙幕にする。

 

『ラージコーン ビートル、距離を取りました! 正面戦闘は不利との判断でしょうか!?』

『いい判断ですね、サイズから見てもパワー勝負は難しいと思います』

 

 一進一退の攻防に、実況・解説も熱が入り、観客席も更にヒートアップしていく。

 

「そんな手で!」

 

 鈴音はIS特有の全方位視界感知のハイパーセンサーで即座に相手の位置を探り、背後に回った事に気付くとそちらへと龍咆を向ける。

 しかしそこで、相手が右のシザーに何かを装填し、それを高々と上へと掲げる。

 

「何それ? 降伏かしら?」

「その、逆よ!」

 

 はさみは一気にシザーを振り下ろす。

 そこからすさまじい衝撃波が発生し、地割れとなって鈴音へと迫っていった。

 

「え…」

 

 全く予想外の事態に、反応が遅れた鈴音はそれをまともに喰らい、それでもなお地割れは収まらず、フィールドを大きく両断していく。

 

『出ました! ラージコーン ビートルの必殺技、フォールドシザー! 鳳選手、一気にエネルギーが減っていきます!』

『これはすさまじいとしか言いようがありません………ISでもここまでの出力は中々ありません』

 

 IS学園側が絶句する中、東方帝都学園側は歓声を上げる。

 ちょうどそこで、前半終了のアラームが鳴り響いた。

 

『ここでブレイクタイムです! 後半戦はどのような戦いになるのでしょうか!?』

 

 

 

「いい展開よ、はさみ!」

「けど、前半でフォールドシザー使って倒しきれなかったの痛いわね」

「あの至近距離なら仕留められるかと思ったんだけど」

 

 システムチェックを受けるはさみの両脇で、のずるとひかりがそれを手伝う。

 

「これで向こうの特性が大体分かったな」

「兵装は複数、高度な三次元機動力、パワーも上のようね。けど、運動性やブリットチャージの出力は負けてないわよ、充分勝機は有るわ」

 

 先ほどのバトルの画像を見ながらねじるとどりあが呟く。

 

「つまり、ガッツンガッツン行けばいいって事?」

「行ければだけどな」

 

 熱気に当てられたか、興奮しているどりすにねじるは呆れた顔をする。

 

「後半戦、始まるわよ」

「今度こそ!」

 

 はさみはチェックシートから跳ね起きて、シザーを構えた。

 

 

 

「鈴大丈夫か!?」

「あ、アレくらい平気よ!」

「シールドエネルギー、もう半分以下になってますわよ………」

 

 戻ってきた鈴音に一夏が心配そうに声をかけるが、当の鈴音は胸を張る。

 だが、セシリアが言う通り、ダメージは深刻だった。

 

「向こう、結構やるね」

「ああ、まさかあそこまで運動性が高いとは。それにあの技、とんでもない威力だ」

「軽装だからと舐めてかかるからだ」

 

 シャルロットと箒が先ほどの戦闘を分析する中、千冬は厳しい声を掛ける。

 

「あの大技、次に食らったらまずいぞ」

「分かってるわよ!」

「初戦から負けたりしないようにお願いしますわ」

「ここから逆転するわ!」

 

 戦意は衰えていない鈴音は、鼻息を荒くしながら後半戦に備えた。

 

 

 

「随分盛り上がってるようだな」

「鈴、結構危ないみたいですけど」

「お、あんたらか、そっちの調査班は」

「よろしくお願いします」

 

 試合の状況を確認していたラウラと簪だったが、そこにやたらと気さくな関西弁の少女とメガネを掛けた無愛想な少女が話しかけてくる。

 

「こっちの分の案内する事になった愛野 のぞみや、よろしうな」

「天野サイコです」

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「更識 簪です」

 

 互いに自己紹介しながら、握手をかわす。

 

「それにしても、状況がけったいすぎて、どこから調べたらいいんやろ………」

「まずはライフラインだ、電気関係の配線と水道関係のパイプラインを調べる必要があるだろう」

「その通りですね」

「あれ、私さっきトイレに行きましたけど、電気も水もちゃんと来てたような………」

「そういやそうやな? 食堂も使えたし」

「………まずは向こうの明らかに融合している建物を調べよう」

「あれ半分ウチらの学生寮や」

「もう半分こっちの学生寮です………」

「同じ役割の建物が融合しているのか?」

 

 のぞみと簪の言葉に、ラウラは違和感を覚える。

 

「偶然、にしては出来過ぎだな」

「確かに。先ほどの食堂もでしたが、校舎等も同じように融合している模様です」

「人為的、な現象なのでしょうか?」

「これが? どないしたらこないな事出来るちゅうんや?」

 

 融合している学生寮へと入りながら、四人は口々に意見を述べつつ、電気配線や水道管を調べていく。

 

「うげ、これどれがブレーカーや………」

「でも照明や空調は普通に動いてます………」

「こっちの水道管もすごい事になっているぞ」

「水は普通に出ています。成分も問題ありません。ただタンクの容量が問題ですが………」

 

 手持ちの機器やISのセンサーなどを利用して調査を進めていく四人だったが、ある所で足が止まる。

 

「………ここって、物置やったよな?」

「そちらだと、物置ってこんな頑丈なんですか?」

「どう見ても違う物です、そちらのでは?」

「………見覚えがある。だが、学園の物ではない」

 

 学生寮の中に、異常に頑丈そうな鉄扉という違和感が有り過ぎる存在が鎮座していたが、その扉に眼帯を付けた黒うさぎのエンブレムが描かれている事にラウラが眉根を寄せる。

 

「? 何か聞こえへん?」

「まさかとは思うが、今連絡を…」

 

 何か鉄扉の向こうから異音が響いてくるのに気付いたのぞみが顔を近づけようとし、ラウラは携帯電話を取り出すが、その直後に鉄扉から何かが突き出してくる。

 

「おわぁ!?」

「何事です!」

「これって、ISの腕!?」

 

 のぞみ、サイコ、簪が慌てる中、ラウラはその腕に見覚えが有った。

 そのまま腕は強引に鉄扉を開き、中から一騎のISが姿を表す。

 

「突破口確保!」

「何をしている、クラリッサ」

「え、隊長!?」

「あ、本当に隊長だ!」

「なんで?」

 

 ISに騎乗していたラウラと同じ眼帯を付けた女性にラウラが問いかけ、向こうが驚いた所で、後ろから続々と同じ眼帯を付けた軍服姿の若い女性達が姿を表す。

 

「何や、知り合いなん?」

「私の部下達だ」

「我々はドイツ軍特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ、通称黒ウサギ隊であります!」

 

 ISに騎乗していた女性、副隊長のクラリッサが名乗りながら敬礼し、部下達もそれに続いて敬礼する。

 

「成る程、雰囲気からひょっとしてと思ってましたが、軍人でしたか」

「まあな、だが………」

「隊長、この方達は? そもそもここは………」

 

 サイコが何か納得した顔をしていたが、状況を全く理解出来ないクラリッサが周囲を見回す。

 

「ここはIS学園、と言っていいのかどうか分からない場所だ」

「どういう意味です?」

「右と左、よく見てみい」

 

 ラウラもどう説明するべきか悩むが、のぞみが左右の手でそれぞれの方向を指さし、その先に明らかに作りの違う学生寮が並んでいるのを見させる。

 

「理由は全く分かりませんが、私達の東方帝都学園と、こちらのIS学園が突然どこかの海上に融合した形で現れたのです」

『………は?』

 

 サイコの端的な説明に、黒ウサギ隊は全員間の抜けた声を思わずもらす。

 

「もっとも他にもあったようですが」

 

 サイコは今壊された鉄扉の中、多少ゴチャついてはいるが、整備ハンガーや複数のターミナルが並ぶ黒ウサギ隊の本部に顔つきを険しくする。

 

「これ以上は私達も調査中だ。これより黒ウサギ隊は全力を持って我々の調査をサポートせよ!」

『了解!』

 

 説明を受ければ受ける程混乱している黒ウサギ隊だったが、隊長のラウラの命令に全員が一斉に返礼する。

 

「………この調子やと、他にも妙な連中来てるんちゃうか?」

「かもしれません………」

 

 状況が更に混沌としていく予感に、のぞみと簪がため息をもらす。

 そこで、簪のかけていたメガネ型端末にある情報が表示された。

 

「次の試合が始まるみたいです」

「お、先鋒戦の結果どうなったん?」

「それは…」

 

 

 

 異音と共に、半ばから砕けたシザーが宙を待って地面へと突き刺さる。

 それに僅かに遅れて、接合部が破損した青龍刀が離れた場所に突き刺さった。

 

『喰らえっ!』

 

 期せずして同じ言葉を叫びながら、至近距離でフォールドシザーと龍咆が激突する。

 周辺をすさまじい衝撃波が荒れ狂う中、鈴音が甲龍の装甲に物を言わせて強引に衝撃波の渦を突破、はさみへと向けて残った双天牙月を叩き込んだ。

 

「きゃああぁ!」

『あ~っと、ラージコーン ビートル、今の一撃でエネルギー残量0! ダウン、KO判定です! 先鋒戦、勝者は鳳選手!!』

 

 勝者報告に、観客席から一際大きな歓声が飛び交う。

 

「ざっとこんな物よ」

 

 胸を逸らしながら、鈴音は控室へと戻っていく。

 

「やったな鈴!」

「ふふ、本気を出せばあれくらいどうって事ないわ」

「………エネルギー残量、11%と出ているが」

 

 勝利を喜ぶ一夏に鈴音はいかにもと言った顔をするが、箒は冷静に表示されている数値を読み上げる。

 

「クリーンヒットがもう一、二発入ってたらまずかったね」

「油断しすぎですわ」

「い、いいじゃない! 勝ったんだから!」

 

 冷静に分析するシャルロットとセシリアに、鈴音はむきになって反論する。

 

「ルール的問題云々よりも、純粋に相手は決して侮れる相手ではない、そういう事だな」

「う~ん、確かに」

「ちょっと!」

 

 箒が険しい顔をするのに一夏も同意し、鈴音が更に声を荒げる。

 

「ご心配なく。大体向こうの特性はわかりましたわ。今度はこのセシリア・オルコットが華麗に勝ってみせますわ」

 

 優雅に微笑みながら、セシリアが蒼い装甲が特徴の専用機・《ブルー・ティアーズ》を展開させる。

 

「幾ら大技を持っていても、私の狙撃技術なら充分先手を打てますわ」

「そう上手くいくといいのだがな」

 

 長大な銃身を持つ六七口径特殊レーザーライフル・《スターライトmkⅢ》を構えるセシリアに、今まで黙って話を聞いていた千冬が苦言を呈す。

 

「油断禁物だぞ、セシリア」

「大丈夫、一夏さんは安心して見ていてください」

 

 一夏に手を振りながら、セシリアは試合開始を待った。

 

 

「ごめん、負けちゃった………」

「おしかったです」

「大丈夫、取り返して上げるから」

 

 がっくりうなだれるはさみに、のずるとひかりが声を掛ける。

 

「確かにおしかったな、だがこれで勝機は充分あるって分かった」

「もうちょっとだったのに!」

 

 ねじるも声を掛ける中、どりすは勝手に怒っている。

 

「対策も無しに、あれだけ出来れば上等よ。次は誰だったかしら?」

「私です、セットフォーム」

 

 どりあも労いの声を掛ける中、友の敵を打たんと、のずるがパンツァーを発動、掃除機にも似た風変わりなアームを構える。

 

「それじゃ、行ってきます」

「頼んだわよ!」

「頑張って!」

「連敗は勘弁な」

「いっちゃえ!」

 

 他のメンバー達に声を掛けられる中、試合開始間近のアラームが鳴る。

 

『続けて次鋒戦、パンツァーチーム、二年55組 栗菜 のずる、パンツァーネーム・トルネード モーター! ISチーム、一年一組 セシリア・オルコット! 使用機体、ブルーティアーズ!』

「そう簡単に連勝とは行かせないわ」

 

 双方の次鋒紹介が響く中、のずるが闘志を高め、とうとう試合開始のアラームが鳴り響いた。

 待ち構えていた両者は、同時に飛び出し、そして同時に得物を相手へと向けて構えた。

 

 

 

「どうだ?」

「コンソールではシステムがこの室内以外には全く反応しません。他基地との連携から断絶しています。この状況だと当然ですが」

「非常安全措置が働いて閉じ込められてた訳だな」

「だから強行脱出したんか」

 

 のぞみの視線の先には大きくひしゃげた鉄扉が、そのままの状態になっていた。

 

「そちらはどうだ?」

 

 何故か寮の物置だった場所に現れた黒ウサギ隊基地の内部で、軍用通信機を操作していた部下にラウラが問うが、首を横に降るだけだった。

 

「全く電波が拾えんちゅうのはなんぼなんでもおかしいやろ?」

「携帯も完全に繋がらん。これはドイツ軍正規支給品の衛星回線使用モデルだぞ」

「えらい高そうなの使ってるわね。でも使えないなら私の市販品と一緒」

 

 ラウラとサイコが互いに自分の携帯電話を見ながら、顔をしかめる。

 

「電話もダメ、無線もダメっちゅう事か」

「通信電波全般が不通、という事になります。これは明らかに以上です。可能性は二つ。そもそも全く存在しないか、あるいは…」

「高度な電波妨害」

 

 のぞみが首を傾げる中、サイコと簪が二つの可能性を示す。

 

「前者は考えたくはないです。後者は………」

「もし後者ならば、明確な敵が存在するという証明になるからな」

 

 クラリッサが唸る中、ラウラは確信を付く。

 

「敵って、学園をいきなり強制合併した奴って事になるんか?」

「どんな技術を使ったら可能なのか、想像も出来ませんが………」

「でも、なぜこのような事をしたのでしょう?」

 

 のぞみと簪も首を傾げて唸る中、最大の疑問をサイコが口にする。

 

「両者を対立させるため、というのはどうでしょうか?」

「無理だ。ある程度の衝突は起こるだろうが、織斑教官がいる限り、全面衝突はあり得ない」

「こちらもどりあさんがいる限り無理でしょう。スーパーパンツァーである彼女に歯向かえる人は当学園に存在しません」

「つまり、どっちもお目付け役がいるって事かい」

 

 クラリッサの仮説をラウラとサイコがそろって否定、のぞみが更に首を傾げて唸る。

 

「結局、何も分からないって事ですか………」

「もっと詳しく調査しよう。引き続き通信を試みてくれ。他の物は校内を調査」

『了解!』

「まあ、手が増えるのはいい事やけど………」

「軍人というのはある意味好都合です。烏合の衆が増えても面倒なだけですから」

 

 急に増えた調査班にのぞみが微妙な顔をするが、サイコはいともたやすく了承する。

 

「これは、また奇怪な………」

「どうなってるんでしょうか?」

「それを今調べている」

 

 外に出た黒ウサギ隊は、資料で見た事の有るIS学園と全く見た事の無い東方帝都学園が融合している状況に、思い思いの声を漏らす。

 そこで、簪が再度試合の状況を受信した。

 

「次鋒戦、決着がついたみたいです」

「で、どっち勝ったん?」

「それは…」

 

 

 

「きゃああぁぁぁ!!」

 

 セシリアの悲鳴が、暴風と共に吹き飛ばされる。

 

「こ、これくらい!」

 

 慌ててブルー・ティアーズの体勢を建て直そうとするが、そこで警告音が鳴り響いた。

 

「しまいましたわ!」

『おっとオルコット選手、ここで二回目の距離超過! 減点で残エネルギーにマイナス補正がかかります!』

『これは、相性が悪いとしか言いようがありませんね………』

「くっ!」

 

 真耶の解説に、セシリアが歯噛みする。

 

「あんな兵装、あり得ませんわ!」

「それはそっちの話でしょ?」

 

 文句を言うセシリアに、のずるが再度掃除機にも似たアームを向ける。

 

「何度も同じ手は食いませんわ!」

 

 低空飛行に切り替えたセシリアが、のずるへと向かうがアームから放たれる強力な暴風にブルー・ティアーズが激しく揺れる。

 

『トルネード モーター、続けての暴風攻撃です! 敵を近付かさせない攻防一体の攻撃に、オルコット選手翻弄されております!』

『オルコットさんのブルー・ティアーズは遠距離狙撃機ですから、栗菜さんの中距離撹乱攻撃には弱いですね』

「そんなの分かってますわ!」

 

 思わず怒鳴りながら、セシリアは建物の影に隠れる。

 

「こ、このセシリア・オルコットが身を隠さねばならないなんて、屈辱ですわ………」

 

 全く予想していなかった攻撃に、セシリアが荒くなっていた呼吸を整え、物陰から狙撃体勢を取る。

 そこでFCS越しに、のずるがアームを上へと向けて何かを行っていた。

 

「何を…」

 

 ハイパーセンサーで確認しようとしたセシリアが、のずるの真上に小規模ながら、本物の竜巻が生じている事に仰天する。

 

「喰らいなさい!」

「そんな!?」

 

 解き放たれた竜巻は一気にセシリアへと迫り、離れようとしたセシリアを巻き込んでその体を弾き上げる。

 

「耐えなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

 必死になって機体を制御するセシリアだったが、かろうじて規定距離オーバーは防いだが、建築物へと叩きつけられて大きくエネルギーが減る。

 

「あうっ!」

『セシリア!』『大丈夫か!』

 

 心配した仲間達から思わず安否を問う通信が届くが、セシリアは苦悶しつつも僅かに笑みを浮かべる。

 

「見えてましたわ………」

 

 竜巻に飲み込まれる直前、分離していた射撃ポッドが、のずるを囲む。

 

「パンツァーの方達は、大技を使う前に必ず何かを兵装にセットしていました。つまりそれを使いきった今がチャンス!」

「!」

 

 射撃ポッドが一斉にのずるを狙うが、のずるはいきなりその場にしゃがみ込み、その背に有る背部ファンから強風が吹き出し、射撃ポッドを吹き飛ばす。

 

「そんな!?」

「あうっ!」

 

 驚くセシリアだったが、射撃ポッド全ては吹き飛ばせなかったらしく、放たれたレーザーの一発がのずるへと直撃、今度はのずるのエネルギーが大きく減る。

 

『おっとオルコット選手、ブリットチャージの隙を狙っての反撃! トルネード モーター、かわしきれませんでした!』

『オルコットさん、狙ってましたね』

『しかしここで前半戦終了です! トルネードモーター有利でしたが、最後の一撃で双方痛み分けと言った所でしょうか!』

 

 

 

「大丈夫かセシリア!?」

「どうという事ありませんわ。少しばかり変わった攻撃で驚いただけです」

「まさか風で攻撃してくるとはな………」

「面白いね~」

「どういう仕組みになってるのかしら?」

 

 心配してくる一夏にセシリアは平然としてみせるが、他の者達はむしろ相手のアームに興味を持っていた。

 

「それに、相手の特性は掴みました。後半一気に決めてみせますわ」

「油断大敵だぞセシリア」

「ご心配なく」

 

 笑みを浮かべたセシリアは、後半戦の開始を待った。

 

 

「押してるわ、のずる!」

「最後の一発は痛かったけど」

「あの射撃ポッド、すごい厄介ね。注意しないと」

 

 はさみとあかりが声をかけてくる中、のずるは冷静に相手の特性を分析していた。

 

「もう一発ふっ飛ばしたら相手の負けだろ?」

「あら、多分向こうはもうその手に乗ってこないわよ? 恐らくのずるさんの攻撃範囲は完全に読まれたと思うわ」

「え、そうなのお姉さま?」

「真正面から突っ込んでいった馬鹿はお前だけだよ………」

 

 ねじるの提案をどりあが否定するが、どりすが首を傾げて二人共呆れる。

 

「大丈夫ですどりあ様。読んだのはこちらもです」

「あらそう?」

「後半戦、始まるぞ!」

「頑張って!」

 

 何か秘策があるのか、自信有りげに宣言するのずるをはさみとあかりが送り出す。

 後半戦開始のアラームと同時に、両者は飛び出した。

 のずるはアームに《ブリット》と呼ばれるエネルギー弾をセットし、セシリアは射撃ポッド四機を一斉に解き放つ。

 のずるはアームをセシリアへと向けるが、セシリアは横にスライドして狙いを逸らそうとする。

 その時、のずるは向こうの狙いに気が付いた。

 

『おっとこれは!? オルコット選手、射撃ポッドと共にトルネード モーターの周囲を旋回し始めました!』

『サークルロンド、本来は複数の機体で行う訓練用の飛び方なのですが、相手の攻撃を封じる目的で使ってきたみたいですね』

 

 真耶の解説通り、射撃ポッドとブルー・ティアーズは等間隔で円状にのずるの周囲を旋回し、のずるに狙いを付けさせない。

 

「さあ攻撃するならしてみなさい! 全部吹き飛ばせるのなら!」

「くっ!」

 

 のずるの攻防一体の風が、範囲は広くても一方向にしか向けられないと読んだセシリアは、更に旋回速度を上げていく。

 

「来ないのなら、こちらから行きますわ!」

 

 相手が捉えらない程の速度になったのを確信しながら、セシリアは攻撃を開始。

 射撃ポッドから断続して放たれるレーザーを、のずるはなんとかかわそうとするが、かわしきれずに徐々にエネルギーが減っていく。

 

『これは攻守交代です! トルネード モーター、オルコット選手の攻撃を一方的に食らっています!』

『栗菜さんの暴風攻撃は驚異的ですが、射撃ポッドとブルー・ティアーズのどれかを吹き飛ばしても、残りが攻撃を仕掛ける。上手い戦法です』

 

 更に攻撃は続けられ、のずるのエネルギー残量が危険域へと達しようとした。

 

「トドメですわ!」

 

 旋回をしたまま、セシリアはスターライトmkⅢを構える。

 

(射撃ポッドの一斉射撃で相手を止めて、狙撃で決着、完璧ですわ!)

 

 自分のプランの成功を確信しつつ、セシリアは狙いを定める。

 最後のあがきか、のずるがアームを構えるがセシリアは構わすトドメに入ろうとする。

 そのため、のずるが普段と逆方向にアームのスイッチを入れたのに気付かなかった。

 

(一斉攻撃…)

 

 射撃ポッドに射撃命令を出そうとした瞬間、セシリアは異常に気付く。

 銃口がぶれて、狙いが定まらない。それどころか機体がやけに重い、というかほとんど言う事を効かない事に。

 

「え!?」

 

 そこで、狙っていた相手の姿が大きくなっている、つまりは自分が相手に吸い寄せられている事にセシリアはようやく気付いたが、すでに遅かった。

 

「攻撃…」

 

 ブリット使用の先程までの暴風を上回る威力と範囲ののずるの吸引攻撃に、機体の制御すらままならず、銃口すら安定しない状態のセシリアは慌てて射撃ポッドにに攻撃命令を出すが、自分が吸い寄せられているという事は、射撃ポッドも同様という事を完全に忘れていた。

 

「あ…きゃあああぁぁ!」

 

 旋回行動していはずが、自分の真後ろに吸い寄せられていた射撃ポッドに攻撃命令を出した事に気付いたセシリアだったが、時すでに遅く、かろうじて安全装置が働いた一機を除き、三機のレーザーが他でもないブルー・ティアーズへと直撃、一気にシールドエネルギーが激減した。

 

『ああっと、トルネード モーターの起死回生の吸引攻撃に、オルコット選手まさかの自爆! ここでエネルギーが減点域に達したため、KO判定です! 次鋒戦、勝者はトルネード モーター!!』

「そんな………」

「トドメを差しにこなかったら、そっちが削り勝ってたでしょうけど」

 

 がっくりと項垂れるセシリアを前に、のずるはアームを高々と持ち上げて勝利宣言をした。

 それに呼応するように、観客席の熱気が更に上がっていった。

 

 

 

「セシリアの奴、負けたか」

「半分自滅やけどな」

「ま、待ってください隊長!」

 

 勝敗結果とその内容を確認したラウラとのぞみだったが、クラリッサが慌てた声を上げる。

 

「どうしたクラリッサ?」

「どうした、じゃありません隊長! ISに勝てるのはISのみ、それが我々のみならず今の世界の常識のはずです! そのパンツァーというのが、幾らルール上とはいえ勝ったとは、その常識が根底から覆ります!」

「だが、事実だ」

「しかし………」

 

 声を荒げるクラリッサだったが、ラウラは淡々と事実を認識する。

 

「仕組みは分からないが、パンツァーはISと充分戦える戦力を保有している。これは今分かった新しい事実だ」

「ですが………」

「待ってください」

 

 納得しかねるクラリッサだったが、そこでサイコが険しい表情で呟く。

 

「今その方、世界の常識と言いましたね」

「そうですが………」

「しかし、我々はそんな常識は聞いた事もありません。互いに知らない存在、知らない能力、知らない常識。あまりにも食い違い過ぎます。あまりに突飛なので、私自身信じたくはないのですが、ひょっとして私達は、それぞれ全く違う世界の存在なのではないでしょうか?」

「は? サイコいきなり何言うて…」

「それって、パラレルワールドって事? 確かにそれなら説明が付く………」

 

 サイコの言い出したあまりに飛躍し過ぎな仮設だったが、簪はやや顔を青ざめさせながら肯定した。

 

「似ているのに、違うISとパンツァー。互角に戦えるのに、知らない存在。それぞれがパラレルワールドの存在だとしたら、辻褄があうの………」

「馬鹿な! 異世界というのは中世風の世界に飛ばされた主人公が美形の仲間達と冒険に出るような話のはず!」

「………あんたんとこの副隊長、なんかずれてるで」

「そうか? クラリッサの助言で私は随分助けられてるが」

(あんたもかい!)

 

 何か黒ウサギ隊にそこはかとない不安を抱きつつ、のぞみが一度思考を整理しようとするが、さすがに自分の想像をあっさり超えるような状態に、早々に思考を中断させる。

 

「ま、もうちょっと調べてみよ。異世界だかパラレルだか知らんけど、何か分かるかもしれんし」

「あくまで過程の話です。私自身、完全に結論づけたわけではありませんし」

「そうですね………状況が全く不明なのだけは分かってますけど」

 

 サイコと簪も深く項垂れる中、ラウラは再度周囲を見回す。

 

「状況を全て客観的に解析出来る頭脳の持ち主でも入れば、何か分かるかもしれないが………」

 

 

 

「ふ~ん、面白くなってきたね♪」

 

 闘技場が見下ろせる建物の一角、そこに風変わりな人物が腰を降ろし、試合の様子を見学していた。

 エプロンドレス姿にウサギの耳を思わせるような風変わりなアクセサリーを頭に付け、どこかとぼけた雰囲気の若い女性が、建物の角から足を投げ出し、一見危ない体勢ながらもそれを気にせず、鼻歌交じりにその女性は自分の前面に投射させた映像に、試合の状況や周辺の状態を移しては解析を進めていた。

 

「ただいま戻りました」

「お帰りクーちゃん」

 

 彼女の背後に、フレアドレス姿の銀髪の少女が突然現れるが、女性は気にせず作業を続ける。

 

「それで、どうだった?」

「現状では敵対勢力のような物は確認出来ません、あの人達以外は」

「パンツァーか、ISとは根幹的に違う原理で構築されてるね。こんなの見た事無いよ」

「束様がIS以外に興味を持つとは珍しいですね」

 

 エプロンドレスの女性、束が熱心にパンツァーの解析をしている事に、少女は僅かに驚く。

 

「私だって日々勉強しないとね。もっともなんでこんな状態になったかは相変わらずさっぱりだけど」

「そうなのですか? てっきり私は…」

「ひどいなクーちゃん、何でもかんでも私のせいにしなくても」

「ですが、状況は芳しくありません」

「そうだね、外とは全然連絡出来ないし。もっとも、覗いているのはいるみたいだけど」

 

 そう言いながら、束は上空、そこに一基だけ確認出来た人工衛星の方を見る。

 

「これからどうしようっかな~?」

 

 解析の手を一旦止め、まるで困った様子を見せずにその女性、ISを単独で開発し、今なおIS中枢コアを作る技術を持った唯一の天才科学者、篠ノ之 束はさも楽しげに呟いた………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP12

 

「む………」

「どうしたマティルダ?」

 

 紐育華撃団の格納庫で、霊子甲冑と共に空戦、陸戦両ストライカーユニットが並んでいるのを見ていたマルセイユが、従者を務める黒人ウィッチが何かを感じたらしい事に気付く。

 

「何かが来ます、鷲の神」

「敵か!?」

 

 マルセイユの一言に、格納庫にいた華撃団、ウィッチ双方が一斉にざわめく。

 

「また!?」

「本当に!?」

「司令室から何か言ってきてるか!?」

「いや、そもそも彼女の言ってる事は信用出来るのかい?」

 

 周囲が騒ぎ始める中、サジータがいささか胡乱な表情でマティルダを見つめる。

 

「マティルダが言うのなら間違いは無いだろう。なにせお告げで私の従者になるくらいだ?」

「は?」

「マティルダさんの固有魔法は私達とは系統がかなり違うらしくて、詳細が分からない事が多いんです。けど、独特の感知能力を持ってるのは確かです」

「災いではないようだ。詳しい事は分からない」

 

 マルセイユの説明にサジータの表情が更に胡乱になるのを、ライーサが慌てて補足する。

 

「私が調べます! サイレントスター、出せますか!?」

「短時間なら!」

「私達も行こう。敵襲でなくても、何かは確かめる必要がある。案外顔見知りかもしれないしな」

 

 紐育華撃団で一番感知に優れたダイアナが慌てて出撃準備を始め、マルセイユとライーサもそれに続く。

 

『三番ルートを使ってください。指示灯出します』

「頼む!」

 

 杏里の誘導に従いながら、フライトモードのサイレントスターとマルセイユ、ライーサが緊急発進していく。

 

『それでは、こちらで感知始めます』

「私達はそちらを探してみよう」

「せめて方向が分かれば………」

『! 東の方向から何かが来ます! え、何ですかこの速度!?』

「東だな!」

 

 何かを感知したダイアナの言葉を元に、マルセイユは即座にそちらへと向かっていく。

 

『どんどん近づいてます! 信じられない速度です!』

「あれか」

 

 遠くに何かを見つけたマルセイユだったが、確かにそれは瞬く間に大きく、つまりは超高速でこちらに向かってきていた。

 

『こちらでも感知したわ! 時速…音速を軽く超えてる!?』

『緊急警戒体勢を…』

「……し、もしもし! 聞こえてますか!?』

 

 プラムとラチェットの慌てた通信に重なるように、別の通信が飛び込んできた。

 

『こちら元501の宮藤 芳佳曹、じゃなくて少尉です! そこのウィッチの人、聞こえてますか!』

「宮藤、ああ思い出した。あの小っさいウィッチだな。こちらマルセイユ、聞こえてるぞ」

『良かった………ってマルセイユさん!? アフリカの星の!?』

「私だけでなく、ストームウィッチーズ全員来てるぞ。どうやらこの世界に来たのは私達だけでは無かったようだな」

『あの、お知り合いですか?』

「ああ、多分あれもな」

 

 誰かと通信しているマルセイユにダイアナが聞いてくるが、近付いてきていた物体、カルナダインの姿にマルセイユは色々納得する。

 

「マルセイユ、あれは確か………」

「紐育華撃団、近付いてきてるのは味方だ。問題はない。まあ別の問題は起きたが」

 

 速度を落とし、こちらへと近付いてきたカルナダインに、マルセイユは腕組みしながら見つめていた。

 

「さて、ケイに何と伝えるべきかな………」

 

 

 

「それでは、皆さんよろしいですか?」

 

 帝国華撃団本部の司令室に、それぞれの指揮官達が集結していた。

 

「あ~、あんたがエルナーさんかい?」

「はい、私が英知のエルナー、光のマトリクスの一つです」

「初めまして! アイドル兼光の救世主の神楽坂 ユナです!」

「ユーリィですぅ」

「一乗院 ミサキです」

「帝国華撃団の皆さんお久しぶり、他の方は初めまして! 巴里華撃団隊長のエリカ・フォンティーヌです!」

「ボクは戦乙女型MMS・アルトアイネス・よろしくね」

 

 米田が宙に浮かんでいるエルナーを不思議そうに見つめ、続いて先程来たばかりの面々を眺めた後に大神に視線を送る。

 

「まあ、武装神姫みたいな物という事で」

「エルナーの記憶・演算能力はボクら武装神姫とは桁が違う」

「前回は随分と助けられた。今回もそうなりそうだがな」

「ま、もう色々見過ぎちまってるしな………」

 

 大神もコメントに困る中、肩にいたプロキシマと対面の席にいた美緒が助言を出し、一応米田も納得しようとする。

 

「だが、さすがにこれは見た事が無い」

 

 門脇の言葉に、上空衛星から送られてきた画像を皆が凝視した。

 

「とんでもない大規模の転移現象です。前回は艦隊その物が異空間に飛ばされた事が有りましたが、これはもっとすごい………」

「周辺に大規模な電波妨害があるらしく、詳細感知が出来てないらしいわ。かなりの数の生命反応はあるらしいけど………」

「それに、この施設群はある物を連想させる」

 

 エルナーとポリリーナが説明する中、群像がクルー達で出したある可能性を口にする。

 

「………学校」

「そう見えますよね」

 

 同じ結論に達していたジオールの呟きに、僧も頷く。

 

「学校?」

「確かに、校舎や体育館のような物が並んでいる。そう見えなくもないな」

 

 米田が首を傾げるが、嶋もその可能性は考えていた。

 

「なんか、私の通ってる学校よりも立派なような?」

「施設の多さから、何らかの専門学校の可能性も有ります。それに問題はそこだけではありません」

 

 ユナが首を傾げる中エルナーがそう言うと、画像の一部が拡大され、妨害の影響か鮮明では無いが、パワードスーツやプロテクターのような物をまとった人影が複数確認できた。

 

「これがコスプレの類で無いとしたら、かなり科学技術が発展した世界から来た物、と推察できます」

「本物だとしたら、かなりの戦闘力を持っていそうではあるが………」

 

 エルナーの推察に、大神が前回の経験から只者ではなさそうな事だけは考慮する。

 

「通信は一切通じてないって訳か」

「残念ながら」

「こちらでも使える限りの周波数を試したそうだが、未だ不通だ」

 

 米田の問に、ジオールと門脇が首を横に振る。

 

「太平洋の真ん中に、完全に孤立した学校が多数の生徒らしき反応と共に有る、という事か………」

「先程、エグゼリカも偵察に向かいました。亜乃亜とエリューに合流して現地に向かってますから、数時間以内に詳細が分かるでしょう」

「それまで向こうが無事なら、だが」

 

 大神の深刻な表情にエルナーが一応補足説明をするが、そこで嶋が誰もがもっとも懸念していた事を口にする。

 

「………これまでのパターンなら、敵襲の可能性は極めて高い、と言えます」

「どうにか、行ける奴は?」

「周辺空間は大規模転移の影響で歪が生じていて、オペレッタでも精密転移は不可能です………」

「カルナダインは今ニューヨークよ、通信装置の設置が終わったら急行するそうだけど………」

「ニューヨークもやはり戦闘があったそうだな」

「パリ同様、未知の敵とウィッチが転移してたそうです。現状は落ち着いているようですが」

 

 門脇中将の言葉に大神が答える。

 

「この位置だと、巴里華撃団のリボルバーカノンも届かない………」

「401の最高速度を持ってしても、急行できる距離じゃない」

「つまりは、無理って事かい」

 

 総括した米田の一言に、誰もがうなだれる。

 

「せめて通信だけでも通じれば、危機を知らせられるのだけど………」

「前回はきっちり巴里、紐育と通じなくしてきた連中だ。そう簡単には出来ねえだろう」

「通信網を寸断するのは戦術の基本だが、ここまで徹底するとは」

「容易ならざる敵です。恐ろしい程高度な技術、戦術、そして膨大な戦力を行使する。そして一体幾つの世界に干渉しているのか、想像もできません………」

「G本部もA級次元災害非常事態の発動協議に入りました。もし発動となれば、Gは今回の件に関し、一切の制限を解除、全面協力する事になります」

「その協議の間に、余計な問題が発生しないといいのだが………」

 

 エルナーとジオールの発言に、大神が険しい顔をする。

 

「何だな、下手に見えるってのは余計心臓に悪ぃモンがあるな」

「全く」

「何でもいい、一方通行でもいいから危険を知らせる方法はないのか!?」

 

 米田、門脇、嶋の三人の老将が焦るが、事態が好転する要素は無かった。

 

『あの………』

 

 そこで、衛星の微調整をしていたエミリーからの通信が入る。

 

「エミリー、どうかしましたか?」

『そっちのに比べると小さいんですが、もう一つ転位反応らしき物を発見したんですが………』

「何だって!?」

 

 予想外の通信に大神が思わず声を上げ、誰もがそれに続くように驚愕の表情を浮かべる。

 

『一時、そちらの観測に衛星を向けたいのですが』

「だそうですが、よろしいですか?」

「そちらの確認も必要だ」

「確かに」

「急いでくれ!」

『了解しました』

 

 エルナーの確認に、米田、大神、美緒の順に賛同し、エミリーは衛星を切り替える。

 

「やはり、まだ他にも転移してきている者達がいるようですね」

「なんてこった、いったいこの世界はどうなっちまうんだよ………」

「分からない。だが、被害が少なくすむように全力は尽くそう」

「私達も手伝います!」

「無論Gもです」

「ウィッチ達にも声は掛けている」

「………」

 

 エルナーが恐れていた事態に、米田は思わずぼやき、門脇、ユナ、ジオール、美緒が協力を申し出る中、群像だけが回答を保留していた所で衛星の画像が切り替わる。

 

『補足しました。太平洋の中央部付近を移動中のようですが』

『あ…』

 

 映しだされた画像を見た群像、僧、イオナが同時に声を上げる。

 

「見覚えが有るのかね?」

「………イオナ」

「間違いない、コンゴウだ」

「コンゴウ? 戦艦 金剛の事かね?」

「正確には霧の大戦艦 コンゴウ、我々と一度敵対し、その後和解したのですが………」

 

 目ざとく気付いた嶋が詰問し、僧が詳細を説明する。

 

「つまり、あんたらのお仲間って事でいいのかい?」

「少なくても、今は敵対意思は持ってないはずですが」

「接触してみる。霧同士の概念通信なら、この状況でも繋がるかもしれない」

「タカオ、ヒュウガ、イオナのサポートを頼む」

『了解したわ』『了解、艦長』

 

 米田も聞く中、群像が少し考えながら説明し、イオナは概念伝達を試みる。

 

 

 

『コンゴウ』

『401? お前もこの世界に来て…たのか』

 

 イオナの呼びかけに答えるように、コンゴウの意識は概念空間に表示される。

 庭園を思わせる空間内に、イオナとコンゴウの両者が表示されるが、その場と互いにノイズが走っている事に両者は僅かに疑念を感じていた。

 

『この世界…来ていた。つまりコンゴウは何が…たか知ってる』

『…あ、前に経験した…いう者達から聞い…』

『大規模な転移……空間歪曲で…イズが生じてる』

『…があった?』

『データを……す。コンゴウも……い。それと、ここに向か…て』

『分かった』

 

 互いに現状のデータを交換し、イオナは大規模転移の座標を教えて概念伝達を遮断した。

 

 

 

「どうだった?」

「間違いない、コンゴウだった。向こうも状況は把握している」

「把握、どうやって?」

「同乗者がいる」

 

 群像の問に答え、イオナはもらったばかりのデータを一部表示させる。

 

「これは、エイラとサーニャ!?」

「周王君もか」

「………こっちの小さい子達、艦娘ってタグ付いてるわね」

 

 表示された同乗者のデータに、美緒、門脇、ポリリーナがそれぞれ声を上げる。

 

「そちらの関係者が乗っているという事ですか?」

「そうなるな。そう言えばパリの502から二人が行方不明になったとは聞いていたが………」

「こちらもだ。だが、気になる事が」

「周王さんは、アイーシャと一緒に行方不明になったって聞いてましたが………」

 

 奇妙な偶然に群像が首を傾げる中、ジオールがある事を気にかけた。

 

「アイーシャ、アイーシャ・クリシュナムの事もデータにある。転移の際にはぐれたらしい。その時、狙いは私だと言っていたと記録されてる」

「何だと!」

 

 淡々とデータを読み上げるイオナだったが、その内容に嶋が思わず席を立ち上がる。

 

「そのアイーシャってのがさらわれると、何かまずいのかい?」

「………ソニックダイバーは、彼女のデータをベースに作られている。そのデータが敵の手に渡るのは、危険と言わざるを得ない」

「つまり、元祖の被験者………」

「それは確かにまずい………」

 

 米田の問に嶋が答えるが、それを聞いた大神と群像も更に表情を険しくする。

 

「群像」

「分かっている。状況はこちらの予想を遥かに超えている。蒼き鋼はこれより、状況解決までそちらに全面協力する」

「コンゴウまで来てるとなると、他の霧の船も何時現れても不思議ではありませんしね」

 

 イオナに促され群像が協力を決断、僧もそれを支持する。

 

「それはありがてえ、あんたらの船はちとばかり強烈だが、必要になるかもしれねえ」

「自衛可能で動かせる船は希少だ。蒼き鋼の参加は歓迎しよう」

 

 米田と門脇が頷くが、場の空気は重いままだった。

 

「しかしこうも問題が次から次へと………」

「アイーシャちゃんって、あの無口な子だよね? どこにいるか分からないかな?」

「何かヒントでもあれば探せるかもしれないけど………」

「今は片付けられる所から片付けていくしかあるまい。我々に出来る事は限られている」

「そうですね。まずはこの街の整備と再度の襲撃に対する迎撃体制の確率、そして襲ってきた敵の情報精査を…」

「あ~、こっちの分はこっちでやるから気にしなくていいぜ。正直、またあいつらが攻めてきても、通常部隊じゃ相手にもならねえしな」

「ニューヨークとも回線が繋がったら、至急にパリの司令を交えて状況確認をしておかないと………そう言えばニューヨークのサニーサイド司令とは直接の面識は無かったか」

「この学校の監視はこっちで続けておくわ。せめてエグゼリカ達が到着するまで、無事でいてくれるといいんだけれど………」

「コンゴウも向かってるけど、距離が大分有る。すぐには無理」

「目下の所問題は、長距離移動可能な母艦が無いという事でしょうか」

「前の戦闘で、プリティー・バルキリーはフレームまでダメージが行ってて修理の目処がつかなかったわね………」

「どこから手をつけていけばいいのか………」

 

 山積みとなっている問題を次々と討議しながら、会議はしばらく続く。

 

「あれ? マスター、これって………」

 

 最初にアーンヴァルが、美緒の袖を引いて衛星からの画像を指差す。

 

「これは、人が集合している?」

「何か始まるのか?」

 

 群像が次に気付き、討議がしばし中断して皆がその画像に視線を集めた。

 

「これは、戦ってますね………」

「まさか、内部衝突か?」

「そこまでとは思えないけど………」

「模擬戦か?」

「もう少し詳細な画像が欲しい所だが」

 

 闘技場のような場所で始まった戦いに、誰もがその様子を凝視していた。

 

「双方、かなり高度な戦闘力を有している事が、これで証明されましたね」

「大型の方、かなりの機動力と火力があるようだし、小型の方は特性特化といった所かしら?」

 

 エルナーとポリリーナが端的に解釈する中、画面の中の両者は激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「すごい迫力ですぅ」

「うわ、すご~い」

「どっちも頑張れ~」

「だが、どうしてこのような事に?」

「そりゃあ見ず知らずの似たような連中がかち合ったら、ケンカくらいおっぱじまるだろうさ」

「我々の場合は、訳もわからず戦闘に巻き込まれましたがね」

「それはどこも同じだ。まだ戦力がまとまっていただけ救いが有る」

 

 ユーリィ、ユナ、シスターエリカが興奮して見る中、門脇がぽつりと呟いた所で、米田、群像、美緒がそれぞれ個人的な意見を述べる。

 

「あれ、中断したのか?」

「ちょうど三分だマスター、どうやら本当に試合のようだ」

「ボクシング形式でしょうか?」

「ならむしろ安心して見れるか。どうやらちゃんと管理する者が双方いるようだ」

 

 戦っていた両者が双方下がっていったのを見た大神が首を傾げた所で、プロキシマが時間を指摘し、僧と嶋がある意味安堵する。

 

「一つ気になる事がある」

「どうしたイオナ?」

「コンゴウからもらったデータにある戦闘データがある」

 

 唐突にイオナが口を開くと、ある映像を映し出す。

 そこには、異形の存在と戦う者達の映像だった。

 

「こいつは………」

「データと一致した。パリに現れた深海棲艦と同一の存在」

「間違いありません! エリカよく似たのと戦いました!」

「ちょっと待て、たしかコンゴウは太平洋を航行中と先程…」

「他にもいるかもしれないわね」

 

 イオナが淡々とデータを比較して出た結論を述べ、シスターエリカが肯定する中、美緒とポリリーナがある可能性に気付き、表情を険しくする。

 

「だとしたら、非常にまずい。パリではまだセーヌ川に出現したから川岸から攻撃できたが、もしこれが海だったら………」

「コンゴウの火力でも撃破出来ず、ウィッチと艦娘でトドメを刺したらしい」

「コンゴウの火力は如何ほどだ?」

「はっきり言ってしまえば、401とは桁違い、筋金入りの重砲撃艦です」

「破壊じゃなく、浄化が必要な奴かもしれねえな、ある意味華撃団のいる所に現れたのは行幸だったろうさ」

 

 大神、嶋、米田が交互にイオナや僧に聞いて出したある結論に達するが、そこではたと再開されたらしい学園の試合へと注目が移る。

 

「………この人達は、対処出来るでしょうか?」

「現状では分からないわね………他に深海棲艦が居れば、の話ではあるけれど」

「一体、今この世界にどんだけの敵が湧いてんだよ………」

「ニューヨークの詳細もまだ分からないままだ」

「そろそろ回線が繋がってもいいのですが………」

 

 問題の上に更に問題が積み重なる状況に、その場に暗雲が立ち込めそうになる。

 

「各地の状況が解明するまで、こちらで出来る事をするしかあるまい」

「そうですね、損傷した機体の修復とそれぞれの部隊の再編、と言った所でしょうか」

「もうじきこっちのエリカも色々準備して戻ってくるはずだから、もう少し状況を好転させられるかも」

 

 門脇、大神、ポリリーナがそれぞれ述べた所で、会議は一度解散となり、全員がそれぞれの仕事へと取り掛かる。

 

「千早艦長」

「何でしょうか、大神司令」

「君達の船で、あの学園までどれくらいで行ける?」

「イオナ」

「急いで行けば7日とかからない。が、コンゴウが接敵した敵がいる可能性もあるから一概には言えない」

「7日か………どこまで備えているかだな」

「何が?」

「生活物資、特に食料ですね」

 

 大神が言わんとする事を、群像は代弁する。

 

「あ~、確かにご飯ないと大変ですよね」

「なんか、女の子ばっかだったからお菓子もないと」

 

 そばで話を聞いていたシスターエリカとアルトアイネスも加わって来る中、大神は話を続ける。

 

「現状で大量の物資を自衛して運べるのは、君達の潜水艦だけだ。カルナダインは早いが、積載量はそれ程大きくないらしい。場合によっては頼む事になると思うのだが………」

「それは構いません。お互い様、という奴でしょうから」

「あの学園の生徒達が状況を理解しているか、というのもあるからね」

「私達はすぐに教えてもらった、皆理解するのには苦労していた」

「それが普通だよ。オレだって前は苦労したさ」

「でも結構楽しかったですよ♪ 面白い人達たくさんいて」

「マスターの基準は少しずれてない?」

「あ、マスターその時の資料見せてもらっていいかな?」

「出来ればこちらにも」

「参考になるかな?」

 

 多少聞いていた前回の件とシスターエリカの言動にそこはかとなくアルトアイネスは違和感を感じ、プロキシマと群像の要請に大神は前回の状況を思い出して苦笑する。

 

「あ」

「どうしたイオナ」

「コンゴウには食料が積載されてない」

「………ちょっと待った、確か人間が何人か乗ってるって………」

「それって、漂流って言うんじゃありません?」

「だよね………」

「………そっちの方が優先だな」

「カルナダインに運んでもらおうマスター、あれならすぐだ」

「本当にどんどんやる事が増えてくな………」

「全くです」

 

 大神と群像は再度苦笑しながら、次の仕事に取り掛かるべくその場を急いで後にした。

 

 

 

『ハ~イ、ハジメマシテ、帝国華撃団司令、オオガミ イチロウ。巴里華撃団司令、イザベル・ライラック』

「こちらこそ、サニーサイド司令」

『やれやれ、まさか華撃団の三司令がこんな形で顔を併せる事になるなんてね………』

 

 繋がったばかりの回線で、ニューヨーク、パリ、そして東京のそれぞれの華撃団司令が初めての邂逅を果たしていた。

 

「お互い、話したい事は多いだろうが、まずは一番新しい問題について」

『聞いてるさ、太平洋に妙な物が現れたって?』

『ボクもさっきクルエルティア君から聞いたよ。生憎と、太平洋はこっちの管轄外かな~?』

「恐らく、そんな事は言ってられなくなるでしょう」

 

 冗談めかして言うサニーサイドだったが、大神の真剣な表情に、サニーサイドの顔が僅かに険しくなる。

 

『パラレルワールド、か………正直意味がよく分からないのだけど、こっちに来たウィッチの子達の言う事を信じるなら、今自由の女神の前にサハラ砂漠の一部が広がっている』

『そっちはサハラかい。こっちに来た連中はペテルブルグからだって言ってたよ』

「こちらはまだ国内だから、近いと言えば近いんでしょうか………この子達はどこから来たんでしょうか………」

 

 大神はそう言いながら、太平洋の学園の映像をプロキシマに表示させる。

 

『つまりミスター大神、君はこのような事がこれから更に増える、そう言いたいのかい?』

「ええ、恐らくは」

『考えたくはないね、ウィッチの子達が来てくれなかったら、こっちは危なかったよ』

『こちらもですよ、マダム。しかし、それでもトウキョウを襲った連中よりは遥かに小規模だった』

「………こちらの見解では、それすら威力偵察だった可能性が高いと推察しています」

『聞きたくなかった話さね。しかも、襲ってきた連中は全部違うらしいじゃないさ』

『こちらを襲ってきたのは、ウィッチの子達がネウロイって呼んでました』

『こちらのは深海棲艦とかいう奴らしい、本物の化物だったよ………』

「そして、帝都を襲った敵は全く持って正体不明………」

『………リボルバーカノンをこっちとそっちにも作るかい?』

『一応似たような企画はあるんですけど、大統領が乗り気じゃなくて困ってますよ』

「だが、必要になる時がすぐそこまで来てるかもしれません」

『……………』

 

 大神の言葉に、両司令は思わず沈黙する。

 

「こちらから言える事は一つ、来訪した人達と協力してほしい」

『もちろんさ、彼女達はニューヨークを共に守ってくれた。手厚く歓迎してる所だよ』

『こっちもさ。来てくれて助かったよ………』

「我々華撃団のみならず、彼女達の力と一致団結しなければ、今後の戦いは勝てない。そう思っておいてください」

『………分かったよムッシュー。あんたがそう断言するなら、巴里華撃団は全面協力を約束しよう』

『紐育華撃団もご一緒しましょう。ま、大統領が後から何か言ってくるかもしれませんが』

『それ位そっちで何とかおし。市民を守れなくて何のための華撃団だい!』

「まあまあグランマ。こちらも米田前司令が動いてくれなかったら、色々危なかったですし。賢人機関も動いているようです、動きにくい事態は何とか避けられるかもしれません」

『そうしてもらいたい物だけどね。さて、さしあたって何からすればいいかな?』

「まずは…」

 

 

 

「これは?」

 

 霧とは違う者からの接触に、コンゴウは違和感を覚えながら、それを受け取る。

 概念伝達の空間、花が咲乱れる草原にコンゴウと接触してきた者が現れる。

 

「貴女が、霧の大戦艦コンゴウ?」

「そうだ、お前は?」

「初めまして、私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》。イオナさんから聞いてない?」

「トリガーハート、これか」

「どうやら先程情報があった太平洋の大規模転移を位置的に挟んでない分、こちらとの概念伝達はクリアなようね」

「そのようだな。あれ程大規模な次元歪曲は観測した事が無い。それで私に何のようだ」

「私達は今、ニューヨークにいるの。今からこちらを発つ所なんだけど、乗ってる人達の必要物資を運んで欲しいって言われて。何が必要かリストをまとめてくれる?」

「いいだろう。少し待っていてくれ」

 

 そう言うと、コンゴウは概念伝達を一度遮断する。

 

「今トリガーハートを名乗る者から連絡が有った。必要物資を運んでくれるらしい」

「本当か!? そうか、あいつらも来てたんダナ」

「正直、助かったわね。用意出来る物資にも限度があったし」

 

 出来た干物を作ったばかりの保存室にしまい込んでいたエイラと、かなり手狭な個室でナノマテリアル製製図器で何か図面のような物を書いていた周王が胸を撫で下ろす。

 

「取り敢えず食料、日持ち効く奴ナ」

「冷蔵庫って用意出来る?」

「温度を下げるだけなら、それほど難しくない」

「後は着替えと、水以外の飲み物と、予備の銃と弾薬と…」

「何をしているのです?」

 

 エイラが持参していた手帳にリストを書いていた所に、艤装の点検をしていた電が顔を覗かせ、他の暁型もリストを覗き込む。

 

「仲間と連絡取れたんデ、物資運んでくれるんダナ」

「それは、どれくらい掛かりそう?」

「カルナダインなら、今日中には来ると思うんダナ」

 

 それを聞いた暁型四人の顔が一気に明るくなる。

 

「せめて寝巻きが欲しい!」

「シャワーに石鹸がない」

「何か甘いの欲しいのです!」

「って言うか、無い物多すぎ!」

「あ~、順番に言エ、順番」

 

 あれこれ要望を出す暁型艦娘達にエイラは呆れながらも、リストに書き足していく。

 

「入手できればPCが欲しいんだけど、無理な注文ね。コンゴウさんに説明しきるのも難しいし」

「私らの時代よか過去じゃ無理ダロ。サーニャ~、カルナダインがこっちに来てくれるって言うカラ、何か欲しい物はあるカ~?」

「ちょっと見せて」

 

 甲板から降りてきたサーニャが、エイラの書き込んでいたリストを見て、少し考える。

 

「調味料があった方いいと思う」

「そうだな、塩味だけってのもアレだし」

「食料に野菜と柑橘系も」

「おっとそうだっタ」

「医薬品も必要になるかもしれないわ。特にビタミン剤の類」

「取り敢えずコレ。食料が最優先なんダナ」

「分かった。伝えておこう」

 

 最終的にサーニャと周王がまとめたメモを見たコンゴウは再度概念伝達を行う。

 

 

「これが一応必要物資のリスト、食料を再優先だそうだ」

「分かったわ、至急用意してもらう。皆元気?」

「ああ、やかましいくらいだ」

「それはよかったわ、こっちは色々大変で」

「401からデータはもらった。401が戦うというなら、私も協力しよう」

「心強いわ。これからよろしく」

 

 そう言いながら、クルエルティアは片手を差し出す。

 しばし迷ってから、コンゴウはその手を握り返した。

 

「人間は、友好を結ぶ時こうするんだったな」

「兵器である私達がやるのは、少しおかしいかもしれないけれど」

「もう、私達は兵器ではないのかもしれない」

「そうかもしれないわね、誰から命令された訳でもなく、自分達の意思で戦う事を選んだのならば。一段落ついたら、貴女とはゆっくり話したいわね」

「そうか………」

 

 我知らず笑みを浮かべながら、コンゴウは概念伝達を切った。

 

 

 

「取り敢えず、必要物資リストをまとめてもらいました」

「結構あるね~、まあ太平洋漂流中なら仕方ないけど」

 

 紐育華撃団の支配人室で、クルエルティアが表示したリストをサニーサイドがすばやくメモに書き写していく。

 

「さて、お~い、誰か手開いてるのはいるかい?」

「はい!」

「お呼びでしょうか」

 

 サニーサイドの呼びかけに、ジェミニが室内に顔を出し、肩にいたフブキも名乗りを上げる。

 

「これ、至急そろえてきてくれ。彼女のお仲間が太平洋で漂流中らしくてね」

「え? 漂流!? 大変だ!」

「急ぎましょう、姫」

「マギーの店まだ開いてるかな~?」

「他にも誰か手伝ってもらうといい、結構あるからね。これだけあればいいかな」

 

 結構な額の紙幣をサニーサイドは渡し、ジェミニとフブキは司令室を後にする。

 

「それじゃあ、話の続きといこうか」

「はい、今後の可能性ですね」

「大神司令にはああ言っちゃったけど、正直、君達の船を見るとかなりの技術格差があるように思えるんだよね」

「それは間違っていないでしょう。ただ、それだけとは言えません。私達トリガーハート

に出来ない事を、華撃団なら出来るかもしれません」

 

 そこで支配人の扉がノックされ、圭子が顔を見せる。

 

「失礼します、さっきジェミニさんだったかすごい勢いで走ってきましたけど、何かありました?」

「それが、エイラさんとサーニャさんが太平洋で漂流してるって連絡が」

「漂流? 大丈夫なのそれ?」

「何でも、君達と同じように別の世界とやらから来た戦艦に乗ってるらしい霧のコンゴウ、だったっけ?」

「はい、東京には霧の401を名乗る船が出現しました」

「401にコンゴウ? なんで扶桑の戦闘艦が…」

「それと船体は無いそうですが、タカオとハルナとキリシマとヒュウガと…」

「ちょ、ちょっと待った、なんでそんなに!?」

「本人達も由来は知らないそうです。かつての戦闘艦の名と姿を関した、霧の艦隊と呼ばれる存在という事以外は、何も………」

「陛下、どうやらこちらの予想以上に転移してきた勢力は多いらしい。プロフェッサーも把握しきれていない」

「どうやらそうみたいね」

 

 肩にいたサイフォスの助言に、圭子は顔を曇らせる。

 

「………クルエルティア、貴方に言うのは筋違いかもしれないけど、その霧の艦隊って信用出来るの?」

「色々理由はあるみたいだけど、大丈夫だと思うわ。東京襲撃の時は共闘したし、何より漂流している人を拾って一緒にいるような人達が、悪い人だとは思えないわ」

「それもそうね。前もそうだったけど、基本飛ばされてくるのはお人好しばかりだし」

「成る程、けどこっちはどうかな………」

 

 微笑するクルエルティアと圭子にサニーサイドも吊られて微笑するが、そこで先程届いたばかりの画像を支配人室の蒸気ビジョンに映し出す。

 

「これは………」

「つい先程太平洋に出現した物らしい。正確な数は未確認だが、数百人単位で人がいるのは確かなようだ」

「数百人!?」

「学校じゃないかって話だけど、ただの学校じゃないのは確かです」

 

 クルエルティアも自分でリアルタイムの映像を映し出しながら、一部を拡大する。

 

「これって、戦ってる?」

「模擬戦というか、試合のような事をしているらしいわ。何故かは分からないけど」

「そりゃ、事情分からないけど似たような人達がいきなり一緒にいたら、ケンカの一つも起きるだろうさ。ちゃんとルールに乗っとっているらしいなら、優秀な指揮官か指導者が双方にいると考えられるし」

「確かに、衝突が試合の形式で行われているなら、抑止できる者がいるという事だ」

「ここに誰か武装神姫は?」

「不明だ、事態が急すぎてまだ状況が把握出来ていない」

「今エグゼリカ達が向かってます。数時間以内には着くはずですが………」

「それまで何もなければ、だけどね」

 

 圭子が自分達がここに現れた時、サハラ砂漠でネウロイと交戦中にいきなり霧の竜巻に諸共飲み込まれ、目を開けた瞬間に自由の女神が飛び込んできた事を思い出す。

 

「向こうで頑張ってもらうしかないよ、ここからじゃどうしようも無いんだしね」

「それはそうですけど………」

「物資を届けたら、カルナダインも現地に向かいます」

「慌ただしい世界一周ね~」

「現状で高速長距離移動可能な艦はカルナダインしかないし、通信状況も不安定なら直接行くしかないから」

「行った所で、信用してくれるかどうかは別問題だけれど」

「ウチも、ジェミニ君がロボットやヴァンパイアや甲冑着た騎士と一緒に戦ったなんて話、誰もがいつもの妄想だと思ってたからね~」

「そちらの話も後で詳しく聞きたい所ですが」

 

 どうにも自分達とは大分違う世界を体験したらしい華撃団にクルエルティアは首を傾げるが、他に優先事項は山とあったので取り敢えず後に回す事にする。

 

「でも宮藤博士が来てくれたのは助かったわ。ここの整備班とうろ覚えの宮藤理論説明しながらのユニット整備はさすがに無茶があったから」

「基本システムはかなり類似はしてるらしいけどね。一緒に来た芳佳君だっけ? 霊子甲冑動かせたって話聞いたよ」

「芳佳さんの力が強すぎてオーバーヒートしましたけどね。ユニットの整備の方、まだかかりそうですか?」

「大体構造が把握出来れば、こっちの整備班でもある程度は出来そうって話よ。まあ間に合わせではあるけど。ついでに華撃団の霊子甲冑も見てもらってるって」

「果てさて、何て言われてる事やら」

 

 冗談めかしたサニーサイドの苦笑に、クルエルティアと圭子も苦笑で答えるしかなかった。

 

 

 

「成る程、確かに帝都や巴里のとは基本コンセプトから違いますね」

「ええ、元々は軍用人型蒸気をベースに、独自の改良を加えた物ですから」

「確かに出力は他の華撃団に比べてかなり高い。だがそれは同時に機関始動時の消費魔力、いやこっちだと霊力か、それがかなりの量を要求されます。減衰期に入った人がそれを行えば、力の減衰が加速する可能性が高い。こちらでもそのような事例が有りましたし」

「成る程、機関始動時とは考えませんでしたな」

 

 紐育華撃団の格納庫で、宮藤博士と小柄な中国系の老人、紐育華撃団 参謀兼整備班長の王が熱心に話し込んでいた。

 それを隣で聞いていたラチェットが、表情を曇らせていた。

 

「機関の出力を上げすぎて、こっちの力が減っていったとはね」

「帝国華撃団で聞いた話を総合すれば、他の隊員達も気をつけた方がいい。霊力の減退が早く始まる可能性もある」

「貴方みたいな人がこちらにいてくれたら、他の華撃団も随分と楽だったでしょうに」

「その通りですな。正直、私共ではとても敵いません」

「あくまで使用者保護を再優先に研究を進めた結果ですよ。安全面で言えば、文句無しの機体です」

「お父さん! エイラさんとサーニャちゃん見つかったって! 今イオナちゃんの仲間の船で漂流中だから、食料買ってきてもらったらすぐ出発するって!」

「やれやれ、どうやらまた急ぐ必要がありそうだな」

 

 芳佳が大声で話しながら駆け寄った所で、宮藤博士は残った仕事を手早く片付けていく。

 

「それでは、残った整備の方は」

「何とかしてみましょう。随分と勉強になりましたしな」

「こちらこそ。起動時出力を蒸気機関安定してからにすれば、霊力消費を抑えられると思います」

「改良してみます」

「何だもう行ってしまうのか」

「お忙しいですね」

 

 握手している宮藤博士と王に、マルセイユとフレデリカも姿を見せる。

 

「こちらもお礼を。さすがにティーガー型をうろ覚えの手探り整備は遠慮したかったので」

「あれは悪い機体ではないけど、乗るウィッチを大分選ぶから気をつけて」

「もちろん」

「私も助かったぞ、さすがにアフリカの星のユニットが整備不良では話にならんからな」

「ちょっと飛び方に無理をさせてるね、近い内にオーバーホールする必要が出てくるかも」

「それにしても、どうせならこっちの整備班も一緒に飛ばしてほしかったわね………」

「ソニックダイバー隊の人達は基地まるごとでしたけど。あやうくこっちの陸軍の人達に包囲されそうになりましたが………」

「どこも問題だらけってわけね。太平洋にも何か現われたって話だし」

「なんなら私が増援に行ってもいいぞ!」

「…ひょっとしたらそうなるかもしれないな」

 

 始終強気なマルセイユに、宮藤博士が小さく呟いた事に、ラチェットは気付いていたがその意味する事をなんとなく感じ取っていた。

 

「ラチェットさん! 作戦室で太平洋に現われた奴の画像見れるそうですよ! 皆さん集まってます!」

「新次郎君、今行くわ。それじゃ、私はこれで」

「私も見たいぞ、どこにある?」

 

 ぞろぞろと連れ立って行く華撃団とウィッチを見送った宮藤博士は、パリでも双方仲良くやっていた事を思い出す。

 

「今の所、対立とかないようで安心しました」

「その余裕すら無かった、というのが正しいでしょう。危うく市街地にまで被害が及ぶ所でしたので」

「東京はかなり被害が出ましたし、パリも少ないとは言え被害が出ています。もっとも、皆が力を合わせなければ、どこまで被害が広がっていたか………」

「整備を急がないといけませんな。敵の正体すらまだ皆目見当もつかないのでは」

「我々の仕事は、彼女達の力を完全に発揮出来る状態に機体を保つ事ですからね………」

 

 次の戦いが迫ってくる予感を感じつつ、二人の技術者は自分達の仕事を急いだ。

 

 

 

「やれやれ、これはすごい」

「そうとしか言いようが無いのは事実だ」

 

 自由の女神の前に広がる砂漠に、加山がおもわず呟き、同伴していた昴も同意する。

 

「こちらの調査で、成分的には間違いなくサハラ砂漠の砂だそうだ」

「帝都には小さいが基地一つが丸々現われたからね。大神司令が状況を理解出来てよかったと言うべきか否か」

「ジェミニが言ってた事を信じてた人間は誰もいなかった。だが、これでは信じるしかない」

「賢人機関の上層部にもそろそろ連絡が行ったろうね。今頃大騒ぎだろうが………」

「太極しか見れない連中は後回しだ。今後どうするかが重要だ」

「とにかく、ウィッチの子達は前も似たような事やってるようだから、上手くやっておいてほしいね」

「協力的で助かっている。あの隊長、元記者だとかで、交渉がやけにうまい」

 

 そこまで言ってた所で、加山のキネマトロンが着信音を鳴らす。

 

「おや、そちらの司令から? はい加山」

『ミスター加山、状況に変化だ。今度は太平洋に学校みたいな施設が現われたらしい』

「学校?」

 

 横で聞いていた昴も首を傾げる中、サニーサードは続ける。

 

『どうやら、ただの学校じゃないのは確かだ。変わった格好の子達が試合してるよ。これはすごいな………充分客が呼べる』

「すぐに戻ります。やれやれ、帝都に戻る前にまた寄り道かな?」

「新顔が次から次か。果たして使い物になるんだろうかね?」

「そうじゃなかったら、問題がまた増えるね~。帝都だと新人の子達まで駆り出してたけど、援護が精々だったしね」

「………全員が歴戦とは限らない、か。そもそも転移とやらの基準は何だ?」

「それを今調べてる所だよ。これから何が起きるか、それに対して華撃団はどう動くべきか、ってね」

「護るべき物のために戦う、それこそが華撃団の唯一絶対の存在意義、違うかな?」

「それはそうなんだけどね。どうやら、護るべきは街じゃなく、世界その物になりそうだよ………」

「………」

 

 加山の言葉に、昴は愛用の鉄扇で口元を隠して無言で応えるしかなかった………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP13

 

 世界各所で見られてるとも知らず、闘技場では光井 あかり、パンツァーネーム・ライトニング エンジェルとシャルロット・デュノア、使用機体 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡによる中堅戦が行われていた。

 

『中堅戦、後半に入って更に白熱しております! ライトニング・エンジェルの変幻自在のライト攻撃に、シャルロット・デュノア選手、次々と武装を変更するというこちらも変幻自在の攻撃です!』

『ほとんどタイムラグ無しで量子構成を行えるデュノアさん独自の戦闘スタイルですが、まさか同一武装で似たような事をするなんて………』

 

 つばさのアナウンスと真耶の解説を遮るように、観客の歓声が闘技場に響く。

 その歓声を貫く銃声が無数に木霊していた。

 あかりのスポットライトを思わせるアームが連続してフラッシュし、それがビームの速射となってシャルロットを狙う。

 オレンジの装甲を持つシャルロット専用機《ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ》がそれをかわしながら、五五口径アサルトライフル《ヴェント》を速射するが、今度はあかりのアームがビームを拡散照射して弾丸を消失させる。

 そのまま二人同時に建物の影に隠れ、荒い呼吸を整える。

 

「何て兵装の数………カノンにショットガン、次はアサルトライフル? 一体幾つ用意して………」

「ま、まさかあのライトみたいな装備、あそこまで色んな使い方出来るなんて………」

 

 連射、拡散、フラッシュ等の多種のアームの使い分けをするあかりと、通常のISの倍の拡張領域に多数の装備をインストールして使い分けるシャルロット、奇しくも似て非なる戦い方をする二人が、残り少ない時間とシールドエネルギーを確認する。

 

(あと一発、大技を叩きこめば………)

(決着が着く………)

 

 待ったく同じ事を考えていた両者だったが、あかりはブレッドをアームに叩き込み、シャルロットは五九口径重機関銃《デザート・フォックス》を構成させる。

 物陰から飛び出したシャルロットが銃口をあかりへと向けるが、そこであかりがアームを真上へと向けているのに気付いた。

 

「まさか…」

 

 次鋒戦の時の事を思い出したシャルロットの動きが止まり、そこであかりが今までで一番強烈なビームを頭上へと発射する。

 

「え?」

 

 完全に明後日の方向への攻撃にシャルロットは一瞬疑問を感じるが、直後にハイパーセンサーに何かを感じ、全力で後ろへと跳んだ。

 つい先程までシャルロットがいた空間を、大口径の強烈なビームが直撃、盛大に粉塵を巻き上げ、今までの戦闘で一番巨大なクレーターを作り上げた。

 

「あ、危な………」

「ちっ!」

 

 全身からどっと冷や汗が吹き出したシャルロットに対し、あかりは舌打ちしながら即座に次のブリッドを準備する。

 

『ライトニング・エンジェルの必殺技、ライトニング・ジャッジメント炸裂! デュノア選手、かろうじてかわしました!』

『一瞬遅れていたら、直撃でしたね』

「まずいまずいまずいよ!」

 

 慌てふためきながら、シャルロットは高速で建物の影から影へと移動し、あかりに狙いをつけさせないようにしながらも必死になって考える。

 

(まさかBT偏向射撃、しかもあの威力! 喰らったら一発で終わる! あんな切り札持ってるなんて………時間も少ない、どうすれば)

 

 考えるシャルロットだったが、そこで目の前を突然閃光が貫き、急停止する。

 

「うわっ!?」

「外したわね」

 

 建物越しに貫通してきたビームに、シャルロットがバックしながらあかりの方を確認する。

 あかりのアームはライトのカバー部分が閉じられ、ごく僅かな隙間だけが開けられていた。

 

(小口径の貫通狙撃! そんな手まで!)

「今度は、外さないわよ」

 

 そう言いながらあかりはブリッドを装填して再度アームを上へと向け、それを見たシャルロットはある思い付きに従い、逆に全力であかりへと突撃していった。

 

「こいつ!」

 

 アームを吶喊してくるシャルロットへと向け、あかりはビームを発射。

 シャルロットはそれをシールドで受け、なおも前進する。

 

「やっぱり! このビーム、曲げられる角度と、距離に難点がある!」

 

 シールドに直撃したビームが、先程のクレーターを作り上げた物に比べれば弱い事に、シャルロットは確信を持って更に距離を詰めていく。

 

(物理法則無視だけど、距離が有れば有るほど威力を増すビーム! だから上に撃って距離を稼いだ! ある程度角度は制御出来るけど、自在には出来ないから、大きく弧を描くしかない!)

 

 半ば勘だったが、それが当たっていた確信をシャルロットは感じつつ、それでもなお強烈なビームにシールドが軋み始める。

 

「果たして、持つかしら!」

「くうぅぅ~」

 

 必殺とまではいかないが、充分相手を倒せる可能性があると感じたあかりは、アームのエネルギー全てを注ぎこみ、シャルロットへと叩きつける。

 

『これはすごい事になってきました! 残り時間30秒、ライトニング・エンジェルが押し勝つか、デュノア選手が防ぎきるか!』

『デュノアさんのシールドエネルギーがすごい勢いで減ってます! これは果たして持つのでしょうか!?』

 

 実況、解説共に興奮する中、両者の距離が詰まり、時間は減っていく。

 

『残り時間10秒! 9、8、7…』

 

 つばさのカウントダンが響く中、二人の距離が間近にまで迫る。

 

『5!』

 

 あかりのビーム攻撃が途切れるのと同時に、シャルロットのシールドが限界に達して吹き飛ぶ。

 

『4!』

 

 あかりの目は、消し飛んだシールドの裏、最後まで隠されていたパイルバンカーを捉える。

 

『3!』

「いっけえぇ!!」

 

 残ったエネルギーを振り絞り、シャルロットは六九口径パイルバンカー《灰色の鱗殻(グレースケール)》をあかりへと叩きこみ、パイルバンク。

 まともに喰らったあかりの体がくの字に折れ曲がりながら吹き飛び、そこでタイムアップのブザーが鳴り響く。

 

『時間終了、と同時にKO判定! 勝者、デュノア選手!!』

 

 勝者宣言がなされると、一際大きな歓声が闘技場に響き渡る。

 

「あ、危なかった………」

 

 だがシャルロットには勝利の喜びよりも、むしろ寒気が走っていた。

 持ち上げたグレースケールには、懐中電灯を思わせる小型のビームサーベルが突き刺さっており、2発目は打てない状態になっている。

 

(あっちも奥の手隠してたんだ………)

 

 文字通り薄氷の勝利にシャルロットはパンツァーの底力を感じつつ、倒れたままのあかりへと近寄る。

 

「大丈夫?」

「な、なんとか………まさか、パイルバンカーなんて野蛮な物まで持ってるとは思いませんでしたわ」

「そっちもね」

 

 苦笑しながらシャルロットはビームが消えて転げ落ちたビームサーベルをあかりへと渡す。

 

『これ勝ち星は2対1、パンツァーチーム追いつめられました! 次の副将戦で決まってしまうのでしょうか!?』

 

 

 

「シャルロットが勝った」

「あちゃ~、まさかあかりが負けよるとは………」

 

 先程の勝敗結果に、双方が一喜一憂する。

 

「残ったのはねじるさんとどりすさんですか」

「こちらは一夏と箒、ある意味問題の大元だな」

「一体何があったんです?」

 

 サイコとラウラが頷く中、状況が飲み込めないクラリッサは首を傾げる。

 

「試合の元になったのは嫁の軽はずみな発現だ。もっともそれがなくても対立は時間の問題だったろうが」

「そらまあ、女ばかりなのに双方血の気多いのばっかやしな」

「はあ………」

 

 なんとなく状況を察しながら、クラリッサは再度調査へと取り掛かる。

 

「それにしてもこれ、アレに似てますよね………」

「フィラデルフィア実験」

 

 あれこれ融合している建物を見ながら黒ウサギ隊の一人が呟いた言葉に、他の隊員達も思わず反応する。

 

「何やそれ?」

「ある種の都市伝説なのですが、その昔、戦闘にレーダーが用い始められた頃、ステルス実験のためにある駆逐艦に巨大なコイルを設置、磁力によるレーダー反応消失実験を行ったそうなのです」

「所が、その駆逐艦エルドリッジはレーダーどころか本当に消えてしまい、2500kmも離れた場所に出現したかと思うと、また戻ってきた」

「しかも戻ってきたエルドリッジ艦内は、なんと艦と乗員の体が融合しているという恐ろしい状態で、僅かな生き残りも全員発狂していたという………」

「ほ、ほんまなんか?」

 

 クラリッサの説明を、他の隊員達が怪談口調で続け、のぞみが思わずツバを飲み込む。

 

「ばかばかしい、そんな原始的な方法では量子変換すら起こせん。ただの与太話だ」

「そう言ってしまえばその通りなんですけど………」

「そうですね。ただ、その状況だけは確かに今の状況と………」

 

 ラウラと簪が呆れる中、サイコがふとある物に気付く。

 

「あれ………」

「え?」

『きゃああぁぁ!!』

 

 サイコが指差した先、建物の壁から突き出している手足に、黒ウサギ隊の隊員達とのぞみが悲鳴を上げて思わず抱き合う。

 

「全員、落ち着いてよく見なさい」

「どう見ても人ではないな」

 

 よくよく見れば、その手足が極めて小さい事に気付いたクラリッサとラウラが、改めてその手足を見る。

 

「何だこれは、人形か?」

「そのようですね。誰かの私物でしょうか?」

「何や、人騒がせ…な…」

 

 のぞみが胸を撫で下ろした時、その突き出していた手が動く。

 

「………へ?」

「今、動いた?」

「………!………!!」

 

 サイコも気付く中、その壁から突き出した小さな手足が激しく動き始め、しかも壁の中から何か聞こえるような気もする。

 

「え~と、隊長どうします?」

「………掘ってみよう」

 

 クラリッサもラウラも判断に困る中、ラウラが腕だけISを展開し、慎重にもがく手足を掘り始める。

 

「確かに何か埋まってる………人形が、二体? けどすごい高エネルギー反応………」

「何が出てくるんでしょうか?」

 

 ISセンサーでチェックした簪が、その人形のような者が只者でない事を確信し、サイコは目つきを険しくする。

 

「そういや、副将戦まだ始まらへんのか?」

「そう言えば………何か揉めてるみたいです」

「………間違いなくどりすが原因やで」

 

 

 

『え~、副将戦なのですが、全く予想外というか私としては予想通りの所で問題が発生しております………』

 

 つばさの呆れた声と共に、なぜかなかなか始まらない副将戦の理由が、闘技場のスクリーンに写し出されていた。

 

 

「やだやだやだ! やっぱり私が大将やる!」

「あのな~」

 

 控室で文字通り駄々をこねるどりすに、ねじるが呆れた声を上げる。

 

「順番はじゃんけんでって、どりあさん言っただろうが」

「だって!」

 

『どうやら試合順に異論が出ている模様。ある意味今回の試合の原因ともなった瑠璃堂 どりす選手、パンツァーネーム ドリルプリンセスが示す通り、螺旋皇国第三皇女、正真正銘のプリンセスです。無論わがままもプリンセス級、ルームメイトの私はいつも苦労しています』

 

「ぎんちゃん余計な事言わない!」

 

 つばさの解説に思わずどりすが怒声を上げ、闘技場内に爆笑の渦が巻き起こる。

 

『あ~っと、ここでパンツァーチーム監督役の瑠璃堂 どりあさんが出てきました! 彼女も螺旋皇国の第二皇女にしてトップランクのスーパーパンツァー。さすがのわがままプリンセスも実のお姉さんには敵いません!』

 

「はいはいどりすちゃん、順番は守らないと」

「でもお姉さま………」

「お前が勝ったら五分だから、後はオレがなんとかしてやるよ」

「やっぱやだ! 私が…」

「どりすちゃん?」

「え、あ、その………」

「あ、お姉さんいい事思いついた」

 

『何だか、どこかで見た光景ですね………』

 

 つばさの解説に真耶が苦笑していたが、ふと何か様子がおかしい事に気付く。

 マイクが拾えないのか、何か小声で話してはいるが内容が分からないどりあの言葉に、なぜかどりすだけでなくねじるも頷いている。

 そしてどりあが設置してあった電話機を取ると、実況席の電話が鳴った。

 

『はいこちら実況席…、はい分かりました。何かパンツァーチームからISチームに提案がある模様です』

 

 電話を取った真耶が説明しながら、ISチーム控室へと回線を回す。

 

『これはどういう事でしょうか? 一体何が………』

 

 つばさも首を傾げる中、そこで再度電話が鳴り、真耶は再度それを受け取って頷くと、受話器を置いた。

 

『つい先程、パンツァーチームからルール改定の提案が有り、ISチームもこれを了承しました。次の試合は改定内容で行われます』

『改定内容は?』

『次の試合、残ったメンバーによる2対2のタッグマッチとし、最終的に勝者の残っていた方を二勝とします!』

 

 真耶の説明に、闘技場が一瞬静まった後、割れんがばかりの歓声が響き渡った。

 

『なんとタッグマッチです! まさかのルール改定、パンツァーバトルでもまれに行われますが、まさかここで行われようとは思いもしませんでした!』

『あ~、でも………』

 

 つばさも興奮する中、真耶が困った顔で今度はISチームの控室を映し出す。

 

 

「タッグマッチですって!? 聞いてないわよ!」

「しかもだとしたら一夏さんは箒さんとタッグ組むんですの!?」

「ずるいよ!」

 

『ああっと、今度はISチームが揉めております!』

『前の校内タッグマッチの時も大変でしたからね~。あ、いま織斑先生が出てきました! 彼女は第一回IS世界大会モンドグロッソ優勝者、そして一夏さんのお姉さんです。校内で逆らえる人は皆無です!』

 

「いい加減にせんか! お前らの出番はもう終わった!」

『は、はい~!』

 

『全員一蹴、さすがです』

『確かに、どこかで見た光景ですね~』

 

 再度闘技場内に爆笑の渦が巻き起こるが、それはスクリーンにある物が表示された事で収まる。

 

『それでは決勝戦! 一年80組 瑠璃堂 どりす! パンツァーネーム・ドリルプリンセス! そして二年62組 我王 ねじる! パンツァーネーム・ブラッディ・ドリル! 対するISチームは一年一組、織斑 一夏! 使用機体・白式! そして同じく一年一組、篠ノ之 箒! 使用機体・紅椿!』

 

 紹介と共に、今まで一番の歓声が闘技場内に響き渡る。

 

『基本ルールは同一、タッグマッチなので二対一でも全く構いません! 最終的にどちらか一人残っていれば勝敗は決します!』

『一体どんな戦いになるのでしょうか? 私としても非常に楽しみです』

 

 

「タッグマッチとは、思い切った事するな」

「つまり、両方倒しちゃえばいいんでしょ?」

「あら、そんな上手くいくかしら?」

 

 試合開始を待つねじるとやる気マンマンのどりすだったが、どりあが笑顔のまま首を傾げる。

 

「向こうはどうやら最新型らしいわよ?」

「え、そうなの?」

「新しかろうが古かろうが、用は使う人間の問題でしょう。どんな装備でも、どれだけ訓練して使いこなせるか、パンツァーと一緒だ」

「あら、いい事言うわね」

 

 強気なねじるにどりあが感心する。

 

「我王さん!」

 

 そこで先程僅差で負けたあかりが、ブレッドをセットでねじるへと投げ渡す。

 

「貴方、どうせそんなに持ってないのでしょう? 余ったから貸してあげるわ」

「いいのか?」

「勝ったらチャラ、負けたら倍返しですけれど」

「それはまずいな、バイトこれ以上増やせねえ。つう事だから共同責任だ」

「へ?」

 

 ブレッドの半分をどりすに渡し、残りをねじるは懐にしまう。

 

「様子見ようなんて思わないで飛ばして行くのがコツよ!」

「性能に頼ってきたらチャンス」

「油断大敵よ」

 

 実際にISと戦った者達が助言を出す中、試合開始のカウントダウンが始まる。

 

「どりす、あっちのとっぽい男はお前に任せる。オレはもう片方を狙う」

「うん分かった!」

「あっさりやられるなよ」

「そっちこそ!」

 

 

 

「二人で組むのは久しぶりの気がするな」

「そうだったっけ?」

 

 それぞれのISをまとった箒と一夏が、試合開始を待ちながら呟く。

 

「元はと言えばお前が原因だしな。あちらのプリンセスとはお前自身で片を付けろ」

「どうにも、あんな小さい子相手は………」

「甘くみない方がいいぞ。ただでさえお前は女に甘すぎる」

 

 今一気乗りしていない一夏だったが、そこで千冬が釘を差してきた。

 

「千冬姉、そう言っても…」

「織斑先生だ。相手を甘く見て調子に乗った挙句にやられた者もいたな」

「ぐ………」

 

 千冬の苦言にセシリアが言葉に詰まる。

 

「必殺技みたいの以外はこっちのパワーが上だから、力押しで行けるわ!」

「敵の兵装をよく見てください! 特徴的ですから!」

「サブウェポン持ってる事もあるよ!」

 

 皆からの助言が飛ぶ中、カウントダウンが始まる。

 

「ともあれ、無様な所見られる訳にもいかないしな」

「遠慮していたら、やられるのはこちらだ。それは見ていて分かったはずだ」

「ああ、それじゃあ行くぞ!」

 

『3、2、1、スタート!』

 

 ゲートが開くと同時に、四人は一斉に飛び出す。

 まるで双方で示し合わせていたように、どりすと一夏が、ねじると箒が互いに向かって一直線へと向かっていった。

 

『ああっと、二手に別れた双方が真っ向勝負です!』

「行っけぇ~!」

「行くぞ!」

 

 どりすが手にした専用アーム《カイザードリル》と一夏が手にした白式専用武装《雪片弐型》が突撃の勢いと相まって正面からぶつかり、双方のエネルギーがスパークとなって周辺に吹き荒れる。

 

『これはすさまじい! ドリルプリンセス、織斑選手、双方に全く譲りません!』

『どちらも完全な近接格闘型、しかもパワー特化型とは………』

 

 実況席のアナウンスすらかき消されそうな歓声が飛び交う中、双方が一度弾き飛ばされ、即座に体勢を立て直す。

 

「まだまだ~!」

「な、まさかここまで…」

 

 やる気満々のどりすに対し、一夏は予想以上のどりすのパワーに気圧される。

 

「たあああぁぁ!」

「くっ!」

 

 速攻を掛けてくるどりすに、一夏は雪片弐型で防御に回るが、先程とは違い、どりすは連続の刺突を繰り出してくる。

 

「たりゃりゃりゃ~!」

「この、うわ、お!」

 

 ドリルを回転させながらの刺突は先程の一撃よりは弱いが、その全てが重い感触を伝えてくる。

 

(雪片弐型に拮抗するなんて、このドリルどんなエネルギー篭ってんだ!?)

「そりゃあ~!」

「おわっ!」

 

 最後の大ぶりの一撃が予想以上に重く、一夏は咄嗟に後ろに跳んで勢いをかろうじて殺す。

 

『ああっとドリルプリンセスの速攻に織斑選手、押されてます!』

『パワーもありますが、あの攻撃速度はISではなかなかないですからね~』

 

「一夏!」

「どっち見てんだ!」

 

 思わず一夏の方を向いた箒だったが、そこでねじるの攻撃が胸元をかすめる。

 

『もう一方のブラッディ・ドリルと篠ノ之選手、こちらは派手な向こうと対照的です!』

 

 つばさの実況通り、箒は一夏とは違う理由で苦戦していた。

 

「ほらほら、どうした!」

 

 最初の突撃でこちらの攻撃すら意に介さず、そのまま文字通りぶつかってきたねじるは、完全に懐に潜り込んだまま、アームを用いずに格闘攻撃を次々と叩き込んでいた。

 

「この! こんな手で!」

「はっ! そっちのは図体も得物もデカすぎるんだよ!」

 

 箒はなんとか反撃しようとするが、ねじるの言う通り、手にした紅椿専用武装《雨月》、《空割》の二刀よりも更に内側に潜り込んで離れないねじるに、苦戦を強いられていた。

 

『ブラッディ・ドリル、まさかのゼロ距離戦法に篠ノ之選手、苦戦です!』

『確かにあの間合いならほとんどの兵装は使えませんが、極めて危険です。ISはただ手足を振り回しただけでも、充分な破壊力を持っているのですから』

 

 真耶が危惧した通り、何とか間合いを取ろうと箒が振り回した柄が偶然にもねじるの頬を打ち抜く。

 

「あ…」

 

 さすがに顔面を狙うつもりはなかった箒だったが、僅かに舞った鮮血と共に横を向く形となったねじるの口が、むしろ笑みの形に持ち上がった。

 

(この子、とんでもない好戦的!)

「隙ありだ!」

 

 食堂でのイメージとは丸で違うねじるに、箒がたじろいた隙を逃さず、ねじるの手が紅椿の片腕を掴み、左手のシールドを振りかぶると、内部に収蔵されていたドリルが展開、回転しながら紅椿の胴へと叩き込まれる。

 

「う、この!」

 

 派手にスパークが飛び散る中、箒は残った一刀でねじるへと横胴の一撃を叩き込み、強引にねじるを引きはがず。

 

『ブラッディ・ドリル、篠ノ之選手双方痛み分けと言った所でしょうか』

『実際は我王さんの方がかなり危ない戦い方ですが、それで互角というのもすごいですね………』

 

(何て無茶苦茶な………自分のダメージを考えていないのか? 一度距離を…)

 

 攻め一辺倒のねじるの戦い方に戦慄しつつ、箒は規定距離ギリギリまで下がろうと加速した瞬間、こちらも加速したねじるが紅椿の足を掴む。

 

「なっ! 離しなさい!」

「誰が離すか!」

 

 予想外の行動に困惑しながら、箒は紅椿を加速上昇させて振り落とそうとするが、ねじるは頑として手を離そうとはしなかった。

 

『ああっと! これは予想外の体勢になっています! ルール上は一定距離以上離れて飛行すれば反則対象なので、これは問題はありません!』

『けど、ISにしがみつく人は初めて見ました………』

 

 真耶が唖然とする中、かなりの速度で紅椿は加速や急旋回を繰り返すが、それでもねじるは手を離そうとしない。

 

「これ以上は危険だ! この速度で落ちたら…」

「どうなるって!?」

 

 箒の警告を無視して、ねじるは高速で振り回されるのも構わず、ドリルを繰り出してくる。

 

「おらぁ!」

「このっ!」

 

 想定すらした事もなかった、足にぶら下がった相手からの攻撃に箒は二刀を振るってなんとか防ぐが、ねじるは構わず連続でドリルを繰り出す。

 

『こ、これはすごい! ブラッディ・ドリル、篠ノ之選手双方が空中で死闘を繰り広げています!』

『あの、パンツァーってあの高さから落ちても大丈夫なんでしょうか?』

 

 すでにかなりの高度と速度になっている紅椿に真耶が引きつった顔をするが、両者は構わず激戦を繰り広げていた。

 

「ねじるやるな~」

「すげえ………」

 

 思わず攻撃の手を止めて空中戦を見ていたどりすと一夏だったが、試合中だった事を思い出して再度向き直る。

 

「それじゃあ、こっちも本気で行くぞ!」

 

 どりすがただならぬ相手だと判断した一夏は一度距離を取ると、白式の背部スラスターからエネルギーを放出し始める。

 

「?」

「イグニッションブースト!」

 

 空ぶかしにも思える行動にどりすが首を傾げた次の瞬間、放出されたエネルギーが再度取り込まれて圧縮、そして爆発的加速となって白式が超高速でどりすへと襲いかかる。

 

『おおっと織斑選手、すさまじい高速アタックです! ドリルプリンセス、吹き飛ばされた!』

『イグニッションブースト、織斑君の得意技です、が…』

 

 目にも留まらぬ加速攻撃をまともに喰らったと思ったどりすだったが、完全に吹き飛ばされる前に体勢を立て直し、堪える。

 

『ドリルプリンセス、持ち堪えました!』

『すごい、あの加速に反応出来るなんて………』

 

「ちょっとびっくりした~」

「ちょっと?」

 

 加速の勢いを載せた雪片弐型の一撃を、カイザードリルで防いでいたどりすに、一夏は再度相手の評価を改める。

 

(これは、半端じゃなく強い! 見た目はまんま子供だけど………)

「今度はこっちから行くんだから!」

 

 宣言しつつどりすがアームにブリッドをチャージ、ドリルが高速で回転を始める。

 

「やばい!」

 

 それが必殺技の兆候だと聞いていた一夏はとっさに多機能武装腕《雪羅》をどりすへとむけ、そこから荷電粒子砲を発射する。

 放たれた荷電粒子砲とカイザードリルがぶつかり合い、周辺に閃光が溢れる。

 

『双方の技が真っ向からぶつかり合い! こちらもすごい事になってます!』

『今荷電粒子砲に突っ込んできませんでした!?』

 

 真耶がおもわずどりすの心配をするが、それは平然と荷電粒子の砲撃を突破したどりすの姿にあっさり裏切られる。

 

「ウソだろ!?」

「行っけえぇぇ!」

 

 さすがに全く効かない事は想定していなかった一夏は驚愕しつつ、思わず急上昇してどりすの一撃をかわす。

 

「こら~! 降りてこ~い!」

「ど、どういう仕組みなんだ?」

 

 荷電粒子砲をドリルで弾く、という常識外れの事態に一夏は困惑する中、どりすはしばし下で怒声を上げ続ける。

 

「そっちがその気なら!」

 

 どりすはそう言うや否や、突然カイザードリルを持ち上げたかと思うと、思いっきり地面へと突き刺す。

 

『ドリルプリンセス、突然地面に自慢のドリルを突き刺しました! これは一体!?』

『あれではむしろ動けなくなって的になるだけでは………』

 

 何から何まで予想外のどりすの行動に、誰もが困惑する中、一夏は行動を起こされる前に片を付けようと荷電粒子砲をどりすへと向ける。

 そこでどりすの背部スラスターが異常に噴出している事に気付いた。

 

「まさか!」

「今だ!」

 

 ブリッドを再度チャージしたどりすが、一撃でアンカー代わりにしていたドリルを引き抜き、その小柄な体が一気に加速上昇する。

 

「そう来たか!」

「そこだぁ!」

 

 自分に向かって上昇してくるどりすに対し、一夏は再度荷電粒子砲を発射するが、どりすは背部スラスターの僅かな噴射方向の変更で、巧みに砲撃を交わす。一夏が気付いた時にはすぐ側までどりすが迫っていた。

 一夏は砲撃から雪片弐型に切り替え、ロケットのように迫ってくるどりすに相対、両者が高速ですれ違い、双方のエネルギーのスパークが舞い散る中、両者のシールドエネルギーが一気に減った。

 

『予想外の空中戦は相打ちの模様!』

『双方、エネルギーの半分以上削られてますね………』

 

「ちぇっ、外した」

 

 バーニアでバランスを取りながら着地したどりすがすねたような口調で表示されてるエネルギーを確認。

 更にそこへ、上空から落下してきたねじるがどりすの間近へと墜落する。

 

「うわ! ねじる大丈夫!?」

「大丈夫だ、これくらいな」

 

 なんとか着地体勢は取れたねじるだったか、衝撃は殺しきれなかったのか、エネルギーが大きく減る。

 

「箒!」

「も、問題ない!」

 

 なんとか振り落とした箒だったが、ダメージこそ少ない物の、距離超過の警告すら聞こえない程、顔色は青ざめていた。

 

『こちらはダメージの大きいブラッディ・ドリルの方が平然としており、逆にダメージの少ない篠ノ之選手の方が精神的ダメージが大きい模様!』

『あんな戦い方する生徒は本校にはおりませんから………』

 

 四者四様の状態の中、前半戦の残り時間が僅かとなっていく。

 

「まだまだ~!」

「こっちもな」

「行くぞ!」

「来い!」

 

 四人がそれぞれの得物を構え、再度互いへと向かって突撃を開始した。

 

 

 

「ふ~、こんな物か」

「けどこれは………」

 

 精密作業を終えたラウラが額の汗を拭う中、出てきた物をサイコが凝視する。

 

「ぶはっ! 助かったのだ~」

「ひどい目に会った~」

 

 掘り出されたのは、全長15cm位の人形、ではなく、明らかに動いて普通に喋っている小型ロボットのような物だった。

 

「助けてくれてありがとうなのだ!」

「まさかこんな大規模転移なんて考えてなくって、気付いたら壁の中だった時はどうしようかと」

「………何だこれは?」

「さあ………そっちのじゃないんか?」

「こんな小型で高機能なロボット、まだ開発されたという話は…」

「それはこちらもです」

「でも結構かわいい」

 

 誰もが首を傾げる中、その二体は全身のホコリを振り払いながら立ち上がる。

 

「申し遅れたのだ、あたしは武装神姫、猫型MMS・マオチャオなのだ」

「私は武装神姫、サンタ型MMS・ツガルだよ」

 

 文字通り猫のようなプロテクターに身を包んだマオチャオと、赤地に白のラインが走ったプロテクターのツガルに皆が思わず顔を見合わせる。

 

「へ~、完全独立の自己認識AI。しかもこのサイズでか~」

「ええ、極めて高度な技術です」

「こんなのはどこの研究所でも…」

 

 簡単に武装神姫を判断する声にサイコと簪が思わず同意した所で、それが今まで聞いてない声だという事に気付く。

 

「あ、貴方誰ですか!?」

 

 サイコの声に全員が一斉に振り向き、そこにエプロンドレスでどこか眠そうな顔をした女性に気付く。

 

「篠ノ之博士!? 何でここに!」

「あ、知り合いなん?」

「篠ノ之 束。ISの開発者で、中枢コアを作る技術を持った唯一の人間です。でも、どうして………」

 

 その人物に見覚えが有ったラウラが驚き、クラリッサが簡単に説明する。

 

「篠ノ之、確か今ねじるさんが戦っている方が………」

「箒ちゃんは私の妹だよ。あと何でここにってのは、多分君達と一緒。気付いたらここにいた。それにしても、箒ちゃんの相手してる子、すごいガッツだね~。紅椿に何かゼロ距離武装付ける事考えとかないと」

 

 マイペースで事情を説明する束だったが、黒ウサギ隊はゆっくりと彼女の周囲を取り囲む。

 

「あの、隊長………」

「今は止めておけ」

「何がや?」

「篠ノ之博士は、現在最後のコアを残して失踪中なんです。で、世界中の色んな機関が捜索してて………」

「ふんじばろうって訳かい」

「止めといた方いいよ? もう気付く人は気付いてるでしょ? ここが私達のいた世界じゃないって」

『!?』

 

 いともあっさりここが異世界らしい事を肯定する束に誰もが驚く。

 

「驚いたのだ、何で知ってるのだ?」

「簡単、上空に人工衛星が今の所一基しか飛んでないし、そもそも星の配置がずれてる。まあざっと逆算して20世紀前半って所かな?」

「当たってるよ。ここは西暦1929年の地球なんだって」

「ま、待ってくれ! それは本当か!?」

「いきなりそのような事を言われても………」

 

 武装神姫達が束の意見を肯定し、他の者達はさすがに事態を理解しきれず、困惑する。

 

「で、それを知ってるって事は君達は事情を理解してるって事でいいのかな?」

「あああ、そうだったのだ! こんな事してる暇なかったのだ!」

「早くマスターを探さないと! 皆も準備して! もう直、敵襲が有るかもしれないんだった!」

「敵襲? 何がや?」

「それが…」

 

 束の問に、ようやく自分達の目的を思い出したらしい武装神姫達が慌てる中、最早事態に付いていけないのぞみが首を傾げる。

 説明しようとしたツガルだったが、その小さな瞳が上空に向けて大きく見開かれる。

 

「遅かった………」

「まずいのだ!」

「だから何が………!?」

 

 マオチャオも空を見て呆然とするのを見た皆が背後を振り向き、それに気付いた。

 

「あれは!」

「ここに来た時と同じ………」

 

 ちょうど闘技場の真上に、突如として発生した霧が渦を巻き始める。

 それが次元転移の前兆だと誰もが知るのは、すぐ後の事だった………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP14

 

「磁場、重力場、双方に異常発生を確認。再度の時空湾曲前兆と推測」

「規模はBレベル、中規模襲撃の可能性有り」

「転移施設の人員に警戒は見られず、異常を感知していない可能性有り」

「本部に連絡、民間人保護のため戦闘許可を打診、繰り返す、戦闘許可を打診………」

 

 

 

「今の所は頑張ってるわね」

「やっぱ自由に飛べるのずるい!」

 

 どりあが珍しく素直に褒めるのに、インターバルでダメージチェック中のどりすは膨れていた。

 

「ねじるさん、さすがに無理し過ぎじゃ………」

「あの高さから落ちた時、こっちの血の気が引いたわよ」

「大丈夫だろ、あれくらい。それに向こう、多分あの機体に慣れてない。いいバトルが出来そうだ」

 

 こちらもダメージチェックをしているねじるに、あかりやのずるが注意するが、結構深刻なダメージを負っているのにも関わらず、むしろねじるは嬉々としていた。

 

「多分当たりね。最新型だけあって、まだ習熟が済んでないのでしょう。けど、後半からは向こうも何らかの対策を打ってくるでしょう」

「というか、あんな重武装とゼロ距離戦闘なんて馬鹿するのはあんたくらいよ………」

 

 同じことを感じていたどりあが警告する中、はさみは呆れた顔でねじるのダメージ部分を簡易修復してやる。

 

「タッグマッチだって事、二人共忘れないようにね」

「でもお姉さま、タッグマッチの練習なんてしてないんだけど………」

「そりゃこっちもだ」

「う~ん。でも、一度戦ったならお互いの癖くらい分かるでしょう? その事を頭の隅にでも置いておきなさい」

『う~ん………』

 

 どりあの提言にどりすとねじるが二人して唸る中、後半開始のカウントダウンが始まる。

 

「それじゃあ、後半も頑張ってね~」

 

 

 

「大丈夫か箒?」

「ダメージはそれ程でもない」

 

 あからさまに表情が曇っている箒に、一夏は声をかけるが声色にも少し力が無かった。

 

「自殺志願? あっちの黒いドリル使い………」

「小さなプリンセスも結構無茶してますわ」

「でも、自分の能力をよく把握してるよ。ちょっとでも隙を見せたら、自分の間合いに持ち込んできてる」

「その通りだ、油断すれば即座に相手のパターンにはめられるぞ」

 

 鈴音とセシリアが呆れる中、シャルロットと千冬は冷静に相手を判断していた。

 

「あのドリル、僕のグレースケール以上の破壊力かも」

「まともに喰らったらやばいのはよく分かった。あの小っちゃい体のどこにあんだけのパワーあるんだろう?」

「見た目で判断しない方がいい。まだ何か隠してるかもしれん。そっち出された方がまだ楽かもしれんが………」

「それを出させるかどうかはお前達で決めろ。向こうは後半一気に決めに来るぞ」

「だったら………」

 

 千冬の警告に、一夏と箒は頷くと一夏はある事を箒に囁く。

 そこで後半戦開始のカウントダウンが始まり、開始と同時に二人は一気にISを加速させた。

 

 

『おおっと、後半戦開始と同時にISタッグは急加速!』

『これは…』

 

 加速した白式の背後に、紅椿が並ぶように着いて完全に向こうの視界から隠れる。

 

「来たぞどりす!」

「でも何を…」

 

 警戒するパンツァータッグだったが、そこで一夏が雪羅の荷電粒子砲を放ってくる。

 

「それくらい!」

 

 向かってきた荷電粒子砲をどりすはカイザードリルで受け止め、貫いていく。

 

「どりすっ!」

 

 だがそう来る事を読んでいたのか、即座に箒が飛び上がると、大刀・空割を横薙ぎに振るうと、そこから放たれたエネルギーの刃がどりすを狙う。

 

「!」

「動くなどりす!」

 

 とっさにねじるが前へと出てシールドでエネルギー刃を受け止める。

 そこへ一夏は白式を更に加速させ、雪片弐型をねじるのシールドへと叩き込み、耐え切れなかったねじるの体が吹っ飛ぶ。

 

「くっ!」

「ねじる!」

 

 今度はどりすがねじるの手を掴む、が、勢いの強さに二人揃って吹き飛ばされる。どりすが咄嗟にカイザードリルを地面に突き刺し強引にそれ以上吹き飛ぶのを阻止する。

 

『ISタッグ、前半とは打って変わって見事なコンビネーションでパンツァータッグを圧倒しています!』

『白式と紅椿は対として設計されてるそうですから、使い手同士の呼吸が合えば中々いいコンビネーションを発揮するはずです』

『対してパンツァータッグは組むのも初めて、そもそも筋金入りのライバル同士! 果たして対抗出来るのでしょうか!?』

 

 つばさの実況通り、箒が二刀の連続のエネルギー刃の攻撃と、その隙を付く一夏の斬撃にパンツァータッグは防戦一方に追い込まれていく。

 

「ちっ! 急に息合わせてきやがって!」

「うわあっ!」

 

 攻撃の合間に間合いを詰めようとすると、即座に互いを入れ替えてくるISタッグに、ねじるはシールドをかざしたまま対抗手段を考える。

 

(ドリルの間合いに徹底的に入らせない気か、オレがさっき取った戦法の逆。どうにかしてこいつを崩さないと!)

「このおっ!」

 

 入れ替わりで飛んできた荷電粒子砲をどりすがカイザードリルで弾き飛ばすのを見たねじるは、ある手を思いつく。

 

「どりす、いい手思いついたから協力しろ!」

「それってどんなの?」

「話してる暇は無え! 手出せ!」

「え?」

 

 言われて武装していない左手を差し出したどりすだったが、ねじるはそれを無造作に掴み、思いっきり引っ張る。

 

「え? え?」

「そおりゃあ!」

 

 バーニアまで使用し、ねじるはどりすの片手を掴んだまま、その場で振り回し続ける。

 

『おおっと、これはどういう事でしょう? ブラッディ・ドリル、ドリルプリンセスをいきなり振り回し始めました!』

『ええと、これはひょっとして………』

 

「そお、れえ!」

「ええええ!!??」

 

 渾身の力で振り回したどりすを、ねじるはそのままの勢いでISタッグの方へと放り投げる。

 

「げっ!」

「そんな手で!」

 

 この予想外の飛び道具に一夏は仰天し、箒は二刀をかざして迎撃しようとする。

 

「箒、避け…」

 

 一夏は放り投げられたどりすが、ブリッドを使用しながらカイザードリルをかざしている事に気付いて声をかけようとするが、すでに遅かった。

 

「はああぁ!」

「行っけぇ!」

 

 二刀とカイザードリルがぶつかり、エネルギーの余波がすさまじい火花となって弾け飛ぶ。

 そして、パワー負けして吹き飛ばされたのは紅椿の方だった。

 

「ば、馬鹿な!?」

「箒!」

「おっと色男、お前の相手はオレだ!」

 

 一夏が慌てる中、その正面にはいつの間にかねじるが立ちはだかっていた。

 

『パンツァータッグ、予想外の奇襲でISタッグのコンビネーションを崩しました!』

『こうなるって分かっててやったとしたら、そちらも大したコンビネーションですね』

 

 真耶が驚く中、前半戦と入れ替わった両者の対峙が始まっていた。

 

「く、この!」

「何のぉ!」

 

 箒は二刀を振るってエネルギー刃を次々繰り出すが、どりすはカイザードリルで平然とそれを破壊しながら接近していく。

 

「行っけぇ~!」

「食らわん!」

 

 猛回転して迫るドリルに、箒は雨月の刃で受け止め、そこに空割の峰を雨月の峰に叩きつけるという強引な力技で、ドリルをかろうじて受け流す。

 

「まだまだぁ!」

 

 どりすは即座に体勢を建て直そうとするが、箒は紅椿を加速させ、どりすの正面と相対しないようにする。

 

(あのドリルは驚異的だが、幾らパワーやスピードが有っても、サイズ差は埋められまい!)

 

 前半の教訓から、箒は向こうの攻撃が届かないギリギリの間合いを見計らい、紅椿を動かし続ける。

 

(いささか卑怯かもしれんが、あの突撃をまともに食らうわけには行かないからな)

 

 白式のシールドエネルギーを一撃で削りとったどりすの攻撃に寒気を覚えつつ、箒は動き続けながら斬撃を連続で繰り出していく。

 

「攻撃がせこい!」

「ISですら一撃で落とせそうな破壊力に付き合う気は無い!」

 

 二刀の攻撃をどりすは驚異的な反応速度でさばき、かわしていくが、攻撃がかすめ、エネルギーが減っていく。

 

『篠ノ之選手、見事な機動でドリルプリンセスの動きを封じています!』

『突破力がすごいなら、突破させないようにすればいい。単純ですが、効果的ですね』

 

「そうか、そうすれば良かったのか…」

「どこ見てる!」

 

 感心する一夏に向けて、ねじるがドリルを突き出してくる。

 

「危なっ!」

 

 雪片弐型でなんとかそれをさばいた一夏だったが、同時にある事にも気付いた。

 

(あっちの子よりも鋭いけど、軽い! これなら…)

 

 なんとかドリルをさばいたと思った一夏だったが、その影から繰り出されていたボディブローがモロに腹へと叩き込まれる。

 

「ぐっ!?」

「どりすよか破壊力が無いってのは先刻承知だぜ!」

 

 そのまま再度近接格闘に持ち込もうとしたねじるは、ドリルを引いてシールド部分で一夏の顎を突き上げようとする。

 顎を引いてシールドバッシュの一撃をかわした一夏だったが、続けてミドルキックが足へと叩き込まれる。

 

「だから図体がデカすぎるって…」

 

 いけると思ったねじるが再度拳を叩きこもうとした時、その腕が掴んで止められる。

 

「生憎、女の子に殴られるのは慣れててね」

 

 自分自身情けない事を言ってると自覚しつつ、一夏は掴んだねじるの腕を引きつつ、足払いを掛ける。

 

「なっ…」

 

 予想外の投技にねじるが受け身を取りながら腕を振り払って距離を取る。

 再度相対した時、一夏の手が何も持っていない事に気付いた。

 

「それに色々教えてくれる人達も多くてね」

 

 雪片弐型を収納した一夏は白式の両手を前へと揃えて出す構えを取る。

 

『おおっとこれは予想外! 織斑選手、得物を仕舞い込んでまさかの格闘戦です!』

『合気道ですね。更識さんに習ったんでしょうか』

 

(習っとくもんだな~)

 

 簪の姉の楯無から叩きこまれた事を思い出しつつ、一夏はねじるの攻撃を対処する。

 

「たりゃあぁ!」

 

 ねじるのハイキックを片腕で受け止め、もう片手でその足を掴み、バランスを崩す。

 

「ちっ!」

 

 バーニアを吹かして転倒を防ごうとしたねじるだったが、無防備な足を蹴り上げられ、制御しそこねて転倒する。

 

「あつっ!」

「サイズが違っても、これなら関係ない」

 

 転がって距離を取ったねじるだったが、一夏が一気に距離を詰め、ねじるの首元のプロテクター部分を掴む。

 

(奥襟、今度は柔道か! けど!)

 

 一夏が投げの体勢に入る直前、ねじるは一夏が全く予想していなかった行動を取る。

 突然顔面に衝撃が走り、一夏の意識が一瞬飛びかける。

 

「な、んだ!?」

 

 掴んだ手を離してしまった一夏が、ふらつく意識をなんとか立てなおす。

 そこで、ISの絶対防御を僅かに上回った謎の一撃の正体に気付く

 自分の鼻から僅かに血が流れ出している事と、ねじるの額に血痕が付いている事に。

 

『ブラッディ・ドリル、まさかの頭突きで窮地を抜け出しました!』

『あの、本当にそちらではどういう訓練を?』

 

 IS学園ではまず絶対誰もやらない攻撃に真耶がドン引く中、ねじるは一気に距離を取る。

 

「どりす!」

「ねじる!」

 

 ねじるの呼び声に答え、どりすも大きく距離を取ると、互いに背中合わせになる。

 

「どうやら、相性悪いみたいだな」

「やる事せこい!」

「スピードは向こうが上だからな。けど…」

「パワーなら…」

 

 そこで二人は互いに頷くと、突然互いの位置を入れ替え、前半同様、どりすは一夏に、ねじるは箒へと向かっていった。

 

『ああっと、ここで選手交代! パンツァータッグ、再度前半と同じ相手に向かっていきます!』

『成る程、互いに相手を信頼して任せる、これがそちらのコンビネーションなんですね』

 

 観客の歓声が無数に飛び交う中、四人がそれぞれと激突する。

 

「くっ!」

「何のぉ!」

 

 雪片弐型を再度呼び出した一夏とどりすのカイザードリルがぶつかり、周辺に火花が飛び散る。

 

「同じ手は二度と…」

「じゃあ奥の手だ!」

 

 先程と同じ手で近接戦を避けようとした箒だったが、そこでねじるがブリットをチャージ、ドリルが高速回転を始めたかと思うと、そのまま一気に突き出され、回転そのままのエネルギーの渦が高速で撃ち出される。

 

「がはっ!?」

 

 予想外のねじるの攻撃は、紅椿の防御を貫き、箒にまでダメージを与える。

 

『ブラッディ・ドリル、とうとう切り札のドリル・ペネトレートを繰り出しました!』

『紅椿のシールドを貫くなんて、とんでもない技ですね………』

 

 一気に紅椿のシールドエネルギーが減るのを見たIS学園勢は愕然とするが、帝都学園勢は更に盛り上がっていく。

 

「一発じゃ仕留め切れなかったか………」

「確かに、これは奥の手だな………」

 

 間違いなくもっとも最新型ISの紅椿の防御すら貫いた攻撃に箒は驚愕しつつ、ねじるが再度ブリットを装填するのを見て身構える。

 

「ねじる、あれ使ったんだ」

「やっぱ、君もそういうの持ってる?」

 

 どりすと一夏がちらりと向こうを見ていたいが、一夏の一言にどりすがにやりと笑う。

 

「それじゃあ、こっちも奥の手! フォ~ムアーップ!」

 

 どりすが片手を掲げながら叫ぶと、突然その体が光の粒子に包まれる。

 その直後起こった変化に、一夏のみならず、IS学園勢全員が目を見開いた。

 光の粒子に包まれたどりすの体が、瞬く間に成長していく。

 手足も身長も、一回り以上伸び、その外見も明らかに10代後半を思わせる物へと完全に変化した。

 

『ドリルプリンセス、こちらも切り札のフォームアップです!』

『い、今変身しましたよ!? チビっ子からレディですよ! ペタンコからボインボインですよ! 有りですかそんなの!?』

『一部に関しては私も納得いきませんが、生憎とこちらでは有りです! 全ての能力が一段階上昇するドリルプリンセスのフォームアップ、しかし短時間しか持たない決着専用の技でもあります!』

 

「まさか必殺技じゃなくて変身が切り札とは。でも、それならこちらも! 零落白夜、発動!」

 

 狼狽する真耶の解説につばさが詳細を説明する中、一夏はこちらも切り札を開放する。

 雪片弐型が眩い光に包まれ、長大なレーザーブレードを形成する。

 

『ああっと、織斑選手も何らかの奥の手を使用した模様!』

『零落白夜、いかなるエネルギーをも無効化・消滅させる白式の切り札です! しかし、シールドエネルギーを激しく消費するため、こちらも短時間しか使用出来ません!』

『ドリルプリンセス、織斑選手、双方決着を付けるつもりです!』

 

「そうか、ならばこちらも…」

「そうだな!」

 

 箒とねじるも、二刀を構え、ブリットをチャージさせる。

 観客席全てから割れんがばかりの歓声が響く中、四人は互いの相手に向かって同時に動き出す。

 

『全員が決着を付けに行きました! 果たしてこの激突の後、立っているのは誰なんでしょうか!?』

 

 つばさの実況も興奮する中、距離が一気に詰まっていく。

 どりすも一夏も一撃必殺を叩きこもうと、己の得物を高く構えた時だった。

 二人の背筋に、すさまじい悪寒が走る。

 

「何っ!?」

「何だ!?」

 

 何者かに見られている、という感覚と共に、双方の動きが止まり、同時に上を見る。

 

「どりす!?」

「一夏!?」

 

 二人の異常に、もう二人も気付き、思わず動きを止めてこちらも上を見る。

 そして、四人が同時にそれに気付いた。

 

『これはどういう事でしょう!? 両者動きが止まって…』

『あ、上! 上見て下さい!』

 

 つばさも困惑する中、真耶の声が響く。

 誰もが上空を見て、それに気付いた。

 闘技場上空に渦巻き始める霧に。

 

『あれって、ここに学園が現われた時の!?』

『な、何が起こってるんでしょうか!?』

 

 実況席の二人も混乱するが、変化は即座に現われた。

 上空の霧は竜巻状態にまで成長し、そこから何か巨大な物が降ってくる。

 

「うわぁ!?」「くっ!」「何だぁ!?」「こ、これは!?」

 

 自分達の真上から迫る謎の物体に闘技場の四人は即座に回避し、それは闘技場を揺るがすような振動と共に地面に激突し、盛大に土埃を上げた。

 

『え~と、その、これは一体何なのでしょう?』

『さあ………』

 

 全く予想外の事態につばさも真耶も説明出来ない中、次の変化が起きた。

 突然その物体の表面が、縞模様の明滅を始め、表面が振動しているようにぶれ始める。

 

「何これ………」

「さあ………」

 

 頭が全くついてこない状況にどりすと一夏が間抜けな声を漏らすが、その物体のちょうど二人の真正面に、淡い光が灯る。

 

『!!』

 

 どりすと一夏だけでなく、ねじると箒の正面にも現われた光の正体に四人は同時に気付いた。

 そして数瞬を持ってそれが当たっていた事を四人は知る。

 その物体から放たれた、ビーム攻撃によって。

 

「このっ!」「くっ!」

「ちいっ!」「やはりか!」

 

 放たれたビームをどりすと一夏はカイザードリルと雪片弐型で受け止め、ねじると箒は身を捻ってかわす。

 狙いが外れたビームはそのまま闘技場の内壁に当たり、盛大な衝撃と土埃を撒き散らした。

 

『こ、攻撃! 謎の物体が四人を攻撃しました!』

『敵襲! 敵襲です!』

 

 何が起きているのかをようやく理解したつばさと真耶が叫ぶ中、遅れ馳せながら非常事態を告げる警報が鳴り響く。

 

『皆さん落ち着いて! 織斑先生! すぐに対処を…』

『ああ、必要だな。しかも早急に』

『そうですわね』

 

 真耶が慌てながら千冬に指示を願う中、千冬とどりあの声が闘技場内のスピーカーから響く。

 それは、真耶が予想していたのとは真逆の意味だった。

 

「ちょっと! 上からまだ何か降ってくる!」

「しかもたくさん!」

「うそでしょ!?」

 

 観客席の生徒達が騒ぐ通り、上空の霧の竜巻からは、闘技場の物よりは小さいが、無数の何かが次々と出現していた。

 

 

 

「どりあ様!」

「皆、まだ行ける? 行けるなら他の人達が避難するまで、上からのアレの相手をお願い出来るかしら?」

『はい!』

 

 どりあが小首を傾げながらの問いかけに、はさみ、のずる、あかりが同時に答え、セットフォームしながら室外へと飛び出していく。

 

「思っていたよりは遅かったわね」

 

 残ったどりあの呟きを、聞く者はいなかった。

 

 

「織斑先生!」

「専用機持ちは全員出撃、避難が済むまで時間を稼げ!」

『了解!』

 

 千冬の号令に、鈴音、セシリア、シャルロットはISを展開しながら飛び出していく。

 

「更識、そちらは?」

『準備OKです』

「では誘導を頼む」

『分かりました』

 

 通信越しにある相手に確認を取ると、千冬は一息ついて、パンツァー側の控室に通信を入れる。

 

『はいこちらパンツァーチーム、と言いましても、私一人しか残ってませんけれど』

「こちらもだ。そちらのは使えるか?」

『皆さんまだ元気でしたから、しばらくは大丈夫でしょう。ただ………』

「ああ、敵がどれくらいか、だな」

 

 突然の敵襲に二人共全く慌てた様子が無く、淡々と双方の状況を確認する。

 

『そちら、使える方は他にどれくらいおりますの?』

「IS学園が保有しているISは専用機を除けば、全30機。出撃準備はすぐに出来る。そちらは?」

『ここに来た生徒の半数以上がパンツァーのようですけれど、実戦で使い物になるのはそれほど多くありませんわね。守るならともかく、攻められるのは50人前後かしら?』

「そして、敵は………」

『………ちょっと数えるのが手間ですわね』

 

 二人の視線は、上空を移す画面へと移る。

 そこには、サイズ差、個体差はあれど、全て同じ明滅する縞模様と振動する躯体を持った敵が、次から次へと現れていた。

 

「この数は予想外だったな」

『ええ、全く』

 

 二人の言葉に、初めて僅かな焦りが加わっていた。

 

 

 

「撃ってきた!」

「だ、大丈夫! この闘技場にはバリアが張られてるはず!」

「パンツァー用のシールドも完備してるわ! けど!」

 

 次々と現れる謎の敵に、生徒達がパニックになりかける中、試合中継用の大型ディスプレイに一人の少女が映しだされる。

 

『は~い、皆落ち着いて。こちらIS学園生徒会長の更識 楯無です。現在、当学園は所属不明、そもそも正体不明の敵に攻撃されてます。だから、皆さんは闘技場地下のシェルターに順次避難してください。全員入れる余裕は有るから、慌てないでね~』

 

 映しだされた快活そうな少女、簪の姉でもあるIS学園生徒会長の楯無の言葉に、観戦していた生徒達は急いで、だが混乱は最小限にシェルターに続く出入り口へと向かっていく。

 

「ひょっとして、そっちもこの下がシェルター?」

「ええそうよ。ちょうど良かったと言うべきかしら?」

「かもね」

「そちら、何か慣れてません?」

「いや、家の学園、たまに襲撃が有って………そちらもそんな慌ててないように見えるけど?」

「いえ、たまに野試合に負けた方がカチコミを………」

 

 IS学園、東方帝都学園双方の生徒が苦笑しながら、迅速に避難を進める。

 

「皆さん、落ち着いて! 落ち着いてくださいね! 慌てないで!」

「先生が一番慌ててます!」

 

 通路で生徒の誘導をしていた東方帝都学園一年80組担任の足立が、上ずった声を上げるが、そこでそばの扉がいきなり吹き飛ぶ。

 

「きゃぁっ!」

「何だ!?」

 

 運良く巻き込まれた生徒はいなかったが、破壊された扉の向こうから、ティーポッドのような本体に細長い四脚を持った、小型陸戦用と思われる敵が姿を表す。

 

「ひいいぃぃ!」

「セット…」

「フォーム!」

 

 足立が情けない悲鳴を上げる中、生徒の中からパンツァー能力を持った者達がセットフォームしながらその小型陸戦機へと立ち向かう。

 

「ここは私達に任せて!」

「先生は避難して!」

「は、はいいぃぃ!」

「早く!」

 

 腰が抜けたのか、這って逃げようとする足立を他の生徒達が抱き起こして逃げる中、パンツァー達はアームを手に立ちはだかる。

 

「パンツァーを」

「舐めないで!」

 

 そこへ、別の扉が吹き飛び、新たな敵影が現れる。

 

「あっちからも!」

「任せて!」

 

 戦闘中のパンツァーの後ろを、教習用ISの打鉄を展開させたIS学園の生徒達が駆け抜けていく。

 

「早々簡単にこの学校は落ちないわよ!」

「相手になってあげる!」

 

 他にも各所で防戦が繰り広げられる中、避難は順次進んでいく。

 だが、戦闘はそこだけでは留まらなかった。

 

 

 

「隊長!」

「分かっている! 予備機も出せ! 全装備使用許可! 黒ウサギ隊の力を示してやれ!」

 

 突然の敵襲に困惑する部下達に叱咤しながら、ラウラも自分の専用機、巨大なレールガンを持った漆黒の機体、シュヴァルツァ・レーゲンを展開させる。

 

「織斑教官! 敵襲です!」

『分かっている。そちらから見た状況は?』

「敵の数は不明! 無数に出現しています! 学園各所に破壊行動を行っている模様!」

『順次撃破しろ、学園への被害を最小限に抑えるんだ。今、他の専用機持ちも対処にあたっている』

「了解!」

「こっち来おったで!」

 

 声と同時にのぞみの手から巨大なブーメラン型のアームが放たれ、大きく弧を描きながら小型飛行型と思われる敵を破壊していく。

 

「へ~、君達もパンツァーなんだ」

「言っとくけど、試合しとった連中で比べんといてや! ウチはランキングそんな高くないんや!」

 

 束の問に怒鳴るように答えながら、戻ってきたアームを受け取ったのぞみ(パンツァーネーム、ブレード・スピリット)が再度それを構える。

 

「それは貴方の戦い方がセコいだけです」

「ブリッドだって高いんやで!」

 

 その隣で横笛型のアームを構えたサイコ(パンツァーネーム、カーム・シンフォニー)が迫ってくる陸戦型に向かってアームを吹き鳴らし、放たれた超音波が陸戦型の足を留め、やがて崩壊させていく。

 

「変わった戦い方だね~」

「危ないですから、束博士は私達の後ろに!」

 

 簪が自分の専用機、大型のミサイルポッドが特徴の打鉄弐式を展開させながら、束の前に立つ。

 

「上から更に来たで!」

「任せて下さい! 山嵐!」

 

 のぞみの言葉に、簪は打鉄弐式をそちらに向けると、ミサイルを一斉発射。

 計48発のミサイルを簪が各個にマニュアル制御、全てが目標へと正確に命中していく。

 

「いやはや、やるね~」

「そっちは何かと派手やな~」

「派手にでもしないとやってられん!」

 

 更にラウラは両肩の大型レールカノンを速射、向かってくる敵を次々と撃ち落としていく。

 

「く、狙いが定めにくい!」

「この敵、全機ジャミングを始終かけてます! レーダー制御だけじゃ当たりません!」

「なんと厄介な………」

「それなら目視でやればいいんや!」

「やっている! くそ!」

 

 悪態を付きながら、ラウラは眼帯を外す。

 その下からは金色に光る目《越界の瞳(ヴォーダン・アージェ)》が現れ、ハイパーセンサーの感度を更に上げていく。

 

「一体こいつらは何者だ!」

「聞きたいんはこっちや! こんな連中見た事無いで!」

「こちらでもです! こんな高度な無人機、まだどこも開発してません!」

「じゃあ、これはどこから?」

「うう~ん、謎だね~」

 

 互いに思わず悪態をつきながら戦闘を繰り広げる四人の背後で、ただ一人緊迫感の無い束が首を傾げる。

 

「隊長~!」

「お手伝いします!」

 

 そこへ基地からありったけの武装を引っ張りだしてきた黒ウサギ隊が、それぞれ大型の重火器を手に戦闘へと加わる。

 

「敵は高度な電子戦能力を持っている! FCSは光学照準! 誘導兵器は使うな!」

「しかしあの鳴動、光学照準も狙いにくいです!」

「それが狙いか! どこまで高度な技術で作られている!?」

 

 ISを展開させている副隊長クラリッサの言葉通り、誰もが異常な戦いにくさを感じていた。

 

「間違いなく、まだ存在しない技術で作られてるね。私だって見た事ないもの」

「つまり、ISよりも高度な技術で作られている、と?」

「ちょっと調べてみよう」

 

 興味深そうに謎の敵を観察する束だったが、簪の問に何を思いついたのか、突然敵の方へと歩き出す。

 

「ちょ、何しとるんや!」

「篠ノ之博士!」

 

 のぞみとラウラが慌てて連れ戻そうとするが、そこに陸戦型が束の真正面へと降下してきた。

 

「やば…」

「伏せ…」

 

 束を守るべく攻撃しようとした二人だったが、それよりも早く、束の両手から手品がごとく無数の工具が飛び出す。

 

「それっ!」

 

 工作用カッターが無造作に振るわれ、陸戦型の表面が大きく切り裂かれる。

 

「表面コーティングはナノマシンかな? でもこの組成はもうちょっと…」

 

 さらにその断面に次々と工具が突っ込まれ、内部構造まで調べ始めた所で、陸戦型はその場で崩壊してしまう。

 

「あれ? そっか内部にある程度ダメージ入ると自己崩壊するんだ。失敗失敗」

 

 にこやかに頷きながら、束は他の敵を探し始める。

 

「い、今襲ってきた敵を分解しようとしたで………」

「変わった人物だとは知っていたが、あそこまでとは………」

「とんでもないマッドサイエンティストにしか見えませんが」

「ええ、まあ………」

 

 次の獲物を探す束に皆がドン引く中、ふとある事に気付いた。

 

「あれ、あの小っこいのドコいったん?」

「闘技場の方に行ったみたいです。どうにもすごい大型が出現したらしく、一夏君達が応戦中だそうですが………」

「どりすさん達の増援に行きたい所ですが、ここから動くのも難しい状況では…」

「ここで敵を一体でも多く減らすんだ! 闘技場に行かせないように!」

 

 ラウラの言葉に皆が一斉に頷き、更に数を増やし続ける敵へと立ち向かう。

 

「そう言えば、あの子達の事も調べてなかったね………」

 

 束が小首を傾げながら、闘技場の方を見つめる。

 そこからは、一際激しい戦闘音が途切れる事無く続いていた。

 

 

 

「このっ!」

 

 一夏の気合と共に雪片弐型が振り下ろされるが、刃はあっさりと装甲に弾かれる。

 

「か、硬い!」

「これならどうだ!」

 

 ねじるがドリルを高回転させながら突き刺そうとするが、表面に引っかき傷を残すのが精々だった。

 

「何で出来てやがる!」

 

 悪態と共に、ねじるがこちらに向かって放たれたビームを回避する。

 突如上空から降ってきた謎の敵は、その姿を露わにしていた。

 小山程はあろうかというそれは、全身を縞模様の明滅と鳴動で覆い、まるで頭部の無い甲虫のような形をしていた。

 

「こちらなら!」

 

 虫の節足を思わせる脚部、その関節部に箒が連続して斬撃を叩き込み、その一本をようやく斬り飛ばす。

 だがそれをあざ笑うように、新たな節足が胴体から伸び、箒を狙って連続で振り下ろされる。

 

「一体何なのだこれは!」

 

 ISの中でももっとも最新型のはずの紅椿を持ってしても中々ダメージを与えられない謎の敵に、箒は明らかに狼狽していた。

 

「行っけぇ!」

 

 フォームアップが解け、元の幼い姿に戻ったどりすがカイザードリルを突き刺すが、今度は傷すらつかずに弾かれる。

 

「どりすのでもダメか!」

「こいつは、どうやって戦えば………」

 

 四人のどの攻撃も効かないような敵相手に、どう戦うべきか皆が迷っていた。

 

「バラバラに戦ったらダメなのだ!」

「そうだよ! 私達と一緒に組んで戦わないと!」

「そう言っても…え?」

「今、どこから?」

「ここなのだ!」

「こっちです!」

 

 突然聞こえてきた聞き慣れない声に、どりすと一夏が首を傾げ、おもむろに声のする方を見ると、そこにいる小さな人影に気付く。

 

「………へ?」

「な、なんだコレ!?」

「あたしは武装神姫、猫型MMS・マオチャオなのだ! 該当条件に一致、今からあなたがあたしのご主人様なのだ!」

「私は武装神姫、サンタ型MMS・ツガル。該当条件一致、今からあなたが私のマスターだよ」

 

 どりすの肩にはマオチャオが、一夏の肩にはツガルが居て、それぞれが相手をマスター登録する。

 

「なんだそのオモチャ!」

「マスターって………」

 

 いきなり現われた武装神姫に、ねじると箒も驚くが、それよりも敵の攻撃再開の方が早かった。

 

「危ないのだ!」

「させない!」

 

 マオチャオは飛び出しながら防壁ファンビーをかざし、その横に並んだツガルはスナイパーライフル・ホーンスナイパーライフルを二丁構えで速射、ビームの発射口を狙い撃って誘爆させる、漏れたビームはマオチャオのファンビーからどりす達をまとめて覆うほどのバリアが発生し、それを受け止め、拡散させる。

 

「うわぁ!」

「だ、大丈夫?」

 

 ビームは拡散させたが、衝撃までは止めきれなかったマオチャオが吹き飛ばされるのをどりすが慌てて受け止める。

 

「ありがとうなのだ、ご主人様!」

「結構強いんだ」

「そうか、攻撃する場所を逆に狙えば!」

「マスター、狙撃は得意?」

「…結構やるじゃねえか」

「確かに」

 

 どりすと一夏が感心する中、ねじると箒も予想外の武装神姫の能力に驚いていた。

 

「どうやら、あの小っこいのの言う通りにするしかなさそうだな………」

「まだいける?」

「全員似たようなモンだろ」

 

 ねじると箒が自分達の状態、先程までの試合でかなりのダメージを負っている事を再確認して思わず苦笑する。

 

「今この面子で、あのデカブツの装甲破れるとしたら、フォームアップしたどりすしかいねえ」

「けど、さっきの変身、すぐに解けたわね………」

「その短時間で確実に装甲破れる隙を、どうにか作るしかねえ………」

「そうか………」

 

 自分達で言いながら、ねじるも箒も生ぬるい汗を流さずにいられなかった。

 

「私が先陣を切る! 緋椿の機動なら、相手を撹乱させるにはもってこいだ」

「その隙にオレがどうにか傷を作る。運良くブリッドもまだ余ってるからな」

「一夏! 私達でどうにか隙を作る! そしてそのプリンセスに装甲を破らせるんだ!」

「どりす! それまでフォームアップしての一発分、取っておけよ!」

「ちょっと待った…」「分かった!」

 

 困惑する一夏と頷くどりすを尻目に、箒とねじるは巨大な敵へと向かっていく。

 

「援護するよ!」

「やるのだ!」

 

 ツガルとマオチャオもそれに続き、一夏もそれに続こうかと迷うが、覚悟を決めてその場に留まる。

 

「オレ達の役目は、あいつに完全にトドメを刺す事だ」

「分かってる!」

「あと一撃、しかも最高のを取っておかなくちゃならない」

「ブリッド、あと何発あったかな………ねじるの余ってないかな?」

「頼んだぞ、箒………」

 

 一撃を叩き込む隙を作るため向かっていく者達を信じ、二人は最後の力を温存する覚悟を決めた………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP15

 

「始まったか!」

「状況は!」

『敵機多数! 外見から、東京を襲撃した勢力と同勢力と思われます! 戦闘開始直前から、妨害が激しくなって詳細は…』

「迎撃は出来てるのか?」

『それは確認しています! ノイズが激しいですが、各所で応戦している模様!』

 

 突如としてもたらされた学園急襲の報に、各指揮所は蜂の巣を突いたかのような騒ぎとなっていた。

 

「まずいですね、かなりの規模の襲撃です」

「だが、こちらの予想よりも戦える人員が多くいたようだ。なんとか迎撃できてる」

「今の所は、だがな」

 

 帝国華撃団本部で、情報整理していたエルナーと大神が上空衛星からのモニターを確認していたが、先日の戦いを思い出した米田が言葉を濁す。

 

「増援は?」

「現在、亜乃亜とエリュー、そしてエグゼリカが全速で向かっています。到着は15分後。カルナダインはまだニューヨークを発ってないので、今から向かってどれくらいかかるか………」

「三人、か。まああの嬢ちゃん達も強ぇからな」

「問題は、現地の人達がどれだけ持ち堪えられるか………」

「もしここが学校なのだとしたら、いるのはまだ生徒だという事になる。つまり、実戦経験がほとんど無いかもしれない………」

 

 軍人としての一番の懸念事項、戦歴の少なさを危惧する大神だったが、それは他の指揮官達も同様だった。

 

『向かっている者達に任せるしかない』

『こちらジオール、Gの他のメンバー達も出撃しますか!?』

『今からでは間に合わんかもしれんが、救援は必要かもしれん』

 

 門脇とジオールも表情を険しくする。

 

「せめて、誰かすぐにでも駆け付けられる人がいれば………」

 

 エルナーの呟きは、誰もが心中思っていた。

 

「ん?」

 

 そこで大神の肩でモニターを見ていたプロキシマが何かが見えた気がして目をこする。

 

「どうした?」

「今、何かが画面に映ったような………」

「………まさか、他にも何かいやがるのか?」

 

 

 

『こちら校舎前! なんとか敵を押し留めてます!』

『食堂周辺! 今パンツァー達が増援に来ました!』

『こちら更識、非戦闘員のシェルターへの移動完了! 私も出ます!』

 

 あちこちからの報告が届いてくる中、千冬は僅かにうつむいて、ある違和感を感じていた。

 

『おかしいですわね』

「そちらもそう思うか」

『ええ、これだけの襲撃なのに、死者が全く出ていない』

「怪我人は出ているが、重傷者は出ていない。もっともこれは避難が迅速に進んだ結果でもあるが」

 

 繋ぎっぱなしになっていた電話から、同じ違和感を感じていたどりあの同意に、千冬は更に違和感を深くする。

 

「これだけの戦力で襲撃しておきながら、死者を出していない」

『こちらもそちらも強いから、ではありませんね』

「残念ながらな。つまり、敵の狙いは…」

 

 

 

「! これは!?」

 

 突然敵の戦い方が変わった事に、ラウラが一番最初に気付く。

 他でもない、自分に攻撃が集中し始めたからだったが、他の者達もすぐにそれに気付いた。

 

「隊長が狙われているぞ!」

「隊長を守るんだ!」

 

 黒ウサギ隊が一斉に攻撃を集中するが、それでも敵は執拗にラウラのシュバルツェア・レーゲンを狙ってくる。

 

「どないなっとるんや!? あいつら銀髪好きなんか!?」

「それは無いんじゃ………」

 

 のぞみが素っ頓狂な声を上げるが、簪が即座に否定。

 

「この中で、一番火力が強いのが彼女です。つまり、ここの要だと気付いたのでしょう」

「多分ね~、しかも恐らく狙いは…」

 

 サイコの指摘に束が頷きながら、ある懸念を抱く。

 

「何だこれは!」

 

 それはすぐに現実の物となった。

 シュバルツェア・レーゲンの周囲を小型の飛行型が取り囲んだかと思うと、一斉に何かの樹脂のような物を発射してくる。

 

「舐めるな!」

 

 プラズマ手刀を展開したラウラは一閃でそれらを薙ぎ払うが、そこで再度集中攻撃が再開される。

 

「トリモチ!?」

「いえ、多分鹵獲兵器です!」

「やっぱ銀髪好きか!」

「違いますわ、狙いは…」

「うわっ!?」

 

 そこで悲鳴が上がり、皆がそちらを見ると、クラリッサがISごと先程の鹵獲兵器で絡め取られていた。

 

「あかん!」

 

 のぞみがアームを投じ、強引に樹脂を切り落とす。

 

「助かった!」

「銀髪じゃなくてドイツ娘趣味か!」

「違います!」

 

 訂正したのぞみを、更にサイコが訂正しながら背中で彼女を突き飛ばす。

 

「なっ!」

 

 転びながらも受け身を取り、振り返ったのぞみの目に、自分に向かって放たれようとしていた鹵獲兵器を、サイコがアームを吹き鳴らして生じさせた音の防壁で防いでいた。

 

「狙いは、ISの機体を含めた私達自身………!」

「そうだね。パンツァーとIS、両方まとめて拐う気みたいだよ」

 

 簪がようやくたどり着いた相手の狙いに、束があっさりと頷いた。

 

「多分、他の所もだろうね。まあ箒ちゃんといっくんの所は違うみたいだけど」

 

 束が空恐ろしい事を口にするが、同時に学園各所で悲鳴が上がり始める。

 

「これは、マズいで………」

 

 

 

『お、織斑先生! 敵の行動が変化!』

『止めろ! この!』

『敵更に増援! 救援を!』

 

 突然の相手の戦術変更に、千冬は深刻な顔をせざるを得なかった。

 

『なるほど、随分と来るのが遅いと思ってましたけど、こういう事でしたか』

「ああ、狙いは機体ごと騎乗者を鹵獲する事、か」

『観察されていたのかもしれませんわね、最初から』

「道理で死者を出さない訳だ」

『お、織斑先生! 闘技場上空に更に敵が! 敵が!』

「山田先生、少しの間頼む。戦闘中の全員に通達、決して単独行動は取るな」

『ええ!?』

 

 こちらも悲鳴じみた真耶の通信に、千冬はある事を決意してその場を後にする。

 

『………ま、そうするでしょうね』

 

 どりあもそう呟きながら、その場を後にした。

 

 

 

「このっ! 来るなっ!」

 

 鈴音が悪態をつきながら、甲龍の衝撃砲を連射する。

 

「こいつら、急に戦い方変えてきた!」

 

 先程までの際限なく押し寄せてくる戦法から一転し、中~近距離型の甲龍の弱点を突くように、遠距離からのしかも複数方向からの狙撃に、鈴音は何とか防ぎながらも応戦する。

 

(一体潰しても、すぐに別方向から撃ってくる! こっちの攻撃範囲が完全に読まれてるって事?)

 

 ISの装甲でなんとか持ってはいるが、試合のダメージも残っており、このままでは押し込まれるのも時間の問題だった。

 

「まずいわね………」

 

 狙撃から逃れるべく、建物の影に回りこんだ所で、そこに隠れていたはさみと目が合う。

 

『あ』

 

 思わずお互い間抜けな声を漏らした所で、空戦型がこちらに向かってくるのに気付き、偶然にも二人揃って同じ方向に逃げ出す。

 

「あんたのせいで見つかったじゃない!」

「こっちも大変なのよ!」

「こっちだって誰かのせいでアーム片方壊れたままなのよ!」

「それはこっちだって!」

 

 口論しながら逃げる二人だったが、敵は空陸合わせて段々増えていく中、はさみがアームが無い方の手でそのまま進むようにサインを送る。

 

「一体全体、こいつら何体いるのよ!」

「こっちが聞きたいわよ!」

 

 相変わらず口論しながら、二人は目の前にある体育館の中へと飛び込む。

 追ってきた空戦型、陸戦型も体育館の中へと入ろうとした時、入り口を吹き飛ばしながらフォールドシザーの衝撃波が敵をまとめて吹き飛ばす。

 

「ざっとこんな物よ」

「なるほどね。それ、まだ打てる?」

「ブリッドはあと三発しかないけど、誰かが誘導してくれれば、結構行けるわよ」

「………成る程、しょうがないわね。でもトドメ刺し損ねなたら衝撃砲をぶち込んで追い打ちするわよ。あんたの攻撃で崩れた後ならなんとかなるでしょ」

 

 二人は体育館から飛び出しながら、狙撃機の弾道から隠れるように動きつつ、敵を誘導していく。

 

「それじゃあ行くわよ、チャイナツインテール!」

「そっちこそね、シザーツインテール!」

 

 軽く悪態をつきつつ、二人は同時に得物を構えた。

 

 

 

「く、これは………」

 

 スターライトmkⅢを構えたセシリアだったが、即座に死角から来る敵機に狙撃体勢を崩さざるを得なくなる。

 

「しつこいですわよ!」

 

 狙撃からビット攻撃に変えたセシリアが向かってきた敵を撃破するが、即座に新手が向かってくる。

 

「次から次へと!」

 

 狙撃とビット攻撃、その隙を交互についてくる敵に、セシリアは歯噛みしながらもブルー・ティアーズをスライドさせて、何とか優位な体勢に持ち込もとうするが、中々その隙は与えてもらえない。

 

「まさか、先程の試合を見られてましたの?」

 

 明らかにこちらの対抗策を講じてくる敵に、セシリアは違和感を感じていたが、敵は次々と押し寄せてくる。

 

「どうにか、敵をまとめられれば…!」

「動かないで!」

 

 そこで突然下から声が響いてきたかと思うと、突き上げるような竜巻がブルー・ティアーズの周囲にいた敵を巻き込んでいく。

 

「これは! そういう事ですの!」

 

 好機と見たセシリアはビットとスターライトmkⅢを同時に構え、竜巻に捉えられた敵を次々と蜂の巣にしていく。

 

「助かりましたわ!」

「ま、こっちもだけど」

 

 下でアームを構えていたのずるに、セシリアは素直に礼を述べる。

 

「実は、ブリッド切らしてね。相手を破壊できる程のパワーが出せないの」

「つまり、今ので全力?」

「今の私のはね」

「………分かりましたわ。とどめはこのセシリア・オルコットにお任せください。それで先程の貴方の勝ちは無効という事で」

「貴方、案外せこいわね………」

「な、この私にせこいなんて!」

「けど、そうしてもいいわよ。生き残れたら」

 

 のずるがそう言いながら、押し寄せてくる新手にアームを構える。

 

「まずはそれが大事ですわね………」

 

 セシリアも思わず生唾を飲み込みながら、スターライトmkⅢを構えた。

 

 

 

「まずい、狙われてる………!」

 

 専用機持ちに攻撃が集中し始めた事をシャルロットは確信しつつ、弾切れを起こした銃を投げ捨て、次を呼び出す。

 

「それにこれは………」

 

 次から次へと武装を変えるシャルロットの戦い方に対抗するように、周囲の敵も複数の種類が混在し、散弾銃を使えば大型の重甲型が、カノンを使えば小型の高速型が前面へと出てくる。

 

(さっきの試合、観察されてた? だとしたら、まずい………!)

 

 奥の手のグレースケールは故障したままで、徐々に追いつめられつつあるシャルロットは、残った武装を確認しつつ、弾幕を張り続ける。

 

(大口径は間合いを詰められる、小口径は防がれる、でもって上空も段々増えてきた!)

 

 包囲が狭まってきてる事に焦り始めるシャルロットだったが、打開方法が思いつかない。

 

「せめて、遅滞戦闘だけでも…!」

 

 誰もが苦戦しているらしい事は気付いていたが、それでも増援を期待しつつ、シャルロットがトリガーを引き続ける。

 そこに、上空から飛来した小型の飛行型が、鹵獲用の樹脂をラファール・リヴァイブカスタムⅡ、その手へと向かって発射してくる。

 

「しまった!」

 

 反応が一瞬遅れたシャルロットは、両手が握っていたマシンガンごと固められた事に愕然とする。

 

「このっ、何で!」

 

 必死になって剥がそうとするが、固着性がかなり強いのか、封じられた両手は引き剥がせない。

 

(まずい!!)

 

 逃げる事も困難な状況にシャルロットの焦りが頂点に達した時、突然飛来したビームの連射が敵陣に穴を開ける。

 

「え………」

「あら、誰かピンチかと思ったら、貴方でしたの」

 

 その穴をくぐり抜け、あかりが飛び込んでくると、シャルロットの両手を見る。

 

「少し熱いですわよ」

「って何を、熱うう!」

 

 説明もせずに、あかりはスポットライト型アームをシャルロットへと向けると、両手の樹脂へと向けて弱めたビームを発射。

 シャルロットは思わず悲鳴を上げるが、樹脂は溶け落ち、ついでに赤熱化してきたマシンガンを慌てて放り投げる。

 

「伏せて!」

 

 二人が同時に伏せた直後、限界に達したマシンガンが内部の炸薬で爆発四散する。

 ついでに弾丸も周囲にばら撒き、相手の動きが鈍った隙に二人は背中合わせになる。

 

「取り敢えず、ありがと」

「礼は良いですわ。私もお願いがあるから」

「お願い?」

 

 そこで、シャルロットはあかりの顔色が少し悪い事に気付く。

 

「誰かさんにぶち抜かれそうになった所が痛んで、上手く動けませんの。誰かがサポートしてくれるとありがたいのですが」

「………ごめん。何なら、背中にでも乗る?」

 

 どうやら無理に助けに来てくれたらしいあかりに思わず詫びつつ、シャルロットはラファール・リヴァイヴカスタムⅡのバックパックを指差す。

 

「………仮にもランク一位が誰かにおぶわれるなんて屈辱ですが、この際足になってもらいますわ」

 

 プライドと現状のピンチを天秤にかけ、妥協したあかりはバックパックへと飛び乗る。

 

「それでは、いきますわ!」

「OK!」

 

 二人は同時に叫びながら、己の得物を構えた。

 先程まで激闘を繰り広げていた者同士が協力する、奇妙な状況だったが、誰もそれに異論を唱える者はいない。

 その余裕すらない、というのが誰にも分かっていた………

 

 

 

「予測しておくべきだったか。なぜ学園ごと、ここに出現したかを」

 

 千冬は呟きながら、まとった戦闘用のボディスーツの具合を確かめる。

 

「まるごと拐うとは、随分と剛気な誘拐だ」

「そうですわね」

 

 腰に何本も日本刀風のブレードを指していた所で、いつの間にか背後にいたどりあに千冬は視線を向ける。

 

「何となくですが、相手の狙いは見えましたわね」

「ああ。観察し、収拾する。ふざけた事だ。だがこの私がいる以上、そんな事はさせない」

 

 髪を結い上げ、他の装備を確認する千冬だったが、そこでどりあが首を傾げる。

 

「貴方はISを使いませんの?」

「生憎と、私の専用機は訳あって封印中なんでな。だが現状を打破するには、相手の注意を引くだけの実力者が出る必要がある」

「囮になる、と?」

「ISが無くてもヒヨコ達に負ける気はせん」

「あらあら、大変ですわね。何でしたら…」

 

 そう言いながら、どりあは右腕を真横へと伸ばす。

 その腕にどこかから出現した流体金属が巻きつき、漆黒のドリル型アームを構成した。

 

「お手伝いいたしますわよ?」

「それは助かる」

 

 素直にどりあの助勢を受け入れる千冬だったが、そこで室内に設置してあるモニターに映される、闘技場内の激戦を見る。

 

「雑魚はともかく、問題はこちらか」

「あれ位なら、あの子達に任せておきましょう。どうやら弟さんもかなり出来るようですし」

「そちらの妹もな」

 

 戦闘準備を終えた千冬は、最後に防戦だが一撃を狙っているらしいどりすと一夏の姿を確認してその場を後にし、どりあもそれに続く。

 

「それにしても、お互い姉というのは何かと大変だな」

「ええ、全く」

 

 二人そろって苦笑しながら、激戦の続く外へと向かっていく。

 間違いなくこの場で最強の二人が、現状を打破すべく、戦場へと………

 

 

 

「来るなら来てみなさい」

 

 笑みを浮かべながら、楯無は闘技場上空に待機していた。

 彼女のまとう、他のISに比べて随分と軽装に見える専用機《ミステリアス・レイディ》は、その周囲に霧を漂わせていた。

 

「そこ!」

 

 闘技場上空を覆うように展開された霧に敵が触れた瞬間、楯無は手にした大型ランス・蒼流旋に内蔵されたガトリングガンで即座に破壊する。

 

「一夏君達の邪魔はさせなくてよ」

 

 周辺を漂う霧、その正体はミステリアス・レイディの特殊能力、ナノマシンが含まれた特殊用水を制御・変化した物を結界のように展開させながら、楯無は下の激闘に潜り込もうとする敵を迎撃し続けていた。

 そこへ一遍に複数の空戦型が霧の結界を突破しようとするが、飛来した銃撃がその空戦型を正確に貫いた。

 

「邪魔はさせません!」

 

 教師用IS、ラファール・リヴァイヴを展開させていた真耶が、狙い澄ました狙撃で霧の結界を突破しようとする敵を迎撃していた。

 

『大変な事になっております! 学園各所に激戦が発生! 闘技場に出現した大型に、パンツァー、IS両タッグ、更には何か小さな増援が参加している模様ですが、こちらも苦戦中です!』

 

 どこから持ってきたのか、安全第一とプリントされた工事用と思われるヘルメットを被ったつばさが、その状況でも実況を続けていた。

 

「さっき逃げなさいって…」

『それが、実況室の通路は敵の攻撃で破壊されており、逃げられません! よって、このまま実況を続けます!』

 

 避難したはずのつばさが戻ってきた事に真耶が驚くが、彼女の実況に慌てて通路のあった辺りを見ると、確かにそこは戦闘の余波で通路のある場所が崩壊していた。

 

(ここまで影響が出るなんて………もしここで一夏君達が負けたら、戦況は一気に悪化する………)

 

 表情こそ余裕を見せていた楯無だったが、かなりまずい状況になってきているのは理解していた。

 すぐにでも下に増援に行きたいが、今自分がここを離れれば、敵の増援が一気に押し寄せる事も理解していた。

 

「任せるしか無いわね………下の四人、+小さな二人に」

 

 呟きながら、次々現れる敵を撃破していく楯無だったが、下の方を見てある確信を得る。

 

「やっぱり、あれは………」

 

 

 

 戦況にまた変化が生じた。

 押し寄せてきた敵が、ある箇所へと集中し始めたためだった。

 苦戦していたパンツァー、IS双方の生徒達は、その中心部を呆然と見つめていた。

 

「ふっ…」

 

 小さな呼気と共に、陸戦型の間を漆黒の影が旋風となって通り過ぎる。

 それに僅かに遅れ、陸戦型の脚部、しかも関節部分近くが正確に切断され、バランスを崩した所に投じられたハイパーグレネードが、相手をまとめて吹き飛ばす。

 その向こう、校舎の屋上からは漆黒の帯のような物が押し寄せてきた空戦型をまとめて絡めとり、引き寄せる。

 塔がごとく連なった空戦型を真下から団子の串でも通すように、漆黒の帯が長大なドリルとなって一気に貫き、破砕した。

 

「思っていた通り、なかなかやるな」

『あら、そちらこそ』

 

 ブレードを手に陸戦型を次々と破壊していく千冬と、流体金属アームで空戦型を次々破壊していくどりあが、顔は見えずとも互いに笑みを浮かべつつ、次の目標へと襲いかかる。

 

「つ、強い………」

「強過ぎよ………」

 

 先程まで自分達が苦戦していた相手を苦も無く倒していく二人に、双方の生徒は思わず手を止め、その圧倒的な実力に見入ってしまう。

 片やブリュンヒルデ、片やスーパーパンツァー、どちらもトップクラスの実力者だという事は知っていたが、実際その戦いを生で見るまで、その肩書の意味を理解していなかったのだと誰もが悟っていた。

 何よりも、千冬は生身、どりあはアームのみ、どちらも全力で戦っていない事が、その桁外れの実力差を生徒達に否が応でも突き付けていた。

 

「案の定、実力者が出張ってくれば、そちらに戦力を集中させてきた」

『欲張りさんですね。まあその分生徒達に回せなくなるでしょうけど』

「ならいいのだが………」

 

 自分達の参戦で、明らかに敵の戦力は減っていたが、千冬はまだ安心出来ない予感がしていた。

 

『織斑先生』

「更識か、そちらはどうだ?」

『一夏君達は一進一退、攻めあぐねています。それと、あの大型、見覚えが有ります』

「何?」

『ロシアにいた頃見たのですが、向こうで計画されていた拠点防衛もしくは制圧用の移動トーチカ、それに極めて似てます』

「ではあれはロシア製か?」

『それが、技術面、資金面など複数の理由で計画段階で中止になったはずです。正式な図面すら完成しなかったと聞いてます』

「つまりは、存在するはずの無い兵器、か」

『ええ………』

『あらあら、気になる話ね』

 

 2人の通信に、なぜかどりあが意見を述べる。

 

「………プライベート回線が聞こえたのか?」

『いいえ、でも内緒話には注意しないといけない身分でして』

 

 千冬の位置から見えなかったが、そういうどりあのメガネには、望遠表示と読唇解析表示が浮かんでいた。

 

「突然融合した二つの学園、双方にいる特殊戦闘能力者、そして存在しないはずの兵器の襲撃………」

『分からない事が増えましたわね。それと、もう一つ』

 

 どりあが上空を見上げ、小さくため息をもらす。

 

『少しばかり厄介になりそうですわね』

 

 そこには、今だ存在し続ける霧の竜巻から、今までとは比べ物にならない数の敵の増援が出現する所だった。

 

 

 

「JAM増援、更に増大」

「転移施設迎撃戦力、許容量超過の可能性あり」

「本部からの作戦内容、変更無し」

「………状況を自己判断、作戦内容を最上位目標準拠に変更」

「最上位目標、JAM殲滅。作戦を襲撃JAM撃破に変更、FRX―00、交戦開始(エンゲージ)」

 

 

 

「な、これは………!」

 

 今までとは比べ物にならない敵の増援に、楯無は愕然とする。

 しかも明らかに、その内の一部はこちらへと集団で向かってきていた。

 

(狙いは恐らく、いえ間違いなく最新型の紅椿と白式! それとドリルプリンセスもかしらね。あの数、私だけでは抑えきれない!)

「楯無さん!」

 

 増援が危険と判断した真耶も上昇してきて楯無に並ぶが、IS学園内の実力者の二人を持ってしても、向かってくる数は圧倒的だった。

 

「私が出来るだけ数を減らします! 楯無さんはここから動かないで!」

「けど山田先生!」

「やるしかありませ…」

 

 叫びながらライフルを構えた真耶だったが、そこで何かがハイパーセンサーに引っかかる。

 

「高速で接近する物体あり!? そんな、こんなそばまで気付かなかった!?」

「うそ!?」

 

 楯無も気付かなかった謎の存在に思わずそちらを振り向く。

 それは、音速超過の雲を引きながら、一気にこちらへと向かってくる。

 

「戦闘機、いえIS?」

「違います! そのどちらでもありません!」

 

 ハイパーセンサーの感度を最大にした二人が、それが人間サイズだという事、そしてISでも無いのにそのサイズではあり得ない速度を出している事に愕然とする。

 

「攻撃を開始」

 

 その謎の存在、小柄な体に褐色の肌、長い黒髪とそして獣のような耳を持ち、戦闘用と思われるスーツの各所に戦闘機を思わせるパーツが付随した少女は、小さく呟くと体の各所から一斉にミサイルを発射する。

 

「攻撃した!」

「しかも狙いは…」

 

 少女が放ったミサイルは、向かってきた敵群へと飛び込み、盛大な爆発を起こす。

 

「………味方?」

「のようですが………」

「今のミサイル、一発も外さず命中してました」

「私にもそう見えました。敵のジャミングを突破している、と見ていいんでしょうか」

「ISでも簡単に突破できない物を?」

 

 楯無と真耶が謎の少女がどうやら敵ではない事と判断するが、少女は速度を全く落とさず、そのまま敵群へと向かっていく。

 

「ちょっと!?」

 

 超高速のまま向かっていく、自殺行為としか言いようのない行動に楯無が慌てるが、少女の両手にはいつの間にか大型のナイフが握られており、ためらいなく敵群へと飛び込み、先程のミサイル攻撃で出来た穴を正確に縫ってそのまま突き抜ける。

 直後、突き抜けるついでにナイフで両断された敵が、次々と爆発を起こした。

 

「す、すごい………」

 

 圧倒的な少女の戦闘力に、真耶は唖然とするしかなかった。

 

 

 

「今度はなんや!?」

「誰かが上空ですごい速度のまま戦ってます! ISじゃありません!」

「パンツァーでもあり得ませんね、あれは………」

 

 上空に飛行機雲を描きながら、その軌道上にある敵を次々と撃破していく謎の存在に、誰もが唖然としていた。

 

「すごい運動性だね。システムはISより若干古い所もあるけど、その代わり蓄積データが半端じゃないみたい」

「データって………」

「あの子、アンドロイドだよ」

 

 素早く謎の少女を解析した束は、ある結論へと辿り着いていた。

 

「あ、アンドロイド!?」

「た、確かにそうみたいです………けど、あんな人間そっくりなアンドロイドなんて、まだどこも作ってません!」

「こちらでもです。一体どこの誰が………」

「さあ?」

 

 簪とサイコも同じ結論に達するが、根幹的な疑問には束も首を傾げるだけだった。

 

「取り敢えずそれは後だ! あれが敵の包囲に穴を開けている! その隙に敵の増援を端から潰すぞ!」

『はい隊長!』

 

 謎の少女を友軍と判断したラウラが、反撃に出るべく、黒ウサギ隊と共に一斉に弾幕を展開していく。

 

「こっちも来よったで!」

 

 更にそこへ、陸戦型の敵も押し寄せてくる。

 

「こちらは私達で!」

 

 応戦しようとしたのぞみとサイコだったが、反転してきた少女から何かが落下する。

 

「何か落としよったで?」

「まさか、爆撃!?」

「何だと!?」

 

 予想外の事態に皆が慌てるが、落下してきた爆弾のような物は突然空中で分解、中から無数の何かを落下させる。

 

「クラスター爆弾!?」

 

 簪が落下してきた物の正体に気付く中、降り注いだ物、子爆弾は陸戦型に触れると同時に次々と爆発していき、相手に甚大なダメージを与えていく。

 

「待て! 国際条約違反だぞ!」

「まあ、一応助けてくれたちゅう事で………」

「武装もかなりあるね。ISみたいな量子変換型かな?」

 

 明らかに条約違反な武装にラウラが声を上げるが、のぞみはダメージを負った相手に追い打ちをかけていく。

 そんな中、束はさも面白そうな表情のまま、少女を見つめていた。

 

 

 

「転移施設内戦力、一部利用可能。アクセス開始」

 

 高速戦闘を繰り広げながら、少女は下の状況を確認すると、小さく呟く。

 そして少女の目が明滅、正確にはその目の中に無数のプログラムが一斉に走り始めた。

 

 

 

「なにこれ! 何かが甲龍にハッキングしてる!」

「何ですって!?」

 

 鈴音の絶叫に近い声に、はさみも思わず絶叫を上げる。

 

「この状況で暴走なんてしたら、おしまいよ!」

「分かってるわよ! けど今セキュリティに回す余裕が…」

 

 そこで、鈴音は甲龍のプロテクトがあっさりと突破されていくが、挙動その物に何も問題が起きてない事に気付く。

 

「これって………」

 

 

「どうなってますの!?」

 

 ブルー・ティアーズのシステムの一部が、セシリアの操作も無しに何かを設定していく。

 

「電子攻撃!?」

「そ、それが違いますの! 何がどうなって………」

 

 

「保有火器全確認!? FCSが勝手に動いてる!」

「壊れたんじゃないんですの!?」

 

 勝手に目標を設定しいてくラファール・リヴァイヴカスタムⅡにシャルロットが顔色を変えるが、シャルロットが勝手に展開していく火器が全て上空を狙っている事に気付く。

 

「これ………攻撃支援要請!?」

「し、支援って、まさかこれあの子が!?」

 

 

 

「ISの過半数が同時にハッキングを受けているだと!?」

『それも、攻撃ではありません! 上空への攻撃支援要請です!』

『つまり、あの子ね』

 

 簪から届いた報告に、限界が来たブレードを新しい物に変えながら千冬が驚き、どりあが上を見て微笑む。

 

「馬鹿な! これだけの数のISに同時にハッキングなぞ、半端な電子戦能力ではない!」

『しかも闘いながら。どうやら、あの子も相当出来るようですわね』

「………IS各機、上空からの支援要請を受け入れろ!」

 

 千冬が攻撃支援要請受け入れを指示し、皆がそれを認証。

 直後、ISのありとあらゆる火器が一斉に上空へと放たれ、その全てが正確に敵へと命中していく。

 

「………これだけ多種の火器、それらを正確に誘導し、敵の回避行動まで予測して当てた、だと?」

『すごいわね~』

 

 どれだけの演算能力が必要なのか分からない状況に、千冬は思わず生唾を飲み込み、どりあは微笑のまま、だが視線は鋭く謎の少女を見据える。

 

「あれは、本当に味方なのか?」

『さあ? でも、今の所はこちらを助けてくれてますし』

「敵には回したくないな」

『だったら、そうしましょう』

 

 どこか恐怖すら覚える少女に、二人は注意をしつつ、目の前の敵へと攻撃を続けていた。

 

 

 

「JAM掃討率、12%。戦闘を継続。迎撃戦力評価を若干上昇」

 

 両手に持ったナイフを敵とすれ違いざまに振るいながら、少女は淡々と現状を確認する。

 学園上空を覆っていた空戦型は、その半数近くが少女に狙いを定めそれを追うが、少女の高速機動と戦闘力の前に、次々とその数を減らしていく。

 

「す、すごい………」

 

 一騎で戦場を撹乱しまくる少女に、構えたままのスターライトMkⅢを撃つ事すら忘れ、セシリアはその圧倒的な戦い方を見とれていた。

 

「あ………!」

 

 下で同じようにその光景を見ていたのずるだったが、そこに空戦型から一斉に何かが放たれるのを見た。

 

「ミサイル!? しかもあれ程大量に!」

「まずい!」

 

 少女に向けて、一斉に大量のミサイルが放たれ、無数の噴煙がかなりの広範囲から少女を狙う。

 

「ミサイル確認、フレア、チャフ同時発射」

 

 少女の足元辺りから、欺瞞用熱源の光球と無数のアルミ蒸着のフィルムがばら撒かれる。

 ミサイルの何割かは狙いを外れるが、それでも残ったミサイルが少女へと迫っていく。

 

「援護しますわよ!」

「分かった!」

 

 セシリアとのずるがどうにかしようと得物を向けた時、少女がこちらへと向かってくるのに気付いた。

 

「え、まさか………」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 どんどん迫ってくる少女とミサイルに、セシリアは狙えるミサイルに向かってトリガーを引いて撃破するが、どう見ても全てを撃破するよりも少女との接触の方が早い。

 

「また!?」

 

 更にそこに、ブルー・ティアーズのFCSがハッキングされ、勝手にビットを含めた火器の狙いが定められていく。

 

「き、きゃああぁぁ!」

「危な…」

 

 接触の直前、セシリアは思わず声を上げるが、次の瞬間起きた事に真下で見ていたのずるは絶句した。

 接触の直前、少女は減速しつつ飛びながら、進行方向を一切変えずにトンボを切るように一回転、更に回転の最中にどこかから取り出した機銃とハッキングしていたブルー・ティアーズの全火器を一斉発射し、残ったミサイルを全て撃墜してしまった。

 

「クルビット!? しかも戦闘機動中に!?」

 

 ログを確認して何が起きたかを知ったセシリアも絶句する。

 クルビット、ハイアルファループとも呼ばれるエアショーに用いられる機動を持って、しかもその最中にハッキングと正確な機銃斉射を行いミサイルを撃破する、とても信じられない少女の能力に、セシリアは通り過ぎていった少女の方を見つめる。

 

「………桁違いですわ、あの方の強さ」

「………確かに」

 

 セシリアとのずるは呆然と遠ざかっていく少女を見送るが、そこで少女の腰のプロテクターのような部品にある文字が白く描かれていた。

 

「《雪風》?」

「名前? それとも………」

 

 

 

「はああぁ!」

 

 裂帛の気合と共に、箒は全力で空割を大型へと斬りつける。

 

「最大、出力!」

 

 そのまま、紅椿の出力の許す限り強引に刃を押し付け、相手の装甲を押し斬ろうとするが、切っ先が表面をえぐるだけで精一杯だった。

 

「行っけぇ!」

 

 そのえぐった箇所に向かって、ねじるがドリルを突き刺し、派手な火花と共に装甲を貫こうとするが、ドリルが潜り込みかけた所で上から振り下ろされた節足にその場を離れざるを得なくなる。

 

「くっそ、なんて硬さだ!」

「ハッチの類がどこにも見当たらん。無人機なのは確かなようだが………」

「まだ行くのだ! どかどか。どっか~ん!」

「いっくよー、ホーリィナイト・ミサ!!」

 

 ダメ押しでマオチャオが猫の顔が付いた小型ビット五機からの一斉攻撃と、ツガルがホーンスナイパーライフルの速射で、ドリル痕を更に深くする。

 

「これでやっと傷一つかよ」

「この子ら、このサイズでなんて破壊力だ」

 

 武装神姫の追加攻撃でようやく傷らしい傷を付けられたが、それでも相手の巨体と比較すれば微々たる物だった。

 

「知ってるのだ! お城だってアリの巣から壊れるらしいのだ!」

「マスター達の攻撃を届かせるためにも、どんな小さくたって続ければ!」

「確かに、な」

「だが………!」

 

 そこで大型の各所が光ったかと思うと、多数のビームが周辺に一斉発射される。

 

「くそっ!」

「回避だ!」

「まるでハリネズミなのだ!」

「全然可愛くないけど!」

 

 狙いを定めない数で押すビーム攻撃を、皆が回避するが、わずかにかすめたねじると箒の残り少ないエネルギーが更に減っていく。

 

「ちっ!」「しまった……」

「ねじる!」「箒!」

『来るなっ!』

 

 思わず背後にいたどりすと一夏が飛び出そうとするが、ねじると箒が同時に同じ言葉を叫んで止める。

 

「心底分かった! こいつの装甲を壊せるのは、お前のドリルだけだ!」

「そしてどんな高出力でも、白式の零落白夜なら行動不能に出来る!」

「なんとかしてそのチャンスを作ってみるのだ!」

「だから、その時までエネルギーを温存しといて!」

 

 ねじると箒のみならず、マオチャオとツガルにまで言われ、どりすと一夏は同じように歯を噛みしめる。

 

「でもやっぱり…」

「ダメだ!」

 

 それでも戦闘に参加しようとするどりすを、一夏は肩を掴んで止める。

 

「白式の零落白夜も使えてあと一度切り、君の変身もそう何度も使えないんじゃないか?」

「けど!」

「信じるんだ! きっとチャンスは来る!」

 

 叫びながらも、一夏の手が震えている事にどりすは気付く。

 彼もまた、今にも飛び出したいのを必死になって抑えているのが嫌でも感じ取れた。

 

『一夏君!』

「盾無さん! 他はどうなってます!?」

『さっき、見たことも無いタイプだけど増援が来たわ! こっちは何とかするから!』

「見た事も無い?」

「多分、他の世界から転移してきた誰かだよ」

「他の世界?」

 

 盾無からの通信にツガルが助言を入れるが、状況を理解出来ない一夏は逆に困惑する。

 

『……えますか。誰か聞こえますか!』

 

 更にそこでいきなり全帯域でのオープン通信に声が飛び込んでくる。

 

「一夏!」

「聞こえてる! こちらIS学園! 今聞こえた! そっちは!?」

『こちらTH60 EXELICA! 他二名と共にそちらの増援に向かっています! 後五分だけ持たせてください!』

「ようやく来たのだ!」

 

 突然聞こえてきた外部かららしい通信に、マオチャオが歓喜の声を上げる。

 

「何が何だか分からないけど、どうやら他にも増援が来るらしい」

「その前に、倒してやる!」

 

 何者かは分からないが、自分達を助けようとしているらしい者達の存在に、一夏とどりすは闘志を高めていく。

 

「オレ達の学園を何としても守るんだ!」

「もちろん!」

 

 決意を秘め、一夏とどりすは己の得物を強く握りしめた………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP16

 

「これで、最後か!」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンから射出されたワイヤーブレードが、向かってきていた飛行型の最後の一機を破壊する。

 

「被害状況報告!」

「二名負傷! しかし戦闘続行は可能です!」

「こっちも無事や!」

「しかし、ブリッドは使い果たしました………」

 

 ラウラの確認にクラリッサが手早く報告、ついでにのぞみとサイコも返答する。

 

「残弾は!」

「重火器は残30%を切りました!」

「こちらもミサイルの残数が………」

「くそ、どいつもスカンピンかい」

「ま、あれだけ派手にやればね~」

 

 誰もが疲弊し、残弾も少ない中、なぜか一人だけ元気な束が分解には失敗したが分かった敵のデータをまとめていく。

 

「う~んすごいね。これだけ高度な兵器、見た事無いよ。無人兵器なのは確かだけど、恐らく個々が高度な自己判断能力を持って、互いの判断で戦術を同調させる、どうやったらこんな芸当可能なのかな~?」

「あの、篠ノ之博士、それで対策は………」

「今の所不明かな? 多分これECM効かせようが何しようが、戦術行動が取れるレベルまでシステムが構築されてる。つくづく凄いね~」

 

 束がただ感心していることに、他の者達は無言で顔を見合わせる。

 

「とにかく、敵戦力は現状だと教官と瑠璃堂女史に集中してる」

「やはり、能力が高い所に集中してると見ていいですね」

「それと、あの子の所にも」

 

 簪が上空でドッグファイトを繰り広げている少女を見上げる。

 

「隊長、指示を」

「苦戦している場所に加勢に行くべきだろうが、戦域があまりに拡大している」

「それと、補給が出来ない以上、過度の戦闘参加は避けるべきでは?」

「でも見捨てるいうワケにもいかんやろ?」

 

 パンツァー、IS双方エネルギーの残量も少なく、増援に行くのもためらわる状況に、全員が判断に迷う。

 だが、それは予想外の形で中断する。

 

「あ、ちょうどいい所に!」

「ラウラ! ちょっと手伝って!」

 

 こちらへと急いで向かってくるはさみと鈴音の背後に、大量の敵が着いてきているのを見た束を除く全員の顔が引きつる。

 

「取り敢えず、やる事は決まりましね」

「………ええ」

「黒ウサギ隊、あの二人を援護する!」

「了解!」

 

 やや呆れ気味のサイコと簪が呟いた直後、ラウラの号令と共に全員が一斉に攻撃を開始した。

 

 

 

「………しまいましたわ」

 

 エネルギー切れでトリガーを引いても反応しなくなったスターライトmkⅢを収納したセシリアは、近接ショートブレードのインターセプターを構える。

 

「ガス欠?」

「ええ、そちらは?」

「似たような物ね」

 

 のずるもアームから吐き出される旋風が弱くなってきている事に、限界が近付いてきている事を悟っていた。

 

「竜巻は多分もう作れない」

「仕方ありませんわね。こちらも残った武装はこれだけですし」

 

 過剰使用でわずかに白煙を上げてるアームを手にしたのずると、激戦でビットも全て失ったセシリアが自重気味に呟くが、それでもなお戦意は失ってなかった。

 

「この程度で代表候補生が音を上げる訳にはいきませんわ!」

「同感ね!」

 

 まだこちらに向かってくる敵へと向けた二人が構えた時、銃撃と閃光が先に敵を撃破する。

 

「よかったセシリア! 無事だったんだね!」

「のずる! 大丈夫ですの!?」

 

 こちらを見つけて向かってくるシャルロットとあかりだったが、それを追ってくるように敵の姿が見えてもいた。

 

「シャルロットさん! そちらの様子は?」

「それが、武装ほとんど使っちゃって、残弾無いんだ!」

「こっちもなんだけど………」

「けど、四人でかき集めればなんとかなるでしょう?」

 

 あかりの提言に、二人がこちらに来た理由を悟ったセシリアとのずるが頷く。

 

「それじゃあ、もうひと暴れするわよ?」

 

 あかりの言葉を合図に、全員が一斉に残った武装を敵へと向けた。

 

 

 

「そこだぁ!」

 

 ねじるが全力で突き出したドリルが、相手の装甲とぶつかり、壮絶な火花が飛び散る。

 

「くっ!」

 

 異様に硬い手応えが、ドリルが装甲に食い込んでいない何よりの証拠だという事に、ねじるが歯噛みする。

 

「危ない!」

 

 そこにねじるの頭上へと脚部が振り下ろされそうになったのを、箒が慌てて救出する。

 

『ブラッディ・ドリル、ピンチを脱した! 篠ノ之選手、ファインプレイです!』

 

「くそ、ブリッドはもう無えし、ドリルもこれじゃあ………」

 

 つばさの実況が響く中、己のドリルがもうボロボロになっている事にねじるは悪態をつくが、ちらりと今にも飛び出しそうなどりすを見て、それ以上は口をつぐむ。

 

「せめて、あと一箇所貫けりゃ………」

「それが難しいな」

 

 箒も手にした二刀が刃こぼれを生じてきている事に気づいていたが、一夏には知られないようにしていた。

 

「これ以上時間を掛ければ、あの二人は堪えきれずに飛び出してくるかもしれん」

「どりすが飛び込んでこないのが不思議だよ」

「一夏が抑えてる、こちらを信じてな」

「期待には応えたいけどな!」

 

 発射されたビームを左右に跳んで回避しつつ、ねじると箒は打開策を考える。

 

(ブリッドは使い果たしちまった………せめてあと一撃、ドリルが持ってくれれば)

(エネルギーがもうほとんど残っていない………絢爛舞踏が使えれば!)

「こっちはまだまだいけるのだ!」

「援護は任せて!」

 

 やる気満々のマオチャオとツガルに二人は苦笑しながらも、得物を構え直す。

 

「同時に一点突破、出来るか?」

「ええ、それじゃ援護を頼む」

「任せ…」

 

 強行突破をねじると箒が決意した時、突然大型の上部から何かが発射された。

 

「何あれ?」

 

 ツガルの疑問は、すぐに解ける事になった。

 予想外の結果となって………

 

 

 

「何!?」

「あれは………」

 

 闘技場上空で敵を迎え撃っていた盾無と真耶だったが、そこで妙な細長いポッドのような物が複数真下から上がってきた事に気付く。

 それがある物に酷似している事に盾無が気付き、叫んだ。

 

「一夏君逃げて!!」

『え…』

 

 とっさにランスに内蔵されたガトリングでポッドを射撃しつつ、盾無は叫ぶ。

 都合三つ発射されたポッドの内二つは弾丸によって破壊されるが、残った一つが閃光を発したかと思うと、内部から鋭い無数の光が下へと向かって発射された。

 

「まさか、あれは!?」

 

 

 

『一夏君逃げて!!』

 

 盾無の必死の叫びを、全員が聞いていた。

 状況を理解できないまでも、全員が一斉に動いていた。

 叫びの意味を理解したのは、その直後だった。

 上空のポッドから、無数の光が高速で発射される。

 

「これは!?」

 

 半ば反射的に、箒は二刀を振るって光を薙ぎ払い、白刃に当たった光は甲高い音を立てる。

 

「スプレッドニードルなのだ!」

「しかも、フィールドコーティングされてる!?」

 

 二体の武装神姫が、その正体に気付く。

 それはフィールドに覆われ、高速で射出された長大な針だった。

 光の雨にしか見えないニードルが、その場に高速で降り注ぐ。

 降り注いだのは数瞬だったが、その数瞬の間に、状況は一遍していた。

 

『これは、とんでもない兵器です! 周辺の様相が一変しました! まるで針山地獄です!』

 

 つばさの実況通り、周辺には1mはあろうかというニードルが無数に突き刺さり、巨大な剣山のような状態だった。

 その中、戦っていた者達の荒い呼吸音が響く。

 

「なんとか、持ってくれた………紅椿でもギリギリとはなんてフィールド出力だ………」

 

 あまりの速度に、初撃以外は迎撃できなかった箒だったが、紅椿のバリアと装甲がかろうじて持ち堪え、軽傷で済んでいた。

 

「大丈夫!?」

「助かった!」

 

 一瞬の判断で、一夏の肩に駆け上り、ブリッドを使用しながら上空にドリルを向けてニードルを軒並み払い除けたどりすだったが、二人の周囲には無数のニードルが突き立っていた。

 

「あ、危なかったのだ………」

「間一髪………」

 

 持ち前の小ささでなんとか降り注ぐニードルの隙間にいたマオチャオとツガルが、自分達の間近に突き立つニードルに震え上がる。

 だが、一人だけ回避しきれなかった者がいた。

 

「ち、っくしょう………」

「ねじる!」

 

 シールドを掲げてニードルを防ごうとしたねじるだったが、装甲貫通を目的としたニードルの一本がシールドを貫通し、ねじるの足を地面に縫い止めていた。

 

『まさか、バリア貫通兵器!』

『アンチISウェポン・《ゲイボルグ》! まだ理論構築段階のはずなのに!』

 

 真耶と盾無がまだどの国も完成どころか試作品すら作れていないはずの兵器に、愕然とする。

 

「このための武装か!」

「ねじる、今行く!」

「来るな!」

 

 突き立つニードルをドリルでかき分けながらねじるの救助に向かおうとするどりすだったが、ねじるはこれこそが敵の狙いだと気付いていた。

 

「まずい………!」

 

 箒も救助に向かおうとする中、大型の装甲の一部、ちょうどねじるの真正面にビームの光が灯り始める。

 

「まずいのだ!」

「出力がさっきと違う!」

 

 マオチャオとツガルは、そのビームが今までよりも高出力である事に気付き、慌ててねじるの元へと向かおうとする。

 

「ダメだ! 来るな!」

 

 このままではみんな巻き添えになると思ったねじるはなんとか逃げようとするが、ニードルはその長さ故に容易に抜けず、シールドを構えようとするが、それもすでにニードルによってかなり破損していた。

 

「くっ…そ………」

 

 最早逃げられないと悟ったねじるが覚悟した時、その前に立つ影が有った。

 

「零落白夜、発動!」

「一夏!」

 

 飛び出した一夏が零落白夜を発動、放たれたビームを迎撃する。

 零落白夜のエネルギー無効化が放たれたビームと拮抗し、周辺に閃光の残滓を撒き散らしながらもビームを消滅していく。

 やがてビームが完全に消えた所で、雪片弐型がエネルギー切れで光を失い、続けて白式もその場に擱座しかける。

 

「一夏! 馬鹿か! こんな所でエネルギーを使い切ってどうする!」

「そいつでトドメ刺すんじゃなかったのか!」

「いや、でもそうしないと君が危なかったから………」

 

 箒とねじるに同時に怒鳴られ、一夏が罰の悪そうな顔をするが、二人も一夏の言い分も正しいとは思っていた。

 が、これで切り札を失った事もまた事実だった。

 

「とにかく、まずはこっちなのだ!」

「上お願い! 私は下!」

 

 慌てて駆け寄ったマオチャオがねじるの足を貫いていた針の上部を格闘用ナックルクローの研爪で、下部をツガルが近接武器フォービドブレードで破壊し、なんとか拘束を解く。

 

「ちっ………」

「抜くな! 出血が酷くなるぞ!」

「それくらい分かってる! くそ、ブラッティ・ドリルが血まみれじゃあ笑い話だ………」

「ねじる! 動かないで!」

 

 運良く血管は逸れてたらしく、出血量こそ少ない物の確実に片足は使い物にならない状況に、ねじるは奥歯を噛みしめるが、そこから更に状況は悪化していく。

 

「一夏! 白式を解除して逃げろ!」

「何とか残ったエネルギーで、雪片弐型だけでも…」

 

 ほとんど動かない白式を武装だけでも使えないかと一夏がバイパス設定をしようとした時だった。

 

「やばい、逃げろ!!」

 

 ねじるが動けない自分達に向かって、再度ビームが放たれようとしているのに気付き、顔色を変える。

 

「ねじる! こっち!」「急ぐのだ!」

「馬鹿逃げろ!」

 

 どりすとマオチャオがねじるを逃がそうと腕を引っ張るが、間に合わないと感じたねじるはそれを振り払おうとする。

 

「マスター! 逃げて!」

「一夏!」

「来るな!」

 

 ツガルがなんとか一夏を連れ出そうとし、箒も近寄ろうとした所で突然紅椿の動きが鈍る。

 

「な…」

 

 慌てて背後を見た箒は、背部のウイング部分がニードルで破損している事に気付いた。

 

「ダメ、間に合わない…」

「一夏~!!」

 

 ビームが発射される瞬間、ツガルは思わず目を閉じ、箒が叫ぶ。

 ビームの閃光がその場を覆うとした時、突如として生まれた別の光がビームを阻んだ。

 

『これは一体なんでしょう!? 何かのシールドが大型のビーム攻撃を阻んでおります!』

 

 つばさもあまりの眩しさに目を覆う中、ビームが途切れ、皆を守った物の正体が露わになる。

 

「ちょ、何それ!?」

 

 どりすが思わず声を上げる。

 その先には、全身から燐光を発する紅椿の姿が有った。

 

「発動、したのか………《絢爛舞踏》!」

「箒!」

「分かってる一夏!」

 

 箒が手を伸ばし、白式へと触れる。

 すると、枯渇していたはずの白式のエネルギーがみるみる回復していく。

 紅椿のワンオフ・アビリティー、エネルギーを無制限に増大させる《絢爛舞踏》が、戦況を一変させていた。

 

「お前、そんないいのあるならもっと早く使え!」

「そうなのだ!」

「私自身の意思で発動出来ないんだ!」

 

 ねじるとマオチャオが思わず文句を言うが、実際箒の意思では自由に発動出来ないのは事実だった。

 一夏がピンチになった時だけ発動出来るという事実はあえて言わず、箒と一夏は大型へと再度対峙する。

 

「ち、そっちだけか………」

「そうでもないよ」

 

 ねじるが舌打ちする中、ツガルが突然武装をパージ、武装は合体してスノーモービルを思わせる機動ユニット、レインディアバスターへと変化する。

 

「ちょっともらうね」

「は?」

 

 ツガルはレインディアに騎乗して紅椿の周囲を旋回、その背後に光の粒子が集っていく。

 

「私からのプレゼントだよ!」

 

 そのままツガルはねじるとどりすの上へと行くと光の粒子を投下、それに触れた二人のエネルギーも回復していく。

 

「馬鹿な!? 絢爛舞踏のエネルギーを違う機体に、しかもISでもないのに!」

「これが私の特殊能力。エネルギー変換搬送能力だー!」

「はは、サンタ型ってのは伊達じゃなかったか」

 

 紅椿の燐光が収まる頃には、IS・パンツァー双方のエネルギーは充分なまでに回復していた。

 

「仕切り直し、かな」

 一夏が白式を立ち上がらせ、大型に向け構える。皆がそれに続くように再度、闘志を漲らせていく。

 

『ああっと、まさかの回復です! パンツァー、IS双方残りわずかだったはずのエネルギーが回復しています!』

「よおし、こっから一気に逆転を…」

 

 どりすが俄然やる気になるが、大型が突然けたたましいサイレンのような音を響かせる。

 

「何だこれ!?」

「音波攻撃か!?」

「何かちがうのだ!」

「これは、何かの信号?」

 

 全員が思わず耳を塞ぐが、サイレンは唐突に停止する。

 

「悪あがきを……一気に行くぞ…」

『一夏君!』

 

 箒が先陣を切ろうとした時、盾無の切羽詰まった声が響く。

 

『敵が、敵が全部こっちに向かってきてます!』

『背中から撃たれてもお構いなし! 残存戦力全てここに狙いを変えたようよ!』

 

 真耶も慌てる声も続き、皆が先程のサイレンの意味を悟った。

 

「狙いは、紅椿か!」

「目立ち過ぎなんだよ!」

「だから私の意思で絢爛舞踏は制御出来ないんだ!」

「その件は後だ! とにかく、一刻も早くこいつを…」

『来たわ! 防ぎきれない………!』

 

 再度の形勢逆転に、一夏が大型に一気に向かおうとするが、そこに向かってきた敵の一部が盾無と真耶の弾幕をくぐり抜けて闘技場へと潜り込もうとする。

 

「なんとか私達が…」

「防ぐ…」

 

 マオチャオとツガルが迎撃に向かおうとした時、上空から飛来した銃弾と、アンカーが敵を撃破する。

 

「! 間に合ったのだ!」

「よ、良かった~」

「あれは………」

 

 武装神姫が胸を撫で下ろす中、一夏は上空を見上げていた。

 

 

「拠点防御モード移行」

「行って、ディアフェンド!」

 

 二人の少女の掛け声と共に、闘技場に潜り込もうとしていた敵に銃弾とアンカーが炸裂する。

 

「さっきの…」

「でもあちらは?」

 

 片方は先程まで上空で奮戦していた漆黒の少女だったが、それと対極的な白いスーツに攻撃ユニットを装備した少女が高速ですれ違いながら、ビームアンカーとビーム砲撃で敵を次々と撃破していく。

 

「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》! 今からそちらを援護します!」

 

 エグゼリカは一瞬だけ、自分と共に援護攻撃を行った漆黒の少女に視線を向けるが、彼女はこちらを丸で気にも止めずに向かってくる敵群へと向かっていった。それを見たエグゼリカも躊躇を振り払うように同じように敵群への攻撃を再開させた

 

「………また変わった人が来ましたね」

「しかも無茶苦茶強いですし。まだ誰か来る!?」

 

 エグゼリカの圧倒的な戦闘力に思わず攻撃の手を止める真耶と盾無だったが、そこで別の反応が向かってきている事に気付いた。

 

「亜乃亜!」

「分かってるエリュー! プラトニック・エナジー全開!」

『ドラマチック・バースト!!』

 

 そこに赤と蒼の機体にまたがった少女達が同時に攻撃、サーチレーザーとスプレッドボムが敵をまとめて薙ぎ払っていく。

 

「あっちもすごいですね………」

「IS以外にこれだけの機体があるなんて………」

「私達は秘密時空組織「G」の者です! エグゼリカさんと共に、皆さんを救助に来ました!」

「取り敢えず、敵を殲滅します!」

 

 赤の機体に跨ったエリューが簡単に紹介をするが、蒼の機体に跨った亜乃亜はすぐさま敵へと向かっていく。

 

「一夏君、こっちは何とかするわ! そちらをお願い!」

「くれぐれも無茶はしないでください!」

『分かりました! そちらも無茶はしないでください!』

 

 相次ぐ形勢逆転に、少し混乱しながらも盾無と真耶は当初の闘技場防衛に専念する事にした。

 

「今来た子達、何か知ってるみたいですね」

「救助って言ってましたしね。でもまずは、この戦いを終わらせてからにしましょう!」

 

 盾無と真耶は背中合わせになりながら、己の得物を構えた。

 

 

 

「さっき言ってた増援の人達が来たみたいだ!」

「あてになるの、その人達?」

「来たのはトリガーハートとRV、どちらもマスター達に引けを取らない戦力なのだ!」

「あちらは任せて、こっちを倒そう!」

 

 一夏が上空を横切るのがどうやら通信してきた相手らしい事を確信するが、どりすは半信半疑だった。

 だがマオチャオとツガルの助言に、こちらの戦いに専念する事にする。

 

『戦いはより激しさを増してきております! 上空には敵の大群と、謎の友軍が激戦を繰り広げている模様!』

 

 つばさの実況が指し示す通り、上空でも地上でも、戦闘は更に激化していった。

 

「動けるか!?」

「ちょっとやばいな………」

 

 幾ら串刺しから抜け出したとは言え、まだニードルが刺さったままのねじるが、激痛に堪えながらも姿勢制御用のバーニアで大型の攻撃を回避し、箒はそれをカバーする。

 

「無理なら下がれ! エネルギーは回復出来ても、ダメージや負傷までは回復出来ないぞ!」

「あと一撃、後一撃穿てれば………!」

 

 どりすの一撃を確実に叩き込むには、どうしても自分のあと一撃が必要だという事をねじるは自覚していたが、足からの激痛がそれを困難な状態にしていた。

 

「危ないのだ! ドリルならここにもあるのだ!」

「そんな小さいのでどうにかなるか! オレがどうにか…」

『使って!』

 

 そこに、上空で防衛戦をしていた盾無の声と共に、何かが落下してくる。

 

「マズい!」

 

 大型がそれを狙ってビームを発射しようとするが、ツガルが素早くそれをキャッチして放たれたビームを回避する。

 

『更識家直伝の鎮痛剤よ! 即効性があるから、患部に注射して!』

「こうかな!?」

 

 ツガルがキャッチしたアンプルケースから無針注射器を取り出し、ねじるの突き刺さったままのニードルの間近へと注射する。

 

「うぐっ!」

「ねじる!」

「は、はは、よく効くなこれ………」

 

 一瞬顔を歪めるねじるだったが、ウソのように痛みが和らいでくるのに苦笑する。

 

『常習性出るかもしれないから、一回だけだからね!』

『何が入ってるんですかそれ!』

 

 さらりと盾無が危険な事を言って真耶が突っ込むが、ねじるは気にしない事にしてドリルを構える。

 

「おい、そこのポニーテール。こっちにもっとエネルギー寄越せ」

「待て、これはIS用のアビリティーだ!」

「私は元々エネルギー変換搬送機能が有ったから出来たけど、直には危ないよ!?」

「構わねえ! いいからやれ!」

 

 限界が見え始めているドリルを箒の前に突き出したねじるに、箒とツガルは反対するが、ねじるは頑として叫ぶ。

 

「余ってるの全部注いでも構わねえ!」

「責任は持てんぞ!」

 

 箒もあと一撃を撃ち込むにはこれしかないと自覚し、半ばやけくそでねじるのドリルに絢爛舞踏の残エネルギーを注ぎ込む。

 効果はテキメンで、ねじるのドリルが猛回転を始め、ねじるは笑みを浮かべる。

 

「よし、行ける!」

「援護する!」

 

 猛回転するドリルをかざして突撃するねじるに、箒も雨月と空割を手に続くが、ねじるのドリルがスパークを始め、あまつさえ回転に耐えきれず、赤熱化すら始めているのに愕然とする。

 

「待て! それでは…」

「構わねえって言っただろうが!」

 

 誰よりもねじるがその事に気付いていたが、構わずねじるはバーニアを最大出力で噴射させ、大型へと向かっていく。

 

「露払いはする!」

 

 箒も覚悟を決め、ねじるに向かって振り下ろされる脚部を次々と斬り払い、突破口を開く。

 振ってくる破片を避けもせず、ねじるは大きく振りかぶったドリルを、大型の装甲へと突きつける。

 

「いっけええぇぇ!!」

 

 凄まじいまでのスパークが飛び散り、高硬度を穿つ甲高い掘削音が周囲に響き渡る。

 

『これはすごいです! ブラッディ・ドリル渾身の一撃です!!』

 

 つばさの実況も興奮する中、それは突如として中断する。

 負荷に耐えきれなかったドリルが、シールド諸共爆散した事によって。

 

「うぐっ!」

「大丈夫か!」

 

 飛び散った己のドリルの破片で傷付き、爆散の影響で利き腕も負傷したねじるが倒れそうになるのを、箒は抱えて一気に後ろへと下がる。

 

「なんて無茶な事を………!」

「まあな。けど目的は果たしたぜ………」

「ああ………」

 

 どう見てもこれ以上は戦闘不能なねじるをかばいながら、箒はねじると二人がかりで穿った穴を見つめる。

 大型の強固な装甲、それにちょうど円を描くように等間隔で穿たれた穴を。

 

「どりす! 後は任せた!」

「任せてねじる!」

「一夏! 分かってるな!?」

「ああ! 下がっててくれ!」

 

 二人が決死の覚悟で作ってくれたチャンスを活かすべく、どりすと一夏が入れ違いで突撃していく。

 だが大型も危険と判断したのか、攻撃が更に苛烈になっていく。

 

『ブラッディ・ドリル戦線離脱です! しかし敵の猛攻の前に、果たしてドリルプリンセスと織斑選手は突破口を開けるのでしょうか!?』

 

 つばさの実況も響く中、どりすと一夏は振り回される脚部と絶え間ないビーム攻撃に突撃の中断を余儀なくされる。

 

(ねじるが作ってくれたチャンス、なんとしてもアイツを貫くんだ!)

(箒がくれたチャンス、なんとしてもアイツを倒す!)

 

 二人共、タッグが作ってくれた僅かな勝機を掴むべく、攻撃を回避し、弾きながらも隙を窺う。

 

「マスター、援護するのだ!」

「任せて、マスター!」

 

 マオチャオとツガルも加わり、それに応ずるように、更に大型の攻撃も激しくなる。

 

「何とか………」

「アイツを………!」

 

 残った力と気力の全てを込めるため、どりすと一夏は防戦しながらチャンスをうかがっていた。

 

 

 

「アールスティア、オートファイア! ディアフェンド、フルスイング!」

 

 砲撃艦からの連続砲撃を繰り出しながら、エグゼリカはアンカーでキャプチャーした敵をスイングし、周辺の敵を一掃していく。

 

「ビックバイパー、モードセレクト《HORIZONTAL》モード!」

「ロードブリティッシュ、T・MISSILE、RIPPLEセット! 攻撃開始!」

 

 亜乃亜とエリューが己のRVの兵装を選択、ミサイルとレーザーが次々と敵を破壊していく。

 

「友軍判定、攻撃目標から除外」

 

 漆黒の少女はそれらを見ながら、淡々と機銃とナイフで一撃離脱を繰り広げていく。

 

「すさまじいな………」

「ホンマ………」

 

 下でその様子を見ていたラウラとのぞみが思わず声を漏らした。

 

「先程来た三機、どれもすごい性能です。ISに全然引けを取ってません」

「むしろ上かもしれませんわね」

「誰が作ったんだろうね~。あ、あの白い子もアンドロイドだね」

 

 唖然としながらそれぞれ解析していた簪、サイコ、それに束がそれぞれほぼ同じ結論に辿り着くが、それ以上は考えずに闘技場に集結している敵へと向かっていく。

 

「さっきまであんなしつこかったのに、突然ガン無視っては馬鹿にし過ぎじゃない!?」

「よっぽど気になるのが有るんでしょうけど………」

 

 鈴音が声を荒げ、はさみは首を傾げる。

 上空でも地上でも、あれ程苛烈に攻勢をかけてきていた敵は、背後から撃たれようと無視して闘技場へと向かっていく。

 

「どうやら、一番の得物を紅椿だと理解したのかと」

「あの二刀流のか、何か違うんか?」

「あはは~、紅椿は私が作った最新型の第四世代ISだからね~。それに絢爛舞踏も発動してる。そこが興味引いたんだろうね」

 

 簪が敵の行動変化を冷静に判断し、のぞみが首を傾げるのを束が補足する。

 

「こっちだって最新型よ! 第三世代機だけど………」

「先程までこちらを狙ってきたかと思えば、今度は紅椿一択か。随分と判断が早いな」

「何か基準があるのかも………」

「新しいのだけ欲しがるなんて、ガキみたいな連中やな」

「無人機である以上、なんらかの判断基準は設定されてるはずですが………」

「知らないわよ、そんなの」

 

 IS使い達が文句を言う中、パンツァー達も賛同するが、闘技場とそれを覆い尽くさんばかりの敵の姿が見えてくる。

 

「中はどうなっている!」

「まだ戦闘中みたいです!」

「ここは私達が受け持つ! 黒ウサギ隊は負傷者の救助に回れ!」

『了解!』

 

 ラウラの指示で素早く黒ウサギ隊が散開し、残った者達が戦闘態勢を取る。

 

「あ、ラウラに簪! 鈴も!」

「そちらは無事でしたの!?」

「シャルロット! セシリアもか!」

「一応皆さん生きてますわね」

「どこもえらい目にあってたみたいだけど」

「あかり! のずる! 無事だったみたいね」

 

 各所で戦っていた者達も続々と集結し、誰もがこの戦いの終わりが近い事を予感していた。

 

「ランキング上位の人とブリッドの残ってる人は前衛に、そうじゃない人は後方から援護お願いしますね」

「エネルギー残量と残弾数を確認! 残弾の無い者は後方待機!」

 

 どりあと千冬も駆けつけ、指示を飛ばしながらも敵を撃破していく。

 だが集合してきた面子の中に、とある人影を見つけた千冬の表情が一際厳しくなる。

 

「あ、ちーちゃん。できれば一機くらい生け捕りお願い♪」

「束か、そちらで勝手にやれ」

「お知り合い?」

「ISを作り上げた人物だ。恐らく今ここで一番の危険人物だがな」

 

 平然と声をかけてきた束に冷たい一瞥をくれた千冬に、どりあが説明を聞いてなんとなく納得する。

 闘技場を取り囲む敵を逆に取り囲もうとした時、突然敵が反転してこちらへと攻撃を開始する。

 

「あらあら、通せんぼのようね」

「どうしても通したくないようだな」

 

 迫りくる敵の向こう、闘技場からは激しい戦闘音が鳴り響いてくるのを聞きながら、どりあと千冬は己の得物を構える。

 

「援護します!!」

 

 そこで上空から声が聞こえたかと思うと、亜乃亜がビックバイパーを急降下させつつ、対地ミサイルを次々と放つ。

 

「無茶しよるで、あの青いの!」

「兵装はIS以上だな」

 

 放たれたミサイルで敵の一角が吹き飛ぶ中、のぞみとラウラは爆風から顔を守りながら呟き、そして同時に動き出す。

 

「じゃあ行きましょうか」

「行くぞ!」

 

 どりあと千冬の声に応じるように、その場にいた全員が一斉に敵へと向かっていった。

 

 

 

「フォーム…」

 

 ねじるの作ってくれた攻撃ポイントを狙うべく、どりすはフォームアップしようとするが、振り下ろされた脚部に中断を余儀なくされる。

 

「またぁ!?」

「防御がやたらと固くなったのだ!」

「狙われたらヤバいって分かってるんだ!」

「デカいのになんてせせこましい!」

 

 マオチャオ、一夏、ツガルもなんとかどりすの渾身の一撃を叩き込む隙を作り出そうとするが、大型の攻撃は更に苛烈さを増す。

 

(どうする? 一度下がるか? いや、そうしたら後ろにいる二人に攻撃が向かうかもしれない! それにエネルギーが回復したと言っても、もう全員体力は限界に近い!)

 

 一夏は荒くなっている呼吸をなんとか整えようとするが、すでにそれすら困難な程に疲労が蓄積されていた。

 

「もう一度!」

「分かったのだマスター!」

 

 再度どりすがマオチャオと突撃をかけようとするが、放たれるビームに回避に専念せざるを余儀なくされる。

 

「どうにかして、相手の動きを一瞬でも止められれば………!」

「けどマスター、あの装甲はこちらの火力じゃ!」

 

 大型の動きを阻害出来る程の火力を持った者はこの場にいない事、そして闘技場の外から激しい戦闘音が聞こえる事から、増援も期待出来そうにない事に一夏は必死になって打開策を考える。

 それが思い浮かぶよりも早く、事態は更に悪化した。

 大型の攻撃が突如として止んだかと思うと、全ての脚部が地面に降ろされる。

 

「え?」

「は?」

「何なのだ?」

「何を…」

 

 一瞬呆気に取られたどりす、一夏、マオチャオ、ツガルだったが、相手の次の動きは更に予想外だった。

 大型はその脚部全てを使い、凄まじい速度と質量でこちらへと向かって突撃してきた。

 

「ええええ!?」

「こっちだ!」

 

 とんでもない大質量の突撃に、どりすが絶叫する中、一夏がとっさにその腕を掴んで宙へと舞い上がる。

 そこへ狙いすましたかのように無数のビーム攻撃が集中し、一夏は白式を縦横に動かしてなんとか避ける。

 

「離して! このままだと的になる!」

「出来るか! まさかこんな手を使ってくるなんて………」

「後ろ! 後ろ迫ってきてるのだ!」

「こんなのあり!?」

 

 下手に高度を取ると狙い撃ちされると思った一夏が暴れるどりすを掴んだまま高度を下げると、今度は大型の巨体が一気に迫ってくる。

 

「一夏!」

「箒! その子を連れてシェルターに逃げろ!」

「しかし!」

「オレに構うな! 増援に行け!」

 

 逃げる者達を追う大型が、観客席をその巨体で抉っていく様を見ながら箒も判断に迷う。

 

(紅椿でもあれは止められない! どうすれば…)

 

 

「いけない!」

 

 上空のエグゼリカは眼下の戦いが再度苦境に立たされたのに気付き、援護に向かおうとする。その瞬間、自分に向けて何者かがデータ通信を送ってくる。

 

「これは、攻撃タイミング指示?」

 

 予感と共に視線を走らせると、自分と同じように援護へと向かおうとする漆黒の少女がいた。

どちらともなく頷きあい、2機そろって大型へと向かっていった。

 

 

 

 焦る箒の目に、ふと上空から高速でこちらに向かってくる黒と白の影に気付いた。

 

「対地中攻撃モード。バンカーバスターセット」

「ディアフェンド! フルスイング!」

 

 漆黒の少女はどこかから大型の地中攻撃用爆弾を用意し、エグゼリカは周辺にいた敵をまとめてアンカーでキャプチャー、最大出力のスイングで大型へと解き放つ。

 上空から迫る物体に、大型は迎撃しようとビームを放つが、かなりの質量を持つまでにまとめられた塊は削られるも、勢いそのままに大型へと激突する。

 

「投下」

 

 続けて漆黒の少女がバンカーバスターを投下、放たれたバンカーバスターは少女から離れると同時にブースターで高速降下を開始し、大型へと直撃。

 地中施設破壊を目的とされたバンカーバスターは盛大な爆発と共に凄まじい火柱を吹き上げる。

 

「うわあぁ!?」

「なんて無茶苦茶………」

 

 予想外の援護(?)にどりすと一夏は唖然とするが、その攻撃が大型の動きを完全に止めた事に気付く。

 

「マスター!」

「今だよ!」

 

 マオチャオとツガルの言葉に、二人は同時に動いた。

 

「行っけえええぇぇ!!」

 

 意識せずに、どりすがフォームアップ。

 最後のブリッドをチャージし、高速回転するカイザードリルを手にバーニアを全開。

 ねじると箒が作ってくれた唯一のポイント、円状に穴が穿たれた部分の中央に、残った力全てを使ってカイザードリルを叩き込む。

 凄まじいまでの掘削音と火花が周辺に飛び散り、大型が断末魔のような軋み音と共に脚部をどりすへと振り下ろそうとするが、そこへマオチャオとツガルの援護攻撃がそれを阻む。

 

「させないのだ!」

「させません!」

 

 マオチャオが猫のようなパーツが付いた攻撃ビット、プチマスィーンズと格闘戦で脚部をそらし、ツガルはホーンスナイパーライフルで脚部の先端のみを狙い撃って軌道を逸らす。

 

「ああああぁぁ!!」

 

 どりすの咆哮と共に、とうとう大型の装甲も限界を迎え、どりすのドリルが突き刺さった部分を中心に、円状に穿たれた部分が渦を巻くようにして壮大な破壊音と共に瓦解する。

 

「やっ、た………」

 

 そこでどりすも限界を迎え、フォームアップが解けて崩れる中、一夏が雪片弐型を手に迫る。

 

「行くぞ白式! 零落白夜、最大出力!」

 

 一夏はどりすが崩した装甲、その中に蠢く機械的にも有機的にも見える奇怪な内部に光刃を突き刺し、残ったエネルギー全てを使って零落白夜を発動させる。

 凄まじいエネルギーのせめぎ合いが周辺に閃光の乱舞となって舞い散り、相殺しきれないエネルギーが白式のシールドを貫いて一夏に傷を負わせるが、一夏は手を緩めようとはしない。

 

「これで、どうだああぁぁ!」

 

 最後のエネルギーを振り絞り、一夏は雪片弐型を上へと振り抜く。

 それを追うように、大型の内部に残っていたエネルギーが間欠泉のように吹き出していく。

 

「トドメ、だ!!」

 

 そのまま、一夏は雪片弐型を袈裟斬りに振り下ろす。

 斬撃の軌道を示すように一直線の閃光が大型の内部へと刻まれ、大型は最後の抵抗のように脚部を白式へと振り下ろす直前に動きが止まる。

 そして、ドリルの渦と光刃の斬撃がそのまま広がるように装甲にヒビが生じ、それが全体へと及んだ瞬間、巨体の割には小さい爆発と共にガラス細工のように一気に砕け散った。

 

「や、やった………」

「そうだね………」

「一夏!」

「どりす!」

 

 戦闘の痕跡以外、残っていない闘技場に満身創痍の状態で立ち尽くす一夏と崩れ落ちたままのどりすは、肩を貸しながら寄ってくる箒とねじるに笑みを浮かべる。

 

『やった! やりました! 語り尽くせぬ激戦の末、とうとう大型の敵の撃破に成功しました!!』

 

 つばさも歓喜の声を上げる中、闘技場に押し寄せていた他の敵達が一斉に反転、瞬く間に逃走に移る。

 

「あら?」

「え?」

 

 相次いた爆発の余波でちょっぴり煤けた盾無と真耶は、突然の事に思わず間抜けな声を漏らすが、敵の空戦型は陸戦型を掴み上げると、上空へと舞い上がってそこに発生した小型の霧の竜巻の中へと次々消えていく。

 

「ちょ、逃げ出した~!?」

「待てこら! 今まで散々好き勝手やっておきながら…」

「追ってはダメよ」

「敵は撤退を始めた! 戦闘中止! 追撃は禁止だ!」

 

 IS、パンツァー双方に突然の事に文句を言う中、どりあと千冬が追おうとする者達を止める。

 

「さて、それじゃあ怪我した人達は集まって。保健委員の方は治療準備してね」

「被害状況の確認急げ! 負傷者を重度の者から医務室へ!」

「闘技場の状態確認手伝って下さい! でないとシェルターの子達が出られません!」

 

 どりあと千冬、降りてきた真耶も加わって次々と指示が飛ぶ中、いつの間にか敵は一機もいなくなっていた。

 戦っていた者達も気持ちを切り替え、負傷者の搬送や状況確認へと移る中、上空から二機のRVが降下してくる。

 

「皆さん大丈夫でしたか!?」

「死傷者は!」

「あら、さっきは増援ありがとうね」

「死者は現状では確認されていない。重傷者は数名出たようだが………」

「よかった~~、何とか間に合った~」

 

 胸を撫で下ろす亜乃亜に、どりあと千冬が鋭い視線を向ける。

 

「それじゃあ、こちらから色々聞きたい事もあるのだけど、よろしいかしら?」

「構いません。元から私達は状況確認のために向かってましたし、答えられる限りは答えます」

「そうか、それと………」

 

 エリューがどこから説明すべきか考える中、千冬は上空を見る。

 今だそこにいる、黒と白の人影を。

 

 

 

「戦闘行動終了を確認」

「あ、あの!」

 

 漆黒の少女が帰投しようとするのを、エグゼリカが呼び止める。

 

「私達が到着する前の増援、ありがとうございます。私は…」

「《TH60 EXELICA》、地球に漂着した三機のトリガーハートの内の一機」

 

 漆黒の少女が、まだ説明もしていないこちらの状況を知っている事に、エグゼリカは驚く。

 

「どうしてそれを………」

「私は戦闘妖精《FRX―00 メイヴ》」

 

 漆黒の少女、メイヴは簡潔に名乗ると、そのまま身を翻す。

 

「待ってください! 他にも聞きたい事が…」

「気をつけろ。JAMの攻撃は、これからが本番だ」

 

 それだけ言うと、メイブは一気に加速し、慌ててエグゼリカは跡を追うがすぐに転移して姿を消してしまう。

 

「JAM、それが敵の名前………」

 

 新たに得た、だがあまりに少ない情報にエグゼリカはどう皆に説明すべきか考えつつ、地上へと降下を開始した。

 

 

 

「箒、大丈夫か?」

「紅椿が持ってくれたから、大した事は無い。だが彼女が………」

「………あの鎮痛剤、何入ってた? なんかほとんど痛くないんだが」

「絶対ヤバいの入ってるのだ」

「切れる前に、ちゃんとした治療を…」

「あ~~!!」

 

 ねじるを医務室に運ぼうかとする一夏と箒だったが、そこで突然どりすが大声を上げて立ち上がる。

 

「な、何だ!?」

「試合! 試合どうなったの!?」

「………は?」

 

 声を荒げるどりすに、一夏と箒は目が点になる。

 

「お前、この状況でまだそんな事言ってんのか………」

「だって、この試合で全体の勝敗決まるんだよ!?」

 

 ねじるも呆れる中、どりすはそれでもまだ勝敗を気にしていた。

 

『え~、ドリルプリンセスが試合結果を気にしてますが、パンツァーリーグ正式ルールだと、試合中に何らかの災害、もしくは完全な第三者の乱入などで試合続行不可能になった場合、その試合は無効試合になります』

「そんなああぁぁ………」

「まだやる気だったのかよ………」

「タフなプリンセスだね………」

「私はこれ以上やれんぞ、絢爛舞踏も切れたし」

 

 つばさの説明に完全に力を落とし、再度崩れ落ちるどりすに、他の三人は心底呆れ返る。

 

「救援が来たのだ!」

「こっち! 要緊急の負傷者いるよ!」

 

 闘技場内に入ってきた保険委員に、マオチャオとツガルが手を振って知らせていた………

 

 

 

「疲れた………」

「そうだね………」

 

 あの後、治療だの状況確認や設備の応急処置だのに駆り出され、すっかり疲れ果てた一夏はツガルを肩に載せたまま、寮の自室へと向かっていた。

 

「一度にあれこれ起こりすぎて、訳分からないし」

「ま、いきなりパラレルワールドなんて言わてれてもそりゃ信じられないよね」

「もう考えるのは後にして、寝よう寝よう」

「そうしよ。私もそうする」

 

 何とか自分と同じように壁に埋まっていたクレイドルを掘り出してもらったツガルも、エネルギーが切れそうなので休眠を最優先させる事にした。

 

 

 

「疲れたぁ~」

「色々あったからね~………」

「本当なのだ………」

 

 疲れきったどりすにルームメイトのつばさとどりすの肩に乗ったマオチャオも同意する。

 

「ねじるは大丈夫かな~」

「IS学園側の大病院並の医療設備で処置したし、しばらく安静にしてたら大丈夫だって。こっちのより設備良かったし」

「何なら治癒専門の人員も数日以内に呼べるのだ」

「ねじる治してくれるなら、なんだっていいよ。お姉さま、明日も朝練はいつも通りって言ってたし」

「私も明日は早く起きて号外まとめないと」

「取り敢えず後にするのだ。寝ないととても活動できそうにないのだ………」

 

 三者三様で疲労感を覚える中、寮の自室のドアを開けようとした時、ある事に気付く。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 互いに隣のドアの前にいる一夏とどりすは、ワンテンポ遅れてその事に気付いた。

 

「あ~~!? 何であんたがここにいるの!?」

「何でって、ここオレの部屋なんだけど………」

「あの、こっちは私達の部屋なんですけど………」

 

 一夏を指差すどりすに、一夏は戸惑って説明するが、つばさの説明に一瞬思考が停止する。

 

「お隣さんなのだマスター」

「お隣さんだねマスター」

『ええ~~!?』

 

 武装神姫の説明に、この日最後の絶叫が寮内に木霊した………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP17

「これは………」

「すごい………」

 

 間近でそれを見た艦娘達が、絶句する。

 波の穏やかな海原と、突き抜けるような青空。それらの気象条件を完全に無視したそれは、周辺に波も立てず、強風を吹かせるでもなく存在している。

 それは海面から天空までそびえ立つ、凄まじく巨大な霧の竜巻だった。

 しかもそれは移動する事も弱まる事も無く、発見された数日前からその場に鎮座している。

 

「これは、一体何?」

「分からないわ………けど、吹雪も暁達もこの航路を通っていたはず」

「ま、まさか沈没したの!?」

「分からない………ただ、この中に深海棲艦が引きずり込まれたって情報も来ている」

「じゃあ、いなくなった皆も!」

「Hey! きっとブッキー達は無事ね! 答えは、このミスト・トルネードの中にあるね!」

 

 先頭に立つ艦娘が、そう言って目の前を指差す。

 

「皆、準備OK?」

「確かに、これが何かを調べるのは急務です」

「やるしかないわね」

「吹雪ちゃんも暁ちゃん達も、きっと待ってるよ!」

「それじゃあ、GO!!」

 

 

 

「お~い、こっちダこっち!」

 

 コンゴウの甲板上で、エイラはこちらに向かってゆっくり降下してくるカルナダインに手を振る。

 

「重力と慣性制御か、技術的には霧より上か?」

 

 腕組みしながら、コンゴウはありったけのレーダー、センサーでカルナダインを精査する。

 

「すごい、プロペラもジェットも無いのに飛んでる………」

「これが異世界の技術………」

「っていうか、さっきまで消えてなかった?」

「すごいのです………」

 

 その隣で暁型四姉妹が唖然とした顔をしていたが、ある高度まで来た所でカルナダインは停止、そこから複数の人影が重力制御で甲板へと降りてきた。

 

「お久しぶりです、エイラさん、サーニャさんも」

「よ、元気だったか宮藤?」

「貴方がコンゴウさんね、改めて、私が《TH32 CRUELTEAR》よ」

「霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ」

「暁ちゃん達! 無事だった?」

「あ、吹雪さんだ!」

「そっちこそ、どうしてこの飛行艇に?」

 

 互いの知己に挨拶をかわす中、最後に降りてきた宮藤博士と甲板に出てきた周王が少し苦笑して互いに差し出した手を握手する。

 

「お久しぶりです、周王博士」

「こちらこそ、宮藤博士。まさかまたこんな形で会えるとは思ってませんでしたけれど」

「状況の確認は? 海上に出現した施設への敵襲はなんとか撃退に成功したと聞きましたが………」

「今何人か救援に行って調査中だそうです。分かったら連絡が来るでしょう」

「調べなければいけない事だらけね………」

 

 お互い、これから忙しくなりそうな事を感じつつ、二人は思わず嘆息する。

 

「海はいいね~、漂流中だけど」

 

 そこでいつの間に降りたのか、ギター片手に加山が決め台詞と共にポージングする。

 

「………誰ダあれ?」

「この世界の帝国華撃団の加山さんです」

「変な人」

「そういう事言っちゃダメなのです!」

 

 エイラも唖然とする中、芳佳が紹介するが響の一言を慌てて電が取り消そうとする。

 

「はっはっは、正直なお嬢さん達だ」

「何者ですか?」

「情報部の人間だそうだ」

 

 周王も思わず宮藤博士に問うが、返ってきた言葉に眉を潜める。

 

「もう情報部が出張ってきてるなんて………」

「華撃団という組織は随分と動きが早い。まあお陰で襲撃にも対処出来たが」

「それにしても本当に金剛型そっくりだね~中身は別物なんだろうけど。これがどこかの国の近海に現れたら、外交問題になってたかもしれないね」

「そうなのか?」

「言われテ見れば………」

「ここで良かったのかもね」

 

 加山の指摘に、コンゴウは首を傾げるがエイラとサーニャは今更ながらその事に気付いていた。

 

「そう言えば、頼んでたのは?」

「今下ろすわ。カルナ」

『了解、物資降下に入ります』

 

 カルナダインのコンテナ部が開き、そこから物資の入った木箱がゆっくりと降りてくる。

 

「これでお魚だけのご飯じゃなくなるね」

「塩味だけからもナ」

「寝間着どこ!?」「石鹸は?」「お菓子! お菓子!」「うわ、お肉が塊で入ってるのです!」

 

 中身を大騒ぎしながら確認する暁型四姉妹だったが、そこでクルエルティアがある提案をする。

 

「もしよければ、カルナダインに乗るって手段もあるけど」

『え?』

「これなら、すぐに目的地につくわ。この後、東京に一度戻る事になったから」

「………どうする?」

 

 クルエルティアの意外な提案に、暁型四姉妹は手を止めて顔を突き合わせる。

 

「どうする?」「うむ………」「鎮守府無いんだよね?」「けど………」

「私は残るわ」

 

 一番最初に決断したのは、周王だった。

 

「博士、どうして?」

「気になる事が色々あるから、少しコンゴウさんの力も借りて、海域を調査したいの。アイーシャもどこかにいるかもしれない。何より、彼女を一人にしておけないわ」

「………どういう意味だ」

 

 こちらを見て断言した周王に、コンゴウ当人が僅かに目を細める。

 

「簡単よ、貴方が今ここにいる中で、一番幼いからよ」

『は?』

 

 暁型四姉妹だけでなく、エイラまでもが周王の一言に間抜けな声を漏らす。

 

「………どういう意味だ?」

「そのままよ。短い間だけど、一緒に過ごして分かったわ。コンゴウさん、一見貴女は外見と言動は大人びて見えるけど、その実世間知らずと言うには過ぎる部分が多いわ。メンタルモデルとやらを構築してから、ほとんど外的刺激を受けていないわね? 私は自己学習型AIは専門外だけど、それでも貴女がデータのみで実体験が極めて少ないって推測出来る」

「………そうかもしれない」

「あの、どういう意味?」

「彼女は、君達よりもずっと年下って事だ」

『え~!?』

「………さすがにそれはオレもびっくりだ」

 

 宮藤博士のぶっちゃけた説明に、暁型四姉妹+加山から驚きの声が上がる。

 

「なら、私らも残るゾ。はっきり言って、こいつの戦い方かラ何から無茶苦茶過ぎるしナ」

「火力は頼りになるけれど」

「どうする?」「う~ん………」「どうするって言われても」「あの、忘れてないかな? 深海棲艦がまだここいらにいるかも知れないのです」

『あ!』

「それなら、私もこの船に乗ります」

 

 電の一言に、一番大事な事を忘れていた姉妹達が声を上げ、吹雪も乗船を決意する。

 

「物資は多めに用意してもらってきたので、しばらくは大丈夫だと思いますよ」

「足りなくなったらすぐ運ぶから」

「取り敢えず、中に運ぼう」

 

 魔法力を発動させたウィッチ達が中心となって、物資が運び込まれていく。

 その中、宮藤博士と周王と加山の三人で、今後について何か話し合っていた。

 

「そうですか、ここでも敵襲が………」

「小規模な物でしたけど。ただ、その襲ってきたのが、艦娘の子達が戦ってる深海棲艦とかいう勢力で………」

「なるほどな。だとしたら、この海域に他にもいる可能性は捨てきれない」

「可能性は在り得るかと。私はちゃんと見てなかったのだけれど、このコンゴウの火力で倒せず、艦娘とウィッチの子達の攻撃で倒した、と」

「対応を考えると吹雪ちゃんをコチラに乗せてた方がいいだろう」

「………巴里華撃団と502がパリに現われた深海棲艦と戦ったとは聞いているが、もしその話が本当だとしたら………」

「おとうさ~ん、エイラさんとサーニャちゃんがユニット見てほしいって~」

「ああ、今行く」

 

 芳佳の呼ぶ声に宮藤博士はそちらへと向かおうとするが、そこでちらりとコンゴウの船体の兵装を見る。

 

(ネウロイはコアさえ破壊できれば、物理攻撃のみでも撃破出来る。だが、深海棲艦はそれが不可能なのか?)

 

 新たな懸念を思案しつつ、宮藤博士は取り敢えず目の前の仕事を片付ける事にした。

 

 

 

「ふああ~………」

「朝だよマスター!」

 

 まだどこか疲れの残る一夏だったが、枕元のクレイドルから起きたツガルに叩き起こされる。

 

「眠い………」

「情けないな~、お隣のプリンセスはとっくの昔に朝練に出てったよ」

「マジ? タフだな~」

「マスターも起きて起きて!」

「分かったって………そういや授業とかどうなるんだろ?」

「先生方が会議して決めるらしいよ」

「千冬姉の事だから、普通に授業しそうだな………」

 

 

 

「取り敢えず、一般生徒の授業は通常通りという事だな」

「その方が混乱も少ないでしょうね」

 

 食堂の一角、千冬とどりあが中心となり、一緒に転移してきた教師陣の間で簡単ながら今後について話し合われていた。

 

「それはそうかもしれませんが………」

「並列してやる事も多いです」

「分かっている。ライフラインはなぜか普通に使えるが、他にも問題は山積みだからな」

 

 同席していたエグゼリカとエリューの指摘に、千冬は腕組みして考える。

 

「まずは………」

「織斑先生~、朝食の準備できました~」

「そうか、では食堂の使用許可を」

 

 転移してきたのはなぜか生徒と教師のみで、職員が全くいない状況に、一番最初に生徒達の交代制で食事当番をさせる事に決定した千冬だったが、それも一時しのぎにしか過ぎない事も理解していた。

 

「それにしてもパラレルワールド、か………一昔前にフィクションで流行った時はあったらしいが、実際に起こると、洒落にならんな」

「正直な所、信じられないと言いたい所ですけれど、こうもあれこれ見たら信じるしかないですしね」

「私達も最初そうでしたから」

 

 思わずため息をつく千冬に、まだどこか半信半疑のどりあだったがエグゼリカが自分達の時を思い出して助言する。

 

「アンドロイドに異星人か、見た目では全く分からんが」

「頭にアンテナ生えてる訳でも、タコさんみたいな姿してる訳でもないようですし」

「さすがにそこまで極端なのは………すぐに慣れると思いますよ」

「慣れていいんでしょうか………」

「慣れないと、色々大変ですよ………発狂しかけた人もいたって話だし」

「………メンタルケアも必要になりそうだな」

 

 こちらを見て首を傾げる千冬とどりあに、エリューが助言するのを真耶が不安そうに呟くが、亜乃亜の余計な助言に千冬が顔をしかめる。

 

「さしあたり、食料庫には生鮮食品は一定量備蓄されているし、倉庫には緊急時用の保存食料がある」

「けれど、見つかったのはIS学園側の備蓄食料だけでした。そうなると………」

「倍の人数は想定されていない、という事ですね?」

 

 運ばれてきた朝食を前に、千冬が現状を報告した所で真耶が言葉を濁し、どりあがその意味を指摘する。

 

「遠からずして、食糧問題は深刻化するだろうな」

「一応、支援要請は向こうで受理され、物資の搬送は数日中に行われますが………」

「この人数分をすぐに、という訳には………」

 

 エグゼリカとエリューも言葉を濁し、教師陣も朝食を前に考え込む。

 

「あの~………」

 

 そこで、いの一番に朝食に手をつけていた亜乃亜が恐る恐る手を挙げる。

 

「それなら、いい手があるんですけど」

「それは?」

 

 

 

「それで、どうだった? クーちゃん」

「はい束様、現状では再度の敵襲は無い模様です。収拾出来る限りのデータはこちらに」

 

 IS学園の整備ブースの一つを勝手に自分用にし、紅椿と白式の修理を行っていた束の背後に銀髪の少女、助手的存在のクロエ・クロニクルが立ち、現状を報告する。

 

「う~ん、やっぱり情報収集が目的だったみたいだね。やる事派手過ぎるけど」

「束様以上の事をする者達がいたとは意外でしたが」

「あっはっは、ひどいな~。あとクーちゃん」

「何でしょうか」

「その子は何?」

「バウ!」

 

 束が振り返りながらクロエの足元、そこにいる片目にブチ模様のある全体的に寸詰まりな犬を指差す。

 

「その、戦闘に巻き込まれそうになっていたので一応確保したのですが、懐かれたらしくて………」

「あはは、誰かのペットかな?」

「ガウ!」

「うわ!?」

 

 作業の手を休めて撫でてみようとした束だったが、突然牙を剥かれて慌てて引っ込める。

 

「大丈夫ですか?!この、コイツ!」

 

 クロエは手にした仕込み杖を抜こうとするが、束はそれを手で制する。

 

「こらこらクーちゃん、ワンちゃんにムキなんなくていいから。私は大丈夫大丈夫、人見知りする子なのかな?」

「さあ………どうしましょう?」

「取り敢えず、邪魔にならない所に置いとけば飼い主か誰か気付くでしょ」

「分かりました、捨ててきます。ついでに朝食の準備を」

「適当でいいよ~、状況が状況だし」

 

 犬を抱いてその場から消えるクロエに手を振りながら、束は作業を再開する。

 

「う~ん、やらなきゃならない事いっぱいだな~」

 

 作業の手を休めず、束は勝手に持ってきたコンソールに白式と赤椿に残った戦闘データを表示させる。

 

「JAM、か………これに対抗出来る物を用意しとかないとね♪」

 

 未知の敵に、束はむしろ嬉々としながら作業を続行していた。

 

 

 

「なんとか、あちらの方は落ち着いたようですね」

「今の所は、だけど」

 

 一晩経ち、再度帝国華撃団基地の指揮所に集まった面々の前で、学園からの報告に誰もが安堵と一抹の不安を感じていた。

 

「人的被害がほとんど出なかったのは幸いだな」

「どうにも報告書見る限り、全員かっさらうつもりだったみてえだな」

 

 嶋と米田がエグゼリカとエリューから送られてきた学園現状のレポートに目を通しつつ、呟く。

 

「ここまで大規模な捕獲は前回は見られなかった物です。話には聞きましたが、この敵はかなり特殊とみていいでしょう」

「それならば、最初から誘拐すればよかったのでは?」

「恐らく、戦闘能力を確認してから確保するつもりだったのだろう。こちらでも似たような事があった」

 

 エリューの出した推論に群像が疑問を呈するが、大神が帝都での戦闘を思い出して返す。

 

「この際、それは後でもいいだろう。今一番の問題は」

「絶海の孤立した場所に八百余名が移動不能な状態にある」

 

 門脇の言わんとする事を、途中から大神が代弁し、誰もが頷く。

 

「ライフラインは生きているそうだけれど、問題はやはり食料ね………」

「残った物と、災害時用の緊急食糧で使いまわしても限度が来るのは目に見えている」

「しかもかなり遠いってきてやがる。手持ちでそんだけの人数分の食料積んで、飛んでいける宛はあるかい?」

 

 ポリリーナと嶋の客観的分析に米田が問うが、渋い顔だけが返ってきた。

 

「カルナダインなら数時間で行けますが、ベイロードにそこまでの余裕は………」

「となると………」

「最速でそれだけの物資を運べるのは、我々の船だけ、という事になります」

「頼めるかい?」

「いいでしょう。こちらとしても、そんな人数が飢える状況は回避したい所です」

 

 かねてから大神から打診されていた件に、僧が再度確認し、米田からも依頼された事に群像が頷く。

 

「問題は、こちらの船の容量にも限度があるという事です」

「さすがに、何度も往復するのも問題だろうし、かといってあの人数避難させる手も………」

「遅れましたわ」

「エルナー、エリカちゃん戻ってきたよー」

 

 そこに、今回の件のバックアップのために一度戻っていた香坂 エリカがユナと共に姿を見せる。

 

「お話は聞いてます。今度は太平洋に学校がまるごと出現したとか」

「映像見てたけど凄かったよ。バトルスーツみたいなの着てた子達と、もっと大きなパワードスーツみたいなの着てた子達と」

「今それを話してた所です。このままだと早晩物資の欠乏が始まりそうで………」

 

 エルナーの説明に、香坂 エリカは意味ありげな笑みを浮かべる。

 

「それなら、いい手がありますわ」

「それは?」

 

 

 

「うわ、なんだこりゃ!?」

「荷物がいっぱい………」

「そうだね~」

 

 遼平と音羽+ヴァローナは、転移ポートから次々と送られてくる小型コンテナの山に、唖然とする。

 

「なんでも、組み立て型の転移装置だそうだ。前の奴みたいに船まるごとは無理だが、大型コンテナくらいなら送れるらしい」

「こいつを海の中の学園に設置するって話になったとさ」

「へ~」

 

 渡されたリストを元にチェックしていた大戸と、聞いたばかりの情報の確認に来た冬后が積み込みをどうするか悩んでいた所に、401のクルー達が訪れる。

 

「これっすか? 積んでくの」

「あと食料を中心とした生活物資だな。積めそうか?」

「イオナちゃんに言って、少し格納部分広げた方がいいかもな~」

「残弾少ないから、その分削ってもいいかも」

 

 杏平といおりがコンテナの数と体積から概算していき、少しばかり顔をしかめる。

 

「話には聞いてたが、自在に設備いじれるってのは本当か?」

「ナノマテリアル製の所は、ですけど。そうじゃない所も増えてきたからな~………」

「超重力砲なんて、オーバーホールしないと次使えそうにないし」

「すげえイカサマだな………」

 

 大戸の疑問にいおりが答えるが、前回のダメージを思い出した杏平が唸り、整備員としては信じられない話に遼平が顔をしかめる。

 

「亜乃亜ちゃん達は警備のためにしばらく向こうにいるって話だっけ」

「結構派手にやらかしたらしいからな。ここ程じゃねえけど」

「七恵さん言ってたけど、800人以上いて、男の子一人だけだって」

『何!?』

 

 音羽の一言に、遼平のみならず杏平も敏感に反応する。

 

「なんちゅうハーレム比率………」

「つうか女子校なんじゃねえのか、それ?」

「元はそうだったらしいよ。何でかその人一人だけ男だけどISとかいうの動かせるらしいって事で入学したんだって」

「その人マスターにした神姫からの情報だと、不特定多数の女の子が頻繁に来るとかどうとか」

「なん、だと?」

「く、なんて奴だ………」

 

 露骨に歯ぎしりしている遼平と杏平を音羽といおりが生ぬるい目で見つめる。

 

「………そいつ、絶対苦労してるな」

「違いねえ」

 

 色々思う所がある冬后が呟き、大戸が同意しながら、作業は進められていった。

 

 

 

「食料の方、こちらで手配いたしますわ」

「生活物資の方はこちらで。冷蔵コンテナは小型の物なら用意できますから、食料はそちらに移してからにしましょう」

「いや、格納スペースを一部冷蔵仕様に出来るか?」

「やってみないと分からない」

 

 追浜基地の会議室で、すみれ、香坂 エリカ、群像、イオナで搬送される物資についての打ち合わせが急ピッチで進められていた。

 

「量が量ですからね」

「用意して積み込むのも一苦労ね。搬送用の機器も準備させましょう」

「まあ、もうすでに始まってる所はあるが」

 

 群像がちらりと外を見ると、そこでは美緒と僧の指揮の元、ウィッチ達が中心となって転移装置のコンテナがすでに401に積み込み始められていた。

 

「持っていくのはいいが、組み立ては?」

「設計者のエミリーが同行しますし、そちらのヒュウガさんが手伝ってくれるそうですわ。ただ問題が………」

「問題?」

「私が進めていたパラレルワールドへの商業的干渉計画は、実はまだ初期段階でして、用意出来ていない物が多いんですの。本来なら探索船の完成を待ってから探索する予定でしたのが………」

「予定通りに行かないなんてよくある事ですわ。それで、その用意出来てない物とは?」

「それは………」

 

 

 

「動力が足りない?」

「ええ」

 

 401のブリッジで、転移装置の説明を受けていたヒュウガは、説明していたエミリーの問題点に首を傾げる。

 

「この手の転移装置は、初期起動に結構なエネルギーを消費するんです。一度繋いでしまえば後は問題無いんですが、今使用している転移ポートで転移可能なサイズの動力源はまだ開発中で………」

「う~ん、これだけ食うとなると、401の動力からでも厳しいわね………」

「一応、向こうにある自家発電用ジェネレーターも使おうかとは思ってるんですが、実際どれだけの数値が出せるかは不明で」

「未完成のを持ってきたって訳ね。ま、この状況じゃ仕方ないけど。こちらもナノマテリアルのアテがないと、修理の限度があるし」

「組成はもらいましたから、別の研究所で精製実験を近日中に始めます。ただ、こちらでもまだ理論段階の物なので………」

『ねえ、それっていつごろ出来そう?』

 

 そこで話を聞いていたタカオが、パネルを二人へと向けながら聞いてくる。

 

「まだなんとも………」

『急いでよ! 私のボディが無いと不便でしょうがないのよ!』

「あ」

『あって何よ! ヒュウガ! まさかその事忘れてたんじゃないでしょうね!?』

「イオナ姉さまの方が先ですわ! これから先、超重力砲無しだとどこまで戦えるか分かりませんし!」

『だからって!』

「まあまあ、それくらいで…」

 

 口論を始めた二人をエミリーがなだめようとした所で、突然警報がブリッジ内に鳴り響く。

 

「え?」

「これは!」

『巴里華撃団から緊急入電! 異常事態発生!?』

「まさか、また敵襲!?」

『映像来たわ!』

「これは………」

 

 

 

「くうっ!」

「予想以上に………」

「陣形崩さないで!」

「何か、見える!」

「あの光に向かってGoね!」

 

 荒れ狂う竜巻を、縦深陣を組んだ艦娘達が突き進む。

 明らかに自然の物とおかしいデタラメに吹き荒れる強風の向こう、僅かに見える光に向かって、最大戦速で突き進むと、唐突に風が止んだ。

 

「抜けた!」

「………え?」

 

 突然開けた目の前の視界に、艦娘全員が絶句した。

 

「Oh、随分と狭い海域ネ」

 

 先頭にいた、巫女装束のような衣装に大型の砲塔の艤装を持つ英語なまりのある艦娘、金剛型高速戦艦1番艦・《金剛》が物珍しそうに左右を見回す。

 

「どう見てもここは海ではありません」

「残念な事に私も一航戦に同意見ね」

 

 その後ろ、甲板を思わせる肩当てに弓道着のような格好をした青い袴を履いた加賀型 1番艦 正規空母《加賀》と更にその後ろ、こちらは短い緋袴を履いた翔鶴型 2番艦 正規空母《瑞鶴》が珍しく意見を統一させる。

 

「これはどう見ても河川、しかも市街地のようですね」

「しかも、外国みたい」

「うん、見られてるよ北上さん!」

 

 更にその後ろ、翔鶴型 1番艦 正規空母《翔鶴》が自分達が今航行しているのが整備された河川らしき水路、しかも両脇にマロニエの樹が一定間隔で植えられている事に気付き、殿の緑色のセーラー服に雷撃艤装を装備した球磨型 3番艦 重雷装巡洋艦《北上》と球磨型 4番艦 重雷装巡洋艦《大井》が川岸からこちらを物珍しそうに見ている明らかに西欧人らしき人達にたじろぐ。

 

「ハ~イ!」

「ボンジュール!」

 

 金剛がこちらを見てきた中年男性に声をかけながら手を振ると、男性も気さくに挨拶しながら手を振り返してくる。

 

「今の人………」

「ボンジュールって、確か………」

「フランス語ですね」

「まさか、ここ………」

「大井っち、後ろに鉄塔みたいの見えるんだけど」

「え!?」

 

 戸惑う艦娘達だったが、北上の言葉に後ろを振り返ると、そこにはどこかで見覚えのある鉄塔が遠目に見えた。

 

「え、エッフェル塔!?」

「じゃ、じゃあここって………」

『巴里!?』

 

 

 

「なんとまあ………」

「どう見ても、これはアレのようだな」

「あの装備は、吹雪さんの物と同質のようです」

「また変わった連中が来た物ね」

「マイスター、残念ながら向こうもそう思うだろう」

 

 巴里華撃団の司令室で、突然の警報に様子を見に来たグランマ、ラル+ブライトフェザー、フェインティア+ムルメルティアが、送られてくるセーヌ川の映像、そこを航行している人影に唖然とする。

 

「グランマ、敵対意思は無いようですが」

「多分、何が起きてるか分からないんだろうよ」

「こちらはいきなり戦闘だったがな」

「そうですね」

 

 指示を乞うメルに、ため息をつくグランマだったが、ラルとブライトフェザーが自分達の時と比べればマシだと判断する。

 

「見世物だと思われてるわよ、野次馬が増えてきてる」

「いい兆候ではないな」

 

 画面には何かのパフォーマンスと思われてるのか、手を降ったり声を掛けたりする人影が徐々に増えてきている事に、フェインティアとムルメルティアが呆れる。

 

「現在地は?」

「もう少しでヌフ橋に到達します」

「そこに確か機密搬入路があったはずだろ。そこから誘導しておき」

「通信出来るのか?」

「吹雪さんから聞いていた周波数帯に合わせます」

「何なら、私がひとっ飛びして引っ張ってくる?」

「マイスター、それは目立ち過ぎる」

「あんた達には、念のため出迎えの準備をしてもらおうか」

「出迎え、か」

 

 

 

『ボンジュール、艦娘の方々とお見受けします。聞こえますか?』

「ホワッツ?」

「聞こえてるわ、そちらは?」

 

 突然入ってきた通信に、艦娘達は驚きつつも耳を済ます。

 

『吹雪さんから話は聞いております。その先のヌフ橋、皆さんから見て左側に機密搬入路が有ります。そこからお入りください』

「だ、そうよ」

「どうする?」

 

 加賀と瑞鶴が他の艦娘達に判断を促し、皆が思わず互いを見る。

 

「どうするって言われても………」

「このまま北上さんが見世物になるのは耐えられないわ!」

「私は別に構わないネ」

 

 明らかに増えてきているギャラリーに、北上と大井は困惑するが、金剛はむしろ嬉々として両手を振っていた。

 

「罠かどうかも不明だけど、このままよりはマシね」

「またしても同意見。つうか写真まで撮られ始めてるわよ」

 

 鼻を鳴らして指示に従う事にした加賀に、こちらに向かって光り始めたフラッシュに思わず顔を隠そうとした瑞鶴が続く。

 

「Oh、確かにゲートがあるネ」

「こんな所に………機密施設の類でしょうか」

「多分ね」

「いくよ大井っち」

「はい北上さん」

 

 艦娘達は、橋の上からは見えない位置に開いていくゲートから中へと入っていき、全員入ると同時にゲートは閉まる。

 後には、橋の下から出てこない彼女達を不思議な顔で見ているギャラリーの姿だけが残った。

 

「これはまた………」

「搬入路の類のようね、しかも機密の」

「ひょっとして、とんでもない所に来ちゃった?」

 

 各所に灯りの付けられた水路に、艦娘達はその目的を推察するが、やがて水路の脇にある歩道と、そこに立つ人影が見えてくる。

 

「ようこそ、巴里華撃団基地へ」

「歓迎するよ、カワイコちゃん達」

「一応ね」

 

 こちらに向けて頭を下げるメイド服姿のメルに、軽い挨拶をする軍服姿のクルピンスキー、更に赤いボディスーツのフェインティアに艦娘達は明らかに顔をしかめる。

 

「ワッツ? 巴里、華撃団?」

「じゃあ、ここはやっぱり巴里なの?」

「待ってよ! 私達はマリアナ沖にいたはずよ!?」

「マリアナ沖とは遠いね~。こっちはペテルブルグからだったよ」

「同じ惑星なだけマシね。私は下手したら違う銀河系よ」

「………何の話?」

「さあ?」

 

 困惑する艦娘達に、クルピンスキーとフェインティアの言葉が更なる困惑をもたらす。

 だが、加賀はその言葉を聞き流しつつ、矢筒の矢に手を伸ばしていた。

 

「それと、その物陰で待ち構えている人達はどういう事かしら?」

「おや、気付いてた?」

「勘は冴えているようだな」

 

 鋭く通路の影を睨みつける加賀に、クルピンスキーはおどけて見せるが、用心して隠れていたグリシーヌが手にしていたハルバードを壁に立てかけると、背後にいた他の花組隊員やウィッチ達がぞろぞろと得物を一度手放しながら姿を現す。

 

「すまない、少し用心深くなっていてな。巴里華撃団、花組のグリシーヌ・ブルーメールだ」

「横須賀鎮守府所属、第五遊撃部隊の加賀よ」

 

 グリシーヌがしゃがみながら差し出した手を、まだどこか不審の目で見ながら加賀が握り返す。

 

「それでは皆さん、こちらへ。お荷物はあちにお預けください」

「艤装おけるスペースあるデスか?」

「あるよ、充分にね」

 

 メルの案内に金剛が首を傾げるが、クルピンスキーが含みの有る笑みを浮かべてみせる。

 

「それにしても、皆さん吹雪さんのと比べると随分と大型の艤装を使ってられるんですね」

 

 手に大型レンチを手にしたまま、ポクルイーシキンが艤装をしげしげと見つめる。

 

「ブッキーは駆逐艦、私は戦艦だから当たり前ね」

「で、吹雪さんはここに?」

「負傷されてましたので、治療設備の有る船に。もう治ったと聞いてますよ」

「船? 治療設備って、入渠設備のある船なんてあるの?」

「正確には私達トリガーハートの母艦、カルナダインよ」

「話は聞いたが、そちらでは随分と原始的な方法で修理しているらしいな」

「原始的………って何よ、そのしゃべる人形!?」

「そっちにはまだ武装神姫が現れてないって事ね………」

「今回は関わっている世界が多すぎてプロフェッサーも把握しきれていないそうだ。直に誰か派遣されてくると思うが………」

 

 状況が全く理解出来ない艦娘達が先導するメルに続いて水路から格納庫へと移動し、その先に広がる巴里華撃団施設に絶句する。

 

「Oh、これはなかなか」

「鎮守府より大きいんじゃないかしら?」

「あっち、デカい人形みたいな艤装とエンジンだけみたいな艤装が置いてあるんだけど………」

「あちらは巴里華撃団で使用している霊子甲冑・光武F、そちらはウィッチの方々が使用しているストライカーユニットです。今予備ハンガーを用意しますので、艤装はそちらに」

「それはご親切にどうも」

「翔鶴姉、他に言う事あるんじゃない?」

「まあ、これ用なら艤装置いても問題なそうだよ?」

「ちゃんときれいなのでしょうね!? 北上さんの艤装を小汚いのに置いたら許さないわよ!」

 

 水路から上がった艦娘達が口々にあれこれ言いつつも、艤装を外していく。

 ウィッチや華撃団の目には、それを手伝う何人もの妖精達の姿が見えていた。

 

「へ~、艤装とやらが大きくなると妖精さん達も増えるんだね」

「見えるの?」

「まあね」

「霊力や魔力のある人間には見えるらしい。吹雪の時もそうだったが」

「言っとくけど、私は見えないからね」

「私もだ」

「見えないのがノーマルで~す。こんなに見える人達がいる方がサプライズで~す」

 

 クルピンスキーやグリシーヌが興味深そうに妖精達を見る中、フェインティアとムルメルティアは憮然としている。

 

「それではこちらに。グランマがお会いになられます」

「グランマ?」

「我々巴里華撃団の司令だ。そこで今分かっている事を説明するそうだ」

「正直な所を言えば、何が起きてるのか私達も分かってませんけど」

「深海棲艦って、そっちの敵だろ? こっちに来てエラい目に有ったぜ」

「エリカ、そういえばいつ戻ってくるんだろ?」

 

 巴里華撃団の隊員達が、前回の戦闘を思い出しつつ、艦娘達を案内する。

 

「深海棲艦と戦った? 貴女達が?」

「ボク達もだよ。苦労したけどね」

「あいつら、やけに固かったからな~」

「管野の拳耐えた奴って、考えてみれば初めてじゃない?」

「特にあの帽子付きはすごかったわね」

「今思い出しても、よく倒せました………」

 

 ウィッチ達が口々に言う事を、艦娘達は怪訝な顔で聞いていた。

 

「帽子付きって、あの奇妙な艤装でヲ級を倒したというの?」

「奇妙と言うにはお互い様だろうな」

「違いないね」

「今の内に言っとくわ、すぐに気にしてる余裕は無くなるから」

「??」

 

 半信半疑の加賀に、グリシーヌとクルピンスキーが含み笑いで答える中、フェインティアは何か遠い目をしながら忠告する。

 

「さあこちらへ」

 

 メルの案内の元、艦娘達が支配人室へと入ると、グランマとラル(+ブライトフェザー)が待ち構えていた。

 

「ようこそ、巴里華撃団へ」

「歓迎、というのもおかしいかもしれんが、よく来た」

「横須賀鎮守府所属、第五遊撃部隊の金剛デ~ス」

「加賀よ。で、吹雪さんはどこに?」

 

 代表して金剛が挨拶する中、加賀が一番気になる事を口に出す。

 

「あの子は今どの辺だったかい?」

「吹雪さんは治療が終わった後、他の艦娘の方と合流。他の船に移っております」

「ああさっき通信チェックしていた船さね」

「今通信繋げます」

 

 グランマが首を傾げた所で、控えていたメルが答え、その間にブライトフェザーが通信装置を外部操作する。

 程なく、支配人室に設置された蒸気モニターに紅瞳の三白眼が映し出される。

 

『何の用だ』

「吹雪の仲間がこっちに来たんだよ。ちょっと呼んでもらえるかい」

『そうか』

 

 それだけ言うと、画面は即座に切り替わり、そこで寝室の整理をしていた吹雪の画像が映し出される。

 

「ブッキー!」

『え、金剛さん!? 加賀さん達も!』

『金剛さん?』『本当だ』『いつこっちに来たんですか!?』『今どこに!?』

「映像付随通信? しかも乱れが全くない………」

「まだ実用化されてないんじゃ?」

 

 画面に吹雪のみならず、第六駆逐隊の姿も映し出されている事、しかもリアルタイムでノイズの類も一切無い事に加賀と瑞鶴は驚く。

 

「取り敢えず暁達も一緒なのね」

「これで行方不明になってた子達は全員ね」

 

 まだ驚愕は覚めやらぬが、画面の向こうに行方不明になっていた者達が全員いる事に、瑞鶴と翔鶴は胸を撫で下ろす。

 

「で、ブッキー達は今どこにいるネ?」

『え~と、コンゴウさん現在地ってどこですか!?』

「ワッツ? 金剛はこっちネ」

『………そうか、お前も金剛か。私は霧の大戦艦コンゴウ、そのメンタルモデルだ』

「? どういう事?」

「恐らく、似て非なる同一パラレル存在です」

「何それ?」

「説明は後でブライトフェザーにさせよう。同名の別人だと思えばいい」

 

 同じ名前同士の存在に、艦娘達が首を傾げるが、ブライトフェザーとラルの説明に一応は納得した事にする。

 

『現在地のデータを送る。そちらの現在地は巴里華撃団本部か』

「サンキュね、ミストコンゴウ!」

『………何だそれは』

「霧のコンゴウなら間違ってはいないでしょう。………これ、北太平洋?」

「しかもど真ん中………何がどうしてこんな所に………」

『え~と、色々ありまして』

「その分の説明もこっちでしとくから。そっちに異常は?」

『今の所ありません! こっちのコンゴウさんもよくしてくれますし』

『何ダ、お仲間もこっち来たのカ?』

『他の艦種の艦娘の人達?』

 

 そこに話し声を聞いたエイラや周王が顔を見せてくる。

 

「取り敢えず、こっちで状況説明はしとくわ。理解できるかは不明だけど」

『まあ、私もまだよく理解出来てませんし………』

「こちらだってそうさ。もっとも、理解出来るかどうかでなく、しなくちゃいけなくなるんだろうけどね」

「??」

 

 フェインティアとグランマの説明に、艦娘達は更に首を傾げる。

 

『その、ここは私達がいた世界じゃないそうなんです』

「ワッツ?」

「パラレルワールド、って言ってね…」

 

 その後、艦娘達に状況を理解させるのに、かなりの時間を要する事となった………

 

 

 

「巴里に艦娘とやらがまた現われたらしいな」

「今度は戦艦とか空母とか名乗ってるそうよ」

「吹雪って子が駆逐艦と名乗ってたから、それよりは大型なのかしらね」

「詳しい所は巴里華撃団で説明中らしいわ」

 

 早朝のリトルリップシアターで、数時間前にもたらされた情報を聞いたマルセイユに、圭子とラチェットが補足する。

 

「どうにも、飛ばされたのではなく、向こうから来たという話らしい」

「つまり、来れる状況にあるって事?」

「かもしれない」

 

 眠気覚ましに用意されたマスターのコーヒーに砂糖を入れつつ、サイフォスの話に圭子が首を傾げる。

 

「シャーリーの話だと、違う世界への転移は勝手に飛ばされるとか言ってたな」

「ジェミニさんも似たような事言ってたわ」

「しかし、何でも帝都には扶桑のウィッチ養成学校と繋がりっぱなしになってるって話もあるわね」

「それ事態解せない。そもそもパラレルワールド同士を繋ぐには莫大なエネルギーが必要になる。そうやすやすと出来るとは………」

「この際、御託はどうでもいい。問題は私達は何時になったら元の場所に戻れるか、だ」

「その前に連絡だけでもしたい所ね。その帝都に繋がってる所から、今有線で無線機を繋げてるらしいけれど」

「今頃、大騒ぎになってるでしょうね」

「間違いなくな」

 

 ラチェットの言葉に、マルセイユは思わず苦笑する。

 

「艦娘の人達の世界とこの世界が繋がってるなら、私達の世界とも繋がってないかしら?」

「可能性はあるとは思うが、それ以上の事は私にはなんとも………」

「随分と色々知ってるわね、この武装神姫って子」

「我々は元々、そのために造られた。ただ今回の件は想定外過ぎて、手が回りきらない」

「その小さい手に前回は随分と助けられたけどね」

「全くだ」

「ハ~イ、ケイコ!」

 

 そこに朝食の乗ったトレイを手にプラムが声をかけてくる。

 

「トーキョーから連絡が有ったわ。なんとか貴方達の任地と通信繋がりそうみたい」

「そう? じゃあちょっと無事だって事くらい教えてくるわ」

「私がいなくて戦線が崩壊してなければいいのだがな」

「それが一番の懸念事項ね………」

「確かに問題ね………」

 

 マルセイユの笑えない冗談に、ケイコとラチェットが頬を引きつらせる。

 

「じゃ、行ってくるわ。朝食、私の分取っておいてね」

「早く来ないと保証できないな」

「陛下、私がガードしておこうか?」

「あら、足らなかったら追加で作るわよ?」

 

 朝食の警備に入ろうとするサイフォスにプラムが思わず吹き出しながら、圭子を連れて通信施設のある司令室へと向かった。

 

 

 

『来たか、今繋いでる最中だ』

「ちゃんと繋がるといいんだけど」

『なんとかはしてみますけど………』

『これそっちです!』

 

 通信画面に美緒とその周囲に幾つもの配線と格闘している静夏とアーンヴァルの姿が映し出される。

 

「え~と、つまりこのニューヨークからトウキョウに繋いで、そこから有線で帝国劇場の地下からウィッチの学校に繋いで、そこから通信施設に繋いで、そこから君達のいたアフリカ戦線に繋ぐ、と」

「そうなるわね。本当に繋がるかしら………」

 

 サニーサイドが指を立てながら中継箇所を確認していき、改めてかなり無茶をしている事を圭子が認識しつつ、繋がるのを待つ。

 

『繋がりました!』

『お、やっとか』

「代わって」

 

 転移ホールから顔を出した土方の報告に美緒が頷き、圭子が通信マイクを手に取る。

 

「こちら第31統合戦闘飛行隊 《ストームウィッチーズ》隊長、加東 圭子少佐、聞こえますか?」

『加東少佐! こちら金子です! ご無事ですか!?』

「主計中尉、こちらは全員無事よ。一応ね」

『今どこにいるんですか!? こちらはもう大変な騒ぎですよ!』

「まあ色々有って………一言で言えば、ニューヨークに居るわ、皆ね」

『はあ!? なんでそんな所に!?』

「説明するのは色々難しいわね。とにかく、現在のそちらの戦況は?」

『それが、大変なんです! ウィッチの皆さんが消えた直後、とんでもない巨大な霧の竜巻が発生して、そこにネウロイが次々吸い込まれているんです!』

「何、ですって………」

『待て、それは本当か!?』

「とんでもない状況のようだね………」

 

 通信口からの報告に、圭子のみならず、聞いていた美緒とサニーサイドも絶句する。

 

「待って! その霧の竜巻って今もあるの!?」

『はい! 今将軍の方々が緊急対策会議の真っ最中です!』

 

 予想外過ぎる事態に、圭子の手から通信マイクが滑り落ち、床に跳ね当たって乾いた音を立てる。

 同様の報告が艦娘達からももたらされ、新たなる不安要素の出現に、皆に戦慄が走るのに然程時間はかからなかった………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次スーパーロボッコ大戦 EP18

 

「これがつい先程送られてきた写真だ」

 

 帝国華撃団指揮所に急遽招集された指揮官達と、リアルタイムで繋がっているパリ、ニューヨークの指揮官達と太平洋上のコンゴウに乗っている者達が美緒が取り出した数枚の写真を凝視する。

 

「これは………」

「間違いないな」

 

 そこには、各都市の襲撃の際、目撃された物と同様の、巨大な霧の竜巻の写真に皆の顔が険しくなる。

 

「待て、先程送られてきたと言ったが、そちらでどうやって送ってきた? 写真の電送技術はまだ無いと思ったが」

「簡単です。私宛に送られてきたのを印刷しました」

 

 嶋のふとした疑問に、アーンヴァルが答える。

 

「これも先程判明したのだが、前回参戦した武装神姫達が、その時のマスターの元へ再度現われたらしい。これは、第31統合戦闘航空団失踪の報を聞いた、かつての501隊員がその武装神姫と共に調査に赴いた時に撮影した物だ」

「飛鳥が送ったデータを、他の武装神姫達を中継して私に届きました」

「案外便利だな」

「何体中継したのかは不明だがな」

 

 美緒とアーンヴァルの説明に思わず大神が漏らした言葉を、プロキシマが補足する。

 

『こちらでもこのミスト・トルネードは出たまんまで~す』

『吸い込まれた深海棲艦はどうやらこちらに出てきてるみたいだけど………』

 

 画面越しに金剛と加賀も自分達の世界に同様の物が有った事を告げ、指揮官達の顔が更に険しくなった。

 

「これがパラレルワールドを繋ぐ転移ゲートであるのはまず間違いありません。ただ気になる事が」

「それは?」

 

 エルナーが言葉を濁した事に、群像が思わず問い返す。

 

「吸い込まれたネウロイや深海棲艦の総数と、こちらに現われた総数は、一致しているのかどうか。という疑問です」

『こっちに現れたのは、私達と一緒に飛ばされた連中だけね』

『他の場所に現れてない限りは』

 

 エルナーの疑問に、圭子が即答しソイフォスが補足する。

 

『前回こちらで倒したのどれくらいだったかね?』

『魚型が15、砲台型が3、帽子付きが1です』

『他は見てないな』

『深海棲艦ならこちらでも接触した』

『けど、そんなに数はいなかったわ』

『確かニな』

 

 グランマの問にメルが答えるのに、ラルが頷き、続けてコンゴウと暁、エイラが頷く。

 それらの解答を聞いたエルナーは、金剛達とアーンヴァルに視線を送る。

 

『………正確な数は計測してないけど、足りないわね』

『飛鳥の報告では、かなりの数のネウロイが吸い込まれているようです………』

 

 その意味は、その場にいる誰もが口に出さなくても理解していた。

 

「可能性は二つ。温存しているのか、それとも」

「別の所に出ているか」

 

 エルナーの言わんとした事を、門脇が代弁する。

 その別の所が何を意味するかは、誰もがそれとなく察していた。

 

「あの学園の連中に、この事は教えたのかい?」

「いえ、まだ………」

 

 米田のさりげない質問に、エルナーが言葉を濁す。

 

「ここにいる者達と違い、彼女達は軍隊でも戦闘組織ですらもない。前回は急襲だったとはいえ、今後の戦闘に参加させるべきだろうか?」

「自衛できるだけの力があるのは確かです。ただ、こちらの味方になってくれるかどうかとなると………」

 

 嶋の指摘に、ジオールも顔を曇らせる。

 

「今回の敵、エグゼリカからの情報によれば、《JAM》というらしいけれど、そいつらにあの学園の生徒その物が標的になっているのは確かね」

「随分と節操の無い連中だ」

 

 ポリリーナの説明に美緒が思わず呟くが、その節操の無さこそ問題だった。

 

「私の記録にも、Gの本部にも、カルナのデータベースにも照合してみましたが、どちらにも記録が存在してません。未知の敵です」

 

 エルナーの言葉に、皆の表情が厳しくなる。嶋が呻くように呟いた。

 

「まるで行動が読めない相手か」

「しかもそれが複数の敵勢力を取り込み現状ではそれらがどこに出現するか分からない。JAMの狙いが多過ぎるのが最大の問題です」

『いやはや、さすがに気が多過ぎだね』

『全くだよ』

 

 サニーサイドが茶化した所で、グランマが思わずため息を漏らす。

 

『来るならいつでも来るがいい。殲滅するだけだ』

『お前、それで前危うく島消し飛ばす所だったダロ!』

『さすがにあれは肝を冷やしたわ………』

 

 平然としているコンゴウにエイラが怒鳴り、周王が首を振る。

 

『問題は他にもあります。本来、深海棲艦は私達艦娘でしか対処出来ないのです』

『華撃団やウィッチの人達は出来たようで~す』

『少しばかり苦戦したがな』

 

 加賀と金剛の指摘に、ラルは苦笑する。

 

「………早急に敵がどこに現れても対処できるよう、体制を整える必要がある」

「それも、全ての場所でですわね」

 

 門脇の出した結論を香坂 エリカが補足。

 全員が無言で頷いた。

 

「だとしたら、一箇所問題がある」

「あの学園、ですね」

「もし、次の敵襲が有ったら、持つんかい?」

 

 門脇、エルナー、米田の共通見解に、誰もが唸り声を上げる。

 

「エグゼリカからの報告では、ある程度までは対処するだけの設備は整ってるそうですが………」

「防空壕があったのは行幸だっただろう。お陰で犠牲者は出なかったようだし」

「しかし、見ていた限りは防壁や迎撃兵器の類は確認できなかった」

「そんなの普通学校にはないでしょ………」

 

 クルエルティアの発言に、大神と群像がそれぞれ意見を述べるが、流石にポリリーナが呆れる。

 

「それぞれが使用しているパンツァーとISがそのまま盾と矛なのだろう。それだけの性能は持っていた」

「しかしそれはあくまで小規模戦闘に対してだ。前回の襲撃以上の大規模攻勢の可能性も有る」

 

 美緒も意見を述べるが、門脇がある懸念を持って反論する。

 

「では、どうすればいい?」

「あの、少し時間をいただければ、こちらで中型の転移装置を用意出来ますけど………」

 

 大神の総論に、香坂 エリカが手を上げる。

 

「転移装置? 今積んでいるのとは別の物か?」

「ええ、今積んでいるのは次元間転移を前提とした物ですけれど、それとは別に空間転移のみ、すなわち同一世界上での任意位置への転移を目的とした物です。パラレルワールド交流時のために開発させていた物が。ただ、量産体制までは………」

 

 群像の質問に香坂 エリカが少し言葉を濁す。

 

「よく分かんねえが、それさえあればどうにかなるんかい?」

「小規模な部隊くらいなら瞬時転送が可能になります。製造を急がせますが、そうそうすぐには………」

「そうかい、そりゃ便利なこった。それまで敵さんが待っててくれりゃいいんだが」

 

 米田の発言に、その場に沈黙が訪れる。

 

「誰かが現地に赴き、視察し、場合によっては指導する必要が有る」

 

 しばしの沈黙の後、嶋の発言に誰もが顔を上げる。

 

「つまり、あの学園を軍事要塞化するという事ですか?」

「場合によってはそうなるだろう」

 

 ポリリーナの質問に、嶋は即答。

 

「………要塞化というのはともかく、視察を行う必要は確かでしょう」

「言い出した私が行こう。階級の有る人間が行った方が話も通じやすい」

 

 エルナーもそれを妥当と判断した所で、嶋が自ら視察に名乗りを上げる。

 

「嶋少将だけでなく、他にも人員や技術を視察する武官や技官も必要になるかと」

「では私も行こう」

 

 エルナーの追加案に美緒も名乗りを上げる。

 

「成る程、坂本少佐なら武官としては申し分ない」

「それなら、オレもご一緒します。華撃団からも誰か行く必要があるでしょうし」

 

 門脇が頷いた所で、何時から居たのか、太神の背後に控えていた加山も名乗りを上げる。

 

「確かにこの世界の詳細情報を持った情報官も必要ですね」

「………私も行くわ。電子機器に詳しい情報官もいるでしょう?」

 

 更にそこで今まで無言だったミサキも手を挙げる。

 

「残るは技官ですね」

「あれだけの技術を解析出来る人間となると、誰か適材は………」

「宮藤博士は?」

「こちらで物置に開いたゲートの詳細調査中です。それに、彼の専攻からは少しずれる可能性も………」

「エミリーは?」

「兵器関連は専攻じゃありませんし、それに転移装置の設置にかかりきりになる可能性も」

「じゃあ他には………」

「あの、こちらから一人候補が」

 

 喧々諤々の人材選定に、僧が手を挙げる。

 

「兵器関連に詳しく、先端技術に先見の明がある人材なら、一致するのが一名」

「それは?」

「それは………」

 

 

 

「反対だ」

 

 群像が告げた言葉に、401の改装を手伝っていたハルナが開口一番で断言する。

 学園への派遣が決定した視察団の、技官候補として蒔絵が選ばれた事に、断固たる態度でハルナは反対していた。

 

「オレも本意ではないが、確かに一番妥当な人選なんだ」

「だがそれは蒔絵の特異性を見せる事になる。それが蒔絵にとっていい事とは思えない」

「しかし…」

「いいよ。私行く」

「蒔絵………」

 

 そこで蒔絵がむしろ立候補するように頷く。

 

「今大変な事になっているってのはよく分かるよ。だったら、私も出来る事をする。だからハルハルは心配しなくていいよ」

「………蒔絵がそう言うのなら」

 

 顔をしかめながらも、当人の意見を尊重してハルナも渋々頷く。

 

「そんな心配する必要は無いんじゃないのか? パラレルワールドとやらから集まったのは妙な連中ばかりだ。蒔絵が然程目立つとは限らんだろう」

「それは、そうかもしれんが………」

 

 キリシマの助言に、群像は艦に戻る時に見た素手でコンテナを運ぶウィッチ達やそれを手伝っている薔薇組を思い出し、思わず肯定してしまう。

 

「ともあれ、人数が多いし物資も運ばなくてはならない。居住スペースには空きはあるが、格納スペースはなんとかなりそうか?」

「再計算の必要があるかもしれないな」

「ああ、それと他に運ぶ物が………」

 

 

 

「視察団?」

「あの学園に送る事になったんだとさ。嶋少将が団長らしい」

「おっかない視察団になりそうだね」

「そだね」

 

 零神の整備をしている僚平の脇で、日課の素振りをしていた音羽が視察団の話を聞いて、頭上のヴァローナと共に首を傾げる。

 

「他にも坂本少佐とかあの加山さんとかも同行するらしいぜ」

「それって、視察というか査察なんじゃ………」

「見る目厳しそ~だよね~」

 

 明らかに人選に何か危険を感じながら、音羽が素振りを続けていると、そこに美緒が姿を見せる。

 

「桜野! 橘!」

「はい!」「何か用っすか?」

「門脇中将から正式に許可をもらった。両名は零神及び諸装備を用意し、明朝0730出立する使節団に同行するように」

「はい、ってええ!?」

「何でオレらが? しかも零神持って?」

「理由は後で分かる。至急準備に取り掛かれ」

「あたしは~?」

 

 突然の美緒からの指示に二人が驚く中、ヴァローナが手を挙げる。

 

「一緒でいいそうです。私も一緒に行きますから」

「片道でも一週間近くかかる事を考慮しておけ」

「分かった~」

「え~と、そんな着替え有ったかな………」

「オレ、おやっさんに言ってくる!」

 

 美緒の肩にいるアーンヴァルの返答に美緒が補足し、それを聞いた二人+ヴァローナが慌てて準備に入るのを見ながら、美緒も自分の準備に取り掛かろうとする。

 

「でもマスター、なんでソニックダイバーを持っていくんですか?」

「少し気になる事が有ってな。それには桜野と零神が一番妥当だろう」

「?」

 

 アーンヴァルが文字通り小首を傾げる中、美緒は脳内で学園で起きた戦闘の事を思い出していた。

 

(恐らく、杞憂ではないだろうな………)

 

 

 

「あら、雄一ちゃんも行くの?」

「ああ、組織間の連絡も月組の仕事だからね」

「これに乗っていくんでしょう?」

「潜水艦って一度乗ってみたいですね~」

 

 荷物の積み込みを手伝っている薔薇組に、荷物の一覧を見せてもらっていた加山が答える。

 

「オレも乗るのは初めてだ。まだ長距離航行可能な潜水艦はこの国には無いからね」

「昨日は高速飛行機で巴里に紐育、その次は潜水艦で太平洋。過酷ね~」

「なに、こちらは移動の間は乗せてもらってるだけさ。楽な物だよ」

「留守は任せてちょうだい。早い所、その海の上の学校の子達に食料運んであげないとね」

「本当にこんなので食料送れるんだろうかね~?」

「香坂財団の作り上げた物です。信頼は出来ると思います」

 

 そこへ様子を見に来たミサキが、搬入の終わった転送装置のコンテナを確認しながら告げる。

 

「ま、何百年も先の物なんて、見た所で分かる訳ないしね」

「だから私が同行します。分からない事は何でも聞いてください」

「そうさせてもらうよ」

 

 それだけ言うと、ミサキはその場を去る。

 

「何か、可愛い顔してるけど無愛想な子ね~」

「そうですね」

 

 斧彦と雪之丞がやたら事務的なミサキを見送るが、琴音はある事に気付いていた。

 

「雄一ちゃん、気付いてた?」

「ああ。あの子、わざと足音を立ててるような歩き方してた」

「つまり、普段は足音を立てないって事ね」

「未来の捜査官って話らしいよ。つまりはオレとご同業って事」

「人材豊富ね~。協力できればだけど」

「そのために行くんだから」

 

 自分で口にしつつも、加山はそれがうまくいくかどうかの自信は無かった。

 

「あ、ミサキちゃん」

「ユナ、ユーリィも」

 

 積み荷のチェックをしていたミサキの前に、何か荷物を持ったユナとユーリィが現れる。

 

「聞いたよ。この潜水艦に乗って、海の上の学校に行くんだって?」

「仕事だけどね。上への報告も考えておかないと………」

「皆で学校見学行きました~でいいんじゃない?」

「ユナさん、前にそれでレポート出して舞ちゃんに怒られたですぅ」

「う………」

「ユナさ~ん!」

「こっちも打ち合わせするよ~」

「あ、今行く~」