ハツナが射る! (MZMA)
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プロローグ ーその男、帰還するー
少し修正を入れました。
帝都ーー宮殿内
そこは宮殿内にある皇帝の謁見の間より1階下に存在する、大臣の私室。
宮殿より下、帝都の街並みが一望できるその一室にて丸い机を挟み、向かい合う人影が二つ。
分厚い肉をむしゃむしゃと貪る様に食べながら大臣、オネストは自らの目の前にいる存在に目を向ける。
とても、美しい人物だった。
身長は160㎝程。
処女雪の如く、白く穢れの無い肩甲骨の辺りまで伸びた白髪。
左目を覆う真紅の布眼帯。
翡翠の様に何処までも透き通った、何処か無機質で虚ろなエメラルドアイ。
肌はいっそ病的と言っても良いほどに白く、青白いとすら感じる。
はぁ、とオネストは溜息をつく。
何故ーーこんなに美しい人物が何故に
彼は強く、美しい。
もし、目の前にいる存在が女性であったのなら自分の息子の妻にしても良いとさえ思える程の美貌である。
ただ、どちらかと言えば彼の美しさは少女の様な儚さと言うよりも無機物的な神秘性を帯びている、と表現するほうが適切な気がする。
と、そんな事をいつまでも考えていては仕方ない、とオネストは思考を切り替える。
いつもの様なニヤニヤといやらしい笑みが顔に張り付く。
「とりあえずおかえりなさい、と言っておきましょう」
「んあ? やっと話し出しましたね… 。いっつも話し始めるまでが長ぇんですよ、オネストの旦那は」
声変わり前の少年のような、いっそ少女のものと言っても良いような綺麗で穏やかな響きを持つ声。
それでいて、何処か適当な、軽いと言っても良い様な、人をからう様なその口調と声音は容姿とは酷くアンバランスに思えた。
(半分は、貴方の責任なんですけどね…)
「まぁ、良いでしょう」
「ん? 何がです?」
「何でもありません。では、本題に入りましょう。」
「ほいさー」
カチャリと紅茶のカップをソーサーに戻し、青年は表面上だけの真剣な態度を貼り付ける。
それも彼らの中ではいつもの事なのだろう。オネストは気にする素振りを一切見せずにそのまま話し続ける。
「最近、帝都の治安が悪くなる一方でしてね」
「ああ、なんかいっぱい居やがりましたねぇ…。実際に盗賊とかに帰ってくる途中に襲われましたし…」
「ほぉ。命知らずもいたものですな。して、その盗賊は何処に?」
「今頃は三途の川でも渡ってんじゃねぇですか?」
「なるほど、賊の討滅、どうもありがとうございます」
「良いですって。ボクもこの国には色々とお世話になってますしねー。ある程度の事ならウェルカムです」
「そうですか。では、ついでと言ってはなんですが……帝都警備隊隊長を一ヶ月程で良いので勤めて頂けないでしょうか?」
おずおずと、オネストには似合わないような謙虚な態度に何処か不気味さというか、気味の悪さを感じながらも、その青年は怪訝な表情で聞き返す。
「警備隊? 彼処ってオーガさんが居ませんでした?」
「はい。ですがこの前、ナイトレイドの襲撃を受けて…」
「あぁ、消されちゃったんです?」
納得した、とばかりに右の拳を左の掌にぽんと置く。
「はい。それで警備隊の指揮系統はメチャクチャに。義憤に駆られた一部の警備員が暴走する始末でしてねぇ、困っていたんですよ」
「りょーかいです。全く、西の小競り合いの次は帝都の治安維持って…。ボク、働き過ぎじゃ無ぇですか……?」
「それなりの報酬は用意させて頂きますよ」
「あいあい、了解です。一ヶ月で良いんですよね? ボク、本当に一ヶ月しかやらねぇですよ?」
「十分ですよ。あとは私の手の者にやらせますので」
「そんじゃ、ボクはコレで失礼するです。久々の帝都のですから」
「はい。よろしくお願いします、ハツナさん」
ハツナと呼ばれた青年は壁際に立てかけてあった全長が1m程の二振りの刀を左右の腰に差すとヒラヒラと後手に手を振りながらその部屋を後にした。
「フフフ。将軍と比べても劣らない戦闘力。だか、そこまで高くない地位。いゃあ、彼にはいつも助けられてばかりですねぇ……。フフフフフ…」
誰もいなくなったその部屋で、大臣オネストは不気味に笑った。
✳︎
はあー…。やっと終わりましたねー……。
ボクは大臣の部屋の外でんーーっと大きく伸びをする。
あそこに居るとなんかすっげー疲れるんですよねぇ、何故か。
まぁ、十中八九あのデブ狸が理由なんでしょうけどね、わかります、ハイ。
さて、帝都の街でも巡るかなぁ、と思いつつ宮殿を出て歩を進めます。
さて、皆さん!
帝都の甘味どころと言えば! 『甘えん坊』しかないでしょぉぉ‼︎
と、言うことで久しぶりの帝都帰りなのでボクはココのアイスを食べて行こうかなぁなんて考えます。
超、久しぶりなんでドキドキです!
「にしても帝都警備隊ねぇ…アイツがいるし嫌じゃあねぇんですけどね…」
アイスのお金を払っているボクの頭に浮かぶのはもうかれこれ6年近い付き合いになる元気で明るいあの少女。
いや同い年なんですけど、なんとなく幼い感じがするんですよ。彼女は。
まぁ、警備隊の詰所に行けば会えるかなぁと考えながらアイスを齧る。
ん…相変わらず美味いな、コレ。
そうだ、お土産に買って行ってやろうですかね! と思い至ったボクは更に追加で購する。
カチャリと歩くたびに背中で音を鳴らす大剣を背負いながら、ボクは上機嫌で帝都の喧騒の中に紛れていく。
此方をじっと見つめる視線に気づかないままにーーー
✳︎
現在、ボクは可愛い女の子に抱きつかれています。
詰所の扉を開けて、「うぃーっす」とかふざけた挨拶をかましながら足を踏み入れること数歩。
ボクと目が合った彼女は、此方を幽霊でも見る様な呆然とした顔で見つめていたが、状況に認識が追いつくと、「ハツくん‼︎」ともの凄い勢いで飛びついてきたんです。
いや、彼女に対しては昔から好意を持っていましたよ?
ぶっちゃけると、普通に好きです。まあ、人として、ですが。
だから今の状況はとても嬉しいんですよ? 嬉しいんですーーがーーー。
「セ、セリュー……。く、クル…しぃ……。し、死ぬぅ……」
「ハツくん!! どぉして帰って来る前に連絡の一つも寄越さないんですか! しばらく手紙も無かったし! まったく、私がどれだけ心配したか!」
その、なんですか。
ハグが凄すぎて息が出来ないです。もう、半分くらい意識が朦朧としていてヤベぇ、です。ハイ。
幼馴染の少女、セリュー・ユビキタス。
それが今、ボクに抱きついている少女の名です。
軽いハグならばそれなりに大きい、胸部装甲の成長度合いを堪能して、あわよくば揉みしだこうなんて考えもあったりなかったり、なくなかったりしたんですが……。
なんの因果か、いや罰ですかね? もうなんか押し付けられてるのは分かるんだがそれよりも身体中が締め付けられて堪能するどころの騒ぎではないんです!
こんなささやかな贅沢も許され無いなんて……。神は死んだ! いやまあ最初からそんなもん信じてないんですけどね?
嗚呼…だんだんと意識が薄れていく……。
せめて死ぬら揉んでから死にたかったです。
揉まずに死ぬよりも、揉んで殺されたかった……。
「む、無念…です……」
「あれぇ⁉︎ ハツくん⁉︎ どうしたんですか⁉︎」
ボクの意識は暗い闇に飲み込まれて行った。
やべぇ、ホントに死んだかもしれねぇ…です……。
ふと、唐突に故郷の幼なじみであるアタルの事を思い出していました。
彼は今、どうして居るのだろうか……。いや、ぶっちゃけどーでも良いんですけどね?
元気でやっているのだろうか? つーか生き残ってんですかねぇ?
彼と最後に会ったのは12歳の時、ボクが帝都で働きに出ようと北にある街、スノーランドを出ようと思った時です。
スノーランドとは帝都の北の外れにある街で、ほぼ一年中雪がハラハラと舞っている街です。
帝国最強と名高いエスデス姉さん程北では無いが帝国からは1番離れている北の" 街 "なんですよ!
エスデス姉さんの" 村 "はもっと北にある……らしい、です。
本人から聞いた限りではそうらしいのだが、ぶっちゃけボクの故郷よりも北側って相当に過酷な環境の気がするんですが、そこを生き抜いている民族の娘ならあの強さと帝具の相性も頷けるというものです。
姉さんとは一時期同じーーというか姉さんに拾われて帝国の軍属になったんですよ、実は。だから大臣の直属として動いている今でも、軍籍はエスデス軍にあるんです。
ボク個人としても北国トークができる人間は帝都では殆ど見つけられなかったので、部隊が変わり異動した今でも姉さんと慕っているーー慕わせてもらっている? んですけれど。
まあ、話を戻そう。姉さんとのあれこれはまた今度に。
今は既に忘れている人も居るかも知れないくらい非常にどーでもいいが幼なじみのアタルの話です。
奴は簡単に言うとバカ、アホ、ドジ、マヌケ、おたんこなす、お前の母ちゃん出臍! みたいな奴です。
ああ、これが女の子だったらアホの子属性でまだ良かったのかもしれない。だが、男のアホの子とかもう誰得だよ? 的なかんじなんです。
まぁ、そんな奴だがボクにとっては大事?(笑)な幼なじみです。
ボクが帝都に出るとなれば彼が付いてくるのは確実、自明の理と言っても過言では無いーーいや、過言ですね。自分で言ってて気持ち悪くなってきやがりました。
12歳で学校を卒業。ボクは帝都行きを決意し、アタルもそれに便乗したです。なんでコイツはボクに付いてくるんだ? キモーーげふんげふん。意味がわからないです。
余りにも念入りにバックの中身の確認を繰り返していたせいか徹夜になったみたいで、馬車の中でアタルは眠ってしまったんです。
だから、ちょっとした出来心で北の地方最大都市ノースフィールドで帝都行きにの馬車に乗り換える筈の予定を変更して、このまま眠っていたいであろうアタルのためにより長く馬車で揺られる事のできる帝国の南へ行く馬車に乗せてあげる事にした……様な気がする。
南行きの馬車の荷台にアタルを括った後、そのままボクは何食わぬ顔で帝都行きに乗り、無事に到着する事が出来て、エスデス姉さんやセリューと出会いかくかくしかじかあって今に至るというわけなんです。
アイツ、方向音痴な上にバカだから南の最大都市サウスフィールドを帝都と思い込んでるかもしれねぇですね。
うん、十分にあり得るです……。
閑話休題。
目を覚ますとセリューが上から覗き込んでいた。
「知らねぇ天井ですね……」
何故だか、こう言わないといけねぇきがしたんです。
何故なんです?
神様教えて下さい。
あ、神は死んだんだんでした。
ここから続くかは決めていませんが、暇な時やインスピレーションがわいた時に唐突に投稿するかもしれません。
いやホントまじでアタルくんのくだり要らなかったですね。
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幼馴染との再会
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
沈黙が痛い。
なんとも言えない雰囲気に良い加減滅入ってきたボクは、自分が上体を起こした状態で座っているベットの脇に、しょぼくれた表情で座っているセリューにとうとう声をかけた。
「ねえ、セリュー」
「………なんですか」
「いや、なんですかって……。いつまでそんなとこでしょぼくれてんです?」
「……相変わらず変な言葉遣いですね」
「いや、そこは良いんですどうでも。んで? 何かボクに言う事はねぇですか?」
「……ごめんなさい」
「はぁ…。よろしい。ハイ、これで仲直り終了です!」
ボクはパンパンと手を叩きながらベットから立ち上がる。
その動きを追ってこちらを見上げる様に顔を上に向げたセリューの顔、というか雰囲気の様なものが捨てられた子犬の様でボクは思わずわらってしまう。
「な…なんで笑うんですか⁉︎」
「いや、なんつーんですかね? セリューが捨てられた子犬みてーでなんだか面白かったんですよ」
「ええ⁉︎ 犬って…ハツくん酷い……」
「ん? 愛らしくて良いと思うんですがねぇ…」
「あ、愛らしいってそんな…ごにょごにょ」
いや、そんな顔真っ赤にして言われても…こちらとしても反応に困るというか何というか…。
「ま、まぁ! そういうことです! さ、セリュー。一カ月とはいえ今日からボクはオメーの上司っつーことになるんですが…理解してるですか?」
ボクはセリューの顔を見ないように窓から見える帝都の街並みを眺めながら喋る。
うぅ…顔が熱い…。
今、絶対ボクの顔は真っ赤になっているんでしょうねぇ…。
はぁ、恥ずか死ぬ…。
「う、うん。昨日、宮殿の文官の人が来て教えてくれたんですけど…。まさかハツくんだったとは……。びっくりしたんですよ? 本当に。それにいきなり居なくなってさびしかったし…」
「まぁ、セリューとはボクが帝都に来た12の時からの付き合いでしたしねぇ」
「ホントですよ! ずっと一緒だと思ってたのに、2年前にいきなり『西に行ってくるですよ〜』って言ってどっかに行っちゃって…」
「いや、ボクが任務で帝都の外に行く事なんて結構ざらだったでしょ……」
思わず呆れた表情でセリューの方へ振り向きーーーそして後悔した。
「それでも! 2年も帝都から離れるなんて聞いませんでしたよ! 半年くらい前から手紙だって返ってこなくなりましたし…」
目に涙を溜めてこちらを睨んでくるのだ。それも上目遣いで。
いや、なんかもう破壊力抜群です。ブドーさんのアドラメレクと同じくらいのダメージを受けたです。
「…っ! いや! 半年前っつーと西の異民族がちょっと奮闘しててですね! それを叩き潰すのに必死っつーか、忙しかったっつーか、まぁそういう事だったんです!」
「それでも一切無視って酷くないですか⁉︎ 私もう20なんですけど⁉︎」
「いや、それがどーしたんです? ボクももう20ですよ?」
「そーゆー事じゃないんです!」
「え? じゃあまさかとは思うけど二十代はもうおばさんっていう世迷言を信じてる訳じゃあねぇですよね?」
ボクは恐る恐るセリューに訪ねる。
ボク個人の考えを言わせてもらえるのならロリコンのしこうならともかく女性は二十代になってからだって思いますし、セリューだってこれからどんどん大人っぽくなっていく筈ですしねぇ?
ホラ、女性特有のあそことかも成長の見込みは無きにしも非ずーーー
「ハツくん? なんか今、エッチな事考えていませんでした?」
「っ…⁉︎ い、いやぁ、このボクが! そんな事を考えるなんて本気で信じてるいやがるんですかセリューは?」
何故ばれたんですか⁉︎
ボクは必死に動揺を押し殺して聞き返す。
その反応を受けてセリューはーーー
「うん! そうですよ」! ハツくんがそんなエッチな事考える訳がないですよね!」
そう、まるで向日葵のような笑顔で、ボクの言葉を一切疑う事無く信じていた。
信じきっていた。
騙したと言えば過言かもしれないが、それでも疑いを向けた相手からの言葉をいとも簡単に、鵜呑みにしていた。
いや、こんな雰囲気から一転、なにをどシリアスな事を言っているんだって思われるかもしれねぇですが、これは結構異常な事なんですよ。
相手がボクだったからこそなのかもしれねぇですが、普通は嫌疑を向けた相手からの答えを馬鹿正直に信じますかねぇ?
セリューのお父さんが殺されたのは今から3年前の事で、ボクが知っているのはそれから1年間の、表面上は立ち直った様に見えるセリューまでです。
一体、この2年間の間にセリューに何があったのか、偽悪を装うーーいや大臣の手によって装わされている、正義の心を持った悪人たちーー名をナイトレイドと言ったか? を含めて、帝都で色々と調べなければならない様ですねぇ。
まあ、ナイトレイドだろうがなんだろうがどうでも良いし興味も無いんですし、別に大臣が何をしようと知ったこっちゃねぇんですけど。
ああ、嫌だ嫌だ。仕事なんてホントはいやなんですけどねぇ…。
幼馴染やより(ボクの過ごしやすく都合の)良い帝国を作る為にも、一肌脱ぐ必要がありそうですね。
「どうしたんですか?」
此方を見上げてくるセリューの頭に手を乗せながら、ボクは1人静かに決意した。
★
「あ、そうだハツくん。その眼帯、どうしたんですか? おしゃれ?」
その日の夕方、ボクがセリューと見回りという名の散歩をしている最中に、そう唐突に尋ねられた。
「眼帯? ああ、コレの事ですか。コイツはですねぇ、ちょっと西の
「え⁉︎ じゃあそっちの目、もう見えないんですか⁉︎」
「ん? いや、そんな事はねぇですよ。ちょっと特殊な処置が施されてんですよねー、コレ」
大丈夫なの⁉︎ なんて大袈裟に驚くセリューを宥めながらボクは眼帯を外す。
いやー、あんまり見てて気持ちの良いものじゃねぇんであんまり見せたくねぇんですよね…
その真紅の布眼帯の下にあったのはーーー
ーーーーーー
「……綺麗………」
「いや、綺麗って、セリューのセンスがイマイチわかんねぇですよ。こんなん見ても面白くもなんともねぇじゃねぇですか」
布眼帯で再び左眼を覆いながらぼやく。
相変わらずセリューのセンスはわからねぇです。
例えばそう、今この瞬間にもセリューがリードを付けて連れている(引き摺り回している…っつー方が妥当な表現ですね……)あの
名前はコロ、だそうで。
セリューに言わせれば可愛らしいんですが、ボクからすればぬいぐるみみてーなコイツはただのビックリモンスターでしかねぇんですよねぇ……。
「ううん、そんな事ないですよ。なんかね、ハツくんのイメージというか、容姿に合っているっていうんですか? すんごく違和感無く馴染んでるっていうか……。あーー! 帝国最強のエスデス将軍もそうだけど、なんで北国出身の人は綺麗な人が多いんですか⁉︎」
「いや、ボクの親父とか別にイケメンでも可愛くもなんともねぇですけど?」
「いやいや! ハツくんっていう息子がいる事がもう凄いんですよ!隔世遺伝ってやつなんでしょうか? きっとお父さんのお父さんあたりが凄いカッコよかったんですよ! ハツくんみたいに………っ! い、いや、今のは別にハツくんの事を意識してるとかそんなんじゃなくてですね…えっと、それでそれで…」
「あー、うん。ハイハイもぉ理解したですよ。でもジジィが格好良かったなんて話は特に聞いてねぇんですけどねぇ…」
ヒートアップし過ぎたセリューをどうどうとなだめる。
いやー、にしてもよく喋るですねー。こんなに喋る奴でしたか?
まぁ、久々の再会でテンションでも上がってんでしょうねぇ。
「そ、そうだ! 首斬りザンク! 今、首斬りザンクっていう人斬りを追ってるんですけどーーー」
「ああ、帝都の首斬り役人だったっつー、人斬りですか。あの狸ジジィのせいでトチ狂ったっつー」
「そうです! 流石ハツくん! 隊長の自覚がもう出てきましたね!」
よろしい! と、頷ききながらセリューは笑う。
「でも、大臣の悪口は悪と捉えられても可笑しくないので気を付けて下さいね? ハツくんでも悪ならば裁かなきゃいけないんですから!」
「ん…ああ、気をつける努力はしてみますよ」
セリュー…まさか、本気で大臣が悪じゃないとでも思ってんですかね? そうなら、結構重症ですね…。ヤバいですねぇコレは…。
いや、大臣の悪政を理解してなお自分が生きやすいように大臣側にいるボクが言えたことじゃあねえんですけども…。
セリューは昔から些か正義感が強すぎるきらいがあったんですけど、ここまでとは…。
「うん、よろしくね! あ、そうだ! 今晩、私の家でハツくんの帝都帰還パーティーをやりましょうよ! 今晩は非番だからいつもならパトロールに行くんですけど……ハツくんが帰ってきたんだから特別ですよ!」
なんと…セリューが思いの外社畜になっていてびっくりです。
「いや、ボクが言うのもなんですけどね? そーゆーのって首斬りザンクを引っ捕えてからにした方が良いんじゃねぇんですか?」
「(ハツくんのイケズ…)」
「え? なんか言いました?」
「なんでもありません! さ、一回帰って詰所でご飯食べましょう! そして今晩で首斬りザンクを捕まえましょう!」
「きゅーきゅー!」
「…ん、ですね。……はぁ」
そうと決まれば! と、ばかりに目の前に再び見えてきた警備隊の詰所に走り込んでいくセリューとコロ。
…ああ、なんでボクは自分から自分の仕事を増やすような事を言ったんでしょう…。働きたくねぇです…。
そう、心中で愚痴りながらボクはふと、ある事を思い出す。
……そぉいやあ、詰所を出たあたりからずっと感じていた視線は何だったんでしょうねぇ? 手を出してこない限りは何もするつもりはねえんですが、ずっと見続けられると流石のボクでも疲れますね…。
まぁ、良いか。そう呟きながらボクはゆっくりと警備隊の詰所へと向かって歩いて行った。
★
「っ………! やっぱりアイツだったか…」
ハツナが感じていた視線の正体。
その視線の主は警備隊の詰所がある大通りに面している建物の上に伏せる様にしてして隠れていた。
「厄介な奴が帰ってきたな…。早くボスに報告しないと……!」
美しい金髪と豊満な肢体をもつその女性は屋根伝いに裏路地へと降り立つと、常人とは思えぬスピードで走り出す。
(完全に勘づかれてたな…。噂話をロクに信じずに帝具使わずにいたのはミスったか?)
彼女が向かうは帝都の外れ。
岩壁の下に佇む、奴らのアジト。
帝国の腐敗した上層部
己の利のみを求める富裕層
人を人とも思わぬ外道共
天が裁けぬこの悪を
闇の中で始末する
終わり過ぎたこの国の民を
救済しようと血に塗れ
刀を振るう殺人集団。
その名はーーー
ーーーーーーーーーナイトレイド
ここのセリューちゃんはオーガ隊長の事は尊敬してますけど、原作ほど盲目的ではありません。
警備隊の隊長をやっていればこういう事もある、と割り切っています。
まあ、割り切っていても正義に対する執着はかわりませんけどね
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首切りザンク
インスピレーションが沸きすぎてヤバい
執筆速度に追いつかん( i _ i )
「はあ…寒いですね…」
ボクの帝都帰還から3日。
今現在、ボクは帝都の住宅街の中にある時計塔の上にいる。
此処は住宅街の中では頭一つ抜けているので上から見るのにもってこいなんですよ。
馬鹿と煙は高いところが好きと言いますが、ボクは高い所は好きだけれども馬鹿でも煙でもありません。
セリューは邪魔なので置いてきた。今頃は帝都のメインストリート辺りをコロを引きずって駆けずり回っているでしょうね。
帝具使いには帝具使いを。単独で行動しているのはボクとセリューだけです。
帰ってきてからずっと夜間警備なので、生活リズムがもうひっくり返りつつあるので、早いところ解決したいのですが……。
書類仕事? そんなものは副隊長に丸投げですがなにか?
被害者は増える一方で、なかなか終わりそうに無いです…。
はあ、どっかでポロっとミスしてくれねぇですかね、首切りザンク…。
今日も会えそうにないし、そろそろ帰ろうかなぁと月を見上げて黄昏ていたその時、ボクの耳が甲高い金属同士が激しくぶつかる音を僅かに捉えた。
弾かれたようにその方向に顔を向けると、暗くてよく見えないがある程度開けた場所で、二つの人影が激突していた。
「もっと早く出てこいってんですよ…。帰りてぇです…」
溜息と共にぼやく。
こんな状況下でわざわざ外でやり合うような馬鹿は居ないだろうから、ほぼ首切りザンクとザンクの狙った獲物が戦っているとみて間違えないだろう。
故に、ボクは左目の眼帯を外した。
雷色の瞳が開き、世界が爆発的に広がる。
大きく見開かれた金眼の中で稲妻が迸り、自身の周囲を正確に知覚できるようになる。
半径10メートルほどの範囲で360度全てが視界に収まり、久方ぶりに脳みそに叩き込まれた情報量の多さに脳が悲鳴を上げる。
…っく! 久しぶりに使うですね、コレ。
そして、500メートル程先で繰り広げられる剣戟の音に視界を『収束』させる。
途端に、360度の視野は無くなり、500メートル先の対象を正確に捉える。対象のまつげの本数すら数えられるほどに鮮明に。
臣具、サウザンドアイ
それが、この左目の名だ。
セリューには、西の異民族にやられたと言いましたが、コレは西に行く前に大臣から貰った餞別です。
確か、殺害対象であるザンクの持つ五視万能スペクテッドを真似て作られたモノらしいです。
サウザンドアイとは、基本状態では最大半径15メートルの範囲を360度視覚することが出来、収束させれば、10キロメートル先まで見通すことが出来る瞳だ。スイッチのオンオフを切り替えることが出来る反面、眼球型の臣具の為に移植する必要がある。その為、スイッチのオフ状態では、左眼の視力は0である。
コイツの目ぼしいデメリットは左眼の失明と慣れるまでの激しい頭痛程度の、わりかしオトクな臣具なんですよコレ。
そして、もう一つ。
「クリティカル」
ボクはぼそりと囁くように口に出し、双刀の柄と柄を合わせる。
ガチリと何かが噛み合う様な音がして……ボクの持つ直剣『クリティカル』がその形を剣から弓へと変える。
帝具、百発百中クリティカル
それがこの
ボクが帝都に来て軍に入ってから手に入れた弓。
その性能は、5キロ以内であれば射る対象を
長年、使い手が居なかったらしく保管庫で埃をかぶっていた所をボなんとなしに気に入って使い始めたのである。
この刀弓に矢は無く、剣が変形した弓に実体を持つ光の弦が張られている。この弦を引けば視認した対象へと、剣の鍔でもあった部分が組み合わさり銃口のような形となった部位から光の矢が飛び出すのだ。矢とは言うが、形としては千本の様な大きな針の方が近いだろう。
使用させるのは対象の精神エネルギーで、精神の揺らぎで威力が変わってしまうパンプキンの後継機だそうだ。この弓は使用する精神エネルギーの量が常に均一だ。
だが、何故に後継機なのに銃から弓へとグレードダウンしているのかだけは甚だ不可思議です。
Dr.スタイリッシュによるサウザンドアイの適正テストをくぐり抜けたボクは大臣曰く、史上最高のクリティカルの使い手でかなり重宝するらしいです。暗殺とかもよく頼まれるですし。
あれ? Dr.のことを考えるとなんか寒気が…
頭を振りそんな思考を追い出すと、ザンクと思われる額に目の帝具を付けている男へと狙いー絞る。
キリリと光の弦が鳴き、そして……
直後に体を言いようのない悪寒が走り抜け、視野を拡散させる。
すると、ボクの背後から影のように迫る人影を捉えた!
「っく⁉︎」
咄嗟に横に跳ぶ。時計塔から真っ逆さまに落下するが即死よりは遥かにマシだ。数瞬前までボクがいた場所から空を切る音が聞こえた。
着地と同時に前に転がり、落下の衝撃と上からの追撃を躱す。
すると一瞬遅れて、その場所に刀が突き立てられる。
体の動きに逆らわずに体勢を立て直し、その襲撃者を見る。
「うへぇ」
思わず声が漏れた。
黒髪赤目の禍々しい刀を携えた少女。
そんな少女はボクが知る限り一人だけだ。
アカメ。ナイトレイドが誇る最強の暗殺者。
先程から『視』えてはいたが、直接に見ると更に気力ぎ削がれる。
暗殺者が相手とか…一番苦手です…。最悪です。
「や、やあ。アーちゃんじゃねえですか。元気してたかです?」
とりあえずは会話で隙を伺いつつ、逃げる算段を付ける。
今のボクの所属は暗殺部隊なんですよ。正式では無いですけどね。ですから、アーちゃんが帝国から抜けるまでの一時期、妹のクーちゃんーークロメと一緒に暗殺部隊で任務をした事もある仲だ。
確か、ボクとエスデス姉さんが共に帝具を手に入れて初めての任務。
暗殺部隊の選抜組と非選抜組がどっかの陵墓を荒らしまわった後に暗殺も経験だ、とか言われて押し込まれたんです。
だが、共に戦ったとはいえいきなり切り掛かってきた事を考えると見逃してもらえるとは思わない。
「やはりハツ兄ぃか。帝都に戻ってきていたのだな」
あら? 一応、返事はしてくれるみたいだ。少々意外に思うがこれに乗らない手は無い。最も、サウザンドアイを使い最大半径限界まで警戒しているが。
「あの狸ジジイに呼び戻されたです。全く、人遣いが荒いったらないです。はぁ、早く死なねぇですかね、アイツ」
これは本心だ。大臣の所業を知ってなお味方しているとはいえ、決して快く思っているわけでは無いのだ。死んだら死んだで諦めがつく。
だから帝都警備隊でも、オーガの様に賄賂を受け取ること無く、大臣に目をつけられない程度に悪人を取り締まっている。実際に検挙率も上がっている。まあ、ボクが居なくなればそれも元に戻るだろうが。
「っ! ならハツ兄ぃもーー」
「アーちゃん。それはむりです。やり方は気に喰わねぇですが、あいつ側に付くのが今の所の最適解なんです。アーちゃんは相変わらず甘めぇですね。一度敵と定めたのなら感情を殺し相手を殺す。暗殺者の基本です」
途端に嬉しそうにするアーちゃんに釘をさす。彼女は暗殺者としては超一流だが、身内に対する甘さを捨てきれない部分がある。
暗殺者としては御法度である、私怨によってクーちゃんを狙うのも早く妹を
愛する妹だからこそ、早く殺して救いたい。
それは、愛ゆえの行動なのだろう。やり方は正しく無くとも。
今が平和な世であるならばクーちゃんは病院にでも入れてゆっくりと回復するのを待つべきなのだろう。だが、そんな事は不可能だ。
仮に回復したとしても、今の世では力無き者は生き残れない。
だからこそ殺す、という事なのだろう。
だが、それですら今の世の中では致命的な隙となる。
そんな中途半端な考えではいつかアーちゃんは討たれるだろう。
ボクはアーちゃんには死んでほしくは無い。………なんだ結局のところボクも甘いって事じゃねーかです。
……だけど、ここで会った以上はいさようならってワケにはいかねぇですよね…。
「いいですか、アーちゃん。今の世の中ってーのは最低最悪のクソ野郎どもが平然と街を歩いている様なクソったれな状況です。…だからこそそのテメーの甘さや、クロメに対する執着。捨てきれなけりゃ、いつか殺されるぜ? お前」
「つ⁉︎」
口調が、雰囲気が、帝都に来てすぐの頃、エスデス姉さんの元にいた時や、暗殺部隊で殺しをしていた時のそれに戻る。
「テメーは自分から、国を、
アカメの表情が苦渋に歪む。
きっとボクーーオレは今、とても冷たい表情をしているのだろう。
でも、アカメの為にもここで止めるわけにはいかない。何よりも、オレが止めたくない。
自己満足? 結構だ。
「だがよ、それを口に出して言ったところでみんな仲良く大円団なんて終幕はありえねぇ。割り切れよ。テメーが選んだ道だろうが。今更迷ってんじゃねぇ、殺すぞ」
アカメの目が大きく見開かれる。
そんな泣きそうな顔をされると慰めて、冗談だよって笑って、一緒に飯を食いたくなってくる自分が嫌だ。
アカメの目指す、そんな夢みたいな幻想に逃げ込みたくなる自分が嫌で嫌で堪らない。
だから、せめてこれだけは伝えたい。
いつか、本当に皆が、民が笑いあえる世界を作りたいのなら。
通るのは茨の道だろう。
オレには、そんな志を掲げ続けることは出来ない。
「だからよ、アカメ。本当にその夢を叶えてぇってんなら、何を犠牲にしてでも叶えやがれ。そんでもって、お互いに生きていたのならクロメの事も含め、考えといてやるよ。まぁ、大臣は殺させねえけですけどね?」
最後はおちゃらけて、ニヤリと口を吊り上げて笑う。
それを見たアカメはーーアーちゃんはフッと微笑んだ。
「そうか、なら全力で殺す気でいく。……死ぬなよ、ハツ兄ぃ」
アーちゃんが村雨を腰だめに構える。
「クハッ。死ぬかよ、です。簡単に殺される程、ボクはお人好しじゃねぇですよ!」
そしてーー
「葬る!」
「やってみな!」
戦いの火蓋が、切って落とされた。
題名がザンクなのにほぼ出てこない(笑)
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