妖精達と歩む大空 (グリーン)
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異世界の妖精達
プロローグ


初投稿です!


「本当に行くのか?」

 

黒いスーツに身を包んだ5歳くらいの少年が青年に問いかける。

少年の名はリボーン…かつて世界によって呪われた最強の赤ん坊―アルコバレーノの1人であり、世界最強のヒットマンでもあり、そしてボンゴレ10代目の相談役として青年を教え、導き、支えてきた。

 

「もう決めたことだよリボーン…それに目標を達成した以上もう俺は必要ないだろう?」

 

青年は誰もを魅了する優しげな笑顔を浮かべながら少年の問いに答える。

青年の名は沢田綱吉…ボンゴレ10代目であり、その強さと理念を持って裏社会に平穏をもたらした英雄である。彼が5年前まで「ダメツナ」と呼ばれていたなど誰が信じるだろうか?

身長は180に届かないくらいだが母親に似て女性的な顔をしていて男性、女性を問わずに人気がある。尤も女性的な顔は彼のコンプレックスであり、そのことを指摘されると恐ろしいことになるが…多くは語るまい。

 

「それよりもみんなのことを頼むよ。特に武と了平さんは…」

 

「分かってる。裏社会からはあの二人の記録は完全に消去した。ユニやディーノそれにバミューダまでが協力してくれたからな。あの二人が一般人として表社会で生きていくのに何の心配もないぞ。一応これからも注意しとくしな。」

 

「ありがとう。これで二人は自分の夢に向かって歩き出せるんだね。野球にボクシング、俺のせいで一度は捨てさせてしまったけど二人にはやっぱり光の当たる場所が似合うよ。」

 

本当にうれしそうに答える綱吉にリボーンはため息をこぼしながらも口元に笑みを浮かべる。

 

―まったくコイツは…まさか本当にボンゴレをぶっ壊しちまうとはな。ボスになっても甘ちゃんなところは変わらないが本当に強くなったな。心も体も…俺ももうお役御免だな―

 

口元に浮かべた笑みは嬉しそうでいてどこか寂しげだった。

 

「それでこれからどこに行くんだ?」

 

「しばらくはいろいろなところを回ってみるよ。一人旅ってのも魅力的だしね。ザンザスもうまくやれそうだし隼人も協力してくれるみたいだし、自警団として生まれ変わったボンゴレの門出に俺は不要だよ。」

 

「旅はいいが初代のように神隠しにあうんじゃねーぞ。」

 

「神隠し?プリーモは行方不明になったの?」

 

「ああ…俺も詳しくは知らねーが引退して日本で子供が生まれてからしばらくたって消えてしまったらしい。手がかりは何もなくてな、その生涯はいまだに謎に包まれてるって話だ。ボンゴレギアはユニから返してもらった方がいいんじゃねーか?」

 

「いや…トリニセッテはもう必要ないよ。ナッツはボックスにしてもらったからね。大きすぎる力はまた争いを呼びそうだしユニのもとにあるのが一番いい。」

 

「そうか…お前がそう言うならこれ以上は言わねーが、京子やハルには連絡はいれないのか?」

 

それを聞いた綱吉は一瞬悲しそうな笑顔を浮かべるが、すぐにそれを消し、

 

「もう終わったんだよ。二人は俺にはまぶしすぎる。」

 

「あんなにいい女を泣かせやがって。その辺もネッチョリ指導するべきだったか。」

 

「ハハッ!それは勘弁してくれ!…そろそろ行くよ。元気でねリボーン。ここまで俺を強くしてくれてありがとう。先生…」

 

そしてリボーンに背を向け歩き出す。それを見送るリボーンは帽子のつばを下げ、

 

「お前は最高の生徒だったぞ…ツナ。」

 

と、小さな声でつぶやいた…

 

 

 

 

 

このときは二人とも思ってもみなかった。これが信頼で結ばれた教師と生徒の最後の別れとなるとは…

 

 

 

 

 

 

そしてツナはある山の頂上へ来ていた。それはリボーンたちアルコバレーノの生誕の地でもある山だ。そこで光に包まれたツナはこの世界から姿を消した…なぜここに来たのだろうか。超直感の導きか、何者かの意思かそれは分からない。ツナが戻ることは二度となかった。

 

 

 

 

そして舞台は移り変わる。アースランドX791年天狼島へと…

 

大空と妖精達の冒険譚(フェアリーテイル)が幕を開ける!

 

 




何文字くらいにすればいいんでしょうか?


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ここは異世界?

これからは投稿が不定期になると思いますがよろしくお願いいたします。


―森の中で

 

視界を埋め尽くす光が消えて目を開いたとき、木が一本もない山の頂上にいたはずの自分がなぜか深い森の中にいることにツナは絶句する。

 

「ここはどこだ…」

 

超炎リング転送システムの存在からテレポート技術などが存在することを知っている綱吉だが、テレポートに必要な炎を感じなかったことから、転送システムなどではないことは確信している。その時…

 

―!!向こうから誰か来る。数は4人。結構強いな…一応戦闘服に着替えておくか―

 

そう思ったツナは、右手のリング(大空属性のAランクの中でもかなりいいリング)に炎を灯しボックスを開匣する。するとツナの服が登山に適した服から仕立ての良さが一目でわかるスーツへと変わる。リボーンの相棒であるカメレオンのレオンが作った戦闘用のスーツだ。ポケットにはミトン状態のXグローブを入れている。

 

(ツナが現在持っているボックスは、ナッツのアニマルボックスの他には、洋服や寝具が入っているボックス、宝石類を入れているボックス、食料を入れてあるボックスだ。ナッツのボックス以外は戦闘の役に立たない保存用のボックスだが、そもそも旅に出るだけだったのでそんなに物騒なボックスは持ってきていない。保存用のボックスは鮮度を保つ機能があるので、食料や衣服の持ち歩きに便利なので重宝している。)

 

「あのーすみませ…」

 

4人の姿を確認したツナが声をかけようとすると、

 

「見つけたぁ!!火竜の鉄拳!!」

 

「っ!!死ぬ気の炎!?」

 

いきなり襲いかかてきたナツの拳を避けながらツナは目を見開くが、

 

―いや、ちがうな―

 

ツナはそう判断すると、突っ込んできたナツの背中を押して体勢を崩す。その隙に声をかけようとするが…

 

「ギヒッ!鉄竜剣!!」

 

次に襲ってきたガジルの腕が剣になったのを見て驚愕するが頭は冷静に対処を考えていた。剣になっていないほうの腕をつかみあとから来たエルフマンのほうへと投げる。二人はもつれ合って転がっていた。

 

「アイスメイク!氷槌(ハンマー)!!」

 

グレイの攻撃を後ろに跳んで躱すと、ナツが後ろから殴りかかってくるのが分かったので、振り返りもせずにグレイに向かってナツを背負い投げをする。グレイはナツとぶつかって倒れ全員の動きが止まったのを確認したツナは、敵対の意思はないことを伝えようと口を開きかけるが…

 

「くそっ!!女みてぇな顔してやがるくせに強ぇな!」

 

「-あん?今なんて言った?」

 

「ギヒッ!確かに女みてぇなツラだな。」

 

「何!男かコイツ!」

 

(おとこ)らしくない!!」

 

言いたい放題な4人に対し、ツナは無言でポケットに手を入れるとXグローブをはめて額に死ぬ気の炎を灯す。その瞬間4人は周りの空気の温度が一気に下がったような錯覚を覚えた。そう、たとえば怒ったエルザを前にした、いやそれ以上の威圧感を感じ固まった4人を前にして、輝くような笑顔で…ただし目は笑ってないが、

 

「いっぺん死んで来い。」

 

語尾にハートマークがつきそうな声音で彼の家庭教師の代名詞ともいえるセリフを言いながら、まるで瞬間移動のようにナツの前に移動すると彼を森の外-人が集まってるあたりへ殴り飛ばした。それを見て呆然としながら固まってるガジルの前へ一瞬で移動すると、

 

「自分がワイルドだからって調子に乗るな。」

 

と、少々僻みのはいったセリフとともにナツと同じように殴り飛ばす。

 

「脱ぐのと男らしさは違うぞ変態。」

 

厳しい言葉とともにグレイも飛んで行った。そして残ったエルフマンの前に来ると質問する。

 

「ねえ、俺って男らしくないカナ?カナ?」

 

「いやっ!それはだな…お前は立派な(おとこ)だと思う!!」

 

威圧感に負けエルフマンは情けなくも前言撤回したが…

 

「嘘だっ!!!」

 

「ひぃぃっ!」

 

「そんな嘘つきにはお仕置きだ!星に還れ!」

 

エルフマンも飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

「…というわけです。」

 

「なるほどのう…」

 

情報交換をして、森の中で起きたことをフェアリーテイルのメンバーに説明したツナはメンバーを見渡す。国籍が想像もつかない上に、所属している国がフィオーレ王国という聞いたこともない国の名前で、さらに、魔法が存在し、猫が空を飛んで喋ることなどから並行世界〈パラレルワールド〉ではなく異世界に来たようだと推測したが、口にしていいのか迷う。下手をすれば変人扱いされるかもと思った。

 

「あの…」

 

儚げな小さな少女がツナに声をかける。幽霊のような者だと超直感で感じていたが、顔には出さない。女性には優しく、家庭教師の教育の成果だ。笑顔で応じる。

 

「あなたはジョットという名前と、ボンゴレという言葉を知っていますか?」

 

「!!はい!両方とも知っています。ジョットは俺の先祖で、ボンゴレはジョットが作った組織のことです。」

 

「まあ!やはりそうでしたか!よく似ていますねジョットに…ですがあなたがジョットの子孫ということは、あなたにとってここは異世界ということになります。」

 

「何と!初代それはいったいどういうことですか!?」

 

「ジョットはフェアリーテイル創設メンバーの一人で私の片腕であった男です。そして三代目、あなたの父であるユーリの親友だったのですよ。そして彼は異世界からの来訪者だったのです。」

 

それを聞いて、周りのメンバーのざわめきが大きくなった。

 

「ねえシャルル、異世界ってエドラスみたいなものかな?」

 

「似たようなものね。実際はもっと離れた世界ってことだと思うけど…」

 

「でも冒険小説みたいで素敵だね、ルーちゃん。」

 

「そうね。主人公を見てる気分。じゃあヒロインは私達?」

 

楽しそうに話す女性達を前に聞きづらいが聞いておかなければならない。

 

「それでプリーモ…ジョットは元の世界に帰ることはできたんですか?いや神隠しにあった後の記録が全くないので大体の予想はつきますが…」

 

「…ジョットも最初は色々と探していましたが、手掛かりのカケラすら掴むことができませんでした。やがてこのアースランドに骨をうずめる覚悟を決め、この地で生涯を終えました。」

 

「…まいったな。」

 

―ということはこの地で死んだ後に時空を超えてボンゴレリングに宿ったのかな?-

 

などと現実逃避気味に考えていると、

 

「「あのっ!」」

 

「ん?」

 

「「ご…ごめんなさい!」」

 

「は?」

 

「その…冒険小説みたいなんて言っちゃって…」

 

「帰れないなんて知らなくて…本当にごめんなさい…」

 

ツナは苦笑してレビィとルーシィに気にしてないと伝える。

 

「二人は失言に気づいてすぐに謝ってくれた。それだけで二人が素直で優しいってことはすぐ分かるよ。」

 

二人は顔を真っ赤にして俯く。

 

「どぇきてぇる~?」

 

「「できるか!!」」

 

ハッピーの巻き舌風のからかいに即答する二人。ギルダーツが口を開く。

 

「んで、これからどうすんだ?右も左もわからん状態だろ。」

 

「そうですね…どうしましょう?」

 

「ならばギルドに来なさい。ギルドで仕事を受けながら情報を集めればいつか帰るための情報が見つかるかもしれん…可能性は低いと言わざるをえんがな…」

 

「分かってます。お願いしてもよろしいですか?」

 

「うむ、歓迎しよう。あの4人を瞬殺するくらいだからのう。うちの仕事もやっていけるじゃろう。(それにこんなに礼儀正しい奴はおらんからのう…問題児ばかりじゃ疲れるし…)」

 

「やったー!よろしくね。あたしルーシィでいいよ。」

 

「レビィよ。さっきはほんとにごめんね。」

 

「私はミラジェーン。ミラでいいわよ。」

 

「妹のリサーナです。よろしく!」

 

「エルザ・スカーレットだ。エルザでいい。今度一勝負しよう。」

 

「ウェンディと言います。どうぞよろしくお願いします。」

 

女性達を中心に全員(気絶してる4人以外)と自己紹介を終えた。4人を起こして帰ろうとするとメイビスが、

 

「待ってください。ジョットが残したものをお渡ししたいので私に着いて来ていただけませんか?」

 

というので、着いていくことになった。




戦闘シーンが難しい…


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妖精達との出会い

舞台はアースランドへ


―X791年 天狼島

 

 

「よいギルドになりましたね、三代目。」

 

フェアリーテイル初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンの言葉に、つい先程まで悪魔の心臓(グリモアハート)、アクノロギアとの激戦を繰り広げていたフェアリーテイルS級魔導士昇格試験に参加した者たちは笑みをうかべた。メイビスは、アクノロギアの咆哮からみんなを救うために妖精三大魔法の一つ、妖精の球(フェアリースフィア)を発動させた。

 

しかし、みんなの凍結封印を解除するのに7年もの月日が経っていた。彼らの生存を信じ、捜索に来た居残り組は当然7年の月日を過ごしており、天狼組はその変化に衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

捜索組が船の準備をしてる間に天狼組は傷の手当てや、帰る支度などをしていた。

 

「よーし!じゃあギルドに帰ろうぜ!」

 

桜色の髪にマフラーを巻いた少年―ナツ・ドラグニルが元気に叫ぶ。

 

「オイラ魚たくさん食べたいよ。」

 

「しかし、あたしたちにとってはほんの少しなのに7年も経ってるなんて昔読んだ童話みたいな話ね。」

 

「けど捜索に来てくれたみんなの姿を見れば納得するしかねぇな。特にドロイ…」

 

「ああ…随分とたるんでいたとみえる。帰ったら風紀を引き締めねばな…」

 

「まぁまぁエルザさん。みんな元気そうでいいじゃありませんか。」

 

エクシードのハッピー、ルーシィ・ハートフィリア、グレイ・フルバスター、エルザ・スカーレット、ウェンディ・マーベルが雑談する中、

 

「よろしい。ではフェアリーテイルへ帰るぞ…なんじゃあ!!!」

 

三代目ギルドマスター、マカロフ・ドレアーが帰還のために声をかけたとき、強い光が天狼島の森の中に現れた。みんなが怪訝な顔をしていると、

 

「あの光のもとに何者かがいます。」

 

メイビスがそう告げる。

 

「まさか悪魔の心臓(グリモアハート)!?」

 

「マジかよ!!」

 

「ギヒッ!ならぶっ倒すしかねーな!」

 

「それが(おとこ)ォォッ!!」

 

ナツ、グレイ、ガジル・レッドフォックス、エルフマン・ストラウスの4人は競うように光のもとへ走り出す。

 

「あっ!ナツ!」

 

「グレイ様!!」

 

「ガジル!!」

 

「エルフマン!待ちなさい!」

 

ルーシィ、ジュビア・ロクサー、レビィ・マクガーデン、そしてエルフマンの姉のミラジェーン・ストラウスが止めるも、4人はすでに森の中へ走って行った。

 

「まったく…敵かどうかも分かってねえってのに…」

 

ギルド最強の魔導士ギルダーツ・クライヴがぼやく。

 

「けどよ、この天狼島に無断で侵入したってことはフェアリーテイルに敵対する奴じゃあねえのか?…俺には関係ねえけど。」

 

マカロフの孫、ラクサス・ドレアーが顔を反らしながらつぶやく。この男、現在絶賛破門中である。

 

「ツンデレだね…」

 

「カワイイとこあるじゃん。」

 

「うっせ!」

 

「カナはやらんぞ!」

 

「オッサン!なんでそうなんだよ!」

 

リサーナ・ストラウスとカナ・アルベローナが茶々を入れるとラクサスは顔を赤くする。ちなみにギルダーツは先程カナが娘と知らされて、親バカとなった。

 

マカロフはその光景を見ながら密かに笑みを浮かべた。ラクサスが昔のようにみんなと交流し、それがみんなに受け入れられている状況が嬉しいのだ。

 

―破門を解く日もそう遠くないかもしれん―

 

「初代、いかがいたしますか?」

 

浮かんだ心情を隠し、初代に問いかける。

 

「この気配…ジョットによく似ていますね。」

 

「ジョット?それは確か…」

 

「どわぁぁぁぁっ!!!」

 

マカロフが答えようとしたとき、情けない叫びとともにナツが森の中から飛んできて地面に激突した。…だけでなく、

 

「ギヒィィィィィッ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

ナツに重なるようにガジル、グレイも飛んできた。…なぜかグレイは服が脱げている。それを見てジュビアが顔を真っ赤にしているのもいつも通りだ。

 

(おとこ)ぉぉぉぉっ!!」

 

最後にエルフマンが訳のわからないセリフとともに飛んできてその重量に下の3人は、気絶した。

 

「おい!ガジル!」

 

「ちょっと!この4人がまとめてやられるなんて…」

 

「いったいどんな人が…」

 

エクシードのパンサーリリーが相棒のガジルに声をかけ、リリーと同じエクシードのシャルルとその相棒であるウェンディが怖がるなか、森から足音が聞こえる。

 

「誰だっ!!」

 

その足音に対し、ラクサス親衛隊『雷神衆』の一人であるフリード・ジャスティーンが叫び、残りの雷神衆であるビッグスローとエバーグリーンが脇を固める。エルザも剣を換装し、みんな緊張しながらその人物が出てくるのを待つ。

森の陰から姿を現したその人物は高級感あるスーツを着こなし、額と両手に色鮮やかなオレンジの炎を灯し、悠然と歩いてくる。その姿は正に王者の行進と呼んでも差し支えなく、誰もが見とれていた。

 

「初めまして。沢田綱吉といいます。」

 

笑顔で挨拶をするツナの額の炎を瞬きせずに凝視していたメイビスは誰にも聞こえない声でつぶやく。

 

「死ぬ気の炎…」

 

こうして大空と妖精たちは邂逅を果たした。

 




森の中で何があったかは次回!てか天狼組全員出たよね?


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新たな力

天狼島編終了!やっとギルドへ…


―天狼島

 

気絶から目覚めたナツ達に襲い掛かられるという一幕もあったが、エルザが4人を沈めたことにより事無きを得た。ツナはエルザのその姿を見て某風紀委員長を思い出していた。現在はメイビスについてみんなで歩いている。

 

「しっかし、ツナ強いよな~。ギルドに着いたらまた勝負してくれよ!」

 

「それはかまわないけど…怪我が治ってからにしたほうがいいんじゃない?」

 

「こんなのすぐ治るさ!俺の炎とツナの炎どっちが強いか勝負しようぜ…ってか腹減ったからツナの炎食わせてくれよ!」

 

「えっ?炎を…食わせる?」

 

ツナの頭は混乱していた。ハッピーとルーシィが教えてくれる。

 

「ナツは火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だからね。火を食べて自分のエネルギーにしちゃうんだ。」

 

「ここに滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は4人いてね、ウェンディが空気、ガジルが鉄、ラクサスが雷を食べることができるの。ラクサス以外はドラゴンに教わったらしいけど…」

 

「いろいろ突っ込みどころ満載だけど…とりあえずハイ。」

 

ツナは指輪に炎を灯しナツへと向ける。

 

「これこれ!最初見たときから食ってみたかったんだ。では早速…うめぇ!めちゃくちゃうめぇぞこの炎!!今まで食った中で一番うまい!すげぇぞツナ!」

 

「ええと…どういたしまして?」

 

「はは…」

 

ナツのテンションにツナもルーシィも苦笑いだ。

 

「いいな~ナツ…オイラも魚食べたいよ…」

 

それを聞いたツナは、指輪に炎を灯し、保存用のボックスを開くために炎を注入する。周りの面々は怪訝な表情でツナを見つめる。すると、ボックスの中から串に刺さった焼きたてと思われる魚が出てきた。それをハッピーに渡す。

 

「魚!!焼きたて!?なんで??」

 

これにはみんなもびっくりで口々に説明を求める。保存ボックスは死ぬ気の炎の力で入れたときの状態のまま保存することが可能だ。このように焼きたての魚なども簡単に保存できる。みんな驚きながら色々と質問をして道中を過ごした。…余談だが他の食べ物は何を入れているか答えるとき、イタリア産のスイーツとワインが入っていることを知ったエルザとカナがものすごく反応していた。結局帰りの船までお預けとなったが、二人は絶対逃がさない!とばかりに肉食獣のような目をツナに向けるのだった…

 

 

 

 

 

「ここです…あなたなら開くことができるはずです。」

 

初代に連れられてやって来たのは、ツナは知る由もないがS級魔導士試験においてBルートと呼ばれたところだった。お墓が一つあり、その奥の台座にはボンゴレの紋章が描かれていた。その台座には炎を注入するための穴があり何かを保護しているのはツナにとっては明白だった。早速炎を注入すると、台座が崩れ中から宝箱が出てきた。箱の中にはきれいな装飾が施されたリングとフェアリーテイルの紋章が入ったボックスが一つずつ入っていた。

 

「それはジョットが愛用していた妖精の指輪(フェアリーリング)です。箱のほうはよく分かりませんがよくジョットが研究していたのを覚えています。あなたが使っているのと同じようなものと推測しますが…」

 

―すごいな…このフェアリーリングは明らかにAランクオーバー。ボンゴレギアよりもすごいリングだ。このリングならナッツも形態変化(カンビオ・フォルマ)できそうだな。こっちのボックスは…ジッリョネロファミリーのガンマが持っていたようなアップデートボックスだな。ナッツをパワーアップさせることが出来るのかな?後で試してみよう。しかしプリーモの時代ってゆうかこの世界にもボックスってあったのかな?できた理由が偶然って雲雀さんが言ってたからありえない話じゃないかも…―

 

「ありがとうございます。メイビスさん。」

 

「いいえ、ジョットが残したものをあなたに渡すのは当たり前です。もう一つジョットが残した言葉があります。《全てを支配しつつ全てを包み込む大空の調和の炎、その行き着く先は(アルコバレーノ)の炎》意味は分かりますね?」

 

「意味は分かりますが、可能かどうかは分かりません。」

 

ツナは大空の7属性全てを使えるわけではないのでそう答えた。

 

「きっと出来ます。そのフェアリーリングがその力になってくれるのを願います。…さあ長々と申し訳ありません。捜索組の皆も待ちくたびれているでしょう。あなた達の家…ギルドにお帰りなさい。」

 

「はい…初代、ガキどもの命を救ってくださったこと誠に感謝いたします。ではギルドに戻るぞい。」

 

「よっしゃあ!!あ、ツナ後でまた炎くれよ。」

 

「あい!魚も!」

 

「ちょっと!さっきもらったばっかりじゃない!二人とも我慢しなさい!」

 

「そうだぞ!あまりツナに負担をかけるな…ところでスイーツとはケーキなのか?」

 

「エルザさん…でも気になりますね。どんなものなんでしょうか?」

 

「ウェンディ…あんたまで…」

 

「ははっセミフレッドっていってアイスとケーキを合わせたようなものだよ。自作だからあんまり自信ないけど。」

 

「うわぁ!ミラ姉おいしそうだよ!」

 

「そうね。待ってツナ自分で作れるの!?」

 

(おとこ)の料理!?」

 

「うん…家庭教師がスパルタでね。自分のコーヒータイムのためにうまいコーヒーの淹れ方からスイーツの作り方まで覚えさせられたんだ。強制的に…」

 

「鉄はねえのか?」

 

「雷は?」

 

「あるわけないじゃないですか…雷なら雷の炎というものがありますけど俺は使えませんしね。」

 

「チッ!」

 

「舌打ち!…ってカナさん!何で抱きついてくるんですか!?」

 

「だってぇ、しばらく禁酒してたし…早くおいしいお酒が飲みたいんだもん。」

 

「分かりました!分かりましたから離れてください。何か殺気が…」

 

「カナにつく悪い虫は粉々に…」

 

「落ち着けギルダーツ!」

 

「なあ炎くれよ~。」

 

「うるせえよ、クソ炎。」

 

「何だと変態野郎!」

 

「どこが変態だ!」

 

「グレイ様服~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってしまいましたか…ふふっ、にぎやかなギルドですね。懐かしい顔を見たからかしら、昔を思い出します。ツナ、この先の戦いあなたの力が勝利の鍵です。」

 

メイビスはやがて来るであろう戦いを思いながら、悲しそうな笑みを浮かべる。大空と妖精達の未来をいつまでも案じていた…




大魔闘演舞編の前に数話日常のオリジナルを入れます。


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家族

船の中からギルドへ


-船の中

 

ウォーレンやアルザック達捜索組と合流し、自己紹介を済ませたツナは、エルザやカナ、ナツ達男性陣からもねだられたので、食料のボックスの中身を全て出した。ボンゴレを出る際にコック達が作ってくれたイタリア料理を中心に、旅先でツナが入手したり作ったりしたものもあるので、船室いっぱいに料理が並んだ。…ちなみにツナは酒豪というわけではないが、ワインは結構好きなので、ボンゴレから秘蔵のワインなどを持ち出していた。試験と戦闘でお腹がすいていた男性陣は、料理に飛びつき、エルザとカナもそれぞれの好物に手を伸ばす。ツナは残りの女性陣と談笑していた。

 

「死ぬ気の炎?それがツナが使っていた炎なの?」

 

「じゃあ、初代が最後に言ってたのは何なの?大空がアルコバレーノ…とかなんとか言ってたよね?」

 

ミラとルーシィの質問にツナは、

 

「アルコバレーノは虹って意味があるんだ。死ぬ気の炎については、ちょっと長くなるけどいいかな?」

 

「はい!すごく気になります!」

 

「他の奴等は料理に夢中だし、時間もあるしね。」

 

ウェンディが身をのりだし、レビィが興味津々な目をして続きを促す。

 

「…あのワイン相当いいワインなんだけどカナさん水のように飲んでますね。はぁ…じゃあ説明しますね。」

 

百万以上は確実にするワインをラッパ飲みするカナに溜息をつきながらフェアリーリングに炎を灯すツナ。…ちょっと悲しそうだ。

 

「これが大空属性の死ぬ気の炎。死ぬ気の炎には属性があってそれは大空の7属性と言われているんだ。大空を中心に嵐、雨、晴、雷、霧、雲が存在する。人によっては複数の炎を灯すことができるけど、基本は一つなんだ。そして、それぞれの属性で炎の色が異なるんだ。」

 

「例えば?それは大空なんだよね?オレンジ?」

 

「そう。大空はオレンジ、嵐は赤、雨は青、晴は黄、雷は緑、霧は藍、雲は紫となってるんだ。そして、炎には特徴があってそれぞれ能力が異なる。大空は調和、嵐は分解、雨は鎮静、晴は活性、雷は硬化、霧は構築、雲は増殖といった感じかな。例えば雨の炎は敵の動きを遅くして、晴は肉体を活性化させて、傷を治したりするんだ。」

 

リサーナの質問に、補足を加えて話すツナに、ピンときたのかシャルルが声をあげる。

 

「ということは虹の炎っていうのは…」

 

「うん…7属性を同時に使うってことだと思う。でも俺は大空しか持ってないんだけど。」

 

「でも初代が言うことよ。何かあると思うけど…全てを支配し、全てを包み込む大空だっけ?どういう意味なんだろう?」

 

「ああ、そういえばその辺も説明しないとね。ボックスにも属性があってそれは属性が合わないと開匣できないんだけと例外的に大空は全てのボックスを開匣できるんだ。大空を持っている人は結構レアなんだ。」

 

「やっぱりツナさんはすごいんですね!!」

 

ルーシィの指摘に答えるツナにウェンディが手放しで褒め称える。少し照れたツナはそういえばとオレンジのボックスを開匣して、ナッツを呼び出す。

 

「俺の相棒でボックス兵器と呼ばれてる天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)のナッツだよ。」

 

みんな時が止まったかのように無反応だ。アレ?と思っていると、

 

「「「「「か…」」」」」

 

「は?」

 

「「「「「かわいい~!!(ノ≧▽≦)ノ」」」」」

 

「この子ライオン?!やだ、すごいかわいい!」

 

「あ、あたしにも触らせて!」

 

「や~ん。ナッツちゃんですか。癒されますぅ~。」

 

「お、呼んだか~?」

 

「呼んでません!あんたは飯食べてなさい!!」

 

返事したナツに対してルーシィがきつく当たるのを苦笑いで見ると、ミラがナッツを抱っこしながらキレイな笑顔で…しかしどこか恐怖を感じるような笑顔で、

 

「ねえツナ…この子ちょうだい?」

 

と言い出した。ツナは焦る!

 

「だめですよ!ナッツは俺の大事な相棒なんです!」

 

「いいじゃない!ナッツちゃんは私が育てます。」

 

「だからだめです!返してください!」

 

「餌もちゃんとあげるから!お風呂にもいれるから!お散歩も毎朝するから!だからお願い!」

 

「だめですってば!…」

 

このやり取りはナッツの炎が尽きるまで10分少々続く…。

 

 

 

 

「ナッツちゃん…」

 

ボックスに戻ったナッツを涙を浮かべ悲しそうな顔をしているミラ。途中で姉の助けになるためにこちらに来たエルフマンを強制的に沈め、話を元に戻す。

 

「そういえば初代からもらったボックスは?」

 

「あれはナッツをパワーアップさせるためのボックスだと思う。だからあ・と・で開きますよ。」

 

再びナッツに会えると思ったミラに釘を指す。

 

「まぁまぁ…それより大空が他のボックスを開けるってことはだよ、他の属性になる可能性があるってことなんじゃないかな?」

 

「つまり?」

 

「他の属性の炎を出すんじゃなくて、大空の炎を他の属性に変化させるの!」

 

文学少女レビィの言葉にツナは成程と思う。メイビスは「行き着く先は虹の炎」と言っていた。つまり行き着くまでには途中があるはずだ。まずは一種類ずつ変化させて最終的に虹の炎にするということかもしれない。ツナはフェアリーリングに目を落とす。このリングはそれを成す可能性を秘めているのかも知れない。それだけの力を感じる。

 

「でもキレイなリングですよね…」

 

ウェンディがうっとりとした目をしてリングを見る。

 

「見るだけで着けない方がいいかもよ。以前持ってたリングはプリーモ…ジョットの血縁以外が着けると全身から血を噴き出して倒れたからね。」

 

ちょっとイタズラ心をだすツナ…結構Sだ。

 

「ひぃぃっ!ぜ…絶対に着けません!!」

 

予想通りの反応に満足したツナは、怖がらせてごめんと謝りながらこちらに来るナツ達に目を向ける。満腹になったのか話をしに来たらしい。同じ話をさせられそうだと思いながら笑顔でナツ達を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリアの外れに位置するフェアリーテイル。現在ここでは盛大な宴が行われていた。無理もない、7年間行方不明だったメンバーの帰還。それは寂れたギルドに光を取り戻す何よりの知らせだったから。

 

現在のマスターであるマカオに正式に加入を認められたツナは右手の甲に紋章のスタンプを押した。ボンゴレ以外の紋章を背負うことになるとは思っても見なかったツナは少々複雑な気分だ。ルーシィにはお揃いだね。と喜ばれ、それをカナに冷やかされたりもした。

 

同じ炎を使うということでマカオの息子であるロメオをナツに紹介されたツナはツナ兄と呼ばれることになり、自分を慕ってくれたランキング少年を思い出す。

 

途中で帰還を祝いにギルド『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のジュラ、リオン、シェリー、ユウカ、トビーが来たことにより、宴はより一層の盛り上がりを見せる。ジュラに挨拶をしたとき、良い目をしていると言われたり、リオンがジュビアに一目惚れしたと言うのを見て、イタリア男か?と思ったり、グレイにはっきりしろよと思ったりした。挨拶をした時、トビーが切れながらツナの禁句を口にしたことで「笑顔の悪魔」が降臨した。誰もがその禁句を口にはすまいと思ったのは当然だろう。

 

…ちなみに経験者の四人は悪魔が降臨してる間ガタガタ震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

…先程の喧騒が嘘のように静まりかえり、みんなが寝静まった頃ツナは外で星空を眺めていた。

 

-それにしても異世界か…しかもプリーモと同じように神隠しに合うなんてリボーンが言わんこっちゃねえとか言いそうだな-

 

みんな心配しているだろうか。だがおそらく戻る手段もないだろう…かつての仲間達には二度と会えない。自身の超直感がそう告げている。

 

-父さん、母さん、リボーン、隼人、武、良平さん、ランボ、骸、凪、雲雀さん、京子ちゃん、ハル、ビアンキ、イーピン、フゥ太、正一君、スパナ、ボンゴレ、ヴァリアー、シモン、ミルフィオーレ、アルコバレーノのみんな…さよなら-

 

ツナは心の中で仲間達に別れを告げ、声を出さずに涙を流す。…ふと振り返ると、新たな仲間-フェアリーテイルの全員が後ろにいた。自分を探しに来たのだろう。こんなに接近されるまで気付かなかったとは余程余裕がなかったらしい。見ると、女性陣はもらい泣きしている者もいる。男性陣もなんて言えばいいのか分からないといった顔だ。

 

ナツが一歩進み出て力強くこう言う。

 

「俺達がついてる!!」

 

ツナは目を見開く。

 

「そうだよ!私達は仲間で、家族なんだから!」

 

ルーシィが叫ぶ。

 

「大切な者を失った悲しみは仲間が埋めてくれる。」

 

エルザが慰めるように言う。

 

「一緒にいますから…だから泣かないでください…」

 

ウェンディが自分も泣きながら懇願する。

 

他の者も口々に自分の思いを告げる。ツナは自分の紋章を見て、仲間達を見る。さっきまで複雑だった紋章は家族の証。先程と違って誇らしげだ。

 

「ギルドは家族じゃ…お主が悲しければ皆が悲しみ、お主が嬉しければ皆が嬉しい。逆もまた然りじゃ。」

 

マカロフの言葉はツナの胸に届く。

 

「ありがとう。みんな…」

 

泣き笑いの顔で礼を言うツナ…みんなもつられて笑顔になる。

 

「へへっ!そーいえばまだ言ってなかったな!」

 

「あい!それでは皆さん、せーのっ!!」

 

「「「「「「「ようこそ!フェアリーテイルへ!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 




原作の所はかなりはしょっちゃいましたがどうでしょう。こんな感じでいいんでしょうか?


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Fairy Days
炎と雷


お気に入り登録50件越えました。ありがとうございます。励みになります。


-ギルド近くの森の中

 

正式にギルドの一員となったツナは持っていた宝石を売って、ミラに紹介された自身の住居となるアパートに入居した。家具、食料なども揃え新生活の準備は万端だ。そして、ギルド近くの森の中でナッツと初代から貰ったボックスを開匣する。そして、ナッツが新しいボックスに移ってしばらくすると、パワーアップしたナッツがその姿を現した。

 

「これがお前の新しい姿か…ナッツ。」

 

額の装飾にはフェアリーテイルの紋章がうかび、背中に炎の羽が生え、空中をまるで歩くかのように飛翔する新生ナッツ、

 

天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)Ver妖精(フェアリー)』が誕生した。ツナがその姿に感嘆していると、

 

「見つけたぞ~!」

 

ナツを先頭に、ハッピー、ルーシィ、エルザ、ウェンディ、シャルル、グレイ、ミラが姿を現した。

 

なぜここが分かったのか問うと、ナツが真顔で匂いを辿ってきたというのでツナは顔をひきつらせる。女性陣の視線はナッツに釘付けだ。ミラの目が怪しく光るのをみたツナは、早々にナッツをボックスに閉まった。不満を漏らす女性陣を宥めながら用件を聞くとナツが、

 

「勝負だ!このやろう!」

 

「え~?」

 

「朝からずっとこの調子なのよ…」

 

「うむ…だが興味深い一戦だ。」

 

「さっさとやられちまえクソ炎。」

 

「さっきからずっとこうなんだ…お願いだから勝負してあげて~」

 

「はぁ…分かったやろうか…」

 

「よっしゃあ!!さあやるぞ!!」

 

ナツは全身から炎を噴き出してヤル気満々だがツナには覇気がない。両者構えると、みんなの目が点になった。

 

「おい、ツナ…それはなんだ?」

 

「それって?グローブだけど?」

 

「ど~見ても手袋じゃねーか!」

 

グレイの指摘にニヤリと笑う。

 

「ところがこうすると…」

 

額に死ぬ気の炎を灯すと、ミトンがグローブに変わる。

 

「さらに俺はリングの力を引き出しグローブに宿すことができる。XグローブVer妖精の指輪(フェアリーリング)だ。さぁ始めようか。」

 

手の甲の水晶のような部分にフェアリーテイルの紋章が浮かぶ。それだけでフェアリーテイルの面々は凄まじい魔力を感じる。

 

「へへっ!燃えてきぜ!火竜の鉄拳!!」

 

「遅い!」

 

一瞬でナツの後ろに回り強烈な蹴りを加えるツナ。

 

「何!」

 

「なんという速さだ!」

 

「全然見えないわ!」

 

ギャラリーは驚愕する。

 

「くそっ!火竜の翼撃!」

 

ツナは炎を推進力に空中に浮かび、ホバリングしながらナツを待つ。ナツは足から炎を噴き出して後を追う…がツナは空中を自在に動きながら連続攻撃を繰り返しナツは防戦一方だ。ハッピーのいない状態だと空中戦はできない。ナツはあくまでも飛ぶじゃなく跳ぶだからだ。

 

「すげぇ…」

 

「あのナツさんが…」

 

「ここまで手も足もでないのか…」

 

「ナツ~!がんばれ~!」

 

「Xストリーム!!」

 

ツナがナツの周りを超高速で旋回し、炎の竜巻を作り出す。フェアリーリングによって以前より威力が上がっている。ナツは炎を食べて回復しようとするが、三半規管を揺らされ頭をクラクラさせながら落下する。

 

「火竜の咆哮!!」

 

何とか着地したナツが全力で口から炎を吐き出す。当たれば大ダメージかと思われるが、ツナは微動だにしない。その額の炎が激しくノッキングしていることに誰も気付かない。そして炎が直撃した。

 

「ツナー!!」

 

「ツナ!」

 

「やべぇ!まともにくらったぞ!」

 

「何故避けなかった…」

 

「ツナさん…」

 

「待って、あれは?」

 

「炎が集まっているの?」

 

ツナがいた場所へ炎が急激に吸い込まれていく。そこには、右手を相手に左手を自分に向けた形でその手に炎を吸収するツナがいた。そしてツナの炎がさらに強大になり、激しく燃え盛る。ナツの炎を自分の力に変えているのは明らかだ。そしてツナも地面に降りる。その瞬間、ナツの前に移動したツナはナツのボディに強烈な一撃を加え、前のめりになったナツの首筋に手刀を当てる。ナツは声をあげるまもなく意識を手放した。

 

 

 

「ふぅ…」

 

「ナツをあっさりと完封するとはな…」

 

エルザが感心したように呟く。ナツはウェンディが治療中だ。すぐに目を覚ますだろう。

 

「エルザもやるんじゃなかったっけ?」

 

ルーシィが問うが、エルザは首を振り、

 

「いや…止めておこう。正直勝てないだろうし、それでも食らいつこうとすれば、それは試合ではなく殺し合いになってしまう。ミラは?勝ってナッツを貰うんじゃなかったのか?」

 

-それってカツアゲじゃあ…?-

 

みんなが思ったが賢明なことに口には出さない。

 

「残念だけど勝てないでしょうし、諦めるわ…残念だけど…」

 

二回言った!とツッコミ属性持ちのツナとルーシィは心の中でツッコんだ。溜息を吐きながらツナは、

 

「じゃあナツを起こして帰りま…」

 

「なら、俺とやってくんねーか?」

 

帰ろうとしたツナ達の前に雷と共にラクサスが現れた。

 

「ラクサス!」

 

「エルザもミラもやんねぇんだろ?だったら俺と勝負しようぜ。」

 

「ほう…自分なら勝てると?」

 

エルザが少し目を細めて問うと、ラクサスは苦笑して首を横に振る。

 

「いや…多分負けるな…」

 

その言葉にグレイ、ミラ、エルザ、ルーシィは言葉を失う…かつての彼からは考えられない台詞だからだ。

 

「…かつての俺は自分の力に絶対の自信を持っていた。だがこの世に俺より強い奴はいくらでもいやがる。ハデスのジジィやアクノロギアなんて化け物もな。ナツのように格上の相手に食らいつこうする強さが必要だ。だから頼む。俺と闘ってくれ!」

 

「…分かりました。」

 

ツナは死ぬ気の炎を灯し戦闘態勢を整える。ラクサスも雷を身に纏い準備が整う。

 

「最初から全力で行くぜ。」

 

「ああ…エルザ合図を頼む。」

 

「では…始めっ!!」

 

エルザが手を振り下ろした瞬間、二人の姿が消え、空中で二人が激突する。二人は空中で何度も激突を繰り返し目にも止まらぬ速さでその衝撃と音が鳴り響く。

 

「きゃああああ!」

 

「なんつー闘いだ!」

 

「あ~!ツナの奴、俺との勝負は?何でラクサスとやってやがる?」

 

「ナツ~あっさり負けちゃったよ…」

 

「何ぃぃぃっ!!」

 

「うるせぇぞ!!」

 

「なんだとこの…」

 

「貴様ら!これ程の勝負はめったに拝めんぞ!!しっかり目に焼き付けんか!!」

 

「「あい…」」

 

「二人とも互角なんでしょうか?」

 

「いいえ。良く見て。ツナの攻撃はヒットしてるけど、ラクサスの攻撃はガードされたり避けられたりで当たってないわ。」

 

「見えません…」

 

「あい…」

 

「見える方がおかしいわ。」

 

下でごちゃごちゃしている間に空中ではさらに激しく闘いが繰り広げられていた。

 

「雷竜の顎!!」

 

ラクサスが手を組み振り下ろしたハンマーパンチを下に潜りこむことで躱すがラクサスはニヤリと笑う。この技は振り下ろした直後に、雷の追加攻撃が発生するからだ。…だがツナは来るのが分かっていたかのように、体を回転させて紙一重で避け、上昇して遠心力たっぷりの蹴りを食らわせる。飛ばされながらもラクサスは右手に雷を集めツナに放つ。

 

「雷竜方天戟!!」

 

ツナは左手をかざし、炎の壁を作る。調和の属性を持つ壁が雷の槍を散らす。だが壁のせいでツナの視界から逃れたラクサスは、威力より速さを重視してツナの真上に雷を作り出す。

 

「レイジングボルトォ!!」

 

見えない場所からの攻撃をツナは、ラクサスに向かって前進することで避ける。そのまま動きの止まったラクサスに突っ込み顔面を殴りつける。

 

-くそったれ!俺の動きを全て読んでるのか?!マジで強ぇ…だがこのまま終わらねぇぞ!!-

 

殴ったツナの右腕を左腕で掴まえる。純粋な力ではラクサスの方が上だ。そのまま電撃を流し込む。

 

「くうぅっ!」

 

初めてツナが苦悶の声をあげる。ツナは左腕で二度三度と殴るがラクサスは痛みを無視して右腕に全ての力を集中する。ツナはサマーソルトキックのように縱回転し、無防備なラクサスのあごに蹴りをいれる。思わず左手を離し、意識を持っていかれそうになるラクサスだが、最後の力を振り絞りツナに向かって右拳を突き出す。

 

「滅竜奥義!鳴御雷!!」

 

ツナは零地点突破・改でその魔力を吸収しようとするが間に合わない。ラクサスの一撃を受け辺り、に雷鳴と閃光と煙がほとばしる。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

「どうなった?!」

 

「ラクサスの一撃が決まったように見えたが…」

 

「ツナ…」

 

「無事よね?」

 

「ツナさん…」

 

煙が晴れるとそこには、気絶したラクサスの右腕を掴んで浮いているツナがいた。ツナも電撃を食らったのか、かなりダメージを受けたようだ。そのままゆっくり降りてくる。

 

「ウェンディ、ラクサスさんの治療をお願い。」

 

「はいっ!」

 

「よくツナは無事だったな。最後の一撃はくらったんだろ?」

 

グレイの問いにツナは疲れて座り込みながら、

 

「どうにか半分くらいは吸収できたからね。まともにくらったらさすがにヤバかったよ…」

 

「さっきナツの炎を吸収した技だな。一体どんな技なんだ?」

 

「死ぬ気の零地点突破・改と言って本来は相手の死ぬ気の炎を吸収して自分の炎に変える技なんだけとね。マスター…マカロフさんから俺の炎が魔力を発しているって聞いたからナツやラクサスさんの魔力を吸収できるかもと思ってね。やってみたらできちゃった。」

 

「じゃあ吸収できなかったら…」

 

「食らうね。普通に。」

 

「あっさりし過ぎだろ!!」

 

「そんな危ないことしたの?!」

 

「そうです!危険ですよ!!」

 

「ツナにはお仕置きが必要かしら♪」

 

ルーシィ、ウェンディ、ミラに怒られてタジタジになるツナ。特にミラの笑顔が怖い…

 

「なるほどな…」

 

ラクサスが気付く。みんなが視線を向ける。

 

「ありがとな。ウェンディ。」

 

視線を反らし礼を言うラクサスにみんなの視線が生暖かくなる。

 

「ツナはどうやって俺の動きを読んでたんだ?」

 

「そーだよ!俺の攻撃も全部読まれてみたいに避けられたぞ!」

 

ラクサスとナツの問いにツナは言いにくそうに答える。

 

「読んだんじゃなくて直感で感じたんだ。」

 

「「「「「「直感!?」」」」」」

 

「俺がジョットから受け継いだ力は死ぬ気の炎と、全てを見通す力…超直感って言うんだ。」

 

みんな唖然としている。あれだけの猛攻を直感で避けられたらたまったもんじゃない。

 

「そうか…ありがとな。いい経験になった。今度やる時は絶対負けねぇからな!」

 

「ラクサスさんも強かったです。それにあなたの信念も…あなたとの再戦に備えて俺ももっと強くなります。」

 

「ふっ…じゃあな、ジジィには黙っとけよ!破門中の奴が喧嘩売ったと知れたらうるせぇからな!」

 

ラクサスは雷を纏って飛んでいった。

 

「やれやれ…」

 

「俺も負けてらんねぇ!!ツナ勝負だ!」

 

「ナツはまだ早いんじゃないかしら。」

 

「ミラ!そりゃねーよ!」

 

「ミラちゃんの言う通りだクソ炎。さっきブザマに負けたばっかりだろ。」

 

「なんだと!パンツ男!」

 

「ほう…貴様ら元気が有り余ってるようだな…私が相手になろうか?」

 

「「え…遠慮します…」」

 

「ツナさん来てください!治療しますから!」

 

「そうよ!早くしなさい!」

 

「それともお仕置きかしら…?」

 

「分かりました!すぐ行きます!」

 

ツナは森のある方向を見ながら三人のもとへ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツナには気付かれっちまったか…鋭い奴だ。それにしてもラクサスも成長したな。破門を解いてもいいんじゃねーか?」

 

「フン…まだ早いわい…」

 

一部始終を見ていたマカロフとギルダーツが話している。マカロフは悪態をつきながら踵を返す。

 

「それよりもツナはS級でもやっていけそうじゃな。今度伝えておこう。」

 

そういってギルドへと戻っていった。

 

「素直じゃないねぇ…嬉しいくせに。それにしてもツナはまだ力を隠してそうだな。俺もうかうかしてらんねぇな…」

 

ギルダーツは頭をかきながら嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

今回の闘いでツナは二種類の滅竜魔法を吸収した。それがどのような結果を生むか分かるのはまだ先の話である。

 

 




ツナさらに強化フラグ!チート過ぎ?でもアルバレス編はナツもラクサスも強いからツナもさらに強くしないと…


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Fairy Girls -Lucy-

戦闘シーン以上に難しい。


マグノリアの街-

 

ツナは今日はギルドにも行かず街を歩いていた。すでに何件か仕事はこなしたが、今のギルドの状況ではあまりいい仕事がまわって来ない。これでも天狼組の復帰と『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』『青い天馬(ブルーペガサス)』などの友好的なギルドから、マカロフのつてでいい仕事をもらったりしているが、毎日あるわけではない。そんなわけで今日は街を散策している。

 

…ちなみに、昨日ナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピーと一緒に街を襲う盗賊団退治に行った。仕事は簡単に終わったが、その後いつものようにナツとグレイが喧嘩して街に被害が出そうになるも、二人に鉄拳制裁を加え事なきを得て、ルーシィとハッピーには泣いて感謝されると言う一幕があった。

 

-それにしてもあれが毎回のようにあるんじゃルーシィも大変だな。エルザが止めに入るとさらに被害が増えるらしいし…-

 

ルーシィを不憫に思っていると、

 

「ツナ~!!」

 

その声に振り向くと、そのルーシィが駆け寄ってきた。

 

「偶然だね。今日は何してるの?」

 

「今日は街の散策だよ。この街に来てから日が浅いしね。今ちょうどルーシィのこと考えながら歩いていたんだ。」

 

「えっ…///ど…どんなことを?」

 

「昨日みたいなことが毎回あるんじゃ大変だなって。」

 

「えっ、あは、そう!そーなのよ!特にナツが壊しまくるせいで毎回依頼料削られちゃうの!……そっちか。」

 

「ふふっ。困ったことがあったら遠慮なく言ってね。俺達は仲間で家族なんだから。」

 

ツナが加入した夜に自分が言った言葉をそのまま返され、思い出したルーシィは顔を真っ赤にする。

 

「あ~ん。恥ずかしいからそれ止めて~!ツナのいじわる!…それより!あたしが街を案内してあげるから、洋服買いに行くのを付き合ってくれない?」

 

強引に話を変えるルーシィに、苦笑してOKするツナ。二人はそのまま並んで街を歩いていった。

 

 

 

 

 

「そういえば昨日は聞きそびれたけど…昨日ルーシィが呼び出したメイドさんが星霊なの?人じゃないの?」

 

ツナは気になってたことを聞く。

 

「ああ、昨日呼び出したのは処女宮のバルゴよ。黄道十二門の一つよ。世界に一つずつしかないの。」

 

「じゃあルーシィはいくつ持ってるの?」

 

「10個よ。アリエス、タウラス、ジェミニ、キャンサー、レオ、バルゴ、スコーピオン、サジタリウス、カプリコーン、アクエリアスで全部ね。」

 

「すごいなぁ…じゃあ後はライブラとピスケスでコンプリートだね!」

 

「そうね…って何で知ってるの?」

 

「俺のいた世界と同じだからね。」

 

「へぇ~じゃあ琴座とか小犬座とかもあるの?」

 

「あるよ。意外だな、こんなに遠いのに共通点があるなんて…」

 

「あ…ゴメン元の世界のこと思い出させちゃったかな…?」

 

ツナはキョトンとした後、声を殺して笑いだした。

 

「ちょっ!何よ~!」

 

「ゴメンゴメン。ルーシィって本当に素直で可愛いなって思ってさ。」

 

「む~何か納得いかないけど…あ、着いたここで服見るから、男の人の視点で感想聞かせてね。」

 

「いいけど俺でいいの?他の人の意見はいいの?」

 

「他の人?誰かいたっけ?」

 

心の底から聞き返すルーシィにギルドの男達を思い出す。ナツ、グレイ、エルフマン、ガジルetc.…少し考えて出した結論は、

 

「分かった。俺が見るよ。」

 

「分かってもらえて嬉しいわ。」

 

二人は固く握手をした。

 

 

 

 

 

「やっぱり便利ね~そのボックス。」

 

服の量が余りに多かったのでツナは保存ボックスに服を入れた。

 

「でも!ツナ結局似合うしか言ってないじゃない!?」

 

「仕方ないよ!ルーシィ自分に合う服しか選んでないし、それに綺麗だしスタイルもいいから大抵の服は似合うだろうし…」

 

「あ…ありがと…///」

 

「でも少し露出度高いのが多かったんじゃ?」

 

「///か…活動的と言って…」

 

ツナがいたのでちょっと冒険してみたルーシィだった。

 

「そんなことより!お昼食べに行きましょ!お礼に奢るから!」

 

「お昼くらい俺が奢るよ。随分買ったじゃないか。」

 

「昨日おかげで依頼完遂できたから大丈夫よ。」

 

「それでも女性に奢らせる訳にはいかないよ。」

 

ルーシィは感動していた。なにせ周りにいるのは逆に奢らせようとする男ばかりだったからだ。

 

 

 

 

ルーシィの希望でパスタ店で昼食を取る二人。メニューを眺めているとツナの後ろの窓の外を見たルーシィの顔が驚愕に染まっていた。

 

「どうしたの?」

 

問いながら後ろを振り向こうとしたら、ルーシィがブンブン腕を振り回しながら、

 

「な…何でもない!何でもないから!」

 

と言うので怪訝な顔をしながらもメニューに目を戻す。

 

…窓の外ではカナがルーシィに向かってにやけながら親指をたてていた。

 

料理を食べつつ談笑していた二人は端から見れば完全にカップルにしか見えない。美男美女のカップルに店内の多くの人が注目していた。それを見た店長はこれは使えると思い、デザートに無料でお互いに食べさせ合うパフェを提供した。スプーンは一本しかないので交互に食べさせ合うことにする。ツナはそうでもなかったがルーシィは顔を真っ赤にしながら食べさせられていた。…なおそれを見たカップル達が自分達もとそのパフェの注文が殺到し、店長の目論みは成功した。

 

 

 

 

昼食の後、ルーシィはツナに聞きたいことがあると言って公園に誘った。

 

「いや~おいしかったね。」

 

「うう…味なんて全然分からなかった…」

 

ルーシィの顔はまだ赤い。

 

「で、聞きたいことって?」

 

「…」

 

「聞きにくいこと?別に元の世界のことでも怒らないよ。」

 

「…ツナのお父さんのこと。」

 

「父さんのこと?」

 

「待って。あたしから話すから。」

 

ルーシィは自分の父のことを話す。母が死んでから父と上手くいかず、家出してフェアリーテイルに入ったこと、自分を連れ戻すためにギルドと仲間を傷つけたこと、決別したはずの父の会社が倒産して、商業ギルドに所属することになった父と和解したこと、…そして、天狼島から7年振りに帰ってきて会いに行った父が一月前に亡くなっていたこと。7年分の家賃を支払ってくれ、7年間誕生日にプレゼントと手紙を送ってくれて自分を愛してると言ってくれたこと。

 

「やっぱりあたしもお父さんが好きだった。でも結局あたしは何もしてあげられなかったから。ゴメン…ツナの方が辛いはずなのにこんなこと聞いて…」

 

「そんなことないよ。ルーシィだって辛い思いをしてるじゃないか。誰だって大切な人との別れは辛い。…でも俺だけじゃないってことを教えてくれてありがとう。」

 

「ツナ…」

 

「父さんか…一言で言えば駄目親父かな?」

 

「だ…駄目親父…」

 

今度はツナが話す。小さい頃から家にいない、仕事は世界中の交通整理と大噓を言う、たまに帰ってきたら酒飲んで寝る、それなのに無理にコミュニケーションをとろうとする、中学生になってからは厄介ごとを持ってくる、嫌いというよりは苦手だった。

 

「す…すごいお父さんね…」

 

「まぁね…ボンゴレの話はしたよね。」

 

「うん…ツナがボスをやってたマフィアのことよね…」

 

ツナはあの夜みんなにボンゴレのことを話した。追い出されてもしかたないと思ったが隠し事はしたくなかった。マフィアになった経緯と自分の信念とボンゴレのことを…受け入れてくれたみんなに感謝している。

 

「簡単に言うと父さんもマフィア関係者だったんだ。14歳の時に本気で闘う機会があったんだけど、駄目親父と思っていた父さんに一撃で負けたんだ。その後、ある人が父さんはお前の百倍修羅場をくぐってて、お前の百倍家族のために闘っていたって。きっとルーシィのお父さんもそうだったと思うよ。会社が大きくなりすぎてちょっと失敗しちゃったみたいだけど、背負うものがなくなったらいいお父さんみたいだし。」

 

「うん…そうだね…」

 

「俺がボンゴレを解体した後は、今までないがしろにしてた分まで母さんを大切にするって家に戻ったし、まぁ心配はしてないよ。」

 

「ふふっ…信頼してるのね…」

 

「さぁどうかな…さ、いつの間にか暗くなってきたし、ご飯食べたら帰ろう!送って行くから。」

 

「うん!ありがと、ツナ。」

 

 

 

 

夕食を食べた後、ルーシィの家の前まで来た。

 

「送ってくれてありがとうツナ。」

 

「でも荷物はボックスの中だから家の中まで行かないと…」

 

「あっ!そうか!じゃあ入って!お茶でも出すから!」

 

「いや…もう遅いし荷物置いたらすぐ帰るよ。」

 

「そんなわけにはいかないわ!さっ、どーぞどーぞ!」

 

ルーシィの頭の中はこの後どうするんだっけ!?と自分が読んだ恋愛小説を思い出していた。絶賛パニック中である。そして扉を開けると…

 

「よっ、お帰り。」

 

「お邪魔してるぜ。」

 

「あい!」

 

「ふほーしんにゅー!!」

 

ナツとグレイとハッピーがいた。グレイは半裸である。

 

「あ…あんたたちぃ~!!」

 

今日だけはいてほしくなかったと、ルーシィは涙する。

 

「カナから聞いたぜ。デートしてたんだって?」

 

「どぇきとぅぇる~。」

 

「なぁ土産は?」

 

その言葉を聞いて再び怒鳴ろうとしたルーシィだが、

 

「おい…」

 

ツナがいつもより低い声で声をかける。なぜか額に死ぬ気の炎が灯っている。顔をあげたツナは笑顔だった。二人と一匹は顔を青くする。

 

「お前たちは女性への接し方を学ぶべきだ…安心しろ俺がネッチョリと教えてやる。」

 

家庭教師の台詞を言った後、ボックスを開匣してルーシィの服を取り出すと、

 

「今日は楽しかったよ。また明日ねルーシィ。」

 

と、言葉を残して二人と一匹を掴み何処かへ引きずって行った。

 

その夜マグノリアのとある場所から男の悲鳴が途絶えなかったと言う。そしてこの夜を境に、ルーシィが不法侵入されることもなくなったとか…

 

 

 

 

 

 

翌日、フェアリーテイルでは、ナツがリサーナを、グレイがジュビアを、ハッピーがシャルルを紳士的な態度でもてなしていたという…喜んでいたのはジュビアだけだったが。残り二人は気味悪がっていたらしい。時々ネッチョリは嫌~とか叫ぶ二人と一匹であった。

 

そしてカナに捕まり昨日のことを根掘り葉掘り聞かれ、顔を赤くするルーシィの姿があった。

 

ツナは男連中に捕まってルーシィと同じように質問されていたがさらりと躱していた。下品な質問をする者は容赦なく沈めていく。時々約2名から鋭い視線を感じたが、ツナをもってしても視線の主は分からなかった…

 

 

 

 




ちなみに昼食のシーンは某血のつながった夫婦のスピンオフ作品より、次回はあの娘。


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Fairy Girls -Wendy-

ヒロイン候補二人目のお話。


-フェアリーテイル

 

 

ウェンディ・マーベル12歳は不機嫌だった。現在気になっている男性-沢田綱吉とルーシィが昨日デートしていたとカナが言いふらしていたからだ。耳を澄ませてみると、二人は付き合っているのではないようだが、昨日一緒にショッピングと食事をしたらしい。カナは近くの席で酔っぱらいながらルーシィに胸は揉ませたのか、その胸で迫ればイチコロだと絡んでいる。ルーシィの顔は真っ赤になっている。

 

-そうですか、胸ですか。その胸で誘惑したんですか?ルーシィさん…-

 

暗黒面に堕ちそうになっているウェンディに、

 

「顔が怖いわよ、ウェンディ。」

 

相棒のシャルルから声がかかる。

 

「えっ、そんなことないよ~シャルル~!」

 

「バレバレよ。」

 

シャルルは溜息を吐きながら、

 

「そんなに羨ましいならあんたからショッピングでも食事でも誘えばいいじゃない。」

 

「む、無理だよ~!私胸だってないし…」

 

「ばかね…あのね、あんたはツナが胸ばっかり気にするような男だと思ってるわけ?」

 

「そうは思わないけど私なんて妹くらいにしか思われないんじゃないかな~?」

 

ギルドの外で男連中と談笑しているツナを見る。女性からだけでなく暴れるナツとグレイを簡単に沈めることから、男性からも人気があり、今やギルドの中心人物である。先程までハッピーがシャルルをもてなしていたのもツナの教育らしい。ナツとグレイと一緒に逃げるように仕事に行ってしまったが…

 

「今のままなら確実にそうなるわね。もっとアピールしなさい!…というわけでこの依頼を一緒に行ってもらいなさい。」

 

「えっ、何これ!こんなの行ってもらえるわけないじゃない!」

 

「明日の朝7時にここに来てってツナに頼みなさい。私は行かないから…じゃあ今日は帰るから。朝7時よ。」

 

「シャルル~」

 

ウェンディはちらっとツナを見て、明日誘ってみようと決心した。

 

 

 

-全く世話が焼けるわね-

 

帰り道シャルルは自分の予知通りになるように願いながら歩いていた。

 

 

 

翌朝、ツナは朝一番にフェアリーテイルに顔を出した。元の世界の習慣から朝早くから修行している為、ツナが起きるのは早い。

 

「おはようございます。ツナさん!」

 

ツナはびっくりしつつも笑顔で挨拶を返す。

 

「おはよう、ウェンディ。今日は随分と早いんだね。」

 

「その…今日はツナさんにお願いがありまして…この依頼に一緒に行って欲しいんです…」

 

「なになに…地元の山の中腹に咲く花を摘んで来て欲しい。簡単そうだけど報酬は…何これ?水晶の髪飾り?」

 

「はい!どうしても欲しくて…でも駄目ですよね…あ、でも私少しだったらお礼を…」

 

「いいよ、一緒に行こうか。後、お礼なんていいよ。仲間なんだから。でもちょっと遠くないか?今日はシャルルはいないの?」

 

「あ、今日はちょっと用事があるみたいで…」

 

「じゃあ時間あるしゆっくり行こうか?」

 

「はい!」

 

二人は駅に向かって歩き出した。

 

 

 

「うわ、すごい人混みだね。」

 

「そうですね~。」

 

「はぐれないようにね。」

 

そう言ってツナは右手を差し出す。その意味に気付いたウェンディが、顔を赤くするもしっかりと手を繋ぐ。二人は列車に乗るまで手を繋いでいた。

 

列車に乗った二人は雑談する。

 

「そういえばウェンディは乗り物平気なの?」

 

「ええ。私は平気です。もしツナさんが苦手ならトロイアをかけてあげますから。」

 

「俺も平気だよ。そっか、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)はみんなナツみたくなるのかと思ってたよ。」

 

「もう…失礼ですよツナさん!そんなわけないじゃないですか。」

 

「そうだよね。ゴメンゴメン。ハハハ…」

 

「ふふっ、もう…」

 

ある意味重要な話をしながら列車は進んで行く…

 

 

 

何本も列車を乗り継ぎ目的地に到着した。本当に寂れた村だ。さっそく依頼人の家を探す。

 

「ここで住所あってるよね?」

 

「はい!間違いありません。」

 

「すみません依頼を受けてフェアリーテイルから来た者ですけど。」

 

しばらくすると女性が出てきた。

 

「何かの間違いでは?私は依頼などしてませんけど…?」

 

「しかし確かにこの住所から依頼が発行されているのですが…」

 

「本当ですね。いったい誰が…?」

 

「あ~魔導士さんが来た~。」

 

5歳くらいの女の子が出てきた。例の髪飾りをしている。

 

「サクラ!まさかあなたが…」

 

詳しく事情を聞くとその花は薬の材料となる為、以前はよく採取されていたが、魔物が住み着いたことで誰も取りに行けなくなったらしい。ギルドに依頼をするお金も村にはないため困っていたそうだ。そんな時に病気の祖母のために花を手にいれたいと思い、依頼をしたそうだ。ただ花を摘んでくるだけならとその報酬で受理されたようだ。…もっとも魔物のことが伝わっていたらさすがに受理されなかっただろう。こんな誰もしないような依頼がまわって来るあたりが、今のフェアリーテイルの現状を表している。

 

「そういうことだったんですね…」

 

「申し訳ありません!しかも魔物のことを伝えずに…この依頼は取り消しますので。」

 

「いえ!それには及びません!私達はフェアリーテイルの名の元に依頼を受けました!この名前にかけて依頼を完遂します。」

 

ウェンディが元気よく言うが、

 

「ですが…魔物討伐の料金など払えませんよ。」

 

「大丈夫です。花を摘んで来るだけですから。邪魔者がいたらついでに倒しますけど。サクラちゃん!もう少し待っててね。お花摘んでくるから。」

 

しゃがんでサクラに目線を合わせて言うウェンディと、喜んで抱きつくサクラを見て、母親が困惑したようにツナを見る。ツナは笑顔で大丈夫ですと伝える。

 

「じゃあ行こうか、ウェンディ。」

 

「はい!」

 

そして、山へ向かって歩き出した。

 

 

 

依頼は拍子抜けするほど簡単に終わった。花畑までは一本道で魔物(猪と豚を混ぜたようたようなもの)が5匹程出てきたが、ツナが瞬殺した。気合いをいれたウェンディが咆哮を放つため、息を吸い込んでる間に終わってしまい、恥ずかしそうにゆっくり息を吐くウェンディを見ながら、ツナはとても申し訳ない気持ちになった…

 

花を摘んで村に戻ると村人達が大喜びで迎えてくれた。せめて少しでもお礼をと言う村人達に、それを受け取ってはギルドの理念に反すると固辞した。ウェンディは結局サクラから髪飾りを受け取らなかった。村人達からあの髪飾りはサクラが祖母からもらった大事な物だと聞いたからだ。母親もそこまでしてもらう訳には…と譲らなかったが、娘が大事にしていたのを知っていたので結局遅めの昼食をご馳走することでお礼とした。二人は村人達に見送られながら村を後にした。

 

 

 

 

「はうぅ~…」

 

「どうしたのさ。やっぱりあの髪飾りが欲しかったの?」

 

帰りの列車の中でみるからに落ち込んでいるウェンディにツナは声をかける。

 

「違います!そうじゃなくて…結局ツナさんに無駄足踏ませちゃったし、すごい迷惑かけたなぁって思うと…」

 

「迷惑なんて思ってないよ。むしろあそこで何もせず帰っちゃう方が俺は嫌だな。だから元気出して。」

 

ツナが頭を撫でるとウェンディも少し元気が出た。

 

「…ツナさんに頭を撫でられると、すごく気持ちいいですぅ。」

 

「昔家に小さい居候が何人もいてね…よく頭を撫でてたからかな。」

 

「私もツナさんから見たら小さい子供ですか…?」

 

ウェンディは少し悲しくなりながら問うが、

 

「いや…俺はアイツらをただ危険から遠ざけて、守ろうとしていた。でもウェンディは互いに助け合う対等な関係だと思っているよ。」

 

対等と言う言葉にウェンディは嬉しくなる。

 

「はい!ツナさんが怪我をしたりしたら絶対私が治しますから。」

 

ウェンディは顔を赤くしながら力強くそういうのだった。

 

 

 

駅に着いたツナは少し席を外し、すぐ戻ってきた。

 

「ウェンディこれ依頼を達成した報酬だよ。」

 

そう言って、雪の結晶をモチーフにした髪留めを二つ手渡す。

 

「ええっ!いいんですか?ただでさえ今日…」

 

「いいんだよ。ウェンディに似合いそうだったし、けどあの髪飾りに比べたら安物だけどね…」

 

「そんなことありません!大事にします!…どうでしょうか?」

 

「とてもよく似合ってるよ。我ながらいい選択だったな。さぁ帰ろうか。あまり遅くなると俺がシャルルに怒られちゃうからね。」

 

「はい!あ…あの…///」

 

ウェンディは顔を赤くして俯きながら手を差し出す。ツナはニッコリ笑って手を繋ぎ、女子寮までの道を歩き出した。

 

 

 

翌日フェアリーテイルにて、ルーシィがウェンディに声をかける。

 

「ウェンディ、その髪留め新しく買ったの?よく似合ってるよ。」

 

「ありがとうございます。ツナさんが買ってくれたんですよ。」

 

笑顔で言うウェンディにルーシィは、

 

「え…あーツナがね!どうりでセンスいいと思った。うん、よく似合ってるよ、ホント。」

 

少し慌てながら言うルーシィにウェンディは真面目な顔で告げる。

 

「ルーシィさん…私負けませんから。」

 

ルーシィは、一瞬目を見開き、ニヤリと笑って、

 

「受けてたつわ。」

 

と答えてその後、二人は一緒に笑いだした。カナとリサーナとジュビアはそれを見ながら会話していた。

 

「いやぁ、盛り上がって来たわね~」

 

「カナ~ちゃんと見守ってあげようよ。」

 

「ジュビア的には恋敵が減るのはいいことですので、二人とも応援します。」

 

「よっし!じゃあ今日はツナのどこがいいかで盛り上がりますか!ルーシィ!ウェンディ!」

 

「ちょっとカナ///もう~」

 

「恥ずかしいですぅ///」

 

 

 

 

 

二人がカナの方へ行くのを見ていた一人の女性が呟く。

 

「あらあら…私もそろそろ動かないとね。」

 

 

 




あんまり甘くはなかったと思います。
雪の結晶の髪留めはお兄様が妹に買ってあげたものをイメージ。
次回は三人目のヒロイン候補。あの人のことです。


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Fairy Girls -Mirajane-

ヒロイン候補のラストを飾るのはあの人。


-フェアリーテイル

 

 

 

 

「じゃあミラ姉今日は撮影なの?」

 

「うん。七年振りに戻ってきたからって、週間ソーサラーのジェイソンさんから依頼があってね。」

 

ギルドにてストラウス姉妹が談笑している。

 

「がんばってね。ミラ姉!」

 

「ありがとう。でも今日は男性のパートナーも連れて行かなくちゃいけないのよね。」

 

その言葉にギルド内にいた幾人かの男性がミラの前にあつまってきた。

 

「ミラちゃん。是非俺をパートナーに…」

 

四代目ギルドマスターのマカオが、

 

「お前にゃ無理だマカオ!ここは俺が…」

 

マスター補佐のワカバが、

 

「俺に任せな!ミラちゃん。」

 

砂の魔導士のマックスが、

 

(おとこ)として、姉ちゃんのパートナーは譲らねぇ!!」

 

弟のエルフマンが名乗りを挙げる。ミラは人差し指を自分の頬に当てながら考え込む。

 

「そうねぇ~…じゃあ…」

 

男達がゴクリと喉を鳴らす…

 

「ツナに頼むわ。」

 

「「「「じゃあの使い方おかしくね?!!」」」」

 

ちょうどその時ツナがギルドに入って来たので、ミラは男達を残したままツナの元に走って行った。残された男達が真っ白に燃え尽きるのをリサーナが憐れみの目で見ていた。

 

 

 

「撮影ですか?」

 

ミラから話を聞いたツナは、微妙な顔をして問い返す。

 

「話は分かりました。そういうの苦手なんですけど…他に誰かいないんですか?」

 

「いないわ。」

 

間髪入れずに答えるミラに、先程の4人が灰になった。ちなみに一緒に来たルーシィとウェンディは断って~と念じている。ミラは真面目な顔を作り、ツナに語りかける。

 

「それにね、ツナ。今のギルドの状況を少しでも改善する為にもこの仕事は必要なのよ。この効果は馬鹿にできないのよ。」

 

「確かにそうですね…分かりました。俺でよければお供しますよ。」

 

ツナが賛同したことにより、ルーシィとウェンディはガクリと肩を落とした。一緒に仕事に行きたかったようだ。

 

「それじゃ行きましょうかツナ。」

 

ツナの腕取って歩き出す。それを見たルーシィとウェンディが声をあげかけるが、ミラが笑顔で黙らせた。

 

二人が去ったギルドでは、女性達が会話していた。

 

「ミラ姉、どうやらマジみたいね。」

 

「ルーちゃんとウェンディに続いてミラまで…」

 

「ツナさんのお陰で恋敵がどんどん減っていってジュビアは感謝してます!」

 

「ねぇ~誰がツナをものにするか賭けない?」

 

カナの言葉にルーシィとウェンディが噛みつくが、

 

「やっぱり応援するのはミラ姉かな。ゴメンね。」

 

「ルーちゃん!負けちゃダメだよ!」

 

「ウェンディ、がんばってくださいね。」

 

「みんな甘いねぇ~。ツナはマフィアのボスだった男だよ!三人まとめて相手してくれるさ!」

 

「きゃ~///それって…」

 

楽しそうに会話する女性陣の後ろで灰になった男達はそのまま風に飛ばされていった。

 

 

 

ツナとミラは腕を組んだまま週ソラの本社へ向かっている。必要以上に体を密着させてくるミラに内心はともかく外面は普段通りを心がける。リボーンに施されたハニトラ対策訓練のおかげというのがムカつく。ミラはそんなツナを見て、より一層体を密着させる。結局周囲からみれば、ラブラブなカップルにしか見えなかった。

 

「ねぇツナ、どうして私には敬語を使うの?」

 

「なんとなくとしか言えませんね…」

 

「もう!私達同じ歳なんだから敬語はやめてちょうだい!何か壁があるみたいで悲しくなるわ…」

 

「分か…った。これからは気を付けるよ、ミラ。」

 

「うん。よろしい!」

 

-こういうところが人気の秘密なんだろうな…-

 

コロコロ変わるミラの顔を見てそう思うツナだった。

 

 

 

「うぉおおっ!7年ぶりだねミラ!でも全く歳取ってない!超COOL!!!こっちがパートナーかい?!COOLなイケメンだね!超COOL!週ソラ記者ジェイソンです!COOL!」

 

「ツ…ツナヨシ・サワダです。ツナって呼んで下さい。」

 

オーバーアクションで最初からテンションMAXなジェイソンにどん引きなツナ…するとミラが、

 

「ふふっ、ツナはただのCOOLじゃないわよ。額に炎を灯すことでよりCOOLに変身するのよ。」

 

と言い出した。ツナが目を点にしてると、

 

「マジで!ツナ超COOL!」

 

「まだあるわ。ナツ、ガジル、グレイ、エルフマンを四人同時に倒したし、ラクサスにも勝ったわ。」

 

「COOL!COOL!グレートCOOL!」

 

「さらにナッツちゃんというライオンのかわいい相棒がいるのよ!」

 

「やっべぇ!COOL過ぎるー!!予定変更!ツナ単体の写真も撮るからCOOLに決めてくれよ!!」

 

そう言うと準備のために駆け出して行った。呆然とするツナにミラは笑顔で言う。

 

「良かったわね、ツナ。」

 

「何が?!!」

 

ツナは大声でツッコミをいれた。

 

 

 

撮影はまずはミラからだった。水着に着替えたミラが様々なポーズで撮るので、ハニトラ対策訓練を積んだツナでもさすがに顔を赤くしながら見ていた。水着やポーズを変えるたびにミラが感想を求めてくるので、恥ずかしがりながらも感想を述べていった。顔を赤くしながらもストレートに褒めてくるツナにミラも顔を赤くするが、嬉しさのあまり自然と笑顔になるので、撮影はスムーズに進行した。ジェイソンはそんな二人を見ながら親指を立ててCOOLと呟いていた。

 

 

ツナの撮影の前に超死ぬ気モードやナッツとその能力を見せてもらったジェイソンのテンションの上がり方は留まるところを知らず、様々なシチュエーションでの撮影となった。スーツに着替えたツナの撮影が始まった。

 

ケース①高級なソファーの中央に足を組んで座る。(死炎アリ)

 

「(さすが元)マフィアのボスって感じね。ツナ♪」

 

「嬉しくない…」

 

「COOL!」

 

ケース②ナッツと戯れるツナ(死炎ナシ)

 

「ツナもナッツちゃんもいい感じよ~。」

 

「まぁこのくらいならいいか…」

 

「一人で二人分のツナ!COOL!COOL!」

 

ケース③ナッツのマントを纏うツナ(死炎アリ)

 

「…まさかこの世界で初めて形態変化(カンビオ・フォルマ)したのが撮影の為とは…」

 

「ツナ!カッコいいわよ!」

 

「COOL過ぎるぜツナ!」

 

 

 

という風に、様々なシチュエーションで撮影は進んでいった。終わった時にはツナは疲れ果てていたが、少しの休憩の後、今度はミラとの撮影が始まった。

 

 

ケース①腕を組んで歩く二人(死炎ナシ)

 

「これは来る時もしたから大丈夫ね♪」

 

「恥ずかしくないわけじゃないんだけど…」

 

「COOLだぜ!二人とも!」

 

ケース②ミラはツナにもたれ掛かり、ツナはミラを後ろから抱きしめる(死炎ナシ)

 

「さすがにちょっと恥ずかしいかな///」

 

「俺は最初からずっと恥ずかしいから慣れた。」

 

「HOTな二人!COOL!COOL!」

 

ケース③ナッツと戯れる二人(死炎ナシ)

 

「ん~やっぱりナッツちゃんかわいいわね~」

 

「あげないからね。」

 

「ほのぼのとしててCOOL!」

 

ケース④ミラを抱き寄せ、マントで守るツナ(死炎アリ)

 

「…(ツナの横顔がこんな近くに///)このマントは本当にナッツちゃんなの?」

 

「そうだよ。見てたよね?」

 

「余裕のツナ!照れるミラ!どっちもCOOL!!」

 

…と、様々な撮影を終えた二人はかなり疲れた顔をしている。もうあたりはすっかり暗くなり、今から列車で帰ったら真夜中を過ぎるだろう。そんな時、ジェイソンがコーヒーとあるものを持ってきた。

 

「今日は本当にお疲れ様!COOLな画がたくさん撮れたよ。もう遅いからこれをあげるよ!」

 

もらったのはホテルの宿泊券と、食事券だった。

 

「じゃあ!今日はこの辺で!フェアリーテイルの復活、COOLに待ってるよ!!」

 

ジェイソンは走り去って行った。最初から最後まであのテンションなのは凄いと、ツナは感心していた。頭も疲れているようだ…

 

「あの人は昔からフェアリーテイルの大ファンなのよ。今のギルドの現状を知っていて今回の依頼を持ってきてくれたのよ。」

 

「そうだったんだ…」

 

「それよりツナ!最後の辺りは余裕じゃなかった?ほ…頬にキスとかもあったのに!」

 

「ボンゴレがあった国では挨拶だったからね…撮影に緊張したけど慣れたらそうでもなくなったんだ。」

 

「ふ~ん…そうだったんだ…」

 

ちょっと不機嫌になるミラ…

 

「でもどうする?帰るなら早くしないといけないけど?」

 

「せっかくの厚意だし泊まって行きましょうか。このホテルかなり高級だしね…」

 

「リサーナとエルフマンに連絡しなくていいの?」

 

「ホテルで通信ラクリマを借りるわ。じゃあ行きましょうか。」

 

腕を差し出すミラに苦笑してツナはホテルまでエスコートした。それぞれの部屋に荷物を置いてレストランへ移動する。もちろんツナがエスコートする。…ちなみにリサーナに連絡したというミラに安心したが、連絡先がギルドで、何人もの人に伝わっているのを知らない。男性陣の一部と、とある二人の少女の口から魂が抜けていたらしい。

 

「「乾杯。」」

 

二人は、会話と食事を楽しんだ。今日の撮影も終わってみれば疲れたがとても楽しかったと言える。食事も終わりに近づいてきた時、ミラからこう聞かれた。

 

「ツナ…S級魔導士になりたい?」

 

「?確か試験を受けないとなれないんじゃ…?」

 

「ううん…現在のS級全員と、マスターの推薦があればなれるわ…マスターから話が出てね…ギルダーツとエルザは賛成してるの。ラクサスは破門中だしね。あとは私…」

 

「ミラは反対なの?」

 

「ツナが私より強いのはよく分かってるわ…でも!S級の仕事は一歩間違えれば死に繋がるようなばかりなの。…かつて私はS級になって調子にのって、リサーナを失い、エルフマンの心を傷付け、私自身も魔法を使えなくなった。ナツ達のお陰でリサーナは戻って来たし、私もエルフマンも元に戻ったわ。でもそんな思いは誰にもして欲しくない!だから聞くの。S級になりたい?」

 

「…なりたい。S級は難しく受けられる人も限られてる。だがそれだけに依頼した人は1日でも早く来てほしいと願っているはずだ。約束するよ。自分と仲間を守る為にももっと強くなる。それは俺がマフィアのボスを継ぐと決めた時から変わらない誓いだから…」

 

ミラの目を真っ直ぐ見つめて話すツナにミラは頬を染めながら言う。

 

「ふふっ、分かったわ。ツナなら心配いらないわね。どのみちしばらくはS級の依頼なんて来ないでしょうけど。」

 

「身も蓋もないな…」

 

二人は笑いあった。

 

 

 

 

翌日、フェアリーテイルまで昨日のように、腕を組んで歩く二人。

 

「…この状態で行ったら録なことにならないと思うんだけど…」

 

「ダメよ!さぁ行きましょう♪」

 

明らかに楽しんでいるミラに溜息を吐くツナ。超直感が警鐘を鳴らしているが覚悟を決める。

 

扉を開けると多くの視線が二人に向く。特に昨日の男四人と、ルーシィとウェンディの視線が痛い。

 

「ただいま。付き合わせてゴメンねツナ!」

 

「俺も楽しかったし、いい仕事だったと思うよ。ミラ。」

 

-タメ口?!呼び捨て?!-

 

エルフマンが真っ先に駆け寄ってくる。

 

「ね…姉ちゃん!ツナに何もされなかったか!?」

 

「おいまてこら。」

 

ツナを無視して、ミラに問う。ツナが目を鋭くするが取り合わない。ミラはツナをチラッ見て、イタズラっぽく笑う。超直感の警鐘が最大になる。

 

「そうねぇ…とても刺激的な夜だったわ♪」

 

時が止まった。

 

「お…おいミラ!」

 

ミラはルーシィとウェンディの元に駆け寄って耳元で、

 

「今のは冗談だけどツナは渡さないわよ♪」

 

と囁いた。

 

「「「「ツ~ナ~!!!」」」」

 

「話を聞け~!!!」

 

当然聞こえていない男達はツナに襲いかかる。退けながら外に逃げ出すツナをルーシィとウェンディは呆然と見送っていたが、

 

「ううっ、ミラさんもライバルだなんて…」

 

「どうしましょうルーシィさん…」

 

「ふふっ、ま、お互いにがんばりましょう。」

 

ミラの言葉に三人は仲間でライバルとなった。

 

 

 

なお、週ソラの発売日にはルーシィとウェンディが開店前の本屋に並んでいた。ツナ単体のページは目を輝かせて読んでいたがツナとミラのツーショットには、肩を震わせていた。ミラにズルいと詰め寄るが笑顔で撮影だから仕方ないと嬉しそうに言われ、泣き崩れた。

 

また、男性陣も週ソラを見て、再びツナに襲いかかるが、今度は容赦なく沈められた。どうでもいいことだが…

 

尚、写真はとても好評でツナは【週ソライケメン魔導士ランキング】【彼氏にしたい魔導士ランキング】で初登場1位に輝き、一応フェアリーテイルの名をあげることに貢献した…

 

 




ジェイソンさんのテンションを文章で表現するのは難しいですね。ヒロイン候補が出揃いました。それぞれの魅力があって迷いますね…いっそ全員と…しかし…な状態です。1位はやり過ぎたか?と思いましたがチートツナということで…実はこの話の為に今までカンビオ・フォルマさせなかったり…


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大魔闘演武
復活への道


今回から大魔闘演武編です。


-フェアリーテイル

 

 

「セイバートゥース?」

 

「剣咬の虎でセイバートゥースさ。」

 

ロメオがツナ達に現在のフィオーレNO1ギルドについて説明している。7年前は目立ってなかったが今や天馬やラミアを抑えてフィオーレのトップに立っている。なんでもマスターが変わったのと、5人の強力な魔導士が加わったのが原因らしい。ちなみに現在のフェアリーテイルはぶっちぎりの最下位らしいが…

 

 

「かーはっはっはっはっ!そいつはいい!!面白ぇ!!上にのぼる楽しみが後何回味わえるんだよ!燃えてきたあ!!」

 

ナツの本心からの言葉に皆苦笑いする。

 

「ねえ、ギルダーツは?」

 

「何だよ。パパがいないと寂しいのか?」

 

「バカ!!」

 

父をなくしたばかりのルーシィに配慮しない台詞にカナがそう返す。グレイもすぐに気付き、ルーシィに謝罪する。ルーシィは笑って気にしてないと言うが、

 

「グレイ…もう一度ネッチョリ教えた方がいいのかな?」

 

「すいません!!ネッチョリは勘弁してください!!」

 

即座にジャンピング土下座をかますグレイ。ついでに、ナツとハッピーの顔も青い…

 

「あたしは気にしてないよツナ…でも気遣ってくれて嬉しいな。」

 

ツナに甘えるように寄り添うルーシィにウェンディの視線が厳しくなる。

 

「コホン…ギルダーツならマスター…マカロフさんと一緒に旧フェアリーテイルに行ったぞ。」

 

「よーし…じゃあ今のうちに仕事行っちまうか。」

 

「カナ。その酒樽はいらないんじゃないのかい?」

 

「これがないと仕事にならないのよ~」

 

ルーシィを見てちょっと照れたエルザの答えに、カナは逃げるように仕事に行く。…酒樽を抱えて。ツナがやんわりと注意するがまったく取り合わない。ちなみに親バカギルダーツは、旧フェアリーテイルにて最高機密である『ルーメン・イストワール』を見せられ、五代目マスターへの就任を告げられていた。

 

 

 

 

「マジで…?」

 

「俺らだって7年間何もしてなかったわけじゃねぇ。それなりに鍛えてたんだ」

 

ナツとマックスの模擬戦は天狼組の予想に反して終始ナツが押されっぱなしだった。ツナはそこまで驚かなかった。地力はナツのほうが上かもしれないが戦い方はマックスのほうが上だと分析していた。土壇場でナツ以前ラクサスの雷を食べたことで発動した『雷炎竜』を自分のものにして勝利した。…ナツは倒れたが。相当に魔力を使うらしい…

 

―それにしてもナツはわずかな闘いで驚くほどに成長するな…まるで中学生のころの俺たちを見てるみたいだ。―

 

ツナは中学生の頃の未来での闘いと修行を思い出していた。グレイが困ったように言う。

 

「しかしコイツは思ったよりも深刻な問題だぞ。元々バケモンみてーなギルダーツやラクサス、ツナはともかく俺たちの力はこの時代についていけてねぇ。」

 

「本人を前に言ってくれるねグレイ…」

 

「ほ…褒めてるんだよ!」

 

「たしかに…ナツでさえあのマックスに苦戦するんだもんね…」

 

「あのマックスさんに。」

 

「ルーシィもウェンディも結構言うね…」

 

二人の言葉に落ち込むマックスを尻目に一気に魔力を上げる方法を探してフェアリーテイルの顧問薬剤師のポーリュシカさんのところへ行くことになったツナ達だった…

 

 

 

ポーリュシカに面会したツナ達一行、

 

「はじめまして。ツナヨシ・サワダといいます。ツナと呼んでください。」

 

と、とりあえず自己紹介は受けてもらえたが、二言目には帰れと言われ、食い下がったら箒で追い立てられてしまい、少し離れた場所へ逃げるのだった。

 

 

 

一方その頃フェアリーテイルでは、マカロフの重大発表に伴い、他の全員が集められていた。ラクサスも呼ばれている。

 

「…というわけでわしは引退を決意した。五代目フェアリーテイルマスターは…ギルダーツ・クライヴ!!」

 

無駄にかっこつけて言うが、そこにいたのは笑顔で手を振るミラだった。驚愕するマカロフにミラはにっこり笑って預かった手紙を渡す。手紙には、マスターなんてガラじゃねぇが、3つだけ五代目として仕事をしておくと書いてあった。

 

一つ、ツナをS級魔導士に昇格する。

 

「「「「なにーーー!!!!」」」」

 

「これはわしから言い出したことじゃ。現在のS級全員の推薦もある。ギルドの規則にもちゃんとのっとっておる。…ラクサスにも勝ったしの。」

 

「「「「なにーーー!!!!」」」」

 

「チッ、見てやがったのか。ジジィ…」

 

ラクサスに勝ったということでツナのS級昇格はみんなの納得とともに受け入れられた。

 

二つ、ラクサスをフェアリーテイルの一員として認める。

 

「勝手なことをー!!」

 

ラクサスは困惑し、雷神衆は狂喜乱舞し、マカロフは五代目の決定ならと、しぶしぶ受け入れた…様に見えたが嬉しいのを隠しきれていない。

 

三つ、マカロフを六代目フェアリーテイルマスターに任命する。

 

「またワシかー!!」

 

爆笑とともにマカロフは再びマスターを勤めることになった。ギルダーツは、カナに自分を呼ぶカードを、フェアリーテイルのみんなには自分が帰ってくるまでに再びフィオーレ一のギルドになって見せるように言葉を残していた。だが、居残り組みはそれは話がでかすぎると尻込みする。その時、ロメオがすぐにフィオーレ一になる為にある提案をする…

 

 

 

一方、ポーリュシカに追い出されたツナ達は、少し離れた森の中で休息をとっていたが、ウェンディが涙を流していた。

 

「どうしたの?ウェンディ?」

 

「懐かしくて…」

 

ウェンディがツナに抱きつき涙ながらに理由を話す。さすがにルーシィも何も言わない。

 

「あの人…声が…匂いが…グランディーネと同じなんです。」

 

「グランディーネって確かウェンディを育てたドラゴンだよね…」

 

しかし、グランディーネがポーリュシカに化けてるとしても少しおかしい。ドラゴンは14年前に消えた。ポーリュシカがマカロフと出会ったのはもっと昔の話だ。どういうことだとみんなで悩んでいると、その答えは本人より明かされた。『自分はエドラスのグランディーネ』ということだった。ツナはエドラスについてはミラとの食事の席で軽く聞いていた。それを聞いたルーシィとウェンディの視線が若干厳しくなったが…それはさておき、ポーリュシカはグランディーネが心に語りかけて来た通りに魔法書を書き上げていた。『ミルキーウェイ』『照破・天空穿』という二つの滅竜奥義の魔法書をウェンディに手渡した。

 

「ありがとうポーリュシカさん!!グランディーネ!!」

 

礼を言うウェンディに対して、ポーリュシカは人間嫌いとは思えないほど優しい笑顔をしていた。

 

 

 

ロメオとマカオの親子が『出る』『出ない』で揉めていた所にツナたちがギルドに戻って来た。それに気付いたロメオと、残りのみんなが、

 

「あ、みんなおかえり。あとツナ兄S級昇格おめでとう!!」

 

「「「「おめでとーー!!!!」」」」

 

「「なにー!!」」

 

「ツナがS級?!」

 

「うわぁ、すごいです!」

 

「え~と、ありがとう。みんなに祝ってもらえて嬉しいよ。」

 

戸惑いながらも笑顔で答えるツナ。驚愕するナツ達に先ほどと同じ様に理由が説明される。

 

「ずりぃぞツナ!!てゆーか俺はー?!」

 

「おめぇはツナにあっさり負けただろうが…まぁラクサスにも勝つんだから当然か…」

 

「俺を引き合いに出すのヤメロ…」

 

「ラクサスさん!!破門解けたんですね!!」

 

「ああ…ギルダーツのおっさんの計らいでな…まぁよろしく頼むぜツナ。」

 

「ええ、こちらこそ。」

 

二人は結構気が合うのか気安い友人のように会話している。マカロフはそれを見ながら気付かれないよう口元を緩めていた。

 

その間にもマカオとロメオの話は続いていた。二人が話していたのは、フィオーレ一を決める祭り『大魔闘演武』に出るか出ないからしい。居残り組は二度と出たくないと言い、ロメオは天狼組の復帰や、ツナの加入があるから大丈夫と言う。居残り組もツナの加入はともかく、天狼組の7年のブランクを心配していた。しかし賞金3千万Jに目の眩んだマカロフや、ナツを筆頭に天狼組のやる気に押され、出場することになる。

 

 

 

 

フェアリーテイル復活の為の闘いが始まる…




原作大量コピーてどのくらいから警告がくるんでしょうか…怖いです。


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海合宿と星霊界

お気に入り100件突破本当にありがとうございます。
これからもがんばります。


―フェアリーテイル

 

 

大魔闘演武に出場することになったフェアリーテイル。大会までは残り3ヶ月、燃える天狼組を中心に実力向上の為の合宿を行うことになった。が、その合宿を前にギルドでは、一つの争いが起こっていた…

 

「ツナはあたし達と海に合宿に行くんです!!」

 

「そうです!絶対に譲りません!」

 

「あら二人とも。ツナは私達と山に合宿に行くのよ。」

 

ルーシィ、ウェンディの二人と、ミラの間でツナの取り合いと言う争いが勃発していた。ナツやエルザ、リサーナ、カナなどの同行者も強いツナにはぜひ来て欲しいので成り行きを見守っている。

 

「ねぇ、ツナはあたし達と海に行きたいよね?」

 

「行きましょうツナさん!」

 

「ツナ、山で私の手料理たくさんご馳走してあげるから。」

 

「…間を取ってラクサスさん達と行くのはだめなの?」

 

「「「絶対ダメ!!!」」」

 

「ですよね~」

 

ちなみに巻き込まれるのを恐れたラクサス達は、そそくさと出発した。見捨てられたツナは今度一発殴ってやる!と決意した。話は平行線のままだ。

 

「分かった!こうしよう!前半は海、後半は山に行くから!」

 

「おいツナ…さすがにそれは無理なのではないか?かなり離れているぞ。」

 

エルザが指摘するが地図を見ながら、

 

「いや…幸い直線距離ならそう離れてないし、飛べば2時間くらいで着くと思う。」

 

その言葉にみんな驚く。あらゆる意味で規格外の男だ。

 

「そうか…ならそれでいいな。ルーシィ、ウェンディ、ミラ。これ以上は時間がもったいない。」

 

エルザのまとめに渋々頷く3人。ようやく合宿が始まるのであった。

 

 

 

 

 

やってきたのは海。しかし、修行どころかついた瞬間からエンジョイするメンバーの姿があった。

 

「よっしゃあ!!」

 

「勝負だ!」

 

「グレイ様ステキ…」

 

遠泳をするナツとグレイ。グレイを見つめるジュビア。

 

「修行にはメリハリが大事だ。よく遊び、よく食べ、よく寝る。」

 

「修行抜けてない?」

 

海を満喫しているエルザとレビィ。

 

「遊びに来たんじゃないのよ。」

 

「そうだぞー。」

 

口ではそう言いながら遊ぶ気満々な装備のハッピーとシャルル。監督役として着いてきたジェットとドロイは、

 

「思いっきりエンジョイしやがって…」

 

「初日くらいは大目に見るか。なぁツナ…」

 

と、ツナを振り返ると、

 

「ねぇツナ…どうかなこの水着…」

 

「ちょっと恥ずかしいけどツナさんに見てもらいたくて…」

 

「二人ともすごくよく似合ってるよ。」

 

両サイドを美女と美少女に挟まれたツナが目に入った。さらに周りにいる女性の幾人かがツナを見ている。週ソラの効果が出ているようだ。ジェットとドロイは憎しみで人が殺せたら…と涙を流した。

 

午後からはきちんと修行を始めるメンバー達。みんなそれぞれの方法で、修行を開始した。もちろんツナも修行している。ツナは炎を出しつつメイビスの残した言葉について考えていた。

 

(アルコバレーノ)の炎か…そのためにもまずは大空を他の属性に変えれないといけないはずだけど、はっきり言ってできる気がしないな…何ていうか根本的に何か違う気がする。仕方ない、この話は1回忘れよう。今は瞬間的な炎圧のアップとNEWナッツの能力の把握を重点的にやっていこう。―

 

修行の方針を決めると、ツナは炎圧を高めていく。各々は日が暮れるまで訓練を続ける。7年間帰りを待っていたみんなのために…

 

 

 

民宿に帰ってきたツナ達は、男女分かれた部屋で過ごしていた。充実した一日だった為、お腹が空いていた男性陣達は揃って大広間へ移動したが…そこで見たのはすでに食べつくされた食事と、べろんべろんに酔っ払った女性陣だった。

 

酒瓶を手に怒鳴っているエルザ、笑い上戸のレビィ、泣き上戸のジュビア、絡み上戸のルーシィ、女王状態のシャルル、すでに酔いつぶれて目を回すウェンディとすでに全滅状態だ。

 

「料理が…」

 

「困ったねこれは…」

 

「女将ー!!何で酒がここに…がはっ!!」

 

グレイが女将を呼ぼうとすると、エルザからお猪口が飛んでくる。そのまま酒を注げと言われるがジュビアが泣きながら、グレイをひったくる。エルザの次の標的はジェットとドロイだ。相当に理不尽なことを言っている。シャルルはハッピーの背に乗りまるで奴隷のように扱っている。レビィの相手をしていたナツは我慢の限界を迎えたのか、

 

「だぁー!!これはフェアリーテイル存亡の危機だ!!男共集まれ!作戦会議だー!!」

 

と叫ぶが、誰も集まらない。絶望しかけるナツに、

 

「少しは落ち着きなよ、ナツ。」

 

と声がかかり、そうだ、ツナがいたと希望を見出すが振り向いた先には、目を回してつぶれているウェンディを膝枕し、甘えてくるルーシィをあやす様に相手をしているツナの姿だった。

 

「ツナ!何でそんなに余裕なんだよ!」

 

「だから落ち着きなよナツ。酔っ払ってる女の子を介抱する優しさはないの?」

 

「この状態を見て言ってくれーー!!」

 

ジュビアの水の体に飲まれそうになっているグレイが叫ぶ。ナツに今度はエルザが迫る。足元にはジェットとドロイが沈んでいる。恐ろしいことに剣まで換装している。

 

「ナツー!!酒を注げーー!!」

 

「ぎゃああ!!ツナー!助けてくれー!!」

 

「ナツ。だから酔った女の子には…」

 

「ツナだと!あいつは本当に男か?!」

 

「ーは?」

 

ピシィと空気が凍る音がした。その余波でエルザ以外の女性陣の酔いが覚め、表情が青ざめる。ウェンディも飛び起きた。特にナツとグレイは恐怖に震えている。

 

「よく聞こえなかったんだけど今エルザ何て言ったのカナ?」

 

「だから!アイツは本当に男かと聞いて…い…る…」

 

笑顔で近くまで来たツナの顔を見て、エルザも酔いが覚めると同時に顔を青ざめさせる。目が全然笑ってない。

 

「へぇ~…エルザってそんな風に俺のこと思ってたんだ…」

 

「ツナ!落ち着いてくれ!不覚にも私は酔っ払って…」

 

「エルザ知ってる?人は酔ってる時に本音になるらしいよ…」

 

エルザの言葉を最後まで聞かずに言葉を重ねるツナ。助けを呼ぼうと周りを見渡すとみんなはこちらを一切見ずに、

 

「ここの温泉は広くて気持ちいいらしいぜー。」

 

「わぁ楽しみー。みんな早く行こうよー。」

 

「じゃあ行こうぜー。」

 

「覗いたら許さないわよー。」

 

「ツナ様がいるのにそんなことするかよー。」

 

「それもそうですねー。」

 

「お…お前達ぃぃぃぃっ!!!」

 

明らかに棒読みの台詞を言いながら広間を後にするみんなに縋るエルザ。だがツナが逃がすわけもなく、エルザの肩を掴む。

 

「エルザ…お酒は節度を持って楽しむものだと思うんだ。前にいたところでもね、毎回毎回酔っ払うたびに暴れたり、喧嘩したり、挙句の果てには銃をブッ放す奴までいたんだ。その後始末は全部俺がやってたんだよ。そんな奴らは凍らせて黙らせてたんだ。あ、安心して。エルザにはそんなことしないよ。女性に俺がそんなことするわけないじゃないか。でもね分かって欲しいのは…」

 

その後お風呂で覗きなどが発生するわけもなく、風呂から上がったナツたちが見たのはつやつやに輝いて笑顔のツナと、真っ白に燃え尽きて、お酒は節度を守って飲みます…と呟くエルザだった…

 

 

合宿二日目、昨日の悪夢を振り払うかのように特訓するメンバー達。その甲斐あってか、全員が実力の向上を肌で感じていた。だがルーシィの星霊であるバルゴが出てきて星霊界の危機を救って欲しいと告げる。快諾したツナ達は星霊界へと連れて行かれる。何故かジェットとドロイを残して…

 

星霊界はまさに幻想的という言葉がぴったりだった。そして現れた星霊王が口にしたのは、危機はでたらめで時の呪縛より帰還したルーシィと、その友を祝福する宴であった。盛大な宴が始まった。チラッと嫌な予感が頭を掠めたが楽しい宴に忘れていった。以前会ったバルゴは、

 

「ツナ様。この前はご挨拶もせずに申し訳ありません。姫の星霊、バルゴです。」

 

「こちらこそ。様はつけなくていいのに…てか何で姫?」

 

「姫がそのように呼ぶようにと。」

 

「合ってるけど違ぁう!!」

 

「ルーシィ大丈夫。女の子はいつまでもお姫様に憧れるものだと思うし…」

 

「あ~ん、違うのツナ!!」

 

アクエリアスは、

 

「へぇ~じゃあアクエリアスは小さい頃からルーシィと一緒だったんだ。」

 

「まあね。ガキの頃のコイツはすぐピーピー泣くし…」

 

「ちょっと!」

 

「優しいんだね。アクエリアスは…」

 

「なっ…」

 

―アクエリアスが照れてる?!―

 

ロキは、

 

「ロキもフェアリーテイル一員なんだよね?」

 

「うん。よろしくねツナ。でもルーシィのナイトの座は簡単には渡さないよ。」

 

「ナイトにした覚えはないわよ…」

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、ルーシィがどれだけ星霊達に愛されているかを知った。涙とともにお別れしたルーシィ。バルゴが現世と星霊界とは時間の流れが違うと言う。ナツとグレイは喜んでいるがやはり嫌な予感は消えない。

 

その予感は現実となり、現実では3ヶ月の時が過ぎ、大魔闘演武まではあとたったの5日… 

 

 

 

「「「終わった…」」」

 

 

 

 




ツナは大事な何かを忘れています…


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魔女の罪と山合宿

合宿編終了です。ミラのツナに対する対応は…


蛇姫の鱗(ラミアスケイル)

 

今年こそは優勝を狙う為に満を持して聖十の称号を持つ人類最強の魔導士と、氷の造形魔導士が参加を決めた。

 

 

青い天馬(ブルーペガサス)

 

聖十の称号を持つ者の出場に危機感を持ち秘密兵器の投入を決める。新たなイケメンを意識する。

 

 

剣咬の虎(セイバートゥース)

 

白竜と影竜は7年前に消えた火竜と鉄竜を待ちわびる。

 

 

大鴉の尻尾(レイヴンテイル)

 

妖精を黒く塗りつぶす為に動き出す。

 

 

 

主要ギルドの数多くがフェアリーテイルを意識する中、途方に暮れている海合宿メンバー達。ツナやエルザはともかく他のメンバーはこの時代の闘いについていけるとは思えない。だが諦めるわけにはいかない。残り5日間で地獄の特訓を行うと告げたエルザ。そのとき1匹の伝書鳩が希望を持ってきた。

 

「誰もいねーじゃねーか。」

 

「イタズラかよ。」

 

手紙に書いてあった壊れた橋までやってきたが誰もいない。イタズラかと思うメンバーの前で橋が巻き戻るように修復した。驚愕する一同。

 

「やっぱり罠かもしれないよ。」

 

「いや、危険な感じはないな。気配は3つだ。」

 

「なんで危険はないって分かるの?」

 

「…勘だけど。」

 

ツナの超直感の説明とともに橋を渡る。知らなかったシャドウギアとジュビアは大層驚いていた。そこに現れたのは予想どうり3人、ジェラール、ウルティア、メルディの独立ギルド魔女の罪(クリムソルシエール)のメンバーだった。元闇ギルドのメンバーと、脱獄犯の組み合わせにはびっくりしたが、罪を悔い、新たな犠牲を生み出さない為にゼレフと闇ギルドをつぶす為に彼らは、新たな道を歩き出した。

そんな彼らの頼みは、会場に近づけない彼らの代わりに大魔闘演武の最中毎年ゼレフに似た魔力を感じるのでそれを調べて欲しいということだった。エルザは承諾し、全員がそれを受け入れた。報酬は内なる器を成長させ、『第二魔法源(セカンドオリジン)』を使えるようにすること。ただし、想像を絶する痛みに耐えなければならないこと。これには全員飛び上がって喜んだ。ナツが感極まってウルティアに抱きついたところで、鉄拳制裁した。

 

「むやみに女性に抱きつくな!」

 

「ち…違うほんとは男…」

 

「だから女だって…」

 

「どこからどう見ても綺麗な女性にしか見えないだろう。」

 

綺麗と言う言葉に反応する若干二名…

 

「ところで君は…」

 

ジェラールの問いに、そういえば初対面だと思い出し、自己紹介をする。彼らもそれぞれ名乗り、取り敢えずパワーアップはナツから行うことになった。

 

 

想像を絶する痛みとはよく言ったものだ。身体中に模様が広がり、バキバキと体の中から音がして、痛みにのたうち回るナツを見ている者達は顔を青ざめさせていた。ルーシィとウェンディはツナにしがみついている。エルザは先程ジェラールとどこかへ行った。どうもジェラールは迷いを抱えているように見えた。二人の関係は先程メルディやルーシィから詳しく聞いた。

 

「エルザとジェラール…大丈夫かな?喧嘩とかしてないよね。」

 

「どうかな…ジェラールは何か迷いを抱えているように見えたからな…エルザに渇を入れられているんじゃないかな?」

 

「うわ、鋭いね。確かにこのギルドを結成した後も時々ジェラールは考え込んでるからね。」

 

ルーシィ、ツナ、メルディ、ウェンディが会話する。

 

「でもエルザさんはジェラールさんを大事に思ってますよ。以前ジェラールさんが捕まった時も…」

 

「それはジェラールも同じだよ。エルザのことを大切に思ってるよ。」

 

「でもお互いの境遇から絶対に素直にはなれないだろうね…さっきもジェラールはエルザに申し訳ないって顔してたし、エルザは厳しい顔しながらもどう接していいのか分からないって顔してたしね。」

 

溜息を吐きながら言う。グレイにも模様を刻みだした。大切なものほど遠ざけておくという考え方は理解できる。かつての自分もそうだったから…

 

「ふ~ん…よく見てるんだね~」

 

興味深いという視線を向けるメルディを含め雑談しながら時間を潰す。ルーシィもウェンディも自分の番の時はツナの手を握っていたが、模様が刻まれた瞬間には手を離しのたうち回っていた。程なくしてメルディはどうやらジェラールたちを探しに行ったようだ。しばらくしてエルザ達も戻ってきたことにより、エルザとツナにも処置が施された。

 

 

「「「あああああっ!!!」」」

 

小屋の中から絶叫が聞こえる中、クリムソルシエールのメンバーが出発するのを見送るツナとエルザ。

 

「おかげさまでみんな動けそうにない。」

 

「でも本当にありがとうございます。ウルティアさん。」

 

「何であんた達は平気なの?てか私も呼び捨てでいいわよ。」

 

ツナとエルザが平然としているのを信じられないように問う。

 

「謎の魔力の件は確かに了承した。」

 

「マスターやミラ達にも協力を頼みますので…ミラ?」

 

ツナの顔が一瞬で青ざめる。今さらになって約束を思いだした。

 

「しまった!!すぐに行かないと!!エルザ!他のみんなのこと頼むよ!ジェラール、ウルティア、メルディ、それじゃ、ありがとうございました!」

 

「お、おいツナ!」

 

エルザが引き留めるもツナは超死ぬ気モードになると全速力でミラ達のいる山の方へ飛んで行った。残された四人は呆然とツナの飛んで行った方を見る。

 

「凄いスピードだな…俺より速いな。」

 

「本当に凄いね…週ソラにも載ってたんでしょ?今度手に入れてみようかな。」

 

「あら、メルディ彼のこと気に入ったの?」

 

「ウルだって綺麗って言われてまんざらでもないくせに…」

 

「ふふっ、そうね。」

 

「勘弁してくれ…ギルド内でも争奪戦が勃発しているんだ。」

 

ツナがいなくなったことにより、憤慨するであろう二人の少女の機嫌をどう取るか…頭の痛いエルザだった。

 

 

 

全速力で空を飛び、ミラ達がいる山に着いたツナはリサーナとカナを見つけて地上に降りる。二人はいきなり降りて来たツナに驚きながら、

 

「あ、ツナ!やっと来たのね!」

 

「あんた今まで何やってたんだい!?」

 

「ゴメン…不可抗力で…ミラとエルフマンは?」

 

「あっちの広い所で模擬戦してるよ。最近ミラ姉すっごく機嫌が悪いの。ツナが来ないから…」

 

「そんなに…?」

 

「まあね。当たられる私達はたまったもんじゃないよ。とっとと行って一発二発もらっておいで!」

 

「分かった…じゃあ行ってくるよ。」

 

再び飛んで行くツナ。無事に済むように願う二人だった…

 

エルフマンは考える。姉が自分を鍛える…それはいつものことであり、強い姉を尊敬している彼にとっていつか姉を越え、自分が姉と妹を守るのだと常に思っている。だがいつも笑顔を絶やさず優しい姉がこの1ヶ月と少しの間機嫌が悪く、こうして訓練にもそれが表れている。

 

「エルフマンどうしたの?もう終わりなの?!」

 

「うう…姉ちゃん…」

 

「まだやれるわよね?立ちなさい!」

 

サタンソウルとビーストソウルで変身した二人が向かい合っている。ミラは余裕でエルフマンは肩で息をしつつ、片膝を地面につけていた。

 

「ミラ~!」

 

「ツナ!ツナなの?」

 

「遅くなって本当にゴメン…」

 

「ふざけんなぁ!!遅いにもほどがあるだろ!!」

 

「…」

 

ミラの前に着地して、謝罪するツナに対し機嫌が悪いミラに散々しごかれたエルフマンは涙混じりに怒鳴り、ミラは俯いて何も言わない。これは一発くらい殴られるかなと思っていると、ミラは顔をあげ、サタンソウルを解除して抱きついてきた。

 

「ミラ?」

 

「姉ちゃん?!」

 

「すごく心配したんだからぁ!何かあったんじゃないかって!ツナが全然来ないから…うう…」

 

「ホントにゴメン…心配かけたね。」

 

「ううん。いいの…ちゃんと来てくれたから…ねぇ!お腹空いてない?ご飯作ってあるから。」

 

「そういえば何も食べてないな…頂くよ。」

 

「うん!じゃあ行きましょ!」

 

ミラはツナの手を取って歩きだした。先程までの姉との変わりように残されたエルフマンは、しばらくそのまま動けなかった…

 

 

ミラがよそってくれた食事を食べながらツナは海で起きたことを説明する。もちろんミラは終始笑顔で隣に寄り添っている。(エルフマンも肩を落として戻ってきた。)

 

「そんなことがあったの?」

 

「うん3ヶ月が1日で過ぎちゃったからね。クリムソルシエールが来なかったらホントにやばかった…」

 

「じゃあナツ達は今地獄の苦しみの中にいるのね…」

 

「心配かいリサーナ?」

 

「ううん。ナツなら乗り越えられるとおもうから。」

 

「ナツなら…ね。」

 

「あ!ナツだけじゃなく他のみんなもね!」

 

「ふふっ、リサーナったら可愛いんだから。」

 

「ミラ姉には言われたくないよ!」

 

「ねぇ…エルフマン…昨日までのミラとまるで別人なんだけど…」

 

「うう…姉ちゃん…」

 

「あんたもそろそろシスコンは大概にしな。」

 

昨日までとまるで違うミラの様子にカナとエルフマンは愚痴り合う。相当酷かったらしい…そのままニ泊して、フェアリーテイルに帰還する面々だった。

 

フェアリーテイルに帰還した一同。ナツ達は既に帰還しており、大魔闘演武が行われるクロッカスへと出発したらしい。選手は、ナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、ウェンディの5人。選手選考に間に合わなかったとエルフマンは悔しがったが、取り敢えずみんなで応援に行くことになった。余談だが、ラクサス達も帰ってきてたので、合宿前に見捨てたお礼に一発殴ったら本人よりフリードが怒っていた。

 

そろそろ出発と言うときにツナと、一緒にいたミラはマカロフに呼び出された。そこにはガジル、ジュビア、ラクサスもいた。大魔闘演武には2チームまで出場できるらしいのでこの5人でBチームとして、チームを組むようにとのことだ。

 

「ジュビアは出場するよりグレイ様の応援がしたいです。」

 

「冗談じゃねぇ。そんな見世物に出るかよ。」

 

「出るのは構わねぇがBチームってのが気に食わねぇ。」

 

「ツナが出るならいいけど…」

 

「分かりました。俺でよければ。」

 

「じゃあ私も。」

 

消極的な三人にマカロフが勝った方が負けたチームに言うことを一つ聞かせられるという条件を出したのでそれぞれやる気を出したようだ。ミラはぶつぶつとこれで私が正妻になどと呟いている。

 

ここに、ツナ、ミラジェーン、ガジル、ジュビア、ラクサスのBチームが誕生した。取り敢えずBチームのことは内緒にして、クロッカスへと出発した。

 

妖精達の大魔闘演武が始まる…

 

 

 




ということでツナはミストガン(ジェラール)の代わりにBチーム入り。少しオリジナル展開になるので点数計算などで毎日更新は難しくなりますが、頑張ります。


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大魔闘演武予選 ―Ateam―

今回はツナは出ません。


―フィオーレ王国首都、花咲く都クロッカス

 

 

年に一度開かれる魔導士たちの宴大魔闘演武が行われるこの街は、出場する多くの魔導士達と、それを見る観客達で溢れ返っていた。それに出場するフェアリーテイルAチームの面々は街中でぐったりしていた。ウルティアに施された時のアークによる魔力の器を成長させる処置がまだ完全に終わってないようだ。

 

「おい…まだ調子悪いぞ。」

 

「でも魔力は上がってるよ。体はまだ痛いけど…」

 

「情けないぞ。お前達しっかりしろ!」

 

「エルザは何で平気なの?」

 

「元から第二魔法源(セカンド・オリジン)があったんだろ。…ツナもな。」

 

「そーよ!ツナはまだ来てないの?」

 

「まだ山にいるんでしょうか…」

 

そんな風に会話をしていると、マカロフと、チームシャドウギア、コネル一家がやってきて、大会参加の手続きを済ませてきたと話す。Bチームのことは内緒にしている。その時、周りの民衆からフェアリーテイルをあざ笑うような嘲笑が起きる。毎年最下位のフェアリーテイルは民衆からの支持も失っているようだ。ナツが激昂しかけるがマカロフが、笑いたい奴は笑わせとけと諭す。

 

「よいか、三千万ジュ…フィオーレ一のギルドになるために全力を出すんじゃ。このままでは我らを救ってくれた初代に申し訳がたたん。」

 

Aチーム全員が頷く。選ばれた時を思い出していた。ルーシィとウェンディはツナやラクサスがいるのに何で自分達が…と思ったがチーム力を優先して選ばれたのだというエルザの言葉にやる気を出す。その時マカロフが呟いた言葉は聞こえていなかったようだ。

 

「ガチで挑むなら…ギルダーツとラクサス、ツナとミラジェーン、そしてエルザで挑みたかったなぁ…とか思ったり…」

 

「「口に出してんぞ!!!」」

 

ナツとグレイにはしっかりと聞こえてたが…まぁ全員S級の最強チームと言えるだろう。

 

まぁそんなこんなでルールの確認をすることになった。分厚いルールブックだったが、大まかにはギルドマスターは参加できない。紋章をつけてない者を客人として出場させない。競技内容は開始直前まで不明とのことだった。尚、注意書きに夜中の12時までに指定された宿にチーム全員集合することとあった。

 

「マスターあの…ツナさんはまだ戻ってきてないんですか?」

 

「そーよ。ツナ知りませんか?」

 

「む…もう来とるぞい。特に集合場所なんて決めとらんかったからのう…観光でもしとるんじゃないかのう。」

 

「「ミラさんと?」」

 

ズイっと詰め寄る二人にそこまでは知らんと惚ける。同じチームだし、同じ宿になるし、おそらく一緒じゃろうなぁ…と思ってるが口には出さない。怖いから…

 

とりあえずエルザは宿で待機することになった。ナツとハッピーとルーシィ、グレイは一人で、ウェンディはシャルルと共に街の散策に出かけた。もっともルーシィとウェンディは散策ついでにツナを探そうと思っていたが…

 

グレイは散策中にジュビアと出会った。(ジュビアもBチームであることをばらすのは禁じられている。)一緒に二人で食事をというジュビアにちょうどお腹が空いていたこともあり、承諾しようとするがそこに兄弟子でもあるラミアスケイルのリオンが乱入し、自らとの食事に誘う。

 

自分達のギルドが勝ったらジュビアをよこせというリオンにグレイもさすがに反発する。結局3人でまったく楽しくない食事をする羽目になり、グレイとジュビアは憂鬱になった。

 

ウェンディとシャルルは街を散策しながら、(ウェンディはツナを探しながら)王城である華灯宮メルクリアスまで来ていた。その王城の雄大さに感激し、まだ見ぬ国王を想像していた。そこに黒い小さな悪魔のような影が忍び寄る…

 

ナツとハッピーとルーシィは、花にあふれる城下を散策していた。(ルーシィはツナを探しながら)ところが街中で喧嘩が起こり、野次馬として見物に行くとそこにはフィオーレ最強ギルド、セイバートゥースの双竜の異名を持つ、スティングとローグが絡んできた魔導士達を一蹴していた。

 

ナツに気づいた双竜は驚いていたがアクノロギアを倒せなかったドラゴンスレイヤーに意味はあるのかと挑発してくる。そして、自分達ならアクノロギアを倒せると…それは現実を知らないが故に出た言葉だったが二人にはそれを口にする理由があった。双竜は語る。自分達は竜に滅竜魔法を教わり、体にラクサスのように滅竜魔法の使えるラクリマを埋め込んだ第3世代のドラゴンスレイヤーであり、そして育ての親である竜を自らの手で殺したと…親を尊敬するナツには許せるものではなかった。

 

 

12時少し前、不愉快な思いをしたフェアリーテイルAチームメンバーは宿に集まっていた。しかし、ウェンディが未だに戻ってきてなかった。

 

「「あいつらだけは許せん!!」」

 

ナツとハッピーが異口同音で口にする。ハッピーも双竜がつれていたエクシード達に馬鹿にされたようだ。

 

「ウェンディはまだか?」

 

「そういえば…」

 

「はっ!!まさかツナと会ってそのまま…」

 

「いや…さすがにツナと会ってもちゃんと戻ってくるだろ…小説書きはみんなこーゆー想像力なのか?」

 

グレイが辟易していると、エルフマンとリサーナが差し入れを持ってきた。エルフマンが自分も出たかったと嘆き、ルーシィはリサーナにツナを知らないか訊ねるが、街についた途端ミラやラクサス達とどこかへ行ったと知り、機嫌を急降下させていた。まぁラクサスの名前が出た為そこまでではなかったが…

 

二人にウェンディの捜索を依頼したところで12時の鐘が鳴り響く。同時に宿が変形し、これより、113あるチームを8つまで絞る予選を行うことが通達される。多すぎるギルドの数に疑問を抱くエルザとルーシィだが、考える暇もなく予選はスタートする。5人揃ってゴールしないと失格なので、このままウェンディが来なければスタートすらできない。万事休すかと思われた時、

 

「ウェンディがいなくとも(おとこ)がここにいる!!メンバー変更じゃ~い!!」

 

強引にメンバーチェンジしたエルフマンを加わり、四人を抱えて階段を駆け上がる。エルザは変更を了承し、リサーナとハッピーにウェンディを探すように告げる。

 

大魔闘演武予選『空中迷宮(スカイラビリンス)』が始まった。ゴールは本戦会場であるドムス・フラウである。ナツ達の宿から見て東の方角がゴールだ。

 

方角を見失わないようにマッピングをしながら慎重に進むAチーム。そこに現れたのは黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の連中だ。このギルドは天狼組のいなくなったフェアリーテイルに対して高利子で金を貸し、それを利用し様々な嫌がらせをしていた連中だ。しかし、ちょうど帰還した天狼組に嫌がらせしていた連中はボコボコにされ、後日マカロフ、エルザ、ミラの三人に事務所に殴り込まれマスターもろとも全員やられたという過去がある。

 

しかしその描写すらなかったような連中がナツ達に勝てるはずもなく、瞬殺された彼らがマッピングしていた地図を手に入れたナツ達は、この試験は他のチームの地図を奪いより正確な地図を完成させてゴールを目指すものと判断した。

 

「地図を奪え~!!!」

 

出会ったチームを片っ端から倒して地図を奪う。まさに盗賊や海賊のやり口だった。率先してナツ、グレイ、エルザ、エルフマンの四人は殴り、倒し、奪うを繰り返している。…エルザはボンテージ姿に換装して、女王様状態で自ら地図を譲り受けている。

 

-ツナ…こいつら何とかして…-

 

ツナがいればこんな手段は取らせなかっただろうな。とこのチーム唯一の常識人を自称するルーシィは心の中でツナに助けを求めながら他のチームが落とした地図を回収していった。

 

順調に地図を集めゴールにたどり着いた5人。ゴールには大会公式マスコットキャラのマトー君がいた。ここまで来ればルーシィも吹っ切れたのか笑顔だ。みんなドヤ顔で拍手するマトー君を見つめる。

 

「おめでとうございます。予選通過決定です。」

 

「すんげー順調だったしな。」

 

「もしかしてあたし達1位なんじゃ?」

 

ルーシィが期待を込めて尋ねるが、

 

「いえ。8位です。ギリギリ予選通過です。」

 

「「「「「え…」」」」」

 

現実は甘くなかった…

 

 

その頃ウェンディとシャルルを探すリサーナとハッピーは、華灯宮メルクリアスのそばで道端に落ちているウェンディのバッグを見つけていた…

 

 




次回はBチームサイド


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大魔闘演武予選 ―Bteam―

オリジナルのBチームサイド。最近ミラ贔屓のような気がしますが同じチームだし仕方ありませんな…
それとお気にいり250件越えました。応援ありがとうございます。


―フィオーレ王国首都、花咲く都クロッカス

 

 

 

ツナ達Bチームの面々と応援メンバーの一部はクロッカスに到着した。ミラがツナの腕を取って組んでいるのはもはや誰も突っ込まない。

 

「ここがフィオーレ王国の首都か…流石に人がすごく多いね。」

 

「そうね。特に今は大魔闘演武のためにフィオーレ中から魔導士と観客が集まっているから…」

 

「どうでもいいが俺達は一度宿に行くぞ。チーム毎に宿が振り分けられているらしいからな。」

 

ラクサスの言葉にBチームのメンバーは頷く。一応Bチームのサポートは雷神衆がしてくれるらしい。

 

「ところでなぜ私達のことを内緒にしなくてはならないのでしょうか?」

 

「知るかよ…マスターの思い付きじゃねぇのか?ま…サラマンダーの驚く顔を見るのも悪かねぇ。」

 

「そうね。面白そうだし内緒のままにしときましょ♪」

 

チーム全員が頷く。その時フリードが宿の場所を確認してきたので案内に着いていくことにする。ミラがエルフマンとリサーナに後でAチームに差し入れを持って行ってあげるように指示を出して自然に別れた。

 

 

「便利だな…そのボックス…」

 

全員分の荷物をボックスから出したツナにガジルが少し羨ましそうに言う。それに全員が同意する。Bチームは取り敢えずルールの確認をする。ルールブックを読んでいたフリードが言うには、特に重要なことは競技は直前まで分からないことと、今夜12時までにチーム全員が揃っていることらしい。それまでは各自自由行動をすることになった。

 

「ジュビアはグレイ様に会いに行きます!」

 

「会いに行くのはいいが、Bチームのことは黙っとけよ。」

 

「分かってますけど…グレイ様に隠し事は…」

 

「まあまあ…大会で会った時のグレイの驚く顔が見たくない?でもグレイの居場所知ってるの?」

 

「分かりませんがジュビアの愛の力で…」

 

「この辺りに行けば会える気がするよ。」

 

ツナは地図のある一点を指差してジュビアに伝える。合宿でツナの勘について聞いていたジュビアはそれを信じて出かけて行った。

 

「そんなことまで分かるのかよ?」

 

「まぁ代々のボンゴレのボスはこの超直感を使って組織を裏社会のトップまで発展させてきたからね。」

 

ラクサスの問いに答えるが、ツナの超直感は歴代のボスたちの中で最強の超直感を持つ初代以上とまで言われていた。

 

「じゃあツナ。せっかくだから私達も散策に出かけましょう。」

 

「いいよ。二人はどうするの?」

 

確認のためにラクサスとガジルに聞いた時ツナの後ろでミラが凄い目で見ていた。それを見たからではないがラクサスと雷神衆は宿にいる。ガジルはリリーと適当に見て回るという答えが返ってきた。別にミラの目にビビった訳ではない。好き好んでラブラブカップル(周囲視点)と一緒に行動したいとは思わない。そんな訳でツナとミラは出かけることにした。

 

 

クロッカスは花で溢れていた。まさに花咲く都という名に相応しい街だった。途中で花の冠をミラに買ってあげたり、軽いものを食べたりしながら歩いていた。そんな時ツナはあることに気付いた。

 

「何か結構視線を感じない?」

 

「そうね。」

 

「そんなの当たり前じゃない?」

 

後ろからの声に振り返ると1人の女性と三人の男性がいた。

 

「7年振りねミラ。それにしても本当に歳を取ってないのね。」

 

「…もしかしてジェニー?わぁ久し振りね。私にとっては半年振りくらいだけどね。」

 

「ミラの知り合い?」

 

「うん。彼女はジェニー。青い天馬(ブルーペガサス)のメンバーでモデル仲間だったの。後ろの三人は前に闇ギルド討伐でナツやルーシィ達と共闘したの。」

 

後ろの男達に目をやると無駄にポーズを取って自己紹介を始める。

 

「我らはブルーペガサスのトライメンズ、百夜のヒビキ。」

 

「聖夜のイヴ。」

 

「空夜のレン。」

 

「ミラさんの時の呪縛からの帰還を心から祝わせてもらうよ。」

 

ブルーペガサスといえばフェアリーテイルの友好ギルドだったと思い出し、ツナはヒビキ達のキャラの濃さに若干引いていたが、取り敢えず名乗られたのだからこちらも名乗らなければと思い、

 

「は…始めまして。ツナヨシ・サワダと言います。呼びにくければツナと呼んでください。フェアリーテイルの新人です。」

 

「それでジェニー?何で当たり前なの?」

 

「ミラがツナくんと一緒に撮影したグラビアがとても好評だったの。ミラも7年振りに帰ってきたのに歳をとってないし、ツナくんに至っては初登場でウチの男共を押さえてイケメン魔導士ランクトップ。そんな二人が腕組んで歩いてたら視線を集めて当たり前なのよ?」

 

懐かしい呼ばれ方をして初恋の少女を思い出していたツナに男三人はビシッと指を指して告げる。

 

「「「そう!君は!新たなライバル!」」」

 

はは…と乾いた笑いを浮かべるツナに何やらやたらと甘い声が聞こえる。

 

「その辺にしておきたまえ、君達。」

 

「「「一夜様!」」」

 

登場したのは二頭身くらいで顔が大きい小さな男性だった。さらに濃いキャラの登場にブルーペガサスって一体…と考えたツナは悪くないだろう。この上マスターを見たらどうなるやら…

 

「この人はブルーペガサスのエースの一夜さん。エルザのダーリンなの。」

 

「えっ!!!」

 

今日一番の驚きを込めて聞き返す。

 

「だってエルザのことをマイハニーって呼ぶのよ。」

 

自称ダーリンかと結論付けるツナ。他の人と同じように自己紹介をする。

 

「諸君、マスターが呼んでいる。残念だが一度戻らなくてはいけない。旧交を暖めるのはまたの機会にしようではないか。」

 

「では俺達はここで失礼しますね。」

 

「ジェニーまたね。」

 

去って行くツナ達を見ながらヒビキが一夜に問う。

 

「一夜さん。マスターが呼んでいるんじゃ?」

 

「あれは嘘だよ。諸君、覚えておきたまえ。真なるイケメンは空気を読むことも大事なのだ。」

 

「「「押忍!先生!」」」

 

「それにしてもあの少年、只者ではないな…何というイケメンの香り(パルファム)。」

 

「ツナくんか…確かにウチの男共を押さえて1位になるだけはあるわね。」

 

「くそっ、一夜さんにそこまで言わせるなんて、どんだけイケメンなんだよ。」

 

ブルーペガサスの連中はツナとミラが去った後、ツナが聞いたら心底どうでもいいと思うであろう話をしていた…

 

 

12時少し前、Bチーム全員が宿に揃っていた。ジュビアが憂鬱そうだったのでミラが声をかける。

 

「どうしたのジュビア?」

 

「いえ…ツナさんの言う場所に行ったらグレイ様に会うことができたんですが…そこにリオン様まで乱入されて結局三人で食事を…」

 

「あらら…」

 

「そんな話はどーでもいい。」

 

「ガジル…ジュビアにとっては大事なことなんだよ。」

 

「そ、そーじゃねーって!もうすぐ12時だからそれどころじゃねぇって話だよ!!」

 

「確かにそろそろだな…何があるんだ?」

 

12時の鐘が鳴り響く。同時に宿が変形し、これより、113あるチームを8つまで絞る予選を行うことが通達される。

 

「予選なんてあるんだ。」

 

「今からかよ!」

 

大魔闘演武予選『空中迷宮(スカイラビリンス)』が始まった。ゴールは本戦会場であるドムス・フラウである。ツナ達の宿から見て西の方角がゴールだ。

 

「よっしゃあ!絶対にサラマンダー達より先にゴールするぞ!」

 

「ふふ…楽しみね。」

 

「ゴールは西の方ですね。」

 

「だが迷宮っつーくらいだ。色々仕掛けがあるだろ。」

 

「ここは俺に任せて!こういうのは大得意だ!」

 

超死ぬ気モードになり、自信満々のツナを先頭にスカイラビリンスへ突入して行くBチームの面々。入ってすぐにあった分かれ道にツナは躊躇わずに通路を選ぶ。ガジルが思わず、

 

「おい!ゴールはあっちだぞ!」

 

「大丈夫!俺を信じて!」

 

「いいのかよ!?」

 

「ツナを信じましょう。」

 

「だな…俺は身を持って知ってるからな。」

 

「ジュビアも今日グレイ様に会うことができましたし…」

 

「くそっ、どうなっても知らねーぞ!」

 

そのままツナが選んだ通路を走る5人。その後もツナが選ぶ道を進んで行くと、ツナが叫ぶ。

 

「通路の左端に寄って走って!」

 

いう通りにすると迷宮が回転し、左の壁が床になる。どうやら方角も変わったようだ。

 

「2分後に上から敵が来るよ!迎撃準備!」

 

ラクサスが雷で一蹴する。

 

「預言者かコイツは…」

 

「頼もしいでしょ?」

 

「凄すぎますね…」

 

「何にしてもこのまま行くぞ!」

 

その後もツナが指示を出して数々のトラップを避けながら迷宮を走りながら進んで行く。これまでまったく止まっていない。走りながらツナが、

 

「空飛べる人、準備!飛べない人、挙手!」

 

ミラがサタンソウルで変身し、ラクサスが雷を纏う。ガジルとジュビアが挙手をする。

 

「ラクサスさん!ガジルをお願い!ジュビア!ゴメンね!」

 

「えっ?」

 

隣にいた戸惑うジュビアを脇に抱えて飛ぶ。ラクサスもガジルを連れて飛ぶ。ミラも続く。

 

「あそこに飛び込んで!」

 

壁の上の方にある通路に飛び込むツナ達。そのまま着地せずにそのまま通路を飛ぶ。すると…

 

「ゴールだ!」

 

ゴール手前に大会公式マスコットキャラのマトー君がいた。その手前で着地してジュビアを離す。他の三人も着地して魔法を解除する。マトー君は早すぎる到着と、1位はセイバートゥースだと思っていたので黙ったままだ。ツナが声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「はっ!すみません!予選1位通過です。おめでとうございます。」

 

「よっしゃ!」

 

「やったわね!」

 

「ま、当然だな。」

 

「むしろあれで1位じゃなかったらおかしいです。」

 

「ふう。自信はあったけど役に立ててよかったよ。ジュビア、さっきはいきなり抱えてゴメンね。」

 

「あ…いえ、ちょっと恥ずかしかったですけどちゃんとゴール出来ましたし。」

 

「…ガジルでもよかったんじゃ…」

 

「ミラ?」

 

「ううん、何でもない。さすがツナね!」

 

そう言って腕にしがみつくミラ。5人はそのままゴールをくぐって行った。マトー君は呆然とそれを見つめていた。

 

余談だがルーファスの魔法を駆使して迷宮を攻略したセイバートゥースは、2位だったことにひどく驚きマトー君に1位はどこだと詰め寄るが当然教えてくれなかった。ノータイムで進んだツナ達が止まって魔法使うセイバートゥースに勝つのは当然の結果だった。




チートツナ本領発揮!!
別にジュビアにフラグたてた訳じゃありません。


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本戦出場ギルド出揃う!

一度間違って、途中まで書いた分を予約投稿せずにアップしてしまいました。すぐ消しました。申し訳ありません。


-フェアリーテイルAチーム控え室

 

 

ナツ達Aチームは控え室にいた。ここまで聞こえる大歓声、年に一度の最強魔導士ギルド決定戦に数多くの観客が集まっているようだ。予選をギリギリで通過したとはいえ、スタートは同じ。それぞれ気合いを入れていた。

 

「つーか何だよこの服?」

 

「マスターがお揃いのチームカラーで出ろってさ。」

 

「私は結構気に入っているぞ。」

 

「おい…まさか俺にこれを着ろと…?」

 

この三ヶ月でさらに体の大きくなったエルフマンは絶対に入らない小さな少女用の服を持って途方にくれる。当たり前だが彼に用意された服ではない。本来この服が良く似合うであろうここにはいない少女に用意されたものだった。

 

先程リサーナから連絡があり、駆け付けた医務室にはウェンディとシャルルが寝かされていた。ウェンディの話によると、黒い小さな生物に襲われたとのことだ。応援に来ていたポーリュシカの診断によれば、魔力欠乏症。一度に大量の魔力を消費したことにより全身の筋力が低下しているとのことだ。ウェンディは涙ながらに、謝罪する。

 

「みんな…ごめん…なさい…せっかく修行したのに…私出られなくて…エルフマンさん…私の代わりにお願いします…」

 

エルフマンはウェンディの分も闘うことを誓う。ナツ達が去った後、シャルルを抱きながら涙を流すウェンディに、ポーリュシカはフェアリーテイル顧問薬剤師の名に懸けて本戦復帰させてやると告げた。

 

そしてナツ達は係員に呼ばれ、闘技場へと向かう。もし出場ギルドの中にウェンディを傷つけた者がいるなら許さないという誓いと共に…

 

いよいよ選手入場となり、会場の盛り上がりは留まるところを知らない。実況席にはチャパティ・ローラと元評議員でマカロフの親友のヤジマ、ゲストとして昨日ツナが会ったジェニー・リアライトの姿があった。そのチャパティの声が響く。

 

「さあいよいよ選手入場です。まずは予選8位、過去の栄光を取り戻せるか!フェアリーテイル!」

 

気合いを入れて入場したナツ達を迎えたのは激しいブーイングだった。毎年最下位のギルドがすでに8位以内という成績を確定させたからだ。さすがのナツ達も困惑し、ルーシィは落ち込むがエルザの言葉にフェアリーテイルの応援団を見る。仲間の応援があればそれだけでいいと元気を取り戻す。何故か初代の幽霊も来ておりみんな驚愕するが、ルーシィはそれより気になることがあった。

 

-ツナがいない。どこにいるの?早くウェンディのところへ行ってあげて…-

 

 

-フェアリーテイルBチーム控え室

 

ツナ達は出番を待ちつつAチームの入場するのをラクリマで見ていた。

 

「ギヒッ、ブーイングかよ…嫌われたもんだなウチも…」

 

「ジュビア達の時はもっとひどいでしょうね…」

 

「優勝候補のセイバートゥースを抜いて予選1位だからしょうがないけどやっぱり嫌ね…」

 

「ま、大会が終わる頃にはどこが強いかハッキリしてるさ。ん、ツナどうした?」

 

「…ウェンディの代わりにエルフマンが出てる。」

 

「本当ですね…まさか何かあったんでしょうか?」

 

「取り敢えずAチームに聞くしかないか…」

 

ツナはそう言ってラクリマに目を戻した。

 

-闘技場

 

「さぁどんどん紹介していきましょう!7位、地獄の猟犬軍団四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)!」

 

「ワイルド~フォ~!!」

 

「6位、女性だけのギルド、大海原の舞姫!人魚の踵(マーメイドヒール)!」

 

男性客の視線と歓声がすごい。そしてマカオとワカバのフェアリーテイル親父コンビも食い入るように見ていた。…ロメオはそんな親父共に冷たい視線を送っていた。

 

「5位、漆黒に煌めく蒼き翅、青い天馬(ブルーペガサス)!」

 

やはり無駄な決めポーズを取って入場した彼らに女性客達が熱狂的な視線と歓声を送る。それはヒビキ、イヴ、レンに対してで、そんな中で一夜とウサギの着ぐるみだけが異色に見える。

 

「4位、愛と戦いの女神聖なる破壊者!蛇姫の鱗(ラミアスケイル)!」

 

聖十の称号を持つジュラの登場に会場が大歓声に包まれる。見覚えのない少女の姿があることに疑問を持つ。シェリーの従姉妹のシェリアだと紹介される。

 

「グレイ、賭けは覚えてるな。俺達が勝ったらジュビアをもらう。」

 

「賭けなんざした覚えはねぇがお前らには負けねぇよ。」

 

兄弟弟子達の掛け合いにブルーペガサスの面々も誰を貰うとか言い出し、選手達は試合前とは思えないほど交流していたが…

 

 

-フェアリーテイルBチーム控え室

 

「あいつら…金ならともかく女性を賭け事の景品にしようとするなんて…全員大会が終わったらネッチョリ教育してやる!!」

 

「素敵よ!ツナ!」

 

「あの、グレイ様は巻き込まれただけで…」

 

「ギヒッ、つか金はいいのかよ?お前の勘は賭け事にも働くのか?」

 

「ああ、もちろんだ。」

 

「なぁツナ…この大会が終わったらカジノに行こうぜ。」

 

「ラクサス!ツナに悪い遊びを教えないで!」

 

「あ、この世界ではカジノ出入り禁止になってないんだ。久しぶりに潰し回るかな。」

 

「「「「潰し回る?!!」」」」

 

元の世界では荒稼ぎし過ぎてカジノを潰すことで有名で、どこにも入れてもらえなくなったツナだった。

 

 

-闘技場

 

「続いて第3位、おおっと!これは凄い!初出場のギルドだ!真夜中遊撃隊!大鴉の尻尾(レイヴンテイル)!」

 

「な…マスターの息子イワンのギルド…」

 

「闇ギルドじゃっ!!」

 

マカロフの叫びに周囲の観客もざわめき出したが、7年間大人しくしていたため正規ギルドとして認定されたとの実況があった。マカロフは歯噛みしている。

 

「フェアリーテイル…小娘は挨拶代わりだ…」

 

アレクセイの言葉と、オーブラの使い魔がウェンディの人形に変化して倒れる姿を見せられたことにより、ナツ達の怒りは頂点に達したがなんとか自制し、睨み付けるに留める。

 

 

-フェアリーテイルBチーム控え室

 

「レイヴンテイルだと!」

 

「ギヒッ!動き出しやがったか!」

 

ラクサスとガジルが驚き、事情を知らないツナとジュビアにはミラが説明する。ラクサスはラクリマを睨み付けながら低い声で呟く。

 

「何を考えてやがるくそ親父…」

 

 

-闘技場

 

残すギルドは残り二つ。主要ギルドは全て出揃った。一つはセイバートゥースとしてもうひとつは?出場者も観客もおそらく二位のそのギルドの登場を待つ。

 

「いよいよ第2位!おおっと!これは意外!誰が予想したでしょう!なんと…剣咬の虎(セイバートゥース)だぁ!!信じられません!天下無敵、絶対王者のセイバートゥースがまさかの予選2位!!」

 

出場者も観客も目を見開き、歓声よりも困惑が多い。この会場の誰もが当然セイバートゥースが1位と思っていた。

 

「くそっ、とんだ恥さらしだ…」

 

「仕方ないだろう…」

 

「こんな展開は記憶にないね…」

 

「マスターの機嫌も最悪だしよぉ…」

 

「いったいどこが1位なんでしょう…」

 

スティング、ローグ、ルーファス、オルガ、ユキノが肩を落として入場する。スティングに口元を押さえながらナツが声をかける。

 

「ププ…あれだけ大口叩いて2位とか…」

 

「ぐっ!8位には言われたくねーなぁ!ナツさん!」

 

「つーか1位はどこだよ?」

 

「俺達も知らん。まぁすぐ出て来るだろう…」

 

ローグが入場口に視線を向ける。つられて会場の全ての人がその入場口を見つめる。

 

「ではいよいよ第1位の入場です。予選では2位のセイバートゥースに大差を付けました!しかし、これは意外!堕ちた羽が再び羽ばたくのかぁ!!まさか!まさかの…」

 

「「「「んなっ!!」」」」

 

現れたメンバーに会場のほとんどが驚愕する。

 

「フェアリーテイルBチームだぁ!!!」

 

「「「「なにーーっ!!」」」」

 

「姉ちゃん!!」

 

「ガジル!!」

 

「ジュビア!!」

 

「ツナとラクサスのコンビなんて反則でしょーっ!!」

 

「お…お前達…」

 

会場の至るところより驚きの声が上がるが、一番驚いているのはナツ達Aチームの面々だろう。

 

「ガッハハ!これがフェアリーテイルの力じゃー!」

 

狂喜乱舞しているマカロフを中心にフェアリーテイル応援席は大盛り上がりをしている。他の観客はまだ呆然としている。実況より今年からニチームまで出場が許されるということが明かされた。もちろんニチーム残ったのはフェアリーテイルのみ。ここで1位のチームだからだろう選手紹介が入る。

 

「さあ、では1位のフェアリーテイルBチームの選手を紹介していきましょう。」

 

「何でお前らだけ…」

 

「1位だからな。」

 

ナツの文句を一言で切り捨てるラクサス。

 

「さあ、まずは元幽鬼の支配者(ファントムロード)最強の男!鉄のドラコンスレイヤーガジル・レッドフォックス!!」

 

「ギヒッ!」

 

「ぐぬぬ…」

 

「ガジル…」

 

ガジルの満更でもない笑みに悔しがるナツと、睨むローグ。

 

「水を操るその美しき姿はまさに水の妖精!ジュビア・ロクサー!!」

 

「グレイ様を愛する女と言って欲しかったです。」

 

「ヤメロー!!」

 

「ジュビア…」

 

「あの人がリオンの愛する人?」

 

紹介文に文句を付けるジュビアとそれを止めるグレイ。ジュビアに見とれるリオンと気にくわないシェリア。

 

「マスターマカロフの孫にしてその力はギルドの最強候補!神速の雷!ラクサス・ドレアー!!」

 

「ふっ…」

 

「ラクサスー!!」

 

「その力を見せてくれ!」

 

「決まってるわよ!ラクサス!」

 

以前は嫌っていた紹介に口元に笑みを浮かべるラクサスと、応援する雷神衆。

 

「先日7年振りにモデル復帰!しかしその美貌はまったく色褪せず!実力はS級!魔人ミラジェーン・ストラウス!!」

 

「ちょっと恥ずかしいわね。」

 

「さすが姉ちゃん!」

 

「ミラ姉~!頑張って~」

 

紹介に少し恥ずかしがるミラと応援するストラウス兄妹。会場の特に男性客も歓声を送る。

 

「ギルドの新人でありながら大会に出場!その力は未知数!先日イケメン魔導士ランキング初登場1位に輝いたツナヨシ・サワダ!!ミラジェーンとの関係も気になるところですが…」

 

「実況!何言ってんの?!」

 

「ふふ…ナイショ♪」

 

「ミラさん!てか女の観客騒ぎすぎ!」

 

「ほう…やはり出てきたか…」

 

「やはりただのイケメンではないか…」

 

「カグラちゃんあの人かわいいネコネコ飼ってる人だよね。雑誌に載ってたし、見せてくれないかな?」

 

「あれはライオンだ…頼むのは大会が終わってからだ…」

 

実況に突っ込むツナと微笑むミラ、ミラと観客に噛みつくルーシィ。興味津々のジュラと訳の分からないことを真剣に呟く一夜。マーメイドヒールのマントを被った女と実はかわいいもの好きのカグラがナッツについて話しているようだ。

 

実況からはフェアリーテイルが有利になったと言われるが、ナツから別チームとして出たからには敵だと啖呵を切られ、Bチームもそれを受ける形となった。

 

大魔闘演武本戦が遂に始まる…

 

 




いよいよ本戦が始まります。


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本戦開始!

フェアリーテイルB予選を1位で通過させちゃいました。


-闘技場

 

 

本戦出場ギルドの紹介が終わり、会場の興奮は最高潮に盛り上がっていた。もちろん予選の結果は本戦に関係ないのでどのギルドも優勝を狙っていた。そんななかフェアリーテイルの両チームは、

 

「それにしても俺らほとんどブーイング来なかったね。」

 

「そうね。セイバートゥースを破って1位だからすごいのが来ると思ってたわ。」

 

「多分ツナさんとミラさんがいたからじゃないですか?二人ともすごいファンがついてたみたいですし。」

 

「くそっ、俺らはブーイングしかなかったぞ!」

 

「ギヒッ!そこは1位と8位の差だろ。」

 

「何をー!!」

 

「落ち着けナツ!お前達はどうやって迷宮を攻略したんだ?」

 

エルザの問いにツナ以外の四人は顔を見合わせ答える。

 

「「「「ツナ(さん)の勘(です)」」」」

 

「「勘かよ!!」」

 

「そんなのアリ?!」

 

「迷うどころかまったく止まらずにゴールまで駆け抜けたって感じね。」

 

「ありゃマジですげぇ…」

 

「まあまあ…ところで何でエルフマンが?ウェンディはどうしたの?」

 

「そうなのよ!実は…」

 

ルーシィがBチーム全員に事情を説明する。全員が驚愕し、レイヴンテイルを睨み付ける。

 

「なんて酷い!」

 

「許せません!」

 

「気に入らねぇな…」

 

「くそ親父め…これ以上やるなら…」

 

「…」

 

ツナは俯いて肩を震わせている。心配になったルーシィが顔を覗くと顔をあげて、

 

「へえ~そうなんだ~あのカラスどもがウェンディをね…腐った死骸に群がるしか能がないカラスどもがウェンディに手を出すなんて随分と身の程知らずじゃないか…」

 

口元に薄く笑みを浮かべ、毒を吐き、レイヴンテイルを射殺さんばかりに冷たい視線を送るツナの姿があった。

 

(((ツナ様ご降臨ー!!)))

 

ナツ、グレイ、エルザが同時に心の中で思う。エルザは合宿を思い出して震えている。

 

「一人ずつ行方不明になって貰おうかな?そうすれば最終日はリーダー1人。一人ずつ消えていく恐怖が身を苛むだろうな…クックッ…これは面白いな。」

 

「「こえーよ!」」

 

ラクサスとガジルが同時に叫ぶ。

 

「冗談だ…殺るなら試合中だ。何かあっても事故になるからな。」

 

「何をする気なんですか?!と言うより字が違いませんか?!」

 

ジュビアも思わず突っ込む。

 

「お…落ち着けツナ様!」

 

「ツナ様!ここは何とぞ…」

 

「ルーシィ、ミラちゃん!お前らからもツナ様に…」

 

ナツもエルザもいつもは止められる立場なのになんとかツナを諌めようとする。何故か様付けで…グレイは一縷の望みをかけてルーシィとミラに振り返るが…

 

「「ツナ様…素敵…///」」

 

そこにいたのは頬を染めた二人の乙女だった。そのままグレイはズッコケる。

 

「だめだコイツらー!!」

 

「ね…姉ちゃん…」

 

「誰かツナ様を止めろー!!」

 

いつも通りに騒がしいフェアリーテイルだったが、何とかツナが落ち着いた頃大魔闘演武のプログラムが発表された。その内容は、

 

DAY1 隠密(ヒドゥン) + バトル

DAY2 ??? + バトル

DAY3 ??? + バトル

DAY4 ??? + タッグバトル

DAY5 ??????

 

と言うことだった。競技パート+バトルという内容にナツは大喜びだ。なお、競技パートは参加者は自由に決めていいらしい。バトルパートは主催者側で選手が決められるということだ。運が悪ければ連戦になる。得点配分は、

 

競技パート

1位→10点

2位→ 8点

3位→ 6点

4位→ 4点

5位→ 3点

6位→ 2点

7位→ 1点

8位→ 0点

 

バトルパート

勝ち→10点

負け→0点

引き分け→5点

 

となる。各チーム誰を出すか話しているようだ。ツナ達も話し合おうと言うときにミラがツナに声をかける。

 

「ツナ…医務室のウェンディの所へ行ってあげて。競技は私達でやるから。」

 

「え…でもヒドゥンがどんな競技か知らないけど俺が有利な気がするけど…」

 

「バトルパートは誰が来ると思う?」

 

「…俺…かな?」

 

「なら行ってこいよ。わざわざ連戦することはねぇだろ?」

 

「分かった。じゃあ頼むね。」

 

そうしてみんなに見送られてツナは医務室に向かう。

 

 

-医務室

 

医務室に来たツナはポーリュシカに嫌な顔で出迎えられるも、少しの間だけ許可を貰いウェンディに面会した。ポーリュシカは席を外している。

 

「ツ…ツナさん!!」

 

「あ、ダメだよ寝てなきゃ!」

 

体を起こそうとしたウェンディをツナが優しく咎める。

 

「ゴメンね。今まで来れなくて…」

 

「いえ…ラクリマで見ました。Bチームで出てるんですよね。予選1位おめでとうございます。でもここに来て大丈夫なんですか?」

 

「ありがとう。競技パートは他の人が出てくれるからね。ポーリュシカさんも少しならいいってさ。」

 

ウェンディは嬉しそうに笑顔を見せて、次の瞬間その笑顔を曇らせ泣き出した。

 

「どうしたの?辛いの?」

 

「違います!ツナさんが来てくれて嬉しくて…でも私出られなくて…悔しくて…」

 

ウェンディは顔を手で覆って泣く。ツナはウェンディの肩を抱きなから優しく声をかける。

 

「大丈夫。まだ大会は終わってないよ。ポーリュシカさんを信じよう。」

 

顔を見せたウェンディの額に手を当てる。

 

「だからきっとすぐよくなるよ。もちろん…」

 

横で眠っているシャルルの額にも手を当て、

 

「シャルルもね…」

 

「ツナさんの手あったかいです…」

 

気持ち良さそうに目を細めるウェンディ。その時部屋にポーリュシカが入ってきた。

 

「そろそろ出て行きな。あんまり無理させるんじゃないよ。」

 

「はい。じゃあまたねウェンディ。ゆっくり休みなよ。」

 

「あ、あの…来てくれてありがとうございました。」

 

返事の代わりににっこり笑うと、ポーリュシカに後を頼み出ていった。

 

「やれやれ…まぁ他の奴よりはましな男かもね…どれちょっと診るよ。」

 

診察するポーリュシカはおかしなことに気付く。

 

「ん…なんだい随分良くなってるじゃないか。この分だと明日には治りそうだね。」

 

「本当ですか?そういえばさっきより気分がいいですね…」

 

「やれやれ、医者より好きな男で病気が治るなんてこれだから若い女は…」

 

ポーリュシカの言葉に顔を真っ赤にして頭から布団を被ったウェンディを見ながらポーリュシカは考える。

 

-それにしてもこっちのエクシードも回復してるなんて…まさかツナヨシが…?-

 

大空属性の調和の炎は傷を治癒させることはできないが、体調のバランスを整えることができるのをもちろんポーリュシカは知らない…

 

 

-Bチーム観覧席

 

「あ、ツナ。ウェンディはどうだった?」

 

「うん。随分よくなってたよ。多分明日には復帰できそうだよ。こっちは?」

 

「それがね…」

 

ツナはヒドゥンの説明を聞く。敵を攻撃したら1点、攻撃されたら➖1点、街中に溢れてるコピーに攻撃したら➖1点。コピーに攻撃せずに本体に先に攻撃を加えることが勝利への鍵だ。Bチームからはジュビア、Aチームからはグレイが出場している。

 

「なるほどね…」

 

「お前向きってのは正解だな。」

 

「まあね…ジュビアもグレイも戸惑ってるね。特にグレイは頭に血が昇ってるな。ジュビアなら雨を降らせたりすればなんとかなりそうだけど…」

 

「あ、ブルーペガサスのイヴ君が雪を降らせてるわ。」

 

「ギヒッ!寒さで見付けるって訳か…」

 

「いい手だね…あ、連続ポイント!」

 

「セイバーの奴あんなとこで何やってんだ?」

 

街の一番高い所に陣取って動かないルーファスに目を向ける。するとそこからルーファスは全員に光の矢を降らす。レイヴンテイルのナルプディング以外は直撃を喰らい、避けたナルプディングもルーファスに突っ込むが返り討ちになった。

 

その後、ナルプディングはグレイとジュビアを集中的に狙う。本来の力を発揮できぬままジュビアは7位、グレイが8位という結果になった。肩を落とす二人に観客からの嘲笑と罵声がとぶ。

 

「やっぱり弱ぇじゃん!フェアリーテイル!」

 

「だから言ったろ!」

 

「予選はまぐれだって!」

 

止まない嘲笑にナツが激昂するもさらに嘲笑は広がる。ジュビアは俯きながら戻ってきた。

 

「お疲れ様。」

 

「ご…ごめん…なさい…」

 

俯いて泣きながら謝罪するジュビアにみんな何と声をかけるべきかと思案していた時、

 

「きっと今何を言っても慰めにならないと思う。だから今は泣くだけ泣いて、悔やむだけ悔やむといい。そして明日にはジュビアの笑顔を見せて欲しい…まだ1日目が終わった訳じゃないんだから。」

 

ジュビアは顔をあげて泣きながらもしっかりとはい。と返事をして控え室に戻って行った。

 

「ガジルとラクサスも見習いなさい。」

 

「けっ。」

 

「ウッセ。…それにしてもレイヴンの奴らあからさまに俺らばっかり狙っていたな…」

 

「私達に恥をかかせるのが目的なの?」

 

「いや…それなら7年間何もしてこなかったのはおかしい。」

 

「奴らには別の目的があるのは間違いない。…今回はルールを守っていたから何も言えないが、もし何か仕掛けてくるようなら俺が絶対に防ぐ!」

 

バトルパート第一試合の組み合わせが発表された掲示板を見ながら誓う。

 

『第一試合 フェアリーテイルA ルーシィ・ハートフィリアVS.レイヴンテイル フレア・コロナ』

 

超直感を最大限に働かせながら試合が始まるのを待つツナだった…

 

 




いよいよ本戦が始まります。ここからちょっと展開を変えていきますので頭の中がパニックになりそうです。


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ボンゴレデーチモ

お気に入りが400件こえました。
これからもよろしくお願いします。


-Bチーム観覧席

 

先程控え室に戻ったジュビアを除く四人はルーシィとフレアが出てくるのを見ながら会話していた。

 

「ルーシィ…大丈夫かしら?」

 

「ギヒッ!いきなりレイヴンの奴とあたるとはな。」

 

「いいのか?このままやらせて?何を仕掛けてくるか分かんねぇぞ。」

 

「嫌な予感はする…けどさっきの競技みたくルールの範囲内なら仕方ない。ルーシィなら何とかするだろう。だから俺が警戒するのはルール違反に関してだけだ。外野の支援とかね…」

 

ツナはレイヴンテイルが何かを仕掛けてくることを確信していた。自身の超直感のこともあるが数多くの悪徳マフィア達と対峙してきた自身の経験談からくるものだ。

 

人質、脅迫、裏切りなど様々な方法でこちらを陥れようとしてきた悪徳マフィア達と同じような雰囲気を持っている。だからこそ奴らがしてきそうなことも予想がつく。

 

医務室で見たウェンディの泣き顔が脳裏によぎる…もう誰にもそんな顔をさせたくない。ツナは決意を固めて試合に集中することにした。

 

 

-闘技場

 

ルーシィは怒っていた。ウェンディを傷付けておいて挨拶代わりなどといい放つ。先程のヒドゥンでもこちらの邪魔をすることを優先していた。

 

「ルーシィ、修業の成果を見せてやれ!」

 

「ここで勝てばまだ繋がるぞ。」

 

「かっ飛ばしてやれ!」

 

仲間達の声援を背に受け戦場に向かう。控え室で落ち込んでいるであろうグレイの分もやってやると、気合いを入れBチーム観覧席のツナを見る。目が合うとにっこり笑ってくれた。

 

-見ててね。ツナ!-

 

目の前の対戦相手を睨み付ける。相手は何かブツブツ呟いているようだが関係ない、

 

-絶対、負けない!-

 

「それでは第一試合!開始!」

 

「開け!金牛宮の扉!タウロス!!」

 

「MOオーー!!」

 

先手必勝とばかりにタウロスを呼び出し、タウロスがその大きな体と変わらない斧を振り回す。それを感心したように見ながら軽く躱すフレア。しかし、今のルーシィはこれで終わらない。

 

「開け!天蠍宮の扉!スコーピオン!!」

 

「ウィーアー!サンドバスター!!」

 

二体同時開門。ルーシィが修業で得た力だ。スコーピオンはその尻尾から砂の竜巻を繰り出す。それをフレアは髪でガードする。

 

「まだまだ!タウロス!スコーピオンの砂を!」

 

「いきな、タウロス!ウィーアー!」

 

スコーピオンの砂がタウロスの斧にまとわりつき、その力を利用したタウロスの一撃が決まる。

 

「砂塵斧アルデバラン!!」

 

フレアは砂を纏った竜巻に吹き飛ばされたが、すぐに立て直し反撃する。髪がまるで狼になったようにルーシィを襲うが、

 

「開け!巨蟹宮の扉!キャンサー!!」

 

自身の髪の手入れを任せているキャンサーを呼び出し、迎撃する。フレアの狼のような髪を難なく切り刻んだ。

 

 

-Bチーム観覧席

 

「うおっ!!あのバニーガール、やるじゃねぇか!」

 

「そーいやビッグスローも一度やられたっけな。」

 

「今のところルーシィが優勢みたいね…ツナどうしたの?」

 

「優勢だからこそだよ。こういう時に仕掛けてくる悪徳マフィアを何度も見てきたからね…油断はできない。」

 

真剣な顔で試合に集中するツナの横顔を頬を染めて見つめるミラ。その様子を見てラクサスとガジルはまたか…と溜息をついた。

 

 

-闘技場

 

ルーシィは確かな手応えを感じていた。ウルティアの時のアークによる激痛に耐えた甲斐があったというものだ。一気に決めるつもりだったが相手もさる者、土の中に髪を潜らせ地面の下を通じてルーシィの足首をつかみ、振り回す。

 

「私の髪は自由自在なのよ!」

 

「なら、こっちだって!」

 

ルーシィがバルゴより貰った星の大河(エトワールフルーグ)を抜き、フレアの左腕に巻き付ける。こちらも自由自在に動く鞭だ。お互いに意地を見せて振り回すが両者痛み分けの形で離れることになった。が、やはり優勢なのはルーシィに見える。焼ける赤い髪でブーツが焼かれたが大したダメージではない。

 

危機感を感じたフレアが再び髪を地面に潜らせる。ルーシィは警戒するがどこからも出てこない。不思議に思っているとフレアが胸の前で小さく横を指差している。その先には

 

「アス…ムグッ!」

 

アルザックとビスカの娘であるアスカの横に灼熱の赤髪が地面を通して出現していた。思わずアスカの名前を呼ぼうとするが、途中で髪に口を押さえられ地面に引き倒される。

 

「声を出すな。これは命令。逆らったらどうなるか分かるよね。いくら頭の悪い金髪でも…」

 

周りに聞こえないような小さな声でしかし、本気であることが分かる冷たいで告げられる。悔しさに身を震わせるルーシィは俯きながらもう一度アスカの方を見る。

 

「もう一度言うよ。声を出すな。魔法を使うな。さもなくば…分かるよね。」

 

ルーシィは俯いたままだ。フレアが勝ち誇ったような笑みを浮かべルーシィをその髪で打ち払おうと髪を伸ばす。その髪がルーシィを打ち払おうとした時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャンサー!!」

 

「何!!」

 

先程と同じようにキャンサーを呼び出し、迫る髪を切り刻む。さらに鞭を振るいフレアを二度三度と打ち払う。

 

「ガキがどうなってもいいのか!」

 

「やれるものならやってみなさい!」

 

「上等…なら望み通りにやっ…」

 

アスカを攻撃しようとそちらを見たフレアの顔が凍る。

 

その視線の先には…アスカを左腕に抱え、右手に自身の髪を掴み、無表情で自身に恐ろしく冷たい視線を向ける死ぬ気の炎を灯したツナの姿があった。

 

 

-Bチーム観覧席

 

フレアがルーシィを脅迫した時、ツナは既に動いていた。七属性で最高の推進力をもつ大空属性の炎による高速移動でフレアが確認の為に二度目の脅迫をしたときには、髪を掴みアスカを抱えていた。俯きながらこちらを見るルーシィに笑顔を送り、ルーシィも笑顔で応える。いきなり現れたツナに驚愕するフェアリーテイル一同。

 

「ツナ!お主なぜここに!ん、その持ってるのはなんじゃ?」

 

「あの女の髪ですよ。アスカちゃんを人質にルーシィを脅迫したようです。」

 

「「「「「何ーー!!!」」」」」

 

「汚ねぇまねを!!」

 

「なんて奴らだ!!」

 

「やはりアイツら…」

 

「早くルーちゃんに伝えないと!」

 

「もう伝えたよ。ホラ。」

 

闘技場を見ると反撃するルーシィの姿。みんなが歓声をあげる。フレアがこちらを見てきたので視線に殺気を込める。固まったフレアに対し、さらにルーシィが攻撃を加える。そこまで見るとツナは右手の髪を引きちぎり投げ捨てる。

 

「ツナお兄ちゃん。お顔怖いよ。」

 

「あ、ごめんねアスカちゃんこれでい~い?」

 

「うん。ツナお兄ちゃんの笑ったお顔大好きー。」

 

「ふふ…ありがとう。」

 

タラシめ…とみんなが思っているとツナはアスカをビスカに渡して、

 

「同じ手は使ってこないとは思いますが、一応注意しておいて下さい。」

 

「わかったわ。ツナ、本当にありがとう!」

 

「俺からも、ありがとうツナ!」

 

ビスカとアルザックのお礼に笑顔で応えたツナはみんなに背中を向ける。

 

「ん、どこへ行くのじゃ?」

 

「このまま終わるとは思えませんから…」

 

と、言って去っていった。

 

「やっぱりルーちゃん達を落とすだけのことはあるね~」

 

「やっぱツナ兄カッコいいな~!」

 

レビィとロメオの言葉に盛り上がる一同。ツナを見つめていた初代にマカロフが気付いて声をかけると、

 

「…やはりツナは仲間を傷つける者は許さないようですね。そんなところまでジョットにそっくりです。」

 

初代は昔を思い出しながら笑顔を浮かべた。

 

 

-闘技場

 

-ありがとう!ツナ!-

 

ルーシィはツナに感謝しながら自らの鞭とキャンサーで猛攻を加えていた。ツナの殺気をまともに受けたフレアは動きが鈍い。ここで決める!

 

「開け!双児宮の扉!ジェミニ!!」

 

呼び出したのはコピー能力のあるジェミニ。それを自分に変化させる…バスタオル一枚の自分に変身した。

 

「何よ!その格好ー!」

 

「仕方ないよ。コピーした時の格好なんだから」

 

「あっそうか。昨日お風呂あがりに…」

 

男性客の異様な盛り上がりに恥ずかしがりながら、自分同士で手を合わせ魔力を高めて詠唱を始める。

 

「天を測り天を開きあまねく全ての星々、その輝きをもって我にその姿を示せ-」

 

その詠唱にブルーペガサスのヒビキは口元を緩め、自身の力で発動できるようになったルーシィに賞賛を送る。もはやフレアは邪魔すらできない。そして、詠唱が完成する。

 

-これがギルドの誇りをかけた一撃!-

 

「全天88星…光る!ウラノ・メトリア!!」

 

 

 

-2分前 レイヴンテイル観覧席

 

「ち…フレアめ使えん奴だ…」

 

「アレクセイ様~このままじゃ負けそうでさぁ。」

 

「オーブラ、あの女の魔力を消せ。」

 

「やらせると思うか?」

 

低く、静かな、そして確かな殺意を込めた声が聞こえ、振り返ったレイヴンテイルの面々の前には無表情で恐ろしいほど冷たい目をしたツナがオーブラの肩に乗った使い魔に(・・・・)炎を纏った右の手刀を突き付けていた。

 

ツナの額の炎と殺気がさらに膨れ上がる。ナルプディングとクロヘビは全身を震わせて膝をつき、アレクセイも立っているのがやっとのようだ。

 

余談だが、ツナが怒った時に笑うのは至って単純だ。殺気を押さえる為だ。マフィア界でもボンゴレデーチモが怒る時は笑顔だということは有名だったが、それは真の怒りではない。今のようにまったく笑わない怒りこそがツナが本気で怒っていることの証明といえる。自分の仲間を酷く傷つける者には容赦はしない。ツナの本気の殺気を前にまともに動けるものは少ない。

 

ボンゴレデーチモ…その者は心優しく争いを好まず、しかし仲間を傷つける者には慈悲を与えない裏社会の王。

 

その彼の本気の殺気をまともに受けている彼らはもはや失神寸前だ。その時、ルーシィの魔法が炸裂して決着が着いた。ツナは殺気を消して背を向けるとそのまま彼らに、

 

「次はないぞ…」

 

そう言い残して去って行った。残されたレイヴンテイルのメンバーはどうにか呼吸を整える。

 

「アレクセイ様~…」

 

「予定変更だ。目的を最優先にする。例の奴と当たるまでは手の内を見せるな…順位はどうでもいい。」

 

こうして、ツナはレイヴンテイルに釘をさすことに成功したのだった。

 

 

-闘技場

 

「ウラノ・メトリア!!」

 

「きゃあああっ~!!」

 

星々の超魔法がフレアに直撃して吹き飛ばした。フレアは意識を失って倒れている。

 

「決まったぁ~!ものすごい魔法だ~!勝者、フェアリーテイルA!ルーシィ・ハートフィリア!!」

 

大歓声が巻き起こる。もちろんフェアリーテイル応援団も大盛り上がりだ。

 

「よっしゃあ!!」

 

「やったぜルーシィ!」

 

「うむ!見事な魔法だったぞ!」

 

Aチームのメンバーが駆け寄ってルーシィを讃える。喜びを分かち合いながら客席を見渡す。レビィ達フェアリーテイル応援団のみんなも大喜びで手を振ってくる。

 

視線をBチームに向けると万歳しながら喜んでるミラと笑顔でこちらを見ているラクサスとガジル、たった今戻ってきたらしいツナがいた。

 

ツナが手を振ってくるのでこちらも大きく降り返す。そしてルーシィは最高の笑顔を見せるのだった。

 

 




と、いうわけでルーシィの勝利!
最後の笑顔は原作の泣き顔との対比です。


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聖十の称号

ツナのバトル開始までです。相手は…


-Aチーム観覧席

 

「「「なに~!!」」」

 

ルーシィが試合中に起きたことを説明するとナツ、エルザ、エルフマンは驚愕する。

 

「あの試合の中でそんなことが起きていたのか…」

 

「アイツらぁ~!」

 

「許せんぞ!!」

 

「うん…ツナのおかげでアスカちゃんも無事だったし試合にも勝てたんだけどね…」

 

「さすがはツナだな…」

 

「くっそ~!Bチームに頼っちまうなんて~!」

 

(おとこ)として無念…」

 

「ちょっと!ツナの文句はやめなさい!ツナはあたしの為に(・・・・・・)頑張ってくれたんだからね!!」

 

「「あい…」」

 

「まぁ落ち着け。何はともあれ我々は勝利を掴んだのだからな。」

 

「そうだな。」

 

「グレイ!」

 

「試合見てたぜ。すげぇ魔法だったぞ。あんなん見せられたら落ち込んじゃいられねぇ。…ジュビアもそうみたいだな。」

 

その言葉にBチームの観覧席を見ると、グレイと同じように控え室に戻っていたジュビアが合流していた。

 

「良かった。ジュビアも元気になったみたいで。」

 

「ああ…なんにしても明日もこの勢いで行くぞ!」

 

「おっしゃあ!燃えてきたぁ!!」

 

「それでこそ(おとこ)!!」

 

「借りは絶対に返してやるぜ!」

 

「よーし!がんばろう!!」

 

ルーシィの勝利に盛り上がるAチームの面々だった。

 

 

 

-Bチーム観覧席

 

「おうおう…盛り上がってるねぇアイツら…」

 

「うん。大勝利だったものね。」

 

「ジュビアもルーシィのがんばりを見てたら負けてられないと思いました。」

 

「で…奴等はルーシィの最後の魔法も妨害しようとしてたのか…」

 

「うん。おそらくはウェンディを襲った奴と同じだと思う。まぁ軽く脅しといたから今度からは意味なく妨害はしてこないと思うよ。」

 

軽くと言うが裏社会の王の本気の殺意なのでレイヴンテイルはかなり精神的にダメージを受けていた。

 

「あとは奴等の目的か…」

 

「まぁ今考えても仕方ないわ。他の試合を見ましょう。」

 

次の試合はブルーペガサスのレンVS.マーメイドヒールのアラーニャだった。

 

「あ…昨日会ったブルーペガサスの確かレンさん…」

 

「ナツ達と共闘した人ね…」

 

「なんか色々言ってますね…」

 

ラミアスケイルのシェリーとの婚約が暴露され動揺したところをアラーニャに攻められている。レンは攻撃を躱しながらも大声で叫ぶ。

 

「婚約者じゃねぇよ!くされ縁だよ!ただの!いっつもそばにいやがって…鬱陶しいっての!…けど…お前が側にいねぇと調子がでねえぜ…」

 

と、見事なツンデレを見せながら風の魔法で勝利をおさめる。

 

「ブルーペガサスの人ってなんで残念な人が多いんだろう…」

 

「まぁあそこはマスターからして残念だからな…」

 

ラクサスは会ったことがあるブルーペガサスのマスターを思いだし、ゲンナリする。続いて第三試合はクワトロケルベロスのウォークライVS.セイバートゥースのオルガ。

 

「優勝候補のセイバートゥースが出てきたね。」

 

「さてどれ程のものか…」

 

「ギヒッ!見せて貰おうか。」

 

ウォークライは涙魔法というのを使うらしい。どんな魔法か少し楽しみにしていると、いきなりウォークライが泣き出した。…と思ったらオルガの黒雷一発で倒された。

 

「黒い雷か…なかなかの威力だったね、ラクサスさん。」

 

「フン…まぁ少しは楽しくなってきたぜ。」

 

「残るのは私達とラミアスケイルね…」

 

「こっちはツナさんが出るんですよね?相手は誰でしょうか?」

 

「こいつの勘だろ。また当たるのかよ?」

 

「多分ね…」

 

フェアリーテイルBチームのメンバーが話し込んでいるとアナウンスが始まる。

 

「さぁ本日の最終試合!まずはフェアリーテイルBチーム!登場するのは…ツナヨシ・サワダ!!」

 

観客(特に女性)から大歓声があがる。

 

「ギヒッ!当たりやがった!」

 

「マジで予言レベルだな…」

 

「ツナ!がんばってね!」

 

「相手は誰でしょう?リオン様?それとも…」

 

「対するラミアスケイル…ジュラ・ネェキス!!」

 

観客の歓声がさらに大きくなる。聖十の魔道士を間近で見られるという興奮が会場を包む。ちなみに先程ツナに歓声を送った女性客達は悲鳴をあげているようだ。

 

「嘘!!」

 

「ギヒッ!」

 

「そんな!」

 

「マジか!」

 

「あ…この前フェアリーテイルに来てた人だ。」

 

「「「「ゆるっ!!」」」」

 

ツナは聖十の称号について知らなかったので説明を受ける。相手は聖十の第五席に位置する者だと…

 

「私とエルザの二人がかりでも勝てるかどうか…」

 

「まぁお前なら何とかなるだろ。」

 

「ギヒッ!てめぇの強さたっぷり見せて貰うぜ。」

 

「ツナさん、がんばって下さい!」

 

「うん。任せておいて。」

 

「ツナ!」

 

出て行こうとしたところでミラに声をかけられる。振り向いたツナにミラは顔を赤くしながら、

 

「え…と、その、ぶっ飛ばしちゃえ!!」

 

ツナは笑顔でうんと応え、闘技場へと歩き出す。

 

「なんです?その声援?」

 

「いざとなると何を言おうかパニクっちゃって…///」

 

 

-Aチーム観覧席

 

四回戦の発表が行われた時、こちらも大騒ぎになった。

 

「ツナと…ジュラさんが?!」

 

「お~!あの激強のオッサンじゃねーか!!」

 

「オイオイ…誰だよこのカード組んだの?」

 

「マスターと同じ聖十大魔道なんだろ?勝てるのかよ?」

 

「ツナは負けないわ!!」

 

「そうだな。(この試合でツナの本気がわかるか?)」

 

「よーし、応援だ~!ツナー!負けんじゃねぇぞ!!」

 

(おとこ)なら勝て!!」

 

「いいとこ見せろよ!ツナ!」

 

「ツナー!がんばって~!」

 

声援に気付いたツナは、闘技場の中央に向かいながら笑顔で手を振って応えた。

 

 

-医務室

 

「あうっ!」

 

ウェンディがベッドより降りようとして床に落ちる。それをポーリュシカが諫める。

 

「なにやってんだい!まだ寝てないと…」

 

「嫌です!ツナさんがあのジュラさんと闘うんです!せめて…せめて応援したいんです!」

 

「…はぁ。やれやれ…分かったよ。連れてってやるからこれに乗りな!」

 

車椅子を指差すポーリュシカにウェンディの顔が明るくなる。

 

「ありがとう!グランディーネ!」

 

「その名で呼ぶんじゃないよ。」

 

 

-ラミアスケイル観覧席

 

「フム…面白い…」

 

「あ~週ソラに出てた人だね~」

 

「ふっ…人気がどれだけあろうとジュラさんには勝てんさ。ジュビアのチームには悪いがな…」

 

「でもアイツ…めっちゃ怖えーんだぞ!!」

 

「切れんなよ。」

 

「いや…ただ者ではないのは間違いない。まあ闘ってみれば分かるであろう。」

 

「がんばれー!ジュラさん!」

 

ジュラも闘技場へと向かう。

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

「まさか初日からジュラが出てくるなんてな…」

 

「興味深い一戦…しかと記憶しよう。」

 

「そっかぁ?あんなナヨっとした奴一撃でジュラにやられんだろ?」

 

「興味ないな。ん、ユキノ?」

 

「…はっ、いえ別に…」

 

「あ~まぁ顔はいいからな…」

 

「確かに…週刊ソーサラーイケメン魔導士ランキング1位だったと記憶しているよ。」

 

「わ…私はそのような…」

 

「顔赤いですよ。ユキノさん。」

 

「フローもそう思う。」

 

「ですから…」

 

 

-マーメイドヒール観覧席

 

「あ、ネコネコの人だね。」

 

「だからライオンだと言っているだろう。だが奴はただ者ではないな。」

 

「そうかい?顔はいいけど何か弱そうだけど…」

 

「アチキよく分かんない…」

 

「まぁさすがにジュラに勝つのは無理なんじゃない?」

 

 

-ブルーペガサス観覧席

 

「君達、この試合よく見ておきたまえ!」

 

「「「押忍、先生!」」」

 

「さて…僕達の新たなライバルの力を見せて貰おうか?」

 

「あのジュラ相手にどこまでやれるか…」

 

「くそっ、簡単に負けんじゃねーぞ。」

 

 

-実況席

 

「さぁ両者がゆっくりと闘技場に向かいます!この試合どう見ますかヤジマさん!」

 

「フム…やはりズラ君の方が有利だろうねぇ…」

 

「ツナくんにもがんばって欲しいんだけど…相手がね…」

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「初っぱなからジュラかよ!」

 

「あの人そんなに強いの?」

 

「聖十大魔道だぞ!」

 

「ウチのマスターと同じ称号持ってるんだよ。」

 

「いくらツナが強くてもな…」

 

「ツナお兄ちゃん。がんばれー!」

 

「あの者はそれほどの強さなのですか?」

 

「確かにあの者は強いですな。ですがツナの強さも底がしれません。」

 

「私はあまり心配はしていませんよ、六代目。ツナは大空を継ぐ者なのですから…」

 

「ツナさん!がんばっ…て、ケホッ!」

 

「ウェンディ!大丈夫なの!」

 

「応援したいって聞かないんだよ。このバカ娘は…あんまり大声出すんじゃないよ!」

 

「そうだよ、ほらちゃんと聞こえたみたいだし。」

 

レビィが指差す先を見ると、ツナがこちらに手を振っている。ウェンディの顔が耀く。

 

「よっし!大声出せないウェンディの分まで応援するよ!」

 

リサーナの言葉に応援席は奮い立ち、大声でツナを応援し始めた。そして両者が闘技場の中央で向かい合う。

 

 

-闘技場

 

「今日はよろしくお願いします。ジュラさん!」

 

「ウム…こちらこそよろしく頼む。お主とは一度闘って見たかった。」

 

二人はまず挨拶を交わす。

 

「個人的にはフェアリーテイルにはがんばって欲しいが、ウチのオババがうるさくてのう…すまぬが手加減はせんぞ。」

 

「ジュラさん。1つ勘違いしてますよ。」

 

「勘違い?」

 

ジュラが疑問に思っているとアナウンスと共に開始の合図が鳴る。

 

「ラミアスケイル ジュラ・ネェキスVS.フェアリーテイルB ツナヨシ・サワダ 本日の最終試合開始!!」

 

ツナは超死ぬ気モードになり、ジュラは構えを取る。

 

「勘違いとは?」

 

「それは…」

 

ツナはニッと笑うとまるで瞬間移動したかのようにジュラの前に現れて炎を纏った拳を振るう。ジュラが気付いた時にはその拳はジュラに突き刺さり、飛ばされたジュラが闘技場の壁に激突してその壁を破壊した。ジュラはすぐに起き上がるが何が起こったのか分からない観客達。

 

「俺の方があなたより強いということです。」

 

大空と聖十の闘いが始まった…

 

 




ここまで引っ張ってすみません。

それとご報告ですが今日まで毎日更新を続けて来ましたが月曜日から12月20日頃まで仕事の方が忙しく執筆できないと思います。

少しでも時間を見つけて執筆したいと思いますがどうなるか分かりません。明日投稿のジュラとの決着までは書きましたので応援してくださる皆様には申し訳ないと思いますが何卒ご了承下さい。

最後にこんな拙作を面白いと言ってくださった皆様へ御礼を申し上げます。今後ともよろしくお願い致します。


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大空VS.聖十

ツナ対ジュラ!


-闘技場

 

「俺の方があなたより強いということです。」

 

言葉と共に先制の一撃を加えたツナはジュラが起き上がるのを見ていた。聖十の称号を持つ者に対する言葉としては、かなり無礼な言葉と自覚してはいたがその言葉にジュラが見せた表情は怒りではなく…歓喜。かつての風紀委員長が獲物を前にした時のような獰猛な笑みを浮かべ腕を振るう。

 

「崖錘!!」

 

隆起した岩がまるで生き物のようにツナに迫るが、ツナにとっては充分避けれるスピードだ。両手の炎で空を飛んで複雑な軌道で動き回り、岩同士をぶつけて破壊する。と、同時にジュラへ向かって正面から突進する。

 

「岩鉄壁!!」

 

ブロック状の岩が地面から瞬時に現れて壁になるが、ツナは分かっていたかのようにその壁を避けてジュラの周囲をさらに速度をあげて周回する。

 

(イクス)ストリーム!!」

 

そのスピードゆえにすぐさま現れた炎の竜巻は一瞬でジュラを飲み込む。観客達は目を見開いている。竜巻が消えたとき目にしたのは先程のブロック状の壁がジュラの四方を隙間なく囲んで熱が伝わるのを軽減していたようだ。

 

「むんっ!!」

 

その壁を全て分割し、ツナへ向けて飛ばしてきた。壁四つ分のレンガ状の岩の一つ一つが充分な威力を備えている。その大量の岩はツナに当たらない。

 

一般客には目で追えないほどの、優秀な魔導士でも目で追うのがやっとのスピードでツナは空中を自在に動き回る。ジュラはそのスピードに感嘆しながらも岩を操りツナを追わせる。四方八方より飛来する岩に流石にツナも逃げ場がなくなると思ったのか両手を構える。

 

炎の鉄槌(マルテーロ・ディ・フィアンマ)!!」

 

ツナの両手からまるでマシンガンのように炎の矢が飛び出しレンガ状の岩を次々と粉砕していく。かつてザンザスが使っていた技を自分なりに再現したものだ。

 

次々と岩が粉砕されていき、闘技場を粉塵が舞う。しかしやはり全ては消しきれない。岩が数発直撃してツナは粉塵の中へ叩き落とされる。

 

「うおおおぉっ!!」

 

その粉塵を利用してジュラに接近したツナは大振りの右ストレートを放った。ジュラは手首を掴みそのパンチを止めるがそれは予想済み。

 

「食らえ!」

 

掴まれた瞬間掌を開き強力な大空の炎を放った。至近距離からの一撃は流石のジュラも避けようがなく炎に飲まれる。

 

炎を放った反動で後ろに跳び距離を空ける。ジュラはその身体に決して浅くない傷を負っていたがその獰猛な瞳は変わっていない。距離を開いたことにより間が空いて観客達は息を吐き出す。そして大歓声が巻き起こった。

 

 

-実況席

 

「こ…これは、いったい誰が予想したでしょうか?何とツナヨシが聖十の魔導士を押しているー!?」

 

「スンゴイね。」

 

「ツナくんがここまで強かったなんて…」

 

 

-Bチーム観覧席

 

「オイオイ…聖十よりも強えぇのかよ。」

 

「俺とやった時よりさらに速えな…」

 

「ツナさん…これほどの強さを持っていたなんて…」

 

「ツナ…すごいわ…」

 

 

-Aチーム観覧席

 

「だーっ!やっぱツナ強えーなー!!」

 

「ジュラのおっさんを相手にあそこまでやるとはな…」

 

「うぉおおっ!!その調子だぁぁ!!」

 

「ツナー!ファイトだよー!!」

 

「これがツナの実力…(あるいはその一端か…)」

 

 

-ラミアスケイル観覧席

 

「リオン!ジュラさんが!」

 

「落ち着けシェリア!ジュラさんがこのまま負けるわけがない!」

 

「ほら!言ったじゃねーか!あいつこえーって!!」

 

「きれんなよ。」

 

 

-闘技場

 

 

再び間合いを詰めたツナと全身に魔力を漲らせたジュラが殴り合う…が当たるのはツナの攻撃のみ。超直感で攻撃を読みながらジュラの攻撃を防ぐツナにジュラは接近戦は不利と悟る。

 

-これはたまげた。まさかここまで押されるとは…動きが速すぎる上にこちらの攻撃を読んでいるような反応…まずは動きを封じねば。クックッ滾ってきたわい!!-

 

ジュラはかつてない強敵の出現に心を躍らせると、地面を隆起させて強引にツナとの距離をとる。そして岩でできた巨大な腕を二本作り出す。

 

その腕の片方がツナに向かって突き進む。迎え撃とうとするツナの目の前でその腕が爆発し、弾け飛ぶ。さすがに避けきれずに数発食らって吹き飛ばされる。

 

「岩鉄牢!!」

 

岩の弾丸から目を庇いながら着地して体勢を整えようとするツナの周りに牢のように岩がせり出す。真上が開いているがそこにはもう一本の腕が迫る。

 

「ナッツ!」

 

「GAOOO!!」

 

とっさにボックスを開匣してナッツを呼び出し正面の岩に咆哮させる。すると調和の属性によりジュラの魔力によって鉄以上に強化された岩が、魔力を失いただの岩になる。

 

そこを破壊して脱出したツナだったが足を何かにつかまれる。下を見ると先ほどの巨大な腕とは比べ物にならない小さな腕がツナの両足をしっかりと捕まえていた。

 

「しまった!」

 

「好機!!」

 

ジュラが掌を合わせると巨大な腕と牢がばらばらになり、ツナに吸い付くように集まってツナの体を覆う。かつてこの魔法を見たことがあるナツ達は焦る。

 

「やべぇ!!」

 

「ブレインを倒した魔法か!?」

 

「ツナ!」

 

形態変化(カンビオ・フォルマ)モードディフェーザ。」

 

岩に覆われる前にツナは呟く。ついに完全に岩に覆われたツナにジュラが宣告する。

 

「覇王岩砕!!!」

 

岩に込められたジュラの魔力により内側から大爆発を起こす…

 

「ぬ?」

 

はずが何も起こらない。岩の隙間からツナの炎の色と同じオレンジの光が溢れ出し、どんどん強くなっていく。魔力で固めたはずの岩が崩れ姿を現したのは裾の部分が燃えているマントを翻すツナの姿だった。

 

Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレプリーモ)。」

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「ツナさん!よかった…」

 

「あのマントはなんじゃ?」

 

「かつてジョットも同じものを使用していました。大空属性の調和の炎を纏わせて岩に込められた魔力を散らして攻撃を無効化したのでしょう。」

 

「なんと…」

 

 

 

-闘技場

 

ジュラは己の魔法が防がれたと知るとすぐさま動き出す。先程よりも巨大な拳を作り出しツナに向けて放つ。まだ足を掴まれたままのツナは躱せない。ガードに徹する。

 

「ぐうっ!!」

 

ツナに直撃すると同時に足の拘束は解かれ、岩の拳はそのまま闘技場の壁まで伸びてツナを押し潰す形で壁と激突する。

 

「「「ツナ!」」」

 

フェアリーテイルの仲間達の悲鳴が飛び交う中、ツナは痛む身体を無視して呟く。

 

「零地点突破、初代(ファースト)エディション。」

 

一拍置いた後ツナが触れた部分から侵食するように岩全体が凍りつく。

 

「何と!!」

 

これにはジュラも驚愕する。グレイとリオンも同じように驚愕していた。

 

「まじかよ!!ツナの奴氷も使えたのか!」

 

「ありえん!ジュラさんの魔法を凍らせるなど…」

 

ジュラが驚きで動きを止めたのはほんの一瞬の出来事だったがその一瞬をツナは見逃さない。これを好機と見たツナは一気に決めるべく動き出す。

 

「ナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)モードアタッコ!」

 

ナッツがマントから光になり、ツナの右手を覆っていく。

 

Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレプリーモ)!」

 

攻撃態勢に入ったツナのガントレットに包まれた右手に今までにないほどの魔力が集まっているのを感じたジュラは、自身の最高の防御力を誇る仏像のような形をした岩を出現させる。

 

「巌山!!」

 

「バーニングアクセル!!」

 

巨大な火球が仏像を飲み込もうとする中、ジュラは必死で魔力を込めて仏像を強化する。しかしその隙にツナは高速移動でジュラの背後に回りこむ。

 

「ジュラさん!!」

 

リオンが叫ぶがもはや遅い。ツナが再び右腕を振るうと先程と同等の火球が生み出されジュラに迫るが、前方の火球に耐えている為何もできない。火球がジュラに直撃し、さらに前方の火球と衝突して爆発する。

 

爆発が収まり闘技場を包む煙が晴れたときそこにはツナとボロボロになったジュラが立っていた。ジュラはツナに対してニヤッと笑う。

 

「完敗じゃ…」

 

そう言ってゆっくりと仰向けに倒れた。会場は静寂に包まれる。

 

「し…試合終了ー!勝者!フェアリーテイルBチーム!ツナヨシ・サワダー!!なんと圧倒的な強さで聖十の魔導士を撃破ー!!」

 

会場が大歓声に包まれる。誰も予想しなかった結末に会場の全ての人が驚きと興奮に包まれていた。

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「「「「「やった~!!!」」」」」

 

「ツナさん…」

 

「よかったねウェンディ。」

 

「はい!信じてましたから!」

 

興奮に包まれる応援席でマカロフがメイビスと話している。

 

「それにしてもツナには驚かされました。てっきり炎使いだと思っていましたがまさか氷も使えるとは…」

 

「あれはジョットの奥義でもある零地点突破です。死ぬ気の炎が➕のエネルギーならあの氷は-のエネルギーということになります。ただの氷ではありませんのでおそらくナツでも溶かせません。」

 

「本当に驚かせられますなぁ~」

 

 

Aチーム観覧席

 

「よっしゃあ!」

 

「勝ったぜ!!」

 

「圧勝じゃねえか!しかも氷まで使いやがるとはな!」

 

「見事としか言えないな…」

 

「ツナ…凄かったよ!」

 

 

-Bチーム観覧席

 

「やりましたね!」

 

「オイオイ…マジかよ。」

 

「まぁ俺に勝つんだから当然だな…」

 

「ツナ~!素敵よ~!」

 

フェアリーテイルのみんなの喜びを聞きながら応援してくれた仲間に手を振る。歓声はまだ鳴りやまない。ガントレットから元に戻ったナッツがツナの周りを飛び回りながら、勝利の雄叫びというには可愛らしい声で吠える。こうしてフェアリーテイルはニチーム共にバトルパートを勝利するのだった。

 

 




オリジナルバトルは難しいですね。ツナの圧倒的な力とジュラの見せ場を上手く表現できません。Xバーナーは周りに観客がいたら出しにくいですし…次回は試合後のこととか周りの反応ですかね。昨日の後書きにも書きましたが明日からしばらく休載します。申し訳ありません。


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試合後の妖精達

ちょこちょこ書いてました。


-闘技場

 

未だに鳴りやまない歓声の中ツナはジュラに肩を貸してラミアスケイルの待機所へと向かいながら会話していた。

 

「すまぬな…」

 

「いえ、俺がやったことですし…」

 

「しかしただ者ではないとは思っていたがまさかこれほどの強さとは思っていなかった…見事としか言えん」

 

「「ジュラさん!!」」

 

リオンとシェリアが駆け寄って来る。

 

「おお、二人ともすまぬな。負けてしまったわい」

 

「そんなことはいいですから!シェリア!治療を!」

 

「うん!ジュラさんこっちへ!」

 

「まぁ待て。そこまで心配することはない…ツナヨシ殿ここまでで結構ですぞ。仲間の元へ戻られるがよい」

 

「分かりました。俺が言うのも変ですけどお大事に。リオンと…シェリアちゃんだっけ、あとはよろしくね」

 

「言われるまでもない」

 

「うん!後は任せて!」

 

ツナは二人にジュラを預けると踵を返して去っていった。その背中を見送りながら三人は会話をする。

 

「アイツ…いったい何者だ?」

 

「すごく強かったよね~まさかジュラさんが負けるなんて思わなかったよ」

 

「儂もまだまだということだな…世界は広い。ツナヨシ殿とは腕を磨いてもう一度闘いたいものだ…」

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

 

「強い…記憶できないほどだった」

 

「オルガの予想は大外れだったな」

 

「うるせー!あんなの予想できるかよ!」

 

「た…大したことないですよ!スティング君の方が強いに決まってますよ!」

 

「フローもそう思う」

 

「いや…あの男の強さは桁違いだ。恐らく予選1位という結果もあの男の力が大きかったのだろう」

 

「……///」

 

「ユキノはさっきからこんな状態だしな…ほんとに何者なんだ?」

 

優勝を目指すセイバートゥースもツナを警戒していた。

 

 

-マーメイドヒール観覧席

 

 

「かわいいネコネコだったよね~カグラちゃん。しかもマントになったり武器になったりすごいネコネコだね」

 

「だからライオンだと言っているだろう。…確かに可愛らしかったな。…たがそれ以上に警戒するのはあの男だな」

 

「まさか聖十のジュラを倒すなんてね」

 

「アチキこんなのはじめてみたよ」

 

「顔だけじゃなかったみたいね」

 

 

-ブルーペガサス観覧席

 

「まさかこれほどとはね…」

 

「スゴいや」

 

「素晴らしい香り(パルファム)だったよ。やはりただのイケメンではないようだねツナヨシ君」

 

「くそっ!どんだけ強いんだよアイツ…」

 

「諸君!彼に負けないよう我々も頑張ろうではないか!」

 

「「「押忍、先輩!」」」

 

 

-Bチーム観覧席

 

「ツナ~!」

 

自分の陣地へ戻ったツナを出迎えるBチームの面々。ミラは嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「なんというか…凄いとしか言えないです。まさか聖十のジュラさんをあっさり倒すなんて…」

 

「ギヒッ、マジですげえ奴だったんだな」

 

「俺と闘った時は全然本気出してなかったのかよ…」

 

「それにしてもナッツちゃんも凄かったわ…マントになるのは知ってたけど魔法を防いだり武器?になったり」

 

「前に言ったでしょ?ナッツは俺の大切な相棒だって。防御形態のマントと攻撃形態のガントレットに変化するんだ」

 

本当はもうひとつ形態があるが実演しないとよく分からないだろうと思い、その事は黙っていることにした。

 

「それにしても氷も使えたんだな」

 

「うん。零地点突破初代エディションて言って初代…ジョットが奥義として使ってた技なんだ」

 

「なんにしてもこれで10pt獲得ね。凄いわツナ!」

 

そういって腕に抱きついてくるミラ。遠くから鋭い視線が2つ突き刺さっているがいつものことだ。

 

「これで明日以降の闘いにも弾みがつくな」

 

「はい!明日もがんばりましょう!」

 

「ギヒッ、こいつにだけ活躍させるわけにもいかねぇしな」

 

「うん。ツナに負けないように私もがんばるわ」

 

「じゃあ帰ろうか」

 

「あの~」

 

帰ろうとしたBチームの後ろから声がかかる。振り向くとそこには審判のマトー君がいた。

 

「どうしたんですか?」

 

「いえその…あの氷が全然溶けないんで何とかしてくれませんかカボ…」

 

見てみると王国の魔導士達が必死に炎で溶かそうとしているが何人でやっても無理のようだ。何故かナツも参加しているが氷には全然変化がない。

 

「あっ!すみません。あれは俺の炎じゃないと無理だと思います。ミラ先に行っててすぐに溶かしてくるから」

 

そう言ってツナはナツがギャーギャー喚くのを宥めながら氷を溶かすのだった。一日目の総合順位は、

 

1位 セイバートゥース 20pt

2位 ブルーペガサス 14pt

3位 フェアリーテイルB 11pt

4位 フェアリーテイルA 10pt

5位 レイヴンテイル 8pt

6位 ラミアスケイル 6pt

7位 マーメイドヒール 3pt

8位 クワトロケルベロス 2pt

 

やはりバトルパートの得点配分が大きいらしい。フェアリーテイル両チームとも幸先のいいスタートとなった。

 

 

 

-闘技場外

 

最後まで闘技場にいたツナとナツが外に出るとフェアリーテイル全員が集まっていた。マカロフが二人に声をかける。

 

「おおっこれで全員揃ったな!さて今日は皆よくがんばった!酒場は予約してあるので今夜はパーッと騒ぐぞい!」

 

「よっしゃあ!宴だぁ~!」

 

「明日も試合あるんだけど…」

 

「まぁいいじゃないツナ」

 

「ミラさん!自然に腕を組まないで下さい!」

 

「ルーシィさんもですよ!」

 

「ホラ、あんたは今日までは安静にしてな」

 

「ええっ!」

 

「さっさと医務室に戻るよ!多分明日には全快するから」

 

「…分かりました」

 

「ウェンディ、今夜はゆっくり休んで明日は元気な姿を見せてね」

 

「はい!///」

 

ポーリュシカに連れられて医務室に戻るウェンディの頭を撫でるツナにウェンディは元気に返事をする。この調子なら明日は治るだろう。

 

みんなが酒場へと移動を始めた時、ルーシィとミラに両腕をホールドされているツナにマカロフが声をかける。

 

「ツナ、今日はご苦労じゃったな。試合だけでなくレイヴンテイルの妨害も防いでくれて感謝するぞい」

 

「あ!忘れてた!今日は助けてくれてありがとう!試合に勝てたのはツナのおかげだよ!」

 

「気にしないでルーシィ。妨害がなければそのままルーシィが勝ってたはずだしね」

 

「ううん。それでもお礼は言わせて」

 

「どういたしまして…それとマスター、やはりアイツらは単にうちのギルドに恥をかかせるのではなく何かの目的があると思います」

 

「フム…目的か……」

 

マカロフは考え込むがやはり目的については思い浮かばないようだ。ツナは両腕を解いて自分の考えを述べる。

 

「今日かなり脅しておきましたから今後は無意味な妨害はしてこないと思います。それでも奴等が動く時は…」

 

「…その目的を果たす時というわけね」

 

「うん…そしてレイヴンが一番仕掛けてくる可能性が高いのは…」

 

「俺だろ?ツナ?」

 

話を聞いていたのかラクサスがやってきた。ツナはその言葉に頷く。マカロフも納得の表情を見せる。

 

「なぁツナ…もしアイツらが俺に仕掛けてきた時は俺に任せてくれねえか」

 

「ラクサス…」

 

マカロフが心配そうにラクサスの名を呼ぶがラクサスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「クソ親父が何を考えてるのかは分からねえがフェアリーテイルに手を出すなら…俺が潰す!」

 

「分かりました。でも他の人に手を出すなら俺が止めますよ」

 

「ああそっちは任せるぜ…つかそろそろ敬語やめろよ」

 

「ふふ…了解」

 

ツナとラクサスが拳を合わせる。その姿を見て3人が笑顔を浮かべて内緒話をする。

 

「なんかあの二人って結構仲がいいですよね?」

 

「そうね。ラクサスは昔から親友って呼べるような人はいなかったから、自分と対等以上のツナがそうなるのかもね」

 

「初代によるとワシの父であるユーリとツナの先祖であるジョットは親友だったというからのう…二人もそうあってほしいものじゃ」

 

「マスター嬉しそうですね♪」

 

「ふん…」

 

「お~いじっちゃん!ツナ達も!早く行こうぜ!」

 

ナツが大声で呼んでいるので5人は酒場へと歩き出す。もちろんツナの両腕はルーシィとミラに再び捕まったのは言うまでもない。

 

 




今回はあまり話は進んでませんがこういう会話は書いてると楽しくなります。ほんとにちょっとずつしか書けません…


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酒は飲めども…

久々の休みですので書きました。


-BAR SUN

 

大魔闘演武一日目が終了してフェアリーテイルの面々は夕食と一日目の打ち上げの為にとある酒場に集まっていた。今日の結果に概ね満足していた。ツナとルーシィのバトルパート勝利により明日へ弾みをつける結果となった。カナがテーブルの上に胡座をかきながら上機嫌に笑う。

 

「いや~今日はみんなよくやったよ。特にツナとルーシィ!おかげで酒が旨い!」

 

「街中の酒場巡りで応援にすら来なかったやつが偉そうに」

 

「見てたよ。どこの酒場にもラクリマビジョンが置いてあるんだから」

 

エルフマンの文句にも全く堪えないカナ。どうやら既にそうとう呑んでいるようだ。

 

「しかし今日のツナは凄かったな。試合といい妨害阻止といい、本当にいい働きをしてくれた」

 

「そうね。明日からは私達もがんばらないと」

 

エルザとミラが今日一日の結果を振り返りながら明日への健闘を誓っているとナツとガジルも盛り上がる。

 

「明日の競技は俺が出る!一気にトップになってやるんだ!!」

 

「ほう…サラマンダーが出るなら俺が出ようか」

 

「いや~二人とも明日出るのはやめたほうがいいような気がするけど…」

 

「いーや!出るったら出るんだー!!」

 

「ギヒッ!なら俺も引けねーな!」

 

「まあ仕方ないか…ガンバってね」

 

「「おう!!」」

 

ツナの忠告は聞く耳持たれなかったが特に気にした様子もないツナ。まあ結果は明日分かるだろう。

 

その時ルーシィが呼びに来て隣の席へ連行された。さらに反対にはミラもいる。いつものことでもはや誰も気にしていない。全員が揃ったのを確認しマカロフがテーブルの上に立つ。

 

「聞けぇ!ガキども!今日は本当によくやった!じゃがまだまだこれからじゃ!!昇ってやろうじゃねぇか!!フィオーレのてっぺんに!!」

 

「「「「「「うおおおおっ!!!!!」」」」」」

 

その言葉を皮切りに妖精達の大宴会が始まった。飛び交う笑顔と笑い声は明日もきっといい結果になるとツナに確信させるものだった。

 

 

-華灯宮メルクリアス玉座の間

 

「陛下、大魔闘演武一日目無事に終了致しました」

 

「ウム…よき魔闘であったな。まさかジュラを倒すとは…ツナヨシ・サワダ、実に興味深い」

 

「二日目のバトルパートの組み合わせについてご要望があれば伺います」

 

「そうだのう…スティングやローグは後にとっておきたいし…そうじゃ!バッカスを組み込んでくれぬか」

 

「どのチームと当てましょう?」

 

「フェアリーテイルのあの変身するやつじゃ!名前が思い出せん!エル…エル…~~!」

 

「かしこまりました。そのようにいたしましょう」

 

騎士団長アルカディオスは国王の先を読んで承諾する。ゆっくり休むようにと労う国王に礼をとり、退席した先の廊下で怪しげな笑みを浮かべる。

 

「休む暇などないのですよ陛下。直にあれが完成するとあらば…ククク…」

 

 

-BAR SUN

 

「次は誰だー!景気づけにかかってこーい!!」

 

ナツの声が酒場に響く。その足元にはナツにやられたマックスが転がっていてマカオとワカバはノリノリでナツに声援を送っている。どうやらかなり酔っているようだ。

 

「やれやれ…いつものこととはいえナツはどこでも騒がしいね」

 

「だってナツだもん」

 

「元気なのは何よりなんだけど…」

 

ツナとルーシィとミラはリサーナとエルザと一緒にテーブルを囲みながら談笑している。

 

「そうだ。エルザはジェラールと連絡は取れる?」

 

「一応明日の夜に落ち合うことになっているが?」

 

「そう…じゃあその時に伝言頼める?ちょっと城の方から嫌な感じがするって」

 

「ツナの勘は当たるからな…分かった。そうしておこう」

 

「気のせいだといいね」

 

「さあ誰かいないかー!」

 

「面白ぇ俺が相手してやるよ」

 

「よせよ…お前とナツじゃ遊びじゃなくなる」

 

「おうおう…丸くなったねぇラクサス」

 

相変わらず暴れているナツに対してガジルが名乗りを挙げようとするのをラクサスが止めるが、ガジルはラクサスの頭をペシペシと叩く。本人は気にしてないがそれを見て激昂するのはフリードだった。

 

「貴様ぁ!ラクサスに何てことを!今我らの誇りが踏みにじられている!ラクサス親衛隊雷神衆集合ー!!」

 

しかし、ビッグスローとエバーグリーンはカナによって酔い潰されていた。カナの周りには無数の酒瓶が転がっており相当に呑んでいるというのにカナは平気そうだ。そこへツナがやってくる。

 

「カナ…いくらなんでも飲み過ぎだよ」

 

「ツナの小言は聞き飽きたよ…言いたいことがあるならこれで聞くよ」

 

そういってグラスをツナの前に差し出す。

 

「はぁ…分かったよ。じゃあ俺が勝ったら一日ボトル一本までに押さえること。それでも普通の人には多いくらいなんだからね」

 

「オッケー!私が勝ったら二度とガミガミ言わないこと。それでいい?」

 

「はぁ…分かったよ」

 

「ち…ちょっとツナ本気なの!?」

 

「無理しちゃダメよツナ!」

 

「オイツナ!やめとけよ!」

 

「見てのとおりこの女バケモンだぞ!」

 

ルーシィ、ミラ、マカオ、ワカバが止めるもツナはカナの隣へ座る。

 

「お…飲み比べかい。魂が震えるねぇ~俺も混ぜてくれねぇか?」

 

「どなたですか?」

 

「ただの通りすがりよ。いいだろう?」

 

「いいよ!どちら様か知らないけど勝つのは私だからね!」

 

ツナVS.カナVS.謎の男の飲み比べが始まった。三人ともものすごいハイペースで飲んでいき次々に空き瓶が積み重なっていく。ルーシィとミラは心配そうにツナの後ろで見守っているが……

 

「や…やるじゃないツナ、それにあんたも」

 

「た…魂が震えるぜ兄ちゃん」

 

「どうしたの?もっとガンガン行こうよ♪」

 

ものすごい笑顔で飛ばすツナに引っ張られるようにカナと謎の男はペースを崩されるが負けじとついていく。

 

「あれ?ペース遅いよホラホラ飲んで飲んで♪」

 

「ち…ちょっと…」

 

「わ…ワイルド~」

 

「いいから飲め♪」

 

自分達以上のペースで飲んでいるツナは顔は赤く笑顔で、酔っているのは分かるが潰れる気配はない。自分も飲み続けながらどんどん酒を注ぐツナにカナも男も限界が近づいていた。

 

「もう…ダメ…」

 

「やべぇ…この俺が…」

 

「何言ってんの?これからじゃん♪言いたいことは飲んでから♪さあ飲んで♪」

 

限界を口にした二人に更に酒を注ぐツナ。もはや鬼畜の所業である。ほどなくして二人は揃ってズテーンとひっくり返るように床へ倒れた。

 

「マジかよ!」

 

「カナが飲み比べで負けたの!?」

 

「ぶっ倒れるカナなんて初めて見た」

 

「あれ?二人とも何やってんの?ほら飲んで♪」

 

「「「鬼か!!!」」」

 

ジェットとラキとウォーレンがツナを見て戦慄していると倒れた二人に更に飲まそうとするツナにつっこむ。

 

「とにかく飲み比べはツナの勝ち!!」

 

「いぇ~い!」

 

「こんなハイテンションなツナは初めて見るわ…」

 

「新鮮ね~」

 

マカオの裁定にツナはVサインで応える。ルーシィとミラは想い人の意外な一面に興味津々のようだ。

 

「ん?バッカス?」

 

「よお…エルザじゃねえか…相変わらずいい女だねぇ…」

 

エルザがやって来て倒れたままのバッカスに声をかける。

 

「どうしたんだそのザマは?」

 

「情けねえことにこの兄ちゃんにやられた…」

 

「お前は大魔闘演武には参加していないようだが?」

 

「今回は若いもんに任せておこうと思ったんだけどよ…ウォークライのザマを見ちゃ黙ってられねぇ…リザーブ枠を使って参加することにしたんだ…ウプッ…」

 

そう言ってバッカスは起き上がり出口へとふらふらと歩いていく。

 

「大会で当たることがあったらいつかの決着つけてえな…ジュラを倒したあの兄ちゃんともやってみてぇがな…魂はいつでもワイルド~?」

 

「…フォー」

 

「ノリ…わりぃよ…エルザ…じゃあな……」

 

今にも倒れそうにバッカスは去っていった。

 

「エルザ知り合いなの?」

 

「クワトロケルベロスのS級にあたる男…奴とは仕事先でぶつかることが多くてな。その強さはよく知っている…酔いの鷹、酔・劈掛掌のバッカス。何度か戦ったことがあるが決着はつかなかった」

 

「え…エルザと互角……?」

 

「なーに昔の話だろ?今のエルザが負けるわけねぇ」

 

「エルザが戦う前提なのか?」

 

「俺がやってもいいけどな!」

 

ルーシィとエルザの会話にナツとグレイがお互いの顔を引っ張りながら口を挟むが、エルザは油断できる相手ではないと気持ちを引き締めていた。

 

…ちなみにそんな会話があってる間ツナはマカオやジェットにも酒を進めつつ未だに飲んでいた。ミラは役得とばかりにツナの隣で酌をする。それに気づいたルーシィも隣に座って同じように酌をする。ツナの前に一人また一人と潰されていく…

 

ここにフェアリーテイル最強の酒豪の座はカナからツナへと移り変わったのだった。

 

 

-医務室

 

眠っているウェンディの横でポーリュシカとシャルルがシャルルの見た予知について話している。

 

「アンタ何を見たっていうんだい?」

 

「それが…いつものことだけど断片的で……白い騎士…巨大な魔方陣……」

 

「他には?」

 

「信じられないような光景だけど…崩壊する城…そしてその中で何かを歌っている…ルーシィ」

 

ポーリュシカとシャルルは何かとんでもないことが起こりそうな予感を感じていた……

 

 

 

-???

 

-大魔闘演武一日目終了。私達フェアリーテイルは上々の滑り出しだったけど最悪の事件がこの時既に動いていたんだ……-

 

-大魔闘演武終了から数日後…ここに記す。親愛なるルーシィ・ハートフィリアへ、レビィ・マクガーデンより-

 

 




また間が空くと思います。


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戦車と陰謀

な…なんとか気合いで更新できました


-大魔闘演武二日目

 

二日目の競技パートである『戦車(チャリオット)』が行われていた。今日の実況席にはゲストとして、ツナとミラがモデルをした時に会った週刊ソーサラーの記者ジェイソンが呼ばれていた。

 

 

-実況席

 

「この競技は連結された戦車の上を落ちないようにゴールを目指すものです。戦車は動いているので注意が必要です。クロッカスの観光名所を周りゴールであるドムス・フラウまで一番早くたどり着くチームはいったいどこだ!?」

 

「ただのレースではないんだよなァ」

 

「COOL!COOL!!COOL!!!」

 

「会場のみなさんにはラクリマビジョンにてレースの様子をお届けしていますが……ヤジマさんこんな展開誰が予想できたでしょうか?」

 

「う~む……」

 

フェアリーテイルの選手席にいる者、応援席にいる者全てが口を開けて呆然としていた。

 

 

 

-Aチーム観覧席

 

「何でナツを出したぁ!?」

 

戦車(チャリオット)って競技名で予想できるよね?フツー」

 

「どうしても出ると聞かないものでな」

 

 

-戦車後方

 

『先頭より遥か後方フェアリーテイルAナツがグロッキー状態です!!』

 

「お…おお…おぷ…」

 

『それだけではありません!そのすぐ近くでフェアリーテイルBガジルとセイバートゥーススティングまでもがグロッキー!!』

 

「な…なぜ俺が……」

 

「お…お…お……」

 

三人は戦車後方をフラフラしながら走っている。…というか歩いている。

 

 

-Bチーム観覧席

 

「嫌な予感はこれだったのか…やっぱり昨日止めるべきだったかな?」

 

「何でガジル君も!?乗り物は平気でしたよ!」

 

「……」

 

「もしかしてドラゴンスレイヤーだからかしら?セイバーの人もそうだし」

 

「でもウェンディは平気だったけど…もしかしてある程度成長するとそうなるのかな?」

 

「じゃあもしかしてラクサスも?」

 

「他の奴等には黙っとけよ」

 

「もうバレバレだと思うけど」

 

とりあえず最下位争いが確定したので薄情だがトップグループを見ることにした。

 

「昨日のバッカスって人調子悪そうっていうか、昨日の酒が残ってない?」

 

「本当…ふらふらしてるわ」

 

「というよりあんなに飲んでたのに何でツナさんは普通なんですか!?」

 

「確かにな…お前のせいで応援席の連中の大半が二日酔いだぜ」

 

「選手には飲ませてないからいいでしょ。久々にたくさん飲んだからテンション上がっちゃって…俺は二日酔いはしないんだ」

 

「でも飲み過ぎはダメよツナ」

 

「俺は味わって飲むタイプだから昨日みたいなことがない限りはそんなに飲まないよ」

 

「ラクサスさんこの二人って……」

 

「ああ…昨日の惨状を全く気にしてねぇな……」

 

そんな話をしている間に先頭グループでは動きがあった。一位はレイヴンのクロヘビが少し独走している。

 

二位争いでラミアのユウカが魔法を打ち消す波動を放つ。マーメイドのリズリーは重力魔法を使い波動を躱して戦車の側面を走る。天馬の一夜は何と試験管を鼻の穴に突っ込むことで波動を防ぎ魔法を使用して俊足になる。その様子がラクリマにアップで映し出される。まさに視界の暴力だ。

 

「うわぁ……」

 

「こりゃひでえな……」

 

「えっ!何!ツナ何が見えるの!?」

 

「どうしたんですか!?ツナさん?」

 

「二人は見ないほうがいいよ」

 

「紳士だな」

 

一夜が試験管を鼻に突っ込みそうなところでミラとジュビアに腕を回して視界を塞ぐ。

 

その時バッカスが動く。相撲の四股を踏むように足を上げて降り下ろすとバッカスの乗っている戦車だけでなくその前後いくつかの戦車がひっくり返った。

 

そのまま一夜達を置き去りに激走するバッカス。そのままクロヘビを抜いて一位でゴールした。

 

「すげぇパワーだな」

 

「さすがはエルザが言うだけのことはあるね」

 

「二位がレイヴンテイルね」

 

「三位がマーメイド、四位がラミア、五位が天馬ですね。後は……」

 

「最下位争いか…最下位は避けて欲しいよね」

 

ツナ達はガジルとついでにナツの応援の為にラクリマに注目することにした。

 

 

-最下位グループ

 

観客はフラフラと走る3人を大笑いしている。走る三人は今にも吐きそうだ。

 

「おぼ…おぼぼ……」

 

「バ…バカな…俺は乗り物など平気…だった…うぷ」

 

「じゃあ…うぷ…やっとなれたんだな本物のドラゴンスレイヤーに…おめでとう新入り」

 

「ぬぐ…!てめえっ!!がはっ…力がでねえ……」

 

嘲るように発言するスティングに体当たりをかますガジルだが自分を含めた3人とも更に酔いが激しくなっただけだった。

 

全く力は出せなくてもナツとガジルは前へと進む。這ってでも進むその姿にスティングは勝負を捨てる。

 

一点二点なんかいらないと言うスティングに対してガジルはその一点に泣くなよと告げる。スティングはなぜフェアリーテイルがこの大会に出場したのかを聞いてきた。

 

昔のフェアリーテイルはもっとマイペースで他からどう思われようと気にしないはずだったと。その疑問に地面を這って進みながらナツが答える。

 

「仲間の為だ!7年も…ずっと…俺たちを待っていた…どんなに苦しくても悲しくても…バカにされても耐えて耐えて…ギルドを守ってきた……」

 

ナツの独白に応援席の7年後のメンバー達の目に涙が浮かんでくる。

 

「仲間の為に俺たちは見せてやるんだ。フェアリーテイルの歩き続けた証を!!だから前に進むんだ!!」

 

その言葉に7年後のメンバー達が号泣する。観客達もその言葉に感動しているようだ。

 

 

-Bチーム観覧席

 

「ふふ…ナツらしいわね……」

 

「アイツは昔からあんな感じだったな。だからこそみんなが集まってくる」

 

「ガジル君もきっと同じ気持ちです」

 

「観客の空気も変わったね。やっぱりナツはすごいな」

 

結果はナツが六位、ガジルが七位となりスティングは途中リタイアとなった。会場の幾人かはその健闘を称えて拍手をする。

 

 

-医務室

 

医務室には眠っているウェンディと苦しんでいるナツ、ポーリュシカ、シャルル、ルーシィ、ツナがいた。

 

「ナツ…大丈夫ですか?」

 

「何の心配もいらないよ。ただの乗り物酔いじゃないか。ウェンディはほぼ回復したよ」

 

「ガジルも来れば良かったのに意地っぱりだな」

 

「シャルルはもう元気になったの?よかった~みんな待ってるからあたし達行くね。行こツナ」

 

「じゃあみんなのことよろしくお願いします」

 

二人が出ていくとポーリュシカとシャルルは話し出す。

 

「黙っているつもりかい?」

 

「伝えてどうするの?あんな未来信じてくれるわけない。あれは夢…予知じゃないわ…」

 

その時ドアのノックの音が聞こえる。ポーリュシカが出るとそこには……

 

「動くな!」

 

仮面で顔を隠して銃を構える三人組がいた。

 

「なんだい!アンタ達は!!」

 

「ウェンディ!起きなさい!!」

 

「えっ!何!?」

 

「こいつらを眠らせてさっさとずらかるぞ!」

 

男達は睡眠薬をばらまこうとするが……

 

「させるか!!」

 

飛び込んできたツナがその男を殴り飛ばした。

 

「ツナさん!!」

 

「やべぇ!聖十のジュラを倒した奴だ!!」

 

「さっき闘技場に行ったはずなのに!」

 

あっという間に男達は叩きのめされてポーリュシカが用意したロープで縛られた。

 

「ナイスよツナ。でも闘技場に行ったんじゃなかったの?」

 

「嫌な予感がして戻って来たんだ。どうやら正解だったようだけどね」

 

「相変わらず凄い勘ですね……」

 

「さて…君達は何の目的でこんなことを?」

 

炎を灯した手を男達に向けて尋問するツナ。こんな雑魚がツナの迫力に耐えきれる訳がなく口を割る。

 

「た…頼まれたんだよ!医務室にいた(・・)少女を連れて来いって!レイヴンテイルの奴等に!」

 

「レイヴンテイル!?」

 

「イワンのバカの仕業かい…」

 

「医務室にいた(・・)!?」

 

「……で?誰に頼まれたんだって?」

 

「え?いやですからレイヴン…」

 

「嘘付くなよ。本当は誰に頼まれたんだ?」

 

ツナの右手の炎が激しさを増す。男達は恐怖に震えてその炎を見つめている。

 

「そうか…言いたくないか…俺の炎はウソつきだけ燃やし尽くすこともできるけど…試してみる?」

 

「わ…分かりました!言います!!」

 

その時医務室に王国兵達がやって来た。

 

「通報を受けて来ました。御苦労様です。後は我々が引き受けますので」

 

「今背後関係を吐かせる所だったんですけど?」

 

「それは私達が行い後日ご報告しますので」

 

「ちなみに通報したのは?」

 

「通りすがりの方です。銃を持って医務室に入るのを見たとのことです」

 

「……なるほど。素晴らしく早い対応ですね。さすがは王国に仕える兵士さん達だ」

 

「ハッ!ありがとうございます!それでは私達はこれにて失礼します!」

 

ツナの笑顔の賞賛に兵士達は揃って敬礼するとさっさと男達を引っ立てて出ていった。ツナの疑惑の視線には気付かずに…

 

「ツナさん……」

 

「怖がらせてごめんね。ウェンディ」

 

「いえ!怖くなんてありません!」

 

「ありがとう……レイヴン以外に俺たちに手を出そうとする奴等がいるみたいだね」

 

「そうね…ツナのおかげでハッキリしたわ。また勘なの?」

 

「勘と…経験かな。マフィアのボスなんてやってると平気で騙してくる奴もいるしね」

 

「話には聞いてたけど本当だったのかい?でもさっきのハッタリはなかなかのものだったよ」

 

「えっ!ハッタリだったんですか!?」

 

「ウェンディ……あんた……」

 

シャルルがやれやれという感じで首を振る。ウェンディは顔を真っ赤にする。

 

「とにかく気を付けておかないと…ウェンディはもう大丈夫なの?」

 

「はい!もう全開です!」

 

「あんたはもう少しここにいな。ナツもそろそろ回復するだろうし、ここの心配はいらないからツナヨシはそろそろ行きな。……後で二人にどんな治療をしたのか教えてもらうよ」

 

「えっ!ツナさんが?」

 

「そうなの?」

 

「本当に大したことはしてませんけどね…それじゃあまた後でね」

 

「ありがとうございました!ツナさん!」

 

ツナは観覧席へと急ぐ。その途中で先程のことを考えていた。

 

-王国兵の素早い対応…狙ったようなタイミング…裏で糸を引いているのは……考えすぎか?-

 

ツナは城の方から感じた嫌な予感と合わせて一抹の不安を覚える。

 

-そして医務室にいた(・・)少女…つまり狙われたのはウェンディではなく…ルーシィ……-

 

 

 

-王宮

 

「作戦は失敗です」

 

「バカモノ。対象を間違えるとは…外見の特徴は伝えてなかったのか?」

 

「申し訳ありません」

 

「まあよい。計画をプランBに移行するだけのこと。実行犯はどうした?バレてはいまいな」

 

「実行犯の兵士については休養を取らせています。打ち合わせ通り依頼主はレイヴンテイルと言わせましたが…ツナヨシ・サワダが嘘だと見破ったようです。…ですが我々のことはバレてはいないはずです」

 

「くっ!あの名高き聖十をも破った男か…だがなんとしても星霊魔導士は手にいれなければならん!全てはエクリプス計画の為に……」

 

 

 

 




誘拐犯は山賊ギルド→兵士の変装ということにしました。ツナのおかげで誘拐される前にお縄に……


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兄として、弟として

エルフマンVS.バッカス!お気にいりが800件を越えていました。本当にありがとうございます。


-Bチーム観覧席

 

ツナが観覧席に戻った時観客のざわめきが大きいことに首を傾げる。闘技場を見ると、ラミアスケイルのトビーが一人で立っていた。

 

「何なの?この騒ぎは?」

 

「あ、ツナ!お帰りなさい。ラミアスケイルのトビーとレイヴンテイルのクロヘビのバトルなんだけど……」

 

「レイヴンテイルのクロヘビが競技で魔力を使い過ぎた為棄権したんです」

 

「アイツ魔法使ってたか?」

 

「…多分だけどこちらに手の内を見せないようにしたんだと思う。恐らく目的の為にね……」

 

「ギヒッ!なるほどな……」

 

「ガジル…医務室に行かなくていいの?」

 

「フン!サラマンダーとは違うんだよ!」

 

「そろそろ次の組み合わせが発表されると思います。ガジル君じゃなければいいんですけど…」

 

「おいジュビア!俺はいつでも行けるぜ!」

 

「まぁ多分今日はガジルの出番はないよ」

 

(ほっ……)

 

『さあ以外なことになった第一試合!!続いて第二試合はクワトロケルベロスのバッカス!!』

 

大歓声が巻き起こる。

 

『対するはフェアリーテイルA……』

 

 

-貴賓席

 

アルカディオスが待つ貴賓室に国王陛下が護衛と共に現れた。

 

「ほっほーう、ちゃんと組み込んでくれたのだな。楽しみじゃろうバッカスVS.エルザ!これは間違いなく良き試合になる」

 

「え?い…今エルザ…と申されましたか?わ…私が組んだのは……」

 

『エルフマン!!』

 

「なんじゃとーー!!儂が見たかったのはバッカスVS.エルザじゃぞ!こんなのは勝負にならん!バッカスの圧勝に決まっておる!!」

 

「で…でしょうな……申し訳ありません……不覚」

 

しかしアルカディオスの勘違いもある意味仕方ない。何しろフェアリーテイルの変身する者でエルがつく者としか聞いてないからだ。

 

変身する者でなく換装する者にするか若しくは性別を確認しておけば間違えなかっただろう……

 

 

-闘技場

 

エルフマンはエルザと互角という前情報により肩を落としながら闘技場へと向かう。これまでのフェアリーテイルの活躍に応援する者も少なくない。ブーイングはもう聞こえなくなっていた。バッカスが寝転びながら声をかける。

 

「なぁ盛り上げる為にいっちょ賭けをしねぇか?お前の姉ちゃんと妹えれぇ美人だよなぁ……俺が勝ったら一晩貸してくれや。両方一緒に」

 

エルフマンの顔に怒りの表情が浮かぶ…ミラもツナの腕をギュッと握り、リサーナも顔を赤くして震えている。

 

「お前が勝ったら…そうだなぁ……」

 

(おとこ)……(おとこ)として許せんことがあるぞ猟犬…砕け散れ!」

 

「商談成立ってことでいいんだな?魂が震えてくらぁ」

 

 

-Bチーム観覧席

 

「またしても女性を賭けの対象にする男…エルフマンものってどうするんだよ……」

 

「つ…ツナ……」

 

「大丈夫だよ。仮に…そう万が一エルフマンが負けても約束を守る相手が行方不明になるから約束は履行されないからね」

 

「そうよね……」

 

笑顔で恐ろしいことを話すツナとその言葉に安心するミラに戦慄するBチームの残り3人。

 

「つ…ツナさん……ミラさん……」

 

「イカれてるぜ…」

 

「さすがは元マフィアのボスってことか…(つか昔のミラの性格考えたらお似合いかもな…)」

 

「「何か言った?」」

 

「「「いや!何も!!」」」

 

「そう……ツナ、エルフマンは勝てると思う?」

 

「そうだね。きっと勝てるよ」

 

「それって勘?」

 

「いや…エルフマンは家族を守る為に戦う時には実力以上を発揮するからね。だから信じよう」

 

「うん……」

 

闘技場ではエルフマンがビーストへと変身して猛攻を加えていくがバッカスはそれを不規則な動きで躱していき、魔力を込めた強力な体技でダメージを与えていく。

 

「あれは酔拳の派生技だね」

 

「動きが捉えにくそうですね」

 

「純粋にパワーなら負けてねえけどエルフマンがあの動きを捉えるのは難しくねぇか?」

 

「さっきから懐に潜り込まれて打撃を食らうの繰り返しだしな……」

 

「エルフマン……」

 

『これは一方的な試合ー!!エルフマン!バッカスに手も足も出ないーー!!』

 

ここでエルフマンはビーストソウルワータイガーに変身する。攻撃力よりスピード重視の変身だ。

 

「素早さ系のテイクオーバー」

 

「これで攻撃が当たってくれれば…」

 

「エルフマン!それは悪手だ!」

 

「「え?」」

 

ツナの叫びに思わず振り返るミラとジュビア。その言葉通りにバッカスに攻撃は当たらず逆に吹っ飛ばされる。

 

「ツナどういうことだ?」

 

「そもそも酔拳を攻略するなら相手の不規則な動きに翻弄されないことが大事だ。動きが読めない限りいくらスピードをあげても当たらない」

 

「じゃあどうすんだよ?」

 

「バッカスは相手の攻撃を不規則に躱してどんな形からでも攻撃してくるタイプだ。…エルフマンが攻略するならば防御を固めて相手の攻撃を受け止めて反撃する方がいい。」

 

「今のアイツにそんな真似が出来るか?」

 

「賭けのことで相当頭にきてるみたいですし…」

 

「問題はそこじゃねえだろ…奴はまだ一滴も酒を飲んじゃいねえんだぞ」

 

「まだ本気じゃないということね…エルフマン…」

 

 

-闘技場

 

「ぐはあっ!!」

 

もはや何度目か分からないほどに地面に叩きつけられたエルフマン。テイクオーバーも再び解けてしまった。

 

「約束守れよ~(おとこ)なんだろ?」

 

-リサーナ……姉ちゃん……-

 

「エルフマン!!負けんじゃねえ!!!」

 

その声に観覧席を見るといつの間にか戻ってきていたナツが大声で自分を応援している。エルフマンは昔を思い出していた。リサーナを失った時のことを……

 

 

-マグノリアのはずれ

 

ナツが作ったリサーナの墓の前にナツが立っている。後ろにいるエルフマンにはナツの顔は見えない。いや見ることが出来なかった。大怪我を負ったエルフマンは泣きながら謝罪している。

 

「すまねぇっ……すまねぇ!俺のせいなんだ!俺がリサーナを……ううっ!せめてあの時お前を連れて行っていれば……ううっ…すまねぇっ!」

 

ミラのS級任務に着いていったエルフマンはビーストソウルを暴走させてしまいリサーナを失った…任務の前にミラはナツも誘っていたがエルフマンが家族は自分が守ると譲らなかった為、ナツは留守番となった。

 

「ううっ……」

 

「いつまでもメソメソ泣いてんじゃねぇ!!お前がそんなんじゃリサーナだって笑えねえだろ!!…アイツはいつも笑ってた。最期の時も…笑顔だったんだろ!!だったらお前も泣くな!!あいつならきっとこう言う…悲しい時こそ笑えって…それが(おとこ)ってもんだろ!!」

 

「ナツ……」

 

ナツは泣きながら拳を握りしめエルフマンを叱咤する。実はその言葉はミラも聞いており立ち直るきっかけとなった。

 

 

-闘技場

 

-ナツは俺を救ってくれただけじゃなくリサーナも取り戻してくれた……-

 

 

「立て!エルフマン!!」

 

自分に向けられる多くの声援の中で不思議とその声はよく耳に響く。そちらを見るとツナと隣に寄り添いながら心配そうにこちらを見つめる姉の姿があった。

 

ツナ……恐らくフェアリーテイルでも最強のギルダーツよりも強いかもしれない男。この男なら目の前の強敵など苦もなく倒してしまうだろう。

 

そして…姉が初めて好きになった男…

 

姉はいつも自分とリサーナを守ってくれた。悪魔を退治したのに悪魔に取り付かれたと村を追われた時も一番辛いのに自分達を気遣ってくれた。

 

そんな姉が家で楽しそうにツナのことを話す。ツナが合宿に来ない為機嫌が悪くなる。どれも初めて見た顔だ。少々複雑だったがそれでも姉がそう思える人を見つけたのはとても嬉しかった。

 

-けど今はまだ兄として弟として姉妹を守る!-

 

 

『エルフマン立ち上がったぁ~!!』

 

「そういやまだ決めてなかったな…賭け…俺が勝ったらお前らのギルド名…大会中は四つ首の仔犬(クワトロパピー)な」

 

「ぷっ……OKそれでいいよ。じゃあそろそろ決着付けようかね」

 

そう言うとバッカスは瓢箪に入っている酒を一気に飲み干した。動きが更に不規則になる。

 

「ビーストソウル……」

 

「無駄ぁぁっ!!」

 

すれ違う一瞬の間に7発もの打撃を加えるバッカス。勝利を確信し振り返るバッカスが見たのはボロボロに傷ついた自分の手だった。

 

「なんじゃあコリャァァ!!俺の手が!」

 

「リザードマン。当たらねえなら当ててもらえばいい!オラァ!来いよ!お前の腕と俺の体、どっちが壊れるか勝負じゃい!!」

 

「へへっ!面白れぇ奴だ!魂が震えてくらぁ!!」

 

そして男二人の意地の張り合いが始まった。

 

 

-Bチーム観覧席

 

「とんでもない作戦に出たわね……」

 

「無茶ですよ。確かにリザードマンには無数の刺があって素手の相手には相性がいいけど相手はその硬質な鱗をも砕いてくる」

 

「だが…他に手がないのも事実だ。相手の攻撃が凄まじい分跳ね返るダメージも相当だ。ここからはお互いの意地の勝負だ」

 

「オラァ!エルフマン!引くんじゃねぇぞ!!」

 

「ギヒッ!そこだぁぶち殺せ!!」

 

「絶対に負けるなよ!」

 

いつの間にか死ぬ気になっているツナと身を乗り出して応援するラクサスとガジル。やはりこういうのは男の方が燃えるらしい。

 

壮絶な戦いというより意地のぶつかり合い。攻めるが果てるか、受けるが果てるか会場には打撃音が鳴り響く。勝負は両者が同時に膝をつくことによって終了した。

 

バッカスの両腕は傷だらけでエルフマンも体中に痣ができ血を流す。二人とも大量の汗をかき、呼吸が乱れている。会場中が固唾を飲んで見守る中で立ち上がったのは…………バッカス。

 

高笑いを上げながら立ち上がったバッカスにフェアリーテイルの面々はツナ以外は顔を伏せる。応援席のリサーナは大粒の涙を流し、ミラもまたツナに抱きつきながら涙を流す。そんなミラの肩を優しく抱きながらツナは呟く。

 

「エルフマン……やったね!」

 

ツナの言葉にBチームの全員がハッと闘技場に顔を向けると、バッカスは仰向けにゆっくりと倒れるところだった。

 

『ダウーン!!バッカスダウーン!!勝者フェアリーテイルA、エルフマン!!』

 

『COOL!COOL!!COOL!!!』

 

「ウオオォォオオッ!!!!」

 

エルフマンの勝利の雄叫びにフェアリーテイルだけでなく全ての観客が歓声をあげる。

 

暫定トップに立ったフェアリーテイルAチーム。この1勝が復活の狼煙をあげる大金星となった。

 

 




エルフマンと一緒に燃えつきました……またちょこちょこ書くことになりそうです。


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女の魅力バトル!

ちょこちょこ書いてたらけっこう長くなりました。


-医務室

 

「私はエルフマンという漢を少々見くびっていたようだな。その打たれ強さと強靭な精神力は我がギルド一かもしれん。エルフマン掴み取った勝利は必ず私達が次に繋ごう」

 

治療を終えたエルフマンが寝ているベッドの周りにはAチームの全員が揃っていた。エルザの言葉を皮切りにみんなが次々に大金星をあげたエルフマンを讃える。

 

だがとてもこれ以上参加することは不可能との診断が出たのでリザーブ枠を使い、ウェンディが参戦することになった。

 

「情けねえが俺はこのザマだ。後は任せたぞ、ウェンディ……」

 

「はいっ!!」

 

先程誘拐事件が起こりかけたので雷神衆が守りをかって出た。特にフリードの術式で部外者の出入りを禁じることで堅固な守りを施すことにした。

 

 

-通路

 

リサーナとシャルル、Aチームの面々は途中まで一緒に行くことにした。通路を歩きながら誘拐犯について話している。シャルルに対しグレイが疑問を尋ねる。

 

「結局レイヴンテイルじゃなかったってことか?」

 

「ええ、ツナの尋問でハッキリしたわ。誰の差し金か言う直前に兵士達が来て連れていったのよ」

 

「間が悪かったな……」

 

「レイヴンの奴等以外にも俺達にちょっかいをかける奴等がいるってことか……」

 

「狙われたのはおそらくルーシィだと思うからレイヴンとはあまり関係なさそうね…」

 

「ツナは何か言ってた?」

 

「何か考えてたみたいですけど特には何も…」

 

「ちくしょ~!兵士が来るのが後ほんのちょっと遅ければハッキリしたのによ!!」

 

「マジで残念だな…にしても嘘をアッサリ見破って黒幕を吐かせるってさすがツナだな」

 

「何か頼りっぱなしだね~」

 

「ルーシィ、あまり一人にはならないようにな」

 

「うん。なるべくツナと一緒にいるわ」

 

「ツナさんじゃなくてもいいんですよ?」

 

「……」

 

「……」

 

「ちょっと二人とも……」

 

「ヤレヤレ……困った二人だ」

 

「でも今一番ツナの近くにいるのってミラ姉だよね~。同じ年だし、同じチームだし、撮影一緒にしたし」

 

「「うっ!」」

 

リサーナの嬉しそうな言葉が二人の胸に突き刺さった。ほどなくしてリサーナとシャルルは応援席へ、Aチームは自分達の観覧席へとそれぞれ向かい出した。

 

-応援席

 

第三試合はフェアリーテイルB ミラジェーン・ストラウスVS.ブルーペガサス ジェニー・リアライトだった。

 

「うえー、エルフ兄ちゃんの次はミラ姉!?」

 

リサーナとシャルルが応援席へ戻るとすでに試合は始まっていた。カナがリサーナにエルフマンの容態を聞いてきたのでボロボロだけど大丈夫と答えておいた。

 

ハッピーがシャルルに飛び付き無事を喜ぶ。それをスルリと躱したシャルルはルーシィが狙われたことと自身が見た予知夢が繋がっているのでは…と考えていた。

 

「(考えても仕方ない。今は私達のギルドを応援する時!)ミラジェーン!頑張りなさいよ!…て何…これ……?」

 

「それが……」

 

「ウム……」

 

シャルルが見たものとは……?

 

 

 

Aチーム観覧席

 

「「どうなってんだコリャー!?」」

 

「む」

 

「ミラさん……」

 

「と週ソラ彼女にしたい魔導士1位のジェニー」

 

戻ってきたAチームもシャルル同様に驚愕している。観客(男性)は異様な盛り上がりを見せている。その盛り上がりの中心である闘技場では……

 

 

-闘技場

 

「こんな感じ?」

 

「こう?」

 

ミラとジェニーがそれぞれ水着姿で魅惑的なポーズを取っている。共に変身系の魔法を使い、さらに元グラビアモデルということで実現した変則ルールのグラビア対決が行われていた。

 

「こっち?」

 

「は~い♡」

 

ポーズと水着を変える度に観客はおろかフェアリーテイルの男性陣も盛り上がっていた。その中でもマカロフ、マカオ、ワカバなどのフェアリーテイル年配組の盛り上がりは凄まじい……

 

ウェンディなどは自分がしてる訳じゃないのにものすごく恥ずかしそうだ。ちなみにジェニーは一夜の代わりにリザーブ枠で出場している。

 

「さすがにやるわねミラ。まさかグラビア対決、のってくれるとは思わなかったわ」

 

「ジェニーこそ。だって殴り合うのとかあんまり好きじゃないし平和的に決着がつくならその方がいいじゃない」

 

ちなみにここまでの点数は両者ともほぼ互角だ。

 

『ジャッジは我々実況席の三人が行います』

 

『責任重大だねぇ』

 

『どっちもCOOL&ビューティ!!』

 

『では次のお題は……』

 

「お待ちっ!!」

 

チャパテイが次のお題を発表しようとした時、闘技場に飛び込む3つの影。

 

「小娘ばかりにいいカッコさせる訳にはいかないからね~」

 

「強さだけでなく美しさでもマーメイドヒールが最強なのさ!!」

 

「なんでアチキまで……」

 

ほっそり体型のリズリー、アラーニャ、ベスが乱入してきた。ベスはあまり乗り気ではないようだが…ちなみにリーダーのカグラは参加していない。驚く観客達。さらには、

 

「お待ちなさい!あなた達には愛が足りませんわ!水着でポーズを取れば殿方が喜んでくれると思ったら大間違いですわ!やはり愛……愛がなくては!」

 

「私も負けてられないもんね!」

 

続けてラミアスケイルのシェリーとシェリアまでもが乱入し、観客は大興奮している。

 

 

-応援席

 

「うわぁ~みんなすごいな~」

 

レビィの感嘆の声に反応したのは幽体である初代マスターであるメイビスだ。

 

「感心してる場合ではありませんよ!他のギルドにだけいいカッコさせていいんですか?」

 

「まさか私達も!?」

 

「でも水着なんて持ってきてないし……」

 

リサーナは驚愕し、カナは反論するがメイビスは余裕を崩さない。…ちなみにみんなはカナにその服はほぼ水着だろうという目線を送っていた。

 

「心配ご無用!こんなこともあろうかと……全員分の水着を持って来ちゃいましたー!!」

 

笑顔で大量の水着を放り投げるメイビス。逃げ道を塞がれたフェアリーテイル女子メンバーは参加することになった。その様子をマカロフは読みが我々とは違うと感嘆していたが、ロメオは単に遊びたかっただけなんじゃ…と思っていた。

 

ちなみにメイビスはAチームの方にも現れて参加を促す。エルザはノリノリで、ルーシィとウェンディは渋々と参加することになった。

 

 

-Bチーム観覧席

 

一方そのころBチームサイドでは既に水着に着替えたジュビアが準備万端でスタンバイしていた。

 

「水着が一番似合うのは水を操るこのジュビア」

 

「なんだ?お前も行くのか?」

 

「恋する女はこういう時に戦わなきゃ!」

 

ジュビアのテンションに辟易しているガジルとラクサスに対して、ツナは笑顔でジュビアを送り出す。

 

「すごくよく似合ってるよジュビア。グレイにしっかりといいとこ見せるんだよ」

 

「ツナさん…はいっ!ジュビア行きます!」

 

ジュビアは闘技場へと走っていった。

 

 

-闘技場

 

ミラとジェニーの周りには多くの女性達が水着姿で様々なポーズをとって会場を盛り上げている。会場の男性客の歓声はもはや天元突破だ。

 

『こ…これはものすごいことになりましたー!!しかしこのまま続行させていただきます!』

 

『これだけ盛り上がっているのに止めたら暴動がおこるからね~』

 

『グゥレイトCOOL!!』

 

実況席もかなりの盛り上がりだ。ちなみに勝敗はあくまでミラとジェニーに委ねられるとのことだ。レビィがなら出る意味ないと突っこみをしたがノリノリの初代に宥められていた。そして様々なお題が続く……

 

『お題-スク水』

 

「ウェンディは違和感ないね」

 

「嬉しくないです!!!」

 

リサーナの言葉にウェンディが心から叫ぶ。やはりスタイルがいいミラやリサーナは少し違和感がある。レビィもあまり違和感が……

 

 

『お題-ビキニにニーソ』

 

「何か…水着だけより恥ずかしいような……」

 

ルーシィが恥ずかしがっている横ではジュビアがグレイの方を見ながらノリノリでポーズをとっている。

 

 

『お題-メガネっ娘』

 

「私は元からね」

 

ラキやエバーグリーンは元々メガネをしているので変化はない。マーメイドヒールのベスはビン底眼鏡とやる気が感じられない。

 

 

『お題-ネコ耳』

 

「私がしても意味なくない?」

 

元々の耳をたたんで猫耳バンドをつけるシャルルは自分の姿に疑問を感じていた。その後ろではビスカとアスカが親子でネコ耳をしている。

 

 

『お題-ボンテージ』

 

「これも一つの……愛!」

 

「はまり過ぎ……」

 

シェリーがムチを振るう姿にシェリアがちょっと引いている。エルザに張り合うエバーグリーンはエルザの格好と眼光に即土下座をしていた。

 

 

『次のお題はウェディングドレスです。パートナーを用意して着替えて下さい!』

 

周りの者達も各々パートナーを選んでいる。リサーナはナツに突撃して小さい頃の約束を言い出してウブな反応を楽しんでいる。

 

リオンはジュビアを狙うがグレイによって奪い返され、ジュビアは感激している。ハッピーはツンデレな反応を見せるシャルルとペアを組む。

 

その他にも天馬のレンとラミアのシェリーの婚約者カップルやまったくやる気のないガジルに視線を送るレビィの姿がある。

 

ロキが勝手に出てきてルーシィのペアになろうとするが、不機嫌なルーシィに即座に送り返された。

 

そのルーシィの視線は同じように不機嫌なウェンディと共にあるペアに固定されていた。

 

 

 

「ま…手頃なところで……」

 

「その方がはまったりしてね……」

 

ジェニーの相手役はブルーペガサスのヒビキだった。対するミラは、

 

「急に頼んでゴメンね、ツナ」

 

「それはいいんだけど…背中に視線が…」

 

ミラの選んだ相手はもちろんツナ。その背中に鋭い視線が2つ突き刺さっている。美男美女の二組のカップルに会場の女性客も歓声をあげる。

 

「ふっ…ツナヨシ君。これは君と僕というライバルの勝負でもある」

 

「いやいや…何で!?ってかいつから!?」

 

指差してくるヒビキの言葉に本気で訳が分からないという感じで聞き返すツナ。

 

『さあアピールタイムです!二人の仲の良さを存分にアピールして下さい!!』

 

その言葉にヒビキはジェニーをお姫様抱っこする。その姿に会場の女性客が黄色い歓声をあげる。

 

「やるわね…ツナ、こっちもお願い」

 

「いいけど二番煎じなんじゃ……」

 

「考えがあるわ。あのね…………」

 

「…分かった」

 

ツナは額に炎を灯してXグローブをつけるとそのままミラをお姫様抱っこをする。突き刺さった2つの視線がさらに鋭くなる。

 

ミラがツナの首に手を回して右手をフリーにしたツナは炎を使って空を飛んでそのまま観客席に沿ってゆっくりと飛ぶ。ミラは片手で体を支えながら観客に笑顔で手を振っていた。

 

『おっとこれは!ミラを抱き抱えながゆっくりと遊覧飛行するツナヨシ!!会場の視線をくぎ付けにしているーー!!』

 

「くっ…さすがはツナ君ね……」

 

「やはり僕達の永遠のライバルだね…」

 

闘技場にいる参加者達は揃って空を見上げ、会場の女性達は羨ましそうに歓声を送っていた。

 

『この二人、もはやハネムーンと言っても過言ではないね……』

 

ヤジマの言葉に二人の少女の我慢がもはや限界にきていた。一周した後、再び中央に着地するツナとミラ。そこに2つの人影が飛び込んできた。

 

「「ツナ(さん)!!ミラさんばっかりズルい(です)!!」」

 

「え、でも試合だし……」

 

「だからといってやり過ぎです!」

 

「そーよ!ミラさん!なんて羨ましい!」

 

「あらあら…困ったわね、一応私の試合なんだけどね……」

 

「だから我慢してたんですけど限界です!」

 

「だいたいミラさんばっかりいつもズルいですよ!撮影とか同じチームとか!」

 

「あら、それは偶然よ?」

 

「絶対嘘です~!」

 

『おーっと!!ツナヨシを中心に突如恋のバトルが勃発したー!ツナヨシを三人の花嫁が奪い合う!ツナヨシはリア充ハーレム野郎だったのか!?ウェンディたん騙されるなー!!』

 

「ホントにこの実況何言っちゃってんの!?」

 

「じゃあ間をとって私が……」

 

「ジェニーさん!?」

 

「悔しいけど……僕の…負けだ……」

 

「ってヒビキさんまで!!」

 

あんまりな実況、スルリと三人の花嫁の間に入ってきたジェニー、膝をついて泣き崩れるヒビキにそれぞれツッコミをいれる。この場にリボーン(大人版)がいたらきっとカオスだな……と言っていたであろう。

 

…そこへ救世主が現れる。

 

「そろそろアタシの出番のようだね!!」

 

声のした方を全員が見る。そこにいたのはラミアスケイルのマスターであるオーバ・ババサーマだった。

 

「女の魅力を教えてやるよ~!!」

 

闘技場に飛び降りたオーバは来ていたマントを脱ぎさってポーズを決める。

 

「うっふ~~~ん!」

 

その瞬間、会場の時が凍りつく。誰も動かず喋らない完全なる沈黙がそこにあった。

 

『……ただいまの一撃で会場のテンションは一気に冷めきってしまいました。乱入組も引き上げていきます』

 

みんなが肩を落として引き上げて行く中、一人だけオーバに心から感謝している者がいた。

 

-ありがとう!ラミアスケイルのマスターさん!あなたの犠牲は絶対に忘れない!!-

 

意外と腹黒なツナだった……

 

『さあ時間を大幅にオーバーしてしまいましたので次がラストのお題とさせていただきます』

 

その瞬間、ジェニーが今まで暖めていた作戦を発動する。

 

「ねぇミラさっきの試合にちなんで私達も賭けをしない?負けた方が週刊ソーサラーでヌード掲載するの!」

 

「いいわよ♪」

 

オーバによって沈んだ会場が再び盛り上がりを取り返した。男性客のボルテージは最高潮になる。

 

ジェニーがこう言い出したのは訳がある。審査員のチャパテイとヤジマは若い娘が好み。ジェイソンは雑誌の売り上げの為に7年振りに復活して歳はそのままのミラを雑誌に載せたがると見込んでのことだ。

 

最後のお題は戦闘形態。勝ちは決まってると思うジェニーは早速変身する。ミラも変身しながらジェニーに語りかける。

 

「さっきの試合の流れにそって賭けが成立したんだから最後は力のぶつかり合いって事でいいのよね?私は賭けを承諾した。今度はあなたが力を承諾して欲しいわね」

 

ミラが変身したのは魔人ミラジェーン・シュトリ。エルザ曰くエルザの知る限り最強のサタンソウルとのことだ。目論見が外れたジェニーは焦る。

 

「そんなーー!!」

 

「ねえ」

 

次の瞬間、無慈悲な一撃がジェニーを吹き飛ばした。これにより勝者はミラジェーンとなった。元々のルールに沿っているので誰も文句は言えない。

 

「ゴメンね!生まれたままのジェニーの姿、楽しみにしてるからね」

 

「い~や~~!」

 

輝くような笑顔で止めをさすミラと泣きじゃくるジェニー…正に人を呪わば穴2つである。

 

 

-Bチーム観覧席

 

勝利して戻ってきたミラを出迎えるBチーム一同。

 

「お疲れ様です」

 

「何だかはしたない格好をたくさんしちゃった気がするわ……」

 

「一番エグかったのは最後だけどな……」

 

「これで22pt。ナツ達のチームに並んで暫定トップだな」

 

「まったく…勝ったのは良かったけどもうあんな賭けなんてしないでよ」

 

「ゴメンねツナ、でも絶対に負ける気はしなかったから許してね」

 

「ハイハイ……ところでジュビアはちゃんとグレイにアピールできたの?」

 

「はい!バッチリです!グレイ様はリオン様からジュビアを取り返してくれました!その上お姫様抱っこまで……」

 

幸せそうなジュビアにツナとミラは笑顔を浮かべる。ともかくフェアリーテイルの快進撃はこれからも続いていくのだった。

 

 

 

 




時間がかかってすみません


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消えない憎しみ

物騒なタイトルになりました。


―Bチーム観覧席

 

第三試合はミラジェーンの勝利に終わった。これでフェアリーテイルはバトルパート負けなしで三日目を迎えることになる。応援席の盛り上がりもすごいが、観客たちの反応も最初とは違いその人気はセイバートゥースに迫るほどになっていた。

 

「さて今日は残すところあと1試合だな」

 

「残っているのはセイバートゥースとマーメイドヒールね」

 

「セイバーが負けてくれるとこちらがトップのままなんですけどね……」

 

「さすがにそう上手くはいかねえんじゃねえか?」

 

「どうだろう……」

 

「ツナ、何かあるの?」

 

「それは……」

 

『さあ本日も残すはあと1試合!!本日の最終試合、マーメイドヒール カグラ・ミカヅチVS.セイバートゥース ユキノ・アグリア!これはまたしても美女対決となったー!!』

 

ツナが真剣な顔で闘技場を見つめる。正確にはマーメイドヒールのカグラを…いや彼女の持つ刀をみつめていた。

 

―あの刀…なんと言ったらいいのか怨みに染まってる気がする―

 

その刃を振り下ろす相手が誰なのか…ツナにもまだ分からなかった。

 

 

 

―闘技場

 

『グラビア対決はもうスないのかね?』

 

『個人的にはそれもありなのですが……』

 

『このCOOLな二人にそれを求めちゃだめだよな!!』

 

カグラはマーメイドヒール最強の魔導士であり週ソラの一押しの女性魔導士である。対するユキノは初出場ながらもセイバートゥースの一員として大会に出場しているので期待大だ。試合開始の銅鑼がなる。

 

「よろしくお願いいたします」

 

ユキノが頭を下げると、

 

「こちらこそ」

 

カグラも頭を下げる。ユキノからこれまでの試合にのっとり賭けをしませんかと誘いがかかる。しかしカグラは軽はずみな余興はしたくないと断る。…だがユキノの次の言葉に会場中がざわめきに包まれる。

 

「では重たくいたしましょう……命を賭けましょう」

 

「その覚悟が誠のものなれば受けて立つのが礼というもの。よかろう、参られよ」

 

会場のざわめきなど関係ないというようにユキノは金色の鍵を取り出す。ルーシィとアルカディオスが驚愕する。ユキノは星霊魔導士だった。

 

「開け双魚宮の扉…ピスケス!!」

 

二匹の巨大な魚が呼び出されカグラを襲うがカグラは軽やかにかわす。だがユキノはさらに鍵を取り出す。

 

「開け天秤宮の扉…ライブラ!!」

 

両手に天秤の皿を持った女性が呼び出される。その能力である重力変化でカグラの重力を操り地面にめり込ませようとする。その隙にピスケスが上空より襲い掛かる。黄道十二門を二体同時に使いこなすのは星霊魔導士としてのレベルが高い証拠だ。

 

しかしカグラは重力場から抜け出しピスケスの攻撃をかわす。それを見たユキノは切り札を切る決意をする。

 

「私に開かせますか……十三番目の門を」

 

 

―Bチーム

 

「あの人今十三番目の門って言いませんでしたか?」

 

「黄道十二門なんだろ?」

 

「もしかして……蛇使い座かな?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「俺の世界でも少し前に十三番目の星座が見つかったんだよ」

 

その予想は正しく、ユキノは黒い鍵を取り出し蛇使い座の星霊であるオフィウクスを呼び出した。その魔力と迫力は他の星霊を圧倒している。

 

「あれが……蛇使い座の星霊?すごい魔力ね」

 

「……」

 

「どうしたんですか?ツナさん」

 

「それでもマーメイドの人が勝つよ」

 

「なんでだ?」

 

「命を簡単に投げ出すような人にあの人が負けるとは思えないからね」

 

試合に目を向けるとカグラが刀を抜きさえもせずにオフィウクスを切り裂いている。

 

「オイ!あいつ刀も抜かずに……」

 

「スゲェな」

 

「やっぱり強いな彼女……心…覚悟が。エルザに勝るとも劣らない」

 

 

-闘技場

 

「うそ……」

 

「安い賭けをしたな………人魚は時に虎を喰う」

 

すれ違い様にユキノに刀の鞘で強打したカグラが勝利を掴んだ。

 

「私が…敗北……セイバートゥースが……」

 

「命……そなたの命は私が預かった。よいな」

 

「はい……仰せの通りに……」

 

『これにて大魔闘演武二日目終了ーー!!まさかのセイバートゥース二日目0ptー!そしてトップがフェアリーテイル両チーム!!』

 

大歓声が会場を包む。フェアリーテイル応援席は大興奮状態だ。

 

二日目までの結果は以下の通りだ。

 

1位 フェアリーテイルA 22pt

1位 フェアリーテイルB 22pt

3位 セイバートゥース 20pt

3位 ラミアスケイル 20pt

5位 マーメイドヒール 19pt

6位 ブルーペガサス 17pt

7位 レイヴンテイル 16pt

8位 クワトロパピー 12pt

 

エルフマンとバッカスの賭けの結果クワトロケルベロスはこの大会中クワトロパピーとなった。

 

 

王国騎士団長アルカディオスは歓喜に包まれていた。

 

「星霊魔導士がもう一人いるとはなんという天運!計画はより確実なものとなる!」

 

 

ジェラールは試合会場だけでなく街中を調べながら疑問を感じていた。

 

「やはりおかしい……二日目が終了したというのに毎年感じるあの魔力を感知できていない」

 

 

-大魔闘演武二日目が終了。運命の日まであと5日-

 

 

 

-街の橋の下

 

昨日エルザに伝言を頼んでいたが今日の誘拐未遂事件のことをジェラールに話しておきたかったのでツナも同行することにした。

 

「ゴメンね二人の邪魔したみたいで」

 

「な……何を言うんだツナ!」

 

「何かあったのか?」

 

「ん~嫌な予感が城の方からするんだけどそれだけじゃなくてね……」

 

ツナは誘拐未遂事件とその背後にいるだろう存在についての予想を話す。

 

「背後に王国がいるかもしれないだと!?」

 

「王国か……しかしさすがに城の中は調べられないだろうな……」

 

「ウルティアの水晶で調べられないの?」

 

「難しいだろうな……魔法を防ぐ結界くらい張ってあるだろう」

 

「だよね……王城だし」

 

「しかし今回は俺達が毎年感じていたゼレフに似た魔力を感じていない……手掛かりのない状況ではツナの意見を元に動くのがいいかもしれないな」

 

「そうだな…ツナの勘はかなり当たるからな」

 

「やはり明日以降は主催者側を探ってみるとしよう」

 

「あまり目立った事はするなよ」

 

「分かっている。ウルティアには相当釘をさされた」

 

「あ、ジェラールちょっと待って」

 

そう言うとツナはボックスから一つの小箱を取り出してジェラールに手渡す。

 

「これは?」

 

「時間がなかったからあまり凝ったものじゃないけどケーキ作ったからウルティアとメルディと一緒に食べて。あまり街にも入らないなら甘いものが恋しいでしょ」

 

「そうか…二人も喜ぶ。ありがとう」

 

「相変わらず気遣いのできる奴だな」

 

「お休み。エルザ、ツナ」

 

ジェラールはそのまま去っていった。反対方向に歩き出すツナに、

 

「で…ケーキ、私の分は?」

 

「……もうないよ…」

 

「気遣いのできない奴だな……」

 

二人は一緒に歩き出す。

 

「遅くなってしまったな。さすがに宴会は終わっているか」

 

「今日も飲んでるんだよね。大会中なのに…」

 

「お前が言えたことか?昨日は凄まじい飲みっぷりだったじゃないか」

 

「ふふっ…カナはちゃんと約束守ってるかな?」

 

「しばらくしたら許してやれよ」

 

「分かってるよ」

 

他愛のない雑談をしているとマントを被った女がエルザに声をかける。

 

「や~っと見つけた!」

 

「誰だ」

 

「ウフフ……元気最強?エルちゃん久しぶり~」

 

マントを脱ぎさった女はエルザの知り合いだったらしい。よく見たらマーメイドヒールのマントを被っていた人だ。そのままエルザに抱きついてきた。

 

「会いたかった~!」

 

「あはは、ミリアーナ!」

 

再会を喜ぶ二人は近況を報告し合う。ツナはそのまま二人にしてやろうと思い声をかける。

 

「エルザ。二人でゆっくり話しなよ」

 

「すまんな、ツナ」

 

「ニャ!ネコネコの人だ~!」

 

「は…ネコ?」

 

「ミリアーナは無類の愛猫家でな…ナッツのことだと思うが……」

 

「ナッツはライオンなんだけどね…あと俺の名前はツナヨシだからね。ツナでいいよ」

 

「ツナ?魚?だからネコネコに好かれるの!?」

 

「いや意味分かんないよ!?」

 

「ねぇネコネコ出して」

 

「すまん…ツナ頼む」

 

マイペースなミリアーナに結局ナッツを出して公園で一緒に話すことになった。ミリアーナはナッツを抱きながら隣に座るエルザに、本当は優勝するまで秘密にしておくつもりだったが我慢できなくなって来たと話した。

 

「それにしてもお前のとこのカグラという者本当に強いな」

 

「そりゃそうだよ。本気になったらエルちゃんより強いかもよ~でもカグラちゃんツナのこともメチャクチャ強いって言ってたよ」

 

「ありがとう」

 

「でもカグラちゃんは大会中に本気になることはないかな?あの抜かずの剣・不倶戴天見たでしょ?」

 

「随分物騒な名前の刀だな」

 

「その名の通り本当に切るべき相手にしか抜かないと誓った剣なんだって……カグラちゃんの全てを奪った男…ジェラールを殺す為の剣」

 

「え?」

 

「分かるよ。エルちゃんだって同じ気持ちだよね……私もジェラールが憎い……私達を奴隷にしてシモンを殺したんだ。許せない…許せない。だからカグラちゃんのギルドに入ったの」

 

憎しみに歪んだミリアーナの顔をエルザは辛そうな顔で見るしかできなかった。その時ナッツが小さな声をあげる。

 

「ガゥ……」

 

「ニャ!ゴメンね怖がらせちゃった!?」

 

「気にしないで。コイツすごく怖がりなんだ」

 

「そうなの~?」

 

「戦闘の時は勇ましいんだけどね……エルザも知らなかっただろ?」

 

「あ、ああ……意外だな」

 

「ガウ!」

 

「ミリアーナのこと気に入ったみたいだね」

 

「ニャ!本当?」

 

「良かったな、ミリアーナ」

 

「うん!元気最強~!」

 

「「ハハハ……」」

 

エルザはどうにか笑顔を作りながら話を反らしてくれたツナとナッツに感謝した。心の中でミリアーナの憎しみをどうにかしたいと考えていた。

 

自分はジェラールを許すことができた。しかし他の者はどうだろう。どれだけ時間が過ぎても許すことができないのではないだろうか?

 

エルザにその答えは出せなかった…………

 

 

 




明日からまた仕事なのでまたちょこちょこ書いていきます。お気にいりが1000件越えてました。応援ありがとうございます!


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虎狩り!

いつもなかなかタイトルが思いつかないです……


-クロッカスの公園

 

「じゃあまた明日ねエルちゃん!ツナも!」

 

「ああ……また明日」

 

「気をつけて帰ってね」

 

笑顔でミリアーナを見送ったツナとエルザだったがミリアーナが去った後でエルザは顔を辛そうに歪める。

 

「エルザ……」

 

「先程は助かった…上手く話を反らしてくれて…分かっていたことだったんだがな……」

 

ジェラールが例え操られていたとしても犯した罪は消えない。恨みと嘆きがそう簡単に消えることはない。

 

「恨みというのはなかなか消えないからね……それこそ代をまたいでも続いていくようなのもあるから」

 

「そういえばツナはマフィアのボスだったな……お前といると忘れそうになる」

 

「ふふっ…エルザは自分の思うままに行動すればいいと思う。そしてエルザが選んだ道を俺は……俺達フェアリーテイルは全力で支えるよ」

 

「ありがとう……そうだな。私はジェラールを許した。ならばそれを貫き通さなければな……すまないが一人にしてくれるか?」

 

「分かった。もう遅いから気をつけてね」

 

「ああ……ありがとう」

 

 

 

-街の中

 

 

ナツとハッピーは街の中を走っていた。先程ルーシィを訪ねて来たユキノを追い掛ける為だ。

 

ユキノはルーシィに対して自分の持つ天秤宮と双魚宮の鍵の譲渡を申し出てきた。自分より優れた星霊魔導士であるルーシィが持つべきだと。

 

結局ルーシィは断ったが最後まで礼儀正しかったユキノにセイバートゥースというだけで邪険にしたのは間違いだった。それを謝る為にナツは宿を飛び出した。

 

「や~でもナツがこういう気遣いをするようになるなんて……」

 

「セイバーってだけで嫌な奴って思っちまったからな~」

 

「でも良かったよ。女の子にそんな態度とったってツナが知ったらきっとまたネッチョリコースだったと思うな~オイラ」

 

「ネッチョリはいやーー!!!ハッピーこっちだ!急げ~!」

 

「アイサー!」

 

程なくユキノを見つけたナツは先程の態度について頭を下げて謝罪する。ハッピーはそれを見てツナの教育の凄さを思い知っていた。きっと以前ならゴメンなーで済ませていただろう……

 

わざわざ自分の為にナツは謝りに来てくれた。今まで自分にこんなにも気を遣ってくれた人などいなかった。特にあの場所…セイバートゥースでは……そう思うとユキノは涙を流す。

 

「な…泣かれても困るんだけどー!!」

 

「ど…どうしたのーー!?」

 

「何してるのかな?ナツ、ハッピー」

 

聞き覚えのある声に振り返るとそこには黒い笑顔のツナがいた。

 

「「ツナーー!!」」

 

「ふう……まさか二人が女の子を泣かすなんてね……」

 

「いや!違う!……違うよな?」

 

「うん……オイラ達が謝ったらユキノが泣き出したんだ」

 

「ん、もしかしてこの人セイバートゥースのユキノさん?」

 

「ツナヨシ様……」

 

「どうしたの?ナツ達に何かされたの?」

 

ユキノは首を横に振る。ナツとハッピーはホッとしている。ハッピーがユキノが宿に来た理由を話した。そして態度を邪険にしたことをナツが謝ったら泣き出したらしい。

 

「ナツ様のせいではないのです……私がこのように人に気を遣われた事がないもので……」

 

地面にへたりこんで泣きながらもユキノの独白は続いていく。

 

「私…ずっとセイバートゥースに憧れていました。去年やっと入れたのに……私はもう帰ることを許されない……」

 

「はぁ?」

 

「どういうこと?」

 

「たった1回の敗北で…やめさせられたのです……」

 

ツナとナツが顔を歪める。それからの話は酷いものだった。大勢の前で裸にされて、自らの手で紋章を消さなくてはならなかった。それを他のメンバーは無関心または嘲笑していたらしい。

 

ツナはむしろ命じたマスターもだが庇おうともしない周りにも怒りをみせる。ナツも同様だ。

 

「悪ぃけど他のギルドの事情は俺には分からねぇ……けど同じ魔導士としてなら分かるぞ。」

 

「ナツ……」

 

「辱しめられて紋章を消されて悔しいよな…仲間を泣かせるギルドなんてそんなのギルドじゃねえ!」

 

「仲間……」

 

「ツナ!ユキノを頼むぞ!行くぞハッピー!」

 

「あい~!」

 

ハッピーを連れてナツは走り去って行った。

 

「やれやれ……さ、こんなところにいつまでもいないで今日の宿は決めたの?」

 

「はい…すぐ近くです」

 

「じゃあそこまで送るよ。ほら」

 

ツナの差し出す手を顔を赤くして戸惑いながらとって立ち上がるユキノ。

 

「もう命を賭けるなんてしちゃダメだよ」

 

「ツナヨシ様……」

 

「だいたいみんなして女だヌードだと変なものばっかり賭けるんだもん。ユキノさんも引けなくなったのかもしれないけど大切な命を投げ出すようなことは今後しないこと」

 

本当に宿がすぐそこだったのでこの話は打ち切った。今の彼女にはどうせ届かないだろう。今度会った時にキチンと話そうとツナは思う。そのまま宿まで送り届けすぐにナツの後を追うのだった。

 

 

-王城

 

 

「十の鍵を持つ少女と二の鍵を持つ少女!十二の鍵は揃う!エクリプスは完全に起動する!」

 

アルカディオスは狂ったように笑い始める。

 

「ゼレフ…ゼレフ…ゼレフ!ゼレフ!ふふふふ…ハハハハ……ハーッハッハッハッ!!」

 

 

-セイバートゥースの宿 クロッカスガーデン

 

 

宿を揺るがす轟音にスティングは目を覚ました。相棒のレクターもだ。そこへローグとその相棒のフロッシュが飛び込んで来る。

 

「侵入者だ!!」

 

「侵入者ぁ!?セイバートゥースの全メンバーがいる宿だぞ!!何者だ!?」

 

「分からない……だが生きて帰る気はないんだろうな……」

 

そして喧騒の元へたどり着いたスティングとローグが見たのは……

 

「マスターはどこだあぁぁ!!」

 

セイバートゥースのメンバーを吹き飛ばしながらマスターを探し回るナツの姿だった。

 

「こちらにもいるぞ」

 

横合いから聞こえた声に振り返る二人が見たものは額に炎を灯して佇むツナとその背後に倒れている多くのメンバー達だった。こちらはナツと違って周囲は一切壊れていなかった。どうやら一撃で意識を刈り取っていったらしい……

 

「ワシに何か用か?」

 

騒ぎを聞き付けてセイバートゥースのマスタージエンマが姿を現す。ナツはジエンマを睨み付け、

 

「たった1回の敗北でクビだって?随分気合いはいってんじゃねーか、じゃあお前も俺に負けたらギルドやめんだな!!」

 

ツナとナツを前にしてセイバートゥースの大会メンバー達は驚きを隠せない。だがジエンマはナツを無視してツナを見て口を開く。

 

「フム……昨日の貴様の試合は見事だった。どうだ?クズギルドなんざ止めてうちに来ぬか?」

 

「うちのギルドがクズならそっちはカスだな…いや腑抜けの集まりと言った方がいいかな?ドカスどもが…」

 

この言葉にセイバーの連中は怒り狂う。ザンザスの口癖を真似てみたが相手を怒らせる結果になった。

 

「自分の所の仲間を仲間と思えねぇ奴は許せねえんだ」

 

「女が辱しめられてるのに何も行動しない奴等なんてドカスで充分だろう……」

 

-ユキノのことを言っているのか?-

 

-アンタ等には関係ねえだろ!そんな事で乗り込んでくるかよフツー!!-

 

ローグとスティング、他のギルドメンバー達は誰のことを言っているのか察しがついたがジエンマだけは本気で分からないようだった。それにナツはぶち切れる。

 

「ドーベンガル、相手をしてやれ」

 

「ナツ、ザコの相手は俺がまとめてしてあげるよ」

 

「サンキューツナ!」

 

その言葉を聞いたドーベンガルは怒りのままツナへ向かう。

 

「ザコとは言ってくれる!私は大会こそ出ていないがその実力は本戦メンバーにも劣ら…………」

 

「消えろ」

 

一瞬で懐に移動したツナの右の一撃でドーベンガルは壁に叩きつけられ意識を失う。

 

「ウソだろ!ドーベンガルが!?」

 

「ウチで10番以内に入る強さなんですよ!」

 

「まとめて相手をすると言っただろう……ドカスども」

 

「調子にのんなぁー!」

 

「やっちまえ!!」

 

十人程の人数がツナに向かうがツナが消えたと思ったらそのメンバーの後ろに現れる。その姿に全員が目を向けた瞬間、襲いかかった者達は全員吹き飛ばされていた。

 

大会メンバー達は目を見開いてツナを見つめるがナツはその間にジエンマへと迫る。

 

スティングが対応しようとするのを留めたジエンマはナツと相対する。

 

一度吹き飛ばされそうになったナツだがそれに耐えてジエンマに連撃を加える。その光景をセイバーの連中は呆然と眺めていた。止めとばかりにナツが魔力を漲らせる。ジエンマも攻撃に移る。

 

「雷炎竜の撃鉄!!!」

 

雷と炎が合わさった一撃が炸裂して余波で宿の一部が爆発する。

 

煙が晴れたときそこには一人の女性が両手をナツとジエンマに向けて立っていた。その手には魔力が視認できる。どうやってか二人の攻撃を受け流したようだ。

 

「ミネルバ!?」

 

「お嬢!!」

 

その女性はジエンマの娘であるミネルバだった。ミネルバは提案する。

 

「今宵の宴もここまでにしまいか?」

 

「ア?」

 

このまま続ければ父上が勝つだろうが出場者をマスターが消したとあってはこちらも立つ瀬がない。自分の顔を立てて引けば部下がやられた分も不問にしようと提案する。その腕の中にはハッピーが縄で縛られている。

 

ツナはナツの肩に手を置き諭すように言う。

 

「ナツ…残念だけどここまでだ……」

 

「分かってる……」

 

ツナがミネルバにキツい視線を向けるとミネルバは妖艶な笑みを浮かべる。

 

「フフフ……そのような瞳で見つめてくれるな……」

 

「失礼しました」

 

踵を返しナツと解放されたハッピーと共に出口へ向かう。すると背中に声が掛かる。

 

「なかなか骨のある小童どもだ」

 

「決着は大魔闘演武でつけよう。思う存分な」

 

「お前らなんかには負けねえよ、つーか俺達には追いつけねえ」

 

「ギルドなら仲間を大切にしなよ。俺達はそれが言いたかっただけだよ」

 

そう言い残してツナ達は宿を去る。ローグはツナの言う仲間という言葉について考え込み、スティングはかつて目標としたナツがこんなに強かったことに歓喜していた。

 

「ふふっ、フェアリーテイル…面白い。ツナヨシ・サワダの全力を見ることができなかったのは残念だがな……ユキノの代わりも必要か……ひとつ妾も遊ばせてもらおうか」

 

セイバートゥース最強の5人が揃ったが、その心の中には仲間という言葉はなくバラバラだった。

 

 




連投出来ました!


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ティターニア、舞う!

競技だけで二話使いました。次の話は一時間後に投稿予定です。


-大魔闘演武三日目 クロッカス

 

宿を出て歩いていたユキノは町民の話に足を止める。

 

「おい、聞いたか?セイバーの泊まってる宿が何者かに襲われたらしいぜ」

 

「セイバーに喧嘩売ったのか?どこのバカだ?」

 

「知らね。まぁ場外乱闘もいつものことだからな」

 

「祭なんだ。もっと派手にやれ!」

 

-ツナヨシ様?ナツ様?……まさかね……-

 

 

-ドムス・フラウ

 

実況席には今日のゲストとして魔法評議院の強行検束部隊大隊長であるラハールがゲストとして招かれていた。ナツ達とも面識がある。

 

客席にはかつてS級魔導士昇格試験に潜入していたドランバルトも来ている。彼はアクノロギアからフェアリーテイルを見捨てた事を悔いていた。今回ラハールに無理矢理連れてこられた。

 

今日の競技パートは『伏魔殿(パンデモニウム)』各ギルド1名ずつとのことだ。

 

 

-フェアリーテイルA

 

「俺が行く!!」

 

「だめだ。セイバートゥースに喧嘩売りそうだしな。私が行く」

 

「頑張ってねエルザ!」

 

「ファイトです!」

 

「俺を出せー!!」

 

「落ちつけよ」

 

フェアリーテイルA エルザ・スカーレット

 

 

-フェアリーテイルB

 

「今日は俺が出るよ」

 

「ちょっと待て!そろそろ俺にもやらせろ!」

 

「ガジル君は昨日出たじゃないですか」

 

「出たうちに入るか!」

 

「なら俺は?」

 

「俺の勘では今日のバトルに来そうだよ」

 

「ならツナに決まりね!」

 

「納得いかねーぞ!」

 

フェアリーテイルB ツナヨシ・サワダ

 

 

-マーメイドヒール

 

「エルちゃんとツナが出るなら私に行かせて」

 

「許可しよう」

 

「いつの間にあの男とも仲良くなったんだい?」

 

「えへへ…昨日ネコネコと遊ばせてくれたの」

 

「ライオンだと言っている。(うらやましい…)」

 

マーメイドヒール ミリアーナ

 

 

-セイバートゥース

 

「俺が行く!全員まとめて黒雷のチリにしてやる」

 

「どのような競技か分からんぞ?ツナヨシ・サワダもいるのにか?」

 

「パワーなら楽勝だろうよ!」

 

「そうか……(愚かな…実力差も分からんとは)」

 

「ナツさんが出るなら俺が行くんだけどな……」

 

セイバートゥース オルガ・ナナギア

 

 

-ラミアスケイル

 

「ツナヨシ殿が出るならワシが行こう」

 

「頑張って!ジュラさん!」

 

「怪我はよいのですか?」

 

「シェリアのお陰で大事はない」

 

ラミアスケイル ジュラ・ネェキス

 

 

-ブルーペガサス

 

「天馬からは僕が行こう」

 

ヒビキの登場に女性客が沸く。

 

ブルーペガサス ヒビキ・レイティス

 

 

-レイヴンテイル

 

「評議員の前だ。余計なことはするなよオーブラ」

 

「……」

 

レイヴンテイル オーブラ

 

 

-クワトロパピー

 

「パピー……」

 

クワトロパピー ノバーリ

 

 

-闘技場

 

闘技場に8名の選手が出揃った。

 

「エルちゃん!ツナ!負けないよ~」

 

「ああ……(いかんな、集中せねば)」

 

「元気だね。ミリアーナ」

 

「ツナヨシ殿、今回は負けませんぞ」

 

「ジュラさん!怪我はいいんですか?」

 

「ツナヨシ殿と競えるならば血が滾りますのでな」

 

「やあツナヨシ君!昨日は負けたけど今日は負けないよ」

 

「ヒビキさん…その設定まだ続いてるんですか?」

 

「パピーってなんとかしてくれねっすか?」

 

「バッカスさんが悪い」

 

友好的なギルドとは交流を交わすツナ。セイバーとレイヴンは近寄って来ない……

 

審判のマトー君より競技の説明が行われる。と同時に巨大な城が具現化した。このパンデモニウムには合計100体のモンスターが巣食うらしい。内訳はSランク1体、Aランク4体、Bランク15体、Cランク30体、Dランク50体とのことだ。

 

「ちなみにSランクは聖十の魔導士やそれを倒した御方でも倒せるか分かりませんカボ」

 

ジュラとツナがピクリと反応するが特に何も言わず先を促す。

 

一人ずつ順番に挑戦権が回ってくるのでモンスターの数を指定する。その数のモンスターがパンデモニウムに現れる。倒せばその数の分点数が入る。負ければその回の点数は0になる。

 

但し、モンスターのランクはランダムなので1体を選んでもSランクが出ることもあるらしい。100体倒すか全員倒れたら競技終了となる。

 

1体ずつでは高得点は望めず、欲ばるとやられてしまう。自分の魔力回復も計算にいれないといけない。知的戦略ゲームらしい……

 

順番を決めるくじ引きをするときエルザから、お前は勘が良すぎるから一番最後に引けと言われ最後に残ったくじを取ると…………

 

「ちょっとエルザ……」

 

「いや……すまん、まさか最後とは……」

 

「で、エルザは1番か……」

 

「ふう…私が責任を取るさ」

 

「そーゆうことか…まあこっちの為にもがんばってね」

 

「任せておけ」

 

マトー君より挑戦権の数を聞かれたエルザは特に気負いもなく答える。

 

「これは最早ゲームにならんな…100体全て私が相手をする。挑戦権は100だ」

 

ツナ以外の闘技場のメンバーはエルザの答えに驚愕して、他のメンバー達は目を見開き、観客達もざわめきだす。フェアリーテイルのメンバー達は驚きながらもエルザらしいと納得していた。

 

「む…無理ですよ~一人で全滅させるようにできていません!!」

 

「かまわん」

 

思わず口調が元に戻っているマトー君を無視してエルザはパンデモニウムの中へと進んで行く。ヒビキが疑問を尋ねてくる

 

「しかし51体のモンスターを倒せば1位確定なのになぜわざわざ100体も?」

 

「エルザが51体倒すとこのメンツじゃあ俺まで順番が回ってこないだろうからね……」

 

「なるほどね。そういうことか……」

 

エルザが高らかに名乗りをあげるとモンスターが次々と現れる。エルザはまず天輪の鎧を換装していくつもの剣を周りに浮かべる。

 

「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!」

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

『あ~っと!!全方位からの先制攻撃!Dランクモンスターが次々と削られていく~!!』

 

応援席で見ていたロメオの疑問にメイビスが答える。

 

「一気に全滅させようとしたのか?」

 

「いいえ、全方位から攻撃することにより個体ごとの反応、防御力などを確かめたのでしょう」

 

「そしてどのモンスターにどんな換装で挑むのかを確認して瞬時に判断する」

 

マカロフが補足するとエルザは黒羽の鎧に換装していた。

 

「黒羽の鎧!一撃ごとに攻撃力が上がるんだよ!」

 

「まずは力押しってわけね」

 

何気にフェアリーテイルメンバーの魔法に詳しいハッピーの解説にシャルルが納得する。敵が炎を吐いてくれば炎帝の鎧に換装して炎を防ぐ。メイビスが感嘆の声をあげる。

 

「素早い判断力、それを支える精神力……すばらしい魔導士ですね」

 

ダメージを受けても飛翔の鎧に換装して一瞬で敵を切り刻む。エルザの挑戦は続く……残り50体。

 

 

-闘技場

 

『早くも半数を切りましたーー!!』

 

「まじかよ……」

 

「スゴいね……」

 

ノバーリとヒビキが揃って呆然としている。舞うように敵を屠っていくエルザに見とれているようだ。

 

「ショウとウォーリーも見てるかな……」

 

ミリアーナの呟きの後、オルガが吐き捨てるように悪態をつく。

 

「下らねえ…騒ぐようなレベルかよ。見ろよ。ザマアねえ」

 

見るとエルザはかなりの疲労とダメージを負っているのか肩で息をしている。ミリアーナは心配そうな表情を見せる。

 

「近いうちに倒れるぜありゃ……」

 

「エルザは折れないよ」

 

「あんなにボロボロになってんだ。所詮その程度ってことだ」

 

「君達には絶対に分かんないだろうけどね。どんなにボロボロになろうとエルザの心は折れないよ。だから……黙って見てなよ」

 

オルガは舌打ちしながらラクリマビジョンに視線を戻す。そこにはAランクのモンスターを粉砕するエルザの姿があった。

 

エルザは止まらない。次々に換装を繰り返しながら向かい来るモンスターを切り伏せる。受けたダメージも大きくいくつもの武器や鎧が壊された。それでも妖精女王(ティターニア)は止まらない。

 

会場の一般客は興奮し喝采をあげる。選手達は驚愕、フェアリーテイルのメンバーは信頼。形は様々だが共通して妖精の舞いに魅せられていた。

 

ツナはエルザの舞いを見ながらも要所要所でエルザの足元でバランスを崩させる小さなモンスターを見ていた。残すモンスターはあと4体……

 

 

-Aチーム観覧席

 

『お…恐るべしティターニアー!!次々と換装を繰り返し体力、魔力の消耗が激しいものの残すはあと……4体!!』

 

「よっしゃ行けーエルザ!!」

 

「でも強いのばっかり残ってる……」

 

「Sクラスのモンスターさんもまだ出てきてないんですよね?」

 

「なーにがSクラスだ!」

 

「S級のエルザの凄さは俺達が1番よく知ってるぜ」

 

エルザと付き合いの長いナツとグレイはエルザの勝利を全く疑っていない。攻撃してきたAランクのモンスターを妖刀・紅桜で真っ二つに切り裂いて左右から同時に襲ってきたBランクのモンスター2体を瞬殺する。残りのモンスターはSランクが1体を残すのみ……

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

『遂に……遂に残すは後1体!!Sクラスのモンスターそれはいったいどのような……ってあれ?』

 

残ったのは先程ツナが見ていた小さいモンスターだった。

 

「「「「「ちっさ!!!」」」」」

 

会場全員の気持ちが一つになった。しかしエルザは油断しない。もう一本刀を取り出し二刀流となる。

 

「紅桜から二刀流?あのちっこいの相手に?」

 

「何かあるのね……」

 

ハッピーとシャルルの呟きが嫌な予感を掻き立てる……

 

エルザとモンスターの姿が消え決戦場に移動する。モンスターは比べ物にならないほど巨大化していた。

 

『だ~から無理だと言ったんですカボ…Sクラスのモンスターが最後に残ると強さが3倍になるよう設定されてますカボ……』

 

「何だよ!その裏ルール!!」

 

「エルザー!!」

 

「大丈夫!エルザなら……」

 

フェアリーテイル応援メンバーに動揺が走るが、それはすぐに収まる。エルザがモンスターの攻撃を躱しつつその両手を切り刻んだ。応援席は歓声をあげる。レビィはこの闘いを心に焼き付けるために言葉を刻む。

 

 

-大魔闘演武三日目パンデモニウム……私はこの日の事をずっと忘れないと思う……-

 

 

両手の痛みに苦しむモンスターの背後より二刀を降り下ろし顔の半分を切り裂いたと思ったらその巨大な足に蹴り飛ばされ粉塵の中へと姿を消すエルザ。

 

 

-傷だらけになりながらも地に墜ちたはずの妖精が舞う……-

 

 

粉塵の中から飛び出したエルザが両手を振るい、モンスターの核に剣閃が走る。

 

 

妖精女王(ティターニア)ここにあり!!-

 

 

ルーシィとウェンディが泣きながら抱き合う。ナツとグレイは拳を合わせる。ミリアーナやドランバルトも思わず涙を流す。そしてエルザはゆっくりと右手の刀を掲げる。

 

 

-それはまるで凛と咲き誇る緋色の花……-

 

 

『し…しし…信じられません!!たった一人で100体のモンスターを全滅させてしまったー!!これが、7年前最強と呼ばれていたギルドの真の力なのか!?フェアリーテイルAエルザ・スカーレット圧勝ー!!文句なしの大勝利!!』

 

パンデモニウムが消えてエルザが闘技場に戻った瞬間大歓声が会場を包む。それはまるでフェアリーテイル完全復活を祝う凱歌のようだった……

 

 




次話のタイトルは「X!!」 あの技が遂に……


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X!!

競技パートが長くなったので二話に分けました。あの技の出番です!


-闘技場

 

大歓声が闘技場を包む。フェアリーテイルAエルザ・スカーレットが成し遂げた偉業が会場中にエルザコールを巻き起こしていた。

 

「す…すげぇ……」

 

「私…覚えてる…フェアリーテイル最強の女魔導士、エルザ・スカーレット!!」

 

「ああ、ティターニアのエルザ!!」

 

『未だに鳴りやまないこの大歓声!!』

 

『こりゃ参ったね……』

 

『言葉もありませんよ……』

 

観客席でも実況席でも傷だらけになりながらも凛としたエルザに対する賞賛と歓声は消えない。

 

「「「「エルザ~!!」」」」

 

感極まったAチームの全員が闘技場へと進入してくる。

 

「やっぱスゲーよエルザ!!」

 

「後で俺と勝負しろー!!」

 

「アタシ感動しちゃった!」

 

「私…感動で胸がいっぱいで……」

 

「おいおい…まだ優勝した訳じゃないぞ……」

 

大騒ぎするAチームのメンバー達を見ながら参加者達もエルザを称える。セイバーとレイヴン以外は……

 

応援席を見るとフェアリーテイルのメンバーはお祭り騒ぎだ。まるで優勝したかのように騒いでいる。

 

エルザの実力を見たこの大会屈指の女性魔導士達はエルザに興味深い視線を送っていた……

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

エルザの活躍を見たスティングは未だに口を開けて固まっている。

 

「た…大したことありませんよ。うちだってあのくらい出来ますって!」

 

「フ…フローもそう思う……」

 

レクターとフロッシュが強がりを言うが二匹とも声が震えている。

 

「面白い…口先だけではないと言うことか、フェアリーテイル……ツナヨシ・サワダだけではないな」

 

ミネルバは不敵な笑みを消さない。

 

 

-マーメイドヒール観覧席

 

「スゴいねあの人…アチキこんなの初めて見たよ……」

 

「ティターニアって呼ばれるだけのことはあるね……」

 

-エルザ・スカーレット…ジェラールをよく知る者……-

 

カグラの視線が鋭くなる。その心中を察する者はこの場にはいなかった……

 

 

-闘技場

 

エルザは高々と拳をあげるとフェアリーテイル応援席へと向ける。未だにエルザコールは鳴りやまない。

 

『パンデモニウム完全制覇!!フェアリーテイルA10pt獲得ー!!』

 

より一層歓声が大きくなる。エルザは傷の手当てのために医務室へと下がっていった。

 

「俺達どうなるんだろうね?」

 

「ニャー…もう一回とか?」

 

「それは考えにくいな。あれほどの魔力を再び用意するのは無理があるであろう……」

 

「ですよね……」

 

その時協議していたマトー君が戻ってきて残りの競技に関する説明を始める。

 

「えー協議の結果残りの7チームにも順位をつけないとならないということになりましたので、いささか味気ないのですが簡単なゲームを用意しました……マジックパワーファインダー通称MPF」

 

「つまり測定器?」

 

「そうです。この装置に魔力をぶつける事で魔力が数値として表示されます。その数値が高い順に順位をつけようと思います」

 

簡単なルールなのでこれ以上の説明はいらなかった。説明を聞いてツナは考える。

 

-アレで行くか…でも真横に撃ったら観客席に飛び込むし上から撃ったら闘技場壊れるしな。やっぱ上に撃つしかないよな-

 

「純粋な力比べか…これはちょっと分が悪いかな?」

 

「よ~し!がんばろ~!元気最強~!!」

 

「パワー勝負か…願ったりだ!これで勝てるぜ!」

 

「ふふっ…ツナヨシ殿今回は勝たせてもらいますぞ」

 

自信が無い者、自信満々の者様々だが先程の順番通りとなった。順番はミリアーナからだ。

 

「じゃあ私からだね!行っくよー!キトゥンブラスト!!」

 

ピピッと機械的な音がして数値が表示される。その数値は365。しかし観客達はざわめいている。比べる基準がないとこの数値が高いか低いか分からない。

 

しかしゲストのラハールがこの数値は部隊長を任せられるほどに高いと宣言した。

 

『続いてクワトロパピーのノバーリ!数値は124!ちょっと低いか?』

 

「僕の番だね」

 

ブルーペガサス観覧席では知力タイプのヒビキには厳しいという意見が出ていた。戻ってきた一夜が友を信じるように諭していたが……

 

『数値は95!これは残念!!』

 

「あ~ドンマイ…」

 

「ライバル……」

 

『続いてはレイヴンテイル、オーブラ!』

 

肩に乗っていた使い魔が測定器に体当たりした。そしてその数値は…4…マトー君がやり直しはきかないと言うがオーブラは気にした様子はない。

 

-あの使い魔を通して誰かが見ているような気がする-

 

現在のトップはマーメイドヒールのミリアーナだ。ミリアーナはツナの手をとって跳び跳ねて喜ぶ。ツナに想いを寄せる三人はまた女の子と仲良くなって…と黒いオーラを垂れ流していた。

 

「やったー私が1番~!ツナ~!」

 

「ハイハイ…俺もまだだからね」

 

「そいつはどうかな?」

 

『ここでオルガ登場ー!!すごい歓声です!』

 

オルガが両手を構えてその手に黒い雷が集まる。

 

「120mm黒雷砲!!!」

 

表示された数値は3825。当然トップに立つ結果となった。セイバートゥースの観覧席ではレクターとフロッシュが盛り上がっている。スティングも薄い笑みを浮かべている。ナツとグレイは目を見開いて大声でなんじゃそりゃーと突っ込んでいる。

 

「ニャー!私の10倍ー!?」

 

「どうだい?ツナヨシ・サワダ?この数値を越せるかい?」

 

ドヤ顔でツナを挑発した後、勝手に歌いだした。ツナはその挑発に耳を貸さず次のジュラを見て考えをまとめる。

 

-そうだ!ジュラさんに頼もう!!-

 

『さあ…それに対する聖十のジュラはこの数値を越せるかどうか注目されます!!』

 

「本気でやってもいいのかな?」

 

「もちろんカボ」

 

ジュラは掌を合わせて精神を集中している。強大な魔力が集中して地鳴りが響く。閉じていた目を開くと魔力を解放する。

 

「鳴動富嶽!!」

 

地面に溜められた魔力が轟音と共に装置を貫いて天に昇る。その数値はなんと8544という驚異的な数値を叩き出した。

 

「は?」

 

オルガの間抜けな声が聞こえるがツナは自分の考えをマトー君とジュラに伝えるために二人に声をかける。

 

 

-フェアリーテイルA観覧席

 

エルザはすでに手当てをして戻ってきている。ジュラの一撃を見てナツとグレイは驚きの声をあげる。

 

「何ーー!!」

 

「オッサンおかしいだろそれーー!!」

 

「さすがの一言だな」

 

「後はツナだけね……」

 

「ツナさん勝てますでしょうか?」

 

「ツナはパワーよりスピードって感じだしな…」

 

「ツナならやるさ!!」

 

「そうね……それより何でツナとミリアーナが仲良くなってるのかな?エ・ル・ザ?」

 

「私も気になります……」

 

「お…落ち着け!ツナはナッツを貸して懐かれただけだ!!…多分…」

 

「おいおい…それよりツナが審判とジュラのオッサンと何か話してるぞ」

 

「「え?」」

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

「いよいよツナの番ね……」

 

「ジュラさんがすごい数値を出しましたからね」

 

「この前の試合じゃアレだけの溜めは出来なかっただろうからな。やっぱすげぇパワーだな」

 

「流石にむりじゃねえのか?」

 

「ガジル……?」

 

「イヤ…だってよう……」

 

「まあまあミラさん。応援しましょう」

 

「そうね。ツナ~頑張って~!!」

 

 

-闘技場

 

「……分かったカボ。許可するカボ」

 

「ありがとう。ジュラさんもよろしいですか?」

 

「フム、任せておけ」

 

ジュラが腕を振るうとMPFが置かれている地面がせりあがっていく。観客席よりも上に上がりこの闘技場のどこよりも高くなったところで停止した。

 

「これで良いのかな?」

 

「バッチリです!ありがとうございます!」

 

ツナは死ぬ気の炎を灯して浮かび上がる。ある程度の所に来たら静止して斜め上にあるMPFを見る。全ての人の視線が集中するなか久しぶりの言葉を呟く。

 

「……オペレーション(イクス)!!」

 

左手はMPFへと向け斜め上に、右手は対角線上に斜め下に向ける。右手から斜め下に向けて炎を放つ。

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

フェアリーテイルのメンバーもツナの行動に疑問を感じていた。マカオが疑問を口にする。

 

「ツナの奴何やってんだ?逆方向に炎を出してんぞ?」

 

「あの炎は今までの炎とは違って何と言うか柔らかい感じがしますな?」

 

「柔の炎と言うわけですね……恐らく右手で後ろに放つ柔の炎を支えにして左手で最大級の炎を放つつもりではないでしょうか?空に向かって放つ為に頼んでいたのでしょう」

 

マカロフの疑問に予想を組み込む形でメイビスが答える。

 

「…ということはまっすぐ撃ったら危険なほどの威力ってことね」

 

「期待出来そうね」

 

レビィとリサーナの予想と同じことを他の者達も考えていた。

 

 

-闘技場

 

『さあ、逆方向に炎を放つツナヨシ!どんな技を繰り出すのかー!?』

 

『ものスんごい魔力だね……』

 

『これは右手の炎で体を支えて左手で攻撃するようですね……支えが必要なほどの攻撃ということでしょうね』

 

ツナは上手くバランスを取りながら鬼畜家庭教師の訓練を思い出していた。コンタクトとヘッドフォンなしでこの技を放てるのは間違いなく彼のお陰だがその地獄の訓練は凄まじかった。

 

家庭教師曰くボスたる者いつまでも便利な道具に頼ってんじゃねえとのことで地獄の訓練が始まったのだった……

 

-感謝するぞ……先生!-

 

心の中にで家庭教師…リボーンに礼を言いながら左手に集めた最大級の炎を放つ。

 

X BURNER(イクス バーナー)!!!」

 

ツナの左手から極太の熱線が放たれる。その熱線はMPFを一瞬で飲み込み、その向こうの雲を吹き飛ばして空の彼方へ向かっていく。

 

その光景を見た者は揃って目を見開き、口をあんぐりと開く……熱線が消えた後にはMPFは存在せず、9999という数字だけが浮かんでいた。

 

観客達は目を疑い、一拍後に会場中から今日一番の大歓声が巻き起こった。フェアリーテイル応援席は総立ちでツナに声援を送る。

 

『な…何ということでしょう……聖十の全力に傷一つ付かなかったMPFが破壊!カンストしています!!な…何なんだこのギルドは!?競技パートワンツーフィニッシュ!!もう誰もフェアリーテイルを止められないのかー!?』

 

「止まらないさ…フェアリーテイルの名に懸けて!」

 

静かに…しかし確かに宣言するツナに会場は興奮のるつぼと化していた。

 

 

 

 




最後の台詞はカナの引用です→多少変更しました
各ギルドの反応などは次回。


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信頼と残された謎

ラクサスVS.アレクセイまでです。


-闘技場

 

ツナが放った一撃は会場を魅了し、ツナの宣言に会場の盛り上がりは最高潮に達していた。未だに歓声は鳴りやまない。

 

『フェアリーテイルBツナヨシ・サワダの宣言が会場を震わせる~!!本当にもう誰も止められそうにありません!!』

 

『スんごい一撃だったね』

 

『MPFが消滅するとは思いませんでしたよ』

 

「これは凄まじいね…さすがは僕のライバル!」

 

「アレを見せられた後によく言えるね……」

 

「ここまでやられると逆に清々しい気分じゃな」

 

「ニャー!アレ私の何倍!?」

 

「ちっ……何だよアレは……」

 

「……」

 

ここにいる選手達だけでなく観覧席にいる選手達もツナの一撃には度肝を抜かれていた。

 

 

-フェアリーテイルA観覧席

 

「「な…な…なんじゃあ!ありゃー!!」」

 

ナツとグレイの叫びが重なる。先程のジュラの一撃を見たときといいこの二人のリアクションは派手だ。

 

「これは…もう言葉もないな……これがツナの本気か……」

 

「てゆーかアレ、エドラスまで届いてたりして?」

 

「ハハ…まさか……」

 

「だ~俺もアレやりてーー!!手を後ろに向けて炎を出して…」

 

「おいおいこんなところで無茶はよせ…」

 

「そうだぞ。ツナの必殺技がテメェにできるわけねーだろ」

 

「なんだとこの野郎!!」

 

いつものように喧嘩を始めた二人だった……

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

「な…んだよ…アレは……」

 

スティングは恐怖を感じながら呟く。初日に聖十のジュラを倒し、殴り込みでセイバーのメンバーを何人も倒したことから強いのは分かっていたが今の一撃は自分の想像を遥かに越えていた。

 

「こんな奴が今まで無名だったとはな……」

 

「MPFがあそこまで完全に消滅するなど記憶にないよ……」

 

オルガは肩を落としながらこちらに戻って来ている。

 

ミネルバは想像以上にツナの本気がセイバーのメンバーに影響を与えるのを見て考える。

 

-強いのは分かっていたがここまでとは…セイバートゥースの優勝の為には奴を何とかせねば……-

 

ミネルバの瞳に暗い輝きが灯る……

 

 

-マーメイドヒール観覧席

 

「ごめん!カグラちゃん!負けちゃった!」

 

「しかたあるまい……私でもツナヨシ・サワダや聖十のジュラには数値では勝てん。むしろあの順位はよくやったと言えるだろう」

 

「アレはホントに人間かい?」

 

「む…失礼だよ!ツナはいい人なんだから!」

 

「ミリアーナホントに仲良くなったね」

 

-ツナヨシ・サワダか……私にあれほどの力があればジェラールを……-

 

カグラは無意識に不倶戴天を握りしめる。

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

エルザとツナのワンツーフィニッシュに応援席にいる者達ははしゃいでいた。特に炎の魔導士であるロメオは大興奮していた。

 

「ツナ兄すっげ~!!あんなすげぇ炎初めて見たぜ!!」

 

「ツナもエルザもホントにすごかったよね!私今日のことは絶対忘れないわ!!」

 

「レビィ落ち着いてよ~」

 

「確かにすごかったですね。あの威力は妖精の輝き(フェアリーグリッター)を遥かに越えていますね」

 

「凄まじいですな。ツナは今までどんな戦いを経験してきたのでしょうな……」

 

シャルルは仲間の話を聞きながらも横でウンウン唸っているハッピーに話しかける。

 

「何唸っているのよ、ハッピー?」

 

「オイラそろそろツナにはいい二つ名を付けてあげようと思ったんだけどいいのが浮かばなくて…」

 

「なるほどな…今大会でかなり目立ったからな…必要というわけではないがあったら便利かもしれん」

 

「あ、それいいね!考えてあげようよ」

 

「面白そう!」

 

レビィとリサーナも乗ってきたようだ。他のメンバーも色々考えている。

 

「そうね…炎がメインだけど氷も使えるのよね…」

 

「炎帝とか?」

 

「いっそ魔王とか!」

 

「地獄の使者!」

 

「酒豪!」

 

「ハーレム王!」

 

後半になるほど段々と酷くなっていく。その後も話し合いが続いたが結局決まらなかった。

 

 

-フェアリーテイルBチーム観覧席

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい!ツナ!凄かったわ!」

 

「凄すぎて何て言えばいいのか……」

 

「アレが最強の技か?ツナ?」

 

「……どうかな」

 

「ギヒッ!まだ何か隠してやがるのか?」

 

「そうそう使う機会もないからね」

 

「食えねぇ奴だな……」

 

「個人的にはセイバーの雷野郎に一泡ふかせてくれてスカッとしたぜ」

 

「あ~あの人ね…ラクサスの方がかなり強いと思うけど?」

 

「当然、負ける気はしねぇがな」

 

「ま、このままセイバーなんてぶっちぎろうよ」

 

「珍しく好戦的ねツナ?」

 

「あそこすごく嫌いなギルドだからね」

 

基本的に温厚なツナもセイバートゥースの所業には相当頭に来ているらしい……そして三日目バトルパートが始まる。そしてついに動き出す者達がいた。

 

 

-レイヴンテイル観覧席

 

「アレクセイ様、バトルの対戦表でサー」

 

「ようやくこの時が来たか……しっかりと準備しておけよ。我々の真の目的の為に……」

 

レイヴンテイルの5人はその目的を果たす為に動き出した。

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

 

バトルパート第一試合はマーメイドヒール ミリアーナVS.クワトロパピー セムス。

 

「ミリアーナには頑張って欲しいなあ」

 

「アラ?ツナったらいつの間に仲良くなったの?」

 

「昨日の夜にちょっとね……」

 

「……打ち上げに来ないと思ったら…」

 

「まあまあミラさん。試合を観ましょうよ」

 

闘技場に目をやるとミリアーナは回転して体当たりしようとしているセムスをネ拘束チューブで雁字搦めにした。このチューブには捕まえられた者は魔力が封じられる。

 

結局抜け出すことはできずにそのままミリアーナの勝利となった。

 

 

 

第二試合はセイバートゥース ルーファスVS.ブルーペガサス イヴ。

 

開始早々に得意の雪魔法で攻めるイヴだったが攻撃が全然当たらない。逆にルーファスの記憶造形魔法によって生み出された炎の直撃を喰らい敗北した。同じ造形魔法を操るグレイとリオンは見たこともない造形魔法に対抗意識を燃やす。

 

「イヴ君負けちゃったか……」

 

「やっぱりセイバートゥースは強いですね」

 

「ギヒッ!妙な魔法使いやがって……」

 

「やっぱり私達の優勝の為にはセイバートゥースが一番の障害になるみたいね……」

 

「直接バトルで当たって勝つのが一番手っ取り早くていいんだがな」

 

 

 

第三試合はフェアリーテイルB ラクサスVS.レイヴンテイル アレクセイと発表された。

 

「がんばってね、ラクサス」

 

「何の心配もいらねーだろ」

 

「ジュビア何だか嫌な予感がします……」

 

「任せろ」

 

Bチームの信頼と心配を背にラクサスが闘技場に向かおうとした時、ツナが声をかける。

 

「任せたよ」

 

「ああ」

 

レイヴンがよからぬことを企んでいることを分かっている。二人は言葉は少なくともツナは手を出さないことを、ラクサスは自分で片を付けることを確認する。

 

ラクサスとアレクセイが闘技場の中央で向かい合う。応援席のメンバーはレイヴンが何をしても対応できるように準備を始めた。

 

ビスカは狙撃銃でマスターイワンをターゲットスコープに捉えている。雷神衆とリサーナはレイヴンテイルの他のメンバーを見張る。

 

一日目のルーシィの試合の際はツナが防いでくれた為に何もなかったが汚い真似を平気で行ってきた。ギルド一丸となって行動する。その行動に初代は自分の目指したギルドの究極の形が目の前にあることを喜んでいた。

 

 

 

…そして試合開始の銅鑼が鳴る。その直後フェアリーテイルのメンバーは信じられないものを見た。

 

「そんな……」

 

「冗談だろ?」

 

「信じられません……」

 

-下らないことを……-

 

ツナ以外のメンバーの顔が驚愕に染まる。マカロフや妨害阻止メンバー達の動きが慌ただしくなる。

 

『これはアレクセイ怒涛の攻撃!ラクサス手も足も出なーい!!』

 

闘技場ではラクサスが一方的に攻撃を受け続けていた……

 

 

-闘技場

 

ラクサスが一方的にやられている……その光景をラクサス(・・・・)は冷めた目で見ていた。

 

「何の真似だこりゃ?」

 

「これは幻影魔法の一種だ。周りからは我々の実体は見えず、幻の方だけ見えるというものだ。良くできているだろ?誰一人気付かない」

 

「誰一人ねぇ……おいおい全然意味分かんねぇぞ。幻とやらでお前が勝って何になるんだ?」

 

自分のチームの観覧席をチラッと見ながら問いかけるラクサス。

 

「我々の目的は勝利ではない。交渉次第ではお前を勝たせてやることも可能だ」

 

「幻なんか関係ねぇ…現実のお前を倒して終わりだ」

 

いい加減イライラしてきたラクサスが肩に羽織っていた上着を地面に落として構えをとりながらアレクセイに告げる。

 

「それは無理」

 

「現実は厳しいでサー」

 

「ククッ」

 

「……」

 

アレクセイの後ろからレイヴンテイルのメンバー達が姿を現す。当然一人を除いて周りからは見えてはいない。そしてアレクセイが仮面を外す。

 

「俺の強さは知ってんだろ、バカ息子ォ」

 

「そんなこったろうと思ったぜ、クソ親父」

 

「マカロフは死んでも口を割らん…だがお前は違う。教えてもらおうか、ルーメン・イストワールの在りかを」

 

「何の話だ?」

 

「とぼけるな。マカロフはお前に教えているはずだ」

 

「知らねぇし、知ってても教えねぇよ」

 

「おいおい…この状況で勝ちを譲るって言ってんだぜ?断るなら幻で負けるだけじゃすまねえぞ?」

 

「めんどくせぇことしやがって…ジジイが見切りをつけたのもよく分かる……まとめてかかってこいよ。マスターの敵は俺の敵だからよ」

 

「どうやら教えてやる必要があるみたいだな…対フェアリーテイル特化型ギルド、レイヴンテイルの真の力を……」

 

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

闘技場では未だにアレクセイに蹂躙されるラクサスの姿が映し出されていた。

 

「ラクサス!!」

 

「どーなってやがんだよ!!」

 

「このままじゃラクサスさん……」

 

ツナは厳しい目で微動だにせずに闘技場を見ている。

 

「ツナ!このままじゃラクサスが……」

 

「落ち着いてみんな……今見えている光景は全て幻覚だ。まだ本体は戦ってもいないよ」

 

「「「なっ!!!」」」

 

3人は驚愕に目を見開く。骸やクロームの幻覚に比べたらこの程度の幻覚を見破ることはツナにとっては容易なことだった。

 

「アレが幻だってのかよ!?」

 

「何の為にそんなことを?」

 

「今……闘技場ではラクサスとアレクセイ…の仮面を取ったマスターイワンと他のレイヴンのメンバーが対峙している。さすがに声は聞こえないけどね」

 

「おい!じゃあ1対5かよ!!」

 

「そんな……イワンまで!?」

 

「じゃああそこにいるレイヴン達は…思念体!?」

 

「早く止めないと!」

 

「ラクサスは一人でやるつもりだよ」

 

「でもツナ!少なくともイワンは相当強いのよ」

 

「それでも自分で決着をつけたいんだと思う。それにラクサスは負けないよ」

 

絶対の信頼をこめた言葉にミラ達はそれ以上反対することはなかった……

 

 

 

-闘技場

 

レイヴンテイルのメンバーはフェアリーテイル主要メンバーの苦手な魔法の使い手達で構成されている。その言葉にラクサスは、マカロフはレイヴンテイルの全てを把握していることを告げる。

 

「ガジルだ!アイツが裏切ったんだ!」

 

フレアが叫ぶ。元々ガジルはマカロフの指示を受けてレイヴンテイルに二重スパイとして潜入していた。ガジルから既にマカロフは情報を受け取っている。

 

それでもマカロフは動かなかった。7年間ギルドに何もしなかったという理由だったが本当は親子だから信じたいという気持ちがあったことをラクサスは見抜いていた。

 

「それにバレてねぇと思ってるつもりだろうから言っておくが少なくとも一人この状況に気づいてる奴がいるぞ。一日目にお前らの妨害を防いだ奴がな」

 

「アイツか……フェアリーテイルも変わったもんだな。あんなアブねえ奴を入れるなんてな」

 

「フン……アイツほどフェアリーテイルに相応しい奴はいねぇよ」

 

「何だぁ?あんなアブねえ殺気を放つ奴は闇に生きてきた奴だぞ?現に気づいてても何もしねえじゃねえか」

 

「アンタには一生分かんねぇよ」

 

闘技場に出る前に交わした短い言葉……ラクサスはツナの自身に対する信頼を感じ取っていた。他の連中も自分の為に動いている。かつてギルドに混乱と闘争をもたらした自分の為に……

 

だからこそラクサスは決意したのだ。例え自分の親でも家族に手を出す者は自分の手で倒すと……

 

いい加減焦れてきたのかイワンが無数の人の形をした紙の嵐を放つ。激昂したイワンは執拗にルーメン・イストワールの在りかを求め、他のメンバーにも指令を下す。

 

「ルーメン・イストワールはどこだぁ!?言えぇぇ!!ラクサスゥ!!俺の息子だろうがぁ!!オーブラ!やれ!魔力を消せ!!」

 

「コイツはウェンディとシャルルをやった奴か!」

 

ラクサスは全身に雷を纏うと一瞬でオーブラの前に移動してそのスピードのまま蹴り飛ばす。

 

「赤髪!!」

 

「ニードルブラスト!!」

 

フレアの髪が生き物のようにラクサスに迫り、ナルプディングはトゲの生えた腕を振るいラクサスを狙う。後ろに下がりながら攻撃を躱していたラクサスは攻撃を見切って反撃する。

 

「これはグレイの分だ!」

 

上から叩きつけるように殴り倒してナルプディングを沈めるラクサスの腕をフレアの髪が捕らえる。

 

「コイツはルーシィの分!」

 

口から咆哮を吐きフレアに浴びせるとフレアは悲鳴をあげながら吹き飛ばされていった。その直後、砂に擬態したクロヘビが背後に現れる。

 

「お前は……よく分からん」

 

とりあえずクロヘビも一撃で吹き飛ばした。メンバーが一撃ずつで全滅したのを見てイワンは焦りながらラクサスに懇願する。

 

「待て!俺はお前の父親だぞ!家族だ!父を殴るというのか!!」

 

「俺の家族はフェアリーテイルだ……家族の敵は俺が潰す!!」

 

雷を纏った拳で正面からイワンを殴り飛ばすと壁に衝突して意識を失う。そして幻は解けて観客達が見たのは立っているラクサスと倒れ伏すレイヴンのメンバー5人。

 

「ギルドマスターカボ!アレクセイの正体はマスターイワンカボ!!」

 

『先程まで戦っていたラクサスとアレクセイは幻だったのか!?』

 

『そスて見えない所で5人がかりの攻撃……マスターの大会参戦……どー見ても反則じゃの』

 

『何はともあれ勝者、フェアリーテイルBラクサス!!』

 

「アイツ一人でレイヴンをやったのか!?」

 

「さっきのエルザといいツナヨシといい、バケモンだらけじゃねえか!フェアリーテイル!」

 

観客もレイヴン5人を一人で全滅させたラクサスに称賛を送る。フェアリーテイルのメンバーも大歓声をあげる。

 

闘技場を去ろうとするラクサスにイワンが声をかける。

 

「今回は俺の負けだ。だがこれだけは覚えておけ…ルーメン・イストワールはフェアリーテイルの闇。いずれ知る時が来る…フェアリーテイルの正体を……」

 

ラクサスは驚いた顔でイワンを見るがイワンは笑いながら王国兵に連行されて行く。ラクサスはイワンがそこまで固執するルーメン・イストワールとは何か、マカロフに確認してみることにした。

 

他のメンバーも連行される中、オーブラの使い魔のようなものが脱出していくのにツナとメイビスだけが気付いていた。

 

 

 




次回は少女対決です。


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天竜と天神

少女達のバトル!


-フェアリーテイルB観覧席

 

レイヴンテイルは当然失格になり、以後3年間の大会出場権が剥奪されることとなった。ラクサスは観覧席へと戻ってきた。

 

「お疲れ様。ラクサス」

 

「ああ……」

 

「5対1で勝つなんてさすがね」

 

「ギヒッ!まあアンタなら楽勝と思ってたけどよ」

 

「あれ、ガジル君幻のラクサスさんがやられてたのを見て焦ってましたよね?」

 

「それにツナから1対5で対峙してるって聞いて飛び出そうとしてなかった?」

 

「そりゃ…オメェ……あれだ」

 

「うんうん。私達Bチームの結束は固いわね」

 

「だから……そうじゃねぇって!」

 

「それを言ったらラクサスもだよ。家族の敵は俺が潰すって言ってたし」

 

「「まあっ!」」

 

ミラとジュビアが声を揃えて笑顔になる。かつてのラクサスを知ってるだけに嬉しそうだ。

 

「んなっ!!ツナ!聞こえてたのか!?」

 

「最後だけね……で?奴等の目的って何だったの?」

 

「よく分かんねぇもんだ。後でジジイに聞いてみるつもりだけどな……それよりツナはいつ幻に気付いたんだ?」

 

「え?最初からだけど?あの程度の幻覚じゃ全然効かないよ」

 

「あの程度って…マスターも見破れてませんでしたよ!?」

 

「あ~俺の昔の守護者にメチャクチャ幻覚が上手い二人がいたからね……慣れたんだ。その二人は実体を持った幻も使えたから……」

 

「ツナも規格外だけどその二人も相当ね」

 

「つかお前の世界のマフィアの強さはどうなってんだ……」

 

「いかれてるぜ」

 

「酷くない!?」

 

「まあまあ…次の試合に注目しましょう」

 

ちょうどその時、次の試合の選手が発表された。フェアリーテイルA ウェンディVS.ラミアスケイル シェリア。

 

「ウェンディの番ね」

 

「相手も随分とちっせえ奴だな」

 

「ウェンディは強いですから心配は要りませんよ」

 

「だな……」

 

「あ、こけた」

 

闘技場ではシェリアが何もないところで転んでいた。それを助けようと駆け寄ったウェンディも同じように転んでしまった。微笑ましい光景に会場から笑いが巻き起こる。

 

「似た者同士だな……」

 

「ああ……」

 

「だね……」

 

「もう!3人とも!」

 

「そうですよ!ツナさんは特にウェンディを応援して下さい!」

 

「いてて…引っ張らないで…分かったから!」

 

「じゃあ応援しましょう!」

 

ミラとジュビアに急かされて3人はウェンディを応援し始める。ガジルとラクサスはそれをやれやれといった感じで見ていた。

 

 

 

-街中

 

-これはゼレフの魔力!?-

 

「会場の方か?ウルティア、メルディはその場で待機!俺が行く!」

 

街中を調べていたジェラールは会場へと急ぐ。

 

 

 

-闘技場

 

『これは何とも可愛らしい対決となったぞー!!オジサンどっちも応援しちゃうピョーン!』

 

『あんたキャラ変わっとるよ』

 

闘技場中央にて向かい合う二人。小さな少女達ながらその表情は戦士のようだ。どうでもいいが実況のチャパティのキャラの変わりようがウザイ……

 

-ツナさんもエルザさんもラクサスさんも凄かった……私だって絶対に勝つ!-

 

試合開始の銅鑼が鳴ると同時にウェンディが仕掛ける。

 

攻撃力強化(アームズ)速度上昇(バーニア)付加(エンチャント)

 

「お」

 

自身に能力上昇の魔法を付加したウェンディが果敢に仕掛ける。

 

「天竜の翼撃!!」

 

強力な風がシェリアを襲うがシェリアは風を見極めて躱すとお返しとばかりに反撃する。

 

「天神の北風(ボレアス)!!」

 

黒い風がウェンディを包み込む前に何とか避けるがシェリアはその風に乗ってウェンディに急接近する。

 

「天神の舞!!」

 

「うああぁぁっ!!」

 

シェリアを中心に巻き起こる風がウェンディを空中へと吹き飛ばした。さらに追撃しようと飛び上がったシェリアだったがウェンディは空中で風を操って態勢を立て直す。

 

「天竜の鉤爪!!」

 

下へ叩きつけるような蹴りを放ったが着地される。地面に降りた二人は大きく息を吸い込む。

 

「天竜の……」

 

「天神の……」

 

「咆哮!!!」

 

「怒号!!!」

 

二人のブレスがぶつかり合ってほどけた風が観客席にまで届く。威力はシェリアの方が上だったようでウェンディの傷の方が深かった。膝をつき、肩で息をしている。

 

 

 

-応援席

 

「まさか……あんな少女がゼレフと関係があるというのか?」

 

会場についたジェラールはシェリアを見ながら戦慄していた。

 

 

 

-ラミアスケイル観覧席

 

「黒い風は天空の滅神魔法……すなわちシェリアは天空の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)ということだ」

 

 

 

-フェアリーテイルA観覧席

 

「アイツの他にもいたのか?」

 

「知り合いか?」

 

「グリモアの…シンパチロウとか言ってたか?」

 

「ザンクロウじゃなかったか?」

 

「まあ……たいしたこと……なかったな……」

 

実は大苦戦していたナツが冷や汗をかきながら強がって言う。

 

「ここからがウェンディの正念場だな」

 

 

 

-闘技場

 

「驚きました……」

 

「リオンから聞いてたんだ。フェアリーテイルにアタシと同じ魔法を使うコがいるって…ちょっとやりすぎだったかな?ゴメンね痛くなかった?」

 

「平気です…戦いですから」

 

「せっかくだからもっと楽しもっ!ね?」

 

「私…戦いを楽しむってよくわからないですけど……ギルドの為にがんばります」

 

ふらつきながらも立ち上がるウェンディ。シェリアが嬉しそうに風を纏いながら言う。

 

「うん!それでいいと思う!アタシも愛とギルドの為にがんばる!」

 

-愛と……ギルド?私も……-

 

黒い風を解き放つシェリア。防戦一方のウェンディは今までの戦いを思い出す。その中でもやはりウェンディに強く印象に残ったのは……ジュラを圧倒的な力で倒し、MPFでは物凄い威力の攻撃を見せたツナの姿。

 

以前対等な仲間と言われたが自分は守られてばかりだ。誘拐騒ぎが起こったときも助けてもらった。

 

-負けない!エルフマンさんに後を頼むって言われたんだ!ギルドの為に!ツナさんと対等な関係である為に!-

 

ウェンディは勝負をかける。空気を吸い込んで魔力を補給する。それを見たシェリアも同じように空気を食す。

 

『こ…これはウェンディたん、シェリアたん何をしているのでしょう?気のせいか酸素が少し薄くなった気がします』

 

「滅竜奥義!!」

 

ポーリュシカやナツやルーシィが驚く。ハッピーとシャルルは勝利を確信する。

 

大きな竜巻が二人を包み込む。シェリアが驚きを露にする。

 

「風の結界!?閉じ込められた!?」

 

「照破!天空穿!!」

 

束ねられた風の一撃がシェリアを貫く。シェリアは吹き飛ばされて倒れこむ。

 

-ミルキーウェイはまだ修得出来てないし…これが私の全魔力……でもこれで……-

 

ウェンディはフラフラになりながらも勝利を確信していた。

 

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

「決まったわ!」

 

「やるじゃねえか!あのガキ!」

 

「ありゃすげえな」

 

「ウェンディの勝ちですね!」

 

「……」

 

「ツナ?」

 

「まだ終わってないみたいだ」

 

「アレを食らって立てるとは思えねぇぞ?」

 

闘技場を見るとマトー君がウェンディの勝ちを宣告しようとしていたが、それを遮りシェリアは立ち上がる。その体には傷一つなかった。

 

「なっ……無傷!?」

 

「どうして!?」

 

「どういうことだ?ツナ?」

 

「自分の傷を治癒したんだ」

 

「ウェンディは自分の傷は治せないのに……」

 

「彼女はできるみたいだ……ウェンディ……」

 

ツナは心配そうな目で闘技場を見る。

 

 

 

-闘技場

 

奥義を放ったウェンディはフラフラになりながらも戦う意思は消えていない。

 

「降参しないのかな?アタシ…戦うのは嫌いじゃないけど勝敗の見えてる暴力は愛がないと思うの。降参してもいいよ、ね」

 

「できません!私がここに立っているということは私にもギルドの為に戦う覚悟があるという事です。情けはいりません!私が倒れるまで全力で来てください!お願いします!」

 

ウェンディの決意にフェアリーテイルのメンバーは止めようと思えなくなった。

 

「それが礼儀だよね…じゃあ今度はアタシが大技だすよ!この一撃で楽にしてあげるからね!……滅神奥義!!」

 

 

 

-ラミアスケイル観覧席

 

「よせ!シェリア!!」

 

「それはいかん!!」

 

「バカたれが!相手を殺すつもりかい!!」

 

リオンやジュラ、マスターオーバですらシェリアを止めようとするがシェリアは止まらない。

 

 

 

-闘技場

 

「全力の気持ちには全力で応える!…それが愛!!」

 

シェリアが巻き起こした黒い風が数多の羽根の形になっていく。ものすごい魔力が集まっていく。

 

天の叢雲(アマノムラクモ)!!」

 

羽根の形をした魔力が渦を巻いてウェンディを襲う。ウェンディは手で顔を覆うがその魔法は防げそうにない。

 

しかしシェリアの魔法はウェンディに当たることはなく外れた。シェリア自身が一番驚いていた。

 

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

「ギヒッ!よけたのか?いや外れた!?」

 

「シェリアの魔法は自己回復はできるみたいだけど傷は治せても体力は回復できないみたい」

 

「逆にウェンディは相手の体力を回復できる」

 

「そのせいで相手の魔法の勢いがつきすぎて外させたんですね!」

 

「ウェンディすごいな…あの状況で……」

 

闘技場ではウェンディとシェリアのバトルが続いている。どちらも己の肉体に風を纏いながら接近戦で戦っているが。

 

傷を付けてもすぐに治癒するシェリアが有利だがウェンディは諦めない。その小さな拳に想いを乗せて戦うその姿は傷だらけになりながらも美しい。

 

……そして30分が過ぎても決着はつかなかった。

 

『ここで時間切れ!試合終了!ドロー!!』

 

会場中が二人の健闘を称えて拍手と歓声をを贈る。両者共魔力を使いすぎて相当疲れている。傷だらけのウェンディの方は地面にへたりこんでいる。

 

「よくやったよ。ウェンディ……」

 

「ツナ…今日はたくさん労ってあげないとね」

 

「格上の相手に本当によくやったな」

 

「すごい試合でした!」

 

「ギヒッ!やるじゃねえか!」

 

闘技場を見るとシェリアがウェンディの傷を癒し、握手をしている。二人はいい友人になれるだろう。

 

ツナは優しげな目でその光景を見ていた。

 

三日目の結果は次の通りだ。

 

1位 フェアリーテイルB 40pt

2位 フェアリーテイルA 37pt

3位 セイバートゥース 34pt

4位 マーメイドヒール 32pt

5位 ラミアスケイル 31pt

6位 ブルーペガサス 18pt

7位 クワトロパピー 14pt

失格 レイヴンテイル

 

フェアリーテイルの快進撃は続く。

 

 

 

-応援席

 

「シェリアではなかったか……もう魔力の痕跡は消えてしまったな……しかたないな、会場を出る前にツナとエルザに……」

 

 

試合終了後、人混みの中でツナとエルザと接触したジェラールの姿を二人の憎しみに支配された少女達が目撃していた事に3人は気付いていなかった……

 

 




ジェラールは変装はしてますがミストガンの格好ではないのでドランバルドに疑われてません。

目撃者は分かると思います。


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プールパニック

な……なんとか更新です。


-クロッカスの公園

 

大魔闘演武三日目の夜クロッカスにある公園でマカロフとラクサスが話をしている。

 

「ジジイ……ルーメン・イストワールってなんだ?」

 

「イワンから聞いたのか?」

 

「欲しがってるみてぇだったな。フェアリーテイルの闇とか言ってたぞ」

 

マカロフが口を閉ざしているとメイビスがやってきてラクサスに告げる。

 

「闇ではありません。光の神話(ルーメン・イストワール)…これは我がギルドの“光”なのです」

 

「いけませんぞ!初代!」

 

「分かっています。これはギルドマスターとなった者しか知る権限のないもの。分かっていただけますか?」

 

「変なもんじゃねーなら別に詮索しねーよ」

 

イワンはどこから情報を得たのか…二代目マスターのプレヒトが教えたのだろうという結論になった。以前グリモアハートのマスターハデスとしてフェアリーテイルに戦争を仕掛けてきた者だ。

 

自分の人選がギルドに危機をもたらし、情報の漏洩までしてしまったことにメイビスは涙を流す。

 

「ふぐぅ…えぐっ…泣いてなんか…ないです…全然泣いてなんか……」

 

「初代がー!ラクサス!あやせ!ホレッ!!」

 

「ハードル高すぎんぞソレ!!」

 

初代をあやす為に祖父と孫はある決断をすることになった……

 

 

-BAR SUN

 

「「「「「かんぱーい!!!」」」」」

 

今日も1位と2位を守りきったフェアリーテイルはいつも通り大騒ぎをしている。

 

「マジで優勝出来そうだな!!」

 

「今日は全員凄かったからな!」

 

マカオとワカバが嬉しそうにジョッキを合わせて今日の試合を振り返っている。

 

「なんといってもエルザさんが凄かったわ!」

 

「いやツナの一撃には度肝を抜かれたよ!」

 

「ラクサスの武勇なくしては語れんだろう」

 

「ウェンディのバトルには感動したぜ!!」

 

ビスカとアルザックの夫婦とフリードとビッグスローの雷神衆コンビが今日の試合で活躍した者達を誉め称えていた。

 

ラクサスを除いた今日の主役の3人は同じテーブルで談笑していた。ルーシィ、ミラ、リサーナ、シャルルも同席している。

 

「せっかくエルザさんが快勝したのに私勝てなかったなぁ……」

 

「なに言ってんの、よくやったわよ」

 

「そーだよ!あの相手の奥義を防いだときとか本当に凄かったわ!」

 

シャルルとルーシィが落ち込むウェンディを励ますように声をあげる。

 

「確かに…滅神魔導士相手によくやった」

 

「シェリアの方が魔力はかなり上だったから引き分けに持ち込めたのは凄いわ」

 

「そうね!さすがウェンディだよ」

 

「それに今日は勝ち負けよりもシェリアと友達になった事の方が大事じゃない?」

 

「ツナさん……そうですね!」

 

ツナが頭を撫でてウェンディが元気になった所でエルザはツナに話し掛ける。

 

「ツナの一撃は本当に凄かったな」

 

「ああ…X BURNERね。ジュラさんが手伝ってくれて助かったよ」

 

「イクスバーナーっていうんだ?」

 

「確かに真っ直ぐ撃ってたら大変な事になってたわね……」

 

「アンタってホントに人間?」

 

「シャルル酷い!?」

 

「まあ……ギリギリだな……」

 

「エルザまで……」

 

「「「「アハハハッ!!」」」」

 

ツナが二人の言葉にうなだれると周りで笑いがおこる。ナツやグレイは酒樽サーフィンをやっている。周りは大騒ぎだがそれでも楽しそうに笑っている。カナも先程ツナに酒の制限を解除されたので嬉しそうに樽で飲んでいた。

 

 

宴の最中レビィから提案があった。

 

「プール?」

 

「そう。フィオーレ有数のサマーレジャースポットのリュウゼツランド!この近くなんだ」

 

「行くしかねぇだろ!」

 

「暑いからな!」

 

「みんなで行こう!!」

 

結局酒場にいたフェアリーテイルの全員で向かうことになった。

 

 

-リュウゼツランド

 

「着いたー!!」

 

「広いですね」

 

「んー気持ちがいいな」

 

「エルザ傷大丈夫なの?」

 

「まぁエルザだし……」

 

みんな思い思いに楽しんでいた。ナツは水上機関車に後先考えずに乗って乗り物酔いをして、エクシード組とガジルとレビィは水族館へ、カナは普段着からして水着のようなものなのに水着がないということで下着姿でプールに来ている。

 

ちなみに医務室にいたはずのエルフマンとエバーグリーンも来ていた。フェアリーテイルのメンバーから隠れるがフリードとビッグスローにしっかりと目撃されていた。

 

そしてツナが今いるのはラブラブスライダーと呼ばれるところの出発点だ。目の前で3人の女性が言い争っているのを遠い目で見つめていた。

 

「ツナ!一緒にこれやろうよ!」

 

「ツナさん!私と一緒に……」

 

「あらあら……困ったわね」

 

幸い他の客が居なかった為迷惑にはならないがあまり長い時間ここで揉めているのも後から来る人の迷惑になる。しかし、このスライダーは抱き合った形で滑るらしい。……ツナにとってはとても恥ずかしい。

 

その時ミラが何か思い付いたようにツナの後ろから抱きついてきた。そのまま前にいたルーシィを押し倒すような形になり、さらには腕にしがみついていたウェンディも巻き込んで四人ひとかたまりになってスライダーに突入してしまった。

 

「うん。こうすれば良かったわね」

 

「ちょっとミラさんーー!?」

 

「あわわ!落ちちゃいますーー!!」

 

「ウェンディ!手放しちゃダメだよ!」

 

長いスライダーをルーシィが頭を下に仰向けに、その上にツナがうつ伏せに、その右手にウェンディが抱え込まれ、ツナの背中にミラがおぶさる形で進んでいく。

 

「ちょっ!動いちゃダメ!ツナ…んっ…」

 

「この状況じゃ無理だって!」

 

「ひゃあああっ!怖いですー!!」

 

「ツナの背中暖かいわぁ」

 

「今それどうでもいいよ!」

 

「だから動いちゃ……」

 

カーブの度に大騒ぎしながらも滑り続けた一同はやがて終点へとたどり着き、大きな水飛沫と共にプールへと投げ出された。

 

「うう…ひどい目にあった……」

 

「とっても怖かったですぅ……」

 

「ミラ……あのね……」

 

「あら、だってとっても私達らしいじゃない」

 

この言葉に3人は苦笑した。いきなり疲れたルーシィはエルザに誘われてゆっくりとすることにした。

 

「ウェンディー!!」

 

「シェリアさん達も来てたんですか?」

 

「また敬語ー!」

 

「あ、癖でつい……」

 

周りを見るとリオンもいてグレイとジュビアとの三角関係が勃発していた。シェリアはウェンディに誘われて一緒に遊ぶことにしたようだ。それをミラと共に見送る。

 

「隙アリ!!」

 

「きゃあ!」

 

いきなり横にいたミラの上の水着が剥ぎ取られた。犯人はブルーペガサスのジェニーだった。ツナはミラを見ないようにしながらも一瞬で近くにいたマカオとワカバの視界からミラを隠す位置へ移動する。二人からの文句は黙殺した。

 

「やったわねジェニー!お返しよ!」

 

「下はやめて!」

 

ミラは手で胸を隠しながらお返しとしてジェニーの下の水着をずり下ろした。今度は二人からジェニーを隠す為に移動する。

 

またしても邪魔された二人はツナを野次るがツナの睨みにスゴスゴと退散していった。それを見たリサーナがその紳士的な行動に感嘆していたとか……

 

ミラはジェニーとリサーナとお茶をするらしく出店へと向かっていった。ツナはというとアスカに捕まりコネル夫妻と共に一緒にビスカの作ってきた弁当を食べることになった。

 

 

 

ルーシィはエルザと共に寝そべっているところにブルーペガサスの男連中がやってきて絡んでくるのに辟易としていた。

 

「邪魔だな……コイツら」

 

「そうね……」

 

思い思いに口説いてくるブルーペガサスの連中にエルザの怒りが爆発する。

 

「今日のMPFの数値はなんだ!?気合いが足らん!」

 

「お前にはシェリーがいるだろう!」

 

「そんな大怪我で遊びに来るな!」

 

ヒビキ、レン、イヴをそれぞれ怒鳴り付けると、さあ次は自分の番とスタンバイしている一夜に目を向ける。

 

「行こうルーシィ」

 

「メェーン!私もなじって下さい!」

 

無視して去ろうとするエルザにすがりつく一夜を他の3人とまとめて蹴り飛ばした。

 

苦笑するルーシィは水底から浮かび上がってくるメイビスを見つけて驚いた。プールサイドにはマカロフとラクサスが腰掛けている。

 

「何してるの?」

 

「見ての通り……」

 

「あやしておる……」

 

泣いてしまったメイビスをあやす為にここに連れてきたらしい……準備運動を忘れていたメイビスがマカロフとラクサスを誘って体操を始めた。

 

エルザは顔を隠したジェラールの怪しさに呆れ返り、ルーシィはレイヴンテイルのフレアから謝罪されたりしていた。ルーシィはフレアは本当は悪い娘じゃないんだと認識を改めた。

 

 

 

 

他のギルドも一時大会のことは忘れて楽しんでいた。ツナも弁当を食べた後は浅いプールでアスカと遊んでいた。コネル夫妻は並んで座りながらそれを見ている。

 

「ツナお兄ちゃん!肩車ー!!」

 

「よし!ほ~らこれでいい?」

 

「うわぁ!高~い!」

 

「……」

 

「アル?どうしたの?」

 

「これが娘を取られた父親の心境かなって……」

 

「フフ……早すぎるわよ。でもツナって子供の面倒見るのが上手いわね」

 

「次は水鉄砲ね!」

 

「うん。いいよアスカちゃん……って何だ!?」

 

ツナの超直感が嫌な予感を伝えるとラブラブスライダーの方から氷が広がって来る。とっさにリングに火を灯して保存用のボックスの中に入れていたグローブを装備するとアスカの前に出て炎で壁を作る。

 

アスカとコネル夫妻はツナによって守られたがプール中が凍りついてしまった。

 

「これはグレイと……リオンの仕業か?」

 

「ツナ!上を!」

 

アルザックの叫びに上を見るとナツが炎を纏って空中にいた。ナツが何をしようとしてるのか一目瞭然だった。

 

破壊→弁償という答えを一瞬で導きだしたツナはナツのいる場所まで瞬時に飛ぶと説明してる暇もなかったのでそのまま殴り飛ばした。

 

着地したツナは人間や器物に被害を出さないように慎重に炎をコントロールして氷のみを溶かした。

 

「グレイ、リオン、出てこい……」

 

「ツ……ツナ……」

 

「すまん……」

 

ツナは二人の肩に手を置くと冷たい声で死刑宣告をする。

 

「少し……頭を冷やそうか……」

 

「ま……待ってくれ!ツナ!」

 

「頼む!話を……」

 

「零地点突破、初代エディション……」

 

「「ぎぃやぁぁぁ…ぁ……」」

 

氷の魔導士が凍りついていくのを周囲の観客は信じられない目で見ていた。ほどなく二つの氷像が完成した。二人を凍らせたツナは一仕事やり遂げた顔で周囲に向かって言い放った。

 

「さあまだまだ時間はあるしせっかく来たんだから楽しもう!」

 

「「「「「「「あ…あい……」」」」」」」

 

その後みんなはなかなかテンションは上がらなかった。ジュビアとシェリアは想い人の氷像に涙を流してツナに懇願するが、結局帰るまで放置されていた。

 

また、マカロフとメイビスだけは始末書も弁償もしなくて良かったのでツナに感謝していた。

 

 

 

 

-???

 

-今でも目を閉じれば思い出せるよルーちゃん…みんなで騒いで歌って、食べて踊って、プールでは散々な目にあっちゃったけどそれでも楽しかった三日目の夜-

 

-それぞれの想いが交錯する夜……私達はあの日(・・・)へと向かっていく。運命の日まであと4日……-

 

 

 




遅くなって本当にすみません。書く時間がほとんど取れずにチョコチョコ書いてました。あと10日くらいは忙しいのでなかなか書けないと思います。


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悪辣のミネルバ!

ミネルバ原作より酷いです……


-闘技場

 

大魔闘演武四日目、競技パート“海戦(ナバルバトル)”各チーム1名。球状の水中闘技場から外に出てしまったら負け、最後まで残った者が勝者になる。

 

ただし最後に二人だけ残った場合に特殊ルールが追加され、最後の二人になってから5分の間に場外に出てしまった方は最下位となる。

 

各チーム参加選手は以下の通り

 

 

-ラミアスケイル シェリア

 

「がんばるぞー」

 

 

-ブルーペガサス ジェニー

 

「今度こそ負けないんだから!」

 

 

-マーメイドヒール リズリー

 

「人魚をなめちゃいけないよ!」

 

 

-フェアリーテイルB ジュビア

 

「水といったらジュビア!これはジュビアの独壇場」

 

 

-セイバートゥース ミネルバ

 

「この競技は都合がいいな……さて……どちらにしようか……」

 

 

-フェアリーテイルA ルーシィ

 

「あたしも負けられない!…アクエリアスに有利の場所だしね」

 

 

 

『これはまた華やかな絵になったー!!各チーム女性陣が水着で登場ーー!!』

 

『ありがとうございます、ありがとうございます~』

 

実況のチャパティとゲストのシェラザート劇団座長ラビアンが興奮の声をあげる。男性客も興奮に包まれている。

 

 

-クワトロパピー ロッカー

 

「あのー俺もいるんですけど…ワイルドに」

 

 

 

『外に出たら負け。ナバルバトル開始!!』

 

「早速だけど…みんなゴメンね!開け宝瓶宮の扉…アクエリアス!!」

 

「オオオオオッ!水中は私の庭よ!!」

 

試合開始直後にアクエリアスを呼び出したルーシィ。そのアクエリアスは両手に持つ壺より渦巻く水流を生み出した。水流に巻き込まれないように参加者は散らばるが一人だけその場に留まっている者がいた。

 

 

「させない!水流竜巻(ウォーターサイクロン)!!」

 

二つの同系統の魔法がぶつかり合い力比べの形になる。その余波で周囲の選手達は吹き飛ばされないようにこらえる。

 

「互角!?」

 

「ジュビアは絶対に負けません!!」

 

二人は相手の魔法を押しきろうと魔力を込める。

 

 

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

 

「ジュビアがんばって~!ルーシィもその次にがんばって~!あ、あとジェニーもちょっとだけがんばって~!」

 

「ややこしい応援してるね……」

 

「ガジルはどっちが勝つと思うよ?」

 

「ふん…水中戦でジュビアに勝てる奴がいるとは思えねぇな……お前も水中じゃ戦えねーだろ?」

 

ツナにそう質問するがツナは首を横に振る。

 

「死ぬ気の炎は超圧縮されたエネルギーが炎の形になってるものだからね。水中で使えないということにはならないよ」

 

「マジか……」

 

「それよりよく見ていよう。少し嫌な予感がするんだ」

 

ここ数日でツナの勘の正確性をおもい知っているBチームの面々は緊張しながらも闘技場に目を戻した。

 

 

 

-闘技場

 

アクエリアスとジュビアが互角の戦いをしている間にも試合は進んでいく。

 

「まず一人!」

 

「ワイルドォォッ!」

 

ジェニーが一瞬の隙をついてロッカーを場外に蹴りだした。さらにシェリアがリズリーに迫る。

 

「その間にあなたも!」

 

「ぽっちゃりなめちゃいけないよ!」

 

黒い風を纏ったシェリアの攻撃をリズリーはほっそり体型になって躱す。ミネルバは戦況を見ながら怪しい笑みを浮かべている。

 

「そろそろデートの時間だ!私は戻るよ!」

 

「ち…ちょっと待って!水中じゃアンタが一番頼りになるのに!!」

 

「悔しかったらお前も彼氏作れ。じゃあな」

 

「ふざけるなあーー!!」

 

「隙アリ!!」

 

アクエリアスが消えたのでジュビアの攻撃を防げずに場外へと飛ばされそうになるルーシィ。

 

「ひぇえええぇっ!バルゴ!アリエス!」

 

「セクシーガードです。姫」

 

「もこもこですみませ~ん」

 

バルゴとアリエスを緊急召喚することによりなんとか場外にでなくてすんだ。新たな美女の登場に男性客の歓声が会場を包む。

 

『水中での激戦が続いています!ガンバれ!シェリアたん!!それにしてもフェアリーテイルA!なぜウェンディたんを出さなかったのか!?』

 

「うるさい!」

 

実況のチャパティに文句を言ったところでジュビアが動く。

 

「全員まとめて倒します!今こそ見せます!第二魔法源(セカンドオリジン)解放により身につけた新必殺技!届け愛の翼!!グレイ様ラブ!!」

 

フェアリーテイルA観客席よりヤメローという叫びが聞こえたがハート型の衝撃波を生み出しながら水中を荒れ狂う。

 

ジェニー、リズリー、シェリアの順で場外に投げ出された。ミネルバは腕に魔力を集めて相殺しているようだ。ルーシィはバルゴとアリエスに引っ張られて何とか残っている。

 

『ここでジュビアが三人まとめて倒してしまったー!!水中戦では無敵の強さだー!!』

 

-ジュビアを見て萌えてくれましたか?グレイ様?-

 

フェアリーテイルAの観覧席の方へ視線を向けるジュビアだったがそこには…ドン引きしているグレイの姿があった。ショックを受けるジュビアだがいきなり訳も分からず場外に出てしまった。

 

残るはルーシィとミネルバのみ。ミネルバは唇を歪めながらルーシィを見ていた。

 

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

「あのバカ!」

 

「何で?」

 

「どーなってやがる?」

 

「あの人の仕業みたいだね……」

 

ツナは厳しい目でミネルバを見ている。

 

「あのセイバーの女がやったってのか?」

 

「多分空間を入れ替えたのかな?」

 

「ちょっと待てよ!そんなこと出来んなら全員場外に出せばいいじゃねえか!?」

 

「分かんないけど嫌な予感は消えてない……」

 

「ルーシィ……」

 

 

 

-闘技場

 

『残るはミネルバとルーシィの二人のみ!勝つのはセイバートゥースか!?フェアリーテイルか!?ここで5分間ルールを発動します!この5分の間に場外に出た方は最下位となります!』

 

『何の為のルールかね?』

 

『最後まで緊張感を持って見るためですよ!』

 

「フフ…そなたは運がないな……我らの為に餌になってもらおうか」

 

「餌?アンタいったい何を……」

 

聞き返そうとするルーシィのすぐ側の空間が歪んだと思ったらいきなり爆発した。そして頭の上の空間が歪むと今度は鉛のような重さへと変質してルーシィを襲う。反撃の為に星霊の鍵を手に取ろうとするが……

 

「あれ!あたしの鍵が……いつの間に!!」

 

鍵がないことに気付き、次いでミネルバを見るとルーシィに見せ付けるように鍵を持っていた。

 

こうなるとルーシィには反撃の手段はない。鍵を取り返すか、5分間耐えて2位を狙うかだ。

 

なすすべもなく攻撃を食らうルーシィにミネルバは空間を様々な属性に変化させてルーシィを痛め付ける。まるで誰かに見せ付けるように……

 

しかしルーシィの目からは光は消えていない。ミネルバの苛烈な攻撃を受けながらも自分を鼓舞するように叫ぶ。

 

「アタシは…どんな攻撃も耐えて見せる!こんな所で負けたらつないでくれたみんなに合わせる顔がない!絶対に…諦めない!」

 

その言葉はフェアリーテイルメンバーの心に響くがミネルバはまるで関心がないように攻撃を加えていく。

 

……そしてルーシィにとって長い5分間が過ぎて後は順位をつけるだけとなった。ルーシィの意識は既に朦朧として気を抜くと意識を失いそうになっている。

 

Aチームからはもういいから場外に出ろとの声が聞こえる。負けたくはないが鍵を取られていては勝ち目がないので自ら場外に出ようとするが……

 

「どこへ行く?」

 

「なっ!?」

 

後少しで場外だったはずなのに気が付くと水球の中央、ミネルバの目の前にいた。

 

「言ったであろう。そなたは餌だと…さあ存分に踊ってもらおうか!!」

 

「きゃああああっ!!」

 

ルーシィが歪んだ空間に捕らわれるとそこに発生した衝撃波によって叫び声をあげるルーシィ…さらに追撃されて吹き飛ばされる。

 

『これは…さすがに場外……って消えた!と思ったらミネルバの目の前へ!?』

 

腕を掴まれて動きを封じられてなすすべもないルーシィに自らの肉体で攻撃を加えるミネルバ。惨劇は終わらない……

 

 

-フェアリーテイルB観覧席

 

「ルーシィ!」

 

「痛め付ける為か……」

 

「もう勝負はついてんだろ……」

 

怒るBチームの面々だが何かが壊れる音がしてそちらを見ると、石造りの手摺りを壊して怒りに顔を歪ませるツナがいた。

 

 

-フェアリーテイルA観覧席

 

「やめろぉぉっ!!」

 

「まずい!」

 

「ちくしょう!アイツら」

 

「もうやめてー!!」

 

セイバートゥースの面々は嘲笑するような顔と態度でナツ達を見るのが分かった。

 

「「「セイバートゥースゥゥゥッ!!!」」」

 

怒りと共にセイバートゥースを睨み付けるナツ達だがそれどころではない。このままではルーシィの命が危ない。ナツ達は観覧席から飛び出した。

 

 

-闘技場

 

執拗なミネルバの攻撃にルーシィは既に意識を失い虫の息だ。観客はあまりに凄惨な光景に声もあげられない。

 

-頃合か…そろそろレフリーストップがかかるな……ならば……-

 

ミネルバはピクリとも動かないルーシィを手離し水球の端まで移動して両手をあげると、そこに今まで以上の魔力を込めて空間を歪ませる。

 

「「「ヤメロー!!!」」」

 

走ってくるナツ、グレイ、エルザを目の端に捉えるがそれを無視して魔力を放とうとする。アルカディオスがマトー君にレフリーストップを要請するがその宣告がされる前に無慈悲にも魔力が放たれた。

 

爆発の属性だったのか水球の中央で轟音と大爆発が起こり、水球は泡と煙によって何も見えなくなる……

 

「「「ルーシィー!!!」」」

 

ルーシィの名を呼ぶ3人は何も見えなくなった水球の前で立ちすくむ。遅れているウェンディも立ち止まって水球を見ていた。ミネルバはさらに唇を歪めて呟く。

 

「……予想通り」

 

 

煙が晴れるとそこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を失ってピクリとも動かないルーシィと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒りに顔を歪ませてミネルバを睨み付け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーシィをマントで守るように抱え込むツナの姿があった…………

 

 

 

 

 




今回のミネルバは書いててムカつきました。ツナが助けに入るのも予想済み!


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新生フェアリーテイル参上!

今日は仕事早く終わりましたので書けました。


-闘技場

 

「「「ツナ!!」」」

 

煙が晴れた水球にいたのはルーシィを守るように抱き抱えるツナの姿。それを見たナツ、グレイ、エルザは歓喜の声をあげる。

 

『あ~っとこれは!フェアリーテイルBツナヨシ・サワダが乱入!ルーシィを救い出したあ!!』

 

客席からも大歓声があがった。ルール違反をして乱入してしまったツナだが周りから見ればその姿は絶体絶命の危機に駆けつけたヒーローにしか見えない。

 

ツナはルーシィの意識がないことを確認するとルーシィを横抱きにして急いで水球から外へと飛び出した。

 

「ウェンディ!来てくれ!」

 

「ハイ!」

 

「私も手伝うよ!」

 

「ルーシィしっかりして!」

 

ツナがこちらに向かっていたウェンディに声をかけるとすぐにたどり着き回復魔法をかける。この競技に参加したシェリアも協力を申し出てくれた。ジュビアも必死にルーシィに声をかけている。

 

「何てことしやがんだこのやろう!!」

 

ナツがミネルバに向かって吼えるがミネルバは涼しい顔を崩さない。

 

「その目はなにか?妾はルールにのっとって試合をしたまでのことよ。むしろルール違反をしたのはそちらであろう?試合中の競技に乱入したのだからな。謝罪して欲しいのは妾のほうだ」

 

「「なんだと!!」」

 

ミネルバの言い様にナツとグレイの顔が怒りに染まり、一歩踏み出した所にミネルバを守るようにスティング、ルーファス、オルガが現れる。

 

「ルールだと?勝負のついた相手をいたぶるのがルールだとでも言うのか?」

 

「フフ……感謝して欲しいものだな……そのような使えぬクズを2位にしてやったのだからな。最もこの乱入でどうなるかは分からんが……」

 

「なんだと……」

 

エルザももはや我慢の限界といった感じだが必死に自分とナツ達を押さえている。

 

『おっと!両チームとも一触即発の状態だ!このまま始まってしまうのか!?』

 

『ここは冷静になって欲スいね……』

 

『とっても熱いですね、ありがとうございます』

 

観客もここまで来たらもう両チームの激突は避けられないと感じたのか勝負コールを繰り返している。応援席のフェアリーテイルメンバーも臨戦態勢を取っていた。

 

その時ルーシィの容態を見ていたツナが立ちあがりセイバートゥースの方を向く。その顔は俯いていて表情は見えない。

 

「まーまーナツさんも落ち着きなって。ツナヨシさんもさ、ルールってもんをちゃ…「黙れ」…んと……」

 

スティングは最後まで言葉を発せなかった。ツナの声と共に暗く濃密な殺気が自分達を包んだからだ。ナツ達もその光景に動きを止める。

 

-んだよっ!これ!?-

 

-記憶にない……これが恐怖!?-

 

-体が動かねぇ……動きやがれ!-

 

-よもやこれほどとは……-

 

「お前達は俺の大切な仲間を傷付けた…その報いは受けてもらう!」

 

本気の殺意を纏って一歩踏み出そうとしたツナの足を誰かが掴む。掴んだのは意識を取り戻したルーシィだった。

 

「ルーシィ!」

 

駆け寄ったツナにルーシィは弱々しく言葉を発する。

 

「ダメだよ…ツナ…そんな顔しちゃ…アタシは大丈夫だから…試合でやられた分は…試合で返そ…ねっ……」

 

傷が痛むだろうに無理して笑顔を作るルーシィにツナは頷き、そのまま医務室のポーリュシカの元へ運んでいく。殺気から解き放たれたセイバーのメンバーは肩で息をしている。

 

「ひとつだけ言っておく…お前達は決して怒らせてははいけないギルドを敵に回した……」

 

エルザもナツ達と共に医務室へと下がっていく。

 

 

 

-医務室

 

医務室にはAチームのメンバー、ツナ、ポーリュシカとルーシィが心配で駆けつけたハッピーとシャルルが眠っているルーシィを囲んでいた。そこへBチームのメンバーも駆けつける。命に別状はないとの報告に安心する一同。

 

「うっ……」

 

「ルーシィ!!」

 

「ツナ…ゴメンね…迷惑かけて……」

 

「迷惑なんかじゃないよ。あそこで飛び出さなかったら俺は自分を許せない」

 

「ありがとう……か…鍵……」

 

「ここにあるよ」

 

ハッピーが鍵を差し出すとルーシィは安心したように鍵を抱いて眠りにつく。その姿を見てみんなはホッと息をつく。

 

「眠っちゃったみたいね」

 

「アイツら……」

 

「言いてぇことは分かってる」

 

「セイバートゥース……」

 

「気に食わねぇな」

 

ミラは安心したように微笑むがナツ、ラクサス、グレイ、ガジルは怒りを隠しきれていない。そこへマカロフがやって来た。

 

「AチームBチーム全員揃っておるか…ちょうど良かった……色々と決まったことがあるので1つずつ伝えていく」

 

全員がマカロフに注目する。

 

「まずは先程の試合の順位じゃがこれはそのままじゃ。ルーシィが2位でジュビアが3位になった。これはツナの乱入があってもなくても変わらんかったからのう」

 

全員が頷く。これでAチームは8ptプラスで45pt、Bチームは6ptプラスで46ptになった。セイバーは10ptプラスで44ptだ。

 

「次に運営側からAB両チームの統合命令が言い渡された」

 

「何!?」

 

「ABチーム統合だと!?」

 

「どうしてですか?」

 

ナツとラクサスが驚きミラは聞き返す。

 

「レイヴンテイルの失格によって参加チームが7つになったからじゃ。バトルパートの組み合わせが奇数じゃ困るとのことで両チームを一つにして新規5人でチームを再編成しろと……な」

 

「点数はどうなるの?」

 

「低いほうに準じるらしい……つまりAの45ptじゃ」

 

「酷いねそれ……」

 

シャルルの質問に答えるマカロフにハッピーが素直な感想を述べる。

 

「最後にツナの乱入についてじゃ……試合中に乱入した者は出場停止なん……」

 

「「ふざけんなあーー!!」」

 

「納得できません!」

 

「ジジィ!それをアッサリ受け入れたのか!?」

 

「お……落ち着け!最後まで聞け!」

 

出場停止の言葉が出た瞬間に叫ぶナツとグレイ。ミラとラクサスも詰め寄るが何とか諫める。

 

「ふう……出場停止なんじゃが相手の過剰な攻撃、レフリーストップの直前だったこと、相手の選手に攻撃してないこと、ルーシィの命が危険だったこと、観客の反応等を考慮した結果出場停止にはならんかった」

 

ホッと息を吐く一同だが……

 

「ただしマイナス10ptのペナルティが与えられた」

 

「ということは俺達の点数は35ptってことか」

 

「ルーシィの命に比べたら安いものだ」

 

「そうですね」

 

「もう一度逆転すればいいだけの話だ!」

 

「あいさ~」

 

「ありがとう」

 

ペナルティを責めない元Aチームの面々にお礼を言う。謝罪だとルーシィの命を軽くみてるような気がしたからだ。

 

「でも今からチームを作っても残るのはこれからやるタッグマッチだけなんだろ?」

 

「いや…明日の休みを挟んで最終日に全員参加の戦いがあるはず……慎重に選んだ方がいいよ」

 

グレイの疑問にポーリュシカが答える。

 

「俺は絶対にルーシィの敵をとる!仲間を笑われた!俺は奴等を許さねえ!!」

 

「ナツ……それはみんな同じだよ。マスター、チームを決めて下さい」

 

ツナの言葉に頷く一同。マカロフは一度全員を見渡すと口を開く。

 

「分かった…まずツナ、エルザ、ラクサスは確定……ミラはどうする?」

 

「……私もルーシィの分もがんばりたいけど他にものすごく出たがってる人もいるし辞退します」

 

「では、ナツ、グレイ、ガジルの中から二人を……」

 

「「「俺が出る!!!」」」

 

「俺が出るんだ!!」

 

「いーや俺だ!」

 

「ギヒッ!すっこんでろ!!」

 

言い争いから殴り合いに発展しそうになった時にエルザが鉄拳で静かにさせる。

 

「ふう……話し合いじゃ決まらんのう……ツナ、お主が決めてくれい。お主にはチームリーダーを任せたいからのう……」

 

「丸投げですか……」

 

「ツナが決めるなら文句はない」

 

「元ボスの采配ってやつを見せてみろよ」

 

「はあ……分かったよ。じゃあ……」

 

 

 

-闘技場

 

『フェアリーテイルのチーム再編成も終了しいよいよ四日目バトルパートに突入です!!』

 

『四日目のバトルパートはタッグマッチなんだね?』

 

『2対2ですか、熱いですね!ありがとうございます!』

 

今回は既に対戦カードも発表されている。

 

第一試合 ブルーペガサスVS.クワトロパピー

 

第二試合 マーメイドヒールVS.ラミアスケイル

 

第三試合 セイバートゥースVS.フェアリーテイル

 

『注目はやはり第三試合でしょう!フェアリーテイルはツナヨシの乱入で10pt引かれてしまいましたが……』

 

『全く気にスてないと思うよ。あスこは…』

 

『さあ…その新・フェアリーテイルが姿を現したぞーー!!』

 

 

「がんばってねみんな……」

 

医務室のベッドの中で勝利を祈るルーシィ……

 

「頼んだぜ……」

 

同じく未だにベッドの住人のエルフマン……

 

「本当の意味での最強チームね」

 

「本当ね」

 

笑顔で見つめるミラとリサーナの姉妹……

 

「応援してます!」

 

「負けるんじゃないわよ!」

 

治療の為医務室に残るウェンディとシャルル……

 

「これはすごいチームだよ」

 

「負ける姿が想像出来ないメンツです」

 

「……」

 

応援席で勝利を信じるカナ、ジュビア、レビィ……

 

「ちっ、俺を外して負けたらただじゃおかねーからな」

 

悪態をつきつつも勝利を願うグレイ……

 

「我らギルドの想いは一つになった。この想い、主等に託すぞ」

 

メンバーを信じるマカロフ……

 

「今こそ見せる時です。私達の絆の力を……」

 

メイビスが全員の想いを代弁する……

 

 

『会場が震えるーー!!今ここに!フェアリーテイル参上!!』

 

会場を揺るがす大歓声と共に現れたフェアリーテイルのメンバー。

 

『四日間でかつての人気を取り戻して来ましたー!!中央にはツナヨシ!その左右をエルザとラクサスが固め、右端にガジル!左端にはナツという豪華布陣で登場だー!!その姿は正に威風堂々ー!!』

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「グレイ様やっぱり出たかったんじゃ……」

 

「上手くツナにのせられた気がしてきた……」

 

「ツナって口が上手いわね~」

 

ミラの言葉に少し前の会話を思い出すグレイ……

 

 

 

-少々前の医務室

 

「……じゃあナツとガジルで」

 

「よっしゃ!」

 

「ギヒッ!」

 

「ちょっと待てー!」

 

「そうです!ツナさん!グレイ様は……」

 

「落ち着いて…グレイはルーシィのことの他にはルーファスに借りを返したいんでしょ?」

 

「分かってんじゃねーか!だったら……」

 

「間違いなくタッグマッチはセイバーと当たる。さっきの観客の反応を見ると主催者側もそれ以外の選択をしない。そして相手は間違いなくスティングとローグになる」

 

その予想に驚く一同。まあ元Bチームはそれほどでもないが……

 

「人気ギルドであるセイバーは全員をちゃんと出したいはずだ。あの二人はコンビで双竜と異名を持ってるしローグに至っては今大会何もしてないからね」

 

ナツとハッピー以外はここまでは理解した。二人は首をかしげている。

 

「そこにナツとガジルをチームに加えれば高確率で二人が選ばれる。同じドラゴンスレイヤーで1度もバトルパートをしてないしね。スティングはナツに、ローグはガジルに敵愾心を見せてるし丁度いいと思う」

 

「もちろんだ!!」

 

「格の違いを見せてやる!」

 

「で……グレイは最終日に二人のどちらかと交代してルーファスを倒すってことでどう?」

 

「「おい!!」」

 

「それならいいぜ!」

 

「じゃあ今日の所はジュビアの隣で応援しててね」

 

「グレイ様!一緒にがんばりましょう!」

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「よく考えたらあの二人が素直に交代するとは思えねぇな……」

 

「確かにね……」

 

「ジュビア的には最終日もこのままでいいです!」

 

「これも計算のうちか……恐ろしい奴……」

 

睨み合うフェアリーテイルとセイバートゥースのメンバー達を見ながら呟くグレイだった。

 

 

 

-貴賓室

 

「星霊魔導士がいない!」

 

「医務室にいるようですな」

 

「貴様!また手荒なまねを……」

 

「いえ、あれは失策でした。次はもう少し確実な方法を取ります。今は祭を楽しみましょう…計画は三日後です」

 

「エクリプス…もはや止める術は無しか……」

 

「ゼレフ卿が待っておられるのでね……」

 

アルカディオスと別れたダートンは一つの絵の前で立ち止まる。

 

「大魔闘演武…かつては別の呼ばれかたをしていた……竜王祭。竜と人と魔の宴……」

 

そこには炎を吐く竜に魔法で対抗する人間の絵が飾られていた。

 

 

 




グレイさんがんばって!出番はあるよ!


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天馬VS.仔犬、ラミアVS.人魚

今回は短いです。


-闘技場

 

大魔闘演武四日目のバトルパート、タッグバトルが始まろうとしていた。

 

第一試合

 

ブルーペガサス 一夜&ウサギVS.クワトロパピー バッカス&ロッカー。

 

「バッカスさん、ワイルドにやっちゃいましょう。このままじゃ俺ら最下位っすよ」

 

「なーに俺は魂が震えりゃそれでいい」

 

気合充分のロッカーとマイペースなバッカスだが相手の一夜は自信に満ちあふれている顔でウサギに語りかける。

 

「さて…ついに君を解放するときが来たよ」

 

ブルーペガサスの他のメンバーすら知らないウサギの正体とは……会場にいる全員が注目する中、ついにウサギがその被り物を取る……

 

「見せてやるがいい…そのイケメンフェイスを……」

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「ついに正体が分かるね……」

 

「おお~いったいどんな奴なんだろ?」

 

「ギヒッ!たいしたことねぇんじゃねえか?」

 

「もったいつけやがって…」

 

「そう言うな。一夜という男、性格に難があるがその実力は確かだ…恐らくあの中身は天馬の秘密兵器だ……」

 

そしていよいよウサギのマスクが外される。そして出てきたのは……一夜と同じ顔をしたエクシードのニチヤだった……観客達は驚きのあまりポカンとしていた。一夜と同じ顔が着ぐるみから飛び出し着地する。

 

「あれ、もしかしてエクシード?」

 

「あいつ!エクスタリアの……」

 

フェアリーテイル応援席のハッピーとリリーは他の誰よりも驚いていた。特にリリーは一応かつての同僚でもあったニチヤの登場に衝撃を受けている。

 

「一夜が二人とか……」

 

「しっかりしねえか!」

 

エルザが目の前の光景に耐えきれずにフラフラと倒れそうになったのを近くにいたガジルが支えている。

 

「……とりあえずエルザには効果があったみたいだね」

 

「しょうもないけどな……」

 

「アイツ…そんなに強い奴だったっけ?」

 

3人は闘技場に注目することにした。

 

 

-闘技場

 

闘技場では一夜とニチヤがキメ顔でポーズを取っていた。

 

「ダボルイケメンアタック」

 

「危険な香り(パルファム)だぜ」

 

その気持ち悪さに観客から悲鳴と鳴き声があがる。バッカス達はその光景に呆然としていた。そして一夜達はそのまま語りだした……

 

「私と私の出会い…それは正に運命だった……」

 

「ウム…あれはある晴れた昼下がり……」

 

だがそんなのを待つ必要もないとばかりにバッカスがニチヤに対して攻撃を加える。

 

「だっはぁー!!」

 

「メェーン!」

 

「何をするか!?」

 

一撃で吹き飛ばされたニチヤを見てブルーペガサス観覧席のレンが大声で叫ぶ。

 

「一夜さん!ソイツ戦えるのかよ!?」

 

「当たり前だ!私と同じ顔をしている!つまり私と同じ戦闘力!!」

 

ニチヤは地面に倒れこんでそのまま意識を失った……

 

「くたばってるじゃねーか!?」

 

「うそーん!?」

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「同じ顔だからって強さまで同じわけがないのに…どうしてブルーペガサスの人はこう……独特の価値感を持ってるんだろう?」

 

「あそこは変わってるからな……」

 

ツナとラクサスが溜め息を吐いていると闘技場では二対一になってバッカスとロッカーに猛攻を加えられている一夜の姿があった……

 

「一夜!やり返せ!!」

 

「なんでナツは一夜さんを応援してるの?」

 

「そりゃ一緒に戦ったこともあるからな!」

 

「まあ一夜もこのままでは終わらんさ」

 

「エルザのダーリンだしね」

 

「全力で否定する!!」

 

「お、なんか流れが変わりそうだぜ」

 

闘技場では一夜が筋肉モリモリになり、筋肉の隆起で服を破ってパンツ一丁になった姿があった。

 

 

 

-闘技場

 

「君に捧げよう…勝利と言う名の香り(パルファム)を……」

 

「なんでぇ!?急にワイルドに!」

 

「こいつは力の香り(パルファム)だ!!」

 

「食らうがいい!これが私のビューティフルドリーマー…微笑み…スマーッシュ!!!」

 

「「どわあああぁっ!!」」

 

至上の微笑みで相手が止まった所を思いっきり殴り飛ばした。だがその至上の微笑みを見た観客は気分が悪くなり嘔吐している者もいる。

 

この一撃でバッカスとロッカーは戦闘不能になり、ブルーペガサスの勝利となった。

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「あのバッカスを……」

 

「二対一で勝つ……か」

 

「やっぱすげぇ!!」

 

「何でバッカスさん避けれなかったんだろ?」

 

「あの微笑みを間近で見て体が固まったんだろ」

 

「意外な酔・劈掛掌の破り方だね……」

 

 

-闘技場

 

第二試合

 

ラミアスケイル リオン&ユウカVS.マーメイドヒール カグラ&ミリアーナ

 

序盤はミリアーナが一人でラミアを翻弄していたが女性を傷付けるのを良しとしないリオンが策を弄してミリアーナを戦闘不能にした。

 

カグラはその圧倒的な実力で瞬く間にユウカを戦闘不能にしてリオンと一対一で戦っていたが、遂にリオンも本気を出して三頭の氷獣で攻める。

 

だがカグラの重力魔法により氷獣の動きを止められてしまう。カグラの一撃がリオンに炸裂する直前にタイムアップとなり、引き分けという結果になった。

 

 

「やっぱ強ぇなカグラ……」

 

「まだ本気を出してるとも思えん……」

 

「毎年そうさ。カグラが本気になったとこなんて誰も見たことねーんだ」

 

ユウカは悔しそうに体を震わせている。

 

「カグラちゃん大丈夫?」

 

「問題ない…あのリオンという男スジがよいな。これが試合でなく殺し合いであったならば…死んでいたぞミリアーナ」

 

「う……」

 

「もっと強くなれ……」

 

「……うん」

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「ミリアーナもがんばったね」

 

「ああ…だがカグラの本気は見れずか……」

 

「相当な腕なのは分かるけどね……」

 

「切るべき相手のみに抜く刀か……」

 

「その切るべき相手がジェラール……」

 

「ふう……今はナツとガジルの応援をするとしよう」

 

「そうだね……俺ちょっとナツの所に行ってくるよ」

 

「激励か?」

 

「そんなところ」

 

ツナは会場に出る前のナツと会うとすぐに観覧席に戻ってきた。そしていよいよセイバートゥースとのバトルが幕を上げる。

 

 

 

-闘技場

 

『興奮冷めやらぬ会場ですが次のバトルも目が離せないぞー!!今…両ギルドの紋章が闘技場に掲げられたー!!』

 

両ギルドの紋章が交差するように掲げられると観客から大歓声が巻き起こった。

 

『7年前最強と呼ばれていたギルドと現最強ギルドの因縁の対決!!フェアリーテイル ナツ&ガジルVS.セイバートゥース スティング&ローグ!!』

 

選手の紹介と共に歓声がさらに大きくなる。先程のナバルバトルでの因縁から観客達もこの対決を待ち望んでいた。

 

『しかもこの四人は全員が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!全員が竜迎撃用の魔法を持っているー!!』

 

「待っていたぜこの瞬間を」

 

スティングが嬉しそうに言うがナツもガジルも相手を睨み付けるだけで言葉は発さない。ただ倒すべき相手を見ていた……

 

『遂に激突の時ー!!勝つのは妖精か虎か!?戦場に四頭の(ドラゴン)が放たれたぁ!!!』

 

 

 

-???

 

 

どことも知れぬ場所……辺り一面が溶岩に囲まれた場所に一頭の竜が鎮座している。

 

白竜(バイスロギア)……影竜(スキアドラム)……貴様等の作り上げた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいかなるものか…見せてもらうぞ」

 

その竜はこれから起こる戦いをこの場所から見物するようだ。

 

「人は竜を超えたのか…それは儚き夢なのか……我等が動く時は近い……竜王祭は間もなく訪れる」

 

その竜……炎竜王の名を冠するイグニールは預言するかのように言葉を残した……

 

 




今回は幕間回なので短いです。次回激突!!


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四頭の竜

本当に遅くなって申し訳ありません。全ての仕事が片付いた訳ではありませんがとりあえずピークは過ぎました……


 

 

-闘技場

 

スティングは高揚を抑える事ができなかった。今日の戦いで自分が憧れていた火竜(サラマンダー)と呼ばれたナツ・ドラグニルを超えた事を証明できるのだから……

 

睨み合う両チーム……そして観客達は四人の激突が始まるのを今か今かと待ちわびていた。

 

そして遂に開始の銅鑼が鳴る。

 

「行くぜぇ!!」

 

「ああ」

 

開始と同時に飛び出したスティングとローグ……より速くナツとガジルは彼らの目の前のに現れる。

 

ナツはスティングを、ガジルはローグを思いきり殴りつけた。

 

二人は止まらない。ナツはスティングをそのまま炎を纏った足で蹴り飛ばし、ガジルはローグを鉄に変化させた腕で地面に殴り倒してから蹴り飛ばす。

 

吹き飛ばされたスティングは一瞬信じられないと言うような顔をするがすぐに笑みを浮かべる。

 

「白竜の…咆哮ォ!!」

 

スティングの口から吐き出された白いレーザーがナツに襲いかかるがナツはそれを躱す。

 

「やっはぁ!!」

 

体勢を変えるとそのレーザーはなぎ払うようにガジルへと襲いかかるがガジルは体勢を崩しながらも同じように躱す。

 

「影竜の斬撃!!」

 

その隙を見逃さずにローグがガジルへと襲いかかるが……

 

「鉄竜剣!!」

 

腕を鉄の剣に変えたガジルはアッサリと返される。そのまま腕を振り抜いてローグを吹き飛ばす。……そこにいたのはナツだった。

 

ローグの顔面を掴んだままナツはスティングへと突撃する。そのまま両腕を翼のように振るう。

 

「火竜の翼撃!!」

 

ナツの両腕から発せられた炎が渦を巻き、二人を吹き飛ばした。実況のチャパテイは信じられないような声をあげる。

 

『こ…これはいったいどういう事だ~!!あのスティングとローグが…フィオーレ最強ギルドの双竜が押されている~!?』

 

会場は目の前で行われているバトルに大興奮だ。スティングとローグは何とか体勢を立て直す。

 

「やっぱ強ぇな…そうこなくっちゃな……」

 

「ガジル……」

 

「お前らその程度の力で竜を倒したのか?」

 

ナツの疑問にスティングは笑みを浮かべながら答える。

 

「倒したんじゃない。殺したのさ、この手で」

 

「自分の親じゃなかったのか?」

 

「あんたには関係ねえ事だ…そろそろ見せてやるよ。竜殺しの力を……」

 

スティングとローグの魔力が高まってそれぞれの体に光と影の衣を纏ったような姿になる。

 

「ホワイトドライブ」

 

「シャドウドライブ」

 

セイバートゥースのマスターであるジエンマは観客席にて勝利を確信する。

 

「聖なる竜の裁きを喰らいなあぁ!!」

 

「ぐっ!」

 

「サラマンダー!」

 

スピードもパワーも段違いに高まったスティングの攻撃を喰らったナツに気をとられたガジルはいつのまにか接近していたローグを攻撃するが、影のようになったローグには当たらない。

 

「影は捉えることはできない…」

 

逆に攻撃を受けるガジル。戦況は逆転してるように見える。やはりセイバートゥースは一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

押し返されるナツとガジルを見ながらツナ、エルザ、ラクサスは心配そうな顔を……全然していなかった。

 

「あのまま簡単にいくとは思わなかったけど二人共ちょっと面食らったみたいだね」

 

「あれが第三世代の力ってやつか?」

 

「確かに動きは速くなったし魔力もかなり増幅されているな……」

 

「だけど……」

 

「ああ……」

 

「そうだな……」

 

「これくらいで二人を超えたと思ったのかな?セイバーの二人は……」

 

闘技場では再び戦況が変わろうとしていた……

 

 

 

 

 

 

-闘技場

 

スティングは連撃を繰り出しながらナツに語りかける。

 

「俺はずっとアンタに憧れてた。そしてアンタを超える事を目標にしてきた…今がその時!」

 

スティングの左拳がナツのボディーに決まり、その部分に爪痕のような紋章が刻まれる。この聖痕を刻まれた者は自由を奪われるらしい。ナツは体を動かそうとするが全く動かせない。スティングは右拳に光を集め決めの一撃を放つ。

 

 

 

ガジルの攻撃を影になって躱すローグはガジルの左側から囁く。

 

「影なる竜はその姿を見せず……」

 

ガジルがそちらへ振り向くとローグは影を残してガジルの背後に移動する。

 

「確実に獲物を狩る」

 

そして右拳をガジルへと放つ……が放たれた拳は後ろを向いたままのガジルにしっかりと掴まれる。

 

「確実に獲物を…何だって?」

 

 

 

スティングはナツへ向かって走る途中でナツの口元が笑っているのに気付いた。しかし勢いは止まらず拳を繰り出す。次の瞬間動き出したナツはスティングの拳を避けると逆にカウンターをスティングの顔面に喰らわせた。

 

-何故動ける!?-

 

スティングはナツへ刻んだ聖痕に目をやると驚愕した。刻んだ聖痕が焼き消されていた。

 

「なかなかやるじゃねーか。けどまだまだだ」

 

獰猛な笑みを浮かべながらナツは炎に包まれた拳を振りかぶった。

 

 

 

「あんまり調子に乗るなよ小僧ども…フェアリーテイルをナメんな!!」

 

「ごはぁっっ!!」

 

ガジルは言葉と共に強烈な肘打ちをローグの顎へと叩き込んだ。

 

「ぐはぁっ!」

 

ナツも炎の拳をスティングに叩き込む。スティングはダメージを受けながらも笑みを浮かべる。

 

「やっぱり最高だぜアンタら。こっちも全力の全力でやらなきゃな…白き竜の拳は炎さえも灰塵と化す。滅竜奥義…ホーリーノヴァ!!」

 

今までとは比べ物にならない程の光を右拳と共にナツへ繰り出す。避ける様子もないナツはその攻撃をまともに喰らったように見えた。光がナツを中心に爆発したように広がり、大量の砂塵が舞う。

 

これで決まったとスティングだけでなく観客達もそう思っていた……が砂塵が晴れた後にはナツがスティングの右拳を炎を使わずに微動だにせず受け止めている姿だった。

 

その姿を見たスティングは激しく狼狽する。セイバートゥースのメンバー達も信じられないような目で呆然と闘技場を見ていた……

 

その後は一方的な展開となった。ナツとガジルは次々と攻撃をくり出す。加えてコンビネーションも普段の二人からは信じられない程に完璧だ。

 

スティングとローグも反撃を試みるが全く通用しない。スティングがそのスピードでナツを翻弄しようとも全てを見切り逆に痛撃を受ける。

 

ローグが影になって襲いかかってもガジルはまるで居場所が分かってるかのように反撃する。

 

『ヤジマさん!これはいったい!?』

 

『ウム…格が違いすぎる……』

 

二人が地面に倒れこむ頃には会場はフェアリーテイルを応援する声で埋め尽くされそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「二人とも本当に強くなったな……」

 

エルザの感慨深い声がする。二人の成長を心から喜んでいるようだ。

 

「フン……まだまだだけどな……」

 

ラクサスも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「ん…?どうやらまだ終わらないみたいだ」

 

スティングとローグが立ち上がると先程以上の光と影が二人を包む。そしてその肌にも変化が表れていた。この変化をエルザは見たことがあった。

 

「あれは!まさか…ナツが楽園の塔で見せた姿と同じなのか!?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「…ナツが前に楽園の塔で見せたものだ。その時はエーテリオンの莫大な魔力を食べることにより発動することができた…あれは……強い」

 

「第三世代の真の切り札ってわけか……」

 

「それでも……ナツとガジルは負けない」

 

姿の変わったスティングとローグをその目にしながらもツナは一片の疑いもなく二人を信じていた……

 

 

 

 

 

-観客席

 

「ありえん!自らの意思で発動出来るのか!?」

 

観客席では変装したジェラールが驚愕していた。スティングとローグが発動させたのは間違いなくドラゴンフォースと呼ばれるものだった。応援席ではメイビスもその名を知っていたのか驚愕している。

 

「ナツが以前その姿になった時はエーテリオンや俺の全魔力を食べてその力を得た……あいつらは自らの意志でドラゴンの力を解放できるというのか……」

 

 

 

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

「自らの意志でドラゴンの力を解放する……それが第三世代滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)……」

 

「これで決まりだな」

 

「二人がここまで追い込まれた記憶などなかったけどね」

 

「けどこれで勝ちですね!ハイ!」

 

「フローもそう思う」

 

 

 

 

 

-闘技場

 

「ローグ下がってろ。俺一人で充分だ」

 

観客達からざわめきが聞こえる。先程まで全く歯がたたなかった者の台詞ではない。

 

「なめやがって……」

 

「けどこの感じ…強ぇぞ」

 

過去に二度ドラゴンフォースを発動したナツは二人の強さを感じ取っていた。

 

「はぁっ!!」

 

スティングがナツへと突っ込んで来る。先程よりもさらに速く、重い攻撃にナツはガードする暇すらなかった。

 

ガジルも足先から鉄の剣を出現させてなぎ払うがしゃがんで躱されてカウンターの一撃を受ける。ナツは体勢を立て直して炎の拳を撃ち込むが簡単に止められて強烈な膝蹴りを喰らってしまう。

 

ガジルを吹き飛ばし間をとったスティングは飛びあがり地面に咆哮を放つ。

 

「白竜の…ホーリーブレス!!」

 

スティングの口から放たれた咆哮は闘技場の床を破壊してしまう。崩れた闘技場の地下へとナツとガジルは落ちていった……

 

試合は魔水晶映像(ラクリマビジョン)にて映されている。ナツは落ちていきながらも一緒に落ちてくる瓦礫を足場に炎を纏ってスティングへと突撃する。

 

「火竜の劍角!!」

 

全身を使った体当たりをスティングに喰らわせる。さらにいつの間にかスティングの背後に移動したガジルが追撃をかける。

 

「鉄竜の…咆哮!!」

 

強烈な咆哮に地面へと叩きつけられたスティングだったが全く堪えた様子もない。しかも両手を組んで光を集めていた。

 

「白き竜の輝きは万物を浄化せし…ホーリーレイ!!」

 

「ぐあああぁっ!」

 

「ああああぁっ!」

 

スティングが幾つもの光線を二人に放つ。放たれた光は曲線を描きながら二人に全て命中してダメージを与える。地面へ転がったナツが起き上がって見たのは自分に向かってくるスティングの右拳。とっさにガードしたが勢いは止まらない。

 

「飛べよ!」

 

スティングの宣告と共に壁に飛ばされるナツ。それからも自分達の攻撃を全て捌かれ逆に相手の攻撃を受け続けてしまう。

 

数分後ナツとガジルは倒れ立っていたのはスティング。ローグも降りてきた。スティングは拳を高々と掲げて勝利を確信した。天井からスティングに光が降り注ぎ、そこだけスポットライトが当たっているように見えていた……

 

ローグとスティングは倒れた二人に語りかける。

 

「時代は移り行く…7年の月日が俺達を真の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)へと成長させた…旧世代の時代は終わったんだ」

 

「ああ…でもやっぱり強かったよ。ナツさん、ガジルさん」

 

『両者ダウンかー!?』

 

「チョーッと待てって」

 

実況のチャパテイがセイバートゥースの勝ちを宣告しようとした時、ナツとガジルはムクリと起き上がった。

 

「いってぇー」

 

「思ったよりやるな」

 

『な…なんか意外と平気そうだ!』

 

大きなダメージを喰らった様子もない二人にスティングとローグだけでなく会場中が唖然としていた……

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「あの程度で負ける二人じゃないよね」

 

「ああ…ナツもガジルも相手が強いほど燃えるタイプだしな……」

 

「まあこれからだろ…面白くなるのは……」

 

ラクリマビジョンにはナツとガジルが些細なことで言い争いをしているのが映っている。ナツが両手でガジルを押すとそこには何故かトロッコがありそこにスッポリとはまってしまうガジルの姿……

 

「あ……嫌な予感……」

 

ナツは躊躇うことなくレバーを引くと乗り物酔いを起こしたガジルを乗せたままトロッコは発車していった……

 

 

 

 

 

 

-闘技場

 

ガジルを乗せたトロッコを呆然と見送りながらスティングとローグは混乱していた。ナツの行動の意味が分からなかった。

 

「な…なんのマネだ……」

 

「ガジル……」

 

二人の疑問にナツは不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「なめられた分はキッチリ返さねえとな……俺一人で充分だ!まとめてかかってこい!!」

 

絶句しているセイバートゥースの二人に対してナツは挑発するように指先から炎で『COME ON』と文字を作り出す。

 

戦いは1対2となり佳境へと突入していく……

 

 

 

 




今日は本当に久々の休みでした……


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想いと覚悟

お待たせしました!ナツVS.双竜決着です!


 

-客席

 

ナツが一人で戦うと宣言した頃ジェラールはゼレフに似た魔力を感じ取っていた。

 

『ジェラール!今度は逃がさないで!』

 

「分かっている。試合も気になるが今は……」

 

ウルティアからの念話を受けてジェラールは魔力の持ち主を追うために走り出した。

 

 

 

 

-闘技場地下

 

闘技場の地下ではナツの宣言にスティングとローグは怒りの表情を見せていた。

 

「一人で充分だと…なめやがって!」

 

「お前に用はない。ガジルとやらせろ」

 

「俺を倒してからやるんだな」

 

スティングとローグはその言葉に再びドラゴンフォースを発動させる。スティングはナツへと殴りかかるがナツの腕で簡単に防がれる。竜と同じ力を持つはずのドラゴンフォースの力を余裕で受け止めている。

 

「バカな!ドラゴンフォースは竜と同じ力!俺はこの力で白竜(バイスロギア)を殺したんだ!!防がれるハズがない!!」

 

「……それがお前の力か。なら俺は笑われて、傷つけられた仲間の為に戦う!」

 

ナツが想うのは7年間笑われバカにされてきた仲間達、そして競技で傷つけられたルーシィ……

 

想いを力に変えてナツはスティングを殴りつける。吹き飛ばされたスティングだったがその隙にローグが背後に回りこんだ。

 

「影竜の咆哮!!」

 

「火竜の咆哮!!」

 

背後から放たれたローグの咆哮をナツも同じく咆哮で迎え撃つ。一瞬の均衡すら許さずローグの放った影の咆哮はナツの放った炎の咆哮によって飲み込まれローグにも襲いかかった。

 

「来いよ」

 

信じられないような顔を見せるセイバーの二人に対してナツは挑発する。その言葉を受けて二人がかりで襲いかかるが全く歯がたたない。全ての攻撃を防がれて反撃を喰らう。ナツの独壇場が始まった……

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

ナツの戦いぶりをツナ、エルザ、ラクサスの3人は感嘆しながら眺めていた。

 

「やっぱりナツはすごいな……心の強さではフェアリーテイルNo.1だね」

 

「ああ……相手が強ければ強いほど実力以上の力を発揮するからな」

 

「前に俺と戦った時もそうだったな…おまけにしつこいしな」

 

「確かにな」

 

ラクサスの言葉にエルザも覚えがあるのか笑顔で同意する。戦況はもはや圧倒的ともいえる状態だった。

 

「いくら強くても他者を見下して傷つけるだけのセイバートゥースの二人じゃナツには届かない」

 

ツナの言葉にエルザとラクサスは頷いた。

 

 

 

 

-セイバートゥース観覧席

 

セイバートゥースのメンバーは信じられないものを見ていた……ドラゴンフォースを発動させた双竜がたった一人に圧倒されている。

 

「オイオイ…どうなってんだこりゃ」

 

「記憶にないね…ドラゴンフォースの力がこうも押されるとは……」

 

「力か……」

 

オルガとルーファスは呆然とラクリマに映った戦いを眺め、ミネルバは何かを考えるように呟く。

 

「スティング君……」

 

「ローグ……」

 

涙を浮かべて相棒を心配するレクターとフロッシュの小さな呟きが会場の歓声にかき消されていた……

 

 

 

 

 

 

-ラミアスケイル観覧席

 

「凄まじいな……」

 

「忘れていた…アイツはバカだが戦いに関しては頭の切れるやつだと……」

 

「すごいね……」

 

「フム…ツナヨシ殿にばかり目がいっていたがやはりフェアリーテイルは素晴らしいな」

 

ジュラとリオンはかつて共に戦った時の事を思い出して笑みを浮かべる。シェリアはただ感嘆していた……

 

 

 

 

 

-ブルーペガサス観覧席

 

「素晴らしい香り(パルファム)だねナツ君」

 

「くそっ!どんだけ強ぇんだよ」

 

「さすが六魔のマスターを撃ち破っただけはあるね」

 

「スゴいや!2対1で圧倒するなんて」

 

「よく見たらワイルドでいい男かも……」

 

かつての戦友でもあるナツの活躍に喜ぶブルーペガサス。

 

 

 

 

 

-クワトロパピー観覧席

 

「「「「ワイルド~!!」」」」

 

「かっかっ!アイツも熱い(おとこ)だな!俺も戦いたいぜ!」

 

バッカスの高笑いが響く……

 

 

 

 

 

-マーメイドヒール観覧席

 

「ニャー!昔戦った時より凄く強い!」

 

「大したものだな……(フェアリーテイル……何故ジェラールを……)」

 

感嘆と共に暗い感情がカグラの心を乱す。

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

フェアリーテイル応援席はナツの活躍に総立ちで応援していた。特にリサーナは大声で応援している。

 

「ナツ~!!ガンバれ~!!」

 

「ナツ兄!行けぇ~!!」

 

「そこだ!ナツ!」

 

「すげぇぞ!ナツー!」

 

「ガジルはどこ行ったの?」

 

「さあ?」

 

「へっ……あの野郎嬉しそうな顔しやがって……」

 

「ホントにバトルマニアね~」

 

「しかし敵もさる者。諦めん……」

 

「どちらも大したものです」

 

マカロフとメイビスがセイバーの二人にも感心する。ふと二人はスティングとローグが最後の勝負を仕掛けるのに気付く。

 

「むっ……あれは……」

 

「まさか……合体魔法(ユニゾンレイド)!?」

 

セイバーの二人の魔力が合わさり増幅されているのを見たマカロフは右手の甲を前に向けて親指と人差し指を伸ばして高く掲げる。

 

…このポーズはかつて破門されたラクサスを見送る為にギルドメンバー全員でやったことがある。意味はいつでも見守っているということ。

 

この意味に気付いたギルドメンバーは次々に同じポーズを取り、遂には全員で同じポーズを取った。その姿を見たメイビスは笑みを浮かべる。

 

-力だけでは決して破れない壁がある。それを破るのは想いの力……-

 

メイビスはフェアリーテイル誕生の写真を撮った時の事を思い出す。

 

-ユーリ、プレヒト、ウォーロッド、そしてジョット……私達の想いは確かに受け継がれていますよ……-

 

 

 

 

 

 

 

-闘技場地下

 

「「はあぁぁぁっ!!」」

 

スティングとローグの魔力が融合して高まっていくのをナツは静かに見つめていた。そして思い出すのは試合前にツナに声をかけられたときの事……

 

 

 

 

 

 

 

-試合前 選手用通路

 

ナツとガジルは闘技場への通路を歩いていた。相手はセイバートゥース…競技で傷つけられたルーシィのカタキをうつためにも負けられない試合だった。

 

「ナツ、ガジル」

 

「ツナ」

 

「どうしたんだよ?こんなトコまで」

 

「ん~激励かな。相手はセイバートゥースだからね」

 

「あんな奴らにはぜってぇ負けねえよ」

 

「ギヒッ!当然だぜ」

 

「うん。俺も二人が負けるなんて思ってないよ…というわけでナツに差し入れ」

 

ツナはグローブに炎を灯すと球状にしてナツに放り投げた。ナツはそれを一息に吸い込んだ。

 

「ごちそうさま!相変わらずツナの炎はすごく旨いんだよな!」

 

「え~と…お粗末様?ナツ……俺の炎、死ぬ気の炎は覚悟の炎なんだ」

 

「覚悟……」

 

「そう。仲間を守るという俺の誓いを込めた炎」

 

「……ツナの覚悟か、確かに受け取ったぞ!」

 

「うん!ガンバってね……ガジルも!」

 

「ついでかよ……じゃあ行こうぜ」

 

「おう!!」

 

そう言うとナツとガジルは闘技場へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

-闘技場地下

 

「「聖影竜閃牙!!!」」

 

突き出された二人の拳より白と黒の2つの色を持つ波動がナツへと発射された。ナツは構えをとって両手に炎を纏わせる。

 

-勝負を決めるのは想いと……覚悟だ!!-

 

「滅竜奥義!紅蓮爆炎刃!!!」

 

螺旋状に放たれたナツの炎はスティングとローグの魔法を打ち消して二人をも飲み込んだ。闘技場地下で大爆発が起こり、その衝撃と粉塵で地下を映していたラクリマが映らなくなった……

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル観覧席

 

「どうなった!?」

 

「ナツの奥義が決まったように見えたが……」

 

「…………」

 

『どうやらラクリマビジョンが回復したようです』

 

チャパテイの言葉に会場中がラクリマビジョンに視線を向ける。画面はまだ粉塵が晴れていない……

 

『こ…これは……』

 

ツナが笑みを浮かべる……粉塵が晴れるとそこには地に倒れ伏すスティングとローグ。そしてそれを見下ろすように立っているナツの姿。

 

『立っているのは……ナツ・ドラグニル!!フェアリーテイルだぁ~!!双竜敗れたり~!!再び首位に躍り出たぁ~!!』

 

画面のナツは勝利のポーズを決めている。それを見た会場中から割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 

ツナとラクサスが笑顔で腕を合わせ、エルザも嬉しそうに笑顔を浮かべている。応援席はお祭騒ぎのような状態だ。医務室でもルーシィとウェンディが抱き合って喜んでいた……ついでにエルフマンとエバーグリーンもだ。

 

『さあ残すは1日休みを挟んだ最終日のみ!全員参加のサバイバル戦!皆様楽しみにお待ちください!!』

 

各ギルドは最終日の標的をフェアリーテイルに見据えていた。いや、天馬やラミア、パピーなどのマスター同士の繋がりが深いギルドは最初からこうなることを予想していたようだ……打倒、フェアリーテイルを掲げて最終日に臨む。

 

ナツはスティングとローグにまた戦おうと言葉を残して闘技場を去る……残された二人は自分がどれだけ思いあがっていたのかを知った……

 

 

 

 

 

-通路

 

通路へと戻ってきたナツをツナ達が出迎えた。ハッピーとリリーも一緒にいた。ツナとナツは笑顔を浮かべるとハイタッチを交わす。その音が心地よく響いた。

 

「ナツの覚悟、見せてもらったよ」

 

「ヘヘッ!サンキュー!」

 

「本当によくやったぞ。ナツ」

 

「かたっ!」

 

エルザが己の胸にナツを抱き寄せるが硬い鎧をしているのでナツの頭には衝撃が走る。

 

「ナツ~すごかったよ!」

 

「よくやったな…所でガジルはどうなった?」

 

「おお!アイツ途中でいなくなりやがって!タッグバトルの意味分かってんのかな?」

 

「自分でやったこと忘れてるのかお前は!?」

 

「そりゃナツだもん……」

 

ハッピーとリリーとナツのやりとりにツナ達は思わず笑いをこぼす。

 

「残すは最終日だな」

 

「ああ……優勝まであと一息だ」

 

「ここまで来て負けたくないね」

 

「ああ!俺達は必ず優勝する!みんなの為にも!」

 

ナツの声にツナ達は同意を返す。その後ツナ達は医務室に向かう為に歩き出した……

 

四日目終了時点での順位は、

 

 

1位 フェアリーテイル 45pt

2位 セイバートゥース 44pt

3位 マーメイドヒール 40pt

3位 ラミアスケイル 40pt

5位 ブルーペガサス 30pt

6位 クワトロパピー 15pt

 

フェアリーテイルはツナの乱入によるマイナスポイント分を取り返して再び首位に浮上した。

 

 

 

 

 

 

-???

 

あの日私達は優勝を信じていた……ルーちゃん覚えてる?最終日は凄い激闘だったよね……

 

 

そしてあの日…7月7日…私達は運命という言葉に負ける……

 

 

××は死んだ……××も××も……大好きだった××も……言葉にならないよルーちゃん……もう嫌だよ……誰か……助けて……

 

 

廃墟のような場所で涙を流しながら日記を書く少女。その顔や体は傷だらけで痛ましい……

 

 

その少女……レビィ・マクガーデンは終わりのない絶望の中にいた……

 

 

 

 

 

-夜、クロッカスの街

 

「止まれ」

 

ジェラールは遂にゼレフに似た魔力を持つ者に接触することが出来た。後ろ姿のその者に声をかける。

 

「俺も正体を明かす。お前も顔を見せろ」

 

変装を解いたジェラールはその者が振り向くのを待つ。マントを被っていて分からなかったがその足を見てその者が女だということが分かった。

 

女はゆっくりと振り返る……その顔を見たジェラールは目を限界まで見開き驚愕する。

 

「バ……バカな……お前は!?」

 

その女はジェラールの知っている者……しかしあり得ないはずの女だった……

 

 

 

運命は動き出す……7月7日へと……

 

 

 

 

 




年内にあと何話か更新したいです。


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竜の魂と星の扉

大魔闘演武編もそろそろ佳境になってきました


 

 

-大魔闘演武四日目夜 クロッカスの街中

 

大魔闘演武も残すは最終日のみとなり町民達はどこが優勝するか夜遅くまで騒いでいた。

 

「やっぱりフェアリーテイルだな!」

 

「二日目からはずっとトップだしな!」

 

「ツナヨシの乱入で10pt引かれてもまだ1位なのは半端ねぇよ!」

 

「ちょっと!あの時のツナヨシ様は傷ついた仲間を救う為に乱入したのよ!」

 

「そうよ!すごくかっこよかったわ……」

 

「あのMPFを完全にぶっ壊したしな!」

 

「初日にジュラにも勝ったし最強だな!」

 

「今日のナツもマジですごかったぜ!なんせあのセイバーの双竜を一人で倒すんだからな!」

 

「エルザの百体斬りが……」

 

「ラクサス一人でレイヴンを……」

 

町民の多くはフェアリーテイルが最有力とみている。ここまでの戦いで多くのファンがついたようだ。逆にセイバートゥースはミネルバの残虐さとナツ一人に二人がかりで敗れたことで人気を落としているようだ……

 

「いや、セイバーもこのまま終わるとは限らないんじゃ?」

 

一人の町民の言葉にラミアやマーメイドを応援する声もちらほらとあがる。街が静寂に包まれるのはまだ時間がかかりそうだ……

 

 

 

 

 

 

-クロッカスガーデン

 

ここセイバートゥースの宿であるクロッカスガーデンでは床に倒れ伏すスティングとローグを見下ろしながらマスターであるジエンマが二人にギルドの紋章を消せと怒鳴っていた。

 

想像をはるかに超えた強さを見せたナツに完敗した二人からは自信すらも奪われてジエンマの言葉に反論することすらできなかった……

 

見かねたレクターが仲裁に入ろうと言葉を投げ掛けられるが、ジエンマにとっては目の端にすら入らない存在だったようだ。

 

「誰だうぬは?」

 

ひきつった笑顔を浮かべながらセイバートゥースの紋章を見せるレクターにジエンマの怒りが爆発した。最強の名を持つギルドの紋章を猫がしているのが我慢ならなかったようだ。

 

ジエンマが放った魔力砲がレクターに直撃する。スティングは友の名を呼ぶが……

 

「スティング…く……ん」

 

レクターは跡形もなく消し去られてしまった。これには傍観していた周りのセイバートゥースのメンバーも言葉をなくした。危機を察してローグは泣き出したフロッシュを庇うように抱きしめた。

 

「あああああああっ!!」

 

スティングの慟哭が部屋に響くが、ジエンマは全く意に介さない。むしろその慟哭が耳障りだったようだ。

 

「やかましいぞスティング」

 

「なんて事を!あんたはなんて事を……」

 

「黙れぃ!たかが猫一匹!」

 

あまりの言いように怒りに我を忘れたスティングは拳より光を放った。その一撃は今までよりはるかに強力でジエンマの胴体を軽々と貫いた。

 

凍りついたように身動きを取れないセイバートゥースのメンバーの中でミネルバだけが薄ら笑いを浮かべていた……

 

 

 

 

 

 

-BAR SUN

 

セイバートゥースの宿で凶事が起こっている頃フェアリーテイルの面々はいつも通りに宴会をしていた。

 

「よっしゃあ!明日は休みだ!飲むよ!」

 

「カナはいつも飲んでるじゃない」

 

「あんまり飲み過ぎるとまたツナに制限させられるよ」

 

「う……」

 

ストラウス姉妹の言葉にあの制限の辛さを思い出したのかキョロキョロとツナを探すカナ。もっとも制限したのは1日だけだったのだが……

 

その頃ツナはルーシィとウェンディ、ナツとグレイとエクシード組ででテーブルを囲んでいた。

 

「ルーシィ寝てなくて大丈夫なの?」

 

「ありがとうツナ。でもウェンディとシェリアとポーリュシカさんのおかげでもう平気だよ」

 

「いよいよ大魔闘演武も最終日を残すのみですね」

 

「ああ!絶対に優勝するぞ!」

 

「オイ!最終日はお前かガジルのどっちかと俺が代わるんだからな!」

 

「俺は出るぞ!」

 

「ガジルも譲らんと思うぞ……」

 

「ナツも引かないと思うよ~」

 

「はぁ……まったくオスどもは……」

 

「ツナ!俺はどっちと代わるんだ!?」

 

「う~ん……ナツは今日の活躍で観客も楽しみにしてるだろうしガジルは不完全燃焼だろうしな……」

 

「おいおい……」

 

「いっそ俺と代わる?」

 

「「それはダメ(です)!!」」

 

ツナの提案にルーシィとウェンディが即座にダメ出しをする。

 

「当然ね。アンタはフェアリーテイル最強なんだから観客も一番楽しみにしてると思うわよ」

 

「それに総当たり戦みたいだしジュラとか出てきたらツナがいないと負けちゃうよ」

 

「確かにな。セイバーのミネルバやマーメイドのカグラも強敵だからな……」

 

エクシード組も二人の意見を支持する。チームリーダーであるツナは頭を悩ませる。誰を外しても文句が出そうだ……

 

そこへ神妙な顔をしたガジルが帰ってきた。試合のことでナツに文句を言うと思われたがそんなことはなく、ナツとウェンディに見せたいものがあるのでついてくるように言うのだった。

 

 

 

 

 

 

-地下洞窟

 

ガジルに連れられてやって来た洞窟には大量のドラゴンの骨があった。正にドラゴンの墓場と言うべき場所だった。ナツとウェンディそれについてきたツナ、ルーシィ、グレイとエクシード組は驚愕する。幸いなことにここにある骨は大昔に死んだものでナツ達の親のドラゴンのものではなかった……

 

「こんなにたくさん……いったい何があったんだろう……」

 

「そうだ!ミルキーウェイ!天の川へと続く竜の魂の声を聞け……てっきり攻撃魔法だと思ってたけど魂となった竜の声を聴く魔法なのかも知れません」

 

「ここに眠る竜の声を聞けば何があったのか分かるかもしれないね」

 

「俺達のドラゴンのことも分かるかもしれねぇってことか!?」

 

「やってみます!!」

 

ウェンディは魔方陣を書く。今まで攻撃用だと思っていた為に文字が違っていたようだ。そこを訂正して魔方陣が完成する。その中央にウェンディは祈るような体勢で祝詞を口にする。

 

「さまよえる竜の魂よ、そなたの声を私が受け止めよう……ミルキーウェイ」

 

集中したウェンディが魂を探すとほどなくして見つかったようだ。光が集まって形を作りだす……それはとても大きな緑色のみドラゴンの形となった。

 

驚くツナ達だが翡翠の竜・ジルコニスと名乗ったドラゴンは完全に人間をバカにしているような性格だった。

 

言葉の端々に人間を見下している感じがするがなんとかコミュニケーションをとるツナ達。そしてジルコニスは語りだした。竜の戦争と滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の原点を……

 

かつて人間と共存することに賛成する竜と反対する竜とで戦争が起こった。ジルコニスは反対派として戦っていたらしい。やがて共存派の竜は人間に竜を滅する魔法を教えて戦争に参加させた。それが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の始まりだった。

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の活躍により戦況は共存派に有利となったが彼らはやがて共存派の竜をも殺すようになった。そしてその中の一人は竜の血を浴びすぎたことによって竜そのものになってしまった者がいた。

 

ここに眠る竜達もその者によって滅ぼされたとのことだ。その者は人間でありながら竜の王となった。竜の王が誕生した戦争……それは竜王祭と呼ばれるようになった。

 

そして誕生した王の名はアクノロギア……

 

「あれが!?」

 

「元々は人間だった!?」

 

ツナは見たことがないのでピンとこないが他のメンバーはかなり驚愕している。他にもまだ何か伝えようとしていたジルコニスだったが完全に思念が消えてしまった。

 

「滅竜魔法使いすぎると本物のドラゴンになっちまうのか!?」

 

「それは困る」

 

「どうしよう……」

 

3人のドラゴンスレイヤー達は冷や汗をかきながらかなり焦っていた。ツナは一人別の方を向きながら口を開く。

 

「いつまで盗み聞きしてるのかな?そろそろ出てきたら?」

 

「「「「!!」」」」

 

全員警戒しながらツナの視線の先へと目を向ける。出てきたのは男性と女性が一人ずつ。女性の方には見覚えがあった。

 

「気付いていたのか……さすがはツナヨシ・サワダ。君達が竜になることはないよ。アクノロギアはゼレフ書の悪魔と同じようなものだ……つまりはゼレフを倒すことがアクノロギア攻略の第一歩となるのだ」

 

「誰だテメェ!!」

 

「ゼレフを倒す!?」

 

「ユキノ!?」

 

女性の方は元セイバートゥースのユキノ・アグリアだった。そして白い鎧を纏った騎士……それはシャルルが予知で見た白い騎士そのものだった……

 

「私はフィオーレ王国軍クロッカス駐屯部隊桜花聖騎士団団長アルカディオス」

 

「同じく臨時軍曹のユキノ・アグリアでございます」

 

セイバートゥースをやめさせられたユキノが臨時とはいえ王国軍に入っていることに驚くが、アルカディオスより星霊魔導士の力が必要だった為力を借りていると説明された。

 

「……なるほど、大会二日目にレイヴンの仕業と偽ってルーシィ誘拐しようとしたのはお前達だな?」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「……何故そう思う?」

 

「あの時の状況を考えればそれが一番可能性が高いと思ってただけだ。その考えで調査していたがどうやら正解のようだ」

 

「その通りだ。もちろん危害を加えるつもりはなかったがあの時は早急に星霊魔導士が必要だと思い込み判断を誤った。申し訳ない」

 

「……なら話を聞く必要はないな。帰ろうみんな」

 

ツナがみんなを促して帰ろうとするとユキノが慌ててツナの前に回り込む。

 

「お待ちくださいツナヨシ様!どうかアルカディオス様のお話をお聞きください!ルーシィ様のお力をお借りしたいのです!」

 

「……ツナ、少なくともユキノ信用できると思う。話を聞いてみよう」

 

「そうだね……じゃあ聞くだけ聞いてみようか」

 

「ありがとうございます!…この作戦が成功すればゼレフ…そしてアクノロギアを倒すことが出来ます」

 

フェアリーテイルの面々はアクノロギアを倒せると聞いて懐疑的だがとりあえず二人について行くことにした。

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス

 

二人に案内されたツナ達は王城の中にまで案内された。その間に説明されたのは大魔闘演武は魔導士達の魔力を大量に集める為のカモフラージュであるということだった。

 

汚ない真似を平気で行うアルカディオスの信用は下がる一方だがある計画のために必要なことと言う。ツナはますます機嫌が悪くなる。

 

「大義があろうと何をやってもいいわけじゃないよ」

 

「……分かっている。世界を変える扉エクリプス、これの建造の為に大量の魔力が必要だった」

 

案内されたされた先にはとても巨大な扉が鎮座していた。

 

「太陽と月が交差する時十二の鍵を用いてその扉を開け。扉を開けば時の中。400年の時を渡り不死となる前のゼレフを討つ。それこそがエクリプス計画」

 

壮大な計画にツナ以外は言葉が見つからない。この扉は時間の流れが違う星霊界独自の次元境界線を利用して星霊魔導士の力で扉を開くとのことだ。その為にルーシィの力が必要らしい。

 

三日後の7月7日にルーシィの力を貸してほしいと頼まれる。それはドラゴンスレイヤー達のドラゴンが消えた日でもある。偶然か否か……その時ツナが口を挟む。

 

 

 

「過去のゼレフを殺してもこの世界のゼレフは消えないと思うよ」

 

唐突な言葉に全員の視線がツナに集中する。ツナはこの作戦が成功するとは全く思っていない。少々怒気をはらんだアルカディオスが聞き返す。

 

「……どういう意味かね?」

 

「過去に行ってゼレフを殺してもゼレフが生きている世界と死んだ世界に分かれると思うよ。パラレルワールドが一つできるだけだよ」

 

「何故そう言い切れるのだ!」

 

「俺は時を渡ったことがある。エクリプスではないけどね」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

「5年前に俺は10年後の世界に行った。そこで俺は前にいた場所で前にやっていた仕事を10年間続けていた。フェアリーテイルと出会うことはなくね」

 

ツナは14歳の時に未来の世界へと渡り、白蘭率いるミルフィオーレファミリーとの死闘を繰り広げた。その時の未来のツナはボンゴレデーチモとしてボンゴレファミリーのボスをしていた。

 

ツナがこの世界に来ることはなくマフィアをやっていた未来の世界ということだ。フェアリーテイルのみんなは理解したがアルカディオスは理解できない。それともしたくないのか……

 

「つまり今の段階で俺はかつて行った未来とは別の道を歩んでいることになる。過去に行って事を成しても現在は変わらない。現在の行動によって変えられるのは未来だけだよ」

 

「そんなはずはない!過去に行ったことがないなら分からないではないか!」

 

「あなたも行ったことはないでしょう……過去ではなく未来を変えるべきだと思うけど?」

 

 

 

「そこまでだ!」

 

狼狽するアルカディオスに諭すように言い聞かせていたツナだったが突如兵士達に周りを囲まれてしまう。兵を率いているのは国防大臣であるダートンだった。

 

ダートンは超国家機密を漏洩したとしてアルカディオスを逮捕しようとする。アルカディオスは計画に反対しているダートンがこれを機に計画を頓挫させようとしていると気付く。

 

「あなたはこの計画に反対なだけでしょう!」

 

「反対に決まっておるわ!歴史を変える危険を少しでも想像できんのか!小僧がぁ!!」

 

ツナの話を聞いていなかったらしいダートンはアルカディオスとユキノだけでなくルーシィまでも捕らえようとする。

 

「テメェら!ルーシィを巻き込むんじゃ……」

 

「ここで魔法を使ってはいかん!」

 

ナツが炎を出して王国兵を蹴散らそうとした時、アルカディオスが止めようとする。……が一足遅くナツは大量の魔力をエクリプスに吸いとられて気絶してしまう。エクリプスの近くで魔法を使うと全ての魔力を吸いとられてしまうらしい。

 

「騒ぎは起こさんでくれ。魔法の使えない魔導士など我が王国兵の敵ではないのだから……」

 

魔法を使えないグレイ達は気絶しているナツを庇う為に上手く戦えず制圧されていくがツナは違う。リボーンや拳法の達人である風にも指導されたことがあるツナは死ぬ気の炎を使わずとも充分に戦える。

 

 

 

ルーシィを後ろに庇いながら次々に兵士を蹴散らしていくツナにダートンは危機感を覚える。

 

「大人しくしてはもらえんかの?こちらは全て制圧したのだが……」

 

「ルーシィは無関係でしょう。捕まる理由もありませんよ」

 

「少なくともこの件が終わるまでは無関係とは言えん……がこちらも君達を無事に帰したい」

 

「勝手な事を……」

 

「待ってツナ!あたしが捕まれば他のみんなは解放してくれるのね?」

 

「約束しよう」

 

「ルーシィ!」

 

「大丈夫よツナ。それより最終日もあるんだからみんなを連れて帰って。ここでみんな捕まったらダメだよ」

 

「俺が全員倒すよ」

 

「そうしたらフェアリーテイルに迷惑をかけることになっちゃうよ。あたしは大丈夫だからみんなを連れて帰って。そして絶対に優勝してね」

 

 

 

ルーシィは自ら捕まりグレイ達が解放される。城の外へ追いたてられたツナ達にダートンはこれは自分の本意ではないと語る。

 

そして大魔闘演武に優勝すれば国王陛下に謁見してルーシィを解放できるかもしれないと告げる。

 

「さっきアルカディオスさんにも言ったけど国家とか大義とかの為に何をやってもいいというわけじゃないんですよ」

 

「…………」

 

ダートンはその言葉に一瞬足を止めるものの無言で城の中へと去って行く。全員がその背中を睨み付けていた。

 

「とにかく一度戻ろう。マスターにも報告しないと」

 

「ああ…すまねぇ…足を引っ張っちまって……」

 

「すみません……」

 

「仕方ないよ。魔法が封じられていたし……とにかく対策を練ろう……」

 

気絶しているナツを連れながら街へと戻って行くツナ達は絶対にルーシィを助け出すと誓うのだった……

 

 

 

 




年内に最低あと一話は更新したいです。


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二つの作戦

仕事休みでもやること多いです。


 

 

-7月5日 大魔闘演武最終日前日BAR SUN

 

王国兵にルーシィが捕まってから一夜明けてフェアリーテイル御用達のBAR SUNにツナ達は報告の為に集まっていた。昨日いなかったメンバーはマカロフ、エルザ、ラクサス、ジュビア、ミラジェーンがいる。

 

ルーシィが捕まった経緯をツナが代表して説明した。

 

「つまり何だ?大魔闘演武で優勝しなきゃルーシィを取り返せねえのか?」

 

「その話も信用していいのやら……」

 

「だからぁ!そんなことはどうでもいいからさっさと助けに行くぞ!!」

 

柱にぐるぐる巻きに縛られたナツが吠える。だが相手が王国なだけに無謀な突撃は論外だ。昨日の件で魔力も少ないはずなのに元気である。

 

極秘情報を知ってしまったツナ達を解放したのは大魔闘演武の選手だからだろう。明日出場しなかったらそこから足がつく可能性もある。

 

王国も魔導士ギルドを敵に回したくはないのだろう。しかも国王陛下はこの事を知らない可能性の方が高い。フェアリーテイルが出場しなかったら何故かを調べるかもしれない。

 

「とにかく俺達は最低条件として明日なんとしても優勝しなくてはならない……けどそれだけじゃ足りない。何らかの手は打つべきだと思う」

 

「そうじゃな……いつもみたいに後先考えずに突っ込む訳にもいかないからのう……」

 

「ダーッ!うだうだ言ってねぇでルーシィを助けに行くぞー!」

 

「話聞いてた!?」

 

ナツは縄を引きちぎりながら立ち上がる。今までの説明を全く理解していないナツにこめかみを押さえながら突っ込むツナ。マカロフが腕を巨大化させてナツを黙らせた。

 

その後話し合いが行われてルーシィを取り戻す為の作戦が決まった。決行は明日の大魔闘演武最終日に行うことになった。

 

「全ては明日だね……」

 

「ああ、絶対に負けられねぇな!」

 

 

そしてフェアリーテイルにとって勝負の最終日が幕を開ける……

 

 

 

 

 

-7月6日大魔闘演武最終日 ドムス・フラウ

 

『いよいよやって参りました!魔導士達の熱き祭典大魔闘演武最終日!泣いても笑っても今日…優勝するギルドが決まります!!』

 

解説はいつも通りヤジマそしてゲストは公式審判のマトー君が呼ばれていた。

 

『さあ出場ギルドが入場してきました!まずは現在6位!大逆転なるか!?猟犬改め仔犬!四つ首の仔犬(クワトロパピー)15pt!!』

 

バッカスを中心に大逆転を狙っている。

 

『続いて5位!まだまだ充分に優勝を狙えます!青い天馬(ブルーペガサス)現在30pt!!』

 

全員カメラに向かってキメ顔をしている。……一夜だけはキモいが……

 

『続いて3位!聖十のジュラを中心に実力者揃い!蛇姫の鱗(ラミアスケイル)40ptです!!』

 

聖十大魔道のジュラを中心とした安定感のあるチーム。

 

『同じく3位タイ!女性の強さを見せつけるか!人魚の踵(マーメイドヒール)同じく40pt!!』

 

女性だけということもあって結束力は高そうだ。

 

『そして現在2位!このまま王座を陥落か?再び最強の称号を手に入れるのか!?剣咬の虎(セイバートゥース)!44pt!!』

 

何か昨日までと雰囲気が違うことに観客達も気付く者もいた。応援席の猫が一匹しかいないこともおかしいと思う観客もいた。

 

『そして現在1位!七年前最強と言われていたギルドの完全復活なるか!?妖精の尻尾(フェアリーテイル)入場!!得点は45ptです!!』

 

フェアリーテイルの入場に観客席から歓声が起こりかけるが次第にどよめきに変わっていく。

 

『おや?こちらは何とメンバーを入れ替えてきたー!!』

 

フェアリーテイルのメンバーはエルザ、ラクサス、ガジル、グレイ、……そしてツナ。タッグバトルでセイバーの双竜を圧倒したナツが欠場したのには実況や観客だけでなく選手達も驚きを隠せない。

 

だが貴賓席で見ていた国防大臣のダートンだけはナツがエクリプスによって魔力を吸収された為に回復が間に合わなかったのだろうと結論付けた。

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「ツナー!!お前ならやれるぞ!!」

 

「グレイ様ー!!頑張って下さい!!」

 

「エルザ!!負けんなよ!!」

 

「ガジル!今度は迷子になるなよ!」

 

「ラクサスー!雷神衆がついてるぞ!」

 

大声で応援するフェアリーテイルのメンバー達。それを見ながらメイビスはマカロフに話しかける。

 

「考えましたね。六代目」

 

「結局こうするしかなかったのです。初代」

 

大魔闘演武に優勝しても本当にルーシィを返してくれるかは分からない。その為、街中が注目するこの最終日に別働隊にルーシィを救出させることにした。

 

「私達はなに食わぬ顔でチームを応援する。その裏で別働隊によるルーシィ救出……二正面作戦ということですね……」

 

「ええ……ツナの案ですがワシもこれしかないと思います。最もツナは自分が救出側に行くつもりだったようですが……かなりごねられましたわい」

 

「さすがにツナが行くのはまずいですからね。今大会の最注目選手ですし……」

 

「ええ。ツナが出場しないとなると国防大臣は警戒を強めるでしょうからな……その点ナツはルーシィが捕まった時にエクリプスに魔力を吸収されています」

 

「だから欠場しても怪しまれないというわけですね。ナツは完全に回復したのですか?」

 

「ツナが昨日炎を大量に食べさせてましたからな。いつもより調子が良いようです」

 

「では私達も信じましょう。フェアリーテイルの優勝とルーシィの救出を……」

 

「はい……頼んだぞガキども……」

 

マカロフは王城の方角を見て祈るように呟く。試合に注目がいって閑散とした街の中をナツ、ミラ、ウェンディが疾走している。ハッピー、シャルル、リリーのエクシード組も遅れないように翼を出して着いていく。

 

フェアリーテイル起死回生の二正面作戦が始まった。ナツは突撃思考だが事前にツナに絶対にミラの作戦に従うように指示されている…というより脅されている。ナツ達はミラの立てた作戦を基に王城への侵入を試みる。

 

 

 

 

 

-クロッカス街中

 

『己が武を…魔を…仲間との絆を示せ!最終日全員参加のサバイバルゲーム!「大魔闘演武」を開始します!!』

 

花火と大歓声の中、最終日の種目が始まる。各ギルドは既に街中の自分達の陣地へ分散している。自由に街中を駆け巡り他のギルドのメンバーを倒すと1ptが加算される仕組みだ。

 

ただし、各ギルドには一人リーダーが決まっていてリーダーを倒すと5pt加算される。なおリーダーは他のギルドには分からないようになっている。最多得点の理論値は45ptなので6位のクワトロパピーにも優勝の可能性はある。

 

フェアリーテイルは自分達のスタート地点で円を作っていた。チームリーダーのツナが全員を見渡して口を開く。

 

「いいねみんな。俺達は優勝するしかないよ。ルーシィを取り戻すために……」

 

「サラマンダー達が無事に救出してくれりゃあ……」

 

「それにこしたことはないがな」

 

「だとしても優勝にはもう一つの目的もある」

 

「七年間苦い思いをした家族(ギルド)の為にもな」

 

そして開始の銅鑼が鳴る。

 

『栄光なる魔の頂きは誰の手に!?大魔闘演武開始です!!』

 

「行くぞ!!」

 

「「「「オオッ!!」」」」

 

 

 

最終試合が始まった。実力に自信のある者は単騎で、他にも二人組や三人組で行動する者もいる。

 

セイバートゥースは全員単独行動するようだ。既にミネルバから方針は聞いている。ミネルバはツナが最大の敵と考えていた。

 

確実に優勝する為にはツナを最後まで残して10ptの差をつけた状態で相対するのが理想だ。

 

その為には他のギルドのリーダーを打ち負かして5ptを稼ぐのがてっとり早い。だがジュラとカグラは間違いなく強敵であるので比較的倒しやすいバッカスと一夜を確実に討つようにスティングとローグに命じていた。

 

その時索敵していたルーファスが疑問を感じる。観客達も騒然としてきた。フェアリーテイルの全員が開始直後から目を閉じて全く動いていない。

 

応援席のメンバー達も焦ったように早く敵を倒しに行けと叫ぶが5人は全く動こうとしない。その間に次々とバトルが始まっていく。

 

「俺が魔法を封じてる隙に!」

 

「おおーん!!」

 

「二人かよ!ぐはぁっ!」

 

ラミアのユウカとトビーのコンビがパピーのノバーリを倒す。

 

「女子と当たるなんてついてない」

 

さらに天馬のトライメンズが人魚のアラーニャとベスを倒す。

 

ラミアスケイル→41pt

 

ブルーペガサス→32pt

 

『得点が動く中全くフェアリーテイルは動きません!何を考えているんでしょう!?』

 

続いてリオンがパピーのセムスを、ジュラがイエーガーを倒したことによりラミアスケイルは43ptとなる。マスターであるオババは高笑いをしている。

 

勝利を手にしようと疾走するラミアスケイルのユウカとトビーの前にバッカスが姿を見せる。そのまま戦闘に入ろうとしているところに屋根の上からスティングが不意討ちを仕掛けてバッカスを撃破した。

 

チームリーダーだったバッカスを倒したことでセイバートゥースに5pt追加された。

 

セイバートゥース→49pt

 

5ptを奪われたユウカとトビーはスティングを倒そうとするが突如現れたカグラに二人は一撃で倒されてしまった。

 

マーメイドヒール→42pt

 

そのままスティングを倒そうと振り返ったが既にスティングは撤退してしまった。

 

別の場所ではミリアーナがパピーのロッカーを倒した。この時点でクワトロパピーは全滅した。

 

マーメイドヒール→43pt

 

フェアリーテイルはまだ動かない……

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

全く動こうとしないフェアリーテイルのメンバーにマカロフの怒号が飛ぶ。

 

「なんの真似じゃ!ルーシィを取り戻すためには勝たなきゃならんのだぞ!!」

 

「だからこそ冷静にならなければなりません……」

 

メイビスは語る。これまでの大会で敵の戦闘力や魔法行動パターンまでも頭に入れて何億通りものシミュレーションをしてきたと……そしてここまではメイビスの予想通り。

 

少女らしからぬ冷たい笑みを浮かべるメイビスにマカロフは鳥肌がたった。

 

「作戦は既に伝えてあります。仲間を必ず勝利へと導く……それが私の“戦”です。そして今こそ……妖精の星作戦発動!!」

 

 

 

 

 

-クロッカス街中

 

「時間だ!行くぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

死ぬ気になったツナの号令と共にフェアリーテイルのメンバーが動き出す。全ては仲間と勝利の為に……

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス

 

王城ではナツとウェンディが兵士に拘束されて連行されていた。その兵士は同僚の兵士に牢の場所を確認してそのまま連れて行く。

 

「上手くいったな」

 

「さすがミラさん」

 

「ふふっ、ハッピー達ももう少し我慢してね」

 

「あい~」

 

 

……だがその兵士は変身魔法を使って兵士に化けたミラだった。ハッピー達は鎧の中に隠れている。こうしてナツ達は上手く城に潜入することに成功したのだった……

 

 

 

 

「姫様、今が好機かと……」

 

「そうですね……始めましょうエクリプス“2”計画を」

 

翡翠色の髪を持つ美女……フィオーレ王国王女、ヒスイ・E・フィオーレが動き出す……

 

 

 

 




というわけで原作通りにナツが潜入することになりました。


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妖精達の快進撃

あけましておめでとうございます。
新年初投稿です。


 

 

-フェアリーテイル応援席

 

『フェアリーテイルが動いたー!!』

 

最終日始まってから動いていなかったフェアリーテイルが動き出したことにより観客の大歓声が響く。

 

「各自散開!次の目的地へ!」

 

フィールドで戦うメンバーには聞こえていないだろうがメイビスがいきなり指示を出したことにマカロフを始め応援席のメンバーは呆然とメイビスを見る。

 

「この時点で97%の確率でルーファスが動きます」

 

バトルフィールドではルーファスがメイビスの言う通り一日目の競技で使った記憶造形・星降ル夜二を使ってフェアリーテイルの5人を攻撃する。

 

……だがラクサス以外の四人はそれを楽々と避け、ラクサスは雷属性の魔法なので無傷で受け止めた。その後のルーファスの行動すら予想しているメイビス。

 

その瞳はいつもの天真爛漫としたものではなく冷静に戦局を見極める指揮官のようだった……

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

〈エルザはこの時点で北西に進むことによって敵と接触……撃破!〉

 

「初代の言った通りか……恐ろしい御方だ」

 

「エルザー!?」

 

エルザが天馬のジェニーと接触して木刀を換装して一撃で撃破する。

 

フェアリーテイル→46pt

 

 

初代に言われた場所で立ち止まったラクサスは来るであろう敵を待ち構える。そこに来たのは……天馬のトライメンズ。

 

「やばい!ラクサスだ!」

 

「ちっ!ヒビキ、イヴ!バラバラに逃げろ!俺が食い止める……別にお前らの為じゃないからな!」

 

「ゴメン!レン!」

 

〈ツンデレのレンなら悪態をつきながら残りの二人を逃がすでしょう。ラクサスはレンを確実に倒して下さい〉

 

「どこまで読んでるんだ?初代は……」

 

「ぎゃああああ!!」

 

ラクサスはメイビスの作戦に感嘆しながらも雷を落としてレンを即座に戦闘不能にする。

 

フェアリーテイル→47pt

 

 

 

〈ラクサスの雷を確認したらガジルはBの17へ、グレイは噴水エリアで待機!〉

 

「ここは通行止めだ!鉄竜の咆哮!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

ガジルが待ち構えてる場所へとやってきたイヴを瞬殺する。さらに噴水広場にやって来たヒビキをグレイが待ち構えていた。

 

「フェアリーテイルには僕のアーカイブの計算を超える者がいるのか!?」

 

「そーいうこった!」

 

グレイがヒビキを氷付けにする事によってさらにフェアリーテイルに得点が入る。

 

フェアリーテイル→49pt

 

 

 

『ここでフェアリーテイルが再びトップに並んだ!!やはり強い!!』

 

フェアリーテイルの活躍に観客達もヒートアップして大歓声が巻き起こる。

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「やったー!!」

 

「初代の作戦が全部的中してる!」

 

「思い出したぞ。初代の異名……その天才的な戦略眼で数々の戦に勝利をもたらした……妖精軍師メイビス」

 

マカロフが畏怖を込めた視線でメイビスの二つ名を口にする。フェアリーテイルの応援メンバーはメイビスがただの癒し系じゃないことに驚愕していた。

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

「一夜さん……申し訳ありません……」

 

「ウム……後は私に……」

 

グレイに氷漬けにされながらも一夜へと念話を送るヒビキ。それを受けた一夜の背後にジュラが迫るが……

 

「影竜の咆哮!!」

 

「むっ!」

 

「メエエエエン!?」

 

いきなり影から姿を現したローグの咆哮は一夜を直撃してそのままジュラにも迫る……がジュラは微動だにせずに受け止めた。ジュラがローグに攻撃しようとする頃には再び影となって離脱していた……

 

 

 

 

-実況席

 

『おおっと!ローグがブルーペガサスのリーダーの一夜を仕留めた!』

 

『これでセイバートゥースは54ptだね』

 

『やっぱりセイバートゥース強いカボ!!』

 

『そうこうしてる内にいつのまにかラミアスケイルのリオンがマーメイドヒールのリズリーを撃破!44ptに!』

 

『これでブルーペガサスとクワトロパピーは全滅したから優勝は四チームに絞られたね』

 

『ややっ!ツナヨシと相対しているのは……』

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

ツナは一人の敵と向かい合っていた。メイビスの予想通りだがツナにとっては戦いにくい相手だ。

 

「やはり君が来たか……」

 

「ウェンディの愛する人……あなたはすごく強いけど愛の為に負けない!」

 

『シェリアたんだー!ラミアスケイルのシェリアたんがフェアリーテイルのツナヨシの前に立ち塞がったー!!』

 

 

 

 

 

-試合前日 作戦会議

 

「基本的にツナには指示を出しません。スタートさえ合わせてもらえば戦場のどこに行こうと自由です」

 

メイビスの言葉にツナだけでなく他のメンバーも驚く。

 

「……かつて私がフェアリーテイルのマスターだった頃ジョットも同じようにフリーで動かしていました。超直感を持つジョットには作戦という枠でくくるよりもその閃きに期待していたのです」

 

「じゃあ俺の相手は分からないんですか?」

 

「最初は恐らくシェリアが来るでしょう……ツナの足止めとして彼女以上の適任はいないですから」

 

「やりにくいなあ……」

 

「ですが彼女と戦う時はなるべく早く片付けないといけません……彼女とジュラやリオンが合流すれば厄介です」

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

-確かにジュラさんが何度も復活して向かってくるのは厄介かな?-

 

「じゃあ行くよ!天神の北風(ボレアス)!!」

 

黒い風がツナへと襲いかかった。ツナは風の動きを読みきって大空の炎による高速移動でシェリアの背後に回る。

 

「すまない」

 

そう言って手刀をシェリアの細い首に叩き込むとシェリアは倒れこむ。一瞬で勝負がついたことに観客が呆然としている。

 

「まだだよっ!!」

 

突然シェリアが起き上がり風を纏った拳でツナに襲いかかる。だがいくら魔力が高くても格闘戦においてはツナとの差は歴然だ。

 

ツナに攻撃は当たらない、しかしツナの攻撃は当たっているのにすぐに回復してしまう。勿論殺す気でやれば一撃で勝負は決まるがそんなことをツナができる訳がない。

 

-さっきので気絶しないのか……この自己回復は本当に厄介だな……-

 

「天神の舞!!」

 

ツナを引きはなそうと自分の周囲に大量の風を発生させるシェリアに対してツナは一旦距離を取った。シェリアはすかさず勝負を仕掛ける。

 

「天神の怒号!!」

 

-これ以上長びかせる訳にはいかない!-

 

ツナは手を地面につけて炎を放つ。巨大な炎の壁がブラインドとなりシェリアからツナの姿が見えなくなってしまった。その炎の壁はシェリアの魔法を防ぐ。

 

生半可な風ではこの炎は消えないと察したシェリアは両手を上げて魔力を高める。魔力が鳥の羽根のような形に変化してゆく……

 

「滅神奥義!天の叢雲(アマノムラクモ)!!」

 

シェリアの放った魔法は炎の壁を吹き飛ばそうとするがやはりツナの炎は強力でなかなか突破できない。

 

「はあああっ!!」

 

シェリアは何とか炎の壁を突破しようとさらに魔力を込めていく……その時シェリアは誰かの手が背中に当てられているのに気付いた。

 

「いつの間に!?」

 

「零地点突破・改」

 

顔だけ振り返ったシェリアが見たのはツナの姿。炎で視界を遮った直後に目にも止まらぬスピードで回り込んだのだ。

 

「きゃあああっ!!」

 

シェリアが気付いた時にはひどい脱力感がシェリアを襲う。ツナから離れようにも奥義を放っている最中に魔力を吸収されては動くに動けない。

 

「ふにゃ~……」

 

奥義が止まった頃シェリアは目を回して倒れた。ツナは死ぬ気を解くとシェリアの顔を覗きこむ。全部吸い尽くしてはいないので魔力欠乏症にはなっていない。

 

「大丈夫?」

 

「う~大丈夫じゃないよ~」

 

「ゴメンね。回復の元をどうにかしないと倒せそうになかったから……」

 

「それはいいけど悔しいなぁ……全然本気じゃないんだもん……」

 

「う……でもね!さっきの技は俺の切り札の一つだからね!」

 

「そうなの?ならまあいいか」

 

「そこのベンチまで運ぼうか?」

 

「えっ!?だ…大丈夫!自分で行けるよ!」

 

「じゃあ俺は行くけどしばらく休んでるんだよ」

 

「了解~」

 

こうしてツナはシェリアを倒して先へと進むのだった……

 

フェアリーテイル→50pt

 

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス

 

ミラの作戦で首尾よく地下牢まで侵入したナツ達はルーシィとユキノが閉じ込められている牢屋を発見した。

 

「ルーシィ……」

 

「ナツ!ウェンディ!ミラさんも……」

 

「おいら達もいるよ」

 

「ルーシィ、静かにね」

 

「あ、ごめんなさい」

 

ナツが炎の熱で牢の鉄を変形させて二人を脱出させる。

 

「みんな……ありがとう……」

 

「おう!ツナにも頼まれたしな!」

 

「本当はツナさんが来たがったんですけどナツさんの方が国防大臣の目を欺けますから」

 

「そういえばアンタエクリプスに魔力を吸われてたよね?大丈夫なの?」

 

「ツナが山ほど炎を食べさせてたから大丈夫よ」

 

「おう!」

 

ルーシィは持ってきた着替えに着替えると脱出する前に鍵を探したいと願う。

 

その時、牢屋の通路の床が割れて全員まっ逆さまに落ちていった。落ちた先は洞窟のような場所で辺りにはいくつもの人骨が落ちている。

 

「ようこそ奈落宮へ」

 

どこからともなく声が聞こえてきて辺りを見渡すと空中に映像が浮かんでいる。この国の王女のヒスイ姫が兵士を従えて映っていた。

 

「ここは死の都、奈落宮……罪人の行き着く最後の自由。しかしここから出られたものは一人もいません。そこで朽ちてゆくがよい……賊よ」

 

一方的に通信を切られてナツ達は出口を探して彷徨うことになる……ヒスイ姫は賊を退治したと喜ぶ兵士達に見られないように憂いの表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

「ここに来ればアンタに会えるって聞いてたが……さすが初代」

 

足を組んで椅子に座っている者に声をかけるグレイ……

 

「これはこれは……記憶は君を忘れかけていた。思い出させてくれるかな?」

 

椅子に座っている者……セイバートゥースのルーファスはグレイを見て嘲笑うように挑発する。

 

「無理して思い出すことはねぇや……お前はここで終わりだから」

 

 

『図書館エリアでフェアリーテイル、グレイとセイバートゥース、ルーファスが激突だー!!……おおっと!さらに!』

 

 

 

 

「シェリアの救援は間に合わんかったか……あの短時間でシェリアを倒すとはさすがはツナヨシ殿……お主もそう思わんか?」

 

ジュラは振り返りもせずに自分の後ろにいる者に声をかける。

 

「アイツの強さは俺も戦った事があるからよく知ってるよ……アンタと同じく負けたがな……」

 

 

『市街地南エリアではフェアリーテイルのラクサスとラミアスケイルのジュラが出会ってしまったー!!』

 

 

「ツナヨシ殿にばかり目がいっていたがそなたも注目していた……マカロフ殿の孫にしてフェアリーテイルの最強候補ラクサス殿……」

 

「最強の座はアイツに取られちまってるがな……いつか取り返すけどな」

 

「ほう……」

 

「アイツにやられたモン同士どっちがアイツへのリベンジを先にするか勝負といこうぜ」

 

「ほほう……面白い。そういうことなら負けられんな……血が滾ってきたわい」

 

グレイVS.ルーファスそして、ラクサスVS.ジュラの戦いが始まる……

 

 

 




ちょっと展開を変えてます。


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限界突破!!

仕事が始まりました……休みが多いとキツいですね……


 

 

-フェアリーテイル応援席

 

『グレイVS.ルーファス、ラクサスVS.ジュラ!どちらも目が離せないぞー!!』

 

「これも計算通りなのか!?初代」

 

「はい」

 

ロメオの質問に是と答えるメイビスだが必勝の組合せかと思いきや勝敗は分からないという。カナが疑問を口にする。

 

「てかジュラにはツナを当てた方がいいんじゃないの?一日目に勝ってるし……」

 

「私もそのつもりでしたが……ラクサスからのたっての願いでしたから」

 

「何と!!」

 

「ルーファスと戦うのもグレイの希望です。グレイにとってあまり相性は良くないのですが……」

 

「グレイ様なら絶対に勝てます!」

 

「勝たねばなりません。セイバートゥースを攻略するにはルーファスの打倒が鍵になります」

 

メイビスは昨日の作戦会議を思い出す……

 

 

 

 

 

-試合前日 作戦会議

 

初代によるとセイバートゥースの打倒にはルーファスを先に倒すことが必須であるらしい。ガジルが確認を取る。

 

「ルーファスって奴が俺達の位置を特定してるってことか?」

 

「その通りです」

 

「まずはルーファスを倒すのが良さそうだな」

 

エルザの提案にグレイが立ち上がる。

 

「ソイツは俺に任せてくれ。いいだろ初代?」

 

「……あなたの造形魔法は彼にとって相性は最悪といってもいいと思います。勝てる可能性はとても……」

 

「そんなのどうでもいい!ルーシィを助ける!やられた借りは返す!今ここで戦わなかったら何の為にナツと交代したのか分かんねぇ!フェアリーテイルの魔導士として同じ奴には負けねえ!!」

 

グレイの想いを感じ取ったメイビスはその想いの力に賭けることにした。その後も作戦会議は続く……

 

「最も気を付けるのはセイバーのミネルバ、マーメイドのカグラ、ラミアのジュラの3人です。中でもやはりジュラは1ランク上でしょう」

 

「ではやはりジュラにはツナを?」

 

「ええ……お願い出来ますか?」

 

「いや……ジュラのおっさんとは俺がやる」

 

今まで黙って会議の決定に従っていたラクサスが初めて異を唱えた。ツナもラクサスの提案に驚いていた。

 

「ラクサス……」

 

「ツナが勝った相手だ。本来ならツナが当たるのが最善と分かっちゃいるがな」

 

「その通りです。あの者は生半可な相手ではありませんよ……何故ジュラと?」

 

「俺はいつか絶対にツナに追いついてみせる……そのためにまずはツナが勝った聖十の称号を持つジュラを倒さなきゃならねえ」

 

「ジュラさんは強いよラクサス」

 

「分かってる……ジジイと同じ聖十だからな」

 

「この3ヶ月でどれだけ強くなったか見せてもらうよ」

 

ツナとラクサスのやり取りをメイビスは懐かしく思っていた。いつも無茶をするユーリを毎回諫めながらもフォローしていたのはジョットだった。

 

-血は争えないということでしょうか…そういえばユーリもいつかジョットより強くなると言っていましたね-

 

「分かりました。ラクサス頼みましたよ」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「時に想いは計算を超える……見せてくださいあなた方の想いを……」

 

メイビスの言葉に応援席にいる者達が二組の戦いに目を向ける。勝利を信じて……

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

「行くぞ!仮面野郎!アイスメイク…氷創騎兵(フリーズランサー)!!」

 

グレイの先制攻撃がルーファスに襲いかかる。無数の氷の矢がルーファスの座っていた椅子や床を破壊するがルーファスは軽やかに身を躱す。

 

「記憶」

 

「まだまだ……氷撃の鎚(アイスインパクト)!!」

 

「記憶」

 

追撃に放った巨大なハンマーも躱すルーファス。グレイの魔法を見るたびに「記憶」と呟いているのをグレイも聞き咎める。

 

「何をブツブツ言ってやがる?」

 

「君の魔法を記憶していたのだよ。私は見たことのある魔法を記憶してそれを元に新たな魔法を造形できるのだ」

 

「何だそりゃ?」

 

「君の記憶“氷”の魔法…オルガの記憶“雷”の魔法…覚えている。メモリーメイク…凍エル黒雷ノ剣!!」

 

「がはっ!」

 

いくつもの黒い雷がグレイの周りに落ちる……それだけでなく雷が落ちた場所に氷が発生してグレイは二重にダメージを受けてしまう。

 

「荒ブル風牙ノ社!!」

 

「くっ……アイスメイク…(シールド)!!」

 

(シールド)…記憶…忘却!」

 

「何ぃ!!」

 

複数の竜巻がグレイを囲むように出現するとグレイが造形で盾を作り出した……がルーファスは記憶するだけでなく忘れさせることもできるらしい。盾の作り方を忘れさせられたグレイは直撃を喰らってしまう。

 

次々と属性の異なる魔法を作り出すルーファスの猛攻になすすべなくグレイは一方的にダメージを受け続ける。

 

「やはり分からないね。何故ナツ・ドラグニルの代わりに君が出てきたのか……」

 

「何だと!?」

 

「セイバートゥースの双竜をたった一人で撃破したナツ・ドラグニルは実に興味深かった……彼をじっくりと記憶したかったのだがね」

 

「……」

 

「ナツ・ドラグニルにそれと同等の力を持つガジル・レッドフォックス、妖精女王(ティターニア)のエルザ・スカーレット、レイヴンを一人で全滅させたラクサス・ドレアー、そして何よりツナヨシ・サワダ……フェアリーテイルには記憶するに値する者が多い……」

 

「……」

 

「にも関わらずどうやら私の相手はハズレのようだ……ガッカリだよ」

 

「いいてぇことはそれだけか?」

 

「そうだね。最早記憶するに値しない……早々に決着をつけるとしよう」

 

「記憶できねぇの間違いだろ?このフェアリーテイルの紋章を刻んでるからには同じ相手に2度は負けねぇ!!」

 

グレイは着ていた上着を脱ぎ捨て自身の胸に刻まれた紋章を指差す。……ちなみにグレイが脱ぐとフェアリーテイル応援席のジュビアがトリップしていた。

 

「行くぜ!アイスメイク……」

 

「記憶」

 

限界突破(アンリミテッド)!!」

 

「何……これは!?」

 

グレイが次々と剣や槍を作り出した。そしてその武器の形状は少しずつ違った物を作っている。同じものではないのでルーファスも一つずつ記憶していくしかない。

 

「バカな……記憶が追いつかない!!」

 

「どうだい?覚えたかい?」

 

無数の武器を造形したグレイはそれをルーファスに向かって放った。

 

「一斉乱舞!!」

 

ひとかたまりになっていた武器が舞い踊り一斉にルーファスに向かって飛翔する。ルーファスも避けきれずに傷と共に体温が奪われて氷づけになっていく……

 

「くっ……見事……だが!氷属性だけなのが惜しい!……この氷を溶かす炎を覚えている…メモリーメイク…燃ユル大地ノ業!!」

 

辺り一面に炎が出現してグレイの氷を全て溶かしてしまう。ルーファスはヒヤッとしながらも勝利を確信するが……次に見たのは炎の壁を突破して自身に迫る黒い影……

 

「なっ!?」

 

「俺はもっと熱い炎を覚えている……」

 

グレイの両手にそれぞれ剣が造形されてゆく……グレイは一気に間合いへと飛び込む。

 

氷魔剣(アイスブリンガー)!!!」

 

「ガハッ!!」

 

すれ違いざまにグレイはルーファスの胸を十字に切り裂いた。切り裂いた場所に氷の華が咲く……そのままルーファスは仰向けに倒れた。

 

『グレイだぁ~!!ルーファス敗れる!!フェアリーテイル大逆転だぁ~!!』

 

「記憶しとけよグレイ・フルバスターの名前を……」

 

ルーファスが被っていた帽子をキャッチして自分で被りながらそう口にした。会場を揺るがす大歓声がグレイを祝福する。

 

フェアリーテイル→51pt

 

 

 

 

一方その頃ラクサスはジュラと様子見を続けていたがグレイの戦いに決着がついたのを確認するとジュラが笑みを浮かべる。

 

「やはりフェアリーテイルは面白いな……」

 

「グレイはやっぱり勝ちやがったか」

 

「ほう……仲間の勝利を信じていたと?」

 

「ナツもグレイも…フェアリーテイルで育った奴等は諦めるってことを知らねぇからな」

 

「では……気にしていた事も片付いたことであろうしそろそろお互い本気になるとしようか?」

 

「望むところだ……」

 

二人の間を凄まじい闘気が立ち上る……先に動いたのはラクサスだ。雷を纏って高速で突っ込むがジュラは揺るがない……凄まじい魔力を込めた手刀をラクサスに叩きつけた。地面がひび割れる程の手刀を喰らったラクサスは地に沈む。

 

「世の中上には上がおる」

 

『な…何と一撃でラクサスを沈めた~!!やはり聖十のジュラ!強い!!』

 

「それは良く知ってる……だがたまには下も見るもんだ……ソイツはすぐ足下にいるかもしれねぇ!!」

 

起き上がりながらもジュラの顎に雷を纏いながらアッパーカットを食らわせる。ジュラは大きく仰け反りながらも反撃する。

 

「ぬんっ!」

 

ジュラが気合いと共に腕を振るうと地面がまるで生き物のように隆起してラクサスに襲いかかる。

 

「ちっ!」

 

空中に打ち上げられながらも高速で動き回り隆起した地面を躱すラクサスは右手に雷を集めてそれを放った。

 

「雷竜方天戟!!」

 

「崖錘!!」

 

雷の槍を岩の壁でガードするジュラに高速で動き回りながら接近するラクサスだがジュラも魔力を漲らせて格闘戦に持ち込む。互いの肉体を使って繰り出す攻撃を受けては返し観客達は息をつく暇もない。

 

やがてラクサスが雷を集めた拳を地面に叩きつけることで間合いをとった。

 

「ふう……これはたまげたわい……」

 

「はぁ…はぁ……こういう時は何て言うんだっけな……ナツ……」

 

息を整えながらいつも格上の相手に向かっていくナツを思い出すラクサス。

 

「そうだった……燃えてきたぜ!!」

 

「来い!どちらかが果てるまで戦おうぞ!!」

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「いっけーラクサス!!」

 

「ラクサスその調子だ!!」

 

「ラクサスならジュラも超えられるわ!!」

 

雷神衆が一際大きな声を出してラクサスを応援する。マカロフは自分の孫がここまで強くなっていたことに驚きを隠せない……

 

「育ってますね……次の世代を担う若者達が……」

 

メイビスは嬉しそうに語る……マカロフが照れて視線を反らした先にいたリサーナが浮かない顔をしているのに気づいて声をかける。

 

「リサーナ……どうしたのじゃ?」

 

「まだ合図がないから……」

 

ナツ達はルーシィを助け出したら合図を送る手筈になっている。それがないということは……

 

「こうまで遅いということは何かあったのかもしれませんね」

 

「確かに……トラブルがあったのやも知れんな……」

 

「でも!ナツもミラ姉もウェンディ達も絶対に大丈夫!きっとルーシィを助けてくれるから!」

 

心配だろうに無理して笑顔を浮かべるリサーナ……

 

「そうじゃな……ワシらが信じてやらなければな……」

 

マカロフは城の方を見ながらも彼にとっての子供達が無事であるように願う。

 

一方そのナツ達には新たなる危機が迫っていた……

 

 

 

 




ラクサスのバトルも気になるとは思いますが……場面は城の方へと移り変わります。


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奈落の底の餓狼

大変長らくお待たせしました。新年明けてからの仕事が忙しかったのとこの先の大魔闘演武のバトルを考えるのに時間をくいました。

5分後に二話目を投稿しますのでよろしくお願いします。奈落宮は原作と流れが変化ないので一話に纏めました。


 

 

-奈落宮

 

ナツ達が奈落宮に落とされてからしばらくしてハッピー達エクシード組が偵察から戻って来た。

 

「ナツー!出口はなかったよ。天井も塞がっちゃってるよー!」

 

「完全に閉じ込められたみたいね……」

 

「体に地図でも書いておくんだったな……」

 

エクシード組の報告にナツ達はガックリと肩を落とす。

 

「くっそー!せっかくここまで来たのによ!」

 

「けどよくここまで侵入できたわね……ナツなら作戦Tとか言って突撃しそうなのに」

 

「ツナが絶対にミラの指示に従うように言ってたんだよ。今回はルーシィの安全がかかってるからって」

 

「ツナったら……」

 

「ユキノさんの事も心配してましたよ」

 

「ツナヨシ様が……」

 

「ねえ……この子リサーナに似てない?」

 

ユキノの後ろに回りながらミラがルーシィに尋ねるとルーシィもそういえば……と同意する。

 

「リサーナ様とは?」

 

「私の妹よ」

 

ユキノも幼い頃に姉と離れ離れになっているのでミラの笑顔に姉の面影を見いだしていた。……余談だがミラとリリー以外はその姉に会ったことがあるのだが誰も気付いてはいなかった……

 

「みんな!あっちの岩の裂け目から風が流れてきてるわ!出口に繋がってるかも!」

 

全員シャルルが発見した岩の裂け目に入って行くが人一人が通るのがやっとなのでナツを先頭に一人ずつ進んで行く。

 

「狭くて胸がキツいわね……」

 

「そうね……」

 

「同感です……」

 

「……」

 

3人の女性は狭すぎて胸がキツいらしいが残る1人の女性はそんな3人の会話を聞きながら己の胸に目を向けて溜息を漏らす。全く邪魔にならないのも悲しいらしい……

 

何とか岩の裂け目を抜けるとそこには一人の男性が倒れているのが見えた。

 

「アルカディオス様!!」

 

「この前の……」

 

「オイ!しっかりしろ!!」

 

ナツの声にアルカディオスはうっすらと目を開けるとか細い声でナツ達に逃げろと伝える。その瞬間ナツ達は後ろに気配を感じて慌てて飛び退いた。アルカディオスはナツが抱えている。

 

後ろにいた巨漢の男が液体をばらまくとその液体の触れた地面が溶けていく……

 

それだけではなく大漁旗をもった目がパッチリとした男、植物から変化した女、大量の紙吹雪が集まって変化して出てきた女、そして恐らくリーダーである大きな鎌を二つ背負った仮面の男……総勢5名の人間が姿を現した。

 

「我ら王国最強の処刑人、餓狼騎士団……一五○○任務開始」

 

「奈落宮からの生還者がいなかったのは奴等がいるからだ……」

 

アルカディオスの声にナツ達は身構え、仮面の男は冷たい声で告げる。

 

「フィオーレ独立部隊餓狼騎士団の特別権限によりこれより罪人の死刑を執行する」

 

ナツはあまりにも騎士団には見えない餓狼騎士団の面々に大笑いする。その恐ろしさを知るアルカディオスが注意を促すがナツは余裕を崩さない。

 

「上等!!出口が向こうから歩いて来たぞ!!」

 

「そうね。彼らから出口の場所を聞き出しましょう!」

 

「ルーシィさんとユキノさんは鍵がないので離れててくださいね」

 

「ハッピー、シャルル、下がっていろ!」

 

ナツ、ミラ、ウェンディ、そして戦闘形態となったリリーが前に出る。すると隊長-カマの一喝と共に着物のような格好の女性-カミカの魔法が襲いかかる。

 

「無知なる罪人め!フィオーレ王国の土へと還れ!」

 

「紙吹雪!赤の舞!」

 

ナツは赤色の紙吹雪を燃やし尽くそうとするが赤の紙は炎の属性を持っており燃やすことはできなかった……だが驚くナツの前にウェンディが飛び出す。

 

「天竜の咆哮!!」

 

赤い紙吹雪はウェンディの放った竜巻により散り散りに引き裂かれるがその隙を狙って帽子を被った女性-コスモスによって召喚された食人植物によってウェンディが食べられてしまう。が、それは間をおかずに破壊される。

 

「ミラさん!!」

 

破壊したのはいつの間にかミラジェーン・シェトリに変身したミラだった。

 

最初に襲って来た男-ネッパーとパッチリとした目を持つ男-ウオスケも加わりその連携攻撃にナツ達は苦戦を強いられてしまう。

 

「紙吹雪!紫の舞!!」

 

「何だ!体が動かねぇ!!」

 

「紫の紙は縛りの神、そして……」

 

「これぞ美しき連携……グロウ・フロウ!!」

 

「んなっ!でけぇ!!」

 

カミカの紙で動きを封じられたところにコスモスが先程とは比べ物にならないほどの食人植物を天井に召喚する。その植物は口を大きく開いてナツ達を吸い込もうと

している。

 

「くっ……体の不自由を解除!状態異常回復魔法リーゼ!!」

 

「治った!けどアレ……どうするの!?」

 

「壊す!!」

 

「OK!!」

 

「うおおおぉっ!!」

 

ウェンディの魔法で麻痺が解けてルーシィの悲鳴に反応したナツ、ミラ、リリーの三位一体の攻撃により食人植物だけでなく洞窟の一部も崩壊してしまった……

 

 

 

 

 

その頃城の上層階ではヒスイ姫が兵士達の話から罪人の処刑の為に餓狼騎士団が出撃したことを知って愕然としていた。

 

-無事でいてください…アルカディオス……-

 

ヒスイ姫には祈ることしかできなかった……

 

 

 

 

 

 

一方奈落宮ではバラバラに散ってしまったナツ達はそれぞれの敵と対峙していた。

 

「私の部下は優秀だ。誰一人として生かしては帰さん」

 

「ここでルーシィと離れたら何の意味もねぇってのに」

 

ナツは餓狼騎士団リーダーのカマと……

 

 

 

 

「みなさーん!どこですかー?」

 

「美しいというよりは可憐……でも処刑よ」

 

ウェンディはコスモスと……

 

 

 

 

「ヘヘヘ……」

 

「くそっ!みんなとはぐれたか……」

 

リリーはネッパーと……

 

 

 

 

「ルーシィ!ユキノ!どこ!?」

 

「よそ見してる場合じゃないよアンタ」

 

ミラはカミカと……

 

 

 

 

そして残りはというと……

 

「みんなとはぐれちゃったの!?」

 

「よりによって戦力の無い者が一緒とは……」

 

「鍵さえあれば……」

 

「みんなを探さなきゃ……」

 

「…………」

 

鍵がないので魔法が使えないルーシィ、ユキノと戦力として数えられないシャルル、ハッピーと大怪我をして動く事もできないアルカディオスが一緒のパーティーとなってしまった。

 

そこに処刑人ウオスケが現れる。そのやる気の無さそうなザコっぽい顔にこれは魔法がなくても勝てるのではと思うルーシィ達だが……

 

「いかん……ぞ……奴は処刑した者の骨すらも残さんという……」

 

「「え?」」

 

アルカディオスの言葉に顔色を変える……

 

 

 

 

「地形効果……熔岩帯!」

 

ウオスケが魔法を使うと地面が崩れてその隙間は灼熱の熔岩地帯へと変化していた。ルーシィとユキノは崩壊に巻き込まれて溶岩に落ちそうになったがわずかに残った足場に掴まることで何とか耐えている。

 

「今行くよ!!」

 

ハッピーとシャルルが二人を救出しようと飛ぶが……

 

「地形効果……重力帯!」

 

「ぐっ……体が……」

 

「重たい……」

 

重力をかけられて地面に落下して押しつぶされそうになってしまった。ルーシィとユキノは何とか足場に掴まっているが長くは持ちそうもない。灼熱の熔岩はすぐ足下にありその熱で二人のブーツが溶けて足に耐え難い痛みを与えている。

 

「がんばれ……君たち二人は……私達の希望なのだ……」

 

「今そんな話はどうでもいいでしょ!」

 

アルカディオスがフラフラと立ちあがり想いを口にする。そして熔岩帯の縁に立つと……

 

「君たちがいなくてはエクリプスは起動しない……私はその為なら……この命!惜しくはない!!」

 

何とそのまま熔岩帯の中へと歩を進めた。全員が驚愕するなかアルカディオスは絶叫と共に歩き出す。ジュウウと肉の焼ける音と匂いがするがアルカディオスは止まらない。

 

「え?え?人間って熔岩の中入れたっけ?」

 

ウオスケが心底疑問に思うのも無理もない。アルカディオスはルーシィとユキノの元へ辿り着き二人の体を押し上げる。足場に登った二人は必死に手を伸ばす。

 

「アルカディオス様!!」

 

「アンタも早く!!」

 

「もしここを出られたら姫様に……ヒスイ姫に会う……のだ……エクリプスが正しいかどうか君達が決めるといい……」

 

その言葉を最後にアルカディオスは溶岩に沈んでいった……ユキノの悲痛な叫びが響く。ウオスケは安心したようにホッと胸を撫で下ろす。

 

「ギリギリセーフといったところですね」

 

「ホロロギウム!?」

 

ルーシィの星霊、ホロロギウムが熔岩の中から姿を現した。その中には気絶しているアルカディオスが守られていた。

 

「どうしてアンタがここに……」

 

「僕はゲートを自由に通れるからね。鍵はここにあるよ。ルーシィ」

 

「ロキ!!」

 

「ハイ、君の分も」

 

「ありがとうございます。ライブラ、ピスケス、良かった……」

 

「やったー!」

 

「これで魔法が使えるわね!」

 

「ここに十二の鍵が揃った……さあ反撃の時だ」

 

「うん!」

 

「ハイ!」

 

「タ……タイ?」

 

強力な援軍を得たルーシィとユキノの反撃が始まった。

まずはユキノがピスケスを召喚する。カグラ戦のような二匹の魚ではなく二人の人間型の母子一体の星霊がウオスケに襲いかかる。

 

「地形効果・重力帯」

 

「開け!天秤宮の扉…ライブラ!重力変化を相殺して!」

 

「タイ~!??」

 

二体同時開門でライブラも呼び出したユキノはウオスケの魔法を無効化する。

 

「地形効果!渦潮帯!!魚は海に帰るタイ!!」

 

追い詰められたウオスケの魔法は運良くピスケスの弱点を突くものでピスケスは魚に戻ってしまった。それを見て喜ぶのはハッピーだけだ。

 

「魚ーー!!!」

 

「ピスケスが水に弱いという弱点を見抜くなんて……」

 

「魚なのに!?でも水があるなら……開け!宝瓶宮の扉!アクエリアス!!」

 

一気に決着を着けるべく最強の星霊アクエリアスを呼び出すルーシィ。辺り一面に存在する水を巻き上げてウオスケに放った。ウオスケはなすすべもなく吹き飛ばされてしまった。

 

 

その頃他のバトルも決着しようとしていた。リリーはガジルとの修行で数段腕を上げていた。相手の酸を切り裂いてそのままネッパーを吹き飛ばしていた。

 

 

 

ウェンディを二度と覚めない眠りに落とそうとしたコスモスだがウェンディは自身に状態異常無効化の魔法をかけることで防御する。驚くコスモスの前で両腕に風を集めたウェンディは照破・天空穿を放った。

 

 

 

カミカは毒を与える緑の紙でミラの命を奪おうとしたが、サタンソウルで悪魔の姿になったミラには通用しない。巨大な魔力をのせた蹴りでカミカを吹き飛ばした。

 

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

既に武器を破壊されているカマはナツの猛攻に手も足も出ない。

 

「貴様ら!王国を敵にまわす気か!?」

 

「お前らこそフェアリーテイルを敵にまわす覚悟はあるんだろうな!!」

 

ナツは右拳に大きな炎を纏ってカマに向かって走り出す。

 

「俺達は家族(ギルド)を守る為なら国だろうが世界だろうが敵にまわす……それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だぁっ!!!」

 

全力の右拳を打ち込まれたカマは壁を突き破って吹き飛ばされる。偶然にも飛ばされた先には他のメンバーも揃っていて相手はカマ以外は気絶している。

 

「全滅……だと?」

 

「これで全員合流だな!」

 

「みんな無事?」

 

「一人大怪我してるわ。ウェンディ!応急手当を!」

 

「ハイ!分かりました!」

 

「アルカディオス様……」

 

「さてと……その間に……」

 

「出口の場所を教えてもらおうか……」

 

ロキとナツは指を鳴らしながらカマへと近づいていった……

 

 

 

 

 

 

 

カマから出口の場所を聞いた一行は教えられた方角へと道を進んでいた。アルカディオスはロキが背負っている。

 

「このオッサンすげぇな!熔岩の中に飛び込むなんて!!」

 

「アルカディオス様…大丈夫なのでしょうか……」

 

「ウェンディの応急手当のおかげで大丈夫だとは思うけど……」

 

「熔岩の中で生きてた方が不思議だよね!」

 

「彼の身に付けている翡翠の宝石のおかげだね。強力な護符になっているみたいだ」

 

「そういえば地下で会った竜の魂も翡翠竜ジルコニスでしたね」

 

「姫の名前もヒスイ姫だったはずです」

 

「アルカディオスにはここを出たら姫に会うように言われたけど……エクリプスにも関係してるのかな?」

 

「だろうな……」

 

「その姫様にここに落とされたんだけどな!!」

 

「下手に接触するとまた捕まるんじゃないかしら?」

 

「とにかく早く脱出してみんなに合図を送りましょう!みんなきっと心配してるわ」

 

ミラの言葉に全員が頷いた時に一同は前方に巨大な扉を発見した。さっそくナツは扉を壊そうと走り出すが……扉は向こうから開いていった。

 

急に扉が開いたことによりバランスを崩して前方へと転がって行くナツ……回転が止まった時、ナツの目の前には黒いローブを纏ってフードで顔を隠している一人の人間がいた。

 

新たな敵かと身構える一同だったがその人物は攻撃してくる様子はない。

 

「誰だ?テメェ?」

 

「…………」

 

その人物はフードを取るために左手をゆっくりとフードへとかけるのだった……

 

 

 




二話目は5分後に投稿します。


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激闘の裏で……

連続投稿二話目です。


 

 

-華灯宮メルクリアス、上層階

 

ヒスイ姫の傍に仕えていた兵士達は餓狼騎士団全滅の報告を受けてパニックに陥っていた。だがヒスイ姫は兵士達から見えないように安堵の笑みを浮かべている。それを見咎めたのは……

 

「いけませんな姫……そのようなお顔をされては」

 

「国防大臣!?陛下と共に闘技場へ行かれたはずでは!?」

 

国防大臣ダートンはヒスイ姫こそがエクリプス計画の責任者であること、それをアルカディオスが隠してきたこと、奈落宮に落とされたアルカディオスを救う為に侵入したフェアリーテイルを奈落宮に落としたことを見抜いていた。

 

「姫……考え直してくだされ。あれは危険なものです。世界を変えるなど……」

 

「いえ……おそらく世界は変えねばならないでしょう。あなたには話しておいた方がよいでしょう……エクリプス2計画のことを」

 

「2!?」

 

「この作戦が失敗すれば……明日この国は滅びるのです」

 

そして姫は語り出した。今まで秘密にしてきたエクリプス2計画について……その話は国防大臣の顔色を真っ青に変えることになった……

 

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

ヒスイ姫の告白が始まった頃、最終競技『大魔闘演武』は佳境に突入していた。既に2チームが脱落して残っているのは4チームとなっていた。その内訳は、

 

セイバートゥース、54pt 残り4人

 

フェアリーテイル、51pt 残り5人

 

ラミアスケイル、44pt 残り2人

 

マーメイドヒール、43pt 残り2人

 

となっている。どのチームもリーダーは倒されていないのでまだ優勝の可能性は残っているということになる。

 

 

ルーファスを撃破したグレイが図書館の外に出ると一人の男が待ち構えていた。

 

「本当にいやがった……さすがは初代」

 

〈ルーファスを倒したとしても外に出るとすぐに戦闘になるでしょう。その相手は……〉

 

「あの妙な造形魔法を使う者を倒したか……さすがは我が弟弟子。ウルの教えを受けておいて他の造形魔導士に負ける訳にはいかんからな」

 

「同感だぜ……リオン!!」

 

図書館の外にいたのはグレイの兄弟子であるラミアスケイルのリオンだった。ルーファス戦で軽くはない傷を負っているグレイだったがその瞳に宿った闘志は熱く燃え盛っていた……

 

「さあ決着を着けよう!そしてジュビアはラミアスケイルがもらうぞ!」

 

「まだそんなことを言ってんのか……けどよ家族(なかま)は渡さねえ!!」

 

〈リオンは無理をせずに足止めをして下さいね。恐らくルーファスに勝ってもかなりの傷を負うことになります〉

 

「了解だけどよ、初代……倒しちまってもいいんだよな?」

 

二人は既に睨み合って臨戦態勢を整えている。偉大な氷の造形魔導士達の弟子たちが激突する。

 

「「アイスメイク……」」

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「グレイ様……そんな家族(つま)は渡さないなんて……まだ式も挙げてないのに……」

 

「ジュビア!ルビを捏造しちゃダメだよ!!」

 

グレイの言葉を聞いて妄想中のジュビアにリサーナが思わずツッコミをいれていた。

 

「おいおい!グレイの奴傷だらけじゃねえか!」

 

「これでいいのか!?初代!」

 

「足止めでいいのです。その間にエルザがミネルバとぶつかります」

 

マカオとワカバの疑問にドヤ顔で自分の予想を語るメイビス。彼女はグレイがリオンを倒すつもりなのを気づいていない。

 

エルザが広場にてミネルバを待っているとそこに駆けてくる人影が見えた。その姿を見たエルザの瞳が大きく見開かれる。

 

『あ~っと!!カグラだあ!!フェアリーテイルエルザとマーメイドヒールカグラが激突!!』

 

「えっ?」

 

突如切りかかってきたカグラを迎え撃つエルザ。両者共に剣の腕は超一流なのでその切り合いは観客には視認できないほどだった。

 

「し…初代……これは?」

 

ミネルバと戦う筈のエルザがカグラと戦闘を開始したことにフェアリーテイルの面々はメイビスへと視線を向ける。マカロフがおずおずと初代に尋ねると……

 

「私の計算が…ふぇ…えぐ…どこで……ぐすっ……泣いてなんかないです……全然…うえ…泣いてなんか……」

 

「誰かー!!全力で初代をあやせー!!!」

 

瞳から大量の涙を流しながらも気丈にも泣いてないと言うメイビスを何とか慰めようとマカロフからの指令が出るのだった……

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

『これは面白い!!最強女剣士決定戦となったー!!』

 

-強い!納刀したままでこれほどとは……-

 

現在のところほぼ互角だが刀を抜いていないカグラの予想を上回る力量に感嘆するエルザ。切り合いが続くなか突然二人の前方の空間が歪みそこから人の手が現れて二人の顔を鷲掴む。

 

回転して二人を投げ飛ばして全身を現した乱入者の正体は……

 

「妾も混ぜてはくれまいか?」

 

『ミネルバ乱入ーー!!』

 

セイバートゥースのミネルバは妖しく笑みを浮かべると二人に向かってそう口にした。

 

『三つ巴の戦いになったー!!今大会屈指の女魔導士対決!!果たして誰が生き残るのか!!?』

 

「相手が誰だろうと負けはしない」

 

-エルザ…何故ジェラールを匿うのだ…そなたの受けた苦しみは許せるものではないはず……-

 

「我等がセイバートゥースも随分と信頼を落としてしまった……ユキノはカグラ…そなたに敗れ、双竜はナツ・ドラグニルに討ち取られた……」

 

そう言いながらもミネルバは笑みを崩さない。この状況を楽しんでいるかのようだ。

 

「失った信頼を回復するためにはそなたらごときはまとめて片づけてくれようか……」

 

「随分と大口を叩くものだ……」

 

「御託はいい……来い!」

 

3人は同時に走り出すとエルザとカグラは刀を降り下ろしミネルバは腕に魔力の空間を作って攻撃する。3人の中央で攻撃がぶつかり合いその衝撃が周りに拡散する。

 

エルザがミネルバに攻撃すればその隙をカグラに突かれる。カグラがエルザを吹き飛ばせばミネルバに攻撃される。吹き飛ばされたエルザは体勢を立て直してミネルバに攻撃を加える。

 

3人がほぼ互角の力量を持っている為に一人を攻撃すればもう一人に隙を突かれる状況に陥ってしまう。吹き飛ばされたミネルバが一瞬の隙を突いて聞き慣れぬ呪文を詠唱する。

 

「イ・ラーグド」

 

呪文の詠唱が始まるとエルザとカグラは歪んだ空間に捕らわれる。

 

「ネェル・ウィルグ・ミオン・デルス・エルカンティアス……ャグド・リゴォラ!!!」

 

闘神の姿が写し出されてそのオーラが天を貫く。広場は崩壊してエルザとカグラはその破壊に飲み込まれた。

 

ヤクマ十八闘神魔法……メイビスですら戦慄する魔法を受けたエルザとカグラは服こそ破れているものの無事だった。解説席や観客席は驚愕と大興奮に包まれる……

 

「なるほど……ここまでやるとは計算外。ラチがあかぬな……少し趣向を変えるとしよう……先程捕らえた子猫だ」

 

ミネルバが腕を振るうと歪んだ空間が出現してその中には捕らえられたミリアーナが拘束されている。

 

「う……ううっ……」

 

「「ミリアーナ!!」」

 

「この娘を捕らえている空間は常に魔力を奪い続けているのだ……苦しんでいるのが分かるであろう」

 

エルザとカグラの顔が憤怒に染まる。エルザにとってもカグラにとっても大切な者だ。その顔を見てさらに笑みを深めるミネルバ。

 

「ふふっ…よい顔だ……安心するがよい。人質をだしに屈伏させるつもりはない……命令だ。二人で戦え!勝った方と相手をしてやろう」

 

あまりに卑劣なミネルバに二人はさらに怒り視線を鋭くする。しかしミネルバの愉悦の笑みは崩れることになる。

 

「お前は本当に俺を怒らせるな……」

 

「なっ!!」

 

「「ミリアーナ!!」」

 

いきなりミリアーナを捕らえた空間が勢いよく燃え盛り焦るがエルザはその炎をよく知っていた。オレンジ色の大空の調和の炎……

 

炎が消えた後にはミリアーナを横抱きにしたツナがミネルバを睨みながら佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス、上層階

 

ヒスイ姫より話を聞いたダートンは焦燥し姫に大魔闘演武の中止を求めた。だがその姫もその話を完全に信じることはできずにいたので大魔闘演武の結果で真偽を判断することを伝えた。

 

「あるギルドがあり得ない結果で優勝すると聞いています。特殊な結果なので予測は不可能……もしその結果になれば“あの方”の言うことは真実……」

 

「国の未来を大魔闘演武の結果で動かそうというのですか!?」

 

「それに足る結果なのです。私は未だにその結果を信じられないのですから……それでもその結果になるというのならば“あの方”の言う未来は真実と判断できます」

 

「姫……」

 

「その時はエクリプスの扉を開きます。そう……“あの方”は未来から来たと言っていました」

 

 

 

 

 

-奈落宮

 

奈落宮の出口で出会ったフードを被った人物が素顔を現す。その素顔に全員が信じられないものを見たように驚愕の声をあげる。

 

「なっ!!」

 

「嘘!!」

 

「えええっ!!」

 

「ル……ルーシィが……」

 

「もう一人!?」

 

素顔を現した人物はなんとルーシィだった。ルーシィは涙を流しながら視線を逸らしている。

 

「ど……どういうことですか?」

 

「ジェミニ……じゃないですよね」

 

「まさかエドラスのルーシィ?」

 

「違うわ……時空を越える扉エクリプスは知ってるよね?……未来から来たの」

 

「「「「「なーー!!」」」」」

 

「それでね……この国は……もう…すぐ……」

 

そこまで言うと未来ルーシィは力尽きたようにパタリと倒れた。

 

「おいっ!しっかりしろ!!」

 

「いったい何がどうなって……」

 

「なんか気味が悪いよ……なんであたしが……」

 

「ルーシィ……」

 

「とにかくこのルーシィも連れて脱出しよう!そしてみんなに救出成功を伝えるんだ!」

 

ナツの言葉に全員が頷くが何かが起きようとしていることを全員が感じていた……

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

「ツナ!!」

 

ツナはミリアーナを抱えてエルザとカグラがいる場所まで移動した。

 

「背中を怪我してる!うつ伏せに!」

 

「この傷は……」

 

「貴様……」

 

「ふ……その子猫は既に戦闘不能だ。得点を妾に!」

 

セイバートゥースに1ptが加わりトータル55ptとなった。しかしミネルバは内心で酷く焦っている。

 

 

-どうする…ツナヨシには勝てん…ならば狙うのはエルザか?恐らく5pt持っているのはツナヨシ…エルザの可能性もないことはないが……-

 

そしてミネルバはエルザに視線を向ける。

 

-やはりエルザを連れ去り早々に片づけてツナヨシとカグラを戦わせる……ツナヨシがカグラに勝つ寸前に止めをさして得点を奪うのが最良か……-

 

「エルザ!!」

 

「なっ……」

 

エルザはミリアーナに意識を向けていた為にツナの声に対する反応が遅れる。エルザのいた場所とミネルバの目の前の空間が入れ替えられてエルザはミネルバの前に出現した。

 

「妾の相手はそなただ!妖精女王(ティターニア)よ!!」

 

そのままエルザはミネルバと共に姿を消した。どうやら別の場所で戦うようだ。残ったのはツナとカグラとリタイアしたミリアーナのみ。カグラは鋭い視線と共にツナに向きなおる。

 

「……ミリアーナを救ってくれたことには礼を言う。だが試合が続いている以上そなたと戦わねばならん……聞きたいこともあるしな」

 

「仕方がない……行くぞ」

 

「ううっ……カグラちゃん……ツナ……」

 

両者が構えると緊張感が高まっていく……そして同時に相手に向かって地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

「飛ばされたか……」

 

エルザは状況を把握すると目の前のミネルバを睨み付ける。

 

「貴様の所業……最早許せるものではない!!」

 

「ふふっ…そなたの怒る顔も美しいがあまり時間を使うわけにもいかんのでな……早く始めようぞ」

 

「いいだろう……」

 

そう言って天輪の鎧に換装するエルザ。その周囲にはいくつもの剣が浮いているがミネルバは顔色一つ変えない。

 

「天輪!!繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!」

 

無数の剣群がミネルバへと襲いかかった……

 

 

 

 

 

 

「はぁ……またお前かよ……」

 

ガジルは溜め息をつきながら後ろを振り返る……そこにいたのはセイバートゥースのローグだった。

 

「まだ分かんねぇのか?お前じゃ俺には勝てねーよ」

 

「俺は貴様に負けたわけじゃない。今度は最初から本気で行くぞ」

 

そう言うとローグはドラゴンフォースを発動させる。第三世代の力の全てでガジルを倒そうとする。

 

「影竜の咆哮!!」

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

二つの咆哮がぶつかり合って勝ったのはガジルの咆哮だった。咆哮と共に打ち出された鉄の塊がローグの体を傷付けていく。

 

「まだまだぁ!!鉄竜槍・鬼薪!!」

 

「うっ……ぐっ……ぐはぁぁぁっ!!」

 

鉄を槍に変化させて高速の突きを連続で繰り出すガジルにローグは一方的に傷付いていく……

 

「がはっ!!」

 

地面に倒れたローグを一瞥するとガジルは興味を失ったように背中を向けて去って行こうとする。

 

「ま……待て……」

 

「これ以上やっても無駄だ。出直して来い」

 

ローグはこのまま何もできずに終わりたくはなかった。だからガジルを引き留める為の言葉を口にする。

 

「お前は……ナツ・ドラグニルほどではない」

 

去ろうとしたガジルの足がピタリと止まった……

 

 

 

 

 

 

これまでほぼ互角の戦いをしてきたラクサスとジュラだったが、ラクサスの猛攻を防御に徹して防いでいたジュラが攻撃の隙を突いてラクサスの足元を固めた。

 

そしてジュラはラクサスが足元に気をとられた瞬間に掌を合わせて周囲の岩をラクサスに引き寄せた。岩に集められた魔力が内部に向かって爆発する。

 

「覇王岩砕!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

ゆっくりと前に倒れようとするラクサス。フェアリーテイル応援席から悲痛な叫びが飛び交うなか、ラクサスは左足を踏み出して何とかこらえる。そしてジュラは目を見開いてラクサスの右拳を見た。

 

 

そこには巨大な魔力が集まっていた。岩が張り付いた直後からラクサスは防御を捨てて右拳に全魔力を集中していた。ラクサスは最後の力でジュラへと走る……

 

「滅竜奥義!!鳴御雷!!!」

 

声にならない悲鳴をあげてジュラが吹き飛ぶが大怪我を負いながらもジュラは倒れない。

 

「ハァ…ハァ……ちっ…バケモンが……もう俺の魔力は残ってねえってのに……」

 

「フゥ……それはこちらも同じ……よもやここまでやるとはのう……」

 

「それでも俺が勝つ!!」

 

「来い!!」

 

「「うおおおおっ!!」」

 

もはや魔力の残ってない二人は残された己の肉体のみで戦わなければならない。二人は殴り合う為にお互いに向かって走るが……

 

「「ぐわあああぁ!!!」」

 

突如上から黒い雷が落ちてきてラクサスとジュラに直撃する。雷の耐性を持っているラクサスは膝を付くだけで済んだがジュラは既に防ぐ魔力もなく崩れ落ちてしまう。現れたのはセイバートゥースのオルガだった。

 

「よぉ!ラクサス!悪いな!!」

 

「テメーか……よくも邪魔しやがって……」

 

「オイオイ……今はバトルロイヤルだぜ?とにかくジュラのポイントはもらったぜ」

 

セイバートゥース→60pt

 

『おおっとここでセイバートゥースのオルガが乱入して得意の黒雷でジュラを沈めたー!!リーダーなのでセイバートゥースに5ptが入ります!!』

 

『ムム……今のはアリなのかね?』

 

『アリですカボ!!バトルロイヤルですのでカボ!!』

 

「そーいうこった。しかしもうボロボロじゃねえか……フン…もう楽しめそうにねえな」

 

「ざけやがって……テメェは俺が潰してやる!」

 

ラクサスは力の入らない足に渇をいれて立ち上がった。既に魔力も残っていないがジュラとの戦いを汚した男を倒すために……

 

 

 

 

 

 

 

ツナVS.カグラ

 

グレイVS.リオン

 

エルザVS.ミネルバ

 

ガジルVS.ローグ

 

ラクサスVS.オルガ

 

五ヶ所で激闘が始まった。だがその裏では狂い始めた運命の歯車が回りだす……大魔闘演武残りは11人……

 

 

 




大魔闘演武の結末をどう纏めるかで時間をくいました。申し訳ありません。


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絶望の未来

遅れて申し訳ありません。暫く風邪をひいてました……


 

 

-華灯宮メルクリアス、上層階

 

ヒスイ姫の目の前にはいくつもの場面が映し出されていた。それは大魔闘演武の現況を映すラクリマだった。横に控えているダートンが声をかける。

 

「本当に未来人が言った結果になるのでしょうか?私にはとても……」

 

「私とて信じられませんが……現段階ではその結果になる可能性は消えていません」

 

確かに姫の言う通りなのだがダートンには到底その結果になるとは思えなかった。だがそれだけにもしその結果になれば未来から来た者の言葉の信憑性が増すということも理解していた。

 

「今は見守りましょう……この国の未来を決めるこの戦いを……」

 

そう締めくくると姫は映像に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

現在戦闘をしているのは10人、残っているのは11人。戦っていないのはセイバートゥースのスティングだった。中継ラクリマに映らない位置で座っている。

 

「ククク……いいぞ…考えうる最高のシナリオだ……待っていろよレクター……もうすぐお前を……」

 

あの夜……レクターを失った怒りを爆発させてマスターを半殺しにした後でミネルバがレクターを助けてくれたということを聞いた。

 

他にも自分を次期マスターにという話を聞いた気がするがその時はレクターの無事を喜び全く頭に入っていなかった。

 

ミネルバに感謝してすぐにレクターに会わせてくれるように頼むがそれに帰ってきた答えは……

 

「大魔闘演武で優勝するまでは返さん」

 

涙を流しながら懇願するもミネルバには通じず自身が手にした新しい力でセイバートゥースを優勝に導けと言われた。

 

ならば優勝するしかない。このレクターへの想いの力で必ず優勝する。

 

「たとえ相手がツナヨシさんでも俺はもう負けない……レクターが俺に力を貸してくれる……」

 

スティングは暗い笑みを浮かべながらただ戦いの行方を見守ることにした……

 

 

 

 

 

 

 

リオンはグレイとの戦いの中でラクサスとオルガが向き合うラクリマを見て怒りを爆発させた。

 

「おのれ!セイバートゥース!よくもジュラさんをあんな卑怯な手で……グレイ!さっさと決着を付けてアイツを倒しに行く!!アイスメイク…白虎(スノータイガー)!!」

 

氷の虎がグレイに襲いかかったがグレイは焦ることなく対応する。

 

「アイスメイク……牢獄(プリズン)!!焦り過ぎだぜリオン!それとお前がアイツを倒すのは無理だ!なぜなら1つはお前はここで俺に負けるから……」

 

氷の檻に氷の虎が捕らえられる。

 

「ちっ!アイスメイク……蜻蛉(ドラゴンフライ)!!」

 

「アイスメイク……氷創騎兵(フリーズランサー)!!そしてもう1つはアイツはラクサスが倒すからな!」

 

グレイは無数の氷の蜻蛉を同じように無数の氷の槍を飛ばして全てを叩きおとした。

 

「バカを言うな!ラクサスの魔力はもう残っていないだろう!!」

 

「それでも勝つさ!タイマンの邪魔されて黙ってやられる奴じゃねぇよ!!フェアリーテイルをナメんな!!」

 

焦るリオンに対して仲間の勝利を信じて戦うグレイ。氷の造形魔導士の戦いはさらに苛烈さを増していった。

 

 

 

 

 

 

「クックッ……無様だなぁラクサス……立つのがやっとかよ?」

 

「はぁ…はぁ…うるせぇよ……」

 

力を振りしぼって立ち上がったラクサスに対してオルガは嘲笑で応える……どう考えてもここからの逆転はあり得ない。

 

だからこそ慢心して気が緩む……それこそがラクサスが付け入る隙だ。ラクサスはオルガを挑発する。

 

「たとえ魔力が空っぽでも俺は雷に対する耐性は高い……テメェのちんけな静電気じゃ倒れねぇよ」

 

「ほう……静電気とは随分言ってくれるじゃねぇか……ならその静電気でくたばりな!特大のな!!」

 

自分の黒雷を馬鹿にされたオルガは両手を前に構えて黒雷を集中する……

 

「雷神の……荷電粒子砲!!」

 

オルガから放たれた黒雷は狙い通りにラクサスに直撃する。ラクサスの怪我では雷の速度を躱すことはできない。フェアリーテイル応援席から雷神衆の叫びが響くが当然二人には聞こえない。

 

「ハーハッハッ!!どうだいラクサス!黒雷の味は?これでも静電気かよ!?」

 

勝利を確信しているオルガは高笑いと共に黒雷を放ち続ける。だが聞こえるはずのない声が聞こえたことでその高笑いは凍りつく。

 

「まぁ……悪くはない味だ……性根は腐ってるがな」

 

「何!!」

 

オルガは信じられないものを見た。崩れ落ちるはずのラクサスがオルガの黒雷を食っていたのだ。

 

「バカな!!俺の黒雷を……滅神魔法を!?」

 

「簡単なことだろ……テメェより俺が強いからな……おかげで魔力もある程度回復できたぜ」

 

「ほざけ!!」

 

「テメェは俺の……雷竜の逆鱗に触れた……だからテメェは俺が潰す!!」

 

ラクサスの体全体に雷がほとばしり、両手に魔力が集中していく……右手には黄色い雷、左手には黒い雷が集まりそれを頭上で一つに融合させる。

 

「う……あ……待て……」

 

オルガは汗をかきながら自分でも気付かずに後ろへと後退していた。

 

「竜の雷と神の雷を一つに……竜神の轟雷!!!」

 

ラクサスが腕を振り下ろすと二つの魔力が合わさった巨大な雷球がオルガへと襲いかかる。

 

「ぐぎゃゃああああっ!!!」

 

あまりのスピードに避ける暇すらなかったオルガは体を痙攣させながら絶叫する。やがて雷が消えるとパッタリと地面へと崩れ落ちた……

 

「見事じゃ……」

 

倒れたままのジュラの言葉がラクサスの勝利を示していた。

 

『ラクサスの勝利だぁ!!聖十の魔導士と互角に戦いさらにボロボロの体ながらもオルガに逆転勝利!!』

 

実況の言葉にフェアリーテイル応援席が沸く。雷神衆は涙を流しながら喜んでいる。ラクサスは挑発によってオルガが黒雷を放ってきたことに安堵した。

 

普通に肉弾戦なら勝ち目はなかっただろう……地面に座り込みながらジュラへ声をかける

 

「ジュラのおっさん……今回は勝負無しだ……続きはまたいつかやろうぜ」

 

「イヤ……今回はそなたの勝ちじゃ。だが次は負けんからの」

 

「お互いもっと強くならねえとな」

 

「然り……目標は遥か高みにある……」

 

ある一人の男を思い浮かべながら二人は会話を続けるのだった……

 

フェアリーテイル→52pt

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス下層部

 

奈落宮を脱出したナツ達は広すぎる王宮内で兵士達から身を隠しながら移動していたため出口が分からなくなってしまった。現在は食堂と思われる場所にいる。

 

「まいったな」

 

「迷子になるとは……」

 

「困ったわね」

 

「いっそ敵の真ん中を突っ切るか?」

 

「無茶ですよ~」

 

「このお城様は広すぎますね」

 

「お城様!?」

 

これからどうするかを話し合っているが有効な脱出手段が見つからない。その時、未来ルーシィが目覚めた。

 

「う……ここは?まだ城の中なのね……」

 

「大丈夫?未来ルーシィ」

 

「……あたしの記憶だとこの後王国軍にまた捕まっちゃうの。だからその前にみんなに知らせようと……」

 

「あんな奴等に捕まる訳ねーだろ?」

 

「そうね……さすがにやられる気がしないわ」

 

「ううん……偶然エクリプスに近寄ったせいで魔法が使えなくて全員捕まっちゃうの……あの時が来るまで」

 

「あの時?あの……ルーシィさんはどうして未来からやってきたんですか?」

 

ウェンディの質問に未来ルーシィは全身を恐怖で震わせている。

 

「最悪の未来を変える為……」

 

「最悪の未来だぁ?」

 

「いったい……あなたのいた未来に何が起こったのですか?」

 

ユキノからの質問に対する答えを未来ルーシィは言いづらそうに言葉を紡ぐ。

 

「この国に待つのは絶望……一万を越えるドラゴンの群れがこの国を襲ってくるの……街は焼かれ城は崩壊し多くの命が失われる……」

 

「なっ!!一万!?」

 

「ドラゴンってそんなにいたの!?」

 

「どうしましょう……」

 

「さすがに一万なんて多すぎるよ!!」

 

「そうね……アクノロギアほどじゃないとしてもそれに近い強さを持ってるわよね……」

 

「こうしちゃいられねぇ!ハッピー!戦闘準備だ!!」

 

「無理だよ!!」

 

-これで繋がった!崩壊する城と……あれは歌ってるんじゃなくて泣き叫ぶルーシィ……でも!-

 

シャルルは以前の予知が最悪の未来を示していたことを知りそして浮かんだ疑問をルーシィに尋ねる。

 

「ね…ねぇ……ドラゴンが来た時同じ城の中にいた私達はどうなったの?」

 

ルーシィはその質問に答えずに顔を俯かせる。それが答えを示していた。代わりにウェンディがシャルルに答える。

 

「シャルル……察してあげよう……きっと私達は……」

 

「死んじまうのか!?」

 

「そんな……」

 

「……何日たったか分からない。目覚めた私はエクリプスの事を思い出した。過去に戻れると信じて扉を抜けたら本当に戻れたの。X791年7月4日に……」

 

「4日ってつい最近じゃないか」

 

「そんな少ししか戻れないの?」

 

「多分だけど一部壊れてたから……とにかく地上は大魔闘演武を映すラクリマが街中に配置されてるから地下を通って脱出しよう」

 

「ルーシィさん…あの…ツナさんが言ってましたよね?過去を変えてもルーシィさんのいた未来は……」

 

「……多分ツナの言う通りなんだと思う。現にこれからの事をそっちのあたしが知った……つまり過去を変えたはずなのにあたしにはそれを聞いた記憶がない……」

 

「じゃあルーシィさんは……」

 

「でも!未来は変えられるはず!あたしにとっての過去はあなた達にとっての現在!そしてあなた達の未来はまだ確定してないわ!!」

 

悲痛な叫びが食堂に響く……未来ルーシィは自分のいた未来の為でなく現在を生きる自分達の為に過去へと来たのだと理解させられた……

 

「とにかく地下を通って脱出したらジェラール達と合流してほしいの……彼には全部話してある……今対策を練ってるはずだから……」

 

「対策を練ってる……今?」

 

「ごめんなさい……あたしは未来から対策を持って来たんじゃないの。どうすればあの悲劇を止められるのか分からないの……」

 

その言葉を聞いた意識を取り戻したアルカディオスは疑問を覚える。ヒスイ姫が言っていたエクリプス2……それは未来人からもたらされたもので一万のドラゴンを殲滅する手段だった。

 

大魔闘演武で7年間エクリプスに集めていた魔力はエーテリオンに匹敵するほどになっている。それをドラゴンの大群に発射してドラゴンを殲滅する。それは目の前にいる未来ルーシィからもたらされたはずだ。

 

-お前が姫にエクリプス2計画を助言したはず!4日に来たというのも嘘だ!何故仲間に嘘をつく!?-

 

目を鋭くして未来ルーシィに視線を送るアルカディオス……ルーシィは俯きながらもナツ達に謝罪する。

 

「本当にゴメン……これじゃあたし何のために来たのか……今日までどうしていいのか分からずに街をウロウロするしかできなかった……」

 

「いや…俺達がなんとかする……とにかくここを出てみんなに知らせよう。お前が一番信じてる奴にもな」

 

「ナツ……」

 

「ありがとう……俺達の未来の為に……きっと未来を変えてみせる!」

 

その言葉に未来ルーシィは涙を流しながら笑顔で頷く。フェアリーテイルメンバーもその光景を笑顔で見つめていた。

 

しかしユキノは顔を伏せながら何かを考えており、アルカディオスはルーシィが流す涙を見て何かを確信していた。

 

 

 

 

 

 

-クロッカス近辺

 

ジェラールが未来ルーシィから聞いた襲いくる一万のドラゴンの対策をウルティアとメルディが話し合っていた。ジェラールはさっきから一人で考え事をしている。

 

「どうする?正直いって一万のドラゴンに対抗する手段なんてある?」

 

「住民だけでも避難させるしかないんじゃ……?」

 

「そんなことしたらパニックになるわよ。第一信じてもらえるかどうか……」

 

「私達犯罪者だしね……」

 

「何かいい考え浮かんだ?ジェラール」

 

「いや……だがこの話何かがおかしい……全てが真実だとは限らない」

 

「それって未来のルーシィが嘘をついてるってことなの?」

 

「そうは言わんが……一万を越えるドラゴン……エクリプス……魔力……つじつまが合わないことがいくつかあるんだ」

 

「……でもだからと言って無視は出来ない情報よ?」

 

「分かっている。あのルーシィが嘘を言ってるとは俺も思わん……それとも存在そのものが虚構なのか……」

 

結局答えは出ないまま時だけが過ぎてゆく……

 

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

次々に爆発が巻き起こる。ミネルバは空間の属性を爆発に変えながら攻撃を続けていた。その全てを飛翔の鎧に換装したエルザが軽やかに躱し続けている。

 

「換装!黒羽の鎧!!」

 

連撃の一瞬の隙をついて換装したエルザが切りかかるも一瞬でエルザと位置を入れ替えて逆に攻撃しようとするミネルバだが……

 

「そこだ!」

 

「何!?」

 

入れ替えられる事を読んでいたエルザはミネルバの位置を瞬時に判断して剣を振るう。それを魔力の質を変えて受け止めるミネルバ……

 

「ちっ!小癪な……」

 

「素晴らしい力量だが……貴様ほどの力がありながら何故あんな手段を取るのだ!?」

 

「王者は旨い肉しか食わぬのだ!セイバートゥースは必ず勝たねばならん!!過程などどうでもいい!結果が全てだ!!」

 

「貴様のその性根……私が叩き直してやる!!」

 

「やってみよ妖精女王(ティターニア)!!」

 

二人は再び激闘を再開する……

 

 

 




今日は久しぶりに大雪でした。


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運命を司る影

お待たせいたしました。大魔闘演武も終わりが見えてきました。竜王祭まで後少しです。


 

-バトルフィールド

 

 

「ぐはぁっ!!」

 

「その程度か?」

 

「くっ!鉄竜剣!!」

 

「無駄だ……」

 

ローグは影になってガジルの剣を躱すと突き出した剣にまとわりつくように接近してガジルの後ろで実体化する。

 

「影竜の連雀閃!!」

 

「ぐあああっ!!」

 

至近距離からの攻撃に吹き飛ばされるガジルだが、なんとか体勢を立て直して着地するがローグの姿を見失ってしまった。

 

「ちくしょう!!どこに行きやがった!?」

 

「ここだ……」

 

声はすれども姿は見えず……ガジルは辺りを見渡すがローグを見つけられない。ガジルの影の目に当たる部分がが怪しく光る。

 

ガジルの影と一体化していたローグはガジルの視線が外れた瞬間に姿を現した。

 

「影竜の斬撃!!」

 

「があっ!!」

 

姿を現したローグは連撃を加えて追いつめる。ガジルも反撃をするも影となって躱されてしまう……

 

『これはどういうことだ!?先程までとは真逆の展開!ガジルが一方的にやられているー!!』

 

『フム……この魔力は……?』

 

『すごいカボ!!』

 

 

 

そう……先程まではガジルの猛攻にドラゴンフォースを使ったローグは手も足も出ない状態だった。そして自分がガジルに勝てない事を認識したローグは過去を語りだした。

 

ローグにとってガジルはファントムロードにいた頃からの憧れでありフェアリーテイルとの抗争に敗れた後に何故よりによってフェアリーテイルに入ったのかがずっと分からなかった……

 

だが二日目の夜にユキノの為にセイバートゥースに殴り込みをかけたツナとナツにかけられた言葉や仲間の為に戦うフェアリーテイルを見てガジルが求めたものが理解できた。

 

対して自分達セイバートゥースはただの兵隊に過ぎず勝つことを強制され、たった一度の敗北で首にされる……それを他の者は嘲笑う。仲間という意識はまったくない。

 

それに気づいた時ローグは自分は何の為に戦っているのかすら分からなくなった……

 

泣き出しそうな顔でその想いを吐き出した時叱咤激励したのはガジルだった。

 

「カエルは仲間だろ?」

 

カエル……ではないが自分には信じてくれるフロッシュがいたことをローグは思い出す。そして今までの鬱屈した気持ちも消えて敗北を宣言しようとした時、聞こえてきた声と共にローグの意識は闇に呑まれた……

 

 

 

そして今、ガジルは豹変したローグに手も足も出ず追い詰められている。バトルフィールドには片手でガジルの首を持って宙吊りにするローグがいる。

 

「クク……これがあのガジルか?他愛も無い……影がお前を侵食する。そして永久に消えるのだ……眠れ、暗闇の中で……」

 

そう言ってガジルを乱暴に放して自分の影に呑み込もうとするローグ……ガジルはゆっくりとローグの影に沈んでゆく……

 

「ギヒ……サラマンダーに出来て俺に出来ない訳がねぇ」

 

そう言うとガジルはローグの影をガブガブと食べたした。驚くローグにガジルは二つの魔力を融合させながら告げる。

 

「誰だか知らねぇがソイツの体から出ていけ。俺の弟分だったライオスの体からな……」

 

ガジルはファントムロード時代に自分の後ろをちょこまかと付き従っていた坊主頭の子供を思い出していた。

 

「お前は俺に憧れてたんじゃねえ……恐れていたんだ。あの頃の俺はそんな男じゃなかったからな……忘れちまったんなら思い出させてやるよ。俺の恐怖をな!!」

 

「鉄影竜……だと!?」

 

二つの属性を完全に融合させてナツの雷炎竜と同じ境地に至ったガジルは見るものを恐怖させるような獰猛な笑みを浮かべた……

 

ガジルは影になってローグの後ろに回り込む。

 

「俺の技で俺に勝てるか!!」

 

本家本元のローグにはガジルの居場所は分かるのか振り向いたローグは驚愕する。ガジルの影から鉄の棍が迫っていた。

 

「がっ!!」

 

「ギヒッ!まだまだだぜ!!」

 

再び影になるガジルはローグの死角に回り込みながらも同時に鉄の棍でローグを殴り付ける。

 

「ぐっ!がっ!がはっ!」

 

攻撃を読みきることが出来ないローグは自分も影になってガジルから距離を離そうとするがガジルも影のまま追いかける。

 

「何!?影から引きずり出される!?」

 

「捕まえたぜぇ……オラァ!!」

 

影から引きずり出されたローグはさっきまでのお返しとばかりに一方的に殴られ続ける……そしてガジルはローグを空中へと投げ飛ばした。

 

「行くぜぇ……鉄影竜の咆哮!!!」

 

「があああああっ!!!」

 

空中へ飛ばされたローグはガジルの咆哮をまともに食らって吹き飛ばされた。長い滞空時間の後に落ちてきたローグは受け身も取れずに地面に激突して戦闘不能になった。

 

それによりガジルの勝利が宣告される。ガジルは初めて使った鉄影竜の疲労で座り込む。

 

「クク……今のローグではここまでか……」

 

「何だ?テメェはよ」

 

ローグから抜けだした闇色の影はそれには答えずに城の方へと去っていった。ガジルは疑問に思いながらもローグに視線を戻すといつの間にか現れたフロッシュがローグを守るように立ち塞がっていた。

 

「もーやめて。ローグが死んじゃうよ……」

 

ガジルは涙を流して震えながらも気丈に立ち塞がるフロッシュを安心させるようにこれ以上戦う気はないと告げた。

 

「フロッ…シュ……」

 

「ローグー!ローグ!」

 

「何故ここに……?俺は…痛っ!!負けたのか?いつの間に……?」

 

「覚えてねぇのかよ?何だったんだいったい……」

 

「何がどうなってるのか分からんがやはり強いな……ガジル……いやフェアリーテイルは」

 

「ギヒッ!今頃気づいたか?テメェそー言えば俺がサラマンダーより弱いとか言ってやがったな?今でもそう思うとか言わねぇよな?」

 

「……同じくらいじゃないのか?」

 

「フローもそう思う」

 

「テメェら……」

 

「ハハハッ!痛っ!」

 

「ローグ……」

 

「大丈夫だフロッシュ……今はとても気分がいいんだ」

 

ローグは何か吹っ切れたような笑顔でフロッシュにそう告げた。それを見ながらもガジルはやはり先程の影が気になるのかもう一度城の方へと視線を向けるのだった……

 

フェアリーテイル→53pt

 

 

 

 

 

 

 

-地下通路

 

未来ルーシィの先導で地下通路を走る潜入メンバー達。未来の対策は出来てないが何とかみんなと合流する為にいそいでいた。

 

「こっちよ!」

 

「よくこんな道知ってたなー」

 

「せめてみんなが捕まる未来は回避したかったから……こんなことしかできなかったの……」

 

「充分ですよ!!」

 

「ええ、みんなと合流出来ればなんとかなるわ」

 

「とにかく急ごうぜ!」

 

「……!止まって!みんな!」

 

ロキがメンバーを静止させると前方から大勢の人の気配がすることに気付く。

 

「王国軍!?こんな所に配置されてるなんて!!」

 

通路を埋め尽くす程の兵士の群れがナツ達の前に現れた。

 

「そこで止まれ!!」

 

「ここから先は行かせんぞ!!」

 

「ちくしょう!こんな所で時間はくえねえ!速攻で片付けるぞ!!」

 

「ここなら魔法を使えるから負けないわ!!」

 

「あ!アルカディオスさんとユキノさんが居ませんよ!!」

 

「私が探してくるわ!!あの騎士はともかくユキノを放ってはおけないわ!!」

 

「ミラさん!気をつけてね!!」

 

「そっちもね!!」

 

ミラが来た道を逆に走っていくのを見届けると兵士達の後方から見覚えのある連中が姿を現した。

 

「アイツら……もう復活したのかよ!」

 

「お前達は餓狼騎士団の名において絶対に城の外へは逃がさんぞ!」

 

大勢の兵士達と共に奈落宮で戦った餓狼騎士団まで加わって脱出はより困難なものとなった。

 

「上等だ!みんな!押し通るぞ!!」

 

ナツは大声でみんなを鼓舞すると先陣をきって兵士の群れへと飛び込んでいった……

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

ミネルバは焦っていた。魔力はほぼ互角であるはずなのに少しずつ押され始めているのを理解していたからだ。早急に決着をつけてツナとカグラが戦っている場所へ行くつもりがとんだ計算違いだ。

 

「くっ……しつこいぞ!妖精女王(ティターニア)!!」

 

「貴様には絶対に負けん!!」

 

飛翔の鎧で速力を上げてミネルバの空間連続爆発を躱し続けるエルザはそのままミネルバの懐に飛び込む。

 

「飛翔・音速の爪(ソニッククロウ)!!」

 

「ぐううっ!!」

 

ミネルバは魔力を腕に集めてその属性を硬化に変化させて一撃を受け止めるもその衝撃までは殺しきれない。

 

「換装!明星の鎧!明星・光粒子の剣(フォトンスライサー)!!」

 

「があっ!!」

 

「言ったはずだ…お前達は一番怒らせてはいけないギルドを敵にまわしたと」

 

明星の光から目を庇ったミネルバにエルザは一瞬で煉獄の鎧に換装して巨大な剣をミネルバへと降り下ろす。

 

地面が粉々に破壊されるがミネルバは空間を入れ替えてエルザの後ろに移動すると魔力を鎖のように変化させてエルザに投げつける。

 

「読めているぞ!妖精の鎧(アルマデュラ・フェアリー)!!」

 

ピンク色の鎧に換装してその鎖のようなものを軽やかに躱すと剣で斬りかかった。

 

「ぐああああっ!!」

 

さしものミネルバもエルザの怒濤の連続攻撃に防御に徹するしかできなくて全てを躱しきることはできない……

 

「よくもルーシィを…仲間を…ミリアーナを……私は怒っているんだ……」

 

エルザは一太刀一太刀に仲間の無念を晴らすかのようにミネルバへと攻撃を仕掛ける。

 

「何故……最強の妾が!最強の魔法絶対領土(テリトリー)が!最強のセイバートゥースが!!」

 

「信念なき魔法に魂は宿らん!!」

 

「調子に乗るな!!妾は最強でなければならんのだ!でなければ……」

 

「その為にどれだけのものを傷つけてきたのだ!!」

 

「黙れ!!他者を蹴落とすのは自然の摂理だ!弱き者に価値などない!!」

 

「……それが本心ならばもはや許さん!私の怒りはギルドの怒り!第二魔法源(セカンドオリジン)開放!!天一神(なかがみ)の鎧!!」

 

エルザは切り札を切った…この鎧は装着時の魔力消耗が激しすぎるので装着出来る者がなかなか現れない。エルザですら第二魔法源(セカンドオリジン)を開放しなければ装備することはできない。

 

「これで終わりだ」

 

「っ……うるさいんだよ!!」

 

冷徹に告げるエルザに怯んだミネルバは爆発の魔力をエルザに放つがエルザはその魔力そのものを手にした薙刀で斬り裂いた。

 

「何!?……魔法を、いや空間をそのものを斬った!?」

 

「お前は私の大切な者を傷つけ過ぎた……」

 

「やめよ……妾は……妾は……!」

 

「報いを受けろ!!」

 

恐怖に支配されたミネルバは自分でも知らずに一歩また一歩と後退し、それを見たエルザが薙刀を構える。

 

天一神・星彩(なかがみ・せいさい)!!!」

 

「う……ああああっ!!」

 

エルザの強烈な一撃はミネルバの魔法的な防御を全て消し飛ばして肉体に直接ダメージを与えた。ミネルバはなすすべもなく地面を転がりながら吹き飛ばされた。ミネルバにはもう立ち上がる力も残っていなかった……

 

『エルザだぁ~!!セイバートゥースのリーダーのミネルバを圧倒!!5pt獲得!!トップのセイバートゥースに迫ってきたあ~!!』

 

「ば……ばかな……妾が……負け……た……」

 

「これが仲間を想う力だ……お前もいつか分かってくれる事を願っている……」

 

「この屈辱……忘れ……ん……」

 

そこまで言うとミネルバは意識を失った。どこか虚しさを感じつつエルザが踵を返すとそう離れていない場所で炎が舞っているのが見えた。

 

「ツナとカグラか……」

 

ジェラールを憎む少女……何故か彼女に会わなければならないと思いエルザは走り出した……

 

フェアリーテイル→58pt

 

 

 

 

 




エルザは原作のように怪我をしてないのでミネルバ相手に圧勝させました。


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誇りにかけて!!

更新スビードがあがらない……


 

-華灯宮メルクリアス

 

溶岩に落ちた体も癒えてないがアルカディオスは体の痛みなど感じていないかのような足取りで城内を歩いていた。しかしその姿はいつものものとは違い、真っ白な戦用の白き百合の鎧を身に付けていた。

 

当然ながら堂々と歩いていては兵士達に見つかるのは当たり前だった。だが反逆の容疑がかかっていてもその人望が厚い事とあまりにも堂々とした立ち振舞いに兵士達は手を出しあぐねていた……

 

「ア…アルカディオス大佐?何故ここに……あ…あなたには王国反逆罪の容疑が……」

 

「姫はどこに?」

 

「あ……いや……ですから……」

 

「どこにおられるのか?」

 

「最上階に……」

 

あまりの威圧感に兵士達は質問に答えて道を譲った。ガシャガシャと音をたてながら歩くアルカディオスは先程未来ルーシィが流した涙を思い出していた。

 

-あれは嘘をついている者の涙ではない……ならば嘘をついているのは……-

 

自分の仕えるべき主君の顔を脳裏に描きながらアルカディオスは最上階へと歩いていった……

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

「はぁ……はぁっ……」

 

「…………」

 

地面に片膝を付き愛刀を支えに肩で息をしているのはカグラ……その体にはかなりのダメージを受けている。

 

対するのは息一つ乱さずに無傷のツナ……ツナは悲しそうな瞳でカグラを見ている。

 

「……まだ続けるか?」

 

「はぁっ……無論だ!私はまだ負けたわけではない!!」

 

そう言ったカグラは飛び上がりながら自身に重力魔法をかけて落下のスピードを速める。

 

「不倶戴天!剛の型!!」

 

凄まじい勢いで落下してきたカグラを軽く躱すとそのあまりの威力に地面が割れる。体勢を崩したツナに追い討ちをかけるようにカグラは疾走する。

 

「不倶戴天!斬の型!!」

 

間合いを詰めながらの連続攻撃をツナは超直感で全てを読みきりグローブで弾いて捌く。

 

「はっ!!」

 

「がっ……!!ゴホッ!」

 

捌きながら反撃の機会を窺っていたツナはがら空きのボディに炎を纏った拳を叩き込んだ。カグラは思わずお腹を押さえて後ろに下がった。

 

『やはり強い!!フェアリーテイルのツナヨシ!マーメイドヒールのカグラを全くよせつけない!恐るべき強さだ~!!』

 

「ぐっ!強い……」

 

「カグラ……気付いてないのか?」

 

「な……何がだ?」

 

「今のお前は……ユキノと戦った時よりも弱くなっているぞ」

 

「なっ……!!」

 

「というより攻撃が雑だ……余計な事を考えているんじゃないのか?」

 

「……貴様が……貴様らがそれを言うのか!!」

 

叫びながらも斬りかかってくるカグラだが怒りに目を曇らせているためにより攻撃が読みやすくなってただの一撃すらツナには届かない。

 

それでもカグラは攻撃の手を緩めず鞘に納めたままの不倶戴天を振るい続ける……

 

「何故だ!何故貴様もエルザもジェラールを匿う!?奴が何をしたのか知っているのだろう!?」

 

「……確かに聞いている。俺がジェラールに会ったのも何日か前が初めてだがな」

 

「私は絶対にジェラールを許さん!必ず私の手でジェラールを殺す!!」

 

「怨みか……」

 

「そうだ!私はジェラールを殺す時にこの不倶戴天の刃を抜く!!言え!ジェラールの居場所を!!」

 

「ジェラールは贖罪の為に生きている。と言っても無駄だろうな……」

 

「当たり前だ!!私は許さん!!優しかった兄を……シモンを殺したジェラールを殺す!!」

 

カグラの降り下ろしの一撃を後ろに下がって避けたツナは視界の端に見慣れた人物がいることに気付いて動きを止める。

 

「エルザ……」

 

「お前がシモンの……妹?」

 

 

 

 

 

 

「くっ……グレイ……あの状態からここまで粘るとは……だがそろそろ魔力も持たんだろう?」

 

「ぜぇ……ぜぇ……まだまだいけるぜ……」

 

既にルーファスとの死闘を繰り広げたグレイは息も絶え絶えになりながらもその瞳には闘志を漲らせていた。

 

「ならばそろそろ決着をつけてやろう!そしてジュビアはラミアスケイルが頂くぞ!!」

 

「まだそんなこと言ってやがんのか……ならば尚更負けらんねぇな!!」

 

「行くぞ!アイスメイク……白竜(スノードラゴン)白虎(スノータイガー)大猿(エイプ)!!」

 

巨大な動物を三体同時に造形する。リオンの奥の手とも言える魔法を見てグレイは心の中で称賛する。

 

-流石はウルが認めた天才だ……こっちはもう魔力もあんまり残ってねえってのによ……けど負けらんねぇ!!ギルドの為にも!城で頑張ってる奴らの為にも!!-

 

「アイスメイク……限界突破(アンリミテッド)!!」

 

ものすごい速さで造形を繰り返し無数の剣を造形するグレイをリオンは冷静に見ていた。

 

「セイバーの奴を倒した造形か……面白い!勝負だ!」

 

「行くぜ!一斉乱舞!!」

 

無数の剣がリオンに向かって飛翔する。リオンは白竜に乗りながら白虎と大猿を操って剣を弾き飛ばしていく。全ての剣を弾き飛ばした時、白虎と大猿は崩れさっていた……

 

「防ぎきったぞ!!これで俺の勝……なんだと!!」

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

勝利宣言をする直前にリオンは自分の周囲の変化に気付いた。自分の周囲360度に氷の剣が浮かんでいた。それはさながら氷の剣による結界……グレイはリオンが攻撃を防いでる間も造形をし続けていたのだ。しかもまだまだ増え続けている。

 

「バカな!どこにそんな力が!?」

 

「限界を越えてこそのアンリミテッドだ!!くらいやがれ!!」

 

「ぐああああっ!!」

 

白竜だけでは360度からの攻撃には対応できずに無数の剣をその身に受けたリオンは凍りつきながら倒れる。……グレイはもう魔力は残っておらずその場に座り込みながらも高々と右手を突き上げる。

 

『兄弟弟子対決を制したのはグレイだぁ!!これでラミアスケイルも全滅です!これがかつて最強と呼ばれていたギルドの底力なのか!?トップのセイバートゥースとの差はあと1pt!』

 

フェアリーテイル→59p

 

 

 

 

 

 

カグラの言葉はエルザの胸に深く突き刺さった。シモンの妹……ならば彼女が真に怨むべきは……

 

「私達は貧しかったが……幸せだった……」

 

ツナとエルザはカグラの話を静かに聞いている。17年前の子供狩りから逃げ延びたカグラは何年も兄を探していた……そしてミリアーナに出会った。

 

「何年も奴隷として働かされジェラールに殺された……目の前が真っ暗になった……」

 

そして先程ツナにも話したようにジェラールを殺す時にこの刀を抜く決意を誓ったと締めくくった。エルザはそれを聞いて顔を伏せながら言葉を紡ぐ……

 

「あの場にいたのは私とジェラール、ナツとシモン……確かにシモンが死んだのはジェラールのせいかもしれん……だが殺したのはジェラールじゃない……私だ」

 

カグラは目を険しくして身体中を震わせながらもエルザに詰問する。

 

「そうまでしてジェラールをかばうつもりか?」

 

「いいや真実だ……私の弱さがシモンを殺したのだ……」

 

涙を流しながら告白するエルザに対してカグラは刀の柄に震えながら手を添える……刀を抜こうとする意志と抜いてはいけないという意志とが心の中で激しくせめぎ合っていた。

 

「カグラちゃん……ダメ……」

 

離れた場所で倒れているミリアーナがか細い声で止めるもカグラには届かない……マーメイドヒールの他のメンバーも応援席から大声で叫ぶがそれも聞こえない。

 

カグラは幼い頃の兄の姿を思い浮かべていた……優しい笑顔の兄の姿が黒く暗い想いに塗り潰されていく……

 

「ああああああああっっ!!」

 

「すまない」

 

エルザの謝罪の言葉を無視してカグラは刀を抜き、大上段から降り下ろす。鮮血が舞う……その衝撃はいくつもの建物を両断していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なっ!?」」

 

その驚愕はエルザとカグラのものだった。観客席も同様に全員が目を見開いていた……エルザとカグラの間に割ってはいったのはツナだった。その額からは衝撃波で切れたのか少し血が流れている。

 

「憎しみと怨みに支配されて剣筋が単調になっている……それなら…とれる!!」

 

死ぬ気の零地点突破・改、真剣白刃取り……かつて幻騎士と戦った時のようにツナは零地点突破の手の形でカグラの刀を受け止めていた。そのまま刀を通して魔力を吸収しはじめる。

 

「ぐううっ!!このっ!!」

 

何とかツナを振りほどいたカグラは刀を抜いたまま後方へと下がり間合いを空ける。

 

「エルザは下がってろ。ここは俺がやる」

 

「だがツナ……」

 

「カグラを見てみろ」

 

「おのれ……おのれ……おのれ!よくも邪魔を!!」

 

ツナに促されたエルザが見たのは怒りに顔を歪めながらツナに敵意を向けるカグラの姿。黒く淀んだ闘気がカグラを包んでいるかのように見えた……

 

「なんだあれは……」

 

「おそらく怨刀・不倶戴天がカグラの怨みを増幅しているんだろうな。普段のカグラはその強靭な心で不倶戴天を押さえているんだろうけど……」

 

「私の話を聞いたことで……?」

 

「心のバランスが崩れて狂気に支配されているんだ」

 

「救えるのか?ツナ……」

 

「救ってみせる!俺の誇りにかけて!!」

 

「誇りにかけてか……ならば任せたぞツナ!私はカグラに伝えたいことがある!!」

 

「ああ!!」

 

エルザが下がるのを確認したツナはカグラへと向き直る。カグラはツナへの呪詛を吐きながら刀に魔力を込めている……

 

それを見たツナは眉間に皺を寄せ、左の拳を顔の前に持って来て祈るように目を閉じる。そして目を開くとその左手を突き出し右手を後ろに持ってきて口を開く。

 

「オペレーション(イクス)

 

これに驚いたのはエルザだ。三日目の競技パートで見せた技を今のカグラに使ったらカグラの命が危ない。止めようとしたエルザだがツナのどこまでも真っ直ぐなオレンジ色の瞳を見て言葉を飲み込んだ。

 

「殺す……殺す!!貴様らもジェラールも纏めて殺す!!絶対に殺してやる!!」

 

「悲しいな……怨みを捨てろとは言わないけど今のあなたは怨みに振り回されている。だから……」

 

「死いぃぃぃねえぇぇぇぇ!!」

 

X BURNER(イクスバーナー)!!」

 

突進してくるカグラに対してツナが放ったイクスバーナーは瞬く間にカグラを飲み込んだ……

 

 

 

 

 

 

MPFをも消滅させる炎に包まれながらもカグラはだんだんハッキリしてきた意識と共に疑問を感じていた。

 

-!?この炎は私を燃やしてはいない……それどころか先程までの暗い気持ちが溶かされてゆくようだ……-

 

「必ず助ける!俺の……誇りにかけて!!」

 

-暖かい……まるで兄さんが側にいるみたいな不思議な感じがする……これがツナヨシ・サワダの炎-

 

暖かさと心地よさに身を委ねながらカグラは意識を手放した…………

 

 

 

 

 

 

 

 




大魔闘演武終了まであと2話かな?


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到達点

カグラ戦決着!そして最終局面へ……


 

 

-フェアリーテイル応援席

 

「おいおい!ツナの奴あんな攻撃して相手は大丈夫なのか!?」

 

ジェットの叫びはフェアリーテイル応援団の総意を代弁していた。あれほどの攻撃をくらってはカグラの命どころか跡形すら残っているか怪しい……

 

「ツナがそんな真似をするとは思えないけど……」

 

「もう!邪魔な煙だね!ちっとも見えやしない!」

 

リサーナとカナもカグラの安否が心配なのか目を凝らすが未だにカグラの姿は確認できない。会場は静まり返っている……

 

「みなさん心配いりませんよ。ツナはカグラを救う為にあの技を放ったのですから」

 

「救う……ですか?」

 

「ええ!すぐに分かりますよ」

 

メイビスの自信満々の声にフェアリーテイルメンバーは再びラクリマビジョンへと視線を向ける。すると煙が晴れて倒れているカグラの姿が映しだされた。

 

『これは!?カグラは意識を失っているようですが……無傷に見えます!ヤジマさん!これは……』

 

『フム……ツナヨシ君のあの技をくらってあの程度で済むわけないと思うがね……』

 

『どーなってるカボ!?』

 

『とにかくカグラが気絶した為フェアリーテイル、ツナヨシの勝利です!!これで5pt獲得!逆転!逆転!逆て~ん!!』

 

静まり返った会場から一転して大歓声が巻き起こった。フェアリーテイルの応援席は総立ちでツナに声援を送っている。

 

「とにかくやったぜ!逆転だぁ!!」

 

「カグラも無事みたいだしさすがはツナだぜ!!」

 

「ツナ兄!!すげぇぇ!!」

 

「それでこそ(おとこ)ぉぉっ!!」

 

「グレイ様もツナさんもスゴいです!!」

 

「見事ですな!!」

 

「ええ!さすがですね!!」

 

「でもあの炎を受けてどうして無傷なの?」

 

「確かに……MPFですら消滅する威力だ。対人用に押さえたとしてもあそこまで無事でいられるのだろうか?」

 

「ど~なってんだ?」

 

レビィの疑問にフリードとビッグスローも首を傾げている。

 

「フフ……ツナはカグラを倒す為にでなく救う為に攻撃したからですよ。私も生前に見たことがあります」

 

「どういうことですかな?」

 

「それはですね……」

 

メイビスが説明を始めるころにはツナとエルザはカグラの元へと歩みを進めていた。

 

フェアリーテイル→64pt

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

エルザは気を失っているカグラに膝を貸しながら死ぬ気モードを解いたツナに話しかけている。

 

「さすがに驚いたぞ。まさかX BURNERを使うとは思わなかったからな……」

 

「ハハハ……何の説明もしなかったからね。でもよく止めずにいてくれたね」

 

「お前の瞳はどこまでも真っ直ぐだったからな……カグラを救うという想いが伝わってきた。だが一体どうやって?何故カグラは無傷なんだ?」

 

「さっきのは大空の属性である調和の炎だけを放ったんだ。調和とはバランスが取れていて綻びがないということ。だから闇に堕ちかけた心を元に戻すことができたんだ」

 

「なるほどな……ところでツナ、お前が言っていたお前の誇りとは一体何なんだ?」

 

「俺の誇りは俺にとって何よりも譲れないもの……エルザやフェアリーテイルの仲間達のこと。仲間を守り、仲間が守りたいものを守るという決意のことだよ」

 

「本当にツナは強いな……」

 

「うっ……」

 

「カグラ!目が覚めたか!」

 

「私は……そうか……負けたのか……」

 

「まだゆっくりしていろ」

 

「何故私にそう優しくする?ジェラールを殺そうとしている私に……」

 

「それとは話は別だ。私はお前を知っている。いや思い出したと言うべきか……名前は知らなかったがな」

 

カグラはエルザの顔を見上げる。エルザの夕焼けのような赤い髪に昔の記憶が蘇る……

 

「ま……まさか……」

 

「そうだ……私もローズマリー村出身だ……シモンやお前と同じ……な」

 

17年前の子供狩りの時、炎に包まれるローズマリー村で大人達は次々に殺されて子供達は拐われてゆく光景の中幼いカグラは泣きながらはぐれた兄のシモンを必死で探していた……

 

その時自分より年上の一人の少女がカグラの手を引いて自分を隠してくれた。少女は自分は他に隠れる場所を探すと言ってその場を去る……

 

「生きて」

 

そう言って笑顔を浮かべた少女の髪の色は目の前の女性と瓜二つ……

 

「あ……あの時の……」

 

ボロボロと大粒の涙を流すカグラにエルザはあの時と同じような笑顔を浮かべる。

 

「シモンからはお前の話をよく聞いた。私もずっと気がかりだった。お前の無事を願っていた……今もな」

 

「私は……どうすればいいのだ?ジェラールを憎むのをやめればいいのか?」

 

「君がジェラールを憎むのは当然のことだと思う……だからそれを止めろなんて言えない」

 

「ツナ……」

 

「ツナヨシ・サワダ……」

 

「でもきっと君のお兄さんは復讐なんかじゃなく君の幸せを一番願っていると思うよ」

 

「それは間違いない。シモンは楽園の塔を出た私を8年間ずっと信じていてくれた……優しい男だ」

 

「……さっきの炎に包まれた時、兄さんが側にいるみたいな暖かさを感じた。その暖かさが闇に塗りつぶされた私の心を救ってくれた……エルザ……そなたはジェラールを許したのか?」

 

「ああ……すまない……」

 

「私はまだジェラールを許せない……許せる時が来るのかも分からない。だから教えてくれ。ジェラールの事を……そなたの想いを……」

 

「私も聞きたいよ……エルちゃん……」

 

「ミリアーナ……」

 

「話しなよエルザ。二人は憎しみに決着をつけたいんだと思うよ」

 

「分かった……」

 

そしてエルザは語りだした……ジェラールの豹変の真実、六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いの中での記憶を失ったジェラールとの再会とその捕縛、7年の眠りから覚めたエルザのジェラールとの邂逅、そして魔女の罪(クリムソルシエール)の存在意義……その間カグラとミリアーナは黙ってその話を聞いていた。

 

「……以上がジェラールの真実だ。そしてあいつは今もこの大会に潜むゼレフの魔力を調査している。私はそんなジェラールを応援したいと思っている」

 

「それがジェラールが己に課した贖罪か……」

 

「…………」

 

カグラは目を閉じてエルザの言葉を噛み締めている。ミリアーナはジェラールが操られていたことにショックを受けているようだ。

 

「すぐには心の整理はつきそうにない……ジェラールを前にしたら憎しみにかられてしまうかもしれない」

 

「当然だ」

 

「だが……少しは考えてみようと思う……だが!ジェラールがその道を違えるならば……」

 

「その時は私がジェラールを斬る!!」

 

エルザが迷いなくキッパリと宣言する。その心の強さにツナは感嘆し、カグラとミリアーナは驚愕する。

 

「フフ……強いな……エルザは、いやフェアリーテイルは……」

 

「ホントだね……」

 

「もう行け……そして絶対に優勝してみせろ」

 

「ガンバってねエルちゃん!ツナ!」

 

「そうだな……行こうツナ!」

 

「うん。残りはセイバートゥースのスティング一人だ。ギルドのみんなの為にも優勝しなくちゃね!」

 

ツナとエルザが走り去るのをカグラとミリアーナは見えなくなるまで見送っていた。

 

「エルザ……それにツナヨシか……」

 

「ツナの炎まともにくらってたけど大丈夫なの?」

 

「不思議なことにな……まるで兄さんみたいだった……」

 

「ニャッ!?全然似てないよ!!」

 

「そういう意味じゃない……」

 

「ところで解放された時私のマントに何か引っ付いて来たみたいなんだけど……」

 

「……動いているな」

 

ミネルバの異空間から解放された時についてきたものとは……?

 

 

 

 

 

 

 

「さっきエルザが話してた時に合図が上がってたんだ。多分スティングが俺達を呼んでるんだと思う」

 

ツナは先程暗くなりかけた空にセイバートゥースの紋章の形をした魔力が花火のように上がるのを確認していた。

 

「私達を一人で相手にするつもりか……」

 

「多分ラクサス達もあれを見てスティングの所に行こうとしてると思う。俺達も急ごう!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

会場がフェアリーテイルコールに沸き上がる中、フェアリーテイル応援席は緊張に包まれていた。フェアリーテイルの選手は全員が生き残っており、残る敵1人。しかし点差は僅か4点……

 

「な……なあ……」

 

「ああ……」

 

「後一人倒せば……」

 

「優勝……毎年最下位だった俺達が……」

 

特に7年間苦い思いをしてきたメンバー達は目に涙を浮かべながらラクリマビジョンから目を離さない。

 

『さあいよいよ……決着の刻!!フェアリーテイルがこのまま優勝してしまうのか!?点差は4点!スティングの大逆転があるのか!?』

 

「ラクサスとグレイとガジルはもうボロボロだね……」

 

「ツナとエルザはまだ元気みたいだけど……」

 

「うちのチームのリーダーがやられるとヤバイわね」

 

「逆に言えばリーダーさえ倒されなければ……」

 

「そうか!リーダーは最後に戦えばいいのか!」

 

「マスター、誰が5pt持ってるんですか?」

 

「それはワシにも分からん……ツナかエルザかラクサスだとは思うが……」

 

「ラクサスだったらマズイぜ!!」

 

「ラクサスが負けるわけがない!!」

 

「そうよ!負けないわ!!」

 

「雷神衆がついてるぜ!!」

 

「答えはすぐに出ます。今は彼らを見守りましょう……」

 

メイビスが締めた事によって再び静まり返りフェアリーテイル応援団はラクリマビジョンに目を向ける……

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス 上層階

 

「いよいよですな……」

 

「ええ、ここからですね。最後の勝負が始まります」

 

「はたして未来人の言うことは真実なのか……」

 

「見極めましょう。その結果がこの国の未来を決めます!」

 

ヒスイ姫とダートンは真剣な顔でラクリマビジョンを見つめるのだった……

 

 

 

 

 

 

-バトルフィールド

 

自らが決めた決戦場にスティングは待ちかまえていた。やはり最後に立ちはだかるのはフェアリーテイルの5人……誰一人脱落することなくこの最終局面まで残ったのは流石としかいえない。

 

一人……また一人と集まってくる。ラクサス、ガジル、グレイはボロボロの体を引き摺って現れ、最後にツナとエルザが走って来て全員が揃った。スティングは口を開く。

 

「壮観だねぇ。俺が7年前に憧れた魔導士ばかりだ……もっともツナヨシさんのことは知らなかったけど」

 

「御託はいい。これが最後の戦いだ」

 

「誰とやる?誰であってもお前が負けるのには変わりねぇぞ」

 

「ガジルさんもグレイさんも殆ど魔力も残ってないのに強気だねえ……」

 

「フェアリーテイルを嘗めんなよ。この程度じゃ俺らは止まらねぇぞ」

 

「嘗めるなんてとんでもないよラクサスさん……フェアリーテイルが強いのは身をもって知ってる。けどもう俺は負けない!」

 

「この状況で勝てると思っているのか?」

 

「勝つさ!俺はこの時を待っていたんだエルザさん!レクターに見せてやるんだ!俺の強さを!!」

 

「レクターに?」

 

「ああ!もう俺はツナヨシさんにも負けない!!レクターを失った絶望が俺を強くしたんだ!!想いの力を手に入れた俺は最強だ!!」

 

「……なら俺と戦おうか。点差は4点……俺を倒せば5点手にはいるよ」

 

そう言いながらツナが1歩前に出る。

 

「……?ならアンタは最後に出てきた方がいいんじゃないのか?アンタと後一人倒せばこっちの優勝確定だぜ?」

 

「勝てればね……みんな、いいかな?」

 

「異論はない」

 

「なら任せたぜ!ツナ!」

 

「ギヒッ!負けんじゃねぇぞ!」

 

「オメェが決めろ、ツナ……」

 

エルザが、グレイが、ガジルが、ラクサスが優勝をツナへ託した。その様子を見たスティングが歯軋りしながらツナを睨み付ける。

 

「ナメんなよ!今までの俺と同じと思ったら大間違いだぜ!!」

 

そう言うとスティングはドラゴンフォースを発動させる。その力はタッグマッチで見せたときよりも確かに力強さを感じる……

 

「エルザ……預かっていてくれ」

 

ツナはエルザにフェアリーリングとXグローブ、持っていたボックスを全て手渡した。エルザも驚くがツナが無意味にこんなことはしないのは分かってるので何も口を出さない。

 

「何の真似だ!?バカにしてんのか!?」

 

スティングは激昂するがツナは意に介さず目を閉じて語りかけるように口を開く。

 

「さっき言ってたね……絶望から生まれた力だと。なら希望から生まれる俺の力の全てを見せるよ……

 

 

 

 

 

 

 

……死ぬ気の到達点を」

 

そしてツナは目を見開いた……

 

 

 

 

 




長かった大魔闘演武編も次回いよいよ決着です!


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GLORIA!そして……

ここまで来るのは長かった……


 

-3年前 ボンゴレ本部

 

「はあっ……はっ……」

 

ボンゴレ本部の訓練場で手を膝について肩で息をしているのはボンゴレデーチモ沢田綱吉……

 

「少し休憩するか……」

 

そう言ったのは黒のスーツとボルサリーノの黒帽子を着こなしている2~3歳くらいの男の子……ボンゴレデーチモの相談役であり凄腕のヒットマンでもあるリボーンだった。

 

「はあ……なんだよ……妙に優しいじゃないか?いつもならダメツナがとか言って銃を撃ってくるくせに……」

 

「……自力でのハイパー化やヘッドフォンとコンタクトレンズ無しでのX BURNERを短時間でマスターしたオメェでもこれは難しいと思っただけだ」

 

「確かにね……自力での死ぬ気の到達点……できるかな?」

 

「こればっかりは分かんねぇな……死ぬ気弾はきっかけに過ぎねぇんだからあの時の気持ちを再現してみたらどうだ?」

 

「ずっとやってるよ……あの時はバミューダを倒す為に全身の細胞が死を覚悟した感じだったからそれを再現しようとしてるんだけど……」

 

「……はぁ、オメェは強くはなったが全然自分の事を分かってねーな。それじゃ失敗して当たり前だ」

 

「なんでだよ?」

 

「いーかツナ……オメェは俺が代理戦争を止めた時に言っただろ?仲間の為に死ぬ気になれない奴はボンゴレ10代目失格だと」

 

「よく覚えてるね……」

 

「オメェは自分の為じゃなく仲間の為に死ぬ気になる男だ。死ぬ気とは迷わないこと、悔いないこと、そして自分を信じること……初めてリングに炎を灯した時の気持ちを忘れるな」

 

「分かったよ」

 

「ただし……いくら到達点の境地が死を覚悟すると言っても仲間を守る為にお前が死ぬようなことは許さねーぞ!」

 

「すごく矛盾してるけどね……」

 

「だからオメェは新しい境地を見つけろ」

 

「新しい境地か……やってみるよ」

 

「じゃあ続けるぞ」

 

こうしてツナの特訓は続いた。厳しい特訓の末に死ぬ気の到達点に至った生徒を見てリボーンは誰にも見られないように誇らしげに笑っていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

「な……んだよ……これは……」

 

「死ぬ気で仲間を守り……仲間と共に歩む。究極の死ぬ気……これが死ぬ気の到達点」

 

ツナの身体中から死ぬ気の炎が爆発的に発生する。夜の帳の中でそこは真昼のように明るくなり、スティングはその力の圧力に身動き一つ取れなくなった……

 

『これは凄まじい!ツナヨシの全身から炎が吹き出している~!!』

 

『熱がここまで届いてるカボ!!』

 

『何という魔力……』

 

ラクサス達は凄まじい力を発揮するツナの後ろ姿を見ながらただ感嘆していた。

 

「こんな力を隠してやがったのか……ギルダーツのおっさんよりもはるかに上だな……」

 

「ああ……間違いなくフェアリーテイル最強だ」

 

「ギヒッ!いつか越えてみせるけどな!」

 

「強さだけじゃない……これほどの力なのに私達はスティングと違って全く恐怖を感じない……むしろ安心感がある」

 

ツナの圧倒的な力を感じながらもその力はフェアリーテイルメンバーにとっては包みこむような優しさを含んでいるように感じられた……

 

しかし対峙しているスティングは圧倒的な恐怖に襲われていた。スティング自身は新たな力を手にしてドラゴンフォースを発動しているにも関わらず全く勝てる気がしない。

 

「なんでだ……?なんでアンタは……いやアンタらフェアリーテイルはそんなに強い!?」

 

「……これがお前の言う想いの力だからだ」

 

「それなら俺だってある!レクターを想う気持ちはアンタ達にだって負けてねぇハズだ!!」

 

「ならば何故他のメンバーが全員やられるまで身を潜めていた?お前にとっては仲間じゃないのか?」

 

「他の奴らなんて関係ねーだろ!!」

 

「そうか……なら何も言うことはない……始めよう」

 

ツナはさらに炎を発生させてスティングを待ちかまえる。スティングは1歩ずつ足を進めようとするがその足は石になったように動かない……

 

-くそっ!なんで動かないんだよ!!これに勝たなきゃレクターは返してもらえないんだぞ!!なのに……-

 

「くそっ!……なんで!!」

 

「何もないからだ……お前には心が折れそうな時に支えてくれるものが何もない……」

 

「支え……」

 

「誰かと想い合うからこそ繋がれる……その繋がりが絆になる。そして絆を育むのがギルドだ。俺の後ろには信じてくれる仲間がいる!だから俺は戦える!!」

 

その言葉にふとスティングは自分の後ろを振り返った。当たり前だが誰もいない……セイバートゥースの他のメンバーは自分を信じているのだろうか?

 

いや、そんなわけがないのは自分でもよく分かっている。ユキノが辞めさせられた時は自分も含めて嘲笑っていた。ナツに負けた後はそれが自分に向けられた……

 

スティングはツナの後ろにいるエルザ達に目を向ける……一点の曇りもなくツナを信じているのが感じられた。彼らだけでなく応援しているフェアリーテイルのメンバー達もツナを信じているのだろう……

 

-これがギルド……これが想いの力……眩しいな……俺達は今まで何をしてきたんだろう……-

 

スティングはゆっくりと膝をついて顔を伏せる。その瞳からは涙がとめどなく流れている……

 

「勝て……ない……降参だ……」

 

スティングの敗北宣言と共にフェアリーテイルに1ptが追加された。

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル応援席

 

フェアリーテイルにポイントが追加されると7年間苦い思いをしてきたメンバー達は人目も憚らす泣き出して顔をぐちゃぐちゃにしている。天狼組も喜びに笑顔を見せている。

 

『決着!!大魔闘演武優勝は…フェアリーテイル!!!』

 

実況のチャパティが宣言すると静まり返っていた観客席からクロッカス全体を揺るがすような大歓声が巻き起こった。それと同時に色とりどりの花火が打ち上げられる……それを見ながらフェアリーテイル応援席は泣きながら抱き合って喜びに包まれていた。

 

7年間の低迷を経てフェアリーテイルが再びフィオーレ一のギルドに返り咲いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

自分の思った形ではなかったが決着がついたので死ぬ気の到達点を解除したツナは振り返ってメンバーの顔を見る。みんなが目標を達成したことで笑顔を見せている……

 

「そんなに疲れたのかよ?」

 

「あの技は出している間中炎をたくさん消費するからね……」

 

「そうか……何はともあれ目標は達成できたな!」

 

「ギヒッ!俺達がフィオーレ一だぜ!」

 

「ああ!だが厳しい戦いだったな……」

 

「まっ、これで7年間苦い思いをしてきた奴らに報いることが出来たな……」

 

『フェアリーテイル!フェアリーテイル!』

 

大勢の観客達が優勝を祝ってフェアリーテイルコールを続けている。応援席のメンバー達が泣きながら手を振っているのにみんなで応えるように拳を突き上げた。

 

……ガジルとラクサスまでもしているところを見ると二人とも相当嬉しかったようだ。

 

「ハハッ……本当に眩しいな……俺もアンタらみたいに仲間を大切にしてたらレクターを失うことはなかったのかな……?」

 

「スティング……今からでも遅くはないよ」

 

「でも……アンタらと向き合ってると何故かレクターに会えない気がした……」

 

「会えるよ……きっと……ほら!」

 

「エルちゃ~ん!ツナ~!!」

 

スティングがツナが示す先を見るとミリアーナが手を振りながら走ってきた。その腕に抱えられているのは見間違えるはずもない相棒の姿……

 

その姿を見たとき今までの悩みが全て吹き飛んでスティングは走り出した。

 

「レクター!レクター!!」

 

眠っていたレクターはスティングの声に目覚めてその姿を見つけるとミリアーナの腕から飛び出した。

 

「スティング君!スティング君!!」

 

二人とも泣きながら駆け寄って抱きしめ合う。その姿を見てツナ達は微笑んで顔を見合わせた……

 

未だに鳴りやまないフェアリーテイルコール……ラミアスケイルもマーメイドヒールもブルーペガサスもクワトロパピーもフェアリーテイルの優勝を讃えていた。だがフェアリーテイルの5人は浮かない顔をして向き合っていた。

 

「さて……後は……」

 

「城の方はどうなったんだ?」

 

「誰か合図の信号弾を見た者は?」

 

「ギヒッ!俺は見てねえな」

 

「どうやら誰も確認してねえみたいだな……」

 

5人共城の方角に目を向ける……ルーシィを助ける為に乗り込んでいるメンバー達があまりにも遅すぎるので不安がよぎる……

 

「今は待つしかあるまい……仮にナツ達が捕まっていたとしたら国王に謁見して頼むしかないな」

 

「そうだね……っ!!!」

 

「ツナ?」

 

「どうした?」

 

エルザとの会話の中で突然言葉を飲み込んで固まるツナに一同は訝しげな視線を向ける。ツナはエルザから装備を引ったくると手早く装着して額に炎を灯す。

 

「オイ!ツナ!」

 

「何を!?」

 

「説明している時間がない!!」

 

それだけ言うとツナは両手から炎を出して城に向かって飛び出した。残された4人は呆然と見送ることしかできなかった……

 

 

 

 

 

 

 

アルカディオスが最上階に到達して姫と大臣の姿を探すがそこは既に誰もいなかった。

 

「姫ー!!どちらにおられるのですかー!?まさか……既にあそこへ……?」

 

アルカディオスは再び姫を探しに部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

その頃ヒスイ姫はダートンを伴いながらある場所を目指していた。

 

「フェアリーテイルの最終日全員無敗とスティングの降参による決着……誰も予想できない未来を当てた。やはりあの方の仰っていた未来は……真実!!」

 

半信半疑だったダートンもこの結果を見て全面的に協力をすることを決めた。一つの結果で全体を判断するのは危険と分かっていたが助言者が未来から来たのは間違いない……ならば目前に迫る危機に対処しなければならない。

 

「準備を急ぎましょう。姫」

 

「ええ!観測所にも連絡しなくては……これより人類の存亡を掛けた戦いが始まります!!」

 

 

 

 

 

一方ナツ達は無限にわき出てくるのではないかと思えるほどの兵士達に囲まれていた……要所要所で餓狼騎士団が魔法を使ってくるせいで未だに突破できていない。

 

「火竜の翼撃!!」

 

「レグルスインパクト!!」

 

「んもう!しつこいわね!!」

 

「このままじゃ……」

 

「ドラゴンが来るのに間に合わないよ!!」

 

「くっ……戦闘フォームを維持出来なくなりそうだ!」

 

「何とかしなきゃ……」

 

「もうあんな未来は嫌……お願い通して!!」

 

ここにいる誰もが目の前に集中していた為に気付かなかった。兵士達に取り囲まれながらも必死で抵抗しているナツ達を包囲網の外から何者かがじっと見つめていた事を……

 

 

 

 

 

ツナは全速力で城を目指す。作戦を壊す事になってしまうが自身の超直感が最大の警鐘を鳴らしていたからだ。そしてツナはこの感覚に覚えがあった。かつてマフィア間の抗争の最中で何度も感じた嫌な予感……

 

「誰かが……死ぬ……!!」

 

ほどなくして城の裏手にたどり着いたツナは直感に従って走り出した……

 

 

 




大魔闘演武編終了です!結局ツナは到達点での戦闘をしませんでしたがいつか戦うと思います。

次回より竜王祭編です。これからも応援よろしくお願いいたします。


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竜王祭
もう一人の未来人


ものすごくお待たせしました!!竜王祭編もよろしくお願いいたします。


 

 

-バトルフィールド

 

大魔闘演武はフェアリーテイルの優勝で幕を閉じた……しかし観客達は未だに帰宅しようとせずにフェアリーテイルを讃えていた。

 

『初日のブーイングからは考えられないフェアリーテイルコールが未だに鳴りやみません!!かつての最強ギルド完全復活です!!』

 

『おめでとうマー坊……フェアリーテイル!』

 

『すごいカボ!最終日無敗なんて!』

 

『それとMVPは……フェアリーテイルのツナヨシ・サワダに決定しました!!初日のジュラとのバトルの勝利!MPFへの強烈な一撃!そして最終日の活躍が評価されました!!』

 

その発表にまたしても観客席から大歓声が上がった。観客達も予想通りといった感じで祝福している。

 

『……でもどっかに行っちゃったんだよな』

 

『城の方角だったカボ……(さっきからの呼び出しと何か関係あるカボ?)』

 

 

 

 

 

 

 

大会が終わったことで決勝を戦ったギルドは優勝したフェアリーテイルに惜しみない賞賛を贈っていた。

 

「やれやれ……分かっていた事だが強かったな……」

 

「あっさり負けちゃってゴメンね」

 

「まあシェリアは相手が悪かったからのう……それにしても見事じゃな……」

 

「大丈夫?カグラちゃん?」

 

「ああ。問題ない……フェアリーテイルか……よいギルドだな……」

 

「フェアリーテイルの諸君。優勝おめでとう」

 

「「「おめでとう!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

フェアリーテイルの戦いぶりはセイバートゥースにも良い意味で影響を与えていた。

 

「フェアリーテイルすごい!」

 

「そうだな……フロッシュ、俺は彼らのように仲間を大切にできる男になりたい……」

 

「フローもそう思う」

 

「我々も変わらなければいけない……」

 

「そうだな」

 

ローグとフロッシュの元へルーファスとオルガがやって来た。二人とも怪我をしているがその顔には笑顔を見せている……

 

「記憶とはすなわち学習……偉大な敵に学ぶことは恥ではない」

 

「やっぱ新しいマスターのスティングは頼りねぇ……俺達も盛り上げていかねぇとな」

 

「ああ……レクターも無事だったようだし俺達も前へ進もう……仲間と共に」

 

「フローもがんばる」

 

この日よりセイバートゥースはギルドとしての新たな一歩を踏み出したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

一方ツナが飛び去った後に残されたフェアリーテイルの4人は顔を見合せながら話し合いをしていた。

 

「あの野郎……作戦はどーすんだよ?」

 

「元々ツナが考えた作戦だけどな」

 

「だからこそその作戦を放棄してまで城へ向かったということは……」

 

「ナツ達に何かあったのを直感で感じたのかもな……どっちにしろマズイ状況じゃねえのか?」

 

「あの……さ」

 

難しい顔をしていた4人に遠慮がちにスティングが声をかける。

 

「何でナツさん出なかったの?あとツナヨシさんはどこに……?」

 

「何かあったんですか?二人に……」

 

その質問に答えることはできずに4人は城の方へ意識を向ける。全員が無事であるように願いながら……

 

 

 

 

 

 

華灯宮メルクリアス 下層

 

「取り囲め!!」

 

「一人も逃がすなよ!!」

 

ナツ達は通路を埋め尽くすほどの兵士達に囲まれながらも必死に抗い続けていた。

 

「くっそ!なんて数だ!!」

 

「きゃああああっ!!」

 

「ウェンディ!!」

 

餓狼騎士団のコスモスの食人植物に捕らえられたウェンディをリリーが大剣で植物を切り裂いて解放するが……

 

「しまった!体が……!」

 

リリーの魔力が戦闘モードを維持出来なくなるほど少なくなり元の小さな体に戻ってしまう……

 

「くっ!このままじゃ押しきられるよ!」

 

ロキはレグルスの光で敵を退けながら叫ぶが倒れた兵士達の後ろからさらに兵士達が押し寄せて来る。

 

「もうっ!しつこいわね!!」

 

「どうすれば……」

 

星の大河(エトワールフルーグ)を振るいながらルーシィは焦れたように呟く。未来ルーシィも自分が介入したことで変わった展開にどうすべきか行動しあぐねていた。

 

「諦めよ!罪人よ!!」

 

「もう終わりよ!!」

 

「ふざけんなぁっ!!」

 

カマとカミカの声に反応したナツが右手に大きな炎を宿して思いっきり叩きつける。その炎は兵士達を吹き飛ばして道を作るがすぐに後続の兵士達に塞がれてしまう。

 

「もう怒った!!処刑だ!!全員まとめて処刑だー!!」

 

終わりのない攻防にイライラが頂点に達したナツが叫びながら兵士達に飛びかかる。

 

「タイタイタ~イ」

 

「うわぁっ!!」

 

「また!?」

 

「させません!!」

 

「パンパーン……ジュワーッ」

 

ウオスケの重力帯に捕らえられて釣り上げられるハッピーとシャルルを助けようとコスモスから解放されたウェンディが飛び込むがネッパーに邪魔されてしまう……

 

時間だけが過ぎて行く中でさすがにナツ達も疲れが隠せなくなってきた……餓狼騎士団団長のカマがそう遠くないうちに勝利することを確信して兵士達に攻勢を強めるように指示を出そうとしたときにそれは起きた。

 

「うわぁっ!!」

 

「なにこれ!?」

 

「す……吸い込まれる!」

 

「タ……タ~イ」

 

兵士達の真ん中に現れた小さな黒い影がどんどん広がって巨大な影となって王国兵達を飲み込み始めた。

 

「た……助け……」

 

「これは一体!!」

 

「影に飲み込まれるっ!!」

 

「なんなのよ!これっ!!」

 

さらに広がっていく影は王国兵と餓狼騎士団の全員を飲み込んでいった。そして警戒するフェアリーテイルのメンバーを残して影は消え去った。

 

「な……んだこれ?」

 

「王国兵が全部影の中に……」

 

「消えちゃった……」

 

ナツ達は呆然とその光景を見ているしかできなかった……そしてその影の名残のような黒い煙の向こうに人影があるのを発見する。

 

「誰かいるぞ!!」

 

「気を付けろ!!」

 

その人影はゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。その風貌が明らかになる……

 

「お前……誰だ?」

 

ナツの問いかけにその人影は口元を歪ませた……

 

 

 

 

 

 

「くっ……急がなきゃいけないのに……」

 

ツナは王国兵が右往左往している通路を彼らに見つからないように急いでいた。潜入任務を得意としていた骸やクロームの霧の炎があれば……と思うが無い物ねだりをしても仕方がない。

 

見つかったらさらに時間を食ってしまうので慎重に急ぎながら先に進む。超直感の警報は強くなる一方だがその感覚が道を示してくれる。

 

ふと気付くと王国兵の人の流れが城の庭園へと向かっている。そこに見えたのは巨大な建造物……

 

「あれは……エクリプス?」

 

城内にあったはずのエクリプスが外に出されているということは使用するつもりなのだろう……だがそれを気にしている暇はない。

 

「みんな……無事でいてくれっ……!」

 

幸いにもエクリプスの方に兵士達が行ってしまったのでツナは再び走り出した。

 

 

 

 

 

-庭園

 

ツナが見たようにエクリプスは庭園へと移されていた。その場所には甲冑姿のヒスイ姫を筆頭に国防大臣のダートンと数多くな兵士達が集まっていた。そこに現れる一人の男……

 

「姫!!」

 

「アルカディオス様!ご無事でしたのね!!」

 

白き百合の鎧を身に纏ったアルカディオスがヒスイ姫に合流した。ダートンが言いにくそうに口を開く。

 

「大佐……奈落宮の件はその……私の一方的な偏見によるもので……」

 

「その件はもう忘れましょう……今ここにいる者達はエクリプス2の事を知っている者達ですか?」

 

「ええ……今全ての兵に情報共有させています。早く餓狼騎士団にも伝わるとよいのですが……あの未来から来た方の言葉は真実でした……よってエクリプス2計画を実行します」

 

「ゼレフ卿を倒す為の第一計画は破棄されるのですか?」

 

「いいえ……しかし今は目の前の危機を回避することが先決です。第一計画はこの危機を乗り越えた後に考えましょう」

 

姫の言葉を聞いたアルカディオスは覚悟を決めて腰につけている剣をゆっくりと抜いていく。そしてその切っ先を自分の喉に当てると剣をヒスイ姫に握らせる。

 

「えっ?」

 

「貴様!何を……」

 

「主を疑うなど騎士道にあってはならぬもの……あなたの言葉が真実だったならば私は命を捨てましょう……ですから本当の事を話して下さい」

 

「本当の事?」

 

「血迷ったか!?」

 

「私は姫の言う未来人と会いました……エクリプス2のことなど知りませんでした。ドラゴンの襲来は知っていましたが対処法がないと……自分の未来の為ではなく今を生きる仲間達の為に涙を流していました」

 

「いいえ!あの方は私にハッキリと対処法を告げました」

 

「ではその未来人が嘘をついていると!?それは考えられない!私には彼女が仲間を騙して得をすることは思い浮かばない!!」

 

「彼……女?」

 

「……?」

 

「私に未来を告げた方は……男性の方でした」

 

ヒスイ姫の思いがけない言葉にアルカディオスは目を見開いて絶句した……

 

 

 

 

 

 

-クロッカス近郊

 

「俺は……単純な事を見逃していた!くそっ!どうして気付かなかったんだ!!」

 

そう言うとジェラールは街へと走り出す。その後をウルティアとメルディは追いかけながら問いかける。

 

「いったいどうしたのよ!?」

 

「俺達が毎年感じていた魔力はエクリプスで間違いない!今年はそれが未来から来たルーシィだった。エクリプスというゼレフ書の魔法を使った為にゼレフに似た魔力が体に残留したんだ!!」

 

「それが……どうしたの?」

 

「ルーシィは3日の夜に来たと言っていた……ならば3日の夕刻のウェンディとシェリアとのバトルの時に感じた魔力は……」

 

「確かに!あの時も感じたわ!」

 

「どういうことなの!?まるで未来のルーシィがもう一人いるみたいじゃない!」

 

「そう!もう一人いたんだ!ルーシィとは別の……未来からの帰還者が!!ルーシィは仲間を救う為に!もう一人はいったい何の為に来た!?」

 

「急ぎましょう!!あまりエクリプスを使用して時の流れに干渉し過ぎれば時空そのものが歪んでしまうかもしれないわ!!」

 

「とりあえずナツ達に合流した方がいいわね!」

 

3人は全速で城を目指して走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

華灯宮メルクリアス 下層

 

ナツ達の前に現れた人影はゆっくりと歩み寄りながら姿を現した。

 

「影がのびる先は過去か未来か人の心か……懐かしいなナツ・ドラグニル……俺はここより先の未来から来た……ローグだ」

 

髪が伸びてその色は半分だけ白髪となり顔に刺青を刻んだその容貌は確かに月日の流れを感じさせるものだった……

 

 

 

 

 

 

 




展開を考えるのに時間がかかりました……


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悲しみを越えて

今回は早く仕上げました……しかしこの展開は書いてて鬱になります。


 

 

-華灯宮メルクリアス 下層

 

突如現れた未来から来たローグは餓狼騎士団と王国兵を一掃してナツ達に名乗りをあげた。だがその容貌は現在のローグとはかけ離れていた……

 

「ローグ?」

 

「セイバートゥースの?」

 

「あたし以外にも未来から来た人がいたなんて……」

 

「でも……何で?」

 

ハッピーの疑問にローグは口角をあげるとその疑問に答える為に口を開いた……

 

 

 

 

 

 

-庭園

 

ヒスイ姫が口にした情報提供者は男性との言葉に剣を自分の喉元に当てていたアルカディオスは自分が大きな勘違いをしていた事に気づいて困惑する。

 

「未来人は二人いた……一人はルーシィ。仲間へ危機を伝える為にやって来た」

 

「そしてもう一人は姫に危機を伝える為に……」

 

「二人とも目的は同じ……例え3人目4人目がいても驚くことではないでしょう。この国を救う為に来たのですから」

 

ヒスイ姫は諭すように告げるとアルカディオスが自身の首に向けた剣を受け取り、そして彼に返した。

 

「ですからあなたも騎士であるならばその剣先は向けるべき所へ……私は扉を開きます。この国を守る為に私も剣を抜きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス 下層

 

「王国兵達から僕らを助けてくれたのかい?」

 

「とにかくサンキューな!でも大分雰囲気変わったな!」

 

「未来から何しに来たの?」

 

「俺は……扉を開く為に来た」

 

「扉!?それってエクリプスの事!?」

 

「そうだ。エクリプスには2つの使い道がある……1つは時間移動。そしてもう1つがエクリプス・キャノン……これが一万のドラゴンを倒せる唯一無二の方法だ」

 

ローグの言葉にナツ達は希望を見出だしたように表情を明るくする。未来ルーシィはあの悲劇を回避できる方法が本当にあるのか信じられないようだ。

 

「じゃあさっさと扉を開けようぜ!」

 

「未来は救われるんですね!」

 

「これでドラゴンを倒せるんだね!!」

 

だがローグは話はそんなに単純ではないと告げる。そして自分のいた時代……7年後の未来はドラゴンによって支配されていて生き残っている人類は今の1割にも満たないと……

 

あまりにも酷い状況に絶句したナツ達はなんとしてでもドラゴンを倒さなければ認識する。

 

「今……ここでドラゴンを止めなくてはこの世界は終わるのだ……」

 

ローグの言葉にナツはひきつった笑みを浮かべながら反論する。

 

「だから扉を開けてぶっ放すんだろ!?」

 

「しかし7年前に……つまりこの時代に扉を開くのを邪魔をして世界を破滅に導いた者がいる……そのせいでエクリプス・キャノンは撃てなかった。俺はその者を抹殺すために来たんだ」

 

シャルルとリリーが事情を話してその者を止めれば殺す必要はないと説くが、ローグは耳を貸そうとしない。

 

「大きな時の接合点では言葉で行動を制御できない」

 

ローグの話では生きるものは生き、死ぬものは死ぬ。全ては運命によって決まっている……つまりその者は扉を絶対に閉める運命にあると告げた。

 

だからこそ殺すと……だがナツ達はその言葉には納得できない。ツナの話でパラレルワールドという存在を聞いていたからだ……

 

「で……いったい誰なんだ?扉を閉める奴って?」

 

「扉を閉めて世界を破滅に導いた者……それは……

 

 

 

 

 

 

 

……お前だ!ルーシィ・ハートフィリア!!!」

 

「え?」

 

「ルーシィ!!」

 

ローグの叫びと共に飛来した影が剣の形を成してルーシィに迫る。全員が虚をつかれて初動が遅れてしまいナツやロキが気づいた時には既に自分の横を通りすぎて迎撃が間に合わない。

 

「がはっ!!」

 

刃が勢いよく刺さる音と鮮血が舞う……そして振り返ったナツ達が目にしたのは刃に深く胸を刺されて口からは大量の血を吐き出して崩れ落ちる……未来の(・・・)ルーシィの姿だった。

 

あの一瞬で現在のルーシィを庇ったようだがその代償はあまりにも大きかった……

 

「ちょ……ちょっとアンタ!!」

 

「ルーシィー!!」

 

「ルーシィが二人!?どういうことだ!?」

 

倒れた未来のルーシィに駆け寄る現在のルーシィとハッピー。ナツや他の者は目の前の状況を信じられないのか呆然と立ち尽くしている……

 

「しっかりして!!」

 

「ルーシィ!!」

 

「あたし…扉なん…て…閉めて…ない……」

 

「分かってる!!でもなんで!?なんで自分を庇ったの!?」

 

「だって…この世界…のあたしは…アンタだ…から…今…みんなと…生きて…るの…はアンタだから……」

 

「だからって!お願い!死なないで!!」

 

「ウェンディ……回復魔法は?」

 

「………」

 

ウェンディがロキの問いに泣きながら首を振ることで答える。もはや手の施しようがない……

 

「もう二度と会えない…と思っ…てたみんなに…もう一度…会えただけで…幸せ…心残りは…ツナに……」

 

「みんな!!!」

 

未来のルーシィのか細い声が聞こえる中、通路に響く声にその場にいた全員が目を向ける……未来のルーシィは泣きながら笑顔になる……そこにいたのは今未来のルーシィが一番会いたかった相手だった。

 

「ツナ!!」

 

「ツナさん!早くルーシィさんの所へ!!」

 

「ルーシィが……二人!?」

 

「エクリプスで未来から来たんだ!」

 

「いいから早く行きなさい!!」

 

ロキとシャルルに急かされて駆け寄ったツナが見たのは大量の血を流して今にも事切れそうな未来のルーシィ……すぐさま傍らに膝をついて声をかける。

 

「しっかりして!ルーシィ!どうして君がこんな……」

 

「嬉し…い…最後に…あなたに…会えた……」

 

「最後なんて言うなよ!どうして君がこんな……」

 

「そうだよ!ルーシィ死なないでよ……」

 

泣きながらすがりつこうとするハッピーをナツが後ろから抱えて引き離す。文句を言おうと振り返ったハッピーはナツの顔を見て勢いを失う……そしてツナと二人のルーシィを泣きながら見る……

 

「あたし…はこの世界の…あたしじゃ…ない…から…この世界の…あたしは…あなた…達と生き…続ける…だから…悲しまないで……」

 

「悲しいよ!未来から来ても他の世界から来ても君はルーシィだ!悲しいに決まっているじゃないか!!」

 

その言葉に未来のルーシィは笑みを深める……そして現在のルーシィに顔を向ける。

 

「ねぇ…ギルドマーク…見せて……」

 

怪訝に思いながらも自分の右手の甲にあるマークを見せる現在のルーシィ。それを愛しそうに左手で触る未来のルーシィ……それを見てツナとルーシィは気付く。

 

「アンタ……右手……」

 

未来のルーシィの右手は失われていた……

 

「ツ…ナ…あなたと…もっと冒険した…かった……」

 

「ルーシィ!もっと一緒に冒険しよう!そうだ!大魔闘演武優勝したんだ!!たくさん依頼も入って来るようになるよ!だから……」

 

「おめ…でとう…おか…しいな…あなたの…顔…がよく…見えない……」

 

もう目も見えなくなったのか未来のルーシィは左手を彷徨わせる……その手をしっかりと握ってツナは自分の顔に導いた。

 

ツナの目から流れる涙がルーシィの手を濡らす。ナツ達もみんな涙を流しながらその姿を目に焼きつけていた……

 

「ツナ……あなたと…会え…て幸せ…だった……お…願い未来を…守っ……て…………」

 

未来のルーシィ手から力が抜ける……閉じられた瞳は二度と開くことはなかった……

 

「ルーシィー!!!」

 

ウェンディやハッピーは声を出して泣き……他の者も顔を俯かせて涙を流していた……そんな中冷たい声が響く。

 

「扉を閉めた自覚が無かったか……」

 

その声に全員が涙を拭う事なく睨み付ける。

 

「何が扉よ!あたしは絶対にそんなことはしない!なのになんで……」

 

「今はな!だが数時間後にお前は必ず扉を閉める!そう決まっているのだ!だからお前は死なねばならない!」

 

「未来のあたしが閉めないって言ったんだ!あたしはそれを信じる!!」

 

「お前の言葉に真実などない!運命によって全ては決まっているのだ!!」

 

「運命……?」

 

ローグの言葉に反応したツナが顔を俯かせたままゆっくりと立ち上がる……

 

「運命……そんなものの為にルーシィを……」

 

「これが世界の為だ!ツナヨシ・サワダ!」

 

「ふざけるなぁ!!」

 

顔をあげたツナが見せたのは押さえきれない憎しみ……ナツ達が見たこともないツナの表情だった。

 

「俺は……お前を許さない!!」

 

「くっ!!」

 

ツナの殺気に当てられて一歩後退するローグ……だがルーシィ殺害を諦める気はないのかその場に踏み留まる。

 

そのまま今にもローグに飛びかかろうとしたツナだったが頬に衝撃を受けて倒された……

 

「ツナ!!」

 

「ツナさん!!」

 

「何をするんだ!ナツ!!」

 

ロキの叫びにツナもみんなもナツを見る……泣きながらも怒っているようだ。ナツはツナの胸ぐらをつかんで叫ぶ……

 

「お前がそんな顔するんじゃねえよ!!お前が今しなきゃいけないのは未来のルーシィの敵討ちじゃねえ!!今のルーシィを守ることだろうが!!」

 

ツナは目を見開いてナツを呆然と見上げる……尚もナツは叫ぶ。

 

「ルーシィの未来を守る為にもお前は絶対にルーシィを守らなきゃなんねえんだぞ!!それが出来るのはお前しかいねえんだ!!」

 

「ナツ……」

 

「アイツは俺がやる!ツナ達はルーシィを連れて逃げてくれ!!」

 

「……分かった。頼むぞ!!」

 

ローグの前に立ちふさがったナツに諭されたツナは躊躇なくルーシィの手を引きながら離脱しようとする。他の者も同じように後に続く。

 

「ツナ!こっちは任せろ!そっちは頼むぞ!!」

 

「気を付けろ!ソイツかなり強いぞ!」

 

「ナツ!」

 

「ここはナツに任せよう!」

 

「狙われてるんだよ!!アイツから逃げなきゃ!」

 

「うん……」

 

ツナがルーシィの手を引き、最後尾をロキとウェンディが後ろを注意しながら走り出した。

 

「逃がすか!」

 

「りゃあ!!」

 

ナツを無視して後を追おうとしたローグをナツの炎を纏った拳が防ぐ。

 

「お前が立ちふさがるのは想定内だ。ドラゴンによって殺されるならこの場で俺が殺しても変わりはあるまい」

 

「お前そんな奴だったか?俺を倒してもツナがいる以上はルーシィには手を出せねえぞ!!」

 

「歳月は人を変えるのだ!今の俺ならツナヨシ・サワダにも勝てる!!お前はここで死ね!!ナツ・ドラグニル!!」

 

「お前は絶対にツナには勝てねえ……お前は俺達の目の前で大切な仲間を奪ったんだ……お前のやり方は信じねえ!俺達のやり方で未来を変えてみせる!!」

 

ナツは炎を纏いながらローグへと向かってゆく……そして開かれようとする扉……未来ルーシィの死は絶望への始まりだった……

 

 

 

 

 

 

 




未来ルーシィの生存をどうするかは迷いましたが……やはり原作通りになりました。


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開かれる扉

遅くなりました……少し体調を崩してました。


 

-華灯宮メルクリアス 下層

 

ツナ達は一丸となって城内を駆け抜けて行く。その間にツナは今までの出来事を聞き出していた。

 

「……なるほど。一万のドラゴンか……今そんなに生き残っているの?それだけいるなら今まで目撃情報とかありそうだけど」

 

「私は聞いたことないわ」

 

「私やナツさん、ガジルさんの親のドラゴンは777年の7月7日にいなくなっちゃいました」

 

「ちょうど日付が変わったら7月7日だね」

 

「何か関係があるのかしら?」

 

「ローグはルーシィが扉を閉めるって言ったんだよね。でも未来ルーシィはドラゴンが来た時牢屋で捕まっていた……」

 

「訳がわからないわ」

 

「さっきみんなを探して走ってる時に庭園にエクリプスが用意されてるのを見たんだ」

 

「ということは既にドラゴンの襲来に備えているってこと!?」

 

「おそらくはローグが教えたのか……」

 

「どのみちドラゴンに対抗するにはエクリプス・キャノンが必要ですよね?近くに行きませんか?」

 

「そうね!」

 

「…………」

 

「ツナ、どうしたんだ?」

 

なにやら考え込んでいたツナにリリーが怪訝に思いながら声をかける。

 

「いや……少し腑に落ちない点があってね。アイツの話をそこまで信用していいのかと思ったんだ。とはいえ確かにエクリプス・キャノンの近くに行った方が状況を把握しやすい」

 

「じゃあ行こう!」

 

「本当は信号弾を上げたいんですけど……」

 

「今は無理だよ。とにかく未来ルーシィの為にもオイラ達がドラゴンをなんとかしないと!」

 

「そうだねハッピー……ところでミラは?」

 

「はぐれたユキノさんを探しています」

 

「ミラなら平気か……とにかく行こう!」

 

エクリプスのすぐ側まで来ていたツナ達は兵士達に見つからないように身を隠す……同じ頃ミラジェーンは無事にユキノを発見して他者を不幸にすると膝を抱えるユキノを慈母のように優しく抱きしめて諭していた……

 

 

 

 

 

 

-庭園

 

あわただしく兵士達が行き交う中で遂にエクリプスの扉が開かれようとしていた。

 

「これよりドラゴン襲来に備えてエクリプス・キャノン発射シークエンスに移行します!開錠!!」

 

ヒスイ姫の号令によってエクリプスの扉の鍵が次々に外されていく。ツナ達は茂みに隠れながらその様子を眺めていた。そこにアルカディオスの声がかかる……

 

「隠れている必要はない。出てきなさい」

 

その言葉にツナ達は姿を現した。さっきまでいなかったツナの姿があったことにアルカディオス達は驚いていた。

 

「フェアリーテイル……」

 

「ツナヨシ・サワダ……いつの間に合流したのだ?」

 

「オイラ達悪い事してないぞ!」

 

「アンタが大臣と一緒にいるってことは……」

 

「色々と事情が変わったのです」

 

「それで済ませていい問題ではないと思いますけど?」

 

「そ……それはその……」

 

ツナの厳しい目付きの口撃に大臣はしどろもどろになって言葉を探す。身勝手な理由でルーシィを捕らえておきながら事情が変わったという理由で済ませようとする大臣には少しぐらい皮肉を言っても罰は当たらないだろう……

 

「あ……あの!後日正式に謝罪致しますのでなにとぞこの場は……」

 

「ツナ!とりあえずその話は置いておこう!今は……」

 

「ルーシィ人がよすぎるよ……もっとたっぷりと責任を追求しても文句を言われないよ」

 

「ツナさん……」

 

「アンタって意外と根にもつタイプなのね……」

 

重くなった空気を変えようとヒスイ姫が口を開く。

 

「あの!それと大魔闘演武優勝とツナヨシ様のMVP獲得おめでとうございます!!」

 

「ツナがMVP!?」

 

「すごいです!!」

 

「ありがとうございます……それよりまだドラゴンが来ていないのに何故扉を開いてるんです?」

 

「ドラゴンのことを……?」

 

「彼らも知っています……そういえば未来から来たルーシィ殿は?」

 

「……殺されたわ。もう一人の未来人に」

 

「「なっ!!?」」

 

「ソイツはあたしが扉を開くのを邪魔した為にエクリプス・キャノンが撃てなかったと言ったわ……」

 

「……?邪魔をするのですか?」

 

「そんなことはしません!ただどうしてドラゴンが来てないのに扉を開いてるんですか?」

 

「それは単純にドラゴンが来てからでは間に合わないからです」

 

「本当に……本当にドラゴンを全部倒せるんですか?」

 

「それは分かりません……一万頭いますから何匹かは逃れてしまうかもしれません。最悪の事態を想定して父……陛下が策を練っておられるはずです」

 

「君達も力を貸してもらいたい」

 

「この事態が収まった後には私に出来ることなら何でもしますのでこの緊急事態を乗り切る力を貸して下され」

 

「どうか私からもお願い致します」

 

王国の重鎮3人から頭を下げられてルーシィ達は困惑してツナを見る……ツナは大きく息を吐き出して3人に告げる。

 

「頭を上げて下さい……力は貸しますけどそれは未来を託して逝った未来のルーシィの為です。それでドラゴンはどこから来てるんですか?」

 

「まだ観測所からもその姿を確認したとの連絡はない。今のうちに準備を万端にしなければ……」

 

「ウェンディ……ドラゴンが近づいてきたら分かる?」

 

「あ……はい。他の人よりは……」

 

「少し考えをまとめたいんだ。近づいてきたら教えてくれる?」

 

「分かりました!」

 

「ツナ?」

 

「この話何かがおかしいんだ……それがなんなのか少し考えさせて」

 

「うん……でも未来のあたしは扉を閉めてないって言ったのになんでローグは……」

 

「それは多分未来のルーシィは扉を閉めてない未来から来てローグは閉めた未来から来たんじゃないかな?」

 

「そうなの!?ローグのいた未来ではあたしは扉を閉めるの!?」

 

「落ちついて……ローグの話を全て信じたならね……アイツの言うことを全面的には信じられない」

 

「そうですよ!!ルーシィさんが希望を消す訳がないですよ!!」

 

「ありがとう……」

 

-そう…ルーシィはそんなことをしないはず……ならば何故?そして扉を閉めてないにもかかわらず未来はドラゴンに滅ぼされる……エクリプス・キャノンは効かないのか?嫌な予感がする……-

 

ツナは考えれば考えるほど疑問が沸いてきて自分の考えをまとめる事に意識を費やしていった……

 

 

 

 

 

-クロッカス中央広場 リ・イン・クリスタル

 

大魔闘演武の表彰式すら行われないまま各ギルドはこの中央広場に集められた。いや、大魔闘演武の予選で敗退したギルドも含めてクロッカスにいた魔導士の全てが国王直々の願いで召集された。住民達は兵士達に先導されて避難を開始している。

 

そしてフィオーレ国王であるトーマ・E・フィオーレより語られたのはもうすぐ一万のドラゴンが襲ってくる為にこの国が存亡の危機にあるという信じがたい話だった……

 

「一万のドラゴンですと……」

 

「アクノロギア一頭でも歯が立たなかったのに……」

 

「あれは特別だとしても一万ってのはね……」

 

かつてアクノロギアに手も足も出ずに完敗したフェアリーテイル天狼組の表情は暗い……彼らはドラゴンの強さを骨身に刻み込まれている。

 

「今……城では一万のドラゴンを一掃する作戦の準備が進められている……じゃがそれだけの大群を全滅させることは出来ないと思われる。数頭かあるいは数百頭かどれだけの数が残るのか検討もつかない……」

 

数頭ならまだしも数百頭残るのならばここにいる魔導士達に死にに行けと言うようなものだ。しかし国王としてはこの国を守る為にも彼らの協力を得なくてはならない。

 

「魔導士ギルドの皆さん……どうか力を貸して欲しい。生き延びたドラゴンを倒して欲しい……この通りです」

 

だからこそ国王は頭を下げる……その心情を読みとった魔導士達はこの国の国民であることを誇りに思い、そしてその願いに応えた……

 

「おう!!」

 

「任せておけ!!」

 

「この国を守る為に!!」

 

「ドラゴンなんてぶっ倒してやる!!」

 

「気合入れていくぞ!!」

 

「「「「「オー!!!!」」」」」

 

荒々しくも頼もしい怒号が広場に響き渡る……魔法と共に歩んだこの国は魔導士達にとってかけがえのかい祖国であることがよく分かる光景だった……国王は自分はこの国の王で幸せだと感じながら涙を流す。

 

「私達の仲間が王国軍に捕らわれているのだが……」

 

「無事です。先程姫と合流したと報告が。ツナヨシ・サワダ殿も一緒とのことです」

 

「アイツ……いきなり飛んでいったと思ったら……」

 

「それほど心配だったのでしょう。それよりもグレイ様!今回はジュビアと共に戦いましょう!」

 

「フン……おもしれぇ!滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力を見せてやるぜ!」

 

「オメェだけにいいかっこはさせねえぜ」

 

「ガジルもラクサスも怪我が酷いじゃない。大丈夫なの?」

 

「俺達はラクサスのフォローだ」

 

「腕がなるぜ!でもエバはエルフマンと一緒だろ?」

 

「なんでよ!!」

 

「俺だってゴメンだ!!」

 

気合をいれる妖精の尻尾(フェアリーテイル)を筆頭に他のギルドもやる気十分だ。

 

「いいか!ドラゴンはメチャクチャ強いからな!仲間を信じて戦おうぜ!他のギルドとも協力しろよ!!」

 

「さすが新たなマスターだな。この短時間でみんなをまとめあげた……」

 

「悪くないね……ところで御嬢は?」

 

「さあな……試合後から姿が見えねえけど」

 

「ふっ……見ていろグレイ。試合では遅れをとったが今度は負けんぞ」

 

「これこれ……今度は勝負ではないぞ。お前達のコンビプレイを見せてやればよい」

 

「大怪我してる人ー!!今のうちに治療してあげるよー!!空気たくさん食べたから魔力は十分あるからね!」

 

「カグラちゃん怪我は?」

 

「いや、ツナヨシの攻撃は深刻なダメージにはなっていない……相当手加減されたようだな……」

 

「全てのギルドの意志が一つに……なんと素敵な香り(パルファム)……」

 

「今のうちにドラゴンについて調べておこう」

 

「頼んだぜヒビキ!あんまり無理すんじゃねーぞ」

 

「「「「ワイルド~」」」」

 

「カッカッカ……いい酒の肴だぜ!!」

 

剣咬の虎(セイバートゥース)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)人魚の踵(マーメイドヒール)青い天馬(ブルーペガサス)四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)その他のギルドもその心を一つにしてこの国難に立ち向かう。

 

その姿に感極まった国王は涙を流しながら何度もお礼を言う……

 

「みなさん……ありがとう……ありがとう……ありがとう…………カボ」

 

国王の語尾にざわめきがピタリと止まってみんなが目を点にしていた……

 

一方広場を見ていた評議員のラハールとドランバルトはエクリプスの存在が法に触れることを危惧していたがとりあえず目の前の危機を乗り越える為に魔導士達と協力して事に当たる事にした。

 

 

 

 

-メルクリアス下層

 

ナツは未来のローグに大苦戦していた。この時代ではローグを圧倒したナツだったが7年のハンデは大きく全くダメージを与えられない……

 

「フフ……かつては俺よりはるかに強かったというのに今となってはこの通りだ……」

 

「うるせえぞ!!」

 

「おっと!さっさとどけ!俺はこれ以上時間を無駄にしたくはない」

 

「ぐっ!テメェ本当に未来を救うために来たのか?お前からは邪悪な臭いがするぞ!」

 

それには答えずにローグは冷たい笑みを浮かべる……その頃庭園では遂に扉が開き始めた……

 

時刻は間もなく7月7日午前0時……

 

 

 

 




次回はいよいよ……


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未来を守る!!

会社で5人ほどインフルエンザで休みの人達がいました。みなさんもお気をつけください。


 

 

-中央広場 リ・イン・クリスタル

 

7月7日午前0時を告げる鐘の音がクロッカスに鳴り響く……中央広場を守備するフェアリーテイルの一同は既に戦闘準備を終えて雑談していた。他のギルドも既に街の要所に散らばっていた。

 

まるでミイラ男のような格好のガジルは親である鉄竜メタリカーナを思い出す……

 

「7月7日か……こんな日にドラゴンが現れるってのか……」

 

「ガジルやナツ達のドラゴンが消えた日……何か関係があるのかな?」

 

ガジルの隣に立っていたレビィもただの偶然で片付ける事は出来ないようだった。

 

大魔闘演武で怪我をしていたガジル、グレイ、ラクサスの3人はラミアスケイルのシェリアや王国のヒーラーの力で全快とはいかないが回復をしていた。

 

「けっこう静かですね……街の住民の避難は終わったのでしょうか?」

 

「まだ完全には終わってねえみたいだぜ……もっともドラゴンがどっから来るか分からねえからな」

 

「しかし一万のドラゴンか……そんなに生き残っているとは驚きだな」

 

「どこに潜んでいたのやら……」

 

「それにしても不気味な月だな……」

 

月蝕(エクリプス)か……」

 

フリードの言葉にラクサスは赤く染まった月を見上げた……

 

 

 

 

 

 

 

-華灯宮メルクリアス 下層

 

地上でエクリプスの扉が開いている音がここまで響いていた。戦いの最中のナツとローグはこの音に反応して動きを止める。

 

「エクリプスは開いたか……だが必ずルーシィは邪魔をする……扉を閉めると決まっている!」

 

「ルーシィはそんなことをしねえ!みんなの希望を打ち砕く訳がねえだろうが!!」

 

激しく打ち合いながらも徐々に押されていくナツ……ローグは大量の魔力を込めた一撃をナツに撃ち込んだ。

 

「があぁぁぁっ!!」

 

「俺はルーシィを殺しに行く……そこをどけ!!」

 

「させるかぁ!!」

 

吹き飛ばされたナツに追い打ちをかけようとするローグだがなんとかその攻撃を躱すとナツは切り札を切った……

 

「モード雷炎竜!!!」

 

「それが7年前に隠していた力か!!」

 

「雷炎竜の撃鉄!!」

 

ナツの一撃を腕に魔力を集めてガードするローグ……今度はさすがに手傷を負ったようだ。

 

「なるほど。大した力だ……ならばこちらも行くぞ!!モード白影竜!!」

 

「なにっ!!」

 

雷炎竜と白影竜の激突によって生まれた凄まじい衝撃が辺りの壁を崩壊させてゆく……だが同じ双属性であってもやはり7年の差は簡単には埋まらないようだ……

 

「がっ!!」

 

「これが光と影の双属性……」

 

まるで光のような速さで攻撃を加えるローグにナツはついていけない。さらには影と同化して姿を消してナツの死角に回り込む。

 

「死ね!!白影竜の(あしぎぬ)!!」

 

「ぐああああっ!!」

 

黒と白の魔力が無数の線となってナツの体を切り裂いた。あまりの速さにナツは防御すら出来ずに倒れ伏した……

 

「白……影……」

 

「スティングを殺して奪った力だ……もっともこの時代より少し先の話だがな」

 

「お前……スティングは相棒だろ……?何でそんな真似を……」

 

「スティングも喜んでいるさ……俺がこんなにも強くなる切っ掛けになれたのだからな!!」

 

「ふざけんな……!テメェそんなに命をなんとも思わねぇ奴だったのかよ……」

 

「そうだ。お前はさっさと死ね!白影竜のっ!!」

 

ブレスを放とうとしたローグだがいつの間にか自分の周囲にいくつもの水晶が浮かんでいるのに気づいた。女性の声が通路に響く……

 

「フラッシュフォワード!!」

 

浮かんだ水晶が一斉にローグへと飛来して爆発するがローグは影になって爆発の煙に紛れてこの場を去っていった……

 

駆けつけた女性は魔女の罪(クリムソルシエール)のウルティアとメルディだった……

 

「ナツ!しっかりしなさい!メルディ!応急薬を!」

 

「うん!……ルーシィ……」

 

メルディは未来のルーシィの遺体を痛ましげに見る……二人はナツの応急処置を施そうとするがナツの体が影に沈んでいく。

 

「ナツ!起きて!影に飲み込まれるわ!!」

 

「どうすれば……」

 

なんとか引っ張りあげようとする二人の肩を意識を取り戻したナツが掴む。その姿に二人はほっと息をつく……

 

「ありがとな……早く行かなきゃ……」

 

影から脱出したナツは傷だらけになりながらもその瞳には強い光を宿していた……

 

 

 

 

 

-庭園

 

「おおっ!見ろ!」

 

「扉が開くぞ!!」

 

「これが俺達の勝利への希望だ!!」

 

エクリプスの扉が開いているのを王国兵達は興奮しながら眺めている。そんな中でツナの超直感は扉に対して警鐘を鳴らしていた。

 

ツナは周囲を見渡すがドラゴンの気配もなければ嫌な予感もしない。いくらなんでも一万ものドラゴンが接近しているならば距離があっても自分の超直感が感じ取っていてもおかしくないはずだ。

 

-エクリプス……時を渡る……未来のルーシィと7年後のローグ……ドラゴン……ジルコニスの幽霊……四百年前……まさか!!-

 

最悪の答えが頭をよぎる……ルーシィのいた未来は扉を閉めてないにも関わらずドラゴンによって滅ぼされた。てっきりエクリプス・キャノンが効かなかったと思っていたが……

 

-まさか、扉を開いたままだからこそ滅ぼされた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)としたら……-

 

「扉を閉めるんだ!!」

 

その考えに至ったツナはヒスイ姫に駆け寄ると相手が姫であるにも関わらず大声で叫ぶ。

 

「えっ?で……出来ません!これはドラゴンに対抗する唯一の……」

 

「違う!そうじゃない!これは罠だ!!ルーシィなんとか扉を閉めるんだ!!」

 

「ちょっ!ツナ!?」

 

「いったいどういうことですか!?」

 

ヒスイ姫は一瞬ツナが何を言ってるか分からなかった。アルカディオスやダートン、フェアリーテイルの仲間達すら呆然としている中、ヒスイ姫の反論にさらに言葉を重ねる。

 

「落ち着け!姫の御前だぞ!罠とは何の事だ!?」

 

アルカディオスが姫を庇うように前へ出てツナに問う。ヒスイ姫も厳しく口を開く。

 

「今扉を閉じたらエクリプス・キャノンは撃てないのですよ!!」

 

「それも未来のローグからもたらされた情報でしょう!?奴はあなたにそう言うことで扉を開かせるのが目的だったんです!!」

 

「何を言ってるのです!?」

 

「あの扉は……っ!!」

 

その時轟音と共に大地が揺れる……ヒスイ姫はアルカディオスに支えられるが他の者達は体勢を崩してしまう。一度だけでなく規則的に何度も音と地震が起きる。そして誰もが気づいた……これは足音だと。

 

「こ……この気配は!?」

 

「遅かったか……」

 

「いったい何が起こっているというのだ!」

 

ウェンディが感じ取った気配にツナは自分の予想が当たっていたことを確信した。状況を把握しようとするアルカディオスにツナはエクリプスに指を指すことで応える。その場にいた全員がツナの指差す先を見る……

 

「あ……ああ……」

 

「そんな……」

 

「バカな!何故……」

 

「こんなことが……」

 

誰もが信じられない思いで扉から出てきたものを見ていた。扉を潜って現れたのは巨大なドラゴンだった……

 

「扉からドラゴンが!?」

 

「どうなってるの!?」

 

「グルルル……グオオオオオオオオォォォッ!!!」

 

ドラゴンの咆哮が衝撃波となって辺りにいた兵士達を吹き飛ばして石畳をひっぺがしていく。ただの雄叫びでこれだけの破壊力を生み出すドラゴンにその場にいる者は恐怖に震えている……

 

「マズイ!!」

 

ドラゴンが右手を振り上げるのを見たツナは後ろにいる人間の位置を把握して先頭に飛び出すと地面に手をつけてシェリアとのバトルの時より遥かに巨大な炎の壁を作り出した。

 

炎の絶対防壁(ブリンダ・アッソルート・ディ・フィアンマ)!!」

 

衝撃を受け流すようにツナを頂点として扇状に展開された炎はルーシィ達だけでなくこの場にいる兵士達も守ろうとしている……9代目より伝授された常に先頭に立つボンゴレのボスが仲間を守るために作る調和の属性を持った至高の防御壁だ。

 

ドラゴンの右手が地面に叩きつけられるとその衝撃が炎を食い破らんと襲いかかる。

 

「ぐっ……うううううっ!!」

 

「ツナ!!」

 

「ツナさん!!」

 

ツナは気を抜くと炎を突き破られると感じて衝撃に対してさらに炎を注ぎ込んで防壁を強化する。そのおかげで衝撃は炎の壁を滑るように後方へと抜けてゆく……

 

だが威力は多少減衰したもののその衝撃は街を走りズタズタに切り裂いた。街で配置についていた魔導士達もこの異変に緊張を高めていた。

 

なんとか攻撃を防ぎきったツナは炎の壁を消して片膝を地面につきながら肩で息をしている……

 

「ツナ!大丈夫!?」

 

「今回復を……」

 

「はあっ……はあっ……なんて重い攻撃なんだ……たった一撃でかなりの炎を持っていかれた……これが……ドラゴンの力!!」

 

あまりにも次元が違う力にその場にいる者達は戦慄する。ツナがいなければ一撃で全滅していたかもしれないのだ。……だがさらに悪夢は続いてゆく。

 

「もう一頭出てきたぞ!!」

 

「ぜ……全身が燃えている!!」

 

「おい!さらに出て来るぞ!!」

 

「どうなっているんだ!!」

 

様々なドラゴンが扉から出てくるのを見た者達は絶望する……兵士達は放心しているヒスイ姫に避難を促すが姫は自分の行動が世界を滅亡させる事にショックを受けて動けない……

 

「私は……なんてことを……」

 

「姫!!速くお下がりください!!」

 

呆然と膝をつくヒスイ姫に誰かの平手打ちが打たれる……あまりの予想外にアルカディオスも行動が遅れた。

 

「ツナ……ヨシ様?」

 

「貴様!姫の顔を!!」

 

「後で謝る!しっかりするんだ!まだ終わってない!扉はどうやって閉めるんだ!?答えて!!」

 

「あ……あそこの……台座で……」

 

ヒスイ姫が指差す先にはレバーが取り付けられた台座があった。ルーシィはそれを確認すると台座へと走り出した。

 

「あのレバーを引くのね!?星霊魔導士の力で……」

 

「ルーシィ急いで~!どんどん出てくるよ~!!」

 

「ツナさん!なんで気づいたんですか!?」

 

「……確証があった訳じゃない。最初におかしいと思ったのは未来のルーシィは牢屋にいて扉を閉めてないのにドラゴンに滅ぼされたと聞いた」

 

ウェンディは頷いて先を促す……

 

「一万ものドラゴンが生き残っていたなら目撃証言があってもおかしくない。だが地下のジルコニスの幽霊の話などからもう生き残っているドラゴンはそんなにいないんじゃないかと考えた……」

 

エクシード達もその話を思い出していた。アルカディオスもその話は立ち聞きしていたので頷いている。

 

「ならばどうやって一万のドラゴンが現れるのか……エクリプスしか考えられない!」

 

「そんな……」

 

ヒスイ姫が絶望の表情を浮かべる……そこでウェンディはあることに気づいた。

 

「待って下さい!!それじゃ未来のローグさんが言っていたのは……!」

 

「そうだ。ルーシィが扉を閉めた未来では一万のドラゴンは存在していないということ……そしてローグの目的はドラゴンを呼び込むことなんだ!」

 

話を聞いていた全員が驚愕する……そんなことに何の意味があるのか分からない。シャルルが金切声をあげる。

 

「何の為にそんなことをする必要があるのよ!?」

 

「それは俺にも分からない……ルーシィ!!」

 

「ぐぎぎぎぎっ……!!」

 

ルーシィは全体重をかけてレバーを引こうとするがびくともしない……そして扉からは新たにドラゴンが現れる。

 

「また出たぞ!!」

 

「今度は岩の塊みたいな竜だー!!」

 

「姫を守れー!!」

 

「私の……選択ミスで……世界が終わる……世界はドラゴンの怒りに染まる……」

 

ドラゴンの歩く揺れでルーシィは台座から転がり落ちてしまうがすぐに起き上がって泣きながらレバーを掴む。

 

「あたしはそんなの嫌!!もう一人のあたしの分まで生きるんだ!!泣いて……笑って……みんなで生きていくんだ!!」

 

「ルーシィ……」

 

「そうですよね!」

 

「オイラ達も同じだよ!」

 

「まだ未来は決まってないわ」

 

「ウム!」

 

ルーシィの叫びを聞いたフェアリーテイルのメンバーは同じ事を想う……地下でドラゴンの襲来に気づいたナツも同様だ。死に際の未来のルーシィが願ったことを叶えると……

 

「「「「「「「未来を守る!!」」」」」」」

 

 

 

 

 




ツナが色々と言いましたがやっぱり決め手は超直感ですね。本誌で読んでる方はあ、これ扉から出てくるなと思った方も多かったはずです。


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崩壊する街

いよいよドラゴンの登場です……


 

 

-庭園

 

「負傷者を下げろー!!」

 

「こんなのどうすりゃいいんだ!!」

 

「もうダメだ~!!」

 

「バカ野郎!!諦めるな!!」

 

兵士達の怒号が響き渡る……エクリプスから出て来るドラゴンをなんとか止めようと奮戦する兵士達だがドラゴン達は彼らを気にした様子もなく足止めにすらなっていない。

 

「ルーシィ!扉はまだ閉まらないの!?」

 

ハッピーの叫びを聞きながらもルーシィは答えることもなく全体重をかけてレバーを閉めようとしていた。

 

「こうなったら……扉を壊すか?」

 

「待て!ツナヨシ・サワダ!時空の扉が開いている時に扉を壊せば最悪の場合この時空……世界が崩壊するかもしれん!!」

 

炎を灯したツナの呟きを聞いていたアルカディオスが機先を制するように止める……それを聞いてツナは自分達が未来に行ったときにある装置の中に未来の自分達を封じ込められた事を思い出した。

 

同じ時代に二人の自分がいることはそれだけで時空の崩壊に繋がるかもしれないと入江正一が言っていた。今回はルーシィとローグの二人が同じ時間に存在していたことになる。

 

-もしかして……世界の崩壊の危機なのかもしれない……?-

 

「また出て来ました!!」

 

「このまま一万のドラゴンが出て来るなんて冗談じゃないわよ!!」

 

「何故扉は閉まらんのだ?」

 

「星霊魔導士の力が足りないのか……」

 

「わたくしがおります!!」

 

リリーの問いにアルカディオスが苦い顔をすると高い声が辺りに響く。

 

「ユキノ!!」

 

「ミラも!!」

 

振り返るとそこには走りよるユキノとミラジェーンの姿があった。ユキノは今までにない強い瞳を宿しながら足を止めずにルーシィへ言葉を紡ぐ。

 

「ルーシィ様!黄道十二門の鍵を出して下さい!十二の鍵を使って扉を封じます!!」

 

「星霊で!?分かった!!」

 

ユキノが自身の二つの鍵を放り投げる。続いてルーシィも十の鍵を放り投げた。鍵が1ヶ所に集まって円環が作られると眩しい金色の光が溢れだした。二人はその真下で膝をつくと掌を合わせて目を閉じて詠唱を始める……

 

「「黄道十二門の星霊達よ、悪しきものを封じる力を貸して!開け十二門の扉……ゾディアック!!」」

 

金色の光が二人に集まるとその周りに黄道十二門全ての星霊が召喚された。兵士達は全ての星霊が揃うのを見て感嘆の声をあげる……

 

「お願い」

 

ルーシィの祈りに応えて星霊達は一斉に飛び立った。そして両開きの扉の左右に陣取ると扉を閉めようと押し始めた。

 

この場にいる全ての者が見守る中で扉が閉まっていく……途中で新たなドラゴンが扉を潜ろうと両手を扉にかけたが星霊達は怯むことなく押し続ける。やがて新たなドラゴンは扉を潜ることなく扉は閉ざされた。

 

「閉じた!」

 

「やった~!」

 

「「「「「オオー!!やったぞ!!」」」」」

 

「待て!喜ぶのは早い!何頭出て来た!?」

 

「な……7頭です!!」

 

「くっ……」

 

喜びに沸く兵士達だがアルカディオスの怒声にまだ危機は去っていないと認識させられる。ツナもあの破壊力をもったドラゴンが7頭もいることでかなりまずいと思っていた。そこに怒りを滲ませた声が響く……

 

「やってくれたな……ルーシィ、ユキノ!」

 

「ローグ……様?」

 

「あんたは!ナツはどうしたの!?」

 

現れたのは未来のローグ……ユキノは初めて会うのでローグの変わりように戸惑っていた。

 

「正直一万は制御できんからな……むしろ都合が良かったかもしれん」

 

「何の話?」

 

「やっぱりお前の目的はドラゴンを呼び込むことか……ということはお前の世界には一万のドラゴンはいないんだな?」

 

「ほう……気付いていたか」

 

「そんな……」

 

「貴様が姫を騙したのか!!」

 

「まさかここまで簡単にいくとは思わなかったがな。世間知らずの王女で助かったと言うべきか……」

 

「おのれ……!!」

 

ローグの嘲るような言葉にアルカディオスは激昂する。ヒスイ姫は自分の浅はかさを悔やんだ……

 

録な検証もせずにローグの言葉を信じてしまった……いや大魔闘演武の結果が真実だったので疑うことすらしなかった。嘘に真実味を持たせるにはほんの一握りの真実を混ぜればいい。まんまと引っ掛かったヒスイ姫は絶望の涙を流し続ける……

 

「よく聞け愚民共。今より人の時代は終わりを告げる……これより始まるはドラゴンの時代」

 

両手を拡げて詠うように言葉を紡ぐローグにこの場にいる者達は戦慄する。

 

「手始めにこの街にいる魔導士達を皆殺しにしてこい!」

 

7頭のうち5頭が街へと散っていきローグは残った2頭のうちの1頭の掌に乗る。

 

「ドラゴンがアイツの言うことを聞いた!?」

 

「どういうことだ!?」

 

「さっき制御とか言ってたわ!!」

 

エクシード達が騒いでいるとローグは得意そうに種明かしをした。

 

「フフ……竜を支配する秘術……操竜魔法!!」

 

「竜を支配するって……」

 

「何が目的なの!?」

 

「7頭のドラゴンは奴の手足なのか……」

 

「こんなことに何のメリットが……」

 

「うるさい奴等だ……ここはお前に任せたぞ……ジルコニス」

 

「待ちなさい!!」

 

「ツナ!追う!?」

 

「いや……ナツは俺に任せろって言った。アイツはナツに任せよう!それよりも来るぞ!!」

 

ローグを乗せたドラゴンは街の方へと飛び立って行き、それと入れ替わるように緑色のドラゴンがツナ達の前に舞い降りてきた……

 

「アイツは!!」

 

「ドラゴンの墓で会った!!」

 

「翡翠の竜……ジルコニス!!」

 

「ガッハッハ……旨そうな人間がわんさかおるワイ!一人残らず食ってやるからのう!!」

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ!!」

 

「ドラゴンだ!!」

 

「体が燃えているぞ!!」

 

中央広場のフェアリーテイルの面々……その前には業火を纏ったドラゴンが降り立った。マカロフの号令と共に全員がドラゴンに向かってゆく。

 

「かかれー!!!」

 

「我が名はアトラスフレイム……貴様らに地獄の炎を見せてやろう!」

 

そう宣言したアトラスフレイムは口からブレスを吐き出す。ナツとは比べ物にならないほどの巨大な咆哮にフェアリーテイルの戦士達は一撃で吹き飛ばされる。

 

「「「「「うわぁぁぁっ!!!」」」」」

 

「換装!炎帝の鎧!!はっ!!」

 

その中で炎帝の鎧を纏って炎を軽減させたエルザが水の属性を持った剣で気合いと共に斬りつける……

 

「フンッ!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「エルザ!!」

 

「し……心配ない!」

 

アトラスフレイムの腕の一振りで簡単に吹き飛ばされたエルザだったが空中で体勢を立て直して着地する。

 

「全員怯むな!!守りに入ればやられるぞ!!」

 

「次々に攻撃を仕掛けるのじゃ!!」

 

ラクサスとマカロフの指示で再びメンバー達は攻撃を仕掛けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

フェアリーテイルとアトラスフレイムの激闘が始まった頃他のギルドもドラゴンと戦い始めていた。

 

「総攻撃だ!!生まれ変わったセイバートゥースの力を見せてやれ!!」

 

「ドラゴンを倒せー!!」

 

「一人で突っ込むなよ!お互いにフォローするんだ!」

 

「俺達ならやれる!!」

 

大きな一本の角を生やしたドラゴンにセイバートゥースは連携しながらかかっていく。大魔闘演武メンバーだけでなく他のメンバーもフェアリーテイルの戦いぶりに魅せられていた。

 

スティングが新たなマスターとして仲間を大切にするギルドにしたいとみんなに話した時全員が大歓声でそれを受け入れた。ギルドとして新たな一歩を踏み出したセイバートゥースだが……

 

「「「「「うわぁぁぁっ!!」」」」」

 

攻撃は全く通じずにドラゴンの戯れの一撃で大きなダメージを受けてしまう。スティングは直ちに号令を飛ばす。

 

「ちっ!負傷者を下げろ!仲間を守るんだ!……御嬢はどこ行ったんだよ!?貴重な戦力なのに!!」

 

「分からん……どこかで戦っていると思うんだが……だが今は仲間を守るのが先決だ!」

 

「ああ!滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力を見せてやろうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ラミアスケイル、マーメイドヒール、ブルーペガサスの連合は身体中が岩に包まれたようなドラゴンと対時していた。

 

「これがドラゴン……」

 

「全然攻撃が効かない……」

 

「このチームには滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいないよ!」

 

滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)ならいるがな」

 

「ゴメンね、全然効かないよ……」

 

ジュラ、カグラ、リオンといった実力者達がいるチームでもドラゴンに有効的な攻撃を与えることができない。シェリアの滅神魔法も同様だ……その時カグラが前に出る。

 

「どこか一ヶ所に攻撃を集中してみてはどうか?先ずは私が一太刀入れる!!はあっ!!」

 

言うが早いかカグラは飛び上がり不倶戴天を抜き放ってドラゴンの顔に降り下ろした。

 

だが、岩ごとき豆腐のように切り裂くはずのカグラの一撃はドラゴン体に傷一つつけることはできずに逆に一撃を喰らって吹き飛ばされた。

 

「カグラ殿!!」

 

「問題ない……危ない!!」

 

「いかんっ!!散れっ!!」

 

すぐに起き上がったカグラだがドラゴンが腕を振り上げるのを見てジュラに警告する。ジュラの指示でバラバラにその場から退避するメンバー達……

 

「メェ~ン……防御力を下げる香り(パルファム)を仕込んだが効果なしとは……」

 

「強すぎる……」

 

「ちっ!どんだけ強えんだよ!」

 

「しかも大きいくせに素早いよ!」

 

「お色気作戦とかは効果ないかしら?」

 

ドラゴンの後方の民家の屋根の上に避難したブルーペガサス主力メンバーだったが尻尾の一撃で民家が粉々に破壊される。

 

「メェ~ン!!」

 

一夜の独特な悲鳴と共に吹き飛ぶブルーペガサスの主力達……

 

「くっ!こんなに鱗が硬いとは……」

 

「人は……ドラゴンを倒せるものなのか……」

 

カグラとジュラでさえドラゴンの強さに戦慄する。そこにいる者達は人という小さな生物はドラゴンに勝てないのだろうかという考えに囚われてしまう……

 

 

 

 

 

 

 

金剛の体を持った竜……マザーグレアの背に乗ったローグは崩壊し、燃え盛るクロッカスの街を見下ろしながら高笑いをあげていた。

 

「ハーハッハッハ!!いいぞ!もっとだ!もっと暴れろ!!ドラゴンの怒りを見せてやれ!!」

 

街のあちこちで魔導士とドラゴンが戦っている光景を見ていたローグは一際高い建物の頂上に見知った人影を視認した。

 

「ナツ・ドラグニル……性懲りもなく……」

 

「ツナにコイツは俺に任せろって言っちまったからな……お前は俺が倒す!!」

 

ナツは先程の怪我をウルティアが纏っていたマントで止血しながらローグを睨み付けていた……

 

 

 

 

 

 

ツナはジルコニスを前にしながら考えていた……

 

-まずいな……スティングに使った死ぬ気の到達点とさっきの攻撃で炎が残り少ない-

 

死ぬ気の到達点は炎を無尽蔵に消費する大技だ。それを戦ってないとはいえスティングに使った事を一瞬後悔する。しかし炎が少なくともツナは立ち向かう……仲間と未来を守る為に……

 

 

 

 

 

 

 

 




スプリガン12とドラゴンならどちらが強いんでしょうか?ディマリアとかなら勝てそうですね……ワールは無理かも?


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人と魔と竜の宴

きりのいいとこまでと思っていたら過去最長の長さに!何故だ……


 

 

-クロッカス

 

ナツとローグが再び対時した頃、地上では魔導士達とドラゴンが激戦を繰り広げていた。しかしドラゴンに対して魔導士達は有効的なダメージを与えることができない……

 

「相手は炎のドラゴンだ!俺達の出番だぜジュビア!」

 

「はい!グレイ様!ジュビア達の愛の力を今こそ見せる時です!!」

 

「だぁ~!ツッコミてぇところだが……今はそんな場合じゃねえ!行くぜ!!」

 

グレイとジュビアは手を合わせて魔力を高めていく。

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

水流昇霞(ウォーターネブラ)!!」

 

氷欠泉(アイスゲイザー)!!」

 

ジュビアの放った水流が蛇のようにアトラスフレイム巻き付いた直後にグレイの力でアトラスフレイムの纏っている炎ごと凍りついた。

 

「よっしゃあ!!」

 

「やったぜベイビー!!」

 

エルフマンとビッグスローが炎ごと凍りついたアトラスフレイムを見て喝采をあげるが、ほんのわずかな時間で氷は溶かされてしまう。

 

「我が獄炎は全てを焼き尽くす!燃え尽きろ!!」

 

「させん!術式魔法……攻撃を無力化する!」

 

フリードが前に出て術式による防御壁を構築するもそれは一瞬で消し飛ばされた。

 

「くっ!なんだよ!アクノロギアと変わんねぇじゃねえか!!」

 

「あれよりはマシだ……」

 

「やはりそう簡単にはいきませんか……」

 

「なんの!こちらにもまだまだ奥の手はありますワイ……ふぬぅぅぅぅ!!」

 

巨人(ジャイアント)の魔法で巨大化していくマカロフを見て希望を見いだすフェアリーテイルのメンバー達。

 

「そうか!デカブツにはデカブツって訳だな!」

 

「行け~!マスター!!」

 

「ム……魔導士か!?」

 

「ただの魔導士じゃねえぞ!!家族の絆で結ばれた仲間達じゃ!!」

 

アトラスフレイムを見下ろすほど巨大になったマカロフが渾身の右拳を叩きつけた。

 

「ぬううぅぅっ!?」

 

だがアトラスフレイムにはダメージを与えられず逆にマカロフの右手が焼けただれてしまう。さらにアトラスフレイムの突進によって吹き飛ばされて巨人化も解除されてしまった。

 

「「「「マスター!!」」」」

 

「心配ない!ちょっと火傷しただけじゃ!」

 

「マスターの巨人化の一撃が効かねえなんて……」

 

「ドラゴンってのはみんなこんなに強ぇのかよ」

 

「皆!!怯むな!!」

 

「初代!アンタ天才軍師だろ!?なんか手はねえのかよ!?」

 

「あります。恐らく何人かはもう気付いているはずです」

 

グレイの質問に即答するメイビス。フェアリーテイルのメンバー達は固唾を飲んでその続きを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

フェアリーテイルのメンバーが激闘を繰り広げている頃他のギルドもドラゴンの強さに圧倒されていた。

 

「どうなってんだ!?全然攻撃が効かねぇぞ!」

 

「私の記憶ではスティングもローグも幼い頃にドラゴンを倒したと聞いたよ」

 

「……半分正解だ」

 

スティングの育ての親である白竜バイスロキアはスティングに力とドラゴンを殺したという実績を手にさせる為に自らを殺すようにスティングに申し付けた。スティングは泣く泣くバイスロキアをその手にかけた。

 

ローグの場合は病に苦しんでいた影竜スキアドラムの介錯をしたに過ぎない。

 

つまり二人とも実力でドラゴンを殺したという訳ではないのだ。本物のドラゴンの強さを目の当たりにした二人は改めてその強さを再認識していた。

 

「どうでもいいから滅竜魔法でやっつけろよ!!」

 

「分かっている!俺は……仲間を守りたい!」

 

「そうだな!行くぞローグ!!」

 

 

 

 

 

 

「行くぞ!アイスメイク……白竜(スノードラゴン)!!」

 

「そうか!ドラゴンにはドラゴンということか!!」

 

「まだだ!アイスメイク白虎(スノータイガー)大猿(エイプ)!!」

 

「3体同時に……」

 

「拝借する!カグラ殿!参ろう!!」

 

「承知!!」

 

「おっと!俺を忘れてもらっては困るな!!」

 

リオンが作り出した氷の動物に騎乗したのはジュラ、カグラ、リオンの3人。同時に岩石のドラゴンに向かって進んでゆく……ブルーペガサスのヒビキはアーカイブの魔法でドラゴンの弱点を探しながらこの攻撃に期待する。

 

「ジュラ、カグラ、リオンのトリプル攻撃!!これなら効果あるか!?」

 

「たとえこの刀が砕け折れようとも私は戦う!不倶戴天の刃をその身に刻め!!」

 

「その程度か!!」

 

「「「うわぁぁっ!!」」」

 

カグラの攻撃に合わせるようにジュラとリオンも攻撃する。だが3人の力を合わせた攻撃はドラゴンの岩の皮膚に傷つけることは叶わず跳ね返されてしまう。

 

「ここまでやって傷一つ入らねぇのかよ!?」

 

「あの3人の攻撃が全く通じないなんて……」

 

「ねえ!なんか弱点はないの!?」

 

「今調べてる……けどドラゴンに有効なのはやっぱり滅竜魔法しか……」

 

「無いものねだりをしていても仕方あるまい!もう一度仕掛けるぞ!」

 

「ああ!相手の意識の外から攻めるのだ!!」

 

「我が仲間のシェリアは回復魔法が使える!!負傷者は治療を受けよ!!」

 

主力の3人に引っ張られるように周りのメンバーも攻撃を加えていく……

 

 

 

 

 

 

一方ナツはマザーグレアの背中の上で未来ローグと戦っていたが7年のハンデは大きくナツは押されっぱなしだった。

 

「強ぇ……」

 

「もう何をしようと手遅れ……終わりだ」

 

「お前の目的は何なんだ!?」

 

「7年後……世界はドラゴンに支配されていると言ったな?しかしそれは扉からやって来たドラゴンではない。竜の王の名はアクノロギア……たった一頭のドラゴンに世界は支配されている」

 

ローグが言った名前にナツは驚愕する。アクノロギア……フェアリーテイルにとって忘れようもない名前だ。

 

「俺は竜を操る秘術を編み出したがアクノロギアには効かなかった。もはやアクノロギアを倒せるのはドラゴンだけだ!!」

 

「その為にドラゴンを呼んだのかよ!?」

 

「ふふ……アクノロギアさえ倒せば俺が竜の王になるのだ!支配する側にまわるんだ!ゾクゾクする!」

 

「結局お前は自分の為にこんなことしてるのかよ!そうはいかねえぞ!お前もドラゴン達も全員ぶっ倒す!!」

 

「無知な奴だ……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のくせにドラゴンの恐ろしさが分からないのか?」

 

「分かってるさ!嫌ってくらいにな!……ドラゴンの臭いは7人か!!」

 

「7頭いれば充分だ!世界を我が物に出来る!」

 

「お前は本当に運が悪い……」

 

ナツはニヤリと笑うと右腕に今まで以上の炎を集めだした……

 

 

 

 

 

破壊されるクロッカスの街を見ながらヒスイ姫の心の中は後悔に満ちていた……この惨状は自分の責任だという自責の念がヒスイ姫をこの場から動かさない。そして目の前にいるのは巨大なドラゴン……

 

「ガーハッハッ!ワシが怖いか人間共?」

 

「ドラゴンの墓場で会った時も思ったけど随分と人間を見下したドラゴンね」

 

「人間を食料としか見てないんだろうね」

 

「えっ?会ったことあるの?」

 

「ウェンディの魔法でね……向こうは知らないはずよ」

 

「そうなの?」

 

「それよりもどう戦うか……」

 

ツナとルーシィとミラが話していると突然空を飛んでいた竜の背中が爆発した……

 

『聞こえるかぁ!!!!滅竜魔法ならドラゴンを倒せる!!!!』

 

「ナツの声!」

 

「声大きいな……」

 

『ドラゴンは7人!!滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は6人しかいねえ!!けど!!今日……この日の為に俺達の魔法があるんだ!!今戦う為に滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいるんだ!!!』

 

クロッカス中に聞こえる大声でナツは叫ぶ。街にいるドラゴンスレイヤー達はその声に闘志を燃やしていく……

 

『他のみんなもなんとか一人抑えてくれ!!!俺達の誰かがドラゴンを倒して加勢に行くから!!行くぞぉ!!ドラゴン狩りだぁ!!!』

 

再び空のドラゴンの背中で爆発がおきる……ナツの声は戦う魔導士達に戦意を取り戻させていた。

 

「ガッハッハ……マザーグレアに乗っている奴が何かほざいているようだが人間風情が何をしようと無駄なこと!!……ほうマザーグレアめ始めおったか」

 

ジルコニスの声に視線をナツが乗っているドラゴンに向けるとものすごい数の何かを地上へと落としているところだった。

 

「あれはいったい……?」

 

「ふん!人間風情に教えることなどない!!」

 

「オイラ猫だよ!あれなに?」

 

「あれは卵だ。と言っても子供というわけではないがな……マザーグレアは体内で小型の一代限りの戦闘用の竜を作り出したのだ」

 

「小型のドラゴン……」

 

「ドラゴンスレイヤーが大型のドラゴンに集中して他のメンバーが小型の相手をすることになるだろうね」

 

「エルフマン……リサーナ……みんなどうか無事で……」

 

 

 

 

 

 

「デカブツは俺がやる!!お前らは小型を何とかしろ!!」

 

「雷神衆はラクサスの援護をするぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

「ナツの声を聞きましたね?ドラゴンを倒せるのはドラゴンスレイヤーだけです!ガジルは他のドラゴンを!!」

 

「おうよ!!」

 

「私達は小型をやるぞ!!続け!!」

 

「エルザに続け~!!」

 

「やってやろうじゃん!!」

 

「漢の花道作ってみせる!!」

 

 

 

 

 

「ローグ!ここは俺がやる!他のドラゴンへ!!ドラゴンスレイヤーのいないギルドを助けるんだ!!」

 

「分かった!!」

 

「ナツさんの声が俺に勇気をくれた!!ホーリーレイ!!……仲間を守る勇気を!!」

 

「ああ!感情のないセイバートゥースはもう終わりだ!俺達は前へ進む!!」

 

「小型は俺達で片付けるぞ!!」

 

「この戦いは勝利して記憶しなくてはならない」

 

「セイバートゥース全員突撃だ!!」

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

「ヒビキ殿!!この岩のドラゴンは我々で足止めすると他のギルドに連絡を!!……よろしいですな?カグラ殿、一夜殿」

 

「無論だ!人魚が時に竜をも喰らうことを証明してみせよう!!」

 

「素晴らしき絆の香り(パルファム)……我等ブルーペガサス、ラミアスケイル、マーメイドヒールの総力をあげてドラゴンを倒してみせようではないか」

 

 

 

 

 

 

 

「さて……ではそろそろ食事の時間だ!どいつから食ってやろうかのう」

 

ジルコニスはよだれを垂らしながら品定めするようにこの場にいるもの達を見渡している。それを見てウェンディは悲しそうに呟く……

 

「ジルコニス……私達と話したの覚えてないの?」

 

「しっかりしなさい!話したのは大昔に死んだ亡霊でしょうが!ここにドラゴンスレイヤーはアンタしかいないんだからね!!」

 

「でも……」

 

「シャルル……無理をさせなくていい。アイツは……俺がやる!ウェンディは下がっていろ」

 

ツナはハイパー化しながらシャルルに声をかけて先頭に立った。

 

「ツナさん……」

 

「ツナ!」

 

「なんじゃあお主は?まさか人間風情がワシとやろうってのか?」

 

「そうだ……死ぬ気でお前を倒す!」

 

「ガーハッハッ!!小僧……お前から食ってやろうか?ん~?」

 

「はっ!!」

 

「ぬ……!」

 

ツナはいきなり炎の推進力でジルコニスの喉元に飛び込んで炎を纏った拳を打ち込んだ。

 

「この!!」

 

腕を大きく振り回すジルコニスだがツナは冷静にジルコニスの腕の範囲外まで下がる……が腕が空振りした次の一瞬で再び突撃するとジルコニスに攻撃を仕掛ける。

 

ヒット&アウェイを繰り返しながら攻撃を仕掛けるツナにヒスイ姫や王国兵達は驚愕の視線を向けている。

 

「凄いぞ!ドラゴン相手に互角に戦っている!」

 

「あれがフェアリーテイルのツナヨシ・サワダ!」

 

「いいぞ!!頑張れ!!」

 

「ツナヨシ様……すごい……」

 

舞うように飛び回るツナを応援する王国兵達だがツナにはその応援に応える余裕もなかった。こちらの攻撃は当たっているのに効果があるようにはみえない……そして相手の一撃をまともに受ければそれだけで戦闘不能になるかもしれない……

 

「ちょこまかと鬱陶しいハエだ!!」

 

「くっ!奴の振るう腕の風圧だけで体勢が崩される!厄介な……!」

 

戦況を見守っていたフェアリーテイルのメンバーの中でそれに気付いたのはミラジェーンだった。

 

「……?いつもよりツナの動きが鈍い……?」

 

「えっ……そうですか?いつも通りものすごいスピードだと思いますけど?」

 

「ううん。いつもよりは確実に遅いわ……それに何か焦ってるみたい」

 

ミラの心配をよそにツナは攻撃を加え続けていく。だがジルコニスには全く効果がなく次第にジルコニスは苛立ちを募らせていた……

 

「いつまでも無駄なことを!!貴様の攻撃など蚊が刺したようなものでしかないわ!!」

 

「来たな!形態変化(カンビオ・フォルマ)!モードアタッコ!!」

 

ジルコニスが真っ正面から突っ込んで来るのを待っていたツナはナッツを一世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレプリーモ)に変化させて構える。

 

「バーニングアクセル!!」

 

「ぐおおおっ!!」

 

至近距離からツナが放った火球は油断していたジルコニスの顔面に直撃して爆発する。みんなが喝采の声をあげる中でミラは焦ったように叫ぶ。

 

「ジュラさんとの戦いの時より威力がないわ!!まさか……残りの魔力が少ないの!?」

 

「あっ!さっき炎の壁を作った時に……」

 

「そういえば試合後にすぐ私達の所に来たんだった!」

 

「でもまともに当たったよ?倒したんじゃないの?」

 

ハッピーの希望的な意見を裏切るようにジルコニスは煙の中から姿を現した。その顔は多少の跡があるものの深刻なダメージを受けたようには見えない……

 

「驚かせよってからに!少し痛かったぞ!!」

 

「……!ナッツ!!」

 

この一撃に賭けていたツナが乱れた息を整えていた所にジルコニスの腕が迫る。不意を突かれたツナは咄嗟にナッツを一世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレプリーモ)に変化させる。

 

「死ねっ!!ハエが!!」

 

「ぐうっ!!うわぁっ!!」

 

「「「ツナ(さん)!!!」」」

 

おもいっきり振り抜かれた一撃はマントの防御をものともせずにツナを吹き飛ばした。いくつもの城の城壁を壊しながらツナは城外まで飛ばされてしまう……

 

「そんな……ツナがやられちゃうなんて……」

 

「助けに行かないと!!」

 

「待ちなさいウェンディ!今はジルコニスを!」

 

「でもシャルル!」

 

「ドラゴンスレイヤーはあなただけなのよ!あなたがここで抜けたらみんなやられるわよ!!」

 

「それにツナはあの程度で死にはしないぞ」

 

エクシード達の言葉にツナを追おうとしたウェンディは立ち止まる。ミラとルーシィも同様だ。

 

「ガッハッハッ……さて邪魔なハエも片付いたし食事を始めようかのう」

 

ジルコニスは目を怪しく輝かせながら再びその場にいる人間達を見渡した……と思ったら口を大きく開いて桃色の光線を王国兵達に放った。王国兵達は悲鳴と共に煙に包まれる。

 

「ああっ!!兵士達が!!」

 

「なんて酷い……」

 

「言ってることとやってることが全然違うじゃない!!」

 

「グフフ……よく見ろ」

 

「煙の向こうに人影があるわ!無事だったみたい……ってえええっ!!!」

 

ルーシィは驚きと共に固まった。他のメンバーも同様に目を見開いて顔を赤らめている。なんと攻撃を喰らった兵士達が来ていた甲冑やさらには衣服だけが消し飛んで一糸纏わぬ姿と化していた……

 

「フフ……服は不味いのだ」

 

「だからって普通やる!?」

 

「な……なんて酷い光景なの」

 

兵士達は自分の格好に気付いて大騒ぎになっていた。

 

「なんで服が!?」

 

「退却だ!裸じゃ戦えねぇ!!」

 

「恥ずかしいー!!」

 

「姫……ご無事ですか?」

 

「な……なんと破廉恥な……」

 

「ええ……大丈……キャッ!!」

 

「だ……大臣!!」

 

「なぬっ!!」

 

アルカディオスの問いに返事をするヒスイ姫だったが目の前にいる大臣の服も消し飛んでいた……

 

「ん~よく考えたら男は不味いんだよな~なのでワシは女を食うぞ!!」

 

「今の……魔法ですか?」

 

ウェンディが睨み付けるような目をしながらジルコニスに問いかけた。ジルコニスは心底愉快と思いながら返答する。

 

「そうだ。竜族は皆魔法が使える。ワシの魔法はな……」

 

「きゃああああっ!!!」

 

そう言うとジルコニスは桃色の光線をルーシィに向けた。先程の兵士達同様に服や髪留めも全て消し飛んでしまい、ルーシィは必死に手で身体を隠そうと座り込んでしまう……

 

「人間の尊厳をなくす魔法だ」

 

「許しません!あなたは私が倒します!!」

 

「ちょっと!それより服!誰か服~!!」

 

「ガーハッハッ!!お嬢ちゃんがワシを倒す?こやつを食うまでに出来るかな?」

 

ウェンディが憤慨するもそれを鼻で嗤ったジルコニスはルーシィを食べようとその手を伸ばした。パニック中のルーシィはなすすべもなく捕まろうとしたが割って入った人影がルーシィを抱えてその手から逃れた。

 

「ぬ!?」

 

「「ツナ(さん)!!」」

 

「大丈夫か?ルーシィ?」

 

「うん!ありがとうツナって……きゃああっ!!」

 

ルーシィを救ったのは先程吹き飛ばされたツナだった。頭から血を流しているが無事だったようだ。星霊の鍵も一緒に拾っていた。ミラとウェンディは歓喜の声をあげ、ルーシィも助けてくれたお礼を言おうとするが自分の格好を思い出して悲鳴をあげる。

 

「貴様!また邪魔をしおって!!」

 

「ルーシィ!しっかり掴まれ!!」

 

「ええっ!この格好で!?」

 

ツナはルーシィを抱えながら片手の炎で縦横無尽に動き回ってジルコニスから逃げ回る。ルーシィは振り落とされないようにしっかりと掴まっているが裸で抱きついている為顔が真っ赤だ。

 

「行かせません!!」

 

「ルーシィ!いつまでもツナに見せないで!」

 

「あたしのせいじゃないです!!」

 

「今のうちに……」

 

シャルルに抱えられたウェンディとサタンソウルで変身したミラが立ちふさがってジルコニスの足止めをしているうちにツナはルーシィを抱えて崩れた壁の向こうに隠れると星霊の鍵を渡す。

 

「ルーシィ!バルゴか誰かに服を持って来てもらうんだ!俺は行くから!」

 

「あっ!ちょっとツナ!もう!何よ!」

 

ルーシィを置いて再びジルコニスの元へ向かうツナだったが色々見られたのに平然としていたツナに釈然としない思いをしながらバルゴを呼び出すのだった……

 

さっきから食事の邪魔をされてばかりのジルコニスは相当に怒っていた。

 

「どいつもこいつも邪魔をしおって!!お嬢ちゃん……邪魔をするならお主から食うぞ!!」

 

「させません!私の魔法はあなたを倒す魔法です!!天竜の……咆哮!!」

 

ウェンディの放った咆哮はジルコニスを掠めて後ろの方へ外れてしまう。それを見たジルコニスは馬鹿笑いをしていた。

 

「ガーハッハッ!!威勢はいいがお嬢ちゃん外しとるぞい!!」

 

「いいえ!大当りです!!」

 

「何ぃ~?」

 

「……ありがとう。ウェンディ」

 

「ん~?」

 

ジルコニスが振り返るとそこにはツナの姿。その手は零地点突破・改の形が作られている。最初からウェンディはツナに吸収させるつもりで咆哮を放っていたのだった。

 

「これで……全力で戦える!!」

 

ツナの額と手の炎が激しく燃え盛った……

 

 

 

 




次回はジルコニス戦決着の予定です!


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XX!!

明らかになるツナの新しい力……そしてあの技を出します!


 

 

-クロッカス

 

零地点突破・改によりウェンディの魔力を取り込んだツナは困惑していた。明らかにウェンディの魔力と死ぬ気の炎の費用対効果の割合が死ぬ気の炎の方がはるかに多かったからだ。

 

-ナツとラクサスの時も思ったけど滅竜魔法と相性がいいのか?1:5……いやそれ以上だ-

 

さらには体内で暖かい何かを感じたが今はそれを気にしている場合ではないと思い直してジルコニスと対峙する。

 

「全力で戦える……?それじゃあ何か?今までは全力じゃあなかったとでも言うんか?」

 

「そうだ」

 

ジルコニスの問いに簡潔に答えるツナにジルコニスは再び怒りのボルテージをあげていく……

 

「調子に乗るなよ小僧!!人間ごときがドラゴンと対等なつもりか!?」

 

「お前は人間の力をバカにし過ぎだ……やるぞナッツ!!形態変化(カンビオ・フォルマ)!モード妖精(フェアリー)!!」

 

空中でツナとナッツの姿が重なってフェアリーテイルの紋章が現れる……眩しい光に包まれるツナに誰もが目を背ける。

 

そして光が消えた後にそこにいた者達は驚愕する……ツナのグローブは形を変えより攻撃的な形になっていて足にも炎を纏っているブーツがある。さらに特に目を引いたのが背中から生えているように見える炎の翼……

 

「すごいです……」

 

「綺麗……」

 

「あれがツナヨシ様……?」

 

「まるで天使の羽?それとも妖精の羽?」

 

ウェンディもユキノもヒスイ姫もミラジェーンもその場にいた女性陣は幻想的なツナの姿に見惚れていた。

 

「姿形がちょっと変わったくらいで調子にのってんじゃねえぞ!!」

 

ジルコニスは空中にいるツナに向かって飛ぶ……爪で引き裂こうとしたジルコニスだが直前でツナの姿を見失う。

 

「ぬ!?どこへ行きおった!?」

 

「ここだ」

 

「何……ぐはぁっ!!」

 

突然顔の横に現れたツナに殴りつけられたジルコニスの巨体が吹き飛ばされる……

 

「小僧!!」

 

「遅い!超高速(イクス)カノン!!」

 

「ぐ……おおおおっっ!!」

 

ツナの掌から放たれた炎が三条の光線のようにジルコニスに迫るが危険を感じたジルコニスはその巨大な両腕でガードする。

 

ジルコニスは目の前の敵がドラゴンスレイヤーよりも危険な存在だと認識する。

 

「小僧……確かに貴様は人間にしては強い……だが貴様の攻撃はワシに致命傷を与えるものではない……つまりはどうやってもワシには勝てんということだ!!」

 

ツナは納得する……ジルコニスの自信に溢れたタフさを考えるとジルコニスの言う通り生半可な攻撃では致命傷を与えることは出来ないだろう……

 

-ならば最強の一撃をもって倒すしかない!!-

 

空中なら周りに被害を与える心配もない。問題はどうやって隙を作るかだ……向かって来るジルコニスを前にツナはそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

ラハールとドランバルトは連れてきていた評議員の部隊を率いて小型竜達と戦っていた。小型竜自体は倒せない相手ではないが口から吐くレーザーは厄介だった。

 

「一人で相手をするな!複数で当たれ!!」

 

「数が多すぎるな!」

 

「ああ!だが大型のドラゴンを攻撃しても効果がない……小型竜の数を可能な限り減らすんだ」

 

背中合わせになりながら戦う二人だがあまりの数の多さに少し押されぎみになっていた。

 

「おい!危ないぞ!!」

 

ドランバルトが大声を出したのは突出した一部隊が大量の小型竜に囲まれていたからだ。助けに行こうにもこちらも敵と向き合っていた。既に口に光が溜まっている。

 

「7つの星に裁かれよ……七星剣(グラン・シャリオ)!!」

 

天空から光が流星のように降り注ぎ小型竜を殲滅した。その魔法を放った術者を見てラハールとドランバルトは驚愕する。

 

「今の魔法は……」

 

「貴様は……ジェラール!!」

 

「おいおい……脱獄犯がこんなとこで何やってんだ?」

 

「……今は竜の殲滅が急務だ」

 

「どうする。ドランバルト?」

 

「今は捕まえてる暇はねぇな……」

 

「いいのか?」

 

「元聖十なだけあって強さは折り紙付きだからな。ドラゴンと戦うならば今は見逃そう」

 

「確かにそうだが……とは言え大型のドラゴンには通用しないだろうな。やはりドラゴンスレイヤーでなければ……」

 

「もう一人だけドラゴンスレイヤーに心当りがある……お前達も知っているはずだ」

 

「何だと!…………まさかアイツか!?」

 

「なるほどな……俺が連れてくるか」

 

「正気かドランバルト!?そんなことをしたら……」

 

「ただでさえドラゴンスレイヤーの方が数が少ないんだ。安心しろ責任は俺が取る」

 

「……分かった。但し責任は折半だ」

 

「真面目な奴だな……じゃあジェラール。見逃す代わりにキッチリと仕事しろよ」

 

「心得た」

 

ジェラールは小型竜が集まっている方へ、ドランバルトは瞬間移動で姿を消した。残されたラハールは溜め息をつきながら指示を出す為に動き出す。

 

「まさか奴の力を借りることになるとはな……六魔将軍(オラシオンセイス)の毒竜のコブラ……この状況ならばしかたないが首で済めばいいが……」

 

 

 

 

 

 

「ううっ……酷い目にあったわ……」

 

バルゴに持って来てもらった星霊界の服に着替えたルーシィがミラ達に合流した時、ツナとジルコニスは激しい空中戦を繰り広げていた。

 

まるで瞬間移動してるようなツナの動きにはついていけないジルコニスは守りを固めてツナが疲れるのを待っている。かといって大技を放とうとすると邪魔をしてくるためにツナは攻めあぐねていた……

 

-このまま攻撃を続けても勝てると思うが……時間が掛かりすぎる上に他に6頭もいる。やはりあの技を決めるしかない!!-

 

ツナがそう考えている時地上でも動き出そうとする少女達がいた。ミラがツナが大技を出すチャンスを伺っていると気付いたからだ。

 

「ツナは多分X BURNER(イクスバーナー)みたいな大技を狙ってるんじゃないかと思うわ」

 

「でも向こうも警戒してるみたいです……」

 

「あたし達で時間を稼ごう!!」

 

「はい!」

 

「でもウェンディはともかく私やルーシィの攻撃はあまり通用しそうにないわね」

 

「じゃあどうしたら……」

 

「……相手にダメージを与えるのではなく少しでも隙を作ればいいのではないか?」

 

「リリーの案でいきましょう。ハッピー、シャルル、リリーも手伝ってちょうだい」

 

「あいさ~!!」

 

「ま、仕方ないわね」

 

「うむ。任せておけ」

 

「じゃあ作戦ね。まずは……」

 

一方ツナは機会を伺っていた。ほんの10秒でいいから集中する時間が欲しいと考えながら牽制の攻撃を加えている。

 

一か八か少し離れて技の準備をするかと考えるが万が一離れた時に眼下の仲間達の元へ向かうことを考えるとあまり大きく距離を取ることはできなかった。そこへサタンソウルで変身したミラが飛んでくる。

 

「イビルエクスプロージョン!!」

 

「む?」

 

「ミラ!?」

 

ミラの掌から放たれた魔力はジルコニスにぶつかると爆発を起こして粉塵がその巨体を覆う。さらにハッピーに運ばれたルーシィも飛んで来た。

 

「開け!白羊宮の扉!アリエス!!」

 

「モコモコですみません~」

 

「なんじゃあ!?」

 

「ルーシィ!?」

 

ルーシィに掴まりながらアリエスが産み出したピンク色の泡がジルコニスを包み込んだ。視界を完全に封じ込めらたジルコニスは慌てている。

 

「ルーシィ……二人は重いよ~」

 

「すみません~」

 

「もう少しがんばって!リリー!ロキ!お願い!」

 

「了解!頼むよリリー!!」

 

「任せろ!!」

 

地上で呼び出していたロキを掴みながらリリーが空を駆ける……二人は泡に包まれているジルコニスの真上で停止する。

 

「こんなものでワシが倒せるか!!!」

 

怒りの咆哮と共にまとわりついていた泡を吹き飛ばしたジルコニスの真上の死角からリリーとロキが迫る。

 

「今だ!!ロキ!!」

 

「レグルス!インパクト!!」

 

ジルコニスの顔面の至近距離で眩しい光が発生する。ロキはあくまで衝撃よりも光を強く発動させていた。

 

「ぎゃあ~!!目が!!目がぁぁぁっ!!」

 

「目が良すぎるのも困りものだね……ウェンディ!!後は任せたよ!!」

 

「はい!天竜の……翼撃!!」

 

「ぬ!ぐぐぐぅぅぅっ!!」

 

空中でのたうち回っているジルコニスにウェンディの攻撃を避けられるわけもなくジルコニスは風に呑まれて離れていった。一連の流れを呆然と見ていたツナは仲間達の声で我に返る……

 

「私達が出来るのはここまでです!」

 

「後は任せたわ!ツナ!……あ、アリエス、ロキ、戻っていいわよ」

 

「すみません~がんばって下さい~」

 

「後は任せたよ」

 

「やっちゃえ~ツナ~!!」

 

「しっかり決めなさいよ!!」

 

「行け!!ツナ!!」

 

「決めちゃって!!ツナ!!」

 

「ありがとうみんな!オペレーション……」

 

仲間達に笑顔を浮かべるとツナは背中の炎の翼を最大限に広げて両腕を胸の前でクロスさせる。

 

XX(ダブルイクス)!!」

 

クロスさせたままの両腕を前に突き出して構えを取るツナ……その掌には今までにないほどの炎が集まっていくのが仲間達には感じられた。

 

X BURNER(イクスバーナー)!?」

 

「違うわ!ウェンディ!!あれは……」

 

「両手撃ち!?」

 

「そんなことしたら自分も吹き飛ばされるんじゃないの!?」

 

「いえ……ツナの翼を良く見て!あの翼から反対方向に炎が噴出してるわ!!あれで体を支えているのよ!!」

 

ツナが広げた翼からは後方へ広範囲に柔の炎が噴出されていた為に以前よりバランスが取りやすい状態だ。ジルコニスは視力が回復してきたのか辺りを見渡してツナが大技を放とうとするのを見つけた。

 

「人間共がワシに楯突きおって!!」

 

発動前に潰そうと高速でツナに向かうジルコニスだがそれは致命的に遅かった……

 

「……決めてみせる!XX BURNER(ダブルイクスバーナー)!!」

 

ツナの両手から放たれた炎はナッツの力も込めているのかその姿を形取る……MPFの時の一撃よりもはるかに力強いその一撃は狙い違わずジルコニスに直撃した……

 

 

 

 

 

 

「何度向かって来ようと7年の力の差は埋まらん……俺は大魔闘演武の時よりはるかに強くなった」

 

「それでも!誰も諦めてねぇ!!みんなの力があれば出来ない事なんてねぇんだ!!」

 

ナツはひたすらに攻撃を加えているがローグは時に光のようなスピードで、時に影に同化して攻撃を躱していた。

 

「そろそろ現実を見たらどうだ?ドラゴンスレイヤーであっても真のドラゴンには……何事だ!!」

 

「爆発!?……あの炎の色は!!」

 

もはや勝利を確信していたローグは突如起こった大爆発と闇を照らす光に驚愕する……ナツはその爆発を見ながらその炎の色を確認してニヤリと口角をあげた。

 

クロッカスの街の全域を照らすようなオレンジの光と爆発の音に竜も人もクロッカスにいるもの全ての視線が集まった……

 

「な!何だと!?そ……そんな馬鹿な!!」

 

「へへっ!さすがだな!!」

 

爆発の中心部から真っ逆さまに落下する巨大な質量が大きな音をたてて地面に衝突するとその正体が明らかになった……

 

7頭のドラゴンの内の1頭……ジルコニスがピクリとも動かずに横たわっていた。それを見たローグは狼狽し、ナツは歓喜と悔しさの混じった笑みを浮かべる。そして息を大きく吸い込む……

 

「ツナがドラゴンを一人倒したぞぉぉっ!!」

 

ナツは再びクロッカス中に響くような大声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 




ジルコニス編決着です!次の標的は……


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人類の反撃

岩のドラゴンに勝手に名前を付けてしまいました。名前分からなかったので……


-クロッカス

 

『ツナがドラゴンを一人倒したぞぉぉっ!!』

 

このナツの叫びはクロッカスの街中に響き、戦いの真っ只中にある魔導士達全員に伝わった……中でも驚いたのはドラゴンスレイヤー達。滅竜の魔法を持っている彼らでさえあまりダメージを与えられていない……

 

「へへっ!!やっぱりツナは強ぇな!!」

 

「アイツに差をつけられっぱなしじゃ癪に障るな!!」

 

「ギヒッ!俺も負けてらんねえぜ!!」

 

「マジかよツナヨシさん……すげぇ!!」

 

「ツナヨシ・サワダ……さすがだな」

 

「「「「「俺も続くぞ!!」」」」」

 

ウェンディを除いたドラゴンスレイヤーはツナの勝利に闘志を漲らせてそれぞれの敵へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと!!ツナがやりおったのか!?」

 

「さすがはツナ!まさに大空を継ぐ者ですね!」

 

「まさかドラゴンまで倒すなんて……ツナ兄すげぇ!!」

 

「すげぇ奴だぜほんとによ……俺達も負けてらんねえな!!」

 

「ええ!グレイ様!!ツナさんに負けないよう私達もがんばりましょう!!」

 

「やはり漢の中の漢だ!!」

 

「私達も負けてはいられんぞ!!フェアリーテイル!!ツナに続くのだ!!」

 

「「「「「「おう!!!」」」」」」

 

小型竜を無数の剣で串刺しにしながら号令するエルザに続いてフェアリーテイルのメンバー達は小型竜の群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんと!ツナヨシ殿が!!」

 

「倒したというのか!ドラゴンを!!」

 

「なんという男だ……」

 

「ニャ~!ツナすご~い!」

 

「ほんとにすごいね~」

 

「なんという強さ……まさに真のイケメン!」

 

「さすがだね……僕達も負けてはいられない!」

 

「ツナ君は強いけど私達にもやれることがあるわ!」

 

ラミアスケイル、マーメイドヒール、ブルーペガサス連合もツナの勝利が戦意を高揚させていた。

 

「皆の者!!ツナヨシ殿が証明してくれた!!人はドラゴンを倒す事が出来ると!!」

 

「彼のようには出来ないかもしれん!!しかし力を合わせれば必ず勝利への道が開かれる!!」

 

「今こそ全ての力を合わせる時!!恐れを捨てて共に戦おうではないか!!」

 

「「「「「「おう!!!」」」」」」

 

各ギルドのリーダーの声にメンバー達は岩の竜に対してこれまで以上の猛攻を加え始めた……

 

他の場所でもツナの勝利が魔導士達に勇気と闘志を与え、押されていた戦況は盛り返し始めた。

 

 

 

 

 

 

「ナッツお疲れ様。しばらく休んでていいよ」

 

「ガルル……」

 

地上に戻って形態変化(カンビオ・フォルマ)を解除したツナは自身の周りをフラフラと飛んでいたナッツを労うとボックスに戻した。

 

ふとジルコニスを見るとピクリとも動かないが一応生きてはいるようだ。これなら意識が戻っても何も出来ないだろう……

 

「ふう……」

 

「ツナ!やったわね!」

 

「ありがとう。みんなのおかげだよ」

 

「すごい一撃でした!」

 

「残りは後6頭ね……みんな無事だといいけど」

 

「ナツがみんなに知らせてたからね~みんな気合入ってるんじゃない?」

 

「魔導士はみんな血の気が多そうだしね」

 

「次はどう行動するのだ?」

 

リリーの問いに次の行動を思案していたツナにヒスイ姫とアルカディオス、ユキノが近寄って来た。

 

「ツナヨシ様……フェアリーテイルの皆様……」

 

「見事な戦いだった」

 

「お疲れ様です。皆様力になれず申し訳ありません」

 

「ヒスイ姫……まだ避難なさっていなかったのですか?」

 

「我々も進言したのだがな……」

 

「私のせいでっ……このような事態になったというのに避難など出来ません!……ですが私には何も……出来なくて……あなた達に頼ることしか……」

 

泣きながら顔を伏せるヒスイ姫に一同は気遣わしげな目を向けるが慰めの言葉が出てこない……その中でツナは優しげに微笑みながら声をかける。

 

「何も出来ないなんてそんなことありませんよ。あなたはここにいるということをしてるじゃないですか」

 

「えっ……」

 

「この状況であなたが避難せずにここにいる……安全面から考えると悪手としか言えませんが……戦う兵士達はあなたのその姿に勇気付けられている……」

 

「ですが……私は……」

 

「……今のあなたは何を言っても避難しないでしょう。ならばあなたがやらなければいけないことはその涙を拭いて顔をあげる事です」

 

「ツナヨシ様……」

 

「あなたは毅然とした態度で堂々と兵士達の後ろで立っていて下さい……それが兵士達の力になる。それが今あなたがやる事……やらなければならない事です」

 

「……分かりました。それが今私のやるべき事……ドラゴンの事はお任せしてもよろしいですか?」

 

「勿論です。ね?みんな」

 

「そうよ!あたし達はフェアリーテイルなんだから!」

 

「こんな事慣れっこです!!」

 

「確かにいつものことね……」

 

「アイ!」

 

「やれやれね……」

 

「ま、仕方あるまい」

 

ツナに賛同するフェアリーテイルメンバー達……ヒスイ姫やユキノはそれを眩しいものを見るような瞳と笑顔で見つめていた……

 

「さあ!まだ終わってない!ここからは別れて動こう!まずルーシィとハッピーはナツの援護に!但し下手に手は出さない事!危ない時に助けてあげて」

 

「分かったわ!」

 

「任せて~!!」

 

「次にミラはフェアリーテイルの元へ!俺達の現況を伝えて小型竜の殲滅を手伝ってあげて!」

 

「任せてちょうだい!!」

 

「リリー!戦闘モードになれる?」

 

「少し休めばな」

 

「ならリリーはここで姫を守って!ここにもそろそろ小型竜が来そうだからね!ユキノにも手伝って欲しいけど……」

 

「ウム。心得た」

 

「お……お任せ下さい!」

 

「そしてウェンディとシャルルは俺と一緒に岩のドラゴンの元へ行ってくれるかい?危険だけどドラゴンスレイヤーがいなくて苦労してるだろうからね」

 

「大丈夫です!ツナさんが一緒ですから!」

 

「やれやれ……仕方ないわね」

 

「それじゃあみんな……行くぞ!!」

 

フェアリーテイルのメンバーは再びハイパーモードになったツナに続いてそれぞれの戦場へと向かって動き出した……

 

「フェアリーテイル……」

 

「彼らならばこの危機を何とかしてくれるでしょう……」

 

「本当に凄いギルドですね……」

 

「いつも騒がしいがな」

 

「そうなんですか?でも楽しそうなギルドですね。……では我々は我々に出来る事を!」

 

「了解しました。姫!」

 

 

 

 

 

 

 

「ホワイトファング!!」

 

「アイスメイク……白竜(スノードラゴン)!押さえ込め!」

 

イヴの雪魔法とリオンの造形魔法が岩石の竜の足を凍らせて押さえつけた。

 

「今です!ジュラさん!!」

 

「ゆくぞ!鳴動富嶽!!」

 

ジュラの最強の魔法が岩のドラゴンに炸裂するがMPFで8000超の数値を叩き出した魔法でさえもドラゴンに多少の煩わしさを与えるだけで傷一つつけられない。

 

「無駄なことを……我が名は岩窟王!我が岩鉄の体はドラゴンの中でも最も硬い部類に入るのだ!」

 

「くっ……弱点はないのか!?」

 

ヒビキはアーカイブの魔法を使用しながら岩窟王のデータを集めているがこれといったものが見つからない。

 

「硬い分動きは鈍い!不倶戴天・剛の型!!」

 

「この身が砕かれるまで攻撃を加えるのみ!!力の香り(パルファム)!メェェェン!!」

 

「鬱陶しいわ!!」

 

「くうっ!!」

 

「メェェェン!?」

 

「キトゥンブラスト!!」

 

「ニンジンミサイル!!」

 

「エアリアルフォーゼ!!」

 

「天神の怒号!!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

「「「「うわぁっ!!」」」」

 

「怪我人は一旦下がるのだ!」

 

「まだまだ!!」

 

「イケメンとして後方には下がれませんな!」

 

「私だってまだまだ元気だよ!!」

 

ジュラが怪我を負った者は下がるように指示を出すも誰一人として下がろうとしない。全員が巨大な敵を相手に燃えるような瞳で挑んでいた。

 

「いつまで無駄なことを続ける気だ!?」

 

「無論!勝つまでだ!!」

 

「カグラの言う通りだ!俺達は負けんぞ!!」

 

「絶対諦めないんだから!!」

 

「人間風情が調子に乗るなよ!!」

 

「ドラゴンだからって威張んなよ!一匹やられてんじゃねえかよ!!」

 

「キレんなよ」

 

「フン!我はジルコニスとは違う!人間如きに傷一つ付けられんわ!!」

 

「……いいや同じだな」

 

「なっ!!」

 

岩窟王は自分の背中に何かが降ってきたのを感じ、聞こえた声の主が背中の上に立っていることに気付いた。

 

「おおっ!!ツナヨシ殿!!」

 

「人間を見下している。だからこそ隙も多い……零地点突破・初代エディション」

 

「ぬおおおおっ!!」

 

空中から岩窟王の背中に着地したツナはすかさず手を付いて零地点突破・初代エディションを発動する。瞬く間に氷が広がってそこにはドラゴンを封じた氷山が作られた。ツナは連合チームの元へと向かう……

 

「ニャ~!!ツナやった~!!」

 

「怪我をしてる人は少し下がれ!今の内に態勢を立て直すんだ!!」

 

「助力かたじけない……我らでは傷一つ付ける事すら叶わなかった……」

 

「まだ終わってはいない!俺の氷は俺の炎でしか溶けないはずだがきっと壊して出て来る!」

 

「だが見事な氷だ……師匠ウル以上かもしれん……」

 

「ツナさ~ん!シェリア~!!」

 

「あ、ウェンディ!!」

 

「あんた速すぎるわよ!!」

 

「ドラゴンスレイヤーの少女も来たか……ツナヨシ…と呼ばせてもらう。これからどう戦う?相手の体が固すぎて攻撃が通らない」

 

「城の方にいた竜を倒した技はしばらく使えない……協力してくれ。策はある」

 

「無論ですツナヨシ殿」

 

「イケメンによる共闘というわけですな」

 

話している内に岩窟王は顔の部分の氷を無理矢理砕いてツナに怒りの言葉を浴びせる。

 

「やはりドラゴンの力は凄まじいな。零地点突破の氷を砕くなんて……」

 

「やってくれたな!ジルコニスを倒した者よ!だが我まで倒せると思っているなら大間違いだ!」

 

「動けない癖によく言うな……」

 

「フン!こんな氷などすぐに粉々に砕いてくれる!グヌヌヌヌ……」

 

氷がミシミシと音をたてているのを聞いてツナは氷が砕かれる前に行動を起こす。

 

「カグラは今から俺が攻撃を加えるからその直後に全力の一撃を叩き込んでくれ!」

 

「だが……私の力では……」

 

「今度は大丈夫だ。俺を信じてくれ……ウェンディとシェリアは魔力を溜めてカグラの攻撃後にその場所に向かって奥義を放ってくれ」

 

「分かりました!」

 

「よーし!やるぞー!!」

 

ウェンディとシェリアは二人揃って空気を食べて魔力を溜め始めた

 

「他のみんなの出番はその後だ」

 

そう言うとツナは両手の炎を激しく燃やして凍っている岩窟王を見据える。そして超スピードで岩窟王の周りを飛び始めた。

 

「超高熱!Xストリーム!!」

 

「む!」

 

いつもよりも炎の温度を高めることに特化させたXストリームは岩窟王を封じていた氷をみるみる溶かしていく。

 

「わざわざ溶かしてくれるとはな!」

 

「織り込み済みだ!カグラ!!」

 

「承知!!我が全霊の一撃を受けよ!!」

 

炎が消えると同時にカグラが自身に最大の重力をかけて空中からものすごい勢いで斬りかかった。今まで傷一つ付けられていない為に岩窟王はそれを鼻で嘲笑っている……鼻はないが。

 

「はあぁぁぁっ!!!」

 

「何ぃぃっ!!」

 

カグラの全力を込めた一撃は今までと違い岩窟王の硬い表皮を斬り裂いた。岩窟王よりもカグラ自身が一番驚いた顔をしている。

 

「ウェンディ、シェリア!狙うんだ!!」

 

「はい!滅竜奥義……照破!天空穿!!」

 

「任せて!滅神奥義……天の叢雲(アマノムラクモ)!!」

 

二人の奥義が融合して黒と白の混じった風が回転しながらまっすぐにカグラがつけた傷口へと向かう。

 

「ぐがあぁぁぁっ!!」

 

回転した風がまるで削岩機のように傷口を抉り、岩窟王の絶叫が響きわたる……初めてまともにダメージを与えた為にギルドメンバー達から喝采があがる。

 

「しかし何故私の一撃が通用したのだ?」

 

「そうか!温度差で表皮を脆くしたのか!!」

 

カグラが疑問に思っていると岩窟王の状態を調べていたヒビキが答えを導きだした。

 

「なるほど!冷えた湯飲みに煮えたぎった湯を入れると割れるのと同じ原理か!!」

 

「だがそんな作戦を瞬時に思い付くとは……」

 

「頭も切れるようだな……」

 

「攻撃はあの傷口を中心に狙っていこう!硬い表皮でガードしていたならその内側は脆いはずだ!」

 

ジュラもカグラもリオンもツナの作戦に感心していた。ウェンディとシェリアの攻撃で傷口は広がり岩石の表皮にポッカリと穴が空いていた。

 

「さあ!反撃開始だ!!」

 

ツナの声にその場にいたメンバー全てが自身の出せる最大の声で応えたのだった……

 

 

 

 

 

 




子供の頃実験して湯飲みを割って怒られた事があったなあ……


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一念岩をも通す

お待たせしました。年度末の忙しさは半端じゃないっす!


 

 

-クロッカス

 

「ツナヨシ・サワダ……!」

 

マザーグレアの背の上でナツと対峙していた未来のローグは自分の計画が思うようにいかない苛立ちでギリギリと歯軋りをしていた。

 

ルーシィとユキノに邪魔をされ一万頭のドラゴンの召喚は出来なかったが元々最強の種族であるドラゴンが七頭もいればこの世界を簡単に支配できると考えていた……

 

しかし蓋を開けてみればジルコニスは倒され岩窟王もダメージを受けている。それを成し遂げた男……ツナヨシ・サワダを憎しみを込めた目で見る。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

 

「ナツ・ドラグニル!!貴様も邪魔だ!!」

 

炎を纏った拳で殴りかかってきたナツを苛つきながらも迎撃するローグはいい加減しつこいナツを早々に葬りさろうとモード白影竜になる。

 

「白影竜の咆哮!!」

 

「うわっ!危ねっ!!」

 

「雑魚はいい加減に消えろ!」

 

「がっ!ぐっ!がはっ!!」

 

咆哮を躱されたがローグはそのまま接近してナツへ連撃を加える。ナツはローグのスピードについていけずに攻撃を受け続ける……

 

「所詮ツナヨシ・サワダ以外はドラゴンに勝てるわけではない!!奴も七頭もいるドラゴンを全て倒せるわけがない!!俺の計画は完璧だ!!」

 

「いい加減にしろよ!今!みんなは命懸けで戦ってんだぞ!!過去のお前だって……」

 

「下らん!過去の俺などもはや他人に過ぎんのだ!」

 

「テメェ……」

 

「俺は絶対に止まらん!その為に過去へ来たのだからな!お前はドラゴンではなく俺が殺してやる!!」

 

「殺すとか簡単に言ってんじゃねえ!!ギルドってのはそんなんじゃねぇだろうが!!」

 

「知った事か!!」

 

「テメェの根性……俺が叩き直してやる!!」

 

ナツは全身に炎を纏ったままローグへと突っ込んでいく。それを少し離れた場所からルーシィとハッピーが見ていた。

 

「ナツ頑張ってる」

 

「迂闊に援護は出来ないわね……」

 

「どうしようルーシィ?」

 

「……ナツが勝てばよし。負けそうになったり竜から落ちたら助けに行こう」

 

「アイ!!」

 

「それまでは見つからないように隠れるわよ!」

 

「ルーシィかっこ悪いよ……」

 

「仕方ないじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドランバルドは再び瞬間移動でクロッカスへと戻って来ていた。オラシオンセイスのコブラを連れて……

 

「はぁっ……はあっ……」

 

「長距離の転移ご苦労だったな」

 

「ああ……状況は見ての通りだ……お前の力を借りたい……」

 

「……おい、あの一匹は誰が倒したんだ?ドラゴンスレイヤーか?」

 

「何!一頭倒したのか!?」

 

「倒したのはドラゴンスレイヤーではない。フェアリーテイルのツナヨシ・サワダだ」

 

「知らねえ奴だな……」

 

「最近入ったらしい。俺達も詳しくは知らんが間違いなくフェアリーテイル最強の男だ」

 

「おいおいマジかよ……ドラゴンを倒すとか」

 

「へえ……どんな奴か確認しとかねぇとな。なら行って来るぜ」

 

 

 

 

 

 

 

一方岩窟王との戦いはさらに激しさを増していた。ドラゴンに傷を与えた事によりギルドメンバー達の士気は最高潮になり怒涛の攻撃を加えていた。

 

「よし!あの傷口に防御力を下げる香り(パルファム)を仕込めたぞ!!」

 

「さすが師匠!!」

 

「一斉に行くぞ!!」

 

「「「うぉぉぉっ!!!」」」

 

「小賢しいわ!!」

 

「ふう……多少は効くようになったが……」

 

「やはり簡単にはいかないか……」

 

ウェンディとシェリアの攻撃で抉れた傷口に攻撃を集中させるメンバー達……ツナは警戒されている為主に傷口に意識を集中させている間に逆方向から攻撃をしている。しかしジルコニスよりもかなり防御力が高い為に通常攻撃ではなかなかダメージを与えられない。

 

XX(ダブルイクス)ならあの防御も貫けるけど……-

 

使えないことはないが炎の消費が激しすぎる為に先を考えると傷を与えた目の前の竜には使いたくない。

 

「ウェンディ!合わせろ!!」

 

「はい!天竜の……咆哮!!」

 

「はっ!!」

 

「ぬ……ぐおおおぉっ!!」

 

ウェンディの咆哮に死ぬ気の炎をぶつけて作り出した炎の竜巻を岩窟王にぶつけるとかなり効果があったようだ。

 

「やはり滅竜魔法が攻略の鍵になりそうだな」

 

「ツナヨシ君の炎も効果的みたいだ」

 

「普通の炎ではないようだが……」

 

リオンとヒビキが話しているとカグラは一度自分が受けた炎がただの炎ではないことに気付いていた。

 

「とにかくあの二人を中心に攻撃することにしよう」

 

「そうじゃな……むっ!!」

 

ジュラの視線を辿ると岩窟王の背中に一人の人間が立っているのが見えた。どうやら背中に飛び乗ったようだ。

 

「あの人は!?」

 

「知り合いか?ウェンディ」

 

「はい!でも……」

 

「聞かせろよ!テメェの悲鳴をな!!」

 

そう言うと男は禍々しい赤紫色の魔力を纏って岩窟王の背中を殴り始めた。しかも多少の効果を発揮している。

 

「アイツは……オラシオンセイスの毒竜のコブラ!」

 

「……?ドラゴンスレイヤーなのか?」

 

「そうだよ!」

 

「なら頼もしい援軍だな」

 

ツナがそう言うと他の者達は微妙な顔をしている。ツナが不思議に思っているとウェンディが答える。

 

「あの人は闇ギルドの人で七年前にギルド連合でジュラさん達と一緒に捕まえた人なんです」

 

「出所したのか?」

 

「いや……まだのはずだ!」

 

「何故ここに……」

 

「ゴチャゴチャうるせえよ!!引っ込んでろ!!」

 

「そして地獄耳なんだ……」

 

コブラは岩窟王に拳を叩き付けながらもこちらの話に耳を傾けていたようだ……

 

「……まあドラゴンを相手にしてくれるなら今は気にすることじゃないだろう」

 

「ツナヨシ殿……しかし……」

 

「脱獄したならここで戦ってるのはおかしいからな……おそらく評議員の部隊の誰かが罪の軽減と引き換えに連れてきたんだろう」

 

「なるほどね。彼の力が必要とされたのか」

 

「ではとにかく彼を支援して戦うとしよう」

 

「カグラは少し待ってくれ。奴を倒すために俺に協力してほしい」

 

刀を抜きかけたカグラをツナが留める……ツナはかつて一度だけ使った技を使おうとしていた。それにはカグラの協力が必要不可欠である。そして作戦を伝えるとカグラは頷いた。

 

「しかし出来るのか?そんなことが?」

 

「ああ……昔同じことをしたことがある。威力は保証するからあの傷口を狙えば間違いなく倒せる」

 

「ならば他の者であの竜の気を引くことにしよう」

 

「コブラに一発傷口に当てさせよう。アイツの毒ならかなり効果的なはずた」

 

「ツナさん!カグラさん!頼みます!」

 

 

 

 

 

 

「ハッピー行くわよ!」

 

「あいさー!!」

 

未来のローグの猛攻に耐えられずにナツはマザーグレアから振り落とされる。それを見ていたルーシィとハッピーは猛スピードでナツを救助する為に空を駆ける。

 

「ナツ~!!」

 

「ハッピー!ルーシィ!」

 

「掴んで~!!」

 

ルーシィが伸ばした腕を掴むナツ。そのまま3人固まってマザーグレアから一旦距離を取る……ローグはそのままナツ達に目もくれずにツナのいる方に目を向ける……

 

「何ぃぃっ!!」

 

そして未来のローグはまたしても驚愕して目を見開く事になる……

 

 

 

 

 

「アームズ×バーニア!!」

 

「毒竜爪牙!!」

 

「天神の……怒号!!」

 

「アイスメイク白竜(スノードラゴン)!!」

 

「力の香り(パルファム)!全開!!」

 

「鳴動富嶽!!」

 

ウェンディのサポート魔法を上乗せしてそれぞれに攻撃を加える連合メンバー達は次々に攻撃を加えている。その隙にツナとカグラそしてタイミングを前線のメンバーに伝える為にヒビキはドラゴンから少し離れた場所にいた。

 

「よし!ここからなら……」

 

「前線のメンバーにリンクは完了したよ。君の合図で全員に伝えられる」

 

「ではツナヨシ……」

 

「ああ……オペレーション(イクス)

 

ツナは左手を前方へ、右手を後方へ向けて右手から柔の炎を放出する。そしてツナが前方へ突きだした左腕を抱え込むカグラ。

 

「カグラ……頼む」

 

「承知!重力魔法全開!!」

 

ツナの考えはかつて虹の代理戦争の時にイエーガーと戦った時に親友であるシモンファミリーの古里炎真より借り受けたシモンリングの重力の力を利用した技をカグラの協力を得て再現することだ。

 

「カグラ!もう少し力を上げてくれ!!」

 

「くっ!分かった!」

 

カグラはさらに魔力を込めて重力の力を強める。かつてのシモンリング程の力はないが相手が巨体である為に炎を収束する力は充分だ。

 

岩窟王は前線メンバー達から少し離れてブレスを放とうと口を大きく開けている。そして都合よく傷口がこちらを向いている……いや前線メンバーがそう誘導していたようだ。

 

「ヒビキ!!」

 

「任せて!!全員!!射線上より退避!!」

 

「決めろ!!ツナヨシ!!」

 

「ああ!超収束X BURNER(イクスバーナー)!!」

 

 

 

 

 

 

 

岩窟王は思い切り動き回って体にまとわりついているメンバー達を引き離すと口を大きく開ける。

 

「一気に滅ぼしてくれるわ!!」

 

『全員!!射線上より退避!!』

 

ツナ達がいる方向へ傷口を見せる為に誘導していたがこのブレスを食らえばひとたまりもない。

 

だがそこに待ちに待った連絡が来る。ジュラは離れながらも岩の壁を作り出して前線メンバー達が離れるのを隠していた。

 

岩窟王にはそれが悪あがきにしか見えず壁ごと消し去ろうとさらに力を注いでいく。そして……

 

 

 

 

一閃!!!

 

 

 

 

まさにそうとしか表現することが出来ない……オレンジの閃光が岩窟王の傷口から反対側の表皮を内側から貫いた。

 

「ぐっ……が……なに……?」

 

岩窟王は何が起きたのか理解しないまま体を痙攣させながら倒れ伏した……

 

「やっ……やったのか?」

 

「見事!!」

 

「勝った~!!」

 

「にゃ~!!やった~!!」

 

「我々の絆の勝利だ!!」

 

「やったねウェンディ!!」

 

「うん!シェリア!!」

 

「いいぞツナヨシ~!!」

 

「あれがツナヨシ・サワダ……フェアリーテイルの最強か……恐ろしい奴だぜまったく……」

 

 

 

 

 

 

 

マザーグレアの背から岩窟王が倒れるのを見てローグは歯軋りしながらツナヨシを睨む。その胸中には怒りに溢れていた。

 

ツナヨシを殺すために他のドラゴンを向かわせるか、もしくはマザーグレアと自分が行くか……

 

だが一抹の不安がよぎる……これ以上ドラゴンを倒されるのは後々の目的に支障をきたすからだ。残り五頭を集中すれば勝てるとは思うが何体かやられるかもしれない。

 

「マザーグレア!!」

 

ローグの意を得たマザーグレアは再び卵を産み落とす。その数は先程よりも多く地上に落下することになった……

 

「小型竜は総攻撃だ!他の奴等などどうでもいい!ツナヨシ・サワダを抹殺せよ!!」

 

ローグが選んだのは小型竜の全員ががりによるツナの抹殺……それが出来なくとも力を使い果たさせること。

 

現状ではこの判断は全くの間違いではない。なにしろツナ以外にドラゴンを倒せる者はいない。ならば替わりのいないドラゴンより小型竜による総攻撃が有効だ。

 

マザーグレアはしばらくすれば再び卵を産めるようになるので小型竜がいくら倒されても困らない。

 

だがその行動は結果として死の危険にある多くの魔導士達の命を救う事になる……

 

 

 

 

 




ツナに小型竜が集中する結果になりました。まあローグからすればやられる可能性があるドラゴンよりやられても問題ない小型竜に任せるほうがいいという判断です。


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それぞれの戦い

遅くなりました。新年度の忙しさがやっと片付いてきました。


 

 

-クロッカス

 

マザーグレアから落下したナツを助けたルーシィとハッピーはナツを連れて一時身を隠していた。

 

「ナツ~大丈夫なの?」

 

「これぐらいどうってことないぜ!」

 

「やっぱり未来のローグは強いのね……ナツでも勝てないなんて……」

 

「ちょっと待て!!誰も勝てないなんて言ってねえぞ!!」

 

「じゃあ勝てるの?」

 

「もちろんだ!!……でも正直アイツ強ぇな……それに乗ってるドラゴンが厄介だ」

 

ナツにとっては珍しく弱気になっているのか自信なさげにローグの事を語る……

 

「ツナに変わってもらったら?」

 

「いーや!俺はツナにアイツは任せろって言ったんだ!アイツは俺が倒す!!」

 

「ツナはドラゴンと戦ってもらった方がいいと思うよ。もう一頭倒したみたいだし」

 

「てことはドラゴンは残り五頭ね……うちのギルドは炎の竜と戦ってたけどみんな無事かな?」

 

「……それだ!いいこと思いついたぞ!!ハッピー行くぞ!!」

 

「アイ~!!」

 

「ち……ちょっとあたしは!?置いて行く気!?」

 

「お前は隠れてろ!!」

 

ナツとハッピーが飛び去って行くのをルーシィは見送ることしか出来なかった。

 

「んもう!何よアイツら!!……あれ?あそこにあるのは……」

 

憤慨するルーシィはドラゴンによって壊された瓦礫にまみれたあるものを発見した。見覚えのあるそれはここにあるはずのないものだった……

 

「あたしの……メモ帳?なんでここに?」

 

 

 

 

 

 

フェアリーテイルの面々はエルザと戻って来たミラを中心に防衛ラインを死守していた。だがあまりにも多い小型竜の数に死者こそ出していないが怪我人の数も徐々に増えてきていた。

 

「負傷者はグレイの作った氷の防壁まで下がれ!」

 

「リサーナ!あなたも下がりなさい!」

 

「大丈夫だよミラ姉!ナツ達も頑張ってるんだもん!」

 

「それにしてもきりがねぇな……」

 

「ジュビア達も魔力の消費が激しいですね……」

 

「って危ない!ジュビア!!」

 

「え?」

 

油断していたジュビアの死角にいた小型竜が口に光を溜めて発射寸前だった。その光がカナの声に振り返ったジュビアに向けて放たれようとしたが……

 

「マギルティ=レーゼ!!」

 

複数の魔力のエネルギー弾がジュビアを狙っていた小型竜に直撃して粉砕していた。

 

「油断大敵だよ。ジュビア!」

 

「メルディ……ありがとう!」

 

流星(ミーティア)!!」

 

そして一筋の光がフェアリーテイルに迫る小型竜を次々に撃破していくのを見てエルザは驚愕する。

 

「ジェラール!!」

 

「エルザ……メルディも無事だったか」

 

「ジェラール!ウル見てない?はぐれちゃったの!?」

 

「いや、見ていないが……心配はいらんだろう」

 

「うん……そうだとは思うけどさっきちょっと深刻な顔してたから……」

 

「そうか……ならここの小型竜を殲滅したら探しに行こう」

 

「そうだね。じゃあ力を貸してくれるジュビア?」

 

「もちろんです!」

 

「助けは必要ないかなエルザ?」

 

「足を引っ張るなよジェラール!」

 

「そっちこそ疲れたなんて言うなよ」

 

お互いに強気な笑みを浮かべて並び立つ二人が小型竜に向き直った時空から再び大量に卵が落下した。

 

「くっ!またか!」

 

「しかも最初の時より数が多いわ!」

 

「まだこんなにいんのかよ!!」

 

「こうなったらワシが……」

 

マカロフが前に出ようとすると小型竜達は突然方向を変えてフェアリーテイルを無視して一目散にどこかへ去って行った。

 

「逃げるとは漢らしくないぞ!!」

 

「エルフ兄ちゃん!あの数はきつかったと思うよ」

 

「しかしどこへ?」

 

「怪我のないメンバーで追撃するぞ!背を向ける相手なら簡単だ!罠にだけは気をつけろ!!」

 

突如踵を返した小型竜の狙いはツナただ一人……

 

 

 

 

 

 

 

 

一方岩窟王を倒したツナ達はドラゴンに勝った喜びに浮かれていた。人にとってあまりにも強大な存在であるドラゴンの倒したことで戦闘の疲れなど感じない程に盛り上がっていた。

 

「ツナさん!カグラさん!やりましたね!」

 

「ほんとにすごかったよ~!!」

 

「ツナ~!カグラちゃん!やっぱり最強だね!!」

 

「カグラをなめちゃいけないよ!」

 

「まことにあっぱれじゃ!」

 

「いや……私の力など微々たるものだ」

 

「そんなことはないよ。俺一人ではあの技は使えなかったからね。本当にありがとう」

 

「ツナヨシ……」

 

通常状態に戻ったツナとカグラを労いと共に取り囲む連合メンバー達。その顔には笑顔が溢れていた。

 

「僕も手伝ったんだけど……」

 

「仕方ねぇよヒビキ」

 

「メェ~ン。そう悲観することはない。確かに主役はあの二人だったが君もきちんとアシストをしていた。それが勝利に繋がったのだからね」

 

「ありがとうございます!師匠!」

 

そんな勝利の余韻を噛みしめていたメンバー達だったが少し離れた場所にいたコブラの発した言葉に再び緊張感を高める事になる……

 

「そう来るか……おい!あのドラゴンに乗ってる奴の命令で小型竜の全てをツナヨシ・サワダ一人に集中するらしいぜ!こっちにすげぇ数が向かってやがる」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

マザーグレアの背でローグが発した命令がコブラには聞こえていた。

 

「ドラゴンとまともに戦えるのはそいつ一人だけ……なら小型竜の全員でそいつを討ち取るつもりらしいぜ」

 

「なるほどね……でも俺に攻撃が集中するなら俺が囮になれば簡単に小型竜を倒せるね」

 

「そんな!ダメですツナさん!!」

 

「いくらなんでも数が多すぎるぞ!!」

 

「ここはツナヨシ殿を守るように円陣を組んで……」

 

「ダメだ!それじゃあ結局俺に攻撃するために他のみんなも攻撃に晒されることになる」

 

「しかしツナヨシ!そなたが危険だ!」

 

「考えてる時間も無さそうだ!!」

 

ツナは瞬時にハイパー化すると一瞬で人垣から距離を取ると離れた場所に立った。そこへ到来するいくつもの光を炎を広げてガードする。

 

驚いた連合メンバーが辺りを見渡すとそこには十数体の小型竜がツナへ向けて光線を絶え間なく放っている光景があった……

 

「ツナさん!!」

 

「くっ!崖錘!!」

 

ウェンディが悲痛な叫びをあげる中でジュラが地面を操って小型竜を押し潰す。だがその後ろからさらに小型竜の群れが現れて光線を放とうとしている。ツナが炎の推進力で空を舞うと地上からツナへと無数の光の帯が向かってゆく。

 

それをツナは自身の高速移動でバレルロールしながら躱している……小型竜達はツナ以外が目に入らないとでもように次々と光線を撃ち込んでいく。

 

「ウェンディ!コブラ!他のドラゴンスレイヤーに加勢するんだ!!」

 

「ツナさん!!」

 

「ちっ!……仕方ねぇ」

 

「皆の者!!小型竜へ攻撃を!!絶対にツナヨシ殿を討たせてはならんぞ!!」

 

「承知!!」

 

「了解です!!」

 

「ウェンディ!ここは任せて!!」

 

「ヒビキ君!君は他の者達へ連絡してくれたまえ!魔導士の総力をあげてツナヨシ君を援護するんだ!!」

 

「分かりました一夜さん!!」

 

 

 

 

 

 

「闇の文字……絶影!!」

 

「バリオンフォーメーション!!」

 

「レブラホーン!!」

 

「雷竜の咆哮!!」

 

雷神衆の連続攻撃に加えてラクサスの強力な咆哮が全身を凄まじい炎に覆われたアトラスフレイムに放たれるが効果がない。

 

「無駄だ!我が獄炎は魔法を焼き尽くす!!」

 

「くそっ!!」

 

アトラスフレイムの嘲笑に舌打ちするラクサスだが打開策は浮かばない。

 

「ラクサスとは相性が悪いな」

 

「水のドラゴンスレイヤーはいないの!?」

 

「聞いたことねぇな」

 

「炎ならあそこにいるけど」

 

そう言ってビッグスローが指差す空に視線を向けるとハッピーに掴まったナツが近寄って来ていた。ナツはアトラスフレイムの真上に来るとそこで手を放してその頭に着地した。

 

「見つけたぞ炎のドラゴン!!」

 

「何だ貴様は?」

 

「俺はナツ!!今からお前を……食う!!」

 

「「「「んなー!!??」」」」

 

ナツの爆弾発言に顎が外れるかというぐらいに驚愕するラクサス&雷神衆……そんな彼らを尻目にナツはアトラスフレイムの体の炎を食べ始めた。

 

「貴様!!離れろ!!」

 

「やだ……モグモグ……ツナの炎と同じくらいうめぇな……」

 

「おいナツ!!どういうつもりだ!?」

 

「俺はこいつを食ってパワーアップするんだ!!他のドラゴンに行ってくれ!……モグモグ」

 

「なるほど……単純に炎には水と考えていたが炎のドラゴンスレイヤーにとっても相性がいいということか……ラクサス!ここは任せよう」

 

「俺のベイビー達が調べた所によるとあっちでガジルが戦ってるみたいだぜ!」

 

「よし!任せたぞ!ナツ!!」

 

「おう!!そっちもな!!」

 

ラクサス達が走り去って行くのを見ながら再び炎を食べ始めるナツに激怒したアトラスフレイムは体を揺さぶったり近くの瓦礫にぶつけたりしてナツを振り落とそうとしていた。

 

だがその最中でアトラスフレイムは懐かしい気配を感じて戸惑った。自分の炎を食べている少年から感じるこの気配は自身のよく知る気配だった。

 

「小僧……貴様イグニールと関係があるのか?」

 

「イグニール……?イグニールを知ってんのか!?」

 

「炎竜王イグニール……我が盟友にして炎竜を統べる王だ……貴様はイグニールの……?」

 

「そうか!イグニールは俺の父ちゃんだ!!」

 

友の息子……その熱が……その存在が自身を縛り付けていた呪縛を跡形もなく消し去っていた。

 

 

 

 

 

「くっ!数が多いな……!」

 

地上から放たれる光線を捌きながらその全てを避けているツナ……炎を節約するためにもナッツの力を借りずにいる。その時ツナに念話で話しかける者がいた。

 

『ツナよ。聞こえるか?』

 

「マスター!?」

 

『うむ。ウォーレンに手伝ってもらってお主に話しかけておる。事情は聞いたぞい。全く無茶をする奴じゃ……』

 

「すまない!今は……」

 

『分かっておる。そやつらを誘導しながらクロッカス中心のリ・イン・クリスタルまで来るのじゃ』

 

「だが……」

 

『お主は確かにワシよりも強い……じゃがお主一人で戦う必要はない。お主とてワシの大事な子供じゃ……たまには親にも格好つけさせんかい!』

 

「……了解した。このままクロッカス中心に向かう」

 

『うむ。無事に来るんじゃぞ』

 

念話が終わり下を見ると少しずつ小型竜が削られていってるのが見える。ツナをフォローする為に攻撃しているようだ。ツナは心の中で感謝しながら少しずつ移動を始めた……

 

クロッカスの戦いは一気に終焉へと加速する……

 

ツナは小型竜を誘導しながらクロッカス中心へ……

 

ナツは新たな友と共に再びローグへと向かう……

 

その他の者もそれぞれに己の戦場を駆ける……

 

そして……

 

「何が魔女の罪よ……私の罪は禊ぐ事はできない」

 

自身の行動に絶望した一人の女性が涙を流していた……

 

 

 




次回からもう少し早く仕上げれるといいなあ……


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罪の在りか

ようやく地震の被害からライフラインの復旧が完了しました。しかし余震はまだまだ続いていて今日も震度4を記録しました。


 

 

-クロッカス

 

花咲く都クロッカスの上空ではこの世のものとは思えない戦いが繰り広げられていた。激突する2頭のドラゴン……そのぶつかり合いは大気を震わせ、衝撃を撒き散らしていた。

 

「何故ナツと……裏切ったのか!?アトラスフレイム!!」

 

「我が友の子の存在が我の意識を遮った魔法を消し去った!最早貴様の思い通りにはならん!!」

 

「そういうこった!!行くぜオッチャン!!」

 

ナツの声に合わせてアトラスフレイムがマザーグレアの首に噛みつく……そしてお返しにマザーグレアも噛みつこうとするがアトラスフレイムはそれを避けるようにうまく回り込む。

 

マザーグレアは煩わしさからかブレスを放ってアトラスフレイムを攻撃するがそのブレスは炎の体をすり抜けるように受け流されはるか後方の山を吹き飛ばした。二頭のドラゴンは至近距離でにらみ合う……

 

「我が金剛の体は貴様の炎などでは焼けぬ!!」

 

「貴様のブレスなど我が炎の体には通じぬ!!」

 

二頭のドラゴンはお互いにダメージを与えられずに拮抗している。その拮抗状態を崩すのはその背に乗る二人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)……

 

「貴様の仕業か!ナツ・ドラグニル!!さっさと貴様を片付けてもう一度俺の支配下に置いてやる!!」

 

「へっ!そう上手く行くかよ!!」

 

「見せてやれ!我が獄炎を食らったお前の力を!!」

 

「なっ!?アトラスフレイムの炎を……食っただと!?」

 

「うぅおぉぉぉりゃあぁっっ!!!」

 

今まで以上に激しく燃え盛るナツの右腕がローグとマザーグレアに突き刺さった……

 

 

 

 

 

 

ウルティア・ミルコビッチ……彼女の人生は呪われていた。最愛の母と引き離された彼女はその絶望からやり直しを望み闇の魔道の道へと堕ちていった……

 

彼女の求めたのは時のアークという名の「失われた魔法(ロストマジック)」そしてこの世界を一巡目と考え二巡目の世界で幸福を掴む為にどんなに非道なことでもしてきた……

 

だが天狼島でのグレイとの戦いの最中で母の愛を知り今までの罪を禊ぐ為に独立ギルド魔女の罪(クリムソルシエール)を立ち上げた……

 

そして彼女は再び絶望を抱えることになる……

 

「私は……何の罪もない人を……今の時代のローグを殺そうとした!思い止まったけど……やはり私は何も変わってないのね……」

 

ウルティアがこの事態を乗り切る為に考えたのは現在のローグを殺すこと……そうすれば未来のルーシィが体験した第1の未来、未来のローグが体験した第2の未来は消滅して強制的にローグが存在しない第3の未来へと塗り変わる。

 

そうすれば未来から来たローグの存在とそれによって呼び出されたドラゴン達も消える……過去を変えるのではなく未来の道筋を固定する事……それこそがウルティアの導きだした最善の方法だった。

 

だが城の地下でローグからナツを助けた時にその提案をナツに止められた。

 

「今のローグには何の罪もねえ。アイツはきっと道を間違えたんだ。殺すとか殺さねえとか……俺達も道を間違えるつもりかよ」

 

ナツの言葉に一度は賛同したが予想外の小型竜の群れ……そして一度ツナがジルコニスに吹き飛ばされたのを見てこのままでは犠牲者が出てしまうと思いメルディを置き去りにローグの元へ走った。

 

だが現在のローグを前にしてギリギリでローグの殺害を思い止まった直後にナツの声でツナがジルコニスを倒したのを知った。さらにはそれに触発された魔導士達は勢いに乗り小型竜達との戦いを有利に進めていた。

 

「私は……どこで道を間違えたのかな?お母さん……」

 

短絡的にローグを殺すしかないと思いそれを実行しようとした自分は昔と変わらず最低の人間だ。やはり根が腐っているのだろう……ジェラールとメルディと共に過去の罪に押し潰されずに償いの道を歩くと決めたのにまた罪を犯そうとした。

 

「せめて私の命を使えばこの罪を償う事ができるのかしら……」

 

ウルティアが考えているのは時の禁呪……ラストエイジス。それを使えば自分の命と引き換えに時を戻すことができる。

 

だがウルティアはその魔法を使うことに躊躇いを覚えていた。それは命を惜しんでいるわけではない……むしろこの汚れた命で世界が救われるなら喜んで命を捨てようとさえ思っている。

 

「私の命でどこまで時を戻せるの?」

 

現在の戦況はドラゴンを2頭倒して小型竜との戦いでも負傷者は出しても死者は出していない。そして小型竜はツナ一人を狙っていて他の者には目もくれない。おまけに何故かナツが炎のドラゴンと共にローグと戦っていた。

 

扉を開く前まで時間を戻せなかったら再び倒したドラゴンを復活させる事になってしまう。

 

「躊躇うのはツナの存在が理由ね……本当に色んな意味ですごい人……」

 

誰よりも強く、人々に勇気を与える存在……彼の勝利がこの戦いの流れを決めた。ウルティア自身も彼の炎に、存在に魅せられていた。あんな風になりたいと素直に思った……

 

ふと、上空を見上げると地上から数えきれないほどの光の筋が夜の暗闇の中で一際輝く炎に向かって殺到するのが見える。それを踊るように軽やかに躱している炎を見ているとここで燻っているわけにもいかないと言う気持ちになる。

 

だが罪の意識に苛まれるウルティアは動こうと思っても動けない……

 

「やっと見つけた!ジェラール!こっち!!」

 

「こんな所にいたのか……探したぞ」

 

そこに現れたのはメルディとジェラール……共に贖罪を誓い合った仲間達だった。だが自分に未だに仲間の資格があるのかと迷う。

 

「フェアリーテイルのマスターがツナが引き付けている小型竜達を一掃する策を練っている。俺達はツナが動きやすいように端から小型竜の数を減らすぞ」

 

「ここが正念場だよ!ウル!」

 

「でも私は……また罪を……」

 

「ウル?もしかしてローグを……?」

 

「ええそうよ!私は今のローグを殺そうとした!やっぱり私は何も変わってないのよ!!」

 

泣きながら叫ぶウルティアにメルディは困ったような顔をしてジェラールの顔を伺う……

 

「そうか……辛い選択をさせようとしてすまない」

 

「何を言っているのあなたは……?」

 

「俺も最後の手段として考えてはいた。最悪の手段だとは思ったがエルザや他の者達の命が危うくなったならば実行していたかもしれない」

 

「私だってウルやジェラールが危なくなったら同じようにしてたよ!きっと!」

 

「あなた達……」

 

「俺達はまた同じように罪を犯そうとした……それを防いでくれたのはツナだ……アイツが小型竜を引き付けてるお陰で未だに死者も出ていない」

 

「あたし達3人でツナに恩返しをしないとね」

 

「ここで燻っている訳にもいかないだろう?」

 

「だから行こう?少しでもツナを助けないとね」

 

ジェラールとメルディが差し出す手をおずおずと……そしてしっかりと取るウルティア。その瞳には再び力強さが舞い戻り二人に感謝する。

 

同じ罪を背負った3人はツナを援護するために小型竜に向かって走り出した……

 

 

 

 

 

 

「ローグ!!」

 

「影竜の斬撃!!」

 

スティングは自分が戦っていたドラゴン……シザーランナーを引き連れて現在のローグの戦っている場所へとやって来ていた。ローグは自分が相対していたドラゴンであるリヴァイアからこの騒動の原因は未来から来た自分であることを聞いて絶望の最中にいた。

 

だがスティングの登場とその明るさに光を見出したローグは立ちあがり共に双竜としてタッグで戦っていた。

 

「シザーランナー!手伝え!捕獲任務は面倒だ!!」

 

「リヴァイア……全員殺せば早いだろう!」

 

「アイツら……コンビネーションが悪いな」

 

「俺達の連係で一気にやるぞ!ツナヨシ・サワダだけに任せていては滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の名折れだ」

 

「ああ!俺達ならやれる!……ってあれは!!」

 

スティングが見たのはガジルが戦っていた黒いドラゴン……ファフニールがこちらへ走って来る姿だった。その足下にはガジルの姿もある。どうやら攻撃を躱しているうちにここへ辿り着いたようだ。

 

「ちょっ!ガジルさん!何でここに!?」

 

「知るかよ!後ろの奴に聞け!」

 

「お前も人の事は言えんぞスティング……」

 

さらに数人の人影が現れたことによって戦場はさらなる混乱が巻き起こる。

 

「ガジルさん!スティングさん!ローグさん!」

 

「コイツら全員滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)かよ……」

 

「おいおい……ここは同窓会か?」

 

ウェンディとコブラ、ラクサスが現れたことによってこの場にナツ以外の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が集結したことになる。

 

「貴様ら……邪魔だ!どこかへ行け!!」

 

「ファフニール!後から来て何だその態度は!!」

 

「シザーランナー!貴様も邪魔だ!!」

 

三頭になったドラゴン達は喧嘩をしていて目の前のスティング達には目もくれない。その態度は血の気の多い滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達を苛立たせるには充分すぎた。

 

「嘗めやがって……俺らなんか眼中にないってか?」

 

「やるぞ!スティング!」

 

「ギヒッ!むかつくドラゴン達だぜ!」

 

「コイツらの声……イラつくぜ」

 

「なら俺達の存在を刻み付けてやろうじゃねえか」

 

「わ……私もガンバります!!」

 

6人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は並び立ちながら気合いをいれる。

 

「ツナが倒したのが二頭……何故かナツの味方をしてる奴にそれと戦ってる奴を抜かせばここにいる三頭が最後のドラゴンだ……やるぞ!!」

 

ラクサスの声に合わせて攻撃体勢を取る滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達……全員が呼吸を合わせていがみ合っているドラゴン達に向き合う。

 

「雷竜の……」

 

「天竜の……」

 

「鉄竜の……」

 

「白竜の……」

 

「影竜の……」

 

「毒竜の……」

 

「「「「「「咆哮!!!」」」」」」

 

六種類の咆哮が混ざり合いながら三頭のドラゴンへと向かっていく。全く警戒していなかったドラゴン達は驚愕してろくな防御もできずに直撃を食らった。

 

「「「ぐぎゃああああっ!!!」」」

 

混ざり合った魔力が爆発して巨大な三頭のドラゴンを粉塵が覆い隠す……

 

「やったぜ!!」

 

「ギヒッ!俺らをなめんじゃねえ!!」

 

「……いや!まだだ!!」

 

粉塵が晴れるとそこにはかなりの傷を負っているものの五体満足なドラゴン達がいた……

 

「そ……そんな……」

 

「6人がかりでも倒しきれねえのかよ……」

 

「だが傷を負わせる事はできた!」

 

「そうだローグ!俺達の攻撃が通用したぞ!」

 

「なら一気にたたみかけるぞ!!」

 

「ちっ!仕方ねぇな……」

 

戦意高揚する滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達……対するドラゴン達は傷つけられた怒りに燃えていた。

 

「人間風情が調子に乗るなよ!!」

 

「リヴァイア!もう捕獲などとは言うまいな!?」

 

「少し痛い目に遭わせてやるとしよう!」

 

ドラゴン達は喧嘩をやめて目の前の人間達を蹂躙するべく吠える。

 

「俺達をなめんなよ!!」

 

「私達の魔法はあなた達を倒す魔法です!!」

 

「ツナはドラゴンを倒してみせた!俺らもアイツに負けてられねえ!!」

 

「さすがフェアリーテイル!俺達も負けてられねえ!!双竜の力をみせてやろうぜ!!」

 

「ああ!コイツらを滅竜する!!」

 

「今日は色んな声が聞こえる……てめぇらの声は邪魔なんだよ!!」

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達も吠える。ドラゴン対滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の死闘はいよいよ佳境を迎え始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




余震1000回越えるとか……寝てる間にまた大きな地震が起きたらと思うとなかなか安眠できません……

ウルティアが迷っていたのは人類側がかなり優勢に戦いを進めていたからです。


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妖精の法律

大変お待たせしました。感想の返信も遅れて申し訳ないです。余震は毎日続いてます。少しは小さくなったと思いますが……怖い日々です……


 

 

-クロッカス

 

ツナが空中で小型竜の攻撃を一身に引き付けながらクロッカス中心のリ・イン・クリスタルにそろそろ辿り着くという時、地上では魔導士達による激しい攻撃が行われていた。

 

「行くわよ!アイスメイク……薔薇の王冠(ローゼンクローネ)!!」

 

ウルティアの母譲りの造形魔法が大地を走る……その薔薇と蕀に触れた小型竜達は凍りついて活動不能状態になる。

 

「さすがだぜウルティア!アイスメイク……氷創騎兵(フリーズランサー)!!」

 

「まさかウルの娘とはな!アイスメイク……蜻蛉(ドラゴンフライ)!!」

 

偉大な氷の魔導士の教えを受けた二人はまるで師匠(ウル)と共に戦っているような気持ちになり知らずに笑みを浮かべている。

 

「あなた達!母の教えを受けたのならまだまだ戦えるわね!?」

 

「当然だ!」

 

「ツナを助ける為にも休んでる暇はねえ!!」

 

「ならばあの集団を叩くわよ!!」

 

「「おうっ!!」」

 

 

 

 

 

「ネ拘束チューブ!カグラちゃん!!」

 

「ああ!不倶戴天・斬の型!!」

 

ミリアーナによって拘束された小型竜達をカグラの目にも止まらぬ斬撃が切り刻む。

 

「それにしても数が多いな……」

 

「全然減ってないような気がするよ~」

 

実際は少しずつ減っているが次から次へとやって来る小型竜達に辟易しながらも戦うカグラとミリアーナ。二人の視界の端には長年仇として狙っていた男がいた……

 

「七つの星に裁かれよ……七星剣(グラン・シャリオ)!!」

 

「天輪!循環の剣(サークル・ソード)!!」

 

エルザとジェラールのコンビネーションは長い間離れていたとは思えないほど息が合っていた。二人の前にいる小型竜は次々と撃破されていく……

 

「すごいね……あの二人……」

 

「ああ……互いの動きを完璧に把握しているからこそのコンビネーションだな」

 

「昔の二人は本当に仲良かったからね……」

 

ミリアーナは複雑そうな顔で共に戦っている二人を見つめる……ジェラールに対するわだかまりはまだ完全には解けてはいないようだ。

 

「……奴が全て悪いのではないと言うのは分かっている。だがエルザには悪いが私はまだ奴を許せない……と思う」

 

カグラにしても兄を死に追いやったジェラールに対してどう接すればいいのか判断がつきかねているようだ。

 

「だが……いつかエルザとジェラールにも聞いてみたいな……私の知らない兄さんの事を……」

 

「カグラちゃん……あ~!もう考えるのは後にしよう!とにかく今はドラゴンやっつけちゃおうよ!!」

 

「フフッ……そうだな!ツナヨシを少しでも楽にさせるためにも今は小型竜退治に集中することにしよう!!」

 

 

 

 

 

 

地上で魔導士達が小型竜と戦っている頃ルーシィは城へと走っていた。ツナが小型竜を引き付けている為に妨害もなく城へと辿り着いた。そこにはヒスイ姫とアルカディオス、ユキノとリリーがいたので声をかける。

 

「みんな~!!」

 

「ルーシィ様?」

 

「はあっ……はっ……これを見て!未来のあたしが落としたメモ帳なの!」

 

「未来の君が?」

 

「そう!上手くいけばこの戦いを終わらせる事が出来るかもしれないのよ!!」

 

「どういうことなのですか?」

 

ルーシィはメモ帳を開いてこの場にいる者達にとあるページを見せる。

 

「ここを見て!万が一この時代で扉が破壊されるとあたしは未来から来れないことになる……そうなればあたしはこの世界から消えるって書いてある」

 

「どういう意味なのでしょうか?」

 

「つまりね、未来のあたしが経験した第一の未来もローグが経験した第二の未来も鍵となっているのはあの扉なの」

 

その場にいる全員が頷いて続きを促す。

 

「もっと言えば扉があるから第一の未来も第二の未来も存在するの。だから扉を壊せば扉の存在しない第三の未来へと塗り変わるはず!そうすれば未来のあたしもローグもこの時代に来れないことになるわ」

 

奇しくもルーシィが思い付いたのはウルティアと同じ未来の道筋を固定する事だった。

 

「だが過去を変えても意味がないとツナヨシ・サワダが言っていたが……」

 

「そう!でも未来は私達の行動によって決まるわ!あの扉が残っている限り第一の未来と第二の未来も可能性として残る事になるけど扉そのものが無くなったら二つの未来はこの世界から切り離されるはず!」

 

「よく分からんが確信があるのか?」

 

リリーの問いにルーシィは首を振る。ルーシィにとっても賭けに等しい事だった。

 

「分からないわ……扉から来た者まで切り離せるのか……本当はツナか時魔法のエキスパートのウルティアさんに確認してみたかったんだけどね」

 

「ですがこの状況では他に手はありませんね」

 

「姫……よろしいのですか?」

 

「今戦っている魔導士達の助けになるのならば反対する理由もありません」

 

「かしこまりました……しかし問題は……」

 

アルカディオスの視線の先には巨大な扉が雄大に鎮座している。建設に携わったアルカディオスだからこそこの扉を破壊するということがどれだけ困難な事か分かっている……

 

「ありったけの魔力をぶつけるしかないわね!」

 

「はい!ルーシィ様今一度あれを!!」

 

ルーシィとユキノはエクリプスを閉じた時のように膝をついて掌と額を合わせると目を閉じて意識を集中する。

 

「「開け!十二門の扉!ゾディアック!!」」

 

二人の周囲に召喚された黄道十二門の星霊達が一塊になって扉へと向かっていったが……

 

「うそ!?傷一つついてないなんて!?」

 

「なんという固い扉なんでしょう……」

 

ルーシィとユキノの攻撃に扉は全くの無傷だった。さすがに傷一つつかないとは思ってなかった二人は愕然とする……

 

「でも諦めないわ!どんどん攻撃を仕掛けましょう!」

 

「はい!ルーシィ様!」

 

「俺も手伝おう」

 

ルーシィとユキノは戦闘モードになったリリーを加えて再び扉へと攻撃を仕掛ける為に魔力を高めるのだった……

 

 

 

 

 

 

「数が減っているお陰で捌きやすくなったな」

 

ツナは地上で戦っている魔導士達に感謝しながらクロッカス中心のリ・イン・クリスタルへと辿り着いた。しかし小型竜達は執拗にツナを狙って光線を放ってくる。

 

『ツナよ……よくやってくれた』

 

「マスター?」

 

『ワシの場所が分かるか?』

 

「ああ……見つけた」

 

広場の中心にマカロフと念話の補助の為にいるのだろうウォーレンの姿が見えた。

 

『ならばワシの真上に来るのじゃ。いい具合に小型竜達が引き付けられておるわい』

 

「だがどうする?魔導士達が入り乱れて小型竜だけを狙うのは難しいだろう?」

 

『心配はいらんわい。ワシに任せておけ』

 

「了解した……よし真上に来たぞ」

 

『そのまま攻撃を躱していてくれい。すぐに片をつけるからのう』

 

マカロフは念話を切ると体の前で掌に魔力を集中させる……ものすごい魔力が両の掌の間に集まって球体となった。

 

視線を小型竜達に向ける。どれだけ攻撃されようとツナ以外は目に入らない小型竜の様子に悲しみを感じているマカロフ……

 

「悲しいのう……最強の種族であるドラゴンでありながら操られるだけの存在となるとは……本来ならばこの魔法には3つ数える猶予を与えるのじゃが……」

 

操られるだけの小型竜には猶予を与えても全く意味のない事なのでマカロフはすぐに魔法の発動体勢に入ることにする。

 

「せめて安らかに……妖精の法律(フェアリーロウ)発動じゃ!!」

 

マカロフの両の掌の球状の魔力がクロッカスの街へと広がっていく。その光に触れた小型竜達が消滅していくのを魔導士達は呆然と見ていた……

 

妖精の法律(フェアリーロウ)……それはフェアリーテイルに伝わる妖精三大魔法の一つであり術者が敵と認識したものだけを攻撃する魔法である。

 

効果範囲もマグノリアの街全域を覆う程に広い。今回はマグノリアよりも広いクロッカスだったのでツナに小型竜を引き付けるように指示を出した。

 

この魔法を知るフェアリーテイルの魔導士達は安心と信頼をもってこの光を見ていたが他のギルドメンバー達は自分達も光に触れているにも関わらず小型竜だけを消滅させるこの魔法に驚きながらも感心していた。

 

光が消えた時そこには数えるのもバカらしいぐらい存在した小型竜は一匹残らず消えて魔導士達だけが残されていた。一瞬の沈黙の後大歓声が巻き起こった。

 

「よっしゃあ!!」

 

「小型竜が全部消えちまった!!」

 

「さすがです!マスター!!」

 

「お見事です!マカロフ殿!!」

 

「敵だけを消滅させるとは……」

 

「ただのじいさんじゃなかったんだな」

 

「フェアリーテイルは化物だらけかよ!?」

 

「ガーハッハッ!!どんなもんじゃい!!」

 

一仕事やり遂げたマカロフの高笑いが響く中、空中にいたツナが降りてくる。エルザやミラ、グレイ達も集まって来た。

 

「マスターお疲れ様です。すごかったですよ」

 

「おおツナ、お主の働きがあればこそじゃ」

 

「これで小型竜は殲滅できた……あとは大型のドラゴンが……五頭か」

 

「でもエルザ、一頭はナツと一緒に戦ってるみたいよ」

 

ミラが指し示す空にはナツを乗せたアトラスフレイムがローグが乗っているマザーグレアと激突して轟音と衝撃を撒き散らしていた。

 

「一体どうなってんだ?」

 

「あの炎の竜は味方と考えて良さそうだね……となるとあの卵を産む竜を引き受けてくれてるのなら残りは三頭か……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)6人が戦っているはず」

 

「ナツは……まあ大丈夫だろう……」

 

こういった時のナツの強さはエルザが認めるほどである。空にいるドラゴンはナツと炎の竜に任せる事となった……ツナはこれからの行動を考える。

 

「よし!俺はラクサス達の所へ行くよ」

 

「ツナ!全員で行った方が……」

 

「いや、人数が多すぎてもだめだ。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達の魔法は攻撃範囲が広いから人数が多いと同士討ちを恐れて攻撃が制限されてしまう」

 

「確かにのう……じゃがお前は少し休まんか!今ラミアの嬢ちゃんを呼びにやっとる。言ったはずじゃ、お主一人でやる必要はないと」

 

「マスター言うようにお前は少し休め!隠しているがかなり疲労しているだろう!」

 

「はあ……分かったよ。少しだけ休むことにするよ」

 

マスターとエルザの剣幕にツナは渋々と噴水の縁に腰を下ろした。だが疲労していたのは本当なので一度座ったら立ち上がるのがキツそうだなとツナは思っていた。

 

腰を下ろしたツナの周囲では多くの魔導士達が体を休めているのが目に入った。みんなそれぞれ怪我をしていたが重症というほどの怪我を負っている者はいないようでツナはホッと息をつく。

 

「治療しに来たよ!」

 

「おお!待っておった!こやつから頼むぞい!!」

 

「ゴメンね。シェリアも疲れてるのに……」

 

「平気だよ!ツナは無理しないようにしないとウェンディが悲しむんだからね!」

 

「分かったよ。じゃあよろしく……ん?」

 

「どうしたの?ツナ」

 

ふと何かに気づいたように顔をあげるツナにミラが声をかけるがツナは城の方角を見て眉間にシワをよせる……

 

「城で誰か大きい魔法を使ってないかな?小型竜は全滅したはずだよね?」

 

「ム……確かに……おかしいのう……あの城も充分に魔法の範囲だったのじゃが……」

 

「城にはユキノとリリーがいたはずよね?」

 

「気になるのならちょっと見てみましょうか」

 

ウルティアがツナの前に来て水晶を取り出した。すると水晶から光が溢れ、その光が収まると城の光景が映し出される。

 

「ルーシィとユキノ……?それにリリーが扉を攻撃してる……壊そうとしてるのかな?」

 

「そう……その手があったのね……」

 

さすがにウルティアはすぐに理解した。彼女達は扉を破壊する事で未来を塗り変えるつもりだと……

 

「恐らくルーシィの発案ね。フフ……同じような方法を考えてもやっぱり私とは違うのね…………ツナ、よく聞いてちょうだい。彼女達は……」

 

ウルティアは自己嫌悪に囚われながらツナにルーシィ達の考えを話し始めた……

 

人と竜の戦いは遂に最終局面を迎えるのだった……

 

 

 

 

 

 




いつになったら余震収まるのやら……大きいのが来ないのを祈るしかできないです……


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宴の終焉

たくさんの方からお見舞いの言葉を頂き本当に感謝しています。ありがとうございます。


 

-クロッカス

 

小型竜がマカロフの魔法で全滅した今、残された戦場は限られる。その内の1つが三頭のドラゴンと6人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)との激突だ。

 

竜殺しの魔法を持つ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達だが最初の6人がかりの攻撃以降有利を奪えていなかった。

 

ウェンディの補助魔法により攻撃力と素早さを引き上げているので何とか互角に戦えている。ちなみに防御力は上げていない。一撃もらえば即座に戦闘不能になるのはどちらにしても変わらないからだ……

 

「モード鉄影竜!!」

 

「ふん!そんなもので!!」

 

「なめんじゃねえ!!鉄影竜の……咆哮!!」

 

「ぐぐっ……効かぬわ!!」

 

ガジルの渾身の咆哮を気合いと共に弾き飛ばしたファフニールはそのまま体を回して巨大な尾でガジルを打ち払おうとするが

 

「白竜のホーリーレイ!!」

 

ドラゴンフォースを発動させたスティングの両手から放たれた幾筋もの光が次々と着弾する。

 

「ぬうっ!ちょこざいな!!」

 

「我が全てなぎ払ってやる!!」

 

横からファフニールを押し退けるように突っ込んできたシザーランナーがブレスを放とうと息を大きく吸い込んだ所に飛び込むのはコブラ……

 

「毒竜の霧!!」

 

シザーランナーの顔の付近に発生した猛毒の霧がシザーランナーの大きく開いた口から体内に吸い込まれる。

 

「ぐっ!?貴様ぁっ!!」

 

「ちっ!普通なら動くことも出来なくなるってのによ!」

 

「でもブレスは止まりました!滅竜奥義!照破!天空穿!!」

 

ウェンディの奥義が炸裂し、シザーランナーと巻き込まれたファフニールは体勢をのけ反らせる。

 

「なかなかやるな……人間達よ。だがこのリヴァイアは他の二頭とは違うぞ」

 

「はたしてそうかな?」

 

「なにっ!!」

 

リヴァイアの影に同化していたローグが現れて死角から突如攻撃した。ローグもスティング同様ドラゴンフォースを発動させている。

 

「影竜の……連雀閃!!」

 

「ローグ!貴様はおとなしく……」

 

「隙だらけだ!滅竜奥義!鳴御雷!!」

 

「ぐあああぁぁっ!!」

 

ローグに気をとられたリヴァイアの真上から雷化して高速で突撃したラクサスの奥義にリヴァイアもダメージを受けたようだ。

 

しかし結果としてこの6人の中で最強のラクサスの奥義ですらドラゴンを倒すには至らない……6人は集まって体勢を整える。

 

「なあ、さっきの光は昔あんたが使ったのと同じやつか?」

 

「ああ……妖精の法律(フェアリーロウ)だな。シジイが本気になったようだ。こいつらには効果ないみてぇだがシジイがあれを出した以上小型竜は全滅だろうよ」

 

「マスターが!?すごいです……」

 

「それはいいけどよ……こいつらマジで強ぇ」

 

「ツナヨシ・サワダはよく二頭も仕留めたものだ」

 

「奴は別格だろ……」

 

「ところでよ……サラマンダーの奴は何で炎のドラゴンに乗ってやがるんだ?」

 

「ナツさんですからね……」

 

「ナツのやることをいちいち気にしてたら疲れるだけだ……」

 

「さっすがナツさん!!しびれるぜ!!」

 

「おい!そろそろ来るぞ!!」

 

ドラゴン達が襲いかかって来たことにより話を中断して再び滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達はドラゴン達と向かい合うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

「うおおぉぉぉりゃあっ!!」

 

「ぬおぉぉぉっ!!」

 

アトラスフレイムの炎を食べたことによってパワーアップしたナツは未来のローグと互角に渡り合っていた。小型竜が全滅したことに驚いたローグは明らかに精彩を欠いている。

 

「どいつもこいつも俺の計画の邪魔をしやがって……俺は竜の王になる男だぞ!貴様らはいいかげんに死ね!!」

 

「笑わせんな!!仲間を捨てたお前が王になれるわけねえだろ!!」

 

「臣下はともかく仲間など不要!俺に従え!!」

 

ローグの拳がナツの頬に突き刺さるがナツはローグを睨み付けて微動だにしない。

 

「……今のお前をフロッシュが見たら何て言うんだろうな」

 

ナツの言葉にローグの肩がピクリと動いたのをナツは見逃さなかった。ローグは自嘲するように笑いながらナツに応答する。

 

「関係ない……フロッシュはどうせ死ぬ……一年後だったかな……」

 

「守らねえのか……?」

 

「守れなかった……しかし関係ない!俺は猫一匹と戯れていた頃の俺とは違う!!」

 

「ふざけるな!てめえは逃げてるだけだろうが!!」

 

「逃げてるだと?アクノロギアがいる限りこの世界に未来などないのだ!!だから俺が未来を創る!!影は光となってこの世界を照らすのだ!!」

 

「お前の照らす光じゃみんな笑えねえだろうが!!みんなを照らす光になれるのはツナみてえな奴だ!!」

 

それを聞いたローグの顔にハッキリと不快感が浮かぶ。ここまでの戦況を悪化させた原因は間違いなくツナの活躍によるものだ。

 

「だが!そのツナヨシ・サワダですらアクノロギアを倒すことはできん!!」

 

ローグはこの時代に来る前の自分の世界でのツナの姿を思い出す。

 

「奴は俺の時代では僅かな生き残りの魔導士達を集めて対アクノロギア組織VONGOLA(ボンゴレ)を作って戦っている。まさに人々の希望とやらだ……」

 

そしてローグは愉快そうに笑いだした……

 

「だがそのツナヨシですらアクノロギアを前に何度も逃げ出している!!だからこそ俺が王となるしかないのだ!!」

 

「ツナが逃げるってことはそこにいた奴らはみんな無事ってことだろ?目に浮かぶぜ……そこにいた奴らをアクノロギアから遠ざける為に残って戦って全員逃がした後自分も生き残るのがよ」

 

「だから何だ!倒せないのなら意味がない!!」

 

「未来のツナはきっとアクノロギアを倒す!!だからお前は自分の時代へ帰れ!!」

 

ナツはローグに向かって走り出す。

 

「帰るつもりなどない!!俺の未来はここにあるのだ!!白影竜の(あしぎぬ)!!」

 

無数の黒白の魔力が再び無数の閃光となってナツを切り刻もうと襲いかかる。だがナツはその閃光をひたすらに躱しながらローグに迫る。

 

「この時代のローグの未来も……これ以上は何も奪わせねえ!滅竜奥義!紅蓮火竜拳!!」

 

間合いを詰めたナツが連続で拳を繰り出す。ローグは必死にガードするがその威力に後方へと吹き飛ばされる。

 

「ナツ!!」

 

「行くぜオッチャン!全魔力開放!!」

 

好機とみたアトラスフレイムが炎の腕を伸ばしてナツの後押しをするように叩きつける。ナツはそれを両足で受けるとその勢いを利用して加速するとローグへと向かって飛び出した。

 

「くっ……この!聖影竜閃牙!!」

 

タッグバトルの時にスティングと二人で使った技を一人で繰り出すローグ。あの時よりはるかに強力なはずなのにナツにはそれが何故かひどく弱々しく見えた……

 

「滅竜奥義〝不知火型〟紅蓮鳳凰劍!!!」

 

全身に炎を纏ったナツはローグの繰り出した技へとそのまま突撃する。

 

「死ねぇぇぇぇっ!!」

 

「誰にだって未来を選ぶ資格がある!オレたちは自分で選んだ未来を進んで行く!お前の選んだ未来じゃねえ!!」

 

ナツの体の炎が爆発するように燃え上がりローグの技を弾き飛ばす。

 

「何ぃぃぃっ!!」

 

「明日なんて分からなくていい……今日を全力で生きる為に!!」

 

そのまま突撃するナツ……そして遂にナツの渾身の一撃がローグの体へと突き刺さり二頭のドラゴンの背中から二人とも地上へ落ちていった……

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「何て……堅い扉……」

 

「すまん……魔力がもう……」

 

ルーシィとユキノが想像以上の扉の強度に肩で息をして座りこんでいる。最早星霊を呼び出す魔力も残っていない……リリーも戦闘モードを維持するのが不可能になってしまった。

 

「あき……らめない!絶対に……未来のあたしとの約束だもん!!」

 

「ルーシィ様……」

 

「やはりマギナニウム合金製の扉を破壊するのは難しいか……いったいどうすれば……」

 

魔力が尽きても尚も立ち上がろうとするルーシィを沈痛な面持ちで見つめるヒスイ姫とアルカディオス……

 

「あたしは……絶……対……」

 

「ルーシィ様!!」

 

立ち上がったもののふらりと糸が切れたように後ろへ倒れそうになるルーシィ……ヒスイ姫がとっさに受け止めようと走り出すがその前に現れた人影に受け止められた。

 

「よくがんばったね。ルーシィの覚悟……見せてもらったよ」

 

「ツ……ナ?」

 

「うん。後は俺に任せて休んでて……ミラ、ルーシィを頼むよ」

 

「分かったわ、ルーシィお疲れ様。よくがんばったわね」

 

「ミラさん……」

 

ルーシィを優しく抱きしめるミラにおもわず涙を流すルーシィ……ツナがハイパー化して扉の前に立つと着いてきていたウルティアが声をかける。

 

「ツナ、修復が不可能になるくらい破壊しないとダメよ。2つの未来の可能性を残さないように切り離さないと……」

 

「未来そのものが消えるわけじゃないんだな?」

 

「ええ……今、この扉は言わば時の分岐点なの。この時代からの分岐は不可能になるけどこの時代と独立した未来として残るはずよ。そして関係を絶たれた世界から来た者達は元の世界に戻る………と思うわ」

 

ツナは頷くとボックスからナッツを呼び出す。

 

「分かった……ナッツ!これが最後だ!やれるな?」

 

「ガウッ!!」

 

形態変化(カンビオ・フォルマ)だ!!」

 

「ガウウウウウッ!!」

 

ナッツがツナと一体化して再び炎の翼を持ったモード妖精(フェアリー)となる……幻想的な姿に一緒に来ていたフェアリーテイルメンバー達も思わず溜息を漏らす。

 

「行くぞナッツ!残った炎を全て使い切る!!オペレーションXX(ダブルイクス)!!」

 

ジルコニスの時と同じように背中の羽から炎を逆噴射して両腕をクロスさせながら前方へ突き出して凄まじい炎を放とうとしている。そしてその炎から感じる膨大な魔力にマカロフとメイビスですら驚愕する。

 

「何と凄まじい魔力!!」

 

「これがツナの炎……その力は全ての邪悪を打ち祓い、その優しさは全てを抱擁する……正にジョットの真の後継者……これぞ大空の炎です!!」

 

ツナは目を閉じて思い出す……自分の腕の中で逝った未来のルーシィの最後の言葉を……

 

『ツナ……あなたと…会え…て幸せ…だった……お…願い未来を…守っ……て…………』

 

「守るよ……絶対に!!」

 

ツナは目を開くと扉を見据える……その覚悟を炎に込めて扉へと解き放った。

 

XX BURNER(ダブルイクスバーナー)!!!」

 

残された炎を全て使った最後の一撃が放たれた……

 

 

 

 

 




昨日大きめの地震が来たと思ったら震度3……絶対に3より大きいと思ったのに……地震に敏感に反応してしまいます。


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そして新たな未来へ……

余震がもう1500回くらいきました。回数は減ってますが時たま強いのが来たりしますので驚きます!


 

 

-???

 

「うっ…………」

 

目を覚ました少女が見たのは地獄だった……焼けた街……崩れ落ちた(メルクリアス)……そして焼けるような痛みを感じてその痛みの元を見るとあるはずの自身の右腕は存在していなかった……

 

フェアリーテイルの紋章を刻んだ右腕の喪失に少女……ルーシィは涙を流す……血が止まっているのはおそらく気絶している間に星霊が止血してくれたのだろう。

 

星霊達に感謝しながらフラフラと立ち上り辺りを見渡すとそこには共に牢に入れられた仲間達の変わり果てた姿があった……

 

「な…んで……どうしてこんなことに……」

 

絶望したルーシィが空を見上げるとそこには空を埋め尽くすほどのドラゴンが我が物顔で空を飛んでいた。

 

「あ……ああ……あっ……!」

 

目を見開き恐怖に震えるルーシィ……それに気付いたのか一頭のドラゴンが急降下してきた。そしてルーシィの近くまで来るとブレスを放つ為に大きく息を吸い込んでいた。

 

そしてブレスが吐かれるがルーシィは一歩も動けない……迫り来る死に目を閉じた。

 

「ルーシィ!!」

 

誰がが自分の名前を呼ぶ……その人物はドラゴンの咆哮を身に纏ったマントで防いでいる。

 

「ツナ……?」

 

「ルーシィ!無事……じゃないな……」

 

痛ましそうにルーシィの右腕を見るツナ……

 

「ううっ!ツナ……みんなが!みんなが……」

 

「そうか……こっちも……」

 

「ねえ……他のみんなは?無事なんだよね?」

 

「……現時点で無事が確認できたのはレビィだけだ。ガジルがその身を盾にして守っていたよ……マスターもエルザもラクサスも……みんな……さっきナツも……」

 

「嘘……みんなが……?」

 

ルーシィが悲しみに暮れているとブレスを放ったドラゴンの他にも十数頭のドラゴンが集まって来た……

 

「ルーシィ……君だけでも逃げるんだ……」

 

「嫌だよ!ツナ……!?その怪我は!?」

 

マントで見えなかったツナの体には無数の傷があり血が未だに流れ出ていた……それでもツナはドラゴンを迎え撃つ為に空へ舞う……

 

無数のドラゴンがツナへと群がるが大怪我をしているはずのツナの炎は激しく燃え上がる。ツナはここに来るまでも数頭のドラゴンを屠っていた。そして今絶対にルーシィを守るという覚悟の元、大空の炎が一層激しさを増す……

 

「ツナ……もう……無理だよ……」

 

しかしいくらツナが強くとも一万を越えるドラゴン達を全て倒せる訳がない。疲労と怪我……流れ出る血がツナから力を奪っていく……そして……

 

「ぐあっ!!」

 

「ツナ!!」

 

「来るな!!」

 

地上へ叩きつけられたツナの元へ走ろうとするルーシィを押し留め、立ち上がったツナは全身から激しく炎を噴き出していた……

 

死ぬ気の到達点……今の状況で炎を無尽蔵に消費するこの技を使ってしまえば間違いなく炎を使いきって死ぬだろう……

 

だがせめてルーシィを視認している周りの百頭近いドラゴンは倒さなければならない……

 

「ルーシィ……せめて君だけは守ってみせる!」

 

「ツ…ツナァァァァッ!!!!」

 

ルーシィの叫びが響き渡った…………

 

 

 

 

 

 

-???

 

雲一つない青空に黒い点が見える……その点はぐんぐんと近づいて来た。それを見た村の人々は絶望する……

 

「ア…アアア…アクノロギアだ!!」

 

「遂にここにも来たの!?」

 

「もう……終わりだー!!」

 

泣きわめきながらパニックになる人々……それはそうだろう。やって来たのは世界の人口を9割も減らし尚も気まぐれに生き残った人々を殺戮する悪魔のドラゴンなのだから……

 

逃げ惑う人々を鬱陶しそうに見ながら右腕を地面に叩きつけるアクノロギア……ただそれだけで地面はめくり上がり、衝撃が村人ごと村を吹き飛ばそうと襲いかかるが……

 

炎の絶対防壁(ブリンダ・アッソルート・ディ・フィアンマ)!!」

 

突如青年の声が響き炎の壁が衝撃波を防ぎ、めくれた大地も燃やし尽くした……

 

「マタ貴様カ……大空ヨ……!!」

 

人間を虫のようにしか思っていないはずのアクノロギアが青年に声をかける。青年はそれには答えずに額と両手の炎を激しく燃やす。

 

「エルザ!ジェラール!ソラノ!頼むぞ!!」

 

「気をつけろよ!!ツナ!!」

 

「皆!こっちだ!!急げ!!」

 

「ユキノとのリンクは済んでるゾ!いつでもゲートは繋げられるゾ!!」

 

ソラノは拠点にいる妹のユキノと力を合わせて転移の為の魔法を使おうと準備している。

 

「あ……あんた達はいったい……?」

 

「俺達はVONGOLA(ボンゴレ)だ」

 

ジェラールの名乗りに村人達の顔に希望が灯る……アクノロギアに抵抗することを諦めずに人々を守る……この世界に残されたたった一つの希望なのだから。

 

「そして彼が我々のボス……ツナヨシ・サワダだ」

 

そして村人達が青年を見る……7年前の大魔闘演武で一躍有名になった男の名前だ。青年は背中に炎の羽を生やして大空に舞い上がりながら果敢にアクノロギアと戦っていた。

 

「破壊!破壊!我ハ破壊ノ王、アクノロギア也!!貴様ハ邪魔ダ!消エロ!!」

 

「これ以上お前に何も奪わせない!!」

 

激しくぶつかり合う両者だがやはり質量が違いすぎることもありツナが一方的に傷ついていく……

 

「逃げ遅れはいないな!?」

 

「ああ!全員いるよ!!」

 

「よし!ツナに合図を!!」

 

エルザが明星の鎧に換装して光を放つのと同時にジェラールの魔力が高まり構えをとる……するとさっきまで雲一つなかった空に渦巻くような雲が現れる。

 

「真・天体魔法……星崩し(セーマ)!!」

 

雲の中心から隕石がアクノロギアに迫るがアクノロギアは反転すると両手でそれを受け止めた。だがその為に動きが止まったのをツナは見逃さない。

 

「X BURNER!!」

 

「ヌググググッ……!!」

 

ツナは技を放ちながら後ろ手に放っていた柔の炎を弱めていく……すると技の勢いに後方へと飛ばされるがその勢いを利用してソラノが作る魔方陣に着地した。

 

「よし!」

 

「ソラノ!」

 

「分かってるゾ!!(ゲート)発動!!」

 

ソラノの言葉と共に魔方陣が発動する。ツナ達も村人達もソラノの妹のユキノが待つ拠点へと転移していった……

 

 

 

 

「もう!また無茶して!!」

 

「ごめんなさい……」

 

拠点の自室で7年で美しく成長したシェリアの治療を受けているツナは平謝りするしかできない……連れて来た難民達は地下にある居住区へソラノとユキノの姉妹が連れて行っている。

 

「そんなんじゃウェンディだって心配してるよ!」

 

「そうだね……」

 

壁を見るとそこにはリーダスの遺したウェンディの絵が飾ってある。いやそれだけではなく在りし日のフェアリーテイルのメンバー達が描かれた絵が飾ってあった。

 

アクノロギアによって魔導士ギルドも全滅させられた……生き残ったのはほんの僅かしかいなかった。

 

フェアリーテイルからはツナ、エルザ、ドロイ。

 

クリムソルシエールからはジェラール、後に加入したソラノ。

 

ブルーペガサスからは一夜とヒビキ。

 

ラミアスケイルからはシェリア一人。

 

セイバートゥースからはユキノ……ローグも生きているらしいがボンゴレには加入していない。

 

ドロイと一夜とヒビキは作物の品種改良と増産する為の魔法を開発している。ボンゴレや難民達が食糧難にならないのは彼らのおかげだ。

 

シェリアは貴重な回復役なので、ユキノはゲートの魔法を使う為に拠点に残されている。もっともユキノはソラノが絶対に行かせないが……

 

戦闘員はツナ、エルザ、ジェラール、ソラノだがこの中でかろうじてアクノロギアと戦えるのはツナのみ……ソラノはゲートを作る為に動けないのでそれを守るのがエルザとジェラールの役目だ。

 

「ツナの負担が大きすぎるよ……」

 

「ボスだからしかたないさ」

 

「普通ボスが最前線に出る!?」

 

「ボンゴレのボスなら当たり前だよ」

 

「でもっ……エルザやジェラールだってツナと一緒に戦いたいって思ってるよ!!」

 

「分かってるよ……何度も言われてるからね……」

 

だが現段階で二人を最前線に出すわけにはいかない。二人はツナに認められるように帰って来てすぐに修行を始めている。

 

「あたし嫌だよ……ツナがジュラさんやリオンみたいに……」

 

ツナは泣き出すシェリアの頭を優しく撫でると力強く言葉を紡ぐ……

 

「俺は死なないよ。ボンゴレを結成した時の誓い……希望を捨てないこと、これ以上誰も死なないこと、忘れた事なんてないからね」

 

「絶対だよ」

 

「うん。約束だ……」

 

絶望が支配する世界で彼らは希望を捨てずに戦い続けていく……

 

 

 

 

 

 

これらはIFの未来……ルーシィとローグが経験した世界での話……

 

 

 

 

 

 

 

現代はこれから第3の未来へと動き出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

-クロッカス

 

オレンジの閃光と爆発が視界を埋め尽くす……そして視界が回復した後にはあったはずの扉は粉々に砕けて跡形も残ってはいなかった……

 

「ルーシィ!見て!扉が壊れたわよ!」

 

「ツナ……」

 

「し……信じられん……マギナニウム合金製の扉をここまで破壊するとは……」

 

「この後どうなるのです!?」

 

「未来の可能性を切り離した事によりローグはこの時代に留まる事はできない……ローグが呼んだドラゴンも同じ……つまり……」

 

その時近くに横たわっていたジルコニスの体から淡い光が輝きだした……

 

 

 

 

 

 

「なんだ!?」

 

「ドラゴン達が光っている!?」

 

「な……何がおきているんでしょう……」

 

死闘を繰り広げていた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達は目の前にいるドラゴン達の体が光を放ち薄くなっていくのを驚きと共に眺めていた。そして消え去るドラゴン達を見てようやく終わった事を実感した。

 

「終わったのか……」

 

「やりましたね!」

 

「ああ……だが……俺達は結局ドラゴンを倒すことは出来なかった……」

 

「せっかく呼ばれたってのに情けねぇなあ……」

 

「アクノロギアってのはもっと強いんだろ?滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が聞いて呆れるぜ……」

 

「だが……今は喜ぼう……仲間を守る事ができたんだ」

 

「ってか!ツナヨシさんの強さは何なの?ドラゴンよりも強いって俺達の立場がないじゃん!!」

 

「あはは……ツナさん強すぎますからね……」

 

「まっ、俺達も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を名乗るならアイツくらい強くなんねぇとな」

 

「ギヒッ!すぐに追いついてやるぜ!」

 

「無理だな……」

 

「何だとライオス!!」

 

「俺はローグだ!!」

 

「ちっ!やれやれだぜ……」

 

戦いを終えた彼らの元へやって来るギルドのメンバーを目の端に捉えながらメイビスは彼らを空中から見下ろしていた。

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)誰一人としてドラゴンを倒す事は出来ませんでしたか……そしてツナ、あなたの炎……見事でした。あなたなら私達を呪われた運命から解き放ってくれるのでしょうか……」

 

 

 

 

 

「どうやらお別れのようだなイグニールの子よ……さらばだナツ。お前の事は忘れん」

 

「ありがとなオッチャン!おかげで助かったぜ!」

 

アトラスフレイムとマザーグレアが消えるのを見届けてからローグに向き直る。ナツは目の前に倒れているローグの体が光輝くのを見て安堵の息を漏らす……間違いなく強敵だった。

 

「クク……俺の計画がここまで完全に破綻するこになるとは……見事と言っておこうナツ・ドラグニル……」

 

「ローグはお前にはならねえ……だからお前はお前として未来に帰れ」

 

「そうするしかないようだがな……影だ。影がずっと俺に付きまとい俺を苛む……そしてフロッシュが死んだ時俺は影と一つになっていた。俺に伝えろ一年後……絶対にフロッシュを守れと」

 

「一年後だな……」

 

「ああ……一年後フロッシュは―――に殺される」

 

「!?」

 

「そしてもう一つ、ツナヨシ・サワダに虹の炎を手に入れろと伝えろ」

 

「虹の炎!?どういうことだ!?」

 

「詳しくは知らんが……俺の時代のツナヨシは虹の炎を手にする機会を永遠に失ったらしい……」

 

「どうやって手に入れるんだ!?」

 

「さあな……そこまでは知らんがアクノロギアを倒せる可能性があるらしい」

 

「アクノロギアを!?」

 

「クク……ここまでヒントをやったんだ。無駄にしたら許さんぞ」

 

「ああ!俺達の未来は俺達が作る!お前も未来でガンバれよ!!」

 

「さらばだ……」

 

そうしてローグは消えていった……未来のルーシィを殺した事は許せないが、ナツは最後に少しだけローグと分かりあえたような気がして笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

 

 

ジルコニスも岩窟王も元の時代へと帰っていった……全てのドラゴンが消えると魔導士しかいないはずの街から大歓声が巻き起こった。

 

彼らは誰も死ななかった事を抱き合って喜んでいた。そこにはギルドの垣根など関係なく共に戦った戦友達は勝ち取った未来を祝っていつまでも騒いでいた……

 

 

 

 

 

 

そして地上の騒ぎなど全く聞こえない静寂に包まれる地下では一人の少女の遺体が光と共に消え去った……

 

 

 

 

 

 

-???

 

目を覚ました少女は自分がどこにいるのか分からなかった。どこまでも広がる雄大な黄金の草原……その幻想的な光景に目を奪われる。ふと違和感を感じると驚いたことに失ったはずの右腕が存在していた。

 

驚く少女……ルーシィはフェアリーテイルの紋章が刻まれた右腕を愛しそうに抱き締める。ここがどこなのか分からないルーシィは当てもなく散策してみることにした……

 

「ルーシィ!!」

 

懐かしい声を聞いて振り返るとあの日失ったはずの一人の青年が立っていた。まるで自分を待っていたかのように……

 

そしてその青年の隣には寄り添うように佇む二人の恋敵と呼べる女性達もいた。

 

「ルーシィさん、早く行きましょう」

 

「みんな待ちくたびれちゃうわよ」

 

二人が指し示す方向を見るとフェアリーテイルの仲間達が勢揃いしていた。またみんなと一緒にいれる……そう思うとルーシィの瞳から涙が溢れてくる……

 

「さあ、行こう!みんな……また一緒だ!」

 

「うん!」

 

青年の……ツナの差し出す手を取ったルーシィは残った手で涙を拭い輝くような笑顔を見せた……

 

その笑顔を見ながらツナは自分がここに居ることが出来るのは何故かなんとなく理解していた。ボンゴレリングに宿ることなくみんなと共に居られるのはきっと自分が心の底からそう望んだからだろうと……

 

何よりも大切な仲間達と共に歩む……

 

ツナはルーシィの手を取りながら仲間達の元へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

-クロッカス

 

ルーシィの手から未来のルーシィが遺したメモ帳が光となって消え去った……

 

「終わったのね……これで……」

 

「ルーシィ?泣いてるの?」

 

ミラに指摘されてルーシィは慌てて手を顔に当てると何故か涙が止めどなく流れていた……

 

「あれ?おかしいな……なんで……?」

 

止まらない涙で滲んだ視界にツナがゆっくりと歩いて来るのが見えてルーシィは駆け出した。そのまま顔を隠すようにツナの胸に飛び込む。

 

「ごめん……少しだけこうさせて……」

 

ツナは何も言わずに微笑んでルーシィの頭を撫でる。雲の隙間から月の光が二人を優しく照らしていた……

 

 

 

 

 

 

 




バトル終了です。次回は打ち上げです。


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大舞踊演舞とそれぞれの決断

過去最長の話になりました。遅れてすみませんでした。


 

 

-クロッカス

 

ドラゴンの襲来から数日後……クロッカスの街には避難していた街の住民達が戻って来ていた。

 

「しっかしよ~何でこんなに街がボロボロになってんだ?」

 

「魔導士達が喧嘩でもしたんじゃねえの?でも王国が魔法できちんと直してくれるらしいぜ」

 

「さっすが魔法の国フィオーレ王国だな!!」

 

「噂じゃドラゴンが何頭も襲って来たらしいぜ」

 

「バカね……そんな訳ないじゃない。ドラゴンスレイヤーの間違いでしょ?」

 

「そう言えば魔導士達は今日は城でパーティーらしいな?羨ましいぜ」

 

「マジかよ!?俺も行きて~な~!そしてミラジェーンとジェニーとお近づきに……」

 

「俺はフェアリーテイルのルーシィがいいな……あのスタイルの良さといったら……」

 

「ウェンディちゃんとシェリアちゃんの可愛さには負けるけどな」

 

「お前ロリだったのか……」

 

「あんたらみたいなのが相手にされるわけないじゃない。バッカじゃないの?」

 

「でも私もツナヨシ様とお近づきになりたいわね~」

 

「大魔闘演武のMVPだもんね。強くて紳士的でかっこいい!完璧よね~」

 

「この前までヒビキがいいとか言っといてこれだから女は……」

 

「でもツナヨシってあんだけ強いのに全然知らなかったな……火竜(サラマンダー)妖精女王(ティターニア)は有名だったけどよ」

 

「まあ今日のパーティーの主役なのは間違いないだろうな」

 

魔導士達の噂をしていた街の人々は城を羨望の眼差しで見上げていた……

 

 

 

 

 

 

 

-メルクリアス

 

噂の的となっている魔導士達のパーティー会場ではフェアリーテイル男性陣が集まって話をしていた。

 

「しっかしアイツら遅いな」

 

「グレイ……女性の支度には時間が掛かるものだよ。もう少し落ち着きなよ」

 

「俺は先に食ってるぜ~」

 

「ガジル!漢ならどっしりと構えて姉ちゃん達を待つべし!」

 

「ロメオ。ネクタイが曲がってるよ……これでよし」

 

「ありがとうツナ兄!ツナ兄スッゲー決まってるぜ!」

 

「ふふ……ありがとうお世辞でも嬉しいよ」

 

「いやいや……お世辞じゃねーから……会場に来てる女達の視線を全部集めてるんじゃねえか?」

 

ツナはボス時代に幾度もパーティーに出席していたのでボンゴレのボスとして相応しい超高級品のスーツをしっかりと着こなしていた……

 

お陰で既に会場入りしている女性達はその中性的な顔立ちと彼の為に作られたスーツの取り合わせにうっとりと熱い視線を送っていた。

 

「お待たせー!!」

 

女性陣が着替えを終えて登場した。美女揃いのフェアリーテイル女性陣のドレスアップした姿に会場の男達は歓声をあげ、フェアリーテイルの男性陣は普段と違う女性達の格好に息を飲んだ。

 

ミラ、ルーシィ、ウェンディは早速ツナに着飾った自分を見せようとしたが、ツナの着飾った姿に見惚れて足を止めてしまう。それでも何とか平静を装いツナに声をかける。

 

「ツ……ツナこの服どうかしら?」

 

「ミラはセンスいいね、すごく似合ってると思うよ」

 

「あ……あたしは?どう?」

 

「ルーシィはやっぱり着なれてるね。よく似合ってるよ」

 

「あの……私はどうでしょうか……」

 

「ウェンディ、よく似合ってるから顔をあげて」

 

「もう!ツナったら似合ってるしか言ってないじゃない!!」

 

「実際みんな似合ってるんだからしょうがないじゃないか……」

 

「でも一番似合ってるのはツナだよね」

 

「このスーツはあっちから持って来てたんですか?」

 

「まあね。ところでユキノは一緒じゃなかったの?」

 

「え!あれ?もしかして恥ずかしがって戻っちゃったのかしら?連れてくるから先に楽しんでてね」

 

ミラはユキノを探しに控え室の方へと戻っていった。周りを見るとカナは早速お酒に手を伸ばしてバッカスと飲み比べを始めていた。

 

一夜が楽団に無茶振りをしたりカグラが着なれないドレスを着て恥ずかしそうに俯いていた。

 

ルーシィはヒスイ姫に、ウェンディはシェリアに声をかけられて少し離れた場所でこのパーティーを楽しんでいるようだ。

 

「ツナ!ナツどこに行ったか知らない?」

 

聞いて来たのはリサーナだった。ツナはそう言えばナツの姿がないことに疑問を感じる……

 

「ナツは着なれない服を着て窮屈だからって先に行ったんだけど……そういえば見てないね」

 

「もーどこに行っちゃったのかなー?」

 

「せっかく綺麗に着飾ったんだからナツにも見せたいのにね」

 

「うん……って違うよ!そんな事考えてないからね!」

 

「ふふ……そんなに慌てなくてもいいのに」

 

顔を真っ赤にしてあたふたするリサーナにツナは生暖かい視線を向ける。そこへウェンディがシェリアを伴って戻って来た。

 

「ツナさん!見てくださいこのデザート!」

 

「すっごい綺麗!宝石みたいだよね」

 

「美味しそうですね……」

 

「うひゃっ!?初代!?」

 

初代の幽体がウェンディとシェリアが手にするデザートを至近距離で凝視していた。だがシェリアには見えていないようでウェンディの奇行に首を傾げていた。

 

-そういえばフェアリーテイルの紋章を刻んでないと見えないんだっけ?あれ?でも……-

 

疑問に思ったツナはデザートを指をくわえて見ている初代に小さな声で声をかける。

 

「初代」

 

「はっ!何でしょうツナ?」

 

「俺がこの世界に来た時も初代の姿が見えたんですけど何でですか?紋章を刻んでなかったのに……」

 

「……それには確かに理由があります。ですが申し訳ありませんが今は語ることが出来ません。いずれ必ず話さなければならないでしょうからそれまで待っては頂けませんか?」

 

「いえ、少し気になっただけですから気にしなくていいですよ」

 

ツナは恐らくジョットと何か関係があるのだろうと当たりをつけるがあまり踏み込んでまで聞く事はないと思って笑顔で応じる。

 

「ありがとうございます。では私もパーティーを楽しむ事にしますね。ツナも楽しんで下さい」

 

幽体でどう楽しむのか気になるがそれにはツッコまずにツナは踵を返した。

 

「ウ…ウェンディ!!ここ何かいるよ!!」

 

……気にしない事にした。

 

 

 

 

 

「おお!ツナヨシ殿!!」

 

「ムム……何というイケメンっぷり!」

 

「ジュラさん、一夜さん」

 

食事を楽しんでいたツナの元へジュラと一夜がやって来た。ツナも食事をやめて二人に応じる。

 

「今回は見事な御活躍でしたな」

 

「みんなの力があればこその結果ですよ」

 

「メェ~ン。そう謙遜せずともここにいる全員があなたの勇姿を見ているのですからな」

 

「今回は己の未熟さを思い知らされました。ツナヨシ殿にラクサス殿、そして小型竜を一掃したマカロフ殿……ワシももっと強くならねば!」

 

「常に先頭に立ち皆に勇気を与える存在……正に私を越えた真のイケメンでしたぞ」

 

「はは……ありがとうございます。まあ一杯飲みましょう。ささっどうぞ」

 

ツナは空いているグラスを手渡してワインを二人に注ぐと一夜がツナのグラスにワインを注ぐ。

 

「では……勝ち取った未来に乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

 

 

 

 

二人と別れたツナが周りからの視線を気にしながら歩いているとエルザがカグラを抱き締めていてそれをマーメイドヒールのメンバーが生暖かい視線で見守っている光景に出くわした。

 

「何やってるの?エルザ」

 

「ニャ!ツナ~!」

 

「ん?おおツナ!カグラが私の妹になったんだ!」

 

「冗談だと言っているだろう!放してくれ!」

 

「エルちゃん!ツナとカグラちゃんの合体技すごかったんだよ!ドラゴンをやっつけたんだよ!」

 

ツナの腕にしがみつきながら岩窟王を倒した時の事を語るミリアーナ。

 

「そうか!よくやったぞカグラ!」

 

「わあ!だからやめてくれと……んんっ!ツナヨシ」

 

「ふふっ……どうしたのカグラ?」

 

微笑ましく見守っていたツナにエルザから逃れたカグラが気を取り直して真剣な顔でツナに話しかける。

 

「此度の戦いはそなたがいなければ勝てなかっただろう。少なくとも仲間を失っていたかもしれない……ありがとう」

 

「俺だけの力じゃないだろう?カグラが手伝ってくれたおかげであの岩のドラゴンを倒せたんだし他のみんなが気を引いてくれたからあの技を決めれたんだよ」

 

「いや、それだけではなく私が闇に囚われそうになった時もそなたの炎が私を救ってくれた。まるで兄さんのように温かい炎だった……」

 

真面目な顔でお礼を言っていたカグラがそこまで言うと急に顔を赤くしてモジモジしだした。そんなカグラをエルザとマーメイドヒールのメンバー達は優しげな瞳で見守っている……

 

「それで……その……ツナヨシの事を兄さんと呼んでもいいだろうか!?」

 

「「「「何で!?」」」」

 

いきなり顔をあげての爆弾発言にマーメイドヒールから総ツッコミが入る……ツナは申し訳なさそうにそれが出来ない事を伝える。

 

「えっと……俺19歳だからカグラの兄にはなれないんだけど……」

 

「大丈夫だ。フェアリーテイルには7年の時の呪縛があるのだろう?何も問題はない」

 

「カグラ……残念だがツナが加入したのは天狼島の後だ。時の呪縛は受けていない」

 

「な……んだ……と……」

 

エルザの残酷な一言にカグラはガクリと肩を落とすが次のエルザの一言により再び復活する。

 

「だから兄ではなく弟にすればいいだろう」

 

「その手があったか!!」

 

「何でそうなるの!?」

 

「さあツナヨシ……私の事を姉さんと呼んでいいんだぞ」

 

にじり寄ってくるカグラからほのかにワインの香りがするのにツナは気付く。よく見ると顔も赤く目の焦点もどことなく合っていない……

 

「まさか……カグラ酔ってるの!?」

 

「私はこの程度の酒では酔わないぞ。あと姉さんだ」

 

「いや!絶対酔ってるよね!?」

 

「カグラは下戸なんだよね~」

 

「すぐ酔っぱらっちゃうからね……」

 

「カグラに飲ませちゃいけないよ」

 

「ねえツナのネコネコ出して~」

 

「今俺それどころじゃないよね!?」

 

「姉さんの話はちゃんと聞けーー!!」

 

暴れ始めるカグラを宥めつつツナはこの場から撤退することにした……

 

 

 

 

 

「ふう……疲れたな……」

 

「あっ!ツナー!!」

 

「ルーシィと……ヒスイ姫?」

 

カグラから逃れたツナが歩いているとルーシィから声がかかる。今まで話していたのだろうヒスイ姫が側にいた。

 

「今ヒスイ姫と色々話してたの」

 

「ルーシィさんのお父上には昔色々とお世話になったので……」

 

「そうだったんですか?意外……でもないかルーシィお嬢様だったんだもんね」

 

「もう!それを言わないでよ!」

 

「ふふっ、ツナヨシ様とルーシィさんは仲がよろしいのですね。……少し羨ましいです」

 

「ところで王女に様付けされるのはちょっと……できればツナと呼んでは頂けませんか?」

 

「よろしいのですか?ではツナ…と呼ばせて頂きますね。ツナ、今回の事は私のせいで大変な事になってしまいました……本当に申し訳ありません」

 

顔を赤くしてツナを愛称で呼ぶヒスイ姫だがすぐに神妙な顔になりツナに謝罪する。

 

「私は大変な過ちを犯してしまいました。あなた方の助けがなければこの国は滅びていたかもしれません……国を預かる王族としてあってはならないことです」

 

「確かに……ですが過ぎたことはどうしようもありません。これからどうするかが大事だと思います」

 

「そうですね……今日私は国王に罰を願い出るつもりです。その前にあなたにお礼を言いたかったのです」

 

「ちょっ!何もそこまで……」

 

「いいえルーシィさん罰は必要です。では存分に宴を楽しんで下さい」

 

そう言うとヒスイ姫は踵を返して去っていった……

 

「ツナ……どうしようもないのかな?」

 

「ヒスイ姫は覚悟を決めてる……俺達が口を出すことじゃないよ。彼女自身が一番自分を許せないんだろうしね……」

 

ツナとルーシィは去っていったヒスイ姫の背中が見えなくなるまで見送っていた。

 

 

 

 

 

「ツナ、ルーシィ!」

 

「ミラさん……それにユキノも」

 

「ミラジェーン様……やはりこのような格好私恥ずかしいです……」

 

「もう!さっきからそればっかり!よく似合ってるのに……」

 

「そうだね。よく似合ってる……もっと自信を持っていいと思うよ」

 

「そうよ!ユキノ可愛いんだから自信持って!」

 

「ツナヨシ様……ルーシィ様……」

 

「ほら俯いてちゃだめよ。顔をあげて」

 

「はい……!!」

 

顔をあげたユキノは一瞬笑顔を浮かべるがすぐにその表情が凍りついた。何事かと思って振り返るとそこにはスティングやローグ、オルガやルーファスといったセイバートゥースメンバー達がこちらを見ていた……

 

「っ……私やはり来るべきでは……」

 

「待って!!」

 

会場から去ろうとするユキノをスティングが大声で呼び止める。ユキノはとっさに立ち止まるがスティング達の方を向かない……スティングは一歩踏み出そうとするがそこには立ち塞がる者がいた。

 

「スティング……今さらユキノに何の用だ?」

 

「っ……ツナヨシさん……」

 

ツナはスティングを……セイバートゥース達を睨み付ける。彼らがユキノにした仕打ちは到底許せる事ではない。

 

「その……俺達がしたことが許される訳がないのは分かってる……あんたとナツさんが何の為に襲撃して来たのかも最初は分からなかった……」

 

俯きながらもスティングは自身の後悔を吐き出すように語りだした。他のメンバーも同様に顔を伏せる……

 

「マスターとお嬢の行方が分からなくなって仲間を大切にする新しいセイバートゥースを創ろうって時に思ったんだ……ユキノにも居て欲しいなって……」

 

ユキノは振り返ってスティング達を見る……

 

「こんな事言えた義理じゃないってのに今日ここでユキノに会えて……今言わなきゃ絶対後悔すると思って……すまなかった!ユキノ!セイバートゥースに戻って来てくれ!!」

 

スティングが頭を下げるのに合わせて他のメンバー達も一斉に頭を下げる。ユキノはスティングの言葉に動揺して言葉が上手く出ない……ツナが肩に手を置いて優しく語りかける。

 

「ユキノの思うようにしていいんだよ……」

 

「ツナヨシ様……」

 

ユキノはスティングに向き直ると頭を下げたままのスティングに一歩踏み出した。

 

「スティング様……私は……」

 

「ふははっ!調子が良すぎて笑えるな!!」

 

ユキノが答えようとした時、横から乱入者が現れた。それはカグラを筆頭としたマーメイドヒールのメンバー達だった。

 

「忘れたか?ユキノの命は私が預かっておる。ユキノはマーメイドがもらう!異論は認めん!」

 

「「「「「何ーー!!」」」」」

 

「えっ……あの……カグラ様?」

 

これにはスティング達も黙っておれずにカグラに真っ向から立ち向かう。

 

「アンタ酔ってるだろ!?」

 

「うるさい!ユキノはマーメイドのものだ!」

 

「待て~い!!それは聞き捨てならんぞ!!」

 

「ユキノはフェアリーテイルに入るのよ!」

 

「へっ?あの?エルザ様?ルーシィ様?」

 

「美しく可憐なあなたはブルーペガサスにこそ相応しいですぞ!」

 

「うちにいらっしゃいな。あなたなら私の後を継いでナンバーワンを狙えるわ!」

 

「ならば我らラミアスケイルもユキノ争奪戦に参加しよう」

 

「男臭えギルドに一輪の花ってのも魂が震えるぜ!」

 

「え?あの?皆様……?」

 

混乱するユキノをよそに話は勝手に進んでいく。オロオロするユキノの隣でツナとミラが笑っていた。

 

「こうなったら実力で勝負だ!!」

 

「大会じゃ負けたけどこの戦いは負けられねえ!」

 

「いいかお前ら!絶対にユキノを取り戻すぞ!」

 

「やっちまえ!!」

 

「ユキノは渡さん!私の妹にするのだ!」

 

「おい!妖精女王(ティターニア)の奴本気だぞ!!」

 

「誰だ!足踏んだの!!」

 

「痛てえじゃねえか!!」

 

会場全てを巻き込んだ乱闘をユキノは呆然と見ていたがやがて声を抑えて涙を流し出した……そんなユキノを優しく抱き締めるミラをツナはまるで聖母のようだなと思って笑みを浮かべる。

 

「あなたはこんなにもみんなから愛されてるのよ。もう他人を不幸にするなんて思わないでね」

 

「ミラジェーン様……」

 

かつて生き別れた姉のように優しい温もりに包まれてユキノは綺麗な笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

乱闘は唐突に終わりを迎えた。アルカディオスがバルコニーに現れて国王陛下の言葉を聞くようにお達しがあった為だ。全員が国王陛下の登場を待つ……

 

「ガーハッハッ!皆の者!楽にせよ!!」

 

「返すカボ!返すカボ!」

 

「いいじゃねえか、優勝したんだから。俺にも王様やらせてくれよ!」

 

現れたのは王冠とマントを纏ったナツだった。この事態に全員の目が点になる……あまりのストレスにマカロフの髪は抜けてしまった。

 

「俺が王様だー!王様になったぞー!お前らはみんな家来だからな!!ようし!じゃあお前ら……」

 

「へえ……ナツが王様にね……」

 

ナツの肩にポンと手が置かれた……ビクッと震えあがったナツが振り返った先にはいつのまにかツナが笑みを浮かべてそこにいた。但し目が笑ってなく既にグローブも装着している……

 

「ツ……ツナ……様」

 

「あれ?どうしたのナツ陛下?様を付けちゃ駄目じゃないか……王様(笑)なんだから……」

 

「ご……ごめんなさい……」

 

「少し……頭冷やそうか?」

 

バルコニーに一体の氷像が完成した……ツナはマントと王冠を笑顔で国王に差し出した。

 

「どうぞ陛下お返し致します」

 

「あ…ありがとう……彼は大丈夫かね……?」

 

「お優しいですね。ですがこれはオブジェなのでお気になさらないで下さい」

 

「オ……オブジェかね……?」

 

「はい。オブジェです。さあお言葉をどうぞ」

 

「う……うむ……」

 

ナツだけでなく会場中が凍りついたように静まり返っていた……

 

 

 

 

国王の言葉を静聴した魔導士達はナツの事を頭から追い出してダンスを楽しんでいた。思い思いの相手にダンスを申し込む魔導士達……特にフェアリーテイルやマーメイドヒールの女性達は様々な男性からダンスを申し込まれていた。

 

逆にツナやブルーペガサスのトライメンズといった面子は女性からのお誘いが後をたたなかった……

 

ツナはミラやルーシィ、ウェンディを始めとしてカグラやミリアーナ、ジェニーなどの女性と踊ることになった。

 

ウェンディみたいになかなか誘えない女性にはツナの方からダンスを申し込む。そのくらいの気遣いはツナの中では当たり前の事だった。

 

「踊って頂けますか?」

 

「え……あの……私でよろしいのでしょうか?」

 

だから先程からチラチラとこちらを見ていたユキノにも声をかける。それにユキノには聞いておきたい事があった。ホールの中央で躍りながらツナはユキノに質問する。

 

「どこに入るか決めたの?」

 

「はい……私はもう一度セイバートゥースに戻ろうと思います」

 

「いいのかい?」

 

「はい。私もセイバートゥースをフェアリーテイルのように仲間を大切にするギルドにしたいと思います。辛い事もあったけどやっぱり私にとって大切な場所なんです」

 

躍りながら横目でスティング達を見ると心配そうな顔でこちらを見ていた……どうやら勧誘してると思ってるらしい……

 

「ユキノが決めたならそれでいいよ。もしもまた泣かされるようならすぐに連絡してね。ギルドは違っても仲間なんだから」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

曲が終わりユキノをスティング達の所へと連れて行くと全員が不安そうな顔でこちらを見てくる……

 

「ユキノ……」

 

「スティング様……皆様……またお世話になります」

 

「ほ……本当か!?」

 

「はい!」

 

「やったぁ!ありがとうユキノ!」

 

「お帰りなさい!ユキノさん!」

 

「また一緒で嬉しいぞ。ユキノ」

 

「フローも嬉しい」

 

「今日は記憶すべきセイバートゥースの第一歩だね」

 

「歓迎に俺の歌を!」

 

「それはいいっつうの!!」

 

喜びに溢れ返るセイバートゥース達……随分と変わったなとツナは思っていた。

 

「もう2度と泣かせないようにね」

 

「分かってる!ユキノは俺達の仲間なんだ!」

 

「もしも泣かせたなら……」

 

そう言うとツナは視線を横に向ける。セイバートゥースメンバーが不思議に思ってその視線を辿るとそこには氷像と化したナツの姿……スティング達は冷や汗が止まらない。

 

「ね?」

 

「「「「「絶対泣かせません!!」」」」」

 

セイバートゥースの心が1つになった。

 

「じゃあユキノ、元気でね」

 

「はい!色々とありがとうございました!」

 

ツナは満足げに微笑むとナツを解放する為に歩き出す。リサーナもナツと踊りたいだろう……

 

 

 

 

 

ナツの氷を溶かしてリサーナの元へ送り出したツナは再び誘われて何人かとのダンスをこなして一休みしていた。

 

すると、ヒスイ姫が国王と向かい合っている光景が目に入る……どうやら罰を願い出ているようだった。アルカディオスやダートン、さらには各ギルドの主要メンバー達は寛大な措置を願い出ていた。

 

「皆様のお気持ちは嬉しいのですが私は一歩間違えればこの国と国民達を滅ぼしてしまう所でした。法を守る王家の者としてやはり罰は受けなければなりません」

 

「しかし姫!」

 

「アルカディオス……私はこの国の王女です。だからこそけじめはつけなければなりません」

 

「陛下……私めにも罰をお与え下され……私は自分勝手な判断でルーシィ嬢を牢へと閉じ込めました。法を守る者に有ってはならない行為です」

 

「大臣!それならば私もです!エクリプス製造の責任者は私なのです!私のせいであのような事態が起こることになったのです」

 

「フム……どうしたものか……」

 

いくら何でもこの3人を全員裁くとしたら国政は滞ってしまうだろう。

 

「ツナヨシ殿……何か意見はないだろうか?」

 

「……何故私に?」

 

「そなたの戦功が一番だからじゃ……戦った者を代表して意見を聞かせて欲しい」

 

「……姫は罪の意識を感じておられるようですが今回姫は黒幕に騙され、独自に行動しました。その後の対応は王族としての誇りを持った尊いものです。本来騙された方が悪いというのは間違ってると思います」

 

「ですがツナヨシ様……」

 

「分かってます。あなたはこの先この国を率いる身です。罰を与えるとしたら今回騙された事を教訓として未来をより良くする為に与えるべきです」

 

「未来をかね?」

 

「ええ……起こった事はもう変えられない。反省を促す為の罰ではなくこれから先に有益な罰にするべきだと思います……私からは以上です」

 

国王は腕を組んで考える……重い沈黙がホールを包んでいたがやがて意を決してヒスイ姫の前に進み出た。

 

「王女ヒスイ・E・フィオーレに罰を与える」

 

「はい!」

 

「……そなたを1年間の追放刑に処す!」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「陛下!お待ちを!」

 

「ご再考を!」

 

「静まれ!そしてマカロフ殿……どうか娘をフェアリーテイルのメンバーとして加えて頂きたい」

 

「何ですと!?」

 

「「「「「はあっ!?」」」」」

 

「お父……陛下!どういう事ですか!?」

 

追放という刑だけでなくフェアリーテイルに加入させるという言葉に当のヒスイ姫だけでなく会場中が驚きに包まれる。

 

「うむ……娘が大事なあまり外遊なども最低限で城から余り出さなかったのが今回騙された原因とも言える……だからこそ世間や常識を知って欲しいのじゃ」

 

「しかし姫の御身に何かあれば!」

 

「だからこそフェアリーテイルに預けたいのじゃ……大魔闘演武や後の騒動を見てその強さや仲間を大切にする絆にワシも安心して娘を預けられる」

 

「なるほど……」

 

「確かに……」

 

アルカディオスやダートンも国王の言葉に納得したように頷く……何よりも仲間を大切にするこのギルドなら王女を守ってくれるだろうという思いもある。

 

「娘はこれでも星霊魔導士での……決して足手まといにはならんじゃろう」

 

「えっ!星霊魔導士だったの!?」

 

「へぇ~いいじゃん!歓迎するぜ!」

 

「新しい仲間が増えるのはいいことだ」

 

「しかも美人だしな!」

 

「よろしくな!」

 

「グレイ様を巡る恋敵にはなりませんよね?」

 

「漢だぁ~!!」

 

大歓迎なメンバー達だったがツナとマカロフは同じ悩みを抱えていた。

 

フェアリーテイル(うち)で常識が学べるのか……?-

 

「どうかな?マカロフ殿?」

 

「はっ!姫がよろしければ慎んでお受け致します」

 

「では皆様よろしくお願い致します!」

 

-益々マスターの心労がかさむな……-

 

ツナは苦笑いしながらマスターに同情する。ヒスイ姫はギルドメンバー達に囲まれて自己紹介を受けていた。

 

「ちゃんと手紙を書くのじゃぞ」

 

「はい!陛下……いえお父様!!」

 

「いい人が出来たら紹介するようにの(ボソッ)」

 

「お父様!!!」

 

「(半分は)冗談じゃ……アルカディオスとダートンにはヒスイが抜けた分もたっぷりと働いてもらう!当分休む暇はないぞ?それが主らに与える罰じゃ!」

 

「「御意!!」」

 

「ツナヨシ殿もどうか娘をよろしくお願い致しますぞ」

 

「もちろん出来る限りの事をさせて頂きます」

 

「そなたは第一候補じゃからの(ボソッ)」

 

「は?」

 

「いや何でもない……」

 

「よっしゃあ!新たな仲間の歓迎の宴だぁ!!」

 

ナツの音頭に合わせてパーティーは更なる盛り上がりをみせる……他のギルドもフェアリーテイルの新たな仲間を祝福し、宴の夜は続いていくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 




熊本も復興しつつありますが閉店した店舗や壊れた家屋などもあります……クロッカスのように簡単には直せないですからね……


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凱旋!

遅くなって申し訳ありません。地震も少なくなってきました。


 

 

-クロッカス

 

「どうだ?ウルティア?」

 

「どうやらこの時空の歪みも治まりつつあるようね」

 

「ふう……良かったね」

 

ジェラール、ウルティア、メルディが何をしていたかというとエクリプスの使用によって発生した時空の歪みというべきものがこの世界に悪影響を及ぼさないかどうかの確認をしていたのだった。

 

「とりあえず調査はおしまいにしましょう」

 

「それにしても随分と壊れたな……てっきり壊れた家屋も元に戻るかと思ったんだが……」

 

「私もそう思ってたけどね……知識だけでは分からないってことね」

 

「ん?って!あれ評議員じゃない!」

 

「あいつは……」

 

こちらへ歩いて来た評議員の男はジェラールには見覚えがある男だった……

 

 

 

 

 

 

-Bチーム宿

 

「忘れ物ないね?じゃあ全部ボックスに仕舞うよ?」

 

「お願いね、ツナ」

 

「相変わらず便利な道具だな」

 

全ての予定を消化して帰る準備を整えたBチームのメンバー達は荷物をまとめてツナのボックスにしまうと宿を引き払った。

 

「そういえばヒスイ姫は合流しないのかしら?」

 

「Aチームと一緒に行くらしいな」

 

「ルーシィと同じ星霊魔導士だから仲良くなったんだろうね」

 

「グレイ様と一緒に……まさか恋敵!?」

 

「いかれてるぜ……」

 

「ラクサス~!馬車の準備が出来たぞ!」

 

宿を出て会話を楽しんでいたBチームの面々はフリードの声に振り返ると二台の馬車が用意してあった。大きくて乗り心地よさそうだ。何でもダートンがせめてものお詫びにと手配してくれたらしいが……

 

「馬車かよ……」

 

「くそっ!サラマンダーと同じになっちまうなんて!」

 

「そっか、二人も乗り物ダメなのよね……」

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の宿命ともいえる乗り物酔いはいくら二人でもどうしようもないようだ。ラクサスは飛ぼうと思えば飛べるが流石にマグノリアまで飛ぶのは疲れるので仕方なく馬車に乗る……

 

ラクサスは雷神衆と馬車に乗ったので残った四人とリリーはもう一つの馬車に乗った。

 

 

 

 

 

「うぷ……お……お……」

 

「ガジル君大丈夫ですか?」

 

隣に座っているガジルを心配するジュビアだがガジルはまともに返事すらできない……

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)も大変ね……」

 

「う~ん……これならどうかな?」

 

ツナは人差し指をガジルの額に当てて炎とも言えないような小さな炎を灯した。

 

「おぷっ……ん?おおっ!どうなってんだ!?急に気分が良くなったぞ!?」

 

「ツナの炎の力なの?」

 

「うん。大空の炎の属性は調和だからね。使い方に寄ってはこんな事もできるんだよ」

 

「そういえばカグラさんの時も似たような事をしてましたね」

 

「ギヒッ!助かったぜ……」

 

「ガジルが迷惑をかけてすまないな」

 

ガジルが復活したことにより馬車の中は活気づいてにわかに騒がしくなったが楽しい道中となった。

 

「そういえばツナ王様に何か貰ってなかった?」

 

「ん?ああ……王立図書館の使用許可証だよ。今回の件のお礼にって貰ったんだ」

 

「何でそんなもん貰ったんだよ?」

 

「エクリプスのような時間を行き来するような魔法があるんだから元の世界に戻るような魔法もあるかもしれないと思ってね……可能性は薄いけどね」

 

ツナの言葉に馬車の中には沈黙が訪れる……ジュビアは対面に座るミラが今にも泣き出しそうになっているのを見て顔を伏せた。

 

「ツナは……その魔法が見つかったら元の世界に帰るのよね?」

 

「……分からない」

 

「えっ?」

 

全員が驚いてツナを見る……当然ツナは帰ると思っていたからだ。ツナは自分の胸中を語り出す……

 

「俺は最初はマフィアのボスになんてなりたくなかった……でもその途中で色々な出会いや戦いがあって仲間と共に歩む内に逃れられない事を知って覚悟を決めて自分自身で選んだつもりだった……」

 

ツナの独白をみんなが口を挟まずに聞く……今のツナはとても弱々しく見えた。

 

「もちろんかつての仲間達には会いたいけど……でもこの世界に来てみんなと出会って俺は本当にやりたい事を見つけられるかもしれないと思ったんだ」

 

ツナがボンゴレを解体した後に仲間と別れてでも旅に出たのは誰かに決められたものではない自分だけの道を見つける為だった……

 

だがあちらの世界ではどこにいても元ボンゴレデーチモという肩書きは付いて回る。

 

「ははっ……ちょっとしんみりしちゃったね。まあ俺の勘では元の世界に帰る魔法なんて見つからないと思うけどね……」

 

「ツナ……みんな同じよ。誰だって自分の道を探してる。だからみんなで探しましょう。私達は家族なんだから」

 

「ありがとう……ミラ」

 

ツナの手を優しく包みながら言うミラにツナは笑顔で応える。

 

「全く……仮にもフェアリーテイル最強の男が女々しいこと言ってんじゃねえよ」

 

「ちょっ!ガジル君!」

 

「お前は少しは空気を読め!」

 

「るせっ!」

 

「ガジルは自分の道に迷ったことはないの?」

 

「あん?俺の道は俺の後にできるんだよ」

 

「そんなこと言って……ジュビアはフェアリーテイルに入った時ガジル君がマスターから言われた事知ってるんですよ?」

 

「んなっ!?ジュビア!てめえ……」

 

「えっ?何を言われたの?」

 

「ミラさんそれがですね……」

 

「だあぁっ!ジュビア!余計な事を言うんじゃねえぞ!!」

 

「ふふふっ……」

 

現在の大切な仲間達との一時はツナにとって何よりも大切なものだと再認識してツナは笑みを深めるのだった……

 

 

 

 

 

 

「評議員達の記憶を消した?」

 

「ああ。今回の件が表沙汰になれば国家転覆の危機だからな……王室がゼレフ書の黒魔術を使用したなんてシャレになんねーからな」

 

ジェラール達の前に現れたドランバルトがラハール以下評議員の部隊達からエクリプスとそれに伴うドラゴンの襲来の記憶を消して別の記憶を植え付けたことを報告する。

 

「まあ死人がでなかったから出来たことだけどな……それで?お尋ね者のお前達は何でまだここにいるんだ?」

 

「エクリプスの使用によって時空間に歪みが発生してたの。それを調査してたのよ」

 

「おいおい……それって大丈夫なのかよ」

 

「とりあえずは問題ないみたいだよ」

 

「そうか……ならいい。今回は見逃してやるから感謝しろよ。貸し一つだからな」

 

「ああ。何かあればいつでも言ってくれ」

 

「じゃあな」

 

ドランバルトはそう言って去って行った。一応貸しを返す時の為に通信手段も用意した。

 

「それじゃあ私達も行きましょう」

 

「とりあえず任務完了だね!」

 

「ああ……フェアリーテイルには感謝しなくてはな」

 

「そうね……彼らは今頃何をしてるのかしらね?」

 

「きっと優勝記念に大騒ぎしてるんじゃないかな?」

 

ジェラール達はフェアリーテイルのギルドがあるマグノリアの方角を見ながら笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

-マグノリア

 

ばらばらに帰ったフェアリーテイルのメンバー達は街の外で一旦集まって全員揃って街の門をくぐった。

 

そして彼らが見たのは街中の人々が大通りの両側に並んでフェアリーテイルを迎えている光景だった。音楽や拍手の音が割れんばかりに鳴り響きメンバー達は感動してその通りをマスターを先頭に凱旋している。

 

「すごいね……街中の人が全部集まってるんじゃない?」

 

「こんなにたくさんの人が応援してくれてたのね」

 

「俺達が優勝したぞ~!!」

 

「あいー!!」

 

「皆さん応援ありがとうございます」

 

「今日は祝い酒よ~!!」

 

「カナ……いい加減に飲むのやめろよ」

 

喜びに溢れるフェアリーテイルメンバー達……新たに加わったヒスイ姫も初めて訪れる街に興味津々といった感じだ。

 

「皆さん街の人々に愛されているのですね」

 

「ちょっと前までは低迷してたんだけどね」

 

ルーシィが苦笑いしながらヒスイ姫に答える。幼い頃からのフェアリーテイルメンバー達は街の人々に声をかけられていた。

 

「エルザさん!伏魔殿感動しました!」

 

「いや!ミネルバ戦だろ!」

 

「少々照れるな……」

 

「ミラちゃ~ん!グラビア対決凄く綺麗だったよ!」

 

「は~い!ありがとう!」

 

「やっぱりラクサスは強えな!!」

 

「フン……」

 

「ナツ!お前のバトル、すっげー燃えたぜ!」

 

「おおよ!」

 

「ルーシィよくやったね!でも家賃は別!」

 

「大家さんってば……」

 

ツナはその様子を笑顔で見つめていた。ギルドと街の人々との絆……それは自警団としてのボンゴレ創設時にジョットが願ったことと似ているような気がした。

 

「みんな大人気だね」

 

「あら~一番人気を忘れてない?」

 

いつの間にか隣に来ていたミラが満面の笑顔でそう言うので周りを見ると人々の視線がツナへと集中していた。

 

「おい見ろよ!」

 

「ツナヨシ・サワダだ!」

 

「フェアリーテイルの新しい最強!」

 

「聖十のジュラも倒したんだよな!?」

 

「MPFもぶっ壊したぜ!」

 

「ルーシィを助けた時が凄かったわ!」

 

「あのカグラも倒したのよ!!」

 

「実物は凄くカッコいいわ!!」

 

向けられる称賛に少し恥ずかしくなりながらも笑顔を見せるツナに街の女性達は黄色い歓声で応える。

 

「すごい人気ですね……ツナさん」

 

「ほんとよね~ツナ」

 

「ここまでとは思ってなかったわ、ツナ」

 

ジトーっと音がするような視線を向けてくる3人の女性から目をそらすと前方でナツがロメオを肩車しながら優勝の証である国王杯を掲げているところだった。

 

「ん?何で黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の連中まで祝ってやがるんだ?」

 

「兜を脱いだってことじゃないでしょうか?」

 

「調子のいい奴ら……」

 

グレイとジュビアの会話が聞こえてきて前方を見ると確かにトワイライトオウガのメンバーが市長の近くで祝っていた。特にマスターはこの凱旋式を企画したのか司会のようなことまでしている。

 

「まあまあ一緒にドラゴンと戦った仲じゃない」

 

「そうだけどよ~ツナ兄、なんか納得いかねーよ」

 

「小さい男だね。ちょっとはツナヨシを見習ったらどうだい」

 

「う……分かったよ」

 

「はは……」

 

ポーリュシカのキツい一言で縮こまるロメオに苦笑いするツナ……その時トワイライトオウガのマスターがマグノリア町長よりフェアリーテイルに記念品の贈呈があると発表がありマカロフが照れながら前へと進み出た。

 

「記念品とな?そんな気を使わんでも……」

 

言葉とは裏腹に顔はニヤけていて嬉しそうだ。

 

「コホン……フェアリーテイルの皆様こちらへどうぞ」

 

そして町長が指し示す先を見てフェアリーテイルメンバー達は驚愕と喜びに包まれた。

 

「フェアリーテイルは我が街の誉れであります。よってギルドを修繕して贈呈したいと思います」

 

そこにはかつて借金のカタに手放した大きなギルドが完全に修復され、紋章を刻んだ旗も新しくなって悠然と佇んでいた。

 

「ギルドが元通りだー!!」

 

「あいさー!!」

 

「素敵なギルドですね!」

 

「姫を迎えるならやっぱりこっちのギルドじゃないとね」

 

「私は前のギルドというのも気になりますが……ツナ、これからはヒスイと呼んでください。これからは私もフェアリーテイルの一員なのですから」

 

「分かったよ。ヒスイ……これでいいかな?」

 

「はい!!」

 

「「「あやしい……」」」

 

「ええっ!?」

 

「なんてね!よろしくねヒスイ!」

 

「よろしくお願いしますヒスイさん!」

 

「ヒスイ、たまにはウエイトレスもしてくれると嬉しいわね」

 

「はい!」

 

ツナは上手く馴染めそうで良かったと思いながら号泣しているマカロフを見る。

 

「ワシはこの街が大好きじゃあ~!!」

 

涙と鼻水にまみれた顔で叫ぶマカロフに街中が笑顔になるがツナはふと明後日の方向に顔を向ける。

 

「どうしたのツナ?」

 

「いや……気のせいかな」

 

ミラの問いに答えながらもツナの視線はその方向を見続けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

-マグノリア近郊の森

 

森の中では黒い服に身を包んだ黒髪の少年がメイビスの幽体と睨み合っていた。彼の名は黒魔導士ゼレフ……彼は大魔闘演武の頃から使い魔を通してフェアリーテイルを見ていた。

 

それはレイブンテイルのオーブラの肩にいたあの使い魔だった。ゼレフは命を尊く思うほど周りの命を奪ってしまう呪いに犯されて不老不死である。

 

かつては自分の死に場所を探していたが既に人類に絶望してこの世界を滅ぼすことを決めてしまった。そして姿も見えず声も聞こえないはずのメイビスの存在を確かに感じ取っており交わせないはずの会話を交わしていた。

 

そしてゼレフはメイビスに宣戦布告する。メイビスはフェアリーテイルを信じてそれを受け入れる。

 

「君が期待しているのは彼かい?」

 

「ええ……あなたも見ていたでしょう?」

 

「確かにね……彼は紛れもなく大空だ。しかしジョットでさえもなし得なかった事をできるかな?」

 

「私は彼を……ツナを信じます」

 

「フフ……ではその時を楽しみに待つとしよう……彼が勝つか人類が滅びるか……」

 

ゼレフが去った後もメイビスはその場を動かずにただ悲しみに顔を伏せながら涙を流した……

 

「ツナ……お願いします。どうか彼を……」

 

その先は言葉にならなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???

 

エクリプスによる時空の歪みは思わぬ所に影響を与えていた……暗闇の中で3人の男が話し合っていた。

 

「間違いねえのか?」

 

「確かだよ……ほんの僅かに反応したんだけど座標の確定は困難だ」

 

「何でだよ!?」

 

「平行世界の括りの中には彼がいないのは確認済だ……残る可能性は異世界しかない。そうなると平行世界を覗けるあの人でも手の打ちようがないらしい……」

 

「何とかなんねーのかよ!?反応を感じたってことはあの人が炎を最大限に使うほどの状況にあるってことじゃねえか!!」

 

「どんなに上手くいっても座標の確認だけで最低でも一年以上はかかる……さらには行く方法も呼び戻す方法もないんだからね……」

 

「くっ!どうすれば……」

 

「とにかく何とか座標を割り出してくれ。方法を考えるのは後回しだ」

 

「分かったよ」

 

「頼むぜ……」

 

 

 

 

 

 

「ダメツナが……」

 

 

 

 

 

 

 




竜王祭編終了です。最後に出てきた3人はあえて名前を出してませんがおそらく分かると思います。

次回からしばらくオリジナルの話が続きます。よろしくお願いします。


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嵐の前の穏やかな日々
罰ゲーム、明と暗


オリジナル話に行く前に……


 

 

-フェアリーテイル

 

大魔闘演武優勝という輝かしい栄冠を手にしたフェアリーテイル……マグノリア中の人々の協力を得てかつて手放したギルドを贈呈され、新たなスタートを切ることになった。

 

そしてギルド復活と共に新たな戦いの幕が上がる……

 

 

 

 

 

「本当にやるのかい?」

 

「ああ!確かにお前は強い……だが私も皆の期待を背負っている以上負ける訳にはいかないのだ!」

 

ギルドの中央で睨み合っているのはツナとエルザ……間違いなくギルド最強であるツナとS級に名を連ねるギルド最強の女魔導士であるエルザが対峙している。その周りをギルドメンバー達が緊張の面持ちで見守っていた。

 

「お……お二人共!お止めください!仲間同士で争うなどあってはならないことです!」

 

そして一人オロオロとこの戦いを止めようとしているのはこの度ギルドに加入する事になったヒスイだった。

 

「ヒスイ止めるな!いや、もう止めることなんてできねえんだよ!」

 

「ああ……もうどうしようもねえ……こうなっちまった以上は仕方ねえんだよ」

 

「漢同士の決闘を止めることは許されん!!」

 

ナツとグレイとエルフマンがヒスイを諫める……3人の顔も真剣だがエルフマンにはエルザが漢に見えているのだろうか?

 

「で……ですが……」

 

「ヒスイ……ここまで来たらもう無理だよ……私達に出来るのはエルザが勝つことを祈るだけ……」

 

「いいのですかルーシィ!?エルザが勝つということはツナが負けるということなのですよ!?」

 

「ヒスイさん仕方ないんです……ツナさんに頑張ってほしい気持ちはありますが今回は……」

 

ルーシィとウェンディも苦渋に満ちた顔でエルザの勝利を願っていた……だが相手はフェアリーテイル最強だ。二人だけでなくエルザですら手に汗を握っている。

 

「フッ……ツナの心配をしているなら無用だぜ。こいつに勝てる奴はこのギルドにはいねえ」

 

「ギヒッ!悔しいがその通りだぜ!」

 

「ジュビアもグレイ様には申し訳ありませんがエルザさんですらツナさんに勝てる見込みはないと思います」

 

ラクサス、ガジル、ジュビアはツナの勝利を確信しているようだ。ヒスイは慌てて言い返す。

 

「そ……そういう事ではないのです!お二人共大切な仲間ではないですか!ミラ!あなたも止めて下さい!」

 

「私は……止めないわ。この戦いは止めちゃダメなの……大丈夫、ツナはきっと勝つわ……私は誰よりもツナを信じているから……」

 

信頼と心配が混ざったような表情を浮かべながらも目を閉じて祈るように手を重ねるミラの姿はまるで1枚の絵画のようだった……その時ヒスイの肩に手が置かれる。

 

「マスター……」

 

「たとえ仲間であっても主義主張が違えばぶつかり合うこともある。じゃが時としてそれは分かり合うには必要な事じゃ……こ奴らも決して憎み合って戦う訳ではない。ならば同じ仲間として見守る事がワシらが唯一してやれることじゃ……」

 

「見守る事が…………分かりました……」

 

「お主にはまだ辛かったかのう……」

 

「いえ!私もフェアリーテイルの一員として今は私にできる事を!」

 

顔を上げたヒスイの顔は先程までの悲しいものではなく勇ましいとすら思えるものだった。マカロフはその顔を見て笑みを深くするのであった……

 

そして対峙している二人の闘志が高まっていく……それを見守るメンバー達は同時に感じ取った。この二人の戦いは一撃で勝負がつくことを……

 

「震えているのかな?エルザ?」

 

「くっ!これは武者震いだ!!」

 

「いい覚悟だ……だけどそれだけじゃ俺には勝てないよエルザ……」

 

「手加減は無用だ!今日私はお前に勝つ!力を貸してくれ!みんな!」

 

「俺にだって背負うものはある!だから絶対に負けられない!」

 

「行くぞ!!ツナ!!」

 

「来い!!エルザ!!」

 

そして両者はぶつかり合う…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「エルザ!?」」」」

 

エルザが崩れ落ちて膝を付く……終わってみれば本当に一瞬の勝負だった。ツナはどこか虚しさ感じるような顔でエルザに背を向けて目を伏せる……

 

「エルザ……君の敗因はたった一つ……」

 

エルザは呆然と自身の手を見る……震えるその手は人差し指と中指の二本だけ立てられていた。対するツナは血が滲むのではないかというほどにその拳を固く握りしめていた。

 

「超直感を持つ俺に……じゃんけんで勝負を挑んだことだ!!」

 

「勝者ツナ!よってBチームの勝ちじゃ!!」

 

ツナはグー、エルザはチョキ……この結果が天国と地獄を分ける結果となった。

 

「「よっしゃあ!!」」

 

「やりましたね!!これでグレイ様を……」

 

「ツナ……あなたなら……あなたならきっと勝ってくれるって信じてたわ!!」

 

「負ける訳にはいかなかったからね」

 

凶悪な笑みを浮かべながらガッツポーズをとるラクサスとガジル、既に怪しい妄想を思い浮かべるジュビア、涙を流しながらツナに抱きつくミラ、大魔闘演武Bチーム組は歓喜に溢れていた。

 

「おいぃぃぃっ!!何あっさりと負けてんだよエルザー!!」

 

「どうするんだよエルザ!!あっちにはヤバイ奴らが揃ってんだぞ!?」

 

「ここはひとまず漢らしく土下座して許してもらうしかない!!」

 

「ラクサスとかガジルとか絶対イヤー!!せめてツナにしてー!!」

 

「わ……私達どうなっちゃうんですか……」

 

「……すまない」

 

憤怒と悲哀に包まれる大魔闘演武Aチーム……だが敗者である彼らにはもはや何もできることはない。敗者は勝者に従うのみだ。

 

何故ツナとエルザがじゃんけんをしていたのか……それは大魔闘演武前にマカロフが言ったことに起因する。

 

大魔闘演武で2チームのうち勝ったチームが負けたチームを1日好きにできるという約束だ。大会ではチームの統合で有耶無耶になってしまった約束を履行するためにチームの代表者であるツナとエルザによるじゃんけん対決が催された。

 

そしてその結果はBチームの勝利という結果になったがこれは当たり前の結果だ。Bチームの面々は代表者を決める際にじゃんけんをしたが何度やってもツナに一回も勝てなかった。

 

1対1ならばあいこにすらならずツナの超直感の恐ろしさを存分に味わっていたので自信を持ってツナを代表に送り出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

話し合いの結果Bチームの各人がそれぞれAチームのメンバーを指名する形にして1日言うことを聞かせることになった。

 

「じゃあ俺はナツとエルフマンをもらうぜ」

 

「「ぎゃーっ!!」」

 

「パンと牛乳買って来い!五分な」

 

「「何ー!!」」

 

「さっさと行けよ」

 

「「ちっくしょょう!!」」

 

悪どい笑みを浮かべてラクサスは二人の肩に手を回す。二人はラクサスの笑顔に恐怖を感じて叫ぶがさっそくパシらされてしまう……

 

「ジュビアはグレイ様一択です!」

 

「おい!せめて他の奴に!ラクサスでもガジルでもいいから助けてくれ~!!」

 

「ダメですよ!今日はジュビアの言うことを聞いてもらいます!!」

 

ジュビアは泣き叫ぶグレイを引きずりながら奥の部屋へと消えていった……それを見た誰もが合掌して見送っていた。

 

「私は~やっぱりエルザね」

 

「ミ……ミラ?何でそんなに満面の笑みなんだ?」

 

「だって~大好きなエルザを好きにできるんだもの」

 

「お……お手柔らかにお願いします……」

 

とても美しいミラの笑顔に観念したかのようなエルザの表情が哀愁を誘う……

 

残ったルーシィとウェンディは残りの面子を見て恐怖に苛まれた。ツナとガジル……言い替えれば片方は天国、片方は地獄なので必死にツナへすがりつく……

 

「ツナ!お願い!!あたしを指名して!!ツナにならどんな命令されてもいいから!!」

 

「ズルイです!私も何でもしますから!だからお願いします!!私を選んで下さい!!」

 

「二人とも落ち着いてよ!」

 

周りの男性陣は何でもとかどんなことでもとか聞いてあらぬ妄想を掻き立てていた……

 

「ツナの奴羨ましいね~」

 

「オメェならどんな命令すんだ?ワカバ?」

 

「そりゃオメェ……あれだ」

 

「あれだよな~」

 

オヤジ二人(マカオとワカバ)は置いておいて他の面子はルーシィとウェンディが必死になるのも無理がないなと考えていた。しかし無情にも審判は下される……

 

「踊り子~!オメェは俺がもらうぜ!」

 

「イヤー!!」

 

ルーシィの肩を掴んだのは既に白いスーツに着替えてギターを持ったガジルだった。

 

「ほれ!とっととこれに着替えな!」

 

「こ……これって……」

 

「今日は時間の許す限りライブだ!ギルドの向かいに特設ステージを用意してあるからな!俺のステージを盛り上げろよ!バニーとしてな!!」

 

「いやぁぁぁっ!!何で表でやるのよ!ギルドの中でいいじゃない!!」

 

「バカ野郎!!俺のソウルをマグノリア中の人に届けてーんだよ……」

 

「何ちょっと恥ずかしがりながら言ってんのよ!?イヤー!!引っ張らないで!!ツナ!!助けてぇぇぇっ……」

 

バニーガールの服を手渡されたルーシィは過去の悪夢が脳裏をよぎって必死の抵抗を見せるが意味を為さず虚しく引っ張られていった……

 

残ったウェンディは安堵の息を漏らしながらルーシィを見送っていた。

 

「じゃあ私がツナさんですね!何でも言って下さいね!」

 

地獄を逃れたウェンディは笑顔でツナの前に進み出る。しかしそう甘くはなかった……

 

「あら~?勘違いしてない?ウェンディは今日はツナとお姉さんのものなのよ?」

 

「え?カナ……さん?どうしてですか?」

 

「お姉さんね~Bチームのリザーブメンバーだったの。ツナは優しいから無茶な命令はしないでしょ?だからツナと一緒にお姉さんの言うことも聞いてもらうことにしたの」

 

「ゴメンねウェンディ……そういうことなんだ」

 

「そ……そんなぁぁぁっ!!」

 

天国と思っていたところから突き落とされたウェンディは絶叫した……

 

ちなみに罰ゲームは相棒のエクシード達にも適応されるらしくハッピーとシャルルはリリーの前に頭垂れていた……

 

 

 

 

 

 

「これじゃねえ」

 

「「はあっ!?」」

 

ナツとエルフマンがダッシュで買って来たパンと牛乳を一瞥したラクサスは怠そうにそう言った。

 

「何でだよ!?ちゃんと買って来ただろうが!!」

 

「そうだ!!時間も五分かかってねえはずだ!!」

 

ラクサスは首を横に振ると溜息をつきながら理由を話始めた。

 

「今、マグノリアには移動型の遊園地が来てるんだ……そこで手に入る限定品のパンと牛乳が欲しいんだよ。だからもう一度行ってこい」

 

「先に言えよ!!」

 

「パンと牛乳なんてどれも一緒だろ!?」

 

「分かってねえな……限定品に意味があるんだよ。今日は1日言うことを聞くんだろ?さっさと行ってこいよ」

 

「「ぐぐぐ……ちくしょう!!」」

 

ナツとエルフマンは再びパンと牛乳を求めてギルドを飛び出した。

 

「ラクサス……言ってくれれば俺が買って来るのに……」

 

ギルドの柱の陰からフリードがラクサスの後ろ姿を見ながらハンカチを噛み締めていた……

 

 

 

 

 

 

グレイがジュビアに連れ込まれた部屋では何が起こっているのか気になる者は多数いたが誰もその部屋に近よらなかった。

 

何故ならば扉からはあまりにもピンクなオーラが溢れていたし、時折ジュビアの甘えるような声とグレイの切羽詰まった叫び声が聞こえるからだ。

 

誰もがグレイの身が無事である事を祈らずにはいれなかった……

 

 

 

 

 

一方でウェンディはカナの提案によりメイド服を着せられてギルドの外のオープンテラスでツナとカナに奉仕していた。

 

時折外を通る人々に見られているので少々恥ずかしかったがツナのお世話をするということでそれもすぐに気にならなくなった。

 

「はい!ご主人様にお嬢様コーヒーとケーキです!お砂糖とミルクはお入れいたしますか?」

 

「ありがとう。俺はいらないかな?」

 

「私もいいわ」

 

「お酒じゃないなんて珍しいね」

 

「今日は後でね……」

 

「ああなるほど……ふふ……カナは優しいね」

 

「ちょっと!勘違いしないでよね!」

 

「はいはい……」

 

ツナとカナが二人だけに分かるような会話をしていたので側に控えるウェンディは少々不機嫌になる。それを目敏く見つけたカナはニヤリと笑う……

 

「ねえ~ウェンディ~メイドならご主人様にハイあ~んて食べさせるべきじゃない?」

 

「ええぇぇぇっ!?」

 

ウェンディは顔を真っ赤にして叫ぶが決して嫌がっている訳ではないようだ。

 

「いや、普通のメイドはそこまでしないよ?」

 

「あら?ツナはメイドに詳しいの?まさかメイドさんがいっぱいいるお店に通ってたりして?」

 

「ええぇぇぇっ!?」

 

また叫ぶウェンディは今度はおかしな妄想をしてるようだ……

 

「何でそうなるのさ……俺一応マフィアのボスだったんですけど……」

 

「なんだ……良かったです」

 

「つまんない!じゃあ今日は特別なメイドってことでウェンディやってあげて!」

 

「分かりました!それではご主人様!は……はいあ~ん」

 

「あ~ん。うん!美味しいよ。ありがとうウェンディ」

 

「ツナ少しは照れなさいよ……」

 

「はは……それにしても……」

 

ツナが通りに目を向けるとつられてウェンディとカナも目を向ける……そこには人だかりが二つ出来ていた。その一つを見るとミニスカートのメイド服を着せられたエルザが後ろ手に縛られて地面に這いつくばっていた。

 

「さあ!許して下さいご主人様とお言い!」

 

「くっ!……断る!」

 

「言わないか!このはしたないメイドめ!!」

 

「ぐっ……!……!」

 

「「「「おおぉぉぉっ!!」」」」

 

ミニスカートがめくれあがって下着が丸見えのエルザのお尻に次々と平手打ちをしているサタンソウルで変身したミラの姿があった……周りにいる男性陣は喝采の声をあげている。

 

「どうやらご主人様に逆らってお仕置きされるメイドってシチュエーションらしいわね」

 

「あ~あ……終わった後が怖いよね……」

 

「こっちのメイドで良かったです……」

 

「そしてあっちはあっちで……」

 

もう一つの人だかりの方へ視線を向けるとこちらも負けず劣らず男性陣が喝采をあげていた。

 

「シュビドゥビッ!ガジガジ!シュビドゥバ~」

 

「「シュビドゥバ~」」

 

「「「「おおぉぉぉっ!!」」」」

 

下手なギターを奏でながらノリノリな歌を歌っているガジルとバニーガールの衣装で踊るルーシィと何故か一緒に踊っているレビィの姿があった……しかも所々でハモらされている。

 

「二人とも泣きながら踊ってますね……」

 

「さすがのあたしもこれはやりたくないね」

 

「誰もガジルの歌を聴いてないよね……」

 

集まった男性はルーシィとレビィの躍りにしか見ていないがガジルは気にせずに気分良く歌っていた。

 

「あっ!レビィさんがどこか行っちゃいましたよ!?」

 

「……格差社会に絶望したのよ」

 

「……そういうことか」

 

「え?何の事です?」

 

カナがボソッと言ったことでツナは理解したがウェンディには意味が通じなかったようだ。同じように踊っていた二人だったが体のある一部の差がバニーガールの衣装で踊るとより顕著になるのだ……

 

「あ~も~しょうがねえ奴だな!オメェはアイツにやる!」

 

「アイツ……?」

 

ガジルは歌を止めてレビィを追いかけるがその前にガジルの指が指す方を見ると……

 

「ほら!はしたなくてすみませんとお言い!」

 

「…………ぐっ!くぅぅっ……!」

 

ミラとエルザの姿を見てルーシィは顔を青褪めると最後に一縷の希望を持って去って行くガジルを呼び止める。

 

「ねえっ!ツナだよね!?ツナでいいんだよね!?」

 

ガジルは足を止めて振り返ると凶悪な笑顔でルーシィに絶望を叩きつける。

 

「あん?……ギヒッ!ミラジェーンにきまってんだろうが!!」

 

「いやぁぁぁっ!!」

 

「あら?ルーシィも追加なの?」

 

 

 

 

 

 

ルーシィがミラの所へ移ってからしばらく時は流れた……エルザほど打たれ強くないルーシィが存分に痴態を晒してしまった頃カナが立ち上がった。

 

「じゃあそろそろ行こうかね~」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

「え?カナさんどこかへ行くんですか?」

 

ウェンディはこれでツナと二人だけになれると内心喜ぶがすぐにそれが甘かったと知る……

 

「ウェンディも行くのよ~」

 

「え?え?」

 

「午後からはお姉さんがウェンディを独り占めするって決めてたのよ~」

 

肩をがっしりと掴まれてウェンディはずるずると引きずられる……

 

「え!?あの!ツナさんは!?」

 

「ここでお別れよ~」

 

「ゴメンね」

 

「そ……そんなぁ~!?」

 

抵抗虚しくもウェンディはカナに抱えあげられて街の雑踏へと消えていった……

 

「それにしてもみんな罰ゲームが過激すぎるな。でも絶対に邪魔しないように約束したからなあ……さてと……俺も準備しないと……」

 

後に残ったツナは立ち上がってギルドの前から去って行った……

 

「助けて~!!」

 

いつもならば応える助けを求める声を無視しながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

カナに連れられたウェンディはこれから己の身に何が起こるのか不安でしかたなかった。

 

最初に連れて行かれたのは服屋だった。そこで色々な服を着せられたのだがその内訳がウエディングドレスに始まりレースクイーン、ナース服などマニアックなものばかりで極めつけがアダルティなランジェリーという明らかにウェンディには早すぎるものだった。

 

さらにこれから行くところがいい年したおじさんのところだのベタベタ触られるなどと聞かされたら逃げ出して当たり前だ。

 

だが結局カナからは逃げられずにこうしてトボトボと着いて行くしかなかった……

 

「もう着くからね~」

 

「いくら罰ゲームだからって酷すぎます……」

 

このままでは自分はいったいどうなってしまうのか?自分にはツナという最愛の人がいるのだ!と意を決して物申そうとカナに声をかける。

 

「あのっ!やっぱり私……」

 

「着いたよ~」

 

「えっ!?……ここって?」

 

ウェンディが辺りを見渡すとそこにあったのは大きいが御世辞にも綺麗とは言えない古びた教会だった。

 

「ブロック神父~来たよ~」

 

「ホッホッ……よく来たね。そちらが例の子かい?」

 

「そうだよ。子供達は?」

 

「庭の方で遊んどるよ。さあどうぞ」

 

この教会の構造が分かってるかのように迷いなく進むカナにウェンディは慌てて着いて行った。

 

「あー!カナだー!!」

 

「本当だー!!」

 

「オッス悪ガキ共ー!今日はスペシャルゲストを連れて来たよ~!!」

 

カナが来て喜ぶ子供達だがウェンディを前に押し出すと途端にウェンディに群がり始めた。

 

「もしかしてウェンディ!?」

 

「ほんとに来てくれたー!」

 

「すっげー!俺達とそう歳も変わらないのに!」

 

「あ……あの……カナさんこれって?」

 

「いいから!話相手してやりな!」

 

「大魔闘演武見てたよ!!」

 

「シェリア強かった!?」

 

戸惑うウェンディはカナに問うが子供達のパワーに押されて次々とくる質問に一つずつ答えていった。

 

カナはそれをブロック神父と笑顔で眺めていた。

 

「服のセンスはイマイチだのう」

 

「言われると思って色々着せてみたけどね……あたしもセンスないわ~」

 

ちなみにブロック神父はどこかの国旗のようなカラフルな法衣を着ている……

 

「さすがに今日は飲んどらんようじゃな」

 

「まあ匂いを嫌がる子もいるしね~」

 

「いつもそれぐらい気遣い出来るといいのに」

 

カナの後ろから声がかかる……振り向くとそこには苦笑するツナの姿があった。

 

「初めまして神父。ツナヨシといいます」

 

「ほっほっ……初めまして。大魔闘演武の活躍は見事でしたぞ」

 

「ありがとうございます……カナいつでもいいよ」

 

「よし!はいみんな注目~!!続きはおやつ食べながらね~!!」

 

カナが手を叩きながらそう言うとみんながこちらに顔を向ける。

 

「あれ?ツナさん?」

 

「えっ!?本当だ!」

 

「ツナヨシ・サワダだ~!!」

 

「ウソ!?本物!?」

 

「メチャクチャ強いんだろ!?」

 

「かっこいい~!!」

 

「はいはい!ツナがおやつ作ってくれたからそこ空けて!じゃあよろしく!」

 

寄ってくる子供達を制してスペースを空けたカナに促されて前に出たツナはボックスを取り出してリングに炎を灯してボックスを開く。

 

すると大きめのテーブルにのったケーキを中心とした様々なスイーツが出現した。子供達は目を輝かせてスイーツを見つめる。

 

「すごく美味しそう!!」

 

「今の魔法!?」

 

「ツナヨシすげえ!!」

 

「たくさんあるからいっぱい食べてね~」

 

「「「「「は~い!!」」」」」

 

子供達はみんな美味しそうに食べながらもツナやウェンディに質問したり魔法を見せてと強請ったりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、教会を出た一同は教会の見える丘でくつろいでいた。

 

あの教会は幼い頃カナがギルダーツを探しにギルドに来たときに泊めてもらっていた孤児院との事だ。

 

今でもちょくちょく様子を見に行くらしいが子供達が大魔闘演武を見てギルドのメンバーに会いたいと願っていた。特に歳の近いウェンディは子供達にとってヒーローのようなものでよく話題に出ていたので今回連れて来たというわけだ。

 

時間ができたらこれからも遊んでやってくれとカナに頼まれたウェンディは快くその願いを聞き届けた。そして疲れたのか丘の頂上にある木に寄りかかって眠ってしまった……

 

ツナはウェンディに上着をかけるとカナと二人で声を潜めて話をしていた。

 

「やれやれ……幸せそうな顔で眠っちゃって」

 

「色々不安だったんじゃない?カナのせいで」

 

「悪かったわよ……ゴメンね面倒な事頼んじゃって。でもあいつら喜んでたよ……ありがと」

 

「構わないよ。材料はカナが用意したんだしね」

 

「この子もあの子達も家族はたくさんいるんだから真っ直ぐ成長して欲しいね……」

 

「そうだね……」

 

「あんたは?一人異世界にやって来たけど家族は向こうにいるんだもんね……やっぱり帰りたい?」

 

ツナはしばらく夜空を見上げて考えていたがやがてカナの方を向いてこう口にした。

 

「向こうのみんなに会いたい気持ちはあるけど帰りたいとは思わなくなってる……みんなと過ごすうちにこっちのみんなとは離れたくない気持ちがどんどん強くなってるのを自覚してるよ」

 

「そう……こう言うと不謹慎かも知れないけど良かったよ……あんたがいなくなるとみんな悲しむからね。特にこの子とミラとルーシィは……」

 

「ははは……」

 

「あんたもそろそろ応えてやったら?3人まとめてでいいからさ!それくらいの甲斐性はあるだろ?」

 

「善処しておきます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして罰ゲームの1日は終わった。ウェンディにとっては優しい1日だったが他の者にとっては耐え難い1日となったのだった……

 

「ラクサスどこ行ったー!?」

 

「漢としてこの屈辱は返す!!」

 

ナツとエルフマンがラクサスに御礼参りをしようとして逆にボコボコにされたり……

 

「もう…ジュビアの顔は暫く見たくねえ……」

 

「ガーン!!ジュビアショック!!」

 

憔悴したグレイの一言がジュビアを奈落の底へと突き落としたり……

 

「おいたが過ぎるぞミラ……」

 

「や~ご主人様~お許し下さい~」

 

1日屈辱を与えられたエルザによってミラが逆襲されることになったり……

 

「誰か……助けて……」

 

未だにバニーガールの衣装のまま手錠で繋がれているルーシィが泣いていたりとAチームにとっては散々な1日となったのだった……

 

 

 

 

 

 

 




S級クエストも考えないと……


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ヒスイの初クエスト

今週一更新ですができれば週二で更新できるようにガンバります


 

 

-フェアリーテイル

 

フェアリーテイルの依頼用の掲示板には貼りきれない程の様々な依頼が貼られていた。大魔闘演武前に使っていたギルドでは他のギルドでは受けないようなショボい依頼が数件しかない状態だった。

 

やはり大魔闘演武優勝と言う栄誉は宣伝効果という面では抜群らしい。7年間苦い思いをしたメンバー達も嬉しそうな顔で依頼を選んでいた。

 

「すごい数の依頼ね!」

 

「これでも全部じゃないのよ」

 

ルーシィの驚きにミラが苦笑する。しかも高額の依頼もたくさんありこれならきちんと仕事をすれば家賃に困ることもないだろう……

 

「なるほど……この中から好きな依頼を受ける訳ですね」

 

「あ、ヒスイも仕事行くの?」

 

「はい!家賃も稼がなくてはならないので」

 

「そういえばフェアリーヒルズに住んでるんだよね?家賃十万なのよね……」

 

「一応お父様が多少持たせてくれましたがあまりそれは使いたくないのでしっかりと仕事するつもりです」

 

そこへツナを伴ってマカロフがやって来る。

 

「最初は簡単な依頼から始めなさい。それと最初の依頼はツナが一緒に行くことになる」

 

「よろしくね。ヒスイ」

 

「こちらこそよろしくお願いします。ツナ」

 

「いいなぁ……」

 

ルーシィがそれを羨ましそうに見ていたがルーシィはヒスイに聞きたいことがあった。

 

「そういえばヒスイは戦闘用の星霊持ってるの?」

 

「ええ、一応持ってますよ」

 

「なら討伐系のクエストにしてみようか?いざとなったら俺が守るから」

 

「はい!お願いします!!」

 

ヒスイが嬉しそうに返事をするとツナと二人でリクエストボードを見て依頼を探しだした。

 

蚊帳の外になってしまったルーシィは自分も一緒に行こうと声をかけようとするがエルザに捕まりナツとグレイとハッピーと一緒に二人が気付かない内に依頼へと連れて行かれていた……

 

 

 

 

 

 

ツナとヒスイが選んだのは魔物討伐の依頼。魔物の数は1頭だが畑を散々荒らされたあげく、遂には止めようとした村人の内5人を病院送りにされてしまった為村長がなるべく早く解決してほしいと願い依頼料を上乗せした結果、300,000Jという値段になったものだ。

 

誰が見てもおいしい依頼と呼べるものだったが初クエストに燃えるヒスイはそんな事には目を向けず一刻も早く討伐しなければと気合いをいれていた。

 

マカロフに依頼書を提出すると魔物が1頭ならばいざというときツナも守りやすいだろうと許可を出された。マカロフもツナが一緒なので何の心配もしていなかった。

 

「じゃあ出発しようか?」

 

「はい!」

 

こうしてヒスイの初クエストが始まった。ちなみにギルドに来てからヒスイは身分がばれないように魔法で髪の色をピンクに変えていた。

 

 

 

 

 

依頼の場所へは魔導列車を使って行くことにした。ヒスイは初めて乗った為にその快適さに感動していた。

 

「すごいです!景色がどんどん流れて行きます!」

 

「列車に乗ったのは初めてなの?」

 

「はい!あまり外へは出れなかったのですが外遊へ行くときは大抵馬車でした!でも馬車よりは全然速いのに何故使わなかったのでしょう……?」

 

「まあしかたないと思うよ」

 

護衛の観点からすれば見ず知らずの人々が大量に乗るような列車は避けたいと思って当たり前だ。馬車の周りを兵士達で固めた方がいざという時守りやすい……

 

「切符の買い方覚えた?」

 

「はい!バッチリです!」

 

「なら今度からは大丈夫だね。依頼に行く時は色々な乗り物で行くんだから覚えておかないとね」

 

「う……他の乗り物までは自信がないです……」

 

しゅんとなるヒスイを見てツナは苦笑する。

 

「危険度の高い討伐系のクエストは誰かと一緒にクエストした方がいいよ。ヒスイの立場を考えると多分一人では受けさせてもらえないと思う」

 

「……やはりそうですよね」

 

やはり自分は特別扱いなのだろうかとヒスイは落ち込み始めた。

 

「落ち込まないで。マスターもヒスイを特別視してる訳じゃないんだ。ただ万が一にでも君を失えば信用して預けてくれた陛下にも申し訳ないしこの国の未来も閉ざされるんだから」

 

「ですがみんなと同じように一人前になりたいです」

 

「基本的にチームを組んでやるのが主流だよ。ナツやグレイ達でもチームを組んで依頼をやってるしね。俺だって一人で行った依頼なんて数えるほどだよ」

 

それを聞いて伏せていた顔をあげたヒスイは不思議に思う……あんなに強いツナでも誰かと組んで仕事をやるのだろうか?

 

「ツナもチームを組んでいるのですか?」

 

「特定のチームは組んでないけどやっぱり一人でやるよりは仲間と行った方が楽しいからね」

 

「楽しい……」

 

「うん!一緒に依頼をやれば仲良くなれるしね。だから誰かと一緒の方が絶対いいよ!」

 

「そうですね。フェアリーテイルの最大の力は仲間との絆でした……」

 

「ギルドもこれからはどんどん人が増えると思うし、みんなと仲良くなりたいでしょ?」

 

「はい!そうしますね!」

 

「じゃあ今回の依頼についてだけど……」

 

緊張している様子はないので今回の依頼について話そうとツナは表情を改める。

 

「基本的に今回は俺は手を出さない。ヒスイの力で魔物を倒してね。その場合は依頼料は全額ヒスイがもらっていいよ」

 

「えっ!?いやそれは……」

 

「もしもヒスイが危ない時は俺が助けるよ。それとどうしても自分だけでは出来ないと思ったら助けを求めてね。その場合は依頼料は半分こね」

 

「いや……それはいいのですがここまでついて来てもらってるのに無料という訳には……」

 

「今回は特別!ヒスイの初クエストだからね。俺はついて行くだけのつもりだからがんばって!」

 

ヒスイは緊張とやる気が混ざったような顔になった。だが被害を受けた人の為にもなんとしても依頼を完遂すると気合いを入れ直したのだった。

 

マカロフもツナもヒスイを一人でクエストにやるわけにはいかないと思っている。一年間の追放を受けているとはいえこの国の王女である彼女を失う訳にはいかないからだ。

 

そうして話し込んでる内に列車は目的地に到着した……

 

 

 

 

 

 

村にに着いた二人の目には荒れ果てた畑と表に誰もいない閑散とした風景が広がっていた。まだ昼間なのに誰一人として外に出ていない……

 

「ひどいですね……」

 

「とりあえず村長の家を訪ねよう。多分奥のあの大きな家だと思う」

 

二人が村長の家と思わしき家の扉をノックすると中から老人の声が聞こえた。

 

「どなたじゃ?」

 

「依頼を受けてフェアリーテイルから来ました」

 

「おおっ!お待ちしておりましたぞ!ささっ中へどうぞ!!」

 

勢いよく扉が開くと痩せたというよりやつれたといった風情の老人が飛び出して来て中へと招かれる。

 

「あなたはツナヨシさんですよね?大魔闘演武見てファンになりました!」

 

椅子に座った二人に孫娘と思わしき女性がお茶を用意してくれた。その女性はツナのファンらしく少々はしゃぎすぎて村長に怒られてしまったが……

 

「本当に助かりますじゃ……あの魔物のせいで村人達も外を歩けなくなってしもうた……」

 

老人は相当に疲れているようだ。自分の息子を含めて5人の血気盛んな男性が返り討ちにあってしまったのだからしかたない……

 

今回はヒスイの依頼なのでどう戦うかを考えるのもヒスイの役割だ。

 

「魔物の特徴とかはありますか?」

 

「そうですな……熊くらいの大きさで動きそのものは鈍いのですが力はあります。あ、後は角が特徴的ですな。作物のみを荒らして人を食うような性質では無いようです」

 

「いつもはいつ頃現れるのでしょうか?」

 

今度は孫娘が答える。

 

「大体は昼過ぎですからもうしばらくするとやって来ると思います。村全体に聞こえるような雄叫びをあげますので来ればすぐに分かるはずです」

 

「ツナ、こっちから攻めこむと入れ違いになるかもしれませんね?」

 

「そうだね……ならどうする?」

 

「これ以上村へ被害を与えないためにも村の外で待ち構えます」

 

「正解!いつ来るかは分からないから早めに行って準備だけはきちんとしておこう」

 

「はい!」

 

やる気に満ちたヒスイは立ちあがりツナもそれに続く。

 

「では行って来ますね」

 

「何卒よろしくお願いします……」

 

 

 

 

 

 

 

村長の家を出たツナとヒスイは村の入口から少し離れた所で魔物を待ち構える。ヒスイも銀の鍵を持って準備万端といった感じだ。

 

「無理だけはしないようにね」

 

「大丈夫です!」

 

10分ほど緊張をほぐすために話をしていたがツナが真剣な表情になったことで魔物が近づいているのをヒスイは理解した。

 

「ガォォォォッ!!!」

 

「本当にうるさいな……」

 

「そこまでです!これ以上は村へは手出しさせません!」

 

現れたのは聞いた通りの風貌の魔物だった。熊のように体が大きくその太い両腕はものすごい怪力であろうことが予想される。そして山羊よりも巨大な角は魔物とはいえ雄大で圧倒されるものだった。

 

魔物はヒスイを無視して村の畑へと歩を進めている。ヒスイは自身の持つ鍵を高々と掲げる。

 

「これ以上は行かせません!開け!おおいぬ座の扉!シリウス!!」

 

「参上!!」

 

「でかっ!」

 

現れた星霊は大きくて真っ白な犬だった。大きさとしては魔物よりもさらに大きくその背には何人か乗せて走れそうだ。さすがにツナもびっくりした。

 

「お願いします!シリウス!!」

 

「承知!!」

 

「ガルッ!?」

 

たったの一歩でシリウスは魔物に接近すると巨大な前足を振り上げて叩きつけた。その足を魔物は巨大な両腕で何とか受け止める。

 

ルーシィやユキノの黄道十二門の星霊のように特殊な能力は持っていないがその巨体から生み出されるパワーはかなりのものだった。

 

前足を捕まえられる前にその巨体で体当たりを仕掛けるシリウス、倒れた魔物の上から覆い被さるように押さえつけて止めを刺そうと再び前足を振り上げた時だった。

 

「危ない!!」

 

「えっ?」

 

魔物の角が発光しているのに気付いたツナが警告するがそれは遅かった。突如角から強力な電撃が放たれてシリウスに直撃する。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

「シリウス!!戻って!!」

 

「……無念」

 

ダメージを受けたシリウスをすかさず閉門するヒスイ。魔物は即座に立ちあがり脅威と判断したのか今度はヒスイに目を向ける。ツナは一歩踏み出すがヒスイの諦めていない顔を見てそのまま足を止める。

 

「ツナ……ありがとうございます。私はフェアリーテイルの魔導士として必ず勝ちます!」

 

「任せたよ」

 

「はい!開け!鷲座の扉!アルタイル!!」

 

「任せてッス!ご主人様!!」

 

次に出した星霊は一言で言うならば鳥人間……顔の作りは鳥ながらも手足を持ち、背中に翼を生やしていて右手に突撃槍……ランスを持っている姿だった。

 

「行くッスよ!フェザースラッシュ!!」

 

アルタイルは翼を広げるとその翼から羽がマシンガンのように魔物へと向かう……羽の雨に曝される魔物の体には無数の羽が突き刺さっていく。

 

「グオォォォッ!!」

 

「そんなの当たらないッスよ!!」

 

魔物は傷つきながらも角から電撃を放ってくるが背中の翼は飾りじゃないとばかりにアルタイルは縦横無尽に空を駆ける……

 

「これで止めッスよ!!」

 

アルタイルは右手のランスを両手で構えると空から一気に魔物へと急降下攻撃を仕掛けた……

 

 

 

 

 

 

村へと帰還したツナとヒスイを待っていたのは村人達の歓喜の声だった。魔物の遺体は町長に確認してもらった後ツナが炎で燃やし尽くした。

 

村人達が全員家の外へと出てきて次々と二人にお礼を言ってくる。子供達が二人に群がって輝くような笑顔を向けて来るので二人も笑顔で一人一人の声に応えていった。

 

村人達の見送りに手を振って応えて村を出た二人は二人はギルドに帰還する為に再び魔導列車に乗っていた。

 

「今日はお見事だったね。ヒスイ」

 

「ありがとうございます!村の人々にも笑顔が戻って私も嬉しいです」

 

「それが俺達に与えられる何よりの報酬だね」

 

「報酬といえば……やはりツナにも……ツナが後ろで控えてくれていたのは心強かったですし、魔物の遺体を処分してくれたのですし……」

 

「いやいいよ……今回はほんとにほとんど何もしてないし、ヒスイが頑張ったんだし……」

 

「ですが……」

 

結局ツナは断固として報酬を受け取らずそのやり取りはマグノリアに着くまで続いていたのだった……

 

 

 

 

 

夕方になってフェアリーテイルに帰ってきた二人を迎えたのは初クエストを達成したヒスイを祝う宴だった。ヒスイは感動していたが祝いというよりもただ騒ぎたかっただけだろう……

 

それを指摘するのも無粋なのでツナはみんなに囲まれるヒスイを置き去りにカウンターに座って一息つきながらマカロフとミラとラクサスと話していた。

 

「どうじゃった?あの子の初依頼は?」

 

「文句なしに合格……戦闘力の高い星霊は持ってるし頭もいい。まあ星霊魔導士だから本人の戦闘能力は無いに等しいし、やっぱり討伐系は誰かと組ませてさせる方がいいと思います」

 

「ま、妥当だな……さすがに一人で討伐にやって何かあったらギルドも終わりだろうしな」

 

「私も少し気にかけておくわ。リサーナにも伝えておきましょう」

 

「うむ。頼むぞい」

 

笑顔で周りと交流するヒスイを眺めながら話していたツナ達。ちょうどそこへナツ達一行が帰ってきてルーシィがツナに泣きついてきた。

 

「ツナ~!聞いて~!またナツとグレイが喧嘩して街を壊して依頼料を減らされたの~!」

 

「またなの?」

 

「あらあら……」

 

「エルザも一緒だったんじゃねえのか?」

 

「そうだけど!ナツとグレイをぶっ飛ばして止めたのはいいけどそのせいでさらに街が壊れたの……」

 

それを聞いて溜息を吐く一堂……マカロフの髪の毛が数十本まとめて抜け去っている。そこへ肩を落としたエルザがゆっくりと歩いて来る……

 

「マスター……すみません。私の監督不行き届きです……ルーシィもすまない。私の責任だ!殴ってくれないか?」

 

「いやいいわ……いつもの事だし……」

 

ルーシィは深く溜息をつきながらみんなに囲まれているヒスイの元へ去っていった。

 

マカロフはギルド復活の初回の依頼からの不祥事に真っ白になりながらブツフツと呟いている。

 

「また始末書…………のうツナ?7代目マスターにならんか?」

 

「慎んでお断り致します」

 

かつて守護者達や某暗殺部隊達の喧嘩や暴走の度に始末書の山と格闘していたツナはにっこりと笑顔を見せると即答で拒否した。

 

始末書の度にその原因となった者の氷像が作られてはいたが何度お仕置きしても治らないので頭を抱えていた経験がある。

 

-あんな思いは二度としたくない……-

 

肩を落としながら溜息をついたマカロフはここにいるメンバーを見て思い出したように話を変える。

 

「はあ……まあええわい。それよりもツナ、ラクサス、ミラ、エルザ、お主達に話があるのじゃ」

 

「「「「?」」」」

 

「実はじゃな…………」

 

マカロフの話は四人を驚かせるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 




一昨日は久々に震度4が来ました。治まって来ていたのにいきなりだったからすごくびっくりしました。


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妖精の尻尾最強チーム結成!?

大変お待たせしました。なかなか話が纏まりませんでした……


 

 

-フェアリーテイル

 

ツナ、ラクサス、ミラ、エルザの四人はマスターがどこからともなく取り出した依頼書の束を見せられた。

 

「これってS級クエストの依頼書?」

 

「全部で20枚か、こんなに来たのかよ……」

 

「しかもSS級が3つに10年クエストが1枚含まれてるわね」

 

「しかも他のギルドが手を引いた依頼もいくつかあるな……マスターこれを私達に?」

 

エルザの問いにマカロフは頷く。大魔闘演武を優勝した事によって他のギルドでは難しい依頼まで回って来るようになったようだ。

 

「さすがにお主達でもこの数をこなすのは難しいとは思うがのう……やたら難しい依頼まで回って来るようになってしもうた」

 

マカロフとしては心情としては全て受けたい所だが全てを受けるのは難しいと溜息をつく。

 

「……?嬉しい悲鳴ってやつじゃねえか」

 

「そうだね。この依頼を全部こなせばフェアリーテイル完全復活を印象付けられるし」

 

「ああ、ナツやグレイ、雷神衆達S級に近い者達の力を借りればできない事はないだろう」

 

そこでマカロフが口を挟む。

 

「待て待て!それが出来るのなら迷いはせんわい!ナツも雷神衆も連れては行けんから悩んどるんじゃよ」

 

「え?でも同伴ならS級に連れて行ってもいいんですよね?」

 

「今回はS級以外にも難易度の高い依頼が山ほど来とるんじゃ……ナツ達にはそちらを担当してもらわなければいかん……かといって短期間でお主達にこれだけの数のS級をこなせとも言えんから迷っとるんじゃ」

 

ツナはなるほどと納得した。ただでさえ危険を伴うS級クエストを一人で短期間に4つも5つもこなせとは言えないだろう。

 

しかしフェアリーテイル完全復活の為にはできれば全てのクエストをこなしたいと思っているようだ。そうすると残った解決策は……

 

「ならとれる手段は一つだけだね」

 

「どうすんだ?」

 

ツナは指を4本立てて自分の考えを話す。

 

「4人で組んで一つずつ消化していこう。そうすれば一つ当たりの時間短縮にもなるしね。もちろん報酬は山分けで」

 

「そうね。安全性も増すから連続で依頼に行っても危険度は下がるわね」

 

「この4人でチームか……腕が鳴るな。フェアリーテイル真の最強チームの結成といこうか」

 

「ふっ……おもしろくなってきやがったぜ」

 

四人は顔を見合わせて笑みを浮かべる。この4人でクエストをこなすのが楽しみでしかたないといった顔だ。それを見たマカロフも獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ならば今日はしっかりと準備に当てて明日から出発じゃ!フェアリーテイル最強チームの名に相応しい活躍を期待しとるぞい!!」

 

「「「「おう(はい)!!」」」」

 

 

 

 

 

 

その話は瞬く間にギルド中に広まった。ツナ達は一つのテーブルを囲んで座って期限や依頼場所の情報からクエストの順番を決めているのだった。だが周りは騒がしい……

 

「S級以上を20件かよ!?」

 

「それをこの4人でチームを組んでやるのか!」

 

「マジで最強チームだな……」

 

「あの4人が揃えば怖いものなしね」

 

さっきまでヒスイの初クエスト達成祝いをしていたのだがヒスイを含めてみんな興味津々といった感じで4人を囲んでいた。だが中には煩い者達もいた。

 

「ずりぃぞー!!俺も連れてけー!!」

 

「おめぇじゃ足手まといにしかなんねーよ。俺を連れてけよ。こいつよりは役に立つぜ!」

 

「グレイ様が行くならジュビアも行きます!」

 

「ギヒッ!どうしてもっていうなら行ってやってもいいぜ!」

 

「漢として姉ちゃんを守らなくては!!」

 

「S級が平均1000万で16件、SS級が平均2500万で3件、10年クエストが6500万!?合計3億!?家賃が何年分!?」

 

「ラクサス!雷神衆がお前の助けになるぞ!」

 

マスターから今回はこの4人にしか行かせられんという話があっても騒ぎは収まらない……

 

「俺が行くんだ!!」

 

「いや俺だ!!」

 

「てめえらに任せてられるか!!」

 

「漢おぉぉっ!!」

 

「煩いぞ貴様ら!!」

 

遂には殴り合いの喧嘩に発展しそうになった時にそれまでテーブルに座っていたエルザが立ちあがりナツ達を怒鳴り付けた。

 

するとピタッと喧騒は止んだがエルザは止まらず騒ぎ続けていた面子に拳骨を叩きつける。騒いでいた者達は正座させられた……

 

「まったく……貴様らもギルドの為にクエストをこなさなければならないのだぞ!しばらくすれば新人達も入って来るはずだ!!その為にも模範となる行動を……」

 

正座しているナツ達にガミガミと説教しているエルザを横目にツナ達は準備を進めていた。

 

「順番はこれでいいかな?」

 

「まあいいんじゃねえのか?全部こなす事には変わりねえしな」

 

「そうね。私も久しぶりのS級だから少し緊張しちゃうわね」

 

「それにしても今回はエルザも気合いが入ってるみたいだね」

 

「ほら!エルザってば7年分の家賃を支払ってるから今回の依頼で取り戻したいんじゃないかしら?」

 

「そりゃ燃えるわな……」

 

天狼島から帰還した後、フェアリーヒルズ組は7年分の家賃を支払う事になって真っ白に燃え尽きていた。

 

特にエルザの7年分の家賃は一部屋10万のフェアリーヒルズを五部屋で月50万。それを7年分支払った為に4200万もの散財をするはめになったのだった。

 

「というか月50万も払うなら家を買えばいいんじゃないの?」

 

「私も何度か言ったんだけどね」

 

「寮に愛着を持ってんだろ……おめぇも今回の依頼をこなしたら家でも買ったらどうだ?」

 

「う~ん……家かぁ……」

 

「そうね!私達の家を買いましょうか!」

 

「「ちょっと!!」」

 

ミラの発言に黙ってられなくなったルーシィとウェンディがミラに食って掛かるがミラはほんわかした笑顔で二人をいなしている。ツナは苦笑すると3人を止めて準備の為にミラと一緒に厨房に連れ立って行った。

 

残ったルーシィとウェンディは不満そうだったが二人が何をしに行ったのか気になってラクサスに聞いてみることにした。

 

「ん?ああ……飯つか弁当の用意だな。何回か野宿するルートだからな。あいつのボックスに入れとけば普通の料理でも作りたての弁当代わりになるからな」

 

「なるほど……」

 

「便利ですね~」

 

「さすがはツナだな。連続でS級を受けるならば食事の質も重要な要素になるからな」

 

説教を終えたエルザも加わってツナを称賛する。ちなみに説教された者達はまだ沈んでいた。

 

「おめぇはツナの作りたてのデザートが嬉しいだけだろ……」

 

「無論それもある。が、それはお前もだろう」

 

「まあ味気ねえ保存食ばっかりじゃやる気出ねえのは確かだしな」

 

「そういうことだな」

 

なんだかんだ言いながら二人ともクエスト中でもミラやツナの作りたての料理が食べられるのは嬉しいらしい……こうしてS級クエストの準備は万端となった。

 

 

 

 

 

 

翌朝ギルドに集合した4人は他のメンバー達に激励を受けながら出発することになった。例によってエルザは大量の荷物を台車で引っ張って現れたが、ツナのボックスに収納することで全員身軽な出発となった。

 

魔導列車に乗って目的地へと出発するがドラゴンスレイヤー特有の乗り物酔いを意地でやせ我慢していたラクサスに対してツナが大空の炎を使う事によって穏やかな出発となった。

 

「さてと、最初の依頼は太古の遺跡の最奥にあると言われる秘宝を取って来ること……」

 

「普通トレジャーハンターに頼まねえか?」

 

「どうやら巨大で複雑な迷宮になってるらしいわね……さらには魔物が山ほどいて奥の方まで行ったら戻って来れないらしいわよ」

 

「私達もしっかりと調べながら進まないと彼らと同じように出られなくなるかもしれんな……」

 

「ああ……Aチームだったから知らねえのか」

 

「ツナが居れば問題なしね」

 

「……おい待て!まさかツナの勘で!?」

 

「大丈夫よエルザ!ツナのお陰で私達は大魔闘演武予選をダントツ1位で突破したんだから!」

 

「この間のじゃんけんの時といい、つくづくツナは非常識だな……」

 

「酷くない!?」

 

列車での旅はとても穏やかでこれから難解なクエストに行くとは思えない雰囲気で進んで行った。

 

 

 

 

 

最寄りの駅で降りたツナ達はそこから徒歩で遺跡までたどり着いた。事前に連絡がいっていた為に依頼人とは遺跡の側の街で会うことになった。

 

依頼人は大富豪で人の良さそうな老紳士といった感じだった。遺跡に興味を持ってトレジャーハンターを雇って調べていたが迷宮と魔物が数多く存在した為に調査は難航している。

 

だが文献には迷宮の最奥には秘宝が存在していてそれを守る守護者が存在しているという……

 

「依頼はその秘宝を持って来ることですね」

 

「その通り……残念ながら迷宮と魔物のせいで最深部まで到達したものはいない……そこで戦闘能力の高い魔導士ギルドに依頼したのだ」

 

「それで秘宝とはどのような物なのですか?」

 

「あらゆる病を治すというラクリマらしい……迷宮内で見つけた他の宝はそなた達が好きにしていいがそのラクリマだけは渡して貰いたい」

 

どうやら彼はそのラクリマを求めて大金をかけているらしい。その顔は絶望と希望が入り交じったのうな複雑なものだ。おそらく彼の身内に病人がいるのだろう……

 

「分かりました。ではしばらくここでお待ちください」

 

「は?いや何日かかかるだろうから一端家に帰るつもりだが……」

 

「本日中にお持ちしますよ」

 

ツナの自信たっぷりの言葉に依頼人は目が点になっていた……

 

 

 

 

迷宮に突入した一行はツナを先頭に迷宮の中を進んで行く。罠がある所を避けながら襲いかかって来る魔物を返り討ちにしていた。この面子に襲いかかって来るのは無謀としか言いようがないが知性のない魔物ならばしかたない……

 

ツナの超直感により迷わず進んでいる限り最短のルートで潜っている。そうなればどんなに複雑で広大な迷宮と言えどもそれほどの距離でもない。一行はどんどん深くまで潜っていった。

 

「それにしても魔物の数が多いな……」

 

「しかも弱えやつばかりだからめんどくせぇ」

 

「大分深く潜ったけどまだ着かないの?」

 

「う~ん……そろそろだと思う……」

 

「おっ!あれか?」

 

ラクサスの差す先を見ると豪華な装飾のついた大きな扉があった。明らかにこの迷宮に似つかわしくないそれはここが終着点だということを如実に意味していた。

 

ツナ達は迷わず扉を開いて中に入って行った。そこは迷宮の中とは思えぬほど明るく整えられていて、騎士の鎧がこの部屋の壁面にずらりと並べられていて中央の祭壇には白く輝くラクリマが安置してあった。

 

「あれがどんな病をも治すラクリマか?」

 

「確かにすごい魔力を感じるわ」

 

「!!」

 

「気を付けろ!何かいるぞ!!」

 

ツナとラクサスがこの部屋に何か敵意を持った者の存在を感じ取って注意を促す。すると今までただの置物だったはずの鎧が意思を持ったように動き出した。

 

この部屋はかなり大きな空間なので鎧は全部で500体以上存在し、さらにそれぞれが剣と盾を構えていた。

 

「これが秘宝を守る守護者ってわけかよ」

 

「本当に定番だね」

 

「しかし私達を相手にするにはこの程度の数では足りないな」

 

「そうね!ようやくS級っぽくなってきたわね」

 

ツナは額とグローブに炎を灯し、ラクサスは全身に雷を纏わせ、ミラはサタンソウルで変身し、エルザは天輪の鎧に換装して剣を舞わせる。

 

「行くぞ!」

 

ツナの掛け声と共に4人はそれぞれ四方へと飛び出す。

 

「Xストリーム!!」

 

ツナは自分の目の前の鎧達をまとめて炎の竜巻に巻き込んで高熱で数体の鎧の騎士をまとめて溶かすとそのまま鎧の群れに突っ込んで殴り飛ばしていった。

 

「雷竜の顎!!」

 

ラクサスが両手を組んでハンマーパンチのように降り下ろすとそれを食らった鎧はひしゃげてさらに地面をクモの巣のように電流が走る。動きの止まった鎧達をそのまま雷を纏った拳で貫いていった。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

ミラの技はこの場で使うには狭すぎるのでサタンソウルの大魔力でコーティングした肉体で鎧達を次々に屠っていった。

 

「天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!」

 

エルザは次々に剣と放って鎧を串刺しにしていった。だが痛覚がない鎧達は多少動きを鈍くするが止まらない。エルザは黒羽の鎧に換装すると動きの鈍った鎧達を次々と斬り裂いていった。

 

狭い場所で大技が使えない面子だがそんなハンデなど感じさせずに鎧達を薙ぎ払っていく。

 

わずか2分もかからずに部屋の鎧たちはただの鉄屑へと成り下がってしまった。

 

「やっぱり雑魚だったな……」

 

「これを持って帰ればS級クリアなんだよね?なんか拍子抜けな感じ……」

 

「今回は迷宮のせいで金額が跳ね上がっていたのだろう……あの迷宮をツナの力無しに突破するとしたら軽く1週間くらいはかかったかもしれん」

 

「そうね……本当なら罠とかにもかなり引っ掛かったはずだけどツナが全部みつけちゃうし……」

 

「まあ簡単に済んで良かったじゃねえか。依頼人もまだいるだろうからさっさと戻ろうぜ」

 

「そうだね。あと19件もあるんだし」

 

ツナはボックスをかざしてラクリマを収納すると4人で地上への道を歩き出した。

 

ツナは道順を覚えてはいないし、マッピングすらしてないので本来なら相応の時間がかかるがツナの超直感の導きにより迷わずに地上に辿り着いた。

 

 

 

 

 

「まさか本当に今日中に持って来るとは……」

 

時刻は夕方、地上に戻って来たツナ達を迎えた依頼人の老紳士は驚愕と共に満面の喜びの表情を見せた。ちなみに夜まで待って帰って来なかったら一端家に帰るつもりだったらしい……

 

「これがどんな病をも治すといわれるラクリマか……これが最後の希望だ……」

 

「御家族の方に使われるのですか?」

 

「そうだ。これがあれば難病の孫を助ける事が出来るかもしれん……伝承通りであってくれればよいのだが……」

 

その老紳士の顔は端から見ても分かるように不安そうになる。伝承が間違っている可能性もあるのだから当然だろう……ツナは老紳士を安心させるように微笑む。

 

「きっと良くなりますよ。俺の勘はよく当たるんです。男の子なんですからすぐに元気になりますよ」

 

「そうだといいが……む?私孫が男の子だと言ったかね?」

 

「いえ、俺言ったように勘が鋭いんです」

 

「君の顔を見ていたら本当に大丈夫な気がしたよ……まるで全てを包み込むような優しさに溢れた笑顔だ」

 

老紳士はそれまでの不安が嘘のような軽やかな気持ちでお礼を言うと孫の待つ家へと帰って行った。それを見送って一息ついた4人は次の目的地へと出発する。

 

「とりあえず一つ目の依頼はクリアだな」

 

「次の目的地へ行って宿を取りましょう」

 

「今回はツナに助けられたからな……次は私が助ける番だ」

 

「関係ないよ。俺達はチームなんだから助け合って当たり前だよ……じゃあ行こう!依頼はまだまだ残ってるからね!」

 

この後もツナ達は難解なクエストをお互いに助け合って次々とこなしていく事になる。ちなみに後日老紳士と病気の治った男の子がギルドに改めてお礼を言いに来ることになるがそれはまだ先の話だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後もツナ達は次々と依頼をこなしていきますがその過程は省いてラストを飾る10年クエストの話になりますがこれぞ10年クエストという話がなかなか思い浮かばない……

活動報告にて詳しく載せてますので興味ある方はご覧下さい。



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いざ10年クエスト!

大変お待たせしました。10年クエスト開始です。


 

 

-クロッカス

 

ツナ達4人がS級クエストに出発してから3週間と少しの時が流れた……最初の依頼である遺跡の攻略を終えてから次々とクエストをこなしていくフェアリーテイル最強チーム。

 

桁外れに強い魔獣の討伐や百人以上を殺害した魔導士の逮捕など様々な依頼があったが4人で力を合わせ、時には二手に別れて無事に達成することができた。

 

残る依頼は10年クエストを残すのみとなった。そして依頼人に会う為にこの国の王都である花咲く都、クロッカスへとやって来たのだった……

 

 

 

 

 

 

「とりあえず依頼人には明日会いに行くということで今日はこの宿で休もう」

 

「もう夜だしね……さすがに今日は無理ね」

 

「けっこう疲れてるしな……」

 

「そうだな。残すは10年クエストだからな……しっかりと鋭気を養わなければ……」

 

4人共連日のクエストでかなり疲労が溜まっていたのだろう。日が暮れる頃に宿に着くとそのまま一晩休む事になった。

 

「みんなは10年クエスト受けたことがあるの?」

 

「いや……今のフェアリーテイルで受けたことがあるのはギルダーツのおっさんだけだ」

 

フェアリーテイルにおいてマカロフより5代目マスターを任命されながら再びそれをマカロフへとスルーパスして旅に出た男だ……

 

「そもそも数年に一回くれば珍しいくらいなの」

 

「単純な討伐などなら誰かが既に達成してるだろうからな……今回の件は大きな謎を解かねばクリアはできんのだろう」

 

ツナ達は依頼書を広げて読む……依頼書にはこう書かれていた。

 

『アルビオンの街を救ってくれ!!』

 

その言葉と依頼人の名前と報酬額しかかかれていない。何から救えばいいのかさっぱり分からなかった……そして注意書きには……

 

「詳しくは依頼人から聞けって何だよ?」

 

「しかもその依頼人が……」

 

「国王陛下って……」

 

「国でも問題視してるってことだね」

 

大魔闘演武の際に会った国王を思い出しながらその国王が10年もの間悩み続けた問題ということで自然と力が入る一同……空気を変えるようにツナが明るく声をかける。

 

「まあ今考えてもしかたないし悩むのは明日陛下に謁見してからだね」

 

「そうね。今日はゆっくりしましょうか」

 

「だな……さっさと飯食いに行こうぜ。もうツナのボックスの中身も少ねえんだろ?」

 

「そうだな……その後今日は早目に休むとしよう」

 

ツナ達はエルザの言葉に頷くと食事の為に部屋を出るのだった……外に出るついでに城の門番の兵士には国王からのクエストを受けたことを伝えて明日謁見出来るように伝えてもらった……

 

 

 

 

 

 

 

翌朝身支度を整えて城に向かうと門の所にアルカディオスがいてツナ達を出迎えていた。

 

「しばらく振りだな、フェアリーテイルの諸君」

 

「アルカディオスさん、わざわざありがとうございます」

 

「あなた方ががこのクエストを受けてくれることを陛下も心強く思っておられる。さ、まずは陛下と謁見するので着いて来てくれ」

 

アルカディオスの案内で謁見の間へ向かう一堂……ドラゴンと戦ったのはついこの間だったはずだが城も街もすっかり元通りになっていた。

 

玉座に座る国王は笑顔でツナ達を迎えた。……さすがに今回はマトー君の被り物はしていなかった。

 

ツナ達はひざまずくべきかと悩んだが国王自身から止められた。そのまま話を始めるかと思いきや隣室にある応接室に通される。

 

「ささっ!まずは座ってくれい!」

 

「ですが……」

 

さすがに一国の王と同じ席に座るほど常識はずれではない面子だ。これがナツならば即座に座っていただろうが……

 

「構わんよ。少し長くなりそうだしの!アルカディオス!侍女にお茶を用意させてくれい」

 

「かしこまりました。陛下」

 

アルカディオスがチリンとベルを鳴らして侍女を呼んで用件を伝えると侍女は一礼して去って行った。ツナ達は恐縮しながら椅子に座る。

 

「詳しい依頼の話はお茶を飲みながらするとして……娘は元気にしているかね?」

 

国王としてでなく一人の親として尋ねてくる国王にミラが笑顔で答える。

 

「私達がギルドを出たのは3週間程前なので現状は分かりませんがギルドの者達とも仲良くされていました」

 

「初依頼には自分が付き添いましたが完璧にこなされておられましたよ。魔導士としてのレベルも高いのですがやはり直接的な戦闘は不可能なので誰かと一緒にクエストをするように伝えてあります」

 

ツナの言葉に嬉しそうに顔を綻ばせる国王……アルカディオスも笑顔でそれを聞いていた。

 

「そうかそうか!上手くやっておるか!これからも娘をよろしく頼むぞい!」

 

「もちろんです。もう彼女はフェアリーテイルの仲間なのですから」

 

エルザの言葉に満足そうに頷く国王。その時先程の侍女がお茶を持って来た。それぞれに配るとまた一礼して部屋を出ていった。

 

一息ついたところでツナは依頼書を取り出して国王の前に置く……

 

「陛下、この依頼……アルビオンの街を救えとありますが一体何から救えばよいのですか?」

 

ツナの質問は他の3人も聞きたいことだった。もちろんその質問が出ることを国王も予想していたのだが国王は言い難そうに眉間にシワをよせた。

 

「ふむ……アルビオンは森と湖の綺麗な街だったのじゃが……10年前のある日住民達が止まってしまったのじゃ」

 

「陛下、止まったとは?」

 

「それ以外に表現する言葉が見つからんのじゃ。人々は止まったまま10年の時が流れておる……何らかの魔法によるものだとは思うのだが……」

 

「住民達は生きているのですか?」

 

「おそらく……本当に住民の営みをそのままに止まっているからのう。老化もせず肉体の腐敗もない10年前のまま止まっておるのじゃよ」

 

「それって私達が体験した7年間の凍結封印のようなものなのかしら?」

 

「似たようなもんだろうな……だが俺達は生き延びる為にそれを受けたが悪意を持って仕掛けられたのなら最悪だな」

 

「仮に誰かの魔法によるものだったと仮定して犯人の手がかりなどはないのでしょうか?」

 

エルザの問いに答えたのは国王の横に立っていたアルカディオスだった。

 

「残念ながらな……これまでセイバートゥースやラミアスケイルの魔導士達もこの依頼を受けたが何の手がかりも得られなかった。もちろん国からも餓狼騎士団や優秀な解呪魔導士(ディスペラー)を派遣したのだがな……」

 

4人は顔を見合わせて頷くと椅子から立ちあがる。

 

「とりあえず現場に行ってみますね」

 

ツナの言葉に国王も立ち上がって深く頭を下げる。その行動に4人は驚き、アルカディオスは頭を下げる国王に思うところはあったがこういう人柄だったと溜息をつき自分も頭を下げる……

 

「どうか我が国民を救って下され」

 

その言葉を胸に刻んで4人は城を後にしてアルビオンに向かって出発した……

 

 

 

 

 

 

アルビオン……フィオーレ王国の北に位置するその街はかつては美しい森と湖に囲まれた街として避暑地として栄えていた。

 

4人はクロッカスから1日をかけてアルビオンに到着した。途中まで魔導列車で来たのだがアルビオンに行くということで車掌には相当驚かれてしまった。どうやら理由を知っていたらしい……

 

「ここがアルビオン」

 

「本当に止まっているわね……」

 

「空を飛んでる鳥も止まってやがる」

 

「動かすこともできんか……」

 

4人が見たのは街を行く人々だけでなく動物も含めた全ての生命が止まったまま動かない光景……草木の手入れもされずに放置されていたため街の外観はとても避暑地とは呼べない状態になっていた。

 

「草木や湖は固まっている訳じゃないのね」

 

「そうみたいだね」

 

「とりあえず別れて手がかりを探そうぜ」

 

「そうだな……では一時間後にここで」

 

 

 

 

 

 

ツナは街を回りながら手がかりを探すがそれらしきものは見つからない……試しに調和の炎で街の人々を戻せないか試してみたが効果がなかった。

 

「魔力は感じないけど何か別の力を感じるな……これはいったい……?」

 

その力がこの惨状を引き起こした原因なのだろうか?だが魔力じゃないとしても何らかの力で街の人々が変質されているとしたら調和の炎で元に戻せないのはおかしい。ツナは悩みながらも街を歩く……

 

 

 

 

 

 

結局大した情報も集まらずに集まった一堂は暗くなってきたので森の中で火をおこして食事をとることにした。

 

「何か分かったかよ?」

 

「さっぱりだ……」

 

「魔力とは少し違う何らかの力を感じたんだけどね」

 

「あ、私も!あれはサタンソウルを使う時に感じる力に似てるわ!」

 

それは呪力と呼ばれる力だったが今は誰も知らないことだった。

 

「じゃあなにか?悪魔の仕業ってことか?」

 

「確かにゼレフ書の悪魔ならばこんな事ができるのかもしれんが……」

 

「実はもう一つ気になる事があってね……」

 

ツナの言葉に3人は顔を向ける。ツナは自分が感じた事を話し出した。

 

「魔力であれ悪魔の力であれ何らかの力が働いて住人が変質しているなら俺の調和の炎で戻せるかと思ったんだけど……」

 

「無理だったということか……ということはツナよりも強い力で住人を止めているということか?」

 

「いや、もしそうなら俺の炎に反発する力を感じるはずだ。だけど炎には何の手応えも感じなかった……」

 

それがツナが一番気にかかっていたことだ。ツナの調和の炎ならいびつに歪められた状態……つまり調和していない状態ならば正常に戻す事ができるはずだ。

 

もし、術をかけた相手の力がツナの力を遥かに上回っていたとしても反応くらいは起きるはず。それすら起きなかったということは、つまり今の住人達は正常の状態といっているようなものだ。

 

だが異常なのは見るからに明らかだ……

 

「もしかしたら住人はここにいないのかもしれない」

 

「どういう意味?みんないるじゃない?」

 

「分からない……ただ漠然と思ったんだ」

 

ツナの言葉に全員が考えるがさっぱり分からない……やはり数々のギルドが何の手がかりを掴めなかった事を考えると一筋縄ではいきそうにない……

 

「さっぱりだな……どうする?」

 

「とにかく今日は休んで……!!」

 

「「「!!」」」

 

4人は同時に立ち上がった。森の奥から魔力の高まりと4人に向けて巨大な殺気が膨れ上がったからだ。殺気の持ち主に対して構えを取る3人……ツナは何故かその方角を見ているだけだ。

 

「気をつけろ!!」

 

「この巨大な魔力と殺気は……」

 

「相当強いわね!!」

 

「…………」

 

戦慄するラクサス達3人を置き去りにツナは前に出る。戦闘体勢を取っていないツナの姿に3人はギョッとする。

 

「ツナ!何してるの!?」

 

「無防備に近よるな!!」

 

「おい!どうした!?」

 

ツナは苦笑すると殺気の主に声をかけた。

 

「久しぶりなのに随分過激な挨拶ですね」

 

親しげに声をかけるツナに殺気も魔力も収まっていく。3人は混乱して何が何だか分からないといった顔をしている。

 

「……やれやれ、シャレの分からねえ奴だ」

 

森の中からかけられた声に3人は驚いた。聞き覚えのあるその声の主は……

 

「い……今の声は……」

 

「何故ここに……」

 

「驚かせやがって……」

 

足音と共にその声の主がその姿を現した。

 

「よお!元気だったか!」

 

「「ギルダーツ!?」」

 

「おっさんかよ……」

 

「お久しぶりですね、ギルダーツさん」

 

フェアリーテイルS級魔導士にして元5代目マスターギルダーツ・クライヴがその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 




10年クエスト2話目は明日投稿予定です。


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夢幻の悪魔

10年クエスト2話目です。


 

 

-アルビオン

 

「いや~こんな旨い飯は久しぶりだぜ!」

 

ツナ達四人の前に現れたギルダーツはツナがボックスから出した食事を美味しそうに食べている。まともな食事は街に寄った時くらいしか食べないようだ。

 

「そういえば大魔闘演武優勝よくやったな!まさかこんなに早くフィオーレ一のギルドに返り咲くとは思ってもみなかったぜ」

 

「まあそのおかげで厄介な依頼も回ってきたんだけどね……」

 

ミラの言葉に3人も苦笑する。ギルダーツも厄介な依頼ということに興味を示した。

 

「アルビオンの件か……」

 

「ああ……おっさんは何か知らねえか?正直いってどうなってるのかさっぱり分からねえ」

 

「何より情報が少なすぎるのだ」

 

「どうかな……何者かが仕掛けたのは間違いねえとは思うけどよ。それが何なのかまでは分からん」

 

ギルダーツも何故街がこのような状態なのかを調べていたようだが有力な手がかりは何も掴めなかったらしい……

 

「ちなみに何でこの街に?」

 

「……ここは俺の妻と初めて会った場所だからな。久しぶりに来てみたらこんな状態だからびっくりしたぜ」

 

「カナも連れて来れば良かったのに……」

 

「いずれな。その前にこの街の異常をどうにかしねえとな」

 

「と言っても実際どうするよ?」

 

ラクサスの問いに答える者はいない。あまりにも手がかりが無さすぎてどうすればいいのか分からないといった感じだ……ミラは最後の希望とばかりにツナに振り向く。

 

「ツナの勘で何か分からない?」

 

ツナは少し考えて口を開く。

 

「……少し気になる事はあるけどそれが何を意味するのかは分からない。とにかく明日もう一度街を調べてみよう」

 

その場にいた全員が頷くと今日はお開きとなった。

 

 

 

 

 

翌日はギルダーツを加えて5人となった一行は朝から別れて街を回り探索を進めていく……

 

町長と思われる屋敷を発見したツナはふと気になってそこを探索していた。家の中には町長らしき老人とその子供、孫が街の人々と同じように固まっている。

 

「ん……?」

 

執務室と思われる場所にいた町長の固まった姿を見てツナは他の人々とは違う箇所がある事に気づいた。町長は執務室の椅子からまるで立ち上がって逃げるような体勢のまま固まっていた。その顔は恐怖と絶望に染まっている……

 

「他の街の人々は普段と変わらないまま固まっているのに町長だけは何故か恐怖を感じている顔をしている……?」

 

この部屋を見渡して見ると本棚の中の一冊の本の背表紙にここにあるはずのないものを見つけて驚愕した。

 

「これは!?」

 

ツナが発見した本にはフェアリーテイルとボンゴレの紋章が刻んであった。フェアリーテイルの紋章が刻んであるのもおかしいがまだ理解できる。だが何故異世界のボンゴレの紋章まであるのか……ツナは焦ってその本を開いた。

 

「そういうことか……」

 

ツナは次々とページを捲っていく。一通り目を通し終わるとその本を持って仲間達との合流場所へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

「手がかりが見つかった!?」

 

「うん。おそらくだけどね」

 

仲間達と合流したツナが町長の件を話すと確かに街の人々は何も気付かぬまま固まっていたので何かあると感じる4人……

 

「もしかして何か知ってたのかもな……」

 

「あるいは犯人を目撃したのか……」

 

「でも話を聞くこともできないんじゃ……」

 

「で?ツナは他に何か見つけたのか?」

 

ツナはギルダーツの問いに頷くと見つけた本をみんなに見せる。それを見たメンバーは驚く。

 

「フェアリーテイルの紋章!?……とこれはナッツちゃんのボックスにあるのと同じ紋章?」

 

「これはボンゴレの紋章なんだ」

 

「何故それがここに?」

 

異世界の紋章を疑問に思う4人……ツナはこの本の内容について語り出した。

 

「これはこの街の町長のお父さんかおじいさんが残したらしい日記……というより手記なんだ。そしてこの本によると過去にもアルビオンで同じことが起こっていたらしい」

 

「「「「な!?」」」」

 

過去にもこれと同じ事が起きていたと聞き驚く4人……だがそれはすなわち解決策があるということだ。4人は表情を引き締めて続きを促す。

 

「その犯人は夢魔リリス……人々の魂を捕らえて夢幻宮と呼ばれる場所に引きずり込んで楽園の夢を見せ続ける悪魔らしい」

 

「じゃあこの街の連中も同じように……」

 

「そうゆうこと、魂を囚われた者は今の街の住民と同じような状態になったらしい」

 

4人は絶句するがいち早く正気に戻ったギルダーツがツナに質問する。

 

「当時はどうやって解決したんだ?」

 

「手記によるとそれを解決したのが当時のフェアリーテイルで俺の先祖のジョットらしい。ただし倒したんじゃなくて、止めをさす前に夢の中に逃げ込んだからしかたなく封印したみたい」

 

「ちょっと待て!それじゃその悪魔が復活したのか!?」

 

ラクサスはの叫びは他の3人も思っていた事だ。もちろんツナも同じ考えなので頷く。

 

「多分ね……この本の最後にはリリスが復活したならこの2つの紋章を持つ者に助けを求めるように書いてあった。それを実行する前に……」

 

「やられちまったわけか……で、その悪魔はどこにいるのか分かるのか?」

 

ギルダーツの問いにツナは頷くと背後の広大な森を指差す。

 

「この森のどこかに夢幻宮に繋がる空間の歪みがあるらしいけど正確な場所は分からない……でも俺の超直感で見つけてみせるよ。ジョットも見つけたらしいし」

 

「それに頼るしかないか……相手のテリトリーでバラけると危険だしな」

 

「お願いね!ツナ!」

 

5人はそのままツナを先頭に森の中へと進んでいった……

 

 

 

 

 

 

 

「遂に見つけたね!」

 

「凄いわ!ツナ!」

 

「「「ちょっと待て!!」」」

 

夢幻宮への空間の歪みを見つけたツナとそれを喜ぶミラだったが他の3人が声を揃えて抗議する。

 

「どうしたのみんな……?」

 

「どうしたのじゃねえよ!何でこんなにあっさりと見つけてんだよ!?」

 

ツナの超直感を初めて見たギルダーツの驚きといったら他の2人の比ではない……

 

「相変わらず理不尽な直感だな……」

 

「ツナは本当に人間なのか?」

 

「みんな酷い…………」

 

「まあまあ……それよりもこの空間の裂け目から夢幻宮に行けるのね?」

 

落ち込むツナを慰めるようにミラが話を変えると全員の顔が引き締まった。この先に囚われた街の人々の魂と夢魔リリスがいるのは確実だ。

 

「みんな、行こう!」

 

「そうね!」

 

「何としても囚われた人々の魂を解放する!」

 

「ついでに10年クエストもクリアだ!」

 

「久々に燃えてきたぜ!」

 

恐れる者はなく、5人は空間の裂け目へと飛び込んでいった……

 

 

 

 

 

空間の裂け目へと飛び込んだ5人の目の前には巨大な門が待ち構えるようにそびえ立っていた。ただし門の扉そのものは開いている。

 

「門は開いてるな……来るなら来いってか?」

 

「おもしろい。その余裕がいつまで続くか教えてやらねばな……」

 

ラクサスとエルザが好戦的な笑みを浮かべる中でツナは門の上部に文字が彫られているのを見つけた。

 

「なになに……この門を通る者、一切の希望を捨てよ……って地獄の門でも気取ってるのかな?」

 

「冥府の門……つまりタルタロスが関係してるかもしれねえな」

 

「あのバラム同盟の最後の闇ギルドが?」

 

ツナとギルダーツ、ミラが文字について話していると真上に不吉な気配を感じたツナが叫ぶ。

 

「……!みんな!散って!!」

 

「「「「!!」」」」

 

「「「グルルルル……ガアッ!!」」」

 

上から飛び降りて来たのは門と比べても遜色ないほどの大きさを誇る犬のような怪物……しかも頭が3つ存在する。門番としてはポピュラーな怪物だった。

 

「門番は三ツ首の魔犬、ケルベロスかよ!」

 

「でけえな……」

 

「「「グルァァァッ!!」」」

 

ケルベロスはその3つの口から同時に炎を放つがそこはS級魔導士……全員簡単に躱している。

 

ミラはサタンソウルで変身して、エルザは黒羽の鎧を纏って戦闘体勢を整える。

 

先手を取ったのはラクサスだった。ラクサスは右手に雷を集めてそれを槍にと変化させるとそれを気合いと共に投擲する。

 

「雷竜方天戟!!」

 

魔犬の左側の眉間に狙い違わず突き刺さり絶叫が響く中で今度はエルザが魔犬の右側の首を狙って飛び込んだ。

 

「黒羽・月閃!!」

 

目にも止まらぬその一閃は魔犬の太い右の首を容易く斬り飛ばした。さらに残った中央の顔には上空に飛んでいたミラが魔力を集束した光線を真上から放った。

 

「ソウルイクスティンクター!!」

 

真上からの莫大な魔力光線を受けたケルベロスは反撃する間もなく中央の頭を潰され最早虫の息といった所だがさらには……

 

「クラッシュ!!」

 

光線の余波が収まった瞬間にケルベロスの心臓部にギルダーツが拳を打ち込んだ。ギルダーツの魔法によりケルベロスの体の骨はバラバラに砕かれて立ち上がることもできない……

 

ツナは自分も攻撃しようと構えていたが止めた。明らかにオーバーキルのダメージだったからだ。

 

すると、魔犬の体が光りだしてそのまま弾けたように粒子となってやがて消えてしまった……

 

 

 

 

 

 

その戦いの様子を映像で見ている夜より暗い黒髪を持つ妖艶な美女……露出の高い服に身を包みその蠱惑的な肉体を惜しげもなく晒しているのはこの夢幻宮の主であるリリスだ。

 

「ふふっ……この夢幻宮にお客様なんて百数年振りかしら?その中でもこの青年は……」

 

水晶を通してツナを見つめるその視線は熱を帯びている……

 

「私を封印したあの者そっくりね……血縁かしら?あの時は彼の魂を手に入れる事が出来なかったけど……」

 

百年以上前に自分を封印したジョット……この夢幻宮に封印されてなお彼の魂を手に入れる事を夢に見続けていた。

 

「ああっ!彼と同じ闇を知りつつも光り輝く魂……今度こそ絶対に手に入れてみせるわ!そして永遠に私の傍に置いて愛でてあげる!想像しただけで……」

 

体をビクビクと震わせながら恍惚の表情を浮かべるリリス……

 

「まずは彼の心を徹底的に虐めちゃおうかしら?そして魂を絶望という私色に染めてあげるの……ふふっ……お姉さんがじっくり可愛がってあげるからね」

 

見る者を魅了する笑みを見せながらリリスは胸を高鳴らせるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

ケルベロスが消えて呆然としていたツナ達だったがここで立ち止まっててもしかたないと思い先に進もうとすると突然ツナが明後日の方向を見て立ち止まる。

 

「どうしたの?ツナ」

 

「……見られてるね」

 

「まあここは奴の腹の中だからな」

 

「こちらの行動は筒抜けということか……」

 

「どっちにしてもやることは変わんねえよ。リリスって奴ををぶっ飛ばすだけだ」

 

「ラクサスの言う通りだね。それじゃあ行こう!絶対に街の人達を助けよう!!」

 

そうして一行は門を通りリリスの待つ夢幻宮へと歩を進めるのだった……

 

 

 

 

 




次回は……明日同じ時間に!


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囚われた大空

10年クエスト三話目……いよいよ佳境に入っていきます。


 

 

-夢幻宮

 

アルビオンの人々を救うために夢魔リリスの居城である夢幻宮を進むフェアリーテイル最強チームの5人。

 

夢幻宮は夜空の海を歩いているように幻想的でエルザとミラは感嘆の声を漏らすほどだった。

 

「綺麗な所ね……」

 

「ああ……こんな状況でなければ充分に堪能できたのだがな……」

 

先程の門番のケルベロス程ではない強さの魔獣が四方八方より襲いかかって来る為進みは順調とは言えなかった。

 

「雑魚ばっかりでうぜえな!」

 

ラクサスは体から広範囲に雷を撒き散らして数体の敵をまとめて黒焦げにする……

 

「とにかく先に進もう」

 

ツナの言葉にみんな頷いて先へと進む。しばらく道なりに進んで行くと、道の先に魔方陣が見えてきた。全員気を引き締めて魔方陣へと向かう。

 

「明らかに罠ね」

 

「だろうな」

 

「だが行くしかないな」

 

「じゃあ俺から……」

 

おそらく罠が仕掛けてあるだろうがそれを恐れる者はここにはいない……が、さすがに想定外の事が起きる。

 

先頭のツナが魔方陣へと足を踏み入れた瞬間、2番目のミラの目の前でツナと魔方陣は消えてしまった。まるでツナだけを招き入れたように……

 

「ツナァァッ!!」

 

「敵の狙いはツナか!?」

 

「命知らずな悪魔だな……」

 

「おっと、お客さんだぜ!」

 

ギルダーツが警告すると4人の周りに数えきれない程の魔獣が姿を現した。ミラを除く3人は素早く体勢を整えるがミラは未だに呆然とツナの消えた場所を見ていた。

 

「ミラ!何をしている!早く……」

 

エルザがミラに声をかけるがその表情が固まる……

 

「フ……フフ……ツナが狙いなの?……フフフフフ……」

 

「お……おいミラ?」

 

「あ、これはやべぇパターンだな……」

 

ラクサスが冷や汗混じりに呟くとミラはサタンソウルで変身する。それも最強のサタンソウル、ミラジェーン・シェトリに変身していた。

 

「ツナを返しなさい!!」

 

怒号と共に振り抜いた右腕から発した衝撃波によって前方の魔獣の集団が消し飛んだ……

 

 

 

 

 

外でミラジェーンが暴れまわっている頃、ツナは通路を進んでいた。罠があるのは分かっていたがまさかいきなりみんなと引き離されるとは思っていなかった。

 

「俺だけを狙ったのか?ジョットの子孫だからかな?封印されて恨んでいるってことかな……」

 

だが好都合だ。相手がこちらに来るのなら倒して街の人達を救える……ツナは用心しながらも通路の奥へと進んで行った。

 

しばらく進んでいると随分と広い部屋へと辿り着いた。向こう側には豪華な扉があり、いよいよ敵が近づいているのを感じた。

 

扉が開く音が部屋に響きその奥から足音が聞こえる。ツナは歩みを止めて敵を待ち構える……

 

-複数だな……部下の魔獣か?-

 

そして扉の奥から現れた者を見てツナは驚愕する。

 

「な!何で……」

 

「10代目……御命頂戴致します」

 

「よっ!ワリーけどツナ……死んでくんね?」

 

「隼人……武……?」

 

さらに後ろから退路を断つように現れる者達……

 

「極限に死なんかぁ!沢田ぁっ!!」

 

「ツナ!死ね!だもんね!」

 

「了平さん?ランボまで……?」

 

ツナの右側に藍色の霧が集り2つの人影を作り出す。左側には天井から誰かが降ってきた……

 

「クフフ……君の体をいただきましょうか」

 

「ボス……お願い……死んで」

 

「今から君を咬み殺す」

 

「骸……クローム……雲雀さんまで……ふふっ……どうやら俺を怒らせるのが上手いようだね……リリスゥッ!!」

 

ツナには彼らが偽物ということは超直感に頼るまでもなく分かっていたが、かつての信頼する仲間達を利用することは許せなかった。襲いかかってくる守護者達を迎え撃つべくツナは炎を灯した……

 

 

 

 

 

 

 

リリスは豪華な椅子に座ってツナが怒るのを心地良さそうに微笑んで見ていた。

 

「フフ……いいわ……あの顔……ゾクゾクしちゃうわ……偽物と分かっていても大切な者達を傷つけることは彼にとって相当の苦痛を伴うはず……」

 

もちろん彼らは偽物……この夢幻宮はリリスの呪法によって作られたもので、この中ではリリスは他人の記憶を覗き、呪法によって記憶の人物を具現化することができる……そして彼らはツナの記憶を元に作り出されているのでかなり強い……

 

「それにしても……やっぱり人間って凄いわ……彼らがあの子と共にあれば冥府の門(タルタロス)だって簡単に滅ぼせるでしょうね……」

 

かつて人間に対する認識の違いから抜けたギルドを思い出しながら戦いを眺めているリリス……

 

「さて……もう一押し必要かしらね……この子がいいわね……ふふっ妬けちゃうわ……」

 

再びツナの記憶の中からある人物を造り出そうと呪力を集中する……

 

 

 

 

 

 

「ワオ!さすがだね」

 

雲雀のトンファーによる連撃を紙一重で躱しつつ後ろに下がっていたツナだったがその背後に2人の気配を感じて雲雀を蹴り飛ばす。振り返るとそこには2色の死ぬ気の炎が燃え上がっていた……

 

「時雨蒼燕流特式十の型燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)!!」

 

極限太陽(マキシマム・キャノン)!!」

 

「くっ!炎の性質まで同じなのか!」

 

直前に炎を噴出して空へ逃げるツナ……そこへ無数のダイナマイトが飛んでくる。ご丁寧に嵐の炎で着火したのか導火線の炎は赤く燃えていた。

 

炎をバリアのように広げて爆風を防いだツナだったが着地すると同時に頭を下げる。頭があった場所には三叉の槍が2本交差していた。

 

「クフフ……惜しいですね」

 

「さすがボス……」

 

誰もいない場所から現れる男女……骸とクロームが幻覚で隠れていたようだがツナの超直感はそれすらも見透していた。

 

「死ね!死ね!!」

 

ランボが髪の毛から手榴弾を取り出して次々に投げてくる……5歳の頃と違って適当に投げるのではなくツナのみを狙っている。10歳のランボなら恐れるに足らないが今の状態から10年バズーカを使われたら厄介だ。

 

セオリーならランボから倒すべきだと思うが一緒に暮らしていた弟のような存在に攻撃するのは躊躇われるし、ランボの打たれ強さに定評がある。

 

そこに雲雀がトンファーに雲の炎を纏わせて再び攻撃してくる。どうでもいいが雲雀が群れてる時点で偽物確定だ……

 

「いつまでも構ってる暇はないな」

 

冷静に呟くと殺傷力を低くする代わりに調和の質を高くした炎を両手に灯す。

 

そして次の瞬間に目にも止まらぬ速さで守護者達の間をすり抜けていた。その際に炎を灯した掌で守護者達に触れている。それだけで守護者達の動きは止まりやがて粒子となって消えていった……

 

ツナが守護者達より確実に上といえるのは最大攻撃力とスピードだ。今回は大空の7属性随一のスピードを利用して勝負をかけた。彼らには本物にはない致命的な弱点が存在したのをツナは感じ取っていた。

 

彼らはリリスによって魔力に似た呪力によって造られた偽物だ。つまり自然の理を乱す存在なので大空の属性、調和によって無力化することができる。

 

だが偽物とはいえ本来もう会えないはずの守護者達を自分の力で消すことはツナの心に深い傷を残した。そしてその傷が一瞬の隙を生むことになる……

 

「偽物とはいえみんなが消える姿はキツいな……」

 

「さすがはツナ君だね」

 

「!!」

 

自分の背後、至近距離からかけられた声に驚いて攻撃しようと振り返るツナだったがその顔を見た瞬間に目を見開き、動きを止めてハイパーモードすら解除してしまう……

 

「き……京子ちゃん……」

 

そこにはかつて愛した少女……笹川京子が最後に見た高校生の頃の姿であの頃と変わらない太陽のような微笑みを浮かべて立っていた。

 

「ツナ君」

 

「!しまっ……」

 

呆然とするツナの名前を呼んで普通の女子高生とは思えない速さでツナの懐に飛び込んだ京子は動こうとしたツナの唇を奪う……慌てて引き離そうとするツナだが甘い香りに意識が遠のいていき、やがてツナの意識は黒く塗りつぶされていった……

 

「フフ……ツナ君安心して。ツナ君がこれから見るのは楽園の夢なんだから……だがらその綺麗な魂は私に頂戴ね……」

 

京子の姿がぶれるとそこに現れたのはリリスだった。

 

「あなたは永遠に私のものよ……」

 

リリスは意識を失ったツナを愛しそうに抱き寄せた……

 

 

 

 

 

 

「イビルエクスプロージョン!!」

 

ミラの掌から放たれた魔力が大爆発を起こして最後に残った十数体をまとめて吹き飛ばした。4人によって魔獣は全滅したが中でもミラの暴れっぷりはギルダーツさえも顔をひきつらせていた。

 

「おっかねえ……」

 

「やっぱ怒らせるとやべえな……」

 

「まるで昔のミラだな」

 

「ツナはどこなの!?」

 

焦るミラの前に再び魔方陣が現れる。ミラは脇目もふらずに魔方陣へと突入して行く……

 

「待て!ミラ!!」

 

「ちっ!先走りやがって!」

 

「俺達も行くぞ!!」

 

残った3人もすぐにミラの後を追って魔方陣に突入するとそのまま内部を駆け抜ける。外のように敵も現れず通路の最奥の広い部屋へと辿り着いた4人はそこに広がる信じられない光景に立ち止まる。

 

「ツ……ナ……?」

 

4人が見たのは棘によって十字架に磔にされ、意識を失っているツナの姿だった。あのツナが敵に敗れ囚われている事に4人共大きな衝撃を受けていた。

 

「フフフ……私の夢幻宮にようこそ……歓迎するわ」

 

そこに姿を現したリリスに4人は警戒する。現れた妖艶な美女は磔にされたツナへ寄り添うようにして4人を迎える。

 

「ツナに何をしたの!?」

 

「フフ……この子は今夢を見ているの。幸せな夢を……二度と覚める事のない楽園の夢をね……本来なら魂を抜いてから傍に置くんだけど……」

 

リリスは熱を帯びた目でツナを見ると頬を優しく撫でる……

 

「この子の事気に入っちゃった。魂だけじゃ足りないわ……体も心も魂も……この子の全ては私がもらうわ」

 

ピシッと空気にヒビが入る音が聞こえたような気がした。

 

「あいつは悪魔にまでもてるのかよ?」

 

「悪魔とはいえあれだけの美女だからな……羨ましいと思うぞ」

 

「そんなことを言ってる場合か!早くツナを助けなければまたミラが暴走するぞ!」

 

固まるミラの後ろでラクサス達3人はこそこそ話をしていた。硬直から解かれたミラは笑顔でリリスに話しかける。

 

「へえ……随分と調子にのってるわね。私のツナにこんなことして……」

 

「あら?彼の記憶によるとあなたはただの仲間じゃなかったかしら?」

 

「…………」

 

「…………」

 

睨み合う二人だがいつまでもそうしていてもしかたないのでギルダーツが詰問する。

 

「おい!アンタが悪魔で、強いのは分かってるがツナが倒される程とは思えねえ!ツナに何をしやがった!?」

 

リリスはミラから視線を外してクスリと笑うとギルダーツに向き直る。

 

「鋭いわね。確かにこの子とまともに戦ったら私が負けるかもしれないけど、どんな人間でも心は弱い……この子は優しいが故に傷つきやすい心を持ってるしね」

 

「なるほどな……どんな手段か知らねえがツナの心を利用したのか」

 

「許さない……ツナを傷つけて……」

 

「ツナは返してもらう」

 

「俺達4人に勝てると思ってるのか?」

 

戦闘体勢を整える4人に対してリリスは余裕の笑みを崩さない……

 

「怖いわね……ならばこちらも助っ人を呼ばせてもらうわね」

 

リリスが指を鳴らすと光の玉が現れそれがどんどん大きくなってずんぐりとした体型の人の形に変化していく……

 

明らかに人間より巨大なシルエット。そして機械の体……それはツナ達の世界でストゥラオ・モスカと呼ばれる兵器だった。

 

「行きなさい」

 

リリスの命令に従ってモスカはジェット噴射でこちらへ飛翔して来る。

 

しかしそのようなものに気圧される者はここにはいない。ギルダーツが一歩前へ出て拳を振るう。

 

「クラッシュ!!」

 

拳を叩き込まれたモスカはギルダーツの魔法の効果でバラバラになってしまう。それを見ても顔色一つ変えないリリス……

 

「こんなガラクタじゃあ俺らは殺れねえぞ?」

 

「ふふっ……なかなかやるじゃない。じゃあ次はどうかしら?」

 

再び光の玉を呼び出すリリスだが今度はこちらの人数に合わせたのか4つの光が出現した。

 

「さあ!彼らはこの子が知る中でもかなりの強さを誇るわ!彼らに勝てるかしら!?(もっと強い者達もいたのに何故か呼べないのよね……)」

 

そして4人の姿が明らかになる……

 

「君達がツナ君の敵なの?」

 

赤い髪を持ったどこか幼さの残る顔立ちの気弱そうな青年……

 

「カッ消す!!」

 

顔に傷を持った見た目的にはマフィアというのが一番しっくりくる2丁拳銃を持つ青年……

 

「ワオ!咬み殺しがいがありそうだね」

 

トンファーを構えて獰猛な肉食動物のような笑みを浮かべるスーツ姿の青年……

 

「ん~君達ってば邪魔なんだよね~消えて♪」

 

飄々としながらも鋭い瞳でこちらを見ている危険そうな白い髪の青年……

 

「ツナの記憶から呼び出しているのか!?」

 

「ってことはマフィア達か?」

 

「でもあの子とかマフィアに見えないんだけど」

 

「油断するなよ!来るぞ!散れ!!」

 

ギルダーツの警告に4人は距離をとった。それを見たマフィア勢の4人もそれぞれに別れる……

 

フェアリーテイル最強チームVSマフィア達の戦いが始まった……

 

 

 

 

 




炎の強さ的には炎真>白蘭>ザンザス≧雲雀
戦闘技術的にはザンザス=雲雀>白蘭>>>炎真かな?


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笹川京子

四話目、夢の中でツナは過去と向き合う……


-夢幻宮

 

リリスがツナの記憶より呼び出した4人の戦士……古里炎真、ザンザス、雲雀恭弥、白蘭はツナの世界のマフィアの中でも上位に位置する者達だ。

 

ツナの記憶を覗いたリリスはこの4人の強さに絶対の自信を持っていた。本来なら誰かの下で戦うのを良しとしない者もいるが彼女の呪法によって生み出された彼らはリリスの命令に従ってフェアリーテイルに襲いかかる。

 

「さあ!行きなさい!」

 

リリスは高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

「お前本当にマフィアか?ツナより似合わねえぞ」

 

「あなたには関係ない……けどツナ君の敵なら僕が倒す!」

 

「敵じゃねえんだけどな……と言っても無駄だよな……」

ギルダーツと対峙しているのは古里炎真……炎真はツナのように額に炎を灯す。ツナの炎とは大分形が違うが凄い力を秘めているのが感じられる。

 

それもそのはず戦闘技術はさておきこの中で炎の出力が最も強いのは古里炎真に他ならない……かつて白蘭を倒したオリジナルのボンゴレリングを持ったツナですらも1度は敗れたのだ……

 

大地の重力(グラヴィタ・デッラ・テラ)!!」

 

「ぬおおおっ!?」

 

球状に放たれた炎がギルダーツの足下へ着弾するが熱は感じない……しかし突如自分の体重が何十倍にもなったように球体に引き寄せられ地面に押し潰されてしまう。

 

「な……なんつー力だ!天狼島で戦った奴よりも遥かに強い……!」

 

かつて戦ったブルーノートを思い出すが彼よりもずっと年下の青年がこれほどの力を持ってるとは思わなかった……

 

-ツナはこんな奴らと戦ってたのかよ!?どうりであの歳であんなに強えわけだ……けどよ-

 

ギルダーツは腕に魔力を込めるとクラッシュで炎真が作り出した球状の炎を破壊する。それでも炎の力は強くて完全には破壊できなかった。

 

多少軽くなった重力に抗いながらギルダーツは立ち上がって笑う。

 

「そう簡単に沈む訳にはいかねえんだよ、大人としてな!!」

 

「こっちも本気でいくよ」

 

 

 

 

 

 

ザンザスはラクサスと睨みあっていた。初対面の二人だがお互い何故か気に入らないようだ。

 

「ちっ!ドカスが……」

 

「ああん?随分とガラの悪い奴だな?」

 

「てめえ……カッ消すぞ」

 

「やってみろよ……」

 

ザンザスは銃を抜き、ラクサスは全身に雷を纏う。先に動いたのはザンザスだった。

 

「消えろ!ドカス!怒りの暴発(スコッピオ・ディーラ)!!」

 

「雷竜の……咆哮!!」

 

ザンザスの2丁拳銃からレーザーのように炎が発射されラクサスを襲うがラクサスが口から吐いた咆哮によって相殺される。

 

「チッ!ドカスにしてはやるじゃねえか」

 

「ふん……ツナよりも全然弱いじゃねえか」

 

ザンザスの頭からブチッと何かが切れるような音が聞こえたような気がした。それと同時にザンザスの顔に傷が現れる……

 

「顔に傷痕が……?」

 

「カッ消す!!」

 

ザンザスは禁句に触れられ、独立暗殺部隊ヴァリアーの本性を剥き出しにしてラクサスに襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

「君……おもしろいね」

 

エルザが鎧と剣を換装する度に戦い方が変化するのでバトルマニアの雲雀は戦闘中にも関わらず賞賛の声を漏らす。

 

だがエルザにはそれに応える余裕もない。トンファーから繰り出される連撃はそれに伴う紫色の炎と相まってエルザを追い詰める。

 

「くっ!くらえ!天輪・五芒星の剣(ペンタグラム・ソード)!!」

 

「ロール、防御だよ」

 

その瞬間をエルザは見た。雲雀のブレスレットから飛び出した紫の炎を纏ったハリネズミが一瞬で5匹に増えて五閃の剣撃をガードしていた。

 

「この紫色の炎は……確か雲の炎で炎の特徴は増殖だったか?」

 

「彼から聞いたのかい?まあいいや……精一杯僕を楽しませてね」

 

さらに勢いを増していく雲雀の炎に威圧されながらもエルザは剣を構える……

 

 

 

 

 

ミラは白蘭の人をくったような態度に苛ついていた。あまりマフィアっぽくは見えないしニコニコ笑っているがこちらを通すつもりはないらしい。

 

「そこをどいてちょうだい。私はツナを助けなきゃいけないの」

 

「う~ん……そうだね……やっぱりダメ♪綱吉君は君には渡さないよ」

 

「ならあなたを倒してツナを助けるわ」

 

「怖いなあ~でも無駄なことは止めたら?君じゃあ僕には勝てないよ♪」

 

「やってみなくちゃ分からないわ!ソウルイクスティンクター!!」

 

不意討ち気味の攻撃に動きを見せない白蘭に向けて魔力光線を放ったミラは勝利を確信していた。白蘭は掌に炎を集中するとニッコリと嗤う……

 

「白拍手」

 

だがミラの放った光線は白蘭の拍手一つで霧散して消えてしまった……そして白蘭の炎を見て驚愕する。

 

「大空属性の炎!?」

 

「そ♪綱吉君と同じ大空の調和の炎だよ……さてミラちゃんだっけ?今度はマジだよ?」

 

白蘭は背中から羽を生やすと空へ浮かび上がってミラを見下ろしながらそう告げる……ミラは恐怖を感じながらも白蘭に向き合うのだった……

 

 

 

 

リリスは戦況を見守りながら意識のないツナへと視線を向ける……

 

「この子もジョットと同じ異世界から来たなんて思わなかったけど……仲間と離れて淋しい思いをしてるのね。だからこそ私の夢からは抜け出せないわ」

 

リリスは口の端を持ち上げて妖艶に微笑む……

 

「失った幸せというものは麻薬よりも強力よ……あなたはこのまま永遠に楽園の夢を見続けなさい」

 

リリスの言うようにツナの精神は夢の中でかつての世界にいた……

 

 

 

 

 

 

 

ツナは執務室の椅子に座りながら勢揃いしている守護者達の報告を受けている。ボンゴレを継いで既に3年……自分の無茶な目標に付き合ってくれる何よりも大切な仲間達だ……

 

「……以上のようにカルカッサとの講和が完了しました。雲のアルコバレーノ、スカルの説得も大きかったですが何よりも十代目の誠意が伝わったのだと思います」

 

嵐の守護者……獄寺隼人がそう締め括る。

 

「ありがとう隼人……武、ヴァリアーからの報告は?」

 

「ああ、スクアーロから連絡があって麻薬取引、人体実験をしていた新興のファミリーはボスを始め幹部連中も全て捕らえたみたいだぜ。まとめて復讐者(ヴィンディチェ)送りだ」

 

雨の守護者……山本武はツナの質問に答える。

 

「そうか……バミューダにも一言言っておくべきかな?骸、クロームも潜入お疲れ様」

 

「やれやれ……僕に始末をさせて欲しかったのですがね……」

 

「骸様……ボスの考えを尊重してるのに……」

 

「黙りなさい」

 

霧の守護者の二人……六道骸とクローム髑髏の二人は証拠集めの為にそのファミリーへ潜入していた。

 

ボンゴレを自警団に戻すという目標の為にはあまり力で押さえつけるようなやり方では反発を生むだけだ。マフィア界の法をきっちりと整備して証拠を突き付け復讐者に送った方が後腐れない。

 

「おかげで最近は退屈してるんだけど?こっちのファミリーはどうするの?証拠を上手く隠してるけど完全に黒だよ」

 

席につかず壁に寄りかかっていた雲の守護者……雲雀恭弥がそう問いかける。

 

「確かに俺は9代目以上の穏健派なんて言われてるけどここまでされて黙ってる訳じゃないよ」

 

「……あの小動物が今や穏やかな笑みの裏に獰猛な肉食動物を飼ってるなんてね」

 

ツナの微笑みの裏に隠されている闘志を垣間見た雲雀は嬉しそうに笑っている。

 

そこに割り込むのはこの会議の場に似つかわしくない子供の声。雷の守護者……ランボが少々怒ったような声でツナに物申す。

 

「ツナ!次の戦闘がある時は俺に任せろ~!」

 

ツナはランボを戦闘には出したがらない……ランボは現在8歳。確かに炎の質、量共に年々増しているがまだ戦闘技術は甘い所が多い……ランボの副官であるイーピンの方が技術的には上だ。

 

「イーピンも同じ意見なんだぞ!俺達だって強くなっているんだぞ!」

 

「まだ二人には早いよ……」

 

「アホ牛!十代目のお気持ちも考えろ!!」

 

「だって……」

 

ランボは涙を溜めながら尚もツナに懇願する。

 

「俺達にだって分かるよ……ツナが大変な思いをしてるのは……でも……俺が大人になってからじゃもう遅いって……」

 

「ランボ……」

 

「うちのボスだってツナの力になってやりなさいって言ってる……俺はツナの守護者だぞ!今力にならないでどうするんだよ!?」

 

「うむ!それでこそ男だ!沢田!俺が極限にランボとイーピンの面倒を見る。それならいいだろう?」

 

晴れの守護者……笹川了平がランボを援護するように口を開く。

 

「了平さん……分かったよランボ。でも絶対に無理はしないこと、怪我をしたらすぐに了平さんに治してもらうんだよ」

 

「分かった。俺に任せろ~!ランボさんは最強だもんね!!」

 

さっきまで泣いていたのにランボはおどけたようにかつての口癖を口にするランボの頭を撫でるツナ……その時自分の知らない光景が頭に浮かんだ。こうやって誰かの頭を撫でた記憶……顔を赤くして俯く青髪の女の子。名前は……

 

「痛ぅっ!!」

 

そこまで考えたツナは突然の頭痛に顔をしかめる。

 

「大丈夫ですか!?十代目!!」

 

「ツナ!?」

 

「平気……ちょっと頭痛がしただけだから」

 

「今日はもう休め沢田!ちょうど日本から京子も来ているしな!!」

 

「えっ!?何で!?」

 

「あまり婚約者を放っておくものではありませんよ」

 

骸が溜め息をつきながら嗜めるように口を出したがその内容にツナは混乱する……

 

「婚約者……?」

 

「うむ!極限に京子を任せられるのは沢田だけだからな!!」

 

-俺と京子ちゃんが婚約?そんなバカな……だって俺達はもう終わったはず……-

 

「うっ!また……」

 

再び頭痛がするとさっきまでの疑問は跡形もなくなっていた……確かに忙しいけど婚約者を放っておきすぎるのも問題だと思い直した。

 

 

 

 

 

 

「ツナ君!!」

 

京子が待つ部屋へと急いだツナは久し振りに会う彼女の姿に見蕩れていた。中学時代よりも伸びた茶色の髪……だがそれよりも明るい金色の髪の少女の姿が重なる……

 

-また頭に痛みが……それに何か頭の中にノイズが走ってるみたいに……-

 

「どうしたのツナ君?」

 

顔を歪めたツナの顔を京子は下から覗きこんで来る。慌てて何でもないと首を振って豪華なソファーに並んで座る。

 

「本当に久し振りだね!」

 

「ゴメンね……俺が忙しいせいで……」

 

「ううん。ツナ君がしてるのは大事な事って分かってるよ!ちょっと淋しいけどこうして一緒にいられるし……」

 

京子はそこまで言うと顔を俯かせツナの腕にしがみつくように抱きついてくる。

 

-京子ちゃんがこんなにも甘えてくるのは珍しいな?アレ、じゃあ腕を良く絡めてくるのは……?-

 

最近すぐに腕を組んでくる女性が身近にいたはずと思うが頭の痛みに再び思考を停止する。

 

「あ、このお守りまだ持ってたの?」

 

その時、京子がツナの首にかかっていたお守りを手に取る。手に取ったお守りをツナから奪い取るように取り外した。

 

「もうコレいらないよね?私がずっと側にいるから」

 

「えっ!?いや、それは持っておきたいよ!」

 

「これはダメだよ!私が預かっておくから!」

 

「京子ちゃん……?」

 

そのままお守りを床へと投げ捨てる。あまりにも不審な京子の態度に首を傾げるツナの頭の中に声が響く……

 

『ツナを返して!!』

 

「くっ!誰の声……?また頭がっ……どうなってるんだ!?」

 

「気にしちゃダメだよツナ君。それよりも……」

 

京子は着ていた服を全て脱ぎ去った。美しい裸体を隠そうともせずにツナをソファーへと押し倒す。何度か体を重ねた関係だがこうも積極的な彼女は初めて見る……

 

「ねえツナ君……私はツナ君に何でもしてあげるし何をされてもいいよ……だからここにずっと一緒にいよう?」

 

京子の甘い声と香りに意識がクラクラするツナ……京子の唇がツナの唇に触れようとした時、床に捨てられたお守りから黄色い晴れの炎が噴き出した。

 

「何これ!?」

 

驚く京子を余所にツナはお守りへと手を伸ばす……京子は慌ててツナを止めようとするが遅く、ツナはお守りを手に取った。

 

「ツナ君!それを放して!!」

 

「これは……この暖かさは……」

 

ツナはその暖かさに覚えがあった……それはかつて自ら手放したはずの太陽の様なぬくもり……そう、それは笹川京子の暖かさそのものだった。

 

 

 

 

 

 

その暖かさがツナの記憶を呼び覚ます……虹の代理戦争からしばらくしてツナは京子と正式に付き合い始めた……ハルにも自分の気持ちを伝えると泣きながらも二人を祝福してくれた。

 

マフィアのボスとしての道を歩き始めたツナだったが時間を見つけては京子と二人の時間を過ごしてお互いの愛を深めていった……

 

付き合い始めて3年後……京子が夏休みを利用してイタリアに来た時に事件は起きた……さすがに一人でイタリアを出歩かせる訳にはいかないのでツナや守護者がいない時はボンゴレ本部に護衛をつけて出歩かないように言いつけていた。

 

ツナやリボーン、守護者達が全員出席のパーティに出席している時に嫌な予感を感じたツナはリボーンのみを連れて本部に戻った。

 

そこで聞いたのは京子が人質に取られたということ。犯人は護衛に付いていた一人……その男はボンゴレが規模を縮小して自警団になるのを望まない者だった。本部の一室に立て籠り9代目の説得にも耳を貸さない……

 

犯人が立て籠っている部屋に飛び込んだツナが見たのは取り押さえられる男と背中にナイフで深い傷を刻まれた血の海に沈む京子の姿……

 

男が何か喚いていたがその雑音を無視して殴り飛ばすとツナは京子を抱えて医務室へと全力で運んだ。幸いにも医務室にいたシャマルの高い医療技術と帰ってきた了平の治療で傷は跡形も残らなかったがツナの心に大きな傷を残す事になった……

 

そしてその事件はツナに2つの大きな現実を突きつける結果になった。

 

1つは自分のやろうとしている事は特に身内に少なくない敵を作るということ。そしてもう1つは……

 

「リボーン……マフィアのボスの恋人は一般人とカウントされないんだな……」

 

「ツナ……」

 

ベッドで眠る京子を見守りながら隣にいるリボーンに呟く。この件に復讐者達は介入しなかった……それは京子を一般人認定していないのと同義だった。だからこそ犯人の男も行動に移したのだろう。

 

京子を守るはずの最大の防波堤が機能しない事でツナは1つの決心をする。

 

「ツナ……おめえが今何を考えているかは分かるつもりだ……けどな、本当にそれでいいのか?」

 

「……無理があったんだ。俺が行くのは血塗られた道だ。だから……京子ちゃんとはお別れだ……」

 

ツナは京子からもらったお守りを取り外すとそれを見つめる……幾多の戦いの中で自分に勇気を与えてくれたことに感謝しながら京子の枕元にそれをそっと置いた。

 

「リボーン……京子ちゃんの目が覚めたら並盛まで護衛してくれ」

 

「分かったぞ……」

 

ツナは京子の顔を見つめる……

 

「……さよなら」

 

名残惜しそうにしばらく見つめていたがやがて別れの言葉を残して踵を返して病室から出て行った。扉が閉まる時、京子が一筋の涙を流したことに気づかないまま……

 

「はあ……いつまでたってもダメツナだな」

 

「違うよ。ツナ君は優しすぎるだけだよ」

 

京子は目を開くと体を起こしてリボーンに笑いかける。だがその笑顔は悲しげだ……枕元に置かれたお守りをじっと見つめるとリボーンに懇願する。

 

「リボーン君……お願いがあるの」

 

 

 

 

 

その後京子はリボーンに連れられて並盛へと帰った。守護者達に伝えた時には了平に一発殴られ、その後に泣きながら謝罪とお礼を言われた……

 

並盛から帰ってきたリボーンから再び預かってきたとお守りを返された。受け取るつもりはなかったが受け取らなきゃ捨てるように言われた為に再び首にかけている。

 

そして今に至るまで京子とは会っていない……

 

 

 

 

 

光輝く晴れの炎を見つめながら過去に想いを馳せていたツナがふと気づくとボンゴレ本部の一室だったはずなのに何もない真っ白な空間に変わっていた。京子の姿もない……

 

するとお守りが浮き上がり光を放ちながら人の形を為していく……それは京子の姿になった。

 

「リボーン君に無理を言ってね、私の炎をお守りに封印していたの……私もお兄ちゃんと同じ晴れの属性だったから……ツナ君が怪我した時に助けになれるようにね」

 

「京子ちゃん……」

 

「ここはね、ツナ君の夢の中なんだよ。だから炎に込めた私の想いが具現化したみたい」

 

「夢の中……そうか、俺はリリスに……」

 

「外ではツナ君のお友達がツナ君を取り返そうと必死に戦ってるみたい。さっきも声が聞こえたでしょう?」

 

どうやらさっき自分を返してと聞こえたのは外で戦ってるミラの声だったらしい……

 

「じゃあ早く行かないと……ゴメンね京子ちゃん」

 

「何を謝るの?」

 

「君を巻き込んだ事……君に傷を負わせた事……一方的に別れた事……全て終わった後に会いに行かなかった事……数え出したらきりがないね……」

 

「それは直接言って欲しかったな……でもツナ君は今大切な人達がいるでしょう?」

 

そう言われてツナは仲間達の顔を思い浮かべる……自分に好意を持ってくれるミラ、ルーシィ、ウェンディ……そしてナツ達フェアリーテイルみんなの顔を……

 

「だから……自分を許してあげて。過去よりも今を大事にして。そんなツナ君を私はずっと……ず~っと応援してるから!」

 

「ありがとう……京子ちゃん……」

 

ツナの瞳から涙が溢れる……京子も泣きながらツナに抱きついてきた。その体が少しずつ薄くなっていく……

 

「今度こそお別れだね……ありがとうツナ君……私、ツナ君と一緒に居れて幸せだったよ!……さよなら」

 

「俺もだよ。本当に……本当にありがとう京子ちゃん……さよなら」

 

京子の姿が消えるとそこには力を失ったお守りが残された……そのお守りを大事に首にかけると京子の言葉を思い出す……

 

過去よりも現在、ボンゴレよりもフェアリーテイル、京子よりも今自分を想ってくれる人……それは過去への決別だった。

 

「本当にありがとう京子ちゃん……俺は……この世界の仲間と共に生きる!待っててみんな!!」

 

ツナが決意を新たにするとツナの額と掌から凄まじい勢いで炎が噴き出した。それは現在、そして未来を生きる覚悟の炎……そして周りの空間はひび割れたように崩壊していき、ツナの姿が消えていった……

 

 

 

 

 

 

 




次回は10年クエスト完結編です!


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共に歩む未来へと……

10年クエストこれにて終了です!


 

 

-夢幻宮

 

ツナが精神世界で過去の夢を見ている頃、外ではマフィア対フェアリーテイルの戦いはさらに激しさを増していたが優勢なのはマフィア達だった。

 

しかし彼らは我の強い者達が多く協力することを知らないらしい……一対一ではなく四対四で戦うことでどうにか戦線を維持していた。

 

「邪魔だ!ドカス!!」

 

「あっれ~?そっちが邪魔してるんじゃない?」

 

「うるさいな……君達から咬み殺すよ?というより群れてる時点で咬み殺すけどね」

 

「はあ……これなら一人の方がましだよ……」

 

赤い髪の気弱な青年以外は協力という概念すらなく、すぐに仲間割れをおこそうとする。それを見て赤い髪の青年も落ち込んでしまう。

 

「チャンス!天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!」

 

無数の剣群が四人のマフィアに迫るが重力で地面に縫い付けられたり炎で逸らされたりして防がれてしまう。しかし、その隙をついてラクサスが雷を纏って高速移動で白蘭に接近する。

 

「雷竜の……鉄拳!!」

 

「ん~白指」

 

「なっ!?」

 

白蘭はラクサスの渾身の一撃を人差し指に大空の炎を集中させる事によって受け止めた。ラクサスが驚愕して大きな隙が出来てしまう。

 

「死ね!決別の一撃(コルポ・ダッディオ)!!」

 

近くにいる白蘭の背後から彼もろとも消し去ろうと巨大な炎が放たれた。白蘭は空中に飛翔することで躱すがラクサスは巨大な火球に飲み込まれそうになる……

 

天一神・星彩(なかがみ・せいさい)!!」

 

エルザが飛び込んで切り札の天一神(なかがみ)の鎧を纏って火球を斬り裂く。さらにはミラの広域爆発がマフィア達に炸裂する。

 

「イビルエクスプロージョン!!」

 

爆発がおこり粉塵が部屋を満たす中でその効果を確認しないままミラはツナへ向かって空を駆ける。

 

「ツナを返して!!」

 

「ロール、形態変化(カンビオ・フォルマ)

 

粉塵の中で雲雀が呟いたと思ったらいきなり鎖がミラへ向かって伸びてミラの体を捕らえる。粉塵から現れた雲雀は改造された長ランに服装が変わっている。

 

「何?この鎖……切れない!?くっ……」

 

「君……何僕を無視してるの?」

 

トンファーの先端から伸びる鎖に捕らわれたミラはそのままツナから遠ざけられた場所に叩きつけられた。

 

「あっ……くううっ!」

 

「ミラ!!クラッシュ!!」

 

再び引っ張られようとした所でギルダーツが駆け寄って鎖を砕いてミラを解放する。

 

「ありがとうギルダーツ……きゃああっ!!」

 

「ぐううっ!!またかよ!!」

 

だが炎真が二人に対して重力を発生させる事によって二人は地面に押し付けられる。それを見た白蘭の瞳が怪しく光る……

 

「アレ?これってチャンスだね♪白竜」

 

ギルダーツが再び重力を砕く前に白蘭の腰のボックスから白いドラゴンが現れて二人に襲いかかるがラクサスが割って入って盾になる。

 

「「ラクサス!!」」

 

「ぐおおっ!ド……ドラゴンスレイヤーをなめんじゃねえ!!雷竜の……顎!!」

 

「そこだ!」

 

「くっ!」

 

ラクサスは白竜をその身を省みずに受け止めると両手を振り上げてそのまま白竜を地面に叩きつけた。その間にエルザが炎真に斬りかかって防御した炎真は重力を解く。

 

戦力は明らかに向こうの方が上だが彼らはまた仲間内で揉めていたので一息つく……

 

「大丈夫?ラクサス」

 

「はぁっ……同じドラゴンでもクロッカスのドラゴンに比べりゃ大した事ねーよ」

 

「だが彼らの強さは尋常ではないな……これがツナの世界のマフィア達……」

 

「ああ……ツナはこんな奴らと過ごしてたのか……そりゃあ強くなるわな」

 

4人共明らかに自分達よりも強いがそれでも共通して思っていることがあった……それでもツナの方がさらに強いということだ。

 

そして彼らは協力する事を知らない……たとえ格上の相手であろうと恐怖はない。

 

「仲間がいれば恐怖はない!私達の想いは一つ!」

 

「ツナはぜってーに助け出す!」

 

「俺達は一人で戦ってるんじゃないからな!」

 

「それが私達……フェアリーテイル!!」

 

4人は再び巨大な敵へと立ち向かっていく。先頭に出たギルダーツが気合いをいれて叫ぶ。

 

「そろそろ俺も本気でいくぜ!!」

 

ギルダーツが魔力を高めていくと夢幻宮が揺れ始める。圧倒的ともいえる魔力にフェアリーテイルの3人は頼もしさを覚えるが敵の4人が感じたのは恐怖ではなく歓喜だった。

 

「ほう……カスにしてはやるじゃねえか」

 

「あれちょ~だい。僕がやるよ♪」

 

「何言ってるの?アレは僕の獲物だよ」

 

「はあ……僕が相手をしていたのに……もういいや、僕がまとめて片付ける!」

 

ギルダーツに呼応するように炎真の炎もどんどん強くなっていく……

 

超重力BH(スーペル・グラヴィタ・ブラックホール)!!」

 

放たれた炎が黒い穴に変化する。同時にその穴は少しずつ大きくなりフェアリーテイルの4人を吸い込みだした。

 

「うおおおっ!?」

 

「これって……ブラックホール!?」

 

「まずい!吸い込まれるぞ!!」

 

「くっ!こうきたか!……ならこっちも出し惜しみは無しだ!!」

 

ギルダーツは踏ん張るのをやめて自らブラックホールに飛び込むように接近する。ミラ達が驚愕する中、ギルダーツは不敵に笑う……

 

「破邪顕正・一天!!」

 

突き上げられた拳が何とブラックホールを粉々に破壊した。これにはさすが炎真も目を見開いて驚いていた。

 

「さすがはおっさん……」

 

「無茶するわね~」

 

「見事の一言だな……」

 

「あんまりフェアリーテイルをなめんなよ!マフィア共!!」

 

 

 

 

 

 

リリスは目の前の戦闘を眺めながら溜息を漏らす……呼び出した4人は強力だが連携がなってないどころか仲間割れすら起こす始末だ。

 

よくもまあこのアクの強いメンバーをまとめていたものだとツナに感心する。

 

「はあ……アルコバレーノや復讐者を呼べればとっくに決着してるはずなのに何故呼べないのかしらね……まあ時間はあるのだし……」

 

意識のないツナは今頃いい夢を見ているだろう。そして二度と目を覚ますことはないだろう……そして永遠に自分の物になるのだ。

 

「失ってしまった仲間達への想い……何よりも笹川京子に対する罪悪感を未だに持ち続けているから万が一にも目覚めないわね。でも安心して、あなたにはずっと幸せな夢を見せてあげる……何なのこれは!?」

 

うっとりとツナを見つめていたリリスだったが突如ツナの胸元から眩い黄色の炎が燃えあがっているのを見て驚愕する。

 

 

 

 

 

戦闘していた者達もその炎を見て動きを止めてツナに注目していた。

 

「黄色い炎……晴れの炎なのか!?」

 

「ツナがやってんのか!?」

 

「違うわ!ツナが使えるのは大空だけのはず……あれってお守り?」

 

「どうやらあのお守りを送った奴がツナを守ってるように見えるな……もしかして女か?」

 

ギルダーツの言葉にミラが過剰に反応するがそれどころではない。光輝く炎は少しずつ小さくなってやがて消えた……リリスは安堵するが次の光景に今度こそ信じられないように目を見開いた。

 

ツナの額から大空の炎が勢いよく燃え盛り、それを見たフェアリーテイルのメンバーは安心したように笑みを漏らす。そしてツナは閉じられた瞳を開く……その瞳は炎と同じオレンジに染まっていた。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

「そ……そんなバカな!!」

 

ツナの全身から発生した炎は拘束を溶かしてさらには炎真達も包み込む……そして4人のマフィア達は光となって消えていった。

 

「迷惑かけてゴメンね。それからありがとう」

 

ツナは仲間達の元へと移動してハイパーモードを解除すると笑顔でそう言った……仲間達もつられて笑顔を見せる。

 

「ツナにはいつも助けてもらってばかりだからな。たまにはこういうのもいいだろう」

 

「まっ、あんまり心配はしてなかったけどな」

 

「一番心配してたのは決まってるだろ?」

 

「…………」

 

ギルダーツの言葉に既にサタンソウルを解いて俯いているミラを見る。

 

「ミラ……」

 

「ツナ!良かった……私、もう、ツナが目覚めないんじゃないかって……心配で……」

 

「大丈夫……俺はここにいるよ」

 

泣きながら抱きついてくるミラを優しく抱きしめると慰めるように言葉を紡ぐ……その空気を壊すようにギルダーツが前を見たまま口を開いた。

 

「お二人さん、ラブシーンは後でゆっくりとやってくれ……お客さんがお待ちかねだ」

 

ミラは慌てて離れるとツナと共に前を見据える。そこにはリリスが呆然とした表情でこちらを見ていた……

 

「バカな……何故……何故抜け出す事ができた!?お前が失ったもう取り戻せない幸せな夢だったはずなのに!!」

 

リリスは激昂して言葉遣いまで崩れている。ツナは胸元にかけられているお守りを手にとって見つめた。

 

「確かに……お前の見せた夢の世界に俺は囚われた。失った仲間との幸せ……偽りとはいえ俺一人では抜け出せなかった。でも京子ちゃんがこのお守りに込めた想いが俺の背中を押してくれた……」

 

ミラは京子という名前に少々不安げにツナを見るがその視線に気づいたツナは安心させるように笑みを浮かべた。

 

「京子ちゃんへの想いは俺の大切な思い出なのは変わらない……でも京子ちゃんが俺に込めてくれた想いが俺に伝えたのは過去ではなく現在(いま)を大切にすることだ!」

 

そしてツナは一歩踏み出す……後ろにいる仲間達の存在を確かめながら……

 

「俺はこの仲間達と共に現在(いま)を生きて未来を共に歩む!もう俺はお前の造り出す偽物の過去には囚われない!!」

 

今までにない輝きと強さを見せるツナに対して本当に嬉しそうに微笑むフェアリーテイル一同……反対にリリスはその美しい顔を歪めて苛立っている。

 

「おのれ!ならばお前を殺して魂だけでも奪ってやる!」

 

そしてリリスの体から黒い瘴気が溢れ出してその姿を覆っていく……。そしてその瘴気が晴れた後には先程まで人間のような姿形だったリリスは悪魔と呼ばれるに相応しい姿へと変貌していた。

 

「これが私の真の姿……エーテリアス・フォームだ!!そして私の能力は集めた魂の分だけ呪力を増す!!」

 

リリスの背後には無数の光の玉……おそらくアルビオンの人達の魂と呼べるものが具現化していた。

 

「あれがアルビオンの人達かっ……!!」

 

「アイツにエネルギーを取られてるんなら時間をかけられねえな!!」

 

「……待って!ここは俺一人で戦わせて」

 

「何を言ってるの!?ツナ!!」

 

ツナの言葉に反発するミラだがギルダーツはそれを支持する。

 

「いや……ツナの判断は正しい。普通に攻撃したんじゃあの魂達がどうなるか分からねぇ。だからこそ当時の町長はフェアリーテイルとボンゴレの2つの紋章を持つ者に助けを求めるように遺してたんだろう」

 

「なるほど……大空の調和か……」

 

「でも!」

 

尚も反対しようとするミラにツナはグローブとボックスそしてリングを差し出す。

 

「ミラ……これを持っててくれる?すぐに終わらせるから……」

 

己の武器を全て手渡されたミラは驚くがツナの笑顔に言葉を失ってそれらを大事そうに受け取る……エルザとラクサスはその行動の先にあるものを予測しているので安心しているようだ……

 

「ツナの奴……あれをやる気か……」

 

「結局あの時はスティングの降参で戦ったところは見てねえからな……楽しみだぜ」

 

ツナは目を閉じながら前へと歩いていく……思うのはフェアリーテイルの仲間達の顔……

 

-今までありがとう……ボンゴレのみんな……そして京子ちゃん……俺はフェアリーテイルと共に現在(いま)を……そして未来を共に歩む!!-

 

「死ぬ気の到達点!!」

 

目を開いたツナは全身から大空の炎を噴き出した。新たな未来を歩む決意が大魔闘演武で見せたときよりも炎を遥かに力強くしていた。

 

「すごい……」

 

「これがツナの真の力か……」

 

ミラもギルダーツもただツナの美しい炎の輝きを呆然と眺めていた。

 

「あの時よりも遥かに力強い……心の在り方が変わったからか?」

 

「遠いな……けどこの炎を見ると燃えてきたぜ!」

 

エルザとラクサスも力強くなった炎の頼もしさを肌で感じていた。

 

「くっ……だからどうしたー!!」

 

ツナの圧力に思わず後ろに下がろうとしたリリスだが何とかこらえると十数個の呪力による黒い球体を精製して宙に浮かべる。

 

「ナイトメア・シューター!!」

 

その呪力による弾丸が一斉にツナへと向かってくるがツナは微動だにしない……

 

「無駄だ……」

 

呪力弾がツナに触れる前にツナの体から噴き上がる炎に一瞬で燃やされて消滅する。

 

「なっ!?……ならばこれはどうだ!?私の最大の奥義を受けてみよ!!」

 

リリスは両手を上げると呪力を集めて先程の球体とは比べ物にならないほどの大きな球体を作り出した。……この隙だらけの間にもツナは攻撃を仕掛けない。リリスはバカにされているような気がして怒りの表情でさらに呪力を込めていく……

 

観戦しているメンバー達はツナに何も言わない……ツナを信じているからだ。

 

「闇に沈め!デアボリック・エミッション!!」

 

巨大な球体がツナへと直撃し、ツナは闇にのまれてしまった。リリスは勝利を確信した。

 

「アハ……アハハハハッ!!やったわ!油断しているからそうなるのよ!!」

 

リリスの高笑いが響く中でそれでもミラ達は動かない。

 

「アハハハッ……はっ?」

 

ツナがいた場所を中心に大空の炎が竜巻となって吹き荒れる。リリスの闇を祓い、炎の中からツナがその姿を現した。あまりの光景にリリスは呆然とツナを見ている……

 

「終わりか?」

 

ツナはリリスを睨み付ける。そのオレンジの瞳にリリスは視線を外すことができない……

 

リリスは圧倒的ともいえるツナの力に恐怖を感じていた。そして、勝ち目がない事を理解してしまった……ならば……

 

「逃げるのが奥の手か?」

 

ツナの心を見透かしたような言葉にリリスは跳ねあがるように体を揺らす……ツナは当然その可能性を予想していた。百年程前にジョットからも同じように逃げ出したからだ。

 

「ふふっ、そ……それがどうしたの?あなたの寿命はせいぜい百年……それだけあればどんな封印をしても破れるわよ」

 

リリスの余裕の笑みにフェアリーテイルのメンバー達は焦るがツナは落ち着いていた……

 

「お前に逃げ場はない……」

 

リリスはツナの炎がツナの体から球状に広がっていく光景を目の当たりにした……

 

大空の抱擁(アッブラッチョ・ディ・チェーリ)……」

 

ツナの呟きと共に炎が床を、壁を、天井を、そして空間そのものを燃やしていくように広がっていく……当然ながらリリスも巻き込まれていく……リリスの魂さえも燃やすような熱にリリスの叫びが夢幻宮に響く。

 

「あぐっ……あ……熱い!!バ……バカな!この炎では貴様の仲間も……私の後ろの魂さえも燃やし尽くすぞ!!」

 

「そんな事する訳がないだろう……よく見ろ」

 

リリスが苦悶の表情で辺りを見渡すと同じように炎を受けているはずのフェアリーテイルのメンバー達は平然としている。振り返って街の人々の魂を見てもまるで何も感じていないようだ……

 

「わ……私だけを燃やす炎なのか!?ジョットと同じ事を!!」

 

「違う……言ったはずだ。お前に逃げ場はないと……俺が燃やすのはお前とこの夢幻宮そのものだ!!」

 

ツナの言葉にリリスは驚愕する。この夢幻宮を燃やされたら……

 

「この夢幻宮はお前の夢そのもの……俺達は肉体ごとお前の作る夢の中に迷いこんでいたんだ!」

 

「ここが奴の夢の中!?ならば逃げるというのは……」

 

「なるほどな、俺達を外に放り出して夢幻宮に引きこもるつもりだったんだろうな……」

 

「そっか……だからツナの御先祖様も封印しか出来なかったのね!」

 

ミラが納得したように手を叩く。それに頷くとさらに炎が強くなっていく……

 

「ぎゃああぁっ!!や……やめろ!!燃える……私の夢が燃えてしまう!やめてくれー!!」

 

おそらく炎は夢幻宮全体に広がっているのだろう。それは夢を力の源とするリリスの終焉を意味している。ツナはゆっくりとリリスに近づいていく……

 

「お前には感謝している。偽物とはいえみんなにもう一度会えた……だがそれ以上に怒りを感じる!みんなを……大切な人を利用したことは許さない!!」

 

「あ……ああ……」

 

「夢を弄ぶ悪魔リリス……返してもらうぞ!お前が奪った街の人々の魂を!!」

 

「や……やめてーーー!!!」

 

ツナは右拳に炎を集中するとリリスを全力で殴り飛ばした。吹き飛ばされたリリスはもはや指一本動かすことは出来なかった……

 

「わ……私が……冥王……マルド・ギールを……越えたはずなのに…………人間って……やっ……ぱり……す……ごい…………」

 

リリスが意識を失うと突如夢幻宮が光に包まれ全員目を閉じる……

 

 

 

 

 

 

そして目を開くとツナ達はアルビオン近くの森の中にいた。夢幻宮は完全に消え去ったようだ。

 

「外に出たのか?」

 

「そのようだな……あれは!?」

 

エルザが見つけたのは燃えている一冊の本……誰もがそれがリリスだと確信していた。そしてその本はそのままツナの炎で燃え尽きた……

 

「やっぱりゼレフ書の悪魔だったのね……」

 

「ゼレフか……天狼島に現れたんだったな」

 

いつか戦うことになるかもしれない相手だが、フェアリーテイルとの因縁がある相手だとはこの時点ではまだ知らなかった……

 

「どうやら街の人達は元に戻ったみたいだね」

 

街の方が騒がしくなっているのに気づいたツナは街の人々の魂が解放されたことにホッとする。

 

「とりあえず説明に行かねばな……国王にも報告して食料なども運んでもらわねばなるまい」

 

「10年も止まってたなんて信じるのかよ?」

 

「食料品も腐ったりしてるだろうし草木も伸びてるし何とか分かってもらえるとは思うぞ」

 

「街で通信ラクリマを借りてアルカディオスさんにでも連絡しましょう」

 

国王陛下からの依頼なので滞りなく食料や必需品などは供給されるだろうが元の生活に戻るのは大変だろう……だがそれでも街の人々は救うことができた。

 

「何はともあれ10年クエスト達成だね!」

 

「うんっ!」

 

「おお!」

 

「ああ!」

 

「よくやったぞ!お前ら!!」

 

フェアリーテイル最強メンバー達はクエスト達成の喜びに浸りながらアルビオンへと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ……ツナ、今度京子ちゃんって子の事聞かせてね」

 

「そうだね……ミラにはちゃんと話すよ」

 

「ルーシィとウェンディにもね」

 

「分かってるよ」

 

「でも急ぐ必要はないわよ。これからも私達は共に歩んでいくんだから……」

 

「ありがとう……ミラ……」

 

 

 

 

 

 




何とか10年クエスト完結!いや~アイディアが浮かばなくて時間かかりました!ツナがこの世界で生きる決意を固めるシリーズでした。


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相変わらずのギルド

間章はこれで最後です。


 

 

-フェアリーテイル

 

ツナ達がS級クエスト行脚に出かけてから4週間が過ぎようという頃……フェアリーテイルは出戻りの者達や新人達が数多く加入してかつての賑わいを完全に取り戻していた。

 

だがその賑わいの中で二人の少女だけが暗い雰囲気で完全に浮いていた……

 

「二人共~そろそろ元気出しなよ~」

 

「しけた顔してんじゃないよ!酒が不味くなるじゃない!」

 

「もう少ししたら帰って来ると思うから」

 

リサーナ、カナ、レビィが元気付けようとするも二人の少女……ルーシィとウェンディはなかなか元気にならない……

 

「はあ~ツナはまだ帰って来ないのかな……」

 

「もう一月くらい会ってないですね……」

 

「依頼なんだからしょうがないでしょ!」

 

シャルルの言う通り依頼は20件……しかも全てがS級以上なので時間がかかって当たり前だが、ツナに恋する二人はツナに会えなくて最近ずっと落ち込んでいる。

 

「いいなあ……ミラさん……」

 

「一緒の依頼……羨ましいですね……」

 

同じS級でツナに同行できるミラジェーンを羨ましがる二人……

 

「まあまあ……ミラ姉もS級だししょうがないじゃない。私としてはこの機会に少しは進展して欲しいけどね」

 

「「し……進展!?」」

 

リサーナの一言に驚愕する二人は脳内でツナとミラが仲良くしている場面を妄想していた。顔を真っ赤にしながらプルプル震えている二人を見ながら溜息をつく周りの人々……

 

「ですが意外ですね……ツナには恋人はいないのですか?」

 

新たに加わったヒスイの質問に周りはそう言えば知らなかったんだとツナの出自を話した。さすがに驚いたヒスイは呆然としている。

 

「異世界ですか……」

 

「そうなの。ツナは別の世界から来たのよ。あれだけ強いのに大会……というか雑誌の撮影までまったく無名だったでしょ?」

 

「どうりで……」

 

「まああれだけの男だしあっちには恋人いたかもね~二人共どう思う?」

 

「ツナに恋人が!?」

 

「そんな……」

 

カナのからかうような問いかけにますます暗くなる二人……さすがに周りが嗜める。

 

「カナ、飲み過ぎ!ルーちゃんもウェンディも気にしないの!」

 

「う~ん……ミラ姉にがんばって欲しいけどこの二人も上手くいって欲しいな……」

 

「ウェンディももう少しアピールしなさい」

 

「ルーシィはちゃんとその胸で誘惑するのよ~」

 

「ちょっと!カナったらもう!」

 

「…………」

 

ウェンディは何も言わずにカナの言葉に胸を隠そうとするルーシィの胸元を睨んでいた。……ちなみに隠そうとしても隠しきれていないのでウェンディの視線はさらに鋭くなる……

 

「ルーシィー!ウェンディー!!」

 

その時ハッピーがギルドの入り口から飛び込んできた。少し興奮しているようにも見える。

 

「ハッピーどうしたの?」

 

「大ニュースだよ!!」

 

「だから何があったのよ?」

 

「ププ……知りたい?」

 

ハッピーは口を押さえてニヤニヤと二人を見ながら勿体ぶっている……

 

「あ~も~何なのよ!?」

 

「も~しょうがないなあ~ツナ達が帰って来たんだよ!!」

 

ハッピーの言葉に目の前の二人だけでなく周りの喧騒も静かになる……一拍置いてギルド中から大歓声が巻き起こった。

 

「ほんとか!?ハッピー!!」

 

「ようやく帰って来やがったのか!」

 

「姉ちゃん!やっと帰って来たのか!!」

 

「雷神衆!ラクサスを出迎えるぞ!!」

 

ナツ達も大盛り上がりで一気にギルド内が騒がしくなってきた。

 

「やっとツナに会えるのね!!」

 

「良かったねルーちゃん、ウェンディ」

 

「はい!嬉しいです!!」

 

「やれやれね……」

 

「オイラが見た限りではそろそろ着く頃だと思うよ」

 

中でもルーシィとウェンディは抱き合って喜んでいる。お祭り騒ぎのギルドだったがハッピーの言葉に再び静まり返って全員がギルドの入り口近くに集まる……

 

そして入り口の扉が開かれてツナ、ミラジェーン、ラクサス、エルザが姿を現した。

 

「「「「「おっ帰りー!!!」」」」」

 

いきなり全員揃って言われたので4人はびっくりしたが、すぐに笑顔になって帰還の挨拶をする。そして人混みの中からマカロフが出てきた。

 

「みな……ご苦労じゃったのう」

 

「マスター、ただいま帰りました」

 

「お久し振りです、マスター」

 

「依頼は20件全て完遂しました」

 

「ま、俺らにかかれば余裕だったけどな」

 

マスターの労いの言葉に帰還の挨拶と依頼達成の報告をする4人……それを聞いて顔を綻ばせて頷くマカロフと盛り上がるフェアリーテイルのメンバー達。

 

「うむ、よくやってくれた!さすがはフェアリーテイル最強メンバー達じゃ!!今日は宴じゃあ!!みな、ガンガン騒げぇ!!」

 

「「「「「よっしゃあ!!」」」」」

 

「ははは……けっこう疲れてるのに……」

 

「しょうがないわね~」

 

「みなが歓迎してくれるのだ。付き合うしかあるまい」

 

「やれやれだぜ……」

 

 

 

 

 

 

そう言って4人は久し振りのギルドの中へと入っていった。ツナとミラは先程までルーシィ達が集まっていたテーブルへと招かれた。

 

「お帰り!ツナ!ミラさんも!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「ありがとう。ルーシィ、ウェンディも」

 

「ありがとうね、二人共」

 

「ミラ姉!怪我とかしてない?」

 

「全然大丈夫よ」

 

ツナとミラか座った席にはルーシィ、ウェンディ、リサーナ、カナ、レビィ、ヒスイが座っている。シャルルもウェンディと一緒に居た。運ばれてきた料理を食べながらクエストの話をしている。

 

「って訳でギルダーツはまたどっか行っちゃったんだ」

 

「相変わらずフラフラしてんのね~」

 

「でも4人にギルダーツまで加わったなら本当に最強チームね!!」

 

「でもその悪魔も強かったのよ。ツナの記憶から強い人を具現化してたから……その人達は少なくともギルダーツと同じかそれ以上だったわ」

 

「何それ!?」

 

ツナの世界にはギルダーツレベルがゴロゴロいるのだろうか……とルーシィやウェンディはそれを聞いて身体を震わせていた。

 

「あ、そういえばヒスイに陛下から手紙を預かってきたよ」

 

「ありがとうございます!アルビオンの民達もようやく解放されたのですね……良かった」

 

「ヒスイも知ってたのね……って当然よね」

 

「依頼が終わった後、アルカディオスさんがすぐに食料品や生活用品を対応してくれたから街の人達も戸惑ってはいたけど何とかやっていけると思う」

 

「そうですか……アルカディオスやダートンもがんばっているのですね……」

 

「それにしてもしばらく居ない間に人が増えたわね」

 

周りを見ると知らない顔がたくさんあった。新人の女性達はツナを、男性はミラやルーシィ達をチラチラと見ていた。

 

「これだけ人数が増えても依頼が山程あるから私達も忙しかったのよ」

 

「私達も依頼がんばりました」

 

「ミラ姉、またS級の依頼も来てたみたいだよ」

 

「そうなの?」

 

久し振りの会話を楽しみながらツナもワインを呑む。するとほろ酔いで顔を赤くしたカナが猫なで声でツナにおねだりする

 

「ねえツナ~報酬で美味しいお酒おごってよ~いっばいもらったんでしょう~」

 

「相変わらずだねカナは。でもダメだよ。それに俺も買いたいものがあるしね」

 

「何を買うの?」

 

レビィの質問にテーブルについているみんなは興味津々といった感じで身を乗り出す。

 

「家を買おうと思ってるんだ」

 

「どうして急に?」

 

「ま、この世界に骨を埋める覚悟が出来たって事かな。ジョットみたいにね」

 

「でも……いいの?向こうにはご家族や仲間……それに京子ちゃんって子もいるんでしょう?」

 

ツナがそう答えるとミラが嬉しそうに、でも不安そうに聞いてくる。ツナは胸元からお守りを取り出してしっかりと握る……

 

「……このお守りには京子ちゃんが自分の炎を込めていたんだ。そして俺を助けてくれた……その時にその炎が京子ちゃんの想いを伝えてくれたんだ」

 

別れてからも自分の事を心配してくれた京子に感謝すると共にきちんとお別れをすることができた……

 

「京子ちゃんは俺が過去に囚われずに現在を見ることを願ってくれたんだ。だから俺も現在を精一杯生きていこうと思えるようになったんだ……みんなと一緒にね」

 

「ツナ……ってかキョーコって誰なのよー!?」

 

ルーシィが癇癪を起こしたように聞いてくる。

 

「一言で言うと……元カノ」

 

その言葉にルーシィとウェンディはこの世の終わりのような顔をして落ち込んだ……

 

「ちょっと!ルーちゃん!元って言ってるじゃない!落ち込まないでよ!」

 

「ウェンディもしっかりして下さい!!」

 

「そりゃ~ツナならいてもおかしくないわよ~ミラは何とも思わないの?」

 

レビィとヒスイが落ち込む二人に声をかける中、カナはミラがニコニコしてるのを見て問いかける。

 

「気にはなるけどツナは私達と未来を歩んでくれるって言ってくれたからそれが嬉しいの……そして私と一緒に暮らしてくれるって♪」

 

「「「「「何~!!?」」」」」

 

同じテーブルの女性陣の歓声だけでなくギルド中から悲痛な叫びが巻き起こった。

 

「ミラ姉!ホント!?」

 

「そんな~!?」

 

「ツナさん……」

 

顔を輝かせるリサーナ、逆に落ち込むルーシィとウェンディを横目にツナが慌てて声をあげる。

 

「ちょっとミラ!そこまでは言ってな……危なっ!ってエルフマン!?」

 

いきなり背後から殴りかかってくる拳を避けて振り返るとそこには顔を俯かせるエルフマンの姿……

 

「姉ちゃんは……姉ちゃんは渡さねえ!!」

 

「話を聞いて!エルフマン!!」

 

「「「「「ツナ~!!!」」」」」

 

何とかエルフマンを落ちつかせようと宥めるがまったく効果がない。そしてエルフマンだけでなくマカオやワカバなどのミラジェーンファンがツナを取り囲む……

 

「かかれ~!!」

 

「「「「「ウォォォォッ!!!」」」」」

 

「だから俺の話を……」

 

嫉妬に狂った男達が一斉にツナへと襲いかかる……ツナはそれをいなしながらギルドを走り回る。

 

「よっしゃ!てっぺん取るチャンスだ!」

 

「ギヒッ!てめぇじゃ無理だ!俺がやる!」

 

「言ってろ!俺がツナを凍らせてやる!」

 

さらにはナツ達まで加わってさらにカオスな状況になってしまう……

 

「ミラさん!さっきの話は本当なんですか!?」

 

「ズルいです!ミラさんばっかり!」

 

「あら?二人も一緒に住めばいいじゃない」

 

「いや……ツナはほっといていいの?てゆうかツナの意見は?」

 

「ま、大丈夫でしょ。ツナだし……」

 

「テーブルとかたくさん壊れてますけど……」

 

「いつものことだね」

 

「それよりも三人共一緒に暮らすなら……」

 

女性陣はツナをほったらかして勝手な意見を出し合っていた……

 

「やれやれ……相変わらず騒がしいギルドだ。止めねえのか?エルザ」

 

「ふふっ……こういうのも久し振りだからな。たまにはいいだろう。む、このケーキは旨いな。キナナもうひとつ頼む」

 

「はいどうぞ」

 

「いや、ワシとしては止めて欲しいんじゃが……ま、ええか……」

 

カウンターで騒動を眺めながら酒を呑んでいるラクサスとケーキに夢中のエルザは騒動を止めようともしない。マカロフは溜め息をつきながらも懐かしい光景に目を細める。

 

「こっのっ!いいかげんにしろ!!」

 

この騒動はキレたツナが全員を沈めるまで続いていた。誰もがこの騒がしい日常を楽しんでいた……しかしこの日常が崩れ去る日がすぐそこまで来ていることを誰一人気づいてはいなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からはタルタロス編に入っていきます。太陽の村編は省略します。


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冥府の門編
聖十第4位の男


なかなか話が纏まりませんでした。いよいよタルタロス編に入ります。


 

 

-ツナの自宅

 

ツナが新しく購入した家は2階建てで庭付き一戸建て、リビングも広くみんなで集まったりもできる広さを持つマグノリアでは豪邸といっても差し支えないほどの家だった。

 

引っ越し当日には本気でミラが一緒に住もうと荷物を持って押し掛けて来たり、それを見たルーシィとウェンディまで対抗するように加わろうとしていた。

 

さらにはミラを追いかけてエルフマンが殴り込みに来たり、騒ぎを聞き付けたナツやガジルが俺も混ぜろと乱入したりした。

 

わずか一日で新居が廃墟になるのを怖れたツナが本気で怒りこの家で暴れるのを禁じなければそれが実現していたかもしれない……

 

女性三人はなかなか粘ったがツナがいつでも来ていいと合鍵を渡した事によってとりあえず同居はしないということで決着がついた。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ツナ」

 

「おはよう」

 

朝起きてリビングに降りたツナを出迎えたのはミラと食欲をそそるいい臭いだった。引っ越してから必ず誰かが朝食を作りに来てくれる。一人だったりあるいは三人一緒だったりだが一人の方が珍しいくらいだった。

 

「ルーシィとウェンディは依頼に行ったんだっけ」

 

「そうよ。聖十序列4位のウォーロッド・シーケン様の依頼。元々ナツとグレイが呼ばれたんだけどエルザも一緒に行ってるわ」

 

朝食を取りながらジュラより格上の聖十に興味を持つ二人……そしてミラが手紙を取り出してツナへと手渡す。

 

「マスターから預かって来たの。依頼じゃないんだけどウォーロッド様がツナに会いたいらしいわ」

 

「依頼じゃないってどういうこと?」

 

「マスターが言うにはウォーロッド様はフェアリーテイル創設メンバーの一人らしいのよ」

 

「ジョットを知っている人か……」

 

感慨深く手紙を開くと伝えなければならない事があるので家に来て欲しいと書いてあった。地図も同封されている。

 

「じゃあ今日行こうかな」

 

「そうね、さっそく準備しましょう」

 

「…………ミラも行くの?」

 

「もちろん!」

 

 

 

 

二人で空を飛んで行くと目に入ったのは巨大な木が一方向へと真っ直ぐ伸びている光景……何千メートルも伸びているそれは明らかに自然物ではない。

 

「もしかしてウォーロッド様の魔法かしら?」

 

「確かにすごい魔力を感じるな……」

 

その木を辿って飛んで行くと高台の上に一軒の家を発見した。木の根も見えることからどうやらウォーロッドの家に着いたようだ。

 

「あそこかしら?」

 

「同封された地図もあそこを示しているな……降りるぞ」

 

「分かったわ」

 

二人は家の前に着地するとハイパーモードとサタンソウルを解除した。

 

「ごめんください。フェアリーテイルのツナヨシ・サワダです」

 

「付き添いのミラジェーン・ストラウスです」

 

扉が開いていたので声をかけながら家の中に入ると中にはたくさんの植物に囲まれた男が背を向けて植物の世話をしていた。

 

「あの……」

 

「しっ!草木は静寂を好む……理解したのならその忌々しい口を閉じよ」

 

ツナとミラは顔を見合わせて口を閉じる……

 

「なんてなっ!冗談じゃよ!草木も花も人間の声は大好きなんじゃ!あははははっ!!」

 

「「あははは…………」」

 

厳かな雰囲気をぶち壊してハイテンションな老人……人間と木が融合したような容姿のウォーロッド・シーケンの登場にツナとミラは苦笑で応える……

 

するとウォーロッドは懐かしい者を見るように目を細めて口を開く。

 

「君は本当にジョットによく似ている……大魔闘演武の映像を見た時はびっくりしたよ」

 

「ジョットさんはどんな人だったんですか?」

 

ミラの質問に当時を思い出すように語り出すウォーロッド。

 

「彼はまさしく大空だった……メイビスの親代わりであり、誰よりも強く、誰よりも優しく、だが仲間に手を出す者は決して許さない……誰からも頼りにされる男だった……」

 

「そんなところもツナそっくりなのね……」

 

「そうかな?」

 

「彼はきっと今も君達を見守っているじゃろう」

 

「そうですね」

 

「さて……君に来てもらったのは他でもない。ジョットが成し得なかった事を伝えるためなのじゃ」

 

「ジョットが成し得なかった事……?」

 

ツナはおうむ返しに尋ねる……ウォーロッドは真剣な顔でツナに対して口を開く。

 

「ジョットがやろうとしていたのは3つ……1つはメイビスの成長しない体を元に戻すこと……これは今更どうしようもないのじゃが……」

 

「何故初代は成長しない体に?」

 

「仲間を助ける為に未完成の黒魔法を使ってしまってのう……」

 

当時の事を思い出したのか苦々しい顔をするウォーロッドはその時の事を今でも後悔してる事がツナ達にはハッキリと分かった……

 

「そして2つ目はゼレフの永遠の生を終わらせる事じゃ。かつてゼレフ自身もそう望んでいた……」

 

「ゼレフを!?」

 

「奴は不老不死……さらには側にいるだけで他の命を奪ってしまう存在なのじゃ。だがジョットだけはその呪いが通じなかった……だからこそゼレフ自身もジョットに期待していたのじゃ」

 

「ジョットには大空の調和の波動が流れていたからかな?」

 

「ジョットもそう言っておった……じゃがそのジョットの炎ですらゼレフを死なせる事はできんかった。そして最後の3つ目は……アクノロギアを倒すことじゃ!」

 

「待って下さい!!」

 

その言葉に反応したのはミラだった。彼女はアクノロギアの恐ろしさを嫌と言うほど味わっている。

 

「いくらツナが強くもアクノロギアを倒すなんて……」

 

「確かに……アクノロギアにはジョットですら敵わなかった……」

 

「!戦ったんですか!?ジョットが!」

 

「……その通りじゃ。そして致命傷を負いながらもジョットはワッシの待機していた天狼島へと戻り息をひきとった……その戦いの前に天狼島に自分の墓を作っていたがな。ワッシはジョットに頼まれて墓にヌシの指にあるフェアリーリングとジョットが研究していた匣を納めた」

 

つまりジョットはアクノロギアとの戦いで自分が死ぬことを予期していたのだろう。

 

「ジョットはゼレフを死なせる事が出来なかった時から大空の炎の先にあるものを求めていた。それこそが虹の炎!!」

 

「虹の炎……」

 

「ジョットは虹の炎を得ればその3つを為し遂げられると考えておった」

 

ツナは自分でも色々と考えてきたが未だに虹の炎の取っ掛かりすら掴めない現状で自分に何が出来るのか考えていた。その険しい顔をミラは悲しい瞳で見つめていた……

 

 

 

 

 

 

「虹の炎か……」

 

ツナはウォーロッドに勧められた温泉に浸かりながら虹の炎について考えを巡らす。だが自分には大空属性しか流れておらず他の属性の炎すら出せないのにどうやって七属性全ての炎を灯せるのか分からない……

 

「何かヒントでもあればいいんだけどな……」

 

「そうね~でもツナならできるわよきっと」

 

「そうだといいんだけ……ど……」

 

独り言に返ってきた声に気づいて横を見るとそこにはバスタオルを巻いたミラがタオルを外しながらお湯に入って来る所だった……思わず呆然としたツナの横に体を寄せる。

 

「何でミラまで入って来てるの?」

 

「ふふ……ここ混浴なのよ」

 

「そうなんだ……って普通俺が入ってるの分かってて入ってくる!?」

 

「いいじゃない♪せっかくだし」

 

そう言ってさらに体を寄せてくるミラ……ツナは溜め息をつきながらも視線を前に向けて直視しないようにした。

 

「ねえツナ……アクノロギア相手に一人で戦ったりしないでね」

 

「ミラ……」

 

「ツナがいなくなるのは嫌……私ももっと強くなるから!だから……」

 

「分かったよ。安心して。死にに行くような真似は絶対にしないから」

 

「約束よ……」

 

ミラはそう言うと目を閉じて顔を寄せてくる……その想いに応えようとツナも目を閉じる……

 

「イヤッホー!!」

 

「「!!」」

 

ドボンという水音と大きな声が辺りに響いて焦ったツナとミラはお互いに額をぶつけてしまう。

 

「痛っ……今の声って……」

 

「ナツの声ね……いいところで……」

 

「おい!飛び込むなよ!」

 

「いーじゃねーかグレイ!ハッピーも来いよ!」

 

「あい~いい湯だね~」

 

依頼を終わらせて帰ってきたのだろう、まだこちらには気づいてはいないようだが3人はゆったりとお湯に浸かっていた。

 

「わぁ!すごくいい景色だね!」

 

「さすがはウォーロッド様。こんな秘湯を知っておられるとは……」

 

「気持ちいいですね~」

 

「なかなかいいじゃない」

 

いつのまにかルーシィ、ウェンディ、エルザ、シャルルも来ていた。女性だけに温泉を楽しんでいるようだ。

 

「ナツさん達に悪い気がしますね」

 

「アイツラは温泉なんて興味ないわよ」

 

「いや、そうでもねえぞ」

 

「たまには温泉もいいもんだ」

 

「あい!」

 

声をかけられたルーシィとウェンディはナツ達が温泉に浸かっている事を知ると悲鳴をあげて近くの物を投げながらお湯に体を隠す。

 

ウォーロッドは堂々と入ってきてエルザはその裸体を隠そうともせずに仲間なら一緒に入って問題ないと口にする。そしてウォーロッドもかつてフェアリーテイルの創設メンバーの一員であることを明らかにしてみんなを驚かせた。

 

「ん?ツナとミラも来ていたのか?」

 

「えっ!?ってツナ!ミラさん!何で二人はこんなところにいるんですか!?ってか何で二人で温泉に!?」

 

「ツナさん!ミラさん!!」

 

「お~おめえらも来てたのかよ?」

 

「はは……エルザ、少しは前隠そうか」

 

「色々あってここにいるのよ」

 

別に隠れてた訳ではないが湯気で見つかってなかったツナとミラをエルザが見つけるとルーシィとウェンディはくってかかる。

 

「ちょっと!何で二人仲良く温泉に入ってるの!?」

 

「どういうことですか!?」

 

「二人とも落ち着いて……あと隠して」

 

「「へっ?……きゃああああっ!!」」

 

「あらあら♪」

 

ツナへと詰めよっていた二人は自分の格好に気付くと顔を真っ赤にしてお湯に潜ってしまった。

 

その後何とか説明を終えたツナに不承不承ながら納得した二人はそのままツナの近くでお湯に浸かっていた。ツナはなるべく女性陣を見ないようにウォーロッドに問いかける。

 

「ウォーロッドさん。虹の炎について何か知りませんか?」

 

「いや、ワッシもよく分からん……じゃがジョットがある魔法を研究していたのはよく覚えておる」

 

「それってどんな魔法なんですか?」

 

「……滅竜魔法じゃ」

 

「「滅竜魔法!?」」

 

ルーシィの質問に対してのウォーロッドの答えにナツとウェンディの叫びが重なる。

 

「正しくは滅竜の魔力じゃがな」

 

「虹の炎と滅竜魔法か……」

 

「おおっ!そういえば!」

 

エルザに背中を流されていたナツが思い出したように手を叩く。

 

「どうしたの?ナツ」

 

「未来のローグが最後に言ってたんだよ!ツナに虹の炎を手に入れるように伝えろって!アクノロギアを倒せる可能性があるらしいぜ!!」

 

「おいおいマジかよ……」

 

「他には何か言ってなかった?」

 

ナツは腕を組んでウンウン唸っていたがやがて思い出したのか口を開く。

 

「未来のツナは虹の炎を手に入れる機会を永遠に失ったって言ってたかな……」

 

「どういう意味かしら?」

 

「手に入れる機会を失った……か……ならその機会は絶対に逃さないようにしないとね」

 

「ツナ!さっきも言ったけどあなた一人で戦おうとしちゃダメよ!」

 

「そうだぜ!俺も一緒に戦うぜ!」

 

「天狼島での借りを返さねえといけねえしな」

 

「確かに我々の力はお前には及ばんが我々も今のままではない。お前一人が背負う必要はないのだからな」

 

「そーよ!あたしだって戦うわ!」

 

「私もガンバります!!」

 

「みんな……」

 

「うむ。それこそがメイビスの唱えた“和”血よりも濃い魂の絆で結ばれた魔導士ギルド、フェアリーテイルの精神……それは時が流れた今でも君達の心に受け継がれておる」

 

そしてウォーロッドは語る……フェアリーテイル創始の言葉を。言葉だけでなく心……無条件に信じられる相手を仲間ということ。

 

“どうか私を頼ってください。私もいつかきっとあなたを頼る事があるでしょう。苦しい時も悲しい時も私が隣についています。あなたは決して一人じゃない。空に輝く星々は希望の数、肌にふれる風は明日への予感、さあ歩みましょう。妖精たちの詩に合わせて……”

 

その言葉を全員が胸に刻み込んだ。その後ナツがイグニールが倒そうとしていたゼレフ書の悪魔ENDについて質問したが詳しい事は何も分からず絶対に自分が倒すと興奮したナツが何故かエルザを殴っていた。

 

怒りのエルザに10倍返しされたのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

そのままウォーロッドの家で一夜を明かした後、フェアリーテイルへと帰る時間となった。

 

「お世話になりました」

 

「うむ。いつでも来なさい。若き妖精たちを歓迎しよう……」

 

「はい」

 

「じゃあな!ジッチャン!」

 

「ウォーロッド様もご壮健でありますよう」

 

「また来ますね」

 

去って行くメンバー達を……特にツナを見送りながらウォーロッドはジョットの残した言葉を思い出す。

 

『いつの日か……必ず現れる……俺の遺志を継ぐ者が……俺の魂は……ボンゴレリングを託してくれた……セピラとの契約により……あちらの世界の……ボンゴレリングに宿る……』

 

『ジョット!もう喋るな!』

 

『ボンゴレを……在りし日の姿に……戻した者、トゥリニセッテの運命を覆した者こそが……大空を越えて……虹へと至る者だ……きっとメイビスやゼレフを救ってくれる……』

 

『ジョット……』

 

『心残りは……その者を運命……という名の……鎖で縛って……しまうことだが……未来の妖精たちが……その者を……支えてくれ……る事を……祈る……』

 

 

 

 

 

 

ウォーロッドは知らずに涙を流していた……ジョットと同じように強く、優しい新たな大空をウォーロッドはずっと待ち望んでいたのだから……

 

「新しき大空……どうか運命に潰される事のないように……若き妖精たちよ……彼を支えてやってくれ……」

 

ウォーロッドはツナ達の姿が見えなくなるまで見送っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 




地震から4ヶ月近くたちます。熊本も少しずつ元気になってきてます。


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悪魔の宴への序曲

更新ペースがかなり落ちてます……


 

 

-魔法評議院 ERA

 

魔導士ギルドをまとめるいわば上位組織でもある魔法評議会は9人の議員による会議が行われていた。といっても会議が始まる前の単なる愚痴の言い合いになっていた。主にあるギルドのせいで……

 

「大魔闘演武はフェアリーテイルの優勝か……」

 

「天狼組が帰還したと思ったらコレか……」

 

「ふん!セイバーも何と情けない!あんな奴らを優勝させてしまうとは!!」

 

「これでまたフェアリーテイルが調子に乗ってしまうでしょうな」

 

「あの問題児集団め……」

 

彼ら評議院は優秀だが問題行動を数多く起こしていたフェアリーテイルを煙たがっていた。この中でフェアリーテイルを擁護しようとするのはオーグ老師のみ。議長のグラン・ドマは過去の行動は問題だがその強さは認めていて厳正に判断しようとしている。

 

「皆……静粛に。そろそろ今日の議題に移らせてもらうぞ」

 

議長が杖で床を叩いてそう言うと雑談していたメンバー達は一斉に口を閉じる……

 

「まず最初の議題は……フェアリーテイルのツナヨシ・サワダを聖十大魔道として認めるか否か」

 

「認められる訳がありません!」

 

「ただでさえマカロフがいるのにさらにフェアリーテイルから聖十大魔道を任命すれば奴らはさらに調子づきますよ!」

 

「確かに……」

 

「あまり勧められたものではありませんな」

 

「これは認めざるを得ないのでは?」

 

断固とした反対意見や慎重な意見が出る中でオーグ老師のみが賛成意見を述べる。全員が一斉にオーグ老師に注目する。

 

「オーグ老師!何を……」

 

「まあ待て。オーグ老師、理由を述べよ」

 

食って掛かる議員を止めると議長はオーグ老師に続きを促す……

 

「はい。彼はイシュガルの四天王を除く人類最強の魔導士であるジュラ・ネェキスを圧倒する実力を見せました。しかも国王を含めた大勢の観客……いや、映像を含めればこの大陸全ての者の前でと言った方がいいでしょう」

 

「ぬうっ……」

 

「それは……」

 

「さらには彼を中心としたチームによって数多くのS級クエストもクリアされています。国王依頼の10年クエストもです」

 

「アルビオンの街の事か……」

 

「確かに評価に値するがな……」

 

「さらにジュラ自身がツナヨシ・サワダとラクサス・ドレアーを聖十に推薦しております。ラクサスの方は過去に問題行動を起こした事もあり保留という形にすればいいと思いますがツナヨシは問題行動を起こした事もありません」

 

「まあ入ったばかりだからだろうがな……」

 

「確かに依頼後に妖精の連中が大喧嘩する所を諫めたという話も聞く……」

 

「妖精の中ではまともな部類ということか」

 

そこまで聞いた議長が再び杖で床を叩き、結論を出す。

 

「うむ。大魔闘演武によってツナヨシ・サワダの実力と知名度が知れ渡った今、聖十に任命しなければ我々評議院に対する不信を招きかねん……よってツナヨシ・サワダを聖十大魔道として認める!」

 

他の評議員達も渋々とだが認めざるを得なかった。この部屋の外で警護していたラハールとドランバルトは顔を見合わせて愉快そうに笑っている。

 

 

 

 

 

そして次の議題は冥府の門(タルタロス)について……現在タルタロス傘下の闇ギルドが次々と壊滅しているということだ。

 

「どうせフェアリーテイルの仕業ではないのか?」

 

「あり得るな……」

 

「強い力は誇示したくなるというものですからな」

 

再びフェアリーテイルに対しての愚痴の言い合いに発展しようとするがオーグ老師が口を挟む。オーグ老師はタルタロスによる接収を意見として出すが議長以外の議員はバカにしたように大笑いする。どうやらフェアリーテイルに好意的な意見を述べる為に疎ましく思われているようだ。

 

しかし公正な議長はその可能性がかなり高いと感じていた。少々の怒りを込めて議員達を嗜める。

 

「オーグ老師の意見はかなり信憑性が高いと思われる。そしてそれが正しいなら奴らは何かしらの行動に出るはずだ」

 

「議長!?」

 

「全てが謎に包まれたタルタロス……後手に回ればそれだけでこちらが不利になるだろう。こちらから行動を起こすべきだ。六魔とグリモアが倒れた今こそ魔法評議院の総力をかけてタルタロス問題に立ち向かうべきなのだ!!」

 

ゴクッ……と議員全員が議長の本気を感じて息をのむ……

 

「そなたらはフェアリーテイルを敵視しているがタルタロスを倒すには彼らの力は必要だ!最早過去の問題行動などこの場において何の意味もないと心得よ!!」

 

「議長……そこまで……」

 

「確かにこれはバラム同盟を完全消滅させる好機……」

 

「ならば確かに六魔とグリモアを討ち取った妖精の力も必要でしょうな……」

 

「ツナヨシ・サワダも大きな戦力となるか……」

 

「決まりですな。ではフェアリーテイルへの使者を決めなければなりませんな」

 

「では面識のあるラハールとドランバルトに……」

 

「大変です皆さん!!」

 

そこに現れたのはカエルの姿をした下っぱ議員が慌てた様子で飛び込んで来た。

 

「バカモノ!議会中だぞ!!」

 

「大変なんです!……侵入…者……」

 

その言葉が最後まで紡がれる事はなく次の瞬間にERA全体を破壊する程の大爆発が起きる……

 

「がはぁっ!!」

 

「ぐわぁっ!!」

 

「な……何が!?」

 

爆発の衝撃と瓦礫によって現在ERAにいる殆どの者が死亡したり大怪我を負ったりしていた……

 

崩れた瓦礫を押し退けて何とか立ち上がったドランバルトは相棒のラハールに声をかける。

 

「くっ……おい!ラハール!しっかりしろ!……なあ……ラハール……くそっ!」

 

だが既にラハールは息絶えていた……絶望に囚われるドランバルトだが自身も怪我をしていてろくに動けないまま会議室の中へ目を向けるとその目を見開く……

 

そこには議長のグラン・ドマを始めとする議員達の死体があった。

 

「そんな……誰か!無事な者はいないのか!?」

 

床を這いながら生存者を探すドランバルトの耳にか細い声が聞こえた。

 

「ドランバルトよ……」

 

「オーグ老師!よかった!ご無事でしたか!」

 

瓦礫に埋もれているオーグ老師を発見したドランバルトはすぐに助け出そうと痛む体にムチをいれる。

 

「ぐふっ!!」

 

「な!?」

 

だがその時……何者かが倒れているオーグ老師の頭を腕で押さえつけた。そして嘲るようにドランバルトへと視線を向けるとニヤリと口角を上げる。

 

その男は猫耳と尻尾を生やして首にスカーフを巻いた男であった。明らかに人間ではない……

 

「アカンアカン、あんたは生きてたらアカンわ。狙いは9人の議員全員やからな」

 

オーグとドランバルトはその言葉でこの男がERAを爆破した犯人である事に気付いた。

 

「爆」

 

そして男がそう呟くと同時にオーグ老師を押さえつけている男の右手が輝きだす。男が直前に呟いた言葉でドランバルドは最悪の想像をする……

 

「よ……よせ……」

 

「ドランバルト……お前は逃げろ……」

 

「できません!!」

 

「お前まで死んでどうする!」

 

そう言ってドランバルトたちに逃げるように言うオーグ老師。すると、男の右手がさらに輝きを増し始める。

 

「逃げられへんわ、オレの爆発からはな」

 

「行け!!ドランバルト!!」

 

ドランバルトは未だに動けない。確かに彼の魔法ならこの場から無傷で脱出出来るだろう……しかしそれは目の前のオーグ老師を見捨てるということだ。しかし怪我をしている自分には他にできる事がない……

 

「…………」

 

「オレの名はジャッカル。タルタロス九鬼門の1人や。地獄で思い出せや、評議院を皆殺しにした男の名をな」

 

「己の正義を貫く為に生きろ!!ドランバルト!!」

 

ジャッカルの右手の光がさらに増してそれが臨界に達した。直後に先程よりも強い爆発が起こり、ERAはさらに破壊される……

 

「オーグ老師ィィッ!!」

 

ドランバルトはオーグの名を叫びながらも間一髪で転移した。そうすることしか彼にはできなかった……

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル

 

数多くの依頼が舞い込んでくるフェアリーテイルは登録している魔導士達で賑わっていた。そんな中でツナはカウンターでコーヒーを飲みながらフェアリーリングに炎を灯して虹の炎を出す為に試行錯誤していた。

 

「出来ないなあ……」

 

「苦労しておるようじゃのう……」

 

マカロフが隣で酒を飲みながら話しかけて来る。さっきからずっと見られていたようだ。

 

「そこまで急ぐ必要はないのではないか?」

 

「いつゼレフやアクノロギアと対峙するか分かりませんからね。特にアクノロギアはジョットですら敵わなかった相手ですし……そういえばマスターはジョットに会ったことはあるんですか?」

 

「ワシが物心つくかつかないかじゃったからのう……会ったことはあると思うが……先代のプレヒトが言うには間違いなく当時のフェアリーテイル最強の男という話じゃ」

 

「そうですか……」

 

「じゃがお主はそんなジョットの強さを既に超えていると思うがのう……」

 

それはジョットに面識のあるバミューダにもかつて言われた事があった。

 

「確かにその自信はありますけど……ナツが未来のローグから聞いた話ではアクノロギアによって世界の人口の9割が減らされるという話ですからね……」

 

「確かにあの強さならばあり得ん話ではないな」

 

「それに……ナツが言っていたENDも気になりますしね……」

 

ナツがこの前の依頼で聞いてきたナツの育ての親であるイグニールが倒そうとして倒せなかったという話を聞いてそのENDを自分が倒すと気合いを入れている。

 

それだけでなくイグニールの居場所の手掛りになると考えているのだろう。ガジルとウェンディも真剣に調べていた。

 

-虹の炎と滅竜魔法か……-

 

3人のドラゴンスレイヤーを見ながらここにいないもう一人のドラゴンスレイヤーを思い浮かべる。マスターの知己であるヤジマの店の手伝いという依頼に雷神衆を連れて行っている。

 

ラクサスが店の手伝いなど出来るのだろうか?と失礼な事を考えていた時、エルザがマスターへ1つの報告を挙げたのが聞こえた。それはミネルバが闇ギルドに所属したということだった。

 

「ミネルバってセイバーの?」

 

「そうだ」

 

「闇ギルドにのう……奴の親父はセイバーの前マスターじゃったな?何をしとるんじゃ!」

 

「分かりません……一応スティングに一声かけておこうと思いますが」

 

「それがいいね……何か嫌な予感がするんだ。何かが起こりそうな気がする」

 

「ツナが言うとシャレにならないわよ」

 

「た……大変だぁ~!!」

 

「ほらね」

 

カウンターの向こうから声を掛けてきたミラの言葉に全員が苦笑しているとギルドの扉を壊す勢いでジェットとドロイが飛び込んで来た。手には新聞が握られている。

 

「騒々しいぞ!何じゃいったい!?」

 

「マ……マスター!これを見てくれ!!」

 

「いったい何じゃと言うんじゃ………………こ、これは!?」

 

新聞を読んだマカロフは驚愕に顔を染める。後ろから覗き込んだツナとエルザも絶句していた。

 

「評議院本部が……壊滅!?」

 

新たな戦いの幕は既に上がっていたのだった……

 

 

 

 

 

 

-ERA跡地

 

「タルタロス……」

 

ドランバルドが怨嗟の声を漏らす……彼に残されたのはタルタロスを壊滅させることだ。既に彼は戻れない所まで来ていた。

 

全てが謎に包まれたタルタロスの情報を得るために彼はオラシオンセイスのコブラが収監されている監獄へと足を向けた。

 

大魔闘演武の際のドラゴン襲来に対するために彼を一時的に釈放した事があった。その際にコブラはタルタロスに関する情報を持っている事を匂わせてきた。

 

それを教える対価は逮捕されているオラシオンセイスの全員を解放すること……彼らを外へ出すのは危険だが他に宛はなかった為に取引に応じた。

 

「奴らは全員がゼレフ書の悪魔か……」

 

手に入れた情報は役に立つものであったがよりタルタロスの脅威をより知らしめる結果になった……

 

「マスターの名はEND……」

 

亡き友と自分を逃がす為に死んだオーグ老師の為に必ずENDを倒す事を誓い、六魔全てを解放するために牢の鍵を取りに行くドランバルト……

 

「コブラ……ただで出してやると思うなよ……」

 

そう呟いたドランバルトはある人物に連絡を入れるために通信ラクリマを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

-???

 

巨大な城を思わせる建物の中で7人の男女が顔を合わせて話をしている……だが彼らは人間ではない。タルタロス九鬼門と呼ばれる彼らは全員がゼレフ書の悪魔だった。

 

「ゲヘヘ……ジャッカルさん派手にやりましたなあ!評議員9人の命の値段はおいくらか?おいくらか?」

 

堅甲のフランマルス……一つ目で恰幅の良い球体のような体型をしており鎧を着ている。

 

「フランマルス!下品な笑いかたはやめろ。品位が下がる」

 

晦冥のトラフザー……赤い鮫のような大柄な姿をしている。

 

「ジャッカルとテンペスターだけずりぃぞ!俺も早く人間を切り刻みてえ!!」

 

童子切のエゼル……藍色の肌で4本の腕にタコのような複数の足が特徴的な姿をしている。

 

「エゼルさん。まだ物語は序章にも入っていませんわ。前書きといったところですわ」

 

涼月天 セイラ……2本の角が付いたカチューシャに豹柄の着物が特徴の女性の姿をしている。

 

「その通りだ。慌てなくともそなたには存分に暴れてもらうつもりだ」

 

隷星天 キョウカ……鳥のような髪型や足に尻尾が付いた仮面を被った緑色の長髪の女性の姿をしている。

 

「祈り……囁き……そして冥府の祝福あれ」

 

漆黒僧正 キース……髑髏の仮面が特徴で、チェック模様の入ったマントに身を包み錫杖を持っている。

 

「ただ厄介な奴もいるんだろ?」

 

絶対零度のシルバー……両肩のプロテクターに左額に傷があり、髭面と両耳の十字型のピアスが特徴の中年男性……彼だけは人間のように見える。

 

「その通りだシルバー……そなたの前任の九鬼門だったリリスが完全に倒されたのだ」

 

「あのリリスが?何故ヘルズ・コアで再生されなかったのでしょうか?」

 

キョウカの言葉に疑問を抱くのは聞き返したセイラだけでなくここにいる全員が思っていた事だった。

 

「分からん……少なくともリリスの実力はここにいる者に劣るわけではない。さらに我らは敗れてもここのヘルズ・コアで再び甦る……それが成されなかったのは事実だ」

 

「倒した者も分からんのか?」

 

「どこかのギルドの魔導士らしいが……今度協力者に調べさせておこう」

 

「それがいいだろう……所でジャッカルとテンペスターはどこに行ってるんだ?」

 

トラフザーの質問にキョウカは魅惑的な笑みを浮かべて答える。

 

「ジャッカルは次の標的の元へそのまま向かうそうだ。テンペスターも今頃は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある店の前にフードを被った男が佇んでいた。フードでその容貌は分からない。その店の看板は『8アイランド』と書かれていた……

 

 

 

 

 

 

 




暑い日が続きます……夏バテ気味です。


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雷竜の意地

冥府の門編第三話です。お待たせしました。


 

 

-8アイランド

 

元評議員でマカロフの友人でもあるヤジマが経営するこの店では雷神衆が依頼としてお手伝いをしていた。大魔闘演武以降重い依頼が多かったのでエバーグリーン発案で息抜きも兼ねてこの依頼を選んだのだ。

 

ヤジマは新聞を読みながらかつて所属していた評議院壊滅の報に胸を痛めていた。

 

「こりゃあ大変だなぁ……」

 

「評議院を爆破するような奴……何者なのだろうか?」

 

「9人の議員も全滅……あんた辞めてて良かったねえ」

 

「バカタレ!不謹スンなことを!」

 

フリードは料理を作りながら、ビッグスローは盛り付けをしながらもその話題について考える。そこへウエイトレス姿のエバーグリーンが戻ってきて仕事をするように叱責する。ほのぼのとした雰囲気の店内に嵐が近づいているのにも気付かずに……

 

「所でラクサス君は?」

 

「道に迷ってるのか?」

 

「お使いも出来ないとは……仕方のない奴め」

 

「あら、噂をすれば……?」

 

店内に男が入店してきた。一瞬ラクサスかと思ったがその男はフードを被って顔を隠していた。

 

「ヒュル……」

 

「「「「!!??」」」」

 

男が呟いた瞬間に店が吹き飛ぶ程の巨大な竜巻が巻き起こって店を完全に破壊していた。

 

「何じゃあ!?」

 

「コイツは!?」

 

やって来た男はその身に風を纏いながらヤジマへと突っ込んで来る。それを庇うようにフリードとビッグスローが前に出るが……

 

「どどん」

 

「何っ!?」

 

「がっ!!」

 

二人の体に添えられた手から放たれた波動が二人を吹き飛ばした。

 

「くっ……妖精機銃!レブラホーン!!」

 

「ヒュル」

 

「きゃあああぁっ!!」

 

エバーグリーンの攻撃も簡単に弾き飛ばされて本人もそのまま壁に叩きつけられる。

 

「ヌヌッ!よくも!」

 

ヤジマは紙のように体を変化させて謎の男に巻き付こうと近寄るが……

 

「ボッ」

 

「ぐわあああっ!!」

 

男の体全体から炎が吹き出してヤジマを直撃する。

 

「ヤジマさーん!!」

 

「くっ!コイツいったい!?」

 

「まじいぜ!体が動かねえ!ヤジマさんが……」

 

男はヤジマの小さな体を持ち上げると竜巻を腕に巻き付けてヤジマの首を絞める。

 

「ぐううっ!!な……何者じゃ……」

 

「……我に名はない。九鬼門の一人……人類は我を厄災と呼ぶ……冥府の門は開かれた。人類に裁きを」

 

「ヤジマさん!!」

 

「冥府の門……タルタロス!?」

 

「コイツらが評議員を!?しかも元評議員まで狙っているのか!?」

 

男はフリード達の疑問には答えない。ヤジマを掴んでいる腕の竜巻が更に激しさを増していき、ヤジマの苦しみも増していく……

 

「ガアッ……ぐわあああっ!!」

 

「冥府へ堕ちろ」

 

「よせー!!」

 

「ちくしょう!!」

 

「ヤジマさーん!!」

 

動くことも出来ずにヤジマの命が消えていくのを見ていることしか出来ないフリード達は必死に叫ぶが男は反応一つしない。もはやこれまでかと思われた時、謎の男の腕に晴天にも関わらず雷が落ちる。

 

「ヌヌ!」

 

「ぷはぁっ!!」

 

思わずヤジマを放した男に再び雷が落ちる。フリード達は動けないが安堵の笑みを浮かべていた。自分達の信頼するリーダーが帰ってきたのだ。

 

「道には迷っちまったが……テメェを殺すのに迷いはねえぞ」

 

静かなる怒りを纏いながら雷神衆のリーダー、ラクサス・ドレアーがお使いから帰ってきた。

 

「なんだあ?コイツは?」

 

「タルタロスよ!ヤジマさんを狙って来たの!!」

 

「ほう……」

 

ラクサスを睨み付ける男は油断できないと感じたのかヤジマを一旦意識から外してラクサスに向き直ると雷でボロボロになったフードを引き裂く。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

謎の男は獣人のような姿をしていた。タルタロス九鬼門の一人『不死のテンペスター』の正体に全員が驚愕に顔を染める……

 

「人間じゃねえ!?まさかゼレフ書の悪魔かよ?」

 

「ヒュル」

 

「フン!だが前の奴の方が強えな……」

 

再び竜巻を纏ってラクサスに突っ込んで来るが相手が悪い……ラクサスは持ち前の雷を纏った高速移動で突進を躱してテンペスターを蹴り飛ばす。

 

壁に激突したテンペスターはすぐに立ち上がってラクサスに攻撃しようと目を向けるがそこにラクサスの姿はなかった。一瞬硬直してしまったテンペスターは自分の背後に立っている気配を見落としていた。その一瞬で勝負は決まった。

 

「相手が悪かったな……雷竜の顎!!」

 

「ぐぼおおおぉっ!!」

 

雷を纏ったハンマーパンチがテンペスターの頭を直撃する。地面に叩きつけられたテンペスターは地面に顔半分を埋めながら気を失っていた。

 

「さっすがラクサス!」

 

「見事な勝利だ!!」

 

「やっぱり漢ね~!!」

 

「ヤジマのじいさん。コイツどうするよ?」

 

「フム……評議院は壊滅スとるからのう」

 

ビッグスローは本部がダメでも支部とかあるだろうと反論したがヤジマはやはり無理だと首を振る。フリードがフェアリーテイルに連れ帰って目的を吐かせようと提案してエバーグリーンがノリノリで賛成していた。

 

だが……ラクサスは気を抜いてはいなかった。ツナが倒したリリスのように本に戻っていないからだ。その予感は正しくテンペスターは意識を取り戻す。ラクサスは倒れたままのテンペスターを警戒していた。

 

「フェアリーテイルか……これほどの力を持っているとは計算外……一度死ぬしかないか……」

 

「?……何言ってやがる?」

 

「相手が悪かった……ということだ」

 

「!!!」

 

テンペスターがいきなり弾けたように破裂すると辺りに黒い霧が拡がっていく……自爆かと思われた行動はこの魔障粒子を撒き散らす為だった。魔障粒子からテンペスターの声が聞こえてくる……

 

「こ……コイツは!?」

 

「この魔障粒子は空気中のエーテルナノを破壊して汚染していく……そしてそれは魔力欠乏症や魔障病を発生させる。それは魔導士にとっては死に至る病。唯一の弱点は再生の為に本部に戻らなくてはならん事」

 

「アンチエーテルナノ領域か!?」

 

「先程気になる事を言っていたな……リリスをやったのは貴様か?それとも貴様の仲間か?」

 

「さあな……自分で調べてみやがれ」

 

「……ならばそのまま死ね。冥府で会おう死人達よ」

 

テンペスターの気配が消え去っても魔障粒子は更に拡がっていく……

 

「とにかく逃げるんじゃ!風上へ!!」

 

「霧は吸い込むな!!」

 

「このままじゃ……ぐっ!!」

 

「ヤジマさ……うっ!!」

 

「ぐうっ!!」

 

「エバ!ビッグスロー!ヤジマさん!!くっ……まずい…………ラクサス?」

 

ビッグスロー、エバーグリーン、ヤジマは倒れて意識を失ってしまう。フリードは朦朧とする意識の中で仁王立ちするラクサスの姿を見た。

 

「ラクサス!何を……」

 

「誰も死なせねえ!!死なせねえぞぉ!!」

 

そしてフリードは目を見開き信じられないものを見た。ラクサスが魔障粒子を自ら吸い込んでいる姿を……

 

「おい……何を……?」

 

「ドラゴンスレイヤーの肺は少し特殊なんだ。こんなもん全部吸い込んでやる……グボォッ!ゲホッ!!」

 

「よせ……やめろ……」

 

咳き込みながらも魔障粒子を吸い込むのを止めないラクサスの顔には血管が浮き出ている。そして魔障粒子の濃度が薄くなっているのをフリードは感じていた。それはつまりあれだけ撒き散らされた魔障粒子がラクサスの体内に吸収されていると同義だ……

 

「必ず全員連れて帰れ……それがお前の仕事だ」

 

フリードにそう告げるとラクサスは仕上げとばかりに魔障粒子を吸い込んでそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「ラクサーース!!!」

 

フリードの悲痛な叫びが辺りに虚しく響いた……

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル

 

医務室の扉の前にフェアリーテイルのメンバー達が集まっている。その扉が開くと中からフェアリーテイルの顧問薬剤師であるポーリュシカが出てきた。

 

「ポーリュシカ!ラクサス達はどうなんだ!?無事なのか!?おいいぃっ!!!」

 

「生きてはいる……が体内を魔障粒子に酷く犯されている……中でもラクサスは生きてるのが不思議なくらいだ……」

 

「そんな……」

 

「治せねえのかよ!?」

 

「あたしには無理だ……その悪魔の血液でもあればワクチンを作れるかもしれないが……今はあの子に頼るしかないね」

 

ポーリュシカが医務室の扉を開けるとそこにはツナが顔の前で拳を握りしめてフェアリーリングに炎を灯している。祈るように目を閉じているツナを中心にドーム状に炎が形成されてラクサス達を包み込んでいた。

 

「ツナは何をやっておるんじゃ?」

 

「ツナは大空の調和の炎で結界のようなものを作っているのさ。これが多分一番効果があるだろうよ」

 

全員の視線がツナへと集中するがツナは気にせずに作業を続けていた。やがて炎とドームが消えてツナが目を開いた。

 

「ツナ!こやつらは大丈夫なのか!?」

 

マカロフの言葉に笑みで応えると心配しているギルドメンバーに向き直る。

 

「しばらくは動けないと思うけど体内の魔障粒子というのは全て消えてるはず……」

 

「確かに全て消えてるね。けど内臓まで犯されてたから回復には時間がかかるよ。ラクサスは特にね。ただ命の心配はなくなったよ」

 

ラクサスを中心に診察していたポーリュシカの笑顔とお墨付きもあってツナは息を吐き出した。それを見て沸き上がるギルドメンバー達。

 

「よくぞやってくれた!!」

 

「さすがはツナだぜ!!」

 

「すごいです!!」

 

「あんた達!!病人の前で騒ぐんじゃないよ!!」

 

騒ぎはピタッと止んだがそのせいかフリードの目が覚めたようだ。

 

「ここは……?ぐっ!!」

 

「まだ起きるんじゃないよ。体内の魔障粒子は消えたとはいえまだ身体の中まで痛みがあるはずだよ。ツナに感謝するんだね」

 

「ツナが治してくれたのか……ありがとう……ラクサスは!?」

 

「大丈夫。回復に時間がかかるかもしれないけど無事だよ」

 

「よかっ……た……ラクサスは……街を救ったんだ。ラクサスがいなければ街は……」

 

「分かっておる……お主もよくみなを連れて帰ってきてくれたのう……」

 

「街は……無事ですか……?」

 

フリードの質問にみんなは顔を伏せる……だがマカロフは笑みを浮かべておかげで無事だったと告げる。安心したフリードは再び眠りについた。

 

しかし実際は街には今も魔障粒子が漂っており魔力を持たない人間すらもその毒牙にかけているのだった……

 

誰もが沈痛な思いで彼らを見つめている……その中でツナはマカロフに願い出た。

 

「マスター……俺が街に行って魔障粒子の対処をしてきます」

 

「ツナ……」

 

「俺は大空の炎を纏っていれば魔障粒子に犯されることはありませんから……ラクサスが命を懸けて守ったものを無にはさせません」

 

ツナは血が流れる程に強く拳を握りしめていた……

 

「確かにお主に頼むしかないの……頼むぞい」

 

ツナは頷くとすぐに出発しようと入り口に向かうがミラやルーシィ、ウェンディも一緒に行こうとするので何とか宥める。魔障粒子への対処はツナにしか出来ないので3人は渋々諦めた。

 

ツナがギルドを出る時に後ろからナツの声が聞こえた。

 

「じっちゃん…………戦争だ!!」

 

ナツの宣言は全員の心情を表していた。タルタロスとの全面戦争が幕を開ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラクサスしばらく動けませんが魔障粒子は全て消えてます。


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黒き霧の街で

今回はラミアメンバーが出演してます。


 

 

-空中

 

ツナは魔障粒子に犯された街を救う為にヤジマの店がある街を目指して空を飛んでいた。発生からかなり時間が経過している為に少々焦っている。

 

-冥府の門……タルタロス……犯人はこの前のリリスのようなゼレフ書の悪魔という話だが……-

 

ツナはウォーロッドから聞いたゼレフについて考えていた。不老不死でありジョットにその命を終わらせてくれるように願った男……

 

-ゼレフは何の為に悪魔を造ったんだ……やはり自分を殺す為だろうか?ナツが言っていたENDも気になるが……いや、今は街を救う事だけ考えよう-

 

ほどなくするとその街が見えてきた。だがツナが見たのは黒い風が魔障粒子を閉じ込めている光景だった。

 

「あの風は……ん?あれは……」

 

知っている相手を見つけたツナは地上に降りていく。そしてその者の隣へと降り立つと炎を消して話しかけた。

 

「アルカディオスさん!」

 

「ん?ツナヨシ・サワダ?」

 

「アルカディオスさんどうしてここへ?」

 

「評議院が壊滅したので国の兵達を中心に救助隊を結成したのだがな……あまりに毒性が強い為に魔導士でない者すら命を落としているのだ」

 

「あの黒い風はシェリアですね?彼女も来ているのですか?」

 

「ああ、ラミアスケイルが異常に気づいて応援に来てくれた。彼女の魔法で魔障粒子が拡散しないようにしているがいつまで持つか……」

 

シェリア本人の魔力がいつまで持つか……街の住民全てを助け出すまで持てばいいが……と力なく項垂れるアルカディオス。だがツナの次の言葉を聞いたアルカディオスは顔を輝かせる。

 

「俺の炎なら魔障粒子を消し去る事は可能です。生きてる人には治療も出来ますので被災者をなるべく1ヶ所に集めて下さい」

 

「何と!?それはまことか!?分かった!すぐに手配する!ラミアの連中はあちらの方角にいる!」

 

そう言うとアルカディオスは部下達に指示を出しに駆けていった。絶望の中でたった一つの希望を見つけたようにその足取りは今までと違い軽かった。

 

アルカディオスが指し示した先ではシェリアが魔法を使っていた。恐らく長い時間使い続けていたのだろう膝を付いたまま必死に手を伸ばしていた。

 

従姉妹のシェリーがその体を支えていた。リオンは万が一シェリアが力尽きた時の為に氷の壁を作って救助された者達を守っている。ジュラは地面を操って街から生きている者を運び出していた。

 

「大丈夫!?」

 

「おお!ツナヨシ殿!!」

 

「どうしてここに?」

 

「ツナも手伝ってくれるの?」

 

「お久しぶりですわ」

 

「ああ!早速だけどシェリア、もう少し頑張って!すぐにあの魔障粒子を消し去るから」

 

「えっ!?消せるの!?」

 

「何と!?」

 

ツナはシェリアの風の壁が魔障粒子を散らさないように内側へ向けて吹いているのに気づいていた。

 

これだけの広範囲を風で覆う彼女の力量に感心しながらも相当に疲れていると思われる為に、時間はかけられないと思ってすぐにその風を利用することを決めた。

 

「そのまま内側へ風を向けてて!俺の炎を風に乗せて一気に魔障粒子を消し去る!」

 

「待て!それでは未だに街にいる者や街そのものも燃やしてしまうのではないか!?」

 

街には王国の兵士達が防護服を着込んで救助作業を続けている。

 

「安心して。燃やすのは魔障粒子だけだから。それを街にいる人達に伝えて欲しい」

 

「その程度なら私がやりますわ」

 

シェリーの言葉にツナは頷くとシェリアの後ろに立って自分の手をシェリアに重ねるように伸ばした。

 

「ツナ、街の人達を本当に助けられるの……?」

 

「……まだ生きてる人はね。でも少しでも多くの人を助ける為に力を貸して!シェリア!」

 

「分かった!あたしもがんばる!」

 

その言葉に笑顔でシェリアの頭を撫でるツナ。シェリアもさっきまでの不安顔から笑顔を見せた。そこへシェリーから魔法で街にいる者達に伝え終えたと連絡が入る。

 

それを聞いたツナはハイパー化すると手に炎を集め始める。

 

-シェリアの風と同調させるイメージで風に炎を乗せる……-

 

「いくぞ!シェリア!」

 

「うん!」

 

ツナの掌から放たれた炎はシェリアの風と混ざり合って街を覆っていく……その炎の凄まじさに思わずリオンもジュラも街にいる人達が心配になるがここはツナを信じるしかない。

 

ツナの炎は瞬く間に街中に漂う魔障粒子を消し去っていく。ジュラ達はその光景を感嘆の目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて全ての魔障粒子を消し去った事を確認したツナは炎を消してハイパーモードを解除した。

 

「や……やったの?」

 

シェリアも風を消して呆然としていたが魔障粒子が消えた事を実感すると恐る恐るツナへ問いかける。ツナが笑顔で頷くと喜びを全身で表現した。

 

「やったぁーー!!」

 

疲れも忘れてピョンピョン跳び跳ねるシェリアだったがその小さな体は確実に疲れ果てていた。

 

「あれ?」

 

「危ない!!」

 

ぐらついたシェリアを受け止めて抱えあげるツナ……シェリアはツナに抱え上げられていることに気付くと途端に顔を真っ赤に染める。

 

「ツ……ツナ!?だ……大丈夫だから!その……下ろしてもいいよ!?」

 

「シェリアが一番がんばってたんだから無理はしちゃダメだよ」

 

ワタワタと焦るシェリアを見てシェリーがクスリと微笑む。

 

「そうですわね。ツナヨシさん。しばらくそのまま休ませてもらえますこと?」

 

「もちろんいいですよ」

 

「ち……ちょっとシェリー!!」

 

「今病人達を1ヶ所に集めているみたいですし、それからまた貴方の力が必要になりますからそれまでお休みなさい。……それが愛!ですわよ」

 

「あ……愛!?」

 

「ウム、ではシェリアを頼みますぞ。我々は病人を運ぶのを手伝って来ますので」

 

「ツナヨシもそのまましばらく休んでてくれ……行きましょう。ジュラさん、シェリー」

 

ラミアメンバー達はシェリアをツナに任せると魔障粒子の消えた街へと走っていった。残されたシェリアは顔を真っ赤にしたまま顔を俯かせていた……

 

実はこの時シェリアはある程度回復していた。ツナの炎が魔障粒子を消し去った後、この一帯はツナの調和の炎により浄化されて空気が清められていた。

 

それはシェリアやウェンディにとってはものすごいご馳走と変わらない。さらに自己回復の出来るシェリアはもう立って歩く位は余裕だった。

 

それでも心地よさからシェリアはもう少しだけこのままでいたいと願っていた……

 

 

 

 

 

 

魔障粒子に犯されて救助された人々は1000人以上にもなったがこれでも街の総人口の3分の2にも満たない……残りの人々は既に命を落としていた。先程までは生きてる者のみを街の外へと運び出していたが、魔障粒子が消えた事で一部の兵士達は遺体を運び出している。

 

「…………!!」

 

「ツナヨシ殿……」

 

「くっ!俺にもっと力があれば……」

 

ツナは必死に大空の結界を構築するがこれはツナをもってしてもそれほど大きくは作れない。元々この結界はトゥリニセッテを持つ3人が炎を共鳴させて作り出すものだ。ユニと白蘭がいない現状では精々20人ずつしか治療出来ないうえ、時間もかかる。

 

「はあっ……はっ……次の人達を……」

 

「ツナ……」

 

「大丈夫ですの?」

 

症状の比較的軽い人達は一旦離れてもらって老人、子供、妊婦、そして命が危ない者を優先して治療したおかげで今すぐ命の危険のある者はいなくなったがまだ半数近くの病人が残っている……

 

既に日は暮れて夜になっていたがツナは休まずに治療を続けていた。それは友であるラクサスが命を懸けて繋いだ命を守る為だ。

 

「ツナヨシ・サワダ!ひとまず命の危険のある者は既に治療済だ!今日のところはもう休んでくれ!」

 

アルカディオスだけでなく治療を待っている人々からも声が上がる。彼らもツナがどれだけ無理をして治療をしてくれているかが分かっている。

 

「ツナヨシ殿!あなたが倒れてはこの街の人々はそれこそ助かりませんぞ!!」

 

「その通りだ!今はしっかりと休め!!」

 

「そう……だね……すみません。全員今日の内に治療しておきたかったのですが……」

 

治療を待つ病人達に頭を下げるツナだったが彼らはむしろツナに感謝して気にしないように伝える。

 

ツナはアルカディオスに夜中に急患が出た場合はすぐに伝えてくれるように伝言すると少し離れた場所へと腰を下ろした。

 

「シェリー、シェリア、ツナヨシ殿をしっかりと休ませてくれ」

 

「夜は俺とジュラさんで見ておくからな」

 

「容態が悪くなった人がいたらすぐに呼んでくださいね」

 

「分かりました。ではリオン、参ろう」

 

「はい!ジュラさん!」

 

ジュラはリオンと共に病人達に付き添いに離れていった。シェリーは炊き出しの所へと歩いて行く。

 

「二人の分も食事を貰って来ますわ。シェリア、頼みましたわよ」

 

「うん。任せて」

 

「シェリアもずっと回復魔法を使ってただろ?休まないと……」

 

「ツナほどは疲れてないよ。この辺りの空気はツナの炎のおかげですっごくおいしくて魔力もすぐに回復しちゃうから……ツナこそ疲れてるでしょ?大会の時みたく私から魔力を吸い取ってもいいよ?」

 

「一晩休めば回復するよ。……けどありがとう」

 

いくらなんでも試合でもないのにシェリアから吸収するのは憚られる。ツナはシェリアの頭を撫でてやんわりと否定した。

 

「それにしてもツナがいなかったら……」

 

ツナが来なければあのまま風の結界を張り続けた自分も回復より消耗が激しくて倒れていたとシェリアは確信していた。そうなると魔障粒子はさらに拡がってジュラ達も兵士達も全滅していたかもしれない。

 

「はあ……ツナは凄いなあ……」

 

「どうしたの?」

 

「ツナは強くて、頭もよくてみんなに頼られてる……あたしなんてドジで魔法しか取り柄がないのにみんなを治すことも出来ないんだもん……」

 

「そんなことないよ。シェリアががんばってくれたから今俺はこの街の人達を助ける事ができてるんだから……それに俺が君くらいの時、俺は何をやってもダメダメのダメツナって呼ばれてたんだから」

 

「えっ!?ツナが!?嘘でしょ!?」

 

あまりに衝撃を受けたシェリアはツナに掴みかかる勢いで聞き返してきた。そんな様子にクスリと笑うツナは嘘じゃないよと口にする。

 

「弱かった俺だけど……仲間がいるからどんな戦いも乗り越えられた。どんな強敵でも仲間と一緒なら怖くなかった。一人で出来る事なんてたかが知れてる……でも仲間がいれば自分に出来ない事を補ってくれる」

 

ツナは昔を思い出すように空を見上げてかつての仲間を思い浮かべる。

 

「俺にとってフェアリーテイルは大切な家族だ。でもギルドは違うけどシェリアだって俺の大切な仲間なんだからだからお互いに助け合えるんだよ」

 

ツナの笑顔と言葉にシェリアは顔を赤くして俯かせるとボソリと呟く。

 

「やっぱりツナは強いなぁ……」

 

向こうから食事を持ってきているシェリーの声を聞きながらシェリアはツナのようになりたいと強く願っていた……

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

「お疲れ様でした。ツナヨシ殿」

 

「これで全員の治療が終了したな……」

 

翌日は早朝から治療を始め、昼過ぎに全ての住民の治療を終えてホッと一息つくツナ……今日もかなりの炎を消費してしまったがラクサスが守ろうとしたものを少しでも守れたことに安堵する。

 

「まだしばらくは安静にさせて下さいね。体の内部まで痛んでいるらしいですから」

 

「ああ、陛下から医療部隊の増援と食料も届けられた。とりあえず私がしばらく残って指揮を取るつもりだ」

 

アルカディオスの言葉にツナを含めた魔導士達は頷いてこれまでの労を労う。

 

「そうだ!通信ラクリマを貸してもらえますか?フェアリーテイルにも報告しないと……」

 

「分かった。だがまずは昼食を食べて体を休めてくれ。ラクリマは食事が済んだ頃に持って来させる」

 

ツナは頷くとラミアのメンバーと共に食事を取る為に移動する。用意されていた食事は国王の計らいか外で食べるにも関わらず豪華だった。

 

「お腹すいた~」

 

「シェリア、レディにあるまじき言葉ですわよ」

 

「よいではないか。シェリアも疲れておるのだろう」

 

「ツナヨシは大丈夫なのか?」

 

「まあ、お腹は空いてるね」

 

ツナ達は体を休めると共に食事を食べ始める。途中で比較的軽い症状だった病人達が何人も礼を言いに来た。だが亡くなった者も多く悲しみに暮れている者もたくさんいた……

 

食事を終えた頃約束通り兵士の一人が通信ラクリマを持って来たので早速フェアリーテイルに連絡をいれる。

 

「ツナか?」

 

「マスター、魔障粒子の対処と生き残っていた人々の治療は完了しました。救えなかった人もたくさんいましたけど……」

 

「そうか、よくやってくれたのう……」

 

マスターはツナを労うがあまりに暗い雰囲気に何か起きた事を感じ取った……

 

「何があったんですか?」

 

「ツナ……落ち着いて聞いて欲しい。実は……」

 

マカロフから伝えられた事に驚愕と怒りを顕にすることになる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からフェアリーテイルVSタルタロスの戦いが始まります。


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突入!冥界島!

大変お待たせしました。ではどうぞ!


 

 

-魔障粒子対策本部

 

魔障粒子を消し去り病人の治療を終えたツナはフェアリーテイルに通信ラクリマで報告をする。しかし事態はさらに深刻化していた……

 

「ナツにリサーナ、エルザとミラまで!?」

 

「そうじゃ……ハッピーやエルフマンの話からすると間違いないようじゃ……」

 

「タルタロス……!!」

 

ツナがギルドを発った後、タルタロスへの報復へと動き出したフェアリーテイル。しかし相手は本拠地も分からない謎に包まれた存在……

 

現評議員だけでなく元評議員のヤジマも狙われた事によりロキの情報によって何人かの元評議員の住所を割り出して護衛につくことになった。

 

ナツ達のグループは唯一九鬼門のジャッカルを撃退してミケロ老師を守りぬいた。だが他の議員は既に殺されていた……そしてミケロ老師から狙われる心当りとしてフェイスという兵器の情報を得る。

 

タルタロスは大陸中の魔力を消し去るその兵器を起動する為に鍵となる3人の議員の命を狙い、無差別に襲っているようだ。だが鍵となる議員を知るのはおそらく元議長のみ。その為、元議長の元へ現在の最高戦力であるエルザとミラを派遣した。

 

フェイスの存在と元評議員の住所をタルタロスが知っていた為、元議長を怪しんだナツが家に向かうと荒らされた家と睡眠薬の匂いから二人が拉致された事を知る。

 

ナツは捕らわれたエルザとミラの匂いを追ってタルタロスの本拠地に乗り込んだが氷を操る男に捕らえられたらしい……ハッピーは泣きながら一人で脱出して情報を伝えたようだ。

 

「リサーナもですか……」

 

「うむ……エルフマンと一緒に行動してたのじゃが……」

 

「……?エルフマンは戻って来たんですか?」

 

「どうしようもなかったようじゃ……ひどく落ち込んでおる……」

 

ツナは違和感を感じた。確かにどうしようもなかったのかもしれないがあのエルフマンが目の前でリサーナを拐われて大人しく帰って来るだろうか……?

 

「奴らの目的はフェイスと呼ばれる魔導パルス爆弾を使って大陸中の魔力を消し去る事じゃ。奴らが使うのは呪力……そうなっては魔導士だけが魔法を使えなくなる」

 

「ああ……そういえば前に戦ったゼレフ書の悪魔も魔力とは違った力を使ってました」

 

「うむ……そしてフェイスは3人の評議員の命を封印の鍵としているらしい……誰かまでは分からんがな」

 

「その為に評議院を襲ってさらに元議員を殺害しているんですね……」

 

「そうじゃ……今レビィがタルタロスの本拠地の位置を割り出しておる。どうやら空飛ぶ移動要塞らしい。とにかくすぐに戻って来てくれい」

 

「分かりました。すぐに戻ります。では」

 

通信を切ったツナは捕らえられた仲間を……特に自分に好意を持ってくれるミラを心配しながらも必ず全員助け出すと決意を新たにする。

 

「フェイスの鍵となる人物か……」

 

ツナは何故か元評議員の青髪の青年の姿を思い浮かべながらラミアのメンバーに別れを告げて大空へと飛び立っていった……

 

 

 

 

 

-岩山地帯

 

ツナが思い浮かべた人物……ジェラールはウルティアとメルディが見守る中、オラシオンセイスのコブラ、エンジェル、レーサー、ミッドナイトと1対4で激闘を繰り広げていた。

 

何故彼らが戦っているかというとドランバルトがジェラールに連絡を入れて情報を得る為に釈放したオラシオンセイスを再び捕らえようとした為だ。

 

大魔闘演武の後で見逃してもらった借りを返す為にジェラールは快くその頼みを聞き入れた。ジェラール自身にもある考えがあり、一人で戦っている。

 

一方オラシオンセイス側はブレインは自分達を駒としか思っていないと心の声を聞いたコブラにやられて戦闘不能、ホットアイは既に改心している為に戦闘に参加していない……

 

オラシオンセイス4人を相手にジェラールは押されながらも拮抗する奮闘を見せていた。

 

「ねえウル……やっぱり私達も……」

 

「ダメよ。ジェラールを信じなさい」

 

メルディは旗色の悪いジェラールを心配し、色々あったが付き合いの長いウルティアはジェラールの考えを尊重している。

 

流星(ミーティア)!!」

 

「くっ!スピードで負けるかよ!!」

 

「おっと!毒竜爪牙!!」

 

「私達は自由を手に入れるんだゾ!!」

 

縦横無尽に戦場を駆けるジェラールだがレーサー、エンジェル、コブラの猛攻に徐々に追いつめられていた。だが傷を負いながらもその闘志はさらに燃え盛っている。

 

「エリック、ソーヤー、ソラノ、リチャード、マクベス……」

 

「「「「「!!」」」」」

 

久し振りに聞く自分達の本名に動揺するオラシオンセイス達……彼らは罪を犯した。だがそれは自分も同じ、いや自分はもっと大きな罪を犯している。だからこそジェラールは彼らの心を救いたいと思っていた。

 

「その先には自由はありはしない……再び闇の道を行こうとしているお前達を見捨ててはおけない!」

 

「うるせえよ!同じ穴の狢が!!お前が言えた事かよ!!」

 

「俺達はもう光には戻れねえんだよ!!」

 

「それは違う!俺達は……ガハッ!!」

 

ジェラールが言葉を紡ごうとした時、突如起き上がったブレイン……いや、ブレインのもう一つの人格であるオラシオンセイスのマスター、ゼロの指先から放たれた光線がジェラールを貫いた。

 

「ジェラール!!」

 

「死ねぇぇぇっ!!」

 

咄嗟に駆け寄るメルディの目の前で先程のよりも強力な光線がジェラールに直撃し、その体を消し去った。残されたのはジェラールの足首のみ……

 

「アーッハッハッハッハッハッ!!」

 

「うそ……そんな……ジェラール……」

 

「…………」

 

高笑いするゼロの目の前で崩れ落ちて涙を流すメルディ。ウルティアは顔色を変えずにただジェラールが消えた場所を見つめている。

 

「消し飛んだ……」

 

「マジかよ……」

 

突然の事にオラシオンセイス達も言葉もない。先程ブレインを攻撃したことで自分達も殺されるかもしれないと戦々恐々としていた。その中でミッドナイトだけが笑みを浮かべている。その瞳は怪しく輝いていた……

 

だが高笑いし続けるゼロの体に突如幾筋もの線が走った。そしてガラスが割れるような音と共にゼロのいた空間が砕け散った。

 

「ジェラール!?何で!?」

 

そこには五体満足なジェラールが存在していた。それを見たミッドナイトが困惑する。

 

「そんな!?僕の悪夢が……破られた?」

 

ゼロはブレインのまま倒れていた。全てはミッドナイトの魔法で作り出した幻覚だった。

 

「ジェラール!目を!?」

 

「まさか……自分で潰して!?」

 

両目を閉じて血を流すジェラールの姿を見て、メルディだけでなくオラシオンセイスの面々も驚愕する。だがジェラールは意に介さず行動に移る。ジェラールが構えるとオラシオンセイスがいる地面が輝きを放っていた。

 

「立体魔方陣!?いつの間に!?」

 

「まさかさっきの戦闘中に仕込んで……」

 

「七つの星に裁かれよ……七聖剣(グラン・シャリオ)!!」

 

天空に輝く七つの星から光が降り注いだ。オラシオンセイス達は光に飲まれて苦悶の表情を浮かべている……しかし既にジェラールは次の行動を起こしていた。

 

「ジェラールは二度と迷わないわ。闇に囚われず償いの道を歩き続ける……」

 

「ウル……」

 

「真・天体魔法……星崩し(セーマ)!!」

 

ジェラールの言葉と共に上空に厚い雲が渦巻いた。そしてその中心部より巨大な隕石が地上に落とされる。その隕石は眼下のオラシオンセイス達に直撃はしなかったがその余波は凄まじく地形すらも変えるその衝撃に吹き飛ばされ、もはやボロボロで戦意を失っていた……

 

地に伏すオラシオンセイス達にゆっくりとした足取りで近づくジェラール。だが抵抗する力すらない彼らは何故自分達を殺さなかったのか疑問に思う。

 

「何故……殺さなかった……?」

 

「お前達の道は俺が創る……」

 

「牢に……連れ戻すの……?」

 

エンジェルの質問に首を振る事で答えるとジェラールはミッドナイトの胸ぐらを掴んで体を起こす。

 

「独立ギルド魔女の罪(クリムソルシエール)……俺達のギルドに入れ」

 

「え……?」

 

「お前達の祈りは必ず届く……共にゼレフを倒すんだ!!」

 

ジェラールの心からの言葉は確かにオラシオンセイスの心に響いていた。だがジェラールはおろか誰もが気づいていなかった。ジェラールに起きた異常について……

 

 

 

 

 

 

 

-冥界島

 

キューブ状のタルタロス本部は今フェアリーテイルのあるマグノリア上空に差し掛かろうとしていた。

 

タルタロスの目的であるフェイス復活の為に必要な鍵は元議長の超古文書(スーパーアーカイブ)の魔法により戦闘中のジェラールから元議長へと譲渡された。

 

喜ぶ元議長だったが所詮は利用される存在……九鬼門のキョウカに殺害され、それによりフェイスの封印は解かれてしまった。

 

そして後は邪魔になるフェアリーテイルを一掃する為にリサーナを人質に取り、さらにセイラの命令(マクロ)に操られたエルフマンに強力な爆弾ラクリマを持たせて爆破させようとしていた。

 

「そろそろですわ」

 

「ふふっ……大きな花火があがりそうだ」

 

「グヘヘ……」

 

セイラ、キョウカ、フランマルスが見守る中フェアリーテイルのギルドが大爆発を起こした。建物は跡形もなく、黒煙が立ち昇る……

 

「御覧の通りですわ」

 

「よくやったぞセイラ」

 

「失った命はおいくらか、おいくら……ん?多数の魔力反応を確認!?」

 

「何だと!?モニターに映せ!!」

 

キョウカの指令に切り替わったモニターにはハッピー、シャルル、リリーが翼を生やして冥界島に向かって飛んでくる姿が映っていた。

 

「ネコ?」

 

「あの3匹はそれほどの魔力を持っているのか?」

 

「これは……いや!奴らが持っているカードの束!あれはフェアリーテイルの魔導士ですぞ!!」

 

「そんな……失敗した……?」

 

「アンダーキューブに重力場を展開しろ!兵を送り込んで奴らを叩きのめせ!!」

 

 

 

 

 

 

「ギルド壊れちゃったね……」

 

「カナの機転のおかげで助かったけど……」

 

様子のおかしいエルフマンを怪しんだカナが爆弾ラクリマを発見した。襲いかかって来たエルフマンをカードに封じると脱出の為に自分を含めて全員をカード化するとハッピー達に託していた。

 

ちょうどタルタロス本部が上空に来ていた事もありそのまま特攻するように指示を出し、間一髪で脱出に成功した。

 

「ぬおっ!これは!?」

 

「底面に引っ張られるわ!?」

 

「上手く飛べないよ!」

 

ハッピー達は立方体の底面に着地するが、そこに大量のタルタロスの兵が出現する。

 

「こんなにいっぱい出てくるなんて!」

 

「ご苦労さん!全員カード化解除!!」

 

カナにより全員カード化が解除されると共にフェアリーテイルの全員が突撃する。

 

「フェアリーテイル出陣じゃあ!!」

 

「「「「「うおおぉっ!!」」」」」

 

仲間を傷つけられ、ギルドを破壊された彼らの怒りは既に頂点に達していた。

 

「悪いが今日ばっかりは冷やしてやれねえ!!アイスメイク……氷槍騎兵(フリーズランサー)!!」

 

「はい!グレイ様!ジュビアも熱く燃えています!!水流裂鞭(ウォーターカーネ)!!」

 

「絶対みんなを取り戻すわ!お願い力を貸して!ロキ!!」

 

「もちろんさ!僕にとってもみんなは大切な仲間だからね」

 

「私も仲間の為に……アルタイル!!」

 

「行くッス!!」

 

「敵を掃討しつつ内部への道を探すのじゃ!」

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

自分のしたことは許される事ではないとエルフマンは地面に倒れ込み涙を流していた。それを横で見下ろしているカナの目は冷たい……

 

「正気に戻ったのかい?」

 

「……ううっ……俺は……俺は何て事を……」

 

「そうやってずっと泣いてる気?あんたが今やらなきゃいけない事は何?」

 

「…………分かってる。反省も謝罪も全て後だ。姉ちゃんとリサーナを助け出す!」

 

エルフマンは立ちあがり、戦場へと駆け出した。カナはそれを見て肩を竦めると自らも後を追った。

 

「フリード無茶はやめな!!」

 

「しかし……ラクサス達を守らねば……」

 

ポーリュシカが止めるのも聞かずに無理矢理体を起こしたフリードは術式を構築して未だに目を覚まさないラクサス達を守ろうとしていた。

 

「ツナのおかげで魔障粒子が消えたとはいえまだ無理できる体じゃないだろう?」

 

「だがせめて術式で結界を張るくらいは……」

 

「……こいつらを頼むぜフリード」

 

「「なっ!?」」

 

フリードとポーリュシカは聞こえてきた声に驚く……一番重傷だったはずのラクサスがフラフラと起き上がっていた。

 

「良かった!目が覚めたのかラクサス!」

 

「何するつもりだい!あんたが一番重傷なんだからね!!」

 

「タルタロスは許せねえ……俺はあの街を守れなかった……」

 

「…………」

 

ラクサスの後悔の言葉にフリードも俯く……マカロフは街は無事だと言っていたが今ならその言葉が自分達を気遣っての事だと分かる。

 

「無茶するんじゃないよ!それにツナが街の対処に向かったから無事な人達もいるはず……」

 

「だとしても!俺は自分が許せねえ!仲間も守れず、街も守れず結局ツナに頼っちまった!だからせめてタルタロスは潰す!!」

 

血が滲むほど強く拳を握りしめてラクサスは全身に雷を纏う……その怒りの表情を見たポーリュシカとフリードは溜め息をつくと止めても無駄だと悟る。

 

「まったく……そういう所はマカロフそっくりだね」

 

「行ってこい。無茶はするなよ?」

 

「……そりゃ無理だ」

 

そう言い残すとラクサスは雷を纏って凄まじいスピードで最前線へと向かった。

 

「雷竜の咆哮!!」

 

ラクサスが放った一撃に前線にいたタルタロスの兵達は吹き飛ばされる。

 

いきなり最前線へ現れたラクサスにフェアリーテイルメンバー達は驚愕した。さっきまで意識がなかった男が突然現れたのだからしかたがない。

 

「ラクサス!何やっとんじゃお前は!!」

 

「よおシジイ……決まってるだろ?タルタロスの連中をぶっ倒しに来たんだよ」

 

「ダ……ダメですよ!まだ安静にしてないと……」

 

「大丈夫だ。それにいつまでも寝てるとアイツに美味しい所持っていかれるからな」

 

「アイツ?」

 

「真打登場ってやつだな」

 

ウェンディを宥めながらある方向を指差すとその顔が心配する顔から笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

モニター室ではキョウカが兵達に指示を出しながらこの後の事について考えていた。

 

「フェアリーテイル……なかなか手強い相手のようだな……だが我らタルタロスには勝てん。人間にはやはり人質という手段が有功だな……」

 

捕らえているエルザを人質にしようと拷問部屋へと足を向けるキョウカ。そこへ焦ったようなセイラの声が響く。

 

「!進行方向より何かがもの凄いスピードでこちらへ向かってきます!!」

 

「何?モニターに映せ!」

 

「おや?人間ですなぁ~フェアリーテイルの一員でしょうかね……ん?止まりましたな」

 

モニターに映っていたのは額と両手に炎を宿した青年。先程までこちらに向かって来ていたが今は右手を後方に、左手をこちらに突き出して静止している。

 

「待て!奴は確か元議長からの情報にあった奴だ!」

 

「ではあの者がリリスを!?」

 

「やや!?エネルギーが急速に上昇していますぞ!その力はおいくらか!?おいくらか!?」

 

モニターに映る青年……ツナの突き出された左手にもの凄い力が集中されていくのを見てキョウカ達は戦慄する……

 

そして放たれる炎の奔流。その一撃はフロントキューブに直撃して冥界島を揺らす……

 

「きゃあああっ!!」

 

「な、なんとぉ~」

 

「くっ!何という一撃だ……なっ!?」

 

キョウカがモニターを見るとフロントキューブに大穴が開いていた。

 

「派手にやられましたな~この損害はおいくらか?おいくらか?」

 

「くっ!至急フロントキューブにも兵を回せ!」

 

「ダメです!既に内部に侵入されました!」

 

「奴の目的は仲間の救出か!?ただちに追跡しろ!」

 

ツナは立方体の冥界島の前面に開けた穴に脇目も振らずに飛び込んでいった。こうしてフェアリーテイル対タルタロスの死闘が幕を開ける事になるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回もお読み頂きありがとうございます。ペースは落ちてますが続けていきますのでどうぞよろしくお願いします。


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動き回る大空

本当に……本当に遅くなって申し訳ありません!まとまって書く時間がなかなか取れませんでした……


-冥界島

 

フェアリーテイルとタルタロスの全面戦争がついに始まった。内部への突入に成功したツナは直感の導くままに進んでいく。救出作戦に最も必要な物はスピード……時間をかけ過ぎると人質の命は危ない。その為にツナは単独で内部を進んで行く。

 

「ギルドは破壊されたがみんなは無事のようだ……なら俺のやるべき事は……」

 

-ナツ、エルザ、リサーナ……ミラ……絶対に助け出してみせる!!-

 

「いたぞ!侵入者だ!!」

 

「殺せ!!」

 

「邪魔をするな!」

 

「「「「ぎゃあああっ!!」」」」

 

行く手を塞ぐたくさんのタルタロスの下っ端兵達を蹴散らしながらツナは進む。そして牢屋のエリアにたどり着いて中を見ると目的の内の二人を発見した。

 

「ナツ!リサーナ!」

 

「「ツナ!!」」

 

二人は何とか無事のようだった。すぐに手刀で牢を焼き切ると二人の拘束を解除して自由にした。

 

「助かったぜ!!」

 

「よかった……エルザとミラは?」

 

「分かんない……エルフ兄ちゃんも……」

 

「エルフマンは無事だ……リサーナこれを」

 

「え?きゃああっ!ツナ見ちゃダメ!!」

 

ツナが自分の上着を差し出す。なにしろナツは全裸、リサーナも毛布を持っているとはいえ色々隠せていない……

 

結局リサーナはアニマルソウルで変身することで体を隠す事にしてナツは毛布を腰に巻いて急場をしのぐ事にした。

 

「エルザの匂いだ!!」

 

「急ぐぞ!」

 

通路を走っているとナツがエルザの場所を見つけたようだ。通路の途中でナツが立ち止まる。

 

「この壁の向こうだ!!」

 

壁を蹴破って中へ突入した。

 

「エルザ!!」

 

狭い部屋の中にはエルザが全裸で天井に吊られて立たされたまま気を失っていた。身体中は傷つけられ酷い拷問を受けていた事が見受けられた。天井には鎖に巻き付くようにヘビとカエルを足したような悪魔……ヤクドリガがいた。

 

「エルザから離れろ!!」

 

ツナの拳が突き刺さりヤクドリガは奇声をあげて意識を失った。その間にナツとリサーナがエルザを解放した。

 

「うっ……ナツ?」

 

「しっかりしてエルザ!」

 

「リサーナ……ツナも。助けてくれたのか……ありがとう」

 

「俺らもツナに助けられたんだけどな」

 

「エルザ!ミラ姉は!?」

 

「そうだ……ミラを助けなければ!!」

 

エルザの意識が一気に覚醒する。エルザは換装でサラシと袴に着替えるとすぐに部屋を出ようとする。

 

「しっ!待って、誰か来る」

 

ツナの声にナツとリサーナが扉の両側に隠れてツナとエルザが壊れた壁の向こうに姿を隠して扉が開くのを待つ。

 

扉から現れたのはキョウカだった。キョウカは鎖が外され、エルザがいないのに一瞬呆然とする。

 

「待ってたぞ!」

 

「捕まえたわよ!」

 

「なっ!?ソナタらどうやって牢を!?」

 

「俺らには頼れる仲間がいるからな」

 

「エルザはどこに……」

 

「ずいぶんとかわいがってもらったからな……たっぷりと礼はさせてもらうぞ」

 

「ミラの居場所も吐いてもらうよ」

 

壊れた壁の向こうからツナとエルザも姿を現す。

 

「エルザ……そしてソナタはリリスを倒した者……もうここまで侵入していたのか……」

 

エルザはキョウカを自分が捕らえられていた鎖に繋ぐと怪しい笑みを浮かべる。

 

「フフ……たっぷりとお世話になったお礼をしなくてはな……そう、たっぷりと」

 

「な……何をされたのかしら?」

 

エルザがミラの居場所を聞き出すとツナとナツ、リサーナに先に行くように指示する。3人は壁に開いた穴から飛び出していった。

 

エルザが何故フェイスを狙うのかを質問するとキョウカは特に黙秘もせずに質問に答えていく。

 

「ENDの復活……」

 

「そうだ。大陸中の魔力を消し去ればENDは復活できる。そして我らはゼレフの元へと還る事ができる。止めようとしても既にフェイスは起動している」

 

「なっ!?ではジェラールを……」

 

「安心しろ。殺してはいない。別の方法を使ったからな……所でお前を捕らえていたこの鎖は魔力を封じる事ができる……だが我らの呪力には効果がない!!」

 

ジェラールが生きていると聞いて安堵した隙をついて鎖を引きちぎったキョウカは伸ばした爪でエルザに襲いかかってきた。咄嗟に剣を出して攻撃を受け止めるエルザ……

 

「くっ!!ゼレフに還るということはお前達の死を意味するのではないのか!?」

 

「我らはその為に創られた!それは死ではなくゼレフと共に生きるという事だ!」

 

「信仰……いや盲信か」

 

「それが我らの生まれた意味だ!!」

 

「大事なのは生まれじゃない……どう生きるかだ!!」

 

キョウカはなおも攻撃を続けるがエルザは騎士鎧と突撃槍に換装して腰だめに構えるとその槍を体ごとキョウカに向かって突き出した。

 

 

 

 

 

 

アンダーキューブではタルタロスの兵を蹴散らしながら入り口を探しているフェアリーテイルメンバー達が暴れまわっていた。

 

「ええい!まだ入り口は見つからんのか!」

 

「雑魚が多すぎるぞ!!」

 

マカロフとラクサスが多数の兵を吹き飛ばしながらも苛立って叫ぶ。

 

「ツナはもう内部に突入してるから早くあたし達も行かないと……」

 

「ちっ!そうは言ってもよ……」

 

「このままじゃいつまでも進めませんね」

 

あくまでも目的は人質の救出とタルタロスの殲滅なのでここでいつまでもモタモタしていられない。その時、地面を突き破って飛び出してきた人影があった。

 

「はあああああっ!!!」

 

「「「「エルザ!?」」」」

 

エルザはキョウカと距離を離すと現状を把握しようとする。周りには仲間達の姿があり、何故か頭の上の方に地面があってかなり驚いていた。

 

「これは……」

 

「エルザ!無事だったのか!?」

 

「ツナのおかげでな。ナツとリサーナも無事助けられた。今3人はミラの元へ向かっている」

 

「さすがツナだぜ!!」

 

「あたし達も早く行こう!!」

 

「よっしゃ!この穴から突入するぞ!」

 

「ツナに続け!!」

 

「待ってろ!姉ちゃん!!」

 

グレイやルーシィ、ウェンディの他にも多数のメンバーがエルザの開けた穴に飛び込んで行った。その時、ラクサスがエルザに声をかける。

 

「さっきの奴は九鬼門の一人か?」

 

「そのようだ……」

 

「俺も借りを返さねえといけねえ奴がいる」

 

「なるほど……テンペスターが言っていたのはソナタだったのか……」

 

キョウカが戻って来て二人の会話に口を挟む。

 

「先程会ったリリスを倒した者といいソナタら二人といい人間にしてはやるようだな……だが!我らゼレフ書の悪魔に敗北はない!!」

 

「言っとくが夢魔を倒した奴は俺らよりもはるかに強えぞ?」

 

「行け!ラクサス、コイツは私がやる……お前はお前の倒すべき相手を倒せ!」

 

「任せたぜ!」

 

ラクサスは雷を全身に纏うとエルザが開けた穴へと飛び込んだ。そしてエルザは天輪の鎧に換装し直すと、気合いと共にキョウカへと向かっていった。

 

 

 

 

 

「多分こっちだ!」

 

「早くミラ姉を助けないと!」

 

ツナとリサーナは二人並んで通路を走っていた。ナツは途中で現れたタルタロス兵を食い止める為に残り、二人を先に行かせていた。

 

そして辿り着いたのはいくつもの水槽が立ち並ぶラボのような部屋だった。

 

「ミラ姉!どこ~!?」

 

「ん?こっちだ!」

 

ツナが示す方へと進むとそこにはミラが普通に歩いていた。リサーナはミラに飛び付いた。

 

「ミラ姉!!」

 

「リサーナ!それにツナも!!」

 

「無事だったんだね。よかった……」

 

「私怖かったわ!ツナ!」

 

「ミラ姉余裕そうだね……」

 

「ははは……」

 

ツナに抱きつくミラだがその怖がった顔は明らかに作った物であるのにツナもリサーナも気づいて苦笑していた。

 

ミラはタルタロスに捕まった後、このラボで悪魔に改造されそうになったらしい。だがその為に流し込まれた悪魔因子がミラを逆に救うことになった。

 

元々サタンソウルを使うミラは悪魔因子を持っており逆に悪魔因子を吸収することで力を得て脱出に成功したのだった。

 

ちなみに改造しようとしてたのはラミーと呼ばれる悪魔でこの場所、ヘルズコアの責任者であるラミーだ。ミラを醜い悪魔にしようとしたのはミラの美貌に対する嫉妬が最大の理由だったというしょうもない悪魔だ……

 

既にミラにやられて倒れているがイケメン大好きでツナが来た時には意識もないのに反応していた。

 

「私もツナに助けられて……そうだツナ!エルフ兄ちゃんは大丈夫だったの!?」

 

「……エルフマンはリサーナが捕まった事を伝えにギルドに戻って来たらしいけど」

 

「妙ね……エルフマンならリサーナを助けようと躍起になると思うけど……」

 

「……その者は私が利用させてもらいましたわ」

 

そこに女性の声が響く。ツナが咄嗟に庇うようにハイパーモードになって二人の前に出るとそこには九鬼門の一人、セイラが顔を伏せて佇んでいた。

 

「あ……私を捕まえた悪魔!気を付けて!コイツ人を操る!私もエルフ兄ちゃんも……」

 

「利用したってどういうことなの!?」

 

「彼に命令しましたの。爆弾を持たせてギルドと共に消えてもらおうと思いまして……」

 

「「「なっ!?」」」

 

「彼は本当に役立たずでしたわ。ギルドは跡形もなく壊してくれましたけど人員は全て無事なんですもの……本当に失敗しましたわ……」

 

「酷い……!!」

 

「何て事を……!!」

 

「私の物語を崩してくれた代償は高いですわよ……この代償は姉妹であるあなた達に支払ってもらいましょうか」

 

「そう……あなたが私の弟を……?へぇ……」

 

ミラが浮かべたのは笑みだったが目は全然笑っていない表情だった。その静かな怒りを感じ取ってリサーナすら怯えていた。

 

だがセイラは意に介さずツナに向き直ると腕を振って言葉を紡ぐ。

 

「タルタロス九鬼門、涼月天セイラが命令する。その女達を殺しなさい」

 

「「なっ!!」」

 

「私の呪力……『命令(マクロ)』の前には抵抗は無意味……先程見ていましたわ。あなたがこの男を愛している事を……さあ!愛する男に殺されなさい!」

 

ツナは振り返ると炎を灯したままの拳をミラへと構えるが……ミラは笑みを浮かべるとサタンソウルで変身してセイラへと突っ込んだ。

 

「な!?」

 

ツナが何もしなかった事に驚きながらもミラの一撃を躱した直後に衝撃が走って壁に叩きつけられた。立ち上がったセイラが見たのは自分に対して蹴りを繰り出したであろうツナの姿……セイラは唖然とする。

 

「ば……バカな!私の命令が効いていない!?」

 

「ツナがそんなものに操られる訳がないじゃない」

 

「ツナったら……一瞬焦ったよ」

 

「すまない。やり返したくてな」

 

「な……何故……?」

 

魔法、呪法……それは事象を操るという点では共通している。しかしそれは言い換えれば自然な状態を崩す……つまり調和を乱している事に他ならない。

 

ツナに対して特に毒物や精神操作等の状態異常などは炎を灯している限り通用しない。リリスの夢に堕ちてしまったのは京子の姿に動揺してハイパーモードを解いてしまったからだ。

 

-この男……この炎は……リリスがヘルズコアで再生されなかったのもこの男が原因!?この男!我らにとっての……天敵!!-

 

セイラは立ち上がるとツナを憎悪の瞳で睨み付ける。ツナも拳を構えるがそこへミラが前に出る。

 

「ツナ、この人は任せて。九鬼門というくらいだから後8人いるはずよ。みんなを守って」

 

「だが俺の方がやりやすいだろう?」

 

相手の命令はツナには効かない事が証明されたのでツナが戦う方が楽に倒せるはずだ。

 

「大丈夫。私にも対抗策はあるわ。この人は許せない……絶対に私が倒すわ」

 

心配するツナだがミラは引く気はないようだ。ツナとしてもさっきから妙にひっかかる嫌な感覚を感じていたのでそちらへと向かう事にした。

 

「分かった……気を付けろよ」

 

ツナはそのままもの凄いスピードでラボを出て行く……それを見送ってミラはセイラへと向き直る。

 

「愚かですね……彼がいれば勝てたかもしれないものを……」

 

「あなたの相手を誰かに譲るつもりはないわ」

 

「では私自ら殺してさしあげますわ」

 

 

 

 

 

 

ツナはラボを飛び出すと直感の示すままに進んで行く。先程から感じていた嫌な感覚……それが誰なのかまだ分からないがとてつもない存在がいるのは間違いない。

 

「ルーシィ!ウェンディ!」

 

「ツナ!」

 

「ツナさん!」

 

「おやおや~これはまずいですな~」

 

ツナが通路を飛んでいるとルーシィとウェンディ、ハッピーとシャルルがフランマルスに追われていた。

 

「コイツは?」

 

「九鬼門の一人よ!!」

 

「ツナさん大変なんです!フェイスが発動して早く止めないと!!」

 

「早くしないと大陸中の魔力が消えちゃうよ~!!」

 

「何だと!?」

 

「グヘヘ……もう手遅れだと思いますけどね~」

 

ツナは既にフェイスが発動していることに驚く……目の前の敵とさっきの嫌な気配、さらにフェイスを止めなくてはならない……

 

「私とシャルルで止めに行きます!!」

 

「ウェンディ……だったらナッツ!!」

 

「ガウッ!!」

 

ツナはボックスに炎を注入すると自身のパートナーであるナッツを呼び出した。

 

「コイツも連れて行け!相当な炎を込めたから簡単にエネルギー切れは起こさないはずだ!」

 

「ありがとうございます!行こうシャルル!ナッツちゃん!!」

 

「分かったわ!!」

 

「ガウッ!!」

 

「おっと~そうはさせませんよ~これでも喰らいなさい!」

 

「これって!?アリエスの技!?」

 

「させるか!!」

 

フランマルスはピンク色の泡を作って離脱するウェンディへと放つ。咄嗟にツナが割り込んで炎の壁を作ってそれを防いでいた。

 

「おやおや~逃がしてしまいましたか」

 

「何でアリエスの技を……アリエス、それにタウロスに何をしたの!?」

 

「グッヘッヘ……私の呪法『進化(レボリューション)』は魂を吸収してその能力を奪う事ができるのです……こんな風にね!」

 

「じゃあ二人はさっきの戦いの時に吸収されちゃったの!?」

 

そしてフランマルスは見せつけるようにアリエス、タウロスと顔を変える。どうやら追われる前に戦った時に二人は魂を吸収されてしまったらしい……

 

「何て事をするの!返してよ!あたしの大事な友達を!!」

 

「心配しなくてもあなた達も吸収して一緒にいさせてあげますよ。グッヘッヘ……あなた達の魂はおいくらかおいくらか~」

 

「このっ!!」

 

「落ち着けルーシィ!……強制閉門だ」

 

ルーシィを諫めた後にボソッと呟いたツナにその手があったかとルーシィはアリエスとタウロスの鍵を取り出す。

 

「アリエスを強制閉門!!」

 

「なぬ!?これはマズイ!アリエスを排除!!」

 

アリエスと共に星霊界へと送られそうになったフランマルスはアリエスを吐き出した。分離したアリエスはそのまま星霊界へと帰還していった。

 

「すみません~」

 

「続いてタウロスを強制閉門!!」

 

「おのれ~!タウロスを排除!!」

 

「んMO!?」

 

「やったわ!ツナ!ありがとう!!」

 

「さすがはツナだね!あったまいい~!」

 

「これで心置きなく戦えるな」

 

タウロスも解放して安心して戦えるようになった。対するフランマルスは怒りのあまり口調すら変わっていた。

 

「こんのガキどもがぁっ!!私の持つ魂の中でも最高級の姿を見せてやるぁぁっ!!」

 

そう言うとフランマルスの姿が変化していく……その威圧感にルーシィとハッピーの方はどこか覚えがあった。

 

「な!?まさか……アイツは!?」

 

「知ってるのか?」

 

逆立った白髪に髭……右目の眼帯、表情と体型こそ違うがその雰囲気は変わらない。

 

「マスターハデス!?」

 

「!?フェアリーテイル2代目マスターの!?」

 

「マズイよ!アイツ無茶苦茶強いんだ!」

 

「この魂は魔道の深淵に最も近づいた魂だぁっ!!天照二十八式!!」

 

ツナとルーシィの周りに魔方陣が浮かび上がる。

 

「マズイわ!」

 

「逃げないと!!」

 

「ルーシィ!ハッピー!動くな!!」

 

ルーシィとハッピーは慌ててその場から逃げようとするがツナがそれを呼び止める。振り返ったルーシィ達がツナを見るとツナの額の炎が激しくノッキングしていた。そして自分の周囲に展開されている魔方陣に優しく触れた。

 

「零地点突破・初代エディション」

 

眩しい光が空間を埋めつくして目を閉じたルーシィが再び目を開けると自分達の周囲に展開されていた魔方陣が全て凍りついていた。

 

「んなぁ!?魔方陣が凍って……いや私の呪力そのものを凍らせたですと!?」

 

「凄いよツナ!!」

 

驚いているフランマルスにツナは左手を向ける。右手は後方に向けているのでルーシィ達にもツナが何をしようとしているのか分かり、少し後方へと下がる。

 

「X BURNER!!」

 

ほとんど溜め無しで放たれた為に威力は冥界島をぶち抜いた時ほどでもないがそれでも高威力の炎の奔流がフランマルスへと迫る。しかしフランマルスは下品な顔で笑っていた。

 

「この炎の魂も頂きましょうかね~!!吸収!!」

 

ツナが放った炎は吸い込まれるようにフランマルスに吸収されていく。

 

「ツナの炎を吸収してる!?ってか炎の魂って何なのよ~!?」

 

「これはすんごい炎ですね~!!確かに頂きましたよ~!!」

 

そしてフランマルスは自らの体に炎を纏うとさらに下品な高笑いをツナへと向ける。

 

「グッヘッヘ!ありがとうございます!こんなに美味しく力強い魂は初めてですよ~!!この炎の価値はおいくらかおいくらか~!!」

 

「……そうか、喜んでもらえて何よりだ。何しろお前にとって最後だからな……存分に味わっておけ」

 

「なぬっ?それはどういう……な!なんですかぁ!?体が崩れる!?」

 

フランマルスの体にヒビが走り、体がボロボロと崩れていく……

 

「俺の炎は調和の炎……お前達のように作られた悪魔には毒に等しいようだな」

 

「なんですとぉっ!?こんのガキがぁっ!!」

 

激昂して体が崩れるのも構わずにこちらへと向かって来るフランマルス……こちらを吸収しようとしているのだろう。

 

「ぶへぇぇっ!?」

 

しかしツナは慌てずに炎を使った高速移動で後ろへ回り込むとフランマルスが認識する間もなく殴り飛ばした。こちらを吸収しようとするならそうされる前に倒せば問題ないということだ。

 

フランマルスは崩れていた体が完全に崩壊し、その体から無数の魂が飛び出して幻想的な光景を作り出していた。

 

「これ……全部あいつが吸収してた魂?」

 

「そうみたいだね~」

 

「ふう……みんな解放されたみたいだね」

 

ツナがハイパーモードを解くとその魂達は次々に消えていく。恐らく成仏しているのだろう。その時二人の背後から厳かな声が響く。

 

『マカロフに伝えよ。タルタロスの真の目的はフェイスにあらず。今こそ光を解き放てと……』

 

「マスターハデス!?」

 

「光?」

 

『そなたがジョットの血を受け継ぐ新たなる大空か……もう少し早く出会えていれば何かが違っていたのかもしれんな。私にその資格があるとは思えんが後を頼む……』

 

そう言うと他の魂と共にハデスの魂は消えていった……

 

「マスターハデス……」

 

「違う。最後の瞬間はあの人はフェアリーテイル2代目マスターのプレヒトだったよ」

 

「そうね!」

 

「あい!!」

 

「ツナ!ルーシィ!ハッピー!!」

 

「「ナツ!!」」

 

「ナツ~!!」

 

どこかで服を調達してきたらしいナツが合流すると、ハッピーは泣きながら抱きついて再会を喜んでいた。一人で逃げてきた事をずっと悔やんでいたらしい。

 

-ルーシィはナツに任せて俺はさっきから感じる嫌な気配の方へ行こう……-

 

先程から感じる黒く嫌な気配……それを確かめに行く為にツナはナツ達に声をかけようと歩み寄る。

 

そしてツナは出会う事になる。ジョットがその命を奪う(救う)事が出来なかった友……黒魔道士ゼレフに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これから仕事の方が忙しくなる時期なので更新は遅くなりますがご容赦下さい。


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小さき者達の戦い

何とか10月中に書けました。


 

 

-冥界島

 

「……という訳でルーシィはナツと一緒に行動してくれ」

 

「分かったわ……でも一人で大丈夫なの?」

 

ツナは先程から感じていた気配の元へと一人で行く為にルーシィの事をナツへと頼んでいた。ナツにしては珍しくツナについて行くとは言わずにその頼みを快諾していた。

 

「ああ、タルタロスの九鬼門はあと8人もいるしギルドマスターは別にいるかもしれないからね。ミラが一人相手にしてるけどそれでも俺達が固まってると後手に回りそうだ」

 

ツナにとってはゼレフ書の悪魔は大空の炎の力も相まって有利に戦える相手だ。だが他のメンバーには少し厳しい戦いになるだろう。

 

何とか戦えそうなのはマスターマカロフと大魔闘演武出場メンバーくらいだろう。それでもかなり苦戦することが予想される相手だ。

 

「後はマスターハデスの魂の伝言を何とかマスターに伝えて欲しい」

 

「分かったわ……でもフェイスが発動するまで多分後10分くらいしかないわ。ウェンディは大丈夫かしら……」

 

「大丈夫!シャルルもついてるから!シャルルはすっごく頭がいいんだよ!!」

 

「それにナッツもついてる。信じよう!」

 

ウェンディの心配をするルーシィにハッピーとツナが元気付けるように声をかけるとルーシィも多少不安は解消したらしく同意するように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

一方そのウェンディはシャルルの翼の力を借りてフェイスの場所のすぐ近くまで来ていた。タルタロスの指令室で得た情報ではフェイスの発動まで残り10分ほどしかない。シャルルもそれを分かっている為、限界ギリギリのスピードで空を飛んでいた。ナッツも平行するように着いて来ている。

 

「ドクゼリ渓谷の大空洞……あそこだ!」

 

「それにしてもこの子も速いわね」

 

「ガウッ!!」

 

そのまま空洞の一番下層までウェンディ達は一気に突入した。しかしそこでシャルルの魔力が切れてしまった。限界まで頑張ってくれたパートナーに礼を言うとウェンディはシャルルを抱えて見つけた横穴へと浸入して行く。ナッツもシャルルを気遣うように周囲を警戒していた。

 

「すごく空気がおいしいね」

 

「高原地帯だからでしょうね」

 

「グルルルル……」

 

「どうしたの?ナッツちゃん?」

 

ナッツは後ろに向かって唸るように吠えていた。不思議に思ったウェンディ達が振り返ると空気を切り裂いて斬撃が迫っていた。

 

「なっ!?」

 

空気を操るウェンディだからこそその斬撃の恐ろしさを一瞬で理解したが既に避けるのは不可能だった。咄嗟にシャルルを庇うウェンディだがここには頼れる存在がいた。

 

「グルル……ガオオオオッ!!」

 

ナッツが吠えるとその斬撃は空気に溶けるように霧散した。大空の炎である調和の力を持った咆哮は斬撃を空気と調和して無効化することに成功していた。

 

「ナッツちゃん凄い!ありがとう!!」

 

「さすがはツナのパートナーね。それよりウェンディ気を付けて!敵よ!!」

 

「ちっ!邪魔しやがって……」

 

ウェンディが声のした方を見ると藍色の肌で4本の腕にタコのような複数の足を持った悪魔が天井に貼り付いていた。一撃で仕留められなかったからか顔を怒りで歪めていた。

 

「あなたは!?」

 

「ガキと猫2匹か……腹に溜まらねえな。ちっ!キョウカの奴俺にこんな仕事を押し付けやがって!俺はタルタロス九鬼門、童子切のエゼルだ!」

 

「九鬼門!?シャルル!ナッツちゃんも下がってて!」

 

「なんだぁ?やる気か?」

 

「ウェンディ!逃げた方がいいわ!もう時間もない!」

 

「逃げられないよ!やるしかない!」

 

シャルルとナッツを下がらせたウェンディは相手の強さから逃げられないと判断し、自分の力を最大まで高めて速攻で敵を倒す決意をする。

 

「全属性耐性上昇神の王冠(デウスコロナ)!!全身体能力上昇神の騎士(デウスエクエス)!!」

 

「おっ?付加術士(エンチャンター)か?」

 

攻撃力倍加(イルアームズ)防御力倍加(イルアーマー)速度倍加(イルバーニア)付加(エンチャント)!!」

 

可能な限りの強化魔法を重ね掛けして能力を無理矢理引き上げたウェンディは大きく息を吸い込んだ。

 

「天竜の……咆哮!!」

 

ウェンディの口から放たれた咆哮は巨大な竜巻となってエゼルを飲み込んだ。勝利を確信するウェンディだったが……

 

「ハハッ!!無駄無駄ぁ!!俺に切り裂けねえ物はねぇんだよ!!」

 

エゼルが4本の太い腕を振るうとそこから先程と同じ真空の刃が放たれる。その刃はウェンディの咆哮をいとも簡単に切り裂いた。

 

「なっ!?」

 

「オラァ!いくぜ!天下五剣、鬼丸!!」

 

4本の腕をクロスさせてから振り抜いた4本の刃が迫るが上昇した身体能力でウェンディは何とか躱す。だがエゼルは執拗にウェンディを追い込んでいく。ただ腕を振るうだけで必殺の真空の刃を発生させる……それがエゼルの呪法である。

 

「くっ!天竜の鉤爪!!」

 

「効かねえ!!」

 

「きゃあああっ!!」

 

ウェンディはツインテールの片方をスッパリと切られながらも風を纏った蹴りをエゼルの顔面に撃ち込むが全く効果が無い。さらにエゼルはタコのような脚でウェンディを壁に叩きつけた。

 

「数珠丸!!」

 

「ウェンディ!!」

 

2本の腕からバツの字に放たれた真空の刃が倒れたウェンディに向い、シャルルの悲痛な叫びが響く……

 

「ガオオオオッ!!」

 

「んなぁ!?」

 

だがその刃は再び飛び込んだナッツの咆哮によってかき消された。さすがにエゼルも目を見開き、驚愕して動きを止めてしまった。さらにナッツは傷ついたウェンディの姿に怒り、エゼルを睨み付けて再び雄叫びをあげる。

 

「ナッツ……ちゃん……」

 

「グルルルル……ガアオオオオッ!!」

 

「ヤベエッ!?」

 

咆哮と共に放たれたオレンジの大空の炎を直感的にマズイと感じたエゼルは全力で回避しようとするが間に合わず脚の一本がオレンジの光に晒された。

 

「なんじゃあ!?こりゃあ!!」

 

自分の脚が石化しているのを見てエゼルは叫ぶ。だがナッツはエゼルにさらに猛攻を仕掛ける。天空ライオン(レオネ・ディ・チェーリ)Ver妖精(フェアリー)に進化したナッツは単独での戦闘力も以前よりはるかに上昇していた。

 

炎の翼で縦横無尽に飛び回り、爪に宿した大空の炎でエゼルを攻撃する。ウェンディ達から少しでも引き離そうとしているのだろう。

 

「このクソネコがぁっ!!調子にのるんじゃねぇ!!」

 

小さなライオン一匹に押されるエゼルは怒りのままに攻撃を繰り出すが凄まじいスピードを持ったナッツの小さな体には攻撃が当たらない。

 

「ウェンディ!大丈夫!?」

 

「うん……何とか……私も戦わないと」

 

「待ちなさい!先にフェイスを何とかしないと今戦ってるみんなも危ないわ!」

 

「でも……」

 

「ガウッ!!」

 

ナッツに任せて先に行くべきだと言うシャルルに対してウェンディは迷うがナッツがこちらを見る瞳は先へ行けと語っていた。

 

「ゴメン!ナッツちゃん!!」

 

促されたウェンディはシャルルを抱えてフェイスへと向かおうとするがエゼルはそれを見逃すつもりはなかった。

 

「このクソガキが!逃がすわきゃねえだろ!!斬撃モード!!」

 

エゼルは自身のエーテリアスモードを発動した。腕を漆黒の刃状にし、兜のような仮面を被った姿になる。エゼルの呪力が膨れ上がり腕が変化した刃をウェンディ達に向けて何度も振るう……

 

「きゃああああっ!!」

 

降り注ぐ斬撃の嵐を自分の風を使って何とか逸らしていくが力量の差がありすぎてウェンディ達は傷ついていく。

 

「おらおらおらぁっ!!」

 

「ガオオオオッ!!」

 

ナッツが再び割って入って斬撃を無効化していくがエゼルはお構いなしに次々と斬撃を放つ。遂に抑えきれなくなった斬撃がウェンディ達に襲いかかった。

 

「「きゃああっ!!」」

 

「グル……ガアウッ!!」

 

ナッツは自分達に襲いかかった致命的な斬撃だけは防ぎきったが全てを防ぐことは叶わず、ウェンディ達と共に吹き飛ばされ洞窟の岩壁ごと吹き飛ばされてしまった。

 

「うう……こ、これは!?」

 

壁を突き抜けたウェンディの目の前には巨大な顔の形をした物体が鎮座していた。

 

「これが……フェイスなの?」

 

「フン!その通り!後5分もすればフェイスは発動する……そして魔力は消え、俺達タルタロスの天下が始まる!!」

 

「ガアアアウッ!!」

 

エゼルの言葉を聞いたナッツは飛翔しながら再び爪に宿した炎で攻めたてる。しかし先程までとは違い、楽に捌かれてしまう。

 

「さっきまでの勢いはどうしたよ!?」

 

「グルッ……」

 

戦況を見守っていたウェンディもナッツの動きが鈍くなっているのに気づいた。

 

-そうか!ナッツちゃんはツナさんから貰った炎のエネルギーで動いてるんだった!当然使えば使うほどに炎は減っていくんだ!どうしたら……いや!私がナッツちゃんを守る!!-

 

ウェンディは自分の無力感を振り払い立ち上がると辺りの異常にはっとする。

 

-空気がおいしい?そうか!フェイスの周囲に高濃度エーテルナノ領域が形成されてるんだ!私に出来るか分からないけど私もナツさんみたいに!!-

 

「ウェンディ!!」

 

ウェンディはフェイス周辺の空気を思いっきり吸い込む。しかし高濃度エーテルナノが混じった空気を吸収することは言うほど簡単な事ではない。

 

ウェンディの小さな体に凄まじい魔力の奔流が流れ込んで激痛が走る……苦しみながらもウェンディは目をしっかりと開ける。そこには劣勢になりながらも必死に自分達を守るナッツの姿……

 

その姿に奮い立ったウェンディは体に走る痛みを無視してさらに大きく息を吸い込んだ。

 

ナッツの炎は戦闘開始時より明らかに弱くなっていた。エゼルの暴風のような連続攻撃からウェンディ達を守る為に既にツナから貰った炎を8割近く消費しているからだ。

 

「手こずらせやがって!これで終わりだ!!」

 

「!!」

 

今までにない巨大な一撃がナッツに迫る……ナッツも残り少ない炎を使って斬撃を調和しようとするが炎を吐く前にその斬撃は弾けるように消滅した。

 

「ガウ?」

 

「なんだぁ?」

 

ナッツもエゼルも突然の事で疑問を感じて横を見るとそこには洞窟の中であるにも関わらず竜巻が巻き起こっていた……

 

「ありがとうナッツちゃん。後は私に任せて」

 

「ガウッ!!」

 

「てめえは……本当にさっきのクソガキか?」

 

台風をその身に纏ったウェンディはゆっくりと歩いてきた。滅竜魔法の最終形態、ドラゴンフォースを発動させながら……

 

「あなたを……倒します!私の全てを賭けて!」

 

「ならてめえから刻んでやるよ!!」

 

エゼルは攻撃をウェンディへと向ける……しかし突如ウェンディの姿が消える。

 

-凄い力が溢れてくる!私は今、この空間の風を……空気を支配してるんだ!!-

 

「どこに行きやがった!?」

 

洞窟には足音だけが響きウェンディの姿を見失ったエゼルは刀になった腕を遮二無二振り回すがウェンディを捉えることはできない!

 

「はっ!!」

 

「ぐぬおっ!!」

 

ウェンディの蹴りを後頭部にくらったエゼルは思いっきり壁に叩きつけられた。先程までは何のダメージもくらわなかったのに今度は体の芯まで響くような痛みにのたうち回る。

 

「小娘が!!」

 

「遅いです!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

怒りのままウェンディに襲いかかったエゼルだがウェンディは再び消えると後ろに回り込んでエゼルを殴り飛ばした。

 

「こ……このっ……!?」

 

エゼルが振り返るとウェンディを取り巻く風がさらに激しさを増していた。ウェンディはその嵐のような風を束ねてエゼルに放った。

 

「滅竜奥義!照破天空穿!!」

 

「ぬおおおおおっ!!」

 

ウェンディの奥義をエゼルは斬撃を無数に放って相殺しようとするが力負けして体が傷ついていく。だが何とか耐えきったエゼルはボロボロになりながらもウェンディを睨み付ける……しかしその表情は凍りつく。

 

ウェンディの右の掌にさっき以上の風が集まって球状の塊を作り出していたからだ。凝縮されていく風を見て顔色を変えたエゼルは技の発動前にウェンディを殺そうと最強の技を繰り出した。

 

「死ねぇっ!!妖刀・村正一閃!!」

 

呪力を限界まで込めた一振りの斬撃がウェンディの首を目掛けて飛ぶ。

 

「ガアアアアッ!!」

 

渾身の一撃を横合いからナッツが咆哮で無効化する。この一振りに全てを賭けていたエゼルは呆然とその光景を見つめた後、ナッツを睨み付ける。

 

「クソネコがぁっ!!」

 

「これで終わりです!!」

 

ウェンディの声でナッツから視線を戻すとウェンディの掌にある風の塊が光輝いていた。その膨大な風を束ねるウェンディに恐怖を感じてエゼルは後ずさる。

 

「あ……ああっ……」

 

「天竜の……風魂(かざだま)!!」

 

「……っ……っ!!」

 

エゼルが風の塊をその身に受けた瞬間、超圧縮された風が膨張してエゼルの体を引き裂き、砕いていく。あまりにも強力な嵐にのまれて声をあげる事もできないまま……それに留まらず破壊の風はその後ろにあったフェイスをも粉々に砕いていた。

 

「はあっ!はあっ!やった!フェイスも壊れた!」

 

「ガウ……」

 

「ナッツちゃん?」

 

ほとんどの炎を使いきったナッツはヨレヨレとそれでもフェイスへと向かっていた。その行動に疑問を抱くウェンディ。まるでフェイスはまだ起動しているような……

 

「!?ま、まさか!!」

 

「……まだ止まってないわ。ウェンディ」

 

相棒のシャルルはフェイスに既に近づいて色々と操作をしていた。ウェンディには何をやっているのか分からない。

 

「シャルル……止められるの?」

 

「黙って!今無数の未来の中から最適な止め方を検索してるの。もう少しで……」

 

シャルルは一心不乱に装置を操作している。相棒を信じてナッツを診ようとしたウェンディだが不意に体の力が抜ける……

 

「あれ?」

 

ドラゴンフォースも解除されて体に全く力の入らなくなったウェンディはその場に倒れこんだ。朦朧とする意識の中でシャルルの動きが止まったのを見る。

 

「終わっ……たの?」

 

「ええ……後はここに触れればフェイスは自律崩壊して大爆発が起きるわ……触れた途端にね」

 

「そんな!それじゃ……」

 

それでは自分達も爆発に巻き込まれてしまう……ウェンディは口に出来なかったがそういうことだ。

 

「私ね……思うんだけどね、魔法がなくても生きていけると思うのよ。エドラスみたいにね……そりゃ色々と変わっちゃうけど生きていけるのなら……」

 

「ダメだよ!今みんなは戦いの真っ最中なんだよ!今魔法が消えたらやられちゃうよ!!」

 

シャルルはウェンディがそう答える事を分かっていたかのように微笑む。そしてその瞳には決意の光が宿っていた。

 

「ウェンディ……私はギリギリまで待ってからフェイスを破壊するわ。だからあなたはその子を連れて逃げなさい」

 

「な……に……言ってるの……?シャルルだけ置いて逃げられる訳ないじゃない!」

 

一瞬何を言われたか分からずに放心したウェンディだがすぐに反論する。だがシャルルは穏やかな顔でウェンディを諭す。

 

「ダメよ。すぐに逃げなさい。誰かがどうしてもやらなければならないのだから……あなたにはツナとの未来もあるでしょう。ここで死んではダメよ」

 

「ダメだよ!その未来にはシャルルもいなきゃ……シャルルがいなきゃ嫌だよ!!」

 

動かない体で這いずるようにシャルルの元へ移動するウェンディ……それを見たシャルルは怒鳴る。

 

「いいから早く逃げなさい!!」

 

「絶対に嫌!!シャルルを一人にしない!だって……シャルルは私の親友で相棒なんだから!!」

 

叫ぶウェンディにとうとう泣き出してそれでもシャルルは懇願するように怒鳴り付ける。

 

「お願いだから逃げて!!」

 

「……どのみち無理だよ。もう……逃げる力も残ってないんだから……だから最後までずっと一緒にいようよ」

 

「バカ……」

 

ウェンディが伸ばした手をしっかりとつかんだシャルル……二人共泣きながらも綺麗な笑顔を見せていた。

 

「ナッツちゃん……せめてあなただけでも逃がしたかったけど……」

 

「まだ飛べる?」

 

二人の問いにナッツはフルフルと首を振った。逃がすのは無理そうだと二人は顔を伏せた。

 

ナッツはウェンディに歩み寄ると苦労しながらもウェンディの肩によじ登った。

 

「ナッツちゃん?」

 

「何やってんのよ?」

 

「グルル……ガアアアアッ」

 

ナッツの体が光輝くとその形状が変化してゆく。そしてウェンディをすっぽりと覆って余りあるほどのマントに変化した。

 

「わっ!?このマントって……」

 

「ツナが使っていたやつね。私達を守ろうとしてくれてるのね……」

 

一世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレプリーモ)に変化したナッツだったが本来の持ち主のツナが使うのではなく自分に残された残り少ない炎を使って変化した為に防御力はツナが使っている時と比べて格段に落ちてしまう。

 

それでもナッツは最後の炎を使ってウェンディ達を守ろうとしている。それはウェンディとシャルルにも伝わっていた。

 

「心強いわね」

 

「そうだね」

 

二人はマントにくるまりながら笑みを浮かべた。しかし消耗しているナッツではこの爆発に耐えられないだろう事も予測がついた。

 

「シャルル……ずっと一緒にいてくれてありがとう。また私と友達になってね」

 

「当たり前じゃない」

 

二人は涙を流しながら笑顔で再会を誓う。悲壮感はなかったがウェンディにはたった一つだけ心残りがあった。

 

-ツナさん……-

 

思い出すのは強くて、優しくて、みんなの中心にいるツナの姿……初めて一緒にいった依頼の時の事、大魔闘演武での思い出、共にドラゴンと戦った時の事、どれもが大切な記憶だった。

 

「やるわよウェンディ」

 

「うん。一緒にね」

 

いよいよ時間が無くなって二人は手を重ねて装置に触れた。その瞬間、二人の視界は白い光に包まれた。ウェンディは自分を飲み込む光の中でツナを想う……

 

-ツナさん……大好きです!-

 

巨大な爆発と閃光が辺りを包み洞窟を跡形もなく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貫いた閃光は天まで届きその場にいた者達の生存は絶望的かと思われたが……

 

「間に合った!!」

 

洞窟からかなり離れた場所に突然人影が現れた。ドランバルトがダイレクトラインの魔法を使ってこの場に出現したのだ。そしてドランバルトは黒い塊を抱えていた。

 

黒い塊は光に包まれるとナッツに変化する。そしてマントに包まれていたウェンディとシャルルも無事な姿で現れた。全員意識を失っているが命に別状はないようだ。

 

「まさかフェイスを破壊してくれるとはな……こんな小さな勇者達が……」

 

ドランバルトは優しい顔を浮かべて3人の寝顔を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

ツナは巨大な扉の前で佇んでいた。この扉の向こうにいるのが何者かはまだ分からない……しかしツナの超直感はこの向こうにいる人物に会わなければならないと強く示していた。

 

意を決して扉を開くツナ……大きな音をたてながら扉は開いた。中にいたのは黒髪の少年と言うべき年齢の男だった……少年はツナを見ると口を開いた。

 

「待っていたよ。新たな大空……そしてさようなら」

 

「!!」

 

少年から黒く、死をもたらす波動が放たれてツナを包み込んだ…………

 

 

 

 

 

 

 




遂に出会ったツナとゼレフ……


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ゼレフとの邂逅

本当に遅くなって申し訳ありません。12月まで仕事が忙しく、寝る前にちょこちょこ書いてる状態です。でも続けるつもりですので応援よろしくお願いします。


 

 

-冥界島

 

ゼレフが放った闇の波動……それはゼレフが命を尊く思えば思うほど制御が効かず、周囲の命を奪ってしまうアンクセラムの呪いだ。

 

その危険さを瞬時に感じ取ったツナは咄嗟にハイパーモードになって両腕を顔の前でクロスしてガードした。だがそれでも脱力感があり、改めて目の前の男を見る……

 

目の前の男は笑顔で拍手をしていた。

 

「凄いね。僕のアンクセラムの呪いから逃れるなんて。それにその炎……やっぱり君はジョットの後継者なんだね」

 

「何故ジョットの事を……まさかお前は!」

 

「初めまして。僕はゼレフ……ゼレフ・ドラグニルだ」

 

「ドラグニル……?」

 

「弟がいつもお世話になってるみたいだね。それで君の名前は?」

 

「ツナヨシ・サワダだ……弟とはナツの事なのか?」

 

「そうだよ。僕の愛すべき弟……僕を殺してくれたかもしれなかった存在だ」

 

嘘を言っているようには見えない……そしてやはりウォーロッドから聞いた通りゼレフは死にたがっているようだ。だがツナはその言葉を過去形で言った事に疑問を感じた。

 

「今でも死にたがっているのか?」

 

「……いや。もうそれは諦めた。僕は全ての人間を滅ぼす事に決めたんだ」

 

「なっ!?」

 

「竜王祭は近い……竜と魔と人との戦いの幕があがるよ。竜の王アクノロギアの前には人の力は無力……ならば僕が竜の王と人間を滅ぼす」

 

「何故そう極端から極端へ走るんだ?人間と協力してアクノロギアを倒そうとは思わないのか?」

 

「僕のアンクセラムの呪いは人を尊く思えば思うほど強くなるんだ。僕が人間の為にアクノロギアと戦おうとすればこの死をもたらす呪いはさらに強さを増すだろうね」

 

ツナは絶句する。あまりにも過酷な運命をゼレフは背負っていたのだ。

 

「だからタルタロスに来たのか?人間を滅ぼすのを手伝わせる気か?」

 

ゼレフは首を横に振る。

 

「彼らはもう用済みさ。かつて僕を殺そうと造り出したモノだけど役に立たないだろうし。ENDは別だけど、彼らがENDを復活させられるとは思えないしね」

 

「ナツが言っていた最強のゼレフ書の悪魔の事か……」

 

「そうか……どうやらまだのようだね……」

 

ゼレフはツナに聞こえない程の小さい声で呟いた。気にはなったがそれを問う前にゼレフが口を開いた。

 

「僕の目的はルーメン・イストワール……いや永久魔法フェアリーハートを手に入れる事だ」

 

「その名前は確か……」

 

ツナは以前ラクサスにこっそりと聞いてルーメン・イストワールという名前だけは知っていた。フェアリーテイルの最高機密でマスター以外にはその詳細を知る者がいない。

 

「その力を手に入れればアクノロギアも倒せる。僕が竜王祭を制するのに必要だからね」

 

「……させない。俺がみんなを守る!」

 

ツナの額の炎が激しく燃え盛るのをゼレフは愉快そうな笑顔で見つめる……

 

「僕を殺すのはジョットですら無理だった……君に出来るのかな?」

 

「……ジョットはお前を殺したくなかったんじゃないのか。友人だったんだろう?」

 

「だからこそ殺してくれると思っていたんだけどね……さて、ここで戦うとタルタロスの連中に見つかってしまうからね。場所を移すよ」

 

「!!」

 

ゼレフが指を鳴らした瞬間にツナとゼレフの姿はこの場から消え去った……

 

 

 

 

 

 

ツナが去った後のヘルズ・コアではミラジェーンとセイラ、リサーナとラミーがそれぞれ戦いを続けていた。

 

リサーナはラミーに対して優勢に戦っていたがミラはセイラとほぼ互角の戦いをしていた。

 

「先程の者といいあなたといい命令(マクロ)が効かないのは厄介ですね」

 

「私達を甘く見ないで」

 

「確かにあなたやあの男は強いですわ。しかしあなたの弟はそうでもないようですね。マクロも効きましたし、命令通りギルドを破壊してくれましたわ」

 

ミラは弟を侮辱するようなセイラの言葉に怒りを感じるが次の言葉を聞いて顔色を変える。

 

「一度私のマクロに掛かった者は私の自由になりますわ。遠隔操作で自殺させる事もできますのよ」

 

「やめて!!」

 

「それはあなた次第……っ!!エゼル様!?」

 

エルフマンの事で動揺するミラに追い打ちをかけようとするセイラだが突如ボロボロのエゼルがこの部屋に多数あるカプセルの中の一つに現れた。

 

「これはいったい……?」

 

「あのクソガキとクソネコがぁっ!!絶対にぶっ殺してやる!!セイラ!さっさと治しやがれ!!」

 

「今手が放せませんの。もうしばらくお待ち下さいませ」

 

「早くしろぉっ!!早くあのクソガキとクソネコを殺してえんだよ!!」

 

「いったい何なの……?」

 

「ファファファ……ここはタルタロスの復活地点なのよ!私達ゼレフ書の悪魔は敗れてもここでこうして復活できる。私達は不死のギルドなのよ!!」

 

ミラは絶句する。その話が本当ならば九鬼門を倒しても時間があれば復活出来るということだ。

 

「ラミー様、喋り過ぎですわ。私が戦っている間にエゼル様を」

 

「ハイハ~イ!では早速……アレ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「フランマルス様も倒されたみたいなんだけど……ヘルズ・コアに戻ってない!?」

 

「なっ!?どういう事ですの!?それではリリスの時と同じではないですか!?……まさかさっきの男が!」

 

機械を操作しようとしていたいつもふざけているラミーの珍しく焦った声にセイラも取り乱して問い詰めている。その隙をミラとリサーナは見逃さなかった。

 

「リサーナ!」

 

「うん!」

 

「きゃあああっ!!」

 

「ゴヒュ~!!」

 

片やサタンソウル、片やアニマルソウルで変身していたストラウス姉妹はそれぞれの敵を殴り飛ばした。

 

「くっ!あの男はやはり危険ですね……我らを完全に滅する存在ということですか……」

 

「さすがはイケメン……」

 

「そ……それ関係あるの?」

 

ラミーの言葉に呆れたように返すリサーナ。その光景に苦笑しながらミラはセイラに向き直ると不敵な笑みで宣言する。

 

「あなた達が復活するというのならまずはここを壊した方が良さそうね」

 

「あなたにそれが出来ますか?」

 

「簡単よ?」

 

そう言うとミラはサタンソウルを解除する。それを訝しげに見つめるセイラだが……

 

「え?」

 

次の瞬間、ミラの横にあったカプセルが爆発するのに目を見開いて驚愕する。

 

さらに次々と部屋にある円筒形のカプセルが爆発していく。エゼルが入っていたカプセルも当然破壊され、エゼルは怒声をあげながら消滅していった……

 

「な……何故……?」

 

「テイクオーバーよ。さっき捕まってた時にこの触手を全て支配下に置いていたの」

 

カプセルの中にはミラを改造しようとしていた触手が入っている。それを爆発させたようだ。

 

「そ……そんな……」

 

「アホな……」

 

「さっすがミラ姉!すごい!!」

 

「ここからが本当の勝負よ!!」

 

再びサタンソウルで変身したミラだが、目の前のセイラは俯きながら体を震わせていた。

 

「……のれ……くも……」

 

「え?」

 

「おのれぇぇっ!!よくもぉぉっ!!」

 

顔をあげたセイラは怒りにその美貌を歪ませていた。そして黒いモヤがセイラを覆ったと思うと肌が変色し掌に目がある露出度の高いエーテリアスフォームに変身していた。

 

突然膨れ上がった呪力に気圧されないようにミラも魔力を練り上げる。

 

「殺す!!」

 

「肉弾戦がお望み?受けて立つわ!!」

 

二人は正面からぶつかり合うが……

 

「きゃあああっ!!」

 

「ミラ姉!!」

 

吹き飛ばされたのはミラの方だった。しかもたった一撃でサタンソウルが解除される程のダメージを負ってしまう。

 

何とか立ち上がったミラだがセイラは今までの上品さをかなぐり捨てたような言葉を放ちながら猛攻を仕掛けてきた。致命打を何とか避けつつセイラをテイクオーバーしようとするが……

 

「無駄だ!私にそんなものは効かん!!我は我に命令する!目の前の敵を八つ裂きにせよ!!」

 

「あぁああっ!!」

 

「ミラ姉ぇっ!!……あうっ!」

 

「ファファファ!セイラ様が本気になったからにはアイツも終わりだよ。じっくりと姉が殺されるのを見なよ……所でさっきのイケメン紹介して」

 

蹂躙される姉を助けようとしたリサーナをラミーが押さえつける。エーテリアスフォームになったセイラは自分自身にマクロをかけ、さらに魔眼を解放したことによって圧倒的な力を発揮していた。

 

圧倒的な暴力に曝されたミラは子供の頃の記憶を思い出す……教会に巣くう悪魔を退治した代償として右腕が変質して村人達から悪意を向けられるようになってしまう。それが自分だけなら耐えられたがエルフマンとリサーナにも向けられるのは耐えられなかった。

 

村を出てフェアリーテイルに拾われた後も二人はすぐに馴染めたが自分はそうではなかった。

 

ミラは自分の力が嫌いだった。悪魔の力を宿すサタンソウル……それは自分だけでなく周りの人間にも悪意をもたらすと考えたからだ。

 

二人が笑顔でいるのを嬉しく思い、安心して一人でフェアリーテイルを去ろうと思ったが二人は自分と同じ魔法を覚えてこれでお揃いだと言ってくれた。

 

フェアリーテイルの仲間達は誰一人としてサタンソウルに悪意を向ける事なく逆に凄いと言ってくれた。

 

-私の大切な家族……そしてツナ……-

 

 

 

 

 

 

本当はツナに初めてサタンソウルを見せる時は躊躇した……ツナなら大丈夫と信じていたがもしも悪意を向けられたらと思うと怖かった。

 

『怖くないの?ツナ……』

 

『何で?』

 

『だってこれ……悪魔の力だし……姿も悪魔みたいだし……』

 

『全然。世の中にはもっと悪魔みたいに怖い奴らもいるし……』

 

その時のツナは某家庭教師や某風紀委員長、某暗殺部隊のボス、某女教官の姿を思い浮かべて体を震わせていた。

 

『俺みたいなマフィアの力と違ってその力は家族を……大切な者を守る為の力だろう?そんなミラの力を怖いなんて思えないよ』

 

『ありがとうツナ……でもツナの力だって大切な人を守る力だと思うわよ?』

 

『そうありたいと願ってるよ』

 

 

 

 

 

 

 

-私の力は大切な家族を守る為の力!みんなを守る為なら私は……悪魔で構わない!!-

 

大きなダメージをを受けてフラフラになりながらもミラはセイラの足にしがみついた。無駄な足掻きと嘲笑うセイラだが急に感じた脱力感に慌ててミラを蹴り飛ばした。

 

-今の感じは!?テイクオーバーされそうになっていた!?そんなバカな!!-

 

「最早これ以上付き合ってられん!すぐに殺してやる!!魔眼解放!!」

 

ミラの肉体を消し飛ばそうと魔眼の力を最大に高めて一撃を放とうとするセイラを見てミラは笑みを浮かべる……

 

「確かに私にはあなたをテイクオーバーするのは無理だけど思った通り一部なら可能だった……命令する権利をあなたから頂いたわ」

 

「……!!このぉぉっ!!」

 

「……エルフマン。家族の元へ来て」

 

セイラから奪ったたった一つのマクロがその命令を遵守させる……

 

「うおぉぉぉぉっ!!!姉ちゃんは俺が守る!!」

 

「ガハァァァァッ!!」

 

命令に導かれてやって来たエルフマンのビーストソウルの一撃はセイラを倒すのに充分過ぎる一撃だった。天井を破って現れたエルフマンにセイラは対応できないまま沈むことになった。

 

「エルフ兄ちゃん!!」

 

「オワタ……」

 

リサーナの歓喜の声とラミーの絶望の声を聞きながら頼りになる弟を見つめてミラは笑顔を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「X BURNER!!」

 

ツナの掌から放たれた巨大な炎がゼレフを飲み込んだ。掛け値なしの全力で放った炎をまともにくらって吹き飛ばされながら崩れ落ちるゼレフ……

 

「はあっ!はあっ!!」

 

だがツナの表情は優れない。何故なら……

 

「もの凄い破壊力だね」

 

「くっ!」

 

立ち上がったゼレフの体の傷が瞬く間に癒えていくのだった。こんな光景が既に何度も繰り返されていた。

 

「どうやら君でも僕を殺せないようだね、それに大分疲れているようだけど?」

 

「これが……不死の力……」

 

「でも想像以上の力だよ……はっきり言ってジョットを超える者がいるとは思わなかったよ」

 

ゼレフの造り出した閉鎖空間に連れて来られたツナはゼレフと戦い始めた。序盤はツナが圧倒していたかと思いきやゼレフはどんなに攻撃を与えてもすぐに復活してしまう……

 

ただでさえ今日は魔障粒子に侵された人々の治療で炎をかなり消費している上にそのまま突入したタルタロスでの戦いと何度も復活するゼレフとの戦いでツナの炎は底を尽きかけていた。

 

-どうする?死ぬ気の到達点を使うか?いや、今使っても僅かな時間しか持たない上に炎が完全に底を尽いてしまう……-

 

焦るツナを見ながらゼレフは笑みを深めると朗らかにツナに語りかける。

 

「ここまでにしよう。今日は君の力を確かめたかっただけだからね。その代わり少し話をしようか」

 

「何の話だ?」

 

タルタロスと戦っているみんなの事は気になるが正直今の自分ではゼレフに勝つのは不可能なので少しでも情報を得る為に話を聞く事にした。

 

「君が知っているかは分からないがこのイシュガル大陸の西のアラキタシア大陸にはアルバレス帝国という国がある。僕はそこの皇帝をやっているんだ」

 

「は……?」

 

「だから僕は西の大陸アラキタシアのアルバレス帝国の皇帝なんだ」

 

「……?だがお前は死をもたらす呪いにかかっているんだろう?どうやって国を率いているんだ?」

 

「大丈夫さ。人を駒……ユニットと思えば呪いは発動しないからね。その国は700以上のギルドを纏めて作ったんだ。このイシュガルのギルドの総数は100ちょっとだから凄い数だろう?」

 

「それで?何が言いたいんだ?」

 

「僕はフェアリーハートを手に入れる為にその国の全軍をあげてイシュガルに侵攻するよ」

 

「何っ!?」

 

あっさりと目的を話すゼレフに驚愕するツナ……

 

「まあ今すぐじゃないよ。まだしばらくは帰らないつもりだしね。だけど君達には勝ち目はない……最強の12人、スプリガン12ははっきり言って君以外では相手にもならないからね」

 

「スプリガン12……」

 

ゼレフにナツはおろかエルザやラクサスでも敵わないと言わしめるスプリガン12……未だその全貌すら分からない強敵の出現にツナの心に衝撃が走る……

 

「確かに君は強い……はっきり言って一対一ではトゥエルブでも分が悪い。だがトゥエルブの中でも別格とされる3人を纏めてぶつければ勝てる」

 

「……そうまでしてお前が求めるフェアリーハートとは何なんだ!?」

 

「永久魔法フェアリーハート……その名の通り無限に魔法を使えるフェアリーテイルの最終兵器。魔法の理を根底から覆すもの。それは……」

 

ゼレフの笑顔が悲しげに陰る……そして顔をあげるとツナに向かって衝撃の一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「僕がかつて愛した女性……フェアリーテイル初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンの心臓だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ナツ達フェアリーテイルメンバーより先にゼレフの目的を知ったツナでした。


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アレグリア

地獄の12月を終えてようやく僅かばかりの正月休みに入りました。お待ちになっていてくれた読者の皆様には大変感謝しています。これからもよろしくお願いいたします。


 

 

-冥界島

 

「はあああぁっ!!」

 

「ちっ!」

 

エルザの鋭い剣閃を紙一重で避けながらキョウカは苛立っていた。本来ならとっくにフェイスが発動してもいい時間である。だが目の前の女魔道士は魔力を失う事もなく次々に剣や鎧を換装しながらこちらを攻め続けている。

 

それが意味するところはフェイスの発動に失敗したということだ。万全を期してエゼルまで配置したというのにこんな結果になった事に内心でエゼルに毒づく。

 

-役立たずめ!-

 

確かに目の前のエルザを含め数人は九鬼門でも苦戦する者もいるようだがそれでも自分達ゼレフ書の悪魔が負ける程ではないはずだとキョウカは自信を持っている。

 

-フェイス計画が失敗した今エルザにばかり時間を掛けてはいられんな……-

 

一度盟主に報告に戻る為にこの場をある者に任せる事にした。その者の気配を感じとり、キョウカは大きく跳躍してその者に声をかける。

 

「この場はソナタに任せたぞ」

 

「是非もない。この時を待っておった……また会ったなエルザよ……」

 

「なっ!!貴様は……ミネルバ!?」

 

キョウカに代わってエルザの前に立ち塞がったのは大魔闘演武で死闘を繰り広げた元セイバートゥースのミネルバ……だが本当にミネルバなのかエルザは確証が持てなかった。何故なら……

 

「フフ……それは違うな。妾は新たな力を得て進化したネオミネルバだ!!」

 

その姿は面影こそあれど以前とは違う……ミネルバは悪魔になっていた。

 

「なんということを……」

 

「妾は人間を超越した存在になった。エルザも!ツナヨシ・サワダですら最早妾の敵ではない!!」

 

「スティング達はずっとお前を探していたんだぞ!そんな姿になったお前を見たらどう思うか分かるだろう!?」

 

「……妾には関係のない事だ」

 

スティング達に何と言えばいいのか……エルザは叫びながら後悔する。以前に遭遇した時に何がなんでも捕まえてセイバートゥースに引き渡すべきだった。

 

「以前のお前は人間的には最低だった。だがその心の根底にはセイバートゥースの勝利の為なら何でもするギルドへの想いが確かにあった……」

 

「くだらんな……今の妾には関係のない事だ。妾に残っているのは貴様を殺す事だけだ!!」

 

「想いを捨て去ったお前は弱い!行くぞ!それを教えてやるぞミネルバ!!」

 

「妾はネオミネルバだエルザァ!!」

 

こうして二人は三度目の激突を開始する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュル……」

 

「!!」

 

全身に雷を纏いながら高速で通路を進んでいたラクサスの耳に聞き覚えのある声がした。忘れようにも忘れられないその声の一拍後に竜巻がラクサスへと迫ってきた。その風を躱しながらその風の源を睨み付ける。

 

だがそこにいたのはラクサスの思っていた人物とは似ても似つかぬ色黒の人間のような姿をした美形の男だった。だがそれは間違いなくヤジマの店を襲い、仲間と街の人々を傷つけた男だとラクサスは確信していた。

 

ラクサスの勘は当たっている。目の前の男はタルタロス九鬼門の一人、不死のテンペスターだった。ヘルズ・コアで再生される際にイケメン好きのラミーによってこの姿に改造されたのだ。

 

「見つけたぜ……随分と変わっちまったなあ」

 

「貴様は誰だ?我を知る者か?」

 

「忘れちまったのなら思い出させてやるぜ!!」

 

ラクサスは纏う雷を更に激しく放電させる。魔障粒子が体内から消えたとはいえ、その傷痕は未だにラクサスの体の中に刻まれている。魔力を練る度に激痛が走り、呼吸が乱れるが……

 

「雷竜の……咆哮!!」

 

その痛みの全てを無視してラクサスの口から雷撃が放たれる。

 

「!……ゴロン」

 

テンペスターはその一撃を相殺しようと雷を発生させるが怒りのラクサスの一撃はその雷を取り込んで更に大きくなるとテンペスターを飲み込んだ。

 

テンペスターは腕を眼前でクロスさせて耐えようとするが……

 

「オラァッ!!」

 

「ガフッ!」

 

その隙に高速で後ろへ回り込んだラクサスの拳がテンペスターの後頭部を強打した。吹き飛ばされながらも体勢を立て直したテンペスターはその痛みに失った記憶を刺激される……

 

「雷……貴様は……」

 

「思い出してきたみてぇだな!!フリード達や街の奴らの分の借りも纏めて返してやる!!」

 

守れなかった者達を思いながらラクサスは激しい怒りと共にテンペスターへと突っ込んでいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルザの前から姿を消したキョウカはタルタロスのマスターのENDの代理でもある現在の最高責任者の冥王マルド・ギールの前に跪いていた。キョウカは現状を報告して打開策を提案する。

 

「冥王マルド・ギール様、敵の力は予想以上です。ENDを復活させましょう」

 

現在の状況は九鬼門のうち、フランマルス、エゼル、セイラがやられてしまっていた。更に九鬼門が復活する為に必要な施設であるヘルズ・コアさえも破壊されてしまっている。

 

「それは不可能だ。マスターを蘇らせる為には呪力が足らぬ。大陸中の魔力を消しさらなければな……」

 

「しかし!その為のフェイス計画も失敗に終わり、最早大陸中の魔力を消すすべは……」

 

「心配はいらん。このマルド・ギールは完全なる策略家、大局的にはフェイスの崩壊も予定通りということだ。それよりも……」

 

マルド・ギールが右手をキョウカに向けるとどこからともなく荊が現れてキョウカを拘束する。

 

「な!何を……」

 

「貴様は捕らえた人間で遊んでいたな?これは罰だ。虫ケラ以下の人間で遊んでいた貴様に与えるな……」

 

「がっ……はっ……マルド……ギール様……!」

 

「ん?何か言いたい事でもあるのかな?」

 

荊がキョウカの体をきつく締めつけるがそれでも伝えたい事があるのかキョウカは声を搾り出そうとする。それを見たマルド・ギールは少しだけ荊を緩めた。

 

「はあっ!はあっ!……奴らの中にリリスを完全に消滅させた者がいます!我らエーテリアスにとっての天敵とも言える人間です!何としても始末せねば!」

 

「何……?あのリリスを……そのような虫ケラが存在するのか?……ならばアレグリアを発動させるか」

 

自身に匹敵しうる力を持っていたリリスの消滅にマルド・ギールは新たな一手を打つ事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼレフの目的を聞いたツナは呆然としていた。ゼレフの求める永久魔法フェアリーハート……それが初代の心臓だというのはどういう意味なのか、ツナにはゼレフが何を言っているのか理解できなかった。

 

そもそも初代は大昔に死んでいるはずだ。何度も幽体となったメイビスには会ってはいるが会話は出来ても触れる事も出来ない……

 

「何を言っている……?初代は既に死んでいるはずだろう?」

 

「どうやら君は何も知らないようだね……メイビスの肉体はラクリマに封じられて保存されているみたいなんだ。元々は蘇生させるためだったんだけどその過程でメイビスの心臓に宿るフェアリーハートが発見されたのさ」

 

-それがフェアリーテイルの最高機密、ルーメン・イストワール……フェアリーハートなのか……-

 

「それを奪う為に攻めて来るのか」

 

「そうだよ。僕に必要な物だからね」

 

「かつて愛した者の心臓を奪うのか」

 

「心は痛むけど仕方ないね」

 

「何故……わざわざ俺にそこまで話した?」

 

「……ほんの気紛れさ」

 

ゼレフがほんの一瞬見せた表情をツナは見逃さなかった。戦いの最中、ツナの超直感……見透かす力を持ってしてもゼレフの感情は読み取れなかったが、今わずかな悲しみと期待を感じ取る事が出来た。

 

「お前は……」

 

「さて!おしゃべりもここまでだ。そろそろ元の場所へ戻してあげるよ」

 

「待て!まだ話が……」

 

急に話を打ち切ろうとするゼレフに対して追いすがるツナだったがゼレフの次の言葉に目を見開く。

 

「残念だがもうその時間はないよ。フェアリーテイルはほぼ全滅したようだからね」

 

「何っ!?そんなバカな!!」

 

ツナには信じられなかった。確かにタルタロスは強いがこの短時間でラクサスやエルザ、マカロフまでもがやられるとは思えない……

 

「タルタロスの現在のリーダー、冥王マルド・ギールがアレグリアを発動した。冥界島そのものが巨大な悪魔なんだよ。フェアリーテイルのメンバーはその殆どがアレグリアに飲み込まれてしまった」

 

「みんなが……」

 

「さあ仲間の元へとお帰り……」

 

「!!」

 

ゼレフが手をかざすとツナの足下に魔方陣が現れて光に包まれたツナはそのままこの場からいなくなった。それを見送ったゼレフはツナが消えた場所を見つめながら呟いた。

 

「懐かしい炎だったよツナヨシ……君なら僕を止める事が出来るかもしれないと感じさせられた。けれど既に竜王祭の序章は始まっているんだ」

 

近づきつつある存在を感じ取ったゼレフはまるで友に語りかけるように言葉を紡いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

変貌した冥界島……アレグリアによってフェアリーテイルの殆どのメンバーが捕らわれてしまった。冥界島そのものが巨大な悪魔……つまりフェアリーテイルは巨大な悪魔の腹の中にいたと同様だった。

 

ツナを除いてアレグリアから逃れたのは二人……その内の一人であるルーシィは窮地に陥っていた。ルーシィに対してタルタロスの兵達が執拗に攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

何とかそれらを撃退するも時を置かずしてミケロ老師を狙って来た九鬼門のジャッカル、さらには九鬼門の一人で赤い鮫のような大柄な姿をしている晦冥のトラフザー、おまけにラミーまでもが現れて三対一の戦いを余儀なくされる……

 

ロキとバルゴを2体同時に呼び出して三対三に持ち込むが通路を川のように流れる水で自由に戦えないルーシィはアレグリアによって自分と後一人しか現況を打破できない事を知り、ある決断を下した。

 

「開け!宝瓶宮の扉!アクエリアス!!」

 

「3体同時開門!?」

 

「いけません!姫の体が持ちません!!」

 

「バカ野郎が……」

 

ロキとバルゴの制止も聞かずに3体目の星霊、アクエリアスを召喚して反撃する。水を操るこの戦場にうってつけのアクエリアスのお陰で窮地を脱したに見えたが、同じく水の戦場を得意とするトラフザーにアクエリアスは傷を負わされ、ジャッカルによってロキとバルゴも還された。

 

ジャッカルは魔力を使い果たして動けないルーシィを残虐な笑みで見る……

 

「アーハッハッ!無様やなぁ!!この前の借りは全部ワレに返してやるからなぁ!しっかり楽しませえよ!!」

 

「ねえねえジャッカルく~ん。コイツのこの無駄にデカイ乳をボーンってやっちゃってくれない?ムカつくんだよね~お願い~」

 

「ウザいんじゃボケ!!」

 

「へっ?」

 

倒れたルーシィの上体を起こしてその大きな胸を強調させてジャッカルに差し出したラミーだったがその媚びるような喋り方が気に障ったのかジャッカルによって爆散されてしまう。

 

「アンタ!仲間を……」

 

「どーでもいいっちゅうねん。さーて二人っきりで楽しもか。簡単に壊れるんやないでぇ……って何や!?」

 

ルーシィに迫るジャッカルだが触れる直前に濁流がジャッカルを押し流した。

 

「アクエリアス……」

 

「ルーシィ……奴らは強すぎる……こうなったら最後の手段を使うしかない」

 

トラフザーは下劣なジャッカルとラミーに愛想をつかしてこの場から去っていた。その為還される程のダメージではなかったアクエリアスがフリーになっていた。

 

だが傷を負っているアクエリアスではジャッカルを倒すのは不可能だった。その為にルーシィにある秘策を打ち明ける。

 

「ルーシィ!星霊王を召喚するんだ!星霊王の召喚は金の鍵を壊すことによって可能になる代償召喚術だ!私の鍵を壊せ!!」

 

「なっ!?何を言っているの!?そんな事出来るわけがないよ!!」

 

「それしか方法はない……それに全天88星を統べる星霊王を召喚すればその力で仲間達を救う事も出来るはずだ」

 

「嫌だよアクエリアス!もう2度と会えなくなっちゃうのよ!!」

 

泣きわめくルーシィを見てアクエリアスはまるで母のように優しく微笑む。

 

「聞き分けろルーシィ……それに私は元々お前の母親レイラの星霊だ。お前みたいなガキは大キライだからな。ちょうどいい機会だ」

 

「いや……嫌いでもいい……だってあたしは……大好きなの……」

 

「だからガキだっつてんだよ……そんなセリフはあの男にとっておけ……」

 

かつて一度星霊界で会った青年の顔を思い浮かべながらアクエリアスは苦笑する。全てを包み込むようなあの青年とルーシィの未来が見れないのは残念だが彼がいればルーシィも悲しみから立ち直れるとアクエリアスは確信していた。

 

「何をゴチャゴチャ言うとんのや!もう怒ったで!二人纏めて粉々にしたるわ!!」

 

「ルーシィ早く!!」

 

「死ねやぁっ!!……ぐはあっ!!」

 

「えっ……?」

 

「あっ……ああ……」

 

「遅れてすまない……誰も犠牲になんてさせない!」

 

水の流れに逆らって近寄って来ていたジャッカルを横から高速で殴り飛ばしたのはツナだった。

 

「ツナ!やっぱり無事だったのね!!」

 

-嬉しそうな顔しやがって……-

 

アクエリアスは呆れたように溜め息をつく……さっきまで泣いていたのにもう笑顔になっている。

 

「いったいわ~……けどワイに触ったな!出てきたばっかやけどオノレはもう終わりや!!ドカンと弾けろや!!」

 

ジャッカルは起き上がりながら乱入してきたツナを睨み付ける。そしてジャッカルの呪力を思い出したルーシィが叫ぶ。

 

「ツナ!ソイツに触った所は爆発するわ!」

 

「もう遅いわ!!早よドカンと弾けんかい!!」

 

ツナがジャッカルを殴った右手にその場の視線が集中するが……

 

「……は?何や!?何で何も起こらんのや!?」

 

「無駄だ。お前の呪力は俺の炎が調和して無力化した。俺には通用しない」

 

「何やとぉぉっ!?そ……そんなアホな……」

 

「凄いわツナ!!」

 

「くっ……なら直接体に触れて爆発させてやるからなぁ!!」

 

「その前に……頭上注意だ」

 

「何やと!?……ってのわあっ!!テ……テンペスター何やっとんねん!?」

 

テンペスターが真上から落ちてきてジャッカルはその下敷きになってしまった。さらに……

 

「雷竜方天戟!!」

 

「のわあっ!!」

 

「ヌッ……!!」

 

雷の槍がテンペスターを追ってジャッカル共々串刺しにしようと迫る。だが二人はもつれ合いながらも紙一重でその槍を躱した。

 

「無事だったかラクサス……」

 

「ようツナ……ルーシィも一緒か」

 

「ラクサス!?」

 

槍の後から降りてきた男はラクサスだった。3人は再会を喜ぶも目の前の敵に集中しなければならないと前を向く。

 

ラクサスがテンペスターと戦っていた場所はツナが冥界島に突入する時に放ったX BURNERによってかなり削られていた。その為、ラクサスはアレグリアから逃れることが出来たのだった。

 

「体は大丈夫なのか?」

 

「おかげさんでな……お前こそかなり消耗しているようだな」

 

「ちょっとね……まずいことにそろそろ炎が尽きそうだ……」

 

「なら前に夢魔を倒したあの技は使えねえよな……頼みがある。俺が追ってきたアイツは倒すと魔障粒子になっちまうから少しだけ時間を稼いでくれ。他の奴らも助けねえとな」

 

「じゃあアイツがあの街を……!!」

 

「どうやってみんなを助けるの?」

 

「今この島が悪魔になって全員を取り込んでる状態だ。みんなを傷つけずに悪魔だけを倒すしかない。ツナの炎が最適だが消耗しきってやがる……俺に任せろ」

 

「任せるしかないね。なら俺は絶対にここを通さない!」

 

全てを理解しているラクサスに苦笑するツナ……ルーシィはツナがそこまで消耗しているとは思わず驚愕していた。

 

「何があったの!ツナ!?」

 

「後で話すよ……とにかく今はアイツらを抑える!ラクサス頼むぞ!!」

 

ツナはテンペスターとジャッカルに向かって飛翔すると最後の炎を使って接近戦を仕掛ける。

 

-炎が悪魔に特効なら逆もあり得る……零地点突発・改はコイツらには使えない。炎を使いきってもラクサスの策に繋げる!!-

 

「ええ加減鬱陶しいわ!!」

 

「ヒュル……」

 

「ここは通さない!!」

 

ルーシィは既に魔力も残り少なくツナと違って九鬼門と格闘できる程の技術もない。己の無力さに唇を噛み締めるルーシィの肩に誰かの手が置かれる。振り向くと優しく微笑むアクエリアスがいた。

 

「3体同時開門をやってのけたお前なら使いこなせるはずだ。私の力を貸してやる」

 

「え?アクエリアス……これは!?アクエリアスの魔力が流れ込んでくる!?」

 

「星霊の力をその身に宿す……これが選ばれた星霊魔道士のみが纏うことのできるスタードレスだ」

 

ルーシィの服装が変わり、胸に宝瓶宮の紋章が現れる……アクエリアスの水の魔力をその身に纏ったスタードレス・アクエリアスフォームだ。

 

「すごい……」

 

「さあ自分の好きな男くらい自分で守ってやんな」

 

「うん!!」

 

アクエリアスはそのまま星霊界へと帰還していく。笑顔でそれを見送ったルーシィは前を見据える。自分の好きな人が2対1で戦っている。確かにいつもほど動きにキレがないし炎も弱々しい……普段のツナならば既に倒していてもおかしくない。ルーシィはツナの元へと駆け出した……

 

それを笑みを浮かべて見送っていたラクサスだったが気を引き締めて両手に魔力を集中させる。

 

-頼んだぜ二人とも……俺のこれはジジイと違って少しばかり時間がかかるからよ……-

 

魔障粒子によって傷つけられたラクサスは激痛に顔を歪めながらもさらに魔力を練りあげていくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話ではアクエリアスの鍵は壊してません。


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死ぬ気の炎と滅竜の魔力

ようやく更新です……


 

 

-冥界島

 

タルタロス九鬼門のジャッカルは苛立っていた。同じ九鬼門のテンペスターと二人がかりでも仕留めきれない程に目の前の男は強い。ゼレフ書の悪魔である自分達よりもただの人間であるはずのこの男が強いなどあっていいはずがない。

 

「あの桜頭といいワレといいホンマにムカつく奴らやな!!」

 

「奇遇だな……俺もお前達には苛立っている!」

 

ツナの胸中には魔障粒子によって苦しんだ街の人々達の顔が浮かんでいた。助けられなかった人達の無念を晴らすようにツナは力を振り絞る……既に炎は尽きかけているがツナの覚悟が死ぬ気の炎を燃え上がらせていた。

 

「ヒュル……」

 

テンペスターの呟きと共に暴風が竜巻となってツナを襲う。ツナはそれを恐れもせずに飛び込んだ。

 

「!?」

 

テンペスターは驚くがツナは竜巻の中心の影響の少ない場所を突っ切ってテンペスターの眼前に迫る。

 

「お前があの街を!!」

 

「クボァッ!!」

 

思いっきり顔面に拳を叩きつけられたテンペスターは吹き飛ばされて壁に激突する。だが動きが止まったツナをジャッカルが狙っていた。いつの間にかジャッカルは巨大な狼の怪物のような姿のエーテリアスモードに変身している。

 

「ダボがぁっ!死にさらせ!爆螺旋!!」

 

「!!」

 

ツナの周りを螺旋を描くように地面が爆発する。大爆発が起こり爆風と粉塵が辺りを包み込んだ。躱せるタイミングではなかったので直撃した事を確信したジャッカルの高笑いが響く。

 

「クハハハハッ!やったで粉々や!!クハハハハッ……はっ?」

 

勝利を確信したジャッカルは粉塵が晴れるのを愉快そうに見ていたがその表情が凍りつく……

 

そこにはルーシィがツナを守るように前に出て水のバリアを展開していた。

 

「ルーシィ助かったよ」

 

「ツナにはいつも助けられてるから。アクエリアスが力を貸してくれたの。一緒に戦おう!」

 

「調子にのんなや!!」

 

再び爆発が二人を襲うがルーシィの水のバリアは強力でジャッカルに対して相性がいい。バリアを抜けずにさらに苛立ちを募らせるジャッカルだったが相手は一人ではない……

 

「ゴロン」

 

「きゃあああっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

水のバリアに雷が走りツナとルーシィに襲いかかり二人を蹂躙しようとするが咄嗟にツナが炎で散らす。雷の出所を見るとエーテリアスモードになったテンペスターが手を突き出していた。

 

-一撃では無理だったか……-

 

全力で撃ち込んだにも関わらず倒せなかった事に自分の炎が本当に残り少なくなっていると痛感させられた。

 

「ナイスやテンペスター!もっと撃ち込まんかい!!」

 

「ゴロン……ゴロン……」

 

「させない!」

 

「天を測り天を開きあまねく全ての星々……」

 

次々に襲いかかる雷をルーシィを守りながら防ぐツナ。ルーシィは水のバリアを展開しながらも小声で呪文を詠唱していたからだ。

 

ジャッカルの攻撃を防ぎつつルーシィの詠唱が進むと共に魔力がどんどん高まっていく……そして詠唱が完結する。

 

「荒ぶる門を解放せよ。全天88星光る!ウラノ・メトリア!!」

 

解放された星々の超魔力がルーシィから放たれた。それは狙い違わずテンペスターへと直撃した。

 

「ぐおおおおっ!!」

 

「テ、テンペスター!!」

 

「流石だルーシィ」

 

「えへへ……」

 

初めて会った時からルーシィを雑魚と侮っていたジャッカルはこの魔法を見て確かに恐怖していた。直撃を受けたテンペスターは倒れ伏し、体を動かすことすら出来なかった。

 

「最早……死ぬしか……ないか……」

 

そう言い残すとテンペスターの体が弾け飛んだように音をたてて消え去った。だがそこに残された黒色の霧にツナの顔色が変わる……

 

「あれは……魔障粒子!?」

 

「貴様らも冥府へ道連れだ……」

 

「待ってたぜこの時を!!」

 

魔障粒子を何とかしなくてはならないがそれだけの炎が残されていないツナが後ろから聞こえたラクサスの声に振り向くと、ラクサスの足元から眩しい光が溢れていた。

 

「ラクサス!?」

 

「あれはまさか……」

 

「テメエが不死でも魔障粒子の状態で跡形もなくなれば消滅するしかねえだろ。あの街の奴らにあの世で償え!!」

 

光はどんどん強くなっていきラクサスは両手を胸の前で構えた。恐るべき魔力にジャッカルも後ずさる……

 

「な……何かヤバイで……」

 

「仲間も絶対に助けてみせる!これが俺の全身全霊の妖精の法律(フェアリーロウ)だ!!」

 

ラクサスの柏手と共に光が爆発的に冥界島を覆いつくした。ジャッカルは岩陰に隠れると呪力を高めて防御を最大まで高めたが、テンペスターは魔障粒子状態なので防御も何もなかった……

 

「……ぐ……ぐおお…おっ…っ…………」

 

文字通り光に飲み込まれ消滅したテンペスター。だがこの魔法の効果はそれだけではなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスの魔法が炸裂する直前、ネオミネルバは冥界島に取り込まれて岩と同化したエルザの前で激しく怒りに燃えていた。

 

エルザが取り込まれるまでは心踊るバトルを楽しんでいたのにタルタロスの介入によってそれが突如終わりを迎えた……

 

エルザと戦うのは三度目だが悪魔に転生した自分に一歩をひけをとらないエルザに歓喜していたというのに……

 

何故そうまで喜んでいたのかミネルバは自分でも理解していなかった。それは心の奥底に秘めた想い……

 

-エルザなら……エルザならきっと妾を……-

 

自分の本当の想いに気付かず自嘲するように力ない笑みを浮かべるとこれからどうするべきか考える。だが次の瞬間、冥界島全体が眩しい光に包まれ、ミネルバは咄嗟に“絶対領域(テリトリー)”を発動して難を逃れるが体全体が光に包まれているアレグリアは凄まじい叫び声をあげた。

 

「ギシャアアアアッ!!!」

 

「くっ!うるさい奴め……これはまさかフェアリーロウとかいう魔法か?となるとマスターマカロフの仕業か……」

 

さすがはフェアリーテイルのマスターというべきかと感心していたミネルバの視界の端で何かが動いたような気がした。そちらを向くとミネルバは驚愕し、そして歓喜する。

 

ミネルバが見たのは冥界島に取り込まれたエルザが本来の色を取り戻していく光景だった。鮮やかな緋色の髪が翻りミネルバに向かって飛び込んで来た。

 

「はっ!!」

 

「そうだ!それでこそ……それでこそ我が愛しのエルザァッ!!」

 

復活したエルザの剣撃を受けとめ、ミネルバは再び心踊るバトルに身を委ねた……

 

 

 

 

 

 

冥界島は地に堕ちてフェアリーテイルのメンバー達は次々に復活していった。マカロフはみんなを助けたのがラクサスであることに気付いていた。

 

「フェアリーロウか……あ奴め……」

 

ニヤッと笑みを浮かべると周りにいるメンバー達に声をかけて態勢を整え始めた。

 

 

 

 

 

 

「ふう……もう一歩も動けねえぜ……」

 

地面に大の字に倒れこんだラクサスに歩み寄るツナとルーシィ。そばに行くと二人も座り込んだ。3人は島中でいくつもの魔力が復活したのでフェアリーテイルのメンバー達が解放された事を知った。

 

「ラクサスお疲れ様」

 

「凄いわ!マスターのフェアリーロウを完璧に!上手くみんなも助け出せたみたいだし!!」

 

「落ち着けよ」

 

少々興奮気味のルーシィを諫めながら苦笑するラクサス。だがタルタロスとの戦いは終わったわけではない。雑魚は一掃されただろうが九鬼門クラスは生き残っている者もいるだろう。

 

「とりあえずみんなと合流するしかないかな」

 

「そうね……私達は魔力をほとんど使い果たしてるし」

 

「そうだな……」

 

「へえ……そらええ事聞いたわ」

 

「「「!!」」」

 

3人の会話に割って入って来たのはジャッカルだった。身体中傷だらけだがその瞳は憎悪でギラギラしている。

 

「ホンマにまいったわ……ただで済むと思わんこっちゃな!!」

 

ツナ達3人の周囲が爆発する。明らかに脅しの一撃だったが爆風だけでも今の3人にはキツい……

 

「きゃあっ!!」

 

「くっ!ヤベエな……」

 

「ルーシィ!ラクサスを連れて逃げるんだ!ここは俺がやる!!」

 

「そんな!ツナだけ残して行けないよ!!」

 

ツナが二人の前に出て炎を灯すがチョロチョロの炎しか出せない……それを見たジャッカルは馬鹿にしたように笑いだした。

 

「何やねんそのちっさい炎は!アーッハッハッ!!ならオノレから爆殺したるわ!!」

 

「ツナ!!逃げて!!」

 

「ツナ!!」

 

ジャッカルは炎で無効化されないように直に触って爆発させるつもりのようだ。近づいて来るのを迎え撃つ為に構える。

 

-せめて二人だけは絶対に逃がす!絞り出すんだ!俺に残された力の全てを!!-

 

体の細胞全てから力を集めるように悲壮の決意で最後の力を振り絞るツナ……意識を自分の内側へと向けた時だった。

 

-これは!?-

 

ジャッカルが呪力を纏った拳を振りかぶった……

 

-熱い……この力は……この熱は……-

 

ルーシィとラクサスが悲痛な叫びをあげる……

 

-覚えがある。これは……-

 

ジャッカルの拳が突き出されツナの顔めがけて迫ってくる……

 

-……ナツ?-

 

「クボァァッ!!」

 

ジャッカルが叫びながら吹っ飛んでいく。突き出されたツナの拳を覆っている炎を見てルーシィとラクサスだけでなくツナも目を見開いていた。

 

何故ならその炎は全てを包み込む橙色の大空の炎ではなく深紅に染まった『嵐』の炎だったからだ……

 

 

 

 

 

 

 

自らの手を呆然と見つめるツナ……自分の額の炎までもが深紅に染まっている。

 

「これが……虹の炎へ至る道か……」

 

「ツナ!大丈夫なの!?」

 

「大丈夫。ナツが力を貸してくれた」

 

「「??」」

 

ラクサスとルーシィは揃って疑問符を浮かべていたがツナは笑みを浮かべる。一度気付いたら全てがクリアになったように自分の中にある力を理解していた。

 

ナツとの模擬戦の際に零地点突破・改によって吸収した魔力がツナの中で息づいていた。

 

-ナツの魔力とほんの僅かな大空の炎を融合させる事によって嵐の属性になるのか……それにしても常に攻撃の核となり休むことない嵐の炎はナツにぴったりだな-

 

「滅竜魔法と虹の炎……これがジョットの求めていた答えなんだな……」

 

そしてツナはナツの魔力の他に自分の中にあと2つの魔力が存在するのを見つけた。それを試そうとする前に再びジャッカルが現れる。

 

嵐の炎によって付けられた傷は細胞を分解してさらに広がっていた。最早フラフラで殴られた顔面の傷は痛々しいがそれでもこちらを睨む視線は変わらない。

 

「このっ……やってくれたやないか……ワイの全力で全員纏めて消し飛ばしたらぁ!!」

 

ジャッカルは全呪力を振り絞って掌に集め出す。だが隙だらけにも関わらずツナは動かない……ラクサスとルーシィは慌てて動こうとするがツナがそれを制する。

 

「二人共その場所を動くな。今度はラクサスの力を貸してもらう」

 

「はぁ?」

 

「ちょっ!ツナ!」

 

「死にさらせ!極!爆螺旋!!」

 

ツナを中心に今までで最大の大爆発が起こり粉塵が空間を埋め尽くしていた。今度こそ粉々になっただろうと息を吐き出すジャッカルだが……

 

「う……あ………」

 

絶望がジャッカルを支配する。ツナも後ろにいた二人すら傷一つ負っていなかった。ツナが突き出している右手から緑色の電気に似た炎が3人を囲うように展開されていた。

 

「雷の炎の特徴は硬化……その程度ではこの炎を抜くことはできないぞ」

 

ツナは静かにそう告げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーシィとラクサスはまた違う色の炎を使ったツナに驚いていた。

 

「ツナ……他の属性の炎を使えるようになったの?」

 

「……?どういうことだ?」

 

「ツナが使う炎はオレンジ色の大空の属性のはずなんだけど……ツナが言うには人によって属性が違って色んな種類の炎があるらしいの」

 

「そーいや依頼で夢魔と戦った時にはツナの記憶から作られた奴の中に違う色の炎を使う奴がいたな」

 

10年クエストでの夢魔リリスとの戦いを思い出すラクサス……ルーシィはツナがこの世界に来た時に聞いた炎の種類を思い出す。

 

「確か赤い炎は……属性は嵐で特徴は分解、緑の炎の属性は雷で特徴は硬化よ。でも全然使えなかったのに何で突然使えるようになったんだろう?」

 

「微かにだがあの緑の炎からは俺の魔力を感じるな……さっきも力を借りるって言ってやがったが……」

 

それを聞いたルーシィは手をポンと叩いて答えを導き出した。

 

「そっか!ツナの御先祖様が残した言葉!前に吸収した滅竜の魔力を利用してるんだわ!!」

 

ラクサスは以前ツナとやった模擬戦を思い出した。確かに自分の最後の一撃を吸収されていた。

 

「なるほど……となるとさっきの赤い炎はナツの魔力って訳か。新たに2つの属性を手に入れやがったのか……さらに差が開いちまったな」

 

「……!違うわ!もう一種類あるはずよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-こ……こらアカン……-

 

ジャッカルには最早目の前の敵を倒す力は残っておらずただ恐怖していた。近づいて来る男に精一杯強がった笑みを浮かべる。

 

「き、今日はこのくらいにしといたる!ほなさいなら!!」

 

そう言い残すと180度振り返り脱兎のごとく逃走した。とにかく振り返らずに走り続ける……どれだけ逃げただろうか。ここまで来れば大丈夫と後ろを向いて驚愕した。

 

そこにはツナが悠然と歩いてきていた。それだけでなくかなり走ったはずなのにさらに後方にルーシィとラクサスの姿も見えた。

 

「どういうことや!?」

 

訳も分からず混乱するジャッカルだが近づいてきたツナに殴りかかろうとしてさらに驚愕する。

 

ジャッカルが見たのは本気で殴ろうとした自分の腕が文字通りゆっくりとスローモーションのように進んでいく光景だった。

 

-ワイの動きが鈍くなっとる!?-

 

ジャッカルはあまりに混乱している為、ツナの額と拳の炎の色が青色になっているのには気付いていない……

 

「ウェンディの力は雨の炎。雨属性の炎の特徴は沈静……お前はもう自由に動く事はできない」

 

ツナの炎の色が青から再び赤へと変わる……ツナはかつての右腕であった男の技をイメージしながら炎を矢の形へと変えて自分の周りにいくつも浮かべた。

 

ジャッカルは逃げようとするも意思に反して体がゆっくりとしか動かない。絶望するジャッカルにツナは無慈悲に告げる。

 

「ガトリング・アロー」

 

「かっ……っ……はっ……!」

 

浮かんでいた赤い炎の矢が次々とジャッカルへと突き刺さり、さらには嵐の分解の炎の効果で突き刺さった箇所から肉体を破壊されていく。

 

声にならない悲鳴をあげながらジャッカルは遂に地に倒れ伏したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に大空以外の炎を解禁です。大空と滅竜の魔力を混ぜる事によって発動できます。

ナツ→火竜→嵐
ラクサス→雷竜→雷
ウェンディ→天竜→雨
ガジル→鉄竜→?(魔力で鉄を構築する)
スティング→白竜→?(光すなわち……)
ローグ→影竜→?(影は形を変えて大きさを増す)

になります。コブラとかは考えてないです。






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涙の意味

大変お待たせ致しました。今後も続けていきますので見捨てないで下さい(_ _)


 

 

-フェイス跡地

 

「そ……そんな!」

 

ドランバルドによって窮地を救われたウェンディとシャルルとナッツ……今生きている事を喜び、魔力を消し去るフェイスを破壊できた事を喜んだ。

 

ドランバルドに礼を言うがそれに返ってきたのはまだ何も終わってないという言葉……

 

そしてシャルルに抱えられて空から周囲を見渡したウェンディが見たものは先程破壊したフェイスがいくつも地面から生えて来ている光景だった。その数は100や200ではない……

 

「今確認されているフェイスは2000くらいだ……しかもまだ増えているらしい」

 

空から降りてきたウェンディ達にに対してドランバルドが告げた言葉がウェンディとシャルルに突き刺さる……ウェンディが偶発的にドラゴンフォースを使い、間違いなく過去最高の魔力を放出してようやく一つ破壊する事ができたフェイスが後2000以上……

 

「もうダメ「諦めない!」……えっ?」

 

絶望するシャルルに被せるようにウェンディが力強い言葉を放つ。その瞳には絶望の色はない。エゼルに切られたツインテールの残った方を風で切り揃えるとシャルルに向きなおる。

 

「大陸中の魔道士達が力を合わせればきっとフェイスを止められる!諦めたらそこで終わりだよ!私達は絶対に未来を掴むんだから!!」

 

「でも……」

 

「考えがあるの!ドランバルドさん!私達を瞬間移動でみんなの元へ連れていって下さい!そしてウォーレンさんの念話で大陸中の魔道士にこの事を伝えるの!!」

 

自分に頼むウェンディをドランバルドは眩しいものを見つめるように見た。そしてこの諦めない心こそがフェアリーテイルの強さだと実感する。

 

「1回では無理だな……5分くらいはかかっちまうが……」

 

「お願いします!!」

 

「そうだな……やるだけやってみるか」

 

ウェンディに……いや、フェアリーテイルに全てを懸けたドランバルドはマントから元に戻ってるナッツを抱えたウェンディとシャルルを連れてこの場から姿を消した……

 

 

 

 

 

 

 

 

虹の炎を得る為の第一歩を踏み出し、ジャッカルを撃破したツナだったがルーシィもラクサスも魔力をほとんど使い果たしている為、仲間達との合流を目指す事になった。

 

しかし、ツナもそうだが二人も疲れ果てている。その場でしばしの休息を取らねばならなかった……

 

「みんなは大丈夫かな……」

 

「大丈夫だよ。ラクサスの魔法で全員元に戻ってるみたいだし」

 

「この島はどうやら地面に落ちたようだな。あの狼野郎が無事だったなら他の九鬼門も俺の妖精の法律(フェアリーロウ)じゃ仕留めきれてねえだろうな」

 

やはり九鬼門は一筋縄ではいかない相手だと再認識する3人は大きく溜め息をつく……

 

「でもツナ凄かったよ!他の死ぬ気の炎を使えるようになったんだから!」

 

「確かにな。分解に硬化に沈静だったか?」

 

「そうだよ。以前滅竜の魔力を吸収した時に何か体の中に暖かいものを感じたんだけどそれがこういった形で使えるとは思ってもみなかったよ」

 

「滅竜魔法だけなの?」

 

「そうみたい。大魔闘演武の時にシェリアの魔力も吸収したんだけど無理みたいだし……」

 

どうやら滅竜魔法に限って体内に留めておく事が出来るようだ。だが僅かとはいえ大空の炎を使用しなくては使えないので早目に回復したいところだ。

 

「とりあえずガジルと合流したいな。ガジルの滅竜魔法を吸収させてもらえばかなり炎を回復出来るし……さらに新しい属性を得られるだろうしね」

 

「ガジルの魔力は何の属性になるのかな?あとスティングとローグが居ればいいのにね」

 

談笑する3人だったがふとツナが立ち上がる。その行動にラクサスとルーシィも立ち上がり警戒を強めた。

 

「信じられん……ジャッカルもテンペスターもやられるとはな」

 

「ならば我らが冥府へと誘おう」

 

「おいおい……少なくとも先頭の奴はかなり強えぞ」

 

現れたのは九鬼門、晦冥のトラフザー、漆黒僧正キース、絶対零度のシルバー……だがツナはシルバーの顔を見て何かを感じ取っていた。普通の人間に見えるがそれだけではなく誰かに似てるような……

 

「どうした?色男?そんなに誰かに似てるかい?」

 

「いや……」

 

「そうかい。なら凍りつきな」

 

腕を伸ばしたシルバーの掌から冷気が空気をも凍りつかせながらツナ達へと迫る。

 

「無駄だ」

 

ツナ達の周囲から赤い炎が巻き起こりツナ達の姿を隠す……その炎の壁に遮られてシルバーの氷は届かなかった。これにはシルバーだけでなく他の二人も狼狽する。

 

「マジか……!?」

 

「バカな!?あの一瞬でシルバーの氷を溶かしているのか!?あり得ん!!」

 

「……違う。溶かしてはいない。だが氷が一瞬で消えている」

 

ツナは嵐属性の分解の炎で氷を水素と酸素へと分解している。

 

「ちっ!ならば……」

 

埒があかないと感じたトラフザーは標的を後ろにいる二人へと変更すると腕を刃へと変えてルーシィへと斬りかかるが……

 

「おっとぉ!!」

 

飛び込んで来た黒い影がその一撃を弾き返した。

 

「ガジル!!」

 

「元に戻りやがったか……」

 

ガジルの来訪に沸き立つルーシィとフェアリーロウがきちんと効果を現していた事にホッとするラクサス。だがそこに魔障粒子となったキースが鋭い剣のような形へと変化してガジルを狙う。

 

水流昇霞(ウォーターネブラ)!!」

 

氷欠泉(アイスゲイザー)!!」

 

「ジュビア!?グレイ!?」

 

そこへさらにグレイとジュビアが現れて合体魔法(ユニゾンレイド)でキースを凍らせようとするが、キースは変化を解除して元の姿へと戻る。

 

その二人を……いや、グレイをシルバーはじっと見つめていた。その視線に気づいたグレイも驚きと困惑の表情をしていた。その時、休んでいたラクサスが雷を纏ってトラフザーへと突っ込んだ。

 

「あっ!テメッ!そいつは俺の獲物だぞ!」

 

「少し相手をしてやるだけだ!それよりツナに!」

 

自分が対峙していた敵を奪われる形になったガジルは怒るがラクサスは取り合わずトラフザーと格闘戦をしながらガジルに告げる。ラクサスの意を察したツナが炎を大空へと切り替えて零地点突破・改の構えを取りながらガジルへ向き直る。

 

「ガジル!俺に向かって咆哮だ!!」

 

「あん?マジか……?」

 

「ラクサスも魔力はほんの僅かしか回復していない。急げ!!」

 

「よく分からねぇがご希望通り全力で撃ってやるよ!鉄竜の……咆哮!!」

 

「全力でとは言ってなくない!?」

 

ルーシィのツッコミを無視したガジルの全力の咆哮がツナの掌へ吸い込まれていく。ガジルが魔力で作り出した鉄も再び魔力へと戻ってツナに吸収されていった。

 

そして小さかったツナの額の炎が色鮮やかに燃え盛った。

 

「……よし!かなり回復出来た。すまないガジル」

 

「ちっ!オラァ!さっさと俺に代われ!!」

 

「言われなくても分かってるつの……そらよ!」

 

「ぐっ!!」

 

全力の咆哮を簡単に吸収されたガジルは舌打ちしつつもラクサスに吠える。力を振り絞ってラクサスはガジルに向かってトラフザーを蹴り飛ばした。ガジルは右腕を剣に変化させて待ち構える……

 

「鉄竜剣!!」

 

「フンッ!!」

 

魚人のようなトラフザーは腕にあるヒレでその斬撃を受け止め鍔迫り合いに持ち込まれる……ラクサスはツナ達の場所まで戻ると膝をついて呼吸を整えている。

 

「グレイ様!!」

 

ジュビアの叫びに視線をそちらに向けるとシルバーがグレイに組み付いていた。

 

「コイツは俺が貰うぜ!」

 

「なっ!?」

 

シルバーの言葉と共にグレイはどこかへ転移していった。呆然とするジュビアの前にキースが立ち塞がる。

 

「グレイ様をどこへ連れて行ったの!?」

 

「グレイ……これもまた運命か……」

 

「!?」

 

意味深な言葉に反応するジュビアだがとにかくグレイの元へ行くためには目の前の敵を倒す事が先決だと思い直す。

 

「ジュビア!」

 

「ここは俺にっ!!…………!!」

 

「どうした?ツナ」

 

ジュビアに代わってキースを相手取ろうとしたツナがその動きを止めて辺りを見渡す。ラクサスが不思議に思って問いかけるがその顔色は青ざめている。

 

「分からない……けど何かが……まだすごく遠いけど恐ろしい何かが近づいている……」

 

「それっていったい……」

 

「分からない……ただこのままじゃ確実に全滅する」

 

「「なっ!?」」

 

ドラゴンをも倒すツナをもってしてそう言わしめるだけの相手……ルーシィには心当たりは一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

タルタロスの代理マスター、冥王マルドギールはフェアリーテイルが復活したのを感じて動き出した。九鬼門も何人か落とされその者達を情けなく思ったが自身の力に絶対の自信を持ち、人間を虫ケラとしか思っていない為余裕の表情を崩さない。

 

「見つけたぞ!!」

 

声をかけられて振り返るとそこには桜色の髪をした少年が勝ち気そうな顔で睨んでいた。

 

「虫ケラがこの冥王に殺されに来たのか?」

 

「テメェがマスターだな!?俺はフェアリーテイルのナツだ!勝負しろ!この野郎!!」

 

ナツの言葉にマルドギールは呆れたような顔で反論する。

 

「タルタロスのマスターはこのマルドギールではなくENDだ。今はこのような姿だがな」

 

マルドギールの掲げた一冊の古い本を目にしてナツは驚愕する。太陽の村でアトラスフレイムの残留思念から聞いたイグニールが倒そうとして倒せなかった悪魔が目の前の本だと言うのだ。

 

ナツは両腕に激しい炎を纏いながらマルドギールに宣言した。

 

「……ならテメェを倒してその本も燃やしてやる!!」

 

「ほう……竜の子か。しかし勝てんよ。このマルドギールにはな」

 

「上等だ!燃えてきたぞ!火竜の鉄拳!!」

 

「無知な……」

 

ナツの繰り出した拳を簡単に受け止めながらマルドギールは呟いた……

 

 

 

 

 

 

 

「換装!黒羽の鎧!黒羽一閃!!」

 

「ぐうっ!調子に……のるな!!」

 

エルザの鋭い一撃を呪力を込めた腕で受け流しながらミネルバはエルザのいる空間の属性を爆発へと変化させた。爆炎に包まれたエルザだが……

 

「うおおおっ!!」

 

「何っ!?ガハッ……」

 

煙を突き破りながら突撃してきたエルザの拳を受けてミネルバは壁まで吹き飛ばされる。

 

「くっ!わ……妾は最強の魔道士になったはずだ!これでどうだ!!」

 

「そこだ!!」

 

「ガハッ!!」

 

すぐに立ち上がったミネルバはエルザの背後の空間と自分の空間を入れ換えて瞬時に襲いかかる。だがエルザはそれを読んでいたのか振り返らずにその攻撃を躱して剣を持っていないほうの拳で再び殴りつけた。

 

「大魔闘演武での貴様の所業……許した訳ではない!だが今の貴様はあの頃よりももっと最低だ!思い出せ!自分が何の為に戦っていたのかを!!」

 

確かに大魔闘演武ではミネルバの悪辣さに怒りを覚えたがその行動の全てはセイバートゥースの優勝の為の行為だった。

 

「今のお前には何もない。こんな戦いに何の意味があるのかと……お前を殴る拳が泣いているんだ」

 

エルザの言葉にミネルバは俯いて自分の心の内に秘めていた想いを吐露する……

 

「そうだ……妾が弱かったから……あげくの果てにはこんな姿になってしまった……」

 

ミネルバが伏せたまま泣いているのがエルザには分かった。ミネルバは実父であるジエンマに子供の頃より虐待とも呼べる訓練を施されていた。

 

辛くて涙を流していた少女時代……ミネルバが泣くとジエンマは裸で猛獣が蠢く森の中に裸で放置していた。

 

泣くことを許されずただひたすら強さと勝利を求められていた。ミネルバはその教えの通りに泣くことをやめ、どんな手を使っても常に勝利する事を考えるようになっていった。だが今、ミネルバは涙を流しながらエルザに懇願する……

 

「妾を……殺して……」

 

「……そんな事をしたら私はスティング達にどう詫びればいいというのだ」

 

「ふふ……そのようなことする必要はないであろう……妾がしたことを考えればな……」

 

ミネルバは大魔闘演武最終戦にてスティングの力を最大限に引き出す為だけにレクターを人質に取った事を思い出した。きっと彼は自分を恨んでいるだろう。他の者も自分に対していい感情を覚えている者など存在しないだろう……

 

「バカを言うな。間違いに気づけばやり直せばいいだろう……仲間という名の繋がりは決して脆いものではない。きっと彼らもお前を待っている」

 

「エルザ……」

 

エルザの差し出す手を取ろうとおずおずと手を伸ばしたミネルバ……そこへ野太い声が響く。

 

「この屑が!また涙を流しておるのか!!」

 

「なっ!?」

 

「ゴハッ!!」

 

それと同時にミネルバは殴り飛ばされて壁に叩きつけられる。エルザが振り向くとそこには元セイバーのマスターにしてミネルバの父であるジエンマが拳を振りきったまま佇んでいた。

 

「貴様っ!自分の娘に何をっ!?」

 

「黙れいっ!!涙を流す弱者など我が娘の資格などないわっ!!せっかく人間を超えたにも関わらず無様に敗北しおって!!」

 

ジエンマもミネルバと同じように悪魔として改造されていた。だがそれを悔やむどころかむしろ嬉々としてその力を受け入れていた。

 

「貴様……」

 

「もはや我慢ならん!!我が血を受け継ぎながら弱者である貴様など生きる価値もない!死ねいっ!!」

 

「なっ!?待て!!」

 

ジエンマはミネルバに向かって強力な呪力弾を放った。咄嗟に止めようとするエルザだが間に合わない。

 

「ミネルバァァッ!!」

 

立ち上がれないミネルバは目前に迫った死を受け入れるように目を閉じる。ジエンマの呪力弾が直撃した……ようにエルザには見えた。

 

「ヌゥ?」

 

「お前達は……」

 

爆発の直前に割って入った二つの影がミネルバを救いだしていた。粉塵が晴れてその姿が現れる……痛みを感じなかったミネルバが目を開ける。

 

「迎えに来たぜ!お嬢!!」

 

「あんたの帰る場所はセイバートゥースだ」

 

目の前には自分を抱き抱えるスティング……そして傍らにはローグの姿もあった。

 

「御無事で何よりですね~はい!」

 

「フローもそう思う!」

 

さらには二人のパートナーのレクターとフロッシュまで一緒にいる。

 

「あっ……あ……」

 

かつて自分で捨てたはずの仲間……だがエルザの言うようにまだ自分に対してその繋がりを捨てないでいてくれた仲間達に感謝してミネルバは人生で初めての嬉し涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何でライオス達まで来てやがるんだ?」

 

「え?スティング達が?」

 

トラフザーとの戦いの最中にスティングとローグが来たことを感じ取ったガジルの言葉を聞いていたルーシィも疑問に思った。彼らがここに来る理由などないはずだ。

 

「ツナ、行ってこい」

 

「ラクサス……」

 

「ここに恐ろしい何かが来るってんなら今対抗できるのはお前しかいねえ……二人の力を貰えば完全回復とパワーアッブ出来るはずだ」

 

「けど……」

 

ラクサスの言葉に頷きたくなるがここには九鬼門が二人もいる。ガジル達が早々に負けるとは思えないが相手の能力が不明なので不安も残る……

 

その迷う顔を目にしたのだろう。ガジルがトラフザーを相手取りながら叫ぶ。

 

「おい!コイツは俺の獲物だからな!テメェはさっさと行きやがれ!!」

 

「事情はよく分かりませんがこの者は私が引き受けます。ツナさんは他の場所へ!!」

 

「ガジル……ジュビア……」

 

ガジルだけでなくジュビアにも背中を押されたツナはスティング達を探す決意をする。巨大な力を持つ何かが確実に迫って来ている事も後押ししている……

 

ツナは炎を灯してハイパーモードになると空中にふわりと浮かんだ。

 

「悪い!ここは任せた!!」

 

「気を付けてね!ツナ!!」

 

ルーシィの言葉に頷くとツナはこの場から飛び去った。ルーシィはツナが見えなくなると途端に不安そうになる。

 

「ねえ……ラクサス……ツナがあそこまで言う相手って……」

 

「恐らくな……だがだとしても情けねえがツナに頼るしかねえ……悔しいがな」

 

ルーシィは不安に塗りつぶされそうになる心でツナの無事を願うことしかできず、自分の情けなさに唇を噛み締めるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

ツナは冥界島内部を飛びながら思考を巡らす。残りの九鬼門、迫る強敵、虹の炎……頭の中には考える事が次々に浮かんでくる。

 

-ガジルから得た炎は『霧』の属性……だが骸やクロームのように有幻覚はまだ作れないな……-

 

恐らく7属性全ての炎を得ても虹の炎を作る事が出来ないとツナは感じていた。他の属性の炎を使いこなしている訳ではないからだ。

 

「それでも……みんなは絶対に守る!!」

 

ツナは決意を新たにスティングとローグの元へと向かって行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




インフルエンザにかかったり休んだ分の仕事が忙しかったりで本当にお待たせしました。


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迫りくる脅威

何とか3月中に更新……月一じゃなくてもっと更新できるように努力します。


 

 

-冥界島より遠く離れた空域

 

巨大な生物が黒い翼を広げてものすごいスピードで空を駆けている……その生物の進軍は分厚い雲を吹き飛ばし空気を震わせている。

 

その生物は進行方向の眼下に一つの島を見つけた。そこまで大きな島ではなかったが人の営みを確認することができた。

 

その生物は何を思ったか島の上空で静止すると大きく息を吸い込んだ。鋭い牙が生え揃ったその大きな口に凄まじいエネルギーが集中している。

 

眼下の島の人々は自分の姿に気付いたのか悲鳴をあげながら無意味にも逃げ惑っている……その滑稽な様を何の感慨もなく見下ろしながらエネルギーを解放する。

 

その瞬間、大気を震わす轟音と衝撃が炸裂して視界を白く染め上げる……視界が色を取り戻した時、そこに存在したはずの島は跡形もなく消え去っていた。

 

無意味に、ただの気紛れによって多くの命が喪われたが、何事もなかったようにその生物は再び目的地に向かって去っていった……

 

その生物は最強の種族であるドラゴン……ただし他のドラゴンよりも一回り大きな体躯を持っている。

 

ドラゴンの名はアクノロギア……黒き絶望の翼が目指すのは冥界島……

 

 

 

 

 

 

 

グレイはシルバーに転移させられ、ガジル達から引き離されたがこれはこれで都合がいいと考えていた。何故なら二人しかいない場所なら自分の疑問を聞き出しやすいと思っていたからだ。

 

「アンタは……何者だ?」

 

端的な質問だがこれを相手は愉快そうに笑っている。その笑みに見覚えがありすぎてグレイは今度は怒鳴るように質問した。

 

「何者だって聞いてんだ!!」

 

その怒声に笑い声を止めるシルバーだがその口から出た言葉はグレイが確信していた事だが信じたくない言葉だった……

 

「俺はお前の……父親だ」

 

グレイは目を見開いて体を硬直させた……

 

 

 

 

 

 

ジエンマよりミネルバを救い出したスティングとローグの姿と涙を流すミネルバの姿に笑みを見せるエルザ……過去に色々とあったがこれからの彼らを想うと本当に嬉しく思えた。

 

しかし、その光景を土足で踏み躙る輩もそんざいしていた。

 

「スティング!ローグ!ウヌらも弱者に成り下がったか!!」

 

ジエンマの声に二人は顔をジエンマへと向ける。そこには弱さなど欠片も見えず、自分の信じた道を真っ直ぐ歩こうとする強い意思が在った。

 

「俺達は強くなった!仲間という名の絆を知る事でフェアリーテイルのようなギルドにしていこうと誓った!!」

 

「もうアンタはマスターじゃない!俺達の仲間に手を出す者は何人たりとも許さん!!」

 

二人の宣誓にジエンマは怒り狂ったように吠える。

 

「貴様らぁ!!ワシのセイバートゥースをそのような惰弱なモノにするとは許さん!!許さんぞ!!」

 

スティングは素早くエルザの元へと移動するとミネルバを託した。

 

「エルザさん!ここは俺達が!お嬢を頼むぜ!」

 

「フン!そのような屑を気にしなくともフェイスによってやがて大陸中の魔力は消え去るのだ!!」

 

ジエンマの言葉にエルザは驚愕する。

 

「バカな……フェイスは破壊されたはずだ!」

 

それに答えたのはジエンマではなくスティングだった。

 

「エルザさん。ここへ来る途中に顔の形をした岩が地面からいくつも生えてきていた。あれがフェイスなら数は千じゃきかないと思う」

 

「何だと……」

 

「大丈夫だ……フェイスを遠隔操作出来る元議長は既にキョウカに殺された。フェイスの起動は出来ないはずだ」

 

絶望しそうになるエルザだったがミネルバの言葉に再び希望を見出だした。しかしジエンマはそれを嘲笑う……

 

「ガーッハッハッ!!バカめ!タルタロスにはネクロマンサーがおる。今頃死体を操ってフェイスを起動させているだろうよ!!」

 

癇に障る馬鹿笑いを続けるジエンマにスティングとローグが飛び掛かる。ジエンマは笑い声を止めると二人の攻撃を受け止めた。

 

「なら尚更早く行け!!」

 

「エルザさん!お嬢を連れて早く行ってくれ!レクター!フロッシュ!お前らもだ!!」

 

二人の覚悟を見たエルザはミネルバを連れて戦線を離脱する。フロッシュが残ろうとしていたがレクターが引っ張ってきた。

 

「スティング……ローグ……」

 

「大丈夫ですよ。二人は絶対に負けませんから!」

 

「フローもそう思う」

 

「急ぐぞ!それにツナに会えればお前の体も元に戻せるかもしれん!」

 

その言葉に驚くミネルバ……ツナの調和の炎を何度も見てきたエルザには無理矢理悪魔因子を流し込まれて改造されたミネルバを元に戻せると確信していた。

 

二人と二匹は崩壊してかなり形が変わってしまった冥界島をミネルバの記憶を頼りに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!!」

 

「おお!ツナ!無事だったか!!」

 

スティングの元へと急ぐツナだったが途中でマスターマカロフを始めとしたフェアリーテイルの魔道士達の集団を見つけてその場へ降り立つとハイパーモードを解除する。

 

「捕まっていた者達は無事か?」

 

「ええ。全員無事です」

 

それを聞いた周りの魔道士達から大歓声があがりツナを誉め称える。マスターも笑顔で頷いた。

 

「ウム!よくやってくれた!さすがじゃの!」

 

マスターの賞賛に苦笑するツナ。

 

「みんなが無事だったのはラクサスのお陰ですよ。それに何人かは倒しましたがあちこちで九鬼門との戦いがおこっています」

 

冥界島に取り込まれていた全員を助けたのはラクサスのフェアリーロウだ。マスターも気づいていたようで嬉しそうにしている。ツナの言葉に反応したのはフリード達雷神衆だ。ビッグスローとエバーグリーンも目を覚ましていた。

 

「ラクサスは無事なのか!?」

 

「もちろんだよ。魔力は使い果たしてるけど側にはガジル達がいる。今は彼らが戦ってるから休んでるはずだよ」

 

「くっ!ラクサスの助けになれねえなんて悔しいぜ!」

 

「まだ体が上手く動かせないものね……エルフマンは?」

 

エバーグリーンの質問にはツナは首を振る。

 

「俺は見てないな……恐らくはミラの所だと思う」

 

「あのシスコンめ……」

 

面白くなさそうなエバーグリーンに苦笑するツナ。そこへ何者かが転移してきた。

 

「むっ!?オヌシは……」

 

「評議員!?何でここに!?」

 

「大丈夫です!私達の味方です!!」

 

「「「「ウェンディ!!ってか髪!?」」」」

 

いきなり現れた評議員に身構えるメンバー達だが彼が連れていたウェンディに警戒を解く……しかしエゼルによって斬られた髪にその場にいた全員が驚いていた。

 

「無事で良かった……」

 

「ナッツちゃんのお陰です。でも元気がなくなっちゃったんです!!」

 

見るとウェンディに抱えられたままナッツは全然動かなかった。泣きそうなウェンディに笑顔でツナは応じる。

 

「大丈夫。炎が尽きただけだよ。よく頑張ったなナッツ……しばらく休んでて」

 

そういってツナはボックスを開匣するとナッツへと向ける……するとナッツがとても入りそうもないボックスへと戻っていった。

 

「ありがとうナッツちゃん」

 

「さて……ウェンディとシャルルもよくぞフェイスを破壊してくれたのう」

 

「違うの!確かにフェイスは破壊できたけどこの大陸にフェイスは後2000以上出て来たのよ!!」

 

「なんじゃとお!?」

 

シャルルの言葉に驚愕するマスター……フェアリーテイルのメンバー達も、ツナでさえ打つ手が思い浮かばない。

 

「ウォーレンさん!ウォーレンさんの念話で大陸中の魔道士達にフェイスの事を伝えて欲しいんです!みんなが力を合わせれば……」

 

ウェンディの提案にウォーレンは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

「無理だ……俺の力じゃそんな長距離の念話はできねぇ……すまねぇ!俺は……自分のショボさが情けねぇ!!」

 

「そんな……じゃあどうすれば……」

 

「まだ方法はある!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

凛とした力強い声に全員が振り向いた。そこにはミネルバに肩を貸したエルザがいた。レクターとフロッシュも一緒だ。

 

「エルザ!!」

 

「それに……セイバーのミネルバ!?」

 

「でもその姿は!?」

 

「ちょっと診せてみな!!」

 

ポーリュシカがミネルバに近寄って診察を始める……その間にエルザは状況を説明する。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……元議長が裏切り者じゃったか」

 

「ええ……その死体を操ってフェイスを遠隔操作させるつもりのようです。場所は指令室らしいのですが……」

 

ツナは今まで会った九鬼門の顔を思い浮かべながら考えこむ。

 

「ジュビアが戦っていた九鬼門が多分そのネクロマンサーだな……」

 

とにかくエルザは指令室を目指す事になった。どうやらミネルバが案内してくれるらしいが冥界島が地に落ちてぐしゃぐしゃになっているので正確な場所は分からないそうだ。

 

その時ミネルバの診察が終わってポーリュシカが難しい顔を見せた。

 

「悪魔因子を大量に流し込まれたんだね……全身の細胞にその因子がくっついてる事で変化してるね」

 

「ツナの炎で治せないか?」

 

一縷の望みをかけてエルザはポーリュシカに尋ねるが返ってきた答えは無情だった。

 

「……難しいだろうね。悪魔因子が定着する前なら治せたんだろうけど。今の状態が正常と認識されればツナの調和の炎じゃ……」

 

「そんな……」

 

無念そうに歯を噛み締めるエルザに自嘲するような笑みを浮かべるミネルバ……

 

「よいのだ……こうなったのも妾の自業自得だ」

 

「だが!スティング達に託されたのだ!何か……」

 

「何とか出来るかもしれない」

 

ツナはそう告げるとエルザとミネルバ前に立った。だがその顔は自信がある訳ではないように見えた。

 

「本当なのか!?ツナ!!」

 

「ただし、試した事もないし身体にもかなり負担がかかるし失敗しないとも限らないんだ……」

 

気落ちするツナにミネルバは何でもない事のように声をかける。

 

「そんな事か……どのような結果になったとしても恨みはせん。お願いしてもいいか?」

 

迷っていたツナはその迷いを断ち切ってミネルバを真っ直ぐに見つめる。

 

「分かった……本当にいいんだね?」

 

「頼む……それと大魔闘演武での妾の行い、許してくれとは言わんがすまなかった……」

 

フェアリーテイル全員を見渡して頭を下げて謝罪するミネルバに驚いたメンバー達だが今は見守るべき時なので余計な口出しはしない。

 

 

 

 

 

 

 

ツナはミネルバを連れて少しだけ他の者と距離を取る。そして目を閉じると意識を集中させる。

 

-まずは雨の炎で悪魔因子の働きを静める!-

 

ツナがいつものオレンジの炎ではなく青色の炎を出した事に全員驚きで声を出しそうになったが集中するツナを見て何とか抑えた。

 

そしてそのまま手のひらをミネルバの首の少し下、胸の少し上辺りに触れるとそのまま雨の炎を流し込んでいく。

 

「んっ……」

 

「動くな」

 

-悪魔因子だけに炎を行き渡らせないと……-

 

ツナは超直感をフル稼働させつつ悪魔因子のみに雨の炎を流し込むために集中力を極限まで高めていく。やがて全身の悪魔因子にのみ雨の炎が行き渡り、最初の施術を終えた。

 

-次は嵐の炎……けど-

 

「次はかなり痛むと思うがなるべく動かないでくれ」

 

「心得た」

 

簡潔なミネルバな返答を聞くとツナは炎を青から赤へと変える。炎について聞きたいが全員が黙って成り行きを見つめていた。そして先程と同じ様に炎を流し込んだ。

 

「がっ!……ぐっ!ぎぃぃっ!!」

 

「ミネルバ!!」

 

「もう少し我慢してくれ!」

 

堪え難い痛みにミネルバの顔が歪む。嵐の分解の炎は攻撃力という面でみれば大空の7属性の中でもかなり高い。その顔を見てエルザをはじめ、フェアリーテイルのメンバー達も辛そうに顔を歪める。

 

-嵐の炎で悪魔因子を分離させる。上手くいっているが相当の痛みだろうな……早く!正確に!-

 

ミネルバは苦痛に喘ぎながらもツナに言われたとおり動かずに耐えていた。そして嵐の炎の施術が終わるとミネルバの姿が元に戻っていた。

 

ただしミラのように悪魔因子を自在に使える訳ではないので体内に残った悪魔因子を取り除かねばすぐに再発してしまうだろう。

 

「よく頑張った……これが最後だ」

 

そう言うとツナは炎をオレンジの大空の炎に変えて三度流し込んだ。ミネルバは体の中から浄化されていくような心地よさに身をゆだねた……

 

 

 

 

 

 

ポーリュシカによる診断でミネルバはまるで異常がないことが確認された。ウェンディが治癒魔法をかけている側でツナの新たな炎についての追及を上手く躱し、最低限の事だけ伝えるとすぐに今後の方針について話し合う事になった。

 

「ツナ。指令室を探すのを手伝ってくれるか?」

 

エルザの問いに首を横に振るツナ。確かにツナがいれば超直感で迅速に指令室を発見できるだろうがツナはこれから来る敵に備えなくてはならない……

 

「悪いけどそっちは任せるよ。今ここにものすごく強い何かが迫ってるんだ。ここにいる全員が全滅する危険もある。そいつに備えないと……」

 

「どういうことじゃ!?」

 

マカロフは間違いなくツナがフェアリーテイル……いやこの大陸で最強の存在であると確信している。マカロフ自身も聖十の称号を持った魔道士である。だがツナには聖十の最高峰であるゴッドセレナすら勝てないだろう。

 

そのツナが怖れる程の力を持った者……それはアクノロギアくらいしか思い浮かばない……

 

フェイス……アクノロギア……タルタロスだけならどうにかなると思っていたがこの状況を打破する為にマカロフは決断する。

 

「皆、ワシは一旦ギルドに戻る。フェイス破壊が失敗した時の為の備えをしなければならん」

 

「備えとは?」

 

「それはエルザ……オヌシにも言えん。とにかく皆を頼む」

 

「分かりました」

 

マカロフの言葉にピンときたツナは他の者に聞こえないようにマカロフに耳打ちする。

 

「……マスター、まさかフェアリーハートを?」

 

「な!?オヌシ!!何故それを!!?」

 

せっかく耳打ちしたのにそれを無にする大声を出されてツナは耳を押さえながら顔を離した。しかし本当の名を隠す為の名であるルーメン・イストワールではなくフェアリーハートの名を出されたのだからマカロフの反応も仕方ない。

 

「マスター?」

 

「ああいや、何でもないわい…………後で詳しく話してもらうぞい」

 

こちらを見るメンバー達に慌てて取り繕ったあとツナに小声で告げるマカロフにツナは頷いた。

 

 

 

 

 

 

マカロフが去るとツナはエルザと向き合う。エルザは心配そうな顔でツナを見ている。

 

「ツナ……お前がそこまで言う敵はアクノロギアくらいしか思い浮かばない」

 

「アクノロギア!?」

 

「嘘だろ!?」

 

その名前にツナよりもむしろ周りのメンバー達が驚愕する。フェアリーテイルにとって忌むべき名前だ。

 

「やっぱりそうかな……でもまだ少し時間はあると思うからエルザは今のうちに指令室に行ってくれ。俺はスティング達に会って力を貰ってくる」

 

「一人で戦う気か?」

 

「私も一緒に戦います!!」

 

「ウェンディ!何を言ってるのよ!!」

 

ウェンディがミネルバの治療を終えてツナへと駆け寄って宣言する。シャルルが必死に止めるもツナの腕にしがみつく。

 

「アクノロギア相手に一人じゃ危険です!私は滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)です!一緒に戦います!!」

 

「いや、ウェンディはみんなのガードを頼む。雷神衆がまともに動けない今、みんなを守れるのはウェンディしかいない」

 

「でもっ!!」

 

尚も食い下がるウェンディだがツナもここは引くわけにはいかない。相手がアクノロギアだとしたらジョットですら敵わなかった最強の敵だ。ウェンディを戦わせる訳にはいかない。

 

エルザもその気持ちは理解できた。共に戦いたかったがツナの顔を見てそれを望んでないことを悟る。どのみちエルザはフェイスを止めなければならない。だからこそウェンディの肩にエルザは手を置いた……

 

「ウェンディ……お前も分かっているはずだ。アクノロギア相手では我々は何の役にも立たないと」

 

「っ!!」

 

ウェンディもそれは分かっている。自分ではツナを手伝うどころか逆に足を引っ張ってしまう事も……ウェンディは唇を噛み締めて俯いた。

 

「大丈夫。俺は負けないよ」

 

そう言うとツナは炎を灯した。それはウェンディの魔力を使って生み出された青色の雨の炎……

 

「この雨の炎はウェンディが俺にくれた物……ウェンディの想いも一緒に戦う!」

 

その言葉を聞いてウェンディは泣きながらツナに抱きついた。ツナは優しくウェンディの頭を撫でる……

 

「ぜっ…たい……絶対に帰ってきて下さい!」

 

「約束するよ……」

 

 

 

 

 

 

ツナがエルザにスティング達の場所を聞いて去って行き、エルザとミネルバが指令室へと向かった後もウェンディはツナの去った方角を見つめていた。シャルルは何と声をかけていいのか分からなかったが敢えて明るい声でウェンディを励ます。

 

「大丈夫よ。ツナが負ける所なんて想像も出来ないわ」

 

「うん……そうだよね!」

 

シャルルの励ましに顔をあげたウェンディは自分に課せられた役割を果たすべくみんなの所へ戻ろうとする。治療が必要な人はたくさんいる。

 

-そう……きっと気のせい……ツナさんと会えなくなるなんて気のせいだよね?-

 

だからウェンディは頭に浮かんだ考えを無理矢理振り払うとフェアリーテイルの仲間達へと歩みよる……

 

最後にもう一度ツナの去った方角を見ると既に日は沈み始め紅く染まった空が不吉を象徴しているような気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に本誌でアクノロギアの能力の一部が登場しました。もう少し明らかになればツナとの戦いに生かしたいですね。


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COUNT DOWN

フェアリーテイルの映画が始まりますね。見に行かなくちゃ!


 

 

-冥界島

 

「見ていてくれ……親父……」

 

グレイは消えていく父親に対して誓いを立てる。タルタロス九鬼門の一人絶対零度のシルバー……その正体は死んだはずのグレイの父親だった。

 

ジュビアが戦っていた九鬼門、漆黒僧正キースによって蘇らされたシルバーはタルタロスの一員として行動しながらもそのマスターであるENDとタルタロスを壊滅させる機会を伺っていた。

 

大魔闘演武で成長したグレイの姿を見て嬉しく思うと共に今の血に汚れた自分では息子を抱き締めてやることも出来ないと思い息子に全てを託してその手で殺される事を願った……

 

自分はグレイの両親と師を殺したデリオラが父親の皮を被っている存在だと告げ、グレイの怒りを引き出した。怒りに触発され確かに自分を超える力を見せたグレイだったが同時にシルバーがついた嘘も見破られた。

 

シルバーはキースと戦っているジュビアに念話でキースを倒すように頼んだ。キースが死ねばシルバーも消えてしまう為に躊躇っていたジュビアだったがシルバーの願いを聞き届けキースを倒した。

 

愛する息子の腕の中で最期を迎えたシルバーはグレイに氷の滅悪魔法を託して逝った……ENDが炎の悪魔なので対抗する為に会得した氷の滅悪魔法を息子が継いでくれた。

 

「ENDは俺が倒す!氷の滅悪魔道士(デビルスレイヤー)として!!」

 

グレイの右腕には滅悪魔法を継承した証の紋様が刻まれていた。魔法と共に父の遺志を継ぐ決意をしたグレイだが彼はまだ知らない。

 

父が倒そうとしていた最強最悪のゼレフ書の悪魔であるENDが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《エーテリアス・ナツ・ドラグニル》を意味していることを…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガジルがレビィの力を借りてトラフザーを撃ち破った頃、エルザとミネルバは指令室へと到着した。ツナが予め超直感で大雑把な場所を示していたのでそれほど迷うことなくたどり着いた。

 

「凄まじいなツナヨシの勘は……」

 

「私も毎回そう思っている」

 

二人は呆れながらも辺りを見渡すとコンソールに向かって操作している元議長を発見した。

 

「元議長!!」

 

「エルザ……もう死んでおる」

 

声を荒げるエルザを押さえながらミネルバは周囲を探っていた。だからこそ自分達に向けられた呪力を感知すると自分の魔法、絶対領土(テリトリー)を用いて攻撃を防いだ。

 

「すまんミネルバ」

 

「気にするなエルザ」

 

頼もしいパートナーに礼を言いながら相手を見据えるエルザ。そこにいたのは自分を拷問していた悪魔、九鬼門のキョウカ。それにエルザは知らないことだがミラと戦っていたセイラだった。

 

「まさか我らタルタロスがここまで追い詰められるとは思わなかったぞ」

 

「我らの物語を破壊した罪……その身で償いなさい」

 

キョウカはマルド・ギールによって多少傷を負っている程度だったがセイラはミラやエルフマンとの戦いの傷が痛々しく残っている。

 

「貴様は……」

 

「キョウカにセイラか……改造された恨みを晴らさせてもらおうぞ!!」

 

確かに悪魔として改造したはずのミネルバが人間に戻っている姿を見て驚く二人の悪魔……

 

「信じられません!どうやら完全に人間に戻っているようです!!」

 

「バカな……どうやったというのだ!?」

 

「私達には心強い仲間がいるということだ」

 

エルザもミネルバもやられた分を返そうと前に出る。対するはキョウカが一人で前に出てきた。

 

「セイラ……下がっていろ」

 

「仰せのままに」

 

言葉通りにセイラが下がる。その行動に疑問を持ったエルザだったがそれを気にしている暇はなかった。

 

「隷星天キョウカ……参る!!」

 

キョウカは二人に向かって来ながら指先を伸ばして鞭のようにふるってきた。二人は左右に別れながらその一撃を軽やかに躱す……

 

「イ・ラーグド!!」

 

ミネルバの空間爆発がキョウカの眼前で発動し、キョウカは目を庇いながら後退する。しかしその隙をエルザは見逃さない。

 

「天輪!循環の剣(サークル・ソード)!!」

 

「ちっ!」

 

瞬時に天輪の鎧に換装したエルザが舞うように剣を放った。キョウカは次々に襲ってくる剣を躱していくが何本かの剣は体を掠めていく……

 

「逃がさん!!」

 

ミネルバの叫びと共にキョウカを中心に次々と爆発が起こる。だがキョウカもやられっぱなしではない爆発を受けながらも二人にいくつもの呪力の弾丸を放ってくる。

 

「エルザ!」

 

「!!」

 

ミネルバの声にエルザがそちらを向くと二人の目が合う。その鋭い視線にエルザがミネルバの意図を感じとると黒羽の鎧に換装し、そのままミネルバに斬りかかった。

 

「……?なっ!?ガハッ!!」

 

エルザの奇行を訝しげに見ていたキョウカだが、その目が驚愕に見開かれる。突如眼前に自分に向かって剣を降り下ろすエルザの姿が現れたからだ。

 

ミネルバが自分とキョウカの位置を入れ替えることによってキョウカにとっては予期せぬ攻撃となった。エルザの一撃は致命傷こそ避けたがキョウカの胸元を確かに切り裂いていた。

 

「キョウカ様!!」

 

セイラはキョウカの名を呼ぶがその場から動こうとしない。その姿を見てエルザは再び疑問に思う。

 

-何故奴は動かない?それほどまでに傷が深いのもあるだろうが……いや!違う!!-

 

「ミネルバ!元議長を操っているのはそいつだ!」

 

「そういうことか!!」

 

「くっ……」

 

エルザの指摘にミネルバもセイラへ向き直り二人で攻撃を仕掛けようとするが……

 

「させん!!」

 

二人が一瞬意識を外したのを見逃さずキョウカの伸びた指先が二人を捕らえる。

 

「セイラ!やれ!!」

 

「命令する。動くな!!」

 

すかさずセイラの呪法、『命令(マクロ)』が二人の動きを封じこめる。

 

「しまった!」

 

「体が動かん……」

 

動きが止まった二人は魔力を身体中に漲らせて何とか命令を振りほどこうともがく。

 

ただでさえセイラは瀕死の重傷を負っているうえに元議長のしかも死体を操っている。この状態ではフェアリーテイルの誇るS級魔道士にセイバートゥース最強の魔道士を操るのは難しい。今にも呪力が断ち切られそうだ。

 

「キョウカ様!長くは持ちません!!」

 

キョウカはセイラに言われるまでもなく両腕に呪力を集めてエルザへと向ける。

 

「まずはそなたからだ!エルザァッ!!」

 

「くっ!換装!金剛の鎧!!」

 

キョウカの両腕から呪力砲が放たれた。エルザは何とかこの攻撃を防ごうと防御力が高い金剛の鎧へと換装するがこの攻撃がエルザに当たる事はなかった……

 

 

 

 

 

 

 

「ミネルバ!?」

 

ミネルバがエルザとの位置を入れ替えたのだった。当然ミネルバに呪力砲が直撃する結果となった。

 

「ぐっ……はっ……」

 

キョウカの一撃をまともに喰らったミネルバはボロボロになりながらもその口元にニヤリと笑みを浮かべていた。キョウカは激昂する。

 

「ええい余計な真似を!今度こそ!!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

キョウカが再び呪力砲を放とうとする。エルザはミネルバの姿を見てその心意気に応える為にもさらに魔力を振り絞る。

 

「くっ!これ以上は……」

 

「そうね!これ以上はさせないわ!!」

 

そこに飛び込んでくる1つの影……その影はセイラを思いっきり殴り飛ばした。

 

「があっ!!」

 

「セイラ!!」

 

「動くっ!!」

 

呪縛を解かれたエルザは助けてくれた人物に目を向ける。そこにいたのはサタンソウルで変身したミラジェーンだった。

 

だがミラも最後の力を振り絞ったのだろう、そのまま地面に倒れて変身も解けてしまった。

 

窮地を脱したかにみえたエルザだったが事態は最悪の方向へと進み始めた。

 

「キョウカ様……フェイスは無事に発動しました。私の役目も終わりです。残った力は全て差し上げます」

 

「よくやったセイラ。先にゼレフの元へ行け……」

 

セイラはキョウカに力を渡すと力尽きて地面に倒れた。そして先程まで元議長の遺体が操作していた画面にはタイマーが表示され、カウントダウンが始まっていた。残りは約一時間……キョウカはただ一人立っているエルザに向かって構えた。

 

「まずい!フェイスが……」

 

「ごめんなさいエルザ……後は頼むわ」

 

「キョウカを倒して何とかフェイスを止めてくれエルザ……」

 

ミラとミネルバがエルザに声をかけるとそれに応えるように妖精の鎧(アルマデュラ・フェアリー)に換装して剣を構える。

 

「任せておけ」

 

エルザはキョウカと同時に地を蹴った……

 

 

 

 

 

ツナがスティングとローグの所へ着いた時、既にジエンマは倒れて二人は地面に座り込んでいた。

 

「あれ?ツナヨシさん?」

 

「二人共久し振り。どうやら無事みたいだね」

 

「何とかな……」

 

ツナは二人を労うとここへ何をしに来たのかを話し出した。そう時間が残っている訳ではないのだ。二人はツナが警戒する程の巨大な敵が近づいてる事に驚くがミネルバが人間に戻った事には我が事のように喜んだ。

 

それを見たツナは本当にセイバートゥースはいいギルドになったと嬉しくなった。そこに倒れているジエンマが居なくなったのも大きいのだろうが……

 

「じゃあ俺達の魔力を吸収する為に?」

 

「うん。疲れているところ悪いとは思うけどお願いできるかな?」

 

「もちろんさ!ツナヨシさんに頼まれちゃ断れねえよ!」

 

「それにお嬢を元に戻してくれた恩もある」

 

二人は快く引き受けると立ち上がって少し距離を取った。ツナはそれを見て零地点突破・改の準備を始める。額の炎がノッキングすると二人に声をかける。

 

「よし!頼む!」

 

「行くぜツナヨシさん!白竜の咆哮!!」

 

「影竜の咆哮!!」

 

迫る二色の魔力をツナは受け入れるように迎えるとそのままその身に二人の魔力を吸収した。

 

-スティングは『晴』、ローグは『雲』か……予想通りこれで全ての属性の炎が揃ったな-

 

全ての属性が揃った為か炎を回復するだけではなく炎の総量が大幅に増加したのをツナは感じていた。とはいえ虹の炎を使えるわけではないが……

 

「ありがとう二人共。これで全ての準備が整った」

 

「はは……分かっちゃいたけど俺らの全力をこうもアッサリと……」

 

「俺達はまだまだ未熟ということだな……」

 

気落ちする二人を見ながらツナは苦笑するがその笑みも目の前の二人の顔もすぐに凍りついた。

 

 

 

 

 

「何!?」

 

マルド・ギールと戦っている最中のナツが……

 

「まさか……」

 

トラフザー戦後、休息を取っていたガジルが……

 

「ああ……やっぱり……」

 

仲間達の傷を癒していたウェンディが……

 

「この声、この気配は……」

 

「ドラゴン……なのか?」

 

ツナの目の前にいるスティングとローグが……

 

ラクサスを除いたドラゴンに育てられた滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)達がその存在に一斉に気づいた。

 

そしてツナもいよいよ迫る脅威を明確に感知すると額に今までよりもより鮮やかな、より純度の高い大空の炎を灯した。

 

「ツナヨシさん!」

 

「今近づいてるドラゴンはまさか……」

 

二人は自分の知るドラゴンよりもはるかに圧倒するこの気配の主とツナが戦おうとしているのを見て思わず止めようとする。明らかに大魔闘演武で見たドラゴンの比ではない……

 

だが二人にはもう止めることはできない。二人共それほど力は残っていない……いやたとえ無傷の状態でもどうすることもできないということを悟っていた。

 

まともに戦える可能性があるのはツナしかいない……

 

「二人共ありがとう……巻き込まれないように下がっていろ」

 

ツナは両手から炎を噴出して夕焼けの空へと昇っていった。それを見送るしかできなかった二人は自分の力の無さを嘆いていた……

 

 

 

 

 

 

冥界島から少し離れた空中でツナは静止する。もうまもなく現れる相手は今までにない強さを持っている……

 

ツナは目を閉じる……思い浮かべるのは自分に想いを寄せてくれる3人の少女……

 

『気を付けてね!ツナ!!』

 

『ぜっ…たい……絶対に帰ってきて下さい!』

 

『ツナがいなくなるのは嫌……私ももっと強くなるから!だから……』

 

彼女達と未来を共に歩む為にも……

 

「負ける訳にはいかない!!」

 

ツナは目を開く……遂にその姿を捉えた。夜の闇よりも深く見える黒い体躯。その名は魔竜アクノロギア……

 

大空と魔竜の戦いが始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもの時間に予約するはずが出来てませんでした。何とか4月中かな?


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Vongola attack!!

後10回でフェアリーテイル終了らしいですけどすぐに次回作を出すらしいですね。スゴ……今度の主役の名前はアキかな?


 

 

-冥界島

 

「おい!あれを見ろ!!」

 

「あれってまさか……」

 

「ま……間違いないよ!アクノロギアだ!!」

 

カナの断定の声にフェアリーテイルのメンバー達は激しく狼狽する。かつて天狼島にてS級昇格試験を行った際に見た姿と変わらない……強気なカナが震えている。

 

だが妙な事に目視できる距離にいるにも関わらず近づいてこない……

 

「なあ……何でアイツは動かないんだ?」

 

「そういえば……」

 

「どうなってるんだ?」

 

不思議に思うフェアリーテイルのメンバー達だが一心に祈っているウェンディを見てあの場に誰がいるのかを察した。

 

「ツナさん……」

 

ギルドに加入したのは最近だが間違いなくフェアリーテイル最強の男……

 

強さと優しさを兼ね備え、メンバーの誰もが絶対の信頼を寄せる男……

 

それがたった一人であの化け物と戦おうとしている。ツナの勝利を祈ると同時に共に戦うことすら出来ない自分達の力の無さに全員が無力感に包まれていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

アクノロギアにとって人間とは何か……一言で言うならばどうでもいい。人間が生きようが死のうが興味がない。だからこそかつてギルダーツはアクノロギアと遭遇したにも関わらず生き残る事が出来た。

 

人間を蟻のように……否、塵芥としか認識していないからこそ人語を理解しているというのに言葉を交わさない。かつて人間だったにも関わらず数多の竜の血を浴び、その肉を喰らい彼は竜の王として君臨した。

 

この世に最強の種族、竜は自分一人……だからアクノロギアは他の竜の存在を許さない。いつか自分と同じように竜になるかもしれない滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)と人を超えた黒魔道士ゼレフ以外の人間には何の感情も動かさない。ただ自分が存在するだけで消えていく命など気に止めるに値しない。

 

だからこそアクノロギアを知る者からすればこの光景は奇妙なものに見えるだろう……

 

高速で冥界島に向かっていたアクノロギアが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち塞がる人間を静止して見据えている事に(・・・・・・・・・・・・)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツナは自分を前にして動きを止めた漆黒のドラゴンを見つめる。クロッカスで見たドラゴンとは比べ物にならないプレッシャーを感じる……

 

-これがアクノロギア……かつて天狼島でフェアリーテイル上位メンバーを歯牙にもかけず、そしてジョットをも倒したドラゴンなのか……-

 

まさに竜の王と言う名に相応しいだけの貫禄を備えている。もしこの場にリボーンが居れば即座に撤退を進言していただろう。

 

かの家庭教師は無茶はさせるし理不尽だが相手と教え子の潜在能力までも見極めて勝機を見出だして発言する。どうあっても勝てない相手に立ち向かうのは無謀と考え逃げるのを良しとする。最強のヒットマンであるがゆえに引き際も心得ているからだ。

 

だが無謀であろうともツナは逃げることは考えていない。自分の後ろには大切な家族がいるのだ。そう思うとツナの額の炎はさらに激しく燃え盛った。

 

「キ……サマ……ハ……ソノ炎ハ……」

 

「!!」

 

アクノロギアが言葉を発した。どうやら自分にジョットの面影を見ているようだ。ならば見せてやるとしよう……ジョットの、ボンゴレの炎を!!

 

「行くぞ!!」

 

ツナの咆哮と共にツナの右拳から炎の奔流が迸る。7つの炎を揃えた副次効果で炎の質、量共に大幅に向上したのはツナにとって嬉しい誤算だった。

 

ただ炎を放っただけにも関わらずその威力は今までとは雲泥の差だった。炎はそのままアクノロギアを呑み込んだが炎に包まれたアクノロギアは翼を大きくはためかせると炎を吹き飛ばした。

 

「ガアアァァァッ!!!」

 

魔竜の雄叫びは周囲の雲を吹き飛ばしてその衝撃波が空気を弾く。思わずツナは耳を押さえて衝撃に耐えながら後退する。

 

アクノロギアはそのまま動きの止まったツナへと突進してきた。その巨体に似合わぬスピードは脅威だが小回りは自分の方が有利とツナは考えていた。

 

紙一重で躱して後ろをとろうとしたツナだったがアクノロギアの巨体が巻き起こす乱気流にその目論みは封じられる。

 

「やりずらいっ……なっ!?」

 

「ガアアァァァッ!!」

 

乱気流を何とか捌いたツナが見たのは既に反転して自分に向かって爪を降り下ろすアクノロギアの姿……咄嗟にツナは炎を雷属性へと変化させてその一撃を受け止めたが……

 

「ぐっ!……重っ!!」

 

雷の硬化の炎のおかげで何とか骨を砕かれる事はなかったが勢いまでは殺せずにツナは地面へ向かって真っ逆さまに墜ちていく。

 

「くっ……はあああっ!!」

 

地表直前に炎を大空へと戻すと逆噴射でブレーキをかけて着地してアクノロギアを睨みつける。

 

-さて……どっちだ?-

 

ツナは最低でも片腕を推進力にしなければ空中戦は上手く行えない為に空では不利と悟った。ナッツのモード妖精(フェアリー)を使えばもっと楽になるがそれでもアクノロギアの巨体が巻き起こす乱気流が厄介すぎる。

 

-もし冥界島(みんなの所)へ向かうなら使わざるを得ない。だが奴が俺に興味を持ってるなら……-

 

その考えを裏付けるようにアクノロギアが急降下してくる。それを見たツナは僅かに微笑むと前方に炎を放ってその場所から退避する。

 

まるで隕石が落ちたような音が響きその衝撃が地表を捲りあげていく……その舞い上がった土砂を隠れ蓑にツナは行動に移る。

 

「みんな、力を貸してくれ……」

 

当たり前だがツナは目覚めたばかりの大空以外の炎をまだ完全に使いこなせない。だから記憶の中のかつての守護者達の炎の使い方を参考にすることにした。

 

「勝負だ!!」

 

ツナは土砂を利用してアクノロギアの背後に回り込んだ。当然振り返るアクノロギアだが空中と比べるとその挙動は緩慢だ。ツナはかつて共に戦った仲間達を思い浮かべながら次々と手を繰り出した。

 

-骸!クローム!-

 

アクノロギアが振り向く前に藍色の霧の炎で自分の分身を作り出して再び土砂よる粉塵に身を隠した。アクノロギアは戸惑っているようだがすぐに匂いでバレるだろう。

 

だがその隙に炎を青い雨の炎へと変えると掌に大きな球体の炎を作り出す。

 

-武!-

 

「くらえ!時雨之化!!」

 

大きな雨の炎がアクノロギアを包み込むとアクノロギアの動きがスローモーションのように緩やかになった。山本武の時雨蒼燕流の総集奥義を真似たものだ。最も山本が使った時ほどの効果はないが……

 

-隼人!-

 

この好機を逃す手はないとばかりにさらに炎を赤い嵐の炎にして追撃を仕掛ける。左腕を突き出して弓を射るように右手を引くと大きな矢のような形の炎が形成される。

 

赤竜巻の矢(トルネード・フレイム・アロー)!!」

 

アクノロギアの腹部をめがけて嵐の炎の矢が回転しながら向かっていく。それは狙い違わず動きの鈍いアクノロギアへと直撃した。直撃した炎はアクノロギアの防御を削ろうと回転を続けるが薄皮一枚を傷つけるに留まった。しかしそれでも分解の力はアクノロギアの防御力を僅かに下げていた。

 

-良平さん!-

 

次に繰り出したのは黄色い晴の炎……身体中の細胞を活性化させてツナの身体能力が大幅に向上する。

 

極限太陽(マキシマム・キャノン)!!」

 

「キシャャアアアッ!!」

 

嵐の炎のによって防御力が下がっている箇所を目掛けて渾身の一撃を撃ち込むと堪らずアクノロギアは奇声をあげた。

 

-雲雀さん!-

 

紫色の雲の炎を指先に集めてそのまま空中をなぞる……すると雲の炎による輪っかが作られた。ツナはそのまま輪投げをするように炎を投げつける。すると炎の輪っかはアクノロギアを覆うほど巨大化するとそのまま収縮してその巨体を締め付けた。

 

「!?」

 

すぐにアクノロギアは引きちぎろうとするがその前に炎の輪っかは増殖してどんどん数を増やしていくと、アクノロギアの全身を拘束して身動きを封じた。雲雀のボンコレ匣、アラウディの手錠をイメージした技だ。

 

-ランボ!!-

 

ツナは両手を前に突き出し、雷の炎を集中させる。その炎はどんどん大きくなってバチバチと音をたてながら放電に似た現象をどんどん大きくしていった。

 

雷の角(コロナ・フールミネ)!!」

 

硬化した放電がまるで槍のようにアクノロギアに迫るがほんの僅かしか突き刺さらない。ダメージは期待できなかった。……が、その攻撃の中でアクノロギアは大きく息を吸い込んでいた。

 

「っ!ナッツ!!」

 

嫌な予感を感じたツナがナッツをマントにしたと同時にアクノロギアが大きく口を開ける。そしてその口内には光が集まっているのが視認できた。

 

「ガアアァァァッ!!」

 

咆哮と共に放たれた膨大な魔力がツナを襲う。マントでガードしたツナだがその魔力の奔流に呑み込まれる。

 

「た……耐えてくれナッツ……」

 

ツナは必死に大空の炎を込めて魔力を調和しようとするが余りにも膨大な魔力に意識が持っていかれそうになる。

 

実際に短い時間だったがツナにとっては永遠に等しい時間をツナとナッツは必死に耐え抜いた。

 

「はあっ……はあっ……大丈夫かナッツ?」

 

「ゼエ……ゼエッ……ガウ!」

 

息を切らしながらも返事を返すナッツに安心するツナは振り返って地平の彼方まで大地に残された破壊の傷跡を見ると思わずゴクリと喉を鳴らす。

 

ハッと前を見るとアクノロギアは巨大な右腕を叩きつけようと振り上げていた。ツナは今度は前進する事でその一撃を躱した。

 

「ナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)!モードアタッコ!!」

 

ナッツを1世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレプリーモ)に変化させるとそのまま高速でアクノロギアに接近する。そしてアクノロギアの腕を掻い潜り懐に飛び込むとアクノロギアの鼻先に飛び上がった。

 

「!!」

 

「バーニングアクセル!!」

 

至近距離から放たれた一撃はアクノロギアの顔面に直撃して大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルド・ギールは夢を見ているのか?」

 

マルド・ギールは呆然とツナとアクノロギアの戦いを眺めていた。虫ケラに等しいはずの人間が最強最悪の魔竜、アクノロギアを相手に一歩も引かずに戦っている。

 

その姿は隙だらけだったが対峙しているはずのナツは何故か動かない。それもそのはず、ナツは先程から体内で凄まじい動悸が起こり、膝を地につけて胸を押さえていた。

 

マルド・ギールは最初それを怪訝に見ていたが直後にツナとアクノロギアの戦いが激化したためにそちらに魅入っていた。

 

ナツと時を同じくしてラクサス以外の滅竜魔道士達も凄まじい動悸に襲われていた。

 

「な……なんだ……これ……」

 

ナツは自分の体の動悸がさらに激しくなっていくのを感じて声を漏らす……早く止めないと目の前の敵にやられてしまうだろう。だがその時、ナツの脳裏に懐かしい声が響いた。

 

『ナツよ……』

 

「この声……イグ……ニール?本当にイグニールなのか!?どこにいるんだ!?」

 

懐かしき父の声に思わず辺りを見渡すナツ。死物狂いで探して見つからなかった父が近くにいる。だが未だに激しい動悸で体が動かない。

 

『時は来た!お前ならば必ずENDに勝てると信じている!』

 

「どこだよイグニール!……父ちゃん!!」

 

声はすれども姿は見えず……だが必死に探すナツの体が光りだした。

 

「うわあぁぁっ!!」

 

自分の体の異変に驚くナツだが光はどんどん強くなっていく……マルド・ギールもこの異変に動くことも出来ない。

 

「何が起ころうとしているのかこのマルド・ギールにも分からん」

 

『アクノロギアは俺が何とかしよう。あの青年と共に戦えばこの場で奴を討てるやもしれん』

 

「父ちゃん……まさか……」

 

光が柱となってナツの上に昇っていくその先を見詰めるナツの視線の先にずっと探していた懐かしいシルエットが現れた。ナツは呆然とその姿を見ていた……

 

『今まですまなかったな……俺はずっとお前の中にいた』

 

赤き鱗を持った竜がその大きな翼を広げて空に舞い上がる……炎竜王イグニールがその勇姿を現した。

 

「今は全てを語る時ではない……まずはアクノロギアを排除する。……生きよ!ナツ!!」

 

炎竜王は大空と魔竜の戦場へ向かって空を駆ける。

 

「父ちゃん……」

 

竜の子は嬉し涙を流しながらそれを見送った……

 

 

 

 

 

 

 




本誌でゼレフ倒したけど思ってたよりも弱かった……アクノロギアはどうでしょうかね?


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最強タッグ結成

本当に申し訳ありません……引っ越し等でバタバタしてました。


 

 

-冥界島近辺

 

ツナの至近距離からのバーニングアクセルがまともにアクノロギアの顔面に入った。爆発の煙で相手の表情は伺えないがツナは相応の手応えを感じていた。だが……

 

「その技、見覚えがある……やはり貴様、あの男の血脈か」

 

「!!」

 

煙が晴れるとアクノロギアが再び品定めするようにツナを見ていた。

 

-ノーダメージ!?いや……多少は効いたようだが戦闘に支障が出るほどじゃないか……-

 

アクノロギアの顔には確かにバーニングアクセルの傷跡が残されていたが、アクノロギアを追いつめる程のダメージは与えられなかった。

 

「あの男は間違いなく我の生の中で最強の戦士だった。まさかそれを超える者が現れるとはな……だが!最強は我一人!!貴様もあの男同様に破壊する!!」

 

そう言うとアクノロギアは翼をはためかせて空中へと舞い上がった。かつてのジョットを超えたツナに対して興味を持ったのだろう。人間に興味がないはずのアクノロギアがこれだけ饒舌なのは珍しい。

 

だがツナにとっては最悪だ。ようやく地上に引きずり降ろしたのに再び空へ昇られてしまったのだから。

 

「くっ!出し惜しみしてる場合じゃない。ナッツ!」

 

「ガウ!!」

 

形態変化(カンビオ・フォルマ)!モード妖精(フェアリー)!!」

 

「ガアァアウ!」

 

ナッツがツナへと飛び込むと眩しい光と共にフェアリーテイルの紋章が浮かび上がった。そしてツナの背中に炎の翼が顕現し、さらに脚部を覆うブーツが装着される。

 

今までは掌からの炎で空を飛んでいたツナだったがこの状態ならば背中の翼と足元の炎を使ってより速く、より微細な動きで空を舞う事が可能になる。

 

ツナは掌、足、翼の炎の推進力をフルに使ってアクノロギアへと飛ぶ。その速さは凄まじく一瞬の間もなくツナの右拳がアクノロギアの下顎を撃ち抜いた。

 

「くっ!硬い……」

 

だが予想していたがアクノロギアの竜鱗は硬く、少しぐらついた程度しかダメージを与えられない……追撃をかけようとしたツナだったがそこへ巨大な影が飛び込んできてアクノロギアに吶喊した。その影を見てツナは驚愕する。

 

「なっ!?またドラゴン!?」

 

燃え盛るような紅い竜鱗を持ったドラゴンがアクノロギアに体当たりを食らわせる。さらにそのまま口を開くとアクノロギアを呑み込む程の巨大な炎のブレスを吐き出した。

 

アクノロギアが巨大な火炎をまともに食らった瞬間に炎が爆発してアクノロギアを吹き飛ばした。ツナはその光景を呆然と眺めてぽつりと呟いた。

 

「すごい……あれなら……」

 

「いや。全くダメージを与えておらんな。だがそれでこそだ。燃えてきたわい」

 

その重厚な声、存在感はアクノロギアにも負けていない。だが新たなドラゴンにはアクノロギアのような邪悪な気配は一切感じられなかった。

 

そして何よりも自分がよく知っている魔力とよく似通っている。となると……

 

「まさかナツの親のドラゴン?確か名前は……」

 

「そうだ!我が名はイグニール!ナツがいつも世話になっているようだな」

 

「やはりか……ツナヨシ・サワダだ。ツナと呼んで欲しい」

 

アクノロギアを吹き飛ばしたイグニールはツナの横に来ると目線をツナに合わせてニヤリと笑う。

 

「ツナか……人の身でアクノロギアと渡り合うその力、誠に見事だ!……が奴の力はまだまだ底が深い。だがお前と俺の力を合わせれば奴に勝てるやもしれん」

 

「ああ……よろしく頼む」

 

それはツナにとっても望むところだ。正直勝つイメージが浮かんでこなかった。見たところイグニールの闘気はアクノロギアにも劣らない。

 

強力な助っ人と共にアクノロギアへ向かって攻撃を仕掛けようとしたところに再び乱入者が現れた。

 

「おい!父ちゃん!!俺を差し置いてツナとタッグを組むってどういう事だよ!?」

 

「ナツ!?」

 

足から炎を噴出してこちらへ飛んで来ながら叫ぶナツに驚くツナとやれやれとでも言いたそうなイグニール。ナツはイグニールの肩に乗ると更に文句を言い出した。

 

「どういうことだよ!?何で俺の体の中にいたんだ!?ウェンディ達のドラゴンも同じなのか!?何で今まで出てきてくれなかったんだよ!?それから……」

 

「ええい!話は後だ!!アクノロギアの前だぞ!!」

 

「とにかく俺も戦うぞ!俺とイグニールのコンビは無敵なんだ!!」

 

ナツの発言にイグニールは首を振る。それを見て激昂しそうになるナツの機先を制して諭すように語りかける。

 

「ナツよ……お前にはやってもらう事がある。お前が先程まで戦っていたあの男を倒すのだ!」

 

「けどよ!」

 

「聞け!奴の持っているあの本を見よ!あれこそがゼレフ書最強の悪魔ENDの書だ」

 

それは先程ナツがマルド・ギールに聞いた事だ。戦っている最中もずっとその本を抱えていた。

 

「ナツよ!あの男を倒してあの本を手に入れるのだ。ただし!決して破壊してはならん!!お前はこのイグニールの息子だ!お前ならばやれるはずだ!」

 

「父ちゃん……」

 

「ギルドというものに入っているのだろう?これは俺からの依頼だ」

 

「……報酬は?」

 

「何!?……まったく……お前の知りたいこと全てだ」

 

「燃えてきたぜ!!後で聞きたい事がたっぷりあるからな!ちゃんと教えろよ!!」

 

イグニールが頷くのを見た後、ナツは足から炎を噴出して再びマルド・ギールの元へと飛翔していった。ツナはナツが離れたのを確認してイグニールに問う。

 

「ゼレフがナツは自分の弟だと言っていました……俺もあなたに聞きたい事がある」

 

ナツの事、ゼレフの事、何故ナツの体の中にいたのか、ウェンディ達の親のドラゴンも同じなのか、イグニールが倒そうとしていたENDとは……

 

「話は後だ……まずはアクノロギアを倒さなければならん。奴には魔法が効かんがそなたの炎は完全には無効化できなかったようだな」

 

「魔法が効かない!?」

 

「ナツや俺に炎が効かないのと同じだ。奴は魔力そのものを食らう事が可能なのだ」

 

「魔竜アクノロギア……」

 

それは魔道士にとっては余りにも致命的な事実だった。ならば至近距離からの全力のバーニングアクセルがほんの僅かしか効かなかったのも当然だ。

 

ツナの炎は純粋な魔法ではないが魔力を放っている。前にマカロフがそうツナに言った事があり、大魔闘演武の時のMPFでも数値として表示されていた。

 

「俺は肉弾戦で仕掛ける!隙をついてお前の炎を叩き込め!!」

 

「了解した。だがあなたは既に……」

 

ツナは感じていた。イグニールは…………

 

「そこまで見抜くか……だが気にするな。奴を倒すために、この僅かな時間を作る事がナツの体の中にいた理由の一つなのだからな!」

 

そう言うとイグニールは再びアクノロギアへと吶喊した。二頭の竜の激突によって大気を揺さぶる轟音が辺りに響く。

 

「まだドラゴンが生き残っていたとはな!だが我はアクノロギア!ドラゴンは全て滅竜する!!」

 

「そうはいかん!!お前はこの場で倒す!!」

 

ツナは二頭の怪獣大決戦を見ながら右拳に炎を灯して目を閉じて意識を集中する。

 

-今までの炎じゃ通用しない……もっと純度を高めて渾身の一撃を……-

 

ツナの炎が色鮮やかに燃え上がり光輝いていく……目を開いたツナの手には過去最高の純度と力強さを感じさせる炎が煌々と灯っていた。

 

そして二頭の竜が組み合っているのを捉えると普通の人間なら一瞬にして命を失うキルゾーンへと躊躇いなく飛び込んだ。

 

「はああぁぁっ!!」

 

そして気合いと共にイグニールに集中していたアクノロギア横っ面を殴り飛ばした。

 

「ガッ!?」

 

「隙あり!!」

 

先程までとは違って今度の一撃はダメージが通っている。さらにその一撃で大きくぐらついたアクノロギアにイグニールが怒濤の連撃を叩き込む。そして最後に尾の一撃で吹き飛ばした。

 

「よし!……っ!」

 

「いかん!ワシの後ろに!!」

 

追撃をかけようとしたツナは猛烈に嫌な予感がして立ち止まる。イグニールの声と同時にその巨大な体躯の後ろに回り込んだ。アクノロギアの口内に凄まじい魔力が集まっている。

 

「ガアアアァァッ!!」

 

「ウオオオォォッ!!」

 

アクノロギアとイグニールが同時にブレスを吐き出した。それが中間地点で衝突すると凄まじい爆発と轟音がが起こり、閃光と爆煙に大気が白く塗りつぶされる……

 

二頭の竜は爆発の中でもお互いから目をそらさず睨み合っていた。煙が晴れると同時にイグニールが上昇する。それをアクノロギアが追いかけようとしたがその動きが止まる……いや、動きを止めた。

 

何故ならイグニールが一瞬前まで居た場所には額に炎を灯した青年が左手を自分に向け、右手を反対方向に向けて浮かんでいたからだ。

 

ツナはイグニールの後ろで爆風を避けながら準備をしていた。皮肉なことにこの爆発が隠れ蓑になってツナは充分に炎を練る事が出来た。そしてイグニールもその意を汲んでツナの射線を通すために上昇したのだ。

 

X BURNER(イクスバーナー)!!」

 

アクノロギアを視界に捉えたツナから巨大な熱線が放たれた。避ける間もなくアクノロギアは飲み込まれ、炎はそのまま向こう側の空の彼方へと消えていく。

 

「おお……」

 

炎竜の王たるイグニールですらその炎には感嘆の息を漏らさざるをえなかった。力強く、何より美しいその炎に魅せられていた。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!!」

 

「なんつー戦いだ!!」

 

冥界島にもツナ達の戦いの余波は届いている。実力ある魔道士達ですらその常識を超えた戦いに恐怖を感じていた。

 

「けど……ツナは大丈夫なのでしょうか?」

 

「当たり前だ!ツナ兄はフェアリーテイル最強の男だ!きっとやってくれるぜ!!」

 

ヒスイの心配する言葉に勢いよく答えるのはロメオ……だがその足はガクガクと震えていた。

 

誰もがツナの勝利を信じたいと思っているが敵対しているのはアクノロギア……自分達があの場へ行っても一瞬で殺されるのは分かっている。ツナの足を引っ張るだけだと言うことも……

 

「くっ!フェアリーグリッターがあれば少しくらいは手助けできるのに……あのダメ親父はこんな時にどこをほっつき歩いるか分かんないし……」

 

かつて天狼島でのS級昇格試験の際にメイビスより借り受けた妖精三大魔法の1つを欲するカナ……そしてツナが現れるまで最強だった自分の父の不在を嘆く。

 

だがカナの父、ギルダーツの手足を奪ったのもアクノロギアである。この場にいたとしてもツナが戦闘に加えなかっただろう……

 

「みんな!!」

 

そこへ現れたのはトラフザーとキースを倒して来たルーシィ達だった。

 

「ルーシィさん!ジュビアさん!」

 

「ガジルにレビィ!」

 

「「「ラクサース!!」」」

 

ウェンディやカナ、雷神衆達が出迎える。ガジルが背負っていたジュビアの意識が無かったのですぐにウェンディが治療を行った。幸いにも吸い込んだ魔障粒子もそこまで多くはなかったのですぐに回復するだろう。

 

エルフマンとリサーナもその間に合流することが出来た。

 

「凄まじい戦いだな……」

 

例えラクサスが完調していてもあの戦いに割って入る事はできないだろう……悔しさに顔を歪めながら呟く。

 

「それよりあの赤いドラゴンはサラマンダーの親父だろ!?どうなってんだ!?」

 

「分かりません……さっきの動悸に関係があるのかも……あの時グランディーネの気配もしたような気がします」

 

「オメェもか……メタリカーナももしかしたら……」

 

滅竜魔道士の二人はイグニールが現れたのなら自分達の親も現れるのではないかと思案している。

 

「あれは!!」

 

遠くで戦っているツナをを見守っていたルーシィが声をあげる。全員の視線が戦いに向く。

 

「ツナさんのX BURNER!!」

 

「あれを食らったらいくらアクノロギアといえど無事な訳がねえ!!」

 

「ツナの勝ちか!?」

 

ツナの必殺技に勝利への期待が高まるが……

 

「嘘……だろ……」

 

「そんな……」

 

炎の砲撃が終わった後もアクノロギアは悠然と佇んでいた。絶望するフェアリーテイルのメンバー達……

 

「ツナ兄の必殺技も効かねえなんて……」

 

「悪夢だ……」

 

「いや、効いてやがるぜ」

 

ただ一人戦況を正確に把握しようと目を凝らしていたラクサスの言葉に皆怪訝な視線を送る。

 

「天狼島で俺達の総攻撃を受けてもびくともしなかったが今の一撃は確実にダメージを受けてやがる。さすがはツナってところか……」

 

「じゃあ勝てるの!?」

 

ルーシィが食い付くように質問するがラクサスは首を振る。

 

「そいつは分からねえが……ツナに任せるしかねえ。情けねえがな」

 

ラクサスの言葉に全員が、特にルーシィとウェンディは強く想い人の勝利を願う。そこに全員にマスターマカロフから念話が届いたのだった……

 

 

 

 

 

 

「見事だ!ツナよ!!」

 

イグニールが賞賛するがそれも当然だろう。誰が人間がアクノロギアに傷を付けられると予想できただろうか。X BURNERをまともに受けたアクノロギアは体の所々から血を流しながらツナを睨んでいる。

 

「だが……」

 

ツナはそこまで喜んではいなかった。確かにアクノロギアを傷つける事は出来たが戦況を有利に運べるほどのダメージではない。

 

むしろ傷つけられて怒ったのか闘気はさらに膨らんでいた。そのプレッシャーに押し潰されそうになる。

 

「貴様ぁっ!!」

 

「そうはさせん!!」

 

怒りの咆哮と共にツナへ突撃するアクノロギアの前にイグニールが立ち塞がる。再び二頭の竜による格闘戦が始まった。

 

「邪魔をするな!炎竜王!!」

 

「我が息子の友はやらせんぞぉっ!!」

 

さすがにイグニールが目の前にいるのにツナを狙うことはアクノロギアにも不可能だ。だがイグニールに攻撃を仕掛けようとすると……

 

「超Xカノン!!」

 

「ぬうっ!!」

 

アクノロギアの死角に回り込んだツナの攻撃が炸裂する。当然ながらツナは二頭の竜よりはるかに小さいのでアクノロギアがイグニールに意識を集中するとツナを見失ってしまう。

 

もちろんツナはそれを考えてアクノロギアの視界から外れるように動いていた。一撃で与えるダメージは大したことないが、二人のタッグは徐々に有利になっていった。

 

-このまま少しずつダメージを与えて隙をついてXX(ダブルイクス)を決める!!-

 

勝利を手繰り寄せる為に攻めながらも考えるツナ……しかしアクノロギアも馬鹿ではないしまだ全ての力を出した訳ではない。激しい攻撃を受けながらも逆転の1手を狙っているのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フェアリーテイル最終話を見てこの話の結末もだいたい見えてきました。頑張ります。


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フェイス発動

何と謝罪すればいいのか……実に5ヶ月振りの更新になりました。楽しみにしてくださった方、申し訳ありません!


 

-冥界島

 

ツナとイグニールのタッグがアクノロギアと激闘を繰り広げている頃、冥界島でもまだ戦いが続いていた。

 

「火竜の翼撃!!」

 

「無駄だ……棘!」

 

ナツの一撃を軽やかに躱したマルド・ギールは巨大なバラの棘を思わせる巨大な植物を一瞬で召喚する。それによって動きを制限されてしまうナツ。

 

「厄介な奴だな……けど父ちゃんに頼まれたんだ!ぜってーにテメェを倒してその本はもらうからな!」

 

「竜の子といえどマルド・ギールはに勝つことなど不可能だよ」

 

余裕を崩さないマルド・ギールだったがナツの辞書に諦めという文字はない。まずは自分を邪魔するこの植物を焼き尽くそうと息を吸い込む。

 

「やってみせるぜ!火竜の咆哮!!」

 

「無駄だと言うのに……」

 

植物の一部は焼かれたが残った他の部分がナツに迫ってきた……が、それがナツに届くことはなかった。

 

「「なっ!?」」

 

異口同音で驚くナツとマルド・ギール。ナツに迫る棘が一瞬にしてその動きを凍りつかせて停まってしまった。そこに現れた人物はナツが捕まった時に失ったマフラーをナツへと投げ渡した。

 

「俺のマフラー……」

 

「大事なモンなら二度と手放しちゃなんねえ」

 

現れたのはグレイだった。だが今までのグレイとは何かが違う……ナツはそう感じた。

 

「タルタロスは俺が潰す!!」

 

父親より受け継いだ滅悪魔法の証がグレイの右腕に宿っている。その紋章に触れながらグレイはマルド・ギール悪魔を倒す為の力を練り上げていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツとグレイに負けず劣らず、エルザとキョウカの戦いも激しさを増していた。

 

「エルザァッ!!」

 

「うおおぉっ!!」

 

クロスレンジで切り結ぶ二人の戦いをミラは歯を噛みしめながら見ていた。フェイスがもうすぐ発動してしまうのにエルザが戦っているのを見ている事しかできない……

 

いや、それよりもツナがアクノロギアと戦っている。それなのに自分はここでいったい何をしているのだろうか?以前ツナにアクノロギアと一人で戦わないでと言っておきながら結局ツナに戦わせておいて自分は無様に地に伏しているだけ……

 

-情けないっ!……何て情けないの私は!-

 

「こ…こで……何も出来……ないなら……」

 

「ミラジェーン……その傷で何を?」

 

足をガクガク震わせながらもゆっくりと立ち上がるミラに同じく倒れていたミネルバが心配そうに声をかける。

 

「死んだ方がましよっ!!」

 

「ミラッ!?」

 

「何だと!?ぐはっ!!」

 

ミラは残り僅かな魔力を振り絞ってサタンソウルを発動させる。しかも現時点最強のミラジェーン・シェトリに変身すると凄まじいスピードでキョウカを殴り飛ばした。

 

「くっ!?この呪力……我らに匹敵するというのか!?」

 

「さあエルザ!さっさと倒してフェイスを止めてツナの加勢に行くわよ!!」

 

「最後の理由が一番だろう。まったく……ああ!行こう!」

 

ツナを助ける為に復活したのだろうミラを見て苦笑するエルザだったが隣に立つ心強い親友を見てさらに気勢を高めると再びキョウカへと剣を振るうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界島内部で激闘が繰り広げている頃、ツナとイグニールのタッグとアクノロギアの戦いはハッキリとツナ達に形勢が傾き始めていた。

 

「「グググググッ……!!」」

 

アクノロギアとイグニールが空中で組み合って力比べをしている。両者の力は魔力も膂力もアクノロギアが勝っているが、イグニールも意地を見せて食らいついている。だがアクノロギアの真上からオレンジの流星が舞い降りる……

 

「くらえっ!!」

 

真上から炎で加速してそのままアクノロギアの脳天に拳を叩きつける。

 

「ぐはっ!!貴様!!」

 

「よそ見をするな!!」

 

アクノロギアがツナに気をとられた隙にイグニールが攻撃する。未だにアクノロギアはこの連携を崩す事が出来なかった。ツナを放っておいてイグニールを叩こうにもツナの攻撃はアクノロギアであっても無視はできない。

 

「もう一度力を貸してくれ、武!」

 

「ヌッ!?これは!?」

 

ツナは右拳の炎を雨の青いに変化させると、ツナはその炎をアクノロギアに直接流し込んだ。当然ながら雨の鎮静の炎の効果でアクノロギアの動きが緩慢になる。

 

「今だ!イグニール!!」

 

「任せろ!!フンッ!!ハッ!!」

 

「グッ!ガハッ!!」

 

イグニールの怒濤の連撃がアクノロギアに次々と吸い込まれていく。攻撃がヒットする度に凄まじい大音響がツナの鼓膜を揺らす。

 

いつの間にか戦場は冥界島から見えないほど遠く離れた場所に移っている。真下には海が広がっていた。もちろんツナ達が引き離した結果だが……

 

-ここしかない!!-

 

ツナは背中の炎の翼を広げると両腕をクロスさせながら前方へと突き出した。

 

「オペレーションXX(ダブルイクス)!!」

 

 

 

 

 

 

 

三組の戦いが激しさを増していく一方で残りのフェアリーテイルのメンバー達はフェイスをどうにかして止めようと考える……しかし、大陸中にフェイスが3000基現れた今となってはエルザ達が何とかしてくれるのを祈るしか出来なかった。

 

「どうすれば……もうあまり時間がないわ」

 

「魔法が消えてしまったら星霊たちにも会えなくなってしまいます……」

 

ルーシィとヒスイは特に星霊という友を失ってしまうことに心を痛めている。他の者達も同様に落ち込んでいた。ここにいる者達は全て魔道士……今まで魔法という存在と共にあった者達だ。

 

例え魔法が消えても生きてはいけるとはいえ、魔道士にとって自分のアイデンティティともいえるものが消えてしまうなんて考えたくもない。

 

『皆の者、聞こえるか?』

 

エルザ達の加勢に行くべきかと意見が出始めた頃、この場に集まっているフェアリーテイルの全員に念話が届いた。それは先程フェアリーテイルに戻ったマスターマカロフの声だった。

 

「ジジィ……」

 

『戦っている者以外は今すぐにギルドに戻ってくるのじゃ』

 

マカロフのこの言葉に反発するギルドメンバー達。戦っている者を残してこの場を離れたくはなかった。しかし、マカロフはそれを許さなかった。そのうえフェイス発動までもう時間がないのだから……

 

『……今こそ最後の手段を使う。それこそがフェアリーテイル最終兵器、ルーメン・イストワール!!』

 

「何だと!?」

 

その名を聞いたラクサスは驚愕する。自身の父であるイワンが求めたもの……全てが謎にに包まれたフェアリーテイルの最高機密のはずだ。その反応を見たフリードがラクサスに訊ねる。

 

「知っているのか。ラクサス?」

 

「名前だけはな……仕方ねぇ。全員戻るぞ」

 

「でも!みんな戦ってるのに!」

 

ラクサスの言葉に反発したのはルーシィだったが他のメンバー達の顔を見ると全員同じ考えだと伺えた。無論、ラクサスも同様の考えだったが敢えて言う。

 

「ここにいても何もできねぇ……初代の話じゃルーメン・イストワールは何かとてつもない物らしい。ジジィも相当に自信を持ってるようだ……それに賭けるぞ」

 

渋々と動き出すフェアリーテイルのメンバー達だがその歩みは遅い。その間にマカロフはある人物にだけ聞こえるように念話を送る。その人物はフェアリーテイルのメンバーではないドランバルト……

 

マカロフはドランバルトに事が済んだ後にルーメン・イストワールに関する記憶を自身を含めて全て消すように指示を出した。ドランバルトは自分がそれを断らない事を確信しているようなマカロフの態度に訝しむ。

 

指示を出し終えたマカロフは溜め息をつくとルーメン・イストワールに視線を戻す。

 

「この選択が正しいのか間違っておるのか……評議院が壊滅した以上西の連中も間違いなく動き出す……ワシに本当にこれを使う勇気があるのでしょうか……初代よ……」

 

視線の先には巨大なラクリマ……その中に一糸まとわぬ姿で佇む初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンの肉体は何も答えなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火竜の咆哮!!」

 

「氷魔の激昂!!」

 

ナツとグレイの魔法が左右からマルド・ギールに迫るがそれをマルド・ギールは巨大な棘を召喚して防ぐ。

 

「フンッ!!」

 

さらにマルド・ギールが腕を振るうとさらに地中から棘が飛び出して高速で二人に迫る。だがそれをムザムザ受けるほどナツもグレイも容易い相手ではない。前後左右から襲いかかる巨大な棘を躱し、棘の上を走りながらもマルド・ギールに接近する。

 

「「うおおぉっっ!!」」

 

マルド・ギールは二人を一瞥すると二人のそれぞれ炎と氷に包まれた拳を素手で受けとめ、その勢いをを殺さずにそのまま二人を投げ飛ばした。だが二人の攻撃を受け止めた掌は軽度の火傷と凍傷になっていた。その傷を見てマルド・ギールは思案する。

 

-キョウカに指示は出した……後数分もすればフェイスは発動して奴らは魔力を失うだろう-

 

それを待てば勝利は確実になる。だが……

 

「貴様らに見せてやろう。このマルド・ギールの真の姿を!!」

 

マルド・ギールが凄まじい光に包まれるとナツとグレイはとっさに手で目を庇う。そして光が収まった後には今まで人間の様な姿ではなく恐ろしい悪魔の様な姿でマルド・ギールは佇んでいた。コウモリの羽を巨大化させたような羽がより悪魔的な印象を与えている。

 

「マルド・ギール・タルタロス……その真の力を思い知れ!!」

 

名乗りと共に翼を広げてナツとグレイへ襲いかかるマルド・ギール。その速さは今までとケタ違いだ。だが……

 

「ツナより!!」

 

「遅えっ!!」

 

「何っ!?」

 

後ろへ回り込んだマルド・ギールを二人共見逃してはいなかった。二人の頭を掴もうとしたマルド・ギールは二人が避けたのを見て驚愕する。

 

「氷魔零ノ太刀!!」

 

「ガッ!?」

 

一瞬の隙を逃さずにグレイは造形魔法と滅悪魔法を組み合わせて造り出した刀でマルド・ギールの胸部を斬り裂いた。

 

傷自体はそんなに深くはないのだが滅悪魔法の力がマルド・ギールを苦しめる。たまらず上空へと羽ばたいたその顔には怒りが浮かんでいた。

 

冥界樹(デア・ユグドラシル)!!」

 

マルド・ギールが腕を一振りすると空間が歪み、そこから大樹がナツとグレイに向かって突き進んでいく。呪力をたっぷり内包している冥界樹はとても硬い上に人間にとっては有害だ。だがその木を見ながらナツはニヤリと笑って腕を振るう。

 

「滅竜奥義……紅蓮爆炎刃!!」

 

ナツの腕から放たれた炎は螺旋を描きながら大樹を包み込むとそれを燃やし尽くしていく。

 

「何だ!何なのだ!?貴様らは!?」

 

エーテリアスモードとなった自分に一歩も引かずに戦い続けるナツとグレイを信じられないものを見る目で見ながら驚愕するマルド・ギール……

 

「何だよ……てめえらが誰に喧嘩を売ったのかも分かってねえのかよ」

 

「なら二度と忘れねえように教えてやろうじゃねえか。俺達は……」

 

マルド・ギールの問いに並んで不敵に笑いながら答えるナツとグレイ。

 

「「フェアリーテイルの魔道士だぁっ!!」」

 

ナツとグレイの叫びと共に放たれた炎と氷が巻き付くように絡み合いながらマルド・ギールに襲いかかった。本来なら互いに威力を減衰してしまうだろう攻撃だが二人のライバルだからこそお互いを理解する心と、優れた魔力コントロールによってむしろ威力を高め合っていた。

 

「ぐぬぬぬぬっ!!」

 

避ける間もなく襲いかかる炎と氷を呪力を集中して受け止めたマルド・ギールだったがその身を焼き尽くす様な熱と身を切り刻む様な凍気に晒されて大きくダメージを受けてしまった。

 

「おのれ……こうなれば我が最強の呪法で跡形もなく消し去ってくれよう!!」

 

身体をボロボロにしながらも何とか耐えきったマルド・ギールの言葉と共に辺りの空気が変わった。敏感にその空気を感じ取ったナツとグレイは警戒する。

 

「この感じは……?」

 

「やべぇっ!!」

 

「終わりだ!メメント・モリ!!」

 

主であるゼレフを殺す為に作られたマルド・ギール最強の呪法がナツとグレイを包み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

エルザとミラを相手にしていたキョウカは、戦闘中にマルド・ギールから1つの指示を受けていた。それは生体リンクでフェイスの起動システムと一体化すること。そうすればフェイスの起動までの時間を短縮できる……しかし、それはフェイス発動と同時にキョウカが死ぬ事を意味していた。

 

だがキョウカは自身の死をまったく恐れず、むしろ嬉々としてシステムと一体化してしまった。こうなった以上フェイスを止める為にはキョウカを殺すしかない。残り時間が大幅に少くなる中、焦るエルザとミラにエーテリアスモードになったキョウカが襲いかかる。

 

「そらっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

キョウカの呪力、『強化』によって時間が進むほどに呪力を増していくキョウカの蹴りでミラは吹き飛ばされた。

 

「ミラッ!?くっ」

 

「ソナタには再びあの拷問部屋を思い出してもらおうか!!」

 

「がっ!?がああああっ!!」

 

エルザは痛覚を何十倍にも増幅され、空気が流れただけでその身に激痛が走る。だが激痛に晒されながらもエルザの闘志は折れない。縦横無尽に剣を振るう……その姿を目にしてキョウカはサディスティックな笑みを浮かべて高笑いをしていた。

 

「良いぞエルザ!やはりソナタは最高だ!!」

 

爪を伸ばして鎧ごとエルザの肌を次々と斬り刻むキョウカ。最初は大きな悲鳴をあげていたエルザだったがやがて声をあげることすら出来ずに地面に倒れる……

 

エルザが倒れるのを見てミネルバは嘆き、ミラはこのままエルザが終わるはずがないと信じて逆転の手段を探す。

 

-なんとかしなきゃ……これしかないわ!-

 

倒れたエルザをフェイス発動ギリギリまで嬲ろうとキョウカは動かないエルザの鎧や服を剥ぎ取るとその白い胸を鮮血で染めようと再び爪を伸ばした。

 

「さあ!残り少ない命の此方をもっと楽しませてくれ!!」

 

キョウカが頭上に振り上げた爪を胸の中央振り下ろそうとした時、凛とした声が響く。

 

「命令する。動くな!」

 

「なっ!?く……セイラ!どういうつもりっ……ソナタは!!」

 

キョウカが振り返ると、そこには何故か立ち上がったセイラが呪力による言霊でキョウカを縛っていた。だがキョウカはすぐに気付いた。それがセイラではないことに……

 

「ミラジェーン!?そうか!テイクオーバーしたのか!!」

 

「おのれ……許さんぞ!すぐにこの呪縛を解いて殺してやる!!」

 

ミラがセイラをテイクオーバーしたことに気付いたミネルバと怒りに燃えるキョウカ……確かにキョウカならすぐに呪縛を破るだろう。しかしミラは笑みを崩さない。

 

「いいのかしら?私に構ってて」

 

「何?……!バカな!?」

 

振り返ったキョウカが見たのはあり得ない光景だった。

 

「何故だ!?ソナタの五感は既にボロボロのはずだ!何故立ち上がれる!?」

 

エルザは半死半生ながらも立ちあがっていた。ほんの少しつつけば倒れそうな状態ながらも右手にしっかりと妖刀・紅桜を握っている。

 

「どれだけ私を痛めつけようと……仲間が信じてくれる限り私は……負けない!!」

 

エルザが刀を振り上げる……

 

「……まだ動けんか」

 

キョウカは振り下ろされる刀を見て目を閉じた。

 

「やれ!エルザ!!」

 

ミネルバの声と共に刀はキョウカを斬り裂いた……そのままエルザは意識を失って倒れる。

 

命令(マクロ)に抵抗しなかった?まさか!?」

 

最後の瞬間、抵抗なく刃を受け入れたキョウカ……その死に顔の愉悦の表情に嫌な予感を感じ、ミラはフェイスのタイマーを見て絶望する……

 

タイマーは00:00を示していた……

 

「そんな!?まだ時間はあったはずだ!!」

 

ミネルバの叫びに歯を喰いしばりながらミラがその疑問に答える。

 

「やられたわ。最後に命と呪力の全てをフェイスに捧げていたのよ……だから私の命令に抵抗しないでエルザの剣を受けたんだわ」

 

「それでは……」

 

「ええ……世界から魔法が消えるわ……」

 

テイクオーバーを解き、膝をついて俯くミラの言葉が虚ろに響いた……

 

 

 

 

 

 

 




みなさん来年もよろしくお願いいたします。
それでは良いお年を!


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撃墜

本当にお待たせしました。もう少し早く掲載する予定でしたがスパロボXが面白すぎて……お待ちの方本当に申し訳ありません。


 

-冥界島

 

マルド・ギールの最強呪法、メメント・モリがナツとグレイに襲いかかるが、半身を滅悪魔法の代償……悪魔の力に犯されながらもグレイはナツを守った。

 

「ナツを信じる」

 

その言葉を聞いたナツは奮起し、マルド・ギールを追いつめていく。そして遂に自力でのドラゴンフォースを発動させる。

 

だが敵も冥府の王、一筋縄ではいかない相手だ。ナツの奥義すらも耐えきった。しかしグレイがナツを信じていたようにナツもまたグレイを信じている。ボロボロになったグレイの滅悪魔法がマルド・ギールを貫いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

エルザの渾身の一撃で遂にキョウカは斃れたが、最期の瞬間、命と存在の全てをフェイスに捧げる事によりフェイスが発動した。その影響をフェアリーテイルのメンバー達も感じ取っていた。

 

「っ!?魔力が……消えていく!?」

 

ウェンディが周囲から魔力の匂いが消えていくのを敏感に感じ取った。

 

「そんな……間に合わなかったの?」

 

星霊達との別れを受け入れられず絶望して膝をつくルーシィ。

 

「やだ!アニマルソウルが解けたら……」

 

リサーナは捕まった時に服を奪われていたのでテイクオーバーが解除されると全裸になってしまった。ドランバルトがすぐさま上着をかけてあげた。

 

ここにいる全員が魔法が終わってしまうことを知ってしまった。魔法が消える……魔道士も居なくなる。絶望に染まっていくフェアリーテイルのメンバー達……

 

『諦めてはダメよ。ウェンディ』

 

突如響いた声に反応してウェンディは呆然と空の彼方を見上げた。聞き覚えのある懐かしい、絶対に間違える事のないその声の主は……

 

「グランディーネ?」

 

自分を育ててくれた天竜(ははおや)の声だった。

 

 

 

 

 

クロスさせながら突き出された両腕に、ツナはかつてないほどの炎を収束させていた。7つの炎を得た副次効果で炎の最大量が今までより遥かに増しているが目の前の敵は未だにその力の底を見せていない。

 

-絶対にここで決める!!-

 

先に打ち込んだ雨の炎もそろそろ消える頃だ。今は動きの鈍いアクノロギアをイグニールが完全に圧倒しているが元々の自力はアクノロギアの方が上だ。ここで勝負をかけるしかないとツナは広げた炎の翼からの逆噴射をさらに強めた。

 

「イグニール!!」

 

「おう!!」

 

ツナの声に応えてイグニールはアクノロギアの尾を掴むとその場で回転しながら振り回し始めた。

 

「ヌッ……ググッ!貴様ッ!!」

 

アクノロギアも何とか抵抗しようとするも、遠心力で身動きが取れない。

 

「うおおおおおっ!!」

 

気合いと共にぐるぐる回転していたイグニールがそのまま上空へとアクノロギアを放り投げた。

 

アクノロギアは無理矢理翼を広げて空気抵抗を大きくしてブレーキをかける……が、その動きが止まる瞬間を狙う者がいた……

 

「今しかない!XX BURNER(ダブルイクスバーナー)!!」

 

ナッツの姿を模した巨大な大空の炎がアクノロギアに放たれた。放ったツナ自身もその勢いに弾き飛ばされそうになるが必死に炎の翼から逆噴射の炎を強める。

 

「くっ!!」

 

イグニールすらもその余波で吹き飛ばされるのを必死にこらえる。それほどまでにこの一撃は力強く、巨大だった。アクノロギアをも圧倒的に凌駕する程の大きさの砲撃……アクノロギアは防御の姿勢を取ることすらできずに炎にのみ込まれて大爆発を起こした。

 

「はあっ!はあっ!……」

 

流石に大きく息を乱しているツナ……掛け値なしの全力を放ったことにより身体中が悲鳴をあげているが目だけは前方の爆発により発生した凄まじい煙を見据えている。イグニールがツナを守れるように横へ並んだ時、巨大な質量を持ったものが前方の煙から海へと落下していく。

 

その正体は間違いなくアクノロギアだった。その全身に火傷と傷を負ってボロボロになったアクノロギアはそのまま眼下の海へと大きな音と津波を引き起こしながら沈んでいった……

 

「やったのか……?」

 

「ウム!誠に見事だったぞ!!」

 

イグニールが賞賛すると共に大きな掌をツナの足下へ広げる。どうやらそこに乗れと言いたいらしい。酷く疲労しているツナはその申し出をありがたく受け取ってイグニールの掌に着地した。

 

「そうだ!まだ終わってない!何とかフェイスを止めないと大陸中の魔力が……」

 

フェイスがいつ発動しても遅くはない。三千ものフェイスをどうやって止めればいいのか分からないがここでじっとしている訳にもいかなかった。

 

「案ずるなツナよ」

 

「どういう事だ?」

 

イグニールの余裕な顔を見てツナは問いかける。イグニールはニヤリと笑うと口を開く。

 

「『魂竜の儀』によって滅竜魔道士の体内にいたのは俺だけではないということだ」

 

 

 

 

 

 

 

「これは!?」

 

フェイス発動を止められず唇を噛みしめながら顔を俯かせていたミラは突如あがったミネルバの声に反応して顔をあげる。

 

そしてミネルバの視線を追うとさっきまでタイマーが表示されていた巨大なモニターからアラート音が鳴り出して、フェイスの反応が凄まじい速さで次々に消えていっている所だった。

 

「フェイスが破壊されているの……?」

 

「どうやらそのようだ……いったい誰が……」

 

三千ものフェイスの反応が今やほんの僅かしか残っていない。残りもこのペースならばすぐに消えるだろう。何が起こっているのか二人は顔を見合わせて困惑していた……

 

 

 

 

 

ウェンディ、ガジル、スティング、ローグの四人の胸の内には様々な感情が渦巻いていた。何故なら今、フェイスを破壊しているのは消えたはずの、あるいは自らの手で殺したはずの存在だったからだ。

 

「本当にグランディーネなの……?」

 

ウェンディの母たる天竜が……

 

「メタ……リカーナ?」

 

ガジルが探し続けた鉄竜が……

 

「バカな……バイスロギアはあの時に……」

 

スティングに力を与える為に死んだ白竜が……

 

「スキアドラム……本物なのか?」

 

病に侵されローグの手で死ぬ事を選んだ影竜が……次々とフェイスを破壊しているのを感じていた。そして間もなく全てのフェイスが破壊された……

 

 

 

 

 

 

「そうか……ウェンディ達の親のドラゴン達もみんなの中にいたということか……そして彼らがフェイスを破壊してくれたんだな」

 

「そういうことだ」

 

アクノロギアを倒し、フェイスが全て破壊された事で当面の危機は去ったが、ツナはまだ疑問に思っている事があった。ゼレフがナツを弟だと言ったことや何故ドラゴンスレイヤーの体内にいたのか……

 

「話してくれるのか?あなたの今の状態を含めて」

 

何よりも気になるのが目の前のイグニールの事だ。

 

「全てを語るには少々時間が足りんかもしれん……我らが400年の時を渡りナツ達の体内にいたのには2つの理由がある」

 

「400年!?時を渡る!?……まさか、エクリプスで!?」

 

イグニールは頷く。大魔闘演武の際に使われたエクリプスを思い出す。400年前からドラゴンがやってきた事を……それより前にまさかエクリプスが使用されていたとは夢にも思わなかった。

 

「そしてナツ達の体内にいたのはドラゴンスレイヤー達が竜化するのを防ぐ為、それから我らの延命のためだ」

 

「竜化?アクノロギアのように滅竜魔法を使用し過ぎれば本当にドラゴンになってしまうのか?」

 

以前、ウェンディの魔法で顕現した翡翠の竜、ジルコニスの幽霊からアクノロギアも元人間だと聞いている。

 

「その通りだ。最も、もうその心配もないがな。竜化に対する抗体は既に全員できている」

 

「良かった……」

 

ツナはそれを聞いてホッとした。ナツ達がドラゴンになってしまうなんて悪夢としかいえない。もしかしたら自分の炎で元に戻せるかもしれないが自信がない。

 

「ただナツについては別の問題があるのだ」

 

「それは……ナツがゼレフの弟だということと関係があるのか?」

 

ゼレフから聞いた、ナツが400年の時を生きるゼレフの弟だということがエクリプスの話と合わせると現実味を帯びてきた。

 

「そうだ。それは……ムッ!!」

 

「これは!?……周辺の魔力が薄くなっているのか?まさかまだこの近辺にフェイスが?」

 

破壊し損なったフェイスが近くにあるならすぐに破壊しなければとツナは身構える。だがそれをイグニールは否定する。

 

「いや、間違いなくフェイスは全て破壊されたはずだ」

 

「じゃあいったい……ッ!!」

 

ツナが下方に目を向けると眼下の海が巨大な渦を巻いていた。その中心部に莫大な魔力が集まっている……

 

「仕留めきれなかったのか……」

 

「そのようだな」

 

大きな水柱が発生し、空中へと躍り出る巨大な影が姿を現した。一見するとその姿はボロボロで、翼は焼けただれ、特に左腕は完全に壊れているようだ。満身創痍のアクノロギアだがその瞳に宿った怒りがそれを忘れさせるだけの力強さを醸し出していた。そして何より……

 

「くっ!?何だこの魔力は……?」

 

「ムウ……奴め!この星の魔力を喰らいおったな!」

 

アクノロギアの口に今までにない凄まじすぎる魔力が収束していく。周辺の魔力が一時的に薄くなるほどに魔力を喰らっていた。それは正しくこの星(アースランド)の力……その力が今正に解き放たれようとしている。

 

「気をつけろ!ツナ!!」

 

「分かっている。大丈夫だ」

 

この全てをかけた一撃を避けて一気に勝負を決めるべくツナとイグニールは身構える。そしてその時は訪れた……

 

「ガイア・カノン」

 

巨大な光球がツナとイグニールに迫るが……

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

迫り来る光球を見てツナが感じたことは困惑だった。確かにシャレにならない威力だし、スピードもそれなりにある。だが本当にそれなりだ。ツナもイグニールも難なく避けることができそうだ。

 

-どういうつもりだ?アクノロギアが起死回生に放ったにしては……-

 

光球を避けながらアクノロギアを見るとその口がニヤリと弧を描いている。あれは愉悦の笑みだと考えた瞬間、ツナの超直感が警鐘を鳴らす。慌てて辺りの地形を見渡し、巨大な光球の行き先を想像する……そしてツナはアクノロギアの真の狙いに気付いた。

 

「し……しまった!!」

 

「ツナ!?」

 

イグニールが驚くのを無視してツナは今の自分に出せる最大のスピードで光球を追って飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方冥界島では、ENDの書の扱いについてナツとグレイが一触即発の空気を醸し出していた。マルド・ギールを倒した後、ナツはイグニールの依頼通りに本を手に入れようとして、グレイは父の遺志を継いでENDを倒す為に本を破壊しようとしていたが、そこにゼレフが現れて本を手中に納めた。

 

「その本返せよ!」

 

「フフ……ダメだよナツ。これは僕にとって大事な本なんだ。……最も君にとってもだけどね」

 

「何を訳の分からねえ事を言ってやがる!?」

 

意味深に言葉を紡ぐゼレフに激昂するナツ……グレイも鋭い目でゼレフを睨み付けている。

 

「君達は早くここを離れた方がいい。大空と炎竜王、さらにはアクノロギアまでいるんだ。巻き込まれたらただじゃすまないよ」

 

ツナ達の戦いはこの冥界島まで衝撃が響く程に戦いは激しさを増していた。ここからかなり離れた場所にいるにも関わらずだ。

 

「ツナと父ちゃんがタッグを組んでんだ!アクノロギアなんかに負けるかよ!!」

 

「それについては同意するぜ」

 

「確かにツナヨシは強い。さっき試しに戦った時よりも遥かに強くなるなんて……この短時間に何をしたのかな」

 

ゼレフはツナと冥界島で戦った時ですら自身が不死身でなければやられていたと確信していた。そして期待する。それから僅かな時間でさらに強くなったツナヨシならいつか本当に自分を殺せるかもしれないと……

 

-いや、僕はもう決めたはずだ……期待すれば辛くなるだけだ-

 

「だけどツナヨシでもアクノロギアには勝てないだろうね。けれどもしツナヨシが生き残っていたら……竜王祭で会おうと伝えてくれ」

 

そう言い残してゼレフはこの場から消え去った……それを見送ることしか出来なかった二人は悔しそうな顔をしていた。

 

「……さっき凄まじい炎を感じた。あれは間違いなくツナの炎だ」

 

「もしかしたらアクノロギアをやっちまったかもしれねえな」

 

一触即発の空気から完全に抜け出してなかったので二人は目を合わせずに話している。だが……

 

「「!!」」

 

二人は同時に気付いて同じ方角へ振り返った。そして目を見開く。

 

遠くから迫る光球……凄まじいという言葉すら陳腐な言い回しにしかならないほどの魔力が内包されているその光球は正に堕ちてくる太陽のようだった。

 

 

 

 

 

ナツ達だけでなく他のフェアリーテイルのメンバーもこれに気付くがどうしようもなかった。

 

「に……逃げ……」

 

「ヤバい!」

 

「死ぬぞ!」

 

もう逃げ場はどこにもなかった。迫り来る死に誰もが絶望したその時……

 

炎の絶対防壁(ブリンダ・アッソルート・ディ・フィアンマ)!!」

 

誰かの叫びと共に冥界島を守るように巨大な炎の壁が出現した。光球は炎の壁によって押し留められている。

 

「この炎の壁は!?」

 

「ツナさん!?」

 

「ツナなの?!」

 

ルーシィ、ウェンディ、ミラは大魔闘演武のドラゴン襲来の際にツナによるこの防御技を間近で見ていたのですぐにこの炎の壁がツナによるものだと気付いた。

 

この冥界島にいる全員の視線が光球を押し留めているツナへと集中する。ツナは光球に押し込まれまいと必死に受け止めていた。

 

-くっ!受け流せない!ならこのまま……-

 

ツナは炎に込めた調和の力を強める。この凄まじい魔力を大気と調和させて打ち消すことにした。だが光球の向こう側に見えた光景に思わず息を飲んだ。

 

近づいてくるアクノロギアとそれを追うイグニール。そしてアクノロギアの口内には先程の焼き直しのように魔力が収束している。

 

「ガイア・カノン」

 

再びアクノロギアが光球を放つ。しかも最初の光球を抑えていて動けないツナへと向かって……

 

「ツナ!!」

 

イグニールが叫ぶも遅かった。いや、ツナならば今からでも避けるのは造作もない。だがその選択を選べるツナではない。ツナが逃げれば仲間達は間違いなく全滅するからだ。

 

「うおおおおおっ!!」

 

仲間達を絶対に守り抜くとツナは覚悟を決めている。それはツナにとっては常に当たり前の事……だからこそツナは大空なのだ。そしてその覚悟の炎が一際大きく燃え上がった。

 

その瞬間、山をも軽く吹き飛ばすほどの光球同士がぶつかり合い、大爆発を巻き起こした。

 

「「「うわああぁぁっ!!」」」

 

「「「きゃああああっ!!」」」

 

爆発の閃光と衝撃が冥界島を走り、フェアリーテイルのメンバー達は耐えられずに吹き飛ばされる……

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

「いてぇ……」

 

「俺達……生きてるのか?」

 

1人、また1人と起き上がるフェアリーテイルのメンバー達……無事を喜び合いながらも辺りを見渡して絶句する。辺りにあった岩は吹き飛び、建物も崩壊していた。正に焼け野原の様相を見せていた。

 

だがそれでもあの爆発の規模に対して被害が少なすぎる。何しろ誰1人として死んではいないのだから。

 

「あ……ああ……」

 

「どうしたのウェンディ?…なっ!?」

 

その時、ウェンディが信じられないようなものを見たように目を見開き、体をガタガタ震わせる……近くにいたルーシィがその視線を辿ると同じような表情を浮かべた。

 

ツナが腕を突き出したまま空中に佇んでいた。俯いていて顔はここからではよく見えない。だが手に灯る炎は弱々しく、ボロボロになった服の隙間から見える肌は赤黒く染まっていた……

 

そして糸が切れたように真下へと墜ちていった……

 

「ツナァァァッ!!」

 

ルーシィの絶叫が冥界島に響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 




感想の返信も出来ずにスミマセン……感想きちんと読んではいるんですが……



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繋がる希望

自分って待たせ過ぎですよね……

それでも応援してくださってる方に感謝を。


 

-冥界島

 

「よかった……みんな……無事…で……」

 

ツナはアクノロギアの攻撃から仲間達を守る為に残った炎の全てを振り絞った。しかし仲間達を守る事はできたものの星の魔力を用いたアクノロギアの攻撃の直撃を受けたツナは虫の息だった……

 

全身から血を流れているが、最早その痛みすら感じる事はできない。

 

仲間達の自分を呼ぶ声がだんだんと遠くなっていくような感覚を味わいながらそれでも仲間達を守れた事に安堵してツナの意識は闇に包まれた……

 

 

 

 

 

 

「ツナァァァッ!!」

 

ルーシィの悲痛な叫びを聞いたアクノロギアはニヤリと笑うと意識を失い墜ちていくツナに追い撃ちをかけようと右腕を振りかざして突っ込んできた。

 

「させぬ!!」

 

そこへイグニールが割り込んで来て、アクノロギアの巨体を真っ向から受け止めた。そしてそのまま体当りしてアクノロギアを押し返している。

 

「ナツ!!」

 

「おうよ!!」

 

「俺も行く!!」

 

イグニールの呼び掛けに応えたナツと一緒にいたグレイがツナの落下点を目指して走り出した。二人は競うように全力で走ると墜ちてくるツナをしっかりと受け止めた。

 

だがツナはその衝撃にも目を覚まさず、ナツとグレイはツナの惨状に息を飲んだ。

 

「ツナ!!しっかりしやがれ!!」

 

「くっ!俺達を守る為に……」

 

グレイは気付いていた。あの大爆発の中で自分達がほぼ無傷だったのはツナが自分達を守ったからだ。爆発の瞬間、間違いなくツナの炎の暖かさを感じていた。

 

「ウェンディィッ!!!早く来てくれ!!!」

 

冥界島中に届くかのような大声でナツはウェンディを呼ぶ。その叫びを聞くまでもなくウェンディはツナ達のいる場所へと辿り着いた。いや、ウェンディだけでなく、一緒にいたフェアリーテイルのメンバー達もツナが墜ちる姿を見て走り出していた。

 

「ツナさん!!」

 

「ツナ!!」

 

「ツナ!!」

 

「ツナ兄!!」

 

到着したメンバー達もツナの姿を見てその怪我の酷さに言葉を失う。中でもやはりツナに好意を持っているウェンディとルーシィの動揺は大きかった。

 

「あ……ああ……」

 

目を見開いて呆然としているウェンディをシャルルが頬を叩いて叱咤する。

 

「しっかりしなさいウェンディ!!早く治癒魔法を!!」

 

「あ……うん!!」

 

厳しくも自分の役目を示してくれた相棒に心の中で礼を言うと、ウェンディは寝かされているツナの傍らに膝をついて治癒魔法を掛け始めた。

 

-ツナさん!!-

 

傷つき倒れた愛しい人を絶対に助けると誓いながらウェンディは魔力を解放する……だが、暖かな光がツナを癒そうと輝くがウェンディは表情を険しくするばかりだ。

 

-ダメ……このままじゃ……そんなの嫌!!-

 

ぴくりとも動かない体……弱まっていく鼓動……最悪の結果を頭に描いてはそれを否定するようにウェンディはさらに魔力を強める。

 

「グオオオオッ!!」

 

「父ちゃん!!」

 

ナツが空を見上げるとイグニールとアクノロギアはもつれ合いながら遠くへと離れていく。だがハッキリとアクノロギアの方が優勢のように見える。ナツはその姿を見て、ツナを見る……そして走り出した。

 

「みんなはツナを頼む!」

 

「おい!ナツ!」

 

グレイの静止に耳を貸さずにナツの姿はあっという間に遠ざかっていった。

 

「ツナ!!」

 

「ミラ姉!!」

 

そこへ入れ代わりに傷だらけのエルザを支えたミラとミネルバが到着した。エルザにも一刻も早い治療が必要と見受けられた。

 

「おい!エルザは大丈夫なのか!?」

 

「生きてはいる。早く治療したいところだが……」

 

ミネルバもそれ以上言葉には出せない。何しろ今、ツナの治療を止めてエルザの治療をすればツナの命が危ない。かといってエルザも放って置けば危うくなってくるだろう……

 

ツナとエルザを交互に見るウェンディの顔は半泣きの状態だ。どうしようもないジレンマに苦しむウェンディに声がかかる。

 

「集中……する…んだ!私は……大丈夫だ……」

 

「エルザさん……」

 

意識を取り戻したエルザがウェンディを叱咤する。身体中ボロボロになりながらもその目には強い光が宿っていた。その目を見つめてウェンディは涙をゴシゴシと拭いた。

 

「はい!!」

 

治癒の光がさらに輝きを増すも、ツナは未だに目を覚まさない……周囲の仲間達も奇跡を祈りながらも、もう無理なのかもしれないと諦めかけた時、大きな影が頭上を覆った。

 

「ウェンディ」

 

「グランディーネ!!」

 

ウェンディの母であるドラゴン、グランディーネがその大きな体でツナとウェンディの前へ優しく降り立った。さらにその後ろには三体のドラコンも同じように降りてきた。

 

「おい!今までどこにいたんだよメタリカーナ!!」

 

「バイスロキア!マジかよ!?」

 

「本当に……スキアドラムなのか……」

 

怒っているように聞こえるがその顔には嬉しさを隠せないガジル、スティングとローグは自分達が殺したはずのドラゴンが現れた事で驚愕していた。

 

「相変わらず目付きが悪いのう」

 

「驚いたか?人間の記憶を操作するなど我らには簡単なこと」

 

「滅竜魔導士としてドラゴンを殺した自信と実績を与える事が目的だったのだ」

 

ここに滅竜魔導士の親たるドラゴンが勢揃いしていた。自分の子供達との会話に花を咲かせたいところだがもう既に時間は残り僅かになっていた。滅竜魔導士達は自らの体内にいたことを聞いて驚愕する。

 

「代わりなさいウェンディ。私が彼の傷を癒すわ」

 

「本当!?グランディーネ!」

 

母の提案にウェンディは目を輝かせた。自分に天空魔法を教えてくれたグランディーネならばツナを救えると確信する。

 

「待っ……て……」

 

「ツナさん!!」

 

か細い声でそれを止めるのは他ならぬツナだった。薄く目を開けてグランディーネに懇願する。

 

「もう……そんなに……時間がないはずだ……俺の為にそれを無駄にしないで……」

 

「え?どういうことですか?」

 

「聡い子ね……そして優しい子……」

 

訳が分からないというウェンディと優しく慈愛の目でツナを見下ろすグランディーネ……

 

「私達にもうあまり時間は残されていないわ……昔、アクノロギアの滅竜魔法で魂を抜き取られてしまったから」

 

「滅竜魔導士の体内にいたのはそなた達の竜化を防ぐ為と我々の延命の為でもあったのだ」

 

「そして一度体外に出たからには最早時間は残されておらん」

 

「イグニールも炎竜王としての誇りにかけて死せる前の全ての力をもってアクノロギアを倒そうとしているのだが……」

 

グランディーネ、メタリカーナ、バイスロキア、スキアドラムが何故今まで行方不明だったのかが明かされる。真実に驚愕する滅竜魔導士達……そしてようやく再会した親達ともうすぐ別れなければならないと知り悲しんでいる。特にウェンディは悲痛な表情を隠そうとせずに叫ぶ。

 

「そんな……せっかく会えたのに!!」

 

「泣かないでウェンディ。私達があなた達の未来の為に出来る事がたった1つだけあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グランディーネ!!』

 

『イグニール?』

 

それはツナが堕とされた時、アクノロギアを引き離しながらイグニールがグランディーネに念話で伝えてきた事。

 

『ツナの治療を頼む!!ツナを絶対に死なせてはならん!!』

 

『娘の夫になるかもしれない子だし、私もそのつもりだけど何故そこまで?』

 

ウェンディの体内にいたグランディーネは娘がツナに対して本気で恋している事が分かっていた。娘の為にも彼を癒すつもりだったがイグニールにここまで強く請われるとは思わなかった。

 

『残念だが俺一人ではアクノロギアには勝てん。だがツナならばいつか我らの悲願を果たしてくれると確信した!』

 

イグニールは例えこの戦いで敗れてもツナがいる限り希望は残ると言っている。その希望を絶やす事をグランディーネも他のドラゴンも望まない。

 

『分かったわ。任せてちょうだい』

 

『頼んだぞ。俺も最後に奴に意地を見せてやるとしようか!』

 

そう言ってイグニールは最後の戦いに残った力の全てを注ぎ込むのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グランディーネ……」

 

「世界の為にもウェンディ、あなたのためにも彼を治してみせるわ」

 

「ありがとう……お母さん……」

 

ウェンディの瞳からとめどなく涙が流れる……それを優しい瞳で見つめると気を引き締めるように空を仰ぐと、莫大な魔力がグランディーネの頭上に集まり始めた。

 

「今の状態で一人では無理だろう」

 

「我らも手伝おう」

 

「最後の仕事だな」

 

「ありがとう」

 

鉄竜、白竜、影竜が魔力を天竜へと受け渡す。魔力が更に膨れあがると空に複雑な魔方陣が浮かび上がった。ウェンディは複雑な魔方陣を必死に心に刻み込もうとしている。

 

「天竜の……涙」

 

魔方陣から遠目に見えるほどの大きな水滴のようなものが落ちてきた。誰もがその水滴のようなものが凄まじい魔力を内包していることに気付く。

 

その水滴は真っ直ぐに倒れたままのツナへと落ちる……そしてツナの体に触れた瞬間、水が弾けるのと同時にまばゆい光がツナを包み込んだ。

 

光が消えて、みんなが視力を取り戻すとあれほど傷だらけで確実に致命傷だったはずのツナの肉体には僅かな傷すら残っていなかった。そしてツナは何事もなかったように立ち上がったが、その顔は決して明るいものではなかった……

 

「すみません……俺の為にあなた達の貴重な時間を……」

 

ツナの謝罪に喜びの声をあげようとしていた周りのメンバー達も沈黙する。だがドラゴン達の顔は晴れやかだった。

 

「そなたが気にすることではないぞ」

 

「どの道我らの時間はそう残されていなかった。悔いはない」

 

「フェイスを破壊できた上に未来の希望を守る事ができたのだからな」

 

メタリカーナ、バイスロキア、スキアドラムが笑いながらも言葉を紡ぐ。その体は徐々に透けはじめていた。それぞれの子供と最期の会話を残し始めた。そしてグランディーネはウェンディの横に並ぶツナに優しく頬笑む。

 

「これはあなたの為でもあるし、最愛の娘の為でもあるわ。でも一番は未来へと希望を繋ぐ為……この世界全ての人々の為なのよ。だから簡単にその命を捨てようとしないでね」

 

グランディーネは頷くツナを見て安心するとツナの隣で涙を流しているウェンディへと視線を移した。

 

「ウェンディ……立派になったわね。いつもあなたの中から見守っていたけどこうして面と向かって話す事ができて嬉しいわ」

 

「グランディーネ……」

 

「もう私がいなくても大丈夫よね?あなたにはとても素晴らしい家族や……愛する人がいるのだから」

 

「……うんっ!!」

 

泣きながらも笑顔を見せるウェンディに安心するとドラゴン達は空へと舞う。体が急速に透明になっていくドラゴン達はそれでも、悔いのない誇らしげな顔をしながら遂に消えていった……

 

「ウェンディ……」

 

ドラゴン達が消えていった空をじっと見つめていたウェンディに何を話せばいいのかツナは迷う。

 

「大丈夫です!お母さんはいつでも私を見守ってくれていた事が分かりましたから!だから私は……私のやるべき事を!」

 

まだ涙が乾いていなかったがそれでもウェンディは力強い瞳でエルザの元へと走った。そしてすぐさま治癒魔法を掛け始める。

 

「ツナ、大丈夫なの?」

 

「心配かけたね。でももう完全に回復したよ」

 

「良かった……」

 

ルーシィとミラがツナを心配するがグランディーネの治癒魔法は凄まじく、傷は完全に癒えていた。

 

『ツナよ……』

 

「これは……イグニールッ!?」

 

目の前の二人は疑問符を浮かべるがツナにしか聞こえないイグニールからの念話が頭の中に響いた。

 

『奴を討つ為に生き永らえてきたがどうやらその望みを叶えることは不可能のようだ……』

 

「待ってて!すぐに加勢に……」

 

『無駄だ……最早俺には最期の一撃を放つ力しか残っておらん。その一撃をもって必ず奴に深手を負わせてみせる!だから後は頼む!!』

 

どうやらツナが傷ついていた間に戦闘はかなり不利になってしまったらしい。ツナは慌てて死ぬ気の炎を灯す。

 

『やめよ!俺が傷を負わせたとしても今はまだ奴には勝てん!そして分かっておろう!次に奴が狙うのはお前だということを!』

 

「しかし……」

 

戦闘の場所はかなり遠くである事が分かる。イグニールが引き離してくれたようだがイグニールを倒した後、アクノロギアは必ずツナを狙ってくるだろう。

 

『お前がすべきことは仲間から奴を引き離す事、そして一番重要なのはお前が生き残ることだ!』

 

「生き残ること……」

 

『ツナよ忘れるな!我らドラゴンはお前に全てを掛けた!いつか必ずアクノロギアを倒すと信じているぞ!!』

 

「分かった。聞き届けた……その願い……」

 

イグニールがニヤリと笑う姿がツナの脳裏に浮かぶような気がした。

 

『……ナツを頼むぞ。全てを話せなかったがまだ奴の試練は続く。力になってやってくれ』

 

「ああ……」

 

『さらばだ!ツナよ!最期に共に戦えた事、楽しかったぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「父ちゃぁぁぁんっ!!!」

 

そして数十秒後……天地を揺るがす鳴動とナツの絶叫が遠く離れたこの場所まで響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でタルタロス編は終了ですかね。
ZEROにはいきません。ジョットの事は過去語りのような形になると思います。


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