楽天家な忍者 (茶釜)
しおりを挟む

序章
序章 -1-


 ずっと疑問に思っていた。何で俺は皆に嫌われているのだろうって……

 爺ちゃんに聞いても教えてくれない。父ちゃんや母ちゃんに聞きたくても生きていない。ずっと不思議に思っていた。

 

 俺は何もしていないのに石を投げられる。お小遣いでお菓子を買おうとしても店から追い出される。

 

 

 いっぱい嫌なことを言われた。死ねって事も言われた。そして、化け物って言葉も聞こえてきた。

 

 そんな里の皆を俺は何だか自分とは違う生き物のように思えてしまった。恐怖してしまった。

 

 

 

 

 そして気付いてしまったのだ。里の皆はどうしてかわからないけど俺を怖がっているって。今俺が里の皆に抱いているような感情、恐怖。

 理解できないものを怖がり消し去りたいという気持ち。そう考えると俺は里の皆から向けられている感情に納得できた。

 

 皆怖がっているだけなんだ。理由はわからないけど、怖くて子供達から遠ざけているだけなんだ。

 

 

 心がスッと軽くなった気がした。怖いのならば仕方ないのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ずっと考えていた。里の皆に怖がられる理由を……

 考えて、考えて、考えぬいた。

 

 まず思いつく言葉は化け物って言葉。里の皆は俺が知らない俺のことを知っているのだと思う。それが恐怖の理由なんじゃないかと俺は考えた。

 

 爺ちゃんに聞いてみても教えてくれなかった。だから調べたんだ、俺が生まれた時に何があったか……

 

 

 

 

 

 九尾襲来。尾獣である九尾が木の葉を襲って四代目火影がその命と引き換えに撃退したって話。

 爺ちゃんの家にあった書物にはその襲撃のあった日付が俺の誕生日で俺の生まれた年にあったことが記されていた。

 

 それからは里の皆の暴言を熱心に聴きとった。

 

 それでやっと聞きたい言葉を得たんだ。化け狐って。

 

 言った人は直ぐに他の人に咎められたけどバッチリ聞こえた。

 

 

 

 

 俺は自分が化け狐だって理解したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 考えた。俺の嫌われている理由を。

 化け狐、九尾の妖狐。もし俺自身が九尾ならばあるいはそれに近い存在であれば里の皆が恐怖するのは理解できる。

 

 問題はそう仮定した時の俺の立場が2つあるってこと。

 

 一つは九尾が俺だってこと。四代目火影が命をかけて俺の九尾としての記憶を封じ込めて人間の姿にしたって所かな。

 二つ目は俺の中に九尾がいる。またはそれに近い力があるってこと。その場合だと四代目火影が命をかけて俺に封印したって所か。

 

 

 出来れば俺の中に九尾がいてくれたほうがいいかなぁ。俺って友達いないし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 あれから俺はずっと問いかけた。俺の中にいるかもしれない九尾に。

 確信はない。でも可能性はある。いつまでやっても答えないのならば諦めるしか無いだろうけど、なんとなくいるんじゃないかと思っている。

 

 寝る前に九尾がいるかを聞いてみる。もしいたとしても答えてくれるかもわからない。でも、俺がそうしていたかったからしたんだ。

 

 

 

 

 そして、それから一年後、俺は大きな檻の前にいた。

 

 

 

 

 中にいるのは巨大な狐。鋭い目つきでこちらを睨みつけている。

 

 

 

『一体何のようだ?』

 

 

 九尾は問う。

 まるで鬱陶しい存在を見るような目つきでこちらを見下ろしてくる。

 

 俺にはその九尾の姿に只々圧倒されていただけだった。あの腕が振るわれれば簡単に俺は死んでしまうのだろう。あの口を開けば簡単に食べられてしまうだろう。

 

 

 それと同時に思った。随分と檻の中が窮屈そうだって。

 

 俺が生まれてから四年。その間ずっとこんな所にいたんだ。随分と鬱憤がたまっているだろう。

 

 

『おい、聞いているのか!』

 

 

 檻の隙間は人ならば通れるくらいの間隔だった。俺は九尾をもっと近くで見たくて檻の中に入る。

 圧迫感を感じる。九尾が怒っているのだろうか。そうだよね、こんな所に閉じ込められてちゃ怒っちゃうよね。

 

 

『小僧、一体何のつもりだ?』

 

 

 ぎょろりと大きな目玉がこちらを見る。いつでも食って掛かってきそうだけどどうして我慢しているのだろうか。

 書物のような化け物ならば俺はもう既に死んでいるはずなのに……

 

 

『………』

 

「………」

 

 

 沈黙、九尾は怪訝そうにこちらを見つめている。

 その様子に何だかおかしくなってしまって少し吹き出してしまった。それに九尾が憤怒の表情を浮かべていた。

 

 

「こんばんは。俺はうずまきナルト、よろしくだってばよ」

 

『小僧……お前頭がオカシイのか?』

 

 

 失礼だな。俺は全然おかしくなんてないぞ。

 

 

『儂が九尾だっていうことは理解しているのだろう?』

 

「勿論だってばよ」

 

『ならば、何故悠長に挨拶をしている?儂のせいでお前は里で迫害を受けているのだろう?憎んでいるのだろう?』

 

 

 

 まるで俺に言い聞かせるような言葉を九尾が話す。

 

 俺は静かに頭を横に振った。

 

 

 確かに里の皆は九尾が怖くて俺を嫌っているのだろう。九尾が憎くて石を投げてくるのだろう。

 でもさ、九尾は俺が生まれてからずっと側にいた存在なんだぞ?お前のせいで嫌われても関係ないよ。

 

 

「俺はお前の相棒になりたいんだ」

 

『……力を望むのか。くだらんな』

 

 

 首を横にふる。

 力なんていらない。俺はただ、目の前にいる存在に、生まれてから一緒にいる存在と対等になりたいだけなんだ。

 

 

「俺は力よりも、お前という相棒がほしいんだってばよ」

 

『……何を言っている?儂は化け物だ、お前が迫害を受ける原因だ。憎かろう?消えてほしいだろう?』

 

「確かにどうして俺が嫌われるのかって思ったこともあるってばよ。理由もわからずに殴られるのが嫌だよ。でも、知ったんだよ。九尾っていう原因を」

 

『………』

 

「俺はお前を憎んでいない。寧ろお前がいなかったら憎んでいたかもしれないってばよ。だって、俺が嫌われる理由がわからないままだったかもしれないから」

 

 

 それにさ。九尾は俺が生まれてからずっと一緒にいるんだ。それで九尾が憎まれるっていうんだったらさ……

 

 

 

『狂っているな、小僧』

 

「どうだろうね。でもさ、俺ってば友達もいないからさ。相棒になって欲しいんだってばよ」

 

『断る。消えろ、二度と顔を見せるな』

 

 

 

 

 俺もその憎しみを背負わなきゃいけないよな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -2-

「それでさ、そのラーメンがまた美味えんだよ」

 

『………』

 

「俺は決めたね。あのラーメンを宝物にするって」

 

『……おい』

 

「あ、でも他に美味いものとかってあるのかな」

 

『…おい!』

 

「なに?どうしたんだってばよ」

 

『儂は言ったはずだぞ?二度とその顔を見せるなと』

 

「仕方ねえじゃん。寝たらここに来ちゃうんだし」

 

 

 俺はあれから毎晩眠ると九尾のいる場所にきていた。最初は驚いたけど、これでいつでも九尾と話せると思い喜んだ。まあ、大抵はその日あったこととかちょっとした訓練をしているだけだけど。

 

 ここでも何故か訓練の成果は反映される。立派な忍者になりたい俺はそれにも大いに喜んだ。まだアカデミーにも入っていないけど、爺ちゃんがアカデミーの教科書を貸してくれたからそれで簡単な忍術は練習し始めている。まだ全然上手く行かないけど。

 

 

『……ならばせめてその五月蠅い口を開くな』

 

「いいじゃん。お前も話し相手くらいほしいだろ?それに本当に鬱陶しいと思ってるなら殺せるはずだし」

 

『……お前が死ねば儂も死ぬ。下らぬ事で命を落とすのもバカバカしいだけだ』

 

「さいですか。まあいいや。お前のこと教えてくれよ」

 

『………消えろ』

 

 

 

 まだまだ厳しいなぁ。でもさいつか俺の相棒になってることを信じているんだ。

 だってお前は俺の中にいてくれたんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 それから俺はずっと九尾に語りかけた。あの時と同じように、返事のないあいつにずっとその日のこととかを聞いた。

 

 

「俺ってばどうして忍術うまく出来ないのかなぁ」

 

『………儂の力が邪魔でもしているのだろう』

 

「なにぃ!?それは本当か!?」

 

 

 あいつはたまに返事をしてくれる。それが物凄く嬉しかったんだってばよ。

 なんだか少しでもあいつに近付けているみたいで。

 

 

「いやぁ、今日は大変だったってばよ。ぶっ倒れるくらいまでチャクラ使っちった」

 

『………』

 

「まあ、お陰で分身の術も出来たってばよ。ありがとな、九尾」

 

『……何故礼を言う?儂は邪魔しかしていなかったと思うが?』

 

「原因さえわかっちまえばなんてこと無いことだってばよ。意識してお前の力に同調すればちゃんと出来た」

 

『………そうか』

 

 

 

 もう里では一緒に遊んでくれる子供はいない。多分親が子供に言い聞かせているのだろう。仕方ないことだ。俺が受け止めなきゃいけない現実なんだ。

 

 俺はより一層鍛錬に時間を費やした。

 

 

 

 

 

 

 そうして、一年が経過した。

 

 

 

「なあ九尾。お前って九尾って名前なのか?」

 

『………いきなりなんだ』

 

 

 最近はこいつも大抵返事してくれるようになった。いつも寝転がって面倒くさげに返答するだけだけど。

 

 

「いや、なんか九尾って役職?みたいな感じに思えてさ。本当の名前があるんじゃないかって思ったんだってばよ」

 

『………くだらぬことを聞くな』

 

「いやいや、大事だってばよ。相棒の名前を知らないなんて大問題だ」

 

『………』

 

 

 もしかしたら本当に九尾って名前なのかな。それだったら悪いこと聞いたかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……なあ小僧』

 

 

 重々しい口調で九尾が俺に語りかけてきた。

 珍しいこともあるもんだ。いや、初めてじゃないかな。こいつから話しかけてくるのは。

 

 

「なんだってばよ」

 

『何故お前はそこまで儂を相棒と呼ぶ?何故儂を憎まないのだ』

 

「……うーん……俺ってば頭良くないから難しいことはわかんねーけどさ。俺はお前がいてくれたほうが嬉しいんだ。お前がいて、里の皆がいて、俺がいる。それが一番見てみたいんだ」

 

『………』

 

 

 どれかが欠けてたら嫌なんだ。

 お前を犠牲に里の皆が喜んでいるのは見たくない。里の皆を犠牲にお前と生きて行きたくない。

 

 傲慢だろう、我儘だろう。でもそれが俺が夢見ていること。

 

 

「俺は、絶対に里の皆に認めさせてやるんだってばよ。お前っていうちょっと生意気でふかふかした九尾をな」

 

『………』

 

 

 

 

 

 

 

 九尾は目を少しだけ開いて俺の方をじっと見つめてきた。まるで何かを見定めるように真っ直ぐと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………勝手にしろ』

 

「……へ?」

 

 

 今、もしかして……いや、もしかしなくても。

 

 

「認めてくれるのか?」

 

『………ふん』

 

 

 

 否定の言葉がない……ってことは!

 

 

 

「ぃやっっほぉぉぉぉい!!!!ありがとな!!九尾!!」

 

『ええい!しがみつくな!鬱陶しい!!』

 

「へへへ、絶対に離さねえからな!」

 

『………ちっ』

 

 

 

 

 それから九尾は小さな声で名前を教えてくれたんだ。

 

 

 

 

【九喇嘛】っていうかっこいい名前をな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =============================

 

 そいつは初めて会った時からおかしいやつだった。

 里の者に暴言を浴びせられ、殴り蹴られ差別されようとヘラヘラと笑っている。

 

 それでいて思慮深く自身の現状を理解し、儂という存在にたどり着いた。

 

 毎晩毎晩儂に呼び掛けてきて鬱陶しい存在だった。

 流石に一年を超えても諦めないのに我慢できず呼び込んでしまった。それが間違いだったのかもしれない。

 

 あいつは儂を憎んでいないと言い切り、笑っていた。

 毒気が抜かれ、もう姿を見せるなとまで言ったのだがそれから毎晩向こうから来るようになってしまった。

 

 それからはずっとあいつは儂に語っていた。こいつの中にいた儂が知っていることを嬉しそうに話すこいつは本当におかしなやつだ。

 

 

 儂のせいで忍術がうまく行かなくてもそれを知ってからは自分で克服し。

 

 同じ年の者と隔離されようとそれを期に鍛錬に集中する豪胆さ。

 

 

 あいつは、不思議なやつだった。憎しみの塊であり憎悪の矛先でもある儂にいつまでも笑いかけ相棒と口にする。

 

 

 

 本当に、変なやつだった。

 

 憎しみを人一倍しっているだろうに、憎しみを抱いていない人間。

 

 

 

 うずまきナルト………

 

 

 少しだけ、少しだけこいつを見てやってもいいと思えた……

 

 =============================

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -3-

『……いいか、お前にはまだ儂の力のすべてを使いこなすことは出来ん』

 

「うんうん!」

 

『だから、少しずつ馴染ませるからな』

 

「ありがとうだってばよ!でもあれだからな?力なんてかしてくれなくてもいいんだぞ?お前がいてくれるだけでさ」

 

『……儂が勝手にすることだ。甘んじて受けろ』

 

「おう!」

 

 

 

 九喇嘛が認めてくれた。それだけで嬉しかった。そしてこいつは俺に力を貸してくれるらしい。

 まあ、まだまだ俺が弱っちいからほんの少しだけって言われたけど……

 

 

 取り敢えず言われたとおりに夜に家から抜けだして誰もいない森のなかにいく。

 あまり人目につくのはよくないらしいし、万が一俺が暴走した時に被害が出ないようにだそうだ。なんだかんだ言って九喇嘛は俺のことを理解ってくれている。里に迷惑を掛けたくないって事を考えて提案してくれたのだろう。

 

 

『では行くぞ』

 

「ばっちこいってばよ!」

 

 

 九喇嘛に認められてからは九喇嘛がいる場所に行かなくてもこうやって話が出来る。まあ、あんまりやると九喇嘛が鬱陶しがるから限られた時にしかしないつもりだ。例えば鍛錬の時とかしか……

 

 ブゥンと音を立てて身体に紅いチャクラが纏ったのが理解った。

 凄い力を感じる……視線を後ろに移すと一本だけ尻尾のようなものが生えていた。

 

 

「ははは、お揃いだな。九喇嘛」

 

『……そんな事はどうでもいい。それよりも、どうだ?』

 

「ああ、やっぱお前って凄いんだな。まだまだ未熟な俺でも凄い力を感じるってばよ」

 

『……そうか』

 

 

 両手を上に掲げ紅いチャクラを見る。まるで生きているかのように脈動しているそれは衣のように俺の身体を覆っている。顔にかかっているのかはわからないけれど、独りじゃないって事を実感できる。

 

 

「これが、俺が目指す力かぁ」

 

『……なんだ?』

 

 

 俺のつぶやきに九喇嘛が反応した。

 思わず口に出てしまった言葉。俺がこれから目指すであろう事。なんだか気恥ずかしくなりながらも九喇嘛へと語る。

 

 

「九喇嘛、約束する。俺ってば相棒のお前に肩を並べられるくらいに強くなる。だから待っていてくれないか?」

 

『…………ふん、お前では一生無理だ』

 

「へ!やってやるってばよ!」

 

 

 

 

 俺は空に輝く月を見て声高々に誓った。

 

 まだまだ先は見えないけど、こうして俺の隣には最高の相棒がいる。

 こいつと一緒なら俺はなんだってやれるってばよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!!ナルト!離れろ!』

 

 

 突然九喇嘛の叫びが頭の中に響き、それと同時に一斉に凄い数の忍術が俺めがけて迫ってきた。

 

 

「な!!」

 

 

 なんとか躱そうとするけどいきなりのことで反応が遅れてしまい、火遁の術が少しだけ当たってしまう。

 

 

「あれ?痛くない」

 

 

 でも特にダメージはなかった。恐らくはこの九喇嘛の力のおかげなのだろう。守ってくれてサンキューな。九喇嘛。

 

 

『また来るぞ』

 

 

 俺は術を放ってくる人。木の葉の額当てをした大人たちへと視線を向ける。

 

 ああ、あの目だ。俺に恐怖を抱いて迫害する大人たちの目。憎悪の感情をぶつけているのがわかる。

 

 

 そうか、この九喇嘛の力に驚いて集まっちゃったのか……まあしょうが無い。

 

 

 

「全員、殺す気でかかれ。あの様子から見てまだ封印は解けきってはいないようだ。今ならまだやれる!」

 

 

 面を被った忍者がそう指示を出した。

 流石に殺されるのは嫌だなぁ……

 

 

「くらえ!!」

 

 

 今度は一斉にクナイや手裏剣が飛んで来る。あまりの速さに俺自身は反応できずに九喇嘛の衣が迎撃してくれた。

 

 でも、流石に全部を捌くのにそれでは無理があるようで。いくつかのクナイが俺の身体に当たる。

 まあ、九喇嘛のおかげで俺自身の身体に刺さってはいなかった。

 

 

『ナルト!気を抜くな!』

 

「へ?」

 

 

 突然、背中に刺さっていたクナイが爆発した。

 鋭い痛みが身体を走り吹き飛ばされる。ああ、そういえば見たことあるってばよ。確か起爆札って言ったっけ……

 

 

「がはっ!!」

 

 

 地面に落ち、思わず声を上げてしまう。

 衝撃まではこの衣は吸収できないのか……まあ贅沢は言えないな……

 

 

『クッ!ナルト!ちょっとキツイかも知れんが我慢しろ!』

 

「………」

 

 

 俺の腕を纏っている衣が一人でに動き出す。

 それを俺は逆の腕で抑えた。

 

 

『何故だ!ナルト!』

 

 

 ダメだってばよ九喇嘛。ここで手を出しちゃダメなんだってばよ。

 痛みでどうにかなりそうな身体に鞭を打ち、立ち上がる。忍者たちは警戒しているのだろう。忍具を構えて此方を睨みつけいる。

 

 

『こいつらは敵だ!倒すべき敵だ!』

 

 

 違うんだってばよ……

 ただ、ここにいる人達はみんな怖がっているだけなんだ……

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 いつの間にか爺ちゃんが大人たちに混じって此方へと視線を向けている。

 いつも着ている火影の服じゃなくて戦うための忍び装束……

 

 爺ちゃんもまた怖がってるんだろう……

 

 

「……ごめん…な……」

 

「ナル…ト?」

 

 

 一歩踏み出して爺ちゃんに謝る。

 怖い思いしちまったんだろ?俺のせいで。俺の中にいる九喇嘛の力が怖いんだろう?

 

 

「クッ!!」

 

 

 クナイが迫ってくる。

 避けようにも身体が上手く動かない。こんな小さな身体にはさっきの起爆札のダメージはすさまじいみたいだ。

 

 

「攻撃をやめろ!」

 

「さ、三代目。しかし……」

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 ごめんな。ごめんな……

 

 

 

「…怖い思い…させちまって……ごめんな」

 

「っ!!?」

 

 

 

『何故だ!ナルト!何故そこまでこいつらのことを!』

 

 

 言ったろ?九喇嘛。

 どっちが欠けてもダメなんだって。俺はいつかお前を皆に認めさせてやりたいんだ……

 

 お前の力は無闇に人を傷つけていいものじゃない……今お前がここの皆を殺しちまったら、もう後には引けなくなるんだってばよ……

 

 

『ナルト!!』

 

 

 だから、我慢だ。耐えて、耐えて、耐えて……いつか認めてもらおうぜ。

 

 

「なあ……九喇嘛……」

 

 

『ナルト!!』

 

 

 

 

 悪かったな、こんな事を強要しちまって……俺、もうちょっと強くなるから……

 皆が認めてくれるくらいに、強くなるから……

 

 

 意識が薄れているのが解る。

 なあ九喇嘛、俺ってば、お前に並び立てるかな……

 

 

 

 

 

『…….ナルト……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =============================

 衝撃であった。突如感じた莫大なチャクラの力。以前にも感じた九尾の力……

 

 まさか、ナルトの封印が解けてしまったのかと思い、急いで現場に向かった。

 

 

 そこにいたのは暗部や上忍の攻撃で傷ついた紅いチャクラを纏ったナルトの姿であった。

 

 凶暴な目つきに八重歯が伸びている。眼の色も紅く染まり、今にも全てを破壊しそうな危うさがあった……

 

 

 

 だが、そうではなかった。ナルトは儂に気づくと、少しだけ近付いて謝ったのだ……

 

 

 ――怖い思いさせちまってごめんな

 

 

 ナルトがそう言うと紅い衣が霧散し、地面に倒れこんだ……

 

 

 

 ナルト、お主まさか。九尾の力を……

 

 いや、まだ早急過ぎる。今はナルトを殺さんとしている者達を止めねば……

 お主達には見えなかったのか?必死で攻撃しないようにしていたナルトの姿を……

 

 ナルトがお主達をどう見ているのかを理解しているのか?

 

 

 迫害を受けようとも、お主達を仲間と見ていると気付かないのか?

 この子は、心優しい子だ。九尾に飲まれることも無いだろう。

 

 火の意志を継いで立派な忍びになってくれる筈だ……

 

 

 =============================



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -4-

 九尾の襲来があった日から既に7年、つまりナルトの年齢が7歳となった日、火影室で執務に勤しむ儂のもとにカカシからある報告が入った。

 

 

「ナルトの影分身が里を出たじゃと?」

 

 

 その報告に頭を痛ませながら詳細を聞く。何でも昨晩ナルトが寝る前に影分身の術を使い2人に分身した後、一人が里を出たそうだ。一体何の目的があってかは知らんが、取り敢えずカカシにナルトを連れてくるように命じておいた。

 

 思えばナルトは困った奴じゃった。いや、本人はいい子で心優しいのじゃが、問題はあの才能と発想力。

 幼少期より独自で修行を行っており、アカデミーに入学するより前に簡単な忍術を習得しておった。そしてアカデミーに入学してからも修業を重ねて、何とあやつは勝手に影分身の術を編み出したのじゃ。

 いきなり火影室に来たかと思えば「見てくれってばよ爺ちゃん」と言って影分身の術を使った。

 

 ナルトは自分で考えついたらしく、その術を分体の術と名付けていたが、まるっきり印も含めて影分身と同じじゃったから分体の術ではなく影分身の術と改名していたな。

 発想は恐らく影分身が出来たのと同じ様に、実体を持った分身があれば便利だと考えて色々と印も試行錯誤させつつ開発したのだとか……更にあやつはとんでもない忍術を開発していた。

 

 分体の術……いや、影分身の術・遠の陣

 

 自分以外の者や物を影分身させるというとんでもない忍術。儂の使う手裏剣影分身の術の完全上位互換と言った所か……

 いきなり儂の影分身が出現して心底驚いた。まだ完成はしていないらしく、人間の場合影分身は1体しか作れないそうだ。チャクラでゴリ押ししてるだけでチャクラ効率を上げればもっと増やせるとまで言っていたが……

 

 他にも儂ですら油断をすればやられてしまう危険な(おいろけの)術等も開発しておったが、あやつの真価は忍術への理解といった所かの……影分身に関しては己で開発した分随分と詳しく把握しておる。

 

 影分身の経験はそのまま本体へと帰ってくると言うことをあやつは理解しておった。

 

 

 本来であればチャクラが足りずに出来ない修行、影分身との分担をあやつのチャクラと九尾の回復力があれば容易に出来る。

 そうなればあやつの修行効率は影分身の数だけ倍になり、それだけ成長するということ……

 

 

 それだけであれば喜ばしいのだが、問題は里の忍たちの反応。やはり九尾の件が尾を引いているようで、ナルトが力を付けていくのを危険視している忍びも少なくない。

 

 それでもナルトの人柄を見て心を許している者も何人かいるようだ。

 よく嬉しそうにラーメン屋の話をナルトはしておる。本来であれば里の者からの迫害の方に気を取られ、瞳も曇るだろうに、ナルトは純粋にただただ楽しそうに笑っている。

 

 カカシに監視を任したのもナルトを思っての事じゃ。カカシの実力は木の葉の表でも裏でも信用されておる、更にあやつはナルト……師の息子を案じておる。

 

 一番適任じゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 カカシに連れられたナルトは眠そうに眼をこすりながら火影室に入ってきた。

 影分身を里の外に出したことを問うとナルトは普通に肯定する。

 

 理由を問えば修行のためだとか……

 

 あまり木の葉でナルトが修行をしているのをよく思っていないとナルト自身も気付いていたようで、ニシシと笑いながら迷惑にならないように修行は影分身に任せたと言っていた。

 

 

 ナルトは己がどのような存在かを薄々ではあるが気付いておるのだろうな。

 だが、その事についてナルトは儂らに聞いてこない。いつかは話さなければならないだろう……だが、こやつならばしっかりと受け止めてくれるはず……

 

 

 尚、影分身の方は一定時間で影分身を発動、解除をすることでナルト本体に経験を還元しているらしく、影分身がどこで何をしているのかはわかるそうだ。

 

 一体の影分身にしては些か可能に思えなかったが、何と昨晩にナルトのチャクラの8割方を消費して作り出した特別製らしく、ちょっとやそっとじゃ解除されないどころか、ナルト本人が2人いるような状態になっているとのこと。影分身が消えるのも、ナルト自身が死ぬくらいとは行かないものの、痛みで気絶するくらいのダメージを与えないかぎり消えないという。

 

 とんでもない物を思いつき作り出したナルトにため息を吐きつつも一応火の国からは出ぬように伝えておいてナルトを帰らせた……

 

 

 取り敢えず逐一ナルトには報告させねばならんな。流石に影分身の動向を知るためにカカシを木の葉の里から離れさすわけにも行くまい……

 

 

 相変わらず本人とは別に色々とやらかしてくれるな、ナルトは……まあ、それくらいがちょうどいいのじゃが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 後日、ナルトの報告を聞いて思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

 

 何と影分身は現在自来也と行動をともにしておるようじゃ。外見的な特徴に名前まで言っておったのじゃが……よもや自来也と出会うとはな…

 自来也に修行を見てもらっているようで嬉しそうにナルトは話しておった。

 

 よもや親子揃って同じ師を仰ぐとはな……運命というのはあるようじゃな……

 

 取り敢えずナルトには自来也に修行が一段落済んだら里に来てもらうようにと伝言を頼む。

 直ぐ様ナルトは影分身を発動し解除することで影分身に今のことを伝えた。

 

 そしてその後、ナルトに影分身からの伝言でやなこったと自来也が言っておった事を聞き、ため息を吐く。

 

 早く新作を書き上げんか、馬鹿者が……

 

 




短いですがここまで

原作開始まで少し駆け足で進んでいきます。
後2話くらいで原作スタートする感じですかね……

あ、次回は影分身の視点で修行編となっております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -5-

影分身編です


 修行のために特別製の影分身として出現し、俺は里を出ていた。

 九喇嘛からの提案で、里から離れて誰も来ないような所で九喇嘛の力の制御を修行することになったのだけど、正直オレは自分の鍛錬も行いたかった。

 

 それに対しては九喇嘛は反対のようで、提案を受けた時、九喇嘛自身の力をとっとと扱えるようになってほしいという気持ちが九喇嘛の身体の節々から感じ、苦笑いを浮かべてしまったな。

 

 

『ナルト、一人付けてきているぞ』

 

「げっ!ばれないと思ったんだけどなぁ」

 

 

 里を出てからまだ数分、一人の忍者、多分あの眼を隠した変な髪型の人が追ってきているとの情報を九喇嘛から得た俺は、少し九喇嘛に力を借りて影分身をした後、瞬身の術で四方八方に走り去った。

 

 

「これで撒けるかな」

 

『追跡者の足が止まったな。恐らくは問題無いだろう』

 

 

 じゃあ、少しだけ予定は狂ったけど、誰も居ない場所に行くとするか。

 

 

「頼むってばよ。九喇嘛」

 

『ふん……ここから北に人の気配はする。東にもだ。木の葉の里が南東にあるから目指すは西だな』

 

「西……どっちだってばよ」

 

『……お前の今向いている方向の左前だ』

 

「サンキュー!九喇嘛!」

 

 

 さあ、どんどん強くなってやるってばよ。あ、他にも九喇嘛のこと色々と教えてもらわねえといけないな。ニシシ、やることはいっぱいあるけど楽しみだってばよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 到着したのは森のなかだった。

 九喇嘛に聞いた所、余程の忍びでもない限り九喇嘛のチャクラを開放しても感知されないとかなんとか……

 

 

『ナルト、一つ言っておくが、儂の力はいかにお前が力をつけようとも全て扱うことは出来まい』

 

「そうなんだ。まあ、別に大丈夫ってばよ」

 

『……いや、お前にはいつか使いこなして貰うぞ』

 

 

 えぇ……案外我儘なんだよなぁ、九喇嘛って。

 まあ、そんなところも含めてこいつは最高の相棒なんだけどな!

 

 

『ふん……くだらぬ事を考えおって……』

 

 

 おっと、考えが読まれちまった。こいつ一回恥ずかしがると元に戻るまで時間かかるんだよなぁ……

 

 まあ、それはさておき……

 

 

「何で今はお前の力を使えないんだってばよ」

 

『……封印が強固だからだ。今すぐ解くには鍵が必要だろうな』

 

「そんなものがあるんだな」

 

 

 鍵かぁ……爺ちゃんの家にあった書物にはそんなこと一切触れていなかったけど…どっかにあるのかなぁ。

 

 

『とはいってもだ、放っておけば封印が弱まり、儂の力を引き出すのも多くなってくるはずだ』

 

「……ってことはつまりあれか?九喇嘛。案外力押しでなんとかなるんじゃないのか?」

 

『……何を言っている?』

 

 

 時間とともに劣化するってことは、つまり九喇嘛を抑えるのが耐え切れなくなっていくということだよな?じゃあさ、その耐え切れなく成る限界をずっとしてれば普通に待つより封印が解けるのが早くなるんじゃないかな……

 

 

『一理あるが……危険だぞ?少なくとも今のお前がやればこの体が消滅するだろうな』

 

「いや、可能性があるのならやったほうがいいってばよ」

 

『いや、だから影分身で里をでた意味が……』

 

 

 ようはこの特殊な影分身の俺が消えなきゃいいんだよな。だったら話は簡単だ。

 

 

「影分身の術!」

 

 

 普通の影分身を行うことで二人に別れる。

 

 

「じゃあ、九喇嘛、無茶はこの影分身に任せればいいんだってばよ。俺が消えなければそれでいいんだし」

 

『……なるほどな、相も変わらず無茶なことを考えたな』

 

「やっぱこの術って便利だよな。修行に持って来いだってばよ」

 

『……ふん、じゃあ儂はそちらの影分身とともに封印へ負荷を与えるが、お前はどうするのだ?』

 

「無茶しない程度に修行するってばよ。新術を開発してもいいけど、今回は九喇嘛のための修行だしな。あの尻尾が一本の状態の修行をするってばよ」

 

『わかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行二日目】

 封印に負荷をかける影分身はちょっと眼を離した隙に消えちまうけど、俺自身無茶はしていないし、九喇嘛の回復力もあってか順調に修行はできていると思う。

 

 九喇嘛の衣も扱いが難しくはあるけど、印を結ぶこともできるから同時に2つの忍術を発動できたりもする。

 チャクラ自体も九喇嘛のチャクラを消費しているから全然大丈夫だ。まあ、あまり長い間纏っていると身体に負荷がかかって傷んだりするけど、それもどんどん時間を伸ばして行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

【修行三日目】

 一体の影分身に修行を、三体の影分身に食料調達をしてもらい俺自身は身体を休める。

 とはいってもただ休むんじゃなくてチャクラコントロールの修行をしながらの休息だ。

 

 里にいる本体に此方での疲労が伝わっているのか、授業中に居眠りをしてしまってイルカ先生に怒られたらしい。その際に木の葉を額に当てて集中する方法を教わったらしいのだけど、案外コレも馬鹿にできない。

 チャクラを効率よく巡らせればそれだけで忍術の発動も早くなるし集めれば集めるほど大きな忍術を使用できる。

 

 それにこの修業ならあまり身体に負荷も与えずにできるから消滅の心配もない。

 

 暇な時はずっとこれをやっておこう。

 

 

 

 

 

【修行五日目】

 九喇嘛の封印への負荷をしている影分身の所に一人のおっちゃんが現れた。

 白髪に油と書いた額当てのおっちゃん。九喇嘛がちょっと周囲の探索を怠ったらしく、接近に気づかなかったそうだ。

 

 警戒してたけど、話を聞けばおっちゃんは木の葉の三忍の一人自来也って言うらしい。前に書物の中にその名前を見たから薄っすらと覚えていた。

 他の三人は綱手って人と……大蛇丸男だっけ……うろ覚えだから自信ないや。

 

 嘘付いている可能性もあるのだろうけど、そのおっちゃんの目に俺を恐れている様子もなく、嘘を付いているようには見えなかった、それに、九喇嘛のことも知っていた。

 

 

 伝説の三忍で、里から離れて活動しているのだと言うことで里の皆を下手に怖がらせる心配もなかった。だから俺は初めて九喇嘛のことを他人に話した。

 と言っても、九喇嘛を化け物呼ばわりされて少しカッとなってしまったのが原因なんだけど……

 

 こいつは俺の最高の相棒なんだからあまり化け物って呼ばれるのは嫌なんだってばよ。

 

 

 まあ、おっちゃんは俺の様子に悪かったと言って修行を付けてくれることを約束してくれた。

 何だかおっちゃんが俺を見る目が三代目の爺ちゃんに似ててくすぐったがったけど、それよりも嬉しかった。

 

 何だかこのおっちゃんといると不思議と安心できたんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行七日目】

 本体から爺ちゃんの伝言を受け取り自来也のおっちゃんに伝えた。

 折を見て里に帰れってことだけどおっちゃんは嫌だ!と言って何処かへいってしまった。

 

 仕方ないので今日は九喇嘛の封印の負荷も行いつつ、チャクラコントロールの修行に集中する。

 

 おっちゃんは夜に帰ってきた。酷く酔っ払っているみたいで顔を真っ赤にしてふらふらとした足取りで座り込んでいた。

 酔っぱらいの介抱の仕方は俺にも九喇嘛にも解らなかったので、九喇嘛と相談してから水を飲ませた後、頭から水をぶっかけてみた。

 みずをかけられたおっちゃんはぬるりと起き上がり俺にチョップした後横になって寝てしまった。

 

 水をかけたのはダメだったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行八日目】

 おっちゃんから封印への負荷はやめろと言われた。

 変に封印を壊せば俺自身がどうなるか解らないって言ってたけど、それ言うのだったらもっと早く言うべきじゃないだろうか……

 

 まあ、過ぎたことだからいいんだけど、ここでおっちゃんからとんでもないカミングアウトが……なんと俺の封印の鍵をおっちゃんが持っているらしい。

 九喇嘛が早く寄越せと頭の中で騒いでいたのだけど、おっちゃん曰くある忍術を習得出来たなら封印を解除してやってもいいとのこと。

 

 早速その忍術をおっちゃんに見せてもらう。

 何だか手のひらの上に小さな球体のチャクラが回転しながら留まらせる忍術。四代目火影が開発した螺旋丸っていうA級忍術なんだって。

 

 まずは水風船の中の水をチャクラで回転させて割れと言われて渡されたのだけど、九喇嘛が急に俺に衣を纏わせると、チャクラの手で螺旋丸を作り上げてしまった。

 九喇嘛は自慢気にしていたがおっちゃんに「それは反則じゃのう」と言われていた。

 

 取り敢えずおっちゃんの修行を一からやることになり水風船を割る作業を行う。

 

 

 影分身20体くらいでやれば直ぐにできるかなと感じ、水風船を持ったまま分身し、それぞれで始める。

 

 なんでかおっちゃんが苦笑いを浮かべていたけれど、水風船はその日のうちに割れた。チャクラコントロールをしっかりしていたからチャクラの流れを四方八方に出来たのが早く出来た理由だとおっちゃんは言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行九日目】

 水風船を割った後は今度はゴム球を割ることになった。

 影分身の修行による疲労は九喇嘛のおかげで残っていない。効率的にどんどん段階を進めていこう。

 

 また影分身20体に分身し、修行を始める。

 

 

 まあ、始めたはいい物の中々割れない。ボコボコと変形するけど水風船に比べるととんでもない硬さだということが解る。

 

 数時間かけてゴム球に穴を開けたのだけど、それも分身なので消えてしまった。

 本体を割ってしまうともったいないので皆で分身した球を割るために頑張る。

 

 

 一度4人位で集まってやってみたら見事に割れたのだけど、それじゃあダメだと言われてしまった。

 

 でも、これでコツは掴んだと思うから、しっかりと取り組む。集中して一点にチャクラを集めるのがいいと聞いて頑張った。

 

 この日にゴム球を割ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行十日目】

 今日も今日とてゴム球を割る修行。たまに九喇嘛がズルしてチャクラを与えてくれるのだけどおっちゃんに直ぐにバレてしまう。

 ぶちぶちと文句を言っている九喇嘛に苦笑しつつ集中する。

 

 大事なのはチャクラの密度と回し方……息を吐いて呼吸を整えつつチャクラを練り込む。

 

 九喇嘛のチャクラを纏う間に覚えたチャクラの運用方法……しっかりと集中してゴム球へとチャクラをぶつける。

 

 

 一点に集中したチャクラにゴム球は耐え切れずに破裂した。

 

 これで第2関門は突破。でも、ちょっと疲れたから第3関門は明日にした。

 

 

 これでもおっちゃん曰くとんでもない早さで習得しているらしいのだけど、九喇嘛が急かしてくるからもっと頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行十一日目】

 第3関門はゴム球を割った力のチャクラの回転を球体にするということだった。

 

 唯の風船の中でチャクラを回しつつ風船を割らないようにする……また20人に影分身をして修行を開始。

 

 

 でも中々上手くいかない。チャクラの消費量もバカにならないので休憩をはさみつつ行っているのだけど、ゴム球を破裂させる力を球体にするのは難しい。

 

 一度九喇嘛にコツを聞いてみたけど、ノリで押し留めたと言っていた。

 まあ、何となく思っていたことだから具体的なコツは聞けなくても平気だったけど……

 

 

 でも、あの時の九喇嘛の螺旋丸を思い浮かべると自然にやるべきことが解る。

 

 九喇嘛はチャクラの腕を2本使って螺旋丸を作っていた。

 俺の予想ではあれはチャクラを回すのと押しとどめる2つの仕事の役割分担をしていたんだと思う。

 違うならば小さい押しとどめられるチャクラの流れを2つくっつけただけなのかもしれない。

 

 

 でもこれで解るのは大事なのは役割分担だということ。取り敢えず影分身で二人一組になって一つの風船の中のチャクラを回す役目と押しとどめる役目に分担して行う。

 

 これは数時間続けて成功した。後はこれを繰り返して一人でも出来るように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【修行二十日目】

 な、なんとか完成した。

 役割分担を思いついてから結構経ったけど、なんとか一人でも螺旋丸を作ることが出来た。

 半月もかからずに出来たことにおっちゃんは驚いていたのは印象深かった。

 九喇嘛が嬉しそうに笑っていたのもだけど……

 

 

 

 取り敢えず約束通り明日おっちゃんは九喇嘛の封印の鍵を渡してくれるとのこと。

 今日はしっかりと休んで次の日に備えるように言われた俺はまだ日も沈みきっていないうちから眠った。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -6-

――深く、深く潜っていく

 

――色んな人の憎しみ、色んな人の嘆き

 

――全て、一つに向かった感情

 

――それを覆すことは出来ない

 

――それをなかった事には出来ない

 

――だからこそ……

 

 

 

「一緒に背負わなきゃなんねえよな!」

 

 

 檻に貼られた札を引きちぎり、鍵を突き刺す。

 これまで7年。長いこと狭い檻の中に縛り付けてしまって悪かったよ。確かにお前は色々とやっちまったけどさ、それでも、分かり合えるよな。だって、俺とお前は相棒なんだからな!

 

 

『……とうとう、ここまで来たな』

 

 

 九喇嘛の声が響く中、俺は檻の封印を開いていく。

 何となく開き方は解った。くるくるとゆっくり回りながら開く鍵を見て俺は息をゆっくりと吐く。

 

 

「さて……あんた、誰だってばよ」

 

 

 振り返り、俺の後ろに立っていた男に問いかける。黄色の髪に青色の瞳。火影装束を身につけた男……それは文献で見た四代目火影の姿に酷似していた。

 いや、十中八九本人なのだろう。九喇嘛を封印したのは四代目火影なのだ。ならばこの場において現れてもおかしくない。

 

 

「まさか、自分で封印を解除するなんてね」

 

「あんたには悪いとは思うけど、こいつは俺の相棒なんだ。いつまでも狭っ苦しい思いはさせられねえってばよ」

 

「そうか……」

 

 

 何故か苦笑を浮かべる四代目火影だが、それくらいじゃあ警戒は解かない。

 里を守るためとはいえ、九喇嘛を封印したのはその力を危険視したからだ。その保険としてこの場にいると推測できる以上、九喇嘛を再封印するのが目的だと思う。

 

 そんな事はさせない。折角解放できたんだ。縛り付けるのはもう可哀想なんだ。

 

 

「こうなっては仕方ないね。九尾を御する力をナルトが持っているのか、見せて貰うよ」

 

「やっぱそうなるか……」

 

『ナルト、気をつけろ。そいつは今のお前より確実に強い』

 

 

 背後の九喇嘛を一瞥して吹き出してしまう。

 いつも仏頂面しているけど、やっぱり良い奴なんだよ。今も俺の心配して力を貸そうとしてるんだからな。

 

 

 でも――

 

 

 

「手は出さないでくれってばよ、九喇嘛。ここは俺の力を見せなきゃいけないんだから」

 

 

 

 走りながら印を結び、影分身を出現させる。

 数は四体。自分自身を含め、5人での特攻。まずは相手の出方を見なければどうしようもない。

 

 

「………」

 

 

 四代目火影がクナイを投げてくる。

 速度は十分対処できるレベル。影分身の一体がクナイを取り出し、叩き落とす。

 

 その瞬間、影分身全員の視界から四代目火影が消え、クナイを弾いた影分身が消えた。過程までは解らない。だが、消えた影分身の感覚的に、四代目火影がいきなり目の前に現れたように見えた。

 

 確か文献では四代目火影は瞬身の術を得意としていたと書いていたはず。

 速いということはそれだけで脅威になる。攻撃は当たらないし、回避することも難しくなる。

 

 そんな手合を相手取るには、工夫しないといけない……

 

 そして、工夫のためには相手を知らないと行けない。

 

 

 直ぐ様全員、術を何時でも発動できるように印を結んでおく。

 

 四代目火影が投げてきたクナイを1体の影分身が回避した。

 その瞬間、四代目火影の姿が消え、クナイを持った状態で回避した影分身の背後に現れる。

 

 

「「「影分身の術・遠の陣!!」」」

 

 

 対象を影分身とした新たな影分身の複製。クナイが振り下ろされる前に発動させ、新たな影分身が3体現れる。

 振り下ろされたクナイで一体消されるが新たに創りだされた影分身は既に術の準備を終えた状態で現れている。

 

 

「「「影分身の術・遠の陣!!」」」

 

 

 新たに現れた影分身によって本体の影分身が新しく3体出現する。

 これで影分身の数は現在8体。一回の攻防で5体増やすことが出来た。

 

 と言っても遠の陣はチャクラ消費が多い術。多用はできないのが難点ではある……

 

 

 しかし、これで現在本体である俺と同じチャクラ量を持った影分身が3増えたという事。

 

 

 更に、憶測の域は出ないまでも四代目火影の瞬身の術の法則を見ぬいた。

 間違っているかもしれないけど、見つけた法則というものはあのクナイの場所に現れる事だ。無条件で良いのであれば次々移動し、目も付く間もなく殲滅すればいいのだし……

 

 

「はは、随分と術の使い方が上手いね」

 

「へっ!余裕ぶっこいてるのもそこまでだってばよ!!」

 

 一度、影分身を作り、直ぐ様消し、作戦を全影分身へと伝えておいた。

 次に本体である俺を含め3人が螺旋丸を形成し、それ以外の影分身は遠の陣の発動準備を終えておく。

 当てれば相当なダメージなのだ。攻撃力は十分。後はどう当てるかだけど……

 

 

「……」

 

 

 四代目火影がクナイを投擲してくる。

 それに合わせて一体の影分身がクナイを回避し、術を発動させる。

 

 

「影分身の術、遠の陣!!」

 

 

 投げられたクナイへと発動した術。影分身の術にはいろんな特徴があって、その中に本体と出現する分身の位置を入れ替える事が出来る物がある。

 出現先はチャクラがあればあるほど、少しだけ距離を広げることは出来る。つまり、近距離とはいえど、すり替えが出来るというわけだ。

 

 

「「「螺旋丸!!!」」」

 

 

 俺達3人の前にすり替えられたクナイに向かって螺旋丸を叩き込む。

 回避した影分身の近くにはクナイの影分身がある。全く同じ物といえど、いきなりの事だったら本体のクナイに移動してくる可能性が高いからと考えられた作戦。

 

 

「何!?」

 

 

 見事に作戦は成功し、クナイへと移動してきた四代目火影に現れたと同時に3つの螺旋丸が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 しかし、あるはずの手応えがない。まるで幽霊だったかのようにクナイを残して消え失せてしまった。

 そして、現れるのは影分身のクナイの方だった。

 あの一瞬でもう一回移動したっていうのか。

 

 

「いまのは危なかったかな」

 

 

 影分身のクナイを手に持ち、距離を開けた四代目火影を見て、一度息を吐いた。

 落ち着かないといけない。九喇嘛が言っていた通り相手は格上の存在なのだ。どうあがこうとも俺が逆立ちしても勝てない存在……

 

 冷静にならなければ一瞬でやられてしまう……今ここで新しい力が目覚めるなんて都合のいいことは起こりえないのだ。

 

 今使える手札、攻撃に螺旋丸。防御と陽動に影分身……後は、基本忍術しかない。

 

 どれも通用しない事は今の攻防で解った……いや、解ってしまった。

 

 

 

 

 ならば……もう出来ることは……

 

 

 

 

 影分身を一体残して消す。陽動を増やすのはこの場においては愚策。

 この作戦は判断力が要になる……

 

 作戦内容は……影分身も何も言わずとも理解している。これしか打つ手はないのだから……

 

 

 

 螺旋丸を作り出し、ゆっくりと視線を四代目火影へと向ける。

 影分身は落ちたクナイを拾い直し、四代目火影へと投げた。移動先をこちらの近くにしないためだろう……

 

 一発限りの奇襲。本体でなければ意味のなさない攻撃……

 

 

 影分身は準備し終わっている。

 左手にクナイを持ち、走りだした。

 

 四代目火影がクナイを投げてくる。

 手に持ったクナイで叩き落とし、集中する。

 

 

「影分身の術、遠の陣!!」

 

 

 影分身の声が聞こえたと同時に視界が一転し、四代目火影の背中が見えた。

 丁度創りだされた影分身を消した四代目火影の背中に右手を伸ばす……

 

 

 

「螺旋丸!!」

 

 

 懇親のチャクラを込めた一撃……四代目火影はそれにくるりと回転し、左手を突き出してきた。

 

 

「螺旋丸」

 

 

 二つのチャクラが衝突し、とてつもない衝撃が身体に奔る……

 

 

 そして――

 

 

――強くなったね、ナルト

 

 

 

 温かい声が頭に響いてきた……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -7-

 教室の机に座り、イルカ先生の話に耳を傾けながら、どんどんとやってくる影分身の情報になんとか耐える。

 九喇嘛の封印の解除は殆どできたといえる。だけど、四代目火影が現れて交戦することになり、影分身が解除される度に状況が送られてくる。

 

 チャクラが漏れだしそうになるのを押さえつけることに意識を集中させる。

 疲労はここ20日である程度慣れた。今でも眠たくはなるけど、耐えれないほどではない。

 だけど、チャクラの昂ぶりを抑えるのは案外苦労している。こんな所で開放しちゃったら大変なことになるのは目に見えている。

 

 ちょくちょくイルカ先生から視線を感じるけど、真面目に授業を受けているように見せているので特に何も言われていない。寧ろ、居眠りしているシカマルに青筋が立っているようだ。

 

 それにしてもやっぱり四代目火影は凄い。目にも止まらない瞬身の術を瞬間瞬間で行使してきている。ある程度の法則はあるまでも、その応用力は計り知れないだろう。

 影分身達も策を練って螺旋丸で攻撃するも当たらなかった……

 

 それなら奇襲するしか無いけど、今の俺に出来る奇襲は影分身による目眩ましと背後へ移動して攻撃することしか出来ない。しかも、それをするには他の影分身に遠の陣をベストなタイミングで発動してもらわないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く影分身からの音沙汰がなくなった。もう、解放出来たのかな。丁度授業も終わって休憩時間になったし、解除していい旨を伝えるため、外に出てから影分身をし、消した。

 数秒後、向こうの影分身からの情報が流れ込んできた……

 

 

――強くなったね、ナルト

 

 

 そして告げられた暖かな言葉……四代目火影からの言葉……

 

 それは、息子に宛てられた言葉だった……

 

 

――九尾という重荷を背負わせて済まなかった

 

――息子として育ててやれなくて済まなかった

 

――こんなに早くに成長して誇らしい

 

 

 沢山、沢山溢れてきた。

 涙がこみ上げてきたけど、ぐっと我慢して息を吐く。

 

 四代目火影……いや、父ちゃんは九喇嘛を封印する時に俺に自分のチャクラを残していたらしい。それで封印が解けそうになった時に現れるようになってたようだ。

 もう、封印の必要もないと悟り、俺と戦ったらしい……

 

 本当に、本当に不器用な父ちゃんだと思う。そんなことしなかったらもっと話せると解っていただろうに、それ以上に俺に自分の力を見せつけたかったようだ。

 里の文献には父ちゃんの良いところばっか書いていたけど、思ったよりもおっちょこちょいな所があったみたいで、少し安心した。

 

 それにしても、まさか四代目火影が父ちゃんとは思わなかったな……俺に九喇嘛が封印されてるって知ってから俺の両親は九尾襲来の時に死んじゃったんだと思ってたけど、それが四代目火影だったとは思いもしなかった。

 

 父ちゃんはチャクラが無くなる直前、ニヤリと笑った。まるで安心したと言ったような感じに……

 

 

 ――母さんにもよろしく

 

 

 そう言葉を残した所で、九喇嘛が父ちゃんにチャクラを同調させて父ちゃんに渡した。

 

 腹に手を当て、心のなかで呟く。

 

 

「(やっと会えたってばよ、父ちゃん)」

 

『ははは、僕としては格好良く消えたかったんだけどね』

 

 

 九喇嘛は以前から俺に負担はかけないようにチャクラを同調させていた。俺が初めて忍術を使えるように九喇嘛とチャクラを同調させたのを参考にしていたようだけど、それが幸をなしたようだ。

 そのおかげで父ちゃんはまだ俺の中に残っていてくれる。封印されて憎んでいるはずの父ちゃんを残してくれたのは九喇嘛の優しさなのだろう。本人は絶対に認めないだろうけどな!

 

 

『抜かせ、唯の気まぐれだ』

 

 

 息を吸ってゆっくりと吐く。今、俺ってばすっげえ幸せな気分だ。

 目を閉じると涙が頬を伝っていくのが解った。

 

 初めてあった父ちゃんはすごく格好良くて、すごく優しくて、そして、すごく暖かかった。

 

 

 意識を自分の中へと落としていく。

 折角だ、影分身越しじゃなく、直接会いたくなった。多分、現実の俺は眠っちまうけど、どうにかなるさ。そんな事よりも、早く会いたかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「改めて、会えて嬉しいってばよ」

 

「僕もさ、ナルト」

 

 

 目の前に立っている父ちゃんはしっかりと足もある幽霊じゃなかった。チャクラも九喇嘛のおかげで補充できたみたいでしっかりと存在を認識できる。

 あまり戦うことは出来ないようだけど、そんな事はどうでもいい。居てくれるだけで嬉しかった。

 

 

「さて、話はこれから幾らでも出来るってばよ」

 

「ああ、そうだね。感謝してるよ、九尾」

 

『ふん、勝手にしろ。それよりもナルト、準備はできているか?』

 

 

 九喇嘛の言葉に頷き歩を勧める。もう檻は完全に開ききっている。改めて見ると九喇嘛の大きさが解った。すっげえでかい。いつも寝そべってたから解りにくいけど、見上げないといけないくらいのサイズだった。

 

 

『拳を出せ。とっとと終わらせるぞ』

 

「おう!」

 

 

 俺の拳と九喇嘛の拳がぶつかり合い、九喇嘛のチャクラが流れ込んできた。

 真っ黒な、どす黒く濁っているチャクラ。真っ赤で怒りに染まったチャクラ。

 

 けれど、それは唯の外面。その中には九喇嘛の金色で気高いチャクラが感じ取れた。

 

 

 

――私が抑えるから負けちゃダメよ!ナルト!!

 

 

「へ?」

 

『む?』

 

 

 突然言葉が響いたと同時に九喇嘛の上に鳥居が現れた。

 その数は5個、凄まじい勢いで落下し始め、九喇嘛へと迫ってくる。

 

 

「おっと」

 

 

 だけど、俺の肩に触れた父ちゃんが九喇嘛ごと飛雷神の術で移動させ、鳥居はそのまま地面に突き刺さった。

 何が起こったのか解らなくて、呆然とした俺はチラリと九喇嘛の方に視線を向ける。

 九喇嘛も解っていないらしく、怪訝そうに鳥居を見ていた。

 

 

「ちょっと!何で邪魔するんだってばね!」

 

 

 背後から声が聞こえる。女の人の声だ。

 振り向くと赤い髪の毛をわなわなと震わせてこちらに歩いてきた女の人がいる。何だかちょっと寒気を感じた。

 

 

「ははは、いや、いきなり現れて混乱してるかもしれないけど、その必要はないよ。クシナ」

 

 

 女の人は父ちゃんの言葉に頭を傾げ九喇嘛へと視線を向ける。

 九喇嘛はまだ解らないようで、ただ唖然と女の人を見て、少し眉間にシワを寄せた。

 

 

『……いきなり奇襲とは、随分なご挨拶だな。うずまきクシナ』

 

「へっ!当然だってばね!」

 

「クシナ、口調口調」

 

 

 女の人はうずまきクシナというらしい。九喇嘛も知ってるみたいだけど、うずまき(・・・・)クシナ……

 

 

「父ちゃん、その女の人って……」

 

「ああ、彼女はクシナ。お前の母さんだよ」

 

「か、母ちゃん!?」

 

「そうよナルト。大きくなって………思ったより小さいわね」

 

 

 どうやら母ちゃんも俺の中にチャクラを残していたらしく、九喇嘛のチャクラを貰おうとしたことを引き金に現れたようだ。

 いきなり押さえつけられそうになったことに九喇嘛は少し怒っていながらもチャクラを母ちゃんに渡していた。

 

 

「それにしても九尾も随分と丸くなったみたいね」

 

『………』

 

「はは、俺達の息子のお陰って所かな」

 

 

 まだ状況をあんまり理解できていない俺はただ黙って母ちゃんを見ていた。

 父ちゃんと同じようにその存在をしっかりと認識することが出来る。それがなによりも嬉しかった。

 

 

「………あれ?九喇嘛?」

 

 

 九喇嘛から送られてくるチャクラを感じられなくなり、九喇嘛はゆっくりと拳を離した。

 その瞬間にチャクラがぐるぐると身体を駆け巡り、溢れ出してきた。

 

 

『まだ、全ては使いこなせないだろうが、これで儂とお前のチャクラは繋がった』

 

 

 掌を見ると黄色いチャクラの衣が纏っているのが解った。

 それは暖かく、俺の中を巡っているのが分かる。

 

 

「これが、九喇嘛の力……か」

 

『ああ、そうだ』

 

 

 これが俺の目指すべき場所。とてつもない程遠いけど、決して辿りつけない場所じゃないと思う。これに追いついた時、俺は初めて九喇嘛の隣に並び立てるようになるのだろう。

 

 

「おお、格好いいよ。ナルト」

 

「名づけて、極式・禍津九尾ノ衣って言った所かな?」

 

「父ちゃん、それはださいってばよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 目を開き、眩しく感じる視界を確認する。

 見覚えのない天井、ベッドに寝かされているようだ。窓からは赤い夕焼けが差し込んできている。

 

 いっぱいいろんな事があった。胸の中に感じる大きな力に、それが夢ではなかったと実感できる。

 

 身体を起こし、伸びをして固くなった筋を動かす。

 窓の外には校庭が見えている。ここはアカデミーの医務室なのだろう。部屋の中には包帯とか消毒液なんかが見える。

 

 少しボーッと夕焼けを眺めていたら、ガラガラと扉を開く音が聞こえた。

 

 

「ん……目を覚ましたのか!ナルト!!」

 

 

 入ってきたのはイルカ先生だった。やっぱり俺は眠っていたみたいだ。まあ、意識をあっちに持って行ったから当然といえば当然なのだけど。

 

 

「心配したぞ……眠っちまったお前をヒナタが発見して起こしてみても起きなかったんだからな」

 

 

 息を深く吐いているイルカ先生は心底安心したといったような様子だった。

 うん、正直悪かった。今回のことは完全に俺の我儘だったんだし、眠っちゃうことも予想できたことだった。

 

 

「明日ヒナタに礼を言っとけよ?ナルトが目を覚まさないのに涙を浮かべてたからな」

 

 

 それは悪い事しちゃったな。あした謝っとかないとな……ってそれより大事な事があった。

 

 

「イルカ先生」

 

「ん?何だ?」

 

「三代目のじっちゃんの所に連れてってくれってばよ」

 

「………」

 

 

 俺の顔を見てイルカ先生は一瞬驚いたようだったが、すぐに真剣な顔つきで俺を一瞥した後、ため息を吐いた。

 

 

「会えるか解らないぞ?」

 

「おうってばよ!」

 

 

 父ちゃんからの言葉を伝えないといけない。

 九尾襲来事件の時、九喇嘛を操っていた存在。

 

 

 

 仮面の男の存在を……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -8-

原作に突入すると言ったな?


あれは嘘だ


 あれから1年くらいが経った。

 8歳となった今でも修行は続けている。新しく自分に近い力を持った影分身を増やし、修行の密度を高めながらアカデミーに通っている。

 毎日毎日影分身の経験を受け、それによって疲労も蓄積されるため、夜は直ぐに眠ってしまう。眠っている間は九喇嘛や父ちゃん、そして母ちゃんとその日会った事を話して過ごしていた。

 

 だけど、今日は違った。

 突然九喇嘛から告げられた事。里で誰かが殺されている事。それも数人というレベルじゃ無い程大人数らしい。

 俺は意識を覚醒させ、家を飛び出す。

 

 

『待つんだ!危険過ぎる!』

 

 

 頭の中で父ちゃんの声が聴こえるけど、無視して走る。今、里で何かが起こっている。里の誰かが殺されている。それだけで胸が締め付けられるように苦しくなる。

 

 

「九喇嘛!場所は何処だってばよ!」

 

『………そのまま真っすぐだ』

 

『九喇嘛!』

 

 

 心で九喇嘛に礼を言いながら足にチャクラを纏わせて速度を速める。

 背後からカカシさんが付いてきていることを感じながら俺は走った。

 

 

『ミナトは心配性ね。ナルトはこういう時のために修行してるって知ってるでしょ?』

 

『だけど、場所が不味いんだ!』

 

 

 場所……この方角は確か、うちは一族がいる場所だった筈。そこで人が大量に殺されてるって事は……

 

 

『うちは一族を殺戮出来る相手なんて、危険過ぎるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、止まれないってばよ」

 

 

 俺は森で足を止めた。満月の光が葉の隙間から地面を照らしている中、自分の鼓動が驚く程に早くなっている事を感じ取れる。鼻につく匂いが、苦しみの中の憎悪が九喇嘛を通して感じ取れる。

 音も立てずに移動して来るのが解った……

 

 

「出てこいってばよ」

 

 

 木の上に視線を向け言葉を投げかける。

 黒い忍び装束に木の葉の額当て。そして、赤く光る瞳をした男がいる。

 その隣にはフードを被り、片目の部分が空いている仮面を着けた男が立っていた。

 

 

「………九尾の餓鬼か」

 

「……ああ」

 

 

 濃厚な血の匂いが二人から感じ取れる。目の前の二人が里の人を、うちはの人を殺したと言う事がひしひしと伝わってくる。

 

 

『あの時の……ナルト!今直ぐ逃げるんだ!』

 

 

 悪いけどさ、ここは引けない。この二人はここで止めないといけない。これ以上、誰かを殺される訳にはいかない。

 

 

「ナルト!!」

 

 

 俺を監視していたカカシさんが現れた。そして、俺の視線の先にいる二人組を見て驚きの声を上げていた。

 カカシさんは父ちゃんが言うには強いらしい。流石にこの状況だったら俺の味方になってくれるみたいだ。心底心強い。

 

 でも、今の俺じゃあ多分カカシさんと一緒に戦っても敵わない……まだ父ちゃんの飛雷神の術も習得できていないし、口寄せの術も安定していない。今の俺でも、目の前の二人の実力は感じ取れる。

 勝てるはずがない。俺が束になってかかっても恐らく負けてしまうだろう……

 

 

 だからさ、悪いんだけど九喇嘛。ちょっくら力借してくれ。

 

 

『勿論だ。あの仮面の男には儂も借りがあるからな』

 

 

 意識をゆっくりと沈めていく。

 俺が九喇嘛の力を使っても足りない。まだ未熟な俺に九喇嘛のチャクラを扱いきれない。

 九喇嘛のチャクラを纏っても敵わないだろう……

 

 

「あの二人から血の匂いがする。更にはうちはイタチが仮面の男の隣に立って、如何にもお仲間のように振舞っている……か」

 

「ふん、写輪眼のカカシか」

 

「……交戦を避けるか?」

 

「必要ない。邪魔する者は排除しておくに限る。更に言えば、九尾の力がどの程度の物か分かるかも知れんしな」

 

 

 二人が地面に降り立ちこちらを見つめてくる。

 カカシさんは額当てを上げ、赤い左目を露わにし、腰を落としていつでも動けるようにしていた。

 

 

『ふん、儂がいる中で幻術は通用せん』

 

 

 九喇嘛のチャクラが身体を駆け巡るのが分かる。どうやら幻術をかけてきたらしいけど、俺には通用しない。

 更に意識を沈めていく。俺という要素を排していくかのように、その身体を九喇嘛のチャクラに委ねる。

 

 俺に九喇嘛のチャクラを扱う能力はない。

 

 

 

 だけど

 

 

 

 九喇嘛に俺の身体を扱う能力はある。

 

 

 身体からチャクラがあふれる。

 憎悪に心が巻き込まれて俺を包み込む。黒いチャクラがどっぷりと俺を満たしていく。

 

 紅いチャクラの衣ではない。金色のチャクラの衣ではない。

 それは成れの果て。俺という存在が消え失せ、九尾という存在に成った未来の姿。

 

 そこに至るまでに通る姿。赤黒いチャクラが身体を包み、その外形を変貌させていく。巨体にもなれるが、ここは里の中だ。人を2人相手にするだけに九尾となることは出来ない。

 しかし、身体が小さいからこそ、それに抑えこんでるからこそ、力も高まっている。

 

 チャクラが形成する尾の数は9本。九喇嘛に父ちゃん、そして母ちゃんが必死に俺を繋ぎ止めていることを感じ取れる。

 その御蔭で俺は消えることも無いし、九尾になる事もない。

 

 

「クソ!こんな時に封印が解けたのか!!」

 

 

 カカシさんが俺へとそんな言葉をかけてくるが、俺は応えることは出来ない。

 俺は唯、この光景を眺めている事しか出来ないのだから……

 

 

「凄まじいチャクラだな。流石尾獣といった所か」

 

「………」

 

 

 九喇嘛が俺の身体を動かす。

 地面を蹴り、一瞬で二人へと肉薄した。そして右手を仮面の男に振るいその身体を引き裂く。

 

 しかし、通り抜けた……

 

 直ぐ様隣の男へと振るうが、仮面の男へと攻撃した瞬間に発動準備を終えたのか、攻撃する寸前に影分身で躱されてしまった。

 

 仮面の男がクナイを突き刺して来たのを視認した。

 それと同時に母ちゃんが術を行使する。

 

 小さな鳥居が出現し、男の身体を地面に縫い付ける。

 背後より男が手裏剣を投げてきたのを感じるが、身体は躱そうとしない。

 手裏剣は赤黒いチャクラの衣に阻まれ、身体に刺さる事が無かった。

 

 

「思ったよりも強いな」

 

 

 仮面の男は鳥居をするりと通りぬけ、俺から距離を取った。

 手に纏うチャクラを伸ばし、捕まえようとするが、それもするりと躱されてしまった。

 

 

「様子がおかしい……無差別に暴れているようには見えない」

 

 

 もう一人の男へと接近していくカカシさんからそんな声が聞こえた。

 それに応えることは出来ないが、仮面の男がカカシさんへ投擲したクナイをチャクラで叩き落とした。

 

 

「……なに?」

 

 

 仮面の男が怪訝そうにこちらを見ていることが解る。

 それが好機と感じたのか、身体が地面を蹴り、仮面の男へと肉薄する。

 

 すぐには攻撃を繰り出さない。どういった訳かは解らないけど、普通にやったのでは攻撃が通じないことは解っている。だからこそ、その仕組みを看破する必要がある。

 何故母ちゃんの封印術は当たった?

 封印術だからと言う事はないだろう。それならば拘束から逃れることが出来ていない。すり抜けるのに少し時間を明けないといけない?先ほど連続で仕掛けてもすり抜けていたからそれも違うだろう……

 

 ならば、こちらに攻撃してきたからだという事が一番説明がつく。

 それは九喇嘛や父ちゃんも理解しているようで、相手が攻撃を仕掛けてくるタイミングでチャクラのマーキングを相手の服に仕掛けていた。

 

 

「……随分と頭が回るようだな」

 

 

 一度、蹴りをかすらせることが出来たようだ。相手から血が流れている匂いがしていると九喇嘛が感じ取っていた。

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 突然カカシさんの叫び声が聞こえた。

 身体は視線をそちらに向け、様子を確認する。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 尋常でない汗をかいて地面に倒れ伏すカカシさんと、片目を抑え、息を荒くしている男がいた。

 

 

「万華鏡写輪眼を酷使しすぎだ」

 

 

 いつの間にか姿を消していた仮面の男が肩で息をしている男の隣に現れる。

 

 

「もう引くぞ。九尾のチャクラを感じ取った忍達がここに向かってきている」

 

「ああ……」

 

 

 相手が姿を消すのに、身体は反応しない。ここで深追いは避けるべきと考えての事だろう。

 何とか捕まえたかったけど、九喇嘛ですら捕捉しきる事は出来ないのだ。あまり時間をかけることも出来ない事も相まって見逃すことしか出来ない。

 

 

『ナルト、もう引き上げるぞ。ここにいては無用な争いを招くだけだ』

 

 

 意識を浮上させ、九喇嘛のチャクラから抜け出る。

 赤黒いチャクラの衣が消え、身体の感覚を取り戻した俺は直ぐ様カカシさんの元に駆け寄った。

 

 不規則であり苦しそうではあるが息はしている。命に別状はなさそうなので、少し安心した。

 

 っと、グズグズしてはいられない。ここに集まってくるチャクラを感じる。

 

 

「父ちゃん、お願い」

 

『全く、ホントにヒヤヒヤしたよ』

 

 

 カカシさんに触れながら父ちゃんに飛雷神の術を使って貰う。場所は三代目の爺ちゃんの所。火影室に一つだけマーキングさせてもらってるから何時でも向かうことが出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「きたようじゃな」

 

 

 火影室には既に爺ちゃんが待っていた。もう夜というのにここにいるということは多分俺が来ることを想定してのことだろう。

 

 身体の節々が痛むのを我慢しながら俺は爺ちゃんの方に近づく。

 

 

「仮面の男と赤い目をした男二人と交戦したってばよ」

 

「そうか……カカシはどうしたのじゃ?」

 

「赤い目をした男と戦って何かの術を食らったみたいで、苦しそうにしてるってばよ」

 

「………ご苦労だったな。里の忍達には今夜の事は上手くごまかしておく」

 

「ありがとう、爺ちゃん……」

 

 

 俺はそう告げ、扉へと向かう。父ちゃんは長距離の飛雷神の術を使ったことにより、チャクラを九喇嘛から貰っていた。でも、すぐ身体に定着する訳もないため、飛雷神の術で家に帰ることは出来ない。誰にも見つからないように家に帰らないと……

 

 

「待てナルト。随分と暗い顔をしているが、どうしたのじゃ?」

 

「…………里の人が殺されて、明るい顔なんて出来ないってばよ」

 

「………そうか」

 

 

 俺は火影室を後にした。

 もう、こんな思いをしないために、もっと強くならなければいけないと心に誓いながら……




書いてて思った。
マダラ(オビト)さん、仮面着けてたら火遁使えねえ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 -9-

 そいつはおかしな奴だった。

 授業中はよく寝てるし、イルカに怒られながらヘラヘラしているだけの変わり者。

 なのに、座学の成績や体術。はては手裏剣術なんかも凄い成績を残している。俺が必死に努力しているのを簡単に先を歩いて行く、気に喰わない奴だった。

 

 だからこそ、不思議だった。俺には何もしなくても色んな奴が寄ってきた。鬱陶しい事この上ないが、それでもあいつにも少なくともある程度人が集まるのが普通だと思っていた。

 だけど、あいつはいつも一人だ。父さんも近寄るなと口酸っぱく言っていたし、兄貴も困ったような顔をしていたと思う。

 

 里の中で見かけてもあいつは一人でヘラヘラした顔を浮かべて歩いている姿しか見ない。あいつに親が居ないことは察していたけど、まるで里の大人達はあいつを腫れ物に触れるかのように扱っている。

 

 

 そんな疑問が尽きない中、俺はすべてを失った……

 

 

 父さんと母さんを殺した兄貴を見て、俺は為す術もなくやられた。俺はこのまま死ぬんだと、そう思った……

 だけど、俺は病院で目を覚まし、痛む腕に全てが現実であったと理解してしまった……

 

 兄貴が憎い。俺から全てを奪った兄であるイタチが憎かった……

 

 だけど、何も出来ない。俺の心は空虚が支配し、ただ病室から青空を見上げるだけだ……

 

 

 

 

 

 そして、あいつが病室にやってきたんだ。

 何故かラーメンの入った岡持ちを片手に扉を開けたあいつはいつものようなヘラヘラした顔で言ったんだ。

 

 

――お前が"うちは"サスケなんだな?

 

 

 真意が読めない表情を浮かべたあいつはどうしようもなく不気味だった。

 アカデミーで話したこともない奴がいきなり俺の前に現れた事に思考が止まってしまった俺をよそに、あいつは見舞い客用の椅子に座って岡持ちからラーメンを取り出していきなり食べ始めていた。

 

 こいつは何がしたいんだ?という疑問が心に浮かぶ中、あいつはその口を開いた。

 

 

――うちはイタチが憎いか?

 

 

 その言葉に俺の頭はとんでもなく冷め、混乱していた事が嘘のように感じ取っていた。

 そして俺は当たり前だと声高々に叫んだ。心で少しだけ期待していたあれは夢であるという幻想を投げ捨てて激昂する。

 

 

 あいつはそんな俺の言葉にニカッと笑みを浮かべたんだ。いつものようなヘラヘラした顔じゃない。どこか晴れ晴れしさを感じられる笑顔。

 何でそんな顔を浮かべられるのだと俺は叫んだ。馬鹿にされてるような気がして、どうしようもなく腹が立った。

 

 だけど、それを無視してあいつは言ったんだ。

 

 

――なら、うちはイタチはお前の獲物だな。

 

 

 正直言っている意味が解らなかった。笑みを浮かべているこいつの顔がとてつもなく怖いものに感じれて……決して俺に同情してここにいるわけではないのだと理解できた。

 

 

――だからこそ、お前は強くなりたいよな?

 

 

 不思議とその言葉が俺の中にスッと入ってきた。そうだ、何で俺はこんな所で腐っているのだと自分が恥ずかしくなった。

 俺は兄貴が憎い。恨み、憎しみを持って俺の前に立てと兄貴が言った言葉が俺の頭によぎる。

 だけど、どう足掻いても兄貴に……イタチに勝つ方法なんて思い浮かばない……

 

 

「お前は、俺を強くしてくれるのか?」

 

 

 そう、俺は問いかけてしまった……

 あいつは一瞬呆けた顔をした後、さいど笑みを浮かべた。

 

 

――んなもん知んねえってばよ。

 

 

 驚きのあまり少しの間言葉が出なかった。今の流れは完全に俺が強くしてやるっていう流れだろ!と叫んだ俺は絶対に悪く無いと思う。

 

 

 ………そして……

 

 

 

 

 

――甘ったれんな。俺がお前をイタチより強くするんじゃ無い。お前がイタチより強くなるんだってばよ。

 

 

 

 

 その言葉に何故かわからないが、俺はこいつなら、こいつと一緒ならイタチをも超えれるのではないかと思えた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 それから、俺とあいつの修行は始まった。

 あいつはどうやら影分身という術が得意なようで、実体を持った分身を生み出して相手を撹乱させることが出来るって言っていた。

 

 まあ、それを言った後、あいつは何も言わなくなったので、何の修業をするのかと問いただしてみれば、何も考えてないと宣言したので思わず殴りかかってしまった。

 

 

 と言っても、数分で俺がやられたんだが……

 

 まさかアカデミーでの実技で手を抜いているとは思わなかった。動きは見えるけど、攻撃を仕掛けるタイミングが絶妙に上手い。こちらが攻撃しようとしたら先に潰してくるし、引こうとしたら追撃してくる。

 これほどまでに実力差があるのかと俺は悔しさのあまり、不意打ちで攻撃を仕掛けたがこれも失敗した。

 

 何故そこまで強いのかと当然俺は聞いた。いつもアカデミーでは修行をしている様子はないし、里でもすごい修行をしているとは聞いていない。

 

 

 

 

 その理由を聞いてからだろう。俺が影分身の術を本気で習得しようとしたのは……

 

 何だよ、修行効率が数倍って……チャクラが足りないなら兵糧丸を食えって何だよ……そんなの反則じゃねえか、と悪態をついたのは記憶に新しい。

 

 里の外で影分身に修行させながら自分はアカデミーにいるって……下らない座学の時間の間もずっと修行をしてたってことだろう?そんな裏技があったのなら早く教えろっての……

 影分身が上忍級の忍術?そ、そんなの俺なら直ぐに習得できるからな!

 

 と言っても、ずっと影分身の修行をしているわけにも行かない。兄貴を超えるのならナルトに追いつかないとまず話にならない。だからナルトを追うように修行してもダメなんだ。

 

 だとしても習得できればその恩恵は計り知れない……色々迷っていたが結局、ナルトの忍術で俺の影分身を作ってもらい、影分身に影分身の術の修行をさせ、俺本体がナルトと組手や忍術の修行を行うこととなった……

 

 

 




今度こそ、今度こそ序章終わり!!



修行中の出来事


「この影分身の術・遠の陣ってさ、ただ他の影分身を増やすだけって地味じゃないか?」

「いや、これすげえ便利だぞ?だって、影分身かけられた本人はどれが分身かを理解できないんだってばよ?」

「……どういうことだ?」

「だから、分身も自分が本体だって思い込むんだってばよ。そんな事になって、その分身と連携なんて取れるはずないじゃん?」

「んーそれでも地味だろ?」

「いやいや、ほかにもこんなのがあってだな……」





案外仲は良好なようです。







ーオマケー


オビト「火遁豪火球のju」ボォ!

ナルト「うぉ!!いきなり仮面が燃えたってばよ!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一部
-1-


 ===========================

 昔

 妖狐ありけり

 その狐 九つの尾あり

 

 その尾 一度振らば

 山崩れ津波立つ

 

 

 これに困じて

 人ども

 忍の輩を

 集めけり

 

 

 僅か一人が忍の者

 生死をかけ

 これを封印せしめるが

 

 この者 死にけり

 

 

 その忍の者

 名を

 四代目火影と

 申す――

 ===========================

 

 

 

 

「此度のアカデミーは皆卒業が決まったか」

 

「はっ!第一回目の試験にて全員が卒業認定を受けました」

 

「中々に優秀といった所じゃな」

 

「では、規定に則り、全員に額当ての配布を行いますか?」

 

「うむ。後は卒業まで誰も問題を起こさなければよいのじゃが……」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「おいサスケ!一大事だってばよ!」

 

 

 木の葉の里に数ある演習所でも特に離れた場所に位置し、目立った特徴もないため利用者の少ないこの場所に二人の子供が立っていた。

 

 

「なんだよナルト。今度はどんな忍術を開発したんだ?」

 

「ちっげえよ!いや、螺旋丸に水遁混ぜれたけどそんな事はどうでもいいってばよ!」

 

「……いや、どうでもいいことじゃあないが……どうしたんだ?」

 

 

 金髪でオレンジ色の服を着た少年うずまきナルトは額に着けたゴーグルを掴みながらニヒヒと笑ってもう一人の少年へと話す。

 

 

「聞いて驚くなよ?なんと、一楽のラーメンに新メニューができたんだってばよ!」

 

「なに?それは確かか?」

 

 

 ナルトの話を聞いた少年、うちはサスケは怪訝そうに顔を歪めるとナルトへと顔を寄せた。

 

 

「嘘なんかつかねえよ。今日の力試しが終わったら食いに行くってばよ!」

 

「勿論だ。にしても今日はどうする?」

 

 

 少年たちは互いに相手のことを仲間でありライバルであると認識している。それは尊いことなのかもしれない。周りの大人がその関係をどう思うのかは彼らにとっては関係のないこと。ナルトとサスケ。力関係としては対等ではない彼らはその日もお互いの力を確かめていた。

 

 修行も行っているが、それは里の外にいる影分身に任せている。あまり大きな力を見せるのは里の大人達を下手に刺激してしまう為、良くないと考えてのことであったが……

 

 

「前に螺旋丸の打ち合いで森ふっ飛ばした時は爺ちゃんにこっぴどく怒られたしなぁ」

 

「ああ。一週間ラーメン禁止は地味にこたえた」

 

 

 あまり意味をなしてはいないのかもしれない。

 しかし、それでも里で生活している者や普通の忍達には認知されていない所を見るに、彼らを見守っている三代目火影の苦労が見れるというもの。

 アカデミーに入学した当初はナルトにも監視がついていたが、3年もしたら監視の目もなくなり、二人の所業はエスカレートしたということは黙っておくことにする。

 

 

「そう言えば、卒業認定試験。題目は分身の術だったが、何故影分身の術をアカデミーでは教えてないんだ?」

 

「うーん……単純に習得が難しいからだと思うってばよ。サスケも結構かかっただろ?」

 

「ああ。1ヶ月かかったな」

 

「分身の術も、上手いやつなら教えてもらったら直ぐ出来る。でもサスケですら1ヶ月もかかったんだ。何年かけても習得できないってやつもいるんじゃないか?」

 

「そんなものか」

 

 

 色々とおかしなことを言い合っている二人ではあるが、その実本人たちは真剣な考えを持って話をしている。

 幼少期より影分身を自身で身につけたナルトに対し、その方法を享受したサスケは本人の才能もあるが、ナルトの考えた理論を踏まえた上で効率のよい影分身を習得している。

 

 チャクラ量でゴリ押しすればもっと早くに習得できただろうが、サスケにとって影分身というものを習得しようとした理由は修行の効率化によるものだった。

 ナルトは内に秘めた存在のおかげでチャクラの回復に懸念する必要はなかったが、サスケはそうはいかない。故に薬である兵糧丸に頼る必要もあり、いくらうちはの財産を有しているといえど、無駄遣いは極力避けたかったのだ。

 

 だからこそ妥協せずにチャクラ消費の少なくなるまで影分身の練度を高めることに重点を置いたのだ。

 

 それからは早かった。ナルトとサスケの修行を始めた年月には数年の違いがある。しかし、サスケはナルトを必死に追いかけ、今ではナルトに並び立つとは行かないまでも、足元くらいには到達していた。

 ナルトもナルトでサスケというライバルに負けないために必死に修行しているが、最近は新しい忍術を開発するのは片手間にし、いかに効率のよい戦い方があるかの研究を行っている。

 

 既に二人はアカデミー生というには規格外すぎる存在に育ってしまっているが、本人たちにはあまり実感が無い。ナルトは他の人への干渉が少ないため、自分のような生徒がいるかもしれないという不確定な思考から。サスケは7歳でアカデミーを卒業した兄という大きすぎる存在から。

 

 彼らの実力を知るものは少ない。

 保護者である三代目火影。師である自来也。暗部を駆使して情報を集めているダンゾウ。後はうちは一族襲撃事件の際にナルトと共にうちはイタチと仮面の男の二人と対峙したはたけカカシだけだ。

 それ以外はアカデミーでも優秀である程度にしか認識していない。

 

 しかし、何人かは貪欲に力を求めているのではないかと考えている人がいるのも事実であった。

 

 

 

 

「ん?……サスケ」

 

「ああ、わかっている」

 

 

 ナルトとサスケはある気配に気づく。自分たちの知る気配だが、なにか様子がおかしい。ナルトの境遇を考えてみれば近づいてくる事は殆ど無いのだから……

 だからこそ怪しみ、サスケはその姿を消す。

 

 何の変哲もない瞬身の術で離れたサスケを他所にナルトは近づいてくる人物へとその顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

「一体、何の用だってばよ、ミズキ先生」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-2-

「ってわけだってばよ」

 

「ふむ……」

 

 

 木の葉隠れの里にそびえ立つ一際大きな建物。火影邸の中。三代目火影の執務室、通称火影室には現在一人の少年が訪れていた。

 普段であればおつきの忍が室内にいるはずだが、今は三代目火影の命により席を外している。それは少年の報告を受けるためであった。

 

 

「まさかミズキがの……」

 

 

 少年が告げた内容はミズキより告げられた話であった。少年が力を欲している事を感じ取ったのだろう……その様子に封印の書と呼ばれる禁書に記されている忍術を身に付ければ誰よりも強くなると唆されたのだ。

 少年が力を欲しているのは確かではあるが、たかだか禁書を一つ読み解くだけで最強になれるのであれば苦労はしない。しかし、ナルトはミズキの提案に乗った。

 

 まず、何故ミズキがナルトに封印の書を持ちださせようとしたのか、甲斐甲斐しくナルトの悩みを解決するための筈がない。つまりはミズキには違う思惑があること。いや、わかりきっていた

 

 

「多分、狙いは封印の書だってばよ」

 

 

 それは明確だった。ナルトに盗み出させ、それを奪うのだろう。封印の書には禁術が数多く記されている。それらは様々な問題を抱えた忍術であり、使いこなせれば大きな力を得ることは出来るだろう……

 

 

「ナルトに声をかけたのは始末できると踏んでかの」

 

 

 三代目火影は頭にかぶっている傘帽子の縁を掴み、ため息を吐いた。

 ミズキがナルトをターゲットにした理由としては、第一にアカデミー生だということだろう。中忍であるミズキにとってアカデミー生などまず始末できないことはない。更にナルトであれば例えいなくなろうとも大半の里の者は何も思わないと踏んでのことだろう。

 

 

「まあ、取り敢えず、俺が囮になってミズキ先生を捕まえるってばよ」

 

「うむ。手助けは不要かの?」

 

「爺ちゃんは心配症だなぁ。ある程度なら俺でも大丈夫!なんとかなるってばよ」

 

 

 ニシシと笑みを浮かべる少年の姿に三代目火影は再度ため息を吐く。

 この少年はアカデミー生という枠には収まりきっていない力を持っている。幼少期より鍛錬に明け暮れ。影分身という術の特性を利用して膨大な修行時間を行っている。

 更に三忍の一人、自来也を師とし、強力な忍術も会得しているのだ。

 本人の素質も十分にあり、なんといってもその身に宿す尾獣の力を制御下においた少年は上忍をも凌駕しているのかもしれない。

 

 ミズキも中忍では上位の実力を持っているが……目の前の少年には敵うとは三代目火影には到底思えなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 日も落ち、満月が部屋の中を照りつける中、イルカは特に何をするでもなく自宅で寝転がっていた。

 今年のアカデミー生は一度目の卒業試験で全員合格という快挙を成した。その中にはあのうずまきナルトも含まれている。木ノ葉隠れの里を壊滅まで追い込んだ化物、九尾の妖狐をその身に宿した少年。里の者からは疎まれていながらもまっすぐと生きてきた少年にイルカは言い知れぬ感情を抱いていた。

 

 初めは同情だったのかもしれない。両親の温もりを知らず、周りに頼る事も出来ない少年。それが在りし日の自分のように思えて仕方がなかった。

 だからこそ、イルカは目をかけ、歩み寄っていたのだ。

 

 ごろりと寝返りをうち、思考の海に沈む。

 

 イルカはナルトに接しているうちにナルトと自分が違うものだと実感した。イルカは両親のいない寂しさを失敗して目立つことで周りに注目され埋めていた。どれだけ惨めでも、どれだけ悲しくても、一人でいるよりは良かったからだ。

 しかし、ナルトはそうではない。イルカとは違う意味でナルトは目立った。アカデミーでの実技ではトップの成績を収め、座学でも上位には入っている。イルカでは到底成し得なかった事がナルトには出来ていた。

 

 過去、何度自分が優秀な成績で目立ちたいと思ったかは数えたことはなかった。そうすれば認めてもらえれると思えていたからだ。

 

 

 だけど、それでもナルトは独りだった。

 公園で誰かと遊んでいる姿を見たことがなかった。アカデミーで組み手をする時は最後まで余っていた。

 

 

 それでもナルトは笑っていた。何でもないようにナルトは振舞っていたのだ。

 

 

 そして、ある日、うちは一族がうちはサスケを除いて殺された事件が起こった。その事件の後、暫くうちはサスケはアカデミーには顔を出さなかった。無理も無いことだろう。両親だけでなく、知り合い達も皆殺されたのだ。他ならぬ実の兄によって……

 

 アカデミーでもサスケに関して慎重に扱うように指示があった。うちは一族最後の生き残りだからなのだろう。

 

 

 いざサスケがアカデミーに来てからは驚いたな。サスケの隣にはナルトがいたのだ。

 成績上位の二人。いままで特に仲よさげに話している姿は無かったのだが、その日から二人でいる所をよく見るようになった。

 

 サスケも思ったより暗い顔をしておらず、ナルトがサスケを元気づけたのだとすぐに解った。

 

 

「何で、ナルトはあんなに強いんだろうな……」

 

 

 イルカは、ナルトに一種の嫉妬を抱いていたのかもしれない……

 

 

 

 イルカはそのまま瞼を閉じ、微睡みに身を委ねようとした時であった。

 

 突然自宅の扉をだれかにドスンドスンと力強く叩かれた。直ぐ様飛び起きて玄関の扉を開いたイルカは、ミズキが立っているのを確認すると、何かあったのかと声をかけた。

 

 

「火影様の所へ集まって下さい!どうやらナルトくんが、いたずらで封印の書を持ちだしたらしくて……!」

 

「!!」

 

 

 その言葉は俄には信じ難いものであった。何故ナルトがそんなことをするのかと見当もつかない。他の人へ知らせに行くと言って立ち去ったミズキを見送りイルカは直ぐ様忍装束に着替え、火影邸へと向かった。

 

 

 

 

 

「封印の書を盗みだしたなど、いたずらではすまされません!火影様!!」

 

 

 何人もの忍が火影邸に押しかける中。三代目火影は周囲を見渡し、声をかける。

 

 

「初代火影様が封印した危険な巻物じゃ。使い方によっては恐ろしい事態にもなり得る。急いでナルトを探すのじゃ!しかし、決して殺してはならんぞ!」

 

「何故です!!」

 

「ナルトを刺激し、封印が不安定になるのはまずいということじゃ!」

 

「………なるほど!了解しました!」

 

「では、頼むぞ!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「見つけたぞ!ナルト!」

 

 

 木ノ葉隠れの里内の郊外の森にてイルカはナルトを見つけていた。

 月明かりが木漏れ日のように照らす中、ナルトは背中に大きな巻物を身につけ、座り込んで空を見上げていた。

 

 

「なんだ、見つかっちまったか」

 

 

 いつもと変わらぬ笑みを浮かべたままイルカを一瞥したナルトは頭を掻きながら立ち上がる。

 イルカはナルトの目の前に着地し、鋭い目つきでナルトを睨んだ。

 

 

「お前は何をやったのか解っているのか?」

 

「一応ね。と言っても、まさか見つかるとは思わなかったってばよ」

 

「今直ぐその書を火影様に返すんだ。今なら処罰も軽く済むかもしれない」

 

 

 イルカの真剣な目つきにも関わらずナルトはヘラヘラと笑みを浮かべたままであった。

 

 

「お前は、何故その巻物を盗みだしたんだ……お前はそんなことするようなやつじゃないだろ?」

 

 

 その言葉を聞き、ナルトの笑みは消えた。

 

 

 

「………」

 

「ど、どうしたんだ?ナルト」

 

 

 ただ、無表情。何を考えているのかが解らないその顔はいつもとは違い不気味さを醸し出している。

 ちらりと、ナルトが視線をずらした。その目が映す場所はイルカの後方。木の枝に注視されていた……

 

 

「イルカ先生」

 

「な、なんだ」

 

「ちょっと下がっててくれってばよ」

 

 

 イルカが理解できぬままナルトは歩き出す。

 数歩、イルカの横を歩いて通り過ぎ、視線の先の相手と対峙した。

 

 

「よくここが解ったな、イルカ」

 

 

 そこにいたのはミズキだった。忍装束を身にまとい、大きな手裏剣を背につけている。

 

 

「み、ミズキ?」

 

 

 イルカはその異様な空気に困惑するだけであった。

 ミズキがここに来たのは問題ない。だが、今の発言から察するにミズキはナルトの居場所を既に知っていたということになる。

 

 

「ナルト、巻物を渡せ」

 

 

 ミズキがナルトを見下ろしながら呟いた。

 その眼は……酷く冷たく、人を見るような眼ではない。

 

 ナルトは息を吐くと巻物を背中から外すと、イルカへと渡した。

 

 

「な、ナルト?」

 

「ちょっと預かっておいてくれってばよ」

 

 

 数歩歩く。その顔に表情はなく、ただミズキをみつめている。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

「折角俺も忍者になったことだし、ミズキ先生に揉んでもらおうかと思っただけだってばよ」

 

「はっ!何を言い出すかと思えば」

 

 

 イルカにナルトの表情は見えない。だが、ピリピリとした空気を感じ取ることは出来た。

 もしも、この場においてチャクラを視覚化、及び感じ取ることが出来る者がいれば、ナルトのチャクラ総量に戦慄していたのかもしれない。

 

 

「化け狐が忍になれるはずがないだろ!」

 

「ミズキ!!」

 

 

 木ノ葉隠れの里において禁忌とされる言葉。九尾襲来事件より掟として定められていたもの。

 それはうずまきナルトに九尾が封印されていると言うことを口にだすことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?早く構えろよ」

 

 

 しかし、ナルトは歯牙にもかけない。

 

 

「お前の頭では理解できなかったのか?お前はな、ナルト。木の葉を壊滅に追い込んだ化け狐なんだよ!」

 

「…………」

 

「イルカだってお前を憎んでるはずだ!なんたって両親をお前に殺されたんだからな!」

 

「やめろ!!ミズキ!!」

 

 

 一瞬ナルトの視線がイルカへと向けられた。その瞳にのせる感情は困惑ではない。

 ただ、贖罪を背負った者の瞳であった。

 

 

「その封印の書はお前を封印させるものだ!早くイルカから取り返さないと封印されちまうぞ?」

 

「…………封印、ね」

 

 

 ナルトの視線は既にイルカを向いていない。ただただ、ミズキを見つめている。

 青色の瞳にミズキは言い知れぬ恐怖を感じたじろいた。

 そして、そんな自分に気がつくと、目の前のナルト相手に畏怖を抱いてしまったことに苛つきを覚える。

 

 

「なんだ?その眼は」

 

「………」

 

 

 ナルトは応えない。それに更に苛立ちを覚え、ミズキは背中の風魔手裏剣を手に持ち、振りかぶった。

 

 

「何見てやがるんだよぉ!化け狐風情が!!」

 

 

 激昂し、手裏剣を投擲する。

 

 

「避けろ!!ナルト!」

 

 

 空気を切り裂き、回転しながら飛来する手裏剣にまともに当たれば唯では済まない。ましてやアカデミー生という子供なら更に危険になる。

 

 ナルトは、ゆらりと右腕を曲げ、握った状態の拳を左肩に当てるように上げた。

 避ける素振りすら見せないナルトにミズキはニタリと頬を歪ませ嘲笑う。

 

 

 しかし、ナルトが腕をふるった瞬間、その表情が固まった。

 バギっと、鈍い音が聞こえた後、直ぐ様金属を叩きつけたような音が響いた。

 

 一瞬、何が起こったのかを理解することは出来なかった。あり得ないことではないが、唯のアカデミー生にこんな芸当ができるはずがない。

 

 ただ腕をふるっただけ。それだけで飛来する手裏剣を拳打し、その方向をねじ曲げた。

 それだけではない。地面に落ちた風魔手裏剣を見てみれば刃の一枚が砕けてしまっている。ただの腕力では到底考えられない結果。子供が鉄を殴って粉砕するなど考えられない。

 

 

「それで?次は何を見せてくるんだってばよ」

 

 

 ミズキはナルトの言葉に頭に血がのぼる。目の前の下忍ですらない子供が自分に何を言ってるのだ、と怒りに顔の筋肉が痙攣する。

 しかし、直ぐ様頭を冷やした。目の前の子供は子供である以前に化物なのだと自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻した。

 

 忍として冷静さを欠くのは悪手である。自分にできる事で結果をもぎ取らなければならないのだ。

 

 必要ないと感じ、傀儡は用意していない。既に木の葉隠れの里外にある隠れ家に荷物は移動させてしまっている。

 風魔手裏剣は残り一枚だけある。クナイは20、手裏剣は30ある。ナルトの背後にいるイルカも始末しなければならないことを考えれば忍具の無駄撃ちは悪手である。更に言えば大掛かりな忍術も今現在ナルトを捜索している忍達に気取られるため使用できない。

 

 ならば、とミズキは周囲に木の葉をちらつかせ、印を結ぶ。

 

 独学で覚えた幻術。これならば化け狐ですら無力化出来る。イルカもこちらを凝視していたため、容易に引っかかってくれる筈だ……

 

 

 ナルトが話さなくなったのを確認し、イルカを仕留めるためにミズキは枝から跳躍した。

 

 

 

 

 

鎖金(くさりがね)

 

 

 しかし、突然地面から飛び出してきた金色の鎖が身体に巻きつき、地面へとたたきつけられる。

 グハッと息を吐き出し、こちらを見つめているナルトをギラリと睨みつけた。

 

 

「何故だ!何故幻術が効かない!」

 

「知らねえのか?人柱力に幻術は効かないって」

 

 

 その言葉の意味を理解できない。人柱力という言葉をミズキは知らない。それは尾獣をその身に宿した人間のことを指すのだが、木の葉において九尾の件は秘匿事項となっており、必然的に人柱力という言葉も木の葉の中では聞かない言葉となっていた。

 

 そして、肝心の幻術が効かないということだが、厳密に言ってしまえば人柱力だから効かない訳ではない。尾獣と和解、若しくは従えた人柱力だからこそ効かないのだ。

 幻術は自身のチャクラの流れを乱すことで解除することが出来る。それを本人だけで行うのは困難ではあるが、他の者にチャクラを流し込んでもらえば容易に解けるのだ。

 そして、九喇嘛と和解しているナルトだからこそ、幻術にかかっても九喇嘛がチャクラを乱し、すぐに解くことが出来る。

 

 

「それに何だよ!この鎖は!!」

 

「…………」

 

 

 ナルトは応えない。ミズキの身体を地面に縛り付けている金色の鎖。それは封印術の一種であった。

 今は既に滅んだ一族。うずまき一族が得意とした封印術の一つ。世界中に散らばった者の中には使える者もいるかもしれないが、それでも見たことはない者が大半であるだろう。

 

 ナルトが何故封印術を使えるのかを知っているのは3人だけ。木の葉の里ではナルトの両親の事すら知れ渡っていないのだから結びつけることが出来ないのだ。

 

 

 うずまきクシナが使用していた封印術をナルトが覚えていることなど、誰が解るだろうか。

 ナルトの親を知っていようと、封印術を伝授されるはずがないと思っている者達にとって、それはあり得ないということ。ナルトが生まれた直後にクシナと四代目火影は死んだのだ。うずまき一族の封印術を覚えている者はその時点で木の葉から存在していない。

 

 ナルトが封印術を使用できることが知れ渡れば何が起こるのか。まず疑われるのは封印術に関して記した巻物が存在することだろう。そんなもの存在しないのだが、もしそう思われてしまえば木の葉の忍、それも四代目火影を知る者達から疑念が広がるかもしれない。

 それを避けるべく、三代目火影はナルトの封印術に関して公言することを避けたのだ。

 

 

「くそ!くそ!離せ化け狐!ぶっ殺してやる!」

 

 

 ミズキが喚いているのを一瞥しナルトは鎖金の縛りをきつくした。

 もう話す言葉などはない。後は気絶させ三代目火影へと受け渡すだけ。

 

 ミズキの意識が途切れたのを確認するとナルトは背後にいるイルカへと歩き出す。

 ナルトが近づいても無反応な所を見るとミズキの幻術にかかってしまっているようであった。

 

 ため息を吐きたい気持ちに襲われたが、それを飲み込み、ナルトはイルカの幻術を解いて、イルカとミズキと共に火影室へと”跳んだ”



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-3-

途中からナルト視点


「という訳なんじゃ」

 

「そ、そんな馬鹿な話がありますか!?」

 

 

 日も沈んだ木ノ葉隠れの里。三代目火影の猿飛に食ってかかるのはアカデミーの中忍教師、イルカであった。

 他に同じ部屋にはおにぎりを頬張っているナルトと気絶したミズキもいるが、ナルトは特に二人の話には興味を示していなかった。

 

 ナルトは鎖で縛られ、転がされているミズキに腰掛け、ボーッとした様子で窓の外を眺める。

 

 

「まだナルトは下忍ですら無いんですよ!?ミズキを捕縛するなど、普通に考えれば無茶な話です!」

 

「承知しておる。じゃが、ナルトは既に下忍レベルではないのじゃよ」

 

「………確かに、あれほどの封印術。下忍では使えないと思います。しかし!」

 

「本来であれば、お前にも話すつもりはなかったのじゃが……ミズキではナルトには敵わんよ」

 

 

 その言葉がイルカには信じられなかった。確かにアカデミーにおいてナルトは"優秀"な生徒である。しかし、過去の3忍やうちはイタチ等のように早期に卒業する範疇ではなかった。

 イルカの心情は疑惑に支配され、ナルトへと視線を向ける。

 おにぎりを食べ終わったのか、勝手に火影室の戸棚からお茶の葉を取り出し、煎れようとしているナルトの姿がある。

 

 

「ナルトの力を里の皆に教えるわけにはいかなかった」

 

「それは……」

 

 

 意味はわかる。ナルトが強力な力を持っていると知れば、今でさえ迫害を受けている身なのに、その力を恐れて迫害が増加することは目に見えている。

 

 

「既に九尾が暴走する心配も無いのじゃが……信じない忍も少なくはないと予想できる」

 

「暴走の心配がない?」

 

「ナルトは九尾の力を完全にコントロールしておる。いや、和解しているといったほうが正しいか……」

 

 

 イルカは開いた口が閉まることすら忘れ、お茶を飲むナルトを見つめる。

 ナルト自身が九尾の封印について知っていることはまだ許容できた範囲ではあったが、その力を自分のものにしているということはとてもじゃないが信じられなかった。

 

 

「この事は内密に頼む。下忍となれば担当上忍には話をつけるが、今現在里の中でこのことを知っているのはお主と儂、あと二人くらいじゃよ」

 

「……なぜ私に教えてくださったのですか?」

 

 

 何とかその言葉を絞り出す。

 一番の疑問点。イルカ自身はナルトの担任ではあるが特別な存在ではない。戦闘能力に秀でているわけでもないのにこのような重要情報、否、禁忌情報を教えられるのは些かおかしいと感じる。

 

 

「……お主がナルトにとっての良き理解者でもあるからじゃ。ミズキとの戦いも見られたのも理由ではあるが、それよりもナルトの拠り所になれる存在だからじゃよ」

 

 

 ………納得はできた。しかし、それでも……

 

 

「なあ、そろそろ帰っていい?ちゃんと睡眠しないと怒られるんだってばよ」

 

「む?そうじゃな。すまんかったな、ナルト。今日は助かったぞ」

 

「全然大丈夫だってばよ!組手に比べたら軽い軽い」

 

「今日はゆっくり休め」

 

 

 ナルトは一度頷くとそのまま消えた。

 イルカは転がるミズキを一瞥した後、真剣な眼差しで三代目火影を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

【数カ月後】

 

 

 卒業式も終わり、俺達アカデミーを卒業した生徒たちはアカデミー内の教室に集まっていた。

 何でも下忍になる際の注意事項を説明するとの事。

 

 俺も卒業の際に渡された額当てをつけ、教室の椅子に座って隣りにいる人物へと話しかけていた。

 

 

「なあサスケ。俺ってば大変な事を思いついちまったぞ」

 

「なんだ?今度はどんなとんでも忍術を編み出したんだ?」

 

「いや、忍術は別に無いんだけど……自来也のおっちゃんが書いたイチャイチャシリーズの新作を三代目の爺ちゃんに渡したら、すごい忍術教えてくれるんじゃないか?」

 

「………一理あるな」

 

「やってみる価値はあると思うってばよ」

 

「だが失敗すればどうなるかわからないぞ?」

 

「……いや、失敗しても別にどうってことはないと思うんだけど……」

 

 

 サスケは俺の言葉にふむ、と呟いた後腕を組んで真剣な眼差しで口を開く。

 

 

「よく考えろナルト。三代目はあの自来也を教え子にしていたんだぞ?」

 

「……つまり?」

 

「三代目の事だ。俺達に忍術を教える前に、力づくで奪いに来るかもしれん。そうなればこちらの交渉カードを奪われることになるんだぞ?」

 

「確かに!」

 

 

 とまあ、今話してる内容も7割方冗談で話しているが、そうやって時間を潰しているうちにイルカ先生が教室に入ってきた。手には資料らしきものを持っている。

 取り敢えず姿勢を正し、正面を向いた。

 

 

「ごほん。今日から君達はめでたく一人前の忍者になったわけだが……しかしまだまだ新米の下忍。本当に大変なのはこれからだ!

 えー……これからの君達には里から任務が与えられるわけだが、今後は3人1組(スリーマンセル)の班を作り……

 各班ごとに一人ずつ上忍の先生が付き、その先生の指導のもと、任務をこなしていくことになる」

 

 

 3人1組、予想通りというか父ちゃんの言うとおりか。俺の担当は誰になるんだろ。父ちゃんの時は3人1組じゃ無かったらしいけど、上忍から指名されたんだっけ?

 俺達は言われた班になるとは思う。誰と一緒になっても仲良くしたいなぁ。まあ、九喇嘛の事もあるし、怖がらせないようにはしないといけないけど……

 

 

「(3人1組、ナルトがいれば連携に支障はないが、それ以外だと足手まといになるな)」

 

 

 サスケが何かつぶやいてるけどこういう時は気にしないでおこう。

 

 

「班はある程度力のバランスが均等になるようにこっちで決めた」

 

 

 やっぱり。しかし均等かぁ……アカデミーでの成績で判断するといった所かな。

 まあ、俺は納得してるけど、他のみんなは少し不満があるみたいだった。まあ、仲がいいやつと組みたい気持ちは解るなぁ。俺だったらサスケくらいしかいねえけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「じゃ、次。7班。うちはサスケ、春野サクラ」

 

「しゃーんなろー!!」

 

 

 うぉ、びっくりしたぁ。サクラ随分と大きな声出したけど、どうしたんだろうか。

 

 

「それと……犬塚キバ」

 

「チッ」

 

 

 ……あの、サスケ?何で舌打ちしたんだ?キバとは同じ班になりたくなかったのか?それにしても舌打ちは良くないと思う。サクラの声でキバには聞かれてなさそうなのが幸いだけど。

 

 

「それでは次。8班。日向ヒナタ、油女シノ、そして。うずまきナルトだ」

 

 

 お?俺か。ヒナタとシノかぁ。成績は別に悪く無いどころか、上位に近かったはずだけど、偏ってない?

 

 まあ、それからも順調に班分けは進んだわけだけど、シカマルといのとチョウジが同じ班……ある程度例外はあるってことかな。流石にバランス均等でこの三人が同じ班になるっておかしい話だし、各々が実力を発揮しやすい班構成とかかな?

 

 

「じゃ、みんな。午後から上忍の先生達を紹介するから、それまで解散!」

 

 

 イルカ先生の言葉にみんな席を立ち上がり教室の出口へと向かっていく。

 外で弁当でも食べるのかな。俺もおにぎり作ってきたし、適当に風通しの良いところで食べるかぁ……

 

 

「おいナルト。一楽行くぞ」

 

「は?」

 

「いいから付き合え。一杯くらいおごってやる」

 

 

 まあ、サスケがそう言うならついていくか。おにぎりは……後で食べよう。

 取り敢えず、飯食べながら今後の予定というか心構えを考えるかぁ。まあ、適当でもいいと思うけど……

 




原作との違い


サクラを呼び捨て
恋心持てなかったんだよ!恋よりも修行大好きなナルトです

言葉を続けない
理解者は少ないながらも自来也やサスケがいる為人に聞いてもらうための口調ではない。
原作においては人に話を聞いてもらうため、基本的に言葉を二回続けて声をかけている
(例:あのさ!あのさ!)

班分け
猿飛「サスケとナルト、一緒にしたら問題起こすのは目に見えているわい」




因みに、実はイルカ先生に嫌われてる設定も考えてました。
原作と違いナルトの成績がいいため嫉妬のような感情を持たせて……

でもイルカ先生っぽくなったから没になりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-4-

紅視点


 ――それで、話って何よ、カカシ

 

 ――ああ、今年度の担当下忍についての話だ

 

 

 アカデミーの上忍達が待つ教室にて、昨日カカシに告げられた事にため息を吐く。

 今回私が担当する下忍、油女シノ、うずまきナルト、日向ヒナタの3人。総合成績で見るとカカシ班と並んでトップになっている。下忍の班編成は基本的に数班だけ偏り過ぎない程度に偏らせる傾向にある。うずまきナルトは実技の成績はトップ、座学はトップではないものの上位に入っている。総合的に見ればうちはサスケと並んでトップの成績だ。油女シノは座学の成績は平均気味で、実技は少し劣るというものの、一族の特性上普通のアカデミー生よりは戦闘能力が高いとみられる。日向ヒナタは座学は上位で実技も柔拳を使えるが、性格的に積極的に動けないため実技の成績は低い。

 

 後はアスマ班に奈良シカマル、山中いの、秋道チョウジの猪鹿蝶を組み合わせた班。私とカカシ班を合わせて3班に偏った構成となった。

 

 憂鬱な気分だ。うずまきナルト……九尾が封印された子供。正直私に面倒を見れる自信がない。

 もし九尾が暴走でもしたら私一人で止めることなんて出来るはずがない。一体火影様は何を思って私に任せたのだろうか……今でもカカシのほうが適任だと思っている。

 

 確かにうちはサスケの面倒を見ることが出来るのはカカシくらいだろう。でもナルトの方を優先して抑えるべきだと思う。流石にナルトとサスケを同じ班に組み込むことが出来ないとしてもある程度ゴリ押しでもいいから纏めておいたほうがいい。

 

 でも、それが出来ないと言われた時は自分の耳を疑った。

 

 

 ――ナルト、あいつ俺より強いかもしれないからなぁ

 

 

 冗談としか思えない。上忍でも特別戦闘能力の高いカカシにそう言わせるなんてあり得ない。アカデミーの成績を見てもそこまでとは到底思えないのだ。

 余計に私の手に負えないと反論したけど、サスケとナルトを同じ班にしてしまうと周囲へ被害が出てしまう可能性……ではなく確実に引き起こされるとのことらしい。

 

 ライバル同士切磋琢磨をするのは良いのだけど、やり過ぎる事が目に見えているため同じ班に編成出来ないとのことだ。

 

 ならば私がサスケの面倒をみればいいと思ったのだけど、これもそうは行かない。サスケはうちは一族最後の生き残りであり、その血を狙っている忍は少なからずいる。だから早急にサスケに力をつけさせる必要があるのだ。写輪眼を持つカカシ以外にサスケを修行させられるものは中々いないだろう。更にカカシならば狙われても守り通すことが出来るとの考えもあるそうだ。

 ならナルトは狙われないのかと言ってみるも、既にナルトは十分に強いから大丈夫だと目をそらされながら言われた。

 

 まあ、どんなことを言ってもこの班編成を考えたのは火影様だ。それを私に覆すことなど出来ない。それにもしカカシの言っていることが本当であれば少しだけ興味がある。

 九尾の封印が解けなければ普通の忍なのだ。流石に九尾襲来事件を体験した私が恨みを持ってないといえば嘘になる。しかし、それをナルトにぶつけるのは筋違いなのも事実なのだ。

 

 許せることではない。でも責めることも出来なかった。だから不干渉を貫いていたけど、担当上忍になったのだ。それならばとことん踏み込んで行くのも悪くはない。

 

 まずは明日の演習で実力を見定めよう。カカシ並みに動けるのであれば最初から本気で行かなければ行かないだろう。それに人柄もある程度見定めるはずだ。あの演習でチームプレイを自覚できるのであれば少なくとも自分勝手では無かったと判明するのだから……

 

 

「紅、お前の番だぞ」

 

 

 アスマに声をかけられ、席を立つ。

 私は8班、アスマは10班だからもう少しで声がかかるだろう。

 カカシは7班の担当だったはずだけど、まだ見かけていない。予想はつくけど一応アスマに聞いてみる。

 

 

「カカシはいつもの?」

 

「ああ、遅刻だ」

 

 

 やれやれ、昨日とんでもない爆弾を放り込んできたことに文句を言いたい気分だったけど相変わらずの遅刻ぶりに馬鹿らしくなってきた。

 私はもう一度ため息を吐いて教室の出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 下忍達の待つ教室から3人を連れ出し、アカデミーの外にある適当な場所にて話し合う。

 

 

「まずは自己紹介してもらうわ。成績なんかは一応把握しているけど改めて本人から頼むわ」

 

 

 3人の座り方をみても性格の違いが解る。ヒナタは膝を抱えて身体を小さくさせて座っている。時折ナルトへと視線を向けているけど、当の本人は気づいてないわね。シノはポケットに手を入れ少し足を投げ出すように座っている。サングラスのせいで表情は読めない。そして、ナルトは……何故か正座をして姿勢を正してこちらを向いていた。

 

 

「じゃあ俺から行くってばよ!名前はうずまきナルト……えっと、好きなもの……ラーメンだな。好きな人……特にいない!得意忍術かぁ……分身系!後は……家事ができるか?……ある程度は出来るってばよ!将来の夢……強くなることかな」

 

 

 自己紹介の仕方が変な気もするけど特に気にならないので次は隣のヒナタに視線を向けてみた。

 

 

「えっと……ひゅ、日向ヒナタです。その……しゅ、趣味は押し花……です。その、あまり動けないけど柔拳が出来ます。目標は……も、もっと積極的になりたい……です」

 

 

 前情報の通り引っ込み思案な子のようね。終わったようだし最後のシノを見る。

 

 

「油女シノ。趣味は虫の観察。虫を使った戦いが得意だ。強い奴と戦ってみたいと思っている」

 

 

 無口ってわけではないけど、饒舌ってわけでもないか……ある程度の人格は概ね解ったから良しとしよう。

 

 

「じゃあ最後に、私は夕日紅よ。君達の担当上忍になったわけだけど……まだ確定ってわけじゃないのよ」

 

「へ?どういうことだってばよ」

 

「明日、この3人1組で演習を行うわ。その成績次第ではアカデミーでもう1年過ごしてもらうことになる」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「演習の内容は明日話すけど、ある程度覚悟しておいて頂戴」

 

「………」

 

 

 実際にこの演習を合格できるのは3分の1程度の者だけだ。何人かは落ちた後そのまま忍者を諦める者もいる。担当上忍によって難易度は違うけど、厳しいことには変わりない。

 

 果たしてこの三人は下忍になる素質を持っているかどうか……

 

 

 




九尾の封印は解けてます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-5-

 紅先生は軽く自己紹介をした後はそのまま居なくなってしまった。明日の演習で合格点を出さなければ同じ班になることもないから今は自己紹介も適当なのだろう。恐らくは正式に下忍となった時に初めてきちんと話してくれるはずだと思う。

 取り敢えずこれからの予定だけど、残された俺達はこのまま解散となる。俺も家に帰るかサスケと合流して何かする事になると思う。いや、それより重要な事もあるか……どうしよう。

 

 

「そ、それじゃあ、どうしようっか」

 

 

 そう告げたのはヒナタだった。

 同じ事を考えていたので少し変な気持ちになるが、取り敢えず候補をあげようかな。

 

 

 

「俺は明日に向けて忍具の新調をするつもりだってばよ」

 

「な、なるほど!す、凄いね!ナルト君!」

 

 

 凄い?おかしな事聞くんだな。道具類は基本的にいつでも万全に使えるようにしとかないといけないのに……まあ、クナイに関してはコツコツと買ってるからそこまで困ってないけど、あればあるだけ得になるものなのだ。いくつか新しく購入しておいて損はないだろう。

 ヒナタは特にそれ以上話しそうにないので俺は踵を返して歩を進める。

 

 

『何やってるの!早くあの子を誘いなさい!』

 

 

 突然母ちゃんが叫んできた。正直意味がわからない。

 一体どういうつもりなんだ?母ちゃんは……ヒナタを誘ったら何かいいことでもあるのか?考えられることといえば安くなるとかだけど、正直父ちゃんたちの金もあるしそこまでケチるひつようもない。寧ろもっといいものを買えと言ってくるほどだ。

 だとしたらいいものを貰えるとか?正直そんな気はしないけど。

 

 

『もう!黙って誘うってばね!』

 

『クシナ、口調口調』

 

 

 まあ、母ちゃんがそこまで言うんだったら誘うけど。なんか納得しないなぁ……

 

 

「ヒナタも一緒に行くか?」

 

「え?で、でも……いいの?」

 

「遠慮するなってばよ。俺達は第8班の仲間なんだからさ」

 

 

 んー、取り敢えずヒナタを誘ったけど、こちらをちらちらと見ているシノも誘ったほうがいいか。ヒナタがいて何かあるんだったらシノがいてもなにか良い事があるかもしれないし。

 

 

「シノ、お前はどうするってばよ」

 

「お前達が行くのであれば俺も行かせてもらおう。何故なら、チームにとって信頼関係を築くという事は大事な物だからな」

 

 

 ああ、なるほど、確かにそれは大事だな。母ちゃんもその為に俺に言ってくれたのか。これは見習わないといけないな。基本的に信頼関係を築くことは大事にしていかないとって感じで。

 

 

『クッ!肝心な所でその鈍感さ!流石ミナトの子供だってばね!』

 

『あはは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 俺達はある鍛冶屋の前までやってきていた。ここには色んな忍具が置いてある。

 と言っても手裏剣やクナイと言った基本的には武器の類のものだけど……少しだけ申し訳程度に丸薬も置かれてある。

 

 

「こ、ここ初めて来るよ」

 

「ふむ……俺も来たことがないな」

 

「そうなのか?ここの武器って結構いいもの揃ってるからおすすめだってばよ」

 

 

 俺はそう言い天繰鋼と書かれた暖簾をくぐって店の中に入る。

 少し蒸し暑い空気を感じる店内。幾つもの武器を並べた棚が真っ先に目に入ってくる。奥にはカウンターがあり、そこに肘をカウンターに載せ暇そうにしていた男が座っていた。

 

 

「らっしゃい……ってクソガキか」

 

「おう!今日も来たってばよ!」

 

 

 俺を見てため息を吐いた男、天駆のおっちゃんの方へと歩いて行く。ヒナタ達も俺に続くように歩いてくるが、店の中の武器へとちらちら視線を向けていた。やっぱり忍者としてこういうのは気になるのかな。

 

 

「なんだ、珍しく客を連れてきたのか。いい仕事するじゃねえか」

 

「まあ、ほとんど付き添いみたいなもんだってばよ。それは置いといて取り敢えずいつものクナイ5本くれってばよ」

 

「へっ!どれだけ買いだめしてやがるんだよ、全く……」

 

 

 俺の言葉にそう吐き捨てたおっちゃんはちょっと待ってろと言いカウンターの奥へと向かっていった。

 あの奥にはここにおいてある武器の殆どを鍛錬した鍛冶場がある。おれの注文する商品は店頭に並んでいないもの。というより並べる価値が無いものらしい。

 

 注文するのはクナイなのだけど、形状が普通のクナイと違って少し大きいし重たい。慣れれば普通に使えるけど、やっぱり普通のクナイがある以上、需要は低くなってるらしいのだ。

 値段も普通のクナイより高価だし、中々買い手がいない。今では俺以外に買う人はいないとか何とか……

 

 

「ナルト君はよくここに来るの?」

 

「おう!ここでしか売ってないものもあるからな」

 

「値は張るが、品質は上等なものばかりだな」

 

 

 値は張る……か。他の店だったらもっと安いんだなぁ。まあ、行くことはないだろうけど。

 俺も手裏剣補充しとくかな。クナイはストックあるけど手裏剣はそんなに予備ないし……

 

 

「おいクソガキ。持ってきたぞ」

 

「んあ、サンキューなおっちゃん」

 

「おっちゃんはやめろ」

 

 

 ぶっきらぼうに返答するおっちゃんに苦笑しつつ俺は手裏剣を10枚手に取りカウンターに向かう。

 おっちゃんはちらりとこちらを見ると、カウンターに刃の部分が三又に別れた大きなクナイを5本カウンターに載せた。

 

 

「んじゃあ、全部で一分三百文だってばよ」

 

 

 俺はお金をカウンターに載せクナイと手裏剣へと手を伸ばす。

 

 

「まあ待て」

 

 

 しかし、おっちゃんにその手を遮られてしまう。一体どういうことなのかと視線を向けるとおっちゃんは背中から一本の忍刀を取り出しカウンターへと置いた。

 

 

「お前、アカデミー卒業したんだろ?なら下忍就任を祝して餞別をやろう」

 

 

 カウンターに置かれた忍刀。長さは2尺無い程度。手にとって鞘から抜いてみる。

 重さを十分に感じる。刀身の表面は驚く程に滑らかで刃は少し光って見えた。

 

 

「クナイ諸々全部合わせて二両だ」

 

「金取るの!?」

 

「バカ言え。ホントなら五両はくだらねえ代物だ。場所によっては十両で扱われるくらいだぞ?それをたった二両で売ってもらえるなんざ、感謝しろっての」

 

「うーん……そう言うのなら貰っておくってばよ。でも何でこんなのくれるんだ?」

 

「餞別だ餞別。あと何だかんで言って常連だからな。サービスってやつだ」

 

 

 取り敢えず貰って損はなさそうなので俺は家にいる影分身に金を送ってもらいカウンターに置いた。

 丁度2両。安い買い物ではないけど、無駄遣いではないから母ちゃんも特に何も言わないはずだし、大丈夫だろう。

 

 

「毎度。あと、これも持ってけ」

 

 

 おっちゃんはおれに皮のベルトを渡してきた。

 

 

「これで刀を背中に固定できる。後、刀の使い方が解らないなら……テンの奴にでも聞け。あいつは今は任務でいないが、明後日には帰ってくるぞ」

 

「おう!あんがとな、おっちゃん!」

 

「おっちゃんはやめろ。クソガキ」

 

 

 俺は忍刀を家に送り、クナイと手裏剣をホルスターに入れた。

 そのまま俺の後ろに並んでいたシノにカウンターを明け渡し、クナイとにらめっこしているヒナタへと近づいた。

 

 

「どうだ?なんかいいのあるか?」

 

「う、うん。いいと思うけど、私手裏剣術苦手だからあまり必要ないかなって……」

 

「まあ、無理に扱う必要もないしなぁ。使えれば便利だけど」

 

「そう言えばナルト君。さっき変わったクナイ買ってたね。後忍者刀も……あれ、忍者刀は買わなかったの?」

 

「買ったけど今は持ってないってばよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 うーん、ヒナタは手裏剣術が苦手なのか……アカデミーの頃はそうと思えなかったけどなぁ。もっと下手な奴もいたし……

 でも、これから一緒に任務をこなすのだったらヒナタも手裏剣術を使えるほうが出来ることが増えるんだけどなぁ……

 

 

『ほら!そこで俺が教えるとか言うんだってばね!』

 

『はいはい。黙って見守っていようね』

 

 

 ………母ちゃん最近よく暴走してるなぁ。俺の中で特にすることもないからストレス溜まってるのかなぁ。でも流石に何もないのに戦わせるわけにも行かないし、我慢してもらいたいんだけど……

 

 

『ナルトは気にしない。俺もクシナも今凄く幸せなんだから』

 

 

 まあそれならいっか。

 それじゃあ、修行中の影分身の事任せたってばよ。

 

 

『うん。任された』




今回オリキャラというか、原作にも存在はしてるけど描写のないキャラを出しました。でも正直もう殆ど出る予定無いです。

あと、完全オリジナルなキャラも出す気は今のところ無いです。


因みに金銭は江戸時代初期の金銭レートです。
具体的には一両10万円程度


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-6-

 顔合わせ、及び演習に向けての準備を終えたナルト達は、何事も無く演習の日を迎えた。

 母より口酸っぱく言われてる通り朝食をしっかりと済ませ、軽く食べられるようにおにぎりを幾つか作ってかばんにしまう。

 ホルスターには手裏剣とクナイを幾つか収納し、昨日購入した忍刀へと手を伸ばした所でナルトは動きを止める。

 

 この忍刀。昨日帰ってから調べた所、唯の忍刀ではなく、チャクラ刀と呼ばれる代物であった。その刃にチャクラを通すことが出来るため、とても貴重で強力な武器として扱われている物。チャクラを流すことにより戦術の幅を格段に広げることも可能といえる。

 

 しかし、この忍刀の使い方をナルトは理解していない。いかに強力であろうとも使いこなせないのであれば足を引っ張る要素になってしまうだろう。

 ナルトは伸ばした手をそっと戻し、額当てをしっかりと頭に巻き付け家の扉を開いた。

 

 

 まだ時間も早いため、人の気配をあまり感じない里をナルトは駆ける。冷たい風が頬を撫でる感覚に少し身震いしながらもその速度を落とすことはない。

 指定された演習場は普段使っている場所とは違う。そこであるならば自分の勝手知ったる場所故に色々と出来ることもあるだろうが、今回ばかりはそれは通用しない。

 

 頭のなかで今日行われる演習の候補を作り上げシミュレートしながら駆ける。

 少し気持ちが昂ぶり、心地の良い緊張感を抱いたナルトはその速度を上げ、演習場へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 誰ひとりとして指定された時間より遅れてくることはなく演習場には第八班のメンバーが集まっている。

 紅は手に持った時計をちらりと見て、指定時間になったことを確認すると演習場にある丸太の前にコトリと時計を置いた。

 

 

「では、これから演習を始めるわ。ルールは簡単。今から2時間以内に私から鈴を奪うこと」

 

 

 紅はポケットから鈴がついたヒモを掴みナルト達へと見せる。

 赤い紐に金色の鈴。左右に揺れながらチリチリと小さな音を鳴らしているそれは紅の手には二つしかないように見える。

 

 

「ただし、数は2個。即ちこの中で最低でも誰か1人は演習失敗とみなし、アカデミーに戻ってもらうことになるわ」

 

 

 その言葉に、ナルトは何か違和感を感じた。

 昨日に成績を参考に幾つもの班に卒業生たちを分けたのだ。それなのに次の日には確実にバラけることにすると言うのは違和感を感じる。

 

 

「質問があるならなにか言って頂戴」

 

「……んじゃあ俺から」

 

 

 まだまだ疑問は尽きないが今はこれからの演習に集中しなければならない。

 手を上げてナルトはチラリと鈴へと視線を送り質問する。

 

 

「先生から奪うというのはどんな手を使ってもってこと?」

 

「ええ。勿論私もそれなりに反撃するから生易しくはないわよ?」

 

 

 ナルトはなるほど、と呟いて上げた手を降ろした。条件に制限はない。ならばナルトは鈴を奪取するにあたっていくつもの方法を瞬時に頭に描いた。

 数にして7つ。奇襲から正面突破に至るまで幾つかの条件を更に自身に課した状態での手法。

 

 失敗することは特に感じられることもない。ナルトは息を吐いて心を冷やしていった。

 

 

「ヒナタ達は質問がないみたいね。ではこの時計の秒針が12を刺したと同時に始めるわ」

 

 

 カチリ、カチリと秒針が時を刻む。それに同調するようにナルトは集中していく。

 まずは様子見から始める。開始と同時に距離を取り、クナイで牽制し、隙があれば鈴を奪う。只それだけ……

 

 残り3秒……2秒……1秒……

 

 

 チャクラを練り上げ。足へと集めていく。

 

 

 ――0秒

 

 

 

 ナルト達の眼前に紅い木の葉が舞った。

 一瞬居を付かれ、距離を取ることも忘れその光景を視界にいれてしまう。不規則に揺れる紅葉に、紅の姿を見失った。

 

 

『しっかりしろ』

 

 

 しかし、自身のうちにいる九喇嘛の声によってナルトは我に返る。紅葉は既に舞っておらず、紅も姿を消したわけではない。

 なんてことはない。開始と同時に紅はナルト達に幻術をかけたのだ。集中していたからこそ術中にはまることは一瞬だった。幻術を行使する素振りすら見せずに発動した幻術は紅の技量の高さを物語っている。

 

 ナルトは直ぐ様クナイを紅へと投擲し、幻術にかけられ棒立ちになったヒナタとシノの背中を掴み、飛雷神の術で離脱した。

 紅も幻術を直ぐ様解いたナルトに驚愕し、クナイを避けるのも紙一重になってしまった。故にナルト達の離脱を許してしまったのだ。

 

 

「……やりすぎと思ったけど、まさかあの短時間で破るとはね……それに……」

 

 

 ナルト達が立っていた場所を一瞥した後、周囲へと意識を巡らせる。

 

 

「なんて隠遁よ。全く気配を感じない」

 

 

 ナルトだけならまだ解る。だが、紅にはヒナタやシノすらも気配を感じることが出来ない。

 幻術を解かれたとしてもすぐに状況を判断し隠遁術を使用できるとは思えない。それにナルトはあの2人を持ってこの場を離れたのだ。それも紅が一瞬目を離した隙にだけ……

 

 

「全く……カカシの言うとおり、心していかないといけないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ここは……」

 

「あれ?ナルト君?」

 

「何とか逃げれた。いきなり不意打ちで幻術かけてくるとか、手加減が無いってばよ……」

 

「幻術……なるほど。俺達は幻術にかけられていたってことか」

 

「そ、そっか。でもナルト君が助けてくれたんでしょ?あ、ありがと」

 

「礼なら後だ。時間に限りがある以上、無駄に話してる暇はないってばよ」

 

「……いや、これだけは聞かせてくれ。ここは一体……」

 

「俺の家だってばよ。どうやってここに来たかは後で話すから今は俺の提案を聞いてくれ」

 

「提案?」

 

「……共闘しようぜ!二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

「(3人が隠れてから20分が経過。特に行動している気配も感じられない。一体どういうこと?私の隙を狙っているとすればわざと隙を見せている以上、既に行動して居る筈だ。なのに3人の誰も姿を見せない……)」

 

 

 ちらりと視界に映る茂みを見つめても、何もいない。正直この事態は紅にとって想定していない事であった。

 まだ新人といえど上忍である紅に下忍の隠遁術を見破れないわけがないのだ。なのに見つからない。カカシの言っていたナルトだけならば納得できるのにヒナタとシノもこの20分間行動を全く起こさず紅に気取られることもない。

 

 

「(少し、妙ね……)」

 

 

 流石にここまで音沙汰が無いのはあり得ない。演習の目標である鈴の奪取を行うならば、少なくとも紅に接触しなければならない。

 土遁の術で地面に潜っている気配も感じ取れない。近くに姿を隠せそうな水もない。茂みの中であれば少しでも動けば察知する事はできる……

 

 

「(……一体何処に……)」

 

 

 紅は仕方がないと溜息を吐き、チャクラを感知するために集中する。ここまで動きがないのであれば自分から動くしか無い。それが罠だったとしてもそれらを打ち破り、上忍としての力を……

 

 

「影分身の術!!」

 

 

 突然チャクラが背後に現れた。

 紅は弾けるように地面を蹴り、距離を取る。

 現れた場所はそこまで近くはなかったが、何の前兆もなくそこには4人が立っていた。

 

 紅の姿を確認したのであろうヒナタが日向一族の血継限界である白眼を発動させながら紅へと駆けていくのが解る。

 背後に居る3人……いや、2人と1体のナルトの分身はこちらへと迫ってくる様子はない。ナルトの片割れが地面に刺さっているクナイを引き抜いているだけだ。

 

 ならばヒナタを迎え撃つまでと、紅は手にクナイを持った。

 

 

「ふっ!」

 

 

 しかし紅は小さく聞こえた声と、ナルトの行動に目を見開く。丁度紅とナルト達の直線を駆けるヒナタめがけ、真っ直ぐと手裏剣を投げたのだ。

 ヒナタはそれに気付くこともなくこちらへと走ってくる。

 

 流石に放っておけないと、紅は駆け出しヒナタとの距離を詰める。

 

 

 それが罠だと知らずに……

 

 

 

「影分身の術・遠の陣!!」

 

 

 手裏剣を投げたナルトとは別のナルトから声が聞こえた。手裏剣の軌道がヒナタと重なり、手裏剣が見えなくなった瞬間に不可解なことが起こった。

 金属がぶつかる音が聞こえ、手裏剣が弾けるようにヒナタの左右に背から現れたのだ。

 

 

「な!?」

 

 

 手裏剣は弧を描くように曲がり、紅へと迫る。

 ヒナタより手裏剣の方が速く到達する。それを瞬時に判断した紅はクナイをもう一方の手に持ち、左右から迫る手裏剣へと振るった。

 

 タイミングは完璧。手裏剣の軌道に反発するように垂直な角度でクナイを突き刺……せなかった。

 

 

 クナイと手裏剣が接触する直前。手裏剣がボフンという音と共に白い煙に包まれ、ナルトが姿を表した。

 

 

「チッ!」

 

 

 左右から現れたナルトがそれぞれ蹴り下ろしてくるのを紅は腕を盾にすることで受け止める。

 ナルトからの蹴りで腕が少し傷んだ。それにより、ここにいるナルトは唯の分身ではないことを理解する。

 

 確かに自己紹介の時に分身系統を得意としているといったが、まさか影分身の術を習得しているとは思っていなかったのだ。

 しかも变化を組み合わせるというチャクラコントロールの必要なこともやってのけている。

 

 下忍で片付けていいレベルを超えていると感じながら、片方のナルトの足を掴み、そのまま前方を薙ぎ払った。

 

 

「もういっちょ!遠の陣!」

 

 

 直ぐ近くまで迫っていたヒナタにナルトがぶつかり、白い煙が発生した。

 それは影分身が消えたという証。反対にいたナルトごと薙ぎ払った為、これで少なくとも奇襲を一度凌ぎきることが出来た。

 

 

 

 

「柔拳!!」

 

 

 

 白い煙を切り裂くように現れたヒナタを目にするまでは……

 攻撃後の無防備な状態で日向一族の柔拳を食らってしまえばいかに上忍といえど唯では済まない。

 紅は体をねじり、内臓への攻撃を意図してずらしてみせた。

 

 ヒナタの掌が腹部に突き刺さり、チャクラが流し込まれる。

 その衝撃で紅は少し後ずさり、体勢を立て直した。

 

 

 追撃するヒナタを一瞥し地面を蹴り、大きく距離を取る。

 

 近接戦闘において最強の日向。だからこそ距離さえ離せばだいぶ脅威は薄れる。

 

 

 

 

「シノ!」

 

「任せておけ」

 

 

 

 しかし、紅はそこで自らの失態を悟る。紅を中心に地面から蟲の大群が竜巻のように現れたのだ。

 

 

「これは、シノの蟲!?」

 

 

 油女一族の操る蟲。口寄せとは違い、己の体内で蟲を飼い使役する技法。

 蟲達は見事なまでに統率された動きで紅の身動きを封じる。

 

 

「仕方ない……」

 

 

 紅は懐より小さな袋を取り出し、握りつぶす。

 途端に広がる甘い香り。次いで口笛を二回吹いた。

 

 

「何?」

 

 

 突然何十匹かの蟲達の制御が効かなくなり、シノは少し声を焦らせる。命令もしていない。それなのに一匹、また一匹と地面に落ちていくのだ。

 

 

「幻術……か。蟲達にも作用するとはな」

 

 

 幻術。それは何も視覚に作用させることだけが条件ではない。聴覚、嗅覚等の5感に作用させるものなのだ。

 ただし、視界が最も作用すると言う事は事実である。故に紅は嗅覚と聴覚の二つの感覚器官へと作用させ幻術を発動させてみせた。

 

 

「はっ!!」

 

 

 しかし、それでも一斉に全ての蟲相手へ幻術をかけることは出来ずに、周囲の状況を確認仕切る前にヒナタに接近されてしまう。

 まだ制御下にある蟲の集団がヒナタを避けるように散らばった。

 

 

「行くってばよ!」

 

 

 次いで紅の背後からナルトの声が響いた。ヒナタが現れた方向とは真逆の方向の蟲達も散らばり、そこにいるナルトの姿が紅の瞳に映る。

 

 

「クッ!!」

 

 

 前方よりヒナタの掌底。後方よりナルトの拳が迫る中、紅はその場で跳び上がる。

 蟲に囲まれている以上、避ける方向は絞られている。蟲の壁を突破する方法もあるが、油女一族の蟲はチャクラを餌としている。容易に触れることは避けたかった。

 

 見事に紅はナルトとヒナタの攻撃を避けることは出来た。ヒナタは焦った顔で掌底を突き出している。対してナルトはヒナタの攻撃を交わし、笑みを浮かべ、紅へと視線を向けた。

 

 

 そのまま空中にいる自分へと攻撃してくるのかと予想し、紅はナルトの動きを注視する……

 

 

 

 

 

 背後より、ボフンという音が聞こえた。

 ハッとするように紅は顔を上げ、その存在を見つける。

 

 それは金色の髪に青い瞳を持った少年であった。

 紅の背後。いや、上空に突如現れた5人のうずまきナルトは、紅の両手両足を掴み、最後に胴体に抱きついてそのまま落下した。

 

 

「カハッ!」

 

 

 地面にドサリと落とされ、そのまま身動きを封じられてしまう。

 いかに上忍といえど、手足を抑えられ、地面に押さえつけられてしまえば抜け出すのは困難である。

 

 閃光玉などがあれば対処の仕様はあったのかもしれないが、紅は今回の演習にそんなものを用意していなかった。

 

 いかにカカシに忠告されていようと頭の何処かで下忍を相手にすると舐めていたのだ。その結果、ナルトに完敗してしまった。

 

 

「ニシシ!鈴取った!」

 

 

 押さえつけられたままの紅にナルトは近付き、紅の腰につけられた鈴を取る。

 二つの鈴を手に持ったナルトはそのままヒナタに一つ、シノに一つ鈴を渡し、紅を拘束していた影分身を解いた。

 

 

「……正直驚いたわ。まさか本当に取られるとはね……」

 

 

 紅は悔しさを感じつつ、立ち上がり、ナルトへと視線を向ける。

 

 

「な、ナルト君。こ、この鈴はナルト君が」

 

「いやいや、大丈夫だって」

 

 

 ナルトに渡された鈴を手に持ちオロオロと狼狽えるようにナルトへと返そうとしているヒナタを横目に紅はナルトへと話しかけた。

 

 

「本当に良かったの?正直ナルトがいなければまだ鈴は取られてなかったわよ?」

 

「ん?紅先生何言ってんだってばよ」

 

 

 この演習、ナルト達に与えられた条件は鈴を手に入れること。その数は2個しかないため、3人いれば争いになってしまう。

 本来の目的はそんな状況下においてもチームとして動けるかの検討なのだが、余りにも迷いなく他の2人に鈴を譲ったナルトには疑問が残った。

 

 当の本人は何がおかしいのかいまいち解っていない様子であった事も疑問の一つだ。

 

 

「貴方、下忍になれなくても良かったの?」

 

 

 思わずそう問いかけてしまう。既に3人はチームとして紅に挑んでいるのだ。故に3人とも合格であり、この質問は意味のないことのはずであった。

 しかし、まるでその質問は見当はずれなのだと言うようにナルトは首を振った。

 

 

「だからさ、俺も鈴取ったってばよ!」

 

 

 ナルトの手には先程2人に渡した物と同じ鈴が握られていたのだ。




演習中に帰宅する主人公


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-7-

 下忍選抜演習も終わり、紅を含め3人の上忍は合格を出した班員の名簿を眺めながら話し合っていた。

 内容は自身の班の下忍について。最初に話し始めたアスマは当然と言わんばかりに猪鹿蝶の3人が連携してきたから合格を言い渡したと告げると、自分はこれまでだと言わんばかりに紅へと視線を向ける。

 

 紅もそんなものだろうとため息を吐き、二人に向け今日あった演習について話し始めた。

 

 

「まず、カカシの忠告もあったから小手調べに本気で3人に幻術をかけたわ」

 

「おいおい。流石に厳しくないか?」

 

「いや、確かに幻術は3人にかかったのだけど、ナルトが直ぐに解いたわ」

 

「ほう?」

 

 

 紅の言葉に思わずアスマが食いついた。カカシが紅へと告げた内容も気になったが、木の葉でもトップクラスの紅の幻術を短時間で解いたというナルトに興味を示したのだ。

 カカシは少し気だるそうにしているが別段驚くといった反応は見せなかった。若干気に障った紅だが演習の話を続ける。

 

 

「幻術を解いたナルトが他の2人……シノとヒナタを連れて姿を消したわ。それから暫く全く気配を察することが出来ない程の隠遁術を見せてくれたわ」

 

「紅に気づかせないとはな。3人共隠遁術のレベルが高いということか……」

 

「……どうかしらね」

 

 

 演習中、あの3人の連携を見た所、姿を消している間に作戦を練っていたのだと思われる。それはまだいいのだが、問題はあの奇襲のタイミングだった。

 いきなり現れたのだ。何の前兆もなく3人共現れたのは不可解以外の何物ではなかった。

 

 

「とまあ、その後、3人で奇襲かけてきたのよ。連携はしてたからどの程度行えてるか確かめるために応戦したけど、結局影分身したナルトに捕まって鈴を取られちゃったわけ」

 

「おいおい、影分身って……あいつそんなもの覚えてるのかよ」

 

「しかも、あの熟練度は異常ね」

 

 

 思い出すのは演習の最後。二つしか無い鈴を他の2人に渡した後、何処からとも無く取り出したナルトの姿。

 唖然としてたけど、合格かどうか聞いてきたので、連携も取れていたことを告げて3人に合格を言い渡したのだが、結局あの3つ目の鈴はナルトが作り出した影分身だったらしい。終わった瞬間に両手で潰して消してみせた所に若干イラ付きを覚えた紅だったが、合格要素は十分に達していたため、特に何も言わずに解散した。

 

 紅は私のところはこんな所と告げ、カカシへと視線を向けた。

 

 

「ちょっと待て。本当にそれだけで終わったのか?」

 

「どういう意味よ、カカシ」

 

 

 しかし、カカシは紅の話に思うところがあったのか、視線に対してそう返した。

 

 

「いや……ほら、ナルトはあれとか使わなかったのか?こう、四代目火影のあの術とか」

 

「はあ?」

 

 

 おかしいな、と呟き頭をかくカカシは納得出来ないような顔で自分たちのところの演習について話しだした。

 

 

「最初はキバが単独で突っ込んできて俺が返り討ちにしたんだけど、途中からサスケがキバをサポートしだしてそのサスケの指示でサクラも参加して連携し始めたからギリギリの合格を出した」

 

「うちはサスケが起点になったってことか」

 

「まあ、起点になった理由は馬鹿らしいことだったが、少なからずチームプレイをしたってことを評価してだな。んで、流石にサスケを任されてその実力を知らないのは問題と思ってな。他の2人を帰らせてちょっと一対一で模擬戦したんだよ」

 

「模擬戦って……」

 

 

 上忍と下忍の模擬戦など聞いたことがない。それも演習後にいきなりするなど前代未聞のことだろう。

 いや、別段行うことに問題はないのだが、カカシの様子から察するにそれだけで済んでいないと言う事が解る。

 

 

「それで、サスケになぁ。それはもう驚かされたわ。写輪眼いきなり開眼させてるわ、豪火球の術放ってくるわ、影分身使って死角を作ってから四代目火影の術、螺旋丸を放ってくるわ……」

 

「は?」

 

「おいおいおい、一体どういうことだ?写輪眼を開眼させてるなんざ聞いてないぞ。それに螺旋丸って……」

 

「ああ。俺も嫌な予感がして写輪眼を先に使っておいたからなんとかなったが……凄く疲れる模擬戦だった。ある意味ガイの奴よりしんどかったな」

 

「……サスケはどうして螺旋丸を覚えてたの?」

 

 

 紅は思わず問いかけてしまった。それにはある考えがあっての事だったが、できれば外れていて欲しいと思いつつカカシへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナルトが教えたんだよ」

 

 

 

 部屋に紅の深い深い溜息が響き渡った。




短いけど許してナス!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-8-

 うずまきナルト。彼は幼少期より自身に宿った存在に並び立つために日夜努力を重ねていた。

 常に術の有効性や特性について考え、新たな術を生み出す才能は父親譲りと言っても良いだろう。いや、それだけではなく、彼の中に残された父、波風ミナトの思念がナルトへと知恵を貸しているのも大きな事だ。

 

 そして、感覚的に術を生み出し、行使する父に対し、膨大なチャクラでゴリ押して術を発動させる母を持ったうずまきナルトは二人の考えを忠実に守り、ある意味恐ろしい存在へと化していく。

 

 彼の師である自来也は既に己の弟子がとんでもない存在だと認識し、色々と達観の感情を持って接している。

 才能という面で言えば、ナルトと共に修行をしているうちはサスケの方が恵まれていると言えるだろう。それでも普通の忍より才能あふれるナルトは影分身と超回復の二つの特性を持ち、うちはサスケを置き去りにするほどの力量を付ける修行を行うことが出来る。

 だが、うちはサスケ自身も写輪眼という三大瞳術の一つを持ったうちは一族だ。彼はナルトが生み出す忍術を己のものとし、その力量を向上させている。

 

 が、流石にナルトが考えついた中でも飛び抜けてふざけている性能を持った術は、ナルトのチャクラ量によるゴリ押しという共通点が有り、サスケは覚えても使うことが出来ない。

 また、特段難しい忍術、飛雷神の術のようなものもうまく使うことが出来ないでいた。恐らくナルトもこの術に関しては文献を読む等で習得は出来なかっただろう。あくまで、飛雷神の術を得意としたミナトと感覚を共有し、チャクラの動かし方や使い方をなんとなく理解したから使えるだけであり、自身で編み出した影分身のように、何がどうやってそうなるのかを理解していないのだ。

 

 そうなればサスケに使えるわけもなく、現状サスケが1番習得したいと考えている飛雷神の術は未習得に留まっていた。

 サスケの写輪眼は相手の動きからある程度先の動作を視認することが出来る。それに飛雷神の術が組み合わされば、言わずもがなとんでもないことに成るだろう。ナルトにはあまり通用しないだろうが、それでも戦い方に多くの選択肢を得ることが出来る。しかし、そう考え修行しようともナルトの言葉は擬音が溢れかえって、正直意味のわからないことになっていた。ギュンって感じでビュンって感じで出来ると言われてもサスケには理解の出来ることではなかった。

 

 それ以外にもサスケには修行の選択肢はあるのだ。飛雷神の術にこだわっている影分身もいるが、大半はチャクラ量増強の修行に取り掛かっている。チャクラとは筋肉と同じで使い、回復をすることでその絶対量を向上させることが出来る。それこそが下忍と上忍のチャクラ量の違いに他ならないのだ。故に幼少期より無茶な修行をしてきたナルトは母をも超えたチャクラを持っているのはある意味当然と言えるだろう。元から多いものが更に増えたのだ。並の上忍では比べる事すら出来ない。

 

 サスケもある程度多く、並の上忍程度、いやそれ以上にチャクラ量を底上げしているが、ナルトのような戦い方をするにはまだまだ出来る程ではなかった。

 それでもチャクラ量の上がるペースは順調とも言える。彼の夢は実現する事も可能だと言える程度には……

 

 

 

 さて、話は変わり、木の葉のある演習場。そこには一組の男女がやってきていた。

 一人は金色の髪に青色の瞳、オレンジ色の装束を着た少年、うずまきナルト。

 一人は二つのお団子の髪に茶色い瞳、ピンク色の袖なしの装束を着た少女、テンテンだ。

 

 二人は丸太を前にあれこれ話し合っている。

 彼らの目的は修行。いや、稽古といった方が正しいのかもしれない。

 ナルトが先日購入した忍刀。その使い方を習うために、その店の店主の娘であるテンテンから扱い方を教わっていたのだ。

 

 

「いい?ナルト。忍刀はまず速さが大事なの。抜く速さ、斬る速さ、どちらも速ければ速いほど忍刀を使う意味が跳ね上がってくるよ」

 

「速さかぁ……」

 

 

 ナルトが背負った忍刀を抜き、チャクラを流しながら丸太へと斬りつける。

 ズバリと音がなり、物の見事に丸太を切り裂くことが出来た。

 

 

「威力は十分。流石はチャクラ刀と言った所ね。でもまだ動作が甘いよ。目がいい忍者なら躱されるね」

 

「そっかぁ。結構速さを意識したんだけどなぁ」

 

「ただ腕力で振ってるからね。でも速さは結構いいと思うよ?後は初動を悟られないようにすれば十分通用すると思うわ」

 

「初動を悟らせないように…」

 

 

 二人の出会いはあの店にナルトが通うようになった事だった。

 鍛冶を営むテンテンの父親、テンクはあまり知られていないことだが、四代目火影である波風ミナトが使用していたクナイを鍛っていた。

 それを実の父親から聞いたナルトは飛雷神の術用のクナイを求め、テンクの店へとやってきていたのだ。

 

 ナルトに関しては思うところはあっただろうが、それでも元常連の息子であり、常連となったナルトを邪険に扱うような事は出来ずに、口では悪態をつくものの、テンクはナルトに目をかけていた。

 そんな折にナルトはテンテンと出会ったのだ。

 テンテンにとっても特に接点のなかったナルトに九尾を宿している事や、大人達が忌み嫌っている事を知らず、会えば談笑する程度の仲となっていた。

 

 テンテンはナルトが下忍でも相当な強さを持っていると知っている。今丸太を斬ったのも初めて忍刀を持ったとは到底思えない程の切り口だった。

 チャクラ刀にチャクラを流す事自体は簡単だが、それに意味をもたせるのは実は難しい。

 

 上忍の猿飛アスマのように鍛え磨かれた技量を持ち、極限まで切れ味を上げるような、試行錯誤が必要となるのだ。

 しかし、ナルトはこのチャクラ刀を手に入れてからまだ日は浅い。それでもその刀身に研ぎ澄まされた風遁チャクラを纏わせ斬り裂いた事は異常といえるのかもしれない。

 

 偏にナルトのチャクラコントロールが優れている事と、父から纏わせるのにオススメのチャクラ性質だったというだけのことではあるのだが……

 

 テンテンにはナルトの才能がとても凄いものだと感じるのは容易かった。もしかすれば同じ班である日向ネジよりも……と。

 

 

 

 




次回より第8班として本格的に動き始めます。

因みにサスケとナルトを離した理由、実は私が二人からものすっごい速度で置いて行かれるサクラを書けないと感じたからです。

サクラ奮起できないレベルだよ……って思います。


あ、でもサスケとナルトのコンビで書く事は決まってます。それまでこの二人のぶっ壊れぶりが露見するのはお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-9-

「北東、A地点からD地点までそれらしき影は無いってばよ。どうぞ」

 

「同じく北東、G地点からL地点まで確認したが見つかっていないってばよ。どうぞ」

 

「北西、A地点からG地点まで確認完了。発見できていないってばよ。どうぞ」

 

「南西、H地点からB地点まで捜索したけど見つからないってばよ。どうぞ」

 

「こちら南東!E地点にてターゲットの特徴を持った存在を発見!シノ、出番だってばよ!」

 

 

 第八班のメンバーに配られた無線機から幾つもの情報が飛ばされる。情報が入る間隔は5分。二度目の報告にてターゲットを発見したことを考えればおよそ10分間で炙りだしたということ。

 担当上忍である紅は傍らに立っていたシノが報告のあった場所へと"跳んだ"のを確認し、ため息を吐く。

 

 今回の任務、ターゲットの捜索だが、手はずとしてはナルトとヒナタがターゲットを捜索し、シノが蟲を駆使して捕獲するといったシンプルなもの。

 単純故に効果的に適材適所な配置を考えたものだと紅は心中で呟いた。

 

 

 そうこうしているうちに、3人が紅の目の前に現れる。

 その光景はもう見慣れたもので、特に驚きもせずに紅はナルトが捕まえている猫へと視線を向けた。

 

 

「右耳にリボン、目標のね……トラに間違いないわね」

 

「へっへっへ。じゃ、任務報告に行くってばよ!」

 

 

 任務達成時間はおよそ15分程。随分と早く済ましているが、本来であればこのような任務はもっと時間がかかっただろう。

 それでも短時間で達成できる事には理由が存在している。

 

 

「(飛雷神の術が使えるなんて聞いてなかったわよ、カカシ)」

 

 

 任務を初めて受けた時にナルトから当然のように出た言葉に呆然としたのは記憶に新しい。

 今も猫をブラブラさせながら歩くナルトがそのような強力な忍術を使えるとは思えないが、実際に目の当たりにしてしまった以上、信じるしか無い。

 

 一体この少年は何者なのかと言う疑念が紅の頭から離れることはなかった。

 

 

 

 ◇

 ナルトの所属する第八班。紅夕日が率いるこの班は今季の下忍で編成されている班の中でも特出した成績を納めていた。

 まだ編成されたばかり故にDランクの任務ばかりではあるが、その任務の達成時間は平均して20分未満。他の班は1時間から3時間程度と考えれば圧倒的だろう。

 短時間で任務を達成し、一日にこなす数も多い。木の葉では珍しく、Dランク任務が全て消化される事もあるほどだ。

 他の班が遅いというわけではない。例年半日かける班も出るくらいだ。そう考えれば優秀な年だと言えるのだが、どう考えても8班は異常すぎた。

 

 理由としては三代目火影も把握している。担当上忍の紅も演習を下手観点から予見していた成果であるとも言える。

 うずまきナルトと日向ヒナタのペアがDランクの任務に特化したペアなのだ。

 

 Dランク任務とは主に雑用が多い。畑での収穫。落し物や迷子、ペットなどの捜索。簡単な野草の採取など、ごく狭い範囲での任務に限定されている。

 それ故に白眼による広範囲の探索が可能なヒナタに、他人を影分身させることが出来るナルトは探索という部分に関しては強力すぎる。採取や収穫などはナルトの影分身による人海戦術で事足りてしまうのだ。

 

 もし残りのシノが無能で二人の足を引っ張っているのであれば話は別だが、シノはシノで他の下忍とも違う力を持っている。情報の伝達やヒナタが見落とすかもしれない細かな探索を蟲を使うことにより行うことが出来る。

 情報収集に特化した班とも言える。しかし、ナルトは元よりシノも向上心のある下忍だ。下忍レベルではないナルトの影響を受け、一層鍛錬に励んでいる。ヒナタも2人においてかれまいと暇があれば修行していた。

 

 結果から見ても様子から見ても今季で1番力のある班とも言える。

 

 はたけカカシが率いる第七班はサスケが突出し、ナルトと同様に影分身による人海戦術も行うが、数は少ない。それ故に成果も程々といった所。キバの嗅覚による探索も行われるが、ヒナタとナルトのペアを比べると、どうしても劣ってしまう。

 猿飛アスマが率いる第十班はチームワークが良いものの、それは戦闘面から見てのことで他の二班に比べると情報収集という面では相手にならなかった。

 

 

「まあ、そろそろ良い時期じゃろ」

 

 

 だからこそ多くの任務をこなす紅班に更に任務が回されることは必然で、ランクの高い任務を最初に受けることになることは運命だったのだろう。

 三代目火影は目の前に並ぶ4人を一瞥した後、入って来て貰えますかな、と扉の外へと告げ、ナルト達へとある任務を命ずる。

 

 

「これより第八班にはCランク任務。ある人物の護衛任務を命ずる。護衛対象はこの方、橋職人のタズナさんじゃ。場所は波の国となっておる」

 

 

 扉から入ってきたのは鉢巻をし、メガネを携えた老人。腕にはいくつか切り傷はあるが、戦闘によって出来たような傷ではない。職人の手と称される腕を扉の縁につけ、気だるそうに左手に持った酒を呷った。

 

 

「なんだァ?超ガキばっかじゃねーかよ」

 

 




波の国はナルト達が行きますYO


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-10-

「しゅっぱーっつ!!」

 

 

 木の葉の門をくぐり、ナルトは大声を上げた。晴れ渡る空に響いたその声に周囲の人間は何事かと視線をナルトに向けたが、すぐにその視線をそらし、そそくさと歩を進める速度を早めて離れていく。

 紅はその様子に、恐らくナルトと関わりを持っていないのであれば自分も同じ事をしていると感じ、少し罪悪感に近いものを感じた。

 

 

「な、ナルトくん……」

 

「………?」

 

 

 ヒナタは周囲の人達のことには気づかずに、ただ注目をあびそうなナルトの行動に顔を赤らめていただけであったが、シノは若干の違和感を感じていた。

 

 子供たちにとってナルトに特別な嫌悪感などはない。親がいない事と、自身の親が関わらせようとしていないといったところだ。その親達の行動の理由も知りはしないのだから、同じ班員としてはその違和感を不快に感じることはしかたのないことだろう……

 

 

「本当にこんなガキで大丈夫なのかよぉ」

 

「ええ、まあ、あの子たちも一端の忍者ではあるので大丈夫ですよ」

 

 

 異様にはしゃいでいるナルトにタズナも不安に感じるのは無理も無い。見た目はイタズラ好きそうな子供なのだから……

 話しかけられた紅もため息を吐いてしまうほどだ。

 

 

「それならいいがよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 さて、ここまでは木の葉の里前での出来事ではあるが、実はある所でも動きがあった。

 

 火の国の端、そして水の国の端、どちらも波の国に近い場所にて修行をしていたナルトの影分身だ。

 彼らは珍しく一箇所に集まり、壮大なじゃんけん大会を開催している。

 

 参加人数は6人。同一人物であるため、思考回路が皆同じなことを考えれば中々に勝者が決まらないのは仕方のないことだろう。

 既に2人敗者となった者がいるが、客観的に見てみれば同じ顔をした少年が6人集まって騒いでいるのだから異様な光景になるだろう……

 

 とまあ、この大会が開催された理由であるが、特に重要な事でもない故にあえて記述する必要もないだろうが、あえて言わせてもらおう。

 ナルトは初めてのCランク任務であり護衛任務ということでその不確定要素を排するという保険のために影分身を一人任務に参加させようと、じゃんけん大会を開かせ、任務に参加させる影分身を決めているのだ。

 

 各地に散らばる影分身は普段ナルトが作り出す影分身とは訳が違う。本来であれば影分身はある程度の衝撃があればすぐに消えてしまう。

 しかし、それでは厳しい修行をこなせないとナルトがチャクラに寄るゴリ押しという、ある意味母親からの遺伝的な方法で生み出した影分身。

 消える程度の衝撃は本体のナルトが気を失う程度の衝撃が必要である影分身。つまり、実際に長期戦を戦うことが出来る影分身なのだ。この影分身が参加すると言う事は即ちナルトがもう一人参加することと同義である。

 

 たかがCランク任務なのだ。そんな必要はない。決して無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 それが本当にCランク任務であるのならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

「……っ」

 

「……」

 

 

 波の国へと向かう道中、ナルトとシノがその歩を止めた。それに釣られ他の3人も足を止めたが、シノもナルトも何も言わずにその歩を進めた為、再度歩き始めた。

 

 

「(2人……先回りしたようだ)」

 

「(わかってる。並の山賊じゃないってばよ。他国の忍者って所か)」

 

 

 2人が小声で会話しているのを紅だけが聞き取った。

 そう言われてみれば自分たちを何かが観察している事が解った。

 そこまで隠遁術が上手いというわけではないが、驚くのは2人の気配察知能力だ。

 

 シノは蟲達がチャクラを感じ取れるため、その違和感からだと理解できるが、ナルトはそういった特殊能力があると聞いたこともない紅に、気配察知能力がずば抜けてると勘違いされてしまった。

 実際には九喇嘛との修行の副産物で、九喇嘛が感じる"悪意"と言った物を持った存在を察知できるのだ。それがナルトに向けてのことであれば尚更補足できるといったもの……

 

 既に気配を察しられてるとは露とも知らない忍者たちが水たまりに化けている所を通り過ぎる際に紅が思わず顔を手で覆ってしまう。

 気配を消すのは上手いが、何故こうも、間抜けなのだと嘆きたくなった。

 

 ここ数日雨の降ってない火の国において水たまりなんて出来るわけないのだ。なのに水たまりなどできていれば怪しすぎるのだ。

 しかも他の地面が濡れていない所から見ても間抜けすぎる……

 

 流石に刺客としてはおざなりすぎるとナルトは判断し、丁度全員が通りすぎたと同時に反転し、水たまりから姿を表した忍者をチャクラ刀で斬りつけた。

 

 

「え?」

 

「む?」

 

 

 恐らくこの場において状況を理解できていないのはヒナタとタズナの二名だけだろう。

 

 

「な、に……」

 

「く……」

 

 

 雷遁チャクラを纏った刀身で斬りつけられ、身体の自由が奪われただけでなく、意識すら奪われ地面に倒れ伏す忍者たちを一瞥した後、ナルトは「先を急ぐってばよ」とだけ告げ、その歩を進めた。

 

 

「……待ちなさい。流石に忍が襲ってきたことは看過できないわ」

 

 

 しかし、紅の言葉にナルトは歩を止め、首を傾げた後にポンと手を叩き納得したかのように気絶した忍達へと近寄った。

 そして、倒れ伏す2人を覗き込んでみる。

 

 その様子を見るヒナタは呆然とするばかり。シノもまたナルトの動き、というよりは抜刀と納刀が全く見えずに唖然としている。

 タズナは一人、冷や汗を流しながらその光景をみていた……




因みにナルトの得意系統は風ですが、本作品のナルトは雷と水も得意です。
理由としましては、雷はミナト、水はクシナが得意としているため(作者の勝手な設定)、ナルトへとチャクラの使い方というより動かし方を直接実践しておいて、ナルトにも十全に使えるようになったと考えました。

因みにミナトは火影ってことを考えてどの系統もある程度出来ると考えております。なかでも風と雷は得意(そう)ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

-11-

 ナルトは襲ってきた忍達を自身の影分身に任せ、何事も無かったかのように歩きだした。

 彼にとって先程の襲撃に危機感を感じず、その辺でゴロツキに絡まれた程度に考えていた。

 

 対する紅は尋問をする前にナルトの影分身が火影の元へ忍達を連れて行ったために、その意図を掴めずにいた。

 普通であればCランクの任務で他里の忍と接敵するわけもない。戦闘があっても精々が山賊程度であろう。

 

 ただ、通りかかったために襲ってきたのだとすればそれまでなのだが、何か目的を持って襲ってきたのであれば、考えられる事は二つ。

 

 

「(依頼人のタズナさんか人柱力のナルトか……)」

 

 

 人柱力を相手取るには些か役者不足であると考えられる。つまりは前者が目的であることの可能性が高い。

 タズナ本人が気まずそうに顔を歪めていることを考えても間違いはないだろう。

 

 だが、ここで任務を辞めるべきか、微妙な所である。任務とは不測な事態がつきものである。第8班にとっても初めてのCランク任務だとしてもそれに対応してこそ忍というもの。

 そして、何よりも……

 

 

「(最悪はナルトに飛雷神の術で里まで撤退させれば大丈夫であるということ)」

 

 

 部下をあてにすることは間違いかもしれないが、それでも目の前の金髪の少年の力は信ずるに値するものである。

 だからこそ、他の部下たちに力を持たさなければならない。ナルトに依存する形ではいけないのだ。それではスリーマンセルの意味がなくなってしまう。

 

 紅はため息を一つ吐いた後にタズナへと告げた。

 

 

「私は何も聞きません。任務は続行させていただきます」

 

 

 紅の瞳に気圧されながらタズナは顔を伏せて一言、「恩にきる」と呟いたのであった。

 

 

 

 

 =====================

 

 

 

 ナルト一行は波の国へと向かうボートからおり、徒歩でその路程を進む。

 当然紅やシノ、依頼人のタズナでさえも周囲を警戒し、ヒナタは必死に震える手を抑えながらナルトの後をついて行った。

 

 

 

 

 

 ――空気がピシリと凍りつく錯覚を覚えた。

 

 

 

 突然ナルトは振り向き、後方の茂みへと視線を向けた。

 

 たしかに今、何かが自分達を見ていた。ただ、静かな。どこまでも静かな空気がこちらをみていた。

 

 

 

「どうした?ナルト」

 

 

 

 後方を確認し、特に変わった所がない故にシノがナルトへと質問した。

 その様子にヒナタはどうすればいいのかわからず、視線をシノからナルトへと行ったり来たりさせ、不安の表情を浮かべる。

 

 

「…………」

 

 

 

 ナルトはその二人に目もくれずにただ、周囲の気配を探る。

 

 ここには何かがいる。自分達の首を狙う何者かが……

 

 

 

 ――風を断ち切る音が聞こえた。

 

 

 

「っ!!」

 

 

 先頭を歩き、後方へと視線を向けていたナルトの背後から凶刃は迫っていた。

 それを察したナルトはとっさに振り向きざまに凶刃へと手を伸ばしていた。

 

 鉄と鉄を打ち付け合う音が鳴り響いた。

 

 

 ナルトの持つチャクラ刀が口元を隠した男の持つ巨大な刀を止めている光景が目に写り、ヒナタとシノはようやく自分達が襲われているのだと理解した。

 それと同時に紅が声を上げる。

 

 

「伏せなさい!!」

 

 

 背後より紅へと飛来する針が到達するよりも速く、紅はタズナを押し倒しその攻撃を躱す。シノとヒナタも一瞬遅れたが、問題なく躱した。

 そうなれば必然その針はナルトへと飛来するが、針が刺さる直前にナルトの姿がぶれ、紅たちの傍へと退避していた。

 

 

「ふん!」

 

 

 巨大な刀を男が振るい、迫る針を叩き落とした。

 そのまま刀を地面へと突き刺し、ナルトたちへと視線を向けた。

 

 

「存外にやりやがる。俺の不意打ちだけでなく、背後からの攻撃すらも凌ぐなんざ。鬼兄弟がやられるわけだ」

 

 

 だが、と男は続けて言った。

 

 

「悪いが、じじいを渡してもらおうか」

 

 

 その男の瞳は語っていた。これは通告などではない。提案などではない。タズナ以外を皆殺しにするという宣言であると。

 ナルトが影分身の変身した手裏剣を握りつぶすと同時に紅がその口を開く。

 

 

「その刀、その風貌、桃地再不斬ね」

 

 

 クナイを構えた紅の言葉に否定も肯定もせずに再不斬は刀を引き抜いた。

 

 

「三人共!卍の陣よ!周囲を警戒しつつタズナさんを守りなさい!」

 

「ククク、そんなチンケな守りで果たして守れるのか、見ものだな」

 

 

 印を結んだ再不斬の姿が霞んでいく。霧隠れの忍の得意忍術である霧隠れの術。とくに鬼人再不斬はそれを用いた暗殺を得意としている。

 

 

「どんどん霧が深くなっていくな……」

 

 

 シノは虫を周囲に撒き、警戒しながら呟いた。

 視界を塞ぐための霧。どこから来るかも解らない現状に少しずつ精神をすり減らしていく。

 

 

「8箇所」

 

 

 声が響く。既に視界は自分達しか見えない。

 

 

 

 否……

 

 

 ヒナタだけはその瞳が再不斬をしっかりと捉えている。

 

 

「咽頭、脊柱、肺、肝臓、頸静脈に鎖骨下動脈、腎臓、心臓」

 

 

 ゆっくりと背後から歩いてくる姿が見える。チャクラの塊がこちらへと迫ってくる。

 

 ヒナタはそれをナルト達へ伝えようと口を開くが、ガタガタと唇が震え、上手く言葉を発せない。

 

 

「さて、どの急所がいい?くく……」

 

 

 すさまじい殺気にヒナタは気がどうにかなってしまいそうになる。気付いているからこその恐怖。このままここにいてはおかしくなってしまいそうな本気の殺意。

 

 そんなヒナタを安心させるように、ナルトはヒナタに向かって笑顔を向けた。

 

 

「大丈夫。お前達は俺が守るってばよ」

 

 

「それはどうかな」

 

 

 再不斬が背後に現れる。ああ、失敗したとヒナタは思う。自分が勇気を振り絞り声を発していればこんな自体には……

 

 

「くっ!」

 

 

 紅はとっさに再不斬へとクナイを突き立てる。

 それに対し、再不斬は全員を叩き切るかのように巨大な刀を振り抜いていた。

 

 しかし、その刃が誰かに届くことは無かった。丁度刃の先にナルトが回り込み、手に持ったチャクラ刀を用いて地面へといなした。

 

 そのまま紅のクナイが再不斬に突き刺さり、血しぶきをあげた………かのように思えた。

 

 

「水分身!?」

 

「ナルト君!」

 

 

 ナルトの背後に現れる再不斬にヒナタは叫んだ。丁度その凶刃はナルトへと向かう。

 

 

「まずは一人!」

 

「させん!」

 

 

 だが、再不斬の顔面へと虫が殺到し、その攻撃を鈍らせる。

 

 

「クソガキがぁ!」

 

 

 一瞬気を取られたすきにナルトは攻撃を躱し、再不斬を蹴り飛ばし、その距離を開ける。

 

 まさに気を少しでも抜けば殺される状況。タズナは立ち竦み、震えながら見守るしか無い。

 

 

 またもや姿を消した再不斬を尻目にナルトは術を行使した。

 戦いが始まった瞬間に用意をさせたもの。その準備が整ったからである。

 

 

 既に先行して波の国へと入っている影分身が作成したマーキングをターゲットにし、自分を含め、全員を飛雷神の術を用いて離脱したのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 20~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。