生徒会長イッセーと鳥さんと猫 (超人類DX)
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戦闘校舎にならないフェニックスと生徒会長・イッセー
独白と悪魔のお友達


とりあえずやってみたが……どうかなぁ。


 あの時俺は逃げた。

 どうしようも無く憎み、惨めに泣いてしまうほどに悔しくなったが、非力で無能で役立たずだった子供の俺にはどうしようも無かった……だから逃げた。

 

 

「誠八は天才だな、流石俺の息子だ!」

 

「そうね、一誠もお兄ちゃんの足手まといにならない様頑張るのよ?」

 

「ふふ……」

 

 

 逃げた……そりゃあ逃げるさ。

 どうしようもなく非力だったからというのもあるけど、それ以上に俺は目の前の血の繋がった親ですら信じられなくなったんだから。

 沸いて出てきたとしか思えない、何処の馬の骨とも分からない兄とやらを当たり前の様に自分の子だと可愛がり、周りにいた当時の友達も彼を『最初から存在してたかの様に』扱い、俺がどれだけ『こんな奴は居なかった! 俺は……兵藤一誠に兄弟なんていない!』と訴えても、逆に俺を『頭のおかしなガキ』と見るだけでまともに取り合わない。

 

 そして、ガキとは思えない才能を持つがゆえに当時は無能で非力で臆病だった俺の居場所は狭くなり、とうとう友達も、親も、初恋のあの子の全てすら『彼』の向ける『洗脳じみた』笑顔で奪われた。

 

 これで堪えろだなんて、当時の俺には毛頭無理な話だし既に死にたいとすら思っていた。

 だから俺は、気が狂いそうになる前に全てを捨てるつもりで死んでやるつもりだった――

 

 

「やぁ、成り代わりの分際ごときに主人公の座を奪われた兵藤一誠くんだね?

ふふ、心配しなくても僕はキミの味方さ」

 

 

 あの人外に出会うまでは……。

 

 

「カスの分際でカスに与えられた役割にいい気分になってる彼は、キミの思ってる通り『双子の兄』でもなんでもない、嘘で塗り固めた男さ。

キミという本来の主人公(イッセー)の座に成り代わり、テメーの快楽の為にキミから持つべき力まで奪った哀れなカス」

 

「だからキミには彼以上となって見下す『権利』がある。

このまま死ぬだけじゃあ、既に奴に狂ったキミの元・大事な人達は見向きだってしない。

だから僕に付いてきなさい……キミにはその資格がある――」

 

 

 

 

 僕の背中を任せるに足る主人公(イッセー)になる、ね。

 

 

 

 そう言って俺に手を差しのべたのは、全てを平等に見下す人外。

 沸いてできたあの男でさえ簡単に始末出来るほどの絶対なる存在。

 全てが信じられず、死ぬしか頭になかった俺は何故か彼女の言葉を……人をもう一度だけ信じてみようとその手を取り、彼女の弟子へとなった。

 

 その過程でかけがえのない友と出会い、敷かれたレールとは違う道へと駆け出す、最初の一歩を……。

 

 

 

 消えた才能の代わりに別の無限(インフィニットヒーロー)へ。

 奪われた人間関係の代わりに夢幻(リアリティーエスケープ)を。

 死にかけていた心に肉親よりも強い愛情を。

 

 

 それが、俺……這い上がると決めた兵藤一誠の生きざまだ。

 

 

 

 

 

 

 俺は決してパシリではない。

 そして人から女を宛てがえて貰うほど落ちぶれたつもりでも甲斐性無しのつもりもない。

 そもそも10代後半の小僧が考え無しに女性とお付き合いするのはどうかと思うんだ……自分の興味の有無は云々に。

 けれど、どうにもあの師匠は変なお節介が――いや俺自身をからかって遊ぶのが好きなようで……。

 

 

『暇だろう一誠? だからそんなキミに美少女をプレゼントしてあげようと僕は考えたんだ。

フフフ、彼女も友達も居ないキミとしては喜ぶべきことだと思わないかい?』

 

『……………は?』

 

 

 毎度毎度の夢の中。

 何処かの教室を思わせる空間で、長い黒髪と魅力的な声と容姿をした女――安心院なじみは人差し指を立てながら笑みを見せてポカンとする俺に一方的にそう告げた。

 こんな吹けば吹き飛びそうな女がバグみたいな数の異能を持ち、涼しい顔で大男を凸ピンでぶち殺せるというのだから理不尽な話だ。

 

 この学校の教室みたいな空間だって、俺が眠ってる間に意識だけを拉致して押し込る為に鼻唄混じりで作ったらしいし……マジで理不尽としかいえない。

 

 

『まあ、直接僕がキミの(タレ)になっても構わないがな』

 

『いや……フグの猛毒で死にたくはないから遠慮するぜ』

 

 

 確かに俺はアホで友達作りが客観的に見てもド下手だが、だからといって女の世話をされるなんて思いもしないし、大きなお世話だ。

 ましてやこんなバグキャラの相手なんて俺には無理すぎるし、どうせコイツの冗談なのだろうと、俺はニマニマしてる『師匠』を敢えて無視して冒頭の話について追求する。

 

 

『それは置いといてさっきお前が言ってた事に関してだが、そういうのを世間一般では大きなお世話と言うべきじゃないのか『なじみ』よ?』

 

 

 わざわざ女を俺に宛がうなんて、相手に失礼すぎると正論を述べた筈なのに師匠こと安心院なじみはちょっとだけ笑みを引っ込めている。

 

 

『そう? でもこの僕の弟子であるキミだって、女の子の一人や二人侍らせたいだろう?

キミを育てると決めた時から今まで、毎度毎度僕の予想をいい意味で簡単に覆してくれた……僕からのささやかなご褒美って奴さ』

 

『ご褒美ってお前、プレゼントとか言ってる時点でその美少女とやらの意思は完全に無視だろ? ていうか確実に悪平等(オマエ)の中の誰かだろ? そんな可哀想なことするなよ……』

 

 

 というか俺としてもそこまで落ちぶれちゃいねーしな。

 しかしなじみは……。

 

 

『尤もらしい理由並べて逃げようとするなよ一誠?

大丈夫大丈夫、その美少女はキミのファンだから、その気になれば即刻一発ヤれるかもねー? んじゃ……』

 

『ちょ、おい!?』

 

 やめろと言ってやろうとしたんだが、見た目は華奢な美少女の癖して、この世に存在するありとあらゆる存在を『平等にカス』と言えちゃうだけの理不尽の権化とも言える我が師匠である安心院なじみの言うことから逃げられる訳もなく、断ることも勿論不可能であり、気がつけば謎の教室空間が消え、独り暮らしするために借りた安アパートの自室のベットの上で目を覚ましてしまう。

 

 

「ハァ。毎度毎度の事ながら悪平等(ノットイコール)でも無いのに変な事までしてくれる師匠だぜ……」

 

 

 目覚めが悪いとはまさにこの事……。

 安心院なじみ曰くこの世に一人しか存在しないオリジナル能力保持者(スキルホルダー)だからって、何故か毎度毎度変な事を夢の中で持ち掛けてくる訳だが、今回は一段と変な提案だぜ……とか思いながら上半身だけ起こし、時間を確認するとまだ深夜の3時だった。

 

 

「3時……うーむ、折角だしこのまま学校の時間まで鍛練でも――あーでも高校生が深夜出歩くのは良くないし――ぐぅ……!」

 

 

 中途半端に目が覚めちゃったせいで、二度寝の決行が困難になってしまった。

 なので少し早めの日課鍛練でもしようと一瞬だけ考えるも……今の独り言の通り、高校生である俺が深夜の外に出歩くのは健全では無く、お巡りさんに怒られてしまう事を考えてしまうと少しだけ躊躇してしまう。

 故に仕方なく鍛練は夜が完全に明けるまで我慢し、小さく悪態を付きながら枕元に放置しておいたタブレット端末でも弄くろうと暗闇に目が慣れてない状態で手をまさぐる。

 すると一つ違和感に気付き、まさぐる手がピタリと止まる。

 

 

「なんだ……この温い感触?」

 

 

 何かこう……あるんだよね隣に。

 というか段々目が慣れてきて見えるんだけど…………これれは――

 

 

「すーすー……」

 

 

 

 

 

 

「言ってからが早ぇんだよ師匠……」

 

 

 夢の中であの女が言ってた通りの、金髪美少女って奴が一人隣で寝ていた。めっちゃ気持ち良さそうにね。

 だから俺は、今頃どっかでほくそ笑んでる安心院なじみに対して睡眠妨害諸々の意味を込めた恨み言を漏らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「そ、その……こんばんはでございます。一誠様!

覚えてございますか、私は――」

 

「声がデカイ。トーンを下げてくれないか?」

 

 

 取り敢えずきっと師匠が無理矢理言って派遣させた金髪美少女とやらを叩き――ではなく普通に起こした俺は、彼女達から詳しい説明を受ける為ベットに座らせて自分は床に座るという……あれ、冷静に考えたら立場逆だろってポジション展開をしていた。

 まるで漫画みたいな展開に喜ぶとかいうよりも疲れた気分でテンパりまくりな少女を取り敢えず落ち着かせつつ

内心師匠に毒づく。

 美少女なのは誰が見ても認めるけど、だからって知り合いをいきなり夜中の男の部屋に放り込むなよと……。

 

 

 

「はぁ、はぁ……。

ご、ごめんなさい……緊張しちゃって」

 

「こんな人間ぽっちに緊張するなよ。お前らしくもない」

 

 

 知り合い。うん、間違いなく知り合いだ。

 緊張しすぎて呼吸を乱しているこの特徴的な髪型をした女の子を俺はハッキリと知っている。

 悪平等(ノットイコール)……つまり師匠と似たり寄ったり思考を持ち、様々な分野に対して『平等過ぎる考え』を持つこの少女に俺は見覚えがある。

 それは、この子と同じく悪平等にて兄である青年――いや家族と、とある事情で会うことになり、何やかんやで普通に仲良くなり、その延長線で知り合う事になった……。

 

 

「取り敢えず言うけど、いくら『なじみ』からの命令だからってこんな事まで聞く必要は無いと思うぞ、レイヴェル」

 

 

 ソロモン72柱フェニックス家末っ子、レイヴェル・フェニックスに俺は微妙に同情しながら話すのであった。

 

 

「おほほほ……。

いえ、その……私から安心院さんに『一誠様とお逢いしたい』と言ってみたら、こういうことに……」

 

 

 そわそわからわたわたへと態度を変化させた金髪の縦ロールという現実に見るのも珍しい髪型をしている悪平等(ノットイコール)の少女は、恥ずかしそうに俺に微笑みながら答える。

 嫌では無いのか? まあ、あの悪平等一家とは仲良しのつもりだったし、年が一番近いこの子とはよく遊んでたから……まあ、嫌がられては無さそうでちょっと安心した。

 

 

「なら良いが……」

 

「ええ……寧ろずっとお逢いしたかったですわ。何せ2年近くお顔を拝見出来ませんでしたもの」

 

「あれ、もうそんなになるか?」

 

 

 知り合いともなれば、俺としても安心して喋るし、出来る限りのおもてなしをとも思う。

 とはいえ、人間でいうところのお金持ちの御令嬢と言えなくもないくらいにはお嬢様であるレイヴェルが、人間界の民家の狭い部屋のベッドに座らせてる時点でおもてなしもクソも無い訳だが。

 しかしそれでもレイヴェル自身に不満は無さそうであり、先程と比べて大分落ち着いたのか、柔らかい笑みを見せている。

 

 

「ちなみに、なじみからは何て?」

 

「一誠様の普段の生活のサポートとお話相手……。

まあ、簡単に言えば従者の様に振る舞えと……」

 

「なるほど……って、よくそんな話を引き受ける気になったなお前……」

 

 

 唐突に悪魔な悪平等で知り合いでもあるレイヴェルが夜中に現れたのはもう良い。

 が、問題はなじみから何を聞かされて来たのかであり、話を聞いてみればレイヴェルにとって得にもならなそうな話だった。

 要するにレイヴェルは家にも帰らず、俺の側でコマ使いをしろ――という事なのだからな。

 よくもまあ、なじみからとは言え引き受ける気になれたものだ……と、思わず口に出す俺だったが、どうやらレイヴェル自身にそんな感情は無かったらしい。

 

 妙に頬を紅くさせて微笑みながらこう言うのだ。

 

 

「とんでもない、常日頃から一誠様をお慕い申して来た私にとっては、またとないご褒美ですわ。

断るとか不満なんて全くありません」

 

「いや、家に帰るなって言われてる様なもんだろう?

勿論俺は帰す気でいるが……ライザーが心配するだろし」

 

「兄からは『一誠の家に? おう行け行け。そして俺の義弟になるよう頑張れ』と気持ちよく送り出してくれましたわ。

それに、私自身も折角一誠様と同棲出来るというこのチャンスを捨てる真似なんてしません」

 

「……。お、おう」

 

 

 おいライザー……お前の大事な妹をそんな簡単に送り出すなよ。

 どう反応して良いか困るんだけど……。

 

 

「なので、色々と至らない事が多いかと思いますが、このレイヴェルを可愛がってください……一誠様」

 

「あ、うん……」

 

 

 し、しまった……!?

 余りに唐突で呆然としてたせいでつい頷いて――ぐぅ、でも確かに美少女だし、俺自身女の子縁が無くて泣きたくなってたし……。

 う……正直美味しいのかもしれない。頷いた途端、レイヴェルの表情が目に見えて明るくなってるし……。

 

「嬉しいですわ一誠様!」

 

「しーっ! お隣さんに迷惑……!」

 

 

 もう良いや! ヤケクソだ!!

 とまあ、結局師匠の暇潰しの相手にされてしまった俺は、美少女に負けてしまうのであった。

 仕方ないじゃん……美少女なんだもん――

 

 

「では早速……恥ずかしいですが」

 

 

 なー……なんて考えて、取り敢えず家の連中にどう言えば良いのかと考えていた時だった。

 何を思ったのか、突如レイヴェルは恥ずかしいと言いつつ自身の着ていた服……よく見たら駒王学園の女子制服の上を脱ごうとボタンを外しはじめていた。

 ……………。っておい!?

 

 

「な、何してんだよ……!?」

 

「ナニって……私は一誠様だけの従者ですわ……。

いえ、寧ろ下僕と言っても過言ではありません。 身の回りのお世話だって当然します。

なので、取り敢えずお掃除とかは明日にすることにして、今から一誠様の抱える、その……ム、ムラムラを解消しようかと……」

 

 

 まだあどけない少女な顔立で、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながら言うレイヴェルは、そのままブラウスまで脱ごうと……………セイセイセイ!

 

 

「待て待て待て……! 今更お前が何で駒王の制服を着てるのかとかも聞きたいが、取り敢えず待ってくれ……!!」

 

 

 なじみが最後に言ってた事がマジだったのは驚いた……いや、違う違う!

 箱入り娘にそんなさせられるか、だから止めろ! ブラウスの下がちょっと見えてるから――やめい!

 俺はいつになく必死になって脱ごうとするレイヴェルの手を掴んで止める。

 するとレイヴェルはびっくりした様で……

 

 

「きゃ……!?

あ、あ、い、一誠様がこんな近くに……。も、もしや脱がせたかったのですか? ご、ごめんなさい……何分初めてなもので……。

で、ではどうぞ……優しくしてください……」

 

 

 ……その行為がレイヴェル的には迫られたのかと思ったのか、紅潮させた頬と熱の籠った目と、妙に色っぽい声をしながら目を閉じはじめる。

 

 

「違う……。ていうか恥ずかしいなら止めろ。

お前が……その、なんだ……俺に割りと好意的だったのは理解したよ。けどいきなりそんな……お前……と、取り敢えず服を着ろ……いや着てください」

 

 

 レイヴェルの華奢で白い両肩を掴んでキャストオフを阻止した俺は、久々にマジな顔して言ってやる。

 此処までの話を聞いて、レイヴェルが何でか俺を好いてくれてるのは分かったし結構嬉しいのは本音としてある。

 しかしながら、俺はレイヴェルを友達の妹……とそれまで思ってたんだ。

 心の準備云々で色々と待ってもらいたい。俺まだ大人じゃないしな。

 と、ゴチャゴチャぐるぐると様々な思考が脳内を駆け巡らせていると、レイヴェルは途端に泣きそうな表情を……いや既に目尻に涙が……あ、あれぇ?

 

 

「そ、そんな……!?

一誠様は私の身体では満足できませんか?

安心院さんが言うには、女性が大好きでこうしたら凄い喜ぶって聞いたので、他の女が一誠様に色目を使う前に先手を……くすん」

 

「いや確かに女の子は好きだが……って、なじみのバカ野郎。

20兆ほどスキル使えなくしてやろうか……!」

 

 

 ホントに余計なお世話だぞ師匠め……。

 

 

「い、良いかレイヴェル。

俺は偉そうな事を言っといて結局は俗な人間なんだ。

だからその……レイヴェル程の子がそういうこと言っちゃうと色々と……わ、わかる?」

 

「ぅ……」

 

 

 ち、ちくしょう。今まで全然意識してなかったのに、今の涙目のレイヴェルを見てると変な気分に――いや駄目だ!

 

 

「取り敢えず……こう、お互いの事を知ってから……な、な?」

 

「………くすん」

 

 

 心の整理やら何やらで、とにかく駄目だと必死に言い聞かせる俺に、レイヴェルは小さく頷いてくれた……。

 けれどその表情は俺の中にある何かが……背筋がゾクゾクするというか……。

 あぁ、そうだ……前に師匠に言われたけど、俺は割りとSなのだ。

 つまり、今涙を浮かべてるレイヴェルが……正直色々とたまらんのだ。

 

 

「わかりました……でも、何時かは私を――」

 

「あ、あぁ……うん」

 

 

 レイヴェル・フェニックス。

 友達の妹でちょっとした知り合い――――だと思ってたけど、ははは……なじみは知っててこの子寄越してきたな。

 

 

「大好きですわ一誠様……。

あの日見せてくださったご勇姿から、私の全ては一誠様のものです……」

 

「…………。それは素直に嬉しいぜ……あ、あはは……」

 

 

 

 

 

兵藤一誠

種族・人間

所属・特になし

 

 

備考・・安心院なじみの対となる人外

 

 

レイヴェル・フェニックス

種族・純血悪魔

所属・ソロモン72柱フェニックス家長女

 

 

「お前、そういや何で駒王の女子制服なんて着てるんだ?」

 

「それは勿論一誠様と同じ学校に通い、そこでもサポートする為ですわ! 大丈夫です、既にこの地を管轄しているグレモリー家には話を通してありますので」

 

「……。お早い根回しだなオイ」

 

「その際、例の兵藤誠八なる男に一誠様に遠く及ばない、いっそ気色の悪い笑顔を向けられて不愉快でしたが」

 

「あー……『兄貴』ね……。

学園内じゃ兄貴を取り合ってるグレモリー三年とそのお仲間達をよく見るが、悪平等(オマエ)には例の洗脳笑顔は効かなかったようで安心したよ」

 

「フッ、あんなスカした女ったらしは大嫌いですもの、当然ですわ」

 

 

備考・・悪平等(ノットイコール)にて、分類上人間に恋をした少女。

 

 

 

 




補足

さーてと……どうしよっかな。


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生徒会長だったりするイッセー

短編に置いてた奴を流用するのでペースがそこまでは早い……つもり。


 ―無限大に広がる宇宙の様だ―

 

 

 それが、俺を見る人外の師匠や他の悪平等(ノットイコール)の評価らしいのだけど、ハッキリ云って俺がそんな御大層な男な訳か無い。

 

 単に人から認めて貰いたいからって理由で常日頃鍛練に明け暮れ、脳内麻薬が生成されるまで肉体とか精神を虐めき、分泌された時に感じる何とも言えない清々しさを味わいたいってだけの奴なのだからな。

 

 なのでそんな過大評価されてもくすぐったいというか……。

 ぶっちゃけると、始めた理由だってあの胡散臭さが抜けない笑顔を浮かべて人との輪を次々と紡いでいく兄貴に負けたくねぇとかいう対抗心から来たものだしね。

 

 

 

 

 

『世界は不変か?』

 

『未来はレールの上か?』

 

『現実はつまらんか?』

 

 

 同じ制服を着た、同じ年代の大人へ差し掛かる少年・少女がポカンとした面持ちで、壇上に立つ一人の少年を見つめる最中、少年は凛とした面持ちと声をマイク越しに聞かせていた。

 

 

『心配するな。生きてるだけで人間は儲けもんだ!』

 

 

 少し赤みがかった茶髪。

 整った容姿。

 すらりとしながらもガッチリとした体型。

 駒王学園二学年に在籍する少年・兵藤一誠を壇上の下から見つめる生徒達は色んな意味で知っていた。

 運動・勉学・その他全てが学園で一番は普通。

 そして今もこうして聞かされる彼の声と姿から嫌でも感じ取れる圧倒的なカリスマ。

 

 彼の声や挙動を目にし、耳にすればするほど彼に引き込まれる。

 生徒の一人一人はそう感じていた。

 

 

「ハァ……ご立派ですわ一誠さまぁ」

 

 

 特に友の妹であり、1つ下の学年である少女に至っては、勝ち気に見られる表情をこれでもかと蕩けさせながら、壇上で堂々と演説する少年に熱い視線を送っている。

 

 

『……。まあ、こんなつまらん俺の話をしても諸君を退屈させてしまうと思うので要点だけ言うとだ……』

 

 

 圧倒的な存在感、圧倒的な才気。

 その全てを兼ね備え、他の生徒会長候補をぶち抜き、笑えるくらいに凄まじい支持率で就任するという伝説を作った今代の生徒会長・兵藤一誠は、前置きをさっさとやめて要点だけ言おうと備え付けのマイクをひったくり、壇上に目安箱と書かれた鳥かごの様な木箱を見せ付けながら堂々と宣言した。

 

 

『俺は今までの生徒会とは違った事をする為、この度から皆の持つお悩み等の相談事も引き受けようと思いこの様な目安箱(めだかボックス)を作成した。

どんな悩み事……勉強・恋愛・進路・家内安全から交通安全まで等々、悩み事があればこの目安箱に投稿してくれ。

24時間365日可能な限り俺は誰からの相談を引き受ける! 以上、生徒会からの連絡だ!!』

 

 

 悪く言えば啖呵にしか見えない一誠の堂々とたる宣言で幕を下ろした全校集会。

 しかし一誠の場合は違った……。

 

 

「「「「「うぉぉぉぉっ!! イッセェェェェ!!!」」」」」

 

「レイヴェルたんに好かれてるなんて羨ましいぞー! しねー!!」

 

「セーヤはもっと死ねー!!」

 

 

 フハハハハ! とどっかの悪役みたいな笑い声と共に言い切る一誠に、生徒達はわーわーきゃーきゃーと、目安箱設置の案を出した一誠を歓迎する生徒達の声と一部関係無い妬みの声と共に迎えられた生徒会長・兵藤一誠。

 圧巻なる支持率『97%』

 他の候補者を完全に蹴散らし満を持して就任した生徒会長・兵藤一誠は、実にやりきった感満載な顔で壇上を降りていく。

 その右腕に付けられた会長の腕章………そして『副会長』『会計』『書記』『庶務』の腕章も付けたまんま。

 

 

 兵藤一誠。

 二年一組。

 血液型・AB型

 駒王学園・第18代生徒会長・副会長・会計・書記・庶務。

 

 

 

 

 

 

 備考・人にして無限(インフィニットヒーロー)夢幻(リアリティーエスケープ)に到達したもう一人の完全なる人外。

 

 

 

 

 

 さてさて、今無き先代の生徒会長兼先輩の義理を返すために急遽生徒会長に立候補し、毎日毎日を支持率集めに努力した結果が実ってくれて実に良かった……………なんて此処で胸を撫で下ろす訳にもいかない。

 先代の……俺にとって尊敬すべき先輩から受け継いだこの腕章を守り、次の代に受け継ぐために頑張らなきゃならんのだ。

 それに……。

 

 

「ふーむ、急遽過ぎて他のメンバーが居ないのは良くないか……」

 

「それでもご立派でしたわ! レイヴェルはますます一誠様をお慕い申してしまうほどに……」

 

「お、おぅ。そ、そうか……」

 

 

 師匠(なじみ)の変な思い付きで預かる事になった、友達の妹に情けない所を見せるわけにはいかない。

 かれこれこの子が来てからもう結構経つが、相変わらずというか何というか……。

 

 実はこの学園は――いやもっと言えばこの街一帯が実は悪魔と呼ばれる生物が治めてる領土ですとか。

 

 この学校には悪魔の軍団が二組居るとか。

 

 その片方の軍団に双子の兄となってる兵藤誠八が人間を捨てて転生して遣えてたりしてましたとか。

 

 何かもう色々とあるんだけど、今こうして生徒会室でのんべんだらりとしてる俺のもとで『転校生』という肩書きで通うようになってから毎日毎日顔を見せてくれるレイヴェル・フェニックスも実は彼等と同じ悪魔とかとかとかとか色々複雑な事情がある。

 

 

「一誠様を想う度に私の下腹部は喜びが沸いて――」

 

「や、やめろよ……!

お前が言うと色々とアウトになるだろが!」

 

 

 だが俺はそれをある程度把握してるからといって彼等にへーコラするつもりは無い。

 そもそも俺は人間であって悪魔じゃないのだ。

 故に彼等の信仰してる魔王とやらを崇める必要も、顔色をうかがってゴマする必要なんて無い。

 あくまで俺は駒王学園の生徒会長として責務を果たすだけだ。

 ……。まあ、レイヴェル――牽いては彼女の実家でるフェニックス家の面々とは『悪魔でも人間でも無い別の繋がり』を持ってるので、多分色々と贔屓しちゃうかもだけど。

 

 

「そ、それとレイヴェル。

頼むからその『一誠様』って呼ぶのはやめてくれないか?

なんというかね、生徒達から物凄い噂をされてしまうというか……」

 

「な、何故ですか!? 一誠様は私が嫌いになりましたの……?」

 

 

 そんなこんなで、レイヴェルとは結構な昔から顔馴染みであり中々に仲良しと言える間柄なのだが……。

 その……この前の事件から発覚したのだが、レイヴェルは俺を男として見てるらしく、一学年下にも拘わらず――もっといえば家も一緒だというのに休み時間になる度に甲斐甲斐しく俺の所属するクラスにやって来るのだ……こう、すっごい楽しそうに微笑みながら。

 いや、それだけなら別に良いんだが……その、俺を呼ぶ時が一誠様のせいで変な誤解をクラスメート――いや学園全体に広がってしまってる。

 

 

「そういう訳じゃない……無いんだが、お前って聞けば俺以外だと物凄いドライな態度らしいな?」

 

「? それがなにか?」

 

 

 金髪縦ロールに碧眼のつり目という、アニメから思いきり飛び出してきた様な容姿を持つレイヴェル。

 人の容姿を判定するほど偉くは無いが、正直にこの子はかなり可愛いと思う……というか、容姿とは裏腹にめちゃくちゃ素直で良い子なんだよ、俺にとっては。

 けど、どういう訳かレイヴェルは俺以外にはかなりドライというか『押し並べて平等にどうでも良い有象無象』と、彼女の根底に持つ特性ゆえにそう思っており、転校してから暫くはそのアイドル的なルックスで多くの男子諸君が騒いだらしいのだが――

 

 

『レイヴェル・フェニックスと申します。

夢で終わらせるつもりはありませんが、目標はこの学園に通う兵藤一誠様にお嫁さんにして貰うことです』

 

 

 どうも転校して最初の挨拶がそれだったらしく、見事に男子諸君の淡い期待をぶっ壊したとかなんとか……。

 お陰で俺は男子諸君から恨めしい何かを見るような視線を若干送られる羽目になってだな……いや、それでも嫌われてないから良いんだけど。

 とにかく、学校内ではちゃんと先輩後輩のメリハリを付けて兵藤先輩とかそんな感じに呼んで欲しいのだよ……うん。

 

 

「お前が男子から何て言われてるか知ってるか?

『ツンデレっぽいのに、デレはおろかツンすらしない』とか言われてるんだぜ?」

 

「はぁ……それを言われても私は一誠様に――ハッ!? もしや一誠様がおっしゃりたいのは、『もっと甘えてくれ』ということですね!?

それならそうと早く仰って頂ければ、私は……ポッ」

 

「いや……あー……全然違うんだけどなー……」

 

 

 この話を良い方向に解釈する癖はこの子の兄貴であるライザーにソックリだな。

 アイツもいやにポジティブというか……。

 キツい性格してそうな見た目なのに、ほんのり頬染めながら微笑む姿が無駄に可愛いから悔しい。

 

 

「一誠さま……一誠さま……♪」

 

「わ、わかった……! わかったから、女性ともあろうものがそんな簡単に男にくっつこうとするなって……!」

 

「む! 私はそこら辺に居るような尻軽女とは違いますわ!この身もこの心も全て一誠様だけに捧げるのです!」

 

「だから早いっての、色々と……!!」

 

 

 その上、家でも学校でもスキンシップが激しいときた。

 それだけ俺を慕ってくれるのは物凄い嬉しいし、小さかった頃を知ってる分、その……なんだ成長してるのが嫌でもわかるんだよ……フニフニしたものが当たるしてか意外と大きい……って、違う!!。

 

 

「お、お前とこんな真似してるなんて兄貴三人衆にバレたら何を言われるか……」

 

 

 力付くでひっぺがすのは悪い気がするし、だからと言って好きにさせると色々と不健全なので、口を『3』の形にしながらグイグイ迫ってくるレイヴェルの両肩を押さえながら、これ以上はやめてけろとこの子の兄貴三人の事を引き合いに出すも、あんまり意味が無かった。

 

 

「お兄様達からは前に言った通り『全て公認』して頂いてます、それに父と母も同じく。

ですので、私と一誠様を阻む壁なぞ何にもありませんわ!!」

 

「ぐぐ……大事な娘……! もしくは妹を人間ポッチに任せるなんて、とんだ放任一家だぜ……今更だがな!」

 

 

 勝ち誇った顔で家からは何も言われないと言い切るレイヴェル。

 唯一悪魔として一家全員が悪平等(ノットイコール)であるフェニックス家は、俺も師匠経由でかなり世話になったというか、兵藤家に兄貴が現れてから一度も帰らずにフェニックス家に入り浸ってたくらいだ。

 寧ろ確実に肉親以上にフェニックス家との繋がりは深いともいえる。普通に皆優しいし居心地よすぎだし……。

 けれどだからといって、純血悪魔でもない只の能力保持者(スキルホルダー)でしかない人間の俺にレイヴェルという誰が見ても美少女な子は死ぬほどに勿体無い気がしてならん。

 いや、レイヴェル自身の気持ちを最優先した結果がこれだってのも嫌というほどわかるんだが……。

 

 

「もう、一誠さまのいけず……」

 

「隙あらば人の寝てる布団に潜り込んでくるお前は、ある意味すごいよホント……」

 

 

 それこそ、血の繋がりは無けれど年の近い妹か何かだと思ってたレイヴェルと男女関係になったらといきなり言われても戸惑いしかないんだよ。

 それに俺はライザーと違って女の子の扱いがド下手だしな。

 

 

「まあ、取り敢えずその話はまた後で話し合うとしてだ。

今は生徒会のメンバーをどうするかなんだが……」

 

 

 レイヴェルの積極性のおかげで大分逸れてしまった話を、不満そうに離れてくれた彼女を見ながら軌道修正する。

 そう……今回の問題は生徒会メンバーをどうしましょうかという話であり、レイヴェルとイチャイチャしちゃって宜しいのかって話じゃないのだ。

 というか、お前ってば生徒会に入ってないのに何で当たり前の様に此処に居るんだよ――――は野暮だし言うのは止めておこう。

 

 

「『副会長』『会計』『書記』『庶務』……取り敢えず最低でもこれだけは集めておかないといけないんな。

しかしだからと云って適当に募集して集めるのは何か違うと思うし……うーむ……」

 

「一誠様のお手伝いが出きるのであれば、是非とも私を加えて頂きたいのですが……」

 

 

 考える横でレイヴェルはそう期待を込めた様な目で立候補してくれたが、すまぬレイヴェルよ……それは無理だ。

 

 

「駒王学園 学園則 第42条・第二項目を生徒手帳で調べてみろ」

 

「え……はい。えっと……『他校から編入した生徒は、編入後半年間は生徒会役員に立候補できない』……………そ、そんな……!」

 

 

 まあ、そういう訳だ。

 どうであれ、レイヴェルは転校生としてこの学園に入り込み、まだ半年も経ってない。

 だからどうあがいても半年間は立候補不可能なのだ。

 

 

「うー!」

 

「俺としてもお前がこの学園の生徒として居てくれるなら、是非とも必要な人材なんだが、規則がそうなってる以上はな?」

 

 

 残念そうに項垂れるレイヴェルにフォローを忘れずに入れる。

 ……。うむ、今日の帰りに何かご馳走してあげよう……何か見てて居たたまれない気分になる。

 

 

 

 

 とるに足らない人間だけが人間ではない。

 いや、正確に云えば全ての人間には(プラス)(マイナス)のどちらかの素養が備わっている。

 しかしそれでも多くの――ほぼ全ての人間はそれに気付かず生涯を閉じてしまう。

 私が知ってる限り、そのどちらの素養を自力で発現させ、今尚無限に広げているお方は兵藤一誠様しか知らない。

 悪平等(ボク)達以上に安心院(ボク)であり、誰も到達しなかったもう一人の安心院なじみ(ノットイコール)……それが私が恋心を抱くお方……兵藤一誠様なのだ。

 

 

「何か飲むか?

まあ、一応任期を終えて来期になってもまた立候補するつもりだから、その時はお前に背中を任せる。

だから元気出せって……な?」

 

「はい……」

 

 

 迷惑と思われるくらいに身を寄せても、大袈裟に落ち込んでメンドクサイ姿を晒しても一誠様は変わらず私に優しくしてくれる。

 誰よりも努力を怠らず、誰よりも壁を乗り越え続け、誰よりも先に頂きに立つ。

 無限に進化をする異常性(アブノーマル)と現実を簡単に書き換える過負荷(マイナス)の二つを持っているにも拘わらず、決して傲らずに自らを高める。

 最初は勿論、泥臭い性格である一誠様に対して冷めた気持ちを持っていたかもしれない。

 けれどそれは最初だけだ。

 安心院さんに対して、当たり前の様に勝負を挑むという、いっそ大馬鹿と言わざるを得ない事をして死にかけても彼は絶対に折れず、傷だらけになりながらも笑顔で言うのだ……

 

 

『次こそ負けねーぜ……!』

 

 

 安心院さんがどんな存在なのから悪平等(ボク)である以上誰よりもよく知っている。

 そんな彼女に何度となく叩き潰されようとも心を折らず、更に鍛練を重ねるお姿を見ている内に興味が沸いてしまうのは必然であり、気付けば私から話し掛け、年が近いのもあってか直ぐに仲良くなれた。

 

 

『俺は一度突き付けられた現実から逃げた事があってな。

……。まあ、逃げることが悪いとは思ってないが、弱いから逃げる真似は2度としたくないと思ってさ……』

 

 

 『突如現れた双子を名乗る兄』に自分の居場所を全て奪われ、居心地の悪さから全てを捨てて安心院さんに弟子入りした話から、その際発現したオリジナルの能力(スキル)と目標。

 一つ一つ、それらのお話から他愛のない小さなお話までをしていくうちに、私は一誠様を強く意識するようになった。

 それは純血悪魔である私が決して抱いてしまってならない気持ちなのは分かっていたが、父も母も兄達も既にもう一人の完全なる安心院なじみ(ノットイコール)である一誠様を我が子、もしくは弟のように気に入っていたので大した弊害も無かった。

 

 

「あ、一誠様に言っておかなければならないことがありまして……。実は兄のライザーが婚約するのです」

 

「アイツが? えっと、一体誰と?」

 

「ほら、この学園のオカルト研究部なる部長をしてらっしゃる……リアス・グレモリー様とです」

 

「グレモリー3年だと?

むむ、何の間違いがあってそうなったんだ? 彼女は確実にて手遅れレベルの兄貴シンパなんだぞ? しかも魔王の妹という人間で無関係の俺ですら面倒だとわかる――」

 

「なんでもベロンベロンに酔っぱらった父が間違えてグレモリー卿と話をしてしまったとか……正直我が父ながらとんでもないアホかと」

 

「お、おい、おっさん……」

 

 

 そう……私は一誠様と添い遂げる資格がある。

 誰にもこの気持ちの邪魔はさせない……。

 馬鹿に真っ直ぐで、馬鹿に無謀で、お馬鹿で大好きな私だけのヒーローに恋をしたというだけなのだから。

 

 

「おっさんってあんまり酒強くないだろ……それでよくおばさんが怒らなかったな」

 

「当然怒られましたわね……。

いえ、怒られてるにも拘わらず、二人の寝室からは『も、もっと激しくぅ!!』という気持ち悪い父の声が聞こえてたので……微妙に反省はしていませんわね」

 

「お…………おっさん……」

 

 

 うふふ……私は一誠様にそんな事しませんわ。

 寧ろ色々とメチャメチャにされたい……なーんて! なーんて!! 恥ずかしいですわ!!

 

 

終わり

 

 

 オマケ

 ライバル?

 

 

 さて、恋する暴走娘であるレイヴェルだが、そんな彼女にも意外なる敵が居るようで居なかった。

 

 

「しつれいします……一誠先輩は――あ、いた」

 

 

 綺麗な白髪と瞳孔が縦長に開いた金色の瞳を持ち、学園内では専ら癒し系だかで大人気の美少女だ。

 圧倒的過ぎる存在感故に、支持率はあれど実はそんなに周りから近付かれない一誠に近付ける数少ない存在の一人なのだが……。

 

 

「ん? おぉ塔城一年、丁度良いところに来てくれた。

貴様の所属する部活の部長について一つ聞きたいことが――」

 

「また来ましたわねこの泥棒猫!!」

 

 

 拒む理由が一切無い一誠の歓迎する態度を上塗りするかのごとく、目付きを鋭くさせ勢いよく備え付けの椅子から立ち上がって威嚇するは、同学年かつ同級生のレイヴェルだった。

 

 

「……。なんだ、フェニックスさんですか。

すいません、アナタには用は無いので引っ込んでて貰えますか?」

 

「引っ込むのはアナタよ。

いえ寧ろさっさとこの部屋から去りなさい! 此処は私と一誠様の愛を育む空間――」

 

「違うぞレイヴェル、ここは生徒会室だ」

 

 

 水と油、猫と火の鳥。

 顔を合わせた途端険悪な態度を隠そうともせず帰れと口にするレイヴェルにちょっと不機嫌そうに顔をしかめる駒王学園オカルト研究部部員――否、グレモリー眷属戦車(ルーク)塔城小猫は、生徒会長である一誠が間に入ることで一旦は矛を収める。

 

 

「一誠先輩もこんな煩い鳥とよく一緒に居れますね、感心します」

 

「いや、俺にとっては良い子だから……うん」

 

「ふん、さっさと消えて兵藤誠八とやらにすり寄りにでも行けば良いのに。というかアナタ、前々から一誠様を気安く名前で呼ばないで欲しいのだけど?」

 

 

 来客用のパイプ椅子を用意し、そこに小猫を座らせると鬱陶しそうな表情を隠そうともせず互いに睨み合ってる。

 レイヴェルからすれば、この塔城小猫がとてつも無く気に入らないのだ。

 

 

「一誠先輩を兵藤先輩と呼ぶのに違和感があるし嫌だ」

 

「普通逆でしょう!? なんで同じ眷属のお仲間である兵藤誠八を名前で呼ばないのよ!」

 

「お、落ち着けって……」

 

 

 ただのグレモリー眷属で悪平等(ノットイコール)ですら無いくせに、リアス・グレモリー含めたグレモリー眷属女性陣とは違って誠八では無く一誠に近寄ってくる小猫がだ。

 この時もシレっと一誠の出したお茶とお菓子にホクホクしながら受け取り、目を吊り上げて威嚇するレイヴェルを半ば無視しながら此処に来た理由を一誠に説明している。

 

 

「ちなみに、兵藤先輩なら部長や副部長やアーシア先輩と宜しくやってる様だったんで、居心地が悪くなって遊びに来ました」

 

「へー……やっぱり過ぎて今更驚かんが、兄貴ってやっぱりモテモテなんだなぁ」

 

「ふん! だからアナタもその一人になれば宜しいでしょうに、何故わざわざ一誠様の下へ来るのか理解に苦しみますわね。というか邪魔するな雌猫」

 

 

 そもそも第一印象から気に食わない。

 自分を慕う相手を無下に出来ない一誠の甘さを良いことに、都合の良い時だけ懐ついた素振りを見せる雌猫宜しくに一誠にすり寄る小猫が初めから邪魔に思えて仕方無かった。

 その上小猫は小猫で――

 

 

「うるさい……この鳥頭が」

 

 

 シレッと毒を吐いてくるのだ。

 誠八の話を聞いて難しそうに腕を組んで考えてる一誠を穏やかな表情で見てた小猫が、横で帰れと連呼するレイヴェルに一瞬だけ冷たい表情を見せながら、ほぼ普通に罵倒の言葉を吐いていた。

 まあ、レイヴェルも言い続けていたのでお互い様なのだが、それで納得する訳もなく……。

 

 

「あ”? 今なんっつった?」

 

 

 悪平等(ノットイコール)特有の怒り顔をしながら視線外して一誠をじーっと見つめてる小猫にドスの利いた声で凄む。

 しかし小猫にそれは通用せず、寧ろそれを利用するかの如く会長席に座ってた一誠のもとへ素早く移動すると――

 

 

「くすん……鳥頭さんが怖いです一誠先輩……」

 

「ちょ、おい……レイヴェルみたいなことするなよ……!」

 

 

 まさに猫なで声で一誠に抱き付きながら、思ってないことを平然と口にし、見せつけるかのようにギョっとする一誠を他所に更に強く抱き付く。

 

 

「あぁっ!!? な、なにしてくれちゃってるんですかこの泥棒猫ぉぉっ!! 一誠様にすり寄るなぁぁぁっ!! 離れろぉぉぉっ!!」

 

 

 当然レイヴェルの怒りは頂点になり、そこはかとなくドヤ顔な小猫に飛びかかろうとするのは自然の流れだった。

 

 

 そう、レイヴェルだからこそわかる。

 一誠に想いを募らせているからこそわかるのだ。

 この塔城小猫がどういうつもりか、あの催眠術みたいにグレモリー眷属の女性陣が兵藤誠八に好意を寄せているというのに、唯一この小猫だけが例外で違うという事に。

 

 

「落ち着けよレイヴェル!

お、おい塔城一年よ、あんまりレイヴェルを刺激しないでくれないか? こう見えて俺にとってレイヴェルは大事な子でさ……な?」

 

 

 小猫に殴り掛かろうと構えるレイヴェルを見て、咄嗟に席から飛び退いた一誠が後ろからレイヴェルの身を羽交い締めにしながら小猫に注意する。

 だが小猫の表情は不満そうにしかめており、何時までも塔城一年と他人行儀に呼ぶの一誠にむかってこう告げた。

 

 

「それはわかってますが……。昔一誠先輩に助けてくれたお礼の事を忘れたとは言わせませんよ?」

 

「え……? いや……え?」

 

「嘘こくな、このいやしい雌猫!」

 

 

 昔? 何のことだ? とちょっと暗い表情の小猫をみながら考える一誠と、そんなものなぞ無い! と即否定するレイヴェルは無視し、言われてからうーむと過去を思い出してる一誠を見た小猫は、ハァと残念そうにため息を吐く。

 

 

「……。嘘じゃないのですがね……。まあ、一誠先輩にとっては修行中の片手間の出来事でしたので仕方無いと思いますが……ちょっと悲しいです」

 

「一誠様、こんな雌猫の戯れ言に付き合う必要なんて――」

 

「ちょっと待て……昔――修行――塔城一年――猫――――」

 

 

 さっさと兵藤誠八のシンパになれば良いのに、何故かならない。

 いやならない理由を本当はレイヴェルも解ってる。

 だからこそ、だからこそ気に食わないのだ。

 

 

「え、え、え?? あれ待てよ? ………………………あ!! お前もしかして白音か!!? 姉の黒歌と死にかけてた!!」

 

「ええ、やっと思い出してくれたみたいで嬉しいです。

ほら、再会のキスでもしませんか? 所謂べろちゅーってやつを――」

 

「え”? いや、それは良い――」

 

「そ、そそそそ、そんなことは許しませんよ! 一誠様の唇は私だけのものです!」

 

 

 似てると感じてしまうこの塔城小猫が、レイヴェルは物凄い嫌いだった。

 

 

終わり




補足
多分、全シリーズの中では一番突き抜けてるじゃないすかねー(チート的な意味で)


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後輩に慕われる生徒会長とその頃のフェニックス家

これも短編集から持ってきたので、ちょいと修正やら書き出ししただけです。

 まあ、既に読んで頂けた方はお分かりかと思いますが……フェニックス卿とか夫人様がぶっ飛んでるというか……。



 生徒会長は椅子にふんぞり返ってるだけが仕事ではない。

 どこかの高校にいる見た目チビっ子みたいに訳のわからない題名をホワイトボードに書いて無駄な話し合いをするでもない。

 俺にとっても声が似てる変な男はそれで良いのかもしれないが、俺はそうはいかない。

 小さいのに器がどこまでも大きかった先代に託されたこの腕章を守るために、俺なりの最善を尽くすのだ。

 

 

「女子更衣室への覗き行為。この様な所持品の無断持ち込み。女子に対する配慮の無さすぎる会話……。

ふぅ……今までは黙っていたが、この度目安箱に投書された通りに生徒会を執行させて貰おうか、元浜同級生に松田同級生よ」

 

「はぁ!? セーヤの畜生どころか、お前までレイヴェルたんとイチャコラしてましたなリア充の裏切り者が、俺達のマイライフまで奪うのかよ!」

 

「そーだそうだ! 生徒会長の癖に可愛い女の子とイチャコラしてんじゃねーよ!!」

 

 

 

 『お前が私になるんじゃない、お前はお前になれば良い』そう言って俺に託して卒業していったあの先代の先輩の言葉と姿を決して『忘れず』にな。

 だから今は、この度が過ぎるセクハラ二人組を止める。

 

 

 

「貴様等の言い分はよくわかった……」

 

「たりめーよ! 何人たりとも俺達は止められねぇ!」

 

「ましてやリア充野郎なんかに――」

 

「明日の朝には『尊敬する人物は二宮金次郎』。好きな言葉は『友情・努力・勝利』と胸を張って言える素晴らしき人格に改造してやる。

故に今日は無事に帰れると思うなよ、これより生徒会を執行する!! まずは煩悩を消す為俺と一緒に腹筋・腕立て2000回だ!!!」

 

 

 俺なりの、要領の悪いやり方で生徒会長をやり通す!

 

 

 

 

 グレモリー眷属兵士にて赤龍帝というとてつもなく強力な神器(セイクリッドギア)を持つ人がいる。

 その人こそ、傍から見なくても異様なまでに部長や副部長やらアーシア先輩に好意を寄せられている兵藤誠八という先輩だ。

 人柄よし、悪魔に転生するあたって駒を8つ消費したらしいとの事から才能も良し……等々、言うことなしに完璧な人なので、三人から――いや確実にその他の女性からも好意を寄せられる理由としては分からないでもない。

 しかしながら私には彼に対して好意を寄せるというそんな感情は初めて会った時から感じなかった――いや、どちらかと言うと『兵藤先輩を彼と勘違いして落胆してしまった』といった方が正解なのか、とにかく私はあの先輩に魅力を感じなかった。

 何故なのか? それはかつて私を――いや私達救ってくれた『彼』の存在が兵藤先輩すら霞む程大きかったからに他ならない。

 

 

「一誠様、今日は何が食べたいですか?」

 

「うむ、野菜炒めだな。胡麻油使ったやつで!」

 

「了解しました。

うふふ、このやり取りはまるで夫婦みたいですわ……」

 

「そのお陰で俺は男子諸君から嫉妬されてるようだがな……。

今日の依頼だって、元浜同級生と松田同級生から『死ねリア充!!』と逆ギレされて大変だったぞ。最後は泣きそうになって帰ってしまったが……」

 

 

 兵藤一誠さん。

 私にとっては彼の方に魅力を感じてやまない。

 誰よりも存在感を持ち、誰よりも目立ち、誰よりも上に立つ彼こそが、昔私達を『修行』とやらの片手間で救ってくれた彼で間違い無い。

 

 

「一誠先輩」

 

 

 今思えば不思議だった。

 死にかけていた私達を、神器(セイクリッドギア)のような不思議な何かで救いだし、あまつさえ死にかける原因だった大きな一つを完全に取り除いてくれたのだ。

 結局私はその死にかけた原因のソレになってしまったのだが……。

 

 

「む、塔城一年か。部活はどうした?」

 

 

 しかしそのお陰で再会出来たのはとんだ皮肉なのかもしれない。

 悪魔に転生しなければ私は一誠先輩にこうして話し掛ける事すら出来なかったかもしれない。

 そう考えると、保護効果も働いてるという意味ではある意味道として正解だったも知れないと私は思う。

 

 

「また来ましたわね泥棒猫さん……。

何のご用か知りませんが、一誠様は生徒会業務を終えて帰宅し、私と熱々新婚生活の予行演習をするのよ。

アナタは転生悪魔の業務を精々頑張るのね……おほほほ」

 

 

 ただ、煩い鳥が一誠先輩と常にセットでいるのが実に気に食わない。

 今だって帰宅しようとしていたらしい一誠先輩の横に当然ですとばかりにくっついて腕まで組んでる、元・ソロモン72柱のフェニックス家末っ子が私の邪魔をしてくれる。

 曰く、見聞を広める為に人間界の学舎に来たとのたまってるが、そんなものは百パーセントの嘘なのは分かってる。

 どうせ本音は今こうして私に気付いてちょっと嬉しそうに話し掛けてくれる一誠先輩にくっついてたいだけだろう。

 どうもこのレイヴェル・フェニックスという雌鳥は、人間である筈の一誠先輩と昔馴染みらしいし……。

 

 

「部活なら、昨日と同じようにまた兵藤先輩を巡る先輩方の小競り合いのせいで機能停止中です。

だから私と祐斗先輩は一足早く帰ることに」

 

 

 この手のタイプは相手にするだけ疲れるので、勝ち誇って満足してる彼女を無視し、一誠先輩にほぼ趣旨が崩壊してしまっている部活の中身について説明をすると、先輩の顔が顰めっ面となり、難しそうに唸っていた。

 

 

「またか。

うーむ、兄貴の放つ異様な雰囲気は昔から老若男女――果てには両親すら虜にするからな」

 

「みたいですね。おかげでそれを感じない私と祐斗先輩は完全に蚊帳の外で居辛いです」

 

「無視するな! 一誠様もこんな雌猫の戯れ言に付き合わないでくださいまし!!」

 

 

 煩いのはお前だ雌鳥。

 今私は生徒会長の一誠先輩に、最近全く機能してない部活について相談してるのだ。

 

 

「いや、そうは言うがなレイヴェル。

兄貴の事だし他人事って訳にもいかんだろ……」

 

「う……そ、そうかもしれませんが……。

あの、こう言っては身も蓋も無いかもしれませんが、問題行動を起こさない様ですし、そもそも一誠様は彼と殆ど縁を切ってますし……放っておいた方が良いのでは?」

 

「……。まあ、居心地が悪いと感じるのは私と祐斗先輩ですし、それ以外に問題を起こしてる訳じゃないし、そもそもオカルト研究部なんて名前だけのアレですし……そこはこの人に同意できますね」

 

 

 

 ……。というのは本当を言うと嘘だ。

 ハッキリ言って問題が無いなんてお世辞にも贔屓目に見ても言えない。

 部長が抱き着けば副部長やアーシアさんが対抗し、更にヒートアップした部長が一見困り顔で笑ってる兵藤先輩の身体にペタペタと触れたら二人も更に対抗し、いよいよとなった部長がいきなり脱ぎ出すなんて暴挙に出れば、副部長と元・シスターである筈のアーシア先輩ですら躊躇無く脱いで迫り出す。

 …………。この時点で祐斗先輩は物凄い居たたまれない顔で――

 

 

『ごめん塔城さん……契約は僕がやっておくから先に帰って良いよ……』

 

 

 とだけ私に告げてから退室し、私も同じく退室する。

 そして更にいうと、あのシトリー先輩までもが――――

 

 

「いや、居心地が悪くなって早退するという時点で問題大有りだろ。

木場同級生が気の毒にしか聞こえんし、彼だって男なんだぞ……そりゃあ目の前で男一人を女の子が囲ってるのを嫌でも見せられたら気分が良いわけが無い……彼ってイケメンだけどさ」

 

 

 私達が去った後の部室で何があるのかは見てないので大きな声では言えないが、何をしてるのかなんて容易に想像できる。

 ハッキリ言ってアレはおかしい。

 部長と副部長とアーシアさんはまだ無理矢理解釈すれば納得できるけど、シトリー先輩に関しては一体何時からそうなったのか全然知らないし、それこそ彼女が兵藤先輩に見せる――何と言うか『女』って表情には大層驚いた。

 

 だからこそ、どうとも彼に思わない私や男の人である祐斗先輩からしたら怖いとすら感じる。

 あんな多くの女性が皆して異常なまでに彼に執着するのだから――――いや、私やこの雌鳥も人に言えた義理じゃないけど。

 

 

「私なら大丈夫ですよ」

 

「うむ……そうみたいだが、木場同級生は――」

 

「祐斗先輩も大丈夫ですよ……多分」

 

 

 

 兵藤先輩と一誠先輩は苗字と微妙な違いがある意外はソックリとしか言えない容姿の通り兄弟らしい。

 けれど、兵藤先輩からは両親の話はあれど、一誠先輩の話は一切聞かない。

 何というか、一誠先輩とは他人だと言わんばかりな――『居ないもの扱い』してる様に見えてしまう。

 一体何があったのか私には分からないし知らされてもない……どうもこの雌鳥はある程度事情を知ってるようだが。

 

 

「話を元に戻しますとです一誠先輩。

私が誰なのか一誠先輩も思い出してくれたようなので、その記念に私と今からデートしましょう?」

 

 

 本音を言ってしまうと、兵藤先輩が部長達とイチャコラしてようが関係ないと思っており、今私にとって重要なのは、私にとってヒーローである先輩と雌鳥を差し置いてイチャイチャする事だ。

 雌鳥が如何に一誠先輩と近かろうが知ったことではない。

 

 

「で、でーと? い、いや、塔城一年よそれは大変光栄だが――」

 

「ふざけるなこの雌猫が!! アナタごとぎが一誠様にすり寄るだけで万死に値する!!!」

 

 

 私はそれよりも折角私が何者なのか思い出してくれた先輩とラブラブになりたいのだ。

 けれど、私の申し出に目を丸くする一誠先輩は良いとして、案の定の雌鳥が邪魔してくる。

 あぁ……昔馴染みだか知らないが本当に気に食わない。

 

 

「アナタに言ってないし、アナタの許可なんて必要とは思ってない」

 

「な! め、雌猫の分際で……! ええぃ、然り気無く一誠様の腕にしがみつくなこの卑しい発情雌猫!!」

 

 

 ちょっとイラッとしてしまって私の言葉に、まるで投げたら返ってくるブーメランみたいな言葉をキーキーと煩く喚く雌鳥。

 

 

「それはアナタでしょう?

嫌だ嫌だ……自分がそうだからってその考えを他人に押し付けるなんて……」

 

「ちょっと……頼むから喧嘩せんでくれ。

俺のせいなのが何と無くわかるせいで強く言えんのだから……」

 

 

 そもそもこの雌鳥と一誠先輩は将来を約束した仲では幸いまだ無いのだ、何の遠慮がいるか。

 助けてくれたあの時――いや更に前からだと否が応にも分かる。この極限までに鍛え、絞り込まれた逞しい腕にこうするだけで気持ちが良いしぽかぽかする……。

 この気持ちをこんな雌鳥だけにさせるなんて嫌だし気に食わない。

 

 

「それと一誠先輩。二人だけの時は本名で呼んでください……じゃないと悲しくて泣きます」

 

 

 だから私は雌鳥に負けてやるつもりなんて無い。

 出来る限りのアピールだってするし、名前で……一誠先輩だけには本当の名前で呼んで欲しい。

 

 

「え゛? な、なんで?

……。いや、わかったよ白音――で、良いの?」

 

「ちょ、一誠様!?」

 

「い、いやだってさ……」

 

 

 ふっ、雌鳥さんったらショックを受けてるようで気分が良いです。

 

 

「あは、嬉しいです一誠先輩……大好き♪」

 

「んが!? い、いい加減にしなさいこの淫乱雌猫がぁぁっ!!!」

 

「あぁん、淫乱雌鳥が怖いです先輩……!」

 

 

 全然怖くないし露骨だけど、一誠先輩の腕にしがみつきながら小バカにした笑みを雌鳥さんに向ける。

 そもそも、このフェニックスさんとは似た者同士な気がしてならないし……そこが余計に気に食わないのだ。

 向こうだって邪険にしてくるんだし、私は悪くない。

 

 

 

 

 

「……。助けてよライザー……」

 

 

 二人の美少女にモテモテの生徒会長……友であり兄貴分に助けを求めるも、当然聞こえるわけがない。

 嬉しくないと言えば大嘘なのだが、妙な罪悪感沸いて出て来てならないのだ。

 

 

「そういえば、お前の姉はどうしたんだ? 姿も気配も今まで感じなかったが……」

 

「あぁ、姉様ならあっちこっちフラフラしてますよ。

昔先輩の不思議な力で『転生悪魔だった事も、はぐれ悪魔としてお尋ね者になっていた事も』綺麗さっぱり消えて自由になった途端でした」

 

「……。じゃあお前は何で転生悪魔に……」

 

「偶然です。

特にやることも無く、先輩の行方も当時分からなかったので、何か大きな権力に寄生すれば情報を得られるかなと……」

 

「ふーん……どうコメントして良いか分からないというか、すまぬというか……」

 

「何故謝るんですか? こうして会えたし無駄では無かったと私は心の底から思ってますよ? それに、悪いと思うのでしたら是非ともお詫びの激しいちゅーを――」

 

「ふざけるなこの淫乱雌猫!! そんなお子様みたいな貧相なお身体で一誠様に色目を使うな!!」

 

「……………………あ?」

 

 

 邪険にする理由が一誠には無いので、何とか何とかでレイヴェルを説得することに成功し、こうして左右の腕に思いきりしがみつかれながら家へと向かう最中も二人の露骨過ぎる険悪なやり取りは続く。

 

 一誠本人はこんな美少女二人に好かれてるとか、人生で初めてだ……と内心男の子らしくちょっと嬉しがってたりするが、それでも二人が喧嘩をしてるのは何か見てて嫌なので必死に止めようと奮闘する。

 

 それが余計に『一誠くんモテモテよー』な絵面になる訳で、途中途中で色々な生徒から様々な念を込めた視線を一身に受けたりもしたが、結局のところたった一人でありながらこれまで以上に生徒会を運営している生徒会長に文句を言える訳もなく、実に平和に学園を後にしながら、何とか喧嘩を収めて話を弾ませてるのだった。

 主に塔城小猫――もとい白音のその後やら姉の事についてやら……

 

 

「それよりも、グレモリー3年が婚約する話って聞いてるか?」

 

「え……? あぁ……何かチラッと。

尤も、兵藤先輩と何かして婚約話を消そうとするつもりらしいのであんまりよく知りません」

 

「あぁ……そう……。(ライザー大丈夫かな……)」

 

 

 兄貴分に降り注いだ訳のわからない縁談について本当なのかとか。

 割りとレイヴェルの兄でありフェニックス家三男のライザーとも仲が良かった一誠としては、またあの見た目とキャラで損をしてるのではないかと地味に心配だった。

 

 しかし、ライザーの心配をする一誠も一誠で色々と現在進行形で大変なのは云うまでもない。

 主に自分の腕にくっついてる左右の後輩美少女二人の小競り合いとかそんな面で。

 

 

「一誠先輩のご自宅ってどんな所ですか? よければ今から行っても――」

 

「先程からふざけないでくれますか? 一誠様の家は私の家でもあるんです。

それはつまり、私と一誠様の愛の巣であって――」

 

「残念な頭してる鳥頭に聞いてないんですよ私は。一誠先輩……だめですか?」

 

「え、えと……あー……」

 

「一誠様……! こんな何処の馬の骨とも分からない雌猫にまで優しくする理由なんてありませんからね? それに、今晩は子作りの約束があるじゃありませんか……!」

 

「してないしてない! してないぞ俺は!」

 

 

 慕ってくれるからこそ無下に出来ない、年下コンビにタジタジな生徒会長イッセーの――

 

 

「レ、レイヴェルはもう知ってるが、塔城――あ、ごめん白音がそんな俺にというのがよくわからない。

正直俺も兄貴の様な変な才能があるのでないかと心配になってきたぞ……」

 

「過去に一誠様に救われただけでだなんて、とんだ尻軽雌猫ですわ! ………………。正直よーくわかるけど」

 

「私のこの気持ちをバカにするつもりですか先輩? 泣きますよ?」

 

「あ、す、すまん……泣くのはやめて」

 

 

 

 一旦閉幕。

 

 

 

 

 冥界。

 そこは悪魔と呼ばれる種族が集い、住み着く世界。

 四人の魔王を頂点に上級、中級、下級という身分の住み分けがあるのだが、その中でも元・ソロモン72柱の名を冠するフェニックス家は上級悪魔の中でも一際大きな名家の一つであった。

 

 

「正直に済まないと私は思っている」

 

「そう思うのなら、今すぐグレモリー家の皆様とサーゼクス様に土下座して撤回して頂きなさい」

 

「…………。えーそれは嫌だ……めんどくさ――」

 

 

 バシン!!

 

 

「あぁん!!」

 

 

 しかしその名家と言われるフェニックス家城内では、只今物凄い異様な雰囲気と見ればドン引き間違いなしな光景が映し出されていた。

 

 

「めんどくいですって? 無様にお酒に飲まれたせいで息子がしなくて良い苦労を背負う羽目になったのに、めんどくさいですか?」

 

 

 フェニックス城・当主の寝室。

 寝室なので当然そこにはフェニックス卿と呼ばれる当主――シュラウド・フェニックスのお部屋で間違いないのだが、只今フェニックス卿はその場所にて悲痛な叫びを挙げていた。

 いや、悲痛でもない……どちかと言えば快楽に身を委ねるような、ダンディーな見た目を裏切る気色悪い声を、バシンバシンと乾いた音を部屋内に響かせる度に出していた。

 

 

「アナタが酔った状態で話さなければ、元々出来上がる事すら無かったのよ? わかってますか?」

 

 

 バシン! バシン!!

 

 

「ひぇ!? くぇ!?!?」

 

 

 ……。部屋内を支配する鋭く空気を破裂させるような音の正体。

 それはフェニックス卿が四つん這いで床に伏せ、その背中を高いヒールで踏みつけながら鞭でしばき倒す妙齢な金髪美女のせいであった。

 シュラウド・フェニックスの妻――エシル・フェニックスは淑女として夫を立てる良妻としてもっぱら冥界内で噂されてるのだが、実際は殆ど合ってるけど一部だけ違う。

 

 そう……怒ると怖いのだ。

 

 

「自分で蒔いておきながら、グレモリー卿ってめんどくさいから嫌ですって? ふざけるのもっ! 大概にっ!! しなさいっ!!」

 

「あ! ひぎぃ!? エ、エシルゥ! も、もっと強くお願いします!!」

 

 

 どうも先日の会合パーティにて記憶すら消えるほどにベロンベロンに酔っぱらってしまったシュラウドの余計な行動のせいで、こんな絵面がかれこれ実の息子とほぼ変わらない愛情を注ぎ、将来は娘に嫁がせるつもりである人間の少年のもとへレイヴェルを送り出してからずっと展開されているようで……。

 

 

「まあ、良いお歳になっても変わらない変態さんね! ほら、これが良いのでしょう!? この変態! 変態!!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

 実は不死であり生粋のマゾであるフェニックス卿とスイッチが入ると偉くサドっ気がヤバイフェニックス夫人によるやり取りは……既にグレモリー家と交わしてしまった婚約話が何処かに行ってしまった様だった。

 

 ハァハァとダンディーさの微塵もなしに気色悪く鞭にしばかれて喜ぶフェニックス家当主と、そんな夫の昔から変わらない気質にスイッチが完全に入ったのか、頬を染め、感無量とばかりに瞳を潤ませながらその背を踏みつけ、鞭でシバくフェニックス夫人。

 

 その二人の声は城内に響き渡り、殆ど巻き込まれてしまった形でその気の無い婚約話を持ってこられたフェニックス家三男の青年は居たたまれない気持ちで両親の――特に父親の気色悪いあえぎ声に辟易しながら自室で傾向と対策を考えるのであった。

 

 

「ま、また親父とお袋がおっぱじめやがった。

もう良い歳なんだからやめてくれないかな……。

兄貴達はそそくさとどっか行っちゃったし、レイヴェルとイッセーは人間界で楽しくやってるだろうし……何で俺だけピンポイントで婚約話が舞い込んでくるんだ……あぁ……」

 

「ライザー様……その……」

 

「あーもうめんどくせー! 俺もイッセーの所いって気ままにやりたーい!!」

 

「わかります。わかりますけどライザー様……レイヴェル様のお邪魔をされては元も子も……」

 

「わかってるよ……。今はお前ら眷属が俺の支えだよ……マジでどっかいかないでね? そんなことされたら寂しくて死んじゃうよ……」

 

「行きませんよ……。(あぁ、弱ったライザー様が可愛い……)」

 

 

 ライザー・フェニックス、現在中々の不幸の真っ最中だった。

 

 

 元・ソロモン72柱フェニックス一家。

 

 備考……名家であり、上級悪魔であり――悪魔という種族で唯一の悪平等(ノットイコール)




補足
 不死とマゾが合わさって無敵に見える。
 フェニックス卿もまた人外(色んな意味で)


その2
小猫たんもレイヴェルたんもかわゆいよね?(目逸らし)

生徒会長一誠とこの一誠の違いは、『年頃の男の子らしさがちゃんとある』ということなんです。

 つまり、左右からふにふにだのぷにぷにだのされてたら……その内パンクして暴走して『服を脱げぃ!!』とどっかの大統領みたいに言い始める――――かはヒロインちゃんの頑張りによります。


その3
全シリーズでもっとも転生者らしく、もっとも簡単に才能が開化しやすくされてるチートを持つ兄貴。

一誠のヒロインはこれ以上加えるつもりはあんまり無いですが……代わりに兄貴のニコポやらナデポの餌食の数は増えるかもしれませんというか増えます。


噂の兄貴こと兵藤誠八

 記憶保持……不明
 所謂特典……ニコポ・ナデポ・極小のフラグでも簡単に拾う(都合の悪いフラグは自動除外)
      兵藤一誠の本来のポジションと才能・神器+神童クラスの才能開化。
      その他特典持ち

とまあ、何気にヤバかったり。






 まあ、そこまで世界観が改変したせいで相対するバグキャラが居るわけですが。
 例えば平等な人外とか、その人外により赤龍帝の代わりに発現させた正負のスキルを持つ主人公(イッセー)とか、悪平等(じんがい)化してる火の鳥家とか。


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苦労人なライザーくんと祐斗きゅん

タイトルに深い意味はございません。

祐斗きゅんってのも別に趣味とかじゃなく、単にふざけてるだけですので(笑)


 ライザー・フェニックス。

 元・ソロモン72柱であるフェニックス家の三男。

 レイヴェルの兄であり、ついでに一誠の兄(彼の中では決定事項)だ。

 両親から受け継いだ明るい金髪とハンサム顔。

 服装はノーネクタイのスーツを着崩すスタイルを好む。

 

 ぶっちゃけると都心の繁華街にでも居そうなホストを連想させる女ったらし丸出しな見た目であり、その見た目通りに自身の持つ眷属も全て女性のみで構成されてるので、あまり良い印象を持たれてないのが現状だった。

 

 

「それは嘘でしょうライザー=フェニックスさん。

アナタはそうやって油断させて部長をモノにしたいと俺は思うとですが?

言っときますが、女性を道具としてしか見てないアナタに部長は渡しませんよ」

 

「セーヤ……」

 

「……………………」

 

 

 故にライザーくんは今日も苦労するのだ。

 主に話を全然聞かずにいる弟と似てなくもないと思う子共やら、その横で露骨にくっつきながらあからさまに嫌ってますな目で睨んでくる女の子達やらを相手に……。

 

 

「なので早く消えてください」

 

「えっと、言われなくてもそのつもりなんだけど……」

 

 

 人間界・駒王学園オカルト研究部の部室。

 そこにライザー・フェニックスは先日ベロンベロンに酔った父親の尻拭いをする為に、わざわざ冥界からお土産の『冥界印のレヴィアたん煎餅』なるよく分からない菓子折片手に、全力の謝罪をしにグレモリー家のメイド長であり魔王・ルシファーの妻である女性悪魔とやって来た。

 本来なら『フェニックス家の当主の酒の弱さが招いた騒動でして、私ごときがグレモリー家と縁を結ぶなどおそれ多い。なのでこの婚約騒動は最初から誤解なのです』……と菓子折を献上するのと共に丸く収まる筈だった。

 

 しかし何故か話は全く進まず、婚約騒動に巻き込まれたグレモリー家の次期当主であらせられるリアスが……では無くどういう訳かその眷属である少年が、出しゃばるように話を遮るのだ。

 

 これにはライザーも同行した銀髪の女性悪魔も開いた口が塞がらなかった。

 

 

「兵藤様、お下がりください。

よろしいですか? ライザー様は今回の婚約話は全て誤解なので無かったことにしろと仰っているのです」

 

「そ、そうそう! グレモリー嬢には本当に申し訳ないことをしたよ。

うちの父がグレモリー卿に余計なことを言ったせいで……本当にすいませんでした」

 

 

 意味が分からない。

 義理の弟の偽物としか思えない程にそっくり姿の少年に、何もしてないのに変な疑われ方はされるは、その少年に狂ってるせいでまともな判断が付かないのか少年の言葉に一々同意するグレモリー家の次期当主。

 正直義理の弟である一誠に似てる顔なのに何でこうも違うのか……ライザーはうんざりだった。

 

 

「どうかしら? アナタの噂は良くないし、セーヤの言う通り油断させるって腹積もりかもしれないわ」

 

「な、何だよそれ……じゃなくて、そんな事無いですってば。

確かに見た目はこんなだけど、魔王様に誓ってそれは無いよ……勘弁してくださいよ」

 

 

 妹のレイヴェル、そして一誠から聞かされていた話にあった通りだ……ライザーはいっそマジギレして皆殺しにしてしまいそうな気分を抑えながら下手になり続ける。

 

 兵藤誠八。

 ある日突然現れ、一誠の居た居場所の全てを奪い取った謎の人物と一誠と安心院なじみに聞いては居たが……なるほど、並みの悪魔を短期間で虜にする変な能力も本当だったようだ……そう『薄ら笑い』を浮かべながらライザーを見る誠八とその隣で密着しながら睨んでくるリアスとを内心見定めようと勤めるが、どうしてもどうでも良すぎる相手にだと集中ができない。

 

 

(ったく、親父め……よりにもよって面倒な輩と変な話を作りやがって)

 

 

 銀髪のメイド悪魔であるグレイフィアの仲介で何とか話を纏めてる最中、ライザーはひたすらに冥界で母親とSMプレイをしてるだろう父親に毒づく。

 ライザーとしてはこんなくだらない話はさっさと終わらせ、同じくこの学園に居る我が妹と将来の義理の弟である一誠と会ってのほほんとしたやり取りがしたいのに、それをこの兵藤誠八という『赤龍帝というだけのただのカス』が可笑しな言動を繰り返して話の腰を折る。

 

 

「ひょ、兵藤君……僕達みたいな下僕悪魔が上級悪魔にそんな口の聞き方は――」

 

「なんだよ木場。お前は部長がこの人と結婚するのに賛成なのか?」

 

「いや……そ、それは……」

 

 

 一介の転生悪魔がこうも出しゃばるようなら、処罰でもしてやっても良いが、悔しいが彼は魔王の妹の兵士だ。

 そうでなくてもさっさと終わらせたいと思ってるので、ただただ耐えて下手に出るしか道は無いのだ。

 

 そんなのよりも、ライザーとしてはあの面子の中で正気というかマトモな思考を持ってる金髪の少年から滲み出る『疲れた表情』に同情の念を覚えるのだ。

 

 

「た、確かにこれは僕達の(キング)の話だけど、だからといって話の腰を折って良いことは――」

 

「祐斗先輩に同意します。

ライザー・フェニックス様のお話を此方がまるで聞いてないようにしか私には思えませんので」

 

「……。ほう?」

 

 

 さぞ兵士の少年を巡って争ってる王や女王や僧侶や戦車に苦労してるのだろうなぁ……と思っていたライザーだったが、それまで金髪の少年と一緒に隅で黙りを決め込んでいた白髪の少女が同意するように誠八とリアス達に進言する姿を見て、思わず声を漏らす。

 

 

(驚いた、あの少女もとっくに彼に狂ってるのかと思っていたが……ふむ、例の洗脳は完璧じゃないのか? だとしたら彼女に掛からないのは何故なのか……)

 

「なに二人とも? 私の味方じゃないの?」

 

「そ、そんな事は言ってません! 僕は誓って貴方の騎士です!」

 

「同じくです。

それに、ライザー=フェニックス様は私達になにもしてません。

それなのに、何故そこまで敵意を持たなければならないのか私には分かりかねます」

 

 

 気づけばライザーをほったらかしに眷属同士で険悪な空気を出して言い合いをしており、見かねたグレイフィアは少々の殺気を出しながら全員を即座に黙らせる。

 

 

「そこまでです。身内同士で争う様でしたら私にも考えがあります。

それと兵藤様、木場様の言う通り、これ以上出すぎた真似をして話の腰を折るのは……」

 

「え、俺は単に彼のような女ったらしに部長は相応しくないと思ってるからこそなんですが?」

 

「っ………」

 

 

 ある程度穴があるようだと、白髪の少女と金髪の少年を観察しながら分析を進めるライザーだが、それでも警戒するに値すべき、恐ろしい能力であるのは間違いなく、その恐ろしさは直ぐに見せ付けられた。

 

 ただ笑顔を浮かべるだけ……そう、浮かべるだけで異性を虜にする理不尽なソレは正直何の原動力で働いてるのか気になる所だが、まさかそれが中立であり、最強の女王であるグレイフィアに作用したのだから驚くなという方が無理もない。

 

 咎めようとするグレイフィアに対して誠八が笑顔を浮かべると、それまで抑揚の無い表情だった彼女の顔にサッと赤みが掛かり、言葉に詰まり始めていたのだ。

 よく見ればリアスも女王である姫島朱乃や僧侶であるアーシア・アルジェントも彼の胡散臭い笑顔に『ほぅ……』と頬を染めている。

 

 

「ぅ……で、ですから……」

 

「え、なんですか?」

 

「……!(おいおいおいおい!? 紛いなりにもあのうざったい魔王の妻やらされてる人にもかよ……チッ!)」

 

 

 これじゃあ女ったらしはどっちだっつーの! と内心毒づきながらライザーは向こう側に引き込まれそうなグレイフィアの背中を軽く叩く。

 

 

「……ハッ!?」

 

 

 それが効果的なのかどうかはライザーには分からなかったが、少なくともハッとした表情をグレイフィアが浮かべた辺り、何とかあの洗脳じみたナニかの餌食にさせずに済ませられたとホッと小さく息を吐く。

 

 

(い、今のは一体……? 兵藤誠八の顔を見た途端頭がボーッと……ライザー様が私の背中を叩いたお陰で何とかなりましたが……)

 

 

 決して油断したつもりは無かったのに、誠八の笑顔を見た瞬間頭の中で靄が掛かったような感覚に内心動揺をするグレイフィアは、笑顔を引っ込めていた誠八の目を見ないようにと警戒しながら咳払いをひとつ。

 

 

「こほん……。

とにかくライザー様に結婚の意思はございません事をご理解してください」

 

「うんうん」

 

 

 正気に戻ったグレイフィアが背中を軽く叩いてくれたライザーに目配せしながら、本来すべき話を少々強引に進めていく。

 そもそも何故こうも話が通じず、何もしてない筈のライザーが目の敵にされてるのか……そして明らかにおかしく――異常なまでに誠八に情念を向けているリアス達はどうしてしまったのか。

 

 レーティングゲームで決着ということも特に無かったが、代わりに兵藤誠八という存在に第三者として大きな疑問を持ち始めるグレイフィアなのだった。

 

 

(レイヴェルと一誠から聞いた通りだな……。悪魔をああも狂わせるとは……兵藤誠八……か。

安心院さんの言ってた通りだな)

 

「……なにか?」

 

「いや……まあ、グレモリー嬢にも想い人がいる様だし、そもそも此方の落ち度でこんな話になったという事だけは分かって欲しいなと思うというかね……」

 

「…………」

 

 

 最初(ハナ)っからリアス=グレモリーに興味なんて無く、一誠も完全に立ち直れているので誠八という存在についても割りとノーマークだった。

 しかし、悪魔をも虜にする謎のソレを目の当たりにしてしまった今、放っておくだけという訳にもいかないと、ライザーはしなくても良い胡麻すりまでしながら認識を改めつつ、話の終わりを向かえたタイミングでサッと立ち上がと、警戒心バリバリなリアス達にぺこぺこと頭を下げながら退室しようと部室の出口へと向かう。

 

 

「それじゃあ俺はこれで……」

 

「転移魔法で帰らないのかしら?」

 

「いや、妹に顔を見せてから帰ろうとね……。魔王様に誓って変な真似はしないさ」

 

 

 部室に来たときは魔方陣で現れたのに、何故か扉から出ていこうとするライザーに引き続き――何もしてない筈なのに何故か嫌悪感丸出しな視線を全身に受け、『何でこんなに嫌われてるんだろうか俺は……』と内心苦笑いになって理由を話し、ついでに仲介役をしてくれたグレイフィアにもぺこぺこと頭を下げてお礼をする。

 

 

「本日はありがとうございましたグレイフィア様。

帰りは自分で帰るので、今日あったお話を『一刻も早く』魔王様のお耳に入れていただけると……」

 

「……。はい、すぐにでも」

 

 

 勿論、誠八に流されそうになった事を考慮して『一刻も早く』をちょっとだけ強調させる。

 それはグレイフィアも察したようで、リアス達にチラリと目配せしながら丁寧にお辞儀をして了承する。

 これで自分が去ったあとに少しでも残ったせいで誠八に再び――という心配は無くなった。

 別に自分と同じ悪平等(ぶんしん)なんかでは無いが、それでも最強の女王と唱われた彼女が、赤龍帝と謎の洗脳じみた能力を持つだけの単なるカスにリアス達のように狂うのは見たくは無かった。

 

 一応、悪魔としては憧れの女性でもあるのだから……。

 

 

「では俺は……」

 

「私も魔王様に報告をするためにおいとまさせて頂きますわリアス様……」

 

「ええ……」

 

「……………………………………」

 

 

 その際、一瞬だけ誠八が憤怒の形相と殺気を見せたものの、最早用も見込みも無いと軽くスルーして気付かないフリをしたライザーは、ホッとした気分で妹と義理の弟のもとへとスタコラさっさと退散するのであった。

 

 

 

 

 

「てな事があってよー! まったく、恐ろしく話を聞いてくれなくて困ったもんだぜ」

 

「そうか……何かすまん」

 

「聞いてた通りですわね、兵藤誠八は」

 

「でしょ?」

 

 

 無事に婚約話を破断させる事に成功したライザーは、文字通り軽くなった気分で意気揚々と妹と義理の弟……そして部室に居た筈のリアス眷属の戦車である少女とを交えた反省会を生徒会室にて行っていた。

 種は勿論、只の微笑で最強の女性悪魔も虜にし掛けた兵藤誠八の気味の悪さすら感じる例の力だ。

 

 

「あれは一種の催眠術だと思うんだがな俺は」

 

「だとしたら凄いぞ兄貴は。それを誰にも悟られず多くの者を虜にしてきたのだろう? 何の目的かは知らないが」

 

「というよりまさかグレイフィア様までもが掛かりそうになるとは、聞くだけで信じられませんわね……」

 

「いえ、ライザーさんが止めたので未遂に終わりましたが、部室で見たあの表情は確実に掛かってました」

 

「あぁ、流石に『紛いなりにも魔王の奥さんだし』と思って咄嗟に動いたがな」

 

 

 ライザーが来た後直ぐに現れ、ナチュラルに混ざる小猫に何も突っ込まず頷くライザーに、あの場に居なかった一誠とレイヴェルは難しそうに顔を顰めている。

 

 

「グレモリー嬢や雷の巫女やあのシスターはどっぷり浸かってたご様子だったな……」

 

「でしょうね、小猫さんの話振りや学園でのやり取りを見てると相当入れ込んでるというか……聞けばシトリー様も彼の餌食に…」

 

「うっそ、レヴィアタン様の妹までか!?

おいおい大丈夫かあの兵士クン? レヴィアタン様ってやばいシスコンなんだけど……」

 

 

 レイヴェルの話に大袈裟に驚いて見せるライザー

 この学園にもう1つ存在する上級悪魔シトリーまでもが彼の理解できない謎の魅力とやらにのめり込んでるとは予想外だったらしいが、レイヴェルに補足する様に一誠が物凄く言いづらそうに口を開く。

 

 

「いや、俺も見たぞ……その……オカルト研究部に部員調査の書類を渡しに行こうとしたら――」

 

 

 そこまで言って目を泳がせる一誠にライザーは怪訝そうに眉を潜める。

 

 

「したら?」

 

「あ……うむ……」

 

「? なんだよ、まさか乱○パーチーでもしてたとか? あっははは、まっさかぁ!?」

 

「「「……」」」

 

「あはははははー……………え、マジで?」

 

 

 ほんの冗談のつもりで言ったつもりが、無言で目を泳がせるレイヴェル、一誠、そして小猫にライザーは察してしまった。

 

 

「白音――あぁ、この子の事なんだが、この子と木場という騎士の位を持つ彼が『居辛い』と言った理由が分かったよ。

アレは確かに居辛いし、俺は混じるような声を聞いて居たたまれずに書類をその場に置いて逃げてしまった……。

どうにもあの扉の向こうに行く勇気が無くてな。ふふ、注意もできぬとは生徒会長失格だ……」

 

「いや、寧ろその方が良いわ。

自分と同じ顔した奴が好きでもなんでもない女とイチャコラしてる光景を見たら俺なら泣くね」

 

 

 塞ぎ込む一誠の肩に優しく手を置きながら元気付けるライザーは、ちょっとだけ誠八を殴りたくなった。

 いや、別に複数の女とヤッてようがどうでも良いが、義理の弟にトラウマじみた物を植え付けかけたのに腹が立つのだ。

 

 

「一発殴っとけば良かったかな……。あれこそ女ったらしだろ?」

 

「すいません……うちの眷属仲間が……」

 

「いや、キミは関係ないさ。

どうもキミと木場君って金髪の少年は彼の洗脳に掛かってないみたいだし」

 

「ええ、まあ……好きな人は彼じゃないのと、恐らく木場先輩は男の人かつ誠八先輩から好かれてないのでしょう」

 

 

 一誠が用意したお茶を飲みつつ、反省会は更に続いていき、同性故に祐斗に対して先程のやり取りを思い出して更に同情をする。

 

 

「なんだ……彼も連れて来て話を聞けば良かったかも」

 

「あぁ……俺も今度木場同級生にお茶でもご馳走してみたい」

 

「多分泣くんじゃないですか? 私には大丈夫と言ってますが、かなり疲れてると思いますし……」

 

「そういえば前に彼がトボトボと寂しそうに一人で歩いてる姿を見掛けましたわね……」

 

「………。やっぱ殴っとけばよかったかも」

 

 

 今になって下手に出ていた事を後悔し始めるライザーは、複数の女性に言い寄られてる男の横で侘しく居るだろう祐斗と話がしたいとすら思い出す最中、ふと今彼女が口にした『好きな人は彼じゃないので』という言葉に引っ掛かった……いや鋭い勘が働いた。

 

 

「今思ったのだが、兵藤誠八の洗脳に引っ掛からない方法もあるんじゃねーか? ええっと、塔城さんみたいに既に想い人が居れば良いとか、兵藤誠八自身が興味のない相手とか――ふむ、とすると塔城さんの想い人って…………」

 

 

 単純過ぎて逆に今まで思い浮かばなかった洗脳の抜け穴に気付くと共に、塔城小猫が何で誠八の洗脳に引っ掛からないのかも察してしまったライザーは、チラチラとまだ塞ぎ込んでる一誠を見てる小猫を見て気付いてしまう。

 

 

「あ、そゆことね……へぇ?」

 

「……。なんですか?」

 

「いや、別に? クックックッ、おーいレイヴェル。ライバルが出現しちゃったなおい?」

 

「ぐっ、こんな泥棒猫には負けませんわ!」

 

 

 間違いなくこの白髪の猫娘は一誠にホの字だな。

 そう、妹のライバル出現にニヤニヤしながら『冥界の両親や兄貴達に言ってやろ~』と寧ろ楽しんでいた。

 

 

「よかったな一誠。うちの可愛い妹と同じくらい可愛い子じゃないか?」

 

「お兄様!?」

 

「怒るなってレイヴェル。寧ろ張り合いのある相手がいると女に磨きが掛かるから良いじゃないか」

 

「ぐぬぬ……! そんな軽く言わないでください!」

 

 

 他人事だと思って楽しむ兄に憤慨するレイヴェル。

 確かに上級悪魔すら虜にする誠八の謎洗脳能力に一切効かない素振りを見せたのは大したものだが、だからと云って一誠を渡す気は毛頭レイヴェルには無かった。

 

 

「なぁ、塔城さん、こんな義弟と妹だが仲良くしてやってくれたらと思うんだが」

 

「……。言われなくてもそのつもりです。あと一誠先輩を渡すつもりもありませんので」

 

「ククッ、そうかい? だがレイヴェルも一筋縄ではいかないぜ?」

 

「わかってます」

 

 

 話を聞いてくれないと思っていたグレモリー眷属の中にもまともなのが居てくれたと、ちょっぴり安心したライザーはまだ塞ぎ込んでる一誠と、それを挟んで火花を散らず妹とその友達である小猫を楽しそうに――それでいて眩しそうに眺めながらちょっと冷めてしまったお茶を飲む。

 

 

(似てるなこの二人……。

一誠に惹かれてる所もそうだが……ふふ、そんな二人と一誠の為にも俺は頑張れる気がしてならねぇぜ)

 

 

 ライザー・フェニックス……元・ソロモン72柱であるフェニックス家三男坊。

 見た目と行動で誤解されがちな所があり、割りと実力も嘗められている。

 しかしその実態は――

 

 

「よーし一誠! 久々に会えたし、どれだけ成長したか俺に見せてくれよ?」

 

「む!? い、良いのか? ふ、ふふふ……勿論やるぞ!」

 

 

 人外に悪平等(ぶんしん)と認められた王だった。

 

 

 

 ライザー・フェニックス

 所属:元・ソロモン72柱フェニックス家

 種族:悪魔

 

 

 

 備考:天地に属する虹の炎を操りし人外……超越者。




補足

ライザーさんも強いです。
普通に強いです……けど何か苦労してます。

ちなみに、彼の眷属は今回来てません。
誠八の事があったので……まあ、ライザーさんの杞憂ですが。

ちなみに、誠八が話の腰を折りまくったのは……まあ……本来の道筋かと思ってたら、余りにも原作から剥離しまくりな婚約話の原因と、ライザーさんが物凄い見た目を抜かせば普通の青年だったから……です。

まあ、ライザーさんは悪平等故に彼等を平等に見下してますが。

その2

故に戦闘校舎のフェニックス……はこれで終わりです。
まあ、それを良しとしない悪平等シンパがチラホラ居ますが……些細な話です(笑)


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這い上がるのだ、男の子達!
閑話・休日の生徒会長と鳥さんと猫さん


暫く日常をやってやって……聖剣かな。


 人間かつ部外者なので詳しくはわからないが、どうやらライザーの身に降り掛かったトラブルは解決したらしい。

 らしいのだが、果たして本当に解決したのだろうかと変に勘繰ってしまう。

 明確な言葉には出来ないが、何と無くという予感めいたものが……。

 

 

「遊びに来ました」

 

 

 そんな予感を残しつつ、取り敢えずこんがらがったライザーの婚約騒動が収束し、時はとある休日。

 学校の無い時の俺は実に年相応の過ごし方をしてる……と自分で思ってるつもりだが、如何せん友達があんまり居ないせいで何処かに出掛けるなんてことは少ない。

 故に休日は自動的に宿題するか鍛練するか……なのだが。

 

 

「帰れ雌猫」

 

 

 最近は家にレイヴェルが住むようになったので、寂しい独りぼっちの休日じゃなくなった。

 +これまた最近親交が深くなった塔城一年――じゃなくて小猫――でもなく白音が休日になると決まって我が自宅に遊びに来てくれるのでますます孤独な心は癒えていた。

 まあ、毎回白音が遊びに来るとレイヴェルと衝突しちゃうんだが――まあ、喧嘩するほど仲が宜しいという事で強くは止めないつもりだ。

 結局こんな言い合いをしててもなんだかんだで家に上げるしなレイヴェルも。

 

 

「ありがとうございます。お邪魔します」

 

「チッ……」

 

 

 ほらな。

 露骨に舌打ちしてるけど、なんやかんやで入れてる。

 しかしまあ、こんな狭くて安くてなアパートに女の子が来るだなんて……はは、俺も意外と捨てたものじゃないらしいぜ。

 

 

「ふむふむ」

 

「む、どうした? 本棚が気になるのか?」

 

 

 そんな白音は、せまっ苦しいアパートに住んでる俺を馬鹿にする事無く上がると、只でさえ狭い部屋の隅っこに置いてある近所のお婆さんから貰った本棚をしげしげと眺めてるので、何か気になるのか? とレイヴェルに淹れて貰ったお茶でほんわかしながら声を掛ける。

 すると白音は『いえ……』と前置きをしてから本棚の端から端までをジーッと見つめたまま口を開く。

 

 

「前に兵藤先輩の家に連れてかれた時、兵藤先輩の幼い頃のアルバムを見せて貰ったのですが……」

 

 

 そう何かを確かめたそうに本棚から俺に顔をむける白音。

 

 

「一誠先輩の幼い頃が写ってる写真が一枚たりとも無かったんですよ……」

 

「……………ふむ」

 

 

 金色に輝く白音の瞳から『なんで?』という純粋な疑問が言葉に出ずともハッキリ感じ取れる。

 つまり白音は何故あの家に現存するアルバムに俺の姿が一切無いのかと聞きたいらしい……。

 

 

「兵藤先輩の写真はありました……けど、一誠先輩の写真は一枚も……」

 

「兄貴と俺はクローンじゃないかというくらい似てるんだぞ? だからお前らが見間違え――」

 

「馬鹿にしないでください。一誠先輩とあの人の違いなんていくらでもありますし、見分けられます。

それにご両親も『写ってるのは誠八だけ』とハッキリ言ってました」

 

「………………ほぅ?」

 

 

 誤魔化そうとする俺にむっとしながらピシャリと言う白音にちょっとだけ嬉しく思ったのは秘密だ。

 うむ……白音の言う通り、あの家のアルバムには俺の写真は一枚もない。

 だがその理由を言った所で信じてくれるとはちょいと思えない。

 

 

 

 

 『奴が現れた途端、本来『俺が』写ってた写真の全てが奴にすり替えられていた』のだからな。

 

 

 

「もしかして、家出をした時に一誠先輩が写ってる写真を持って行ったのかと思い、それを確かめたくてこうしてアルバムがないかと本棚を……」

 

 

 なるほどね……それが今日来た理由だったわけか。

 ふむ……俺のアルバムなんて見て面白いとは思えんが、残念な事にそういったものは――

 

 

「残念でしたね塔城さん。

一誠様のお写真は冥界にある実家の母様のお部屋ですわ。

故に人間界(コッチ)にはありません」

 

 

 此処には無い。

 そう説明しようとした俺よりも早く台所から淹れたての紅茶をお盆に乗せて現れたレイヴェルが嫌にドヤ顔で説明してくれた。

 

 

「……。そういうことさ、残念ながら今は見せられんよ」

 

「むむ……」

 

 

 レイヴェル含めたフェニックス家も、もう十年以上の付き合いだ。

 兵藤家に現れた兵藤誠八に一度心を折られ、逃げた矢先に師匠である『なじみ』と出会い、そのなじみの悪平等(ぶんしん)である彼等に世話になりすぎた結果、兵藤家を出た後の軌跡は全てエシルおば――――じゃなくて『エシルねーさん』の部屋の本棚にあるって訳よ。

 

 なじみに勝負を挑んでボロッカスにやられた直後の情けない姿とか。

 ライザーと冥界紐なしバンジーやった時の姿とか。

 どうしてもと言われて撮った、レイヴェルを姫様抱っこした姿とかとか……まあ、5歳のあれ以降は皆フェニックス家やらなじみとのやりとりの一部を納めたものばっかりなのだ。

 

 

「見たかったのに……残念です……」

 

「ふふん、幼い頃の一誠様のお姿はそれはそれは……うふふ」

 

「……。微妙に恥ずかしいからやめて」

 

 

 たかが写真だというのにかなり残念がってる白音と、それを見てまた煽るレイヴェルにちょっとだけ気恥ずかしさ的な何かを覚えてしまう。

 あんな半人前にすらなってない頃の姿を見ても白音も面白くないと思うし、期待しなくても良いと思うんだ。

 まあ、どうしても見たければ別にいいんだけどさ……。

 

 

「一誠先輩の写真が何処にあるのかは分かりましたが、それでも不可解なんですよね。何で兵藤先輩の家には一枚たりとも……それこそ見切れてる写真すら無いのが」

 

「あー……親不孝者の俺の写真なんか取っといても仕方無いんじゃないのか? ほら、俺って兵藤の苗字名乗ってるけど実質勘当だし」

 

「それでもですよ……。

前に私と祐斗先輩がご両親に『一誠先輩の写真は?』と聞いたら物凄い空気が悪くなったから察しは付きましたが、それでも不自然過ぎると言うか……」

 

「ふん、だから何だと言うのですか? 貴女が不可解に思おうとも『それが現実』なんですよ」

 

「そういうことだ……」

 

 

 まさかあの『兄貴』について『5歳の誕生日を迎えた当日の朝に突然沸いて出て来て、さも当然のように肉親と宣い、周りもそれが当たり前ですの様に奴を認識してました』とは言えんし、勘当されて追い出されたせいで写真が無い言った方がまだ尤もらしい。

 なじみ曰く……

 

 

『彼はね、俗に言うと別世界からの『転生者』って奴だ。

どうも『何処かの誰か』が人生終了だったはずの彼の望むがままに、普通以下の容姿を一誠そっくりに作り替え、キミが本来持つべきだった力やポジションに成り代わっらせたらしいんだぜ?』

 

 

 と、兄貴についての情報を、何処から仕入れたのか良くわからんがペラペラと得意気に話していた。

 なのであの兄貴が突然沸い現れたというのも、アルバムの写真がすり替えられていたのも俺の誇大妄想じゃなかった訳だ。

 

 

「まあ、口にしてはいけないのだろうが、正直俺はこれで良いと思ってるよ」

 

「はぁ……」

 

 

 転生者ってのはピンと来ないが、兄貴とは明確な他人と確信出来てる気持ちを持てるだけストレスも貯まらないし、何よりあの体験があったからなじみと出会え、レイヴェルやライザー……フェニックス家と出会え此処まで来れたのだ。

 寧ろ嫌味とかじゃなく兄貴には礼が言いたい気分だよ…………まあ、あの催眠術じみた何かについては何とかならんのかとは思うが。

 

 

「色々と複雑なのは分かりました、なのでこれ以上は聞きません……。

私としても一誠先輩は一誠先輩ですし」

 

「ふっ、そういう言葉が一番救われるよ……ありがとな」

 

 

 これまた頂き物のガラステーブルを囲いながら、レイヴェルの淹れたお茶と手作りの菓子にパクつきながら雑談は進み、白音から一番言われて嬉しい言葉を貰った。

 お前はお前……何をしても完全な兄貴のお荷物として認識されてしまった俺にとっては一誠という一個人として見てくれる人は俗物な考えだが好きだ。

 

 そんな人達が居たから、諦めずに此処まで来れたから……。

 まあ、ただ――

 

 

「お礼ならキスをして欲しいですね。

それも激しく私を逃がさないとばかりなべろちゅーを……」

 

 

 異様に積極的というか、相手を間違えてないか? というか……そんなシレッと口にする言葉じゃないというか、それ言うとレイヴェルがというか――

 

 

「泥棒猫みたいな台詞しか言えないかしらね。

まったく卑しい雌猫が……」

 

「おやおや? 一緒に住んでる割りには余裕の無い発言ですね。

あ、何にもされてないからでしょうか? しつこい雌鳥で一誠先輩に女とすら見られてないから……」

 

「あ゛? 女らしい体型すらしてない貴女に言われたかありまんせわねぇ? まあ、貴女みたいなド寸胴でも好き者な殿方はいますし? 今すぐにでもそちらに尻でも振りになったらどうでしょう? 一誠様はご覧の通りですので」

 

「図星突かれてお怒りですか?

あー怖い怖い、一誠先輩……あの雌鳥が睨んで来て怖いのでこうして良いですか?」

 

「え……お、おい……」

 

「ふざけるな雌猫がっ! 一誠様は私だけの……!」

 

「ちょ……レイヴェルまで……!」

 

 

 あぁ、やっぱこうなった。

 俺も馬鹿じゃないつもりだし、レイヴェルも白音も俺に好意的なのは嬉しいのだが、喧嘩する度に引っ付かれるとアレなんだどな……。

 その……女の子特有の良い匂いがぁ……。

 

 

「私が一誠様のただ一人の女ですわ! 野良雌猫なんぞお呼びじゃない!」

 

「一誠先輩の意見は無視して女宣言とは……とんだお花畑脳の雌鳥ですね」

 

「あの……」

 

 

 だからこそ強く止められんというか……おぉぅ……ヒートアップしてるせいで気付いてないのかな……。

 さっきからキミ等のフニフニがめっちゃ当たってるというか……白音って決して無い訳じゃないというか……レイヴェルもこんな女らしいアレになって嬉しいと思えば良いのか解らんというか……あへぇぇ……。

 

 

 

 

 雌猫……。

 やはり気に食わない。

 一誠様に色目を使うのが特に気に食わないが、やはり彼女は私に似てる様な気がしてなお気に食わない。

 

 

「こうなったら、どちらが一誠様を満足させられるかハッキリとケリを着けてやりますわ!」

 

「……。良いでしょう、べろちゅーとセットで分からせてやる」

 

「駄目に決まってんだろうが! お前ら頭を冷やせ!!」

 

 

 だからこそ負けたくない。

 体型は勝ってるけど、それ以上に一誠様にご奉仕…………つ、つまり……え、えっちな事で勝れば――とちょっとした一誠様への願望を込みで勝負を仕掛け、塔城さんも好戦的な目で頷いたのだが、結構(決行?)する前に一誠様に拳骨をされて叶わずに終わってしまった。

 

 

「い、痛いです先輩……」

 

「な、なんで叩くんですか……」

 

 

 当然、その気満々だった私と塔城さんは頭を押さえながら部屋の隅っこに逃げて顔が真っ赤な一誠様を涙目で見つめる。

 どうせお嫁さんになるのだし、将来を考えての予行演習と考えれば良いのに一誠様はお堅い。

 

 

「お、俺は兄貴じゃないんだ……二人の女性を侍らせられる程デキた男じゃない」

 

 

 そう言いながら、変に前屈みとなって後ろを向く一誠様は妙に息を切らせている。

 はて……?

 

 

「? どうしたんですか? 後ろなんて向いて……」

 

 

 塔城さんも気になったのか、此方を一切見ない一誠様に近付きながら声を掛ける。

 ええ、人と目を合わさないで話をする一誠様は珍しいですからね……違和感を感じるのは仕方ないというより私もちょっと気になるので塔城さんと同じく近付こうとすると――

 

 

「い、いや何でもないから!」

 

 

 相変わらず壁へ向いたまま、切羽詰まる様子で何でもないと言っている……ふむ。

 

 

「何でもないって事は無いと思いますけど……」

 

「ほ、ホントに何でもない! た、頼むから1分……いや3分だけ俺を見ないでくれ!」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 何を言っても何でもないの一点張り……。

 一誠様らしくない……うむむ、そんな態度をされると逆に気になってしまいますわよ。しかも何ですか1分だの3分だのと……でも待てと言われたら待たない訳にはいかないので、言われた通り3分程塔城さんと無言で会話しながら待ってると、何度か深呼吸をしていた一誠様が漸くお顔を見せてくれ、そして何故か私達に何度も頭を下げると。

 

 

「すまん……俺は最低だ……10発ずつ程本気で殴ってくれ」

 

 

 そして急に泣きそうな声と共に私達に殴ってくれと突拍子の無いことを……。

 

 

「は? な、何故?」

 

「意味がわかりません。

悪いことでもした訳じゃないのに殴れる訳が無いじゃないですか」

 

「いや、した。

直接じゃないけどした。

お前等の好意をぶち壊す事を……」

 

 

 好意をぶち壊す? ますます分からない……。

 一誠様は何もせず、寧ろ私と塔城さんの小競り合いにお付き合いしてくださったのだ。

 それがぶち壊されたとは思ってもないし、塔城さんも同じ気持ちなのか、急に態度が急変した一誠様を不思議そうに見つめている。

 

 

「精神修行が足りなかったばかりに……すまん……すまん……」

 

「「?」」

 

 

 うーん? 詳しく言いたくないせいで全然わからないけど……どうやらご自身の修行不足に嘆いているのでしょうか?

 しかし何処でそれを感じたのか……ええっと確かさっきまでの行動は私と塔城さんが一誠様にひっついて……その後急に私達から離れて前屈みになりながら後ろを向き―――――あれ? 確かその時の一誠様は下腹部辺りを―――――あ!

 

 

「あ……そういう事ですか」

 

 

 また腹立たしい事に丁度私と同じタイミングで結論に達した塔城さんを横目に目をあちこちに泳がせている一誠様をジーッと見つめる――――――のと同時に歓喜の気持ちが沸いてしまい自然と表情が緩んでしまう。

 

 

「…………」

 

「なんですか一誠先輩、そんな事で罪悪感なんて感じてたんですか? だったら言いますよ……全くそんな気分になる必要はありませんよ? 寧ろちゃんと反応してくれたって事実を知れて私は嬉しいです」

 

「塔城さんじゃあありませんが私も同じです。

寧ろそのまま私だけをこの雌猫に見せつけるようにメチャメチャにして欲しかったですわ……ぽっ」

 

 

 どうやら私達に密着された事により一誠様は……うふふ♪

 あぁ……どうしましょう……此処に来てちゃんと女として認識されてると分かっただけでお腹がポカポカしますわ……あは、あはは♪

 

 

「私は一誠様が大好きですわ。

だから、その様な死にたそうなお顔は止めてくださいな……似合いませんわよ?」

 

「私も一誠先輩が大好きです。

なので寧ろそのまま押し倒してくれても一向に構わなかったのに……」

 

「……。ま、まだ子供だろ俺達……。

それに俺は、兄貴みたいな甲斐性は無いし……」

 

 

 …………。あのオカルト研究部の部室で兵藤誠八とそれにすり寄る女連中のやり取りを見て軽くトラウマになってるみたいですわね。

 

 チッ……とことん余計なことばかりしてくれる……。

 カスの分際で一誠様の全てを奪い、催眠術よろしくに複数の女性を虜にして肉体関係すら持つのは勝手だが、そろそろ私の邪魔になり続けるなら一度『不能』にしてやろうかしら……。

 

 

「兵藤先輩の……? あぁ……そういうことですか。

チッ……余計なものを見せてくれましたねあの方々は」

 

 

 ……。ふん、どうやら塔城さんも同じ事を考えてたらしく、同じ眷属仲間だというのに小さく悪態をついている。

 全くとことん私と似てるわね……この雌猫は。

 




補足

どんなに突き詰めても彼も思春期の男の子なのさ。
しかたないよね、だって二人とも美少女だもん。


その2
一誠くんは、生徒会の仕事で訪れた際にオカ研の部室で兄貴達がギシギシしてたのを見てしまったせいか、無意識にトラウマってます。ほんのちょっとだけ。


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始動の前触れ

ヘイトを溜めまくる。

故に一部不快な内容かも……


 昔、なじみの奴から聞いた話の中に黒神めだかという生徒会長が居た。

 曰く千年に一度の主人公でありなじみも敵わないと言われる物凄い人物との事らしく、その生徒会長は目安箱というシステムをその学園の生徒会長に就任した際、導入したとか何とか。

 

 だから俺も何となくその人物を真似て目安箱システムを入れてみたのだが、悩み事を持つ者というのは中々に多く、中々に繁盛する結果となった。

 

 なので本日もその目安箱に投書された依頼を捌いていく訳なのだが、どうにも本日は今までの中でも取り分け変な依頼というか……。

 

 

「一誠様、本日の目安箱への投書は一件なのですが……」

 

「む、どうした?」

 

「いえ……一誠様も読んでいただければお分かりかと」

 

 

 生徒会長室。

 会長に就任してからというもの、まだ俺以外のメンバーは居ないという、歴代でも前例を見ない状況の中でも学園の規定により生徒会に入れないレイヴェルのありがたいアシストで何とか運営しているのだが、その補佐をしてくれるレイヴェルが生徒会室の前に設置した目安箱から回収した一枚の封筒を手渡しながら微妙の物を見るような顔をしていた。

 

 

「ふむふむ」

 

 

 導入してから投書の内容を簡潔に確認させてるレイヴェルがこんな顔をするのは初めてなので、ちょっとした下世話な興味半分で渡された一枚の依頼書に目を通し…………

 

 

「『モテモテになってハーレムになりたい』………だと?」

 

 

 レイヴェルと同じような顔に俺も思わずなってしまった。

 

 

「なんだ……これは? どういう意味だ?」

 

 

 いや、書いてある意味は理解してるけど思わずこう言ってしまう。

 何せ今までの依頼は『部活の練習の助っ人』だとか、『学園で無くした探し物の捜索の手伝い』だとか、『ちょっとした恋愛相談』だとかそんな感じの奴だったのに、初めてこんなドストレートに『モテモテになりたい』なんて内容の依頼が来たのだ。

 思わずこう聞いてしまっても仕方ないというか……うむ

レイヴェルも呆れ顔だ。

 

 

「そのままの意味だと思いますわ。依頼書の端に記名されている名前を見ていただければ……まあ、理解するかと」

 

「む? どれどれ……」

 

 

 促される形で封筒の裏の端に小さく書かれた名前を拝見する俺は、即座に『あぁ』となった。

 それはこんな頓珍漢な依頼をしてくる相手の名前を知ってるのからというのもあるが、それ以上に其奴の普段の学園生活が~~というのもあったからだ。

 

 

「……。どうします? 内容が内容なので断ることも可能だと思いますが」

 

「いや、この二人らしい依頼だし断る訳にはいかないだろ。

奴等も学園の生徒だしな」

 

 

 ある意味前例の無い依頼にレイヴェルが断ろうかと確認するのを俺は首を横に振って受けると返す。

 確かに内容が内容だが、それ以上に『この二人の問題生徒』も駒王学園の生徒な事に変わりはないのだ。

 故に断るなんて道は最初から無く、俺は依頼を受ける為にこの後直ぐに来るだろう依頼人『二人』を迎える為、お茶の準備に取り掛かろうと席を立つ。

 

 

「私個人としては――まあ、年頃の男子と思えばそれまでですが、それでも多くの女子生徒達から苦情が来てますので……」

 

「フッ……分かってるさ。

だからこそ、前に言ったのにも拘わらず変わらないままやりたい放題のあ奴等とは、もう一度腹を割って話さなければならん。

それに俺はどんな内容の相談も受けると言ったのだからな、蔑ろにするつもりはない……いくぞ、生徒会を執行させて貰う!」

 

 

 本日の依頼人、元浜・松田。

 依頼内容『モテモテでハーレム』

 

 厳かに生徒会を執行する。

 

 

 

 元浜と松田という二人組の男子がいる。

 一見爽やかスポーツ少年に見えなくもない松田。

 眼鏡で真面目そうに見えなくもない元浜。

 しかしながらその実態は、見た目を全部ぶち壊すかの如くアレなものである意味、歴代でも類を見ない支持率で生徒会長に就任した一誠やあからさまなハーレムを築いている誠八の様な有名人とタメを張るレベルで有名だった。

 

 

「やぁ、生徒会長、この前振りだな。

相変わらずレイヴェルたんと二人でイチャコラ生徒会は楽しいかい? 死ね」

 

「やぁ、生徒会長。

キミのせいで暫く腕が使い物にならなかった事は恨まないし、兵藤誠八みたいな嫌味っぽさは無いけど、美少女とリア充は羨ましいな? 死ね」

 

 

 主に……女子生徒からの絶大なる嫌われ具合で。

 そして例によって待ち構えていた一誠に対しての第一声は横に控えるレイヴェルからの『学園内では有名すぎる好意の示され方』を受けている一誠に対する妬みと嫉みの言葉だった。

 

 

「おい、この前もそうですが一誠様に向かって何て口の聞き方なんだよこのカ……」

 

「ストップだレイヴェル。

フッ、待ってたぞ元浜&松田同級生よ……」

 

 

 来て早々な挨拶に、一誠が大好き過ぎて冥界にある実家の自室のベッドには『手作りイッセーマスコット人形』を大量に置いてあるくらいなレベルのレイヴェルは、思わず悪平等としてのキャラで二人の男子に殺意を向け掛けるも、パッと一誠が手を挙げて制止させ、渋々と引き下がる。

 

 

「すまんな」

 

「いやいやぁ? そんなやり取りすら出来ない俺達からすればマジで羨ましいわぁ」

 

「良いよなぁ良いよなぁ!」

 

 

 三人が三人共不敵な笑みを浮かべながらの言葉の応酬。

 実のところ一誠は少しワクワクしてるのだ……『97%』もの支持率の中、支持をしなかった残り3%の中の二人である元浜と松田がわざわざ此方に出向いてくれた事に。

 依頼の内容は微妙だが、自分を敵視する相手とのやり取りが実に楽しく思えてしまう。

 ましてや一度徹底的な指導をしたのに改心をせずなのだこら尚更だ。

 これは一誠の悪い癖であり、何時に無くワクワクしている様子を1歩後ろから見ていたレイヴェルは小さくため息を吐き――

 

 

(もう、一誠様の悪い癖ですわ……。

でも、そんなお顔をする一誠様も素敵……♪)

 

 

 年相応な少年を思わせる表情を見せる一誠にレイヴェルのハートもドキドキワクワクだった。

 相変わらずの相変わらずなレイヴェルなのだった。

 

 

「さて、依頼書に目を通したが……モテモテになりたいらしいな貴様等は?」

 

「おう、生徒会長様はどんな悩みも聞いてくれんだろ?」

 

「最近キミのお兄さんがムカつく程モテモテでさぁ? 理不尽だと思わね? あんな笑ってるだけでさぁ?」

 

 

 そんなこんなで依頼の確認から入る一誠に元浜と松田は尤も露骨なハーレムになってる誠八を忌々しげな表情と共に引き合いに出して語る。

 

 

「学園二大お姉さま。アーシアちゃん。支取先輩。その他。

学園の有名所はみーんな奴だ、俺達カースト最下位はなーんもない」

 

「だから少しでもマシになりてぇと今をトキメク生徒会長様にご相談しに来た訳」

 

 

 確かに誠八は学園内でも有名な程にモテてる。

 入りたくても入れないオカ研にすんなり入部し、その部員の女性陣を虜にし、更には学園才女の支取蒼那まで好意を寄せられている。

 ハッキリ言って共学になったばかり故にまだ数の少ない残りの男子諸君からすれば学園の綺麗所を総取りしてる誠八は妬みの対象としては十二分だった。

 

 

「なるほどな兄貴か……」

 

「……」

 

 

 それを聞かされた一誠とレイヴェルは、モテてる原因の真実の一端を把握してる為に渋い顔だ。

 

 

「理由は分かったが……それ以前に貴様等に対して女子生徒達から数多くの苦情が来ているのは分かってるよな? この前からまるで変わらずに」

 

「女子更衣室への覗き行為、教室での配慮のない会話、極めつけは成人向けの物品の持ち込みですわね」

 

 

 一誠は別に彼が誰にモテようが知ったこっちゃないと思えるだけの心があるのでどうとも思わないが、その他の男子はそうは思わない。

 故に嫉妬めいた事を聞いても同情はしないが理解してるつもりなのだが、それ以前にこの元浜と松田には見逃せない問題行為の数々があり、完全に見下した視線を向けたレイヴェルの淡々とした声による前科を聞かされた元浜と松田は、美少女からの責められる視線にちょっとだけ居心地の悪そうに目を逸らしてしまう。

 

 

「それはアレだ。そうでもしないと注目されないだろ?」

 

「それに反応が楽しいし」

 

「「……」」

 

 

 小学生の低学年みたいな言い分にレイヴェルはちょっとだけシラケた表情になる。

 結局この二人は女性に単にモテたいだけであって、真摯に向かい合うつもりが無いのだ……たかだか笑うか撫でるだけで女性を虜にし、平然と複数相手に肉体関係を持つ兵藤誠八のように……。

 いや、ハーレムになりたいとかほざいてる時点で同じか……とレイヴェルは既に呆れを通り越してそこら辺に転がる消ゴムの欠片を見るような認識になっていた。

 

 

「だからセクハラじみた行動をしたのか……なるほど――――図に乗るなよ小僧共」

 

「「あ? なんだっ―――ひっ!?」」

 

 

 それは一誠も同じであり、言ってることとやってる事が履き違えてる二人を『天頂から見下ろす』様な視線で二人を睨んでいた。

 

 

「モテモテになりたい、それは結構だ。

自分より優れている者に嫉妬するのも勝手だ。

だが、貴様等の言ってることは全て『他人任せ』だろうが。

自分よりモテる男に対抗するつもりか何だか知らんが、己を磨く事もせずセクハラを繰り返し、挙げ句に俺に何とかしろだと? ふざけるなよ貴様等、俺は確かに困ったことがあれば目安箱(めだかボックス)に投書しろとは言ったが、100%の手助けをするなど……ましてや自分でロクな努力もせんで只助けろとほざく奴に協力するなどとは1度も言ってない!」

 

「う……それは」

 

「……」

 

 

 生徒会長候補として壇上で演説をした時よりも比べ物にならない程の、押し潰されそうな重圧感に威勢の良かった二人は押し黙ってしまう。

 誠八の双子の弟且つ、圧倒的な支持率で生徒会長となった一誠も別ベクトルの有名さを誇っていたし、気に食わない相手として元浜・松田もマークしていたが、この瞬間で一気に一誠に対して『生物的本能で勝てない』と悟らされたのと同時に、安易に喧嘩売りのつもりで依頼なんてしなければ良かったと後悔した。

 

 

「あぁん♪ 一誠様の啖呵はやっぱり素敵ですわぁ……♪」

 

「「「………」」」

 

 

 そんな重圧(プレッシャー)が生徒会室を支配する中でも、同じく一誠しか見えてないので有名なレイヴェルは頬を染めながら一誠を絶賛する訳で……。

 三人は肩透かしを食らう気分になるものの、気を取り直す。

 

 

「こほん……つまり元浜&松田同級生よ。

モテモテになりたければ、まずそのふわついた考えと女性を蔑ろにする行動は慎むんだな」

 

「くっ……い、今更遅いんだよ……」

 

「どうせ止めたって女子達は変態二人組と……」

 

「それは貴様等の自業自得だ。

だが、やり直しに早いも遅いもない……誠意を持ては全員とは言わぬが分かってくれる人も絶対にいる!」

 

 

 金髪碧眼美少女と宜しくやってる妬みで嫌味を言いに来たつまりが、ガチ説教をされてしまってすっかり凹んでしまった元浜と松田の何時にない萎んだ声に一誠は渇を入れるようにピシャリと言いながらコップに入ってるお茶をイッキ飲みして席を立つ。

 

 

「それは分からないというのであれば、俺が教えてやる。

そこから何を感じ、どう思い・行動するかは貴様等次第だがな」

 

「え……」

 

「え、な、なに?」

 

 

 勢いよく席を立つ一誠にポカンとした顔の二人は、立てと促されて困惑しながらも席を立ち、生徒会室のロッカーをゴソゴソやってる姿を見つめる。

 

 

「よし、あったぞ」

 

 

 やがてロッカーから何かを引っ張り出した一誠は、逃げられなくなってて怯えたゴリラみたいに小さくなってる二人に引っ張り出したそれをポイポイと投げて寄越す。

 

 

「モテモテになりたいという依頼は可能な限り叶えてやるが……実際俺は兄貴とは違って笑ってるだけで女性を虜には出来んし、イマイチどうすれば良いのかなどわからん。

だから、俺が考えるやり方で行かせて貰う……まずはその為に今まで迷惑を掛け続けた女子生徒達に誠意を見せに行くぞ!」

 

「あ、はい……」

 

「わ、わかったけど、でもこれって……」

 

 

 ヤケに張り切る一誠に圧される形で首を縦に振る元浜と松田は、キャッチしたソレを見て目を丸くする。

 というのも、一誠から渡されたソレは――

 

 

 

 

「行くぞ元浜&松田『庶務見習い』! 今から学園中の掃除だ!」

 

「「は、はぁ!?」」

 

 

 生徒会役員候補が一時期付ける見習いの腕章なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい気がする……。

 いや、確実におかしい。

 本当ならライザー・フェニックスとレーティングゲームをする筈だったのにそれが無くなったというのもそうだが、そもそも何故レイヴェルが既に駒王学園に居るのか、そして何も無い筈の一誠が生徒会長に――そしてレイヴェルに好意を寄せられているのか……原作ブレイクをし過ぎて流れが変わったのか? まあ、それならそれで構わないが……。

 

 

「セーヤ、今日は私と……ね?」

 

「いーえ私とですわ……そうですよね?」

 

「わ、私とです!」

 

「貴女方もしつこいですね。セーヤくんがかわいそうですよ」

 

 

 どうせ原作の一誠の力+がある俺なら何とでもなるのだからな……今は自分にゾッコンな美少女でも愛でてよう。

 クソみたいな前世と比べたらこの世界は最高だよ。

 こんな美少女に囲まれ、あまつさえ喰えたんだもん……ふふ、転生なんて嘘臭いと思ったが……くくく。

 

 

「まぁまぁ……今じゃなくて家でしましょ……?」

 

「「「むぅ……」」」

 

 

 原作主人公を完全に追い出せやしなかったし、何やらフェニックスの連中と妙な関係があるみたいだが、あんな連中なぞ大したものじゃない。

 今は一誠に懐いてるみたいだが、何れレイヴェルも……フフッ。

 

 

「……。すいません。席を外しますね」

 

「…………」

 

 

 それよりも今は居心地悪そうに席を立つ木場……はどうでも良いとして、同じく部室を出ようとする小猫をどうするかだ。

 リアス・アーシア・朱乃・ソーナみたいにてっきり好いてくれるのかと思ったらどうやらそうじゃないらしく、木場と何時も出て行っては、最近一誠の奴の所に行ってるみたいだが……。

 

 

「小猫ちゃん、お菓子あるけ――」

 

「結構です。では」

 

 

 ハッキリ言おう……俺はそれが気に食わない。

 俺が成り代わり、補正の大半てある赤龍帝の称号も俺のものとなり、脱け殻のカスの分際で小猫に懐かれてる一誠がな。

 今だって笑みを見せながらお菓子で釣ろうとしたけど、小猫は即答で断りながら出て行ってしまった。

 

 

「何よ小猫ったら……最近よそよそしいわね」

 

「どうやらセーヤくんの弟さんの所に行ってるみたいですが……」

 

「セーヤさんのお誘いを断ってまで行くなんて、何かあるのでしょうか?」

 

「生徒会長候補だった私を圧倒的に差し置いて就任したのは凄いと思いますが、それでも彼は只の人間ですし、塔城さんが気にする程でも無いと思いますが……」

 

 

 小猫のよそよそしさにリアス達が不満そうにしている。

 俺だって小猫が美少女じゃなかったらほっといたが、紛れもない美少女だし……まだ会ってないが小猫の姉である黒歌は俺好みだからな。

 なんだっけ、所謂姉妹なんとかってのも是非試してみたいので、此処は我慢だ。

 

 

「弟と小猫ちゃんは仲良しみたいですからね。

両親と喧嘩別れしてから何処で何をしてたか心配でしたが、友達が居るみたいで安心ですよ俺としては」

 

「優しいわねセーヤは……ま、こっちとしてはライバルが増えなくて助かるけどね♪」

 

 

 そうウィンクしながら抱き付いてくるリアスと、それに負けじと対抗する朱乃、アーシア、ソーナ。

 あーぁ、家でなんて言ったけど……こりゃ無理だな。

 

 

 

 

 最近疲れる。

 特に赤龍帝という凄い力を持った兵藤君が眷属に入ってから感じるようになった。

 

 

「ハァ……」

 

 

 入って直ぐに部長や副部長……そしてシトリー様や最近はアーシアさんから好意を寄せられ、部室で――――なんて数多くだし、悪魔としての仕事もそのせいで若干疎かになってるから、それを防ぐために僕と塔城さんの二人でフォローしたり。

 眷属として仕事がいのあると言えばそれまでだけど、それでも兵藤君のせいで色々と話が拗れてる感は否めない。

 

 この前のライザー・フェニックス様との誤解ありきなリアス部長との婚約騒動だって、わざわざ冥界から謝罪までしに来たのを、兵藤君が好戦的な物言いをしてフェニックス家との関係にヒビを入れようとしてたし。

 アレだってライザー・フェニックス様が見た目と違って理性的で大人な対応をしてなかったら、完全に敵対しててもおかしくなかったし……。

 

 

「あ、一誠先輩……」

 

「え……?」

 

 

 その内大きな事件でも起こしてしまうのではないか……そんな嫌な予感すら感じてしまう中、同じく兵藤君に不信感を抱いてる様で、リアス部長達みたいな不自然な好意を持たない塔城さんの声に僕の思考は中断し、廊下の窓から外を見ている塔城さんに釣られて視線を追うと、兵藤君そっくりな顔立ちを持ち、本来ならシトリー様がなる筈だったの生徒会長に圧倒的な支持率を得て就任した兵藤一誠くんが……確か変態二人組のとか呼ばれてる同学年の人二人と、ライザー・フェニックス様の妹にて、アーシアさんの直後に最近転校してきたレイヴェル・フェニックス様と一緒にジャージ姿でゴミ拾いをしている姿が見えた。

 

 ……背中に籠なんて背負いながら。

 

 

「ゴミ拾いてすかね……しかもあの男子の人二人を連れながらなんて」

 

「みたいだね。どうする塔城さん? 僕の事は良いから行ってみたら……」

 

 

 役員が他に居なく、それでも実質一人で生徒会を運営してる兵藤君は、僕にとって羨ましいと思う存在だ。

 圧倒的な存在感にしてもそうだし……なにより――

 

 

「良いなぁ……自由そうで」

 

 

 最近部活がつまらないとすら思ってしまう僕とは違い、彼は生徒会長を心の底から楽しんでる様に見え、自由な姿に羨望すら感じる。

 そして思うのだ……僕も混ざってみたいなぁと。

 

 

「……。ふむ、確か一誠先輩は前にああ言ってましたし……」

 

「え?」

 

 

 そんな僕の現実逃避じみた気持ちが聞こえてしまったのか、塔城さんがふむと考えながら僕に向くと……。

 

 

「祐斗先輩も来てください。一誠先輩が話してみたいと前に言ってたのを思い出したので」

 

「……………え?」

 

 

 僕の願いをアッサリと叶えるように来いと言うのだった。

 

 

 

 

 

 

「クソ……ちくしょう……!」

 

 

 情けない……なんて情けないんだ俺は……!

 

 

「また先輩は兵藤の所かよ……!」

 

 

 一目惚れしたソーナ・シトリー先輩の下で兵士として頑張ろうとしたのに、俺と同時期にグレモリー眷属の兵士になった兵藤誠八に先輩は惚れてしまった。

 それだけじゃない。兵藤誠八は俺なんか屁でも無いほどに圧倒的な力と才能がある……それがますます先輩の心を独り占めできる要因であり、最近は俺の眷属仲間も兵藤誠八に好意的なせいで、敵視してる俺は疎外されてる。

 

 

「……。俺って何のために人間を捨てたんだ? くくく……惨め過ぎて涙もでねぇ……」

 

 

 こんな事なら、最初からこうなると分かってたなら眷属なんて……悪魔になんて転生しなければ良かった。

 いっそ躁鬱気味に死にたくなるすら思え、眷属としての集まりも最近少なくなったクソッタレな現状を嘆きつつ、一人だけになった教室の窓に射し込む夕日を眺めながら、フト視線を動かす俺は、その兵藤誠八にそっくりな顔を持ち、ソーナ先輩を完全に抑えて生徒会長になったあの男姿を捉えた。

 

 

「兵藤、一誠か……。

はは、最初はたった一人の癖にソーナ先輩を出し抜きやがってと勝手に敵視してたが、今じゃお前が生徒会長になって正解だったかもとすら感じるぜ」

 

 

 随分とシトリー眷属甲斐の無い事を口に出してるが、どうせ皆聞いてないし構うもんか。

 勝手に惚れて、その惚れた相手に想いも告げられず失恋した負け犬の戯れ言なんだからよ……。

 

 寧ろそっくりな兵藤一誠に愚痴りに愚痴って少しはスッキリ――――

 

 

『ゴミ拾いが終わったら校舎中の窓拭きだ! 付いて来い貴様等!!』

 

『『ひぇぇぇ……』』

 

『あぁん、強引な一誠様のお姿にレイヴェルの下腹部はきゅんきゅんですわ……♪』

 

 

 

 

 

 

「………………。よし、愚痴りに行こう。

何の相談も引き受けるなんて啖呵切ったんだ……愚痴の一つくらい聞いてくれるだろ」

 

 

 うん、言おう。

 オメーの兄貴のせいで初恋がメチャクチャだ! とでも言ってやろう。

 決して金髪美少女に熱っぽい視線を貰ってるからそんなんじゃねーしなうん……。

 

 

 

 こうして、一人の生徒会長に集まり始める男達。

 その選択が果たして吉なのか凶なのか……まだ彼等にはわからない。

 

 

終わり




補足

兄貴はキチンと記憶持ちです。

風紀委員長イッセーのお姉ちゃんみたいですが、決定的な違いは、その知識と得た力を己の快楽につぎ込むという所でしょうか。

ある意味一番人間らしいかもしれませんね……悪魔に転生してますが。


その2
匙きゅんと木場きゅんとのフラグが立つ一誠。
そして元浜&松田コンビとも……。
(ホモじゃないよ)


その3
レイヴェルさんの学生生活はこんなんです。
こう……一誠しか本当に見てません。


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生徒会長と疎外感転生悪魔きゅん達

感想いっぱいだとやはりモチベーションが上がる上がる。

あざす!




 さてさて、モテモテになりたいという元浜&松田同級生の願いを100%とはいかぬが、それでも以前よりはマシにすべく始めた、セクハラ止め運動なのだが……。

 

 

「せ、生徒会長……ま、まだ終わらんとです……」

 

「こ、校舎中なんて無理っす……」

 

 

 大きな事を言ってた割りには、校舎内の窓拭きで音をあげる二人に俺は鞭を入れる作業に没頭していた。

 

 

「弱音を吐くな! 何も制限時間内に終わらせろ等とは言ってはおらん! ゆっくりでも良いから最後まで諦めるな!」

 

 

 まったく、何もせず只漠然とモテモテになりたいなんて甘えた事を言ってるからとは思ってたが、此処までヘタレとは思いもしなかったぞ。

 

 

「一誠様、職員室から新聞紙を頂いてまいりました」

 

「おう、サンキューなレイヴェル。

ほら貴様等、濡らした新聞紙で仕上げ拭きをしないか!」

 

「「へぇぇぇ……」」

 

 

 何事も最初が肝心だ。

 ただ漠然とモテモテになりたいなんて思うのは誰だってできるし、そもそもこの二人は女子からの信頼がほぼ無い。

 今更こんなコテコテの改心行動でどうにかなるなんて思っては無いが、それでも日々の積み重ねが大事なのだ。

 そうすればきっと、セクハラを受けて信用してない女子達の中にも二人を少しだけ見直してくれる人が―――――俺は居ると信じてる。多分。

 

 

「うぅ、安易に喧嘩なんて売らなきゃ良かった……」

 

「腕が痛い……腕立ての再来だ」

 

「一誠様と同学年とは思えない弱音の数々ですわね……。

これでモテモテに等とよく言えたもので……」

 

「こ、こんな化け物生徒会長と一緒にしないでくれよ!」

 

「そ、そうだそうだ!」

 

 

 そんなこんなで校舎内の半分を制覇し、引き続き窓を拭き拭きする最中も、弱音を吐く二人にレイヴェルが見下し、それに二人が反発する――てな具合でモチベーションの維持を保つ。

 

 

「く、くっそ……可愛いくせに生徒会長以外は冷たい!」

 

「俺等との態度が間逆すぎるぜ……」

 

「当たり前でしょう? あなた達ごときと一誠様はそこら辺に落ちてる枯れ葉と天から地を照らす太陽以上の差がありますわ」

 

「「ちくしょー!! 可愛いから憎めねぇ!!」」

 

 

 それがまた結構な効果があるようで、レイヴェルが俺を贔屓する様な発言をする度に俺に対して恨めしい視線を送りつつ、一心不乱に窓拭きをする。

 ボソッとレイヴェルが『欠伸がでるほどに単純な人達ね……』と呆れてるのに気付いて欲しくないものである。

 

 

「一誠先輩」

 

 

 そんな折だ。

 完全下校時刻が迫る時間帯故に、部活をやってる生徒以外の殆どが居ない新校舎内の窓を隈無く拭き拭きやっとる中耳に入った声に、俺達……特に元浜と松田がもげるのでは無いかと思うほどの勢いで声がした方向へ振り向くと、そこに居たのは白髪と金色の瞳……そして小柄な見た目が特徴の少女である白音と――

 

 

「あ!? こ、小猫ちゃん――と、木場ぁ!!!」

 

 

 その白音からよく聞かされる同学年の少年――木場祐斗が白音の1歩後ろに控え、元浜&松田の歓迎できませんな声をスルーしながら俺を遠慮しがちに見ている。

 

 

「な、何で小猫たんが……木場は余計だけど」

 

「ま、まさか本当に生徒会長の言ったことが……!? 木場は邪魔だが」

 

 

 えっと、何だっけ? 癒し系だっけかで白音はグレモリー3年と同等に人気者だったりする訳で、当然セクハラ小僧共もミーハーよろしくにテンションを上げている――――所悪いが、うむ……お前等のその淡い期待は違うと思うんだ。

 いや、思うんだとかじゃなく確実に違うな。

 

 

「一誠先輩達がお掃除しているのを見付けまして――例の如く兵藤先輩達の邪魔になるし、かと云って暇なので祐斗先輩とお手伝いでもと……」

 

「こ、こんにちは兵藤生徒会長……」

 

「な、なんだって!? マジで効果が現れたとでもいうのか!? 木場は余計だけど!」

 

「しかもいきなし小猫たんなんてスゲェ!! 木場は邪魔だけど!!」

 

 まだ騒いでる元浜と松田を無視し、ほぼ毎日の様に聞く理由を話す白音と、何故かおどおどしてる木場同級生。

 また兄貴絡みかと俺は少しだけゲンナリした気分になるが、木場同級生からすれば深刻すぎる問題なのと、紛いなりにも顔が似てる男がやらかしてる話なので無視なんてできやしない。

 

 

「なるほどな、一度貴様とは話がしたかったし歓迎するぞ木場同級生よ」

 

「え……ぁ……」

 

 

 故に俺は横で白音を見てミーハーに騒ぐ元浜と松田を放置して木場同級生に手を差し出す。

 同情とは違うが、木場同級生はかなり凄いと思う。

 兄貴が複数の女性とイチャコラしてるのを見せられ、それでも我慢し続けているのだからな。

 俺ならまず発狂するというか現実逃避でもしてしまいそうなのに、木場同級生は置かれた立場があるとはいえ只堪えた。

 顔立ちが整ってるからと男子から疎まれてるが、そんなもんこの現状を聞かされたら野次なんて飛ばせやしない……俺ならな。

 

 

「う……ぁ……ぐ……うぇ……!」

 

「え、あ、き、木場同級生?」

 

 

 故に俺なりのリスペクトをと思って握手を求めた結果……木場同級生は急に泣き始めた。

 それはもう、これまで抑え込んでた感情が決壊し、流れ込む様に……。

 

 

「お、あ、あれ……木場が泣いてるぞ?」

 

「な、何だよお前? お、おい大丈夫か?」

 

 

 それは小猫たーん! と騒いでた元浜と松田も流石に泣き始めた木場を気にする程で、さめざめと泣き続ける姿に困惑していた。

 

 

「ほらね、優しくされたら泣きますよと言った通りでしょ?」

 

「どれだけ我慢してたのですか……彼は?」

 

「見てお察し……と言えば貴女でもわかるでしょう?」

 

「まあ……私ならそんな現状ならぶち壊した方がマシだと思うほどですし、分からないでも無いですが」

 

 

 急に泣き出した木場同級生に、それまでの変なしがらみを忘れて泣き止まないかと声を掛けたりする俺や元浜や松田をバックにレイヴェルと白音が何かを小声で話しているのが聞こえ、その内容に俺も考えさせられてしまう。

 ふむ……。

 

 

「おい、元浜と松田。清掃の残りは明日にして今日はもう帰っても良いぞ。付き合ってくれてありがとうな」

 

「え? あ、あぁ……」

 

「じゃあ、木場の事は……」

 

「あぁ、俺が何とかする」

 

 

 木場同級生が泣く理由……いや原因は二人にとって未知の領域であり、半端な覚悟なしでは聞いてはならない事柄だ。

 だから、仲間外れにしてしまうのは忍びないが、取り敢えず今日のところは二人に帰って貰い、今から木場同級生のメンタルケアをする事に決めた。

 

 

「お、おい木場。

何があったか知らないがまあ、頑張れよ」

 

「イケメンでムカつくと思ってるけど、今だけはそう思うことにするよ……じゃあな」

 

「………………。うん」

 

 

 そう、何時もは妬む対象である木場同級生を心配する声を掛けて帰っていった元浜と松田。

 うむ……まあ、基本的に女性に対する誠意の無さ以外は気の良い連中だった訳だな……さて。

 

 

「ふむ……取り敢えず生徒会室に来い。

お茶でも飲んで心を落ち着かせるべきだお前は」

 

「あ、ありがとう……グスッ」

 

 不平不満だらけなのはこれで分かったし、だからといって部外者の俺が何処までメンタルケアをできるかは分からんが、放って置くわけにもいかん。

 

 

 

 

 

 という訳で心が弱ってる木場同級生と、白音、レイヴェルと共に生徒会室に戻り、ソファに木場同級生を座らせてお茶を出したのだが……。

 

 

「ご、ごめん急に……何だか自分でもよくわからないまま涙が……」

 

「気にするな。お前の事は白――いや、小猫から大体聞いている。

寧ろよくそこまで我慢したと俺は尊敬の念すら覚えるというか……すまんな兄貴が」

 

「いや……それは――」

 

「あぁ、お前のイケ好かない兄貴のせいで俺の初恋はボロカスだぜ」

 

 ガラス製のテーブルを真ん中にして囲うように木場同級生と対面するように座る俺。

 そしてその隣にレイヴェルが、木場同級生の隣に白音が座り……そしてそこから少しはなれた隅の方で腕を組ながらヤサグレた態度で俺に嫌味を言ってくるのは、生徒会室に戻る際バッタリ出会った匙という同学年の少年だった。

 

「匙同級生……うむ、すまんな」

 

「ケッ、お前に謝られてもな……てか、お前に言っても仕方ないってのもわかってるつもりだよ。こっちこそ悪かったな」

 

 

 木場同級生と同じく、兄貴絡みの話で何かを失ったといった様子だったので一緒に連れてきたが……やはり彼もそうだったようで、皮肉にも兄貴の話題で盛り上がってしまう。

 

 

「それで今日も兵藤君は……」

 

「なるほど、今頃部室で大人のプロレスって奴か……。そもそも此処は学舎なんだがな」

 

「王である部長が率先してるせいで、所詮下僕である僕等は黙ってるしか出来なくて……」

 

「く、クソが……! 兵藤の野郎……! ソーナ先輩だけならまだしも複数となんてふざけやがって!」

 

 

 ぽつりぽつりと溜め込んでいた鬱憤を口に出す木場同級生と、恐らくソーナ・シトリーに想いを寄せていたんだろう匙同級生に俺は真面目に同情してしまう。

 

 

「ハッキリ言って怖いくらいだ。

部長や副部長やアルジェントさんはおろか、まさかシトリー様まで兵藤君にだなんて……まるで洗脳されたみたいに兵藤君兵藤君って人が変わったみたいに」

 

「………」

 

「そうだな、それまで真面目だったソーナ先輩が、何かにつけて兵藤の話をし、簡単に誘惑までしてるんだ……性格が明らかに変貌してる」

 

 

 伏し目がちに兄貴が現れてから変わってしまった現状を話す木場同級生と悔しげに唸る匙同級生の言葉を黙って聞き、白音やレイヴェルと共に内心『それが奴の常套手段なんだよ』と呟く。

 二人の言ってる事の通り……アレは簡単に人の心を虜にする何かを持ってるのだ、昔の俺はそれを嫌と云う程味わったんだ間違いない。

 突然沸いて現れ、俺の周りの全てを虜にし俺を単なる奴のオマケみたいな存在にさせた……ふん、手口は昔から変わらんらしいな。

 

 

「兄貴には条件付きとはいえ、万人を受け入れさせる『魅力』というものがあるらしいな……俺にはその魅力とやらは一切わからんが」

 

「みたいだね……それも強烈な」

 

「そんなふざけたもんで先輩を? ……。チッ、ムカつくぜ」

 

「まあ、私と祐斗先輩は全く何も感じませんでしたけど」

 

「当然私も」

 

 

 少しだけ落ち着いたのか、疲れた様ではあるものの笑みを浮かべる木場同級生の言葉に白音が頷きながら補足している。

 それが奴の最も警戒する力だったりするのだが、木場同級生と白音には通用しない辺り、何かしらの穴があると見て間違いない。

 レイヴェルだって全く兄貴に対して思わないどころか、カスと見下してるし、想いを寄せた相手を文字通り寝取られ匙同級生に至っては明確な嫌悪感すら向けている。

 

 

「というかお前生徒会長なんだから、兵藤のバカが部室で………………な事をしてると分かってて注意とかしねーのかよ?」

 

 

 途中恥ずかしそうに吃りながらも、再び責めるような目を向ける匙同級生。

 確かにそれは大いなる正論だが……うむ。

 

 

「残念ながら、注意どころか学園長に直談判もしたが、結果はこの通りだ。

どうやら悪魔がこの辺りを支配してるせいで、簡単にルールをねじ曲げてしまうらしいな」

 

「………………」

 

 

 俺の言葉に匙同級生は口を真一文にして黙ってしまう。

 シトリー3年が兄貴側だという決定的な事実にやり場の怒りでも感じているのだろう、悔しそうに俯いてしまっている。

 

 

「部長が領土の管理を任されてる以上、その手は通用しないのでしょうね」

 

「えぇ、残念な事に」

 

「チッ……ちくしょうが」

 

 

 グレモリー管轄の領土だから……とは聞こえは良いが、実際に人間はそんな事など知りもしない。

 というかお前等は依存症か何かで我慢すら出来んのか――なんて学園長に圧力を掛けて黙らせたと知った時は呆れてしまった程だ。

 それに前になじみが言ってたが――

 

 

『覚えたての猿みたいだったぜ?』

 

 

 という、真面目にどうでも良い話を聞かされたっけか。

 まぁ匙同級生は初恋の相手を取られた処か日常的にそうなってると聞かされれば、自然とフラストレーションも堪ってしまうのも無理の無い話だと俺は思うし、俺となんてまるで関わりが無いのにこの場に来てることを考えればお察しだ。

 

 

「匙同級生は結局の所どうなんだ? シトリー三年を取り返したいのか?」

 

「……。いや、もう色々と疲れてそんな気は無い。

ただ、兵藤の顔の形を変えるくらいぶん殴ってやりたいだけだ」

 

 

 窓から射し込む夕日を背に、明確な報復心を示す匙同級生。

 それほどまでに悔しかったのだろう……冷静な表情を保ちながらも右手は拳の形でブルブルと震えている。

 

 

「今にして思えばしょうもない理由で悪魔に転生しちまったと思うし、女々しいとは思う。

だけど初恋に敗れた処か、その男が他の女と関係を持ってるなんて聞かされてヘラヘラ出来る程大人じゃねぇ……。だから奴には何時か借りを返すつもりだ」

 

「匙君……」

 

「まあ、木場の立場は俺より苦痛だったんだろうが」

 

 

 兄貴に対する報復心で顔が歪んでいた匙同級生は、不意に今のグレモリー眷属に居場所を見いだせず弱っていた木場同級生に視線を移して自嘲気味に笑う。

 やはり匙同級生も木場同級生の苦痛は痛いほど分かってるつもりらし――

 

 

「これこそ、金髪美少女にキャーキャー言われてる生徒会長様にはわからん気持ちだろうがな」

 

 

 い……? あれ?

 

 

「なんだ突然?」

 

 

 急に嫌味っぽくこっちを見る匙同級生に変な居心地の悪さを感じて思わず目を逸らすと、匙同級生は『ケッ!』と吐き捨てる様にこう言ってきた。

 

 

「人間のお前が何で純血悪魔とそんなに親しいのか、それに何でそんな好かれてるのか俺には分からんが、まあ、男として言わせて貰うなら、羨ましいんじゃバーカという事だよ……ったく」

 

「む……む……」

 

「……。まあ、誰彼構わずな兵藤よりはマシだと思ってるつもりだが、一誠様と呼ばれてるのはどうかと思うな」

 

 

 い、いや……それはレイヴェルが――

 

 

「下僕悪魔程度が私に指図ですか?

別に偏見を持ってる訳ではありませんし、言うのは勝手ですが、私が一誠様とお呼びするのは私がそう決めたからであって、決して一誠様から強要された訳じゃあありませんわ。

あまり『カス』が嘗めた口を叩くようなら、私にも考えがあるわよ?」

 

「っ……」

 

 

 それまで黙ってたレイヴェルが、我慢の限界でも来たのか嫌味っぽい匙同級生に向かって強い重圧(プレッシャー)を放ち、真正面から受けてしまった匙同級生は滝の様な汗を流しながらその場に蹲ってしまった。

 

 

「う……ぐっ!?」

 

「な、何だこのプレッシャーは……部長より遥かに――」

 

「…………」

 

 

 見た目と学園でのキャラ油断してたのか、ガタガタと震えながら蹲る匙同級生と、冷や汗を流しながら戦慄してる木場同級生。

 驚いたことに白音はシレッとしながらお茶を飲んでる。

 

 

「ストップだレイヴェル……」

 

「む……わかりましたわ一誠様。

匙さん……申し訳ございません」

 

「ハァハァ……い、いや……お、俺も言い過ぎました……ごめん」

 

 

 俺の事になると直ぐ熱くなってくれるのは、本音を言うと嬉しいものだが……マジになったレイヴェルは常人なんて遥かに越えてるからな……。

 只の神器持ちの転生悪魔じゃ勝負にもならんだろうし、匙同級生や木場同級生……そして白音すら分からんだろうが、純血悪魔以前にフェニックス家は悪平等(ノットイコール)であり、勿論レイヴェルも……人外の領域にちゃんと入ってる。

 

 エシルねーさんとシュラウドのおっさんの血をちゃんと受け継いだ真なる人外のな。

 

 

「こほん……まあ、何だ……。

木場同級生も匙同級生も暇だとか居心地が悪いと思ったら何時でも来い……。愚痴くらいなら俺でも聞けるからな」

 

 

 ちょっとしたアクシデントがあったものの、何とかその場を納めた俺は、興味なしとばかりにお茶を飲むレイヴェルをチラチラ気にする匙同級生と木場同級生に何時でも来いと、昔なじみとフェニックス家の皆が俺にしてくれた様に、俺も出来か限りの居場所を作ってあげようと二人に告げる。

 

 

「あ、あぁ……き、気が向いたらな」

 

「ちょっと小猫さん!? さっきからお茶菓子を独り占め……って、このお皿のクッキーは私のですわよ!!」

 

「食べる気配が無かったから食べてさしあげたのですよ」

 

 

 先程のレイヴェルに対して一気に恐れでも抱いたのか、チラチラと白音とクッキーの取り合いを開始してる横顔を見ながら小さい声で返事をする匙同級生。

 

 

「いいの? それだと多分ほぼ毎日……」

 

「その時はもしかしたら生徒会の手伝いをして貰うかもしれんが、それでも良いならな」

 

「あ、ありがとう……グスッ」

 

「泣くなよ。

いや、気持ちは分かるが」

 

 

 そして木場同級生は、泣くほど感激しながら何度も何度も俺に下げなくても良い頭まで下げた。

 悪魔でも何でもない俺にそこまで言うほど疎外感を持っていたのかと思うと何とも言えない気分だが、少しでも力になれたと思うと悪くない気分だった。




補足

木場きゅん、久し振りに優しくされて泣くの巻

匙きゅん、文句言ったらレイヴェルたんにキレられそうになって色んな意味でドキドキの巻。

元浜&松田くん、偶然により奉仕活動をやらされて学園の癒し系ちゃんを目の前に出来たの巻。

レイヴェルたん&小猫たん、匙&木場きゅんの目の前なので一誠の取り合いはしなかったが、クッキーの取り合いをしたの巻。

生徒会長イッセー……男の同志を少なくとも4人獲たの巻。






兄貴……相変わらず部室を私物化して大人のプロレスラごっこを複数としてるの巻。

今話の内容はざっとこんなもんでしょうか。



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メンタル回復施設・生徒会室のイッセーくん

着々と男同士の友情フラグが固まるぜ!

感想も沢山でモチベも上がるぜ! ありがとざーす!


 木場同級生に何時でも愚痴りに来ても構わんぞと言った訳だが、本人の言った通り本当に毎日白音と共に来るようになった。

 泣くほどだったからというのも、あるが……それにしても兄貴とそのシンパ共は木場同級生が此処まで疲れていた事に気付きもしなかったのかと少し不満に思ってしまう訳だが、奴等の現状を知ってる身としては『期待するだけバカを見る』というやつだな。

 

 

「イッセーくん、この花壇にはアメリカンブルーで良いの?」

 

「うむ」

 

 

 まあ、俺にとっても不満なら来て愚痴ってくれて一向に構わんのだがな。

 役員じゃないが、生徒会の仕事を手伝ってくれるし、最近は木場同級生だけじゃ無く――

 

 

「おーい生徒会長~ こっちは何を植えるんだ?」

 

「元浜と松田の所はマリーゴールドとマツバボタンを頼む」

 

 

 モテモテになりたいという依頼以降から木場同級生と同じく顔を出す、元浜と松田の二人組もそうだし――

 

 

「パンジーの苗を植え終えたぞ」

 

「おう、恩に着るぞ匙同級生」

 

 

 匙同級生もまた顔を出しては手伝ってくれる。

 元浜と松田は違うかもしれんが、どうやら木場同級生も匙同級生も相当嫌気が刺してた様で、冗談で『生徒会の仕事を手伝ってくれるのなら、毎日だって愚痴りに来ても構わんぞ』という言葉を簡単に受け入れてる。

 他人事だから別にどうだって良いが、この二人の王であるシトリー3年たグレモリー3年はそれで良いのかと思ってしまうが――――

 

 

「うむ、こんなもんだろう。

皆ご苦労だったな、本日のお礼は生徒会室で用意して待ってるだろうレイヴェルの手作りのお菓子だ」

 

「おほっ!? レイヴェルたんのだと!?」

 

「あぁ、で、恐らく小猫が直々に淹れたお茶付きだ」

 

「マジかよ、小猫たんのお茶なんて、生きてて良かったぜいやっふぅぅ!!」

 

 

「ま、まあ……どうしてもと言うなら行ってやらんこともねーぜ」

 

「はは、素直じゃないなぁ匙君」

 

 

 ……。うん、多分呪いの如く『やれ兄貴、それ兄貴』なせいで気にも止めてないんだろうな。

 最近まで精神的疲労で顔色の悪かった木場同級生も笑うようになったし、匙同級生も不器用ながら俺達に付き合ってくれる。

 元浜と松田も、最近問題行動を引っ込めてるみたいだし……うーん、何やかんやで良い方向に進んでるんだなと実感できる。

 

 いっそこのまま彼等を生徒会にスカウトしてしまいたいくらいに、な。

 

 

 

 

 

 

 一誠と匙と木場……ついでに元浜と松田という新たな繋がりが形成されて早数日。

 それまではレイヴェルと白音がちょくちょく手伝うことと、師によって叩き込まれたスキルを駆使して運営していた生徒会も漸く賑わいを見せ始めた。

 

 居心地の悪さ故に、あまり接点の無かった双子の弟にて生徒会長である一誠に受け入れられた祐斗。

 初恋の少女をそのままの意味で『寝取られ』、意気消沈の所を同じく、寝取った男の双子の弟に触発されて這い上がろうとする元士郎。

 

 奇しくも、この三人の共通点は『彼』の存在により『何か』を失った者同士であり、互いに心を開くのに然程時間は掛からなかった。

 

 

「……。まあ、野郎同士で勝手にやるのは構わんが」

 

 

 そんな三人のやり取りを学園で何度か見てきた、元凶たる兵藤誠八は特に気にせずほったらかしにしていた。

 どうでも良い男が、絞りカス化した弟とくだらん友情ごっこをする……ハーレム意識の高い誠八にとって鼻で笑う話であり、勝手にしろとすら思う。

 だがそんな絞りカスと見下す相手である一誠に対し、誠八は一つだけ気に食わない事があった。

 

 それは――

 

 

「一誠さまぁ~!」

 

「一誠先輩」

 

「おぅ!? な、何だよ……ビックリするから急に抱き着くのは勘弁してくれ……」

 

 

 

 

「……………」

 

 

 何故か……何故かあの絞りカスの一誠が知り得ない筈の純血悪魔のレイヴェルに好かれ、そしてグレモリー眷属で唯一自分を異性として見なかった白音に好かれているという所だった。

 

 

「今日の晩御飯は何にいたしましょう?」

 

「うむ……焼きそばが食べたい。

こう、ホットプレートで焼いてその場で食べるみたいな」

 

「良いですね、そうと決まれば帰りに材料を調達に……」

 

 

 

「…………」

 

 

 白と金の髪を持つ二人の美少女に挟まれて校門から出ようと歩く姿を少し離れた箇所から眺める誠八は、それがとてつも無く気に食わなかった。

 何せレイヴェルと白音は十人が十人振り向く美少女だ。

 何の力も無い、主人公から蹴落とした筈の一誠を何故好いているのか……誠八にはさっぱり分からないし、気に入らない。

 そもそもレイヴェルとなんて何時から知り合いになったのか……それが不思議で仕方ない訳であり……。

 

 

「やぁ一誠」

 

「む……」

 

「あら……」

 

「兵藤先輩……」

 

 

 探る意味合いと、美少女を手に入れようという思惑のもと、三人が固まってる所を見計らってコンタクトを取ったのは三日前の事だった。

 

 絞りカスから更に奪って絶望させるのもまた良いのかもしれないと、歪んだ笑みを引っ込めて人の良い笑顔を作りながらてくてくと歩く三人の前に現れた誠八は、ちょうど学校帰りを狙い声を掛ける。

 

 

「何の用だ? 学園でも外でも話し掛けて来なかった『兄貴。』にしては珍しいな?」

 

「いや、正直言うとお前に用なんて無いよ。あるのは――」

 

「「……」」

 

 

 目を丸くする一誠には用は無いとキッパリ告げ、その左右で腕を組ながらこれでもかとくっつきながら、あからさまに『チッ、邪魔な』という顔をしてるレイヴェルと白音に視線を向ける。

 

 

「ねぇ、レイヴェルさんと小猫ちゃん」

 

 

 それに気付かないフリをし、あくまでも人畜無害を装って二人の名前を口にする誠八は二人に微笑む。

 

 

「下僕悪魔の分際で気安く名前で呼ばないで頂けるかしら?」

 

「……。なんですか?」

 

 

 名前で呼ぶ誠八に対し、何処か見下す様な――されど無表情で吐き捨てるレイヴェルと、最近露骨なまでに嫌な顔をする様になった白音。

 その態度に内心舌打ちをするも、美少女だからと考えを即座に切り替え『笑顔』を向けながら口を開く。

 

 

「いや、君等に避けられてる様な気がしてさ……俺としては二人とも仲良くなりたいなぁってね」

 

「「……」」

 

「二人に何をする気だ貴様……」

 

 

 その気になればどんな存在でも簡単に虜にする『笑顔』を向けながらの言葉に、一番にそれの被害者となった一誠が珍しくギロッとした目で誠八を睨み、無言のレイヴェルと白音を庇うように前に出る。

 

 

「何がって、言葉通りの意味だが?」

 

 

 まるで自覚なんて無いような癪に触る笑顔で宣う誠八。

 その笑顔に、一誠は全てを塗り替えられたあの日の事を思い出し眉間に皺を寄せる。

 信じた者達全てを虜にし、それまで自分だったその居場所を乗っ取った……忘れたくても忘れられない忌まわしき思い出を。

 

 だからこそ、一誠は誠八の言葉で察したのだ。

 コイツは性懲りも無く、また自分から大事な存在を奪おうとしてるのだと……。

 

 

「俺が居る目の前でよく言えたな貴様。

その言葉にしたって、結局は自分(テメー)の快楽目的にしか聞こえんぞ? 現にグレモリー3年達は……」

 

「あーん? 別にそんなんじゃねーよ。てか、いい加減邪魔なんだがな……雑魚は引っ込んでて貰えねーか?」

 

「断る。人の意思を自分の思い通りにねじ曲げる貴様に二人を任せられん」

 

 

 故に一誠は退かない。

 レイヴェルと白音が、誠八の戯れ言に惑わされることは無いという確証はあるが、それでも目の前でこんな真似をされて黙ってるなんて出来ない。

 融通が聞かなくてイラつき出したのか、もはや一誠にとっては蚊程の殺気を笑顔のまま放ち始める誠八にハッキリと啖呵を切り、レイヴェルも白音も一誠に同意するように……そして誠八の笑顔に心を揺らした様子もなく抑揚の無い表情で口を開く。

 

 

「えぇ、グレモリー様とシトリー様……あと僧侶の方と学園内で淫らな行為をしてる輩となんて私は仲良くなりたいとは思いませんわ……他を当たって頂けるかしら?」

 

「……。兵藤先輩は同じ眷属の仲間とは『一応』思っていますけど、レイヴェルさんと同じく、先輩方とあんな事をしてる以上……信用が出来ないんですよ。だからごめんなさい」

 

「……………」

 

 

 言葉遣いはまだやんわりだが、それでも『お前の近くに居たら何をされるかわかりゃしない』という意味がハッキリ込められた拒絶の言葉に、誠八は笑顔のままピシリと固まる。

 此処に来て初めて……リアスやソーナ達ですら簡単に落とし、人妻であるグレイフィアすらライザーの邪魔さえなかったら落とせた笑顔が通用しなかったのだ。

 

 

「まぁ、複数の女性――内二名は悪魔の名家である純血悪魔と関係を後先考えて無さそうに持つ方を信用なんて出来ないし、それ目的なら我がフェニックス家が全力以て貴方を排除します」

 

「異性として意識していない方とは私も嫌ですね」

 

「……。そんなつもりじゃ――」

 

「貴方の普段の行動を見てればそう勘ぐるのも仕方ないと思いませんこと? この際ハッキリ言わせて頂きますが、私のこの身と心は全て一誠様のモノですわ。

貴方『ごとき』が干渉する隙間など初めから無い」

 

「同じく。眷属としての仲間としてなら力を合わせる事は出来ますがね」

 

「レイヴェル……白音……」

 

「……!」

 

 

 明確な宣言。

 それはこの世界に強力な力と主人公が持つべき力を獲て成り代わり、思うがままに生きてきた誠八にとっては初めてぶち当たった『思い通りにならない』出来事。

 

 積み重ね、思い通りに生きてき事により増長していた誠八にとってはプライドを傷つけられたといっても過言ではない。

 ましてや、成り代わることにより本来と比べたら絞りカスにしか『見えない』一誠に負けたのだから……。

 

 

「……………………」

 

 

 腸が煮えくり返る。

 チート転生と言われる存在である自分より絞りカスのでき損ないを選んだ雌共に……そしてホッとした様な表情を見せる一誠に……。

 

 

「そう、か俺が嫌いか……。ま、それなら仕方ないか……」

 

「人の心を塗り替え、快楽目的に利用するゲスを好く者なんて居ないと思いますが?」

 

「仲間だ仲間だ綺麗事を言っておきながら、男性である祐斗先輩を蔑ろにする矛盾がある以上……私は好きになれませんね」

 

 

 いつの間にか一誠より前に進み、誠八を軽蔑――いや遥か頂から見下す様な表情と言動をぶつけるレイヴェルと白音に、誠八は無理矢理気絶させてまでも連れ去り、逆らわないようにしてやろうかという衝動的な欲望に駆られるも、それはまだ早計だと必死にその激情を押さえ込もうと下を向き、怒りに歪んだ表情を隠す。

 

 

「お話は終わりですか? なら私達はこれで失礼しますわ。

早くスーパーに行って一誠様がお召し上がりになる焼きそばの材料を購入しなければなりませんので」

 

「部活については、たまには祐斗先輩や私だけじゃなく、兵藤先輩もやってください。

一応先輩の駒は兵士(ポーン)なんですから……」

 

「そういう訳だ。残念ながら兄貴よ……この二人の精神力は貴様の想像以上だ。

故にお得意の『洗脳』は通用せんぞ」

 

「…………………………」

 

 

 そんな誠八の心の内を見透かすように三人は、煽る様な台詞を一言ずつ告げると、うつむきながら少し震えている誠八の横を通りすぎ、さっさと帰ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

 灼熱のような殺意を孕んだ誠八なぞ何の問題もないとばかりに……。

 

 

 

 

 

 

 そんな出来事を実は挟んでいた一誠達だが、それから誠八からのコンタクトは一切無く、学園で顔を合わせても特に何もないまま平和な時間が過ぎていった。

 いや……その怒りを晴らすために旧校舎でハッスルしてる辺りそうでも無いのかもしれないが、師が師であり異常性と過負荷の両面を持つが故に割りと他人にドライな一誠はどうでも良いとばかりに、失いし者である祐斗と元士郎達との関係を進展させていた。

 

 

「うーん、どうしても居心地が良くてつい来てしまうよ……。

今日も部室では兵藤君達がアレだし」

 

「てことはソーナ先輩もか……。あーぁ、あんまり聞きたくねぇ情報だぜ」

 

 

 眷属として疎外感を感じる祐斗と、初恋の人を寝取られた元士郎は別々の眷属なのだが、生徒会長イッセーという共通の居場所を得てからは枠を越えて良好な仲になっていた。

 特にこうして生徒会長室のソファに座り、レイヴェルが出してくれたお茶とお茶菓子片手に話をするだけで、まるで実家にいるような妙な安心感すら感じるくらいだった。

 

 

「またか……ついこの前レイヴェルと小猫に手を出そうと現れ、二人に思いきり拒絶されてから露骨に増えたな……」

 

「悔しさを性欲に変えてる辺りがまたいやらしいですわね」

 

「お陰で此方に来れる理由になれましけどね……私と祐斗先輩は」

 

 

 元浜と松田は3日に一度は其々の用事で来れない時があって本日は居らず、そのお陰で裏の話題を出せる訳だが、もしこの話を二人が聞いたら嫉妬混じりで怒り狂うだろう。

 学園二大お姉様と学園才女と可愛い転校生とチョメチョメしてるのだから余計に。

 

 

「ホント俺って何のために悪魔に転生したんだろう……って最近真面目に考えさせられるわ。

はぁ……初恋なんてしなきゃ良かったぜ」

 

 

 特に元士郎に至ってはこの中での直接的ダメージは祐斗と同レベルで大きい様で、ある程度諦めてるとはいえ、今この瞬間もあの旧校舎でやってるだろう話を耳にするだけで軽く鬱になっていた。

 

 

「寿命と若い期間が多くなったと言えば聞こえは良いが、先輩の眷属である以上、兵藤の馬鹿と先輩がイチャコラする光景を数千年以上も見なければならんとはな……何の拷問だってんだ」

 

「僕なんて塔城さん以外の――――いや『もう一人の僧侶』と僕以外が皆兵藤君にだし、恐らく匙君以上に近くで見せられると思うと胃がキリキリするよ。

部長もシトリー様も魔王様の妹なのに、そのお二人に手を出して兵藤君も只じゃ済まされないかもだけど」

 

「けっ、いっそ打ち首にでもされちまえば良いんだよ。あんな性欲馬鹿なんざ」

 

 

 余程溜まってたのか、あの祐斗が愚痴る愚痴る。

 生徒会室に来るようになっとからずっとである。

 

 

「こうなったら魔王様にチクっちまうか? そしたら少しは兵藤の野郎も……」

 

「いや、やめた方が良いかも。

ルシファー様は男性だから良いとしても、レヴィアタン様は……」

 

「あー……そうかもな。

『チクったらシトリー姉妹丼になってましたー』なんてオチになるかもしれねぇし……チッ、ままならねぇな人生ってのも」

 

「? ルシファーとレヴィアタン? ……。セラフォルー・レヴィアタンとサーゼクス・ルシファーのことか?」

 

「「え?」」

 

 

 少しは痛い目に遇って欲しいという願望が混ざってる元士郎の意見に祐斗が首を横に振りながら懸念材料を口にし、それを聞いた元士郎が舌打ちをする。

 そんな折に会長席で静かにお茶を飲んでいた人間である筈の一誠が、妙に当たり前口調で二名の魔王の名前を声に出し、それを聞いた元士郎と祐斗は少しだけ驚いた表情を浮かべながら一誠に視線を向ける。

 

 

「イッセーくんは知ってたの? 魔王様のこと……」

 

「まぁな。

セラフォルー・レヴィアタンは名前だけで見たことは無いが、サーゼクス・ルシファーは昔フェニックス家で世話になってた時に何度かな……」

 

「せ、世話になってたって……!?

な、なるほど彼女と不可解な程親しそうにしてた理由が今分かったぜ……。

悪魔に転生してないとはいえ、悪魔との関わりは俺達より上だったんだな……」

 

 

 今更ながらレイヴェルと親しい理由の一部を知った祐斗と元士郎は、人間でありながら純血悪魔に好かれる一誠に対する疑問を更に深める。

 

 思えば、元士郎の言った通り一誠は転生悪魔じゃあない。

 だというのにフェニックス令嬢であるレイヴェルからは様付けで呼ばれるし、気難しい塔城小猫からも同様に好かれている……それも誠八の洗脳じみた誘惑すらはね除けるレベルで、しかも今言った通りサーゼクス・ルシファーという魔王と顔見知りだった。

 

 人間であるのは間違いないが、此処まで聞かされると兵藤一誠が何者なのかという純粋な好奇心が芽生えても仕方の無い話であり、そんな二人の好奇心の目に一誠は軽く笑みを浮かべながら……。

 

 

「なに、俺とレイヴェル――いや、フェニックス家全員が持てて奴には持てないものを持っており、奴は――サーゼクス・ルシファーはそれが欲しくて俺達から何かを掴もうとちょくちょく現れたのさ」

 

 

 数年前、まだフェニックス家で半人前にもなってなかった頃にしつこいほど現れては自分達――そして自分達の長とも言える師匠に並々ならぬ執着心を持つ紅髪の優男っぽい魔王を思い出しながら、らしからぬヘラヘラした様子で笑う。

 

 

「イッセーくんとフェニックスさんが持ってるのも?」

 

「それでいてルシファー様が持ってないもの? なんだ。ますますわかんねぇ……。

魔王様が持てないものなんて想像が……」

 

 

 超越者とも言われてるサーゼクス・ルシファーが持ち得ず、一誠やレイヴェルが持ち得るもの? と、此処に来て一誠やレイヴェルの関係を深く知らない事を自覚されられた祐斗と元士郎はうんうんと首を傾げて思案するも、何も分からない。

 そして白音は一誠にムッとした表情を見せており……。

 

 

「一誠先輩とレイヴェルさんだけ。私は除け者ですか……」

 

 

 自分の名前が無かったことにちょっとした疎外感と寂しさを感じていた。

 それに素早くレイヴェルはドヤ顔で反応する。

 

 

「おほほほ、残念でしたわね小猫さん? こればかり意地悪でも何でもない只の事実ですわ。

一誠様や私、そして私の家族は悪平等(ノットイコール)という絶対なる絆で結ばれてますのよ!」

 

「「「悪平等(ノットイコール)……?」」」

 

「お、おいレイヴェル!? 喋りすぎじゃないかそれは……」

 

 

 白音よりも圧倒的に自分の方が一誠との繋がりが強いと強調したかったのか、アッサリと自分達の種族の枠を越えた絆について話してしまう『うっかりテヘペロ☆レイヴェルたん』化してしまったが、バッチリ聞こえた三人に誤魔化しの言葉は……。

 

 

「聞いたこと無いな……」

 

「あぁ、俺もだ」

 

悪平等(ノットイコール)……。

それが昔私と黒歌姉様を助けてくれた先輩のあの不思議な力の正体の一つ……?」

 

「あー……ぁー……」

 

 

 スキルでも使わない限り通用しない。

 かと言って、友達の少ない自分を慕ってくれる相手には使いたくない……。

 一誠はどうしようか悩むのであった。

 

 

 

 

 そしてこの悪平等(ノットイコール)こそがサーゼクス・ルシファーの持ち得ないものであり、何故グレイフィア・ルキフグスが誠八の洗脳に引っ掛かりそうになったのかというと…………。

 

 

 

 

 冥界……グレモリー城

 

 

「あぁ……安心院さん、安心院さぁん……。

どうして僕は駄目なんだ……フェニックス家の皆やイッセー君とは何が違うんだ……!

能力(スキル)が無いから? 心構えがないから? 僕は貴方の背中を任せられると言われてる一誠君が死ぬほど妬ましい……!」

 

「(チッ、また発作ですか、面倒な……)サーゼクス様。

そろそろリアスお嬢様とその眷属とソーナ・シトリー様という複数の女性と関係を持ってる兵藤誠八についてどうするのかご決断をしないと、レヴィアタン様に説明も――」

 

「なに、リアス達のことだって? ふん、僕は知らないよそんなの。

その兵藤誠八だったかの赤龍帝の少年が何かをしたとはいえ、結局は本人達の意思でやってるんだろ? だったら好きにさせれば良いよ。

それで身を滅ぼそうが僕の知ったことじゃないしね。そんなことより僕はどうすれば安心院(あんしんいん)さんの下僕になれるか考えてるんだ。一人にしてくれ」

 

「………………………………………。(また安心院さんですか。誰なのかしらその人は?)」

 

「ああ、安心院さんの椅子になりたい。どうせならあの見下した顔で思いきりグリグリ踏まれたい……! 悪平等(ノットイコール)に……なりたいぃぃ!」

 

 

 サーゼクス・ルシファーはかつて出会った悪平等(ノットイコール)…………いや、一誠の師匠である可愛すぎる容姿と魅力を持つ安心院なじみの『大シンパ』であり、妻のグレイフィアとは単に『グレモリー家の命令』で結婚しただけの冷える冷えない以前の関係だったからだ。

 

 なので、安心院なじみに全ては優先され、その前には肉親なぞ二の次――――というのが、妹のリアスですら知り得ないサーゼクス・ルシファーの正体だった。

 

 

 

 サーゼクス・ルシファー

 種族・悪魔

    冥界四大魔王

 

 

備考………悪平等(ノットイコール)になれなかった男。




補足

……。これまでのを知ってる方にはお察しの通り、サーゼクスさんは安心院さん大信者というね……。

その2
明確にレイヴェルたんと小猫たんに拒否られた兄貴は、八つ当たりの如く一誠から二人を寝取ろうとしてます。
………死亡フラグだと知らずに。

ちなみな話、兄貴は小猫たんもそうですが、その姉の黒歌さんもしっかり狙ってます。
寧ろ、一誠の幻実逃否(リアリティーエスケープ)ではぐれ悪魔じゃなくなってる事を知らず、『面倒な弊害をスルー出来る』と勝手に解釈してます。







…………まあ、実際その黒歌さんは誠八の行動の一部を偶然見てしまってるのと+


『あ、姉様ですか? 見付けましたよ……昔私達を助けてくれたヒーローさん』

『え!? ほ、ほんとに!?』

『はい、私が通ってる学校の生徒会長とをやってますが、間違えないで欲しいのは転生悪魔の方は双子の兄であり、人間の方が正解です』

『転生悪魔の方なら私も見たにゃ。
なんか、複数の女と交尾してたのと雰囲気が全然違うから一発で違うって分かったし……。
そっか、昔の私達を不思議な力で助けてくれた子が……えへへ』

『ただ、彼……一誠先輩を狙ってる手強そうな純血悪魔の人が……。一誠先輩の幼馴染みらしく……』

『むむ……それは手強そうだにゃ。よし、近い内にそっちに帰るにゃ!
ね、ねぇ白音……イッセーは私のこと覚えてるかな?』

『最初は私の事も覚えてませんでしたけど、ジッと顔を見てもらったら思い出してくれました。勿論黒歌姉様のことも……』

『ほんと? よ、よかった……えへへ、なら安心して会いに行けるにゃ……』


 またしても兄貴の思惑をぶち壊すフラグとなっていましたとさ。


レイヴェルたん……ぴーんち。


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匙きゅん……失恋を糧に這い上がろうとするの巻

感想の数だけモチベがめちゃ上がる現金な私です。


さて、そんなわけで今回は匙きゅん覚醒回

……なんて聞こえは良いですが、不快な内容です。


 

 球技大会というのが我が駒王学園にて近々開催される。

 読んで字の如く学年全体が球技による競い合いを行う訳であり、クラス対抗の部・部活動対抗の部と二部構成で行われる体育祭と対をなす盛り上がりを見せるイベントだ。

 

 そんな球技大会には当然俺も出る。

 部活動に所属はしてないので部活対抗の部には出ないが、クラス対抗の部には全力で出るので、近日開催にに向けて個人的な練習を生徒会の業務を片手間にやる。

 

 

「そぉらっ!!」

 

「速っ……!? 避け……否……死……!?」

 

「お、おい……生徒会長の投げたボールが5個に分身する処かポップアップまでしてるんだが……」

 

「本当に人間かよアイツ……」

 

「あぁ……子供の様にハシャグ一誠様も素敵……」

 

 

 クラス対抗の部での球技内容はドッジボール。

 クラスはバラバラでレイヴェルに至っては学年も違うが、お恥ずかしい話、こういった共に練習する相手が匙・元浜・松田同級生とレイヴェルぐらいしか居なく、木場同級生と白音は部活対抗の部の球技内容である野球の練習でグレモリー3年に呼び出されてるので、只今俺は4人相手に投げたり取ったり避けたりの練習を校庭の片隅でやってる。

 

 

「お、おい生徒会長――いやめんどくせぇからイッセーでいいか」

 

「む? 何だ松田同級生?」

 

 

 ドッジボール経験が色々あって皆無に近いせいか、やってみると中々面白い事に気付き、練習でも本番でも手は抜きたくないという癖でついつい色々な投げ方を匙同級生達に試しているのだが、悪魔である匙同級生は流石の身体能力で付いてこれてるのだが、一般人の元浜と松田同級生は投げる度に吹っ飛んでしまって練習にならん。

 

 いや、松田同級生はそれでも結構いい線をした身体能力を持ってるのでアレなのだが、元浜同級生はまんま見た目の身体能力だった。

 

 

「俺は元々運動が苦手って訳じゃねーから何とかなるが、元浜にはもう少し手加減してやってくれーねーか? さっきからイッセーのボールがバカスカ当たってるせいで――」

 

「は、はらほへぇ……?」

 

「………。パンチドランカーのボクサーみたいになっちまってるからさ」

 

「む」

 

 

 次は何も考えず全力で投げてみるかと思った矢先、気の毒そうにフラフラな元浜同級生を見ながら松田同級生が俺に加減をしてくれと懇願してきた。

 言われてみれば、元浜同級生にボールを投げても避けもせず取りもせず顔面キャッチしかしなかったのをちょっと冷静になって思い返し、生まれたての小鹿みたいな姿を見て自重する事にした。

 

 

「うむ、確かに人には得意・不得意があるしな。

すまんな元浜同級生よ……痛かったか?」

 

「め、めっちゃいてーよ! てか、ドッジボールなのにプロ野球選手ですらしそうも無い変化球だの魔球だのを楽しそうに投げるお前は何なんだ!」

 

 

 どうやら元浜同級生も限界だった様で、フラフラしながら俺に指差しながら怒っている。

 むむ……怒らせてしまうとは、失敗してしまったか?

 

 

「すまん、練習でも本番でも手を抜きたくない主義でな。ついつい……」

 

「ったく、そういやお前って去年の球技大会や体育祭も一人で無双してたっけ。

最近はレイヴェルたんと小猫たんに好かれてる妬ましさで忘れてたが……ちきしょう」

 

 

 ブツブツと言いながら練習の為に外していた眼鏡を掛ける元浜同級生。

 どうやら然程怒ってない様子で一安心した……本気で怒ってたら即帰る筈だしな……っと?

 

 

 

「いくわよ皆~!」

 

 

 そんな小話を挟み、ちょうどキリの良いところで小休憩をと皆で休んでいた時だった。

 邪魔にならんようにとグラウンドの一番端っこで休憩していた俺達の目に映ったのは、部活動対抗の部に出るつもりなのか、野球の練習をしているオカルト研究部のメンツだった。

 

 

「よっと……」

 

「良いわよセーヤ!」

 

「わぁ、凄いですセーヤさん……」

 

「うふふ、頼もしい限りですわね」

 

 

 

 

 

「オカルト研究部って文化部なのにアグレッシブだよなぁ」

 

「ま、モテモテ野郎で完璧超人様の兵藤誠八がいるからだろ。ったく、練習でもナチュラルにイチャ付きやがって」

 

 

 グレモリー3年がノックで打ち込んだ球を其々が、悪魔の身体能力が故に華麗にアルジェント同級生以外がキャッチする光景と、キャッチする度に誉められる兄貴の姿を見て元浜と松田同級生が妬ましそうに睨みつつ悪態を付いている横で、俺は木場同級生の様子が変な事に気付く。

 

 

「なぁイッセー」

 

 

 それは直ぐ横に居た匙同級生も気付いたようで、不審がるような表情で首をかしげながら話しかけてくる。

 

 

「木場の奴、この前から変じゃねーか? なんつーか『心ここにあらず』みたいな」

 

「うむ、確かにな」

 

「たしか、数日前辺りからでしたわね」

 

 

 グレモリー三年のノックを何度もエラーし、危うく顔に当たりそうになったのを白音にフォローされて事なきを得る姿を見ながら、白音にエールを送るのに夢中になってる元浜と松田同級生に聞こえない声量で話し合う。

 

 そう、レイヴェルが言った通り、木場同級生は3日程前から様子がおかしい。

 何時もの理由で生徒会室に来てくれるのだが、こう……最近は口数が少なくボーッとしているというか……。

 

 

「ちょっと祐斗! さっきからボーッとしてるわよ!」

 

「ぁ……すいません……」

 

 

 その様子は兄貴シンパでヤバくなってる連中も気付くれべるのようで、グレモリー3年の激にもボーッとした返事なのが俺達から見えた。

 しかも、何故かそのボーッとしてる木場同級生を見て兄貴がまるで『なにかを待ってる』かの様にニヤニヤしてるし……うーむ、彼から話をしないということは何か難しい個人的な問題という奴なのか?

 何れにせよ無理に聞くわけにはいかぬし、それよりも……

 

 

「セーヤくん、頑張って下さい」

 

『応援してます!!』

 

「あ、ソーナ先輩と皆……」

 

 

 匙同級生にとっては耐えられないだろうあの絵面についてどうフォローすべきかも考えなければ――――と思ったが。

 

 

「む、おい匙同級生。

あそこにシトリー3年とその眷属が居るぞ?

どうやら完全に兄貴シンパになってしまってる様だが……」

 

「知らね。

もうどーでも良いわ、何も女は先輩やその眷属だけじゃねーし」

 

「あーぁ、匙さんに見限られてることに気づかないせいで……」

 

「あ、あの野郎……! あんな沢山のおんにゃのこにまで!」

 

「死ね! てか死ね!! 羨ましいんじゃボケ!!!」

 

 

 匙同級生は結構ドライなのか、既にシトリー3年に続いてその眷属達が兄貴シンパになってる様子を見てても実に『冷めきった』様子だった。

 寧ろ『くだらん』と切り捨てる様子を見せる辺り、何となく俺に通じるものがあるような無いような……。

 

 

「洗脳だろうが何だろうが、本人が幸せなら良いやもう。

兵藤の馬鹿には借りを返すが、その周りはどうでも良いし」

 

 

 いや……似てるで間違いないな、匙同級生は。

 フッ、このまま積み重ねられれば、その内後天的な悪平等(ノットイコール)になれるかもしれんくらいには俺に似てるよお前は。

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 悪平等(ノットイコール)

 あの日兵藤一誠とレイヴェル・フェニックスは自らをその括りとして名乗った。

 曰く、悪魔でも堕天使でも天使でも妖怪でも……そして神でもない。

 そんなくだらない種族の壁を越え、真に上り詰めた者だけがイッセー曰くの『師匠』に名乗ることを許される存在らしい。

 

 それだけしか話は聞けなかったが、どうやらその悪平等(ノットイコール)ってのは並みの存在にはなれないらしく、イッセーの師匠は神ですら平等に見下せる人外だとか。

 

 そんな話を聞かされた処で、『なにを馬鹿な』と思う訳であり、現に俺も最初は只の虚言だと一笑していた。

 けれどレイヴェル・フェニックスと同じくイッセーに好意を持つ塔城小猫だけは、何処か納得した表情を見せていた。

 どうやら彼女はその昔、イッセーに不思議な力で助けられたらしく、俺と木場はイッセーが神器(セイクリッドギア)を持っていたのかと思っていたが、それはどうやら違うらしい。

 

 

「おぉい!! 野球の練習しろよ兵藤!!」

 

「なぁに大量の女の子から抱きつかれてんじゃボケ!!」

 

「まぁた人目も憚らずですわね」

 

「一種のステータスだなあれは」

 

 

「………………」

 

 

 

 神器(セイクリッドギア)じゃなく、能力保持者(スキルホルダー)とイッセーはそう自分の持つ力を自称していた。

 曰く神が封印してばら蒔いた力とは違う。

 曰く神に反逆可能な力。

 

 

 曰く……失った者が抱いた絶望(マイナス)希望(プラス)を糧に発現させられる力。

 

 

 別に研究者気質がある訳じゃないが、俺はそれが気になって仕方ない。

 人外の師匠という存在も、絶対に裏切らない究極的な絆を持つ悪平等(ノットイコール)という繋がりも。

 俺――そして恐らく木場が欲しがる全てを今のイッセーは持っている。

 

 ここ最近ずっとイッセーの所に来ては愚痴ったり他愛の無い話をしていたが、俺も木場もイッセーが提供してくれたこの場所に其々の眷属同士が持つ薄っぺらい絆より居心地が良いと感じてしまう。

 

 そりゃそうさ、何たってコイツは――イッセーは俺がどんな八つ当たりとしか言えない愚痴を言っても怒ることなく野郎の癖に包み込んでくれる。

 

 

「仕方ないな、何やらグラウンドを占拠し始めての取り合いが始まってしまった様だし、注意をしても取り合わんだろうから今日の練習は此処までにするか。

おい元浜と松田同級生、野次なんて飛ばしてないで先に生徒会室に行ってろ」

 

「ファック!」

 

「地獄に落ちてしまえ!!」

 

「ふむ、後で小猫さんと木場さんと合流確実ですわね、あの様子だと」

 

「…………」

 

 

 初恋に夢中になってた時……つまりソーナ先輩相手からは感じなかった絶大なる安心感。

 恐らくそれは、双子の弟故に俺達以上に色々と奪われ・失い、それに腐らずバネにして人知れず悪平等(ノットイコール)なる存在に昇格するまで這い上がれたからこそ出せる一種の説得力なんだろう。

 だから俺も木場も毎日コイツの所に来てしまう。

 

 兵藤誠八の行動に嫌気が刺し、初恋の人を文字通り寝取られえ疲れた心を癒すために――いや、癒えても多分イッセーのもとへと行ってしまうのだろう。

 

 

「ん、どうした匙同級生?」

 

「ふっ、別に? 生徒会室に戻るなら茶の用意が欲しいぜってな」

 

「なんだそんな事か、当然用意するぞ。

お前と木場同級生が俺達を必要としなくなるまで付き合うつもりだからな」

 

「………。すっかり私と一誠様の愛の巣が皆様の喫茶店になってしまいましたわね。

まぁ、一誠様が楽しければそれでよろしいですが」

 

 

 いっそお前がもし女だったら確実に惚れてたろうな、俺も木場も。

 其れほどにお前のところは自覚してねーだろうが居心地が良い。

 

 

 

 

 

 

 眷属の絆なんて『くだらねーカス』とすら思えるほどにな。

 そうだろ? だって――

 

 

「あら匙? そんな所で何を――」

 

「球技大会の練習ですよ先輩。

ですが、アンタ等がゴチャゴチャと喧しいせいで中止になり、代わりに生徒会室で美味しいお茶会っすわ」

 

 

 もはや今のこの人に声を掛けられようとも……。

 

 

「はい? 何ですかその口の聞き――」

 

「おっと、昔の俺はこんな口調じゃないっすか。

人目も憚らず醜く一人の男を取り合ってるアンタに失望の一つぐらい許せよ、器が小せぇなー?」

 

 

 なーんにも思わなくなっちまったんだもん。

 

 

「なっ!? 何ですっ――」

 

「おい、木場と塔城さんもこんなくだらねー茶番に付き合ってねーで此方来いよ。

何でもイッセーが地方で手に入れた美味しいお茶がどうとかってよー」

 

 

 俺は負けたのだ。周りを思うがままに虜に出来るなんてクソくだらねぇ奴に負けたのだ。

 その時点で俺の気分は急激に冷めてるし、目が覚めた事で冷静になった思考のもと、呆れ顔の顔のイッセーとフェニックスさんには悪いが、この程度の一言くらいこの人に言っても『俺は悪くねぇ。』

 

 

「おい匙同級生……お前」

 

「へぇ……意外な早さでしたわね」

 

「見れば見るほど冷めちまってな。まあ、一言くらい言ってもバチは当たんねーだろ?」

 

 

 俺にこんな事を言われるなんざ思っても無かったのか、シトリー様は少々ショックを受けたご様子で此方を見てくるのを無視して、居心地が良すぎる居場所をくれた二人の悪平等(ノットイコール)とやらにヘラッと頬を緩める。

 

 くくっ、逆らわれるなんて夢にも思わず、そんなツラになってるとしたらめでたい思考回路だぜ。

 ただまあ、それでもアンタ等はグレモリー共と醜く兵藤の馬鹿の取り合いで幸せにでもなってなさいよ、俺と木場と塔城さんはそんなもんに巻き込まれるのは御免被るんでな。

 

 周りの女共と性欲馬鹿の取り合いをするのが幸せかは知らんがな。

 

 

「ちょっと待ちなさい匙!」

 

「そうよ、小猫と祐斗は練習を――」

 

「練習ぅ?

……ハンッ! そこでそ知らぬ馬鹿ツラ晒してる奴を大人数で取り合うのを白けた目で見るのが練習なんすか? 聞いたことねーなそんなの」

 

 

 まだボーッとしてる木場と、帰りたいオーラがずっとの塔城さんを連れ出そうとする俺に、反抗的なのがお気に召さない『我が王様。』と木場と塔城さんの王様が……いや、兵藤シンパの全員が殺気立って此方を睨んでらぁ。

 ったく、どこまでも俺を失望させてくれるぜ……っと?

 

 

「兵藤一誠……でしたね。最近匙と親好があると聞いてましたが、匙に何をしたのでしょうか? 少し前までの匙にまるで違う」

 

「そうね、うちの小猫と祐斗も最近反抗的だし、セーヤに嫉妬したアナタの入れ知恵かしら?」

 

「…………は?」

 

 

 おいおいおいおい、此処に来てイッセーに矛先変えやがったぞ? そらイッセーもポカーンとするわ。

 

 

「何をほざいてますの、このカス共は?」

 

 

 にしても無知って幸せだよな。

 イッセーにそんな真似したら、今ボソッと声を出したフェニックスさんがヤベーのによ。

 ハッキリ言って、フェニックスさんって絶対にこの連中なんて束でも捻り潰せる『迫力』があるのにね……。

 

 

「いや……俺はなにもしてないぞ? 寧ろ匙同級生が貴様等に啖呵を切るとは思わず、俺も驚いてるというか」

 

「そりゃそうだ。俺も話し掛けられなかったら言わんつもりだったしな」

 

「「………」」

 

 

 シンパどもの殺気を受けても平然としながら返すイッセーに、グレモリーと先輩――いや、『シトリー』は信じちゃ居ない様子なので、俺が横から補足する。

 ふぅ、先に元浜と松田の二人を生徒会室に向かわせて正解だったな……。

 

 

「ただ、まぁ……匙同級生もそうだが、木場同級生や小猫を蔑ろにして兄貴の取り合いに興じてればこうもなると俺は思うぞ?

生徒会室に来る理由だって、それに対しての不満だしな」

 

「なっ……」

 

「アナタ達、そんな事を彼に!?」

 

「そっすよ」

 

「え、まあ……」

 

「寧ろ当たり前だと思いませんか? 悪魔の仕事すらこっちに押し付けてるんだし、愚痴やら不満の一つくらい生まれるでしょうに」

 

 

 塔城さんの言う通りだわ。

 てか割りとシレッとハッキリものを言うよな塔城さんって。

 流石フェニックスさんとやりあえるだけあるぜ。

 

 

「へぇ、二人に不満があるのか……だったら眷属やめたら?」

 

 

 表だって言われると思わなかったのか、顔を歪める連中にちょいとスッキリした気分になると、それまで静観顔していた兵藤の馬鹿が待ってましたとばかりな空気を隠しもせず俺と木場…………ん? 俺と木場だけにそう言ってきた。

 

 あぁ、塔城さんは女の子だからってか? 救いようのねぇ馬鹿だなコイツ。

 

 

「やめさせて貰えるならやめるが? まあ、決めるのはシトリー様だが、この様子じゃあ直ぐに叶いそうだなぁ?」

 

「っ……匙……!」

 

「祐斗と小猫はどうなの!?」

 

「どうって……居心地の悪い空間から出られるのであれば僕は吝かじゃありませんけど」

 

「祐斗先輩と同じく。寧ろ私たちが居なければ気兼ねなく、互いをまさぐり合えるのでは?」

 

「う……」

 

「ふ……くっふふ……!」

 

 

 こんなにアッサリ辞めると言われるとは思わなかったのか、ムカつくヘラヘラ笑ってた兵藤も驚いてる様子だった。

 考えなくてもわかるだろうに……それほど周りが見えてない証拠か? ガッカリだぜ本当、そらフェニックスさんも笑うわ。

 

 

「ま、そういう訳なんでクビにしたければお好きにどうぞ。出来れば早めにね。

じゃ『また今度とか。』」

 

「僕も失礼します」

 

「練習なら個人でちゃんとやりますので、私もこれで失礼します」

 

 

 ほらな、木場と塔城さんも見限り始めてらぁ。

 

 

「ま、待ちなさい! 話はまだ終わってないわ!」

 

「戻りなさい!」

 

 

 戻っても話なんて進展しねーだろう? 誰が戻るか馬鹿らしい……んな事より今から生徒会室に戻ってこの話を肴にしてお茶会した方が絶対に楽しいわ。

 背後から聞こえる喧しい声をBGMに、俺と塔城さん……そしてさっきまでボーッとしていた木場までもが密かに口を半月の形に歪めた笑みを浮かべると、『はぁ、仕方のない奴だ』と言いつつ、俺達を許すように緩く微笑んでるイッセーとフェニックスさんと共にその場を去るのであった。

 

 

 

 

「…………………………クズ共が……!」

 

 

 プライドを傷つけられた馬鹿が勝手にキレてようが、俺は知らんな。

 

 

「おい、匙同級生よ。あんな啖呵を切ってしまって大丈夫なのか? 今の兄貴シンパな彼女等なら簡単にお前を――」

 

「構いやしねーよ、寧ろクビを切られた方がお前等と堂々とツルめるしな」

 

「むぅ、何か起こらなければ良いが……」

 

 

終わり。

 

 

 オマケ。

 全てから逃げられたお姉ちゃん。

 

 

「此処がイッセーのお家……」

 

 

 一誠達が学園で青春している頃、当然その間は留守になっている筈の一誠宅のアパートにて、一人の少女が上がり込んでいた……閉められていた鍵をピッキングして。

 

 

「すんすん……にゃにゃ……白音の言ってたレイヴェルって子の匂いが混ざってるけど、ちゃんとイッセーの匂いもするにゃ……えへへ」

 

 

 かつて修行の片手間で襲われていた所を、一人の少年に姉妹共々助けられた姉の方。

 名を黒歌という猫妖怪の上位種である少女は、はぐれ悪魔という現実を、転生悪魔だったという現実をも否定し、逃げさせて自由にしてくれた少年の変わらない匂いに一人頬を染めながら、成長し青年になっただろう彼が生活している空間を全身で満喫していた…………モロの不法侵入で。

 

 当然犯罪なのだが黒歌にその自覚は全く無く、匂いを頼りに何故か押し入れから探し当てた枕と掛布団にスーハースーハーしている。

 

 

「変わらないにゃ……あは、あははは♪ あの時のイッセーの匂いだにゃぁ……♪ 早く、早く会いたいな」

 

 

 枕、掛布団。果てには洗濯籠にあったYシャツにまでスーハースーハーしている黒歌は、家主の許可無しにトリップする。

 それはまるで……………ストーカーの様に。

 

 

 黒歌

 種族・猫妖怪。

 

 

備考…………少なくとも一誠とレイヴェルに悟られないレベルのスニーキングスキルを持つ、半ストーカー

 

 

 

 

 

「……。うぬ……!?」

 

「? どうされました一誠様? 窓の外に何か?」

 

「いや……こう、背中にゾゾッとしたものが」

 

 

To be continued?




補足

一足早く匙きゅんが見限りだしました。
そして前話と今話の間に触りだけ聞いた悪平等(ノットイコール)に興味津々。

え、言葉遣いが負完全っぽくちょくちょくなってる?
それは気のせいさ。


補足2
黒歌さん然り気無く凄い&ちょっとアレな巻。
早く会いたくて色々と突っ切ってます。


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閑話・木場きゅんのお悩みと行動

スゲー大量の感想に嬉しくなってしまいました。
本当にありがとうございます。


さて、今話は王を見限った匙きゅん……に続き、木場きゅんのお悩みと、オマケです。


 俺の所に顔を出し、不平不満を毎日のように愚痴りに来るようになってから、何時かはこうなるんじゃないかとは思ってたが……ふむ、どうやら匙同級生は完全に現状から脱却したがってしまったようだ。

 

 まるで昔の俺みたいに兄貴シンパと化してしまった周りを拒絶し始めてる。

 ん? それは嫌な事から逃げてるから悪いことじゃないのかだと?

 

 いや、別に俺はそんな事思わんな。

 そもそも俺は『黒神めだか』みたいな『王道』な道を歩んでる訳じゃないし、今じゃ兄貴シンパ化してる肉親よりも遥かに超越している強い繋がりがある人達が俺を俺としては認めてくれているのだ。

 

 これが黒神めだかなら、兄貴すら改心させてしまうのだろうが俺は違う。

 最早、兄貴の洗脳じみた魅力なんて何の効力もない皆との繋がりをさえあれば、更なる人数の女性を虜にして肉体関係を持とうが何してようが俺はどうとも思わん。それが兄貴のやりたい人生なんだろう? だったら勝手にやればいいよ……俺の大事な人達に干渉さえしなければな。

 あぁそうさ……俺ってかなり性格が悪いぞ?

 

 

 人であって()()()()……それが俺、兵藤一誠の現在(イマ)であり、王道も卑怯も結構だと俺は思っている。

 だから、友人である匙同級生がそうしたいのであれば俺は匙同級生――いや、元士郎を全力でバックアップするつもりだ。

 かつて白音と、その姉の黒歌の身に降り注いでいた『現実(イヤナコト)』を否定し、都合のいい『幻想(ゲンジツ)』に逃げさせた時のように、な。

 

 なじみの言ってた通り兄貴が俺の『成り代わり』とやらになってるのであれば、俺は構わんと思ってる。

 昔はその理不尽さに絶望したが、さっきの通り俺にはもうそれすら小さく見えてしまう程の大事な繋がりが出来たのだ。

 

 故に成り代わりになりたければなれば良い。

 俺はお前の存在を否定も肯定もしない……兄貴の魅力に身体を明け渡す連中についても同じくだ。

 勝手にやってろ学園内以外でならな――――尤もこれだけは言っても連中は聞いてくれんが。

 

 

「中止とはな……」

 

 

 さて、そんな訳で匙同級生がシトリー3年に完全な反抗心を示してから数日の今日、待ちに待った球技大会当日となったのだが、俺達は今生徒会室でのんべんだらりとしていた。

 理由はそう……窓の外に映る強い雨が理由で球技大会が中止となってしまったからだ。

 一応午前までは晴れてたので、一試合ずつはできたのだが……うむ、思いきり身体を動かそうと思ってたので、この中止を受けて実に残念な気持ちとなってしまった。

 

 なので、有り余る体力を発散しようと思った俺は――

 

 

「2602……2603……2604……!」

 

「一誠様ファイトですわ!」

 

 

 背中にレイヴェルを乗せた腕立て伏せに興じていた。

 フェニックス家で鍛練していた頃と比べると、明らかに戦闘勘が鈍ってしまってるし、久しぶりにレイヴェルと二人きりだという変な理由で基本的な筋力トレーニングをやりながら会話をする。

 家に居る時と大体同じような内容の会話なのだが、最近はレイヴェルが近くに居て当たり前と思ってるせいか、変な安心感も感じる。

 

 

「4000っと……ふむ、こんなもんかな」

 

「お疲れさまです」

 

 

 恐らく長く居たからだろうか。

 上手くは言えんが安らぐんだよね……実家に居るような気分というか。

 一番素になれる相手の一人なのが俺にとって大きいからだな。

 

 

「それにしても、今日も木場同級生は心此処にあらずだったが大丈夫だろうか……」

 

 

 一通りの筋力トレーニングを終え、軽く流した汗をタオルで拭き取った後、脱いでたYシャツに袖を通しながら此処数日の木場同級生についてふと思い出したように声に出す。

 

 というのも、俺達と共に居る時でも球技大会の時でもずっと何処かボーッとしてるというか、何かを考えているというか……。

 

 

「最近街に新しい気配を感じる……」

 

 

 最近街の空気もそれと平行して違和感を感じる事が多くなった。

 こう、淀みがあるというか……よからぬ前兆というか。

 これは調べるべきなのか……うむ、迷うな。

 

 出る杭をさっさと地中に埋め込むべきなのは分かるが、木場同級生の様子がこの違和感と関係があるのなら、何も相談されてない状況で動くべきではないのか。

 

 

「堕天使・コカビエルが天界陣営が保管している聖剣を奪取してこの街に現れたみたいですわね。

昨日兄から連絡が……」

 

「何?」

 

 

 迷う。

 そんな俺の考えを察してたのか、お茶の用意をしてくれたレイヴェルが兄から連絡があった話を俺に説明してくれたのだが……。

 

 

「天使陣営とはまるで関わりも興味もないから聖剣は良いとして、コカビエルというのは……」

 

「ええ、一誠様のお察し通りですわ。

神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部のコカビエルですわ」

 

「…………」

 

 

 俺としてはコカビエルという名前の方が気になり、確認の意味合いでレイヴェルを見つめると、レイヴェルはコクリと頷いて肯定して見せたので、多分今の俺は渋い表情になって小さく唸った。

 コカビエル……聖書にも乗ってる有名どころの堕天使――――なのはどうでも良い。

 肝心なのは……。

 

 

「ふむ……他人事って訳にもいかなそうだこれは」

 

 成り代わりとやらになってくれた兄貴とその取り巻きにはちと荷が重い相手だし、何より様子のおかしな木場同級生の理由がそれなら無視なんてできない。

 俺は近々起こるだろう大きな騒ぎを急に降りだした雨の様な不穏な空気と共に予感しつつ、鍛練を怠らぬよう戒めるのであった。

 

 

 

 最近の僕は前に比べたら大分ストレスを感じなくなった。

 それは、兵藤くんの双子の弟でありこの学園の生徒会長である兵藤一誠くんが僕達に向けて言ってくれたこの一言のおかげだった。

 

 

『木場同級生も匙同級生も暇だとか居心地が悪いと思ったら何時でも来い……。愚痴くらいなら俺でも聞けるからな』

 

 

 双子の兄のしていることに対しての謝罪のつもりなのかは図りかねなかったけど、僕は少なくともその言葉が何よりも嬉しかった。

 兵藤君が仲間として加わってから徐々に感じるようになった疎外感と人目も憚らずやっていることによる居心地の悪さで胃がキリキリ痛むほど辛かったので、余計にイッセーくんのその言葉に救われ、甘えてしまう。

 

 だからこそ僕は言えない。

 いくらイッセーくんがフェニックスさんと親しく、悪平等(ノットイコール)という不思議な繋がりを持つ人だとしてもこれだけは言えない。

 最近見てしまったあの写真のせいで、僕の復讐心が戻っていることに。

 

 

「最近の貴方はおかしいわ。

兵藤一誠に何か言われたか知らないけど私に小猫共々反抗

するし」

 

「………………」

 

 

 恐らくイッセーくんはこんな気持ちを持つ僕を軽蔑するかもしれない。

 だから言えない……言いたくない。

 

 

「……。私も祐斗先輩も反抗じゃなくて単なる意見を言っているつもりなのですが」

 

「っ……とにかく二人ともこれ以上彼と関わるのは止めて頂戴。

セーヤが言うには、彼は他人を言葉巧みに騙すような――」

 

「失礼します」

 

「っ! 待ちなさい祐斗!」

 

「文字通りに話になりませんね」

 

「小猫まで! 話は終わってないわよ!!」

 

 

 今の僕は、思い出した復讐心で視界がぼやけてるだなんて……言えないよ。

 

 

 

 

 

「ハァ……リアス部長にも困りましたね。

予想はしてましたけど、兵藤先輩が一誠先輩についてあること無いことを吹聴し、それを全面的に信じてますよ」

 

「はは、そうだね……」

 

 

 この前匙くんがシトリー様に対して『眷属脱退』を堂々と宣言してから、あからさまに部長が僕達に対してイッセーくんとの接触をさせまいとしてくる。

 だけど塔城さんはそんな部長の言葉を殆ど無視しており……こうして生徒会室に一緒に向かってる僕も同じくだ。

 匙くんの言った通り、兵藤くんを取り合ってる光景をただ眺めてるくらいならイッセーくんのもとへ行った方が比べるのもおこがましい程にマシだと最近は思い始めてしまってる。

 

 というより、兵藤君にとってすれば男である僕が居なくなった方が都合が良いんだろうなと思うんだ。

 この前だって『嫌なら眷属をやめたら?』なんて平然と言ってきたしね……女の子である塔城さんには言わなかったけど。

 

 

「それにしても、祐斗先輩は大丈夫なのですか?」

 

「ん、何がだい?」

 

 

 部長には拾われた恩がある。少なくとも兵藤くんが加わる前の部長には本気で忠誠を誓っていたつもりもある。

 けれど最近の部長は本当に変わってしまった。

 兵藤君を他の女性と取り合いし、それに夢中すぎて本来の悪魔の仕事はほぼ放棄。

 その穴を僕等が何とか埋めてきたけど……ふふ、もう色々と限界なんだよ。

 

 匙くんじゃないけど、眷属をクビにしてくれるならしてくれて良いくらいだ。

 その方が、よくよく考えても復讐に走りやすいし……って、こんな事を考えてるのが塔城さんにバレてるみたいだけど。

 

 

「確か兵藤先輩の自宅で写真を見てから様子が変わりましたよね? ………剣が写ってる写真を見てから」

 

「え、あ……」

 

「私は……今だから言いますが、昔助けてくれた人――つまり一誠先輩の行方を探るため、権力があって加わりやすい悪魔に転生しただけなので、他の皆さんが何故リアス部長の眷属になったのかは深く知ろうとしませんでした。

が、今になってそれを後悔してます……祐斗先輩が何故悪魔に転生したのかを知らないのを」

 

「と、塔城さん……」

 

 

 うん、僕もキミがそういう理由で悪魔に転生したなんて初めて知ったよ。

 でもごめん……。

 

 

「言えない。

いや、本当は言って楽になりたいけど、これを言ったらイッセーくんに幻滅されるかもしれないし……」

 

 

 剣……それも強い力を込められた聖剣と呼ばれる代物を恨んでいるだなんて言えない。

 だってこれは僕個人の問題であり、無関係のイッセーくんが関わるべき事じゃないんだ。

 僕の復讐とイッセーくん達は関係ない……。

 

 

「……。そうですか。

恐らく何をカミングアウトしても一誠先輩は幻滅なんてしないと思いますが、言いたくなければ深くは聞きません。ただ……」

 

 ただ言えないとだけしか言えない僕を見て察したのか、気を回してくれたのか、深く追求することなく頷いた塔城さんがジーッと……『まるで見透かす』ように僕を見つめると……。

 

 

「勝手に居なくなるのはやめてくださいね? そうなったら友達の少ない一誠先輩や私達が全力で探し、無理にでも連れて帰りますので」

 

「うっ……」

 

 

 心臓を鷲掴みにされたかと思うような一言を、軽く口元を緩めながら言ってきた。

 そしてその瞬間気付かされ、自然と乾いた笑い声が無意識に出てしまう。

 

 

「ふ、はは……連れて帰るか。

今のリアス部長達から同じ台詞は聞けそうもないし、最近は期待もしてないけど……そっか、塔城さんやイッセーくん達なら本気でやりかねないな。はは、参ったよ」

 

 

 そうだ……言えないだ何だのと言い訳がましく思っているけど、本当のところの僕は言いたいのだ。

 聖剣のせいで大切な人達を奪われ、聖剣のせいで失い、聖剣のせいで心が晴れない。

 

 だから自分は存在する聖剣を全部壊して楽になりたいと、僕に安心感を与えてくれるイッセーくんに全てぶちまけたいのだ。

 恐らく塔城さんの言う通り、聖剣に対する拭えない復讐があると言ってもイッセーくんは幻滅なんてしないだろう。根拠なんて無いけど何と無く確信できる。

 

 不思議だな。

 会って間もないのに、こんなにも僕は彼を信頼している。

 初めて見た時に感じた絶対的なオーラに平伏させられる気持ちになったから? それとも話してみるとビックリするくらい気さくだったから? それは分からないけど……。

 

 

「ねぇ、兵藤くんに傾倒してる女性達ってこんな気分なのかな塔城さん?」

 

「は?」

 

「会ってまだそんなに経ってないのに、何故か僕は彼に話をしたいと思ってるからさ」

 

「あぁ……。一誠先輩も友達が少なく、強者オーラを纏ってるせいで近寄られませんからね。

慕ってくれる人が居ると心のそこから嬉しくなって面倒見が良くなるんですよ」

 

 

 復讐がしたいと言っても、イッセーくんは否定せず僕を受け入れてくれる。

 だから今は話しても良いかもしれない……そう思えてならないのさ。

 

 

 次章……過去との決着と這い上がる男の子達に続く。

 

 

 

 

 

 

オマケ

その頃の黒猫お姉ちゃん……その2

 

 

 イッセーは学校に行ってて家に居ない。

 本当は本人にこうしたいけど……

 

 

「イッセーの使ってる毛布……イッセーに包まれてるみたいで最高だにゃ~♪」

 

 

 いきなり出て来ても困っちゃうだろうし、何よりも白音曰くレイヴェルって子に邪魔されちゃう。

 勿論そんな事で私も白音も諦めないけどね。

 

 

「イッセーのYシャツ……イッセーのパジャマ……イッセーの下着……えへ、えへへへ♪」

 

 

 追われていた私達を偶然通りかかった、まだ小さかったイッセーに助けられ、ボロボロに疲弊した身体を不思議な力であっという間に消し、挙げ句の果てにははぐれだった現実と転生悪魔だった現実まで『無かったことに』否定し、自由の身にしてくれた。

 あの時のイッセーは私達に……

 

 

『修行してる最中の偶然が重なったからな。別に感謝しなくてもいいぞ。

寧ろ俺としても幻実逃否(リアリティーエスケープ)を制御出来るか確かめられたし、逆に感謝すらしたいぞ』

 

 

 力の名称? を話ながら、お礼なんて言葉が生温い恩を抱く私と白音にそう告げながら行ってしまった。

 本当ならその時点で何かしらの理由を付けて引っ付いてしまえば良かったのだが、修行の邪魔になってしまうと考えると躊躇してしまう。

 だから絶対に再会しようと心に誓い、今度会ったときは絶対に強くなってるだろう姿を思い浮かべながら、私と白音も出来る限りは己を高めた。

 

 そのお陰かは知らないけど、私には種族の力とは別の……変な力が備わった気がする。

 名前はわからないけど、これを意識して使うと『誰も私に気付かない』のだ。

 真後ろに立とうとも、頬をつついてもその人は私に気付かない。

 暗殺とかにめちゃくちゃ便利なよくわからない力。

 

 それがあるから……ふふ♪

 

 

「イッセーに気付かれないのは寂しいけど、おかげでこうしてイッセーの物を堪能できるにゃん……♪」

 

 

 イッセーの私物を堪能できる。

 正直、一度目で止めようと思ってたけど止められない。

 イッセーの匂いがする服や、布団にくるまうだけで薬物みたいな依存性が……

 

 

「あ、ぁ……お腹が切なくなって来ちゃったにゃ……ん……っ……」

 

 

 有り体にいうと発情しちゃう……ってことだにゃん。

 でも誤解しないでね……この気持ちになれる相手はイッセーのみだよ。

 

 

 本日の黒猫お姉ちゃんが手にした私物。

 

イッセーの毛布。

イッセーが昨晩洗濯籠に入れた、洗う前のYシャツと下着。

 

 本人にストーカーの自覚は…………無い。

 

 

 

 

 その夜。

 

 

「…………? なんだ、最近俺の毛布やら布団からレイヴェルでも白音でもない匂いが……?」

 

「どうされました一誠さま?」

 

 

 レイヴェルが住むようになってからの一誠は、寝室を空の押し入れにしており、今日も疲れた身体を休めようと使用してる毛布を被ったのだが、この前からマイ毛布から一緒に住んでるレイヴェルでも、高頻度で遊びに来る白音でもない別の匂いがする事にとうとう気が付き、首を捻りながら此方に近づくパジャマ姿のレイヴェルを一瞥する。

 

 

「…………」

 

「一誠さま? 私の顔に何かついて――」

 

 

 そして何を思ったのか、お風呂上がりで髪を下ろしてるレイヴェルをひょいと抱えると、驚く暇も与えず――

 

 

「すんすん……」

 

 

 確かめるよという意味合いでレイヴェルの身に鼻を近づかせて嗅ぎ始めたのだ。

 こう、首筋辺りをすんすんと……。

 

 

「る……うぇ……? な、な、何ですの急に……!? く、くすぐったいですわ……ぁ……」

 

「いや、ちょっと確かめたくてな……やはりレイヴェルじゃないか」

 

 いきなりこんなことをされたレイヴェルも、まだすんすんしてる一誠に対し、首筋に感じるよう擽ったさと何かて

、変に艶っぽい声を出しながら頬を染めて悶えてしまう。

 

 

「ぁ……っ……ま、まさか漸く私と一緒に寝てくださるのですか……? そうだとするなら、レイヴェルはとても嬉しいです……」

 

 

 今まで必要以上に触れて来なかった一誠が、こんな大胆な行動をしてきた理由を、そういう意味で捉えたレイヴェルはいよいよ待ってましたとばかりに目をとろーんとさせながら一誠の身体にもたれ掛かる。

 が、一誠はレイヴェルを抱えたまま不審そうに首を傾げてるだけだ。

 

 

「やはりレイヴェルじゃないか……。

どちらかといえば白音に近いような……?」

 

「い、いやん一誠さまぁ……最初は優しくして欲しいですわ……♪」

 

 

 一誠はマイ毛布に付いてる覚え無き匂いを確かめる為に…………とは知らずにスッカリ『デキあがってます状態』となったレイヴェルは、真っ赤な顔でこれからされるだろう事について夢想しながら身体をくねらせている。

 

 

 当然一誠からこの後何にもされずに終わるとはこの時まだ知らずに……不憫なまでに。

 

 

終わり。




補足

居心地の悪さと疎外感の反動と、最近聞かされた悪平等(ノットイコール)という存在により木場きゅんはほんの少しだけ突っ走り行動を止めて、一誠メンタルクリニックに通院しました。

とはいえ、拭いきれない復讐心はそのままですがね……。


その2
黒猫お姉ちゃんは……まあ、シャ、シャイなんですよ。
だから一誠の私物をハスハスと……。

とはいえ、流石に勘づかれ始めてますが……。


ちなみにそ後の一誠とレイヴェルは何をするでも無く普通に別々で寝ました。
レイヴェルの寝てるベッドから、グスグスという泣き声と……じゃっかんの『アレ』な声が聞こえたとか何とかありますが……。

ちなみに一誠は別に匂いフェチじゃあないです。
無いですが、自分が大切だと思ってる人達の匂いを普通に覚えるという犬みたいな習性があります。

ちなみに一番の好みは言わずもながら……レイヴェルたん。


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過去への決着
覚悟の男の子達


不快な内容ですね。
間違いなく。

それと毎度多くの感想がやはりうれちー


 死地へ赴く任務。

 それが主が私に与えた道なのであれば、私としても受け入れるつもりだ。

 

 それが私の生きる道なのだから。

 しかし……ふむ……。

 

 

「久し振りセーヤくん!」

 

「イリナ……? お前、イリナなのか!?」

 

 

 同じ死地へと向かう相棒が、これから交渉する相手であり我等にとって天敵とも云える悪魔に対し、鈍い私でも分かるレベルで好意的な態度を見せてるのを見てると、何ともやるせない気持ちになってしまう。

 しかも困ったことにだ……。

 

 

「ちょっと!? セーヤにベタベタしないで頂戴!」

 

「教会所属の貴女が悪魔に転生したセーヤくんに近付くのは良くないのでは?」

 

「……」

 

 

 これから交渉する相手の気に触れるような真似は、いくら久し振りの幼馴染みとの再会で舞い上がってたとしても止めて欲しかった。

 というか、何度も何度も相棒で今もセーヤと呼ばれる悪魔に主に逆らうかのごとく身を寄せてるイリナに念を押したのに……。

 

 

「……………ハァ」

 

 

 主よ。これもまた試練なのでしょうか? クリスチャンがああも簡単に異性へ色目を使うのをお許しになるのですか? 私には主の意向が全くわかりません……。

 

 

「話をしてもいいか? イリナも戻れ」

 

「む……はーい」

 

「では話すぞ。

先日、カトリック教会本部ヴァチカン及びプロテスタント側、正教会側に保管・管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われた」

 

 

 しかしそれでも私はこの任務を果たさなければならない。

 恋愛なんてものに興味が無いので、騒ぎが大きくなる前にさっさと話を進めようとイリナを引き離しながら、本日のこの場に来た理由をこの地の管理を任せられているらしいグレモリーにする。

 イリナの行動のおかげですっかり警戒心を持ってしまったグレモリーとその他。

 チッ……めんどうな。

 

 

「盗まれた? へぇ、誰に?」

 

神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部・コカビエルだ」

 

「ふーん、聖書にも記載されてる大物堕天使じゃないの」

 

 

 あまり興味も無さげな反応に、少しばかり肩透かしを喰らった。

 聖書にも記載されてる大物堕天使と分かってるのにも拘わらずこの態度……妙だなと感じてしまう。

 

 

「興味が無さそうだが、分かってるのか? 私達が此処に来たということは、貴様が管理してるこの地にコカビエル達が潜伏しているという事なんだぞ?」

 

「そうねぇ……確かに私が管理を任されてるこの地にそんなのが居るのは鬱陶しいわね」

 

 

 私の問いにグレモリーは鮮やかな紅髪をかきあげながら、上からコカビエルを見下ろすかの様な態度を示す。

 余裕のつもりなのか、それとも単に危機感が無いのか、よくよくリアス・グレモリー以外を見れば、長い黒髪の……確か姫島朱乃とやらも、元・聖女のアーシア・アルジェントとセーヤといった悪魔も同じだった。

 唯一違うのは、この部屋の隅で大人しくしている白髪の悪魔と、先程から私とイリナが布にくるめて背負ってる成れの果てと化した聖剣を一点見している金髪の悪魔くらいか?

 

 

「貴女達の言いたいことは、私が管理を任されてるこの地にあるだろう盗まれた聖剣の残りを回収したいので、許可が欲しいといったところかしら?」

 

「む……そ、そういうことだ」

 

 

 何だ、このグレモリーという悪魔は? ロクに話をしてないのに此方の意向をハッキリ見破ってきただと?

 

 

「お見通しなのね……」

 

「あぁ、正直驚いたぞ……」

 

 

 これにはイリナも驚いた様で、私はこの連中に対して一気にやり辛さを感じ始めるのと同時に思い知る。

 この連中は良くも悪くも悪魔なのだと。

 ならばもう回りくどいのは止めだ。

 

 

「それなら単刀直入に言わせてもらおう。

私達はコカビエルに奪われた聖剣を奪還したいと思っている。

故に此処を管理する貴様の許可と、一切の干渉をしないで欲しい」

 

 

 足を組ながらソファに座って此方を見るリアス・グレモリーに、我等の意向である『悪魔の不干渉』を直入で告げる。

 

 私としても回りくどいのは好きじゃないし、何より先程からセーヤとやらが此方を見ているのだ。

 だから私は一気に話を終わらせようと興味無さそうにしているグレモリーに話しソワソワ気分をさっさと解消してしまいたい。

 どうにもこの場所に入る前からそうだったのだが、さっきからセーヤというイリナの幼馴染みとやらに見られてるせいか、変に心が落ち着かないのだ。

 

「…………ふふ」

 

「っ……!?」

 

 

 それを決定的にさせたのは、奴の笑みを見てしまった時だった。

 

 

「……。まあ、貴女達からすれば私達が堕天使と組んでエクスカリバーをどうこうするんじゃないかと心配だから、干渉をしないで欲しいといった所かしら?」

 

「う……うむ……」

 

「……………ふふふ」

 

 

 な、何だ……? 余りにも視線を感じるから一瞬だけ兵藤誠八を……その目を見た途端……言い様のない気持ちにさせられ、落ち着かなり、グレモリーの言葉が耳に入らない。

 こう、心地好くて……奴の笑みを見てると――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわーつまづいてしまったー! 足がもつれて転んでしまったー!(棒)」

 

「あー祐斗先輩が転んでしまいました~(棒)」

 

 

 胸がドキドキし、段々と奴に対して無常の信頼をしてしまう…………と一瞬だけ思った矢先だった。

 派手に何かが壊れる音と共に、部屋の隅に居た金髪の男悪魔が床にひっくり返り、妙に大きな声でわざとらしく転んだと自己主張したその声に私はハッ今しがたまでボーッとしていた意識がクリアに戻り、今しがたまで感じていた妙な気分は綺麗さっぱり消えた。

 

 

「祐斗……今度はなんなの?」

 

 

 リアス・グレモリーも隅で大人しくしていた方の自分の下僕の 行動に眉を潜めながら……ん? 妙に苛立った表情を浮かべていた。

 しかし金髪の悪魔……リアス・グレモリーいわく祐斗と呼ばれた少年は……。

 

 

「申し訳ありません……足が痺れてしまいまして……」

 

「ついでに言うと私もです」

 

 

 白髪の悪魔と並んで『妙に反省の色が無さそうに』それだけ言うと、苛立ってるリアス・グレモリーと……

 

 

「……………………………」

 

 

 それまで笑みを浮かべてた筈の兵藤誠八が、明かに仲間に向けるべきではないおぞましい殺意を祐斗とやらに向けて睨み付けていた。

 

 

「どういうつもりかしら祐斗に小猫? この前から……また兵藤一誠の入れ知恵かしら?」

 

 

 それに気付いてないリアス・グレモリーは、話を中断した二人に対して怒りを向けている。

 しかし主である筈のリアス・グレモリーの責める視線を受けても祐斗とやらと白髪――じゃくて小猫とやらはシレッとしままに見受けられる。

 

 

「反抗的な態度をしてるのは認めますが、転んだだけで反抗的と言われたら堪ったものじゃありませんね」

 

「あ、この態度も反抗的とお思いですか? それなら謝罪しますよ……『申し訳ございません、もうしません。』」

 

 

 此処に来て初めて私は気付いた。

 どうやらこのグレモリー眷属の一枚岩では無いみたいだと。

 明かにこの二人だけグレモリーに対する敬いが感じられない。

 

 

「くっ、アナタ達は……!!」

 

「お、おいリアス・グレモリー……! 何があるかは知らんが、話の続きをだな……」

 

「話なら終わりよ! 奪われた聖剣の奪還も好きになさないな!」

 

 

 ……。あ、あれ? あっさり要望が通った。

 もう少し長丁場になると思ってたのだが……いや、都合が良いといえばそうだが……。

 

 

「出て行きなさい! そして少しは頭を冷やして頂戴……。兵藤一誠に何を入れ込まれた知らないけど、余りにもふざけすぎよ」

 

「いや、イッセーくんは全く無関係なのですが――いえ、わかりましたよ……ただ転んだだけなのに」

 

「何を誰に吹き込まれたかは知りませんが、どうせなら眷属から外して欲しいのですがね……」

 

「な、なんですって!?」

 

 

 正直不安だ。

 蓋を開けてみれば眷属を制御できない。

 冷静に思えばこの二人以外は兵藤誠八を取り合ってたし、イリナもずっと熱っぽい視線を向けてるし、その兵藤誠八自身も今にして思ってみると変だし、そして……。

 

 

(兵藤君の目と表情には気を付けてね)

 

(一応忠告はしておきます)

 

「え……?」

 

 

 その懸念を後押しするように、部屋を出ようと私の横を通りすぎる際小声で言ってきた忠告じみた言葉に、私の不信感はますます増大するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ハァ……何とか我慢できたけど、その代わり追い出されてしまった。

 

 

「ちょっと露骨すぎたかな……。まさか教会の使いの人まで落とそうとするとは……」

 

「予想通りとはいえ、余りにも見境が無さすぎですね兵藤先輩も」

 

 

 別に義理も何も初対面だし、寧ろ聖剣を持ってた人だからあんな下手な演技までして注意をそらす必要も無かったし、寧ろ兵藤君に堕ちて聖剣を奪還する任務を忘れてくれたら心置きなく堂々と探して壊せた筈だった……だから部室の隅で大人しく教会の使いの人達と部長のやり取りを聞いて情報を獲ようとしたのに、その教会の人達に兵藤君が

またやってしまおうとするとはね……。

 

 だからついつい僕は、何度なく見せられ不可解にも落としていた兵藤君の笑顔に落ちかけていた……ええっと、ゼノヴィアさんって人を見て自然と身体が動いてしまっていた。

 

 

「あの紫藤イリナって人は手遅れでしたが、あのゼノヴィアって人も馬鹿じゃないと思うので、私達の忠告を頭に入れてくれてる筈です……多分」

 

「だと良いけどね。ハァ……」

 

 

 恨んでも恨みきれない聖剣を目の前にしてたのに、それに何もせず兵藤君に心を奪われそうになっていた初対面の人に手助けする様な真似をしてしまった事に、今になって変な後悔が沸いてくる。

 

 結局搭城さんの言った通り、イッセーくんは僕の復讐心について一切軽蔑しなかった。

 いや、それどころか――

 

 

『お前が最近ボーッとしている理由を話してくれた……それだけでも十分嬉しく思うし、それだけの事をされて忘れるというのば無理な話なのも分かる。

だが、一人で突っ走る真似はするな……どうせなら『只の人間』である俺を利用しろ。

そうすれば、『お散歩中に偶然不思議な剣を見つけてしまい、得体が知れないので専門家のお前に電話してしまう』かもしれんからな……ふっふっふっ』

 

 

 そう言外に僕の復讐に協力するとまで言ってくれた。

 

 復讐は何も生まないなんて尤もらしいことを言うでもなく、ただただ僕の生きる理由を肯定してくれた。

 

 

『見て分かると思うが、俺は自分が友達だと思った相手には全力で味方をする様なタイプでな。

偉そうに生徒会長とふんぞり返ってるが、俺自身の性格は恐らくかなり悪いぞ?』

 

『つまり俺は他人には平等的だが、友にはそれが一切なくなる――言ってしまえば俗な人間なのさ』

 

 

 イッセーくんは自分の事をそう言ってた。

 確かにその言葉だけ聞けば、身内に甘くて他人に無関心という何とも言えない性格だけど、僕にとっても匙君にとっても搭城さんにとってもそれが何よりも心地良い。

 だってそれは、イッセーくんが僕達を『絶対に裏切らない友達』と認識してくれている事に他ならないのだから。

 

 それが何よりも今の僕は嬉しく思う。

 結局複数なんて生易しい数の女性と平然と関係を持ち、更に増やそうとしている兵藤君も、それに落とされてしまった部長も今の僕を……仮に表だって反抗してなかったとしても認めてくれなかっただろう事を考えてしまうと余計に。

 

 

「これって僕の予感なんだけど、あの紫藤さんって人と幼馴染みって繋がりで兵藤君も干渉するんじゃないかなって思うんだ……ゼノヴィアって人の事も諦めなさそうだし」

 

「ありえそうです。

となると、さっさと強奪された方の聖剣を探さなければいけませんね」

 

 

 身勝手なのは重々承知している。変わってしまったとはいえ、僕を拾ってくれたリアス部長に対しての恩を仇で返していると思う。

 

 けれど僕は、あの日の事を忘れてのうのうと生きるなんて真似は出来ない。

 

 殆どの人たちは『復讐は何も生まない』とか『許して前に進むことが大事なんだ』と言ってくるだろうし、恐らく部長も……そして何故か兵藤君も知ったような顔で言ってくるだろう。

 

 けれど、僕にとって全てだったあの時の仲間を一部のエゴな奴等によって奪い取られ、命を弄ばれて殺された事について無理矢理忘れるなんて出来ないし、僕はその覚悟をもって決心している!

 

 

「復讐なんて言葉では誤魔化さない。

僕は、自分の今と過去にケリを着ける……!」

 

 

 そうすることで僕は止まった時間を動かせる……そんな気がするんだ。

 過去と今に決着を着け、未来へと進む……それが僕の『覚悟』なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 木場の奴、大丈夫だろうか。

 聞けばアイツは俺なんか温すぎる程に辛い出来事があったらしく、イッセーにその事を話をしているのを聞いた時は『単なるイケメン野郎』という認識を改めてしまうほどだ。

 

 聖剣計画の生き残り……それがどんな非業なものなのか、フワついた理由で悪魔に転生した甘ちゃん馬鹿な俺にはわからないし、並々ならぬ憎悪を持っているその気持ちも俺には全部を理解してやれる事が出来ない。

 けど、木場が……アイツがそうしたいと願うのであれば俺は……俺達は無償の協力をしたいと思っている。

 

 勝手に思ってることだが、アイツも俺の『友達』なんだから。

 その為には……。

 

 

「で、俺をクビにする呼び出しでしょうかこれは?」

 

『…………』

 

「匙……!」

 

 

 俺も今の状況と決別しないとな……ふふふ。

 

 

「アナタは分かってるのですか? 自ら眷属を辞めるという意味を」

 

 

 ソーナ・シトリー……そしてその眷属――つまり兵藤シンパな連中に呼び出された俺は、空き教室のど真ん中に立たされ、それを囲うように佇む連中から非難めいた視線を向けられていた。

 どうやら先日、ソーナ・シトリーに向けた態度が実にお気に召さないご様子なようだが、俺は脱力状態で突っ立ちながら一応王であるソーナ・シトリーの問いに答えようと口を開く。

 

 

「はぐれ悪魔認定にでもされるんですか? いや、されるで確定かな? 下僕の下級悪魔が主かつ上級悪魔様に逆らうのはご法度ですものねぇ?」

 

 

 悪魔社会には階級がある。

 そして俺は人間から転生しただけの悪魔故に立ち位置としてはこのソーナ・シトリーに逆らってはならん。

 が、兵藤シンパと化して色々と堕落しちゃってる彼女に対しての未練も忠誠心も失せてしまった今、こんな脅しめいた呼び出しに屈するなんて有り得ない。

 

 

「そ、そうです。こちら側に深く関わり、尚且つ人間の兵藤一誠に何を吹き込まれたかは知りませんが、私はアナタをはぐれ悪魔になんて……」

 

 

 そう、物悲しそうに俺を見るソーナ・シトリーに、俺は変わらずの白けた気分だ。

 下僕悪魔程度の兵藤に堕ち、堕落しきってるのに今更尤もらしいことを言われても説得力なんてありはしねぇし、ていうかイッセーは関係ねーと何度も言ってるのにまるで聞きもしねぇ。

 

 どうやら思う通りにならない事に腹でも立てた兵藤がソーナ・シトリーを含めたシンパ共にイッセーについてあることないことを吹き込んでるらしく、それを簡単に信じてる。

 ……。はぁ、くだらん。

 

 

「今なら先日セーヤくんに対しての態度について、謝罪をしたら許してくれる筈です。だから――」

 

 

 

 

 

 

 

「あー あー あー!! うるせービッチ共だなぁ!!」

 

 

 

 くだらん。実にくだらねぇ。

 

 

「えっ……!」

 

『!?』

 

 

 期待なんてもうしてないけど、それ以上に失望だぜ、ソーナ・シトリーさんよぉ。

 

 

「兵藤に謝罪? クックックッ……何だそりゃ? 結局アンタ等が心配なのは俺じゃなくて、『眷属である俺が兵藤に失礼な事を言ったせいで嫌われる』って心配してるだけじゃねーか。何が『はぐれ悪魔にしたくない』だ……尤もらしい事言いやがってクソビッチ共が」

 

 

 あーもういい。

 上級悪魔とか主だとか知るかんなもん。

 処刑されようがなんだろうが、俺はこんな連中とやってくなんて無理だ。

 例え兵藤の洗脳じみた魅力に取り付かれた被害者だとしても、そんなものはテメーの責任だ。

 それに対して俺を巻き込むんじゃねーってんだスットコドッコイ共が。

 

 

「な、あ、主に向かってなんて事を!」

 

「謝ってください匙くん! 今すぐに!!」

 

「そ、そうだよ! 匙くん変だよ! あの、生徒会長と関わってから……」

 

 

 つい『プチン』としてしまった俺の言葉に大層なショックでも受けられたのか、驚愕の表情で口をパクパクしてるソーナ・シトリーの代わりに元・仲間共が口々に撤回しろと殺気混じりで脅してくるので、俺はふんと鼻を鳴かしながら連中を睨み返しながら、イッセー達との日々で緩和していたものの、それでも残っていたストレスをぶちまける。

 

 

「変わったのはお互い様だろ? 別に誰が誰を好きになろうが知ったこっちゃねーがな、周りも見えず、本来の仕事もしねーで一人の男の取り合いなんぞしてる貴様等よりかはマシだバーカ!」

 

『なっ……!?』

 

「それとも何だ? テメー等が兵藤に股でも開いて誘惑してる間に俺達は奴隷の如くテメー等の分まで働けってか? ざっけんなクソボケ!! んなもんはぐれ悪魔にでもなった方がマシだ!」

 

 

 兵藤の魅力とらやに取り付かれたからと、まだ我慢してやれたが……もう良い。

 こんな連中なぞこっちから願い下げだ!

 俺は……俺は……アンタ等を見限ってアンタ等を越えてやる……! そしてその位置から見下し言ってやる。

 

 

 ザマーミロってなぁ!

 

 

「アンタに情を持ったのは黒歴史だぜクソッタレが! 退けぃ!」

 

「ちょっ……さ、匙! 待ちなさい!!」

 

 

 これで大っぴらに眷属を辞めたと言えたし、ちょっとはスッキリできた。

 まったく、こんな連中の言いなりになるくらいなら木場の復讐を手伝う方が余程有意義だぜ。

 

 俺の啖呵に雷に撃たれたように固まる連中を背に空き教室から出た俺は、今を以て奴等を越えるという目標を打ち立てた。

 それがどんなに辛い事になるかまだ分からないが、この燃える様な気持ちがあれば何とかなる……そんな気がする。

 それに……何よりも俺には――

 

 

「ん、匙同級生? どうしたそんな興奮して? シトリー3年との話は終わったのか?」

 

「そのお顔からして仲直りは不可能だったみたいですわね。

それなら、今から木場さんのお手伝いをしに行く所ですが、匙さんも付いてきますか? 聖剣探しに」

 

「……。あぁ、いくぜ。木場はもう友達だ、友達の困り事は全力で手助けしてやらぁ!」

 

 

 トモダチが居る。

 なまっちょろい主従関係じゃない……対等な繋がりが。

 

 

「さて行くか、友の忘れられない過去に決着を付ける手伝いに!」

 

「はい、一誠様!」

 

「おうよ!」

 

 

 裏切りが無い……最高の繋がりが。

 

 

終わり。

 

 

 オマケ……やっぱりその頃な黒猫お姉ちゃん。

 

 

「さて行くか! 友の忘れられない過去に決着を付ける手伝いに!!」

 

「はい一誠様!」

 

「おうよ!」

 

 

 実の所、友達に対しては不平等なまでに全力バックアップをするという、悪平等にしては不合理な性格をしている一誠は、先に外へと出た祐斗と白音と合流するため元士朗とレイヴェルを引き連れて生徒会室を後にした。

 当然、この三人以外が出ていく事で無人となった生徒会室なのだが――――

 

 

 

 

 

「にゃにゃ~ん♪」

 

 

 それは錯覚だった。

 一誠達ですら気づけなかったが、生徒会室には一人部外者が居たのだ。

 

 

「イッセー達は居なくなっちゃったかぁ……後を付いて行きたいけど、その前に~♪」

 

 

 名を黒歌。

 白音の姉にて誠八好みの女性であり、只今一誠達が居なくなった後の生徒会室を満面の笑みで物色していた……。

 

 

「イッセーにしては珍しいにゃ~♪ でも私に好都合だにゃ~ん♪」

 

 

 主に会長席……つまり一誠の座る席を。

 そして嫌に機嫌が良い理由……それは、一誠の席に残された空のマイ・ティーカップだった。

 

 

「さっきまで飲んでたイッセーのティーカップ……えへ♪」

 

 

 一誠やレイヴェルにすら気付かれない、謎のステルススキルを持つ黒歌は、その特性を利用して一誠の私物をアレしたりコレしたりに嵌まっていた。

 そしてこの一誠のマイ・ティーカップは、極上の獲物だった。

 

 

「此処に一誠は指を掛け、此処に口を付けて……んっ……ぺろぺろ……」

 

 

 誰も居なくなった生徒会室。

 その会長席に座りながら、黒歌は一誠がさっきまで使っていたマイ・ティーカップをぺろぺろとし始めた。

 

 そして頬を染め、恍惚な表情まで浮かべ始める。

 

 

「イッセー……あは……いっせぇ……♪」

 

 

 本当なら一誠の自宅に潜入すれば直ぐに手には入るつもりだった。

 しかし、こういった食器類はレイヴェルが直ぐに洗ってしまうのと、流石にあの二人が居る時に潜入するとバレてしまう可能性も無きにしもあらずだったので今まで手が出せないでいた。

 だからこそ、念願の一誠の使用済み私物を手に入れた黒歌は悦び混じりにぺろぺろする。

 

 

「椅子を汚したらばれちゃう……けど、……あぁ……♪」

 

 

 そんな黒歌の行動を……人はまごうことなき変態と言うだろうが、彼女の身に宿った特質のせいで誰にもバレない。

 だから、ドン引き行為の自覚も無しに黒歌はストーカーをするのだ。

 

 

終了




補足

イリナさんは既に手遅れです。
そしてゼノヴィアさんも堕ちそうになりましたが、何と無く仕返しがしたかった木場きゅんがファインプレーしてギリギリ持ちこたえました。

ちなみな話、一誠くんはイリナさんと顔を会わせたくないと思ってます。
てのも、トラウマが決定的になった原因ともいえる相手なので。(奪われたという意味で)

その2
匙きゅん……目標を定めるの巻&完全な見限りの巻。

お陰でヒロインが完全に消滅しましたが、イレギュラー化となることで別フラグも立つ……そゆことです。


その3
木場きゅん……覚悟を決めるの巻。

かつての仲間の為と言い訳せず、過去との決着を付け未来へと進むために動く事にしました。





その4
黒猫お姉ちゃん、段々距離が近いの巻。

……まあ、内容通りに。


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初恋と失恋と……過負荷

おい、聖剣壊しはどうしたんだよ。

という突っ込みを覚悟で駄弁り回にしました。

最後らへんは最早見苦しいぜ。


しかし、初めて1話で60近くの感想を貰えるなんて……嬉しくてバク転しちゃったよ!


 聖剣……つまりエクスカリバー……つまりRPGゲーム辺りによく目にする名称。

 うむ、正直俺は聖剣とやらをそんな認識しかしてない。

 というか、そもそも無神論者といっても過言じゃない。

 

 だから別に聖剣が壊されてしまおうがどうとも思わん。

 死んだ神の残した遺物程度なんだからな、あっても無くても問題ないだろ……無くて困ったことなんて一度もないし。

 

 

「で、聖剣というのはどんな剣なんだ? 光ってるのか?」

 

 

 友の仕返しに協力――という建前の所詮は自己満足でしか無い行為を決行する為、取り敢えず奴等――つまり教会のお使いと、その話を受けたらしいグレモリー3年達よりも早く一つでも良いから聖剣を確保しようと、匙同級生とレイヴェルとで外に出てった木場同級生と白音を探してる。

 

 聖剣計画の生き残り。

 それが木場同級生の過去らしく、正直聞いた話はかなり悲惨というか……神を信仰しとる連中も結局は狂気の面がちゃんとあることに俺は、一種のシラケを感じたもんだが、そのツケは木場同級生によって払わせるべきだ。

 

 そもそも、自分と自分の大切な人達の命を弄ばれ、あげくに用済みだから殺されただと?

  神を信仰してれば何でも許されるとでも思った馬鹿なのか……とにかく信仰心が無い無関係な俺でも平等的とは思えん。

 

 人の命を弄んだその報いは必ず返ってくる……俺はそう思っている。

 

 

「文献でしか見たことが無いので、何とも言えませんが、過去の大戦でエクスカリバーそのものは破壊されてます。

なので、今の聖剣というものはその破壊された聖剣の欠片を寄せ集め、錬金術で復元した『聖剣擬き』と言うべきですわね。

七本に分離してますし」

 

「ほほぅ……」

 

「俺達悪魔にとっては『毒』でしかない。

だから多分、近付いたら嫌悪感かなんかでサーチが出来そうな気がするぜ」

 

「なるほど……」

 

 

 無知ってのは恥ずかしいものだ。

 十年以上も純血悪魔であるフェニックス家の皆の世話になっておきながら、三大勢力の事情とは殆どわからん。

 

 言い訳してるつもりは無いが、俺にとっての悪魔はレイヴェル達フェニックス家であり、その他の悪魔は只の悪魔でしか無く、天界の連中だの堕天使の連中なぞにはまるで興味がなかった。

 なじみも……

 

 

『知って得する事なんてあんま無いな。

彼等が僕達の正体を知った所でどうこうする気もされるつもりもねーし』

 

 

 なんて俺が小さい時に言ってたので、俺も自然と彼等の事について知ろうとは思わなかった。

 知らないで損した事なんて一度も無かったからな。

 

 

「というかイッセーよ。お前、フェニックスさんと親しいのに全然『そこら辺』の事については知らねーよな?」

 

「あぁ、レイヴェルやフェニックスの人達以外の事を知らんでも損なんかしなかったからな。

ただ、今はその無知さに恥ずかしさを覚えているぞ」

 

「大丈夫ですわ。要するに木場さんの悲願のお手伝いをする……足りないところは私達がサポートする。

何時も生徒会でのお仕事と何ら変わりはありませんわ」

 

 

 木場同級生と白音を探しつつ、七本に別れた聖剣についての情報を頭に叩き込む。

 どうも聖なる力を放ってる……という以外は様々な形をしているとの事らしく、色々と鈍い俺にはその聖なる力とやらを感じられるのかが地味に不安なのだが、その聖剣の天敵ともいえるレイヴェルや匙同級生が居るので……まあ、言葉は悪いが『レーダー代わり』としてはこれ以上無いアレだというのは分かったので、取り敢えず今は木場同級生と白音と合流しようとテクテク歩く。

 

 

「おぅ、木場同級生に白音。

やはり聖剣を探そうとしていたか」

 

「あ、イッセーくん」

 

 

 結果、二人は直ぐに見つけられた。

 二人が居そうな訳がありそうなスポット=持ち込んだ聖剣が隠してありそうな場所を予想して先回りをしてみたら見事に当たった。

 

 こうして、俺を見るなり驚いた……様子は特に見られず、逆にちょっと笑ってる木場同級生と白音と無事に合流できた俺達は、取り敢えず先ずはと近くの喫茶店でこれからの事について話し合う事にした。

 

 

「で、グレモリー3年達の様子はどうだったんだ? それに、事務所で来賓手続きもせんで入り込んだ教会の使いとやらの事も……」

 

「うん、例の如くじゃないけど……どうもその二人いた教会の使いの人の片方が兵藤くんと幼馴染みだったらしく、話し合いそっちのけで取り合いのスタートが……」

 

「幼馴染み……?」

 

 

 個人営業の喫茶店故に、物凄い静かで落ち着ける良い場所に腰を下ろした俺達は、其々飲み物と軽食を片手に先ずはグレモリー3年のもとにやって来たとされる教会側の使いとの話で獲た情報について聞き出そうとしたのだが――

 

 

「はい……紫藤イリナと名乗ってましたが、先輩は覚えがありますか? かなり手遅れな――」

 

「っ!? 紫藤……イリナだと……!?」

 

 

 木場同級生に続くように、白音が口にした兄貴の幼馴染みの名前に、俺は一瞬頭が真っ黒になった。

 

 

「あ、どうしたイッセー? 聞き覚えがあるのか?」

 

「? そのようなお方のお名前……一誠様から聞いた覚えがありませんが……」

 

「………………………」

 

「イッセーくん?」

 

「一誠先輩?」

 

 

 紫藤イリナという名前を聞いた途端、変な汗と激しい動悸に苛まれる俺の様子があからさまなのか、全員が俺を見ている。

 

 紫藤イリナ……そうか、紫藤イリナ……か。

 俺が『逃げ出す』事を決心する事を決定付けた相手……。

 

 

「所詮、青かったガキの頃の昔話なんだが……」

 

『……………』

 

 

 まさか此処に来て忘れたい過去の思い出の名前を聞かされるとはな……とか、深呼吸して動悸を落ち着かせる。

 名前を聞いた途端、あからさまに顔に出してしまったせいで誤魔化せないし、コイツ等に隠し事はしたくはない。

 だから俺は……レイヴェルにも黙っていた忌まわしい記憶の一つである紫藤イリナについて――――

 

 

 

 

 

「……。…………。……………………………。まあ、アレだ……ガキの頃の初恋の人……みたいな?」

 

 

 暴露した。

 

 

「は、初恋?」

 

「お、おぉぅ……」

 

「な、何ですかそれは? き、聞いてないですわよ……!」

 

「あんなのがですか? 兵藤先輩にずっぷり浸かってた人が……。

なんですかこの負けた気分は……」

 

 

 まさかこんな事を言われるとは思ってなかったのか、木場と匙同級生は目を丸くしながら持ってたティーカップを落としそうになり、レイヴェルと白音は雷に撃たれた様な顔でショックを受けていた。

 

 

「昔の話だ……今はどうとも思ってない。『セーヤくんじゃないのに私に触らないで!!』と思いきりビンタされてフラれたからな………ふっ」

 

「「あ゛?」」

 

「あ、あらー……」

 

「う、うわぁ……前の俺より惨めじゃねーか」

 

 

 忘れたくても忘れられない大きな理由であり、今でもハッキリその時受けたビンタの痛みを思い出すかのように、右頬を擦りながら変に笑ってしまう俺に、聞いていたレイヴェルと白音が、女の子が出しちゃいけない様な怖い声と殺気を放ち、木場同級――――もう良いや、木場と匙は心底同情するような表情だ。

 特に匙に関してはデジャブでもあるんだろう……物凄い苦い表情だ……今飲んでるブラックコーヒーみたいにな。

 

 

「それまでは仲が良かったつもりだった。

男みたいな格好だったが、俺は不思議と彼女が女の子だと見抜けたし、彼女も嬉しそうに教えてくれた……と思うし思いたい。

けどまあ……アレだ、例の如く『兄貴』が出てきてからは全部変わった挙げ句、俺の目の前で………クククク!」

 

 

 聖剣情報についてが、いつの間にか俺の大失恋話に摩り変わってる。

 しかし誰もその事について言及せず、ただただ黙って俺の懺悔じみた告白を真剣に聞いている。

 面白くもねー話なのに。

 

 

「笑顔を見せた途端、紫藤イリナは最初の兄貴シンパと化した。

それが納得できなく、何とかしたいとフラフラと兄貴へ行こうとする彼女を引き留めようと手を掴んだ途端………バシーン!! ってね」

 

「ま、マジかよ? ひでぇ……」

 

「だからイッセーくんは家を?」

 

「あぁ……俺の人生の最初のトラウマだ。

その後の事は知らんが、まさか紫藤イリナが教会の使いとはな」

 

「「……」」

 

 

 ふへへへへ……とひっ叩かれた右頬の――無いはずの痛みを思い出しながら変な笑い声が勝手に出てしまう。

 両親の心すら虜にされたよりも辛かった思い出(トラウマ)だ。

 

 

「だから言ったろ? 一度でも兄貴の魅力に取り付かれた相手には何を言っても無駄なんだよ。

例え、俺がその現実を否定し『無かったことに』しようとも、訪れるのは心をぶち壊す大量の兄貴シンパさ」

 

『……………』

 

 

 

 俺のマイナス側のスキルが覚醒した理由がコレだ。

 

 兄貴の洗脳じみた魅力に取り込まれ、それを引き留められなかった自分の無力さと無能さを突き付けられ、そんな現実を否定したかったという強烈な想いから生まれてしまった俺の過負荷(マイナス)

 それが俺の――なじみの貸し出しでは無いオリジナルのスキル――

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)

現実を受け入れられず否定し、都合の良い幻想に書き換えて逃げることで心の痛みから逃れる……ってな」

 

「「「「……」」」」

 

 

 既に初めから俺を知ってる同類のレイヴェル以外にも、木場・匙・白音には神器とは別物の能力(スキル)について教えている。

 だから俺の言ってる事が理解できてる様で、まさか失恋が契機で発現しましたー! というカミングアウトにレイヴェル共々何とも言えん表情をしていた。

 フハ! 何でお前等まで辛そうな顔なんだっつーの。木場なんて、こんなしょうもない失恋より遥かに辛かった筈なのに……。

 

 

「ま、そういう事だ。

すまんな……聖剣をどうするかなのにしょうもない失恋話をして」

 

「いや……」

 

「『俺に似てるよ』って言ってた理由が今にして分かったわ」

 

「「…………」」

 

 

 店内を流れる静かなBGMがよーく聞こえるほどに静寂しきってしまった。

 もう過去の事だし、俺も何とも思っちゃ居ない…………と言えば嘘になるかもしれんが、それでも今の俺には肉親や初恋の人よりも大事な繋がりがある。

 それを大切にする……それが俺が持つ今の生きる意味なのだ。

 

 

「おいおい、俺から暴露しといて何だが、そんなシミったれた顔するなよ。

失恋って奴も人生勉強の一つだったと思えば悪かないさ」

 

 

 わざわざ俺のしょうもない過去に暗い顔なんてしてくれてよ。

 ホント、お前達のこと大好きだわ……それこそ初恋の苦い思い出なぞ『クソどうでも良くなる』くらいにな!

 

 

「さてと、俺の話は此処までにして、次は木場と小猫が部室で聞いた話を聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 一誠様が失恋……いや、それよりも驚いたのは初恋なんてしていた事だった。

 

 

「う、うん……取り敢えずリアス部長は教会の使いの人の要望通り、『聖剣奪還について不干渉』だって」

 

「ですが、兵藤先輩が例の紫藤イリナって人とかなり深い繋がりがありますので、多分何らかの形で関わるのでは無いかと私と祐斗先輩は予想してます」

 

「ふむ、だろうな」

 

 

 既に一誠様の失恋話は終わり、聖剣のお話に戻っているというのに、私は何時もの表情を見せている一誠様から目を離せない。

 そんな過去があったとお話にならなかったからショックだったという事はない。

 そもそも一誠様の過去を事細かに聞く権利なんて悪平等であっても無いのだ。

 ただ、私にとってショックとは別に痛むこの胸の理由は……。

 

 

「ん、どうしたレイヴェル? 何か言いたいことがあるのか?」

 

「いえ……特には……」

 

「……………。む、そうか……」

 

 

 一誠様が異性に積極的じゃない理由を知ってしまった事だ。

 忘れたと一誠様は仰っているが、それは嘘だと私に長く傍らに居たので分かってしまう。

 

 安心院さんと対を為す人外にご成長されたとはいえ、一誠様はまだ子供なのだ。

 その精神まではまだ完全に人外ではない。

 

 

「そういえば兵藤くんは、もう一人の使いの人……確かゼノヴィアって人を早速誘惑してたっけ」

 

「……。その言葉で兄貴好みの女の子だと分かるよ。

手の早いことで……」

 

「まあ、寸前で祐斗先輩が転んだらフリして阻止し、その後気を付けろと忠告はしときました」

 

「お、ナイスじゃん木場ァ! 性欲馬鹿の洗脳の弱点は奴に対して疑念を持たせることだからな!」

 

「それはあくまで俺達の予想だがな……。

だがその場で阻止出来たのは良いことだ」

 

 

 一誠様は少し……ほんの少しだが恐れているのだ。

 自分が大事に想っている人々が兵藤誠八に奪われることをまだ少しだけ恐れている。

 

 あんなカス程度の洗脳じゃあ、一誠様をお慕い申している私や、悔しいが本物の小猫さんには通用しないし、男性である木場さんと匙さんも同じだ。

 けれどそれでも過去のトラウマが一誠様を苦しめいる。

 

 それを取り除けない自分が悔しい。

 癒して差し上げる事が出来ない自分の未熟さが恥ずかしい。

 

 

「一番手っ取り早いのは、何やかんやで動くだろう兄貴達を泳がせて聖剣発見した所を横からかっさらうって所か?」

 

「お、良いじゃん。性欲馬鹿が変な理由付けて……そのゼノヴィアって奴を落とす為に建前で協力を取り付けようとするのは目に見えてるしな」

 

「で、でも、そんな事をしたら聖剣を破壊された天界側と身勝手に動かれた悪魔側から怒りを買って思いきり敵対されるんじゃあ……」

 

 

 恐らく小猫さんも同じ気持ちだろう。

 悔しいが彼女はどうも私に通じるものがあるし、今だってそれを押して話し合いをしている。

 

 

「なに、されてお尋ね者になっても俺は構わんよ。

友であるお前が過去を断ち切れるのであれば、犯罪者扱いなぞ痛くも痒くもない」

 

「同感。既に元・主様はどうでも良いしな。遅かれ早かれ俺は『はぐれ』だろうしねー」

 

「イザとなれば一誠先輩のスキルで『悪魔だった現実から逃げれば』良いですし、何なら破壊した後はその罪を兵藤先輩に押し付けてしまえば良い」

 

「おっと……塔城さんが何気にエグいぜ。めちゃくちゃ賛成だが」

 

 

 ほらやっぱり。

 表情こそ普通だが、小猫さんも悔しいのだろう。

 一誠様を癒せないことに……そして一誠様が異性に消極的になった理由である相手に怒りを覚えているのが分かる。

 

 

「良いですわね。たまには女性を貪るばかりじゃ無く、私達の役にくらい立たせる為に利用してしまうのは」

 

「でしょ?」

 

「わーぉ、フェニックスさんも黒いぜ。理由が分かるから反対する気なんて全く俺には無いがな」

 

「……。何か、微妙に顔が怖いぞ二人とも……」

 

 

 洗脳された紫藤イリナのことはどうでも良い。

 だが、一誠様にご成長を阻害するトラウマを植え付けた兵藤誠八……アナタは許さない。

 

 

「なにを言ってるんですか一誠先輩、私は普通ですよ? 決して女性に対して消極的な理由がまた兵藤先輩のくだらない女落としによるとか、そんな事はありませんので。

ね、レイヴェルさん?」

 

「ええ、いっそ八つ裂きにしてドブ川に捨ててしまいたいとか、貧相な下を焼き付くして使い物にならないようにしてあげましょうとか、そんな物騒な事は考えてませんわ。

ね、小猫さん?」

 

 

 どうでも良いカスから、消し墨にしてやりたくなる雑魚に昇格させてはあげますわ……。

 そう思いながら私は、ほぼ確実に同じ事を考えてるだろう小猫さんと共に微笑みながら……。

 

 

「「ねー♪」」

 

 

 初めて息が合った気がした。

 

 

 

 

オマケ

 

 

その頃の………。

 

 

 一通り満足した黒歌は、その過程で疼いて仕方なくなった身体のまま――

 

 

「「ねー♪」」

 

「……。様子が変だな……レイヴェルと小猫」

 

「お前な……。

ったく、最初は俺達に気を使ってたからだと思ってたが、案外鈍いんだなぁ」

 

「は?」

 

「確実に二人はイッセーくんを裏切らないってことさ。

あ、僕と匙くんもね」

 

 

 

 

 

 

(私もだにゃ~ん♪)

 

 

 ストーキングを再開していた。

 しかも、一誠達が座る喫茶店の席のテーブルの真下……更に言えば一誠の足元を悟られず器用に潜り込んでいた。

 その、いつの日か発現した『誰にも彼にも悟られない異常性』をフル活用して。

 

 

「結論としては、俺等が動くのは兄貴達が動いてから……という所か?」

 

「それで大丈夫だと思う。闇雲に動くべきじゃないと思うしね……聖剣破壊の為には我慢の時も必要だ」

 

 

(ふむふむ、イッセーは聖剣を壊したいと……)

 

 

 一誠やレイヴェルにすら悟られない異常性は、こうした情報収集、もしくは暗殺等に真価を発揮できるものであり使用用途はストーキングという残念さに目が行ってしまうが、かなり恐ろしいスキルであることは間違いなかった。

 それを裏付けるのが――

 

 

「よし、じゃあ明日から兄貴の動向に目をは――――あうぇ!?」

 

(はぁ……はぁ……♪)

 

 

 触れても見えない……という所だった。

 そしてそれを利用し、最近は一誠のストーキングですっかり盛り始め、尚且つ色々と限界だった黒歌による『悪戯』がとうとう一誠に直接来てしまった。

 

 

「ど、どうしました一誠様?」

 

「急に変な声出すなんてお前らしくねーの」

 

「い、いや……なんか急に――あへぇ!?」

 

 

 突如ビクンと打ち上げられた魚の様に身を跳ねながら、これまた変な声を出す一誠に全員が怪訝そうな表情を見せるも、一誠は若干頬を赤くさせながらテーブルの下を覗き込むだけで答える事はしなかった。

 

 

「…………」

 

(あ……イッセー……♪)

 

 

 突如自分の身を誰かに触れられてる感覚がした一誠の鋭い視線がテーブルの下……それもスキル発動中の黒歌に向けられる。

 しかし、どれだけ目を凝らしても一誠に見えず、更に言えば気配も感じない。

 

 

「…………………」

 

「? テーブルの下に何かあるのかい?」

 

「………。いや、無い……」

 

 

 ジーっとテーブルの下を見つめる一誠に祐斗が不思議そうに訪ねるも、何も見えない一誠はそう答えるしか出来ず、諦めるようはなテーブルの下から目を離す。

 しかし……。

 

 

「っ!?」

 

 

 再び何かに触れる感覚に襲われ、今度は咄嗟に口を手で塞いで声を殺し、其々雑談しているレイヴェル達に気付かれないように努める。

 本当なら先程から襲う不可解現象について皆に話したかった。

 が、それが一誠には出来い理由があった。

 それは――

 

 

(あぁん……イッセーの……イッセーの……)

 

「っ……! っぅ……!?!?」

 

(ほしーな……ほしーにゃぁ……♪)

 

「くぅ……! あぐ……!?」

 

「…………。一誠先輩?」

 

「……。やはり変ですわ一誠様……」

 

「な……にゃんでも――あひぃ!?」

 

 

 

 

(ハァ、ハァ……)

 

(ぜ、絶対誰かテーブルの下にいる……!

な、なじみ――は、違うと思うし、一体さっきから俺の…………俺の◯◯を気配も姿も掴ませず触ってるのは誰なんだ!?)

 

 

 悪戯されてる所が……色々と言えない所だった故に、逆痴漢されてるかの如く必死こいて一誠は手探りでテーブルの下に居るだろう何者かを掴まえようと戦っていたのだった。

 

終わり

 

 




補足

目の前で初恋の人を洗脳され、挙げ句ビンタされて大失恋。
両親を取られたより更にトラウマを刻まれ、それが原因で一誠は幻実逃否(リアリティーエスケープ)を覚醒させました。

効果は多分ご存じの通り……。

『嫌だと思った現実を否定し、都合の良い幻想に書き換える』という……まあ、早い話が――


『イザナギだ……』

であります。


『じゃあこれ使って兄貴シンパの洗脳を消せよ』という意見を感想で貰いましたが……。
 一誠自身はそれをしようとは思ってません。

 その洗脳で困った人がいれば助けるかもですが、洗脳されたとはいえ本人が幸せと思ってるなら、わざわざ洗脳なんて解いてその人を発狂させるなんて真似はしたくないというか…………

『レイヴェルや白音――俺の大事だと思ってる人達にちょっかいさえ出さなければ、後は誰を洗脳して大人のプロレスごっこしてようが知ったこっちゃない。
俺は、決して洗脳された人を見て正義感に燃え、その人を救うという考えは持たない――『自分本意』な人間だ』


 とまあ、こんな理由で無関心です。
 良くも悪くも一誠は安心院さんの弟子なんですよ。


その2

黒猫ねーさん、遂に直接お障りしまくりの巻。

…………。まあ、うん……所謂逆痴◯すな。


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人外の師匠

さて、一誠を人外に仕込んだ彼女の気紛れお散歩と、聖剣だけ破壊して後は兄貴には押し付けちまえ作戦をやってる一誠達の様子……みたいな?


前回も沢山の感想をありがとうございます!


 兵藤一誠という少年が居る。

 その少年は、外から転生した一人のイレギュラーにより後に獲られる全ての権利を奪い取られ、物語から弾き出された元・主人公だ。

 

 肉親を、友人を、初恋の子を……それまでそれが当たり前だと思っていた人間達をイレギュラーに奪われ、居場所すら失った一誠には何の才能も無くこのまま朽ち果てる筈だった。

 

 そうなればイレギュラーである兵藤誠八は一誠という主人公に加え、貰い物の力を駆使して順風満帆な二度目の人生を送れた――

 

 

『キミにその気があるのであるのなら、彼に負けない――いや本来のキミすら凌駕する存在にしてあげよう。

ただし、かなりのスパルタ式だがな』

 

 

 筈だったんだよなー

 少なくともこの僕が剥奪されてブチ落とされた事により覚醒した可能性を見付けてしまうまではな。

 

 

『キミは兵藤誠八が『突然沸いて出てきた』と思ってるが、キミの周りの元・大事な人達はアレを最初からキミの双子の兄として扱っている。

だからもしかしたら自分の頭がおかしくなったのではないかと懸念しているようだが、それは正解さ。

彼は外の世界から、くだらん欲望を持ったままキミの双子の兄として転生してきた、単なるイレギュラーであり、キミが本来持つべき可能性の全てを奪い取ったのさ』

 

 

 正直今にして思えば、なんて僕はラッキーなんだと思ったもんだ。

 そりゃあ普段でも一京分の一のスキルである善行権(エンゼルスタイル)があるし、何もせんでも勝手にラッキーだけど、それでも僕はひょっとしたら『初めて』心の底から出会えた事に幸福感を持ったのかもしれない。

 

 

『しかし、兵藤誠八は見誤った。

全てを奪い取り、絞りカスと見下して優越感に浸ってる暇があるんなら、そのまま今のキミを殺すべきだったんだ。

が、それを怠った故に彼は近い将来、必ず後悔するだろうよ』

 

 

 赤い龍の帝王(ウェルシュドラゴン)を失い、その力を底上げする将来のエロさも無くしてしまった……が、そのイレギュラーによって一誠には新たなイレギュラーが備わった。

 それこそ、赤龍帝の籠手(そんなもの)なぞより遥かに上り詰められ、これまでの悪平等(ぼく)と比べてもより安心院なじみ(ぼく)らしく。

 

 不知火半纏よりも僕の写し鏡になれるだろう、新たな人外。

 

 

『死にたいと思うのであれば、その命を僕に寄越しなさい兵藤一誠くん。

決して後悔もさせず、決して埋まらず、誰よりも僕の背中を任せられる男にしてやるからさ』

 

 

 イレギュラーによって生まれたイレギュラーな人外。

 それが僕が持ちうる全てを叩き込み、それを吸収しつくした人外……兵藤一誠なのだ。

 他の誰にも代わりは務まらない。

 失った主人公としての格を見事自力で復活させた男。

 

 

「最近は夢でしか会ってねーしなぁ。

何やら一誠もお友達に恵まれてるせいで、この僕に構わなくなってきたしー? 仕方ねーから直接会いに行ってやるかな。

ったく、この僕に此処まで想われる男は有史以来、めだかちゃん達が居た世界を引っくるめてもお前だけだぜ一誠」

 

 

 夢と現実を操る過負荷(マイナス)一つ。

 持つ技術(スキル)と力を無限大に進化させる異常性(アブノーマル)一つ。

 総数二つのスキルを持ち、かつては勝てなかった言彦すら刹那でブチのめせるだろう領域に僕を引っ張り上げてくれた人外。

 

 そして、あろうことかこの僕の心を満たしてくれた絶対唯一の男とのたった十年ぽっちの付き合いを思い返しながら僕は動く。

 かつては七億は下らなかった悪平等(ぼく)全員と比べても釣りが出る、友人でも恋人なんぞ生易しい……それ以上の関係である愛弟子のもとへ散歩がてら行こうか。

 

 

「やぁ、グレモリー君。相変わらず奥さんと子供を大事にしてないみたいだな」

 

 

 色々と手土産片手にな。

 

 

「あ、あ、ああああ……! 安心院(あんしんいん)さん!」

 

 

 ま、彼に会うのは正直ダルいけど。

 

 

 

 

 平等なだけの人外・安心院なじみ。

 魅力的な声・可愛すぎる容姿・インフレ宜しくな数の様々な能力(スキル)

 それだけでも出て来ては駄目だろうと突っ込まれる存在の彼女だが、最近は無限に進化する異常性と現実を書き換える過負荷に自力で覚醒した愛弟子の『特性』により、なじみ自体も獅子目言彦に少なくとも一億回は苦渋を舐めさせられてきたかつてよりとは別領域へと進化している。

 

 つまり、出てきたら話がそれで終わってしまうと言うべきイレギュラー中のイレギュラーとなっているなじみだが、そんな彼女は只今冥界の現・ルシファー領の城の更に奥……サーゼクス・ルシファーの自室に来ていた。

 好んでよく使う一京分の一のスキル……腑罪証明(アリバイブロック)を駆使してである。

 

 

「き、来てくれると分かれば、最高のおもてなしをしたのに……」

 

「別にいらないし、話をしたら直ぐに此処から居なくなるつもりだ」

 

「えぇ……」

 

 

 ただ、そんななじみは、目の前でこれでもかと落ち込んでるサーゼクス・ルシファーに対して、色々な意味で面倒な奴だと思っていた。

 理由はサーゼクス自身のこの態度でわかる通り、かつて気紛れでなじみが姿を現したのを見た途端、何処かのシンパみたいな執着心を抱いているのだ。

 そして、何としてでも安心院なじみの分身である悪平等(ノットイコール)になりたいと思っているのだが……。

 

 

「そ、それなら今日は一体――ハッ!? まさかとうとう僕を悪平等(ノットイコール)に――」

 

「それは無いな。ありえねぇわ」

 

 

 なじみにとってはウザったい事この上ない性格故に、サーゼクスは未だに悪平等では無かった。

 いや、素養はあるようで無いのだが、それを加味しても有り余る程に『ウザい』性格をしてるせいで、大元のなじみから嫌がられてるという皮肉だった。

 

 

「そ、そんなぁ……!

僕はこんなにも安心院さん以外の全てはどうでも良いと思ってるのに……」

 

「思うだけなら誰だって出来るし、そのせいで、キミの大事な妹が兵士の少年と関係を持っちまってるんだけど」

 

「え、あぁ……兵士の少年って赤龍帝の事ですか?」

 

 

 そんなサーゼクスのあからさまな落胆を無視して話を進めるなじみに、どんよりとした雰囲気全開で、実の妹が下級の下僕悪魔と関係を持ってることに対して興味なさげな態度を示す。

 

 

「そうさ。

僕にとっちゃあ、キミの妹が誰と関係を持ってようが知ったこっちゃねーんだが、問題は手当たり次第女の子を口説いては貪ってる赤龍帝の小僧だ。

キミの妹のみならず、同眷属やらソーナ・シトリーさんやらその眷属の皆さんと関係を持っても僕にとっちゃ知ったこっちゃ無いんだが……」

 

「はぁ」

 

 

 日本の巫女の様な紅白装束もその声も容姿も何もかもが素敵だ……なんて見惚れながら気の抜けた返事をするサーゼクス。

 初めて目にしてからというもの、他の全てがどうでもなるほど安心院なじみの虜になってしまい、彼女の意に添わない真似は絶対にしなかった。

 例えるなら、主人に腹を見せて絶対の服従を示す犬と言える程の心酔っぷりだ。

 

 

「最近になって――まあ、あんな餓鬼にどうこう思うなんて有り得ねぇが、僕の次に一誠と親しい悪平等(ボク)にちょっかいを掛けて来たんだよねー……」

 

「はぁ……………はぁっ!?」

 

 

 だからこそ、自分じゃないにせよ自分の身内のどうでも良い餓鬼のやらかした失態に、思わず『あぁ、今日は隠れてるけどあの足で踏んでほちぃ……』と煩悩丸出し思考だったサーゼクスの血の気を一気に引かせる事となった。

 

 

「あ、安心院さんの次に兵藤一誠と近い存在というと、まさかレイヴェル・フェニックスさん……!?」

 

「そうさ。

ついでに言うと、キミの妹の眷属で唯一兵藤誠八君に靡かなかった塔城小猫さんも口説こうとしてたっけ?」

 

「そんな馬鹿な……!?

アレだけレイヴェル・フェニックスさんは丁重に扱えと念を押したのに!」

 

 

 今は数少ない安心院なじみの分身。

 即ち、サーゼクスにとってはなじみに選ばれた、嫉妬と憧れが入り交じる思いを抱く存在。

 悪魔で唯一悪平等(ノットイコール)であるフェニックス家……その子女であるレイヴェル・フェニックスが、最も嫉妬する相手である兵藤一誠と共になる為、妹達が居る人間界の学校に通いたいという申し出があった際、当然了承したのと同時に、既に学園の生徒だった妹達にくれぐれもと念を押した筈だった。

 

 それなのに、あの赤龍帝の少年――いやクソガキは妹やそ眷属・シトリーや眷属だけでは飽きたらず、よりにもよって安心院なじみに最も近いとされてる悪平等(ノットイコール)に手を出そうとし、それをわざわざなじみが直接自分に言いに来た。

 

 

「も、申し訳ありません!! 早急にそのクソガキをぶっ殺して参ります!!」

 

 

 サーゼクスは後方2回転宙返りと共に華麗なる土下座をしながら、薄い笑みを見せているなじみの足下にひれ伏した。

 冗談じゃない、赤龍帝というだけの単なる『カス』の下半身の緩さのせいで、なじみとの縁が完全に切れて敵意なんて向けられて見ろ、冥界なんて5分も待たずして悪魔ごと消滅してしまう。

 

 いや、悪魔という種族が滅ぶなんてどうだっていいが、なによりもなじみとの縁が切れるのをサーゼクスは心底恐れ、大戦の時ですら無かった大量の冷や汗と恐怖で真っ青になった顔で何度も何度も床に額をぶつけながら謝罪していた。

 

 己が魔王なんて事も刹那で忘れてである。

 

 

「いや、別に殺さなくて良いぜ? さっきも言った通り、悪平等(ぼく)があんな餓鬼に心を奪われるなんてあり得ねーし、実際レイヴェルちゃんは突っぱねたからな。

まあ、それに対して勝手に逆恨みして、レイヴェルちゃんを犯してまで言うことを聞かせるとかあのカスは馬鹿な事を考えてるみてーだが 」

 

「な……!? そ、それならやはり殺した方が……!」

 

 

 お、犯してまでだと!? 知らない事とはいえ悪平等相手になんて事を! とますます青白くなりながら始末する提案を出すサーゼクスに、なじみは『面白そう』に微笑みながら首を横に振る。

 

 

「キミがわざわざ出張らんでもアレは近い内にそれ相応の報いを受けるさ。

例えばそうだな……複数の女の子と関係を持ってるのに、妹にまで手を出され骨抜きにされちまった事にキレてる姉のセラフォルーちゃんとか?」

 

「あ、た、確かにセラフォルーは激怒してましたが……」

 

 

 クスクスと妖艶に微笑むなじみに一瞬見とれながら、ソーナとまで関係を持ったことを知り、激怒して人間界を破壊しようとしたのを必死になって止めた以前の事を思い出して苦い表情をするサーゼクス。

 

 セラフォルー・シトリー……現・レヴィアタンにてサーゼクスの同期なのだが、極度のシスコンだった。

 まさしく『目に入れてグリグリしても全然痛くない』程に、周りから見れば鬱陶しいレベルの過保護を妹に示してた訳で、当然妹が単なる下僕のガキに骨抜きにされたという報告を受けた時は激怒していた。

 その時はサーゼクスや他の魔王の必死なる説得により事なきを得ており、何とか人間界の消滅は免れたが、今でも隙あらば兵藤誠八を八つ裂きにしてやろうかと虎視眈々準備をしている。

 

 具体的には近々行われる授業参観とかで。

 

 

「それに、レイヴェルちゃんを兵藤誠八が犯して言うことを聞かせる――なんて知れば、僕達身内以外には意外と無関心な一誠も本気で動くし、あんまり悲観する所じゃあ無いさ。

アレは一誠を絞りカスと見下して優越感に浸ってるが、実際戦えば一誠に存在ごと消滅させられると知らんし、テメーが主人公だと思い込んでるという、実に幸せでお目出度い性格だ」

 

「…………」

 

 

 『一誠も甘いんだからなぁ。ま、その分は身内である僕達に全力で尽くしてくれるし? だから大好きなんだけど……』

 と、わざとらしく人間界で聖剣の破壊の為に色々と友達とやってるだろう一誠を夢想しながら頬を染めるなじみに、サーゼクスはその表情を向けられる一誠に対してどす黒い感情を抱く。

 

 人間の癖に最もなじみに近い力を両方持ち、なじみですら完全に背中を任せられると認められている新たな人外である兵藤一誠とは、まだ一誠が小さかった頃に何度かサーゼクスも会っている。

 

 弟子という美味しいポジション・ご褒美と表したキス・聞けば風呂も一緒に入ったし、わざわざ狭いベッドで一緒に寝たとか噂で聞いたサーゼクスでも、確かに彼の持つ能力(スキル)は攻略できないものだった。

 それを考えれば、双子の兄の兵藤誠八程度の才能なぞ豆粒のそれでしか無い……それは超越者と評されるサーゼクスをも認める決定的な事実だった。

 

 そして事実だからこそ嫉妬するのだ。

 無条件で信頼され、無条件でなじみに愛される兵藤一誠に。

 

 

「相変わらず羨ましい事を言われてますね、彼は……」

 

「そうかな、これでも大変なんだぜ?

兵藤誠八が目の前で当時一誠の初恋の女の子を虜にし、まだそのトラウマが残ってるせいで、異性対してかなり消極的だからなぁ……。

黒い野良猫が最近『姿と実態を任意に消せるスキル』で悪戯しくさってるが」

 

「そう貴女に言われてる事自体が……妬ましい」

 

 

 サーゼクス・ルシファーにとって、兵藤一誠は心の底から嫉妬する男なのだ。

 

 

 

 

 

 

「どうだ木場よ。兄貴達は動きそうか?」

 

「うん、塔城さんとフェニックスさんの話だと、さっき道端に突っ立ってた二人の使いの人とファミレスに入ったらしいよ」

 

「やはりか……フッ、言っては何だがわかりやすいか奴だ」

 

 

 どうせしゃしゃり出るだろう兄貴を使い、聖剣を破壊する作戦で行くことにした俺達は、悟られない距離から兄貴達の動向を見張っていた。

 そして見事に予想は的中し、アルジェント同級生と共に街中でお布施の呼び掛けを何故かしていた教会の使いと共にファミレスに入る所を押さえ、只今その外から監視していた。

 

 

「紫藤さんが兵藤くんに抱き付いてて、それを見てるゼノヴィアさんが固い表情で見てるね……」

 

「……。なるほど」

 

「もはや突っ込まねぇぞ俺は」

 

 

 双眼鏡片手に木場と匙とで少し離れた箇所からファミレス店内に居座る兄貴と教会の使い二人を観察してる最中、これまた予想通りの事をやってる様を見て、変に微妙な気分が三人の中で芽生えていた。

 ちなみにレイヴェルと白音は別方向から観察しているのでこの場には居ない。

 

 

「チッ、早く聖剣に関しての話をしろよ、どんくせぇな」

 

「落ち着け匙。イライラしていると見逃すぞ?」

 

「わーってるよ」

 

「…………」

 

 

 まだイチャイチャしてる兄貴と紫藤イリナにイラついてる匙を宥めつつ、口の動きから何を言ってるのか読み取るために集中して観察を続ける。

 やはり一度でも懸念を抱かせれば耐性が付くのか、さっきから兄貴の笑みを見ても表情に変化が見えないゼノヴィアとやらの『おい、結局なんの用だ?』という口の動きを読み取ると、漸く兄貴は紫藤イリナから離れて、居心地の悪そうな顔をしてるアルジェント同級生の隣に座り直す。

 

 

「『聖剣の奪還に……協力させてくれないか……?』だな。

どうやら本当に予想通りに動いてくれてるみたいだ」

 

「だね。それにしても部長の許可とか取ったのかなぁ?」

 

「ねーだろ。性欲馬鹿の目的はどうせあの紫藤イリナとゼノヴィアって奴ともにゃんにゃんする事だろうしな」

 

 

 大の男三人が双眼鏡を覗く事に変な罪悪感はあるものの、相手は兄貴だし、兄貴には上手く働いて貰わんとならん。

 だから此処は心を鬼にして、どうでも良いし観察なんてしたいと思わん連中の動向を探る。

 匙も木場もそれを押し殺してこんな情けない真似をしてるのだ……我慢だ我慢。

 俺もレイヴェルも目当てのものを探し当てるスキルは持ってないからな……地道にやらんと。

 

 

「ふむふむ……む……ゼノヴィアとやらが『断る、いくらイリナの幼馴染みであろうと、悪魔である以上信用できん』……と言ってるな」

 

「あー……僕が余計な事をして兵藤君に疑念を抱かせたからなぁ……信用できないんだろうね」

 

「教会側なら当然の反応だろ。

それに俺個人としては木場の行動が間違ってたとは思わねぇぞ」

 

「うむ、彼女まで兄貴の虜になったら使い物にならなくなってたと思うしな」

 

 

 木場のファインプレーにより、あの青い髪に緑のメッシュが特徴的なゼノヴィアとやらは兄貴の笑顔による洗脳に耐性が出来ている。

 兄貴はそれに負けじとさっきからゼノヴィアとやらに構おうとし、それを見てるアルジェント同級生と紫藤イリナが不満そうにしてるのが見える。

 うーむ……中々聖剣についての話が出ないな――っと?

 

 

「んん? 何だ、紫藤イリナが頭からコーヒーを被ってるぞ?」

 

「だな……おっ! 今度は性欲馬鹿が顔からハンバーグに突っ込んでらぁ! ザマァ(笑)」

 

「……。アルジェントさんとゼノヴィアさんが辺りをキョロキョロしてるね……というか、僕の見間違えかな?

さっきから兵藤くんと紫藤さんの頭の上を湯飲みが旋回しているように見えるんだけど……疲れてるのかな僕……」

 

「む……ほんとだ」

 

「なんだありゃ?」

 

 

 目を擦っては双眼鏡を覗き直すの繰り返しをする木場だが、俺も匙も同じ光景が見えている。

 

 

「あ、熱い!? な、なんなのよさっきから!」

 

「セ、セーヤさん大丈夫ですか!?」

 

「あ、あちぃぃぃ!? か、顔がァァァっ!!!」

 

「な、ななな! 何だ!?」

 

 

 ……恐らくこんな阿鼻叫喚の叫びが兄貴と紫藤イリナの二人によって店内を騒がせているのは読唇術をせずとも様子だけで想像できる。

 まあ、それはどうでも良いとして……俺達が気になるのは今尚、二人の頭上を不規則に旋回してはダイレクトに中身を二人のドタマにぶちまけてるコップや食器である。

 

 

「様子がおかしくないか? 誰かの悪戯にしては人間技には見えん」

 

「簡単な浮遊魔法なら僕達でも出来るけど、僕等じゃないし……」

 

「まさか塔城さんとフェニックスさん……じゃねーよな。

監視なのにあんな事をしたら意味無いし」

 

 

 どう見ても人間がやってるようには見えない。

 されど俺達がやってる訳じゃない。

 熱々の――多分機械から汲んできたお湯をぶちまけられて跳び跳ねてる二人を眺めながら、俺達は首を傾げるのであった。

 

 

(にゃ、にゃ、にゃ……♪)

 

 

 姿と実態を任意に消せるスキルを持つ、悪戯猫の仕業とはこの時不覚にも見抜けず……。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 イッセーのイッセーを堪能した。

 しかし、その最中で聞いたイッセーの過去を聞いてないわけはない。

 だから私は、イッセーの全てを一度奪った奴とそれにまんまと引っ掛かった馬鹿な雌に個人的にイラッとしたので簡単な仕返しをしようと、ふぁみれすというご飯を食べるお店の外から此方を見てるイッセーに見えるように……ふふ。

 

 

(食べ物を粗末にしちゃいけないし、次からはコレにゃん!)

 

「あっつぅ!? ま、また……ぐあっ!?」

 

(こっちを見るな! どうせ見えてないだろうけど、それでも不愉快だにゃ!)

 

 

 機械から出てくるお湯を一杯掛けたり、お前ごときがイッセーと同じ顔なんて嫌だと、イッセーにビンタをした雌共々ビンタをしてやったり……。

 まあ、取り敢えず昨日聞いた話に対しての報復を代わりにやってやる。

 イッセー自身はもうどうでも良いみたいだけど、聞いてた私や白音……そしてレイヴェルって子が納得する訳なんてない。

 だからやる……何の躊躇もなしに私はやる。

 まんまと洗脳されてイッセーにビンタした雌も、手当たり次第雌を洗脳して思い通りにするムカつく馬鹿も……私が仕返しする。

 

 存在と実態を好きなときに、好き様に消せる……この力でね。

 

 

「セ、セーヤくん!?」

 

「あ、あぁ……だ、誰がこんな……!」

 

「な……何なんださっきから……」

 

 

 ふふ、キミ等は私が見えない。

 気配も分からないし、『私の許可がなければ私に触れられない』。

 ただ、一方的に私に嬲られる。

 イッセーから与えられた自由を守るために使える様になった私だけの新しい力。

 転生悪魔なんかよりよっぽど頼もしい私だけの力……。

 

 

(ま、名前は分かんないけど、ね!)

 

「ぶはっ!?」

 

 

 イッセーの兄の後ろ髪を掴み、そのままテーブルに叩き付ける。

 にゃは♪ 外からイッセーがジーッと私を見てる気がすると思うと、お腹がきゅんきゅんしちゃうにゃ♪ アハ!

 

 

 

 

 

 

「……。昨日……一瞬だけ感じた気配の奴なのか?」

 

「え?」

 

「昨日? そういや、変な声で悶えてたなお前……」

 

「あ、いや……な、何でもない……。(こ、股◯をめちゃくちゃ触られてたなんて言えない……)」

 

 

終わり




補足

一誠の異常性……まあ、つまり無神臓(インフィニットヒーロー)は他作品におけるイッセーの無神臓との違いがある。

それが、本編で安心院さんが言った通り、彼を心の底から信用し、そして一誠からも信用された者は一誠と同じように進化が出来る。
 故に、最初の信用を勝ち取れた安心院さんの現在は言彦さんすらブチのめせる……てか、完全な主人公と対等以上にやりあえるまで進化してます。


その2

黒歌さんのスキルについて。

名前は考え中なんですが、効果は以下の通り。

 任意に気配・姿・実態を消せる。

 姿に関してはわざと相手に見えるように出来るらしく、煽り目的で相手の攻撃を『すり抜けるように』見せるナウい演出も可能。


 まあ、簡単に言えばデメリット無しの某万華鏡の『神威』です。
 故に兄貴は黒歌さんを無理矢理モノにする……のはかーなーりムズい。
そして洗脳に関しても、今回のオマケの通りほぼ不可能。

あぁ、兄貴は黒歌さんがかなり好みなのに……とまあ、そんな訳ですな。


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ゼノヴィアさんの心労

タイトル通り……か?

グダグダですね……いつも以上に。


そして毎度多くの感想をありがとうございます!


 何だったのかなんてわかりゃしない。

 俺とイリナの身に振り掛かったのは例えようの災難であり現実だ。

 ポルダーガイスト現象の様に物が襲い掛かり、意思とは関係無く身体が勝手に動いてしまう。

 お陰で鼻血は止まらねぇし、イリナも片頬を腫らせながら半べそをかいている。

 

 

「くっそ……何だったんだ」

 

「う、うぅ……あんまりよ……」

 

「だ、大丈夫ですか? 今治療を……」

 

 

 あきらかに原作じゃない出来事に遭遇し、騒ぎとなったファミレスから出て人気が殆ど無い公園にやって来た俺達は、ベンチに座って予期せぬ負傷を負った傷をアーシアからおっかなびっくりな様子で神器による治療を受ける。

 その際、イリナに対して怯えてる様子を見せていたアーシアだが、素直に治療を受けているのを見たのと、小さい声でお礼を言って貰えたお陰で少し緩和しているのが見れた。

 

 俺はともかく、イリナとさっきから妙に距離感があるゼノヴィアには変な負い目でも持ってるんだろう。

 原作じゃあ魔女と罵倒されたからな……言わせなかったが。

 そのせいかは知らないけど、イリナもアーシアに対して特に何も言わずに半べそのまま治療をされている。

 イレギュラーによりアーシアの印象が変わったんだろう……後は木場に邪魔されて上手いこと行かなかったゼノヴィアを落とせば、ハーレムメンバーはまた増えるのだ、気合いを入れないとな。

 そしてその後は絞りカスの目の前でレイヴェルと小猫を奪い取ってやらぁ。

 

 

「さて、さっきの話になるが、俺達は『友達の木場』を助けたいんだ。

お願いだから協力させてくれないか?」

 

 

 その為には何でも利用する。

 クク……絞りカスに何言われたかは知らんが、妙に性格が原作と離れてる木場も精々役に立って貰うぜ?

 

 

「木場……というと昨日お前等と居た白髪と金髪の悪魔か?」

 

「ん、あぁそうだよ。

金髪の男が木場で、白髪の方は小猫ってんだ」

 

 

 イマイチ乗ってこないゼノヴィアに木場の特徴を教えると、ゼノヴィアは顔をしかめる。

 あぁ、そういや戦闘シーンも無しに小猫を勝手に連れて出て行きやがったからな……聖剣計画の生き残りってのも知らんのか。

 

 

「アイツ、聖剣計画の生き残りらしくてな。

聖剣を物凄く憎んでるんだ」

 

「っ……なんだと?」

 

「嘘……あの計画に生き残りが……」

 

 

 いや、計画自体は知っててもその生き残りが悪魔に転生していたとは知らなかったといった方が正しいのか……木場の身の上話をした時のイリナとゼノヴィアの表情は驚きのそれだった。

 

 

「キミ等は聖剣の奪還……もしくは破壊を命じられたと言ってたよな?」

 

「だから聖剣計画の生き残りの為に破壊の協力をしたいと?」

 

「そう。悪魔としてじゃない……赤龍帝としてキミ等に協力をする。

大事な幼馴染みが危険な任務をしてると分かってて無視はできないしな」

 

「セ、セーヤくん……」

 

「む……」

 

 

 ……。ま、木場に関してはどうでも良いが、ウロチョロしてるコカビエルだの何だのは邪魔だからな。

 焼き鳥との戦闘が無くなってしまったものの、それでもコカビエルなんぞ話にもならん相手だ。

 さっさと炙り出してコカビエルに神が死んだことを喋らせた後始末し、ゼノヴィアが傷心になった所を打てば……ヘッ。

 

 

「ねぇ、良いんじゃないゼノヴィア? 悪魔としてじゃなくセーヤくんとして協力してくれるなら……それに赤龍帝だし」

 

「だが……」

 

 

 ……。チッ、原作だと渋ったのがイリナだったのに、やはりあの時木場が邪魔したせいで警戒されてるな……。

 いっそ、無理矢理ヤッちまうか? いや……それはまだ最後の手段として取っといて――めんどくせーな。

 

 

「悪魔の俺を信用できないのは分かる。だけどこれは本心だ……俺は木場の復讐心を少しでも緩和出来ればそれで良いんだ」

 

「…………」

 

 

 原作との展開に相当な差異があるせいで、最近は余り思った通りに行かない。

 が、まぁ……それによって此方にとっても嬉しい誤算というのもあるし、悲観すべき事でも無いんだが……それにしても怠い。

 俺を転生させたあのクソ神め……何が『心に隙が無ければチャームは発動しない』だ。

 くだらねぇ制限掛けやがってよぉ。

 

 

「悪魔の俺を信用できないのは分かる。だけどこれは本心だ……俺は木場の復讐心を少しでも緩和出来ればそれで良いんだ」

 

 

 そんな言葉を吐いた兵藤誠八を、私は信じられなかった。

 というより、聖剣計画の生き残りの少年……確か木場といった彼が昨日あの部屋から出る際、兵藤誠八は殺意の籠った形相をしていたのだ。

 それなに今になってさも『友の為』と宣われても……私には信じることは出来ない。

 それに良く良く冷静に考えても兵藤誠八の周りに居る者……つまり女達には違和感が感じる。

 このイリナもそうだし元・聖女のアーシア・アルジェントをこうして見れば分かる……何というか盲目的なのだ。

 あんな熱っぽい目を絶えず向けてるし、それに兵藤誠八自身が私に向けた笑みがそうだ。

 

 なんというか、術に嵌められたというべきか……今は予め木場と小猫といった悪魔に警告されたから表情を見ないようにしているが……。

 

 

「その割りには木場とやらはこの場に居ないが、何故連れてこない?」

 

 

 警戒するに越したことない。

 関わらないに越したことはない。

 それが今の私が思う兵藤誠八への評価であり、ハッキリ言って赤龍帝の力を持とうが協力なんて欲しいとは思えん。

 友がどうとか言ってる割りには、聖剣に怨みがある木場とやらを連れてないし。

 

 

「…………。木場とは連絡が付かないんだ。だが、先に聖剣を確保しておくに越したことは無いんじゃないか? 互いにとっても。

でも相手はコカビエルだ……キミとイリナだけじゃ厳しいだろ?」

 

「……。随分な自信だな。

まるでコカビエルを倒せると聞こえるが?」

 

「倒せるよ。

言っちゃ何だが、今の俺は四大魔王を越えてるからな」

 

「な、なんだと……?」

 

 

 それに胡散臭い。

 平然とコカビエルを倒せるだの四大魔王を超えてるだの言ったので思わず驚いたが、いくら赤龍帝だとしてもそれは話を盛りすぎだとしか思えん。

 雰囲気からもそうだし、何より大戦を生き残ったコカビエルは殺し合いの達人なんだぞ? 戦ってもないのに何故そんなに自信満々なんだ……。

 

 

神器(セイクリッドギア)禁手化(バランスブレイク)も出来るし、覇龍化も完了させて完全に制御可能になってる……何なら見せてやろうか?」

 

「わぁ、セーヤくん凄い! 流石私の未来の旦那様ね!」

 

「あ……! セ、セーヤさんに抱き着かないでください!」

 

「………………………」

 

 

 いや、知らんよ。

 神器に関しては持ってないから正直専門外だし、そんな訳の分からん単語を自慢気になって語られても私にはそれが凄いのか知らん。

 というか、例え莫大な力を持ってたとしても相手は三大勢力内での大きな戦争で名を上げたコカビエルなんだが……と言っても解って貰えそうも無さそうだし……また始まってるし。

 

 

「………。すまん、少し一人で考えさせてくれないか?」

 

「え、あ……まあ、良いけど」

 

 

 イリナがまたおかしくなってしまって姿を見るのも、この男に漬け込まれるもの嫌になってきた私は、考えさせろとその場しのぎの嘘をついて、二人に抱きつかれながらまだ何か言いたそうな顔をしながら私を見てる兵藤誠八に告げて、早歩きでその場を去る。

 

 ……。この任務……もしかしたらロクな結果も無しに殺されて終わってしまうかもしれんな。

 主から見限られてしまったのかな……私は。

 

 

 そんな事をぼんやり考えながら、兵藤誠八達と居た公園を出て住宅地の中を独り歩いていたその時だった。

 

 

「ゼノヴィアさん……で良いんだよね?」

 

「む!」

 

 

 妙な孤独感に支配されながらポツンと歩く私の前に現れたのは、日本人らしからぬ金髪が特徴的であり、私に兵藤誠八には気を付けろと警告して去った聖剣計画の生き残りの少年――

 

 

「木場……だったか」

 

「え、何で名前を?

……。いや、良いか。ええっと……ほんの少しで良いから話を聞いて貰って良いかな?」

 

 

 思わず木場と声に出した私に目を丸くしている。

 あぁ、そういえば彼とは自己紹介なんてしてなかったからな。

 何やら彼は話をしたいらしく、私の前に現れた様だが……ふむ。

 

 

「今は任務が一旦中止になってしまったからな……暇潰しに付き合ってやろう」

 

「本当かい!? なら此方に付いて来てくれ!」

 

 

 イリナが男とイチャイチャしてるんだ。

 任務処じゃないし私も暇潰しとしてなら付き合ってやっても良いと頷いて見せると、木場は本当に私達教会の人間を憎んでいるのか? と思うほどに明るく笑いながら付いてこいと促すので、てっきり背中に背負ってる聖剣を奪い取って来るのかと勘繰ってた私は調子の狂う思いをしながら付いていく。

 

 悪魔の言うことにホイホイ耳を傾けるなんて、私も相当参ってるのか……なんてボーッと考えながら。

 そして歩くこと数分……たどり着いたのは古めかしい喫茶店であり、言われるがままに中に入った私はギョっとした。

 

 

「イッセーくん、連れて来れたよ」

 

「む……意外と早かったな」

 

「うん、何か一人で歩いてて、彼女も一言で了承してくれて……」

 

「ほぅ……」

 

 

 複数の男女……それも中心に座る男以外は全て悪魔な集団に驚いた訳じゃない。

 私が驚いたのは、木場が話をしている相手の男のその容姿だった。

 それはさっきまでアーシア・アルジェントとイリナとまたイチャイチャしていた兵藤誠八にソックリな容姿をした……されど雰囲気がまるで違う一人の男が居たのだ。

 

 

「ひょ、兵藤誠八……じゃないよな?」

 

 

 思わず声に出してしまう私に、唯一悪魔の気配を感じない兵藤誠八ソックリな容姿を持つ少年は……『む』と一瞬だけ顔を顰めると、首を横に振りながら否定した。

 

 

「初見じゃクローンと見紛うほど似てるから無理もないが、兄貴じゃないよ俺は。

名は兵藤一誠……貴様を連れてきた木場の友達だ」

 

 

 そして、思わず平伏したくなるほどの――言葉には表せない強烈な存在感を放ちながら、口を開けたまま固まる私に名を名乗った。

 

 

 

 

 

 

 まさか、本当に木場が連れてくるとはな……ビックリだ。

 

 

「何か腹に入れるか? ご馳走くらいならするぞ」

 

「え、あ……いや……」

 

 

 しかし……なんだ? 妙に表情も態度も固いが。

 あ、そっか……俺以外この場に居る者は皆悪魔だからな。

 真逆の地位に居るこの者にとって騙されたとかそんな心境を抱いているのか……?

 

 

「大丈夫だよ、別に何もしやしないさ」

 

「う、うむ……」

 

 

 兄貴がすることを見張り、聖剣に関しての事を横からかっさらうという作戦だったが、あの変な現象でそれ処じゃ無くなってしまったのは何と無く察し付いた。

 故に、どうしようかと悩んでいた所を、木場が……。

 

 

『なら兵藤くんがしようとした事を僕達がやれば良いんじゃないかな? 兵藤くんみたいに聖剣破壊に協力したいと言って』

 

 

 そう提案し、兄貴にドップリな紫藤イリナ――じゃなく木場のファインプレーにより兄貴に疑念を抱いてるこのゼノヴィアとやらにその話を持ち掛けようと、上手いこと彼女だけを連れて来ようと、木場は出て行った訳だが――

 

 

「あ、悪魔が揃いも揃って私に何の用だ……」

 

 

 見ての通り、ゼノヴィアとやらはめちゃくちゃ警戒してる。

 うむ……俺の顔が兄貴ソックリなせいで俺に対しての警戒が人一倍だ。

 

 

「回りくどい事は言いたくないんで単刀直入に言うぞゼノヴィアとやら。

貴様の今やってる聖剣の奪還・破壊の任務に、貴様を此処に案内した木場に協力させて欲しい」

 

「なんだと……!?」

 

 

 ゴツンと俺・匙・白音・レイヴェル……そして木場の全員で立ち尽くすゼノヴィアとやらに頭を下げてぶっちゃけた。

 本当なら兄貴の『ご活躍』のどさくさ紛れに聖剣壊してしまおうという作戦だったのだが、あのファミレスの騒動で上手いこと動いてくれなくなってしまった。

 だからこうして、いっそドストレートに兄貴に埋もれなかったゼノヴィアとやらに懇願してしまう事にしたのだ。

 

 とは言え、言外に木場の復讐に任務とやらと平行して付き合ってくれなんて言った所で、兄貴経由でソックリな顔をしてる俺に対しての警戒心は物凄いだろうし、そんな簡単に了承してくれるとは思っちゃいない。

 

 

「ふ、ふざけるな! いくらこの木場とやらが聖剣計画の生き残りで聖剣に怨みがあるとしても、私にその復讐の片棒を担がせるのか!?」

 

「え……何でその事を……」

 

「兵藤誠八が得意気に話してたんだ。お前がまさかあの計画の生き残りだとはな……!」

 

 

 目を丸くする木場にゼノヴィアは感情的に吠える言葉に、また兄貴かよ……とゲンナリしながらも今なら簡単に情報を獲られそうだなと暫く聞いてみる。

 

 

「確かに計画自体はあったが、アレは我々も嫌悪した計画だ! 首謀者であるバルパー・ガリレイも背信の烙印を押して追放したしな!」

 

「なんだって……!?」

 

 

 そして獲た。木場の過去を土足で踏みにじった輩の頂点を。

 木場を含めた全員が眉間に皺を寄せ、彼女が出したバルパー・ガリレイという計画首謀者の名前を頭に刻み込んでいると、ゼノヴィアとやらは興奮しきった様子で息を切らせながら木場が飲んでたメロンソーダを引ったくる様に奪い取ってガボガボ飲み始める。

 

 

「あ……ぼ、僕のメロンソーダ……。

飲みかけなのに……」

 

「ぶほっ!?」

 

 

 あまりに強引だったせいでポカンとした木場の何気ない一言に、グビグビと飲んでいたゼノヴィアとやらは目の前の俺達に向かってメロンソーダを吹き出してしまう。

 

 

「おっと危ないですわ」

 

「うべ!? な、なにしやがる!!」

 

「いやいや危なかったですわ。

咄嗟に匙さんという盾が無かったらメロンソーダまみれでした」

 

「そのおかげで俺はベトベトなんですけど!?」

 

 

 ちゃっかりレイヴェルに盾にされてる匙だけがメロンソーダまみれの悲惨な事になっている。

 あぁ、俺と白音はサッとテーブルの下に避難したから事なきを得たぜ?

 

 

「ゴホッ、ゴホッ! きゅ、急に何を言うんだ貴様は!」

 

「だ、だって本当の事だし、そんなに怒らなくても……」

 

「ぐぬっ……も、もう知らん! とにかく木場とやらが、聖剣を恨むのはお門違いだ!」

 

「あ、う、うんそうだね……。だったらそのバルパー・ガリレイってのは何処に……」

 

「知らん! 教会を追放された後は堕天使側に寝返ってるしか知らん!」

 

 

 うがーと木場に食って掛かるのを何とか避けながら、木場は予期せず獲た情報を掘り下げて聞こうとしている。

 計画の首謀者なんて聞かされればそっちを優先するのは当たり前だし、やっと大きな情報を獲られたんだ。

 堕天使側という情報も聞き出せてかなり絞れて来たしな。

 

 

「そっか……堕天使を追えばバルパー・ガリレイを捕らえられるかな」

 

「というか、案外コカビエルの腰巾着でもやってるんじゃねーの? この事件って聖剣関連だし――ぐぅ、マジでベトベトしやがる」

 

「あぁ、バルパー・ガリレイについては何も言われてないので私は何も言わんが、聖剣に関しては別だ。

どんな理由にせよ悪魔である貴様等に好きにさせたくはないんだよ」

 

 

 ギロリと俺達を睨むゼノヴィアとやら。

 彼女の所属柄だからこんな態度なのも仕方ないか……なんて思ってたが。

 

 

「だ、だが……あの計画の被害者である木場の気持ちも分からんでも無いし、そ、その……1本くらいなら破壊しても良いとは思わんでもないというか……」

 

「え?」

 

 

 急にさっきまでの勢いを引っ込め、これまた急にモジモジしながら木場の方をチラチラ見るゼノヴィアとやらに俺達はポカンとしてしまう。

 だってさっきまであれだけ『関わるんじゃない!』と吠えてたのに、急にどうしたんだとしか思えない態度なのだから仕方ない――と思ってたが……。

 

 

「相棒のイリナは兵藤誠八に執心になりすぎて正直使い物にならなそうだし、かと言って私だけじゃ無理だし……」

 

『あー……』

 

 

 疲れた様に項垂れて話すゼノヴィアとやらに、俺達全員は納得してしまった。

 どうやらそっちのけで兄貴とイチャコラしてしまってるせいで任務を忘れてしまってるらしいな、紫藤イリナは。

 

 

「だ、だからその……どうしてもというのなら協力させてやっても良いぞ……うむ」

 

 

 その皺寄せが完全にこのゼノヴィアとやら一人にのし掛かってしまうのは必然的であり、チラチラと戸惑ってる木場を見ながら、急に潮らしくなって指先をちょんちょんとしてる。

 

 要するに――

 

 

「急に何ですのこの方? だったら最初からそう仰ればよろしいのに」

 

「か、仮にも悪魔相手に言えるか! それに私はお前等悪魔に協力しろとは言ってない! あの計画の生き残りであるこの木場個人になら良いと思ってるだけだ!」

 

「僕もまだ一応悪魔なんだけど……」

 

「所謂ツンデレって奴ですね」

 

 

 俺や匙や木場がかつて感じた気持ちをもうこのゼノヴィアとやらは感じてしまってるという訳だな。

 うん……めちゃくちゃ分かるぞその疎外感は。

 

 

「さっきは、兵藤誠八にも似たような事を言われたけど信用できないし、その分聖剣計画の被害者であるお前なら……まあ、他よりマシかなと……」

 

「……。これって喜んでいいのかな……」

 

 

 ある意味紫藤イリナ以外では木場が一番聖剣と密接した因縁を持ってるからな。

 変な同類意識でも感じたのだろうな……木場自身は因縁の獲物を引っ提げてる相手から変な信用の勝ち取り方をして物凄い微妙そうにしているが。

 

 

「い、1本くらいなら破壊しても良いと言ってるんだぞこの私が! 嫌なのか!?」

 

「い、いや……そりゃ助かるけど……」

 

「だったら黙って私を手伝え!」

 

「は、はい……」

 

 

 ……。結果オーライというやつかな……これは。

 

 

 

 

 

 オマケ

 

 

 イッセーの兄とイッセーを振った女に憂さ晴らししてスッキリした私は再びイッセーの後を付いていた。

 何やらまた……今度はイッセーの兄とイッセーを振った雌と一緒に居た筈の青い髪をした女と何やら話をしているのが確認できる。

 どうやらあの金髪の子の復讐にまだまともな青髪の女の協力を仰ぐ交渉をしていたみたいだけど……。

 

 

「っ……!? ま、また……!」

 

「? どうされましたか一誠様?」

 

「い、いや……なんでも……っひ!?」

 

 

 

(えへ、えへへ……♪ 一度やっちゃうとやめられないにゃ)

 

 

 金髪の子のみが青髪の女に協力する話に纏まって一息付いたタイミングで、私はすっかり中毒になってしまった行為の続きに走っていた。

 理由は当然――

 

 

「ぐぅ……ふ……っ……ぅ!!」

 

(必死に我慢してる……かわいいにゃん……♪)

 

 

 周りにバレないようにと必死に声を殺す姿が堪らない。

 そして手探りでテーブルの下を探ってるその手を……指を……。

 

 

(んっ……はっ……いっせーの指……美味しい……♪)

 

 

 掴まえてくわえる……。

 その度に身体が火照る……。

 止めたくてもこれはもう止められない。

 

 

(な、こ、今度は指を!? で、でも見えない……気配も全く感じない……! どういうことなんだ……!?)

 

(ん……ぁ……いっせぇ……しゅきしゅき……大しゅきにゃぁ……♪)

 

 

 お腹が熱い……ウズウズする。

 見えてないけど、見られてる気がすると思うとジンジンする……何処がとは言わないけど……えへ♪

 でも、そろそろ本当の意味で見て貰いたくなってきたし……。

 

 

「ぁ……っん……。イッセー……いっせぇ……此処だにゃぁ……」

 

「ぬっ!?」

 

「え、今の声……」

 

 

 声だけのヒントは上げようかな。

 あ、白音が居るからヒントにならないかにゃ?




補足

皮肉なことに、兄貴の思惑が外れて何故か木場きゅんとフラグが立ちそうになってるというね……。

心情としては、どう見ても木場きゅんの為とは思えない行動の兄貴より、聖剣計画の生き残りである木場きゅん本人と組んだ方が信用は出来るというイリナさんが完璧に骨抜きにされて、ひとりぼっちになったゼノヴィアさんの判断となります。

で、兄貴と瓜二つな一誠を微妙に警戒してるのは……まあ仕方無い。


その2

「我慢の限界だった。というか、そろそろ直接視姦されたくてちゅぱちゅぱしながらわざと声を出した。後悔はしてませんにゃ」

てな理由で声だけ聞かせたら黒歌さんなのでした。


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意図しないからこそのラッキースケベ

脈も落ちもねぇ。

只それだけよ。

毎度たくさんの感想をありがとうございます!


 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)

 そんな言葉に従うつもりは無いし、実際見てはない。

 が、確かに俺の耳には女の様な声が聞こえた。

 覚えは無いが、聞こえたのだ。

 

 だからと思うのは早計なのかもしれんが、もしかしたらここ最近俺の身に発生する……い、色々な現象はこの声の主が原因なのかもしれないと俺は考え、何か言いたそうにしている白音を後にしてレイヴェルと一緒に全神経を張り巡らせて探ってみるも……フッ、世の中は広いもんでなじみやフェニックス家の皆以外にも此処まで気配を感じさせず俺等に近付ける輩が居るとはなぁ。

 

 あの消え入るような声だけが手掛かりで、後は何にも分からないまま、微妙に残る悔しさを抱えて木場達の聖剣捜索を開始する事にした……手を洗った後な。

 

 

「で、目星は付いてるのか?」

 

「ふん、当然無い!」

 

 

 腑に落ちないままゼノヴィアとやらを上手く加えて始まった聖剣探しだったが、任務を与えられたのだから多少の情報は持ってるのではないのかと町外れに来た所で訊ねるも、何故かゼノヴィアとやらは堂々とした態度で無いとキッパリ言ってくれた。

 

 

「な、無いの?」

 

 

 この返され方には流石の木場も肩透かしを喰らった様な顔だった。

 

 

「あぁ、私が知らされてるのは奪われた聖剣がこの街に持ち込まれてるのと、奪った賊がコカビエルだって事だけだ!」

 

『……』

 

 

 あんまりにも堂々とした言い方に、俺達は思わず可哀想な奴を見るようなソレになってしまう。

 要するに紫藤イリナの彼女も体の良い捨て駒の扱いをされているのと何ら変わり――――いや、奪われた聖剣の残りを持たされてるしそうでもないのか? でもそれにしたって教会連中はもう少しまともな情報を与えんかったのかと突っ込まざるおえん。

 嘘を言ってるようには――うむ、思えんしな。

 

 

「結局は地道に探すしかないのか……」

 

 

 ゼノヴィアとやらからの情報も宛になりませんと分かり、代弁するように匙がボソッと洩らしているものの、晴れて木場が1本とはいえ聖剣を壊す権利を教会所属の相手から貰えたのだ。

 それだけでも無駄骨って訳じゃないし、最悪聖剣を融合させるには大きな場所が必要という情報だけでもかなりの役には立つのだ。

 だから、この街に聖剣の融合作業が出来そうな広い場所をピックアップし、そこを重点的に警戒しておけば、コカビエルだって姿を現す筈さ。

 

 ま、現れた所で奴を止めるのは皆のヒーロー兄貴様だがな。

 

 

「何かこう……敵方を簡単に引きずり出せるモンでもあれば良いんだがなぁ…。

罠餌みたいな何かが……」

 

「そうだね、せっかくゼノヴィアさんから協力しても良い許可を貰えたのに、こうも手掛かりがないとな」

 

「うむ、それについては私も思う。

正直、イリナが見付けてくれてることもあの様子じゃ無さそうだしな」

 

「む……何だ、何故そこで俺の顔を見るのだゼノヴィアとやら」

 

 

 イリナが~の所で俺をチラチラと見てくるゼノヴィアとらやの視線に変なむず痒さを感じる。

 いや、何と無く何が言いたいのか予想は付くが……。

 

 

「キミの兄……だったか兵藤誠八は? 彼は一体何なんだ? 木場とそこの――塔城だったかの二人が横やりを入れてくれたから助かったが、最初に彼の笑顔を見たら頭がボーッとして、何にも考えられなくなったのだが……」

 

 

 ほらな。

 その時点で引っ掛かってしまえば疑問なんて抱かなかったろうが、こうして引っ掛からないままだと逆に違和感を覚えてしまう訳で、何も事情を知らず俺を只の双子の弟だと思ってるゼノヴィアとやらがこうして質問するのも無理ない話だ。

 

 

「俺にも原理はよく分からん。

分かることと言えば、兄貴は悪魔に転生する前から『あぁだった』としか言えん―――――あ、俺は違うからな?」

 

「それはお前をさっきから見てても何にも思わんから理解しているが……わからんのか」

 

 

 魔法、超能力、催眠術、能力(スキル)……正体はイマイチ分からんが、兄貴は気に入った相手をタラシ込める異能を持ってるのは間違いない。

 その正体は……ええっと、なじみが言うには『転生特典』だとか何だとか。

 

 まだ顔も名前も、住んでる世界すら違がかった兄貴が、どこかの誰かのミスだからで死んだお詫びとやらで手にしたらしいんだが……俺にはファンタジー過ぎてよくわからん。

 死んだ存在が行き着く先は天国でも地獄でもない……『無』だと思ってる俺にはな。

 

 分かっていることは、その力で俺は大失恋をやらかし、匙は想い人を寝取られ、木場はとてつもない疎外感を感じてしまい、今此処に集まって聖剣を探そうとしている事だけだ。腑に落ちない様子の貴様には悪いが、どうしても知りたければリスク覚悟で兄貴に聞いてみると良いさ……お奨めはせんがな。

 

 

「兄貴が気になるのはわかるが、取りあえず今は貴様の任務をどう安全に終わらせるかだと思うが?」

 

「む……そ、そうだな」

 

「そーそー! あんな性欲馬鹿の事なんて考えるだけ疲れるだけだっつの」

 

 

 そんな事より重要なのは何だかんだで上手いこと立ち回れる兄貴達より早く1本で構わんから聖剣を探してしまうことだ。

 あの兄貴ってのは、一見女ばっかに見えるが、不可解な程先回りして事を起こす変な面もあるからな……油断はしない方が良い。

 

 

「俺と匙、木場とゼノヴィアとやら……そしてレイヴェルと白音で別れて怪しいポイントを捜索しよう。

何か分かれば即連絡……決して先走ろうとはするなよ?」

 

 

 さっさと探してさっさと始末する。それに越したことは無いんだからな。

 その為には人数的に二人一組に別れて動いた方が効率が良い……そうだろ?

 

 

 

 

 

 イッセーくんの言葉通り、僕はゼノヴィアさんと共に聖剣を探すために人気が無くて怪しそうな場所を探す。

 無言でスタスタと僕より半歩前に出て歩くゼノヴィアさんから、あの計画の首謀者を知ることは出来たものの、それでも聖剣に恨みが無くなった訳じゃない。

 出来ることなら彼女が背負ってる聖剣を壊したいけど、それでは約束を破ってしまうことになるので我慢する。

 

 どうであれ7本の内の1本を壊しても良いと言ってくれたんだ……その為の義理は果たすつもりさ。

 

 

「此所には無さそうだね」

 

「う……うむ、そうだな」

 

 

 獲た情報を元に目星を付けた場所を見て回るも、収穫は今のところ無し。

 焦ると言えば焦るけど、焦ったせいで失敗しては元も子も無いので、早る気持ちを抑えながら一つ一つの場所を丁寧に探す。

 

 

「さてと次は……」

 

「な、なぁ……」

 

 

 やる時はやれ。

 しかしその為には過程を疎かにするな。

 僕の復讐心を肯定も否定もしなかったイッセーくんの言葉を忘れず、どんな時も冷静に心を落ち着かせながら次のポイントへ向かうと古ぼけた廃墟を出ようとしたその時だった。

 三組に別れてからというもの、全く話さなかったゼノヴィアさんが突然として僕に――何かを言いづらそうにしながらといった表情で声を掛けてきたので、僕も思わず反射的に彼女へと顔を向ける。

 

 

「どうしたの?」

 

「う……うむ、お前に一つ確認の為に聞いておこうと思ってな……」

 

 

 聞いておきたいこと? と僕は首を傾げるとゼノヴィアさんは何故かソワソワしながらこう言ってきた。

 

 

「やはりお前は聖剣が憎いのか? 聖剣自体に何の落ち度はなく、計画を進めていたバルパー・ガリレイのせいだと言った後でも」

 

「は?」

 

「そ、そりゃあ私もあの時は勢い半分で1本くらい破壊しても良いとは言ったが……うむ……その……」

 

「……………」

 

 

 罰の悪そうな言い方をするゼノヴィアさんに、僕は自然と目をスッと細めて彼女を見つめ……僕の今在る気持ちを話そうと口を開いた。

 

 

「憎いよ。聖剣(アンナモノ)の為に僕の全てだった仲間を弄んだ挙げ句殺した教会も、キミが話してくれたバルパー・ガリレイもね」

 

「……………」

 

「確かにキミの言う通り、あんな実験をした教会の狂人達が悪いのであって、聖剣自体に罪は無いのかもしれない。

けどね、だからといってそんなものの為に仲間の意思や命をドブに捨て、背信行為で追い出されただけでノウノウと生きてる連中達は許せないんだ。

だから僕はキミの出した提案通り1本でも構わないから聖剣を破壊させて貰う、そしてあの計画を喜んで進めた連中にも報いをうけさせる。

仲間の為――なんて自分の復讐心を誤魔化す方便じゃない……これは僕なりの過去に定められた運命への決着さ」

 

 

 本音を言うと聖剣全部を壊したいけど、ゼノヴィアさんへの義理もあるし彼女自身の方便も正論だと思ってる。

 結局、聖剣が……じゃなくて聖剣計画を進めて皆を殺し、背信行為で追放されただけの罰で生き残ってる連中が半分以上原因なんだ。

 そのバルパー・ガリレイが今何処に居るのか、匙くんの言う通りコカビエルの腰巾着をやってたらそれでよし、やってなくて何処かで生きてるのであればそれでよし。

 どっちにしろ僕にとってのケジメを止める事は無いんだから。

 

 

「……。まあ、ざっとこんなもんかな。

どうする? 聖剣に仇なす悪魔として断罪でもするかい?」

 

 

 ……。我ながらなんて挑発的なんだと自嘲しながら、妙に塞ぎ混んじゃったゼノヴィアさんに言うも、彼女はうつ向いたまま動かない。

 殺気も感じられないし、挑発に乗って成敗! なんて事は無さそうだけど、それにしたって急にどうしたんだろうか?

 そう思いながらうつ向いてるゼノヴィアさんを眺めていると……。

 

 

「なら壊せば良い……これも立派な聖剣だ」

 

「えっ……?」

 

 

 ゼノヴィアさんは突如、背中に封印された状態で背負っていた自分の聖剣の封印を解くと、その場に突き刺して僕に破壊を促したのだ。

 これには僕もビックリし、固まってしまった。

 

 

「な、なんでまた……?」

 

「お前が単に聖剣を壊したいからって理由で動き回ってないと分かったからだ」

 

「でもその聖剣はキミが教会から貸し与えられたものだろう?」

 

 

 うつ向きながら僕に聖剣を差し出そうとするゼノヴィアさんに、僕は訳が分からないまま地面に刺さる聖剣を見る。

 悪魔に転生した僕にとっては本能的に感じてしまう恐怖の力を放つそれを見て、いっそ破壊してしまいたいと確かに思ってしまう訳で……。

 

 

「あの計画のおかげで研究が飛躍的に進歩したのは事実だ。

しかしその犠牲はあまりにも大きく、我等ですらあの計画はおぞましいものだと認識している。

だからこそ、その計画の被験者であるお前がどんなに憎んでいるかが……被験者じゃないにしても分かったつもりだ」

 

「だからキミの持ってるコレを破壊しろと?」

 

「あぁ、ムシの良い話なのは分かってるが、少しでも償えれば……なんて」

 

 

 そう言ってゼノヴィアさんは地面に突き刺した聖剣から離れる。

 償い……教会を代表してゼノヴィアさんは僕にこの聖剣を破壊させた償いをしたいと言った。

 神を信仰してる彼女が、神の力が込められた武器を今は悪魔になってしまった僕に差し出してる。

 それがどんな意味か分かってる……多分それだけ彼女は本当にそう思ってるんだろう。

 

 だけどね……。

 

 

「嫌だよ」

 

「………は?」

 

 

 それはちょっと違うよゼノヴィアさん。

 キミは別に関係ない。

 

 

「うん、ちょっと前までなら即座に壊してたかもしれない」

 

「だったら壊せば良いだろ? 憎いんだろ聖剣が?」

 

「うん、憎いよ? こんなガラクタの為に仲間を殺されたんだ……出来るなら今すぐバラッバラにして海にでも捨ててしまいたいくらいだ」

 

 

 今更『心変わりしました、復讐なんて空しいからやめます』なんて言わないし思わない。

 復讐に美学なんて求めないし、体の良い手段なんて選びやしない。

 けどね……こんなやり方で壊しても僕は過去のケジメが付けられるなんて思えないんだよ。

 

 

「償いなんて要らない。何よりキミからそんな事を言われると教会から破壊させて頂いてるみたいで気に入らない」

 

「う……」

 

 

 何故か自然と出てしまう笑みにゼノヴィアさんが言葉には詰まらせる。

 うん、僕でも不思議さ……なんでこんな時に笑ってしまうのかが……。

 

 

「僕の目的は教会側の連中の意図しない事をして、悔しそうに顔を歪ませるのを見て指でも指しながら、『ザマーミロバーカ』と大笑いしてやる事さ。

だから、キミの善意は要らない。キミと――あー紫藤さん以外の聖剣を見付けて修復できないくらいに破壊してから、その残骸を教会に着払いで送りつけてやるんだ!」

 

「…………。お前、ひょっとしてサドって奴なのか? 色々と考えが歪んでるような……」

 

「さぁ? でも少なくともその方がスッキリと過去へのケジメが付けられると思ってる。

だからゼノヴィアさん……その聖剣はキミの好きにすれば良いと思うよ? 僕は他のを壊すから」

 

 

 我ながら本気で歪んでると思う。

 けど、わざわざ向こうから差し出されるより自力で探したて破壊した方がスッキリするし過去への決着もつけられると思ってる。

 ふふ……僕を否定しなかったイッセーくんと、ハングリー精神が強い匙くんの影響かなぁ……ふふふ。

 

 

「……。わかった、ならばもうこんな事は言わん」

 

「うん、なんかごめんね? 折角のキミの覚悟を不意にしちゃって」

 

「ふん、さっきまでは私がどうかしてたのだ。

よりによって悪魔である貴様に聖剣を渡そうとするなんてな」

 

 

 謝る僕に顔を逸らしてぶっきらぼうに言うゼノヴィアさん。

 いや、でも本音は割りと迷ってたりしたんだよ?

 

 

「別の意味で兵藤一誠も変な奴だ。

人間なのに悪魔とツルるんで……」

 

「変なのは認めるけど、僕も匙くんも塔城さんもイッセーくんのお陰でこうして居られるのさ……」

 

「……。対価を支払って悪魔と契約なんてする人間が、悪魔を救うなんて冗談でも笑えんぞ。

ほら、次の場所に行くんだろ? もたもたするな!」

 

「あ、あはは……はい」

 

 

 イッセーくんに対する警戒心を顕にしながら、地面に刺さった聖剣に近付くゼノヴィアさん。

 別に仲良しこよしになってなんて絶対無いけど、何と無く彼女の扱い方が分かった気がしたかも……なんて考えながら聖剣に封印を施そうと念じている彼女を眺めていた――

 

 

「っ……危ない!!」

 

「ひゃあ!?」

 

 

 突然感じた強い殺気に、僕は本能的にゼノヴィアさんに飛び掛かり、そのままゴロゴロと地面を転がりながらその場を離れる。

 そしてそれと同じくして、聖剣が刺さっていた箇所から耳を押さえたくなる爆発音と大量の砂煙が舞い込んだ。

 

 

「くっ……だ、大丈夫かい?」

 

「あ、あぁ……な、なんとか……っ!?」

 

 

 何とか間に合ったみたいで、ゼノヴィアさんに怪我は無さそうだが、何故か突然顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている。

 

 

「な、な、な……!」

 

「ど、どうしたの?」

 

 

 まさかやっぱり間に合わずに怪我を!?

 明らかに様子のおかしいゼノヴィアさんが心配で視線を動かした僕は――

 

 

「……あ」

 

 

 何で彼女が顔を真っ赤にしていたのか知ってしまった。

 その……突き飛ばして一緒に倒れた際、僕の右手が思いきり……その。

 

 

「あ、ち、違うんだ……わざ、わざとじゃ――」

 

「ヒャッハロー!! お宝とクソ悪魔はっけーん!!!」

 

 

 

 

 

「な、何をするんだこのバカーッ!!」

 

 

 胸を思いきり掴んだままだった。

 そのせいで煙が立ち上る中心から聞こえた快楽主義者みたいな声も掻き消され、聞こえたのは僕の頬に走る痛みと乾いた音だった……。




補足

木場きゅんラッキースケベの巻。

このイッセーにあるようで別にそんな無かった故なのか、木場きゅんがやっちまいました。


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イレギュラーにはイレギュラーを

木場きゅんラブコメ戦闘回……と思ってるかたは申し訳ない。

今話はそれに平行した生徒会長&匙きゅん組と、小猫&レイヴェルさん組のお話。

特に小猫&レイヴェルさん組ですねメインは。



 今にして思えば、一目惚れの延長で悪魔に転生したって中々にアレな理由だと俺は思う。

 初恋相手と結ばれるなんて決まった訳でもないのに、その人が好きだからと盲目的に突っ走り、その結果は『魅力的』で『完璧』で『誰にもお優しい』と吟われておられる奴にその人は惹かれていき、他の仲間達皆もソイツの所に行って宜しくやって堕落してしまいましたなんてオチだ。

 

 しかもその完璧男様々が女関係にクソだらしねぇってんだから、笑えやしねぇってのはまさにこの事だぜ。

 ま、それも含めて俺はくだらねぇとさえ思える初恋も仲間としての情も綺麗さっぱり消せたから良いし、今は同じ苦渋を舐めさせられて孤立気味となった性欲馬鹿と同じ眷属である木場の手伝いを『誰にも命じられること無く、自分の意思』でやってるし、こっちの方が充実した気分を味わえてる。

 

 

「見つからんものだな」

 

「そんな簡単に見付かれば苦労もないだろ」

 

「それはそうだな……」

 

 

 はぐれ悪魔になる覚悟で眷属を脱退する宣言を、溺れて堕落したしょうもない連中に啖呵切ってから数日か? 未だに奴等は俺に正式なはぐれ認定をしてこない。

 まあ、テメーが抱えてた奴に失望されて眷属を抜けましたなんて周りの悪魔連中に知られたら『恥』以外の何物でもねーし? テメーの体裁の為に俺を何とか縛り付けようとでもしたいんだろうよ……自覚もなく奴隷扱いしながらな。

 

 

「よし、次に行くか」

 

「おう。でも大丈夫なのかイッセー? 塔城さんとフェニックスさんを二人だけにさせて?」

 

「む? なにがだ?」

 

「いや……一度キッパリ拒絶したと聞いたし、俺も無いとは思ってるが、それでもお前が居ない間にあの性欲馬鹿が――なんて思うとな」

 

 

 俺はそんなもんゴメンだ。

 洗脳だかなんだか知らんが、性欲馬鹿に溺れ、寵愛(笑)を受けるために本来の役割を疎かにしてまですり寄るその尻拭いをし続ける人生なんて真っ平ごめんだ。

 それだったら、どうぞ姉魔王にでもチクってはぐれ認定にしてくれて結構だし、俺はやっぱりイッセーやイッセーに集まった奴等とツルんでた方が今じゃ心の底から安心できる。

 

 性欲馬鹿が塔城さん以外の眷属連中とプロレスごっこしてるせいで孤立してしまった木場。

 

 初恋の人を落とされ、それまでの関係すら塗り替えられ、否定されたイッセー

 

 そしてそこから這い上がり、それに惹かれて性欲馬鹿の誘惑を真正面から拒絶した塔城さんとフェニックスさん。

 

 んで、こっちの事情は知らないけど、イッセーによって少しずつ変わりつつある元浜と松田。

 

 

 性欲馬鹿から逃れ、突っぱねてきた者達が奇しくも集まった俺達は奇妙な繋がりがあると俺は確信できる。

 だからこそ、性欲馬鹿の目を付けられてるあの二人の――普通に美少女である二人が心配なのだ。

 洗脳をはね除けられるとはいえ、イザとなったら力付くでも事を動かす様な気がするあのクズに何かされんじゃないのかと……。

 そんな不安をさっきから抱えながら、手分けしてイッセーと聖剣探しをやってる最中問い掛けてみる俺に、イッセーは『フッ……』と軽く俺に微笑を見せると、怪しい箇所と定めて訪れた廃墟の地面に落ちていた小石を拾い上げながら口を開く。

 

 

「心配せんでもあの子達なら大丈夫だ。

洗脳についてはまだ不明瞭な所はあるが、少なくとも兄貴に力付くで――なんて事は特にレイヴェルには不可能さ」

 

「というと?」

 

 

 最初から信じきってるように断言するイッセー

 悪平等(ノットイコール)という存在を名乗るイッセーとレイヴェルさんには不思議な――俺や木場の持つ神器とは別物の力があると聞いてはいる。

 が、それでも性欲馬鹿は困ったことに神器の中でも最上位の神滅具である赤龍帝の籠手(ブースデッドギア)の使い手だ。

 

 その力を今何処まで引き出せてるかは知らんが、十二分に引き出せてるとすればいくらレイヴェルさんでも危険じゃないのか? そう思う俺にイッセーは察した様に首を横に振る。

 

 

「確かに兄貴の持つ赤龍帝の籠手は、時間と共に力を倍加させるという恐ろしい神器だ。

だが、それでも足りないな……レイヴェルを屈服させるだけには全然足りん。

力を倍にする程度じゃあ、フェニックス家過保護な兄達に『自衛手段』と俺と共になじみ――いや師匠に一時期教え込まれたレイヴェルには絶対にな」

 

「…………」

 

 

 クックックッとイッセーにしては意地の悪い顔でニヤけて言い切るのに対し、俺はただ黙って見ていた。

 曰く、現実を否定して書き換える力を持つらしいイッセーの力は只の人間とは思えない凶悪な力である。

 そんなイッセーにそこまで言わせるレイヴェルさんは、そこまで凄かったのか……転校初日から『一誠様ぁ~!』とキャーキャー言ってる姿を見るとどうしても違和感を感じてしまうが、それ以上に俺達を恐怖させる威圧感を持つものまた事実。

 曰く、ガキの頃から年の近さもあってずっと一緒だったと言ってるイッセーがそう言うんだから、俺もまた二人を信じるべきなんだろう。

 

 

「それに、レイヴェルに張り合っては何度も叩き潰されてる小猫も、ふふ……自覚してないんだろうが、そろそろ化けるかもな」

 

「え、レイヴェルさんと勝負してたのかよ……」

 

「あぁ、最初の方はは三秒で沈んでたが、最近は5分程真正面からレイヴェルと殴りあってたからな……。

この前俺も手合わせした時も……ふふ、腹に一発貰って内臓数ヵ所をやらてれしまったよ」

 

「戦車の彼女に腹に一発貰って内臓も破壊されてるのに平然と生きてるお前の身体が信じられねぇ……」

 

「為せばなる。鍛えれば人間も奴等と張り合えるって事さ、ほら次に行くぞ匙よ」

 

「…………。おう」

 

 

 平等ってだけの人外を自称する悪平等らしい二人だからか、俺からすれば純血悪魔のフェニックスであるレイヴェルさんならともかく、只の人間であるイッセーが戦車の駒を持つ塔城さんの一撃を貰って平然と生きて動き回ってる事が驚きというか……まあ、それも追々聞いてみる事にして今は木場の役に少しでも立たないとな。

 

 

 

 

「うーん……『お目当ての探し物をピンポイントで発見できるスキル』が無いと、中々難しいものですわね」

 

 

 一誠様のご指示に従い、只今小猫さんと木場さんのお手伝いをしている訳でありますが、こうして手懸かりが殆ど無い状態でのお探し物というのは中々どうして難しいですわ。

 まさかこんなにも見つからないものとは……探すのが下手なのか、それとも隠れてるコカビエルの手腕を誉めるべきなのか。

 

 

「そんな日常的な力もあるんですか?」

 

 

 どちらにせよ、一本でも探して木場さんに連絡をしてしまおうと手当たり次第怪しい場所を探して回ってるのに、収穫はゼロ。

 こればかりは安心院さんにスキルを借りておけば良かったと後悔してると、三手に別れて組む事になった小猫さんがスキルについて訪ねて来たので、取り敢えず頷いておく。

 

 

「人の性質(キャラクター)を具体的に示すのが能力(スキル)ですからね、あると言えばあるかもしれまん」

 

「………」

 

 

 能力保持者(スキルホルダー)……何物にも属さないその力はその人物の性質で決まるのが大体のセオリー

 それ以外は安心院さんの貸し出しによって使えるのだが、生憎安心院さんはもうスキルの貸し出しはやってない。

 

 いや、貸す相手も貸すメリットも無いから貸し出しなんてやる必要がないというのが正確でしたか……とにかく安心院さんの持つ一京という途方もない数のスキルの中にはそういったものもある筈。

 しかし無い物ねだりはよくありませんし、そんな事で安心院さんを頼るなんて悪平等としてはほぼ失格。

 故に僅かに感じる『気配』だけを頼りに私はあちこち小猫さんと探し回る。

 これもまた『修行の一つ』と思えば苦とは思えませんしね。

 

 

「あ、レイヴェルちゃんに小猫ちゃんじゃないか」

 

 

 ………。まあ、その修行の為に聖剣探しをしてるのに、邪魔になる輩が現れるのは喜ばしくありませんが。

 

 

「……。また貴方ですか」

 

「……。どうも」

 

 

 聖剣を探してるのは私達だけじゃない、きっと何かの理由で兄貴も動くだろうな。

 そう一誠様は仰有ってたし、現にあのゼノヴィアという人間が一人で木場さんに連れられて来た辺りから簡単に予想は出来ましたが、まさかこうも的中するとはと呆れすらくる。

 無駄だと分かってるのに、張り付けた嘘っぱちな笑顔を……一誠様のお顔をトレースしただけのゲスがするなとある種の嫌悪すらある。

 

 

「こ、小猫さん……」

 

「む、またセーヤくんの知り合い?」

 

「まぁね」

 

 

 おまけにまた違う女を引き連れてる。

 一人は元シスターのアーシア・アルジェントで、もう一人は……

 

 

「なに、まさかアンタ達もセーヤくんを?」

 

「「…………」」

 

 

 紫藤イリナ……でしたか? 一誠様の初恋相手であり、そして兵藤誠八に洗脳され、全てを塗り替えられた……ある意味被害者。

 あの時一誠様から聞いた限りじゃ同情―――

 

 

「いや、この二人は一誠が好きみたいでな」

 

「一誠? あぁ、セーヤくんの弟の? 昔私にセクハラした……」

 

「え、そんな事が……?」

 

 

 

「「…………………………………」」

 

 

 

 ……。いや、しませんね。

 どうであれ、洗脳されたとはいえ、あぁも嫌悪感丸出しで一誠様を語られるのを見て同情する気持ちは完全に吹き飛んだ。

 そしてその話を簡単に鵜呑みにするシンパ達にも失望ものだ。

 

 

「あぁ、そういえばあの時イリナってば悲鳴だしながら一誠をビンタしてたっけ?」

 

「うん、だってあの時セーヤくんを語って私に近付いてきたんだもん。

まあ、一瞬で見抜けたけど」

 

「双子だからパッと見じゃどっちか分からないしね。

まあ、イリナは騙せなかった訳だが」

 

「あ、あの人そんな事をしたんですか……? ちょ、ちょっとそれは……」

 

「あぁ、友達が居なかったからなぁ……アイツは」

 

 

 

「「………………………………………」」

 

 

 八つ裂きにしてやろうか……。

 私は……そして恐らく小猫さんも思っただろう。

 一誠様が言ってた事とまるで違う事を平然と宣う紫藤イリナと、こちらを見ながらニヤつく兵藤誠八――そして簡単にうのみにしてるアーシア・アルジェントを消し飛ばしてやりたくなる。

 

 

「まあ、セーヤくんに色目使わなければ別に良いけど……」

 

 

 そんな私達の気持ちも知らず、紫藤イリナは兵藤誠八にもたれながらこっちを睨んでる。

 しかし私は言いたい……そのもたれ掛かってる相手の兵藤誠八の貴女を見る目が『あんまり余計な事を言わんでくれ、コイツ等を落とせないじゃないか』って下劣な目をしてることに……まあ、言わないけど。

 

 

「話は終わりですか? ならこれにて――」

 

 

 くだらない茶番に付き合わされてすっかり本来の目的から離れてしまった私と小猫さんは、後でコイツ等共々八つ裂きにしてやると決心しながら離れようと、自分でも分かるくらいに無愛想に言ってその場を去ろうとする。

 

 

「あ、ちょっと待てよ。レイヴェルちゃんはしょうがないとして、小猫ちゃんはれっきとした俺達グレモリー眷属の仲間なんだぜ? あんまり勝手に連れ出すのはやめてほしいんだけどな……どうせアイツが勝手にやってるんだろ?」

 

「はぁ?」

 

 

 しかし、あまりにも今の自分の状況を自覚してない発言に思わず私と小猫さんは呆れてしまいながら足を止めてしまう。

 何というか、バカなのかと。

 

 

「それはお互い様じゃなくって? 貴方も見る限りじゃそこの教会の使いと一緒に行動してるじゃありませんか」

 

「確か部長は『この人ともう一人の教会の人のやることに一切干渉しない』と言ってましたけど?」

 

 

 自分のやってる事の方が主の意向に逆らってるというのに、ただ私と一緒に居るだけで『何をするとも言ってない』小猫さんを仲間と尤もらしい事を言って抱え込もうとする。

 これがバカじゃなければ何だというのか……兵藤誠八はそろそろぶっ飛ばしたくなる笑みを見せながら、勝ち誇っている。

 

 

「どうせ木場経由で無関係な一誠がチョロチョロ動いてるんだろ? リアス部長からアイツと関わるなと言われてるのにさ」

 

「だから?」

 

「だからって……それこそ主の意向を無視してるって事だろ? 俺は悪魔としてじゃなく幼馴染みとしてイリナの任務に協力してるが、アイツは単に好奇心と無駄な自己満足で木場の復讐に荷担してる。

わかるか? 一誠は人間だから勝手に動いても何もされんと鷹を括ってるようだが……それに傾倒してる木場や協力してる君達は違うんだ、これ以上付き合ってると何かしらの罰が下ってしまうんだぞ?」

 

「………」

 

 

 ペラペラと得意気に語る兵藤誠八は、私と小猫さんはどうしようもないバカを見る目に気付いてない。

 だからなのか、急にまた殴りたくなる笑顔を向けながら手を差し出す。

 

 

「悪いことは言わない、俺達と協力した方が良い。

木場も小猫ちゃんも……そしてレイヴェルちゃんもアイツの役に立ちそうもない協力より効率が良いだろ?」

 

 

 そして、私達にとって尤も言ってはならないことを、このゲスは言ってくれた。

 

 

「話になりませんね」

 

「ええ、バカだバカだとは思ってましたが、こうまで救いようが無いとは」

 

「は?」

 

 

 協力? なんで私達がお前ごときカスと徒党なんて組まなければならない? 借り物の、奪い取った役割に悦に浸るクズに私達が? 笑わせないで貰いたい。

 

 

「この際ですからもう一度言いましょうか兵藤先輩? 私は貴方が心の底から大嫌いです。そんな人の近くに居ることすら耐えられないくらいに」

 

「支離滅裂な事しか言えない『カス』に貸す力なんてございませんわ。

死んで出直しなさい……無能が」

 

 

 こういう時ほど小猫さんと息がピッタリ合う。

 唖然とするバカにハッキリとありえないと言い放った私と小猫さんはほんのちょっとだけスッキリしながら、シンパ達のそよ風以下の殺気を受けていると、言われた本人の兵藤誠八は差し出した穢らわしい手を引っ込めながら何とか保とうとして崩れてる笑顔を見せている。

 

 

「ず、随分と一誠に肩入れするけど……ひょっとして何かされたのか? キミ達からすれば人間であるアイツは弱いだろ?」

 

「それが貴方の無能表している証拠。無知というのは幸せですわねぇ」

 

「ちょ、ちょっと貴女達!? さっきからセーヤくんを……!」

 

「無能に無能と言って何が悪いです? あぁ、愛しの兵藤先輩の悪口は耐えられませんでしたか? じゃあお互い様ですね」

 

 

 今の一誠様にどう逆立ちしても勝ち目が無いことも未だに見抜けない。

 まあ、一誠様がひけらかさずに居るから見抜けないのでしょうが。

 

 

「話はこれで終わりですわ。全く以て時間の無駄でしたわね」

 

「リアス部長に言っておいて貰えますか? 今の貴女には付いていけないと」

 

 

 最早話す舌は無いと、私と小猫さんは顔を歪ませるバカと取り巻きを通り過ぎ、さっさと次のポイントを目指して行く。

 その際兵藤誠八がどんな顔をしていたかは知りませんが、それを引っくるめてもとんだ茶番……それが私の正直な感想ですわ。

 

 

 

 

 

 

「まったくもう、何なのあの二人!」

 

「その……セーヤさんがお嫌いなのでしょうか?」

 

 

 レイヴェルと小猫。

 アレが男だったらぶっ殺してやってたが、誰が見ても美少女だ。

 だから俺は許せるし、我慢も今は聖剣の問題が片付くまでする。

 が……ふっ、ああも向こう気が強いと逆にそそるな。

 

 

「大丈夫だよ、二人もちゃんと一から話せば分かってくれるさ」

 

「もう、セーヤくんは甘いのよ!」

 

「でも、そんなセーヤさんのお陰で私は幸せだし……ちょっと複雑です」

 

 

 そろそろ邪魔になった一誠を始末し、その後二人にはじっくりと……クククッ!

 あぁ、様子から見てもまだ『未経験』だってのが分かるし……く、クククッ!

 

 

「取り敢えず好きにさせよう、ゼノヴィアも探さないといけないし」

 

「む……そうね。まったく、一人で考えるって言ってから何処行ったのよゼノヴィアは」

 

 

 二人は後の楽しみにするにして、今は居なくなったゼノヴィアにそろそろ本気で落とす事に集中しなければな。

 原作から大分離れてしまってるが、ゼノヴィアは一誠達と何の関わりも接点も無いだろうし、探して警戒を解く……それが一番にやらなければならないのさ。

 レイヴェルと小猫はそのあとでじっくり……『俺しか考えられなく』してやる。

 あぁ、イリナの時みたいに一誠の目の前でやってやろうかな? そうしたらアイツ、今度は自殺でもしてくれるかな? どちらにせよ楽しみである。

 

 それに小猫を完全に掌握すれば……その姉である黒歌もその内現れ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ~にゃにゃ~♪」

 

 

 現れるだろう。

 そう思って気を取り直してゼノヴィアを探しに行こうとしたその時だった。

 小猫とレイヴェルの姿が消えたまさにそのタイミングで、人気の少ない住宅街の道路の向こうから此方に向かって歩くその姿に、俺は再びイレギュラーな出来事だと認識させられた。

 

 黒を基調とした着物を着ずし、長い黒髪と金色の瞳……。

 アレはまさしくこの時期に姿を見せないはずの、俺が第一候補として狙ってる獲物……。

 

 

「な、何て格好……」

 

「す、凄いですね……」

 

「~~♪」

 

 

 原作から剥離しまくったせいで、おおよその予想が出来なくなってイライラしてたが、そのお陰でこんなイレギュラーにも巡り逢える。

 

 今その状況に心の底から歓喜しながら……そしてうもはも言わさず物にする為……俺は間髪入れずに此方へ近付く間違いなしの黒歌の前へ立つと。

 

 

「にゃ?」

 

「ねぇ、キミ……もしかして白音ちゃんのお姉さんの黒歌さん……だよね?」

 

 

 ほぼ全力のチャームを掛けた。

 

 

「セ、セーヤくん?」

 

「え、え? ま、またお知り合いなんですか? ま、また……増えるのですかぁ……?」

 

 

 あぁ、ごめん。この世界に転生した第一目的がそれだからさ。

 これだけは全力でやる。本当は原作前に接触したかったが小猫共々探せず、最近になって黒歌ははぐれじゃないとだけわかった。

 そうなると原作より弱体化してると予想されが、黒歌自身の実力なんてどうでもいい……要は俺のモノになるかが問題なんだ。

 

 それが今イレギュラーとして原作より早く舞い降りた……全力を尽くに決まってるし、もうその仕込みは完全に済んだ。

 後は徐々にキョトンとしてる黒歌の表情が物欲しそうな顔に――

 

 

「……は?」

 

「……え?」

 

 

 顔に――

 

 

「いきなり何なの君は? 白音の何?」

 

「え、い、いや……だから……キミは白音ちゃんのお姉さんだろう? 俺は今白音ちゃんと一緒にグレモリー眷属をやってる……」

 

 

 か、顔に――

 

 

「あぁ……ふーん? で、だから何?」

 

「え……な……」

 

 

 な、ならない……だと!?

 

 

「ちょ、ちょっとセーヤくん? 全然話についていけないんだけど……誰この人?」

 

「それに白音って人も誰なんですか?」

 

「し、白音ってのは小猫の本当の名前で……え、えっと……この人はその姉の……」

 

「ええっ、姉なんていたんださっきの白髪に!」

 

「……む」

 

「し、知りませんでした……」

 

 

 状況が分かってないイリナとアーシアに説明しながら俺は心の底から狼狽えていた。

 レイヴェルと白音が異常であっただけで、チャームはほぼ初見殺しともいえる力なのに、まったく警戒してない筈の黒歌に全く効いてないんだ。

 いまも隙あらばイリナの白髪呼ばわりに顔をしかめてる黒歌に掛けてるのに……少しも動じてないんだ。

 

 

「白音のお仲間さんってのは分かったにゃ。

それで? その姉の私に何のようなの? 無いなら用事があるからこれで失礼したいんだけど」

 

「あ……ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 

 それどころかさっさと去ろうとしてる。

 こんな俺にとって大都合のイレギュラーを逃したくは無く、段々胡散臭そうなものを見るような目をし始める黒歌を引き留めつつ、何度も何度もチャームを掛ける。

 しかし、黒歌は……俺がこの世界に転生する大半の理由である彼女は……。

 

 

「言いたいことがあるなら早く言って貰えないかな? 私これから白音に顔見せた後、もう一人会わなくちゃいけない人の所に『お土産』を持って行かなくちゃいけないんだから」

 

「も、もう一人?」

 

 

 もう一人という言葉に思わず反応する俺に、黒歌は急にとろーんと惚けた表情を浮かべて『うん』と頷く。

 それを見て『掛かってくれたのか?』と喜びそうになるのもつかの間―――

 

 

 

 

「えへ……♪ どうしようも無く大好きで、いっそ滅茶滅茶に私の身体を好きにしても良いよって思える人――

 

 

 

 

 俺のモノになる筈だった黒歌は惚けた表情のまま……。

 

 

 

 

「イッセーにね……あぁん♪」

 

 

 俺にとって、最悪の展開と言わざるを得ない事を惚けた表情と声で黒歌は言った。

 

 

「あ、どうしよ……イッセーのこと考えたらお腹がきゅんきゅんしてきたにゃ」

 

 

 俺は……何かをぶっ壊された気持ちに死ぬ前の時と同じように味あわされた。

 

 

「いっせ……ぇ……?」

 

「んん……そうにゃ、キミの双子の弟のイッセーだにゃ。

だからごめんね? キミのその―――――つまんない魅力って奴には一ミリたりとも興味ないの。

ま、そこの二人の女の子とか他にも引く手沢山なキミが私に興味なんて無いと思うけど~? それじゃーね、早くイッセーに初めてを貰って欲しいにゃ~♪」

 

 

 黒歌の言葉が耳に入らない、呼び止める暇もなく行ってしまったその後を追いかけて捕まえる事も身体が動かず出来なかった。

 

 あるのはただ……。

 

 

「殺してやる……あの絞りカスがぁぁっ………!」

 

「ひっ!?」

 

「せ、セーヤくん……?」

 

 

 生かしてやった自分の甘さと絞りカスに対する本気で殺意だけだった。

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

 白音とレイヴェルって子に対して言いたい放題言ってたからついつい『姿を見せてまで』言ってやったけど、彼はどうやら私にイッセー達の言ってた『洗脳』って奴を使ってたらしい。

 急に訳知り顔で近付いて来て、目を合わせた時に瞳の色が変わってたから何と無くそれが洗脳だと私には分かったが、全然私の心は揺れなかった。

 

 

「しかし、何で彼は白音の名前と私の存在を当たり前の様に見抜いてたんだろ? 白音が本当の名前と私のことを言うとは思えないし……不思議だにゃ」

 

 

 その際、疑問に残る点がいくつか浮かんだけど、どうでもいい人の事なんて深く考えるだけ疲れるので、直ぐに思考を切り替える。

 勿論考えるのはイッセーである。

 

 

「白音とレイヴェルって子は大丈夫かな、見た感じレイヴェルって子はめちゃくちゃ強いし、白音も凄い強くなってる。

はは、これは私もウカウカしてられないなぁ……。

あ、でも弱いフリしてイッセーに鍛えて貰うのも良いかも――」

 

 

 

 黒歌おねーさんの只の妄想。

 

 

『にゃぁ……もう無理だよイッセー……』

 

『弱音を吐くな! 無理だからこそやるんだ!』

 

『で、でも……』

 

『ったく、白音は弱音を吐かなかったのに、姉のお前はだらしないな……! ほら、早くしろ!!』

 

 

 厳しい鍛練をやらされ、無理だと言ってもイッセーは甘やかさずにいる。

 それどころか……

 

 

『にゃっ!? や、やめてよイッセェ……お尻グリグリされると力が……あ、あっ……!』

 

『こうでもせんとお前は頑張らんだろうが! まったくもってだらしのない猫め! というか何悦に浸っとるか!!』

 

『うにゃ!? だ、だって……グリグリされると気持ち良くなっちゃう駄目猫なんだもん……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて! なーんて!! 厳しいイッセーにめちゃくちゃにされるのも良いにゃ!」

 

 

 黒歌おねーさん、住宅街のど真ん中で妄想しながらクネクネ動いて悦に浸る。

終わり




補足

兄貴、転生した時から一番に狙ってた黒歌さんにそっけなくフラれるの巻。

ま、まあ……生徒会長に逆セクハラしまくるレベルですからね……そらチャーム程度なぞ無理ゲー


黒歌さん……割りとマゾ疑惑。

……取り敢えずイッセー成分補給できたらそれで良いと――つまりそゆこと。




てな様に、イレギュラーによってイレギュラー化した皆さんが出始めた事により、完全に兄貴の思惑が外れ始めてます。
で、一番に狙ってた女の子からフラれ、兄貴もとうとうイッセーを本格的に消そうと思い始めましたとさ、


あぁ、イッセーが危険だ~(棒


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其々の思惑

 グッダグダに長いだけ。

話全然進んでねーしよ……申し訳ない。


すいません、沢山の感想を頂いた返信は更新してからとなりますので、そのまま感想をして貰えたらモチベ上がりますんで……お願いしますなんて……。


 祐斗とゼノヴィアを襲った少年は、そのエキセントリックなキャラクターを思わず引っ込め、少しだけ唖然としていた。

 

 

「と、咄嗟の事でそこまで気が回せなかったんだって! 決してキミにそんな事をしようとかは……」

 

「わ、わかったからそれ以上言うな! 何故かお前を直視できんのだ私は!」

 

「……………」

 

 

 少年にとっては消し去るべき相手である悪魔と、自分がかつて所属していた元・同僚。

 決して相容れない筈の存在二人が、何故かラブコメ的空気を発しながら、ド派手に登場した筈の自分を無視しやり合っている。

 

 

「み、見れないって……やっぱり怒ってるじゃないか……」

 

「だから怒ってなどない! ちょっとビックリしてしまっただけだ!」

 

 

 

 これには快楽主義者で破壊主義者のはぐれエクソシスト……フリード・ゼルゼンも微妙に勢いを削がれ、彼にしては珍しくどうしようかと一瞬だけ悩んだ。

 

 が、しかしそれも刹那の話であり、どうであれ悪魔と悪魔祓いがそんな事をしているのだ。

 

 

「ラブコメ中ごめんなっさーい! そこの悪魔くんにちーっと聞きてー事があるんですけどぉ!!」

 

「「あ……」」

 

 

 殺して刻んでチョンパしてやる。

 そしてその首を、少し前の自分に『こんな目』にしてくれた殺しても殺したりないクソッタレ悪魔に投げ付けてやる。

 フリードはやっと機会が回ってきた『復讐』の為に、失った筈の左目から感じる幻肢痛(ファントムペイン)に苛立ちながら、息を合わせる様に自分に気づいた声を出し、それに驚きながら互いの顔を見合わせてはまた互いにそらすという『ラブコメ』をしてる金髪の悪魔と青髪に緑のメッシュが特徴的な悪魔祓いに、与えられた聖剣の切っ先を向けた。

 

 

「いやぁいやぁ、ラブコメしてる所もーしわけありませんけどさぁ、久しぶりだねぇそこの悪魔くんは~♪」

 

「キミは確か……兵藤君が叩き潰したと言ってた……」

 

「そーうさ、フリード様でーす!!」

 

 

 ちょっとした躓きはあったものの、無事に空気を軌道修正したフリードは、以前に顔を合わせた事もある祐斗に、おちょくる様な声と表情で再会の挨拶をする……内心、忘れられてたら微妙にカッコつかなかったが、覚えてて貰えて良かったぜと変にホッとしながら。

 

 

「貴様は確かはぐれエクソシストのフリード・セルゼンだったか」

 

「おやおやぁ? 俺っちの事知ってるでザンスか?」

 

「ああ、天才と呼ばれながら異端者である事をな……その手に持ってるのは聖剣か?」

 

 

 さっきのラブコメ空気を無かったことにするかの様な張り詰めた空気が両者から放たれ、フリードの顔を知っていたゼノヴィアは此方に切っ先を向けている剣に目を移しながら険しく目付きを変え、祐斗も同じように何時でも戦闘体制に入れる様身構える。

 しかしフリードは持っていた聖剣をクルクル回しながら弄び始めるて構えを解き、身構えてる二人にヘラヘラと笑い出す。

 

 

「見ての通り悪を切り刻む聖剣様でっせ! 俺っちの左目をこんなんにしてくれたクソ悪魔をバラバラにする為にゲッツしたんだよーん!」

 

 

 そう狂った様に笑って見せるフリードは、自身の左目に指を突っ込み、義眼となったそれを見せ付ける。

 

 

「その目は……」

 

「おうよ、テメーん所のお仲間の……あー……なんつったかなぁ、アーシアたんと宜しくやってるクソ悪魔に抉られてクソハッピーって訳よ」

 

「アーシアたん? アーシア・アルジェントの事か? 彼女と宜しくとはよく分からんが、まさか兵藤誠八の事か……」

 

「多分それだわー! こちとら悪魔に頼ろうとするゴミクズを断罪してただけなのに、突然現れて全身の骨砕くは顔をグチャグチャにするわ、挙げ句『罰だクソヤロー』と言って目を抉りやがったって訳。

いやぁ、あの時はマジで死にそうだったぜクソが!」

 

 

 最初は嗤う様に語っていたフリードだったが、徐々にその表情を憎悪のそれに変化させている。

 つまりフリードは前に誠八と戦い、負けて死んでも可笑しくない重症を負わされた忌々しき思い出があったのだ。

 そして今のフリードの目的は只一つ……器用に回していた聖剣の切っ先を再び祐斗に向けると、これまでの狂った雰囲気を引っ込め、ただひたすら『憎悪』をむき出しながら一言……。

 

 

「つー訳でそのヒョードーセーヤっつークソボケ悪魔のの居場所を教えろやクソボケ。

そうすりゃテメーは特別にお慈悲を持って苦しまず滅してやっからよー……」

 

 

 復讐相手である誠八の居場所を、仲間である祐斗に問う。

 失った左目は眼球が無く、何もない……今のフリードを暗示するようにポッカリと穴が空いていた。

 

 

「随分と兵藤君に痛め付けられたみたいだねキミは……よく見れば顔の至るところは傷だらけだし、恐らく君自身の身体もまだズタズタのまま――」

 

「あぁっ!? クソ悪魔が僕ちんの心配とか真面目に吐きてぇんだけど!? 良いからさっさとあのクソヤローの居場所を吐けやゴラ!」

 

 

 誠八にやられた……恐らくフリードの性格と誠八が男には全くの無慈悲だったのが重なり、わざと死なないように痛め付けられた事が容易に予想できてしまった祐斗の、『何処と無く同情』する目にフリードは苛立つ。

 

 

「いや、僕も最近は彼等と行動してなくてね……居場所なんてよく知らないよ。

というか、彼の家を張ってれば会えるんじゃないかな?」

 

 

 そんなフリードの苛立ちを察しているのかわざとしてないのか、ほぼ殆ど見限ってしまっていると宣言しながら『知らない』と言い放つ祐斗。

 そんな祐斗からの意外な言葉にフリードは思わず残った右目を丸くする。

 

 

「あぁ、クソ悪魔の仲間割れか?

だからそこの青髪ねーちゃんと禁断のラブコメしてたのかい? キメェぜおい」

 

「いや、ラブコメじゃなくて、キミが上から派手に登場したからそうなったというか……」

 

「私の身は神のものだ! い、異性になんぞ興味ない!」

 

 

 前以て仕入れたこの街の悪魔連中の情報と、当人の言ってる事に差異を感じて目をスッと細めるフリードに祐斗は内心『何で兵藤君は所々中途半端に事を終わらせるんだ……』と辟易し、ラブコメラブコメと言われるゼノヴィアは顔を真っ赤にしながらムキになって否定する。

 

 どうもイリナと組んで行動し始め、そして誠八に対して異様な色情を向けるのを見せられてから変に意識してしまうようだ。

 フルフルと『私は違う、私は違う……!』と首を振って先程の祐斗から刺激的に掴まれた胸を抑えながら余計な思考を消そうとするが、フリードに煽られたせいであまり効果は無かった。

 

 

「……。ま、知らねーと言い張るなら良いや、代わりにテメーら二人ともぶっ殺して少しはスッキリしてやるからよ」

 

「それはこっちの台詞だよ。キミ相手なら持ってるその聖剣を心置きなく破壊できそうだしね」

 

「はぁ? 悪魔が聖剣を壊すぅ? ヒャッハハハハ! テメー如きじゃ無理だぜそりゃあよぉー!!」

 

「無理かどうかは、試してみてから判断するさ!!」

 

 

 そんなゼノヴィアの初めて感じる妙なモヤモヤも知らず、聖剣を持つフリードに魔剣創造(ソードバース)と呼ばれる神器を使って剣を呼び出して戦いを挑どもうと構える祐斗。

 

 それを見たゼノヴィアはハッとしながら地面に刺しっぱなしだった破壊の聖剣を回収すると、既に打ち合ってる祐斗に向かって叫ぶ。

 

 

「待て木場!『先走るな』と言ってたのでなかったのか!?」

 

「ぁ……くっ、でももう遅いよ! ごめんゼノヴィアさん、代わりにイッセーくんに電話してくれ! これが僕の携――」

 

「トロイぜクソボケ! 援軍なんざさせっかよぉぉっ!!」

 

「あっ……!?」

 

 

 廃墟で始まった聖と魔の剣の戦いはフリードが持つ天閃の聖剣と呼ばれる聖剣の力が上回っており、次々と魔剣を呼び出しては牽制する祐斗の剣を舞を踊るように破壊していく。

 ぶっ殺すだの何だとの狂人よろしくな事を宣うフリードにしては洗礼された剣裁きであり、ゼノヴィアの言葉に今更ながらハッとなった祐斗が取り出そうとした携帯も器用に切り刻んでいく。

 

 

「し、しまった……!」

 

 

 四分割された携帯だったものを見て顔を歪ませる祐斗。

 この瞬間にも目にも止まらぬ刃が祐斗に襲い掛かり、それを何と無く避けて反撃するという圧された状況だ。

 ゼノヴィアが直接呼びに行くのも難しい状況であり、最早一誠達の勘の良さに掛けるしかなくなってしまった。

 

 

「くっ……こうなったら私も助太刀するぞ! 奴が聖剣を持っている以上お前を見捨てる事はできん!!」

 

「ご、ごめん……。

やっぱり何だかんで聖剣を目の前にすると冷静じゃいられなくなってるみたい……くっ……でね!」

 

「ヒャッハー! 2対1とは卑怯ですねぇー……だがしかぁ~し!正義は俺っちにあるんだぜクソカップルが!!」

 

「「だから違う!!」」

 

 

 こうして始まったはぐれエクソシストとの戦いは更に加速し、予想以上に『やる』フリードに祐斗は『未だ自分の中で燻る』何かに焦りながらゼノヴィアと協力して剣を振るうのであった。

 

 

 

 

 

 フリードと祐斗とゼノヴィアの戦いが始まる前の時刻。

 正反対の場所を捜索し終えていた一誠と匙は、同じく特に収穫が無かったレイヴェル・白音ペアと合流し、まだ合流していない祐斗とゼノヴィアの帰りを待っていた。

 

 

「中々尻尾掴めねぇもんだなぁ」

 

「うむ、敵も中々やるようだ」

 

 

 何だかんだで見つからない目当ての物について、論議する一誠と匙は難しそうに腕を組んでおり、その一誠の隣に立つレイヴェルと白音は辟易したかの様な表情で先程あった出来事の報告をしようと口を開く。

 

 

「私達なんて、木場さんのお目当ての聖剣じゃなく、どうでも良い兵藤誠八なんかと鉢合わせして最悪でしたわ」

 

「なんか、紫藤って人と一緒に一誠先輩を痴漢呼ばわりしてましたね」

 

「は、痴漢? イッセーが?」

 

 

 不愉快そうにさっきあった事を話す二人に匙が最初から信じてませんよと云わんばかりの胡散臭そうなものを見る表情を見せて、一誠に視線を向けると、珍しく一誠は苦い表情をしていた。

 

 

「……。紫藤イリナがそう思ってるのならそれが真実なんだろうさ」

 

 

 否定もせず、あんまり思い出したくなさそうに渋い表情で話す一誠に匙達三人はちょっとだけムッとなって一誠に詰め寄る。

 

 

「待て待て、話によれば単に手を掴んだだけだろ? それで痴漢扱いされて納得すんなよ」

 

「そうですわ、今の人間界の日本の男性に降り掛かる冤罪のそれと変わらないじゃありませんか」

 

「言い返す気にもならない相手なのは分かりますが、肯定だけはしてはならないと思います」

 

「あ……おう」

 

 

 妙に不満そうに詰め寄る三人に、一誠はちょっぴり圧されてしまい、何でそんな怒るのかよく分からなかった。

 

 

「ま、性欲馬鹿のシンパになった相手を相手にするのもバカらしいってのはわかるがな」

 

「一誠様がわざわざ気になさる相手ではありませんからね」

 

「まったくです」

 

「……。お前ら、最近はヤケに兄貴達を嫌がってるが……」

 

 

 口々に誠八に愚痴るというか辛辣な言葉を向けてる三人に一誠は苦笑いが浮かんでくる。

 やはり誠八の素行を知った上で己の意思をちゃんと持ってる者は彼のやり方に疑問を持ってしまうものなのかと……。

 

 しかし、そんな考えを持つ者がこうして近くに居てくれてるからこそ一誠は一種の安心感を覚えるのもまた事実であり――

 

 

「見付けたわよ、小猫……祐斗は居ないのね」

 

「それと匙……」

 

 

 所謂兄貴やそのシンパ達に何を言われようと一誠は耐えられるのだ……紅髪と黒髪の悪魔に敵意を持たれても。

 

 

 

 

 

 祐斗先輩を待ってるその時でした。

 明らかに『一誠先輩に対して歓迎できかねません』な表情と共に並んで現れた『一応まだ』な王の姿に、これまた一応まだ下僕の私と匙先輩は辟易してしまった。

 

 

「なんすか? 護衛も付けず王様二人が雁首揃えて?」

 

「いよいよ祐斗先輩共々『はぐれ』認定の言い渡しですか?」

 

「「……」」

 

 

 兵藤先輩がお仲間になる前はしっかりしてた二人の純血悪魔。

 リアス部長とシトリー先輩は今や身体を張って忠誠を尽せるとは思えないほど堕落してしまった。

 それこそある意味彼女達も兵藤先輩の被害者なのかもしれないが、それに取り残された祐斗先輩や匙先輩を蔑ろに扱ってしまった時点で同情の意識は無い。

 あるのは只……いい加減さっさと私達三人を解雇でも指名手配でも何でもしてしまえという事だけだった。

 

 

「やっぱり変よ小猫も祐斗も……どうしてしまったの?」

 

「匙もです。明らかにそこの彼に関わってからおかしくなってます」

 

「「………。ハァ」」

 

 

 挙げ句にはこれだ。

 二人の言うおかしくなった理由は揃って兵藤先輩の寵愛とやらを一番に受けたいからと他を蔑ろにしてしまったからであるのに、それを一誠先輩のせいにする。

 おかしくなったから私達も変わった……ただそれだけなのに全て一誠先輩のせい。

 それは匙先輩も思ってたのか、あからさまに『鬱陶しそうな顔』をしながらシトリー先輩を見ている。

 

 

「なんすか? 俺達が変とやらになったのはイッセーのせいですと誰かに入れ知恵でもされました?」

 

「っ……」

 

 

 初恋相手だった……らしいシトリー先輩に対し、最早何の情も無いとばかりに冷めた目をして言う匙先輩に二人は少し言葉に詰まっている所を見ると図星らしい。

 となると、予想できるのはさっき私達が思い切り拒絶した兵藤先輩か……。

 

 

「グレモリー三年とシトリー三年か……そういえばまともに口を聞いた事が無かったな」

 

「兵藤誠八と関わる以前なら露知らず、今のお二人とお話するだけ疲れるだけですわ」

 

 

 ちなみにレイヴェルさんと一誠先輩は後ろで私達の様子をじーっと見てるだけですね。

 まあ、元々この二人とは一誠先輩は殆ど関わりがありませんでしたからね、恐らく『兄貴シンパになった奴』程度の認識しかしてないんでしょう……割りとどうでもよさそうにレイヴェルさん共々している。

 

 

「あのセーヤが泣きながら戻ってきたのよ……。『小猫と祐斗と匙君が一誠に洗脳された』って」

 

「「は?」」

 

「え、俺?」

 

「おっと、今度は捏造ですか」

 

 

 とにかくそんなわけでこのお二方をどう処理して帰って貰おうかと考えていた私と匙先輩は、思わず考えるのも止めて真顔で言い切ってる二人の純血悪魔さんを見てしまう。

 いやだって……あまりにも予想の斜めというか、兵藤先輩がやってきた事を一誠先輩のせいにしようとしてるのだ……寧ろ吹き出さなかっただけ我慢できた方である。一誠先輩だって驚いてしまうのも無理ありません。

 

 

「ちょ、ちょいちょい? アンタ等何言ってるの? 俺達がイッセーに洗脳された?

あーごめん、こんな事を元主と他眷属の王様に言いたかありませんが――脳ミソ正常っすか?」

 

「ふ……ふふふ……!」

 

 

 殆ど呆れ果てた様子でドストレートに言い切る匙先輩に思わず笑ってしまった。

 どうもこの人、吹っ切れてからは遠慮というものが無くなってしまってるらしく、顔を歪ませてる二人を見てると妙にスッとしてしまう私は中々に性格が悪いと自覚する。

 

 

「匙……!」

 

「随分な言い方ね……!」

 

「いやいやいや、そら言うだろ。

テメー等の竿兄弟が泣きながら――――まあ、どうせ此所来る前に一発ヤってから来て、真顔で『セーヤが貴方 達がイッセーに洗脳されてるって言ってた』――って言われりゃ笑うかアンタ等の脳構造を疑う他ねーだろ?

従って笑ってしまってる塔城さん共々『俺達は悪くない。』」

 

 

 泣きながら、ね。

 は、今度は泣きつきとは……プライドの欠片も無い人ですね。

 私とレイヴェルさんが思い通りにすり寄らないからって一誠先輩の評判を落とそうとするとは……うーんやはりレイヴェルと一緒に思い切り拒絶して正解ですね。

 

 私も小さいときに一誠先輩と出会ってなかったらこうなってたかもしれないし……あぁ、怖い怖い……。

 怖くて事が終わった後で一誠先輩にちゅーして欲しいくらい怖いですね。

 

 

「そ、それがおかしいのよ! セーヤに反発し、只の人間の彼とそんな親しくするなんて……」

 

「しかも彼と関わってから様子がおかしくなった……セーヤくんの言ってる事に信憑性を裏付ける証拠じゃありませんか……?」

 

「……。俺、他人を洗脳する才能(スキル)なんて無いんだが……。

ま、まさか俺の自覚なしの――」

 

「ありえません。現に一誠様が笑って見知らぬ女性が落ちましたか?」

 

 

 聞いていた一誠先輩が妙に不安そうにし始めるのをレイヴェルさんがピシャリと否定し、私と匙先輩もうんうんと頷く。

 

 そもそも私はあの時現れ、絶望しか無かった運命を変えて自由にしてくれた先輩を好きになったのだ。

 レイヴェルさんだって恐らく似たようなもので好きになり、同性の匙先輩と祐斗先輩は心が折れ掛けていた現状から手を差し出され、決して見捨てず友達と言ってくれたその言葉に惹かれたんだ。

 

 ただ笑うだけで股を即座に開かせる洗脳とは違う。絶対に……! だからそんな不安そうにしないでください一誠先輩……。

 

 

「呆れて物が言えないとはこの事だな。何処まで失望させれば気が済むのやら……」

 

「自分達にとって都合の悪い人を慕う心を『洗脳』で片付けたい所申し訳ありませんが、そんな事は一切ありませんからね。

というか、兵藤先輩に微笑みかけられただけで股を簡単に開く貴族悪魔の方が信じられませんね」

 

「な……!? 私は純粋にセーヤを愛してるのよ!」

 

「私だって同じです! 勝手なことを言わないでください!」

 

「おおっと? テメー等の言ってた事は棚にあげて、こっちの言葉にゃキレのかい? 良い性格してるなぁオイ?」

 

 

 もう良い……。

 最初からそうだったが、最早何の未練も無しに堂々とこの人達を見限れる。

 確かに一誠先輩の言うとおりでした、本人達がそれで満足してるなら、幻実逃否(リアリティーエスケープ)で洗脳された現実から逃げさせてあげる必要なんてありませんね。

 だって、兵藤誠八に股を開いて取り合いをするのが幸せなんですものね、この人達は。

 

 

「やっぱり貴方のせいね……セーヤに迷惑まで掛けて、その上私の眷属も……!」

 

「人間である筈なのに、貴方は私達を知りすぎてる……いっそ記憶を消してしまった方が……」

 

「……。貴様等にそこまで恨まれるほど匙と木場と白――小猫が大事なら何故今までちゃんと接してあげなかったんだ? 波風立てんつもりだったが、俺も一応謂れの無い事を言われて黙ってられるほどまだ大人じゃないぞ……?」

 

「同じくですわね、さっきから黙って聞いていれば勝手なことをペラペラと……。

記憶を消すですって? ……………。魔王の妹だろうが、私達にとっては平等にカスな貴女方に出来ると思ってるのですか?」

 

 

 私達じゃラチが開かないと思ったのか、今度は矛先を一誠先輩に向けた元・部長とシトリー様に一誠先輩は石像の様な無表情で淡々と返し、レイヴェルさんは……悔しいが私より遥かに強い実力を感じさせる威圧感を放つ。

 それこそ、一瞬で二人の戦意を喪失させその場にヘナヘナと座り込んでしまう程に……。

 

 

「ぅ……ぁ……な、なん……なの……よ……!」

 

「ぐ……な、何で……そんな……!」

 

「……。ちょっと脅した程度でそのザマですか。

はぁ……それでこの街をうろつくコカビエルを撃退できるんでしょうか?」

 

 

 顔を真っ青にしながら吐きそうにして蹲る二人を見下した表情で見下ろしながらレイヴェルさんは突き放す様に言う。

 まさか自分より年下の……一誠先輩にお熱なフェニックス家の末っ子が魔王すらはね除ける異質な威圧感(プレッシャー)を放てるとは思ってなかったのか、元・部長もシトリー様もカタカタ震えている。

 兵藤先輩と宜しくすることに精を出しすぎて、本当の殺し合いにまだ慣れてないことが容易に想像できてしまう。

 

 

「そういう訳なんで、眷属をクビにするならさっさとしてくださいよ? 俺はアンタ等のプロレスごっこの為に奴隷になる気なんてありませんので」

 

「同じく……そして祐斗先輩も同じ事を思ってますので早いとこ決めてくださいね?」

 

「「ぅ……」」

 

 

 死人みたいな顔色をする二人に、トドメとばかりに私と匙さんは早くクビにしろとだけ言うと、そのまま踵を返す。

 最後の最後まで期待も出来なかった元・主を完全に見限って。

 

 

 

 

 

 

 誠八は心の底から憎み、そしてあまりの悔しさに思わず泣いてリアス達の下へ戻り、そのままアーシアとイリナを交えて………………をやった後、出来るだけの事を彼女達に吹き込んで一誠から周りの存在を取り上げようと画策した。

 勿論そのあと殺すつもりでいるのだが、先ずは何をしてでも一誠の周りの居る存在を消して絶望を与えたかった。

 

 既にその事で頭が一杯なせいで聖剣やコカビエルの事すら忘れて只ひたすらに……

 

 

「……。セーヤさん……えへへ……」

 

「あは……セーヤくんとしちゃったな……」

 

「………………」

 

 

 自宅の部屋で溺れるように貪り、少しだけ冷静になった誠八は惚けた表情ですり寄る少女達を好きにさせながら考える。

 最も手に入れたい黒歌をどうやってモノにするか……そして、一誠に絶大な絶望を与えてから殺す算段を。

 

「……。(絶対に殺してやる……お前だけは)」

 

 

 その歯車すら……最早狂っていることにも気付かずに。

 

 

「……。木場の気配が荒んでる……どうやら何かあったらしいな……行くぞ!」

 

 

 自身というイレギュラーにより、絞りカスとなって一誠が無限と夢幻に到達した事も知らずに。

 

 

終わり。

 

 

 

オマケ

 

黒歌おねーさんの出現タイミング。

 

 

 イッセーは目の前にいる。

 リアス・グレモリー? とソーナ・シトリー? ってのに白音と匙って子が見限ってる所を見てたは良いんだけど……。

 

 

「何処のタイミングで出れば良いんだろ……」

 

 

 困ったことに出るタイミングが分からなくなった。

 イッセー達は今聖剣に忙しいし……そんなタイミングで出ても……こう、上手いことイッセーをはむはむ出来ないと思うと、こうして出るタイミングを掴もうと見てるだけになっちゃう。

 うん……それじゃダメにゃ。

 早いとこ出て、イッセーに驚いて貰って色々とネタラバラシして―――

 

 

 以下、おねーさんの妄想

 

 

『な、お、お前だったのか……!?』

 

『そうだにゃ……ごめんね? 生のイッセー見てたら色々と我慢できなくて……』

 

 

 姿を見せ、久し振りに向かい合った二人。

 イッセーはただ驚き、私はこれまでの悪戯について詫びる。

 けれど……。

 

 

『そうか……ならあちこち触ってたのはお前だったんだ……なっ!!』

 

『にゃ!?』

 

 

 謝るのと同時にバラした私を見て何を思ったのか、イッセーは目にも止まらぬ速さで私に近付き、背後を取ると、後ろから思い切り抱き着き……

 

 

『じゃあ今度は俺がする番だよな? そうは思わんか黒歌……』

 

『にゃっ……!? み、耳たぶ噛まないでにゃぁ……よ、弱いの……に……ぃん!?』

 

 

 私の耳たぶをそっと甘噛みし、レイヴェルって子や白音達が匙って子と木場って子と話してて注意が向いてないのを良いことに私の身体をまさぐる。

 それこそ……くまなく何処でも……敏感な所も全部……。

 

 

『や、やらぁ……み、皆に見られたら恥ずかしいにやぁ……』

 

『体は違えど俺もそうだったんだぜ? それとも嫌かい?』

 

 

 そして優しい声で意地悪な事を囁くイッセーに私は―――

 

 

 

 

 

「い、嫌じゃないにゃ……いっそイッセーに全部あげても――――――なーんてにゃ! なーんてにゃ!!

よし、このシチュエーションでバッチリにゃ!! えへ、えへへへへ♪」

 

 

 黒猫おねーさん。既に一誠達が木場の加勢に向かって姿を消したのにも関わらず、その場に残って物凄い都合の良い妄想中。

 

 

終わり




補足

フリード……きゅん。結構ガチスタイルの巻

この小説の1話前に兄貴に執拗以上にぶちのめされたフリード……きゅんは、左目を抉られた恨みが突き動かし、天才と言われてたその才能をどっかの旦那に戦闘技術を一から叩き込まれてガチ路線になりました。

これもまた、イレギュラーによるイレギュラー化という奴ですね。


その2
兄貴、腹いせに貪ったよの巻。
そのせいでイリナさんの純潔ががががが。
そして最中に吹き込まれたリアスさんとソーナさんは……まあ、盲目化してるせいでああなっちまったと。


その3
黒歌おねーさん……自重しろよの巻。

……。このオチもいらんよな……色々とグレーだし


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もっと這い上がれ、木場きゅん!

取り敢えず更新、またグダグダです。

※加筆と修正をしてもグダグダです。


「バラバラタイムのお時間だぜぇぇぇっ!!!」

 

 

 これでもかと狂い咲きながら聖剣を振り回すは、左目を失った元・悪魔祓いのフリード。

 復讐の為に形振り構わず実力を増したこの少年を迎え撃つは、現役悪魔祓いのゼノヴィアと転生悪魔である木場祐斗だ。

 

 

「ぐっ! 魔剣創造(ソードバース)!!」

 

「テメェの太刀筋は読めてんですぅぅぅ!!」

 

 

 廃墟を派手に壊し、祐斗の持つ神器(セイクリッドギア)である魔剣創造(ソードバース)によってあちらこちらに出現する魔剣を時には空を舞い、時には地を縫ったりと、一見しなくても無駄にも見える散漫な動きをしながら次々と天閃の聖剣で破壊していく。

 

 

魔剣創造(ソードバース)とはレアな神器ですなぁ! だが俺っちの聖剣様の前では紙屑同然よ!!」

 

「っ……!」

 

「き、木場……! このっ!」

 

「はっはっはっ~!! どうした元・同僚ちゃん、早く助けねぇと愛しの悪魔くんがおっ死んじまうぜぃ!!」

 

 

 兵藤誠八に殺されかけた怨みだけが、今のフリードの戦闘能力を増大させた結果、祐斗とゼノヴィアという剣のスペシャリスト二人を同時に相手とっても有利に立ち回れていた。

 

 

「オラオラどうしたんだラブカップル! そんなんじゃあのクソ悪魔をぶち殺す為の肩慣らしにもならねぇぜ!!」

 

「ぐはっ!!」

 

「き、木――」

 

「おっと、余所見は行けねぇぜ元・同僚ちゃんよぉぉっ!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 精度の問題か、それとも相性の問題か。

 出現させては尽く破壊される魔剣と、フリード自身の無駄に見えるようでまるで読めない太刀筋と体術により翻弄された祐斗とゼノヴィアは、砂埃を巻き上げながらフリードに蹴り飛ばされ、派手に壁に背中を叩き付けて崩れ落ちる。

 

 

「はっはっはっ~! 土下座してまで旦那に頼んだ甲斐があったぜぇ?

此処まで俺っちは強化しちまったんだからなぁ~♪」

 

「くっ……ぅ。

ま、参ったな。バルパー・ガリレイを追う前にとんだ伏兵に出くわしちゃったよ……」

 

「よ、余程兵藤誠八にやられたのが悔しかったのだろうな、此処まで聖剣を使いこなしているとは……」

 

 

 突き刺さるような前蹴りにより、腹部に鈍く残る痛みに顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がる祐斗とゼノヴィアは、割りと本気で困った。

 言ってることは一々小悪党じみたフリードが、予想よりも遥かに強いのだ。

 

 魔剣を自在に召喚して扱えても、フリードの体捌きと聖剣に紙屑同然に切り壊され、天閃と呼ばれる力で太刀筋すら目視しずらい。

 転生悪魔の身と騎士という位を持つ故にスピードでは何とか食らい付いて行けてるものの、それでもギリギリで致命傷は避けるがやっと。

 体力的な問題もあるので、今の自分と隣で肩で息を切らしているゼノヴィアを見ても、それが何時まで持つか分からない。

 

 

「そぅら!! 休ませねぇぞぉぉぉい!!」

 

 

 その癖フリード自身は化け物かと思うほどに疲れ知らずな様子で突撃してくる。

 まさに防戦一方……。祐斗は此処に来て一誠達に連絡しなかった自分を後悔し、派手に周りの物を『見えない太刀筋』で破壊しながら突撃してくるフリードを気合いを入れて睨み、その手に取り敢えず耐久性に長けた剣を創造し、構えながら同じく破壊の聖剣(エクスカリバーディストラクション)を構えてるゼノヴィアに声を掛ける。

 

 

「ごめんよゼノヴィアさん、僕のミスだ。

もっと早く一誠君達に連絡して応援に来てもらえればこんなことには……」

 

 

 ゼノヴィアに差し出された聖剣を壊しても気分が晴れる訳じゃないしと格好付けたばかりか、代わりに現れた聖剣使いとの戦いは自分の未熟さでこの様。

 

 いくら任務の為と協力し合ってるとはいえ、完全に巻き込んでしまったと言葉弱く謝る祐斗に、ゼノヴィアは一瞬だけ目を丸くするが、今はそれどこじゃないと激を飛ばす。

 

 

「弱音を吐く暇があるなら構えろ! 奴は待ってくれんぞ!」

 

「そ~いう事でーっす!! とっとと死ねやゴラ!」

 

 

 そもそも何で謝られてるのかよく分からないゼノヴィアとフリードの狂気じみた声が重なり、常人にはとても見えない程の剣撃が鎌鼬の様にゼノヴィアと祐斗に迫り来る。

 

 

(くっ……偉そうにしてまだ僕は弱いだけの子供じゃないか! 何が……何が聖剣が憎いだ!)

 

 

 ゼノヴィアに迫るフリードの剣撃から、せめて守らんと咄嗟に彼女に飛び掛かり、無様に床を転がり回る中祐斗は己の不甲斐なさを呪った。

 主を見限り、自分を否定せず迎え入れてくれた彼等に希望を見出だしたのに、その恩に報いるだけの強さも無いまま……。

 

 

「おいおいおい! 愛しの彼女を守るために埃まみれたぁ泣かせますなぁ?

でーも俺っちは容赦しまっせーん!! ヒャハッ!!」

 

「うぐっ、くっ……!」

 

「ば、馬鹿何をしてる!? 私なんか庇う暇があるならその隙を突けば……!」

 

 

 サディストの様な笑みを浮かべながら、ゼノヴィアを庇いつつ床を転げ回る祐斗に追撃するフリードと、庇われて驚きながら思わず怒ったような声を出すゼノヴィアに挟まれながら祐斗は思う。

 

 

(確かにゼノヴィアさんを庇う暇があるんだったら、さっきこのフリードが彼女に攻撃した隙を突けば良かったと思う。けど違う……! もしも一誠くんが今の僕の立場なら、このフリードも倒し、ゼノヴィアさんも救ってる筈だ! だから僕は――)

 

 

 誠八の双子の弟という理由で何となく距離を置いていたが、結局はその一誠に疎外感という心を救ってもらった彼ならこの状況も切り抜けて見せる筈。

 ならそんな一誠の友人でありたい自分だって、この程度の修羅場を潜り抜けられずして友人と言えるか?

 否……断じて否! 泥まみれになっても良い、みっともないと笑われても良い……それでも失うより遥かにマシだ! 祐斗は知らず知らずの内にその目は力を取り戻していた。

 

 

「庇うと託つけて悪魔祓いちゃんとイチャコラしたいんですかぁ? 早く掛かってこないとマジで殺しちゃうよーん?」

 

「そ、そうだ木場! 今日がまともに知り合ったとも言える私なんてどうでも良いだろ! だから早く離れるんだ!このままでは二人とも共倒れに――」

 

 

 

 

(ま、まだ……まだだ……! 今のフリードは完全に油断してる。

自分が有利だと思って完全に隙を作っている……後はこの隙を――)

 

 

 王道(ヒーロー)卑怯(アンチヒーロー)も肯定する一誠に倣い、祐斗はただ転げ回る祐斗目掛けて聖剣を振り回して弄ぶフリードに、劣勢で何とか避けていると見せ掛けて徐々にその距離を縮めていく。

 壊れた備品で腕や背中が傷だらけになろうとも、本人に知らせずそれに付き合わせてるゼノヴィアを庇いながら少しずつ、少しずつその場を動かず油断しきってるフリードへと詰め……そして――

 

 

「よーし、もう死んでくれや悪魔くんよぉぉっ!!」

 

「っ!」

 

 

 その時は訪れた。

 互いに完全な間合い(エリア)内へと入った瞬間、フリードが隙だらけに剣を振り上げたそのタイミングを祐斗は見逃さなかった。

 

 

「今だ! 魔剣創造(ソードバース)!!」

 

 

 振り上げたその瞬間に出来た大きな隙に、すかさず祐斗はゼノヴィアを抱えたまま右手を前に翳し、短剣サイズの剣を創造しフリードの鳩尾辺りに真っ直ぐ投げ放った。

 

 

「ガッ!?」

 

 

 復讐の為に力を得た。報復する為にプライドを捨てた。

 しかしそれでも……ほんの少しだけ残ってしまった心のムラッ気がフリードの身体を貫いたのだ。

 

 

「がは……て、てめぇ……!」

 

 

 ビチャリと口から鮮血を吐き出しながら、狂気じみた笑みを引っ込めたフリードは聖剣を振り上げたまま痛みにより動けないまま足元で自分に手を翳して睨む祐斗に目を見開くも、祐斗は素早かった。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ごぎゃっ!?」

 

 

 フリードの持っていた聖剣を叩き落とし、これでもかと自分の同じく砂埃をまみれで目を丸くしてるゼノヴィアを横に祐斗は床を蹴りバネの様に勢いを付けた拳をフリードの顔面に叩き付ける。

 

 

「まだ、まだだッ!!」

 

「ぐぎ!がッ!? がふっ!?」

 

 

 完全に隙を突かれて致命傷を負ってしまったフリードに更なる追撃として、騎士ならぬ徒手空拳というスタイルでフリードの全身に可能な限りの連撃を加えていく。

 

 

「き、木場……」

 

 

 その様子を床にヘタリ込んだゼノヴィアはただ唖然としながらポツリと騎士なしからぬベタ足インファイト状態の、悪魔にしては変な気分になる金髪の青年を見つめて小さく声を洩らす。

 

 

「こ、この隙を伺ってわざわざ転げ回ってたのか……」

 

 

 私を庇うくらいなら……なんて言っておきながら、実際は相手に自分を有利だと思わせて隙を突かせる作戦だったとは……。

 これでもかと殴り続ける祐斗と見つめながら、ゼノヴィアは何となく恥ずかしくなった。

 

 

「うぉぉぉぉっ!! これで最後だ!!!!」

 

「ぐ……ほ……!」

 

 

 たった一つの隙で戦局が変わる。

 その言葉のお手本のような戦闘は、祐斗による渾身の右ストレートがフリードの頬に突き刺さり、ゴムボールの様にバウンドしながら数十メートル程吹き飛んでピクリとも動かなくなった所で決した。

 

 

「ハァ……ハァ、ゼェ……」

 

 

 立っているのは、疲弊した身体で息を切らす祐斗。

 紛れもなく祐斗の勝ちだった。

 

 

「き、木場……」

 

「ハァ、ハァ……。く、ふふは……や。やっぱり僕は塔城さんや一誠くんみたいに徒手空拳のセンスはあんまりないな……はは……ぐっ!」

 

「お、おい!」

 

 

 ヘラヘラと自嘲する顔で笑っていた祐斗だったが、隙を作らせる際に致命傷とまでは行かないものの、悪魔にとっては猛毒とさえいえる聖剣の太刀を肩に受けてしまった様で、アドレナリンが切れたのか、苦痛に顔を歪ませながら倒れそうになる祐斗に、ゼノヴィアは自分の立場を忘れて思わず駆け寄ってその身を支える。

 

 

「私なんか庇ってるからこんな傷だらけに……」

 

「きょ、協力者だからねキミは……それに、何となく目の前でキミが傷つけられるのは見たくなかったというか……服汚してごめんね?」

 

「………」

 

 

 余程倒すことだけに全力を注ぎきったのか、疲労困憊の様子でゼノヴィアに支えられる祐斗は無理に笑っているのが見え見えだった。

 悪魔に助けられるとは……と自分の不甲斐なさに怒りを覚えるが、平行して何故か彼に助けられた事に妙な安心感を覚えるのは何故なのか……。

 考えてもよく分からない不思議な気分になりつつ、ゼノヴィアは傷だらけの祐斗に借りを返すために黙って治療をする。

 

 

「あ、あれ? こんな事して良いの? 一応僕って悪魔なんだけど……」

 

「今はそんな事言ってる場合か……! あんな手の込んだ芝居に私を巻き込んでおきながら……」

 

 

 祐斗の肩からの出血が止まらない……聖剣の力を少量とはいえ受けてしまったせいか……。

 悪魔にとっては猛毒とさえ言える聖剣の力により治癒力が遅れてると、鋭い目付きで見据えながら壁を背に驚いた様子で目を丸くしてる祐斗をうもはも言わさずに座らせ、ゼノヴィアは簡易的な治療を施しつつ悪態をつく。

 

 

「は、ははは……いや、僕一人でも良かったんだけど、それだとキミが狙われちゃうかなと思って巻き込む形に……」

 

 

 言葉の節々に『い、いたたっ……!』と顔をひきつらせながらも笑って宣う祐斗に、ゼノヴィアは抱えている心のモヤモヤを更に増大させる。

 転生悪魔の癖に主に逆らって不思議な人間とツルんでるのもそうだが、聖剣使いである自分に聖剣計画の被害者の癖に何も恨み言も言わずに、寧ろ初対面の時点でイリナがどっぷり浸かってしまってる兵藤誠八には気を付けろとわざわざ忠告までしてくれた。

 

 悪魔なんて信用できないとこっちは言ってるのに、それでも祐斗は妙に気にしてくれてるのか知らないがこうして協力し合う関係までになり、挙げ句の果てには借りまで作ってしまった。

 

 イリナは既に兵藤誠八ばかりで任務を忘れてしまい、自分一人でやらなければならなかったこの状況で、もしさっきのフリードと戦っていたら自分は殺されて聖剣まで奪われてた……。

 木場という青年が居なければ自分は……そう思えば思う程にゼノヴィアはよく分からないモヤモヤした気持ちを膨らませ、それを誤魔化すかのように俯きながら小さく呟く。

 

 

「……。怒ってる私がアホみたじゃないか。バカ……」

 

「ご、ごめん……」

 

 

 先の戦闘で汚れたシスター服の比較的清潔な部分を切り取り、出血している祐斗の肩に宛がって包帯代わりに巻きながら小さく呟くゼノヴィアに、祐斗はただ謝っていた。

 お前の機転で撃退できたから謝る必要なんて無いのに……と密かに思うゼノヴィアの心情を見抜けないまま。

 

 

 そして……。

 

 

「チッ、随分と派手にやってたみたいだな。おい木場! それとゼノヴィアさーん!! 無事かぁ!?」

 

「まったく、このエロ猫のせいで木場さんにもしもの事があったら責任取って貰いますわよ!!」

 

「まったくですね、この淫乱姉」

 

「う……だ、だって」

 

「木場自身も強いし、死にはしてない筈だ。

怪我をしても俺が何とかするが……確かにお前が最近の原因だったのは驚いたな」

 

「えへ、だってイッセー目の前にして何もしないなんて、私には無理だにゃん」

 

 

 

 

 外から聞こえる安堵を覚える声に祐斗は犬みたいにピクリ反応しながら声が聞こえる方向へ首を傾ける。

 その表情は妙に嬉しそうだ。

 

 

「あ、い、イッセーくん達の声だ……!」

 

「どうやら私達の異変に気付いてくれたみたいだ。行くぞ、立てるか?」

 

 

 自分の主よりも露骨に嬉しそうな反応な祐斗に、ゼノヴィアは変な奴だと思いつつ立てるかと問い、頷きながら立とうとするもアドレナリンが切れたせいで後になって痛む身体に顔を歪ませながらズルズルと崩れ落ち、罰が悪そうに笑みをゼノヴィアに向けて口を開く。

 

 

「あ、あはは、ゴメン正直辛いかも……」

 

 

 『そ、そう言えばあのフリードって人にしこたま蹴られたりもしたからなぁ』と目を泳がせながら笑って誤魔化そうとする祐斗に、ゼノヴィアは呆れながらも手を差し出す。

 

 

「ふん……悪魔だがお前には何度も借りを作ってるからな。仕方無いから私が肩を貸してやろう、ありがたく思え」

 

 

 プイッと顔を横に向けながらも手を差し出すゼノヴィア。

 言った通り、こんな状況でもなければ本来は住む世界が違うし悪魔祓いが悪魔に手を貸すなんて水に油を混ぜるが如く有り得ない話だ。

 しかし、貸してもらわないと立てないのもまた事実なので、祐斗はただただ感謝しながらその手を取り、肩を借りて立ち上がる。

 

 

「いたたた……。わりと本気で危なかったと今になって感じるよ、この痛みで余計に」

 

「お陰で何とかなったんだ……贅沢は言わない方が良い」

 

「そうだね……キミの言う通り――っ……あ!」

 

 

 ホッとしながら自分達を呼ぶ一誠達に姿を見せようとゼノヴィアの肩を借りた状態で歩いていた祐斗だが、変にはやる気持ちが働いたのか、ゼノヴィアの歩幅では無く自分の歩幅で歩こうと足を踏み込もうとしたその時だった。

 

 

「あ……」

 

「わ……!」

 

 

 足が縺れてしまった祐斗がガクンとバランスを崩し、肩を貸していたゼノヴィアも巻き込まれるが如くバランスを崩した。

 足場が悪いのと先の戦闘で地面には木片だのなんだのと危ないものが散らばっている事にハッとした祐斗は、フリードの襲撃の時の様に咄嗟に目が丸くなって倒れそうになってるゼノヴィアを抱え、その身を守るかのごとく抱き締めながら盛大に二人揃って倒れ込む。

 

 

「くっ……急にバランスを崩すな! また無駄に転んでしまったじゃない……か……ぁ……?」

 

「…………」

 

 

 捲き込まれる形で共倒れしてしまってゼノヴィアは、怪我人だから仕方無いとは思うものの一言言ってやろうと一緒にひっくり返った祐斗に文句を言おうとした。

 が、上の通り言い終わる直前に、己の身に起きてる状況でその声が止まる。

 

 

「うっ、ま、前が見えない……!?」

 

「な……な……!」

 

 

 というのもひっくり返った拍子に、祐斗が思いきりゼノヴィアの胸に顔を埋めていたのだ。

 そりゃあゼノヴィアどころか神もビックリな偶然である。

 

 

「な、なにを……してるんだお前は……!」

 

「え……? ハッ……!?」

 

 

 全身がカーッ! っと熱くなるのを感じながら、怒りなのか、それとも別なのか……取り敢えず震え声となって状況が分かってないで自分の胸元に顔を突っ込んでモゴモゴしてる祐斗に声を掛けるゼノヴィアに、漸く状況を理解したのかハッとなって顔を上げると、真っ赤になってるゼノヴィアと正反対の真っ青な顔色でババッと離れる。

 そして怪我はどうしたと言わんばかりな華麗な土下座をスタイリッシュにキメてガンガンガンガンと何度も額を……否顔面を床に叩き付け始める。

 

 

「そ、そんなつもりは無かったんだ!

た、たたた、ただ転んだ時に咄嗟に庇おうとしたら何故かこんな事に……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! すいません!!」

 

「っ……ぅ……わ、わざとやってないかお前?」

 

「無いです! 魔王様に誓ってそれはありません!!」

 

「魔王に誓われても困る……私はカトリックなんだが」

 

 

 1度ならず2度までもこの青年に胸を何かされたゼノヴィアは、今までに無いほどにバクバクと心臓を鼓動させ、全く冷えない全身の熱にちょっとだけボーッとなりながら、何故か半泣きになり始めてる祐斗を取り敢えず立たせ……。

 

 

「後でご飯食べさせろ。それで手打ちにしてやる」

 

「な、何だって、それは本当かい!? そんなもん是非ともさ!」

 

 

 飯で手打ちにしてあげるのであった。

 が、それでもゼノヴィアな胸はバクバクと喧しく、全身は熱いままだった。

 

 

 

 

 

 やはり木場達の異変は間違いなかったみたいだ。

 半壊した廃墟からゼノヴィアの肩を借りて出て来た木場は満身創痍であり……『とある事情』――というか、物凄い罰が悪そうに白音とレイヴェルに睨まれて縮こまってる黒髪の女性との変な騒動で到着するのに時間を喰った俺は、申し訳なく思いながら直ぐに木場とゼノヴィアの負った傷を『否定して逃げさせる』事により綺麗さっぱり消した――のは良いが。

 

 

「すまん、遅れてしまったが……お前ら何かあったのか? 妙に揃って顔が赤いが」

 

 

 消して健康体にした筈なのに、何故か木場とゼノヴィアの顔は赤く、さっから互いに目が合ってはサッと逸らすのやり取りをしている。

 

 

「だ、大丈夫さ……何でもないよ。

僕も何でもかんでもキミに助けられては何時まで経っても成長できないからさ! はは、あはは!!」

 

「何でもないと言ったら何でもない、ちょっとお腹が減っただけだ」

 

「………? そうか……」

 

 

 何でも無いわけないだろ……とは思いつつも本人達がそう言ってる以上突っ込むだけ野暮なので取り敢えず納得して置こうと頷くと、ゼノヴィアが自身の身体の調子を確かめながら驚いた様子で口を開く。

 

 

「しかし驚いたな。これがスキルという奴だとするならまるで魔法だ」

 

 

 応援に来るのに遅れた事に詫びる俺を木場は笑いながら首を横に振って許し、ゼノヴィアは神器でも魔法でも何でもない能力(スキル)の効力をその身に受けてただ驚いている様子だった。

 人間の俺がただ単に『木場の手伝いをしている』と言っても実力が伴ってないと言われては元も子も無いので、簡易的に俺はこういうのがあると前以て別れる際に教えておいて良かった。

 

 

「で、誰とやり合ってたんだお前らは?」

 

「あ、うん……聖剣持ったはぐれエクソシストとね。

本当は連絡しようとしたんだけど、その前な連絡手段を壊されちゃって……」

 

「取り敢えず木場の機転で何とか撃退はしたが、既に逃げられてしまい、聖剣も回収できなかった……」

 

「……。ふむ、なるほど」

 

 

 はぐれエクソシスト、か。会ったことは無いが、かなりの実力者だったなのが木場とゼノヴィアの姿を見るに想像がつく。

 が、どうやら何かしらの隙を突いて何とか撃退はしたとゼノヴィアは言ってるし、半壊した廃墟を匙達と調べたが既にその相手は居なくなってた。

 どうやら逃げたらしく、奴の持ってたとされる聖剣もちゃんと消えてしまっていた。

 

 

「恐らくあのはぐれエクソシストはコカビエルの手の者で間違いないと思う……逃がしてしまったが」

 

「うん……それもかなり強くて聖剣破壊するどころじゃなかったよ……」

 

「良い……どうであれ格上と認めた相手を撃退できただけで十分だ。

此処にコカビエルと奪われた聖剣が隠れていると確信めいた情報を得ただけ大きな戦果だしな」

 

 

 後ろで匙が残した手懸かりは無いかと半壊した廃墟を捜索し、その近くでは白音とレイヴェルが黒髪の女性になにかを言って凹ませているを耳にしながら、とにかく二人が無事で何よりだと思いつつ、俺はこの街に潜伏するはた迷惑な連中がそろそろ本格的に出てくる予感を感じながら二人を立たせ、腹も減ったしという理由で先の喫茶店に戻る事にする。

 

 

「あ、ねぇイッセーくん。そういえばこの人は?」

 

「そういえばさっきは見なかったが……誰なんだ彼女は?」

 

 

 その道中、レイヴェルと白音に足蹴りにされて歩く黒髪の女性が誰なのかと問われ、俺とついでに横を歩いていた匙は絶妙なる微妙な表情を見せながら、今も俺をチラチラ見ている彼女について説明する。

 

 

「……。彼女は黒歌というあの小猫の姉でな……。

自力で覚醒したかなり厄介な能力保持者(スキルホルダー)……らしい」

 

「え、それって……」

 

「お前のその魔法みたいな力と似たような力を持つのか!?」

 

「あぁ……正直俺も気付くまで分からなかった程だ。

何せアイツは……『最近ずっと俺達の傍に居た』のだからな」

 

「「なっ……!?」」

 

 

 黒髪の女性……つまり黒歌という昔気紛れとその場に出くわしたからって理由で白音共々『助けた?』と言えるかよく分かんない事をしてから久方振りなる再会なのだが、まさか彼女本人曰く、姿を見せた今日から暫く前くらいからずっと俺達の傍に――誰からも悟られずに居たと聞かされた時はなじみと相対した時と同じくらい背筋が凍りついた。

 

 俺はおろか、レイヴェルにすら悟られずにだなんて……余りにも凶悪しているスキル持ちだったと暴露してるのと同じだし、実際目の前で見せられてしまっては疑い様がない。

 

 

「この淫乱猫め……。

どうして猫というのはこうも一誠様に……!」

 

「いやいや、私はスキルを使って姿を消して一誠先輩にベタベタする卑怯な真似しませんよ、この姉様とちがって……」

 

「そんなに僻まなくても――」

 

「「あ?」」

 

「……。にゃぁ」

 

 

 

 

 が、まぁそこまでは良いとしよう。

 黒歌がスキルホルダーであり、この前からの違和感と……な事に対しての説明も付くから受け入れられる事実で間違いない。

 無いのだが……。

 

 

「にゃぁ~ レイヴェルって子と白音が意地悪するにゃイッセー……」

 

「なっ!? レ、レイヴェルさんと塔城さんをすり抜けてイッセーくんに……!?」

 

「ど、どどど、どうなってる!?」

 

「能力保持者ってのは大概何でもありかよ……。五大竜王なんて宿してる俺より使えそうじゃねぇか……羨ましい……」

 

 

 問題はその用途だ。

 気配も実態も姿も任意に消せる……それはつまり相手からの物理的干渉すら防ぎ、一種の無敵状態で相手を倒せるという……現状の俺やレイヴェルですら為す術が無い凶悪な黒歌のスキルなのだが、問題は二度言うがその用途だ。

 

 聞けば黒歌はこのスキル――差し詰め安察頑望(キラー・サイン)を使って悪いことをする考えは無いらしく、本人も名前はよく知らないけど、イッセーと別れてから暫くして使えるようになったと言っていた。

 ……それを聞いて普通に驚いたし、妹の白音すら初耳だったみたいで一緒になって驚いた訳だが、黒歌本人はそのスキルの使い道を、主に俺が困る様な使い方をしている。

 例えばそう――

 

 

「っ……!? や、やめろ! そんな密着する――っひ!?」

 

「ん……ちゅ……やっぱりこうして姿を見せた状態でする方がよりコーフンするにゃ……♪」

 

 

 姿と気配をわざと見せた状態で『実態だけ』を消して俺にこんな真似をするだけ――それが黒歌の持つスキルの使い道らしく、今も皆の前で俺の身体をすり抜けて背後に回ったと思えば抱き付き、ゾワゾワするような舌技で俺の首筋をペロペロと舐めてくるし、こちらから黒歌に干渉できないのに黒歌自身から密着されてる感覚はちゃんと感じる。

 正直にさっきから背中にすごいアレの感覚がするというか……色々とまだ餓鬼でしか俺には刺激が強いというか……

 

 

「えへ♪ かーわいいっ!」

 

「や、やめっ……!」

 

 

 耳朶まで軽く噛まれ、全身がゾワゾワするのに耐えられず、ほぼ反射的に首に回された腕を掴もうとしても俺の手は黒歌の腕を煙が如くすり抜けてしまう。

 ……。マジで真正面から戦っても勝てない相手である。

 

 

「い、一誠様に何さらしとんじゃ雌猫2号!」

 

「んー? 何って…………ナニの準備?」

 

「………。冗談も程々にしないとぶっとばしますよ?」

 

「えー? でも私イッセーのこと大好きなんだもん」

 

 

 背中に黒歌の身体が密着してるとは感じる……だが接触が出来ない。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)で否定すれば何とかなりそうだと思ってるのだが……何故か出来ない。

 多分だが、なじみやフェニックス家以来出会う俺の格上……それが今の黒歌なのだと俺は思う。

 もしかしたら、一個だけとはいえなじみレベルの精度なのかもとも……。

 

 

「イッセーのイッセーは流石に触るだけだったけど、そろそろ欲しいかな?

えへ、イッセー好き好き……だいしゅき……♪」

 

「い、一誠様の一誠さまですって!?

け、消し炭にしてやりますわこのド淫乱がぁぁぁっ!!」

 

「ビンタしてやる、踏んづけてやる……!」

 

 

 何をどこでどう間違えてるのか、レイヴェルと白音に続いて彼女にまで好かれてるのがまだ信じられない。

 ……。色々と今もこんな事されてるが、好かれる要素やら身に覚えがまるで俺には無いのに……。

 

 

「き、木場に匙にゼノヴィア……!

な、何とかなる方法があるなら教えてくれ! 正直初めてレベルの大問題なんだ!」

 

「い、いや……無理かなぁ」

 

「物理干渉の有無すら任意に出来る人なんて俺等が止められねぇだろ」

 

「うむ、よく知らんが無理だ。すまんな」

 

 

 物凄い生暖かい目を向ける友人二人と、協力者の女性は無理と言いながら目を逸らす。

 

 

「ねぇ、イッセー、私の胸がドキドキするにゃ……あとお腹の下の部分がきゅんきゅんしておかしくなりそうだにゃ……ぁん……♪」

 

「じゃ、じゃあ離れれば良いだろ! それくらいなら直ぐに幻実逃否で綺麗さっぱり――」

 

「なってもまたなるにゃん。多分、毎日毎日イッセーにめちゃめちゃにされないともう無理だにゃ……あは♪」

 

 

 黒歌……。

 俺の好敵手確定のレベルの実力者で間違いなく、一刻も早く今の状態から更に上の領域に踏み込まなければレイヴェルに泣かれてしまう……様な気がしてならなかった。

 




補足

木場きゅん、何とか撃退するもフリード……きゅんの待ってた聖剣は回収できず。
代わりに主人公化に近づいてるせいか、よりラッキースケベ率があがったよ。

ゼノヴィアさんのお胸に顔面ダイブのご褒美さぁ!



その2
一誠達が遅れた理由は、あの後直ぐに最早我慢不能となった黒歌さんが大々的に現れて……………ちとR-18的やり取りが開始されてしまったゆえにです。

なので、そこら辺はカットしてます。

そして、黒歌さんのスキル安察頑望(キラー・サイン)という名はアルクシェイドさんから頂きました。

ありがとうございまする!

で、この安察頑望(キラー・サイン)なのですが、驚く事に一誠の幻実逃否(リアリティーエスケープ)の干渉すら『すり抜けられます』。
つまり、唯一安心院さんと同等精度のスキルって訳でありまして、今の一誠の格上です。


※安殺……じゃなくて安察です、ミスりました。
アルクシェイドさんすんまへん。


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それは唐突に

すげー駆け足っすね。

いや、マジに。文も雑だし。


毎度感想ありがとございます。
返しは更新後にしますので、気にせず感想頂けたらモチベが上がります!


※ちょっとの加筆と修正、オマケの追加。


 辛くも不意討ちでフリードを撃退できた僕とゼノヴィアさんは、塔城さんのお姉さんで……ちょっと変だなと思う黒歌さんという人を加えてやって来てくれた一誠君達と合流し、1度情報を整理する為に一誠くんが住んでる小さなアパートへと皆でお邪魔することになった。

 

 

「狭いが適当に寛いでくれ、今お茶を出す」

 

「へぇ、此処がイッセーの住んでる部屋か。

フェニックスさんと一緒と聞いてたからもっと広いところだと思ってたぜ」

 

 

 お世辞にも綺麗とは言えない、こじんまりしたアパートの一室。

 悪魔の支援を受けて一人で住んでる僕の部屋の方が正直レベルが上だと思える程の部屋であり、匙君が僕の内心を代弁する様に呟くと、一誠くんは『はは……』と苦笑いしながら首を横に振っていた。

 

 

「レイヴェルが人間界(コッチ)に住むと知った時は勿論そのつもりだったんだが、レイヴェル自身が此処で良いと言ってくれてな。

贅沢できるほどの余裕もそんな無かったし、そのまま甘える形でこの場所に住んでるのさ」

 

「一誠様と二人きりで住むのですから、広いお部屋は持て余すだけですわ」

 

「なるほどなぁ……」

 

 

 確かに二人でなら充分でもあるとは思うね。

 それにレイヴェルさんって、一誠くんが高校に入る前は小さい時から一緒だったらしいし。

 お互いに気を許せる同士だからこそ、かな? ちょっと羨ましいと思う。

 

 僕と匙君に気を使ってるのか、最近のレイヴェルさんは前よりも一誠くんに対する強い愛情を表に出さなくなってるし、ひょっとしたら邪魔してるのかなとか思ってるけど……。

 

 

「一誠様、お召し物をこちらに」

 

「ん、すまんなレイヴェル」

 

 

 家ではちゃんとレイヴェルさんらしくなんだなと、ちょっとだけ安心した気がするよ。

 今だって極自然に……まるで夫婦みたいに一誠くんが着ていた上着を脱がせ、ハンガーに掛けてるんだもん。

 やっぱり何だかんだで一番付き合いが長いと感じさせるやり取りが多く見えるのはレイヴェルさんって事かな? それを見てた塔城さんが羨ましそうに、お姉さんの黒歌さんは…………なんか、布団が畳まれてるだけで他は何も無い押し入れに入って枕に抱き付いてるけどね。

 

 

「うぇへへ、イッセーの生枕……!」

 

「…………。ま、何だ。取り敢えず適当に適当に……」

 

『………』

 

 

 一誠くんの家に向かう最中もずっとレイヴェルさんと塔城さんの恨めしい視線を物ともしないで一誠くんに、持ち前のスキルを駆使して色々としてたけど、段々それも慣れてしまったせいか、あからさまに頬を染めた恍惚な顔で、確実に一誠くんの使ってるだろう枕に何かしてる黒歌さんに僕達もどうリアクションして良いのかが分からない。

 

 一誠くんだって本当はちゃんとツッコミたいと思うが、曰く、『スキルの問題で黒歌を止められん』と言っており、今も見てみぬフリしてテーブルを囲って座った僕達は早速今までの事とこれからの事についてを整理する為に話し合事にした。

 

 

「木場とゼノヴィアが出くわしたと言っていた、はぐれエクソシストが聖剣を持っていたとなると、殆ど決まったも同然だ。

まだ姿を見ては無いものの、コカビエルは確実にこの地に居る」

 

「あぁ、だが問題はソイツをどう処理するかだが……イッセーとレイヴェルさんの二人はどう思う?」

 

「さて? 直接対峙をしてない以上強く言うつもりはございません。

ただ、全力を尽くしてこの街を守護するだけですわ」

 

 

 匙君の問い掛けに飄々と答えるレイヴェルさんと、その隣に座り、無言で頷く一誠くん。

 大戦という修羅場を潜り抜けた相手だからこそ油断はしない……これこそ絶対勝利の悪平等(ノットイコール)たる秘訣なのかな?

 油断はしないと言ってるものの、その表情に不安はまるでなかった。

 

 

「まぁ、それより前に兄貴達が先に何とかしてるかもしれんし、願わくば兄貴達にコカビエルが襲撃を咬ましてくれれば良いのだがな。その隙に俺達で聖剣を失敬できるし」

 

「ええ、役立たずと分かった今、せめて囮にでもなって貰いたいものですわ」

 

「一番それが現実的ですね」

 

 

 

 失っても腐らず、そして這い上がる。

 今僕達が目指している目標の先へ既に君臨しているからこその冷静さ。

 そして何よりも失うことになった原因に対しても冷静に対応する。だからこその説得力なのだが、そういえばゼノヴィアさんは直接一誠くんの実力を見ていなかったっけ? ちょっとだけ暗い表情なのが彼女の座る隣に居る僕には気になった。

 

 

「どうしたのゼノヴィアさん?」

 

「いや、先程からイリナと連絡が取れなくて……」

 

「……え?」

 

 

 どうやら一誠くんの事じゃなく、彼女が本来組んでいた相棒にて、既に兵藤君に深くのめり込んでいた紫藤イリナって人と連絡が付かないことに心配になってるみたいで、僕の問い掛けに沈んだ声で返してきた。

 

 

「む……紫藤イリナ、か。

確かレイヴェルと白――いや小猫は兄貴と出会した際にアルジェント同級生とくっついていたと言ってたが?」

 

「はい、一応まだ主であるグレモリー先輩と、匙先輩の主であるシトリー先輩――とその次いでに他大勢の取り巻きさんの女性達と同じく、彼女も兵藤先輩を『そんな目』で見てました」

 

「その際あの女は一誠様を事もあろうに痴漢呼ばわりしたので、思わずぶっ殺してしまいそうでしたわ」

 

 

 紫藤イリナさんの名前に、ピクリと頬を痙攣させつつ三組の中で先程接触のあったレイヴェルさんと塔城さんに問い掛ける一誠くんに、二人は揃って嫌そうな顔で紫藤イリナさんの様子を説明してくれた。

 

 

「おいおいレイヴェル。お前程女の子がそんな汚い言葉を使うなよ。エシルおば――じゃなくて、エシルねーさんに怒られてしまうぞ?」

 

「ぅ……た、確かに言葉遣いに母様は煩いですが、それでも冤罪に陥れる汚い女の如く一誠様を痴漢呼ばわりするのは嫌なのです……!」

 

 

 どうやら話の内容から察しても、やっぱり彼女は既に手遅れみたいらしく、それを聞いたゼノヴィアさんも哀れむべきなのか憤慨すべきなのか分からないって顔だった。

 

 

「イリナ……。

やはり無理にでも兵藤誠八とは距離を離すべきだったのか……?」

 

「いや、1度兄貴の洗脳に掛かった者は、その者の思考回路が兄貴一辺倒となってしまう。

故にゼノヴィア……残念だがあの時点で貴様の言葉も届く事は無かった筈だ」

 

「そう、だね。

僕も目の前で散々見せられたからそれは本当だと思うよゼノヴィアさん。

聞けば一誠くんがまだ小さかった時から既にそうなってたみたいだし、キミと会った頃から既に手遅れだったんだよ」

 

「……。確かに兆候はあったが……」

 

 

 僕と一誠くんの話にゼノヴィアさんは項垂れてしまった。

 どうやら彼女なりに紫藤さんを相棒として思っていた所があったみたいで、この地で兵藤君と再会してしまったことで暴走してしまった姿を見て多少なりともショックだったんだと思う。

 僕だって最初は皆まともだった部長や副部長、最近加わったアルジェントさんが盲信的に兵藤君に拘っていく姿を見ては怖いと感じたんだ。

 

 多少なりとも彼女の複雑な気持ちを僕はわかってるつもりだ……って、何で僕は彼女の肩を持つような事を考えているのだろうか……?

 

 

「……。ん、何だ木場? 私の顔に何か付いてるのか?」

 

「え、あ、い、いや別に……」

 

 

 どうしてだろうと思わずゼノヴィアさんをジーッと不躾に見ていたら目が合ってしまい、思わず目を逸らしてしまった。

 むぅ……さっき失礼な真似をしたせいで余計目を合わせ辛い。

 

 

「イリナは気になるが、こうなれば私だけでも任務は達成させる。

木場に一本程どさくさに紛れて聖剣を破壊してもらい、残りは回収……出来たら良いが」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

「助けられた借りは返すつもりだよ木場。此方としても敵に渡るくらいなら破壊しても良いと言われてるしな」

 

「そっか……ありがとう」

 

 

 とはいえ、ゼノヴィアさんとは奇妙な関係となっており、そのお陰で結構信頼されてるような気がする。

 今だって本当はダメなのに聖剣の一つを壊して良いとまで言われてるんだもの……何かちょっと嬉しいかな。

 

 

「なんだよ木場~? 随分と仲良くなってんじゃーん?」

 

「い、いや匙くん? べつにそんな事は……」

 

 

 代わりに匙君に茶化されるとかなり恥ずかしいけどね。

 今だって妙にニヤニヤしながら肩を組んでくるし……。

 

 

「意外な出会いって奴ですね……」

 

「確かに」

 

 

 その上塔城さんとレイヴェルさんまで。

 うぅ……ゼノヴィアさんはキョトンと目を丸くしてるだけだから良いけど、代わりに僕が気恥ずかしくなってくるよ。

 

 

「イッセーごめんね? 枕がびしょびしょになっちゃったにゃん」

 

「お、お前……一体何をした……」

 

 

 黒歌さんは相変わらず過ぎてある意味安心するけどね。

 

 

 

 安察頑望(キラー・サイン)

 スキルという概念もよく知らないまま目覚めさせた黒歌に一誠が暫定的に名付けたスキル名なのだが、それを聞いた黒歌は猫なのに、まるで犬のように喜びながらその名を名乗ることにした。

 

 己の思うがままの任意に気配・姿・実態を消し、他の物理的にも概念的に干渉をカットするという、一誠の幻実逃否(リアリティーエスケープ)の干渉すら防ぐ恐ろしきスキルだが、前回の通り黒歌自身この能力の使い道は一誠にのみであった。

 

 わりと普通に初な反応を見せる一誠と接触し、思う存分堪能する。

 他の干渉は防ぐのに、己は干渉出来るという暗殺向け宜しくな力を存分に使い、今もこうしてテンパる一誠に背中から抱き着き、かつて出会った頃から随分と逞しく成長したその身体を全身で感じ、露になっている首筋に舌を這わせる。

 

 妹や幼馴染みらしい純血悪魔がそれを見てわいわいと騒ぐが知らない。

 いくら妹だろうと、一誠の大事な幼馴染みだろうとこの気持ちだけは偽り無しの本当の気持ち。

 

 

『お前達はもう自由だ。お前を転生させた悪魔も、お前の事情を知る全ての連中はお前達姉妹に関する記憶は無い……そして『転生悪魔だった現実』もな』

 

 

 疲弊し、絶望の淵を歩かされる日々だった姉妹の前に現れた小さな人間の少年。

 ちっぽけで自分達がその気になれば直ぐにでも殺せそうな小さな子供。

 

 そんな子供に黒歌はそれまでの柵すべてを消失させて貰い、本当の『自由』を与えてくれた。

 悪魔に転生し、主が嫌で妹と逃げていただけの日々が嘘の様になくなり、誰にも怯えること無く暮らせる日々をこんな少年の『お伽噺』みたいや力で与えてくれた。

 

 

『だから生きろ。飽きるまで生きろ。

猫というのは自由で愛嬌があるからこそ……猫だろう? じゃ、達者で生きろよ? 互いにな』

 

 

 修行という理由でフラフラしてた所を単に助けてみただけ、だから礼なんて必要ない。

 そう言って少年は姉妹の前から何の見返りも要求せずに去っていった。

 けれど、それで済ませる程姉妹は諦めやすい性格じゃあ無かった。

 

 どうであれ、修行の成果を試す為だったとしても黒歌と白音はハッキリと一誠と名乗った少年に助けられたのだ。

 ロクなお礼も出来ず、助けられっぱなしなんて嫌だし、何よりたった数日だけだったとはいえ、一緒に過ごした時は確かに少年の旁に絶対の安心感を感じた。

 

 自由になれた、追われる心配もない。だったら好きにしても良い筈だ、好きな人生を歩んでも良い筈だ。

 わりとアグレッシブな姉妹は去っていった少年を9年近くの歳月を使って全力で探した。

 

 どんな些細な情報でも良い。

 ある程度信用できると判断した権力の強い悪魔に従事して捜索範囲を広めた妹の行動に複雑な気持ちがあったが、妹の意思の強さに折れてでも探した。

 

 その結果、ある時黒歌は己の中にある種族としての力とは違う何かがあると気付いた。

 

 最初はこれが何なのか分からなかった。

 しかし、自問自答し……そして己を知ることでその何かの正体を掴むのに時間は掛からなかった。

 そして正体を掴み取り、自分自身を完全に確立させたその瞬間、黒歌は一誠と同じくとある存在の成り代わりによるイレギュラーとして覚醒した。

 

 そう、天然の能力保持者(スキルホルダー)としてだ。

 猫の様に忍び寄り、猫の様に気紛れに、猫の様に自由に。

 自由を与えられ、自由を与えた者を愛し、愛した者から与えられた自由を守る為に、邪魔をする者を始末する覚悟を具現化した能力(スキル)

 

 それが――

 

 

「ね、イッセー……。私、実はイッセー達が聖剣を探してるっていうからさ……えへ?」

 

「む?」

 

 

 

 

 

 

「さっきそこの金髪君が言ってイッセーの偽者顔にくっついてた雌からね……えへへ?」

 

「な、なんだよ……?」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとその聖剣を『借りて』来ちゃったにゃん♪」

 

 

 安察頑望(キラー・サイン)

 

 

 

 

「ちょっとその聖剣を『借りて』きちゃったにゃん♪」

 

 

 ……。そう可愛らしく笑って言い出す黒歌に、正直な所この場に居た全員が絶句した。

 

 

「な、なんだと? イリナの擬態の聖剣(エクスカリバーミミック)をか!?」

 

 

 特に驚いてるのはゼノヴィアだった。

 まあ、当然と云えば当然だが、黒歌は『にゃ』と言いながら頷くと、ちゃんと着てくれ……と思う着崩れた着物の袖から針金の様な紐のような……とにかくそんな物体を取り出し俺達の囲うテーブルの上に置く。

 

 

「ま、間違いない……!

イリナが持ち運ぶのに楽だと言って擬態させたままの擬態の聖剣(エクスカリバーミミック)だ……」

 

 

 擬態の聖剣……言い得て妙だな。

 その目で確認して息を飲んだゼノヴィアの手に触れられた紐のような針金みたいな物質がうねうねと動き、やがて西洋の剣に変化してるを見た俺達はただただ驚いた。

 

 

「ね、本当だったでしょ?」

 

「いつの間に姉様は……」

 

「うん、レイヴェルと白音がイッセーの偽者くんを吹っ切った後、実はわざと姿を晒して会ってみた時にね……」

 

「あの後……悔しいことに全く気付かなかったですわ」

 

 

 ふふん、と何処かしてやったり顔で説明する黒歌はちょっとだけ苦笑いになってから兄貴に姿を見せた時のやり取りを話しだす。

 

 

「白音が話したとは思えないのに、『何故か』私が白音の姉と知った上で近付いてきたんだにゃん。

で、ものすごい胡散臭い笑顔を何度も向けてた『そんなバカな』って狼狽えててね……。

多分、私にイッセー達が噂してた洗脳ってのをしようとしてたんだと思うよ。ま、全然何にも思わなかったけどにゃ」

 

「お、おぅ……」

 

 

 ニコニコと俺を見ながら話す黒歌に、ホッとすべきなのだろうが微妙な気持ちになった俺は気の抜けた声しか出せんかった。

 つまり、黒歌はレイヴェルと白音に続き、兄貴の洗脳を突っぱねたのだ……。 

そしてその理由もこれまでの行動で何と無く察してしまうので複雑だった。

 

 

「そういえば何度か彼に家族はいるかと聞かれたような……。

居ないって答えてたのですが、何故姉様を?」

 

「さぁ?

ま、どちらにせよ私にも白音にも手出しさせないし? どうでも良いと思ってる奴にかまける程私も暇じゃないからね。

何か勝手に狼狽えてるのを心配そうに見てた悪魔祓いから去り際に……ササッとね」

 

「普通にスリじゃん」

 

「うん」

 

 

 あぁ、俺も思ったぞ匙に木場。

 いや……まあ、危うい精神状態の紫藤イリナが持っててはぐれエクソシストに奪われるかは、ゼノヴィアに預けておいた方が良いとは正直思うが……。

 

 

「イリナ……盗られた事にすら気付かなかったのかお前は……!」

 

 

 ゼノヴィアからすればかなり複雑だろうな。

 現に怒るべきなのか悲しむべきなのか分からないって顔だし……。

 

 

「どうする? 返して置いた方が良いなら今からさっさと返してくるけど?」

 

「……。いや良い。

恐らく今のイリナは兵藤誠八しか見えてないだろうし、そんな状態でこれを持ってても、何れは奪われるか落とすか……どちらにせよ危ういのは確かだ。私が預かっておく」

 

 

 だが相棒の精神状態を知ってる身として、任務としてこの場に居る者としての判断を優先したゼノヴィアは、テーブルの上に鎮座して輝く西洋の剣を、先程の紐のような針金のような物体に擬態させ、懐にしまい込む。

 まあ、兄貴達が大騒ぎしてもしらばっくれればバレんだろうし……これで良いのかもしれん。

 

 

「にゃにゃ~ ね、ね、イッセーの役に立てた?」

 

「え、あ、うん……助かったぞ黒歌」

 

 

 結局黒歌が失敬してきた聖剣はゼノヴィアが厳重に保管する事に決まり、木場も『その方が良い』と嫌に親身になって複雑そうにしてる彼女を元気付けてるのを見ていると、再び俺の背中に抱き着く黒歌が耳元で囁いてくる。

 

 一々引っ付かなくても良いのに……レイヴェルと白音が……と思いつつも役に立たなかったなんて事は勿論無いので助かりましたと、異様に柔らかい感触を気にしつつ頷くと、黒歌は実に嬉しそうに俺の頬に自分の頬をくっつけてスリスリしてくる。

 まるで猫の様に。

 

 

「ぐぬぬ……! ポッと出の泥棒猫のくせに……!」

 

「腹立つ程都合の良いスキル……」

 

 

 あぁ、現状真正面からじゃ俺も為す術無しなスキルだからな。

 エライもんを覚醒させたもんだよホント、こっちからの干渉は出来ないのに黒歌からは出来るって……殆どの奴等は一方的に獄殺されると思うと恐ろしいよ。

 

 

「黒歌……頼むから今は離れてくれ」

 

「にゃ……はーい」

 

 

 現状はこうして頼まなければ離せない。

 一方的に触れられ、一方的に舐められ、一方的に揉まれ……とにかくよくぞ此処まで独学でスキルを使いこなせたものだとある種感心しながらも渋々ながらと黒歌に離れて貰うことに成功させる。

 正直、俺も男のつもりなんであぁも密着されと……色々と困るのだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハロー! ご機嫌かい諸君~!!」

 

 

 願ってもないお客様が来てるしな。

 

 

「っ、フリード!」

 

「よぉさっき振りだな金髪くん! フリード様は復活したぜぇー!」

 

 

 部屋の窓から派手にガラスを破壊しながら姿を見せる同年代っぽい男の登場に、その場に居た全員が注目する。

 いや、正確にはフリードとやらとその後ろに控えていた初老の男と、強い覇気を放つ男の三人にであった。

 

 

「ほぅ、どうやら此方も大所帯のようだな」

 

「フリードよ下がれ」

 

「りょーかい! コカビエルのボスにバルパーの旦那♪」

 

「っ!?」

 

 

 初老の男がフリードに下がれと命じ、それに返すフリードが口にした名に木場が目を見開きながらも殺気を一気に解放する。

 しかし、飛び掛かろうとはせず何時でも動けるように身体を方膝を付き睨んでいるに留める。

 

 

「バルパー・ガリレイに堕天使コカビエル……! まさか向こうとは来るとは予想外だぜおい!」

 

 

 匙も同じく冷や汗を垂らしつつもニヒルに笑ってその腕に黒い蜥蜴の頭の様なものを装備し、ゼノヴィアも臨戦体勢へ移行している。

 だが、黒髪で充血してるように見えなくもない堕天使の男コカビエルに殺気が見られず、寧ろ構える匙と木場……そして白音を特に品定めするように見ているだけだった。

 

 

「ふむ、転生悪魔三匹に猫魎一匹に人間が一匹とは中々変わった組み合わせだな。それに――」

 

「…………」

 

 

 ジロジロと無遠慮に俺達を見ていったコカビエルは、レイヴェル……そして俺を見てその視線を止め、ニヤリと……これでもかという程の悪党顔を浮かべて始める。

 

 

「シュラウド・フェニックスの娘と……あの女の後継者……ククッ……ハハハハハ!!! 運が良いとこれ程迄に感じた事は無かったぞ悪平等(キサマラ)!」

 

「「……」」

 

 

 ただ嗤う。歓喜するように。

 ただ嗤う。待ち焦がれていたように。

 ただ嗤う。やっと届いたかのように。

 コカビエルはただただ嗤いながらその内に秘める強大な力を垂れ流す。

 

 

「っ……!」

 

「クソッ……! 舐めてないつもりだったが、ヤベェ怖いぜ……!」

 

「くっ……!」

 

 

 その力は木場と匙とゼノヴィアに身動きすら取らせずにいるほどであり、レイヴェルに叩き込まれている白音ですら冷や汗を流している。

 

 

「ふっふふふ! わざわざサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹を生け捕りにして脅しに使うつもりだったが……それも最早必要ないな」

 

「なに……?」

 

「生け捕りですって?」

 

「あぁ、元々こんな茶番を引き起こしたのも三大戦争を復活させる為だった。

ミカエル共が後生大事に抱えてた聖剣を奪い、そこのバルパーという男に別れた聖剣を元に戻させ、それを狼煙に戦争を復活させたかったのさ。

だから魔王の妹二人を生け捕りにもしたよ……まあ、貴様そっくりな赤龍帝の小僧共々拍子抜けしたがな」

 

 

 ……。兄貴がやられた。

 クスクスと嗤うコカビエルに続き、聖剣をぶら下げていたフリードがニヤニヤしながら言う。

 

 

「いやぁ、なんか大量のビッチ共と宜しくやってたんで、挨拶がてら腕を切り落としちゃいましてねぇ?

その後激おこプンプン状態で来たところを散々ぶん殴ってから、コカビエルのボスがトドメにどーん!! とねん♪」

 

『……………』

 

 

 ケタケタケタと笑って兄貴達とのやり取りを語るフリードに俺は――いや俺達は途端になんとも言えない気分となったのは果たして悪いことなのか。

 いや少なくともその事実が本当だとすれば、紫藤イリナは……。

 

 

「ま、待て! その中に私の同僚がいた筈だ!」

 

 

 当然、ゼノヴィアとしてはそれが一番気になるわけで、恐怖を押し殺してコカビエルに吠えると、コカビエルはふんと詰まらなそうに鼻を鳴らしながら答える。

 

 

「ん、あの転生悪魔と馬鍬ってた悪魔祓いの小娘のことか?

殺す意味も無いし一応生かしてはあるが……ハッ、俺達がどうこうする以前にアレは生きて帰っても異端者扱いで追放だろうな」

 

「なっ……! そんな馬鹿な!?」

 

「現に貴様が今持ってる擬態の聖剣が証拠だろう? あの小娘は自身のやるべき事すら忘れて、赤龍帝とくだらん事をしていたんだ。恐らく孕んですらいるかもな」

 

 

 いっそ哀れむ様な表情で、要らない現実を突き付けられたゼノヴィアはその場に崩れるように両膝をついてしまった。

 それを見た木場は直ぐに駆け寄り、ゼノヴィアを介抱するが……此処に来て最後まで余計な真似をしてくれたな兄貴。

 

 

「で、だ。

俺としても本来の目的も一応果たしたく、こうして貴様等の下に交渉と顔見せに来たのだが……」

 

「交渉だと?」

 

 

 交渉という言葉に反応する俺とレイヴェルにコカビエルはニヤリ口を吊り上げてと頷く。

 

 

「あぁ、俺達が抱える人質共とそこで絶望してる小娘の抱える聖剣二本の交換だ」

 

「な、なんだと……!」

 

 

 そう来たか。わざわざ殺さずに生かした理由の1つが聖剣奪取と魔王達への挑発。

 中々どうして考えたなコカビエルめ。

 

 

「取り敢えず俺としては悪魔の英雄とまで言われ、尚且つあの人外の分身であるシュラウド・フェニックスの血を受け継ぐそこの小娘と、あの女の後継者とまで言われている貴様と戦いたい所だが、その前に戦争がしたいのでな。

今のところ三本しか此方は聖剣を抱えてない……故に貴様等が抱えている二本の聖剣と人質の交換だ」

 

 

 人質か。

 魔王の妹二人は生存確定がコカビエルの話で分かったが、単なる下僕の兄貴はまさかまだ生きてるのか? 正直どちらでも良いが……ふむ。

 

 

「断ると言ったら?」

 

「愚問だな、人質の小娘共をそこら辺の畜生にでも犯させてから冥界の魔王共に送り付けるまで。

それでも戦争の大義名分を作るには充分だからなぁ?」

 

 

 敢えて問う俺にコカビエルが悪どく嗤って脅しにくる。

 ……。どうしてだろ、その文句を聞かされても焦る感情が全然無い自分がいる。

 いや、勿論良くないとは分かってるので一応阻止するし退治もするが。

 

 

「それを言われて俺等が『はいそーですか』と頷くとでも?」

 

「それならそれで良し、俺としてもシュラウドの娘と人外女の後継者である悪平等(キサマラ)と殺し合いもしてみたいかなぁ?」

 

「……。物騒な野蛮堕天使ですわね」

 

「何とでも言え。

取り敢えず考えるだけの期限は与えてやるが、人間界の日付が変わるまで、場所は貴様等の学舎だ。

精々良い答えを待ってるぞ? 我が求めし者よ……」

 

 

 どれを選択してもコカビエルにとっては損がない条件を突き付けられた俺達は、笑いながら消えていき、控えていたバルパーもそれに続いて消えた。

 そして最後に残ったフリードは……。

 

 

「いやいやぁ、どうやらあのクソ悪魔の弟くんだってねキミィ?

同じ顔してるからもう一度八つ裂きにしてやりたいけど……ま、俺的にもう満足したし? 次のターゲットはそこの金髪くんかなぁ?」

 

「っ……! フリード……!」

 

「ヒャッハハハハ! 良い顔だぜ? じゃ、バイビー!」

 

 

 木場を挑発してから去っていった。

 

 

「………。囮と押し付け作戦は無駄になったか」

 

「というか、そういう状況でもしている兵藤誠八の精神が理解できませんわ」

 

「……。まぁな」

 

 

 コカビエル達が去り、支配していた重圧感から解放された匙達に水を飲ませながら、兄貴達の何とも言えないヘマに愚痴が出てしまう。

 

 

「白音も黒歌も大丈夫か?」

 

「はい……なんとか。でもまだまだでしたね私も。コカビエルの殺気で動けませんでした」

 

「にゃにゃ、私は……んー? 不思議と全然怖いとは思わなかったにゃん。

だって、イッセーという王子様が傍にいるんだもん!」

 

「………。黒歌は平常そうだな」

 

 

 皆がプレッシャーに押し潰されては無いと確認しつつ深呼吸をさせる。

 どうやら完全に潰れてる奴はこの中には居くて安心だ。

 

 

「ハァ……で、どうするよイッセー?」

 

「ぼ、僕自身弱いかもしれないけど、それでもバルパーを討つから行くつもりだけど……」

 

「……。私は……イリナの事はショックだが、それでも任務が残っている」

 

 

 コカビエルに圧されてしまった匙、木場……そして少しだけ立ち直ったゼノヴィアは行く気があるらしい。

 交渉について云々を抜かしてだが。

 

 

「私も行きます……。

此処まで来て尻尾は巻きたくないので」

 

「当然私も手伝うにゃ。ま、人質連中はどうだって良いけど、戦力は多い方が良いでしょ?」

 

 

 白音も黒歌も同じく。

 

 

「最早人質となってしまわれた以上、彼等は役には立ちませんわ。それに学園を儀式に使ってるようですし……」

 

 

 レイヴェルも……皆が皆決意を固めている。

 

 あぁ……そんなもん俺だって当然――

 

 

「当然行くぞ。

学園を、学園に通う生徒の為の校舎を見殺しにする訳にはいかん」

 

 

 なじみを知るコカビエルを放置はしない。

 学園を傷付けさせない。

 悩む理由なんてありはしなかった。

 

 

「行くぞ、これより生徒会長を執行する!」

 

 

 行くに決まってる。

 なじみの弟子として、生徒会長としてな。

 

 

「……。まあ、生徒会は俺だけというオチなんだけどな」

 

『………』

 

 

 とにかく行く!

 

 

続く。

 

 

 

オマケ。

 

やはり二人は幼馴染み。

 

 

 コカビエルからの招待状に乗ることとなってしまった一誠達は、早速の準備に各々取り掛かるのだが……。

 

 

「ほら一誠さま? ボタンをかけ違えてますわよ?」

 

「ん? あ、ホントだ……」

 

「全く、変な所で抜けてるんだから……ほら動かないでくださいな」

 

「うむ……」

 

『……………』

 

 

 独り身としては入り込めない変な雰囲気を二人には出ていた。

 恐らく全く自覚も無しにである。

 

 

「うふふ、やっぱりこういう所は昔と変わりませんわ」

 

「むぅ……そんな子供扱いするなよ……」

 

 

 かけ違えてたボタンをレイヴェルが直し、昔を思い出す様に笑みを浮かべれば、一誠が地味に拗ねる。

 人間界の高校に通う前まではずっとフェニックス家に住み、ずっと一緒だったからこその雰囲気にさしもの木場達も茶々いれ出来ずに見てるだけしかできない。

 何せこの部屋は一誠とレイヴェルの住み家なのだから余計だった。

 

 

「お前、段々エシルねーさんに似てきたよな……」

 

「はて、そうでしょうか?」

 

「あぁ、流石母子というか……。 正直、お前にこうされて文句は言ってるけど安心するし……」

 

 

 着替え終え、その場に座る一誠の傍らにレイヴェルも座って話をする最中のその表情も学園で生徒会をやってる姿しか知らない木場達にとっては初めて見るような、緩んだ表情だ。

 

 

「……。まだ時間はあるだろ? ちょっと寝るよ」

 

「そうですか……では此方に」

 

「ん……」

 

 

 挙げ句、目をとろんとさせながらレイヴェルにもたれ掛かるという……子供みたいな姿をさらけ出し始め、そんな一誠を当たり前だとばかりに受け止めて膝枕をするレイヴェルに、とうとう黒歌までもが口を挟めず白音共々ジーっと恨めしそうに眺めていた。

 

 

「んん……久しぶりだな、レイヴェルにこうして貰うの」

 

「あ……ほら一誠様? それじゃあ膝枕じゃなくて只の抱き枕――」

 

「んーん……レイヴェルの匂いが安心する……」

 

「ぁ……ん……♪ くすぐったいですわよ♪」

 

 

 終いには膝に頭を乗せる――じゃなくて、うつ伏せ体勢でレイヴェルの腰に腕を回して抱きつき、お腹に耳を当てながら寝始める一誠と、全く嫌がる事なく微笑みながらその頭を撫でるレイヴェルに、そろそろ本気で突っ込みを入れて空気を変えてやりたいと思う他のメンバー。

 

 

「うわぉ。家での一誠が普通にガキみたいでちょっと安心してる俺がいる」

 

「うん、なんだろうね……べつに疎外感も感じないし」

 

「…………。なぁ、男というのはああいう事をして貰うと嬉しいのか?」

 

「え? あ……う、うーん……多分、僕は好きかも?」

 

「うむ……そうか……」

 

 

 

 

 

「えー……良いなぁ。幼馴染みってやっぱ強いにゃ~」

 

「……。最近姉様のキャラにすら負けてるのに……ぐぬぬ」

 

 

「すーすー……」

 

「ふふ、時間までずっとこうしてますから、安心しておやすみなさいませ一誠さま……」

 

 

 閑話・決戦前の平穏……終わり

 

 

 

 




補足

コカビエルさん安心院さん知ってましたの巻。
+彼女を知ってるからこそ、某信者大魔王の如くあくなき強さを求めてストイックに鍛えた結果……。


「禁手化!」

「蝿だな」

「我、目覚めるは……」

「……。わざわざ待っててやったのにその程度とはな。
ガッカリだぞ小僧」


イレギュラーによるイレギュラー化……完了。


で、まあ、本編通り、黒歌さんにフラれた悲しみを別の女の子達に向けたらクソヤバイ回復力で復活したフリードきゅんに腕を落とされ、女の子達は全員人質に取られ、嘗めてたコカビエルからは雑魚扱いされてボコられ、頼みの綱のフルパワー覇龍も、わざわざ詠唱待ちまでしてもらったのにズタボロにされ……。

多分、兄貴の転生人生どん底期です。


その2

黒歌ねーさんにキャラ負け気味ですが、やはり幼馴染みは強し……という訳ですな。



感想返しは明日以降となりますが……。

兄貴ェ……どんだけ切られろ思われとんねん……(笑)


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開戦

大まかに、木場きゅん&ゼノたんVSフリードきゅん&バルパーの旦那

一誠・匙きゅん・レイヴェルたん・小猫たん・黒歌ねーさんVSケルベロス&コカビエル……か?


すいません、その前にあったVS兄貴は、どうしても書いてるとR-18描写が入り、書いては消しての繰り返しで結局無理でした。

だって、導入から大人数裸プロレス同好会の模様をわらんとならんし……。

てか、初めて90弱の感想もらえて嬉しいのだが、皆して兄貴の大好き過ぎだろ(笑)と思ってしまったぜ。

いや、ありがとうございます!


※加筆・修正しました。
主にゼノヴィアさんの心情とコカビエルさんの心情をちょいちょい……。

感想返しは……夜か明日やります。


「存外生命力はある様だ、塵なりに」

 

「そりゃあ乱○パーチーする余裕かませてるんだもん、そうでしょうよボス?」

 

「ぅ……ぁ……」

 

 

 月照らす夜空の下。

 学生が切磋琢磨する為に使われる駒王学園の校庭には、中心に禍々しく輝く巨大な円陣が出現し、その中心にはどう見ても学生じゃない三人組の男が我が物顔で占拠し、つまならなそうにしながら眼前で倒れて死にかけている青年を、これから来るであろうメインディッシュの為の余興目的で弄んでいた。

 

 

「しかし、やはり赤龍帝といえど所詮はこの程度。

片腕失って喚き、挙げ句この様。アザゼルもこんな玩具なぞに現を抜かすとは、つまらん奴に成り下がったものよ」

 

「いやいやボス、コイツが調子乗りで弱いだけなんじゃないっすか~?」

 

 

 堕天使コカビエルの心底つまらないと見える物言いに、はぐれ悪魔祓いのフリードがケタケタ笑いながら片腕の無い死に体同然の赤龍帝の少年の頭を踏みつける。

 

 

「ビッチ共と吐き気しやがる真似してるだけで、多分ロクに戦闘経験も無いって感じでしたじゃん? 左目抉られた俺っちが言える台詞じゃないけどよ」

 

「まぁな、禁手だ覇龍だと息巻いてたが……この餓鬼は力をそのまま撃ち放つだけだった時は落胆を覚えたものだ」

 

「…………」

 

 

 フリードに頭を踏まれてピクリとも動かない赤龍帝の少年である兵藤誠八を見下し塵を見るような目をするコカビエル。

 魔王の妹を人質にしようと思って軽い挨拶がてらの襲撃をしに行ってみれば、この少年がその魔王の妹二人とその他眷属と情事に及んでいた時はふざけてるとしか思えなかった。

 いや、もしかしたらそれ程の余裕でもある実力があるのか? と一部欠けているグレモリー眷属とシトリー眷属纏めて相手になってみたが……結果はご覧の有り様だ。

 

 

「コカビエルよ、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー……そしてその眷属達がやっと黙ったぞ」

 

「そうか」

 

「およ、何したんだよバルパーの旦那?」

 

「何もせんよ。あまりにも喧しく喚く小娘共に『貴様等の大事な赤龍帝は両足と左腕を失い、もはや虫の息だ』と教えてやったら勝手にショックで気絶しただけだ」

 

「わぁお、ビッチ共からすれば王子様(笑)だもんなぁこのグズ野郎は。ザマァねぇぜ」

 

 

 若干だが疲れた顔をする追放された元神父であるバルパーの言葉にコカビエルは興味無さげに、フリードは愉快とばかりにニタニタ嗤う。

 フリードからすれば、左目を抉られた借りを思う存分返せたのだ……愉快で無い訳がなかった。

 

 

「ぅ……ぅ……」

 

「お? まだ生きてるぜこのクソ悪魔。

ゴキブリみたいにしぶといですねぇ」

 

「か……ぁ……」

 

 

 虫の息……唯一残った右腕以外の四肢をもがれ、どうする事も出来ないまま、ただ微かに息をするだけの存在と化した誠八は、『何故か失えない意識を保ちながら』遅すぎる後悔をしていた。

 

 

『明らかに原作よりコカビエル達が強化されてる』

 

 

 計算上、禁手化である鎧で始末できる筈だったのにそれが叶わず、更に上の段階である覇龍の全身全霊状態を発動させたのにそれも蝿を叩き落とすが如く一蹴され、挙げ句の果てには四肢を奪われ、死に体同然としてかつてぶちのめしたフリードに踏みつけられている。

 

 

(何で……こんな……目に……!)

 

 

 最早何もすることが出来ない誠八に残ったものは、ただの憎悪。

 己の身に起きた理不尽に対する、誰に向けるでもない憎悪だけだった。

 だがそんな憎悪ですらコカビエル達にすれば『塵に等しき』くだらないものでしか無く、既に誠八なぞ眼中にすら無く、熱気を帯びた風を背に現れた『絞りカス』を見据えていた。

 

 

 

 

 

 誠八達が脱落し、人質にされたとコカビエル直々に教えられた一誠達だったが、コカビエルに指定された時間までまだ余裕があるとナチュラルにレイヴェルとイチャ付きつつのたっぷり睡眠で心身をリフレッシュし終えていた。

 そして同じく来る決戦前に精神を統一を完了させた祐斗・元士郎・白音・黒歌・ゼノヴィアと共に、駒王学園へと足を踏み入れていた。

 

 

「………。随分と校庭を滅茶滅茶にしてくれた様だなコカビエルよ」

 

 

 そして異様に目立つ魔方陣へと向かい、目に映るコカビエル・フリード・バルパーの三人組と荒れ果てているグラウンドにこれでもかと顔をしかめながら、獰猛に嗤って陣の中心に鎮座するコカビエル達を睨む。

 そんな折、同じくニヤ付いていたフリードがこれ見よがしにほぼ達磨状態で死にかけている誠八を一誠達に向かって蹴り寄越して来た。

 

 

「ぅ……ごほっ……ぐ……ぁ……」

 

「……。兄貴だよな?」

 

「みたいですわね……。随分と無様なお姿ですが」

 

 

 腕や足だけではない、顔も最早誰なのかと判別出来ないほどに壊れている誠八に眉を寄せる一誠にレイヴェルが見下すかの如く目で吐き捨てると、ニヤニヤしたフリードが嘲笑うかの如く大袈裟に腕を広げて声を出す。

 

 

「禁手だ、覇龍だと息巻いてたが割には予想以上に雑魚でしたぜ? まあ、コカビエルのボスが殆どやったんだけど――って、ありゃ? 皆さんあんまり動揺しないのね?」

 

『…………』

 

 

 ちょっとした精神的ダメージを与えるつもりで放った煽り文句だが、一誠やレイヴェルは愚か、仲間である筈の白音と祐斗までもが動揺見せず自分達に鋭い視線を向けている事に気付いたフリードは目を丸くする。

 

 

「恥ずかしながら、仲良しどこか音信不通にする程度には肉親と絶望的な仲だったからな俺は」

 

「そこら辺をうろうろするだけのカスを気にするお暇はありませんので」

 

「……。赤龍帝で僕から見てもすごい強い兵藤くんを此処までにしたのはビックリだけど……うん、自分でも驚く程に『何にも思えない』」

 

「先程貴方達から聞いた話があるので、同情する余地すら無いと思いますから」

 

「つーか、俺的にはザマァ見ろと思うだけだし」

 

「……。イリナのことがあるので同情はせん」

 

「私はコレの事知らないしにゃ~」

 

 

「……………ぅ」

 

 

 

 口々に誠八に対する『同情の無さ』が全面的に出るコメントにフリードはおろかコカビエルも思わず笑ってしまう。

 

 

「クックックッ……!

何があったか知らんが、此処まで生かし甲斐の無い人質だっとは」

 

「……。そんな事よりコカビエルよ……。先程言っていた聖剣と人質の交換の話だが」

 

 

 勘違いされ気味だが、一誠は誠八を助けるつもりなんて最初(ハナ)っから無い。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)を使いさえすれば、誠八を今すぐにでも復活させる事が出来るが、一誠にその気はなかった。

 

 理由は簡単だ……どうでも良いからである。

 

 兵藤一誠は確かに安心院なじみから聞いた『黒神めだか』なる人物を参考にして生徒会長をやってみた。

 だが、一誠の辞書に『世界中の人間が大好き』なんて言葉は一文字も存在しない。

 

 というよりそもそも誠八はもう人間じゃないのだ……散々馬鹿にして見下した相手に手を差し伸べてやる程、一誠は聖人君子では無いのだ。

 

 

「て、てめ……が、何で此処に……?」

 

「む?」

 

 

 そしてそうとは知らない誠八は、まだ一誠を絞りカスと認識し、死に体同然の声すら絶え絶え状態のまま自分を見下ろす一誠を憎悪の籠った目で睨んでいた。

 

 

「レ、レイヴェルや黒歌に好かれて……調子こいてるつもりかよ……テメェは……!」

 

 

 狙っていた女の子と悉くを横取りされた……と思ってる誠八から向けられる憎悪の視線に、一誠はといえばどこ吹く風の様な表情で右腕残しの『兄貴。』を見下ろし、その様でもまだ話せることにちょっとだけ驚いていた。

 

 

「む、転生悪魔というのは思いの外頑丈だな……?

そうまでされてまだ喋れるとは」

 

「まるで害虫の様なしぶとさですわねぇ」

 

「というより、まだ解らないのですかねこの人は……」

 

「あ、でもイッセーと顔の判別が更につけやすくなれて良いんじゃないかにゃん?」

 

「いや、此処までされてまだ生きてるのは寧ろ感心するよ……今のところ同じ転生悪魔としての身で思うとね」

 

「おう、生命力だけは誉められるぜ? 嫌味無しでな」

 

「……っ」

 

 

 誠八を同じく見下ろす他の者達の全てが誠八を冷たくあしらっていく。

 全員が全員誠八を『そこら辺に落ちてる消ゴムの欠片』を見るような目に、誠八は言葉に詰まらせてしまう。

 一誠達にすれば今は誠八に構う暇は無いのだ。

 

 

「さて、兄貴は当分死にそうにないし、下手に戻して余計な真似をされると面倒だからこのままにするにして、コカビエルよ……残りの人質についての続きだ」

 

「フッ、早速だな兵藤一誠。

まぁ良いだろう、ならば答えを聞こうか?」

 

 

 判別出来ない程に歪んだ顔で睨む誠八を無視して跨ぎ、禍々しく輝く巨大な魔方陣の中心に鎮座するコカビエルに問われた一誠は、チラッとゼノヴィアに視線を向ける。

 

 そしてそれを受けたゼノヴィアが無言で頷くと、封印の術式を施していた破壊の聖剣と黒歌が盗んできた擬態の聖剣の封印解き放ち……その場に並べて地面に突き刺し、その場からコカビエル達に捧げるが如く五歩程全員で下がる。

 

 

「ほう、そこに置いたということは人質と交換という事で良いのか?」

 

 

 絶対勝利の悪平等。

 しかもその後継者たる男にしては意外な決定に、コカビエルは少々ながら驚きつつ無言で二本の聖剣から離れる一誠に問い掛ける。

 すると一誠は無表情のまま1つ頷くと……。

 

 

「あぁ……そうだ、お前の予想通りだコカビエル」

 

 

 空に佇むコカビエルの――ほんの少し落胆の色が見える顔に軽く微笑みながら肯定する。

 

 

「……なるほど、人質の方が大切か。

良いだろう、雑魚の命数匹なんぞの処理には俺も正直困っていたからな。

聖剣二本でも此方としてはまだ釣りが来る程だ――バルパー、人質共を連れてこい」

 

「了解したコカビエルよ」

 

 

 どうせなら『そんな奴等の命がどうなろうと知らん』とでも言ってくればいっそ良かったと、内心萎えていく気分を隠し、二本の聖剣を目の前に歓喜の様相を隠せないバルパーにリアスとソーナ達の身柄を連れ来るように命じる。

 

 だが、コカビエルもまた一誠を……レイヴェルという後継者と分身を履き違えていた事に気付かされるのはすぐ後の事だった。

 

 

「そうだ……お前のお望み通り――」

 

「む……!?」

 

 

 バルパーに人質の身柄を連れ来るよう命じ、それに応じたその瞬間、『人畜無害』を絵に描いた笑みを見せていた一誠の口元が徐々に半月状に歪み始めた。

 それをいち早く発見したコカビエルの顔が強張り、警戒するも既に遅く……悪童よろしくな表情で嗤う一誠が顎をクイッと癪って地面に刺さる聖剣に向けたその瞬間――

 

 

「「ハァッ!!」」

 

 

 コカビエル達の目の前で、祐斗とゼノヴィアが神速で詰め寄り、二本の聖剣を破壊した。

 

 

「!?」

 

「な、なっ!?」

 

「おおっ?」

 

 

 破壊され、光の粒子となって風に溶け込んでいく聖剣にコカビエル達――特に野望があったバルパーは一気に動揺を見せた表情で硬直してしまう。

 しかし既に二本の聖剣は霞の様に霧散してしまっており、バルパー本人が半生を掛けて抱いた野望は二本の聖剣の様に壊れてしまったのだ。

 

 

「完了だよイッセーくん」

 

「コカビエルに渡るくらいなら破壊した方がマシだ……。ふっ、これで私もイリナ同様に後戻りは出来ぬな」

 

 

 手に持っていた魔剣を仕舞いながら、清々しくイッセーに報告する木場とゼノヴィアに一誠は小さく笑みを溢しながら頷く。

 そして再び驚くコカビエル達に獰猛な笑みを見せると……。

 

 

「お前の予想通り、俺達の答えはNOだコカビエル。

悪いがな、俺は人でありつつも()()()()なんでね。

兄貴達に押し付ける作戦が破綻した以上、遠慮する気も無いぞ?」

 

 

 ブラウン色の髪を、今の一誠が見せる獰猛な笑みに裏付ける精神を具現化するかの如く真っ赤に染め上げながら、フェニックス家での修業の日々以来の――

 

 

「貴様が確保したらしい人質は好きにしろ、煮るなり焼くなりな。

俺達には何の関係も未練も無いのだ。

なぁに、聖剣は譲らなかったがシトリー三年とグレモリー三年を当初の様に戦争の引き金か何かの道具にすれば良い、但し俺達との喧嘩が終わればな……!」

 

 

 到達した半分……無神臓(ムゲン)と吟われる異常性を全開で解放した。

 

 

 

 

 一誠様は呆れるほどに身内に対する扱いが甘い。

 安心院さんですら、『その甘さが命取りと言いてぇが、悪平等達(ぼくたち)が心地良いと思っちゃってるから強く言えねーぜ』と仰る程に甘い。

 

 ですが、それはあくまでも身内に対してであって、生徒会長をやられている事で勘違いされ気味ですが――

 

 

「ば、馬鹿な! 何故聖剣を……! 何故!!」

 

「貴様がバルパー・ガリレイか? フッ、余程聖剣なんぞが大切と見えるが、そんなものは決まってる……だろ、木場――否、祐斗よ?」

 

「……………」

 

 

 身内以外には精神攻撃もろもろに容赦がない。

 それが一誠様の真骨頂の1つですわ。

 今だってこれでもかと狼狽えているバルパー・ガリレイにニヤリとした一誠様は、横に控えていた木場さんに声を掛けていらっしゃる。

 

 

「だ、誰だお前は……!」

 

「木場祐斗……。

覚えて無いだろうが、貴様が推し進めた聖剣計画の生き残りだ」

 

「なにっ!?」

 

 

 人質? 交渉? 何を馬鹿な。

 交渉に応じなければ人質を殺す? ふふ、やってご覧なさいな、既に無意味な事も知らずね。

 そしてこの破壊された聖剣ですら……ふふふ、一誠様の手の平の上で容易に復元できますのに……馬鹿な連中ですわ安心院なじみ(わたしたち)に喧嘩を売ることがどうなるか……。

 

 

「因子を取って殺した筈なのに……生き残りが居たのか……!」

 

「あぁ、ただ唯一の生き残りさ!」

 

 

 身をもって教えて差し上げましょう。

 

 

 

 バルパー・ガリレイは聖剣という存在に、ある種のロマンの様なものを感じていた。

 そしてその気持ちが彼を凶行に走らせた。

 しかし、その狂気ともいえる気持ちは、聖剣計画の生き残りらしき少年と何故か少年に追従している悪魔祓いの少女によって……へし折られてしまった。交換材料として手にする寸前で破壊された聖剣の様に。

 

 

「なんて事をしてくれた貴様ッ!

それにそこの小娘も自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 

 

 三人の中取り分け動揺を見せるバルパーが、己に鋭い目を向けながら剣を構える金髪の少年と、その少年から与えられた剣を手にする青髪の少女に吠える。

 しかし二人にバルパーの憎悪の籠った咆哮は通用していない。

 

 

「どうせ貴様等に渡して取り返しのつかん事になるのであるなら、壊した上での取り返しのつかない事態の方が幾分マシだと判断したまでだ」

 

「僕はそれ以前に貴方もろとも聖剣に因縁を持ってたからね。壊すのは当然だろう?」

 

「ぐっ……が、餓鬼共がぁ……!!」

 

 

 不自然な程に冷静に言葉を返され、ますます顔を歪めるとバルパーに、祐斗は魔剣の切っ先を向け、そして高らかに宣言する。

 

「我が名は木場祐斗!

貴様のエゴで死んでいった仲間の名誉の為……! そして、僕の抱えるこの因縁とのケジメの為!

バルパー・ガリレイ……貴様を地獄に叩き落としてやるッッ!!」

 

「くっ……魔剣創造(ソードバース)かっ! フリード!!」

 

 

 騎士を彷彿とさせる立ち振舞いで宣言する祐斗に、単体での力に自信が無いバルパーは慌ててフリードを呼び寄せる。

 

 

「はいな、何ですかね旦那?」

 

「今すぐにこの餓鬼を殺せ! 三本だけとはいえ、融合させた聖剣ならやれる筈だ!」

 

「へーいへい」

 

 

 興奮した面持ちで祐斗達の始末を命じるバルパーにフリードは気の抜ける返事をすると、魔剣を向ける祐斗とゼノヴィアの前に立ち塞がる。

 

 

「ま、そういう訳なんで、三本とはいえ前より強化した俺っちをぶっ潰してから旦那を始末してくれやラブカップルさん?」

 

「違うのに、キミはすっかりその認識なんだね……」

 

 

 そして祐斗と同じく、既に三本の聖剣を一体化させた聖剣の切っ先を向け、獰猛な笑みを見せるフリードに祐斗とゼノヴィアは未だ開きっぱなしの実力差を思い出しつつも負けるわけにはいかぬと持ちうる全ての実力を出し切らんと身構える。

 

 

「………」

 

 

 その最中、ゼノヴィアは己のやらかしてしまった所業に苦笑いをない内心浮かべていた。

 

 

(聖書の神の武器を壊すとはな。いよいよ私も『やらかしてしまった』か)

 

 

 押し潰しかねない重圧感を身に感じながらも、ゼノヴィアは不思議と冷静に、祐斗と共に預かっていた聖剣を破壊した出来事と、この場所に来る前に一誠から言われた時の事を思い出していた。

 

 

『奴等の目の前でその二つを破壊する』

 

『なっ!? 何を言ってるんだ貴様!』

 

 

 悪魔では無い。

 されどただの人間とは思えない不思議な力を持つ一誠が、駒王学園に赴く前の準備時に口にした、いっそ冷酷な言葉にゼノヴィアは思わず持っていた聖剣を庇うように抱えて睨み付ける。

 

 

『ふ、ふざけるな! いくら破壊しても構わないとは言ったが、それをハイそうですかと頷けるか!』

 

 

 まさに神への冒涜とも言える一誠の言葉にゼノヴィアは激昂するも、一誠は冷静に――いっそ清々しくこう言った。

 

 

『違う、破壊するのはあの場でだけだ。

奴等の戦意を一つでも削ぐ意味で破壊するつもりなのと、全てが終わったら破壊した現実を『否定』するつもりでもある。

お前としても奴等に聖剣を渡すよりは一時的にこの世から消す方が良いのではないか?』

 

『うっ……』

 

 

 胸の内を見透かすような物言いにゼノヴィアは言葉に詰まった。

 確かに一誠の持つ幻実逃否(リアリティーエスケープ)ならそれも可能かもしれない。

 だがゼノヴィアはそれでも首を縦には振れなかった。

 

 

『そ、それはそうかもしれないが……』

 

『……。いや……すまん、俺が早計すぎたな。

お前が嫌なら俺は構わんよ、寧ろ神を信仰するお前にこんな事を提案してる俺が滅茶苦茶だしな』

 

『ぅ……』

 

 

 苦笑いする一誠にゼノヴィアは俯いた。

 相棒であるイリナはもうダメで聖剣捜索は儘ならならく、結局は悪魔である祐斗や一誠達の協力が無ければ今頃自分も人質の中に居たのかもしれない。

 そう思うと……今は窓の外の雲ひとつ無い夜空の月を眺めている祐斗をチラチラと見ながらゼノヴィアは迷ってしまった。

 

 

『……………』

 

 

 人間、純血悪魔、下僕悪魔、猫妖怪。

 不思議な組み合わせで構成された不思議な団体。

 一誠という人間の少年に当たり前の様に付き従い、そのやり取りを見ていても一人一人が楽しそう。

 

 恐らく祐斗はその居心地の良さから、主よりも彼と共に居るのだろうと、ゼノヴィアは感じていた。

 そして何よりゼノヴィア自身は二度も祐斗から借りを受けている。

 

 

『………』

 

 

 その時点で……悪魔に命の借りが出来ている時点で今更綺麗事なんて調子が良いだけじゃないか。

 静かに窓から夜空を眺める祐斗を見つめながらゼノヴィアはそう思い、答えを待っている一誠に頷いた。

 

 

 

 

「もう油断はしねーぜラブカップルよ?」

 

「だろうね……。

けどそれでも僕はキミを倒してバルパーにケジメをつけさせる!!」

 

「今の私は既に役立たずだが、それでも木場祐斗の手伝いは出来る限りする。

それがコイツ借りを返すことにもなるからな!」

 

 

 これが祐斗と共に聖剣を破壊して見せた理由。

 神を信仰する身なのに祐斗に二度にも渡る命の借りを返す為、何よりも任務の為……ゼノヴィアもまた王道と裏道を交互に使う覚悟が入り込んだ証拠だった。

 

 

「ゼノヴィアさん、またキミの力を借り事になるよ。

残念ながら、僕一人じゃ彼は倒せないから……」

 

「ふっ、1度共闘した仲だ……それが2度になろうと3度になろうと変わりやしない。

及ばせながら力になろうじゃないか木場――いや、祐斗よ」

 

 

 荒れ狂う殺意を身に受け、今にも切りかかりに来そうなフリードを眼前に祐斗から貰った言葉に、己でも不思議な程に自然と出る笑みで返しながら、初めて此処で祐斗と呼ぶゼノヴィア。

 彼が悪魔だという偏見すら捨て……共闘する相棒と認めた瞬間だった。

 

 

「ヒャッハハァ!! 良いね良いねぇ、こんな状況でも見つめ合う余裕っプリに泣けてくるが、実力差を分かってても向かってくる辺りにムカムカが止まらねぇぜバッキャロー!!」

 

 

 最早フリードにとってはお約束ともいえる、祐斗とゼノヴィアとの間に醸し出される空気をぶった切るが如く殺気を全開にし、最後の最後で融合した聖剣を狂喜した笑みで夜空に掲げると……。

 

 

「我が名はぁフリード・セルゼン!!

テメー等みてーな悪魔とそれに従事しちゃってる偽物をぶち殺す為! テメー等二人はバラチョンにして野晒しにしてやんぜぇぇぇっ!!!!」

 

 

 祐斗と同じ口上をしてから、二人に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

「さて、祐斗とゼノヴィアにバルパー・ガリレイとフリード・セルゼンは任せるとしてだ……」

 

 

 激しい剣撃の応酬を開始する祐斗とゼノヴィアから少し離れた箇所では、一誠達が空に佇むコカビエルと対峙していた。

 

 

「まさか聖剣を破壊してくれるとはな。

まあ、貴様等悪平等にとっては聖剣も魔王の身内もどうでも良い代物だという訳か」

 

 

 フリードと祐斗達の戦いを横目に此方を見上げる一誠達に視線を向けるコカビエルは中々に冷静な佇まいだ。

 いや、寧ろ歓喜していた。

 そしてそのコカビエルに手も足も切り捨てられ、それでも何故か『意識を失えず』地面に転がっていた誠八は、目の前の現実が信じられずにいた。

 

 

「まずは小手調べだ兵藤一誠にシュラウドの娘よ」

 

 

 右腕だけでろくに動けず、ただその場で見ているだけしか出来ない誠八の目に映るは、主人公としての力も補正も失い、ただの絞りカスと見下した一誠を中心に並んで立つ、原作には出てこない面子を抱えた者達。

 

 

「人数不足を補うために仕入れてきた獣共であり、よもや貴様等が遅れを取るとは思ってないが、それでも一応な」

 

 

 パチンとコカビエルが鳴らしたスナップの音に呼応するようにうなり声と共に現れた何十体もの三つ首の化け物。

 地獄に住むと言われた魔の犬……ケルベロスなのだが、この時点で誠八の把握していた展開からまたもや剥離していた事がコカビエルの口から語られる。

 

 

「そこで死にかけてる赤龍帝の小僧は5~6体程度を仲間共と倒してしてやったり顔をしてたが、くく……用意しておいた総数500匹全てを放出していたらどうなっていたことやら」

 

「な、なんだ……と……!?」

 

 

 500体……だと……!? と目を見開く誠八に誰もが気付かず話が進んでいく。

 

 

「まあ、強い力を持っただけの雑魚の話なぞ今はどうでも良い。

とにかく挨拶がてらの運動を楽しんでくれ……残りの492体でな!」

 

『グルルル……グォォォォーッ!!!』

 

 

 ニヤリと笑うコカビエルが手を振り下ろす事により咆哮する492体ものケルベロスに誠八の身体が恐怖で硬直する。

 五体満足時なら何とでもなるが、今の自分は右腕を残して全てを失っているのだ……このままでは餌さとして喰われて終わりと転生前よりもより明確な死の恐怖が襲い掛かる。

 

 だがそんな誠八に誰もが目もくれず、一番に自信無さげな元士郎ですら逃げずに黒い龍脈(アブソーションライン)を腕に生成して構える。

 

 

「お、おいおい……。

ケルベロスとか初めて見るのに、いきなり戦うとか難易度高過ぎなんだけど……」

 

「見るだけなら俺も初めてだ……。

なに、6人も此方はいるのだし、単純計算で一人82匹倒せばすぐ終わる」

 

「更に言えば、一体1秒で約1分30秒で済みますわ」

 

「そんな無茶な事できるかよ! あぁもう、そう言ってる内に来てるし!!」

 

「悔しいですが、レイヴェルさんにはまだ勝てないけど……そのお陰で私はそれなりに強くはなれました。やって見せますよ」

 

「みたいだね、ふふ……そろそろ白音に仙術を教えないといけないにゃん!」

 

 

 一番ネガティブな事を言ってる匙以外はまるで余裕を崩さない。

 誠八からすれば絞りカスが何を偉そうに宣ってんだと言いたかったが、その考えは直ぐに改められてしまう。

 

 

「久々だが勘は大丈夫だ……。

行くぞ、無神臓(インフィニットヒーロー)モデル黒神めだか・黒神ファントム!!」

 

 

 咆哮と共に押し寄せるケルベロスに、一誠はそれだけを宣言するように言った途端、髪の色を漆黒を思わせる黒へと変色させると、空気が破裂するような爆発音と共に姿を掻き消す。

 

 

「ギャッ!?」

 

「キャン!?」

 

 

 するとどうだ……襲い掛かるケルベロスの先頭から真ん中までの何十体が一瞬の内に宙を舞っていく。

 倒れ伏した状態で見ていた誠八は大層目を開いて目の前の現実に驚くしかできない。

 

 

「獣ごときが私達に勝てると思うな」

 

 

 それに続き、静かに佇んでいたレイヴェルも目付きをより鋭くしながら『額に橙色の炎を灯す』と、飛び掛かるケルベロスに手を翳して太陽の様な眩い光球を作り出すと……。

 

 

憤怒の不死鳥(フェニクッス・イーラ)!」

 

 

 巨大な熱線がケルベロスの身体を焼き尽くす。

 殴り抜けていく一誠よりもある意味慈悲はあるが、それでも喰らったら即死としか思えない強力な炎だった。

 

 

「レイヴェル・フェニックス……参ります!!」

 

 

 文字通り焼き消したケルベロスを境にレイヴェルは高らかに宣言すると、既に30体目のケルベロスを殴り飛ばしていた一誠に続き炎で殲滅させる。

 

 

「伸びろラインよ!」

 

「グルァァァッ!!」

 

「よっしゃ縛ったぞ塔城さん! やれ!!」

 

「はい……てい!」

 

 

「グォォォォーッ! ……………オ?」

 

「残念、私に触れられるのはイッセーだけ。

だからお前はさよならだにゃん!!」

 

「グギャッ!?」

 

 

 一誠やレイヴェルだけじゃない。

 元士郎や白音……そして黒歌までもが思い思いに大暴れしていく。

 まるで何処かの無双ゲームが如く、500近いケルベロスの大軍の過半数が既に殴り飛ばされ、焼き尽くされ、蹴り飛ばされ、拘束されたりしたりと蹂躙されていく。

 

 

「な、なんだ……よ……これ……?」

 

 

 誠八にすれば訳が分からなかった。

 絞りカスと見下していた一誠は返り血すら浴びずに地獄の番犬を始末していくその力が何処から出ているのか、というか何で持っているのかに。

 しかし誰もその疑問に答えるものは居ない。

 

 見下し、馬鹿にしていた相手は既に本来持つべき力を凌駕し、今尚進化し続ける。

 

 

「無神臓ver光化静翔(テーマソング)!!」

 

 

 主人公を奪われても堕ちず、自分を信じてくれる者達と共に昇り続ける異常性。

 得た技術と力を永遠に昇華させ続ける絶対勝利の一誠オリジナルの能力(スキル)

 

 それが無神臓(インフィニットヒーロー)……。

 

 

「ふざけ、やがって……俺が、主人公、なのに……!」

 

 

 赤龍帝と補正が全てだと思っていた誠八には解らない……いや『忘れさせられた』某少年漫画に出てくる力であり、目視も儘ならない速度で次々とケルベロスを排除していく一誠に憎悪の目を向けるしか出来なかった。

 

 

 

 

「……。まさか戦争用に用意していたケルベロス500体がこんなに早く殲滅させられるとはな……。

今更ながら悪平等(キサマ)達の規格外っぷりに震えが止まらんぞ……ククッ!」

 

「「……」」

 

「ぜぇぜぇ……し、しんどい……」

 

「しっかりしてください匙先輩。

まだ終わってませんよ?」

 

「~♪ 犬は乱暴だから嫌いだにゃ~ん。

触れられたくもないにゃーん」

 

『ぎゃうん!?』

 

 

 グラウンドのあらゆるところで横たわる三つ首の番犬の屍と、今も虫の息な一匹にトドメを刺してる悪平等じゃない白音と黒歌とを見ながらコカビエルはただ歓喜の笑みが止まらなかった。

 

 

「俺より遥かに若い餓鬼共にしてこの力……クク……! 素晴らしいぞ!」

 

 

 捻り潰した魔王の妹や赤龍帝とは違い、ソイツ等と同年代でありながら無傷で地獄の番犬を始末する悪平等と、それに従う転生悪魔と猫妖怪。

 若輩で戦争も知らない世代だというのに躊躇いも無く、地獄の番犬を破壊していく姿とその力にコカビエルは武者震いが止まらず、同時にかつて出会った挫折の権化たる女について思い出す。

 

 

 

『仕方無い、そんなに言うのなら掛かってきなさい。

確かに堕天使の中でも一際強いキミはこの先生き残っても強いままだろう。

だから、7932兆1354億4152万3222個の異常性と、4925兆9165億2611万643個の過負荷。

合わせて1京2858兆519億6763万3865個の能力(スキル)を持つ僕にひょっとしたら勝てるかもね』

 

 

 何処から来たのか分からない不思議な魅力と、コカビエルですら認める容姿を持つ女性と相対し、一瞬の内に決定的な挫折を味合わされた人外の分身と同じ力を持つ者との戦い。

 

 

『僕は安心院なじみ……。まあ、覚えていたらその内また相手になってやらんことも無いぜ、堕天使小僧?』

 

『………』

 

 

 決定的な差、決定的な敗北、決定的な挫折。

 圧倒的で強大で、いっそ何故貴様が今まで出てこなかったのかと思うほどに全てを体現した女に味あわされたあの日を境に、コカビエルはある意味で変化した。

 

 より強くなる為に一から全てを捨てる覚悟でやり直した。

 見下した相手の力にも油断なく対応し、そして勝利した。

 アザゼル達が他の事に没頭し始める中でもひたすらに己を高め続けた。

 

 その結果……コカビエルの力はかの二天龍ですら凌駕しかねない――寧ろ聖書の神ですら上回る力を獲て這い上がった。

 

 その気になれば既にコカビエル単騎で天界か冥界に戦いを挑めるだろう。

 しかしそれでは意味がない……コカビエルが望は戦争そのものでは無いし、ましてや最近勧誘が煩いくだらんテロ組織が勝手に掲げてるくだらない思想でもない。

 

 

「やはり……俺が出ないとならんな」

 

 

 全てはあの日の挫折から始まった。

 そして今夜……人間界のこの場所でその成果を本人じゃないにしても後継者とされる人間の少年にぶつけられる。

 その気持ちがよりコカビエルの戦闘意識をより高揚させ、ケルベロスの大軍を殲滅しながら返り血を一滴も浴びてない一誠とレイヴェル達を上空から見下ろしたコカビエルは、歓喜の表情をこれでもかと見せ付けながら高らかに叫んだ。

 

 

「戦うぞ兵藤一誠とレイヴェル・フェニックス……そしてその仲間達よ!!

俺は堕天使・コカビエル!かつて安心院なじみに挫折を味あわされ、見返してやる為に此処まで来た!

その為に、貴様等を殺して更に先の領域に進化してやる!!!」

 

 

 積年の想いを打ち明けるが如く、歓喜の雄叫びと共にコカビエルは立ち向かう。

 徹底的な挫折により、そこから這い上がる事を知ったからこそ、コカビエルは野望をも捨てて人外の後継者とその仲間に立ち向かう。

 

 安心院なじみに己の存在を認めさせるために。

 

 

「待ち望んでいた殺し合いだ!!」

 

 

 漆黒の翼を広げ、持ちうる全てを解放した。




補足

一誠達が家でのんびりしてる間に兄貴は達磨にされてました。
が、それでも『意識はほぼハッキリ残ってる』という哀れすぎる状況。

その2
勘違いされ気味ですが、この一誠は『黒神めだか』と違って『世界中の人間が大好き』という思想はないです。

あくまでも今回出たのも『学園が壊されては生徒会失格だ』という思想の為に出てきたのであって、魔王の妹二人と以下略が人質に取られても知ったこっちゃないと思ってます。

 まあ、そもそも人質皆は人間辞めて悪魔になったり元から悪魔ばっかりですからね。
『人間』の一誠が助ける義理も無いですし。


その3
レイヴェルたんについて。

風と炎を操るフェニックス家としての力を、幼少から一誠と共に進化する事によって覚醒した、兄・ライザーと同じ超越者候補の力。

炎というよりは最早擬似的な太陽を思わせる力により、全てを焼き消すその炎は……まるで某顔にXの傷があるマフィアみたいなソレであり、額に灯る橙色の炎は何処かの超死ぬ気モードみたいなソレ。

 とはいえ、この力はあくまで血族としての力であり、レイヴェルの場合は一誠に続き自力で…………。



その4
ボツネタ。

ケルベロスとの小手調べ戦の時のネタなのですが……。


「ふむ……しかたない、久々にやるかレイヴェル」


 数えるのがめんどくさくなる数の獣を前に、一誠は何を思ったのかレイヴェルにそう問い掛けると、彼女の前に膝つき、その手を取ってキスをする。


「俺と一曲踊って頂けますかミス?」


 何をしてるのか、コカビエルや白音達にもわからなかったが、まるでどっかの騎士みたいな真似事をする一誠にレイヴェルは微笑むと……。


「ええ、喜んで……」


 一誠の誘いを受け入れる。
 そして文字通り、パーティの社交ダンスが如く二人は手を合わせると……。


「そらワンコ共。一曲踊るまでに俺達を何とかしてみな?」

「ただし、反撃で絶命しても文句は受け付けませんわよ?」


『……………』


 異様に良い笑顔で躍りながら、ケルベロス達を蹴り潰していくのだった。


……という、躍りながら地獄の番犬を殲滅する二人というネタが一瞬浮かんで即捨てました。
 てかダブルアーツ知ってる方がちらほら居てちょっとビックリ(笑)


その5
コカビエルさんはサーゼクスさんと同じくかつて出会ってます、そして徹底的に挫折を味あわされましたが、それをバネに二天龍すら凌駕しかねない所まで上り詰めてしまいました。

……なんだこの主人公。いや、当初は兄貴の噛ませになる只の敵にしようとしたのに……なんだこの主人公。


最後
ゼノヴィアは最初当然として聖剣を粉々にするのに反対でしたが……正直、木場きゅん達のアシスト無しだったら此処まで来れなかったのと、木場きゅん個人に借りがあるのが大きくて了承しました。

てか寧ろ、躍りながらぶちのめすってネタがこの二人に似合いそうで恐い……。


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フリードという少年と剣

VSフリードきゅん……なんですが、ゴチャゴチャしててアレっすね。
てか、超展開甚だしいぜ。


※少し加筆と修正とタイトル変更しました。
感想返しは明日やります。


 最初は慢心からの敗北だった。

 悪魔は総じてクズで、それに頼る人間共々消すことに生き甲斐と快楽を感じていた。

 そんな自分を少しだけカッコいいとも思ってたし、例え異端扱いで追放されてしまおうともこの思想を変えるつもりは無かった……決定的な敗北を知るその日まで。

 

 その日もほんの遊びのつもりであり、何時もの仕事だった。

 左腕に龍の籠手を持つクソ悪魔が正義顔で語るのを無視してぶっ殺し、良い子ぶってるシスターに軽い仕置きをしてそれで終わりのつもりだった。

 

 しかし、待っていたのは敗北。

 それも身体の一部を失う程の決定的な敗北。

 

 散々毛嫌いしてきた悪魔に全身の骨を砕かれ、顔面を殴り付けられ、左目を抉られてしまった少年は、薄れゆく意識の最中確かに思った。

 

 絶対にぶっ殺してやる……。

 

 天才と言われて天狗になっていたかもしれない。悪魔を滅し慣れすぎて忘れていたのかもしれない。

 既に身体は死に体同然だったが、それでも心に残る憎悪の炎は消えず、寧ろ燃え上がる程の復讐心を装填したフリードは、無慈悲に自分を見下ろす暗い空に向かって渾身の歪な笑みを浮かべつつ自ら地獄に堕ちていった。

 自分にトドメも刺さず勝手に消えたゴミ悪魔に復讐を誓いながら……。

 

 地獄に堕ち、それでも尚消えない仕返しの心を膨らませていくフリード少年は、その為にはあらゆるものを利用する。禁忌していた己の身に宿るとある力をも使う覚悟も持った。

 

 そしてそれが、心をへし折る事を知らないが故に持つそのハングリー精神とあらゆる感情が、動くことも儘ならなかったフリードのもとへ漆黒の羽根を持つ堕天使を呼び寄せる事になる。

 

 

「人間……それもはぐれ悪魔祓いか? 死に掛けの様だが、その心は死んでいないらしい」

 

「良いだろう人間。貴様の望みの手伝いをしてやろう。

俺はコカビエル、今のお前が持つ心と同じく、地の底から這い上がりたいだけの只の堕天使だ」

 

 

 己の生まれながら持つ強大な力に慢心もせず、ただ一つの望の為に0からのリスタートを果たした堕天使との邂逅により、フリードの運命は一気に変わることになるとは、この時の本人も知らなかった。

 

 

 

 

「ヒャッハー!!」

 

 

 不気味な程に輝く星空の下、駒王学園の校庭にてフリードは立ち向かってくる二人の悪魔と悪魔祓いと戦っていた。

 

 

魔剣創造(ソードバース)!!」

 

「疾っ!!」

 

 

 輝く金髪を持つ少年と、青髪と少々の緑メッシュが特徴的な少女。

 奇しくも二人は剣による戦いが得意であり、0から全てを吸収してきた紛れもない天才と化したフリードと切り結ぶ。

 転生悪魔である祐斗の持つ神器がフリードの周りと足下に無数の剣を作り出して牽制し、その隙にゼノヴィアという悪魔祓いが祐斗から借りていた一本の西洋剣で特攻する。

 悪魔と悪魔祓いという両極で相容れない存在だというのに、自然なまでに息の合う動きをする二人にフリードはただ嗤いながら襲い掛かる魔剣を三本が一つとなった聖剣で破壊し、斬りかかるゼノヴィアの斬撃を避けていく。

 

 

「そらそらぁ! 止まって見えんぜ元・同僚ぉぉ!!」

 

「くっ……!」

 

 

 ゼノヴィアの繰り出す斬撃の一太刀一太刀とを右目のみで負いながら紙一重で避けるフリードの動きはまるで踊るかの様に洗礼されていた。

 

 

「そんな脆い剣じゃこの聖剣の敵じゃねぇぜ!!」

 

「っ……うぐっ!?」

 

 

 次々と襲い掛かる祐斗の魔剣を、持っていた聖剣で切り壊しつつゼノヴィアの一刀を紙一重で避ける。

 左目を失う前よりも遥かに実力を増したフリードの言葉通り全くの油断が無く、わずかな隙を突かれて腹部に鈍い一撃を貰ったゼノヴィアが祐斗の下へと吹き飛ばされた。

 

 

「ごほっ……!」

 

「ゼノヴィアさ――」

 

「へ~い! 今度は此方のターンだぜラブカップル! 死ぬ気で避けろよぉぉ!!」

 

 

 借りた魔剣の人振りを壊され、蹴り飛ばされたゼノヴィアに祐斗が気を取られたその隙を突いたフリードが聖剣に力を込め、輝きを増した聖剣から放たれる鎌鼬の様な斬撃が二人に襲い掛かる。

 

 

「くっ!」

 

 

 その斬撃に本能的な恐怖を感じた祐斗は即座に両手へ新たな剣を生成し、襲い掛かる光の斬撃を斬り潰していくもその顔は苦痛に歪む。

 

 

「へぇ、光喰剣(ホーリーイレーザー)かい? 流石複数剣所持の魔剣創造(ソードバース)だなぁオイ!!」

 

「っ……くぅ……!」

 

「祐斗!」

 

 

 光を喰らう魔剣の力で何とか聖剣の光の斬撃を相殺した祐斗だが、既に両手にあった光喰剣は粉々に砕けており、斬撃を切る様を見ていたフリードなニヤリと口を歪めながら茶化しているが、祐斗からすればかなり必死だ。

 光喰剣でなんとか被害は抑えたが、それでもその余波は祐斗の身に刻み込まれてしまっており、肩から出血をしていた。

 

 

「言ったろ、最初からマジで行くってよ? 気ィ抜いてると死んじまうぜ?」

 

「ぐ……」

 

 

 悪魔にとっては毒にしかならない聖剣の斬撃の一部を受け、出血が止まらない肩を押さえながら祐斗は膝を付く。

 

 強い……。

 今も三本が一つとなった聖剣を器用に回しながら此方を見下ろすフリードに対しての祐斗の感想は純粋にそれだけだった。

 

 如何に前の撃退が偶然とフリード自身の油断に助けられたのかと嫌でも思い知ってしまう……そう肩から流れ出る血と痛みに顔を歪めながら思う祐斗にゼノヴィアが駆け寄る。

 

 

「祐斗……!」

 

「ぼ、僕は大丈夫……まだ、やれるさ……!」

 

 

 確実に聖剣を使いこなしているフリードを……そして有利と分かってその後ろで嘲笑っているバルパーを眼前に弱音は吐かないと決めていた祐斗の目にはまだ力が残っている。

 

 

「ハァ、ハァ……本当、キミには無様な姿ばかりだよ僕は……」

 

「祐斗……」

 

 

 安心させるように笑みをゼノヴィアに浮かべるも、それが無理をしている事なぞゼノヴィアは見抜いており、チラリと上空でコカビエルと殴り合いをしている一誠達を見てみる。

 厳しい現実だが、今の祐斗ではとてもじゃないがフリードを倒せない。

 ともなればコカビエルを圧して思い切り殴っている一誠――いや、そのフォローに障壁を張っているレイヴェル達の中の誰かに増援を頼むしかないのだが……。

 

 

「一誠くん達は言ってたよ……僕達がフリードとバルパーを倒すのを信じるって」

 

 

 それを止めたのは、出血している祐斗の肩を押さえているゼノヴィアの手を握る祐斗自身だった。

 

 

「だ、だが……」

 

「おうおぅ、作戦会議か? 早くしねーと一撃必殺パワーチャージ中の聖剣ちゃんに殺されちまうぜぇ?」

 

 

 手を握られ、ハッとなるゼノヴィアが何か言いたそうにしている横でフリードがトドメを刺そうと聖剣により一層の力を込め始めつつ宣言するその最中、祐斗は首を横に振りながら真っ直ぐゼノヴィアの瞳を見つめながら口を開く。

 

 

「僕は弱い。

偉そうな事を言っておきながら、結局最初から最後まで一誠くんやキミに力を貸して貰ってばかりだった」

 

「……」

 

「だからこそ、この戦いに僕達を信じて送り出してくれた一誠くん達の信用に答えるんだ。

一誠くん達が信じてくれたように、僕も一誠くん達を信じる! それが……僕達の鉄則なんだ!」

 

 

 信じ合う。

 それが一誠達との絆の絶対条件。

 信じ合いこそが互いの進化を促す。

 

 コカビエルと殴り合いをしてる、一誠達は祐斗達が勝つことを心の底から信じきっている。だから力を貸さずにいる。

 

 必ず勝利することを確信して……。

 

 だから祐斗は頼るだけの事はしない。

 誠八によって歪められ、疎外感しか無かったあの頃の自分を受け入れてくれた。

 

 それだけで祐斗は救われ、だからこそその恩義に今こそ報いる時。

 いくら実力差がある相手だろうと、その差は気力で埋め尽くす。

 相手の動きが読めなければ、慣れてしまえば良い。

 両腕が切り落とされたら蹴り飛ばせば良い。

 両足がもがれてしまえば噛み殺せば良い。

 牙を折られてたのなら睨み殺せば良い!

 

 その覚悟が無いのに、復讐も過去へのケジメも付けられるか!

 

 

「だから僕は戦う……! 四肢がもがれようと最後までね!」

 

「…………」

 

 

 より強く、より気高く、より高らかに。

 ゼノヴィアの手を無意識に握りながら、聖剣の一撃でフラフラな身体に渾身の鞭を打って再び立ち上がった祐斗は、嗤いながら更に聖剣に力を込めるフリードを真っ直ぐ見据え、その手に双剣を生成しながら力強く構え声を張り上げた。

 

 

「僕は木場祐斗だ! 例え勝ち目が無くとも、その牙は決して折らない!!」

 

「さっさと殺せフリード!!」

 

 

 より強く、ボロボロとなっても諦めない瞳に晒されたバルパーが焦るようにフリードの後ろで吠え、フリードはこれでもかと嗤って見せる。

 

 

「ヒッヒヒヒ……ギャッハハハハァ!!! カッケーな悪魔ァ!! ならば望み通り跡形くも無く消滅しろや! この光でナァ!!!」

 

 

 そしてフリードもその瞳に狂ったが如く嗤い、もはや光の何かとしか思えない閃光を放つ聖剣を両手で持ち、真っ直ぐ振り上げた。

 

 

「………」

 

 

 決心を固めたものの、絶望的な状況に代わりは無い。

 しかしそれでも祐斗の瞳は諦めの色は無く、間近でそれを見せられたゼノヴィアはただ自然と粒やいた。

 

 

「男ってのは……バカだな」

 

 

 一誠達に頼れば良いのに、頑固なまでに拒否し、勝ち目の無い戦いに心を折らずに挑む。

 まさしくゼノヴィアからすれば何てアホで融通の効かん奴だと思った。

 だが、そう思うのと同時にゼノヴィアは頬を緩ませており……。

 

 

「だが、そんなお前は嫌いじゃないぞ? ふふ……」

 

 

 優男の見た目とは裏腹に頑固な祐斗は嫌いじゃない。

 双剣を構え、男らしく一歩も身を引かずに居る祐斗の隣に立つゼノヴィアはそう呟くと……。

 

 

「その頑固さに……私も付き合ってやるよ」

 

 

 右手を夜空に向かって掲げだした。

 

 

「あ? 何の真似だおい?」

 

「ゼノヴィアさん……?」

 

 

 既に殺る気満々のフリードが目元をピクリと動かしながらゼノヴィアの行動を不審がる。

 それは隣に立つ祐斗も同じであり、静かに目を閉じるゼノヴィアに思わず目を奪われる。

 

 しかしゼノヴィアは答える事はせず、代わりに小さく……それでいて凛とした言葉を紡ぎだす。

 

 

「ぺトロ、バシレイオス、ディオニュシウス――そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 

 それは何かの呪文の様であり、フリードもバルパーも祐斗もその行動に目を奪われる中、ゼノヴィアは続ける。

 

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する――」

 

「っ!?」

 

「あ?」

 

「な、なに!?」

 

 

 そして詠唱が終わり掛けたその刹那、空間が歪みそこから現れた『ソレ』に見ていた者達は目を見開く。

 力量不足故、扱いが下手故に封印して持ち歩いていたゼノヴィア本来の武器。

 

 

「デュランダル!」

 

 

 現れるは一本の聖なる剣。

 見るだけで荒々しくも聖域を感じる力を放つ不滅の刃。

 

 

「デュ、デュランダルだと!? 馬鹿な! 貴様は確か聖剣使いでは無かったのか!? それに人工のデュランダル使いなぞ聞いた事が……!」

 

 

 英雄が持つとされていた剣を前に、ただ一人バルパーが盛大に狼狽えながらゼノヴィアに吠える。

 しかしゼノヴィアは静かにバルパーの叫びに首を横に振りながら否定すると……。

 

 

「聞かれもしなかったから言う必要も無いと思ってただけだが、生憎私は天然のデュランダル使いでな。

まあ、なんだ……私自身の力量不足のせいで触れたものを何でもかんでも切り刻む危険があったから今まで封印してたのさ……」

 

「な、なんだ……と……?」

 

「………。デュランダル」

 

「す、凄いやゼノヴィアさん……」

 

 

 罰の悪そうな顔で祐斗を見ながら淡々と答えるゼノヴィアにバルパーは呆然としながら立ち尽くす。

 

 

「……。だが借りを作ったまま隠すつもりは無い……だから解放したまで!」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

「すまんな祐斗……だが此処からは私も全力でお前のサポートをするぞ!」

 

 

 デュランダルを手に持ち、バルパーと同じく固まるフリードに構えるゼノヴィアに、祐斗はよく解らない嬉しさと心強さを持って改めて構える。

 

 

「行くぞ! 聖剣と打ち合うのは初めてでな、心なしかわくわくしているから覚悟しろ!」

 

「フ、フリード! 早くっ……さっさと殺すのだ!!」

 

「…………」

 

 

 デュランダル使いなどと聞いてないバルパーはハッとして狼狽えながらもフリードに命ずる。

 もしかしたら、という考えを誤魔化すかの如くフリードに殺すよう吠える。

 

 だがフリードは突如として聖剣に込めていた渾身の力を霧散させ、輝きをも消し始めてしまう。

 

 

「え?」

 

「な、何をしてるフリード!?」

 

 

 その行動に祐斗とゼノヴィアは眉を潜め、バルパーは何をバカな真似を!? と激昂するも、フリードの表情は先程までの狂気に満ちた笑みでは無くなっており、ただただ冷酷で……そして冷めきった表情だった。

 

 

「ハァ……マジかよ。

デュランダルが来るたぁ、こりゃめんどくせーな」

 

「な、何を言ってるフリード!」

 

 

 遂には持っていた聖剣をもその場に突き立て、ダラリと脱力までするフリードにバルパーが吠えるも、フリードは脱力したまま不気味に首だけを向けだけだ。

 

 

「いやいやぁ、デュランダルは無理だぜ旦那?

見て解るっしょ? 7本全部を融合させた聖剣ちゃんなら話は別だけど、三本程度じゃへし折られて終わりだよ、お・わ・り・!」

 

「そ、それは……!」

 

 

 胸の内を見透かすかの如く言い放つフリードにバルパーは言葉に詰まってしまう。

 

 

「だからこの聖剣ちゃんじゃ無理よ無理~

旦那の期待には応えられんわ」

 

「ぐっ……ふ、ふざけるな! お前に力を……その聖剣を与えたのは私なんだぞ! だったら――」

 

 

 ヘラヘラしながら無理と連呼するフリードにバルパーが吠える。

 本来なら5本……何れは全ての聖剣を確保し、あるべき姿に戻す夢もデュランダル使いと聖剣計画の生き残りである小僧に粉砕され、唯一残った聖剣を一つにしてもデュランダルを前に無理だと言われ。

 のし掛かる現実に理解しつつもバルパーとしては納得できず、ただ子供の様にわめき散らした。

 

 

「私の夢がこんな簡単に砕かれて堪るか!

命まで掛け、立場も何もかも捨てて此処まで来たのにこんなオチがあって堪るかぁぁっ!!」

 

「狂人が……!」

 

「そのふざけた夢の為に、僕の仲間は殺されたんだ!」

 

 

 咆哮するバルパーにゼノヴィアは嫌悪を見せ、祐斗が激昂する。

 だがバルパーはそんな祐斗を射殺せんばかりな形相で睨み付け更に吠える。

 

 

「黙れ失敗作が!!

貴様の大事な仲間とやらから取り出した因子があったからこそ、奴等は人工の聖剣使いの研究が進んだのだ! それなのにミカエル共は研究が完成したのを見図って私を異端と――」

 

 

 聖剣を扱えるその因子を集めるために子供を殺し続けてきたバルパーは抑え込んでいた全てを吐き出すが如く喚き散らす。

 そんなバルパーにゼノヴィアと祐斗は睨み、今にでも斬り伏せてしまいたいと剣を握る手に力を込めたその時だった。

 

 

「がっ!?」

 

「……。へーへーもう黙ってろよ旦那。

そんなに聖剣が好きならその聖剣と心中しちまえや?」

 

 

 地面に刺した聖剣を再び手にしたフリードが、憎悪を吐き出すが如く喚くバルパーの身を斜めに一閃……切り裂いたのだ。

 

 

「なっ!?」

 

「何を!?」

 

 

 バルパーがフリードに斬られた様を見せられた祐斗とゼノヴィアが驚愕に目を開く。

 

 

「な、なんのつもりだ……フリード……!?」

 

 

 肩から脇腹までを斜めに血を吹き出したバルパーは口から夥しい量の血を吐きながら、信じられないものを見るような瞳で、冷酷な表情で血を浴びるフリードに問うも、見える表情は冷めきったソレだけだった。

 

 

「聖剣聖剣聖剣聖剣ってよ、好きなのはウゼー程分かったけど、ちと鬱陶しいぜ旦那?

もう7本の聖剣様が一つになるなんて、そこのラブカップルが破壊したんだから無理なもんは無理……なら精々その夢の続きはあの世でやってくれや」

 

「ふ、ふざけるなフリード……お前に力を与えたのは――がふっ!?」

 

 

 鼻で笑いながら告げるフリードにバルパーが掴み掛かろうとするも、突き立てた聖剣がバルパーの左胸を貫き、トドメとばかりにフリードは言った。

 

 

「こんなガラクタを与えていい気になるなよオッサン? 俺に力を与えたのはアンタじゃなくてコカビエルのボスだぜ?

アンタは単にガラクタを一つに纏めてぇからボスに寄生してただけじゃねぇか」

 

「か……か……」

 

「だから死んでくれや? な?」

 

 

 瞳孔が開き、もはや絶命しているバルパーに囁くような声を聞かせたフリードは、左胸に突き立てた聖剣を引っこ抜き、刀身に付いたその血を振って払う。

 

 

「先逝っとけや旦那? 俺も後でちゃんとそっちに逝ってやるからさ……」

 

「…………」

 

 

 力無く倒れ伏すバルパーの亡骸を見下ろし、感情が掴めない透明な表情ででそれだけを言うと、その隣に持っていた聖剣を置く。

 

 

「さ~てと」

 

 

 そして、その様子を唖然として見ていた祐斗とゼノヴィアに、再び何時もの狂気の笑みを浮かべて見せ狂った殺意を全開にさせ始めつつ口を開く。

 

 

「そぉいう訳だラブカップル。

悪いが仇はこの通り俺が斬っちまったぜ? ヒッヒャヒャヒャヒャ!!」

 

「フリード……キミは……!」

 

「仲間を殺したのか!」

 

 

 ゲラゲラとこれまで以上に大笑いしながら嘲笑うフリードに祐斗とゼノヴィアが剣を構えながら殺気を向けるも、フリードは顔色を変えず、ただただ笑ってるだけだ。

 

 

「バルパーの旦那の夢はオメー等が二本の聖剣をぶっ壊した時点で破綻してんだよぉ!!

だったから二度と叶わねぇ夢に苦しむくれぇなら殺した方が旦那の為だろ? それにどうであれ、俺がオメー等に負けたら斬られる運命なんだぜ? それが早まっただけじゃねーか! ヒャハハハハハハハ!!」

 

「コ、コイツ……!」

 

「キミはやはり此処で倒す!」

 

 

 屍となったバルパーの前に立ち、両手を大きく広げながら大笑いするフリードに祐斗とゼノヴィアは此処で始末を着ける決心を改める。

 聖剣はまだ残ってるものの、デュランダルを召喚したゼノヴィアと二人で戦えば勝機はあると確信があった。

 

 

「あ~ぁ……あの様子じゃボスもやべぇし、此方もコッチでデュランダル使いの元・同僚と悪魔相手と来た。

こんな未完成の聖剣じゃあ勝てねぇだろうし……全くつくづくボスに言われてた遊び癖が抜けねぇ自分(テメー)が嫌になるぜクソが……」

 

 

 だけどフリードはまるで怖じ気つかず、自虐的な笑みを見せながら俯く。

 こんな事ならデュランダルを呼び出される前にぶっ殺して置けば良かったと、つくづく自分(テメー)の慢心癖の悪さに自己嫌悪しながら得物を構える祐斗とゼノヴィア……特にゼノヴィアの持つデュランダルに複雑な目を向けるフリードは一つ深呼吸する。

 

 

「ハァ……嫌なんだけど、自業自得だし仕方ねー……か」

 

 

 そして抜け出せない己の悪い癖に反省しつつも、狂った笑みをまた浮かべたフリードはダラリと力無く右手をゼノヴィアの時の様に夜空へと掲げる。

 

 

「何をする気だ……聖剣は使わないつもりか?」

 

「何か……嫌な予感がする……!」

 

 

 その行動に眉を寄せるゼノヴィアと嫌な予感が止まらない祐斗。

 だがフリードは答えることはせず、代わりに見せつけるかの如く……そして聞かせるが如く小さく口を開いた。

 

 

「英雄よ目覚めろ。大帝よ奮起しろ。我の声に耳を傾け、目の前に立ちはだかる敵を斬り伏せろ」

 

「「っ!?」」

 

 

 何処かで見た光景……いや、ゼノヴィアがデュランダルを呼び出した時と同じ光景に二人は息を飲む中、フリードの頭上の空間が歪み始める。

 

 

「シャルルマーニュの御名の下に、我にその力を貸せ――」

 

 

 歪んだ空間から輝きを放つ一本の剣が姿を現し、フリードの手に収まる。

 その輝きは何の淀みも無く、寧ろ美しさすら放っていたと、少なくともゼノヴィアはそう感じ、祐斗はその輝きに更なる本能的危機を感じる。

 

 フリードの手に収まるは紛れもなき聖剣。バルパーがかき集めて一体化させた聖剣とは更に異なるモノ。

 それも皮肉な事に、ゼノヴィアが持つデュランダルと同等レベルの力を持ち、柄頭に聖槍が埋め込まれた剣。

 

 その名も……。

 

 

 

 

 

 

「ジョワユーズ」

 

 

 

 

 

 

 ジョワユーズ。

 伝説上、デュランダルと同じ材質で作られた伝説の一振りをフリードはその手に召喚した。

 

 

「な、なんだと!? 奴も天然の使い手だったのか!」

 

「だ、だから余裕な態度だったんだね……。

あ、あはは……隠し芸大会も大概にして欲しいな……僕としても」

 

 

 祐斗とゼノヴィアは目の前で起こる現実が信じられなかった。

 はぐれ悪魔祓いで人格破綻者としか言えないフリード・セルゼンが、よもや天然の使い手だったのだ。

 これでまた勝負は振り出しに戻ったのと同義であり、ジョワユーズの剣を持ったフリードは露骨にも嫌そうな顔をしながら驚く二人を睨む。

 

 

「あーあーあーあーあーあー!!

俺っちこれ大嫌いだっつーのに、呼び出すなんてアンラッキーにも程があんぜ馬鹿野郎が!!!!」

 

 

 そしてバルパーの亡骸の横に放置していた聖剣とはまた別域の聖なる力を剣から放つと、身構える二人に再び襲い掛かかった。

 

 フリードは悪魔が嫌いだ。悪魔に頼る人間も嫌いだ。

 けどそれ以上に、自身に宿ってしまったこの聖剣が大嫌いだった。

 

 

魔剣創造(ソードバース)――っ!?」

 

「悪いな悪魔クン。

バルパーの旦那が錬金した聖剣でもその様なんだぜ? このジョワユーズにゃあ最初(ハナ)っから効かねぇさ……残念な事にな」

 

 

 持つが故に、使えてしまったが故に、なまじ強力だったが故に。

 

 祐斗が出現させる夥しい数の魔剣をたった一振りで粉々に破壊して見せたフリードはニタァとしながらジョワユーズに更なる力を込め、意趣返しが如く無数の斬撃放つ。

 

 

「そーらよ! 今度はカスっても死ぬぜぇ!」

 

「させるか!」

 

 

 聖なる斬撃が滅しようと無慈悲に襲い掛かり、祐斗はしないよりはマシだと両手に剣を持ってクロスさせ、ガードの体勢を取る。

 だがそれよりも早く祐斗の前にゼノヴィアが立ち、襲い掛かる無数の斬撃をデュランダルで相殺させる。

 

 

「大丈夫か祐斗!」

 

「う、うん……でも参ったな。これじゃあ完全に僕がお荷物になってる――」

 

「へーい! お喋りはそこまでだよーん!!」

 

 

 フリード自身の人生までねじ曲げられたからこそ、ジョワユーズの剣が大嫌いだった。

 しかし最早そうは言ってられない、どうしようもない自身を此処まで引っ張り上げ、面倒見が良かった堕天使の男に対する借りがあるから。

 

 

「は、速い!?」

 

「させん!」

 

 

 だからこそ呼び出し、天閃の聖剣以上の速さで距離を詰めてきたフリードにゼノヴィアが対抗し、上空へジャンプし、落下して来たフリードによる降り下ろされたジョワユーズの一撃をデュランダルが防ぎ、両者の刃から金属の擦れる音と火花を散らせる。

 

 

「ほっほーう? 流石デュランダル。

こうして打ち合うだけでジョワユーズが喧しくてしょうがねぇぜ!」

 

「それは此方の台詞だフリード・セルゼン。貴様には驚かされてばかりだよ!」

 

 

 デュランダルとジョワユーズから淡い光を放って共鳴する中を互いに笑って称え合いながら斬り合う。

 

 剣に使われるな、剣を支配して使え。

 

 死にかけの自分を拾い、保護し、短い付き合いの中で此処まで引っ張り上げてくれた堕天使に対する奇妙な恩の為に、今再びこの手に呼び出しだジョワユーズを使い、デュランダル使いであるゼノヴィアを倒そうと本気で斬りかかる。

 

 

「遅いぜボケ!!」

 

「チィッ!」

 

 

 正に本気。

 慢心も油断も今だけ本気で捨てて斬り結ぶゼノヴィアのデュランダルに力で打ち勝ち始めたフリードにとってはこれが最終最後の切り札。

 これで負ければ最早打つ手無し……自分もコカビエルも死ぬ。

 

 

「くっ……妬ましいほどの天賦の才だな。

デュランダルをコントロール出来ない私と違って奴は完全にジョワユーズを扱えてる……」

 

「こ、此処まで自分の無力さを呪った事はないよ。

彼は本当に兵藤君に負けてからずっと努力してきたんだね……」

 

 

 だからこそフリードは形振り構わず眼前の敵をなぎ倒す為に進化する。

 今こそフリード・セルゼンの真価が問われる刻。

 持ちうる力を全て出し切る刻!

 

 

「ヒッヒャヒャヒャヒャ!! 正真正銘の最終ラウンドと行こうぜクソッタレがよぉぉっ!!」

 

 

 禁忌していたシャルルマーニュ伝説・聖剣ジョワユーズと共にフリードは駆けた。

 




補足
フリードきゅん、実は天然のジョワユーズの使い手だったでござる。
まあ、うん……無いわなぁ。

てか、コカビー効果でなんつー主人公……。



その2
木場きゅん……バルパーさんがさっさと死んだせいで未だ覚醒せず。

フリードきゅんの這い上がり補正により、覚醒フラグが先伸ばしにされました。

その3
ゼノヴィアさん……木場きゅんを頑固お馬鹿と思えど嫌いじゃないの巻

てか、ナチュラルに戦闘中にイチャついてるのがチラホラあるというね……。


ちなみに兄貴は一誠とコカビーのベタ足インファイトを見て色々と折れ掛かってます。


その4
匙きゅんについて。

寝取られ失恋のせいで割かし女性にトラウマってるんですよ実は。

ので、彼に母性のある良い人が似合う訳で……え、魔王少女?
……。いやぁ、匙きゅん寧ろトラウマつつかれて辛くね?


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激闘する者達

感想でモチベを上げていくスタイル。

あざっす!


 コカビエルにとってすれば、もはや魔王の妹を人質にとって戦争の火種に利用するとかなぞどうだって良かった。

 

 あるのは只、目の前に居る後継者の少年に打ち勝ち、そして自分に0からのリトライを叩き付けた女に勝つこと。

 それが今のコカビエルの全てだった。

 人間の身でありながら宙高く舞い、空を自由に飛べない癖に、その不利をまるで物ともせず自分の頭上まで飛び上がり……。

 

 

「本気で殴るぞコカビエル……耐えろ」

 

「……。あぁ来い。寧ろ全力で来なければ殺す」

 

 

 圧倒的な力を叩き込んでくる。

 コカビエルの頭上まで跳んだ一誠がニヤリとしながら顔面目掛けて渾身の一撃を見舞い、受けたコカビエルは隕石の落下を思わせるスピードで地上に落下・決戦の地である駒王学園のグラウンドを派手な土煙を舞い上げながら大きなクレーターを作り、背中から叩き付けられ、人間を遥かに超越したパワーをその身に刻み込む。

 

 

「ゴフッ……。

笑ってしまうな、それほどでありながら人間を自称する貴様に」

 

「……………」

 

 

 突き刺さる痛みを背中と頬に感じながら、コカビエルは着地する一誠に自分でもよく分からない所から出てくる笑みを見せながらフラフラと立ち上がる。

 油断なんて最初(ハナ)っからしてない、寧ろ本気で挑んでいるというのに、目の前のまだまだ子供としか言えない年齢の少年は自分と真正面から殴り合っている。

 

 決して防いだりせず、自分の繰り出す全ての攻撃を受けきり、それ以上の力で叩き伏せる。

 なるほど……まだまだ荒は多いが『あの女』の後継者と言われてるだけの素養はある。

 

 瞳孔を開かせ、どんな相手だろうと始末する殺し屋の様に鋭く、そして冷たい覇気を放ちながらファイティングポーズを取る一誠に、コカビエルは徐々に性質を理解しながら負けじと構え……。

 

 

「まだまだ終わらん!!」

 

 

 地面を抉る速力で一誠へ肉薄し、握り締めた拳を全力で叩き付けた。

 

 

「くっ……」

 

「俺は負けん! 何度負けようとも、何度挫折を味わおうとも決して折れん! フリードがジョワユーズを使ってまで闘っているのだ! 短いながらも奴の頑張りを認めて来た俺が折れてどうする!!」

 

 

 地面に転がるも直ぐに立ち上がる一誠に、既にボロボロな姿となるコカビエルは吠える。

 負けもした、挫折もした、決定的にへし折られた。

 だが折れても、鉄のように再び熱で溶かしてしまえば何度でも復活できる。

 

 それがコカビエルの心の強さの由来であり、原初の神ですら越えて見せた証拠だった。

 

 

「俺は何時だって挑戦者……追い掛ける側だ。

だがそれで良い! 勝つために追い付く、追い付く為に己を鍛えぬく! 鍛えぬく為に小さな事でも吸収する! それが俺の生きる道よ!!」

 

 

 慢心を捨て、目標のために己を鍛えぬく。

 それはある意味一誠と同じだった。

 同じだからこそ、コカビエルは堕天使で唯一最初に覚醒したのだ。

 

 

超戦者(ライズオブダークヒーロー)……。

ふっ、あの女に名付けられたのは気に食わんが、悪平等(キサマ)達風に名乗るならこれが俺の原動力だ!」

 

 

 地から這い上がる男の持つ能力保持者(スキルホルダー)として。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 そんな一誠とコカビエルのインファイトを見届けるのは、駒王学園――牽いては街にその余波を流さないために障壁を形成させていたレイヴェル達だ。

 小細工無し、ダメージ無視の殴り合いという泥臭い戦いを展開させる二人の男をただ何も言わずに黙って見つめる……一誠の勝利を想いながら。

 

 

「……。(スゲェ……)」

 

 

 その中でレイヴェル、白音、黒歌とは違う気持ちを抱かせていた者がいた。

 名を匙元士郎。

 シトリー眷属・兵士にて五大竜王であるウリドラを神器として宿すこの少年は、グレモリー眷属の兵士の食べ癖の悪さに巻き込まれ、自身の主にて初恋の悪魔を文字通り寝取られたトラウマを抱えていた。

 

 神器としての格に負け、好きだった女すら取られ……惨めに落とされた少年は、その双子の弟であり元士郎と同じトラウマを既に経験していた一誠の下に今はこうして居る。

 

 惨めに落とされ、そんな自分を拾ってくれた一誠達との日々は元士郎にとって心地の良いものだった。

 それこそ、赤龍帝の少年に狂う少女達の近くで苦痛に思う日々の万倍は良かったし、既に自分は転生はしてしまっているものの、シトリー眷属との縁を切ると突きつけている。

 最早あんな色に狂って見失ってる連中のことなぞどうとも思わない。

 あるのはただ――

 

 

「……。俺もあの領域に……」

 

 

 奴等を纏めて鼻で笑える程の領域……。

 一誠、レイヴェル、黒歌……そしてなりつつある白音の居る領域に自分も入りたい。

 初恋に浮かれていた気持ちは既に捨て、ただ登り詰めたいと願う少年は、徐々にその才を解放しようとしていた。

 一誠という少年を起爆剤に、挫折を知って尚立ち上がったコカビエルという堕天使の話を聞く事で……。

 

 

「セ、セーヤくん!?」

 

「な、何よこれ! どうなってるのよ!!」

 

「…………………あ?」

 

 

 そして正に今がその時だった……。

 

 

 

 

 俺は弱いさ。

 イッセーの様な力強さは無い。

 レイヴェルさんや塔城さんみたいに心の強さだってない。

 黒歌さんみたいな反則な力もない。

 木場やゼノヴィアさんみたいな目的に対しての情熱もない。

 ただ兵藤の弟であるイッセーに八つ当たりしようとし、それを受け止めてくれたイッセーや皆に寄生して甘えてるだけだ。

 

 何の義理も果たしちゃいない。

 木場の様に態度で示せてる訳じゃない。

 

 ただ、好きだった女を取られ、不貞腐れてるのをイッセー達に慰められてイイ気になってるバカ。

 それが今の俺だ。

 

 

「ぐ……ぅ……!」

 

「セーヤくん……み、右腕以外が……!」

 

「こんな……こんな……!」

 

 

 しかし、そんな俺でも出来ることはある。

 コカビエル達の拘束から抜け出して来たっぽいシンパ連中が、愛しい愛しい兵藤のバカが死に体になってる姿にショックを受け、恐らくその矛先をコカビエル……そして放置してるだけで助ける義理も関係もない俺達に向けてくるだろう連中の対応だ。

 

 

「レ、レイヴェル・フェニックス!!

答えなさい、これは一体どういう事よ!? 何でセーヤの弟がコカビエルと戦ってるの!」

 

「……。この状態のセーヤくんが見えなかったとは言わせませんよ?」

 

 

 ほら始まった。

 レイヴェルさんは最早隠すこと無く連中に鬱陶しそうな顔をするだけで答えんが、コイツ等はつくづく兵藤が中心に居ないと気の済まん連中だぜ。

 テメーで勝手に負けたバカを何でレイヴェルさんが助けなければならん。

 寧ろ生きてる事を喜んでやれば良いものを……。

 

 

「チッ、バルパーが死んだせいで拘束が外されたか……?

いや今更あんな小娘どもの事なぞ知ったことか! 行くぞ兵藤一誠! 俺はまだ折れんぞ!!」

 

「おう……来い!!」

 

 

 コカビエルも連中に気付き、鬱陶しそうに舌打ちをするも、最早奴等に対する興味は失望という意味で失せているのか直ぐに戦いに戻り、それを笑いながら受けるイッセーの化け物じみた戦いは更に激化していく。

 

 

「な、何でセーヤの弟が人間の癖にコカビエルと互角に戦えてるのよ……」

 

「セーヤくんですら勝てなかったのに……」

 

 

 殴られたら殴り返す。

 コカビエルが光の槍を投げ付ければイッセーが叩き落とす。

 そんな戦いを繰り広げてる状況に、これでもまだ理解しようとしたないリアス・グレモリーとソーナ・シトリーが勝手にショックを受けた顔をしながら呻いてる兵藤を介抱してる。

 ……そういや他の連中はどうしたんだ? まだお寝んねしてるとかか? いや、どうでも良いかそんなの。

 

 もう俺はこんな女共とは別の道を行くと決めたんだ。

 何なら今そこで勝手にヤッてても何も思わねぇよ。

 

 

「さ、匙! 答えなさい……これは……!」

 

「気安く名前を呼ばないで貰えませんかね?

俺は今イッセーとコカビエルのタイマンによる被害を防ぐためにレイヴェルさん達とこうやって最大級の障壁張るのに忙しいんで」

 

「ぐっ……」

 

 

 俺の真後ろで右腕以外が無惨になってる兵藤を抱えながら元・主が一々声を描けてくるので適当にあしらうと、リアス・グレモリー共々顔を歪めるも、今度は前と違って言い返してきた。

 

 

「ふざけないでください!

セーヤくんがこの状態なのに何もせず無視して! そんな眷属育てた覚えはないわ!」

 

「小猫もそう! 兵藤一誠に何を吹き込まれたかは知らないけど、そんな戦車にしたつもりは無いわ!」

 

『は?』

 

 

 ……。えっと、何? 来たら既に四肢もがれて死にかけてた馬鹿を無関係な俺達が何の見返りも無しに助けないといけないの?

 いやいやいや……脳細胞イカれてるっつーか、鬱陶しそうに聞いていた塔城さんやレイヴェルさんや黒歌さんまで呆れちゃってらぁ。

 

 

「匙君……アナタはソーナが好きだったらしいわね?」

 

「は?」

 

 

 あんまりにも意味が分からなすぎで呆然としちまった俺に、リアス・グレモリーが怒りの表情を向けながら俺にとっては黒歴史の話を切り出してきた。

 

 

「でもソーナはセーヤに惚れた……それが悔しいからあの得体の知れない人間と組んで、こんな姿になったセーヤを嘲笑ってるんでしょう!」

 

「…………。もっと早くアナタには言っておくべきだったかもしれません……。私はセーヤが好きだからアナタには応えられないと……」

 

「……………………」

 

 

 喚くリアス・グレモリーに、勝手に反省ぶってるソーナ・シトリーに俺は今にも血管が切れそうになるほどの激情に駆られた。

 あってる事はあってるが、その腹いせにこんな馬鹿を放置した? 俺がそんな暇に見えるか? テメー等が無様にコカビエルに負けて引っ捕らえられてる代わりに、俺達がこうしてるのに逆ギレ?

 

 ……………。

 

 

「なぁ、レイヴェルさん」

 

「………。何でしょうか匙さん?」

 

 

 やっぱり口頭だけじゃ駄目だな。

 揃って俺等を責める視線で睨んでくるビッチ共に、容赦する気持ちが一気に霧散した俺は、自分でも驚く程低くなってる声でレイヴェルさんに話し掛ける。

 

 

「暫く三人で障壁張ってて貰えないか? ちょっと俺……やることが出来たからよ」

 

「………分かりました。ただし殺すのは控えてください。後日彼女達全員を魔王様に正式に裁かせますので。」

 

「了解」

 

 

 俺なりに我慢した。

 俺なりにイッセー達を習って勝手にやってろというスタンスを貫いてきたつもりだ。

 だが、此処まで何にも見えてない奴等なぞもはや邪魔でしかない。

 

 現にコイツ等は結果的にグレモリー領であるこの地を役立たずの代わりに守ろうとして居るイッセー達を逆恨みしてる始末だ。

 もしかしたら全てが終わった後、不意打ちを噛ましてくる場合を考えれば――

 

 

「…………」

 

 

 黙らせるに限る。そうだろ?

 

 

「な、何をする気よ匙……」

 

「それに魔王様に裁かれるってど――」

 

 

 二重に張っていた障壁から出て、馬鹿を介抱してる二人の前に立った俺は、警戒してるその表情をガン無視し……。

 

 

「がはぁっ!?」

 

「「なっ……!?」」

 

 

 抱えてる二人の腕の間を縫ってバカを蹴り飛ばしてやった。

 当然目を見開くビッチ共と、無様に転がるバカ。

 

 

「な、何て事をしたの匙!! 自分が何をしてるか――ぐふぅ!?」

 

「な、ソ、ソーナ――カハッ!?」

 

 

 そしてやっぱり怒る二人もついでに転がってるバカと同じ場所に蹴りを入れてぶっ飛ばしてやる。

 ハァ……此処まですればいくら盲目となったビッチ共も分かるだろうよ。

 

 

「な、何を……!?」

 

「自分が何をしてるかわかってるの……!? 転生悪魔なのに私達に手を出したら……!」

 

「あぁ? 分かってるから蹴りを入れてやったんだよ。

ほら、テメーの力に溺れて主を傷付けた……はははは、これで俺も立派な『はぐれ悪魔』だよねぇ?」

 

 

 押さえきれない口の歪みを見せ付け、煽るように両手を広げながら純血悪魔二人を挑発する。

 言ってもわからん、此処まで来ても理解しようとしない。

 ともなれば、直接手を下して嫌でも『テメー等に従う気はもう無い』と刷り込ませてやる。

 それが俺の考えであり、覚悟である。

 

 

「調子に乗らないで匙……。

アナタを押さえ付けられない程弱いつもりは無いわよ」

 

「一人で私達を相手にするつもりなら尚更よ……」

 

 不意打ちから立ち上がり、俺を殺さんと睨む二人は所詮下僕悪魔程度の俺に対してやけに自信タップリな様子と言葉を吐いてくるが、俺はまるで恐れを感じず、寧ろ更に煽る。

 

 

「あぁ、早漏そうな性欲馬鹿とレスリングごっこを毎日やってるせいで体力に自信があると? うわぁーお清々しいほどにビッチだねぇ~!」

 

「「このっ……!!」」

 

 

 蔑まれても笑う。お前のせいだと滅茶苦茶な理論振りかざすアホにも笑う。

 女を寝取られてもヘラヘラ笑い……倍返ししてやる。

 あの日から俺はそう決めた……テメーの早計さでこんな運命を辿ることになった一種のケジメであり――

 

 

「図星突かれて怒るなよ……バーカ」

 

 

 それが俺の生きる道。

 今こそ俺は……主を完全に追い越し、そして見下しながら見限る時。

 

 

「僭越ならがお相手しましょう、クソビッチお嬢様共。

俺は匙元士郎……只のはぐれ悪魔だよぉぉっ!!!」

 

 

 自由の代償は高いが……ケッ、こんな奴等の奴隷なんざ御免被るぜ!

 

 

「ぐっ……さ、匙の癖に何ですかこの威圧感は……!?」

 

「くっ……! セーヤを傷付けた罪は重いわよ!」

 

「やったのはコカビエルだっつってんだろうがクソビッチが!! 奪い取れラインよ!!」

 

 

 

 

 予想以上にコカビエルは強い。

 俺はなん抜き無しにただただ感心してしまった。

 

 

「ぐふっ……ふははは! 楽しいぞ兵藤一誠ェェ……!

久方ぶりだよ、こんなに血が騒ぐ闘いはなぁ!」

 

「あぁ……俺もだよ。

まるで俺の親代わりだったフェニックス家の人達相手に戦ってるみたいだぜ」

 

 

 まず一つ……コイツは俺の無神臓(インフニットヒーロー)による無限進化に付いて来てること。

 時間と共にどんどん力が上がってる筈の俺の攻撃に耐え、同等レベルのパワーで殴りかかってくる。

 伊達に対なじみを想定した鍛練を俺以上に永くやって来ただけの事はあり、恐らく戦闘経験は圧倒的にコカビエルの方が上だ。

 

 

「黒神ファントム……ver2!!」

 

「ぬ……まだ速く……ぐばっ!?」

 

 

 今はまた俺が一段階進化したので圧倒し始めてるが、恐らく直ぐに並ぶだろう。

 

 

「ふ、ま、まだ上がるか……ははは! 何処まで驚かせてくれるんだお前は!!」

 

「まだまだぁ!」

 

「がはっ!?」

 

 

 だからこそ今の内に可能な限りの連撃を叩き込む。

 今のコカビエルより一段階上の領域に侵入した状態による黒神ファントムver2で翻弄させながら空に舞うコカビエルを叩き落とす。

 

 

「ぐ……ぐははは!

まだだぁ……俺は諦めん!!」

 

「っ……!?」

 

 

 だが再びコカビエルの強さが増し、またも今の俺と同じ領域に入り込むと、血まみれで笑いながら俺の拳を受け止め、逆に殴り飛ばされてしまう。

 

 

「ぺっ」

 

「チッ、大してダメージは無いか。

まったくどんな肉体してるのだ貴様は」

 

 

 頬に伝わる激痛を誤魔化す様に、取れた奥歯を吐き出しながら立ち上がる俺をコカビエルが舌打ちしつつも楽しそうに笑う。

 超戦者(ライズオブダークヒーロー)……なるほど言い得て妙だ。

 まさかこうまで俺と性質が似てるとはな。お陰で全く過負荷(リアリティーエスケープ)が機能しやしない。

 

 

「フンッ!!」

 

「ぬ!? まだ力が上がるか……! そうで無くてはなぁ!」

 

 

 既に数十分以上もこの繰り返しで拮抗し、まさにジリコンなのだが俺はレイヴェルや白音や黒歌に増援は頼まない。

 此処に来て俺の悪い癖なのだが、コカビエルを一対一の状態で戦って勝ちたいと思っているのだ。

 それにレイヴェル達も信じて待っててくれる……その思いに応えられずして生徒会長はやれんよ。

 

 

「俺は貴様より餓鬼だが、それでも負けるつもりは無い……!」

 

 

 全て喪ったあの日……。

 大切な人達を得たあの日……。

 そしてこんな俺を慕ってくれるレイヴェルを始めとした友達に無様な姿は見せない。

 

 祐斗やゼノヴィア……そして元士郎まで過去とのケジメを付け始めてるのだ。

 俺が此処で折れる訳には………いかねぇ!!!

 

 

「むっ、何をする気だ……?」

 

 

 拳と拳がぶつかり合い、互いに後方へと吹き飛ばされた俺は……コカビエルに最大の尊敬の念を感じながらこその全身全霊を撃ち放つ決心を付けた。

 

 

「これも所詮師匠から教えられただけに過ぎんし、俺は言葉遣い(スタイル)では無い。

だから俺なりのアレンジを加えたものだ……」

 

 

 勝ちたい。只それだけの為に俺は全てを賭ける。

 安心院なじみの後継者なんて言われてるが、俺自身にそんな資格は無い。

 勝利と敗北にだけはこだわり続ける俺にはなじみの様にはなれない。

 だからこそ俺は俺なりのやり方で此処まで引っ張り上げてくれたなじみを含めた恩人達に応える。

 

 

「ほう、ならば来るがいい……俺も只の堕天使として貴様に勝つ……!」

 

 

 両手に光の槍を生成し、構えるコカビエルに対して俺は両手を地面に付け、クラウチングスタートの体制を取る。

 そして可能な限りの全身の神経を極限まで高め、可能な限り血圧を急速に上昇させ、可能な限りの全身を流れる血液のスピードを速める。

 

 高熱の様な熱さが俺の身体を包み、やがて吐く息は蒸気の様な煙となる。

 

 

「オリジナルの完全な劣化だが……アレンジでソコは補った。行くぞ……コカビエル!」

 

 

 これぞ、かの黒神めだかがなじみにすら1億回も勝利した獅子目言彦に致命傷を与えた一撃……黒神ファイナル。

 本来なら言葉遣いという技術を駆使した終神モードでなければ扱う事が出来ないが、俺は代わりに自分だけのモードを使ってそれを補う。

 

 人間だからという矛盾を乗り越え……あらゆる高き壁を越え続ける俺だけのモード。

 

 

無神臓(インフニットヒーロー)ver矛神モード……黒神ファイナルだ!!」

 

 

 それが矛盾すら蹴散らす矛神モード。




補足

コカビーさんが能力保持者(スキルホルダー)で何が悪い(某本部さん風に)

超戦者(ライズオブダークヒーロー)

 挫折と敗北を知ったコカビエルが0からリトライしてやり直し、這い上がり始めた時に覚醒した能力(スキル)

相手が強ければ強いほど、その相手と同等レベルに常に進化し互角に渡り合える効果がある。

 某魔王様に安心院さんが言った言葉は……。

『キミと違ってコカビエル君は実に僕好みの男だな、もう一人の一誠みたいなもんだし』

とか何とかで某魔王様は超越した嫉妬中。

ネタをくれたRainMakerさん、ありがとうございます。


その2
無神臓(インフニットヒーロー)……矛神モード。

人間だから……その力を持ってないからという矛盾の壁を破壊し、あらゆる種族の力を自分なりにアレンジして使用できる一誠のオリジナルモード。

これにより黒神めだかの黒神ファイナルと終神モードを限り無く近く再現している。


その3

匙きゅんについて。


八坂さんが人気ありすぎぃ!! ……でも魔王少女推しもあるぅ!

……。じゃなくて、遂に口だけじゃなく態度で示す覚悟を決めてしまった匙きゅんを暖かく包み込む母性を与えるのだ!



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聖魔の剣と白銀の騎士

……。10日どころか5日近く過ぎて申し訳ありません。

所謂リアルがやばめに忙しくて時間が無さすぎました故に……。


つー訳で更新ですが、最早ヤケクソ気味に新たな超展開ががが。


※少しだけ加筆しました


 足を引っ張ってるだけ。

 それが僕に突き付けられてる現実だ。

 デュランダルに対抗してジョワユーズを呼び出したフリード・セルゼンに僕の力は完全に叩き伏せられ、出来る事と言えばゼノヴィアさんの援護くらい。

 けれどそれでもフリードは何の苦もなさそうに戦い、ジョワユーズを完全にモノにしているというアドバンテージもあって、不利なのは此方側だった。

 

 

「死ねっ!!」

 

「くっ……!」

 

「はぁい、次ィィィ!!!!」

 

「がはぁっ!?」

 

 

 デュランダルとジョワユーズ。

 ゼノヴィアさんとフリードが其々宿らせる聖剣二つの力は拮抗しているが、使い手の力量の差が時間と共に表れ始め、最初は何とか食らい付けていた僕達が徐々に圧され始めてきた。

 

 狂気の天才フリード・セルゼンの才能は僕とゼノヴィアさんの上を行っていたのだ。

 

 

「く、クソ……強い……!」

 

「ハァ……ハァ……!」

 

「休ませねぇよ!!」

 

 

 斬り掛かる、避ける……。

 あらゆる剣技が僕達の1歩先に居るフリードに押し切られてしまい、段々と防戦一方となる展開を強いられてきたゼノヴィアさんと共に膝を付いてしまう。

 

 

「ぐ……ぐぐ……!」

 

「ま、まいった……ちょっと勝てんぞこれは……」

 

 

 致命傷だけは意地で回避してきたものの、疲労感だけは拭えずに大きく息を切らしながら膝を付き、反対にフリードはジョワユーズを構えながら静かに立っている。

 兵藤くんに負けてからその復讐でコカビエルに師事して此処まで這い上がったと言ってたけど、いくら天才でも短い間にこんなにも化けるだなんて信じられない。

 

 

「おいおい、最初の威勢はどうしたよカップル?」

 

「「……」」

 

 

 疲労感の色がまるで無さそうに、ジョワユーズの切っ先を僕達に向けながら煽るフリードに僕とゼノヴィアさんは何も言い返せずゼェゼェと息を切らし続ける声しか返せない。

 

 

「デュランダルと魔剣創造使いなんだろ? …………ジョワユーズ(こんなモン)まで出させておいてその程

度で終わってんじゃねぇぞゴラァッ!!!」

 

 

 やや心が折れてると顔に出て閉まっていたのだろうか、何も返さない僕とゼノヴィアさんにフリードが激昂しながら突撃してくるので、持っていた剣を無駄だと悟りつつも投げつけて時間を稼ごうとする。

 

 

「ヒャハハハハ!!」

 

「くっ、ぐぅ! ぐはぁっ!?」

 

「祐斗!」

 

 

 でもやっぱり僕の剣ではフリードに届かず、軽々と破壊しながら接近し、蹴り飛ばされてますます心が折れてしまいそうになる。

 

 

「う、うぅ……ゼェゼェ……」

 

「避けるだけは上手くて拍手ぅぅ!!」

 

「ごはぁ!?」

 

 

 嬲られるようにして小さく身を切り刻まれながら殴り付けられる僕は、フリードとの大きな壁の差を感じて挫けそうになってしまう。

 身体全体を襲う痛みと、のし掛かる疲労感で支配されている僕やゼノヴィアさんとは異なり、疲れ知らずかと言いたくなるフリードの怒涛なる連激を前に、先程の決心した心が砕かれてしまう思いだった。

 

 

「い、いくら吠えても勝てないのかな……」

 

 

 それはやがて弱音となり、ゼノヴィアさんを隣にしているというのに声に出してしまい、聞こえただろうゼノヴィアさんはこんな僕に渇を入れる。

 

 

「くっ、祐斗……! 自暴自棄になるにはまだ早――がっ!?」

 

「相談はさせねぇよ!!」

 

 

 立つことも億劫な程にボロボロとなる僕にゼノヴィアさんの声が……そして遅れてその声を塗りつぶさんとするフリードの声と共にゼノヴィアさんが大きく後ろに蹴り飛ばされてしまった。

 

 

「ゼ、ゼノ――」

 

 

 決心した所で露呈してしまうその弱い心……。

 それがいけなかったのか、その甘え癖を拭いきれなかったのが災いしてしま僕への罰なのか。

 

 

「まずは一人……道連れだぜ」

 

「ぁ……ゆ、祐……と……!」

 

「ゼノヴィアさんっ!!!」

 

 

 デュランダルを手放し、丸腰となったゼノヴィアさんの身をフリードに容赦なく切り裂かれる光景を――

 かつての仲間が殺されていく思い出したくもない光景と重なる、見たくなかった光景が無力である僕の目の前で……。

 

 

「そ、そんな……そんな……!」

 

「す、すまない……私は此処までみたいだ……」

 

 

 起こってしまった。

 

 

 

 

 

 2度……。

 2度による徹底的な無力感を味合わされた祐斗は、血を流しながら横たわるゼノヴィアの身を抱き寄せ、かつての時と同じ『自分は無力』だと何処かの誰かが嘲笑いながら突き付けてきた現実を斬られたゼノヴィアという形で再び見せつけられてしまった。

 

 

「け、結局借りは返せないとはな……。

私もヤキが……ごほっ! ヤキが回ったみたい……だ……」

 

「そ、そんな……また僕は……!」

 

 

 ドクドクと流れるゼノヴィアの血が祐斗の手を真っ赤に染め上げ、その量が『致命傷』だと無慈悲な言葉として祐斗にのし掛かる。

 いや、こうなっても今コカビエルと戦ってる一誠の力があれば何とでもなるかもしれない。

 

 

「そ、そうだ……一誠くんがきっと……!」

 

「だ、だと良いがな……。お前も聞いただろ? アイツの力は決して万能なんかじゃないって……」

 

「ハッ……!」

 

 

 死という現実からも逃げられる一誠の力なら、致命傷を負ったゼノヴィアを何とか救えるかもしれないと、彼女の下へ駆け寄り、傷口から止めどなく溢れていく血を手で無理矢理押さえて泣きそうに話す祐斗は、声が掠れていくゼノヴィアの言葉にハッとし、前に一誠自身から聞かされた事を思い出してしまう。

 

 

『俺の能力(スキル)は決して万能じゃない。

その者が死んだ現実を否定出来るかもしれないが、それが全ての者に適応される訳じゃない……でなければ過負荷(マイナス)だなんて呼ばれない……』

 

 

 決して万能じゃない。

 何処かでバグが発生して使えなかったりする場合は大いにある。

 

 

「うぅ……うぅ!」

 

「もう良い……この傷じゃ助からない。それより……」

 

「嫌だ! 嫌だ!!」

 

 

 だから決して頼るな……前に一誠という正体(ナカミ)を教えられた際に念を押して言われた事を思い出した祐斗は子供のように泣きべそをかきながら生気が失われていくゼノヴィアの傷口を塞ごうとする。

 

 

「まずは一人……でもこれだけじゃあの世のバルパーの旦那は激おこってか?」

 

 

 ゼノヴィアの血で染まったジョワユーズを振って払うフリードは、離れに横たわるバルパーの亡骸と使わなくなった聖剣に視線を移しながら、様々な感情が入った何とも言えない歪んだ笑みを浮かべ、血を拭ったジョワユーズを手に構えを戻す。

 

 

「早く、行け……! 私に構うな……!」

 

「い、嫌だ……! 僕のせいで人が死ぬのなんて見たくない!」

 

 

 そして祐斗は、フリードがゆっくりと殺気放ちながら近づいてくるのにも目もくれず、結局はおんぶに抱っこだった無力さに心が折れ掛けていた。

 

 

「け、結局僕は一誠くん達みたいに強くない。

せっかく友達になれた人を守れず……こんな……こんな……」

 

「はん、泣き言か?

まあ、好きな女を目の前で斬られて平然としてたら別の意味で感心してたが……流石にそうじゃないらしいな悪魔クンよ?」

 

 

 デュランダルが消失していくのをフリードと共に見届けてしまった祐斗の目は諦めの色が強く出ていた。

 かつての仲間の命を弄んだ敵はフリードに切り払われ、そして肩を並べて戦うと決めた盟友までも目の前で切られてしまった今、例え一誠がコカビエルに勝利して此方に来たとしても、突きつけられた無力さは拭えない。

 

 結局の所、自分はイキッテただけの餓鬼だった。

 その現実だけが祐斗の心を蝕み、ゼノヴィアの次は貴様だとジョワユーズを両手で持って殺気を膨らませるフリードに対してその場から動こうともせず今にも散らせそうなゼノヴィアの身を抱き締めながら小さく……呪うかの様に呟く。

 

 

「僕は……また一人だ……」

 

 

 無力という現実が祐斗を蝕む。

 

 

「あの時何で僕だけ生き残ったのだろうって、毎日思っていた……」

 

 

 力無き自分に深い憎悪が宿る。

 

 

「醜く生き残り、悪魔の眷属になってでも行き続け、その眷属の中の居心地が悪いからって一誠くん達に寄生して……」

 

 

 見て見ぬふりをしてきた現実に押し潰されそうになる。

 

 

「そして出来たトモダチも今こうして僕の弱さのせいで失いそうになってる……」

 

 

 誰に対してでも無い、ただ己の力の無さを呪う祐斗は意識が既に無いゼノヴィアの身を抱き締め続けながら涙を流す。

 

 

「僕はただの馬鹿だ……! 結局誰かに頼りきってばかりで……!」

 

 

 そして辿り着くは『力無き者は淘汰されてしまう現実』。

 フリードの様に度を越えた努力の結果を越えられなかった。

 ひょんな事から親しくなったトモダチを守れなかった。

 そして……復讐もできなかった。

 

 

「僕は……弱いまま……」

 

「チッ、心が折れたか?

てっきり仇討ちとかで向かってくると思ったのに拍子抜けだぜ悪魔よぉ」

 

 

 一誠の様な力強い精神は無い。

 失った現実を否定できる力なんて無い。

 受け入れがたい現実から逃げられないという現実をこれでもかと突きつけられた祐斗に最早戦意は無く、それを見たフリードは落胆の気持ちと共に舌打ちをし、仲良くトドメを刺そうとジョワユーズを振り上げた。

 

 

「そんなに大事ならあの世で精々仲良くしとけや……ラブカップルよぉ」

 

 

 自分を導いた堕天使に対する恩に報いる為にフリードに慈悲なぞ……いや、敢えてトドメを刺そうとする辺り、もしかしたらフリードなりの慈悲なのかもしれない。

 

 

「じゃあな、楽しかった……ぜ!」

 

「…………」

 

 

 狂気を孕んだ笑みも無く、ただただ無表情で振り上げられたジョワユーズの刃が、ゼノヴィアの身を抱き締めながら俯く祐斗の首に振り下ろされたその瞬間(トキ)だった。

 

 

 

 

 

 

『違う、アナタは無力でも独りでもない……!』

 

 

 

 

 

「あ?」

 

「……え?」

 

 

 突如として耳に入る謎の声に、フリードと祐斗はハッしながら辺りを見渡す。

 向こうで戦ってる一誠達ではない何者かの声にフリードも振り上げた剣を下ろしながら眉を寄せる……。

 

 

「誰だオイ?」

 

「…………」

 

 

 何処からでは無い、強いて云うなら頭の中に直接響くその声はフリードの呟きに答える代わりに変化として……亡骸となったバルパーから溢れた小さな瓶が独りでに光を放ちながら浮かぶという現象を見せる。

 

 

「あれは……バルパーの旦那が余り物だと言ってた聖剣因子の結晶……!?」

 

「この、声……は……?」

 

 

 

 バルパーの亡骸から溢れた瓶……。

 そしてその中に詰められた狂気の野望の果てとなった結晶が淡い光を放ちながら祐斗の頭上に現れ、思わず目を覆いたくなる強い光が降り注ぐ。

 

 

「チッ……!」

 

 

 その光に本能的な危機感を覚えたフリードが、ほのかに放っていた殺気を一気に爆発させ、閃光の速さで祐斗に斬りかかる。

 

 

「うっ!? 何だこれ――ぐはぁ!?」

 

 

 だがしかしフリードのジョワユーズの刃は祐斗に届かず、強い光と見えない壁のようなもので防がれた挙げ句逆に吹き飛ばされた。

 

 

「こ、これは……?」

 

 

 あのフリードが吹っ飛ばされた……。

 自分の頭上から眩しくも心地よい光を放つナニかに驚く祐斗は状況が掴めずに動揺していると、今度はもっとハッキリとした声が――それも複数の幼い男女の声が祐斗に語り掛けていた。

 

 

『アナタは独りじゃない』

 

『諦めちゃ駄目だ』

 

『その子はまだ死んでいないよ!』

 

 

「え……え……?」

 

 

 ある声は勇気づけるように、ある声は優しく諭すように、ある声は墜ち掛けた心を引っ張りあげるように。

 頭上から降り注ぎ続ける強い光はやがて大小様々な人の形となって祐斗を囲い、幼い声で次々と発破を掛ける言葉を紡いでいく。

 

 

「これは……あの時の……皆……?」

 

 

 その声に祐斗は聞き覚えがあった。

 だからこそ自覚は無いが祐斗の目には失意によって失った力が戻り、涙が止めどなく溢れていく。

 

 

「皆……どうして?

のうのうと中途半端に生き残った僕を責めないのかい? 僕は――」

 

『誰もアナタを責めない』

 

『どんな生き方にせよ、アナタは私達を忘れなかった』

 

『僕達にはそれで充分』

 

『だから今度は私達の番!』

 

 

 辛かったけど皆が居たから楽しかったかつての思い出が降り注ぐ光と自分を囲う者達の声によってより鮮明に頭の中で広がり、折れ掛けていた心は再び――より強く剣の様に打ち直されていく。

 

 

『さぁ祐斗……!

辛かった時皆で歌ったあの歌を――』

 

『決して下を見ないで上を見ることを誓いあったあの歌を――』

 

『その子を救う――聖歌を!!』

 

 

「うん……うん……!」

 

 

 夜空に降り注ぐ光と歌が、学園中に響き渡る。

 

 

「む!?

フリード……? いや、違う……あの小僧か……!」

 

「祐斗……? なるほど……アイツめ……クククッ!」

 

 

 それは黒神ファイナルをする前でベタ足インファイト中だった一誠とコカビエルにも伝わり……。

 

 

「これは……歌?」

 

「なんかホワァってするにゃ~」

 

「祐斗先輩……」

 

 

 一誠を見守る少女達の心をも動かし……。

 

 

「っ!? な、何よ今度は!」

 

「む、向こうから……?」

 

「へっ、木場の野郎……俺も負けられねぇぜ!!!」

 

 

 はぐれとなる覚悟を決めて主に反旗を翻す少年の闘争心をより刺激していった。

 

 

「聖歌……だとぉ……!?」

 

 

 平等に降り注ぐ優しくも強い光……悪魔すら包み込む優しきその光と歌は祐斗を囲い、祐斗にとっては英霊ともいうべき仲間たちと共に歌われていく中、ヨロヨロと立ち上がり、口の中に広がる血をペッと吐きながらフリードはこれでもかと顔を嫌悪に歪めていた。

 

 

「ふざけやがって!

またトドメを刺す前に最悪すぎる横槍いれやがって……! バルパーの旦那の呪いかよ!」

 

 

 祐斗が祐斗を囲う光達と歌う聖歌に耳を塞ぎながらフリードは頭を振りながら苦しみだす。

 

 

「クソッタレが!!

こんなクソ歌を俺に聞かせるなぁ!! 偽善者共の嘘を聞かせるんじゃねぇぇぇ!!!!」

 

 

 紡がれていく聖詞にフリードはこれまで以上の憎悪を剥き出しにし、ジョワユーズに最大の力を込めて祐斗と祐斗を囲う何者かに斬りかかるが、ジョワユーズすら飲み込む強い光に刃は届かず、見えない壁に憚れるようにフリードの攻撃は無効化されていく。

 

 

「うるせぇ! うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇぇぇぇ!!!!! ガァァァァッ!!!!」

 

 

 それでも尚フリードはジョワユーズを狂ったかの様に振る。

 まるで拒絶するかのように振り続けていく。

 

 

「聖歌……」

 

 

 そんなフリードに気付くこと無く、祐斗はかつての仲間の英霊達と共に、辛くても前を向くために皆で歌った思い出の聖歌を涙と共に紡いでいく。

 

 

「ぅ……?」

 

 

 その歌のせいか、祐斗自身には分からないが降り注ぐ光が横たわるゼノヴィアの身を優しく包み込み、傷が塞がり始め、眠るような顔に再び生気を宿らせ、遂には意識を取り戻す。

 

 

「ゼ、ゼノヴィアさん!」

 

「ゆ……祐斗……? これは……?」

 

「大丈夫……大丈夫だよゼノヴィアさん……。

もう2度と僕は自分を見失わないから……!」

 

「…………あぁ」

 

 

 祐斗に抱き締められていること、そして包み込む光に安堵の表情を浮かべたゼノヴィアは微笑みながら静かに目を閉じる。

 

 

「皆……ゼノヴィアさんをありがとう……!」

 

 

 生気を帯びた表情で眠るゼノヴィアに最上級の安堵を見せた祐斗は、己を囲うかつての仲間達に礼を言う。

 奇跡だろうが何だって構わない……腐りかけた自分に渇を入れたのもゼノヴィアを死の淵から救ってくれたのも紛れもなく嘗ての仲間達。

 それがどんなに嬉しいか……そしてどんなにその礼に応えるべきか。

 祐斗の心に最早傷は無かった。

 

 

『僕らは、一人ではダメだった―――』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―――』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ―――』

 

『聖剣を受け入れるんだ―――』

 

『怖くなんてない―――』

 

『たとえ、神がいなくても―――』

 

『神が見ていなくても―――』

 

『僕たちの心はいつだって―――』

 

 

「あぁ……皆で一つだ……!!」

 

 

 

 復讐……違う、勝つために受け入れる。

 復讐を乗り越えるなんて綺麗事は言わない……それらのマイナス面全てを受け入れて前に進む。

 それが残された自分の生きる道……!

 

 

『何時だって私達はアナタと共に在る……』

 

「うん……ありがとう……!」

 

 

 綺麗事で復讐を否定しない。

 けれどその復讐を乗り越える……!

 仲間達の優しき声に涙を消して力強く頷いた祐斗は両手に剣を持つ。

 

 

「何度も何度も口だけの僕だけど、今度こそ迷わない……魔剣創造(ソードバース)!!」

 

 

 幾度となくフリードに心と共にへし折られた剣に、今の祐斗の心と直結させるように強く生成された剣が現れ、魔剣だったその剣に祐斗を見守ってきた仲間達の魂が入り込む。

 それはいうなれば祐斗だけの進化。

 何度折られても仲間達の声により不死鳥の如く蘇る心に至った力の進化。

 

 

双覇の聖魔剣(ソードオブ・ビストレイヤー)! これが皆の力……!」

 

 

 聖と魔を兼ね備えた剣が祐斗の力となりてこの世に現れたのだ。

 

 

「聖魔だぁ……?

くっ、ケケケケ! 耳障りな歌聞かされた挙げ句パワーアップとはなぁ……!」

 

 

 まだ止まぬ光と歌にこれでもかと顔を憎悪に歪めていたフリードは先程までとは違う、荒れ狂う殺意を撒き散らしながらジョワユーズの柄を握り潰さんとする力で握り締める。

 

 

「聖魔だかなんだか知らねぇが、今を以てテメーは確実にぶちのめす!!」

 

 

 遠い記憶を無理矢理掘り起こされる歌を聞かされたフリードはこれまで以上の殺意を剣に込め、未だ光を浴びながら進化した双剣を構える祐斗に吠えた。

 

 

「キミは……聖歌が嫌いなのか?」

 

 

 今まで以上の殺意を受けた祐斗も、フリードの異常な嫌悪感を感じて小さく問う。

 するとフリードはジョワユーズで足下を破壊しながら獣の様な声をあげた。

 

 

「あぁ嫌いだぜ!! 主様と聞こえの良いこと抜かして無理矢理歌わされたクソ偽善歌なんぞヘドが出やがる!!」

 

「そう……」

 

 

 押さえられない憎悪を撒き散らすように辺りを破壊しながら吠えるフリードに、祐斗は少しだけ何故彼がはぐれ悪魔祓いになったのか……その理由がわかった様な気がした。

 

 

「だからテメーは……テメーの光諸ともぶった斬ってやらぁ!!」

 

「わかった……わかったよフリード……。

でもこれだけでは今のキミにはまだ勝てない」

 

 

 フリードの精神に呼応するようにジョワユーズが光を放つのを見届けた祐斗は目を伏せながら小さく頷き、進化した双剣の刃をクロスさせる。

 

 

「あぁ!? まだ何か――」

 

「キミは強い……天才で間違いない。だから僕は双剣の他に至ったこの力も使う……!」

 

 

 ギャリギャリと刃同士が擦れて火花を散らず双剣を持った祐斗の真っ直ぐな瞳に一瞬だけ気圧されたフリードの疑問に言葉では無く行動で応えようと、祐斗は覇気を放ち、金属の音を奏でさせながらその刃を重ね天に掲げ――そして宣言した。

 

 

『さぁ行こう……!』

 

「我が名は木場祐斗!」

 

 

 再び失わない為にも、決して折れないと自分に言い聞かせるように、かつての仲間の優しき声に背を押された様な感覚と共に、振り上げたら双剣で描き、それに沿うように二つの円陣が祐斗の頭上に現れる。

 

 

『何時だって一つ……祐斗を守る力としてずっと一緒!』

 

「聖と魔の力を宿す双覇の聖魔剣(ソードオブ・ビストレイヤー)に覚醒し、そして……!」

 

 

 頭上に出現した二つの円陣はやがて重なって一つとなり、そこから更なる光が降り注ぐ。

 

 

「な、なに……このっ……クソッタレ!!」

 

 

 何かをしようとしている祐斗に本能的な恐怖を感じたフリードが再び斬りかかるも、祐斗を囲っていた英霊達が阻みながら小さな銀の塊――魂となって祐斗の周りを回り、やがて一つ一つの魂が腕、足、胴……そして顔へ――白銀の鎧となって包み込む。

 

 

『悪魔の騎士なんかじゃない真の――銀牙騎士となるッ!!』

 

「な、なんだそりゃあっ!?」

 

 

 祐斗の全身を覆った白銀の鎧と共に光は晴れ、再び暗い夜空が支配する中、一連の状況を見ていただけしか出来なかったフリードは変化した祐斗の双剣……そしてその身を包む白銀の鎧姿にこれでもかと顔を歪めた。

 

 

「こ、ここに来てまた謎のパワーアップかよ!?」

 

双覇の聖魔剣(ソードオブ・ビストレイヤー)に至りし銀牙騎士……それが新たな僕だ!』

 

 

 冷たく……しかし目を張る銀の鎧で全身を固めた姿に吠えるフリードに応える事無く、祐斗は眠るゼノヴィアの身を横抱きに抱えたかと思うと、堅牢で鈍足そうな見た目とはまるで真逆の目では追えないスピードで彼女の身を安全な場所に置くと、再びフリードの前に進化した双剣を構えながら小さく腰を落として構える。

 

 

『これで……これでやっとキミと対等になれた』

 

「あぁっ!?」

 

 

 ジョワユーズを握る柄に自然と力がこもる中、狼を思わせるフェイスメイル越しに聞こえるエコーの効いた祐斗の声にフリードは動揺の余り声を荒げる。

 

 

「対等だぁ? 御大層な鎧を纏ってもう勝った気か、あぁっ!?」

 

 

 当たり前だ、バルパーの亡骸から出てきた聖剣因子の結晶に謎の現象がおこったかと思ったら祐斗自身の魔剣創造を聖を兼ね備えた力を与えたばかりか、白銀の狼を思わせる鎧まで与えたのだ。

 

 

「クソが、新しい力を得てチョーシこいてんのかよ……」

 

『どうかな……でももう役立たずにはならない』

 

 

 しかも目にする限り、あの鎧自体『えげつない力を』をヒシヒシ感じる。

 怒る狼の表情を思わせる鎧姿とその威圧感に、フリードは先程までの楽さは絶対無いと確信しながらジョワユーズを両手しっかり握りしめながら腰を落とす。

 

 

『僕はキミに勝つ……フリード!!!』

 

「面白ぇ! 来いや狼男ぉぉぉ!!!!」

 

 

 最早そこにこれ以上の言葉は要らない……。

 ただ男と男の意地のぶつかり合いの為に……白銀の狼となった祐斗と、天賦の才を極限まで研ぎ澄ませたフリードは互いに肉薄し――

 

 

『ハァァァァ!!』

 

「くたばれぇぇぇ!!!!」

 

 

 決着は一瞬で終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァッ!!!』

 

「ぐ……がっ……!?」

 

 

 すれ違い様胴を切り裂かれたフリードが崩れ落ちるという結果で……。

 

 

「クソッタレ……またかよぉ……!」

 

『キミの陰我……僕が解き放つ!!』

 

 

 白銀の刃と白銀の鎧。

 魔を超え、聖を超え……平等に斬り伏せし銀牙騎士。

 

 

 その名は――




補足
木場きゅん……聖魔剣と共に白銀の狼に覚醒する。

スキルホルダーとして……となるとワンパターンだし、どうせクライマックスに向けてるし別意味の覚醒をさせてみました。

元ネタは某銀牙騎士の某ゼロです。


その2

 月満る夜空の下に出現せし銀牙騎士。
 ふふふ、この世界にはホラーなんて存在しないのにあの坊やったら銀牙騎士になんてなっちゃって……。

 でもあの坊やなら大丈夫かしら? だって私が付いているもの。


次回『絶〇』

私は誰かって? それはヒ・ミ・ツよ♪


……。冗談です。


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それでも立ち上がる男達

まるでOSRBP(オサレバトルポイント)の如し……。
最終章手前なんでって理由で吹っ切ってます。

※加筆しても吹っ切ってます。


 フリード・セルゼン。

 

 天然のジョワユーズ使いである彼は、白銀に輝く銀牙騎士へと覚醒した祐斗により、銅を切り裂かれ敗れた。

 力量は上回っていたが最後の最後で勝利を掴み損ね、白い神父服を自身の血で真っ赤に染めながらフリードは手に持っていたジョワユーズを落とし、崩れ落ちた。

 

 

「ク……クソッタレ……が……!」

 

 

 油断はしてないつもりだった、さっさと始末してしまう予定だった。

 だが、今立っているのは銀の鎧が天に吸い込まれるように霧散し、生身の姿へと戻って疲弊している祐斗と、その祐斗に肩を貸しているゼノヴィアだ。

 

 

「ハァ、ハァ……っ」

 

「だ、大丈夫か祐斗? 今の鎧は一体……?」

 

「そ、それはねゼノヴィアさん……僕の神器(セイクリッドギア)とは違う……もうひとつの――」

 

 

 

 

「………」

 

 

 緊張が解けたのか、押し込んでいた疲労感が一挙に押し寄せてフラフラな祐斗と肩を貸すゼノヴィアの声が遠くに聞こえるフリードは大量失血のせいで思考がまともに働かず、視界も霞んでいる。

 自身の左目が失われた原因である赤龍帝の男への復讐が師とも云えるコカビエルからの施しにより完了できたのに、結果的にその赤龍帝の男と同じく地面に転がってる。

 

 死ぬほど嫌いなジョワユーズまでも使って追い込んだのに、予想だにしない祐斗の覚醒がフリードを敗北に叩き込んだ。

 その現実が致命傷という形でフリードの死に体同然ともいえる今の状況に重くのし掛かる。

 

 

(くっそ、身体が動かねぇよボス……結構やべぇぜ)

 

 

 うつ伏せに倒れ付し、今尚流れ出る自身の血を感じながらフリードは自分に手を差し伸べてくれた堕天使を想う。

 今こうして自分が負けて倒れてる間も、あの赤龍帝の男とそっくりな男と戦ってるというのに……。

 

 

「くっ……ぐっ……がぁっ……!!」

 

 

 こんな切り傷程度で寝てられる訳がない。

 学園の運動場のど真ん中で殴り合うコカビエルに失望される訳にはいかない。

 ボスが戦ってるのに部下がこんなところでサボる訳にはいかない。

 

 

「こんな、程度でっ……! 負けて! 堪るか……よぉ!!」

 

 

 死に体同然。本来ならとっくに死んでいる筈の身。

 しかしそれでもフリード自身の持つ意地と執念が身を突き動かし、再び活力を与える。

 

 

「ボスなら笑って何度でも立ち上がるってのに、部下がこんな程度でお寝んねなんざ笑えねぇぜぇ……!」

 

「なっ……!?」

 

「フリード……」

 

 

 ボロボロだ――だから何だ?

 最早戦えるコンディションでは無い――分かってる。

 

 しかしそれでも、フリードは意地と執念とコカビエルにより影響され芽生えた勝ちたいという想いが、大嫌いな武器(ジョワユーズ)の柄をしっかり持ち、歪んでいるけれど強い意思を右目に宿しながら、驚愕するゼノヴィアを前に立ち上がった。

 

 

「けっ……けーっけけけ!!! 俺はまだくたばっちゃねェゾォォォ!!!」

 

「こ、こいつ……!」

 

 

 ドクドクと未だ流れ出る血の量からしてとっくに死んでてもおかしくないのにジョワユーズを杖にしながらも尚立ち、狂気の笑みを見せるフリードにゼノヴィアはある種の恐怖を感じながらも、デュランダルを即座に構える。

 

 

「ごほっ!? っ……アァ……頭がボーッとしやがるぜ……ひゃははは」

 

「もう止せ! そんな身でまだ戦う気か!?」

 

「当たり前だぜ元同僚ォ! コカビエルのボスが諦めてねぇのにこんな所で寝てられるかばか野郎!」

 

「う……!」

 

 

 血で身体を染め上げ、それでも尚闘気を剥き出しに吠えるフリードの背後に元神父とはいえ似つかわしくない『フードを被り、大鎌を持つ死神』の姿を幻視し、思わず身体を強張らせてしまうゼノヴィアに、ジッと見ていた祐斗が庇うように前に出て覚醒した聖魔の力を宿す双剣を構えた。

 

 

「下がっててゼノヴィアさん……。決着は僕がつけるから……」

 

「だ、だがお前は――」

 

「大丈夫……必ず勝つ」

 

 

 地面に突き刺したジョワユーズを杖代わりに何とか立っている状態にも拘わらず、嫌な予感しか感じないゼノヴィアが決着をつけると宣言する祐斗を止めようとするも、祐斗は笑ってゼノヴィアに勝つと約束し、両手に双剣を手にする。

 

 

「……。絶対に負けないからさ」

 

「祐斗……わかった」

 

 

 その声は優しく、ゼノヴィアは渋々とデュランダルを下げて祐斗から離れ、その背を見つめながら只ひたすら祈った。

 死なないでくれ……と。

 

 

「くっくっくっ……やべぇ、勝てる気がしねぇのに逃げようとする気もしねぇ……」

 

「行くぞ……!」

 

 

 腰を軽く落とし、二対の剣を構えた祐斗にフリードはこんな状況でも逃げようとする気が起きない自分に笑えてしまいながらも、地面に突き刺していたジョワユーズを抜き、フラフラと軽く押しただけで倒れそうになりそうなのを踏ん張りながら両手でしっかり持つと……。

 

 

「斬る!」

 

「行くぞぉぉぉっ!!!」

 

 

 身構える祐斗に向かって最後の力を振り絞ったフリードが一気に飛びかかった。

 

 だがいくら気持ちが折れてなかろうとも、その身は既に死んだも同然……。

 ましてや銀牙騎士へと覚醒した祐斗の鎧に刃は通らず、渾身の一刀も虚しくフリードの刃は祐斗の持つ左の剣に弾かれると――

 

 

「はぁっ!」

 

「!」

 

 

 祐斗の刃がフリードの身を貫いた。

 

 

「が……うぁ……」

 

「僕の勝ちだ……!」

 

 

 腹部を貫かれ、目を見開きながら動かなくなるフリードに剣を引き抜きながら静かにそれだけを言った祐斗は、再び倒れるフリードに剣を消して見下ろす。

 だがしかしフリードの目に敗北の文字は無かった。

 

 

「ぐ、がぁっ……!」

 

「まだ闘うつもりなのかい……キミはまだ?」

 

 

 下半身に力が入らず、立つことは不可能な所まで消耗したフリード。

 しかしながら未だ右目のみとなった瞳は死んではおらず、立っていた祐斗の脚を力なく掴みながら呻き声に近い声を出しながら睨み付ける。

 

 

「ぐ……ぅあ……ま、だ……だ……! オレは……死んじゃいねぇ……!」

 

「っ……」

 

 

 どちらかが死に、どちらかが生きる。

 フリードにとっての戦いはまさに全てを賭けたものであり、自分にトドメを刺そうとしない祐斗を獣の様な眼光で睨み付けながら、闘う意思を見せつける。

 

 

「ゥ……ォォォ……!」

 

「もう……もう良いだろう!」

 

 

 それは祐斗にしてみれば、このままトドメを刺してあげるべきなんだろう。

 しかし祐斗には出来ない……。

 死体蹴りをかませる程祐斗は非情ではなく、ましてや相手は元々持つ才能を更に磨きあげて此処まで登り詰めた相手なのだ。

 そんな相手に自分がトドメを刺すことなんて……祐斗は自分の脚を掴んだまま尚も戦おうとするフリードに悲痛な面持ちで叫ぶ。

 

 

「ぅ……」

 

 

 その叫びが届いたのか、それとも力尽きただけなのか……祐斗の声と共にフリードは脚を掴んでいた手を緩め、そのまま意識を失ってしまい、これにより嫌味な程に晴れた星空に展開される三つの戦いの内の一つが完全に終わった瞬間だったと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン――

 

 

 

「…………」

 

 

 そう……少なくとも祐斗は、見届けていたゼノヴィアはそう思っていたし、最期の最期までその目に闘志を宿らせたまま動かなくなってしまった時点で終わったと感じていた。

 けれど祐斗やゼノヴィア……更に言えば校庭の中心で派手な空中戦を繰り広げているコカビエルや一誠達ですら見誤っていた。

 

 

(死んで……堪るかよぉ……!)

 

 

 フリードという少年が如何に短い付き合いながらもコカビエルという堕天使を心から慕っていたのかを。

 

 

(まだ俺はボスに借りを返してねぇのに――)

 

 

 そしてフリード・セルゼンもまたその想いに到達した事により……。

 

 

(俺は……まだ死ぬわけにはいかねぇんだよ!!)

 

 

 資格を持つ者にまで登り詰めていた事を……。

 最期の最期まで闘う意思を崩さずに散っていったフリードにある意味負けたと思う祐斗もゼノヴィアも気付かないままその時はやって来た。

 

 

『まだ闘いますか、フリード・セルゼン?』

 

(……。あぁ?)

 

 

 本物か、それとも息絶えるフリードの頭の中に幻聴として聞こえた声なのか。

 少なくとも眠くなる様な気持ちに呑み込まれそうになっていて本人には確かに問い掛けるような女性の声が聞こえた気がした。

 

 

『アナタの事はずっと見ていました……。何を想い、何を憎み、何を考えて生きてきたのか私は誰よりもアナタを見て理解しています……』

 

(………………)

 

『アナタが敗北し、此処で死ぬのは見たくない。

だからアナタに……やっと私の声が届いたアナタに私の力を貸すことを許してください』

 

(ちょいちょい、さっきはからペラペラ勝手に語ってる所悪いけど、アンタ誰だし?)

 

 

 その声に何と無くフリードは『懐かしい』気持ちを覚えさせるも、聞き覚えが無い声でもあった。

 故にフリードの反応を待たず何やら力がどうとか言ってる声の主に何者なんだよと問うフリードは最近の日々を考えると割かし冷静な方だったかもしれないが……。

 

 

『私はアナタ自身の人生を壊してしまった元凶であり、その中に宿る単なる意思……。

故に名前なんてありませんが……貴殿方は私をジョワユーズと呼んでいます』

 

 

 返ってきた答えは、フリードの中に形成された常識的許容範囲を越えたものだった。

 

 

(………………は?)

 

 

 声の主がジョワユーズ。

 ジョワユーズといえば聖剣。

 こんな訳の分からない真っ暗空間から聞こえるこの声が嘘を言ってる様には今更思えないフリードは思わず久々に間抜けな声が出てしまっても仕方ない話だった。

 

 確かに聖剣だし多少は使い手だった自分でも知らない何かがあってもおかしくは無いのだが、ジョワユーズに意思が宿っててくっちゃべってくるだなんてのは、いくらぶっ飛んでるフリードとて驚く話だった。

 

 

(ちょ、ちょいちょいちょいちょいちょいちょい? ジョワユーズ? いやいやいやいや、剣に女の声が出る機能なんてオレっち知らんし)

 

『機能じゃありません、かつて私を造った存在ですら『知らなかった』事実ではありますが、私はジョワユーズという聖剣の中に宿る意識です。

だからこそ、アナタの事は誰よりも見てきたと言ってるのです』

 

(…………。それが本当なら、オレがテメーを――)

 

『知ってます。アナタ様が私をどれだけ憎んで忌み嫌っているのか……』

 

(………)

 

『ですが、私を使う者として私の真の力を知らないまま敗北するアナタ様の姿は見たくない……そう私は思っています。

だからこそ勝手ながら……かつての使い手であったシャルルマーニュを越えた使い手へとご成長されたアナタ様に私の真の姿を使って欲しい……それがあなた様の武器となった時から抱く私の望み』

 

 

 ジョワユーズと名乗る女の声の淡々としながらも、何と無く不安げにも聞こえる言葉。

 武器として……そして真の姿としての自分を使って欲しい。

 ぶっちゃけると真の姿云々も去ることながら、妙に人間味を感じるジョワユーズの意思に驚いてるせいで、毛嫌い感情があんまり出てこない。

 

 

『あの(スガタ)は謂わば仮の姿であり、本来の1割にも満たない力しか使えません。

ですが、一時的でも良いのでアナタ様が私をお認めくださり、受け入れてくれるのであれば……』

 

(……。あれば?)

 

『銀牙騎士と同等の力をアナタ様に明け渡す事が可能です』

 

(…………。嘘じゃねーだろうな?)

 

『アナタ様の道具として誓って嘘はもうしません』

 

 

 ジョワユーズに更なる力が宿っていた。

 それだけでも驚くものだったが、自分を斬り伏せたあの銀牙騎士なる鎧の力にも拮抗できる力を解放できると言いきったジョワユーズの意思にフリードは、天然の使い手だからこそ壊れてしまった人生に対する禍根を今だけ忘れ――

 

 

「嘘だったら炉に溶かしてやるからな……」

 

『ありがとうございます……フリード様』

 

 

 生まれて初めて、真の意味で自身に宿ったジョワユーズという力を受け入れ、暗く何もない空間が裂かれ、漏れだした目映い光の中に浮かぶ見慣れた剣へ手を伸ばしたフリードはしっかりその柄を握りしめ、光に包まれながら意識を再びこの世に覚醒させた。

 

 

「……。待てや」

 

「っ!?」

 

「な、なんだと……!?」

 

 

 フリードが自身の宿す力の源と対話していた――なんて露にも思わなかった祐斗とゼノヴィアは、再び聞こえる強敵の声に思わず身を強張らせながら振り向く。

 本来ならモヤモヤした気持ちであったものの、一誠達の元へと向かおうとしてたその矢先の出来事であり、振り向いた先に、ジョワユーズ片手にあの歪んだ笑みを浮かべて立つフリードに目を見開く。

 

 

「ど、どうして……君は死んだ筈じゃ……!」

 

 

 明らかに決着寸前のフラフラ状態じゃない……よく見れば自分が切り裂いた胴の傷が塞がっているフリードに困惑した表情で問う祐斗にニヤリと笑う。

 

 

「生憎オレっちはゴキブリのようにしぶといんでね、終わらせたくばバラバラにしねー限り基本的に復活すんだよ……ヒャッハハハハハーッ!」

 

「くっ」

 

 

 持っていたジョワユーズをくるくる回し、おちょくるように話すフリードに祐斗はなぜかホッとした気持ちを一瞬だけ抱きつつ、すぐさま双剣を構える。

 

 

「おっと、またあの鎧を出されたらオレっちに勝ち目はねぇ」

 

 

 刀身をクロスさせ、再び鎧を呼び出そうとする祐斗にパッと広げた右手を突き出しながらヘラヘラするフリードに、鎧を召喚しようとした祐斗もゼノヴィアも違和感を覚え、先程から妙にジョワユーズをグルグルと手首を使って回してる姿を警戒しながら見つめ――唖然とする。

 

 

「フンッ!」

 

「は!?」

 

「なっ!?」

 

 

 何を思っての事なのか、少なくともゼノヴィアと祐斗には皆目検討もつかない行為……即ちジョワユーズの刀身を根元からポッキリと地面に叩き付けてへし折ったのだ。

 驚くなという方が無理のある話だが、折った本人は金の装飾が施された……柄だけのジョワユーズを持ったままケタケタと笑っている。

 

 

「ジョワユーズが剣だなんて誰か宣言したのか? 今のコイツの姿は謂わば仮の姿よ」

 

 

 致命傷の傷が消え、不死身が如く再び立ち上がるその姿はまさに獣。

 何度でも何度でも……片目を抉られようとも、胴を切り裂かれようとも折れずに立ち上がる。

 これこそフリード・セルゼンが敗北を期に打ち立て、師と仰ぐ堕天使を見て確立した想い。

 その想いが、ジョワユーズに宿る意思を呼び起こし、完全なる忠誠を勝ち取った理由であり……真なる力を呼び起こす鍵。

 

 

「何っ!?」

 

「伝説にはこうある、ジョワユーズの柄には聖槍が埋め込まれていると……」

 

「……。まさか……!」

 

 

 刀身が折れて光となって消え、柄だけとなったジョワユーズがフリードの手元で目映い光と共に左右へ棒の様に伸びていく。

 それはやがて槍の形を形成し、光が収まればフリードの手には真っ白で飾り気の無い長槍があった。

 

 

「聖槍・ジョワユーズ……。本来の力を引き出す為の姿……」

 

 

 刀身を折った事で真なる姿へと変貌したジョワユーズ。

 細身で飾り気もなく、先端に小さな刃があしらわれてるだけというシンプルな姿ながら教会に身を置くゼノヴィアが膝を付いてしまいそうな――転生悪魔である祐斗が再び本能的な恐怖を感じさせるほどの聖なるオーラを纏っていた。

 

 

「槍……か。

へっ、コカビエルのボスがよく光の槍状にして攻撃するのを見て一応の使い方を学んどいてよかったぜ」

 

 

 剣から槍へと変化したジョワユーズをその場で素振りして試すフリードは妙に嬉しそうな表情だ。

 恐らく慕っているコカビエルと同じ形の武器を使う事が無意識に表情へと出てしまっているのだろう。

 

 

「剣の時よりも心なしか軽い……へっ、悪か無いですねぇ」

 

 

 異様なまでのスピードで真なる姿へと変貌したジョワユーズを使いこなし始めるフリードは羽毛の様に軽く感じる得物をアクション映画のワンシーンの様なアクロバティック的動きで振い続ける。

 だが、如何に真なる姿へと覚醒したジョワユーズと云えど、このままの細身な槍で祐斗の纏う白銀の鎧を貫けるかと問われれば難しいと云わざるを得ない。

 

 現に祐斗の両手には進化した聖魔の双剣が握られており、エクストララウンドとも言える戦いを前に不安が無さそうだ。

 

 

(ったく、マジで人生ってのはわかんねぇや。

このオレがジョワユーズを受け入れてるんだからよ……)

 

 

 だからこそ――だからこそ、大嫌いだったジョワユーズを受け入れなければならない。

 復讐を越えて銀狼へと覚醒した祐斗の様に、ジョワユーズを受け入れ、その先の領域へ進むことにより自分を拾ってくれ鍛え上げてくれた師であるコカビエルへの恩を返す為に……。

 

 

「……」

 

 

 今一度フリードは拘りも何も捨てて更なる進化への道を切り開く。

 迷いと憎悪を捨て去り、ただ眼前の敵に勝つ為にフリード・セルゼンという少年は――

 

 

 

「俺はフリード・セルゼン!」

 

 

 真なる覚醒の扉を開け放つ。

 準備運動を終えたフリードの片方の瞳には、これまで以上の強き意思を纏わせ、双剣の刀身をクロスさせる祐斗と、今度こそ終わらせる為に自分も加わるとデュランダルを構えたゼノヴィアに鋭くも真っ直ぐな眼光で見据えながら己の名前を宣誓するかの如く叫ぶ。

 

 

「テメー独りじゃ全部中途半端で、直ぐに調子に乗る馬鹿野郎」

 

 

 過去の自分を客観的に語るフリードの声は煽ってる事も無く真剣であり、真の姿となったジョワユーズの切っ先を夜天へ翳した。

 

 

「こ、これは……!?」

 

「まさか……!」

 

 

 その動きは何処かで見た――そう、祐斗が覚醒した力を解放した時と一緒であり、思わず剣を下ろしてしまう祐斗とゼノヴィアの表情は大きく狼狽えていた。

 

 

「だから受け入れてやらぁ、コイツのせいで教会のクソ共に拉致られしたが認めてやる。

テメー等をぶちのめし、ボスと戦ってる奴等もぶちのめして勝ってやる……!」

 

 

 狼狽える二人に今度こそ勝つと宣言するフリードが夜天に翳した槍を小さく回す。

 するとどうだ……祐斗が鎧をその身に纏った時に出現した小さな光の円陣が現れ、そこから光が漏れだし、フリードの全身に降り注ぐではないか。

 

 

「そ、そんな……キミって男は……!」

 

「な、なんて奴だ……! この土壇場で!」

 

 

 手持ちの武器は違えど、何から何まで先程の祐斗と同じ手順を踏んでるフリードにゼノヴィアは持っていたデュランダルと共に『させぬ』と斬りかかろうと祐斗の制止を待たずして飛び出した。

 

 けれど遅かった。

 全ては完全なるトドメを刺さなかった二人の落ち度であり油断がフリードにジョワユーズを受け入れさせ、復活させたのだ。

 

 故にそのツケは――

 

 

「我が名はフリード・セルゼン! 堕天使・コカビエルの一の子分! そして――」

 

「っ……ぐぁっ!!」

 

「ゼノヴィアさん!! くっ……!」

 

 

 光に包まれるフリードに斬りかかるも、見えない何かに阻まれ吹き飛ばせてしまったゼノヴィアを気にも止めず、フリードは自分の存在を叫び――

 

 

「白夜騎士だぜ!!」

 

 

 ガチャン! という金属音と共にフリードの前進は真っ白な鎧に包まれた。

 

 

「っ……くそっ……間に合わなかった!」

 

「ゼノヴィアさん、大丈夫かい……?」

 

「あ、あぁ……すまん」

 

 

 吹き飛ばされたゼノヴィアの身を全身で受け止める祐斗。

 二人が見る先には、祐斗に続いて現れた色違いの鎧騎士。

 

 

『おぉ……力がみなぎるなぁオイ』

 

 

 祐斗が身に纏う銀と違い、純白の鎧。

 狼のようなフェイスは祐斗のと違って牙が露出しておらず、マスクをしているように隠れており、細身だったジョワユーズの槍は全体が大型化され、穂先の部分もより大きく鋭い刃となり、鎧の背には深紅の背旗があった。

 

 

『これでテメーと対等になれたぜ悪魔くんよぉ……!』

 

「……フリード」

 

 

 純白の鎧騎士へと覚醒したフリード。

 その力を感じ、追い抜かれた祐斗へ再び並んだ事を確信し、大型化されたジョワユーズの槍の先端を向けながら鎧越しに声を出す。

 

 これで勝負は再び振り出しに戻ってしまった。

 勝てたと思った相手の執念と意地により再び戦いが……今度は楽に終わりそうもない戦いが始まる。

 

 

「ゼノヴィアさんは下がってて……」

 

「っ……足手まといとなってる自分がこうも憎いと思った事はないぞ……」

 

 

 槍を構えたフリードに勝つため、祐斗はゼノヴィアを下がらせ再び白銀の鎧を身に纏う。

 

 

『今度は楽に行かねぇぞクソ悪魔ァ!!』

 

『分かってる……行くぞ!!』

 

 

 そして始まるは騎士へと覚醒した者同士の戦い。

 有史以来始めてとなる、誰も知らない鎧騎士同士の戦い。

 それは神器とは違う。聖剣とは違う力を宿す……赤と白の龍な戦いと並び評される新たな伝説の幕開けとなる。

 

 

『オラァァァッ!!!』

 

『ハァァァァッ!!!』

 

 

 エクストララウンド……スタート。

 

 

 

 

「くくっ、フリードが俺も知らぬ領域に入ったか! ふ、ふはははは……アッハハハハハ!! なら俺も負けられんな! そうだろう? 兵藤一誠ェェェェ!!」

 

「あぁ……貴様の言うとおりだよコカビエル!!」

 

 

 白夜と銀牙がぶつかり合うその頃、一誠とコカビエルの戦いもまた佳境に入っていた。

 一誠自身がこれまで積み重ねてきたその集大成ともいえる矛神モードver黒神ファイナルの準備も終え、自身で生成した光槍を両手でしっかり持って迎え撃とうとするコカビエルに対し、全身からドス黒いオーラを放っている。

 

 

「これで貴様を倒せなければ俺に打つ手は最早無い……行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 

 三人の少女に見守られながらの兵藤一誠による最新・最終・最後の一撃。

 失い、差し伸べられ、その恩に報いるために今日まで積み上げてきた一誠の集大成は――

 

 

「うっ……おぉぉぉぉっ!!!!」

 

「っ!? 空間がねじ曲がっただと……!? しかしっ……!!」

 

 

 音を、光を……時間をも置き去りにし、全身を使った一撃と化し光槍を構えたコカビエルを破壊せんと地面を抉りながら襲いかかり……。

 

 

「っ……一誠様!」

 

 

 何よりも大切な女の子を目の前に爆音と共に決着への道へ突き進む。

 どちらかの勝利という結果の為に、目を覆いたくなる砂煙に二人の姿は一時その姿を消失させた。

 

 

 

 

 

 好きだった。

 一目惚れだった。

 分かってる……そんなものは一方通行なのも、それでも傍で役に立てるなら俺は本望だと思っていたし見てるだけで結構満足する安上がりな性格だった。

 けれどもう今の俺にはその気持ちすら無い。

 目の前でズルズルと堕ちていく主。

 奴の寵愛とやらを一心に受けたいが為に醜くなる主。

 夢すら忘れてしまった主……。

 

 そんな主は俺のエゴだが主じゃ……ソーナ・シトリーじゃない。

 自分の男がズタボロになって取り乱すのは分かるけど、それを奴の弟のせいにして喚くソーナ・シトリーなんて……。

 

 

「な、なによその目は……!」

 

「……。何でもありませんよ先輩方……。何でもないから黙っててくれや」

 

 

 願い下げだぜ。

 

 

「もう良いだろ先輩……。

奴の生命力なら手足失っても死にはしませんって。だから黙って邪魔せず終わるのを待ってろよ」

 

 

 虚しさすら覚える呆気なさで二人を拘束した。

 前までならこう簡単にいかなかった筈なのに、どうやらこの二人……いや兵藤誠八にイカれちまった連中はロクに戦闘勘も鍛えずにいたみたいらしく、あっつー間に拘束出来てしまった時は何かの罠だと思った程だ。

 

 だがどうやらそうでもなさそうで、二人の純血悪魔はラインで縛られたまま地面に転がった状態で俺を殺意溢れる顔で睨んでくる。

 

 まあ、連中にとって俺達は奴の意に添わない存在だし敵視されるのは分かってたんで今更何を思うことも無い。

 

 

「全部終わったら解きますし、一応奴も治療しますから安心して黙って見ててくれ頼むから」

 

「「くっ……」」

 

 

 数メートル先……フェニックスさんを中心に張られた障壁の外で転がってる兵藤誠八を引き合いに出すと、悔しそうに顔を歪めてる二人の純血悪魔に俺は何と無く冷めた気分になる。

 というか分かってるのだろうか? この騒動が終わったら兵藤誠八以下略であるアンタ等がどうなるかってのを……。

 

 いやわかんねーか……。分かるわけねーわな、どうせ許されるとか思ってそうだし俺達が横槍をどうのこうのと宣って悪役にでもするんだろうと思うと馬鹿馬鹿しく思えてしょうがねぇ。

 まあ、それもどうでも良いと思うんだよなぁ。

 だってよ――

 

 

「あ、どうも……。

ええ、こっちは多分何とかなってますし、兵藤誠八は再起不能で暴れようとしてたアンタの妹も抑えたんでさっさと来てさっさと引き取って貰えませんか? ――え、ルシファー様が暴れててそれどころじゃない? いやそんなの此方に関係ないんで早くして貰えませんか? テメーん所の妹の尻拭いをテメーの命令でやらされてるこっちの身にもなれよ、この魔王少女(笑)めが」

 

 

 もう、色んな意味で手は打ったんだよね此方は。

 だから地面に転がってキョトンとしてるお二人さん? アンタ等結構ヤバイよ立場が。

 

 

「さ、匙……何ですか今の電話は……?」

 

「ま、魔王様って今言って……」

 

 

 拘束し、予め言い逃れしたり罪を擦り付けられるのを防止する為に俺が独断で冥界の魔王に事のあらましを説明してました――なんて知ってるわけが無い二人の先輩様が急に狼狽えた顔をし始めているが、俺は無視して電話してる相手にさっさと来いと言う。

 

 

「妹が大事ならさっさと引き離すべきだったんだよアンタは……。

なのに今になって動いて兵藤誠八に怒りを向けてもなぁ?

魔王ってのは腰が重いのか? まあ、『この前いきなり俺の前に現れた』時の印象からして頭がおかしいとは思ってたが――――――はい? 別に怒ってませんけど? 『ソーナちゃんは騙されてるだけだから許してあげて?』とか何とか、ぶりっこっぽくほざいたアンタを、非力ながらぶちのめしてやりたかったとかそんなのありませんけど?」

 

「ちょ、さ、匙!」

 

「こっちの話を聞きなさい! 誰と話を――」

 

「――まあ、アナタ様は恐れ多いレヴィアタン様ですから? 下僕の最下層な奴隷転生悪魔である俺はハイとしか言えませんけどねぇ?

は? だからキレてねーってんだろ? 何泣き真似声してるですか?

んな事してる暇があんなら早く来いや痴女」

 

 

 第一印象から引き、無理矢理テンションで誤魔化そうとしてる所にイラッとし、数日前から勝手に電話してきてはソーナ・シトリーの様子を半はぐれ悪魔になってる俺に聞こうとする訳のわからない魔王に、俺は微妙に昔のやさぐれた気分を抱きながら、何か言おうとしてたのを無視して電話を切るのだった。

 

 あぁ……初めて会ったあの日も、この電話の時もそうだが、姉妹だけあってなまじ似てる癖に、一々泣きそうな顔して『ごめんなさい、ごめんなさい……!』って謝んじゃねーよ。

 

 何か納得いかねぇ気分になるんだよコッチは……ったく!

 

 

「心配してくれる姉が居てくれてアンタは贅沢者だぜ……ったく!」

 

「え……」

 

 

 それを知らねぇって顔のソーナ・シトリーを見るともっと納得いかねぇ……くそ。

 

 

 

 

 聞いてない。

 聴いてない。

 知らない、知らされてない。

 俺がこんな目に逢うだなんて、消えるべき奴があんなに活躍してるなんて……。

 

 ふざけるな、俺が主人公……俺が中心だ。

 コカビエルもフリードも一誠も木場も匙もオレの踏み台なんだ……!

 レイヴェルや白音や黒歌が一誠にだなんてあり得るわけが無い……! ゼノヴィアが木場となぜか仲良しなのも気にくわない……!

 

 許せるか……許すべきじゃない……!

 お前らは必ず殺す! オレをこんな目に合わせた貴様等は必ず……殺す!!

 

 俺が主人公なんだ……!

 

 

 

 

 因果応報で失いつつある、自らを作り替えた男は憎悪を募らせ、そして甦ろうとしていた。

 

 心を滅した獣と化し……自らの力に飲み込まれた哀れな姿となりて。

 

 

 

 ―――――――――Beast Dragon Mode!

 

 

 

 




補足

某吉良並みのしぶとさ。
それがフリードきゅん。

その2
元ネタは某白夜騎士の某ダンです。


その3
メンバーの中ではまだ燻ってる匙きゅんは、匙きゅんなりに頑張ろうと手を尽くした結果……魔王様とのコネを作り上げてました。

が、コネ相手が失恋した相手の姉であり、しかも姿はととかく容姿がなまじ似ており、加えて一度直接コッソリ邂逅した時も泣きそうな顔で謝られたせいでかなり苦手意識を持ってます。

こう、今更ソーナさんに謝られてる気がして。
 故に処刑覚悟で態度も口調も辛辣にして突き離そうとしてます。

 今回の事件だけの付き合いにしようという意味合いで。


その3

安心院さんにコカビエルさんの方が好みと言われて荒れまくりなルシファー様と、それを止めようとするレヴィアタン様達。

そのレヴィアタン様ですが、妹を好いた下僕の子の事が色んな意味で気になってます。

ヤサグレまくってる所しかり
時たま自暴自棄になってる所しかり。

こう、妹の事で割りを食った罪悪感というか、そんな感じで目にかけてます。
 まあ、物凄い遠ざけようとする言葉をぶつけられまくってますが。



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未来へのケジメ
決着へ……


久々ですね。

ちょっと展開が遅すぎたので此処から手抜きレベルで早くなります。


 月満る夜に木霊する獣の咆哮。

 

 心滅した龍帝にもはや言葉は用を成さぬ。

 

 憎悪を糧に、怒りを糧に、欲望を糧に。

 龍帝は進むべき道を違え、開けてはならない領域にへと突き進む。

 

 

『Beast Dragon Mode!』

 

「殺して……やる……!」

 

 

 心を滅した獣へと堕ちて――――

 

 

『グォォォォォッーーー!!!』

 

 

 全てを破壊する獣は、全てを壊すためにその身を食わせて変わり果てて動き出す。

 憎む存在を殺す為に――

 

 

 

 

 

 

「うるさいですわ」

 

「黙っててもらえますか」

 

「イッセーが出向く必要もないにゃん」

 

 

『っ!?』

 

 

 まあ、その憎悪を向ける相手を殺そうと動こうとした瞬間、一誠とコカビエルの戦いを一番近くで見守っていた三人娘が立ちはだかったかと思いきや――

 

 

「えい!」

 

「にゃん!」

 

「ハァっ!!」

 

『グキャァァァッ!?!?』

 

 即座に変質しかけたその身を戻して地面を転がってしまった訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇を切り裂く牙は無い。

 神をも滅する器も無い。

 けれど、全てを一度失った少年はそれでも尚掴み取った。

 

 

「「ウォォォォォッ!!!!」」

 

 

 人外の師の想像をも塗り替え、永遠に昇華し続ける存在へと……。

 

 

「これで……終わりだぁぁぁっ!!!」

 

「な、なに!? 空間が捻曲がって――ハッ!?」

 

 

 そしてその集大成は、人外に勝ちたいと思い、同じく昇華した堕天使の能力保持者(スキルホルダー)に放った空間すらねじ曲げた正真正銘の一撃となり……。

 

 

「がっ!?」

 

「…………………」

 

 

 その拳で打ち砕いた。

 

 

「がっ……はっ!?

ぐ……ひょ、兵藤……一誠……ェ……!」

 

「……」

 

 

 自分なりの『終神モード』となって放ったシンプルな一撃。

 その一撃は迎え撃とうとした堕天使・コカビエルの身を貫き、一誠の勝利を揺るぎ無いものへと導いた。

 月輝く駒王の校庭の真ん中にて、左胸を貫かれたコカビエルは口から止めどなき血を吐き出し、鷹を思わせる瞳で見据えながら自身の胸を貫いた一誠の腕を力無く掴む。

 

 

「俺の勝ちだ……コカビエル」

 

 

 鮮血に染まる一誠が自身の腕を掴むコカビエルに勝利の宣言。

 全身を巡る血流循環を異常なまでに高めた結果至る最強にて最良の身体能力に、一誠自身の真骨頂である無限進化が異界に住まう人ならざる者を含めた地球上の全生物を越えた領域へと一誠を引き上げた。

 

 その一撃は音速を超え、亜光速に到達し、そして時間をも置き去りにしてコカビエルを打ち破ったのだ。

 

 

「ごほっ!? く、くくく……安心院なじみに続き、その系譜である貴様に破れるとはな……」

 

 

 まさに最終最後の一撃であり、その一撃は超戦者であるコカビエルをも置き去りとする異次元となり、致命傷を与えた。

 しかしコカビエルはいっそ清々しいと思える気持ちで、目の前の小僧でしかない少年に笑って見せると……。

 

 

「…………。見事だ……兵藤一誠」

 

「………」

 

 

 静かに腕を引き抜いた一誠を称賛し、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 

「………………」

 

「グフッ………ククク……! フリード……には……ゴフッ……情けなくて見せられんな……」

 

「……。いや、そうでもない。

今の貴様を見て落胆する程度の男とは俺は思わん。寧ろ俺を殺そうとするだろうな……ぐっ」

 

 

 ドクドクと貫かれた傷口から大量の血を流し、仰向けに倒れるコカビエルの自嘲した笑みに一誠は終神モードを解くと、途端に苦悶の表情を浮かべてその場に膝を付く。

 

 

「ふ……ふふ……。

やはり黒神めだかの真似事をしてるだけでしかない俺が、あの終神モードを使えばこの様になるのは必然か……。

正直これで貴様が倒れてくれなかったら、立場は逆だっただろうな」

 

「それは惜しかったな……ははは……っ!? ごほっごほっ……!?」

 

 

 死力を尽くしたというべき戦闘は、コカビエルの性質に圧されて幻実逃否(リアリティーエスケープ)を半ば封印されてしまったせいで一誠自身も結構ギリギリだった様で、ボロボロに破れた制服と身体に刻み込まれた傷がそれを物語っていた。

 これでもしフリードが敵討ちのつもりで襲い掛かってきたら結構どころじゃなくヤバイのだが……。

 

 

「一誠様!」

 

「一誠先輩!」

 

「イッセー!」

 

 

 それはどうやら杞憂に終わりそうだ。

 膝を付いて動けない自分と、倒れているコカビエルを視認して決着を悟った見届け人である三人の少女が自分を心配して駆け寄ってくれた瞬間、久々とすら感じる安堵感が一誠の心を包み込んでくれた。

 

 

「イッセ~! 大丈夫にゃ!?」

 

「もぶ!? ちょ……黒歌!? お、俺は大丈夫だから離れて……」

 

「この姉雌猫!! 今の一誠様をちゃんと見てから行動しなさい!!」

 

「無駄にデカい脂肪の塊をこれ見よがしに押し付けても一誠先輩の傷は治りませんよ」

 

 

 …………。このやり取りが酷く懐かしく感じる気がする。

 障害物が身体をすり抜ける様に通り抜け、躊躇無しに飛び込んできた黒歌の胸を思いきり顔面で受け止め、それを見て怒るレイヴェルや白音の姿を見てると酷く安心するのは何故なのか?

 

 

「わ、わかったからちょっと離れてくれないか黒歌? 色々とアレなんで……」

 

「にゃ……わかった……」

 

 

 この戦いで何故か誠八に負けてまた全てを失うとか。

 死にたくても死ねずに異界で惨めに生きるとか……。

 

 そんなビジョンが脳内の片隅からちょっとだけ現れたが、即座に『いや、無いわ』と『消し去った』一誠は、豊満な胸とか押し付けて抱き付く黒歌に渋々離れて貰い、黒歌を睨んでるレイヴェルに疲労で膝を付いたまま手招きして呼び寄せ始める。

 

 

「レイヴェル……コッチに」

 

「? はい、何でしょうか一誠様」

 

 

 こいこいと手招きする一誠。

 コカビエルの返り血と、殴り合いによる傷で少々痛々しく見えなくもない一誠からの呼び出しにレイヴェルが用意していた『フェニックスの涙』なる便利アイテムを持って駆け寄ると……。

 

 

「あ……」

 

「へへ、勝ったよレイヴェル……。だからご褒美くれ。いや、つーか勝手に貰うけど」

 

 

 優しく……でもちょっと強引にレイヴェルの手を取った一誠は、猫姉妹にちょっと申し訳ないなとは思いつつも、幼い頃から何時だって一緒であり、一番最初に『守りたい女の子』と心の底から誓ったレイヴェルの身を引き寄せ、そして抱きついたのだ。

 

 

「あ……やっぱりレイヴェルが最初なんだね」

 

「分かってましたけど、やはり複雑です」

 

 

 むぅ……と声を出す黒歌・白音姉妹をバックに一誠はレイヴェルの存在をまるで確かめるように抱き締めており、レイヴェルもまた一誠を優しく受け止める。

 

 

「あはは……やっぱりレイヴェルとこうすると心地いいなぁ」

 

「一誠さま……」

 

 

 

 過ごした年月の差……いや、それだけでは無い絶対的な繋がりが二人から放たれており、言わなければ何時までも抱き合ってんのではないかというくらい、二人はただただ互いを抱き締めていた。

 

 

「お疲れ様です……一誠様」

 

「…………。ありがとう」

 

 

 VSコカビエル

 

 勝者・兵藤一誠。

 決まり手:終神モード・黒神ファイナル

 

 

 

 

 

 

 

 

 むぅ……仕方ないとは思うけど、妙に納得できないというかー……。

 白音もそんな状況じゃないと解ってるけど納得できないって顔してるにゃ。

 

 

「あの……何時までそうしてるつもりなんですか? コカビエルが微妙に居たたまれない顔してますけど」

 

「そうだにゃん。というか木場達はまだ戦ってるよ?」

 

「……。オイ小娘共。俺をダシにして引き剥がそうとするなよ。

そもそも俺は……ごほっ!?」

 

 

 放っておいたら何時までもやってそうだし、そろそろ気持ちを切り替えて欲しいのと致命傷とはいえ死に至るまでの深刻なダメージでは無さそうにしてるコカビエルをどうするかさっさと決めてほしいので、早いとこ離れてもらおうと声を掛ける。

 

 

「ん? あ……おう、そうだったな」

 

 

 するといつの間にか身体に刻まれた無数の傷跡が消え、さっきまで疲労困憊だった筈の顔色も嘘みたいに良くなったって表情でレイヴェルから離れれたイッセーが、そのまま倒れて動けなくなってるコカビエルの元へと近づいていくにゃ。

 

 

「………。ところで兵藤一誠よ、貴様の負った傷はどうした?」

 

「あぁこれか? 基本的に俺はレイヴェルが居ないと駄目で情けない男でな。

先程レイヴェルから抱き締められて精神のバランスを元に戻し、過負荷(マイナス)のスキルを自分に使って傷とダメージ否定して逃げて消したのさ」

 

「なっ……!? なるほどそういう事か……。

くそ……どうやら別でも反則じみたものを持ってたという訳か……」

 

「それは否定できん。しかしさっきまでは貴様の気質に圧されて使えなかった。

だからギリギリだったというのは本当だ」

 

「………ふん」

 

 あ、そっか。

 無限に進化する力の他に、私と白音を昔助けてくれた『夢と現実を操る力』でダメージを消したんだ。

 どうも無神臓とは違ってそっちはイッセーの心によって使えたりそうでなかったりするみたいだけど……むむ、レイヴェルのおかげで使えるようになったと考えると……ちょっと複雑。

 

 

「祐斗とフリードとやらはまだ戦ってるみたいだぞ。どちらとも鎧姿で」

 

「あぁ……チッ、動きたくても動けん。

フリードはああも奮闘してるというのに情けない」

 

 

 ともあれ、今後レイヴェルみたいにイッセーにとって重要な存在になる為に頑張らないと……なんて思いつつ向こうで切り合いをしてる木場とフリードって奴を一緒に眺めてる。

 見たことも無い銀と白の鎧を身に纏い、斬り合う力の余波は此処まで伝わってくるけど……木場もフリードって奴もこの短い時間で随分と強くなったというか―――あ、二人の鎧が消えたにゃ。

 

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……!」

 

「フー! ハァ……ハァ……!」

 

「く、クソ……まだまだ……だぜっ!!」

 

「ぼ、僕だ……って!!」

 

 

 互いの獲物が手から弾き飛ばされた事により今度は殴り合いに発展している。

 多分もう二人にとっては意地の張り合い何だろう……殴って殴られて、顔を腫らしても尚歯を食い縛って拳を振るってる姿は何とも言えない気持ちというか、ゼノヴィアって子が物凄い心配そうに木場を見てるのが――――ん?

 

 

「あ、あのー……遅れて申し訳ないというか……応援に来たというか……」

 

 

 コカビエルが何とかなった今、後は木場とフリードって奴との戦いが終わるのを待つだけだにゃーん…………なんて思っていた時に突如感じる大きな気配と、複雑な形をした魔方陣の出現に私は――いや私達はピクリと反応してピカピカと光ってる魔方陣に視線を移す。

 するとそこから現れたのは――

 

 

「ええっと、サーゼクスちゃんが結局無理だったんで私だけが来てみましたー…………みたいな?」

 

 

 何というか……この前レイヴェルに言われて自覚したけど、それでも私の方がマシだとハッキリ思える変な格好をした――――げ、魔王だ。

 

 

「セラフォルー・レヴィアタン……か?」

 

 

 

 

 

 

 ど、どうしよ……。

 結局サーゼクスちゃんは原因不明のまま暴れてて来れる様子じゃないから私だけ来てみたけど……。

 

 

「四大魔王の一人である貴様が今更何の用だ……?」

 

「あっ! コカビエル―――って、あれ? 傷だらけ……」

 

 

 今回の騒動の元凶であるコカビエルは傷だらけで倒れているし、向こうでは男の子が二人殴り合ってるし、周りには地獄の番犬ちゃんの大量死骸だらけだし――

 

 

「サーゼクス・ルシファーと同じ魔王か……。

生で見るのは初めてだが……何だか変わった格好だな」

「あの姿があの方の『正装』らしいですわ一誠様」

 

「久々にお姿を拝見しましたが、全然変わってませんね」

 

「私、あの格好よりはマシだと思いたいにゃん」

 

 

 冥界に残る貴族悪魔の中でもかなり変わってるフェニックス家の子と、確かリアスちゃんの眷属の子と………よく分からない猫の妖怪が私を見ながら何かを言ってるのが聞こえる。

 

 そしてその真ん中に上半身裸で立ってる、私の大事なソーナちゃんをタブらかした間男にソックリ顔をした男の子。

 どうやらサーゼクスちゃんやあの子との電話で聞いた通り、本当に彼がコカビエルを止めた……のかな? それにしては傷の一つも見当たらないけど。

 

 いえ、この際誰がコカビエルを止めたかなんてどうだって良い。

 重要なのはソーナちゃんをタブらかした間男をどうしてくれようかなのと、ソーナちゃん自身の安否を確かめなければ此処に来た意味は無い。

 

 

「…………あ」

 

 

 という事で胸に風穴を開けたままぶっ倒れてるコカビエルやその他を後回しにして、先ずはソーナちゃんは何処だと辺りを見渡してみると、意外にもソーナちゃんはリアスちゃん共々直ぐに見付けることが出来た。

 

 

「……………」

 

 

 ソーナちゃんとリアスちゃんを縛り付け、氷を思わせる冷たい視線で見下ろしてる……彼と一緒に。

 

 

「は、離しなさい!」

 

「セーヤがまたあんなボロボロに……!早く治療を……!」

 

「それしか言えねーのかよコイツ等は」

 

 

 間男がソーナちゃんをタブらかした事によりそのツケのほぼ全部を背負うことになってしまった男の子……。

 

 

「あん? おっと、お二方。

そろそろ性欲馬鹿の心配よりテメーの心配をした方が良さそうだぜ? ほれ」

 

「何を――っ!? お、お姉さま!?」

 

「な、何故此所にレヴィアタン様が!?」

 

 

 匙元士郎くんは、私の存在にわざと今気付いた様な顔をして二人に教えると、神器で縛っていた紐みたいなものを伸ばしてソーナちゃんとリアスちゃん――――ついでに右腕以外が無い間男を若干乱暴ぎみに私の前まで放り投げた。

 

 

「後は親玉に任せるよ。俺は所詮奴隷だからな」

 

「…………」

 

 

 でも私とは一切目を合わせようともせず、それだけを言うと『やっと鬱陶しいのから解放されたぜ~』と嬉しそうな顔をして間男にソックリな顔をした男の子の元へと行ってしまった。

 

 

「お、お姉さま! 彼等が勝手に介入して……」

 

「そのおかげで私達は多大な損害を――」

 

「……………。頼むから二人とも……今は黙ってて」

 

「「っ!?」」

 

 

 ごめんねソーナちゃんにリアスちゃん。

 今の二人を見てると、介入して邪魔されたからこのザマになったって言われても信じられないよ。

 

 寧ろどんな意図にせよ元士郎くんが二人を縛り付けでもしてなかったら、今頃本当に死んでた……そんな事ぐらい解ってよ。

 そんな事も解らなくなるくらい……こんな間男に狂っちゃったっていうの……?

 

 

「事情はある程度把握してるつもりだよ二人とも。

少しばかり覚悟しておいてね――――特にその間男君は」

 

「なっ!? 何故ですか! セーヤくんは私達の為に――」

 

「ソーナちゃん。

じゃあ何故ソレはそのザマなの? 相手の実力を見誤ったからでしょう? それを双子の弟で人間である彼とその友達に尻拭いをして貰った――違う?」

 

「そ、それは……!」

 

 

 ………。駄目だ。今すぐにでも殺してやりたい。

 こんな奴のせいでソーナちゃんは狂って、本来ならソーナちゃんの為に頑張ってた元士郎君は完全に離れてしまった。

 私達……殆どの悪魔を見限って。

 

 

「にしても、木場の奴エライ強くなったよなー……俺なんか地味すぎだろ」

 

「そうでも無いだろ。純血悪魔を二人相手取って無傷で押さえ付けたんだろう? かなりの進歩じゃないか」

 

「いやそうなんだけどよ……もっと頑張るか~」

 

 

 ソーナちゃんを許して欲しいと思って直接訪ねた時も、さっき電話した時も元士郎くんは許すつもりなんて無いという態度を1度たりとも崩さなかった。

 

 

「サーゼクス・ルシファーと私、セラフォルー・レヴィアタンがソーナ・シトリーとリアス・グレモリーの両名・両眷属に命じる。

後日貴女達にこれまでの所業についての裁判を執り行うから覚悟するようにね。

言っておくけど、今回は身内贔屓は一切しないよ」

 

「そ、そんな……」

 

「セーヤの弟が邪魔したのに……!」

 

 

 だからこれは私なりの元士郎くんに対するケジメ。

 ソーナちゃんが間男に狂った事を信じず、そのせいで元士郎くんの気持ちを壊してしまった事への……。

 

 

「人のせいにしたいのであればしなさい。

知ってる人はちゃんと知ってるんだから」

 

「「……」」

 

 

 魔王としてのケジメ。

 

 

 

 

 ふー……。

 やっとやっかましい女共から離れられて一息吐けるぜ。

 あの二人、最後の最後までイッセーが邪魔したからだとか、俺達がイッセーに丸め込まれてるとかほざいてたが、その主張もそろそろ無意味になるんだよねーこれが。

 

 

「って、胸に風穴を空けてるコカビエルが生きてるじゃねーか!」

 

「あいにくだが、兵藤一誠の一撃は俺の心臓を逸れたんだ。

暫く動けないもののこの程度では死なんし、今は負けたと認めた以上貴様等に俺からは攻撃はせん」

 

「さ、流石……最上級堕天使……」

 

 

 これで漸く奴等との縁が切れる。

 未練なんてものはとっくに無くなってる俺としては、同じ眷属のあの人の事が若干気掛かりではあるものの、やっぱり清々する気持ちが強く、これで漸く『イッセー達に借りを返す為に心置きなく強くなれる』と思うと身体にも力がみなぎる。

 

 木場が銀の鎧を得て進化したんだ……俺だって何かを掴める筈だ。

 

 

「あ……木場とフリードって奴が同時にノックアウトしたにゃん」

 

「二人とも顔がボコボコですね……」

 

「ウチの兄と一誠様の戦いが佳境に入ると何時もあんな感じだった事を思い出しますわね」

 

 

 強くなる。

 くだらない一目惚れに浸ってた時間は終わり。

 はぐれ悪魔認定されようとも『自由』になれた俺に怖いものは多分無いのだ。

 

 まずは自分の神器を知る事から始めるか……ふっ、これから忙しくなりそうだけど充実は――――

 

 

「あの……元士郎くん」

 

 

 しそう…………あ?

 

 

「………………。何か?」

 

 

 これからの人生をどう過ごそうか……。

 そんな事を考えていた俺の思考に割って入ってきた声。

 

 その声は俺が電話で無理矢理呼び出した元主の姉であり魔王であるレヴィアタンなのだが、何を思ったのかこの魔王様は俺におずおずした顔をしながら近付いてきたのだ。

 だから俺は、つい素っ気ない声を出した訳なんだが……。

 

 

「そ、その……ソーナちゃんが元士郎くんに迷惑を――」

 

 

 どうやら愛する妹についてわざわざ俺に一言言いたかったらしく、面影ありありなツラを見せてきやがる。

 それが酷く俺を苛立たせるのだが、決して表情には出さず、あくまでも『どうでも良い』という顔を崩さずに口を開く。

 

 

「別に。ほっといたら邪魔になるからああしたまでなんで、魔王様がわざわざ一介の下僕悪魔である俺に礼を仰る事はありませんよ」

 

 

 つーかこの人、何気安く名前で俺を呼んでんだよ。

 …………。いやそれを今言ったらまた面倒な方向に行くからスルーしとくか。

 

 

『………………』

 

 

 ちなみにだが、一誠達は急に無言になって両者ノックアウト状態の木場とフリードの様子を見てるんだが、誰も彼もが聞き耳を立ててるのが丸わかりな態度であり、何故か知らないけどコカビエルまでも出歯亀みたいにしている。

 

 ……。別に何もないのに。

 

 

「で、でも魔王としてちゃんと元士郎くんにお礼がしたいというか……。

何か私に出きることとかは無い……?」

 

「ですから別に何も……」

 

 

 ……。チッ、それにしてもさっきからしつこいな。

 こちとらアンタのその顔色を伺うようなツラにイライラするってのに何なんだよ。

 出来る事だと? じゃあ今すぐにでも性欲馬鹿シンパを連れて帰れや。

 それか若しくは―――――あ。

 

 

「あ」

 

「え、何かあるの? だったら遠慮とかしないでね? 私に出来ることなら何でもするから!」

 

 

 思わず声に出してしまった俺に目敏く反応した魔王サマが迫る勢いで近付き、ネタにされそうな事を言っている横で、俺はふと気付いた。

 

 一発でこの場から消えてもらえる魔法の台詞を――

 

 

「じゃあ一つ良いっすか?」

 

「うん……!」

 

 

 何で一々魔王サマともあろうお方が下僕悪魔の俺を気にしてるのか甚だ疑問だが、これを言えば確実に拒否して嫌って二度とツラを見せないと思う。

 

 その言葉とは―――――

 

 

「今すぐここで全裸になって踊ってくれます? エロっぽく」

 

「……………へ?」

 

 

 魔王サマが嫌ってる性欲馬鹿並みの嫌われ要求をすれば良いのだ。

 そうすれば完全にこの魔王サマはキレて二度と姿を現さないだろう。

 

 

「!」

 

「一誠様?」

 

「イッセー?」

 

「先輩?」

 

「い、いや違うそういう意味じゃない。びっくりしただけだ……本当だ!」

 

「フッ……そこら辺はまだ餓鬼だな」

 

「う、うるさいぞコカビエル……!」

 

 

 その際出歯亀をしてたのが……てか意外にも一誠がその中で露骨な反応をしたのには笑いそうになった。

 

 

「んで、出来るんすか? それとも出来ないんですか?」

 

 

 まあ、三人の女の子にジト目で睨まれてタジタジな一誠は置いておき、取り敢えずはこの台詞で確実に帰る気満々になっただろう魔王サマの反応を伺うとしようか。

 ほら見なさい……最初は間抜けな顔していたのが段々と怒りの形相に――

 

 

「え、えっと……良いよ。

二人きりになれる場所でなら……」

 

「あ、そうっすか……ならそこの用具倉庫にでも――――――――あ゛?」

 

 

 なら……ない? はれ?

 

 

「な、なにぃ!?」

 

「イッセー!」

「一誠様!!」

「先輩!!」

 

「だ、だから誤解だ! 誰だって横でこんな展開になってる連中を見ると驚くだろ!?」

 

「意外な展開だ……セラフォルー・レヴィアタンがな」

 

 

 おう、敵だけどアンタに同意するよコカビエル。

 つーかこの魔王は何宣ってんの?

 

 

「男の子の前で裸になるのは恥ずかしいけど、元士郎くんがそう言うなら……えへへ」

 

 

 何に指先ちょんちょんしながら、あざとく上目遣いなの? ……………。何考えてんのコイツ?

 

 

「良くは知らんが五大龍王を宿す小僧よ。

冗談のつもりで言ったにしても、どうやら奴はそうでもないみたいだし、此処は一つ大人にでもなったらどうだ?」

 

「な、何で急にアンタが俺を父親みたいな目で見るんだよ!?」

 

「…………。いや、何と無くお前はフリードに通じるものが感じられてな……つい何と無く……ごほっ!?」

 

 

 途中でビチャビチャと血を吐きつつ生温い笑みを浮かべるコカビエルに俺は何とも言えない気分になりつつも、さっきから嘘っぽく頬なんざ染めてる魔王に退場して貰おうと口を開いた。

 

 

「ね、ねぇ元士郎くん……じ、実は私…急いでて今日は履いてないの」

 

「何をだよ!? 知らねーよ! とっとと連中を連れて帰れや痴女が!!」

 

「えっ!? わ、私未経験……」

「だから知らねーよ! 消えろ!!」

 

 

 自分の吐いた台詞に此処まで後悔する事によりなるとは。

 俺はさっきまでの俺を殴りたくなったよ。

 

終わり。

 




補足

ネタの方で寝取られただ何だの話をやり過ぎたせいで、そろそろ一誠とレイヴェルたんをクソ露骨にイチャコラさせたい……。


その2

匙きゅん自身はセラフォルーさんを避けて通りたいと思ってます。
けれど、セラフォルーさんは物凄いズケズケと開き直って言ってくる匙きゅんが『同じ被害者』という意味もあってかなり気になるというか放って置けないと言うか……。

電話でさっさと来いと言われた時も慌てて『履かずに参上』してしまった次第。


その3

木場きゅんとフリードきゅんは騎士同士の力が拮抗して泥仕合となり、互いに受けたダメージにより鎧は自動返送されたので生身の殴り合いに入りました。
 結果……両者ノックアウトです。


その4

心滅した獣になろうとしましたが、バトってる男の子達に気づかれることなく(匙きゅんは例外)鳥猫三人娘に捻り潰されましたとさ。


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後片付け

最近のIFで色々やった分、こっちでは色々とはっちゃける。

それだけさ。


 復讐心を否定せず、手を差し伸べてくれた仲間の為に。

 

 死にかけた自分を拾い、あらゆる事を叩き込んでくれた師の為に。

 

 

『ハァァァッ!!!』

 

『死ねやァァァァッ!!』

 

 

 白銀と純白の鎧騎士へと覚醒した二人の男は、目の前の男に勝つ為だけにその力を注ぎ込んでいた。

 

 

『ぐぅ!? ダァッ!!』

 

『グアッ!? っ……野郎!!!!』

 

 

 銀牙の称号を持つ騎士の双剣が切り裂けば、白夜の称号を持つ騎士の槍が薙ぎ払う。

 一進一退の攻防劇……。

 神器使いと聖剣使いを超越し、本来存在しない騎士へと覚醒した二人の少年の戦いは熾烈を極めた。

 

 

『くっ……ならば!』

 

 

 鎧の強度は互角、使い手の腕も互角。

 覚醒時期もほぼ同じな為、互いに有効打が無く鎧を叩く金属音と火花が駒王学園全体に広がる中、まず先に動いたのは祐斗だった。

 

 

双覇の聖魔剣(ソードオブ・ビストレイヤー)!』

 

『!?』

 

 競り合いから大きく後退して距離を取った祐斗が、持っていた二本の双剣を空高く放り投げ、自身の禁手に至った神器の名を叫ぶ。

 すると祐斗の目の前に蒼く輝く実態の無い剣が一つ出現し、その横に二本、四本と同じ形の剣が分身するかの如く増えていく。

 

 

『即興で作ってみた……。『百刀剣乱』――なんてね!!』

 

 

 次々と増える蒼剣。

 それはやがて百となり、祐斗の意思に呼応するかの如く切っ先が一斉に白夜騎士にへと襲いかかった。

 

 

『チッ! そんなもん喰らうかよ!!』

 

 

 しかし百の刃が襲い来るのを見た白夜騎士もまた負けじと、槍へと変化したジョワユーズの柄を撫で付け、全身に紫色の炎を纏うと、槍を盾の様に回してさせて全て弾き飛ばした。

 

 

『クヒャヒャヒャヒャ!! 烈火炎装――なんてな!!』

 

『っ……全くの互角か……ならば!!』

 

 

 どちらかが仕掛けても避けられ、どちらかが殴っても殴り返され。

 まさに互角。まさに一進一退。

 騎士へと覚醒した二人の少年の戦いはより苛烈さを増し、遂には鎧が解除されて生身に戻っても戦いの手を緩めることは無かった。

 

 

「オラァァァッ!!!!」

 

 

 フリードが祐斗の頬を殴り付ければ……。

 

 

「ウォォォォォッ!!!!」

 

 

 祐斗はフリードの腹部を力一杯殴り返す。

 

 

「ゆ、祐斗……」

 

 

 ベタ足インファイト。

 剣を、槍を手放しても尚止めない意地のぶつかり合いは、一番近くで見ていたゼノヴィアにとっても入る余地がないものとなっており、ただ祐斗の勝利を祈るだけだった。

 

 

「ぐはぁっ!」

 

「がふっ!」

 

 

 悪魔を祈る矛盾を今はただ忘れて……。

 

 

「ぐ……」

 

「うぎ……」

 

「祐斗!」

 

 

 互いの拳が頬を同時に打ち、同時に倒れるその時まで……。

 

 

 

 

 

 

 フリードが倒れた。

 これにより俺達は完全に敗けてしまった。

 

 安心院なじみの後継者である兵藤一誠……。

 油断したつもりも、慢心したつもりもなく全力で挑んだ結果俺は身を貫かれて負けた。

 

 …………。急所を奴が外して死にはしないとはいえ、セラフォルー・レヴィアタンが現れた今、俺とフリードに勝ちの目は無い。

 ふふ……たった一晩でここまで叩き落とされるとはな。

 

 しかし俺はこの敗けを決して恥はしない。

 安心院なじみ続き、兵藤一誠という存在を知れた事もそうだが、何よりフリードがあそこまで進化したのだ。

 これ程嬉しい事はない。

 

 

「さて、人間界を危機に陥れようとした罪。天界所有物の強奪とグレモリー領土への不法侵入……言えばキリが無い罪の数々を行ったアナタがどうなるか……わかるよね?」

 

「…………」

 

 

 だからこれから俺がどうなろうと構わん。

 戦争時代からあんまり変わってない珍妙な格好のセラフォルー・レヴィアタンにこのまま殺されても良い。

 アザゼル達が火消しとして俺を殺そうとも構わん。

 

 

『いや、ソイツの始末は待って貰えるかセラフォルー・レヴィアタン』

 

「!? …………誰?」

 

『堕天使総督・アザゼルから頼まれで来た者だよ』

 

(……………。フリードだけはどさくさ紛れに逃がすか)

 

 

 安心院なじみの後継者が兵藤一誠であるように、俺の夢の一部を継いだフリードだけは、こんなつまらん連中に殺させやしない。

 嫌味の様に青白く照らす月下に現れる、白い鎧を身に纏うアザゼルからの刺客に皆が目を引かれている間、俺は金髪の小僧と一緒にぶっ倒れているフリードに、俺が出来る最後の『事』を行うため静かに時を待った。

 

 

 

 

 

 少年はその日、落胆と歓喜を同時に噛み締めた。

 自身のライバルになる予定であった『赤龍帝』が呆気なく脱落してしまった。

 けれどその代わりに見たのは、間違いなく世界全体で最強ランクであり自力で『神を超越』した伝説の堕天使であるコカビエルを打ち倒した赤龍帝にソックリな少年の闘いを目にした事だ。

 

 

「初めましてと言っておこうか諸君。

俺はヴァーリ・ルシファー……『白龍皇』だ」

 

「っ!? ルシファー!? まさかキミは旧――」

 

「おっとセラフォルー・レヴィアタン。

確かに俺は旧魔王の血を遺憾ながら引いているけど、奴等とは関係ない。……人間とのハーフだしな」

 

 

 見ているだけしか出来ない事がこんなにも辛いと思ったことは無かった。

 コカビエルと兵藤一誠だけでは無く、其々の仲間も見たこと無い進化を見せたり、大きな力を持っていたのだ。

 暗い銀髪に蒼い瞳……人と悪魔の間に生まれた少年は闘うことが生き甲斐という生粋の戦闘狂であるが故に、この闘いに加われなかったのは苦痛だった。

 

 

「赤龍帝が再起不能となり、どうやら宿命の戦いは楽しめそうに無いが、その代わり良いものを見せて貰ったよ……兵藤一誠くん?」

 

「………。なるほど、盗み見していたという訳か。

用件は―――――コカビエルの後始末か?」

 

「御名答。

本来なら俺が戦って始末を付けるつもりだったんだが……悔しいことに自力で聖書の神を越え、二天龍をも単騎で凌ぐと言われている伝説の堕天使に俺はまだ勝てないからな。

不本意ながら弱ったところを見計らっていた訳だ」

 

「………。アザゼルの所の白龍皇小僧か。

以前に1度だけ見たが……」

 

 

 出来ることなら今すぐにでも兵藤一誠と戦ってみたい。

 年の変わらない純人間が神越えを果たしたコカビエルを打ち倒したその強さを直接知りたい。

 戦闘狂少年・ヴァーリ君は涌き出る闘いへの欲求を押さえ付けながら目を細めて宙へ制止する自分を見上げている一誠に不敵な笑みを浮かべながら、彼を取り巻く仲間達もまた――強者とますますワクワクしてしまう。

 

 

「アザゼルからの命令だコカビエル。

アンタを拘束して最下層に送るらしい……俺としては実に残念な話だよ。アンタとは戦ってみたかったからな」

 

「…………………。俺だけか?」

 

「? あぁ、そこで白夜騎士と聞いたことも無い存在に進化した人間の事を気にしているのか?

さぁな……俺が言われたのはアンタの拘束だけであって、あの人間の事は特に何にも言われていない。

まあ、天界連中が許すとは思えないし、このまま平和な人生を送れる事は無いんじゃないか?」

 

「……………」

 

 

 胸に風穴を開けたまま、ヴァーリの言葉に少しだけ視線を落とすコカビエル。

 今はまだ気絶しているが、このまま自分が黙ってヴァーリに付いていって『地獄の最下層(コキュートス)』送りになった場合、フリードなら何をしてでも自分の元へと来てしまうかもしれない。

 そうなれば確実にフリードは殺される。

 

 短い間しか居なかったが、確実にフリードを種族を越えた一人の男として信頼していたコカビエルにとっては死んで欲しいとは思わなかった。

 

 

「………。万が一の時は、フリードの事を頼めるか? 兵藤一誠……」

 

「なに?」

 

「今の俺には貴様しか頼れる者が居ない。

恐らくフリードは俺を恨むだろうが……ふっ、俺はアイツに死んで欲しくないからな」

 

「………。お前」

 

 

 ならばどうする? 答えは決まっている。

 自分を打ち負かせた男……少なくともこの中では信じれる男である兵藤一誠にフリードを託すことだった。

 

 

「アイツはまだまだ強くなる。

俺が成し遂げられなかった夢をアイツなら叶えられる。

だから――――頼む」

 

 

 敵である一誠に頭を下げてまで懇願したコカビエルは、小さくそれだけを言ってヨロヨロと立ち上がると、上空から見下ろすヴァーリに向かって大きく言った。

 

 

「良いだろう小僧! 戦いたいのであれば――望み通りにしてやる!!」

 

「……!? ククッ……来るか……!」

 

 

 安心院なじみとの再会とリベンジは出来なかった。

 けれどこの戦いで得たもの……フリードの成長を目に出来ただけでも満足であり、自分の蒔いた種を片付ければフリードはきっと助かる。

 であれば喜んでこの命を捨ててやる。暴れて……暴れて、暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて! この命を派手に咲かせてみせる。

 

 

「弱った程度で、小僧ごときが俺を捕まれられると思うなよ!!」

 

 

 漆黒の翼を広げ、堕天使コカビエルは飛翔する。

 

 

「くっ!?」

 

「フハハハァ!! どうした小僧、白龍皇の力はそんなものかぁ!!!」

 

「がっ!? ま、まだそんな力が……!!」

 

 

 兵藤誠八が纏う赤き鎧と同じように、禁手化により進化していた白い鎧を纏うヴァーリ・ルシファー少年を殴り付けたコカビエルは、口からどす黒い血を吐きながら嗤っていた。

 一誠によって致命傷を負わされた身でありながら、その力はヴァーリの予想を遥かに越えており、顔に速く重い一撃を喰らい、盛大に地面に叩き付けられたヴァーリは、即座に起き上がって反撃に出る。

 

 

「ぐふっ!?」

 

「死にかけの男一人殺れない程、俺は弱くはないぞ!」

 

「……………。ニヤリ」

 

「っ!? ガハッ!?」

 

 

 力を半減させる白い龍の力を使い、コカビエルの一撃を半減させながら一撃を見舞うも、歪んだ笑みを見せながら尚も即反撃してくるコカビエル。

 

 

「クックックッその程度か小僧ォ……?

これならアザゼル本人が来るべきだったなぁ……!」

 

「っ……こ、この……言わせておけば!!」

 

 

 半減させても重い一撃。

 弱った死に体とは思えない強い力。

 漆黒の髪が『真っ赤に染め上がってる』様に見えるほどの気迫を見せながら鎧姿のヴァーリの肉体を殴り付けるコカビエルはまさに鬼神を思わせる迫力があった。

 

 

「腰を入れて殴れ!! そんなものでは虫も殺せんぞ小僧!」

 

「グハァッ!?」

 

 

 

 殴り、殴られは続き、それはやがてコカビエルの一方的な攻撃へとなっていく。

 誰が予想したか。

 胸に風穴を開け、血ヘドを吐いている男が白龍皇を一方的に殴り付けながら嗤っているのだ。

 

 

「………。レイヴェルは気付いてるか?

アイツ、俺が苦労してモノにした乱神モードを……」

 

「はい……。

悔しいですが安心院さんが目を掛けていただけの男ですわね」

 

「ふふっ……俺とコカビエルを戦わせる事がアイツの目的だとすれば、俺達はとことんアイツの掌の上だな」

 

  

 一誠とレイヴェルは死に体となっていた筈のコカビエルが進化している様を見て、この場には居ない人外を思い。

 

 

「す、すっげぇ……。あんなボロボロなのに白龍皇を殴り付けてる」

 

「ど、どうしよう……」

 

「アイツも大概化け物だにゃ」

 

「………」

 

 

 元士郎達もコカビエルの異常なしぶとさにただただ感心する。

 それ程までにコカビエルの力は異常な進化を見せているのだ。

 

 

「小僧……どうやらお前もまだまだ強くなる様だ。

だから強くなれ……俺にやられて悔しくば強くなって俺を殺しに来い! それまで俺は泥を啜っても生きてやる」

 

「ぐ……く……」

 

 

 禁手化が解かれ、銀髪の少年へと戻ったヴァーリはトドメに貰った拳骨により地面に叩き付けられた状態で、血塗れで立つコカビエルを睨み……そして意識を手放した。

 しかし……負けた事により心の奥底で何かが芽生えたのはヴァーリ少年のみぞ知るものであり、今はただ意識を失うのであった。

 

 

「ごほっ……チッ、傷口が開いたか」

 

 

 ヴァーリ少年を下したコカビエルは、胸元から止めどなく流れ出る失血の量により視界を掠めながらも、ギョロりと元士郎―――――の横に然り気無く立っていたセラフォルーへと向く。

 

 

「どうする……次は貴様が来るか?」

 

「…………。そうしたいけど……此処で戦ったらまた無駄な被害が増えるしお互いに只では済まなくなる。

だから今はただアナタが去ることをお願いしたい……かな」

 

「……。クックックッ、そうか……悔しいがこのザマでは兵藤一誠にリベンジなぞ出来んからな。

傷を癒し、フリードと共に鍛え直させて貰おう……か」

 

 

 被害の拡大を防ぐため、この場を見逃すと言外に言ったセラフォルーに内心『このままやったらまず死んでたな』と、フリードを守る事しか考えてなかったコカビエルは内心ホッとすると、倒れていたフリードの元へと向かい、その身を抱えながら無言で静観していた一誠に小さく口を開いた。

 

 

「次は勝つ……」

 

「……。ああ」

 

 

 それは好敵手と互いに認めたが故なのか。

 ただ一言だけ言葉を交わした一誠とコカビエルはフッと笑みを見せ合い、それ以上はなにも語る事はしなかった。

 

 

「ぐ……ぅ……ぼ、ぼす……?」

 

「フリード……か。済まん……偉そうな事をお前に言っておきながら俺は負けた。

負けたばかりか敵に情けまで掛けられてしまった。

今回は俺達の大敗だ……一からやり直しだフリード」

 

「へ、へへ……あぁ……今度こそぶっ潰してやるぜ……」

 

 

 傷だらけの堕天使は満月の空を飛翔し、去っていった。

 リベンジを誓い……更なる領域を求めて。

 

 

 

 

 

 

 さてと……コカビエルは去ったが、やることはまだ残っている。

 白龍皇とやらの男はコカビエルが去った後に意識を取り戻し、何やら悔しさと歓喜入り交じった顔をしながら去っていったが、セラフォルー・レヴィアタンはまだ残っており俺達と一緒に後始末をしている。

 

 

「…………。幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

 

 荒れ果てた校庭を幻実逃否で否定して元に戻し。

 

 

「暴れられては困るからな……手足と力は一時的に否定させて貰ったぞ兄貴」

 

「くっ!? て、テメェ! ふざけるな!! 戻せ!! その訳の解んねー力で戻せよ!!」

 

「……。この馬鹿は自分の立場を解ってないのか?」

 

「知りませんわ。バカに付ける薬は無い……そういう事でしょう」

 

 

 取り敢えず手足と力を消した状態で死にかけの兄貴を元に戻して縛り付け。

 

 

「この裏切り者!」

 

「覚えてなさいよ……! 絶対に後悔させてあげるわ……!」

 

「リアス部長……」

 

「…………。これでは祐斗達が尻拭いした甲斐も何も無いな」

 

「ゼノヴィア! どうしてソイツ等に肩入れを――」

 

「お互い様だろうイリナ。

それにお前とは違って私の身はまだ純潔のままだ。寧ろお前は越えてはならない領域を越えすぎだ」

 

 

 しかしまあ……ゼノヴィアの言う通りだな。

 別に感謝されたくも正直無いが、こうも恨まれると結果的に助け船を出した甲斐をまったく感じない。

 どれもこれも魔王のセラフォルー・レヴィアタンの無言な威圧をガン無視して祐斗と元士郎と白音を裏切り者呼ばわりするわ、俺に殺意の目を向けるし。

 

 まあ、わからんでもないが。

 

 

 

「静かにして」

 

『……っ!?』

 

 

 まぁでも、こ奴等悪魔の長の一人がこうして黙れと言えば黙らないわけにもいかないんだがな。

 

 

「セ、セラフォルーまで何でコイツ等に―――ギイッ!?」

 

「キミごときに気安く名前で呼ばれたくは無いなー?」

 

 

 ………。それにしても兄貴ってのはこうしてまともに観察してると、随分と地雷を踏むというか……。

 セラフォルー・レヴィアタンに腹から下を凍らされてらぁ。

 

 

「セ、セーヤくんに乱暴しないでくださいお姉様!」

 

「そ、そうですよ! お言葉ですが、私達はまだセラフォルー様のお話に納得できてません!」

 

「吠えたければ吠えれば良いよ。サーゼクスちゃんも同意してるから君達は逃げられないし」

 

『っ!?』

 

 

 セラフォルー・レヴィアタンは軽い性格……とレイヴェルが言ってたが、少なくとも今の彼女からは微塵もそんな気配は感じず、ただただ能面の様な表情で縛り付けた兄貴と兄貴シンパ達を見つめている。

 

 紫藤イリナもこの分じゃあ教会に戻った所でどうなるかわからんし……お先真っ暗とはまさにこの事だな―――――まあ、俺は絶対に助けないが。

 

 

「兄貴――いや、兵藤誠八。アンタが女好きなのは解ってたが少しやり過ぎたな」

 

「だ、黙れ! テメーさえ居なければ俺は黒歌と白音とレイヴェルも俺のモノに……!」

 

 

 ………………。おい、これキレてぶん殴っていいのか? この期に及んでまだ――

 

 

 

「全力で気持ち悪いので止めて貰えますか?」

 

「カスごときに見られるだけでこんなにも身の危険を感じるとは……性犯罪者の才能だけは認めてあげますわ」

 

「どう足掻いても私はイッセーにしか興味が無いにゃん。だからキミの洗脳も受け付けないにゃん。残念だったね?」

 

 

 嫌悪感丸出しな顔をして拒否する三人に兵藤誠八はこれでもかと顔を歪め、そしてまた俺に殺意を向ける。

 いや、悪いけど死んでもレイヴェル達は貴様に渡さんよ。そうなったら裁判の前に貴様を直接八つ裂きにするというか――あんだけ洗脳しておきながらまだ足りないのか。

 

 仕方ない、こういう行為はあまり誉められんが……。

 

 

「レイヴェル、黒歌、白音……俺にくっつけ……」

 

「はい♪」

 

「喜んで」

 

「わーい♪」

 

「!?」

 

「……。貴様の言い方を借りるなら……この三人は死んでも貴様の元には行かさん。

それでも尚しつこいようなら俺は貴様を殺す」

 

 

 嫌味っぽく三人にくっついて貰いながら、俺は兵藤誠八に脅しを掛けた。

 奴の性格上、これでホイホイ諦めるとは思えないが……心を少し折れただけでも充分だ。

 

 

「まあ、女とプロレスごっこ出来る機会が貴様にこの先あるかは知らんがな」

 

「て、テメェ……!」

 

「悔しいか? ふっ、貴様にかつて両親や初恋の女の子を奪われた挙げ句追い出された俺もそんな心境だったよ」

 

 

 昔の借りを少し返せた……それだけでも俺の心は満たされるんだからな。

 

 

 

 

 

 兵藤誠八……以下グレモリー眷属とシトリー眷属は力を封じられた状態でセラフォルーにより一旦冥界の独房に送られた。

 その際最後まで一誠に憎悪の言葉を吐き散らしていたが、最初から眼中にも無かった一誠はそれらの殺意の全てをことごくスルーし、荒れ果てた駒王学園の後片付け――そして。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)……祐斗とゼノヴィアが聖剣を破壊した現実を否定する」

 

 

 一旦破壊した聖剣も元に戻し、ゼノヴィアに返還する事で事態の八割は終息した……のだが。

 

 

「……。フリード・セルゼンが言っていたが、本当に神は死んでいたのか?」

 

 

 別件問題が――ゼノヴィアにとってはこれまでの人生を否定されかねない事実を先の戦いで知らされおり、その事実の有無を『何故かまた戻ってきたセラフォルー』に問い詰めていた。

 

 

「……。コカビエルがフリードって子に多分教えたんだね。

うん……キミにとって残念な話だけど、キミ達が信仰していた神はとっくに死に、今は天界のミカエルって天使が作った神のシステムで補ってる」

 

 

 それに対してセラフォルーは静かに頷き、ゼノヴィアに事の真相を丁寧に説明した。

 だがその非情なる現実はゼノヴィアの精神を大きく削り取るのに充分であり、セラフォルーの説明を終えた頃には、虚ろな瞳でその場に崩れ落ちていた。

 

 

「は、はは……じゃあ私はそのシステムとやらの為に命を張っていたのか。

あは、あははは……道化じゃないか……」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

 

 何のために生きていたのか。

 神を信じてこれまで生きてきたのに、その神はとっくの昔に死に、張りぼてとなっていた。

 聖剣奪還も神を信じていたからこそやったのに……これでは……。

 

 

「ゼノヴィアには悪いが、俺は最初(ハナ)っから神なぞ信じちゃ居なかったよ。

というか、自分がやって来た事を何でもかんでも神に結び付けたくないから信じてないだけだが」

 

「…………」

 

「とはいえ、信じてきた貴様にしてみればショックだろう。

だがどうするんだ? 貴様と一緒に頑張ってくれた祐斗をも貴様は否定するのか?」

 

「そ……それは……」

 

「え、ぼ、僕は別にゼノヴィアさんの足ばっかり引っ張ってただけだし……」

 

 

 一誠のそこそこ冷たい言い方に、虚ろな目でアタフタしている祐斗を見るゼノヴィア。

 神は死んでいた……が、今回の聖剣奪還で得たものは神なぞ関係ないものだった。

 

 心の整理はまだまだ無理だが、自分の目の前で見たこともない綺麗な鎧騎士となって戦った男との妙ちくりんなやり取りは……楽しかった。

 

 

「……。ゼノヴィアさん。

僕は寧ろ神を憎んでいた立場だから何も言えないけど、僕はキミと知り合えてよかったと――」

 

「……。国に戻る。

奪還した聖剣を納めにな」

 

「あ……う、うん」

 

「あと次いでに……教会を辞めてくる」

 

「う、うん…………………うん?」

 

「辞めて……そうだな、私を胸を思いきり掴んでくれたお前に衣食住の保証をして貰おう。うん、そうしよう」

 

「…………………え、えっ?」

 

 

 楽しかったからこそ。知ってしまったからこそゼノヴィアは自由になる決意をした。

 目を丸くしてる男にまだ返せてない借りを返す為に……。

 

 

「責任取れよ?」

 

「あ、は、はい……」

 

 

 

 

 終わってみれば全然成長してないのは自分だけ。

 元主達を無傷で無力化したという結果を残したというのに、元士郎は特に祐斗とフリードが見せた神器とは違う覚醒を目の当たりにして少し羨ましいと思っていた。

 

 

(銀牙騎士と白夜騎士……か。それに加えて俺は弱くなっちまった元主を無力化しただけ)

 

 

 周りの進化が異常なだけであり、元士郎もまた成長をしている。

 けれどああも華やかな姿を見せられてしまえば焦りを感じてしまうのは仕方無い話であり、現に元士郎は一人目を伏せていた。

 

 

「あ、あの……」

 

「あ?」

 

 

 そんな元士郎に声を掛けるのは、さっきから妙に距離の近い元主の姉であり魔王でもあるセラフォルー・レヴィアタン。

 妹に関して迷惑を掛けた罪悪感と、自分に対して一切の物怖じ無しに罵る態度が気になる彼女の遠慮じかちな声に元士郎は露骨に嫌そうな顔をしながら距離を離す。

 

 

「アンタまだ居たのか……。もう帰れば?」

 

 

 好きだった元主の面影ありまくりなセラフォルーの申し訳無さそうな態度が気に食わない元士郎は、知り合いとなってからもつっけんどんな態度なのだが、セラフォルーは特にそこら辺に怒る事は無かった。

 

 

「い、いやー……元士郎くんが気になっちゃって戻ってきちゃった♪」

 

「あっそう。俺は別にアンタを気にしてないからとっとと消えろ。

愛しの妹のケアでもしてれば良いんじゃないでしょうか?」

 

 

 冷たい態度の元士郎を気にする様子もなく、然り気無く距離を詰めてくるセラフォルーに舌打ちをしてしまう。

 シスコン魔王なんだからとっとと消えれば良いのに……そう思うも彼女は何故か自分に構ってくる。

 それが元士郎を余計に苛立たせるのだが……。

 

 

「勿論冥界に帰ったらするよ? でも……でも私決めたんだ」

 

「何を……ち、近い!! わざわざ近付くな!!」

 

 

 セラフォルーは後退りする元士郎の腕を、華奢な見た目を裏切る勢いで掴み、狼狽える彼にぴっとりと身を寄せると、ニッコリしながらこう言う。

 

 

「あのね? 元士郎くんを見てるとどうしても放って置けない。私に物怖じしないで……いっそヤケクソになってるアナタがどうしても気になっちゃう。

だから、ソーナちゃんの件とか関係なくキミを――」

 

 

 

 腕を掴み、身体をみっちゃくさせ、体勢を崩して仰向けにひっくり返った元士郎の上に覆い被さるように絡み付き、頬を染めながら彼の耳朶を甘噛みするセラフォルー

 

 

「て、テメッ!? いきなり何――ど、どこ噛んで……あ、あぁ……!」

 

「えへ、キミが欲しい……と言ったら怒る?」

 

 

 それは初めてにも近い気持ちなのかもしれない。

 自分を一切恐れない。自分のやることに平然と駄目だしする。

 そんな年下の男の子に変な保護欲を抱いたセラフォルーは悪魔らしく狼狽えまくる元士郎の身体をまさぐりながら求愛行動をしたのだ。

 

 

「ざ、ざけんなゴラ! 誰がテメーみてーな――――ぶっ!?」

 

 

 当然ソーナの件があってセラフォルーを信用してない元士郎は『どうせ嘘だ』と決めつけて暴れながら拒絶しようとしたが、最後まで台詞を言う前にドバッとギャグ漫画の様な鼻血を出してしまった。

 

 

「えへ……♪

サーゼクスちゃんを止めるのを止めて、元士郎くんに会うために、お着替えした時に履かなかったんだけど――ね、本当だったでしょ?」

 

「お……お……ば、馬鹿かテメェ!? そ、そんなもん……」

 

 

 頬を上気させながら自分に馬乗りしているセラフォルーのコスプレまがいな衣装のスカートが夜風の悪戯により捲れ……露になった何かを見てしまったが故。

 

 チェリーボーイ元士郎くんは盛大に鼻血を出してしまったのだ。

 

 

「…………。魔王様から姉様と同じ気配がします」

 

「……。言いたくないですが、痴女っぽさが特にですわ」

 

 

 そんなやり取りを生暖かい目をして見ていた白音とレイヴェルは黒歌に通ずるものを感じており、言われた本人である黒歌は心外だとばかりに声をあげた。

 

 

「にゃ!? 私はあんな変な格好なんてしないにゃん!! 確かにあの魔王と同じで履いてないけど!」

 

「それはツッコミを入れて欲しい―――いっ!?」

 

 プンスカと憤慨しつつ、壮絶なカミングアウトをする黒歌に一誠は何とも言えない顔になるが、直後に例のすり抜けスキンシップを開始され、元士郎の様に動けなくなってしまった。

 

 

「えへ、イッセーと何処でも交尾するんだもん。履かなくたって良いもんね~」

 

 

 等と宣いながら頬を上気させながら一誠の背中に抱き付き、セラフォルーと同じように耳朶を噛み、もぞもぞと身体をまさぐる黒歌に一誠は情けない悲鳴をあげてしまう。

 

 

「あぁん♪ イッセー……いっせぇ……! お腹が熱いよぉ……切ないよぉ……早く私をめちゃめちゃにしてぇ……♪」

 

「な、やめ……く、くそ……! スキルが無駄に凄いせいで干渉が……はひ!?」

 

「この雌猫ォォォ!!! なにさらしとんじゃぁぁぁ!!」

 

「………。殴りたい。我が姉ながらぶん殴りたい……」

 

 

 

「元気だなアイツ等」

 

「あ、あはは……賑やかで僕は好きだな」

 

 

 駒王学園の夜は更けていく。

 

 

 




補足

セラフォルーさん……もう殆どストーカー化してた。

ヤサグレた匙きゅんの態度を真正面から受けた結果、母性本能をコチョコチョされたセラフォルーさんは取り敢えず履かずに会いに行った。

ね、可愛いでしょ?(棒)


その2
これ補足じゃないですが、IFでやらかしてた分、次回は露骨なイチャコラ回……かも。


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閑話・色々な愛情その1

閑話ですね。

基本的に砂糖回……でありたい。


 物凄く長く感じた夜は終わった。

 コカビエルから学園を守り、兄貴達はやり過ぎたせいで冥界に強制送還させられ、紫藤イリナはゼノヴィアに連れられて教会に戻った。

 

 が、これで終わりではない。

 あれだけ各々が派手にやらかしたのだ。

 その後始末はまだ完全に終わってる筈も無く、近々兄貴達の裁判が先ずは執り行われる。

 

 それによって兄貴達がどうなろうとしったことではないが、聖剣事件に茶茶入れをした俺達もまた裁判とやらに出席しないといけないらしい。主に証人的な意味で。

 

 それは別に良いのだが、その裁判にサーゼクス・ルシファーも出席する話を聞いた時は若干ゲンナリした気がするのは果たして気のせいなのか。

 

 あの男……ガキの頃から顔見知りではあるが、なじみに執着し過ぎで、俺達に対して露骨な態度を示してくるんだよな。

 何がとは言わんが。

 

 いやまぁ……それもどうでも良いか。サーゼクス・ルシファーに何言われてもどうとも思わんし。

 そんな事より今日のこの休日を……つーか色々な意味で久しぶりなる休日をまったりのんびり過ごす事が大切なのだ。

 

 

 

 

「何故か本当に久し振りに感じるな、お前とこうして休日をまったりするのは」

 

「白音さんや淫乱黒歌さんが最近は邪魔ばかりしてましたからね。そう思うのも仕方無いかと……」

 

「邪魔って……」

 

 

 コカビエルとの戦いが終わってからの休日。

 誠八達のイザコザがまだ片付いてないものの、目下の驚異は去ったという事で久し振りにも感じるまったりした時間を、これまた久し振りにレイヴェルと二人きりで自宅にて過ごしている一誠。

 

 白音と黒歌が珍しく来ないという状況も珍しく、ただただのんびりとした時間を過ごしていく二人は――

 

 

「レイヴェル~ 膝枕してくれ~」

 

「あら、今日の一誠様は久し振りに甘えん坊さんですね……うふふ」

 

 

 ナチュラルにイチャ付いていた。

 

 

「コカビエルに勝ったご褒美が物足りなくてな……嫌なら止めるけど」

 

「まさか。一誠様がお望みならレイヴェルは喜んで受け止めますわ」

 

 

 今更ながら、基本的に一誠はこんな感じだ。

 自分を『レイヴェルが傍に居てこそ』とまで考えてるくらいだ。

 

 それは致命的な弱点とも言うべき危うさも孕んでおり、もしもレイヴェルが一誠の傍らから消えてしまった場合――――どうなるかはお察しである。

 

 

「やっぱりお前が傍に居ないと駄目だな俺は。自分でもよーく解るよ」

 

「それでは駄目ですよ――と本当なら私が一誠様にご注意すべき立場なのですが、私も駄目な事に、一誠様のそのお言葉が何よりも嬉しい……」

 

 

 何時だって一緒だった。

 一誠がフェニックス家に安心院なじみによって連れて来られてからずっと一緒だった。

 奪われ、喪い……それでも尚グレずに進化への道を走るその背に憧れ、追い掛け、何時しか恋心を抱いたレイヴェルからすれば、一誠から甘えられるという事自体が幸せ。

 

 満足そうな表情で膝に頭を乗せる一誠を撫でると心が暖かく、満たされていく。

 白音と黒歌には悪いが、一誠が甘えてくるのは自分だけという自負がある限り、勝手に一誠を誘惑する行為に憤慨することはあれど負ける気はしない。

 

 

「~♪」

 

「きゃ……!? も、もう一誠様ったら……」

 

 

 だって一誠がこんなにも子供っぽく甘えるのは自分だけだから。

 膝枕をしていた一誠に倒され、抱き枕が如く抱き着かれたレイヴェルはトクントクンと自分の心臓がくすぐったくも心地好く鼓動しているのを感じながら、抱き着く一誠の身を優しく抱き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 皆さんは誤解をされてますが、一誠様は決して完璧で完全な方ではございません。

 ご自身でも『独りじゃどうしようもなく駄目人間になる』とおっしゃる通り、一誠様は周期的に誰かに甘えたくなる時があります。

 それを受け止めるのは当然私だけであり、白音さんや黒歌さんに渡すつもりは微塵もありません。

 

 

「…………。どうも、何故かは知らないがレイヴェルにこうしてないと不安になる」

 

「不安? それは何故……?」

 

「いや、夢というか何というか……レイヴェルが兄貴に奪い取られた的なビジョンがコカビエルとの戦いの時に浮かんでな……」

 

 

 膝枕から抱き枕になり、ご成長されて逞しくなられた一誠様に抱き締められて色々とキュンキュンしていたりする私に一誠様は少しだけ弱々しいお声で、私があの兵藤誠八なんぞに行ってしまうという話をされた。

 

 

「それはまた……あまりに気分の良いお話ではありませんね」

 

「いや、勿論お前がそんな訳がないのは解ってるぞ?」

 

 

 あり得ません。

 一誠様以外の殿方なぞ眼中に無い私が兵藤誠八なんて……想像しただけで舌を噛みきってしまいたくなる。

 一誠様だけ……私は一誠様専用なのだ。

 

 

「そんな事は忘れてくださいな一誠様。

レイヴェルは一誠様だけの女ですから……」

 

 

 だから今日の一誠様は何時にも増してスキンシップが激しいのか。

 嬉しい反面、ちょっとだけ複雑な気分になってしまう。

 

 

「わかってるよ。変な事言ってごめん」

 

 

 一誠様が大好き。

 好き、好き……どうしようもなく大好き。

 

 一誠様に抱き締められると、黒歌さんじゃありませんがお腹が熱くなる。

 

 

「ん……んっ……一誠様……。私は一誠様だけのモノです。キスだって一誠様としかしません。

この身の全てもも一誠様だけにしか見せません、触れさせません……」

 

「っ……お、おう。

解ったけど……あー……レイヴェルとキスしたのって何年振りだっけ? やっぱりいいなー……」

 

 

 

 

 

 

 冥界・ルシファー領。

 名の通り、ルシファーの称号を継ぐ魔王・サーゼクスのテリトリーであるのだが……。

 

 

「さてと……。セラフォルーから聞いたけど、随分とやらかしてくれたみたいだね」

 

「っ……お、お兄様……」

 

 

 只今サーゼクス・ルシファーは、先日の事件で大失態をやらかした妹のリアスを、隠していた本性をほぼ見せてる形の『肉親すらどうでも良い』といった目と表情で、震える下僕達共々を見据えながら冷たく言い放つ。

 

 

「兵士の――ええっと、何だっけ? 兵藤誠八だっけ?

その子と複数の女達に混じって随分とやっていたみたいだし、先ずは彼と関係を持ってる皆には検査をして貰うよ。身籠ったかどうかのね」

 

 

 人生・安心院なじみ一番。

 いっそ清々しく安心院なじみという存在に狂っていたサーゼクスにとって、肉親が何処ぞの転生悪魔と関係を持ってようが知ったことでは無かった。

 

 けれど、よりにもよって目の前で震えて下を向いている妹以下兵藤誠八と関係を持った者達は、安心院なじみが現在最も接触しているフェニックス家の令嬢と、安心院なじみの後継者とすら言われている少年の邪魔ばかりをしてきた。

 

 後継者の少年とフェニックス家に胡麻を摩り、安心院なじみに少しでも近付きたかったサーゼクスからすれば『余計な真似をしてくれたバカども』としか認識して居なかった。

 

 故に非情。

 サーゼクスは殺意すら入り交じる威圧感を年若い妹達に向けながら、これまで見逃してきた蛮行についての処罰を口にした。

 

 

「詳しくは後になるけど、もうこれまでと同じような生活が出来るとは思わないことだ。覚悟しといてね」

 

『…………』

 

 

 安心院なじみ大信者が故。

 安心院なじみとの接触機会を邪魔されたが故。

 

 実に自分本意ではあり皮肉ではあるものの、今のサーゼクス・ルシファーは実に『魔王』らしかった。

 

 

「そ、そんな……私は悪くないのに……」

 

「そう思いたければそう思えば良いよ。思った所でキミ達はもうどうにもならないからね」

 

 

 僕の夢の邪魔をする奴は例え肉親だろうと容赦はしない。

 サーゼクス・ルシファーは死んでもブレない男だった。

 

 

 

 

 ハァ……本当に嫌になるよ。

 あれ程リアス達に余計な真似をするなと言ったのに、あの赤龍帝だか何だかの子供に呆気なく毒されてしまうなんてね。

 おかげで僕は更に安心院さんから遠退いてしまうし……ちくしょう。

 

 

「サーゼクス様……その……」

 

「……。なに?」

 

 

 兵藤一誠くんによって力を封印され、連行されたリアス達を独房にねじ込む様命じた後。

 僕は遠退いてしまった安心院さんとの距離をどう縮めるかだけを考えながら自室に籠っていると、来いなんて言ってもないのに形だけの妻であるグレイフィアが、何か言いたげな顔をしてやって来た。

 

 とっとと滅ぼして置くべきだった旧魔王派からの人質だか何だかで僕に宛がわれた彼女も、まぁ同情してあげないこともないしさっさと離婚してしまいたいのだが、口だけの小うるさい連中のせいでそれすら儘ならないし、最悪な事に子供まで作らされた。

 

 全く……僕の人生には邪魔者ばかりだよ。

 

 

「本当にあの様な処分をなさるのですか? 聞けば赤龍帝の兵士に洗脳されて――」

 

 

 まあ、何も知らない子供に八つ当たりする程僕も腐っちゃ居ないからあの子には必要最低限の親としての努めは果たすけどさ。

 

 

「されたから何? 洗脳されたから人間界を危機に陥れても仕方無いと?」

 

 

 で、わざわざ何をしに来たのかと思えば……どうにもグレイフィアはリアス達の処分に文句があるらしい。

 ……。どいつもこいつも……あぁ、そうか。

 

 

「まさかキミも兵藤誠八に惚れたのかい? はっはっはっこりゃ傑作だね!」

 

「なっ……!」

 

「まあ、お互いにゴチャゴチャしたくだらない理由で一緒にさせられた訳だし、当然愛情なんでものは皆無。当然と言えば当然かな?」

 

 

 別にどうでも良いし、返って都合の良い話だというかそうであって欲しい。

 もし安心院さんの言ってた通りの洗脳を彼女がされてたんであれば、それを理由にさっさと離婚――――

 

 

「ふざけないでください!!

私はそんな気持ちを抱いてる訳ではありません!」

 

 

 ………と思ったら違うらしく、珍しく激昂されてしまった。

 

 

「キミにしては珍しく取り乱したな。例えられるのも嫌だったのかい?」

 

「あ、当たり前です。私はアナタの――」

 

「『妻です』ってかい? ふん、ふざけた理由で一緒になった事にキミだって嫌がっていたじゃないか」

 

「っ――そ、それは昔の……」

 

「もう良いから、早いところ出ていってくれ。

何を言われようとリアス達の処分が軽くなることなんて無い。身内贔屓もしないよ」

 

 

 そもそもかつては殺し合った様な仲なんだ。

 それを偶々殺さずに置いたってだけで意味不明な結婚相手にされた挙げ句……チッ、思い出すだけで腹が立つ。

 

 

「ま、また安心院さんという方を考えているのですか?」

 

「だったら何? キミには関係ないだろ?」

 

 

 いっそこの処分大会が終わったら魔王の地位を返還してしまおうか。

 そうなれば僕は自由となり、安心院さんを追えるし、彼女の為じゃあ決してないが、グレイフィアも自由になれるだろうしね。

 ミリキャスは僕が引き取っても良いさ……。

 

 

 まあ、ミリキャスが僕を好いてるとは思えないけどね。

 

 

 

 

 

 サーゼクス・グレモリーの本心は何時だって――それこそ肉親に対してすら無関心。

 故に私との結婚は今でも死ぬほど嫌がっているし、現在もその安心院さんという知らない人に拘り続けている。

 特に先日の堕天使コカビエルの件では、何故かコカビエルに対して嫉妬にも感じるな感情を剥き出しにして暴れており、ますます私には安心院なじみという存在が気になってしまうのだが……。

 

 

「誰なのよ……その女」

 

 

 平行して……かつて私を『見下す』かの如く捻り潰した気にくわないサーゼクス・グレモリーをそこまで拘らせる安心院なじみに、月日が経つに連れて『嫉妬』する様になった。

 

 周りに圧される形で一緒にさせられた当初は隙あらば殺そうとすら思っていたムカつく男だったのに。

 見た事もない女らしき幻影に何時までも拘ってる情けない男だっていうのに……。

 

 ミリキャスが生まれてから私は徐々に――

 

 

「いっそミリキャスにも冷たく接してくれれば本気で嫌いになれたのに……どうしてアナタは――」

 

 

 周りからの圧力でサーゼクスに強烈な媚薬を仕込んで『寝込み』を襲って子を成した時から。

 身籠った子が無事に生まれた時に見てしまったサーゼクスの別の面のせいで私は殺意すら抱けなくなってしまった。

 というのもだ……私に無理矢理襲われてデキた子供だというのに、サーゼクスはミリキャスに対してだけは八つ当たりもせず、いっそ父親らしくちゃんと接しているのだ。

 

 遊んでもあげる。

 勉学も見てあげる。

 

 安心院なじみ以外に興味なしな男が見せる、若干ぶっきらぼうな態度にミリキャスはちゃんと父親として慕っている。

 

 

『……。キミは嫌いだけど、それをミリキャスに八つ当たりするつもりは無い。

だから最低限の親としての責任は果たすよ……チッ』

 

 

 私に寝込みを襲われたのが屈辱なのか、それでも私を殺すことなく生まれた我が子にちゃんと父親らしい真似をしてる――そのせいで私は本気で憎めなくなりつつある……いや憎めなくなり、それと同時に私は初めてこの男を取り巻く安心院なじみなる女に対して嫉妬を覚えた。

 

 

「ミリキャス」

 

「はい! どうかしたのお母さん? お父さんは?」

 

「お父さんは今お仕事で忙しいの。だから――」

 

「うん! ちゃんとお勉強してお父さんに誉めて貰う為に頑張ります!」

 

「偉いわ……ふふ」

 

 

 どうして。

 この子にも冷たくしたら殺意だって甦るのに、アナタはこの子にだけは優しいのか。

 中途半端に優しいから私は――

 

 

 

 

 憎しみは月日を追う事に変質する。

 最初は人質としてサーゼクスに嫁がされたグレイフィアだったが、その殺意は子を成し、子に対するサーゼクスの接し方を見てしまったが故に霞んでしまった。

 

 本心は親だろうが妹だろうが冷徹なのに、無理矢理作らされた我が子だけにはそれを見せない。

 子に罪は無いと厳しくも優しく接する姿にグレイフィアは意外性を感じ、それはやがて『少しでも良いから自分にも……』という気持ちを芽生えさせてしまったのだ。

 

 

「サーゼクス……」

 

 

 そんな気持ちを抱いてしまった。

 あれほど憎んだ男に対して芽生えてしまった気持ちにグレイフィアは戸惑い、そのせいで1度兵藤誠八に心を塗り替えられそうになったが、その経験がグレイフィアの精神をより強固なものにしたのは皮肉というべきか。

 

 

「何? 話なら明日にしてくれない?」

 

 

 体裁上という理由で就寝を共にしているグレイフィアは、一つのベッドにギリギリまで距離を離して不機嫌そうに背を向けて寝ようとしているサーゼクスの名を寂しそうに呼び、めんどくさそうにサーゼクスが返事をする。

 ミリキャスが一人部屋となった事で再び二人きりになった訳だが、やはりサーゼクスはグレイフィアに対して冷たく、一緒に寝るなんて虫酸が走るとまで言い切る。

 

 以前ならそれは此方の台詞だと言い返せたが、今はそれすら出来ず、不機嫌オーラ丸出しのサーゼクスの背を見つめながらグレイフィアは言う。

 

 

「私が憎いですか? 安心院さんという方を追い掛ける弊害となる私が嫌いですか?」

 

「当たり前だろ。

キミさえ居なければ僕は本気であの人を追い掛けられるしね」

 

「…………」

 

「……。で、そんな当たり前の事を聞く為にわざわざ話し掛けた訳? キミ……最近変だよ」

 

 

 背を向け、冷たく言い放つサーゼクス。

 最早何度と無く言われたこの台詞ですら、今のグレイフィアは本気で辛く、そして寂しかった。

 

 

「チッ、コッチはキミとなんか寝たくもないのに……早く寝ろよ」

 

「………………」

 

 

 異常なまでにサーゼクスを拘らせる安心院なじみが憎い。

 数百年もブレさせない程に想われる安心院なじみが羨ましい。

 

 会ったことは無いけど、会ったら一言言ってしまいたい。

 けれどそんな事をすればサーゼクスはうもはも言わずに自分を殺すだろう。

 そしてミリキャスももしかしたら――

 

 だから……だから――

 

 

「ところでサーゼクス。義父様と義母様に言われたのですが……」

 

「何だよ、そんな話なら明日に――――っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………。嫌で嫌で嫌で嫌でゾッとする話ですが、二人目を見たいと仰るお二人の為に身体を張る事にしたわサーゼクス。だから協力しなさい」

 

「な……なんだと……か、身体がっ!? な、何を……!?」

 

 

 グレイフィアは憎悪と愛憎をサーゼクスに向ける。

 ピシリと顔を歪めながら硬直するサーゼクスの身体へと乗り、スッケスケのネグリジェ姿で『にっこり』と微笑むグレイフィアにサーゼクスはミリキャスがデキタ原因であるあの日を思い出し、全力で抵抗しようとするが――動かない。

 

 

「流石……。一滴だけでも脳が壊れる程の媚薬だというのに……」

 

「な、なんだと……ふ、ふざけるな……! どういうつもりで……!?」

 

「こうでもしなければアナタは私を『愛さない』でしょう? だからよ」

 

 

 自分ですら気付けない媚薬を盛られ、全身が発火するのでないかと思うほどに熱くなり、目の前がギラギラする感覚を味わいながら、自分に馬乗りになってるグレイフィアを睨むサーゼクスだが、グレイフィアはただ微笑みながら訳の解らないことを宣うだけだった。

 

 

「な、何が愛するだ……! キミなんぞ僕は眼中に――んむっ!?」

 

「んっ……んんっ……はぁ……憎いわサーゼクス……嫌いだわサーゼクス……! ミリキャスにだけは優しいアナタを見てるとムカついて仕方無いわ。何時までも知らない女の尻を追い回してるアナタにイライラするわ……!」

 

「――!? ―――――!?!?!?」

 

 

 頭が切れたのか? そうとしかサーゼクスには思えない程に蕩けた表情でキスを何度も何度もしてくるグレイフィアに恐怖すら抱き始めたが、盛られた時点でサーゼクスに勝ち目は無く――

 

 

「好きよ……サーゼクス」

 

「!?」

 

 

 初めて……嫌い合ってると思い込んでいた女から好きだと言われ、サーゼクスは惚けたまま自分の胸元に頬を刷り寄せるグレイフィアを見つめ――

 

 

「や、やめ……っ!?」

 

「ふふふ……あはははははは♪」

 

 

 喰われるのであった。

 

 

終わり。

 

 

 

オマケ。

 

 

 野蛮な男。それがかつての戦争で大暴れした堕天使・コカビエルという男に対する印象だった。

 戦いこそが全て、殺し合いこそが生きていることの証等々、画に描いた野蛮人であり堕天したのは当然としか思えない蛮行ばかりで寧ろ嫌いだった。

 

 だからこそ偶然バッタリと会った時は戦ったのだが――

 

 

 

『ふむ……こんなものだな』

 

『ぐっ……』

 

 

 驚くほど呆気なく私は沈められた。

 明らかに戦争の時よりも強くなった男に私は意図も簡単に捻り潰されたのだ。

 

 

『貴様は確か――まあ、良いか。良い修行相手だっだぞ?』

 

『うぅ……』

 

『これで俺はまた強くなった……ふふ、それじゃあな』

 

『ま、待ちなさい……! 何故殺さないのですか……!』

 

『む? 何だ貴様。殺し合いでもしていたつもりなのか? ふむ、だが生憎俺は修行中の身でな。修行が完成するまで無駄な殺生はしないつもりなんだよ』

 

『なんで……アナタらしくも無い……!』

 

『? あぁ、前までなら殺してたかもしれんが、修行が完成する前に強い奴を殺したら試せないだろう? だから殺さんし、悔しいなら俺を殺せるだけ強くなって見せろ元同胞よ』

 

『ぐっ……ぅ……』

 

 

 違う。聞いていない。

 野蛮な男だと思っていたのに、何でそんな笑みを浮かべる。

 何故ちょっとだけ優しいんだ。

 私は認めたくないばかりに、動けない身体のまま彼を睨んでしまうが、彼は――コカビエルはそんな私に何を思ったのか。

 

 

『その目……良いなお前。

ミカエルとは違って強くなれる目だ。クックックッ……気に入った。やはり貴様は殺さん』

 

『うっ、な、何を……!?』

 

 

 笑って倒れている私の頭を嫌味っぽく撫でたのだ。

 そして傷薬の瓶を目の前に置くとコカビエルはニヤリとしながら言った。

 

 

『俺を叩き潰せる自信が付いたら何時でも来い――それじゃあな』

 

 

 せめてものと睨む私を軽く笑って流しながらそれだけを言ったコカビエルは去っていった。

 悪人みたいな顔で……戦いの際はそれが如実に現れて、私を容赦なく叩き潰したコカビエルの雰囲気は戦時中に見た頃と比べたらまるで違った――いや違いすぎた。

 

 私がミカエル様を越えるとまで言い、笑って去った男に私は――

 

 

 

「コカビエルがやってしまったらしい。

ですがどうやら人間の子があのコカビエルを止めたらしく、最悪の自体は免れた様です。

どうもコカビエルもまだ生きてる様ですし、この時期に中々骨が折れる真似をしてくれました」

 

「………………」

 

「取り敢えずはアザゼルにこの事を追求しなければならなくなりましたし、どうしたものか――――って、どうしましたガブリエル?」

 

「ハッ!?

い、いえ……な、何でもありません……何でも……」 

 

 

 強くなった。

 コカビエルに勝つために強くなったつもりだった。

 けれどコカビエルは人間と我等が管理していた聖剣を奪って人間界を危機に陥れた。

 その話を聞いた時は何かの間違いであって欲しいと願い、人間の子供にコカビエルが負けた話も信じられなかった。

 

 いや……それも全部建前だ。

 私は――

 

 

「あー……あのガブリエル? 先程から堕天し掛けてますけど……」

 

「えっ!?」

 

「……。コカビエルが気になりますか?」

 

「なっ!?

あ、あんな野蛮な男が何故出てくるのですか!? 別に私はあの男をどうとも思っていませんし、寧ろ今回の件で討伐すらしてしまおうと――」

 

「…………。あーそうですか。

それならアナタの自室に置いてある夥しい数のコカビエルの写真を処分して貰っても構いませんよね? 正直にコカビエルが絡む時の貴女は怖いというか……」

 

「あ、あれは倒すべき男の顔を忘れないように戒めているだけ! 戒めているだけなのです!!」

 

「…………。それならコカビエルの翼の羽を片時も離さず持ってる理由は―――――いえ、何でもありません」

 

 

 コカビエル……。

 アナタは私が倒す……絶対に。

 アナタのせいで私は何度堕天しかけたか……。

 

 

「全く……厄介事ばかり起こしますね彼は」

 

「ブツブツブツブツ……コカビエル……コカビエル……コカビエル……コカビエル……」

 

 

 

 

終わり。

 




補足

レイヴェルたんとはとっくの昔に済ませてます。
まあ、それ以上は無いですけど。

猫姉妹も本気出すフラグ……かも。

その2
安心院さん信者に幻滅してたけど、意外な側面を見たせいで憎めなくなっていたグレイフィアさん。

え、どっかのストーカーみたいだって? いやいや夫婦だし問題ないよ。


その3
………………。IFを知れば何と無くお察し。
え、これもストーカーっぽい? ま、まぁ……大人だし大丈夫じゃね?


その4
IFからのネタを引っ張った……だけさ。


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閑話・敗北を糧に這い上がる堕天使と天使なストーカー

その2
これは次の話と入れ替えで消すかもです。


 負けた。

 言い訳はしない……俺は負けたのだ。

 安心院なじみの幻影を背負う人間の小僧に俺は負けたのだ。

 

 

「傷は塞がりはしたが、暫く派手に動けんな」

 

 

 しかし俺は折れない。

 負けてしまおうが何だろうが、俺は決して潰れはしない。

 負けるというのは、『張れなく』なった時である。

 人間に負けた情けない奴だと何も知らん連中達から笑われようが、小悪党と罵られようが構いやしない。

 

 この命がある限り……俺は何度でも這い上がってみせる。

 

 それがあの女に敗北を味会わせ、そして越えて見せると決めた時に抱いた俺の覚悟。

 

 

「フリードよ、調子はどうだ?」

 

「うぃ~

ボスが動けるのに手下の俺っちが寝てるわけ無いだろ? あの悪魔くんからのダメージなんて半日寝てれば余裕で回復だぜ!」

 

「フッ……それは頼もしい。流石だなフリードよ」

 

「なっはっはっはっ! 俺っちもあの野郎はぜってぇぶちのめしてやるぜ!」

 

 

 兵藤一誠とその仲間達よ。

 俺は――俺達は死なんぞ。

 貴様にリベンジし、安心院なじみに勝つまで俺は地獄に堕とされても這い上がってやる。

 

 

「さて、早速だがお前がジョワユーズを覚醒させて到達した白夜騎士の力を見せて貰うか」

 

「イエッサーボス!」

 

 

 

 白夜騎士。

 それはフリード・セルゼンがジョワユーズを受け入れ、そこから覚醒に至った純白の鎧騎士。

 木場祐斗が覚醒に至った銀牙騎士なるものと似ている所が多いこの鎧は神器でも、スキルでも無い――前例が一切無い新たな力だとコカビエルは、召還と共に槍形態へと変化したジョワユーズを振るうその姿を捌きながら考える。

 

 

(考えられる事柄は、安心院なじみが木場という小僧とフリードの二人に人知れず干渉して覚醒させたか……。

いやどちらにせよ……)

 

 

 かつて自分を完膚なきまでに叩き潰した見た目少女の事を考えながら、合気の要領で白夜騎士形態のフリードを投げ伏せるつつ、ニヤリと心の中で笑う。

 

 

「ぐっ!?」

 

「俺もお前の事は言えんが攻撃が単調すぎる。もっと変幻自在さを身に付けろ」

 

「うへー……りょーかいでーす……」

 

 

 フリードは確実にこれからもその力を増す。

 偶々拾った小僧がよもや此処までの進化を遂げてくれた……コカビエルは素直に歓喜を覚えつつフリードにそう告げ、復帰後の『リハビリ』を完了させるのであった。

 

 

「バルパーはお前が殺してしまった。そうで無くとも確実に三大勢力から狙われるだろう」

 

「でっすよねー……。

あんまりにも喧しかったからついバルパーじーさんを殺っちまったんだ。

直ぐに後を追う的な約束も破っちまったし、バルパーじーさんは今頃地獄で俺達を恨んでそうだぜ」

 

 

 一誠達に破れた際に負った傷を癒した後のコカビエルとフリードは人間界の各地を転々としながらその力を磨いていた。

 理由は勿論あの日の夜の借りを利子つきで返すためであり、フリードと同じく一誠との戦いで目にした『状況変化(モードチェンジ)』の一つを引き出せるようになっていたコカビエルは、三大勢力達からすれば『余計な真似をして緊張状態に引き戻した戦犯』であると自覚しているからであるからだ。

 

 傷が癒え、一誠との戦いで更なる領域へと進化した今三大勢力と殺り合っても問題はないが、一誠との戦いで決まっていた約束があるた為、コカビエルは動かない。

 

 

「にしてもボスも随分とパワフルになりましたなー

俺っちの鎧が砕かれんばかりに」

 

「兵藤一誠が使っていた技の一つを覚えてな。『乱神モード』というらしい」

 

 

 約束を守る代わりに獲られる『再戦』の二文字の為、コカビエルとフリードは今よりも更に上を目指して高める――今はそれだけが全てであった。

 

 

「最近は無限の龍神(ウロボロスドラゴン)の所が煩いしな……。更に強くならんとリベンジも儘ならんよ」

 

「あー……確か前にボスを勧誘しようとしてた」

 

「そうだ。

奴等……というか無限の龍神(ウロボロスドラゴン)の目的に興味は無いが、どうも種族関係無く強い力を持つ連中を集めているらしいからな。

正直奴等の敵になった方が色々と捗る」

 

「なーるほど、俺達の強化パッチになって頂くわけだな? ボスも悪よのぉ~!」

 

 

 更なる進化を遂げた堕天使は這い上がり続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 学校に通って授業を受ける。

 …………。何故かは知らんが妙に懐かしい気がしてならないのだが、それはまごう事なく気のせいであり、俺達はコカビエルから死守したこの学舎で今日も各々学園生活に精を出す。

 

 グレモリー3年達とシトリー3年達と兵藤誠八がごっそり『休学』したもんだから、一部の生徒達が騒いだりもしたけど、それは一時の事なので俺達は知らんフリだった。

 

 

「聞いたと思うが、どうも『兄貴。』の裁判とやらに俺達も出席しないとならんらしい……証人としてな」

 

 

 真実は知る者達だけしか知らず、そのまま闇へと葬られる。

 それが奴等への処遇らしく、その裁判を執り行うに当たっては俺達が出て証人とならなければならない。

 その事をあの日の夜、あの場所に居たメンバー――つまり、レイヴェルに始まって白音、黒歌、祐斗、元士郎を生徒会室に召集して確認をすると、全員が予め知っていましたと頷く。

 

 

「やっとさ奴等の下僕悪魔って呪縛から解放されるって話だ。

当然知ってるし、俺はさっさとその日が来いと思ってるぐらいだぜ」

 

「僕は――えっと……うん……同じくかな」

 

 

 特に兵藤誠八により変わり果ててしまったグレモリー3年とシトリー3年の下で苦痛な眷属生活を送っていた元士郎と祐斗は、早いところ人生をリセットしたくて堪らない様子で各々が来るべきその日についての思いを口にする。

 

 

「私はあんまり関係無いしねー

ぶっちゃけるとイッセーの周りをチョロチョロする奴が消えればそれで良いと思ってるにゃん。だってアイツ等全然話とか聞かないし」

 

「…………。元々私は一誠先輩を探すついでに眷属になっただけですから……」

 

「幽閉されようが傷の舐め合いをしてようが知ったこっちゃありませんわね。

所詮、カスに惑わされたカス共ですので」

 

 

 黒歌、白音、レイヴェルもまた各々がどうでも良さげに彼女達について語るので俺も頷く。

 レイヴェルは特に毒舌が凄い……。

 

 

「ま、そうだろうな。

俺だって正直に奴等の未来なぞどうでも良いし、精々死ぬまで裸でプロレスごっこしてようとも俺の関わりの無い所でやるんだったら一向に構わんと思ってる。

だから特に兄貴が多数の女と関係を持った話はハッキリと証人席で言わせて貰おう……。それで大騒ぎになっても俺は知らん」

 

 

 上級悪魔二人……もそうだが、教会所属の紫藤イリナとすらコカビエルとの決戦前にどうのこうのしたとゼノヴィアから聞いた時は、どんだけ常に命の危機を感じてるんだこの男はと呆れたものだ。

 

 というか何度やらかしたのかは知らんが、もし誰かしらが孕んでたらどうなるかぐらい分かるもんだろうに……。

 

 

「全員が孕んでたらどうするつもりなんだろうな……あの兄貴は」

 

「うーん……兵藤くんの性格的に、全員平等に愛するとか言って全員認知でもするとか?」

 

「おいおい、それをマジで言うつもりなら相当の馬鹿だろってか、確実にその子供は将来いじめられるだろ」

 

「子は親を選べないの典型的なパターンだにゃん」

 

「逆にあること無いことを親に吹き込まれて恨んだりしたり……私たちを」

 

「だとしたら確実に灰にしてやりますわ。親もろともね」

 

 

 あの兄貴の将来計画は何だったんだろうか――今更ながら地味に気になる俺達はいつの間にか兄貴談義になっており、その過程で俺はふと思い出したので、学園の生徒じゃないけど此所に居て白音とお茶飲んでる黒歌に、前に歪んだ顔をされつつ言われた事についての内容を話た。

 

「そういえば黒歌よ。

前に兄貴に言われたのだが、どうもあの男はお前がドストライクに好みだったみたいだぞ? 何か俺のせいでどうのこうのと煩かったが……」

 

「え? やめてにゃイッセー

顔だけしか似てない男にそんな事言われても全然嬉しくないし興味もないにゃん」

 

 

 然るに黒歌は大方の予想通り、嫌そうな顔をしながら兄貴には興味無しと言い切る。

 まぁ、複数じゃ生易しい数の女と番になってると知った上で興味あると言われてもリアクションに困るのでちょっとホッとする訳ですが――なんて思ってたら、黒歌が俺をジーっと見てる……はて?

 

 

「どうせならその台詞をイッセーが言って欲しいし―――えへ、イッセーは私の事……タイプじゃない?」

 

 

 にゃん? と縦長に開いた猫目で問う黒歌に俺は何と無く隣に立つレイヴェルの顔色をうかがいつつ答えた。

 

 

「さてな、タイプと言われても解らんよ俺には。

光栄な事にお前と白音は俺を好いているってのは態度で解るけど、応えられるほど俺はご立派な人間じゃねーのさ。

だが強いて言うなら、レイヴェルみたいな子が傍らに居ると一番安心する……昔から一緒だからな」

 

「まあ一誠様ったら。レイヴェルは嬉しいですわ……♪」

 

「む……」

 

「むむ……」

 

 

 そう……そうなんだよ。

 いくら馬鹿な俺でも白音と黒歌が好いているって事ぐらいは分かってる。

 分かってるけど――分かってるんだけど、ね。

 

 

「仮な話だし有り得ないと思ってるけど、もしもレイヴェルがあの男に堕とされたら―――――躊躇なしにこの世自体を『否定』するだろな。

それくらい、俺はレイヴェルが居ないと駄目になる」

 

 

 想像するだけでも脳が焼き切れるんじゃないかと思うほどにおかしくなりそうな程、俺にはレイヴェルが必要だ。

 餓鬼の頃から一緒で、何時だって応援してくれて、スキルを覚醒させる前の弱い頃から認めてくれて、助けてくれた。

 

 

「むむむ……」

 

「むー……」

 

「お、おいおい姉妹揃ってそんな目で見るなよ……。

勿論お前達が堕とされても精神が軽くイッちまうくらいに嫌だと思ってるしさ」

 

「おほほほ! 所詮下品な色仕掛けしか出来ない雌猫さんはその程度ですわ!」

 

 

 二人には悪いけどこれだけは……本気だ。

 

 

「だからその―――」

 

「ふーん……へー? じゃあとある夜に白音と全裸で迫っても絶対に何もしないんだね?」

 

「わかりました。じゃあ今晩にでも試しますので……」

 

「は!?」

 

「待てやコラ。全然懲りてねーじゃねーか雌猫」

 

「えぇ? だってレイヴェルだけが大好きなんでしょう? それなら私と白音が迫っても何も無いもんねー? おっぱいでパフパフしてあげても無反応なんでしょ~?」

 

「全裸で先輩に密着して、意味深に身体をさわさわとまさぐっても無反応ですよね? だってレイヴェルさんだけしか好きじゃないんだから」

 

 

 等と拗ねた様子で刺激的な事を宣う二人に俺は結構な身の危険を感じた。

 無反応……スキル使えば何とかなるけど、でも使ったらそれは反応してしまったという事であって……ど、どうしよう……黒歌と白音の割りと本気な態度をなまじ知ってるせいなのか、若干期待してしまってる最低な俺がいる……。

 

 

「おおっと一誠くんが地雷を踏みましたー」

 

「ごめん、僕と匙くんは頑張ってとしか……」

 

「………………。うぬ……」

 

 

 押し入れを改造して鍵付きにしようか……本気で考える裁判前の一時であった。

 

 

 

 

 大天使・ガブリエル。

 天界一の美女であり、ファンは多くて人柄も良い――――

 

 

「コカビエル……」

 

 

 のだが。

 彼女は天使にあるまじき感情を、よりにもよって堕ちた天使である男に年々悶々と募らせていた。

 

 

「これでアナタにリベンジする大義名分が出来ました……ふふ、ふふふふふ♪」

 

 

 完膚なきまでに叩き潰された挙げ句に見逃され、あまつさえ誉められた。

 戦闘狂の堕ちた天使の男によって植え付けられた初めてでちょっとくすぐったい感情は、ガブリエルの内面を変化させるのに十二分であり、敵を知る為の処置だと言い張っている彼女の部屋の壁には、隙間一つすら存在しない程にビッチリとコカビエルの――――アングル的に盗撮としか思えない大量の写真が貼り付けられていた。

 

 

「見つけ出して倒す……倒して……ふふっ、うふふふふふ♪」

 

 

 常人……いや上司のミカエルが手違いで見てしまった時ですらドン引きするガブリエルのプライベートルーム。

 ベッドには自作したデフォルメコカビエル人形と等身大抱き枕。

 

 

「どうしましょう……ドキドキしてきました……!」

 

 

 とにかくコカビエルにまつわる物だらけのこの部屋でガブリエルは、先日そのコカビエルが起こした事件により漸く訪れたチャンスを前に一人笑みを溢しながら、自作のコカビエルクッションを抱き締めている。

 

 

「私を生かした事を後悔させて見せます……。アナタに勝ち、そのまま縛り付けて身動きが取れなくなったら……ふふ、うふ、うふふふふふ………あは♪」

 

 

 純白の翼が灰色に点滅するのは何時もの事。

 スートハートの大天使のイメージぶち壊れ……。

 

 

「アナタなんて大っ嫌いよコカビエル……うふふ❤」

 

 

 けれど最強の天使として君臨する。

 ガブリエルという美女はそんな存在であった。

 

 

 

 ガブリエル

 

 所属……天界陣営

 

 備考…………コカビエルとの出会って敗北を味合わされた事で積み重ね、そして覚醒した現天界最強の天使――超越者。

 

 

「コカビエルなんて嫌い……嫌い、嫌い、嫌い❤ うふふふ♪」

 

 

 ――――毎日が堕天寸前のストーカー

 

 

そして……。

 

 

「元士郎くん……。あはは、元士郎くんのお人形がやっとできた……。えへへ……本物の元士郎くんが傍に来てくれるまでの繋ぎだけど――」

 

 

 冥界のとある魔王もまた……ストーカー予備軍だった。

 妹の事を好いていた兵士の少年のヤサグレっぷりが放っておけず、自分に対して対等な態度を示す年下の男の子に――

 

 

「写真と髪の毛とか……出来れば血なんか欲しいなぁ……えへへへへへへ♪」

 

 

 冥界魔王・セラフォルーレヴィアタン。

 ヤサグレ男の子匙元士郎の態度にほぼ無かった母性をコチョコチョされた結果――――経験不足が災いしてストーカー予備軍となる。

 

 

三大勢力裁判編へと続く 




補足

コカビーが安心院さんによって覚醒したように、ガブリーさんもコカビーによって覚醒しました。

…………ストーカーのおまけ付きで。


その2
魔王は基本的にストーカー
だって彼も安心院さんストーカーだし仕方ないね


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集まり始めちゃってる運命

 蛇足。
 単なる蛇足です。

くだらねーオマケを追加


 聖剣騒動。

 この事件が僕にとってのターニングポイントだった。

 直接その手で復讐を遂げた訳じゃないけど、あの日殺された皆の心は銀の鎧として――魂として僕の傍に帰って来た。

 

 それだけでも――声を聞けただけでも僕は救われ、そして力を惜しみ無く貸してくれた一誠くん達の存在によって自分の道を歩く決心がつけた。

 

 真の銀牙騎士となり、今度は僕が一誠くん達の恩に報いる時……。

 そして――――

 

 

「はは……は……予想通りだ。

あまりにも知りすぎたせいで教会を追い出されてしまったよ」

 

 

 奇妙な縁となり、一誠くん達と同じように力を貸してくれた彼女にも恩を――絶対に返す。

 

 

「お前の生き様に興味がある……だから見届けさせて貰うぞ木場祐斗よ」

 

「……。うん、僕なんかで良ければ」

 

 

 それが僕の生きる意味。

 

 

 

 

 ゼノヴィアがさん戻って来た!

 と、本人は微妙に自覚をしていないのだろうが、かなりのハイテンションで祐斗から聞かされた俺達は、取り敢えず彼女を迎えて聖剣騒動の際に集まっていた喫茶店にやって来ていた。

 

 

「――――――と、いうわけだ。私は教会を追放され、イリナは……」

 

「まさかとは思うが消されたのか……?」

 

「違う。兵藤誠八達の元に送るそうだ。

そして近々行われる裁判で一緒に……と」

 

 

 帰還した教会での話をするゼノヴィアの表情は終始暗かった。

 当たり前だ。己がずっと依存してきたモノから用無しとばかりに切り捨てられたのだ。

 俺や悪魔であるレイヴェル……そして教会との関わりが無い元士郎や黒歌や白音とは比べ物にならないショックがあるだろう。

 ましてや同僚までもとなればな。

 

 

「そうか……。

どうも裁判とやらは三大勢力トップの集まりの際一緒に行うとの事だが、どうやらサーゼクス・グレモリーは本気で兄貴達を潰してしまうつもりらしい。

ま、どうでも良いことだしお前が無事に戻ってこれたのには俺達は安心だ」

 

 

 とはいえ『踏み込んではならない領域』に侵入したのはゼノヴィアでは無くて紫藤イリナ本人の意思。

 それが例え兄貴の洗脳による結果だとしても本人が決めた道にわざわざ口を挟むほど不躾では無い。

 

 確かに俺の1/2のスキルである幻実逃否(リアリティーエスケープ)さえあれば、紫藤イリナ――いやその他に降りかかった災いを否定できるかもしれん。

 

 だがしかし、俺にとってな過ぎ去った過去の思い出と、どう頑張ってもどうとも思えない赤の他人だ。

 故に間に挟んで余計な真似は絶対にしない。

 多少の同情はしてやらんこともないが……所詮そこまで。

 

 

「しっかしなぁ……。洗脳されてると解っても何にもする気になれないのは、やはり俺自身が彼女達に無関心が故か……」

 

「何とかってお前な……。

寧ろ『助けるぞ!』なんて言ったらドン引きするわ。アイツ等揃いも揃ってお前のせいでとか思ってるんだぜ?」

 

「恩を仇で返すに決まってますわ」

 

「んー? いやほら……なじみなら平等にある程度のチャンスでも与えるかもしれねーと思うと、やっぱし俺は悪平等にはなれねーなーって」

 

「それは……それを言われたら私だって分身の資格はございませんよ」

 

 

 俺の事を良い奴だと思ってる奴は皆勘違いしてるがそれは間違いだよ。

 俺の性格は正直……悪いんだぜ?

 

 

「それよりだ、祐斗と白音と元士郎……そしてゼノヴィアよ。

お前達の身は一時的にフェニックス家預かりになる様にシュラウドのオッサンとエシルねーさん――つまりレイヴェルの両親に拝み倒して来たのだが……」

 

 

 だって俺……基本身内贔屓だしね。

 だから俺は悪平等にはなれんのさ……平等的じゃないから。

 

 

「「「えっ!?」」」

 

「レイヴェルさんの……?」

 

 

 故に奴等が勝手に朽ち果てようが知らんし助けもしない。

 ほらな? 俺って性格が悪いだろ? 黒神めだかにはなれないのさ。

 

 

「な、何だその話しは!? 一体何時――」

 

「ゼノヴィアさんが1度帰還している間ですわ。

このまま自由になっても、各々がお持ちの『力』が原因で狙われるかもしれませんので……勝手ながら対処をさせて頂きました」

 

「すまん。

特にゼノヴィアは悪魔にそんな真似をされて我慢ならんと思うが、自立するまで我慢して欲しいというのが本音だ」

 

 

 ゼノヴィアが此方に無事に戻ってきた……。

 この瞬間俺達で彼女を立場的にも物理的にも守れる事になる。

 だから祐斗や元士郎にも黙って三人の身の安全の保証をより確実にする為にシュラウドのおっさんとエシルねーさんに頼んだのだ。白音はリアクション的にそんな驚いてないけど。

 結果はアッサリ了承。近々行われる裁判にて正式に三人の身柄はサーゼクス・グレモリーとセラフォルー・レヴィアタンの後ろ楯+フェニックス家というガードにガードを固めた布陣が完成する。

 

 

「友達を失いたくないって理由の俺のエゴだ……。

生活を縛る真似は決してしない……だから俺に友達であるお前達を守らせてくれ」

 

「「「………」」」

 

 

 最初はレイヴェルで自覚した。

 次は好意を寄せてくれる白音と黒歌で自覚した。

 最後は自分なんかと仲良くしてくれる祐斗や元士郎やゼノヴィアで自覚した。

 俺は大切となった人達を失いたくないからこそ……強引なまでに引き留めようとしてしまう。

 

 それが俺の致命的な弱点。

 致命的な欠陥。

 

 

「エゴでお前達を縛り付ける点では、俺も兄貴様と変わらないのかもな」

 

 

 そんな鬱陶しい性格なんだからこそ俺は駄目人間なんだろう。

 

 

「いや寧ろそこまでして貰える事に俺は驚きと、逆に良いのかよって遠慮が……」

 

「う、うん……僕なんて貰ってばかりで何の恩返しもしてないし……」

 

「私なんてそもそも元教会の人間だぞ……」

 

「一誠様の悪い癖です。一誠様と付き合う上でのデメリットとして認識なさいな。

言っておきますけど、一誠様は1度『身内』と認識した相手には死ぬほど甘やかしますわよ」

 

 

 正直レイヴェルのフォローが無かったら只の気持ち悪い男扱いされても仕方無いくらいだ。

 

 

「にゃ!? 私は放置プレイな方向なの!?」

 

「いや当然お前もだよ黒歌。

へんっ……ったく、我ながら気色悪い性格してると思うぜ」

 

 

 なぁ、やっぱり俺はお前の後継者の資格なんてないよ……なじみ。

 

 

 

 

 

 

 

 友達。

 私はイッセーにそう言われた。

 聖剣騒動の手伝いをしてくれた男に、教会を追放された私に対してまでそこまでしてくれただなんて……。

 

 

「良いのか……? 私までそんな……」

 

「言っただろ? 俺は友達に利用されるのであれば喜んで利用されてやるってよ。

正直な……祐斗とお前を引き離したく無いというか、行く末を見たいんだよ」

 

「なっ……!?」

 

「え? 僕とゼノヴィアさん……?」

 

 

 正直、お先真っ暗な私にとっては生きる為の糸口。

 イッセーのこのニヤニヤした表情を見るに、何か察しられてしまってちょっとアレだが、既に神が――主が存在しない現実を知ってしまった今、私の生きる意味は隣でキョトンとしている金髪の男の生き様をもっと近くで見る事。

 

 

『銀牙騎士に――僕はなる!!』

 

 

 今でも鮮明に思い出す。

 聖と魔を取り込んだ剣へと昇華させ、その身に待とう銀狼の鎧。

 目の前の男が悪魔だという現実なんてどうでも良くなる程美しく、そして力強い姿。

 

 

『僕はもう足手まといにはならない!

ゼノヴィアさんが一緒に戦って守ってくれたからこそ、今度は僕が守るんだ!』

 

『クヒャヒャヒャヒャ!! 相変わらずお熱いコメントですねぇぇぇ!!!!』

 

 

 白夜騎士とやらになったフリード・セルゼンと互角に渡り合っている最中に耳にしたこの台詞は私にとって初めてで……そして心地よくてちょっと恥ずかしかったけど、嬉しいと思った。

 主への信仰で男なんて興味もなかったのに――聖剣奪還の仕事に於ける一時的な関係の筈だったのに。

 

 祐斗……そしてその仲間達は皆私に優しかった。

 

 

「祐斗。

だからお前はゼノヴィアの傍に居てやれ。

剣を扱う者同士気も合うだろう? いやもう合ってるか」

 

「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!? だ、だ、だってゼノヴィアさんは女性だし……し、白音さんと黒歌さんと一緒の方が……」

 

「あーごめんなさい祐斗先輩。私と姉様は明日にでも一誠先輩の所へ厄介になりますので……」

 

「残念だけど無理かにゃ~?」

 

「はい!? ちょ、ちょっと待て二人とも、俺はその事実が初耳――」

 

「オイゴラ雌猫共。大概にしないと焼き尽くすぞ」

 

「お、おいレイヴェル……! 口調がマジギレしたエシルねーさんになってるから……!」

 

 

 狡いんだよ。

 皆して悪魔と敵対してた私に優しくして。

 お前達が――祐斗がそんなに優しくするから私は……。

 

 

「解った。あの日の夜言った通り、私は祐斗に養って貰おうか」

 

 

 お前達の手を取ってしまうんだ。

 

 

「あ、は、はい……」

 

 

 なぁイリナよ。

 お前は私を恨むだろう、イッセーに与した私を憎むだろう。

 

 …………。どうしてお前は洗脳されてしまったんだ。

 

 

 

 

 人も悪魔も……感情のある生物は受け入れがたい現実から目を逸らしたくなる。

 兵藤一誠によって全てを壊されたと思い込む紫藤イリナ――そして兵藤誠八達にとってはまさに今がその時でだった。

 

 

「………………」

 

 

 悪魔とまぐわった……。

 その事実はイリナを異端者として扱われるのに十二分な素材であり、ただ追放されたゼノヴィアと違って自由すら束縛された彼女は暗い底穴の牢獄に居た。

 

 

「セーヤくん……セーヤ……くん……」

 

 

 虚ろな瞳でただ想い人の名を呟きながら爪を噛み続ける姿は家族ですら目を覆うような有り様であり、近々行われる裁判でイリナは確実なる罰を受ける。

 

 

「ふふ……ふふふ……助けてくれる……セーヤくんがきっと……」

 

 

 だが今の彼女にはその現実を認識できず、ただただ冥界の牢獄で捕らえられている誠八がこの暗い底穴から救い出して助けてくれると本気で信じている。

 

 

「あの痴漢男……許さない……それにアッサリ下ったゼノヴィアも何もかも許さない……!」

 

 

 そして反対に抱くは、一誠達への殺意。

 記憶をねじ曲げられた事実を知らず、ただひたすらに幼き頃しつこく憑き纏ってきたと思い込む一誠に対しての憎しみを増大させる。

 

 最早誠八しか考えられず、再会前には確かにあった神への信仰心と使命感すらねじ曲げられた少女がそこには在った。

 

 

 

 

 リアスとソーナは怯えていた。

 そして平行して恨みを募らせていた。

 あの日の夜……全てを壊した裏切り者――そして示唆したと思い込んでいる兵藤一誠を。

 

 

『何故俺がどうでも良い貴様等の――兄貴の傷を治すんだ? コカビエルを止める筈の貴様等がそのザマだから来ただけであって貴様等を助けに来た訳じゃないぞ』

 

『まあ、兄貴の手足にしても義手とか義足で何とかすれば良いじゃないか。

不能になった訳じゃないし、夜の裸プロレスごっこぐらいなら現役続行で出来るんじゃないか?』

 

 

 見下した目。

 見下した言い方。

 

 まるで自分達をゴミ扱いするような言動と化け物じみた力。

 何もかもが見下されていたという現実はリアスとソーナ――そして各々の下僕達を憎悪させる材料だった。

 

 

「…………。セーヤと逃げる。それしかもう道は無いわ」

 

「はい……もう私達にはセーヤくんしか頼れません。異常なまでに兵藤一誠に姉やサーゼクス様が味方してしまっている今……逃げて逃げて誰も来ない場所でセーヤくんと永遠を――」

 

『…………』

 

 

 故に懲りない。

 力を封印されているにも拘わらず、使命を放置して一人の男を巡って争った現実を見て見ぬふりをした少女達はただ一人の男に狂い――そして計画する。

 

 

「セーヤさえ居れば何とかなるわ……絶対に」

 

 

 その心が塗り潰されたものであり……その心のメッキがもし剥がれた場合の訪れる末路を知らずに……。

 

 

「あーぁ……。バカは死ななきゃ直らないらしい」

 

 

 紅髪の魔王に丸聞こえな事も知らずに……。

 

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーは絶賛超不機嫌だった。

 何故か? それは妹達を放置しすぎて余計な真似をしてくれたせいで色々と狂いが招じてしまった挙げ句、この期に及んで無駄な悪あがきをしようとしてるのを聞いたから。

 

 そしてもう一つというか、これが本領なのだが、二度に渡って嫌いな女に一服盛られた挙げ句情けなく喰われたからだ。

 しかもあまつさえ『愛してる』とまで言われたせいでイライラ速度はマッハだった。

 

 

「……。僕の半径数千キロは近付くなと言いたいくらいだよ」

 

「それは悔しいから? 私と事を行ってしまったから?」

 

「あぁそうさ。

出来ることなら今すぐにでもバラバラにして畜生の餌にしてやりたいさ……!」

 

 

 屈辱と憤怒。

 サーゼクスはその感情をギリギリで押さえ込みながら、シレッと己の傍らで微笑む大嫌いな女を睨み付けていた。

 

 

「ミリキャスが生まれてなかったら本気で殺してた。

だがあの子にはキミみたいなのでも母親が必要……だからこうして必死こいて我慢してるんだ。

まったく、我ながらなんと我慢強いんだと褒め称えてやりたいよ」

 

「そうですか……。ですがお言葉を返すようですがサーゼクス、私はアナタにズタズタにされる事すら今は受け入れられる」

 

 

 サーゼクスにとっては腸が煮えくり返るあの夜を経て吹っ切れたのか、それとも頭がイカれたのか。

 銀髪が美しいグレイフィアは、そんなサーゼクスの殺意溢れる形相を向けられても涼しげに微笑みながら宣う。

 

 

「アナタが私をズタズタにする間は安心院なじみという女があなたの頭から一瞬でも消え、そして私にのみ意識が向けられる。

ふふ……ふふふ……アナタが悪いのよサーゼクス? ミリキャスに優しい姿を見せたアナタのせいで私は狂ったのだから……」

 

 

 安心院なじみなる女と思われる人物しか見てない男が見せた小さな優しさ。

 それがグレイフィアの心を変え……狂わせた。

 殺されることすら『愛情』と平然と解釈する程に……。

 

 

「貴様……!

だったらお望み通り今すぐにでも――」

 

 

 それはサーゼクスにとって邪魔でしかないものであり、グレイフィアの挑発とも取れる言動に我を忘れて殺そうと殺意を剥き出しにしたが……

 

 

「お父様! お母様!」

 

 

 その殺意は血の繋がった我が子の純粋さによって即座に霧散した。

 

 

「っ!? ど、どうしたんだいミリキャス、確か今は勉強中だろう?」

 

 

 安心院なじみに狂気の沙汰ともいえる拘りを見せるサーゼクスが唯一見せる隙。

 それは血の繋がった我が子であるミリキャス・グレモリーだった。

 嫌いな女との間に作ってしまったとはいえ、我が子である事には変わりなく、そして罪なんてある筈もない。

 

 そう考えていたサーゼクスはミリキャスだけには親らしく接し、不器用ながらも偽り無き愛情を注いできた。

 故にミリキャスは父親であるサーゼクスを心の底から慕っており、母親であるグレイフィアを常に邪魔に思っているとは毛ほどにも思っていなかった。

 

 故にだ――

 

 

「お父様に出された課題は全部終わらせました! だから……お母様と三人で一緒に遊ぶ約束を!」

 

 

 ミリキャスは何の打算もなく親子三人での時間が今の人生での一番の宝物であり、その為ならどんな試練すら乗り越える芯の強さを持つ子供だった。

 

 

「な、何だって!? な、何だその約束は……!?」

 

 

 然るに、只今ミリキャスがニコニコして話した事にサーゼクスは真面目に狼狽えつつ、ミリキャスにバレない程度に同じく『ニコニコ』しているグレイフィアを横目で睨んだ。

 

 

「偉いわミリキャス。それなら今度は私達が約束を守る番……ね、ア・ナ・タ♪」

 

「ぎ……ぎぃ……!(こ、こ、の、アマァ~!!)」

 

 

 十中八九。間違いなく。100%

 グレイフィアが勝手にミリキャスと約束したんだと、わざとらしくウィンクまでしてきたのを見たサーゼクスは怒りで城ごと――いや冥界ごと滅ぼさんばかりの憤怒の炎を内面に孕み、燃やした。

 

 

「お父様……?」

 

「うっ……!?」

 

 

 しかしミリキャスが見ている。

 安心院なじみを手に入れる為には邪魔な要因だと心で理解はしても、何故か非情になれない自分の子供の手前下手な真似が出来ないサーゼクスは、全力で憤怒を押さえ込み、全力で作り笑顔を見せながら――

 

 

「ぐっ……ぅ……!

そ、そうか……わ、わかったよ。ミリキャスが!!! 頑張った事だし約束通り三人で外に遊びに行こう……か……っ!」

 

「本当ですか!? やったー!!」

 

「あ、あぁ……だ、だから部屋に戻って準備をしなさい」

 

「はい!」

 

 

 子を――憎しみが沸けない我が子の為にサーゼクスは折れた。

 妹や親ですら無関心だったサーゼクスが……だ。

 

 

「うふふ……」

 

「……。(この女……ミリキャスを利用したな。後で絶対に泣かす)」

 

 

 心の底からの笑顔を浮かべるグレイフィアに対して、後で地獄すら生温い報復を誓うのを忘れずに。

 

 ちなみにミリキャスは只今リアス達の事を裁判の判決が下るまで意図的に『忘れさせられて』いたりする。

 

 

 

 狂った。

 今の私にはその言葉がピッタリなのかもしれない。

 あれ程大嫌いであったサーゼクス相手に私は今更ながら気を引こうと必死になっている。

 

 会えもしない女の尻を追い掛けてるだけの男相手に私は憎悪を含めた感情全てを向けてほしいと本気で思っている。

 

 

「…………。やってくれたね」

 

「怒りますか? いや当然憎悪しますよね? 貴方は私を邪魔に思っているのだから」

 

 

 準備をさせる為にミリキャスを退室させた後、早速とばかりに殺意を剥き出しにするサーゼクスのその表情が堪らなく思う。

 

 

「あぁ、キミを殺してやりたいと怒りで狂いそうになったのは多分これが初めてだよ。

本当にキミは僕の邪魔になる真似をする事に関してだけは天才的だ」

 

 

 その皮肉の言葉ですら誉め言葉に聞こえてしまう。

 

 

「お褒めに預かりに光栄よサーゼクス。どうするの? 八つ裂きにする? 畜生の餌にしてしまう? ふふふ……私は構わないわよ?」

 

「……………ぐっ」

 

 

 狂ってる。

 ええ……狂ってるわよ。

 アナタのせいで……嫌いな筈のアナタのその態度のせいで私はおかしくなったわよ。

 安心院なじみに向けてるその心をどんな理由、どんな感情でも良いから私が独り占めしてやりたい。

 

 安心院なじみを恨めしくすら思うほど、今更になってアナタが欲しい。

 リアスお嬢さま……兵藤誠八……? あぁ、うん……本人同士の納得であの様な末路になったのならそれで良いんじゃないかしら?

 

 

「そんな目で見られると……ふふ、昨晩アナタから貰った『証』が私のお腹の中で――」

 

「うぉぉぉぉっ!!!! それ以上言うなぁぁぁっ! 僕は安心院さん一筋なんだよぉぉぉっ!!!!」

 

 

 今の私はサーゼクスとミリキャス……この二人さえ居れば後は全てがどうでも良くなったんだもの。

 

 

「こんな女に……こんな女に……大嫌いだ!!」

 

「あらそう……でも私はアナタが大好きよ。その狼狽えた表情を見るだけで此所が締め付けられるように切なく――」

 

「黙れ!!! 安心院さんに言って欲しい台詞をお前が言うな!!!」

 

 

 憎しみはほんの少しの切っ掛けで盲目を越えた愛へと反転する。

 様々な理由で。

 様々な状況でそれは訪れる。

 

 

 

 

「あ、ギャーくんの事を忘れてました」

 

「ああっ!? ぼ、僕も忘れてた!」

 

「何だ二人して唐突に……? ギャーくんって何の事だ?」

 

 

 愛情は各々。

 

 

「お、俺の携帯が……ってメール? どれどれ―――――ぶふぉ!?」

 

「わっ!? 急にどうしたにゃ匙!」

 

「ふぅ……咄嗟に避けられて良かった良かった」

 

「って……何携帯見ながら固まってらしっしゃるのかしら?」

 

「い、いいいや……な、何でもない……迷惑メールだった。(あ、あの魔王……ま、また自撮りの写真なんか送って来やがった……! ほ、ほぼ全裸の……)」

 

 

 皆違って皆良い……。

 

 

「良いですかガブリエル。

会談の際はコカビエルの名前を聞いても平静で居てくださいね」

 

「べ、別にコカビエルなんて……」

 

「いやもう天界中にバレてますからね? というかアナタは今現在のコカビエルの様子を把握してますよね?」

 

「し、知りません! はぐれ悪魔祓いの子供と楽しそうにしてる写真なんて撮ってませんしその子を羨ましいとか思ってません!

シャワーを浴びてる姿なんて映像として残し、鑑賞する度に邪な気分にもなってません!! 野蛮なコカビエルなんか嫌いです!!!」

 

「…………………。あ、そうですかハイ。(コカビエル……アナタはガブリエルに思いきり居場所がバレてる事を認識してるのですか?)」

 

 

 

「バックショイ! チキショイ!!」

 

「んー? 風邪かよボス?」

 

「ズズッ……いや、多分違う。(そういえば『最近に』なって感じるようになった謎の視線は今日は無いな。

殺気も無いし敢えて放置してたが……あれは何だったんだ?)」

 

「あ、ボス! この店の卵が特売やってて安いぜ!」

 

「なに!? しかもお一人様2パックまでだと? 当然行くぞフリード! 戦いの時間だ!!」

 

「イエッサー!!」

 

 

 

 騒動まで……残り2日。




補足

銀牙騎士について。

聖と魔が合わさって最強に見える――じゃなくて聖魔剣へと進化させた祐斗にやっと届いた欠けがえのない仲間達の声により覚醒させた『この世には存在しない謎の物質で出来た銀の鎧』

文字通り木場きゅんの想いによってその強さは神をも越える可能性を大いに秘めている。
 が、召喚するにも木場きゅん本人の覚悟が必要。


その2
グレイフィアさんはある意味で覚醒しました。
ある意味で。


その3
ギャーくんェ……


感想返しは後でします。

 

ガブリエルさんのスニーキングミッションは一誠達が生まれるもっと前から実は行われており、一誠との戦いで進化した事によってやっとコカビエルさん自身が勘づき始めた―――――レベルのヤバさはあります。

まあ、それを知った所でコカビエルさんは……

『何だと……最近になってやっと気付いたあの気配は貴様だったのか! ふふ、フハハハハハ!!! やはり貴様を生かしておいて正解だったぞガブリエル!
よし、それなら俺と一発ヤろう(バトル)じゃないか!!! ぬはははは!!』

『はぅ……!? ヤ、ヤる!?(堕天しちゃう的な意味で) こ、こんな所で……というかお外で!? そ、そそそそそんな……で、でもアナタがそれを望なら……』


と、物凄い滅茶苦茶なる勘違い展開になる……かは知らない。


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ギャーくん2/1
ギャスパーきゅんは……


新章……か?

展開をやり直しました。

言い訳するなら、IFでやさぐれだなんだのイッセーシリーズをやり過ぎて本編の性格を半分忘れてました。

そういや、こんなんじゃねーよなと感想でハッ!? っとね……。


『ギャーくんの事を忘れていました』

 

 

 そう白音が本当に思い出したかの様に呟き、続いて祐斗もハッとしたかの様に焦りだしたが、ギャーくんとは何だ? としか思えない俺達は気になって聞いてみた所…………。

 

 

「ギャスパー・ヴラディという名は確かに駒王学園生徒名簿に名前が載っていたと記憶している。

なるほど……単なる外国人では無くてグレモリー3年の下僕悪魔だった訳か」

 

「はい……。ですがちょっと色々とありまして」

 

「? どういう事でしょうか白音さん?」

 

「ええっと、有り体に言えば……色々な事情ががんじがらめになって『引きこもり』というか『不登校』というか……」

 

 

 ギャスパー・ヴラディ……いやヴラディ1年を今まで忘れていたせいなのか、実に罰の悪そうな顔で人と成りを説明する白音と祐斗の言葉に、ウラディ1年自体を知らない俺達は黙って注文したビッグジャンボパフェ一つに対して全員でスプーンを入れながら聞く。

 

 

「元ハーフ吸血鬼(ヴァンパイア)か……ふむ」

 

「吸血鬼は私もよく滅してたよ。今となってはそんな使命感も全部騙されてたがな……フッ……」

 

「ゼ、ゼノヴィアさん……」

 

 

 吸血鬼は知ってるけど見たことは無く、イマイチピンと来ない。

 詳しそうな元悪魔祓いのゼノヴィアは何度か相対した事があるらしいのだが、教会の現実を思い出したのか急に塞ぎ混んでしまい、祐斗が慌てて彼女のメンタルを回復させようと必死になっている。

 

 

「どうも彼女の下には、どうであれ素質の高い者が集まりやすいようで……」

 

 

 それもまた運命力の高さなのか、ポツリと呟いたレイヴェルの言葉に俺も内心同意してしまう。

 聞けば聞くほどにウラディ1年はかなり『込み合った事情』を持ち、それが故に今まで表に出られなかった話にも納得してしまう。

 いや……グレモリー3年の実力不足故に押し込んだというべきなのか――まあ、聞いてみれば本人も引きこもり気質故に文句なんて無かったらしいが…………。

 

 

「……! おいちょっと待とうぜ、リアス・グレモリーの僧侶だっつーのはわかったけどよ、肝心の王様が只今冥界の独房にぶちこまれた事をソイツは知ってるのか?」

 

 

 パクパクとパフェを食べていた元士郎がこれまた急にハッとしながら白音と祐斗に質問する。

 

 

「どう……なんでしょうか?」

 

「うーん……多分知らないと思うけど、どうなんだろう。

悪魔契約の仕事をオンライン経由で任されてるから、もしかしたら契約をしても悪魔が来ないってクレームメールで不審には思ってるかも……」

 

 

 元士郎の質問に二人は微妙な顔付きで何とも言えないと答える。

 だが元士郎は聞きたかったのはそこでは無かったらしい。

 

 

「いや違う、そのギャスパーって引きこもり吸血鬼に今まで誰が生活用品を補充してやってたんだっつー話だよ」

 

「それはリアス元部長――あ」

 

「もしくはグレモリー家――――ハッ!?」

 

 

 元士郎に言われてまたもハッとする二人。

 今度は普通に『マズイ』って表情だった……というか聞いてた俺達も急に不安になってきた。

 

 

「供給が断たれて餓死してるかもって事かにゃ?」

 

 

 そしてその不安を代表して黒歌が声に出した瞬間……。

 

 

「マスターよ、お釣りは取っといてくれ!」

 

「餓鬼がナマ言ってんじゃねーや。

余りの分は次回はタダで食わせてやる」

 

 

 全員で一気にパフェを胃の中に押し込み、全員分の代金を俺が出し、全員が無言で席を立ち喫茶店を出て、全員が無言で歩き出す。

 

 

「………」

 

「………」

 

「……………」

 

「…………」

 

「………」

 

「………」

 

「…………にゃ」

 

 

 歩くスピードは初めはゆっくりだった。

 しかし全員の考えていた事が一致しているせいか、やがて早歩きとなり――

 

 

 

 

 

「い、急ぐぞ皆! ヴラディ1年は何処に居る!?」

 

「学園の旧校舎です!」

 

「ま、まだ断定は出来ないけど、僕は物凄い不安だよ一誠くん!」

 

「チッ! 開けたら衰弱死した遺体がございましたなんてオチだったら最悪だぜ!!」

 

「いくら私でも同情してしまうぞそんなの!」

 

「まったくもう! 最後まで厄介事ばかり残してあの方々は!!」

 

「こっちが近道だにゃ!」

 

 

 よく街を気儘に歩き回っている黒歌を先頭に全員が全員でひた走る。

 

 すれ違う一般の方々は俺達の形相にビックリするけど、今はそれすら気にも出来ず走り続けて学園に到着。

 もはや誰も居ないと言っても良い旧校舎へと入り、白音と祐斗に案内される形で『KEEP OUT』なんてわっかりやすいテープだらけの扉の前まで到着したのだが……。

 

 

「いでっ!?」

 

 

 とにかく安否が知りたいと開けようと元士郎が扉に触れた瞬間、何かに拒絶されるかの様に元士郎の手がバチン!という音と共に弾かれた。

 

 

「大丈夫ですか匙さん?」

 

「いってて! と、扉に触れようとしたら電気が走ったみたいに……」

 

「恐らく術式だろう。封印していると言っていたしな」

 

 

 手が若干焦げたのか、掌を涙目になってふーふーする元士郎にレイヴェルが即座に用意した薬を塗りたくり、ゼノヴィアが冷静に術式を解析しようとする。

 だが……意外にも短気な俺は待ってられなかったので……。

 

 

「下がれ三人とも! やるぞ白音!」

 

「はい!」

 

 

 術式なんぞ知らん! とばかりにゼノヴィアと元士郎とレイヴェルを下がらせ、白音と並んで拳を握り締めた俺は……。

 

 

「はいせーの、けんけんぱ」

 

「けんけんぱ」

 

「「拳波、拳波……」」

 

 

 

 

 

「「はい拳々波ァッ!!!」」

 

 

 術式ごと扉をぶち破った。

 白音に教えた一種の技を一緒にぶちかましてね。

 

 

「やったな白音!」

 

「はい、何とかなりました」

 

「おい、物理で術式が壊されたぞ……。それもあっさりと」

 

「ありゃー……白音が見事なまでの物理アタッカー化してるにゃん……流石戦車」

 

 

 黒神めだかの前任者だったとなじみから教えられたとある生徒会長の技を白音に教えてみたんだが、流石俺と同じ物理アタッカーだ。

 ビックリなレベルの飲み込みの早さで俺は嬉しくて仕方ない。

 数人からドン引きされてる気がしないでも無いけど、扉を何とかする為には時には強引に行かなければならんのだよ……わかる?

 

 

「ぴぃ!?!? な、何ですかぁぁぁ!?」

 

 

 さて、取り敢えず邪魔な扉をぶち壊して中に入ってみた訳だが、第一印象はやはり『暗い』であり、奥に入ってみれば、死人みたいな顔色をしながら部屋の隅でガタガタと震えている者が一人。

 

 

「な、だ、だ、誰ですかアナタ達は!?」

 

「……………。あれがギャスパー・ヴラディ……なのか?」

 

「はい、間違いないです」

 

「良かった元気そうで……」

 

 

 薄い金髪。

 そして赤い瞳をこれでもかと潤ませながら突然すぎる訪問者である俺達に完璧に怯えている駒王学園の女子制服に身を包むこの者こそがギャスパー・ヴラディらしく、オーバーリアクションをしている辺り、衰弱している様子は無かった。

 

 どうやらグレモリー家からの生活用品供給はストップされた訳では無かったらしく、カタカタカタカタカタカタと震えているウラディ1年の姿に取り敢えずホッとしつつ、見知った顔を出して落ち着かせようと白音と祐斗を前に出す。

 

 

「あ、こ、小猫ちゃんと祐斗さん……! こ、こ、こここここれはなんの騒ぎなんですかぁ……?」

 

「久し振りギャーくん」

 

「……。その様子だと知らないみたいだね?」

 

「な、何の事ですか……?」

 

 

 祐斗と白音の姿を見た途端、少しだけ落ち着いた様で、俺達のせいとはいえあの耳を塞ぎたくなる声が止んでくれて助かったと、後ろで俺達はホッとしながら見守る。

 

 

「女かよ。よくあの性欲バカの魔の手から逃れられたな」

 

 

 その際元士郎が何抜き無しにヴラディ1年の姿を見てボソリと呟いたのを聞いて俺は頷いてしまう。

 確かに……知識とやらがある兄貴が見逃したのは何故なんだろうか……。

 

 単純に趣味じゃなかったからなのか……それとも――――――

 

 

「あの、つかぬところを聞くが、ヴラディ1年の性別は女で間違いないよな?」

 

「あ、いえ、ギャーくんは――」

 

「ひぃ!? こ、この人怖いです!」

 

 

 本当にまさかだとは思うが、疑念が抱かれた以上は知りたいと思う訳で、三人の会話に割って入る形で聞いてみようと口を挟んだ途端、白音の答える声に被せてウラディ1年が俺を指差しながら思いきり怖いと言ってきた。

 

 

「怖い……のか? 俺は」

 

「まあ、いきなり扉をぶち破る真似をされればそうもなるだろう」

 

 

 別に他人に怖いと言われて傷付く程繊細じゃないのだが、こうもあからさまな態度で言われるとちょっとアレというか……ゼノヴィアに思いきりダメ出しされてしまった。

 いや確かにぶち破ったのは事実だが、それは急を要したからというか……もう良いや。

 

 

「怖いとよレイヴェル…………あははは、もうお家帰る。」

 

「だ、大丈夫ですわ一誠様! 寧ろ一誠様のワイルド思考にレイヴェルはきゅんきゅんしてますから!!」

 

 

 良いさ良いさ……。

 所詮俺は黒神めだかにも日之影空洞にもなれない生徒会長さ……。

 脳筋だもん……術式とか物理でぶっ壊すしかできないもん……。

 

 

「おいチビ。コイツはお前がグレモリー家からの支援が消えたと心配して飛んで来たんだよ。

確かに扉をぶち壊したのはアレだったかもしれねーが、顔見て怖いは無いだろ?」

 

「ひっ!? な、何ですかこのチンピラみたいな――」

 

「んだとゴラ!? ぶっ飛ばすぞクソガキィ!!!」

 

「お、落ち着いて匙君!!」

 

「ひぃぃぃっ!! やっぱりチンピラですぅぅ!」

 

 

 

「ほーらイッセー? 私の胸でたんとお泣き。ちゅーちゅーとかしても良いにゃ」

 

「だから事あるごとに一誠様を誘惑するな!!」

 

「帰る……お家に帰る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場や塔城さんが思い出した事で急いで駆け付けたってのに、どうやらグレモリー眷属最後の一人であるギャスパー・ヴラディって餓鬼はある意味であの変態魔王とタメを張れるくらいにイライラする奴だった。

 

 

「うぅ……」

 

「で、結局あの性欲ボケの魔の手から逃れられたこのチビは――――女で良いのか?」

 

 

 ギャスパー・ヴラディが封印されていた部屋の隅っこで体育座りして意外なまでに落ち込んでいる一誠をレイヴェルさんと黒歌さんに任せ、代わりに俺が本人に問い詰めてみるが、チンピラなんぞと評されてるせいか、ギャスパー・ヴラディは木場と塔城さんの後ろに隠れて答えようともしない。

 

 

「……。チッ」

 

「(ビクッ!?)」

 

 

 初対面で悪いが、俺は正直コイツとは馬が合う気がしない。

 一々しつこい奴も大概だが、びくつくだけでロクに会話もしない奴もイライラする。

 が……グレモリー共にほったらかしにされたという点だけは同情するのと一学年ぽっちだが俺の方が上なので此処は一つ大人な対処をする。

 

 

「わかった……いきなり土足で踏み込んだのは俺達が全面的に悪かった。

だが、さっき木場と塔城さんに聞かされた通り、今リアス・グレモリーとソーナ・シトリーは冥界の独房の中で、それによって引きこもりになってるキミに支援が無くなって餓死してしまっているかもしれないと、ウチの生徒会長が心配して飛んできたんだ……………てだけは解ってくれ頼むから」

 

「ぅ……は、はい……。

それは聞きましたけど……本当なんですか? 部長達がそんな……」

 

 

 丁寧に、警戒心に覆われた心の皮を一枚一枚はがしつつ……。

 正直こんなまどろっこしい真似はしたくないし、こんなビクついてるだけの餓鬼に時間なんて割きたくも無いが、話をさっさと進めるためには仕方ないと割りきる。

 

 それが項をそうしたのか、ギャスパー・ヴラディは木場と塔城さんの後ろから顔だけを出してチンピラ匙くんである俺と視線を合わせながら、信じられないって様子を見せた。

 

 

「残念ながら現実だぜ。

とある性欲バカがグレモリーの兵士に転生した途端、全部が狂いやがった」

 

「……。そ、そういえば定期的に様子を見に来てくれた部長と副部長が最近は全く来てなかったから変だなとは思ってましたけど……」

 

「…………。シトリーとその眷属と合同で深夜のプロレス大会をしてたしな。

その点だけで言えば君は実に運が良かったね……あの性欲バカの捌け口にされなくて」

 

「う……」

 

 

 意味は解ってるのか、俺の遠回しな言い方にギャスパー・ヴラディは蒼白い顔色で吐きそうなっていた。

 …………。て事は女で間違いないのか? 本当に運が良いなこの餓鬼。

 

 

「元士郎の方が余程立派だ。

ふははは……今すぐ元士郎にこの腕章を渡して俺はフェードアウトしてしまおうか……」

 

「い、一誠様もちゃんとお話しすれば解って貰える筈です……!」

 

「そうじゃなくても私達がいるにゃん」

 

 

 

 

 

「あ、あの……僕あの人に……」

 

「ああ、ちょっと強引だけど悪い奴じゃないから、謝りゃあ刹那で許してくれるさ」

 

「うん、僕も白音さ――じゃなくて小猫さんも彼に助けて貰ったんだ。このゼノヴィアさんって人もね」

 

「うむ」

 

 

 正直、アイツが居なかったら一生奴等の都合よき奴隷で終わってたからな。

 アイツのお陰で今の俺達があるんだ……それだけは誰にも否定させねぇよ俺達は。

 木場も俺もゼノヴィアも……ね。

 

 

「それにしてもギャーくん。『今は』男の子なんですね?」

 

 

 さて、そんな訳で一誠に対する認識も何とか緩和させる事に成功した俺達は、このギャスパー・ヴラディの今後についてを問おうとした時だった。

 俺やゼノヴィア……そしてまだ体育座りしてる一誠とそれを慰めてるレイヴェルさんや黒歌さんよりも遥かに事情を元眷属仲間として知っている塔城さんが、何やら変な問い方をギャスパーにしている。

 

 

「あ、う、うん……三日前から」

 

 

 それに対してギャスパーは恥ずかしそうに頷いていた。

 何だ? 今はとか三日前からってのは?

 木場は知ってるみたいだけど、俺やゼノヴィアからすればその言い回しが意味不明なんだがな。

 

 

「む……どういう事だヴラディ1年よ? 貴様は女で間違いないんだろう? ぶっちゃけよくあの『兄貴様。』から逃れられたと思うがな」

 

「え、えっと、そ、それは……その……」

 

 

 それは落ち込んでいた筈の一誠も違和感を感じたのか、物凄いローテンションな声で体育座りしたまま顔だけを向けて質問をすると、言い辛そうにしてるギャスパー・ヴラディの代わりに答えたのは塔城さんだった。

 

 

「ギャーくんはハーフ吸血鬼の他に、別の特性というか……この子だけが持ってしまった特殊な体質があります。

実はギャーくんの性別はある周期で変化するんです…………所謂両性って奴ですね」

 

 

 へー……変化するんですかーそれはそれは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワッツ!?」

 

「な、何だその漫画みたいな性質は!?」

 

「つ、つまりふたな――――」

 

「まあ、有り体に言えばです。

周期的に完全に変化するんです男の子か女の子かのどちらかに」

 

「加えて強い神器を持ってて、最初言った通りハーフ吸血鬼。

元部長の実力じゃ手に余るから今までこうやって封印されていたんだ」

 

「うぅ……こんな性質嫌なのに……」

 

 

 な、何かの漫画であったな。

 水を被って女になるって奴が。

 それがまさかリアルに存在するなんてな……世の中広すぎだろ。

 

 

「つまり女物の制服着といて……つ、付いてるのか? バベルの塔が?」

 

「お、驚いたな……まさか兄貴も知らなかったのか?」

 

「な、な、な、ふ、二人して僕の何処を見てるんですかぁ!?」

 

 

 ビックリし過ぎて思わず俺と一誠はギャスパー・ヴラディ………の、まあ、見てしまう。

 その際物凄い冷たい視線を周りから向けられてる気がしたけど、別にエロとか関係無く普通に気になったからだという事だけは言っておく。

 

 

「今が男だとしても、元々が女顔なんだなお前……」

 

「うむ確かに。しかしながら……本当に付いてるのか? ちょっと試しに全裸とかに―――」

 

「一誠様?」

 

「あんまり冗談を言ってギャーくんを困らせないでくれますか?」

 

「じゃないと此所でイッセーを全裸にしちゃうよ?」

 

「じょ、冗談だよ。すまんヴラディ1年よ……」

 

「うぅ……」

 

 

 とはいえ、内股になってもじもじし始めたギャスパー・ヴラディをジロジロ見てると、犯罪的構図になる気がしてならないので、後ろからゾッとするような声を聞かされてる一誠にならって視線を切る。

 

 

「こほん……まぁ……その、何だ。

俺達がここに来たのは、貴様は今後どうするのかって事だ。

言っておくが近々グレモリー眷属は完全な解散をさせられると思うから、これまでの様な支援ありきの引きこもり生活は無理になるぞ」

 

「ええっ!? そ、そそそそんな!? 僕はどうすれば良いんですか!?」

 

「さぁな。それはお前自身の人生だし自分で考えろよ」

 

 

 そして此処からがある意味本番だった。

 

 

「だ、だって僕……外に出たら虐められるから出たくない……!」

 

「いや、別に出ろとは言ってない。

引きこもりたければ好きなだけ引きこもれば良いだろう? 貴様も何かしらの事情があって引きこもっていたみたいだしな。

但しだ、これから先の生活資金は貴様自身で稼がなければならんがな」

 

「うっ!?」

 

「おいおい、少し考えれば分かるだろ?

まあ、グレモリー家に必死こいて頭を下げたら何とかなるかもしれねーが………解散された眷属一人にわざわざ金を出すとは思えねーし、元シトリー眷属だった俺だったら奴等の施しなんて絶対にお断りだがな。

そうでなくても悪魔らしく『対価』が求められそうだぜ」

 

「うぅ……」

 

 

 ギャスパー・ヴラディの進路相談がな。

 

 

「とはいえだ。

貴様さえ良ければ、貴様自身の持つ神器をコントロールできる手伝いぐらいなら出来るぞ?」

 

「え、そ、その後は?」

 

 

 凄い対人恐怖症……と聞いていたけど、想定外な状況のせいか、最初は怖がってたものの意外と普通に意思疏通というか会話が成立している。

 とはいえ、俺の煽りに物凄い不安がってるけどね。

 

 

「うむ……その事なんだがなヴラディ1年。

これもまた貴様さえ良ければな話なのだが――――」

 

 

 そんな一誠はギャスパーに対して言った……。

 

 

 

 

 

「お前―――生徒会に入らないか?」

 

「え?」

 

 

 結構ビックリ過ぎる提案を、何を言われたのか解ってませんな顔してるギャスパーに一誠は真顔で言ったのだ。

 

 

「せ、生徒会……って、えぇぇえぇぇぇ、ぼ、ぼぼ、僕がですかぁ!?」

 

「うむそうだ。生徒会だ」

 

「な、なな、何で僕なんか……」

 

 

 ギャスパーの言葉に正直な所俺達も同意した。

 何せ一誠は今まで一度たりとも俺達の誰かに生徒会へ勧誘する事が無かったのだ。

 それをよりにもよって初対面であるギャスパーを勧誘したんだ……。

 ビックリなんてもんじゃないし、ギャスパーを良く知る木場と塔城さんは微妙な顔つきだった。

 

 

「先輩……何を思ってギャーくんを勧誘したのかは解りませんけど、正直難しいですよ?」

 

「うん……ほら、見ての通り人前が苦手だし」

 

 

 二人の言葉に俺も何と無く同意した。

 ほぼ初対面だけど、ビクビクした態度を見てる限りじゃ対人恐怖症を拗らせてるままに違いないし、そもそも何でギャスパーなのかが解らない。

 

 

「別に人前に出て演説しろとは言わんさ。

ただほら……グレモリー3年達がああなったせいでヴラディ1年のこれからの人生がキツくなると思うと――やっぱり変な罪悪感があるというか……俺の兄貴様のせいでああなったし」

 

『…………』

 

 

 つまり一誠はこう言いたいらしい。

 性欲バカをほったらかしにして、グレモリー共を狂わせたままにした結果招いてしまったギャスパーの生活崩壊のお詫びがしたい……と。

 

 

「俺はこう見えて生徒会長で……まあ、その……悪魔との繋がりもある。

横に居るレイヴェル・フェニックスとその家族とは事情があって餓鬼の頃から世話になってるんだ」

 

「え、そ、そうなんですか……」

 

 

 だが微妙に納得できない。

 あの性欲バカは勝手に暴走して、狂わされた女共も勝手に暴走したんだ。

 別にそれのせいでギャスパーの生活が崩壊したのは一誠のせいじゃない訳で……。

 

 

「聞けば貴様は――神器を含めて色々と大変だったみたいだし……。便宜上の兄貴のせいで遠回しに迷惑かけたし……助けるとは違うが、それなりのケジメを付けさせてほしいのだよ。あと本音を言うと生徒会に入ってほしい」

 

「う……た、確かにこのままだと僕自身どうなるかわかりませんけど……でも……」

 

「嫌なら別に生徒会に入らんでも良い。

だが、貴様の持つコントロール不能の神器を完全にコントロールできる手伝いはさせてくれ。

何か知らない間に色々と失ってる貴様を見てると居たたまれないんだよ……」

 

「ぅ……こ、怖い人だなんて言ったのに何で……」

 

 

 だが一誠は、直接じゃないとはいえあの性欲バカのせいで色々と失ってるギャスパーに思うところがあるらしく、物凄く戸惑ってる彼にフッと笑みを浮かべながら遠くを見つめていた。

 

 

「やっと出来た友達の友達なら俺の友達になってくれそうな気がするから―――――と、変な欲で動いたアホな生徒会長とでも思ってくれ……あっはっはっはっ!」

 

 

 つまり理由は――俺達の時と同じ……それだけの事であり、それを聞いた俺達もまた何かホッするような気持ちでギャスパーを『引っ張りあげる』決心を固めるのに十分だった。

 

 あの性欲バカから逃れられたのなら、その後の人生は楽しく生きる権利はギャスパーにだってあるのだから。

 

 

「な、何で皆して優しいんですか……ヒック……何んで知らないけど……ふぇぇぇん……!」

 

「あ、しまった……早速泣かしてしまったぞ……」

 

「いえ一誠様……そういう意味で泣いてるのではありませんよ」




補足

転生兄貴の願望が中途半端に投影されたせいなのか、それともそうだったのか。

ギャーくんの性別は『ギャーくん』でした。


その2

生徒会長イッセーとしてを考えた結果――生徒会に勧誘するという展開に変更されました。

理由としては、兄貴を放置してリアスさん達をほったらかしにした結果、ギャーきゅんの生活がぶっ壊れそうになってしまった事への微妙なる罪悪感と、自分以上にギャスパーという子が『失ってばかりの人生』を歩んでる気がするから……という、同類意識が芽生えたというか……


まあ、ギャーきゅん本人は術式ごと扉をぶっ壊したかなり怖い人認識がまだ抜けてませんけど


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友達とプール遊び

ギャーきゅんは取り敢えず引きこもりのまま、一誠達による生徒会執行される予定ですが、その他にも生徒会の仕事はある………。

的な一幕。


※ちと直しました


 コカビエルが負けた。

 それもたった一人の人間との一騎討ちで。

 

 その話を聞いた俺は正直に信じられなかったが、アイツがやらかしてしまった見逃せない罪の清算の為に送り込んだヴァーリがニヤニヤしながら傷だらけで帰ってくるなりそう言ったので、間違いは無かったと納得せざるを得なかった。

 

 

「胸に風穴を開けたまま、血ヘドを撒き散らした文字通りの致命傷だったコカビエルにこのザマだ。

それと、全開状態のコカビエルを倒した、赤龍帝にそっくりな神器すら持たないあの男はまさに人外だ……間違いなくな。クックックックッ!」

 

「……。コカビエルにやられた割りには嫌に楽しそうだな?」

 

「実際楽しいからね。

赤龍帝はコカビエルに狩られたが、それ以上の存在を少なくとも俺はあの場で何人も見つけたんだ。楽しくないわけが無いだろう?」

 

「何人もだと?」

 

「英雄シュラウドとエシル・フェニックスの娘、見たこともない力に覚醒したはぐれ悪魔祓いと転生悪魔の騎士に、コカビエルと兵藤一誠……クックックックックックッ! これ程に自分の人生が楽しいと思える事は無かった……!」

 

「…………」

 

 

 英雄シュラウドとエシルって……あの化け物フェニックス夫婦の事でその娘だと? 前線を退いてると聞いてたから特に思うことは無かったが、コカビエルを倒した兵藤一誠って餓鬼の他にもまだそんな小娘が控えてたのか……。

 寧ろよく生きてたなコカビエルの奴。

 

 

「強くなれ………。

フッフッフッ、なってやるよコカビエル。そして俺を生かした事を後悔させてやるよ……!」

 

 

 ヴァーリにも何か残して勝手に去りやがって……。

 オメーは何時だって勝手な奴だ。

 勝手に一人で強くなり、勝手に一人で周りを省みず先に進んで遂には在りし日の神すら越えやがって。

 

 

「あの天然タラシが。悪党顔の癖に余計タチが悪いったらありゃしねぇ」

 

 

 お前は知らんだろうが、お前が抜けたせいで下の若い奴等の半分が後追いで抜けようとすらしてんだぜ? それなのに最後まで自由にしやがって……。

 取っ捕まえたら罰ゲームで性別変換装置の実験台にしてやるぜ。

 

 

 

 ギャスパー・ヴラディの無事を確認した一誠達。

 旧校舎の開かずの間に引きこもっていた彼――いや性別不明のハーフ吸血鬼は色々と臆病だった。

 

 しかしそんなギャスパーに一誠は無理に連れ出す真似をせず、寧ろ『逃げる』事を肯定さえした。

 

 

「今の貴様がその現状が良いと言うなら俺は否定しない。

何せ貴様はもう下僕悪魔じゃない――転生悪魔というだけのギャスパー・ヴラディなのだからな」

 

 

 いっそ優しく。

 外に出ることさえ怯えるギャスパーにそう言い聞かせた一誠。

 見た限りでは人間なのに、封印の術式ごと扉を破壊したその腕力に怖がっていたギャスパーもこれには罰が悪くなるが、それでもまだ勇気が無かったギャスパーはその言葉にある意味で救われた気がした。

 だけどまだ……まだギャスパー自身の心は怯えている。

 

 

 

 ヴラディ1年の無事は何とか確認できた。

 後はどうあ奴に詫びを示すかだが、今はまだ本人自身の心が後ろ向きな為に手出しはできない。

 結局の所、何をするにもヴラディ1年の心が大事なのだから。

 

 

「プール清掃の依頼を受けたのだが……もし手伝ってくれたら一番に入っても良いらしい。故にお前達、暇なら手伝ってくれんだろうか?」

 

 

 そんはヴラディ1年の事もあるが、俺には他にも生徒会としての様々な仕事がある。

 それが夏の日差しが良い感じになってる今日決行される――プール清掃である。

 

 

「水面走りの術!!(物理)」

 

「ぶわっぷ!?」

 

「うわっ!? 凄い水飛沫が……!?」

 

 

 ご褒美ありきで教師から受けたこの依頼は、レイヴェルや白音や祐斗や元士郎の他に、休日決行を利用できたが故に黒歌とゼノヴィアの手も借りられたお陰で即刻終わらせる事が出来た。

 なので早速――実を言えばプール遊びがかなり楽しみだった俺達は、さっさと着替えて一足早く男三人で遊びまくってた。

 

 

「ぬははは楽しいな!

何故か知らんが今まで以上に変なテンションになる!」

 

「お、おう……。荒ぶってるお前を見てればよーく解るぜ」

 

「それにしてもゼノヴィアさん達は遅いね……」

 

 

 ライザーやルヴァルやヴァルガの兄貴達としか男同士で遊んだ事がないせいなのか、異様にワクワクして仕方無く、若干二人に呆れられてる気がするけど気にしない。

 そして祐斗の言うように女性陣はまだ来ない。

 

 

「エシルねーさん――いや、レイヴェルの母がよく言ってたが、女性ってのは準備もまた戦いらしいからな。色々とあるんだろうさ」

 

「ふーん?」

 

「あぁ……そういえば正気だったリアス元部長に言われた事があったかも」

 

 

 だから心を広くして待てとよく教えられたもんだ……。

 等と考えつつ二人に説明してると、漸くその女性陣が姿を見せた……水着で。

 

 

「お待たせしました一誠様~!」

 

 

 そう言いながら全員が水着姿となって来た訳だが、元士郎や祐斗は知らんけど、俺は正直に慣れてるせいか挙動不審にはならなかった。

 というのも、俺自身がレイヴェルの水着姿に一々新鮮味を感じ無いからだ……毎年見てるし。

 まあでもやっぱり女性だし華はあると聞かれれば三人して満場一致で頷く訳だが……っと?

 

 

「おい、何でコレが紛れてる?」

 

 

 レイヴェル、白音、黒歌、ゼノヴィア。

 それに俺達三人を加えたメンバーでプール清掃を行っていた筈なのに、何故か女性陣の中に一人見慣れない姿が一人だけ混じっていた。

 人懐っこくニコニコと笑顔を絶やさず、長い黒髪を二つに結んだ少女――

 

 

「えへ、元士郎くんに会いに来ちゃった♪」

 

 

 冥界四大魔王――セラフォルー・レヴィアタンが、顔を見るなり露骨に嫌そうな顔をしてる元士郎に対して気にせずの笑顔で会いに来たと告げている。

 それを見た俺は、着替えが遅かった理由がこれで分かったと納得した。

 

 

「それがその……。

お着替えをしていたら突然お越しになりまして……。

事情を説明したら自分も混ざって良いかとセラフォルー様が……」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 

 特に飾らない、シンプルで瞳と同じく蒼いビキニ姿のレイヴェルの説明に、俺は物凄い露骨に嫌がって逃げようとしてる元士郎に後ろから抱き着くセラフォルー・レヴィアタンを見て理解と納得を深めた。

 

 セラフォルー・レヴィアタンとはまともに会話しては無いものの、元士郎繋がりで姿を目にする機会が増えている。

 それは勿論、セラフォルー・レヴィアタンが妙に元士郎に拘りを見せてるというか執着しているというか……。

 

 

「アンタはプール掃除してねーだろうが! 帰れ!!」

 

「帰れと言われたら帰りたくないし……寧ろプール入るよりキミにこうしていたいな☆」

 

「だぁまぁれぇぇぇえ!!! 離れろクソ痴女がァ!!!」

 

 

 セラフォルー・レヴィアタンはどうやら元士郎が気に入っているらしく、何処かで――いや俺が黒歌とかによくされてる様なスキンシップをしてる。

 

 

「ふむ、本人同士の問題だな」

 

 

 が、別にスキンシップをしてるだけで元士郎に害を為すつもりも無いし、特に止める必要も追い出す必要も無いのが見て解る。

 

 

「ですね」

 

「ええ」

 

 

 故にレイヴェルや白音達も皆して、触らぬ神にならぬ触らぬ魔王に祟りなしとばかりに生暖かく見守る流れに意見を一致し、俺達は俺達でプール遊びを楽しむ事にした。

 

 

「おっと、言い忘れてたがレイヴェルよ。お前は何を着ても似合うな……うむうむ可愛いぞ」

 

 

 プールサイドで仲良く暴れ、遂には仲良くプールへとダイブしても尚くっついてる元士郎と……多分借り物なんだろう、学園指定の水着姿のセラフォルー・レヴィアタンを横に、俺は俺で忘れる前にレイヴェルに思った通りの感想を告げる。

 贔屓目に見ずともやはりレイヴェルは可愛いと思うからこそなのだが……。

 

 

「あぁん♪ 一誠様にその様な不意打ちをされると下腹部がきゅんってしちゃいますわぁ……」

 

 

 日に日に……というか黒歌がアレなせいで割りとぶっちゃけ度が増してしまってるんだよな……。

 

 

「この前ので感じられたかと思いますが、胸が少し成長しました……ほら」

 

「た、確かにだが、そんなわざわざ俺の手を掴んで押し付けんでも……」

 

 

 それはその……色々と困るというか……ねぇ?

 

 

「チッ、学園指定は悪手でしたね……」

 

「あ、それなら全裸になれば良いにゃ!」

 

「いや、白音はそれでビックリな程にしっくり来るよ……。

黒歌は……聞かなかった事にする」

 

 

 そして二人もまた……やっぱり似合うというね。

 というか……黒歌が学園指定の水着は色々と危険な絵面というかインパクトがね……何処がとは言わんけど。

 

 

「あ、イッセーったら今私の胸を見たでしょ? ふふん、そんなに気になる?」

 

「べ、別に………おぶ!?」

 

「強がらなくても良いにゃ~」

 

 

 しかし視線でバレたのか、黒歌の胸で思いっきり視界が塞がれてしまった。

 

 

「あぁん……♥ イッセーの息が気持ちいいにゃぁ……」

 

「ふがふが……!?」

 

「ハァ……またですかこの雌猫は」

 

「怒らないんですか? 貴女らしくもない」

 

「考えてみれば色々と私の方が貴女達より遥かに一誠様と近いですし、これこそ余裕という奴ですよ」

 

「……………。じゃあ一誠先輩とアナタの目の前でべろちゅーって奴をしても余裕なんですね? わかりました、後でしますから邪魔しないでくださいね?」

 

「やってみろよ雌猫。刹那で灰にしてやるから」

 

 

 俺って微妙に兄貴と同じ轍を踏んでないか? 何だか自信が無くなってきた……。

 

 

「イッセーのイッセーにゃ……」

 

「にゅぎゃ!? そ、それだけはひゃめへ……!?」

 

「このっ! 一誠様の一誠様は私専用ですわよ!! アナタなんて死ぬまで玩具でも使ってなさい!!」

 

「動かないでください先輩――――おぉ……これが一誠先輩の一誠先輩……」

 

 

 いや……別に他の女からされても、殴り飛ばしてでも逃げるけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

「正直信じられんよ。

神を信仰していた私がお前達と楽しく過ごしてる事に」

 

「あはは、そうだね」

 

 

 プールで各々が遊んでる中、僕とゼノヴィアさんもまたプカプカと浮きながらお話をしていた。

 

 

「うむ、その調子で途中で息継ぎをしつつ足を使えば前に進む。はいワンツーワンツー」

 

「わんつーわんつー……ぷは」

 

「意外でしたわ、白音さんと黒歌さんが泳げないなんて」

 

「本能というか、水辺に落ちる機会が無かったからねー」

 

 

 何時ものやり取りから抜け出せた一誠くんは、レイヴェルさんと一緒に白音さんと黒歌さんに泳ぎ方を教え……。

 

 

「ハァハァ……く、腐っても魔王か……。

ぜ、全然引き剥がせねぇ……!」

 

「疲れた? なら誰も居ない更衣室に行こうよ? 沢山疲れを癒してあげるかな☆」

 

「う、うるせー!! 絶対にお断りじゃボケ!!」

 

 

 元士郎くんは……ごめんなさい、僕じゃあ助けられないから見なかった事にするよ。

 

 

「奇妙な偶然が重なりあって、今僕達はこうして笑っていられる。

僕はそれが楽しくて大切だなって思うよ」

 

「……。それは私も含まれているのか?」

 

「うん……キミが居なかったら今の僕は居なかったから」

 

 

 自由の為。

 ケジメの為。

 あの時の仲間達の声により、漸く着けられた過去への決着は今でも銀牙騎士として死ぬその時まで僕の心に刻み込まれた。

 

 

「だから今度は、勝手ながら僕がキミの助けになれる男になる。

悪魔の騎士としてでは無く、一人の銀牙騎士として……」

 

 

 立場を越え、転生悪魔である僕を応援してくれたゼノヴィアさんに対する恩を返す為に、支えを失ってばかりの彼女を支えたい……。

 これは僕の本心と覚悟であり――――願い。

 

 

「そういえばお前には思い切り胸を鷲掴みにされたな……どさくさ紛れに」

 

「う!? あ、アレは決して故意じゃなくて――」

 

「ふふ、冗談だよ祐斗。それに今なら好きなだけ触らせて良いと思ってるぞ?」

 

「えっ!?」

 

 

 我が名は木場祐斗、またの名を――

 

 

「いっそ子供でも作ってみるか? 私もまた自由に――少しは女らしく生きてみたいと思っててな。

ズバリ女としての欲を考えてみた結果、子供を授かってみたいと浮かんで――」

 

「い、いやそれは分かったけど、何で僕なんだよ?」

 

「強いからな。聖魔剣と銀牙騎士という見たこともない力に覚醒させたお前なら文句なしだ!」

 

「そ、そんな僕なんて強くなんか……。それに強さならコカビエルを倒した一誠くんの方が」

 

「ただ強いだけな訳が無いだろう。お前だからそう思えるんだよ……。

まったく、最後まで言わせるな祐斗」

 

「っ!? ちょ、ちょっと……距離が縮まってない?」

 

「縮めてるんだよ、そして当ててるんだよ……お前なら分かるだろ? 言わせなるよこれでもかなり恥ずかしいんだぞ?」

 

 銀牙騎士……絶狼―ZERO―

 

 

 

 

 セラフォルー・シトリー

 冥界四大魔王にてレヴィアタンを注いだ魔王の一角だが、その性格は著しく軽くてシスコンだった。

 

 

「くそったれ!

アンタごときすら振り払えねぇなんて情けねぇ……」

 

 

 しかしその性格は大事な妹がグレモリー眷属の兵士と関係を持ち、堕ちていってしまったのを楽観視して放置してしまった後悔から変わっていった。

 

 

「つーか何で学園指定の水着なんだよ? どっから盗みやがったんだ……?」

 

「あぁ、プールなんて聞いてなかったら保健室って所から借りて来たんだよ」

 

「予備の事か……チッ」

 

 

 そして何より、その割りを食った妹の眷属だった少年のヤサグレ具合を見てからもっと変化した。

 

 

「まぁそれは良いとして、真面目な話あの女は――ソーナ・シトリーはどうしてるんだよ」

 

「…………む。ソーナちゃんはまだあの兵士しか見えてないよ。

それどころか隙を伺って兵士と逃げようって考えてるみたい」

 

「何だそりゃ? ケッ、どうやら救い様の無い女に成り下がったか……バカが」

 

 

 いくら妹でも容赦を――贔屓をしない決心をした。

 楽しい楽しいスキンシップを一旦中断し、プールサイドに腰掛けた諦め顔の元士郎に話を振られたセラフォルーは、一気にふざけた態度を止めて妹の近況を報告する。

 

 

「そこまで盲目だといっそ憐れだぜ」

 

「……………。そうだね……私がもっと早く手を打てば今頃――」

 

「無理だな、あの性欲バカに目をつけられたら一瞬で終わる。

奴の洗脳を凌駕する精神力が無かった時点で何もかも終わってたんだよ」

 

 

 妹の兵士の少年――つまり元士郎の事は洗脳される前のソーナから聞いていた。

 真面目になり、自分の為に何でもしてくれる弟分みたいな子だと……。

 でも兵藤誠八が現れてからはその話しは無くなり、代わりに誠八を無意味に褒め称える話しばかりとなり、遂には関係さえ持ってしまった。

 

 

「何ならアンタも奴に洗脳されるか試したら?」

 

「いやいや元士郎くん、あんな程度の子に揺さぶられてたら魔王なんてやってられないよ? それに最近の私はキミが――」

 

「聞かなかった事にしてやる」

 

 

 それにより元士郎は妹を完全に見限り、自由の為にグレモリー眷属の騎士と戦車……そして人間の少年と力を合わせて遂には伝説の堕天使であるコカビエルを撃退した。

 

 これこそまさにグゥの音も出ない話だ。

 魔王や天使長や堕天使総督じゃない……人間と転生悪魔が力を合わせて、足手纏いとなった妹達を抑えて偉業とも言える結果を残したのだ。

 

 転生悪魔である元士郎、祐斗、白音は位の昇格すら出きるだろう。

 しかし妹を通じて悪魔に対して一種の警戒心を持ってしまった三人はそんな申し出を鼻で笑って蹴っ飛ばすだろう……。

 

 出会った時から魔王の自分に物怖じせずヤサグレ口調である元士郎を見ればよく分かる。

 

 

「はぁ……、今にして思えば俺はなーにをやってたんだか。

あんな女に惚れました~なんてクソ馬鹿らしい理由で転生するとか死ねよ」

 

「元士郎くん……」

 

「加えてその女の面影ありまくりな魔王に何故か遊ばれてるし……はぁぁぁ~」

 

「……。(遊んでるわけじゃ無いんだけどなー)」

 

 

 だからこそセラフォルーは元士郎が気になり、放っては置けなかった。

 口では見限ったと宣う癖に、隙あらばソーナの事を聞いてくる辺り、完全に吹っ切れてないのが分かるからだ。

 

 

「良いよな~一誠や木場はよ……。可愛い女の子達と楽しそうで……」

 

「えー? 私は可愛くないのかな?」

 

「此方は地雷ばっかりだぜ……」

 

「む、無視はひどいよー?」

 

 

 『あの女(ソーナ)と似た顔で一々謝るな!! さっさと消えろ、そして二度とそのツラを俺に見せんじゃねぇぇぇっ!!』

 

 全てを知り、謝りに行こうと初めて会った時に言われたこの言葉は今でも忘れられない。

 乱暴で拒絶するような言い方だったけど、泣きそうな顔で……苦しむような顔もセラフォルーは忘れられなく、そして初めて母性というものを擽られた。

 

 

「どーん☆」

 

「どわっ!?」

 

 

 最初はソーナの事について割りを食わせた事への罪悪感だった気持ちは、元士郎の強がりな姿を見ている内に『放っておけない男の子』へと変化し、媚びへつらう真似は一切無く自分と会話する姿を見て『気になる男の子』へと変わり……。

 

 

「ごほっげほっ!? な、何しやがるこの能天気魔王が!!」

 

「はっはっはっー! ソーナちゃんの事を愁いに想う元士郎くんを見てたら何かムカムカしちゃってね☆」

 

 

 一身に……誰にも渡したくないとさえ想う愛情へと変質する。

 口では何だかんだと言ってるけど、その表情からまだソーナに複雑な気持ちを持ってる元士郎に異様なモヤモヤ感を感じる。

 これもまた初めて抱く明確な嫉妬心であり、それを示すために元士郎をプールに突き落としたセラフォルーは、外交的では無い本心の笑顔を浮かべると、続いて自分も飛び込み、彼の身体に思い切り飛び付いて抱き着く。

 

 

「どうであれ他の女の事を考えてる元士郎くんは嫌だなぁって……はむはむ」

 

 

 本気で気になる男なんて悪魔には居なかった。

 

 

「軽くて能天気って思ってるだろうけど、元士郎くんに言うことに嘘は一つだって無い……。

こうする事でキミを逃がさない……逃がしたくない……食べてしまいたい……」

 

 

 故に初めて抱いたこの感情をどう示して良いのか分からないセラフォルーはただ本能の赴くままに愛情行為として元士郎に示す。

 自分だけのだとばかりに抱き着き、水着で上半身裸であるその首筋や耳を甘噛みし、悲鳴をだしながらもちょっと悶えてるその姿に何とも言えない気持ち良さに酔う。

 

 

「ひっ!? て、テメッ何処噛んで―――っひ!?」

 

 

 一誠達他の面子が『まーたやってる……』と呆れ顔になってるけど、セラフォルーはそれを知らないとばかりにビクビクと反応する元士郎の身体をまさぐり……やがてその手は……。

 

 

「あひぃぃ!?!? ふざけんなよぉぉぉ!!! マジで何処触ってんだクソボケェェ!!!」

 

「あは……♪ 元士郎くんったらかーわいい☆ ソーナちゃんから絶対に奪ってあげるからね?」

 

 

 セラフォルー・シトリー

 レヴィアタンを継ぎし魔王は、過激に傷付いた少年を欲しがる一人の女となった。

 

 

「あぁ……お腹が熱いよ元士郎ちゃん……☆ ほら此処……熱いでしょう?」

 

「うるせー!! 耳元でボソボソ言うなぁぁ……へぇぇぇ……」

 

「あぁ可愛い、撫で撫でしたい……。

甘やかしてあげたいなぁ……。欲しい……欲しい……絶対にアナタが欲しいよぉ……えへへ」

 

 

 それが例え……ストーカーじみても本人に自覚が無ければどうしようも無いのだ。




補足

強さのインフレが高まるほど変態指数もアップする。

特にプールなんて変態さんにすれば『ご馳走』なのである。



その2

木場きゅん……密かにゼノヴィアさんとフラグをぶち立てる。
割りと一番にまともなカップルなのかもしれない……(笑)

そして銀牙騎士は――まあ、絶狼ですよえぇ……。


その3
そもそもセラフォルーさんが来た理由は、干渉されない自由をという意味で、サーゼクスさんを抜かした魔王三人がかりでも一蹴されてしまう程に強いコカビーを、ほぼ無名の転生悪魔と人間達が撃退した褒美で位の昇格を言い渡そうとしたからです。

対象者は白音さんと元士郎きゅんと祐斗きゅんの三人。

人間である一誠と転生悪魔では既に無くなってる黒歌さん、そして元悪魔祓いのゼノヴィアさんは残念ながら何もありません。

 まあ、三人はほぼ確実に断るとセラフォルーさんは踏んでおり、さりげにまだソーナさんが心に残ってる元士郎くんを見てムーブ!! しちゃいましたけど(笑)




ヴァーリくん的にこんなインフレだらけの世界は寧ろご褒美。
アザゼルさんは密かに憧れてもしていたコカビーの失踪による戦力大低下に苦労しまくりだけど、装置の実験台にしてケタケタ笑ってやろうと画策中。



ちなみに黒歌さんなのにスク水。
セラフォルーさんなのにスク水。
 想像せんでもインパクトがヤバイ……。


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ギャーくんと生徒会長……時々コカビエルとフリード

…………。構想段階では原作通りキャラだったのに、すっかり一誠を食う勢いの主人公になっちまって……。




 

 

 今更……になるかもしれんが、グレモリー3年とその取り巻き及びシトリー3年とその取り巻き、そして『兄貴。』は『休学』扱いとなっている。

 まあ、独房にぶちこまれただなんて理由込み込みで言える訳も無いので無難な話なのだが、奴等はどうであれ人気者だ。

 故に奴等の休学を知った一般生徒達――つまりミーハーは絶望に大騒ぎだ。

 

 

「おい木場ァ!! 二大お姉様は何処だよ!?」

 

「さぁ、同じ部活仲間だけって関係だったし僕は知らないよ?」

 

「匙は確か支取先輩達とよく一緒だったよな? 何で休学なのか知らないのか?」

 

「知らね。

そもそも俺がアレ等の周りをうろちょろしてたのは、『真面目そうな奴と真面目やってれば内申点が上がりそうだった』とかそんな短絡的な理由だしな」

 

「あ、あっそう……。

それにしても何かお前変わってね? 雰囲気とか……」

 

 

 お陰で二組のグループと縁があった祐斗と元士郎は特に男子生徒からの追撃が多く、その度に適当に足らっていた。

 

 

「でも小猫ちゃんはちゃんと来てるんだよな……。今日もレイヴェルちゃんと一緒に歩いてたし……」

 

「つーか兵藤(誠八のこと)も居ないのが実に怪しいんだけどっつーか果てしなく不安なんだけど。お前の兄貴なんだろ? 本当に知らないのかよ?」

 

「殆ど戸籍上の関係だ。俺は親戚の家で暮らしていたからな」

 

「「………」」

 

 

 縁があって関わりが何気に多くなっている元浜と松田の言葉に俺達は『その予感はほぼ合ってる』とは言えず、我関せずで通す。

 まさかミーハーであるコイツ等に現実を教えてしまう訳にはいかんのだ……。

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「そうだね」

 

「おう」

 

 

 そんな事よりも俺達はやらなくてはならんことがある。

 然り気無く元浜と松田同級生が高頻度ど生徒会室で寛ぐようになってるけど、特に追い出すつもりも無いので適当に菓子でも与えた俺達は席を立つ。

 

 

「は? 何処にだよ?」

 

「生徒会の仕事か? 匙も木場も生徒会じゃないのによく手伝うなぁ……」

 

 

 その際二人が不思議そうな顔をしているが……すまん、アイツが大丈夫になるまでこの事はまだ話せんのだ。

 

 

「ま、そんな所だ」

 

「『旧校舎』周りの草むしりさ」

 

「生徒会の仕事を手伝ってた方が内申点上げて貰えるからな」

 

 

 故に適当な事を言って俺達は、買いだめしていたポテチを食ってる二人を置き、先に旧校舎で待っているレイヴェル達と合流する為に生徒会室を後にする。

 

 

「昨日の帰りにPCショップ行ってパーツを買ってみたぞ」

 

「は? 何で?」

 

「いや……白音と扉を破壊した際、その余波でヴラディ1年愛用のPCが壊れたらしくて……その弁償を」

 

「でもパーツって……本体を買えば良いんじゃないのかい?」

 

「それがヴラディ1年のPCはゲーミングPCクラスらしくて、市販のじゃあ割りが合わないんだ。

マザーボードからグラフィックボードやメモリなぞの性能重視の最新式を買い揃えたが、特殊ルートで10万近くに抑えられたよ」

 

「じゅう!?

お、おいおい……よくそんな金があったな!?」

 

「うむ……中学の頃からフェニックス家から毎月お小遣いを貰ってて、それを使わずにずっと溜め込んでたお陰で何とかなったよ」

 

 

 まさか使わずのお小遣いがこんな所で役に立てられるとは思わなんだ。

 ホント……俺ってフェニックス家の皆におんぶに抱っこだよな。

 

 

「という訳でまずはヴラディ1年のPCを弁償し、地道に彼女――いや彼? いやアイツの心を上手いこと軽くさせてやろうじゃないか」

 

 

 こういう事に金を使えばエシルねーさんもシュラウドのおっさんも怒りはしない筈。

 という訳で旧校舎へと到着した俺達男三人は、あらかじめグレモリー3年が使ってた部室に置いておいたPCパーツの入ったダンボール箱を回収してからヴラディ1年が居る部屋へと足を踏み入れると……。

 

 

「何で女の子状態のギャーくんにまで私は負けてるんですか……」

 

「いたたた!?!? 胸を強く掴まないでくださぃぃぃ!!!」

 

「ちょっと白音さん! ご自身の胸が貧相だからってヴラディさんに当たらないでください!」

 

 

 ほぼ裸にひん剥かれたヴラディ1年の胸を、白音が殺気立ちながら掴み、それをレイヴェルが咎めようとして居る変な絵面を見てしまった。

 

 

「「「あ、失礼しました」」」

 

 

 シュールというか、不可抗力で見てしまったヴラディ1年の胸の膨らみからして女へと変化してるのを察するや否や、俺達男三人組はさっさと目を逸らしながら外へと戻った。

 

 

「ひぃぃんっ!?」

 

「寄越せ……寄越せ……」

 

 

 聞こえるヴラディ1年の断末魔。

 気付いたのだが、男でも女でも声は同じなんだな――いや、元々が女声なんだろう。

 厄介な性質を持ってしまったものだし、兄貴様はだから手を出さんかったのたろうか。

 

 

「はぁはぁ……うぅ、小猫ちゃんが乱暴する」

 

 

 最早捕まって女との接触の一切を絶たれてると聞いているので、真実のほどは知りようも無く、ヴラディ1年の叫び声が止んだのを見計らって今一度入ると、涙目で駒王学園の女子制服の乱れてた箇所を直してるヴラディ1年と、それを実に恨めしそうに見てる白音と、呆れてるレイヴェルが居た。

 

 

「終わったか? というか白音よ……人の乳房をもごうとするな」

 

「すいません。世の中の不条理さに怒りが沸いてしまって……」

 

「無い星の下に生まれて置きながら嫉妬とは見苦しいですわよ」

 

 

 考えてみれば俺の見知ってる女性は確かに胸の大きな人ばかりな気がする。

 特に白音の姉の黒歌なんかはこの前のプール遊びの時に改めて『わーぉ……』ってリアクションが出てしまう程だ。大きさ的な意味で。

 

 

「…………」

 

「……。なんですか?」

 

 

 それに比べて妹の白音は…………確かに無い。

 同い年のレイヴェルも年相応に成長してるのに、白音はその兆しがあんまり見えてこないのがこうして見てると解ってしまうし、俺の視線が露骨なせいか軽く半目で睨まれてしまった。

 

 

「いやいや、小柄な白音の体型で黒歌みたいな大きさだったら逆に怖いだろ。

お前はお前で充分に女の子らしいと思うぞ……なぁ? 祐斗に元士郎?」

 

「え゛!? きゅ、急に振ってくるなよ! い、いやまぁ確かに一誠の言う通りというか……」

 

「そもそも一誠くんは拘らないと思うよ?」

 

 

 取り敢えずこの場に居る異性である俺達の意見を聞かせてコンプレックスを解消させてやろうと次々に『気にするな』とフォローを入れてみると、白音は自分の胸を両手で抑えながら、祐斗の言葉に反応するかの如く俺を――――ええっと、こういうの何だっけ? 上目遣い? って奴でジーっと見つめてくるではないか。

 

 

「先輩は……胸の無い女は嫌いですか?」

 

「別に胸の大小で好き嫌いを判断した事は無いぞ。

そいつ自身を好きか嫌いかで俺は何時だって判断してきたのだ……故に白音よ、俺はお前が寧ろ好きだぞ?」

 

 

 割りと真面目に答える俺に、何故か皆の視線が生温くなってる気がする。

 はて……俺は何か間違ったのだろうか?

 

 

「こ、こんな目の前で浮気宣言されると悲しいですわ一誠様……」

 

「えっ浮気!? ちょ、ちょっと待てレイヴェル、俺は別にそんなつもりで――――」

 

「なーんて、冗談ですわ一誠様……」

 

「ぬぐ……」

 

 

 レイヴェルにからかわれたりもしたが、白音が妙に嬉しそうにしているのを見て、取り敢えずコンプレックスをちょっとだけでも解消できた様でひと安心しながら、ちょっと蚊帳の外っぽかったヴラディ1年のメンタルケアタイムへと移行する。

 

 

「そらヴラディ1年。お前のPCをグレードアップした状態で返すぞ」

 

「は、はぁ――って凄い!? 今までのより遥かにサクサクと動きます!」

 

「取り敢えずHDDから2TBのSSDを二枚積んでみた。それによりOS起動から立ち上げまで体感10秒以内だ。

それと表ルートに偶然出回っていた3世代先のグラフィックボードとCPUとそれに余裕で耐えきれるマザーボードのお陰で騒音はほぼゼロ。

ほれ、空冷ファンと電源も厳選したから静かだろう?」

 

「4Kモニターまで……」

 

「うむ、これなら向こう8年はパーツ変えせんでもエンコだろうが最高画質設定でゲームも余裕だ」

 

「で、でも良いんですか? 僕なんかがこんな凄いPCを……」

 

「まあ、壊したのは俺だからな。弁償したくて勝手にやってるだけだから何も気にするな」

 

 

 …………。入手ルートは言えんというか、ショップの店員の中に凄いのが居たおかげで手に出来たのは本当に運が良かった。

 妹萌えと宣う変態で、ヴラディ1年の写真を見せたら全力で揃えた辺りが特にな。

 

 

「わぁ……わぁ……凄いっ! 起動が本当に一瞬です!」

 

 

 組終えたPCを嬉々として動かしているヴラディ1年の反応を見る辺り、あの変態男が全力で揃えた甲斐もあったみたいだ。

 

 

「さて、PCにお熱の所に水を差すようで悪いが、早速貴様の持つ暴走してしまう神器についてなんだが……」

 

「あ、は、はぃ……」

 

 

 物で釣ってる様であまり良い気はせんが、取り敢えずある程度ヴラディ1年の警戒心を削ぐという作戦は成功に終わった。

 そして此処からが本番な訳である。

 

 

「残念ながら俺は神器に関してはズブズブの素人なんだが、白音と祐斗からある程度貴様の神器については聞いた。

停止世界の邪眼……だったか? 視界に投影した存在すべてを停止させるとか何とか……」

 

「は、はい……」

 

 

 引きこもる理由の一つ、神器の不制御と効力。

 無意識に……自分の意識とは無関係に時を止めてしまうともなれば嫌にもなる。

 現にヴラディ1年の表情はさっきとは打って変わって曇っている。

 

 

「それに神器だけが勝手に成長しているとも聞いている。

確かにそんな状況では制御の訓練も儘ならんだろう……」

 

「…………」

 

 

 正直な所、引きこもり続けたければ引きこもっても構わんと思っている。

 が、その引きこもりですらその内儘ならなくなってしまう神器だけはそのままにして置くわけにもいかん。

 故に制御の手伝いを何とかしてやりたいと思うんだが……。

 

 

「最初からスキルは使わん。アレはあくまで最終手段だ。

何でもかんでもスキル頼りに事は運びたく無いからな」

 

「え? ス、スキル……?」

 

 

 スキルの事を知らないヴラディ1年は何の事だか解ってなさそうに首を傾げているが、説明はしない。

 勝手に勘違いされて頼りにされても困るからな。

 

 

「そして俺は神器は持ってない。そこで出番なのが、俺の知る限りでの神器使いである祐斗と元士郎だ」

 

 

 とにかくヴラディ1年にはほんの少しで良いから『前に進む覚悟』を身に付けさせる必要があるのだ。

 神器もスキルも共通して『想いと精神』に左右されるのであるなら、まずは本人の意思自身に委ねなければならん。

 

 そこで出番となるのが、神器使いの祐斗と元士郎という訳だ。

 

 

「特に元士郎の神器がヴラディ1年の制御訓練と相性が良いっぽそうなんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「力が暴走するってんなら俺の神器でお前の過剰なエネルギーを奪って調節すれば良いって事だからな」

 

「よろしくギャスパーさん」

 

 

 ヴラディ1年にとってすれば神器を制御できる人材が集結している絶好の機会。

 

 

「うぅ……じ、自信が……」

 

 

 が、やはりずっと諦めてきたせいで尻込みしているのが見て解る。

 うーむ……ならもの試しをさせてみるか?

 

 

「元士郎、ヴラディ1年に接続してくれるか?」

 

「おいーっす」

 

「へ? わっ!? な、何ですかこれ……?」

 

 

 自信が無ければ植え付ける。

 という訳で早速元士郎の腕に現れた黒い龍脈から伸びるラインをヴラディ1年の身体に接続させると、初めて見るせいかかなり驚いている。

 

 

「よーし接続できたな?

それならまずは何も考えず力一杯神器を発動しろ」

 

「え、で、でも……」

 

「心配するな。暴走する程のパワーが出そうになったら元士郎の神器がその分を奪うからな」

 

 

 躊躇するヴラディ1年にそう言って安心させ、発動するように促す。

 すると腹でも括ったのか、それともヤケクソなのか……瞳の色に変化を見た瞬間……。

 

 

「むっ!?」

 

 

 世界の色が変わった。

 

 

「っ……く………あ、あれ……? 何時もより軽い……?」

 

 

 …………。なるほど、これがヴラディ1年の時止めか。

 なじみのスキルに時間干渉系が500種類程あるせいで何度も体感してたのが項をそうした様だ……確かに時間を止められてる感覚はすれどその認識はちゃんと出来る……。

 ヴラディ1年がキョトンとして自分の胸元辺りに視線を落として確認する様な動作をしているのが見えるから間違いない。

 

 

「…………。何だか何時もより楽な気がしました」

 

 

 そんな訳で時は動き出し、今までに無い感覚を感じでもしたのか、ヴラディ1年は独り言を呟くようにして俺達に言った。

 厳密には元士郎のアシストありきだが、これで少しは諦めていた可能性を見出だしてくれた筈だ。

 

 

「お前は力を入れすぎというか……わざわざコップ一杯の水を注ぐのに蛇口を捻りすぎてるっつーか、兎に角力を垂れ流しにしてるぜ?

もうちょい調節したら割りと直ぐに制御できるんじゃねーか?」

 

「ぼ、僕が……ですか?」

 

「おう、それまでは俺がアシストしてやるからよ」

 

 

 チンピラ認識していた元士郎のちょっと優しい言い方にヴラディ1年はビックリしつつも心無しか嬉しそうだったのと同時に、ちょっとだけ元士郎に対するイメージを緩和させた……と思う。

 

 

 

 

 

 

 白夜騎士。

 ジョワユーズを受け入れ、真の姿と力を引き出したと同時に至った純白の鎧騎士。

 フリード・セルゼン自身の進化の象徴。

 

 

『そうですフリード様。

ジョワユーズの真価は『形を変える』事。聖槍ですらその一つでしかありません』

 

「そーですかー」

 

 

 銀牙騎士と互角の戦いを演じたフリードは今日も師であり恩人であるコカビエルの右腕に相応しき強さを身に付けようと、嫌っていたジョワユーズの性質を引き出す訓練をしていた。

 

 

『流石ですフリード様。たったこれだけの期間で此処まで私の力を引き出せるとは……感服致します』

 

「へーいへい」

 

 

 結局負けに等しき決着だった木場祐斗へのリベンジ。

 そして何よりもコカビエルへの忠義が天賦の才を持つフリードの実力に磨きを掛けていく。

 

 

「ラブカップル。

次は俺が勝つから首洗って待ってろ……!」

 

 

 這い上がった堕天使に拾われしはぐれ悪魔祓いは自身の力を受け入れて覚醒する。

 

 聖と魔を越え、どちらをも平伏させる白夜の称号を持つ騎士へ。

 

 フリード・セルゼン――またの名を

 

 

「白夜騎士・打無―ダン―」

 

 

 

 

 堕天使・コカビエル。

 その名は有名であり、それでいて畏怖の対象でもあった。

 何せ自力で神を超越したのだ……三大勢力以外の数多の勢力にとって彼の存在と名前は抑止力として成り立つほどだ。

 特にとある神話系統は彼に対して……。

 

 

『アイツ、わしより強くねー?』

 

 

 と認めざるを得ない程だった。

 故に今回コカビエルが起こした事件と堕天使勢力からの失踪は瞬く間に全ての勢力へと伝わり、特にとあるテロ組織は『チャンス』とばかりに彼への接触を頻繁に行おうとしていた。

 勿論、取り込む為にだが……。

 

 

「貴様等の目的に興味など無い。

寧ろトップなんぞやってるオーフィスが俺を危険と判断して殺しに来ることを望むよ。何せ『奴等』との前哨戦として戦えるからな……ふはははは!」

 

 

 当のコカビエルは今回の事件により地位も名誉も消えた事で獲得した自由を楽しんでしまっており、勧誘話を『敵対して欲しいから』なんて理由で笑いながら蹴り飛ばす始末。

 

 

「無限の龍神に勝てるなぞと自惚れるつもりは無い……クックックッ。

しかしっ! 血が騒ぐビッグネームを聞くと鍛練が捗るものよっ! ぬははははははは!!!!」

 

 

 自由を獲られた事でコカビエルは更なる進化を遂げる。

 それは最強と呼ばれる存在の横をF1カーの如く高速で通り抜けるが如く。

 

 

「安心院なじみに兵藤一誠、そして悪平等共。

待っていろよ……必ず俺は――俺達は貴様等を越える!」

 

 

 己の非力さ、弱さを知ったからこそ種族を超越せし堕天使の瞳に一点の曇り無し。

 只ひたすらに強さを追求する男・コカビエルは今日も『挑戦』し、自らの進化道を歩むのだ。

 

 

「……………。また安心院なじみ……誰ですかその女は?」

 

 

 テロ組織とやらの勧誘者を丁重に帰し、一人メラメラとリベンジの炎を燃やす姿を盗撮しつつ、何度もコカビエルの口から出てくる見たことも無い女の名前に嫉妬の炎をメラメラ燃やす何者かが居ても、コカビエルは不意打ちを噛まして来ない限りは豪胆に放置する。

 そんな男なのだ。

 

 

 

 

 

 そんな訳でコカビエルとフリードは二人三脚状態で着々と進化の道をズンズンと爆進している訳だが、自力神超えを果たしたコカビエルも、過去の例がない白夜騎士へと覚醒したフリードも自身の事に疎かった。

 

 故にコカビエルはどこぞの美人天使にストーカーされても『別に良いか』で済ませる困った男なのだ。

 そしてフリードも――

 

 

「き、貴様……な、なんだその力―――ばぇ!?」

 

『チッ、この程度じゃ鎧を呼び出しても修行にならねーよ』

 

 

 自分の置かれた立場を『コカビエルのボスの部下』とだけしか自覚していない困った男の子であった。

 

 

「ふぅ……。やっぱし修行はボスに相手を頼むが一番ですなー」

 

 

 実戦の勘を決して鈍らせない為にという理由で、人間界に隠れているはぐれ悪魔相手に辻斬り紛いな真似をしていたフリードは、白夜騎士の力をもっと使いこなさなければとどんな相手でも纏って戦うが、あまりにも相手の歯ごたえが無さすぎて、鎧を返還し生身に戻ったその表情は不満がありありと出ていた。

 

 

「いっそラブカップル共にリベンジ――は、まだ早いし……ったく、もっと強い相手は居ないもんかねー」

 

 

 ケンタウロスみたいなはぐれ悪魔を一突きで無に帰したフリードはぶつくさと独り文句を呟きながら廃病院となっている建物を後にしようと歩き出す。

 そもそもコカビエルを相手にボロボロになるまで毎日毎日腕を磨いているフリードは、人間の身でありながらもはや並みの輩は全ての有象無象となるまでに強くなってるのだが、どうにも本人にその自覚が無い。

 

 コカビエルに常日頃から『油断と慢心は身を滅ぼす』と教えられ、過去に兵藤誠八や銀牙騎士に覚醒する前のの祐斗相手に嫌と言うほど思い知った経緯がある故に、どんな格下でも油断なく戦う冷静さを身に付けている今のフリードを満足させる相手は少なくとも今はこの近くには居ない訳で……。

 

 

「ボスの右腕への道のりはまだまだ遠いぜぇ……」

 

 

 月が薄く照らす夜道を冷たい風を頬に感じながら、フリードは消化不良な気持ちのままゆっくりと帰路へと着こうと歩き出した。

 

 

「…………………………」

 

 

 その後ろ姿を見つめている一つの人影が居る事を、敢えて知らんぷりして無視しながら……。

 

 

「……」

 

 

 トボトボとコカビエルの待つ隠れ家に帰ろうと歩いているフリードの――なんと僅か20メートル後ろから木の影、壁の影から見つめては一定の距離を保つ人影。

 その人影はフリードが気付いていないと思ってるが故に、最初は50メートル離れた箇所から見ていたのを、日を追う事にその距離を縮めている。

 

 

「……」

 

 

 偶然……本当に最初は偶然だった。

 とある事情で一人旅的な事をしていた時にたまたま見てしまった魔を切り裂く純白の鎧騎士。

 そのあまりにも綺麗な鎧に目を奪われ、鎧騎士の正体が『年が変わらない白髪の少年』だったのを見てから、『こんな事をしている場合じゃない』と頭ではちゃんと解っているのに、気づけば目で追い、姿を追い……追い掛けてという行動に走ってしまう。

 

 

「…………分かりやすく魔王クラスの馬鹿がどっかで人間様相手に暴れてねーもんかねーっと……」

 

「…………」

 

 

 その矛盾した自身の行動に初めは戸惑った。

 これじゃあ不審人物じゃないだろうか? とかあのお方……フリード"様"に失礼ではなかろうかとか。

 当初は罪悪感に苛まれていたが、『知りたい』『お話がしてみたい』という欲求が誤魔化すように罪悪感を薄れさせ、今ではそんな罪悪感も殆ど消し飛んでいた。

 

 

「……。(前々から何なんだこのウゼー視線は。つーかアレで隠れてるつもりなのか? だとしたら笑っちまうついでに消すか? 格好からして普通の人間様じゃないだろうし、まさかコカビエルのボスへの刺客か?)」

 

「…………。フリードさま……」

 

 

 満月を背に魔と戦う純白の鎧騎士の少年に近付けば近付く程その罪悪感は自分の中で正当化して行き、その距離を恐れを吹き飛ばして近付け――惚けた表情と声で純白の騎士の名を何度も呟く。

 

 

 

 

 

「(いや……にしては殺気なんてまるで無い――ってフリード様……だと……?)」

 

 

 フリードにしてみれば訳が分からなかった。

 今も何度も様まで付けて名前を連呼されると、流石にちょっと――怖い。

 

 

『どうするのですかフリード様?』

 

「(………。隠れ家近くになったら撒くから問題ねーし、そもそも強そうに見えねぇからな。コカビエルのボスの右腕目指してからは雑魚の命なんて狩ってもしょうもねーと思うようになっちまったから……)」

 

 

 自身の中に宿りしジュワユーズの抑揚が無い声にフリードは隠れてるつもりでも気配が駄々漏れな追跡者をどうするかと考える。

 狂気のはぐれ悪魔祓いとしての修羅場を潜り抜けて来たフリードは殺意を向けられている事には敏感だが、そうで無い場合の経験が殆ど無いので対処の方法が解らないのだ。

 

 

「あっ……!」

 

 

 故にフリードが取った選択は『向こうが飽きるまで気付かないフリ』であった。

 何を考えて自分の後を追っているのか……。

 コカビエルに師事してからは殺意を持たない者は無意味に殺さなくなったフリードは『あっ……』等と名残惜しそうな声を出す『少女』の声を風の音に混じらせながら耳にしつつ、人間を越えた速力で走り出した。

 

 

「ったく、意味がさっぱりわかんねーよ。コカビエルのボスを狙って俺をストーキングしてるとは思えねーし……あぁ、メンドクセーな」

 

『………』

 

 

 ここ最近……慣れる訓練のためにはぐれ悪魔狩りをわざと白夜騎士の状態で狩り始めた辺りから、毎晩毎晩下手くそな尾行してくる変な存在の視線にフリードは妙な居心地の悪さを感じながら、意図の読めない相手に半分苛つきつつも隠れ家へとひた走る。

 

 

「また、明日も会えますよね……フリードさま?」

 

 

 風の様に走り去ったフリードの姿が見えなくなろうとも、去った先の暗闇を見つめる少女が、また明日も会える事を願っていると露にも思わず……。

 

 

「子供の頃絵本に出て来た私の白騎士様(ヒーロー)……」

 

 

 『魔法使いの様な格好をした金髪の少女』に自身のボスが天使様にストーキングされてる様な状況にぶちこまれつつある事なぞ思いもせず……。

 覚醒したはぐれ悪魔祓いもまた……意図せずとも知れば兵藤誠八がハンカチを噛んで悔しがる程の旗を立てていたのであった。




補足

覚悟を持たせる――それが一誠達の一番の目的。
ただしギャーくんの性質を考慮して丁寧に……いきなりのスパルタはご法度に。


その2
コカビエルさんは一誠とのバトルを経て信じられないくらいの進化を遂げました。
しかし本人はまだまだと判断して鍛練続行。

フリードきゅんもまた日に日に強くなってます……。

そして運悪く白夜騎士の姿を見られたせいで、追っかけ(決してストーカーでは無い)られてます。

『魔法使いの様な格好をした金髪の少女』

とは一体誰なのか……誰なんだろ? つーかフリードきゅんにまさかの旗って……なんでやねん。


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地雷だらけの各女性陣

インフレ=変態化。

何故かそんなパターンになってる。

※インフレキャラ追加。


 さて、ヴラディ1年の神器制御もコツコツで進めるという事で一安心なのだが、その次に控える問題が一つだけ残っていた。

 

 

「三大勢力会談がやりたいだそうだ。

この学園を使ってそれを行うと、わざわざ『人間』ぽっちの俺にサーゼクス・ルシファーが手紙を寄越してきたんだが……」

 

 

 天使・堕天使・そして悪魔のトップが挙って集結して何やら話し合う為にこの学園を使うことを許可してほしい――――等と、この地の……牽いてはこの学園の密かなる所有者であるグレモリー家のサーゼクスが俺に書面を寄越してきた。

 恐らく奴の意図は、学園生徒会長である俺――――の後ろに控えてるなじみに気を使っての行動なのだが、別に破壊するつもりが無ければ勝手にしろというのが俺の本音だった。

 

 

「コカビエルを撃退した人間という事で、どうやら勝手に俺の名前が奴等に広がったらしいぞレイヴェル」

 

「漸く一誠様の名が世に広まりますか……」

 

「よせよレイヴェル。別に俺は目立ちたがりな性格じゃないんだ。

とはいえ、奴等にとってコカビエルという名前は三勢力共通で『有名だった』みたいだし、仕方無いのかもしれんが……」

 

 

 ヴラディ1年の事もそうだが、俺自身があの騒動によって奴等に知られた。

 …………。別にどうだって良いと言えば良いのだが、それによってコカビエルを撃退した当事者として――――そして同時に行われる審判の為に会議に出なければならんと思うと若干の怠さを感じる。

 

 しかもサーゼクス・ルシファー曰く、報酬も出すから警護と来たもんだ。

 貴様等程強ければ警備なんて必要ないだろう……と突っ込みたくもなるが、こういった仕事はそもそもグレモリー3年とシトリー3年が受け持つ筈だったと言われたら若干断りづらい。

 何せそうさせられなくなったのはあの『兄貴様。』なのだから。

 

 

「まぁ……アレだな。

『兄貴。』の事がこれで綺麗サッパリ消えると考えれば良いか……。

よし、早速サーゼクス・ルシファーに返事の手紙を書こう」

 

「では一誠様……?」

 

「うんやるよ。

今更奴等の命なぞどうでも良いが、アイツ等の自由の為になら何だってしてやるよ……ふっふっふっ『報酬』を貰う為に、な」

 

 

 全ては自由の為に。

 そして……俺自身の姿を使って好き勝手しくさってくれた兄貴にそのツケを清算して貰う為。

 俺は長く続いたくだらん小競り合いの決着を付ける為に、この申し出を引き受ける意を示した手紙を冥界に送り返す為に一筆書きつつ、祐斗達を此処に呼んでくれとレイヴェルに頼み、淹れていた紅茶に口を付けながら生徒会の仕事を片付ける為に手を動かしつつ、祐斗と元士郎を呼び出すのであった。

 

 

 

 

 三大勢力会議にて奴等の審判が行われる。

 そんな話を生徒会室で聞かされた俺達もまた、一誠を手伝うつもりだ。

 

 

「何かすまんな、ゼノヴィアやヴラディ1年の事もあるというのに」

 

「気にしなくて良いよ。元々僕達の事でもあるんだから」

 

「寧ろ当たり前だぜ」

 

 

 たった一人の生徒会長である一誠の元に集まり、説明を受けた俺達は二つ返事で一誠に協力すると言った。

 これで自由の身になれる――散々無関係だった一誠に助けられてきたんだ、これくらいの最後のケジメはテメーで着けなければな。

 

 

「それでギャスパーは?」

 

「うむ、今は白音と一緒に旧校舎に居る。

やはりまだ外に出ることを恐れているみたいだ」

 

 

 取り敢えず近付く最後のケジメの日はそんな流れと決める事として、次に気になるのはギャスパーの事だった。

 性別が周期で変わるあのハーフ吸血鬼の人生もまた相当にエグかったせいで外に出ることすら儘ならなく、どうも今は一番仲が良かった塔城さんが傍に居るようだが、何時かは外で生きれる様になって欲しいものだぜ……。

 

 

「なら交代で俺がギャスパーの所に行ってくるわ。

アイツの神器の制御訓練は俺の神器が一番適してるしな」

 

 

 その為に俺達もできるだけの事はする。

 俺達が一誠に助けられた様に……俺達でギャスパーを助ける。

 ふふん、あの変態魔王からのウザメールの対応をするより、こっちに尽力した方が余程有意義だぜ――そうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤誠八は兵藤一誠のスキルによって封印され、今は女達とも隔離した独房に閉じ込めてある。

 最初はギャースカと言い訳がましく兵藤一誠に恨み言を吐きながら喚いていたけど、全て無視されると悟ってからは死人の様に大人しくなっている。

 

 

「それで? バラキエルが半狂乱になってるから、姫島朱乃だけはそっちに引き渡せとアザゼルが言ってたの?」

 

「はい」

 

「ふーん?

引き渡して会わせても余計にショック受けるだけなのに?」

 

「えぇ」

 

 

 何を今更……もう全てが遅いのに。

 それを知ってるからこそ、アザゼルからの伝言をムカつくグレイフィアから聞いた僕は馬鹿馬鹿しい気分で聞き流していた。

 

「バラキエルの娘――つまりリアスの女王だってドップリとド嵌まりしてたなんて知ったらバラキエルはどうなるんだろうね?」

 

「はて、元凶を自ら殺そうと躍起になるか……はたまた泣き崩れるか。

聞けばバラキエル殿は娘から一方的に離縁されたとはいえ溺愛しているとか」

 

「ふーん……赤龍帝の小僧に食われても気付いてないのか放置してたっぽいのに――説得力を感じないな」

 

 

 悪魔に転生する前は人間と堕天使のハーフだったリアス女王は、実は神の子を見張る者の幹部・バラキエルの娘であった――まあ僕は興味ないからスルーしてたけどね。

 そんな訳だからこの度のやらかし事件に於いての裁判後の彼女の身柄だけはバラキエル側に渡して欲しい……なんて話がおおまかなあらましだ。

 

 

「別に良いんじゃないの? ほったらかしにしてた自分の娘の現実を知って勝手に絶望しようが僕達にも一誠くん達にも何のダメージにもならないし、渡しちゃえば?」

 

 

 僕としてはどうでも良い。

 本人が赤龍帝から離れたがらないだろうがそんなもんはやらかして騒ぎになって独房入りした時点で選択肢なんてあるわけない。

 他の転生悪魔達にしても、安心院さんの後継者および分身の邪魔をしたという罪は、例え本人が許しても僕が許せないのだ。

 なので姫島朱乃はさっさと疎遠になったとか何とかのバラキエル達堕天使サイドに郵送で送りつけてやる。

 鬱陶しい処理が減るだけこっちも楽だしね。

 

 

「はい……ではその様に」

 

 

 という訳で望み通りにしてやると決めた僕の言葉にグレイフィアは何も言わずにただ従った。

 

 この僕に毒とも云うべき劇薬を盛って好き勝手にしたというのに、このスカしか態度……。

 数日前までリアス達の断罪について何か言いたげだったのが嘘みたいに今は平然と僕の言葉に従っている……そう、従っているのだ。

 アレだけ嫌いだと僕に宣っていたグレイフィアが……だ。

 

 

「キミ……随分と素直だけど何か企んでるのか?」

 

 

 それがかえって僕には不気味だ。

 ユーグリッド・ルキフグスにでもさっさと返還してスッキリしたい気分にもなるくらいにね……。

 

 

「まさか……企む処か今の私はアナタとミリキャスが全てですから。

だからアナタの決定には全て従う……それだけの事」

 

 

 ニコやかに宣うグレイフィアに僕は鳥肌が立ってしまった。

 何でも聞く? 隙あらば僕を殺そうとしていた殺戮女が? ありえない……ありえる訳が無い。

 本当に聞くんだったら――

 

 

「なら今すぐ形だけの夫婦なんて演じるのを止めて離婚しようよ? ユーグリッド辺りは大喜びするんじゃないの?」

 

「イ・ヤです。離婚なんて絶対にしない。

死んでもアナタに付き纏うつもりですので……ふふふ」

 

 

 ほらやっぱり、都合の悪い事は聞かないくせに。

 ホントに嫌いだよこの女だけは。

 

 

「その台詞を安心院さんに言われたら天にも昇る気持ちになれるのに――悪魔だけど」

 

「……………」

 

「なにその顔? キミがまさか安心院さんに勝てるとでも?」

 

「いえ……別に」

 

 

 最近は安心院さんの話をすると勝手に不機嫌になってるし、あーウザい……。

 

 

 

 

 

 自分から封印され、その生活に満足していた僕が久しく見た他人は、人間だけど人間じゃない型破りな人だった。

 封印の術式ごと小猫ちゃんと一緒に物理で破壊し、怯える僕に外であった事――――つまり知らない間にリアス部長が堕ちてしまった話を聞かされた時は何かの間違いだと思ってた。

 でも後で調べたらそれは本当であり、生徒会長と名乗る兵藤一誠さんのお兄さんによって全ての歯車は壊されてしまったのが現実だった。

 

 だからこそ……その人の弟だからこそ、尻拭いの形で伝説の堕天使・コカビエルを駒王学園での激闘の末に撃退し、小猫ちゃんと祐斗先輩経由で僕の事を知って訪れ、普通の生活が出来るようにと最低限の神器コントロールが出来る手伝いを申し出てくれんだ。

 

 

「んっ……んんっ……!」

 

「っと、力み過ぎだぜギャスパー 『奪え』」

 

 

 そして一番に僕のお手伝いをしてくれるのが、リアス部長と一緒に駒王学園に通っていたシトリー様の元眷属である匙先輩だった。

 何でも匙先輩は五大龍王の力を宿した神器の使い手であり、力のコントロールが全くダメな僕のアシストをするのに一番適している人だからって理由で時間の許す限り僕の傍に居る。

 今だって停止世界の邪眼のコントロールに於ける進歩が無い僕に対して嫌な顔もしないで付き合ってくれている。

 

 

「ご、ごごごめんないぃ!」

 

「別に怒ってねーから謝んなよ……………そんなにチンピラに見えるの?」

 

 

 正直最初見たときはチンピラにしか見えず、怖さの余りつい言ってしまった。

 けれど実際はどんくさい僕の為に時間を割き、何度も同じ失敗をしてるのにも拘わらず怒鳴るなんて事もしないで丁寧に教えてくれる。

 

 聞けばシトリー様も兵藤一誠先輩のお兄さんによって堕ちてしまい、部長と一緒に裁判に掛けられてしまうとの事で、前は兵士としてシトリー様に想いを寄せていたとか何とかと小猫ちゃんから聞いた事があった。

 そしてだからこそ、そんな事になってしまったシトリー様に絶望し、見限り、悲恋に終わってしまった反動でヤサグレてしまった事も……。

 

 

「やっぱり力の出し方を一から考え直した方が良いかもな」

 

「は、はぁ……ごめんなさい……」

 

「だから謝んなって。

別に責めてる訳じゃねーし、俺も俺で神器の特訓になってるからおあいこだ」

 

 

 匙先輩……。

 僕もこの人みたいに自分の意思を貫ける様になれるのかな……。

 

 

 

 

 

 残念な事に私とゼノヴィアはガクセーじゃない。

 だからガッコーには行けないし、普段はお留守番をしている。

 私は白音の家で、ゼノヴィアは木場の家でね。

 

 

「うぇへへ……このお布団にくるまってるとイッセーに包まれてるみたいだにゃぁ……」

 

 

 けどしかし……。常時木場の家に居るゼノヴィアとは違って私はレイヴェルに睨まれてる事もあってイッセー成分を補給できない。

 ぶっちゃけ、スキルでも使えば簡単にイッセーに色々と出来てキモチイイけど、それだけじゃあ贅沢になっちゃう。

 

 だから私は昼間留守にしてるイッセーのお家に上がり込み、イッセーの使ってる日用品で色々としているって訳だ。

 

 

「あは! ごめんねイッセー……またやっちゃったにゃん……♪」

 

 

 レイヴェルの邪魔もないまま補給するイッセー成分は私の身体を滅茶苦茶熱くさせ、欲しくなる。

 何が……とは敢えてこの場では言わないけど、その欲しい気持ちが極限に達した時は何時だってイッセーの枕や布団がビショビショになっちゃうし、今もやってしまった。

 

 

「んっ……悪戯したことについてお仕置きしてよぉイッセー……滅茶苦茶にして欲しいにゃ……いっせぇ……」

 

 

 レイヴェルが好きなのは私も白音も見てて切なくなってしまうくらい解る。

 けど……それでも私と白音はイッセーだけしか見えない。

 例え修行の片手間であの時気紛れで助けてくれたにしても、私や白音にとってはピンチの時に助けてくれたヒーローなんだ。

 

 だから欲しい。

 独り占めなんて出来ないのはもう解ってる……解ってるから……ムラムラの捌け口だろうと何だろうと私を使って欲しい。

 道具でも良いから……。

 

 

「レイヴェルには悪いけど、死んでも付き纏うからね……いっせー……」

 

 

 私達をずっと傍に置いて欲しい。

 ビショビショにしてしまったイッセーの布団の上で横になりつつ天井を見上げた私は、寂しく疼くお腹の下辺りに触れながら……イッセーを想うのだった。

 

 

「明日はイッセーの指をちゅーちゅーしちゃお」

 

 

 その心に兵藤誠八なんて存在はノミの入る隙間すら無いもん。

 

 

「それにしても、あのセラフォルーって魔王とは何故か波長が合いそうな気がするにゃん……なんでだろ?」

 

 

 

 

 

 コカビエル……コカビエル。

 聖剣を奪った罪人……だから私はこれ以上何をしでかすか解らない男を監視する為に何時でも何処でもあの男の姿を観察する。

 

 その際、安心院なじみなる女性らしき人の名前を呟かれる度にムカムカしてしまいますが、それでも私はコカビエルを監視する為に息を殺し……行動を見つめる。

 

 

「ぬ!? おいフリード、俺のコートが無くなってるのだが、何処にあるか知らんか?」

「はぁ?

ボスのコートならさっき椅子に掛けて――あれ無い?」

 

「ぬぅ、これで三着目だぞ……。

だが無いものは仕方ない、また買うか……」

 

 

 

 

 

 

 

「すんすん……」

 

 

 監視する為には相手を知る。

 種族を――神をも越えた力を持つが故に警戒するのは当たり前だし、またそんな男の挙動や着ている召し物などがどんな物なのかも当然知らなければならないので、私は席を外してる隙を突いてコカビエルが今さっき着ていたコートを頂き、袖に通す。

 

 

「ブカブカ……。

一応男性なだけはありますね……」

 

 

 堕ちた彼の翼を思わせる黒のコート。

 生地は安くて、多分人間界のお店で買ってる物なんでしょうが……体格の差で袖やら裾がブカブカです。

 それに……。

 

 

「コカビエルの匂いがします……」

 

 

 何よりもコカビエルの匂いが、私をコカビエルに包まれてると感じさせ、意識をボーッとさせます。

 

 

「………コカビエル……」

 

 

 あんな野蛮な男に包まれてる……。

 戦うだけの戦闘狂なんて私の性格に合わない存在……。

 でも今さっきまで着ていたのでコカビエルの温もりは酷く私を安心させますし……何故でしょう? 先程から下腹部が変に疼いてしまいます。

 

「………んっ」

 

 

 解らない……コカビエルの事を考えると何時もそうなりますけど、今日は一段の疼きが激しく、私はよく解らないまま自分の下腹部に手を――

 

『ガブリエル! 今すぐ正気に戻りなさい!! 堕天化が進んでますから!!』

 

「――――ハッ!?」

 

 

 熱くなっている箇所に手を置き、ボーッとしていた私の頭の中に直接響いたミカエル様のお声に、意識が一気に現実へと引き戻された。

 ……。どうやら私はまた堕天しかけたらしく、ミカエル様によって防いで頂いた様だ……。

 

 

「………。今日は帰ります」

 

 

 コカビエルの事を考えると何時もそうです。

 コカビエルの事を考えると何時も頭がボーッとして全部がどうでも良くなってしまう気持ちになってしまう。

 

 ミカエル様はその都度私を引き戻し、生暖かい目をされながら、『……。神も居ないしシステムは私が引き継いでますし……早いところ堕天しないでコカビエルとの仲を進展させるアレの開発を急がなければ……』と仰っておられるが、別に私はコカビエルに好意的な気持ちは抱いてない。

 

 抱いてないったら抱いてません。

 

 

「ふふ……コカビエルのコート……コカビエル……♪」

 

 

 だってあの男は嫌い……なんですもの。

 コートを失敬して困らせてやったりだってしてやりますもの……。

 ふふふ。

 

 

 

 

「はぁ……コカビエル……。貴方が堕天さえしなければもっと事は楽に運べたのに。

早いところガブリエルの気持ちに気付いて貴方が自覚させてくださいよ……。

最近は貴方の私物を失敬しては大喜びで部屋に飾るし、他の部下の前でガブリエルにとってはブッカブカな貴方の衣服を着てますし……その都度リアクションに困るんですよ私達は」

 

 

 堕天使に破れ、ついでに心を盗まれた天使は今日も当たり前だと言わんばかりにストーカーをする。

 愛する方向が間違ってるにも拘わらず、天使は堕天使に恋の炎を燃やし続ける。

 

 

 

 

 

 私はレイヴェルさんより弱い。

 姉様みたいにスキルを持ってる訳じゃない。

 一誠先輩みたいな速さも無い。

 何でもかんでも中途半端……だからこそ悔しい。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「ふむ、こんなものでしょうか?」

 

「ま、まだ……まだまだ……!」

 

 

 普段からレイヴェルさんに挑んでは叩き潰されるの繰返しなんですが、ギャーくんが神器の制御を完璧にするために一歩踏み出した姿を見たせいなのか、私はここの所何時も以上にレイヴェルさんを相手に修行しています。

 そして今も完全下校時刻が過ぎた旧校舎を出て直ぐの場所で叩き潰されている。

 

 

「白音さん、アナタは一誠様や私や黒歌さんの戦闘スタイルの猿真似をしている様ですが、これじゃあ話になりませんわよ?」

 

「っ……」

 

 

 その場から全く動かず、当てようと躍起になる私の攻撃全てを合気の要領で全て裁いて見せたレイヴェルさんは、呆れたというか……思ったことをそのまま遠慮せずに私に指摘する。

 

 

「わ、わかって……ます……」

 

 

 それを聞いて私は悔しくて下唇を噛んで視線を落とす。

 そう……わかってる。

 口だけで私は一誠先輩に触れられやしない。

 姉様みたいな強引さも無いし、レイヴェルさんみたいな絶対的な信頼関係も無い……全て中途半端。

 そんな私が一誠先輩を追い掛けて取っ捕まるなんて――

 

 

「わかってますが……私は一誠先輩と一番戦闘スタイルが似ている。

そして先輩流の戦い方を教えて貰った……だから意地でも物にする……。

姉様からは種族としての、アナタからも……先輩からも吸収し――私だけのスタイルを持つ!」

 

 

 無理……だなんて諦めるわけ無い!

 私は私なりに先輩と一緒に居るんだ。

 

 

「その為にアナタですら私の踏み台になれ……この鳥め!」

 

「……………と、鳥」

 

 

 足手まといで……おんぶに抱っこでは終わりたくない。

 私は私なりに……白音として先輩の隣に立つ!

 

 

「何時もアナタ達の背中ばかりを見ていた。けれど追い掛けるだけには留まらない……!」

 

「っ!? あ、アナタ……まさか!?」

 

 

 私は……先輩が大好きだから。

 

 

 背中を追い、憧れて、目標としたからこそ強くなる。

 先へと進む三人の背中を追い越し、並びたいという想いが、燻っていた白音に与えし最良のスキル。

 

 

「姉様からの力……ええっと、白音モード!

レイヴェルさんの力……フェニックスモード!

一誠先輩の力……イッセーモード!!」

 

「っ!? 厄介な事になりましたわね……」

 

 

 それが――無我夢誅(ドリーミングキラー)

 

 

「今日こそ勝たせて貰います……!」

 

「ふん、やってみなさい……やれるものでしたらねぇ!!!」

 

 

 鳥と猫はぶつかり合う。

 譲れないものの為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 元士郎くん……元士郎くぅん……。

 あぁ、どうしよう……最近はずっと元士郎くんの事ばかり考えちゃうなぁ。

 

 

「元士郎くんの体操着……えへへへ☆」

 

 

 考えちゃうからついつい元士郎くんの私物が欲しくなっちゃう。

 今もこうして元士郎くんの使ってた体操着を貰ったんだけど……あぁん……。

 

 

「元士郎くんの匂いがする……。

あぁ……でもやっぱり元士郎くんが欲しいよぉ……切ないよぉ……」

 

 

 元士郎くんが今の私を見たら変態って罵倒するかな? うん、でも良いよ変態でも。

 元士郎くんが欲しいって気持ちが変態さんならそれで私は構わないよ……。

 

 

「それにしてもだけど、コカビエル騒動の時に見たあの黒髪の猫妖怪さんとは何故か気が合いそうなんだよなー……何でだろ? すんすん……はぁはぁ……」

 

 

 だってこれが「好き』って意味なんだもん。

 

 

「出来れば元士郎くんをたくさん甘えさせたいな。膝枕したりちゅーとかしたり――っ!? わわ、しまった……!? 元士郎くんの体操着がビショビショに……」

 

 

 

 

 

「あっれー? 俺の体操着が無い」

 

「む、体操着だと?」

 

「匙先輩、今日体育だったんですか?」

 

「おう……まぁ、予備だし良いんだけどよ。

何故か嫌な予感がするというか、さっきから背中がゾクゾクと嫌な感じがするっつーか……なんだろ」

 

「……。そういえば俺も昨日黒歌に体操着を持っていかれたっけか。

使ったばかりのなんて汚いのに、黒歌は『にゃー!! お宝だにゃん!!』と目の色変えて結局持っていってしまったが……」

 

「え、えぇ……? 黒歌さんって小猫ちゃんのお姉さんですよね? やっぱりそんな人だったんだ……」

 

「あの人は本当に一誠関連はブレ無いな……羨ましいぜ一誠が」

 

 

 

 

三大勢力裁判まで……残りわずか。




補足

+セラフォルーさんも含め、特にこの方々はインフレ=変態化が進んでます。

てか、天使で変態て……地雷だらけやん。


それとですが、此処まで来るとレイヴェルさんが好きだからと言われても諦めるわけ無いんです……猫姉妹さんは。




ガブリエルさんのマイブーム。

気儘に生きるコカビエルの監視と、隙あらば盗撮・盗聴・私物失敬。

私物失敬に至ってはコートやらの衣服を――特に直前まで着てて脱いだやつをハンターみたいな目をしながら掠め取り、すんすんしたり、部下やミカエル様の生温い目に晒されながらニコニコと『コカビエルなんて嫌い……♥』と宣いながら着ているとか……。


これではもはや病気……。
IFと違って通い妻出来んかったド反動。


小猫たん……遂に覚醒する。

描写は無かったですが、レイヴェルたんに挑んでは返り討ちの繰返しで培ったハングリー精神。

黒歌さんとの合流で本格的に修行した仙術技術。

戦闘スタイルが似てると一誠が嬉々として教えた近接戦闘技術。


そして小猫たん自身が想う三人への憧れ……そして並びたいという覚悟が爆発した結果生まれたのがそれです。



その2
何と無くまとめました。


―地から這い上がりし伝説の堕天使―


コカビエル

現在の所属なし


一誠との戦いと、スキルである超戦者(ライズオブダークヒーロー)による蓄積により更なる次元へと進化した完全なる神越えの堕天使。

安心院さんに勝ちたいというだけの向上心。
フリードの可能性を目の当たりにした事により更に精神に余裕ができあがっており、特にフリードと歳の近い子供の向上心溢れる姿を見ると、ついついお節介を焼きたがる部分がちょっと多くなった。

 本人に自覚は無く、寧ろ敬遠されてると思ってるが、実の所は堕天使達からかなり慕われており、この度の脱退のせいで半数近くの若い衆が後を追おうとした程であったりするが、やっぱり本人に自覚は無い。

天界側でもミカエルからはそんな嫌われてる事も無く、天界最強にて一番の美人と言われるガブリエルに至っては想うがあまりコカビエルに対してストーカー行為に及ぶほど。


 神話系統からも現在最も警戒されてるが……本人は寧ろ『殺しに来いよ、バトれるし』とオープンに待ち構えてる。


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フリードと魔法少女

……。まともだよ! すっごいまともじゃん!

※砂糖……か? 追加した。


 運命の日――なんてオーバーな事を抜かすつもりは別に無いけど、俺にとっては人生の分岐点とも云うべき日なのかもしれない。

 

 一度全てを無くし、再起し、その原因との決着。

 

 兵藤誠八という名の影からの脱却。

 

 それこそが兵藤一誠としての俺の本当の再起だと思うのだが、同時に俺は思う。

 

 奴のお陰で俺は生徒会長を出来た。

 奴のお陰で此処まで昇華出来た。

 奴が奪ってくれたから――――レイヴェルと出会えた。

 

 

「今更言っても貴様にしてみれば嫌味だろうが……ふふ、俺は心の底から感謝しよう。

『ありがとう兵藤誠八』『貴様のおかげて俺は胸を張って幸せだと言える』」

 

 

 俺は俺。奴は奴。

 なじみが言っていた、俺が歩む筈だった本来の道筋が欲しくばくれてやる。

 多数の女と関係を持ちたければどうぞ勝手にしろ。

 

 

「だから――」

 

 

 お前は兵藤誠八――俺は兵藤一誠。

 顔が似てるだけの『他人』なんだから。

 

 

「貴様も『本来の貴様』の姿として生きて――おやすみ」

 

 

 そうだろ? 俺に絶望(マイナス)希望(プラス)を与えし転生者よ。 

 

 

「明日――いや厳密には今日……因縁は此処で終わる」

 

 

 赤龍帝も本来の道筋も俺には必要の無いものなのだから。

 

 

「一誠様……明日もお早いですし、今日はもうお休みに……」

 

「おう……」

 

 

 住んでる小さなアパートの屋根に上がって星空を眺めながら、感傷に浸ってたりしていた俺にレイヴェルが姿を見せ休め……なんて言いつつ座って空を眺めていた俺の隣に座る。

 多分俺が部屋に戻らない限り、レイヴェルはずっと隣に居るだろう……だから明日の事もあるし部屋に戻らないととは思う――だけどさ。

 

 

「聞いたぜレイヴェル。白音が進化したみたいだな……しかも能力保持者(スキルホルダー)に」

 

「ええ……驚きはしましたが何とか叩き伏せてあげましたよ――何時ものように」

 

 

 解らないけど、何故か眠れない。

 眠れず、星空を眺めながらレイヴェルと話をしてしまう。

 レイヴェルも律儀に付き合ってくれるからつい甘えてしまう。

 

 

「明日……か」

 

「ええ、明日です」

 

「長いようで、生徒会長をやってからは早かったな」

 

 

 けれどぎこちない。

 肩と肩が触れるか触れないかの微妙な距離で俺の言葉にレイヴェルが相槌を打つ。

 ぎこちない……けれど心地好い。

 

 

「なじみに拾われ、連れられ……フェニックスの家に来てお前に出会えたから此処まで折れずに来れた。

何度だって言うが……お前が居なかったから途中で妥協して終わってただろうな」

 

「………」

 

 

 俺は本当に運が良かったよ。

 安心院なじみに拾われ、フェニックスの家族に迎えられ……レイヴェルに出会えたんだもの。

 宝くじで一等を当てるより遥かに……。

 

 

「そういえば覚えてますか一誠様? 高校生になる前の時に私の下に公爵の一人息子との縁談話の事を」

 

「ん……あぁ……そういやそんな事もあったな。

ある訳無いのに勝手に俺が嫉妬して公爵の一人息子を殴り飛ばして半殺しにしてしまったアレね。

いやー……ほら、何かエロい目でレイヴェル見てたからつい感情の線がさ――若気の至りにしてもヤンチャし過ぎたねアレは」

 

 

 俺はレイヴェルが大好きだ。

 変わらない……今も昔も変えたくない俺の気持ち。

 白音と黒歌に好かれてる事は……ま、まぁ嬉しいけど、それでも俺にとって帰ってきたと感じるのはレイヴェルとこうしてる事なんだ。

 

 

「あの時からハッキリ思ったけか。

『あー……やっぱレイヴェル居ないと駄目だわ俺』ってさ」

 

「一誠様……」

 

 

 心の底からの安心。

 なじみから与えられても感じること無い絶対的な安心。

 

 

「ハァ……全く女々しいったらありゃしない――――が」

 

 

 俺はそれをレイヴェルから感じ、そして思う。

 

 

「ねぇ、鬱陶しいと思うか? こんな俺を……」

 

 

 欲しいなー……なんて。

 

 

「そんな事……思う訳なんてありません」

 

 

 レイヴェルの両肩を掴み、此方へ向かせて額をくっ付ける。

 鼻先が触れあうまで近づけ、意地の悪い質問にレイヴェルは微笑みながら小さく首を横に振った瞬間――

 

 

「ずっとアナタを愛してます……一誠」

 

「俺も大好きだよ、レイヴェル……」

 

 

 今だけ全てを忘れ、ただ目の前の大好きな女の子だけに全てを向け、手を絡まさせる様に繋ぎながら唇を重ね合った。

 

 

「ん……あー……やばいなぁ……レイヴェルとするのいいなー……頭がふわふわしてきた」

 

「うふふ……私も同じですわ」

 

 

 此処に居る……幻想じゃないよと互いに確かめ合いながら――只時間を忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

「…………。今日だけは邪魔しないで置きますよ……」

 

「いいなー……かれこれ三十分もしてるにゃ。

まぁ……諦める訳なんてないけどね――でしょう白音?」

 

「当然です」

 

 

 星空の下に重なる二つの影を、羨ましそうに眺める姉妹。

 当然諦めるつもりは……無いみたいだ。

 

 

 

 

 敗北とコカビエルとの出会いにより、その運命を変化へと導いたフリード・セルゼン。

 駒王学園での激闘の末、少しだけ憑き物が落ちた様子で今日も元気にリベンジの為の鍛練をする彼だが、最近ちょっとだけ困っていた。

 

 

「そ、その姿……! まさか貴様が最近現れた純白の鎧騎――」

 

 

 コカビエルに頼るだけでは駄目だと野良に出てはぐれ悪魔や野良妖怪を狩る毎日。

 

 

『…………………。驚く暇があんなら防ぐ動作ぐらいしろし』

 

 

 劇的な覚醒を遂げたフリード―――いや、白夜騎士の名はココ最近『はぐれもの』達の間で『恐怖の象徴』として広まっていた。

 無論それは根っこが戦闘狂であるフリードにしてみれば、相手が逃げ腰になってしまうという意味で歓迎できないものであり、今も白夜の鎧を召喚して纏った瞬間、それまで調子よく見下していた相手の表情が恐怖に染まって逃げようとしたのだ。

 

 

「………。ハァ……狩り過ぎちゃいましたかねー」

 

 

 逃げ腰になる相手なんて狩っていても修行にならない。

 風の噂では自分と共倒れした銀牙騎士へと覚醒した木場祐斗もはぐれ者達の間では自分と肩を並べるレベルで名が急速に広まっているらしいのだが、どちらにせよフリードにしてみれば退屈だった。

 

 しかも挙げ句が――

 

 

『フリード様、お気付きかもしれませんが、4時の後方『10』メートル圏内に気配を感じます。

恐らく『何時もの』方かと」

 

「……。あっそー」

 

 

 何時からか、修行のはぐれ狩りを行う度にほぼ間違いなく現れる謎の少女の妙な視線。

 

 

『日を追うごとにフリード様を観察する距離を縮めてますね』

 

「…………………はぁ」

 

 

 埃っぽい廃墟を出て新鮮な夜風を吸いながら星空をボーッと眺めていたフリードの意識に直接語りかけてくる『ジョワユーズ』であり『白夜騎士』の意識の抑揚の無い女性ボイスに深呼吸ついでに溜め息が出てしまう。

 

 

「………………フリードさま」

 

 

 三角帽子を被り、そこから溢れる金髪の少女の熱っぽい視線。

 最初は50メートル離れた場所からだったのが気付けば声で会話が成立出来るだろう距離まで縮まっており、少女から向けられる視線の意味がさっぱり解らないフリードからすれば、むず痒くて仕方無かった。

 

 

『どうしますかフリード様?』

 

「…………」

 

 

 とはいえ斬り殺す訳にもいかない。

 なんせここ最近は敢えてわざと隙を作ってボロを出させようとしてたのに、少女は見てくるだけで攻撃をしてくる様子も殺気も見せないのだ。

 狂人などと言われているフリードだが、流石に敵意を向けてこない相手を問答無用で斬り殺す程には狂っては無く、去る様子を全く見せない魔法使いコスプレの少女の視線を受けながらジョワユーズの声に沈黙して考える。

 

 そして――――

 

 

「よー……そこの変人さん? いい加減俺っちに何かご用ッスかねー?」

 

「はわっ!?」

 

 

 フリード・セルゼンは生まれて初めて『即殺し』じゃなく『対話』をする為に、ずっと見てくるだけの少女へと自ら歩み寄るのだった。

 

 

 

 

 

 小さい頃に読んだ絵本。

 その絵本の内容は、たった一人の騎士が沢山の人々を守る為に魔獣と戦うというシンプルな内容でしたが、私は今でもその絵本が――いえ、その絵本に出てきた純白の鎧騎士が大好きです。

 

 でも所詮絵本は絵本……現実は白騎士様なんて居ないけど、夢を見続けることは出来ると私はずっと心の中に白騎士様を留めていました。

 

 そう――

 

 

『おいそこの女……邪魔だから下がってな』

 

『え?』

 

『何だ貴様は……人間か?』

 

 

 月明かりに煌めく白髪とルビーの様な真っ赤な瞳が目を引く私と歳が変わらなそうな男の人が不敵な笑みを浮かべて私の前に現れた運命の日を迎えるまで、私は絵本の中の白騎士様とは決して会えないと諦めていました。

 

『あーん、俺が誰だって?

そうですなー……これから狩る雑魚に名乗っても意味なんてねーだろうが、リベンジの願掛け目的にちょいとカッコ付けさせて貰おうか?』

 

 

 とはいえこの時はまさか白騎士様だと思わなかった私は、失礼ながら黒いロングコートを着た男の人――つまりフリード様に逃げてくださいなどと宣ってしまいます。

 

 

『ま、待ってください! 危険ですから逃げて――』

 

『あーん? 何言ってるんですかねー? アンタこそさっさと消えなよ。

一応、こういう輩を見逃すってのは元職業柄無理なもんでねー』

 

 

 でもフリード様はそんな私に優しく微笑みかけてくださるばかりか(注意・ルフェイ視点)安心させるように逃げろと促すと……。

 

 

『つー訳で、俺はフリード・セルゼン。またの名を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 白夜騎士・打無(ダン)

 

 

 聖なる剣を槍へと変化させて、その切っ先を天に掲げて円を描き、現れた円陣から降り注ぐ眩い光を浴びたその身に纏う純白の鎧。

 

 

『覚えとけクソはぐれ悪魔。

これから俺がテメー等に狩られる恐怖を教えてやるぜ……ヒャハハハ!!』

 

 

 何もかもが小さい頃に読んだ絵本の白騎士様がそのまま飛び出して来たとしか思えないお姿に私は見惚れた。

 雄々しきお姿。

 どんな相手でも立ち向かうそのお背中。

 

 全てが私の中で思い描いていたヒーローさんと合致する。

 だから私は茫然と魔を斬り祓う白騎士様――いえ、白夜騎士様であるフリード様を見つめ、追いかけ、そしてまた見つめ、お近づきになれたら良いなと考えながらまた見つめの日々を送った。

 

 そして今夜――

 

 

「返答の次第じゃ首チョンパすっから正直に話せよ? テメーはこの前から何なんですかー?」

 

「あ、あの、わ、わたし! え、ええ、ええっと、しょ、しょの!!」

 

「……………………………。落ち着けよ」

 

『………。私を引っ込めた方がよろしいかと』

 

 

 ヒーローが――フリード様がこんな近くに…………………………………えへ、えへへ……えへへへへへへへ!

 

 

 

 日に30回その姿を……いや『色』を変化させるジョワユーズを剣形態へと戻し、切っ先を喉元へと突きつけながら少女への尋問を開始したつもりのフリード――だったが。

 

 

「わたし……えと、ルフェイ・ペンドラゴンと申しましゅ―――ひへ!? し、舌ひゃんじゃいまひた……」

 

「お、おう、だから落ち着けよ?」

 

『ペンドラゴン……?』

 

 

 フリードはある意味最大の困惑を覚えていた。

 紛いなりにも自分の殺り方を見ていた筈の女が、その獲物を喉元へと突き付けて脅されてるというのにも関わらず頬を染めながらニヨニヨ笑って名前を名乗ったのだ……。

 フリードからしてみれば訳がわからない――というコイツまさかのマゾ? という懸念すら出てしまう。

 

 

「はぁ、はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい……私だけはしゃいじゃって……」

 

「分かったから目的はよ」

 

「ぇ? も、目的はその……白騎士様――フリード様のお姿に……」

 

「いやだから目的――」

 

「きょ、今日もカッコよかったです! 雄々しきそのお姿、決して圧されない力強いお言葉も何もかもが!!!」

 

 

 しかしルフェイ・ペンドラゴンと名乗る少女は怖がる処か興奮した面持ちで矢継ぎ早にフリードを褒めちぎる言葉を口にするだけだった。

 

 

「何だしこの女……」

 

『少なくともフリード様の戦うお姿に見惚れた少女というだけで、敵では無いと思われます。

とはいえ、只の少女では無いようですが……』

 

「ですからお話できて光栄で……えっと……その……!」

 

 

 少女には聞こえないジョワユーズの意識が淡々と顔を真っ赤にしながらはにかむ少女に敵では無いと評価するのを聞きながらフリードは武器を仕舞いながらジーッと、自身もとっくに感じてる『只の少女では無い』その源を探ろうとルフェイなる少女を見つめる。

 

 

「あわわ……そ、そんなに見つめられると……」

 

「……………」

 

 

 が、何を思ってるのかルフェイなる少女は鮮血を思わせるフリードの……実は片方は義眼だったりするその瞳に照れながら帽子を深く被り込んでしまう。

 

 

「………。(ただのバカなのかこの女?)」

 

『それはフリード様がお決めになる事ですので、所詮は武器である私には何とも……』

 

 

 ある意味初めてとも言えるタイプにフリードは口封じすべきかどうか迷ってしまう。

 いや、というかどう見てもこのルフェイという少女では自分の――ましてやコカビエルの脅威となる器を感じられない。

 このまま放っておいても良いか? とまで考え始めていたフリードだったが、帽子を深く被って照れていたルフェイが発した言葉が――

 

 

「フリード様をお目見えする前は、黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)に所属し、色々な魔術の修行をしてました!」

 

「は?」

 

 

 わざとなのか、それとも勝手に口を滑らせただけなのか……。

 有益な情報とも言うべき言葉にフリードは思わず口をポカンと開ける。

 

 

「黄金の夜明け団……?」

 

 

 近代魔術を独自に研究する、歴史としてはまだ新参とも言える秘密結社まがいな組織の名前にフリードは、前に何処かで聞いたような……と思い出そうとしながら、一気にルフェイに対して警戒心を抱く。

 

 

『黄金の夜明け団……ですか。申し訳ありませんがフリード様。

私の『記憶』には無いですね』

 

「……。(だろうな。

確かどこぞのクソ悪魔の眷属が作ったとかそんな話だった気がするし……。

やっぱりこの女殺しちまうか?)」

 

 

 まだテレテレとしてるルフェイに冷徹な瞳を帯びた表情で見据えながら、仕舞い込んだジョワユーズを再び呼び出そうとする。

 今更『黄金の夜明け団(その程度)』の組織に自分やコカビエルが潰されるつもりなんて無いが、知った以上芽はさっさと摘んでしまうべきだ。

 

 

「そっかー……ルフェイたんは魔法使いなんだー?」

 

「な、名前で呼んでくださるのですか!? ほわぁ……か、感激です!」

 

 

 女だろうが子供だろうが……邪魔になるんであるなら斬り伏せる。

 フリード・セルゼンのぶれ無い精神こそが真骨頂の1つであり、またその覚悟があるからこそ覚醒と進化を――そしてジョワユーズの意識は惹かれて全面的に力を明け渡す。

 何やら名前で呼ばれて勝手に感激している少女へと手を伸ばしたフリードは、その首を跳ねようとジョワユーズ本体を呼び出す――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で大した脅威にも無さそうで、逆に使えないかと思ってボスに相談しに来たんだわ」

 

「ほう?」

 

 

 事はせず、取り敢えずフリードはボスであるコカビエルに相談しようとルフェイを連れて元オフィスビルだった廃ビルを二人で日曜大工して改造した隠れ家へと連れて帰ってきたのだった。

 

 

黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)か。魔術師共の派閥の一つだな。

よく連れて帰ってきたなフリードよ」

 

 

 殺すより、利用できないか……。

 コカビエルへ師事してからある程度冷静に考えることが出来るようになったフリードはそう考え、どうやら出奔した『兄』を探して一人旅していた背景を抱えていたらしいルフェイをそのまま連れ帰ってきたのだ。

 

 

「まあ……強くなりそうな可能性のある輩を潰したらつまんねーかなーとか思ったりしてよ……」

 

「フッ、お前も俺の悪いところが似てしまったな。

だがよーく分かる話だ」

 

 

 居心地が悪そうに目を逸らすフリードに、ホームセンターで安売りされていた御気に入りソファに腰掛けて酒を煽っていたコカビエルは笑みを溢しながら、自分を見て固まってるルフェイという少女に視線を移す。

 

 

「小娘……。む、おい小娘?」

 

「………………。で、伝説の堕天使!?」

 

「は?」

 

 

 どうやら自分を知ってるようで、ルフェイは驚愕を通り越したオーバーリアクションでだらしなく座ってるコカビエルを前に怯えを孕んだ目をしながらフリードの背へと隠れてしまう。

 まあ、大きな三角帽子のせいでちょっと間抜けに見えてしまう訳だが。

 

 

「ど、どうしよう……た、たたた、食べられちゃう!」

 

「いや人間の肉味なんて食っても美味くないから俺は食わんぞ。

そもそもフリードが連れて来た客人相手にそんな事するつもりだって無いし、というより……俺ってそんな野獣じみてる様に見えるのか……?」

 

「やっぱ斬っちまうべきだったかも――って、鬱陶しいからしがみつくなよ!!」

 

「あわわわ!」

 

 

 自力で神を超越せし堕天使。

 コカビエルという名前は知る者からすれば大層ビッグなネーム故に、その系譜であるルフェイは怯え、フリードの背中にしがみつきながらプルプルと震えてしまう訳で……。

 

 

「取り敢えず誤解を解くか……。

何か最近どうも――いや、兵藤一誠と戦ってからは餓鬼の将来の芽を無意味に摘みたくなくなってる自分に驚くよ」

 

 

 自覚は十二分にしていたものの、その悪人顔故に怯えられる事にほんのちょっぴり気持ちを沈めつつ、フリードが連れてきた客人だしとコカビエルは何時間も掛けて『何もしません』という意思を示すのに時間を費やすのであった――――勿論フリードのアシスト込みで。

 

 

「―――以上の事から、俺とフリードはお前に何もせん。

帰りたければ今からでも自由にしろ」

 

「オールオーケー?」

 

「そ、そうだったんですね……。

勝手に取り乱してごめんなさい……」

 

 

 結果、時間にして4時間程掛かったが何とかルフェイの誤解を解くことに成功したコカビエルは、ホッとしながらスーパーで買った安酒を煽る。

 

 

「フリードの姿に見惚れてずっと尾行していた……か。

ふっ、お前も中々隅に置けないじゃないか、え? フリード?」

 

「ちょっと酔ってるだろボス? やめてくれよ……」

 

 

 ちょっとほろ酔いなのか、若干どこぞのオッサンを思わせる様子でフリードを煽っているコカビエルに、フリードは辟易……そしてルフェイは意外な気持ちを抱いていた。

 

 

「も、もっと怖い方かと思ってました……」

 

「怖い顔なのは生まれつきでな。

お陰で慕われた事もなければモテ事すらない……ヒック……まあ、別に良いけど」

 

「あ、 注ぎますね?」

 

「うむ……おっとと……。最近の娘にしては中々デキる娘だな。

どうだ? 兄を探して組織から出たと言っていたが、行く宛が無ければ暫くココに居るか? フリードもいるし」

 

 

 何というか……顔に似合わずフレンドリーなのだ。

 兵藤一誠という人間の少年の影響故……だったりするのだが、その事を知らないルフェイはほろ酔いで自慢の弟子だとフリードの事について語りまくるコカビエルにすっかり警戒心を解いたばかりか、空になったグラスに酒を注ぐ始末だった。

 

 

「へ?」

 

 

 しかもまさかの提案にルフェイは思わず持っていた酒のボトルを落としそうになる。

 

 

「ちょ、待てやボス!? 確かに連れてきたのは俺っちだけど、ここに置くなんて――」

 

「何か困ることでもあるのか? 別に良いじゃないか、お前のファンなんだぞ?」

 

「ファンって……。

そ、そんなの強くなるのとかんけーねーし……」

 

 

 完全に出歯亀のオッサン化してるコカビエルにニヤニヤ顔にフリードは『それでも普段はカッケーし……』と慕う心の方が遥かに勝ってる故に口ごもってしまう。

 

 

「俺もフリードも何処の組織に所属してる訳じゃない。

とある事情でクビになったからな……。

故に俺達の目的はただ強さを追求するという事で……まあ、ぶっちゃけるとアレだな……………華が欲しい」

 

「は、華?」

 

「うむ……ヒック……まあ、嫌なら別に良いんだがな。

フリードの近くに居れるかもしれないという意味での提案――」

 

「はい! よろしくお願いします! こう見えて炊事洗濯掃除何でも出来ます!!!」

 

「―――――だ、そうだがフリード?」

 

「…………。楽しんでねーか? ボスよ?」

 

 

 何だか知らないけど酔っぱらってるせいで勝手に話が進んでる。

 本当ならもっとダークでハードボイルドに……人質的な意味として利用しようぜ的な意味でわざわざ殺さずに連れて来たのに、気付けば世話掛かりとしてボスに雇われてる……。

 

 

「よーし! ヒック……ならルフェイの部屋だが……ヒック……あー……無いからフリードと寝ろ」

 

「はぁっ!?」

 

「フ、フリード様とですか!? フ、フリードしゃまと……」

 

「ちょっと待てボス! 話が飛躍し過ぎて訳わかんねーよ!?」

 

「良いだろ別に。

お前だってもう餓鬼じゃないんだし、ルフェイだって満更ではなさそうじゃあないか……なー?」

 

「わ、私……! しょ、しょの……ふ、フリードさまさえ良ければ、べ、べちゅに……あぅあぅ……」

 

 

 しかもルフェイもルフェイで何でか乗り気で、頬をヒクヒクさせてるフリードに真っ赤な顔でチラチラと視線を寄越している。

 

 

「チッ、俺はそこら辺でも寝れるからアンタは俺が使ってた部屋使えよ……ったく」

 

「え、そ、そんな……でしたら私が――」

 

「もう良いから……取り敢えずシャワー室まで案内するから先に浴びてろ――」

 

「一緒に入れば良いだろ? ついでに仕込めよ」

 

「黙れよ!? 酒弱い癖に飲み過ぎなんだよ!!」

 

 

 ルフェイという少女に対する対応を完全に間違えてしまった……フリードは後悔するのであったとか。

 そして……。

 

 

「フ、フリード様のお部屋……。

フリード様の匂い……あは……♪ あ、あれぇ? 頭がボーッとして身体が熱くて……」

 

 

 その予感はある意味当たっているのかもしれない。

 

 

 超戦者……コカビエル

 白夜騎士……フリード・セルゼン

 魔法少女……ルフェイ・ペンドラゴン

 

 

 対悪平等・コカビエルチーム……密かに結成。

 

 

「……………。やりますねあの少女……。

ですが、おかげでコカビエルの寝顔を写真に納められました……ふふふ」

 

 

 密かなる見届け人……ガブリエル。

 

 

「Zzz……」

 

「もう、こんなに飲んでだらしないですね……ア・ナ・タ❤」

 

「むにゃ……?」

 

「きゃ、アナタって言ってしまいました! 結婚もしてないのに……うふふふ♪」

 

 

 見届け人の現在。

 爆睡しているコカビエルの目の前でサワサワしながらクネクネしてる。

 

 

「んぁ……?」

 

「っ!?!?」

 

 

 だが意識を持つ本人を前にすると――

 

 

「む……?

何だ……また手首が虫に刺されたのか――しかも知らん誰かの匂いがまたするし……」

 

(はっ……ハァ……ハァ……!! お、起きるのが早すぎですよ!)

 

「む……髪……それも金?」

 

(わ、私の髪の毛ですよコカビエル!)

 

 テンパって若干ツンデレになる気――アリ。




補足

禍の団……では無くコカビエルチーム入り。
これからはお洗濯と称してフリードきゅんの召し物に悶々したり、ほぼ本能でパシャパシャと激写したり……。

フリードきゅんの嫌な予感はほぼ大当たり。


ガブリエルさんは………まあ、此処に至っては平常運転で。



一誠くんは禁断症状入ると、某ル◯ズコピペ状態に――――ならんこともない。

というか、ストーカー女性陣は確実になりますかも。



 次回から一気に進めます。


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会談する人外達
運命の会談


練習の成果………特に無かった。


 やっとこの日がやって来た。

 どういう結果になるかは解らないが、それでも俺の人生に一つは区切りは付けられる事は間違いない。

 だから出ろと言われたら出るさ……。

 

 

「ようこそ……まずは御足労に感謝するよ」

 

 

 この場違い感バリバリながらも決着が付けられる席にな。

 

 

「この度は愚妹が君達に大変な迷惑を掛けてしまった。

お詫びのしようが無いくらいだが、どうする? 望めば直ちに全員の首を跳ねて――」

 

「それはアンタ達で決めてくれれば良いだろう。俺達は俺達のやるべき事をただやっただけだ」

 

 

 堕天使・天使・悪魔のトップが本日駒王学園の会議室に終結した。

 理由は一つ……コカビエルの事と『俺達』の事と、奴等個人のこれからの事についてである。

 人間の餓鬼がコカビエルを――後で聞けば神すら叩き上げで超越した堕天使を単身で撃破した俺はこの三勢力からしても相当警戒すべき対象として認定されてしまったらしく、兄貴様達の事も相まってこの三大勢力会議に生徒会スタイルでレイヴェル、白音、黒歌、元士郎、祐斗、ゼノヴィアと共に出席し、参加する事になったが……。

 

 

「へぇ、お前がコカビエルとタイマン張って勝った人間かよ? いやぁ、ウチの戦闘バカがすまんすまん!」

 

「その頭の悪そうな喋り方は何とかならないのですかアザゼル? いえ、そんな事より此度は聖剣を守って頂きありがとうございます」

 

「む、別に貴様等の為じゃあ……」

 

 

 堕天使と天使の代表者に何故か俺は頭を下げられた事にどう返すのか迷った。

 途中から殴りあってるのが楽しくなってたとはとても言えん状況だ。

 

 

「アザゼルにミカエル、話し掛けるのは良いがその前に終わらせる事があるだろう? 本当なら来る必要も無いところをわざわざ来てくれたのだから」

 

 

 が、そんな二人を諌めたのが、あのサーゼクス・ルシファーだった。

 なじみ狂信者という……微妙によろしくない趣味をしてる彼は事あるごとに俺や分身のフェニックス家に対してゴマスリじみた行為をしてきて、正直辟易する部分も多かったのだが、今回に限ってはちょっとだけ助かった。

 

 

「む、そうですね」

 

「はいはいっと」

 

 

 背に純白の翼と頭に変な輪っかを浮かべてる……確かミカエルという天使と、何処と無くいい加減っぽく見えなくもない風体のアザゼルという堕天使がサーゼクス・ ルシファーの言葉に従い、各々の席に座る。

 ミカエルなる天使の後ろには金髪の天使、サーゼクス・ルシファーの後ろには銀髪の――確か嫁さんが控えているが、アザゼルという堕天使には誰もいない。

 ちなみに元士郎をジーッと見つめているセラフォルー・レヴィアタンが居たりするが、そのいえば彼女も魔王なんだよなー……とぼんやり考えつつ、俺達全員も席に座る。

 ちなみにウラディ1年は置いてきた。

 理由は普通に彼……? いや彼女? ………まあ、本人が『邪魔になると思うので、一人で制御の練習をしておきます』と言ったからだ。

 

 どうも俺達と過ごした――特に元士郎を見て何か思う切っ掛けでも得たのか、最初の頃と比べるとちょっとは怯えの心が克服されている様である。

 

 

「さて、全員が揃ったことで会談を始めさせて貰うけど、その前に会談の前提条件がひとつ。

此処にいる者は全員最重要禁則である事項である『神の不在』を認知している」

 

 

 さて、長くなったがサーゼクス・ルシファーが魔王らしい振る舞いでこの場に居る者達全員に、まずは参加する為の資格を――つまり神とやらが居ない事を認知しているかの確認をする。

 勿論天使の長も堕天使の長もそれを知ってるいので今更だろって表情だが、俺達はそうじゃない――というより今のは俺達に対して向けた言葉である。

 

 

 

「コカビエルとの戦いで……」

 

「同じく」

 

「自分も同じく――チッ,ミテジャネーヨ」

 

 

 俺達の中でも特にゼノヴィアが若干複雑そうに、ミカエルなる天使を一瞥しながら頷いていた。

 だが敢えてそれを見ないことにしたサーゼクス・ルシファーは話を進めるべく……いや、俺とレイヴェルをガン見しながら頷いた。

 元士郎がセラフォルー・レヴィアタンに対して小さく毒づいたのは聞こえなかったことにしつつな。

 

 

「よし、全員が承認しているということで始めさせて貰おう。

まずはこの度起きた騒動について、申し訳無いけどキミ達から話を聞きたい――良いかね?」

 

 

 こうして始まる会議なのだが、やはり初めはコカビエルとの戦いでの件だった。

 どうやら当事者でもある俺達の口から直接聞きたいらしく、各勢力のトップの視線が一斉に俺達へと向けられる。

 

 

「……………。初めは何の関与もしないつもりだったんだ。だがまあ……サーゼクス・ルシファーは存じの通りだろうけど、一応の兄貴様――つまり兵藤誠八達があまりにも『使えなかった』ものでな……。この学園を媒体に奴等が聖剣を元の姿に戻す仕込みをした後破壊すると言ったものだから、つい勝手ながら……」

 

 

 誰が話すんだ? と思いきやレイヴェル達全員が俺を見るので、仕方なく椅子から立った俺はコカビエルとの戦闘の経緯を説明する。

 祐斗がその際、何か言いたそうな顔だったが、三勢力達に見えないところで手で合図を送って喋られない様に諭す。

 

 

「断っておくが、別に正義感に燃えた訳じゃないし、アンタ等の為でもない。

単純に自分のエゴでやった事だから感謝する必要だって無いと思うぞ」

 

 

 聖剣を越える事で自分の心にケジメを着けた今、わざわざ連中にその事実を教えてやる意味もない

 

 

「…………。ありがとう一誠君。

ではこの事に感して堕天使総督の意見を聞きたいのだが?」

 

 

 一部を詐称したあらましを話し終えて席に座ると、サーゼクス・ルシファーの視線はアザゼルと呼ばれる堕天使へと向けられた。

 堕天使の長故に、コカビエルがやった騒動の風当たりは恐らく強いのだろう。

 だがしかしアザゼルとやらの表情は寧ろ好戦的なそれだった。

 

 

「今回の事件は我が同胞コカビエルの仕業というのは否定しようもない事実だ。

が、信じる信じないは別にして先日の事件はアイツの独断で行われた事であって俺達他の堕天使は一切関与していない」

 

「ほう、貴方の発言を我等が信じるに価する証拠はあるのですか?」

 

「残念ながら無ぇな、だから俺も困ってんだよ。

ったくあのバカ……勝手に神の子を見張るもの(グリゴリ)を抜けるなんて置き手紙なんて置いて去りやがって。

お陰でこっちは戦力の大低下と、アイツを慕う若い連中がアイツを追って抜けようと大騒ぎだぜ」

 

 

 そうこの場に居ないコカビエルに対して恨み言を呟くアザゼルとやら。

 どうやら見た目とは反対に中々に苦労してる様だ。

 

 

「確かに、あのコカビエルは別にしても、貴方達は我等と事を構えたくは無いとは聞き及んでますので、コカビエルの独断というのはある程度信じてあげられましょう。

とはいえ、起こした事件のお陰で我等三勢力に組する者達が別の意味で事件を起こし、それを人の子である彼やその仲間達に尻拭いして貰った事実は覆りようが無い」

 

「まぁな……。

まさかあの戦闘好きが行き過ぎて神話越えをまでしたコカビエル(ヘンタイ)を、神器も持たない人間がぶっ倒すなんて驚愕を通り越していっそ笑うぜ。マジでどうなってるんだか……」

 

 

 アザゼルとやらとミカエルとやらの視線が俺に向けられる。

 

 

「なあ、人間――いや、兵藤一誠つったか? お前は本当に人間なのか?

正直俺はお前を人間とは思いたくはねーんだが」

 

「カテゴリーで言えば確実に俺は人間だ。まぁただ……育った環境が特殊なものでね。

彼女……あー……つまりここに居るレイヴェル・フェニックスとその家族に可愛がられたお陰でそれなりにな」

 

「業火の不死鳥と憤怒の女帝の娘……でしたね。

前線を退いても尚衰えないその手腕という訳ですか」

 

 

 シュラウドのおっさんとエシルねーさんの渾名か……。

 実はSMプレイ好きな夫婦と言ったらどんな顔をするのやら……まあ、めちゃんこ強いのは否定しようもない事実であるが。

 

 

「しかし俺としては、そこの魔剣創造使いの餓鬼の禁手化と銀の鎧騎士が気になるな。確か銀牙騎士だったか? 是非とも研究させて欲しいぜ」

 

「っ……!?

い、いやそれはちょっと……」

 

「アザゼル。

彼には――いや彼等には妹の件で多大な迷惑を掛けたんだ。これ以上僕達のエゴを押し付ける訳にはいかないだろ?」

 

「チッ、わーってるよ……ならコカビエルの所に居るとされる白夜騎士ってのをコカビエルごと取っ捕まえるので我慢してやるよ」

 

「………。コカビエルを貴方がですか? 無理だと思いますけど?」

 

「……………。

だよなー……あの野郎、サーゼクスも大概だが、アイツもアイツで堕天使って種族じゃ考えられない強さだからなー……。最悪俺達皆殺しかも」

 

 

 なるほど……アザゼルとやらは祐斗の力が気になるのか。

 だが本人が嫌そうにしてる限りは俺達が全力で守るつもりだ……残念ながら貴様の目的は果たせんよ。

 あとコカビエルも多分フリード・セルゼンにそんな真似はさせんと思う。

 

 

「とはいえ、コカビエルを野放しにする訳にはいかないのもまた事実です。

放って置いたら彼は北欧神話にも喧嘩を売りそうですし……」

 

 

 ミカエルとやらがハァとため息を吐きながら、俺達にとっては正直あまり知らん何者かについて話すが、それを聞いたアザゼルとやらは『あー……』と気まずそうに明後日に視線を向けて口を開く。

 

 

「実はもう売ってたりするんだな、あの戦闘バカは。

オーディンって隻眼のジジィを半殺しにしたとか何とか――まあ、そん時は奴にエロ画像を渡してご機嫌を取ったから事なきを得たが」

 

『……………』

 

 

 後半の意味なのか、それとも前半の意味なのか。

 よくは知らんが北欧神話系統連中の誰かをコカビエルが前に半殺しにしたという事実をアザゼルとやらから語られた途端、全員が閉口をしてしまった。

 

 

(ほ、北欧神話て……。

お、俺達よく生き残れたな……)

 

(書物でしか見ない名前だったから実感なかったけど、本当に一誠くんは凄いよ……)

 

(よせよ、本当にあの時は俺が死んでてもおかしくないほどギリギリだったんだ。

それに俺がその北欧神話とやらに勝てるとは限らんだろ……相性の問題とかで)

 

(いえ、一誠様は日々進化をし続けますから)

 

(惚れ直しました抱いてください)

 

(惚れ直したにゃメチャメチャにしてにゃん)

 

(いやお前ら……今はその話じゃないだろ)

 

 

 やはりなじみを越えるを目標としてるだけに、あの時点での実力も凄かったのは直接やり合った俺がよーく身に染みて解っていたが……だから余計にアザゼルとやらやミカエルとやらは俺という存在を本当に人間なのか疑ってたのか――納得。

 だが別にコカビエルに僅差で勝ったからと言って、じゃあ俺が北欧神話連中とやらに勝てるかと言われたら解らん。

 まだ相対もしてないし、さっきの通り相性の問題もあるのだ。

 

 

「? おいミカエルの後ろの……ガブリエルか? お前さっきから何をソワソワしてるんだ?」

 

 

 結局の所、今回の事件はコカビエルが原因なのだが、奴の力が既に三勢力――サーゼクス・ルシファーでも抑え込むのに手間取るだろうレベルで捕らえるのは容易じゃないという意見三者はで一致した様で、その中で一人……ミカエルとやらの後ろでコカビエルの話しになってからずっとソワソワしたり、一人でニヤニヤしてた金髪の女天使の不審な態度が気になったアザゼルとやらが変に思って話し掛けている。

 

 

「っ!? べ、べべっ! 別に……!?」

 

 

 実はさっきから俺も気になってた。

 コカビエルの名前が出て来た瞬間、キリッとしていた態度が急変もすれば疑問に思う―――思うからレイヴェルも白音も黒歌も三人して変な目で見ないでくれ。

 いや、エシルねーさんとは別意味でキレーだなーとは思ったけど、別にそんなん無いから。

 

 

「いや、明らかにテンパって――」

 

 

 話を戻すが、ガブリエルという名前らしい女天使は、やっぱり明らかなる動揺した態度を取っており、声も完全に上擦っていたので、初見の俺達でも絶対平静ではないだろうと疑うが、ミカエルとやらが『所で……』と話を切り替えた為に真実は不明のままだった。

 

 

「話は変わりますが、今回の事件で失態を犯した悪魔と我等側の悪魔祓いの処遇を決定したいのですが……」

 

 

 遂に来たか……兄貴どもの話が。

 俯いてしまった――えっとガブリエルとやらの前でこの話を切り出したミカエルとやらに、まず反応したのは俺達とサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンだった。

 

 

「僕の妹であるリアス・グレモリーとセラフォルーの妹であるソーナ・シトリーの二人とその眷属達については、おおよそ初めにこの一誠くんが話した通りだ。

赤龍帝にてリアスの兵士である兵藤誠八と……事件直前までまあ、楽しく事を行っていたみたいで、役にも立たず1度コカビエル達に捕まったらしい」

 

「………。その事に関しては彼等に多大は迷惑を掛けたと思ってるよ。

だからミカエルちゃん側に居た一人の悪魔祓い以外は力を封印した状態で冥界の下層独房に閉じ込めてる」

 

 

 実はなじみ狂信者で肉親に情が実は皆無なサーゼクス・ルシファーはともかく、度越えのシスコンなセラフォルー・レヴィアタンまでもが低い声で今の兄貴達の状況を説明すると、この件関してだけは無関係なアザゼルとやらはケタケタと笑っていた。

 

 

「赤龍帝に食われたのかよ?

しかもかなりの人数って聞いたが、ハーレム好きな赤龍帝だったって訳か……こりゃ御愁傷様だぜ」

 

「当初は紫藤イリナの身柄もそちらに預けるつもりだったのですが、話を聞く限り近くに置けばどうなるか予想が付きやすかった故に、本教会の最下層に閉じ込めるという処置を取りました。

しかし、報告によればもはや赤龍帝の事しか頭に無いみたいです」

 

「っ………」

 

 

 ミカエルとやらの口から放たれた紫藤イリナの現状に、相棒だったゼノヴィアが唇を噛みながら下を向く。

 長らく兄貴にどっぷり漬かったのだ……もう取り返しは付かないとは解ってても彼女にとっては相棒だったんだ……複雑な気持ちなんだろう。

 俺は――――

 

 

「兵藤誠八でお前と顔がソックリってことは双子か?」

 

「名目上はな……俺は奴と兄弟だった事は1度も無い」

 

 

 もう過去の事だから、割りきってしまってる。

 

 

「故にこの場を借りて彼等の処遇を決定したく、身柄を此処に連れてきた」

 

「連れてきたのかよ……。

しかし赤龍帝は俺に渡して貰いたいもんだな、 研究が捗りそうだし」

 

「白龍皇を抱えてる貴方に渡したら戦力に加えそうですが?」

 

「よせよ、コカビエルの代わりなんて白龍皇でも務まらねって。神器使いを集めてるのだって単なる研究だよ研究」

 

 

 そしてその過去との決着はもうすぐ終わる。

 

 

 

 

 

 兵藤誠八は久方ぶりにリアス達と再会したが、お互いに心身がへし折られてるせいで喜ぶ事もなく、独房から出された。

 久方ぶりにの外の光に目が眩み、頭痛に襲われるが、その事を訴える暇もなく連れてこられた場所は、人間界でそれも駒王学園の会議室だった。

 

 

「サーゼクス様、兵藤誠八並びにリアス・グレモリーとソーナ・シトリーとその眷属達を連れて参りました」

 

 

 そこに居るのは三大勢力のトップ達と本来なら居ないはずの一誠であり、手足がもがれたままの誠八はリアス達と共に部屋の真ん中の床へと無理矢理座らされた。

 

 

「サーゼクスの妹とセラフォルーの妹か……随分とたらし込まれた様だな。

おい兵藤一誠よ……お前に熱い眼差しを送ってるぜ?」

 

「………。殺意という名のな。やはり俺は奴等にとって憎む相手らしい」

 

「尻拭いして貰ってですか? なぜ?」

 

「奴等にとって『兄貴様。』の敵は絶対悪らしい。まあ、俺自身善人のつもりは無いから別に構わんがな」

 

 

 コイツさえいなければ――未だに一誠を憎み、三大勢力会議の席で悠々と座りながら自分達を、本来なら自分のモノにするつもりだったレイヴェル、白音――そして黒歌と共に冷めた目で見ている一誠に更なる殺意が膨れ上がり、呪詛の言葉を投げ掛けようとしたが、その前にコカビエルと同じく原作を遥かに超越していたサーゼクスの殺気により押し黙ってしまう。

 

 

「悪魔として地位の剥奪だけじゃ済まされないので直ぐには殺さない。

キミ達は力を永遠に封じたまま冥界の最下層に閉じ込めるよ……キミ達が居た独房がマシに思える地獄の最下層にね」

 

「っ……ま、待ってください! そ、そもそも彼等が関与したのは私の騎士である木場祐斗が聖剣に対する復讐心から勝手な行動を……」

 

「そ、それに私達は当初教会側に一切の関与をするなと言われました! 故に私達は大人しく――」

 

「大人しくするのが性欲バカとのプレロスごっことは畏れ入るぜ元主さまよー?」

 

「というか貴様……今完全に祐斗を出汁に使おうとしたな? ……………………兄貴様がそんなに良いのか」

 

 

 

 冷たい視線を全方向から向けられてるにも拘わらず、リアス達は誠八にどっぷりと浸かってしまった典型的な思考回路へとねじ曲げられている。

 元・眷属達を出汁に言い逃れすらする姿に、元士郎も思わず嫌悪にまみれた表情だ。

 

 

「もうその話は何百と聞いたよ。だけどどんな言い訳をしようが判決は覆らない。残念だけどソーナちゃんにリアスちゃん。

キミ達は永遠に何も見えない穴蔵で死ぬまで生きるの」

 

「っ……あ、アンタ等こそ、そこでふんぞり返ってる野郎に騙されてるとは思わないのかよ!?」

 

 

 そんな元士郎の態度を見て察したセラフォルーがすかさず釘を刺すと、今度は手足が無くなったままの誠八が一誠への憎悪を剥き出しに喚くが、誰も彼もが呆れ果てた表情だった。

 

 

「キミにそんな事を言う資格はあるのかい兵藤誠八? 言っておくけど僕達は全員正気だ。

まったく……せめてコカビエルに勝っていれば少しは何とかなっただろうけど、女好きに浸かりすぎてるキミには一万年経とうが無理だろうね………役にもたたない」

 

「おいおい、これが今回のヴァーリの宿敵かよ? 確かに殺してやる価値もねーな。あーウチん所の女達がやられんでよかったわ。

まあ、元々ウチん所の半分は趣味が悪いことにコカビエル――――え、な、なんだよガブリエル?」

 

「………………。別に」

 

 

 誰も取り合わない。

 自分というイレギュラーが一誠というイレギュラーを覚醒させ、その一誠を覚醒させた存在が更なるイレギュラーを間接的に生ませた結果、彼の思い描いていた原作とやらを大きく離脱したインフレ世界へとなってしまっていた事なぞ知るよしも無かった誠八の運命は決まっていたのだ。

 

 

「一足早く最下層に行きたまえ兵藤誠八。まあ、死にたかったら自分でするんだ………その手足で出きるかは僕は知らないけど」

 

「ふ、ふざけるな! お、おい一誠! よくも俺をこんな目に! 許さねぇ、ぶっ殺してやる!」

 

 

 冥界最下層送り。

 悪魔に転生した影響で簡単に死ぬことは出来ない誠八はコカビエルとフリードに切り落とされた不満足な肉体のまま永遠にも近い時を生きなければならない。

 

 

「そう言うなよ兄貴よ? 俺は貴様のお陰でレイヴェル達という大事な人が出来たんだ。

だから俺はアンタを恨まんよ――いや寧ろ心からこう言おう―――『俺から奪ってくれてあがとうよ』」

 

「っ……アァァァァァッ!!!!!! 殺して―――」

 

 

 それはきっと死よりも苦痛なものだろうが、誰もそれに対して手を差し伸べる者は居なく、最後の最後で一誠に至近距離から爽やかな笑顔で礼を言われた誠八は、此処で精神の柱が壊れ、憎悪の咆哮をあげようとするが、淡々とした態度のグレイフィアによって最下層送りにされてしまうのであった。

 

 

「これで一つの癌は消えた。一誠くんもこれで良いかい?」

 

「……。まあ、少なくとも少しだけは晴れた気分にはなれたよ」

 

 

 サーゼクスの問いに一誠は能面を思わせる冷たい表情で淡々と言う。

 その表情からは彼の内面は窺えない。

 

 

「セ、セーヤ!! セーヤが……!」

 

 

 誠八が最下層送りとなった途端、目に見えて取り乱すリアスとソーナ達も一誠は冷たい目のままだ。

 

 

「…………。さて、次はお前達だが、先に姫島朱乃は堕天使側に引き渡す。ハーフ堕天使だし処遇はそっちに任せる」

 

 

 誠八の次はリアス達と銘打つサーゼクスだが、姫島朱乃の身柄を堕天使に引き渡すと宣言する。

 すると同じく拘束されていた姫島朱乃の顔色が更に青ざめた。

 

 

「っ!? い、嫌です……! 堕天使なんて――うっ……!」

 

「朱乃!?」

 

 

 まだ最下層の方がマシだと主張しようとした姫島朱乃だが、その前にめんどくさそうな顔をしたアザゼルに当て身を貰い、そのまま意識を失ってしまう。

 

 

「これ以上バラキエルのアホがショック死しちまう材料は与えたくねーが、まあ、最下層送りにされるよかマシだろ?」

 

「僕はどっちでも構わないけどね……。

処理する人数が一人でも減るならそれに越したことは無い」

 

「けっ、ここぞという時はマジで冷酷だぜお前」

 

 

 気を失った姫島朱乃の身柄を押さえ込んだアザゼルがその身柄を転移させながらサーゼクスの冷酷な対応に舌打ちをする。

 コカビエルに対抗できる唯一の悪魔とすら言われてるだけあって、昔から孤高気味だったのはアザゼルも良く知る所だ。 

 

 

 だがしかし、だ……。

 

 

 

「集まってるようだな」

 

 

 突如現れた第三者によってサーゼクスの冷酷な仮面は――

 

 

「っ!?」

 

「っ……お、お前っ!?」

 

「あ、相変わらず神出鬼没ですね……コカビエル!」

 

 

 剥がれる……かもしれない。

 

 

 

 解っていた事である。

 でも私にとってはハラハラしないとなると嘘になってしまう。

 何せ此度の三大勢力会談の主な内容は先日の聖剣強奪事件の首謀者であるコカビエルの事についてです。

 人間の子が単身でコカビエルを撃破した話は既に『本人から』聞いているので然程驚きはしませんでしたし、今日も会談の前に半日ほどコカビエルの近くで監視をしていたので心配なんてしてもありません。

 けれどやはり話を聞いていくと変な気持ちになるし、堕天使総督のアザゼルから変な目で見られてしまいました。

 

 だからこそ私は本気で驚いた。

 だって朝御飯の時も、その後の鍛練の時も聞かなかったのに――

 

 

「よぉミカエルにサーゼクスにアザゼル……。

そして兵藤一誠ェ……! ちょっとした挨拶に来たぞ?」

 

「やはり貴様だったか……リベンジか?」

 

「いや、まだ貴様に完全勝利する見込みは無いから今日は違うぞ」

 

 

 コカビエルが此処に現れるなんて――ワタシキイテナイ。

 

 

「て、てめっ! このバカ野郎!! テメーのせいで俺達は大混乱なんだよ!」

 

「む? 大混乱だと? いや確かにミカエルの所から聖剣をかっぱらったせいで騒ぎになったのは否定せんが、俺は反省も後悔もせんよ」

 

 

 悠々と扉を開けて入ってきたコカビエルに全員が殺気立つ。

 しかしコカビエルはそんな我等に挑発的な笑みを崩さず戦闘の意思は無いと言った。

 その瞬間、私は何と無くチャンスだと思ったので、隠れずそのままの姿で扉の前に立つコカビエルの前に躍り出た。

 

 

「………」

 

「む、貴様は――ガブリエルか?」

 

「はぅ!?」

 

 

 その瞬間……コカビエルが私を見て名前を呼んでくれた瞬間、私の身体に電気が走ったような衝撃に襲われ、ゾクゾクとした変な感覚に襲われた。

 

 

「おいどうした? ふむ……どうやらあの時より遥かに強くなった様だ。

ふふん、俺の予想は大当りだったな……クックックッ……俺とヤるか?」

 

「うぇ!?」

 

 

 後ろでミカエル様が生暖かい視線を送ってきてる気がするけど、私はそれどころじゃなく身体に広がる得も知れない快楽で頭が溶けそうに加えて、コカビエルがニヤリとしながら……し、しながら……

 

 

「今の貴様となら最高の時間を過ごせそうだ……どうだ? 満足させてやれるほどの技量を俺も積み重ねたぞ?」

 

「ひ、ひは……しゃ、しゃいこうのじかん……?」

 

 

 なんだそれは? なんですかそれは? や、ヤるってつ、ちゅちゅまり、しょ、しょんな……は、はれれ!

 

 

「お、男の子と女の子……ひ、一人ずつ産みたいです!!」

 

 

 確定だ。わ、私は別に嫌だけど、こ、コカビエルがどうしてもというのなら、吝かじゃない。

 

 この野蛮な男がそれで少しは大人しくなるなら、これも世の為同胞の為! この身をコカビエルに仕方無く捧げてしまおうと、私は子供の数を口に出しながら衣装を――――

 

 

「なっ!? お、おいどうしたガブリエル!? 何故こんな所で脱ごうとしてるんだ!?」

 

「ひゃぁん!?」

 

 

 その際コカビエルの手が乱暴に私の手を掴み、それにより巨大な波を思わせる強烈な何かが私の身を駆け抜け、足の力が抜けてしまった。

 

 

「な、何だ……何なんだ一体? というかお前……翼が黒色に点滅してるぞ」

 

「ぁ……はぁ……も、もう……見た目通りに野蛮な人……。で、でもこれも平和の為に我慢するわ。

ほ、ほら好きにしなさい!」

 

「い、いや……えぇー? どういう事だこれは? おいミカエル?」

 

「……………。来るタイミングがある意味悪いんですよ貴方は」

 

 

 どんな風にされるのか。

 乱暴なのか……いや寧ろコカビエルになら乱暴にされたい……なんて……。

 うふ、うふふ……ふふふふ、何だか身体が熱くて……お腹も熱いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、なるほど……。

マジかよ天界1の美女に好かれてるとか勝ち組じゃねーかよあのバカ」

 

「っしぃ! これでガブリエルがコカビエルを落としたら安心院さんは僕の――」

 

「………………。私の中でサーゼクス様の子種が――」

 

「シャラップ!! そんなものは忘れたね!!」

 

 

 

 

「…………。意外とアレというか、デジャブを感じるな」

 

「にゃ? 何で私を見るんだにゃん?」

 

「エロ猫に自覚なしですか……あきれますわね」

 

「いや、私は姉様とは違いますからね?」

 

 

「………。尊敬する天使様まで変なんて……」

 

「あ、あの……その……元気だして……ね?」

 

 

 

「ね、ねぇ元士郎くん……あの……ソーナちゃんの事について本当に……」

 

「もう良いって。アンタがわざわざ気に病むなよ……ふん」




補足

最下層送りです。

兄貴はそのままにしても、最早達磨なので動けず、彼女達の洗脳は………状況に応じてどうなるか不明です。


その2
ガブリーさんとコカビーさんのリアル再会。

が、早速変な事に……。


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三大勢力・黄金期――に突撃させられたカテレアさん

故に、故に……。

※色々と手を加えました


 所謂お尋ね者コカビエルが三大勢力会談の場に来た理由は、その場に出席していた一誠とその仲間達に対して『俺はこの通りもう復活したんだぞ』とアピールする為と、サーゼクス・アザゼル・ミカエルから敵認定して貰う為だった。

 

 元々コカビエルの目的である戦争そのものというのはブラフであり、戦争をする事で今も何処かで気儘にフラフラしてるだろう安心院なじみを引きずり出すのが本来の目的だ。

 しかし、その安心院なじみを引きずり出す確率が最も高い人間……一誠との出会いと戦いが戦争という考えを変化させたのは云うまでも無く、兵藤一誠に勝つ――若しくは殺せば安心院なじみは必ず現れる。

 

 だが自分の予想を遥かに越えた次元の強さを人間ながらに体得していた一誠に膝を付かせるのは容易ではないのも事実だからこそ、今のコカビエルは三大勢力のトップ達との殺し合いを経て更なる次元への進化を望んでいた。

 

 が、しかし……。

 

 

「コカビエル! はっはっはっ、中々隅に置けないじゃないかコカビエル! 良いじゃないか良いじゃないか! 堕天使と天使の仲を取り持てる絶好のチャンスだよ! 僕はキミとガブリエルの仲を応援するぜ!」

 

「…………。何だお前、性格が変だぞ」

 

「急に満面の笑みを浮かべて気味が悪いな。悪魔にとっちゃ危機感を覚える組み合わせのはずなのに」

 

 

 特に……特に! サーゼクス・ルシファーが妙に嬉しそうな顔で自分とガブリエルがどうのこうのと宣ってる事に違和感を感じてやまない。

 更に言えば自分という裏切り者および犯罪者がこうして姿を見せれば、てっきり殺しに来るのかと思っていたアザゼルとミカエルも生ぬるい視線を向けてくるだけでなにもしてこない。

 

 殺るか殺られるか、闘争と安心院なじみ越えが生き甲斐ともいえるコカビエルにしてみれば、さっきから顔を真っ赤にしつつ表情がコロコロと変化するガブリエルを含めて訳が分からなかった。

 

 

「おい、今になって言うのもアレだが、俺が居るんだぞ? 殺そうとは思わんのか?」

 

「あ? 無茶言ってんじゃねーよ。お前を取っ捕まえてやりたいのは山々だが、それが無理な事ぐらい日和見主義の俺でも解ってるっつーの。

第一オメーだって闘うつもりで来た訳じゃねーだろ?」

 

「ぬ……」

 

 

 ひらひらと手を振りながらいい加減な口調で答えるアザゼルにコカビエルは言葉に詰まった。

 確かに挨拶のつもりで来たと言った言葉に嘘は無かったからだ。

 

 

「フッ」

 

「む、何を笑ってる兵藤一誠?」

 

「ふふ、いや別に?」

 

 

 戦意を見せないアザゼル達にちょっとヤキモキした気分になるコカビエルに一誠もまたクスクスと笑っているだけ。

 微妙に居たたまれない気分にコカビエルはなるのだった。

 

 

「コカビエルが来たのは驚きましたが、寧ろ探す手間な省けました」

 

 

 そんはコカビエルに、部下の気持ちを間近で見せつけられ続けていたミカエルはテンパってて訳が解らなくなっているガブリエルを流し目で見ながらコカビエルに生ぬるい笑みを見せる。

 

 

「随分昔にガブリエルへちょっかいを掛けたせいで、ガブリエルがこんな事になってます。故にさっさと責任を取って貰いたい」

 

「…………は?」

 

「み、ミカエルさま!?」

 

 

 そして小細工無しにテンパったガブリエルの代わりにぶっちゃけた。

 

 

「責任だと? 確かに前にこの女とは戦ったが……それが何だというの――――ん!?」

 

 

 ミカエルの変な目にちょっとだけ居心地の悪い気分になるコカビエルは、チラチラと此方を見てくるガブリエルへ視線を移すと、何かに気付いた様に鼻をヒクつかせた。

 

 

「む……むっ!」

 

 

 それは一種の驚愕――というべきなのか。

 チラチラと自分を見てくるガブリエルと微妙に距離が近いままだったお陰とも云うべきなのか……。

 とにかくコカビエルはその気付きが本当なのかという確証を得る為に、一切の下心を抜きにしての行動を取ったのだ。

 

 

「ちょっとお前……まさか……む……」

 

 

 思えば気付いたのは兵藤一誠との戦闘と敗北を経て更なる覚醒を遂げた時からだったか。

 ある時から隠れ家でまったりしている度に感じる視線と、眠りから覚めたときに感じた知らない匂い。

 香水とは違う――なんというか不愉快では無い心を落ち着かせる甘ったるい匂い。

 

 

「ふぇ!?」

 

 

 その匂いが今日は一段と強くする。

 今になってそれに気付かされたのと同時に、その匂いがさっきから自分を見ている天使の女から強く感じる。

 

 だからそれを確かめる為に、下心なぞは一切無しにガブリエルの肩を掴んでから首筋に顔を近付けたコカビエルは、下心が無いゆえに三大勢力トップや一誠達がポカンと口を半開きにしながら見ている中を大胆に確かめたのだ。

 

 

「すんすん……。っ、や、やはり貴様だったのか!? こ、この匂い……最近になって感じるようになったこれの元はお前だったのか!」

 

 

 ガブリエルの匂いと自分が最近感じるようになった匂いがリンクするかを……モロに大胆に。

 

 

「にゃ、にゃにを!?」

 

 

 肩を掴まれた時点で、全身に電撃が走った様な衝撃を感じてしまったガブリエルが呂律の回らない舌ですんすんやってるコカビエルに声を張り上げた。

 だがコカビエルはそんな事なぞ知らんとばかりに驚きに目を見開いてガブリエルを見つめると、やがてその表情を悪人顔全開に歪めて大笑いし始めた。

 

 

「くっ、クハハハハハ!! やはり俺の予想は大当たりだったぞガブリエル! 貴様は俺を殺そうとは思えば何時でも殺せたんだな!? 良いぞ……素晴らしい! 貴様はやはり良い女で間違いなかったぁ!!」

 

「………………え?」

 

『………………』

 

 

 気配すら悟られずに自分の寝首を何時でも掻ける。

 それはつまりそれだけ実力があるという事であると、戦闘バカらしい判断を下したコカビエルは、ポカンとしているガブリエルに笑いながら続ける。

 

 

「貴様とも戦いたい……。俺を殺す領域まで上り詰めたともなればさぞ素晴らしい戦いになるだろう……クックックッ!」

 

 

 単にストーカーされていただけだった……とは何と無く言い出しにくくなってしまった空気にミカエルは『この男は……』と額に手を置き、アザゼルは『やっぱバカだ……』と呆れる。

 サーゼクスは舌打ちを、セラフォルーと黒歌は……

 

 

「あれ? 魔王もそうだけど、あの天使も何と無く同類の匂いがするにゃん」

 

「キミもそう思った?

実は私もガブリエルちゃんに同じ空気を感じたんだ。いやー流石私のライバルだね!」

 

 

 ガブリエルから自分と同じ匂いを嗅ぎ付けた。

 それはつまりストーカーの加害者的な意味合いというべきか……。

 

 

「…………。まさかとは思うが、あの天使はコカビエルの私物を盗んでるのか?」

 

「それとも盗撮してるのか? おいおいおいおい、天使じゃねーだろそれ」

 

 

 主な被害者はコカビエルに対して微妙に同情してしまったのは多分仕方の無い話なのかもしれない。

 

 

「て、天使様がス、ストーカー……う、うーん……」

 

「あぁっ!? し、しっかりしてゼノヴィアさん!!」

 

 

 特に常識人にしてみればショックの事この上ない話であり気絶してしまうのもまた仕方の無い話なのかもしれない。

 

 

 

 

 まさかガブリエルちゃんがあのコカビエルとねー? いやーうん分かんないものだね世の中って。

 あ、でも私もガブリエルちゃんの事は言えないし、今度どうやったら上手いこと近くで見つめてられるか教えて貰おうかな?

 

 ……………。というのは今は無しにしよう。

 コカビエルが来たせいで忘れがちになりつつあるけど、さやっと兵藤誠八に正式な罰を下せた事について――その、元士郎くんが一緒に罰を受けたソーナちゃんに複雑な気持ちを持ってるのは殆ど確実なんだもんね。

 

 

「あ、兵藤誠八? ………………あぁ、セラフォルー・レヴィアタンとサーゼクス・ルシファーの妹とその下僕どもと宜しくやってたあの赤龍帝か。

なんだ、結局抗う事も出来ずに終わったのというのか――最後までしょうもない餓鬼だ」

 

 

 コカビエルは皮肉っぽく笑いながら元凶の男を嘲笑っていた。

 そういえばコカビエル達があの赤龍帝の男を捻り潰したんだっけ……。

 

 

「兄貴様について―――いや正確には兄貴様の取り巻きについてだが、後日個人的に言っておきたい事がある。

サーゼクス・ルシファーよ、時間を取ってくれるだろうか?」

 

「? 別に構わないけど、何を言うつもりだい? 十中八九恨み言を言われるだけだと思うけど……」

 

「それを承知でだ……。会うのはこれで最後にするつもりだし、最後に一言だけ……な」

 

 

 コカビエルを倒した一誠って子が元士郎くんを一瞬見ながら意味深に物を言っている。

 何を言うつもりなんだろう? ソーナちゃんは今でも私にとって変わることの無い妹だけど、同時に救えない所まで浸かっちゃってるのが見て解るから、何を言ってもあの子達はあの男にこだわり続けるだろう。

 

 

「まあ、キミがそうしたないのなら別に良いけど……」

 

「感謝する」

 

「……」

 

 

 元士郎くんも小さく『へ、二度とツラ見ずに済みそうだぜ』なんて清々したって言い方をしてるけど、本音はまだ少し複雑だと思う。

 

 

「元士郎くん……」

 

「……。なんすか?」

 

 

 私に出来ることは限られてる。コカビエルが来たゴタゴタを利用してちゃっかり元士郎くんの隣に座った私は、こうしてコカビエル混じりで続く話し合いの最中、小声で話し掛けるしかできない。

 それがまた悔しい。

 ソーナちゃんを想ってくれていた子のまだ残る傷を前に私は無力。

 それで何が魔王なのだろうか……。

 それで何がソーナちゃんの姉なのだろうか。

 

 

「元士郎くんの事……本気で好きになったって言ったら――怒る?」

 

「は?」

 

 

 でも放っておけない。

 私に対して遠慮しないで物が言える元士郎くんが放っておけない。

 最初はソーナちゃんの事で引け目を感じてたけど、今は嫌な女かもしれないけど、元士郎くんが――

 

 

「元士郎くんの事を考えると、想うと、写真を見てるとお腹がきゅんきゅんして凄い事になっちゃうの。だからその、私の事をめちゃめちゃに――」

 

「台無しじゃねーか!?

ちょっとシリアスだった空気を返せ!!」

 

 

 好き。

 これは本気の本気だよ。

 

 

「お、おいどうした元士郎?」

 

「っ――あ、い、いやっ……!」

 

「あ、何でもないよ。ちょっと元士郎くんにめちゃめちゃにして欲しいって頼んで――」

 

「シャラァァァップ!!!」

 

 

 ソーナちゃん。

 ソーナちゃんは兵藤誠八に溺れた――それはもう否定しないよ。

 だってお姉ちゃんも……ふふ。

 

 

「ガブリエルちゃんじゃないけど、子供は沢山ほしーな♪」

 

「るせっ!!」

 

 

 元士郎くんに溺れちゃったもん。

 だからさ、誰にも邪魔はさせないし、邪魔をするなら――

 

 

「っ?」

 

「む?」

 

「この感覚……」

 

「っ!? 今のはギャスパーの! それに急に外から凄い数の気配が……!」

 

 

 誰だろうと戦って……勝ち取る。

 時間を止めようとも、どこかの誰かが無粋に現れようとも……。

 

 

「失礼……三大勢力トップの皆さん」

 

「カテレア・レヴィアタン?」

 

 

 私は走るだけ。

 

 

 

 正直……しょーじきな所、私は貧乏くじを引かされたと後悔だらけだ。

 

 

「旧レヴィアタンが何か用かい? 見ての通り僕達は忙しいんだ。遊んで欲しいなら後にしてくれ」

 

「あ、カテレアちゃんだ」

 

「旧魔王派ってか? 何だ、とっくに滅んでると思ってたんだがな」

 

「我々には何の関係の無い話ですね」

 

「ギャスパーを助けないと! アイツまだコミュ障だし……」

 

「落ち着け元士郎!

まずは落ち着いてウラディ1年に電話をしてだな……」

 

 

 私は自殺願望者等では無い。

 けれど私が身を置いている立場がそれを許さず、こんな魑魅魍魎だらけの化物が集まるど真中へ逝かなければならず、仕方無く鏡で散々練習した前口上と不敵な笑みを浮かべながら堂々と登場したのに……。

 

 

「……ぐ」

 

 

 誰もが私を無視してる。

 悪魔の域を完全に逸脱している化物、サーゼクス。

 私から実力という名のパワーでレヴィアタンを奪った憎きセラフォルー

 堕天使総督に天使のトップ―――そして居て欲しくなかった最強最悪の堕天使・コカビエル。

 誰も彼も……セラフォルーですら『あ、居たんだ?』みたいないい加減すぎる反応で、泣きそうになる。

 

 

「わ、我々旧魔王派は無限の龍神(ウロボロスドラゴン)が組織した禍の団へ協力することにしました」

 

 

 だけど私はレヴィアタン。

 真にその名を受け継ぐ悪魔。

 だからめげずに、負けずにこの余裕だらけで腹の立つお馬鹿さん達に我々旧魔王派が、世界最強と吟われる龍が組織した禍の団(カオス・ブリケード)に協力したと切り出す。

 ふふん、こうすれば流石のサーゼクスやセラフォルーも顔色を――

 

 

「ふーん、あっそ精々頑張ってね」

 

「無限の龍神かぁ……何だか凄そうだけどカテレアちゃんなら大丈夫だよきっと!」

 

 

 変えず。

 二人して私の予想を激しく裏切るような軽い反応だった。

 

 

「おいおいサーゼクス。オメーん所の不始末なのにそんないい加減な反応すんなよ。禍の団の戦力増えたじゃねーか」

 

「あー大丈夫、何かあったら今度は慈悲無しで捻り潰すから。

元々この後ろでスカしてる女を人質として寄越して来たから消さずに居ただけだし」

 

「……。グレイフィアの事を言ってるのか……? お前等喧嘩でもしたのか?」

 

「いえいえアザゼル殿。私と彼の仲はもうそれはそれは……ふふ、昨晩も双子の子が欲しくて激しく――」

 

「妄言だアザゼル、真に受けるなよ?」

 

「お、おう……」

 

 

 

「う……」

 

 

 私は……というより旧魔王派は、あらゆる意味で現魔王達を苦手としている。

 どういう訳かここ数百年で数は減ってるのに、個々の戦力が神話クラスにまでになっている三大勢力と関わりたくは無かったというべきなのか。

 でもやらなければならない。

 この世界を再構築するには邪魔な存在なのだから……。

 でも……。

 

 

「そんな事よりもだ、僕としては和平の意味でコカビエルとガブリエルの仲を推奨したいね……いや推すね!」

 

「お前はさっきから何なんだ?

ガブリエル程の女が俺と仲良くなる訳が無いだろ……なぁ?」

 

「そ、そんなことは……。い、いえ……どうしてもというなら、元気な男の子と女の子を一人ずつ産むで妥協して差し上げますよ!」

 

「いやそれゴールだろ。

何だお前……俺の事好きなのか?」

 

「なっ!? そ、そんなことにゃい!! う、うにゅぼれないでくだちゃい!!」

 

「呂律が回ってませんよガブリエル……」

 

 

 皆が私を無視してる。

 

 

「うぅ……きゅ、急に変な人達が沢山現れて……あ、ありがとうございます皆さん……。怖かったです元士郎せんぱい……」

 

「うむ、良かったよ。フリード・セルゼンと見知らぬ少女がはりきって変な集団を薙ぎ倒してたお陰ですんなり救出完了だ」

 

「まったくだぜ……待たせて悪かったなギャスパー」

 

「ねぇねぇ、元士郎くんに抱き着いてる意味をおねーさんに教えてほしーな? 羨ましいなぁ~?」

 

 

 セラフォルーも、よく解らない子供集団ですら私を見ない。

 

 

「む、無視しないでください……! わ、私がかの有名なレヴィアタンの血族者のカテレア・レヴィアタンです! だから無視をしない……で……グスッ……ふぇぇぇ……!」

 

 

 真なるレヴィアタンで私を無視するなんて……こんなの、こんなことって……うー!

 

 

「つーかオイ! そんな事よりそこの人が言ったことについてもっと何かあんだろ!?」

 

 

 うー………うー?

 

 

「急に何ですか匙先輩?」

 

「いや、あそこのお偉方が完全にあの人をシカトしてるから……つい」

 

 

 でもそんな状況の中、セラフォルーにベタベタされている子供集団の中の一人の男子が、私にかなり同情的な目をしており、もう一人茶髪の男子もコクコクと頷いていた。

 

 

「確かにな……。旧魔王派というのはよく解らんが、変な集団を連れて現れたのだから無視は出来んよな―――フリード・セルゼンと謎の少女になぎ倒されてはいたが」

 

「あれ、前に話しませんでした? 現魔王様が魔王になる前に君臨していた先代魔王の生き残りの集団ですよ」

 

「ほう」

 

 

 よく見たら一人だけ只の人間の少年に……う、フェニックスの令嬢が我等の事を話している。

 フェニックス……魔王では無いが先代魔王達が君臨していた頃から『変な一族』で有名で、現当主夫婦もまたサーゼクスと平行した化物。

 いや、そんな事はどうでも良い……。

 

 

「ウチのフリードとルフェイから連絡だ。『襲撃者は滞り無く全滅させた』とよ。

どうやら途中で白龍皇の小僧と組んでやったらしい……」

 

「白夜騎士ってのになった小僧とヴァーリが?

あの野郎、会談の前にどっか行ったと思ったら遊んでやがったのか……」

 

「白龍皇……。

思い出しましたが、アザゼルは白龍皇を抱えてましたね」

 

「単なる研究目的と……ま、色々あってな」

 

「じゃあ取り敢えずカテレア達は僕達に反逆するんだね……ってカテレア?」

 

 

 完全に嘗められてた私を普通に認識していたばかりか、あの化物トップ共に私の事をちゃんと注目しろと怯えること無く言ったこの少年には感謝して……。

 

 

「なにカテレアちゃん? 私と戦う――」

 

「邪魔」

 

 

 感謝して……。

 

 

「な、何だよ?」

 

 

 感謝して……。

 

 

「お、俺を殺すつもりか!? よ、よーし……俺だって強くなったんだ、簡単には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きーっ!!!!」

 

「わぷっ!?」

 

「うわ」

 

「わーぉ……」

 

「だいたーんだにゃん」

 

 

 感極まってしまった私は悪くないです。

 

 

「おい、カテレア・レヴィアタンが転生悪魔の小僧に思っくそ抱き着いてるんだが」

 

「ほう、セラフォルー・レヴィアタンの時もそうだったが、あの小僧……女魔王に好かれる体質でも持ってるのか?」

 

 

 後ろでサーゼクス達が変な目で見てる気がするけど、散々無視をしてくれた連中なんて知ったことではない。

 

 

「な、な、なんだ!? うぶぶぶ!?」

 

「好き、好き! 好きー!!」

 

「あわわわ、元士郎先輩がぁ……!」

 

「………………。うん、カテレアちゃんを潰そう」

 

 

 この少年に感謝してあげてる最中なのだから。

 

 

「ちょ、ちょっとアンタ!? な、何なんだよ!? す、すげー良い匂いが――じゃなくて!」

 

「っ……い、いや……そ、その……ほ、本物のレヴィアタンである私からの施しを……」

 

「は、はぁ?」

 

「う、うるさい! べ、別に誰も彼もが私を無視してるのに、アナタだけが無視しないでくれた事が嬉しかった訳じゃありませんからねっ!?」

 

「じゃあ離れなよカテレアちゃん。元士郎くんが困ってるんだけど?」

 

「ふ、ふん! 私からレヴィアタンを奪った貴女の指図なんて嫌だわ! 感謝してる邪魔をしないでちょうだい」

 

 

 セラフォルーとハーフ吸血鬼が変な目で見てきてるけど、私は指図なんて受けないとばかりに少年をより強く抱き締めておく。

 転生悪魔とはいえ、中々デキた少年なのだ……戦力保持という意味で此方側に引き込むのも悪くない。

 

 

「うー……。(む、むにゅむにゅしてる……良い匂いがする……。何が何だが訳がわからねぇよ)」

 

 

 




補足

コカビーさん、若干ズレてるけどやっと気付く。
その際、ガブリーさんを引き寄せてくんかくんかしたけどな。


その2
セラフォルーさんはセラフォルーさんで覚悟注入。
けど変態指数もインフレ必至。

その3
現魔王(サーゼクス)一人の戦力をかつて思い知らされた故にちょっと引け腰なカテレアさん。
 そして何処かぽんこつ臭がするのはご愛敬。


が、これはカテレアさんが旧魔王血族でその派閥に所属しているからであり、殆ど生け贄に捧げられる形で嫌々やらされてるだけです。
 まあ、他の旧魔王派はやる気満々な為に割りを食わされた訳で……。

 そんな訳で言われた通り襲撃したけど、三大勢力のトップ陣にはシカトされ続け、戦力は外を徘徊してた少年少女に全滅させられて泣きそうになっていた所を匙きゅんにフォローされたお陰であんな事に……。




オマケ

 襲撃者の末路。


 旧魔王派……いや禍の団の構成員は結構な後悔をしていた。
 

『ヒャハー!!! ルフェイたんのアイデアと協力でゲッツした新戦力、その名も魔導馬・疾風!!
その試運転の餌食になりそうなバカばっかで捗るぜぇぇっ!!』

「えへへ、フリード様のお役に立てて嬉しいです……。
そ、それに一緒に乗せて貰えてこんなに近くに……あぁ、身体が熱くて変な気持ちに……あっは♪」


 純白の鎧を装備した変な奴が、純白装甲に覆われた巨馬を乗りこなしながら次々と自分達を巨大な槍で薙ぎ倒しているのだから……堪ったものではなかった。


「アイツ……俺と色が被ってるし強い。クックックッ……やはり面白い!」


終わり


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失恋からのモテ期な匙きゅん

………。誰だよこのカテレアさん。
いやマジで誰だよ。

そんな感じです。

※ちょっと色々と修正しました。


 何でこうなるんだ。

 俺はイッセーと友達になって強くなった木場みたいに強くなろうと自分なりにやって来たつもりであり、惚れた腫れたの話はうんざりだと思ってたんだ。

 それにやっとソーナ・シトリーからの呪縛から逃れられ、木場や白音ちゃんと同じく本当の自由を手に出来たし、これからは大手を振ってテメーの力を磨いていく事に専念できる――そう思ってたのに。

 

 

「ジョワユーズ使いも強そうで益々楽しくなりそうだよアザゼル。

流石コカビエルに鍛えられてるだけはある」

 

「言うと思った、つくづく餓鬼だなオメーは。

にしてもあのコカビエルの所に居る小娘は何者なんだ?」

 

 

 アザゼルさんやヴァーリみたいな……。

 

 

「『疾風』の慣らし運転ぐらいにはなったぜボス」

 

「フリード様の出で立ちはまさに騎士でした!」

 

「おうおうそうかそうか。やはりルフェイを引き込んで正解だったな」

 

 

 コカビエルとフリードみたいな……。

 

 

「神の死を伏せていた件は本当に申し訳ありませんでした……それに聖剣計画の件も」

 

「い、いえ! ミ、ミカエル様が私等に頭をお下げる必要は……」

 

「僕も自分なりにケジメは付けられたので……」

 

 

 

 木場とゼノヴィアさんみたいな、

こう……強くなれるって感じがビシバシするような何かが欲しいだけなのに。

 

 

「で、残ったのはカテレア一人だけみたいだけどどうするの? このままおめおめと帰って『私以外全滅です』って連中に報告するのかい?

多分責任持たされて殺されるか玩具にされるかもねー……あーぁ、大変だな」

 

「ひぃっ!? そ、そんな事無い! だって私はレヴィアタン――」

 

「血族の末裔ってだけじゃないか。

第一本当に襲撃をするつもりだったら、キミだけじゃなくて他の末裔軍勢全員で襲撃するべきだろうに」

 

「うっ……! そ、それは私の中にオーフィスの『蛇』を入れて凄いパワーアップをしたから……」

 

 

 俺は何でほぼ初対面の旧レヴィアタンなる人に抱き着かれたまんまなのかが解らない。

 俺関係無いじゃん……。

 

 

「ふーん、じゃあ益々当て馬にされたねカテレア。

オーフィスの力の一部を与えられとしても僕達全員を相手にして勝てるのかい?」

 

「ぅ……」

 

「無いんだろ?

ほら、キミ一人の力量じゃあ不可能だと最初から判断されたんだよ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 

 痴女魔王は物凄い無表情でガン見してくるし、ギャスパーもオロオロしつつも何か意味深な顔だし。

 何なんだよこの状況……なんだってんだよ。

 

 

「あのー……お話の最中申し訳ないんですけども、そろそろ離れてもらえますかね。俺達そろそろ帰りたくて……」

 

「ええっ!? そ、そそ、そんな! 本物のレヴィアタンである私の仲間になって――」

 

「いや、仲間なら友達が居ますし間に合ってるんで……」

 

 

 褐色肌でかなりスリットの開いたドレスを着てるという、露出的な――されど眼鏡のせいで妙に知的に見えなくもない女の人に抱き着かれたままってのは、正直色々と辛い。

 というより、この人は会談を襲撃してきた敵だし、結局フリードとヴァーリによって襲撃軍団は全滅して詰んでる状況で絶望してるのは解るけど、俺関係ないし……。

 

 

「スキルを覚醒させたんだろ白音? 後で俺と手合わせしてくれよ」

 

「良いですよ。

もし私が一誠先輩を倒したら舌まで絡ませる凄いキスをしてもらいますね? そして私が負けたら私から一誠先輩に舌まで絡ませる凄いキスをしてあげます」

 

「え"?」

 

「その前に私がズタボロにしてやるよチビ猫」

 

 

 無理だろこんなの。

 というか、白音ちゃんまで先の領域に進入したのかよ。

 これは益々頑張らないと置いていかれてしまうぜ。

 

 

「そもそも俺単なる転生悪魔ですし、言うほど強くもないんで仲間にしても邪魔になるだけっすよ。

それにもう捨て駒扱いはごめんなんで」

 

「そ、そんな事っ! このアホで能天気な化物達に対しておくびもなく意見を通せる精神の強さはこの、レヴィアタンである私からしても称賛に価しますから! な、何卒! じゃないと私……こ、殺されちゃう……!」

 

「……………。まあ、匙君に殺すのを止めて欲しいと言われたら僕はなにもしないけどね。

ただし、キミの持ってる情報を全て僕たちに差し出して貰うけど」

 

 

 そう意味深な台詞と共にサーゼクス様が俺を見る。

 カテレアって悪魔もずーっと俺の腕辺りにしがみつきながら半泣きで見てくる。

 そしてトドメに他の全員も俺を見てる…………………え? これ俺が決める流れなの? な、なにゆえ?

 

 

「し、死にたくない……!」

 

 

 ブルブルと俺の腕にしがみついて震えるカテレアって悪魔。

 レヴィアタンだと事あるごとに自称してたけど、俺には今の彼女が魔王たる覇気も感じず、ただただ怯えた女の人にしか見えない。

 こう、ライオンの群れだらけの檻にぶちこまれたインパラというか……。

 初対面の俺にすらプライドもクソもポイ捨てして助けを請う姿に居たたまれない気持ちすら芽生えてしまう。

 

 

「あのー……。

体の良い捨て駒にされたのなら、その他の旧魔王派って奴等からはこの人は殺されたと思うと思うんで、殺さずに情報を獲る方向が良いんじゃないっすか? いや、知らんけど」

 

 

 だからまあ……これっきりしか関わらないだろうし、死ねとは流石に思ってないので、殺す必要は無いのではとだて言ってみる。

 

 

「!?」

 

「元士郎くん!?」

 

「元士郎先輩!?」

 

 

 すると自分で死にたくないと言っていた筈のカテレアって人は目を見開いて驚き、痴女魔王とギャスパーもも何故かオーバーに驚いていた。

 

 

「ほう、キミは殺すべきでは無いと?」

 

「ま、まあ、別に死んで欲しいとは思ってはないので……はい」

 

 

 捨て駒、か。

 ちょっと前の自分を思い出すぜ。

 もしイッセーと出会わなければ、俺はあの性欲馬鹿に示唆されたソーナ・シトリーに神風特攻させられて死んでいたのかもしれないと思うと、甘い考えだけどこの人にちょっと同情してしまう。

 それに好き好んで『死ねば良いじゃん』と言える趣味も無いし、サーゼクス様の言った通りこの人から情報を引き出す方が現実的で戦略的なんじゃないかなー……なんて。

 

 

「ふーん……? カテレアちゃんには妙に優しいね? ふーん?」

 

「な、なんだよ」

 

 

 その際、目を見開いて驚いてるカテレアって人と俺を無表情で見ながら喉に引っ掛かる様な言い方をする痴女魔王に居心地の悪さを感じる。

 さっき言われた冗談が俺をそう思わせているのか……。

 

 

「だってさカテレア。匙君に感謝するんだね」

 

「……」

 

 

 ………。結局俺の意思を何故か尊重してカテレアって人は殺されずに済んだ。

 しかし、生き残れた事がこの人にとって幸福なのかは微妙だ。

 だって多分、これから待っているのは不自由な生なんだろうから。

 

 

 

 

 た、助かった……?

 軍勢を全滅させられ、更にはサーゼクスに私は捨て駒として送り込まれたんだと指摘され、思い当たる節だらけで絶望していた中、私はこの少年によって生かされた。

 

 

「よかったねーカテレアちゃん。元士郎くんに優しくして貰えてー?」

 

「……………」

 

 

 セラフォルーが妙に刺々しい言い方をしてくるのとハーフ吸血鬼が複雑な顔をしてるのに、ちょっとムカつくけどこれで私は生き残れた。

 ふ、ふふ……やはり私こそレヴィアタン。

 似非では無いからこそ生き残るべくして生き残った……そうに違いない。

 

 

「あのー……取り敢えず離れてくれると……」

 

「ぁ……す、すいません」

 

 

 ふ 、ふふん……このお馬鹿さん達め。

 この私の演技にまんまと騙されたわね! これこそ私がレヴィアタンとして再臨する為の布石!

 この少年を利用してお馬鹿さんを騙して生き残り、そして隙を突いてこの少年をまずは人質に――

 

 

「これ飲みます? ちょっとは落ち着きますよ?」

 

「へ?」

 

 

 人質にして……。

 

 

「あと安物だけど飴玉も……」

 

「ぁ……は、はい、頂きます……」

 

 

 ひ、人質に……。

 

 

「その……色々と災難でしょうけど頑張ってください」

 

「ぁ……。(キュン)」

 

 

 で、出来ない……。

 こ、こんな転生悪魔というだけの少年相手に私は躊躇っている。

 そ、それどころかこの胸の高鳴りは……!

 

 

「やはり随分とモテるな元士郎……。まあ、何と無くそんな気はしてたが」

 

「おいおいやめてくれよイッセー。

あの人だって色々と崩壊してワケわかんなくなってただけだろうぜ。

でなきゃガキで転生悪魔程度の俺にあんな真似なんざしねーだろ?」

 

「どうしたらそんな考えに行き着くのか不思議なのですが逆に」

 

 

 違う。旧魔王派に所属してる男達とはタイプがまるで違いすぎる!

 茶髪の少年と話してる……元士郎と呼ばれた少年から目が、目が離せない。

 

 

「それにこの人はこれからマジで大変なんだぜ?

寧ろ無責任に殺すのを躊躇わせた俺としても微妙に罪悪感が……」

 

 

 思えばセラフォルーにレヴィアタンの称号を奪われてからは周りから軽く見られ、他の旧魔王派の連中からも嘗められた態度をされ、挙げ句捨て駒としてこんな化物だらけの集いに特攻してこいと言われて……。

 そりゃあセラフォルーを倒してレヴィアタンとして返り咲く夢を持って居たので、嘗めてる連中を見返すつもりでオーフィスの力をちょっと取り込み引き受けたけど、来たら来たでセラフォルーからすら無視され……挙げ句に引き連れた禍の団の構成員も全滅させられた。

 

 これではおめおめと逃げ帰っても馬鹿にされてしまうだろうし、最悪サーゼクスの言った通り殺されるか玩具にされてしまう。

 そんな中この少年は無視をされていた私を見かねて化物達に向かって『聞け』と一喝した処か、命まで救った。

 

 

「う……うぅ……!」

 

 

 こんなちっぽけな人間から悪魔に転生しただけの少年によって私は……私は……!

 

 

「や、やっぱり……す、好きー!!」

 

 

 この少年を絶対に仲間にする。

 勢い任せじゃない……仲間に出来たら絶対得になるからこそ私は少年に先程と同じく飛び付いた。

 だが……。

 

 

「させないよカテレアちゃん」

 

「へぶ!?」

 

 

 憎きセラフォルーが飛び付いた私の足首を掴んだせいで床へ顔面から激突してしまった。

 

 

「うぐぅ……な、何をするセラフォルー!」

 

「何をって……カテレアちゃんが元士郎くんにまた変なことをしようとしてるからだよ?」

 

 

 変な事!? 仲間に勧誘することの何が悪いのだ!

 いや待ちなさいカテレア・レヴィアタン。此処でムキになればセラフォルーの思うつぼ。

 ここは冷静に……私らしく知的にクールに……。

 

 

「ふん、人聞きが悪いですねセラフォルー

私はあの少年の精神の強さに感服して、是非仲間にと……」

 

「だからそれが変な事なんだよカテレアちゃん。

第一元士郎くんに『好きー!!』なんて言いながら飛び付いている時点でアウトだもん」

 

「あ、アレは違う!

この私が――真なるレヴィアタンを継ぐ私が転生悪魔の少年に心を奪われるわけがない! 寧ろ私の色香に少年の方が――」

 

 

 ぐぐっ、さっきから何なんだこの女は。

 またしても私の邪魔を……!

 

 

「匙さん、さっさと止めたらどうでしょうか?

明らかに貴方を巡って言い争ってますわよ?」

 

「いやいやいや、痴女魔王はともかくあの人は違うだろ。単に痴女魔王と馬が合わないから言い争ってるだけで、俺は関係ないと思うぜ」

 

「『好きー!!』って言われながら激しく抱き付かれておきながらそりゃ無いにゃん」

 

「よ、匙先輩のモテ男ー」

 

「…………。惚れた腫れたはもういいよ」

 

 

 ……!? な、なるほど、子供集団の会話で全てが解った。

 

 

「ふふん、成る程、納得しましたよセラフォルー

貴女はどうやらあの少年にあらぬ気持ちを抱いている様ですね」

 

「む、だからなに?」

 

 

 妙に刺々しい言い方と目をしていた理由が分かりました。

 成る程……という事は私がこの少年の心を掴めば精神的にセラフォルーに勝てると……ふふふ!

 

 

「精神がお子様なセラフォルーには恋愛なんて解らないでしょうね? だって彼は貴女の名前すらまともに呼ぼうとしませんし? 寧ろ突っぱねられてると見ました」

 

「むっ!」

 

 

 図星を突かれた様に顔をしかめたセラフォルーに私は今度こそ勝利の道を見出だした。

 これで勝てば私こそレヴィアタンになれる!

 

 

「匙さん? いえ、元士郎!」

 

「え、は、はい?」

 

 

 それなりに容姿と体型には自信がある。

 …………。それなのに何故か言い寄られた事は皆無なのはきっと私がレヴィアタンで、おそれ多いと誰もが思ったからだ。

 だがさっきからニタニタしながら此方を見てる化物集団連中に対して怯えも見せず発言できる精神の強さは、私を捨て駒扱いしてくれた男共なんかよりは遥かに上だ。

 それに年頃の男子であるし、さっき思わず抱き着いた時の反応からして……ふふ、これなら勝てる!!

 

 

「私と!」

 

「うおっ!?」

 

 

 セラフォルーとは違って私はちゃんと役に立ったらご褒美をあげられます。

 どうせセラフォルーはギャーギャーと一方的に言い寄るしか出来てないだろうし、本当の大人の女悪魔の色気なら私の遥かに上。

 故に言えば一撃で……彼の両手を握り締めながらこう言えば一撃で。

 

 

「私と……!」

 

「はぁ……」

 

「わ、私と……!」

 

 

 狂わせて……

 

 

「わ、わたしと……」

 

「えっと、なんですか?」

 

 

 私の言うことを何でも聞く都合の良い……。

 

 

「わ、わた、わたしの……」

 

 

 良い……。

 

 

「…………………うっ」

 

 

 いい……。

 

 

「そ、その……わ、私と文通をして戴けませんか?」

 

「……。はい?」

 

 

 う……顔が熱いし全然違う言葉が……。

 

 

「ぶわっはははははー!!! おいおい何だよ、見た目とは裏腹にかなり初だなオイ!」

 

「ふむ、確かに文通とは珍しいな」

 

「ガブリエル……貴女は天使でありながら悪魔にある意味負けてますよ?」

 

「うぐ……だ、だってコカビエルが鈍いからああするしか……」

 

「……。やばい、匙くんを彼女に会わせたらある意味でヤバイかもしれない。

この際カテレアを生かしてセラフォルーとどっちでも良いから匙くんを……」

 

 

 出歯亀みたいに趣味悪く傍観している化物連中が笑ってるせいで余計悔しいやら恥ずかしいやら。

 ですが、当初言うつもりの台詞とは違うものの、これならまだ軌道修正が……。

 

 

「ぶ、文通?」

 

「う、うー……」

 

 

 目を丸くしてる少年に、私は全身が焼かれるような熱さと、バクバクと鼓動する心臓に少年の顔をまともに見れず、思わず下を向きながら情けなくも頷くだけしか出来ない。

 軌道修正をしようとすればするほど妙な気恥ずかしさを感じてしまい、少年だけど私より背は高いその顔を見れずに……今の自分の顔を見せたくないと俯いてしまった。

 真なるレヴィアタンが転生悪魔程度の少年に……なんて事だ。

 

 

「そ、それはまた前時代的っすね」

 

「き、機械がちょっと苦手で……」

 

 

 加えて急に声もうまく出せなくなるし、下を向いてしまって見えない少年の声に小さく頷くだけという情けなさを露呈させている私は、不思議と悔しさとは違う意味の歯がゆさを感じた。

 こんな私は私じゃないし、そもそも何でこの私がこれ程に緊張してるのかもよく解らない。

 引き込める自信があるのならさっさと言ってセラフォルーに勝ち誇れば良いというだけなのに、胸の中の心臓がトクントクンと切なさすら覚える鼓動のせいで上手くいかないのに……。

 

 

「でもアンタ、旧魔王派って派閥だったんだろ?

生き残れたとはいえ、これからはかなり自由に制限が掛かるんじゃ……」

 

「た、確かにそうなると思います。

けれど書き物をするくらいなら大丈夫ですし、そ、その……本当に時折で構いませんので、顔を見せてくれたら――――嬉しいかな、なん……て」

 

 

 それなのに私は何を言ってるのだ? 子供じゃあるまいし。

 さっさとこの少年を誘惑してセラフォルーより精神的に上の立場に立てればそれ良いのに……私は一体どうしてしまったのだろう?

 

 

「う……おっ!?

い、いや、その……! ひ、暇になったら別に良いッスけど……!?」

 

 

 捕らわれる事を自分で受け入れてるような台詞に加えて、会いに来てくれることを望む。

 元・人間の転生悪魔の少年相手にこの真なるレヴィアタンの私が宣う台詞じゃないのに、私はほぼ自然に沸き上がる衝動に身を任せるように言ってしまった。

 その結果――何と彼は驚きと戸惑いを感じさせる声で会いに来てくれると言ってくれた。

 

 

「!? ほ、本当に?

あ、あはは……は! う、嬉しい……です」

 

 

 その言葉が……いえ少年からの答えに今までにない満ちた気持ちとなった私は、思わず顔を上げて目を泳がせていた元士郎と呼ばれた少年の両手を再び取りながら頬を緩ませてしまう。

 

 

「いっ!?(な、何だその顔は……!? ぐっ、急に心臓がうるせぇ!!)」

 

 

 何だろうかこのフワフワした気持ちは。

 戦って勝った時の高揚感とは違う、擽ったいこの気持ちは……。

 

 

「どうしました? お顔が……」

「っ!? な、何でもない!(あ、ありえねぇ! こんなの単なる間違いだ!)」

 

 

 何処かに忘れてしまった様なこの気持ちは一体なんだろうか? 私は胸の中で感じる擽ったい気持ちに自問自答しながら、私から顔を逸らした元士郎なる少年を見つめるのだった………彼のこの両手を離さないまま。

 

 

「…………………………。ありえない……ダメだよこんなの。私の方が元士郎くんの事好きだもん」

 

「……。元士郎せんぱい」

 

 

 少年の両手の体温を感じながら、ただひたすら考えて……。

 

 

 

 

「あの人凄いですね。

ほぼ初対面なのに匙先輩が狼狽えてますよ。

アレが所謂ギャップ萌えって奴でしょうか?」

 

「というより、セラフォルー・レヴィアタンが『個性的』過ぎたせいだと思うぞ……俺にはよくわかる」

 

「と言うことはもし私があんな感じになったらイッセーは即私をベッドに連行してくれるにゃ?」

 

「………。いや、熱が無いか心配する」

「……。会談と裁判が終わってから妙に緩くなってますわね」

 

 

 




補足

ゼノヴィアさん並みのヒロイン力を覚醒させたまさかのカテレアさんだった。

匙きゅんも近くの女性達が殆ど向こう側故に、ああいう反応されると激しく狼狽えるのは仕方無いよね。

てか、何だこのラブコメ。


ちなみに大人達はニタニタしながら見てました。
そして天使さんは隣でフムフムと眺めてた堕天使さんをチラチラ見ながら目の前のやり取りを自分達に当て嵌めて妄想してキュンキュンと……。


その後フリードきゅんとルフェイたんはまた散歩にでていきました。

この二人も何気にラブコメ度が高い。

ヴァーリきゅんもまた一人で修行に……。


その2

言い寄られた事が無かったのは……。
まあ、ぽんこつというか、何というか……旧レヴィアタンの血族者である事を事あるごとに主張するけど、何処か微妙にずれてるせいで他のメンバーからうざがられてたりしてました。
 けど末裔だし使えるだろー? みたいな感じで取り敢えず置かれていたという何とも可哀想な背景。

ちなみにカテレアさんはセラフォルーさんに何処か勝ればすぐドヤ顔する。


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冥界合宿inフェニックス家
新生徒会と里帰り


かなりゴチャゴチャしてます。

※ちょっと手直ししました。


 『兄貴様。』とのケリが着いた事で終わりを迎えた会談とやらから日は過ぎ、今日は1学期最後の終業式。

 リアス・グレモリーとその眷属並びにソーナ・シトリーとその眷属達は"一身上の都合による転校か自主退学"という形で学園から姿を消しており、一般生徒達は――特に元浜&松田辺りの男子はその場に崩れ落ちるかの様な落胆を見せた。

 が、その入れ替わりに入ってきた新たな転校生――いやまぁつまりゼノヴィアと黒歌によりそのダメージをある程度軽減させた様だ。

 

 

『これより1学期の終業式を開始する』

 

 

 黒歌とゼノヴィアの転入はやはりというか、男子諸君を大喜びさせるのに十二分だった様で、いつかのレイヴェルを思わせる勢いで、初日にて大人気者へと昇格し、聞けばファンクラブが速攻で発足されたとか何とか――――いや、そんな事は今はどうでも良い。

 

 

『だがその前に貴様等に言っておきたい事が一つある』

 

 

 俺もまた人生の『折り合い』を一つ付けられたという事で、数日前から密かに実行していたある事を皆に知って――いや承認して貰う為に全校生徒が集まる体育館の壇上に立つ俺は、『会長』『副会長』『会計』『書記』『庶務』の腕章が付いた右腕を見せつつ切り出した。

 

 

『生徒である貴様等には存じの通りだが、俺はこれまで駒王学園・生徒会長という肩書きを持っている。

だがこれも知っての通り、役員は会長である俺一人という、本来なら役員失格という有り様のまま、なぁなぁでやって来た』

 

 

 折り合いを付けた今、新たな学生生活を送るのに生徒会をこのままにしておく訳にはいかない。

 今までは自分が『これだ』と思うような人材が居らず、レイヴェル達に手伝って貰う形で凌いできたが、もはやその必要は無くなった。機は熟したのだ。

 

 

『選挙管理委員会へ通達する。

本日より匙元士郎、木場祐斗、塔城小猫、ギャスパー・ウラディ――――そして生徒会則第5条・二項目の特例法を発動し、レイヴェル・フェニックスを第19代目生徒会執行部として登録して頂きたい』

 

 

 本当の生徒会執行部を結成する……機がな。

 

 

『とはいえ、これはあくまで俺の独壇でやっている事であり、正規の選挙活動も無い。

故に貴様等に問う、この中で俺が指名した五名の人員に不満がある者はその場に座るが良い』

 

 

 黒神めだかがそうだったように、俺は俺の意思で信頼できる友の力を借りたいから、獲られた友と共にやっていきたいと思っている。

 そしてそれが伝わったのか、壇上下から俺を見ている生徒達は誰もその場に座らなかった。

 

 

「寧ろ今まで加えなかった事が不思議だっつーの!」

 

「やっとかよイッセー!!」

 

「木場きゅんと匙きゅんと小猫たんとギャスパーきゅんとレイヴェルたんに文句なんてある訳がないわ!」

 

「良いぞー! これで揃ったじゃねーか!!」

 

 

 寧ろ誰もが待っていたとばかりに迎え入れてくれた。

 フッ……。

 

 

『元士郎、祐斗、しろ――じゃなくて小猫、ギャスパー! そしてレイヴェル! 上がってこい!!』

 

 

 気の良い奴等め……。

 色々あったがやはりこの学園は大好きだ。

 揉みくちゃにされながら壇上へとやって来た五人の友に頬を緩めてしまうのは気のせいじゃない。

 

 

『この腕章をやっと渡す仲間が出来た事を嬉しく思う。

元士郎、祐斗、小猫、ギャスパー……そしてレイヴェル、生徒会に入ってくれ。お前達の力が必要だ』

 

 

 嬉しい。

 今俺の心はその感情で満たされている。

 

 

 

 

 生徒会か。

 最初はソーナ・シトリーが会長になったら自動的に加入するって感じだったのに、一誠という男がぶっちぎりの支持率を引っ提げて就任したから無くなった話だったんだよな。

 だから生徒会なんてもう縁が無いとばかり思ってたってのに……ははは。 

 

 

「ふふん、これでやっと生徒会らしくなるな……。ぬっふっふっ」

 

「うー……凄い緊張したですぅ」

 

「でも頑張ったじゃねーかギャスパー」

 

「僕も緊張しちゃったよ」

 

 

 だがこれは流れで加入した訳じゃない。強要された訳でもない。

 自分の意思で……イッセーに力を貸すという己の意思で加入したものだ。

 だから後悔なんてものは無い。元々はグレモリーとシトリーの眷属、フェニックス家のお嬢様……そして人間と立場も何もがバラバラだった俺達がこうして集まって一つの事をしようとしている。

 実の所ワクワクしてたりするんだぜ?

 

 

「庶務……」

 

「私も庶務……」

 

「ま、まあ、良いじゃないか二人とも。私と黒歌は入れないんだし」

 

「まったくだにゃん。役職なんて皆で一つの事をするんだから意味は無いと思うよ?」

 

 

 まあ、約二名と転校してきたばかりで加入が出来なかった二人はちょっと残念そうだけどな。

 確かにイッセーに一番近いあの二人が庶務なのは不思議というか……何で反対に俺が『コレ』なのか、イッセーの考えはイマイチまだ読めないな。

 

 

「ぬっふっふっ、見よこれを! 完全な生徒会を発足した時の為に夜なべして作成した生徒会専用の制服だ!」

 

「へぇ、男子は学ランで女子はセーラー服なんだ?」

 

「わー……僕セーラー服を着てみたいです」

 

「ふっ、ギャスパーにはどちらも用意してあるから心配するな」

 

 

 だけどイッセーはと言えば、ちょっと沈んでいる二人を他所に、役員を集められてご満悦なのか、自作したらしい専用の制服のお披露目をしている。

 

 

「いいなー」

 

「仕方ないさ黒歌よ。来期まで大人しく待とうじゃないか」

 

 

 とうとう目に見えてはしゃぎ始めたイッセーを眺めながら羨ましがるゼノヴィアさんと黒歌さんだけど、別に生徒会室に来てはいけない訳じゃないし大丈夫だと思う。

 元浜と松田のアホ二人組だってほぼ毎日来ては俺達に変な悪態付いて備蓄の品を食い散らかしやがるしな。

 

 

「さぁ……本格的な活動は来学期からとなるが、よろしく頼むぞ!」

 

「おう」

 

「は、はい!」

 

「任命されたからには全力で受けるさ」

 

「庶務もまた生徒会……こうなったら努めてみせますよ!」

 

「えぇ、やって見せますわ!」

 

 

 何にせよ、あの会談から俺達の人生に折り合いが付き、新しい道を歩みだした。

 その一つがこの新生徒会長執行部なのだ。

 

 

 駒王学園・第19代目生徒会長執行部。

 

 庶務――塔城小猫

     レイヴェル・フェニックス

 

 会計――ギャスパー・ウラディ

 

 書記――木場祐斗

 

 会長――兵藤一誠

 

 

 

 副会長――匙元士郎

 

 

 二学期より始動……新生徒会。

 

 

 

 

 終業式と新生徒会執行部の襲名披露を終えれば夏休みになります。

 私と白音さんが庶務として任命された時はちょっとだけショックに思いましたが、考えてみれば役職なんてものは関係ありませんし、全員が揃ってこその生徒会ですので気に病む必要なんてありませんわ。

 寧ろ不服と思うこと自体失礼でした。

 

 

「は、冥界に帰る?」

 

 

 話を戻しますが、夏休みへと突入した後もほぼ毎日何時もの面子が私と一誠様の愛の巣に来るというのは変わらずなのですが、私と一誠様も用事というものがあるので毎日を愛の巣で遊んでばかりという訳にはいきません。

 フェニックス家として冥界に里帰りをしないといけませんし、一誠様もまたフェニックス家の一員なので同じく帰らないとなりません。

 

 

「おう、長期休暇時はフェニックス家で過ごすことがエシルねーさんとシュラウドのおっさんとの約束でな」

 

「そういう事ですので、宿題の無い黒歌さんとゼノヴィアさん以外は一旦家に戻って宿題一式全てを持って此処に来なさいな」

 

 

 それに今年は他にも帰らないとならない理由もありますからね……。

 

 

「「「「は?」」」」

 

「は? じゃないですよ。

アナタ達はあの会談の日から正式に我がフェニックス家預りとなっているのですよ? 別に畏まって挨拶をしろとは申しませんが、義理は果たすべきじゃあなくって?」

 

「そういう事だ。

それにフェニックスの家は広くて快適だぞ? 温水プールに温泉、レジャー施設も完備で……」

 

「健康ランドかよっ!」

 

 

 エシルお母様とシュラウドお父様に一誠様が頼み込んだお陰で、主に逆らったはぐれ悪魔というレッテルを回避できた事をもう少しだけ自覚して貰いたいですね。

 

 まあ、黒歌さんとゼノヴィアさんは悪魔じゃないのでこれに当てはまりませんが、それでも父と母が身請け人になっているのは変わりません。

 

 

「ご両親が健在な匙さんはそういう訳にもいきませんので、途中で帰っても構いませんが……」

 

「え、嫌だよそんなの。

皆して一緒なのに俺だけ一人寂しく帰るなんて無いぜ。

うっし、それなら一旦帰るわ」

 

「う、うーむ、悪魔の根城によもや私が行くことになるとは。

だがもう教会とは縁を切ったし……」

 

「み、皆さんが一緒なら僕も行きます。

レイヴェルさんの言った通りご挨拶しないといけないですし……」

 

 

 ふむ、行きたがらない方は一人も居ないと……。

 意外にもギャスパーさんも行く気なのは幸いですわ。

 

 

「よし、そうと決まれば今から一時間後に集合だ。

ふふ……フェニックス家の皆は色々と濃いぜ? ふっふっふっ」

 

 

 パンパンと手を叩きながら締めた一誠様により、一旦解散となった後、私達も準備に取り掛かります。

 さてと……お兄様達やお父様とお母様が果たして普通に出迎えてくれるのか……ちょっと不安ですね。

 

 

 

 レイヴェルさんの実家。

 リアス元部長の実家であるグレモリー家には何度か行きましたけど、それ以外の場所には行かなかったので、ちょっとした緊張と新鮮な気持ちがします。

 

 

「レイヴェルの家族ってどんな人達か白音は知ってるの?」

 

「いえ、殆ど先輩とレイヴェルさんから聞かされるお話でしか。

前に一度一つ上のお兄さんと顔を合わせた事はありましたけど、何と言いますか、見た目で誤解されそうな人でしたね」

 

「ふーん?」

 

 

 準備を終え、姉様と一緒に先輩のお家に向かっている最中私は考える。

 濃いぜ? なんて一誠先輩が言っている辺り、多分フェニックス家の人達は本当に濃い人達で間違いないのだろう。

 特にレイヴェルさんのお父さんとお母さんは聞いているだけで一番かもしれない。

 …………。まあ、姉様も姉様で濃いし慣れてしまってますけど。

 私? 普通ですよ普通。

 

 

「お、来たか。これで全員揃ったな」

 

「白音さんと黒歌さんが最後ですね」

 

 

 そうこうしている内に先輩の住んでいるアパート――では無くその裏の小さな駐車場に皆さんが終結してました。

 実家にも私物がある先輩とレイヴェルさん以外はバッグを持っており、匙先輩は特に大きなバッグで結構目立っている。

 

 

「それでどうやって冥界に行くんだ?

俺が聞いたことのあるルートだと、駅にあるエレベーターで秘密の階層まで降りて行くって感じだったけど」

 

「なに? そんなルートがあったのか……。しかしそれはシトリーとグレモリーのルートだろう? 俺達は違うぞ」

 

 

 匙先輩の言葉に初耳だと目を丸くした一誠先輩は、違うぞと私達の知るルートを否定すると、至極当たり前の様にこう言った。

 

 

「フェニックス城直通の転移魔法で行く。

あぁ、心配しなくても冥界の入国手続きは既にエシルねーさんとシュラウドのおっさんがやっているから、不法入国者だと騒がれることも無い」

 

「そういう事です」

 

 

 先輩に続いてフッと不敵な笑みを浮かべたレイヴェルさんが手を一つ叩いた瞬間、足元にフェニックス家の紋章が入った大きな魔方陣が青白い光と共に浮かび上がる。

 ……。この大人数を行き先を間違わずに転移させるには相当の集中力と時間が必要なのに、レイヴェルさんは余裕だと謂わんばかりに一瞬でやって見せた。

 

 ちょっと悔しいです。

 

 

「足元に注意してください……では行きますよ」

 

 

 陣の中に入っていた私達は目の前が真っ白になる。

 そして次の瞬間には……。

 

 

「よし着いたぞ」

 

「っ……お!? で、デカい城だ……」

 

「お、おぉ……も、もっとマシな格好にしておくべきだったかな祐斗?」

 

「大丈夫だよ、グレモリー家の時は特に言われなかったし……た、多分」

 

「うぅ……急に不安になってきました」

 

 

 フェニックス家の根城の前に立っていました。

 どうやらグレモリー家に勝るとも劣らない大きなお城の門を前に、匙先輩達は腰が引けてしまっている様子です。

 いや、それも正直仕方ないのかもしれない……。

 

 

「ふぅははははぁ!!

我が弟と妹……そして友達の帰還だ! 全力でお出迎えしろ!!」

 

『は、ライザー様!!』

 

 

 門が開かれた先にあったのは、リアス元部長との誤解から始まった婚約話の時に会ったライザーさんとその眷属の皆さんの曲芸じみたお出迎えに面を喰らい。

 

 

「我が子レイヴェルと一誠よ! よくぞ帰ってきた! 実は皆して五時間前から門の前でスタンバってましたぁぁっ!!」

 

 

 当主と思われる人までも手から炎を光線みたいに空へと撃ち出してるのだから、ビックリするなというのが難しい。

 流石の姉様もポカンとしながら激しすぎる歓迎を受ける。

 

 

「ようこそフェニックス家へ!! 私が当主のシュラウド・フェニックスであーる!!」

 

 

 濃いぞと言っていた先輩の言葉を過小評価していた。

 私は金髪のおじさんの高笑いを聞きながらただ茫然と思いました。

 

 

 

 

 

 ………。帰ってくるだけで一々大袈裟というか、これがフェニックス家のしきたりだし仕方ないというべきか。

 元士郎達が完全に尻込みをしてしまっているじゃないか。

 特にライザーは何でそんなにハシャイでるのやら。

 

 

「さて、何時までも外にいては疲れますし取り敢えず中へ入りましょう。ライザー、一誠とレイヴェルのお友達をご案内しなさい」

 

「はい母上」

 

 

 盛大なお出迎えも漸く落ち着いた所で、ちょっとタレ目気味な所以外はレイヴェルによく似ているフェニックス家の母、エシルねーさんが仕切ると一足早くまだ勝手にハシャイでたシュラウドのおっさんの顎にショートフックをかまして気絶させると、ビクッとした元士郎達に微笑みかけながら中へと入って行く。

 しかし、意識が飛んだおっさんの襟首を片手で掴んで引き摺るように連行しながらという、表情とアンバランス過ぎる形のせいでちょっと怖い。

 

 

「お、おい……?

フェニックス卿が白眼剥いてるけど……」

 

「……。何時もの光景だから気にするな」

 

 

 眷属達を下がらせたライザーを先頭に、遅れて城内への道を歩く最中、ちょっと怖がり気味に耳打ちしてくる元士郎に俺は心配するなと返し、中へと入るとライザーがそれぞれ眠る為の部屋の案内をして貰う。

 俺は別に案内されんでも自分の部屋があるので必要も無いのだが……。

 

 

「好きな部屋を使ってくれ」

 

「じゃあまた後程――」

 

「ちょっと待ってください。

何故レイヴェルさんと一誠先輩は当然の様に同じお部屋なんですか?」

 

 

 ちょっとしたゴタゴタがあったことは……まあ、ご愛敬だ。

 

 

「何故……と言われてもな。

コッチの家の部屋はココで、餓鬼の頃からレイヴェルと一緒のままだからとしか……なぁ?」

 

「ええ、何か文句でもあるのかしら雌猫姉妹さん?」

 

「チッ、勝ち誇った顔が余計にムカつきますね」

 

「私もイッセーと一緒が良いにゃー!」

 

 

 不満だらけだと云わんばかりの白音と黒歌にレイヴェルがドヤ顔したせいでまた始まりそうになったのだが、ライザーがニヤニヤしながら……。

 

 

「それなら一緒で良いんじゃね?

あ、ちなみに父と母の部屋以外の各部屋は防音だから……派手なプレイをしても問題無しだぜ?」

 

 

 等と目を逸らす俺の肩をバシバシ叩きながらさも楽しくて仕方ないという感じで言ってしまったせいで……何かもう嫌な予感しかしなかった。

 

 

「派手なぷれい……という事は一誠と……にゃは……♪」

 

「激しく……ふふふ」

 

「お、おい……そんな事は無いからな? な?」

 

 

 ホント……勘弁してくれ。

 

 

 

 各部屋に案内されてからおおよそ2時間後か。

 ダイニングルームへと来た俺達は、先に座っていた当主のシュラウドと夫人エシル、長男、次男、三男に促される形で席に座る。

 長テーブルの上には既に豪華な食事が並んでおり、白音は目をキラキラさせながらガン見して、腹を鳴らしていた。

 

 

「さて、遠慮はいらないよ一誠とレイヴェルのご学友達よ。

思う存分食べて飲んで騒ぎたまえ。必要なら私と息子三兄弟――いや一誠を加えて親子四兄弟の渾身なる裸躍りをしてみせよう!」

 

「いやおっさん、流石にそれはまだ早いしドン引きされるから勘弁してくれ。

既にのっけの出迎えで引かれてるし」

 

「自重してほしいですわ……もう」

 

『…………』

 

 

 思っていた以上にキャラがアレだったせいで完全に引いてる元士郎、祐斗、ゼノヴィア、ギャスパー、白音、黒歌だが、食事が始まれば何て事も無く自然な流れでフェニックス家との交流が出来てくる。

 

 

「そういえば、コカビエル殿との戦いに勝利したみたいだな一誠よ?」

 

「ん、あぁ……実際はかなりギリギリだったが何とか」

 

「おいおい、伝説の堕天使を倒したんだぜ?

悪平等でもそんなの居ないしもっと誇れや。なぁ兄貴?」

 

「うーん、そうだね……。

それに加えて早いとこ甥っ子を見せてくれたらもっと良いんだけど」

 

「そうだそうだ――と言いたいが、聞くところによれば、お前に好意を寄せる女性が二人ほど――」

 

「はいはいはーい! 私と白音です!!」

 

「諦めるつもりはありません」

 

「ふん、雌猫さんに負けるつもりはございません」

 

 

 

「アナタが匙元士郎君ね?

ふふ、冥界で噂になっていますよ? 『セラフォルー様の心を射止め、魔王様に認められた若手転生悪魔期待の星』と……」

 

「なっ!? あ、あのアマまた勝手な事を……!」

 

「それに加えると、旧魔王派のカテレア嬢を改心させたばかりか、やはりその心を奪ったプレイボーイとも……」

 

「はぁっ!?

い、いやいやいやいやいや!! か、勘弁してくださいよ!?」

 

「むー……元士郎先輩のタラシ」

 

「タラシって、ギャスパーも何を……」

 

「あらあら、この子の心もかしら?」

 

 

 

「あ、ゼノヴィアさん、これも美味しいよ?」

 

「どれどれ……むむ! 何という舌触り――お、これも美味しいぞ祐斗! 私の食べ掛けだが一口どうだ?」

 

「え!? ぁ……う、うん……お、美味しいや」

 

「だろ? ふふっ……!」

 

 緊張は無くなった様で良かった良かった。。

 まぁ貴族の礼儀作法なんてクソ食らえな思考回路一家だし、必然とも言えるがな。

 

 

終わり。

 

 

オマケ・その頃の各勢力。

 

 

その1

現ルシファー

 

 

 会談が終わった後、結局現れることが無かった安心院さんに残念な気持ちを抱きつつも、最下層送りにしたリアス達のごちゃごちゃした問題は片付けられたし良いかな……。

 なんて思いながら、リアスが拘束されてからスッカリ意気消沈の母と父をスルーして部屋で寛ぐ僕には忌々しい出来事に悩まされてい。

 

 それは、ちょっと前から頭が完全にイカれてしまったグレイフィアの事であり、どうもあれから僕に対して気色悪い真似をしてくるんだ。

 うざったい事この上無いし、だったら無視してれば良いかなとちょっとだけ割り切れればそれで良いんだけど……。

 

 

「………。一応聞いてやる。キミは何してるの?」

 

「何をしてる?

それは勿論、アナタが入浴中なのを見計らって使用済みのYシャツをこうして着ているだけだけど?」

 

「あぁ、見て解るよ、ムカつくくらい解りやすくて困るぐらいにね。

だが僕が聞きたいのは、何でお前は全裸になって僕のYシャツを勝手に着て一人でモゾモゾやってるのかって話だ」

 

「解らないかしら? 言っても何もしてくれないせいで欲求不満だから、仕方無くアナタの私物で発散――」

 

「もう良い……もう聞きたくない」

 

 

 頬を上気させながら平然と僕のYシャツを汚しまくりながら宣う姿に、僕はますますこの女が嫌いになったかもしれない。

 

 

「はぁ……身体が熱いわサーゼクス……。お腹の中寂しいと訴えて――」

 

「氷山に埋めてやろうか?」

 

 

 

 その2

 堕天使と天使の架け橋。

 

 

 …………。会談の席に現れた理由は、兵藤一誠への挨拶とあわよくば三勢力トップ陣との戦いが目的だったのだが……。

 

 

「ミ、ミカエル様のご命令で貴方を四六時中監視する事にしたわ!」

 

「お……おう」

 

 

 おかしいぞ。

 聖剣を奪って暴れたのに、本来なら殺しに来る筈なのに、何故か俺の元には常にテンパってるガブリエルの姿とミカエルから寄越された手紙があった。

 読んでみると、人間界で悪さをしないようにガブリエルを監視に派遣すると書かれている訳だが……。

 

 

「あ、あーんしなさい!」

 

「いや別に一人で食え――」

 

「良いから口を開けなさい!

もし貴方にそのフォークを持たせたら、私の衣服をズタズタにしてメチャメチャにされるかもしれませからね!」

 

「…………」

 

「なぁボス……?

さっきからテンパって出してる天使様の翼が黒に点滅しまくりなんだけど?」

 

「凄い綺麗な人なのに……ちょっと変ですね」

 

 

 …………。ガブリエルってこんな変な女だったか?

 

 

 

 

その3

ダブル・レヴィアタン

 

 

 捕らえられた私は、セラフォルーが住まう居住で力を封印される手錠を嵌められた状態で生活を余儀なくされたのだが……。

 

 

「な、何ですか……こ、これ……!?」

 

 

 セラフォルー個人の部屋へと連れてこられた私は絶句してしまった。

 それはセラフォルーの着ている趣味の悪い衣服がグチャグチャに散乱している訳でなく……その……。

 

 

「元士郎くんに包まれるお部屋だけど?」

 

 

 私を助けてくれた少年の……どう見ても盗撮にしか見えないアングルの写真が壁一面に貼られ、ベッドには彼をデフォルメさせた自作と思われる人形。

 更には……

 

 

「あはぁ……♪ 元士郎くんの匂いがちゃんとするぅ……」

 

「……」

 

 

 どう見ても許可無しに無断で持ってきた彼の衣服の一部に身を包んで一人トリップしているセラフォルーを見て私は思った。

 

 

「こ、こんな女に負けた私って……」

 

 

 救ってくれた彼へのせめてもの恩返しに、セラフォルーの毒牙から守らなければ……。

 彼の手の暖かさを思い出して胸の中がくすぐったくなる様な気持ちを抱きながら、私は一人決心した。 

 

 

「やはり仲間になって貰うしかないですね……彼には」

 

 

 この女の近くにいたら喰われてしまう。

 それだけは阻止しなければと……。




補足

これにてやっと生徒会メンバー完全結集です。

匙きゅんが副会長なのは――まあ、一誠より主人公らしいといいますか……意見をちゃんと言えるからというか。


その2
里帰りすれば……フェニックス家は皆はしゃぐ。
はしゃぎ過ぎてご当主様と三兄弟は酔っぱらった宴会席の芸みたいな真似すら躊躇わない。


その3
グレイフィアさんは完全に完全に堕ちました。
憎しみからのギャップ萌えを喰らい、時を経てちょっと斜め上な愛情へと……。

ミカエル様のアシストによりガブリーさんは通い妻となりつつあります。
 つまりもっと大胆にストーカーができるみたいな……。


ダブル・レヴィアたんは………まあ、何でこうも真逆なんだというか……うん。


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閑話・約束を守った匙くん

※修正とか直しは今回で最後にします……な、なるべく。


 俺は弱い。

 これは否定も逃げることも出来ない俺自身に突き付けられた現実だ。

 どんなに粋がっても、どんなにデカい口を叩いても、皆と比べたら所詮俺は腰巾着に過ぎないんだ。

 

 でもだから云って諦めるつもりは無い。

 弱いまま甘んじるつもりも、その現実からだけは逃げるつもりもねぇ。

 フェニックス家の皆さんや一誠達から学習し、俺なりの強さを身に付ける。

 

 焦ってないと言われたら嘘になるけど、今の俺にはこれが最善なんだ。

 

 

「強く……もっと強くっ……!」

 

「よし、次は背筋1000回だ!」

 

「うぉっす!」

 

 

 俺は匙元士郎なんだから。

 

 

 

 

 元・主との縁を断ち切った匙元士郎。

 フェニックス家による身請けをされた事により、その身の安全を確約された彼は、夏休み期間中に訪れたフェニックス家の城にて今日も元気に一誠達と鍛練と勉学に励んでいた。

 

 

「良いか? 全身の筋肉をキュッと絞ってから……バンと膨らませる! そうすれば黒神ファントム修得は近い」

 

「ちゅ、抽象的過ぎるぜ……」

 

「イメージが微妙に沸かない――」

 

 

 

「あ、出来ました先輩」

 

「慣れないと疲れるねこれは」

 

「「……」」

 

 

 今のままでは駄目だ。

 それは一誠との出会いにより人生に変化をもたらした元士郎達全員の総意だった。

 

 

「白音と黒歌はそのまま磨けば実践投入可能か……。

流石俺とファイトスタイルが似ているだけあって―――ぬふふふ」

 

「元々私はスキルで先輩の技を真似っこしたこともありましたからね、何となく身体が覚えてました」

 

「イッセーとにゃんにゃんしたい気持ちが私を突き動かすにゃん!」

 

 

 しかし差というものはある意味で残酷だ。

 『夏休み中は俺の知る限りの技術を教える』と言ってくれた一誠の期待に応えるのは、何時だって一誠大好き猫姉妹で、今もよく本人が好んで使用する黒神ファントムの使い方を掴み掛けている。

 

 

無我夢誅(ドリーミングキラー)……か。

まったく白音はとことんスタイルが俺に似てるよ」

 

「加えて私とレイヴェルにも似始めてるし。器用貧乏みたいだにゃ」

 

「まあ、似ようとも私達に勝てなければ意味ありませんけど」

 

 

 加えてスキルまで覚醒させた。

 元士郎が羨ましいと思ってしまうのも半ば仕方の無い話だ。

 

 

「ほ、ホントにあの三人は一誠くんが大好きだよね……。白音さんも最初は付いていけてなかったのに、今じゃ談笑しながら殴りあってるもん」

 

「まったくだ、何時だって緊張感のない奴め」

 

 

 加えてデュランダル使いのゼノヴィアと、禁手化と銀牙騎士の力に覚醒した祐斗も、疲労の色を見せるもキッチリと付いていってる訳で……一誠、レイヴェル、白音、黒歌の間で始まっている変則デスマッチを横目に、目に見えない速度による剣激合戦をしている。

 

 

「…………。それは俺に対する嫌味かラブコメカップル」

 

「え!? い、いやそんなこと……」

 

「フリードみたいな事を言わないでくれよ元士郎君……」

 

 

 なのに自分はちょっとやったらすぐへばってしまい、こうして修行を休まず続ける友を見ているのが精一杯だ。

 いや、勿論友人達は自分に気を遣うし、自分の中で強くなっていく感覚もしっかり感じる。

 けど……やはり劇的な進化を自分だけがしていないせいか、お膳立てをして貰ってるのに結果を残せない申し訳無さが、元士郎の中で渦巻いているのは真実だ。

 

 

「けっ、卑屈になるなよバカが! なるくらいなら……がむしゃらに動けや元士郎!!」

 

 

 だが諦める様な感情は皆無。

 自分に手を差し伸べてくれた親友達の為、そして何より自分の未来の為に……。

 

 

「イッセェェェッ!! 俺も混ぜろォォォッ!!」

 

 

 誰よりも強く、直向きに飛び出す。

 

 

「むっ! 来るか元士郎……!? ふははは、来い!!」

 

「おうっ! 黒い龍脈(アブソーションライン)ver陰我吸因!!」

 

 

 それが、匙元士郎という少年のスタイルなのだ。

 

 

 

「え、レヴィアタン……様からですか?」

 

「うむ、ちょうどキミ宛にな。

何でも顔を見たいとの事だ」

 

「…………………。えー?」

 

 

 改めて自分の在り方を磐石なものへと固めた元士郎は、自分なりの新技を駆使して一誠に一撃入れることに成功し、一段階上の領域に進化する手応えを得て修行を終えたすぐ後の話だった。

 男三人とフェニックス三兄弟の6人一緒に朝風呂を堪能して汗を流した後、一緒に入らなかった当主シュラウドから呼び出された元士郎は、彼から手渡された手紙を読みつつ話を聞き、思いきり嫌そうな顔をした。

 

 

「魔王様からのラブレターとはやるじゃないか元士郎くんよ? ぬふふふ!」

 

「や、やめてくださいよ……」

 

 

 出歯亀してるエロ親父みたいな笑みを見せながら、このこの~と手紙の内容を読んで顔を顰める元士郎を肘でつついてくるシュラウドにちょっとだけ辟易した気持ちになりつつ、内容について考える。

 レヴィアタン……つまりセラフォルーからのお呼ばれデートのお誘いなのだが、うんざり気味な元士郎はシュラウドの前でもお構い無しに嫌そうな表情だ。

 

 

「これって、どうしても行かないとマズイですかね?」

 

「別にキミが嫌なら私からレヴィアタン様に断りの連絡をしておくが、良いのかね? カテレア嬢の事は?」

 

「あ……」

 

 

 断る気満々だった元士郎の心が、シュラウドの言葉に僅かに揺らいだ。

 その理由は言わずもながら、最近手紙のやり取りをちょくちょくやっている元・旧魔王派のカテレア・レヴィアタンの事だった。

 

 

『そ、その……わ、私と文通をして戴けませんか?』

 

 

 別に何の接点も関わりも無い筈だったのが、あまりにも現代の三勢力の長を勤める連中にガン無視されているのが、見てられず思わず変な助け船を出したのが縁だった。

 

 

『本当に時折で構いませんので、顔を見せてくれたら――――嬉しいかな、なん……て』

 

 

 露出の多い服装、褐色肌に眼鏡。

 どうせ悪魔だし変なんだろうなー……と思っていた元士郎の心をある意味ぶち抜き掛けた女の悪魔はセラフォルーにより厳重な監視下に措かれていると手紙で知ってはいたが、あの会談以降会ったことは無かった。

 

 

「…………」

 

「茶化すとかでは無く、此方に滞在してる間に1度くらいは会ってみたらどうだい?

少なくともキミのお陰でカテレア嬢は命拾いしたのだし、何より可憐な女性二人と逢い引きできるなんて、羨ましいじゃないか。

私も昔はよくエシルと夜な夜な……うひひひひ!」

 

「あ、そ、そっすか……」

 

 

 手紙では退屈だとか、セラフォルーが喧しいという愚痴めいた内容で締められているのは知っているが、実際の姿はどうなっているのかまでは文面からでは窺えないし、気にならないかと言われたら嘘にはなる。

 後半辺りに吐いたシュラウドの言葉で色々と台無しになってるもののだ。

 

 

「えっと、ちょっと様子を見に行くくらいなら……約束しちゃいましたし」

 

 

 故に元士郎は行かないという言葉を撤回し、シュラウドに対して頭を下げながら、行ってみると言った。

 するとシュラウドは、それまでのエロ親父顔を引っ込めて満足気に頷きつつ『若いなぁ』と内心呟くのだった。

 

 

 

 シュラウドおじ様から連絡が来た。

 どうやら元士郎くんが……元士郎くんが来てくれる。

 その事実だけでも私はもう堪らなくなっちゃうし、お腹がきゅんきゅんしておかしくなっちゃう!

 だけど、ちょっとだけ悔しいんだよね……。

 

 

「ようこそ元士郎くん! さぁ、再会のハグとベロチューを……!」

 

「会っていきなりふざけんな痴女。で、あの人は何処ですか?」

 

 

 シトリー家……。

 つまり私の両親はソーナちゃんの元眷属である元士郎くんと兵藤一誠君達に対して、殆ど良い印象を持ってなく、折角来てくれたのに出迎えなんて誰も来ない。

 まあ、煩い邪魔が居ないと考えればある意味ラッキーだし、敵意を向けるようなら黙らせれば良いしどうでも良い。

 そんな事よりも重要なのは、問題は元士郎くんが来てくれた理由だ。

 

 

「言うと思ったけど、実際に聞くと悲しいなー?」

 

「あ、そ……。で、何処っすか?」

 

 

 会談の時に捕らえて私の監視下に措かれたカテレアちゃん。

 このカテレアちゃんが私にとって今最も障害になっている訳で、まさかあんなアッサリと元士郎くんと仲良しになれるなんて思ってもなかった。

 

 

「このお城の地下だけど……カテレアちゃんだけじゃなくて私には――」

 

「そっすか、じゃあ会わせてください」

 

「むー」

 

 

 カテレアちゃん恐ろしい子!

 私だって抱き着いたりしたのに、何でこんなに差があるのか全然わからないくらい、元士郎くんはヤケにカテレアちゃんに優しく、今も私のハグを避けた元士郎くんは、私を蔑んだ目で見据えながらさっさとカテレアちゃんの所へ案内しろと言ってきた。

 

 蔑んだ目をされてドキドキするけど、何かが違う。

 けど元士郎くんに言われたら案内せざるを得ない訳で……。

 

 

「くすん……。

今日も元士郎くんの為にパンツ履かないで居たのに……」

 

「…………………。突っ込まねーぞ」

 

「え、つ、突っ込むなんて……。こ、こんな所で元士郎くんのケダモノ……」

 

「……。殴りてぇ……」

 

 

 しょうがないから私は元士郎くんを連れ、周囲から元士郎くんへ向けられる敵意の視線を黙らせながらカテレアちゃんの待つ地下のお部屋へとご案内する。

 

 

「想定してた通り、シトリー家の方々は俺をぶっ殺すだけじゃ足りないくらい憎んでるようで。

ま、次期当主候補を裏切った下僕風情だし、仕方ねーな」

 

「ごめんね……。

皆現実を受け止めたくなくて、元士郎くん達のせいにして偽りの安心が欲しいみたいで」

 

「別にこの家の方々から憎まれても、俺はどうとも思いませんのでお好きにどーぞ」

 

 

 ……。そうだよね。

 事実を受け止めずに他人のせいにし続けようとする根性だから、元士郎くんは幻滅したんだもんね。

 私はその事については何も言えないよ……。

 私に出来るのはこんな状況と風評を少しでも和らげる事。

 

 

「私もカテレアちゃんくらいはあるんだけどなー? おっぱいとか」

 

「それを聞かされてどうしろと?」

 

「いやだから、ね? 元士郎くんの元士郎くんを挟んだりも出来るし、ちゅーちゅーしても良いんだよ?」

 

 

 そして何をしてでも元士郎くんを愛する事。

 あぁ……カテレアちゃんの事が無かったら今すぐにでも元士郎くんが欲しい……。

 

 

 

 セラフォルーの監視下に置かれてからの私は、外に出られず彼との文通をするのが楽しみだった。

 最初はどんな事を書けば良いのかと、3日3晩悩んでましたけど、慣れてしまえばコッチのものです。

 

 彼の手紙には何時も友達との生活が書かれており、そこは年相応の男の子だなと、胸の中が暖かくなって――――じゃなくて、私の仲間になる為に着々と洗脳をですね……はい。

 

 

「はぁ……それにしても、何時になれば会えるのでしょうか」

 

 

 シトリー城の窓の無い地下の小部屋で、質素な椅子に凭れながら私はあの少年の事を浮かべながらふと交わした約束について考える。

 所詮口約束だし、彼は人間界で活動しているので、会うともなれば相当な手順を踏まなければ殆ど不可能なのは頭では分かっているものの、やはり直接会わなければ仲間にするのは難しい。

 いえ、決して会えずに寂しいとかじゃなくてです。

 

 

「元士郎……」

 

 

 でも会えないと胸の中の何かが内側から叩く。

 思えばこんな気持ちを抱いたのは初めてかもしれない。

 無視され続けた私の為に、あの化け物揃いに向かって臆する事なく声を荒げた姿。

 化け物男にあわや殺されそうになった私の命を結果的に救った時の表情。

 

 その全てが頭からずっと消えずに私の胸の中の何かを叩き続ける。

 この気持ちは何なのか……いや、私も子供じゃない――解ってる。

 真なるレヴィアタンとしては愚考だけど、私は――

 

 

「カテレアちゃーん生きてるー? お客さんだよー……ちぇ」

 

「お客さん? この私に一体誰…………が……?」

 

「………。ども」

 

 

 この少年に……その……うん。

 

 

 

 …………………。俺は何をしているんだ?

 確かにカテレア・レヴィアタンって人とは最近手紙のやり取りをしていたかもしれない。

 けど何を真に受けて会いに来てるんだよ……。

 そんな暇があるから、もっと強くなるべきだろう。

 

 

「な……な……元士郎……!?」

 

「アレっす、夏休みなんでフェニックス家に滞在を……」

 

 

 それなのに俺はどうしてこんな……。

 

 

「そ、そうだったのですか……それで」

 

「えぇまぁ……約束しましたし」

 

「……………。ふんだ」

 

 

 シュラウド様以外には内緒で此処に来た俺は、驚いた顔をしているカテレアさんに理由を話ながら、部屋の隅にあった椅子を引き寄せて座る。

 地下と聞いた時はもっと独房みたいな部屋かと思ってたけど、小さいながら電気はあるし、カテレアさんの姿もあの会談の時と変わらず健康そうだ。

 服装も露出の高いドレスじゃなくて、白いブラウスに黒いスーツスカートを履いていて、目のやり場に困ることも無い。

 質素なベッドに座って勝手に拗ねてる痴女スタイル魔王とは大違いだぜ。

 

 

「間違いが起きても嫌だから、私も居るからね」

 

「起こすかよバカ!」

 

「………」

 

 

 セラフォルー・レヴィアタンがジト目でカテレアさんを睨む意図が解らんが、とにかくカテレアさんは無事みたいだ。

 しかし会いに行くという約束を果たした今、俺は何をすべきなんだろうか? よくよく考えたら手紙のやり取りで、ある程度の近況は互いに把握してるし……。

 

 

「私から言った口約束なのに来てくれたんですね……ふふ、嬉しいです」

 

「うっ……!?」

 

「むっ……」

 

 

 そう考えていた俺に、カテレアさんは微笑んだ。

 この人からすれば、元人間の下僕悪魔でしか無いというのに、微笑んでる。

 

 

「来てくれてありがとうございます。

私はこの通り何も出来ませんが、ゆっくりして行ってくれたら良いかなって……思ってます」

 

「あ、は、はい……」

 

「むー」

 

 

 何なんだよ……どうしてちょっと照れてるんだよ。

 どうしてそんな……心がざわつく様な笑みを見せるんだよ……手とか握ってきたし。

 

 

「お手紙も良いですが、やはりこうして直接会うと緊張してしまいますね。真なるレヴィアタンとしては失格かもしれませんけど……」

 

「い、いや別にそんな……」

 

 

 カテレアさんの手……あったけぇし柔らかい。

 それに、年上なのにやけに可愛く見えて仕方ない。

 

 

「元士郎、あの時は本当にありがとうございます。

今は確かに不自由な生活を送っていますけど、アナタのお陰で生き延びられました」

 

「れ、礼なんて別に。

俺は弱いし、偶々上手く運んだってだけですし……」

 

「そんな事はありません。

少なくとも私は、あの化け物揃いの軍団に向かって意見をキチンと述べたアナタの姿を弱いとは思いません」

 

 

 それに距離も近くて、あの時みたいに良い匂いがするし……。

 こ、これは演技なのか? どうなんだよ……わからない!

 

 

「で、ですので……あの……」

 

「は、はい……」

 

「ちょっとちょっと近いってば」

 

 なんて……カテレアさんに手を握られながら微笑みを向けられて訳がわからなくなっていた俺は、ひたすら考えることに没頭しすぎて反応が遅れてしまった。

 

 

「その……え、えいっ!」

 

「え……?」

 

「あぁーっ!!!」

 

 

 自分の頬に伝わるカテレアさんの唇の感触。

 そして断末魔にも聞こえるセラフォルー・レヴィアタンの絶叫が耳をつんざいた事で漸く気付け、全身の血液が沸騰しそうな感覚を覚えながら、俺はパニックになりそうな精神のまま目に映ったカテレアさんの表情は……。

 

 

「お、お金も何もありませんので……。

こ、これくらいしか今の私には出来ませんから……ふ、ふふふ」

 

「ぅ……ぉ……!?」

 

 

 褐色の肌でもわかるくらいに真っ赤な顔で微笑んでおり、それを鼻先がくっつくくらいに近い距離で見てしまった俺は、揺れる髪から香る良い匂いも相俟って、物凄いヤバイ気分になっちまいそうです。

 

 

 

 

 

 や、やってしまった……。

 何をやってるんだ私は……。

 

 

「な、な、か、カテレアちゃん酷いよー!!」

 

「…………」

 

 

 鏡を見なくても解るくらい真っ赤になっているだろう私に、セラフォルーが泣きながら文句を言っているけど、その内容は頭がパンクしそうな私の耳に入らない。

 

 

「ま、あ、え……? な、えぇー?」

 

 

 恐らく彼も自分が何をされたのか解ってないのだろう。

 目を泳がせながら只ひたすらに困惑している声が聞こえるけど、此処に来て恥ずかしさで俯いてしまった私にはその表情を伺い知ることは叶わない。

 

 

「元士郎くん、私もちゅー!!」

 

「うわっ!? や、やめろゴラ!!」

 

「何でよ!? カテレアちゃんは良くて私は……!」

 

「あ、アレは予想外だ!

だ、だってそもそもこの人は旧魔王派で俺みたいな転生悪魔なんか死ねとか思ってるんだろ!? こ、こんなん想定できるかよ!」

 

 

 わ、私だって自分のやったことに今更ながら信じられないと思ってますよ。

 そもそも男の人に頬とはいえ接吻なんて初めだったし……うぅ。

 

 

「ご、ごめんなさい……。

そ、その……アナタは特別というか、初めてで何分勝手が……。へ、下手だったでしょうか?」

 

「は、はじ!? ちょ……ええっ!?」

 

「元士郎くんは私のなの! カテレアちゃんのじゃない!!」

 

 

 で、でも……やはり悪くない気分なんですよね……はは、あははははは。

 

 

「ちょ、ちょっと離れろ! ど、何処触って……あひん!?」

 

「やだ……やだよー……元士郎くんが好きなのに……!」

 

「そ、そんなこと言われたって……お、俺……」

 

「あ……ご、ごめんなさい。やっぱり駄目、でした?」

 

「いえそんなことはありません」

 

「あーん! どうしてカテレアちゃんにだけそんなキリッとするの!?」

 

「だ、だって意外というか。

年上とは思えないギャップの可愛さが……」

 

「へっ!? か、可愛い……? わ、私が……?」

 

「い、いえ所詮転生悪魔ごときの戯れ言ですけど……」

 

「そんな事……。ふふふ、どうしてもアナタにそう言われると嬉しく思います……」

 

「うっ……!?(ちょ、直視できねぇ……!)」

 

「私は!? ねぇ私は!?」

 

 

終わり

 

 




補足
……。カテレアさんが正ヒロイン道を爆走しちゃってる。


いや、ホントマジで最初は威厳ありまくりの悪役様の予定だったんですよ?

でも、インフレ変態化したメンツじゃ二秒前に消されるし……と考えてたらぽんこつヒロインに……。


匙きゅんからすれば、正攻法で来られると逆にドキドキしちゃうんです。
だってまだ高2だもん……しかも相手は年上なのにギャップ萌えバリバリの美女やし。

その2
ヒロイン脱落とか言ってるそこのアナタ!

元士郎くんは元士郎くんで一応初期よりセラフォルーさんとの壁は壊れてます。
それに変態が負けるか!? 否! 黒歌さんを見よ!! ガブリーさんを見よ!! 予備軍気味のルフェイたんを見よ!!! グレイフィアたん(?)を見るが良い!


……とだけ言っときます。

まあ、簡単に言えば脱落は割りと有り得ない。


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黒歌さんマジ黒歌さん

匙くんがモテ期に入ってるけど、一誠くんは一誠くんで割りとアレというか、黒歌さんの本気回


 シュラウド様とエシル様。

 フェニックス家の当主夫婦が私達の身請けをして戴けるお陰で、私達ははぐれ悪魔として追われる心配は無くなった。

 一誠先輩も言っていましたけど、やっぱり人も悪魔も独りで生きるというのは無理なんですね。

 

 

「ぜぇ、はぁ……!」

 

「正直俺は驚いているが……」

 

 

 そんな私達はレイヴェルさんと一誠先輩が育った実家であるフェニックス城に滞在しています。

 そして今はそのお城の中庭で皆さんに見守られながら一誠先輩を相手に全力でぶつかっている真っ最中です。

 

 

「どうした、へばったか白音?」

 

「っ、まだ……まだっ!!」

 

 

 自分で掴んだスキルの感覚を確かめる意味と、一誠先輩と戦うという約束の為に全力で一誠先輩にぶつかる。

 けれど、いくら自分の持つ力を全てぶつけても先輩はびくともせず、逆に弾き返されてしまう。

 

 

無神臓(イッセー)モード……!」

 

「!?」

 

 

 近くで見ていたつもりだけど、それでも尚甘かった。

 直接ぶつかることでより先輩の大きさを実感すると共に、やはり嬉しく思ってしまう。

 

 

「クロカミ・ファントム……!!」

 

「ぬっ!?」

 

 

 昔から変わらない……私のヒーローだって。

 

 

「う……やっぱり付け焼き刃では駄目でしたね」

 

 

 一誠先輩の得意技を自分なりのやり方で真似して使ってみましたが、結果は見事にカウンターを顔面に貰ってKOされちゃいました。

 数分程意識を失い、目が覚めた時には戦いは終わっており、得意気に笑ってる先輩の顔が見えます。

 

 

「お前のスキルについてはレイヴェルから聞いていたが、やはり凄いな。

もしかしたら俺以上になるかもしれん」

 

「そんな事を言われても自覚できませんよ……」

 

「はは、拗ねるな拗ねるな!」

 

 

 悔しいと思う。

 けど、それと同時に私の中に宿るは先輩への憧れ。

 諦めずにその力を高め続けるその背中を初めて見た時から、私はずっと追い付きたい……その横に立ちたいと想い続けてきた。

 だから諦めない。

 諦めず、レイヴェルさんや姉様と同じように、先輩の横で戦える様になりたい。

 

 

「もう一度お願いします……」

 

「良いだろう。

ふふ、強い目をしてるな……それで良い白音。さあ来い!!」

 

 

 その為にどんな小さな事でも全力で……無我夢中でやり通すんだ。

 そうすることで私は強くなると信じて、嬉しそうに笑って両手を広げる先輩に、私は全力で今日もぶつかる。

 

 

 

 私のコレ……安察願望(キラーサイン)ってスキルは、フェニックスの人達も驚くくらいに凄いものだったらしい。

 何でもその気になれば世界最強も無傷で『仕留められる』らしいけど、私は世界最強なんてものに何時だって興味なんか無い。

 

 

「イッセ~」

 

「む、黒歌か。どうした?」

 

 

 私が欲しいのはイッセーだけ。

 だから最強なんて要らないし、この力はイッセーの為に使う。

 昔、小さかったイッセーに救われた時から、ずっとずっとこの気持ちは変わらない。

 例えレイヴェルという昔から隣に居る様な子が居て、イッセーもそのせいで私達に『俺はやめておけ、良いことなんて絶対に無い』と言われようが変わらない。

 

 

「白音と修行してたんでしょ? 疲れてなかったら一緒にお散歩しない?」

 

「ふむ、それは良いけど、それなら白音とレイヴェルも誘う――おわっ!?」

 

「もーイッセーは鈍いなぁ? 当然二人でだよフ・タ・リ!」

 

 

 いや、変えない。

 変えてなるものか。

 例え偶然で、力の制御の修行次いでだったとしても私と白音が救われた事に変わりは無いし、その時から私はずっとイッセーを想ってきたんだ。

 

 

「っ!? キ、安察願望(キラーサイン)か……! やはり隙の無いスキルだ……。すり抜けられながら羽交い締めにされると打つ手が無くなるぜ。

オーケー解った俺の敗けだよ黒歌、行こうぜ」

 

「やった!」

 

 

 この想いだけは幻想じゃない……私の本物。

 変態? 何の事だかわからないにゃ~ん?

 

 

「ここは?」

 

 

 何気にイッセーとまともに二人きりになるのってあるようで無かった。

 何時だって左右には白音とレイヴェルが居たからね。

 だから無理を承知でイッセーだけを何とか連れ出してお城の外に出たんだけど、土地勘が上のイッセーに連れてこられた場所は、お城から少し歩いた先にある森。

 そしてその森を更に歩いて抜けた先にあった小さな崖だった。

 

 周りに何がある訳じゃない、本当に単なる崖で、何でここに来たのは解らず質問をした私にイッセーは懐かしむ様に目を細めて崖から見える広大な森を見つめながら、小さく微笑んでいた。

 

 

「俺が餓鬼の頃からよく一人で来てる、秘密の場所って奴だ」

 

「秘密の場所?」

 

「おう」

 

 

 昔を思い出しているのか、穏やかに笑いながらイッセーは頷きながらその場に腰掛けるので、私もその隣に座って一緒に崖からの景色を眺める。

 

 

「今もあまり変わらんが、昔はよく上の兄三人に戦いを挑んでは見事に叩き潰されて負けてな。

その都度ここに来て一人で泣いてたんだよ」

 

「え、イッセーが?」

 

「あぁ、涙を見せたらカッコ悪いが、ここなら誰にも見られないから……」

 

 

 負ける。

 イッセーはよく『俺はよく負けるぞ』と言ってたし、驚く事じゃないけど、悔し涙を見せないためにここに一人で来ていた事。

 そして何よりそれをレイヴェルや白音じゃなく私一人に教えていることに驚いてしまった。

 

 

「何でその事を私に? レイヴェルと白音には教えてないのに……」

 

 

 だから思わず聞いてしまった。

 あのレイヴェルにすら隠してる事を私一人に教えたその真意が知りたいから。

 

 するとイッセーは軽く目を閉じながら小さく微笑むと、小さく言った。

 

 

「アイツ等は……まあ、何だ、年下だしな。

アイツ等の前でだけはあんまり弱いところは見せたくないが、お前は違う。

何というか、お前にだったら多少見せても良いかなー……なーんてな」

 

 

 そしてニッと、私と白音を助けてくれたあの時見せたヤンチャしてる子供みたいな笑顔で私に言った。

 

 

「俺は決して強くなんか無い。

時には嫌な現実から目を背けて逃げる真似だってするし、俺から何かを奪う輩が居るなら、何が何でも排除しようとどんな手も使う。

それこそ、幻滅させてしまう手すらな」

 

 

 その瞬間、イッセーが何で私だけをここに連れてきたのかが解った気がした。

 

 

「お前と白音は、昔俺に救われたと思っているだろうがそれは違う。

俺は何時だって『二度と失いたくない』と怯えてるだけの人間で、影の英雄(ダークヒーロー)でも主人公(ヒーロー)にもなれない、強欲な人間だ」

 

 

 イッセーは一度失ったからこそ、また失うのが怖いんだ。

 私や白音やレイヴェル。そして友達の匙や木場やゼノヴィアやギャスパーとの繋がりを、あの男みたいな奴に壊されるのに恐怖してるんだ。

 だからひたすらに強くなって、私達をソイツ等に渡さないと躍起になり強く在ろうとする。

 

 例え誰かに化け物と呼ばれて恐怖されても……。

 

 

「だからお前も白音も俺やあの『兄貴様。』みたいな輩より、もっとイカした奴が良いと思うぜ? 突き詰めれば俺だって『兄貴様。』と同じなのだからな」

 

 

 その内面を教えることで、私が幻滅して好意を向ける事が無くなるとイッセーは私に教えたんだ。

 悪びれた表情のイッセーを見て何と無く察する事が出来てしまった私は……。

 

 

「ひょっとして私を嘗めてる?」

 

 

 初めてイッセーに対してカチンと来てしまった。

 

 

「え……?」

 

「そう言えば私が幻滅するとでも? そしてその話を白音に持っていって白音も同じく幻滅して嫌うとでも?」

 

 

 私の……私と白音の気持ちを軽く見られた気がした。

 目を丸くするイッセーに、多分酷い表情になって睨んでしまってるんだろうな……とか内心思いつつも沸き上がる気持ちに従うようにして私は言った。

 

 

「甘いよイッセー

そんな程度で私も白音も変わらない。どんなになろうと、どんな姿に変わり果てようとも私達は絶対に変わらないし変えない」

 

「黒歌……」

 

 

 何年想い続けてきたと思ってるの? 想い続けてきた年数ならレイヴェルにすら退けを取らないと自負できるんだよ? それに何をしてでも私達を守ろうとするというのが『自分の身勝手な欲だから』と思いたければ思えば良い。

 試しに白音……そして他の皆に聞いてみると良い。

 必ず全員が揃ってこう言うから――

 

 

「『それでも自分達はアナタの傍で笑い合いたい』……。

その覚悟があって皆イッセーの傍に居るんだよ? その皆の気持ちを踏みにじる言い方はやめてよイッセー」

 

「…………」

 

 

 匙だって、木場だって、ゼノヴィアだって、ギャスパーだって、白音だって、レイヴェルだって……皆同じ。

 イッセーが居たから今の自分がある。

 そしてアイツみたいなセコい洗脳とやらじゃない、本当に自分の意思で傍に居たいと思ってる。

 友達として、想い人として。

 

 

「逆に言わせて貰うよ――――私は死ぬ事になろうがイッセーの傍から絶対に離れないから」

 

「…………」

 

「だから今イッセーが言った言葉は全部撤回して」

 

 

 それが正真正銘……私達の気持ち。

 目を丸くしながら呆然としているイッセーにそれだけを言った私は、顔を背けながらそこから一切喋らずに無言を貫く。

 すると、顔が見えなくなったイッセーの小さく笑う声が聞こえたかと思ったら……。

 

 

「ふ、くっ、クックックッ! ハーッハハハハハハ!!」

 

 

 近くの木々に止まっていた鳥達がその声に驚いて逃げてしまうほどの大きな笑い声を出した。

 ひょっとして馬鹿にされた? なんてありもしない事を考えながら思わずイッセーの方へと振り向いた瞬間――

 

 

「俺に救われたとお前は言うが、逆だぜ黒歌。

俺は何時だってお前達に救われてるよ……ありがとな」

 

「ぁ……」

 

 

 包み込んでくれそうな穏やかな笑顔を浮かべ、私の頭を撫でてくれた。

 

 

「そうだな。あんな事を言うなんてお前等に失礼だったよ、俺が完全に悪かった」

 

「む……む……わかれば良い」

 

 

 ………。ふ、ふ……ふふ。

 背丈というか私より小さい白音が居るから経験が無かったけど、これは良いにゃ……。

 思わずイタダキマスをしてしまいそうに―――っと、いけないいけない。

 流石にこの空気でやっては駄目だって事くらい私は解ってるつもりだし、ここはまだちょっと怒ってる感じに返事をして凌がないとね。

 

 

「決めた、もう二度とこの場所には来ない。

悔しさに泣いていた、お前に弱音を吐いた挙げ句失礼な事を宣った思い出はこの場所に置いていく」

 

 

 何とか理性を保とうと結構必死な私を知ってか知らずか、イッセーは意を決した表情と共に立ち上がると、座ったままの私に、まだ小さかった頃の時と同じように手を差し伸べる。

 

 

「帰ろうぜ黒歌。何か心が軽くなったせいかメチャメチャ身体を動かしたいんだ」

 

 

 そしてコカビエルと戦った時に見せた好戦的な笑みを浮かべ、帰ろうと言って差し出した手を取った私を立たせた。

 

 あぁ……もぅ。

 

 

「何だかんだ急に身体が軽くなったな……。今なら新技も完成させられるかもしれんくらいだ……ふっふっふっ」

 

「イッセー?」

 

 

 レイヴェルや白音が居るから……。

 なんてデキた考えを私は残念ながら持ち合わせてなんかない。

 何時だって追いかけて、追いかけて、追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて、追い付いて近くでその姿を見ながら何度我慢したか。

 

 イッセーの私物を手にする度に身体が熱くなって、お腹が切なくなって、欲しくなってと何度味わったか。

 

 

「ん、何だくろ――」

 

 

 この前、家の屋根でレイヴェルとキスしてたのを見せられた時だって平気な気持ちでは無かった。

 でも今はレイヴェルが居ない。

 私と二人きりで、私にだけ弱味を見せた。

 

 うん……もうさ――

 

 

 Chu!

 

 

「か……え?」

 

 

 我慢しなくて良いよね?

 

 

「え……え?」

 

「隙だらけだよイッセー

まずはその額を貰ったにゃん」

 

 

 第一、私はハッキリとレイヴェルとレイヴェルの家族の前で『イッセーが欲しい』と啖呵を切ったんだ。

 だから私は悪くない。

 額へのキスに、された本人のイッセーは呆然としてるのでハッキリその事を教えながら、もう一度近付いてスキルも使わず抱き着いた。

 そして首に手を回し、まだ状況が掴めてなさそうな顔をしてイッセーの額に自分の額をくっつけた私は――

 

 

「そして次は――んっ……!」

 

「っ!? ちょっ、待っ――んぅ!?」

 

 

 我慢の限界を越え、レイヴェルに負けじとその唇を奪ってやった。

 それもただ重ねるだけじゃ満足出来なかったし、重ねた瞬間一気に理性のタガが外れてしまった私は、どうせレイヴェルがどうとか言うこのわからず屋の舌を黙らせてやるように、自分の舌を思いきりねじ込んで絡ませてやった。

 

 

「みゃ、みゃて! お、おりぇはレイ――」

 

 

 だがそれでもイッセーは真っ赤な顔でまだ言おうとする。

 それが余計に私の負けん気に火がつくことも知らずにね。

 

 

安察願望(キラーサイン)ON……! あは♪ イッセーが好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き! 逃がさない、否定させない、言わせない!!」

 

 

 解ってるよそんなの。

 でも止められないんだよ私も。

 何年想ったと思ってるの? 今更言われて『ハイそうですか』なんて……嫌だ。

 

 

「ん……ん……っんあ……んく……!」

 

 

 初めてするキスに、普段以上に止まらなくなった私はイッセーを抱き締めながら、ただひたすらし続けた。

 舌で歯をなぞり、逃げようと引っ込めるイッセーの舌を逃がさないと絡ませて……。

 

 

「あは……♪ 好き、好き……大好きいっせぇ……♪」

 

 

 心ゆくまでイッセーを堪能した。

 そして……。

 

 

「あ、あぅぅ……」

 

「あれ? 気絶したの? そっか……そっか、そうなんだイッセー? ふふ……イタダキマス」

 

 

 真っ赤になって目を渦巻きにしてるイッセーを見てもっと堪らなくなっちゃったので、そのままイタダキマスをする事にした。

 

 

「……………。やってくれたな淫乱雌猫、よろしい、ならば戦争をしましょうか?」

 

「上手いこと出し抜いてくれましたね姉さま。

割りと普通に悔しいですよ……本気で」

 

 

 まあ、そんな時に限ってイッセーの気配を辿って二人が来ちゃうから困ったもんだにゃん。

 

 

「あは、あはははははは……………」

 

 

 




補足


レイヴェルたんが居るからと身を引きますか?

姉妹の答え

そんなオカルトありえません。


一誠が逃げようとしました。

姉妹の答え

 安察願望と無我夢誅の姉妹丼で地の果てまで追いかけて捕まえて、凄いことしてやります。


レイヴェルさんがこっちを睨んでます

猫姉妹の答え

三人で追いかければ捕まえられる確率があがるので…………(この先は濡れてて読めない)




 おいおい、四大魔王からの呼び出しで、転生悪魔なのに若手の純血悪魔さん達の集まりに出るだってよ

 ったく、俺と木場と白音さんだけでコカビエルを撃退した訳じゃねーのに、どいつもこいつも転生『悪魔』の俺達がやった事にしようとしやがって。

 位の昇格なんざ、俺等にゃ必要ねぇよ。

次回……会合


 俺達はただ自由で在りたいんだ!


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越えてはならないラインを考えよう

意外とガチギレってこれが初だっけ?


 今更ながら一誠は人間だ。

 コカビエルと互角の死闘を演じたとしても人間だ。

 フェニックス家のイッセーだとしても人間だ。

 

 故に名家出身の若手悪魔達の会合に出席する権利も資格もありはしないし、本人も『いや、柄じゃないし』と頼まれたって行くつもりが無かった。

 

 だが今回ばかりはそうはいかなかった。

 名家の若手悪魔達ですら伝説として畏怖していたコカビエルとの一騎討ちに勝利した。

 元々悪魔の中でとりわけ変人血族のフェニックス家で育ってきただけでも、変な話だが、年若い人間がフェニックスの家の令嬢、一部のリアス・グレモリーとソーナ・シトリー眷属と協力して最強に一番近いと吟われていた堕天使を撃退したのだ……もはやこの事実は単なる偶然で片付けられる筈も無く、あの戦いで下僕悪魔が主の実力を遥かに超越した、優秀な転生悪魔の事もある。

 

 魔王・サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンにより明らかになったこの事実は、他の上層部悪魔も『一部認めたくは無いが見逃せない』と判断し、本来なら出席することすらありえない会合に招待する決心をつけたのだ。

 

 

「レイヴェルの眷属として出ろということか」

 

「ええ、どうしても『彼等』は悪魔がしたという体にしたいようです」

 

「どうする一誠よ?

私個人としては、こんな条件を寄越してきた奴等に対して久々にイラッとして思わず焼き付くしてしまいそうだ」

 

「いや、大丈夫だ。

元々俺は何れレイヴェルの眷属になりたいとか思ってたしな。

ちょうど良い……元士郎、祐斗、白音、ギャスパーの事もあるし、牽制の意味で出席させて頂こうか」

 

 

 フェニックス家に届けられた招待状を握り潰した一誠は、不敵な笑みを見せながら親であるシュラウドとエシルに出席すると宣言すると、何時ものように修行をしようと部屋を出る。

 

 

「レイヴェルに怒られちまうかも……。ハァ」

 

 

 出た瞬間、この事を伝えた時のレイヴェルの憤慨する顔を想像し、ちょっとナーバスになりながら。

 

 

 

 

 急に一誠に呼び出された俺達は、あまりの話に驚いた。

 

 

「と、いう訳で最年少ながら若手悪魔としての将来を期待されている我等がレイヴェルに、会合の招待が届いたんだが……まあ、ぶっちゃけそんな理由な訳がなく、あくまで連中はコカビエルを追っ払った俺達をとてつもなく警戒しているんだと」

 

 

 純血悪魔を集めて何かする。

 そしてその会合にレイヴェルさんが招待されたという話をされた俺達は、ぶっちゃけレイヴェルさんなら当然だろうなと思う反面、一誠の意味深な発言に押し黙ってしまった。

 いくらフェニックスの皆さんに守られる形で自由を獲ているとはいえ、他の存在からしてみたら『人間』や『下僕悪魔』がその地を管轄していた名家の純血悪魔を押し退けてコカビエルを撃退したという話は面白くもないだろう。

 

 ましてやコカビエルに関しては人間の一誠が一騎討ちで下したんだ。

 でしゃばりがと思うふざけた輩があの中に居るのも何と無く想像できる。

 

 俺は特にシトリー家から恨まれているとこの前肌で感じたのだから余計にな。

 

 

「だから俺達で出席するレイヴェルのボディガードをする。

血盛んな若手悪魔とやらにレイヴェルをどうこうするなんて無理だろうが、念には念をな……」

 

『………』

 

 

  別に『何様だ!』と思うことは無い。

 奴等が俺達をどう思おうが、俺達は自由の為に生きているだけなんだから。

 だから招待をされたのなら出てしまう事に異を唱える者は居ないし、上層部が一誠がレイヴェルさんの下僕悪魔としてコカビエルを撃退したのだと面の皮厚くほざいた事に対して今にもエシル様直伝の熱線光線で塵にしそうな表情なのにヒヤヒヤしたりはするものの、一誠が隣で終始レイヴェルさんの頭を撫で続けてるお陰で『上層部謎の失踪』と冥界ニューストップを飾る事は回避できているので安心だ。

 

 

「レイヴェルは一応まだ駒を持ってない。

なので俺達は『レイヴェルの眷属候補という体』で行こうと思うが、お前達はどうだ? 眷属になりたくない者はいるか?」

 

 

 問題は俺達に奴等が何を言うかだ。

 もしも『悪魔の未来の為にうんたらかんたら』なんて言い出す輩が居たら、レイヴェルさんがソイツを焼き消してしまいそうなのが微妙に心配なのだ。

 というか、エシル様やシュラウド様……そして三兄弟様達が寧ろレイヴェルさんに『ふざけた事を言ってきたらソイツの毛根を焼き殺せ』と言ってるせいで、心配事が後を絶たない。

 一誠もそれを考え、そして俺達の意思を尊重してレイヴェルさんの眷属になるって体でも下僕は嫌だかどうかを真剣な表情で聞いてくるので、俺は――俺達は全員黙って首を横に振ってレイヴェルさんの眷属になる意思を見せた。

 

 

「………。私としても不満はありますが、取り敢えずこの体でいきましょう」

 

「はい、でも位はどうしますか? 私は元々戦車(ルーク)でしたけど……」

 

「俺は兵士(ポーン)で……」

 

「僕は騎士(ナイト)だ」

 

「僕は僧侶(ビショップ)ですけど……。

うぅ、会合っていっぱい悪魔さんが居るのでしょうか……」

 

 

 ぶっちゃけ正直、レイヴェルさんって普通に王の素質ありまくりだからね。

 友達だし、このまま駒の交換のルールを使って眷属になっても良いくらいだ。

 それは木場も白音さんも同じ気持ちらしく、元々の駒を告げると、レイヴェルさんはふむと一瞬考える素振りを見せたあと、まずは白音さんに向かって言った。

 

 

「白音さんは戦車では無くて女王(クイーン)でお願いします」

 

「わ、私がですか? でも戦車の駒だし……」

 

 

 まさかの指名に驚く白音さんは、ちょっと戸惑いながら自分は戦車だと言葉を濁しているが、レイヴェルさんはツンとした態度でこう被せる。

 

 

「あくまで体ですから関係ありませんわ。

元々アナタは私に対して無遠慮にものを言いますし、実力としても申し分ありません」

 

 

 わざわざ向こうのルールに従ってやる必要もない。

 体でも良いから悪魔がやった事にしたいんだから……。

 この話を持ってきた悪魔の誰かに向けて吐き捨てるような台詞に、レイヴェルさんってば相当根に持ってるんだな……と改めて思う。

 まあ、この話を吹っ掛けてきた連中の目的は『人間』であり、コカビエルを倒した一誠を悪魔に転生させて兵として使い潰したいという思惑が見え隠れしてるしな。

 ぶっちゃけ、馬鹿としか言い様がねぇよマジで。

 

 

「匙さんは兵士のまま」

 

「おっす」

 

「木場さんも騎士のまま」

 

「了解だよ」

 

「ギャスパーさんも僧侶のまま……取り敢えず既に悪魔に転生されている方の人員はこんなものです」

 

 

 と、元々他の下僕悪魔だった俺達の人員は白音さんの変更以外はすんなりと決まっていき、次は転生してない組である一誠、ゼノヴィアさん、黒歌さんだ。

 

 

「ゼノヴィアさんはデュランダルを扱うという事もありますので、木場さんと同じ騎士でよろしいでしょうか?」

 

「うむ、寧ろ願ってり叶ったりだ」

 

「そして黒歌さんは――」

 

「あ、昔イッセーに転生悪魔って現実を否定される前は僧侶だったよ?」

 

「それならギャスパーさんと同じ僧侶をお願いします」

 

 これも本人の気質が分かりやすいのでアッサリ決まる。

 そして最後……正直純血悪魔であったらほぼ確定的に王の気質バリバリな一誠は、白音さんが女王となることで空席となっている戦車となった。

 

 

「一誠様を従えることになるなんて……!

一誠様に全部を支配されたいのに……こんなのってあんまりです……くっ!」

 

「大袈裟な……。徒手空拳しか出来ん俺としては戦車は寧ろ天職だと俺は思うぞ?」

 

 

 一誠以外にはサド。一誠本人にはマゾ。

 確実にシュラウド様とエシル様の血を受け継いでるなぁ……と思ってしまう発言に一誠は苦笑いしながらその場でシャドーをしている。

 何にせよ、これで一応は奴等の思う通りに一旦は従ってやった。

 

 

「まあ、俺は元々、将来はレイヴェルの眷属になりたいなーとか思ってたし丁度良いくらいで――」

 

「嫌です! 一誠様が私をメチャメチャにするのです! だから私が一誠様のえっちな奴隷になりたいですわ!」

 

「お、おう。

そ、そんな大きな声で言わなくても……」

 

 

 将来の眷属候補してという体にな。

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーに物凄い謝罪されまくったから『別に良いや』で済ませるし、レイヴェルの将来のサポートもしたいので眷属としての体で会合とやらに出席させて頂く為に、会合場所であるルシファー領土まで全員で移動することにした。

 

 シュラウドのおっさんとエシルねーさんと三人の兄貴達は俺達とは別のルート時間帯に向こうに行くらしいく、別行動となるので先頭に俺達はフェニックス領土からルシファー領土に直通される地下鉄に乗る。

 

 

「キャーッ!! レイヴェル様ぁぁっ!!」

 

 

 

 その際、フェニックス家領土在住の悪魔市民達がレイヴェルの姿を見るや否や騒ぎだしてたりして、それにそつなく対応したりもしたが、無事に地下鉄でルシファー領……えっと確か名前がルシファード……? 何か結構そのままな名前の都市に到着した。

 冥界自体が初めての元士郎とゼノヴィアはその都市っぷりに驚いて目を丸くしてたが、同じく初めての筈の黒歌は妙にマイペースだった。

 

 

「ルシファー領の都市は入った事は無かったが、フェニックス領より賑やかだな――っと、予想通りの視線だな」

 

 

 電車を降りた直後に待ち構えていた、多分サーゼクス・ルシファーの命令で来た案内の悪魔が、レイヴェルと俺達を案内する中、会場までの距離を歩いてる最中向けられる『視線』に、俺は思わず笑いそうになったが流石にフェニックス家の令嬢とその眷属と伝わってるせいか、向けてくるだけで襲い掛かってくる事は無いまま、会合とやらが行われる会場へと到着した。

 

 

「お時間までお寛ぎください、それでは……」

 

 

 そして控えの部屋へと案内された俺達はそこで一息つく為にテーブルを囲って座って適当に雑談をする。

 すると、どうやら俺達が一番乗りでしかも控えの部屋が他の者達と一緒だったらしく、時間が経つにつれて次々と眷属を率いて他の若手悪魔達が入ってきた。

 

 

『…………』

 

 

 その際というかこれも予想通りというべきか、誰も彼もが俺達の遠巻きにジロジロと見てくる訳で、特に転生悪魔じゃない俺と黒歌とゼノヴィアは『何でこんなのが?』という目を向けられまくった。

 まあ、特に何も言ってこないので全員して無視だが。

 

 というかフェニックスの血族者というのもあるので誰も話し掛けられないのだ。

 ちょっと前に呼ばれたライザーが『誰も話し掛けて来なくてちょっと寂しかった……』とか言ってたしな。

 ましてや呼び出された若手の中では未成熟で完全な最年少だからなレイヴェルは……。

 

 

『……………』

 

「……。なんかスゲー見られてね?」

 

「大丈夫だ。見られてやましいことなぞ俺等はしてない」

 

 

 まあ、突っ掛かって来た所でレイヴェルに勝てるとは思えんがな。

 

 

 

 若手悪魔達は……そしてその眷属達は他の悪魔達の中でも一際異様に見える集団に、噂もあって監察する事に徹していた。

 

 

「バームクーヘンを持ってきたけど食うか?」

 

「え、マジで? 食う食う!」

 

「なら僕はお茶を……」

 

「いえ木場さん。私がやるので座っててください」

 

 

 まず、名家の悪魔の中で最も変と言われているフェニックス家の、それも駒すら持てない年齢の娘が自分達と同じように何でここにいるのか。

 そして何で下僕がやるべきお茶くみをやっているのか……。

 

 

「ふむ……やっぱりレイヴェルのお茶は美味いな。飽きがまるでこない」

 

「ふふ、『一誠様』に誉められると嬉しいですわ」

 

 

 そして何故転生悪魔ですら無い、そもそも居ること自体がおかしい人間風情を様付けで呼んでいるのか。

 コカビエルを撃退した集団という噂が本当だとしても基準が滅茶苦茶だった。

 しかし誰も突っ込めないし、茶々を入れられない。

 自分達と同世代で、本来なら来る筈だったシトリー家とグレモリー家の令嬢二人の元眷属があの中に居るとも、主を裏切った反逆者とも噂をされているが、あの雰囲気の中、それを口にするのはどうにも憚れるというか……もう一つの『赤龍帝に狂って堕落した自業自得』という話もあるので、今一つ判断ができなかった。

 

 

「バームクーヘン超うめぇ! ほらギャスパーも食ってみろよ」

 

「あ、ほ、ホントだ……美味しい」

 

「小腹が空いてたし、ちょうど良かったよね」

 

「そうだな。心なしか緊張も解れてきたし」

 

「もぐもぐもぐ」

 

「イッセー、あーんして?」

 

 

 そんな若手悪魔達の監察を他所に、レイヴェル眷属達はまるで自宅で寛いでるみたいに、全員が全員まったりしていた。

 四大魔王と上層部からの呼び出しだというのに、あの中の誰もが緊張もせず茶髪の少年が手提げ袋から取り出したバームクーヘンを食べてる姿は、変人集団扱いされても仕方ないかもしれない。

 

 それもこれも、良い意味でも悪い意味でも業火の不死鳥と憤怒の女帝と恐れられたフェニックス家夫婦とその家族と過ごした日々が完全に影響されていたりする訳で……。

 

 

「む?」

 

 

 控え室の外から聞こえる大きな破壊音が聞こえるまで、フェニックスチームは何時までもマイペースだったという。

 

 

「何ですか騒々しい」

 

「部屋のすぐ外からみたいですよ」

 

 

 金髪碧眼の少女レイヴェルとと白髪金眼の少女白音が顔をしかめる。

 どうやら控え室の外で誰かが何かをやっている様であり、戦車という体の少年と兵士という体の少年と騎士という体の少年がソファから立ち上がって部屋の外の様子を確かめようと扉を開ける。

 すると一誠達の目に飛び込んできたのは、さっきまで綺麗な絨毯で整備されていた廊下が見るも無惨な瓦礫の山と化している景色と砂ぼこり、そして壁に開けられた巨大な穴であり、その中にはこの参上を作り上げたと思われる二人の悪魔が睨みあっていた。

 

 

「ゼファードル、こんな所で戦いを始めても仕方なくてはなくて?

死ぬの? 死にたいの? 殺しても上に咎められないかしら……」

 

「言ってろよクソアマ!

俺がせっかくそっちの個室で一発仕込んでやるって言ってやってんのによ! アガレスのお姉さんはガードが固くて嫌だねぇぇっ!

だから未だに男も寄って来ずに処女やってんだろう? それで俺が開通式をしてやろうって親切で言ってんのによ!」

 

 

 女性悪魔と男性の悪魔が罵倒しあっている。

 特に片方の下品な物言いをしている男性悪魔からは攻撃的なオーラが感じられ、扉の影から三人揃って見ていた一誠達は、他人事の様に揃って呟いた。

 

 

「痴話喧嘩かアレは?」

 

「いや、違うと思うけど……。

だって、あの方達ってアガレス家とグラシャラボラス家の跡取りだし」

 

「何でも良いけど、じゃあ俺達には関係ないと?」

 

「うん、正直下僕の僕達が干渉する意味も権利もないよ」

 

「なるほど、なら戻ってバームクーヘンだな」

 

「「賛成」」

 

 

 実に平和そうに、殺し合い寸前の二人組を眺めて他人事よろしくに呟いた挙げ句、何事も無かったかのようにお茶に戻ろうとする三人は、ソッと扉の影から出してた頭を引っ込めようとする……。

 

 

「あ? おい、何見てんだコラ?」

 

 

 しかし、見られていることに気付いたグラシャラボラス家の跡取りの方がギラリとした目付きで一誠達三人少年を睨みつける。

 

 

「覗き見とは良い趣味してんなゴラ? 何処の下僕だ?」

 

 

 イライラしているせいか、余計に攻撃的なグラシャラボラス家のヤンキー悪魔は、逃げたら殺すといわんばかりに殺気を額辺りまで引っ込めてた頭に向かって言うと、三人はそーっと姿を晒す。

 

 

「なんてことだ……。早速レイヴェルの足を引っ張る真似をしてしまうとは……」

 

「おいどうすんだよ? あのヤンキーみたいなのがこっち近付いて来てるぜ?」

 

「低姿勢になっておくべきだね……」

 

 

 取り敢えず言われた通りに姿を見せた一誠達がヒソヒソと相談する中を、ヤンキー悪魔は大股で近付き、三人を無遠慮に見る。

 

 

「なんだぁ? こっちの二匹は下僕だが、こっちは人間じゃねーか? 何で人間がここに居るんだよ?」

 

「む? いや……色々とあって」

 

 

 正直怠いタイプだな……と内心思いつつも、それらしく答える一誠にヤンキー悪魔はケタケタと笑う。

 

 

「馬鹿かテメーは? 人間ごときがこんな所に来れるわけねーだろうが!」

 

「……………」

 

 

 見下すように大笑いしながら、おい聞けよジークヴァイラ! と目を細めて三人を見ていた青いローブを着込んでいる眼鏡の女性悪魔に振るのを一誠は『見ないでお茶してればよかったかもな……』と口を閉じる。

 

 

「人間が迷い込んでるぜ? コイツ殺しちまうか?」

 

 

 ケタケタしながら一誠の頬をペシペシと叩くヤンキー悪魔だが、ジークヴァイラと呼ばれた方の悪魔は何も言わず黙ったままの一誠をジーッと見つめながら何か引っ掛かる様な表情を浮かべている。

 

 

「人間……? そういえば今日の会合に人間が眷属候補として連れられて来るという噂が……」

 

「あー? これがそれだってのかよ? こんな弱そうなのがか?」

 

 

 馬鹿らしい噂だな。とさっきまでのジークヴァイラに向けていた殺気が無くなり、標的を変えたとばかりに無言の一誠にいじめっこ宜しくに軽くローキックをするヤンキー悪魔。

 その瞬間、隣で黙ってた祐斗と元士郎がヤンキー悪魔に殺意を発しようとしたが、その前に一誠が黙って二人を制止したおかげで未遂に終わる。

 

 

「まあ、人間のテメーは置いといて、そこの覗き趣味の転生悪魔二匹は何処の下僕だ?」

 

 

 今すぐにでも殴り倒したい気持ちを抑えてる祐斗と元士郎に、一誠から対象を変更したヤンキー悪魔がこれまた見下すように問い掛ける。

 しかし、元士郎は今すぐにでも殴り掛かりそうな程拳を握り締めてとても答えられる状況じゃ無かったので、比較的冷静――しかしそれでも怒りを内面に秘めている祐斗がわざと堂々と一歩前に出ながら口を開こうとしたが――

 

 

「私の友が何かしましたか?」

 

 

 祐斗の名乗りの前に現れた――いや現れたら色々とヤバイ金髪碧眼の少女によって、この後一誠がやらしてしまうとは、この時誰も思わなかったとか……。

 

 

「あ? 何だこの餓鬼?」

 

「失礼、レイヴェル・フェニックスでございますわ。ゼファードル・グラシャラボラス殿」

 

「っ!? フェニックス……だぁ?」

 

 

 突然三人を庇うように白髪の少女を傍らに現れた金髪碧眼の少女……レイヴェル・フェニックスの名前にヤンキー悪魔……ゼファードル・グラシャラボラスとジークヴァイラ・アガレスは顔色を変えた。

 フェニックスの名前は良くも悪くも元・ソロモン72柱の中では有名。

 

 しかし自分よりも年下の小娘だということもあって、ジークヴァイラはともかくゼファードルは寧ろ徐々に挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

「ほほぅ? 前はライザー・フェニックスが来たが、今回はその妹ってか? おいおいおい、下僕も持てない年齢の餓鬼が来るべき所じゃねーぜここは?」

 

「私もそう思ってましたが、この様に名指しで招待状を頂いてしまえば出席しない訳にはいきませんので、未熟ながら勉強の為にと思いまして……」

 

 

 淡々と抑揚の無い表情と声でニタニタとしているゼファードルに返すレイヴェル。

 後ろで白音と黒歌以外の一誠達がハラハラしながら会話を聞いているのは、線がキレたら口調から何から全部が変わって相手を痛め付けるエシル・フェニックスの血を確実に引いているのを解ってるが故にで、逆にゼファードルを心配してるのだ。

 

 

「ふーん? なら時間まで俺の相手をしろよ? 心行くまで勉強させてやるぜ?」

 

 

 だが、そんな心配を他所にゼファードルは地雷だらけの荒野をスキップするかの如く駆け抜ける様な言葉をニヤニヤとしながら宣い。

 

 

「アガレスのお姉さんはお固いが、フェニックスのお嬢さんはそんな事は無さそうだ……それに、良いもんを持ってそうだ――」

 

 

 レイヴェルの胸元に手を伸ばしながら、最後の『踏み越えてはならない領域』を越えてしまった。

 誰のか? それは勿論、自分を安く見てるばかりかふざけた事を言われたレイヴェル…………では無く。

 

 

「ゲボァ!?!?」

 

「何、レイヴェルに触れようとしてるんだよ……ぶっ殺すぞ貴様ァ……!」

 

 

 殺意と怒気という感情が表れているかの様に髪の色を真っ赤に染め上げた――完全乱神モード状態の一誠の中の越えてはならないラインを越えたせいで……。

 

 

「が……かかっ……!?」

 

「レイヴェルに何をするつもりだ? 言ってみろ!!!」

 

「ぐがぁぁぁぁぁっ……!!!??」

 

 

 

 守る為なら何でもする。

 レイヴェルに向ける最大の独占欲が此処で爆発したせいでリミッター完全解除の乱神モードとなって殴り倒したゼファードルの首を、そのままへし折らんと片手で吊るし上げた一誠の目は本気のそれであり、それを見たレイヴェルは即座に皆へ指示を飛ばす。

 

 

「っ!? 全員で一誠様を止めなさい! 本気で彼が殺されてしまいます!」

 

「っの馬鹿悪魔が!!

どういう相手なのかも見切れらんねーのかよ!! オイ、そこの眼鏡も手伝え!! 目の前でヤンキー崩れの内臓がぶちまけられちまうぞ!!」

 

「え、えっ……わ、私がなぜ!?」

 

「元々アナタと彼の喧嘩でこうなったから――ということで今は納得してください! 早く!」

 

「は、はい!」

 

 

「チッ、一誠先輩が『後で怒られるかも……』とぼやいていたのはこれでしたか……」

 

「昔を思い出すやり取りでいい気分じゃなかったよ……でも止めないと」

 

「悪魔が皆フェニックスと同じ――な訳がなかったか」

 

「まずはイッセー先輩を僕が止めっ……う!? 停められない!」

 

 

 全員が一誠を止めようとし、気付けば他の若手悪魔達も団結して異常な力を持つ一誠を止めようと躍起になる。

 後に『人外極殺未遂事件』と冥界内に知れ渡ることなるこの事件は、レイヴェル達と若手悪魔……そして諸事情で遅れて到着した大魔王を夢見る熱い男の団結によって何とか収まり……ゼファードルの命は助かったのだという。

 

 




補足

目の前でレイヴェルたんがセクハラされました

 殴り殺す


レイヴェルたんが無理矢理何かされそうだ。

殺す、殺す、ぶっ殺す


レイヴェルたんが相手をぶちのめした後、抱き着いてきました

む、俺は一体何を? え、何でレイヴェルが抱き着いて……あ、でもレイヴェルの匂いがして眠くなってきた……。


リミッター解除条件。

全部レイヴェルたん関連。


前話で『突き詰めたら所詮俺も兄貴様と同じ』と言った理由はこれです。

簡単に言えば、普段はそんな見せませんが基本的に一誠は周期でレイヴェルたんに対しての独占欲が異常に膨れ上がるんです。


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コカビエルチームの夏休み

閑話っつーか……思ってた以上に主人公よりアレしてました。


 仕事なのだ。

 そう、仕事……。

 ミカエル様から仰せつかった大切な使命。

 だから私は私情を挟まない。

 

 

「人間界というのは夜でも蒸し暑いな。型落ちのエアコンと扇風機を購入して正解だったぞ」

 

「す~ずすぃ~」

 

「かき氷ができましたよ~」

 

「…………」

 

 

 コカビエルが人間界で悪さをしないように……みっちりと監視をする。

 それが私の使命なのだ。

 

 

「おいどうしたガブリエル? お前もこっちに来て涼め。

人間の作った機械も存外馬鹿にできんぞ?」

 

「…………」

 

 

 三大勢力会談での再会から暫く経つ。

 コカビエルは相変わらず人間の子二人の面倒を見ながら自分の力を高めており、あくまで見てる限りだと兵藤一誠という子供に敗れた時よりも更に強くなっている。

 そして私が監視すると言って押し掛けてからも、それは変わらず、寧ろ私を修行に付き合わせるくらいだった――こっちの気も知らずに楽しそうに。

 

 

「ふ、ふん……どうしてもと言うなら」

 

 

 分かった事が一つ。

 どうも私はコカビエル本人を前にしてしまうと、思っていることとは逆の事を声に出してしまう悪癖があるようです。

 本当はコカビエルと一緒に扇風機の前で『あー』ってやってみたい。

 けどその気持ちとは裏腹に私の身体や頭の中が炎で焼かれるが如く熱くなってしまい、結果この様な突き放してしまう言動をしてしまう。

 

 

「む……別に強要するつもりは無いし、嫌なら別に良いぞ」

 

 

 そんな私をコカビエルは気付いてくれないようで、言ってしまったと内心反省する私に首を傾げながらルフェイさんが作ったかき氷をチビチビ食べ出す。

 

 あぁ……やってしまった。

 会談の時は勢いに任せて自分の想いを晒け出せたのに、一周回って冷静になれてしまったせいか、素直に言えない。

 

 

「ぅ……」

 

 

 素直に好意を受け取っておけば、そこからもっと会話が広げられたのに……どうして私はこうなんだ。

 コカビエル……あぁコカビエル……。

 

 

「あー……やべー、用事思い出したわー(棒)」

 

 

 扇風機とエアコンの音だけが虚しくコカビエルが根城にしている廃ビルの一室に響き渡る中、突如としてわざとらしく声を出すフリード元神父に全員が注目し、コカビエルも眉を寄せていた。

 

 

「なんだフリード? 用事って何だ? 何かあったか?」

 

「あー……あるわー……ルフェイたんと一緒に外でてやんなきゃならない用事あるわー(棒)」

 

 

 実に胡散臭い棒読み声でルフェイさんに視線を送るフリード元神父。

 それを受けたルフェイさんは、最初何の事ですか? と顔に出ていたが、やがてハッとした表情を浮かべながら私と目を細めていたコカビエルを交互に一瞬だけ見ると……。

 

 

「あ、あー……そうでしたー(棒) フリード様とご一緒して成さねばならないご用事がありましたー(棒)」

 

「む???」

 

 

 ……。嘘だ。

 コカビエルはちょっと鈍いから気付いてないようだけど、明らかに二人は嘘をついている。

 しかし何の為に急にそんな……? とチラチラ私を揃って見てくる二人に考えてみるが、思い当たる節は無くその時は解らなかった。

 

 

「おい、用事とはなん――」

 

「やばよやばいよ~ ルフェイたん行こうぜー」

 

「はいフリードさまー」

 

 

 グッと私にだけ見えるように二人揃って親指を立てながらさっさと出ていってしまったその時までは。

 

 

「……? 何なんだあの二人は? まあ、最初の頃と比べて良好な関係を築けているのは喜ばしい事だが……」

 

「…………………そ、そういう事ですか。こ、子供にまで心配されるとは」

 

「は?」

 

 

 揃って悪戯に成功した幼子みたいな表情を見せられた瞬間にハッキリとわかった。

 要するに私とコカビエルを一対一にする為、二人は使わなくても良い気を使って外出したのだ。

 

 

「ガブリエルは知ってるのか? 二人の用――

 

「コカビエル!」

 

「――お、おう?」

 

 

 セラフの天使ともあろうものが、見守るべき人の子に心配されてしまうとは、まだまだ私は未熟だった。

 しかしそんなお二人のご厚意を無駄にする訳にはいかない。

 最近はバレてしまうかもしれないからと、コカビエルの私服を頂けてないのもありますし……

 

 

「お、お二人が帰って来るまで………す、少しだけ飲みません?」

 

 

 私は……この素直になれない態度を改める修行をここに開始します!

 ありがとうございます、フリード元神父とルフェイさん! これより私はお二人の義母――エフンエフン! 道筋を示せる偉大な大天使になって見せましょう!

 

 

 

 

「ったく、近くで見せられる身にもなれっつーの。じれってーぜ」

 

「ふふ、でも凄いですよ。だって本来は敵対している堕天使様と天使様が仲良しさんなんて」

 

「まーなー……ボスをって所に見る目はあるぜあのガブリエルさんも」

 

 

 ルフェイ・ペンドラゴンです。

 ひょんな事から、子供の頃からの憧れだった白騎士様を目にし、そしてその白騎士様の正体であるフリード様と御近づきになれてとっても幸せです。

 怖いと思っていたコカビエル様は、見た目とは裏腹に優しくしてくれますし、フリード様も私を認めてくれました。

 

 

「にしてもどーっすかなー。

用事なんて当然無いし、今日の修行のノルマも終わっちまったし……暇っすわー」

 

「ガブリエル様が見ていられなかったらつい……でしたもんね」

 

「おう。あの天使サマったら本人を目の前にすると完全にテンパって逆の態度しか見せないからなー……見てると歯痒くて仕方ねーわ」

 

 

 昔読んだ絵本のシーンに、『白き騎士は屈強で見るものを魅了させた純白の白馬に乗って闇の軍勢を切り裂いた』というものがありました。

 白夜騎士という称号の白い鎧を身に纏うフリード様に、何としても認めて貰いたかった。

 だから私は子供の頃から思い描いていたイメージと、学んだ魔術を駆使し、コカビエル様とフリード様の助力もあって魔導馬・疾風を完成させ、その力をフリード様に使っていただけた。

 夢の中だけだったものが現実になった喜びは今でも忘れられない。

 

 純白の装甲を纏った疾風を、白夜の鎧を身に纏ったフリード様が乗りこなし、眼前の敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。

 一緒に乗せて貰った時はまさに天にも昇る様だったなぁ。

 

 

「しゃーない、頃合いまで適当にフラフラするか? 正直飯屋って程腹も減ってないし」

 

「ふふふ……はい!」

 

 

 それにガブリエル様の為にもなったけど、私の為にもなった。

 だって、フリード様と並んでお散歩出来なんて……えへへ。

 

 

「そういやあのラブカップル共は今頃何をしてることやら……」

 

「ラブカップル? って、確かフリード様が戦ったデュランダルの使い手の方と、フリード様と同じ鎧を持つ銀牙騎士という悪魔の……」

 

「そうそう、いくらぶちのめしても向かってくるわ。俺より先に鎧に到達して殺されかけるわ、戦闘中にイチャイチャしだすわと……あらゆる意味で腹の立つ奴等だったぜ」

 

 

 辺りは暗くなり、大きなお月様の明かりに照らされながら私とフリード様は人の居ない公園まで行き、そこで並んでブランコに乗りながらフリード様が以前戦ったもう一人の鎧を纏う剣士についてを聞く。

 フリード様と出会う前なのと、あの三大勢力会談の時には見れなかったので私にはどんな方なのかまだわからないけど、どうやら白色の狼さんであるフリード様とは色違いの銀色の狼さんとの事で、その銀牙騎士という方はデュランダルの使い手の女性と肩を並べてフリード様と死闘を繰り広げた……みたいです。

 

 

「最初――互いに鎧を持ってない頃の話なんだけど。聖剣を探してうろうろしてる所を襲撃したら、そいつ等何してたと思う?」

 

「え、何か変わったことでも?」

 

「ビックリだぜ。何と転生悪魔が協会付のシスター押し倒しておっぱじめようとしてたんだぜ? ありゃ『マジですか』だったぜ」

 

「おっぱじめようと……? 押し倒してって……え!? そ、そんな、何かの間違いじゃ……」

 

「間違いじゃねーんだなこれが。あの転生悪魔くんってばテメーの魔剣をぶちこもうとしてたぜ……間違いない」

 

 

 そして聞くところによるとかなり……そ、その……お、大人なご関係というか。

 何でしょう……フリード様が初めてお二人を見た時からそんな大人な事をしていたのかと思うと……聞いてるだけなのに恥ずかしくなってしまいました。

 

 

「まあ、んな訳で当時は慢心癖全開で油断してたらボロ負けしちゃってさー? そこからあのラブカップルとは切っても切れない因縁ちゃまが出来ちゃったんだわ」

 

 

 あの時点で殺れてれば今頃楽だったのにーと、言っているわりには、そのお二人が今も生きてフリード様との因縁が続いてる今の状況を楽しんでいる様に私には見えます。

 どうやらそのお二人をフリード様は好敵手として見ている様です。

 

 

「今頃しっぽりヤッちゃってるんかねー? まあ、どこぞのクソ性欲赤龍帝に比べたらマシなんだろうが」

 

「赤龍帝……?

あ、確かフリード様とコカビエル様が倒されたという……」

 

「そそっ、ボスと出会う前にこの左目を潰してくれたクソ悪魔の典型的クソ野郎さ。

取り敢えずひっきりなしに女と寝てないと気が済まねぇ中毒者」

 

 

 好敵手のお二人とは違って、忌々しそうな表情で義眼となっている左目に触れるフリード様。

 赤龍帝を倒すなんて流石はフリード様とコカビエル様だと私は素直に凄いと思うけど、どうも語られた話から出来上がってしまったイメージのせいで、会いたくは無い気がしてなりません。

 

 

「あーそうだな、ルフェイたんはかわゆいし、もしあのクソ野郎がのうのうと生きてたら多分、洗脳して無理矢理頂かれちゃうと思うぜ?」

 

「え!? そ、それは……い、嫌です」

 

 

 気がしてじゃないです。やっぱり会うのは嫌です。

 確かに直接見もせず勝手なイメージで判断するのは良くないと思いますけど、その赤龍帝と赤龍帝に堕ちた方々の末路を会談に顔を出したコカビエル様に聞いたことがありますし……フリード様をお慕い申している身としては、やっぱり身の危険を感じます。

 

 

「だって私のこの身はもうフリード様の……」

 

「あ? 今何か言った?」

 

「ふぇ!? い、いえべちゅに!?」

 

 

 と、遠回しにフリード様が私の事を褒めてくれたのが嬉しくて、チャームだと思われる魔術を跳ね退けられる自信がありますけどね……えへ。

 

 

「?? ま、そういう訳で俺はもっと強くなんなきゃならねぇ。ボスに拾われた恩を返す……ラブカップルとの決着を着ける為にもな」

 

 

 ブランコをゆっくり小さく漕ぎながら、フリード様は意思のお強い目でおっしゃった。

 かつてはその狂気で追放されたけど、コカビエル様に拾われた事でお強く、そして白夜騎士へとなられた。

 

 私はそんなフリード様の昔の姿を聞いているから知っている。

 けど……これは私のエゴで身勝手な気持ちですが、私はそんな過去を持っていたとしても、フリード様が大好きなんです。

 言葉遣いは乱暴で、下品な事も笑いながら言ったりも確かにします。

 けど……けど――

 

 

『乗りな、アンタのお陰で俺は強くなった。

だから、その強さを一番近い場所から見せてやる』

 

『行くぞ疾風! ルフェイたんにその力を見せてやろうぜ、ヒャハハハァ!!』

 

 

 私はその全てをひっくるめて、フリード様をヒーローだと思っている。

 狂人と言われていようとも、異端者だと蔑まれても……私にとってのフリード様は白夜の騎士である前にヒーローなんです。

 これは誰が否定しても変わらない……私の気持ち。

 

 

「私もお手伝いさせてください……フリード様のお役に立ちたいです」

 

「おう、ルフェイたんの魔術はすっげーからな。

頼りになんぜ、にゃはははは」

 

 

 そして願わくば、ずっとあなたのお側に……。

 

 

 

 

 

 あのお二人からの応援もありますからと張り切ってみたけど、コカビエルってやっぱり……

 

 

「お、おお……? ガブリエルめ分身が使えるのか? どっちが本物かわかりゃん」

 

「…………」

 

 

 ミカエル様以上にお酒に弱い。

 ちょっと飲んだだけなのに、コカビエルの顔色は真っ赤で目が泳いでいて、私が二重に見えるくらい泥酔してしまってる。

 いや、そんな事はどうでも良い……

 

 

「本物は……こっちだ!!」

 

「っ……んっ!?」

 

 

 …………。酔うと愉快というか……倍増しで変な行動をするコカビエルは勝手に私を分身したと勘違いし、本物を見抜いてやると豪語したと思ったら、隣で酌をしていた私の……その……胸を……。

 

 

「お、おお……? 本物……この感触は女の乳房で間違いない……ぬはははは――うーん」

 

「んっ……はぁ……ん……!」

 

 

 鷲掴みにしてきた。

 誰にも触れさせた事なんて無い……コカビエルの為だけに守ってきたこの身を、こんな簡単に取ってくれた。

 コカビエルの手の感触が胸から全身……脳へと伝わった瞬間、電気が走った様な……されど心地好い感覚に襲われた私は、ケタケタと笑ってからそのままひっくり返ったコカビエルを支えながら……その体温を感じながら究極の選択に迫られた。

 

 

「むにゃ……」

 

「ね、寝ている。ということはあんなことやこんなことが……し、しかしそんな事をしたら天使として生きていけない……で、でも……!」

 

 

 こ、こ、ここここここ! 子供を作る行為を済ませるべきなのか。

 それとも健全にこのまま寝かせるべきか。

 天使としての誇りがあるけど、コカビエルに抱く想いも平行して大きいが故に私は迷った。

 でもコカビエルはそんな私を嘲笑うかの様に……。

 

 

「Zzz……」

 

「あぅ、こ、コカビエル!?」

 

 

 私を思い切り抱き寄せ、気持ち良さそうにスヤスヤと眠りだしたのだ。

 

 

「そ、そんな急に!」

 

 

 まるで抱き締めあってるような格好になっていると自覚すればするほど頭がおかしくなりそうだけど、コカビエルの腕と脚が私の手足を其々拘束しているせいで逃げられない。

 

 

「そ、そんな事をあなたにされたら私……も、もっと好きになっちゃうじゃない……。

何時だって狡いわ……アナタって男は」

 

「むにゃ」

 

 野蛮な男で、鈍い男で、闘うことしか頭に無い変態で――けれど、それでもやっぱり好き。

 鍛えられた胸板に顔を埋めながら、コカビエルの心臓の鼓動を耳にしながら、私は訪れた眠気に逆らえず、静かに目を閉じた。

 

 

「んが……? っ……お……なんだ、いつの間にか寝ていたのか? フリードとルフェイが用事と言って外に出るのを見送ってからの記憶が曖昧……ん?」

 

「すー……すー……」

 

「………………………………。む、何だこの状況は? 何故俺はガブリエルを抱いてる? え、流石にまさかだろ?」

 

「ん……ぅ……コカビエル……ふふ」

 

「…………………。セラフ共と戦争か!? そうなのか!?」

 

 

 次の日の朝……大騒ぎになるまでずっと。




補足

まともヒロインリスト

ルフェイ
カテレア
ゼノヴィア
ギャスパー

ガブリエル
セラフォルー
レイヴェル
黒歌
白音
グレイフィア

…………。ま、ぜ、全員まともだね。


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事件の前

これは多分書き直すかもしれない。

うん……


「よく集まってくれた――と言いたいが、若い者血の気が多いとはよく言ったものだな」

 

『………』

 

「命に別状は無かったものの、ゼファードルは全治半年の重症となった事について、レイヴェル・フェニックスの下僕候補である貴殿はどう見解するつもりか聞かせて貰おうか?」

 

 

 レイヴェルに手を出そうとしたゼファードルに対してらしからぬ激昂をして半殺しにしてしまった一誠は、魔王4名と上層部の初老の悪魔達……そして間近でゼファードルを半殺しにしている姿を見せられた若手の悪魔とその眷属達の前で、まるで裁判所に出頭した被告人の様にホールのど真ん中に立っていた。

 

 しかし一誠はそんな威圧にも似た悪魔達の視線を気にする事無く、ハッキリ堂々とした目で全員を見据えて言った。

 

 

「冗談でも主となる者に手を出そうとする輩が居るのであれば、私は誰が相手だろうが思い知らせるつもりでやりました。

……。まあ、少々頭に――ましてや自分の命よりも大切な方にゲスな目を向けられた事に対して大袈裟になりすぎた感はありますが、後悔はしておりません」

 

『………』

 

 

 一応目上の相手ということもあるので、少々開き直り気味ながらも敬語を使って自分の行動に後悔は無いと言い切る一誠に、サーゼクスとセラフォルーの二人は苦笑いが溢れ、残りの一誠をあまり知らない上層部はコカビエルという最強候補の堕天使を単騎で倒したという逸話が背後にあるせいか、何とも言えない表情だった。

 

 

「そう……か。

貴殿の噂は我々の耳にも入っている。

あのコカビエルの暴挙を止めた人間である事もな。

だが、レイヴェル・フェニックスの眷属候補である以上はいくら相手に問題があるとはいえ、我々にとっては貴重な純血悪魔の数を減らす様な事は控えて欲しいのだよ。わかるかね?」

 

「仰有りたい事の意味は理解します。

そうですね、この度は『たかが人間ごときが純血悪魔様に対して身分の差も理解できぬ馬鹿な真似をして申し訳ございませんでした。』」

 

『うっ……』

 

「ちょ、イッセーくん!? そ、そこまでしなくて良いからね!?」

 

 

 初老の悪魔の言葉に対し、どう聞いても皮肉にしか聞こえない台詞と共に、地面に額を擦り付け始める。

 その瞬間、サーゼクスが本気で慌てイッセーを止めたので直ぐに土下座は終わったが、見ていた悪魔達は何とも言えない気分になってしまったとか。

 

 

「……。キミ達に言うが、品位を損なう真似は控えなさい。

忘れて地雷を踏んで死にたいのであれば別に止めやしないが」

 

『…………』

 

 

 他の悪魔達からすれば不思議に思う程に慌てるサーゼクスに言われて立ち上がり、そのまま下がった一誠はレイヴェル達の下へと戻ってそこからは一言も言葉を発する事無く無言となったままピタリとも動かなくなった。

 その時点でサーゼクスは内心『あ、安心院さんとの繋がりが……』と焦ってしまってたりするが、気を取り直した初老の悪魔が、コホンと咳払いをしながら今日集まった若手の悪魔達に話をし始める。

 

 

「お前達は家柄、実力共に申し分のない次世代の悪魔だ。

だからこそデビュー前にお互い競い合い、力を高め、冥界の発展に努めて貰いたい…………まあ、若干1名は実に残念な事になってしまった訳だが」

 

 

 そう言って驚くほどに冷めた目をしていた人間に視線を向ける初老悪魔。

 フェニックスというだけで昔からの変人一族だというのに、変人は変人を呼び寄せるジンクスでもあるというのか。人間でありながら並みの存在を蹴散らす程の危険な力を持った人間を抱え込んでるという理由で、あまりいい気分では無かった。

 だからこそ敢えて彼の行った所業を強く咎める事をせず、フェニックスを介してその力だけを利用して飼い殺しにでもしてやろうと思っていたのに、何故かそれを本気で止めようとするサーゼクスのせいで上手く行かない。

 

 人は脆い生き物だというのが常識だった悪魔上層部は、早い話がサーゼクスに庇われているこの人間風情が気に入らないのだ。……態度には出さないもののだ。

 

 

「……。それはいずれ我々も『禍の団(カオスブリケード)』との闘いに投入されるという事で宜しいのですか?」

 

 

 上層部のそんな思惑を知ってか知らずか、激昂してゼファードルを本気で殺ろうとしていた一誠をレイヴェル……そしてその仲間達と協力して止めるのに一役買った若手悪魔の一人にてナンバーワン候補、サイラオーグ・バアルは堂々とした出で立ちで戦う意欲を見せつつ、無表情でレイヴェル眷属候補達が並ぶ列の最後尾で突っ立っている一誠に時おり視線を向ける。

 

 人でありながら伝説の堕天使であるコカビエルを単身撃破に加え、自分の従妹と色々な小競り合いをした一誠……いや一誠達に対して色々と思うところがある様だ。

 

 

「そうだ……と言いたいが、君達はまだ若い。

次代担う若者を戦争なんかで失いたくは無いというのが本音だ」

 

「そうだな。レイヴェル嬢の眷属候補の中には、かのカテレア・レヴィアタンを説得して投降させた者も居る」

 

 

 故に……我々としてはその実力を遺憾なく彼等に発揮して貰いたいものなのだが……。

 そう意味深に呟きながらサイラオーグ――では無くてレイヴェル達を見据える上層部達。

 要するに純血悪魔では無い一誠達を利用したい……そう言外に言っているのだ。

 

 

「それは……私の友を戦争の道具にしたいと仰有りたいのですね?」

 

 

 だがそれを聞いて黙っていられるレイヴェルで無く、上層部の悪魔達はかつてのエシル・フェニックスを思わせる物怖じ一切無しの表情に、まだまだ子供でしか無いというのに気圧された。

 

 

「何を言ってるんだ。勿論そんな真似は僕が絶対にさせやしないから大丈夫さレイヴェルさん」

 

 集まっているだけでも異常な経歴と戦闘力を有するレイヴェルとその眷属候補は、レイヴェル以外の家柄と血を抜かせば、力を持っただけの馬の骨であり、純血悪魔の数を減らさずに敵を殲滅できるうってつけの駒だと殆どの悪魔上層部は考えていた。

 しかし何度も言うとおり、何故かそれをサーゼクスが本気で庇って阻止するせいで上手くいかない。

 ゼファードルを半殺しにした事を盾に強要させる話も事前に釘を刺されて止められてしまったし、一体この魔王は何を考えているのか……上層部は苛立っていた。

 

 

「しかし、サーゼクス殿。

リアス嬢とソーナ嬢については残念な事になってしまった以上、無関係とは言い難い彼等がなにもしないというのは……」

 

「あの二人は赤龍帝に勝手に狂って自壊しただけです。

そもそも最初から言った筈です、コカビエルの件といい、これ以上彼等に我々が尻拭いをして貰うなど烏滸がましいと」

 

「これ以上あの子達に恩着せがましく強要するというのなら、私とサーゼクスちゃんにも考えがありますよオジサマ達?」

 

『ぐっ……』

 

「カテレア以外の旧魔王派の事もありますからね、これ等の件は我等の世代で片付けるべきです」

 

 

 サーゼクスとセラフォルーは本音八割と自分の欲2割混じりで集まった上層部に対して釘を刺すのを若手悪魔は困惑しながら眺めるしか出来ない。

 というか、魔王二人にそこまで庇われてる時点で異常だとサイラオーグ達若手悪魔はただ黙して佇む新世代フェニックス眷属達を見つめる。

 

 

「………。話が拗れたのは俺のせいだよな?」

 

「あの時本気でキレてたからなお前。

だが殺されなかっただけあのヤンキー崩れも幸せだろうよ……半年は再起不能だがな」

 

 

 特にゼファードルを本気で殺そうとしていた一誠と、セラフォルーとカテレアの心を射止めた――と冥界中に広まったせいで有名人化している元士郎は、それぞれ庇われる場合の魔王二人の力の入れ具合は半端では無かった。

 

 

「餓鬼の頃、レイヴェルに変態性癖持ちの悪魔から無理矢理縁談がどうのって話を聞いた時も、気付いたらその悪魔のヤサを更地にしてしまってな……。

どうもレイヴェルの事が絡むと短絡的になるというか――ぶっちゃけ後悔はしてないんだが」

 

「後に謎の災害として処理しましたので、一誠様の事はバレませんでしたけど、今回は目撃者が多すぎましたわ」

 

「だよなー……俺なんか勝手に捏造された噂流されてるし。別に堕としてねーっつーの」

 

 

 魔王二人と他の上層部が揉めまくる中、あのフェニックス家の令嬢とその眷属達はヒソヒソと関係ないとばかりに話をする始末であり、サイラオーグは特に一誠の力を前に興味が俄然沸いたのは云うまでも無かった。

 

 

 

 一誠がヤンキー崩れを全治半年程度で何とか済ませられたのはある意味幸運なのかもしれないが、あのヤンキー崩れは治ってもトラウマとして残るんだろうなぁ。

 何せ本当に……虫か何かを潰す様に手酷くボコボコだったもん――俺なら精神含めて再起不能になれるぜ。

 

 

「禍の団との戦いについては一旦保留として、まだ貴様等に問う事がある。

まず一つ目……この度悪魔としての位を昇格させた木場祐斗と塔城小猫はリアス・グレモリーの元眷属であり、匙元士郎はソーナ・シトリーの元眷属であった訳だが実情貴様等はそれぞれの主を見限ったという事で間違いないな?」

 

 

 そんなこんなで会合は続いていった訳だけど、案の定というべきか、やっぱりその話を出された。

 とはいえ、俺も木場も白音ちゃんも既に元主様を見限った事に対して何の罪悪感も無いので、いっそ連中がたじろかせる勢いで前に出ながらハッキリと言ってやった。

 

 

「一人の男を取り合って、テメーの成すべき事すら放棄して堕落しまくってましたからね。

既に知ってると思いますが、コカビエルが襲撃して来た際に何をしてたかご存じですか? その男と楽しくヤッてたんですよ? これで忠誠を誓えってのは無理だと思いますけどね」

 

「う、うむ……それは我々も報告で聞いている」

 

 

 ……? あれ、裏切り者と罵倒されると思ったら全員して気まずそうに目をそらしやがったぞ。

 なんでぇ……割りと信じてくれるのか?

 

 

「その尻拭いを貴殿達にさせてしまった事に関しては、我等全ての悪魔を代表して、謝罪と感謝をしようと思う」

 

「はぁ」

 

「正直例の赤龍帝がそこまで色狂いだとは思わなかったというか……これに関してだけは我々は最も恥ずべき事と反省する」

 

「……」

 

 

 ……。一誠の力を利用したがる面子も居たけど、中にはこんな考えの悪魔も居たんだな、とある種の感心を覚える。

 シトリー家とグレモリー家の面子から恨まれてるからてっきりこの連中からも裏切り者と言われるのかと思ってだけにな。

 

 

「特に元シトリー兵士の貴公は素晴らしい活躍をしたと聞き及んでいる。

カテレア・レヴィアタンを改心させ、更にはその心を射止めたとか……」

 

「それは流石にどっかの誰かが広めた捏造なんですけど……」

 

「それは貴公が気付いてないだけだ。

あの旧魔王派が大人しくセラフォルー殿の監視下に措かれているのだぞ?」

 

 

 だぞ? ……て言われてもピンと来ませんよあーた。

 第一惚れられたとか……こんな餓鬼にあの人がか? それこそ嘘臭いわ。

 

 

「キミが純血で無いことが本気で悔やまれると一部は言うが、私個人としては純血であろうがそうで無かろうが関係ないと思っている。

だから既に我々の事を幻滅してしまっているのかもしれないが、全てが全て同じ考えを持っている訳では無いとだけ解って欲しい」

 

「は、はぁ……」

 

 

 そう言って仕切り役の初老の悪魔に無言で睨まれても無視な中年の悪魔の人がペコリと俺達に頭を下げたので、思わずたじろいでしまった。

 純血の若手の悪魔達が驚愕して俺達とその中年の悪魔を交互に見返しているせいで変に窮屈な気分になっちまうぜ。

 

 なんて思いながらふと痴女魔王がヤケに大人しいと思って何となく視線を向けてみると……。

 

 

「ちょっと待ってお父様にお母様!? そんな事を私が許すと思って――もしもし!?」

 

 

 珍しく焦った表情で誰かと――多分実家の両親と思われる存在と電話をしていた。

 あまりにも焦った様子が見て取れたせいか、若手の人たちもサーゼクス様達も何事だと眉を寄せて痴女魔王に視線を向けてると……。

 

 

「…………。う、うちの両親がソーナちゃんは騙されていただけで罪は無いはずだから解放しろって」

 

 

 痴女魔王は悲しみまじりの表情で、俺達に電話の内容を説明した。

 どうやらシトリーの連中が元主を解放してほしくて仕方ないらしいが、騙されていただけだからとは恐れ入ったな。

 その騙されていただけのせいで危うく人間界の街一つが消滅してたんだぜ? 騙されていましたじゃ済まねぇだろう事くらい分かってるだろうに……。

 そう思いながら呆れる気分になっていた俺だが――

 

 

「解放し、元士郎くんを差し出さないと……カテレアちゃんを殺すって……」

 

 

 呆れる処かまるで笑えない話に、場は一気に凍りついた。

 

 

「ど、どうしよう……わ、私のせいで……」

 

「待て、セラフォルーのせいじゃない。

乱心してしまったかあのお二人は……」

 

 

 俺を差し出して元主を解放しなければカテレアさんを殺すだと?

 ふっ……クックックッ……!

 

 

「っ!? ま、待って元士郎君! どこに行くつもり!?」

 

「決まってんだろ! アンタの実家だ! あの人を殺させる訳にはいかねぇよ!」

 

 

 笑えない……全く笑えない。

 そんなに憎ければ俺を直接殺しにくれば良かったのに、よりにもよって力を制限されてるあの人を人質にだと? ふざけんじゃねぇぞゴラ。

 

 

「レイヴェルさん! 俺をシトリー城まで転移してくれ!」

 

 

 させる訳が無い。

 許す筈が無い。

 どうであれ、文通相手の友達を見殺しになんざ出来ないんだよ!

 

 

「待て! 勝手な事は――」

 

「椅子にふんぞり返ってるだけのくたばりぞこないは黙ってろクソボケ!! ハッキリ言ってテメーらなんぞよりカテレアさんの方が大事なんだよ!」

 

「なっ……!?」

 

 

 頭に血が昇ったせいで、何か言ってしまった感はあるが、もうどうでも良い。

 早くしなければカテレアさんが殺されてしまうんだ。今更どうでも良いジジィ悪魔なんぞの言葉なぞ知ったことか。

 

 

「待て元士郎、バックアップが必要だろ?

レイヴェル、俺と祐斗とセラフォルー・レヴィアタンを同時に飛ばせ。

その後白音と黒歌とゼノヴィアとギャスパーとでフェニックス家に戻って準備しろ」

 

「了解ですわ一誠様」

 

「よし、聞いたなセラフォルー・レヴィアタン! 貴様も来い!」

 

「う、うん……!」

 

 

 ご機嫌とりなんか要らねぇよ。地位なんてものも必要ない。

 そんなものよりもっと大事な友達が俺には要るんだ。

 だから俺は迷わずカテレアさんを助ける。

 

 

「サーゼクス・ルシファー……重々借りを作ってしまってすまんな」

 

「構わないよ。ここの煩い連中は僕が抑えておくから、気にせず行ってくると良い。

まあ、本音を言えば安心院さんに膝枕をしてくれるように頼んでくれたら嬉しいかな?」

 

「………。ホントにぶれんな貴様」

 

 

 足元に転送用の陣が広がり、光を放つ。

 

 

「元士郎くん……ごめん、私のせいで……」

 

「アンタのせいじゃない……だから謝るな」

 

 

 その際痴女――いやセラフォルー・レヴィアタンが泣きそうな顔してまた謝ってきたが、こればかりは本気で関係ないのでフォローをしてやりつつ、俺達は目映い光と共にその場からシトリー家へと転送した。




補足

と言っても書き直すかもなんで特には……。

強いていうなら、元士郎くんに対するヒロイン度が暴上がりしてるカテレアさん的な。








 進化もしてない、強くにもなれてない。
 全部単なる偶然でそう思われているに過ぎない俺は、見せしめ目的にボロボロにされていたカテレアさんを目にした瞬間その想いは爆発した。


『もっと、もっと力を……! 強くなって友達を守れる力を……!』


 その想いが俺の神器に呼応した時、初めて真の覚醒をする


『俺は匙元士郎……否! 我が名は――』





『呀……暗黒騎士!』


全てを喰らい、糧とする暗黒の鎧騎士へ。


次回

『黒炎』


※まあ嘘ですけど。


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黒炎

……。わー……やっちまった……。

マジやっちゃった……。

※ちょっと直しました


 思えば俺は失敗ばかりだ。

 くだらない理由でテメーから悪魔になる事を選び、そのくだらない理由の元であった主がおかしくなる様を見せつけられ、揚げ句の果てには耐えられなくなって見限ったと来た。

 

 こんな事なら初めから悪魔なんかにならなければよかったと何度後悔したか解りゃしない。

 けどそんな俺にも友達は居た。助けてくれる友達が居た。

 本音をぶちまけられ、笑い合える友達が居てくれた。

 

 だから俺は悪魔に転生した事を今では後悔なんてしていない。

 

 

「着いた訳だが、何だろうか、不気味に思えるほど静かだな」

 

「どうするの? このまま正面から行く?」

 

「いやまずはカテレアちゃんの安否を確かめないと……。

電話から聞こえた声からして、冗談の類いじゃ無かったし」

 

「チッ……」

 

 

 一誠、木場、セラフォルー・レヴィアタンと共に耳鳴りすらする静けさを誇るシトリー城の門前にレイヴェルさんによって転移するが、城の中を探っても気配の類いがまるで感じられなく、自分の育った家じゃないみたいだと困惑するレヴィアタンに、俺達は慎重に事を運ぼうと、バカでかい門をゆっくりと開け放ち、中庭へとスパイ映画の様に慎重に慎重を重ねながら侵入しようとするが。

 

 

「そんなに警戒しなくても良い」

 

「私達はここに居ます」

 

 

 中庭の真ん中まで固まりながら進んだ瞬間、突如として大量の気配が俺達を囲うように出現し、元主の両親とシトリー家に忠誠を誓う手伝い共が、明らかに殺気立ちながら姿を見せた。

 

 

「お、お父様にお母様……!」

 

「ご苦労だったねセラフォルー……。

匙元士郎ばかりか兵藤一誠まで連れてきてくれるとは」

 

「これなら事は早く済みそうです」

 

 

 そう言いながら俺達を見る元主の両親。

 どうポジティブに考えても歓迎の類いはない。

 

 

「理由は察する。

俺達のせいで自分の娘が最下層送りにされた恨みか?」

 

「そう取って貰っても構わない」

 

「アナタ方は逆恨みだと思うでしょうが」

 

 

 石像みたいな表情をする元主の両親が、俺と一誠と木場に視線を寄越しながら冷たく言い放つと、セラフォルー・レヴィアタンは困惑しつつも悲しげに叫んだ。

 

 

「どうしてこんな事を!」

 

「どうして……か。決まっているだろう、納得が出来ないんだよ我々は。

旧魔王派の反逆者であるカテレア・レヴィアタンは軟禁状態で済んでいるのに、何故ソーナは最下層に閉じ込められなければならないんだと」

 

「っ!? そ、そのカテレアさんは何処だよ!?」

 

 

 殺気立つ面子に対して、一誠と木場が何時でも動けるように重心を静かに落とす中、カテレアさんの名前を聞いた俺は、セラフォルー・レヴィアタンと一緒に元主の両親に向かって彼女の安否を問う。

 無責任に自由を束縛した状態であの人を生かしてしまった責任は俺にある……だから、俺なんかが理由で危険な目に逢わせたくは無いという本音を持っていた。

 

 

「主のソーナよりも、反逆者の一人を気にする転生悪魔……か」

 

「彼女は生きていますよ。

アナタ共々、ソーナの解放の取引材料ですからね」

 

「ぐっ」

 

「解放してどうするつもりだ? 恐らく解放した所で兄貴様に狂っているのは直らんぞ」

 

 

 元主を解放する事が目的な為に、カテレアさんは生きているらしい。

 くそ、俺はやはりどうしようも無いバカだ。

 失いたくないだの、トモダチだのと偉そうにほざいてるけど、具体的何にも守れやしなかった。

 

 

「それはキミ達の知るところでないし、カテレア嬢が無事と安心している所悪いが、誰も五体満足無事とは言ってないぞ?」

 

「っ!? て、テメェ!」

 

「そこまでです。少しでも不審な動きをすればこのカテレア嬢がどうなるか分かりませんわよ?」

 

 

 そう言いながら元主の母親は、縛られていたカテレアさんを見せつける様に転送用の陣で呼び寄せ、足下に転がしやがった。

 

 

「くっ……ぅ……!」

 

「カ、カテレアちゃん!?」

 

「こ、この野郎……!」

 

 

 力を封じられていたせいで碌な抵抗も出来なかったんだろう、中庭を一望出きるだろうテラスから俺達を見下ろしている元主の両親に乱暴に扱われているカテレアさんは傷だらけ。

 俺はそれだけで頭が沸騰しそうな怒りを覚え、元主の両親をこれでもかと睨み付ける。

 

 

「俺達が来たんだ。今すぐ元士郎の友人であるカテレア・レヴィアタンを解放しろ」

 

「例え魔王を相手にしても頭を垂れない態度……。噂通りだね兵藤一誠」

 

「頭を垂れろと? それで貴様達の気が済んでカテレア・レヴィアタンを解放するのであれば、喜んで額を地面に擦り付けてやるさ」

 

「いえ、別に構いません。それでソーナが解放される訳ではありませんからね」

 

 

 元主以上に無表情……恐らく内心キレ掛けている一誠との言い合いを耳にしながら俺はこんな時でも無力な自分が嫌になる。

 

 何時だって口だけだった。

 偉そうな事だけ一丁前に宣うだけで、具体的に為し遂げたものなんて一つも無い。

 

 

「そもそも最下層に送る事を決めたのは魔王達だろう。俺達がどうこう出来る話では無いぞ。(良いな、祐斗)」

 

「……。(わかってるよ一誠くん。

隙が出来たら僕達が暴れ、動揺した所を元士郎君に動いて貰うんだね?)」

 

 

 俺は無力だ。

 口だけの、ハッタリだけの役立たずだ。

 

 

「サーゼクス殿から気に入られている――いや、何故か顔色を伺われているキミの一言で直ぐ様解放してくれそうだと思うがね」

 

「それに、最下層送りになった元凶の赤龍帝はアナタの兄とも聞いてます」

 

「……。だから? 俺が貴様等の娘が進んで身を預けた兄貴様の弟だからという理由で、サーゼクス・ルシファーに頼んでソーナ・シトリーを解放させるように口添えしろとでも言いたいのか?」

 

「短絡的だがそうして貰いたい。

娘は――ソーナはキミの兄に洗脳されていたのだろう? だったら娘も被害者だ」

 

「っ!? ざけんな! そのせいで人間界が――俺達の街が危うく消滅しそうになったんだぞ! それを無関係な筈の一誠が尻拭いまでしたんだ! 被害者で済まされる訳が無い!」

 

 

 意見を通せる力も無い。

 今だって奴等の理不尽な物言いに吠えるしか出来ない。

 

 

「なら何故キミはそうしていられる?

リアス嬢の眷属である筈の木場祐斗君も、塔城小猫君もギャスパー・ウラディは何故自由だ? 主を裏切って逃げたからでは無いのか?」

 

「逃げた……ですか。

確かに見方によってはそうかもしれません。

けど、下僕の僕たちがいくら説得しても聞きもせず兵藤誠八を取り合っていたんです。

説得も何も既にありませんでした」

 

「そうだ……。何でもかんでもあのクソ性欲バカが正しいと信じてほざいて、与えられた使命すら放棄して遊んでた挙げ句、口を挟めば逆ギレするような相手に説得もクソもねーよ!」

 

「そうか……。じゃあ何故兵藤一誠は娘を助けない? キミなら可能だと噂では聞いているのに……。何故そこの兵士や騎士は助けて、娘達を助けない?」

 

 

 それが悔しい。

 話の通じない相手を下して、トモダチを助けられる事すら出来ない己がどうしようもなく滑稽に思ってしまう。

 

 

「アナタは赤龍帝を嫌っていた。

故に、彼を肯定する娘達も平行して嫌っていたから、助けようともしなかった……違いますか?」

 

「て、テメェ等さっきから勝手な事を……!」

 

 

 だからこんな奴に勝手な事を言われて、弱味を取られて……クソ!

 

 

「逆に聞くが、貴様等は溺れた魚を見て助けようと思うのか?」

 

「なに?」

 

「兵藤誠八がどんな生き方をしようが、それこそ貴様の娘とコカビエルからの宣戦布告を受けておきながら懲りずにヤッていようが、俺にとってはどうでも良い。

そんな奴等を――言った所で聞く耳すら持たない連中を何故俺が説得しなければならない? ハッキリ言ってやるよ――――道端に這えてる苔を間違えて踏んでしまった所で、俺には何の罪悪感も無い」

 

 

 だが一誠はそんな苛立つ俺に代わってただ無表情に、永遠に助けるつもりなんぞないと啖呵を切ると、隣で悟られない様に身構えていた木場とアイコンタクトを取り……。

 

 

「黒神ファントム!!」

 

「双覇の聖魔剣!」

 

 

 目にも止まらぬ速さで二人はその場から消えると、俺達を囲っていたシトリー家の兵隊を一気に片付けた。

 そしてその様子を動きに着いていけずに呆然と見ていた俺に二人は兵隊を薙ぎ倒しながら言った。

 

 

「今だ元士郎!」

 

「キミがあの人を助けるんだ!!」

 

 

 俺がカテレアさんを助けるんだ……と。

 

 

「っ……伸びろライン!!」

 

 

 それを聞いた俺は、弱い自分を今は忘れ、テラスの床に傷だらけで倒れるカテレアさん目掛けて大きくジャンプした。

 シトリー家の兵隊がそんな俺を打ち落とそうと手から魔力を放とうと構えるが。

 

 

「させないよ!」

 

 

 それを阻止したのは……痴女だけど強いセラフォルー・レヴィアタンの氷の力だった。

 一誠が薙ぎ倒し、木場が峰打ちで気絶させ、セラフォルー・レヴィアタンが凍らせて無力化させる。

 足の引っ張り合いなど皆無な連携に助けられている事に俺は感謝をしながら、伸ばしたラインでカテレアさんの身体を繋げて引き寄せようとした。

 

 

「そう来ると思ってましたよ」

 

「うっ、ラインが弾かれ――」

 

「子供に出し抜かれるほど、我々も間抜けのつもりはない!」

 

 

 だがそれを阻止してラインを切り刻んだ元主の両親は、飛び上がった俺に向けて氷と水の魔力を叩き込む。

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 もろに腹へ二人の力が当たり、口の中に鉄の味が広がるのを感じながら俺は地面に叩き付けられる。

 

 

「ごほっ、げほっ……!」

 

「キミはまだ弱いと聞いているからね。

私達でもどうとでもなる」

 

「げ、元士郎……!」

 

「アナタは黙りなさい」

 

 

 一誠達との修行で痛みに慣れてるとはいえ、痛いもの痛い。

 たった一発でガンガンとする頭を振りながら、俺は立ち上がり……ふと一誠達が戦っている場所へと視線を向け――息を飲んだ。

 

 

「な、なんだ? あ、あの三人なのに、さっきから数が減ってない……だと?」

 

 

 ケルベロスを90秒で100体以上を黙らせた一誠が、銀牙騎士の木場が、魔王のセラフォルー・レヴィアタンが三人協力して戦っているというのに、黒い燕尾服と仮面の兵隊共の数がまるで減っておらず、次々と何もない場所から現れては、一誠達を囲うように足止めをしている。

 

 

「ウチの使いの中には実態のある分身を大量に作り出せる者が居てね、コカビエルを撃退したキミ達相手では力不足かもしれないが、足止めは出きる」

 

 

 そんな俺達の疑問に対して、シトリーの親父の方が得意気にカラクリを話した。

 

 

「チッ、数が減らないと思ったらそういう事か」

 

「なら僕達は元が力尽きるまで倒し続けるさ! 元士郎君が人質を救出するまでね!!」

 

「お父様にお母様……!

私はアナタ方の味方はもう出来ない。全力で戦わせて貰う!」

 

 

 どうやらセラフォルー・レヴィアタンも知らなかった力を持つ兵隊を抱えていたらしく、強くはないもののどこまでも邪魔をする兵隊を薙ぎ倒す三人。

 どうやら、カテレアさんはやはり俺が助けないといけないみたいだ……元々そのつもりだがな。

 

 

「キミを拘束すれば更に要求を通しやすくなりそうだし、三人を黙らせられる様だ」

 

「どうします? このまま投降しますか?」

 

「するかボケ……そっちこそさっさとカテレアさんを解放しやがれ……!」

 

 

 倒しては増える分身達を一誠と木場とセラフォルー・レヴィアタンに任せた俺は戦う覚悟を更に固めながら元主の――名前すら聞く気にもならない悪魔二匹を睨み付ける。

 するとそんな俺が気に食わなかったのか、それまで表情が冷たかった元主の両親は、若干だが表情を歪めた。

 

 

「ソーナを裏切っておきながら、そこまでして反逆者は助けようとするのかね」

 

「その気力があるのなら、ソーナが赤龍帝に堕とされた時何故救おうとしなかったのですか?」

 

「ふざけるな! さっき一誠の言った通り、テメー自身の意思で堕ちた奴の尻拭いはごめんだったんだよ!」

 

 

 飼い殺しなんかごめんなんだ、納得のいかない尻拭いなんてやってられるかと、あくまで見限ったと宣言する俺に元主の両親は更に顔を歪める。

 くそ、現役を退いたとはいえ、純血悪魔としての力で俺を越えるこの二人からどうすればカテレアさんを助け出せる……!

 

 

「勝手に魔王の命令を無視して、力を封じられて無抵抗なのを良いことに……こんな……こんな……ふざけるんじゃねぇ!!!」

 

 

 力を、進化の道を俺にも歩ませろ。

 誰に対してでもない……自分自身にそう命じながら、俺は小さく構えをとった二人に向かってもう一度飛び掛かる……フリをしてカテレアさんにラインを飛ばす。

 

 

「甘い。一度目で通じないと悟れない辺りは所詮は子供だな」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 だが虚しく、簡単にラインを消し飛ばされた。

 

 

「アナタを人質にすればあの二人も大人しくなるでしょう……」

 

「がはっ!?」

 

 

 そして攻撃もあっさり見切られ、突き出した拳を掴まれた俺はボディと顎に鈍い痛みを感じながら吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 

「ふむ、セラフォルーがヤケに拘る理由は定かでは無いが、キミはやはりあの面子の中では弱い様だな」

 

「確かにソーナを押さえ付けられる程度には実力はある様ですが、そこまでですね」

 

「げ、元士郎!」

 

 

 言われなくなくたって、そんな事は自分が一番自覚してる。傷つけられたカテレアさんにまで心配されてる時点でどうしようもなくな。

 

 だが俺は学んだんだ……。

 諦めの悪さを……往生際の悪さを……!

 

 

「だ、だったら何だよ……。

俺の友達が、俺の為に身体を張ってるんだ。折れる訳にはいかねぇよ……!」

 

 

 何度倒れても這い上がるコカビエルやフリードの様に、死にかけても決して心は折れない、折らない!

 受けたダメージにより、折れた肋骨と潰された内蔵による激痛を無視し、何とか立ち上がった俺は手足を縛られて地面に伏すカテレアに必ず助けると一瞬だけ強がった笑みを見せながら、元主の両親に啖呵を切る。

 すると、それまで冷静に見えた元主の両親の表情は、それまで押さえ付けていた感情を爆発させるように大きく歪み、喚くように吐き出した。

 

 

「その必死さをどうして娘にも向けなかった? どうして赤龍帝に堕ちていく姿を見て助けようとしなかった!」

 

「こんな反逆者に何故そこまで!!」

 

 

 悔しそうに叫ぶ元主の両親に、俺は今になって悟った。

 あぁ、そうか……この二人は俺が裏切った事よりも、性欲バカに娘が堕とされた事が悔しかったんだと。

 眷属だった俺が助けずに自分だけ無事なのが許せなかったんだと……。

 

 

「どうしてソーナに対してそこまでの覚悟を見せてくれなかったんだっ!」

 

「こんな女に……反逆者に!」

 

 

 だからこんな真似までして、元主を解放しようとしたんだと。

 そして――

 

 

「貴様も私たちと同じ苦しみを味わえ!!」

 

 

 動けないカテレアさんの身を貫こうと、抜き手をしようとした姿を見た俺は悟ったんだ。

 

 

「っ!? や、やめろぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

「げ、元士郎……ごめん……な……さ…い」

 

 

 

 元主を裏切った俺に対する復讐なんだと……。

 目の前でカテレアさんの身が貫かれる姿を見せられた俺は、目の前が血の様に真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

「くそ、本体は何処だ!」

 

『キリが無いよ! 元士郎君を援護にもいかせてくれないなんて!』

 

「くっ、この、どいてよ!!」

 

 

 次々と無限に現れる分身をなぎ倒していく一誠と祐斗とセラフォルーは、未だに見つからない本体に苛立っていた。

 壁の様に次々と現れては自分達を取り囲む仮面を着けた燕尾服姿の男のせいで動けない中、三人は元士郎の気配の変化に気付いてしまう。

 

 そして……異常なまでの力の膨張も……。

 

 

「こ、これは……!?」

 

『元士郎君……なのかい?』

 

「こんな怖い元士郎くんは初めて……」

 

 

 それがどういう意味なのか等三人は直ぐに理解した。

 元士郎が進化をした事も……そして、その進化が危うい事も……。

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺の、弱い俺のせいで!」

 

 

 シトリー卿により致命傷を負わされたカテレアを我すら忘れ、がむしゃらに飛びかかって奪い返した元士郎は、震える身体で腹部を貫かれ、血の気が引いていくカテレアを抱き締めながらただ子供の様に謝っていた。

 

 

「弱いせいで……俺が弱いから!」

 

 

 最初は偶然が重なってしまっただけの関係だと思ってた。

 けれど元士郎にとっては間違いなく一誠達と等しくカテレアも友だと思うようになり、何時からか唯一の連絡手段の文通が楽しみだった。

 

 

「っ……う……げ、元士郎……」

 

「ぁ……か、カテレアさん……」

 

 

 確かに一誠のマイナスさえあればカテレアを復活させることは可能かもしれない。

 けれど結局それは一誠頼りで自分の何の成長もしていないと自分で暴露しているようなものであり、腹部から血を流すカテレアを守れなかった現実は否定しようもない事実だった。

 

 

「あ、謝らないで……アナタに救われなかったら、あの会談の時に死んでいたんですか、ら……」

 

「ううっ……!」

 

 

 けどカテレアは元士郎を恨まなかった。

 いや、寧ろ無力さに失意して泣く元士郎の頬を力無く笑って撫でている。

 

 

「力を制御、されてた……とは、いえ……私は、アナタと、知り合えた……ごほっ! 知り合えた日以降、確かに幸せでした……」

 

「も、もう喋らないでよ! 喋ったら体力が……!」

 

 

 止まらない出血により、血の気が更に引いていくカテレアに元士郎は喋るなと叫ぶが、カテレアは元士郎を安心させるようにと努めて微笑み、喋るのを止めない。

 

 

「あ、ありがとう……元士郎……。

わ、私……アナタの事が………………」

 

 

 ニコリと……。

 最期の最期にレヴィアタンとしてではなくカテレアとしての笑みを浮かべ……彼女は事切れた。

 

 

「…………」

 

「か……ぁ……う、わぁぁぁぁっ!!」

 

 

 一誠がいる以上確かにカテレアの死は否定できる。

 しかし自分の無力さのせいだ、カテレアが目の前で殺された現実だけは否定できない。

 その現実は元士郎に重くのし掛かり、がむしゃらになっていた元士郎に殴られて口から血を流していたシトリー夫婦は無慈悲に口を開く。

 

 

「娘を裏切った復讐はまだ終わらせない。次は貴様自身の身で償わせる」

 

 

 そう言って殺意と魔力を放出させるシトリー当主。

 

 

「……ろ……す……」

 

 

 だが、気付いてなかった。

 虎の尾を踏めばどうなるか……。

 一誠自身から誰よりも気質が自分に似てると評され、尚且つ一誠以上にある意味純粋で真っ直ぐなこの少年の本気の怒りを。

 

 

「殺してやる!」

 

 

 匙元士郎の持つ潜在能力を。

 本人ですら知らない領域が存在し、この瞬間元士郎の中にあったリミッターが壊され、急激に押し上げられるかの様に入り込んでしまった事を誰も知らなかった。

 

 

『強くなりたいか?』

 

 

 知らない声が聞こえた気がした。

 

 

(なりたい……強く、大事な人たちを守れる力を……!)

 

 

 元士郎は誰の声とも分からない……もしかしたら幻聴でしかない声に対してカテレアの身を抱きながら心で答えた。

 

 

『ほうあくまで他人の為か。

ふむ、よかろう……我は最早滅ぼされ、意識だけの存在だ。

故に我を宿した貴様の行く末を見てやろう』

 

 

 すると何か面白いものでも見つけたと、低い女性の声が聞こえた時……元士郎の中で何かが開かれた様な感覚がした。

 

 

『見せてみろ転生悪魔よ。

精々我を退屈させぬ事だな……』

 

「…………」

 

 

 そして声が遠くへと行ってしまったその瞬間……元士郎はカテレアの身をそっとその場に置き、ゆっくり立ち上がる。

 

 

「……?」

 

 

 先程まで取り乱していたのが嘘のように静かな元士郎にソーナの両親は訝しげな表情を浮かべながら様子を伺っていると、いつの間にか首にぶら下げていた『シルバーペンダント』を外し、装飾部分に小さく息を吹き掛ける。

 

 

「ふっ」

 

「何の真似――!?」

 

 

 勿論その意図が分からず、何の真似だと問おうとしたソーナの両親だったが、息を吹き掛けた後、天に捧げるかの様に頭上に掲げて一回転させた瞬間、沿って現れた赤い円陣に目を見開いた。

 

 

「なんだ、それは……!」

 

「…………」

 

 

 思わず声に出すシトリー卿。

 すると、俯いたままカテレアの血を服に付けたまま赤い光を浴びる元士郎は猛禽類を思わせる縦長に開いた瞳孔の瞳で睨みながら、二人に向かって宣言する。

 

 

「俺は匙元士郎でも……転生悪魔の兵士でも無い」

 

 

 降り注ぐ赤い光がほんの一瞬だけ閃光となって広がる。

 

 

「っ!?」

 

「なっ……そ、その姿は……?」

 

 

 閃光と共に一瞬の内に円陣から注ぐ光を浴びていた元士郎の身を覆う、禍々しきモノにシトリー夫婦は驚愕した。

 元士郎の全身を覆う黒き鎧に……そして、黒い鎧騎士は機械で加工された様なエコーの効いた元士郎自身の声で自ら名乗り上げる。

 

 

『我が名は呀――暗黒騎士……!』

 

 

 喰らえば喰らうほどに強くなる……匙元士郎が持つ黒の龍脈と何かが一体化した事により至った禍々しき黒狼にシトリー夫婦は抱くことの無かった恐怖を植え付けられた。

 

 

『アンタの言い分は解らんでもないが、言ってやるよ………糞喰らえボケが』

 

「「!?」」

 

 

 匙元士郎は燻っていた進化への扉を完全に開け放ったのだ。

 そしてその恐怖は……。

 

 

『滅せよ……そして、我が血肉となれ!!』

 

 

 一誠達の妨害をしていた者の分身体をその手に持った両刃の剣で一刀の下に切り伏せた後に植え付けられた。

 

 

「か、かぁ……!?」

 

『あぁ……アンタの力喰わせて貰ったよ』

 

 

 本体の首を掴んで吊し上げ、その力を喰らっているという姿を見せられて……。

 

 

「元士郎……なのか?」

 

『あ、あの鎧……元士郎君も僕と同じ……?』

 

「黒い、狼さん……?」

 

 

 苦戦していた分身が黒き鎧を纏った元士郎に一撃で葬られ、更にはその本体と思われる者を吊り上げながら無理矢理力を喰っている、暗黒騎士となった元士郎を目にした三人も驚愕する。

 

 

『一誠……』

 

「……。何だ?」

 

 

 祐斗が至った銀牙騎士と同じ狼の鎧。

 だがしかし何かが違うと感じ取った一誠に、帝王を思わせるマントを背に靡かせた元士郎こと暗黒騎士は両刃の剣を軽く降り下ろしながら、背中越しに話す。

 

 

『カテレアさんの事を……頼む』

 

「……わかった」

 

 

 眠るように横たわるカテレアの事を頼む元士郎に、一誠は悟る。

 レイヴェルがゼファードルにちょっかいを掛けられてるのを見て激怒した自分以上に、今の元士郎はカテレアを手に掛けた相手へ、そして守れなかった自分に激怒している事を。

 

 

「他人の死を否定する……か。

カテレア・レヴィアタン相手に使えるかどうか」

 

「え、ど、どうして?」

 

「……。そんなに万能でも無いんだよ、俺のスキルは」

 

 

 だから一誠は敢えて援護に回らずにカテレアの身柄を預りかり、精神を均一に戻す準備に取り掛かる。

 

 

「そもそも俺は、自分の死に対しては何度も否定して逃げたが、他人に対して執行した事が無いんだ。

………死が否定できたとしても、それが元のカテレア・レヴィアタンである保証がない……」

 

「そ、そんな……」

 

「……。いや、考えてみたら死はそれほどに重要で取り返しがつかないものだし……そうだよね」

 

「だがやれるだけはやってみる。

それか、位の昇格をした元士郎自身に――」

 

 

 最早元士郎は止められない。

 カテレアを一誠達に任せ、意識を失った三人を苦戦させた悪魔を投げ捨てた元士郎は、持っていた両刃の剣を地面に突き刺しながら静かに呟いた……。

 

 

『邪霊幻身……!』

 

 

 たった今奪い取った力を……。




補足

奪う神器だし……みたいな。
そんな理由でぶっちゃけてしまった。

つーかこの覚醒で完全に最強レベルになった元士郎君だった。


その2
カテレアさんが覚醒の引き金て……これヒロインやんけ。
うーん……今だかつてカテレアさんがこんなヒロインやってるネタはあっただろうか……。


その3
乱心しちゃった理由は

カテレアさんは最下層免れてるのに、ソーナが最下層は納得できないしどうであれ娘を見限った事に少なからず怒りがあった……て感じですね。


その4

幻実逃否でカテレアの死を否定は可能……かは不明。
理由は死を否定するという時点で自分の精神をかなりマイナス寄りにしなければならないのと、それを続けると今の自分が崩壊する可能性がある。
ので、まるっきりノーリスクでホイホイって訳でもないです。

なので、出来ない可能性もある。


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暗黒騎士とカテレアさん

……。ぶっちゃけ暗黒騎士が苦戦するか? と考えた結果ほぼ瞬殺でした。


 闇に魂を捧げた男が居た。

 

 その男もまた、絶対的な力を欲した。

 

 母との約束を守る為に、それが間違いである事に目を逸らして。

 

 故に男は最後まで利用され、喰われてしまった。

 

 しかし男は、死の際に再会した師により光へと戻った。

 

 師の息子に力を呼び寄せる手伝いをし、その身を騎士の家系へと転生させた。

 

 それにより闇の力は消えた筈だった……。

 

 

『邪霊幻身!』

 

 

 しかしその力は、異なる世界に生きる少年の渇望と変異により再び出現した。

 

 

「こ、これは……!」

 

「ぶ、分身……?」

 

 

 友に救われ、自身の未熟さを自覚した時より力を求めた少年が居た。

 

 その少年は友に対する恩返しと、やり直す事により獲た大切な人達を守る為に渇望した。

 

 そして今、その少年は目の前で奪われた怒りにより暗黒騎士へと覚醒した。

 

 

『……』

 

 

 禍々しき鎧を身に纏い、一誠達を足止めしていた名も知らぬ悪魔の力を喰らう事で力を増した暗黒騎士こと元士郎は、自身を中心に数百もの分身を作り出すと、戦慄し動けなくなっていたシトリー夫婦を黒狼の鎧越しに睨みながら、両刃の剣の切っ先を突き付けながら小さく呟いた。

 

 

『その陰我、俺が喰らい尽くす』

 

 

 禍々しき暗黒騎士の処刑宣告。

 あらゆる力を喰らい、己の糧とする事で無限に力を増す禁断の力を得た元士郎は、戦慄する二人を獲物と標的を定め、自ら作り出した分身と共に襲いかかった。

 

 

「がはっ!?」

 

「ぐふっ!」

 

 

 それは最早数の暴力でもあった。

 実態のある数百以上の暗黒騎士の軍勢が、たった二人の悪魔を容赦なく蹂躙する。

 

 殴り付ける、叩き付ける、わざと致命傷を避けた斬撃を浴びせる。

 直ぐに楽にはさせないという怒りの念が元士郎から容易に感じ取れる攻撃に、シトリー夫婦も勿論やられているだけでは無く反撃しようとはした。

 

 

『…………』

 

「き、効いて無い……だと……?」

 

「そ、そんな……!」

 

 

 分身からの攻撃から逃れようと上空へ翔び、水氷の魔力が込められた力を少なくとも数百は分身している暗黒騎士目掛けて叩き込んだ。

 だが煙が晴れた先にあったのは、禍々しき眼光を放った無傷な暗黒騎士の姿。

 

 

「あ、あぁ……!」

 

「ひ、ひぃ……!」

 

 

 それは最早悪夢だった。

 たった一人の元人間の下級悪魔に純血である自身の力が一切通じないという現実は、無力さを痛感させるのと同時に、やがて恐怖へと変わっていく。

 

 

『テメー等は許さない』

 

 

 上空を見上げ、愕然とするシトリー夫婦を見据えた元士郎はそう呟いた。

 小さい声ではあったが、その声はハッキリと夫婦の耳に入り、恐怖により身を硬直させた。

 蛇に睨まれた蛙の様に。

 

 その一瞬の隙を元士郎は逃さず、重厚な鎧を全身に纏っているとは思えない圧倒的な速度で飛翔し、二人の背後に回る。

 そして――

 

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

「ぎぃぃぃっ!?」

 

 

 赤き鮮血と共に二人の腕と脚をそれぞれ片方ずつ切り飛ばした。

 夫婦二人は痛みにより大きく顔を歪ませ、苦痛の声で叫ぶ。

 しかしその痛みすら苦しませてやる慈悲など与えんと、二人の頭を掴んだ元士郎は、隕石の落下の様なスピードで地面目掛けて落下すると、二人をそのまま叩き付けた。 

 

 

「か……あ、ぁ……」

 

「ひ……っ……」

 

『…………………』

 

 

 片腕と片足を切り飛ばされ、流れ出る血と地面に叩き付けられたダメージにより最早虫の息にすらなっているシトリー夫婦を獲物を喰らう狼そのものの瞳で見下ろす元士郎は、喰らう事で得た分身を消し剣を握る手に力を込めながら口を開く。

 

 

『終わりだ……。

娘と会えずにそのまま朽ち果てろ』

 

「ひっ、や、やめろ!」

 

『命乞いなんて聞く訳が無い。

俺がカテレアさんを傷付けるなと言ったのにテメー等聞かなかっただろうが……!』

 

「そ、それは――がふっ!?」

 

『それ以上喋るんじゃねぇよ……』

 

 

 力への渇望。

 カテレアを守れなかった無力感。

 そして奪われた怒り。

 その三つが今の元士郎の心境を支配し、それ故に声は冷たい。

 

 

『殺すだけじゃ済まさない――いや、殺してやる価値なんてテメー等には無い』

 

 

 だからこそ、殺して楽にしてあげる慈悲すら元士郎には無かった。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「あぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 永遠の生き地獄に落とす。

 それが暗黒騎士 呀となった元士郎の望みだった。

 もう片方の腕と脚を容赦なく剣により切断し、文字通りの達磨な状態にした元士郎は、苦しみと痛みに絶叫する夫婦二人を只冷たく見下ろしながら、鎧を解除した。

 

 

「殺す価値の無い奴は生まれて初めてだ……」

 

 

 水溜まりとなっている血をぐしゃりと踏みつけ、激痛とショックで意識を吹き飛ばしたシトリー夫婦を見下ろしながらそう吐き捨てた元士郎は、覚醒させた時に出現したペンダントを首に掛けると、そのまま踵を返し、ただ黙ってその様子を見ていた一誠、祐斗、セラフォルー……そして、眠るように穏やかな表情でセラフォルーに抱えられているカテレアの元へと戻る。

 

 

「…………。終わった、殺してやるやる価値は無かったから死んではないけど」

 

「う、うん」

 

「……。ふ、ククッ! アンタの両親をあんなザマにしたんだぜ? 恨めよ?」

 

 

 力を覚醒した喜びを一切感じない、表情で自嘲気味に笑う元士郎がセラフォルーを挑発した。

 だがセラフォルーは元士郎を恨む事無く、ただ辛そうに黙って首を横に振る。

 

 

「恨まないよ……恨む訳が無い。

私のせいなんだから……」

 

「………。そうかい」

 

 

 いっそ人殺しと責めて嫌ってくれた方がマシだったぜ……と思いながらセラフォルーの言葉に元士郎は目を逸らし、抱えられているカテレアに視線を向けると、一誠が安心させる様に元士郎の肩を叩きながら口を開いた。

 

 

「……。カテレア・レヴィアタンの死は否定させる事が出来た。だから大丈夫だ」

 

「ま、マジかよ……。ほ、本当に?」

 

「あぁ……苦労はしたがな」

 

「っ!? お、お前……その髪……!?」

 

 

 カテレアの死を否定したという一誠の言葉に元士郎の表情は動いた。

 そして感謝という言葉すら足りない感情を何とか示そうと一誠へ視線を向けた元士郎だったが、その瞬間変化した一誠の姿に息を飲む。

 

 

「否定出来るとはいえ、廃神モードにならなければ難しくてな……暫くはこのままだ」

 

 

 フッと笑み浮かべた一誠の髪が真っ白となり、その瞳は淀んでいる。

 それだけならまだ良かったが、今の一誠は一誠を知る者からすれば明らかに違うものがあった。

 

 

「何だその顔は? 別に気にするな、暫くすれば勝手に戻る。」

 

 

 覇気が無い。頼もしさが感じられない。気力を感じない。

 明らかに今の一誠は誰が見ても弱さの塊を人の形に集約したかの様な姿だったのだ。

 

 

「俺のせいだ……俺のせいで……」

 

「おいおい、そんな事言われたら廃神モードになった甲斐が無いから止めてくれよ。それに後悔なんて俺はしてないからな」

 

「だ、だが……」

 

「罪悪感を覚えるのであるなら、今度はちゃんとカテレア・レヴィアタンを守るんだ。良いな?」

 

「あ……お、おう! ありがとう一誠……」

 

「ん、それで良い」

 

 

 しかしその精神は一誠そのもので間違いなかった。

 真っ白な髪で違和感だらけだけど、ヘッと笑って見せるその姿は兵藤一誠だった。

 

 

 

 

 

 

 死に際というものを知らなかった私が最後に目にしたのは、敵である筈だった私を助けてくれた少年の泣き顔だった。

 

 だからその、元士郎に悪いけど、これから迎える死に恐怖は無かった。

 こんな私なんかを助けてくれてから過ごせた不自由だけど自由な日々は間違いなく楽しかったのだから。

 

 けれどどこまで行こうとも私は負け犬の旧魔王の血族だ。

 今更になって投降したとしても私をよく思わない者が多く居る事くらい、私だって分かっている。

 

 だから……私は来るべくして来た死を受け入れた。

 先に進む元士郎の心に私という存在を刻み込め、私は目の前に広がる闇へと自ら飛び込んだ……。

 

 

『おっと、そいう訳にはいかんなカテレア・レヴィアタン。貴様はまだ死なせん』

 

 

 筈だった。

 

 

『元士郎の友となった貴様を、元士郎が望まぬ形で迎えてしまった貴様の死をそのまま見送る事はしない。

故に否定する……故に逃げさせる、故に夢へと変化させる』

 

 

 薄れゆく意識……肉体から精神が剥がれていく筈の私に聞こえる元士郎を変えた少年の声。

 

 

『だから生きろ。

俺に足りないものを持った男を支える為にな……廃神モード・幻実逃否(リアリティーエスケープ)……全開』

 

 

 その声に私は呼び止められ、聞いた事もない言葉を確かに耳? に入れた瞬間、闇だった目の前が目映い光で照らさせる。

 そして気付いた時には――

 

 

「ぅ……?」

 

「!? カ、カテレアちゃん!」

 

「カテレアさん!」

 

 

 私の目に飛び込んで来たのは、私からレヴィアタンを取った変な女と、私を助けてくれた男の子の顔だった。

 

 

 

 

「わ、私は……? き、傷が無くなってる……」

 

「もう大丈夫だぜカテレアさん」

 

「元士郎……」

 

 

 重い身体を何とか起こそうとするけど上手く身体に力が入らず、安心しきった様な表情をする元士郎に抱えられている私は、死に際に受けた致命傷の傷が綺麗サッパリと消えている事に気付きつつ、私を此方側に引き戻したと思われる……何故か白髪になっている兵藤一誠の姿を視線で追っていた。

 

 

「アイツがカテレアさんの助けてくれたんだぜ? ……諸事情でイメチェン中だけどよ」

 

「みたい、ですね……。彼が私に死ぬなと言ってましたから……」

 

「え?」

 

「いえ、何でも……。

ふ、ふふ……確実に感じた死すら回避できるとは……私はやっぱりレヴィアタンに相応しき運の持ち主だと思いませんか?」

 

 

 コカビエルを倒した人間で、元士郎が慕う人間。

 なるほど……死すら欺く力を持つ時点で疑い様が無いのと同時に、サーゼクス達を倒すことすら難しい上に彼等まで控えていたという時点で初めから旧魔王派に勝ち目なんて無かった様ですね。

 あはははは……。

 

 

「身体は大丈夫ですか? 痛い所とか……」

 

「ええ、大丈夫です。

それにしても……その……」

 

 

 いえ、今はそんな事を考えても仕方無い。

 死により元士郎と語らう事も出来ないと思っていた私は今こうして、元士郎を間近に触れ合う事すら出来る。

 生きてきた中で、これほどに嬉しく満ち足りた気持ちになる事なんて無かったくらいに、私は目の前の男の子に惹かれてしまってる。

 

 

「……。何ですかセラフォルー? その微妙な顔は?」

 

「べ、別に……」

 

 

 私からレヴィアタンを勝ち取ったセラフォルーすら出し抜いてね。

 ふふふ、別に……か。嫉妬が隠しきれてませんよセラフォルー?

 

 

「むむ……」

 

「あ? 何だよその顔は?」

 

「いや、カテレアちゃんと近いなー……なんて」

 

「は?」

 

 

 ほらやっぱり。

 ふふ、何をしても勝てなかった私が、セラフォルーを悔しがらせている。悪くない気分です……。

 でもそれ以上に私は……。

 

 

「元士郎……」

 

「え、なんです――っ!?」

 

「あぁぁっー!?!?」

 

 

 レヴィアタンとは関係無く、元士郎が大好きだ。

 呆然とする元士郎の顔を引き寄せ、あの時とは違って唇同士を気持ちと共に重ねた。

 

 

「な、な、な、ななっ! 何を!?」

 

「あ、ごめんなさい。

その……下手、でした? 何分初めてと云いますか……」

 

「はい!?」

 

「ちょっと待ってよ! 私だってそこまでしてないのにカテレアちゃんだけズルい!」

 

「いや、ズルいも何もアナタのやってる事を考えたら私はまだマシだと思いますがね」

 

 

 真っ赤な顔して狼狽える元士郎を見て、私自身も顔が熱くなるのを誤魔化す様に、ショックで取り乱すセラフォルーを挑発する。

 自分からしておきながら今更ですが、恥ずかしいものですね……あはは。

 

 

「ふむ、助けた甲斐があったな」

 

「軽く修羅場になってるけどね……はは」

 

 

 

 

 元士郎とカテレアがキスをした場面を文字通り間近で見せられて思わず嫉妬してしまったセラフォルーだが、実の両親が暗黒騎士へと覚醒した元士郎に討伐された現実が残っていた。

 

 

「……。どうする? 切り落とされた手足を否定すれば元には戻せるが……」

 

「いや……今は良いよ。

アナタにそこまで面倒を見て貰う必要はないから。

ホント、何から何までアナタに尻拭いさせられでばかりだね」

 

「今回は事情が事情だしな……それは別に構わんよ」

 

 

 出血を止め、両親の命を繋ぎ止めるだけの処置を施す。

 最早この事件によってシトリー家の未来は決まった様なものであり、その家の出身である自分もどうなるか解ったものでは無い。

 だから魔王として実の両親の処遇をキッチリと下す覚悟を決めたセラフォルーは、遅れてやって来たサーゼクスとグレイフィアに事情を説明し、両親をレヴィアタン領の城に連れていくと伝える。

 

 

「多分シトリー家はこれで終わりだと思う……だからせめて殺さなかった元士郎君の意思通り、二人をソーナちゃんと同じ場所に……」

 

「いや待て」

 

 

 だがそれに待ったを掛けたのは、白髪になった一誠だった。

 

 

「何だい一誠君? なにかやり残した事が?」

 

 

 白髪になっている一誠に当初は目を見開いて驚いていたサーゼクスが、待ったを掛けた一誠に眉を潜めると、一誠は頷きながら、意識が戻り元士郎を見ながら恐怖に顔を引き吊らせていたシトリー夫婦を目にしながら口を開く。

 

 

「そんなにソーナ・シトリーの洗脳をどうこうしたいのであれば、廃神モード状態となった今、望み通りにしてやろうと思ってな」

 

「何だって?」

 

「ちょっと待てよ一誠! 何でそこまでするんだよ?」

 

 

 この言葉にサーゼクス達は目を見開いて驚いた。

 元士郎もまた同様にだ。

 

「言い方は悪いが、物の次いでだ。

俺もそろそろ、同じ顔をした男のせいでこういう事になるのは嫌なんでな」

 

「何だって? という事は……」

 

「あぁ……もし本物なら諦めて貰うが、兵藤誠八に洗脳された女達を元に戻す。

そして、兵藤誠八の今の姿を否定して――『元の姿』に戻す」

 

 

 右手に巨大な釘を。左手に巨大な杭を持った一誠がその言葉と共に地面に突き刺すと、廃神モードに措ける雰囲気の変化が手伝って実に寒気のする笑顔を見せながら、全てを終わらせると宣言した。

 

 その際、兵藤誠八の元の姿という言葉の意味が解らずに殆どが首を傾げたが、薄く口を半月の形にしながら嗤う一誠に誰もが圧されてしまった為、誰もその事について質問する勇気は無かった。

 

 

「だからソーナ・シトリーの両親よ安心するが良い。

貴様等の娘は正気に戻るかもしれんぞ」

 

「か、かもしれん……だと?」

 

「それはどいう意味、なんですか?」

 

 

 廃神モードによる弊害か。

 今の一誠は実に得体の知れなさの塊となっており、殆ど関わりの無いシトリー夫婦に、違和感だらけの笑顔を見せつけると、困惑している二人にその意味を教えた。

 

 

「洗脳をされてました、身体を許してました……なんて現実が一挙に押し寄せてきたら、人間ならその時点で精神が壊れるが……フッ、悪魔ならどうかな?」

 

「「!?」」

 

「わぉ、エグい……」

 

 

 解放によるリスクをアンバランスな笑顔で……。

 思わず元士郎は小さく他人事の様に一誠の言い方に対して突っ込んでしまうくらいに、今の言葉は衝撃を与えるのに十分なのだ。

 

 

「ま、待て! カテレア嬢にした様に、ソーナの身を元に戻すことは……!」

 

「私達はこの姿でも構いません! だ、だからソーナを……!」

 

 

 当然夫婦は切羽詰まった必死の形相で、手足の無い姿で懇願した。

 だが今の一誠は実にマイナスだった。

 実に負け、実に弱く、実に底意地が悪かった。

 

 

「良いぜ、洗脳された現実を否定する前のソーナ・シトリーが、俺に『助けてくれ』と言ってきたら、な」

 

 

 的確に相手の心をへし折る言葉を吐く。

 今の一誠は確実に過負荷(マイナス)だった。

 

 

「……!」

 

「コカビエルと戦った際、ソーナ・シトリーに『セーヤ君の邪魔をするな』……なーんて言われてたし、助けてくれなんて言いそうも無いがな」

 

「な、なに!?」

 

「おっと、だが最下層で暮らしている内に心境の変化があるのかもしれないし、一概には言えん。

……ま、左腕残しの達磨な兄貴様と最下層でも宜しくやってるようなら……希望もクソも無さそうだがな」

 

 

 

 終わり。

 

 

オマケ

 

 

 マイナス寄り化した一誠により、不安を煽られて震えるシトリー夫婦だったが、同じく妹を大事に思ってて複雑な表情を向けていたセラフォルーにだけ密かに一誠は耳打ちをした。

 

 

「……。ああは言ったが、アンタはまだソーナ・シトリーが大事なんだろ? 心配しなくても、本当に精神が壊れそうになったら処置はする」

 

「え?」

 

「……。別に俺は苦しむ姿を見る趣味もないし、アンタも元士郎の友人だからな……」

 

「あ、ありがと……」

 

 

 友人……。いや、恋人なんだけどなー……と突っ込みたい衝動に駆られたセラフォルーだったが、最低限のケアの手伝いはしてくれる事に内心ホッとした。

 どうであれ、ソーナはセラフォルーにとって大事な妹なのだ。

 

 

「さて、アナタ方の処罰は後程という事にしまして、元士郎君とカテレア……キミ達に提案がある」

 

「え?」

 

「何でしょうか? というか、グレイフィア・ルキフグスがアナタのお尻を後ろから触ってるのは何の冗談でしょうか?」

 

「気にしないでくれ、この女は病気なんだ……頭のね」

 

「「………」」

 

 

 ホッとするセラフォルーの横で、グレイフィアに尻を撫でられまくってる事に殺意溢れる表情を一瞬だけ向けたサーゼクスは、困惑する二人に向かって……どことなーく一誠の背後に君臨する人外の女性に対する欲望を孕ませたオーラを放ちながら提案とやらを話し出す。

 

 

「今回の事でカテレアはキミの傍に居た方が安全だと判断してね……。

で、もしよかったら今回の騒動の鎮圧に一番貢献したキミに魔王・ルシファーとしての褒美……という名目で匙元士郎君に特例で悪魔の駒(イービルピース)の生成可能な地位を与える事にした」

 

「はい?」

 

「……。元士郎は転生悪魔ですが……」

 

「確かにそうだけど、然るべき地位を持てば駒を持てるルールはある。

今回の事で匙元士郎君は暗黒騎士という、木場祐斗君と同じ例外中例外にて強力無比な力を覚醒させたし、実力はもはや最上級悪魔を越えている。

だから――」

 

 

 そう言いながら、何か打算的な笑みを浮かべたサーゼクスはチラチラと誰かにアピールしてますよと一誠にをチラ見しながらこう言った。

 

 

「キミがカテレアを眷属にするんだ。

そうすれば物理的にも立場的にもカテレアを守れるだろ?」

 

「「……………………は!?」」

 

「サーゼクスちゃん、それ私に喧嘩を売ってるんだよね?」

 

 

 唐突過ぎる話に面を喰らう二人と、一気に寒気のする無表情でサーゼクスを睨むセラフォルー……そして後からサーゼクスに抱き着くタガ外れのグレイフィア……。

 

 

「……。シュールだな」

 

「シュールだね」

 

 

 そのやり取りを眺めていた二人の少年は、ただただシュール過ぎる絵に入り込みたくは無かったのだという……。

 

 

「ちょっと待て! 駒なんざ持つつもりなんて無いし、そもそも持ったとしても、カテレアさんみたいな人が俺みたいなクソガキの下に付きたいなんて思うわけが――」

 

「……。元士郎……あの、その……元士郎とずっと一緒に居られるのなら私は大丈夫ですよ?」

 

「え!?」

 

「む!」

 

「元々私は捕虜ですし、今回で本来なら死んでいる筈でした。

だから……今度は文通じゃなくて……好きな時に好きなだけアナタと語らいたい……なんて……」

 

「お、お……う、うっす……」

 

 

 既に立てる様になっており、頬をほんのりと紅潮させながら元士郎の両手を握るカテレアに思わずドキッとしてしまう。

 またしても良い雰囲気に我慢できないセラフォルーは二人の間に物理的な意味で割って入って離すと、涙目で喚きだした。

 

 

「じゃあ私も元士郎君の下僕になる!」

 

「セラフォルーは王じゃないか……それは無理だろ」

 

 

 そう言いながらフッと笑うサーゼクスをセラフォルーをキッと睨む。

 

 

「何でサーゼクスちゃんは元士郎君とカテレアちゃんをくっつけようとするのかな!?」

 

「さぁ? 単なる偶然だろ……僕は別に誰と誰をくっつけようとなんて思ってないもの」

 

「ぐぬぬぬ!」

 

 

 すっとぼけるサーゼクスがチラチラと遠巻きに眺めていた一誠をチラ見する。

 ……いや、正確には一誠の背後に付く人外の女にだが。

 

 

「俺もっと強くなります。

強くなって、今度こそは絶対にカテレアさんを――」

 

「ふふ……そんな事を言われたら、嬉しくてどうにかなりそうですよ元士郎……」

 

「うぶ!?

お、おおっ……!?」

 

「あ!? ま、またカテレアちゃんは!! 元士郎君も何で抵抗しないの!?」

 

「し、知るか! な、何か知らないけど柔っこくて良い匂いがするからだよ!」

 

「だ、そうですが?」

 

「きぃー! 悔しいよぉ!」

 

 

 元士郎を抱き締めるカテレアに嫉妬しまくりなセラフォルー。

 レヴィアタンの称号の取り合いには負けたが、ある意味勝っているのは皮肉なのかもしれない。

 

 

「……。いい加減やめてくれないかキミ? 度が過ぎるようなら消すぞ」

 

「どうぞお好きに。アナタに殺させるのであるなら本望ですけど?」

 

「…………。チッ」




補足

カテレアさんは何とか復活しました……。
しっかしまあ……ヒロインやってんなぁ(近くのグレイフィアさんを見ながら)


同じ旧派だったグレイフィアさんは、サーゼクスさんに狂いすぎてセルフでセクハラまでし始める始末。
加えてひっぱたかれようがハァハァし始める。

ここに来てサーゼクスさんにとって究極の障害に覚醒しました。
多分シスコンが現れても興味なく……「邪魔、消えて」で終わらせるのかもしれない。


その2
廃神モード状態の一誠は暫くすれば戻りますが、この状態の時の底意地の悪さは半端無いです。


その3

元士郎君はこれにより一誠達と並びました。
そしてこれにより完全に冥界悪魔の中で名を知らぬ者は居ない程の有名人になりました。

 カテレア嬢を改心させたばかりか惚れさせた。
 セラフォルー嬢も骨抜きにした。
 悪魔の中二心を擽る暗黒騎士 呀。
 男の娘とロリ巨乳のどちらにもなるハーフ吸血鬼も惚れさせた。
 レヴィアタン丼。


 本人が聞いたら大騒ぎして否定する内容ばかりですがね(笑)


暗黒騎士 呀

元士郎の黒い龍脈と元士郎内にあった何かが力への渇望により共鳴し、融合した事に覚醒したこの物語の匙元士郎の力。

神器に措ける禁手化を遥かに越え、二天龍の覇龍――いや、無限の龍神すら喰らい尽くせる潜在能力があるこの鎧は、まさに他者の喰えば喰うほど無限に強くなれる。


加えて、祐斗やフリードと違って鎧自身のリミッターが常に外れているので、単純火力は二人を凌ぐ。


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騒動後のデビル共

完全決着前のほのぼの……だろうか。

※ちょっと直しました。


 シトリーの乱心。

 後にそう呼ばれる事件は、またしても人と転生悪魔の若者により終焉へと導かれた。

 

 特に元ソーナ・シトリーの兵士だった少年、匙元士郎の覚醒は、会合の際に居合わせた冥界上層部と若手悪魔を大いに驚愕させるに充分な程だった。

 

 

『俺は匙元士郎でも、転生悪魔の兵士でもない……!』

 

『我が名は呀――――暗黒騎士!』

 

 

 現魔王派により敗れ、それでも反逆を目論んでいた旧魔王派の中心人物の一人であったレヴィアタンの血族者を戦わずして投降させたばかりか、親密な間柄にまでなる。

 更には今回の事件により危機に陥った彼女を助ける為に、現魔王派の上層部に対して自分の身すらどうでも良いから助けに行くと清々しい啖呵を切った姿もあってか、ますます元士郎の名前は有名になっていた……良くも悪くもだ。

 

 

 

「――以上の事から匙元士郎の地位を更に昇格させ、悪魔の駒(イービルピース)の所持を認めようと思う」

 

「………………………………………………。」

 

 

 シトリー家の存続すら危ぶまれる戦いも終わり、途中で中断された若手悪魔の会合が再開されるや否や、魔王の席に座る現・ルシファーであるサーゼクスの言葉は、若手悪魔達を驚かせ、一部否定派の上層部の顔を曇らせた。

 

 

「またしても彼等によって我等悪魔は尻拭いをして貰ったんだ。寧ろ昇格程度で済ませられる訳がない程にね――おっと、まさかこの中で『今回は勝手に彼等がやったんじゃないか……』なんて思う恥知らずは居ないよね?」

 

『……』

 

 

 にっこりと、笑顔の威圧というべきなのか……。

 四大魔王の中ではセラフォルーと肩を並べる程に兵藤一誠達を何かにつけて庇い立てするサーゼクス・ルシファーの良い人そうな笑顔に対し、あまり一誠達を快く思わない面子は内心小さく舌打ちをする。

 しかし相手はあのサーゼクス・ルシファー……。

 甘いと何故か誤解されている男だが、基本的に他者に対してドライで無関心で、それでいて敵となれば何の躊躇もなく悪魔という種族から逸脱した力で叩き潰す現代の超越者の一人。

 

 表だって意を唱える――ましてや逆らう等、戦時中からのサーゼクスを知る面々に更々無く、ただただ無言で渋い表情を浮かべている。

 

 

「ん、結構」

 

 

 笑顔という名の威圧で『口だけの役立たず共が黙ってくれて何よりだね』と、内心黒すぎる事を考えながら、満足気に頷いたサーゼクスは、早速とばかりに安心院なじみに一番に近く、そして何時でも会おうと思えば会える唯一の人間である兵藤一誠とその仲間達に揉み手揉み手で媚を売り始める。

 

 

「そういう訳でだ、カテレアを確実に守れるという意味では悪くないと思うんだ……どうかな?」

 

「は、はぁ……でも俺だけってのは……」

 

 

 ニコニコニコニコニコニコと寧ろ露骨な笑顔に元士郎はちょっとドン引きしながら、自分だけ何かを貰うのは気が引けると、後ろで全員して姿勢良く整列している一誠達の方へ振り向く。

 

 ちなみに、サーゼクスがカテレアと元士郎の距離を物理的に縮めまくる案を出している事に対し、両親の治療と催眠を掛けて動けなくしてから戻ってきたセラフォルーが、何処か恨めしそうな顔でサーゼクスを睨んでおり、彼女の放つ氷点下のオーラも相俟って、誰も直視が出来ない。

 

 しかしサーゼクスはそんな事は知らんとばかりに爽やかに同じく帰還した元士郎、祐斗、一誠……そしてフェニックス家に戻り『準備』を終わらせたレイヴェル、白音、黒歌、ゼノヴィア、ギャスパーに微笑みかける。

 

 

「当然だけど、木場祐斗君と兵藤一誠君にも――」

 

「いや結構だ。

俺は只の人間だし、そもそも今回は元士郎の力により解決されたものだ。礼も褒美も必要ない」

 

「同じく。

ただ友達を助けた……それだけですから」

 

 

 元士郎と同じく報酬を渡すというサーゼクスの言葉に一誠と祐斗は自分自身に必要無いと首を横に振って辞退する。

 

 

「だが、カテレア・レヴィアタンの身柄をフェニックス家預かりにして貰えればそれで良い」

 

「それは当然だね。

物理的にも立場的に彼女を守るにはフェニックス殿の所が適任だ」

 

「むー……!」

 

 

 何故か白髪姿の一誠に周囲が怪訝そうな表情向けてるが、それら全てを無視してサーゼクスと話をどんとこ進めていく。

 

 

「ま、待て。

そう簡単に話を進めてしまっても、我等の承認を――」

 

「それとサーゼクス・ルシファーよ、すまんが『あの件』も……」

 

「わかってるよ、そろそろ互いに鬱陶しいからね。さっさと化けの皮でも何でも剥がして終わりにしてしまうべきだ。今後の事も考えれば余計にだ」

 

「うむ。

だが貴様に借りばかりでは悪いし、その、まあ、何だ……今度『セーラー服なじみ』と『巫女服白髪なじみ』の生写真でも――」

 

「ファッ!?

ほ、ほほほ、ほんとに!!? 欲しい欲しい超欲しいっ!

もうこれからは何でも言ってくれ! 越権行為と言われ様が何でもやるから!」

 

「あ、あぁ……あの、アンタの奥さんが凄い目を」

 

「え? 知らないよこんな変態。

そんな事よりアレなの? ちょ、ちょっと過激なのとかは?」

 

「……………。さ、さぁ……?

(じょ、冗談なのに本気にされた……)」

 

「セーラー服と巫女服安心院さん……にへへへへ!」

 

 

 

『…………』

 

 

 急に目をギラギラし始めるサーゼクスも、ドン引きしている一誠も難癖付けようとした初老悪魔の話を聞こうともしない。

 そもそも人としての力を逸脱してるといえ、人間が魔王相手に対等なやり取りをしているのは他の悪魔達からすればシュール極まりない訳で。

 黙して只立つのみを貫こうとしていた元士郎も、これには苦笑いしか出来なかったとか。

 

 

 

 

 

 ハァ、カテレアさんが無事で良かったと思うけど、結局今回もまた一誠達に助けられただけなんだよな。

 妙な力を獲ても、結局それは傷つけられた後だったし、マジで今度は絶対にこんな事が無いようにしないと……。

 

 

「カテレアさんは大丈夫だったの?」

 

「ええ、一誠様の幻実逃否(マイナス)により傷は否定されましたし、精神的にも問題ないとの事ですわ。

それにしても匙さんがよもや木場さんと同じ進化を辿るとは驚きでしたわ」

 

「ぼ、僕も近くで見たかったです……先輩のお姿」

 

 

 結局最後まで仕切り役っぽい初老のおっさんからは良い顔されないまま会合は終わり、帰るために控え室でちょっと談笑をしていた俺達。

 

 マイナス側のスキルの効力を絶大にする為に使用した廃神モードって奴のせいでなった白髪の姿に、レイヴェルさん以外の面々は最初かなり驚いていたが、今は慣れた影響で特に変わらず普通に接している。

 

 

「まさかの私とお揃いです。これはもう結婚ですね」

 

「お、お揃いというのとは違うというか……お、おい何か近いぞ白音」

 

「どっちでも良いよ。結局一誠の見た目が変わろうが関係ないもん」

 

「あ、あっそう……そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、お前も近いぞ黒歌。

というかその……当たりまくってて落ち着かない」

 

「いい加減イッセーにメチャメチャにされたい欲求が爆発しそうだからねー? 正直言うとお腹の中でイッセーが欲しいよってキュンキュンしてるんだよ?」

 

「燃やされたくなければこんな所で一誠様にベタベタすんな淫乱雌猫。

まぁ、一誠様に変わり無い云々の考えだけは同意ですけど」

 

「ふっ、お前に言われると心底ホッとするよレイヴェル……」

 

「ふふ、廃神モードの一誠様は子供の頃から何度も見てましたから」

 

 

 まあ、当然一誠にお熱なこの三人はこんな様子だ。

 何気にアイツハーレムだよなー……。

 

 

「ふむ、暗黒騎士か……」

 

「うん、凄かったよ元士郎君」

 

「だろうな、元士郎という男なら特にそうだろう。

だが私はお前の銀牙騎士の方が……」

 

「え、あ……う、うん……ありがと……」

 

 

 ……。で、騎士二人組も相変わらず天然でお熱い。

 フリードがラブカップルと煽るのも無理無いよなコレ。

 だって一番普通だし。

 

 

「元士郎先輩……。

あの、後で僕にも見せてもらえますか? 鎧を纏った姿を」

 

「ん、良いぜ。

あんまり見ても面白いとは思えねーけど」

 

 

 うーん……それにしても俺って何で元主に惚れたんだっけ? 今もそうだが、あの時は輪に掛けてクソ餓鬼だったんだなとしか思えねぇぜ。

 

 

「…………。後、カテレア様とキスしたんですよね?」

 

「ぶっ!? な、何で知ってるんだ……!?」

 

「…………。セラフォルー様が泣きながらブツブツと独り言を仰有っていたのを聞いちゃいました」

 

 

 分からない。そして思い出せないほどどうでも良くなってたせいだったからか、あの人からされた時は頭がパンクしそうになる位びっくりしたんだよな……。

 セラフォルー・レヴィアタン経由でギャスパーに知られて、何故か悔しそうな顔を向けられてるのが意味解んないけど。

 

 

「あれは、その……」

 

「満更じゃない……ですか?」

 

「だ、だって思っていた以上に良い人だったというか……余計に」

 

 

 そうなんだよなぁ。俺、あの人にされたんだよな。

 まさか過ぎて色々とワケわかんなくなっちゃったけど、あの瞬間だけは頭の中に鮮明に残ってる。

 目の前で一度殺されたのも、何も出来ずにただ見ていただけだった俺自身も。

 

 

「だからこそ、今度こそあの人を守る……そのつもりだぜ」

 

「いいなー……カテレア様」

 

「いや勿論お前等もだ。

今まで散々助けられてばかりだったし、今度こそ恩返ししなくちゃな」

 

 

 この思い出だけは、自分自身の戒めの為に忘れてはならない。

 この思い出を糧とし、もっと強くなる為に……。

 

 

「…………。何かご用でもバアル殿?」

 

 

 例えあらゆる奴から敵意を向けられようとも、それをなぎ倒して強くなる。

 友を守る……それが俺の生きる意味なんだから。

 

 

 

 サイラオーグは噂である程度知っていたとはいえ、ある意味ショックだった。

 人の身でありながら、生きる伝説とまで畏怖されているコカビエルを単身で倒した男が居て、その仲間達もまた自分達と変わらない年代なのに異常な強さを保持している。

 背後に変わり者一族であるフェニックス家の影があるのもそうだが、何よりもサイラオーグは自分が若手悪魔ナンバーワンだと言われている事が恥ずかしかった。

 

 

「バアル……だと?

―――ハッ!? そ、そうだアナタには謝らないといけませんね。

申し訳ございません……会合前は実に迷惑をかけてしまいまして……はい」

 

「……。い、いや」

 

 

 何せ目の前に居る種族バラバラな集団の多くは確実に自分を越えている実力者なのだ。

 一体どれ程の経験を経れば此処までになるのか……特にサイラオーグが気になるのは、ペコペコと慌てて平謝りする人間・兵藤一誠と、先程シトリー乱心事件の際に先陣を切って出撃し、見事果たした転生悪魔の兵士と騎士……匙元士郎と木場祐斗。

 

 

「個人的に用があって来た。

だから立場も気にせず――」

 

 

 

 この三人はサーゼクスがわざと仕込んでシトリー乱心事件の様子をリアルタイムで隠し撮りしていた映像で魅せられたせいで、余計サイラオーグの心に火をつけた。

 

 故に、単身で和気あいあいやっている所に赴いたのだが……。

 

 

「サイラオーグに先を越されましたか……」

 

「む!?」

 

「考えることは一緒みたいだね……ふふ」

 

 

 考えている事は似通っているらしく、サイラオーグに続いて現れたのはサイラオーグと同じ若手悪魔として会合に出席し、ゼファードル・グラシャラボラスから最初に絡まれていたシーグヴァイラ・アガレス……そして妙に影の薄かったディオドラ・アスタロトに、レイヴェル達は一斉に立ち上がり、レイヴェルを前に整列しようとする。

 

 

「いえ、既にアナタ方のやり取りを見て把握しているつもりですので、畏まらずに結構です」

 

 

 しかし若手悪魔も間抜けではない。

 シトリー乱心事件の際、何の権力もこの場に居る資格すら本来は無い一誠がレイヴェルに指示を送り、それを当然の様に従うばかりか様付けまでしていたのだ。

 寧ろ畏まられる事自体、おちょくられてる気がして嫌だったので、普通にして欲しいと嘆願する。

 

 

「…………だ、そうだがどうするレイヴェル?」

 

「向こうの嘆願なら断る理由はありませんわね。

寧ろ私は一誠様より上なのが嫌ですしね」

 

「おいおい……。

ま、隠してるよりマシか」

 

 

 フッと理由不明の白髪頭で小さく笑みを溢した一誠に三人の若手悪魔はちょっと息を飲んだ。

 何せゼファードルの件の際、自身を加えて眷属総動員で止めようとしたのにまるで止まらず、結局止めたのがレイヴェル達だったのだ。

 今はあの時とはまるで違う雰囲気で、寧ろ何も感じられないが、それでも淀んだその瞳は『底知れなさ』を感じさせる。

 

 

「ゼ、ゼファードル・グラシャラボラスの件ではお世話になりました」

 

「は? ………。いや悪いが何の事だ?」

 

「へ?

ほ、ほら……アナタが気を逸らしてくれたおかげで……と言いますか」

 

「気を逸らした……………あぁ」

 

 

 そして何よりも『やり辛い』。

 底知れなさと、異常な戦闘力を持つ一誠にまずは挨拶とジークヴァイラが頭を下げるが、一誠はまるで気にもせず寧ろハッキリと言った。

 

 

「別に貴女の為にとかは無い、そもそもアレは偶然そうなっただけだしな。

ぶっちゃけ、絡まれなかったらそのまま放っておくつもりだったぐらいだ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 ゼファードルとは超真逆の……明らかに『キミに興味が一切ございません』な表情でキッパリ言い切る一誠に微妙に悔しさを覚えるジークヴァイラ。

 

「あくまで俺はレイヴェルを守るつもり――という建前の基、知らん男にベタベタとレイヴェルが触られるのが嫌だったのと、笑えもしない台詞をそのゼファードルとやらが吐いたので頭に血が昇ってしまったんでね。

……。大体何がジークヴァイラのおねーさまより楽しめそうだだカスが……」

 

「………」

 

 

 

 

「これでまだ解らぬ様なら今度は―――――――っ!?

あ……っと、こほん……すまん、だからとどのつまり、俺の未熟な精神から放り出した小さな独占欲がだな」

 

「んっ……やぁん♪

嫌ですわ一誠様。こんな大勢の前で言われたら、レイヴェルは嬉しくて一誠様と早く子を為せと下腹部から喜びが沸いて――」

 

「レイヴェルも私達の事言えないにゃ」

 

「所詮同じ穴の狢」

 

「黙りなさい! 常時発情してる貴女方に言われたかありません!」

 

 

 

「まぁ、そういう訳なので全く気にしなくて結構。寧ろ忘れてくれ」

 

「………………」

 

 ゲスな視線を向けられるのは不愉快だが、こうまで無関心な顔をされるとそれはそれで色々と負けた気分というか……逆にあそこまで激怒させる程に大切にされているレイヴェル・フェニックスにそういう意味では無いが嫉妬すら覚える。……何か一誠に言われてクネクネしたり、猫妖怪の姉妹と言い合いしてるけど。

 じゃあそれならと、サーゼクスの仕込みで見た映像で暗黒騎士呀なる鎧を纏ってシトリー夫婦を蹂躙し、此度の件で更なる出世を果たした匙元士郎なる転生悪魔に話し掛けてみるも……。

 

 

「アナタの事も映像で拝見しました。暗黒騎士の力を……」

 

「あ、はいそっすか」

 

「なっ……!?」

 

 

 この少年も少年で自分なんてどうでも良いとばかりに首をゴキゴキと鳴らしていた。

 いや確かに接点なんて眼鏡呼ばわりされた時以外無いけど、こんな無感心顔される謂れも無かったので軽くイラッとする。

 

 

「そうだ、帰りにカテレアさんにゼリーでも買って帰ろ。………あの人の舌に合うのが売ってれば良いが」

 

「あ、僕も付き合いますよ先輩」

 

「マジ? 半分女だし好みの判断はお前の方が詳しそうだし、頼むぜ」

 

 

 

「な、何ですかこの強烈な敗北感……」

 

「……」

 

「プッ……どんまい?」

 

「う、うるさい! どっちも笑わないでください!」

 

 

 名家の令嬢なんぞ糞喰らえな対応と、余りにも無関心な二人の態度を見たサイラオーグが無言でジークヴァイラの肩を叩きながら生温い笑みを浮かべて慰め、ディオドラに至っては普通に嘲笑ってきたので、羞恥と悔しさに思わず顔を真っ赤にしながら睨み付ける。

 

 

「く、ど、どうせ彼も無関心なんでしょうが、此処まできたら最後までやってやりますよ!」

 

 

 最早ヤケクソになったジークヴァイラ。

 ゼファードルぐらいとなれば嫌悪だが、無関心は無関心で悔しいし、別にそんな気持ちなぞ抱きもしないが女としてのプライドもある。

 故に最後の矛先であり男性である、白銀の鎧を纏いし金髪の少年にちょっと威圧的になってしまいながら話し掛けてみると……。

 

 

「あ、見ていただけたとは実に光栄です。

ありがとうございます、これからも友と切磋琢磨していきますのでどうぞよろしくお願いします」

 

 

 …………。前述二人が嘘の様に丁寧に返事をされた。

 

 

「へ!? あ……は、は、はい……」

 

 

 これには逆の意味で不意打ちを食らってしまい、言葉に詰まらせてしまうのは多分仕方ない。

 何せジークヴァイラ達は知らないが、廃神モード状態のせいで色々と底意地が悪い一誠と、さっさと帰ってカテレアの無事な姿を見てから修行したい元士郎の態度がこれなのだ。

 祐斗の対応は未熟なのかもしれないけど十二分に紳士的だったのだ。

 

 

「きゅ、急に振られてびっくりしたぁ……」

 

「無難な対応だと思うし、大丈夫だと思うぞ?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うむお前の社交性は素晴らしいぞ。私も是非見習いたい」

 

「そ、そんなに誉められると照れちゃうな。ゼノヴィアさんからだと余計だよ」

 

「む……む……ほ、ほらやっぱり」

 

 

 

「………」

 

 

 まあ、疎外感というか敗北感は全然変わらなかったが。

 

 

「それじゃあ俺達はこの辺で……。

あの、個人的な話なんだが……今度お前達の修行を見に行っても構わないか?」

 

「む? ほほぅ……サイラオーグ・バアルは凄い努力家と聞いたことがあるが成る程な。

見に来る処か寧ろ夏休み期間はフェニックス家に皆居るし、シュラウドのおっさんとエシルねーさんも歓迎するだろうから一緒にやってみないか?」

 

「な、なに!? い、良いのか!?」

 

 

 何はともあえ、ジークヴァイラの敗北感を残した若者同士の会合はこれにて終了した。

 然り気無くサイラオーグが変わり者最強一族のフェニックスと一誠達の強さの秘密を探る処か、一緒にしようじゃないかと提案して貰い、次の日からサイラオーグが来城する流れとかになっていたりするが……。

 

 

「わ、私ってもしかして男性に受けない女……?」

 

 

 ジークヴァイラは独り女としての自信を、よりにもよって身内以外がどうでも良い思考の面子のせいで粉々にされて項垂れ……。

 

 

「ねぇ、兵藤君……初対面のキミに図々しくも一つ悩みを聞いて欲しいんだけど……」

 

 

 最後の一人……ディオドラ・アスタロトは一誠達――いや、一誠達と関わった集団で今は最下層送りとされている中の誰かを幻視しながら、一誠達からすれば実に胡散臭い笑顔を浮かべながら悩みの相談を持ち掛ける。

 

 

「……。(赤龍帝を始末する役は取られたが、彼女はまだ死んでない。

ふふふ……キミだけは絶対に取り戻す)」

 

 

 寝取られた金髪シスターを取り戻す為に。

 

 

「……。何故だかディオドラ・アスタロトとやらから、なじみ関連でおかしくなるサーゼクス・ルシファーの気配を感じるのだが……」

 

「じゃあそれ確定変態じゃねーかよ」

 

「ちょ、ちょっと二人とも……! ま、まだそうと決まった訳じゃ――」

 

「ゲッ、今見えたんだけど、アイツが羽織ってるマントの下は、あの男に引っ付いてたシスター服の娘がプリントされたシャツにゃん」

 

「―――――ごめん、僕が間違ってた」

 

 

 動体視力が異常じみてる黒歌によって、シスター萌えの性癖が既にバレてしまってる事も気付かず――

 

 

「相談というのはね、実は解散となって最下層に閉じ込められてる元グレモリー眷属の中に僕の妹であり見習いシスターだった子が居て――」

 

「お、おい何か語り始めちゃったぞ? どうすんだよ?」

 

「うむ……見習いシスターって誰だ?」

 

「見習いシスター……思い出しました。確かアルジェント元先輩ですよ」

 

「あー……うん、間違いないね。

確か血の繋がった家族は居ない筈というか、悪魔の時点で嘘がバレるって解らないのかなあの方は?」

 

 

 

「寝るときも一緒でお風呂も一緒で何もかも一緒で、最早兄妹の枠すら越えた愛で結ばれてるんだ僕とアーシアは! だから何とかならないかな!?」

 

 

 ディオドラ・アスタロトは……かつて正気だったアーシア・アルジェントに神器で治療を受けた以降、異常なまでの執着心を抱いた結果――

 

 

「ついでに赤龍帝のナニを永遠に使えなくしても良いかな!?」

 

『……』

 

 

 どっかの誰かみたいな変態に目覚めてしまった哀れな悪魔だったのだ。

 血走った眼光で問うディオドラに、一誠達はただただしょっぱい顔だったのだという……。

 

 

「変態はないにゃー」

 

「ええ、ましてやストーカーなんて最低ですね」

 

「絶対当時の私物とか盗んですよあの人……」

 

「うわー……ドン引きですわ」

 

 

「…………。え、これ突っ込んで良いのか俺は三人に?」

 

 

 そんな新たな敵……っぽい何かと邂逅してしまった一誠達はそのまま帰った。

 そして残った最後の仕事である過去の清算を果たすまで、一誠達はフェニックス家でのほほんとしながらも、その実力を更に磨きあげていく日々を過ごす日常へ……。

 

 

 

 

 正直セラフォルーは焦っている。

 実家の状況が壊滅状態になってしまった……では無い。

 自分より遥かに後知り合いの筈のカテレアと、マイハニーこと元士郎の距離が近いのだ。

 しかも先のシトリー乱心事件と、何故か水を得た魚のようにサーゼクスが動いたせいで、今カテレアはフェニックス家預かりとなっていてフェニックス城で暮らしている。

 

 つまりそれは、夏休み期間の丸々一ヶ月を元士郎とカテレアは一緒なのだ。

 まさに由々しき事態故に、最近のセラフォルーはデキる女アピールをしようと魔王の仕事を正確に……されど超絶スピードで日々終わらせては、カテレアの様子を見に来たと嘯いてフェニックス城に足を運んでいた。

 

 

『くっ……』

 

『剣に関しては僕の方が一日の長があるからね、そう簡単には負けないよ!』

 

 

 今日も超絶スピードで仕事と壊滅状態のシトリー家の後始末を済ませたセラフォルーが訪ねると、フェニックス家中庭にて鎧を纏った二人の少年が得物を持って実戦さながらの斬り合いに興じている様子が見えた。

 

 

「せんぱ~い! 頑張ってください~!」

 

「元士郎、熱くならず落ち着いて」

 

『へへ……承知!』

 

 

 剣がズブの素人である元士郎の剣術特訓に『力の制御の封印がされていない』カテレアが仲間達と混ざって眺めている。

 フェニックス家に身を置いているので当然と言えば当然なのだが、セラフォルーの釈然としない気持ちは一向に晴れる様子は無く、楽しげに眺めていたカテレアの隣にちょこんと座る。

 

 

「や、カテレアちゃん」

 

「セラフォルー」

 

 

 思えばすれ違いばかりな関係だったのに、気付けば同じ少年に惹かれているのは何の因果なのか。

 黒き鎧を纏う元士郎の修行を眺める二人は、前ほどギスギスしたものは無くなっている――と少なくともカテレアは思っていた。

 

 

「良いよねー……カテレアちゃんは……」

 

「………」

 

 

 が、勢いで元士郎と交わしたキスとサーゼクスによる提案以降、セラフォルーはかつてレヴィアタンの称号を奪われた自分が向けていた様な嫉妬念を向けてくる様になった。

 カテレアも鈍くはない。理由は分からないが、セラフォルーもあの放って置けないタイプの元士郎に惹かれているのは、同じ惹かれ者同士としてよく分かる。

 

 しかしだからといってセラフォルーに遠慮する気は全然無いので、カテレア自身は突っ掛かる事もせずただ構えているだけだった。

 

 

「今日も履いて来なかったんだけど、元士郎くんはドキドキしてくれるかな? どう思うカテレアちゃん?」

 

「…………。だから痴女魔王と元士郎から蔑まれるんですよ貴女は」

 

「えー? でもでも、前は鼻血出しながら気絶するほど喜んでくれたんだけどなー」

 

「それは多分、ショックが大きすぎたせいで気絶したんだと思いますけど……」

 

 

 ……。というか、何もしなくても勝手に自爆しそうな相手に警戒もへったくれも無いというべきか。

 斬り合いが終わり、鎧を返還して生身に戻った元士郎が膝を付きながら汗だくで息を切らせている姿を、瞳を潤ませ、頬を紅潮させながら眺めているセラフォルーに引きながらカテレアは内心、その変態性が治らなければ一生無理だと思った。

 だいたいそんな短いスカートで下着を付けてないって……私はこんな女に負けたのかと思うと逆に惨めにすら思えてしまうのも無理はなかった。

 

 

「ふぅ、やっぱ木場は強いな……」

 

「お疲れさまです元士郎」

 

「お水です」

 

 

 数十メートル上空では、飛行手段が無い筈の一誠……しかと廃神モード状態が、レイヴェル、白音、黒歌と共に、会合以降セラフォルーと同じくフェニックス家に足を運ぶようになったサイラオーグ達と組手をしていたりするその下で、フラフラした足取りで戻ってきた元士郎に労いの言葉を掛けるカテレアと男の子モードのギャスパーと……

 

 

「タオルゲーッツ☆」

 

「あ、返せ!」

 

 

 元士郎の身体を拭いたタオルを掠め取るセラフォルー……。

 会合以降、一誠達の存在とその実力を知り、己を高めたいと願う悪魔が訪ねてくる事が多くなることでフェニックス城は実に賑わう様になっていた。

 

 

「返せコラ!」

「やーだよ。

元士郎くんの匂いが染み付いたタオルに価値があるんだもん☆」

 

 

 ……。まあ、一部はそんな健全な理由では無いが。

 

 

「………………」

 

「私……何で負けたのか本当にわかりません」

 

「バカの行動は予測不能だからじゃないですか?」

 

 

 タオルを奪い取り、顔に押し付けながらハァハァし始める姿を見て更なるショックを受けるカテレア。

 かつての宿敵が年下の少年の持ち物を盗んで、ハァハァしてれば余計にである。

 

 

「はぁはぁ……元士郎くんの匂いがしてキュンキュンしちゃうよぉ……☆」

 

「……。陰我まみれだなこの女。

喰ったらさぞ強くなれるだろうぜ」

 

「え!? 元士郎くんったら私を食べてくれるの!?

そ、そんな……初めてなのにお外で、しかも皆に見られながらなんて……元士郎くんのえっち♪」

 

「やっぱ喰わずに殴った方が世の為だわ」

 

 

 元士郎の使用済みタオルでトリップしつつ、何の事を言っているのやら、ひたすら『ちょーだいちょーだい♪』と然り気無く引っ付こうと近付くセラフォルーから露骨に距離を取りつつ、ちょっと落ち込んでるカテレアを励ます元士郎。

 呀へと覚醒し、シトリー夫婦を達磨にした事で嫌ってくれると思いきやそうでもなく、寧ろ露骨になってきてるセラフォルーは元士郎でもよく分からず、なまじ魔王を名乗るだけの実力があるせいで煙にも撒けない。

 そして何より近日行われる完全な『清算』により起こる騒動を考えると、正直少しはセラフォルーに同情を覚えるので、今だけはアホを言わせても良いのかもしれないと思ってしまう。

 

 

「ぁ……ん♪」

 

「……。おい、今なんでブルッて震えんだ?」

 

「えへ、知ってるくせにー? ホントえっちなんだからー♪」

 

「……」

 

 

 ある意味ストーカー属性としては一番質の悪いタイプだ。

 しかもストーカーの自覚をしておきながら開き直ってるので余計にだ。

 

 

「ちゅーしようよ?」

 

「する訳ねーだろうが! ざけんな!!」

 

「ふざけて無いよ! 真剣だよ! カテレアちゃんは良くて私は駄目なんておかしい!」

 

「逆ギレしてんじゃねーよ! 寧ろホイホイする野郎の方がおかしいだろうが!!」

 

 

 ノーパンなのに気にせず飛び掛かって来るセラフォルーから逃げる元士郎。

 ソーナの件とシトリー夫婦の件で痴女魔王呼ばわりからセラフォルー・レヴィアタンと呼び名を変えた辺り、それなりに距離が縮まってるとはいえ、セラフォルーからすればカテレアの事もあるのでまるで足りない。

 

 キスしたのであるなら自分だってキスをすれば良いし、そこから続けで凄いことをしちゃえば尚良い。

 

 

「やめなさいセラフォルー! 何時までもしつこいと本当に元士郎に嫌われますよ!」

 

「ふーんだ! 私はこうでもしないと勝てないんだもん! 寧ろ元士郎君に変態と罵られながら縛られてバシバシされても良いもーん!!」

 

「するかっ!!」

 

 

 セラフォルーという女性は……実に情熱的だった。

 

 

 そして……。

 

 

「イッセーの使いたてタオルとジャージだにゃー!! あとペロペロ!」

 

「ひぇっ!? く、首はやめてくれぇぇっ!?」

 

「ま、また……! やめてください黒歌姉様! 私だってべろちゅーしたいのに!」

 

「っざけんな変態雌猫が!! 今日こそ燃やし尽くしてやるぞゴラァ!!」

 

「レ、レレ……レイヴェル口調口調! マジ切れエシルねーさんになってるから!」

 

 

 

 

「……………。なるほど、こういう日常が兵藤達を強くするのか……」

 

 

 類は友を呼ぶ………つまり、そういう事だたった。




補足

安心院さん←サーゼクスさん←グレイフィアさん←超シスコンという流れで続くストーカー連鎖

いや、サーゼクスが安心院さんに対してやってるのは兎も角、グレイフィアさんは夫になんだからまだ良いけど……似た者夫婦化してるのは否定しようもない。

そして一誠はなじみさんの生写真を借り返しであげると言ったことをかなり後悔してたり……。

理由? ちょっとスケベなのくれ! とギラギラした目で言われたらそうもなろう……。


その2
駒持ちの地位まで昇格は内定しましたが、まだ駒は持ってません。
色々と落ち着いてから後日改めて……ですかね。

まあ、既に彼を支える候補は居ますが。

その3

はい問題です。

キスをしてました、ヒロインしてました。
だからといって彼女が大人しく引き下がりますか?

答えは……まあ、今話の通りさ。


ね、やっぱりセラフォルーさん可愛いでしょ?(棒)


ラス。

ディオドラさんは変態だった。
ただし……こう、この世界基準の変態というか……まあ、サーゼクスさんと似てるようでちょっと違うというか……。


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色々な愛情・セカンドシーズン

完全決着前のほのぼの……その1
※間違った箇所を入れ換えました。



 気分が良いね。

 このまま冥界内をスキップしながらお散歩出来ちゃうくらいに気分が良い。

 

 何でかって? そんなものは決まり切っている事じゃあないか。

 

 

『見返りとしてセーラ服すがたのなじみと、巫女服姿のなじみの生写真でも……』

 

 

 余計な事ばかりする周りのせいで、安心院さんとの繋がりが強い一誠君に悪魔に対して不信感を抱かせてしまう馬鹿ばっかりでイライラしてたけど、まさかのこの一言に僕は確変を感じるには居られないよ。

 

 だって生写真だよ? それも会いたくても会えない安心院さんのだよ? そんなもん、わざわざぶち落とした馬鹿共を引き上げて一誠君達に完全なる決着をつけさせる労力なんて惜しむ訳がないじゃないか。

 

 

「セーラ服に巫女服かぁ……くふふふふふふ!」

 

 

 出来れば直接会って色々として貰いたいというのが本音だけどがっつくばかりも良くないと最近勉強したし、何より写真だけでも今の僕にしてみればこの世に存在する価値のある全ての物がゴミに思えるほどの代物さ。

 

 もう想像するだけで堪らなくなっちゃうぜ!

 

 

「……………」

 

「くふ、ぐふふふ……早く三日後にならないかなー?」

 

 

 が、僕には写真も楽しみだけど、その前に何とかしなければならない邪魔者が一人いる。

 それはそう……最近になって何を一人で勘違いしてるのか、僕に対して違う意味で鬱陶しくしてくる女――グレイフィアの事だ。

 

 

「…………。随分と楽しそうですね」

 

「あ? 何だ居たのか……。

そりゃ楽しみさ……何てったってあの安心院さんの生写真をこの手に出来るんだもの」

 

 

 本当にここ最近になってこの女は意味が解らないというか、考えが全く読めなくなった。

 何を思ったか劇薬レベルの薬を盛って僕を辱しめたばかりか、平然と公然の場でセクハラまでしてくる。

 何処と無く匙元士郎君に対してセラフォルーがしているらしいソレに似てなくもない。

 

 数年前までは僕に殺意を見せてた癖に……まったく以て解らなくなった。

 

 

「また安心院さんですか」

 

「何その顔、文句でもあるわけ?

まさかと思うけど、キミがあの人に張り合うなんて、無駄で無謀で無意味な考えをしてるじゃないだろうね?

だとしたらハッキリ言ってやる……キミじゃあ生涯を懸けてもあの人には勝てないよ」

 

「………」

 

 

 まあ、考えてみたらこの女の弟が気色悪いレベルの執着をこの女に向けてたし、血は争えないと考えれば納得の出来る話ではあるんだよね。

 随分昔にこの女の弟に因縁掛けられた事もあったし、その時はイライラしてたからついぶちのめしちゃったけど、今にして思えばさっさと返してやれば良かったと後悔すら覚えるよ。

 

 

「そうですか、余程アナタの中に存在する安心院なじみなる女は良い方なのですね」

 

 

 最近は更に何を考えてるのか解らない無表情で問い掛けてくるグレイフィアに僕は堂々と頷いてやる。

 

 

「当然さ。キミでは足元にすら到達できない最高の―」

 

 

 キミでは到達できない。キミではどう足掻いても無理、無駄、無意味、無謀――と言い切ってやろうと、許可してないのに僕の自室の扉の前で直立不動の嫌いな女に嘲笑う表情を浮かべてやろうとしたその時だった。

 

 

「う……!?」

 

「……」

 

 

 突然目の前がぐにゃりと……まるで空間が歪む。

 グレイフィアの姿も捻れてる様に見える……いや、それ以上に身体に力が入らない……!?

 

 

「な、何だと……これ、は……!」

 

 

 それに続いて激しい動悸と全身が燃える様に熱くなり、堪らず僕は立ち上がろうとしたけど、全身に力が入らない処か座っていた椅子から転げ落ちる様に床へと倒れてしまう。

 

 

「な、なんで……ば、ばかな……!?」

 

「…………………」

 

 

 訳が解らないまま、自分の体調の急激な変調に僕はグルグルとする視界と思考のまま、突っ立ってる女の顔に視線だけを移してみると……。

 

 

「……………………………………………………………ふふ」

 

「!?」

 

 

 女は…………僕を見下ろしながら無表情だった表情が嘘の様に笑っていた。

 つまり……またやりやがったのだこの女は……!

 

 

「言われた通りにしたらちゃんとできた……ふ、ふふふ」

 

「なんだと……!?」

 

 

 まるで押し込んでいた歓喜を一気に解放するかの様な寒気のする笑みを浮かべたグレイフィアの言ってる意味は……僕にはわからなかった。

 

 

 

 

 安心院なじみ。

 サーゼクスが何時までも執着する女性の全貌は私にはイマイチ分からない。

 だが自分の気持ちを完全に自覚して受け入れた今、その女に執着するサーゼクスはとてもとても見たくない。

 

 

「熱い? それとも苦しい?」

 

「さ、触るなぁ……!」

 

 

 ならどうするか? 簡単だ……嫌がらせだと言われようが、私は溜まりに溜まったこの想いをぶつけ続けるだけ。

 それが喩え間違いだとしても、劇薬を盛ろうとも……。

 

 

「夢の中に出てきた、顔に包帯を巻いた少女に言われた通りというか、アナタ相手でも効果抜群な調合を教えて貰ったお陰で動けない……ふふふ」

 

「に、にゃにを……」

 

 

 どうすればサーゼクスを縛れるのかと悩む私が見た夢に出てきた包帯を顔面に巻いた少女に言われた通りに薬を作って盛った。

 その結果は予想を超え、今私の足元に苦しそうな息をしながらサーゼクスは倒れ、呂律も回らない舌で何かを言いながら私を睨んでいる。

 昔の私なら蔑んでたかもしれない……けど今は違う。

 

 

「っあ!?」

 

「あぁ……苦しいわよね? 辛いわよね? 私のせいで堪らなくなってるわよね? あは、あははは♪ 大丈夫よサーゼクス、その辛さは直ぐに無くしてあげる」

 

 

 どうしようもない男だけど……堪らなく愛しい。

 身勝手で、容赦無くて、安心院なじみに通じる存在以外はどうでも良いとすら思ってる非情男にかつては大嫌いだと思っていた私だけど、無理矢理作らせた自分の子に向ける優しさを見てしまったせいで……私はこの男を憎めなくなった。

 だから私は憎むではなく、嘘で塗り固めた関係じゃない本物で逃れられない関係になりたい。

 

 

「あ……な、なにを盛った! この前より……くぁ……!?」

 

「あぁ……サーゼクス、どうするの? 収まったら私を殺すの? それでも良いわ……それでも構わないわ。

アナタに無惨に殺される事すら……今の私には幸福よ」

 

 

 その為に夢で見たモノすら使う。

 ひぃひぃと熱くなってる身体に触れた途端、ビクビクッと痙攣しながら逃げようと床を這いずるサーゼクスの姿を目にすれば、私の身体は熱を帯び……下腹部が切なく疼いてしまう。

 

 

「あぁ……サーゼクス……サーゼクス……! こうなる前に私を殺さなかったアナタのせいよ。

嫌いだったのに、今は何をしてもアナタが欲しい……!」

 

「ひぇ……が!」

 

 

 本能に従うようにサーゼクスの身体の上に乗った私は、それでも拒絶したいと願う目を向けられる事すら……歓喜を覚えてしまい、満足に動けなくした最大の理由を執行しようと、私は身に付けていた衣服のボタンを外し肌を露出させる。

 

 

「な、何度もこのぼく、がぁ……!」

 

 

 あぁ……その目。

 どう足掻いても私を受け入れないというその目。

 辛いわ、寂しいわ、苦しいわ……でも。

 

 

「アナタを想うのは本当よ。

今更だけど……ね、感じるでしょう? 初恋をした少女みたいに高鳴る私の胸の鼓動を」

 

 

 私はそれでも止まらない。

 サーゼクスの手を取り、自分の胸に押し付けながら心音を感じさせた私は――

 

 

「レーティングゲームが出来るくらい……アナタとの子供が欲しいわサーゼクス……」

 

 

 夢の中で出会った奇妙な少女の――『おう、オレもチャランポランな男にアンタと似た様な事を思ってるからよくわかるぜ。だから敢えて助言してやるとするなら……最初から嫌われてるなら嫌われてるなりにヤッちまえ』――という言葉に従い、ひぃひぃと可愛くすら思える悲鳴を小さくあげるサーゼクスを…………食べることにした。

 

 

 

 フェニックス家に身を寄せる様になってからの私は、これまで以上に充実した日々を過ごしている気がする。

 それは多分、私を命掛けで助けてくれた元士郎の近くで過ごしているからだと私は思う。

 

 

「えーっと、取り敢えず三番が六番に膝枕」

 

「また微妙に恥ずかしい所を突いてくるなライザーめ。

まぁ良いか、三番と六番は誰だ?」

 

「あ、私が三番です」

 

「ろ、六番は俺……」

 

「ほう、元士郎とカテレア・レヴィアタンか」

 

 

 シュラウド卿が突然『王様ゲームを開催する!』と割り箸片手に宣言した勢いに圧されるがまま、フェニックス夫婦の部屋に集まった私達は王様ゲームをしていた。

 そのメンバーの中には私も入っているし、今日もやっぱり来たセラフォルーも入っている。

 

 

「じゃ、じゃあ元士郎……良いですよ?」

 

「う、ういっす……」

 

『(ニタニタ)』

 

「ぐぎぎぎ……! カテレアちゃんめ……!」

 

「……。(良いなぁ……カテレア様)」

 

 

 三男のライザー殿が命じた通り、三番を引いた私が六番を引いた元士郎を膝枕させる。

 相手が相手なのと、セラフォルーとハーフ吸血鬼の子供以外の面子がにやにやしてるせいで変に緊張してしまう。多分私の顔は真っ赤になってる筈……。

 

 

「ど、どうですか元士郎……?」

 

「え、えーっとフワフワしててカテレアさんの良い匂いがする……?」

 

「え、あ、そ、そうですか……」

 

「ぐぬぬぬぬ! な、七番だったら私だったのに……!」

 

「……。(五番だったら良かったのに……)」

 

 

 私の膝に頭を仰向けに寝て乗せた元士郎の顔も赤い……。

 自覚というか、これまで出会った男達が全て駄目に思えてしまう程に元士郎という年下の男の子に心が奪われてしまった私は、どんな小さな事でも良いから元士郎の好みになりたいとすら思っていた。

 まるで初恋をした少女みたいに……。

 

 

「ふむ、取り敢えず元士郎とカテレア・レヴィアタンは暫くそのままだ」

 

「えーっ!? そんなの贔屓だよ!」

 

「………」

 

「仕方ないだろう? ゲーム執行中は最低五分は執行しなければならないんだから――っと、次は俺が王様だな。

よし……一番が八番に抱き着いたままゲームを続けろ5分間な」

 

「む、一番です」

 

「八番は私ですわね……」

 

 

 私達にそのまま暫く動くなと取り残し、残ったメンバーでゲームを再会するのをぼんやり眺める。

 

 

「チッ、鳥だからってこんな胸肉を……」

 

「殺気を込めて睨んでもアナタの胸が大きくなることはありませんよ? ふふん」

 

 

 これがもし私ではなくてセラフォルーだったらと思うとホッとしてしまう辺り、私は随分と元士郎に惹かれてしまったんだと今更ながらに思っていると、同じ体勢で辛くなったのか元士郎がもぞもぞと頭を動かす。

 

 

「んっ……!」

 

「あ、す、すいません……!」

 

 

 それが少しばかり擽ったく、ちょっと声を出してしまった私に元士郎がわたわたした顔で謝ってきたので、私は自然と彼の頭を撫でながら大丈夫だと返す。

 

 

「…………………むー」

 

 

 セラフォルーが一々こっちを気にしてるせいで若干気が散るけど……。

 

 

「元士郎。

こう、私の腰に腕を回してみますか? そうした方が楽かと……」

 

「え!? い、いやそれって抱き枕……」

 

「枕だし一緒ですよ。

わ、私としてもそっちの方が楽ですし……」

 

「は、はぁ……じゃあ」

 

 

 セラフォルーを悔しがらせられるのであれば、何でも良いので私は別に気にしなかった。

 ほら……ちょっと恥ずかしいけど元士郎に提案して乗ってくれた途端、セラフォルーがまた悔しそうにしてる。

 

 

「あ、私が王様だ!

じゃあねぇ……名前にイが付く男の子!」

 

「イだと? ええっとイは――」

 

『………』

 

「……。解りやすい視線を全員でありがとう。確かに俺だよな……はい、で、何をするんだ黒歌よ?」

 

「こうする……にゃ!」

 

「わぶ!? ま、またか!」

 

「あっん……♪ イッセーの息が掛かって気持ちいいよぉ……。

五分はこのままお願いね?」

 

「ふがふが……!」

 

 

「姉様ってこういう悪知恵は人一倍ですね」

 

「ゲームだから多少は黙りますけど……何か負けた気分ですわ」

 

 

 そんなに無言で睨もうが手を緩めるつもりは無いわよセラフォルー

 私だってこの男の子に惹かれてるのだ……今更アナタに気を遣うなんて無い。

 

 

 

 

 や、やべぇ。

 この体勢って前に一誠がレイヴェルさんにしてたのと同じだよな? ま、まさか俺がそれを体験するなんて思っても無かったっつーか……うわぁ。

 

 

「じ、自分で提案しておいて何ですが、これはまた人前でやるには結構な心の準備が必要でしたね……」

 

「っすね……」

 

 

 一誠がああした理由が解ったわ。

 確かにこれはフワフワしてよく眠れそうというか……カテレアさんってやっぱ女性らしい体型してるから柔らけぇ……。

 

 

「お腹が柔っこくて暖かい……」

 

「あ……っ……! げ、元士郎……そんなに顔を埋めたら恥ずかしいというか……い、位置的に……」

 

「へぁ……?」

 

 

 何かもう眠い。

 カテレアさんが耳元で恥ずかしそうに何か言ってる気がするけど、フワフワし過ぎてよく聞こえねぇ……。

 

 

「う……て、提案しておきながら恥ずかしい……」

 

「………。カテレアちゃんのスケベ」

 

「なっ!? あ、アナタに言われたく無いわ!」

 

「然り気無く抱きつかせてるし、自分のお腹に顔を埋ませてるってその体勢で? 私がやりたかったのに……」

 

「わぁ……元士郎先輩が寝ちゃってます」

 

 

 あぁ……ちゃんとカテレアさんが生きてるって直に感じられて良かったぜ。

 

 

 

「あ、俺がよくレイヴェルにやってもらう奴だ。

あれってやっぱ本能でやるもんなんだな……」

 

「そ、そうなの?」

 

「俺は少なくともな……。

何なら祐斗もゼノヴィアに頼んだらどうだ? 多分やってくれると思うが……」

 

「えっ!? い、いや僕は……そ、そんな事を言える勇気なんて無いよ。

こ、断られたらと思うと怖いし……」

 

 

 そう言いながらチラリと別の場所からレイヴェル達とカテレアと元士郎の様子を眺めていたゼノヴィアを気にする祐斗に聞いていたシュラウドや三兄弟はその背中をパシパシと叩きだすが、それでも祐斗はヘタレて頼めなかった。




どっちもほのぼのでしたろ? な?

生写真前に生搾りされた魔王様。

それにしてもグレイフィア様の夢に出てきた顔面包帯少女とは何者なのか……。


その2
……。体勢としては、元士郎くんがカテレアさんの腰をガッチリホールドしたまま太ももに頭を乗せ、女性特有の柔らかなお腹に顔を埋めたままスヤスヤと……。

 ……何でこんなヒロイン化したのか今にして思えば奇跡だぜ。



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二人きりのデート

……。これでこの章は終わります。

次からある意味最終章です


 無限の進化は刺激を受けるとその速度を上げる。

 つまり、馬鹿の一つ覚えみたいに修行をすればするほどその力は増していくのである。

 

 それ故に、最近レイヴェルが知り合った若い純血悪魔の一人を相手にした修行は、俺に更なる進化をもたらしてくれるのだ。

 

 

「一誠様、こっちです」

 

「おう……誰にも後を付けられてる様子は無いぞ」

 

「ええ、雌猫共には特に細心の注意を払ってますから当然ですわ」

 

 

 が、俺も人間だ。

 修行をするのは好きだが、それ以上に好きな人とのんびりするのも好きだ。

 最近は色々と忙しいのと、互いの距離が近すぎてアレだったというのもあって時間が取れなかったが、今日はやっと時間が出来た。

 

 

「よし……なら行こうぜ」

 

 

 レイヴェルと二人で遊びに行く時間がな。

 

 

「ふー……上手いこと抜け出せた」

 

 

 餓鬼の頃はよく城を二人で抜け出し、街に行ったりして遊んだもので、折角冥界に戻ってきたんだし、あの頃を思い出しながら、なーんも考えずに遊びたくなった俺はレイヴェルにこっそりと誘い、今こうしてステルス抜け出しを見事に成功させた。

 

 最近は色々と他の者に関わったりして中々時間も無かったので、正直レイヴェルと二人だけで出掛ける事にわくわくしてたりする。

 

 

「さ、一誠様、何処に行きましょう?」

 

 

 何と無く落ち着くのと、可も不可も無いという意味で俺もレイヴェルも駒王の制服を着ており、城から離れた俺達は、先ずは何処に行こうかという相談をする。

 

 

「街にでも行くか、冥界に帰ってからまだ行ってないし」

 

 

 腕に組み付くレイヴェルに街に行きたいと伝えると、レイヴェルは嬉しそうに微笑みながらはいと頷く。

 ……。今更ながら、初めて出会った頃は寧ろ嫌われてたというのに、人生とは分からんものである。

 

 

「よっと、相変わらず軽いなレイヴェルは――原始的に飛ぶから舌噛むなよ!」

 

 

 それはそうとして、フェニックス領下の――俺達にとっては昔馴染みでもある街に行く方向に固まると、レイヴェルを横抱きに抱えたまま大きく跳躍する。

 

 飛行手段がこんな感じしか無いのと、転移魔法が出来ない故の、少々乱暴な移動方法だが、跳躍した時から見えるフェニックス領下の街を一望できるし、悪いことばかりでも無い。

 レイヴェルも嫌がってないしね……。

 

 

 

 

 雌猫さん達の出現や、お友達が増えた事で、最近は一誠様と二人きりのお時間が減ってしまった感は否めません。

 その事に不満を覚えてないのか……と言われてしまえば首を縦に振ってしまうのが私の悪い所ですが、今日ばかりはそんな我が儘な不満はゼロです。

 

 

「レイヴェル様よ!」

 

「キャー! レイヴェルさま~!」

 

 

 

「相変わらず人気だなレイヴェルは」

 

「……。昔はよく一誠様とヤンチャしてましたから……自然と覚えられてしまったんでしょうね……フフ」

 

 

 お父様の割りといい加減な税策のせいで、我がフェニックス領の税収は冥界全土でも激が付くほどに安い。

 それは……まあ、フェニックスの涙と呼ばれる我がフェニックスの血筋のみが生み出せる癒しの秘薬や、お母様の簡単な錬金術で生み出す貴金類を別領土に供給しているお陰で、一般悪魔家庭に於ける税収を『形だけ』に留めているからであり、自慢じゃありませんが、別領土からフェニックス領に移住したいという声は決して少なくはありません。

 

 だから昔から一般悪魔とフェニックスは妙に緩い距離感を保っておりまして……。

 

 

「あ、イッセー様も居るわ!」

 

「未来のご夫婦のご視察ね!」

 

「フェニックス領下の古参住人には見事に顔が割れてるな俺……」

 

「一応、一誠様の名を外に出すことは禁止を厳命してましたが、此度の事で一気に名が広まりましたからね……冥界全土に」

 

 

 妙な連帯感も強い。

 既に十年以上も冥界で暮らしていた筈なのに、名が全く広がらなかった一誠様の名にしても、フェニックス領の住人はほぼ知ってます。

 理由? それはお父様とお母様が『時が来るまで、我が息子である一誠の名前は口外しないで欲しい』と、一度何年か前に住人全員に通達したからです。

 

 お父様とお母様を支持しまくりな住人の皆さんは、子供から大人まで残らずそれを本当に守っていて、今まで一誠様の名前が広まらなかったのが何よりの証拠ですわね。

 

 まあ、この街に入れば誰もが一誠様を知っている訳ですが……。

 

 

「聞きましたぜイッセー様。若手悪魔の会合で、クジャラボラスの若造相手にレイヴェル様をお守りしたと」

 

「え? あ、あぁ……うん……あれは正直頭に血が昇ってしまったというか……」

 

「私は全然そうは思ってませんし、嬉しいので全然オーケーですわよ?」

 

「だってさ! 未来のご夫婦は相変わらずお熱いですなぁ?」

 

 

 小さな人間の子供が死ぬほどの鍛練を費やし、そして這い上がった姿を知る古参の住人さん達は特にイッセー様を支持しており、もはや種族の違いなんて全く気にしていない。

 今だって、小さい頃から私と一誠様に良くしてくださった初老の悪魔が、ニコニコしながら気まずそうに目を逸らす一誠様の背中をバシバシと叩いている。

 

 

「変わってなさすぎだろこの街のノリ」

 

「まあ、治めてるのがお父様とお母様ですから」

 

「……。実に納得できる理由だな」

 

 

 何処を歩いても感じる視線を受けつつ、時折手を繋いでみせれば、まるで人間の高校生みたいなノリで囃し立てる様な声を出す住人達に一誠様は苦笑いしつつ、街中を散策する。

 ちなみに犯罪を犯せばその時点でフェニックス領から追放されるので、犯罪率は奇跡の0%であり、外部から危険な生物が迷い込んで暴れようとしても、お父様やお母様が月に何度か開いてる『悪魔も簡単・護身術教室』にて簡単な防衛戦闘方法を仕込んでいますので、この領土に於ける戦力は、ノリの軽さとは真逆に結構凄い。

 具体的に述べると、小さな子供でも危険種の生物に対して精神的敗北を与えられる程度には。

 

 お陰で他の領土の方々や上層部からは『何時かクーデターを起こすかもしれない』だのと思われてるらしく、変人・フェニックス家という風評もあって、あまり良い顔はされてないというのもあります。

 まあ、サーゼクス様の安心院さん効果の胡麻すり行動のお陰で、表立って仕掛ける者は居ませんがね。

 

 

「ん? あれは何だ? 中学に上がって人間界で暮らす前に来た時は無かったぞ?」

 

 

 久々に一誠様とデート。しかも住人の方々からの祝福アリアリで実に充実した気持ちを抱きながら、散策を続けていると、とある建物を目にした一誠様が目を細めつつ足を止めた。

 一誠様がこの街に訪れるのは、人間界で中学生となる前なので、住人の方々のノリの緩さは変わらないものの、街自体は変化している。

 故に、今こうして誠様の眼前に立つ妙にキラキラと電飾で輝くお城の様な建物に首を傾げても仕方ないのです。

 

 

「はて……? そういえば前にお父様とお兄様達が建設に関わった建物があると聞きましたが、具体的に何を目的としたのかは聞いてませんでしたわ――いえ、教えてくださらなかったというべきでしょうか」

 

 

 ですが困った事に、私も実はこの妙にギラギラしたお城っぽい建物の詳細をよく知らないのです。

 今一誠様に説明した通り、お父様とお兄様が建設に一番関わっていた事だけは分かるのですが、それ以上は聞いても教えてくれずでしたので分からず、説明に困ってしまう私に一誠様は眉を寄せます。

 

 

「え、シュラウドのおっさんと兄貴達が関わってるのか?」

 

「ええ、何やら『回転するのが良い』とか『ガラス張りこそロマン』がどうとか……」

 

「は、何だそれは?」

 

 

 私もよくわかりません。

 出来たのはほんの二年ほど前で、その時点では『レイヴェルはあと二年経ったらな』とはぐらかされてしまいましたし……。

 しかし何でしょうね……似たような雰囲気の建物を人間界でしょっちゅう見た気がするのは一体……? と妙に周りの――特に大人の悪魔方がニヤニヤした視線を感じつつ一誠様と一緒になって眺めていると……。

 

 

「ふむ……入ってみるか? 気になってきたし」

 

 

 中が気になるご様子の一誠様に誘われた。

 

 

「はい、二年経ったら教えると言っておきながら、忘れてるっぽいですので、この目で見ておきましょう」

 

 

 勿論、断る理由なんてナノ程も無いので快諾しながら、ちょっと派手なお城に一誠様と共に入る。

 

 

 

 

 

【宿泊・ご休憩だけでも大歓迎!】

 

 

 

 

 という立て札が、真っ赤で目に良くない門を潜った後にベニヤ板が崩れて現れた事と……。

 

 

「お二人が中へ入りました……」

 

 

 小型無線機を手にした住人の一人が、誰かに向かって連絡している事に気付かずに。

 

 

 

 

 

 冥界・フェニックス城。

 朝っぱらから何やら大型モニターを凝視するフェニックス家の全員がシュラウドとエシルの部屋に集合しており、何やら異様な雰囲気を放っていた。

 

 

『お二人が中へ入りました……シュラウド様』

 

「来た! 来た来た来た来た! 来たぞ! 確変来た! フェニックス来た! フェニックス時代が来たぞ!!!」

 

 

 そして異様な雰囲気のまま、シュラウドの手元にあった無線機から聞こえる住人の声を確認した瞬間、部屋内のフェニックス達は一気にお祭り騒ぎになった。

 

 

「っしゃあ! 三年越しの計画が成功するぜ!」

 

「というか、人間界にもあったのに、結局そういう所は行けなかったのか」

 

「仕方ないだろ兄上。人間界の場合は大人にならんと入れん……特に一誠はまだ17だしな」

 

「全く、レイヴェルも一誠も世話の掛かる子です」

 

 

 特にシュラウドがバカに騒ぎ、フェニックス三兄弟がそれに続き、エシルはほのぼのとした表情で建物へと腕を組ながら入る実娘と確定息子の姿をモニターに眺めている。

 そう……一誠とレイヴェルが内緒で城を抜け出してデートに行ったなぞ、フェニックスの面々からすれば解りきった事でありお見通しだ。

 故に敢えて知らんぷりをし、泳がせた……。

 理由? それは決まってる……。

 

 

「ふぅ、黒歌嬢と白音嬢には悪いが、誤魔化すのは骨が折れたよ。

しかし……くくく、これでやっと孫の顔が見れるなエシルよ?」

 

「ええ、この三人の息子が中々見せてくれないせいでしたが、ふふ……」

 

「だってよ兄上。早く結婚したら?」

 

「え? いや、ライザーこそ早くすれば良いじゃん。ね?」

 

「どっちもどっちだろ。

まあ、俺は相手なんか要らねーし、独りの方が気が楽だがな」

 

 

 さっさとキメろ……そういう事だった。

 

 流石に中までは監視の映像は映さないものの、入った時点で勝利を確信したフェニックス家は満足しながら、帰ってきた時の二人を祝福する準備の為に行動を開始する。

 

 

「一誠が居ない……しかもレイヴェルも居ない」

 

「怪しい……シュラウド様達は『仕事を頼んだ』と仰ってましたが……というか、祐斗先輩とゼノヴィアさんも居ませんね」

 

「別に良いじゃねーか、仕事なら仕方ねーだろ。

そうは思わねーかギャスパー?」

 

「うーん……でも確かに怪しいかもです」

 

 

 子供達にバレぬよう……密かに。

 

 

 

 

 ……………………。不明な建物に入り、受け付けにどんな建物かを聞こうとしたらニコニコしながら鍵を渡され、その鍵のタグに刻まれた数字の部屋に行かされた俺達は、そこに来てやっと意味がわかった。

 

 

「薄暗いというのは本当だったんだな……」

 

「……。回るベッドも本当に存在したんですね……」

 

 

 いや、うん………流石に俺もレイヴェルも餓鬼じゃない。

 この建物が人間界のネオン街の一角に聳え立つソレの意味を持つ建物だって事ぐらいは分かる。

 分かるからこそ、俺は今腕を組みながら見事なまでの円状のベッドを凝視してるレイヴェルをまともに見れなかった。

 

 

「こ、こんなもんを作ってたのか、俺が居ない間に……」

 

「思い出しましたが、そういえばよくお父様とお母様がツヤツヤしたお顔で出掛けに帰ってくる事がここ二年で多くなった気がしましたが……これで合点が行きました」

 

「だろうな……クソ、やけに周りの連中がニヤ付いていた訳だ」

 

 

 部屋の入り口で立ち尽くすしか出来ずに居た俺は、思わず舌打ちをしてしまう。

 ハメられた事にじゃなく、此処まで誘導されて気付けなかった自分の間抜けっぷりにだ。

 

 

「………。出るか」

 

 

 だが分かった。どんな理由で立てられた建物かも分かったし、リアルに薄暗い空間だったのもわかった。

 だからもう出よう……これ以上この変に掻き立てられる空間いたら……隣で密着してくるレイヴェルに何か色々とヤバイ気分になってしまう。

 いや……そりゃその――アレだけど、こんな……アレでアレなアレでアレしたらアレというか――あぁ、もうアレしか言えてねぇし俺。

 

 

「ほら、出ようぜ」

 

 

 とにかく出よう。精神衛生的にとてもよろしくないし、出て新鮮な冥界の空気を吸って気分を変えよう。

 そう思って、密着するレイヴェルを連れて出ようとしたが……。

 

 

「レイヴェル……?」

 

「………」

 

 

 レイヴェルは全く動いてくれなかった。

 それどころか小さくうつ向き、組んでいた腕を緩めて俺から離れると……何を思ったのか、レイヴェルは部屋の奥へと進むと――

 

 

「あの、一誠様……少々汗ばんでしまったので、シャワーだけ浴びても宜しいですか?」

 

 

 もはや嫌味にしか見えないベッドに腰掛けながら、レイヴェルが上目遣い気味にそう懇願してきた。

 

「え、いや……こ、ここじゃないと駄目なの?」

 

 

 確かに俺も変な緊張のせいだ汗ばんでしまったし、レイヴェルもそうなのかもしれない。

 しかもましてやレイヴェルは女の子だし、常に気にしてる事を俺は知ってる……俺は別にどんなレイヴェルでも常に気にしてないが。

 

 だからシャワーを浴びて綺麗にしたいって主張は解る……解るのだが、此処じゃなくても確か近くに日本かぶれの悪魔の一人が経営してる風呂屋があった記憶があるし、そこで綺麗にしても良いんじゃないかなー……と俺は言おうと口を開き掛けたが――

 

 

「お、お願いします……そうじゃないとお恥ずかしくて一誠様に身を寄せられません」

 

「………う」

 

 

 その一言で俺は了承してしまった……バカなんで。

 

 

 

 

 ザーッと降りしきるシャワーの音と、空調の音が一誠の両耳に入る。

 

 

「…………」

 

 

 兵藤一誠は子供だ。

 口調がどうのこうのだとしても、一誠は子供だ。

 しかしそれでも精神は大人になっているので、こういう建物の意味はちゃんと知ってるし、ましてや小さい頃から共に居たレイヴェルとこんな薄暗い空間の……ましてやシャワーをスモークの張った扉の向こうで浴びてるともなれば落ち着きが無くなるのも仕方ない話だ。

 

 普段は人間界のボロアパートで一緒に住んでたとしても、場所が違えば心情も変わる。

 今の一誠の精神状態はまさにそれだった。

 

 

「……。くっ、TVでもつけて誤魔化すか……」

 

 

 レイヴェルの鼻歌まで聞こえ始めた頃にその緊張はピークに達した一誠は、全力でその精神から逃げようとTVをつけて誤魔化そうと、薄暗い部屋のベットのすぐ近くにあったTVに向かって手を伸ばし、スイッチを入れた。

 

 

「……ん?」

 

 

 しかしTVはつかない……。

 ボタンを間違えたか? と今度は別のスイッチをポチポチと押すが、どれも無反応だ。

 

 

「何だ……まさかコインを入れるタイプ……じゃないな」

 

 

 押してるうちに何かが起動した音が何度か聞こえたものの、肝心のテレビがつかない事に焦りのせいでイラつき出した一誠は、テレビを諦め、今度はこの精神衛生的によろしくない薄暗さを何とかしようと照明の調整が出来るスイッチを探そうとテレビから背を向け――

 

 

「~♪」

 

「なっ!? ななっ!?」

 

 

 絶句して固まった。

 

 

「~♪」

 

 

 気持ち良さそうにシャワーを浴びるレイヴェルの姿が、全身に渡って一誠の視界をジャックする。

 何のカラクリだか、最早この時点でまともに考えられなくなった一誠には到底分からない事だったが、どうやらテレビをつけようと適当に押してたスイッチの一つに、ここから浴室の様子を全面に映す仕掛けを起動させるそれがあったようだ。

 

 

「噂通り、無駄に広いですわねぇ……」

 

 

 しかしどうやらレイヴェルは気付いてないからして、マジックミラーの様なものが施されてるらしく、何時もの縦ドリルでは無くなりストレートの髪型になったレイヴェルの独り言に一誠はテンパったままテレビの近くにあったスイッチを押しまくる。

 

 

「く、くそ! は、早く戻れ!」

 

 

 しかし現実は一誠の思惑を嘲笑いたいらしく、どれを押しても元の壁に戻らない。

 それがますます一誠の精神をガリガリと削っていくのだが……。

 

 

「ん……はぁ……」

 

「!?」

 

 

 身体を解そうと両腕を上げながら伸びをしたせいで余計強調されるレイヴェルの胸に、それまで必死になってガチャガチャとやってた一誠の手は止まり、視線はレイヴェルへと釘付けになってしまう。

 

 

「まさかこんな施設を作るなんて、お父様達もアレと云いますか……でも一誠様と一緒は……フフ♪」

 

「っ……」

 

 

 そ、そのタイミングで俺の名前を呼ばないでくれ! とハッとして頭を振りまくる一誠。

 落ち着かない空間だからこそ余計に意識してしまう……ましてや幼少期から一緒で、最近はより女性らしく成長した女の子の肢体をノーカットで魅せられてるのだ。

 

 

「でも、一誠様はやっぱり私には何もしてくださらないのでしょうね。

私は……どんな事をされても良いのに……」

 

「ば、ばか……今それ言うなよ……! 色々と筒抜けなのに――」

 

「一誠様……。黒歌さんと白音さんが現れてから、私は少し寂しいです……」

 

「っ!?」

 

 

 その上、水に濡れた……一糸纏わぬ艶姿で本当に寂しそうな声で呟いた言葉に、一誠の中で何かが崩れた。

 

 

「……」

 

 

 もう良いや。

 一誠は自分の中でそう呟きながら、立ち上がると、ちょっと大股でレイヴェルの居る浴室の扉を乱暴に開けた。

 

 

「え? い、一誠さま……?」

 

「………」

 

 

 決して自分が入ってたり肌を露出している時は頑固なまでに何もしてこなかった一誠が入ってきた事にレイヴェルは驚いて目を見開き、思わず固まってしまう。

 

 

「きゃっ……!?」

 

「っ……ふー……ふー……!」

 

「い、いっせー……さま……?」

 

 

 固まるレイヴェルの腕を掴み、自分の服が濡れようが知ったこっちゃないとばかりに、そのまま浴室の壁に追い詰めるかのようにレイヴェルを押さえつける一誠の目は血走っていた。

 それはあまりにま初めての一誠というか、レイヴェルはそれでもドキドキしつつ、全身に込み上げる熱を感じながらされるがままになる。

 

 

「レ、レイヴェル……」

 

 文字通り何も着ていないレイヴェルの両足の間に足を割り込ませ、手首を掴みながら壁際に追い込む一誠は、頬を紅潮させる彼女の名を小さく呼ぶ。

 

 

「はい……何ですか一誠様?」

 

 

 それに対してレイヴェルは、一誠の精神状態が壊れてるのを敏感に察知し、敢えて優しく――包み込むような笑顔で返事をする。

 その表情はまさに母性に溢れており、精神状態キレかかっていた一誠の線を繋ぎ止めるに成功する。

 

 

「す、すまん……お、俺……」

 

 

 その笑顔で一気にのし掛かる罪悪感を覚えた一誠が、押さえ付けるようにしていたレイヴェルか離れて、叱られた子犬の様な顔で何度も謝る。

 だがそこはレイヴェル。黒歌と白音を遥かに凌駕するアドバンテージ故に、罪悪感で今にも自害しそうな顔で俯く一誠のを頬を撫でながら笑顔を見せると……。

 

 

「何時も冗談で言っていたつもりはありませんでしたけど、今一度言わせてください……。私は一誠様が大好きです、だから――私の事、一誠様のモノにしてください」

 

 

 ただ優しく、ただ包み込む様に、ただ慈愛を込めて。

 のらりくらりと逃げ、今また背を向けようとした一誠を後ろからがっちりと捕まえた。

 

 

「レイヴェル……レイヴェル……!」

 

「あ……♪ もう、一誠様は甘えん坊さんですね……ふふ、でも良いんですよ、そんな一誠様を私はずっと見てきたのですから」

 

 

 思わずといった顔で抱き締めてきた一誠を受け止めるレイヴェルは嬉しそうに目を細めながら胸元に抱いた一誠の頭を優しく撫でる。

 

 

「お、俺……」

 

「分かってます、一誠様が肝心な所でヘタレになられるのも、もう何年も焦らされてた身なのでよーくわかります。だから、今はこのまま何もしないで良いです」

 

 

 捨てられた犬みたいな顔をして自分の身体を抱き締める一誠にそう告げながら再び頬を撫で、安心させるように微笑むレイヴェルは、コツンと一誠の額に自分の額をくっつけると、優しく何度もキスをした。

 

 

「もっと大人になったら……いっぱい愛してくださいね?」

 

 

 

 焦らず、ゆっくりと猫姉妹にゃ負けてたまるかという気持ちと共に……さりげなーく更なる釘を刺しながら。

 

 

 

 

 ちなみにこの後、浴室を出てから半日はこの場所で一誠を膝枕したりで甘やかしたレイヴェルだが、一線を越えることは無くそのまま帰るのだった。




補足

レイヴェルたん命が行きすぎて、どっかの風紀委員長さんみたいに、相手を神聖視して自分を下に見る傾向がやや強い。

とはいえ、グレーゾーンですがね。


その2

フェニックス家は何時でも甥っ子か姪っ子・孫をウェルカムしてます。
つか、一家総出で外堀埋めまくる。

その3

何か妙に前より距離感がさらに近い一誠とレイヴェルたんの様子に猫姉妹は即仕事じゃねーと察した模様。

そして健全に手を繋ぎながら然り気無く帰還してきた木場きゅんとゼノヴィアさん。


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未来の為への清算
執念の猫姉妹


純愛と勝ち目なしフラグからの……か?


 その昔、少女は寧ろ人外が連れてきた自分と年の変わらない少年がイマイチ気に入らなかった。

 しかるに、人外と同じ素養を持ち、そして何れはそれを超越する存在へと覚醒するだろうという両親や兄達に迎えられてしまって以上は、無視する訳にもいかなかったので、初めの方の少女は仕方なしに自分の実家に住まわせる事になった少年につっけんど気味に触れる事にした。

 

 

「………」

 

「男の癖に彼女が居ないと何も出来ないんですか? 情けない……」

 

 

 聞けば全てに忘れられ、居場所を奪い取られたというある意味精神的に一番ダメージの大きい仕打ちを受けた結果、そこから引っ張りあげた人外以外には疑心暗鬼な態度を見せてしまうとの事だが、フェニックス家に居着いてからの少年の様子を見れば誰にでも察しがついた。

 

 だからこそフェニックス家の面々は歳の一番近いレイヴェルに触れさせる事でその疑心暗鬼を緩和させようと努めてみたのだが……。

 

 

「嫌です! あんな情けない男と一緒なんて絶対に嫌!」

 

「そういう事は言ってはなりませんよレイヴェル。

あの子にも事情があるのですから」

 

「そうだとしても嫌ですわ!」

 

 

 当初のレイヴェルは、今では考えられない程に少年――一誠が嫌いであり、父や母や兄達からの一誠絡みの頼みを全力で拒否する程だった。

 

 

「自分から心を開こうともしない男に何故こちらが気を使わなければなりませんの!? 私は何を仰られようともお断りです!」

 

「むぅ……」

 

「まあ確かに今の一誠くんは安心院さん以外には例え分身だろうと心を閉ざしているが……」

 

「一応俺達も話し掛けたりしてるが、中々上手くいかなかったぞ」

 

「俺に関しては顔見て逃げられたしな」

 

「難しいですよ、今の彼の心は」

 

 

 断固拒否のレイヴェルの言い分もわからなくも無いので、父や母や兄達は揃って難しい顔をしながら……何とか心を開かせる劇的なナニがないものかと思いつつ、平行して末っ子娘のレイヴェルにも頭を悩ませるのだったとか。

 

 そもそもレイヴェルが気に入らなかった理由は、当時の一誠の壁作りな性格もあったが、そうとなる原因である事件により皮肉な覚醒をしてしまったその力が、安心院なじみの分身として生きる自分以上に安心院なじみに近い事が気にくわなかったのだ。

 

 

「ふん、お父様とお母様とお兄様達からどうしてもと言われたから仕方無く一緒に居てやりますわ」

 

「………」

 

 

 要するに単純に嫉妬なのだが、その嫉妬の理由すら自分で認めたくないレイヴェルは、フェニックス家に連れてこられた時から何時でも浮かべる死んだ魚みたいな目をする――当時はまだ過負荷(マイナス)側面全開の一誠を実家の城の中庭に連れ出しては叩きのめしていた。

 

 

「……ぅ」

 

「これだけやられて反撃も出来ないですか?」

 

「………」

 

「悔しくないのですか!?」

 

「…………」

 

 

 同族達から変わり者だが異常な力を持つ一族として敬遠されているフェニックスの力を思いきりストレートに受け継いでいたレイヴェルは、幼い身でありながら既にその才を覚醒させており、まだまだスキルのスの字も覚醒させたばかりの一誠では到底太刀打ち出来るものでは無く、更に云えば本人のやる気の無さのせいで何時だって叩き潰されては、レイヴェルから挑発されるという公式になっていた。

 

 しかるに一誠はそんなレイヴェルの挑発には何時でと応じる事も無く、心底失望したという眼差しを向けてくるレイヴェルに対して何にも言い返す事もしなかった。

 

 

「この軟弱者! アナタなんかが安心院さんの後継者なんて認められますか!」

 

「…………。そんなのになった覚えはない。

師匠みたいになろうとも思ってない」

 

「ならそのまま朽ち果ててしまいなさい! チヤホヤと優しくして貰えると思ったら大間違いよ!」

 

「………」

 

 

 当時はまだ自分を拾い上げてくれた安心院なじみにしか心の拠り所が無かった一誠は、レイヴェルやフェニックス家をまるで信じられず、何を言われようと悔しさを覚える事も無かった。

 現実からただ逃げたい……精神の全てがそな一点に集中してしまっている当時の一誠には、レイヴェルの言葉はまるで届くことは無かったのだ。

 

 

「おう一誠。釣り行こうぜ釣り」

 

「ほら一誠、お口が汚れてますよ?」

 

「トランプでもするか一誠?」

 

「ゲームしようぜゲーム」

 

「チェスでもするかい?」

 

 

 しかし、レイヴェル以外のフェニックス家達はそんな一誠に対して逆に過保護に接しまくった。

 どんなに嫌がられても、寧ろウザいと思われるだろうレベルで接しまる事で味方であることを分かって貰う為に。

 

 それが項を奏したのか、住み着いてから約1年で一誠はフェニックス家に馴染み始めたのだが……。

 

 

「ふん、私はお父様達とは違いますから」

 

 

 レイヴェルだけは頑なに一誠を毛嫌いした。

 それは、結局の所チヤホヤとされたから心を開き始めたのでは無いかと軽蔑しているのもそうだったが、レイヴェル的にはそれ以上に一誠が弱いのが気に入らなかったのだ。

 

 

「やり返す気位を持った所で所詮はその程度。お話になりませんわね」

 

「……っ」

 

 

 だから一方的に一誠を叩きのめすのは変わらず、この日もレイヴェルは両親や兄達の前で一誠を地面に叩き伏せ、見下す様な言葉をぶつけた。

 

 自分は兄達や両親とは違うんだと明確に分からせるという意味合いもあるので、余計に一誠はボロボロだった。

 

 

「……。ありがと」

 

 

 しかし一誠は徐々に変わり始めていた。

 只叩きのめされるだけでは無く、やり返す事もし始めたし、去っていくレイヴェルに今日も付き合ってくれてありがとうと礼も口にし始めるようにもなった。

 

 

「……ふん」

 

 

 それが劇的な変化の第一歩となる事になるとは、この時誰もが知るよしも無かったが、此処から一誠は確かに前へと進み始めたのだ。

 

 そしてその一歩こそが、一誠の逃げ腰思考で埋め尽くしていた精神を変化させる事になることも……。

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

 お城みたいな建物での一件。

 これがまさか大人の休憩施設とは思わなかった一誠とレイヴェルは、ちょっとした出来事を挟みつつも何とか自重した訳だけど、折角なんで取り敢えず『そういう意味』では無い本当の意味での小休憩をしようと二時間ほどスヤスヤと只眠ってみた。

 

 一糸纏わぬ姿をちょっとした手違いで見てしまい、危うく理性が飛んでしまいそうになったのを何とか押さえ込み、それを落ち着かせる様に眠った訳だが、まさか昔の夢を見る事になるとは……。

 

 

「すー……すー……」

 

「……。あの夢の頃からは思いもしない今だな」

 

 

 隣で眠る……かつて自分に活を入れてくれたツンツン少女の寝顔を見つめながら表情をゆる緩ませた一誠が一人小さく呟きながら、セットされていないレイヴェルの綺麗な金髪越しに頭を撫でる。

 

 

「ん……ぅ……」

 

 

 頭を撫でられたレイヴェルが気持ち良さそうに声を溢す。

 今でこそ好きだ好きよな事を言える仲だが、これが昔だったまず触れただけでビンタでもされかねない。

 先程まで見ていた懐かしい夢を思い返すとエライ進歩というか、レイヴェルに示せて心の底から良かったぜと思う一誠は、現在の時刻を確認しながらレイヴェルを優しく起こす。

 

 

「レイヴェル、起きろ。そろそろ帰ろう」

 

「みゅ……ん、んっ……ふぁ……い、いっせーさま……」

 

 

 レイヴェルの為に強く在り続ける。

 その想いに至れた事を一誠は忘れることはせず、ぽけーっとした眼差しのレイヴェルに笑い掛けるのだった。

 

 

 

「さてと、取り敢えず帰ってからみっちりとおっさんやねーさんや兄貴達に話を聞く必要があるな」

 

「街の住人方とグルだってのは疑いようがありませんものね」

 

「あぁ……まったく、まだそんな歳じゃないというのに」

 

 

 起きて身支度を整え終えた一誠とレイヴェルは、結局そういう意味での休憩には使わなかった部屋をもう一度見渡す。

 ボタン一つで浴槽まる見えな仕掛け。

 回転するベッド。

 そして妙にざわつかせる薄暗い照明。

 どう見ても大人のホテルですありがとうございますなこの場所には二度と来ることは無いと思うと、変に感慨深いものを感じる気がしないでもない――何もしてはいないものの。

 

 

「……。レイヴェル、ちょっと良いか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

 レイヴェルの裸を見てしまってから飛びそうだった理性を押さえつけ、そのまま眠るだけという……誰かが聞いたらヘタレ扱いしてきそうなオチだった訳だが、一誠とて全部が全部それで良いと思っている訳では無く、ほんの少しは残念に思ってはいる。そういう意味で。

 

 

「出る前に一回だけ……」

 

 

 そう思うからこそ、もう来ないだろうこの場所でと一誠は、部屋を出ようと扉の前まで来ていた所で、名を呼ばれて返事をしたレイヴェルと手を繋ぎ、向かい合う様にして彼女を見つめながら繋いでいた手を組み換えて指を絡ませ合いながら反対の腕を腰に回す。

 

 

「あ……」

 

 

 その一誠からの行為が何を意味するか。

 抱き寄せられる様にして身体を密着させられたレイヴェルは、小さく声を洩らしながら先程の時と同じように身体を奥から熱くなっているのを感じながら徐々に顔が近づく一誠に期待するように目を細め……。

 

 

「んっ……」

 

 

 重ね合わせる唇に幸福を感じ、一誠に身も心もただ委ねていく。

 

 

「はっ……ん……!」

 

 

 重ねては一旦離れて見つめ合い、そしてまた重ねる。

 何度も何度も、それしか知らない子供の様に一誠からせがまれるキスを受け止め続けるレイヴェルは下腹部がじんわりと熱を帯びていくのを感じる。

 

 

「レイヴェル……レイヴェル……」

 

「も、ぅ……いっせーさまったら……。

うふふ、でも……レイヴェルは嬉しいですわ」

 

「よ、よくわかんないけど、もう少しだけ……」

 

「ええ、ええ……もっと沢山しましょう? もっともっと……」

 

 

 互いの額をくっつけてから言葉を交わし、また重ねる。

 恐らく此処でレイヴェルが追い込めば、既成事実だろが何だろうが成立可能なのだろうが、今だけはそんな不粋な真似はせず、ただただ求めてくる大好きとなった少年と続けるのだった。

 

 

 ちなみに、建物を出たのはそれから約1時間後だったらしいが、それでも一線を越える事の無かった話しは誰にも関係の無い事だった。

 

 

 

 

 

 先ず最初に一つだけいうと、帰ってくるなり出迎えててきた奴等は全員背負い投げしてやってからこう言ってやった。

 

『お望み通りになれなくてすまなかったな!』

 

 とな。

 レイヴェルも俺と一緒になってやってやった事であるからして、同じ気持ちだったので余計に背負い投げが捗ったぜ。

 

 

「知ってるって事は途中まで見られてたのか?」

 

「そうなりますわね……」

 

 

 しかしながら、あのニヤケ方からするに途中まで見られていたという事になる訳で……。

 全員背負い投げしてやった後部屋に戻った俺とレイヴェルは手持ち無沙汰な気分で何時も寝るベッドに腰掛けつつ、今更ながらめっちゃくちゃ恥ずかしくなってしまっていた。

 加えて、俺とレイヴェルが二人でコソコソしてた事に白音と黒歌が怪しんでる。

 

 

「二人でねぇ?」

 

「何処へ行っていたのやら」

 

 

 じとーっとした目を二人して向けられてしまってるに加えて、先程の事を思い出してしまってるせいで上手いこと言い逃れの言葉がでない。

 いや勿論、あんな場所に居ましたなんて口が裂けても言えないので黙ってるつもりだが、白音も黒歌も何時もなら不敵に言い返す筈のレイヴェルが妙に潮らしくなってるせいかますます怪しんでしまってる。

 

 

「べ、別に私が一誠様と何処でデートしてようが、アナタ方雌猫さん達には関係ありませんわ……」

 

 

 二人に問い詰められても上手く返せず、チラチラと頬を染めながら俺の方を見るレイヴェルがぶっちゃけ可愛くてしかたないのだが……俺、自分でも思うがよくあんな空間内で耐えられたなと思う。

 

 

「ま、まぁ……ほら、久々にレイヴェルと街を散策したくてさ……」

 

「ふーん……私たちはほったらかしで?」

 

「いいなー、レイヴェルは何時も何時もいいなー」

 

「ふ、ふん。雌猫共が入る余地が無いって意味ですよ、察しなさいな」

 

 

 何時もなら『最初からアナタ方がしゃしゃり出てこれる事なんてありえませんね!』とでも言って挑発仕返すレイヴェルなのに、今はただただ受け身でたじたじとしてる。

 

 

「すんすん……石鹸の良い香りがレイヴェルからするんだけど、何時お風呂なんて入ったの? それも外で」

 

「ぎく」

 

「入ってまだ半日も経ってませんが、おかしいですね」

 

 

 加えて鼻の良い二人の問い詰め方が嫌味な程核心めいてるせいで俺まで挙動不審になっちまう。

 ちくしょう、こんな時にアレだけど、あのホテルでの件からレイヴェルが直視出来ない。

 

 

「え、えぇいうるさいうるさい! 一誠様とデートしてたら、知らない建物があって、それが休憩施設と知らずに入っだだけです! 文句でもおありですの!?」

 

「あ、お、おい!」

 

 

 そうこうしている内に堪えられなくなったのか、逆ギレ気味にレイヴェルが食って掛かると、黒歌と白音の表情が面を喰らったかの様にポカンとなってしまう。

 俺も思わず声を出してしまうが、これこそ全てが後の祭りという奴だった。

 

 

「ふーん、休憩施設ね……」

 

「それってラブホ――」

 

「し、知らなかったんだ! 前まであの場所に無かったし……」

 

 

 逆ギレカミングアウトに対して段々と二人の放つ温度が下がっていくのを肌で感じた俺は、レイヴェルに代わって言い訳をしようとするが、白音と黒歌の表情を見るに、多分駄目なんだろうなと悟ってしまう。

 

 とはいえ開き直るには余りにも仲良くなりすぎてしまったし、そもそもそんな真似はしてないにしろ結構グレーゾーン入ってたし、二人は納得しないし……助け船の元士郎や祐斗も居ない。

 結局そのまま二人の機嫌を直す為に出された条件として、四人仲良く一つのお布団でスヤスヤする事になってしまった訳で……。

 

 

「ね、寝るだけだよな? 裸になる理由が不明なんだけどな?」

 

「私、寝るときは全裸派よ?」

 

「実は私も」

 

「ええぃ、一誠様に近寄りすぎですわ!」

 

 

 黒歌が全裸になり、白音が続いて、対抗意識燃やしたらレイヴェルまでも全裸になって一緒のお布団に入り込んだせいで、俺はある意味死にたくなる苦行を味合わされてしまった。

 

 

「こ、この際だから言うが……俺はレイヴェルの事が――あへぇぇぇ……!?」

 

「その先は聞きたくないよイッセー」

 

「もし言ったら、もう私も姉様も生きる意味が無くなりますし、例えそうだとしても……私達は死んでも引きません」

 

 

 抱き付く二人に動揺してしまう俺も……ちくしょう。

 

 

「ちくしょう、これじゃあ『兄貴様。』と変わらないじゃないか……」

 

「違います。彼の場合ならこの時点で私達の事を襲います」

 

「葛藤している時点で違うよ」

 

「ええ、あんな分かりやすいゲスな視線だけしか寄越してくるバカとは違います」

 

「うぅ……」

 

 

 

 

 イッセーがレイヴェルを一番好きなんて、私も白音も見てればわかる。

 けれど、それでも私達は諦めきれない。

 

 例えそれが偶々で、何かの次いでだったとしても助けてくれた事には変わり無いんだもん。

 

 

「あは、イッセーがこんなに近いせいでびしょびしょになりそうだにゃ」

 

「有り体に云えば、ここがムズムズします」

 

 

 私と姉様が諦めるとでも? レイヴェルさんが大好きな事なんてわかってるんですよ先輩。

 

 

「でもイッセーはダメって言うだろうし……」

 

「ええ、でもムズムズしますし……」

 

「……え?」

 

 

 分かってても諦められない。

 諦めきれない。

 はしたないと思われても……それでも離れたくないんです。

 

 

「ちょ、な、なにを……やんっ!?」

 

 

 好き。大好き。どうしようもない程に好きすぎる。

 それが私と姉様の一誠先輩への気持ち。

 それが叶わないものなのだとしたら、その元であるレイヴェルさんに妥協の心を持って貰う他無い。

 だからこそ、わざと全裸になって挑発して乗せてやったレイヴェルさんを私と姉様の二人掛かりで押さえ付けてやり、一誠先輩の目の前で……。

 

 

「ひゃん!? し、しろ……ね……さん! な、なにを……っ」

 

「ちゅーちゅー」

 

「あっは♪ レイヴェルってば顔真っ赤にして可愛いにゃん」

 

「あ、なたも、何を……して……ひぅっ!」

 

「っ!? な、な……!?」

 

 

 取り敢えずレイヴェルさんをひーひー言わしたら、先輩は我慢できますか?

 

 

「い、いっせーしゃま……た、たしゅけてぇ……!」

 

「あ、あわわ……! や、やめろ二人とも! な、何かもう俺はどうしたら良いんだよ!?」

 

「? そのまま私とレイヴェルと白音をセットで食べてしまえば良いと思うけど?」

 

「寧ろ是非お願いします」

 

「で、出来るかよ! そ、そんなの……俺に出来るわけ無いだろ!」

 

 

 なんて言ってますけど……ふふ、先輩の目が私達から離れてないのはお見通しですよ。

 

 

「あ、そ……なら三人で気持ちよくなっちゃうしか無いみたいよレイヴェル?」

 

「ふふ、そんな趣味は無いですけど、今のレイヴェルさんは可愛いです」

 

「あ、あうぅ……こ、こんな雌猫にぃ……」

 

「うぐ、ぐぐぐっ!」

 

 

 さぁ……さぁ!!

 

 

「せ、責任取れる様になってからじゃねーとダメだ!!」

 

 

 布団から飛び出して部屋の隅まで逃げた先輩は、自分に言い聞かせる様にしてそう叫ぶと、そのまま部屋を飛び出してしまった。

 

 

「……よし、効き目バッチリですよ姉様」

 

「どうせなら今すぐが良かったけどねー……」

 

「こ、この雌猫……お、覚えてなさい――あひ!?」

 

「ま、それなら今の内にレイヴェルをいじめてしまおっか?」

 

「ええ……仕方無いですよね、レイヴェルさん?」

 

「や、やめなさい! わ、私のを吸ってもで、出ない……ひぅぅ!」

 

 

 仕方無いのでレイヴェルさんを味方に引きずり込む事にしましょうか。

 

 

 

 

 と、こうしてドギマギする日は過ぎていった訳だが、全てに決着を着けるのは中々骨が折れる。

 

 

「来たか」

 

 

 しかしやはりケジメは付けなければならない。

 

 

 完全に。

 

 

「廃神モードを維持したまま、俺達はこれから兵藤誠八共との清算を行う。

全てを終わらせてスッキリする為にな」

 

 

 完全なる決別をする為。

 そして何よりも俺達に付いて回る遺恨を断ち切る為、歯車が狂った元凶とのケリを着ける。

 元士郎が暗黒騎士となった日から廃神モードを維持したままコントロールの訓練を続けモノにした今なら不可能では無い。

 

 だから俺は……いや、俺達はやる。

 元主、元仲間が堕ちた暗闇の穴倉に落ちた連中への清算を。

 

 

「さぁ……行くぞ。

準備はサーゼクス・ルシファーが済ませている」

 

『了解』

 

 

 因縁を終わらせる為に……な。

 

 

「準備完了だ。

後数分で彼等は穴倉から強制的に此方に転移される」

 

「うむ」

 

「また彼等を視界に入れる事になるとは……」

 

 

 廃神モードを維持――いや、|幻実逃否の効力と精度を更に上げる訓練を完了させてから数日。

 

 サーゼクス・ルシファーと交わし、先のシトリー夫婦の件により決意した完全なる決着――否、関わりの完璧なる断ち切りをする為、俺達はルシファー領土の都市にあるサーゼクス・ルシファー管轄の魔王城にやって来ている。

 

 

「この人だかりならぬ悪魔だかりは一体何だ?」

 

 

 理由は何度も述べた通り、最下層の穴倉送りにされた兵藤誠八とその信者共との関わりを完全に断ち切る為なのだが、どういう訳かこの状況をこの前の会合の際目にした悪魔達が大ホールの真ん中に居る俺達を高い席から見下ろしているのだ。

 エシルねーさんとシュラウドのおっさんならまだしも、何故彼等までもがこんな茶番を見ているのか……理解出来ずに首を傾げる俺に、サーゼクス・ルシファーは苦笑いを浮かべる。

 

 

「見てもらった方が何かと都合が良いと思って、勝手ながら僕が手配したんだよ」

 

 

 つまり見ている連中全てが今回の証人……という事らしく、よくよく周りを見渡してみるとセラフォルー・レヴィアタンに連れられて義手と義足を付けた車椅子姿のシトリー夫婦やら、共に鍛練をする様になったサイラオーグ・バアルやら……例の変態であるディオドラ・アスタロトの姿も見える。

 更には、 サーゼクス・ルシファーと同じ紅蓮の髪をした悪魔とグレモリー元三年に似た悪魔も……。

 

 

「これだけの面前だ。

彼等のした事が如何に馬鹿馬鹿しく、ふざけていたのかを理解してもらえるだろう?」

 

「………なるほどな」

 

 

 要するに公開処刑にするらしい。

 わざわざ晒し者にするのは趣味じゃないが、さっさと終わらせることが出来るのであればぶっちゃけ何でも構わん。

 

 

「久し振りだな兵藤誠八。貴様の人生をそっくりそのまま返しに来たぞ」

 

 

 清算が終わった後、奴等がどうなろうとも知った事では無いんだ。

 だろ?

 

 

「て、め……ぇ……!」

 

「ふっ、相変わらず俺に対して憎悪をたぎらせている様で安心だよ」

 

 

 兵藤誠八という名前すら嘘である、どこぞの誰かさん?




補足

レイヴェルたん、猫姉妹にぺろぺろされまくるのだったの巻

しかたないね、黒猫ねーさんチートやし、白猫妹ちゃんも進化したし、二人掛かりじゃヘロヘロよ。


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終幕

…………。待たせておいていい加減て。


 兵藤誠八か。

 今にして思えば実によく考えた名前だよ、自分で付けたのか、それともそう名乗る様に『誰か』に言われたのか……まぁどちらでも構わない。

 

 

「そう身構えなくても良いよ兵藤誠八。

俺は寧ろ貴様を解放しに来たのだからな」

 

「!」

 

 

 見世物にされるのは気に食わんが、目の前の男にしてみればどちらでも良いみたいだし、とっとと始めさせて頂くとしよう。

 

 

「前置きも要らないし、こうして見ている者も居る。

最早お互いに話す事なんて無いだろう?」

 

「な、何をするつもり――っ!?」

 

 

 俺は兵藤一誠。数奇な人生の果てに手に入れたこの幸福の為、兵藤誠八なる男に全ての清算をさせる。

 その為にはまず、この悪魔達の目の前で兵藤誠八という人物が俺の双子の兄等では無い事をこの場で証明する。

 

 

「幻実逃否……貴様の全てを兵藤誠八()()に戻す」

 

「!? ふ、ふざけるな! や、やめろォ!!!」

 

 

 そう、進化させたこのマイナスで。

 

 

 

 

 誰しもが息を飲む。

 同じく罪人として穴倉に落とされたリアス・グレモリーやソーナ・シトリー達……兵藤誠八を愛したつもりでいた面子達も、そして見ていた他の悪魔達全ても。

 

 

「ぐ、あ……ぉ……がぁぉ!?」

 

「な、何よ……これ」

 

「セーヤ……くん……?」

 

 

 リアスとソーナは目の前の現実に呆然とした。

 穴倉から引き上げられ、目の前には裏切り者の元下僕と全ての元凶である兵藤一誠が魔王達や悪魔達が見ている中、自分達の前にいけしゃあしゃあと現れ、憎悪を向ける誠八に一誠が手を翳して小さく呟いた……まではよかった。

 

 

「ぐ、ぉ……ひぃ……!」

 

 

 その瞬間、誠八は突如として左腕のみを残した哀れな姿で苦しみ始めた。

 そして何が起こったのか、その後徐々に誠八の顔の皮膚が……いや、全身の皮膚がズルズルと崩れ始め……、

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 

 誠八だった筈のその者は、リアスやソーナ達も知らない……全くの別人の容姿をした男へと変化していたのだ。

 

 

「ふむ、それが貴様の正体か……」

 

「く、て、てめぇ……!」

 

「おっと、声も別人か。くく、どれだけ自分を偽ったのやら……」

 

「だ、黙れ!」

 

 

 くつくつと笑う一誠を『五体満足』となっている、少し小肥りのでまるで手入れもしていないボサボサした薄毛気味の男が殺意に満ち溢れた形相で睨み付けている。

 

 

「も、戻せ!」

 

「だから戻しただろう? 元の貴様に」

 

「違う! こ、これは転生前のであって、俺は――」

 

「おいおい、兵藤誠八―――いや、どこの何方さん。

いい加減自分を偽るのは止めたらどうだ? 貴様は俺の双子の兄でも無ければ、兵藤誠八でも無い……そして赤龍帝ですらな」

 

「くっ……」

 

「それに見ろ、ふふ、仮に貴様のリクエストに答えて元にとやらに戻した所で、くくく……果たして今の貴様を見てしまった連中が兵藤誠八と認識してくれるのか?」

 

「!?」

 

 

 心底可笑しいと嗤いながら言う一誠の言葉に、誠八だった男は目を見開きながら、周囲を見渡す。

 

 

「魔王様の言った通り、姿形を偽っていたのか……」

 

「別人過ぎるだろ……変化の秘薬かなにかか?」

 

「リアス嬢もソーナ嬢も見事に騙されていたみたいだな」

 

「………!」

 

 

 周囲の悪魔達の自分を軽蔑する声と視線。

 そして……。

 

 

「だ、誰よ……あの人……!」

 

「セーヤくんは……」

 

「彼がその兵藤誠八ですよ……」

 

「現実逃避したい所悪いが、奴は一誠にそっくりに化けてアンタ達を美味しく頂いてたのさ……。

へ、実物はどうやら質の悪い引きこもりみてーな風体だったみたいだがな」

 

「う、嘘よ! アナタ達がセーヤを――」

 

「はいはい、そう思いたければそう思ってくれて結構だよ。それに、風体は変わっても兵藤誠八ではあるんだから、アンタ等ならお得意の愛とやらで愛せるんだから、問題ないだろ?」

 

 

 明らかに今の自分を見て心底ショックを受けているリアス達。

 

 

「元士郎の言う通り、今の貴様でも奴等なら愛して貰えるのでは無いか? 何せ盲目なまでに貴様についていたのだからな?」

 

「ぐ……」

 

「だが、双子でも何でもない赤の他人の貴様が俺とそっくりな顔をされて余計な真似をされても困るんでな。

だから貴様の人生を返すついでに元に戻してやったのさ……コカビエルに持ってかれた手足も元に戻してやったんだ、文句は無いだろう? それに兵藤誠八と転生悪魔で無くなった今、貴様を処罰するという事も無くなったので晴れて釈放だ。

釈放されて人間界で生きるにしても、コネも無さそうな貴様がどう生きるか見物だな」

 

「ううっ……!?」

 

 

 一誠の言葉に誠八だった男は狼狽え、リアス達にすがろうと近寄る。

 だが……。

 

 

「だ、騙されないでくれ、あ、あいつが俺の姿を無理矢理――」

 

「!? こ、来ないで!」

 

「な、何故か急に……何でセーヤ君を好きになってたのか疑問に感じて……頭の中がグチャグチャに……」

 

 

 元に戻るということは、補正、洗脳力もまた無くすという事であり、リアス達は目が覚めた様な表情と共に誠八だった何かを拒絶する。

 

 

「……!」

 

「あーぁ、まぁ散々詐欺師宜しくに周囲を騙くらかしていたんだから、バレたらこうなるもの必然だわな」

 

「よりにもよって一誠様の兄を語るからですわ。恥を知れ」

 

 

 そんな誠八だった男に元士郎とレイヴェルが冷めた顔で吐き捨てる。

 

 

「見たかい皆? 兵藤誠八と語っていた彼はご覧の通り、兵藤一誠の血縁なんかじゃあ無かった。

特殊なチャームでリアス達を自分の物にして好き勝手やり、勝手に自爆したのさ」

 

 

 そしてトドメはサーゼクスによる悪魔達への説明。

 これにより見ていた悪魔達はほぼ確定的に兵藤誠八は姿を偽って悪魔を利用し、そして弄んだ。

 特に手足を失ったソーナの両親や、姉のセラフォルーは殺意すら滲ませながら誠八だった男を睨んでいる。

 

 

「つまり貴様は色々と詰んでいるんだよ、兵藤誠八だった者よ」

 

「っ……クソガァァッ!!!」

 

 

 その状況を今一度一誠に指摘され、遂に逆ギレした誠八だった男は、全ての力を失っているというのにも拘わらず、腕を組んで堂々と立つ一誠に飛び掛かった。

 

 

「テメーさえあの時大人しく死んでれば、レイヴェルだって、黒歌だって白音だって、セラフォルーだって俺の物だったんだ!!!」

 

 

 そして開き直ったとばかりに己の欲望を叫ぶ。

 

 

「冗談じゃありませんわ、死んでもあんな男のモノに何かなってたまりますか」

 

「でも、もし一誠先輩が居なかったらと思うとゾッとしますね」

 

「うん……あんなのに知らない間に洗脳されて好きに身体を――と思うとね」

 

「殺意しか沸かないよ……ホント」

 

 

 身勝手な怒号にレイヴェル達は心底嫌悪する視線をしながら、軽く誠八だった男の無様な拳を捌く一誠を見つめる。

 

 

「レイヴェル達をモノ扱いとはな………ふん、やはり一度貴様には『二度とそんな気が起きない様に』心を粉々にしてやらんとならんようだ……な!」

 

「うが!?」

 

 

 レイヴェル達をモノ扱いした事に怒りを覚えた一誠が、鍛えてない小肥り男となった誠八だった男の懐に潜り込み、ブリッジの体勢で男をルシファー城の高い天井スレスレまで跳ね上げる。

 

 

「うっ!?」

 

 

 天井スレスレまで吹き飛ばされた誠八だった男は、浮遊感に恐怖を覚える間も無く、鋭い目付きをした一誠に身体が動かせない。

 

 

「うわ!? や、やめろ!」

 

「ふん、今更もう遅い」

 

 

 今になって恐怖で命乞いをするも、殺気を帯びた表情を崩さない一誠に止めるつもりは無く、ブリッジの体勢から何度も誠八だった男を天井スレスレまで跳ね上げさせると……。

 

 

「俺の師匠から聞かされたお伽噺を貴様に見せてやる。

ある『風紀委員長』となった男の技をなァ!!」

 

 

 

 5度目の跳ね上げを終えた一誠は、突如そう告げながら、天井まで跳ね上げた誠八だった男を追って大きく跳躍すると、空中で相手の首と片足を固定し、両腕は相手の後ろに交差するように無理矢理組ませ、そのままエビ反りになるようにクラッチし始める。

 

 

「あ、あれは……?」

 

 

 その姿に固定された誠八だった男の全身から骨が砕ける音が城内全体を響かせ、口から夥しい量の血の塊を男が吐くのを、その場に居た全員は呆然としながら見ている。

 

 

「イヤン、一誠様の新技ですわ!」

 

「なんかえげつないね」

 

「あれ食らったらどうなっちゃうんでしょうね?」

 

「また強くなったのか……信じらんねぇ」

 

「僕達も負けられないね」

 

「うむ……体術もやはり怠らぬ様にしないとな」

 

 

 一部、一誠の友人達の反応が少し違うが……。

 

 

「ぐごっ!?」

 

「先に言うぞ? 手加減なんかしない……」

 

 

 バキバキに誠八だった男の全身の骨を砕いた一誠は、低い声で実質一度完全に殺すと宣言した後、血ヘドを吐く男へ続けざまに相手と背中合わせの姿勢で手足を固め、首を外側に無理矢理固定させると……。

 

 

「完璧弐式奥義・アロガント・スパァァァァァァクッ!!!」

 

 

 そのまま勢いよく相手の頭と体を地面に叩きつけるように落下した。

 尊大・傲慢な火花と叫びながら……。

 

 

「がばぁぁぁっ!?!!」

 

 

 その技は殺意に満ち溢れた技だった。

 

 

「う……」

 

 

 その技は、悪魔達ですら言葉を失わせる程のおぞましさがあった。

 

 

「……ご……が……ひゅーひゅー……ひゅ………」

 

 

 その技は文字通りの必ず殺す技と書いた必殺技だった。

 誠八だった男が地面に叩きつけられてたその瞬間手足……そして首はあらぬ方向へとねじ曲がってしまい、たった一度の技で誠八だった男は戦闘不能――いや、死を迎えてしまった。

 

 

「っ……と、なるほど……なじみの話に出ていた風紀委員長とやらが手こずったという話も本当らしい……中々身体にくる技だなこれは」

 

「………」

 

 

 技を解き、全身があらぬ方向に捻曲がって息絶える誠八だった男を見下ろしながら、一誠は自身の身体に掛かった負荷に片目を閉じながら苦笑いを浮かべると、その手にいつの間にか持っていた巨大な釘を己の身に突き立て、反動ダメージを否定して逃げる。

 

 

「ふっ、心配するな兵藤誠八だった男よ……貴様は此処では死なん。

貴様が洗脳してきた女子達に対して貴様は何のケジメもしてないし、そもそも………ふふ」

 

 

 白目を向きながら絶命する男から、恐怖に顔を引きつらせていたリアスとソーナ達へと視線を向けた一誠は、何時も越えた底意地の悪い表情で言った。

 

 

「検査させた結果……おっと、ここからは貴様が言ってやれよサーゼクス・ルシファー?」

 

「うん、全員ご懐妊だったよ。

父親は当然、そこで死んでる小肥りの男さ」

 

「っ!?」

 

 

 絶望的な現実を……。

 

 

「え……え……?」

 

 

 一瞬何を言われたのか理解できないという顔をするリアス達。

 

 

「まあ、散々避妊具無しでやってりゃあ、そうもなるわな」

 

 

 そんなリアス達に元士郎が呆れた様にそう呟き……。

 

 

「おめでとうございます元主さん。

あの男との念願の子供が出来て……」

 

「ひっ!?」

 

 

 心の底からの皮肉を笑顔で言いきるのだった。

 

 

「幻実逃否……さて、この男は今死を否定して強制的に復活させた。

この男のシンパである貴様等に言うことも最早何も無いが、精々この男との間に出来た子供を育てる事に専念でもするんだな……」

 

「う……ぁ……!」

 

「ちなみにだけど、僕は妹であってもお前の支援はしないよ。

父と母はどうだか知らないけどね」

 

 

 

 兵藤誠八だった男……ご懐妊させエンド確定。

 

 

 

終わり

 

 

オマケ……

 

 

その後の兵藤誠八だった男がどうなったかなぞはどうでも良かった。

 

 多分殺されてしまってるとしてもだ。

 

 

「ほれ、これがなじみの写真だ……変な事に使うなよ?」

 

「わかってるさ! うひひひ!」

 

 

 サーゼクスに写真を渡し。

 

 

「何か久しぶりな気分な気がするので、レイヴェルに膝枕されたいと思う」

 

 

 レイヴェル達とイチャイチャしたり……。

 

 

夏休みはまだ始まったばかりである。

 

 

 そして――

 

 

「………。奴等を見て思う。

好意に対してのらりくらりじゃダメだと思うんだと。

だから――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前回の怪しい宿屋。

 

 

「……。最後に聞くが本当に良いんだな?」

 

「当然」

 

「当たり前です」

 

「まあ、此処まで来たなら私も反対しませんわ」

 

 

 兵藤一誠……覚悟の時。

 

 

嘘です

 




補足

という訳で皆ご懐妊でした。

あーこれから大変だー……


その2
なんて事があるから一誠は踏み込もうとはしないんですよね。


まあ……そろそろ彼女達に対してのケジメを付ける話が入りますけどね。


その3

何処かの世界の風紀委員長……一体誰なんだ……


その4


そう、次回からはこんな調子でなんと元士郎君がダブル・レヴィアタンととか。

木場きゅんがゼノヴィアさんと何かしたりとか。


一誠、レイヴェル、黒歌、白音が………とか。







ご懐妊されたアーシア嬢を浚おうと奴がやらかしたりとか……まぁ、そんな感じでありたい。


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末路

です。

否定された時、ほぼ被害者である彼の向かう先は……。


 本名も知らぬ男がその後どうなったか……。

 一誠により死を否定され、蘇らされた直後のお話をしよう。

 

 

「さて、今一度キミ達に聞こうか。

この兵藤誠八だった彼を今でも好きだと思うかい?」

 

「…………」

 

 

 死を否定された兵藤誠八だった男を悪魔達が拘束し、『夢から覚めた』表情から徐々に『絶望』の表情へと変質させるリアス達に、サーゼクス・ルシファーは魔王然とした態度で問う。

 

 

 が、しかし誰もその問いに答えられる者は居ない。

 

 

「リ、リアス……ソーナ――うぐっ!?」

 

「貴様……娘を洗脳したのか!?」

 

「なんて事をして……!!」

 

「ち、違う! 俺はそんな事をしていない! あ、アイツのでっち上げだ!」

 

 

 一誠を指差しながら喚き散らす男を、リアスの両親とソーナの両親は殺意を持って睨み付ける。

 

 

「ふっ、でっち上げか……なら今の貴様の魅力とやらでコイツ等とよりでも戻すか?」

 

「っ!?」

 

 

 だがそんな男の絶叫も、一誠の嘲笑じみた声により押し黙ってしまう。

 

 

「それは良い、何の力にも頼らずこの人数を相手に惚れさせたんだ。ふふ、是非とも見せて貰おうじゃないか……ねぇ?」

 

「ぐっ!?」

 

 

 一誠の言葉に名案だとポンと手を叩きながら、サーゼクスが笑みを浮かべて男を拘束させていた悪魔に向かって軽く顎をしゃくり、絶望に顔を死人の様に青くするリアス達の前へと無理矢理出させる。

 

 

「もし本当にキミが自力で彼女達を惚れさせ、尚且つリアス達が今でもキミの事を好いているのなら、認めてあげるよ。さ、何か彼女達に言ってごらん?」

 

 

 サーゼクスも分かってる上でニタニタしながら男を煽っており、その表情と周囲からの殺意に顔を青くしていた小肥りの男は、その言葉にすがるかの如く、必死にリアス達にあれこれと嘘で塗り固めた言葉を放つ。

 

 

「違う、俺はこの姿にさせられただけで、本当の姿は皆が知ってる兵藤誠八だ! そ、それに子供だって――」

 

「ち、近寄らないで!!」

 

「止めてください! あ、アナタのせいで私は……!!」

 

「な、何で私はあんな簡単にアナタに身体を……!」

 

「そ、そうよ……今思えば何時もアナタを前にすると頭がボーッとして……!」

 

 

 しかし誰もが嫌悪を向ける。

 補正、洗脳能力、その他全てを生前の姿と共に失っていた今となっては、お得意のニコポも撫でポも何もかもが無意味だった。

 

 ましてや化けの皮の下は兵藤誠八とは似ても似つかない小肥りで卑屈そうな男だ……。

 その精神がまともならイザ知らず、見た目通りの醜悪な姿ではどうしようもなかった。

 

 

「目が覚めた途端この様か………………醜いな」

 

『っ!?』

 

 

 そんな姿を冷めた目で見ていた一誠は、何時にも増して切り捨てるような冷徹な表情で天井を仰ぎ、ただ一言、醜いと呟く。

 

 

「そ、そうよ! わ、私達はこの男に洗脳されていた……! だ、だから私達が全部悪いわけじゃ無いわ!」

 

「あ、アナタが正しかったのは最早否定しません! そ、そうだ……! アナタには先程この男を甦らせた不思議な力がある! だ、だからその力で私達の中に寄生したこの男の種を取り除いてください!」

 

「お、お願い兵藤君! せ、生徒会長は誰からの悩みや相談を聞いて解決してくれるんでしょ!?」

 

「た、助けてよ兵藤君!」

 

 

 今までのは何だったのか。

 清々しいまでの掌返しの言葉を向けるリアス達に、一誠は天井に向けていた視線をゆっくり下ろし、何処までも冷徹な表情で見下す。

 

 

「テメー等ァ……ふざけた事抜かしてんじゃ――」

 

 

 いくら洗脳されてたいたからといっても、余りにも身勝手な懇願に元士郎が激怒の表情を浮かべながら、腰に差していた暗黒騎士として目覚めた際に手に入れた細身の両刃剣の鞘を抜こうと柄に手を掛けようとする。

 

 

「匙君! わ、私達は被害者だから……ね!? ま、前みたいにまた仲良くしよう?」

 

「そ、そう……! な、何だったらソーナ先輩との仲も応援するし!」

 

「お願いよ……匙君からも兵藤君に何とか言って?」

 

「お願いします…!」

 

「匙……」

 

 

 そんな怒りを知ってか知らずか……散々蚊帳の外に放置していた元士郎にまで媚始める元同僚達に、元士郎はブチンと何かが自分の中で切れる。

 

 

「ガタガタ抜かしてんじゃ……ねぇぇぇぇ!!!!!!」

 

『ひっ!?』

 

 

 線が切れた元士郎が怒号と共にその身に禍々しい黒狼の鎧を召喚し、身に纏う。

 それはかつてソーナの兵士として在籍していた時には見なかった力であり、その覇気はあまりにも強大だった。

 

 

『仲がなんだって? くくくく……洗脳された事を理由に責任逃れしようとするボケの何を許せと? 笑わせるな、元々テメー等はあの時点で見限ってんだよバカが!!』

 

 

 鎧の節々から迸る赤紫色の炎と共に、元士郎はハッキリと元同僚達を見限っている事を宣言する。

 

 

『…………』

 

 

 その言葉に元同僚達であるソーナは絶望の表情を浮かべながら糸の切れた人形の様に動かなくなる。

 

 

「ふん、くだらねぇ……。そもそもこっちからお断りだよ」

 

 

 そんな連中を見て元士郎も途中で怒りよりも呆れが勝ったのか、鎧を解除すると吐き捨てる様に決別の宣言をすると、それまで黙っていた一誠が静かに口を開いた。

 

 

「確かに俺のマイナスである幻実逃否(リアリティーエスケープ)なら、貴様達がご懐妊したという現実を否定し、綺麗な身のままという幻想に逃避させる事で何とか出来なくもない」

 

「!? だ、だったら!」

 

 

 希望とも言える一誠の説明に、またしてもリアス達を含めた全員が一誠にすがるような視線を送る。

 その余りにも助かりたいという念に、もはや誠八だった男は絶望し、周囲の者達もまた呆れてしまっていたのだが……。

 

 

「あ、あの……こんな事を言うのも烏滸がましいのかもしれないが、その力でリアスをどうにかできないか?」

 

「も、勿論二度とリアスには自由を与えません……」

 

「わ、私からも娘のソーナを……」

 

「お願いできませんか?」

 

 

 やはり娘の腹に宿った醜い男との子だけは何とかしたいという親心なのか、リアスとソーナの両親も一誠に頭を下げ始める。

 

 

「父上、それに母上……それは言った通り余りにも烏滸がましいですよ」

 

「お父様とお母様もだよ。確かに騙されていたのかもしれないけど、だからといって彼にすがるのはお門違いにも程がある」

 

「だ、だがこの男は彼の兄を語って騙していたんだ! だ、だったら――」

 

 

 長男と長女の二人に冷めた目で諭される両家両親は、一誠が無関係でない事をいきなり主張しようとする。

 しかし……。

 

 

「グレモリー殿、それからシトリー殿。

こんな事はあまり言いたくないのだが、私達の息子をそこの彼といっしょくたにされるのは甚だ心外ですよ?」

 

「一誠は我がフェニックス家の四男。

血は繋がらずとも10年以上共に在った紛れもなき我が家族。

その家族を、周囲に己を偽って生きていた、誰とも知らない人間と血縁があるだなんて………………冗談でも笑えねぇぞゴラ?」

 

『っ!?!?』

 

 

 その言葉にシュラウドとエシルの二人が殺気を帯びながら否定する。

 特にエシルに至っては若き頃の『イケイケ』だった口調になっており、両家の両親はその威圧に冷や汗が止まらずに口を閉じてしまう。

 

 

「双子とありながら全く容姿も似ておらず、更に周囲を騙していた男の関係者とは確かに言えぬな」

 

「それに洗脳などされてる時点でグレモリー家もシトリー家も底が知れるというか……」

 

「少し失望を覚えましたな。セラフォルー様とサーゼクス様が奇跡だったとも思えてしまうほどに」

 

「「「「ぐっ……」」」」

 

 

 周囲の権力者……それもサイラオーグ達ですらそれは罷り通らないだろうという意見に、どちらもそれ以上何も言えずにうつむいてしまう。

 

 が、それに追い討ちを掛ける様にして口を開いた一誠のこの一言が。

 

 

「あぁ、この際だから言っておこうか。

俺の幻実逃否はもう後二回程しか使えんぞ? 二回使いきったら後は自然に俺の中から消滅するだろうな」

 

『!!?』

 

 

 起こった現実からはそう簡単に逃げられないという絶望へと変わっていく。

 

 

「一誠様、それは一体どういう……」

 

 

 レイヴェルですら初耳だったのか、思わずといった様子でフッと笑みを見せる一誠の傍に白音と黒歌と共に寄ると、一誠は愛しそうにレイヴェルの頬を撫でながら静かに語り始めた。

 

「元々、幻実逃否は奴に全てを奪われた時に抱いた精神によって生まれたスキルだ。

だから、その清算を果たした今……その精神は『満足』する形で俺の中から消える……という事だよ」

 

「ぁ……」

 

「「むー……」」

 

 

 頬を撫でられ、紅潮しながら嬉しそうに目を潤ませるレイヴェルに……いや全員に説明する一誠。

 

 つまり、兵藤誠八だった男に全ての清算を果たした今、その役目を終えると同時に幻実逃否は一誠の中から完全に消滅するのだ。

 

 そして――

 

 

「無神臓だけは永劫俺の中に残る。

レイヴェルが生きる理由を与えてくれた時に宿ったこの精神だけは、お前が共に居てくれる限り永遠に消えない」

 

 

 マイナスで抑制されていた無限の進化は……今までの比ではないレベルで一誠を押し上げるのだ。

 

 

「故に残念ながら、残りカウント二回となったこのスキルを貴様達に使う事はしない。

そもそも俺は貴様達のヤってる事は否定しなかっただろう? 今更どれを否定しろというのだ?」

 

『う……』

 

 

 だからこそ一誠はリアス達の望みは叶えられそうに無いと、ご丁寧に頭まで下げ、更なる絶望へと無意識に叩き落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局その後は失意のまま退場する両家が、そのまま全員を引き取らなければならないというオチを迎えられていた。

 その際、誠八だった男はせっかく五体満足だったのを怒った両家の当主により手足を達磨の如く吹き飛ばされ、地下牢で全てを抑圧された余生を過ごすことになるという結果に終わり、ご懐妊となったリアス達は……。

 

 

「どうであれ悪魔の数も少ないしね、悪いけど下ろす事は許さないよ。これは魔王命令だ」

 

「悪いけど、私も下させて貰うよ。

洗脳されてたはもう理由にならないから……」

 

 

 子育てを命じられ、嫌でも産みだなさいといけないという絶望に絶叫しながら退場をするのだったとか。

 

 

 そして……。

 

 

「ハァ……終わったな。

まあ、単なる蛇足だった様な気もするが……んー」

 

「ぁん♪ そんな所をくんくんしないでくださいな一誠様……♪」

 

 

 一誠達はフェニックス家に戻り、ただただのんびりとした時間へと戻っていた。

 いや……正直に言おう。

 

 

「あーもう、レイヴェル好き……!」

 

「やん♪ 帰って来てからの一誠様が甘えん坊さんになっちゃいましたわ……!」

 

 

 マイナスの精神をほぼ失ったせいなのか、それとも連中に対しての清算で何かを思ったのか……。

 

 

「むー……先輩、レイヴェルさんばかり……」

 

「くぅ……やっぱり無理矢理押し倒すしか無いにゃん?」

 

 

 ガラリと変わった様にレイヴェルに対して甘えまくっていた。

 それはもう、元士郎達が恥ずかしくなるくらいに……。

 

 

「元士郎、折角なんでその……私がしてあげましょうか? ………膝枕」

 

「え? えっと、い、良いんですか?」

 

「え、えぇ……返しきれない恩がアナタにはありますし、それにその……私なんかで良ければ――」

 

「いや! わ、私がやるよ!☆」

 

「!? あ、アンタ何時から居たんだよ!?」

 

「ぼ、僕じゃ太刀打ちできないですぅ……」

 

 

 とはいえ、元士郎も元士郎でダブル・レヴィアタンや後輩ハーフ吸血鬼に引っ張りだこになってたりするし……。

 

 

「やっと終わった気がする。

後はもっと強くなって皆の足を引っ張らない様にしないと……」

 

「うむ、私もそのつもりだが……その、なんだ……折角だしアイツ等に便乗しても良いんだぞ?」

 

「へ? 何がだい?」

 

「その……どう見ても抱きついてる様にしか見えない膝枕……」

 

 

 騎士コンビもまたそうだったり……。

 

 

「よし、こうなったらレイヴェルを……そりゃ!」

 

「ふぁ!? な、なにを……ひゃん!?」

 

「チッ、やっぱり姉さまとまでは行かないけど大きいですね……」

 

「お、おい……レイヴェルになにを……」

 

「ふふーん♪ 今からレイヴェルを白音と一緒に………って感じだけど、イッセーは見てるだけ? それとも……する?」

 

「ぁ……や、やめ……い、いっせーさま……た、たすけてぇ……」

 

「う……」

 

 

 取り敢えず一誠は、そろそろ此方の『決着』を付けないといけないと考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………。本来の宿主へ戻った、のか……俺は?』

 

 

 その中に入り込む赤い龍という騒動の前に。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 自分を好いてくれる白音と黒歌。

 しかし一誠はどうしても誠八達を見てしまっているせいで、三人同時なんて考えは持ちたくなかった。

 

 だから一誠は……。

 

 

「……。白音、黒歌……俺はその……昔からレイヴェルを――」

 

「「………」」

 

「一誠様……」

 

 

 二人に向かって自分は止めておけと言った。

 が、考えて欲しい。そんなことを言ったからといって、果たして何年もストーカーじみた執着を抱いていた猫姉妹が果たして諦めるのか? 答えは……。

 

 

「嫌だ」

 

「絶対に嫌です……」

 

「ま、こうなりますわね……このお二人の執着は本物ですし」

 

 

ノーである。

 レイヴェルですら半ば認めるレベルの好意は次第に一誠を追い詰め……。

 

 

「……。何で俺は椅子に縛られてるのだろう? そして何でお前達はその……は、裸なのだろう?」

 

「決まってますわ一誠様。このまま平行線を辿れば一誠様はきっと誰とも繋がろうとはしない……」

 

「ですので、今から先輩をその気にさせる為に……」

 

「一誠には何にもせず、私達三人でエッチな事をしようと思うにゃん。

だから一誠――」

 

「「「我慢出来なかったら何時でもどうぞ♪」」」

 

 

 目の前で女の子同士の――――これ以上はアウト。

 

 

 

NEXT 鳥猫との決着。

 




補足

という理由で一誠の中のマイナスはこれにて消滅となり、残った異常性は失ったマイナスに呼応するかの如く進化のスピードを上げます。


つまり、失ったお陰で一誠の進化は飛躍的なものに……。


その2
暫く放置してたせいか、とっとと鳥猫さんイチャイチャがやりたくてしゃーない。
あとカテレアさんと元士郎くんとか………壊れたグレイフィアさんが安心院バカ化してるサーゼクスさんを襲いまくる話とか……。


え、木場きゅんとゼノヴィアさん。
うん、二人は中学生みたいな初関係となるですよ?


その3
となると、特に一誠とレイヴェルたんと白音たんと黒歌さん場合は百パーセントr-18化しちゃうんで………やべぇ、どうしよ。


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生徒会室のホーリー
その後と新学期


アレだけ落としておいてアレですが、軽い救済措置が発動します。

とはいえ、それが果たして救済なのかは不明ですけど。


 それからどうなったか。

 

 兵藤誠八……だった男は陽の光を浴びることも不可能な地下で無理矢理生かされるという地獄の末路となり、その男の魅了により狂った女達は正気に戻るものの、悪魔社会での評判は地に落ちきった。

 

 リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの元眷属である木場祐斗、塔城小猫、ギャスパー・ヴラディ、匙元士郎の四名はフェニックス家預かりとなり、二度と彼女達に忠誠を誓う事は無いだろう。

 

 そして兵藤誠八だった男との間に関係を持ち、見事なまでに身ごもってしまった者達は、正気と共に絶望と後悔の念に苛まれてしまうのは想像に難くない。

 あれだけ愛と宣っていた己への嫌悪、正気に戻ってしまうことで突きつけられる、好きでもない者との子。

 

 全てが正気に戻ってからの彼女達は発狂するのも時間の問題だった。

 勿論、堕天使に引き取られた姫島朱乃や、天界陣営に隔離されていた紫藤イリナも、兵藤誠八の全てが嘘で塗り固められた物だったという証明を一誠達によって暴かれた時の映像を見た時、絶望をしたのは云うまでも無い。

 

 その後彼女達は一体どうなったのだろうか? 簡単に言ってしまえば彼女達は今も生きている。

 世間的には夏休みが終わり、新学期が始まった今でもちゃんと生きている。

 

 しかも全員が全員、『転校』という処理で退学になった筈の高校を裏で色々やって再び登校している。

 

 そう……。

 

 

「言っておくが、別に感謝して欲しくない。

何せ俺は『どうであれ』貴様達の子供を『居なかった事』にした殺し屋だからな」

 

『………』

 

 

 兵藤誠八だった者との決着により失う寸前だった、夢と現実を入れ換える力の最後の二回の内のひとつを使って貰う事で、ある程度身を綺麗な状態へと改編して貰う事で……。

 

 

「それから祐斗と元士郎達にはちゃんと謝れよ。

割りを食ったのはアイツ等なんだから」

 

『………』

 

 

 マイナスという要素を完全に消す代償で尻拭いして貰う形で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリーの人達とシトリーの人達が一誠に土下座まで噛ましてあの日言った言葉は、『キミのその不思議な力でどうか娘達の妊娠を無かったことにして欲しい』という、一誠にしてみればメリットのメの字も無いものだった。

 

 

『さて、一学期の終業式で諸君等も知って通り、この日から我々生徒会は本格的に活動の幅を広げる。

よって一学期同様、相談ごとがあれば遠慮せずこの目安箱に投書してくれ』

 

 

 しかし一誠は結果的に奴等の頼みを引き受けて、最後の一回だったマイナスのスキルを犠牲にして奴等が兵藤誠八によって孕んだという現実を否定した。

 それは前にチラッと本人が言ってた初恋の人……確か紫藤だかなんだかと、堕天使に引き取られた姫島朱乃も適応させ、この一打により一誠のマイナスは完全に消滅した。

 

 そして奴等は監視の目を受けながら復学までした。

 それもグレモリーとシトリーの当主達の懇願だった。

 一誠はその懇願に対して『別に俺の許可なんて要らないと思うが?』と言って俺と木場達元眷属の意見を尊重するように奴等に求めた訳だが、俺たちももう無関係となった相手に何も抱かなかったので、好きにしたら良いのではと言ってやった。

 

 

『俺からは以上だ』

 

 

 フェニックス家預かりとなった俺達と奴等は最早関係ない、

 今も生徒会として壇上に上がる俺達の視界にリアス・グレモリー達やソーナ・シトリーが映るが、その表情は一様に暗いものであり、それを見ても俺はなんにも感じないのが正直な感想だ。

 

 今の俺の目標は、もっと強くなって皆に追い付く事だからな……。

 決別した相手と、もう終わっちまった事で何時までもグダグダやりたく無いのさ。

 

 それよりも気になるのは一誠だ。

 

 

『次は校長の話だ。寝るなよ?』

 

 

 あの性欲バカとの決着によりマイナスを失った。

 しかしそれと同時に発覚したのが、一誠の中に何やら入り込んでしまったモノがあるらしい。

 そのお陰かどうか知らないが、最近一誠はほんの少しだが自分で『身体が重い』とぼやいていた。

 

 調べてみると、どうも性欲バカに宿っていたモノが一誠に――いや、聞けば本来の持ち主に戻ったらしいのだが……。

 

 

「………」

 

 

 一誠にしてみればマイナス以上にそれが枷になってる気がしてならない。

 夏休み中の修行で直接模擬戦を何度もした俺達が感じるんだ。多分本人もそれに気付いているだろう。

 宿ってしまったそのモノに関しては一誠は一切使用していない。

 

 今まで散々一誠に世話になった分、今度は俺達がその枷を何とかしないとな。

 そう思いながら二学期の始業式は幕を閉じた。

 

 

 

 二学期となっても、オカルト研究部を退部したとしても女子に人気があって男子に嫉妬される運命を持つ学園王子の木場祐斗。

 生徒会に書記として加入しても尚その人気はある意味衰えないのだが、最近そんな彼には夏休み直前に学園に転入してきた外国人の美少女との噂が出ていた。

 

 

「っはー! やっと昼休みだぁ~」

 

「飯行こうぜ飯~」

 

「今日は何処で食べる?」

 

「うーん、木場君を誘ってみようかしら?」

 

 

 二学期も始まって数日が経った頃、一ヶ月振りの授業のブランクなのか、あちらこちらで生徒達が身体を伸ばして精神的な疲労を覚えつつも、昼休みという憩いの時間をどう過ごそうかとあちらこちらで声が飛び交ってる中、この度生徒会長の推薦により書記として加入した木場祐斗は、先の授業で使用していた教科書等々を丁寧に仕舞うと、昼休みで羽を伸ばそうと考えていた。

 

 今日は何を食べようか?

 一誠くんたちと合流しようかな?

 

 リアス達との決着によって精神的な疲労から解放され、過去との決着により根に残る闇も晴れていたせいか、素直な気分で今の人生を楽しむ意気込みを持ち始めていた祐斗は、それが表面に出ているせいかますます周囲の女子達からモテモテであり、男子達からの嫉妬も凄まじいものであった。

 現に今だって女子の一部が勉強道具をしまってた祐斗に声を掛けようかと黄色い視線を送り、それを察した男子が妬むという構図が出来上がってたりするのだが、祐斗にしてみれば申し訳ないがそのどちらにも関心は無かった。

 

 

「祐斗」

 

「ゼノヴィアさん」

 

 

 そう、期間は短いけど、それでも胸を張って仲間と呼べる者の一人、ゼノヴィアの存在が周囲からの視線を全部シャットアウトしていたのだ。

 美少女外国人という事で復学したリアス達並みに人気が会ったりするゼノヴィアに直接話し掛けられた祐斗は、ただただ嬉しそうに微笑みながら彼女に返事をする。

 

 

「お昼、食べるだろ?」

 

「うん」

 

 

 ゼノヴィアという、ほぼ無理ゲーに近い美少女が何の躊躇いも無く祐斗に話しかける時点で敗北を悟る女子達と、そんな美少女に柔らかい表情で話しかけて貰える事に妬む男子の視線を気にせず、ゼノヴィアが持ってきた二人分のお弁当の片方を受け取った祐斗は実に嬉しそうに立ち上がる。

 

 

「エシルさんから叩き込まれたが、まだ未熟なんで味は保証しかねるぞ……」

 

『ナニィィィ!?』

 

 

 どうやら本人の手作りらしく、ちょっと不器用っぽく布に包まれたお弁当箱を受け取る権利を既に所持しているという現実に男子達が思わず騒ぐ。

 

 

「そんなのは関係ないよ。だ、だってほら……美味しかったの知ってるし」

 

『えぇぇぇっ!?』

 

 

 そして祐斗は祐斗とちょっと照れながらも嬉しそうにするもんだから、木場祐斗狙いの女子達もまた悲鳴をあげる。

 何というか、独り者には入り込めなさそうなオーラが二人から溢れていた。

 

 というかだ……。

 

 

「えっと、何処で食べようか? あ、一誠君達と合流する?」

 

「それもいいが、その……お前と二人はダメか……?」

 

「へ!? そ、それは勿論ダメな訳が無いよ! う、うん……あははは!」

 

「そ、そうか……ふふっ!」

 

 

『…………』

 

 

 何だこの付き合いたての中学生みたいなやり取りは。

 どっちも初っぽくなってるし、基本お堅そうなゼノヴィアももじもじしてるし、祐斗も目を泳がせまくりだし。

 

 周囲の生徒達も何故か恥ずかしくなってきた。

 

 

「て、テメー木場ァ! ゼノヴィアさんとつ、付き合ってんのか!?」

 

「「え!?」」

 

 

 しかしそんな中を勇者と化した生徒Aが、妬みと伝染させられた気恥ずかしさを交えながら祐斗に挑みかかった。

 勿論声には出さないものの、見ていた男女両方はビックリした様に固まる二人の回答を食い入る様な目で待っていた。

 すると……。

 

 

「つ、付き合うってそんな……ゼノヴィアさんに失礼だよ……」

 

 

 完全に目が泳ぎ、吃りまくりな声で祐斗は違うとは言った。

 しかし普段の木場祐斗の様子とは明らかに真逆のテンパりっぷりのせいで信用しようにも無理があった。

 

 

「失礼なものか、お前の強さを私は知ってるつもりだし、そ、そ、その……私はそんな祐斗が、き、嫌いじゃないぞ?」

 

「ゼ、ゼノヴィアさん……」

 

 

 加えて祐斗並とは言わないが、それでも照れていたゼノヴィアの一言が完全に決定打となってしまった。

 何せまだ日は浅いが、ゼノヴィアのキャラとは思えない程の、言ってしまえば可愛らしい言い方とほんのりと頬を染めながらのもじもじした仕種は、男子は若干前屈みになるわ、女子は何かに目覚めそうになるわの一撃だった。

 

 

「き、木場ァ……リア充死ね!」

 

「そ、そうだそうだ! 羨ましくて死にたくなるわボケ!!」

 

 

 チェリーにはちょっと刺激がお強かったのか、ゼノヴィアのギャップにやられてほぼほぼ前屈みになりながら、祐斗に呪詛の言葉を投げつけるが、正直格好がアレ過ぎてみっともない様にしか見えない。

 

 

「何か此処だとアレだし、外行こうかゼノヴィアさん」

 

「うむ、そうだな……あ、一誠達みたいに、その、腕とか組んでみるか?」

 

「へ!? あ……えっと、な、何事も経験だしやってみようかな? あは、あはははー……」

 

 

 結局、中学生みたいなやり取りを見せ付けられてしまい、少なくともクラスの生徒達は二人の仲を確定させてしまうしか無く、完全敗北しか気分で、これまたテンパりながら不器用に腕を組ながら教室を出ていった二人を見送るしか出来なかったとか。

 

 

 ちなみに、女の影が全く見えないとされる元士郎なのだが、彼も彼でただ今衝撃の事実を発覚させられていた。

 

 

「あ、元士郎」

 

「はぇ!? か、カテレアさん!? な、なな、何で!?」

 

 

 その日元士郎は弁当を学食で済ませる気でいた。

 それか一誠達と合流でもしようかとも考えていたのだが、突如自分の所属する教室に来賓カードを首から下げてやって来たカテレアに元士郎はさっきまでの数学授業の疲労が消し飛び、ただただ驚きの眼差しで、同じく『だ、誰だこの褐色美人!?』と思いながら、男子の視線を釘付けにしている彼女を見る。

 

 

「お弁当……元士郎持っていかずに行ってしまったので……」

 

「え? じゃあまさか……」

 

「はい、かなり失敗しましたけど、これなら何とか食べられない事は無いかなと思って……」

 

 

 どうやらカテレアが来た理由は、元士郎に弁当を持ってきたかららしい。

 なるほど、だからエプロン姿なのか……と元士郎は内心めっちゃ嬉しくてハシャイでいたのだが、ふと弁当を手渡された際、カテレアの手に数ヵ所程切り傷が出来ている事に気付く。

 

 

「カテレアさん、その指……」

 

「これ? ふふ、今までこういった経験は無かったから、かなり失敗しちゃいましてね。

いい年してこの様です」

 

 

 褐色の綺麗な手に刻まれていた切り傷を隠しながら自嘲気味に笑うカテレア。

 既に周囲の生徒達は『誰なんだ?』と『てか何で匙なんかとこの美人が?』といった疑問だらけでリアクションすら忘れてる訳だが、そんな空気の中自嘲するカテレアが隠そうとした手をサッと取った元士郎は、嬉しいけど申し訳無い様な気持ちでキュっと握りながら、ひたすらにお礼を口にする。

 

 

「ホントありがとうっすカテレアさん。何かもうホント……嬉しいです」

 

「アナタのお陰で今がありますから……私に出来るといってもこれくらいしか無いから気にしないでも――」

 

「いえ! 俺はもうカテレアさん居てくれたらそれだけで十分ですから! ありがとうございます!」

 

「元士郎……」

 

 

 元士郎と同じクラスに『復学した』元仲間の女子が苦虫を一万匹噛み潰した顔をしてるのなんて最初から気付かず、照れる元旧派の悪魔の両手を握ってイチャイチャしてる様にしか見えないやり取りをしてる元士郎。

 本当なら道さえ間違わなければ自分達や主に向けるその感情が、あんな敵でもあった存在に向けられる。

 

 わかってはいるが元仲間である者達からしたら気にくわない話ではあった。

 

 

「じゃあそろそろ帰るわね? 頑張ってください元士郎」

 

「うっす! ……………へへ!」

 

 

『…………』

 

 

 結局謎の褐色美人と楽しげにしていたという事で、正気に戻った生徒達から物凄い追求があったりしたのは云うまでも無かった。

 しかし元士郎は頑なに彼女について話そうとはせず……。

 

 

「無いとは思うけど、あの人にちょっかい出したら俺怒るからな?」

 

 

 逆に釘を刺されるというオチを迎えるのだった。




補足

幻実逃否は消えました。
理由は覚醒した理由との決着。

その2
最後にまた尻拭いです。

ぶっちゃけ断ろうと思えば出来ましたが、最後の禊として終わらせました。

まぁただ、復学して元眷属達が幸せそうにしてるのを見せられるのが果たして救済なのかは知りませんがね。


その3
木場きゅんは相変わらず中学生みたいな感じです。
そして匙きゅんもめでたく生徒達からの嫉妬受けの対象に。

つーか、エプロン姿のカテレアさんとか創造力試され過ぎだぜ。

その4
暫くこんな緩いノリ―――と見せ掛けて最後の小競り合いが始まります。

誰と? というのはお察しで。


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外からの依頼

始まります。

両親については割りとあっさりです。


 一誠には本来の肉親が居るのは皆知ってる。

 

 だがしかし、性欲バカのせいでその肉親から捨てられ、決着を付けた後になろうとも和解する気は無いらしい。

 

 後悔に苛まれた様子で夏休み最終日に人間界に戻り、一誠の自宅に集まっていた所にやって来た大人二人と対面した時の一誠はただひたすらに淡々と……。

 

 

「兵藤という名字はこの日本に400世帯程居る。

申し訳ありませんが兵藤さん、私とアナタ方は名字が同じだけの他人でしかないんだ。

戸籍上としても……ハッキリと」

 

 

 親子関係は無いと言い切り、絶望する二人をそのまま追い返した。

 別に庇ってるつもりは無いが、理由が理由にせよ、まだ幼かった当時にほぼ捨てられたも同然な扱いを受けたともなれば、確かに最早何もかもが遅い。

 

 

「心配しなくても良い。

アナタ達が苦しむ必要もこの部屋を出れば無くなる」

 

 

 だから一誠は最初で最後の孝行をしたんだろう。

 肉親の記憶から『己の全てを抹消させる』という、最初で最後の手心を。

 

 

「最後の幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

 

 一誠は二人の大人に使い、マイナスを完全消滅させたんだ。

 

 

「………」

 

 

 その時の一誠が何を思ったのかは知らない。

 全てを『忘れ』、子を生んだ現実を失い、性欲バカに騙された事も、一誠という実子にしてしまった事の全てを『無かったこと』にされた夫婦を見送った時の一誠の表情は石像の様に冷たかった様に見えたけど、その浮かべた表情がそのままだとは俺達は思えなかった。

 

 だからこそ俺達は『何があろうとも』一誠を裏切らないという決意を、言葉を交わすまでも無く全員が固めた。

 

 

 

 一誠という存在と、皮肉な事だけど、性欲バカの欲望によって集まった奇跡の面子である俺達だけは決して掴んでくれた手を離さない。

 

 

 

 

 

 

 最後のマイナスで終わらせた後の一誠。

 一学期の終業式にて正式にメンバーを揃えた生徒会の活動と滞りなく進んでおり、元々一誠一人でやっていた生徒会という事と、加入した面子が学園でかなりの人気を持つ者達ということもあって、以前よりも更に生徒会は象徴と化していた。

 

 

「紫藤イリナが……?」

 

「ええ、アナタにどうしてもと訴えています」

 

 

 だがそんな華やかさとは裏腹に、人外の世界にも踏み込んでいる生徒会はこの日、『ちょっとしたお話』という形でやって来た天界陣営トップのミカエルという天使を迎え集めたメンバー全員と共にミカエルの話を聞いたのだが、持ってこられた話はある意味で一誠達にとっては意外な話だった。

 

 

「紫藤イリナの話だというのは理解したが、何故アナタ程の者がわざわざ……?」

 

「彼女は一応我々の陣営の下部に位置する者ですし、今も我々側が身柄を抑えています。

アナタ方の活躍により、彼女達が『正気』に戻ったという話は既にガブリエルとコカビエルから聞いてましたからね」

 

「ガブリエル? と言うと確か、コカビエルを前にかなりテンパっていた女天使だったか? しかし活躍というのは語弊があると思うのだけど……」

 

 

 活躍というミカエルの言葉に、一誠達の表情は一斉に微妙なものになる。

 というのも別に活躍なんてしてないし、ハッキリと言えば向こうが勝手に自爆したのが原因だったので、活躍したと言われると首を傾げてしまうのだ。

 

 

「それと、神の不在について黙っていた事を今この場でゼノヴィアさんに謝りたかったという個人的な動機もあり、私が来た訳です」

 

「え……」

 

 

 ミカエルの視線が祐斗の隣に居たゼノヴィアへと向けられる。

 コカビエルの一件で浮き彫りとなった神の不在。元々神を信仰していたゼノヴィアはその事実に当初心が折れる程のショックを受けていたのだが……。

 

 

「い、いえ! ミカエル様が謝る様な事は何一つありません。

確かにショックでしたが、今はこうして仲間も居ますし、私なりに新しい『目標』が出来て充実してますので……」

 

 

 今のゼノヴィアはその心をきちんと立て直しているし、神の不在という現実を受け入れた上で新たな目標を持って生きている動機もある。

 故に丁寧に謝罪をしてきたミカエルに慌てながらも、ゼノヴィアはミカエルに言った。

 

 

「そうですか……。ありがとうございます、正直少しだけホッとしました」

 

 

 それに対してミカエルは少し安心したように笑みを見せた。

 どうであれ騙していた事に対して初めて許されたのだ。

 後は……。

 

 

「それで、如何ですか兵藤一誠君? 紫藤イリナと一度対面して戴けますか?」

 

「…………」

 

 

 一誠との関係についてを何とかしないといけない。

 コカビエルに土を付けた人間の少年、そしてそれに迫る勢いで力を付ける同世代の少年・少女達とは敵になるよりも良い関係で在りたいとミカエルは思っていた。

 

 

「勝手ながら調べた所によると、アナタと彼女は昔――」

 

「ちょっと待って貰えませんかミカエル様。

知ってる体で言わせて貰いますけど、紫藤イリナってのと一誠はもう大分昔に拗れてるんです。

だからそんな簡単に会わせる訳には――」

 

「匙さん。仰りたい事は分かりますが、一誠様の判断にお任せなさい。

私たちが口を挟める案件ではありませんわ」

 

 

 紫藤イリナについて一誠から前にチラッと聞いた事のあった元士郎が思わずミカエルに言ってしまう。

 しかし意外な事にそれを止めたのが、同じく聞かされてショックを受けていたレイヴェルであり、白音も黒歌も同じく黙って一誠の判断に任せろという目線を送ってきたので、元士郎は小さく『出すぎた真似をして失礼致しました』とミカエルに頭を下げ、会長席に座る一誠の半歩後ろに控えていた位置から更に二歩ほど下がって、心配そうな眼差しを送っていたギャスパーの傍らに立つ。

 生徒会としての地位は元士郎がNo.2だが、人外世界での仲間内ではレイヴェル・フェニックスがトップなのだ。

 彼女の言葉に逆らうなんて大それた真似は最初から無いし、言われた事も尤もな事だった。

 

 

「副会長が失礼した。

確かに紫藤イリナが俺と対話したいと言ったのだな?」

 

「ええ、彼女の保護者が直接聞いたので間違いありません。それと、あまり時間がありません」

 

「……? どういう事だ?」

 

 

 時間が無いと言われ、一誠だけじゃ無く全員が疑問を抱くと、ミカエルは重々しく口を開いた。

 

 

「正気に戻った紫藤イリナは、一度自殺未遂をしました」

 

「……。なに?」

 

「な、なんですって!?」

 

 

 自殺未遂という言葉に、それまで淡々としていた一誠の目元が僅かに揺れ動く。

 それは同様に『全くそんな行動を起こそうとしなかった』リアス達を知ってたので、一誠だけじゃなく祐斗や元士郎やギャスパーやレイヴェル、白音、黒歌も目を見開いてしまう。

 特に聖剣事件でコンビだったゼノヴィアは一番驚愕しており、思わず声が出てしまう。

 

 

「幸い取り押さえたので命に別状はありませんでしたが、報告によると彼女は兵藤誠八との件も去ることながら、それによってアナタを傷つけた事に多大な罪悪感を抱いてしまっている様です」

 

「…………………」

 

 

 かなり重い話に、全員が口を閉じてしまう中、一誠は目をスッと細める。

 

 そんな一誠の無言さに、後ろで控えていた元士郎達は、リアスやソーナ達とはまるで接点も無いからと思っていたが、考えてみたら一誠と紫藤イリナは元々レイヴェルよりも更に前に出会っており、しかも友だったんだと思い出す。

 

 しかももっと言えば――

 

 

「紫藤イリナを生かしたいのか?」

 

「……。全部全部とは言いませんが、兵藤誠八による被害を受けたとも言えますから。

それに、ゼノヴィアさんとコンビを組んだ相手が自ら命を絶ったとは私も言いたくありませんので」

 

「だから俺に『依頼』という形で接触した訳か」

 

「本音を言うと、私個人はアナタ方を恐れていますから……コカビエルを個人で下したアナタと事を構えたくは無い」

 

「なるほど、尤もな意見だ」

 

 

 一誠の初恋の人……なのだから。

 ミカエルの個人的な考えと共に紫藤イリナの現状を聞かされた一誠は、一度静かに目を閉じる。

 

 

「……。良いだろう、わざわざアナタは生徒会の象徴たる『目安箱(めだかボックス)』に投書してまで俺達に依頼したのだ。

会うだけ会ってはみよう…………但し、勘違いして欲しく無いが、別に紫藤イリナが自殺しようが俺はアナタ方に何をするつもりはない――それはわかって欲しい」

 

 

 ゆっくり開いた両目でミカエルを見据え、一誠は淡々と依頼を受理した。

 本来なら学園生徒専用の目安箱(めだかボックス)なのだが、わざわざ投書までしてくれたというなら無下には出来ない。

 

 紫藤イリナの為云々は横に置き、ミカエル自身の誠意にだけは応えよう……そう言外に告げた一誠は、紫藤イリナとある意味で本当の『再会』の決意をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で依頼を受け、ミカエルを見送りした後の生徒会室の空気は――

 

 

「……………………………………。兵藤誠八だった男と幸せにやってるままの状態にしておいた方が良かったのかもしれないな……はぁ」

 

 

 一誠を筆頭にどんよりしていた。

 

 

「ミカエル殿が連れてくると行っていたが……………うっわぁ、また会うのか……」

 

「私も会って良いだろうか? 正気に戻った今ならちゃんと話せるのだろうし……」

 

「そうだな。寧ろ俺よりゼノヴィアの方が良いとすら思うぞ」

 

 

 というより珍しく一誠が一番精神的に弱腰になっていた。

 

 

「大丈夫かよ? 無理なら俺がハッタリでオラついて断ってきても良いぜ?」

 

「そうだよ、無理するのは良くないし……」

 

 

 椅子に深く座り、唸りながら天井を見上げる姿はレアだが、こんなレアは見たくないと元士郎と祐斗が気遣う様に言うが、一誠は二人に大丈夫だと告げながらだらしない姿勢を正す。

 

 

「てっきり俺は殺意を抱かれてるとばかり思ってたのだがな……」

 

「まあ、所詮彼のアレは洗脳だったのだし……」

 

「それに仲良かったんだろ? クズヤローが沸き出て来る前までは?」

 

「さてな……確かによく遊んでは居たが――――――む、先に言っとくぞレイヴェル? 俺は今紫藤イリナに何にも思ってないからな?」

 

「ええ、ええ、わかっていますわ一誠様。だからそんな捨てられる前の子犬みたいなお顔はしないでくださいな。………………………………ちょっとゾクゾクしちゃいますし」

 

 

 最後辺りレイヴェルがボソッと……母親の血を彷彿とさせる台詞を呟いたのを元士郎と祐斗の二人はバッチリ聞こえてしまうが、聞かなかった事にしようと目を逸らす。

 

 

「あのー……紫藤イリナって誰ですか?」

 

「あ、そっか、ギャーくんはその時まだ封印されていたんでしたね? 紫藤イリナさんというのはですね……まぁその認めたくは無いんですけど、レイヴェルさんよりも更に前に一誠先輩と知り合いなってた人で……」

 

「…………イッセーの初恋の人だってさ」

 

「へぇ~? ………………………え!?」

 

「だからそれも昔の話だぞ!? 若気の至りだ!」

 

 

 驚くギャスパーにすかさず今は違うと主張する一誠。

 これ以上蒸し返してレイヴェルに嫌われたら、それこそ今すぐ紫藤イリナよりも前に自殺してしまうとすら真面目に思ってる故の必死さが見える。

 

 

「それに俺はビンタまでされて完全に振られてるんだ、紛れも無く過去の出来事だ!」

 

「でもそれってアレに洗脳された後の話にゃ」

 

「そ、そうじゃないかもしれんだろ? 奴が出て来る前に既に嫌われてたとも……」

 

「そんな人なら今更謝ろうとしますかね? 自殺未遂までして」

 

「う、うむぅ……ま、まあ洗脳はされた後かもしれんけども。

というかその話は蒸し返さないでくれよ……レイヴェルに嫌われたら紫藤イリナよりも前に死ぬぞ俺は」

 

「嫌う訳無いですわ。寧ろ死んだら後追いしちゃいますわよ?」

 

「同意。生きてる意味が無くなります」

 

「当然私もにゃ」

 

「……。それを言われたら死んでも死にきれないぞ……」

 

 

 何にせよ、ある意味で本当の再会を前に一誠はどうするのか。

 それはその時が来るまで誰も分からないし――

 

 

 

 

 

 

 

「で、生徒会室の前で盗み聞きしてるのはどーすんだ?」

 

 

 その前に、先程から黙って盗み聞きしている気配二つについての話をどうにかするべきだったと、話も区切りが付きそうなタイミングで元士郎がめんどうそうに顎で生徒会室の扉を指しながらとっくに気づいていた全員に問う。

 

 

『っ!?』

 

 

 元士郎の声が扉越しに聞こえたのか、それまで盗み聞きをしていたと思われる気配二つが動揺した空気を放つが、今更遅いとばかりに元士郎が扉を開くと……。

 

 

「何か用っすか先輩方?」

 

「あ、い、いや……」

 

「そ、その……」

 

 

 復学したリアスとソーナだった。

 

 

「盗み聞きは良くないと思うんだが? そこの所どうなんですかね?」

 

「「……」」

 

 

 このまま逃げても取り押さえてやるぞ的な殺気を一誠とレイヴェル以外が放ちながら、床にへたり込んで小さくなるリアスとソーナを見据えると、一誠が特にどうとも思ってない顔で『取り敢えず中に入ってもらえ』と言葉は普通ながらも強制力満載に二人を迎え入れる。

 

 それはまるで、黒塗りの高級車に押し込められて事務所に連れていかれるパンピーのそれに近いものがあった。

 

 

「レイヴェル、お茶を出してやれ」

 

「はい一誠様」

 

「「………………」」

 

 

 ヤバイ、まずい、やらかした。

 ただでさえ今の彼らの気に触れたら実家どころか悪魔社会で落ちに落ちまくった名を更に落としてしまうのに……とつい出来心で盗み聞きしてしまった事を早速後悔してしまう二人の悪魔。

 

 しかし盗み聞きをした事で得た情報により、二人はレイヴェルがお茶を出す前に思わず言ってしまう。

 

 

「し、紫藤さんは少し特別扱い……なのね?」

 

「は?」

 

「で、ですから、会ったらそれなりのケアをするのでしょう?」

 

「………………。何が言いたいんだ貴様らは?」

 

 

 不思議な力であの洗脳男との関係をある程度無かったことにしたのは目の前の……洗脳した男が被っていた皮と同じ容姿をした男なのは知ってる。

 だがリアス達が無かった事になったのは、その男との関係により身籠った現実のみであり、その他の事は何も無い。

 というのに、同じ状況だった紫藤イリナに関しては聞いてた所じゃ会ってケアまでする予定だという。

 

 

「えっと、お二人とも? まさかとは思いますが、一誠君の最後の力を使って貰った上に、まだ何か求めるつもりなんですか?」

 

「「………」」

 

「いやいやいや、流石にそれは言い過ぎだぜ木場? いくらなんでも図々しいを通り越しちまうぜそりゃあ?」

 

「「………………」」

 

「おい、おいおいおいおい。やめろよその冗談は? え、ひょっとしてマジでんな事思ってるんすか?」

 

「「………………………」」

 

「うっわ、マジだぞこれ……」

 

 

 そのケアはどんなものかは知らないが、もしかしたらあの不思議な力を使って貰えるのかもしれない。

 そして今度は元々あの洗脳男が存在しない、順風満帆な生活をする現実にしてくれるのかもしれない。

 

 そう期待してしまったが故の沈黙に、全員が怒り云々を突き抜けて引いてしまった。

 

 

「あの、リアス先輩にシトリー先輩? それは流石に無いと思いますよ」

 

「孕んだ現実を否定して貰っただけでも破格なのに、接点もほぼ無かったイッセーにそれ以上は無いにゃん」

 

 

 勿論白音と黒歌も、諭す様にそれは無いと口にする。

 

 

「イリナは一誠と一応知り合いではあったんだ。それに今のはミカエル様からの依頼なんだぞ」

 

「………」

 

 

 ギャスパーは何も言わずにオロオロし、ゼノヴィアもイリナと一誠が知り合いだったからこそ成立しつつある話だと告げるが、二人は何も返さずただ無言だった。

 まるで親が折れて玩具を買うまで玩具売り場に居直る子供の様に。

 

 

「いやいやいやいや………いやいやいやいや! アンタ等それ本気で思ってるのか!? あり得ないだろそんなの!」

 

「だ、だけどそうすれば匙が戻って――」

 

「ねーよ! それがまずあり得ねぇ! 何で俺がアンタの下僕に戻るって事になる訳!? 木場もギャスパーも小猫さんもグレモリー先輩の所に戻って皆ハッピーってマジで考えてんのか!? ミジンコですらもっとマシな思考するわっ!!」

 

 

 すがるような目で見てくるソーナに即切り捨てる様に言う元士郎に、無言ながら祐斗と白音と……あのギャスパーすら頷いた。

 

 

「勘弁してくれよ。正気に戻って孕んだ現実が消えただけでも黒歌さんの言うとおり破格だっつーのに、あり得ねぇ……これは俺もビックリだわぁ」

 

 

 煽ってるつもりじゃなく、本気で引いたと呆れてしまう元士郎だったが、やはり元々はソーナ自身の兵士で更に言えば己に惚れていた事を薄々気付いていたのもあってか、思わずソーナはムッとなってしまい……。

 

 

「……。旧派で三大勢力会談を襲撃してきたカテレア・レヴィアタンはあっさり許す流れに裏工作した癖に……」

 

「ソーナ!!」

 

 

 地雷を踏んでしまった。

 リアスがギョッとして止めようとしたが、色々遅かった。

 

 

「あ゛?」

 

「あ……」

 

 

 呆れ顔から一変、世紀末覇者みたいな形相へと変貌させた元士郎に、ハッと自分の口を押さえたソーナだったが、最早手遅れだった。

 

 

「今の話はちょっと面白いっすね先輩? もう一度言って貰えませんか?」

 

「い、いや! 今のは失言――」

 

「んな事言ってねーだろ? おら、聞いてやるから言えやとっとと?」

 

「う……!」

 

「あ、あの……ソーナも言い過ぎたと思ってるから――」

 

「あ? 別に怒ってないっすけど? 確かに冥界に住む多くの悪魔さん達からしたら、アンタ達みたいな考えを抱くのは普通の事ですからね? でも俺が言いたいのは、それを出汁にして何訳のわからねぇ図々しさ発動しちゃってんの? って事っすよ」

 

 

 目の色が文字通り変化し、暗黒騎士の鎧を纏った時の禍々しい瞳となってカテレアの事自体じゃないと言う元士郎は、確かに元々はクーデターの真似までしたカテレアが今の悪魔達に宜しく思われてない事ぐらい承知していた。

 だが、それとこの二人の図々しさは別の話であり、もっと言えば元士郎は覚悟した上だった。

 

 

「今の悪魔さん達がカテレアさんを敵って認識して、殺せってんならそう思えば良いさ。

そうなれば俺はあの人の肉壁になって死ぬまで味方になるだけの事だからな。

ガキの戯言で我が儘ってんならそれでも構わねぇ……俺は何があろうとあの人の盾になる。だからどうぞ好きに思えば良い、だがな、その事とアンタ等のほざいてる訳の解らねぇ図々しさは別じゃないのか? え?」

 

「さ、匙……」

 

「………」

 

 

 皮肉な事だが、ソーナという初恋を完全に断ち切った事で覚醒した元士郎の一言に、ソーナは今になって心底後悔してしまった。

 

 洗脳されても匙を蔑ろにすべきでは無かったと。それはリアスとて同じであり、同等の覚醒を果たした祐斗に何とも言えない視線を送っていた。

 

 

「一誠はアンタ等の便利道具じゃないんだよ、分かったらとっとと茶ァ飲んだら帰ってください」

 

「「………」」

 

「僕からもお願いします。どうかこれ以上一誠君に尻拭いをさせるのだけは勘弁してください」

 

 

 それが頭でわかっていたとしても、リアスとソーナは急激なまでの進化を遂げる元下僕達を前に後悔しつつも『どうにかならないのか』という希望にすがりたかった。

 

 

「元士郎と祐斗が言うとおり、俺にはこれ以上貴様等に出来る事はない。

確かに現実を否定するスキルはあったが、それも貴様等に使ったのを最後に消滅した。

故にこれからは俺も貴様等もやって来る現実を受け止めるしか無いのさ」

 

「「………」」

 

 

 力を無くしたと言って諦めさせようとしてるのか、一誠が淡々と話すのも耳に入らず、二人はただ黙って俯くのだった。

 

 

終わり




補足

と、こんな感じで両親とは既に完璧に決別しました。

そしてイリナさんは……まあ、今マイナス消滅してるので若干イザコザがあるかも。

その2

前回の通り、身籠った現実は否定されたものの、及んだ現実はそのままなので叩かれに叩かれまくってるせいで、最早誰でも良いからすがりたくなっちゃってます。

ので、もう図々しいとか二の次っぽくなってます。

その3

カテレアさんが許されてる癖に……というソーナの言葉自体は匙きゅんもとっくに自覚してます。

それを覚悟で、それこそ敵となってしまわれようが彼はカテレアさんの為に強くなります。

 この思考回路が一誠君に『似てる』と言われる理由ですかね

………あれ、暗黒騎士なのに守りし者の手前じゃね?


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支持率故の信用

トラブル発生回。

起こしたのは勿論……


 ミカエルの来訪と依頼により、紫藤イリナと面会をする事になった一誠。

 正直に思えば、今更会った所で何かが変わるなんて思えないが、依頼を引き受けてしまった以上はどうであれ全力で取り組まなければならない。

 

 難しいかもしれないけど、自殺願望を変えれさえすればそれで終わり。

 それだけの事なのだと一誠は約束の日までの間を仲間達と共に過ごすのだが、その前に一つどうやら片付けなければならない事がある様だ。

 

 

「また貴様達か。今度は部下を一人ずつとはね」

 

 

 そう、紫藤イリナの件をミカエルと話し合った際、敢えて放置して盗み聞きさせていた者達であるリアスとソーナという悪魔の二人が、紫藤イリナとの面会が決まってからほぼ毎日現れるのだ。

 

 勿論、今も生徒会室に唯一一般人でありながら勝手に出入りする元浜と松田を引き連れて校内の美化清掃をしてるその最中に、其々の女王を一人ずつ連れ、暗い顔をしながら一誠の前へとやって来た。

 

 

「うっお…!? て、転校したと思ってたら戻ってきたグレモリー先輩とシトリー先輩! それに真羅先輩と姫島先輩も一緒にだとぅ!?」

 

「なんてこった、一誠とゴミ拾いしててよかったぜ!!」

 

 

 なにも知らない一般人の元浜・松田はトップクラスの容姿を持つ四人の少女を前に背中に籠を背負った姿で騒ぐ。

 一応、誠八という男となんやかんやがありました的な事は周知だが、肉体関係でした的な話は裏工作やら何やらをしていたせいで一般人は知らない。

 なので、元浜も松田も目の前の四人の少女がまさか誠八だった男によって経験済みとなってる事を知らず、至極真面目に『清い美少女達』と思ってる。

 

 復学してからの少女達の絶望じみた表情の意図など掴める訳も無くだ。

 

 

「何の用だ? 何か相談事があるなら集会で常々言った様に、『目安箱(めだかボックス)』に投書して欲しいんだがな?」

 

 

 そんな二人の一般人を他所に、会長の腕章を腕に生徒会役員専用に作成した制服姿の一誠は、ここ最近毎日やって来る少女達に対し、校舎裏の教員専用駐車場に落ちていた空き缶を背中の籠に投げ入れながら、少し冷たく問いかける。

 ぶっちゃけ正直、聖人君子では決して無い一誠にしてみれば、無理と言い聞かせても尚しつこくやって来られてもうんざりする気持ちしか無いのだ。

 

 ましてやその防波堤になってくれるレイヴェル達とも今は別行動で、事情を知らない元浜と松田だけしか居ないこの状況を見計らって来たともなれぱ尚更面倒な気分でしかない。

 

 

「そこのお二人に少し外して貰える事は出来ませんか?」

 

「「え?」」

 

 

 ほら来た。

 代表して口を開いたソーナの言葉に一誠は内心呟く。

 

 

「少し彼にだけ言っておきたい事があるので……」

 

「え、で、でも……」

 

「お、俺たち一応一誠とゴミ拾いを……ですね……」

 

「そこを何とかできないかしら?」

 

「直ぐに終わりますから……ね?」

 

「お願いします」

 

 

 聞かれたくは無い内容なのか、狼狽える元浜と松田に少し強引に席を外してくれないかとお願いする時点で、また同じ事の繰り返しと悟る一誠。

 

 

「二人とも、レイヴェル達と先に合流しろ」

 

「え、で、でもよぉ?」

 

「大丈夫かよ? 何だかよく分からないけど一人で……?」

 

 

 元浜と松田もそんな空気を流石に察したのか、離れることに躊躇を見せる。

 しかしそんな二人に一誠は『すぐに終わるから』と言って聞かせて席を外させた。

 

 

「…………。俺はあの時点でのベストを尽くしたつもりだが、それ以上何をしろと言うんだ? 言っておくが無理なものは無理だ」

 

 

 元浜と松田の気配が遠くへと行くのを確認した瞬間、一誠は前置きも無くリアス、ソーナ、朱乃、椿姫に向かって突き放す様に言う。

 何度も言うが、誠八だった男を終わらせた瞬間に一誠のマイナスはほぼ消滅し、僅かな燃えカスとしての残りもこの四人+αと両親だった者に使用して完全に失ったのだ。

 誠八だった男との間の子供を身籠らなかったという現実に改竄し、更に言えば穴倉生活すら免除されてこうして学校に復学してるだけでも破格なのに、これ以上マイナスを失った己に何を求めるというのだ。

 

 何度もそう言ってるというのに、今もこうして無理なものは無理だと言って聞かせてるというのに、どうして理解しないのか。

 一誠はそれ自体が理解できなかった。

 

 

「アナタが正しかったのは身に染みてわかりました。義理も無いのにここまでして頂いたのは重々承知しております。

ですが、その……だから最後といいますか、あの男が居たという現実そのものを無かった事にはどうしても出来ませんか?」

 

「そうすれば……ほら、お互いにこうして関わる事も無くなるでしょう?」

 

「どうか、どうかお願いします……!」

 

「耐えられないんです……!」

 

「…………」

 

 

 要するに中途半端じゃなくて全部無かったことにしろ。

 そう懇願する四人の姿に一誠はほんの少しだけスキルを使った事を後悔した。

 多少なりとも彼女らだって被害者ではあるからと思って、せめて洗脳をした男との子を産まなきゃならんという現実を否定させてやったが、そんな力があると分かった途端こうまですがられるとは……。

 

 

「そこまで後悔してるのは分かる。しかし俺には最早あの力は無い。

だから貴様等の願いは叶えられないし、これ以上してやれる事も無い。

勘違いしている様だが、俺達生徒会は悩み事の相談は受けて最適な答えを促す事はせよ、その者の代わりになって悩みを片付ける事はしない。

結局最後にモノを言うのは己自身の選択であって、俺達はその視野を広げる手伝いをしているだけに過ぎんのさ。

だから貴様達に出来た最適は『アレ』が精一杯で、後は貴様達が自分で進むしかないのだ」

 

 

 すがる少女達にそう告げ、ゴミ拾いに使っていた火挟みをヒュンと軽く振りながら一誠は同じ説明をもう一度だけする。

 そもそも仮にマイナスがまだあって、行使したとしてもレイヴェル達に怒られるのは目に見えてるし、自分もそこまでするつもりは無かった。

 

 

「分かったらもう帰るんだ。

他の悩み事があるなら応じれるから、その時は投書してくれ」

 

「「「「………」」」」

 

 

 決して意地悪で言ってる訳では無く、もはや不可能だから応じれない。

 暗い顔をする四人に背を向け、火挟みを持った手を軽く振りながらその場を去ろうとした一誠は内心『まぁ、あの様子じゃ理解しないだろうな……』とため息を付いた――

 

 

「い、い、嫌ぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 その時だった。

 背を向けてとっとと元浜と松田の二人と合流しようと歩き始めようとした一誠の耳をつんざくようなシャウト絶叫ボイスに思わず振り返る。

 

 

「? 何だ突然」

 

 

 それこそ学園の敷地内を響かせる程の絶叫なのだが、間近で不意打ち気味に聞かされた一誠の態度は極めて冷静――というより、流石にうんざりしたそれであり、急にその場にしゃがみ込むリアスと姫島朱乃に視線を向けつつ、同じく驚いた様子のソーナと真羅椿姫に向かって『これは何のつもりだ?』といった意味で問う。

 

 

「………」

 

「……」

 

 

 しかし二人は答えない。

 その表情はどこか『引っ込みが付かなくなって焦っている』様に見て取れる。

 

 

「おいグレモリー三年と姫島三年。今度は何だ?」

 

 

 段々イライラして来たが、そこは一応生徒会長なので我慢しつつ、背負っていた籠と持っていた火挟みをその場に下ろしてその場に身体を庇う様にしゃがみこんでるリアスと朱乃に近づく一誠。

 どう見ても苦し紛れに引き留めようとしてる腹が見え見えだったりするけど、この際だから敢えてそれに乗ってやる――――なんて考えつつ、リアスと朱乃の前に立ったその瞬間だった……。

 

 

「おいどうした!?」

 

「こっちから悲鳴が聞こえたわ!」

 

 

 耳なりすら覚える程の絶叫を聞き付けた部活動中の生徒が運動部・文化部問わずにゾロゾロと絶叫が聞こえた場所……つまり今一誠と四人が居る場所に現れた。

 

 

「あれ、生徒会長……? そ、それにグレモリー先輩と姫島先輩……」

 

「あれ、支取先輩と真羅先輩も居るわよ? 何この不思議な組み合わせ……?」

 

 

 絶叫が聞こえた場所に駆け付けて見たらそこに居た生徒会長と、二学期になって復学した二大お姉さまや、それに勝るとも劣らない容姿を持つ美少女が居た事に、アンバランスさを感じる生徒達。

 

 

「兵藤君? これは一体何なの?」

 

「俺が聞きたい。何せいきなり――」

 

 

 しゃがみ込む二大お姉さまの前に若干うんざり気味な顔で立っていた生徒会長の一誠にクラスメートである女子生徒が質問してきた。

 それに対して一誠は寧ろ俺が聞きたいと、事情は分からないと答えようとしたのだが……。

 

 

「か、彼にいきなり襲われたの!」

 

 

 リアスがしゃがんだ状態で一誠を指差しながら、己が襲われたのだと大声で叫んだ瞬間、その場の空気は凍り付いた。

 

 

「…………………はぁ? 貴様一体何を――」

 

「わ、私も襲われましたわ! 無理矢理服を剥かれそうに……!!」

 

 

 姫島朱乃まで怯えた演技をしながら一誠に襲われたと叫ぶ。

 

 

「………………」

 

 

 その瞬間一誠は悟ったのと同時に、一瞬目の前の二人を本気で蹴り飛ばしてやろうかと思ってしまった。

 要するに自分の望みを却下された腹いせに自分にありもしない冤罪を吹っ掛けようとしているのだ。

 

 恐らくソーナと椿姫は考えてなかったのだろう、ぎょっとしたかの様に目を見開いてる。

 しかし何も言わないのを見るに、冤罪である事を話すつもりは無いのだろう……自分達も助かりたいから。

 

 

「え、転校した兵藤じゃなくて生徒会長の兵藤が先輩達をっすか……?」

 

「え、ええ……! こ、怖かったから思わず叫んじゃって」

 

「「「「………………」」」」

 

 

 震え声で怖いと宣うリアスの言葉を聞いた瞬間、その場に居合わせた殆どの男子生徒が一斉に一誠へと疑いの目を向け――

 

 

「……………。いや、無いだろ」

 

「うん、無い」

 

「それ先輩の勘違いじゃないっすか?」

 

「なっ……!?」

 

 

 る事は無く、逆にリアス達に『何かの間違いじゃないのか?』と確認しだした。

 この手を使えば男性の立場は急激に弱くなる事を知っていたリアス達だけに、まさかの援護に唖然としてしまう。

 じゃあ同性ならわかってくれるか……と男子から女子に振ろうとしたのだが……。

 

 

「生徒会長の方の兵藤君がそんな事するとは思えないわよね?」

 

「うん、そもそも兵藤君って露骨なまでにフェニックスさんLOVEだしねぇ?」

 

「正直言うとフェニックスさんがかなり羨ましいわよねー?」

 

「「「「………!!」」」」

 

 

 同じく、生徒会長の兵藤一誠の普段の行い及び、レイヴェルに対するもろバレな好き好き光線のせいで誰一人としてそれは無いんじゃないのかという空気になっていた。

 

 

「兵藤君は襲ったの?」

 

「いや、ここでバッタリ会って少し話をしただけで一切触れてない」

 

「と、彼は言ってるけど、アナタ達は何で兵藤君が襲ったと言ったのかしら?」

 

 

 リアス達と同じ学年の女子生徒が睨む様に四人を見据える。

 リアス達は嘗めていたのだ。生徒会長として君臨し、今尚不動である97%……いや、最近は99%となった支持率を。

 

 

「で、でも本当に――な、何で誰も私達を信じないのよ!!」

 

「別にこの場に居る人達全員、アナタ達を信じてないと言ってないわよ? ただ、どう考えても兵藤君がアナタ達に狼藉を働くとは思えないのよ」

 

 

 思ってない展開に焦ったリアスが逆ギレ気味に叫ぶが、代表して話した同学年の女子生徒は極めて冷静に返す。

 

 

「そもそも兵藤君がスケベコンビの二人を連れて学園中をゴミ拾いしてたのを見てたし、どう考えても辻褄が合わないの。

そりゃあ軽くセクハラするなら時間なんてあんまり関係ないかもしれないけどね?」

 

「おい、俺は絶対にしてないぞそんな事」

 

「でしょうね? だってフェニックスさんに怒られちゃうもの?」

 

「そうじゃなくとも俺はしない」

 

「ふふ、わかってるわかってる。ほーんとからかうと面白そうよねアナタって?」

 

 

 ムッとする一誠に軽く笑って茶化す女子生徒。

 この反応だけで最早わかりきっていた。

 

 

「何でそんな嘘を付いたのかは知らないし、聞かなかった事にするわ。

というかアナタ達って転校した方の兵藤君と楽しくしてたんじゃないかしら?」

 

「ち、違うわ! あの男なんて知らない!」

 

「あらら? 私達が見てた限りじゃ人目も憚らず取り合いをしてたように見えたのだけど?」

 

 

 完璧に選択を間違えたと、今になって後悔するが既に遅く、それどころか誠八だった男の事を蒸し返され、逆ギレっぽく否定しようとするが、したところで嘘こいて一誠を嵌めようとした現実は否定できなかった。

 

 

「まあ、何か込み入った事情があってそんな事を言ったんだと思うけど、皆幻滅なんてしないわ。

何せアナタ達は私を含めて皆の憧れの存在なんだから」

 

「「「「…………」」」」

 

 

 女子生徒のこの一言に四人のハートにグサリと槍が刺さる。

 どう聞いても『皮肉』にしか聞こえないのだから。

 しかし問題はそこじゃないのだ……。

 

 

「それと……あー……私達は良いとして、少し覚悟した方が良いかも?」

 

「何が―――っ!?」

 

 

 同学年の女子生徒と、騒ぎを聞き付けてやって来た残りの生徒達………そして一誠の視線がリアス達――――の、後ろに向けられる事に気付き、振り向いてみた四人はここでハッキリと後悔した。

 

 

「面白いですわねリアス・グレモリー、ソーナ・シトリー、姫島朱乃、真羅椿姫? 一誠様がアナタ方を襲ったですって?」

 

「……。そこまでして要求したかったんですか?」

 

「結局変わってねーじゃねーか」

 

 

 笑ってるけど、殺意全開状態のレイヴェル。

 落胆しきった表情の祐斗。

 呆れ果てて逆に穏やかになってる元士郎……そして生徒会が元浜と松田の報告により参上したのだから。

 

 

「本当に面白すぎて笑っちゃいますわよ? ねぇ…………………………………そろそろ死ぬか?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 ニコニコしてる。声がどんどん低くなって最後は母・エシルが憤怒の炎を使用している時の口調を彷彿とさせるそれで凄むレイヴェルに四人は硬直した。

 焼き殺されると……。

 

 

「レイヴェル……止せ。誤解である事は証明されてるんだ、殺気を引っ込めろ――その、皆怖がってる」

 

 

 一誠が止めなかったら多分本気でこの場で焼き殺されていたかもしれない程の濃厚な殺意。

 さしもの野次馬達も冷や汗ダラダラであり、レイヴェルを一誠関連で怒らせてはならないと全員が思ったとか。

 

 

「あ、嫌ですわ……ついはしたない言葉を……」

 

「大丈夫だ、俺はそんなレイヴェルも好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局単なる出任せでオチが付いた騒動だが、勿論当人達はそれで終わりでは無かった。

 

 

「サーゼクス様に連絡しましたので、少しばかり覚悟してくださいね」

 

「なっ!? 何で兄に……!」

 

「当たりめーだボケ。くだらねぇ猿芝居まで噛まして一誠嵌めようとしたんだ。

ここ最近のしつこさの事もきっちり報告するからな……あぁ、セラフォルーさんにもな」

 

「な、何故!? わ、私は何も――」

 

「そう、アンタは何にもしてない。一誠が冤罪吹っ掛けられそうになっても何も言わないで黙ってた。

つまり、もし一誠を嵌めれたらそれにあやかろうとしたって事だろ? 見え見えなんだよバカが」

 

 

 安心院信者であるサーゼクスに報告すれば、その時点で後継者にて近い存在の一誠に迷惑が掛からないようにと全力で動くだろう。それこそまた地下生活すら躊躇わず命じる程に。

 

 結局リアス達に反論なんて出来る訳も無く、魔王や実家からの言明に震える事になってしまうのだった。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

 学園では節度を守ってる一誠だが、自宅に帰るとそうでも無い。

 夏休みに冥界へ帰省した際に危うく一線を越えそうになったのもあってか、若干グレーゾーンにすらなってるのは果たして気のせいなのか。

 

 

「んー……レイヴェル……」

 

「ふふ、家では甘えん坊さんなんですから……」

 

 

 休日なんかはほぼレイヴェルにひっつく始末。

 だからこそ冤罪を吹っ掛けられてもあっさり無罪を勝ち取れたとも言える。

 

 

 そして誠八だった者の末路を考え、一誠は白音と黒歌にケジメを込めて言おうとするのだが……。

 

 

「アレだ、俺はどこかの誰かと違って皆愛するなんて器用な事は出来ない。

だから俺は――」

 

「え、嫌です。ペット枠でも全然構わないですよ?」

 

「えへ、生きてるダ◯チワ◯フポジが良いにゃ。寧ろそっちの方が興奮してヤバイ」

 

「……………………」

 

 

 猫の姉妹は本当にブレが無い。

 もう本当に清々しいまでにだ。

 

 

「イッセーの脱ぎたてのワイシャツ……! すーはーすーはー…………あっ……!?

ぁ………あはぁ♪ またびしょびしょにしちゃったからお仕置きしてほしーな?」

 

「いや……あの、俺の話をだな……」

 

「ですから嫌です。何で私と姉様があんまりリアス先輩達の事を言わないか知ってますか? 私と姉様は同じ穴の狢だからですよ」

 

「お前達は違うだろ……」

 

「ここまでしつこい女性は初めてですわ……」

 

 

 何を言っても聞こうとしない。

 猫姉妹は今日も絶好調である。

 

 

 

オマケ2

 

 元士郎は休日になるとこっそりと夏休み中に得た冥界の悪魔領土永住権を使ってフェニックス家にやって来ては、カテレアに会っていた。

 

 会うだけで特に何をする訳じゃないが、少なくともカテレアも元士郎も一緒にのほほんと出来るだけで充分だった。

 

 

「何で私に会ってくれないの?」

 

「逆に何でアンタが当たり前の様にここに来てるんだよ?」

 

「そんなの元士郎ちゃんとベタベタしたいからだもーん! カテレアちゃんばっかりでずるい!」

 

「いや知らねーし……何なんだよ」

 

 

 押し掛けてくる魔王に辟易気味となる元士郎だが、まあ、害は無いからと放置してカテレアと部屋でのほほんと健全に過ごす訳だが……。

 

 

「ねーねー元士郎ちゃん……」

 

「あ? 何――わぷっ!?」

 

「!?」

 

 

 セラフォルーがそれを許す訳も無く、何となくでチョイスで持ってきたレンタルDVDを見てて油断していた元士郎に、セラフォルーがダイレクトアタックを仕掛けた。

 例の衣装で胸元がめっちゃ強調されたソレで元士郎にダイレクトアタックするという意味で。

 

 

「ぁ……元士郎ちゃんの息だけなのに気持ち良くなっちゃうよぉ……!」

 

「な、何をしてるのよセラフォルー!?」

 

「んっ……や……へへん、カテレアちゃんがやらないから先にやっただけだよーだ☆」

 

「!」

 

「ぐももも!?」

 

 

 絡み付くように抱きつき、元士郎の顔面に自分の胸を押し付けながらハァハァするセラフォルーに顔を真っ赤にさせながら狼狽えるカテレア。

 それはセラフォルーからのあからさまな挑発なのだが、見てて段々テンパってしまい、意外と初だったりするカテレアは半ばヤケクソと対抗心から、頬を上気させるセラフォルーから元士郎を奪い取る様に自分の元へと引き寄せる。

 

 

「ど、どうですか? 私の方がセラフォルーよりあると思うのだけど……」

 

「え、えっと……何だろ、安心するっす……あと良い匂いがして……」

 

 

 そしてやっぱりもう一組までとは言わずともぎこちないやり取りを、自然と互いに抱きしめ合いながら交わすカテレアと元士郎。

 どちらもレヴィアタンなだけに、元士郎の将来は中々アレなのかもしれない。

 

 

 

終わり




補足

危うくどこぞの嫌われ二次的感じに落とされそうになるが、学園での支持率がヤバイのでそんな事は無かったぜ。
寧ろ相手が死亡フラグだぜ。

理由としては、それだけ必死で苦し紛れだったから……ですかね。無駄でしたけど


その2

本編だけじゃあれなんで少しほのぼのを軽くした結果、ただのイチャイチャだった。

よかったね匙きゅん、着々とレヴィアタン丼フラグだぜ。


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生徒会長と赤い龍の事情

ぶっちゃけ正直、一誠本人にしてみれば本来の宿主言われてもピンと来ない。

イリナさんとの面会は次回になります。


 紫藤イリナ……。

 最後に見たのがコカビエルの時で、その時もやられて気を失っていたから会話なんてしてすら無かったし、そもそも会話になるとも思っちゃいなかったが……。

 

 会うのか俺が? 会うだけ会うと言ってしまった手前今更後には引けないが、会うのか俺が? ビンタされて嫌いと言われた相手と会うのか……。

 

 流石に戸惑うぞこれは……。

 

 

 

 

 

 本人は隠しているつもりなのだろうが、彼に近しい者達にしてみれば殆どバレバレだった。

 紫藤イリナの事然り、誠八だった者との決着後に一誠の中へと入り込んだモノ然り……。

 

 特にマイナスを失ったと同時に宿ってしまった力に関しては、その力が一誠の足を引っ張っているという、割りと早急に手を打たなければ後々マズイ展開になってしまうかもしれない。

 

 

「なに? 赤龍帝?」

 

「この前の検査の結果、何故か兵藤誠八に宿っていた筈の力が一誠君の中へと入り込んでるみたいなんだ」

 

「あぁ、その事か……」

 

「流石に気付いてたか? どうやら安心院さん曰く、本来の持ち主――つまりお前の中へと戻ってきただけの話らしいが……」

 

「うむ……まだ残ってるスキルと足の引っ張り合いになってしまってると言いたいのだろう? 正直に答えるとその通りだ、最近進化を感じなくなった」

 

 

 本来の宿主へと還ってきた、本来の力である赤龍帝。

 神を滅する器としての強大な力が備わっており、その元となる力はかの二天龍の片割れだ。

 しかるに、その本来の力を奪われた事で代わりに覚醒させたスキルを持つ今となっては、寧ろその力が一誠の精神依存である無神臓と相殺しあってしまい、逆に枷になってしまっていた。

 

 どちらも想いの強さを元に力を増す……つまり精神力を糧とする為……そして何より一誠自身が赤龍帝の力を不要としている為、その思いとで足を引っ張りあっているのだ。

 

 

「紫藤イリナは明日決着を付けるにしてもだ、赤龍帝の力に関してはそうはいかないぞ一誠? 何せ神器だからな……」

 

「うん、このままだと一誠くんの成長の邪魔になってしまう」

 

「ふむ、やはり放置という訳にはいかんのか……。一応二度ほど意識内で会話した際に貴様の力は一切使わないし、神器だけを抜き取る方法を知る者に頼んで他の宿主へと移すという話をしたのだがな……」

 

 

 最近の修行ではベタなミスをして怪我を何度かしていた一誠に対し、神器を持つ者として心配の声を向ける祐斗と元士郎。

 一誠としても確かに枷になってる自覚はしてるのと、赤龍帝が悪い訳じゃないが、誠八だった男が使用していたという先入観のせいで全く使いたいとは思わなかったりもしたので、早いとこ神器に詳しい誰かに上手いことこの力だけ抜き取って貰うか何かして欲しいと思ってる。

 

 

「堕天使のアザゼルさんが神器に詳しいと思いますよ。噂じゃ神器の研究をしているとか」

 

「なに? アザゼルというと確か堕天使のトップだったか……」

 

「なるほど、確かに彼なら上手く一誠君の中から神器を抜き取ってくれるかもしれないね」

 

 

 紫藤イリナとの面会を明日に控える生徒会室にて展開される、赤龍帝の力の後始末についての会議。

 宿主になってしまってる一誠は勿論として、生徒会室にて会議に参加する生徒会メンバーと+α達もまた、一誠が赤龍帝の力を使うのは違和感しか覚えないので、このままなぁなぁで宿すよりは抜き取って他の誰かに宿した方が赤い龍にとっても良い話なのかもしれないと思っているのだ。

 

 

「決まりだな、明日の事が終わり次第、堕天使総督殿に頼んで――」

 

『待て……』

 

 

 なので明日の事について終わらせ次第、赤龍帝の事とも決着を付けてしまう方向……つまり赤龍帝の力を抜き取る結論に向かおうとしたその時だった。

 それまで決して表に出ることが無かった赤龍帝の籠手の元――つまり『赤い龍(ウェルシュドラゴン)』が神器の形として一誠の左腕全体を覆う様に出現すると、この結論にいきなり待ったを掛けてきた。

 

 

「二天龍の片割れである赤い龍でしょうか?」

 

「突然何だ貴様……」

 

 

 左腕に大型の真っ赤な籠手として勝手に出現した赤い龍に、勝手に乗っ取られた様な気がして顔をしかめる一誠とお茶のおかわりを一誠の為に準備していた最中のレイヴェルが反射的に冷たい声を放つ。

 いや、良く見ると元士郎達も警戒しているのか若干身構えている。

 

 

『そう警戒するな、別になにもしやしない。

ただ、本来の宿主であるお前から俺を抜き取るという話に待ったを掛けにだな――』

 

「待っただと? 貴様としても使うつもりが無い宿主より使う気満々の宿主の方が良い筈だし、この前はそれに同意しただろうが」

 

 赤い龍が一誠から出ていく事を躊躇う様な事を言うので、思わず一誠の声が低くなる。

 只でさえ兵藤誠八だった男は、自分の顔をトレースした容姿だったのに、本来の宿主が自分だったとはいえ、使えばあらぬ誤解をされてしまう可能性の方が高い力なんて絶対に使いたくない。

 

 寧ろ一刻も早くこのしがらみから解放されたいのだ。

 

 

「一誠様が使いたくないと言ってる以上、一誠様の中に宿っても無意味ですわよ?」

 

「そうよ、イッセーが使ったとしてもしも変な誤解をされたらアンタ責任取れるの?」

 

「てか、お前の力のせいで無用な枷になってんだけど」

 

「それに誠八君だった男が使ってたしね……」

 

 

 どこぞのアルター使い的なデザインに似てなくもない籠手に向かって次々と否定側な言葉をぶつける仲間達に赤い龍は若干押し黙る。

 

 

『それは本人から聞いたが、それでもやっと奴から解放されて本来の宿主――それも間違いなく歴代最高峰の予感をさせる使い手に巡り会えたんだ。

俺としては白いのとの決着をつけてからの方が……』

 

「白いの? というと二天龍のもう片割れの白い龍の事でしょうか?」

 

『あぁ、死にかけの偽の宿主の中からこの一誠とコカビエルという堕天使にボコボコにされていた白いのとその宿主を見ていたが、どうせならこの一誠が奴を潰せば因縁は終わると思ってな。だから白いのと戦う時だけ俺を――』

 

「断る」

 

 

 因縁の相手と決着をつけたいと主張する赤い龍に一誠は間髪入れずに切り捨てる。

 

 

「ハッキリ言ってしまうが、貴様の因縁とやらに興味なんて無いんだよ。

何故俺が貴様の為にわざわざ必要の無い戦いをせにゃならん? それこそ別の宿主に頼めば良かろう」

 

『だが元々の宿主はお前――』

 

「それはもう聞いた。しかしそうは言われても俺にはその自覚が無かったのだから元々も何も無いし、貴様の因縁に付き合う義務なんて無い。

兵藤誠八だった男の出現で俺から奴に強制的に移らされ、無理矢理使役されていた事は同情できるが、だからといって俺は赤龍帝とやらを名乗るつもりも、赤龍帝になるつもりも無い。俺には俺の人生があるのだ……貴様の因縁に巻き込まれるのはゴメンだな」

 

『………』

 

 

 赤い籠手に覆われた自身の左腕に向かってバッサリと言い切る様に赤い龍は押し黙ってしまった。

 どちらかといえば手合わせは好きな方だが、戦闘狂じゃ無いし、ましてや二天龍同士の宿命云々をいきなり言われてもピンと来ない。

 赤い龍本人は前の宿主よりも上のスペックを持つ一誠に宿れて白い龍に勝てると喜んでる様だが、これがもし自分が奴より下だったら罵倒でもするんだろうかと考えると、一誠的にはかなり素直に喜びたくないし、何より一誠が一番この赤い龍に対して割りと辛辣なのが……。

 

 

「それと貴様……人のスキルを塗り替えて俺を苗床にするなよ。俺が気づかないとでも思ったのか?」

 

『………』

 

 

 赤い龍が一誠の精神の源である無神臓自体を塗り替え、自分と一つに纏めようとしているのが何よりも相容れないのだ。

 

 

「は? 赤い龍の奴はそんな事を……?」

 

「うむ、精神依存という意味ではスキルも神器も同じらしいのでな。

どうやらこの龍、俺の無神臓を喰らって糧にしようとしているらしい」

 

「そ、そんな事が出来るのかい?」

 

「精神同士の喰い合いという意味では可能だろう。多分俺の無神臓を食って力を増したいのだろうが……」

 

「おいコラ赤蜥蜴……?

テメーは一誠様の中で何をふざけた真似してんだ……あぁん!?」

 

「レイヴェルさん、口調口調」

 

「一気にキレたらダメにゃ」

 

 

 枷どころか完全に足の引っ張り合い化している赤い龍との実は行われていた水面下での小競り合いを聞いた途端、それまで可愛らしくも優雅にしていたレイヴェルが三下の悪党のソレみたいなチンピラ口調で一誠――じゃなくて一誠の左腕の籠手に向かってオラつき始める。

 

 日に日に母のエシルに似ていく辺りは母娘そのものである。

 

 

「ふっ、心配するなレイヴェル。そうは言ったがこ奴に俺は食えんさ。だから落ち着け」

 

「あ……は、はい……私ったらまたしてもはしたない姿を……」

 

「問題ない。そこをひっくるめてこそのレイヴェルだし、俺は大好きだ」

 

 

 が、それも一誠にしてみれば可愛く思えるチャームポイントらしく、怒るレイヴェルの頭をポンポンと撫でながらヘラヘラと笑う辺りはバカップルそのものなのかもしれない。

 猫の姉妹が少しむくれてしまう程に。

 

 

「そういう訳だ赤い龍。貴様では俺の精神は喰えんよ……」

 

『………』

 

 

 くっくっくっ、と悪の親玉みたいな悪い顔で嗤ってそう言い放つ一誠もまた大概な辺りは似た者同士なのだろう。

 実力はあるのに仕草が三流悪役な所は、流石フェニックスの兄や両親の家族なだけはある。

 

 

『……。俺は諦めんぞ』

 

 

 それを受けて赤い龍は今は分が悪いと悟ったのか、小さく捨て台詞的に吐くと、そのまま再び一誠の中へと引っ込んだ。

 どうも赤い龍としては誠八だった男よりも元々の宿主を使い手として選んだ様である――――本人に使う気は一切無いとしても。

 

 

「早いとこアザゼルに頼むべきだな。イリナの事も明日に控えてるので後回しになるが……」

 

 左腕にあった籠手が消えたタイミングで声を出すゼノヴィアに一誠も皆も無言で頷いた。

 

 

「そうだな、リアス・グレモリー達も今日は学園を休んで実家で絞られてるようだし……」

 

「速攻で魔王二人と其々の両親に強制帰還を命じられたらしいぜ? 当たり前だがな」

 

「当然ですわ、よりにもよって一誠様に冤罪を吹っ掛けようとした報いです」

 

 

 リアスとソーナと女王二人は先日の冤罪事件にて早速其々の実家から強制帰還を命じられて暫くは戻っては来ないらしい。

 

 

「どうも彼女達は俺がまだ幻実逃否の力を持ってる事を疑って、それを使って欲しいらしい。

兵藤誠八だった男の事から、その男と至った行為そのものを無かった事にな」

 

「……。妊娠したという現実を否定させてやった上に、まだそんな事を望んでるのかよ? 図々しいにも程があんだろ」

 

「其れほど正気に戻った奴等にしてみればおぞましき話なのだろう。

無かった事には最早出来ないと何度言っても信じては貰えず、あんな行動に出られた時はかなり驚いたよ」

 

 

 赤龍帝の籠手が消えた左手でペンをクルクルと器用に回しながら一誠は小さく苦笑いを浮かべる。

 あの時は運良く冤罪と信じて貰えたが、これがもし信じて貰えずだったと思うとかなりゾッとする。

 

 生徒会長としての普段と、レイヴェルに対する分かりやすい好意、なによりリアス達が一誠じゃなくて誠八だった男を巡って取り合いをしていたと生徒全体が認識していたお陰で助かった様なものだ。

 

 

「もし奴等の言い分が通ってたら、今頃俺はこの席に呑気に座ってる事も出来なかっただろうな……そう考えるとある意味奴等のやり方は理に叶ってるよ……くく」

 

「笑い事じゃないよ一誠君、そういう冤罪に苦しむ人達が世の中に沢山居るんだからさ……」

 

「む、そうだな。感心するのは確かに不謹慎だ」

 

「まあ、仮にそうなっても私達は一誠先輩を信じますけどね。悔しいですが、先輩がレイヴェルさん以外の女性をそんな目で見ることなんてあり得ませんし」

 

「普段の行いって大切よね~? レイヴェルが羨ましいにゃん」

 

「つーかもし俺だったらヤバかったかもしれねーな」

 

 

 これがもし自分だったら間違いなくヤバイと言う元士郎。

 

 

「大丈夫ですよ、元士郎先輩もそんな事しないって僕信じますから」

 

「まあ、確かに匙さんも付き合いのある私達からしたらあり得ませんわね」

 

 

 即座に否定する女の子形態のギャスパーにレイヴェルが同意するように頷く。

 何せ今の元士郎も一誠に似た女性に対する態度なのだ、主にカテレアとかカテレアとか……そう、カテレアとか。セラフォルーは――元士郎的にかなり複雑なので アレとしても。

 

 

「祐斗先輩に至っては男子の人達に責められそうだけど、女子の方には自分がされたいとか言ってきそうですもんね」

 

「え? ぼ、僕そんな事しないんだけど……」

 

 

 逆にある意味微妙な事になりかねないという白音からの祐斗への評価に、本人は戸惑いつつゼノヴィアをチラチラと気にしながら割りと必死に否定する。

 学園の王子様と呼ばれちゃってるが、ぶっちゃけ正直本人にしてみればどう対応して良いのかわからないし、最近は寧ろ他の女子の黄色い視線よりも、自分の視線に気付いてキョトンとしているゼノヴィアにどう思われてるのかが気になって仕方ない訳で………。

 

 

「確かに祐斗は女子に人気だな。大概キャーキャーと騒がれてるし」

 

「あ、あれは違うからね!? 別にいい気分とかになってないし!」

 

 

 余計な誤解をされたら実に困る祐斗はそれはそれは必死であった。

 

 

「だ、大体僕は――――あ、いや、な、何でもない……」

 

「む……何だよ、気になるだろ……?」

 

「だ、だって恥ずかしいし……」

 

「むぅ……」

 

 

 とにもかくにも冤罪を吹っ掛けられても跳ね返せる時点で、リアス達の選択は自爆と変わらないのだ。

 

 

 

終わり。

 

 

 

オマケ……普段のお二人。

 

 

 月満る夜天の下、これもまたリアスの尻拭いという形で行うはぐれ悪魔討伐作業を行う生徒会メンバーと仲間達。

 

 

「コイツは相当に厄介な装甲だぞ祐斗。デュランダルの刃が通らん」

 

「みたいだね……っと!!」

 

 

 その日討伐を行うは祐斗とゼノヴィアの騎士のペアなのだが、はぐれ悪魔というよりは誰かが捨てたペットが野生化した様な三メートル以上の図体を誇る化け物を相手に其々の得物を構えながら相対している。

 

 

「まるで実験生物みたいだよ、言葉も全然通じないし」

 

 

 双剣を手に鋼鉄を思わせる装甲で覆われた図体のデカい怪物にヒットアンドアウェイで斬りつけながら、小さく呟いた祐斗は、大振りに腕を振り回したり、腹部から謎の光弾を撃つ怪物から一度距離を置くと、持っていた双剣の刃を交差させると、頭上に掲げて円を描き、銀牙の鎧をその身に纏う。

 

 

『一気に終わらせる……!』

 

 

 聖魔を宿した双剣へと進化させた祐斗が更なる領域へと進んだ事で手にした銀狼の騎士。

 白銀の鎧は月夜に照らされる事でいぶし銀の如く輝いている。

 

 

『パンプティ……だったね? キミの陰我、僕が断ち斬る!!』

 

 

 本来なら持つ事すらあり得ない祐斗の切り札となりし力、白銀の閃光と共に……。

 

 

『ハァッ!!!』

 

 

 怪物を斬り伏せる。

 

 

『陰我……消滅……!』

 

 

 その名を銀牙騎士・絶狼。

 

 

「ふぅ……何とかなったよ」

 

「お疲れさま祐斗」

 

 

 怪物を退治し、鎧を返還して生身に戻った祐斗にゼノヴィアが労いの言葉を掛ける。

 

 

「私は結局役に立ってないな」

 

「いいや、寧ろゼノヴィアさんに見て貰ってるから僕はやれるんだよこうして。

それにほら……一緒に強くなれれば……」

 

「む、そうだな……少し弱気になっていた」

 

 

 自分はまるで役に立ってないと自虐するゼノヴィアに祐斗は即座に否定し、そんな事は無いと話す。

 実際問題この鎧を手にした理由もゼノヴィアに関係しているので、あながち間違いでは無いのだ。

 

 

「それより早く帰ろう……」

 

「うむ、そうだな……」

 

 

 故に祐斗にしてみれば見守って貰ってるだけでも力になる。

 その言葉を受けたゼノヴィアも見守るじゃなく肩を並べる様にならなければとやる気を燃やしながら、廃工場を後にするのだが……。

 

 

「ふむ、今日は月が綺麗だな祐斗……」

 

「うん、そうだね……綺麗だ」

 

「………………。あの、何だ、折角だし一誠達の真似でもしながら帰ってみるか?」

 

「え?」

 

「あーほら、アレだよ……その、手とか繋ぐとか……」

 

「う、うん……それはもう喜んで……!」

 

 

 平時は至って健全なお二人なのだ。

 手を繋ぐとかの話だけでテンパったりする辺りとかが特に。

 

 

「「………」」

 

 

 結局ゼノヴィアの提案に乗っかって手を繋ぎながら帰る事になった祐斗。

 その最中の会話な照れすぎて互いに声が出せずだったとか。

 

 

終わり

 

 

 

その2――モテ期続行なる彼の普段。

 

 

 シトリーからカテレアを奪還した際に覚醒した元士郎もまた、尻拭いの形ではぐれ悪魔やら怪物やらを退治してるのだが……。

 

 

『確かブレイド……つったか。ったく、誰のペットだか知らないが、野生化しまくりじゃねーかよ。

よし、ギャスパーとカテレアさんは見ててくれ』

 

「が、頑張ってください……!」

「怪我だけはしないで……」

 

『ふっ……承知!』

 

 

 この日担当だった元士郎は、祐斗と同じかそれ以上にデカい怪物を退治する為にとある裏世界へとやってきて暗黒騎士の鎧を纏って対峙していた。

 見守るギャスパーとカテレアの声援により一気に仕留める心を強めた元士郎は、持っていた両刃の剣を地面に叩き付ける。

 

 

『ハッ!!』

 

 

 刀身を地面に叩き付けた瞬間、剣そのものが巨大化する。

 閻魔斬光剣と呼ばれる剣なのだが、生憎元士郎は知らないまま巨大化させた剣を持ちながら巨大怪物に向かって突進。

 

 

『ウォォォォッ! 滅せよぉぉっ!!! そして、我が血肉となれぇぇぇぇっ!!』

 

 

 ある程度距離を詰めた所で暗黒騎士と化した元士郎は、怪物よりも――下手なビルよりも高く飛び上がると落下と同時に一回転しながら巨大化させた剣を怪物に向かって振り下ろす。

 

 

『――!!』

 

 

 両手に鎌を思わせる巨大な刃物を持つ怪物が抵抗しようと振り下ろされた巨大な剣と火花を散らせながら鍔迫り合いの如く競り合おうとするが、それも一瞬の事であり、呆気なく怪物は頭から真っ二つに両断された。

 

 

 

 

 

 

 とまあ、こんな具合に怪物退治をする事で日に日に強くなる元士郎なのだが、決定的な失恋が原因なのか何なのか知らないが、今の彼は微妙にモテていた。

 

 

「ではそろそろ私はフェニックス家に戻ります……」

 

「あ……そうですか……」

 

 

 本人にしてみれば意図せずモテてる訳じゃないし、カテレアからどう思われてるかしか気になって仕方ないと思ってるのだが、ギャスパー然り、理由つけて頻繁に突撃してくるセラフォルーしかりと、ぶっちゃけ正直一誠よりも普通にモテていた。

 

 

「フェニックス家の方々はアナタと居ても良いと許可されてますけど、元士郎にはご両親が居ますし、転がり込む訳にはいきませんからね」

 

 

 しかし一誠本人から自分と似てると言われた通り、こういう点でも同じなのか、セラフォルーやギャスパーからのそういった感情を受けてても元士郎はカテレアに一直線であり、今もフェニックス家に戻るカテレアと両手を繋ぎながら、独り者には辛い雰囲気となっている。

 

 それは見ていたギャスパー的にも複雑な気分だし……。

 

 

「むー! くっつき過ぎだよー!☆」

 

「「!?」」

 

 

 何故かいつの間にか居たセラフォルーも複雑だった。というか普通に割って入ってきた。

 

 

「な、なんでアンタが……」

 

「というか何時から」

 

「今だけど? というかカテレアちゃんばっかりで酷いよ元士郎ちゃん」

 

「はぁ!? ばっかって何だし!? そりゃ俺はカテレアさんと――――う、な、なんでもねぇ」

 

「ほら、その照れてる感じがモヤモヤするの! ギャスパーちゃんだって同じだよ!」

 

「い、いや僕は……別に……」

 

 

 照れる元士郎とカテレアに納得できずに騒ぎ立てるセラフォルー。

 やはりモテ期なのかもしれない。

 

 

 ちなみに……。

 

 

「えっと、わ、私に出来るのはこのくらいしかありませんけど……よかったら……」

 

「う……柔っこい、カテレアさんのいい匂いもしてヤバイっす」

 

 

 隠れてイチャイチャしてるくらいには進んでたりはする。

 

終わり




補足

もし使ってあらぬ誤解(誠八に顔の作りまでトレースされた為、誠八と勘違いされるのが嫌だ)をされるが嫌で拒否ってます。

なので、使う気の無い自分よりもとっとと他の宿主に行った方が互いに良いという考えの一誠とは裏腹に、ドライグは白いのに確実に勝てる宿主故に嫌がってるというか構図。


その2
中学生的やり取りなのは歳が同じだから。


匙きゅんの場合は相手が年上だからなのと、モテ期だから。カテレアさんに優しくぎゅってされたらそら落ちる。

どちらも仕方ないね。


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元・幼馴染み

これである程度終わりかな。


 この日、ミカエルと共に紫藤イリナがやって来るという事で何時もより割りと張り詰めた空気が生徒会達の中で展開されていた。

 

 

「では俺とゼノヴィア以外は周囲を警備してくれ。

一応ミカエル殿も来るしな」

 

 

 実際に対面するのは聖剣事件の時にイリナとコンビだったゼノヴィアと、決して浅くは無い因縁めいたものを持つ一誠の二人。

 それ以外のメンバー……レイヴェル、白音、黒歌、祐斗、元士郎、ギャスパーは生徒会――いや、駒王学園の警備を担当するという事で事前に打ち合わせをしたのだが、やはりというか何というか……警備をするという選択はある意味正解だったのかもしれない。

 

 

「完全下校時刻は過ぎてるし、生徒会室は只今部外者は立ち入り禁止です。

どうかお引き取り願いましょうか?」

 

「べ、別に邪魔をするつもりじゃ無いわ。

な、何か手伝えたら良いかなと――」

 

「大丈夫ですから。本当に心の底から遠慮しますのでどうかお引き取りくれますか」

 

「も、もう流石に何も言わないから……ね?」

 

 

 生徒会室へと訪れる部外者を追い返すという意味で、担当していた元士郎と祐斗は元主達相手に真っ向から対峙していた。

 

 放課後……それも夜を使っての面会だというのに、しれっと現れた元主達曰く、手伝いをしたいとの事だが、元士郎の言った通り前科がありすぎで一切信用が出来ない。

 というか、どっちの家の親に怒られたばかりなのにも拘わらずこの場に現れるその変に強いメンタルはどこから沸いて出てくるのかが二人には不思議でしょうがなかった。

 

 

「レイヴェルさん達に連絡しとく?」

 

「あぁ、その方が良いかもな……」

 

「!? ま、まって! あ、あの子達に言うのはやめて!」

 

 

 いっそ同性のよしみでレイヴェル達に追っ払って貰おうかとトランシーバーを取り出しながら言う祐斗に元士郎も同意して頷く。

 だが、レイヴェルの名前を聞いたその瞬間にリアス達が焦りながら呼ぶのは止めてくれと懇願し始めた。

 余程年下のレイヴェルが怖いらしい。

 

 

「じゃあ大人しく帰ったらどうすか……」

 

『……』

 

 

 脅威じゃないにせよ鬱陶しい。

 今のリアス達はまさにそれであった。

 

 

 

 

 元士郎と祐斗がリアス達を追い払おうとするその頃、生徒会室内ではミカエルによって連れて来られた紫藤イリナとまともな意味で久々なる対面を果たしていた。

 

 

「お、お久し振り……です」

 

「………」

 

「イリナ……」

 

 

 痩せこけた頬、枝毛だらけの髪……そして生気を感じさせない肌。

 ミカエルによって事前に知っていたとはいえ、変わり果てた元相棒の姿にゼノヴィアは絶句してしまう。

 

 

「その説は……本当にごめんなさい……」

 

「…………」

 

 

 主を信仰していた時のはつらつさは無く、ただただ無言でソファに掛ける一誠と目を合わせづらそうに低姿勢となるイリナ。

 

 

「自分が何をやっていたのかを自覚してます……」

 

 

 この分だとリアスやソーナ達同様目が覚めてる様子だが、リアス達とは違い、今のイリナは少しでも突き放せば完全に精神が壊れてしまうかと思う程の脆さを感じる中、ビクビクした態度で目を細めていた一誠に先ずはの謝罪をイリナはした瞬間、無言だった一誠は静かに口を開く。

 

 

「何故貴様が謝るんだ?」

 

「……え?」

 

「一誠……?」

 

 

 その一言にイリナの目が丸くなり、同様にゼノヴィアも疑問に感じた目を向ける。

 ミカエルも付き添いという事で無駄な口を挟むつもり無しと見守っていたが、一誠のこの一言にピクリと瞼を揺らす。

 

 

「謝る必要は無いと思う。俺は今そう言ったんだ」

 

「い、イッセー……くん……?」

 

 

 生徒会役員専用の制服、そして会長の腕章を身に付けた一誠の淡々とした言い方に、かつて仲の良かった時に呼んでいた名前を思わず口に出してしまうイリナ。

 

 

「だってそうだろう、今の貴様を見ればあの男によって無理矢理好意を持つ様に仕向けられていたのは理解できる。

それから解放されて自己嫌悪に陥ってるのも今の貴様を見てればわかる」

 

 

 然り気無く飲み物をイリナに差し出しつつ一誠は只ひたすらに淡々とした態度と口調で続ける。

 

 

「だからこそ何故貴様が俺なんぞに謝る必要がある?

ミカエル殿から聞いてる筈だが、確かに俺はあの男の化けの皮を剥ぎ、快楽目的で女性の意思を無視していた奴の洗脳術を消した。

しかし俺がその行動に出た理由は、奴が本来の容姿を隠して俺の双子という嘘の皮を剥ぎ、俺がその時まで持っていた全てを横から奪ったからだ」

 

「………」

 

 

 ゴクンとコップに入れていた麦茶を一口飲み、ここで一息間を置きつつ目を泳がせるイリナを真っ直ぐ見据える。

 

 

「双子でも無ければ血も繋がらない奴に自分と似た顔までされた挙げ句、女性の好意を無理矢理己に向けるなんて真似をされたら嫌だろう? だから俺は清算のつもりで奴の化けの皮を剥いだのだ。

貴様等の洗脳が溶けたのは只の副産物であり、もっといえば貴様等が身籠っていたあの男との子を『妊娠したという現実を否定した』という形で『殺した』のと同義なのだ。

それが例え拝み倒されたからとはいえ、俺は貴様等に恨まれる事はせよ謝罪される事は無いと思っている。ましてや『命を神聖視』する貴様にしてみれば、身籠っていた子を俺に殺されたのだぞ? 寧ろ恨みを持って然るべきだ」

 

 

 あくまで元幼馴染みとしてでは無く、一人の人間・兵藤一誠としてイリナと話すその態度はどこまでも淡々としていて、どこまでも他人行儀。

 ゼノヴィアも常日頃の一誠の自分達に対する態度を身をもって知ってるが故に、ここまで真逆な態度に思わず息を飲むのと同時に心の奥底でホッとしてしまった。

 

 

「そうだろうミカエル殿? 俺は命を冒涜したのだぞ?寧ろ仇じゃないのか?」

 

「……。殺したというのは流石に語弊があると私個人は思いますし、サーゼクスからアナタの力は既に伺ってます。

『現実と自身の描いた空想を入れ換える』という力……それは恐らく神の領域すら侵す力であり、その神の域の力によって彼女の現実が変化したとなれば、それは解釈によっては神からの慈悲と考えております」

 

「ふっ……はは、聞いたかゼノヴィア。人間の負の具現である過負荷(マイナス)が神だそうだ」

 

「お前はそう言うが、実際よく考えたらお前のアレはそう捉えられても同義だと思うが……」

 

「ふふ、お前に言われるとくすぐったい。

しかしミカエル殿……持ち上げて頂いて実に光栄ですが、俺は正真正銘の人間であり、今はもう失った幻実逃否(リアリティーエスケープ)も、所詮は現実逃避という俺の弱さ(マイナス)を具現化させただけのモノです。

アナタの言う神の域とは正反対の代物ですよ」

 

 

 『既に失ってる』と強調しながら、ミカエルの主張を真っ向から否定する一誠は可笑しくて仕方ないとばかりにクスクスと笑う。

 確かに現実を己の描いた夢へと書き換えるなんて力は神の域とも言える代物と、何も知らない者からしたら思えるかもしれない。

 だが実際は一誠が嘗て最早本名すら不明な転生者によって全て奪われた際に抱いた負の感情が爆発した結果発現したというだけの力であり、神の域云々とは真逆の力なのだ。

 

 その証拠に、このマイナスを使って目の前のイリナやリアス達が幸せになったのか? 答えは否だ。

 カテレアの件は確かにマイナスにそぐわない使い方だったが、アレですらある意味命の流れの冒涜であり、普通なら誰も幸せにはなれないのがマイナスなのだ。

 

 

「無意味で無価値で無関係……そして何より無責任なのが過負荷(マイナス)

まあ、今の俺はそのマイナスの原因との因果を断ち切れたお陰で失いましたがね」

 

「「……」」

 

 

 どこかゾッとする様な笑みを見せる一誠に全員が口を閉じてしまう。

 マイナスは失えど根っこはまだマイナス所持者特有のソレは残っているのだ。

 

 そんな空気を一人作り上げた一誠は、薄く笑いながらイリナへと向き直ると、ハッキリと言った。

 

 

「故に紫藤イリナさん。貴女が罪悪感を抱く事なんて何一つ無いのさ」

 

「…………」

 

 

 ゼノヴィアも思わず閉口してしまう雰囲気を出す一誠の一言だが、親しくしている者の一人故に彼女はここで気付く。

 一誠は『わざとこんな冷たい空気まで出して彼女を突き放そうとしている』と。

 

 

「何なら俺を恨んでくれても結構だぞ? あ、そうだ、折角だし俺に復讐する為に鍛えてみればどうだ?」

 

「一誠、お前……!」

 

「………」

 

 

 復讐心を抱かせ、己という復讐対象を植え付けて生きる気力を与えようとしている。

 今一誠が煽る様に話した瞬間それは確定となり、思わずゼノヴィアは咎めるように声を出そうとするが、言わせないとばかりに一誠はわざとらしく声を張り上げる。

 

 

「自殺未遂をしたらしいが、くくく、この際だ言わせて貰おう。

ザマァ無いな………………負け犬が」

 

「!!!」

 

 

 わざとらしく、上から完全に見下しきった笑い顔で言い捨てる。

 

 

「謝罪だと? ふん、誰も貴様の為になんぞやっては無い。鬱陶しいからついでにやってやっただけだ。必要すら無いな」

 

 

 ゼノヴィアの声にたいして目だけで『気にくわないだろうが俺のやり方に今だけは黙っててくれ』と伝えながら、打ちのめされた様に俯くイリナを煽り続ける。

 

 

「この茶番が終わった後もし貴様が自殺したら俺は笑ってやる。

まんまと知らん男に好意を向ける様に仕向けられた挙げ句、関係まで持って、解放されたら勝手に絶望して自ら命を断っただけの負け犬だとな」

 

「………」

 

「それとも何だ貴様? まさか俺が貴様に優しい言葉でも掛けてやるとでも思ってたのか? 『大変だったな』とか『これからは友達としてやり直そうとか』言うとでも? ……甘えるな、昔少し顔を合わせたかもしれないってだけの――この学園の生徒ですらない貴様に何故俺がそこまでしなければならない? 勘違いもここまで来ると呆れるだけだ」

 

 

 これでは逆に本当に自殺するんじゃ……と思えるレベルの言い方で締めた一誠は、話は終わりだとばかりに席を立つ。

 

 

「話は終わりだ紫藤イリナ。今後貴様がどう行動しようが俺は知らん。死ぬなりなんなり勝手にしろ。

しかし俺を恨んで復讐したくば何時でも来るんだな……叩きのめしてやる。行くぞゼノヴィア」

 

「…………あ、あぁ」

 

「ミカエル殿、話は終わりですので、後は頼みます」

 

「……。はい、しかしアナタという方は――いえ、此処で言うのは無粋ですね」

 

「何の事やら……俺は単に勝手に俺に対して罪悪感を持ったれるのが迷惑なだけですよ」

 

 

 ミカエルの何とも言えない視線に一誠はそれでも惚けながら、同じく何とも言えない顔をするゼノヴィアを引き連れて生徒会室を先に出ようと出口へと向かう。

 

 

「………て」

 

 

 すると、それまで俯いていたイリナが小さく何かを呟く。

 

 

「……あ?」

 

 

 扉に手をかけようとしていた一誠がピタリと止まってゼノヴィアと共に振り向き、小さくカタカタと震えるイリナを見つめる。

 

 

「……待って」

 

 

 どうやらイリナは待てと言っていたらしく、カタカタと震えた身と同じ震え声を出すと……。

 

 

「イッセー君の気持ちはわかった」

 

 

 漸く俯いた視線を上げ、それまで皆無だった生気が復活した眼差しで一誠を睨む。

 

 

「そうよね、私なんて助ける理由なんてあるわけないよね。わかった……やっと話せて良かったわ。

やっぱりアナタは嫌いよ……!」

 

 

 そしてハッキリと、聖剣事件の時と同じ生気の籠った声で一誠に吐き捨てた。

 その瞬間一誠は内心ニヤリとしつつ、イリナには挑発的な態度を崩さずに口を開く。

 

 

「ほう、嫌い? 結構だな、俺は元々貴様に何の感情も無いので言われた所で痛くも痒くも無いな」

 

「ええ、そうね。わかってるわよそんな事。

だからこそ、イッセー君の言うとおりその内思い知らせてやるわ……!」

 

「へぇ、自殺未遂までした負け犬が随分と大きく出たな? 何を思い知らせるんだって?」

 

 

 睨み付けるイリナの目を楽しそうに笑いながら見据える一誠とのやり取りにゼノヴィアとミカエルは『不器用』と内心呟く。

 

 

「自殺なんて止める。悪魔に与するアンタを今の状況から何としてでも這い上がってから倒す……!」

 

「…………………………。ほーぅ?」

 

 

 ある意味生きる気力を与えることに成功したと確信した一誠が隠し切れてない笑みをこれでもかと浮かべた。

 

 

「這い上がるねぇ? そうかそうか」

 

「………」

 

 

 少なくともすがられるより遥かにマシだと内心ニタニタしっぱなしとなる一誠は、睨むイリナに背を向けながら最後に一言……。

 

 

「精々へし折れない様に頑張るだな……」

 

 

 挑発とも激励とも取れる言葉を送る。

 それに対してイリナは彼の背を睨みながら……。

 

 

「上から目線でものを言わないで……そういうのが嫌いなのよ」

 

「そうか……」

 

 

 嫌いだと言う。

 その一言にほんの一瞬だけ立ち止まった一誠に、ちょっとビクッとしてしまうイリナはもう一度だけ振り向いて見せた一誠を見て息を飲んでしまう。

 

 

「俺はそんな貴様が初恋の相手だったよ……」

 

「な……!?」

 

「!」

 

「あ、あらー……」

 

 

 それまでが嘘だったかの様に穏やかに笑いながら、好きだったと言ってきたのだ。

 その瞬間イリナは怒りやら何やら自分でも訳がわからない感情の波に飲み込まれ、思わず激昂してしまう。

 

 

「そ、そういう所が嫌いなのよ!!!」

 

 

 初恋って……ふざけるな、自分はあの男に洗脳された時必死に呼び止めようとしていた一誠の頬まで叩いて拒絶してしまったのに、何故今でもそんな台詞を吐ける。

 これでは憎もうとした自分がバカを見てるだけ……いや、分かってる、本当は理解(わか)っていた。

 

 一誠がわざと復讐心を煽っていた事を。しかしその上で今の台詞を言われた瞬間、イリナの死に体同然だった感情は完全に爆発した。

 

 

「あ、アンタなんか……アンタなんか絶対倒してやる! それまで這ってでも生きて、アンタをぶっ飛ばすまで……!!」

 

「ふっ、そうか……じゃあ気長に待ってるから何時でも来るんだな」

 

 

 望み通り生きてやる。

 そして目の前の男を倒して、生かした事を後悔させてやる。

 ハッキリと今生きる燃料を得て命の炎を燃え上がらせた今のイリナはみすぼらしくなった姿を感じさせない程に生き生きとしており、満足そうに頷いた一誠は今度こそ背を向けながら軽くを手を振ると……。

 

 

「さようならだ―――――――イリナ……」

 

「ぁ……」

 

 

 昔呼んでくれた名前を小さく口にしながらゼノヴィアを連れて生徒会室を出ていった。

 

 

「シスターイリナ。感謝するんですね彼に、今のアナタは初めの頃とは比べ物にならない程に生気に満ちてます」

 

「み、ミカエル様……わ、私……」

 

「わかってます。私が直々にアナタを叩き直してあげましょう……」

 

 

 紫藤イリナの自殺思考をねじ曲げる事により、生徒会執行完了。

 

 

 

 

 

 

 

 「………………はぁ」

 

「お前という奴はなんというか……」

 

「言うな。柄じゃない事ぐらい自覚しているさ」

 

 

 生徒会室を出てレイヴェル達と合流する為に夜の廊下を歩く中、先程のやり取りについてゼノヴィアに呆れられていた一誠は、苦笑いを浮かべる。

 自殺を止める為に逆に煽り倒して自分をぶちのめす目標を与える事は成功した。

 

 これですがられる事は無くなったという意味でも一安心なのだが、ある意味気疲れした感は否め無い。

 

 

「…………。で、何故貴様等がいる?」

 

「手伝いをするとかしつこくてよ」

 

「断ったんだけどね……」

 

「またリアス・グレモリーとソーナ・シトリーか……」

 

「「……」」

 

 

 その上元士郎と祐斗と先に合流すれば、戻ってきていたリアスとソーナにまたしても出会すというオプションも付けば中々に疲れる。

 

 

「もう面会は終わった。だから貴様等も帰れ」

 

「ど、どうだったのよ……?」

 

「どうだった? 別にどうもしてない、ミカエル殿の依頼通りの事をしただけだ」

 

「……。自殺する程の精神を持ち直させるケアをしたんですか? 随分とその……親切ですね」

 

「おい、お前達は何が言いたい?」

 

 

 ソーナのボソッとした声にゼノヴィアが軽く睨む。

 

 

「何度も言うが、一誠にこれ以上求めるな。お前達の両親に釘を刺されてるはずだろう?」

 

「それで懲りたら此処に来ねーだろ」

 

「それは言えるかも……本当に勘弁して欲しいのですけど……」

 

 

 イリナとは逆にすがりつこうとするリアスとソーナ達にうんざりした様子の三人。

 そのタイミングでレイヴェル達も合流する事でアッサリと二人は追い返された訳だが、これからもこのやり取りは続くかもしれない。

 まあ、最早無視に近い対応となるが、それも回数を重ねたらストレスにもなろう。

 

 

 故に元士郎は大胆な計画を決意するのだった。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

一週間後……冥界にて。

 

 

「女王をカテレア・レヴィアタンとして据え、眷属の作成を許可して頂きたい」

 

 

 以前取った手柄により得た特例の眷属持ちの権限を使い、カテレアを女王とする事でカテレア自身にある程度の自由と……そして。

 

 

「そして早速ですが、リアス・グレモリー並びにソーナ・シトリーにレーティングゲームを申し込む。

それにより俺達が勝利した場合……友である兵藤一誠に対して一切すがることを止めて貰う」

 

 

 後に無限喰らいの暗黒騎士として名を馳せる元士郎の第一歩が始まる。

 

 

 だがその前に……。

 

 

「は、招待? レイヴェルにか?」

 

「ええ、眷属なんて正式に持ってないのに何故か若手の悪魔同士で行われるレーティングゲームの招待状が……」

 

「じゃあ前に暫定的に決めたメンバーで出てみようぜ。そろそろ実戦的な修行とかもしたいしさ」

 

「じゃあメンバーとしてはアレか? 女王に白音、僧侶に黒歌とギャスパー、騎士に祐斗とゼノヴィア、兵士に元士郎……で、俺が戦車でレイヴェルは当然王か?」

 

「それが良いですね。

出れば私達の事も認めて貰えますし」

 

 

 変わり者フェニックスが抱える事情ありまくりな面子が表舞台に立つ為のイベント。

 ぶっちゃけ正直面子としたアレ級揃いだったりもするが、そんな自覚を彼等は持たない。

 それどころか……。

 

 

「カテレアさんから電話あったんだけど、兵士の枠で出れるなら私も出して欲しい……らしいぞ」

 

「わー……オーバーキルだねそれ」

 

 

 面子としては間違いなくオーバーキルである。

 

 

「リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの脱落の穴埋めといったところだな。

まあ、それなら多少は仕方ないだろう……是非とも全力を尽くそうじゃないか……ふふ」

 

「でもカテレアさんまで巻き込むのは……」

 

「うむ、それは確かに思うのだが――」

 

 

 

 

 

「私では元士郎の足手まといになりますか……?」

 

「いやいやいやいや!? 寧ろオーバーキルっすよ!?」

 

 

 カテレアの参加に、要らぬ労力を使わせてると申し訳なく思う元士郎とそうじゃないと思うカテレアが互いに互いを気遣いまくって逆になんかナチュラルにいちゃつくのは最早デフォルト。

 

 

「いててて……ハシャギ過ぎた……」

 

「大丈夫ですか元士郎? 今治療しますので、その、上着を脱いでください」

 

「え……あ、はい」

 

 

 戦闘の勘を完全に取り戻す為の修行に本格的に取り掛かるカテレアとそれに付き合う元士郎。

 

 

「この傷って、あの時の……」

 

「跡になってますけど、カテレアさんは気にしないでください……あの時守れなかった戒めですから」

 

「元士郎……」

 

「あ、ああ、あの……か、カテレアさん? せ、背中にカテレアさんの胸とか当たっててヤバイっす……!」

 

 

 

 

 

「匙……なんで……」

 

 

 その風景を盗み見ていた元主が抱く黒い精神。

 

 

「………。何? アーシア・アルジェントを狙う悪魔から助けて欲しい?」

 

「こ、こればかりは本当の意味で困ってるの……」

 

 

 またしても……いや、今度は別件で助けを求められる一誠。

 

 

平穏はまだまだ先かもしれない。

 

 

以上、エセ予告




補足

依頼は自殺を止めて欲しいとあったので、わざと煽って復讐心を芽生えさせた……まあそんな感じです。


その2
またしても匙きゅんが主人公します……フラグ? と見せかけて例のシスター見習いフェチとのイザコザに然り気無く巻き込まれてる一誠君なのだった。

その3
エセですので、次回はムカつくくらいいちゃこら回でも一つやろうかなー………………そう、匙きゅんとカテレアさん達の。まあ、わかんないけど。


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つかの間の休息

と、見せかけて、懲りない方々の愚痴が……。

まあ、切羽詰まってるから多少は勘弁してつかぁさい。


 レイヴェル・フェニックスの実力は果たして一誠より下回るのだろうか? 答えは否である。

 そう話すは一誠本人だった。

 

 

「ハッキリ言うと、本気でやり合うとなると俺も『全力』を出さないとやられる」

 

 

 進化の異常を持ち、常日頃その身を無限に進化させ続ける一誠をして『本気』を越えて『全力』を出さないと確実に負けるとまで言わしめるレイヴェルの実力は紛れもなく本物であり、その証拠に日頃生徒会の仕事を放課後遅くまでこなした後に皆で行われる『修行』の際、白音と黒歌との三つ巴状態のバトルは表現のしようが無い程の熾烈極まりない戦闘だった。

 

 

「行きますよ……」

 

 

 炎と風を操るフェニックスの血を引き、尚且つ逸脱者と呼ばれた両親の血を色濃く受け継ぐことで発現せし七色の炎を操るレイヴェルの単純攻撃力は寧ろ一誠を上回ってすらおり、母から受け継ぎし特殊素材のグローブを嵌めたその両手に七色に輝く炎は神々しさすら思わせる。

 しかしどちらかと言えばエシルの血が濃いレイヴェルが得意とする炎の性質は虹の炎よりも、太陽を思わせる圧縮された破壊の炎だった。

 

 

 怒りの暴発(スコッピオ・ディーラ)………!!

 

 

 その言葉と共にレイヴェルの両手から極太のレーザーを思わせる炎が放たれる。

 憤怒の炎と人外の少女が提唱したその炎の性質がレイヴェルの最も得意とする炎であり、最も破壊力のある炎だった。

 

 

「チッ、やっぱり強いですねレイヴェルさん」

 

「あんなのまともに食らったら一発でお陀仏だわ」

 

「姉様はその反則スキルで何とかなりますが、私は正直やばいですよ……」

 

 

 フェニックス家が保有する土地に設置された鍛練施設。

 例えるならドーム球場クラスの広さを誇る平地なのだが、その平地を使って三つ巴の模擬戦をする白音、黒歌、レイヴェルはそれぞれ持つ力を極限まで引き出し、まるで本当に殺し合ってるのでは無いかと誤解する程の熾烈で苛烈な模擬戦を興じていた。

 

 その模擬戦たるや、まるで戦争であり、レイヴェルによる炎の一撃で地は荒れ果ててしまっている。

 勿論黒歌と白音もレイヴェルに食らい付いているのでますます周囲の状況が大変な事になっているのだが、それもこれも『先への進化』の為であり、手を抜く事も妥協することも一切ない。

 

 

「来いよ……」

 

「言われなくても……!」

 

「年長者嘗めんなにゃ!」

 

 

 全ては進化を体現せし少年に並ぶ為に……今日も三人の少女は己を磨き続ける。

 

 

 

 基本的にというか、絶対というべきか、一誠とレイヴェルは喧嘩をしない。

 レイヴェルが白音や黒歌のせいで若干拗ねる事はあるけど、大体は一誠が謝り倒す事で刹那に許しちゃうので、本格的な喧嘩は皆無に近い。

 

 しかしそんな仲でも一度修行となれば互いに妥協はせず、打って変わって本気で殺しに行くレベルの戦いを展開する。

 

 それは先程戦争レベルの模擬戦を終え、白音と黒歌に代わって一誠がレイヴェルと模擬戦を始めた時もそうである。

 

 

「っ……ラァッ!!」

 

「はぁっ!!」

 

 

 出し惜しみ無し、最初から全力状態から始まるレイヴェルと一誠の一戦は、基本的に飛行が出来ない筈の一誠が当たり前の様に空気を足場に宙を舞いながらレイヴェルと真正面から殴り合っている。

 

 

 フェニックスの炎を操る事で地力を上げているレイヴェルの身体能力は可憐な少女の見た目を平然と裏切るが如く半端ないものであり、炎を噴射する事で推進力を上げてスピードを増しているのもあって、ファントム連射 状態の一誠と互角の戦闘を演じている。

 

 

「白音と黒歌に触発されたか? 恐ろしいほど強くなってるなレイヴェル……!」

 

「一誠様こそ……いえ、少し今までより成長速度が落ちてますわね……!」

 

 

 だがレイヴェルは今の一誠が不安だった。

 というのも、スキルのリミッターを外した一誠の成長力がこの前を境に明らかな劣化を感じるからだ。

 今だって本来ならこんなにも自分の攻撃が当たる事は今まで無かったのに、今の一誠はレイヴェルの炎を纏った拳を何百と受けてかなりボロボロだった。

 

 

「お前の言う通りだ。

例の赤い龍が『自分を使わなければ使わざるを得なくしてやる』と言って、俺のスキルの邪魔をしていてな」

 

「……! あの赤蜥蜴が……!」

 

 

 その原因は、転生者から本来の宿主へと還った赤い龍による『妨害』であり、無神臓のスキルが思うように使えなくなっているのが原因だった。

 とはいえ、それを抜かしてもこれまで培ってきた経験があるのでそうそう遅れを取ることは無く、全身軽く焦げてるとはいえ、レイヴェルに拮抗しているのは流石だといえよう。

 

 

「心配するな、逆にここまでされると意地でも使いたいとは思わん。

俺のアイデンティティはお前のお陰で至った無神臓(これ)ただ一つだ」

 

 

 だからこそレイヴェルは早く神器の知識に強いアザゼルと接触し、愛しき方の邪魔となる赤蜥蜴を消し去ろうという考えを強くする。

 それこそ、師であるあの人に頼む事すら辞さない覚悟も入れて……。

 

 

「しかしお前とやり合うのは楽しいよレイヴェル。

もっと続けるぞ……!」

 

 

 愛する人にもっと安らぎを与える為に……。

 

 

閑話休題

 

 

 

 紫藤イリナが一誠と面会してから三日後。

 立場が殆どお飾りになったと言っても良いソーナとリアス達は、毎日を制限された日々を送らされていた。

 

 転生者によって最近まで色々とやらかした挙げ句、その尻拭いまでして貰ったのだが、評判としてはほぼ落ち目も良いところだった。

 

 だが、本人達は最早その評判を気にする余裕は無く、あるのは『転生者による洗脳で失った色々をどう取り戻すか』しか頭にない。

 

 

「……。これ以上彼に迷惑をかけるなら勘当すると言われたけど、ソーナの方は?」

 

「同じくよ……。恥の上塗りはやめろと言われたわ……」

 

「「……」」

 

 

 リアス、ソーナ、朱乃、椿姫……そして双方の持つ女性眷属達に残った忌まわしき記憶と体験。

 既に死んだ方がマシとすら言われる地獄に今尚閉じ込められているだろうあの男によって刻まれた色々の半分は、化け物と呼べる理不尽な力を持つ生徒会長によって無かった事にはなった。

 

 しかし経験した現実は残ったままなので、勿論処女なんかじゃないし、またそんな男と溺れたという風評もきっちり残ったまま。

 

 それもこれも中途半端に嫌味の如くあの生徒会長が残したせいと言えばそれまでだが、それは身勝手な考えであるし、何度も周囲に怒られたので納得する他無い。

 

 

「紫藤イリナの事、聞いた? 何でも相当なケアをしてあげたそうよ?」

 

「ええ、もしかしたらあの不思議な力を彼女だけに使ったかもしれないわね」

 

「だ、だとしたら何故私達にはそれを……?」

 

「聞いたところによると、紫藤イリナさんとは本来の幼馴染みらしいです。なのでよしみなのかもしれませんね……」

 

 

 だがしかしそれでも、それ程の力があるならもう一度使って『最初から最後まで無かった事に』して欲しいと思ってしまう訳で……。

 紫藤イリナに対する対応を聞いてしまったからこそ余計に理不尽さを覚えてしまっている。

 

 イリナに使ったのなら自分達にだって使ってくれても良いのに……と。

 しかし両親はおろか魔王二人にまで完全に釘を刺された今の状況で頼んだら、今度こそ……それこそ穴倉に戻される可能性が高いので、リアスとソーナ達は思うように動けず、すっかり溜まり場となった旧校舎のオカルト研究部にて沈んだオーラをこれでもかと放ちまくっていた。

 

 

「大体、祐斗と小猫とギャスパーは私の眷属なのに、何で今レイヴェル・フェニックスの眷属候補になってるのよ……。

強制されたからとはいえ、そこも私は納得してないのだけど……」

 

「それを言ったら私だって匙が彼女の兵士候補としていつの間にかトレードされた事に不満があるわよ。

加えて何で旧派で敵だったはずの女が私たちより優遇されてるのかも……」

 

「……。彼がいつの間にか祐斗君やギャスパー君や小猫ちゃん、それから匙君を取り込んだとしか思えませんわね」

 

「何せその時はあの嘘吐き男に無理矢理意識を取られてましたし、取り込むのに時間は十分です」

 

 

 99%の支持率を持つ生徒会長だが、支持をしない1%とされるのが彼女達だったりする。

 理由は勿論会話の通り、中途半端に扱われて惨めな思いをわざとさせてるからという…………まあ、簡単に言えば逆恨み爆発な理由だ。

 

 今だって気付けば生徒会長――つまり一誠に対する不平不満をぶちまけていた。

 

 

「大体あの彼だってあんな理不尽な力を持ってるのだし、もしかしたら祐斗や小猫達を洗脳してるかもしれないじゃない」

 

「ええ、レイヴェル・フェニックスが異常なまでに人間の彼を好いてるのも変ですし。……だってあのフェニックスがですよ?」

 

 

 本人が聞いたら多分逆にその場で笑い、レイヴェル達が聞いたら多分どころか最早戦争覚悟で八つ裂きにするだろう命知らずでズレ過ぎな事を愚痴っぽく話し合う辺り、どうやら反省云々の前によほど一誠のマイナスにある意味で魅入られてしまってるのかもしれない。

 

 でなくても、いくら何でも『まともだった頃』の彼女達と今の彼女達が違いすぎる。

 

 まあ、単純に今の状況から逃げたいが為に素が出てしまってるだけなのかもしれないが。

 

 

「そもそもあの男は彼の姿をトレースした存在だったと考えると、もしかしたら力もある程度トレースしていたと考えられない?」

 

「つまり私達の意識を無理矢理変えた洗脳術があの不思議な力のトレースだったと? ……ありえるかもしれません」

 

「そ、それは流石に考え過ぎな気が……」

 

「あの男みたいに洗脳した証拠なんてありませんし……」

 

 

 ブツクサとズレまくった予測までし始める主二人には流石の女王二人も否定的だったものの、それでも強くは否定しない。

 

 

「……。今だから気付けますが、匙って私に好意を持ってるから、上手くそれを利用して取り戻し、匙を介して何とか頼める事が出来たら良いのに……」

 

 

 しかも挙げ句の果てにソーナがとんでもない事を言い出す。

 

 

「匙って……確かあの真っ黒な鎧を纏う……?」

 

「五大龍王のウリドラを宿していた筈なのに、いつの間にかそんな力を持ってたので詳しくはわからないけど、そうよ。

あの子が持ってた私に対する好意を何とか使えば突破口が……」

 

「あ、あの……それも流石に今は無理な気が……。

だって匙君ってカテレア・レヴィアタンと仲良さそうにしていたというか……あとセラフォルー様とも」

 

「……。わからないじゃない。もしかしたら私を忘れようと無理してるだけかもしれないし……」

 

 

 椿姫のおずおずとした声にソーナがムッとしたように返す。

 確かに最近の元士郎を見てると、自分より優遇するカテレアやらいつの間にか姉と仲良くやってるように見える。

 しかしそれが無理をしてるだけだとしたら、ちょっと何か言ったら戻ってきてくれるかもしれない……等と何故か急に本気で思い込むソーナにちょっと引いてしまう面々。

 

 

「大体何であんな女を優遇するのよ……。匙も兵藤一誠も……」

 

 

 それこそ本人が聞いたら即鎧召喚で切り刻まれるだろう考えだと解らずに……。

 ブツブツと理不尽な自分達の状況で色々と訳がわからなくなってる者達はやはりちょっとやそっとじゃ変わらないらしい。

 

 

 

 

 

 そんな者達の逆恨みを知らない……いや知ったところでどうでも良いと本気で思うだろう一誠はといえば、転生者と取り巻きとの清算が一段落ついたという事をやっと自覚出来るようになり、少しだけ気を緩めていた。

 

 

「すーすー……」

 

「最近オーバーワークだったし、やっぱりあの人達の事で気疲れしたんだろうね……居眠りしちゃってるなんて珍しいや」

 

「まあ当たり前だわな。俺なら三日は寝込む自信があるぜ」

 

 

 肉体的疲労を凌駕する精神的疲労が蓄積し、つい生徒会室で居眠りをしてしまった一誠は、只今ソファにてレイヴェルに膝枕されながらスヤスヤ寝ており、居眠りをしてしまう理由を知っている生徒会メンバーはお疲れといった視線を向けて静かに労いの言葉を向ける。

 

 

「ちぇ、私が膝枕してあげたかったのになー」

 

「そんなの私だって同じですよ。鳥さんばっかりです……」

 

 

 黒歌と白音はレイヴェルの膝で眠る一誠の頬をつんつんしながら、自分もしてあげたかったと洩らすが、だからといって起こすという無粋な真似は絶対にせず、すやすやと気持ち良さそうにレイヴェルの膝で眠るその頬をつんつんし続ける。

 

 

「年期が違うのですよ雌猫さん? これに懲りてとっとと一誠様を諦め――」

 

「嫌ですね」

 

「ありえないから」

 

「――――でしょうね。アナタ達はそういう方ですものね……って、おい、黒雌猫……然り気無く一誠様のベルトを緩めるのはやめろ」

 

「えー? じゃあ絶対起こさないから、ちゅぱちゅぱするのは――」

 

「そんな真似してみろ……本気で焼き殺す」

 

「ちぇー……イッセーだって男の子だしそろそろ発散させてあげたいのになー?」

 

 

 然り気無くとんでもない事を口走る黒歌に当人達以外は苦笑いしてしまうが、不思議と居心地の悪さは感じなかった。

 

 

「んー……」

 

「あ……一誠先輩がレイヴェルさん側に向いちゃった……」

 

「良いなぁ~ 私もイッセーの事良いこ良いこしながら寝かしつけてみたいにゃん」

 

 

 何時もの様にレイヴェルの腰に腕を回してガッツリ抱きながらお腹に顔を埋めてスリスリと心地よさそうな顔を寝声を出し始める一誠。

 それを見て元士郎は自然とカテレアさんがしてくれたらなー……と指くわえて妄想するし、その隣でギャスパーが意味深に元士郎をチラチラ見て、祐斗はそういう事は考えなかったけど、さっきからゼノヴィアと互いに目が何度も合っては咄嗟に逸らすというやり取りに忙しくて気まずいとかが無いのだ。

 

 

「んん……」

 

「あん……♪ もう一誠様ったら……そんな所にお顔を埋められたら恥ずかしいのに……」

 

「その割りにはかなり嬉しそうな顔をしてるのがムカつくんですけど。

何ですか? 発情でもして下着がアレな事にでもなっちゃいました? 私に代わってくださいよ」

 

「嫌ですわ……ふふ♪」

 

「いーないーな……私の胸とかちゅぱちゅぱしてほしーなー」

 

 

 まあ、スイッチ入ると凄い一面があるのを知ってるからというのが大きいのかもしれない。

 

 

「ゆ……祐斗も寝てみるか? せ、折角だし私で良ければやってやれるぞ?」

 

「はぇっ!? ぜ、ゼノヴィアさんがレイヴェルさんみたいにしてくれるのかい……?」

 

「うん、嫌じゃなければだけど……」

 

 

「元士郎先輩……その、カテレアさんの前に僕で予行演習とか……きょ、今日僕女の子の日だし」

 

「女になってるなら逆にやっちゃダメじゃね? しかも俺にって……」

 

 

 こっちもこっちで影響を受け、今だけは平和な時間なのだった。




補足

とうとう、転生者と同じとか疑いだしちゃったけど。これ本人達の前で口滑らせたら何故かサーゼクスさんがマジギレするかもですね。

その2
流石に精神的に疲れたので、レイヴェルたんに癒される一誠くん。
何時もの様に膝枕と見せ掛けた抱き枕でな。

位置的にどこに顔を埋めてたのかは突っ込んだらいけないぜ!

おまた―――な、なんでもない。


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地雷原でタップダンス

うーんと……匙×カテレアって今更ながらなんでやんねんだよな。


 

 赤い龍の妨害についてだが、確かにこのままでは宜しくない――いや、実際にマズイ。

 

 

「ごほっ……げほっ! お、思っていた以上だなコカビエル。今度は俺の負けか……ぐっ……」

 

 

 あの時はギリギリの果てに何とか勝ったコカビエルとの再戦にて、俺はまさしく『手も足も出せない』まま叩きのめされてしまったのだから、多少なりとも焦りもする。

 

 

「風の噂で聞いたが、赤い龍を望まなくして宿してしまってるみたいだな? しかも、それが枷になって力が満足に引き出せてすらいないと。

そんなお前を叩きのめした所で勝ったとは思わん」

 

「………」

 

 

 急に突然フラっと一人で現れ、誰も居ない空間にて始めた戦いに間違いなく敗れて膝を折る俺にコカビエルは静かに言う。

 

 

「早くその枷から抜け出して戦え……。

俺はあの時の貴様に勝たないと満足なぞせんぞ」

 

「ふっ……そう簡単にはいかんのさ」

 

 

 ボロボロとなって膝を付く俺にそう告げたコカビエルに、そのそのまま地面へと力尽きる様にして倒れて意識を手放した。

 それは久々になる完全な敗北だった……。

 

 

 

 

 

 

「――という事が実はあり、俺は昨日の晩コカビエルに叩きのめされた。

いやー……驚く程に進化してるぞあの男」

 

「ま、負けたってお前……」

 

 

 一人修行の最中にフラりと現れたコカビエルとの手合わせに敗けたと、軽いノリで話す一誠に、同生徒会のメンバーはコカビエルが普通に現れたという意味を含めて驚いている。

 

 

「帰ってくるのが遅いと思って探しに行ったら、近所の公園でボロボロになって倒れていましたのよ。私は気が狂いそうになりましたわ」

 

「まあ、先輩の回復力の高さで何とかなりましたけど……」

 

「心配で眠れなかったにゃん」

 

 

 レイヴェル……そして一誠と一応同棲という形になっている白音と黒歌が一誠を見ながらため息を吐いて昨晩の事を話す。

 一人でフラフラと修行しに行ったかと思えば、帰りが遅いわ、探しに行けば血塗れで倒れてて大騒ぎになるわで、寝ずに看病する事になったという意味では、この三人の方が大変だったらしく、思い切り目を逸らしながらヘッタクソな口笛で誤魔化そうとする一誠。

 

 

「コカビエルが来てたなんて……」

 

「確かに奴のあの性格なら一誠にリベンジするとは思うが、それにしたって妙なタイミングだな……」

 

「誰が吹聴したのか知らんが、赤い龍を宿してしまった俺の実力を確かめたかったらしい。

まぁ、宿してしまったせいで逆にこの様だから失望させてしまった様だ」

 

 

 その話した誰かの予想は何と無く察してたりする一誠だが、敢えて曖昧にしながら枷となってる赤い龍の弊害についてを改めて話す。

 

 

「レイヴェルには先に話したが、どうも今俺の中に入り込んでる赤い龍は、宿敵とやらとどうしても決着を着けたいようでな? なんでも自分を使わなければ使わざるを得ない様にするとの事らしいが、どうも只の脅しでは無さそうだ。最近自分の進化を感じ辛くなってる」

 

「……。ふざけてるのかよその赤い龍は?」

 

「宿主を脅すって……」

 

「他の神器とは少し勝手が違うとはいえ、随分とその龍は勝手だな……」

 

「ぼ、僕だったらまた引きこもりになっちゃうかも……」

 

 

 へらへらと笑って話す一誠に皆して憤慨する。

 元々赤い龍は例の男に宿っていた神器で、話によれば本来は一誠が宿主だったのを強制的に移された代物だった話は既に聞いていた。

 だからこそ多少は赤い龍に同情していたが、今の話を聞いてまえばそんな感情は直ぐにぶっ飛んでしまう。

 

 何せ一誠のアイデンティティを乗っ取ろうとしているのだから。

 

 

「考えた結果、アザゼル殿は神器の研究をしているとの事なので、彼に神器を抜き取る方法を聞いてみようと思う。師匠には………まあ、あまり頼るのは良くないので黙ってるつもりだけど」

 

「師匠? ………というと、確か安心院なじみさんだっけ?」

 

「あぁ、師匠なら多分間違いなくこの赤い龍を抜き取る事が出来ると思うけど、頼り過ぎるのは良くないし、何より師匠の事をもしグレモリー三年達が聞き付けたら、また面倒な事になりかねん」

 

 

 その代わり俺は楽になるけど……と小さく呟く一誠に、安心院なじみを知らないゼノヴィアとギャスパーが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「そんなにその安心院なじみとやらは凄いのか? お前の師匠らしいから凄いのだろうが……」

 

「僕は見たことすら無いのでイマイチわからないです」

 

「凄いぞ。まず俺達全員が全力出して突撃噛ましても凸ピンで死ねるし、一番の強みは圧倒的過ぎる『引き出しの多さ』だな」

 

「我々が知るスキルを一京程お持ちですからね……だからこその人外ですわ」

 

 

 弟子として、人外の分身の一人として二人に安心院なじみのがどんな存在かを話す一誠とレイヴェルに、超大国の国家予算すら鼻で笑える桁を聞かされ、ゼノヴィアとギャスパーは絶句してしまう。

 

「例えるならそう……後出しじゃんけんがやり放題って感じだ」

 

 

 夢の中を含めても1000回以上は叩きのめされてるせいか、微妙に遠い目となる一誠に、未だ影すら見えない一誠の師匠とやらに声を出せずに居るのであった。

 

 

 

 

 それから暫く経ったある日の事、赤い龍の事もそうだが、それ以上にリアスとソーナの干渉にそろそろキレそうになっていた元士郎。

 

 一誠は殆ど相手にしてないし、実際問題彼女達の力では例え赤い龍に妨害されてたとしても、一誠に傷ひとつ負わす事はできないので、放っておけば良いという事にはなってて一応は従っては居るが……。

 

 

「匙、私の元へ戻ってる来るつもりはありませんか?」

 

「…………………。一人の時に出てきたかと思えば、頭沸いてんのか?」

 

 

 何をどう思ってその思考に辿り着いたのか頭の中を掻き出して覗いてみたいとすら思う元士郎個人に、わざわざ一人の時を狙いすませて現れたソーナ……とその他達から出て来た話に、『こんな頭悪かったっけ?』と思いながら、眷属に戻してやると言われていた。

 

 

「戻るつもりって何?」

 

「いやだから……もう色々終わったし、匙も……えっと、私の事が好きだし……」

 

「………………………」

 

 

 何を言ってるんだこの目の前の女は? と、元士郎は正気に戻ったせいで色々と払拭したいが為に思考回路がおかしくなってるソーナに、怒りが通り抜けて可哀想なものを見る目をしていた。

 

 

「好き? 俺が? アンタなんかを? なにそれ? 何のギャグ?」

 

「え、だってそもそもアナタって私に一目惚れして眷属になった筈でしょう?」

 

 

 確かに否定は出来ないし、当時はそうだったので元士郎も強くは否定しないが、今はミジンコよりも好きでは無くなってる――――いや無関心となっているので、今更になってそんな理由を付けて眷属に戻してやると言われても戻りたくなんて無かった。

 

 

「吐き気がするぜオイ。一誠達が説得できないからって今度は俺ってか? 冗談じゃない、死んでも戻りたくないね」

 

「………」

 

「あの、そう言わずに少しはソーナの事を……」

 

 

 横から口を挟んできたリアスまでも戻ってやれと言い出す始末。

 しかし仮に――それこそあり得ないけど、例えの話で戻ってみた所で、どうせ自分を介して一誠に接触するという考えが見え見えなのだ。

 

 それなのにどうして戻ろうと思うのか。元士郎としても『あり得ない』のだ。

 

 

「ホントいい加減にしろよアンタ等。

周りに注意されても尚変わるつもりもねーのか?」

 

『………』

 

 

 地に堕ちた名誉を回復しようという努力も無く、ひたすらに一誠に頼ろうとするその考えが一番気に入らないと元士郎は殺気を放って威圧する。

 

 最早ソーナとデキ婚したいという兵士だった匙元士郎とは別次元とも言うべき境地へと至った暗黒騎士としての匙元士郎の殺気に、ソーナ達は顔を真っ青にしながら声を出せない。

 

 

「何時までも被害者顔してんじゃねーぞボケが、俺はテメー等なんかに割く時間なんかねぇんだよ」

 

 

 全てを喰らって進化する黒狼。

 真に得た仲間と、真に想う人の為に振るうと誓った力をこの目の前の女共に使うつもりなぞ皆無。

 

 

「アンタの事はもう微塵も好意なんざ抱いてない。だから戻らない」

 

「………」

 

 

 そう言って堂々とソーナ達に背を向け、学園近くの住宅街の奥へと去っていく。

 今の元士郎は最早、ソーナでは決して届かない男となっているのだった。

 

 

 

 

 

「な、何よ……匙の癖に……」

 

「あ、あのソーナ。この作戦はもう無理な気が……」

 

「私もそう思います。匙君まで怒らせたら打つ手が……」

 

「小猫ちゃんとギャスパー君と祐斗君を説得した方が……」

 

 

 真正面から冷めた顔で消えろとまで言われた事に、以前の元士郎のイメージがまだ強いのか、生意気だと憤慨するソーナに、流石のリアスも無理じゃないかと言う。

 しかしソーナは元士郎が去っていった後の道を睨むと、早歩き気味に後を追い始める。

 

 

「ま、まだよ……! 匙の癖に生意気なのよ……!!」

 

「ちょ、ソーナ!」

 

 

 多かれ少なかれプライドを踏み潰されてしまって怒り出すソーナの後を追い掛ける三人。

 

 

「どうするのよ? 追いかけたら逆に反感を買うだけで……」

 

「私の事が好きじゃないと言ってる時点でやっぱり兵藤一誠に洗脳されてるのよ!

一発ひっぱたいたらもしかして正気に……」

 

「!? や、やめてくださいソーナ様! そんな事をしたら今度こそ見限られてしまいます!」

 

「そうですわ! もっと冷静に――」

 

「私は冷静よ!! 匙の分際で……匙の分際で……!!」

 

 

 冷静と喚くソーナだが、どう見ても冷静には見えず、何時しか走り出し始めていた。

 

 

「居た……!」

 

 

 そして程無くして普通に一人歩いていた元士郎の姿を発見したソーナは、沸き上がる感情の赴くままに大きく息を吸い込み――

 

 

「待ちなさい匙―――もが!?」

 

 

 元士郎を呼び止めようとしたのだが、その前にリアスが咄嗟に飛び付いてソーナの口を押さえた。

 

 

「待ってソーナ! 匙君が公園に入ったわ、ここは先ず様子を見てからにしないと」

 

「でも何故公園に? もしかして待ち合わせでしょうか?」

 

「もがもが……!!」

 

「お、落ち着いてくださいシトリーさん……」

 

 

 既に放課後で辺りも夕焼けに染まっている時刻に少し大きめの公園へと入っていく元士郎の行動が読めずに、後ろからひっそりと後をつけるリアスは、苦しそうにもがくソーナの口をそのまま離す。

 

 

「けほけほ! な、何をするのよリアス――」

 

「しーっ!! 匙君が子供達も家に帰る時間なのに公園に入っていったのよ? ここは刺激しないようにこっそり後をつけて様子を見ないと……」

「そんな悠長な事……! 匙の癖に生意気だったのを――」

 

「良いから黙ってください……!」

 

「そうですわ、もし今度こそ見限られたら私達はおしまいなんですよ……!?」

 

「っ………」

 

 

 どうしても匙に一言言いたいソーナを何とか宥め、渋々と黙る彼女と共にリアス、椿姫、朱乃の三人はテクテクと公園の中に入っていく元士郎の後を影に隠れながらつける。

 

 休日となると子連れファミリーで賑わう比較的大型な公園だが、時刻が時刻だけに中に居る人数はほぼ居ないに等しい。

 居ても犬の散歩をする人とか、散歩してる老夫婦がチラホラ程度だ。

 

 その中をひたすら尾行する四人が目にしたのは――

 

 

「すいません、遅れちゃって……」

 

「いえ、大丈夫ですよ元士郎」

 

 

 シックな黒ロングスカート肩フリルの薄いシャツを着た褐色の女性と待ち合わせをしていた元士郎の姿だった。

 しかもその女性というのが……。

 

 

「カ、カテレア・レヴィアタン……!?」

 

「フェ、フェニックス家に居る筈のあの女が何で……」

 

 

 リアスとソーナ達にとっても見覚えのある同族であり、現在旧魔王派の捕虜としてフェニックス家に居る筈の女が普通に元士郎と楽しそうにベンチでお喋りしている姿にただただ呆然としてしまう。

 

 

「学校はどうですか?」

 

「毎日楽しいっすよ。まあ、鬱陶しいのが居ますし、さっきも絡まれて……」

 

「あ、だから少し遅かったのね?」

 

「ええ……まったく、アレ等は魔王様や実家に言われてる筈なんですけどねー……」

 

 

 

 

「私達の事よね……」

 

「完全に邪魔扱いですわね……」

 

「しかしカテレア・レヴィアタンにかなりの自由を与えてるなんて、魔王様達はご存じなのでしょうか…………って、ソーナ様?」

 

「…………」

 

 

 

 鬱陶しい連中と一括りにされてると聞き、若干グサリと刺さるリアス、朱乃の二人と、世間的にクーデター未遂まで起こしたカテレアにここまでの自由を与えてるフェニックス家を魔王達は知ってるのかと思案する椿姫は、怒りの形相へと変わってるソーナに気付いて息を飲む。

 

 

「セラフォルーが邪魔しないこの時が一番アナタと一緒に居られるわ……」

 

「一々騒ぎますよねあの人……なんなんでしょう?」

 

「それは………まあ、騒ぐのも今なら私も分かる気がするから何とも言えないわね」

 

 

 

 

「な、ナチュラルに手を繋いでるわ……」

 

「というか、互いに照れあってるし……」

 

 

 しかしそれを知らんとばかりに元士郎は、カテレアと辿々しく互いに手をふれ合い、その内繋ぎながら楽しそうに話をしている。

 暗いという事で覗き見てる自分達以外の人の気配も消えてるせいか、手を繋いでたのがやがて……。

 

 

「人間界の昼間は熱いですけど、日が落ちると少し肌寒くなって来ましたね……」

 

「あ、はい……そ、そっすね」

 

「だからその……えっと……嫌だったら断って構わないのを覚悟で言いますけど、もう少しだけ近くに行っても良い?」

 

「そ、そそ、そりゃ断るなんて無いっす! はい!」

 

 

 お互いに緊張しながら肩と肩が触れ合うその距離を更に縮め、カテレアを抱き寄せる様な体勢になり始めた。

 

 

「こ、これって……」

 

「シトリーさん……これはもう流石に無理な気が……」

 

「何このムカムカする気分……何よこれ、あんな女が良くて何で私がダメなのか意味がわからない」

 

 

 カテレアの事になるとまるで祐斗とゼノヴィアみたいな事になる元士郎の心底嬉しそうな顔、そしてカテレアの幸せそうな表情を見て、別に元士郎をどうとも思ってないソーナがどす黒いオーラを放ちながらブツブツと言い始める。

 リアスと朱乃と椿姫は最早ソーナに対して持ってたらしい好意を利用する手は無理だと悟ったのだが、ソーナ本人は寧ろ理不尽に怒っていた。

 

 

「よく一誠がレイヴェルさんにして貰ってる奴ってわかります? こう、膝枕なんだけど抱き枕みたいな」

 

「あぁ、一度フェニックス家で見たことありましたね。というか前にゲームか何かで元士郎にしてあげた事もあったし……ふふ、もしかしてして欲しいの?」

 

「えっと……嫌じゃなければ」

 

 

 しかしそんなソーナなんぞ知るかとばかりに、どんどん独り身には辛い空気を出しまくる二人はといえば、遂に横に少し長いベンチだというのを利用して、膝枕にしてはアレな……よく一誠がレイヴェルにして貰ってるそれをやり始めていた。

 

 

「あ、ヤバイっすこれ。一誠がして貰いたがるのもわかりますわコレ」

 

「あの、私の膝って固くないですか?」

 

「いーや全然。

あ、やっばいっすコレ……果てしなく安心します」

 

「そ、そう……? でも少しだけ恥ずかしいかもしれない……」

 

「あ、すいません。やっぱりやめた方が……」

 

「いえ良いの……恥ずかしいけどアナタが満足ならそれで……」

 

 

 カテレアの腰にガッチリ腕を回し、そのままお腹の部分に顔を埋める元士郎は頭を撫でられてるのもあって安堵の表情だ。

 

 

「カテレアさんのお腹あったかいっす……。

それに良い匂いも……」

 

「私なんかで良かったら何時でも頼んで良いわ元士郎。

でもその……そこは私のお腹というよりは……えっと……は、恥ずかしい所だし」

 

「恥ずかしい所……?」

 

「ほ、ほらその、女性のデリケートな――うぅ、言わせないいでくださいよ……」

 

「……!? あ、あぁっ! す、すいません! わざとじゃないんです!」

 

「べ、別に良いんだけど……。こんな事されたのアナタが初めてだから……」

 

 

 

 それはもう……見てるだけで言い知れぬ敗北感に打ちのめされる様な光景だった。

 恥ずかしがるカテレアの下腹部に知らず知らずに顔を埋めてるというのもアレだった。

 

 

「か、帰りましょう。無理よ、あんな空気になられたらどうしようも無いわ」

 

「で、ですね……」

 

「やはり匙君を引き込むなんて無理だったんですよ……」

 

「あの女……裏切り者の癖に……」

 

 

 そんな光景に少なくともソーナ以外の三人は帰るしか無いと思い、また元士郎を引き込むのは無理だと理解したのだが……。

 

 

「匙!!」

 

「「「!?」」」

 

 

 ブツブツと独り言を言っていたソーナが突然茂みから飛び出し、ほんわかしていた元士郎とカテレアの前に怒り顔で突撃を噛ましたのだから、大変な事になってしまった。

 

 

「んぁ?」

 

「……? アナタは確かセラフォルーの妹の……何か?」

 

「何か? じゃ無いわ。アナタは旧魔王派で今はフェニックス家の監視下な筈でしょう? 私の兵士に何をしてるのかしら?」

 

 

 一応気配があることは知ってたが、敢えて無視してた元士郎の緩みきった顔と、そうさせてるカテレアとを睨みながら、然り気無く自分の兵士と宣うソーナ。

 

 

「え、元士郎の兵士って……。

アナタは確か元士郎とは切れてる筈でしょう?」

 

「そうっすよカテレアさん。この女の勝手な妄想っす」

 

「っ……!!」

 

 

 人をダメにする椅子がある様に、元士郎を無条件で大人しくさせる効果でもあるのか、カテレアに膝枕されたまんま、ソーナの眷属なんてとっくに辞めてると言い切る元士郎に、言い様の無い納得できない気持ちを爆発させる。

 

 

「ふざけないで匙! この女はクーデター未遂まで起こしたのよ!?」

 

「………。だから?」

 

 

 喚くソーナは元士郎の表情が一気に変化したことに気付かない。

 

 

「そんな女相手に今アナタは何をしてるの!?」

 

「膝枕だけど?」

 

「だからっ! アナタをそうやって色仕掛けして利用してるかもしれない女に現を抜かすなって私は――」

 

 

 そしてまたしても……いや、最早決定的過ぎる地雷を踏んでしまった。

 

 

「色仕掛け……少しばかり今のは否定できないかもしれませんけど、私は決して元士郎を――」

 

「黙ってて貰えますか、旧魔王派の裏切り者」

 

「―――――それも否定はしませんよセラフォルーの妹」

 

 

 噛みつくソーナに大人としての余裕の態度を崩さないカテレア。

 一応相手はセラフォルーの妹でシトリー家の次女なので下手な真似を控えてるのだが……。

 

 

「殺してやる……」

 

 

 完全に線が切れた元士郎の事を忘れてはいけないのだ。

 

 

「っ……な、何よ。アナタのせいで――ひっ!?」

 

『………』

 

 

 怒りの念がそうさせたのか、カテレアからして貰っていた膝枕から降りた元士郎の全身に禍々しい漆黒の鎧が纏われる。

 その威圧感や、魔王レベルに到達する程であるその手に握られた両刃の剣である『黒炎剣』を振りかぶる様に両手で持つと、剣を中心に血管を思わせる赤い光が展開する。

 

 

『カテレアさん、ちょっと待ってて貰えます? コイツ今から黙らせるんで』

 

 

 人体に内包される血管に流れる血の様に広がる無気味な赤い光がピークに達した時、元士郎はエコーの掛かった己の声を腰が抜けて動けないソーナに向かって宣言する。

 

 

『闇血邪剣』

 

 

 暗黒騎士として磨いて獲た奥義のひとつ。

 相手を刺し殺す紅蓮の閃光となり、剣を振り下ろしたと同時にソーナの身を壊そうと放たれ掛けた………その時だった。

 

 

「やめて元士郎。彼女の言ってる事は正論でもあるの。だからアナタが殺してしまったらアナタの立場が悪くなる……だからやめて……」

 

『……』

 

 

 カテレアがソーナと元士郎の間に入り、奥義を繰り出さんとした元士郎を止めた事で、ソーナの命は助かった。

 

 

「…………。でもコイツは許せないっすよ」

 

 

 カテレアに言われたら聞かない訳にはいかないと、即座に鎧を解除した元士郎は、カタカタと震えるソーナを嫌悪した眼差しで見下ろしながら、ハッキリと許せないと言うが、カテレアはそんな彼を優しく何時もの実は初な面も忘れて抱き締め、落ち着かせる。

 

 

「良いのよ。それを覚悟してアナタに付いていこうと決めたのだから。だから大丈夫……」

 

「………」

 

 

 ぎゅっとカテレアが抱く事で元士郎は落ち着きを取り戻す姿を目の前に、恐怖とショックで動けないソーナに急いでリアス達が駆け寄る。

 すると、これまで以上に……いや最早そこら辺に落ちてる小石を見るような目をした元士郎が四人に対して言った。

 

 

「正式にテメー等を黙らせてやるから覚悟しろ」

 

『………』

 

 

 正式に、悪魔のルールに乗っ取って四人を永久に黙らせてやる。そう宣言した元士郎はそのままカテレアの手を握って公園から去る。

 

 それはある意味、元士郎が与えるソーナ達への完全な詰みの前触れでもあった。

 

 

 

 

終わり。

 

 

 




補足

サンプルが一誠達なせいで、着々と真似し始める匙きゅん。
木場きゅんもそうだけど。


ソーナさん達は最早分かってるんだけど、切羽詰まってるせいで後先考えられなくなってます。



その2

地雷踏み踏み完了。

ぶっちゃけ匙きゅんだって言われなくてもわかってる上でカテレアさんに惚れ込んでるので、今更言ったってどうしようもない。


その3
『闇血邪剣』

暗黒騎士となる元士郎が修行の末に会得した奥義のひとつ。

元ネタは……まあ、わかる人はわかるしググれば動画――はムズいが画像は出る。

かっちょいい技。

しかし個人的に好きな技はやはり牙皇降臨。
ありゃ中二という概念をこれでもかと詰め込んでる。


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もっと強く

えーっと、お久しブリーフ。

色々と怖くて更新できなかったの……


「正式に連中を黙らせたい」

 

 

 帰ってくるなり、不機嫌そうに事情を説明する元士郎。

 

 

「周囲のお墨付きの上で黙らせるとなれば、ゲームでも仕掛ければわかりやすいか?」

 

「そうなりますわね。ならば早速フェニックス家から両家にゲームについての書状を送らせましょう」

 

 

 洗脳が消えた途端、洗脳された現実からある程度逃げさせてもらえた事も忘れてしつこく下僕に戻れと言ってきたソーナに完全に堪忍袋が破裂した元士郎の意思を否定せず両者に対してゲームを仕掛ける事に賛成する。

 

 

「戻る気が無いのがお前の意思ならば、俺達は友達として応援するさ」

 

「悪いな……」

 

 

 何でもいきなり現れたコカビエルに赤い龍の寄生の影響で弱体化して負けてしまったらしい。

 痛々しい傷を消毒されて時おり痛みで身体を揺さぶりながらも笑って背中を押す仲間達に元士郎は感謝の気持ちと共に決意を固める。

 

 

「必ず勝ってやる」

 

 

 しつこい連中からカテレアを自由にする……その決意を。

 

 

 

 それから二日後にはレーティングゲーム開始の知らせの書状がソーナに届いた。

 上級悪魔昇格によりカテレア・レヴィアタンが正式に元士郎の女王となり、その初のお披露目目的のレクリエーションとの事……と書かれている。

 

 

「正式に潰すとはこういう事だとは思っていたけど……」

 

「……………」

 

 

 レクリエーションとは名ばかりで、本当の所は完全にソーナと元士郎の眷属としての繋がりを公衆の面前で絶ち切らせる。

 書面に書かれる開始日とゲーム勝利者に与えられる特権を読みながらリアスは怒りに震えるソーナを横目にため息を吐く。

 

 

「何故、何でこうなるのよ……!」

 

「向こうがそれだけ本気だって事だと思うわ」

 

「だからって! 何故負けたら私が匙の独立に了承しなければならないの!? しかも金輪際眷属として召集させることも禁止だなんて!」

 

 

 ソーナは未だ納得できてないと怒りのまま喚く。

 只でさえ忌々しい男に無理矢理関係を持たされたというのに、その癖旧魔王派の女に匙が走ったせいでイライラが止まらないというのに、魔王直々に今回のゲームの条件を飲まされたのだ。

 やっと自由になれたかと思ったら裏切られたなどプライドが許さなかった。

 

 

「あの女のせいね……あの女が匙を……!」

 

 

 ブツブツと爪を噛みながら、自分が洗脳されている間に眷属を奪ったと思っているカテレアに憎しみを募らせるソーナ。

 

 

「許せないわ、あの女といい、兵藤一誠といい……! 私から眷属を奪って……!」

 

「……。私には彼が自分の意思で動いてる様にしか見えないのだけど……」

 

「違う! きっと私達がそうだったようにどちらかが匙を洗脳したのよ!!」

 

「……………」

 

 

 そう思わないとやってられないと言わんばかりの怒声にリアスは流石に擁護できそうに無かった。

 確かに自分達は洗脳されて、一誠に付いていった者達を蔑ろにしてしまっていたが、だからといって彼が洗脳を施したとは思いにくい。

 ましてやカテレアに関しては完全に元士郎自身の意思による好意にしか見えないのだが、ソーナはそれがありえないと連呼するだけで聞こうともしない。

 

 

「そもそもあの子は私に好意を持ってるのよ……! なのにカテレア・レヴィアタンとだなんてあり得ないわ……!」

 

「…………」

 

 洗脳されてる間に愛想が尽きたとは考えないのかしら……と、こだわりすぎて更に視野の狭い考えに陥ってる幼馴染みを見ながら、幾分か冷静なリアスは考える。

 

 

「相手は匙君と女王のカテレア・レヴィアタンの二人だけだけど、匙君の力は確かに上級悪魔に相応しいレベルになってるわ。

だからいくら人数が有利だとしても油断は……」

 

「勝つに決まってるわ。匙をたぶらかした他の連中が居ないのなら勝てる。

勝って匙にはよーく言って聞かせ、カテレア・レヴィアタンから奪い返す……!」

 

 

 いや、もしかしなくても今の匙には勝てないのかもしれない……リアスは思うが口には出さない。

 何せあの旧魔王の血族者を眷属に出来てるのだ……。

 その器は既に計り知れない領域に進化していると見ても良い。

 

 

「匙……匙……!」

 

 

 その事に気付けなくなっているくらい周りが見えなくなっているのか……。

 

 

(こんな事ならいっそ洗脳されたままの方が良かったのかもしれないわ。残酷よ貴方は……)

 

 

 正気に戻って以降、日増しに周囲から白い目で見られて肩身が狭い思いをするリアスは、洗脳男の全てを暴いた一誠に対して複雑な思いを抱くのだった。

 

 

 

 

 正式にゲーム開催が決まり、尚且つ元士郎にとってはあらゆる意味でのデビュー戦……そして今までの清算と新たなスタートの為に、これまで以上の激しい鍛練に身を費やしていた。

 

 

「きょ、今日はここまでにしようか……」

 

「さ、さんきゅー……ぜぇ、ぜぇ……」

 

 

 恐らくは祐斗やフリードと同じ方向性に覚醒した暗黒の鎧を纏っての修行。

 ならば同じ力を覚醒させた者同士で修行し合えば色々と掴めるかもしれないという一誠の提案は大当たりであり、祐斗と元士郎は日増しに鎧の練度を上げていった。

 

 

「お疲れ様だ祐斗」

 

「元士郎も」

 

「ん、ありがとう。そっちも終わったのかい?」

 

「ええ、久々にまともな鍛練でした」

 

 

 互いにボロボロになる程の苛烈な鍛練。

 それは別の場所で修行をしていたゼノヴィアとカテレアも同じであり、ある時から鍛える事をしなくなっていたカテレアは特にその力を進化させていた。

 

 

「イッセーは?」

 

「赤い龍に入られてかなり四苦八苦してる様だ。通常の千分の一にまで力が落ちてしまっているらしい」

 

「今別の場所で赤い龍と対話中との事です」

 

「大変だなイッセーくんも。折角過去の清算が済んだと思ったのに」

 

 

 反対にイッセーは赤い龍に無神臓の邪魔をされてしまっており、その力を封じられているせいで著しい弱体化に見舞われており、現在その力を何とか取り戻すために赤い龍と対話しているらしい。

 鍛練により火照った身体を風で冷ましながら水を飲む祐斗の同情した声に元士郎は頷いた。

 

 

「邪魔をして欲しくなければ自分を使って白龍皇に勝てだったか? 随分と勝手な話だぜ」

 

「明確な意思を持つ神器の厄介な所だね。コカビエルに再戦で負けたのもその邪魔によるものらしいし」

 

「元々は兵藤誠八のなんだろう? もしかしたら宿主だった男の仇のつもりかもしれんな」

 

「だとすればどうにかして彼から赤い龍を引き剥がすべきですね。大きな戦いに巻き込まれた時に邪魔をされたら命に関わりますから」

 

 

 カテレアの言う通り、戦いの度に邪魔をされて力が上手く引き出せないとなれば命に関わる。

 とはいえ、過程はどうであれ誠八が使った力を使う気にはなれないし、何より命令するような言い方をする赤い龍は気に入らない。

 対話をした所で難航するのは予想しやすい事だった。

 

 

「取り敢えずイッセーの事は今後俺達でフォローできる所をフォローする様にして、今は連中とのゲームに勝って今度こそ完全に縁を切る事を考えないとな」

 

 

 だから、今度は自分達がこれまでの恩を返す。

 その為に迫り来る小さな障害は叩き潰してみせる。

 

 

「こんな小石に躓く訳にはいかねぇんだ」

 

 

 元士郎の決意はより強くなっていく。

 

 

 

 フェニックス家監視という状況だけど、比較的監視の目は緩い。

 いや、寧ろ殆ど監視なんてされてないに等しい。

 

 その気になれば今すぐにでも逃げ出せるだろう……別に逃げないけど。

 

 

「今日も修行したなぁ、でも、本当に強くなっていってるのかな俺って?」

 

 

 その理由は言わずもながら、この少年にある。

 良い歳してまさかこんな年下の子に心奪われるだなんて思わなかったけど、受け入れてしまえばなんてことは無い。

 寧ろ心地良いし安心できる。

 

 

「大丈夫よ、今のアナタならセラフォルーの妹程度に遅れを取ることはない。だからもっと自信をもって」

 

「うっす」

 

 

 切っ掛けはしょうもない事なのかもしれない。

 けど間違いなく私は彼に惹かれている。シトリー家の連中に拐われた時に助け出してくれた時から更に強く。

 

 

「そ……そろそろ戻りますか?」

 

「そ、そうね……」

 

 

 だから緊張してしまう。上手く踏み込めない。

 今も二人で夜空を見上げながら、手すら触れられずに部屋に戻る事に同意してしまう自分がちょっと情けない。

 元士郎も緊張してくれてる様だから少しは嬉しいけど、これでは小うるさいセラフォルーに横入りされて取られてしまう……。

 だから少しだけ、ほんの少しだけ勇気を出して部屋に戻ろうと先を歩く元士郎の服を掴んで止めた私は、恥ずかしくてまともに顔を直視できずに-俯きながら言った。

 

 

「そ、その……もう少しだけお話したい……」

 

 

 情けない。捻り出した言葉がこんなものである自分の勇気の無さを呪いたい。

 でも元士郎はそんな私に対しても優しくて……?

 

 

「お、俺も……そう、思ってました……」

 

 

 少し緊張した声色でそう言ってくれた。

 

 

「元士郎……」

 

 

 その言葉に少しだけ勇気が沸いた。

 すこし前の私なら何をバカなと思っていただろう。

 けど、やはり私は元士郎に惹かれてしまっている。

 レヴィアタンという血も関係なく私を私と見てくれる彼に。

 

 

「カテレアさんの手……あったかいっす」

 

「アナタの手も暖かいわ」

 

 

 自然とお互いに触れた手を繋ぎながら、今度はさっきよりも距離を縮め、身を寄せ合いながら空を見る?

 元士郎の体温が手を介して私に伝わる。鼓動が……呼吸が……。

 

 

「俺、絶対に勝ちますから。そしてカテレアさんを自由に……」

 

「そんなに私の為にならなくて良いわ。

わ、私はその……アナタさえ居てくれたらそれで……」

 

「カテレアさん……」

 

「元士郎……」

 

 

 自分の為にそこまでしなくても良い。ただ一緒に居れれば監視される人生であろうと構わない。

 其ほどまでに彼に惹かれた私は、お互いに目を合わせ見つめ合う内にもっと距離が縮まり……。

 

 

「「………」」

 

 

 この一瞬は永遠に忘れることはないだろう時間を過ごした。

 

 

「ふふ、少しは年上らしくできたかしら?」

 

「は、はいそりゃもう…」

 

「嘘よ。実はさっきから心臓がドキドキし過ぎて大変なのよ私……フフッ」

 

 

 良かった……アナタに出会えて心を奪われて。




補足

いやー……ホント何で匙とカテレアなの? って感じやね。

しかも一番青春しとるし。


その2
洗脳が解けた反動で錯乱してると思えば、彼女達も可哀想なものですホントに


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原点へ……

その頃、赤い龍にその精神を妨害されたイッセーは、自身の中に寄生する龍と対峙していた。


 兵藤誠八とのイザコザも終わり、マイナスも消失した今、俺に残されたやるべき事は、俺の中に寄生した赤い龍の妨害をどうにかする事。

 曰く『お前の方が宿主としての性能が遥かに上』と褒められたが、正直ちっとも嬉しくない。

 俺は赤龍帝とやらになるつもりは無いし、白龍皇とやらとの因縁に荷担するつもりだってない。

 

 あくまで俺が培ってきた技術は俺が信じた仲間の為に注ぎ込む事である。

 あぁ、そうだ……あのコカビエルとの再戦時に言われた通り、いくら取り繕っていようが俺は所詮黒神めだかの上部だけを真似ようとした模倣にもならない紛い物だ。

 

 誰も彼女の様にはなれないし、世界中の人間が大好きと公言していた以上、前提として俺は彼女のようにはなれない。

 コカビエル……確かに俺は嘘を吐いた。

 今の俺はお前の言うとおり上部だけの存在さ……。

 

 

『ほう、お前から俺に語りかけるとはな。

そろそろ俺を使う気にでもなったか?』

 

「…………」

 

 

 俺は弱い。

 フェニックスの家族を無くして俺は有り得なかった。

 所詮人は最初から一人では生きる事はできない。

 

 

『お前の持つ無限に進化する力と俺の力を合わせれば歴代最強の赤龍帝になれる。

そうすればあの白いのを完全にぶちのめせる……さぁ、俺に手を伸ばせ宿主』

 

「………………………………………」

 

 

 文字通りの赤い龍が俺の心の中から語りかけてくる。

 巨大な龍の姿が俺を取り込もうとする……。

 あぁ……よく解ったよ。お前とコカビエルのお陰で俺は自分の弱さを黒神めだかの劣悪な模倣で誤魔化してきた事を認めてやるよ。

 だから――だから―――――

 

 

「…………くくっ!」

 

『? 何を笑っ――――!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………図に乗るなよ、たかが蜥蜴ごときが」

 

 

 兵藤イッセー(ホントウノオレ)に戻る刻だ。

 

 

『こ、これは、な、何だ……!? 何だこの精神(チカラ)は!? 貴様、今までのは全部――』

 

「目が曇ってるぜ赤い龍? 俺の劣悪コピーの精神に寄生した程度で俺に言うことを聞かせられると思ったのか? 残念だったな」

 

 

 強く、もっと強く。

 誰にも奪われない、誰にも邪魔されない程の進化を……塞き止めていた更なる進化の濁流を受け止めろ。

 そして――取り繕うのをやめろ。

 気に入らない奴をぶちのめし、我を貫き、目の前の龍を―――――喰い殺せ。

 

 

「邪魔をする奴に一々構うわけねーだろうが……ボケが」

 

 

 

 

 

 目が覚めた時、兵藤イッセーは変質した。

 いや……戻ったという方が正しいと言うべきなのか。

 とある世界の生徒会長の模倣の為に作り上げた人格を脱ぎ捨て、本来の精神に戻る。

 その変化は何から何まで変わるのと同時に、煩わされていた赤い龍の妨害も踏み潰した。

 

 

「おはようレイヴェル。いや、久し振りだなレイヴェル」

 

「一誠……様……?」

 

 

 その変化にまず最初に気付いたのはレイヴェルだった。

 朝の挨拶を交わした際に放ったイッセーの久し振りという言葉にレイヴェルはイッセーがこれまで覆っていた模倣の人格を脱ぎ捨て、本来のスタイルに戻っている事を悟ったのだ。

 

 

「鬱陶しい蜥蜴を黙らせるには、今のままじゃあ駄目だと思ってね。

それに所詮は劣悪な模倣だったし、今回を機に戻ることにしたぜ」

 

「どちらにせよ一誠様に変わりはないと私は思っています。

しかし昨日までの状態で仲間となった皆さんは……」

 

「全員集めて正直に言うしかねーだろうよ。

『今までのは作ったキャラでした』……ってな。それで幻滅されたとしても仕方ない」

 

 

 口調が堅苦しくなく、年相応のやんちゃな少年を感じさせる話口。

 黒神めだかの模倣を辞めた事で本来のものへと戻ったイッセーの口調はどこか――なんとなく軽く、この違いを果たして仲間の皆は受け入れてくれるのだろうかとレイヴェルは不安になってしまう。

 

 

「あぁ、言うのを忘れてたよ、今日もレイヴェルは可愛いよ」

 

「……。(うん、戻って不都合な事はありませんわね)」

 

 

 だがそれも一瞬の事であり、抱き寄せられながら可愛いよと言われた瞬間レイヴェルは戻って貰って正解かもしれないとあっさり考えを変えた。

 元々黒神めだかの模倣をし始める前のイッセーも知っているし、別に何の問題もない。

 

 というか、匙も木場も白音も黒歌もギャスパーもカテレアも、今のイッセーを見ても特に変わらないだろう。

 そんは安い繋がりなどでは無いのだから。

 

 

「お早うございます先――」

 

「よぉ白音。今日も白くて可愛いな」

 

「輩……………え?」

 

「えっと、熱でもあるのイッセー?」

 

「見ての通り元気だぜ黒歌? 寧ろ良い気分だ。

にしても黒歌は何時見ても美人だなぁ」

 

「「……」」

 

「簡単に説明しますと、イッセー様は昨日までの模倣して作り上げたキャラを止めただけですわ」

 

「作ってたって……」

 

「そりゃ確かに若干無理して堅苦しそうな口調だったけど……」

 

 

 フェニックス家の客室から出てきた猫姉妹が、挨拶がてら軽くチャラい態度のイッセーに驚き、その理由をレイヴェルから聞かされて理解しはしたが、やはり戸惑いはあるらしい。

 まぁ……

 

 

「イッセー様、朝食が終わったらあの時の続きを部屋でするのはどうでしょうか……?」

 

「続き? あー……あの夢のお城みてーなホテルの事か? んー……まだ互いにガキだしそれはどうだろう?」

 

「貞操観念は微妙に変わりませんか」

 

「ちぇー……そこも変わって欲しかったにゃん」

 

「最近の若者が乱れすぎなんだよ。

つーかさぁ、取り繕っていた時もそうだったけど、お前等にあんな迫られてギリギリだっつーの」

 

「「「へー?」」」

 

 

 変にお堅い所は変わらないのだが。

 

 

 兵藤イッセー(原点返り)

 真・無神臓

 

 

始動。

 

 

 

 

 

 原点に返る。

 それはつまり身内以外は基本的に助けない。

 ましてや学園を退学になった者達には……。

 

 

「俺のせい……ねぇ? 良いんじゃねーの、そう思いたかったら思えよ? それでテメー等がやったことが無かったことにはならない訳だからなぁ?」

 

「あ、アナタ……だ、誰よ……!?」

 

「テメー等が愛しまくった(笑)兵藤誠八の弟という事になっている兵藤イッセーだが?」

 

 

 余計どうでもよくなっていた。

 

 

「俺を恨んで元士郎がどうにかなるのかよ? 恨む前にアイツに拮抗できる力を持つべきだったな。

もっとも逆立ちしようが今のアンタ等じゃあ元士郎にも祐斗にもギャスパーにも白音にも届きゃしねぇけどな」

 

「そ、それがアナタの正体だったのね!?」

 

「正体というか、取り繕うのをやめただけだ。

そうじゃないとこの先の領域にはとても進めないからな――と言ってもアンタ等には理解できやしねぇか。

まぁ確かにアンタ等もあのどこから沸いて出てきたのかもわからねぇ奴に好き勝手された被害者だってのは分かるが、それと匙と木場達がアンタ等から離れたのとはまた違うってのを理解したらどうよ?」

 

「だ、黙れ! あの男の様にアナタが匙を洗脳したのでしょう!? 返しなさい!!」

 

「都合が悪くなると洗脳扱いか。くく、俺もアンタ等も所詮同じ穴の狢だな。

そう思わなきゃやってらんねーもんなぁ? はははは!」

 

 

 寧ろ以前より攻撃的になり、相手の心を刺すように身も蓋もない言葉を返す。

 友達と家族以外は滅ぼうが知ったことではないという、いっそ狂気にも近い本来のイッセーは、戻ることで開け放った新たな進化を果たしている。

 

 

「所詮、取り繕おうが本質は変わらない。

気に入らねぇからぶちのめす、ムカついたから捻り潰す。感情がある生物なんて所詮そんなものなんだよ」

 

 

 より高く、より速く、より広大に。

 

 

「長い遠回りだったけど、これにて新しくスタートだ。

アンタ等を最後に消えたマイナスも無い今、俺はその次へと行く」

 

『これで終わりにしてやる――大魔獣陣!!!』

 

 

「頑張るんだな――クククッ! 今の元士郎は強いぜ? カテレアという原動力もあるしな……つくづく似てるぜアイツは」

 

『絶刀両断……!!』

 

「祐斗も、ね……」

 

 

 

 終わり




補足

曰く、劣悪な模倣をやめて本当の自分へと戻る。
 それは所詮上辺だけだったものが全て戻る事により覚醒したスキルが120%フルパワー状態で行使可能となる。


……………と、まぁ後々やってたIF集系設定を反映させただけなのだ。


その2
簡単にいえばドライグは戻ったイッセーの強烈すぎる自我という名の杭に串刺しにされ、完全に押し込められてます。
故に妨害どころか精神でのやり取りも不可能に……。

嗚呼……もっと違う出会い方さえあればドライグ自身も新たな領域へと進めたのに……数多の世界の様に。


その3
基本的に貞操観念はお堅いままながら、若干スケベ気質になっている。
とはいえ、どうでも良い相手には全く無反応なのですが。


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第一歩

お待ち―――してはないだろうけど、一応……。


 劣悪な模倣を辞めたその瞬間、塞き止められて来たその異常性は決壊したダムの水の如く勢いで兵藤一誠を引き上げていった。

 その速度はまさに光そのものであり、誰にも止められやしない。

 

 マイナスを手放し、妨害するドラゴンを喰らう事で原点へと還った一誠はその性格も真逆であり、当然初めは本来に戻った一誠に対して元士郎や祐斗達は若干の戸惑いがあった。

 

 けれど結局はどんな性格だろうと一誠の根は変わっていないのが理解できれば何て事は無く、数奇な偶然が重なって集結した生徒会役員達は、本来に戻った一誠を会長と認めた。

 もっとも、休み明けにこの性格で登校したら違和感を持たれることになるのかもしれないけど、それは皆でフォローして今の一誠を認識して貰えるように努力すれば良い。

 

 

「今回のレーティングゲームの勝利者は匙元士郎様となります」

 

 

 過去の柵等を消し飛ばして……。

 

 

「王の匙君、並びに女王であるカテレア、ご苦労だったね。

リアス・グレモリーとソーナ・シトリーとのレーティングゲームはキミ達の文句なしの勝利だ」

 

「ハッ」

 

「ふん、いくら落ちぶれたところで、幻実逃否にすがろうとする小娘程度に遅れは取りませんよ」

 

 

 その一つが、容姿から出身から全てが造られただけの偽装であったかの兵藤誠八によってある意味被害者とも言えなくもないかつての元士郎と祐斗の主たるリアスとソーナとの完全なる決別への一手である、二つの合同チームのレーティングゲーム勝利だ。

 

 

「さて、ただ今妹達はそこで項垂れている訳だけど、何か言うことはあるかな?」

 

 

 つい最近昇格を果たして新人上級悪魔である元士郎と、唯一一人の眷属にて敵対していた旧魔王の血族のカテレア・レヴィアタンの二人が、多くの悪魔達に見せた圧倒的な勝利。

 小細工を弄する事も無く、ただシンプルに黒き狼の鎧を纏う元士郎と旧魔王の血族者たる強大な魔力を操るカテレアとの連携による正面突破による二人の王狩りは、ただただ観戦者達を納得させてしまう程の圧倒さであり、寧ろ数で多く上回っていた筈のソーナとリアスに対する評価が兵藤誠八の件を加えて余計に下がってしまっていた。

 

 

「最初はサーゼクス様も推薦するセラフォルー様も血迷ったかと思ったが、なるほど、上級悪魔として相応しき強さを持っている様だ」

 

「加えてあのカテレア・レヴィアタンを御せる器……。元々はソーナ嬢の兵士だったらしいが、素晴らしい」

 

「惜しむべきは転生悪魔という所だが、将来が楽しみだ」

 

「うむ、しかしそれに比べてリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの体たらくよ……」

 

「サーゼクス様とセラフォルー様の妹というだけだった様だな」

 

「「……」」

 

 

 完全に真面目からぐうの音も出ない叩き潰され方をされて敗北したソーナとリアスの耳に入る落胆を通り越してあきれた声に二人はただただ俯く事しかできない。

 

 

「かの偽りの転生悪魔に溺れた挙げ句がこのザマとはな、シトリー家とグレモリー家も落ちたものだ……」

 

 

 ソーナとリアスだけではなく、その家の評判までも更に落としてしまった訳だが、ある意味その元凶となる兵藤一誠はといえば……。

 

 

「へーい、お疲れー! 良い感じでぶちのめせてたぜ二人とも!」

 

 

 リアスとソーナが周囲に叩かれて完全に戦意喪失状態だというのに、全くもってどうでも良い――視界にすら入れない様子でフェニックス家の面々達と堂々と現れ、二人を労っていた。

 

 

「おう、何かあっても困るから最初から飛ばして向こうのチーム全員をぶっ倒したぜ!」

 

「ま、私と元士郎に掛かればこんなものですよ」

 

 

 兵藤一誠とフェニックス家達の出現に、観戦者達が注目する中、魔王・サーゼクスは横に嫁さんのグレイフィアが居るにも拘わらず、何かを期待する様な眼差しで気安く話しかける。

 

 

「やぁイッセーくん! キミの仲間は強くなったね! これで約束通りにできそうだよ!」

 

「はぁ……」

 

 

 魔王が人間一人の手を取って、ものっそいニコニコと話し掛けているという時点で、周囲の悪魔達は既に兵藤一誠の存在を知っているとはいえ、どこか微妙な気持ちだった。

 

 

「何だか様子が違う気がするけどさ! 僕は気にしないよ!」

 

「あ、うん……」

 

「ところでさぁ、安心院さんは今日見に来てないのかな?」

 

「………………………」

 

 

 皆は知らないだろうが、サーゼクスの目的は一誠を介して安心院なじみと会いたいという、妻も子も居るのに別の女の尻を追い掛けたいが為の媚売りだった。

 イッセーは元士郎とカテレアと話がしたかったのに、割って入ってきてニコニコしまくるサーゼクスに若干引いてしまうし、そのサーゼクスの一歩後ろで安心院なじみの名前を聞いた瞬間、凄まじく嫉妬の念を飛ばしまくるグレイフィアに気付く。

 

 

「来ては無いし、確実に勝つと信じてたらしいから見てもない。

ところで、貴方の後ろの嫁さんが……」

 

「え? あぁ、コレ? 放っといて良いよ別に。ね、ね、それより安心院さんが姿を現す予定とか聞いてたら教えてほちぃ」

 

「ほ、ほちぃってアンタな……」

 

 

 まるで調教したいしされたい、変態芸人の必殺ワードみたいな事を宣うサーゼクスの安心院ストーカーのブレなささに改めて引いてしまう一誠に、シュラウドとエシルが助け船を出す。

 

 

「魔王様、お望みなら後日我々が彼女に予定を聞いて貴方様にお伝えしましょう。

それよりも、元士郎君とカテレアさんが勝利した事による約束事についてこの場で明言して頂けますかな?」

 

「偶然にも私、安心院さんのお写真を持ってますのよ?」

 

「なぬっ!? や、約束だからね!? そしてその写真は僕にくれるだな!? よっしゃあ!!! なら匙君! キミは何を望むんだい!!」

 

 

 チラッと懐から見せた安心院なじみがピースした写真を貰える気に完全になってしまってるサーゼクスが、鼻息荒く――後ろで嫁さんが地面の小石を蹴り壊しまくってるのにも拘わらず、圧されてる元士郎に問う。

 

 

「えっと、そこの元主さんとご友人さんには二度と我々にしつこく付きまとうのをやめさせて貰えたらと……」

 

「勿論だ! 何なら人間界の学校を退学させちゃう?」

 

「なっ!?」

 

「お、お兄様! な、何故!!?」

 

「あ? 黙れよ小娘共? 散々周りに迷惑掛けたあげく、イッセー君を兵藤誠八と同じだって? 自分で勝手に蒔いた種の尻拭いをそこまでして貰いながら図々しいとは思わないのか? 恥を知れ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 妹のリアスに甘いサーゼクスとは思えない、バッサリ過ぎる言い方にリアスどころか然り気無く居たジオティクスやヴェネラナも絶句していると、元士郎と然り気無く手を繋いでるのを見てぐぬぬしていたセラフォルーも、ソーナに向かって言った。

 

 

「サーゼクスちゃんの言い方は乱暴だけど、私も同じだよ。

流石にいくら大事な妹のソーナちゃんでもこれ以上は見逃せない」

 

「お、お姉様まで……」

 

「嘘の存在に唆された所をここまで戻れただけでもありがたいと思うべきだよソーナちゃん?」

 

「「…………」」

 

 

 兄と姉其々に言われ、今度こそ完全に折れてしまったソーナとリアス。

 ちなみに他の者達は元士郎とカテレアの猛攻によって全員冥界の病院送りにされてしまったので不在だ。

 

 

「その辺にしてやれば良いと思いますよお二人とも?」

 

 

 だがそんな二人を宥めたのが意外にも一誠だった。

 

 

「む、だがキミ達に散々迷惑を……」

 

「色々あったけど、まぁ深く考えたら彼女等も俺みたいなものだしね。

何かにすがって忘れないとやってられないという気持ちはわからないでもないし」

 

「「!」」

 

 

 ほんの少し遠い目をしながら語るその言葉にリアスとソーナがハッと顔を上げる。

 そういえば妙に口調が軽いというか堅苦しくない事に今更気付くが、二人にそれを考える余裕は無かった。

 

 

「だがハッキリさせる所はさせる。

まず俺はもうあの時そこの二人とお仲間に使った様な手品はもう使えないから何とかしろと言われてもどうすることも出来ない……ってのを兎に角解らせて貰えますかね?」

 

 

 だがこの状況から救い上げられる訳じゃない。

 その現実が再び二人の心を突き刺した。

 

 

「それは勿論だ、過負荷を失ってるのは小耳に挟んでる。

こんな事で失わせたのは本当に申し訳ない、妹に変わって謝罪しよう」

 

「別に構いませんよ、寧ろ枷のひとつが取れてスッキリしましたし。

それよりももっと大切なのは、最早自立できた祐斗と元士郎とギャスパーと白音を自分達の眷属扱いして絡もうとするのはやめてやってください」

 

「そうだね、聞いた二人とも?」

 

「「………」」

 

 

 姉と兄までもがそれを認めてしまっている以上、認める他無い。

 ましてや既に元士郎は上級悪魔に昇格しているし、フェニックス家という後ろ楯まであるのだから。

 

 

「それが守れるなら、どうせ後半年程度だし、通いたければ学校に通っても良いんじゃないかと俺は個人的に思う。

なぁ、元士郎や祐斗、白音とギャスパーもそれぐらいは良いだろう?」

 

「まぁ、何かして来るなら返り討ちにできるしね」

 

「僕も異論は特にないよ」

 

「ぼ、僕もそれでいいです」

 

「私もおなじくです」

 

 

 かつて自分で手放した元・眷達の全員が頷いた。

 その瞬間、周囲の悪魔達から感嘆の声が上がり、サーゼクスとセラフォルーも頷く。

 

 

「わかった。けど何かあったら直ぐに言ってくれ、即座に冥界に連れて帰るから」

 

「流石にこうまで元士郎に叩き潰されたんだし、下手な事はしないと思いますけど、その時はお願いしますわ」

 

 

 こうして良い感じで落とし所を付けたレーティングゲームは閉幕したが、こんなオチでも特にソーナがまだ納得できないといった様子を休みが終わるまでずっと示していたらしいが、最早何をしようとも元士郎に手が届くことは無かった。

 

 

「ねぇソーナ、やっぱり彼に洗脳されてるとは流石に思えないのだけど……」

 

「そ、そんなのまだわからないじゃない! さ、匙は私が好きだった筈なのに……! あ、あんな女なんかに……それに私は接触すら禁じられているのにお姉様まで匙を……! こんなの何かの間違いよ!!」

 

「でもあの子達に見限られたのは私達自身の問題――」

 

「そうかもしれない! けど、その隙を突いてあの男が奪ったのは間違いないじゃない!!」

 

「………ソーナ」

 

 

 少しは自分の迂闊さを認めているリアスとは反対に、元士郎の進化を見てやっと手元に居ないと気がすまないと思い始めてしまったソーナはただただこの状況を呪っていたのだとか。

 

 

「勝ったんだ俺達、これでカテレアさんも堂々と生きていけるんだ……!」

 

「まだまだ色々とあるけどね。でもアナタが守ってくれるのでしょう?」

 

「勿論っすよ! 絶対に、何かあろうとも貴女を守れる男になります!!」

 

「ふふ、こんな年下の男の子に言われる日が来るなんてね……でも、嬉しいわ元士郎、ありがとう」

 

 

 そんなソーナの呪詛とは正反対に、柵破壊の第一歩を踏み出せた元士郎は、月が照らすフェニックス家の中庭で二人寄り添っていた。

 少しソーナやリアス達に甘かったかもしれないけど、今回の勝利で完全な自信をつけた元士郎の表情はとても男らしい……と、カテレアは思う。

 

 

「後はカテレアさんを追ってくるだろう他の旧血族達を何とかしないと……」

 

「彼等は私が死んだと思ってるか、捨て駒扱いしてなんとも思っていないわ」

 

「でも0%では無いですから」

 

「それは解るわ。でも根を詰めるのは良くなくってよ元士郎?」

 

 

 思えば自分の血に誇りを持ち、人間なんて全く気にも止めなかった自分が、その元人間の転生悪魔に守られてるだなんて人生とはわからないものだとカテレアは元士郎を見て感じる。

 

 

「すいませんカテレアさん」

 

「ふふ、でも本音を言うとそこまで思ってくれて嬉しいわ」

 

 

 きっと同じ旧血族の連中が見たら嘲笑するだろう。

 けど今はハッキリと後悔していないと胸を張れて言える。

 彼なら、元士郎なら自分を捨て駒にしたりしないし、そして何より――

 

 

「か、カテレアさん、む、胸が……」

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

「い、いえ……寧ろその……」

 

「元士郎……?」

 

「お、俺……その、カテレアさんが……」

 

 

 不器用だけど真っ直ぐな所に惹かれたのだから。

 互いに緊張しながらも見詰め合い、その目に引き込まれていったカテレアは目をゆっくり閉じる。

 それを見た元士郎も緊張しながらゆっくりと目を閉じて待っているカテレアの唇と―――

 

 

 

 

 

 

「駄目ぇぇぇ!!!」

 

「「っ!?!?」」

 

 

  重ねることは無く、突然聞こえる大声のせいで互いに離れてしまう。

 

 

「な、なんだよ!?」

 

「ま、またセラフォルーが……」

 

「ぜぇ、ぜぇ、皆に聞いたら中庭で二人きりって聞いて急いで、そ、それより駄目だからねチューなんかしたら!」

 

「し、してないし!」

 

「な、何を言ってるのか全然わからないわね……!」

 

「嘘だもん! しようとしてたの見てたもん!」

 

「だとしてもアンタに何の関係があるんだよ……」

 

 

終わり




補足

一応彼女達も被害者ではある的な意味なので落とし所はこんなとこでもないか? というのは実は建前だったりする。


その2
自信を付けて進化する元ちゃんは、まだ中学生みたいなやり取りからは抜けられなさそうだった。


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ストーカーは犯罪です

平和な日々へと戻ったかと思いきや、目安箱にひとつの依頼書が……。


 甘い取り決めだったかもしれないが、今回の戦闘によって完全に自信をつける事が出来た元士郎は見違える程の精神的進化を果たせた。

 それは学園生活にも現れており、生徒会副会長としても敏腕を振るっていた。

 

 そして赤い龍の妨害を何とかする為に『元へと戻った』イッセーはといえば、やはり造り上げていたキャラとは違って色々と口調から何からが軽いせいか当初多くの生徒達に困惑されたのだが、結局はその仕事っぷりは変わらない為、自然と受け入れられていった。

 

 

「おう元浜に松田、今日も手伝ってくれるのか?」

 

「あ、うん……」

 

「何だかんだ習慣化しちゃってるからな」

 

「そいつは助かるぜ、一応全役員を揃えたとはいってもやる事は多いしな。手伝ってくれるのならありがたいってもんだ」

 

 

 何だかんだ完全に生徒会の役員が揃った今でも、自然と手伝いに行くようになってしまった元浜と松田なんかは、休み明けから妙にノリが軽くなってるイッセーにちょっとまだ慣れて無い感はあった。

 

 

「連休明けからやっぱり変わっただろお前?」

 

「んぁ? 何が?」

 

「口調とか、雰囲気の軽さっつーかよ」

 

「ちょっと色々とあってな」

 

 

 とはいえ、以前より微妙に絡みやすくなったので、やがて二人も慣れてきて、軽い猥談をするぐらいにはなったとか。

 そんなこんなで生徒会はますます隆盛を誇り、過去の柵についてもある程度解決して言うこと無し―――に思えたのだが……。

 

 

 

 

 

「リアス・グレモリーからの投書?」

 

「うん、目安箱(めだかボックス)をチェックしたら入ってて」

 

「見せてみ」

 

 

 大体が色々と若干軽くなってるイッセーが認知され始めたある日の生徒会。

 目安箱と書いてめだかボックスと呼ぶようになった箱をチェックした祐斗が持ってきたのは、例のリアス・グレモリー名の投書であり、例の決着以降、学園内では一切関わることの無かった彼女等からの初めてのコンタクトだった。

 

 

「読むのか? どうせ碌でもない事しか書いてないんじゃねーの?」

 

「そうかもしれないけど、投書した以上は無視できないからな――ええっと何々?」

 

 

 リアス・グレモリーからと聞いた瞬間、微妙に嫌そうな顔をする元士郎を宥めつつ、小さな便箋に書かれた文字に目を通していくイッセー

 実の所内心では本人も面倒な臭いがプンプンしそうだとは思っている。

 

 

「生徒会に来て直接話がしたいんだそうだ」

 

「は? まさかそれが依頼内容って訳じゃねーよな?」

 

「あり得ないとは言い切れないね、完全に接触を厳禁させたとはいえ、未だにイッセー君が手放したマイナスにすがりたいとは思っているだろうし」

 

 

 会って直接依頼内容を話したいと書かれた紙を机の上に置いたイッセーに元士郎が眉を寄せ、祐斗は厳禁される前のリアスとソーナ達のしつこさについてを思い出しながら渋い顔をしていると、同じく聞いていたレイヴェルと白音が口を開く。

 

 

「どうなさいますかイッセー様? 突き返そうと思えば可能ではございませんが」

 

「なんでしたから私が言ってきましょうか? 元は眷属でしたし」

 

 

 椅子の背凭れに背中を思いきり預けながら天井を見上げるイッセーに断りに直接行っても良いと提案する二人。

 ギャスパーはかつての主の名前を聞いた瞬間、ビクビクしていて、恐らく声には出さないが顔を合わせ辛いと思っているだろう。

 

 

「私と黒歌は生徒会じゃないから事の成り行きを見ているだけしかできんが、どちらにせよ油断はしないほうが良いかもしれない」

 

「同じく。もっとも、また同じ事をイッセーにせがんたら流石にぶちのめすかもしれないけど」

 

 

 生徒会役員では無いものの来ていたゼノヴィアと黒歌がどちらにしても油断はすべきでは無いと意見するのを耳に入れたイッセーはだらけた姿勢を戻して座り直すと、祐斗と白音に命じた。

 

 

「聞くだけ聞いてやろう。だから連れて来てくれ、一応生徒だしな彼女等も」

 

「了解」

 

「多分部室に居ると思いますので直ぐに連れてきます」

 

 

 生徒である以上は目安箱に投書する権利がある事を優先し、リアスを連れてくる様に元眷属である二人に頼む。

 ちなみにギャスパーには無理をさせるべきじゃないと思ってこの場に待機させた。

 

 

「連れてきました」

 

 

 そして待つ事数分で戻ってきた白音と祐斗がリアスと――何故かアーシア・アルジェントを連れてきた訳だが……。

 

 

「失礼するわ……」

 

「失礼します……」

 

「?」

 

 

 以前冥界で元士郎にぶちのめされた時以上に疲弊した様子で入ってきた二人にイッセーは待機していた他の仲間と顔を見合わせながら首を傾げる。

 

 

「そこに座ってください、あぁ、今お茶出しますから――レイヴェル」

 

「了解しましたわ」

 

 

 元士郎も微妙にやつれてすら見える二人が気になるのか、応接用ソファに座らせた二人とテーブルを挟んだ反対側に座るイッセーの後ろに立ち、無言で観察をする。

 

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとう…」

 

「頂きます……」

 

 

 事務的な態度のレイヴェルがお茶を出した後、元士郎と同じ様にイッセーの後ろに立ち、リアスと何故なのか分からないが同行しているアーシアがお茶を一口のんで一息入れた所で、恐らく初めてかもしれないまともかもしれないトークが始まった。

 

 

目安箱(めだかボックス)に投書されていたので読んだんスけど、直接会って話がしたいその内容ってのはなんでしょうか?」

 

「めだかボックス?」

 

「や、やっぱり違う……」

 

「俺達がこの目安箱を勝手にそう呼んでるだけなんであんまり気にしないで結構だし、違うと違和感持ってるのは、あの生徒会モードキャラが怠くなっただけなんで早いとこ内容を」

 

 

 誰彼構わず偉そうな口調だったイッセーの、かなり砕けきったものとはいえ、一応所々に敬語を混ぜた話し方に、リアスとアーシアは違和感を感じるも、さっさと話せと言われてしまい、考える暇を潰された二人は慌てて話始めた。

 

 

「えっと、まずは先日は色々と申し訳なかったというか……特に匙君には迷惑を……」

 

「俺の事なんかどうでも良いっすよ。吹っ切れたんですから」

 

「そ、そうみたいね」

 

「そういえばもう一人の元士郎の主だった方の悪魔はどうしたのかしら?」

 

「ソーナの事? ソーナはちょっとここに連れてこられない状態というか……。多分連れてきたら兵藤君と匙君にヒステリックを起こす可能性が……」

 

「ハッ、まだ喚いてるのかアレは?」

 

 

 黒歌がソーナが居ないことに対して質問し、それに対してリアスは連れてこれない理由を微妙に疲れぎみな顔で話し、それを聞いた匙はどうしようもないなと吐き捨てる。

 

 

「流石に私もあの男の子供を産まなくちゃいけないって現実をアナタに何とかして貰ったというのだけは本当に解ってるし、あれだけ徹底的に匙君に負ければ考えるわ。

……けどソーナはそれでもやっぱり受け入れられないみたいで」

 

「ふーん、意外な事に融通聞かない性格だったのはソーナ・シトリーだった訳だ」

 

「どうしても匙君を取り戻したいとかずっと聞かないのよ、そしてアナタが匙君を奪ったって…」

 

「救いようが無いバカな悪魔女だ」

 

 

 ソーナの現状を知り、バカだと扱き下ろす元士郎にリアスは流石に擁護できない。

 というのもこの疲弊の半分がソーナのせいであるのだから。

 

 

「それでグレモリー先輩がそんな疲れた顔をしてる……ってだけでも無いようですが?」

 

「ええ、寧ろこっちの方が私にとって手が無いというか……。この子――アーシアの事は知ってるわね?」

 

「ん? あぁ、あの偽兄にひっついてた者の一人だろ?」

 

「っ!」

 

 

 リアスが隣に座るアーシアを紹介すると、イッセーは偽兄……つまり本当の名前すら知らない転生者にひっついてた女の一人と揶揄した瞬間、アーシアが思わず立ち上がって顔を嫌悪に歪める。

 

 

「アーシア、座りなさい」

 

「す、すいません」

 

 

 リアスに言われ、何度も深呼吸しながら心を落ち着かせる事で座り直したが、どうやら洗脳から解放されてから一番ダメージが大きいのがこのリアスとアーシアとこの場に居ないソーナらしいと、素に戻ってから余計に友達とフェニックス家以外はどうでもよくなってるイッセーは他人事の様に思う。

 

 

「ごめんなさい、話を続けるわ。それでこのアーシアは、最近は私の家で一緒に生活しているのよ」

 

「あぁ、俺の元両親の記憶から偽兄と俺は消えてるからな、住めるわけもないか」

 

「………………。で、そのアーシアに最近冥界宛から何通も手紙やらプレゼントが送られてきて……」

 

 

 やっぱり完全にイッセーの性格が変わってると、若干チクリと刺さる言葉を受けながらリアスは気にしないふりをして直接会って話がしたかった内容を話した。

 

 

「プレゼント?」

 

「そう。でもアーシアは嫌がっていてね……。プレゼントもそうだけど同封されている手紙の内容が……」

 

 

 『これなんだけど』と言ってテーブルの上に小さい封筒を置いたリアスに、イッセーが他の者達が後ろから覗いてくるのを背に手紙を読む

 

 

 

この日がやっと来た。

そう、僕と君とが再会する日だ。

 

いつも君を思っていた。

君こそは僕が待っていた人だと。

 

君もそうだろう?

君も僕を待っていた。

だから君は僕を救いに来てくれたんだ。

 

ああ、愛しているよ、アーシア。

 

この出会いを、この永遠の愛の

始まりを記念して僕の大切な人形を

君にあげたいと思う。

ああ、君が喜んでいる姿が

目に見えるようだ。

 

 

『………………………わぉ』

 

 

 取り敢えず読んだ後、イッセーや他の者達は思わず声を揃えてしまった。

 それほどに、なんというか……アレな手紙だったのだから。

 しかしリアスは『まだあるわ』と別の手紙をテーブルの上に置くのでイッセー達は再び読んだ。

 

 

全ては意味を持たなくては

存在する理由がない。

君が僕のために存在しているように。

 

でも、君は何で僕が送った人形を持っていかないんだ?

照れているのだろうか……

ふふ、そこも可愛いよアーシア。

 

 

『…………』

 

「まだあるわ」

 

 

君はまだ自分の本当の気持ちに気付いていないのかもしれない。

でも無意識ではわかっているんだ。

 

だから君は僕に近づこうと努力している。

それは美徳だ、楽園に至る道だ。

 

でも惜しいかな。僕はそっちにはいない。

じらしているのかな?

待ちこがれているのに、君はひどい人だ。

だけど愛しいよ、アーシア。

 

 

「流石にキモいんだけど」

 

「これは……ちょっと」

 

「なんでちょっと詩人風なんだよ、もっと普通に書けや」

 

「そこに突っ込むところじゃないにゃん」

 

「まだあるわ」

 

「まだあるのか!?」

 

 

そうだ僕も書くことにしようか?

この胸に。この心を切り開いて見せられない、その代わりに。

『アイ・ラブ・アーシア』と。

 

いや、もう少し気の利いた

言葉にしよう。それっぽっちじゃ、

まだ僕の思いに足りない。

ああ、これはとても甘美な気持ちになれる想像だね。

 

 

「内容からして、アルジェントさんに思いを寄せている様ですが、好きならストレートに行けば良いでしょうに……」

 

「まったくですね、ヘタレですか書いた奴は」

 

「あーぁ、草食系男子ってのも困るわぁ」

 

「……………俺を見て言うのはやめてくれ」

 

「まだあるわ」

 

「まだ!?」

 

 

 

君の打ち振る、輝くブロンド髪

夜空が如く、香を撒き

 

胸に掻き鳴る、我が鼓動

嵐の如く、弄ぶ

 

君の無垢なる、眼差しが

宴が如く、微笑めば

 

想い荒ぶる、我が息吹

阿片の如く、狂わせる

 

僕が考えた詩だけどどうだい?

君との愛に溺れるのは

素晴らしく楽しいことだ……て意味なんだ。

 

でも君は、何で僕の愛情の証を受け取ってくれないんだろう?

遠慮することはないんだ。

 

僕と君とはいずれ一つになる存在なのだから。

君にあげるということは、僕にあげるのと同じことなんだ。

愛してるよアーシア

 

 

「カテレアさんと文通するけど、こんな内容の手紙書いたら即嫌われると思う」

 

「偶々見たけど、先輩とカテレアさんのって手紙の中でも初な中学生みたいな感じですもんね」

 

「ほっとけ!!」

 

「これが最新よ……」

 

「……逆に気になってきましたわ」

 

 

アーシア、神聖なる恋人よ。

僕は君をいつも見ている。

君がどこにいようとも、何をしていようとも、僕は君を見失うことはない。

 

君がつらく寂しい思いをしていることもわかっている。

なのに、たかが身分も顔も偽ったゴミにそれを邪魔されるなんて、こんな理不尽なことはないと僕も思うよ。

 

でも長い間二人は出会えなかったんだ。後少しの時間だから、我慢して欲しい。

僕だって我慢しているんだ、君をこの手に抱きしめたいからね。

 

だからそろそろ会いに行くよアーシア。

そうしたらキミを誰にも届かない場所で僕だけが永久に愛してあげるから。

 

 

 

 

『…………』

 

 

 どう読んだってストーカーが考えそうな内容の手紙を読み終えたイッセー達は、何故だかわからないけど妙な達成感を感じながら、顔を青くしながら震えるアーシアを見る。

 

 

「まぁ、反応を察するに怖いってのはわかります」

 

「すっかり怯えちゃってご飯も喉を通らないのよ」

 

「でしょうね、てか誰から送られてるのかはわかるんですか?」

 

「わかっているわ、ディオドラ・アスタロトという純血悪魔よ」

 

「あぁ、彼ですか……ストーカー気質とは恐れ入りましたわ」

 

 

 ディオドラ・アスタロトなる悪魔がやってると聞き、レイヴェルが呆れた顔をする。

 

 

「要するに、アルジェント先輩がディオドラ・アスタロトにストーカーされているので相談に来たという事ですわね?」

 

「そうだわ、私の失態のせいで私の名も力も地に落ちた今、私だけではアーシアは守れないと思って貴方達の力を貸して貰いたいと……」

 

「なるほど、割りと真面目な内容だった訳ですか」

 

「…………」

 

 

 今の自分の無力さではアーシアは守れないと自覚しているからこその判断にイッセーは意外と客観視してるんだなと感心する。

 

 

「ストーカーはなぁ……よくねーわな」

 

 

 それにストーカー……まぁ、相手が相手なので別に被害者な気にはなっていないが、似たような経験が多いイッセーとしても他人事では無い気がして、ついつい黒歌を見てしまう。

 

 

「? 何で私を見るの? ムラムラしちゃった? ふふん、おっぱいで挟んであげよっか?」

 

「……………………」

 

 

 例えば体操服が盗まれたりとか、布団をビッシャビシャにされたりとか、スキルをフル稼働させて下半身をこねこねされたりとかとかとか。

 別に黒歌だから許してる感はあるが、他人だったら本気で蹴り飛ばす案件に似たような事をアーシアが受けている……。

 

 

「なぁ、キミに聞くけど私物が無くなってるってのは無いよな?」

 

「え、あ、私物は特に―――――あ、そ、そう言えば三日前体育があった時に着ていた体操着が無くなって……」

 

「……………。あー、ビンゴだそれ。

多分、そのディオドラなんたら本人が直接パクったじゃないにせよ、その手の者が盗んだ可能性が……」

 

「っ!? ぬ、盗んだって、な、何に使うんですか……?」

 

「そりゃあ…………なあ?」

 

「俺に振るなよ」

 

「僕を見ても答えに困るよ……」

 

 

 しかも既に脱ぎたて服までパクられてると来れば最早云うまでもないストーカーだった。

 

 

「……。なぁ、三人に聞くけど、仮にもし俺が脱いだばっかの体操着が置かれてたらどうする?」

 

 

 だからイッセーはアーシアの体操着が盗まれたと聞いた瞬間に察し祐斗と元士郎が返答に困って目を逸らした代わりに、自分を例えにしてレイヴェル、白音、黒歌に振ってみると……。

 

 

「お洗濯をするまえにまず着ますわ」

 

「匂いをかぎまくります、そうしたらまずお腹が熱くなるので」

 

「そして一人でイッセーに犯されまくる想像しながら指が止まらなくなるのは間違いなし!!」

 

 

 予想通りの答えが即答で返ってきたので、何故か三人に申し訳ない気持ちになりながら、引いてるリアスとアーシアを見る。

 

 

「ま、まぁそんな感じな事を、そのディオドラなんとかってのはしてるんじゃないかな?」

 

「…………」

 

「じゃ、じゃあ私の体操着を着て、匂いを嗅いで、ひ、一人で……?

ひぃぃっ!! い、嫌! 嫌です!!」

 

 

 誠八の件もトラウマになっているのか、全力で拒絶反応を示すアーシア。

 後ろで話を振られて妄想してしまったのか、三人でヒソヒソと良からぬ事を話し合ってるのが聞こえた気がしたもののイッセーは聞かなかった事にした。

 

 

「取り敢えず依頼は受けましょう。

と、いっても相当骨が折れそうですがね」

 

「あ、ありがとう……!」

 

「お、お願いします! も、もう男の人なんてこりごりなんです!」

 

「そりゃあそうだろうよ……」

 

 

 ストーカー撃退を。

 

 

「カテレアさんにそんな事されてたらそれはそれでと思ってしまう俺は駄目なのだろうか……」

 

「いや、僕もほんのちょっと思ったから大丈夫だよ。

というか、そんな真似を毎日三人からされてるイッセー君のメンタルが強すぎるんだよ」

 

 

 

「ふざけるも大概にしなさい! イッセー様に泣いても孕むまで犯されるのは私だけですわ!!」

 

「大丈夫だよレイヴェル、アナタが居ない間に死ぬほど犯されてあげるから」

 

「それはもう獣みたいに……にゃ?」

 

「三人して声がデカい!!」

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

 

「? 風邪ですかガブリエル様?」

 

「いえ、そんな筈は……」

 

「おい、ルフェイ、俺のYシャツが消えたのだが知らないか?」

 

「へ? 昨日洗濯籠に入れましたけど……」

 

「……………………………………」

 

「む、そうか。一応聞くけどガブリエルは何か――」

 

「し、知るわけないでしょう!? 洗濯籠に入っていたYシャツを私が取って着てるとかする訳がありませんからっ!!」

 

「あ、あぁ? 突然なんだお前は?」

 

 

ストーカーはよくないのだ。




補足
ストーカーレベルというか方向性が余計ヤバイ事になりましたとさ。
故に現状の自分では守りきれないと生徒会に依頼した結果、何とか協力して貰えるようにはなった。

しかし、自分に黙って生徒会――つまり匙きゅんと接触したと聞いたソーナはその後ヒステリックを起こしたのだとか。

その2
ディオドラの部下的存在に体操着を盗ませ、一人部屋でハスハスとしてたらしい……やばいね。


その3
でも三人娘も既にイッセーの体操着やらパンツやらで、アレしてたらしいので、何か微妙にマシに思えなくもない。

ガブリーちゃんもコカビーの私服で似たような事し始めてるし、ストーカーばっかりだ!!


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傾向と対策

ポエマー・ディオドラについての話し合いだけですよ今回は。




 何とかアーシアのストーカー被害についての協力を獲られたリアスはひと安心する。

 色々とあるものの、生徒会に所属者達の力量は元眷属たる小猫や祐斗も含めて信用できるものだ。

 ギャスパーは自分達が姿を見せたら終始怯えていたので微妙な所だけど、それでも自分の眷属で引きこもっていた時よりも楽しそうに見えなくもなかった……。

 かなり複雑な気持ちにはなってしまったものの、それでも自分の傍に残ったアーシアだけは何としてでも守らないといけない。

 

 朱乃も堕天使側に身柄を引き渡されてしまった今、それが残されたリアスの王としての責務なのだから。

 

 

「私に内緒で生徒会と話をしたというのはどういう事よリアス!?」

 

 

 だが、そんな行動も時には裏切りに思われてしまうものらしく、黙っていた筈の生徒会との接触についてを何処で知ったのか、激怒したソーナに詰め寄られたリアスは内心疲れた様に大きなため息を吐く。

 

 

「ディオドラのアーシアに対するストーカー行為についての相談をしただけよ。

この学園の生徒である以上、一応相談できる権利はあるし、何より私だけではアーシアを守りきれないの」

 

「だからって! じゃ、じゃあ匙とも話をしたって事よね!?」

 

「話をしたのは会長の兵藤君よ、匙くんとは……」

 

「嘘言いなさい! 匙はあれでも副会長なのよ!? 絶対に一言ぐらい会話があったはずよ!!」

 

「………」

 

 

 誠八に騙されて以降、ソーナの精神状態はかなり不安定で、自分から去った元士郎に対して異様な妄想と執着心を持っていた。

 

 

「裏切ったわねリアス……!」

 

「裏切ってなんかないわ!! アーシアを守る為よ!!」

 

 

 それは先日のレーティングゲームの際にカテレアと元士郎のたった二人に叩きのめされてから更に強くなっており、魔王どころか冥界全体から元眷属との接触を禁じられてしまっているのもあって余計にピリピリしていた。

 そのせいなのか、少しでもソーナに先んじて何かしようものなら、すぐに癇癪を起こしてしまう。

 

 そうでなくても、常日頃から既に上級悪魔に昇格して独立までしている元士郎の執着やイッセーに対しての呪詛の言葉をブツブツと並べられたらリアスとて溜まったものでは無い訳で……。

 

 

「誰がソーナに言ったのよ!」

 

『………』

 

 

 自分と違って大半が残ったソーナ眷属達もまたソーナ寄りなので、恐らく今回の件をソーナに洩らしたのは眷属の誰かなのは明白だったが、誰も名乗ろうとはしない。

 

 

(こんな事では貴女が不幸になるのよソーナ……!)

 

 

 全てが嘘で、全て騙されていたというのはリアスも同じだから解る。

 けど、今のソーナはその全てを喪ってしまった結果、その精神を安定させる為に元士郎を代わりにしようとしているのが見え見えなのだ。

 そんな調子でもし冥界からの命を無視してしまったら今度こそソーナは取り返しがつかない所まで堕ちてしまう。

 リアスはそれが心配だったのだが、ブツブツと爪を噛みながらイッセーを元凶の存在だと呪う今のソーナには届きそうも無かった。

 

 

 けど……。

 

 

「ソーナ様、落ち着いてください。ほら、匙君が使っていたタオルです」

 

「さ、匙……さじ、サジ!」

 

「なっ!? な、何よそれは!? ど、どういうことよ!?」

 

「偶々落ちていた匙君の物を拾っただけです。接触は厳禁されている以上返す訳にもいきませんから?」

 

「ば、バカな事を……! もしもバレたら後が無いというのに……!」

 

「厳禁させたのは兵藤イッセーです。我々の落ち度はありませんよ、そうでしょうソーナ様?」

 

「はぁ…………ええ、そうね。あの男さえ居なかったら問題なんてなかったわ」

 

「……………」

 

 

 多分もう遅いのかもしれない。

 リアスはただただ胃が痛くなる思いなのだった。

 

 

 

 

 生徒会との接触がソーナにバレたけど、とにかくアーシアを守る為だからと、多分言っても理解しようとしないソーナ達に告げてから、アーシアを連れて再び生徒会室へと足を運んだリアスは既にもう疲れていた。

 

 

「お邪魔するわ……」

 

「どうも。って、また随分疲れた顔してますね」

 

「ちょっとね……。それよりアーシアの件についてを……」

 

 

 友と仲間の安全の為の行動との板挟みがストレスを蓄積させ、見るからにげっそりしているリアス見てイッセー達は取り敢えず先日と同じ場所に座らせ、同行していたアーシアのストーカーについての対策についてを話し合う。

 

 

「アスタロト家に直接迷惑だからと書状をまず送って見るのはどうです?」

 

「送ってはみたけど、完全に無視されているわ」

 

「正攻法は無駄と……」

 

 

 グレモリー家としてアスタロト家に直接クレームの書状を送りつける作戦は、既に決行した結果無視されているということで無し。

 ならば直接ディオドラ・アスタロトに迷惑だから辞めろ……という文句を言えば良いのではという話が持ち上がるが、それに待ったを掛けたのがイッセーだった。

 

 

「直接言っても聞くタマには思えないんだがな。こんな内容の手紙をノイローゼになるレベルで送りつけてくる時点で」

 

「確かにそれは言えるね」

 

「基本的にこんなんばっかだからなストーカーってのは」

 

 

 言った所でアクションを起こされたとポジティブな意味で飲み込んで却って喜ばせるだけだというイッセーの言葉に祐斗と元士郎が同意し、リアスも成る程と頷く。

 

 

「で、ではずっと我慢していかないと駄目なのでしょうか?」

 

「まぁ最悪アスタロト家の上空から局地的な流星群を振らせて更地にした後、その騒ぎのどさくさに紛れて連中を行方不明にしちまえば良いと思う」

 

「ゆ、行方不明って、まさか暗殺しろって事?」

 

「最後の手ですよ。

昔、そうやってレイヴェルのストーカーを消しちまった経験があるもんですからね」

 

「「………」」

 

 

 サラッとレイヴェルがストーカーをされていて、それを物理的な意味で消した事があると吐露するイッセーに、リアスとアーシアはやっぱりあの偉そうな口調だった頃よりも今の方が彼の素なのかもしれないと、少しだけ理解していく。

 

 

「ちなみに、洗濯物を外で干してるとかはしてますか?」

 

「それはしてるけど……」

 

「じゃあ今日登校する前に干してから来たってのは……」

 

「干しましたけど、それが……?」

 

「あー、まずいですよそれ。私物までパクるんですから、下着パクるくらいは平気でするでしょうね」

 

 

 しかしなんというか、素の方が割りと話しやすい気がすると感じるリアスとアーシアだったが、外に干してた下着を盗むくらいはされてるんじゃないだろうかというイッセーの見解に顔を真っ青にする。

 

 

「ま、まさか。

ディオドラとは何度か会ってるけど、流石にそんな真似は……」

 

「その認識がまず甘いっすねグレモリー先輩よ。

あんな電波でも受信したかのような手紙を何通も平気で送るばかりか、まだ確たる証拠は無いにせよアルジェントさんの体操着が消えてるんですから、それぐらいの警戒は寧ろ基本ですよ」

 

 

 と、イッセーは言ってレイヴェルがいれた紅茶をゆっくり飲む訳だが、言われた本人であるアーシアにしてみれば、それがもし本当ならと想像しただけで身の毛がよだつ思いだ。

 

 

「で、でも私のも一緒に洗って干してるからディオドラには解らないんじゃあ……」

 

「じゃあ変な事聞きますけど、グレモリー先輩は普段どんな下着なんすか? アルジェントさんと同じですか?」

 

「………いや、私とアーシアとは違うけど」

 

「でしょうね、ならば相手側にしてみれば簡単に見抜けるでしょうね。真性っぽいし」

 

「……………」

 

 

 何だかまるで経験があるような口振りのイッセーに、すっかり怯えてしまったアーシア。

 しかしこうやってちゃんと危機感をまず持たせないと、その内会いに来るといっている以上、下手したら本当に拉致られる可能性があるのだ。

 故にイッセーはわざと大袈裟に言っているのだ。

 

 

「ど、どうしたら良いのでしょうか?」

 

「まず一人きりには絶対にならないこと。

そして洗濯するなら不便かもしれないけど事が収まるまでコインランドリーで洗濯し、洗濯も乾燥も終わるまで絶対にその場から離れずグレモリー先輩と見張れ」

 

「肝に命じておくわ……」

 

「それと今日干した洗濯物は一応燃やして廃棄処分して、部屋の中に盗聴や盗撮の形跡が無いか徹底的に調べるべきですが、それよりもいっそのこと引っ越しされた方が良い」

 

 

 しかしどうにも普通に接してみるとかなり親身というか、散々こっちが色々としでかしたのにイッセーはおろか他の者達も皆真剣になってストーカー被害の対策についてを考えてくれている。

 

 

「下手をしたら拉致られる可能性もあるし、イッセー、常に俺達の誰かが交代で警備した方が良いんじゃねぇか?」

 

「そうだな、それで業を煮やして直接出てきたら、半殺しにでもして冥界に送り返すなりしちまえば問題ねぇだろ」

 

「「………」」

 

 

 元士郎まで生徒会としてとはいえ協力的な事を言っているし、ソーナがもし聞いたら発狂するのかもしれないと、この事だけは何がなんでもソーナに知られないようにしないとと思うリアス。

 

 

「そもそもそのディオドラ・アスタロトは何でキミにそこまで執着しているんだ? 過去に会った事があるとかか?」

 

「い、いえ、会った事は多分無いと……」

 

「では逆にディオドラ・アスタロトがアルジェント先輩さんの事をどこかで見た事があるとか?」

 

「ごく最近で言うと冥界の事になるけど、確かその時は地下に投獄されていた時期でしたから違う筈。となれば更にその前でアルジェントさんが悪魔に転生するより前になる可能性があるね」

 

 

 そんなリアスの気持ちとは裏腹に、アーシアが過去にディオドラ・アスタロトと会った事があるのかどうかという考察をしている。

 

 

「そもそもアルジェントさんは何で転生悪魔に? 確か格好は教会所属のシスターみたいな格好だった気がしたし、何かいつの間にか偽兄――失礼、話題にするのは控えましょうか? いつの間にか眷属になってたイメージしかなくて」

 

「それはその……アナタの兄でも何でもなかった男の人がいきなり現れて、当時私の神器を狙っていたはぐれ堕天使を倒し、教会を追放されて行き場が無かった私を部長さんが迎えてくださったのです」

 

「今にして思えば、その……違和感だらけだったわ。

だってあの男はいきなり堕天使を襲撃してアーシアを連れてきたから……」

 

「まるで何でも知ってるかの様に――ってか?」

 

「えぇ……」

 

「初対面だった私を見ていきなり名前で呼んできましたし……」

 

「なーるほど」

 

 

 ディオドラ・アスタロトについてのアーシアの過去の思い出しの筈が、その過程で出会ってしまった誠八の今にして思えば感じるおかしさについての話に逸れ始めたので、イッセーが軌道修正をはかる。

 

 

「まぁ、それは置いておいて、アルジェントさんはさっき教会を追放されたと言ったな? 何でそんな事になったんだ?」

 

「まだ見習いの時に悪魔と知らずに大ケガをされていた悪魔の方を治療した所を見られてしまいまして――あ!」

 

 

 ここでアーシアがハッとする。

 

 

「そ、そうです! あ、あまり確証はありませんが、その時治療した悪魔の方の顔が確か……!」

 

「そういう事か。で、治療して貰ったついでにハートも治療されちゃったってか?」

 

「上手くないよイッセー?」

 

「……………。俺も言った後即座にハズしたと思ってたからやめてよ黒歌」

 

 

 全然上手くない事を言って黒歌にクスクス笑われてちょっと恥ずかしくなりつつも、これで取り敢えずストーカーの理由らしき過去の情報を獲られた。

 

 

「確証は無いが、治療した所を見られたではなく、その悪魔っつーかディオドラ・アスタロトかもしれないのがリークしたのかもしれないな。

キミを手に入れる為に――――もっとも、ある意味で偽兄のお陰でそれが出来なくなっていたらしいけど」

 

「皮肉ですね」

 

「…………」

 

「まぁどちらにせよディオドラ・アスタロトから直接真偽を確かめた方が良いね」

 

 

 白音の言葉に複雑そうな顔をするアーシアとリアス。

 言われてみればそうなのかもしれないが、最早恥でしかないのだ。

 

 

「でもどうしたら良いのかしら……。今の私が何を訴えても冥界では恥知らず呼ばわりされてるから聞き入れられないだろうし……」

 

「だからアンタは生徒会に依頼したんだろう? この学園の生徒である以上、生徒会(オレタチ)も手伝うさ」

 

「ですが散々ご迷惑を……」

 

「投書しておいてそれは言いっこ無しだぜアルジェントさん。

俺の元主と比べて、アンタ等は大分前を向こうとしてるってのはわかったしな、そこは差別しないぜ」

 

「僕もアナタの騎士でしたからね」

 

「ま、仕方ないですわ」

 

「いちおー白音がお世話になってたし」

 

「あの男に会う前の私は確かにアナタの戦車でしから」

 

「ぼ、僕も! 僕もできることはします! 生徒会ですから!」

 

 

 しかし生徒である以上、生徒会は手を差しのべてくれた。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「ありがとうございます……!」

 

 

 リアスとアーシアはただただ早くもっと知れたらと後悔しつつも立ち上がる生徒会達に感謝するのだった。

 

 

「何だか久々な気がしてきたが――いや! 俺が俺に戻ってからは正真正銘初めてとなるな! 全員腕章を身に付けたな? ならば集まれ!」

 

『おう!!』

 

 

 そして生徒会は――

 

 

「今の気合いは本物か!」

 

『Yeah!』

 

「なんちゃってじゃねーだろうな!?」

 

『Yeah!』

 

「ホントにぃ~? 愛してくれてんの~?」

 

『yes!』

 

「言うまでもなくレイヴェルはイッセー様をお慕い申してますわ!」

 

「寧ろイッセーにストーカーされたいわ!」

 

「部屋に帰って電気をつける前に真っ暗の部屋の中で先輩に押さえつけられて滅茶滅茶にされたいです」

 

「………だ、だったら自分(テメー)の腕章にプライド持ってそれを依頼人に見せつけろ!!」

 

『Yeah!』

 

「みっともねぇ仕事はするな!!」

 

『That's just common sense!』

 

「この依頼は全力で解決しやがれ!」

 

『了解!!』

 

「We gotta Win!」

 

『Win!』

 

「Win!」

 

『Win!』

 

「Win!」

 

『Win!』

 

「Win!」

 

『Win!』

 

 

「Team SGA(Student Government Association)―――」

 

 

『Go!!』

 

 

 執行に動き出した。

 

 

「あ、熱いわね」

 

「はー……」

 

「ちょ、ちょっとアーシア? 何でそんなキラキラした目なのよ?」

 

「へ? あ、えっと……何だか良なぁって……」

 

 

 

「以前なら、生徒会を執行する!! だけどな」

 

「休みの間にノリで考えた円陣だもんなぁ」

 

「でもこのパターンと割りと好きだよ僕」

 

「あ、あんまり声が出ませんけどね僕は」

 

 

 

「はぁ、イケイケな素のイッセーって良いわぁ。

ホント見てるだけでお股が大変だにゃん」

 

「あのイケイケさがもう少し私に向けられたら良いのに」

 

「ふん、それはあり得ませんわね。あるとするならこの私ですし?」

 

 

 

「ねぇ、アナタもしかして嫌にストーカーに詳しいのって……」

 

「ご想像にお任せします」

 

 

 

 

 執行内容・ストーカーを撃退せよ。

 

 

 




補足

なんだかんだ似たような事をされまくってるので、嫌に詳しいイッセー

というか、ちゃんと普通に話せば普通に対応します。

その2
裏話・アーシアたんのパクられた私物一覧

縦笛
体操着

膝掛け
下着
靴下
等々……。

イッセーが返ってこないなと諦めた私物一覧

パンツ
シャツ
靴下
縦笛
腕章
制服上下
ジャージ上下
タオルネット
自分が入った後の風呂の残り湯
若干の貞操
若干のタンパク質

尚、黒歌さんのせいで白音たんとレイヴェルたんが過激になってしまってるのですが、それ含めて三人ならしゃーねぇかと笑って許しちゃうからエスカレートしている。


その3







こうしてストーカー撃退の為に、まずはアーシアの過去に実は出ていたディオドラ・アスタロトを呼び出すためにアーシアに手紙を書かせて釣り上げた生徒会。

既にヤバイ集団扱いされてるフェニックス家の尖兵みたいな状態になってるイッセー達に囲まれて困惑しながらも、怯えるアーシアを見てテンションを上げて口説こうとするディオドラは……。


「は? アーシアの私物を盗んだ? え、なんで僕がそんなセコい真似をしなくちゃいけないんだ? 盗むならきっちりとアーシアのハートだけを盗むよ」

『……………』


 なんと電波ポエムを送ったのは認めたけど、私物は盗んでいないと発覚。
 天然嘘発見機にかけてもそれが本当だとわかるのと同時に。


「僕のアーシアの脱ぎたての服と下着を盗んだ奴が居る!? ふざけるな! どこのカスだ!!」


 盗まれてると知り、何故かディオドラは一派を呼び出す。


「協力しようじゃないか、僕のアーシアに不届きな真似をするバカを是非この世から抹殺してやる!!」

「いや、アンタのアルジェントさんじゃねーし、本人がめっちゃ嫌そうな顔してるじゃんか」

「む!? そんな事はない! そもそも僕はアーシアに助けて貰えなかったら生きてはいないのだ! まさに僕にとっての聖女! キミに化けたとされるカス龍帝に汚されたとてそれは変わらない! 心配しなくても良いよアーシア、僕はどんなキミでも愛するよ。いや寧ろちょっと汚されている方が僕が興奮する――」

「ひっ!?」

「アーシアに近寄らないで! あ、アナタじゃない証拠は無いじゃない!」


 こうして何故か生徒会とディオドラ一派は全力でアーシアとついでにリアスの護衛をしつつストーカー退治を開始したのだった。


「っ……! こ、これがアーシアが寝る時に使うベッド……」

「おい、頼むから飛び込んで変な真似はするなよ?」

「わ、わかってるさ! 紳士に……紳士に盗聴機が無いか調べるよ……」


 盗聴機を受信する装置を使って部屋のあちこちを捜索する姿はかなりシュールなのだったとか。


……てのは本当に嘘です。


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釣り上げる為に

こうしてストーカーを撃退する事になった生徒会がまず行ったのは、そのストーカーを釣り上げる為の餌作りだった。

その為にはアーシアさんのご協力が必要不可欠なのだが……?


 皆で円陣を組んで気合いを入れ直してから始まったアーシアのストーカー撃退大作戦。

 確たる証拠は無いにせよ、電波丸出しな手紙を送ってくるディオドラ・アスタロトが今のところ濃厚なので、まずは冥界に居る彼をどう引きずり出すかについてを考える。

 

 

「よし、気は進まないだろうが、返事を出そう」

 

「え!?」

 

 

 そして考えた結果イッセー達が導き出した案は、ノイローゼになりそうな電波手紙に対して返事を送って、ディオドラを人間界まで誘きだそうというものだった。

 

 

「さも手紙を送っていただいて嬉しいです的なニュアンスを込めつつ、上手いこと此方に出向かせる様にすれば、多分直ぐに来ると思う」

 

「で、ですが……」

 

「これに返事を書くのは難易度が高いんじゃないかしら……」

 

 

 レイヴェルとイッセー…………最近になって白音と黒歌も住むようになった家に生徒会のメンバー+αが集結し、ディオドラに向けて返事の手紙を書こうという案を受けたアーシアはこれでもかと嫌そうな顔をし、リアスもあんな高難易度過ぎる手紙に返事はどうなのかと言う。

 

 

「いや、わざわざディオドラ・アスタロトのセンスに合わせて返すことは無い。

が、奴を釣り上げるのを確実にする為に、餌を付けてやる必要はある」

 

「餌……ですか?」

 

 

 白音と黒歌が住む様になったのでもう少し広い部屋へと最近引っ越したリビングにて、テーブルを囲う元士郎、祐斗、リアス、アーシアの四人はイッセーの言う餌の意味を知りたくて視線を向ける。

 

 

「写真を同封するんだ。それも単にアルジェントさんが写ってる奴じゃなくて……そうだな、ギリギリパンチラしてるかしてないか――やっぱりしてないアングルの写真が良い」

 

「え!?」

 

「確かにディオドラ・アスタロトって奴が即座に食いつきそうな餌になるな」

 

「してるようでしてないようでやっぱりしていないから、ギリギリセーフだね」

 

 

 性格トレース状態のイッセーでは言いそうに無い案を受け、アーシアとリアスはぎょっとし、元士郎と祐斗はうんうんと頷く。

 

 

「スパッツを履けば事故る事も無いし、あぁ、聖女だなんだと手紙に書いてるし、例のシスター服に着替えての撮影が効果的かもしれないな」

 

「で、でもそれは……」

 

「分かってる、嫌なのは重々承知だってのはな。

だが毒を以て毒を制すじゃないけど、一度こっちに引きずり出さない事には行動できないんだよ」

 

「勿論撮影の際は僕達はどこかに行ってるさ」

 

 

 当然嫌に決まっているアーシアは難色を示すし、リアスもそれに同意するが、ディオドラを引っ張り出してストーカー行為を止めさせないことには始まらないし、先の事を考えたら一時の恥ずかしさなんて、兵藤誠八ですらなかった転生者との過ちを考えたら遥かにマシだったとアーシアは思い……。

 

 

「わ、わかりました……スパッツは履かせて貰います」

 

 

 撮影に同意することになった。

 

 

「よし、嫌かもしれないが、これで確実にディオドラ・アスタロトを誘きだせる。

後は真正面から迷惑だからと訴え、それでもやめる気が無ければ―――――俺達でとこんとん『対話』してやるよ、わかって貰えるまでな」

 

「大丈夫なのアーシア?」

 

「大丈夫です。どうせもうこの身体は汚れてますし、これで手紙に悩まされなくなるのであるならいくらだって我慢できます……!」

 

 

 ある意味で誠八との過ちにより精神的なタフさを会得出来たアーシアの決意の籠った表情にリアスも覚悟を決める。

 

 

「わかったわ、私も今出来る限りの事をする」

 

 

 前に進もうという意思があるか無いか。

 それがこの二人とソーナ達の違いなのかもしれない。

 

 

「兵藤君、何か私に出来る事はある? アーシアが覚悟を決めた今、私だけ見てるだけなんてできないわ」

 

「だったら、アンタはどんな事があってもアルジェントさんの味方になってやれば良い。

それだけでもアルジェントさんには心強いだろうからな」

 

 

 だからイッセー達も協力をするのだ。

 

 

「ご飯が出来たよ~」

 

「そうと決まれば飯だ。あぁ、二人も食べてください」

 

「え、良いの……?」

 

「多めに作ってくれって頼みましたからね。 」

 

 

 と、いう訳で『アーシアのお写真同封で釣り上げお返事大作戦』が決まった所で台所に立っていた女性陣達が次々と出来上がった料理を運び、リアスとアーシアを交えての、数ヵ月前までならまずあり得ない食事会がスタートした。

 

 

「それでイッセー様、ディオドラ・アスタロトについてはどうされる運びに?」

 

「あぁ、アルジェントさんのパンチラ写真を同封した返事の手紙を出してこっちに誘きだす感じにした」

 

「パンチラって……」

 

「いや、その方が楽に釣れそうだからさ……なぁ?」

 

「同性な面で考えた結果ね」

 

「決して僕達だったら釣られるとか考えてないからね?」

 

「と、言いつつ三人して目を逸らさないでよ?」

 

 

 ジトーッとした目で女性陣から見られて目を逸らす男三人―――という構図を、スープを飲みながらアーシアと見ていたリアスは、改めてこの面子に驚く。

 特に驚くのは、割烹着姿でレイヴェル達とご飯を作っていたカテレアであり、今も目を逸らした元士郎の隣に座って思っていた以上に順応しているのだ。

 

 

「確かにっ!

確かに昔階段を先に歩いてたレイヴェルのスカートが風で捲れた時に見えたパンチラにめっちゃドキドキしちゃったかもしれないけど! 思春期入ってたってのもあるし、祐斗と元士郎も解るって言ってくれたんだ!」

 

「そうなのか祐斗?」

 

「いっ!? えっと、ま、まぁその……うん」

 

「元士郎もそうなの?」

 

「しないと言うと嘘にはなりますです……ハイ」

 

「元士郎先輩もそうなんだ……ふーん?」

 

「そんな目で見ないでくれギャスパー……」

 

 

 こんなに元士郎と距離が近く、しかもかなり仲良さげな所をソーナが見たら発狂でもしかねないかもしれない……既にもう手遅れだろとこの場に居ないソーナに内心呟きながらも、リアスは料理が美味しくてついつい食べてしまう。

 

 

「味はいかがかしらリアス・グレモリー?」

 

「っ!? え、ええ……美味しいわ」

 

「それは良かった。最近お料理の勉強をしましてね、上手く作れている様で安心しました」

 

「え、これ貴女が……?」

 

「その肉じゃがは私が……元士郎が好き料理ですので」

 

「へ、へぇ……」

 

 

 先代魔王の血族者が肉じゃが……しかも、元士郎の好物だから勉強したと、思っていた以上に平然と言ってる、カテレアにリアスはかなりシュールな気分になりながらも、悔しいことに本当に美味い肉じゃがを食べる。

 

 

「元士郎……え、えっと、あーん……とかします?」

 

「え!? え、えっと……良いんすか?」

 

「た、たまには良いかなと思って……」

 

「う、うっす……」

 

 

 しかもカテレアにしてみれば小僧ともいうべき男と見てられないやり取りまでしてるしで、全部が嘘であった経験をしてるリアスにしてみれば眩しく見えてしょうがない。

 

 

(これは勝てないわよソーナ……)

 

 

 そもそも聞いた話によれば、シトリー家に軟禁されていたカテレアを乗り込んで連れ出したのが元士郎という話が冥界全土に広まっていて、サーゼクスとグレイフィア以来のロマンス話になっているのだから、ソーナが最近ずっと『匙は私が好きだから言えば絶対に戻ってくる』という、どこから沸いてくるのかわからない自信は完全に無意味なのが解ってしまう。

 

 

「レイヴェルにストーカーした奴について? あぁ、魚の餌にしちまったから知らね」

 

「魚の餌って……」

 

「いやだって、フェニックス家に引き取られた時からずっと一緒だし、見ての通りレイヴェルは可愛いだろ? そらもうぶち殺してやる勢いだったわ」

 

「あの時のイッセー様の苛烈さは素敵でしたわ……ふふふ」

 

「じゃあ先輩、もしどっかの誰かがレイヴェルにセクハラ――例えばお尻なんか触ったらどうします?」

 

「肩から先切り落とした後、殺してくれって泣いても苦しませてから、ライオンの餌にしてやるかもしれないかな」

 

「へー? じゃあ私と白音だったら?」

 

「うーん、多分同じ目にあわせてやる……かな」

 

 

 しかも今のどこかしら軽い性格になってるイッセーは割りと気性が激しいし、間違えたら本気でヤバイのがヒシヒシと伝わる。

 

 

「楽しそうですよね……良いなぁ」

 

「そうね、皆気負いしないで自然に語り合えてるわ」

 

 

 板挟み状態のリアスはただただソーナを説得出来るか不安なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、コカビエル宅近く。

 祐斗と実質引き分けたフリードこと白夜の騎士はといえば……。

 

 

「ウチのボスにリベンジしてぇってんなら、まずは俺っちを倒してみな―――と言った訳だがよ」

 

 

 

 

 

 

 

「そんな程度で挑むのは、ちーっとばかしボスを嘗めすぎだぜテメー等は?」

 

 

 

「くっ……」

 

「つ、強い……」

 

「ま、まさかこれ程だなんて聞いてない……」

 

 

 

 夕飯を前に襲撃してきたくせ者を軽い運動感覚で蹴散らしていた。

 

 

「あの時使った力は何故使わない……! 聖剣でも無ければ神器の力でも無いあの力を……!!」

 

「おいおい坊っちゃんよォ? 質問すれば何でも返ってくるのが当たり前だと思ったら大間違いだぜ――と、言いたいが答えてやるよ、わざわざ使ってやる相手じゃねーからだよーん!」

 

「っ!」

 

 

 

 数人が倒れる中、ただ一人膝を付いて満身創痍ながらも意識を保つ銀髪の少年に対して、フリードはお坊ちゃんと揶揄しながら手に持っていた剣形態のジョワユーズを手品でボールを消すかの如く消す。

 

 

「神滅具を持ってれば無敵とでも思ったか? 俺相手にこのザマなら、ボスが相手じゃあ瞬きする間にバラバラにされてるぜ?」

 

「…………」

 

「でもま、満身創痍状態のボスに返り討ちされてるんだから無理に決まってるんだがな。

くく、仲良しなお仲間を引っ提げて登場したは良いけど、残念でしたねー?」

 

「……。俺を殺さないのか?」

 

「あ? おいおいおい、今のテメーにそんな価値があるとでも思ってるのかぁ? 死にたかったら勝手にどっかで死んでろや? 人様に押し付けるんじゃねーよ」

 

「………」

 

 

 殺す価値なんか無いと、悪魔を殺すほど嫌いなフリードに言われたハーフ悪魔の少年は唇を噛みながら俯く。

 

 

「フリード様~!!」

 

「っと、そろそろ晩飯のお時間らしいし俺っちは帰る。

あぁ、そこで転がってる連中の後片付けはちゃんとしとけよ? 一応気分じゃねーから殺しはしてねーしな」

 

「…………」

 

 

 過去最高の白龍皇になれる素質があると、白い龍自身に言われた。

 そしてその通り、強者との戦いを渇望して努力をし続けたつもりだった。

 なのに、なのに――

 

 

「コカビエル様が晩ご飯だから早く帰ってこいと言ってましたのでお迎えに」

 

「おーう、今行くぜルフェイたん」

 

「? そちらの方々は?」

 

「あぁ、何か戦いたいとか言ってたんで軽く相手をな」

 

「という事はこの方々達を相手にフリード様はお一人で?」

 

「まぁね~ 鎧も使わないで取り敢えずサクッと勝利しちゃった感じ?」

 

「凄い! 流石フリード様! でもどうして鎧を召喚されなかったのですか?」

 

「そりゃあ使ったら勝負にならないし、一応俺っちなりに鎧はここぞって時に召喚するって決めてるからね。

ホイホイ使ってたらかっこよくねーし?」

 

「はぁ……格好いいです……」

 

「だろだろ? もっと褒めても良いぜルフェイたーん」

 

 

 コカビエルの力にただ従っているだけのはぐれ神父に負けた。

 あの時見た純白の鎧すら纏わず、剣ひとつで完全に手加減までされて負けた。

 それが久しくなかった挫折を植え付けられてしまう。

 

 

「ちくしょう……」

 

 

 白き龍皇は、自分を負かしたはぐれ神父が見知らぬ少女とナチュラルにいちゃつきながら去っていくその背中をただ悔しげに睨み付ける事しか今は出来なかった。

 

 

「剣状態のジョワユーズって縛りプレイでやってみたけど、白龍皇とその他数人相手にも案外イケちまうもんだ。

これはやっぱり俺っちも強くなってるって事だよなぁ? そこん所どうよルフェイたん?」

 

「勿論ですよ! だって一緒にコカビエル様の過酷な修行をしたのですから! …………って、さっきの方々の中に白龍皇さんが居たのですか?」

 

「ん、まぁね。ルフェイたんが来る前に一度満身創痍状態のボスに返り討ちにされたんだけどな。

どうやら前にボスの勧誘に来た……あー、何だっけ? どうでも良すぎて記憶にねー寄せ集め集団の名前……」

 

「禍の団ですか?」

 

「そうそうそれ! ルフェイたんは記憶力が良くてお利口だねぇ? その組織に与してそこで知り合ったお仲間連中引っ提げてボスにリベンジしようとしてたもんだから俺っちが相手になってやった訳さ」

 

 

 使うくらいなら死んだ方がマシとさえ吐き捨てていたジョワユーズを受け入れ、そこから白夜の称号を持つ鎧を召喚するまでに進化させ、更にコカビエルとのこれまた死んだ方がマシレベルの鍛練を経て、立派に右腕を名乗れる領域まで登り詰めたフリードは既に鍛練を積んだ神滅具持ちすら片手間に相手取れる程になっていた。

 

 

「そんな方々をフリード様はお一人で勝利を……。やっぱり凄いですよ!」

 

「はっはっはっー!」

 

 

 自身の狂気を知った上で拾ってくれたコカビエルへの忠が、狂気の天才と呼ばれたフリードに努力を植え付け、その才を完全に開花させた。

 若干身内から褒められると調子に乗る事はあるのかもしれないけど、それでも今のフリードは間違いなく強者だった。

 

 

「早く私もフリード様をサポート出来る立派な法師にならないと……!」

 

「そんな事ばか真面目に言っちゃうのはルフェイたんぐらいだぜ? 俺は結構エグい真似してきたし、ルフェイたんが思ってるような奴じゃあないんだけどねぇ」

 

「分かってます、既にフリード様の過去はコカビエル様から聞いてますから。

確かにそうかもしれないけど、でも……それでも私にとって白夜の騎士は――フリード様は……」

 

「あーはいはいはい、わかったわかった! そんな顔すんなって! 割りと最近くすぐったいんすからー!」

 

 

 ルフェイと接していく内に、その狂気も良い意味で薄れている。

 今でも悪魔は嫌いだけど、それでもフリードはフリードなりの……好敵手たる祐斗や元士郎と同じ自分なりの守りし者としての自分を確立させつつある。

 

 

「なーんで、俺っちなんですかねー? ルフェイたんって結構見る目無いぜ?」

 

「もぅ、フリード様ったら! 見る目がなければそれで良いんですよ私は。

皆さんが血に染まってしまう事があるのなら、私だけ見てるだけなんてしませんし、その覚悟はもうとっくにしていますから……」

 

「それを真面目に言うから変な子なんだよなぁ。でもま、飽きるまで頼むぜそれならな」

 

「飽きません! 絶対に!」

 

 

 コカビエルへの忠……そしてかなり変わった趣味をしてるルフェイにしょうもない姿を見せない為に。

 フリード・セルゼンは強くなっていくのだ。

 

 

「そうかい。それじゃあボスにもまだ見せてない新技をルフェイたんに特別みせてやんぜ?」

 

 

 人生を狂わされた力を受け入れ。

 白夜の騎士となり。

 

 

 

『真月・打無!』

 

「鎧の背に白い翼が……」

 

『どうやらこの鎧は自分の想いの強さで変異するらしいからな。

対空戦闘について考えていたら出て来たぜ』

 

 

 ひた走る。




補足

パンチラ(実際スパッツ)写真で釣り上げ作戦。

何故こうなったのか? 実は本来の性格のイッセーはちょっと昔にレイヴェルたんのパンチラを見てドキドキしちゃってたからです。

…………パンチラフェチとかじゃなくて。


とはいえ、お三方ならチラどころかモロに見せてくれるでしょうがね。

その2

本来に戻ってるので、割りと以前よりもレイヴェルたんに何かする男が出てきたら、殺と書かれた鉢巻巻いて出動する。

 そして本来に戻ると、どこかの世界のリーアたんに対する感じばりにレイヴェルたんの行動を気付いたら目で追ってます。



その3
フリード君もまた何か知らないけどルフェイたんのお陰で浄化されてます。
そして進化もやばいです


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怪文書の真実

これも久しぶりになる。

ポエマー編の続き。


 ディオドラ・アスタロトはとてもうきうきしていた、

 

 

「くふっ! クックッフフフフフ!!!」

 

 

 そのうきうきは既に感情として思いきり顔に出ており、穏やかにブルーベリーを摘んでる夢を見ていたというのもあって余計に気分が高揚している。

 

 

「アーシアから手紙の返事が来たばかりか、会ってお話がしたいだなんて! こんな良い日が他にあるとはとても思えない!」

 

 

 しかも今日は待ちに待った、人間界に居るアーシアと面会をする日。

 ディオドラのテンションはこれでもかと上がりまくっていた。

 

 

「待っててくれアーシア! 今キミの僕がいくよ!」

 

 

 

 酷い男に騙された少女との面会の為、ディオドラ・アスタロトは人間界へと降り立った。

 

 

「ようこそ人間界へディオドラ・アスタロト」

 

「へ?」

 

 

 指定の場所に行って待ち構えていたのが、アーシアだけではなく異端達だった訳だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電波すぎる手紙を送り続けるディオドラ・アスタロトを誘き出す為、わざわざアーシアの生写真を同封させた手紙の返事を出させた一誠達は、呆れるほど呆気なく釣れたディオドラを学園の生徒会室に連行する事に成功した。

 

 

「何故貴様がここに連れてこられたのかは、横に居るアルジェントさんを見れば解るよな?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 指定の待ち合わせの場所に行ったら、異端のフェニックス家の面子達が待ち構え、質問をする間も無く連行されたディオドラは困惑していた。

 

 

「あの、僕は今日アーシアと会う約束をしていたのですが……」

 

「そのアルジェントさんに相談をされてな。アンタが電波全開の手紙を出しまくって困ってると」

 

「で、でんぱ?」

 

「…………………」

 

 

 

 電波ってどういう意味だと威圧感ばりばりの一誠達の後ろに隠れるアーシアを見るディオドラに、どうやら自分の出した手紙のあまりにも電波すぎるポエムについての自覚は無さそうだった。

 

 

「ま、待ってくれ、キミ達はアーシアに出した僕の手紙を読んだのかい?」

 

「読んだからこうしてアンタを連れてきたんだが?」

 

「そ、そんな……」

 

 

 ここまで言われてディオドラもバカでは無かったらしく、自分が完全に誘きだされただけに過ぎない事を悟り、がっくりと肩をおとした。

 

 

「アーシアから返事が来た時は死ぬほど嬉しかったのに、キミ達にハメられた訳か僕は……」

 

「そういう事になるな。

さてディオドラ・アスタロトだったか? 単刀直入にアルジェントさんの気持ちを代弁させて貰おう。

もうこれ以上あの訳のわからんポエムみたいな手紙を送ったり、私物を盗むのはやめろ………だ、そうだ」

 

「え!? て、手紙の内容が嫌だったのかいアーシア?」

 

「こ、怖いんです、だからもうやめてください!!」

 

「え、えぇ……? み、()が考えてくれた手紙だったのに、アーシアは気に入らなかったのか……」

 

「? 皆……?」

 

 

 ブルブルと小動物の様に怯えながらリアスの背中に隠れて拒絶するアーシアに更にがっくりと肩を落とすディオドラの不可解な言葉にリアスが首を傾げる。

 

 

「それに私物を盗むのもやめろって―――――――は?」

 

『ん?』

 

 

 ぴたりと止まるディオドラ。

 

 

「待ってくれ、私物ってどういう事だ?」

 

「アナタがアーシアの私物を部下が何かに命令して盗ませてる話よ。

それを止めて欲しいって言ってるの」

 

「は? ……は? ………………はぁっ!?」

 

 

 目の前のテーブルを叩き割る勢いで――いや、現に叩き割りながら立ち上がるディオドラにアーシアと意を決して話したリアスはビクッとする。

 

 

「何の話だそれは!? アーシアの私物を盗むだと!? 誰がだ!?」

 

「だ、だからアナタが――」

 

「待てグレモリー先輩。

どうやら彼は本当に知らないらしいぞ?」

 

「え!?」

 

「演技でなければ、ですがね」

 

 

 今知ったとばかりに憤慨するディオドラの妙な迫力に圧されつつあるリアスに一誠が彼を落ち着かせつつ1から説明する。

 

 

「なん……だと……」

 

 

 最初は落ち着いていたディオドラだが、アーシアがここ最近使用済みの私物が盗まれているという話を聞いたその瞬間、またしても激昂した。

 

 

「ふ、ふ、ふざけるなァ!!!! どこのカスがそんな真似を!!」

 

「………じゃあアナタはやってないという事でしょうか?」

 

「当たり前だレイヴェル・フェニックスさん! 僕は手紙は確かに送り続けたが、私物を盗むよな卑怯な真似は断じてしちゃいない! だいたい盗むならアーシアのハートだけだ!」

 

「ぅ……」

 

 

 本人が完全に怯えてるにも拘わらず、自分はやってないと力説するディオドラ。

 どうやら本当にやってないらしく、再び落ち着いた彼にお茶を飲ませながら説明をしていく。

 

 

「なるほど、そのカスを僕と思ってキミ達はアーシアの相談に乗った訳か。

なら言ってあげよう、僕は絶対にアーシアの私物を盗んでなんかいない。

いや、確かに聞いてみると魅力的な話だが、そんな卑怯な真似は断じてしちゃいない!」

 

「……………。どう思う?」

 

「嘘は言ってないと思うけど……」

 

 

 グビグビと行儀悪くお茶を飲み干しなら、胸まで張って宣言するディオドラに一誠達はリアスとアーシアを交えて彼が嘘を言ってるか否かを話し合う。

 

 

「仮に彼が本当にやってないとするなら、彼とは別にアルジェントさんの私物を盗むストーカーが存在している事になるって訳だけど」

 

「そ、そんな……」

 

 

 祐斗の言葉に、これで全部終わると思っていたアーシアの表情が絶望に染まる。

 それを見たのか、何を思ったのか突然ディオドラは言い出す。

 

 

「当然キミ達に協力しようじゃないか、僕のアーシアに不届きな真似をするバカを是非この世から抹殺してやる」

 

 

 誰が何時ディオドラのアーシアになったのかは知らないが、さも当たり前の様に自分のアーシアと宣うディオドラにアーシアは怯えてしまう。

 

 

「いや、アンタのアルジェントさんじゃねーし、本人がめっちゃ嫌そうな顔してるじゃんか」

 

「む!? そんな事はない! そもそも僕はアーシアに助けて貰えなかったら生きてはいないのだ! まさに僕にとっての聖女! キミに化けたとされるカス龍帝に汚されたとてそれは変わらない! 心配しなくても良いよアーシア、僕はどんなキミでも愛するよ。いや寧ろちょっと汚されている方が僕が興奮する!」

 

 

 性癖暴露まじりにアーシアに近寄ろうとするディオドラは、どうも私物を盗んではないにせよ同じレベルのもを感じてしまう。

 

 

「ひっ!?」

 

「アーシアに近寄らないで! あ、アナタじゃない証拠は無いじゃない!」

 

 

 勿論そうはさせんとリアスが庇い、更に祐斗と元士郎と一誠もディオドラの前に立って二人をガードする。

 

 

「アンタにだってまだ疑いがあるんだから、一応それ以上近づくのはよしてもらおうか?」

 

「くっ……! 本当にどこのカスなんだ? そいつのせいでこんなに近いアーシアに触れることすらできないなんて……!」

 

 

 悔しそうに顔を歪めるも、一応引き下がるディオドラ。

 そもそも彼はいったいどうしてアーシアにこれほど執着するのかが解らなすぎる。

 

 

「そもそもアナタはどうしてアーシアに?」

 

 

 主としても不明すぎる疑問な為、つい聞いてみるとディオドラは静かに語り始めた。

 

 

「僕はアスタロト家のディオドラだなんて言われてるけど、昔からドジばかりだし、決して強くなんて無い。

サイラオーグの様な努力をしても結局は中途半端でね。

ある日、このままでは流石にマズイと思って秘密の特訓をしてたんだ。そうしたら――フッ、自分の魔力の扱いすら儘ならずに暴走して自爆しちゃってね。

死にかけてた所を一人の女の子の神器の力で助けて貰った―――それがアーシアだったんだよ」

 

『…………』

 

 

 結構アホだろ僕? と、自嘲しながらアーシアに過去助けられた事を吐露するディオドラに、割りとそこら辺の事は真面目な理由なんだと思ってしまう一誠達。

 

 

「というかどうも僕は悪魔なのに聖女という者に縁があるみたいでね。

アーシア以前にもそうしたドジで死にかけた所を助けられてきた訳だよ」

 

「わ、私の他に?」

 

「そうさ。

でもキミ達もわかるだろ? 聖女に身を置くものが悪魔である僕を助けたらどうなるかを……」

 

「異端と見なされて捨てられる……」

 

「そうだ。敵対種族たる僕を助けたら皆―――――」

 

 

 割りとシリアスな空気を出すディオドラの話をこれまた割りと聞き入ってた一誠達。

 過去を語る時のディオドラが先程までと違ってあまりにも真面目で、あまりにも自虐的だったからだというのもあるが、それ以上に誠意を感じたからだ。

 

 そしてディオドラが語りを続けている時だった。

 

 

「ディオドラ様!」

 

 

 生徒会室に入ってくる年齢バラバラなシスター服を着た女性達が、勢いよく雪崩れ込んできたのだ。

 

「!? キミ達……なんで」

 

 

 誰だ? と首を傾げる一誠達だが、どうやらディオドラと縁のある者達らしい。

 全員がシスター服を身に纏っているという事は恐らくディオドラのトチリを助けた果てに追放された元シスター達なのかもしれない。

 

 

「い、家に居る筈だろ? 何故ここに……」

 

「我々のせいでディオドラ様が誤解されていると思い、勝手だと思いましたがこうして来ました!」

 

 

 ここに来るとは思ってなくて驚くディオドラに年長だと思う妙齢の女性シスターが一誠達に頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません、アーシア・アルジェントさんにああいう内容のお手紙を出したら良いのではと言ったのは我々なんです……」

 

「え……」

 

「ど、どういう事?」

 

「取り敢えず一回整理させて貰えますか?」

 

 

 何やら話が思わぬ方向に向かいそうな予感がした一誠が、全員分の椅子を用意して座らせる。

 

 

「ディオドラ・アスタロトがアルジェントさんに寄越した手紙の内容はアナタ方のアドバイスだというのはどういう事ですか?」

 

「はい。

ディオドラ様は教会を追放された私達を迎え入れてくれました。

これはアスタロト家にも知られていません、もし知られたら我々は処分されてしまうからと……」

 

「いやだって追放された理由は僕だし、せめて社会復帰できるようにするのは当然だろ……?」

 

「そ、そんなことをしてたのアナタは?」

 

 

 語られるディオドラの秘密に驚くリアスとアーシア。

 まさか単なるストーカー男が、追放されたシスター達を保護して社会復帰するまで面倒を、実家にすら悟らせずにやっていただなんて思いもしないのだから。

 

 

「それでその……アーシア・アルジェントさんを知ったディオドラ様は――見惚れてしまったらしくて、それが……その……い、嫌だというか……」

 

『…………』

 

「い、嫌だ? え、嫌だったのかキミ達は?」

 

「そ、そういう意味で嫌だという訳じゃなくて、その……」

 

 

 しかもあの怪文書の正体が、完全にディオドラが惚れたアーシアに対する嫉妬という。

 本人は何故? といった顔をして困惑してるようだが、どうやら彼は相当彼女達に慕われているらしい。

 しかも全員に。

 

 

「あ、あんな内容のお手紙をだし続けたら嫌われると思って……」

 

「要はアルジェントさんに彼が取られると思ったからって訳か……」

 

「は、はい……ごめんなさい!」

 

 

 半泣きで謝るシスター達に、アーシアは恐る恐る聞く。

 

 

「あ、あの……ディオドラさんは皆さんに何かしたりとかは――」

 

「しません! そもそもこの事がディオドラ様のご実家に知られたら勘当されてしまうかもしれないのに、ディオドラ様は私たちの為に住む家や食事を与えてくださるのです! こんな我々の為に……」

 

「僕のせいだからね。

やれる事はこんな事ぐらいだし……」

 

「勿論、我々がディオドラ様の眷属になれたらそれで良いと思いますが、ディオドラ様はそんな私達に『キミ達は人として生きるべきだ』と……」

 

「僕という悪魔のせいで彼女達が路頭に迷うはめになったのなら、これ以上悪魔に利用されるべきじゃないだろ?」

 

 

 ははは、と苦笑いするディオドラ。

 単なるストーカーだと思ってたのが、それは彼を慕う者達によるちょっとした嫉妬によるもので、しかも彼自体は割りとまともだった。

 アーシアからしてみれば凄まじく複雑なものだった。

 

 

「考えてみたら、キミはリアス・グレモリーさんの眷属だったもんね。

いや、一目惚れしたのは本当だけど……」

 

「………」

 

「だがアルジェントさんの私物が盗まれてる件はまだ不透明だぞ?」

 

「! その件に関しては僕も協力させてくれ! 絶対にそのカスは許さん!」

 

 

 こうしてディオドラの怪文書については解決した。

 そして残るはアーシアの私物を盗む誰かについてだが、異様に燃えるディオドラの協力があればすぐに終わる気がする――と、一誠達は思うのだった。

 

 

「こ、ここがアーシアのお部屋か……」

 

「おい、頼むからベッドにダイブとかするなよ?」

 

「きっとその瞬間、上がりかけてた好感度がマイナスにカンストするでしょうしね」

 

「わ、わかってるよ。紳士的にだ紳士的に……」

 

「しかしやべぇなこの部屋、盗聴器がそこかしこに仕掛けられてんじゃん」

 

「くっ! 卑劣な奴め! 見つけ次第ぶち殺してやる!」

 

 

 

 

 

 

「カテレアさんが飯が出来たってよ」

 

「か、カテレア・レヴィアタンがエプロンを着て料理をしてるのを見た時は何かの冗談だと思ってたが、本当に彼女が作ったのか?」

 

「エシルねーさんに大分叩き込まれたらしいからな」

 

「憤怒の女帝にか……。

確か匙君だったね? キミがカテレア・レヴィアタンの王だと発表された時は本当に驚いたよ」

 

 

 

 終わる




補足
なんてこった! 単なる変人だけど良い奴になっちまった!

保護されたシスター達の忠義度はマックスどころか、本当は結構自虐的な彼にたいして全員が母性愛を抱いてるとか……。




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