if~城下町の転生者~ (猫舌)
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第1話

どうも猫舌です!
最近アニメ見たり、漫画で読んだりして、書きたいなと思ったので、つい書いちゃいました!


では、どうぞ!


刹那サイド

 

 

どうも、如月刹那です。僕はある日、女神様のミスによって転生する事になり、その際の特典として、能力を創る能力である《能力創世(スキル・メイカー)》を貰って転生し、それから数年が経過した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----チュン、チュン

 

 

「ん・・・朝、か・・・」

 

 

鳥の鳴き声に目を覚ました僕は、ベッドから出て学校の制服に着替える。時刻は朝6時と、皆が起きる少し前だ。この世界での僕の家族は大人数の為、朝は戦争になる。皆を起こさない様に忍び足で下へと降りて、歯磨きや顔洗いを済ませてリビングへ行く。其処には既に母が朝食を作っていた。僕は声を掛ける。

 

 

「おはよう、母さん」

 

「あらせっちゃん、おはよう」

 

「あの・・・撫でないで・・・」

 

 

この年齢にもなって僕は、母さんに頭を毎回撫でられる。それどころか家族全員までにもだ。一番下の子に撫でられた時は流石に死にたくなった・・・。母さんの手伝いをしていると、リビングのドアが開き、姉の一人が入って来た。

 

 

「おはよう、せっちゃん、お母さん」

 

 

そう言って僕達に笑いかける彼女は長女である《葵》姉。とても優しい人で、学校でも物凄い人気を誇っている。僕達も挨拶を返して、三人で朝食の準備をしていると、葵姉が僕に話し掛ける。

 

 

「せっちゃん、そろそろ七時になっちゃうから《茜》達起こしてもらってきても良い?」

 

「分かった。じゃあ、要ってくるよ」

 

 

僕はリビングを出て階段を登る。その際、洗面所とトイレが見えたのだが、其処は正に戦場と化していた・・・。

 

 

「おい、《遥》早くしてくれ。《輝》が限界だ・・・」

 

「あ、兄上。僕はまだ・・・我慢できます・・・!」

 

「もうお父さん長すぎ!ちょっとどいて!」

 

「《栞》、ちゃんと歯を磨きなさい」

 

「はい、《奏》姉様」

 

 

その光景を見て頬を引き吊らせながら僕は、二回へと上がり、残る姉妹二人の部屋へと入る。見事に二人は爆睡していた。

 

 

「ほら、《茜》、《光》。もう七時だよ。起きなさい!」

 

「ふえ・・・?うわっ!?もうこんな時間!」

 

「ああ!茜ちゃんずるい!」

 

 

二人が着替え出す前に僕はササッと部屋から出てリビングへ戻る。其処にはもう二人以外の全員が席に付いている。葵姉に言われて席に着き、皆が席に座るのを待つ。暫くすると、姉妹二人も来て、家族全員が揃った。そして食事が始まった。

 

 

「やっぱりグリンピース入ってる~」

 

「好き嫌いしてると身長伸びないわよ」

 

「母上、僕は好き嫌いないので大きくなれますよね!」

 

「ええ。栞もよく噛んで食べてね」

 

「うん」

 

「そうだ刹那、この前借りた本の続き貸してくれ」

 

「良いよ。じゃあ、後でね《修》兄」

 

「そういえばトイレットペーパーのストックなかったけど・・・」

 

「ああ、今週の買い物当番は俺だな。帰りにでも買ってくるよ」

 

「あ、僕も行くよ。今日はお一人様二つまでで100円だから今日の内に買い貯めしなきゃ」

 

「お願いね二人共」

 

「親孝行な子達で助かるわ~♪」

 

 

最早2ちゃんレベルの量の会話が行き交う何時もの風景。これだけなら普通の大家族だ。だが、この家《櫻田家》は一味違う。それは・・・

 

 

「あなた、食事中ですよ!」

 

 

母さんが、父さんから新聞を取り上げる。そして父さんの頭には王冠が乗っかっていた。僕は溜息を吐きながら言う。

 

 

「・・・何で王冠してるのさ・・・」

 

「いやぁ、間違って持って帰ってきちゃったんで・・・」

 

「凄いパパ!王様みたい」

 

「ぷっ・・・みたいだって・・・」

 

「あの、一応本物だから・・・」

 

 

そう、僕が転生したこの家《櫻田家》は王族の家系であり、父さんはこの国を統治する王なのだ。あまり威厳は無いが・・・。

 

 

「あ、父さん。明日の午後5時からの会議、忘れないでよ」

 

「分かってるよ。《社長さん》」

 

「もう、その呼び方は止めてよね」

 

 

そんな会話をしながら食事を済ませて、母さんと食器を片付ける。皆はパパッと学校と職場にに行った。僕は父さんに買ってもらった自転車で登校している。食器を片付けたりしていると、僕も登校の時間になった。

 

 

「母さん、僕もそろそろ行くね。冷蔵庫にゼリー作ってあるから好きなの食べて」

 

「あら、ありがとう。いってらっしゃい」

 

「うん、行って来ます!」

 

 

僕は買ってもらったロードレーサーに跨り、ヘルメットを付けて漕ぎ出した。この調子なら直ぐに着けるな。そう思いながら道を走る。

 

 

「刹那様、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 

道を走っていると、近所の人達が挨拶をして来る。父さんの意向で、僕達は普通の住宅地に暮らしていて、ご近所さんともよく話すのだ。僕は挨拶してきた人に用事を思い出し、自転車を止める。

 

 

「あ、今日は2丁目のスーパーで大根一本50円だそうですよ」

 

「本当ですか!早速買いに行かないと・・・ありがとうございます!」

 

「いえ、お気になさらず。それと、この前のぼた餅美味しかったです」

 

 

お礼を言って僕は再び走り出す。その後、何事も無く学校に着いたのだが・・・自転車を停めて、玄関に入ろうとすると、茜と葵姉が"空から登校"して来た。

 

 

「・・・またカメラか。そう云えば配置変わったね」

 

「ええっ!?気づいてたの?」

 

「うん、だって場所変えたり性能上げたの僕だし・・・」

 

「せっちゃんの裏切り者~!」

 

 

そう言って茜は僕のことをポカポカと叩く。茜は目立つ事や、見られる事が大の苦手であり、登校する時も、父さんが僕達の防犯に設置してくれたカメラに恐怖して、毎回遅刻寸前なのだ。え?空から飛んできたことについて?実は、家の家系はそれぞれ特殊能力を持っていて、茜は重力を操る事ができる。僕は《能力創世》があるのだが、強力過ぎる為、家族と一部以外には公開されていない。一応仮の能力を公開している・・・。

 

 

----キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン

 

 

「うわっ、予鈴鳴った!急ごう」

 

 

僕達は教室へと走り出し、何とか間に合う。僕は茜の隣の席で、座っていると茜の親友である《花蓮》と《美香子》が来た。

 

 

「おはよう、茜様、刹那様!」

 

「その呼び方止めてよ~」

 

「おはよう二人共。ほら、頼まれてたシャツの解れとか直しといたから」

 

「お、サンキュー」

 

「ありがとう、刹那君」

 

「気にしないで、裁縫とか好きだから」

 

「流石嫁にしたいランキング1位だね」

 

 

何だよその不本意なランキングは・・・。苦笑していると、先生が来たので皆席に戻り、授業が始まった。

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

「どうして楽しい時間ってあっという間に終わっちゃうんだろうね・・・」

 

「ダメだこりゃ・・・」

 

「学校をこんなに楽しんでるのは多分茜だけだよ」

 

「だってカメラが無いし、皆も特別扱いしないし!」

 

 

この愚妹は・・・。不甲斐なさにため息が止まらない。確かに過去の事が原因でこうなってるとは云え、このままじゃ社会に出れない。何とかならないかな・・・。

 

 

「茜ー!迎えに来たよ」

 

「あ、お姉ちゃん。今そっちn「きゃー!葵様よ!」「ホントだ!」・・・ぐすん」

 

「これは特別に扱わないというより・・・人気の差なんじゃ・・・」

 

「そ、そこまで言わなくても良いよね・・・」

 

 

取り敢えず涙目の茜を撫でてから僕は教室を出る。

 

 

「それじゃあ、僕は修兄と買い物だから」

 

「分かった。また後でね」

 

「じゃあね」

 

「バイバイ」

 

 

茜達と別れて校門に行くと、修兄が立っていた。

 

 

「ごめんね。待たせちゃって」

 

「来たばかりだから気にすんな。行こうぜ」

 

「うん。今日はチラシにチェックも入れてきたから大丈夫だよ」

 

 

僕達は買い物で欲しい物を入手し、店を出る。そして人気の居ない所で能力を使った。

 

 

「じゃあ、頼んだぜ刹那」

 

「うん、《王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)》」

 

 

能力を発動すると、空間が黄金に歪んで買った物が吸い込まれていく。これは昔、他の転生者に襲われた時に能力を使って奪った特典の一つで、何でもありとあらゆる武器やアイテムが入っていて、収納、射出が出来る僕の隠している力だ。しかも中では適温で保たれて、腐らないので、食料を入れたりもできるのだ。荷物を仕舞った僕達は、ゆっくりと歩いて帰っていた。そして交差点の近くまで行くと、叫び声が聞こえてくる。

 

 

「ひったくりよー!」

 

「なに?」

 

「あ、あれだよ修兄」

 

 

僕は走ってくるバッグを持ったおっちゃんを指差す。後ろから茜が能力で加速して来るけど、僕の方が早そうだ。ひったくりに手を向けて、公開している能力を使う。発動させると、強風が起こってひったくりの体を空中へと持ち上げた。ひったくりはワタワタしながら浮いて行き、その手から落ちたバッグを茜がキャッチした。この後、ひったくりは警察に引き渡され、茜はインタビューでずっとプルプルと怯えていた。因みに、家に帰って、皆に買い物の成果を見せると僕と修兄は凄く褒められた。こんな感じで、僕如月刹那改め、《櫻田 刹那》の物語、始まります!

 

 

刹那サイド終了

 

 

 




この世界の刹那のプロフィールを載せます。


如月 刹那

年齢:16歳

身長:170cm

容姿:赤い目に腰まで伸びた髪をポニーテールにしてる男の娘

能力:《能力創世》・・・スキルを創るスキル
能力2:《王の財宝》・・・隠している某四次元ポケットの凶悪版
能力3:《風使い(シルフィード)》・・・風を操作する世界に公開された能力
能力4:《簒奪》・・・隠している相手の能力を奪う能力


人物像:
・櫻田家の次男
・とても優しい性格
・女子力が高く、特に料理の腕が世界レベル
・大切なものを守る為なら自分を顧みない
・前世から顔は櫻田家の面々に似ていた
・甘いものと寝る事が大好き


こんな所です。では、また次回にお会いしましょう!


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第2話

刹那サイド

 

 

買い物から翌日、僕は車に乗せられてある場所へ向かっていた。やがて車は目的地である巨大なビルに到着する。僕は予め着ていたスーツ姿でビルの中へと歩く。ビルに入ると、受付や社員の人達が僕に挨拶する。

 

 

「「「「おはようございます社長!!!」」」」

 

「はい、おはようございます」

 

 

あまり好きじゃないんだけどな・・・この呼ばれ方。この会社は、数年前の事件を機に、僕が設立した国交守備組織《SMART BRAIN》である。エレベーターで上がり、社長室に入る。其処には、軍服をモデルにした服を着込んだ僕の秘書が居た。

 

 

「遅かったわね、社長さん?」

 

「悪かったよ、《リヴェータ》」

 

「全くよ。少し待っていろって、社会人なら時間の把握くらいしなさいよ」

 

「すみません・・・。で、今日の会議の資料貰える?後、現在の任務の遂行具合」

 

 

僕の言葉に資料を渡しながら、秘書官《リヴェータ・イレ》は淡々と答える。

 

 

「現在、同盟国であるA国の護衛に《ルドヴィカ》の第二部隊を派遣中。B国の違法兵器の差押に《アネモネ》の第三部隊が任務終了したから明日にはこっちに戻ってくるわ」

 

「ん。《トルーパーズ》の教育は?」

 

「それは第四部隊《スザク》に任せてあるから問題ないわ」

 

「いや、《キワム》の相棒が暴れないか心配なんだけど・・・」

 

「大丈夫よ、《クロ》は別の所で見てもらってるから」

 

 

リヴェータの報告に苦笑しながら資料に目を通す。

 

 

「リヴェータ、此処と此処の予算、もう少し削ってこっちの方に回して」

 

「分かったわ。それと、この資料なのだけれど・・・」

 

 

暫く話し合っていると、扉をノックする音が響く。僕がどうぞ、と言うと一人の男性社員が入って来た。

 

 

「社長、失礼します」

 

「やあ、《イツキ》君。おはよう」

 

「おはようございます。この前頼まれていた携帯回復薬の試作品が出来たので、その報告を・・・」

 

「うん、丁度片付いたし今から向かうよ」

 

「はい。そう云えばリヴェータの武器も修復終わってるって整備班が言ってたぞ」

 

「了解。それじゃあ、私は受け取ってから資料の見直しに入るから、会議の時に来るわ」

 

 

そう言ってリヴェータは一足先に部屋から出て行く。僕も《イツキ・マスグレイヴ》の後に続いて部屋を出た。

 

 

 

 

 

~研究室~

 

 

「社長、おはようございます」

 

「うん、おはよう」

 

 

皆に挨拶してから回復薬の試作品を確認する。どうやらこの前よりも上手く行っている様だ。でも・・・、

 

 

「何で粉のままなんですかねぇ・・・」

 

「液体にすると、効果が弱まっちゃって・・・」

 

「むむむ・・・どうしたものか・・・」

 

 

今日の所は出来るだけの改善点を見つけ、研究室を出た。社長室に戻った僕は、今日行われる、父である《櫻田 総一郎》との会議の確認をした後に昼食を摂って、会議の会場である宮殿へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~宮殿[会議室]~

 

 

時刻は午後5時。席には、父さんを始めに、各国のお偉いさん方が座っていた。全員いることを確認し、会議を始める。主に司会は僕だ。

 

 

「では、今回の議題に入ります。このお手元の資料と共に、此方の映像を見てください」

 

 

僕はリヴェータに合図を出して、ディスプレイに映像を出す。其処には、大量の軍事兵器を並べ、笑顔を浮かべている男性の姿が映った。辺りがざわざわとする中、父さんが声を上げる。

 

 

「この兵器は・・・!」

 

「はい、数年前に敗戦したC国です。どうやら僕達が出向く前にB国の兵器が取引されていたようです。彼が狙っているのは、A国で間違いありません」

 

「A国は資源が豊富だからな・・・」

 

「あの地域は紛争が長く続き、我社が介入して、ようやく収まりましたから」

 

「何とかできないのかい?」

 

「明日になれば、我社の第三部隊が帰還します。隊員を数人入れ替えて派遣します」

 

「それはありがたいが・・・隊員達の負担は・・・」

 

 

父さんの心配する声に僕は心の内で溜息を吐く。

 

 

「ウチの隊員達はそんなにヤワじゃありません。それに疲労が多そうな人をメインに入れ替えますから」

 

「そうか、なら安心だ」

 

「少し、よろしいですかな?」

 

 

父さんの後に、手を挙げたのは脂汗を滲ませた別の国の政治家だった。あまり良い噂を聞かない人物だ。

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

「君の所の第一部隊は出せないのかね?」

 

「第一部隊は非常時以外は出撃できないんです。強すぎて、国王から制限を掛けられているので」

 

「君は、困っている人々に対して出し惜しみをするのかね」

 

 

そう言ってニヤニヤ笑いながら政治家は僕を見る。どうやらぽっと出の僕が気に入らないらしい。僕は話し出す。

 

 

「別に向こうの国が跡形も残らない更地、またはクレーターになっても良いのでしたら派遣いたしましょう」

 

「・・・い、いえ、大丈夫です・・・」

 

 

僕の言葉に政治家はプルプルと震えだす。実際そうなる可能性もある。だって、第一部隊の隊長リヴェータだし。容赦無いんだよね彼女。その後、会議も無事進み、午後7時手前に終了した。全員が退室したあと、僕は父さんと話す。父さんは心配そうな顔をしていた。

 

 

「刹那・・・本当に大丈夫かい?無理してないか?」

 

「大丈夫だよ。それに、このままじゃまた戦争が始まっちゃうよ」

 

「でも、お前はまだ成人すらしてないんだぞ?幾ら能力があるからとは言え・・・」

 

「なら、この国の大人でこのままA国を守れる人は?部隊は?」

 

「・・・無い」

 

「でしょ?でも、僕達ならやれる。いや、僕達しか居ないんだ。・・・ウチの社員にね。何人かのA国の人達もいるんだ。彼等を安心させる為にも頑張らないと」

 

「・・・分かった。任せたよ、我が国の希望」

 

「お任せ下さい、我が王よ」

 

 

僕は父さんの前で頭を垂れる。そんなやり取りを済ませて、僕達も会社へと戻り、部隊の再編成や対策を練る。気が付けば夜の9時過ぎとなっていた。家族には泊まりと連絡してあるから問題はない。社長室に備え付けられた仮眠室のシャワーを浴びてからベッドに横になる。疲れがあったのか、意識は直ぐに落ちていった・・・。

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

「ただいま」

 

 

朝になって帰宅すると、既に皆登校している様で、母さんだけだった。僕は会議と大事を取って、二日間公欠にしてもらっている。二日程度休んでも問題無い位の学力は持っている。部屋でゆったりしていると、姉の声が聞こえた。どうやら今日は生徒会は無かった様だ。僕は部屋から出て、話し掛ける。

 

 

「お帰り、《かな姉》」

 

「・・・ただいま」

 

 

僕の言葉に相変わらずぶっきらぼうに答えるかな姉こと《奏》は今日も不機嫌そうだ。あまり僕が戦場に首を突っ込むことをよく思っていないらしい。

 

 

「また、戦争の話?刹那がそこまでする必要無いのよ?」

 

「ううん。これは僕が、僕達が成し遂げなければいけない事なんだ」

 

「でも貴方はまだ16なのよ!?姉さんでも関わらないわそんな事」

 

「それもそうだよ。《選挙》までは時間もあるし、姉さんの能力は戦闘には不向きだ」

 

 

そう、僕達櫻田家は現在、次の王を決める選挙の真っ最中である。現在はアピール期間中だが、葵姉が卒業と同時に本格的な選挙期間が始まる。街には、皆のポスターが貼られ、この家だけで地方選のポスターみたいになっている。僕は王になる気はなく、王になった誰かのサポートとして会社を続けていく方針だ。話していると、かな姉は自分の部屋へと戻ってしまった。暫くすると、他の子達も帰って来た。

 

 

「ただいま、刹那兄」

 

「お帰り、《遥》」

 

「ただいま、せっちゃん」

 

「うん、《岬》もお帰り」

 

 

双子である《岬》と《遥》の姉弟が帰って来る。その後ろを末の弟と妹の《輝》と《栞》も帰って来た。

 

 

「兄上、ただいま戻りました!」

 

「お帰り輝。あ、その手の消えそうだよ」

 

「なっ!どうしたんだジャッカル!」

 

 

僕の言葉に、右手にマジックで書かれた魔法陣に輝は必死に話し掛ける。この子は小学生にして、痛い子になり始めている。お兄ちゃんは心配だよ。そう思っていると、服を引っ張られる感覚があり、下を見ると栞が僕を見上げながらクイクイしていた。

 

 

「兄様・・・ただいま」

 

「お帰り。幼稚園は楽しかった?」

 

「うん。今日はね、皆で歌を歌ったの」

 

「そっか。何を歌ったの?」

 

「《津軽海峡冬景色》」

 

「ハードル高っ!?」

 

 

何歌わせてんだこの幼稚園!?ちょっと見てみたい気もするけど・・・!考える僕に栞は聞いてきた。

 

 

「兄様、今日一緒に寝ても良い?」

 

「良いけど、どうしたの急に?」

 

「だって昨日居なかったから」

 

「そっかそっか、栞は寂しがり屋だね」

 

「兄様暖かい・・・好き」

 

「うんうん、お兄ちゃんも皆も栞の事大好きだよ」

 

 

思わずギュッと抱きしめる。うん、可愛いなぁ。是非とも優しい子に育ってほしいものだ・・・。

 

 

「頼む!答えてくれジャッカル!」

 

「・・・まだやってたの?」

 

 

この後、ジャッカルは輝の悪魔の筆(マジックペン)で新たに書き直されました。

 

 

刹那サイド終了




はい、第2話でした!


この小説は日常系だけではなく、刹那の大切な人を守るための戦いも書いていきます。
よろしければ、感想やお気に入り登録お願いします!


《rainバレルーk》さん、《ヴォルザ》さん、早速感想ありがとうございました!


ではまた次回!


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第3話

刹那サイド

 

 

会議から数日、僕は至って普通の日常を過ごしていた。会議の内容は無事成功し、A国との仲も上手く行っている。この前なんて感謝状まで送られてきた。当面はゆっくりとできそうだ。教室で頬杖を付きながら空を見上げる。綺麗な青空だ。きっといい事があるぞ・・・。そう思っていると、先生が教室に入って話し始める。

 

 

「今日は転校生を紹介するぞ。何と、外国人の美少女だ!」

 

 

先生の言葉に教室中の男子から黄色い声が上がる。転校生か・・・。いったい誰なんだろう・・・。

 

 

「早速来てもらおう。入ってくれ」

 

 

教室のドアが開き、転校生が姿を現す。制服に身を包んだ金髪の少女。一見可愛らしいが、その瞳の中には確かな強さがあった・・・って

 

 

「リヴェータ・イレよ。よろしくお願いするわ」

 

「ファッ!?アイエエエエエェェェ!?ナンデ?リヴェータナンデ!?」

 

「あ、刹那。今日からお願いするわ」

 

「いやいやいや。君違う学校に通ってたよね?成績オールAだったよね?」

 

「お嬢様学校ってつまらないのよ。男に偏見持ったレズしか居ないし。この前の会議の時に貴方のお父様に許可もらったのよ」

 

「父さんんんん!?」

 

 

僕の慌て様に、クラスの全員がポカンとする。こっちがしたいくらいだわ!?僕は深呼吸をしてから椅子に深く腰掛ける。

 

 

「リヴェータ、話あるから昼休みに屋上来いや」

 

「全く、そうカッカしてると胃に穴が空くわよ?」

 

「誰の所為だ誰の・・・!」

 

「妖怪じゃないの?」

 

「お前じゃ!?あと何処で知ったそのネタ!?」

 

「ルドヴィカがDVD貸してくれたわ」

 

「アイツ減給決定」

 

 

今、何処かの第二部隊隊長の声が聞こえた気がしたが無視だ無視。その後、先生が何とか取り仕切り、この時間はリヴェータへの質問タイムとなった。リヴェータが質問攻めにあっている間、僕は茜と話していた。

 

 

「ねえねえ、あの人ってせっちゃんの会社の・・・」

 

「秘書だよ。実力は確かなんだけど時々突っ走るんだよね」

 

「でも秘書ってことは・・・」

 

「ま、実質ウチのNo.2だね」

 

「じゃあ、強いんだ」

 

「少なくとも、この国では負けないんじゃないかな?」

 

 

本気出させれば、彼女一人で国が潰せる。思わずそう言いそうになるが、抑える。話している間にチャイムが鳴り、この時間の授業が終わる。次の授業は数学で、僕とリヴェータは余裕で解けるのだが・・・

 

 

「では、茜様。この問題を解いてください」

 

「は、はい!え、えっと・・・」

 

「・・・3x」

 

「さ、3xです!」

 

「正解です。では、次の問題・・・」

 

 

ホッとしながら席に着く茜に溜息しか出ない。

 

 

「ありがとうせっちゃん」

 

「今夜から勉強決定ね」

 

「うぅ・・・分かりました」

 

 

僕達のやり取りを見て、リヴェータが笑っていた。

 

 

「やっぱりこの学校に来て良かったわ。前の学校は本当こういうの無かったから」

 

「確か近くのお嬢様学校だったっけ?」

 

「はい、その通りです茜様」

 

「あ、そんな畏まらなくて良いから茜って呼んで?私もリヴェちゃんって呼ぶから」

 

「分かったわ、茜。これからよろしく」

 

「うん、此方こそ」

 

 

二人は楽しそうに話し始める。それから授業は続き、昼休みになった。僕はリヴェータと茜、偶々居た修兄の三人で屋上に行き、昼食を摂りながら質問を始めた。

 

 

「改めて聞くけど、どうしてこの学校に?」

 

「前の学校は偏見持った女子しか居なかったし、レズだったから嫌になったのよ。襲われたこともあったし」

 

「ほえ~、そう言う人達っているんだね。あ、せっちゃんの卵焼き大きい」

 

「だから父さんに言ったんだね。でも説明は欲しかったよ。ほら、持ってきなさい」

 

「えっと・・・イレさん?は、ノーマルなんだよな?」

 

「ええ、私は普通に刹那の事が好きよ?」

 

「「ファッ!?」」

 

 

二人はリヴェータと僕を交互に見て唖然とする。僕はその光景を見ながら食後の茶を啜る。

 

 

「いやいや、何で平然としてるんだお前は!?」

 

「いや、だって知ってるし」

 

「あ、私刹那に振られてるのよ」

 

「いや、だとしてももう少し取り乱すでしょ?」

 

「私は一回程度じゃ諦めないわ。何度でもアタックするだけよ」

 

 

そう言うリヴェータの目はマジだった。修兄と茜は何か尊敬してる目で見ている。その後僕達は午後の授業を受け、リヴェータと別れて家に帰った。帰ると其処には父さんが帰ってきていた。

 

 

「お帰り、三人共」

 

「ただいま父さん。早かったね」

 

「ああ、今日は早く終わったんだ。刹那達のお陰で厄介事が減ったんだよ」

 

「そっか。それは良かった」

 

 

暫くリビングでゆったりとする。僕達は四人でゲームの通信プレイをしていた。

 

 

「父さん、敵と壁の間に打ってよ?」

 

「分かってるよ。それっ」

 

「お父さんのモンスター凄い!」

 

「流石神化アーサーだな・・・」

 

 

ゲームをしていると、他の皆が帰って来た。かな姉は相変わらず僕に対して不機嫌なままだ。かな姉が僕を大事に思っている事は良く分かってる。でも、あの時みたいに何も守れないのは嫌だから・・・。全員揃うと、父さんが口を開いた。

 

 

「全員、休日に予定はあるかい?」

 

「どうしたのさ急に」

 

「お前達にはテレビに出てもらう」

 

「ええええええええ!?」

 

「茜、うるさい」

 

 

茜のリアクションは予想通りだった。ああ、大体何やるのか分かってしまう自分が嫌だ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~休日[テレビ局前]~

 

 

沢山のギャラリーに囲まれながら僕達はテレビ局のディスプレイを見上げていた。其処には、キャスターの男性と父さんが映っている。キャスターが意気揚々と喋りだした。

 

 

『テレビの前の皆さんこんにちは。なんと、今週の櫻田ファミリーニュースには、櫻田家御兄弟全員に来ていただいております!』

 

 

う~ん、やっぱりこうなるか。茜が僕の上着の中に隠れて出てこないんだけど、どうすれば良いんだろうか。待っていると、キャスターが話を続ける。

 

 

『国民の皆様もご存知の通り、王族の皆様には特殊能力があります。本日はとあるゲームに参加してもらい、能力を発揮してもらいたいと思います!』

 

 

面倒臭・・・。また能力手加減しないといけないのか・・・。能力使うのは好きじゃないんだけど、使うにしても中途半端な出し方すると楽じゃないんだよね。

 

 

『とあるゲームとは、[危機一髪!ダンディ君を救え!]』

 

 

映像が切り替わり、テレビ局の屋上に設置されたライオンのヌイグルミが大量に置かれているのが映し出された。

 

 

『御兄弟の皆様には、このダンディ君を兎に角沢山集めてもらいます』

 

『因みに、最下位だった者は城のトイレ掃除だ』

 

 

その言葉に、注目されなくて済むと思ったのか茜がやる気を出す。でも、考えてごらんよ。城にトイレって幾つあると思う?そう思っていると、競技が始まり、輝が前に出る。

 

 

「僕はこのビルを登ります!」

 

 

そう言うと、輝の周りを薄く光が包み、輝は驚異的なパワーで壁をよじ登り始める。すると、キャスターの説明が入った。

 

 

『四男、輝様の能力は怪力超人(リミットオーバー)》。超人的なパワーを使う事ができます!』

 

 

輝はどんどんよじ登っていく。そろそろ限界かな?そう思っていると、輝は落ちそうになった。まだまだ修行が足りないね。危なっかしい手つきで何とか屋上までたどり着いた様だ。

 

 

「よーしっ、私だって!」

 

『五女、光様の能力は《生命操作(ゴッドハンド)》。あらゆる生物の成長を操作できます。ただし、効果は24時間です!』

 

「じゃあ、始めようかな!」

 

 

そう言って光は近くの木に触れて能力を発動し、屋上まで伸ばす。

 

 

「あ、あれあれ!?伸びすぎたーーーー!」

 

 

屋上より高く木が育ち、光は降りられなくなった。次はかな姉が前に出る。

 

 

「私はこれで!」

 

『次女、奏様の能力は《物質生成(ヘブンズゲート)》。あらゆる物質を生成できます!』

 

 

まあ、その分口座から引き落とされるけどね。仮に未来の物を作ったら、かな姉は破産する事間違いなしだ。かな姉はドローンを数台生成し、それを屋上へと向かって飛ばした。暫くすると、輝とかな姉にポイントが入る。すると、今度は岬が前に出る。

 

 

「私も・・・頑張らないと!」

 

『四女、岬様の能力は《感情分裂(オールフォアワン)》。7人までの分身を作り出すことができます!』

 

 

その7人はそれぞれ7つの大罪をモデルにされている様で、様々な性格の子が出てくる。岬が能力を発動させると、7人の岬が出て来た。

 

 

「頼んだよ皆!」

 

「お兄ちゃん、私と一緒に行こ?」

 

「ずるいぞ!刹那兄とは私が行くんだ!」

 

「兄様は私と~」

 

「一緒に登ろ?刹那兄様」

 

「焦らないでゆっくり行こうよ~」

 

「お腹すいた。ご飯食べたい」

 

「もう諦めようよ」

 

「ちくわ大明神」

 

「「「「「「「お前誰だよ」」」」」」」

 

「何やってるの!?皆行くの!」

 

 

分身達はブーたれながらビルの中へと入る。チラリと別の方へ視線を向けると、栞が消火栓と話をしていた。その会話を見て、葵姉が聞く。

 

 

「栞?どうしたの?」

 

「あのね、消化器さんが近道教えてくれたけど、分からなくて」

 

「そう、それで何て言ったのかしら?」

 

「B2、荷物用エレベーター、27回で乗り換えって・・・」

 

「あのルートね。来た事あるから覚えているわ」

 

『六女、栞様の能力は《物体会話(ソウルメイト)》。生物から無機物までの会話が可能です!続けて長女、葵様の能力は《完全学習(インビジブルワーク)》。一度覚えた事は絶対忘れません!』

 

 

まあ、葵姉の本当の能力は違うんだけどね。僕と同じで強力すぎて隠してるパターンだ。本人は気づいてないみたいだけど、僕は知っている。僕の能力の中で、相手の異能を見抜く能力があり、偶々それで知った。別に口外する気は無いし、その事で苦しんでいるのなら力になるつもりだ。葵姉は栞に付いてビルの中へと入って行った。現在、残っているのは僕、修兄、茜の三人である。

 

 

「じゃあ、俺も行くか!」

 

『長男、修様の能力は《瞬間移動(トランスポーター)》。地球上の何処へでも一瞬で移動できます。触れた物や人を移動させる事も可能です!』

 

 

正直修兄が一番便利だよね。修兄は一瞬で屋上まで行ってしまった。次には遥が動き出し、遥の周りを数字が埋め尽くす。

 

 

『三男、遥様の能力は《確率予知(ロッツオブネクスト)》。ある程度の未来を確率で予知します!』

 

 

あ、この子絶対茜と組んでビリ脱却する気だ。茜は僕の上着の中でワタワタしている。僕は溜息を吐いて、茜を上着から出す。

 

 

「せ、せせせせせっちゃん!?どうしよう!」

 

「分かったから。ほら、これ腰に巻いて。全国に下着晒す気?」

 

「あ、危なかったー!?」

 

「・・・ほら、行くよ」

 

 

僕は上着を腰に任せた茜と、能力を発動する。

 

 

『次男、刹那様の能力は《風使い(シルフィード)》。風を使いこなし、飛んだり、高速移動が可能になります!三女、茜様の能力は《重力制御(グラビティコア)》。重力を操作する事が可能です!』

 

 

僕は足に風を纏わせて、茜は自分の重力を操作して一瞬で屋上まで上昇する。屋上に着くと、茜のカゴにダンディ君を幾つか入れておく。

 

 

「はい、これでビリは免れたよ」

 

「ありがとうせっちゃん!」

 

「じゃあ、後は頑張ってね。僕はあの子を何とかしてくるから」

 

 

幾つかダンディ君を確保してから、僕は木の上から降りれない光るの元へと向かった。

 

 

「ほら、掴まって。屋上まで連れてくから」

 

「うう・・・せっちゃん~!」

 

「よしよし、もう大丈夫だから」

 

 

光は震えていた。それもそうだろう。何10mの高さに放置だからね。僕は光を抱きしめて撫でる。すると光の震えは段々と収まっていった。

 

 

「せっちゃん良い匂い・・・それに安心する・・・」

 

「そっか。臭いとかキモいとか嫌われなくて良かったよ」

 

「そんな事しないよ。寧ろ・・・」

 

「ん?」

 

「な、何でもないよ!」

 

 

光の言葉に疑問を持ちながら、僕は屋上へ戻り、光を降ろす。暫くすると、汗だくになった遥が屋上に来た。だが、残りのダンディ君を見て自分の最下位に絶望する。僕はやれやれと思いながら自分のカゴの中に入れていたダンディ君を渡す。

 

 

「はい、これでギリギリセーフだよ」

 

「良いの?兄さん負けちゃうんだよ?」

 

「僕は別に掃除は嫌いじゃないし、王になるつもりはないからね」

 

 

僕の言葉に一瞬悲しそうな顔をしてから、遥はありがとうと言って残りのダンディ君の回収を始める。そして時間終了の合図が鳴った。今日の結果は、

 

 

1位:修

 

最下位:僕

 

 

となった。皆僕の順位に不満そうだったが、別に気にしてないと言ってその場を治めた。僕は結果を確認した後、茜に言う。

 

 

「茜、能力使う時を見越して、スカートやめるかスパッツとか履いたら?」

 

「うう・・・反省してます」

 

「素直で宜しい」

 

 

こうして、櫻田家の対決は幕を閉じた。トイレ掃除には茜、光、遥が手伝いに来てくれた。別に気にしなくても良いのに・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

奏サイド

 

 

ゲームをした日の夜、私はお風呂に入りながら考えていた。刹那が戦いに身を投じた理由を。

本当は分かっている。原因は私にあるのだ。

小さい頃の事、私はやんちゃな子で、当初常に無表情だった刹那を連れて遊びに行っていた。思えば昔から刹那にベッタリだった。あの頃から私は刹那に特別な感情を持っていたと思う。無表情な子でも、行動の一つ一つに私達の事を気遣ってくれているのがわかったからだ。それは家族共通で分かっていた。

そんなある日の事、私は些細な事で家族と喧嘩になり、外へと走り出してしまった。止まった時には何処かも分からない場所にいて、陽も暗くなっていた。そして、私は不審者に誘拐されてしまった。不審者の隠れ家で、縛られた私は恐怖で震えていた。そして不審者の手が私に触れようとした瞬間、

 

 

----かな姉に・・・触るな!

 

 

あの常に無表情で、真面に喋らなかった刹那が感情をむき出しにして小さい体で不審者を蹴り飛ばした。そして刹那は私の体の拘束を解くと、私を抱きしめて泣き出してしまった。

 

 

----ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

 

----・・・何でせっちゃんが泣くのよ

 

----だって・・・僕には力があるのに守れなかった。僕が弱いから・・・

 

 

この時から刹那は少し歪んでしまった。家族や友達の為に怪我をするまで無茶をする様になり、小学生になってから守備組織までも作り上げて行った。

だから私は許せない。自ら死に突っ込んでいく刹那が、彼を大きく変えてしまった自分が・・・許せない。

 

 

「ごめんね・・・せっちゃん・・・」

 

 

私の声は浴室に虚しく響くだけだった・・・。

 

 

奏サイド終了



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第4話

刹那サイド

 

 

~某国[王宮内]~

 

 

僕は今、父さんからの依頼でとある国の王宮に潜入していた。何でもこの国には巫女の姉妹が、監禁されているらしい。そしてその姉妹はA国の人だそうだ。最初は部隊を派遣しようとしたのだが、タイミング悪く他の舞台が出払っていて、僕が出向く事になった。僕は潜入用のコートと手袋、仮面をして王宮内を走る。(イメージはDTBの黒)

 

 

「・・・この下か」

 

 

能力創世で創り出した能力者を探す能力《捜索(ナビゲーション)》で広げた地図にストトッと能力によって作られたピンが現在の位置の下、隠された地下を示した。僕は更に壁や床をすり抜ける能力《潜行者(ディープダイバー)》を発動し、地下へと潜入する。

壁からコッソリ顔を出すと、見張りが二人居て、その後ろに牢屋があった。あの中に例の姉妹が居るのだろう。僕は壁から出て物陰に隠れる。そして自分から100m以内の相手の意識に乗り移る能力《憑依(ポゼッション)》で見張りの一人を乗っ取り、もう一人を殴って気絶させてから自分を思いっきり殴らせると同時に意識を戻す。自分の体に戻って見張り二人を縄で縛って口をテープで塞ぐ。

牢屋は固く閉ざされていたが、能力《解除(トラップマスター)》で扉の鍵を開ける。これを使えば鍵は勿論の事、ありとあらゆるトラップを解除する事が出来る。扉を開けると、踊り子の様な服を来た二人の痣だらけの少女が部屋の隅で震えていた。

 

 

「A国の《サーシャ》さんと《シンシア》さんですね?」

 

「貴方は・・・?」

 

「失礼・・・自分は」

 

 

僕は仮面を外して素顔を晒す。

 

 

「櫻田 刹那と言います。A国の依頼により、貴方方の救出に参りました」

 

「刹那って・・・あの白き麗人の!?」

 

「え、何その二つ名?」

 

 

そんな名前付けられてたの?メッチャ恥ずかしんだけど。取り敢えず言いたいことは沢山あったが飲み込み、二人に近づく。

 

 

「二人共、此処から脱出します。僕に掴まってください」

 

「はい。こうですか?」

 

 

二人が僕に触れた瞬間、創った修兄の能力を使って僕の国の王宮へと転移した。目の前にはA国から来た二人の両親が涙を流して此方へと掛けてきた。

 

 

「ああ、サーシャ!シンシア!」

 

「無事でよかった・・・!」

 

「お父様・・・お母様・・・」

 

 

四人は抱き合うが、妹のシンシアさんの様子がおかしい事に気付いた僕はサーシャさんに聞いた。

 

 

「あの、シンシアさんの声は・・・」

 

「・・・はい。あの国の兵に・・・」

 

 

二人は特別な力を持って生まれ、巫女として育ち、その力を役立てる為に世界を回っていたらしい。だが、あの国で目を付けられ、逃げられない様に監禁された。そして二人はある日、力を使う事をその国の王に拒んだら、兵にリンチされ、シンシアさんは喉をやられてしまった、という事だ。

 

 

「なら、僕が治します。二人共、此方に」

 

「ほ、本当に治せるのですか・・・?」

 

「はい。必ず二人を全快させますよ」

 

 

二人の両親が不安そうに見守る中、僕は能力を発動する。僕の頭上に光の輪が現れ、其処から黒いドレスに身を包んだ女性が出て来た。その女性が二人へ向けて手を翳すと、光がベールの様に現れ、二人を包み込む。すると二人の傷がみるみる内に消えて行き、痣が完全に消え去った。この能力は葵姉発案の昔読んだ本を見て創ったあらゆる怪我や病気を治療する能力《治癒天女(へヴンズアリス)》だ。

 

 

「・・・あ・・・姉・・・様・・・」

 

「シンシアの声が・・・!」

 

 

家族達は再び涙を流し始める。能力を解除し、良かった・・・と気を抜いた瞬間、喉の奥から熱いモノが込み上げてきた。

 

 

「うっ・・・ゲホッ・・・!」

 

「刹那!しっかりしろ!」

 

 

よろける僕を父さんが支える。実は治癒天女は一度使う毎に僕の体に大きな負担が掛かる。僕の創る能力は効果がチートになると、その分代償を必要とする。この能力は下手をすれば蘇生一歩手前だ。僕の体なら数日で治るが、常人ならこの代償で死んでいる。

 

 

「いやあ・・・久々にコレ使ったよ」

 

「待ってろ、今医者を呼ぶ。誰か!」

 

 

父さんが部下に指示を出す。僕は苦しさに耐えられず意識を落とした。最後に見えたのは、涙を流しながらこっちに駆けてくる巫女姉妹だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・けほっ・・・」

 

 

ダルさが残る体を無理矢理起こす。どうやら病院の様だ。しかも時刻は夜中の2時。それにしても・・・

 

 

----きゅ~

 

 

「お腹空いた・・・」

 

 

流石に能力の連発はキツイな・・・。目もパッチリしちゃったし、でもこの時間は何も・・・と思っていると、外からラッパの音が聞こえて来た。今の僕にとっては勝利のファンファーレだ。風使いで窓から飛び出して、その場所へと飛行する。着地してから僕は叫んだ。

 

 

「ラーメン大盛り!あと餃子!」

 

 

ラッパの正体、ラーメン屋の屋台で僕は必死にラーメンを啜る。どうやら僕は三日ほど寝ていた様だ。前は一週間だったから新記録だ。相変わらずの丈夫な体に何も言えない。

 

 

「あの・・・刹那様、その服装は・・・」

 

 

ラーメン屋の店主さんが、僕の患者服を見ながら聞いてきた。そしてその瞬間、僕の思考は止まった。今の僕、財布持ってないやんけ・・・。

 

 

「あ、あの!」

 

「は、はい!もしかして美味しくなかったですか!?」

 

「そ、そうじゃなくて!美味しかったです、替え玉で!あの、ちょっと良いですか?すぐ戻りますので!」

 

「わ、分かりました・・・」

 

 

そう言って店主さんが替え玉を茹で始めた所で席から立って辺りを見回す。確か此処は会社の近くだった筈。社員寮にいる子で起きてる子は・・・!あの人しかいない!僕は能力《念話(テレパシー)》を使ってある人に連絡を取った・・・。

 

 

 

 

 

~数分後~

 

 

「全く、入院してる人間の声が行き成り頭に響いたから驚いたわよ」

 

「あはは・・・ごめんなさい」

 

「それにしても要件がお金貸してって馬鹿なのかしらねこの坊やは」

 

「・・・すみません《カティア》さん」

 

 

屋台が行った後、僕は謝りながらベンチに座る目の前の女性、カティアさんこと《カタリナ・T・アディソン》を見る。彼女には申し訳無いが、徹夜で起きてるとしたらこの人しかいなかった。

 

 

「本当に困った坊やね。こりゃリヴェータだけじゃなく会社中の子達が苦労するわ」

 

「そこまで言わなくても・・・」

 

「小学生で、片腕取れた状態で戦争止めたのは誰だったかしらね」

 

「うっ・・・反省してます」

 

「・・・もういいわ。さ、今日は部屋に戻りなさい」

 

「はい。本当に・・・すみませんでした」

 

 

食欲に囚われていた所為で、冷静な判断が出来なかった。やっちまった・・・。そう思いながら俯いていると、頭にポンと手を置かれる。

 

 

「ほら、そんな顔しないの。ね?」

 

「カティアさん・・・!」

 

「今度開発した薬飲んでくれれば良いから!」

 

「台無しだ!?」

 

「おっほおおおおおお!」

 

 

軽くキチが入った叫び声を上げるカティアさんは研究室の室長であり、会社の中でも相当な変人である。偶にシリアス入るけど基本は研究と実験にしか興味が無い。社長である僕すら実験台にされるのだ、かなりヤバい。でも根は真面目な人だという事が皆分かっている所為か強く言えないのだ。

 

 

「え、えっと・・・お手柔らかに・・・」

 

「そんなに気にしないで良いわよ。ルドヴィカに頼まれた栄養剤だから」

 

「ああ、もうやってるんだ・・・」

 

「ええ、原稿を夏までに徹夜で仕上げるそうよ」

 

 

我社の第二部隊隊長は他の人達とサークルを作ってコミケに同人誌を出すと言う趣味を持っている。戦場にまで原稿を持って行く始末だ。何度か手伝った事があるのだが・・・何が悲しくて兄との絡みを描いたBL本のトーン作業をせにゃならなかったのだろうか・・・。あの時の鼻血を流しながら読んでいたリヴェータに狂気を感じた。

 

 

「栄養剤なら良いかな・・・?」

 

「それじゃあ、また今度ね。おやすみ坊や、あんまり家族に心配掛けない様にね」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 

カティアさんと別れた僕は部屋に戻り、就寝した。翌日に家族達が総出で見舞いに来た時は流石に驚いた。皆学校サボってまで来る事無いのに・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第5話

刹那サイド

 

 

僕が病院で目を覚ましてから数日、僕は帰路に着いていた。学校での用事で少し遅くなり、暗くなって来た道を歩く。

 

 

「本当に私がお邪魔しても良いのかしら?」

 

「うん、前から母さんが呼んでくれって言ってたから」

 

 

僕の隣で歩いているリヴェータが不安そうに言って来た。何だかんだで一番付き合いが長い子だから僕も常日頃礼はしたいと思っていた所だ。今日は丁度休日だし、母さんの提案でリヴェータは泊まる事になっていた。

 

 

「まあ、ゆっくりして行ってよ」

 

 

僕達は家の前に着き、ドアを開ける。すると、家族全員が玄関で立っていて、修兄と父さんが《ようこそ櫻田家へ!》と書かれたプラカードを持ってリヴェータに歓迎の言葉を送った。リヴェータは照れくさそうにしながらお辞儀をして、案内されるがままに家へと上がる。僕もそれに続いて家へと入った。

 

 

「あらあら、せっちゃんも罪作りな子ねぇ・・・」

 

「止めてよ母さん。恥ずかしい・・・」

 

「ねえ、リヴェータちゃん。良かったら刹那の成長記録あるけど、見る?」

 

「是非!」

 

「止めろお!」

 

 

皆で食事をしてから、リヴェータのある一言からこの悪夢は始まった。

 

 

『お母様、刹那を私にください!』

 

 

いきなりリヴェータの土下座から母さんへの懇願に、櫻田家の空気が凍った。母さんはそれを気に入った様で、リヴェータに僕の過去を色々教えている。そんな中僕はニコニコしているのに目が笑っていない葵姉とマジ不機嫌2000%のかな姉に睨まれ、茜には頬をつつかれ、岬には無言で抱きしめられ、光は能力で大人になって僕の目の前でひたすらセクシーポーズを取り、栞は僕の膝に乗って正面から引っ付いて離れない。それを見て、他の男の面々はご愁傷様と言った顔で見られている。

 

 

「あの、誰かヘルプ」

 

「「「「無理」」」」

 

「デスヨネ~」

 

 

何だこの状況は・・・。そう思っていると、父さんは母さんに言った。

 

 

「そう云えば母さん、今日編集者の人から電話が・・・」

 

「ひいっ!?」

 

 

母さんは怯えた顔で震える。母さんは売れっ子の漫画家をしているらしい。僕は漫画には結構鈍く、母さんの作品は読んだ事が無い。どうやら締切が近いのに作業が進んでいない様だ。そう思っていると、父さんが言う。

 

 

「これ以上担当さんには迷惑を掛けられないからね。作業場でやると他の漫画を読んで進まないから今日は此処で作業してもらうよ」

 

「いやぁ~!?」

 

 

母さんは泣き喚くが、諦めて作業道具を持って来た。原稿用紙は真っ白で、何も書かれていない。何もして無いじゃないですか・・・。時刻は夜九時。輝と栞、光を寝かせてから母さんの作業が始まった。

 

 

「そう云えば母さんってどんな漫画書いてるの?」

 

「コレよ。私もファンなの」

 

 

そう言ってリヴェータに渡された携帯端末に映し出された漫画の表紙を見る。

 

 

「・・・《籠の中の白い小鳥》・・・?」

 

 

其処に描かれていたのは、父さんと修兄、遥と輝の四人にそっくりの人物とその間に鎖で繋がれた白髪の少女だった。リヴェータが言うには男らしい。コレってまさか・・・。

 

 

「あの・・・この漫画ってもしや」

 

「ええ、櫻田家をモデルにした近親BL漫画よ」

 

「ふざけんな!」

 

 

僕は端末を床に叩き付ける。見ろ!家の男性陣レ○プ目になってるじゃないか!

 

 

「なんだコレは!肖像権の侵害だ!」

 

「まあ黙ってコレを読みなさい」

 

「何で持ってるの?」

 

「淑女の嗜みよ」

 

 

そう言ってリヴェータが取り出したのは母さんの漫画の一巻だった。嫌な予感がしながらもパラパラとページを捲る。内容は、とある大家族の男達が次男を調教し、快楽から抜け出せなくして行くと言う内容で・・・

 

 

総二郎『ほら、此処はどうだ』

 

龍『こっちが良いんだよな?』

 

春太『兄さんの感じる確率が高いのは・・・此処だね』

 

照彦『兄上、可愛いです・・・』

 

刹那『・・・んっ、止めて・・・』

 

 

何てピンクな話で・・・・って!?

 

 

「おいいいいい!名前一人だけ隠して無いんですけど!?一番隠さないとイケナイ奴フルオープンしちゃってるんですけど!?」

 

「大丈夫、苗字は櫻葉だからバレないわ」

 

「いやバレるだろコレ!?一字違いなだけじゃん!」

 

「そもそも俺達そっくりすぎだろ!?」

 

「感じる確率って何!?僕の能力を変な事に使わないでよ!」

 

「父さんこんなの書いてるって知らなかったな・・・」

 

 

僕達の嘆きを他所に、女性陣はコミックスをまじまじと読んでいた。

 

 

「え、何で皆普通に読んでるの!?」

 

「そんなの、全員読んでるからに決まってるでしょ」

 

「「「「ファッ!?」」」」

 

 

リヴェータの言葉に僕達は悲鳴を上げる。嘘だろ・・・。僕はフラフラと皆に近づき、目の前にいた茜に言った。

 

 

「違うよね。茜は純粋な子だよね、僕の可愛い妹だもんね」

 

「えっ・・・えっと・・・私は4巻が好きですっ!」

 

 

そう言い残して茜は部屋へと駆け込んでいった・・・。僕は立ち尽くしながらリヴェータに問うた。

 

 

「リヴェータ、4巻の内容は・・・?」

 

「・・・初めて、刹那が自ら快楽を求める巻ね」

 

「修兄、この母親を今すぐ宇宙空間に放り出そう」

 

「落ち着け刹那!そんな事したってどうにもならない!」

 

「だってこのままじゃ僕達の痴態が!」

 

「もうどうにもならないんだよ!」

 

 

修兄は涙を流していた。修兄だけじゃない、父さんや遥までもが涙していた。皆一緒なんだ。気づかなかった、気付けなかった・・・そんな後悔の念が僕達の中にあった。

 

 

「今此処でお袋を葬ったって既に40巻出てる俺達の痴態は消えないんだ・・・」

 

「40・・・巻・・・畜生・・・畜生・・・!」

 

「既にアニメ化と実写映画化も決まったそうだよ、兄さん達・・・」

 

「そんな・・・嘘だ・・・」

 

「A国もその噂で持ちきりってネットに・・・」

 

「ああ・・・うあああああああああ!」

 

僕達はその場に蹲る。誰か・・・この悪夢を終わらせてくれ・・・頼む・・・!

 

 

「リヴェータちゃん、2巻貸して」

 

「ええ、良いわよ。じゃあ、私は5巻を」

 

「「「「お前らに心は無いのか!?」」」」

 

 

この夜、僕達は泣いた。四人で寄り添い合い、歳など関係なく、只々泣いた。母に写真を取られたり、スケッチされたりしたが、涙は止まらなかった。そして最後に女性陣から飛び出した、

 

 

「ホ○が嫌いな女の子なんていません!」

 

 

この一言で、僕達の中で何かが割れる音がして、意識が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・大きな星が点いたり消えたりしてる。アハハ、大きい・・・彗星かな?いや、違う、違うな。彗星はもっとパーって動くもんな・・・」

 

「刹那・・・落ち着け」

 

「落ち着けるわけ無いでしょ!?修兄達は良いさ、僕は総受け何だよ!?精神崩壊したくもなるわ!」

 

「分かったから風使いで鎌鼬を創るな!?」

 

「で・・・出来たわ!原稿の完成よ!」

 

 

母さんの言葉に男性陣はキュピーンとなった。

 

 

「修兄、アレを何処かに跳ばして!」

 

「おう、任せろ!過ちは、繰り返させない!」

 

「修ちゃん、お小遣い上げるからコレ担当者にお願いね」

 

「はいよ」

 

「「「おいいいいいいいい!?」」」

 

 

このクソ兄金の為に裏切りやがった!?

 

 

「何やってんの!?」

 

「台無しじゃないか!」

 

「いやすまん、中々無い機会だったから」

 

「コイツ切り刻んでやろうか・・・」

 

「ま、待て刹那!俺が悪かったからその手からヒュンヒュン言ってる風を抑えてくれ!」

 

「・・・チッ・・・父さん、命令を」

 

 

僕は父さんを見る。父さんは何時もとは違う、正に王者とも呼べる風格を持って言った。

 

 

「SMART BRAINに告ぐ。今すぐに編集者へ突入し、原稿を回収して処理せよ!これは王の命令だ!」

 

「イエスマイロード!」

 

 

僕は直ぐに連絡を入れる。僕のプライバシーを考えない行為、皆なら分かってくれる筈だ!

 

 

「・・・という訳だ。皆おnえっ、ファンだから却下?女性社員全員?じゃあ男は?逆らった奴は私刑?・・・うん」

 

 

一方的に切られ、僕は泣きながら父さんに言った。

 

 

「既に我社が乗っ取られてた・・・」

 

「「「ドンマイ・・・」」」

 

 

チクショォォォォォォォォ!

 

 

刹那サイド終了

 

 

 

 

 

 




【悲報】:櫻田家女性陣(栞、光以外)腐女子説┌(┌^o^)┐


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第6話

刹那サイド

 

 

リヴェータが家に来た翌日、僕とリヴェータは輝と栞を連れて近くの公園へと遊びに来ていた。輝と栞を間に挟んで手を繋いで歩く。

 

 

「兄上!着いたらキャッチボールがしたいです!」

 

「栞はリヴェ姉様とお話したい」

 

「良いよ。リヴェータ、栞とお話してあげて」

 

「勿論よ。それじゃあ、色々お話しましょ?」

 

「うん・・・」

 

 

到着した僕達はそれぞれ遊ぶ。リヴェータ達はベンチで話を始め、僕と輝はグローブを嵌めてキャッチボールを始めた。ボールを投げ合いながら輝は僕に聞いてくる。

 

 

「兄上・・・」

 

「ん?」

 

「兄上は怖くないのですか・・・?沢山の人達と戦うのは・・・」

 

 

僕の会社での仕事の事を言っているのだろう。僕はなるべく優しい声音で答えた。

 

 

「それは怖いよ。怪我だってするしね。でもさ・・・」

 

「でも、何ですか?」

 

「それを理由に逃げて、目の前で手を伸ばす人達を守れない方がもっと怖い」

 

 

僕の言葉を聞いて、ボールを受け取った輝の動きが止まる。

 

 

「何故兄上はそんなにもお強いのですか・・・?」

 

「強くなんかないよ。ただ、自分に出来る事をしてるだけさ」

 

「自分に・・・出来る事・・・」

 

「輝にはまだ難しいよ。ゆっくり考えて、答えを見つけていけば良いさ」

 

 

僕の言葉に輝は頭を捻る。そりゃ輝位の子には難しい話題だって・・・。その後は、何てことない世間話をしながらキャッチボールを続けた。暫くしてリヴェータ達に呼ばれ、昼食の時間だった事に気付く。僕達は再び手を繋ぎながら家へと戻った。

 

 

「はい、お昼ご飯はオムライスよ」

 

 

葵姉が作ってくれた昼食を皆で食べる。流石葵姉・・・卵が良い感じにトロトロになって美味しい。満腹になった所で皆でテレビを見ていると、櫻田家のニュースが始まった。

 

 

『本日の櫻田ファミリーニュースは次男である刹那様の特集をお送りします』

 

 

ソファから転げ落ちた。

 

 

『皆さんもご存知の通り、刹那様は櫻田家の次男で美しい白髪が特徴です』

 

 

気が付けば全員がテレビに目線を向けていた。そんなに見たいかなコレ?考えている間にも番組は進行する。

 

 

『刹那様は人当たりがよく、御兄弟とご一緒におられる所を多く見られます』

 

「わ~!何で~!?」

 

 

続いて画面に映し出されたのは僕に引っ付きながら買い物をしている茜の姿だった。茜はその映像を見てパニックになる。

 

 

『刹那様は交友関係も広く、沢山のご友人をお持ちの様です』

 

 

そう言って僕が自校や他校の子達と話したりしているシーンが映し出される。だが、部屋の温度が一気に下がった。

 

 

「ねえ、せっちゃん。何でさっきから女の子と話してる所ばっかりなのかな?」

 

「いや、男子の友達が中々出来なくて・・・」

 

「へえ、作ろうとしないんじゃなくて?」

 

「昔から作ろうとしてた所に割り込んで連れてってたのは何処の誰等かな?」

 

 

僕の言葉に葵姉達が押し黙る。そう、僕に男友達が少ないのはこの姉妹達が原因の部分もある。昔からそうだった。事あるごとに僕を連れて行く所為で真面に男子達と遊べず、女子に混ざってお飯事やアイドルごっこをやらされた。

 

 

「ああ・・・幼少期のトラウマが・・・」

 

「せ、刹那落ち着け!まだ傷は浅いぞ!」

 

 

修兄が声を掛けてくれるが、僕のライフはとっくにゼロなんだよ・・・。無情にも番組は流れる。今度は体育の授業を受けている映像だ。あれ?学校ってカメラ入ってないよね?そう思っていると、画面の端に校長提供と書いてあった。なるほど・・・。

 

 

『刹那様はスポーツは得意な様で、数々の有名チームからスカウトが殺到しています』

 

「そうだったの!?せっちゃん凄い!」

 

「まあ、断ってるけどね」

 

 

あまりプロとかには関わりたくない。転生者の体の僕は肉体が最初からかなり強化された状態だ。そんなの常にドーピングしているのと変わりない。その体でプロになったりした所で嬉しくも何とも無いし、相手に失礼だ。だから僕はなるべくスポーツには関わりたくなかったんだけど・・・。

 

 

『此方は数年前にプロ野球の始球式で、刹那様に投球してもらった時の映像です』

 

 

数年前、一度だけあったなこんなの。これをきっかけにスカウトが増えたんだっけ。アイドルがよくやってる始球式の投球をやらされた映像が映る。ユニフォーム姿の僕は見様見真似の投球ポーズでボールを投げる。そのボールはスピードを出しながらキャッチャーのミットに綺麗に收まった。此処までなら良かった。そう、スピードが180kmを超えなければ・・・。

 

 

「早っ!?今187kmって書いてあったんだけど!?」

 

「刹那、貴方能力とか使ってないでしょうね」

 

「・・・純粋な身体能力です」

 

 

僕の言葉に皆が若干引いた。お願い、そんな目で見ないで!脳筋だって事は自覚してるから!これでも抑えた方だから!数あるトラウマを抉りながらも僕のコーナーは続く。

 

 

『刹那様は勉学にも強く、特別事例で特殊な免許なども取得しています』

 

「そう云えばお前医師免許持ってなかったか?」

 

「あとは運転免許とかも持ってる。僕の会社は色々必要なんだよ」

 

 

言ってみるものだね。父さんに相談したら色々手配してくれた。まあ、詰め込みで勉強したのは結構キツかったけど・・・。

 

 

「取ってるのは知ってたけど、車とかバイクは何処にあるの?」

 

「皆会社の専用ガレージにあるよ。基本は自転車か徒歩だからね。使うのは任務中とかだし」

 

 

車やバイクは能力で創れるし、改造も可能だ。会社の子達とアイディアを出し合って専用バイクや車を制作した。この後も、僕の着替え映像などが出てきて、女性陣が鼻血を出して倒れた事によって番組を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜[自室・ベランダ]~

 

 

「・・・ふう」

 

「お疲れね」

 

「君達の所為でもあるけどね・・・」

 

 

ベランダで座りながらリヴェータとジュースを飲みながら色々話していた。

 

 

「どうだった、櫻田家は?」

 

「とても良い所だったわ。皆優しくて、とても暖かい気持ちになれる」

 

「それは何よりだよ」

 

「・・・ねえ、刹那」

 

 

僕の名を呼ぶと、リヴェータは唇を近付けて来た。僕はそれを指で制す。

 

 

「ダメ」

 

「やっぱりそう言うのね」

 

「だって僕は君を振ったんだ。君も諦めて新しい恋を探しなさいな」

 

「刹那以上の男は私の中には居ないわ」

 

 

そう言うリヴェータの目はギラついていた。戦場で獲物を捉えた時と同じ目をしていた。

 

 

「どうして貴方は誰かを好きになろうとしないの?」

 

「・・・分からないんだよ。好きになるって感情が」

 

 

前世が前世だった為に僕は恋愛感情と言う物が、そもそも人を信用する事が苦手だ。学校や会社で普通に接するのは何も問題ないのだが、恋愛関係になるとつい警戒してしまう。昔に本で読んだ事があった。何処かの国の王様が、金目的で近づいた恋人に殺されると言う話。父さんにも女には少し警戒しろと言われている。

 

 

「好きってどうなれば分かるのさ?」

 

「そうね・・・その人の事を思うと、心臓がドキドキしたり、他の異性と仲良くしてるとイライラしたりするわね。そして、その人を独り占めしたくなる」

 

「独り占め・・・」

 

 

想像してみる。しらみつぶしに、ルドヴィカ・・・特になし。アネモネ・・・特になし・・・。その他の知り合いの女子・・・無い無い。じゃあ、リヴェータ・・・リヴェータ・・・あれ?

 

 

「・・・あるえ・・・?」

 

「刹那?顔赤いけど大丈夫?」

 

「ふへっ?だ、大丈夫!全っ然大丈夫!あ、眠くなったからもう寝るね!」

 

 

僕はダッシュで布団に潜り込んでから考える。嘘でしょ・・・嘘でしょ!?な無い、無い無い無い!絶対無い!だ、だって考えてもみろ。リヴェータが異性と・・・修兄とか・・・

 

 

「修殺す・・・ハッ!?」

 

 

何で!?お、落ち着け櫻田刹那・・・クールに行こうぜクールに・・・。ようやく精神が落ち着いて来た所で、背中に暖かい感触があった。ま、まさか・・・

 

 

「り、リヴェータ=サン?何故引っ付いておられるので?」

 

「あら?私を振った社長さんは別に気にしなくても良いんじゃないかしら?」

 

「あ、あのですね。年頃の女の子がそういう事易易としちゃいけないって言いますか僕だって性欲とかあるわけで」

 

「ふぅん・・・?」

 

「何で密着してくんのこの子!?馬鹿なの!?」

 

「馬鹿って失礼ね」

 

 

ま、マズい!このままじゃ取り返しのつかない事に・・・!

 

 

「刹那・・・さっき、誰を想像して赤くなったのかしら?」

 

「な、何の事ですかねぇ?」

 

「ルドヴィカ?アネモネ?カティア・・・は無いわね。じゃあ・・・私、とか」

 

「ッ!?」

 

「・・・そう♡」

 

 

甘ったるい声でリヴェータは僕に抱き着く力を強める。そして耳元で囁き始めた。

 

 

「やっぱり信用出来ない?それとも、振った事への罪悪感?」

 

「・・・どっちもだよ。何なのさ言われた通り考えたらリヴェータの事ばっかり浮かんで、ドキドキして・・・」

 

「それが好きって事よ。私がそうだったみたいにね」

 

「そっか・・・これが好きって事なんだ・・・」

 

「刹那・・・泣いてるの?」

 

「ん?・・・あ、泣いてる」

 

 

気が付けば涙が流れていた。何時の間に・・・。前世では到底知り得なかった感情だ。それも感情の中でも大きく欠けていた好きと言う感情。

 

 

「そっか、僕は嬉しいんだ・・・」

 

「認めたわね」

 

「でも・・・僕は君を」

 

「私は諦めないって言った筈よ。そんな中相手の気持ちが分かったなら最高じゃない」

 

「・・・良いの?僕なんかで・・・」

 

「貴方が良いのよ。刹那じゃないとダメなの・・・」

 

 

僕とリヴェータは自然に向き合い、唇を合わせた・・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第7話

刹那サイド

 

 

リヴェータとの出来事から暫く経ち、我が家のリビングに全員が集合していた。中学組から下はテレビやゲームをしていて、高校生組の僕達は葵姉が持ったくじ引きに手を伸ばしていた。櫻田家では、高校生組がくじを引いて、一週間の家事を分担している。因みに中身は掃除、洗濯、料理、買い物、買い物になっている。買い物が二つの理由は、茜の人見知りが原因で、茜一人に行かせると時間が掛かりすぎるというのがあった。そして僕達はくじを引いた。結果は、葵姉が料理。かな姉が洗濯。修兄が掃除。僕と茜g

 

 

「買い物おおおおおおお!?」

 

「うるせえ!」

 

 

茜が叫び、修兄に怒られた。まあ、そんな大声出せばね。泣き崩れる茜と苦笑いしか出来ない僕の手には買い物と書かれたくじが握られていた。

 

 

「じゃあ、今日の晩御飯の買い物行こうか?」

 

「いきなり!?少しは妹を慰めてくれないの!?」

 

「だってそうしたら茜が何時まで経っても行かないから」

 

「うっ・・・仰る通りです・・・」

 

 

諦めて茜が立ち上がったその時、ソファから光が身を乗り出した。

 

 

「あたしカレー食べたいっ!」

 

「出かけたくない・・・宅配ピザじゃダメ?」

 

「あかねちゃん!そんなにカレーが嫌なの!?」

 

「私どんだけカレー嫌いなの!?カメラが嫌なの!」

 

 

コントが続いていると、茜が僕を見て言った。

 

 

「せっちゃんの能力で透明化とかない!?」

 

「あるけど父さん達の緊急時以外街で使っちゃダメって言われてるから諦めて」

 

「緊急時って?」

 

「テロリストの殲滅とか、敵国の主要人物の拘束とか」

 

 

僕が淡々と言うと、周りが凍りついた。だってそれくらいしか使い道無いでしょ?

 

 

「刹那!何故それを覗きに使わn「せっちゃんに何言ってるのかな?」ま、待て茜!俺の腕はそっちに曲がらn」

 

 

コキッと音を立てて修兄が崩れ落ちた。そんな光景を横目に見ながらかな姉が髪を整えていた。

 

 

「アンタ達って選挙活動する気ゼロよね」

 

「あたしはやる気あるもん!」

 

「光じゃ相手にならないの」

 

 

光にかな姉は辛辣に当たる。それを茜がフォローに回った。

 

 

「そんな事ないよ。光だって頑張ってるよね」

 

「いや、頑張ってはないかも」

 

「フォローした私も為にも頑張って!?」

 

 

台無しだった。かな姉も溜息を吐く。

 

 

「大丈夫!いざとなったらあたしの能力で票集めなんて楽勝だもん!」

 

「国民にはアンタが10歳だってバレてるんだから意味無いじゃない」

 

 

かな姉の正論攻撃。

 

 

「それに変化するのは外見だけだし」

 

 

追加攻撃。

 

 

「見た目で人を引きつけようだなんてダメよ」

 

「自分だって外見めちゃめちゃ気にしてるじゃん!」

 

 

ずっと鏡と睨めっこしてるかな姉に光がキレる。まあ、そうなるな。すると段々と幼稚な口喧嘩になって来た。

 

 

「いいもん、将来はあたしの方が胸大きくなるし!」

 

「はぁ?胸は形が大事なの」

 

「大きさだよ!修ちゃん言ってた!」

 

「言ってねえ!感度d「黙れバカ兄」」

 

「茜ちゃんはどう思う!?あっ・・・ごめんなさい」

 

「謝らないで」

 

「・・・ごめん」

 

「やめて」

 

「気にするな茜、俺は感度さえ「「くたばれ!」」ヘブラッ!」

 

 

かな姉と茜の蹴りが直撃する。家族にセクハラする馬鹿が何処にいる。そう思っていると、光が僕を向いた。嫌な予感がする。

 

 

「せっちゃんはやっぱり大きさ!?」

 

「それとも感度か!?」

 

「懲りないのかバカ兄!?」

 

「修ちゃん?」

 

「ひっ・・・何でしょうか葵お姉様?」

 

「ちょっとお話しよっか?」

 

 

有無も言わさず修兄を引きずっていく。知らねっと・・・。

 

 

「茜もだけど、葵姉さんも選挙に興味が無くて助かるわ」

 

「でも現状2位だよ。せっちゃんも1位だし」

 

「姉さんとコイツは王様になる事を頑なに拒んでいるもの。どうにかして支持率を下げるってレースしてるし」

 

「だって僕は王になる資格は無いし・・・」

 

 

そう言う僕を皆が見る。何だよその目は・・・。だって僕は・・・。

 

 

「と、兎に角!茜、行くよ!」

 

「ちょ、ちょっとせっちゃん!?」

 

 

この空気から、黒くなっていく自分の感情から逃げ出す為に僕は茜を引っ張って外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、何で光が此処に?」

 

「だって王様になる為にアピールしたいもん!」

 

「そっか、偉いね」

 

 

えへん、と胸を張る妹を撫でる。やる気ないとか言っておきながらやる時はやるんだよねこの子。

 

 

「あ、カメラだ。ちゃんとアピールしないとっ」

 

「ちょっと光、何処行くの。こっちだよ」

 

「えっ、でも」

 

「カメラの前なんて通らないよ」

 

「・・・はい」

 

「茜、やめなさい」

 

 

茜の視線に怯える光を慰める。あ〜あ、こんなに震えちゃって・・・。

 

 

「だってせっちゃん・・・」

 

「昔色々あったからって事は分かるけど、そろそろ何とかしないと社会に出た時大変だよ?言っておくけど、僕は引きこもり何て許さないからね」

 

「じゃ、じゃあ、せっちゃんの会s「ダメだ!」ひっ!?・・・せっちゃん?」

 

「あ・・・ごめん。ダメだよ、茜に危険な事させられない」

 

「だ、大丈夫だよ!せっちゃんが近くに居れば・・・」

 

「僕の会社に居るって事は少なからず戦闘をする事になる。最悪のケースだってね」

 

 

僕は今、酷い顔をしてるだろう。でも、茜達をこっちの世界に引きずり込みたくない。これは、僕達の問題だから。だから僕は茜の言葉に止めを刺す。

 

 

「茜・・・君は人を殺せるかい?」

 

「ころ・・・!?」

 

「・・・動揺する時点で不合格だ。諦めて」

 

 

そう言って僕は光の手を握って歩き出した。そう、手を握・・・って?

 

 

「あれ?光は?」

 

「い、いないよ!?」

 

「ハァ・・・こうなるんだね」

 

 

僕は溜息を吐きながら風使いの能力を使う。人差し指を立てると、其処に風が集まり始めた。そして指の上に風の塊が出来て、僕はそれを耳に当てた。すると、大量の人達の声が聞こえる。コレは風の中に音や声を吸収した空気を閉じ込めた物で、人達の話し声を聞くことが出来る。風の噂(物理)って所だ。

 

 

「・・・うん、こっちだ。どうやら猫を追いかけてるみたい」

 

「じゃあ、急がないと!」

 

 

そう言って茜はカメラの事など気にせずに走る。流石に家族の事だもんね・・・。やがて僕達は光の目撃が一番多かった所へと辿りついた。道を曲がると、猫を抱いた"大人の"光が猫を抱いていた。

 

 

「光!探したんだ・・・間違えました!」

 

「茜ストップ。光だからこの子」

 

「な、何だ。光だったのね」

 

「だってにゃんこが・・・」

 

 

そう言って光が猫と木を見て察する。多方木から降りられない猫を助けようとしたのだろう。

 

 

「光、木を小さくすれば良かったんじゃないかな?」

 

「あっ・・・しまった・・・」

 

「全くもう・・・早く帰ろう?」

 

「あ、あのね・・・服の丈が・・・」

 

 

そう言う光の服はピッチピチで体のラインが浮き出てしまっていた。特にズボンはローライズ何て比では無かった。そして結局・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!私ナイスアイディア!」

 

「なんでじゃ!」

 

 

このおバカ、茜じゃなくて僕の体を縮めやがった。しかもミスってくれちゃった所為で僕の体は光の元のサイズより小さいし、女装なぞしなきゃいけないし・・・。何で僕なんだ。昔から皆そうだ。やれスカートだのやれゴスロリだの僕をリカちゃん人形の如く着せ替えして来た。泣きたいよもう・・・。そんな状態で買い物までさせられ、僕は国民からメッチャ写メを撮られた。死にたい・・・。

 

 

「ただいまー」

 

「おう、お帰りって誰だお前ら!」

 

「なになに、どうしたの?」

 

 

修兄の声を聞きつけてかな姉が帰って来た。そして光の手に繋がれてる僕を見る。

 

 

「かな姉、ただいm「せっちゃんだーー!」グフォッ!?」

 

 

飛び込んできて抱きしめられた。何故か呼び方も昔に戻っている。

 

 

「せっちゃんだ~♪やっぱり可愛い~♪」

 

「お、お願い離して・・・胸が当たって苦しい」

 

「何?お姉ちゃんの胸が気になるの?エッチだなあせっちゃんは」

 

「クソッ!刹那、そこ変w「修ちゃんうるさい」へほっ」

 

 

首に手刀一発で修兄がダウンする。かな姉は僕をそのまま抱え上げて部屋へと連れて行こうとする。

 

 

「ま、待って!光、助けて!」

 

「かなちゃん、あたしも~」

 

「オンドゥルルラギッタンディスカ!?」

 

 

思わず噛んでしまった。この妹裏切りおった・・・。

 

 

「さ、他の服にもお着替えしましょうね~♡」

 

「い、嫌あああああああ!?」

 

 

茜に視線を向けるも逸らされた。もう何も信じない・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

茜サイド

 

 

せっちゃんを助けたら私の命が無いよ・・・。そう思っていると、階段に掴まってせっちゃんが叫ぶ。

 

 

「クソォォォォォォ!持ってかれるかあああああああ!」

 

 

某錬金術師の様な声を上げるけど結局連れて行かれた。後でかなちゃんから写真もらおう。私はリビングへ行って買い物袋の中身を出しながらせっちゃんに言われた事を思い出す。

 

 

「茜・・・何かあったのか?」

 

 

フラフラしながら修ちゃんが聞いてくる。修ちゃんに相談するのもアレだけど・・・。

 

 

「あのね・・・せっちゃんがね・・・」

 

 

私はせっちゃんに言われた事を修ちゃんに話した。話し終えると、修ちゃんが珍しく真剣な表情をする。

 

 

「アイツの言う事は正しいぞ。俺も刹那と同じ意見だ」

 

「それは・・・そうだけど・・・」

 

「そもそもアイツをあんな性格にしちまったのは俺等家族だ。昔から刹那に頼りすぎたんだよ」

 

 

修ちゃんの言葉に私は何も言えなくなった。能力を沢山持っていたせっちゃんは昔から皆の期待に答えようと必死になっていた。私達はそれに肖ってばかりで・・・何も出来なくて・・・。

 

 

「仮にお前が人を殺す覚悟を決めたって足手纏いにしかならんだろ」

 

「うん・・・分かってる」

 

「それに刹那は俺等を守る為にあの会社やってるんだ。俺等が向こうに入ったら意味無いしな」

 

「それも分かってる。でも・・・」

 

「でも、何だ?」

 

「せっちゃんの目的ってそれだけじゃない気がするんだ・・・」

 

 

時々せっちゃんが会社の人と電話している時にする怒りに塗れた表情。せっちゃん・・・私達に何を隠してるの?そんなに私達は信じられない・・・?私の心の中の声に答えてくれるものは無かった・・・。

 

 

茜サイド終了



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第8話

~櫻田家兄弟の刹那に対する感情~


葵:自慢の弟,最近刹那を見るとドキドキする

修:自慢の弟,兄としての威厳に危機感

奏:自慢の弟,※自主規制※

茜:自慢の兄,最近気付けば目で追ってる

岬:自慢の兄,理想の男性

遥:自慢の兄,何時か刹那に追いつきたい

光:自慢の兄,大・大・大好き♡

輝:自慢の兄,最近刹那の何気ない仕草にドキッとする

栞:自慢の兄,兄様、光源氏って知ってる?


刹那サイド

 

 

ある日の事、自転車がパンクした為に久しぶりに歩いて学校へ向かっていると我が家の次女様と三女様が全力ダッシュしているのが見えた。何やってるのかと呆れながら追いかけて行くと、茜がいきなり道路に飛び出した。道路の中心に居た猫を救おうとした様で、猫を抱えて安心している茜に叫ぶ。

 

 

「茜!早くこっちに!」

 

「あ、せっちゃん!」

 

 

僕の体は無意識に動いていた。能力で茜の前まで移動する。茜を転移させようとしたが、"目の前に迫ってきているトラック"の距離からして間に合わない。だから僕は能力をもう一つ使う。

 

 

「《重力操作・Ⅱ(セカンドシフト)》!」

 

 

右手を前に押し出す。するとトラックが僕のスレスレの所で止まった。僕は皆の能力を自分なりに強化させて創った。茜の場合は触れた物の重力操作だけでなく、左手は引力、右手は斥力を操作できる様になっている。それが長距離にある物であろうとだ。一度だけ実験したことがあるが、本気で左手を宙に向けたら隕石が落ちて来た。僕目掛けて。慌てて右手で返したが、その際に衛星を一つ壊してしまった事は苦い思い出だ。

 

 

「茜、大丈夫?」

 

「う、うん・・・」

 

 

茜は猫を抱えたまま震えていた。僕は茜を抱きしめて頭を撫でる。昔はよくこうやって茜を慰めたり寝かし付けてたっけ・・・。茜を撫でていると、トラックの運転手が怒りの表情で降りてきた。

 

 

「おいクソガキ!危ねえだr・・・ゲッ!?櫻田家の次男と三女!」

 

「・・・お前」

 

「お、お前って何だ!大人に向かっt「黙れ」ひっ!?」

 

「誰の許可を得て口を開いている"雑種"」

 

「・・・せっ・・・ちゃん・・・?」

 

 

茜から離れて立ち上がり、目の前の不快な存在に向かう。

 

 

「確かに道路を飛び出したのは茜だ。だが、この道路は本来トラックは通行禁止だ」

 

「うっ!?」

 

「それだけじゃない。法定速度を破って走行の上に余所見運転とはいい度胸だ」

 

「そ、それh「喋るな」」

 

 

雑種の言葉を遮り、僕は続ける。

 

 

「極めつけには謝罪ではなく僕らに対する罵倒・・・巫山戯るな!」

 

「刹那、そこまでよ!」

 

 

かな姉に止められ、僕は深呼吸をしながら一歩下がる。すると雑種が此方を睨みつけながら吐き捨てた。

 

 

「親の七光りの癖に偉そうな事言うなクソガキが!」

 

 

その言葉のすぐ後に小さな破裂音の様な物が鳴り響いた。茜が雑s・・・運転手を引っぱたいた音だった。

 

 

「謝れ・・・今すぐせっちゃんに謝れ!」

 

「な、何を・・・」

 

「せっちゃんが七光り?せっちゃんは何時だって私達の為に必死になってた!常に努力を怠らなかった!私達の誇りだ!」

 

 

運転手を睨みつけながら茜が叫ぶ。僕とかな姉はポカンと固まっていた。

 

 

「せっちゃんは貴方より何倍も努力して、苦しんで!それでも家族を、国民を守ろうとしてる!」

 

「あ・・・あ・・・」

 

「・・・本当はもう一度殴りたいけど、貴方を裁くのは私じゃない。法だよ・・・」

 

 

そう茜は吐き捨てて携帯で連絡を始める。あんなに人前で堂々とした茜は初めてだ。

 

 

「何か・・・成長したね、茜」

 

「そうね・・・嬉しいような寂しいような」

 

 

遠い目で見ていると、直様警察王宮の部隊が到着し、事情聴取の後学校へと送ってもらった。僕の能力については運転手が余所見をしていた件が幸をなし、茜が咄嗟に能力を使ったのと、僕の風が止めたと言う事になった。今日はリヴェータも出張で不在の為、一人で帰ろうとしていると、目の前で茜が立っていた。

 

 

「その・・・一緒に帰ろ?」

 

「良いけど、かな姉達・・・ああ、生徒会」

 

 

僕が言うと、茜は頷いた。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん・・・」

 

 

僕と茜は二人で帰路に着き始めた。二人共無言で歩く。

 

 

「「(き、気まずい・・・)」」

 

 

朝の事もあり、無言のままが続く。そんな中、茜が遂に口を開いた。

 

 

「あ、あのね・・・今朝はゴメンね。私の所為で・・・」

 

「別に茜の所為って訳じゃないでしょ」

 

「ううん。だって私が飛び出さなければあんな事にはならなかったし」

 

「でも、茜がいたからあの猫は助かったんだよ」

 

「それは・・・そうだけど・・・」

 

 

俯く茜の頭に手を置いて撫でる。

 

 

「茜、良いかい。その言葉はあの猫に対して僕の為に死ねと言っているのと同じだよ」

 

「あ・・・」

 

「だから謝るのは止めなさい」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「・・・できれば違う言葉が聞きたいかなって・・・」

 

「あぅ・・・ありがとう・・・」

 

「うん、どういたしまして」

 

 

涙を流す茜を慰めながら僕は家へと向かって行った。

 

 

 

 

 

~帰宅後~

 

 

『ご覧下さい!茜様が堂々と叫んでいます!』

 

「な、何コレぇ!?」

 

「ああ、そう云えばあったね。カメラ」

 

 

テレビを見て茜が叫ぶ。周りでは修兄達が感慨深い表情をしていた。

 

 

「よく言った茜。それでこそ俺の妹だ」

 

「駄兄は黙ってどうぞ」

 

 

修兄への辛口は健在の様だ。テレビを見る限り僕の能力の事は伏せてある様で、ちゃんと茜の能力と僕の風で止めたとなっている。見えない力で良かった・・・。そう思っていると、僕の服を栞がクイクイと引っ張った。

 

 

「何?」

 

「兄様、身体大丈夫?」

 

「ありがと、大丈夫だよ」

 

「兄様は、何時も頑張りすぎちゃうから・・・」

 

 

栞が心配そうに僕を見上げる。僕は栞を撫でた。なんか今日撫でてばかりだな・・・。

 

 

「心配してくれてありがとう。でも本当に大丈夫だから」

 

「分かった・・・」

 

 

渋々といった表情で栞は下がる。その後、何気ない会話をして食事をし、部屋に戻る。この前買ったミステリー小説を読んでいると、携帯が鳴る。どうやらメールの様だ。それはかな姉からのメールで、部屋に来て欲しいと書いてあった。

 

 

「・・・行きますか」

 

 

そう思って部屋を出てかな姉の部屋へ向かうと、部屋の前に茜が立っていた。

 

 

「あ、せっちゃんも呼ばれたんだ」

 

「まあね。それじゃ、入ろうか」

 

 

僕はドアをノックしてかな姉に入室の許可をもらった。部屋に入ると、暗い顔をしたかな姉がベッドに座っていた。僕達は座布団に座る。するとかな姉が立ち上がって僕達に頭を下げてきた。

 

 

「ごめんなさい!」

 

「え、何で?」

 

「そ、そうだよかなちゃん」

 

「私はあの時何も出来なかった。刹那が馬鹿にされた時も体が動かなくて・・・それで・・・ごめんなさい!」

 

 

かな姉はそう言って蹲って泣き始める。正直、かな姉の反応が普通だ。目の前で人が轢かれそうになれば誰だってフリーズする。単に僕は死と隣り合わせの状況に慣れた所為で行動が早かっただけにすぎない。茜の方もかな姉の立場を分かってる様で、気にしてないと言った。

 

 

「ほら、顔上げて。かな姉は気にする事ないんだって」

 

「でも・・・でもぉ・・・」

 

 

ガチ泣きですやん・・・。僕は泣きじゃくるかな姉の両頬をグニグニと弄り回す。

 

 

「何時までも泣き言言うのはこの口か~」

 

「ひゃ、ひゃめへ・・・」

 

「やっと泣き止んだか。さっきから気にしすぎなんだよかな姉は」

 

「そうだよ。私は兎も角せっちゃんはちょっとやそっとじゃビクともしないんだから」

 

「フォローになってないぞ妹よ。痛くないって訳じゃ無いんだから・・・」

 

「そ、そうだよね・・・せっちゃんは昔から痛い思いばかりで・・・!」

 

「やべ、地雷踏んだ」

 

 

かな姉がまたも泣き始める。かな姉を慰めるのに結局30分掛かった。結局この日は何故か三人で寝る事になった。昔良く茜を挟んで川の字になって寝たっけな。懐かしいな・・・そして何故僕が真ん中なのかな?普通かな姉じゃ無いの?そう思ってる内に僕の意識は微睡みの中へと沈んでいった・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

~櫻田家[父・母]の部屋~

 

 

櫻田家の両親の寝室。そこで二人はある一枚の写真を見ていた。

 

 

「もう十年以上経つのか。早いな・・・」

 

「元気に育ってくれましたね」

 

「ああ。少し無茶が過ぎるけど・・・」

 

「そうですね・・・。今日はもう寝ましょうか」

 

「そうだね。おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 

総一郎は写真をテーブルに置いて、妻と軽くキスをしてから眠りへと落ちた。暗い部屋の中、月の光に照らされた写真には、"白髪の赤ん坊"を抱いた"白髪の女性"が写っていた・・・。

 

 

三人称サイド終了



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第9話

刹那サイド

 

 

僕は今、危機に直面していた・・・。

 

 

「刹那・・・どう言う事だ?」

 

「うぅ・・・お父さん・・・」

 

「お父さん・・・」

 

 

修兄を筆頭に、家族全員から視線を向けられ、椅子には僕と同じ髪と目をした兄妹が座っている。事の発端は今から数時間前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間前[SMART BRAIN・研究室]~

 

 

「休暇?」

 

「はい。休暇です」

 

 

僕はカティアさんに休暇届けを叩き付けた。それは僕の物ではなく、カティアさんの休暇届だ。

 

 

「別にそんな物いらないわよ」

 

「社長命令です。最近寝たの何時ですか?」

 

「・・・三日位かしら」

 

「三週間ですよ!三・週・間!馬鹿ですかアンタ!?」

 

「違うわ!私は天才よ!」

 

「別にボケてませんから!良いから休んでください!」

 

 

抵抗するカティアさんを引っ張って部屋から放り出す。首に手刀を叩き込み、無理矢理眠らせて寮の部屋に放り込む。すると、直ぐに鼾が聞こえて来た。全く・・・。呆れながら僕は会社の前に止めてある車に乗った。これから王宮で家族揃っての昼食を摂った後に、雑誌用の撮影がある。茜が死にそうな表情を浮かべていたのを思い出す。

 

 

「それじゃあ、お願いします」

 

「畏まりました」

 

「あの、少し寝てても良いですか?」

 

「はい。ごゆるりと」

 

 

運転手に言われ、僕は座席で眠りについた・

 

 

----・・・!・・・!?

 

 

何か聞こえた気がしたが、気にせず眠る事にした・・・。

 

 

 

 

~王宮内[食堂]~

 

 

「さあ、沢山食べなさい」

 

「おかわりもありますからね」

 

『いただきます!』

 

 

テーブルに並べられた数々の料理に、僕達は舌鼓を打っていた。大好物のエビフライを口いっぱいに頬張る。衣のサクサクと中のエビのプリプリが堪らない。タルタルを掛けるのも有りだし、カレーでも良い。ああ、最高!

 

 

「ほれ刹那。俺のエビも食うか?」

 

「良いの?じゃあ、僕のお肉あげる」

 

「お、サンキュ」

 

 

修兄とおかずを交換しながら食べる。今の僕は人間火力発電機だ。あっと言う間におかわりも尽き果て、昼食が終わった。

 

 

「ふ~、お腹いっぱい」

 

「お前、よくあれだけの量食えるな」

 

「普段沢山動くからエネルギーが必要なんだよ」

 

「ピンクの悪魔レベルの摂取量とか家のエンゲル係数ヤバいぞ・・・」

 

「ハハハ・・・気を付けるy「皆様!お逃げください!」・・・何事?」

 

 

突然駆け込んできた警備員に僕はスイッチが入る。

 

 

「侵入者です。数は二人で、相当の手練です。罠がどんどん躱されていきます」

 

「分かった・・・僕が出る」

 

「お、おい刹那!」

 

「大丈夫だよ修兄。直ぐに戻るから」

 

 

警備員に皆を避難させて僕は侵入者がいる方向へと向かう。話を聞くには動きが早すぎて捉えられないらしい。しかも警備員には手を出していない。何が目的だ?そう思っていると、気配を二つ感じた。こっちに走ってくる。・・・アレ?この気配、何処かで・・・。

 

 

「お父さーーーーん!」

 

「み、《ミレイユ》!?何で此処nげぼはっ!?」

 

 

僕の鳩尾に一人の少女が頭から突っ込んできた。少女《ミレイユ》は僕にしがみつくと、ずっと顔を擦りつけてくる。その表情は泣いていた。

 

 

「怖かったよ・・・」

 

「あ~・・・うん。もう大丈夫だから」

 

 

取り敢えず頭を撫でる。すると、もう一つの気配が顔を出した。

 

 

「お、お父さん・・・」

 

「《ヨシュア》まで来てたの・・・?」

 

 

次に来たのはミレイユの兄である《ヨシュア》だ。何でこの子達が此処に・・・。

 

 

「何で此処に来たの?」

 

「あの・・・その・・・」

 

「わ、私がお兄ちゃんとかくれんぼしててね。車のトランクに隠れようとしたらお兄ちゃんに見つかっちゃって・・・」

 

「それで、足音がしたから慌ててトランクに隠れたんです・・・」

 

「そうしたら私達そのまま運ばれちゃって・・・」

 

 

あの時のはその声だったのか・・・。それで王宮内で僕を見つけようとしてこの大惨事・・・と。

 

 

「後でカティアさんから説教だね」

 

「そ、そんな!お慈悲を!」

 

「そ、そうだよ!カティア様の説教だけは!」

 

 

そう言って二人は泣き出す。溜息を吐きながら僕は頭を撫でた。全く仕方の無い子達だ・・・。そう思っていると、僕の背後から寒気がした。ギギギと振り向くと其処には・・・。

 

 

「せっちゃん・・・その子達・・・誰?」

 

 

後ろに悪鬼羅刹を纏った次女様が居るではありませんか。あ、僕終わった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在に戻る~

 

 

「・・・で、あの子達はお前の何なんだ?」

 

 

最初は戸惑っていたが、ヨシュア達を見て直ぐに真剣な表情になった修兄に僕は縮こまる。ミレイユ達は椅子に座らされ、ジュースとお菓子を出されていたが、ミレイユの方が泣き止まない。かな姉の表情を見てしまったからだろう。うん、アレは仕方ない。

 

 

「・・・質問を変えよう。何であの二人は"お前と同じ髪と目"なんだ?」

 

「ッ!」

 

 

僕は心臓が飛び出すかと思った。そう、ヨシュアとミレイユは僕と容姿がかなり似ている。白い髪に赤い目だ。彼らとは複雑な事情があり、訳あってお父さんとこの歳で呼ばれる様になった。

 

 

「答えない・・・か。なら最後にもう一つ。何故お父さんと呼ばれてるんだ?」

 

「そ、それh」

 

 

言い出す前に僕は葵姉にビンタされた。

 

 

「せっちゃん・・・最低だよ!」

 

「い、いやだかr「言い訳しないで!」」

 

 

もう一発喰らった。理不尽極まりない。他の家族からの視線が冷たい。懐かしいなこの視線・・・。何か良い感じにトラウマが刺激されて来た。

 

 

「何か・・・言ってy「お父さんを虐めないで!」ミレイユちゃん・・・?」

 

 

もう一発叩こうとした葵姉の前にミレイユとヨシュアが立っていた。

 

 

「お父さんは私達を助けてくれた!」

 

「そうです!僕とミレイユをあの暗闇から救ってくれました!」

 

「お父さんは悪くない!」

 

 

叫ぶミレイユとヨシュアからオーラの様な物が流れ出す。

 

 

「ヨシュア!ミレイユ!ストップ!」

 

「あ・・・ごめんなさい」

 

「すみません・・・」

 

 

二人は我に返り、オーラを沈める。危ない危ない。僕は皆を見て、観念して話す事にした。

 

 

「分かった、話すよ。父さん。人払いをお願い」

 

「分かった」

 

 

そう言って父さんは戸締りをした。此処には家族しか居ない。僕は地べたに座ったままの状態で話し始める。

 

 

「今から数年前、僕が中学2年の頃にある研究施設を潰したんだ」

 

「研究施設?」

 

 

修兄の声に僕は続ける。

 

 

「簡単に云えば能力者を創り出す研究だね」

 

「なっ!?」

 

「別に能力を持つ人間は櫻田家だけじゃ無いさ」

 

 

僕の言葉に全員が驚愕していた。

 

 

「能力と言っても様々だよ。僕達みたいなのもあれば、エスパーとかサイキッカー、巫女やシャーマンとかも能力者に入るね」

 

「そ、そうだったのか・・・」

 

「それで、その時に創られていたのが、この二人だよ」

 

 

僕の言葉に皆が二人を見る。二人は僕を守る体制を取ったまま睨み返している。その目には明らかな敵意があった。

 

 

「二人共、大丈夫だから」

 

「でも、この人家族なのにお父さんの事叩いたよ!」

 

「まあ、説明しなかった僕も悪かったし・・・」

 

「それはお父さんが僕達の事を考えてくれていたからです・・・」

 

 

二人を何とか落ち着かせて話を続ける。

 

 

「この二人はさっきの通り能力持ちでね。助けに来た時には警戒心マックスで襲われたよ」

 

 

まあ、拳骨で一発だったけど。・・・ヤバい頬が超痛い。同じ箇所に二発はマズいって・・・。そう思っていると、ヨシュアが前に出た。

 

 

「此処からは僕が説明します。ミレイユ、お父さんを頼む」

 

「うん。お父さん、今治すからね」

 

 

そう言ってミレイユが僕の頬に手を当てると、優しい光が包み込み、痛みが和らいだ。

 

 

「では、説明します。僕達は今ご覧になった通り能力が使えます。僕の能力は《魔龍召喚(ドラゴライズ)》。龍のオーラを発生させられます」

 

「私の能力は《神鳳(フェネクス)》。フェニックスのオーラを発生させられるよ」

 

「で、でもどうやってそんな能力を・・・?」

 

 

震える声で遥が聞く。ヨシュアは覚悟を決めた表情で答えた。

 

 

「それは・・・僕達がお父さんの細胞から作られたデザインベイビーだからです」

 

 

その言葉に全員が驚愕するが、一番反応を示したのが父さんだった。

 

 

「馬鹿な!その研究は十数年も前に弾圧された筈だ!」

 

「終わってなかったんだよ。研究も、アイツ等の野望も・・・」

 

 

痛みの引いた僕は父さんに言う。父さんはまさか、と言った表情をしていた。

 

 

「今も各国で研究が続いてる。僕の会社は秘密裏にそれを潰して、被害者を保護してるんだ。でも、この二人は特殊でね」

 

「僕とミレイユは能力の制御ができないんです」

 

 

そう、この二人は能力を使いきれていない。無理に力を出しすぎると暴走し、使用者が最悪死ぬ。だから保護した後、僕が直接能力の使用法を教えていたら、何時の間にか懐かれたのだ。しかもお父さん何て呼び方付きで。まあ、僕が成人したら正式に養子にしようと思ってはいたけれど・・・。

 

 

「それでお父さんに教えてもらったりして、何時の間にかお父さんって呼んでたの」

 

「だからお父さんは悪くありません!」

 

「・・・悪かった。刹那、立てるか?」

 

「平気だよ」

 

 

修兄の手を取って立ち上がり、椅子に座る。その横にヨシュア達も座った。二人は不安な表情をしていた。不安なのだろう。周りの反応が。

 

 

「大丈夫だよ。ほら、見てごらん。こう云う人達だから」

 

 

そう言って僕は家族を指差した。

 

 

「せっちゃんは悪くなかった・・・なのに私は・・・!」

 

「じゃあアレか?俺は・・・叔父さんなのか?」

 

「あの子達がせっちゃんの息子なら懐かれれば・・・これで勝つる!」

 

「わ、私叔母さんになっちゃったの!?」

 

「僕達中学生で叔父叔母か・・・」

 

「複雑だよ・・・」

 

「これってあの二人と仲良くなればせっちゃんと結婚できるかな?」

 

「姉上、家族同士は無理です」

 

「兄様・・・旦那様」

 

 

家族の反応を見て、二人はポカンとしていた。この家の人達は別にその程度じゃ差別なんてしないし、寧ろ友達になったりしようとさえすレベルだ。

 

 

「言った通りでしょ?」

 

「はい・・・」

 

「うん・・・」

 

 

僕は皆に言った。

 

 

「僕は成人したら正式にこの子達を引き取ろうと思う。良いよね、父さん」

 

「あ、ああ。・・・それにしても何故こんな事が・・・」

 

「・・・《櫻田 澪》。この名前に聞き覚えは?」

 

「な、何でその名を・・・」

 

 

狼狽する父さんに思わず笑いが出る。それは母さんも同じだった。

 

 

「知らない訳無いでしょ。"実の親"の名前なんて」

 

 

僕の言葉に部屋がシンと静まり返った。ヨシュア達も驚愕の表情で僕を見る。そう言う事だ。

 

 

「皆疑問に思わなかった?家にあるアルバムには僕だけ生まれた時の写真が無くて、少し経ってからになってるのに」

 

「でもアレってお袋が体調崩して撮影できなかったんだろ?」

 

「証拠は?」

 

「それは・・・」

 

 

僕の言葉に修兄が止まる。僕は続けた。

 

 

「僕の実の母は父さんの姉で、本来の王位継承者だったんだ」

 

「ま、待ちなさい!そんなの知らないわよ!?」

 

「知るわけないでしょ?国家機密なんだから」

 

 

かな姉が僕の言葉に何も言えなくなる。僕は続けた。

 

 

「その人は結婚して子供を妊娠したんだ。でもそれから数ヵ月後、夫は銃殺され、彼女は失踪した。後は父さんが知ってるよね」

 

「・・・ああ、研究のモルモットにされたんだ」

 

 

父さんの言葉に皆が騒然としている。光から下の子達は分かってないみたいだけど。

 

 

「櫻田 澪は当然の如く能力者だ。その能力は《覚醒(ウェイク・アップ)》。目覚めさせる能力」

 

「・・・どう言う能力だ?」

 

「昏睡状態の人を目覚めさせる事もできれば、"能力を目覚めさせる"事もできる能力だよ」

 

「確かに欲しくなるわよねそんな能力・・・」

 

「そう。しかもその人の中にはもしもの保険も入ってたからね」

 

「保険って・・・まさか!」

 

 

茜が僕をハッと見る。気付いた様だ。

 

 

「その通り。僕は結果、実験台として生まれたんだよ。実験番号S-27。だから刹那さ」

 

「そんな・・・酷いよ」

 

「そうだね。でも、僕は運の良い事に大きな実験をされる前に保護されたからね」

 

 

研究資料を見たが、僕の能力は天然であった物らしい。流石転生特典。でも、この家族関係は要らなかったな・・・。僕の説明はまだ続く・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 



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第10話

刹那サイド

 

 

「僕が保護されたのは1歳の頃・・・だったらしい」

 

「らしい?」

 

「実験体といえど、流石にそんなに幼い記憶なんて無いよ」

 

 

実験記録のデータを漁った時も1歳でデータが終わってる辺り、確かな事実だろう。修兄の疑問に答えながら思い出していた。そして光が手を上げる。

 

 

「せっちゃんは自分が叔母さんの子供って何時気付いたの?」

 

「・・・栞位の頃には知ってたかな」

 

「そ、そんなに前から・・・」

 

「ま、まあ後は僕を暗殺しようとして来た奴らに聞いたりとか」

 

「あ、暗殺!?何時だよそれ!」

 

「お、落ち着いて・・・」

 

 

修兄に揺さぶりを逃れて説明する。もう隠し事は何一つ出来なさそうだ。

 

 

「最初に暗殺されそうになったのは確か3歳位の頃かな?」

 

「3歳って、まだ真面に能力も使えないじゃねえか」

 

「だからこそでしょ?こんな生きた兵器潰さずにどうする?」

 

「お前は兵器じゃねえ!」

 

「それは一部の人間だけさ。考えてみなよ、どんな能力も創れて使える人間なんて只のバケモノだ。しかも王族って・・・」

 

 

僕の言葉に何も言えないのか、全員が押し黙る。

 

 

「刹那、お前がそんな頃から暗殺なんて聞いてないぞ」

 

「言ってないからね。言えないでしょ、3歳で戦闘しましたなんて」

 

 

父さんの言葉に返す。しかも相手が転生者な分、尚更質が悪い。まあ、そのおかげで相手の特典の王の財宝やその他諸々を手に入れたんだけど・・・。

 

 

「とまあ、色々あって暗殺者の一人からこう呼ばれたんだ。《創世者(クリエイター)》ってね」

 

「また凄い二つ名ね・・・」

 

「僕の能力から来てるんでしょ。向こうは僕を侵略の為の道具にしようとしてるみたいだしね」

 

「安心しろ、そんな事は絶対にさせないからな!」

 

 

父さんが僕を見て言うが、思わず苦笑してしまった。その様子に気付いた皆の視線に僕は答える。

 

 

「父さん、僕は貴方の部下に襲われたんですけど・・・」

 

「な、何ィ!?」

 

「あのさ、《月山 習》って覚えてる?」

 

「ああ、行方不明になったあの・・・」

 

 

父さんは数年前に失踪した部下の顔を思い出す。

 

 

「あの人、送り込まれた暗殺者だったよ」

 

「・・・嘘だろ?」

 

「嘘じゃないよ。外面は完璧だったね。でも、目が違うんだ」

 

 

そう、アイツは外面こそ善良な人間だったが、櫻田家の人間を見る度に目の奥にドス黒い欲望が見えた。前世は人の顔色を伺う事が多かった所為か、そういう事に敏感になっている。

 

 

「あと、ソイツ凄まじい変態だった。僕の血舐めて興奮してたし」

 

「うわぁ・・・」

 

 

誰かのドン引きする声が聞こえた。僕が一番言いたいよ。僕の腹に風穴開けて血を舐めた瞬間、ハーモニー!とか叫び始めるし。結局能力奪って、修兄の能力使ってマリアナ海溝に飛ばした。今頃分解されてるんじゃないかな・・・。

 

 

「とまあ、色々不穏な単語聞いたからコッソリ調べたんだよ。そしたら出てきましたさ・・・僕の出自と実の母が・・・」

 

 

酷い物だった。あと少し遅かったら僕は感情を消された殺人兵器になってたし・・・。

 

 

「とまあ、何だかんだでこの二人を引き取ったりして今に至るって事」

 

 

ヨシュア達を撫でながら話を終わらせる。部屋の空気がお通夜より酷い物になった。まあ、こうなるな。

 

 

「・・・あ~・・・良かったら家出てくけど?」

 

「ま、待て!何故そうなる!?」

 

「バレたら絶対気不味いし、20歳になったら一人暮らしをしようとは前から考えていたんだ」

 

 

会社の部屋使えば良いし。そう思っていると、栞が僕の服を引っ張る。その目には涙が浮かんでいた。

 

 

「兄様・・・居なくなっちゃうの?」

 

「・・・それは・・・」

 

「・・・嫌・・・居なくなっちゃ嫌・・・」

 

「栞・・・」

 

 

栞は僕の足にしがみついて離さない。どんどん溢れる涙でズボンを濡らす。

 

 

「好き嫌いしないから・・・良い子にするから・・・」

 

「し、栞・・・」

 

「行かないで・・・!」

 

 

そう言って栞は大泣きし始める。こんな栞を見た事は一度も無かった。焦っていると、輝と光も泣きながらしがみつく。

 

 

「兄上・・・行っちゃダメです!」

 

「せっちゃん行っちゃヤダーーーーっ!」

 

 

どうすりゃ良いの・・・。考える暇もなく、中学生組にもホールドされる。

 

 

「絶対にそんな事させないから・・・!」

 

「どんな過去だろうと刹那兄は僕達の家族だ!」

 

 

・・・良い弟達を持ったなぁ、僕・・・。思わず溢れてくる涙を拭く前に修兄達にも抱きつかれる。

 

 

「ごめんね・・・ごめんねせっちゃん!」

 

「気づけなかった私達は最低ね・・・」

 

「辛かったな・・・ゴメンなぁ・・・!」

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 

皆の優しさに耐え切れず、僕は大声で泣いた。そんな僕を皆は強く抱きしめてくれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お見苦しい所をお見せしました」

 

 

泣き止んだ僕は恥ずかしさのあまり今すぐ消えたい気持ちに襲われた。あんなに大声出して泣いたのは初めてだ。前世でも無かった。出したら殴られたしね。

 

 

「・・・お父さんの泣いた所初めて見た」

 

「僕もだ・・・」

 

 

息子達よ、お父さんの痴態を見ないでくれ・・・。軽く死ねるから。

 

 

「あの・・・かな姉、そろs「ダメよ」デスヨネ~」

 

「ダメに決まってるでしょ。でないと何処かに行っちゃう・・・」

 

 

そう言ってかな姉は僕を抱きしめて離さない。足元には栞と茜が未だに引っ付いてる。助けを求めるが、全員に目を逸らされた。解せぬ。

 

 

「ほ、ほら離れて。もうすぐ撮影あるんだから」

 

「それなら今日はもう中止だ」

 

「ぐぬ・・・よ、ヨシュア達を送っていかないと!」

 

「ねえ、ヨシュア君、ミレイユちゃん。良かったら家に泊まっていかない?」

 

「良いの!?行こうお兄ちゃん!」

 

 

退路が無い・・・。この後開放されるのに二時間掛かった。

 

 

~二時間後[櫻田家・自室]~

 

 

「此処がお父さんの部屋・・・」

 

「ベッド大き~い!」

 

 

あれから食事と入浴を終えて、パジャマ姿のヨシュアとミレイユを部屋に入れる。ヨシュアは部屋をジロジロと見つめ、ミレイユはベッドに寝転がる。僕のベッドには昔から皆が入ってくる事が多かった為に、気がついた時には馬鹿デカイベッドが置かれていた。僕を中心に、三人で川の字になってベッドに入る。

 

 

「・・・今日は疲れた」

 

 

二人も疲れていた様で、あっと言う間に眠った。僕もその寝顔を見て、安心して意識を落とす事が出来た・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が寝付いた頃、櫻田家のリビングには総一郎、五月、葵、修、奏、茜が集まっており、昼間の事を話し合っていた。

 

 

「なあ、親父。刹那って昔から狙われてたのか?」

 

「正しく云えば、お前達の警護から飛び火したのもある」

 

「守ってくれるのは嬉しいけど、せっちゃん自分の事考えないからね・・・」

 

「しかも嫌な顔一つせずに傷ついて・・・」

 

「私・・・あの子にずっと隠してた事、恨まれてないかしら?」

 

「「「「「それは無い」」」」」

 

 

全員一致だった。基本優しい刹那は隠してきた理由が自分を気遣って居る事も知っているし、それがあろうとも此処まで愛情を持って育ててくれた五月の事は心から尊敬している。それは普段の態度にも現れており、刹那がこの家の人間をどれだけ愛しているのかは明白であった。

 

 

「それにしても、俺ももうお爺ちゃんか・・・」

 

「可愛かったなぁ、二人共」

 

「まさか弟が子持ちとはなぁ・・・」

 

「学生でお父さんってマンガみたいだよね」

 

 

その後、刹那や、その子供達の過去話を話して解散となった。だが、長男と親父は気づいていた。刹那の子供と言う単語が出る度に女性陣からオーラが吹き出すのを・・・。二人は天井を見上げながら思った。また修羅場か・・・と。

 

 

三人称サイド終了



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第11話

三人称サイド

 

 

とある昼下がり、櫻田家の一室に二人は居た。双子の遥と岬は互いにベッドに座っている。少しの沈黙を超えて、遥が口を開いた。

 

 

「岬・・・僕、彼女が出来たんだ」

 

「へっ?そ、そうなんだ・・・おめでとう」

 

 

遥の言葉に一瞬驚きながらも何とか祝福する。置いていかれた気がしてならないが、何時かこうなると思っていた事だと頭の中身を整理する。

 

 

「ずっと一緒だった岬には言っておこうと思って・・・」

 

「そっか・・・兎に角、私は応援するよ。お幸せにね」

 

「僕達の交際を認めてくれるんだね!実は、彼女を呼んでるんだ!」

 

「ファッ!?」

 

 

遥の爆弾発言に岬は驚きが隠せなかった。遥はすぐに呼んでくると言って部屋を出て行ってしまう。もはや岬に落ち着く時間など無かった。10秒もしないうちに遥が戻って来る。ドアを半開きにし、ギリギリまで見せない魂胆なのだろう。

 

 

「ま、待って遥!私まだ心の準備が・・・!」

 

「大丈夫だよ。気さくな子だから」

 

 

そう言って彼はドアを開け、岬に見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の彼女《兄ヶ崎 百々》さんだよ」

 

『初めまして、百々です』

 

 

ゲーム画面に映った少女を・・・。

その日、櫻田家に一つの悲鳴が木霊した・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

~櫻田家[リビング]~

 

 

『現在、この国で人気の《愛チョリス》。この恋愛シミュレーションゲームは現実時間とリンクしており、リアルタイムで進行。朝にゲームを立ち上げればおはよう。夜はこんばんわしてくれるのは序の口。その、あまりの出来栄えゆえ、国中で小さな恋人と離れられない彼氏が増えており・・・』

 

 

テレビを見ながら遥は言う。そして次に隣へと視線が向けられた。

 

「困ったものだね。ゲームと現実の区別が付かなくなって生活まで浸蝕されたら・・・。本当に彼女なんて出来なくなっちゃうよ。ね?百々さん」

 

『えへへ♡』

 

「僕等の幸せを分けてあげたいね。はい、アーン♡」

 

『あーん』

 

 

二画面ゲーム機の片方の画面に映った美少女に語りかけながらケーキを差し出すソレを尻目に僕は立ち上がる。

 

 

「さてと、僕これから任務があるんだ。バイバイ」

 

「おい、何処に行くんじゃい!」

 

 

岬に捕まり逃げられなくなった。

 

 

「君の弟君こそ何処に行っちゃったんですかアレ。ゲームと現実の間に出来た異次元に飲み込まれちゃってるよ!」

 

「彼女を紹介したいって突然言われてアレを持って来て。以来、ずっとあんな感じなんだよ!」

 

「大丈夫だろ。ボルシチ(この前光が保護した猫)もこの前の発情期の間、ずっと人形相手に腰振ってたんだ。何れ終わりは来るって」

 

「ダメだよ!だって遥は一年中発情期だもん!」

 

「君達、遥の事一体なんだと思ってるんだ!?」

 

 

思わず突っ込む。お兄ちゃん悲しいよ!?て言うか今まさに悲しさの板挟みにあってるんですけど!

 

 

「恋愛ゲームって男の人をあんなにしてしまう物なの!?」

 

「さ、さあ?僕ゲームってパズドラかモンストかテトリス位しかしないし・・・」

 

「ギャルゲーと言うのはな岬。沢山の美少女達が登場し、それを落とす事を目的とするゲームだ」

 

 

修兄が諭す様に話し始める。

 

 

「つまり、モテない男達にとっては傷つかずに恋愛を楽しめる唯一のコンテンツなんだ」

 

「流石修ちゃん。今までの事があった為か説得力が違うね」

 

「茜、やめたげて。修兄涙目になってる」

 

「よ、要するにモテない男ほどハマる訳だ。遥の様なS級チェリーボーイとなるとそのハマり具合は最早予測不能だ」

 

「S級のシスコンが何言ってるのやら・・・」

 

「ねえ、かな姉。チェリーボーイって何?」

 

「ん?刹那が知らなくても良い事よ」

 

 

そう言ってかな姉は僕を撫でる。何かこの前の時以来凄く優しくなった気がする。相変わらず会社の事については批判気味だけど・・・。

 

 

「このギャルゲーに慣れ親しんだ俺さえドハマりしたんだ。その破壊力と言ったら相当の物だ。と、俺の彼女の《鞘花(さやか)》ちゃんも言っている」

 

「修兄も充分破壊されてるよ」

 

 

僕が言った瞬間、岬が修兄のゲーム機を泣きながら取り上げ、画面を閉じて庭先へ投げ付けた。

 

 

「そ、そんな!このままじゃ遥はあっちの世界から戻って来れないかもしれないの!?」

 

「あーーーーっ!?鞘花ちゃん!」

 

 

嫌な音を立てて修兄のゲーム機は庭に落下した。

 

 

「て言うか修兄には佐藤さんがいるでしょ!」

 

「俺は区別の付く人間だ。現実の彼女は佐藤。ゲームは鞘花だ」

 

「なんて言うかもう須らく死ねよバカ兄」

 

 

佐藤さんの勇気と愛を返せこの野郎。僕は溜息を吐きながら岬に聞く。

 

 

「接触はしてみたの?」

 

「うん。隙を付いてゲームを奪おうとしたんだけど・・・」

 

 

----何するのさ・・・百々さんに触るなぁ!

 

 

「って言われちゃって・・・」

 

「完全にゲームを恋人と思うまでに精神の奥深くまで浸蝕されている。アイツと接触するには同じ次元に立たないといけない」

 

 

修兄はゲーム機を大事そうに撫でながら言う。マジで壊してやろうかソレ。

 

 

「でも一体どうやって・・・」

 

「決まってるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようこそ、愛チョリスの世界へ!まずは主人公である貴方の名前を打ち込んでください』

 

----櫻田 刹那

 

「何で僕がこんな事しなきゃならないのさ!?」

 

 

何時の間にかファミレスに移動した修兄と僕は新しく買わされたゲームに愛チョリスのカセットを挿入して始めていた。

 

 

「遥を現実世界へ引き戻す為だ」

 

「まどろっこしいな!大体こんなゲームやった事無いんだからできるかぁ!」

 

「出来る出来ないの問題じゃねえ。同じ次元に立てと言っているんだ」

 

「修兄が遥を説得すれば良いじゃないか!」

 

「遥が俺の言う事を素直に聞くと思うか?この俺を・・・」

 

「あ、無理」

 

「さらっと言うなぁ!」

 

 

修兄は泣きながらコーヒーをがぶ飲みする。だからって僕にする事ないだろうに・・・。コーヒーを飲み終わると修兄が説明を続ける。

 

 

「まずは三人の中から攻略ヒロインを選べ。これはその一人を口説き、落とすゲームだ」

 

「・・・分かったよ」

 

 

画面には一人の女子と、その後ろに二人シルエットに包まれた人物が立っている。方向キーで入れ替えると、キャラの顔が出てくる様だ。取り敢えず最初に出ているメガネを掛けたヒロインを見る。

 

 

「まずは《御高井 鞘花》ちゃん。主人公の所属する鉄道部の主将で、文武両道の優等生で、櫻田 修君の彼女だ」

 

『えへ♡』

 

「何で修兄が設定の一部に食い込んでるのさ。アンタがこのキャラ選んだだけだろう」

 

 

僕のツッコミを無視して修兄が進めるので、諦めて次のヒロインを見る。それは遥の彼女(嘘)であった短髪の少女だった

 

 

「彼女は《兄ヶ崎 百々》さん。世話焼きのお姉さんタイプだ。遥の落としキャラだな」

 

「何あの子姉属性のキャラ選んでるの?ダメだからね?そう言うのマジ止めてね!?」

 

「・・・同じキャラは争いを招くから別キャラの方が良いな。となるとお前は・・・」

 

 

そう言って修兄は僕の画面を操作してもう一人のキャラを選ぶ。そのキャラは以上に背の高い女の人だった・・・って!?

 

 

「必然的に三人目のキャラ・・・《綿野 厚子(あつこ)》ちゃんだ」

 

「ちょっと待てぇ!?何かこのキャラだけタッチが違うんだけど!?」

 

 

僕は思わず叫ぶ。だってこの人あれだよね!?鐘を鳴らすのはあの人だよねぇ!?

 

 

「厚子ちゃんは主人公が追っかけをやってるアイドルで、実は裏社会を仕切ってる厚子組の組長なんだ。酒と煙草が大好きだ」

 

「もう完全にア○コさんじゃないか!この人だけ世界観違うよね!絶対世紀末から来たよねぇ!?僕も鞘花ちゃんか百々さんが良い!」

 

「・・・でもその二人は難易度が高いぞ」

 

 

修兄の言葉に僕は返す。

 

 

「良いよ別に。やり甲斐ある方が楽しいじゃん!」

 

「攻略云々じゃなくて、まずヒロインを選択するには落ちてくるヒロインのぷよを消さないといけないんだ」

 

「何で行き成りぷ○ぷ○!?」

 

「これに中々二人が出てこなくてさ」

 

 

そう言ってる間に画面に厚子一色に染まる。

 

 

「これ中々どころか厚子だけが進撃してるよね!?二人共一匹残らずKU☆TI☆KUされてるよ!」

 

「あー、やっちゃった。これでお前のヒロインは厚子ちゃん√確定だ」

 

「それ以外無いでしょコレ!君達よく普通のヒロインに行けたねコレ!もうこの人落とせば良いんでしょ!?」

 

「いや、その前に・・・厚子に戦わせる国を設定しないといけない」

 

「何でス○ファイみたいになってんの!?しかもⅡだろコレ!」

 

 

手に包帯を巻いた厚子のバックにドット絵風の世界地図と幾つかの国が表示されていた。これ恋愛ゲームだよね。可笑しいのは僕なのかい?

 

 

『故郷へ帰れ。アンタにも家族おるやろ』

 

「しかも関西弁風にガ○ルとか止めて!僕一番好きなキャラ!」

 

「必殺技は《ゴライオウ・ディバウレン》だ。敵は大体消し飛ぶぞ」

 

「それ違う世界の呪文じゃねえか!」

 

 

思わずメタ発言をかましてしまった・・・。ダメだ。全然できる気がしない・・・。

 

 

「もうやってられるかこんなの!」

 

 

僕は画面を消して机に置く。なんだこのゲーム。クソゲーでしょ!

 

 

「お前は女の扱いが全然分かってないな」

 

「いきなりストリートでファイトする様なキャラをどうしろと?」

 

「それは何とかしろ。それよりセーブもしないで電源なんか切ったら彼女との関係性が悪化しちまうぞ」

 

 

そう言うと修兄が先程スパーキングされたゲーム機を取り出して画面を起動する。

 

 

「例えばさっき俺のが緊急停止しただろう?コレを再開するとだな」

 

『もう、また乱暴に電源切ったでしょ!?』

 

「おお!反応してる!」

 

『あれほど優しくしてって言ったのに・・・もう許さないんだから!』

 

----彼女の態度がちょっぴり冷たくなってしまいました。

 

「この子プンプンしてるよ!」

 

「ゴメンな。お願い、許してくれよ♡」

 

 

修兄が突然画面に話し掛ける。どうやらボイス対応もしてる様だ。

 

 

『許してほしい?じゃあ・・・10回キスしてよ』

 

「なっ!?」

 

「ごめんねごめんねごめんね・・・」

 

 

そう言って修兄は画面に謝りながらキスの雨を降らせる。正直、ドン引きだ・・・。え、僕も厚子にアレやるの?

 

 

『えへへ。修君大好き♡』

 

「俺もだよ、鞘花ちゃん♡」

 

 

コミュニケーションを終えると、修兄は僕をドヤ顔で見る。何か腹立つから止めろソレ。顔面に風使い叩き込むぞ。

 

 

「見たか愛チョリスの機能性を。彼女達は本当に画面の中に生きているのさ」

 

「驚いたよ。ゲーム機の機能性と修兄の羞恥心の無さにね」

 

「意地張ってないで早く彼女に謝って関係を修復して来いよ」

 

「別に良いって。僕の彼女ア○コだし」

 

「攻略していけばヒロインはお前の好みに合わせて変わって行くぞ。頑張れば厚子はア○コからセ○ラ・マス位に化けるぞ」

 

「マジで!?それもう整形だよ!」

 

 

憂鬱な気持ちになりながらも僕はゲームを再び起動した。其処には後ろを向いた厚子が項垂れていた。

 

 

『急に乱暴に電源切ってからにアンタは・・・』

 

「本当に怒って外方向いてる。凄いなコレ」

 

『アンタの所為で・・・アンタの所為で・・・』

 

----あの鐘が壊れてしまいました。

 

『鐘が壊れたやないかあああああああああ!』

 

「関係に亀裂どころか鐘に罅入ったああああああああ!?」

 

 

弁償どころじゃ無いんですけど!?曲ができなくなるレベルだよ!壊れかけのラジオの方が可愛げあるわ!

 

 

「どうやら乱暴に切りすぎたみたいだな。取り敢えず謝れ」

 

「いやいやいや、謝るどころの騒ぎじゃ無いでしょコレ。有名曲潰しちゃったよ僕!」

 

『許してほしい?』

 

「す、すいません!許してください!」

 

『じゃあ・・・あの頃はを100回歌えやオラァ!』

 

「違ああああああああう!?」

 

 

僕は思わず画面を閉じる。これ以上は見てられなかった。

 

 

「何か僕の愛チョリスだけ違う!僕のだけ殺意の波動に目覚めてるよ!」

 

「あの鐘が壊れたんだ。落ち着くまで暫く間を置いた方が良い」

 

「リアルタイム対応だよねコレ!?絶対数十年待つレベルだよコレ!」

 

「まあ、兎に角今教えた要領でア○コちゃんを攻略しておけ。できるだけ理想の彼女に育て上げるんだ」

 

「もういいでしょコレ。これだけやれば遥との会話の一つや二つ・・・」

 

 

僕の言葉に修兄は動きを止めて僕を睨む。その目にはこの場には似合わない王者の風格が目覚めつつあった。

 

 

「お前、本当にそれで遥が元に戻ると思っていたのか?」

 

 

そう言って修兄はポケットから一枚の髪を出す。其処には愛チョリスのヒロイン達が写っており、こう書かれていた。

 

 

「《俺の嫁天下一武闘会》・・・?」

 

「お前にはこの大会に出てもらう」

 

「こ、これは・・・」

 

「全国の愛チョリスプレイヤーが集い、誰の彼女が最強かを決定する大会だ。この大会で遥を倒せ。でなければアイツが元に戻る術は無い。打ち砕くんだ。アイツの中の虚妄を・・・お前の虚妄で!」

 

 

いや無理だろコレ!?

 

 

刹那サイド終了

 

 

 



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第12話

~櫻田家の掟~


修「ほれ、頼まれてた豆腐。買ってきたぞ」

刹那「ありがとう。~♪あっ・・・」

修「どした?」

刹那「修兄!ウチでは豆腐って言ったら絹漉でしょ!?」つ木綿豆腐


刹那サイド

 

 

あれから僕はひたすらにゲームに没頭した。時間が開けばゲームを起動し、厚子を攻略するため、頑張った。お陰で厚子は竜巻旋風脚を使えるようになった・・・って格ゲーじゃんコレ!?

 

 

「落ち着きなさい刹那。これは恋愛ゲームよ。その√が特殊なだけなの」

 

「・・・ハァ・・・」

 

 

リヴェータに励まされながら机にうつ伏せになる。プレイ中に見つかり、事情を話した所、色々手伝ってくれた。女子とのデートスポットやプレゼントの選び方など、兎に角色々教わった。そして遂に俺の嫁天下一武道会の日が来てしまった・・・。僕とリヴェータは修兄が手配した車に乗せられ、会場に向かう。大会の緊張よりも僕とリヴェータはある事が気になっていた。それは・・・

 

 

「・・・何やコッチ見て」

 

 

何か厚子が画面の外に出てる様にに見えるんですけど!?

 

 

「・・・ナニコレ」

 

「私が聞きたいわよ。何で画面の外にいるのよアレ」

 

「お前らも見える様になったか」

 

 

修兄の言葉に僕とリヴェータは視線を向ける。すると、修兄の隣には鞘花が何故か具現化して座っていた。

 

 

「ひっ!?こっちも!」

 

「何、この子達が見えないと大会出場すら無理だぞ」

 

「いらないよそんな参加資格。これ終わったら僕達戻れるかな・・・」

 

「ちょっと怖い事言わないで」

 

 

僕とリヴェータが絶望的な状況に立たされている中、修兄は余裕そうにお茶の入ったペットボトルを飲む。そして次の瞬間、手を滑らせてペットボトルは隣の鞘花の元へ・・・

 

 

「せ、セーフ・・・」

 

 

行く前に何とか僕の上着を滑り込ませて濡れない様に出来た。上着とペットボトルを回収して椅子に座る。他の人から見ればどんだけ椅子を濡らしたくなかったんだよって思われるんだろうなこの状況。(*厚子達は刹那やプレイヤーにしか見えない)

 

 

「あ、あの・・・ありがとう」

 

「別に良いですよ。濡れませんでした?」

 

「はい。お陰さまで水滴一つ付きませんでした」

 

「そうですか。良かった」

 

 

普通の人に見えるし何か話し掛けられるから思わず何時も通りに受け答えしてしまう。相手が濡れなかった事に僕は安堵し、つい笑みを浮かべてしまった。

 

 

「はうっ♡」

 

 

----鞘花の刹那に対する愛情度が100%になりました!

 

 

「・・・はい?」

 

「ファッ!?」

 

 

鞘花の変な声と同時にそんな音声がゲーム機から鳴った。更に追加で音声と共に画面に何かが浮かび上がる。

 

 

----隠しモードハーレム√が解放されました!沢山彼女を増やしちゃおう!

 

 

「・・・ナニコレ」

 

「バーチャルでも平常運転なのこの子は・・・」

 

 

突然の新モードに惚けていると、修兄が僕の足にしがみついて泣きべそをかいていた。うわ、見たくなかった。

 

 

「俺の鞘花ちゃん・・・返してくれよぉ!」

 

「いやいやいや、僕に言われても何が何だか・・・」

 

「お、俺の鞘kゲブラッ!?」

 

「えぇっ!?」

 

 

泣き喚く修兄を鞘花が蹴飛ばした。その顔には呆れの表情が浮かんでいた。

 

 

「もう、止めてくれないかな。櫻田君」

 

「さ、櫻田・・・」

 

「ずっと我慢してきたけどもうウンザリなの。君とは一緒にいられない」

 

 

な、何か急に別れ話になったんだけど。コレって僕の所為?このシステム起動させちゃった所為なの?

 

 

「君、毎日私の部屋から下着盗んでたよね?」

 

「おい、バーチャルの世界だからって何やってんだバカ兄」

 

「だ、だって彼女のパンツ欲しいじゃないか・・・」

 

「佐藤さんに頼みなよ・・・」

 

「絶対嫌がられるからやだ」

 

「誰だって嫌がるよ」

 

 

前言撤回。全てコイツの所為だった。この人の変態性を理解しておくべきだった。マジで一回破局しろ本当に。ゲームのキャラとはいえ不憫だなぁ。この鞘花。修兄の彼女だった筈の人は怒りを吐き出し続ける。

 

 

「それに何より一番許せないのはお手洗いの後に手を吹かないでプレイする事よ!」

 

「「うわぁ・・・」」

 

「最低やなワレ」

 

 

僕とリヴェータのドン引きと一緒に厚子の冷たい一言が飛ぶ。修兄はその場に蹲ってまた泣き始めた。鞘花は修兄をまた蹴飛ばして僕の足元に跪く。

 

 

「やっと見つけました・・・私のご主人様!」

 

「ご、ご主人様?」

 

「知りませんでした?鞘花はドMキャラと言う隠し設定があるんですよ?」

 

「知りたくなかったよそんな裏設定。て言うかコレ全年齢用だよね?」

 

 

突然の新事実に僕は頭が痛くなって来た。そんなこんなで会場についてしまった。場所は近くの総合体育館。中に入ると中々の人数が集まっていた。エントリーを済ませ、椅子に座って待機する。さっきから皆の視線が痛い。変装してるから大丈夫だと思うんだけど・・・。

 

 

「・・・三人も女侍らせてたら見られるわよ」

 

「あっ・・・」

 

 

二人ほど具現化してたの忘れてた!?只の浮気野郎にしか見えないよコレ!

 

 

「ナニコレ辛い・・・」

 

「我慢なさい。遥君を助ける為でしょ?」

 

 

暫くすると、会場が暗くなってステージに光が集中する。そこには司会者の父さんが立っていた・・・って!?

 

 

「なにやってんだこのクソ親父!」

 

「ちょっまっゴッホ!?」

 

 

懐に潜り込んでデンプシーロールを叩き込む。何度も何度も何度もパンチを叩き込む。アンタも何嵌ってんのさ仕事しろ!

 

 

「ちょっ!君誰だい行きnひっ」

 

「黙れ。この事は櫻田 五月に報告する」

 

「な、何で五月さんの名前を・・・」

 

「息子の変装くらい気付け馬鹿親父」

 

 

そう吐き捨てて僕はステージを降りる。周りはポカンとしているが、僕は気にせず人に紛れる。父さんはフラフラと立ち上がる。

 

 

「あ、あと適当によろしく。医務室行って来るから」

 

 

そう言って体を引きずりながらステージから姿を消した。僕は父の威厳の無さに涙が止まらなかった。あ、修兄も父さんの事見て落ち込んでる。真面目な時は真面目なんだけどな・・・。

 

 

「え~。国王様から変わりまして司会を務めます・・・」

 

 

そう言って別の人が司会を始めた。そして大会のルールが説明される。

 

 

「この大会は三人それぞれの√のチームに分かれてもらい、様々なシチュエーションの中一番ラブラブだった者を一人ずつ出し、決勝を競ってもらいます!」

 

 

そんなんで良いのかこのゲーム。

 

 

「チーム分けですが・・・厚子√は一人の為、不戦勝です」

 

「皆どんだけぷ○ぷ○上手いんだよ!?」

 

 

一人取り残された感凄くて思わず膝を抱えて座り込む。皆何かやってるけど何かもういーや・・・アハハ。

 

 

「・・・馬鹿やなコイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「おい、もう決勝戦やで」

 

「・・・へっ?」

 

「やっと戻ったかこのガキ」

 

 

気が付くと厚子に担がれてステージに立っていた。足元には鞘花も四つん這いで付いて来ていた。

 

 

「さあ!決勝戦に残った三組はこの二人です!」

 

 

ん?二人?

 

 

「一人目は百々ちゃん組代表は櫻田 遥様です!」

 

「頑張ろうね、百々さん」

 

「うん。頑張ろう!」

 

 

うわぁ。やっぱこうなっちゃうのか・・・。あ、あれ?鞘花組代表は?

 

 

「鞘花組代表は隠しモードと裏設定を判明させた厚子組《如月 夏瀬》に2組とも代表してもらいます」

 

「・・・マジか」

 

 

え、隠しモードって僕だけだったの?僕よりやり込んでるのに・・・。て言うか2組同時って決着付かない気が・・・。取り敢えず司会に従おう。

 

 

「先ずは此方の機械にお使いの端末をセットしてください」

 

 

言われた通り機械にゲーム機をセットする。修兄のゲーム機も借りた。すると機械が作動し、周りの景色が一変した。体育館の中だった筈の其処は水族館に変わっていた。コレって最近テレビでやってた仮想空間を作る装置だっけ。

 

 

「決勝戦はこの水族館でデートをしてもらい、一番ときめいた者が優勝です!」

 

「・・・負けないよ、刹那兄」

 

「やっぱり気づいてたか」

 

 

僕は変装を止める。そもそも名前だって前世の苗字と名前を弄っただけだし。

 

 

「僕は遥、君を止める」

 

「やってみなよ。僕達の愛の前には無力だけどね」

 

 

こうして決勝戦の幕が開けたのだった・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

 



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第13話

刹那「そう云えば遥に似た人が主役のアニメ見つけたよ」

遥「へえ」

刹那「確かコンクリート・r」

遥「それ以上はいけない」


三人称サイド

 

 

『それでは、決勝戦の開始です!』

 

 

司会の無駄に元気な声でこのくだらない大会の決勝が始まった。まずは遥&百々ペアが仮想空間の水族館を歩く。

 

 

「うわ~♪綺麗」

 

「そうだね・・・本当に綺麗だ」

 

 

水槽を見る百々を横から遥は見つめる。その頬は赤く染まっていた。

 

 

『遥様が熱い視線を送るが百々ちゃん気付かない!』

 

 

このままだと当分進展は無さそうだと思った司会は刹那達へと目線を向ける。

 

 

「おお、凄い!二人共、こっちこっち!」

 

「何一人で盛り上がっとんねん」

 

「はしゃぐ刹那様も素敵・・・」

 

 

刹那がこれまでに無い程目を輝かせ、水槽を見ながら走る。時々転んでもすぐに立ち上がって目を逸らす事は無かった。

 

 

「と言うか何でそんなはしゃいどんねん」

 

「いやぁ、僕水族館来た事無いから」

 

「お父様に頼めば良いじゃないですか」

 

「あまり家族に迷惑とか掛けたく無かったし・・・」

 

『おっとー!?刹那様は水族館に行った事が無いって本当ですか、特別審査員の修様』

 

『あ、そう云えば無いっすね。アイツ何処かに行きたいって言った事すらない気が・・・』

 

 

修の言葉に会場が一気に静まり返る。そんな中、リヴェータだけが冷静に携帯端末でスケジュールと水族館のチケットの予約をしていた事を誰も知らない。そんなギャラリーをお構いなしに刹那達は水槽を見る。

 

 

「アレ何や?」

 

「確かイワシの仲間だよ」

 

「あっちは何でしょうか?」

 

「向こうのは鯖の仲間だね。その隣に居るのはハリセンボン」

 

「何でそんな詳しいねん」

 

「魚を見るのは好きだから図鑑とか動画とかいっぱい見たんだよ」

 

「もう一人で行って来いや」

 

 

厚子の呆れ声に刹那はポリポリと頬を掻いて恥ずかしそうに言った。

 

 

「その・・・最初は誰かと一緒に行きたいな~何て夢持ってたから・・・」

 

「・・・ほれ」

 

「ん?ナニコレ?」

 

「手や手。デートなんやから手ぇ位繋げや」

 

「うん!えへへ・・・」

 

「っ!反則やろ・・・」

 

「?」

 

『何かもう刹那様がヒロインみたいになってんじゃんコレ!?』

 

 

司会が思わずツッコミを入れる。その隣で修は冷静に語り始めた。

 

 

『刹那は昔から何かとヒロイン体質だった。起きない家族を起こしたり弁当作ってくれたり色々世話焼いてくれたり』

 

『それもう幼馴染ポジじゃないですか・・・』

 

『攻略し終えて結婚後の幼馴染だなアイツは』

 

 

もう只の刹那談義となった会場に変化が現れる。遥が動いたのだ。二人は水族館内のフードコートに座っていた。この仮想空間完成率が高い。

 

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん・・・」

 

『遥様ぎこちなくあーんをしている!コレは初々しい!』

 

「美味しい?」

 

「うん。美味しいよ」

 

「じゃあ、私にも頂戴?」

 

「うん、あーん」

 

 

楽しそうにする二人に対し、休憩で同じ場所に居た刹那達も席に座っていた。だが、鞘花だけが地べたに四つん這いになって犬用の餌皿を傍に置いていた。

 

 

「あの・・・座らないの?」

 

「はい、私は此処で十分でございます」

 

「どんなデートだよコレ!初の水族館で何でSMプレイ!?」

 

「騒ぐなや。取り敢えず生!」

 

「アンタも何酒盛りしようとしてんの!?」

 

 

刹那の胃からキリキリと音が鳴る。この彼女達は荷が重いと思いながら溜息を吐く。

 

 

「全く・・・すみません、ラーメン5つ大盛りで」

 

「お前も食い過ぎや」

 

「(´・ω・`)」

 

 

厚子に拳骨され、刹那は落ち込む。どう見ても喧嘩してる様にしか見えないが、会場の全員は不思議と合ってる様に感じていた。その様子を見ていた遥は内心焦っていた。何故あんなデートをする兄に人々の視線が行くのか、と。その後遥達は席を立ち、水族館を回り切る。そして水族館の出口で遥は百々の両肩に手を置いた。

 

 

「も、百々さん!キスしよう・・・」

 

「遥君・・・」

 

「これしか・・・これしか刹那兄に勝つしか」

 

「遥君!」

 

「も、百々さん?」

 

 

ブツブツと呟く遥に喝を入れる様に叫び我に戻らせる。そして悲しそうな瞳で百々は話し始めた。

 

 

「遥君はお兄さんを負かす為にデートをしてたの?」

 

「ち、違うよ。僕は百々さんと一緒に居たくて・・・」

 

「なら何で私じゃなくてあの人ばかり見るの?」

 

「そ、それh「何で・・・何で」百々さん?」

 

「遥君が好きなのは私なのに私なのに私なのに何で何で何で何で何で何で」

 

 

----隠しモードヤンデレ√が解放されました!

 

 

「ファッ!?」

 

「遥君・・・私だけを見て」

 

「も、百々さん!?ま、待ってyアッーーーー!」

 

 

物陰に連れて行かれた遥は叫び声を上げる。その後、遥が出てくる事は無く、百々の荒い息と血の跡を残して遥の端末に《BAD END》と文字が浮かんでいた。そんな事も露知らず、刹那達も水族館を出た所だった。

 

 

「あ~、楽しかった!」

 

「結局一人で楽しんだだけやないか」

 

「私は放置プレイですか刹那様・・・」

 

「ごめんごめん。でも何だかんだ言って二人共付いて来てくれたよね」

 

「ま、まあお前の彼女やからな。でも鐘の件忘れた訳やないんやからな!」

 

「刹那様の為なら土の中雲の中刹那様のスカートの中!」

 

「スカート履かないから」

 

 

刹那の言葉に厚子は目を逸らしながら答え、鞘花もドM全快だった。その二人を刹那はとびきりの笑顔で言った。

 

 

「二人共、大好きだよ」

 

「「っ!」」

 

 

その瞬間、二人の好感度メーターが一気に跳ね上がった。刹那の端末には好感度カンストの文字が表示されていた。その瞬間、この大会の決着が付いた事を告げる音が鳴った。

 

 

『優勝者は、刹那様だああああああ!』

 

 

司会の声に会場中の人が歓声を上げる。それを見て、終わったと思った刹那にある変化が起きた。目の前の二人が段々薄れて来ているのだ。

 

 

「ど、どうしたのさ」

 

「もう私達の役目は終わったんや・・・」

 

「だからさよならです刹那様」

 

「な、何でさ!またプレイするからさ!」

 

 

この数日感、共に過ごしてきた彼女と転がり込んで来たドMに嫌なイメージが湧いた刹那は震えながら聞く。二人は何も言わずに首を振った。

 

 

「良かったやないか。コレで弟も元通りや」

 

「でも、二人まで消える意味が分からないよ!」

 

「元々こう云うシステムなんやこのゲームは」

 

 

厚子の言葉に刹那は固まる。

 

 

「このゲーム実は容量に問題あってな。進み過ぎるとデータが消えるんや」

 

「容量の多さに耐え切れなくなるんです」

 

「そんな・・・じゃあ僕は君達を・・・」

 

「お前が悩む事やない。遅かれ早かれ決まってた事や」

 

「そんなの・・・そんなのって・・・!」

 

 

言い合っている間にも二人はどんどん消えて行く。涙ぐむ刹那に厚子は笑顔で言った。

 

 

「最後に好きって言ってもらえて嬉しかったで、刹那」

 

 

そう言って厚子は消え、続いて鞘花も消えていった。刹那の端末には《データが消えました》の文字が映し出されていた。その日、一人の少年は一つ取り戻し、二つを失った・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

あれから数日が過ぎた。遥も元に戻り、家族も安心していた。かと言う僕も普通に戻っていたりする。何だかんだ言って結局はゲームだったし、流石にドMは勘弁してもらいたい・・・。支度を済ませ、部屋を出ようとした瞬間、反射的にゲームの画面を開いた。

 

 

「あ・・・」

 

 

あれ以来充電すらせずにいたゲーム機は当然の如く何も映さない。そんな黒一色の画面に僕は不意に語りかけた。

 

 

「・・・行って来ます」

 

 

ゲーム機を置いて僕は登校する。だから僕はその時気づかなかった。何も映る筈の無い画面に二人の女性が微笑んでいた事を・・・。

 

 

『『行ってらっしゃい』』

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

~某国[研究施設内]~

 

 

とある国の研究施設。そこは何年も前に放棄された研究所で、誰も居ない筈の場所。そこにある筈の無い人影があった。人影は古びた椅子に座ってくつくつと笑っている。

 

 

「さあ、時は来た。今こそ俺があの国の・・・いや、この世界の王になる!」

 

 

そう言った男の傍らには生命維持装置のポッドが置かれており、その中では特殊な液体に浸かっている女性が眠っていた。その女性は綺麗な”白い髪”をしていた・・・。

 

 

「その前に挨拶と行こうか。なぁ、”転生者”の諸君」

 

 

そう言う男の目の前に一人、また一人と人影が集まり始める。それを見て男は更に笑顔を強めた。その表情には狂気が滲み出ていた。

 

 

「そうだ・・・オリ主はこの俺なんだ」

 

 

フフフ・・・と一人楽しげに笑う男の声が響いていた・・・。

 

 

三人称サイド終了




大会終了後~SMART BRAIN社長室~

PM18:00


リヴェ「刹那、一つ良いかしら?」

刹那「ん?」

リヴェ「私刹那の彼女よね?」

刹那「うん。僕の大切な人だよ」

リヴェ「じゃあ、何故厚子達の時あんな笑顔したのよ」

刹那「いや、無意識って言うか何て言うか・・・」

リヴェ「まあ、貴方がそんな性格なのは分かっていたけれど・・・やっぱり我慢ならないわ」

刹那「な、何で服脱いでるの?って僕を押し倒すな!」

リヴェ「大丈夫よ。天井のシミ数えてれば終わるから」

刹那「ナニが終わるのさ!?ちょっと待っtアッーーーー!」


約12時間後・・・。


刹那「えっと・・・もうダウン?」

リヴェ「しゅ、しゅごひ・・・♡」

刹那「あ、もう朝だ・・・」


この日刹那を目覚めさせてしまった事をリヴェータは後悔する・・・。


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第14話

~櫻田家の掟~


修「ほれ、買ってきたぞ」

刹「ありがと。~♪あっ!」

修「どうした?」

刹「修兄!家でトイレットペーパーって言ったらダブルの花の香りでしょ!?」


刹那サイド

 

 

「遊園地?」

 

 

へ?となる僕の前で光がチケットを突きつけた。

 

 

「友達から貰ったんだけど、行こうよ!」

 

「僕は全然構わないけど・・・」

 

「本当!?じゃあ、今週の土曜日に一緒に行こう!」

 

「・・・うん、予定も無いから良いよ」

 

 

端末で会社のスケジュールを確認して大丈夫な事を示す。遊園地か・・・昔皆に連れてかれて以来だな・・・。少しワクワクしながら、休日までの時間が過ぎて行った。

 

 

~土曜日[駅前]~

 

 

快晴のお出かけ日和となった土曜日。何故か僕は光に頼まれて駅前で待ち合わせする事となった。約束の30分前か・・・早過ぎたかな。そう思いながら柱に寄り掛かって待っていると、変装して尚且能力で大人になった光が歩いて来た。僕も認識阻害の能力で関係者以外は一般人にしか見えていない。

 

 

「待たせちゃってごめんね」

 

「良いよ。そんなに待ってないし」

 

 

そう僕が返すと、光が小さくガッツポーズをする。・・・どうしたんだろう?

 

 

「まあ、取り敢えず駅に入ろうよ」

 

「うん。それにしても、せっちゃんとは久しぶりに出掛けるね」

 

「そうだね。何年ぶりかな?」

 

「今日は数年分取り返すつもりで遊ぼ。えいっ」

 

「おっと。どうしたのさ急に」

 

「折角のデートなんだし楽しもうかなって」

 

 

腕を組んできた光はとても楽しそうだった。思わず僕も笑顔になり、そのままホームへと向かった・・・。

 

 

~遊園地前~

 

 

「早く行こ、せっちゃん」

 

「待ってよ光。遊園地は別に逃げないってば」

 

 

相変わらず光はテンション高いな。疲れないのかな、と考えつつ光を追って遊園地へと入る。さてと、今日は楽しみますか!

 

 

「で、最初は何に乗る?」

 

「えっと・・・アレが良いな!」

 

 

光が指差した所にはメリーゴーランドがあった。・・・高校生でメリーゴーランドか。手を引かれるままに連れて来られたは良いが、何故同じ馬に乗る必要があるんだろうか・・・。一つの馬に光を前に、僕が後ろに乗った状態だ。光は王子様とお姫様!とはしゃいでいるが、僕にはよく分からない。まあ、光が楽しそうだから良いかな。メリーゴーランドを乗った次に向かったのは定番のジェットコースターだ。何でもこのジェットコースターはこの国で最も高さがあり、スピードが出るらしい。いよいよ僕達の番になり、ゆっくりと上へと上がっていく。おお、確かに高い。

 

 

「凄いね光。・・・光」

 

「此処まで高いとは思わなかった・・・」

 

「えっ」

 

 

次の言葉を出そうとした瞬間、ジェットコースターが一気に降りだした。

 

 

「おおおおおおおおお!楽しいねコレええええええ!」

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

「アッハハハハハハハハハハハ!」

 

「にゃああああああああああああああっ!?」

 

 

能力で飛ぶ時とはまた違った浮遊感に楽しさを隠せなかった。やがてジェットコースターから降りた僕はベンチで光を膝枕していた。膝では光がグロッキーな状態になっている。

 

 

「大丈夫?」

 

「あ、あともうちょっとだけ待って・・・」

 

「はいはい」

 

 

光の頭を撫でながら周りを見る。・・・さっきから視線を感じる。これは僕じゃなくて光に向いている?変装を見抜いた一般人の視線じゃない。僅かに敵意がにじみ出ている。僕は少し警戒していると、目の前を風船を配っているダンディ君の着ぐるみが通り掛かった。

 

 

「あ・・・ダンディ君だ~・・・」

 

「無理しないの。あ、気にしないでくださいね」

 

「・・・」

 

 

ダンディ君は無言でポケットから出店で売ってそうなブレスレットを取り出すと光の腕に嵌めた。記念にと言う事だろうか。外国みたいに勝手にミサンガ付けられて金取られるみたいな事態はゴメンだし。顔を青くしながら喜ぶという器用な行為をする光を暫く見つめてからダンディ君は手を振って子供達の方へと向かっていった。

 

 

「そう云えば視線が・・・まさかね」

 

「どしたの~・・・?」

 

「ん。何でも無いよ」

 

「そっかぁ・・・うん、復活!」

 

 

光はようやく起き上がり、僕達は歩き出した。

 

 

「何に乗る?」

 

「乗るんじゃなくて・・・アレ!」

 

 

そう言って光が指差したのはお化け屋敷だった。中へ入ると、中々にリアルなセットだった。僕はお化け屋敷が苦手だ。別にお化けは怖くない。ただ、人形や血の塗料から発される独特な匂いが薄暗い部屋でムアッとするのが嫌なのだ。あの匂いだけでも何とかならないだろうか・・・。そう思いながら進むと目の前に井戸があった。あ、コレ出てくるパターンだな。案の定貞子的な人が出て来た。

 

 

「う~ら~め~し~や~」

 

「ひっ!?せ、せっちゃん・・・」

 

「大丈夫だから」

 

 

必死に腕にしがみつく光を慰めながら進む。因みに今の幽霊さんこのお化け屋敷にある食事処の看板を最後に見せてきた。うらめしやって裏飯屋って事かい。こんな所でステマするなよ・・・。その後はずっとしがみついて目を閉じている光を誘導しながら進む。流石に障子を突き破って江○2:50分が出て来た時は驚いた。光にセクハラしようとしたから思わず当身をしてしまったが平気だろうか・・・?暫くして出口を抜けた僕達は幽霊さんの宣伝していた食事処へ行った。何て言うか・・・普通のレストランだった。

 

 

「てっきり妖怪が経営してると思ったけど・・・」

 

「や、止めてよ!怖くて行けないよそんなの!」

 

「えぇ・・・」

 

 

ビビりすぎでしょこの子。そんな話をしながら運ばれてきた食事を頂く。僕はオムライスで、光はナポリタンだ。食べていると、光が物欲しそうな目で僕のオムライスを見ていた。

 

 

「・・・食べる?」

 

「うん!あ~ん」

 

「自分で取りなよ・・・仕方ない。はい、あーん」

 

「はむっ・・・おいひぃ」

 

「それは良かった」

 

 

すると今度は光がナポリタンを巻いたフォークを僕に向けてくる。僕にやれと?諦めて僕は光の差し出したフォークにかぶりつく。うん、美味しい。至って普通のナポリタンだ。

 

 

「あ、そう云えば光。歴史のテスト悪かったんだって?」

 

「ぎくっ。な、何の事やら・・・」

 

「全く・・・」

 

 

そう云えば光はテスト隠そうとする時って基本僕を何処かに連れて行こうとしてるな・・・。まあ、今回は偶々重なったんだろうけど。実はこの世界の歴史は前世と大幅に違う。まず、前世と共通の歴史と名前の国が日本だけなのだ。大陸の形は変わらないのだが、国や海域の名前が何もかも違う。流石に教科書にA国と書いてあった時は驚いた。何故名前が真面にある国とそうでない国があるんだ?数年前にリヴェータに奪った特典の説明をした時もそれでかなり苦労した。前世みたいな戦争が無い日本って存在したんだなぁ・・・。その代わりもっと大きい戦争があったみたいだけど。

 

 

「・・・行きたかったな、ローマ」

 

「ローマって何処?」

 

「ん?何でも無いよ」

 

 

大人になったらヨーロッパに行きたいって思ってたのに・・・この世界ではその辺りは同盟国の領地になっている。そんな事を考えながら食事を終えた僕達は店を出て他のアトラクションを探しに行った。その後も色んなアトラクションに乗り、制覇する事が出来た。空は赤く染まり、閉園10分前の音楽が鳴った。帰ろうとすると、光に止められる。

 

 

「ちょっとトイレ行って来るから入口で待ってて」

 

「分かったよ。早くしてね」

 

「うん!」

 

 

そう言って光は走っていった。僕はゲートの前に移動して光を待つ。だが閉園時間を過ぎても光は戻って来なかった。そして僕の頭の中に最悪なイメージが湧いた。僕は遊園地の中へと再び駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光ー!何処に居るの!?」

 

 

僕の叫び声に答える者は居ない。可笑しすぎる。従業員すら見当たらない。そう思っていると、殺気を感じてその場を飛び退く。次の瞬間、僕の居た場所へ何本もの矢が突き刺さった。飛んで来た上を見上げると、観覧車の上に気を失った光を抱えたダンディ君が弓を向けていた。

 

 

「光!」

 

「おっと。動かない方が身の為だよ彼氏君☆」

 

 

どうやら相手は僕の認識阻害に掛かっている様だ。ダンディ君は僕に向かって言葉を続ける。

 

 

「この娘を矢で貫かれたく無かったら櫻田刹那を呼んできなよ」

 

「・・・分かった」

 

 

そう言いながらコッソリと能力を発動した次の瞬間、光はダンディ君の腕の中から消えて僕の前に瞬間移動した。その光景を見て着ぐるみの上から見ても分かる位にダンディ君は狼狽していた。

 

 

「な、何だ今の!?」

 

「・・・《瞬間移動・Ⅱ(トランスポーター・セカンドシフト)》」

 

 

この能力は修兄の能力を強化した物で、自分の半径1km以内の視覚に一瞬でも入った何かを瞬間移動させる事が可能になる。しかもこの能力は使えば使う程効果の範囲も広がって行く優れ物である。

 

 

「光は返してもらうよ」

 

「お、お前まさかSMART BRAINのメンバーか!?」

 

「メンバーっていうか・・・社長だね」

 

 

認識阻害を解除してダンディ君を睨み付ける。ダンディ君は唖然としてからクククと笑い始めた。そして急に着ぐるみをパン生地の様に捏ねだした。すると着ぐるみの色が血色の良い人肌に変わる。そしてそれは一人の人間となった。

 

 

「俺は転生者の《物部 変化(もののべ へんげ)》。能力は体を捏ねる事であらゆる無機質に変身できる《劣化変化(メタモル・ジャンク)》だ!」

 

「・・・生き物はダメってことか。正しく劣化だね」

 

「うるせえ!俺はお前が許せねえんだよ!」

 

「僕と君って面識あったっけ?」

 

 

少なくとも無かった気がするんだけど・・・。そう思っていると物部は叫んだ。

 

 

「本当なら俺が主人公の筈なんだ!」

 

「・・・はい?」

 

「俺より先に主人公の家系に転生しやがって・・・ふざけんな!」

 

「いやいやいや。だってダーツで決まっちゃったんだもん」

 

 

僕だってどんな所なんて知らなかったしそもそも櫻田家が主役なのこの世界!?ま、まあ確かに王族であんな家族構成中々無いもんね・・・。

 

 

「くそっ!栞を俺好みに育てようと思ったのによ・・・」

 

「あ゛?」

 

 

プチンッ!

 

 

「光だって能力で色んなプレイ出来るし」

 

「あ゛あ゛?」

 

 

ブチブチッ!

 

 

「何より五月が一番エロいよな!」

 

「その口閉じろ雑種!」

 

 

ブチギレた僕は王の財宝を発動して剣や槍を飛ばす。物部は自身を巨大な剣に変化させて、空中に浮いた状態で薙ぎ払った。何て出鱈目な能力だ。自分で浮かべるとかチートだよ。

 

 

『危ねえな。まさか英雄王の力を使えるとは』

 

「お前らのお仲間から貰った能力さ。まあ、買い物にしか基本使わないけど」

 

『勿体ねえな。そんな力があればこの世界を支配できるのによ』

 

「興味ないね。それよりさっさと肉片になれよ雑種」

 

 

再び射出。またも弾かれた。思わず舌打ちが出る。すると光が目を覚ました。僕と物部を交互に見て、状況を理解すると顔を青くした。それもそうだろう。戦闘の中に居るのだから。

 

 

「光、君を家に転移させるから直ぐに父さん達に周辺の避難を頼んで」

 

「で、でもせっちゃんが!」

 

「僕は大丈夫。それに・・・此処から先を光が知る必要は無いから・・・」

 

「せっ・・・ちゃん?」

 

 

僕は光に触れて瞬間移動を発動させて家へと転移させた。そして物部を見上げる。

 

 

『カッコつけちゃってよ。お前は此処で死ぬんだぜ』

 

「残念ながら僕はそう簡単に死ねないんでね。殺したかったら本気で来い」

 

 

僕は王の財宝から一本の槍を取り出し、構える。その槍は血の様に紅く、異様な気配を纏っていた。僕は意識を集中させて物部を標的に捉えた。

 

 

『う、嘘だ!王の財宝の《宝具》は《真名開放》出来ない筈だ!』

 

「----その心臓、貰い受ける」

 

 

この槍の本当の力を発動させる為の詠唱を呟く。すると槍は更に紅く染まり、今にも敵を貫かんと震えだす。僕は体に力を込めて剣の形を取っている物部に向かって槍を投げた。その心臓を貫く英雄の槍の名を紡いで。

 

 

「《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》!」

 

『ぎゃぱっ!?』

 

 

僕の投げた槍は物部の心臓があった位置であろう部位を貫く。物部は元の体に戻って、左胸に大きな穴が空いた状態で観覧車から落下し、嫌な音を立てて地面へ叩きつけられた。そして僕の手には何時の間にか槍が戻って来ていた。それを王の財宝へ戻し、物部の亡骸を見つめる。転生者は基本殺す事にしていた。数年前に一度だけ転生者を見逃した事があった。だが数日後に人質を取ってこの国を滅茶苦茶にしようとしたどころか人質を殺そうとした時点で風使いで首から上を断頭した。

転生前にアテナに聞いた事がある。基本転生者同士は相容れない。もしそんな事があればそれは奇跡に等しい、と。確かに僕が今まで会った転生者は皆欲望のままに動いていた。それは僕も言えた事では無いが・・・。確かに相容れない訳だ。

風に乗って鼻に突く血の匂いとサイレンの音を聞きながら僕は自嘲気味に笑った・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

 



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第15話

刹那サイド

 

 

あれから僕は家へと帰り、父さんと話していた。なにせ《宝具》を真面にこの国で使った事なんて無いからね。当然その事を聞かれた。

 

 

「それで、アレは何なんだ?」

 

「言っても分からないと思うけど・・・」

 

「と言う事は昔襲ってきた人達の能力かい?」

 

「うん、でもあまり使いたく無いんだけどね」

 

 

僕は溜息を吐きながらテーブルに置かれていたお茶を飲む。正直僕も把握しきって居ない。そもそも宝具とは僕の前世の世界で嘗て名を轟かせた古今東西の英雄達の武器だ。そしてその名を言霊として紡ぎ、明かす事で本当の力を発揮する事が出来る。これを《真名開放》と言う。そして宝具にも色々あり、武器以外の物も例外としてある。例えば世界其の物を書き換える宝具や、武器ではなく拳だったり特殊な炎だったり等、数え切れない。流石に文明を破壊する剣とか王の財宝から出て来た時はヤバかった。基本使わない事をモットーとしている僕だが、転生者相手なら話は別だ。前に戦った異能を全て無効化する右手を持った転生者は恐ろしかった。まあ、普通に剣で細切れにしてから焼却したけど。様は通常の物理攻撃で行けば勝てる。宝具について思い出していると、ドアを開けて光が入って来た。

 

 

「せっちゃん・・・ごめんなさい」

 

「何で謝るの?」

 

「だ、だって私が捕まった所為でせっちゃんが・・・」

 

 

そう言って涙を流す光を僕は抱きしめて撫でた。全くこの子は・・・いらない所で責任感発動させるんだから・・・。

 

 

「謝るのは僕の方だよ。最後の最後で気を抜いてしまった僕の責任だ」

 

「そんな事無いよ・・・だってせっちゃんは私を助けてくれたよ。誰が何て言ってもせっちゃんは私を守ってくれた王子様だよ」

 

「そっか。うん・・・ありがとう」

 

 

僕は光を強く抱きしめて、自分の顔を見れない様にした。今の僕はみっともない表情をしているだろうから・・・。その日は光と一緒に寝る事となった。・・・これで終われば良かったんだけどな・・・。

 

 

 

 

 

~翌日[リビング]~

 

 

「刹那!その腕どうしたのよ!?」

 

 

次の日の朝、袖を捲って洗い物をしている時にかな姉が叫んだ。僕の腕は赤黒くうっ血していた。

 

 

「ああ・・・ちょっとヒリヒリすると思ったらコレか」

 

 

久しぶりに起こった感覚に懐かしい気持ちになった。宝具を使うと、次の日は大体筋肉痛か今の様な事になる。幾ら転生者だからと言ってあんな強力な物をデメリット無しに使える訳が無い。幸い僕は無駄に体が丈夫だからこの程度で済む。仮に修兄達の様な一般人が使ったら真名開放した瞬間、体が潰れるだろう。《突き穿つ死翔の槍》だってまだ軽い方だ。前に別の転生者に使った事がある森羅万象その全てを破壊する宝具を使った時は一週間意識不明の大重症だった。

 

 

「え、えっと万能薬!」

 

「ストップ!そんな事したらこの国破産するから!?」

 

「でも刹那が!」

 

「ああもう!コレくらい一日あれば治るし、慣れてるから良いって!」

 

「一日こんなにしてる気なの!?」

 

「平気だよ。僕は皆と違ってバケモノ並の体だから」

 

 

安心させる為に言ったのに、何かめっちゃ悲しそうな顔されたんですけど・・・。何時の間にはリビングのドアの影から修兄がこっちを見ていた。何泣かしたって顔してるのさ?僕何かした?

 

 

「お願いだから自分をバケモノなんて言わないでよ・・・」

 

「いやでも実際心臓貫かれたりしても生きてる訳だし、僕能力で十数回程度なら死んでも蘇生しちゃうんだよね」

 

「・・・」

 

 

僕の言葉にかな姉は何も言えなくなっていた。それは修兄も同じだ。それでも二人の表情は悲しそうなままだ。気まずくなった僕はさっさと片付けて学校へと向かった。

 

 

 

 

 

~学校[屋上]~

 

 

昼休みになり、リヴェータと屋上で昼食を摂りながら朝の事を話していた。

 

 

「全く皆心配しすぎだよ」

 

「そうでも無いわよ。家族や仲間の私達からすれば心臓が幾つあっても足りないわよ」

 

「でも何だかんだで生きてるじゃないか。次もああ、また生きてるんだろうなって程度の認識で良いじゃん」

 

「出来るワケ無いでしょう?貴方は自分の無茶が他人に心配を掛けると言う事を自覚しなさい」

 

「・・・やっぱそれが可笑しいよ」

 

「は・・・?」

 

 

僕の言葉にリヴェータがポカンとする。珍しい表情に少し笑いを堪えながら話す。

 

 

「だって僕は能力を創る事だってできるし、他人の能力を奪う事だって出来る。それに元からの身体能力だって高い方だ。そんな生きた兵器である僕に心配する時点でちょっと変じゃない?」

 

「そんな事しったら貴方のDNAがあるヨシュア達はどうなるのよ?」

 

「あの子達は望まずして力を手にしてしまったんだ。なら心配するのは当然さ。でも僕は自分の意思で、この状況に居る。謂わば自業自得さ。そんな僕に心配するのは良くないよ。無駄に疲れるだけさ」

 

「貴方はそこまで・・・!」

 

「むぎゅっ!?く、くるしぃ・・・」

 

 

突然リヴェータに抱きしめられる。本当に何で僕に此処までしてくれるんだろう。僕なんてただ壊していく事しか出来ないのに・・・。大丈夫だよ。次は誰もそんな思いしない様に徹底的に壊すから・・・。皆を守る為の僕の決意は更に固まる事となった・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

夕方のカフェテリアに二人の人物の影があった。内の一人はSMART BRAINの社長秘書《リヴェータ・イレ》。そして、もう一人の人物とは《櫻田 五月》であった。二人は定期的に刹那について色々情報交換をしていた。五月が提案した物であり、母親として刹那の普段を知りたいと言うものだった。そして今日刹那の言っていた事を聞き、絶望した様な表情で泣き出した。このカフェテリアは現在人払いされ、警護されているが、仮に一般人が居ればパニックになっていただろう。

 

 

「やっぱりあの子は・・・」

 

「はい。正直に言いますと、刹那は人としての感情の幾つかが欠けています」

 

「・・・やっぱりそうなのね」

 

「一番大きいのは自分に対する感情です。彼は自分をこの国を守る為の駒だと思っています」

 

 

リヴェータの言葉に五月は再び涙を溢れさせる。物心付いた頃から何処か達観した子だとは思っていたが此処まで自分を投げ出すとは思っていなかった。否、思いたく無かったのだ。

 

 

「あの子は小さい頃から難しい本を読んだり、あまり物を欲しがらなかったわ」

 

「そう云えば会社が出来たばかりの頃も自分の給料を私達に回してました」

 

 

二人は刹那の性格に頭を痛ませる。親である五月と恋人であるリヴェータならば尚更の事だ。リヴェータはいち早く立ち直り、話を続ける。

 

 

「その次に彼はとある存在に対して一切の躊躇がありません」

 

「とある存在・・・?」

 

「私の中で絶対の秘密でしたが、親である貴方にはどうしても知っていて欲しい事なんです」

 

 

そう言ってリヴェータは決意を決めた表情で一冊の本を五月の前に出す。

 

 

「これは数年前に任務があった国で見つけた人の記憶を見せる本です。私は訳あってこれで刹那の記憶を見てしまいました」

 

「これに・・・あの子の記憶が」

 

「この中に刹那が壊れてしまった全てがあります。何れ陛下にもお見せしたいと思っています。せめて貴方達は知っておいて欲しい」

 

 

リヴェータに促され、五月は恐る恐る本を開く。その瞬間、周りの風景が変わって二人はボロボロな施設の中に居た。

 

 

「此処は・・・孤児院?」

 

「あれを・・・」

 

 

看板に書いてある施設名を確認して、リヴェータに言われた場所を見ると、酒を浴びる様に飲んでいる大人と、その足元に転がって荒い息を吐いている傷だらけの子供が居た。まだ3、4歳と言った所だろう。その子供は白く、長い髪をしていた。そして髪に隠れていた目の色は、赤だった。五月は思わず走り出し、子供を庇う様に覆い被さろうとする。だが、幼い体を自分の腕はすり抜けていった。そして子供は大人に抱え上げられ、その幼い瞳に酒用のアイスピックが突き刺され、ライターで傷口を焼かれた。その光景を五月はハイライトの無い目で見つめ、リヴェータは血が出るほどに拳を握っていた。

その後もその子供の悲惨な人生を見せつけられた。ありもしない罪を着せられ、世界から否定され、そして唐突にその苦痛とも言える人生を終え、別の世界で新たな人生を歩みだした。そして唐突に転生者と名乗る者達に襲撃され、家族や周りの人達を狙われた”子供”が段々と壊れていく様を見させられ、気が付けば二人は現実へと帰還していた。

 

 

「・・・うぅっ」

 

「・・・」

 

 

二人の中で記憶と共にその悪しき存在が浮かび上がる。リヴェータは五月に言う。

 

 

「お願いです。刹那を見捨てないでください。それこそ彼が本当に壊れてしまう」

 

「そんな事しないわ。あの子は私の息子ですもの。絶対に裏切らないわ」

 

 

五月の目には確かな決意が宿っており、二人の内で《刹那更生計画》が立てられて行った・・・。

 

 

三人称サイド

 

 




次回は番外編です。
内容は刹那が此処まで壊れた経緯を詳しく掘り下げて行く内容です。
閲覧ありがとうございます。


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番外編 《竜姫様とクリスマス》

皆さん、クリスマスですよクリスマス(半ギレ
今日も画面の前で一人小説書いてます。
ああ、刹那君の様なリア充ライフまじ欲しい・・・。


刹那サイド

 

 

今日は年に一度のクリスマス。僕達も家で家族とパーティー!と言う訳にも行かず、正装で他の国の方々とのパーティーの方に参加してます。王族って辛いね。リヴェータ達も各国に任務で飛んでるし、悪い事したな。そんな事を考えながら各国の首脳達と挨拶を交わす。今日の僕はこの国の王子であると同時にSMART BRAINの社長としても出席している。挨拶を終えて、テラスで一人ジュースを飲んでいると、ドレスを来た金髪の少女が来た。少女は僕の前へ来ると挨拶する。

 

 

「お久しぶりですわね、刹那」

 

「お久しぶりです、《アンナ》様」

 

「もう、堅苦しい挨拶は要りませんことよ?」

 

「分かったよ。久しぶり、アンナ。元気そうで何よりだよ」

 

「ええ。貴方も、随分とやんちゃしてると聞いていますわ」

 

 

そう言って目の前の少女《アンナ・セイクリッド》はクスクスと笑う。彼女は、某国の王家であるセイクリッド家の時期当主であり、同盟国のお姫様である。一時期は僕の婚約者になったり、この国に介入したりと、色々あった。腐れ縁とも言える関係かもしれない。

 

 

「やんちゃって・・・変な事した覚えは・・・」

 

「この前入院したのでしょう?」

 

「な、何故その事を・・・」

 

「総一郎様から教えて頂きましたわ」

 

「父さんか」

 

 

あの人め、余計な事を。そう思っていると、此方へとまた一人少女と青年が来た。

 

 

「刹那!お久しぶりです!あ、敬語は良いですよ」

 

「・・・久しぶり、《エクセリア》」

 

 

僕に釘を刺して来たのは、アンナとはまた別の同盟国の姫である《エクセリア・クルス》。後ろの青年はその執事の《ゲオルグ・ランディル》だ。

 

 

「ゲオルグも元気だった?」

 

「ああ。君も元気な様で何よりだ」

 

「あれ?何時もの子達は?」

 

「流石にあの子達を会場へ連れて行く訳には・・・」

 

「あ・・・確かに」

 

 

エクセリアの国は蜥蜴の産地として有名であり、其処から派生したのか龍の紋章の国旗が有名だ。その国の蜥蜴が何匹か実験されて能力を宿し、ドラゴンに変わってしまった事件が数年前にあり、その内の二匹をエクセリアとゲオルグが保護している。実は僕も残った一匹を貰っており、会社で皆のアイドルとして暮らしている。あ、因みに名前は《ペンタ》です。

 

 

「ペンタは元気ですか?」

 

「元気だよ。相変わらず生意気だけどね」

 

「そうですか。安心です」

 

「今度遊びにおいで。ペンタも他の子達に会いたがってたし」

 

「はい!是非!・・・あの、所で・・・」

 

「ん?」

 

「その・・・この後は予定ありますか?」

 

 

そう言ってエクセリアが急にモジモジしながら聞いてくる。寒いのかな?これは早く答えて屋内に入らせよう。

 

 

「別に用事は無いよ。家族と帰って寝るだけさ」

 

「あの・・・よろしければ私達の滞在しているホテルに来ませんか?」

 

「ひ、姫様!?」

 

「何を仰ってますの!?」

 

 

急にゲオルグとアンナがエクセリアに怒鳴る。何か彼女は変な事を言ったのだろうか?

 

 

「別に良いけど?」

 

「本当ですか!?・・・新しい下着着なきゃ」

 

「何か言った?」

 

「な、何でもありません!約束ですよ!ゲオルグ行きましょう!」

 

「お、お待ちください姫様!」

 

 

二人はスタコラと帰って行った。何時の間にか滞在してるホテルの地図渡されてたし。それをポケットに入れて僕も屋内に入ろうとする。だが、アンナに服を掴まれて止まる。

 

 

「アンナ?」

 

「刹那・・・本当に行きますの?」

 

「うん。折角お呼ばれしたんだし」

 

「や、やっぱりエクセリアの様なゆるふわ系が好きなんですの!?」

 

「ゆ、ゆる?良く分かんないけどエクセリアの事は好きだよ?」

 

 

あの子優しいし、多少強引な所があるけどそれも他人を助ける為に強引さを見せたりする良い子だ。あの子の旦那さんは苦労するだろうけど。

 

 

「あ、そっちの好きですのね・・・焦って損しましたわ」

 

「何を損したのさ?」

 

「こっちの話ですわ。それより、早く中へ入りましょう。この国の冬は寒すぎますわ」

 

「そうだね。それじゃあ、行こう」

 

 

僕達も屋内へと入り、パーティーを続けた。と言っても本当にお偉いさん方に気を使って話しただけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~パーティ終了後[某ホテル]~

 

 

「此処か・・・」

 

 

渡された地図の通りホテルの一室の前まで来た僕はドアをノックする。すると扉が開かれ、エクセリアが顔を出した。

 

 

「ど、どうぞ・・・」

 

「うん。お邪魔します」

 

 

僕はエクセリアに案内されて部屋へ入る。其処は本当に高そうな部屋だった。

 

 

「流石最高級の部屋だ。・・・高そう」

 

「この国は水道も何もかも便利で驚きます。治安も良いですし」

 

「まあ、比較的平和だね。この国で戦闘しようものなら僕が叩きのめすし」

 

「下手な核兵器より恐ろしいですね」

 

 

そう言ってエクセリアは苦笑する。

 

 

「今の内にお風呂入って来てください」

 

「いや、家に帰ってから入るよ」

 

「もう泊まって行くと貴方のお父様に連絡させていただきましたよ」

 

「ファッ!?」

 

 

クリスマスに帰宅させないとか鬼畜かあの親父。て言うかこんないい部屋に泊まるの初めてだよ僕。お風呂も凄いんだろうな・・・。

 

 

「ライオンの口からお湯出てましたよ」

 

「マジで!?入って来る!」

 

「ごゆっくりどうぞ(刹那がお風呂ずきなのは把握済みです。今の内に・・・)」

 

 

エクセリアの言葉にワクワクしながら僕は風呂へと向かう。服を脱いで風呂へ入ると、本当にライオンの装飾の口から湯が出てた。ナニコレ凄い。僕は体と頭を洗ってから湯船に浸かる。何と心地良い感覚だろうか・・・。

 

 

「いい湯だなぁ・・・♪」

 

 

鼻歌を歌いながら僕は入浴を楽しんだ。風呂から上がり、体を拭いてから着替えが無い事に気がついた。どうしようと思っていると、何時の間にか着替えが置かれている事に気付く。何で男物が・・・?まあ、良いかと思いながら着替えてエクセリアの所へ戻る。

 

 

「お風呂ありがとう。バスローブ何て初めt・・・アレ?」

 

 

戻ると、部屋の照明は消されていて、テーブルの上にロウソクの明かりが少しだけだった。そして周りにはチキンやシチュー等のご馳走が並べられていた。

 

 

「おお・・・!美味しそう・・・」

 

「ふふっ、良かった」

 

「あ、エクセリ・・・ア・・・」

 

 

声のした方向へ視線を向けると、ミニスカサンタのコスプレをしたエクセリアが居た。

 

 

「えっと・・・その格好は?」

 

「せ、折角なので・・・着てみました・・・それより!」

 

 

そう言って話を打ち切ってエクセリアは僕を椅子に座らせ、向かいに自分も座った。

 

 

「その、今日のパーティーで何も食べられて居なかったみたいなので良かったら・・・」

 

「もしかして僕の為に・・・?」

 

「はい・・・迷惑でしたか?」

 

「そんな事無いよ。凄く嬉しい。ありがとうエクセリア」

 

 

僕はエクセリアにお礼を言って早速食べる。料理は全て美味しく、幾らでも食べれそうだった。気が付けば完食してた。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「喜んでもらえて嬉しいです」

 

「凄く美味しかったよ。エクセリア料理上手だね」

 

「頑張って修行しましたから」

 

「そっか。うん、また食べたいな」

 

「刹那さえ良ければ毎日でも・・・!」

 

 

エクセリアの言葉がよく聞こえなかったが、気にせず天井を見つめていた。こんなにゆっくりしたの久しぶりだな。此処最近色々あって休みどころじゃなかったし・・・。暫くするとエクセリアが飲み物を持って来てくれた。

 

 

「ごめんなさい。アイスティーしか無くて」

 

「ありがとう。冷たくて美味しいよ」

 

 

僕は一気に飲み干した。うん、美味い。その後エクセリアの持って来た本を読んでいた。内容はサンタクロースの話だった。

 

 

「サンタさんか・・・懐かしいな」

 

「私の国にもサンタさんは来ましたよ?去年はあの子用のリボンと私にネックレスをくれました」

 

「凄いね・・・。エクセリアは信じてるんだ。サンタさん」

 

「ふえ?サンタさんは居ますよきっと!」

 

 

ごめんエクセリア。それサンタさんじゃなくてゲオルグに頼まれた僕なんだ。実の所エクセリアの為に一つサプライズをとゲオルグ依頼された僕は能力で不法侵入し、エクセリアの枕元にプレゼントを置いて逃走したのだ。僕はサンタを信じてないのかだって?夜中に人の気配があって目を開けたら父さんがプレゼント持って居た記憶がトラウマなんだよ。

 

 

「そ、そうだね。居るよねサンタさん・・・」

 

 

ごめんエクセリア。本当にごめん。だからそんな純粋な目で僕を見ないで。溶けちゃう。

 

 

「きっと今日も此処に来てくれる筈です!手紙も用意しました!」

 

「ファッ!?」

 

「どうかしましたか?」

 

「な、何でもないよ」

 

 

そう言うと、エクセリアは嬉しそうにしながらベッドで転がる。ミニスカで転がるな見えるから。・・・黒

 

 

「このどクサレがぁ!」

 

「刹那っ!?」

 

 

僕は自分の目を指で刺した。何も見ていない!言うのも憚られる様な黒の下着なんて僕は見てないぞ!

 

 

「だ、大丈夫だから。この国じゃクリスマスはこうするのが文化なんだ」

 

「そんな文化嫌ですよ!?」

 

 

お、落ち着け僕・・・あ、もう視界戻った。この体可笑しいよマジで。トラックに撥ねられても擦り傷あるか無いかだし、銃で脳天撃たれても生きてるし、心臓貫かれても二時間あれば全快するし・・・。能力使わないでコレだもんね。本当にバケモノだよ。

 

 

「も、もう寝ようか?疲れちゃったよ」

 

「あ、それじゃあ曲流して寝ても良いですか?」

 

「良いよ。何の曲?」

 

「実はこの国の曲に夢中になっちゃって・・・」

 

 

歯磨きを終えた僕等は何故か同じ布団に入る。ベッドには十分な余裕がある筈なのにエクセリアは僕の腕にしがみつく。むにゅりと音がしそうな柔らかい感触をなんとか意識の外にオメガドライブ!する。暫くすると、曲が流れ始めた。ゆっくりな曲だ。コレは良く眠れるだろう。

 

 

----私の~お墓の~

 

 

超有名な曲だった。ああ、涙流しながら寝そう・・・。

 

 

----私は~いません~

 

 

そうそう。ああ、泣きそう・・・。

 

 

----・・・

 

 

・・・あれ?何も流れないぞ?

 

 

----ネムッテナンカ~イマセン~・・・

 

 

ノイズっぽい音声になったんですけど・・・。何か怖いんですけど・・・。

 

 

----お前の後ろにだぁぁぁぁぁぁ!

 

 

「ぎゃあああああああああ!?《風使い》!」

 

 

思わず鎌鼬を出して機器を切断する。ナニコレ僕の知ってる風になってじゃない!?悪霊的な何かになってる!?

 

 

「ナニコレどうなって・・・」

 

「・・・ス~・・・ス~・・・」

 

 

ね、寝てるぅー!?この状況で寝れるの?どんだけだよこの姫様!?

 

 

「マジか・・・眠気ブッ飛んだよこの野郎」

 

 

寝ようとするとさっきのがフラッシュバックして眠れない。誰かマジで助けてこれヤバイ。

 

 

「大丈夫・・・あれは幻聴あれは幻聴」

 

 

そう思っていると、不意に背中を叩かれる。エクセリアと思ったが彼女は目の前で寝顔を見せている。・・・と言う事は・・・。

 

 

----お前の後ろにだぁぁぁぁぁぁ!

 

 

「ぎにゃあああああああああああああっ!?」

 

 

僕の意識は途絶えた。薄れ行く意識の中で赤い服と黒い長靴だけがぼんやりと見えた気がした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

「刹那!刹那!起きてください!」

 

「・・・ん・・・はっ!」

 

 

エクセリアの声に飛び起きて周りを警戒する。・・・大丈夫か。

 

 

「見てくださいコレ!」

 

「ん?・・・プレゼントだ」

 

「きっとサンタさんが来たんですよ」

 

「・・・マジか」

 

 

僕は半信半疑でプレゼントを開ける。そこには・・・。

 

 

「マフラー・・・」

 

「刹那に絶対に似合います!あ、私もマフラーですからお揃いですね!」

 

「この為に僕はあんな目にあったのか・・・!」

 

「せ、刹那?刹那ー!?」

 

 

サンタさん。僕はまた貴方関連でトラウマになりそうです・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

 

 

Merry☆Christmas!



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番外編 《櫻田刹那の崩壊》 第1話

三人称サイド

 

 

如月刹那が転生してから三年の月日が流れていた。彼は前世の影響か、自分に優しくしてくれる家族に疑心を抱き、常に警戒した毎日を送っていた。そんなある日の事だった・・・。

 

 

「刹那、公園行こうぜ」

 

「・・・行かない」

 

「お前何時も本読んでばっかじゃないか」

 

「こっちの方が為になる」

 

 

彼の兄である修に誘われても相手にせずただ王宮から借りてきた本を読み漁っていた。そんな刹那に姉である葵、奏、妹の茜が近づく。

 

 

「せっちゃん。偶には皆で遊ぼう?」

 

「早くしないと置いてきますわよ!」

 

「おにーちゃん・・・」

 

 

奏の当時の個性的な喋り方に毎回呆れを覚えながら刹那は本を勢い良く閉じて目の前の兄妹達を睨む。彼の周りには少しずつ風が吹き始めていた。それを見て、奏と茜は涙目で後ずさる。

 

 

「能力使ったらお父さんに怒られちゃうよ!?」

 

「うるさい。こんな力があるんだ。使わない方が損だよ。怪我したくなかったらどっか行け」

 

 

そう言うと修達は渋々と言った様子で家を出て行った。刹那は能力を解除してから読書を再開した。刹那は転生してから少し歪んだ性格になっていた。能力を創る能力と言うチート特典を手にした彼は前世での扱いを払拭するかの様に生きていた。外を歩いていて、不良が屯しているのを見つければ《風使い》で吹き飛ばしたり、転生者故の腕力で嬲ったり等、暴力に快感を感じていた。今まで立てなかった場所へ来た事で、自制が効かなくなっていた。

 

 

「せっちゃん、皆は?」

 

「公園」

 

「もう!私に何も言わないで出掛けて・・・」

 

「用はそれだけ?」

 

「心配だから皆の事見て来てあげて?お姉ちゃんもお兄ちゃんも抜けてる所があるから」

 

「・・・分かった」

 

 

五月の言葉に舌打ちしながら本を持って刹那は家を出る。その後ろで五月は悲しそうな表情をするが刹那は気付かない。暫く歩き、公園へ行くと修達はシーソーで遊んでいた。それを横目にベンチに座り、本を開く。内容はこの世界の歴史だった。前世とはかなり違った世界に戸惑いを覚えながらも時代背景を脳内に刻み込んで行く。そんな中、刹那に気づいた茜が刹那の元へと駆け寄る。刹那はそれを鬱陶しそうな顔で見た。

 

 

「おにーちゃん!あそぼっ!」

 

「嫌だ断るあっち行け」

 

「やだやだやだ!あそぶの!」

 

 

駄々を捏ねる茜に溜息を吐きながら刹那はベンチから降りて、林の方へと向かう。茜も後ろを付いて行こうとするが、刹那は言う。

 

 

「今から行く所は怖いお化けが出るよ」

 

「えっ・・・でもおにーちゃんは」

 

「僕は友達だから。茜達は・・・食べられちゃうよ」

 

「い、嫌だよ・・・」

 

「じゃあ、向こう行ってろ」

 

 

刹那は茜を追いやると、一人林の中へと歩いて行った。暫く進み、此処ならと木の根元に腰を下ろそうとすると、更に奥から耳障りな笑い声が響く。舌打ちをして奥へと進むと、近くの高校の制服を来た複数の男子がエアガンを撃って遊んでいた。その先には傷だらけの子犬が倒れている。全てを理解した瞬間、刹那は久しぶりにキレた。

 

 

「おい」

 

「あ?誰dガッ!?」

 

 

高校生の一人に飛び膝蹴りを叩き込んで、他のメンバーにも拾った石を投げつける。

 

 

「い、痛えよ・・・!」

 

「コイツやべえ・・・」

 

 

各々が恐怖する中、刹那は子犬を拾い上げて林を出て行く。公園に戻り、ベンチに座って子犬を本で得た知識で触診する。素人の刹那から見ても分かる程に子犬はボロボロだった。正直に言って助かりようが無い。

 

 

「・・・ごめん」

 

 

そう言って撫でていると、子犬の体から温もりが消えていった。顔を上げると、目の前で修達が子犬を泣きながら見ていた。

 

 

「コイツ・・・向こうで虐められてたんだ。それで、今死んだ」

 

「酷いな・・・」

 

「お墓・・・作ってあげy・・・え?」

 

 

葵が言葉を言いかけたその時、刹那は子犬をゴミ箱へと捨てていた。そしてベンチへ座り本を読み始める。暫く事態を理解できなかった四人だったが、いち早く飲み込んだ修が珍しく刹那に怒鳴った。

 

 

「お前今何やったか分かってるのか!?」

 

「何って・・・ああ、分別はした」

 

「そうじゃない!何で捨てたんだよ!可哀想だろ!?」

 

 

そう言って刹那の服の襟を掴んで睨む。それに対して刹那は何を起こっているのか分からないという表情をしてから、無表情に言った。

 

 

「何言ってるの?あれはもう犬じゃない。犬の形をしたただの肉だ」

 

「っ!この馬鹿野郎!」

 

「ぐっ!?・・・先に手を出したな」

 

「お前が悪いんdぶっ!?」

 

「修ちゃん!?」

 

 

殴った修を刹那が殴り返す。修はそのまま気絶した。それを見て葵は修に駆け寄り、奏と茜は遂に思いっきり泣き出した。刹那は心底不愉快そうな表情を浮かべて、家に帰ろうとする。

 

 

「貴方達!何やってるの!?」

 

「・・・別に」

 

 

様子を見にやって来た五月に刹那は面倒な事になったと溜息を吐く。すると、五月の後ろには総一郎の姿も見えた。刹那は舌打ちしながら五月の説教を聞き流して事態が終わるのを待った。

 

 

 

 

 

~夜~

 

 

「・・・アホらし」

 

 

刹那はあの後、五月に思いっきり叱られ、昼夜の食事を抜きにされて部屋に居た。ベッドに寝転がりながらずっと胸に抱えているナニカに苛立ちを覚えていた。前世では出来なかった事を出来ている。自分の思い通りに行っている筈なのに刹那は自分に苛立ちと虚しさを覚えていた。既に答えは出ている。彼は窓から家を抜け出して公園へと向かった。そこでは総一朗が先程の子犬の亡骸をタオルに包んでいた所だった。刹那は無言で近づく。

 

 

「お、やっぱり来たか」

 

「分かってたの・・・?」

 

「ああ。お前は優しい子だからな」

 

「僕は優しくなんて無い。力でねじ伏せて・・・この子にも酷い事をした」

 

「でもこうやって戻って来たじゃないか。それで今からこの子のお墓を作るんだけど・・・」

 

「・・・僕もやる」

 

「うん。さ、行こう」

 

 

そう言って総一郎は歩き出す。刹那もその後ろを何も言わずに付いて行った。暫く歩くと寺に着いた。更に進むと、住職さんが立っていて、総一朗に頭を下げる。

 

 

「お久しぶりです」

 

「お久しぶりでございます陛下。此方は・・・」

 

「息子の刹那です」

 

「・・・どうも」

 

「はい。では、此方に」

 

 

住職に案内されて進むと、そこには沢山の小さな墓があった。そこにはポチ等、動物に付けられた名前が掘られている。

 

 

「此処はペットでも野良でも構わずしっかりと埋葬してるんだ。此処ならこの子も安らかに眠れるだろう」

 

「・・・うん」

 

 

住職が用意した場所へ子犬を埋める。住職がお経を読んでいる間、刹那は涙を流しながら手を合わせていた。

 

 

「ごめんね・・・ごめんね」

 

「大丈夫だよ。きっと許してくれるさ」

 

 

お経が終わっても刹那は泣き続けていた。子犬にした事だけでなく、今までの自分の生き方にも後悔を感じていた。結局自分がして来ていた事はあの高校生達と変わらなかった。力を見せつけ、不用意に誰かを傷つける。そんな最低な行為を平気でしていた自分に恥を感じていた。総一郎はそんな刹那を優しく抱きしめて頭を撫でた。この時、始めて総一郎は刹那と本当の家族になれた気がした。刹那を泣き止ませ、手を繋いで二人は歩き出す。神社を出たその瞬間、刹那の耳に犬の鳴き声が聞こえた。

 

 

「えっ?」

 

「どうした刹那?」

 

「・・・ううん。何でもない」

 

 

振り向いてそのまま動かなくなった刹那に総一郎は疑問を抱いたが、刹那は直ぐに前を向いて総一郎と歩き出した。この世界で始めて見せた、優しい笑顔で・・・。

 

 

 

 

 

~櫻田家~

 

 

「今まで、すみませんでした」

 

 

帰宅した刹那はリビングで家族全員に土下座をしていた。齢三歳で土下座を繰り出す刹那に、先程まで不機嫌マックスだった櫻田家の面々は固まっていた。刹那は頭を下げたまま話し続ける。

 

 

「僕は自分の考えばかり周りに押し付けて最低な事ばかりして来ました。王家に生まれながら恥さらしな事ばかりして来ました。本当に申し訳ございません!」

 

「せ、せっちゃん顔を上げて!?もう皆怒ってないから!ね?」

 

「そ、そうだ。俺ももう平気だから気にすんな」

 

「おにーちゃん・・・」

 

「ふ、ふん!許してあげますわ・・・あの、本当に顔上げて」

 

「で、でも・・・」

 

 

刹那は恐る恐る顔を上げる。全員の表情に怒りは無く、刹那はどうして良いか分からなくなっていた。すると修が椅子から降りて刹那を抱きしめる。

 

 

「もう怒ってないからそんな謝んな。お前が自分の悪さを認めたってだけで俺は充分だ」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「泣かなくてもいいだろ・・・全く」

 

 

そう言って修はずっと刹那を撫でていた。暫くして刹那は泣き止むと、修の腕にしがみついていた。修も鬱陶しがる事なくそれを受け入れる。無表情のままテレビを見る修は内心浮かれていた。それもそうだ。万年懐く事無く、尚且つ敵意しか向けてこなかった弟が改心した上に自分に最初に懐いたのだ。そんな彼を鬱陶しがる事が出来ようか。いや出来ない(反語)。

 

 

「ほ、ほらせっちゃん。お母さんの所においで~」

 

「・・・」

 

「行って来いよ。流石に見てて辛い」

 

「・・・うん。修兄」

 

「・・・今俺の事兄って」

 

 

修に言われ、三十分近く腕を広げるポーズを取っていた五月に刹那は近づき、大人しく抱きしめられた。五月は今までに無いふにゃっとした表情をしながら刹那を撫でる。刹那は大人しくそれを受け止めていた。この後、家族全員に可愛がられ、櫻田家マスコットの地位を獲得したのは余談だ。

だが、此処までは彼が元に戻るまでの話。本当の物語は、崩壊への足音は此処から聞こえ始めた・・・。



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