魔法少女うえだ☆マギカ 希望を得る物語 (ハピナ)
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前章「花の結束」〜commencement〜
(1)魔法少女と魔法少年


注意!Σ(`・д・´)
この作品はスマートフォンによって作成された物になります。
改行が少々崩れた物になってお使いの機種によっては
読みずらい可能性があります……ごめんなさい、ご了承下さい。

あとタグにもありましたが処女作です。
それでも大丈夫な方は上へとスクロールすると良いでしょう。

(12月11日)
◯ハチべぇの外見を細部まで追記
◯その他修正

(12月27日)
○タイトルロゴを追加
○その他修正

(2月16日)
○本格的に改行を修正(試験的)
○その他修正:一部文章索敵等



夏は過ぎた。

 

 

 

少しは涼しくなった。

 

 

 

木の葉は色付き一部が落ちる。

 

 

 

この街……池宮市は今そんな感じの時期だ。

 

現在深夜0時。

 

夜桜のように紅葉も闇の中で街灯の光を反射、ぼんやりと輝いていた。

 

何ともキレイな秋の光景だ。

 

池宮の増徴、巨大な四つ葉型の『四つ葉池』にも、散った紅葉がぷかぷか浮いている。

 

輝く紅葉に池の紅葉……この光景で絵を描いたらきっと高値が付くだろう。

 

 

そんな中、1つ不思議なものがあった。

 

まるで重力を失ったかのように紅葉の上をと軽快に飛び移る茶色のうさぎ。

 

 

……いや、うさぎなのか?

 

 

うさぎのような耳から触角が生えた、ピンとした長い耳を持つ茶色い小動物。

 

触角にリングがない代わりに首と手足に黄色のリングがついている。

背中は丸いピンクの模様、柔らかな桃色がその体ではよく目立つ。

 

長い耳の先は淡い黄色の粉を振りまいたような淡いグラデーションがかかる。

 

リスとキツネをかけあわせたようなふんわりとした尻尾。

 

画面の向こうでしか見ないようなマスコットが、そこには存在していた。

 

 

その生物は、池周りの街灯で1番高いのに乗ると、

ふぅと軽い息をついてこう言った。

 

 

?「ここがいい、この町にしよう。

 

ここには感情、記憶、思いが複雑に絡んだ子供が多いからね」

 

 

その口調は何か企んでいるようだが、表情1つ変えやしない。

 

物語はここから始まる、どこにもなかった新たな摂理。

 

新しい『希望』が、『絶望』が。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

しばらくして夜が明け、池周りは通学や通勤の人々で賑わった。

 

喉やかな雰囲気の公園で、人々はそれぞれの目的地に向かって歩いている。

 

そんな人混みの中、学生に注目してみよう。

色なら藍色や深緑、形ならブレザーやセーラー服など色々な制服を着た子がいる。

その中でもあまり見ないような組み合わせ、赤と白の制服が印象的だ。

 

彼らの通う学校の名は『第三椛学園』

制服こそ変わっているものの、学習内容は至って普通だ。

 

男子は楽しく騒ぎながら、女子は噂話にでも花を咲かせて通学していた。

 

中には集団に絡まれながら、1人本を読みながらと

何やら訳がありそうな生徒もいたが、それでも日常は止まらず過ぎて行く。

 

……ん? そんな中1人、人の波をかいくぐって突っ走る少女がいた。

 

肩まで続く前髪のないサラサラとした長い黒髪が

紅白の制服の上でキューティクルを淡く放っている。

天然サラサラな髪をなびかせ全速力で彼女走った。

 

 

「ごっ、ごめんなさい! どいて〜!!」

 

 

彼女は上田(うえだ)利奈(りな)。 第三椛学園の生徒で天然、頭の良さは中の上。

いつも1人で過ごしていた心情の明暗が激しい中学2年生だ。

 

その上ものすごく真面目な性格だ。

多くの同い年の女子高生が高2独特のノリでカッコつける中、

利奈は膝下スカート、無論ピアス穴なんて開けるはずがない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

またしばらくして利奈は校門に駆け込み、

靴をバタバタ履き替えて職員室の前で止まり、ぜぇぜぇと息を切らした。

 

 

上田「ま、間に合った……危ない危ない、今日は日直なのに遅く出発しちゃった」

 

 

そう言って利奈は息切れしながらにへらと笑い、そう言ってみせる。

 

そこへツインテールの子がきた、小顔で可愛いルックスの女の子。

 

彼女は篠田(しのだ)絵莉(えり)

学校ではクラスで一番のかわいさと男女ともに言われているアイドル的存在。

 

息切れしている彼女に声を掛ける。

 

 

篠田「おはよう上田さ……あれ、どうしたの?」

 

上田「あぁ、おはよう絵莉ちゃん。 ちょっと日直に遅れかけてさ」

 

篠田「え? まだ10分もあるけど……」

 

上田「こういうのは大抵、10分前行動が当たり前でしょ?」

 

篠田「相変わらずの真面目! そんな焦らなくてもいいのに」

 

上田「規則は守るものだからね」

 

 

とまぁ、スカートが基準よりちょっと短いだけの

清楚系かわい子ちゃんさえ苦笑いする程の真面目っぷりだ。

 

この学校の先生ご一行も彼女には4か5の高い評価を付ける。

 

その後、利奈は担任と合流して自らの教室へ向かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

花鳥風月、それがこの学校のクラスの分け方で呼び方。

利奈は一番手前の教室に入る。 教室を示す看板には『2年花組』。

 

いつもと変わらない教室……その騒がしさはまるでジャングルだ。

おはようの声も、そのやかましいほどの声に埋もれるほど。

 

利奈は1人静かに本を読んでいる生徒に近寄ると、一声かけた。

 

 

上田「おはよう月村さん!」

 

月村「……おはよう」

 

 

月村(つきむら)芹香(せりか)、彼女は数少ない利奈の友達だ。

……利奈はこっちが勝手に友達だと思ってるだけと不安に思っているようだが。

 

日課とも言えるいつもの挨拶を済ますと、

他の生徒の挨拶を適当に答えながら自分の席について荷物を片付けた。

 

数少ない……そう、利奈は自らのクラスから 孤立 している。

 

挨拶だけの友達、

 

頼み事を任せてくる友達、

 

……おもちゃにしようといじる友達。

 

利奈自身は無償でそれらを助けるが、いざという時の見返りは一切ない。

 

いわばいじめに達していない『道具』のような状態だ。

 

利奈自身もその現状をわかっていたが……

対抗しようにも利奈は元々、コミュニケーション能力が人より劣っていた。

 

1年間新しい人脈作りに務めたが、結局のところ上手くいかずに今の形になった。

 

利奈の趣味はゲーム。 目指すは実況動画投稿だが、

このクラスには二次元を知らないアイドルの追っかけしかいなかった。

それも孤立した理由の内の1つだろう。

 

利奈はいつものように、その日勉強する科目の中で今日最初の科目の予習を始めた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「起立!」

 

「礼!」

 

「着席!」

 

 

朝の会が終わると、担任と入れ替わりで1時間目の授業を行う先生が入室。

 

利奈も教科書とノートをその教科のに取り替える。

 

 

「起立!」

 

「れぇ~〜い!」

 

「着席っ!」

 

 

上田(あぁ〜〜……これは面倒に思ってるな、まぁこの先生は時間守るし仕方ないね)

 

 

不機嫌そうな他の日直を見て、利奈は小さな苦笑いをした。

 

さて、厳しい先生を前にジャングルだった教室も都合良く静まりかえる。

 

まぁ中にはまだ無駄話を続ける勇者もいるが、

さっきよりは比較的静かだと言えるだろう。

 

 

「それでは授業を始めます、今日は昨日の続きを」

 

 

先生が教科書を開いてチョークを手に取り、何かを書こうとした。

 

 

 

 

書こうとした……が、何かがおかしい。

 

 

 

 

「……あれ?先生?」

 

上田「先生!」

 

「なぁ先生ってば!」

 

 

……いくら生徒達が呼びかけても、一向に反応せず固まったままだ。

 

 

「おいおい、何のジョークだよ先生?」

 

 

その先生と仲が良かった1人の男子生徒が、

先生に近寄りバシッと背中を叩いた……その時だった。

 

 

 

 

その体制を保ったまま、石像のようにゴトッと倒れた。

 

 

 

 

「え? ちょ、先生……?」

 

 

……目を見開いたまま全く動かない、動くことを知らない。

黒板に向き合った格好のままあり得ない体勢で床に付く。

 

痺れを切らした女子高生達はその有様を見て思わず悲鳴を上げた。

 

 

「いっ……!? いやあああああ!!!」

 

「なっ、何なのよこれ!!?」

 

篠田「こっ、怖い! 怖いよ!」

 

「他の先生呼んでくる!」

 

「おい!? 扉が開かねぇぞ!?」

 

「なんなんだこれ!?」

 

 

さすがジャングル、騒がしいなと利奈はそう思った時が、

ふと窓の外に目を向けると、それよりも恐怖が優った。

 

窓側によって外を眺める。 外の景色は時間が立った朝だが、

空を飛ぶ雀達はその翼をぴんと伸ばしたまま宙にとどまっている。

 

 

上田「…………!!」

 

 

大きな驚きと小さな恐怖によって、しばらくその場で固まる利奈。

 

ざわめく教室の中、逃げ場を追い求めるように

顔色真っ青な絵莉が利奈に近寄ってきた。

 

 

篠田「どっ、どうしたの上田さん?」

 

上田「鳥が……!」

 

 

羽を止めて留まる雀……よく見ると、

野良猫はあくびをしたまま口を閉じようともしないし、

車は曲がり角で動くことも無く停止している。

 

窓際で呆然とし、しばらくするとその事に周りも気がつき始める。

 

 

「時間が、止まっている……!?」

 

「あは……あはは、なんかおとぎ話みたいだな。」

 

「こ、これは……ゆ、夢っ! 夢なのよ!!」

 

 

?「これが夢だと思うのかい?」

 

 

上田「……えっ?」

 

 

ふと、頭の中に声が……直接脳に送り込まれたような感覚の『声』が不意に響く。

 

周りの様子からして、その声が聞こえたのは上田利奈だけではないようだ。

 

その声の後、不意に教壇の机が鳴った。

 

見ると、そこには可愛げな茶色のうさぎのような生物(マスコット)がいる。

 

黄金の丸い瞳をぱちくりさせると、また頭に声が響いてきた。

 

 

?「驚かせて悪かったね、

ちょっと話があって一時的に時間を引き伸ばさせてもらったんだ。

今はものすごく時間がゆっくり進んでいる状態だよ。

 

本当は止めれられば良かったけどね、そんな事が出来るのはイレギュラー位だ」

 

 

……みんな驚きすぎて呆然としている。

ジャングルだった教室は息をする音しかしない。

 

まぁ、こうなるのは無理もない。

 

時間が止まったり……あぁ引き伸ばしたのか。

脳内に考えもしない声がしたり変な生き物が出てきたり……

漫画でもなきゃ起こらない出来事達がことごとく起こっているんだから。

 

声も出なくなっている状況の中、1人の生徒が前に出た。

 

利奈は彼の事を詳しくは知らないが、名前は一応知っていた。

 

 

彼は中野(なかの)蹴太(けりた)、何かあったら自ら名乗り出てみんなをひっぱるリーダー。

 

 

髪型は……まぁ黒にしても完全な真面目でないとわかるが、

しっかりとしたリーダーシップはある。 誰にも勝る勇気も。

 

かけている眼鏡に聞き手で触れてカチャッと鳴らすと、息をついて声を出した。

 

 

中野「……君は何者なんだ?」

 

?「僕はハチべぇ、君たちにお願いがあってここに来たのさ」

 

上田「お願い?」

 

「願うもなんもねぇだろ! 早く時間動かせや!」

 

中野「落ち着け! ……僕は蹴太、ここ花のクラスでクラス長をしている。

ひどい事をしないようだし、どうしてこんな事をしたのかを僕達に聞かせて欲しい」

 

 

ハチべぇといううさぎ……うさぎじゃないか、よくわかんないや。

ハチべぇは表情を変えないまま1つ瞬きをすると、大きな声を上げた。

 

 

 

ハチべぇ「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 

 

あまりにも突発的で非現実的、中にはハァ!?などと言う生徒もいた。

 

 

中野「……にわかに信じ難い話だね」

 

ハチべぇ「もちろん魔法少年もさ、男に女になれとは言わない」

中野「そうじゃない!」

 

 

流石に適応能力が人より高めな彼もたじたじだ。

だが、利奈は驚きの反面どこか心高まる感覚を抱いていた。

 

 

上田(魔法……少女? こんなあり得ない事がたくさん起こってるし……本当ならすごい事じゃない!)

 

 

ゲーム好きだった利奈はそのファンタジーな提案に誰よりも期待を寄せた。

控え目な利奈は思わず前に出る。 瞳がかなり輝いている。

 

 

上田「ねぇハチべぇ! 魔法少女ってどんな感じなの?」

 

中野「うおっ!?」

 

篠田「上田さん!?」

 

「う、上田さんあの生き物に話しかけてるぞ……」

 

「うへぇ相変わらず変わってんな」

 

「でも勇気はあるわね、私ちょっと気になるし!」

 

上田(騒がしいなぁ……)

 

 

謎の生命体に話しかけているのを心配してくれている人もいたが、

ほとんどが利奈を後ろでこそこそと話し出した。

 

元々おもちゃやら道具やらに今までされていた利奈、またしてもいじられている。

この場においてまだいじるかと利奈は傷……呆れている、これは早々に慣れなくては。

 

そんな様子には目もくれず、ハチべぇはきゅっぷぃ!と可愛らしく鳴いて話し出した。

 

 

ハチべぇ「この町には今、魔女と魔男が迫りつつある。

明日にはこの2種がこの町に現れるようになるだろう」

 

『魔女』と『魔男』……前者は一般的に知られた名前だが、

魔男……まだん? というのは聞いた事がない。

 

これだけあり得ない事が重なり起こる現状、

もう大きく驚く生徒はいなかった。

今は大人しく目の前にいる生き物の話を聞いている。

 

 

説明が長かったので簡単にまとめると、

 

魔女というのは狂いし意思を持つ者。

 

思想のままに自分勝手に生きる者。

 

自分の世界、結界を持ち、使い魔を意のままに従える。

行く先々で思想を実行する、その地で待つのは……滅び。

 

それが、魔女と呼ばれる者。

 

絶望から生まれて絶望を産み、希望を絶望に堕とす。

 

女性らしい魔女の他にも、魔男なる者も存在するらしい。

 

 

ハチべぇ「そこで、魔法少女や魔法少年の出番だ。

 

それら二種は魔法を使い、魔女や魔男を倒すのが仕事さ。

 

それらになるにはは1つ、なんでも願いを叶える代わりに

僕と契約を結び、魔法を得て魔法少女や魔法少年になるんだ。

 

君たちは選ばれたんだ!

花組のみんな、僕と契約してこの町を守ろうよ!」

 

 

利奈には希望に満ち溢れる話だったが、

自分をいじり倒していた後ろが気になって上手く声が出ない。

 

ふと、1人の生徒が声を上げる。

 

 

「なんでもって言ったよな……?」

 

ハチべぇ「うん! どんな願いでも叶える事が出来るよ」

 

 

その一声に教室が湧いた、次々にみんな願いを叫ぶ。

 

 

「僕、もっとイケメンになりたい! ブサイク卒業だ!」

 

「自宅にプリクラ機〜! あたしの家業を美容関係に変えて!」

 

「俺未来とか過去とか見えるようになりてぇ! 予言とか面白そうじゃん!」

 

 

脳味噌が少々劣化している生徒達は深く考えもせずに願いを生み出し簡単に決めてしまう。

 

中には将来的に問題になりそうなのもあったが……それを否定出来る者は今、ここにはいない。

 

だが全てがバカ……と言うわけではない。

じっくり考えて願いを決める者もいた。

 

みんなみんな願いを決める中、利奈は……

 

 

願いが思いつかなかった、利奈はこう思っていた。

 

 

私の願いは多分『この状況を変えること』……

でも、この状況を変えた所でこいつらはまた元に戻るんじゃないか?

転校って言っても、こいつらのせいで少ない友人と別れるのは敗北にも近い。

 

 

それに、私がいなくなったら他に『道具』が生まれるのでは?

 

 

じゃあ私の願いは?

 

 

私の願いは?

 

 

私の……願いは?

 

 

願いが決まらず苦しむ利奈を他所に、

まるでそれがわかっているかのようにハチべぇは話に付け加えをした。

 

 

ハチべぇ「僕の契約は団体向け、全員が簡単に足並みを揃えるのは

かなり難しいところもきっとだろう?

願いを叶えるのは契約してからでも大丈夫だよ」

 

「いや後から願いを叶えるやつなんていねぇだろ」

 

「みんな今決めちゃうもん! ね〜〜!」

 

「ね〜〜!」

 

 

なんという親切設計……! と感動するのと同時に、

相変わらず決めつけるな……と、利奈は引き気味に思った。

 

利奈(あぁ……うん、後でも良いのね。 ゆっくり決めればいいか)

 

 

しばらくしてやっとみんなの考えがまとまった、ほぼ流れに近いが。

 

 

中野「僕達、『第三椛学園2年花組』はハチべぇと契約を交わし、

魔法少女、魔法少年になることをここに誓うよ」

 

 

やたらシリアスな雰囲気にまた茶化そうとした生徒達が一部いたが、

流石にこの真面目な状況に空気。 茶化しを何人かが阻止する。

 

 

ハチべぇ「『第三椛学園2年花組』の意思を了承する。

君たちの願いはエントロピーを凌駕した」

 

 

途端に、体内の中心……ちょっと左よりだが。それが強く脈を打つ。

 

 

ハチべぇは1人1人の胸に耳から生えた触角で触れると、

光り輝くオーブというか宝石というか……卵のような宝石が出てくる。

色は人によってバラバラで、1つとして同じ色はない。

 

1人、また1人と抜き取って、いつのまにか利奈の番。

 

違和感のある胸の辺りに触角が触れる、すると違和感がすぐに無くなった。

光り輝く卵形の宝石、その色は暖かな赤色だ。

その透き通る美しさに思わず見とれる。

 

 

ハチべぇ「それは『ソウルジェム』、魔法少女が魔法少女たる証であり、魔力の源でもあるんだ。

 

だから、魔法を使うたびにちょっとずつ穢れが溜まるんだよ。

 

魔女や魔男が落とすグリーフシードという宝石で穢れを浄化できるんだ。

 

何もしない分には穢れる事はないから、

魔女や魔男を倒す作戦やらをじっくりと考えるといいね」

 

 

そして教室はまたジャングルと化す。

やっぱりファンタジーへの憧れというのは

この年齢では強くあったようで、みんな大喜びしている。

 

 

「なぁなぁ! 早速変身してみようぜ!」

 

「そういや教えられてもいないのに、なんだか変身できそうな気がするわ!」

 

「魔法も試しにぶっ放してさ! ぎゃはは!!」

 

 

オイオイ、時間がすごくゆっくりになっているせいで何か大事な事を忘れていないか?

 

 

上田「ね、ねぇ、流石に教室で魔法を放つのは……」

 

月村「馬鹿みたい、それとも本当に馬鹿なのかしら?」

 

 

ふと、普段滅多に大勢の前で話さない月村さんが周りに聞こえるようにそう言った。

 

 

「ハァ!?」

 

「うるせぇなぁ盛り上がってんのに……バカはどっちなんだy」

中野「待て待て、喧嘩は良くない。 どうして馬鹿だと思ったんだい?」

 

話を聞いてくれる状況を確認して、彼女は読んでいた本にしおりを挟んでぽんっと閉じた。

 

 

改めて紹介しよう、彼女は月村(つきむら)芹香(せりか)

学校では常に1人でいて、何もしゃべらない女の子、

趣味は読書、ジャンルは不明。 しゃべったとしても一言一言がキツイ。

唯一利奈とは時々話したりする、それ以外はずっと1人だ。

 

 

月村「こんな狭い空間で、まだどんなのかわかっていない

魔法というのを放ったらどうなるのかは一目瞭然。

 

『魔法を使うたびにちょっとずつ穢れが溜まる』

 

と説明があったのに無駄に魔法を消費しようとするのは

頭の脳みそが足りない馬鹿のやる事……それだけよ。

 

そうでしょう? 上田さん」

 

上田「え? ……あ、うん。 ここは学校だし、試すなら放課後にしようよ」

 

 

リードされたおかげで自分の意見を言えた利奈、2人の言う事は明らかな正論だった。

 

 

中野「ふむ……」

 

「だからってバカって言う事はないだろ!? バカって言う方がバカだろ!」

 

篠田「でもでも、2人の言う通りだよ! 魔法を無駄に使ったら勿体無いよ?」

 

「だってさ! 意地なんか張ってかっこ悪ぅ〜〜い!」

 

「ぐ、ぬぬ……」

 

 

バカなのは自覚があるらしく、乱闘が起きるまでにはいたらなかった。

魔法を試すのは後にしようという結論に至る。

 

 

ハチべぇ「魔女や魔男はソウルジェムの反応でわかる。

ソウルジェムがなければ変身する事は叶わないし、

肌身離さず持つことを推奨するよ。

 

普段は指輪になって君らと共にあるだろう。

 

とにかく、契約してくれてありがとう! これからは一緒に頑張ろうね!」

 

 

その言葉に歓声が沸いた、明日からこの町を守る戦士になる。

みんなみんな、今日から魔法少女に魔法少年。

 

 

ハチべぇ「なにかあったら魔法少女や魔法少年の固有能力である念話……

ようはテレパシーだね、それで僕を呼ぶといいよ。

 

さて、そろそろ学業に戻った方がいいだろう。

君たちは早く魔法を試したいそうだしね」

 

「めんどくせぇなぁ勉強とか」

 

「それが学生って事だろ? 両立も考えなきゃいけねぇのかぁ……」

 

「思いっきりサボるのもいいけど、定期テストが不安ね」

 

「テストとかどうでもいいわ、めんどくせぇし」

 

篠田「だめだめ! ちゃんと成績上げなきゃ将来困るよ!」

 

中野「みんな、そろそろ戻るよ。 自分の席について!」

 

……ハァ、ごった返しとはこの事か。

 

そのやかましさは相変わらずのジャングルだが、

行動は他のどのクラスよりもまとまっていて積極的だと言えるだろう。

 

他の鳥風月のクラスは追い追い説明するとして……

おっと、そろそろ時間が元の流れになるようだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間の進み方が元の早さに戻ると、

まず起こった出来事は教師の痛々しい断末魔だった。

後に生徒には鼻を骨折したと伝えられる。

 

一時間目は自習になった。 骨折を心配する生徒もいたが、

そんなの知ったこっちゃねぇ系おバカは自習という自由時間を喜んだ。

 

他の時間はというと……各先生方は人が変わったかのように

静まり返って勉強に挑む生徒達に度肝を抜いただろう。

 

それもこれも、未知なる力を試したいという

この年齢の本能とも言える『厨二病』が働いていたからだ。

なんだかんだ言って皆まだ14歳、結局のところ子供。

 

 

帰りの会が終わると、利奈は荷物をまとめてそそくさと教室を後にした。

お気に入りのマフラーをもふっと整えると……ふと、右手が目に入った。

 

右手の中指に指輪がついている、それは銀のリングに赤い宝石がついた指輪。

そのデザインは利奈らしい大人しめの可愛らしい物になっている。

 

これが彼女のソウルジェムだ。

 

花組の生徒は皆デザインこそ違うが、みんな好きな指に指輪をはめている。

 

ソウルジェムを見ても、まだ明確な実感が沸かない利奈は

他の生徒に捕まる前にとっとと帰路へと急いで行く……

 

 

月村「待って、上田さん!」

 

上田「ん?あ、月村さん! あれ、一緒に帰るにしても家逆方向じゃないの?」

 

月村「試すのよ、魔法を」

 

上田「!」

 

 

帰りに声をかけられる事がなかった利奈は単純にその事に驚いたのもあったが、

積極的のない芹香から声をかけられたのに1番驚いた。

というか、単純に嬉しかった。

 

 

月村「他の人達はみんな裏山に行く、大声で言ってたから間違いない。

でも、大勢でやっても集中出来ないと思うのよ。

時間があるならついて来て欲しい、とてもいい場所がある」

 

上田「ここからどのくらいの距離?」

 

 

芹香の話によると、ここからそう遠くはないだが人目にはつく事のない場所。

それなりの広さがあるボロい倉庫があるらしい。

 

そこなら魔法を試す……なにかあった時の拠点になるのでは? という話だ。

 

無論、利奈は賛成した。 親友と思う彼女の提案、否定の理由がない。

 

 

月村「ありがとう。 なら、可笑しな人達に目を付けられない内に行きましょう」

 

利奈「りょーかい!」

 

 

こうして、彼ら彼女らは参戦した。夢と希望に満ち溢れた魔法の世界に。

 

……だが、無垢な子供達はまだ知らない。

 

ハチべぇのいう魔女、魔男。

 

 

そして魔法使いの運命の、本当の意味を。

 

 

花組の生徒達はこれからどんな物語に巻き込まれ、

その魔法使いとしての運命を共にする事になるのか……

 

 

物語はまだ、始まったばかりだ。

 

 

………………………………

 

次回、

 

 

 

「これが……魔法!」

 

 

 

「ふ〜ん、思い通りね。」

 

 

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

 

 

「こんなのってないよ……!!」

 

 

 

〜終……(1)魔法少女と魔法少年〜

〜次……(2)私の魔法と親友の魔法〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、がんばって書いたプロローグ風の文も添えて
初めて書き上げた作品になりますが、いかがだったでしょうか?

誤字・脱字があったら速攻直すのでその時はぜひご報告下さい。

私の自己紹介にもあった通り……基本、私の作品の投稿は不定期となります。

なるべく早く投稿出来るよう努力をしていきたいと思います。

ハーメルンの皆さま、よろしくね。(〃艸〃)


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(2)私の魔法と親友の魔法

注意!Σ(`・д・´)
この作品は……まぁ注意はいらないかw
このページを見てくれているって事は
最初も見てくれたんだし恐らく。


朝ならおはよう!

昼ならこんにちは!

夜ならこんばんは!

あいさつまつりなハピナです。


前話に引き続き見てくれてありがとうございます。

さて、今回は主人公及びその相方の魔法少女姿お披露目となります。

服装やソウルジェムの表現が上手く伝わるかどうか少々心配ですが……
まぁ、作者本人は時間をかけてじっくり考えた所なので、
どうぞ頭の中に彼女を思い浮かべてお楽しみくださいな。

では、ちょっと長くなりましたが・・・
[魔法少女うえだ☆マギカ]第ニ話、開 幕 で す !ヾ(´▽`*)ゝ

2016年1月4日
◯文末と……とスペースの修正
◯その他修正

2月17日
○改行の本格修正
○『w』や顔文字の削除
○『ー』や『~』の引き延ばし
○その他修正、索敵



ガチャっ……と、倉庫の壁に身を潜めていた扉のドアノブが開く。

 

そこに広がるのは粗大ゴミが大量に置かれた内部。

真ん中は開けていて、少し片付ければかなり広いスペースが取れそうだ。

 

利奈と芹香は荷物を置いてふぅっと一息付くと、

まずは指輪をソウルジェムに戻して見た。

 

 

利奈のソウルジェムは暖かな『赤』。

 

金細工に濁りなど一切ないキレイな赤を放つ宝石がはまっている。

 

モチーフはハートのとうさぎ。

だがそのハートはどこかカクカクして、機械的……

ゲームを感じさせる派手ではないが可愛いデザイン。

 

利奈の心をそのまま投影したようなソウルジェムが利奈の手にあった。

先端には丸みを帯びたハートのエンブレム。

 

 

午前中はじっくりと見なかったが、利奈の目に芹香のソウルジェムが映る。

 

 

芹香のソウルジェムは暗めの『橙』、どこか深みのあるオレンジ色。

モチーフは本のようだが、その見た目は静かだった。 先端には、開いた本のエンブレム。

 

 

芹香は利奈のソウルジェムと自分のソウルジェムを交互に眺めると、

表情をあまり変えずにふと、クスリと笑った。

 

 

月村「やっぱり、あなたはちゃんとしてるわ。

今頃、他の魔法使い達は穢れが溜まり始めている頃ね」

 

上田「あはは……無駄に魔法を使うってのはあまり良い事じゃないしね。

穢れ切ったら絶対なんかあるよ、魔法が使えなくなるとか……」

 

月村「どっちにしろ、そのうちグリーフシードという……

 

確か黒だったわね、そんな宝石が必要になるのは変わりないけど。

 

さて、早速私たちの魔法を試しましょう」

 

上田「りょーかい!」

 

 

変身しようという意思を持つと、ソウルジェムは強く光を放つ。

 

 

それを解放する言葉は……

 

 

「「変身!」」

 

 

その言葉を合図にソウルジェムから光が溢れた。

一線の光は赤と橙それぞれの色が2人を包む。

 

赤い光は控えめなハートをまとい、オレンジの光は見知らぬ文字をまとう。

 

光に包まれ、赤と白の制服は薄い光を帯びて変形していった。

 

髪は赤に、橙に染まり、赤い髪は束ねずそのまま、

橙の髪はミディアムの髪の斜め上をほんの少し結んだ。

 

変身が終わると、光は一つになって帽子になる。

利奈は小さなシルクハット、芹香は大きなベレー帽。

 

 

暖色の魔法少女2人がここに変身を終えて参上した!

 

 

ふと、変身を終えた利奈は粗大ゴミの中にあった比較的キレイな姿見に目をやる。

 

赤き魔法少女はマジシャンのよう。

現実にいる某ボーカロイドのミ○ク○ペ○ン○衣装に似ている……

と言ったらわかってもらえるだろう。

 

頭にミニシルクハットとピンと伸びたうさぎの耳、タキシードはツバメの背広。

落ち着いた赤に染まっており、膝上のスカートに焦がした赤のブーツ。

 

ソウルジェムはというと、ハートのブローチになって

蝶ネクタイの代わりに首元で鎮座している。

 

 

上田「これが私? すっ、すごい! 本当に変身しちゃったよ!」

 

 

姿見の前で一回転、自分の魔法少女姿を見る。

 

なにせオシャレなんて目立ちたくなくてやっていなかった。

でもちょっとした憧れはあった、だって女の子だもん。

 

利奈にとっては、まさに夢のようだった。

 

希望の為に戦う事になる魔法少女、緊張と嬉しさで胸がいっぱい。

 

 

月村「半信半疑だったけど……どうやら本当だったみたいね」

 

上田「あ、月村さ……おぉ! 月村さんも可愛い!」

 

月村「可愛いなんて口に出して言うものじゃないわよ」

 

上田「えぇ~~可愛いものは可愛い! 照れちゃってそれも可愛い」

 

月村「な……!? やっ、やめなさい!」

 

 

いじる利奈に、芹香は顔を真っ赤にした。

 

『魔法少女』という共通の接点が出来たからだろうか?

 

学校では短めの会話しか交わさなかった2人……

 

花組のギャル共のやかましさではないが、今はとても楽しそうに会話をしている。

 

……否、元々似たもの同士だったしこれ位仲が良かったのだ。元から。

 

花組というジャングルで生き抜く為に無意識に大人しくしていたのだろう。

 

 

おっと、芹香の格好はというと……一見すると司書のようだった。

 

暗めのオレンジのワンピースにエプロンがついている。

エプロンはまるで、水を固めて作ったように透き通っている。

そのオレンジのワンピースは刺繍が少し入っているだけで、

あとはウエストから続く長いスカートが膝下までひらひらと続いている。

袖は肩で切れていて、まるで長い手袋をしているよう。

 

ソウルジェムはエプロンについた飾り付きのクリップ。

名札には本のエンブレムと謎の文字・・・そんな感じだ。

 

 

さて、変身が整ったところで

いよいよ魔法を試す時だ。

利奈はふと、頭に浮かんだ言葉を発する。

 

 

上田「アンヴォカシオン(召喚)!」

 

 

そう言って元から知ってたのように、手を強く上にやると、そこに赤い光が集まる……

 

出来上がったのは真っ赤でシンプルな『棍』だった。

マジシャンの使うステッキを長く、長く伸ばしたような棍。

 

手にとると重さは程々、振り回せない事はない。

武器として使うにも投擲するのにも向く、かなり有能な棍だった。

 

軽く乱舞を打ってみる……ふむ、早さがあって隙がない。

 

まだまだ成長出来そうな魔法だったが、今のところ使える魔法はこの棍くらいか。

 

 

上田「おぉ……! かっこいい! なんか思ってたのと違うけど……」

 

月村「炎や雷を放ったりするのだけが魔法って事ではないみたいね、

使いようによって回復出来たり、強化出来たりするもの」

 

 

利奈は芹香の話を聞いて、改めて魔法少女になってから召喚1本目の棍を眺めた。

 

『魔法少女になった』という実感がふつふつと湧いてくる。

 

 

上田「これが……魔法!」

 

 

はたから見たら、利奈の目はキラキラと輝いているように見えるだろう。

 

私の……私の魔法、夢のような力を手にいれたんだと、

利奈はひしひしと湧く感動をしばしの間楽しんだ。

 

 

上田「あれっ、ところで月村さんは?」

 

 

ふと見ると、芹香の手にはノート程の大きさ……

でも厚さは結構ある本を手にしていた。

パラパラめくるページは白紙だらけ。白紙でも芹香は冷静だった。

 

 

月村「『第一章』『第二章』『第三章』『第四章』『第五章』……

どうやら魔法でページに内容を書き込んで、それを元に魔法を発動する感じかしら。

まだ1つの章に魔法が1つしか書いていないけど……今のところはこれで充分ね。

 

要するに思い通り……ね、時間をかければ何枚でも書けそう」

 

上田「なんか、これぞ魔法! って感じだね? 魔道書みたいな!」

 

月村「でも、所詮は本……上田さんの棍みたいに接近戦というのは無理そう」

 

 

お互いの魔法少女事情を把握した所でいよいよ練習に入ろうとした……が、

突然、頭に念話が飛び込んだ。 届いた声からは必死さが感じられる。

 

 

((誰か! ちょっと、四つ葉公園に来て!!))

 

 

練習の邪魔になったが、必死そうな言い回しに2人は一旦武器をしまった。

 

聞こえてくる念話に集中すると……驚くべき内容が聞こえてくる。

 

 

((絵莉の……篠田絵莉の様子が可笑しいの!))

 

 

上田「絵莉ちゃんが……!?」

 

 

一旦利奈は芹香の方を見た、芹香はふぅっと息をつく。

 

 

月村「構わないに決まってるでしょう、そんな目で見るのはやめなさい。

 

篠田絵莉、上田さんが大切に思っている人なんでしょう?

私はあの子らみたいに途中抜けをバカにしたり、怒ったりもしない。

 

……私はごめんなさい、この後ピアノの練習があるの。

花組にあまり関わってない私が行っても何もならないわ」

 

上田「ありがとう月村さん! 荷物まとめて行ってくる! また明日!!」

 

 

利奈は魔法少女の変身を解くと、学校していのコートに薄ピンクマフラーを装備、

ちょっとよれよれな学校カバンを抱えて倉庫を飛び出した。

 

 

 

月村「……気をつけてね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

四つ葉公園、それは池宮にあるボート貸出しもあるレベルの大きな公園。

巨大な四つ葉の『四つ葉池』が公園のど真ん中に居座っている。

 

四つ葉公園の東西南北には噴水があるのだが、

声を頼りに利奈はその内の1つに辿り着く。

 

見ると、ベンチで絵莉が頭を抱えて苦しそうに唸っている。

ギャル1人と何人かの女子がいる。 みんな花組の生徒だ。

 

 

「あれ、上田さん? あなたが来るとは思ってなかったわ」

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!

上田さん、絵莉の様子が可笑しいの! なにか心当たりはない?」

 

上田「いつもの絵莉ちゃんだったけど……なにかあったの?」

 

「絵莉と一緒に帰ってたんだけど、絵莉が転んでからこんな調子で……」

 

 

見ると、そこには可愛らしいマフラーにイヤーマフを付けた絵莉がいた。

とても可愛い格好だが、その目に可愛らしさはなかった。

光が無く、まるで何かに怯えているような……

 

 

篠田「……! 上……田さん!」

 

 

ガクガクと震える手で頭を抱えていた手を下ろし、絵莉は利奈の手をガッと掴む。

 

 

上田「ん!? え、絵莉ちゃんどうしたの?」

 

 

来たばっかりの利奈は何をしたらいいかわからず、とにかくまずは手を握り返す。

 

 

上田「えっと……絵莉ちゃん大丈夫? 何かあったの?」

 

 

もちろんちゃんとした味方もいるが……

ほとんどが話をふざけとしか聞き取らない仲間内。

 

真面目に話を聞ける利奈が来て安心したのか、絵莉の目には涙がこぼれた。

 

篠田「あた……あたした……あたしは……!」

 

 

今にも泣きそうな目。

 

 

何かに怯えている目。

 

 

助けを求めている目。

 

 

目からは涙が落ち、再度……絵莉は頭を抱えて叫んだ。

 

 

 

 

篠田「こんなのってないよ……!!」

 

 

 

 

最後の言葉は絶望し切った言葉、不意に絵莉の小指についていた指輪が砕けた。

 

 

 

 

上田「っ!?」

 

 

そこからはもちろん、彼女のソウルジェムが現れるわけだ。

 

絵莉のソウルジェム・・・緑は真っ黒にかき乱され、そこから異様な魔力が溢れた。

 

ごうごうと唸る極彩色の魔力の中、利奈は目にする。

 

 

空間を覆っていく新しい空間の壁を。

 

 

ソウルジェム()()()()()から溢れる狂気に満ちた教材達を。

 

 

利奈は……魔女の誕生に立ち会ったのだ。

 

 

 

 

黒板の魔女、性質は後悔。

 

 

 

 

それは、花組が対峙する最初の魔女。

 

 

 

 

………………………………

 

次回、

 

 

 

「絵莉はどこに……!?」

 

 

 

ハチべぇ「いつ、僕は君達が絵莉を殺すって言ったんだい?」

 

 

 

「あぁ……早く帰って新曲CD聞きたい……」

 

 

 

上田「倒すのでもない、殺すのも違う……救うんだ!魔女から魔法少女を!!」

 

 

 

〜終……(2)私の魔法とみんなの魔法〜

〜次……(3)初絶望と初戦闘[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




次回は3話にして魔女戦です。 /(^o^)\ナンテコッタイ

「早すぎるだろ孵化すんの!」と思う人も数々いると思いますが、
次回、それらは魔女との戦いを通して明らかになっていくのでご安心を。

魔女執筆\(^o^)/ハジマタ! 楽しみながら書こうと思いますw

しっかし:(;゙゚'ω゚'):サムィー外で吐く吐息も白いしいよいよ冬っぽくなってきた!

ん? ハロウィン小説? ( ・∀・)< 知らんな!


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(3)初絶望と初戦闘[前編]

注意書きなんてなかった(^q^)

いよいよ今回から魔女戦に入ります!
ちょっと長くなったので前編後編と分かれてしまいましたが……
その分ボリュームがあるってことで1つw

では、イヌカレーワールドならぬウサギカレーワールドをお試しあれ!(○´―`)ゞ

1月10日
○一部『』への変更
○…を……に延長
○その他修正

2月17日
○変則改行の本格修正
○『w』の消し逃しに対応
○その他修正、索敵



キーンコーンカーンコーン……コーンキーンカーンコーン……

 

 

それは魔女の始まりであり、それは世界の始まりである。

 

 

若干音割れしたチャイムで、利奈は目を覚ました。

 

 

利奈「うぅ……ぐ……」

 

 

止まっては動き、止まっては動き……なんだかカクカクする。

ふと、肩に何かが乗った。 それは利奈に語りかける。

 

 

ハチべぇ「この空間にいる間は魔法使いに変身した方がいい、

ここは利奈含め君たち人間が対応していない空間だ」

 

 

聞き覚えのあるハチべぇの声、利奈はその声に素直に従うことにした。

 

 

利奈「変、し……」

 

 

声帯までおかしくなっているのか?

震えたり止まったりして上手く声が出せない。

だが、利奈のソウルジェムは変身への強い意思に答えた。

 

指輪がソウルジェムになって赤い光が瞬く間に利奈を包み、

 

その姿を、まるで奇術師のような赤き魔法少女にした。

 

ソウルジェムはブローチになって利奈の首元に収まる。

 

 

利奈「かは……ふぅ、助かった。

……ダメだ、何があったのかぼんやりとしか覚えてないや。

それにしても、ここは……」

 

 

肩で息をしながら、スッと立ち上がって周りを見渡した。

 

 

そこに広がるのは可笑しな世界。

 

 

目線の先に続くのはステンレスの一本道……

少ないものの所々に穴が空いていて見落としたら落ちそうだ。

 

深緑の空中では数式が書かれては消え、謎の文字が書かれては消える。

 

道の下には大量の学校の机と学校の椅子。

 

真緑の猫人間のような変に着飾った人形達は白と赤の制服を来て延々と終礼。

 

 

「起立!礼!着席! 起立!礼!着席! 起立!礼!着席!」

 

 

所々に巨大なチョークで組まれた

異様な犬とも言えない猫とも言えない……

目の所には穴が空いている人型の生物がいる。

 

 

黒板の使い魔、役割は生徒。

 

 

そんな異様な景色を見て、利奈は1つの結論に至った。

 

 

ここは、()()()()()

 

 

上田「ハチべぇ、どうすればいいか教えて! 魔女はどこにいるの?」

 

 

利奈の冷静な立ち回り……まさかここでホラゲや鬱ゲーなどの

ゲームの経験が生きるとは本人も思わなかっただろう。

 

ハチべぇはその対応に驚きはしたが、変に首を突っ込むような真似はしない。

 

 

ハチべぇ「今回の魔女は、この結界の最深部にいるよ。

この結界なら、道なりに進めば魔女に会うことが出来る。

魔法少女の初戦にはまさに最適な環境だね」

 

上田「最適って……とにかく、みんなを起こそう」

 

 

 

 

利奈とハチべぇが呼びかけをした結果、しばらくして結界の片隅には数人の魔法少女が出揃った。

 

利奈以外の魔法少女達は特定の男性アイドルが好きなグループだったせいか、

そのアイドルの衣装の女性版だったり、武器が二刀流のうちわだったりと

なんだか戦う気が無いような戦闘には向いていない印象だ。

 

 

「うぅ……これが、魔女の結界ってやつなの?」

 

ハチべぇ「そうだよ、魔女が自分の理想を実現する為の空間だ」

 

上田「この辺りなら、他の場所よりは大丈夫みたい。

ハチべぇがここなら魔女から遠いししばらくは安全だって」

 

「な、なんだ……しばらくだけどここなら大丈夫なんだ」

 

「あれ? ちょっと待って、絵莉はどこにいるの?」

 

上田「わからない……多分この結界のどこかにいると思うよ」

 

ハチべぇ「それなら、絵莉はこの結界の奥の方にいる」

 

上田「……え!? それを早く言ってよ!奥の方って?」

 

「まっ、まさか絵莉は魔女にさらわれた……!?」

 

 

その言葉に一同は騒然となる。

 

だとしたら、まだ魔法を使って見ただけの絵莉……

 

戦闘慣れしていない彼女は、1人で魔女と対峙していることになる。

 

それはかなり危ない……!

 

 

「はっ、早く行かなきゃ……」

 

「え!? こんな気持ち悪い世界を!?」

 

「うぅ……やっぱり、怖いよ……」

 

「早くうちに帰って新曲聞きたいのになぁ」

 

 

仲間が危ないというのにこの子らは……そう思った利奈は強く発言した。

 

 

上田「行こう! 初めてだからって怯えている場合じゃないよ!」

 

そう、それよりも一番に絵莉が心配。

 

利奈の言うことに賛同しつつももたつくアイドル追っかけ一同。

 

 

上田「……ちょ、行こうよ! 絵莉ちゃん心配なんでしょ?」

 

「あぁ、うん、今行くから」

 

「こんな武器で魔女倒せるのかなぁ……」

 

 

うだうだ理屈を並べて出発を拒む、どこか面倒そうな魔法少女までいる。

 

 

絵莉は友人じゃないのか?

 

 

どうして非行動的なのか?

 

 

恐怖が勝るのか?

 

 

不甲斐なさにイラついた先の考え……ふと、利奈はある事が頭に浮かんだ。

 

 

上田「……ハチべぇ、本当に一直線なんだね?」

 

ハチべぇ「間違いないよ、この結界は一本道だ」

 

 

……そうだ。

 

 

今までも、そうしてきたじゃないか。

 

 

ひとりぼっちの掃除の時だって、

 

 

押し付けられた裁縫の宿題だって、

 

 

いつも必ずある帰り道だって……

 

 

上田「アンヴォカシオン(召喚)

 

 

もたついて出発する気がないアイドル追っかけ魔法少女達を見て、利奈は……

 

 

 

 

真っ赤な棍を片手に1人、ステンレスの道を駆け出した。

 

 

 

 

「!?っ、上田さん!?」

 

 

1人でやろう、1人でやればいい。

 

 

掃除も時間をかけて、1人で。

 

 

裁縫も嫌いじゃないし、1人で。

 

 

帰り道も早く帰れるし、1人で。

 

 

……()()()()()()()()、1人で。

 

 

上田(集団行動なんて私のやることじゃない……)

 

 

驚きを隠せないアイドル追っかけ魔法少女達がどんどん小さくなり、遠くなる。

 

 

上田「って早い!? 私こんなに走るの早かったっけ!?」

 

 

自分の知らない速度で走れている事に驚く利奈だったが、

いつのまにか右肩に乗っていたハチべぇがそれについての情報を口にする。

 

 

ハチべぇ「魔法少女や魔法少年は普通の人間より基本的な能力が大幅に上がるんだよ。

疲れにくいし傷が治るのも早い。 あと、念話も出来るように」

 

上田「あぁ〜〜……説明中ごめんハチべぇ、

そろそろ話すのやめないと舌を噛むことになるよ」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ!」

 

 

あれ、ハチべぇに舌ってあるのか……?

 

 

上田の駆け抜ける道の穴から、チョークで出来た……『チョーク犬』とするか。

 

白、赤、黄に青のチョーク犬が飛び出してくる。結界に現れた異物を改良する為に。

 

 

黒板の使い魔、役割は教育。

 

 

魔女が授業を教えられる生徒になるよう教育する、それが役目。

 

 

まぁ、もちろん利奈はそんな事知らない訳だが。

 

 

上田「……孤独に舞おう、鮮烈に」

 

 

まるで自分に言い聞かせるように利奈はそう言うと、

持っていた棍で瞬時にチョーク犬を1匹なぎ倒した。

 

……利奈のゲーム脳が起動する。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

嫌な事なんて忘れてしまえ、思考の奥深くに眠れ!

 

 

1匹を合図に一斉に襲いかかる。

 

吠える声はカッ、カッ、と黒板に文字を書き込むような音。

 

利奈の走りながらの乱舞、なぎ払い、叩きつけ、打ち上げる……

一連の攻撃をは走りながらこなした。

 

まさか……芹香の倉庫で少し舞っただけの舞がもう身につくとは。

魔法少女というのはつくづく恐ろしいものである。

 

 

上田「アロンジェ(延伸)!」

 

 

時折、棍を伸ばし道の外に複数同時にはたき落とし・・・

 

 

上田「スフェール(放出)!」

 

 

遠くの敵は赤い光の球を作り出し、棍を振って投げつけた。

 

……待て、こいつ本当に初めてか? と思うほど利奈は強かった。

 

ハチべぇの予想……それは、利奈には魔法少女の『素質』が強くあるということ。

 

利奈は天性の魔法少女と言っても過言ではない。何故か?

それは利奈が相手をする使い魔の数をみれば一目瞭然だ。

 

……あり得ない、20〜30匹は同時に相手をしているだろう。

普通の初戦な魔法少女ならとっくの昔に教育されている。

 

 

ハチべぇ(なるほど、なかなか素晴らしい戦いをするね。

 

団体で契約、つまり『集団契約』はハズレが多いと思ったけど、

彼女がいればそのハズレを無に出来るね。 良い人材を見つけたものだ)

 

 

上田「ステージ、クリア」

 

 

そう言って、ふぅーっと溜まっていた空気を出すように息を吐いた。

 

長き孤独な戦いの末……ついに、利奈は道の終わりにたどり着いた。

そこにはやたら可愛く着飾られた教室のドアがある。

 

可愛い反面、何か恐ろしさのような感情を抱く利奈……間違いない。

 

 

上田「……魔女はこの先にいる」

 

 

左手の手の甲についたハート型の鏡で試しに自分の首元を確認する。

 

 

上田(う、うわぁ……確かに、ちょっと黒い濁りみたいなのが溜まってきてる)

 

上田「ハチべぇ、グリーフシード……だっけ?

魔女を倒したらドロップ……じゃなかった! 落とすので間違ってないよね?」

 

ハチべぇ「うん、間違いないよ利奈」

 

 

魔女の居城に入る前に一つ舞、そして教室のドアに手をかけ……

 

 

「待ってええぇ上田さあああん!!」

 

上田「……ん?」

 

 

一旦ドアにかけた手を離して後ろを向く、

そこには走ってきたアイドル追っかけ魔法少女達がのたのた走ってきた……遅い!

 

まぁのたのたと言っても、利奈より遅いというだけだが。

 

 

「あっ、暑い、暑い! 私の武器がうちわで良かったぁ……!」

 

「上田さん! 遅れてごめん!」

 

「いや~~助かったわね、なんでか敵の数が少なかったし」

 

 

利奈はそれを聞いてこの野郎……とちょっとイラっとしたが、

今いるのは、目の前に未知の敵がいる場所の入口の前……

仲間は多い方が良いし、今は怒っている場合ではない。

 

 

上田「ここまで来たって事は、戦う意思はあるみたいだね」

 

「う、うん。 最初は怖くて動けなかったけど……

やっぱり、絵莉を助けたいって気持ちが優ったんだ」

 

「時間かかっちゃったけど、なんとか上田さんの後に続く決心がついたよ」

 

 

利奈には敵が減ってから来たんじゃないかという予想があり、

さらにこの遅さでなんだか胡散臭く思えてしまったが……

 

本当に絵莉を思って来たんだという『気持ち』は、

散々道具にされたせいで花組を信頼していない利奈には届きにくい。

 

半信半疑な利奈……でもやはり戦力は多いに越した事はない。

 

 

上田「まずお互いの魔法を把握しよう、魔女に挑むのはそれからだね」

 

 

利奈が自分の持つ魔法をわかりやすく説明すると、

アイドル……面倒だから『追っかけ』で。

追っかけ一同は丁寧に自分たちの魔法を説明してくれた。

 

『うちわ』『紙吹雪』『メガホン』『CD』……

 

うちわはギリギリ前線に出られるかも?

 

だが可能性で決めるのは良くない、でも事実上前衛は利奈だけだ。

 

流石にこれには、利奈は苦笑いを止められない。

 

 

上田「……うん、なんとか色々と把握出来た。

私が魔女をひるませたりとかするから、みんなは魔女にそれぞれの魔法で攻撃を」

 

「はいはぁーーい!」

 

「なんかおかしい話よね、普段静かにしている上田さんが自己主張をするなんて」

 

「でもそのおかげでここまで来れたんだもん」

 

「そうそう! あぁ……なんで絵莉がやばいってのに

あんなにうだうだしてたんだろう……」

 

 

時間はかかったが来た……本当に戦う気がなかったら

追っかけ達はここにはいなかっただろう。

 

 

利奈は追っかけ達を信じてみる事にした。

 

 

とりあえず大体の作戦を組んで、後はその場の状況判断で。

 

 

上田 「準備はいい?」

 

「「「「はぁーい!」」」」

 

 

本当に大丈夫か……? なんて思う所だが、今更1人でって訳にはいかない。

魔法少女側の戦力(ほぼ固定砲台の可能性大)も多い方が勝利に近づくだろう。

 

いよいよ、利奈は教室の扉に手をかける。 力を込めてガラッと引いた。

 

……あれ、また扉?

 

ガラッと引いた、また扉。 ガラッと引いた、また扉。

 

 

上田「……なんだこれ?」

 

 

そしてまた引こうとした、その時だった。

 

 

ダンッ!

 

 

勝手に次の扉が開いた。次、また次、ダンッダンッダンッダダダダダダ……

 

 

しばらくして、やっと先が見える。 たくさんの扉の向こうには……

 

 

 

 

キーンコーンカー(ガキン!!……

 

 

 

 

学校のチャイムが割れる、高らかに響いていた鐘が崩れ落ちる。

 

魔女が片手を差し出すと、歪な模様の円柱の物体になった。

黒板には利奈達には読めない黄金の文字が書かれる。

 

この空間をものすごく模範的に言うならば……

小学校の教室を何倍にも大きくした部屋を想像してもらえればわかりやすいだろう。

 

壁に張り付くはアイドルポスター、顔は真っ黒に塗りたくられた。

 

学校の机と学校の椅子は、パーツだけでバラバラだ。

 

ランドセルを入れるような大きめの棚には、

点数の微妙なテストの内容が1つ1つ書き殴られていた。

 

扉の向こうは、扉の数倍の大きさの教室のような場所。

 

作りかけの教卓にいるのは……魔女。

 

黒板消しが素材の女体に、手足は4色マーブルの太めチョーク。

スカートは古びたカーテンで、頭は給食袋をすっぽり被る。

緑のすずらんテープはツインテールを作る。

 

延々と巨大な黒板に色々な物を書きなぐっていた。

まだ利奈達が来たことには気がついていない。

 

 

上田「あれが……魔女」

 

「ちょ、ちょっと待って! 絵莉はどこに……!?」

 

「本当だ、絵莉が見当たらないよ!」

 

「なんか、魔女?っていうのかあれ、書くのに夢中で、

まだこっちに気がついてないみたいだね」

 

「これは……チャンスかも?」

 

上田「よし、手分けして絵莉を探そう!

幸い、ここには隠れられそうなバラバラの机とか椅子とかあるし」

 

ハチべぇ「なんでそんなことをするんだい?」

 

上田「上手く隠れながら……え、なんでハチべぇ?

絵莉ちゃん探さなきゃ危ないよ!」

 

ハチべぇ「君はおかしな事を言うね、そんな事をしなくても

 

 

 

 

絵莉は()()()にいるじゃないか」

 

 

 

 

上田「……え?」

 

「絵莉が目の前にいるって……」

 

「どこにもいないよ、どこの影? ってか遠くて見えないか」

 

「絵ぇ〜〜莉ぃ〜〜!!」

 

「あっ、バカ! でかい声出したらまずいって!」

 

上田「………!!」

 

 

察しのいい利奈は恐ろしい事に気がつく。

そして思い出す、ぼんやりとしていた記憶を明確に。

 

 

ごうごうと唸る極彩色の魔力、

 

空間を覆っていく空間の壁を、

 

溢れる狂気に満ちた教材達、

 

()()()()()()()()()()()……

 

 

上田「そん……な……!!」

 

 

賢い利奈は至ってしまった……

 

 

ハチべぇは目の前にいるのが絵莉だと言った。

 

だが目の前にいるのは、今のところ確認できる範囲では

利奈と、追っかけと、魔女だけ。 他には誰もいない。

 

でも、今思い出した。 絵莉のソウルジェムの異変。

 

 

上田「目の前にいる、魔女が……」

 

「なっ、なによ!? そんなのあり!? 目の前にいる魔女が絵莉だっていうの!?」

 

上田「……え、んぇ?」

 

 

どうやら、利奈抜きで追っかけ達は話をしていたようだ。

 

その状況は見るからに、ほぼパニックと言える。

 

目まぐるしい言葉のどしゃ降りを利奈は上手く聞き取れない。

 

なんとか聞きとれるのは……やっぱり、ギャーギャーとうるさいパニックだけ。

 

利奈は自分一人で理屈をこねる事にした。

 

 

上田「……ハチべぇ、どういう事? 絵莉が魔女ってどういう事!?」

 

 

ハチべぇは怒りを露わにする利奈に対し、表情も変えずに淡々と説明した。

 

 

魔法少女や魔法少年は、願いを一つ叶える代わりに魔女と戦う使命を課される。

 

魔法は魔力を使用するか、絶望を感じるたびにソウルジェムが濁っていくので、

魔女を倒して得るグリーフシードに穢れを転嫁しなければならない。

 

それができずにソウルジェムが濁りきった場合は、とある結末が待っている。

 

 

その結末は絶望の化身、女は『魔女』で男は『魔男』になること。

 

 

上田「じゃあ……私たちは、絵莉ちゃんを殺しに……!!」

 

 

もちろん自分達もそういう事だという殺人的な結論もあったが、

それよりも絵莉に対する感情の方を脳が優先した。

 

悲しい事実、恐ろしい現実、これが魔法少女の実態。

これを知った他の魔法少女や魔法少年は怒ったり絶望したりするだろう。

 

……ん? なんか……変だ。 怒りの中にも疑問が沸く。

 

 

上田「これ、私たちにバレたら不味い事なんじゃ……

 

なんで、あっさりバラしたの?

適当な事を言えば、私達は絵莉を殺すってことを知らずに済んだのに……

 

ハチべぇ「わけがわからないよ、

 

 

 

 

いつ、僕は君達が絵莉を殺すって言ったんだい?」

 

 

 

 

上田「え、どういう……事?『倒す』けど『殺さない』ってこと?」

 

なんだなんだ? このさっきから続く急展開は!?

 

知らない情報がどんどん開示されて、続々と頭に入ってくる。

 

一生懸命の脳内整理を強いられる、そうじゃないと追いつかない。

 

 

ハチべぇ「元々、このシステムは僕と同類の先駆者が作り上げた物だった、

その結末は救いがない、迎える結末は死という残酷な終わりだけだ。

 

それによって信頼を大幅に失うどころか、時として敵と見なされた」

 

いや、重要事項言っていないで契約させてる時点で信用失ってるんですがこれは……

 

 

ハチべぇ「そこで、僕は新しくこのシステムを組み直した。

 

ソウルジェムとグリーフシード……

双方の生成手順を見直し、穢れる過程、発芽方法、を変更。

 

エントロピーの構築による影響の範囲も把握し、これら変更点の固定に成功。

 

さらに発芽時のエネルギーを」

 

 

まぁこの後も長々説明が続いた訳で。

 

こんなどのくらい信用するかを図り警戒をする真剣な状況だが、

流石にこの情報量には、容量が多い利奈の頭もパンク気味。

 

黒板の魔女は胴体を黒板にすりつけ一旦内容を全てキレイに消す。

長々とこんな所で話し込んでいるが、書くのに夢中で気がつきそうにない。

 

魔女は自分の欲望、やりたいことに忠実だ。

邪魔しなきゃ魔法少女達を襲う理由はない。

 

まぁ、彼女は珍しいケースではあるけど。

 

 

上田「あ、えっと、つまり、

その先駆者のだと死んでハチべぇのだと死なない?」

 

ハチべぇ「要約するとそうなるね、察しが早くて助かるよ」

 

 

なるほど……いや、なるほどって状況でもないな。

利奈は肯定と否定が両立した感情に明らかに混乱していた。

 

 

上田(あぁ、生き残るから良いのか。

いやいや良くない良くない! 契約の重要事項を一部隠したんだし!

で、でもこうやって言ってくれたんだよなぁ……

 

あああわかんない! 信じれば良いのか疑えば良いのか!!

学校の影響で自己主張を自粛してたからな、自分での判断がつかないや……)

 

利奈は棍をぶんぶん振りながら悩んだが、不意に肩を掴まれる……追っかけ達一同だ。

 

 

「……その話、本当なんだよね? よくわかんないけど、大丈夫なんだね?」

 

「本当わからない、どうしたら!」

 

「怖い……早くこんなとこから出たいよ!」

 

「あぁ、早く帰って新曲CD聞きたい……」

 

上田(え、あれ? 私この人達に話したっけ? 盗み聞き!?)

 

 

利奈を遠回しに除け者にしながら話は聞いていたのか、恐ろしい。

というか、わかるわけもないのに利奈に聞かれても困る。

話を聞くに、それを聞くべきはハチべぇだろうに……!

 

利奈はハァ……とため息をつくと、改めて気を引き締め話し出した。

 

ここで利奈がしっかりしないと、また最初のようにうだうだされてしまう。

 

 

上田「大丈夫だよ、ハチべぇによれば、魔女になっちゃった絵莉を倒したとしても死なない。

 

どう転ぶかはわからないけど……倒しても助かるってことは、

魔女になった絵莉ちゃんを倒せば魔法少女の絵莉ちゃんに戻るって事だと思うんだ」

 

 

まずは安心させる、友人の行く末を明確に。

 

頭の悪い人達に説明は筒抜けだろう……

 

利奈は前置きから中身すっ飛ばして一番言いたい結論だけを告げた。

 

 

上田「倒すのでもない、殺すのも違う……

救うんだ! 魔女から魔法少女を! 絵莉ちゃんを!!」

 

 

凛とした声で力強く言った。 追っかけ達の頭をドカンと叩く勢いで。

 

それでも魔女の書く手は止まらない、それでも追っかけ達に利奈の叫びは……

 

 

 

 

……届いた、届かないと思っていた。

 

 

 

 

「絵莉を、救う……」

 

「あぁ〜〜えっと……つまり、あの魔女を倒す事は絵莉を助けるって解釈かな多分」

 

「怖いけど、それは絵莉も同じ……だよね。」

 

「あっは、そうと決まったら早く終わらせよっか!

音楽を聞くのは大勢の方が楽しいもんね!」

 

 

筒抜け……ではなかった、それどころか全て頭に入ってる。

 

花組は芹香や絵莉以外は全員、

自分を道具扱いする話を聞かないバカだという

利奈の考えが初めて欠けた瞬間だった。

 

残念ながらその考えは崩れてはいないが、

今この場にいる追っかけ……いや、魔法少女達を信じて良いだろうと

利奈はやっと信じれるようになった。

 

 

上田「……ありがと」

 

 

小さな声で利奈はそう言うと、いよいよ本格的に作戦を組む。

 

 

絵莉を救助する一時的な『クインテット』が今、ここに完成した。

 

 

………………………………

 

次回、

 

 

 

「ばっ、化け物だ!? うわああああ!!!」

 

 

 

「遊ぶのと戦うのは違うんだ!」

 

 

 

「羽……?」

 

 

 

「ソリテールフォール!!」

 

 

 

〜終……(3)初絶望と初戦闘[前編]〜

〜次……(4)初絶望と初戦闘[後編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




いや〜出ましたね、決め台詞w
決め台詞というのは私が『魔法少女まどか☆マギカ』の
二次創作にてやりたかった事の一つなんですよね。

若干主人公補正入ってるような気もしますが…まだ大丈夫かな、うん。

多分だけど_(┐「ε:)_

次回は戦闘シーン中心に書いて、黒板の魔女との戦闘を締めくくりたいと思います。

お楽しみに!(♡・ω・)ノ


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(4)初絶望と初戦闘[後編]

前編から続く後編、黒板の魔女と決着をつける時。

というわけで今回は本格的に魔女と戦っていきます!(・ω・。)ノ

魔女は使い魔と段違い……

果たして魔法少女達は黒板の魔女に勝つ事ができるか?

絵莉ちゃんは一体、どうなってしまうのか?


2月17日
○変則改行本格討伐
○『w』や顔文字を削除
○『ー』や『~』の引き延ばし
○その他修正、索敵



1つの目的のため一時的に結成された追っかけ+aのクインテット。

 

彼女らが考えた作戦は以下の通り。 相手が未知数な以上、大まかな作戦になる。

 

 

まず2人と3人に分かれ、利奈が不意をついて先制。 その後は乱舞を続投。

 

うちわと紙吹雪は魔女の弱点を探しながら利奈をちょっと後ろから援護。

弱点を見つけ次第3人で発見した弱点に集中攻撃!

 

メガホンは応援ボイスで攻撃力とか防御力を上げ、

CDは鋭く磨かれたアイドルジャケットのCDを手裏剣のように投げつける。

 

後衛はこれでバッチリ。

 

 

上田「アンヴォカシオン! ……準備はいいね?」

 

「「「「はぁーーい!」」」」

 

子供みたいに元気良く返事をする仲間の魔法少女達。

 

利奈はふと笑って棍を構えた。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

利奈が走り出したのを合図に、うちわと紙吹雪も走り出す。

 

魔女の足元当たりまで来た所で、利奈は持っていた棍で走りながらガッと床を突く。

 

 

上田「アロンジェ!」

 

 

棒高跳びの要領と伸びる棍で利奈は高く飛んだかと思うと、

 

 

上田「スフェール!」

 

 

恐らく魔女の1番の武器になるであろう、黄金のチョークを狙って赤い弾を打った!

 

定規で出来た手からチョークが離れて古びた木材の床の上、

ポッキリ折れて金粉が舞う。 黒板を引っ掻く様な金切り声で魔女は吠えた。

 

流石に黒板引っ掻く音には一同は怯んでしまうが、その行動はやめない。

 

 

上田「っ……! やあああああっ!!」

 

 

魔女に対し利奈は乱舞する。 時に回転し時に蹴り上げ振り上げ……

魔女の体至る所を足場にして確実に魔女にダメージを蓄積させていった。

 

魔女は武器を失い、素手で利奈を振り払おうとした。

 

だがそれはなかなか当たらない。

 

利奈が戦闘の才能があるのもそうだが、

うちわと紙吹雪の準前衛からのフォローもなかなかだった。

 

 

「天音! そっちに髪行った!」

 

「お!? ダブルブロウ!」

 

「やばっ、紙吹雪ロック向き!」

 

 

利奈の死角、鞭のようにしなる重量あるツインテールの攻撃を、

2枚のうちわで吹き飛ばしてど派手な紙吹雪が切り裂いた。

 

 

「がああああんばれええええ!!」

 

 

メガホンの補助魔法が魔女の隙をつき、強化の魔法で3人を強くする。

 

 

「聞け!デビュー曲!!」

 

 

磨かれたCDが魔女の体、黒板消しの体を引き裂いた。

 

 

4人の連携はなかなかの物だった。

 

やはり友情というかお互いをよく知っているとか……理解してるのだろう。

 

友情というのは、本当に素晴らしい。

 

この調子なら魔女を倒せるだろう。 ……この調子なら、ね。

 

 

 

 

「ばっ、化け物だ!? うわああああ!!!」

 

「お? やってるやってる!」

 

「ずるぅ~~い! 私も混ぜてよ!」

 

「魔女倒したらグリーフシード出すんだろ?」

 

「その魔女のグリーフシードは俺のだっ! 邪魔するなぁ!」

 

「いぇ~~い! 行け! 魔法弾!」

 

「え、何!? 待って待って!」

 

「あっ、ダメ! そっちに打ったら!!」

 

 

……魔法弾が飛んで行く先、勢いよく肉が沈むような鈍い音がした。

 

 

上田「っあ!?」

 

 

 

不意に、利奈は未知の攻撃を受けてしまった。

 

なんの考えもなしに放たれた魔法、死角で何なのかはわからなかったが、

順調だった利奈の乱舞は打ち落とされて利奈はほぼ直下に落ちた。

 

受け身や対策をとる時間さえ与えられず……

 

 

骨が折れる聞きたくもない音を立てて、地面に強打した。

 

 

味わったことのない激痛が、利奈の体全体まんべんなく響く。

 

 

上田「う゛ああぁ……っ!! あぁ……」

 

「「危ない!!!」」

 

 

うちわと紙吹雪はとっさに2人がかりで利奈の両手両足を持って走る。

めちゃめちゃな運び方だったが、利奈は魔女に踏みつぶされずに済んだ。

 

 

「うおっ!? こいつ強ぇぞ!?」

 

「適当に魔法ぶっ放してれば楽に勝てるでしょ」

 

「いやいやいや無理無理無理!! 一回下がろうぜ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

急遽、そこは魔女の死角。

 

2人の魔法少女は協力してうちわの骨組みと大きな紙吹雪を組み合わせ、

大人数が入ることが出来るでかいテントを張った。

 

突然の乱入に大怪我を負った利奈、骨は何本折れたかな?

 

 

「紙吹雪バラード向き!」

 

 

パステルカラーの紙吹雪が利奈の頭上に舞う、わずかながらの回復魔法。

 

さすがは魔法少女の身体、骨はくっついたが痛みが残る。

 

と、治療が終わってすぐに逃げ帰るようにバタバタと

突っ込んでいったくせに戻ってきた乱入者は大勢いた。

 

7人……恐らく、別の集まりだろう。

 

 

「なんで突っ込んできたの!? 危ないじゃないの!!」

 

「ごめんごめん、いると思わなかったの」

 

「いやぁ~~しっかし、魔女ってあんな強いとはな」

 

「ま、今度は近づかず遠くから適当にぶっ放せばなんとかなるだろ」

 

「うひょ~~! 楽しくなってきた!!」

 

「楽しんでる場合じゃないわ!!」

 

……『真剣』と、『楽観的』。

 

感情が真逆な魔法少女や魔法少年が両立する中、利奈は1つ気がついた。

 

 

上田「……メガホンとCDの魔法の子は?」

 

 

「あ? 知らね、魔法少女って丈夫だから大丈夫だろ」

 

「えっ? わかってないの!?」

 

「まぁ行く時になったら途中で適当に見つかるっしょ」

 

そしてジャングル並の騒がしさになる……利奈は、我慢の限界だった。

 

上田「いい加減にしてよ!!

 

ったた……せっかく作戦組んで被害少ないように、

魔法あんまり使わないようにって工夫しながら戦ってたのに!!」

 

「は? 魔法なんかぶっ放してなんぼだろ、使わないとかツマンネ」

 

「それはそっちの都合でしょ? 私達はそんなの知らないし」

 

「なっ……!? そんな言い方ないじゃない!!」

 

「そうだよ! 下がるにしても探さずに2人を置いて行くなんて!」

 

利奈はわかっていた……『こいつらは、魔法少女と魔法少年の真実を知らない』。

 

それでも、乱入者の態度や対応にはちょっとどころかかなり問題があった。

 

 

「大丈夫だって適当に魔法で遊ぼうぜ?」

 

 

魔法は、遊びに使うものじゃない。

 

「しっかし、逃げるなら走ればいいのにねぇ……」

 

 

乱入する直前まで、戦ってたんだ。

 

 

「ったくあそこで倒れるとかバカの極みだろ!」

 

 

上田「…………!!」

 

 

その言葉に利奈は本気で怒った、痛む体に響こうが腹から声を出す。

 

 

上田「遊ぶのと戦うのは違うんだ!! 人の命がかかってる!!

こんな調子じゃ池宮に他の魔女や魔男が来たら1日も立たない内に滅ぶね!!」

 

 

「……な、な、なあぁっ!?」

 

「何だよふざけなのに、キレてるワロス」

 

「それに人が死んだとしたらその人の責任じゃない! まぁ死なないと思うけど」

 

「だろ? 俺らは悪くねぇよ!」

 

「怒ってるそっちが間違ってるんだってば、はい! 僕らの勝ち~~!」

 

利奈は分かっている……悪気はない、()()()()()()()()()()んだ。

 

 

じゃなかったら、こんな言い方しないだろう。

 

 

上田「……もう、いい。

 

 

アンヴォカシオン。

 

 

うちわの子と紙吹雪の子は倒れた2人の救助を」

 

「きゅ、救助を?  あっ!? まだ休んでなきゃダメだよ!」

 

「ん~~? ん~~? 上田さんどうしたのかなぁ~~?」

 

 

刹那、その少年は急に痛がる。

 

 

「んぐぉ!?いってぇ!!」

 

次の瞬間、利奈は目の前で挑発してきたバカな魔法少年を棍で弾き飛ばすと、

痛みを抱えたまま1人でテントを飛び出した。

 

後ろの方でで何かギャーギャー言ってるが、今の利奈には聞こえない。

 

途中止まって倒れていたメガホンとCDを魔女の死角にずらす。

怪我の仕方を見た感じ、魔女によるものではない。

なんかこう、()()()()()()()というか……

 

上田「…………」

 

ふと、魔女を見る……折れたチョークで黒板に何か書いていた。

魔法少女達がいない間に拾ってしまったのだろう。

 

普通ならそこでもうダメだと絶望するが、利奈は本当に才能があった。

 

 

上田「あれだ、見つけてくれてたんだ」

 

 

切り裂かれた黒板消しの身体……

 

そこから見えていたのはもちろん黄色いスポンジだったが、

1箇所はみ出るスポンジが多い場所があった。

 

所々にCDが刺さっている。

 

それは……黄金のチョークを持つ腕、プラスチックの腕に巻きつく魔女の皮膚、若しくは腕全体。

 

1人でも魔女の利き腕を何とかすれば倒せるだろうと利奈は推測する。

 

 

利奈「アンヴォカシオン!」

 

 

そして利奈はもう1本棍を出した、2本の棍を片手1本ずつ持つ。

……もう誰も頼らない、少なくとも今回は。

 

 

上田「ゲーム、再開」

 

 

戦闘の再開を宣言し勢いよく走り出す、魔女に向かって一直線。

 

 

上田「アロンジェ!」

 

 

棍の伸縮でもう一度、魔女の目の前まで迫る。

 

 

上田「やあああああああああっ!!!」

 

 

そして乱舞……早い!?

 

武器が2つあれば攻撃も2倍という、ゲームでしか存在しないあり得ぬ理論が時にはあった。

 

利奈の場合2倍、いや3倍?

 

 

本当にこの子はたった1人で初戦の魔女を倒そうとしてるのか!?

 

 

しかも基本的な魔法だけで!?

 

 

痛みに耐えながら乱舞する利奈の攻撃は1人分には収まらない。

 

途中、魔女がチョークを降ると、無数のカラフルなチョークが利奈に降りかかった。

 

その時は無数のチョークが折れる音が鳴った。

 

今度は数式や文字が黒板から剥がれ、怪しげな光を放ちながらふわふわやってくる。

 

利奈はそれら全てを2本の棍で絡め取り、床に向かってダンッと投げ、止めた。

 

 

上田「アンヴォカシオン!!」

 

 

新しい棍を出して乱舞再開。 魔女の金切り声も今の利奈には届かない。

 

 

上田「ああああああああああ!!!」

 

 

叩いて叩いて魔力の刃で切り裂いて……ついに、終わりが見える。

 

棍を1本投げ捨てると、残りの1本を両手でしっかり持って構えた。

強力な魔力が1本の棍に密集し、ますます強く赤い光を放つ。

そして、光り輝く巨大な魔力の大剣が出来たかと思うと……

 

 

「ソリテールフォール!!」

 

 

おもっきり、力の限り振り下ろした!

 

バスっと重い音がしたと思うと、そのまま魔女の片腕に沈む。

 

 

 

 

上田「絵莉ちゃあああああん!!!」

 

 

 

 

スポンジが断ち切れる音と共に、魔女の利き腕が切り落とされた。

 

 

 

 

魔女が金切り声を上げて苦しむ、体全体から黒い魔力が噴き出す。

 

上田「やっ……たぁ!」

 

利奈は攻撃を終えて落下していく、もう受け身をする体力もない。

 

 

落ちて、落ちて、落ちて……不意に、浮いた。

 

 

 

 

上田「……ぁ、れ?」

 

 

朦朧とした意識の中、利奈はふと抱きつかれたような感覚に陥った。

 

利奈が唯一覚えているのは、深海のように深い青、淡く光り輝く……

 

 

上田「……羽?」

 

 

 

 

ここで、利奈の意識は途切れてしまう。

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

魔女も椅子と机のパーツも、残った使い魔も全部全部、

結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……

 

あとに残ったのは、濁りなき緑のソウルジェムと黒板モチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は、黒板の魔女を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

「悪い夢を見てるみたいだったの」

 

 

 

「それだけ恐ろしい存在ってことでしょ?」

 

 

 

「ありがとう……! ありがとう……!!」

 

 

 

「これは利奈が持つべきだろう?」

 

 

 

〜終……(4)初絶望と初戦闘[後編]〜

〜次……(5)緑の記憶と赤の逃走〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




書 き 切 っ た …… !(;゚∀゚)
いやっふうぅ!! 初めて魔女戦を書き切りましたよ!
読み返しても我ながら良い出来、そして乱入者頭スッカスカだったw

ひと段落ついたので一旦ストック溜め込み期間に入ります~~枯渇しそうw

金曜日には投稿できる……かなぁ? φ(・・。)ゞ ウーン

初めて書いた魔女戦、無事に書き終わって良かった。
一応色々なバトルシーンを読んでから書いたけど、上手く書けてるかなぁ……w

まぁ、今はとにかくストックを貯めなければ……!(°ロ°)


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(5)緑の記憶と赤の逃走

金曜って言ったのにこの有様だよ!! \(^o^)/

遅れてしまって申し訳ない (TωT)ウルウル

今回はもちろん! 黒板の魔女の討伐後から。
さて、篠田絵莉はどうなったんでしょうね?(・∀・)ニヤニヤ


2月3日
○誤字・脱字修正
○その他修正
○ウオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア\( ‘ω’)/

2月18日
○変則改行本格的に修正
○消し逃した『w』の削除
○点々(・・・)の引き延ばし
○その他修正、索敵



目が覚めると、利奈の目の前には絵莉がいた。

 

空は夜空になり、キラキラと星が輝いている。

 

絵莉は涙目になりながら利奈の首元に何か当てている。

腕についた鏡でわかった……それはグリーフシードだ。

 

それは、不思議な感覚だった。

 

鉛のように重かった体から、鉛が抜かれているような感覚。

 

体が軽くなっていく……。

 

 

上田「……ぅ、うぅ……」

 

「上田さん!?」

 

「みんな!上田さんが気がついたよ!」

 

篠田「上田さん! 上田さん!」

 

上田「……ぁ、れ? 絵莉ちゃん?」

 

篠田「良かった……!」

 

 

利奈の首元からグリーフシードを離し、そのままその場で泣き出す絵莉。

 

 

「げぇ、これマジでやばいやつだったんか……?」

 

「すんごい戦い方だったよな、俺全然わかんねぇ」

 

 

こんな夜中でもジャングル並に騒がしい中、

絵莉と追っかけ魔法少女一同は利奈の事を心配してくれていた。

 

しばらくして泣き止んだ絵莉の話によると……

 

まず、絵莉はなんと……()()()()()()()()()がぼんやりと残っているらしい。

 

これはさすがのハチべぇも「『先駆者』との違いが出たようだね」と驚いたんだとか。

 

ソウルジェム化した魂が穢れた魔力が犯されるのではなく、

被さる形にこのシステムはなるのかとかどうとか……

 

絵莉はこれにに自分で気がついたらしい、願いで貰った賢さを使ったんだとか。

 

溢れくる情報にパニックになり、思いっきり絶望してしまったという。

 

利奈が自分の為に2回も落下してまで頑張ってくれたこともしっかり覚えているらしい。

 

 

篠田「なんだか、悪い夢を見てるみたいだったの。

自分なのに自分じゃないって感じで、うぅ……ごめんね! みんな!」

 

「それだけ恐ろしい存在ってことでしょ? 魔女っていうのはさ……」

 

「流れで契約しちゃったけど、これからならないように気をつけなきゃって話だよ」

 

「元気出しな、絵莉! ちゃんと体は無事だったんだしさ!」

 

「そうだよ! 本当ソウルジェムを近づけて絵莉が起きた時なんか安心したもん」

 

篠田「ありがとう……! ありがとう……!!」

 

 

5人で抱きしめ合い、ひたすらに泣く本当の追っかけ一同……()()()()()()()()()だ。

 

これが本来のクインテットなんだと、ボロボロの体でも利奈は思えた。

 

 

篠田「上田さんもありがとう! ……上田さん?」

 

 

気がつくと、噴水によりかかりぐったりしていたはずの利奈はいなかった。

 

どこを探しても見当たらない……先に帰ったのかな?

と思った絵莉は、仲間達との再会の嬉しさに益々浸る事にした。

 

後にジャングル並にうるさいクインテット以外の不真面目が、

『ある事』で益々うるさくなって夜中の警察にお世話になる事は、

利奈や絵莉、その仲間達も今は知る事はない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「つ、か、れ、た……」

 

 

ふらふらになりながら、帰り道をスタスタ歩く利奈……矛盾してるが大体そんな感じ。

 

魔法少女の状態で戦ったとはいえ、多少その疲れは元の体にも響く。

 

まぁ普段人とあまり話さない利奈がいきなり人とたくさん話したことで、

精神的にも疲れてしまったわけで。 これでも頑張った方だ。

 

 

上田「早く帰ろう……」

 

 

両肩に背負った2つのバックを背負い直し、ほのかな灯りに照らされた裏の道を……

 

 

 

 

「何で逃げるようにいなくなるんだよ? 相変わらず消えるのが上手いな」

 

 

 

 

上田「ヒッ!?おば、おばけぇ!!」

 

 

急に後ろから声がして振り向かずに全力疾走、からのゴンっと電柱に激突。

 

 

上田「ぶっ!?……ったぁ! 痛った!!」

 

 

おでこを必死でさする利奈を見たのか、背後から笑う声が聞こえる。

 

 

「ぷっ……はは、そうかおばけに聞こえたか。

やっぱり声だけじゃ俺の事はわからないか?」

 

 

利奈は振り返ると、暗がりの中に青い光を見た。

 

照らす光は淡い光で、最初はわからなかったが……

 

電灯が照らされた灯りの下に来ると、そこには魔法少年の姿があった。

 

 

彼の名前は清水(きよみ) 海里(かいり)。 利奈の隣の席の人。

学校では明るい部類に入り、いつも2人の友人と一緒に日々を楽しく過ごしている少年。

 

深海のように深い青……それが彼の色。

青に近い黒のジャケットに白のシャツ、ズボンはビシッと真っ黒ズボン。

手首や足首に鎖が付いており、青い真珠が鎖のそばで揺れる。

左の首筋で青い宝石が光る・・・魂の輝き、これが彼のソウルジェムだろう。

 

手に持つは真っ青なコンパス……恐らく、これで利奈の居場所がわかったのだ。

 

 

利奈は海里を知っている。いや知ってはいる……が、

利奈にとっちゃ彼もジャングルのように騒ぐやかましい猛獣達の内の1匹だ。

 

道具にこそされた事はないが、どうしても警戒心が出てしまう。

 

 

清水「というか、こんな裏の道を通って家まで帰ってたのかよ……」

 

上田「……絡まれたくなくて」

 

清水「あぁ〜〜……美羽と最上だな?

あいつらうるせぇもんな。 そっちの大通りなら大丈夫だ、

大抵あいつらは夜遅くまで反対の道にある服屋にいる」

 

上田「そ、そうなの?」

 

清水「前は俺、何回も何回も荷物持ちをさせられたんだぞ!

今も通ってるみたいだし、間違いねぇよ」

 

上田「教えてくれてありがとう、えっと……清水さん」

 

清水「海里で良いって言ってるだろ? そろそろ慣れてくれよ!

まぁ確かにあいつらとつるんでるけどさ、怯えることないと思うぜ」

 

上田「……うん」

 

清水「それよりほら、忘れ物だぞ?」

 

上田「えっ?……あ」

 

 

いきなり片手をガッと掴まれたかと思うと、海里は手のひらに何かを置いた。

 

 

上田「……っあ!? グリーフシード!? 待って、これはあの人達が……!」

 

清水「うん、持 っ て き ち ま っ た !

あと2〜3回なら使えるってハチべぇが言ってたし持ってけよ」

 

上田「なっ……!? か、返します返します!」

 

 

利奈は手を海里に突き出したが、海里はその手をしっかりと握らせた。

 

 

清水「これは利奈が持つべきだろう?」

 

上田「……違います」

 

清水「い〜や、違わないね。 違わないって顔してるぞ?」

 

上田「ふぇっ!?」

 

清水「いいか? 俺の仲間内は何もしてない。

 

魔法を打ったと主張するやつもいるかもしれねぇが、そいつは利奈を打ったんだ。

 

例えそれが、誤射だったとしてもな」

 

 

彼の目は真剣だった。

 

今まで見つかった事がない利奈が構築した安全な帰り道……

 

こんなところで捕まってどんな絡まれ方をされるかと利奈は怯えていたが、

真剣に話をしてくれている。 利奈は目を見て必死に耳を傾けた。

 

 

清水「俺はあいつらを下がらせる事しか出来なかったが……

ちゃんと見てたぜ? 半端ない戦いしてたよな。

 

お前、グリーフシードで争いたくなくて逃げてきたんだろ?

だけどあの魔女を利奈が倒したっていう決定的な事実は変わらない。

 

だから、利奈が持つべきだ。 このグリーフシードは利奈の戦利品だ」

 

上田「……でも」

 

清水「あぁそれと、篠田の仲間内はちゃんと浄化したぞ?

っていうか、かっぱらったのはあいつらだからな」

 

上田「え、えぇ!?」

 

清水「それを見た俺が届け人、受け持ったって訳さ。

明日学校に行ったら名前くらい聞いてやれよ?」

 

上田「……わかった」

 

清水「あ? 聞こえねぇな」

 

上田「わかった!」

 

清水「声が小さいな」

 

上田「わかったってば!! ……ぁ、ごめんなさい悪気は」

 

 

それを聞いた海里は、そっと利奈の手から自分の手を離した。

 

 

清水「そうだ! それでいい! その位の元気で明日も学校に来いよ!」

 

 

海里はにかっと笑うと、魔法で翼を作り出して何処かに飛び去ってしまった。

 

 

上田「……!、待って!」

 

 

利奈はその淡く光り輝く翼に見覚えがあった……というか思い出した。

 

利奈を窮地から救った光、深海のように深い青。

 

お礼を言おうにも彼は、とっくの昔に空の彼方。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

今は夜中、パジャマを着てベットにどさっと疲れた体を倒す。

 

うさぎの抱き枕を抱いて、ふわふわの毛布に埋れた。

 

日が沈み切った頃に帰ってきた利奈に、利奈の親はというと……

 

 

上田「学校の役員の仕事に選ばれたんだ!

当分は帰り遅くなると思う……ごめんなさい」

 

 

それを聞いた両親は、あっさり信じて利奈を許した。

 

条件は遅くなるならスマホで連絡すること、スマホは学校では使わない。

 

その約束を守ってくれれば、利奈を信じると母親は言ったらしい。

 

 

上田「長い一日だったなぁ……」

 

 

今日の事は利奈にしたら()()()()()と言えるだろう。

 

無自己で過ごす日々の中……

 

流れで魔法少女になって芹香との距離が縮まって絵莉が魔女になって

仮クインテット結成して魔女をみんなで倒そうとして結局1人で倒して

本当のクインテット再会見届けて逃げて海里に捕まってグリーフシードもらって……

 

これが全て一日に収まっているのだ、なんたる激動の一日!

 

今日一日を思い返すのと同時に、利奈はある事を思った。

 

 

利奈(……強くならなきゃ)

 

 

本当は魔女と戦った時、最初の状態を保てたならもっと被害は少なかったはずだ。

 

それが途中から乱入者が現れて良い状態は崩れてしまった。

 

 

もっと倒すのが早ければ、もっと倒すのが早ければ。

 

 

こんなよくわからない感情で、グリーフシードを受け取る事もなかった。

 

 

不意に、ベットの片隅に置いたグリーフシードが目にはいる。

 

黒板のグリーフシード……

 

濁りが強くて黒く見える宝石にほんの少し緑が見える。

これを見た利奈は改めて魔女を倒したんだという実感が湧いた。

 

 

上田「……ゲームクリア!」

 

 

言い忘れていた戦闘終了宣言を口に出し、

寝たままグリーフシードを天井に突き出す。

ほんのちょっとだけ、満足げになってほくそ笑んだ。

 

 

上田「眠くなってきたなぁ……うん、デイリーボーナスだけもらって寝ようっと」

 

 

そうして利奈は手に入れたばかりのグリーフシードを枕元に置くと、

いつものゲーム機を手に取り、電源を付けてログインした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

………………

 

 

 

 

音もなく、利奈の夢は始まった。

 

起きたら利奈の顔面にゲーム機が落ちているだろう、痛い。

 

ここは、黒板の魔女の結界。

 

 

……魔女も、使い魔も、何もいないが。

 

 

まるでカーテンコールすら終えて、

誰もいなくなってしまったステージ上の様に静かだった。

 

深緑の空中にはもう何も書かれることはなく、

道の下は机と椅子、キャスター付きの黒板が散乱している。

 

ただ、そこにあるのはステンレスの道だけ。

 

利奈は夢の世界だからなのか、特に大きく驚くこともなかった。

まぁ、普通に驚いたりはしたので驚いてない訳ではないが。

 

 

上田「誰もいない……」

 

 

とりあえずステンレスの道を歩いてみる。

裸足で金属の上を歩く音だけが、空間の中での唯一の音。

 

 

道には所々に穴が空いている。

 

覗いてみても、中には巨大なチョークしか入っていない。

 

新品で粉も吹いていない。

 

 

上田「こうやって見ると色々細かいとこがわかるもんだなぁ……」

 

 

チョークの色はたくさんあった、同じ色はない位に。

模様も様々あった為、眺めてるだけでも結構楽しい。

 

道を歩いていると、利奈はなにやら黒く霧がかった穴を見つける。

 

 

上田「……?」

 

 

危なっかしそうな雰囲気だが、そこは夢の世界。

ちょっとビビったが、好奇心に負けて覗きに行く。

 

霧がかっていて見えずらかったが、中には白いチョークが入っているとわかった。

 

 

上田(なんだ、霧がかかってるだけなのか……)

 

 

別の所に行こうとした利奈だったが……ふと、ある事に気がつく。

 

 

上田「……なにこれ? なんか鳴ってる」

 

 

そう、音がする。 まるで……そうだな、

饅頭を汚く食べる音と言ったら、容易に想像出来るだろう。

 

まぁこの状況で捕食音とか物騒以外の何者でもない。

 

音が気になった利奈はその穴をよく見てみた。

 

しばらく穴達を探した後……とんでもない物を見つける事になる。

 

 

上田「……!!」

 

 

チョークの隙間、底の方。 何かが黒い物を食べている。

 

 

巨大なチョークで組まれた犬とも言えない猫とも言えない……

目の所には穴が空いている異様な生物。

 

 

そこには魔女と共に消え去ったはずの黒板の使い魔が1匹いた。

 

 

上田「な、なんで使い魔が残ってるの……!? いけない、変身!」

 

 

変身……をしようとしたが、何故か外す事のなかった命とも言える

赤のソウルジェムが利奈の右手中指になかった。

 

 

上田「あ、そっか……ここ、夢の中なんだ!」

 

 

利奈の中ではそういう解釈になったらしい……となれば、導きされる結果は

 

 

上田「逃げる一択!!」

 

 

穴を除くのをやめてぺたぺたと走り出す利奈。

 

障害物もないこの道、距離を置くのが唯一の安全手段。

 

利奈が走るたびに、黒い霧は段々と薄くなる。

 

 

上田「ふぅ……助かっt(ドサッ)へぶっ!?」

 

 

ふと、利奈はすっ転んでしまった。

 

 

……背中に何か乗っている、起き上がろうとしても重たくて起きれない。

 

嫌な予感がした。今のところ、この夢の世界にいるのは利奈と……

 

耳元で、見覚えのある鳴き声がした。

 

 

 

 

それはまるで、黒板をチョークで叩いたかのような声。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「うわあああ!!? ……あ、あれ?」

 

 

目が覚める利奈、冷や汗を薄っすらかいている。

大声をあげたと思われる喉はヒリヒリした。

 

顔面に落ちていたゲーム機がぽふっと布団の上に落ちる。

 

ふと右手を見ると、中指でキラリと指輪の赤いソウルジェムが輝いた。

 

 

上田「おっかない夢だったなぁ……」

 

 

今日も平日、利奈は学校の準備をする。

指輪をちょっと磨いてグリーフシードも磨く……

 

 

上田「……え?」

 

 

その時、とある事に気がついた。

 

それはかなり気になったが、今ここで考え込んでも仕方ないと

利奈はテキパキと学校に行く準備を進めた。

 

 

ちょっと違う朝、それぞれの朝。 花組がハチべぇと契約してから1日立った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「あぁ、ドウナッタンダロウナ」

 

 

 

上田「……弟子!? どういうこと?」

 

 

 

篠田「なーんも? えへへ〜〜☆」

 

 

 

篠田「噛んだ!」

 

月村「噛んだわね」

 

清水「噛んだな」

 

上田「何 こ の 流 れ !?」

 

 

 

〜終……(5)緑の記憶と赤の逃走〜

〜次……(6)欲望の闇と真面目な光〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




はい、おはようございます。 ハピナでございますハイ。

中々ストックが溜まらないです! 結構頑張ってるんですけどね。

ネタ自体は尽きていないので、じっくり考えながら書いてます。

最近『魔法少女まどか☆マギカ』以外の小説なんかも読んだりしています、

主に『ハンターハンター』や『ワンピース』なんかを。

やっぱり『能力』関係で繋がりがあるんで参考になるところはありますね。

まぁ、まどマギより設定細かくて小説にするのは時間がかかりそうw ( ;´Д`)

じわじわ頑張って執筆していきたいと思います。


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(6)欲望の闇と真面目な光

Oo。.(¦q[▓▓]

(:3っ)っ 三=ー [▓▓▓]

(=゚ω゚)ノぃょぅ! ハピナだ(=゚ω゚)ノぃょぅ!

結局ストック削ったよ……執筆時間が削れる削れる( ;´Д`)

投稿ペースはこの位で大体いこうと思うよ。
レポートと相談しながらだからこれより遅れる可能性もあるけど……

まぁゆっくりしていってよ、流石に投げはしないからさ。(´▽`*)

さて、本題に戻りまして。 花組がハチべぇと契約して1日が立ちました。
魔法使いで迎える初めての朝……利奈達はどんな様子なんでしょうね。


(2月11日)
○『w』や顔文字を除去
○『…』を偶数に引き伸ばし
○その他修正

(2月20日)
○変則改行の本格修正
○『w』の削除、『・・・』の引き延ばし
○その他修正

(2017年7月23日)
誤字報告であった問題点を発見、無事修正。(青冝・吹気)



月村「グリーフシードの穢れが減った!?」

 

上田「しーーっ!」

 

月村「あっ、あぁ……ごめんなさい」

 

 

……おっと、このままだと状況が

よく分からないのでちょっと時間を戻して説明しよう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

花組が魔法使いになって2日目の朝。

 

 

上田「えっと……青冝(あおぎ)天音(あまね)吹気(ふぶき)風香(ふうか)宙滝(ちゅうだき)大声(たいこ)録町(ろくまち)花奏(かなで)

 

 

それと篠田絵莉……これが、追っかけクインテット。

 

 

青冝「はっや!? もう覚えたの!?」

 

上田「みんな特徴的な部分がある名前だったから」

 

吹気「いやいやいや! 1回しか言ってないのに早すぎるよ」

 

篠田「だって、上田さんは原子を原子番号順に全部言えるのよ?」

 

上田「水素ヘリウムリチウム、ベリリウムホウ素炭素窒素酸素フッ素ネオン……」

 

篠田「待って待って! 今は言わなくていいよ上田さん。

あっ、頭がパンクしちゃうよぅ!」

 

宙滝「上田さん良い人だね、大勢苦手そうなのにこうやって聞いてくれてる」

 

録町「その調子で(男性アイドル)君のファンになっちゃう?」

 

青冝「こら、趣味を押し付けるな!」

 

録町「あはは! ごめんごめん」

 

 

普段は男性アイドルについて熱烈に語り合っている追っかけクインテットだが、

今日は利奈も入れて、というか利奈を中心に会話をしていた。

 

一応、これにはちゃんとした訳がある。

 

 

青冝「……まだ話してる?」

 

篠田「うん、そんなに減ってないのに昨日も必死になって、

喧嘩してまで騒いでたから……明日になるまでまだ話してるかも」

 

 

昨日の騒ぎ、それは何処かに消え去った黒板のグリーフシードの行方についてだった。

 

 

「おいお前ら、本 当 に持ち去ったんじゃねぇだろうな?」

 

「知らんな……」

 

清水「あぁ、ドウナッタンダロウナ」

 

 

海里はそっぽを向いて棒読みだ。

 

 

「当たり前だろ!? 見つかったら言ってるって!」

 

「ハチべぇが言ってたじゃない? 『ハズレもある』って。

無い物を話題に騒いでも仕方ないでしょ」

 

 

SNSの力はすごい物で、すぐに利奈の活躍は広まった。

 

いつのまにか、最初の魔女は……

 

 

『黒板の魔女』

 

 

と、呼ばれるようになる。 すごいことに写真も残っている。

 

花組の良心、それが絵莉だという元になったソウルジェムの持ち主の話は広がる事はなかった。

 

朝、利奈は早速クラスメイトに質問攻めにされたが、

朝の会が終わってからジャングルの猛獣達が

大人しくするまでクインテット達が守ってくれた。

 

トイレに逃げるにしても、トイレが溜まり場の猛獣もいる。

下手したら逃げたようにだって見られるだろう。

 

 

なにをどうしたのかというと……

 

6人で男性アイドルについて語っている振りをしていた。

利奈に聞く男性アイドルについては世間体で常識に近い物だけ。

 

もしクインテットがいなかったら、利奈は質問で攻めに攻められ

終いの果てには黒板のグリーフシードの事も囲まれて責められただろう。

 

 

授業が終わって昼休み、やっと花組全体は落ち着いた。

 

 

上田「ありがとう絵莉ちゃん、みんな。 もっと話したい事あっただろうに……」

 

篠田「ううん! これから話すから良いの、

上田さんのソウルジェムがキレイになってて良かった」

 

 

利奈はクインテットにお礼を言うと、芹香と一緒に校舎の奥に歩きだした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

利奈と芹香はというと、授業以外は使われない理科室にいた。

 

ここが利奈にとっての溜まり場。

 

たまに色んな人が来るが、猛獣達はここには来ない。

 

利奈は芹香に、昨日の出来事を一通り話す……

 

 

月村「相変わらず頭が空っぽの人達ね……でも、味方が増えて良かったじゃない」

 

 

芹香は魔法少女の真実に関してそれほど驚かなかった。

「今更慌ててもどうにもならないわ」と、あっさり受け入れる。

 

それが彼女の強さだろう、《冷酷》な彼女は誰よりも現実を見る。

 

 

上田「うん、話せる人が増えて嬉しい」

 

月村「『下を向いてるだけでは細かいところが見えない』

 

今読んでる小説の言葉よ、前を向けば良い所があるかも……

って言ったところかしら、今のあなたには合うと思うわ」

 

上田「そうだね、もう少し頑張らないと!」

 

 

お喋りをしながらお弁当を食べ進め、たまに広々とした黒い机に体を預ける

 

上田「はぁ~~……ひんやりする! あ、月村さん」

 

月村「何?」

 

上田「ちょっと相談したい事があるんだけど、良いかな?」

 

月村「良いわよ、たまにはつまらない話を聞くのも良いわね」

 

上田「たまにはってどういう事なの」

 

 

 

 

月村「グリーフシードの穢れが減った!?」

 

上田「しーーっ!」

 

月村「あっ、あぁ……ごめんなさい、何だか不思議な現象ね」

 

上田「グリーフシードって穢れの自己消化もするのかな……」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ!」

 

上田「そうだよね……って、ん!?」

 

気がつくと、目の前にトコトコとハチべぇが歩いてきた。

やはりハチべぇもこの事は気になるんだろうか。

 

 

ハチべぇ「グリーフシードは魔力の消費による

ソウルジェムの穢れを吸って移し替えることができる物……

ただの器だから自己消化なんてあり得ない」

 

上田「そうなの?」

 

ハチべぇ「僕のシステムは確かに先駆者に比べれば特殊だ。

だけども根本的なところは変わらない」

 

月村「……元凶が簡単にのこのこやってきて良いのかしら。」

 

ハチべぇ「なぜ『元凶』と僕を表現するんだい?

契約を持ちかけたのは僕だけど、それを了承したのは君たちだ」

 

月村「……怒ってはいないわ。

死なないのは事実だし、止めなかった……私の責任でもあるもの」

 

上田「わっ、私もだよ! 私も責任がある!」

 

 

唐突に話に割り込む利奈に、芹香は思わず笑ってしまった。

 

 

月村「ありがとう、利奈」

 

 

利奈も久々に芹香の笑顔を見てちょっと嬉しくなる。

 

 

 

清水「へぇ、楽しそうにやってんな」

 

上田「……え? ふぇっ!?」

 

篠田「こんにちわぁ〜〜! 上田さん! 月村さんも!」

 

月村「……こんにちは」

 

 

ふと、理科室に海里と絵莉がやってくる……いやいや、ちょっと待て!

 

 

上田「どうしてここが? 確かお喋りが好きな人達はここを知らないのに……」

 

海里「俺は人探しが得意なんでね」

 

 

そういうと、ちょっとドヤ顔で魔力を帯びた真っ青なコンパスを、

ひょいと上に投げて落ちた所で掴む。

 

 

海里「まぁ安心しな、俺はあいつら程人をいじるのが好きじゃない。

あぁ、絵莉は利奈の事を探してたみたいだから連れてきた」

 

月村「……否定はしないのね」

 

 

篠田「私は上田さんにちょっとお願いがあってきたの。」

 

上田「お願い?」

 

篠田「えっとね、えっと……うん! 私を上田さんの弟子にしてほしい!」

 

上田「……弟子!? どういうこと?」

 

篠田「私、(男性アイドル)君にはまってて

勉強に手がつかなかったんだけど……決めたの!

 

(男性アイドル)君はすっごい頑張ってお休みしたし、思いっきり勉強したい!」

 

上田「あっ、もしかして……!」

 

篠田「…うん、あたし前はとてつもなくバカだったけど、

お願いで『頭脳』をもらってすっごく頭が良くなれたの。

 

 

上田さんの考えてる通り……先生に、教師になりたかった。

 

 

でも頭が良くなれただけじゃ知識はないし多分なれない……

 

だから勉強を教えて欲しい! 色んな事、教えて欲しい!

 

上田さん1人でいるのに慣れてて、私がいたら邪魔になると思うけど……

 

お願い! お願いします!!」

 

 

そう言って頭を下げた絵莉、利奈はちょっと混乱していた。

 

 

上田「ぇ、えっ? そんなに頭良くないけど……私は構わないよ、

でも私、話すの下手だし……弟子ってのも結構固い気がするな」

 

月村「……私も手伝ってあげるわ」

 

篠田「えっ!?」

 

上田「へ? 月村さんいいの!?」

 

月村「上田さんとは分野が違うから2人で教えれば満遍なく教えられるでしょ?」

 

上田「つ……月村さんありがとう!!」

 

月村「なんであなたがお礼を言うのよ? ……まぁいいわ。

その代わり、私はそこのでっかい小動物程優しくはないわ。

もし嫌になったり邪魔になったら言って頂戴」

 

篠田「邪魔だなんてそんな!」

 

上田「あ、あはは……こんな感じで2人ともちょっと控えめ系女子?

ってやつなの、それでも大丈夫・・・かな?」

 

 

ちょっと苦笑い気味の利奈、対して解答を得た利奈の予想外。

絵莉は満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

 

 

篠田「うん!! よろしくね上田さん!

……ん〜あぁ〜、仲良くなりたいから『利奈』って呼ぶ! 利奈!!」

 

 

絵莉は子ウサギみたいにぴょんぴょん跳ね回って喜ぶ。

利奈も手を取って一緒に跳ね回ってあげる。

 

芹香はそれを見てやれやれという感じだ、ハチべぇは利奈の肩の上で無表情。

 

 

清水「一通り終わったか? なんか俺、空気みたいになってたが」

 

 

ちょうど青い知恵の輪を解いた所の海里、それを投げ捨てて利奈達に近づいた。

 

 

上田「あっ、ごめんなさい清水さ」

 

清水「海里な?」

 

上田「……海里、さん」

 

篠田「さん付けになっちゃってるよ」

 

上田「あうぅ……ごめんなさい」

 

篠田「あたしも最初は篠田さんだったもんね、慣れるのに時間かかるのかな?」

 

月村「呼び捨てにしたりすると周りに茶化す人が出てくるのよ、

何を考えてるかは理解できないけど、とても面倒な事にね。

 

あなたの場合、お友達がバカにしなかったのかもね」

 

清水「あいつらか……まぁ、そうなら少しずつ慣れれば良いさ」

 

上田「……うん」

 

清水「ってんなこと言いに来たんじゃなかった。

 

喜べよ、利奈! 例のグリーフシードの話、丸く収まったぞ!」

 

上田「えっ!?本当!?」

 

 

海里の話によると、黒板の魔女は()()()()()()()ということになったらしい。

 

まぁ、本当はもちろんホンモノなのだが。

 

ここで言うホンモノの魔女は細かい説明をすっ飛ばすと、

悪い魔力にとり憑かれたソウルジェムを指すんだとか。

 

ニセモノの魔女……グリーフシードから生まれた魔女。

それは、その魔女は()()()()()()()であるということで、

もし倒したとしてもグリーフシードは生まない。

 

ハチべぇの助言もあって、ニセモノの魔女を花組一同は把握したらしい。

 

 

清水「一同って言っても、相変わらず一部には伝わってねぇけどな……

もう黒板のグリーフシードについては争ってないし、安心していいぞ」

 

篠田「騒いでるなぁ~~って5人で思ってたけど、そういう事だったのね」

 

月村「……くだらないわ、たった1個でそんな騒ぐなんて」

 

上田「な、なんかごめんね」

 

謝罪を現黒板のグリーフシード所持者が言う、責任を感じているんだろうか?

 

 

月村「騒いでるだけでこっちまで被害はないし、私にしたらどうでもいいわ」

 

清水「……おぉ、そうだそうだ! ソウルジェムで思い出したぞ」

 

上田「また!? すごい知ってる事多いんだね」

 

 

利奈が言ってるのは悪気はなく関心だ。

 

 

清水「そりゃ俺は情報屋だからな!」

 

篠田「自称だけどね」

 

清水「なんか言ったか?」

 

篠田「な〜〜んも? えへへぇ〜☆」

 

 

……これは悪気があるな。

 

 

海里はおもむろに左手中指の指輪を卵型のソウルジェムに戻す。

 

深海のように深い青……

 

あらゆる工具を引き伸ばしたような模様がバランスよく彫られている。

先端にはコンパスのエンブレム。エンブレムなのに針が回る。

 

 

清水「念話ってのは知ってるよな?」

 

月村「当たり前、ハチべぇは軽くしか触れていなかったけど」

 

上田「確か、テレパシーの事だよね。

えっと、ある程度の距離ならどこでもみんなに聞こえる魔法の」

 

清水「あぁ〜〜、ちょっと補足いいか?」

 

上田「伝達方法……えっ?」

 

清水「みんなに聞こえるんじゃなくて、

 

 

みんなに()()()()()()()()()()

 

 

ってのが正しい解釈だ」

 

上田「聞こえてしまっている?」

 

清水「これは偶然知った事なんだが、実際、特定の仲間内にだけ伝わる

『念話のグループ』みたいなのを今の俺は持っているのさ」

 

月村「……へぇ?」

 

篠田「そんなのあるの!?」

 

上田「ソウルジェムにそんな機能あったっけ?」

 

 

利奈は実際に自分の指輪をソウルジェムに戻して観察した。

ハートのとうさぎのソウルジェム、穢れも見当たらない。

 

 

上田「……特に変わった感じはないね」

 

清水「やり方は簡単、こうだ!」

 

その時、海里は自分のソウルジェムを構えると……

 

 

 

 

何やら石同士をぶつけたような、堅い音が手元から鳴った!

 

 

 

 

上田「わっ!?」

 

 

一瞬、利奈は全身を強く触れられたような感覚に陥り思わずどさっと膝を付く。

 

 

清水「ちょ!? 大丈夫か!?」

 

篠田「利奈!? 大丈夫!?」

 

上田「う、うん、大丈夫……一瞬全身を触れられたような感覚になったの」

 

月村「あなた、利奈に何をしたの?」

 

 

驚く絵莉の傍、芹香は鋭い目つきで海里を見た。

 

 

清水「悪りぃな、ちょっと力が強かったな。

なに、ソウルジェムで乾杯しただけさ」

 

ハチべぇ「海里、掲げるだけで良いんだよ。

無理にソウルジェム同士をぶつける必要はない」

 

清水「ってお前知ってたのかよ!? 知ってたんだったら早く言ってくれよな!」

 

ハチべぇ「聞かれなかったから言わなかっただけだよ。

なにをそんなに怒っているんだい?」

 

清水「……へいへい、聞かなくてサーセンでした俺が悪かった!!」

 

何だったんだろう…と思うのと同時に、本当にソウルジェムは自分自身なんだなと利奈は思う。

 

……不意に、唐突に、頭に念話が流れる。

 

 

清水((どうだ? 周りには聞こえてないだろ?))

 

 

上田「えっ?」

 

篠田「どうしたの利奈?」

 

上田「え、あ、う……なんでもない。」

 

 

確かに、絵莉と芹香は何事もないように海里と話をしている。

 

海里((へへっ、本当良い事偶然知ったもんだな、俺。

実際、前より聞こえが良いだろ?))

 

上田((う……うん! ハッキリ聞こえるよ))

 

海里((対象が絞られてるから、伝わる情報量が多いって所だな。))

 

 

海里「さて、俺はさっきまで実際に利奈と念話をしていたが、

お前らは気がつく事が出来たか?」

 

篠田「だから海里が……えっ、念話?」

 

月村「聞こえてないわね、本当にしていたの?」

 

上田「したよ! えっと……

伝わる情報量が多いとか、周りには聞こえてないとか。」

 

清水「おう、当たってる当たってる! 俺が言いたいのはそういう事だ」

 

月村「……ハチべぇ、これが出来るのは1対1だけ?」

 

ハチべぇ「大勢でも大丈夫だよ、魔法少女はそれほどに有能だ。」

 

月村「なるほどね、言いたい事は大体わかったわ。

 

 

今、ここにいる私達でそのグループを組もうって話でしょう?」

 

 

清水「ご名答! やっぱし月村さん頭良いな……ってことなんだが、どうだ?」

 

 

3人じっくり考えた……いや、絵莉は即答だった。

 

 

篠田「組む! 面白そう!」

 

月村「入ってもあんまり返事出来ないわよ、忙しいし……

でも入った方がメリットは多そうね。」

 

上田「私もチームに入りたい!話すのは苦手だけど、えっと・・・頑張る!」

 

清水「なら決まりだな!」

 

 

早速、芹香と絵莉も指輪をソウルジェムに戻す。

 

 

芹香の色は暗めのオレンジで、本がモチーフの静かなソウルジェム。

 

 

絵莉の色は輝くような明るい緑。

 

可愛らしげな星が金のフレームいっぱいに散りばめられている。

所々にチョークや三角定規のモチーフがバランスよく散りばめられている辺り、

絵莉のセンスの良さを感じる。 先端には可愛く作られた黒板消しのモチーフ。

 

例えるなら、アイドルのコアなファンが作った置物…と言った所だろう。

 

それだけ可愛いって事だ。

 

 

利奈は絵莉のソウルジェムを見てどこか安心した感情を抱く。

 

今こそ穢れもないキレイな状態、絵莉のソウルジェムはそんな感じだが……

 

 

一時期、彼女は『魔女』だった。

 

 

利奈はこの目で見ていた。 真っ黒な魔力の中歪む彼女のソウルジェムを。

 

だが今となっては真っ黒な魔力から解放され、元の姿を取り戻して輝いている。

 

 

上田「……良かった」

 

篠田「ん? 利奈、何か言った?」

 

上田「ううん、なんでもない」

 

清水「よっしゃ!みんな掲げな! これで新しいグループが出来る!」

 

 

 

 

海里の言葉を筆頭に、一同はソウルジェムを掲げたが……何故か、何も起こらない。

 

 

 

 

ハチべぇ「何をしているんだい? その方法じゃチームは出来ないよ」

 

 

 

そのハチべぇの言葉に、どこかの劇のように盛大にずっこける海里と……利奈!?

 

いや、元々はこんな反応をする子なのだ利奈は。

全然気づかれていないというだけで。

 

 

「「ちょっとハチべぇ!!」」

 

 

篠田「り、利奈?」

 

月村「また大げさな……っ」

 

 

実は芹香は本読みながら、利奈のこの面白い反応を見ていたりする。

今も、実際にみんなから顔を背けて笑いを堪えている。

 

 

上田「あ、え、これは」

 

清水「ってかそこまで知ってたのかよ!

 

『グループ』じゃなくて『チーム』だったのか!

 

最初から言えっての!!」

 

ハチべぇ「きゅっぷぃ!?」

 

 

海里はハチべぇの丸っこい頭に軽くチョップを放った、妙な声がハチべぇから漏れる。

 

 

ハチべぇ「何を怒っているんだい!?

僕は説明を求められなかったから言わなかっただけだy」

 

清水「言え(威圧」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ!」

 

 

ハチべぇはため息混じりの息を吐くと、淡々と説明しだした。

 

 

ハチべぇ「チームと言っても、やはり名前が必要になる。

名前があれば、複数の中を1人が持つ事が出来るからね。

 

掲げる時にそのメンバー全員でチーム名をいうだけさ、変える時も同じだよ。

 

あとリーダーも決めなきゃいけない、リーダーを通してチームメンバーを増やすんだ」

 

清水「あぁ、リーダーは俺がやるぜ。

なに、変なやつはいれねぇよ。 にしても……やたら簡単なんだな。」

 

月村「でも、逆を言えば全員揃わないとチーム名は変えられない……ということかしら」

 

上田「ちゃんとしたのを考えなきゃだね」

 

篠田「よ~~し! そうと決まれば、みんなでチーム名を考えよう!」

 

 

とまぁ、みんなで意見を出し合って色々考えてみたものの……

厨二すぎたり真面目すぎたりとなかなか良いのが思いつかない。

 

そんな中……ふと、利奈はある事を思いついた。

 

 

上田(花組のまとも、花組の真面目、花組の・・・光?

そうだ『ルミエール』ってまだ言ってなかったな。

みんなに言ってみようっと)

 

上田「あぁ、えっと、リュミ・・・りゅ、る・・・

ルミエールっていうのはどうかな?」

 

 

軽く舌を噛んでしまい、あわあわする利奈。

 

その天然の仕草がなんとも可愛い。

 

 

篠田「噛んだ!」

 

月村「噛んだわね」

 

清水「噛んだな」

 

上田「何 こ の 流 れ !?」

 

 

月村「リュミエール……良い名前じゃない」

 

上田「え、ルミエールだよ?」

 

篠田「可愛いぃ~~! リュミエール!

らりるれろついてるとなんかかっこ可愛いね!」

 

上田「だからルミエールだっt」

 

清水「よし、リュミエールにすっか!

みんなチーム名は『リュミエール』でいいか?」

 

篠田「賛成! リュミエール!」

 

月村「良いわね、リュミエール」

 

上田「みんなひどいよおぉ!!」

 

 

まぁ面白さの流れでちょっとネタっぽくなったが、

散々案を出して行き着いた先は『リュミエール』という事になる。

 

 

上田「あぁ……本当に、チーム名はリュミエールになっちゃうのね」

 

月村「失敗から生まれる名案もあるって事よ」

 

篠田「実際、ルミエールよりリュミエールの方が被らない可能性高いもんね」

 

清水「さて、今度こそ繋げるか……そんじゃいくぞ、せーの!」

 

 

「「「「リュミエール!」」」」

 

 

その掛け声と共に、4つのソウルジェムはそれぞれの色で光を放つ。

 

放たれた光はそれぞれのソウルジェムの元へと飛んで行き、

自分ではない色の光をその魂に受け取る。

 

 

 

 

こうして、新しいチーム『リュミエール』は結成された。

 

利奈は、まだ知らない。

 

この『リュミエール』が後に花組を引っ張るまでの、とても大きな存在になることに。

 

 

でもまぁ、今は新しいチーム結成を4人で喜ぶとしよう。

 

 

そして、お昼休みの終わりを告げる学校のチャイムが鳴り響いた。

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「うるさあああい!!」

 

 

 

篠田((ねぇねぇ! ちょっと遊びに行こうよ!))

 

 

 

「あいがとさげもした!」

 

 

 

((助け、て……くれ!!))

 

 

 

〜終……(6)欲望の闇と真面目な光〜

〜次……(7)孤高少女と危機少年〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




今回でハチべぇのシステムがだいぶ固まったね!(・∀・)

ハッキリしてるのは良い事だ。

ようするにハチべぇのシステムで魔女化したソウルジェムは……
ソウルジェムがグリーフシードになるんじゃなくて、
悪い魔力にソウルジェムが取り憑かれるって形式になる。

これがハチべぇのシステムで魔法使いになった少年少女が
滅びの運命に沿うことはないって寸法。

さて、多忙でまともに睡眠時間を取れない私ですが…… _:(´ཀ`」 ∠):_
相変わらず多作品巡りとアイディアこねこねは欠かせないです。

ん? 最近のオススメ?

(」°ロ°)」<(たくマギに決まってんだろ!)

(°ロ°)<(………)

(;゚∀゚)<(是非見てください!)

次回は少し時間が飛びます。と言っても、数週間程度ですが。
初心者のgdgdな戦いを垂れ流しても面白くないので……w (´-ε-`)


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(7)孤高少女と危機少年

こ( ̄0 ̄)
ん( ̄ー ̄)
に( ̄△ ̄)ち
"<( ̄∇ ̄)>"わっはっは!!

いつもの ハ ピ ナ でございますっ!

今回のお話は深夜の街中から始まります、普通の中学生なら補導されるレベルの。

やはりまどマギは面白いですね!

最近PVとか名場面集とかを見直したんですが、
う~~む……ブラックファンタジーって感じでしたね。

私はこんな暗い話題材にしてたのかw

ティロ・フィナーレも見ましたよ! マミさんかっこいい!!

まぁ感動に浸りすぎて例の捕食シーンまで行っちゃったのは後悔ですが……w

お昼ご飯前のちょっとした時間、この回を投下させていただきます。
ん? お昼ご飯? (。´・ω・)<(サラダ単品)


(2月13日)
○本文の顔文字削除
○『w』等の余分な要素削除
○一部追記と『…』引き伸ばし
○その他修正

(2月20日)
○変則改行の本格修正
○『w』の削除、『・・・』の引き延ばし等。
○その他修正



チーム『リュミエール』が結成した日から数週間、

花組達も魔法がある生活が板についてきた。

 

それは同時に魔法を使う機会も増える、そうなれば魔力の消費も増える。

 

そりゃもう、一部の頭の味噌が足りない生徒達は結果どうなってしまうかというと……

 

 

 

 

魔法の使い過ぎで、速攻魔女化か魔男化さ。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

とある路地裏の一角で、黒い魔力は吹き出した。

 

数分もしないうちに、古びた低いマンションの壁になにやら光るエンブレムが浮かび上がる。

 

すると、そこに1人の魔法少女がやってくる。

 

手には点滅するソウルジェム。

 

ひび割れたアスファルトに転がる抜け殻を見つけると、

ソウルジェムをブローチにして首もとに付け直した。

 

 

上田「ふふっ、ソウルジェムが探知機の役割を果たしてたなんて、

みんな知らないだろうな……まぁ、リュミエールのみんなは知ってるけど」

 

 

ポロっと零れる独り言、静まり帰った夜の中で彼女の声がほんのちょっと響いた。

 

 

最近になって、魔法少女や魔法少年は『眠らなくても大丈夫』という、

かなり人間離れした特徴がある事がわかった。

 

実際、利奈も1時間しか寝てない。 だが目覚めはぱっちりだ。

 

 

……利奈は、団体より1人の方が慣れている部類だ。

 

リュミエールという居場所ができたものの、やはり『道具』である現状は変わらない。

 

だが、前よりは強くなった。 ちゃんと断れるようになった。

 

それでも、やはり『道具』としての生活は傷つくものもあった。

 

これだけはどうしても慣れない。

 

何回か付き合わされて魔女退治や魔男退治に行ったが、利奈は大抵肉盾か特攻を強いられた。

 

グリーフシードも利奈が使う番になると、残るその浄化力は雀の涙。

 

それが、コミュニケーション能力が元から低い者の運命と末路。

 

そんな事もあって、利奈はこうして何度も1人で狩りに出ている。

 

利奈の魔法も、棍に関する物かテーマがマジシャンやサーカスなどの

『お披露目系』の物なら割りとなんでも召喚出来る事がわかった。

 

まぁ召喚のしやすさから戦闘で使うのは棍の方だけだが、

慣れたのか1人でも充分戦えるようになった。

 

最初の黒板の魔女戦ように魔力全開でごり押しで倒すような真似はしない。

 

 

利奈は抜け殻を壁に持たれかけさせると、早速魔法を使う為に手際良く準備を始めた。

 

まずは赤い布を魔法で作ると、手の中でくしゃくしゃと丸め……

 

 

上田「ジュイサンス!(披露)

 

 

ちょっと前に利奈が作った手品、『披露』の魔法だ。

 

魔法を込めてばっと開く。 するとすると、あら不思議。

 

ハンカチ程の小さな布はあっという間に、広々としたカラフルな毛布になった!

 

……まぁ召喚方法はともかく、これで抜け殻が冷える事はないだろう。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

棍を1本召喚。 しっかりと握って持ち、エンブレムの向こう側へと歩を進めた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

パーンパーカパーン!

 

パーンパーカパーン!

 

パーンパーカパーンパーカ……

 

上田「うっ、うるさあああぁぁぁいっ!!」

 

 

短調な結婚式の洋楽が、大音量で利奈を出迎えた。

 

まるで嘆くように、どうしようもない怒りを無造作にぶつけるように。

 

不気味に色が塗ったくられたベニヤ板の教会から、

クッションに指輪を載せて両手で差し出したままの潰れた黒猫が走ってくる。

 

 

誓詞の使い魔、役割は求婚。

 

 

迫る大量の使い魔、それでも利奈はひるまない。

 

まずは1匹、吹き飛ばす。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

さて、乱舞をかまそう。まずはその場で踊るのさ。

 

バキッ! ドコォ! ボカッ!! と連続で響く硬い打撃音。

 

棍の強い打撃をくらった使い魔は大きく吹っ飛び、

自らが大切に持っていた指輪をクッションごと手放してしまう。

 

自分の指輪を無くした黒猫は、枯れ草の地面を大慌てでバサバサと走り回った。

 

第一陣をなぎ倒し、利奈は一旦辺りを見渡す。

 

 

上田「使い魔弱いなぁ……この様子だと、そんなに絶望しないで魔女化しちゃったのかな?

 

なら、すぐに助け出せるね」

 

 

そう言って、利奈は無邪気に微笑んだ。

 

そして、また走り出す。

 

今倒した使い魔は、ほんの一部にすぎない。

 

 

上田「アンヴォカシオン・アロンジェ!」

 

 

一旦棍を上に放り投げ2本に増やして両手でキャッチ、ばっと外に払ってその長さを伸ばした。

 

利奈の乱舞は走りながらでも出来る。

 

最初の乱舞の手応えで使い魔が軽いとわかった今、第二陣、第三陣と陣ごとなぎ倒す。

 

宙には猫舞う! 指輪舞う! クッションも舞う!

 

地味に遠い教会までの道のりは曲がりくねった道だったものの、

行き先自体は1本道ですぐに教会の目の前まで来た。

 

前の利奈ならスフェールで壊しているところだが、

1本の棍を投げつけヒビを入れた後、蹴り壊すことで魔力を節約する。

 

 

上田「ネクストステージ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

【ニャン】ゴーン……

 

【ニャン】ゴーン……

 

【ニャン】ゴーン……

 

上田「……なにこれ、鐘の音?」

 

 

禍々しい雰囲気の教会内、そこから感じ取れるは執念。

 

敷かれた赤く塗られた、ベニヤ板の両端。

 

下半身が鐘になっている黒猫の使い魔が鳴きながら下半身をゆったり振り、

ニャンゴーンと少々アホらしい音を奏でた。

 

 

誓詞の使い魔、役割は祝福。

 

 

その音とは裏腹に……ベニヤ板の神父の前に佇む魔女、いや魔男は不気味だった。

 

え? 何故、魔男なんだとわかったのかって?

 

理由は簡単、今回の魔男は『花婿』だったからさ。

 

 

二本足で立つ、両耳が千切れた赤目の黒猫。 彼はタキシード姿で何を思う?

 

腹にはウェディングドレスの白猫を麻紐で何重にも縛りくくりつけている。

 

白猫は自由を忘れたように意識がなく、その瞳も虚ろ。

 

 

誓詞の魔男、性質は挙式。

 

 

上田「ボスステージってか、攻略させてもらうよ!」

 

とは言ってみたものの……流石にこれは工夫が必要だろう。

そう判断した利奈は頭からシルクハットを外し何やら中を探る。

 

程なくして、赤い柄のトランプの束が出てきた。

 

魔力に余裕がある内に事前に作っておいた代物。

……何故かどのマークも描いていない、全部真っ白だ。

 

シルクハットをかぶり直してから適当に切って魔力を混ぜ合わせると……

なんと棍を前方にヒュっと投げ、トランプの束を2つに分けて両手持つ。

 

そして手を横に広げ、利奈はそのまま走り出した!

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

そう言って、両手に軽く力を入れる利奈。

 

すると……パラパラパラとカードが手から飛んで行き、

1枚1枚が赤い光を帯びて使い魔に飛んで行った!

 

トランプが赤く強い光出したかと思うと、そこから使い魔の姿は消えた。

 

パラっと落ちる白紙だったトランプには、誓詞の使い魔の絵が記されている。

 

捕獲による無力化、これでかなり負担は減らせる。

 

アホらしい音は次第に小さくなっていき……残ったのは魔男だけとなった。

 

魔男は式場を荒らされた怒りで、深みのある低い声で鳴いた。

 

 

【Nyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!】

 

 

上田「弱点丸わかりだなこの魔男、早々に決着を付けさせてもらうよ!

 

 

アンヴォカシオン!」

 

 

利奈は棍を召喚して両手を構える。 相手は異形であっても猫。

かなり動き回るものの、花嫁の重みからその早さは微妙だ。

 

この魔男に、立ち回りが早い利奈が乱舞をかますのは容易だった。

 

 

上田「やああああああああっ!!!」

 

 

生物系の魔女魔男というのは、体力(HP)が少ないかわりに身体能力が高い。

 

だがこの魔男の場合……どんな執着心を持っているかは知らないが、

花嫁を変にかばうせいでただでさえ少ない体力を削られてる形になっている。

 

 

【Nyaoooooooooooooo!!!】

 

 

しばらく戦っていると……魔男は崩れ落ちるように、その場に倒れた。

 

利奈は持っていた2本の棍を1本の太めの棍に変え、魔力を込めて刃を作る。

 

元の棍が太いため、出来る刃も鋭く魔力の密度も高い。

改良を重ねた結果のこの出来、思考が生んだ代物。

 

 

全く、数週間の内に利奈は随分と成長したものだ。

ここまでくるのに利奈は血の滲むような努力をしてきた。

 

1人、倉庫の影に隠れ魔法について理解を深め、何体もの魔女や魔男を倒してきた。

 

最 初 か ら ハ イ ス ペ ッ ク ?

 

そんなチートが存在するのはゲームの世界だけだろう。

 

ハイスペックを引き出すにはそれなりの技術が必要だ。

時に、瀕死で倒したこともある。 誰かに救われた事もあるさ。

 

そんな苦労があってこその、この強さだ……1人で戦うスキルの方が多いが。

 

 

さて、魔力の大剣、利奈の必殺技。

 

 

上田「ソリテールフォール!!」

 

 

利奈は力いっぱい大剣を振り下ろした。

 

 

狙うは白猫を縛る麻紐!

 

 

魔力の刃は器用に麻紐だけを切り裂いていく。

 

 

そして……ぶつんと、物質を断つ音が大きく響いた。

 

 

 

 

黒猫と白猫を結ぶ麻紐は断ち切れ、黒猫は人間の言葉では

到底表現できないような深い深い断末魔をあげる……

 

その声は例えるなら猫のゾンビ?

 

利奈はヒュっと棍を振って息をつく。

 

 

上田「ゲーム、クリア」

 

 

魔男の体全体から黒い魔力が噴き出す、そして全てが1点に飲み込まれる。

 

魔男も教会の家具も、ボロいオルガンも、ベニヤ板の教会も、

メリメリと壊れて全部全部、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

 

ふと見えたのは、白猫の安らかな顔。

 

 

あとに残ったのは、濁りなき羊羹色のソウルジェムと

黒猫と教会がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は、誓詞の魔男を救った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

全てが収まると、毛布にかけられた抜け殻の隣に倒れた女の子の姿があった。

 

花組では見かけない少女……別のクラスの子だろうか?

 

 

上田「喧嘩でもしたのかな……?」

 

 

利奈は毛布をもう一枚作って女の子にかけてあげると、誓詞のグリーフシードを手に入れた。

 

ついでにトランプも回収する、理由は後続に対する証拠隠滅と使い魔の回収。

 

抜け殻のだらんとした手にソウルジェムをおいて蘇生をしてあげる頃、

深夜だというのに遠くから人の声が近づいてくる。

 

 

上田「あっ、やばっ!」

 

 

利奈は早々にその場から立ち去った。

 

スピード退治!

 

他の魔法使いの団体がこの場に到着したとしても、

そこには何者かに助けられた後の魔法少年と一般人しかいない。

 

 

現場から距離をおくと、早速、利奈はシルクハットを取って棍でコンっと叩く。

 

……無論、これはダジャレではない。

 

すると、そこから7個……いや8個か?

 

シルクハットから出てきて、輪を描いてフワフワと浮かんだ。

 

手にいれたばかりの誓詞のグリーフシードを輪に組み込むと、

別のグリーフシードを1つ取って自分のソウルジェムを浄化する。

 

そのグリーフシードはカタカタ震え出す、今にも孵化をしてしまいそうだ……

 

 

上田「ハチべぇ! どっかにいるんでしょ? グリーフシードの回収をお願い!」

 

 

そう利奈が暗闇の中呼ぶと、利奈の右肩にハチべぇが乗った。

 

 

ハチべぇ「君の活躍は素晴らしいものだね。

ここまで魔女や魔男退治を積極的に行うのは今のところリュミエールだけだ」

 

 

ハチべぇそう言って、利奈に背中を向ける。

 

利奈がそこに孵化寸前のグリーフシードをかざすと……

 

ハチべぇの背中の模様は開き、孵化寸前のグリーフシードは飲み込まれていった。

 

 

上田「そういえばいつも気になってるけど、一般人が巻き込まれる事ってあるの?

魔法少女や魔法少年は結界をこじ開けるって形で入ってるって以前聞いたけど」

 

ハチべぇ「魔女や魔男の誕生に偶然立ち合ってしまうか、

いつのまにか迷い込んでしまうことで結界の中に入ってしまう事があるよ。

利奈の言う事はそれによるものだ」

 

上田「誕生に立ち会う……あぁ、黒板の魔女の時の私もそうか」

 

 

話しながら歩いていると……いつのまにか、例のボロい倉庫についた。

 

最初は粗大ゴミが雑に置かれていた散らかった状態だったが、

リュミエールの手によって使えるものは魔法でキレイにして、いらないものは総出で捨てた。

 

ちゃんと、粗大ゴミのシールを貼り付けて。

 

利奈はソファーに脱力して座る、ハチべぇも利奈の肩から降りて利奈の隣に座った。

 

 

上田「そういえば、あの女の子の姿が結界の中で戦ってた時に

見当たらなかったけど……やっぱり白猫にされてたとか?」

 

ハチべぇ「利奈の推測は正しいと思うよ。

僕のシステムだと()()()()()()けど、()()()()()()()()()という事にはならないんだ。

 

一般人も殺されない……その代わりに、何らかの形、

それこそ魔女や魔男の都合の良いように作り変えられる。

 

()()()()()()()()、その魂自体が穢れるわけではないのに

姿形が変わっただけで騒ぐ理由は僕には到底理解出来ない。

 

魔法少女や魔法少年に至っては魂が操作するだけの抜け殻なんて

何故、そこまで大事にするんだい?」

 

上田「……ハチべぇ、それ 絶 対 にみんなの前で言っちゃダメだからね」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ!」

 

上田「わけがわからなくても!」

 

 

そんな感じで、利奈はハチべぇとの会話を気楽に楽しみながら休憩に浸った。

 

 

ハチべぇには感情がない、何事も機械的に見る。

 

一見、某白いナマモノ同様にそれは人間にとっては愚かしい事だと思うが、

実は全てがそう思うとは限らない。 この方が良い人間だっている。

 

ハチべぇは相手がどうだろうが淡々と正論をかます、それは時に利奈を助けた。

 

正論しか言わないわけだから、理不尽な奴らが集団で

自分らの意見を押しつけようが正しい事でねじ伏せる事が出来る。

 

まぁ……話術が達者なのもあるが。

 

そんな感じで、色々とあって、利奈はハチべぇのことを信用している。

 

そりゃあ、無自己で過ごす日々の中で生きる()()みたいなのをくれたのだから。

 

流れ? そんなの関係ない。

 

今は、ハチべぇの元で魔法少女になれたことを素直に嬉しく思うだけさ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

次の日の日曜、利奈は自分の布団の中でオンラインゲームを楽しんでやっていた。

 

土日は外に出てもなんにもやる事ないし、一緒に遊ぶ友達もいない。

 

あぁ、今はいるが勉強をしてるかまた別のメンバーと遊びに行ってるかだ。

 

そんなこんなで1人遊び、画面の向こうの人々と遊ぶ。

 

 

上田「よっしゃ~~! レアドロ出た! さてと、次の時間限定クエストは……

あぁこれ、面倒な割には報酬少ないやつか……デイリーでもするか」

 

 

独り言を言いながらゲーム、これが利奈の主な休息。

 

そんな時、利奈の頭に念話が届く、ゲームしながら念話を聞く。

この頃になると念話はもうお手の物だ。

 

 

篠田((利奈ぁ〜〜おはよぉ〜〜! あ、もうお昼だからこんにちは? こんちわ!))

 

上田((あぁ絵莉ちゃん、おはよう……あれ、どうしたの?

毎週土日は追っかけ解禁日だって……))

 

篠田((昨日ライブ行ったから、今日はいいんだ。

 

ねぇねぇ! ちょっと遊びに行こうよ!

 

最近『デパート・エタン』に新しいお店が出来たの!))

 

上田((……ファッション関係は感心なくて、よく分からないんだけど))

 

篠田((違う違う! アイスクリームのお店!

利奈ってアイス好きだったでしょ? 月村さんも「利奈が行くなら行く」って!))

 

上田((アイスクリーム!? 行きたい行きたい!))

 

 

好物の情報を耳にし、利奈の目は輝いた。

 

まぁ絵莉からしたら利奈の目は見えないが、その食いつきようは明らかだった。

 

 

絵莉((じゃあ……利奈も月村さんも私も家近いし、

みんなで熱々商店に集まろ! そこから歩いて行こうよ!))

 

上田((は〜い!))

 

 

うえだ「……あぁ、そういえば携帯電話修理に出してるって言ってたな、だから念話か。

 

おっと、スマホ使おう。 熱々商店は……と、地図地図」

 

 

つくづく魔法使いというのは、色々と便利な身体である。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

随時暇同然な利奈はあっさりと都合がついた 。

 

徒歩10分、トコトコ歩いてあっという間に『熱々商店』につく。

 

 

上田「おはよう2人とも!」

 

月村「こんにちは、利奈」

 

上田「……あ、そっかお昼か」

 

篠田「ん? あ! 利奈が来たみたいだよ。

あったかいお茶ありがとう火本君、お店番頑張ってね!」

 

月村「……ありがとう」

 

火本「あいがとさげもした! その言葉できばれるど!」

 

 

がたい良くでかい青年が絵莉と芹香から湯のみを受け取ると、店の中に戻って行った。

 

 

上田「火本……? あぁ火本徳穂(ひもと のりお)君か、

確かうちのクラス(花組)の在籍者」

 

 

……訂正、青年じゃなくて少年。

 

 

月村「私は存在すら知らないわ、中学生だったの? 彼」

 

篠田「私と天音、風香、大声と……花奏位かな? このお店知ってるのは」

 

ようはクインテットの溜まり場。 溜まり場って言い方は悪いが……

よく集まってお菓子なんかを彼との会話を楽しみながら食べているらしい。

 

お菓子のゴミは頼んでもいないのに持って行ってくれるんだとか。

「わっぜかろう?」らしい……わっぜってなんの事だろう?

 

篠田「よし、早速出発しよ! せっかくお茶で暖まったのに、体がキンキンに冷えちゃうよ」

 

月村「そうね」

 

上田「りょーかい!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

デパート・エタンも、利奈にしたらそんなに遠い距離ではなかった。

 

……もったいないな、色んな場所から

遠くなく近い物件に住んでるのに、利奈はお出かけ少ないのか。

 

まぁ、学校の人達と学校以外で出会いたくない……

というのはわからなくもないが。 これは共感できる。

 

 

月村「こんな寒いのに、アイスクリームというのも珍しいわね。」

 

篠田「熱々のワッフルに好きなアイスクリームを挟むんだよ!」

 

上田「あぁ……聞いただけでもう美味しそうだよ」

 

 

食べ物の話となると誰しもがわからないことはない、利奈も芹香も話について行けていた。

 

 

篠田「もう少しでデパートに着くよ!」

 

月村「……あまりはしゃぎすぎないで」

 

遊び慣れている絵莉はちょっとはしゃいでるようにも見える。

芹香はまるでお母さん、はしゃぐ絵莉の抑止力。

 

 

上田「久しぶりだなぁ『デパート・エタン』。

 

アイスクリームのお店ってデパ地下って言ってたし、

クラスメイトに会うことは((助け、て……くれ!!))……え?」

 

 

篠田「ね、ねぇ、今の聞こえた?」

 

月村「かなり弱ってるようね。

 

((こちらリュミエール、今魔法少女が3人いるわ。

そちらの様子や状況を教えてちょうだい))

 

……ダメ、今のが精一杯だったのかも。 返事がないわ、誰の念話かもわからない。

 

失敗したわね……探知の魔法は彼担当、探知の魔法でも記しておくんだったわ」

 

篠田「今から書けないの?」

 

月村「無理ね、1枚作るのに半日はかかるわ。」

 

上田「えっと……」

 

上田((大丈夫ですか? 明らかに大丈夫じゃなさそうけど……))

 

3人は返事が来るまで、何度も何度も念話を送った。

 

助けてと言われても、場所がわからなきゃ助けに行けない。

 

すると、思わぬ返事が利奈の頭に飛び込んだ。

 

 

清水((……? まさか、利奈か?))

 

上田((え、清水さん!?))

 

清水((だから 海 里 だっての!

あぁ……良かった、個人ならなんとか伝える気力と魔力がある))

 

上田((どんな状況なんですか?))

 

清水((ちょっとどころかかなりやばい……やっかいな魔女と対峙してな……

 

場所は『デパート・エタン』の地下駐車場だ。

 

俺らが入る時は他の客は少なかったが、いつ一般客が結界に迷い込むかわからねぇ……

 

結界に入ったら、結界の中心にあるドームにいる。

 

悪りぃ……加勢してくれ!! 現状、かなりやばい状況だ!

 

……ちょっと休むぞ、なんかあったら俺から念話を送るからな))

 

上田((うん、わかった。))

 

 

上田「2人とも、助けを求めてるのが誰かわかったよ。 場所もわかった」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

流石に店内では走らなかったが、それ以外の場所では3人とも全力疾走した。

 

芹香によると状況は最悪、『俺ら』ということは海里は複数で魔女に挑んだ事になる。

 

それでも、この状況……念話が億劫になるほど弱るということは、

複数を弱らせるほどにその魔女が強いということらしい。

 

『ドーム』と言える巨大な建造物が存在することが出来るなら、

それだけ魔女の結界も広いだろうということも芹香は思考の末に考え抜いた。

 

絵莉は……あぁ、芹香と同じような考えにたどり着いたけど説明が下手だった。

 

デパートまでの道のりを走り抜け、店内は早歩きで進む。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ヒヤリとした空気に包まれた地下の駐車場、エスカレーターで1階から降りてくる。

 

……なるほど、これは確かに『いつ一般客が入り込むかわからない』というのもわかる。

 

 

駐車場に続く両開きの自動ドア、これ全体を覆う程の大きなエンブレムが

 ど 真 ん 中 にでかでかとある。 これでは嫌でも入る。

 

光っていないエンブレム……それは結界の中に先客がいることを示している。

 

たどり着いて早々、周りに誰もいない事を確認して3人は魔法少女に変身した。

 

 

「「「変身!」」」

 

 

指輪から戻ったソウルジェムが光り輝き、それぞれの暖色が3人を包む。

 

 

利奈はマジシャン風の優しい赤の魔法少女。

 

芹香は司書のような落ち着いた橙の魔法少女。

 

絵莉はアイドル的で黒板のような緑の魔法少女。

 

 

絵莉の魔法少女姿というと、その色は明るい緑。

 

上半身がスーツを改造したような真面目かつ可愛い感じで、

下半身は思いっきりフリフリのふんわりした丸みあるスカート。

 

足は深緑のタイツをチョイス、靴はかかとが低めなハイヒールだ。

 

手首までの手袋には緑のリボンがついている。

 

ソウルジェムは腰のベルト、黄緑に染まった革製で留め金がソウルジェムだ。

 

ビックリマークを渦巻く様にひねり、四角の枠で囲って可愛くした様なエンブレムである。

 

仕上げは白に赤に青に黄色と、チョークに使われるような色で構成された

虹色のカチューシャをきっちりと頭に付け、ばっちりきめる。

 

 

篠田「教科書を開けっ!」

 

 

今この場に教科書は無いが……どうやら召喚呪文らしく、絵莉の手に万能指示棒が出来た。

 

篠田「先生っぽいでしょ?」

 

上田「ん? あぁ指示棒あると確かにそれっぽいね」

 

月村「利奈は戦う直前に武器を出すスタイル?」

 

上田「うん、その時なったら私の魔法で棍を召喚するよ」

 

月村「私の『辞典』も大丈夫よ、さて……準備はいいかしら?」

 

篠田「絶好調だよ! 結界が広かろうが狭かろうがすぐ倒しちゃうもんね!」

 

上田「うん、行こう! 海里を、海里達を助けに!」

 

 

3人で決意を固めた後、エンブレムのついた自動ドアの前に立った。

 

普通じゃ開かないと思われる自動ドアは、

魔力を感知したかのようにゆっくりと開いていく。

 

それは駐車場の入り口、ガラス製の自動ドア。

 

だが、開いた向こうの景色……

 

ガラスごしに映し出していた景色とは、全く別の景色を映し出していた。

 

 

 

 

鎖の擦れる音が聞こえる、古びた鉄の匂いが3人の鼻を支配する。

 

 

運転の魔女、性質は束縛。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「街!? 結界の中に!?」

 

 

 

月村「第四章! 地の巻!」

 

 

 

海里(……リュミエール、か)

 

 

 

上田「大丈夫、考えがある」

 

 

 

〜終……(7)孤高少女と危機少年〜

〜次……(8)心廃れ夢潰れ[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




はい、利奈がカードばら撒くところで
⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーンって思った人、挙手しましょうね?


ほい! 閲覧ありがとうございます! 次回から2回目の魔女戦となります。

ん?誓詞の魔男?(・∀・)<( お 試 し だ )

フられたからって発狂魔男化してフられた相手巻き添えにするような
 脳 内 お 花 畑 なんて回数に入れないわ!(OдO)

結界もベニヤ板の教会以外に特筆するような場所はないし!

第一、使い魔が雑魚い!!w

……自分で書いておいてひどい言いようだなこれは(;OдO)

次回は利奈以外にも魔法少女がいるので、
利奈以外の魔法少女の戦闘も楽しむことができます。

やはり、注目すべきは絵莉の『学校の魔法』と芹香の『辞書』ですかね。

海里の安否も気になるところ、他にもいるようですし。

さてと、早速運転の魔女の結界をじっくりと書き込みますか! φ(・・。)ゞ ウーン……


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(8)心廃れ夢潰れ[前編]

ハピナ「意義ありっ! (#゚Д゚)=σ」


……はいw おはようございます、珍しく早寝したハピナです。
昨日はレポートもなく、午後9時に就寝&ぐっすり寝たので
ピ ン ピ ン し て い ま す ! (((o(*゚▽゚*)o)))

前回といい感じに間が空いたので、2体目の魔女……運転の魔女戦を始めましょうか。

今回、利奈には仲間がいます。

利奈以外の魔法を戦いの中で書くので、ちょっと気合入れましたw

もちろん、いつもの丁寧(?)な情景描写も怠っていません。

さあ、銀の魔女二番煎じの運転の魔女の世界……どうぞご覧あれ!


ん? 逆転◯判? えぇ、全作やっておりますともw (・∀・)
三剣検事や牙流検事もなんのそのです!
……まぁハーメルンの検事には全敗のボロ負けですがw (; ꒪Д꒪)

《3月2日》
○顔文字抹殺、『w』の削除、改行の修正
○『…』や『ー』や『~』の引き延ばし
○その他修正、抜擢等



空は夕方、鈍色の夕方。 カラスは鳴かない……何故か?

 

この世界にカラスはいないからさ。

 

そんなまともな生物、この魔女の結界にはいやしない。

 

 

 

 

耳を澄ませば鎖同士が擦れる音がする、それがそこらじゅうから。

 

塗装された道路、整備された道路、鎖で構築されたビル群。

 

それが、この結界を創造するもの。

 

頭がタイヤで体が鎖の人型は、鎖の身体を引きずって我を忘れたように歩く。

 

 

運転の使い魔、役割は生産。

 

 

鎖を使い主の為に車を作る、無論完成した事はない。

紐状の鎖で車なんて、あまりにも無茶が過ぎる。

 

たまに、壊れた標識や古いひっぺがされた

アスファルトで作られた車(?)なんかが走るが……遅い。

 

だからこそ、見た事ない素材にはすぐに飛びつくのだ。

 

ほら、建物の影から変わった色の素材が来たぞ。

 

あぁ、哀れや哀れ。

 

生きてるものとはいえ、乗り物に改造される運命にあるのだから。

 

……まぁ、中にはそんな運命に抗おうとする異物もあるわけだが。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

3人の魔法少女が魔女の結界に入ると、結界のこじ開けた後は閉じる。

 

そこは、周りには鎖しかないが一応路地裏と言える場所だ。

 

 

上田「なんか鉄臭い……これ、鎖? 鎖が編まれてる」

 

篠田「おぉ! これ建物全部鎖で出来てるんだ!」

 

月村「待って、あまり触らない方がいいわ」

 

篠田「えっ、おっとっと……何で?」

 

月村「見なさい、建物の中を」

 

 

芹香に言われ、絵莉は壁を見る。 利奈も気になったので見てみる。

 

 

すごいことに、鎖だからか輪っかの隙間から室内の様子が見える。

 

若干……というか完全に色がおかしかったが、

そこは会社のような役割があるんだとなんとなくわかる。

 

ホワイトボードにあるのは読めない文字や、残酷な絵のポスター。

 

彼らはエンジン音で会議をしている、音がうるさい割りには廃棄ガスがないのが幸いか。

 

 

全ては、主の為に。

 

 

篠田「なにこれ!? なんか会議してる!」

 

上田「一階から上の方まで使い魔でびっしりいるね」

 

月村「そう、使()()()()()()()()わ。

今まで色んな魔女や魔男を倒してきたけど、質は知らないけど量が多い。

 

そんな時に作戦を立てないで物音を立てるなんて……論外ね」

 

篠田「それって誰のことかなぁ!?」

 

上田「まともに突っ込んだら魔力が足りなくなりそう……」

 

月村「作戦会議をしましょ、待ち人がいるし結論は早めに。

まずはここからどう移動するかの件について」

 

使い魔の数が多い、ひっそりと魔法少女会議が開かれようとしていた……が

 

 

 

 

「ふぃ~~! やっとついたぜ!」

 

「お店の中走っちゃったけど……まぁいっか」

 

「っしゃ〜!! とっとと魔女退治だぜうぃ〜!!」

 

上田「えっ、え?」

 

月村「あっバカ!!」

 

 

数人の乱入者が乱暴に結界に入った衝撃で、不意にビルの()が大きな音を立てる。

 

 

ま た お 前 ら か ! !

 

 

……遠くから低く唸るエンジン音が、だんだんと近づいてくる。

 

 

【brrrrrrrrrrr!!!】

 

 

月村「!?」

 

篠田「あっ、あわわわ!?」

 

上田「逃げよう!!」

 

 

利奈の声に触発され、3人はこの場から移動した。

こんな狭い路地裏で戦うなんて不利以外の何物でもない。

 

判断が早かったのが幸いしたのだろうか……

 

一瞬後ろを見ると、魔力の光は見えるものの、

乱入者は使い魔に囲まれ何をしているかわからない。

 

わかった事と言えば、ぱっくりと割れた使い魔の口。

 

横に割れたゴムの隙間、……

 

ガソリンの唾液に濡れた病的な青の口内から、

鋼の牙が不気味にギラリと覗いた事ぐらいか。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

路地裏を飛び出しキレイに塗装された道路を走る魔法少女3人。

後ろからは追っ手が10、20、30……それはもうたくさん。

 

 

上田「街!? 結界の中に!?」

 

篠田「こんな広い場所だったんだ! これならいくらでも逃げれそう!」

 

 

……発想が色々と飛んでいるな、絵莉。

 

 

月村「やってくれたわね、迂闊だった。

あそこは入口なんだから場所を変えるべきだったわね……同類のバカどもを忘れていたわ」

 

上田「あぁ~~こうなったら走りながらでも考えるしかなさそうだね、難しいけど……」

 

篠田「わああぁ!? 大変! 前からも来た!!」

 

 

絵莉の言うとおり、前からも使い魔が迫っていた。後ろより数は少ないが。

 

 

上田「私が先導する! 絵莉ちゃんはサポートについて月村さんは作戦を考えて!

 

 

アンヴォカシオン!!」

 

 

利奈は両手に棍を召喚すると、アロンジェで少し伸ばし構えた。

 

絵莉は利奈の少し後ろで指示棒を構える。

 

芹香は自らの『辞典」を読むことに集中し、策を企て始める。

 

……使い魔が目の前に迫った、利奈は使い魔を1体吹き飛ばす。

 

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

 

道中迫る使い魔を、利奈は乱舞でなぎ倒していく。

 

 

篠田「タンリュカ・ルシウム!」

 

 

絵莉が指示棒を振ると、空中にチョークが現れ、豪速球で使い魔の足を捉えた。

 

それを何発も連続でだ、チョークと言っても魔力製のチョーク……弾丸も同然。

 

金具の足を持つ使い魔の足は衝撃を吸収する暇もなく弾かれ、

バランスを崩して倒れた。 ドミノ倒しに倒れる使い魔もいた。

 

これで利奈の手間は大幅に省けた。

 

 

上田「絵莉ちゃん上手い!」

 

篠田「サポートならおまかせだよ!」

 

上田「やあああああっ!!!

篠田「えええええいっ!!!」

 

 

 

 

月村「鉄……鉄鉱石? 石なら土が近いかしら……」

 

 

宙に浮かせた辞書を読みながら、

2人の後をついていく事だけを移動の思考にする芹香。

 

もう少しで何か思いつきそうだが……

 

 

上田「かっ、数が多い……!」

 

篠田「あわわ……! お願いだから転んでぇ!!」

 

月村「土地……第四章ね……あった、あったわ。

上田さん! なんでもいいから高く飛びなさい!」

 

上田「え? ……あ、わかった! 絵莉ちゃん、手を!」

 

篠田「う、うん!」

 

 

上田「スフェール!」

 

 

利奈は利き手じゃない方の棍に魔力を込めて前に投げつけると・・・

 

ほんの一瞬、使い魔の突撃が止んだ。

 

 

上田「アロンジェ!」

 

 

篠田「……へ? アロンジェっtきゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

強く利き手の棍を地面につき、絵莉の手をしっかりがっちり掴んで棍を伸ばした。

 

利奈と絵莉は、共に宙に浮く。

 

 

月村「上出来ね」

 

 

芹香が辞書に利き手をかざすと……辞書は淡い橙の光を放ち、

そこから橙色の1枚のページが出て来て浮かんだ。

 

 

月村「第四章! 地の巻「磁力」! 対象は使い魔!」

 

 

手を強く上に向けて振ると、ページは弾けて光となる。

 

同時に3人に襲いかかる、襲いかかろうと使い魔は橙の光を帯びた。

 

 

すると……

 

 

ガキィィン!!

【brrrrrrrrrrr!!?】

 

ガキィィン!!

【brrrrrrrrrrr!!!】

 

ガキィン! ガキィン! ガキィン……

 

 

連鎖的に、どんどん使い魔同士がくっついていく。

 

 

月村「他愛もないわ、あなたたちが鉄という物質であることを恨みなさい」

 

 

芹香はそう、吐き捨てるように呟いた。

 

使い魔をかわしながら利奈が着地する場所を予測して先へと進む。

 

 

芹香が足を止めると、見事予測した場所に利奈と絵莉が着地した。

 

利奈は棍を元の長さに戻すと、絵莉の体を支えてあげた。

 

絵莉の頭の上には……ぴよぴよとお星様。

 

 

上田「アロンジェ!

 

 

……ふぅ、絵莉ちゃん大丈夫?」

 

篠田「ふぇっ!? あ、大丈夫だよ!?」

 

月村「……大丈夫じゃなさそうね」

 

上田「ごめん……言う余裕がなくて、急だったもんだから」

 

篠田「全然! ちょっとしたフリーフォールだって思えば

かなり楽しいし! 楽しいアトラクションだよ!」

 

上田「あはは……ん? なにあれ?」

 

 

ふと、利奈が見上げた先、鈍色の空の中で光るものを見つけた。

 

それは利奈の前まで飛んでくると、差し出された利奈の両手に着地する。

 

それは真っ青な……

 

 

月村「コンパス?」

 

篠田「あれ、これ……海里の魔法のコンパスだ、白が北を指すんだよ!」

 

月村「そういえば……私が最初に会った時も、

確かこんなのを持っていた気がするわね」

 

上田「針が指してるのは……あれ? 私達の行く方角と逆方向だ」

 

篠田「逆方向!? それって追っかけてきた敵の中に突っ込むってこと!?」

 

月村「その心配はないわ。

今頃、同族同士でくっついて身動きが取れなくなっているはずだから」

 

篠田「それって魔法が解けたら外れちゃうんじゃ……」

 

上田「それは無いと思うよ!磁石の強い磁力に

長く触れた鉄ってしばらくは磁力を持ったままなの」

 

篠田「へぇ~~! あ、その辺ちゃんと勉強してないや」

 

月村「いい脳味噌もらったのなら少しは勉強しなさいよ……」

 

 

絵莉は軽く冷や汗、芹香は深いため息を一つ吐いた。

 

 

 

 

道のど真ん中でしばらく会話をする3人、

使い魔達は目の前の素材を手にしようとも、磁力で身動きがとれない。

 

 

上田「今の状況でコンパスが示す方向……清水さんがいる方向かな?」

 

月村「その可能性は高いわね。 こんな北も南も右も左も……

方角がないような世界よここは、そんな中で導く先なんて」

 

篠田「「自らのいる場所だけね」っていう感じかな?」

 

月村「……似てるけど気に入らないわ」

 

篠田「えへへ、それほどでも!」

 

月村「褒 め て な い わ よ !」

 

上田「決まりだね、じゃあ早く行かなきゃ!

使い魔のせいで結構時間くっちゃったし……急ごう2人とも!」

 

篠田「はぁ~~い!」

月村「やれやれ、ね……」

 

 

そして再び3人は走り出した、コンパスの示す先へ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

海里(……ん、見つけてくれたみたいだな、良かった)

 

 

どこか細い……鎖の筒の中、音を立てないように寄りかかる海里。

外からは高らかな奇声と、不快なクラクションしか聞こえない。

 

 

海里(……リュミエール、か。)

 

 

リュミエール、その意味は光。

 

 

鎖に囚われ闇に埋れていく中……今、この深闇に迫る光。

 

海里は、それによって希望を持てたのか?

 

なんだか……彼はなんとなく、ソウルジェムの穢れる早さが遅くなったような気がした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「アロンジェ!」

 

 

篠田「いやあああああぁ!! あぁーーきゃはは!!」

 

 

月村「第四章! 地の巻『磁力』! 対象は使い魔!」

 

 

利奈と絵莉がある程度減らし、芹香が魔法で動けなくする。

 

そんなスタイルが身につく頃、

絵莉が独特のアトラクションを楽しめるようになる頃。

 

淡々と続いてきた両端にビル……真っ直ぐ続く道路の先に、やっと終わりが見えた。

 

なるほど? 確かに広く開けた場所、そのど真ん中に巨大なドームがある。

 

周りには円形の観客席としっかりとしたコース。

 

ビル群とは違い、素材は現実と変わらずちゃんとしている。

 

利奈的に言うと、今回のボスはあそこにいるだろう。

 

ただ、それよりも嫌でも目に付くものがあった。

 

 

 

 

3人は思い至るだろう。

 

 

 

 

何故、使い魔は1()()()しかいなかった?

 

何故、他には見当たらなかった?

 

その疑問は、この魔女以外にもたくさんの使い魔や魔女を

討伐してきたリュミエールなら思い浮かぶ疑問。

 

そして、今まで考えもしなかった疑問……答えはとてもシンプルだ。

 

 

 

 

運転の使い魔達が作っていたのは……乗り物という使()()()だったからさ。

 

 

 

 

運転の使い魔、役割は選手。

 

 

 

 

「ぎゃはははは!!!」

 

「アッハアアアアヒャヒャヒャ!!」

 

「いぃぃぃやあぁぁ!!」

 

 

篠田「……!! ぅあ「シッ!」」

 

 

それは、あまりに狂気的な場面。

 

思わず悲鳴をあげそうになった絵莉だったが、

利奈の突発的な行動で声をあげずに済んだ。

 

利奈は棍を地面に刺して、咄嗟に絵莉の口を手のひらで塞ぐ。

 

芹香は呆然としてその光景を見ている。

 

 

上田「……稀に見ない酷さだね」

 

 

その使い魔の姿……誰から見ても、元は()()なんだとわかった。

 

 

原理はわけがわからない。

 

頭と胴体はそのままに、手足が捻じ曲げられてタイヤになっていた。

 

魔女のエンブレムが描かれたカバーが着いてることが唯一の幸いだろう。

 

顔は狂気に歪み、狂おしいほどに笑いながら、延々とコースを走っている。

 

使い魔の中には……お年寄りや幼い子供までいた。

先程の魔法少女や魔法少年らしき面影も見える。

 

芹香は小さく歯ぎしりをし、利奈は絵莉から手を離した。

絵莉は……顔を手で覆って泣いている。

 

月村「っ……! 最近の相手が簡単で、手軽で、忘れていたわ。

これが魔女……なのね、自らの欲望の為ならなんだってする」

 

篠田「ひどい……ひどすぎるよ……!」

 

上田「……行こう、魔女を救いに。

 

倒したらどうなるかわからないけど、これ以上被害を増やしたらいけない」

 

 

利奈は深呼吸をして、地面に刺していた棍を引き抜いて握りしめた。

 

ぶつけようもない怒りからか、その力はどこか力強い。

 

 

上田「月村さ……いや、芹香」

 

月村「……何かしら?」

 

上田「ここからあの人達に

見つからないように行くのは可能?」

 

月村「……可能よ、コースは何重にも重なってるけど、

観客席から観客席に飛び移れば見られずに行けるはずよ」

 

上田「りょーかい」

 

篠田「……えっ!? で、でも、かなり距離があるよ!?」

 

 

絵莉の言うとおり、こうして何台ものの車が走っているのだ。

 

コースの幅は生半可ではない。

 

 

上田「大丈夫、私に考えがある」

 

 

利奈がそう言うと、シルクハットを整えてほんの少し微笑んだ。

 

すると、利奈のソウルジェムが強く輝きを放ち始める。

 

利奈の強い決意を映す様に、光り輝く太陽の様に。

 

息を大きく吸い込み、召喚したいものをしっかりと思い浮かべて……

 

 

利奈は、呪文を唱えた!

 

 

上田「ジュイサンス!!」

 

 

利奈がそう唱えて棍を上に投げると、赤い閃光を放ちながら膨れ上がりながら変形していく。

 

篠田「わあぁ~~……!」

 

月村「こ、こんな状況でそれを思いつくなんて、

なんだかんだ言って肝座ってるじゃないの」

 

上田「うん、頑張った」

 

月村「……褒めてんのよ、もっと喜びなさい!」

 

 

まさに()()という事だろう、まぁそれはさておきだ。

 

 

利奈が魔法で作り上げたのは発射台が3つの巨大な大砲だった。

 

棍から作られた大砲はツヤのある赤を放っている。

 

大砲の真ん中に空いた穴にコンパスをパチっとはめる。

 

 

上田「面倒だし、一気に行こう!

このコンパスの方角通りに吹っ飛ばしてもらいますか!」

 

月村「さて、準備しましょう」

 

篠田「……えっ!? なんで大砲の中に入るの!?」

 

月村「言わなくてもわかるでしょう、頭良いんだから察しなさい」

 

篠田「うへぇ、フリーフォールの次はこれなんだ……」

 

上田「一応、発射時に私の魔力でコーティング……

まぁ防御魔法がかかるようにしてあるから大丈夫。

 

じゃあ私も入r」

篠田「ま、待って! 利奈!」

 

 

大砲に入ろうとした利奈だったが、突然絵莉に腕を掴まれ引きとめられた。

 

 

上田「えっ? 絵莉ちゃんどうしたの?」

 

篠田「利奈ばっかり無理させるのはやだ! 私の魔力を防御魔法に使ってよ!」

 

月村「へぇ、貴方も珍しく良いこと言うじゃない」

 

篠田「珍しく!?」

 

月村「私の魔力を使うといいわ。

利奈には大砲を作ってもらったりして色々負担かけてしまったもの」

 

上田「 な ん で そ う な る の ! ?」

篠田「 な ん で そ う な る の ! ?」

 

上田「いやいやいや! 

芹香には磁力を発生させてもらったし、絵莉ちゃんは……えっと、

炭酸カルシウムと硫酸カルシウムをたくさん飛ばしてくれたし」

 

絵莉「『タンリュカ・ルシウム』だよ!」

 

 

いやぁ~~、迷走に続く迷走。

 

それからと言うものの、まぁ防御魔法権利の良心的な奪い合いがちょっとあったわけで……

 

結局、それぞれがそれぞれの防御魔法の魔力を受け持つことになった。

 

 

上田「……なんか、ありがと!」

 

篠田「ちょっと面白かったね」

 

月村「こんな状況なのにね」

 

すっぽりと大砲に収まる3人、何故か笑いがこみ上げて必死に押さえ込んだ。

 

 

上田「2人とも、準備は良い?」

 

篠田「いつでも行けるよ!」

 

月村「早く打ちなさい、利奈」

 

上田「よ~~し!構えててよ!

 

 

3!

 

 

2!

 

 

1!

 

 

 

ティロ・フィナーレ!!」

 

 

 

ドオォォォンっ!!! 激しい着火音が鳴り響く!

 

 

 

月村「っあああ!? 割と早いわああああ!!」

 

篠田「わ! なにこれ楽しいいいいい!!」

 

上田「あっ!? しまった間違った! この呪文イタリア語だったあああ!!」

 

それぞれの色の紙テープや紙吹雪を散らしながら、魔力の光をまとって3人は飛んで行った。

 

おそらく、利奈言いたかったのは……『ユルティム・アンフラッペ』だろう。

 

何故『ティロ・フィナーレ』になってしまったのか?

 

 

3人はもう一種の運転の使い魔と戦うことなく、一直線に魔女の元へと飛んで行った。

 

 

さて、どうなることやら。

 

 

真面目な話、海里の限界は近い……急げ! リュミエール!

 

 

青の魔法少年が、魔女の手に墜ち絶望の闇に溺れる前に!!

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水((待て! 触るな利奈!!))

 

 

 

上田「クグロース!」

 

 

 

月村「混合! 「地盤崩壊」!!」

 

 

 

篠田「図工の授業を始めます!」

 

 

 

〜終…(8)心廃れ夢潰れ[前編]〜

〜次…(9)心廃れ夢潰れ[後編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、今回は絵莉ちゃんと芹香の魔法が公開されました。

ちょっとばかし補足をすると、絵莉ちゃんの魔法は……

まぁ元々は黒板の魔女だったのでみんな検討がつくと思いますが、
彼女は学校関係の魔法を使いこなします。

お手元の指示棒で魔法に教育、指示を行うのです。


芹香の魔法は前にも、利奈が魔法少女に初めて変身した時にも
ちらっと出てきましたね。 その時、武器も見せたはず。

最初は1章につき魔法は1つでしたが、
数週間の時を経てかなりページ数は増えています。

そりゃあ、半日で1ページなんだから
数週間かかさずだったら何枚増えるんだw って話ですからね。
但し、使える種類の幅が広い代わりにページは消耗品となっています。


ん? ティロ・フィナーレ?

えぇ、やりたかっただけですともw
大砲と言ったらこれしかないですからね。


ティロ・フィナーレ!
ξ(✿>◡❛)ξ▄︻▇▇〓〓


それでは皆様、また次回。


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(9)心廃れ夢潰れ[後編]

コンニチハ!!(゜Д゜*)(。_。*)ヘ゜コリ

テラリアでボス討伐に踏み出せないビビりのハピナです!

……うん、すごくどうでもいいw


それはさておき、本当は明日投稿する予定の最新話をちょっとサービスして今日投稿しました。

(あれぇ、喜ぶ人いるかな)>(;゚∀゚)


今回は利奈と絵莉、芹香の3人がマミさんよろしく人間大砲で飛んだ後のお話。

いよいよリュミエールリーダー海里の魔法のお披露目となります。
不合格と言われ闘争心が燃え根性入れて書いたのは内緒ですw

ハチべぇ「バレバレじゃないか!」


⊂===(^ω^)===○)ω×)(/ ・゜ドカッ


運転の魔女の籠るエリア、それと運転の魔女自身もいよいよお披露目です。

さぁ、物語のページをめくりましょう、幕が再度上がりました……。

《3月2日》
○台詞最後の『。』削除
○顔文字抹殺、慈悲はない。
○『w』の削除や『ー』『~』の引き延ばし
○その他修正(文章の追加、索敵)



効果音をつけるなら、それはそれは重々しい音になるだろう。

 

鈍色の空の下、いかにも鉄が錆びそうな怪しい空気の中。

 

その建築物は、結界のど真ん中に佇んでいた。

 

中から、骨から胸の奥まで響くようなエンジン音が漏れている……狂気的な笑い声も。

 

あまりに大きなドーム、それでも使われる鎖は周りと変わらなかった。

 

 

そこへ、この結界では見かけない鮮やかな色が3つ飛んできた。

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

赤いのが呪文を唱えると、柔らかなクッションが現れて3人を受け止める。

 

 

月村「わっ!?」

 

篠田「ぷわっ!?」

 

上田「よっと!」

 

 

リュミエールの3人だ、青いコンパスの導きはとても正確だったようで。

 

 

篠田「ったた……おぉっ!? ふわふわのふかふか!」

 

月村「よくこの勢いですんなり着地出来るわね」

 

上田「そりゃあ自分の魔法だもん、ソロ狩で結構鍛えてるから適応能力高いのかなぁ」

 

月村「……恐ろしい子ね」

 

上田「冗談はさておき、これが清水さんが言ってたドームか……」

 

篠田「なんか臭い! ガソリン臭い!」

 

月村「うるさい音がこっちにまで聞こえるわね」

 

上田「私、ちょっと中の様子を覗いてみるよ!」

 

 

利奈は中の様子を確認しようとドームの鎖に手をかけようとした……が、それは遮られた。

 

 

清水((待て! 触るな利奈!!))

 

上田「!?っ」

 

絵莉「どうしたの利奈?」

 

上田「ごめん、ちょっと待ってて」

 

絵莉「え、なになに?」

 

 

鎖に手をかけようとした利奈だったが、鎖に手をかけずに一旦中の様子を覗いて見る。

 

すると、編み込まれた鎖の隙間、おかしな風景が広がる中で……

 

一瞬だけ、青い光が見えた気がした。

 

 

上田((そこにいるの?))

 

清水((距離はあるが目の前にな、こんだけ近かったら念話も楽だなこりゃ……))

 

上田((えっと……なんで覗いちゃいけないの?))

 

清水((舞は……いや、運転の魔女は音に敏感なうえに

やたら早いやつでな例えるなら人間版チーターか?))

 

上田((うんうん、理解出来るよ!))

 

清水((物分りが早くて助かる! それで俺らもやられたんだ……

 

仲間の2人は魔女と一緒に走ってるところだ。

 

……やるせねぇな、俺もこんなにボロボロになったんでまともに戦えもしねぇ))

 

上田((音? こんなにうるさいのに?))

 

清水((よっぽど自分の走りを邪魔されたくないんだろうな……

すぐにでも駆けつけるぞ、たとえレース中でもな))

 

上田((そんなに敏感なのね、その魔女って))

 

 

利奈は少し考えてみた、この場を切り抜ける奪還策。

 

 

とても音に敏感……

 

 

すぐにでも駆けつける……

 

 

上田((……あっ!))

 

清水((ぅおっ!? 強い念話が……急にどうした、利奈?))

 

上田((ちょっと思いついたんだ、このドームに入り込む方法。

ごめん! 忘れない内に2人に伝えてくる!))

 

清水((お、おう。 気をつけろよ!

あぁ後、俺は無事だって言っといてくれよな!))

 

 

そんな感じで念話を終えると、利奈はドームから離れて

クッションがある場所に戻った……って、まだあったんかい。

 

 

篠田「あ、おかえりぃ! 利奈!」

 

上田「絵莉ちゃん、芹香! 2人にちょっと話があるの」

 

月村「ふぅん? 退屈だし、聞いてあげるわ」

 

 

そこからは、利奈少ない対人能力で必死に説明する。

海里から聞いたことや思いついた作戦を入念に話す。

 

 

上田「……で、芹香には魔女を遅くする魔法を、

絵莉ちゃんには鎖を壊す魔法をそれぞれ放ってほしい。

 

私は絵莉ちゃんに協力する」

 

月村「わかったわ、どんな魔法を使うかはもう考えてある」

 

篠田「うぅ〜〜……あたしは壊すことは出来ないけど、

鎖を弱めることなら出来ると思うよ!」

 

上田「じゃあ、弱まった鎖を私が壊すって寸法でいいね」

 

ちらっと自分のソウルジェムを確認、少し穢れが溜まってきているが……

まぁ加減すればあの作戦は成功するだろうと検討をつける。

 

 

上田「それじゃあ早速始めよう! みんな、位置に着いて!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一方海里は……利奈とある程度念話をした事で絶望感は和らいで

ソウルジェムも穢れなくなり、ある程度は安定していた。

 

 

今はリュミエールの行動の時を待つ。

 

 

海里(さて、作戦とやらはどんなもんなのかねぇ)

 

 

しばらく待っていると……不意に、ここから遠くの方にこんな音が聞こえてくる。

 

 

それは、猫と金が同時に鳴るような間抜けな音色。

 

 

海里(……音? な、なんだ……この間抜けな音は?)

 

 

すると、大きなエンジン音はその音の方へと行ってしまった。

その後すぐに、知った声の呪文がすぐ近くで聞こえてくる。

 

 

篠田「フラスコパーティHCl!」

 

 

いくつものフラスコが現れて緑色の液体を垂れ流す……鎖の壁一枚向こうが溶けた。

 

 

上田「クグロース!」

 

 

すかさず、赤く太い筒が溶けた鎖を無理矢理破壊して突っ込んできた!!

 

 

これで魔女の本拠地にトンネルが出来た!

そのトンネルを潜り抜け、3人の魔法少女が出てくる。

 

 

海里(利奈! 月村さん! 絵莉!)

 

上田「芹香!」

 

月村「わかってるわよ」

 

 

篠田「これで、理科の授業を終わります!」

 

 

絵莉が指示棒を一振り。

 

トンネルの周囲に散らばった塩酸を消すと、真っ先に芹香は前に出て辞書に手を飾した。

 

 

月村「第一章 炎の巻「溶解」、

 

第四章 地の巻「隆起」。

 

混合! 「地盤崩壊」!!」

 

 

辞書から2枚のページが飛び出すと、2枚は光になって1つになり……

目の前に見える道路らしき道の上で弾けた。

 

すると、道は橙色の色を放ってぐにゃりと曲がり、

そのまま無限マークの道筋全てを荒くしてみせた。

 

遠くの方からエンジン音が近づいてくる音がするが、その速度は明らかに先程よりは遅い。

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

利奈は使い魔を閉じ込めていた白紙のガードを回収すると、

すぐさま、利奈は青い光が見えた場所まで走り出す。

 

……ん、誓詞の使い魔?

 

あぁ、それなら大丈夫だろう。 

 

今頃は自分達の倍近くいる格が違う使い魔に捕まり、新たな素材になっているはずだ。

 

海里がいた場所……そこは鎖の()()()だった。

 

さて、ここまできたらここがどんな空間なのかを3人も理解出来るだろう。

 

 

 

どす黒い灰色でドームの内装は乱暴に塗りたくられていた。

所々血のように赤い鎖があり、2色の鎖は複雑に編み込まれ、

命を宿したかのように脈打っていた。

 

それはまるで、黒い胃の壁のよう。

 

真ん中には無限の形の室内コース。

 

走る事だけに特化されたその場所は線も引かれず観客席もない……

ヘドロのような色のアスファルトが道筋にあるだけである。

 

まぁ、今となっては走りずらそうなボッコボコになってるが。

 

ドームを支えるように何本かの鎖が柱となって健在を……

 

いや、ドームから吊り下げてるだけの柱なんて、柱としての役割を果たしていないだろう。

 

 

 

 

利奈が光を見かけた柱の鎖をかき分けると、

ぐったりとして鎖の壁によりかかっている海里の姿を見つけることが出来た。

 

 

上田「清水さん! 大丈夫!?」

 

清水「だから海里だって! ……とまぁ、つっこむ位の元気はなんとかな」

 

 

疲れきった顔で海里はにへらと笑ってみせたが、

海里の首筋のソウルジェムは孵化とは言わずとも、かなり穢れが溜まっていた。

 

利奈はシルクハットからグリーフシードを取り出し、海里の首筋にあてる。

 

 

清水「っ……悪りぃ、グリーフシード使わせちまって」

 

上田「また貯めますよ、今はしっかり浄化します」

 

清水「貯めるってお前なぁ……あぁ〜あ、今度は俺が助けられちまったな」

 

 

海里が言っているのは、黒板の魔女戦の時の事。

利奈はそれを聞いてふと、笑うだろう。

 

 

上田「危ない時はお互い様ですよ……とと、浄化終わった。

これ位ならあと1回は使えるって感じかな?」

 

利奈は海里の首筋からグリーフシードを離すとシルクハットの中に戻す。

 

首筋のソウルジェムをほろって服の襟首を整える。

 

ついでに魔法でハンカチを出して、額の汗拭いてハンカチ消して長めの前髪整えて……

 

利奈は几帳面であった、これではちょっと過度である。

 

 

上田「これで良し!」

 

清水「……ぁりがと」

 

上田「え?」

 

清水「なっ、なんでもねぇよ!? 早く出ようぜ!」

 

 

海里は結局、利奈に一通り直してもらって鎖の柱から出てきた。

 

縦に伸びるようにして背伸びをする。

 

 

篠田「あっ! 海里おかえり!

なんかやたらピンピンしてるけど……良い事あったの?」

 

清水「え? あ、じょ、浄化の力はすげぇってことだろ!

ずっと柱に入ってるのも疲れるもんだぞ……」

 

そう言って何故か、海里は照れ隠しをした。

ふむ、確かに完全回復と言っても過言ではないだろう。

 

 

月村「っ!? みんな、身構えなさい、魔女が……来るわよ!!」

 

 

コースをずっと見張っていた芹香が声をあげる。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

利奈は棍を1本召喚して構え、絵莉は指示棒を握りしめ、海里は両手首の鎖に魔力を込めた。

 

 

遠くから迫るエンジン音……走りずらそうな感じはするが、それでも速い。

 

地面を削りながら魔女は強引に道路を滑走してくる。

 

その姿はまるで、干からびた亀のようだった。

 

 

真っ黒な4本の指をもった長い手足を持つ人型で耳は4つあり、

 

背中には赤い車のボディが亀の甲羅の様についている。

 

小さな足は4つの手が持つ巨大なタイヤに支えられ宙ぶらりん。

 

顔は鎖でぐるぐる巻きになっていてわからない。

 

クラクションの咆哮が周囲に木霊した、道削ってまで走りたいらしい。

 

 

【Pーーーー!!!!】

 

 

やかましく響くエンジン音。

 

 

甲羅から吹かす、排気ガスを撒き散らしながら……魔女はコースを走り続ける。

 

 

一緒に走っていた使い魔は凸凹した道路なうえに、この魔女の怒りの疾走。

 

あまりに魔女が速いため自分のペースを崩し、コースアウトしてしまった。

 

……魔女を向かい打つ体制のまま、滑走する魔女を見送る4人。

 

 

上田「……え?」

 

篠田「通り過ぎた!?」

 

月村「完全に私たちを無視して行ったわね」

 

清水「使い魔が……っておい!? お前ら大丈夫か!?」

 

 

何かを見つけたのか、海里はその場から走り出した。

 

 

上田「あっ!? 待って清水さん!」

 

 

慌てて後に続き、3人が海里を追いかける。

 

 

 

 

?「ぐ、ぬぬ……」

 

?2「ぅ、だ、大丈……大丈夫? 力強(ちかつよ)!」

 

地屋「正直言って大丈夫じゃねぇ、叫び過ぎて喉が痛ぇ……

そういうお前はどうなんだよ八雲(やくも)?」

 

空野「僕も喉痛いかも……」

 

人の言葉で話しながら、改造された自らの体を確認する2体の使い魔。

 

と、そこへ2体の見知った青が駆け寄ってくる。

 

後ろからは2人の魔法少女が知っている青を追いかける……遅れて、緑色のもう1人。

 

 

清水「おーーい! 力強! 八雲! お前ら無事かーー!!」

 

空野「あ、海里!」

 

地屋「おう! ちょっと色々あってトチ狂ってたがもう大丈夫だ!

……手足がとんでもない事になってるけどな」

 

上田「清水さ〜〜ん! どうしたのいきなり走り出しt……ひっ!?」

 

月村「使い魔……!?」

 

 

利奈と芹香は慌てて乱舞をとる体制に入ったり、芹香は辞書のページをめくったりした。

 

 

清水「だあああ待て! 待て!! 違う、これは違うんだ!」

 

「「えっ?」」

 

篠田「待っ、待ってよ〜〜!」

 

 

一旦コースから離れて4人と2体で輪を囲む一同、魔女はがたがたのコースを走り続けている。

 

こんな状況ながらも未だ爆走する魔女に警戒しつつ、海里は一つ一つ丁寧に話した。

 

今回魔女化してしまったのは、この使い魔に作り変えられてしまった

2人の 幼 馴 染 み なのだという。

 

海里は暇つぶしに偶然このデパート・エタンに来ていて、

3人で組んでこの運転の魔女に挑んだんだとか。

 

海里、力強、八雲の3人でよく組んでいたらしい。

 

で、挑んだのは良いが……この魔女の異常な素早さに翻弄され、

戦闘に敗北した2人は魔女直々に改造された。

 

海里1人でなんとかしようとも、魔力に限界が来たので柱に隠れて増援を待ったのだと。

 

 

上田「て、手足そんなになっちゃって大丈夫なの……?」

 

地屋「大丈夫じゃなかったらそれはそれで怖いな」

 

空野「骨折とかじゃなくて、なんかこう……粘土みたいに丸められたって言ったらわかるかな?」

 

月村「……恐ろし過ぎてなんとも言えないわね」

 

空野「命に関わらないなら大丈夫じゃないかな」

 

そう言って八雲はその車体となった人体の……

手足というかタイヤというか謎の部位を前後左右に、

回転もさせて安全だと動かして見せる。

 

確かになんともないみたいだ、形状がかなり気になるが。

 

 

篠田「痛くないの?」

 

地屋「改造させられた時は結構えぐい音鳴ったんだが、まぁ大丈夫だ」

 

清水「……本当に大丈夫なんだな?」

 

空野「もう、そんな顔しないでよ海里」

 

地屋「おう! 俺らはこうして無事だったんだしな!」

 

清水「……ごめん、無事で良かった」

 

 

その時、海里の固かった表情が少しながら和らいだ。

肩の荷が降りたとでも言うのだろう……全て降りた訳ではないが。

 

 

月村「再開に浸ってる所、悪いけどちょっと考えましょう。

今、私たちが立ち向かうことになる……魔女を倒す方法について」

 

篠田「海里達はどんな風に魔女に立ち向かったの?」

 

地屋「激! 増! 減!!」

 

清水「おい脳筋」

 

空野「『激増減』は力強の必殺魔法だよ、魔女の重量を増やしたんだ」

 

 

ふむ、技と言わない辺りがなんとも魔法使いらしい。

 

 

地屋「おう! 俺の魔法で魔女をおもいっきり重くしてやったんだが……

一向に止まらなくてな、全然気にしねぇって様子だった」

 

空野「僕の追い風もなかなか効かなくて……」

 

清水「結局そのまま倒そうって流れになっちまったんだよな」

 

篠田「それって……重くなったせいで、風が平気になったんじゃ「空気を読みなさい」」

 

芹香は絵莉の言葉を遮る。 海里はふぅっとため息を1つついた。

 

清水「ったく、どんだけ固いんだあの魔女は!

いくら攻撃しても全然苦しむ素振りがねぇんだ!」

 

月村「攻撃しても効いてる素振りがない……予想以上に厄介ね」

 

上田「みんなで考えてみようか、なにか打開策があるかも?」

 

空野「時間がかかるみたいだね……うん、

僕見張りをやってるからみんな安心して考えてて」

 

地屋「お? 考えるのが面倒になったか?」

 

空野「何でだよ!?」

 

清水「お前ら仲良いな、ホント」

 

魔女を倒す方法について深く考え込む利奈に芹香に海里。

 

八雲が魔女を見張る中、力強と絵莉は話になんとかついて行こうと必死になった。

 

 

しばらく考えて……ふと、利奈が声を出した。

 

 

上田「あ、あの、えっと……」

 

清水「ん? どうした利奈、何か思いついたのか?」

 

上田「これは直感なんだけど……もしかして、魔女を倒す方法は

()()()()()()()()じゃないかな、多分だけど」

 

清水「魔女を止めるだと?」

 

篠田「ちょっと簡単すぎるような気がするけど……」

 

月村「都合が良すぎるわ、他の考えを探しまし」

地屋「異議あり!!」

 

月村「……何かしら?」

 

 

地屋「それ、あり得るかもしれん!」

 

 

篠田「えっ!? ど、どういうこと?」

 

どこかで聞いたようなの裁判のセリフから、突然の肯定。

 

一瞬、海里さえ力強は冗談で言ってるのか? と思ったが、

そのいつにない真剣な目が信憑性を物語っていた。

 

使う機会が少なく鈍った頭を懸命に働かせた結果の回答だ、これは信用しても良いだろう。

 

 

空野「僕も力強に賛成だよ。

 

力強も同じだと思うけど、僕ら使い魔に作り変えられたじゃないか。

 

でも、今こうしてまともに話ができている……ねぇ、そういうことだろ力強?」

 

地屋「そうそう! 俺らが狂ってた時と今の違いは()()()()()()()なんだよ!

 

知ってたか? 俺ら型の使い魔って、完成した瞬間から全力で走らされるんだぜ?

 

止まるっていう手段を頭から抜かれたみたいにな」

 

空野「そうして走る度に気が狂ってくるんだ……」

 

月村「なるほど? つまり、あの魔女は走る事に執着してるってことね」

 

篠田「それが逆に魔女の弱点……! 全然思いつかなかった!」

 

清水「でもその止めるってのが簡単じゃねぇな、

そんな簡単に止めれたら俺らはこんなになってないだろ」

上田「それなんだけど!」

 

清水「うおっ!? またか! なんか思いついたんだな?」

 

上田「うん、みんなの魔法を見ててちょっとした作戦を思いついて……

あんまりたいしたことないんだけど、聞くだけ聞いてくれる?」

 

篠田「聞く聞く! あたしだったら思いつかないもん!」

 

地屋「俺もだ! 頭の味噌足りねぇもん!」

 

月村「あなたたちねぇ……」

 

 

利奈は少しの時間をもらい、全員の魔法をフルに使った運転の魔女討伐作戦を説明中した。

 

それは意外性が強い話、利奈じゃなきゃ思いつかないような作戦でもあった。

 

充分な時間をもらったおかげか、細部まで納得のいく説明が出来る。

 

 

空野「こ、こんな状況でそれを思いつくなんて……」

 

月村「……どこかで聞いたような台詞ね、それ」

 

上田「絵莉ちゃん、私の言った魔法ありそう?」

 

篠田「うん! 学校に関するものならなんでも召喚出来るよ!」

 

清水「よっしゃ! なら早速やってみようぜ!」

 

上田「……えっ!? 私の作戦でいいの!? 他に考えたりとかは!?」

 

月村「バカね、そんな明確で効率的な作戦、聞いただけで流すわけないじゃない。

 

少なくとも、この作戦を実行してほしいから言ったのもちょっとはあるわよ」

 

上田「……うん」

 

篠田「もぉ〜〜利奈ったら、素直で良いんだよ? あたしたちそんな意地悪じゃないんだから」

 

上田「ごめん、私……自分が押し付けがましいかと思った」

 

清水「……おいおい、俺らが利奈をそんな風に思ったことねぇぞ、

もうちっと信用しろって! ……大丈夫だからさ」

 

 

そう言って、海里は利奈の背中を軽く叩いた。

 

ちょっと大きめの手の感触、利奈はまるで……元気になるシールでも貼られたような気分になった。

 

再度、利奈はしっかりと気を再度引き締める。

 

 

上田「これより、私達リュミエールと使い魔2体による

『魔女討伐作戦』を始めるものとするよ! みんな、今まで説明した通りの位置について!」

 

月村「わかったわ」

 

篠田「はーい!行こう、力強! 八雲!」

 

地屋「可愛い子と同じ配置だなんてなぁ……」

 

空野「今はデレデレしてる場合じゃないだろ、力強」

 

上田「行こう! 海里!……あ、清(ポカッ!)mっ!?」

 

 

間違って名前で呼んでしまい、直そうとしたが、

利奈は海里に頭を軽くぺしっとチョップされた。

 

 

清水「直さなくても良いっての! やっと名前で呼んでくれたな」

 

上田「そっ、空耳じゃないかなぁ……」

 

清水「ほら、早く行こうぜ! せっかく引き締めた気が緩むぞ!」

 

 

ちょっと笑いながら海里は魔女に向かって走り出した、利奈も慌ててついて行く。

 

上田「あ、りょ、りょーかい!」

 

 

それぞれの配置へと走り出す一同。

 

利奈は海里と、魔女の元へ。

 

絵莉は使い魔の速さに注意しながら、己の配置へ。

 

芹香は魔法をかけて歩き出す。

 

 

月村「第五章! 嵐の巻『疾風』! 対象は前衛!」

 

 

橙と黄緑が混じった光を帯びた風は利奈と海里のを包む、その時から2人の走る速さは高まった。

 

清水「ぅおっ!? ありがてぇ! これでだいぶ楽になるな。」

 

上田「ありがとう芹香!」

 

月村「失敗するんじゃないわよ!」

 

上田「りょーかい!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

……延々と、輪廻のごとく魔女は走り続ける。

 

彼女の欲は『走行』走る事だけで欲は満たされた。

 

道路の上にいなきゃ邪魔じゃないし、別に追い払う必要はない。

 

 

だが、走る度に膨れ上がる欲望は走るだけでは魔女は満足をしなくなった。

 

 

どうせ走るなら1番が良い。

 

 

元いた2種の使い魔を融合し、競うための車を作らせた。

 

自分が1番、自分が優勝。 それが性質のままの魔女の欲。

 

性質のままの……自身への、束縛。

 

だが、そんな私欲の輪廻をどうやら断ち切る者が現れたらしい。

 

 

ならば勝ってみせよう!

 

 

優勝という圧倒的勝利を!

 

 

このレース会場にいていいのは車だけ!!

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

清水「ヴェルクツォイク!」

 

 

二刀流ならぬ二本流の魔法少女と、色んな道具を自分を輪状囲んで召喚する魔法少年。

 

 

2人の魔法使いが魔女に先手をかける!

 

 

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

利奈のゲーム脳が起動する、魔女の体を飛び移りながらタイヤの付く手足を重点的に狙う。

 

利奈はお得意の乱舞を放った!

 

乱舞の攻撃による鋭い音が魔女の体のあちこちで鳴る、

ダメージは入ってるようだが……魔女が止まる気配はない。

 

海里は自分の周りを舞う道具の中から、大きめの釘を握った。

 

魔女に向かって投げると同じような釘が大量に現れ、魔女のタイヤに何本も突き刺さる。

 

……わずかに、魔女の走る速度は落ちる。

 

魔女もやられっぱなし……というわけではない。

 

クラクションの咆哮を多々鳴らしながら、頭を振り回して当たったら痛そうな鎖を振り回すし、

運転の使い魔が他の使い魔を髪の毛で操作しながら魔女の援護に向かった。

 

 

清水「っくそ!  まだ人間を使いやがるか!!」

 

上田「車にされたお客さん達は使い魔に操作されてる!

私が何とかするから清水さんは魔女を!」

 

清水「だから海里だって!!」

 

 

利奈は魔女の振り回す鎖をかわして魔女の甲羅の上に乗ると、

自らの棍にいつもより多めな赤色の魔力を込めた。

 

 

上田「スフェール!」

 

 

その場で乱舞しながら、利奈は大量の赤い魔法弾を打つ。

 

威力は落ちたが追尾性のある弾は操縦者だけを正確に撃ち落とす。

 

 

【brrrrrrrrrrr!?】

 

【brrrrrrrrrrr!!!!】

 

 

ボコボコの道路に転がり落ちるタイヤ頭の使い魔。

 

操縦者を失った車は魔女のスピードについて行けずに、そのままコースアウトしていく。

 

 

清水「釘はダメか……なら、これならどうだ?」

 

 

次に海里が手に取ったのは千枚通し、別名キリだ。

魔法発動で魔力を付与すると、再び魔女のタイヤに投げつけた!

 

 

清水「シュタルーク!」

 

 

同じような魔力付与のキリが魔女のタイヤに突き刺さる!

 

今度は結構効いたようで、キリ自体は無理矢理走る魔女によって折れてしまったが、

金具は刺さりっぱなしで空気が抜ける。

 

走る魔女の速度は、最初に比べかなり遅くなった。

 

それでも魔女は走る……が、利奈の作戦上ではそれで充分だった。

 

利奈の必殺魔法を使うまでもない。

 

 

上田((絵莉ちゃん! 準備を!))

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

利奈達から見てちょうどドームの反対側。

 

利奈の指示を受けて、柱に隠れていた魔法使い達が姿を表した。

 

絵莉が元気良く念話をする。

 

 

篠田((はーい! 細工班バッチリ!))

 

月村((班なんて作ってないわよ?))

 

篠田((だってかっこいいしわかりやすいもん!))

 

月村((……これにはまいったわね))

 

上田((あはは……とにかく頼んだよ! 私と清水さんで弱体化と気を引くのやっておくから!))

 

篠田((頑張りまーす!))

 

 

 

 

篠田「……さてさて、合図も来た事だし」

 

絵莉がひゅんっと指示棒を振ると、指示棒に魔力が込もった。

しっかり召喚する物を思い浮かべたあと、指示棒を思いっきり振る。

 

 

篠田「図工の授業を始めます!」

 

 

呪文とともに指示棒が強く光る。

 

すると、空中に柔らかな煙が煌びやかな火花と共に弾けたかと思うと、

道のど真ん中に巨大な黒板消しが現れた。

 

もう一振りすると、黒板消しの消す面に大量の木工用ボンドがべったりと付く。

 

 

篠田「頼んだよ2人とも……う〜〜ん、2体とも?」

 

 

地屋「人でいいよ!!」

空野「人でいいよ!!」

 

 

地屋「ま、まぁ事実だもんな……よし! とっとと運ぼうぜ!

背中に乗っけた感じ、アホみたいに軽いぞ」

 

空野「ホントだ、これならこんな体でも運ぶ事が出来るね」

 

月村「……少し急いで、魔女の姿が見えてきたわ」

 

地屋「お? おうおう」

 

空野「うん、急ごう!」

 

2体……じゃなくて2人がボンド付きの黒板消しを運ぶ中、

芹香は自身魔法の媒体である辞書に手をかざす。

 

 

月村「第五章! 嵐の巻『霧隠』! 対象は近辺!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「あっ! 清水さん、 霧が!」

 

清水「おぉ、しっかり仕掛けを作ってくれたみてぇだな!」

 

 

利奈達に橙色の霧が見える頃、魔女の増援は全て片付いていた。

 

海里は魔女を傷つけていたノコギリを魔力に還元すると、

自らに引き寄せどこかに収納してしまった。

 

そのまま利奈の元へ向かい、利奈を抱き寄せ……て!?

 

 

上田「ぅわっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 

清水「あ? あぁ、悪いがこれで我慢してくれ! 今のところはあまり時間がないんでな。

 

 

フリューゲル!」

 

 

海里は還元した魔力に少量の魔力を注ぎ足すと、

淡く光り輝く翼を作り出して魔女の甲羅から飛び立った!

 

 

 

 

間もなく、魔女は霧の中に身を投じる。

 

 

 

 

上田「っ〜〜!!」

 

清水「ん? 怖いか? ちょっと早く飛んでるからなぁ……」

 

上田「だだだ大丈夫! 大丈夫だから飛んで! 飛べ!!」

 

清水「……おう」

 

 

その素直な赤面は明らかで、海里はちょっとした笑いをこらえた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

さて、最後の仕上げといこうか。

 

魔法の霧の中がどうなってるかわかるのは、霧を発生させた主だけ。

 

芹香はメガネを掛け直して目を凝らす。

 

 

月村「追突まで残り20秒……しっかり準備出来てるんでしょうね?」

 

地屋「当たり前だろ!」

 

 

芹香は自らの横を見ると、そこには濃紅と天色の魔力がふつふつと沸く力強と八雲がいた。

 

空野「しっかし……よく気がついたね彼女、

『作り変えられたのは体だけで魔法は使える』なんてわかりずらい事に」

 

地屋「やっぱり1人で魔女を倒した魔法少女は違うってか? ホント、俺ら運が良かったな」

 

空野「うん、僕らは助かってなかったね……舞も」

 

地屋「……絶対に、救ってやろうな!」

 

空野「なら、力強も頑張らなきゃね」

 

地屋「うるせっ! 今回ばかりは気を抜かねえよ!!」

 

空野「抜かれたら困る!!」

 

月村「……来るわよ! 魔女まで、10、9、8、」

 

 

地屋「ウエイトトレード! 魔女と黒板消しの重さを……」

空野「荒れ狂う風よ! 巨大な道具に付きし糊の水分を……」

 

 

芹香の言う数が小さくなるたび、

力強と八雲の魔力は段々と高まって行く……

 

役目を終えた絵莉は祈りを捧げた。

 

 

 

 

そして、時は満ちる。

 

 

 

 

月村「今よ! 打ちなさい!!」

 

 

地屋「トレード!!」

空野「奪え!!」

 

 

 

 

【Pーーーー!!!!】

 

 

聞こえたのは大きなぶつかる音、全ての歯車は噛み合ったのだ。

 

魔女は巨大な黒板消しに衝突した瞬間、ボンドが固まり身動きが取れなくなる。

 

そして何故か体重が軽くなり、黒板消しは重くなり、

そのまま巨大な黒板消しは倒れて魔女を宙へと持ち上げた。

 

引き戻そうにもボロボロな身体からは体力が奪われ、思うようにその重々しい身体を動かせない。

 

 

もし、霧がなかったらぶつかる前に避けられただろう。

 

 

もし、魔女に体力が残ってたら

引き戻して黒板消しごとコースを走るだろう。

 

 

もし、黒板消しと魔女の重量を入れ替えるタイミングが、

もし、ボンドから水分を奪い乾かすタイミングが、

ピッタリとかみ合わなければこの作戦は成功しなかっただろう。

 

 

使い魔になってまで運転の魔女を救済しようとする、2人の、意思の強さ……

 

全ては魔女になってしまった幼馴染みの魔法少女のため、舞のため。

 

 

魔女はそこから体勢を戻そうと黒板消しにくっついたまま

クラクションの咆哮を鳴らし暴れまわったが、取れる事はなかった。

 

海里が4人の元に辿り着いて顔が赤い利奈を降ろす頃、

運転の魔女は全ての欲を失った。

 

束縛を縛る束縛……それが、この魔女の結末。

 

 

 

 

やがて、魔女から黒い魔力が吹き出した。

 

そして、全てが1点に飲み込まれる。

 

魔女もドームも鎖のビル群も、残った使い魔も全部全部、

結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

 

不意に使い魔となっていた魔法使いの体から、メリメリッと不気味で激しい音が鳴り始める……!

 

 

地屋「ぐ、あ!? 何だ!?」

 

空野「うわああああっ!!」

 

清水「なっ!? 力強!! 八雲!!」

 

2体の魔法少年の手足から黒い煙が勢い良く吹き出し、

潰れて丸められた手足が風船のように膨れ上がって行く。

 

吹き出した真っ黒な煙は、共に1点へ。

 

あとに残ったのは、透き通る鈍色のソウルジェムと

車のハンドルモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は、運転の魔女を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

地屋/空野「「舞!!」」

 

 

 

「っ……ひぐっ……ごめんなさい……!!」

 

 

 

上田「……ぇ、え? つ、使い魔が喋った!!?」

 

 

 

【やっと、君と、話せ、るね。】

 

 

 

〜終……(9)心廃れ夢潰れ[後編]〜

〜次……(10)鈍色の涙と粉隠の例外〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




なんともスッキリしない形で終わってしまいましたね、
今回の魔女戦である、運転の魔女戦 (乂ω′)

使い魔にされていた2人は……まぁ、不気味な音と煙をあげて元に戻って行ったようですね。

果たして無事なんでしょうか?


あぁ、そうだ、おまけとして。
昼寝で見た夢にめっちゃ可愛いハンターハンターのキャラが出てきたので、
忘れないうちにメモにガガっと書こうと思ってます。
何故ハンターハンターなんだ! 魔法少女まどか☆マギカ出してくれよw


それでは皆様、また次回。
ΒΥΕ..._〆('Д'*⊂⌒`つ


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(10)鈍色の涙と粉隠の例外

で、き、たぁ……!! ものすんごい文章足したぁ……!!


はい、遅くなって申し訳ない。

おはこんばんちわ! 私的にはこんばんは! 心機一転のハピナです!

頑張りましたよぉ……!w

顔文字無双を乗り切るのは至難の技でしたよ私のおバカ!


例えば……例をあげるならこれかな

「空 (p=゚д゚)ニo)'д`)グハァ!? 地」

この表現、修正後がこちら。

「若干、弱々しいげんこつが放たれた。
漫画だったらでかいたんこぶができて白い湯気が立ち込めているだろう」

ふむ、確かに文章だと伝わりやすい。

……あはは、この作業をたくさんとなると目が疲れてしまいますねw

ですが、だいぶ慣れましたよ〜〜!

ストックを1つ2つ同じ作業をすれはこの作業をする必要はなくなりますね。

いやはや、ホントに何度手間なんだよ私……w


さて、私の愚痴(笑)はこの辺にして、
12月最初で祝二桁突入の第十話をとっとと開演させましょうか。

舞台は運転の魔女討伐後の事……。

《3月4日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除や『~』の引き延ばしってこれ文章下t(ry
○その他修正(追加や索敵等)



グリーフシードの生成が終わると、そこはデパート地下の駐車場だった。

 

ふと、利奈は魔女のいた方を再度確認すると、

そこには車のボンネットに乗った

鈍色のソウルジェムと運転のグリーフシードがあった。

 

そして、その車の後ろ座席。

 

……女の子が苦痛の表情で、まるで悪夢を見るように眠っている。

 

 

篠田「戻っ……た? 戻った! 魔女を救えたんだ!!」

 

月村「どうやら上手くいったようね、みんなお疲れ様」

 

清水「おぉ! おぉ!! 2人とも体が元に戻ってる!」

 

海里が喜びと驚きが混ざる中、力強と八雲は骨を鳴らした。

 

 

地屋「うはは……相変わらず気味が悪りぃ感覚だな」

 

空野「痛みもないのにあんなに体がねじ曲がるなんてね、もう二度と味わいたくないよ」

 

 

地屋「だよな! ……あ」

空野「だよね! ……あ」

 

 

「「舞!!」」

 

 

利奈の背後から声がしたかと思うと、ダッシュで力強と八雲は走っていた。

 

2人の魔法少年がグリーフシードに目もくれず、舞がいた車のドアを開ける。

 

車の中で眠る女の子……舞の手にソウルジェムを優しく置いた。

 

 

すると、ソウルジェムが帰るべき場所へ帰り着いたようにふわっと光出す。

 

 

車道「……ぅ、ぅ……」

 

地屋「舞! 大丈夫か!?」

 

空野「大丈夫? 苦しくない?」

 

車道「……力強? 八雲? あた、あたし、あたしは……!」

 

目が覚めて意識が戻ったかと思うと、彼女は溜め込んでいた物を抑えきれずに、こぼすように……

 

 

大粒の涙を、ポロポロと流し始めた。

 

 

車道「っ……ひぐっ……ごめんなさい……!!」

 

地屋「うおぉ!? ちょ、急に泣き出したぞ!? どうする八雲!?」

 

空野「ぼ、僕に聞かないでよ!」

 

地屋「えっと、いや、舞は悪くない、悪いのはこいつだ!」

 

空野「ぼっ、僕!? 何で!?」

 

地屋「 適 当 ☆ 」

 

 

その時、力強の石頭に若干弱々しいげんこつが放たれた。

漫画だったらでかいたんこぶが出来て、白い湯気が立ち込めているだろう。

 

 

地屋「って!? なにすんだよ!? 俺は壊れたテレビじゃねぇぞ!?」

 

空野「適当ってなんだよ!?もうちょっと、ちょっとは真面目に考えろ!」

 

 

かなり怒り気味の八雲に、力強はニヤニヤとしながら対応する。

 

 

地屋「考える頭のお味噌が足りねぇんだもん、仕方ねぇだろ」

 

空野「足 り な く て も あ る だ ろ !!」

 

 

……まぁ、まるで映画や漫画で見るようなもわもわした煙が出て、

ちらほら頭やら手やら足やらが見えるような、アホらしい喧嘩が始まった。

 

 

地屋「この中途半端ガリ勉コンタクトが!」

 

空野「ガリべ……!? うるさい! この脳筋脳味噌溶解系男子!」

 

地屋「うらああああああ!!」

空野「なにをおおおおお!!」

 

 

月村「……くだらないわ」

 

篠田「こ、こんな時に喧嘩なんて……」

 

芹香はふぅっとため息をついて呆れ、絵莉は苦笑いで軽く汗をかいた。

 

収まる気配のない2人の喧嘩に対し、しばらくして利奈が行動に出た。

 

 

上田「えっと……みんな見てますy」

 

清水「待て、大丈夫だ」

 

上田「えっ?」

 

 

止めに入ろうとした利奈だったが、海里に止められてしまった。

 

利奈の両肩を持って喧嘩の方に向ける。

 

 

清水「まぁ、見てなって」

 

 

軽くニヤッと笑い、リュミエール一同は喧嘩の行方を見守る。

 

 

地屋「男のくせにパフェが好物っておかしいだろ確実に!」

 

空野「今時トレーニングで何個もタイヤ引きずって海岸を走ったりなんかしないもんね!」

 

車道「…………」

 

 

地屋「だあああお前って奴わああ!!」

 

空野「お前もなんなんだよ!!」

 

車道「……あ ん た ら」

 

 

車道「少しは気を使うのぜえぇぇぇ!!!!」

 

 

「「……あ、舞」」

 

 

地屋「しまったな……八雲」

 

空野「しまったね……力強」

 

 

 

 

車道「あんたらはバカなのぜ!? バカ!? 本当のバカ!?

バカなの!? 死ぬの!? どうしたいの!?

 

こちとらせっかく願いでレースの技術手にいれたのに

魔法少女の戦いでやられて逃げて両足骨折で当分レースは無理だって

一生できないかもって言われて絶望にドボンしたってのに!!

 

あたし男っぽいけど女の子なんだし昔からの仲なんだし

少しは! 少しは気を使うのぜ!!

 

なんか悪夢見てるみたいでわけわかんなくなって

見知らぬ人を車に変えちゃうし走る衝動でっぱなしで

バカみたいに車になって走ってあんたら車にして苦しめて

申し訳ない気持ちでいっぱいだってのに!!!」

 

 

 

 

……そう、でかい声で、舞は怒鳴り散らしながら

骨の振動で痛む両足を手で抑えて、泣きながら怒った。

 

 

車道「……最後に止めてもらって、すごく苦しかったけど、嬉しかったってのに……」

 

 

最後にそれだけ言うと、ぐすんと泣いて両足を摩る……

 

あぁ、まだ怒り悲しんでるなこれは……そんな彼女を、力強と八雲はなだめる。

 

 

地屋「悪かった、悪かったって!」

 

空野「泣かないで〜〜! 舞ぃ〜〜!」

 

車道「もう! あんたらは昔っから喧嘩ばっかりして……放置なんてひどいのぜ」

 

地屋「だから泣くなよ! 泣かないで下さい!」

 

空野「ごめん、ごめんって! 大丈夫だから! ごめんって!」

 

車道「ぐ、すん……ぷっ、そんな慌てなくていいのに」

 

 

力強と八雲の慌てっぷりに相変わらず涙で目が潤むも、ふと舞は笑みを浮かべた。

 

 

地屋「……ハァ、やっと落ち着いたか」

 

空野「僕と力強ってすぐに喧嘩しちゃうもんね、舞が止めてくれていつも助かってるよ」

 

落ち着いた舞を見て、力強と八雲はお互いに笑いあうと、舞にこんな言葉をかけた。

 

 

「「おかえり! 舞!」」

 

 

車道「……もう遅いのぜ!」

 

 

その言葉と共に放たれた2人へのデコピンは、何故かそんなに痛くないような気がした。

 

 

そうして、3人は笑いあう。

 

 

リュミエール一同は笑い合う。

 

 

魔女を救った達成感と笑いあう3人を見て、つられて笑みがこぼれる。

 

 

上田「ゲーム、クリア」

 

 

利奈は一通りをその目で見届けてゲーム脳を落ち着かせると、

魔法少女の変身を解いて荷物を背負い直した。

 

周りの魔法使い一同も変身を解く。

 

 

 

 

空野「あ……そろそろ使い魔にされていた人達も起きると思うから、

変な言い方だけど海里達は逃げた方がいいかも」

 

地屋「おう、この分じゃ事情の知らない奴らは騒ぎになるな」

 

車道「私達は同じように被害者面してれば良いのぜ」

 

地屋「……相変わらず女子力のない笑い方するな」

 

車道「やかましいのぜ!」

 

上田「りょーかい! んじゃ、行こうみんな!」

 

篠田「そういえばまだアイス食べてないもんね」

 

月村「何を言ってるの、その前にどこかで浄化しなきゃダメでしょう」

 

清水「よっしゃ! リュミエールのグリーフシードは

俺が預かってたから、そこから何個か使おうか」

 

上田「賛成!」

 

篠田「わかったよ!」

 

月村「意義なし」

 

 

地屋「ちょ、おい!? これはどうすんだよ!?」

 

 

力強は思い出したかのように

運転のグリーフシードを目の前にいた利奈に見せた。

 

それに、利奈は振り返ってこんな言葉をかけた。

 

 

上田「1番頑張ったのは使い魔になっても舞さん? だっけ。

その人を助けた2人じゃない!

 

このグリーフシードは2人の戦利品……とでもいうのかな」

 

 

それは、利奈がどこかで聞いた、焼き付いていた言葉。

 

 

清水「利奈……」

 

 

利奈はその後、運転のグリーフシードを結果的に

仲良し3人組に譲る形にしてみんなの元に駆けだした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

その後、普通にエレベーターを使ってアイスクリーム屋に来店するリュミエール一同。

 

利奈達はソウルジェムを浄化した後行列を切り抜け、

見事それぞれの好きな味のアイスを手に入れた。

 

柔らかで暖かいのワッフルに、冷えつつもすぐ溶けそうな絶品アイス。

 

ん? 飯テロ? 知らんな! アイスってデザートだもん。

え? お風呂上がり? ……ゴメンネ。

 

 

利奈はシンプルなバニラ。

 

 

上田「はあぁ〜〜美味しい! なんか淡雪みたい!

ものすごいふんわりしてる!舌の上でサラッと溶けるけど濃厚で……!

ふわあぁ! 来て良かったぁ〜〜!!」

 

 

絵莉はサッパリチョコミント。

 

 

篠田「わ!? 鼻からもミントの味が抜けた!

チョコもこれ用に調整してる感じかな? とろける!」

 

 

芹香は濃厚な抹茶。

 

 

月村「……美味しい」

 

 

海里はビターなチョコレート。

 

 

「静かに食えるってのもありがたいもんだな、俺の仲間内だったら確実に騒いでる。

 

しっかし、本格的ってやつか? 砂糖があまり入ってないのがいいな」

 

 

アイスを思う存分に楽しんだリュミエール一同は、

ちょっと休憩を挟んでから運転の魔女戦の疲れを休めるため、

今日のところは早々に帰る事にした。

 

まぁ、利奈は道中弱い魔女や魔男を何体か見つけてソロ狩したが。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

うさぎの抱き枕を抱いて、ふわふわの毛布に埋れた。

 

利奈はシルクハットを召喚すると、シルクハットの中身を覗き、

自身の持つグリーフシードの数を確認する。

 

 

上田「……10個くらいかな」

 

 

そりゃあ集団にならず個人で街を自由に駆け回り、

その度に魔女や魔男を救ったら時間をかければそれだけの数になる。

 

なにせこんな魔女や魔男が生まれやすいハチべぇのシステムだ、

その辺にグリーフシード(未討伐)はごろごろある。

 

 

上田(……強くなったな、私)

 

 

不意に、口の中の味蕾が濃厚なバニラアイスの名残を思い出す。

 

リュミエールの面子で楽しくも、でも騒がしくもなく

軽い会話を楽しみながら食べた午後3時頃の休憩時間。

 

 

上田(私でも、あんな会話とか出来るもんだね)

 

 

抱き枕をキュッと抱いてごろごろしながらニヤニヤした。

 

 

……だが、そのご機嫌もすぐに収まってしまう。

 

 

上田(みんな、私以外でもそういうことできるんだっけ。

 

うん、楽しかった。楽しかったよ! 楽しかったけど、なんだかなぁ………。

 

やっぱり1人狩りは継続しなきゃ! 1人慣れが薄れちゃうもんね)

 

 

いつか捨てられるのでは? だってみんな他に人脈あるもん。

今に限らずそんな不安が利奈には常につきまとっていた。

 

心なしか、今の利奈のソウルジェムは輝きがいつもより足りない気がする。

 

 

上田「うぅ〜〜もう!! 考え込んでも仕方ない!

 

寝る! もう寝る! 難しい事寝て忘れる!!」

 

 

そう独り言をうだうだ言って、利奈は布団をかぶって寝る体制に入った。

 

最初は不安から寝付けないんじゃないか? と思っていたが、

あの楽しげなおやつタイムが頭にふと浮かんで……

不安から脱した時、すんなり利奈は眠りについた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

……音もなく、夢は始まった。

 

 

 

 

朝目覚めたのなら、ゲームのデイリーボーナスをもらうのを忘れたと頭を抱えて嘆くだろう。

 

 

 

 

ここは、黒板の魔女の結界。

 

 

 

 

いるのは、1匹の使い魔だけ。

 

 

 

 

黒板の魔女を倒したあの日からというものの、何度もこの夢を見た。

 

最初は使い魔に追っかけまわされ捕まって目が覚める……

なんてことが続いたが、次第に慣れて現状を把握できるようになった。

 

1つ、気がついた事と言えば……

この使い魔は()()()()()()という事ぐらいか。

 

利奈は今回も、ペタペタと裸足でステンレスの道を駆け出した。

 

 

上田「チョーク〜〜! 利奈が来たよ〜〜!」

 

 

お、おい待て! 名前まで付けてるのか!?

 

……利奈、割とメンタル強いらしい。

 

まぁ、いつも『道具』として扱われて、それを毎日のように

我慢しているので鍛えられたのもあるだろう。

 

それはさておき、チョークと名付けた使い魔を名前を呼びながら辺りを見回して探していると、

ステンレスの道の内の1つからひょこっと円筒の頭が出てきた。

 

 

巨大なチョークで組まれた黒板の使い魔、

異様な犬とも猫とも言えない生物……それがチョークだ。

 

 

上田「……あれ、チョーク? 今日はなんだか大人しいね、どうしちゃったのかな」

 

 

いつもなら穴から飛び出してと黒板にチョークで文字を書いたような音で鳴いて駆け寄ってくる。

 

今回はそんなことはせず、チョークは利奈に歩み寄った。

 

 

上田「どうしたのチョーク? どこか具合が悪いの?」

 

 

利奈がチョークの体を入念に調べていると、ふと、頭に声が響く。

 

念話……ではない。

 

念話だったら直接脳に声が届くが、これは骨、頭蓋骨を揺らすような風に感じる。

 

 

これは……声?

 

 

【……ィ……ァ……ィ、ナ、リィ……】

 

 

黒板に文字を書くような音はやがて音程を持ち……段々と、わかるようになってくる。

 

 

 

 

【やっと、君と、話せ、るね】

 

 

 

 

あまりの出来事に、一瞬1人と1体の間に静寂が流れる。

 

ハッと自分を取り戻すと、目の前の現実に対して思いっきり驚いた。

 

 

上田「……ぇ、え? えぇ!? つ、使い魔が喋った!!? というかチョーク話せたの!?」

 

【つい、さっき。 利奈が、来る、前に、突然】

 

 

いやさっきと言われても! というのが利奈の本音だった。

いくらこれがハッキリとした夢とはいえ、使い魔が喋るなんてあり得ない。

 

 

上田「いやいやいや! 突然じゃわからないよ! な、何かきっかけがあったの?」

 

【キッ、カケ? あぁ、きっ、かけ、ね】

 

 

チョークはその棒状だらけの体を

無駄にある関節で器用に折り曲げておすわりをする。

 

 

【いつも……いつも? のように、黒い、モヤを、食べていた。その時、突然】

 

上田「黒いモヤ?」

 

【持って、くる?】

 

上田「……いや、なんか嫌な予感しかしないから遠慮しとく」

 

 

その後も、チョークの不慣れな喋りの話は続いた。

 

チョークが説明してくれたのは、話せるようになったのはほんの少し前。

 

これと言った大きなきっかけはなく突然、思いついたらしい。

 

最初は声を出す発想さえなかったんだとか。

 

不意に声を出す事を思いついたのはいいが、

こんな硬質な体でどう音を出したらいいかわからなかったらしい。

 

色々試した結果、喉の奥にある変わった機関を震わせてみたら、

上手く音が出たのだとチョークはゆっくりと話してくれた。

 

 

【イナ……と、話せて、嬉しい】

 

上田「利奈だよ、リ!」

 

【……リ? ィナ、リナ】

 

上田「そうそう! 利奈」

 

【うん、リナと、話せて、嬉しい】

 

 

チョークは話した、利奈の事はまだ自らが仕える主がいた頃から見ていた。

 

自分の先生に従って、他の生徒と……他の生徒とはチョーク以外の使い魔の事だろう。

 

他の生徒と共に利奈を教育しようとしたが、

他の生徒を吹き飛ばし舞いながら進む利奈を誰にも止める事は出来なかった。

 

教育は結局、最後まで出来なかった。

 

ヒト……人間とは、ここまで鮮烈に舞えるものだったのか。

命令には従いたかったが、それさえ怯むものだったらしい。

 

 

【すごい、と、思った。 もし、戦って、たら、僕の、体、バラバラ】

 

上田「私も必死だったからなぁ……あの中にチョークも混ざってたのか」

 

 

その後は他愛もない雑談を手ぶりも混ぜて話し込んだ。

 

コミュニケーション能力が人より低い利奈だが、さすがに1対1の対談は難なくこなす。

 

チョークの喋りがただえさえ細切れで話してた為、

結果的に話の進行はゆっくりでとても楽しみながら会話が出来た。

 

 

楽しげに話していたが、ふと、チョークが話を終わらせる。

 

 

上田「……ん? どうしたの?」

 

【そろそろ、時間、だね】

 

上田「え? 時間って……まだまだ話足りな」

 

 

その時、瞬きをするようなほんの一瞬の時、利奈は忽然と姿を消した。

 

もうそこにはいない友人に対し、チョークは名残惜しそうな声を出した。

 

 

 

 

【……また、ね……利奈】

 

 

 

 

次に君がここを訪れた時は、もう少し……上手く喋れるように練習しておくからね。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

雀が可愛らしく鳴く何気無い朝、平日が始まる憂鬱な週の始め、目覚めた利奈の第一声は……

 

 

上田「だあああしまった!! 昨日のデイリーボーナス忘れてた!!

ああぁ……19日目だったのに……復活薬が遠ざかる……」

 

 

真っ白になって魂が抜けたかのように脱力をする利奈。

元から魂は抜けてるようなものだが、例えはこれが妥当だろう。

 

今日もソウルジェムは輝かしい、

こんなになっているが現在時刻は午前6時だ。

 

なんだ、余裕で学校に間に合うな。 歩いてでも間に合うだろう。

 

ふと、枕元に置いておいた黒板のグリーフシードが目に入った。

 

手にいれてから数週間は立っているが、何故か一向に穢れが溜まり切らない。

 

他のグリーフシードは、既にいくつもハチべぇに回収してもらっているというのに。

 

 

上田「ん? なんか、これについて夢で話したような……

まぁいっか、夢だから記憶がぼんやりしちゃってるし」

 

 

利奈は穢れが減った黒板のグリーフシードを手に取ると、

魔法で出したシルクハットの中にぽいっとしまいこんだ。

準備した荷物を持って、リビングに移動する。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

学校に着いて教室に入ると、早速利奈は猛獣達に捕まった。

 

この野郎、不意打ちか?

 

「ねぇねぇ! 他の子から聞いたよ! リュミエールがまた強力な魔女を討伐したんだって?」

 

上田「えっ? あ、いやあの」

 

「確か運転の魔女だっけか? 車にされた連中もいたらしいな」

 

「す、すげぇな! ほぼチートじゃねぇか!」

 

「時間が出来たら戦い方教えて欲しぃーーなぁーー☆」

 

上田「う、うん、時間が出来たらね」

 

 

聞いて来たのはやはり、運転の魔女についてだった。

 

魔女や魔男の時に記憶が残るのと同様、使い魔の時も記憶は残るらしい。

 

まぁ年が離れたデパートの客層には、

 

『よくわからないが、なにか恐ろしい事があった』

 

という事にはならなかったらしいが。

 

結界の中の様子、魔女の外見はどんなのか、どんな戦闘をしたのか……

そんな事を猛獣達は我先にと食いつくように声を出した。

 

でかすぎる声だったり、早すぎる声だったり……

聖徳太子じゃないんだから質問攻めにされても困る。

 

ちょっとした汗をかきながら対応に明け暮れていると、猛獣達をかき分けて利奈の前に誰か来た。

 

 

地屋「ほらほらどけどけ! リュミエール様のお通りだ!!」

 

空野「力強、その言い方はちょっとひどいよ……」

 

清水「そんな大々的にチームを宣伝してる訳じゃねぇしな」

 

「なんだそりゃ? 活躍してるのにもったいぶって」

 

地屋「うるせ! とにかく、そいつは俺らの先客なんだよ!」

 

空野「ちょっと上田さん借りてくよ」

 

清水「お前らはもうちょい情報収集でもしとけ!

まだ車の状態がどんなだったか詳しくわかってねぇんだろ?

ま、俺は情報屋やってるからわかってるけどな」

 

「なんだよぉ〜〜知ってるなら教えてくれたって良いだろ?」

 

清水「そういうのは自分で調べるから面白いんだろうが! 情報料とるぞ!」

 

「海里ずぅ〜〜るぅ〜〜いぃ〜〜!」

 

上田「……えっと、これは……」

 

清水「ほら、行くぞ」

 

上田「あ、うん」

 

 

どっちにしてもうるさいのはほぼ確定な気がするが……大人数より少人数。

 

海里のリードもあって利奈は無事、ジャングルのようになっている教室から脱した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

職員室の付近の空き教室、そこに利奈を連れ出した。

 

覗こうと着いて来た生徒もいたが、少なくとも猛獣達は天敵である教師の巣窟には近寄らない。

 

この空き教室の近くに、職員室があるということだ。

 

見た目が校則違反な生徒は来れない……なるほど、それなりに賢い。

 

ここで真面目と不真面目はふるいにかけられた。

 

4人が空き教室に着くと、力強と八雲は改まって並び、利奈に一礼してお礼を告げた。

 

 

地屋「グリーフシードありがとうございました!」

空野「グリーフシードありがとうございました!」

 

 

2人とも礼を保ったままの状態で、力強が片手をバッと上げて何かを差し出した。

 

それは運転のグリーフシードだった。

 

半分くらいは穢れているが、その大きめのグリーフシードはまだまだ使えそうである。

 

譲ったはずのグリーフシードを目の前に返却として差し出され、利奈は驚きを隠せない。

 

 

上田「えっ? え、えぇっ!?

でもこれは2人の戦利品……それは2人の物だよ?」

 

 

そう利奈が言うと、海里は大きく笑った。

 

 

清水「そう言うと思った! 俺も最初は使い切れって言ったんだが、

リュミエールがいなかったら俺たちは完全に心が死んでいたんだと」

 

地屋「俺らはもう大丈夫だ! 問題ない! まだまだグリーフシードのストックはあるしな」

 

空野「舞ちゃんも元気になったし、僕らのメンタルは当分

健全で過ごせると思う。 力強もいるしね」

 

地屋「おう! 八雲がいるしな!」

 

空野「……あれ、力強もそう思ってるの?」

 

地屋「んあ? 当然だろ?」

 

空野「力強……!」

 

 

うん、確かにしょっちゅう息の合うこの2人なら大丈夫だろう。

 

 

…………で、

 

 

清水「お前ら、何を期待してるんだ?」

 

 

……あれ、言われちゃったよ。

 

 

教室の外から中を覗く一部の女子生徒の目の色が変わる。

男子はツッコミを入れるなりしてそれを抑えつける。

 

そっち系に目覚めてない利奈はよく分かっていないらしい。

 

芹香は冷や汗をかいて利奈に「知らなくても良い事よ」と扉越しにジェスチャーをした。

 

 

清水「本題に戻るぞ! で、だ。こいつは俺ら3人で話し合って

リュミエールの物として受理することになった。

 

最終的にリーダーの俺が決めたんだし、他からの異論は認めない」

 

 

そう言って海里は指輪を光らすと、自分の周りに

淡い青を放ちながら輪状にグリーフシードを出現させた。

 

これらグリーフシード、リュミエールが所持するグリーフシードだ。

 

その功績の数に廊下にいた生徒達からも、思わず軽い歓声が沸く。

 

海里がその輪の中に運転のグリーフシードをかざすと、

ふわっと浮いて入って行く。 これで輪の仲間入り。

 

運転のグリーフシードは他のグリーフシードに比べほんの少し大きい。

 

ふと、何か後ろに気配を感じて海里は後ろを見ると、

利奈がこっそりグリーフシードをいくつか勝手に組み込んでいた。

 

清水「……なにしてんだよ利奈」

 

上田「え? あぁ、そういえば最近、リュミエールにグリーフシードを寄付してなかったなって」

 

清水「いや十分だぞ!?」

 

不意に、絵莉と芹香が空き教室に入ってきた。

絵莉は驚いた感じで、芹香は頭を抱えた。

 

 

月村「リュミエールのグリーフシードがなかなか減らないと思ったら……

利奈、あなた負担を自分にかけすぎよ」

 

上田「余りだから大丈夫!」

 

絵莉「余りってレベルじゃないよ!」

 

 

グリーフシードの寄付に関して論争を繰り広げるリュミエール。

 

それを聞いた廊下の外から中を伺うクインテットと真面目な生徒達は、誰しもが思うだろう。

 

 

 

 

ど こ の 次 元 の 話 だ よ !? リュミエール強過ぎか!?

 

 

 

 

これらはチートと言い切るにはかなり程遠いが、

通常層の魔法少女と魔法少年にしたらこの上ないチートに見えただろう。

 

普通のチームにしたら3〜4個、5個で良いくらいなのだから

10個以上が円になって連なっていたのにはそれはそれは驚いただろう。

 

まぁ無理もない、彼ら彼女らは

利奈が気がついたソウルジェムの

魔女魔男の探知機能を知らないのだから。

 

 

では何故、リュミエールはその探知機能を教えないか?

 

 

理由は簡単、『支援』の為だ。

 

 

真面目だけに教えたとしても、確実にどこからか情報が漏れる。

 

前にちらっと、魔法使いが複数で討伐した時の有利不利の話があったと思う。

 

そんな不利な立場にある魔法使いに、最低限のグリーフシードを支援として譲っている。

 

なにせ猛獣達の食い物争いは花組にしたら裏世界、

弱者的立場にしたらかなり厳しい点がある。

 

それをリュミエールが補う事で真面目な子らを支援し、

天秤のように花組の均衡を保っている状態だ。

 

もしリュミエールのような真面目側の優秀な団体がいなかったのなら、

花組は猛獣達の独裁国家になっていただろう。

 

 

「す、すげぇ……!」

 

「これどうやって集めたんだ?」

 

青冝「絵莉とんでもないチームに

所属しちゃっていなのねw」

 

録町「ただならぬ努力ってやつ?」

 

「こんだけ数があれば魔法が使い慣れてないやつも助かるわけだな」

 

「ねぇねぇ! 普段はどうやって魔法を使っているの?」

 

上田「ん? あぁ、えっとね」

 

 

聞きやすい声だったり、気遣う声だったり……話せる、話しやすい。

 

普段から1人、周りとは違う独特で電子的な趣味嗜好を持って孤立していた利奈。

 

それが今となっては『魔法使い』という共通点により

自然に、いつのまにか、利奈は話の輪の中に組み込まれていた。

 

 

これが、()()ということか。

 

 

これが、みんなで話すということか。

 

 

利奈はとても夢中になって、自分が理解出来るお題に添いたくさん話した。

 

しかも、その話をちゃんと理解し聞き取ってくれている。

 

昨日の夜は少々鈍っていたソウルジェムの輝きが、

今となっては少しキラキラと光っているようにさえ見える。

 

 

これが、ハチべぇのくれた()()か。

 

 

今の利奈は失っていた希望を一部取り戻していたように感じた。

 

チャイムが鳴るまで笑顔で話し込んだ、大勢での会話が楽しいのは本当に久しぶりだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

魔法使いの巣窟となった花組、

絶望を与える魔女に魔男やソウルジェムとグリーフシード。

 

そういえば、この学校にいるのは花組だけ?

 

正解は×、花鳥風月の内鳥風月という3つの別のクラスもこの学校にある。

 

さて、これだけ真面目不真面目が話題にして話したり、

バカな奴らが写真や文章をSNSに投稿したらどうなるだろうか?

 

廊下の曲がり角にチラリ人影、時間になり偶然先生を呼びに来た

彼はタイミングが重なった。 話を聞いていたみたいだ。

 

 

「……すごいな、魔法使い。

 

これは嘘だとしてもオイラのお笑いの糧になる!

 

うちのクラスで話が持ち上がるのも、ここまで来れば時間の問題か。

 

これは楽しくなりそう!」

 

 

『魔法使い』という魅力的な存在は、どうやら1つの教室には収まりたくないらしい。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

「……本当に良いんだな?」

 

 

 

「オイラも魔法少女? いやいや、魔法少年やりたい!」

 

 

 

上田「へ?」

 

篠田「ふぇっ!?」

 

月村「え?」

 

清水「なっ!?」

 

 

 

清水「利奈なら……俺のに似た魔法が使えるかもな」

 

 

 

〜終……(10)鈍色の涙と粉隠の例外〜

〜次……(11)黄の芸人と空飛ぶ手品師〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




ドドドド====┌(┌ ^o^)┐ホモォ !!!
ハピナ「お帰り下さい! お帰り下さい!! 帰れええええぇ!!!」


……はい、ちょっとだけネタ放り込みましたw

私にそんな趣味はありませぬ。

でも意外といるんだよなぁ腐女子、中学時代に女子が男×男の接続(規制)
写真を集団で見てて騒いでいたのはもはやホラーの領域だったなぁ…….w

ん? 私ですか? 普通ですよ? コートを頭から被って寝てましたよw
一瞬だけ見たけどあんなもんまじまじと見せられてたまるか!


さて、寒くなってきましたね。

こちらはただいま6℃、マフラーが欠かせなくなりましたよw
下手したら手袋かなぁ……まぁ、まだ大丈夫か。

みなさん寒い時には何か食べたり飲んだりしてますかね?

私はカップで熱めのほうじ茶をチビチビ飲むのが好きです、
慣れたらぐいっと飲み干します。

あの暖かな状態の飲み物が喉から食道を通り、
胃に到達した時の暖かさがたまらないですw

特にレポート書く時とか、眠気覚ましで飲んでますねグハァ!(吐血

みなさん風邪を引かないよう、気をつけて下さいな。

それでは皆様、また次回。

(○´ω`○)ノ**SeeYou**(○´ω`○)ノ


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(11)黄の芸人と空飛ぶ手品師


(´・ω・)煮干し。
ハチべぇ「ひどい二番煎じを見たよ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

⊃`ノ八"`ノ八_〆(・ω・*)

寝たい時に限って目が覚めるハピナです!

投稿ペースがノロノロしてきましたねぇ、これでも頑張って書いてます! ハイ ( ;´Д`)

日常編を書いてるのはとても楽しいですが……やはり明確な『テーマ』
みたいなのがないとなかなか上手く書けないんですなよね。

話題もないのに長々話すなんて、ハピナにはそんなスキル無いのです!

1度思いつけばかなり書けるモノですよ、特に戦闘シーンなんか
その場その場の完全な直感にアドリブで書いてますよw

どうしてもなんも思いつかない時は投稿する価値も無い短編をサラっと書くか、
まどマギのジャズverを聞きながら書いてますね。

利奈が奇術師……まぁマジシャンなので良い感じに思考の中で利奈が舞ってくれます。

作業用BGMは本当にありがたいです。


あぁ、ここから大型魔女(前編・後編)はしばらくは無いですね。

次回辺りに、雨の中食べた抹茶チョコレートから思いついた魔女を投下する予定です。


ハチべぇ「そういえば作者、この前書きを書くのと
同時進行で何か描いていたけど、何を描いていたんだい?」

ハピナ「あ、えっと……まだ途中かな、後書き辺りに完成するよ」

ハチべぇ「え? じゃあそこの絵は」
ハピナ「さ、さぁさぁ! 舞台の幕を上げましょうか!!」

ハチべぇ「わ け が わ か ら な い よ!!」


《3月4日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除、文末の修正
○その他修正(追加、索敵等)



 

最初にハチべぇと花組が契約を結んだ日から、

魔法使いとしての生活が当たり前になってきた程になるまでの時間が過ぎた。

 

利奈も、まさかリュミエールがここまで花組にとって

重要な存在になるとは夢にも思わなかっただろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

次の日のお昼休み、授業以外は誰も好き好んで訪れない理科室。

 

リュミエールの溜まり場で、海里がクラスメイトの指輪に新品のグリーフシードを当てた。

 

 

「……本当に良いんだな?」

 

海里「何言ってんだよ! こういう時はお互い様だろ?」

 

「俺はなんもしてないんだが……いやしっかし、助かる」

 

月村「2日で3個入手したのに浄化なし……

消耗品争いとはいえ、浄化なしは心が無いわね」

 

篠田「みんな、見つかっても倒せないで逃げるのがほとんどだって言ってるもんね」

 

「本当は一部の奴らが億劫になって、勝手に戦闘をサボるからなんだよ……!

 

まぁ逃げても後から誰か倒してくれてるみたいだから、

なんでかこの町の平和は大丈夫なんだけどな」

 

清水(利奈だな)

月村(利奈ね)

篠田(あぁ、利奈だ!)

 

上田「……ん? みんなどうしたの? 急にこっちを見たけど」

 

清水「気にするな! なんとなく見ただけだ」

 

月村「相変わらず視線に敏感ねぇ……なんとかならないの?」

 

上田「こればっかりは癖になって治らないんだよね」周りに気ばっかり使ってるし。

 

篠田「お? 海里海里! ソウルジェムキレイになったよ!」

 

清水「おぉ、浄化終わったか。 ほら、これ持って行きな!」

 

 

海里はソウルジェムからグリーフシードを離すと、そのソウルジェムを持ち主の生徒に渡す。

 

 

「ほ……本当に、サンキューな! リュミエールのみんな!」

 

彼は渡されたグリーフシードを大切そうに胸ポケットに入れると、

廊下の外を伺って様子を見ながら教室に戻って行った。

 

理科室にいるのがリュミエールだけになった後、利奈はふうっと息をついた。

 

 

上田「いつのまにか、すごいチームになっちゃったね」

 

清水「リュミエールか? まぁかなり色々な情報はあるし、

他の魔法使いに比べたら頭使って戦うし、なにより利奈が見つけた機能があるしな。

 

他と比べたらグリーフシード集まりやすいんだろ。

 

うちのチームにはエース選手ならぬエース魔法少女がいるもんな!」

 

 

そう言って、海里はにぃっと笑って利奈の方を見た。

 

びっくりして利奈が私じゃないよと言わんばかりに慌てて目を逸らした……先には絵莉がいた。

 

絵莉はなんとなく笑みを見せる、それを見た芹香は笑うのを我慢した。

 

 

最近のリュミエールの日常は大体こんな感じだ、2日に1人は援助を求める魔法使いが来る。

 

もちろん、もらった方もなんのお返しもないというわけにはならず、

お菓子やら文房具やら……時には魔女や魔男討伐に助太刀として

参戦、主に魔法の力を貸してくれる事もあった。

 

海里が言うには、

 

「本当は援助を求める魔法使いがいないのが1番良いんだけとな」

 

……らしい。

 

 

そうも行かないのが現実、光あれば影がある。

 

 

援助を終えた後、リュミエールは談笑でも楽しんでいると……

 

 

突然、廊下の向こうから全力疾走とも言える走る音が聞こえてきた。

 

なりふり構わず、廊下をバタバタと走る。

 

 

清水「……ん? 誰か来たのか?」

 

上田「ここまで荒々しくここに来た人は今までいなかったね」

 

篠田「うるさい人達かなぁ?」

 

月村「……絵莉、ちょっと下がってなさい」

 

篠田「えっ? 何d「下がりなさい」は、は〜〜い……」

 

 

芹香はどこか、ピキピキっとした感じだ。

 

絵莉は芹香の冷ややかな怒りのオーラから冷や汗をかいて逃げる。

 

しばらくして、音の主は理科室に飛び込んだ。

 

 

「はいどうも〜〜!!オイラピカピカ金ぴkぶほっ!?」

 

 

清水「え!? ちょ!?」

篠田「はうあ!?」

上田「……あぁ」

 

 

突如部屋に飛び込む小さめの少年、彼のおでこにノートがぶち当たった。

 

芹香、怒るととても怖い子である。

 

利奈も度々この怒りを浴びていたので、あちゃ〜〜……という感じで冷や汗をかいて見ていた。

 

 

月村「来るなら静かに来なさ……あら?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あっはっは! そういうことだったのか!」

 

月村「……ごめんなさい」

 

「しょうがないって、いきなり突撃したオイラが悪いんだし」

 

 

普段誰も来ない理科室に乱入して来た彼、なんと花組ではなかった。

 

慌てて芹香が額の治療にあたる……といっても、魔法は使わないが。

 

治療を受ける少年は怒りもせず、上機嫌でケタケタと笑っている。

 

芹香の説明によると、大抵ここに走って来るのは花組の不真面目らしい。

最近、理科室のドアを破壊されて苛立っていたんだとか。

 

 

清水「そういえば、そんな事もあったっけな」

 

上田「立て付けが悪いからって、

最初は蹴り飛ばしてきて、とどめは体当たりで……」

 

清水「おう、それ多分なんかの八つ当たり混じってるわ」

 

 

芹香が治療を終える頃、絵莉は驚きから脱した。

 

すると、絵莉は少年の顔を見つめハッとしたような顔になる。

 

絵莉は彼について、何か心当たりがあるようだ。

 

 

篠田「ぴかり? ぴかりだ!」

 

上田「あれ、知り合いなの?」

 

篠田「うん、ぴかりはね、」

 

 

そんな流れで絵莉は彼の事を説明しだした。

 

 

 

 

武川(たけなか)(ひかり)、月組の生徒で自称お笑い芸人。

絵莉とは小学校が同じで、6年間一緒の教室で過ごしたらしい。

ムードメーカーでポジティブ思考、芸名は『電球少年ぴっぴかり』。

 

 

 

 

絵莉が一通り説明し終わると、光は立ち上がって気合を入れた。

 

 

武川「オイラピカピカ金ぴかりん!

月にも負けないまぶしい電球! 腹筋に笑いを即蓄電!

池宮の電気屋といったら電球少年ぴっぴかり!」

 

月村「……無駄に元気ね」

 

武川「最初の反応それ!? なんでやねん!)」

 

上田「いや、面白かったよ! 私なら噛んじゃうもん」

 

武川「優しいのね、君」

 

清水「月組のやつだったのか、そういや……やたら元気なのがいたような記憶があるな。

『僕の頭もいつかは電球☆』とか」

 

武川「あ、それ確実に僕ですハイ」

 

 

1人1人の感想に素早くツッコミを入れる光。

 

なるほど、この素早さといいそれなりの実力はありそうだ。

 

篠田「相変わらずお笑いに余念がないね! 今日はお得意の漫才でもしてくれるの?」

 

武川「ハゥイ! お笑いは世界を救う……って、違う違う!

オイラ、得意の漫才しにここに来たんじゃなかった」

 

 

絵莉に言われじわじわと笑いが込み上げるようなポーズで

元気良く答えたが、ハッとしてポーズをやめた。

 

 

武川「今日の昼休みにやる月組漫才大会を

棄権してまでここに来たんだ、辛かったぞぉ……!」

 

清水「おおう、俺たちには何か聞きにきたのか?」

 

武川「ハゥイ! ものすんごい率直に言うと、

 

 

 

 

オイラも魔法少女? いやいや、魔法少年やりたい! 魔法少年になる方法を教えてくれ!」

 

 

 

 

上田「へ?」

篠田「ふぇっ!?」

月村「え?」

清水「は!?」

 

武川「……え? なになに、その反応? オイラ困るじゃないか」

 

清水「ちょっと待て、お前……それ、どこで知った?」

 

武川「うん? あぁ、なんか花組のチャラそうな人達が

うちのクラスのチャラそうな人達と……君たちだと、不真面目?

ほぼ大声みたいな形で月組の教室で話しててさ、鳥組と風組はわかんないけどね。

 

少なくとも、月組はみんな知ってr」

 

光がそれを言い切る前に、海里は今までにない怖い顔をする。

 

その表情のまま、勢いよく理科室を飛び出してどこかに行ってしまった。

 

しばらく、廊下から口論や乱闘の音が響いたんだとか。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ちょっと時間が立ち、顔に青アザを作った海里が帰ってきた。

 

後に利奈達は情報屋引き入る3人組によって、

気絶した猛獣の山ができた事が伝えられる事になる……恐ろしい男だ。

 

 

月村「そういえば、あなたはあっち(不真面目)側だったわね」

 

清水「普段は言葉だけでねじ伏せるんだがな、お仕置きもかねて軽くひねってきた」

 

篠田「うわぁ……海里怖いよ」

 

上田「う〜〜ん……清水さんが怒るのも無理ないよ、だって月組危なくなっちゃったもん」

 

武川「危ないって?」

 

清水「流石は利奈だな、やっぱりわかってたよ!

 

そう、危なくなっちまった。 光みたいに「ぴっぴかり!」

 

……ぴっ、ぴか? 「ぴかりで大丈夫だよ」おおう、助かる絵莉」

 

 

海里は光の楽な呼び方を見つけると、利奈に支えられながら理科室の椅子に座り込んだ。

 

 

清水「全員が全員そういうわけじゃないが、

少なくとも何人かは

魔女や魔男、そして俺達魔法使いに興味を抱くだろう。

 

そうなったらどうだ? 怖い物見たさに深夜徘徊をする奴だっているかもしれない。

 

魔法使いでもない一般人(月組の生徒)が魔女や魔男に誘拐されやすくなっちまうだろうな。

 

無論、普通の犯罪者だっている。

 

……あいつらは、自慢がしたいだけの感情で月組を危険に晒したんだ」

 

 

海里はそう言って青アザの痛みを収めるように冷たい黒いテーブルに頬をつけ、青アザを冷やした。

 

 

武川「あ、あぁ……そういう考え方も出来るのか……わかった! オイラに任しとけ!」

 

清水「え?」

 

篠田「ぴかりは月組の人気者なんだよ! 大体月組の話題の発信源はぴかりなんだ」

 

上田「月組のリーダーってことか」

 

武川「リーダーは他にいるけどね! オイラが放課後、

あんまり首突っ込まないで話だけ楽しむように漫才で伝えとくよ!」

 

清水「漫才 じゃなきゃダメなのか?」

 

武川「無!! 論!!」

 

清水「……お、おう」

 

 

普通に言えよと言おうとした海里だったが、それはきらめくぴかりの瞳によって遮られた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

昼休みも終わって、現在放課後。

 

ちなみに、授業は芹香の発表と利奈の感想で国語の先生が

真面目なのを嬉しそうにに聞いていたのが印象に残る午後の授業だった。

 

利奈はいつもの逃げ足で教室から消える。

 

様子を見ようとわざわざ廊下の反対側にある月組の教室を覗いて見た。

 

なるほど、机を下げた後光が適当に男子生徒を引っ張り出し、

慣れた様子でテンポの良い漫才を繰り広げている。

 

題材は……ふむ、深夜の外出についてとその対応に関してだ。

 

犯罪者に絡まれた時の正しい対応と面白い対応との比較。

 

面白い対応目当てに、みんな正しい対応も見ている……天才だ、みんな爆笑している。

 

笑うのを堪えながら月組を見ていると、

廊下の外から突然声をかけられた。

 

短めに刈り上げたツンツン頭で、大きめの黒い瞳が

その形の良い顔の作りの良さを際立てた。 利奈より10cmも身長が高い。

 

 

?「ねぇ君、花組の子じゃないか?」

 

上田「……っ!? ごめんなさい! すぐに立ち去ります!」

 

?「いいよいいよ、君もぴかりの漫才が気になってきたんだろう?

せっかくここまで来たんだし、ゆっくりしていきなよ」

 

上田「でも、校則では他のクラスに許可なく行ったら……」

 

灰戸「僕が許可すればいい話。 僕は灰戸(はいと)八児(やつじ)、月組のクラス長だ。

月組に何か用があるなら僕に言ってほしい」

 

上田「あ、はい! ありがとうございます」

 

 

その後、光の漫才が終わるまで付き添ってくれたらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

芹香は塾があるため、絵莉はクインテットと一緒に帰るため今日は1人だ。

 

帰り道、利奈はなんと堂々と大通りを歩いていた。

 

ほのかな灯りに照らされた裏の道とは違い、

大通りは人で賑わい街灯が眩しく感じる程だった。

 

海里から色々と猛獣達の話を聞き、まだちょっとキツイ感じはあるが、

猛獣達の鳴き声をある程度、聞き流せるようになっていた。

 

それで、明るくて安全なこの大通りを通れるようになったのだ。

 

指輪を見て魔女に警戒しながら帰り道をてくてく歩いていると、

ふと、ほんのりと照る夜の中で後ろから肩を叩かれる。

 

少年の片手には青いコンパスが握られていた。

 

 

清水「よっ! 利奈!」

 

上田「ふぇう!?あぁ清水さ「海里」……海里、しゃん。けふっ」

 

 

呼び方を指摘され、直そうとしたが噛んでしまった。

その妙な噛み方に、海里はその場で笑ってしまう。

 

 

清水「……っぷ、『海里しゃん』ってすげぇ噛み方だなオイ」

 

上田「ま、また噛んじゃった……」

 

清水「いや、すんげぇ面白かったぞ!

意識させるようツッコミ入れたが、まぁゆっくり変えればいいさ」

 

上田「うん」

 

 

海里はコンパスをポケットにしまって笑いを落ち着かせると、真剣な顔になった。

 

 

清水「ここからはリュミエールのリーダーとして話すぞ、あぁ別に歩きながらでもいいぜ」

 

上田「え? あ、う……ありがとう清水さん」

 

 

海里は情報屋、お仕置きをした時もついでに話を聞いてきたんだとか。

 

……完全に裏で怒っている顔で、にこやかに笑いながら。

 

光の漫才の時の話も知っている……海里の人脈どうなってるんだ?

 

 

清水「……思った以上に深刻だった、ぴかりの漫才を目にしても見たいって言ってる奴らが何人かいる。

 

なんだかなぁ……好奇心に勝てないのがゴロゴロいるんだと」

 

上田「探しに行っちゃったんだ」

 

清水「そういう事になっちまうな、一応今日のところは……

 

絵莉が所属するチーム『クインテット』が

一時的にパトロールをしてくれている。

 

俺達も、策を立てなきゃいけない」

 

 

というか、絵莉とその仲間たち……本当に『クインテット』って団体名になったのか。

 

利奈が時折クインテットと言うのを、絵莉が聞いていたのかもしれない。

 

 

清水「で、その策を考えたいんだが……

利奈、今時間あるか? ちょっと例の倉庫に行きたい」

 

 

利奈は常に暇である。

 

 

上田「いいよ、私いつも暇だし」

 

清水「おう、ありがとう! んじゃ早速行こうか」

 

 

そう言って海里は利奈の手をとり路地裏へと駆け出した、目指すはリュミエール本部(空き倉庫)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ボロい倉庫に来た、相変わらず魔法のおかげでキレイな内装だ。

 

倉庫独特の冷んやりとした空気と音がない静けさが、寒さから守られていない顔と耳をくすぐる。

 

海里は指輪をソウルジェムに戻すと、「変身」と小さく唱えその身を青き魔法少年に変えた。

 

魔法使い関係の話だとわかると、利奈も指輪をソウルジェムに変えて元気良く声をあげた。

 

 

上田「変身!」

 

 

暖かな赤に包まれ、利奈も赤き魔法少女に姿を変えた。

 

 

「変身!」と元気よく言うあたり、海里は利奈らしいなと笑みが浮かぶ。

 

清水「さて、まずこの魔法を見て欲しい。

 

 

フリューゲル!」

 

 

海里が魔力を込め呪文を唱えると、背中に翼が形成された。

 

深海のように深い青、淡く光り輝く羽……

 

利奈は何度、この魔法に救われた事か。

 

 

清水「おーーい、聞いてるか?」

 

上田「……え? あ」

 

 

顔の目の前で手を振られ利奈はハッとなった、どうやら海里の翼に見惚れていたらしい。

 

 

上田「う、うん。 ごめんなさい、ボケっとしてた」

 

清水「おう、とにかく本題に入るぞ」

 

 

せっかく生やした翼、海里はふわっと浮いて腕組みをした。

 

 

清水「ようはだな、

 

 

リュミエール含めた魔法使い達に、()()()()()を覚えさせたい。

 

 

飛べるようになれば、かなり戦闘の幅が広がると思う。

 

俺の魔法はツール(道具)、翼をツールとして作る形で

楽に飛ぶことが出来てるが、他の魔法使いは正直わからん。

 

ちょっと定義つけてやれば、楽に作れると思ったんだがな……

 

そこで、閃きがリュミエールで1番しやすい利奈を呼んだってわけだ。

 

どうしたら皆飛ぶ魔法を覚えるか一緒に考えてほしい。

俺はちょっとばかし頭が回らんのでな、すまない」

 

上田「わかった、色々やってみる」

 

 

それからというものの、利奈と海里は相談をしたり、休憩がてら組み手をしたりと色々やってみた。

 

念のため、魔力の無駄使いをしないように小さめのグリーフシード1個分という制限をつけて戦い。

 

戦ってれば何か思いつくかと思ったが、なかなか上手くいかない。

 

わかったことと言えば……海里が戦う時は道具を使うか、拳に魔力を込めて殴るくらいか。

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

今度は自らの衣装に合うようなマントを作り出し、飛んでみようとする。

 

 

上田「うわっ!?」

 

 

……だがこれがなかなか操縦が難しく、慣れぬ魔法に突っ伏して転んでしまった。

 

乱舞が止まり棍が転がり、ナイフがマントに何本も刺さった。

 

利奈の脇腹をナイフが切り裂く、脇腹には切り傷が1本。

 

 

上田「っ!? 痛っ!」

 

清水「ちょ、大丈夫か利奈!?」

 

 

海里は攻撃を止め、慌てて利奈に駆け寄った。

 

自らの周りを輪上に舞う道具の中から包帯を手に取ると、

他にも消毒液やらガーゼやら一通りの治療ツールが現れ、利奈の傷を丁寧に治していった。

 

包帯が勝手に体を這うように巻きつく感覚が、肌を伝って感じ取れる。

 

巻き方はとても丁寧なもので、これと言った不快感は無い。

 

衣装の切れ目から見えていた利奈の透き通るような肌の白は、包帯の白に包まれた。

 

 

上田「ったた……ありがとう、だいぶ楽になった」

 

清水「お、おい!? 傷が開くぞ!? 少し休んだ方が……」

 

上田「このくらい平気平気! マントはダメだね、他に飛びやすい方法を」

 

そう言って落とした棍を拾った利奈だったが……ふと、頭に1つの案が浮かぶ。

 

 

ここで空飛ぶ魔法を作ったとしても、全員にそれが通用するか?

 

 

もっとこう、根本的なルールを作る必要がある。

 

 

拾った棍にまたがり、魔力をちょっと多めに込めた。

 

 

清水「ん? なんか思いついたのか?」

 

 

呪文はポンっと頭に浮かぶ、それをそのまま口に出すだけ。

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

すると、魔力の波は棍を包み、後ろ側から赤々と光り

火花を散らす魔力のブラシがふさっと出来たかと思うと、

赤い光を放つ棍の箒は利奈を宙に浮かせた。

 

実際に動かしてみる……成功! 意のままに倉庫内を飛び回ることが出来た。

 

まだちょっとフラフラするが、練習を重ねれば使いこなせるだろう。

 

 

清水「おぉ……!? すげぇじゃん、飛べるようになったんだな!」

 

 

隣に海里が付き添って来た、ふと利奈は面白い事を思いつく。

 

 

上田「……どっちが速いんだろうね?」

 

清水「え?」

 

 

利奈はいたずらっ子のようなニヤついた笑みを浮かべ、一気に海里を突き放した!

 

広い倉庫の中を上下左右飛び回る、正直利奈はかなり楽しんでいた。

 

空を飛ぶ……高所恐怖症を除いて、これは人間誰しもが一度は夢みる行為だ。

 

それを利奈は魔法少女として達成してしまった。

 

なんだかんだ言って利奈もまだ14歳、子供のようにはしゃぎまくった。

 

 

上田「いやっほーー!!」

 

 

天井の柱をかいくぐり、時には一回転でもして空中を楽しんだ。

 

ふと自分の後ろを軽く振り返ったなら、

海里がその青々と翼を羽ばたかせ追っかけてくる。

 

よし、逃げるぞ! と、利奈は加速をしたが……

 

 

不意に、首元に腕が回る。

 

 

ま、回……掴まれる? 抱きつかれる? えぇいがっちりホールドだ!

 

速 い ! その速さを例えるなら、獲物を捉える鷹のごとく。

 

 

清水「まだまだだな」

 

上田「ちょ、ちょっと!? 速すぎるよ!」

 

 

明らかに飛行魔法のキャリアが違う、文字通り利奈の飛行の腕はまだまだらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

グリーフシード1個分の組み手が終わり、2人は互いののソウルジェムを

リュミエール所有のグリーフシードで浄化した。

 

飛行魔法を覚えた利奈は、浄化を終えて結論を見出した。

 

 

上田「それぞれ既存の魔法で飛行魔法を作ってもらう事にしようよ、

リュミエールとクインテットの2チームで手分けをすればすぐに広まると思うんだ」

 

清水「あぁ、それなら変に俺達が作った

飛行魔法を押し付けるよりは成功率高いな。

 

じゃあ……絵莉と月村さんは利奈が教えるとして、そこから絵莉はクインテットへ。

 

で、リュミエールとクインテットが強力して花組に広めるか。

 

仲間内には俺が教える。勉強嫌いな奴らだが……

まぁ空を飛ぶってなったらそれなりに真面目にやるだろ」

 

上田「賛成、明日からそれでいこう」

 

清水「よっしゃ! なら決まりだな!

あの2人には俺が念話で伝えとく、時間あったら教えてやってくれ」

 

上田「りょーかい!」

 

 

さて、飛行魔法の定義がここに決まった。

 

そこでちょうど、そのタイミングで利奈のソウルジェムに反応が出る。

 

良いタイミングだ、試すのには絶好の機会。

 

 

上田「あれ、この近くに魔女? さっきは反応なかったのに」

 

清水「いよいよか……早く行こうぜ、誰が巻き込まれてるかはその場に行かないとわかんねぇ」

 

上田「月組の人達もいるかも、反応があるとこに行こう! 魔女を救うために!」

 

海里「おう!」

 

 

そうして、2人は倉庫を後にした。

 

あ、利奈ちゃんと電気消してる。

 

これを気に、花組には空を飛べる魔法使いが何人か増える事になる。

 

 

空飛ぶ魔法具を多めの魔力で作り出し、魔力の無駄な消費なく空を飛ぶ。

 

まさか、この空飛ぶ魔法でこの先の月組のピンチを救う

架け橋になってくれるとは、今の2人は夢にも思っていないだろう。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「えっと、清水さんがちらっと言ってたんだけど」

 

 

 

篠田「全ては(男性アイドル)君の為に!!」

 

 

 

「えっ、あ? 俺!?」

 

 

 

「ありがとう! あんた最高よ!」

 

 

 

〜終……(11)黄の芸人と空飛ぶ手品師〜

〜次……(12)舞う花々と1人飛び〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





ハピナ「出来たよ〜〜!! ほら、ハチべぇ! ハチべぇ描いたよ!」

ハチべぇ「……とっくの昔に出来上がっていたような気がするのは
僕の気のせいという事にしておくよ」

ハピナ「ほら、ハチべぇ! あれ言ってよ『あれ』!」

ハチべぇ「『あれ』じゃわからないよ」

ハピナ「わかんなきゃ耳引っ張るよ!」

ハチべぇ「
【挿絵表示】
……色ムラがかなり酷いね」
ハピナ「色鉛筆の宿命」(;゚∀゚)

酷 い 物 を 載 せ て し ま っ た w \(^o^)/

まぁ、アナログだけどせっかく画像投稿を覚えたし?
イラストを描くこと自体は好きだから、ぼちぼち描いていこうと思うよ。


やっとこさ魔法少女が飛んだよ! これが私が執筆で書きたかった内の1つなんだ!

空をかける魔法使い……さっそうとした、爽快感のある戦闘シーンは
どこか普通の戦闘とは違った面白味があるだろう?

機会があればじゃんじゃん飛ばしていくよ!!

もちろんチートにならない程度にね、定義付けもきちんと行うよ。


さて、勘の良い人は分かったと思うけどとある有名人からもらった
キャラクターを1人うえマギの世界に放り込ませてもらったよ。

今回は出番少なめだけど……位置的には出番が多くなりそうな
立ち位置に配置しておいたし、徐々に出番を増やしていこうと思うよ。

まだまだ突っ込めそうな枠はたくさんあるから、
うえマギに放り込みたいキャラとかがいれば
メッセージで送ってもらえれば即刻使っていくよ! (*´艸`)

ただ、私は『チート嫌い』に定評がある。

そういうのは修正かける可能性があるから、そこの所は許しておくれよ。

今回もらったキャラクターは『灰戸八児』、提供してくれた有名人さんは『三剣』。
この後書きの場を借りて改めてお礼を言うよ! ホント、ありがとうございます。


では、みなさん暖冬に惑わされ体調を崩さないようお気をつけください。


それでは皆様、また次回。


~~~ヾ(*'▽'*)o マタネー♪


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(12)舞う花々と1人飛び

(☆´Д`)ノGood evening 皆様!

毎度おなじみハピナですよ! 今回も本編はいつもの如く私1人で話します、出来るだけ。

今回は魔法使いにおいて、飛行魔法の定義を示す回となっています。

飛行魔法は私が執筆する上でやりたかった事の内の1つですが、
流石になんも考えないで飛ばすのはなんかチートっぽくて嫌ですね。

あぁ決めた分だけしっかりと飛ばしていますよ、やっぱり飛行シーンを書くのは楽しいです!

さて、今回の雑談はこの辺にして、早速1週間ぶりの幕を上げましょう。

舞台は、利奈達が通う『第三椛学園』とそう遠くはない裏山の中……。


《3月8日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除や『「」』の変更
○その他修正(追加、索敵等)



次の日……ではない、その日は数日後といったところだ。

 

あれからというものの、利奈は真面目な魔法使い達に、

海里は不真面目な魔法使い達に、それぞれ飛行魔法を教えることになった。

 

まぁ、海里の方は苦戦しているようだが。

 

なんとか、絵莉と芹香に飛行魔法を教えることが出来たコミュニケーション能力の低い利奈。

 

ただ、やっぱり利奈1人ではちょっと難しいところもある。

 

そこで、利奈は絵莉が他に所属するチーム『クインテット』の力を

借りようと絵莉が優しさから自分で提案してくれたのだ。

 

海里を覗いたリュミエールと絵莉も含めたクインテット、

それが放課後のこの学校の裏山に現状いる面子だ。

 

 

篠田「パラフィン・ナフテン!」

 

 

月村「第五章! 嵐の巻『飛行』!対象は自身!」

 

 

利奈が空中で浮遊しながら一同を見守る中、

絵莉と芹香の2人が飛ぶ事が様になった。

 

天音に風香に大声と花奏のクインテットもなんとか2人についていく。

 

あぁ、ちなみにクインテットのリーダーは『青冝天音』らしい。

 

絵莉は手足から噴き出す元素を燃やしながら炎を吹き出し、

芹香は辞書を抱きしめ魔力の光を散らしながら浮いた。

 

 

上田「みんなだいぶ様になっているね、あんまり教え方上手くなかったのに……」

 

篠田「ううん、すっごくわかりやすいよ!」

 

青冝「下手なだけよ、 私 達 が 」

 

月村「私が少し補足を付けるだけでこんな感じね、余計な部分省いてるからわかりやすいのよ」

 

録町「ホント、飛ぶのって(男性アイドル)君の曲をじっくりと聞くのと同じくらい楽しいわぁ……

 

ってこら、そこ! ウォークウーマンで(男性アイドル)君の最新曲

『恋よ!咲き乱れよ!』を聞くのは賛同するけど、後にしなさいよ!!」

 

上田「なんでわかるの!?」

 

篠田「わかるよ! 楽器違うもん!」

 

月村「……あなたも話を逸らさないの」

 

うん、ウォークウーマンのイヤホンから漏れるほどの『恋よ!咲き乱れよ!』が聞こえている。

 

吹気「えぇ〜〜? だって、紙吹雪でどう飛べばいいの?」

 

宙滝「メガホンなんかで飛ぶの? わけわかんないよぅ……」

 

青冝「そりゃあ……あぁ」

 

 

それぞれ既存の魔法で飛行魔法を作ってもらう事……

吹気と宙滝の一連の不満が、実はこの発想の最大の弱点だ。

 

既存の魔法で作ると言葉では簡単に言ってしまっても、

全部が全部飛行魔法を作りやすいという都合の良い状況……

 

残念ながら、現実はそうでない。

 

そうなるとどうしても皆で協力して考え、他人の発想押し付ける形になってしまうのが苦難だ。

 

結果、飛行魔法の習得に時間がかかってしまう。

 

だがどんな大量のアイディアでも、一度パズルのピースのように

パチリとキレイにはまってしまえば習得は早くて済む。

 

 

上田「紙吹雪かぁ……紙吹雪みたいに軽くなってふわふわ?」

 

宙滝「……ふぇ?」

 

吹気「あぁ、そっか! 私紙吹雪の魔法なんだから自分も紙吹雪みたいに浮かべるかな。

ちょ、何その発想!? 普通に面白い!」

 

青冝「確かに! でもいいねそれ、いけそう?」

 

吹気「余裕余裕! 面白ければなんとかなる!」

 

上田「えっと、メガホンは音でしょ?」

 

宙滝「あ……はいっ! 大きな声出したくて……」

 

上田「声だけじゃなくて……音符とか音を表現するのだせるかな? あっごめん、やっぱ無理か」

 

宙滝「ぃ……いえいえ、充分です! その発想はなかったです! ありがとうございます!!」

 

篠田「わお、相変わらずすごい発想力だなぁ利奈」

 

月村「あの子の頭の中、二次元のものばかりだもの」

 

上田「ホントの事だけと口に出して言うのやめてほしいな」

 

 

結果的に時間はかかったものの、風香と大声は無事に飛行魔法を覚える事が出来た。

 

 

吹気「紙吹雪自己流!」

 

 

宙滝「飛べええぇぇ!!!!」

 

 

風香はふわりふわりと紙吹雪のように宙を舞い、大声は自らの半径1mに音符の輪をまとい飛んだ。

 

これで、裏山にいる全員が宙に浮いてる事になる。

 

しばらくすると何人かが落りてしまう、それか自主的に降りる。

 

月村「……時間切れね、もう少し書き方を変えるべきかしら」

 

青冝「つ、か、れ、たぁ……! さすがにこの身体でもうちわで扇ぎっぱなしは無理!」

 

月村「上昇気流でも覚えておきなさい、クインテットのリーダーさん?」

 

青冝「言い方が刺さる……あ、でも確かにそれで便利になるね」

 

篠田「魔力もったいないや……節約する方法考えよっと!」

 

吹気「絵莉も魔力節約?」

 

篠田「うん! だってジェットエンジンもどきだし、魔力が燃料みたいなものなんだよ!」

 

吹気「私の紙吹雪も同じかな?」

 

篠田「風香のは方向転換だけだからあたしよりは

少ないかもしれないけど……やっぱり減っちゃうのかもね」

 

下の方で芹香が分析する中、キャイキャイする絵莉達。

 

 

……それを見下ろす空中で棍に横座りする利奈と、

音符の輪に囲まれ浮かぶ大声と巨大なCDの上で立つ花奏。

 

録町「あれ、みんなもう降りちゃったの? 全っ然魔力減る気配がしないんだけど?」

 

宙滝「私も、安定してる……」

 

上田「えっと、清水さんがちらっと言ってたんだけど」

 

録町「ん? あぁ、リュミエールのリーダーか。 彼がどうしたって?」

 

 

利奈は海里の意見に自分の意見を混ぜた一連の考えを花奏に話した。

 

クインテットの中でも頭の回転が早く情報処理が得意な彼女は、

利奈から聞いた話をみんなにキレイに伝えてくれるだろう。

 

 

 

 

飛行魔法の適性は、『3つ』に分かれるとここではされている。

 

 

1つは『燃料型』

 

時間は無限だが、魔力を燃料として飛ぶ。

 

消費される魔力は魔法使いによって違うが、

飛ぶ度に魔力が一定量、定期的に消費されてしまう。

魔法によっては移動の補助として使うのに向いているのもある。

 

 

1つは『召喚型』

 

消費される魔力は最初だけですむが、飛ぶ際には飛空可能時間が発生する。

 

必要となってくるのが、タイマーかメーター。

 

飛空可能時間は訓練によってある程度は伸ばす事も可能。

 

 

1つは『適正型』

 

消費される魔力も最初だけ、飛空可能時間も無制限。

 

恵まれた才能というか、飛ぶ為の機関を完全に分離している。

魔法使いの素質が飛行魔法に合っているタイプなんだとか。

 

 

どれにも当てはまらない特殊型なんてのもあるらしい。

 

 

 

 

型別に分けると……燃料型は絵莉と風香、召喚型は芹香と青冝、適正型は利奈、大声、花奏だ。

 

 

一旦空中から適正型3人は降り立ち、利奈が聞いた一連の話を花奏はみんなに話してくれた。

 

 

青冝「海里って案外頭回るのね」

 

月村「魔法の事だけだけど」

 

上田「言わないであげて」

 

篠田「うんうん……あたしと風香は節約で、

月村さんと天音は長さを鍛えれば良いんだね!」

 

吹気「そうだね、魔力から燃料を作る工程を工夫するとかしなきゃ! ね、絵莉!」

 

篠田「うんっ!」

 

 

さすがは絵莉、満面の笑み。 クラスで1番と褒められる訳だ。

絵莉と風香は何をするかの今後の方針を理解出来たらしい。

 

 

録町「私らはどうしよ〜〜?」

 

月村「あなたたちは飛行魔法に適性があるんだから、戦い方を極めなさい」

 

宙滝「ふぇ……!?」

 

上田「飛びながら戦うのに慣れておいた方がいいよって事だよ。

飛びながら戦うって言っても色々戦い方あるしね」

 

宙滝「ぅ……うん、頑張って……練習する!」

 

 

最初は冷たく刺さる芹香の言い放ちにビックリした大声だったが、

どうやら利奈の優しい声質の補足で安心したらしい。

 

青冝「よ〜〜し、クインテット一同! 早く覚えて花組のみんなに教えるよ!」

 

 

「「「「全ては(男性アイドル)君の為に!!」」」」

 

 

篠田「全ては(男性アイドル)君の為に!!」

 

月村「……何か1つのものににとことんハマるって、ある意味怖いわね」

 

上田「あはは……」

 

 

引きつり気味に芹香は冷や汗をかき、利奈は軽く笑った。

芸能界に興味がない2人にはちょっと遠い世界観かな。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

それからというものの、リュミエールとクインテットの飛行訓練兼戦闘訓練は続いた。

 

クインテットの体力がくったくたになり、陽が落ちかけた所で終了。

 

まぁリュミエールはまだまだ動けそうではあったが、

ここはどちらかというと劣るクインテットに合わせる。

 

ちょっと、一部魂抜けてるぞ! 相当疲れてるなクインテット……

 

えっ? 例えだよ例え、彼女らの魂は指にあるじゃないか。

 

 

芹香はみんなにありがとうと告げると、習い事の為に走って帰って行った。

 

絵莉はへとへとになったクインテットを引き連れて、コンビニへと立ち寄る。

 

体を温める物を買うらしい、絶対に絵莉だけチョコまんとかの甘い物だろう。

 

 

利奈は、そのまま1人で帰路へと……()()()()

 

 

6人を見送ってから帰ろうとしたが、暗闇の中で暖かな赤の光を放ち利奈の指輪は点滅した。

 

反応の方向は帰路につく、利奈以外の帰り道の逆方向。

 

 

上田「……行こうっと」

 

 

頼れる人はいない、今の時間呼べそうな人もいない。

 

いや、もうちょっと人脈があれば1人くらい呼べそうだが……

 

うん、悲しい事に利奈はいない……人脈があまりにも細い。

 

今日も寂しくソロ狩、とっとと倒してグリーフシードを頂こう。

 

なんだか、この言い方はまるで怪盗。

 

 

上田「変身!」

 

 

……いや、あながち間違いではないかもしれない、怪盗と奇術師はどこか似た所もあるだろう。

 

利奈が怪盗するなら怪盗ルージュ? それではあまりにもベタすぎる。

 

そんなこてはさておき、沈みかけた夕日を追うように赤色の魔法少女、利奈は路地裏に消えていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「珍しい、壁じゃないんだ」

 

 

現場に到着する利奈、路地裏の道の真ん中には割れたカップと

零れた液体のエンブレムが目の前の地面に健在していた。

 

偶然見つけたのか、既に何人かが先に来ていて早速変身しエンブレムに飛び込んだ。

 

その傍には抜け殻がある、なにやらボロボロだが……

 

利奈はいつものように赤い布を魔法で七色の毛布に変え、さらにサービスで布団に変える。

 

破かれたワンピース姿の抜け殻に、大きめの布団をぼかけた。

 

こんな時間帯なので、近くにあったブルーシートでコーティング。

 

披露の魔法でワンピースを新調する事も出来たが……まぁ、そこは本人の意思を聞きたい所。

 

 

上田「おやすみなさい……」

 

 

魂が戻る、その時まで。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

利奈は棍を1本召喚すると、さっと構えてエンブレムの中に飛び込んだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ところで、この画面の向こうの君は知っているだろうか?

 

病院内に溢れるお菓子達を、本当に欲しいものだけ生み出せない

とても可愛らしい、まるでぬいぐるみのような魔女を。

 

可愛らしさに隠された、とてつもなく狂った食欲の狂気を。

 

カラフルながら病的なものの、あの結界はどこか可愛らしさがあった。

 

 

 

 

……そんなもの、この結界には存在しない。

 

 

 

 

ぼこぼこと沸き立つ毒の沼……割れたチョコレート細工が乱立する。

 

消費期限の終わりを忘れ去り、腐敗し……崩れ落ちたような世界観。

 

カップのクチバシのペリカンが陶器を叩く音を立ててながら、

チョコレート細工達からうっすら溶けてドロドロと滴る

茶色のどろっとした液体をその緑と白の羽根が混ざった

えげつない色の体内にひたすら溜め込んでいく。

 

だぼだぼした腹に液体が溜まりきると、ごぺぇっ! と

激しく一気に、茶色がかった緑の液体を吐き出した。

 

ぼたぼたとカップから垂れる吐ききれなかった液体は、外れてどぷんとカップごと沼に落ちる。

 

外れた部分はメキメキと、まるでサメの歯のようにすぐ生え変わった。

 

開ききるカップのクチバシから除く咽頭の、なんとおどろおどろしいことか。

確かに生物のものだが、どこか人口的な違和感を感じる。

 

 

蜜毒の使い魔、役割は発酵。

 

 

抹茶チョコレートなんて可愛いレベルじゃない!

そこはジャングルのような湿気に、不快な不気味さを足したような空気だ。

 

まぁ結構な広さがあるせいか、その空気は引き伸ばされ

その不快な湿気はちょっとはマシになっている。

 

 

さて、そんな世界観を利奈は上に吹き抜ける風を浴びながら()()()()()わけである。

 

真下には地面がなく、あるのは底が無いように感じる沼だけ。

 

チョコレート細工に捕まろうと腕を突っ込んだ魔法少年もいたが、

しっかりと固まっていたはずのチョコレートは触れた部分だけ、一瞬で崩れるように溶けた。

 

まるで、少年の腕が熱々に熱せられてるのか? と思う程の溶けっぷりだ。

 

断末魔をあげながら、男も女も、沼に沈んでいく……

使い魔たちはあざ笑うかのようにカンカンとくちばしを鳴らした。

 

どちらかというと、危ない時は声を失う派の利奈は

パッと何かを思いついたら声を出せる魔法少女だ。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

吹き上げる風でだいぶ喋りづらかったが、

魔法は利奈の意のままに発動してくれる。

 

棍をもう1本召喚して下に向かって2本の棍を魔法で飛ばした。

 

向かう先は断末魔をあげ、沼に落ちていく集団。

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

利奈が魔法を唱えると……時間をかけて光が凝縮されていき、

赤い光を放つ棍の箒が空中で生成された。 徐々に減速させてその上に立つ。

 

この状態を例えるなら……生き残った男の子の初戦、

魔法のスポーツよろしくみたいな状態だろうか。

 

投げつけた棍はというと、土台は既にできていたのですぐに棍の箒になった。

 

8人程は間に合わなかったが……水面衝突寸前の魔法使いを4人、間一髪で捉えた。

 

まぁ間一髪なんで腹パン並の衝撃がはしっただろうが、

そこのところは急だったのでごめんなさいとしか言いようがない。

 

 

「ぐっふぉ!?」

「へぶっ!!」

「ぎゃっ!?」

「ぐぇっ!!」

 

「あ、危ねぇ……」

 

「痛いじゃない!! バカじゃないの!?」

 

「いやいやこれなかったらやばかったぞ」

 

上田「引き上げるよ!」

 

 

何 故 怒 る 6 番 目 の 台 詞 の 女 子 !

 

普通ここでちょっとはお礼言うだろう……

 

まぁ、そんな余裕もない程現実逃避しているのかもしれない。

 

4人が棍の上で体制を整えた後、出入口付近で軽く話をする。

 

なんだかんだ言って、使い魔が距離をじわじわ詰めてくる……結論を急がねば。

 

 

上田「みんな魔法で飛べる?」

 

「……あ」

 

「海里が言ってたのネタじゃなかったのか!」

 

「そっか、こういう時もあるからなのね!

あっちゃ〜〜……

適当にやらないでちゃんと練習しとおくんだったわ」

 

「お、そうだそうだ俺あれ出せるわ!」

 

「「えっ!?」」

 

「なに、あんた飛べるの!?」

 

「飛べない」

 

「「「 な ん な ん だ よ お 前 ! ! 」」」

 

「そう怒るなって……あれだ、飛べるが操作出来んのよ。

いわゆる空中停止というやつか? その位なら出来る」

 

「どんなやつなんだ?」

 

「足踏みのリズムゲームのマット! 結構でかいから4人で乗っても大丈夫だな。

踏むと踏んだ記号に対応した形式で攻撃できるぞ!」

 

「記号の形の石だけどな」

 

上田「ごめんなさい、話し中悪いけどそろそろ準備してね……もうそろそろ、使い魔が来るよ!」

 

「ウソぉ!?」

 

「ハァ!?」

 

うん、確かにそろそろまずい……もう目の前まで使い魔が来ている。

くちばしを閉じて首を横に振る辺り、何か攻撃をしてきそうだ。

 

 

「……じっとりしてきたな。 や、やばい空気だ」

 

「元々そうだろうが!」

 

「無理無理無理! なんなの!? 空気読めないわけ!? CY!?」

 

「KYだよ落ち着け!」

 

「というかなんだあの使い魔!?めっちゃカチャってるぞ!」

 

「カチャってるってお前名!」

 

こんな状況だというのに喋りすぎだ、慌ての転換だろうか? 声が収まる事を知らない。

 

上田「わかった! わかったから、そのマットについては考えがある! 早く召喚して!!」

 

「お、おう!

 

 

ポ・ピ・ラ・ジャンピン!」

 

 

利奈の声にハッとし、1人の魔法少年が魔法を唱えた。

 

すると、普通のサイズの2倍はある足踏みタイプのゲームマットが空中に火花を立てて出てきた。

 

使い魔が迫るこの状況、流石に 行 動 は 早かった。

 

全員がゲームマットに乗ると、利奈は4人が乗っていた棍を器用操って

マットの両端に巻きつかせてしっかりと固定した。

 

わかりやすく言うなら、巻物を広げた状態かな。

 

後は4人を落とさないように引くだけ……まぁ、引くと言っても

ちょっと行動を命令とかして勝手ついて来させるだけだが。

 

 

利奈は目の前に迫る使い魔を、棍1本ではたき落とす。

 

 

ガチャアン! とくちばしが割れ、使い魔はその衝撃で落ちていく……

 

 

利奈のゲーム脳が、起動した!

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

まずは、空を飛びながらの乱舞。

 

棍の箒が体の一部が如く、空中でも舞ってみせた。

 

硬い物が陶器を打ち砕く、鋭く何故か鈍い音が響く。

 

使い魔はそのくちばしを砕かれ、そのだぼだぼの腹を殴られて

うがいのような断末魔をあげて激しく叩きつけられ沈んでいった。

 

使い魔も何もしない訳ではない。

 

その首を挫ける程に激しく振り回した後に

固く閉じた口を勢いと共にガバッと開け、

ドロドロの深緑と茶色の毒球をグオッと投げつけた!

 

救われた4人の魔法使いを達も恩があるので何もしない訳ではない。

 

 

「いたぞ!」

 

「よっしゃやれえぇ!!」

 

 

球を投げつけようとする使い魔を見つけると、必死になってゲームマットを踏み鳴らす。

 

軽快な効果音は丸バツ三角に四角と色が付いた石になり、

魔力の強化も受け持って豪速球で飛んで行った。

 

なんのコントロールもなく力任せに投げつけているのが

功をを奏しているのか……毒球を粉々に弾き飛ばし、

カップのくちばしを砕き、チョコレート細工に激突する。

 

チョコレート細工は簡単にどろっと溶け、使い魔を捉えた。

 

 

やれやれ……利奈が棍の箒をここまで乗りこなすのに、

一体どれほど時間がかかってしまった事か。

 

地面がしっかりある結界で、例えピンチになってしまう時があってでも、

何度も、失敗があろうが何度も、練習を重ねていった成果だ。

 

 

しばらくすると……ん? 結界内の使い魔を全て倒し尽くしてしまう。

 

沼には割れた大量のカップが浮かび、奇形な鳥の死体は緑の液にまみれた。

 

奥の方にも魔女はいないようだが……

最奥地を離れ結界の中心辺りで利奈は考え込む。

 

 

上田「あれ? 変だな、いつも一番奥に、結界の最深部に魔女や魔男がいるはずなんだけど……」

 

 

あちこちキョロキョロ見渡しても、どこにも見当たらない。

 

もう一度考えを練ろうとする……が

 

 

「危ねえ!!」

「わ!? バカ!」

「行くな!!」

「……ん? 何?」

 

 

上田「え? あ、うわっ!?」

 

 

不意に、急に利奈は首根っこを掴まれ引っ張られる。

 

途端に、沼から巨大で重々しい水柱がグオオッと立った。

 

一瞬、利奈は水しぶきに巻き込まれる自分を脳裏に見ていた。

 

ハッとなり辺りを見渡すと、利奈はマットの上に座り込んでいた。

 

隣では両足に魔力を帯させた魔法少年、周りには

恐怖と驚愕の目で水柱を見つめる3人の魔法使いがいる。

 

そんな目で見つめられる中……利奈が乗っていた棍の箒は、水柱に飲まれていった。

 

 

「大丈夫か!?」

 

上田「あっ……ありがとう、私は大丈夫だよ」

 

「おう、俺らが引っ張り出さなかったらやばかったな」

 

「ちょ、ちょっと! さっき空中停止しか出来ないって」

 

「なんでなのかは全くわからん……必死になって咄嗟にやったんだか、なんか操作出来た。

火事場の馬鹿力って奴かもな……ってやっべ!? みんな! ちょっと下がるぞ!」

 

 

その声と共に、マットが水柱から距離をとる。

 

水柱が水らしからぬ音……ゴムが歪むような音を立て、

厚手のゴム風船が無理矢理割れるような音を立てて破裂した。

 

散らばる毒液はチョコレート色が濃くなったかと思うと、すぐさま女体の悪魔の形をを象っていく。

 

 

「んぁ? あれ? 結構可愛」

 

 

形が出来上がると、メリっと音を立てて緑に透ける腹を膨らませた。

 

 

「……いくない!? 怖っ!」

 

「お、おい!? あの腹の中にいるのあいつらじゃねぇか!?」

 

「ハァ? こんな時に冗談なんか……え?」

 

 

利奈もみんなが指差す方を見る、大きく膨れ上がったその腹の中で、

緑の液体はぐるぐると渦巻いて違う色へと変わっていく……

 

気がつくと、それは利奈の知らない魔法使いの姿になっていた。

 

腹の中に魔法使いが入った使い魔の数はは8体、

数的にも状況的にも、他の魔法使い達に間違いなかった。

 

彼女らはサキュバスを象る、抹茶チョコレートの使い魔。

 

 

蜜毒の使い魔、役割は貯蔵。

 

 

そしてその奥、嫌でも目に付くその姿……この結界の主である魔女の、不気味さ生々しさ。

 

 

 

 

そこにあるのは裸体の上半身だけ、右腕が6本指に左手が7本指。

ホクロもシワも何もなく、生身ともマネキンともいえない体。

 

不自然には当てはまらない、でも自然にも当てはまらない。

 

『作られた自然』という言葉が一番に当てはまる矛盾が、そこにはいた。

 

香水の霧吹きの金の金具の頭からは、緑と茶色の液体を交互に勢いよく吹かれる。

 

霧にならずこぼれた液は迷彩に塗られた鎖骨に当たり流れた。

 

そのまま、沼に雫が落ちる。

 

 

蜜毒と書いて、ハニートラップ……

 

 

そう! 彼女は蜜毒(ハニートラップ)の魔女、性質は誘惑。

 

 

常に自らの餌を探している、食す口は存在しないが。

 

餌をチョコレートで誘惑し沼に落として捉える、捉えた餌を食せる時まで貯蔵するだけ……

 

そんな時なんか、永遠に来ないのに。

 

 

 

 

吹き出された1回分の液体は霧状から1点に集まり1つの塊になったかと思うと、

腹が緑色に透けたサキュバスの使い魔がパキポキと固まりながら生まれ、

鋭利な刃が付いた三角バレットで利奈達に襲いかかった。

 

腹に餌を抱えた使い魔は、心もとない翼でノロノロと逃げていく。

 

 

「うわっ!? ちょ!?」

 

「ぎゃあああ! こっちに来るわよ!!」

 

上田「うあぁえっとそっ、そこの君!」

 

「えっ、あ? 俺!?」

 

上田「とにかく他の魔法使いを助けるよ!

私があの……

悪魔みたいなのを片っ端から倒しながら進むから

囚われた魔法使い達を回収していってちょうだい!

 

 

アヴィオン!」

 

 

「ハァ!? いきなり言われてもわからね「つ い て き て ! ! 」

 

……ぉ、おう、簡単で助かる」

 

殴るような勢いで利奈はそう指示すると、棍の箒を再び作り出して飛んで行った。

 

 

「ポ・ピ・ラ・ビック!」

 

 

マットの主、足の魔力を強める、強く地を踏み抜くとマットは魔力を帯びてでかくなる。

 

丸バツ三角四角だけではなく、星にハートや六芒星と渦巻……4つだったマークは12個に増えた。

 

 

「っ!? 予想以上にキツいな……お前ら、援護頼んだぞ!

今からこいつを操作する事だけに俺は集中するからな!」

 

 

そう言って、マットの主は飛んでいく利奈を追いかける。

 

 

「ん? あれ、足沢の飛行魔法って

適「今それは良いから床踏んでちょうだい!」……へぃへぃ」

 

 

さっきから魔法を使わないでマット踏んでばっかりだな……

近接魔法しかないのだろうか、それも踏まえて戦闘の手順を組む。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

棍を構えて向かうは囚われの魔法使い、迫る使い魔を1匹弾き飛ばし逃げる使いを追った。

 

 

上田「ボス、ステージ!」

 

 

使い魔の鋭い刃による斬りつけを滑空しながら軽やかに避け、普通の使い魔は容赦無く吹っ飛ばす。

 

魔法使いを捉えていた使い魔は上手い具合にダメージを蓄積させ、

後方にについてくるマットの方に落ちるよう弱らせて上手く誘導する。

 

弱々しくマットに降り立った使い魔は、

3人の魔法使いの近接魔法の()()()()()()()()()に合う。

 

 

 こ れ は ひ ど い !

 

 

比較的グロいのは大丈夫な2人の魔法少年は、腹を弄り緑の液にまみれた魔法使いを救い出す。

 

ん、あれこれの細かい描写? グロ表現間違いなしだ、ここでは省略させてもらう。

 

残った魔法少女はデコられた洗面器に見た事のないメーカーのボディーソープ、

大量のバスタオルを作り出して魔法で魔法使い達を洗い上げる。

 

洗われた魔法使い達はしっかり洗われ水分を拭かれ、キレイになってマットの上で眠った。

 

長い事可笑しな液に浸かっていたせいか、今は起きる気配はない。

 

ふわふわの大判バスタオルを作り出し、折りたたんで枕にし体には2枚重ねでかけてあげた。

 

しばらくすれば、目を覚ますだろう。

 

 

魔法使い達を救いながら先へと進む一向……利奈は相変わらずの舞いっぷりだ。

 

迫る使い魔の集団をを弾き飛ばしながら突き進み、ついに魔女の目の前まで来た。

 

魔女はその腕で殴りかってくるが、棍で受け流しながら

自らの数倍のでかさはある蜜毒の魔女に立ち向かう。

 

 

さぁ、フィナーレだ!

 

 

上田「アンヴォカシオン!!」

 

 

利奈は棍をもう1本召喚すると、両手に棍を持って魔女に突っ込んだ!

 

使い魔召喚の隙を与えない……!

 

魔女の炸裂する連続の拳を乱舞で打ち消し、魔女に着実なダメージを与えていく。

他の魔法使い達も遠くでマットを必死に踏み鳴らす。

 

 

上田「やああああああっ!!!!」

 

 

足沢「よっしゃ押し切れえええ!!」

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

「地団駄地団駄地団駄あああ!!」

 

 

「あっ、足が痛「もうちょいだ踏ん張れ!」むぬぬぬぬぬぬぬううう!!」

 

 

打ち消し合う拳と乱舞、乱舞に味方する援護射撃。

 

 

相殺はしばらく続いたが、一瞬……

 

 

ほんの一瞬だけ、投擲される石の衝撃で魔女の拳がずれた。

 

利奈はそれを見逃さず、拳が頬をかすめるほどのギリギリの位置で

棍で魔女の腕を抑えつけてかすめながら前に突き進む。

 

2本の棍を1本の太い棍にまとめ、魔力を多めに込める。

 

 

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

 

 

「ソリテール・フォール!!」

 

 

 

 

利奈は大剣で魔女の頭にあたる金具の付け根を狙い、思い切り魔力の刃を叩き込んだ!

 

バキイイィィン!! と金属が断ち切れる轟音が当たりに響く。

 

この魔女は声を持たず、悲鳴をあげる事はないが……

 

両手で切られた頭の断面を握りしめて暴れ狂い、

のたうちまわっているのを見たならその感情は一目瞭然だった。

 

迷彩の鎖骨が不気味にどくどくと脈打ったかと思うと、

ぶしゃあああっと切られた断面から緑と茶色の液体は吹き出した。

 

 

足沢「ちょ!? 危ねえぞ! 離れてろ!」

 

上田「……あ、うん!」

 

 

必殺魔法を放ちきって放心していた利奈は、

魔力の大剣を棍に戻して魔女から距離をとった。

 

その間にも魔女は暴れまわり、当たりに液体を撒き散らす。

 

しばらくして液を出し切ってしまうと、代わりに黒い魔力が吹き出した。

永遠にも思えるその勢いは魔女自身さえも飲み込んでいく。

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

 

不気味なチョコレート細工も、

 

2種の砕かれた使い魔の死体も、

 

毒沼の水も全て吸い込み、

 

結界ごとその結界にあるもの全て、飲み込まれる……。

 

体が持ち上がる感覚が一瞬背筋を走ったと思うと、利奈達は路地裏のど真ん中に立っていた。

 

あとに残ったのは、濁りなき抹茶色のソウルジェムと

とろけるチョコレートがモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……蜜毒の魔女を救った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「千いいい代おおお子おおお!!」

 

里口「え!? ちょ!? 痛いって!」

 

 

ソウルジェムが戻り、目を覚ました蜜毒の魔女だった少女、

千代子はギャルに抱かれて嬉し苦しそうにしている。

 

破れまくっていたワンピースはマジシャンの手伝いをする

役割を持った女性のような美しいドレスになっていた。

 

もちろん、利奈の魔法だ。

 

この中で服を作れそうなのが利奈ぐらいしかいなかったらしい。

 

結界から解放され、目を覚ました魔法使い達はその生還をしばらく笑いあって喜んだ。

 

利奈もその集団の中にいるが……何故か、どこか遠くにいるような雰囲気をかもしだしている。

 

利奈はその場から消えようとして気配を消し、

小さなビルの上に上がろうと壁を1回蹴り出した……が、

 

ピシャッと足下で音がしたかと思うと、足首に紐上の何かが

巻きついて引っかかり床にうつ伏せで落ちてしまう。

 

 

上田「ふぎゃっ!?」

 

 

利奈の落ちっぷりを見た猛獣達は他の仲間にも教え笑おうとしたが、

利奈を捕まえた張本人が集団の中を歩き抜けると、通り際の猛獣達は静かになった。

 

 

「顔を上げなさい」

 

 

足首に絡みついていた紐、よく見ると紫色の鞭だ。

 

利奈が起き上がり顔を向けると、そこには紫の魔法少女がいた。

 

そのメイクがかったつり目の顔で、歯を見せず微笑んでみせる。

 

 

髪の毛が紫なのはもちろん、程よいウェーブがかっている。

 

服はボディーラインを見せつけるように体に張り付く濃い紫のキラキラなロングドレス。

裾は前は普通にミニスカ丈で、後ろはドレスのように長い。

 

靴下もタイツもなにも履かず、その長い素足を見せつける。

 

靴はかかとが太めのハイヒール、手にはじゃらっとブレスレット。

 

頭には羽付きの豪華な髪飾りがついている。

 

片側だけについた紫の石の大きなイヤリングが印象的だ。

黒いモヤがほんの少し見えるあたり、これがソウルジェムのようだ。

 

 

女王の風格をも放つ彼女は、利奈に話しかけた。

 

 

「全く……逃げる事ないじゃない! まだやることあるでしょう?」

 

上田「あ、いや、私は……痛い」

 

 

地面にぶつけた鼻を抑えて目をうるうるさせる利奈、

彼女は咄嗟だったからという気持ちから謝罪をする。

 

 

「ほら、忘れ物よ」

 

上田「あ、ありがとうございま……えっ!?」

 

 

彼女はなんと、利奈のブローチようはソウルジェムにグリーフシードを押し当ててきたのだ!

 

驚き慌てる利奈に静かにしなさいと強く言いつけて大人しくさせると、

利奈の手に先程そのグリーフシードを置いた。

 

とろけるチョコレートのモチーフ、蜜毒のグリーフシードだ。

 

 

「なに逃げようとしてんのよ、それはあなたが持つべきじゃない」

 

上田「え!? でも、私は何も」

 

「随分と弱気ねぇ……全部千代子から聞いたわよ! 貴方が私達を助けたんでしょ?」

 

上田「そんな! 私はただ、その人が飛ぶ手伝いをしただけで!」

 

足沢「……あ、俺か? ってオイ、ちょっと!? かなりの収穫だぞ!?

お前h「あんたはちょっと黙ってなさい」……ハイ」

 

「あなたがいなかったらね、みんな捕まってたわよ? あなたが私達を助けたの」

 

 

「そんなの偶然だ!」と言おうとしたが、利奈はそれを口に出せなかった。

 

言い過ぎるなら猛獣恐怖症、その親玉的風格を放つ

大人っぽい怖そうな少女が間近で話しかけているのだ。

 

周りの猛獣達に笑われないよう気をつけて話を聞く。

 

 

不意に、ふわっと心を包まれたような柔らかな暖かさを、利奈は感じた。

 

 

……利奈にとっては、言われないのが当たり前だった。

 

 

いつか、得る事を諦めた言葉。

 

 

『道具』が聞くはずのない言葉。

 

 

 

 

「ありがとう! 貴方最高よ!」

 

 

 

 

上田「……!」

 

そう言い、彼女は利奈の頭をポンと叩く。

 

頭の中にぽかぽかと暖かく、ゆらゆらと優しく揺らめく。

 

例えるなら、アロマキャンドルを突っ込まれたような衝撃。

 

 

()()()()()

 

 

私に?

 

 

助けるのは当たり前じゃないのか?

 

 

役に立つのは当たり前じゃないのか?

 

 

だって、私は道具じゃ……

 

 

「すっげぇかっこよかったよな!棒持ってぶんぶん振り回してさ!」

 

「オイオイ棍だろ、棒ってお前な……」

 

足沢「ってか俺も飛べなかったもんな」

 

「 空 中 停 止 ね「うるせぇ風呂女」

なによ〜〜ホントの事じゃない、ねぇ? 「爆ぜろコラァ!」」

 

「なんかあの液体、魔力を吸うもんだから

捕まった時に行動起こせなかったもんな」

 

「うん、彼女が助けてくれなかったらかなり不味かったね」

 

「ホント、感謝だわぁ」

 

 

『ありがとう』

 

 

それは、とても些細な感謝の言葉。

 

それは、とても大切な言葉。

 

でも、利奈があまり聞く事のなくなってしまった言葉だった。

 

周りの猛獣達は利奈をバカにする事はなく、先程の戦いっぷりを

褒めたり賞賛したりして利奈に感謝の意を示した。

 

親にも褒められる事もない利奈は、言われ慣れてない

その出来事に只々穏やかな感動を覚えていた。

 

もう少し感動が大きかったら涙腺が緩み、涙が流れていただろう。

 

無いに等しい自分の存在を肯定されているような気がした。

 

蜜毒のグリーフシードを握りしめ、心を温める感情に浸る。

 

マイナスの感情はなく、思想がいい方向に働いている。

 

プラスの感情が利奈を包み、嬉しさや感動が頭に溢れる。

 

 

これが『希望』……か、『道具』としての利奈の運命を変える『希望』。

 

これが多分……これから、利奈が得ることになる希望。

 

利奈が、得ていく希望。

 

今日の出来事は利奈にとって1つの転機になるだろう、

半数の猛獣達の長を務める者にその実力を認められたのだから。

 

 

頭から手を離した彼女は、利奈にその手を差し出す。

 

 

「私は下鳥優梨(しもどりゆうり)、この辺の魔法使いを束ねる者と言った所かしら」

 

上田「上田利奈です、よろしく下鳥さ「優梨で良いわよ」……優梨さん?」

 

下鳥「優梨で良いの! 敬語は好きじゃないの」

 

上田「あぁ……じゃあ、優梨」

 

下鳥「それでいいわ、よろしくね利奈」

 

上田「よろしくおねがいします」

 

 

利奈は優梨の手を取り握手を交わした。

握手が終わった後も、優梨は話を続ける。

 

 

下鳥「いつも私の仲間があなたをいじっててごめんなさいね。

 

悪気はないのよ? 可愛がってるみたいなものだから!

 

でも、何か嫌になったら私に言ってちょうだいね?

 

私の仲間内は……まぁ、私を含めてバカばかりだけど。

 

言ったら、分かる人ばかりだから」

 

 

利奈が使()()()()()()所を見ていたのだろうか?

 

どちらにせよ、これをきっかけに利奈は花組で過ごしやすくなるだろう。

 

猛獣達に詳しくなったし、一部の猛獣達に恩も作ったし、

ちょっとした安全な逃げ道だって増えたのだから。

 

 

上田「う、うん。 わかったよ」

 

下鳥「こういう時はおつかれさまかしら? おつかれさま、利奈」

 

上田「おつかれさま、優梨……ありがとう」

 

下鳥「?、私何かしたかしら? 逆にありがとうよ、もう!」

 

 

一通りの話を終え、利奈は優梨とその仲間達とで

治療やら浄化やらを済ませ、その場から去って行った。

 

今度はこっそりではなく、ちゃんとまたねやさようならを告げて。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

……そうして、利奈は優梨と出会った。

 

この時の利奈はまだ知らない、彼女もまた、

利奈にとって重要な人物となる事に。

 

彼女の内に秘める強い『光』に。

 

 

まぁ、それはまた、後のお話……。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

篠田「ありがとう利奈! おかげで全部出来たよーー!!」

 

 

 

篠田「全ては(男性アイドル)君の為に!!」

 

 

 

清水「『仲間』だ、それも最高のな」

 

 

 

「 私 の モ ノ に な る の ……!!」

 

 

 

〜終……(12)舞う花々と1人飛び〜

〜次……(13)儚き月光と枯れ紫陽花〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




……ふむ、だいぶこの書き方も様になって来ましたね。

日常に魔女戦と一通り書いてみましたが、自然に書けているのが自分でもわかるくらいですね。

情景描写は得意中の得意中なので悪いとこ誤魔化す勢いで、
 ガ ン ガ ン ぶち込んでいきますよーー!w


……とと、真面目な話ばっかりしても面白味がないのでシメとしてここで1つ。


ハピナ「ポテチはまろやかバターに限る!! これだけは譲らないもんね! 合掌!!」


2015年12月19日(土)2:48 『例の彼』の落書き、完成。

【挿絵表示】



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(13)儚き月光と枯れ紫陽花

6(o ̄O ̄o)∂オッ!\(o ̄∇ ̄o)/ ハッーーー♪ 寝起きのハピナなのですよぉ!

……えぇ、かなり更新が遅れてますね。 ごめんなさい、ホントごめんなさい。

最近、軽くスランプになってまして、どんなシーンとはまだ言えませんが、
とある場面を書くのにものすごい時間がかかってしまったのです。

同時にとあるプロジェクトの為にちまちまと絵を描いていまして、
いやはや、みんな絵が上手すgゴッフォ(吐血

クリスマスに投稿出来れば良かったのですが、書き終わらずに2日後です。

早起きして頑張って書きましたよ。

いつも以上にだらだらと書いていましたw

まぁ、結果かなり良い場面が書けましたよ。

いつか文書で読者の皆様の瞳からお涙頂戴出来ればなと企んでますw


さて、今回は前にちらっと出た『灰戸八児』、
その子がどんな子か明白になる感じですね。

一体どんな性格の子なんでしょうか?

読者の皆様、特に提供者の方! 楽しみにしていてくださいな。

始まりの文章も絶賛試験運用中。 さて、舞台の幕は再び上がりました……。
今は寒い季節、体を冷やさないように暖かくして閲覧してくださいな。


《4月17日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除や『「」』の変更
○その他修正(追加、索敵等)



季節は冬、雪ももう少しで降るんじゃないか? と思う程の冷え込みだった。

 

建物や車の中は、暖房が池宮各地で働いている。

 

花組の教室も暖房が効いて、無駄にポカポカと暖かい。

 

ストーブの上では誰かの靴下やマフラーが干され、

その前では不真面目達がたむろしてジャングルを生み出している。

 

相変わらずのやかましさ、これが教室内の湿気の原因だろう。

 

 

そんな花組に空を飛ぶ魔法が定着した頃、1人1人の実力もだいぶ上がってきた。

 

支援を求める魔法使いもかなり減った。

海里が手に入れた情報によると、倒せず逃げるというのはかなり減ったらしい。

 

ということは、真面目達はそれなりにグリーフシードを

自力で手に入れる事ができるようになったという事だ。

 

支援の要望が少ないのはいい事。

 

猛獣達はというと、相変わらず悪行の限りを尽くしているようで。

 

魔女や魔男の大半も、不真面目達のソウルジェムからだ。

 

 

ところで、この頃になるとリュミエールの間ではとある疑問が浮上してくる。

 

あくまで、魔法使いの魔法を遊びと扱いふざける者たち。

勉強嫌いな彼ら彼女らは特訓という事をしない。

 

まぁ海里みたいな例外もいるが、大半がめんどくさがって何もしない。

 

当然、魔女や魔男を倒し切る確率も五分五分といった所だ、

グリーフシードの回収率も微妙なのが痛い点。

 

 

では何故、不真面目は成立しているのか?

 

 

真面目と対等の勢力を保っていられるのか?

 

 

利奈を慕うようになった優梨が、一部の裏の情報を

海里に回してくれるようになった事でわかった情報なのだが……

 

一部の不真面目な生徒達がなんらかの方法で、

グリーフシードを『量産』している……という事がわかったらしい。

 

だが、それをやっているのはごく少数で優梨も方法までは知らないんだとか。

 

『量産』……どういう事だろうか?

 

まぁ、今は無駄に暖かい教室で眠気と戦いながら勉強するだけだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

昼休み、いつものように利奈は理科室でくつろいでいた。

 

時に何もないこの日は利奈が絵莉の宿題の手伝いをしていた。

 

芹香は向かいで本を読んでおり、海里は机に伏せて爆睡している。

 

 

上田「……となると、この問題の解答はどうなる?」

 

篠田「う〜〜んと……(ア)? (イ)?」

 

上田「顔を見て答えを伺わないの! 正解は(ウ)になるよ。

まぁ、これは応用問題だから難しいのは当たり前か」

 

篠田「ありがとう利奈! おかげで全部出来たよーー!!」

 

上田「ううん、絵莉ちゃんの飲み込みが早かったおかげだよ」

 

ハチべぇ「君達の『科学』という学習はかなり興味深い、

僕としても学ぶ面があるからね。 聞いて損な話ではないよ」

 

上田「あれ? ハチべぇってどこから授業聞いてるの?」

 

ハチべぇ「第三椛学園の校舎にはあちらこちらに

モミジの木が植えてあるからね、そこから聞いているんだよ」

 

上田「へぇ、窓の外から聞いているって事か」

 

篠田「寒いのに!? なんだか辛そう」

ハチべぇ「わけがわからないよ、僕には理解出来ない」

 

 

2人が宿題を終えると、理科室に誰か勢いよく入ってきた。

 

歩いて来てから踏ん張りをつけ、一気に飛び込んできたみたいだ。

 

ふむ、前と比べて彼は学習している。

 

ハチべぇはその身をテーブルの下に隠してしまった。

 

 

武川「オイラピカピカ金ぴかりん!

月にも負けないまぶしい電球! 腹筋に笑いを即蓄電!

池宮の電気屋といったら電球少年ぴっぴかり!!」

 

篠田「あっ、ぴかりだ!」

 

武川「ハゥイ! やぁ絵莉、久々に状況報告って事でオイラやってきたぜ!」

 

 

ニコニコしながら絵莉の隣に座る光。

 

芹香は海里を起こすため、読んでいた本にしおりを挟んで海里の体を揺すった。

 

 

月村「ほら、起きなさい。 あなたも聞くべき話よ」

 

清水「……ん? ぁあ? 寝かせろよぉ……

まだチャイム鳴ってねぇだろぉ……? おやす「起きなさい」み……

 

わかった、わかったから、本の角持って構えないでくれ。

地味におっかねぇよそれで殴られたら痛いんだって」

 

 

眠そうにしていた海里だったが、無表情で本を構える芹香を見て

だるそうに海里は起き上がり、ちょうど光の向かいに座った。

 

芹香も、利奈の向かいに座る。

 

 

武川「ごめん、やっぱし面白半分で探しに行く人が何人か出てきてた。

オイラのとこにも何枚かその時の写真が来てる」

 

清水「写真?」

 

武川「ほら! 例えばこれ、『路地裏に突如現れたマンホール!』っていう題名のなんだ」

 

 

光が見せて来たのはフレームに入った写真だった。

 

そこには路地裏の道の真ん中で光る割れたカップと

零れた液体のエンブレムがハッキリと写し出されていた。

 

 

上田「蜜毒の魔女……」

 

武川「え?」

 

上田「あ、ううん、なんでもない。 ごめんなさい、続けてぴかりさん」

 

武川「お、おう。

 

チョコレートに似た甘い香りがしてて匂いに惹かれて近づいたけど、

マンホールの中から悲鳴みたいなのが聞こえた気がして、

なんだか怖くなっちゃって写真だけ撮って逃げて来たんだとさ」

 

清水「そういや言ってたな……空を飛べないと倒せない魔女だっけか?」

 

篠田「そんなのいるの!?」

 

清水「あぁ、その場にいた足沢ってやつから聞いたんだが、

どうやら掴まれる場所も足場も何もないらしい」

 

月村「飛行魔法を広めて正解だったわね」

 

清水「それと、うちのエースが活躍してくれたようだな」

 

そう、笑みを見せて海里は利奈の方を見て言った。

 

篠田「利奈が!?」

 

月村「……すごいわね」

 

 

絵莉は驚いて利奈を見て、芹香は良い意味で「またか」という感じで見た。

視線が集まった視線の先の本人は顔を赤らめて動揺する。

 

 

上田「え、えっ!? わっ、わわわ私は何もしてないよ!

普通に他の人のお手伝いをしただけで「嘘だな」ふぇっ!?」

 

海里「蜜毒の魔女だっけか? はぐらかしたつもりみたいだったが悪りぃな、俺情報には敏感だし」

 

上田「え、あ、うぅ……」

 

 

既に利奈の顔は赤に染まる、それをどこか面白がるように海里は話を続けた。

 

清水「喜んでたぜ? 空を自在に飛べるようになったって、

利奈がいなかったら全滅だったらしいじゃねぇか」

 

武川「ぜっ、全滅!? なんか笑えない話だな……

花組の魔法使い達は空を飛べるようになったんじゃなったのかい?」

 

月村「……そこまで情報が漏れているのね。

確か飛行魔法の事はまだ公に言ってないはずよ」

 

清水「想定済みだ、構わない。 まぁ仕置きをする事は変わらんがな」

 

そう言った海里から一瞬、絶対零度の殺気がぶわっと起きた……

ような気がしたが、思わず引きつる一同を他所にして海里は話を続けた。

 

ん、利奈? 鋼メンタル。

 

 

清水「にしても、悪かったな利奈。

あいつら、どう教えても真面目に飛ぶ練習をしようとしないもんでな……

出来ても空中停止までだった、俺の力量不足だったな。

俺がもうちょっと上手く教えてればなぁ……」

 

上田「えっ、なんで清水さんが謝るの!?」

 

清水「……は? ってか海里だよ」

 

 

利奈はそう言ってガタッと立ち上がると、そのまま話を続け出した。

 

 

上田「だって、何もしてないわけじゃないし、

飛べなかった人達が空中停止まで出来るようになったんでしょ?

 

わっ、私は話す事に関しては鈍いけど、話を聞かない人達を……

それもたくさんまとめて魔法を覚えさせたのはすごいと思うよ!」

 

 

主張が少ない利奈からの赤面を振り払っての主張、

絵莉は驚き、海里はぽかんとした。光はへぇ〜〜という様子。

 

こんな発想が出来る子なのかとそれぞれの反応をする中で、

芹香は「本当はこういう子なのよ」と言って、

相変わらずこの子は……という様子で小さく笑っていた。

 

 

武川「海里、いい部下を持ったね」

 

清水「……『部下』じゃねぇな」

 

武川「え? じゃあ……一体なんだい? オイラわからん!

脳味噌が電球みたいにツルツルだ!」

 

 

それを聞いた絵莉が口を抑えて笑うのを堪え始める。

ちょいちょい笑いをとろうとする光だが、芹香のツボではないらしい。

 

海里はお前なぁ……と軽い汗をかいて引きつった笑みを見せると、

 

一度その笑みを抑えて一言、言った。

 

 

清水「『仲間』だ、それも最高のな。

 

 

こんな良い仲間のいるチームのリーダーをやる事が出来て、俺は嬉しく思うぜ」

 

篠田「へぇ〜〜! 海里でもそういう事言えるんだ?」

清水「お前ちょっとこっち来い」

 

武川「おぉ! 見事なまでのボケとツッコミだぁ!!」

 

月村「……あなた抜かりないわね」

 

武川「もちろんだとも! オイラピカピカ金ぴかへぶっ!?」

 

 

椅子の上に立って彼特有の決めセリフを言おうとした時、小さな消しゴムが彼のおでこを直撃した。

 

ピシッ! っと、ゴムが皮膚に当たるマヌケな音が小さく鳴る。

 

 

月村「椅子の上から降りなさい、突然立ち上がって……危なっかしい」

 

武川「……ハゥイ」

 

 

光はふざけた返事でせめてもの反撃をかますが、反撃も虚しく大人しく座る。

 

利奈はそんな日常にウェヒヒとはならないがえへへと可愛げに笑う。

 

なんだかんだ言って皆、仲が良いのだ。

 

 

 

 

そんな中、リュミエールの溜まる理科室にあまり見かけない顔が訪問して来た。

短めに刈り上げたツンツン頭……利奈が知ってる顔で、光の相棒だ。

 

 

篠田「あれ、海里! お客さんだよ!」

 

月村「……見かけない顔ね、私は見た事がないわ」

 

清水「月組の情報屋だな、名前は確か……灰戸八児」

 

灰戸「流石は花組の情報屋、清水海里。 僕の事を知ってたみたいだね」

 

清水「当たり前だろ! そんな人の名前だなんて

細かい事まで知らないで、情報屋なんてやってられねぇよ」

 

 

側から見れば、笑い合いながら2人は話しているが……

 

2人の後ろに虎と龍がいるような気迫が理科室を熱していた。

 

皆気迫に押されていたが、そんな空気を利奈の天然が無にしてしまう。

 

 

上田「あっ、灰戸さん」

 

清水「ん? 利奈知り合いなのか?」

 

灰戸「上田利奈さん、だね。 久しぶり利奈ちゃん」

 

上田「ちゃん!? あ、えっと」

 

 

ちゃん付けされた事のない利奈は驚きと恥ずかしさで軽く赤面になる。

海里がちょっとイラっとした様子で利奈の前にズイッと出た。

 

 

清水「利奈の事を知っていたんだな。 なぁ、 や つ じ ? 」

 

灰戸「僕の事は 名 字 で呼んでね?

 

一度、月組に遊びに来ていたから、付き添ってあげていたんだよ、

その日の漫才が終わるまでずっと彼女にね」

 

清水「付き添……!?」

 

灰戸「あれ? ごめん、怒っちゃったのか。

その様子だと君は利奈ちゃんの事がs

「だああああやめろおおおお!!」あらら……」

 

 

八児は海里の感情がよく分かっているようで、なんとか優しく落ち着けようとはしているが……

 

言っている事が真っ直ぐすぎる為海里はヒートアップしてしまっている。

 

八児も性格か、諦めようとしない為に事態が泥沼化。

 

利奈は海里にがっちり守られ、コミュニケーション能力の低さもあって

どうしたら良いかわからなくなってしまっている。

 

 

武川「……すごいでしょ、これで全く悪気がないんだよ灰戸」

 

篠田「海里があんなになるの初めて見たよ、ライバル同士だから?」

 

月村「そうじゃないにしろ、

見た感じ月組の情報屋が悪い人でないのは間違いないわね」

 

武川「およ? ちょっと灰戸!

昼休みはみんなの宿題まとめて先生に提出って……」

 

灰戸「あぁ、それは給食直後に終わらせたよ……

って、そうだった。 こんな事している場合じゃない」

 

清水「おい! まだ話は終わってねぇz「海里! ストップ! お願い!」

のわっ!? 今海里って……って待て待て待て!

わかった、わかったから後ろから揺さぶるな!」

 

 

利奈は海里の肩を後ろから掴むと、必死になって揺さぶった。

 

かなり強引な手段だが、これが利奈の精一杯だ。

 

突然これをされたら海里でも流石に大人しくなる。

 

海里は利奈てを肩から外して「ほら、落ち着いただろ?」と言った。

 

彼の額には冷や汗……事態が落ち着くと、灰戸は本題に入った。

 

灰戸「ぴかり、君を指名して呼んでいる人がいる。

探しても見つからなかったから、僕に捜索を頼んで来たんだ。

 

君の事だから、お笑いのネタを求めて魔法使いについて調べようと

リュミエールという魔法使いのチームを尋ねるかと思ってね。

 

以前、君から理科室の事は聞いていたからここに来たのさ」

 

武川「オイラを? 一体誰が呼んでいるんだい?」

 

灰戸「それが……

 

『誰が呼んでいるかは言わないで欲しい、言ったら絶対に来ないから』

 

って言われて来ているんだ、大丈夫かい? ぴかり」

 

武川「全然? 大丈夫大丈夫。

どんな相手でも笑わすのがオイラのポリシー!」

灰戸「笑わすのは良いけど程々にしておくれよ」

 

 

灰戸が冷や汗をかく傍、光は大笑いをした。

でも、光なりに考えている所はあるらしく、笑いを収めて真顔になった。

 

 

武川「……と、言いたいとこなんだけど、

やっぱり誰がわかんないとか不安だからみんなついてきてほしい!」

 

灰戸「それについてなんだけど、清水にも来てほしいらしい」

 

清水「気持ち悪りぃ呼び方しやがって……って、俺もか?」

 

灰戸「他にもリュミエール全体で知っている範囲の人物なら……

空野八雲、地屋力強 、あと下鳥優梨も呼ばれている」

 

上田「不真面目な人達ばっかりだね」

 

篠田「不真面目?」

 

月村「ギャルやヤンキーとか、日々を真面目に過ごさない人達の事よ。

ヤンキーがいる程この学校はひどい状態ではないけど、

髪の毛を染めたりしているチャラい男子は余裕でいるわね」

 

篠田「海里みたいな人達の事だね!」

清水「 お い コ ラ 待 て 」

 

月村「それより、早く行きましょう。

呼ばれているんだったらこんな所で無駄話してる場合じゃないわ」

 

灰戸「うん、あと来ていないのはぴかりと花組数名だし、

昼休みが終わらない内に早く4階の室内広場に行こう」

 

清水「よし、そうと決まれば行くか。

リュミエール出張ってか? 行こうぜぴかり!」

 

武川「ハゥイ!」

 

灰戸「僕は残りの人々を呼んでから室内広場に行くよ」

 

清水「利奈、絵莉、月村さんは時間を置いてから来てくれ。

隠れるのは利奈、時間を見るのは月村さんがやればバレずに覗けるだろ」

 

篠田「……あれ、あたしは?」

 

清水「その無駄なアイドルオーラを消しておけ、やたら目立つ」

篠田「もっと別の事なかったの!?」

 

上田「あはは……早く行こう絵莉ちゃん」

 

篠田「む〜〜……」

 

 

不機嫌な絵莉の腕を引っ張り、理科室から出ようとしない絵莉を

多少強引に理科室から出した。 あらら、まだ怒っている。

 

芹香は絵莉に呆れたような様子を見せると、利奈について行った。

 

隠れていたハチべぇも、机の影から出て来て利奈について行く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

月村「……そろそろね、行きましょう」

 

 

若干ひんやりとする廊下で適当な談話をしていた3人だったが、

芹香の言葉を皮切りに、階段を淡々と上がっていく。

 

ふと利奈の足元で、階段を登るハチべぇに利奈が念話で話しかける。

 

 

上田((そういえばハチべぇ、最近見なかったけどどこに行ってたの?))

 

ハチべぇ((僕は個体数が少ないからね。

利奈達が見ない間、他の魔法使い達の様子を見ていたのさ))

 

上田((個体数ってハチべぇ……ハチべぇっていっぱいいるって事?

私にしたら、かなりわけわかんない考えだけど))

 

ハチべぇ((わけがわからないのがわけがわからないよ。))

上田((すごい複雑な事になってるよハチべぇ))

 

ハチべぇ((僕、ハチべぇという存在は僕1人だけではない。

もし僕が何らかの形で死んだとしても、他の僕が後任を努めるからね。

 

でも、魔法使い達は無駄な殺傷は好まないみたいだ。

 

僕は先駆者より、その個体数はかなり少ない。

無意味に潰されるのは先駆者よりも避けるべきだね))

 

上田((逆にハチべぇを簡単に殺しちゃう人もいるんだ……

結構ひどい事しているんだね、簡単に殺せちゃうなんてあり得ないよ))

 

ハチべぇ((…………))

 

上田((ん? どうしたのハチべぇ?))

 

ハチべぇ((君はかなり特殊な子なんだね))

 

上田((……へ、特殊?))

 

 

それは、下手をしたら悪口にもなりうる言葉だ。

 

でも利奈は、長い付き合いでハチべぇの事は大体わかっている。

 

これには、()()()()()()()()()()と。

 

 

ハチべぇ((先駆者も含め、魔法使いのシステムというのは

その本質がバレてしまった瞬間から契約の提示者は嫌われる傾向にある。

 

そんな中、利奈は嫌う事もなくこうして普通に、

それも親しげに話しかけてくることを続行している。

 

僕としとはありがたいけど、魔法使いにしてはとてもイレギュラーだ。

 

君の思考が気になる所だね))

 

上田((そりゃあ……

 

 

ハチべぇは嘘、つかないから))

 

 

それを念話で送る利奈は、瞳に光がなくどこか悲しげだった。

感情を持たないハチべぇはそんな事の真意はわからない。

 

 

ハチべぇ((嘘をつくというのは、とても複雑で面倒な行為だ。

何か明白な使う機会がない限り、僕はその行為をする利点がない))

 

上田((あはは、そうだよね。 何だかすごく安心したよ))

ハチべぇ((わけがわからないよ!))

 

月村「なにボケっとしてるの、もうすぐ何か始まるみたいよ」

 

篠田「利奈! こっちこっち!」

 

 

利奈がハッとして前を見ると、2人は小声で利奈を呼びながら

芹香は廊下の出入口から様子を伺い、絵莉は手招きをしている。

 

 

上田「あっ、ごめん」

 

 

利奈はハチべぇに両手を差し出して腕の中に乗るよう促すと、

ハチべぇは素直にそこに乗って利奈に抱っこされた。

 

利奈は2人の元に音を立てないようそそくさと催促される場所に向かう。

 

 

 

 

3人と1匹が廊下の角からこっそり様子を伺うと、そこからは数人の猛獣達と海里の姿が見えた。

 

花組と月組の不真面目を合わせてもっとたくさんの人数が

その場所にはいると予測できるが、ここからはあまり見えない。

 

廊下が静かなせいか、ありがたい事に距離があっても

不真面目達の話し声を充分聞き取る事が出来る。

 

 

武川「もう君とは何の関係もないと言ったし決まったはずだろう!?

それなのに、なんなんだいこの状況は!?」

 

「違うの! 光君は勘違いしてるの!

 

私はちょっと想いが逸れちゃっただけで、光君への愛は途絶えてないの!

 

ほら、光君のために『最高の美貌』を手にいれたの。

 

私達は別れても別れてきれない 強 固 な 愛 で繋がれてるの!!」

 

武川「いい加減にしてくれ!! オイラと君はもう何も関係ない!!」

 

 

見ると、周りの不真面目達は……

 

まるで画面越しの寸劇を見るようにニヤニヤとしながら見ているが、

海里は笑う事はなく、時折怒りを覚えるような様子でその光景を眺めている。

 

その光景が利奈達に見えることはない。

 

 

篠田「……紫香だ」

 

上田「え?」

 

月村「あら、あなた、この狂気じみた声の主を知っているの?」

 

篠田「知ってるよ、紫香(ゆか)は私とぴかり同様に同じ小学校に通ってたから。

紫香は……元々、ぴかりと付き合っていたから。

中学2年生に進学した直後に、なんかあって別れたみたい」

 

上田「ぴかりにとって重要な人が私達から見えない位置にいるのね」

 

ハチべぇ「絵莉、君はどうして彼女のことを詳しく知っているんだい?

 

少なくとも、僕が観察してきた間は彼女と君がコンタクトを取る事は数えるほどなのに」

 

篠田「それは……」

 

 

ハチべぇの的確な質問に、絵莉は何故か暗い顔をした。

気難しそうに口を結ぶ頃、絵莉の言う紫香は段々と声トーンが下がり始める。

 

 

三矢「ねぇ、どうして? どうして!?

 

私はあなたが好きなの! どうしてこの愛を受け取ってくれないの!?

 

私は光君が好きなの! 光君も私が好きなの!

 

光君の為ならなんでもするの! 光君の想いを知るのは私だけなの!

 

光君は誰にも渡さないの! 光君の全てを知ってるの!

 

お笑いでもなんでも受け入れるの!!

 

だから、だから……!

 

 

 

 

私 の モ ノ に な る の ……!!」

 

 

 

 

その時の言葉と言ったら、欲にまみれてしわがれて……

時には狂気、最後は恐ろしささえ感じ取れたらしい。

 

パキンッと何かが割れたような音がかすかにしたかと思うと、

廊下の角にまでに黒い魔力が届いた。

 

噴き出してその勢いが止まったかと思うと、その流れは逆になる。

 

 

 

 

 吸 わ れ る ! !

 

 

 

 

上田「捕まって! 早く何処かに!!」

 

 

利奈の声を聞いた絵莉は柱に捕まった。

 

反応が遅かった芹香は利奈にその腕を掴まれ、階段の手すりに引き寄せられた。

 

利奈と芹香が手すりを手にした所で黒い魔力による吸引の開始。

 

断末魔が聞こえたような気がしたが、その音でさえ吸引され、

荒れ狂う魔力の轟音しか残っていない。

 

ガタガタと震える教室の扉もまるで音の無いの映像のようだ。

 

 

篠田「もうやめてよ紫香ああああああ!!」

 

 

彼女の凄まじい『独占欲』は、

魔女として生成される時も発揮されてしまったらしい。

 

卑劣な叫びを絵莉があげようが、容赦無く吸いつくす。

 

吸引先は大体予想がつく、作戦も組まず変身もしてない状態で

未知なる魔女の結界なんかに放り込まれたら一溜まりもない。

 

海里や八児、光の事が気になるが……魔力の吸引が収まるまで、今は耐える事しか出来ない。

 

 

 

 

清水「うらあぁっ!!」

 

灰戸「ぅわっ!? な……!? 何するんだ清水!?」

 

清水「お前は魔法使いじゃねぇんだ! とっとと花組から増援呼んで来」……

 

灰戸「清水いいぃぃぃぃ!!」

 

 

 

 

空野「荒れ狂う風よ! かけがえない相棒の風を反転さ」……

 

地屋「ちょ!? バカ野郎!! ここは俺の重量操作だろ!!

 

っ……! くそっ!!

 

 

 激! 増! 減!! 」

 

 

 

 

……しばらくして、魔力の吸引は収まった。

 

延々と吸い続ける性質でないのが、不幸中の最大の幸いだろう。

 

その場には、いづらいような悪い空気だけが残る。

 

 

月村「……ありがとう、利奈」

 

 

よほど危なかったのか、普段お礼を言わない彼女は素直にお礼を告げた。

言われた利奈は相変わらず、「手すりに引き寄せただけだよ」と言うだけ。

 

 

……それよりも

 

 

上田「絵莉ちゃん? だ、大丈夫? すごい顔になってるよ?」

 

篠田「……え? あ、あ〜〜大丈夫!

ちょっと嫌な事、思い出しただけだよ。

 

 

絵莉はハッとして首を横にぶんぶんと振ると、ニコっとアイドル並の可愛い笑顔を見せた。

 

いつもと比べて……無理をしている感じはあるが。

 

それぞれの怪我や安否を確認すると、リュミエール女子組3人は室内広場へと急いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

廊下から延長して広げられた、広々としたスペース。

 

その広さを例えるなら……体育館には遠く及ばないが、

鬼ごっこをするには十分な広さだと言えば大体の予想は付くだろう。

 

この学校には、そんな感じの室内広場が全ての階に設置されている。

 

廊下をしばらく進み、室内広場が見えるようになると

そこには銅の色……濃紅色の魔力が何人かの少年少女を包んでいる。

 

壁には大きなエンブレムがでかでかと室内広場の最奥に存在していた。

 

どうやら、これが魔女の結界の入口らしい。

 

 

地屋「重量操作! 解除!」

 

 

その掛け声とともに、皆にまとっていた魔力はフッと消える。

多くの生徒は苦い顔をしながらノロノロと起き上がった。

 

花組は不満げな様子だが、月組は完全に怯えている。

 

 

「おい! もうちょっと調節出来なかったのか!?」

 

「重過ぎ、バカじゃないの?」

 

地屋「悪りぃ……咄嗟だったもんで細かい事出来なかったわ」

 

「まぁそれは仕方ねぇ、力強が魔法使わなきゃ俺たちは今頃結界の中だ」

 

「そりゃそうか」

 

 

度重なる魔女や魔男との遭遇でかなり慣れてしまった為、花組はなんともあっさりした反応だ。

 

 

「なんだ……!? 急に体が重くなったり軽くなったり……」

 

「け、結界って何だよ?」

 

「何よ! あれは夢じゃなかったっての!?」

 

「ば、化け物が……化け物が……!!」

 

 

一方の月組……魔法使いになる前の日常を過ごしてきた花組のように、

半パニックになってそれぞれの程度で慌てふためいた。

 

ある者は甲高い悲鳴をあげ、ある者は挙動不審になる。

 

魔なる物に遭遇に対するパニック……花組の時はハチべぇが声をあげたが、

月組の時は月の長を務める彼、八児が声をあげた。

 

 

灰戸「みんな! 落ち着いて! 今はよく分からないけど、吸い込まれた人達の為に行動するんだ!

 

まず誰でもいいから花組の生徒をここに連れてきて、

僕らのクラスメートには近寄らないよう説明と警告。

 

鳥組と風組には……そうだな、

 

『花組と月組でとても大事な話をしている、

他の組に聞かれたくないから4階にはしばらく来ないでほしい』

 

と言えばなんとかなるだろう。

 

鳥組は一部盗み聞きに来るかもしれないけど、

風組には賢い子が多いから引き止めてくれると思う。

 

今、とても驚いたり怖かったりするのは同じ場にいた僕には痛いほどわかる。

 

でも、どこかに吸われてしまった生徒達は

もっとひどい目にあっているかもしれない……

 

僕らは僕らに出来る事をしよう!」

 

「……お前も震えてんじゃねぇか」

 

灰戸「え? ……あ」

 

「もう、他人の感情に敏感なくせに、自身への感情には鈍いんだから」

 

「でも、なんか元気出てきたわ! その根性を賞して行ってやるか!」

 

灰戸「あ、はは……ごめん、気がついたら怖くなってきた。

悪いけど先に行っててくれないか? 後から追いつくよ」

 

「おう、落ち着いたら来いよ」

 

「私達も行こう、花組の魔法使い達呼んでこなきゃ!」

 

「だな、見つけ次第ここに来いって言うぞ!」

 

 

そうして、花組と月組の生徒は4Fの階段を足早に降りていった。

 

 

上田「だ、大丈夫ですか?」

 

 

ハチべぇがぬいぐるみのふりをする中、

利奈は片手、手を添える形で灰戸が立ち上がるのを手伝った。

 

 

灰戸「あ……う、ん、大丈夫。 大分収まってきた。

 

すまない、僕のせいで清……海里が吸い込まれてしまった。

 

ぴかりも恐らくこの中だ、他も探したけど見あたらない」

 

篠田「そんな……!!」

 

月村「落ち着きなさい絵莉、灰戸さん……だったかしら? 今の状況説明をできる余裕はあるの?」

 

 

八児は元気なくうなづくと、ぽつぽつと状況を説明しだした。

 

 

光は黒い何かを至近距離から浴び、吸引が始まる頃にはすでに姿がなかったという事。

 

 

自ら黒い魔力と共に吸い込まれそうになった時、海里が室内広場の外側まで蹴り飛ばしてくれた事。

 

 

吸引にさらされてもなお、室内広場にいた生徒は地屋力強という花組の生徒が助けたのだという事。

 

 

灰戸「事態は一刻を争う……あの光るマークの向こうで何が起こっているかもわからない。

早いとこ手を打たないと」

中野「これは何事だ!?」

 

 

しばらくして、花組の真面目一同が階段を駆け上がって4Fにやってきた。

 

 

筆頭は花組のクラス長、中野蹴太。

 

 

「わっ!? 魔女のエンブレムだ!」

 

「あいつら……何をしでかしたんだ?

学校で魔女が生まれるとかあまりにも例外だぞ」

 

「それよりどう進めるかとっとと決めようぜ!」

 

「なるべく早くしねぇとな!」

 

「えぇ、向こうで何が起きているかもわからないもの」

 

 

決まった後の行動は早かった、蹴太を中心に話が進む……

 

 

結果、花組一同はキレイに割り振られた。

 

 

上田(……あれ? 中村さんってあんなにみんなをまとめるの上手だっけ?

あ、私は前衛組になったのか、頑張らなきゃ! 今は集中それにしよう)

 

 

蹴太の割り振りによって、真面目な花組と一部不真面目な生徒達は

『前衛』『前衛補佐』『後衛』に分けられた。

 

同じ飛行魔法のタイプが固まるように組んだらしく、

前衛補佐の絵莉はまだしも、残念ながら芹香は後衛になった。

 

まぁ当然と言っちゃあ当然だろう、彼女の魔法は後衛向けだ。

 

芹香は利奈と絵莉に「頑張りなさいよ」と告げると、

彼女にとって慣れない人は多い後衛組の輪の中に入っていった。

 

 

前衛組は、まず先頭は中野蹴太。

 

利奈の知り合いはというと、『地屋力強』と『青冝天音』位か。

 

その他真面目な花組がちらほら。

 

 

上田「空野さんが!?」

 

地屋「あぁ、あいつ……俺の方が犠牲になる予定だったのによ、

八雲が逃げる事を完全に諦めて俺の周りの風向きを真逆にしたんだ。

八雲、馬鹿なことしやがって……!」

 

青冝「ホント、強固な友情よね。 空野も同じ気持ちだったのよきっと」

 

地屋「っ……!」

 

灰戸「僕は魔法使いじゃないから詳しい事はわからないけど、

海里も、ぴかりも、空野君も、みんなみんな……無事だ!」

 

地屋「……だよな、みんな無事だ無事! よっしゃとっとと助けてやるぞ!」

 

 

不安がまだ残るみたいだが、力強は気合を十分に入れた。

 

 

上田(清水さん……ぴかりさん……)

 

 

皆それぞれ、気になる人や心配な人がいるようだが、

この場で何もせずに嘆いている訳にはいかない。

 

結界内の様子がわからない以上、早々の攻略を目指す必要がある。

 

 

青冝「あぁ上田さん、絵莉は大丈夫だよ。

様子おかしいのもだいぶ落ち着いたみたいだから」

 

上田「クインテットの念話ですか?」

 

青冝「そうだよ、さっき花奏が念話で歌ってたから絵莉は元気出たのかも」

地屋「すげぇ器用だなオイ」

 

 

中野「みんな! 準備はいいか!」

 

 

その声を筆頭に、皆「おう!」っと声をあげた。

 

それぞれの変身を完了させる。

 

ここが4階じゃなかったら他の教室に聞こえてるぞ……!

 

早速蹴太が結界内に入っていった、利奈達も蹴太に続き結界に入って行く。

 

 

灰戸「気をつけてくれよ」

 

 

八児は1人、月組の仲間と共に戦いへと向かう花組を見送った。

 

 

健闘を祈りながら……。

 

 

 

 

ねぇ……紫香、なんでそんなに欲張るの?

 

 

 

 

もう、やめようよ……紫香。

 

 

 

 

だって、欲を満たして何かを手に入れる度、

どこか……紫香は、苦しそうなんだもん……!

 

 

 

 

満たされない『欲』、少女は欲にまみれて心を枯らした。

 

本当に欲しい物はなんだったのかも忘れ去った。

 

辛抱強い愛情は報われる事なく、 枯 れ 腐 っ た 。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

むせかえるような化粧品の匂いが、一同の鼻に刺さり吐き気を誘う。

 

所々にある大きめ紫陽花は、完全に枯れきり乾燥。

 

その華やかでもない姿の、なんと哀れなことか。

 

咲き誇るのを諦めた紫陽花は、なんとも無情に感じ取れる。

 

 

唇の魔女、性質は独占欲。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

中野「イキシサコネス!」

 

 

 

上田「不真面目嫌い?」

 

 

 

篠田「ぴかりいいぃぃぃ!!」

 

 

 

武川「なんっ! でやっ! ねんっ!!」

 

 

 

〜終……(13)儚き月光と枯れ紫陽花〜

〜次……(14)底無しの独占欲[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、本編も終わった事だし、ちょっと絵でも描いてみますか。
せっかく修正点を教えてもらったんだから描き直す以外の選択肢がないね!
(結果、茶番劇ぶち込む)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ハピナ「ほらほら! 笑って〜〜!」

「……いきなり言われても困るんだが」

ハピナ「そんなの簡単簡単! ちょっと口角吊り上げるだけだよ」

「そんなの、俺のキャラじゃない」

ハピナ「……ったく別人格に逃げるくせに変に自己主張激しいんだから」
「な ん か 言 っ た か ?」

ハピナ「別に? 空きスペースどうしよっかなって言っただけ。
あといい感じだから出したその黒い刀そのままね」

上田「あれ? 作者さん何してるの?」

ハピナ「おぉ、噂をすれば!

利奈ちょっとその子の隣に立ってよ、あと棍も出しといてちょうだい」


上田「アンヴォカシオン!


……これでいいの?」

ハピナ「ペアの構成に補色配色。 いいねいいね、完っ璧!」
清水「どこが 完 璧 だって?」

ハピナ「え? だってこの身長差といいz
いだだだだ!? 肩! ちょ! 潰れる!!」

月村「その位にしてあげなさい、海里」

篠田「おはよ〜〜! 作者さん!」

ハピナ「あ〜〜肩が千切れるかと思った・・・お、リュミエール勢ぞろいだね」

清水「近くに魔女がいたんでな、練習ついでにぶっ飛ばしてきた」
ハピナ「ロケ地が池宮市だもんなそういや」

篠田「何々? 写真撮るの?」

上田「絵を描く為に使うらしいよ」

篠田「絵? 何それすごい! あたしも入る〜〜!


教科書を開けっ!」


清水「って横のスペース空いてねぇじゃねぇか!
ったく、仕方ねぇなぁ……上なら空いてるな。


フリューゲル!」


「随分と賑やかになってきたな」

ハピナ「描く量増えるなこれ(白目」

月村「わ、私はどうしようかしら……」

上田「そういえば、芹香は写真苦手だったね」

篠田「おいでよ〜〜! 私の上空いてるよ!」

月村「……良い顔は出来ないわよ」

ハピナ「あっは、照れてやんの」
月村「黙りなさい」

ハピナ「さて、構図はこんなもんでいいね。 ほい! みんな笑って〜〜!」

「……賑やかな奴らだな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


で、後日この写真を元に描いた絵がこれ。

【挿絵表示】

結構いい感じに描けて大満足!

次は誰を描こうかな、彼かな? 彼女かな?
……まず画力を上げなきゃなぁ、作品汚しは避けるべきなのでね。


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(14)底無しの独占欲[前編]


( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \!!

さぁ~~ぷらいずですよ! 皆様!!
いつもと違うハピナです! 眠気でテンション崩壊です!!

( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

……うん、少し落ち着きますか。


ストック分2日で書き上げましたよ! おかげでこんなに早く次話投稿、まぁ今年最後の投稿になりますがね。

今年最後で前編って お い コ ラ 自 分 (;゚∀゚)


さて、今回は唇の魔女の結界の方からお送りします。

欲の性質を持つ魔女による結界……

さぞかしネットリした世界観になってしまいそうですが、
実際のところはどうなんでしょうね (・∀・)ニヤニヤ

2015年も後2日、うえマギは中途半端な所で閉めてしまいたいと思います。

まぁ、悪い言い方をするとこうなりますw

良い言い方をするなら、前編と後編が年をまたぐ作品って……
きっとうえマギだけですね! ちょっとした自慢です!(違


さて、舞台の幕を開きましょう。

今回の始まりはというと、4階にあるちょっとした広場。

そこにある唇の魔女のエンブレム……現実から異世界への向こう側。


《5月24日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除や『「」』の変更
○その他修正(追加、索敵等)



 

見渡す限りの極彩色。

 

藤紫になるはずの色彩達はキレイに混ざる事なく歪み、空間を汚く着飾ざらせた。

 

綺麗なはずの緑に輝くダイオプサイドの床は、

口紅が厚く塗りたくられて本来の光沢を失ってしまっている。

 

所々に無造作に咲く紫陽花は枯れきって乾燥し、

はらはらと枯れた花びらや木の葉がべたついた床に落ちる。

 

スベスベの石の地面にべったりとした口紅、そこから生み出される結果は……

 

 

 

 

尋 常 じ ゃ な く 滑 る !!

 

 

 

 

中野「よし!まずは状況確n」

 

 

……蹴太は慎重に入ったはずだったのだが、例の如く盛大にすっ転んでしまった。

 

魔法使いの衣装を着た身体中が、口紅でべっとべとになってしまう。

 

 

上田「うわっ!?」

 

青冝「え? ちょ、大丈夫なの!?」

 

地屋「……お前、相変わらず運悪りぃな」

 

上田「相変わらず?」

 

地屋「なんだ? 上田さんは知らなかったのか。

こいつ、花組じゃあ結構有名な《不幸体質》なんだぜ」

 

 

それを聞いた蹴太はがばっと起き上がり、半ギレで喋り出した。

 

 

中野「すっごく運が悪いんだよなあぁ僕!!

でも気にしてないよ……うん、いつものことだから!」

 

 

怒鳴るも同然でそう言うと、彼は深くため息をついた。

 

傾いてしまったメガネを直し、一風変わって真剣な顔になる。

 

それが合図なのか、彼の体からふつふつと水色の魔力が湧き出た。

 

 

中野「イキシサコネス!」

 

 

蹴太が魔法を使うと、ふわふわと湧き出ていた魔力は彼を覆うように安定する。

 

すると……すごい事に、蹴太の体から『口紅のみ』が剥がれるように浮かび上がった。

 

服の細部、繊維の奥にまで入り込んだ部分も全て。

 

終わった後に強めに横に手を払うと、浮かんでいた口紅の水滴は周囲に散らばった。

 

 

中野「やれやれ……なんともひどい目にあったな。

これはもう一度、作戦を見直す必要があるらしい」

 

そう言うと、蹴太はその場で両手を広げたまま一回転した。

 

すると、周囲に水色の魔力は広がって口紅は石の地面を這うようにずれる。

 

蹴太を中心に、口紅が塗られていないスペースを作られた。

 

 

「いつもの地味な魔法だな」

 

「物を動かすだけなんてね、でもおかげで難なく入れそう!」

 

中野「ちょっと!? 誰だ今地味な魔法って言ったの!? 一応認めるけどさ!?」

「認めるのかよオイ!」

 

 

皆、彼の魔法を笑っているが、利奈は何か違う物を感じていた。

 

 

そう、彼は『強い』のだと。

 

 

彼の魔法は『念力』の魔法、いわゆるサイコキネシス。

 

物体を動かす魔法のようだが、服の奥にまで入り込んだ微細な物体まで正確に操れる辺りが繊細。

 

他の魔法使いとは違う、何か別質な強さを感じたのだ。

 

 

中野「ほら! みんな集まって! 使い魔がいない内に話し切ってしまおう!

……ん? どうしたの? 僕の顔になにか付いてる?」

 

上田「あっ、いえ! ただ、すごい上手に魔法を使いこなすんだなって」

 

中野「僕が? っはは、そんな明確に褒める程の事でもないよ。

ただ『正確』ってだけで、僕だけだと何の力も無い。 僕が出来るのは仕切る事だけさ」

 

 

そう言って蹴太は爽やかに笑った、その笑いがどこか切ないのは気のせいか。

 

 

青冝「上田さぁ〜〜ん!こっちよ〜〜!」

 

地屋「蹴太も来いよ! 仕切るっつってもお前一応前衛だろ?」

 

中野「あ、今行くよ! それじゃあ行こうか」

 

上田「はい!」

 

 

蹴太が歩を早めると、利奈は慌ててそれについて行った。

 

 

ちなみに、ハチべぇはというと……

 

 

上田「ハチべぇ、結構長く抱っこしてるけど痛くない? あ、肩に移すね」

 

ハチべぇ「問題ないよ、僕の事は気にせず魔女討伐に神経を注ぐと良い」

 

 

移動中、利奈はハチべぇに自分に肩に乗るよう促した。

 

魔女討伐でハチべぇがいる時は、大抵利奈の肩に乗っている。

 

作戦を一通り組み直したり、構成を組み直したり、

これらを素早く行うやら……様々な事をみんなで話し合う。

 

 

 

 

一通り組み直した結果……前衛と前衛補佐は分解され、2グループに分けられた。

 

『前衛』『前衛補佐』『後衛』は『前衛A』『前衛B』『後衛』に組み分け直される。

 

後衛と前衛も何人か入れ替わり、利奈と絵莉と芹香は結局、同じ『前衛A』のグループになった。

 

蹴太は『後衛』の戦い方をみんなで相談しながら新たに組み直している。

 

これからの時間は、それ待ちと言った所か。

 

絵莉は素直に嬉しいようで、いつものようにはしゃいだ。

 

……いつもと比べるとなんだか、それ以上のような気もするが。

 

 

篠田「利奈ぁ! 月村さぁん! やった! 一緒になれたよ! やったあぁーー!!」

 

上田「良かったね絵莉ちゃん!」

 

篠田「うんっ!」

 

月村「あら、いつもより元気じゃない」

 

篠田「あれ、そう? 変だな、元気ないと思ってたのに……まぁいっか!」

 

月村「……変ね、いつもと違うわ」

 

上田「え? どうして?」

 

月村「あなた相変わらず鈍感ね」

上田「それはいいから本題話してよ」

 

月村「絵莉、いつもなら『いつもこんな感じだよ?』って肯定するじゃない」

 

上田「……あ、今のって否定だった! いつもの絵莉ちゃんなら絶対否定しないもん!」

 

月村「あの子……今回の魔女関連で何かしら因縁がありそうね」

 

篠田「?、2人ともどうしたの?」

 

月村「なんでもないわ、いつものように他愛のない話をしていただけよ」

 

上田「……あぁそうだ、飛行魔法の調子はどう?」

 

月村「かなり長くもつようになったわ。 飛行魔法のページを何枚か書いて、

折鶴にして周囲に飛ばしておけば私の魔法は自動供給される」

 

篠田「私もだいぶ良くなったよ!真剣にネットとかで調べて、

燃やす元素の配分を変えたりして無駄をかなり少なくできたの!」

 

月村「そういう利奈はどうなの?」

 

上田「身体の一部と言っていいほど慣れたよ。

もう立ったまま乗っても大丈夫だし、意識しなくても落ちないんだ」

 

月村「へぇ、かなり慣れたのね」

 

篠田「その内に棍で飛びながらジャンプしたりしてね」

 

上田「お? それ良いかも! 飛び慣れたらやってみるよ」

篠田「やるの!?」

 

月村「今すぐは流石にやらないでしょう……

利奈、慣れているのは良いけど、¥調子に乗ったらダメよ」

 

上田「分かってるよ、流石に羽目は外さないって!

こんなベッタベタな中で落っこちたら話にならないよ」

 

月村「気をつけてちょうだいね」

 

 

大丈夫かしら……という感じで、芹香は冷や汗をかいて利奈に引きつり気味に笑っている。

 

 

一通り話を終えると、そこに力強と天音がやってきた。

 

 

地屋「あ〜〜……すまん、リュミエールの3人ちょっと一緒に考えてくれないか?」

 

上田「?、どうしたの?」

 

青冝「地屋、空飛べないんだって」

 

篠田「え!?」

 

地屋「違 う わ! 条件が悪いんだって!」

 

青冝「何よ、どうせ真面目に練習やってこなかったんでしょ?」

 

地屋「おま……!」

 

篠田「わあああ!? ストップ! ストップ! 天音ストップ!!

天音の《不真面目嫌い》はわかるけどまず理由を聞かせてよ!」

 

上田「不真面目嫌い?」

 

青冝「…………」

 

地屋「何があったかは知らんが、俺にも助けたいやつがいるんだ。

お前に怒ってる暇は無い……今のところは免除してやるよ」

 

青冝「ごめん、なさい。 地屋見たいな人見てると自分の意思関係なくイラつくんだ」

地屋「厄介な性格だなオイ」

 

 

まぁとにかく、事情を知った力強は天音を許してあげた。

 

「俺は大丈夫だからな」と大口を開けて笑い、ふぅっと息を付いて話し出す。

 

 

地屋「俺の魔法が『重力』なのはみんなも知っての通りだ。

 

それで自分の体重をそこら辺の……まぁ軽いもんと交換して飛べるようにする訳だ」

 

月村「壁や床を蹴るなりして移動するって訳ね。

それg「あぁ! そっか!」……何よ、ビックリするじゃない」

 

上田「ここ、えっと……この結界、

 

 

『支えになる物』が1つもないんだよ!」

 

 

それを聞いた芹香は「あぁ、なるほど」と納得したような反応を見せた。

 

 

篠田「ふえ? どういう事?」

 

地屋「海里の言ってた通りだな、どんだけ発想力持ってんだよ上田さん」

 

 

これは敵わんなといった感じで力強は呆れると、絵莉にもわかるように飛べない理由を語り出す。

 

 

地屋「ようは『軽くなるだけで操作は別』って事!

普段は壁とか床を蹴ったりしてるが、そんなのはこの結界にはねぇみたいでな……」

 

青冝「その辺の枯れた紫陽花で何とかすればいいじゃん」

 

月村「無理ね、あまりにも乾燥し過ぎているわ。

 

無理に手すりなんかにしたらすぐに千切れるか折れるでしょうね。

 

……また怒ってるでしょう? 少しは自覚しなさい」

 

青冝「う、うぅ……」

 

 

いつもように冷たくあしらう芹香、それを言われた天音はというと、

流石に気をつけようとちゃんとした反省の態度を見せた。

 

反省し落ち込む天音を見て、利奈はふと、ある事を思いついた。

 

 

上田「あっ、そうだ! 青冝さんちょっと協力して欲しい事があるの」

 

青冝「……え? 私が何すればいいって?」

 

上田「うん、それで地屋さんにもお詫びする事が出来ると思うよ!」

 

青冝「?」

 

 

良い事を思いついたとばかりに利奈は少し自慢げに微笑んだ。

天音はまだどういう意味かがイマイチ理解出来ていない。

 

 

 

 

ちょっと時間が立ち、蹴太が『前衛A』と『前衛B』に声をかけてまわった。

 

どうやら、魔法使いたちの話し合いが終わったようだ。

 

蹴太は場をまとめ、魔法使いそれぞれに準備をさせる。

 

 

中野「みんな! 準備はいいかい?」

 

 

その声に答える、数々の魔法使い達。

 

 

……時は、満ちた!

 

 

中野「進めえええぇっ!!」

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

篠田「パラフィン・ナフテン!」

 

 

月村「第五章! 嵐の巻「飛行」! 対象は自身!」

 

 

地屋「ウエイトトレード! その辺にある枯れた花びらと()()2()()()()()を、トレード!」

 

 

青冝「ダブルスブロウ!」

 

 

飛行魔法が使える魔法使い達はその極彩色の空の中、

輝かしいばかりの魔力の光を明るく放ち、飛び立つ。

 

力強はというと、自らの重量を飛べる程までに軽くし、

『うちわ』で羽ばたいて風に吹かれる羽根の様に軽々と宙を舞った。

 

天音はそれを見守りながら、危なくなったらうちわを操ってフォローをする。

 

 

地屋「ふぃ~~! 助かったぜ! ちょっと調節とかが難しいが、飛べない事はないな!」

 

青冝「調子に乗らないでちょうだい、どれだけフォローしてると思ってるのよ」

 

篠田「まぁまぁ、飛べたんだし良いじゃない。

良かったね天音! 前より楽に飛べてるでしょ?」

 

青冝「う、軽いし楽には……飛べてる、今回はそんな無茶しなくても飛びながら戦闘出来そう」

 

 

まだ納得してなさそうな天音、だが安定して飛行できているのは事実。

 

どちらにしろ、体が軽いので簡単に飛ぶ事ができる。

 

基本嫌いな不真面目だが、地屋は別なんだなと自分なりに納得させる。

 

天音は嫌悪感を工夫しながら何とか減らし、うちわで羽ばたいた。

 

 

ふと下を見るなら、飛行魔法が使える蹴太がわざわざ地上をその足で走り、

入浴の魔法の魔法少女と共に、行く先行く先をどんどん洗い上げた。

 

恐らく、まだ飛行魔法を上手く使えない魔法使い達の為だろう。

空を飛ぶ魔法使い達と地上を走る魔法使い達は双方良い感じの距離を保っている。

 

 

((ってかあり得ない程順調だな!?))

 

((今回は簡単に終わるかな))

 

((しっかし無駄に広い結界だな))

 

((もう歩いても大丈夫? 何もいないし))

 

中野((いや、もう少し飛ぼう。 何かあったら困るからね))

 

((そうだね、油断大敵って事かな多分))

 

((多分かよ、合ってるぞ!))

 

 

頭に特に範囲の決まっていない念話が響く中、利奈は現状に疑問を持っていた。

 

 

上田「なんか、変だ」

 

篠田「変? 変って?」

 

上田「……えっと」

 

月村「言いたい事はわかるわ、使い魔が『あまりにも少なすぎる』わね。

何かをしてて襲ってこないならまだしも、存在自体が無いというのはあり得ないわ」

 

上田「う、うん。 それが言いたかったの」

 

地屋「『今回だけ使い魔がいねぇから』とかじゃないのか?」

 

青冝「それだと都合良すぎるわ」

 

篠田「ん~~、どうしてなんだ……ろ……」

 

 

絵莉が今使っているのは、視力を高める視力検査の魔法。

 

目を抑える丸に棒がついた黒い器具を左目に押し当て、

ふと抑えていない方の瞳を緑に光らせ魔法使い一同のより遠くを見た。

 

……その次だった、絵莉が急に飛行魔法の出力を上げて1人飛んで行ったのは。

 

 

青冝「絵莉!?」

 

月村「なっ……何してるの!!」

 

上田「待って絵莉ちゃん!!」

 

地屋「お、オイオイどうした!?」

 

 

スピードが早い利奈を筆頭に、絵莉を追いかけ魔法使い達は先を急いだ。

 

 

……飛べない魔法使い何人かを置いて。 なんというアンラッキー!

 

 

中野((待っ!? 待ってくれ!!))

「……行ってしまった」

 

「何やってんだよあいつら!!」

 

「あの先に何かあったのかな?」

 

中野「……どちらにしろ僕らは急がなくてはいけない、僕は上げるよ! みんなの為に魔法の出力を」

 

「あたしも上げるわ!洗浄液の濃度を濃くして」

 

「ちょ!? 蹴太と琴音ばっかり負担はかけられねぇよ!」

 

「琴音、デッキブラシかモップ出して。 私達だって掃除くらいは出来る!」

 

御手洗「みんな……!」

 

中野「……っ、ごめん! 僕の作戦ミスのせいで……みんな、先を急ごう!」

 

 

そう言って、蹴太は取り払う床に塗られた口紅の量を増やした。

 

入浴の魔法を使う琴音も、洗浄液の濃度を増やし素早く洗う。

 

他の魔法使いも何もしないわけではなく、一生懸命に行く先の掃除に貢献した。

 

飛べない魔法使い達は団結して先を急ぐ、蹴太は責任感が強く特に頑張ったんだとか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、空を飛ぶ魔法使い一同。

 

しばらく空中を飛び抜けると、結界の場面は切り替わる。

 

ダイオプサイトの床や枯れた紫陽花は相変わらずで、

地面に塗りたくられていた口紅はどんどん塗りが薄くなり、

やがてダイオプサイトの床は塗られていない面が見えてくる。

 

その向こうには使い魔がいた、その数は……明らかに、多い。

 

これは1つの空間にいる量ではない、何度見ても多すぎる。

 

 

唇の使い魔、役割はマネキン。

 

 

それらの唇につく口紅は、色とりどりで1つも同じ物はない。

 

色んな化粧品の羽が付き、カチャカチャと音を立てて空を飛んだ。

 

主の姿を変えるため、彼女らは口紅の実験台……

つまり文字通りマネキンとなり、魔女の変身姿を写すのだ。

 

 

唇の使い魔、役割は嘘つき。

 

 

肌色の丸い体に、巨大な厚ぼったい唇。

 

そこから、女性の手足が生えた……なんとも気持ちが悪い姿だった。

 

彼女らはわけのわからない言葉で嘘を吐く……ようは魔女語といったところか。

 

魔女の浮気がバレないよう、彼女らは魔女に嘘を提供するのだ。

 

 

段々と近くなるにつれ、わかってくるその全貌。

 

使い魔の多さにも驚いたが、何より何故あんな多くの使い魔が

1つにまとまっているかの理由が利奈は気になった。

 

 

 

 

……それは、すぐにでもわかる事になる。

 

 

 

 

篠田「……ぴかり! ぴかりいいぃぃ!!」

 

上田「絵莉ちゃん待って! 突っ込んだら危ないよ!!」

 

 

化学反応による噴出の向きを変え、使い魔がうじゃうじゃいる中に突っ込む絵莉。

 

何人かが絵莉の後を追ったが、なにせ現実で言ったらジェットエンジンの仕組み。

 

追いつけたのは、まずスピード重視の利奈。

 

風と重量双方の自然の力を合わせ、スピードを早めた芹香と力強。

 

力強のサポートをする天音の以下4人だけだった。

 

高速で斜めに降りる中、なんとか話す余裕が残っていた利奈は絵莉に念話で問いかけた。

 

 

上田((え、絵莉ちゃん! 何があったの!?))

 

 

篠田((ぴかりが使い魔に追いかけられてるの!!))

 

 

上田((ぴかりさんが!?))

 

 

……絵莉の言う通りだった。

 

地上を見るなら、そこには迫る使い魔から攻撃しながら逃げる何名かの魔法使いと、

大きめのハリセンを振りまくって必死に追っ払いながら半泣きで逃げる、

身体の所々が口紅まみれになってしまっていた光の姿があった。

 

 

武川「なんでやねん! なんでやねん!! なんなんだよこれええぇぇ!!」

 

「というか意外と追っ払えてるよな、何者だコイツ……」

 

「おしゃべりしている暇があったらもっと倒しなさいよ!!」

 

空野「でもさっきよりはだいぶ減ったよ!

 

 

荒れ狂う風よ! 風球!」

 

 

武川「なんっ! でやっ! ねんっ!!」

 

 

一応確認しておくが……光は月組、一般人だ。

 

使い魔に主な標的にされているようだが、彼のお笑いスキルは意外な事にここで生きた。

 

光の常備のハリセンによる適切なツッコミによって隙ができ、

その隙をついて一緒に逃げる魔法使い達が倒していった。

 

 

どうやら、使い魔の目的は光らしい。

 

 

別の場面から使い魔を連れてきてまで欲する者を手に入れようとする辺り、

魔女の、欲にまみれた本質が垣間見得る……。

 

 

武川「わっ!? ハリセン折れた!!」

「なっ!?」

 

「力を入れ過ぎたから折れたのよ!」

 

空野「あっ、危ない!!」

 

 

……とそこへ、4人にしたら嬉しい増援がやってくる。

 

 

篠田「ぴかりいいぃぃぃ!!」

武川「え、絵莉!?」

 

 

篠田「教科書を開けえぇっ!」

 

 

地上すれすれで一回転、着地と同時に指揮棒を召喚。

 

 

篠田「タンリュカ・ルシウム!!」

 

 

絵莉が指示棒を振ると、空中にチョークが現れ豪速球で使い魔にぶち当たる。

 

チョークと言っても魔力のチョーク、弾丸も同然。

 

空に向かうなら使い魔は打ち落とされ、地に向かうなら使い魔は何体か倒された。

 

降り注ぐ弾丸の雨が使い魔達を貫き、その数を大幅に減らしたのだ。

 

鳴り響くプラスチックが割れる硬い音、口紅もろとも肉が殴られる柔らかで鈍い音。

 

気のせいか、チョークの量がいつもより多い。

 

どうやら相当必死だったようで、一度に大量の魔力を準備もなく

使った絵莉は、着地した瞬間にその場で軽くめまいが起こる。

 

 

篠田「はぅ……」

 

 

指示棒は落とさなかったもののその場に倒れそうになるが、それは別の人物によって支えられた。

 

 

武川「だっ、大丈夫かい絵莉!?」

 

 

絵莉は静かに呼吸しながらうっすら汗をかいている。

 

ぐったりとした様子で顔をあげると、その表情はどこか安心をしている。

 

 

篠田「良かっ、た……間に合った」

 

武川「……そっか、絵莉も魔法少女なのか。

ごめん、オイラのせいで絵莉フラフラじゃないか」

 

 

光は情けなさそうに唇を噛んだ、自分の情けなさに対してだ。

 

自分の不備のせいで大切な友人が無理をする事になってしまったと。

 

そんな様子を見て、絵莉は腹から声を出した。

 

 

篠田「……お笑い芸人が笑わなくてどうするの!」

 

武川「え?」

 

篠田「あたしが……勝手にやっただけ、ぴかりはいつもみたいに周りを笑わせていればいいの」

 

そう言って絵莉はまだふらつきながらも自力で地の上に立った。

 

若干無理をしているように感じるが、絵莉は光に笑みをみせる。

 

 

武川「……絵莉」

 

 

月村「お取り込み中悪いけど、来るわよ。

絵莉が倒した使い魔の数は全体のまだ半分と言ったところかしら」

 

芹香が声をかけてどこか指差すなら、その先には唇の使い魔達がうじゃうじゃと迫ってくる。

 

最初よりは数が減ったが、やはりその数は脅威だ。

 

 

上田「絵莉ちゃん、戦えそう?」

 

篠田「うんっ! ちょっと休めば後半には参加できそうだよ」

 

上田「わかったよ、絵莉ちゃんはしっかりぴかりさんを守ってね!」

 

 

そう言って、利奈は光のハリセンを握りしめる。

 

すると、赤々とした魔力が簡易的な紙製のハリセンを

やわやわと変形させながら、魔法使いが使いそうな重厚なハリセンに変えた。

 

 

武川「のわあぁ……!?」

 

上田「手元のスイッチで紙と鉄が切り替わるから! じゃあ行ってくる!」

 

武川「ちょ、ちょっとおおぉぉ!?」

 

 

こんな時でも、機能性を考える辺りが利奈らしい。

 

呆気にとられる光を絵莉に任せ、利奈は前線へと繰り出した。

 

 

地上からも空からも、不気味な使い魔は迫ってくる。

 

普通じゃないその数は棍1本で乱舞をしても恐らく押し切られるだろう。

 

かと言って、必殺魔法『ソリテール・フォール』を使いそうなタイミングでもない。

 

 

上田「あ、そうだ『あれ』試しちゃおっと」

 

 

利奈はニィっと笑うと、シルクハットを外して自分の前を半円になぞる。

 

すると、シルクハットからは先が尖った普段使う棍とは別タイプの棍を出し、

ちょうどなぞった跡のように半円の列を成して現れる。

 

シルクハットを被り直し、その場で回るように利奈は乱舞しながら棍を投げた!

 

その投げは的確で、1本1本が1体1体に鈍い音を立てて刺さる。

 

空にいる使い魔には当たりづらいものの、地上の使い魔達には確実なダメージを与えた。

 

 

月村「今回はその方向で行くのね。 いいわ、任せなさい」

 

 

芹香はある程度の距離を離して利奈の隣に来ると、辞書を開いた。

 

芹香が手をかざすなら、パラパラとページがめくれた後に

辞書は淡い橙の光を放ち、そこから1枚のページが浮かんだ。

 

 

月村「第四章! 地の巻『岩石』! 操作性は投擲!」

 

 

魔法のページが弾けるなら、その魔力はリンゴ程の大きさの頑丈な石に形を変える。

 

元々後衛担当と言えた程の芹香、空中の敵も正確に当てる。

 

 

上田「芹香やるじゃない!」

 

月村「専門ってだけよ、何でも出来る利奈にはかなわないわ……あ」

 

 

ふと芹香は素直な言葉が口から滑り出てしまった、利奈は意外と思っている様子。

 

 

上田「あれ? デレた?」

 

月村「う、うるさい! 戦闘に集中しなさい!!」

 

上田「りょうかぁ~~い」

 

 

顔を真っ赤にして叫ぶ芹香、利奈はニヤニヤしながら返事をした。

 

 

この2人、なんだかんだ言って仲が良い。

 

 

その内、空飛ぶ魔法使い達が使い魔に攻撃をしている利奈達に追いつく。

 

 

吹気「天音! 大丈夫!? 絵莉はどこ!?」

 

青冝「あぁ、うん。 さっき、私がフォローしてた人見送った。

探してた人は見つかったみたいで、絵莉は武川君守ってるよ」

 

録町「大丈夫だったの? 『天音が不真面目な人に付き合わされた』って

情報がこっちの方にもまわってきたんだけど……」

 

青冝「それに関しては、ちょっと考え方変わったんだ」

録町「え?」

 

宙滝「ね、ねぇねぇ……早く、行こうよ……みんな……戦ってる」

 

吹気「もう始まってるみたいだし、私達も貢献しよ!」

 

録町「むむむ……その他色々は(男性アイドル)君の曲でも聞きながら、

後になってからじっくり話し合おうじゃない!」

吹気「それ話にならないと思うよ」

 

青冝「うん、私達も行こう! チーム『クインテット』出陣!」

 

 

「「「「全ては(男性アイドル)君の為に!!」」」」

 

 

さて、チーム『クインテット』を含め真面目一行、流石と言った所だ。

 

言われずとも、空気を読んで援護射撃を開始する。

 

自分の魔法の性質もわかっているようで、硬いものや固形物は空へ、

柔らかいものや鋭利なものは地上へと、放たれては使い魔を倒していった。

 

 

魔力を帯びて、浴びて、飛んでゆく魔法の数々……この紫陽花色の空間を飛んでゆく。

 

それらは6月の雨上がりの虹のようにキレイな光を放ちながら飛んでゆく。

 

こんな酷い状況とはいえ……協力して作り上げる団結の虹を、

その光景を直接目にした魔法使い達と光を羨ましく思ってしまう。

 

 

上田「やあぁっ!!」

 

 

最後の使い魔も利奈が投げる根に串刺しにされる、鳴り響くのはドスッと鈍い音。

 

 

【yAAAAAAAAAAAAA!!!!】

 

 

脳天を貫かれた断末魔をあげ、唇の使い魔は倒し切られた。

 

 

 

 

一同は歓声をあげる、山場を超えたしばしの喜びを分かち合う。

 

 

月村「とどめ、持っていかれたわね」

 

上田「偶然だよ偶然! あぁ、絵莉ちゃんは大丈夫だった?」

 

篠田「……う、うんっ! あたしもぴかりも無事だよ!」

 

武川「オイラも絵莉のおかげで、こ ん な に 元気いっぱ……っ!」

 

 

元気に話しながら背伸びをした光だったが、左腕を抑えて痛そうな素振りをみせる。

 

 

上田「へっ!? 大丈夫!?」

 

武川「大丈夫大丈夫! ちょっとつった! ビリビリ痛いぞこの野郎!」

 

篠田「……ぴかり」

 

武川「だぁ~~いじょうぶだって絵莉! 実際倒せたんだしさ!」

 

上田「え、倒せた? それってどういう」

 

 

また1つ質問をしようとした利奈だったが、それはたくさんの遠くからの声に遮られてしまった。

 

 

中野「おーーい!! みんなぁーー!! ほげっ!?」

 

 

一同を見つけて駆け寄ってきた蹴太だったが、 ま た 転 ぶ !

 

相変わらずのアンラッキー……

 

転がっていたファンデーションのケースに足を引っ掛け、つまづいてしまったらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

篠田「ごめんなさい!!」

 

 

ほぼ直角とも言える角度で絵莉は頭を下げた。

 

体制がキツイのか、絵莉はぷるぷると震えている。

 

 

「ちょ!? 絵莉頭上げて!」

 

吹気「ほら、絵莉は悪気はないんだしさ!」

 

篠田「でも、あたし相談もせず飛び出して……」

 

「いやいや、仕方ねぇよ。 話してたら間に合わねぇだろ」

 

「私や武川光が助けられたんだし!」

 

武川「絵莉がいなかったら危なかったよ、ありがとう絵莉!」

 

篠田「うん、うん……ごめんね、みんな!」

 

 

絵莉はみんなに許してもらう事が出来ると、蹴太は魔女から逃げ出す事に成功した4人に話を聞いた。

 

 

中野「……そうか、みんな無事なんだね」

 

分かったのは……まず怪我人は1人もいないという事、これは嬉しいニュースだ。

 

魔女の姿は詳しく見る事は出来ていないが、魔女は魔法使いなどの

ヒトを自らの体内に溜め込もうとする性質があるらしい。

 

1番の目的は光のはずなのに……

 

欲のままにヒトを体内に取り込み肝心の目的を逃すなんて、

今思えば何考えてるんだと疑問に思ったんだとか。

 

魔女の情報が出る度に絵莉は明らかに辛そうな顔をしたが、

光がお笑いでほぼ強引に笑わせたので周りの雰囲気は明るくなる。

 

 

「さっさと行こうぜ! 俺達以外にもまだいるんだ!」

 

「魔女のいる空間への入口はこっちよ!」

 

「……あ! あぁ、逃げてきた道戻ればいいのか」

 

武川「あんな化け物ももういないしね! ……ってオイラついて行って大丈夫かい?」

 

月村「こんな危なっかしい場所で1人でいるよりは安全でしょう?

ほら絵莉、彼は一般人なんだから守ってあげなさい」

 

篠田「あぁ、うん……え!?」

 

月村「私達は花組、月組の彼の事は知らないわ。

幼馴染みのあなたが、責任持って守ってあげるのよ」

 

篠田「……でも「守 り な さ い」ひゃ、ひゃいぃ!!」

 

 

おっかないオーラを浴びせられた絵莉は、暗い気持ちを忘れて光の元へと走った。

 

 

上田「優しくなったね、芹香。 まぁその前も優しかったけど」

 

月村「……気のせいよ」

 

 

絵莉はあれやこれやを光に教えている、光は時に笑いながら絵莉の話を聞いている。

 

絵莉は……どこか楽しそうだ。

 

 

地屋「ってか八雲、いつまで俺の腕掴んでる気だ? 息切れ治ったんじゃないのか?」

 

空野「……この腕離したら、また力強とバラバラになりそうで……」

 

地屋「オイオイ……もう大丈夫だ。周りこんなに魔法使いはいるんだし、もうはぐれねぇだろ?」

 

空野「……やだ、捕まってる」

 

地屋「 子 供 か お 前 は ! ? 」

 

 

しばらく空間を進み、遂に終点が見えた。

 

一同の前に立ちはだかる鏡の扉、削られて魔女のエンブレムが彫り込まれた扉。

 

来るべき時が来た、この先に待つのは魔女との対決。

 

 

中野「みんな、準備はいい?」

 

 

ここから先、魔女の特徴が少ししか分かっていない状況で、

下手な憶測で作戦を組んでも、それはほぼ無意味だろう。

 

蹴太の真剣な掛け声に、皆覚悟が出来たような返事をした。

 

 

中野「……行くよ」

 

 

蹴太は重たい扉を開き、その中に走って突っ込んでいった。

 

他の魔法使い達も、その後に続いて走り出す。

 

 

上田(……清水さん!)

 

 

いよいよ、魔女との対決に挑む花組の魔法使い一同。

 

それぞれの想いを胸に、囚われた魔法使いを助けに行く。

 

もはや……鼻に刺さるほどの香水のキツさがあるが、そんなもので意思は揺らがない!

 

 

魔法使いを救え! 魔法使いよ! それぞれの想いを糧に、力強く突き進め!!

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

月村「っ!? 待ちなさい!」

 

 

 

地屋「完全に無事って訳じゃねぇのか」

 

 

 

上田「ぴかりさん!! 絵莉ちゃん!!」

 

 

 

篠田「サイコ・サタン!!」

 

 

 

〜終……(14)底無しの独占欲[前編]〜

〜次……(15)底無しの独占欲[後編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





う~~ん……化粧品についてがイマイチ自分はわからんですね。
ホント、女子力捨ててるな自分w(オイ


さて、何話ぶりでしょうか? 久々に中野 蹴太が出てきました。

見ての通りのアンラッキーぶりですね、
何故願いでその体質を取り除かなかったのか……

まぁ、今はまだ話す時では無いので置いておきましょう。

やはり魔女戦を書くのは楽しいですね……ってこれ言うの何回目なんだよ自分。
それだけ楽しんで書いてます、ハイ。

使い魔の数が多すぎるので、今回の使い魔戦は遠距離中心です。

あ、ちなみに利奈の棍投げは原作のさやかが落書きの使い魔に
剣投げる所を意識して書いてみました。

個人的にあのシーンはスタイリッシュでお気に入りの内の1つです。


最近は泥のように眠っていますね私、睡眠不足がここで来たのかなぁ……

雪かきなどをして一応の運動はしてますが、
まぁ執筆ばっかしてるし基本は寝正月でしょうね。オ フトゥンあったかいです。

ふわぁ……流石に昨日と今日にかけて夜更かししすぎましたね。

寝たの午前3時ですよ バ カ の 極 み  \(^o^)/

今日はこのくらいにしておきましょう。


それでは皆様、よいお年を。

私のように夜更かしをし過ぎて体内時計破壊しないように気をつけてw

(* ̄ー ̄*)/~~☆'.・.・:★'.・.・:☆'.・.・:★"ばいばい!


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(15)底無しの独占欲[後編]


コ、ン、バ、ン、ワァ……_:(´ཀ`」 ∠):_

遅くなってすみませぬ、小説執筆の時間が全く取れない!
スローペースって言ったんで頑張って執筆は続けてます。

結構頑張って書いてますよ?

最近になってやっとこさ花組の設定が出揃ったんです。

ネタバレもあるんであんまり細かい事は言えませんが……
これで執筆が楽になるってもんです! 。゚ヽ(゚´=Д=`)ノ゚。ヤッターン!


……暗い前書きもあれなんで、ポジティブにいきましょうか。


2016年最初の2桁の日に投稿になります! ア リ ガ タ ヤ ー !

さて、今回は昨年に投稿した唇の魔女戦の続きとなりますね。
ちょうどスランプになって書くのに苦戦した回だこれw
確か魔女の部屋に突入した所で幕は降りていたはず。

今作3体目の魔女、一体どんな姿をしているんでしょうね?
さぞかしねっとりとしてるのでしょう。

まぁ、それは後の本編で明らかになります。


それでは、早速物語の幕を上げましょう!

舞台は化粧品の匂いが鼻を刺す空間、削れた鏡の扉を開けた先。


《2016年8月16日》
○変則改行の本格修正
○『w』の削除や『「」』の変更
○その他修正(追加、索敵等)



 

あれも、欲しい。

 

 

これも、欲しい。

 

 

それも、欲しい。

 

 

欲しい、欲しい、欲しい!!

 

 

君も欲しい、あなたも欲しい。

 

君のも欲しい、あなたのも欲しい。

 

ちょうだい、私にちょうだい。

 

 

欲しい、欲しい、欲しい……

 

 

……あれ? あれれ?

 

 

 

 

本 当 に 欲しいのは、どれだっけ?

 

 

 

 

……まぁいいや、そんなの忘れちゃった。

 

 

全部……全部! 全部!!

 

 

 

 

私 の モ ノ に な る の ……!

 

 

 

 

あぁ……なんと哀れなことか。

 

辛抱強かった彼女の愛情は、枯れ腐り、周囲にばらまかれたのだ。

 

果てしない欲は黒く荒み、何が欲しいのかわからないまま、

 

満足しきる事のない欲を延々と満足させてゆく。

 

……異質な欲の、赴くままに。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

無駄に鏡のような光沢を放つ……ある程度は1つ1つの色が明白になった、

 

熟れた苺色。 極彩色の空間。

 

蓋を無くした巨大な口紅が周辺にゴロゴロと転がっている。

 

それら全ての表面は削れ、使われたような痕跡が残る。

 

美しいダイオプライトの床は空間の光沢の光り具合に負けてどこか鈍った雰囲気だ。

 

ぽつぽつとある紫陽花に至っては、その花びらや葉さえ散り、

もはや小さな枯れ木同然と化していた。 花だった頃の面影なんて残っていない。

 

所々に紐上の口紅の跡があるが……あぁ、彼女が原因か。

 

 

彼女もまた、他の魔女のように空間のど真ん中に鎮座していた。

 

簡単に言うならば……取ってがついていないがま口がついた、

巨大な『化粧ポーチ』と言ったところか。

 

キルトに合わない淡い紫と汚い苺色のつややかな材質を無理矢理キルト生地にした

千鳥格子はごつごつと無駄に出っ張っていて、まるで病気になったワニの皮のようだ。

 

もし商品にしたとしても、売れずに即生産中止となるだろう。

 

そしてその正面、ど真ん中には、巨大な 唇 がそこにはあった。

 

口紅を落とす事無く何色にも重ね塗りされ、

辛うじて紅を保っていると言ったところか。

 

 

中野「これが……今回の魔女」

 

「あぁ、俺達はあいつから逃げて来たんだ」

 

篠田「不気味すぎるよ……」

 

「ぁんだよ、手足も付いてないのか?」

 

「なら余裕じゃない! 私先に行くわ!」

 

「俺が一番乗りぃ〜〜!」

 

月村「っ!? 待ちなさい!」

 

 

男女のペアが集団から抜け出し、魔女へ向かって走っていった。

 

それぞれの武器を魔法で出し、何も考えずに突っ込んで行く。

 

……ところが、ピシャアンっ! と激しい音がしたと思うと、

その男女は吹き飛んで集団に戻った。 どさっと体を強く打ち付けて倒れる。

 

 

「きゃっ!!」

「のわっ!!」

 

上田「うわっ!? 大丈夫!?」

 

月村「……自業自得ね、誰か治療してあげてちょうだい」

 

吹気「あぁ私がやるよ、症状軽いし。

 

 

紙吹雪バラード用!」

 

 

風香が魔法を唱えたなら、パステルカラーの紙吹雪が2人の頭上に舞うだろう。

 

わずかながらの回復魔法だが、打撲程度なら余裕で治る。

 

いやはや、魔法というのはつくづく便利なものだ。

 

……それよりも、今ので良い知らせと悪い知らせが出来た。

 

良い知らせは魔女の全貌が明らかになった事、

がぱっと空いたがま口からは大量の触手が溢れるとのこと。

 

触手は市販の口紅を引き伸ばし、触手にしたてあげたような模様。

口紅の写真を触手に巻きつけたとも言える。

 

そして、その中には……

 

 

「ちょ!? あいつらだぞ!」

 

「やっぱり触手に……魔女の中に捕まってたんだな」

 

宙滝「え……絵莉、み、見れる……?」

 

篠田「へ? あ、そっか」

 

 

目を抑える丸に棒がついた黒い器具を左目に押し当て、

抑えていない方の瞳を緑に光らせ魔法使い一同のより遠くを見る。

 

これはさっきも使った、視力を高める視力検査の魔法だ。

 

絵莉が魔法で覗いた先、確かに何人かの魔法使いが触手に絡め取られ捕まっていた。

 

捕まった誰しもが生気がなく、目を虚ろにしてぐったりしている。

 

中には口をだらんと開き、よだれを垂らしている者もいた。

 

 

篠田「みんな無事だけど……なんか様子が変だよ、なんか変な薬かがされたみたいな顔してる」

 

地屋「完全に無事って訳じゃねぇのか」

 

空野「早いとこ助けなきゃね」

 

中野「よし、みんな! 早いとこ隊列を組み直してぎゃっ!?」

 

 

……さて、ここで悪い知らせだ。

 

 

早速何か言おうとした蹴太が、魔法使いを持った触手で殴ってきた。

 

『魔法使いで魔法使いを物理攻撃する』といった感じか、なんとひどい……

 

蹴太は口紅にぶつかりピシッと決まった衣装が紫の口紅でまみれになるが、

今度は上手いこと受け身をとり水色の魔法で口紅を取り除いた。

 

標的も決めず放った魔女の一撃が偶然、蹴太に当たるとは……

 

なんという ア ン ラ ッ キ ー !

 

まぁ簡潔に述べてしまうと、先程この魔女を軽視して突っ込んで行った

男女のペア魔法使いによって、一同は魔女の怒りを買ってしまったらしい。

 

『あはん』だとか『うふん』だとかの音が

混じりに混じった、

鼓膜を濡らすような高笑いが一同の頭を揺さぶるだろう。

 

 

人間が聞き取れる音に表現するならば……

 

 

【ahauhaauhaahauhauhuahuaha!!】

 

 

……うん、なんとも不気味で気持ちが悪くなる。

 

 

それはさておき、襲いかかる大量の触手。

 

魔女の欲は結界を荒らされた怒りと共に、魔法使い達に向いたらしい。

 

 

「ぉぃ……おいおいおい!? こっちに来てるぞ!?」

 

「ちょっと2人とも!! 何で何も考えないで突っ込んだのよ!?」

 

「え? だって、弱そうだったし」

 

「どんな魔女かわかってないとこに突っ込むバカがどこにいるんだよ!?」

 

青冝「喧嘩してる場合じゃない! もう触手が近くまで来てるよ!」

 

中野「みんな隊列を組むんだ! 他の花組を救うために戦え!!」

 

「んなこと言われたってよ!?」

 

「あんなの相手にどうすればいいの!」

 

御手洗「きゃ……きゃあああ!!?」

 

中野「なっ!? 琴音ぇ!!」

 

 

次に放たれた触手のランダムな一撃は、琴音に向かって突き進んだ。

 

そのまま弾くような勢いを琴音は受

 

 

 

 

…… け な い !

 

真っ赤な棍の一撃が、重たい魔女の一撃を弾いた。

 

鋭い音が辺りに響き、焦りと喧嘩で逆立っていた一同の正気を呼び戻した。

 

何の準備もなく早さのみを求めた一撃は、

琴音を守った代償に利奈の腕に強めの痛みを与えた。

 

痛む二の腕を強く掴み、棍を落とす事なく痛みに耐えて利奈は声を出した。

 

 

上田「私『達』のやるべき事は……何? 私は清水さんをを助けたい、花組のみんなを助けたい」

 

 

魔女の容赦無い猛攻は続く、その中でまず、真面目達が解答を出した。

 

 

月村「もちろん、『助ける事』よ。

グリーフシードの事もあるけど、じゃなきゃここまで来てないわ」

 

宙滝「わ、私も……助けたい! 魔女の中に捕まるなんて……

か、考えただけで……頭がおかしくなりそうだよ!!」

 

 

珍しい大声(たいこ)の『大声(おおごえ)』に、芹香はほぉ……と関心した様子。

 

芹香の言う事も正論で最もだったが、普段声を大きく出さない大声が

その名前の通り『大声』をあげたことで、さらにクインテットが活気ついた。

 

 

吹気「魔女の中身……絶対とんでもない事になってるわね」

 

録町「考えただけで苦しいよ……よっし!

私達が頑張って、とっとと助けてあげよっか!

 

新PV出来たみたいだし!」

吹気「(男性アイドル)君の新PV出たの!?」

 

青冝「私も見たいわね、さぁその新PVの為にも花組のみんなの為にも頑張るわよ!」

 

篠田「……うんっ! あたしはぴかりを守るよ、みんなファイトだ~~!」

 

 

クインテットが掛け声をする直前、大声はふと芹香と目があった。

 

大声はビックリしてしまったが、芹香は静かに笑ってこう言った。

 

 

月村「なによ、大きな声出せるじゃない」

 

宙滝「え……?」

 

月村「……頑張ってきなさい」

 

 

そう言って、芹香は優しく微笑んだ。

 

 

宙滝「……! あ、ありがとう……!」

 

 

それに答えるように、大声は今までに無い位の……

 

例えるなら橙色のガーベラのような暖かで優しく、彼女らしい最高の笑顔を見せてくれた。

 

 

青冝「ほら! 行くわよ大声!」

 

宙滝「わかったよ、リーダー!」

 

「「「「「全ては(男性アイドル)君の為に!!」」」」」

 

 

目に見えて大声の魔力が明るい、今日の大声は活躍しそうだ。

 

クインテットが掛け声と共に、魔女の元へと出撃して行った。

 

周りの真面目な魔法使い達も、後に続き立ち向かう。

 

 

魔女に攻撃を開始する真面目達を見つめる不真面目達……

利奈の発言を聞いた彼ら彼女もまた、何もしないわけでは無い。

 

 

地屋「俺も助けてぇな」

 

空野「うん、みんなまだ捕まってるもんね」

 

地屋「……おい、離せって、もう大丈夫だってば。 俺達も出撃するぞ!」

 

空野「あ、あぁ、ごめん。 僕達も助けに行こう!」

 

「ったく面倒だなぁ……」

 

「あの子達の尻拭いをさせられるなんて、一言も聞いてないわよ!」

 

「でも助けなきゃ……だな、今までバカやってきた仲間なんだし」

 

「早く助けてすぐ帰ろう!」

 

「おう! 帰ろうな、みんなで!!」

 

 

こうして動くことを知らなかった不真面目達も立ち向かう。

 

だるそうな者も何人かいたが、目的が同じなのに代わりは無い。

 

ある者は魔法を唱え武器を手にし、ある者はは魔法で攻撃をした。

 

こんなに大勢の花組が協力したのは全員ではないが、これが初めてだろう。

 

 

今ここに花組は団結した!

 

 

さぁ、立ち向かえ魔法使い達よ!

 

 

囚われの仲間を救う為に!!

 

 

 

 

上田「ボス、ステージ!」

 

 

 

 

飛び交う魔法と不気味な魔女の攻撃、殴って弾いて捕まって助けて間違って治して……

 

『乱戦』、この言葉を例えるならばこういう事だ。

 

その片隅、最初に吹き飛ばされた者はその光景をその目に写している。

 

 

中野「信じ、られな……い……!」

 

 

蹴太は衝撃を受けていた、何故こんな事になっているのかと。

 

吹き飛ばされた先で、唖然として立ち上がる事が出来ず彼はその場から動けない。

 

そりゃそうだ。

 

あれだけ揃うことを知らない統一に苦労した不真面目が、

たった一言の言葉で真面目達同様の働きを目の前で見せているのだから。

 

蹴太は、自らに激しい嫌悪感が湧く。

 

 

中野「……何故? 何故、僕は駄目なんだ?

 

あんな一声でまとまるんだ? 言葉の数も多いだろう!?

 

ど う し て ? 言い方は間違ってないだろ!?

 

それとも……願いは叶っていないのか?」

 

ハチべぇ「君の願いは確かに、エントロピーを凌駕しているよ」

 

中野「……え?」

 

 

蹴太が自問自答をする中……ふと、別の声が介入する。

 

隣を見るなら、そこにはハチべぇがいた。

 

相変わらずの無表情で、魔女と魔法使いの戦いを見つめている。

 

 

中野「ハチべぇ? あれ、君は確か……上田さんの肩の上にいたはずじゃ」

 

ハチべぇ「あんな乱戦の中にいたら、僕に飛び火するだろう?」

 

中野「邪魔になるからとか言わないのがなんとも君らしいな……

 

 

それより、どういう事だい? 僕の願いが叶っている!?」

 

 

驚く蹴太を横目に、ハチべぇは淡々と語り始めた。

 

 

ハチべぇ「君の願いは『指導者の技量』だろう? 確かに願いは叶っている。

君自身も、前より楽に指導出来ているという明らかな実感があるはずだ」

 

中野「じゃあ何だって言うんだ!! 何故僕の話は聞き取られない!?」

 

 

ハチべぇは1つ瞬きをしたあと、ただただ事実を語り続ける。

 

 

ハチべぇ「君の《不幸体質》もそうだけど、彼女の一言にあった事が、

君の幾多にも及ぶ言葉には全く無かったという事だと思うよ」

 

中野「なっ……何で、何故、それを僕にくれなかったんだ!?」

 

ハチべぇ「それは願いに含まれていないからね」

 

中野「そん……な……!」

 

ハチべぇ「そうなってしまうなら、願いをもっと慎重に考えるべきだったね」

 

中野「……っ!!」

 

 

蹴太は両手を拳にして握りしめ、真っ赤になるまで力を入れた。

 

ぶつけようのない怒りに歪む顔面の上で、

キレイな光沢を放っていた彼の水色ふちのメガネは黒んずんでいく。

 

 

中野「…………」

 

しばらくうつむき暗く考えこんだ後、ふと蹴太は自らのメガネを二本指で整えた。

 

その顔はどこか、納得した様子。

 

 

中野「……そうか、そうだね」

 

ハチべぇ「?、何の事だい?」

 

中野「あぁごめんハチべぇ、勝手に自己完結してしまった」

 

 

そう言って見上げる彼の顔、蹴太のソウルジェムでもある

水色ふちのメガネは穢れるのをやめていた。

 

 

中野「《不幸体質》と僕にはない『何か』、辛いけど今ここで落ち込んでいたって時間の無駄だ」

 

蹴太は両手を前に差し出すと、そこに白と青を均一に混ぜたような

清々しい水色の魔力がその両手に溜まっていく。

 

中野「今より強くなる必要がある、その為にも……僕は、この魔女戦にも貢献しなくてはね。

 

何せ今の僕の立ち位置は……

 

 

『指導者』だ!

 

 

イキシサコネス!!」

 

 

蹴太が魔法を使ったなら、魔法使い達を相手に暴れまくっていた触手は

まぁ全てではないが、水色の魔力を帯びて動きが鈍る。

 

 

中野「ぐっ……重、い!

 

で、も……『指導者』ならば、言葉は伝わらなくとも……

 

その仲間が有利に出来るように、動く……べきだ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

武川「な、うおっ!?」

 

篠田「ぴかり!? どうしたの?」

 

武川「あ、いや……急にオイラでも吹っ飛ばせるようになったなって」

 

篠田「え!?」

 

武川「うわ、また来た! なんっ! でやっ!! ねんっ!」

 

 

確かに、今まで光の振るう鉄のハリセンは触手攻撃の

軌道をずらす事しかできなかったが、今の攻撃はなんと弾き飛ばす事が出来た。

 

 

武川「まっ、また出来た! 何かあったのか?」

 

 

ふと絵莉が光が弾いた触手を見ると……触手の動きが早くてわかりずらかったが、

そこには確かに魔力の光が見えた、色は……恐らく青系。

 

 

篠田「誰かが、魔法を使って動くのを邪魔してるんだ!

触手が明らかに弱ってる! ぴかり、こっち行こう!」

 

武川「うえぇ!? 待っておくれよ! そっちは魔女のいる方向じゃないか!」

 

篠田「これ『遠い方が不利』なんだよ!」

 

武川「え、近い方が有利?」

 

 

光の手を取って魔女の方へと走り出す絵莉、それを見ていた芹香は評価を付けた。

 

 

月村「自分でその事に気がついたようね。 また成長したのね、絵莉」

 

 

どうやら彼女に対し高評価のようで、芹香も魔女へと接近していた。

 

炎の魔法で触手を焼きながら、確実に前へ前へと進む。

 

ふと芹香の死角から攻撃が来たが、利奈の振り下ろされる棍の攻撃で地面に叩きつけられた。

 

利奈は崩れ落ちる触手の上を走り、芹香の隣に来て共に進む。

 

 

上田「芹香! 大丈夫!?」

 

月村「相変わらず尋常じゃない身のこなしね……ごめんなさい、攻撃が来てたの?」

 

上田「うん、芹香の死角から結構簡単に倒せたから大丈夫」

 

月村「簡単ってあなたね……」

 

 

2人は触手攻撃を避けながら、ダイオプタイトの地面を走り抜けた。

 

 

上田「っと! それよりも、絵莉ちゃんが魔女の近くに?」

 

月村「念話で伝えるまでも無かったわ、自分で思いついたみたいよ」

 

上田「絵莉ちゃん、最初よりもかなり賢さを生かせるようになったね!」

 

月村「……他にも要因はありそうだけど」

 

上田「え?」

 

月村「なんでもないわ、早く魔女との距離を詰めましょう。

 

 

第一章! 炎の巻『火炎』! 形式は『放射』!」

 

 

芹香は目の前に立ちはだかる触手を先程と同じ魔法で焼き切ると、

利奈に「行きましょう」と言って先へと進んでいった。

 

利奈も横から来た触手を弾き飛ばし、芹香の後に続いて進む。

 

 

さて、4人が移動をする間少し説明でもしようか。

 

 

『遠い方が不利』、つまり『近い方が有利』。

 

どういう事かというと……

 

元々、歯ブラシ並の密度を誇る量の触手は動かぬ魔女の体内に収まっていた。

 

伸び縮みはせず、『折りたたまれて』入っていたという事だ。

 

魔女の触手は魔女の腕、その欲深さが長さに転化されたのだろう。

 

確かに、長いのなら余裕で遠くまで届く。

 

広範囲の欲の対象を捉え、簡単に捕獲出来るだろう。

 

 

なら、()()はどうだ?

 

 

伸び縮みしない触手だ、折りたたむなり、ネジ曲げるなり、工夫をしないと届かない。

 

根元で捕獲しようとも、触手の元の性質は口紅。

 

ケース模様の部分はかなり硬質で、簡単には曲がらない。

 

物理的攻撃は紅の部分よりは火力が上がってしまうが、

蹴太の魔法で動きが鈍っている事を計算に入れるならお釣りが出る。

 

まぁそういう事だね、『遠い方が不利』『近い方が有利』というのは。

 

 

所変わって、魔女の近く。

 

 

何人かがその事に気がついたようで、既に魔法使い達の救出に乗り出している。

 

 

篠田「あっ、利奈! 月村さん!」

 

武川「ふぉっ!? 2人とも魔法使い!?」

 

月村「花組全員そうなんだから当たり前でしょう?」

 

 

あからさまのオーバーリアクションで驚く光に、芹香の反応はいつものように冷ややかだった。

 

 

上田「もう何人かが助けに入ってるみたいだね」

 

 

周りの状況を冷静に判断する利奈に対し、絵莉は何かあるのかどこか辛そうだ。

 

 

篠田「……は、早く助けにいかなきゃ!!」

 

 

月村「そうね、私と利奈が助けに行きましょう。

 

 

触手を弱らせるなり切り落とすなりするから、2人は絡まった触手を外してちょうだい」

 

 

武川「ハゥイ!」

篠田「…………」

 

武川「ん? どうしたんだい絵莉?」

 

篠田「……え? あ、うぅん、なんでもないよ! なんでも、ないの……」

 

 

その様子は、もはやあからさまと言った所か。

 

心配した利奈が声をかけようとしたが、芹香はそれを無言の片手で止めた。

 

 

武川「……絵莉、大丈夫! 確かにあいつがいなくなってから、

紫香は狂ってしまった。 実際オイラも弄ばれた」

 

篠田「っ……!!」

 

武川「……でも、それと同時に紫香自身も苦しんでいる。

それをこんな魔女になってまでしなきゃ理解できなかったオイラ『自身』が情けない。

 

元カノの前に、友達なんだ! 絵莉と、オイラと、紫香と……」

 

 

光は精神的に苦しむ絵莉の肩に、軽く優しく手を置いた。

 

 

武川「『仲直り』しようじゃないか、絵莉。

あんなのになって暴れるより、オイラのピン芸を見る方が面白いって!」

 

篠田「こ、こんなときまでお笑いなの?」

 

武川「もっちもちのロンロン!」

 

篠田「なにそれ、面白くない」

 

 

そうは言いつつも、絵莉は笑っていた。

 

 

武川「えぇ~~!? ダメ? なら……」

 

篠田「あっ、ははは! それは面白い!」

 

 

月村「……行きましょう、利奈」

 

上田「うん、早く捕まった魔法使い達を……ぅわ!?

 

 

アロンジェ!」

 

 

咄嗟に利奈が棍を伸ばした先、そこには魔法使いを捉えたまま攻撃を仕掛けて来た触手があった。

 

利奈の棍に邪魔され、その攻撃は鈍い音を立て寸前で止まる。

 

 

武川「え、何ぅわ!?」

 

篠田「大丈夫ぴかり!?」

 

武川「ぉうっ!? ギリギリで助かった!」

 

月村「触手攻撃……!? どういう事? この距離でこの威力なんてかなり矛盾しているわ」

 

 

現状を理解した芹香は、すぐに辿り着いた答えに青ざめた。

 

 

月村「まさか……!

 

捉えた魔法使いを『重し』に!? 遠心力を利用して攻撃を!?

 

そんなの、リスクが大きすぎるわ! 下手したら魔女自身にも当たる。

 

それなのに、何故?」

 

武川「……オイラだ、紫香の最後の恋人はオイラだった。

寸前までオイラに復縁を迫ってたんだ、目的がオイラだって事なら」

 

篠田「使い魔が持ち場を離れてた事にも……えっと」

 

月村「……なるほど、『辻褄が合う』って事ね絵莉」

 

篠田「そうだよ!」

 

月村「一刻も早く魔法使いを救う必要性が出てきたわね、なら私達は……っえぇ!?」

 

 

芹香が見た先、そこに利奈はいなかった。

 

 

上田「ごめん! 私この人助ける!!」

 

 

見上げるなら、そこには先程2人を襲った触手が捉える魔法使いに捕まる利奈の姿があった。

 

 

月村「……ハァ、仕方ないわ。 私は利奈と逆方向に行ってくる。

あなたたちは十分に警戒して、なるべくその辺にいる事ね」

 

武川「ハゥイ! 気をつけるよ!」

 

篠田「うん、月村さんも気をつけて」

 

月村「当たり前でしょう?」

 

 

そう言って軽く笑うと戦っている魔法使いを見つけ、フォローの為に芹香は走り出して行った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「離して! 離してってば! ……っ! この!!」

 

 

利奈は伸ばした棍に魔力を込め、そのまま触手を斜めに大きく叩いた。

 

衝撃で触手は緩み、双方とも解放される。

 

無理な体制だった為、棍を手放しどさっと地上に落ちる。

 

打ち身は痛いが、魔法使いを助ける事が出来たらしい。

 

……ん? その魔法使いは青に近い、黒のジャケットに……白のシャツ!?

 

 

上田「清水さん!!」

 

 

その魔法使いは清水海里だった。

 

他の魔法使いと同様、生気を失っている。

 

流石によだれは垂らしていないが。

 

 

上田「清水さん! 起きて、起きて下さい!」

 

 

いつものように強めに揺さぶろうが、海里は反応を示さない。

 

一体、魔女に何をされたんだか……

 

 

上田「清水さん、清水さんってばぁ……!!」

 

 

揺さぶろうが叩こうが海里は一向に虚ろな意識から解放されない。

 

 

上田「清水さん、清水さ……もおおおお!!」

 

 

ついに利奈の中の何かがふっ切れたのか、利奈は両手で海里の胸ぐらを掴む。

 

利奈らしくない言葉を、これでもかと海里に対して浴びせた!

 

 

上田「海里!! 起きろ!! それでも男かへっぽこめ!!

なんかよくわかんないけどそんなのでぐったりするなんて情けない!!

こんな 女 にどやされてなんとも思わないのか!!」

 

 

やはり起きない海里、それでも利奈は怒鳴り続ける。

 

 

上田「海里!! バカイリ!!

こんなでも起きないなんてこのっ、 寝 ぼ す け がああぁぁ!!」

 

 

 

 

……不意に、利奈は胸ぐらをガッと掴まれた。

 

 

 

 

清水「やかましいんじゃボケェ!!

 

誰が『バカイリ』だ!!

 

大概にし……ろ、あれ?」

 

上田「か、海里、手を離して! 苦しいし衣装千切れちゃうよ」

 

 

利奈は驚いた顔で胸ぐらを掴む拳をギブアップとばかりにぺしぺし叩いた。

 

 

清水「……あ、あぁすまん」

 

 

意識を明確に出来た海里は、慌てて手を離した。

 

利奈はホッとしたように、胸を撫で下ろしながら衣装を直す。

 

 

上田「良かった……!

 

海里を偶然見つけて、それで必死になって起こそうとしたの。

 

無事なようで良かった」

 

清水「……まだ頭がグラグラするがな。

魔女の中で何をされたかは後回しにするとして、現状を説明してくれ利奈」

 

 

そう言われた利奈は、現状を簡単に説明した。

 

魔女の目的は光である可能性、捉えられた魔法使いについて。

 

その他の事項も、補足として付け加える。

 

 

清水「……その戦況だと、捉えられた魔法使いが武器として

魔女に使用されているせいであんまり先に進めてないんだな」

 

上田「今は助けるのを重点においてみんな戦っているよ」

 

清水「だがジリ貧だな、助けてもそれ以降は捕まらない保証はねぇ……現実的じゃねぇな」

 

上田「そうなんだよね……」

 

清水「そんな暗くなるなよ、改善はとっても簡単だからな「えっ?」

 

 

ヴェルクツォイク!」

 

 

海里が魔法を唱えたなら、海里の周りには道具が纏った。

 

 

清水「確か、月村さんが『炎の魔法』が触手に有効だって言ってたよな?」

 

上田「う、うん! 芹香は化粧品は熱に弱いって言ってた」

 

 

それを聞いた海里は、道具のうちの1つを手に取った。

 

 

清水「良いものがここにあるぜ?」

 

 

本来は赤色なそれは青色で最初は何かは分かりづらかったが、

それはどこのメーカーでもない、青色の『発火筒』だった。

 

 

上田「車に常備されてるやつだ!」

 

清水「火力はかなり上げてあるがな、この場では活躍出来るだろうよ!」

 

 

海里が魔力を込めて青色の発火筒を投げたなら、

同じようなものが大量に生成され四方に飛んで行った。

 

そのうちの1つを見てみよう、魔法使いを捉える触手のうちの1つに。

 

発火筒じゃないだろと言えるほどの威力で発火し、触手を焼くどころか次々と焼き切っていく。

 

触手から解放された魔法使いはそのまま落下するわけだが、

近辺の戦っていた別の魔法使いがその魔法使いを受け止め地上へと降りる。

 

 

起こる同じような光景に、利奈は驚きを隠せない。

 

 

上田「あんな簡単に焼き切れるんだ……」

 

清水「どうやら上手くいってるようだな。 さて、俺らも探すぞ」

 

上田「探す? 何を探すの?」

 

清水「……まぁ、この状況だったら忘れるのも無理はねぇな。

 

いいか? 例をあげるなら……黒板の魔女の時は『効き腕』、運転の魔女の時は『止まる事』」

 

上田「……あ!

 

 

『弱点』を探そうってこと!?」

 

 

清水「理解が早くて助かるぜ、弱点を叩いてとっとと倒せばジリ貧からも解放されるだろ?

 

それじゃあ、早速行こうぜ!」

 

上田「りょーかい!」

 

 

上田「アヴィオン!」

清水「フリューゲル!」

 

 

棍の箒に淡く光り輝く翼、赤と青の魔法使いは飛び立つ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

清水((おい、聞こえてるか?))

 

中野((あ、君は……ってええぇ!? 清水海里!?

君は確か灰戸八児を助けて魔女に捕獲されたんじゃ))

 

清水((んな事も知ってのか。 心配させてすまんな、仲間に救われて今は健全だ))

 

中野((そうか、だいぶ助け出されたんだね))

 

清水((で、お前の魔法なんだが))

 

中野((……え?))

 

清水((なんだよその反応? あんな大量の触手を痕跡を魔力だけ残して

動きを制限出来るのなんて、サイコキネシスの魔法が使える

水色の魔法少年『中野蹴太』、お前しかいねぇじゃねぇか))

 

中野((それはそうなんだけど……な、なんなんだいその情報量))

 

清水((俺は情報屋だぞ? この位当たり前だろ?))

 

中野((それはそうだけどさ!))

 

清水((って話したいのはそうじゃねぇよ。

お前の魔法、もう切っても大丈夫だぞ))

 

中野((は? いやいや、ダメでしょ!))

 

清水((俺の魔法で触手を焼いたからかなり動きは鈍くなってるはずだぜ))

 

中野((……って事は))

清水((おっと? 間違っても用無しだとかくだらん事を考えるなよ))

 

中野((え? あ、いや僕は))

 

清水((言っとくけどな、俺はしばらく捕まってて何もして無かったんだぜ?

お前が魔法で動きを鈍らせなかったら今よりひどい状況になってだだろうな。

 

情けねぇ、利奈の言葉を取るなら、俺だって『不真面目』を

まとめる立場なのに結果的にはこの有様だぜ?

 

ありがとよ! 中野、『真面目』まとめてくれて助かってる))

 

中野((……清水海里))

 

清水((おいおいフルネームかよ?

今は時間がないからこの辺で切るけど、次からはもっと気軽に呼んでくれよな!))

 

中野((あ、待っ……))

 

 

中野「……切れてしまった。

 

あぁ~~あ!彼にはかなわないな。

 

逆にいろいろと教えられちゃったよ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「あれ? 触手から魔力が消えてくよ」

 

 

利奈は乱舞をしながら触手を焼く海里について行く中、状況の変化を感じ取った。

 

利奈の言う通り、何かを期に触手の動きを制限していた

水色の魔力が引いていき、やがて消えてしまった。

 

 

清水「俺が念話で魔法をやめるように頼んだんだ。

もう制限しなくても、触手は多数焼けてんだし、明らかに動きは鈍るからな。

 

さてと、そろそろ着くぞ」

 

 

気がつくと、2人は魔女の目の前まで来ていた。

 

目の前ではがぱっと空いたがま口がそこから大量の触手を出し、

その中身を外にさらけ出している。

 

()()()()と言うと真っ黒に爛れた内装に、

いくつもの巨大なアクセサリーや化粧品が整理されて入っている位だ。

 

 

上田「意外とちゃんとしたのが入っているんだね、これが……魔女の弱点かな?」

 

清水「それに間違いねぇな、だが弱点にしちゃあ量が多い、恐らくこの中のどれか1つだ」

 

上田「……どれなんだろう」

 

清水「残念ながらそれを今知る手段は無い、片っ端から壊すしかねぇだろうよ」

 

上田「そうなっちゃうね……じゃあ、近くて壊しやすいのから」

 

利奈がどれから壊そうかと、魔女の中を覗いた……その時だった。

 

 

武川「のわああああ!?」

 

 

篠田「タンリュカ・ルシウム!!

 

 

タンリュカ・ルシウムってば!!」

 

 

突然の悲鳴、思わぬ声。

 

声をした方を見るなら、そこには触手に捕まった光がいた。

 

絵莉は光の腹にがっちりとしがみついている。

 

その捉えている触手も普通ではない、極彩色の口紅模様だ。

 

それは不気味にドクドクと脈打ち、いくつものシワがあり

気持ちが悪い光沢を放っている、表面はちょっと溶けている。

 

 

上田「ぴかりさん!! 絵莉ちゃん!!」

 

清水「どういう事だ!? かなり焼いたはずなんだが……

もう捉える程の力は残っていないはずだぞ!?」

 

月村((今回の魔女は賢いわ、焼けた触手を編み上げて無理に使っているのよ。

かなり気味が悪いけど、さしずめ『巨大触手』と言った所かしら))

 

 

光と絵莉が捕まるその根元は芹香が巨大触手を必死に焼いていたが、

ドロドロと表面が溶けるばかりで一向にその衰えをみせない。

 

 

上田「いけない!!

 

 

アンヴォカシオン!」

 

 

利奈は芹香の元へと飛び、二本流の棍の乱舞を駆使して共に巨大触手を止めにかかる。

 

 

清水「あんなんになってまでぴかりが欲しいのかよ……!」

 

海里はまた発火筒を手に取ると、投げてその数を増やして

利奈達の邪魔をしようとする周りの触手を焼き切った。

 

 

 

 

リュミエールの連携、強き眩しい程の『光』が魔女の闇を照らし切ろうと団結し強力な光を放つ。

 

だが、その闇は『一般人』という名の使うにはあまりにも残酷な盾を仕掛けた。

 

闇は徐々に、徐々に、その世界を侵食していく……。

 

 

 

 

あぁ……もう少し、もう少しで私のモノ!

 

 

 

 

篠田「おねがい……やめて!」

 

 

 

 

欲しい! 欲しい!! 全部全部全部全部私のモノ!!

 

 

 

 

篠田「もうやめてよ! 紫香ぁ!!」

 

 

 

 

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!

ほしいほしいほしいホシイホシイホシイ!!

 

 

 

 

篠田「……紫香が、本当に欲しいモノは」

 

 

 

ホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイ!!!

 

 

 

 

篠田「もう、この世には……無いのに……」

 

 

 

 

ホシ……ぇ?

 

 

 

 

上田「芹香!! どいて!!」

 

月村「!?、 わかったわ!」

 

 

魔女ががま口ごしの体内に、絵莉と光を放り込む直前だった。

 

今は……何故かはわからない、とにかく魔女に明らかな隙が出来た。

 

ほんの一瞬、魔女が硬直したのだ。

 

利奈は2本の棍を1つにし、本来とどめに使うその刃を2人を救う為に全力で振るった!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

塊の肉を強引に断つ音が辺りに強く、鳴り響く。

 

さらに響くは、甲高い魔女の悲鳴。

 

 

武川「わっ!?」

 

篠田「ぴかり!!」

 

 

やっとの思いで、魔女の魔の手ならぬ魔女の触手から光を手放させる事に成功した。

 

 

上田「や、やった!!」

 

 

 

 

……そんな喜びもつかの間、利奈は周囲の触手に魔女の怒りに弾き飛ばされた。

 

 

 

 

上田「っ!? ああぁぁぁぁ!!」

 

 

肉が潰れ骨がきしむ鈍い音がし、空中から真下へと向かい、豪速球で落下して行く……

 

 

清水「利奈!? っくそ!!」

 

 

このままでは打ち身だけではすまない、海里が利奈を追いかけ急降下。

 

 

武川「わ!? しまった! 解放されたあとの事考えてなかったあああぁぁ!!」

 

 

続いて支えを失った絵莉と光が、真っ逆さまに落ちて行く。

 

そんな中、絵莉はぴかりの手を取り……()()()()

 

 

篠田「パラフィン・ナフテン!」

 

 

本来手足から噴出するはずのジェットエネルギーを一点から出し、光を遠心力で投げ飛ばした!

 

 

武川「絵莉!? 何をしていrのわあああぁぁぁ!!」

 

魔法使いでもない一般人なのに、光はよく飛ぶなぁ……ホント。

 

光が投げ飛ばされた先は勢いを無くす頃にはギリギリ、芹香の魔法の許容範囲に入っていた。

 

 

月村「第五章! 嵐の巻『上昇気流』! 性質は『保護』!」

 

 

芹香が魔法を使ったなら、橙色の激しい風が光を竜巻状に包むだろう。

 

 

武川「 目 が 回 る ぅ ……」

 

 

流石の光も、精神力の限界らしい。

 

ぐったりして吹き抜ける風に身を任せ、ふわりふわりとその場に留まる。

 

ふと、恐ろしい事に気がついた芹香は再び顔色を真っ青にして叫んだ。

 

 

月村「絵莉ぃ!!!!」

 

 

見るなら、絵莉の姿は す で に 無 か っ た 。

 

 

触手もほとんど焼け落ち、身を隠せそうな物はこの辺りにはない。

 

慌てて芹香は飛行魔法で向かおうとしたが、

不意に何かが横すれすれを通り、芹香より遥かに早く横切る。

 

「僕に任せて」……そう、言われたような気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

落ちる、落ちる、落ちる……

 

 

吹き抜ける風は強い香気が鼻につくようなレベルだったが、絵莉には何故か……懐かしく思えた。

 

 

篠田(紫香の、香水)

 

 

思い出すのは幼い頃の記憶、あの頃は楽しかったなぁなんて考えた。

 

それは小学校低学年の頃、バカをやってきた幼馴染。

 

 

篠田(懐か、しい……な。

 

 

光……

 

 

紫香……

 

 

あたし……

 

 

……倉、酒松(さかまつ) (ぐら))

 

 

ぐら、それは絵莉のご近所さん。

 

 

ぐら、それは光のお笑いの相方。

 

 

ぐら、それは紫香の……本当の恋人。

 

 

 

 

2()()の初舞台は『病院』だった。

 

 

武川「オイラピカピカ金ぴかりん! 月にも負けないまぶしい電球!

腹筋に笑いを即蓄電! 池宮の電気屋といったら電球少年ぴっぴかり!」

 

酒松「俺っちグラグラぐらぐらりん! 俺が歩めば地は揺れる!

速攻揺さぶる貴様らの腹筋! 池宮のクリーニング屋といったら振動少年ぐらぐらり!」

 

 

武川「 2 人 ! 」

 

酒松「 揃 っ て ! 」

 

「「池宮少年ぴかぐらり!!」」

 

「こらぁ! 病院で騒いじゃダメ!」

 

「「ギャーース!!?」」

 

 

顔馴染みの看護師から逃げ回っては、他の患者さんを笑わせて歩いていた。

 

2人の将来の夢は『お笑いコンビ』、漫才の番組に出て優勝をする事。

 

絵莉は4人の中で妹的で、紫香は3人のお母さんのようなしっかりとした存在だった。

 

倉の体調が優れない時は、病院で延々とゲームやお喋りをして

仲良し4人組は会う度に楽しんでいたらしい。

 

 

……唐突だった、その時は。

 

 

ある日突然言われた面会拒絶、後日会ったのは集中治療室。

 

耐えきれなくなった紫香は深夜病院に忍び込み……一度だけ、倉に会いに行ったらしい。

 

……その日が『倉の命日』になってしまったのは、

もはや運命のいたずら、悲劇としか言えないだろう。

 

 

紫陽花(あじさい)

 

 

倉に3人で遊びに行く時に紫香は必ずお見舞い様の花を大切そうに持っていっていた。

そのお返しにとある時、倉が紫香にあげた雑貨が紫陽花のモチーフだっだ。

 

 

酒松「紫陽花にはね、『元気な女性』って花言葉があるんだよ。

 

……うん、紫香ちゃんみたいな女の子。

 

紫香ちゃん、いつもお花ありがとう……この花は、君にピッタリだと思うよ」

 

 

 

 

頰がこけ弱り果てても笑う倉、その儚げな笑みは今でも思い出として浮かんでは沈む。

 

 

 

 

篠田「っ……ぐすっ、うぅ……」

 

 

日々の何股にも及ぶ、欲求不満の埋め合わせ。

 

その裏にはどれだけの……悲しみがあったのだろうか。

 

埋まらない欲を抱えたまま、叶わぬ愛を抱えたまま、どんなに苦しんで生きてきたか。

 

紫香の辛さを考えると、あとからあとから涙が溢れてくる。

 

 

((泣いている場合じゃないだろう!!))

 

 

篠田「……あ、そっか、今は」

 

 

よく考えれば、今の絵莉は魔女の体内を落下している最中だった。

 

 

涙を拭い、現実を見る。

 

 

((飛行は僕が制御する、君は魔女の弱点を探すんだ!))

 

篠田((わかった! 探す!))

 

「魔女の弱点……あれ、かなぁ」

 

 

絵莉には心当たりがあった、すなわち今回の魔女の弱点。

 

 

……紫香の、弱点だ。

 

 

見渡すとそれはすぐに見つかった、目的が明確だと割とすぐにわかる物である。

 

それは『紫陽花の手鏡』だった。

 

倉が、オシャレが好きな紫香の為いつでも自分を確認出来るようにと贈った品。

 

その鏡の部分からは何本もの管のような物が伸び、ドクドクと脈を打っている。

 

さしずめ、魔女の心臓と言った所。

 

 

篠田「……紫香、ごめん!

 

 

教科書を開けっ!」

 

 

指示棒を召喚し、慣れた手つきで目の前の空中に魔力で素早く数式を描いた。

 

直角三角形から展開する数式……3つの数式は絡み合い、1つの大きな魔法陣となった。

 

これは絵莉の必殺魔法、最強の追尾弾!

 

 

篠田「サイコ・サタン!!」

 

 

呪文と共に魔法陣が強く光を放ったかと思うと、魔法陣は魔力を放ちながら変形し、

緑色に輝くデフォルメの悪魔を象って魔力を散らしながら飛んでいった。

 

3つの数式の複雑に絡んだ魔法陣は、悪魔を守りながら悪魔にまとう。

 

そのうち、悪魔は鏡にぽみゅっと当たって柔らかな潰れて膨張し、

ドゴオォンッ! と大きく爆発した、あとに迫るは数式の魔力の雨。

 

 

……魔法が収まった頃には、紫陽花の手鏡は跡形もなく無くなっていた。

 

管から大量の液体が吹き出し、辺りに魔女の断末魔が木霊している。

 

 

【ahauhaauhaahauhauhuahuaha!!】

 

篠田「っああぁ……!!」

 

((よくやってくれた! 引き上げるよ!))

 

 

飛行魔法なんて使ってもいないのに、絵莉の体は上へと飛んでそのうち魔女の体内から脱出した。

 

がま口のへりには、両手に魔力を込めて絵莉に手をかざす蹴太がいた。

 

その肩にはハチべぇがいる……なるほど? 今までの念話は蹴太の物か。

 

蹴太は絵莉を自分の元へと移動させる。

 

 

中野「飛行魔法は使えそうかい?」

 

篠田「ごっ、ごめんなさい! 弱点を破壊するのに必殺魔法使っちゃって」

 

ハチべぇ「絵莉は魔力を使い過ぎたようだね」

 

中野「構わない、僕が君を運ぼう。 早く魔女から距離を離さなくては!」

 

 

絵莉は水色の魔力をまとったまま、魔女から勝手に距離が離れた。

 

その横では蹴太も浮遊しており、共に空中を進んでいく。

 

周りを見渡したなら、光を背中に背負った芹香と利奈をお姫様抱っこした海里がいた。

 

 

篠田「海里は……なんで、利奈をお姫様抱っこしてるのかな?」

 

清水「いや、怪我してたから念のためにこうして支えてやってんだよ」

 

篠田「みんなの前に行く前に降ろしてあげてね」

 

利奈、顔が真っ赤っかだよ。

 

 

魔女から距離をおいてその結末を見渡すなら、溶けゆく有様を見る事が出来るだろう。

 

焼けた触手も無事な触手も全て溶け出し、魔女は断末魔をあげながら激しく揺れ出した。

 

そのがま口から尋常じゃなく大量の黒い魔力を噴き出した。

 

それほど、強力な魔女だったのだろう。

 

 

やがて、魔女のがま口から噴き出すどころかその生地の間からも黒い魔力が噴き出す。

 

しぼむように魔女が消えゆく一方、全てが1点に飲み込まれる。

 

魔女も転がる口紅も、焼け落ちた触手も、枯れた紫陽花も根から取れて

 

全部全部、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれていく……

 

 

 

 

ふと、利奈は見た様な気がした。

 

手術着を着た、弱々しい少年を。

 

彼は魔女に手を振ったかと思うと、その身を煌びやかな衣装に変えて上へ、上へと、昇っていった……。

 

 

 

 

次に一同が気がついたなら、全員最初にいた4階の室内広場に立っていたり座っていたりした。

 

1、2、3……花組全員揃っている、どうやら上手くいったみたい。

 

あとに残ったのは、濁りなき苺色のソウルジェムと化粧品と紫陽花がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……唇の魔女を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

?「触るな!!」

 

 

 

【僕の目?】

 

 

 

中野「……僕を」

 

 

 

三矢「2人ともぉ……!」

 

 

 

〜終……(15)底無しの独占欲[後編]〜

〜次……(16)仲直りと五つ目の光〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……あれ、え? 1 5 2 4 9 字 ! ?

スランプだからって書き過ぎじゃないか私!?

ま、まぁそれはさておき……(実際スマホを持つ手が震えたよ)


うっへっへw ( ̄▽ ̄)

気がつきました? 気がつきました?w

今回より『ルビ』の使用を開始しました!


プレビューで確認したら、上手い事いってくれたようですね。
かなり前より読みやすくなったんじゃないでしょうか?

今回、読者の皆様を若干泣かせる気で書いたのもあるんで
泣いてくれたならスマートフォン持ったままガッツポーズをしますw p(。-∀-)q

師匠に一歩近づいた感じがしますね。
すぐにでも追いつきますよ! 嘘です! 無 理 で す ! !


ちょっとだけ雑談を挟みますか。

最近勉強の事もあって『肉』について調べているんですよ。

料理やその地域によって調理法や肉の種類が変わるから、学んでて面白いですね。

え、私ですか? 私の地域はどっちかっていうと海鮮の方が有名ですからねぇ……

あぁ、池宮にも港はありますよ。

強いていうなら、私の家庭は昔から『鶏肉』を使うって事くらいw
肉じゃがもカレーも鶏ですよ? 普通豚肉ですよね、ワカリマス。

おかげで好物は唐揚げです、まぁそんなに多くは食べませんが。

 甘 党 だし (´-ε-`;)

ったく女なのに肉を食うなんて……女子力捨ててますね知ってますよハイ。


私は道産子なので、リアルな本州の肉事情も知りたい所。
旅行以外北海道から出た事が無いですからね。

ついでに言えば道外の友達いないのでゴッフォ(吐血`;:゙`;:゙;`(゚Д゚;)


それでは皆様、こっちは猛吹雪ですがw

季節はずれな暖かな気温に体調を崩されないようお気をつけくださいな。

ばぃちゃっ☆(´ゝ∀・`)ノシ


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(16)仲直りと五つ目の光

(*´∀`)ノィョ―――ゥ☆彡 ちょっと前まで病気してたハピナですよ!

バニラアイスが美味しい体調でしたああぁぁ!!

ひゃっほぃ! やっとこさダラダラ続いた熱が引いた! 体調すっかり回復です!

まぁ……結局、ストック削る事になったけど (;゚∀゚)


で、せっかく投稿できたんだけど……私のとこは1月の投稿はこれでおしまい、
次の投稿は2月になっちゃう事をここでお伝えしておきます。

予想以上に体力が持たなくてですね……

若いうちに無理が効くとはよく言いますが、残念ながらそうでもなかったです。

例の青白の飲料から翼を授かったりして頑張って来たんですが、
最近になって無理が祟り熱が出てしまいまして……

前話の感想の返信が遅れた1名の方、本当に申し訳ありませんでした。


まぁ執筆自体は休みませんよ流石に! 一日一行でも書きますよもちろん!

物語は確実に、そのページの数を増しています。


今回は唇の魔女討伐後のお話になりますね。

他にもリュミエールやな展開が起きたり、利奈いつもの『あれ』を見たり、
ちょっとしたハプニングが起きたりと、豪華展開4本立てな仕上がりになっています。

いや、こんな言い方でもいつもの書き方ですがw


さぁ、長話もこれ位にして早速幕を上げてしましょう。

舞台は唇の魔女が倒された後、目を覚ますならそこは見慣れた景色……


1月18日
○誤字満載だったから修正
○その他修正

2016年9月21日
○PC向けに改行訂正
○誤字・脱字訂正
○その他訂正



外より暖かい、でも教室よりは寒い……そんな気温に花組は包まれていた。

 

壁にでかでかとあったはずの結界の入口は消え、

代わりにそこにはソウルジェムと大きめのグリーフシードか残る。

 

もう鼻につくようなキツイ香水の匂いはない、今これと言ったかげそうな匂いもない。

 

 

一同は確かに、元いた現実世界に戻ってきたのだ。

 

 

戦闘を終えた一同は変身を解き、それぞれの治療や浄化に当たる。

 

唇のグリーフシードは審議の結果……

 

一般人を救ったのと魔女に捨て身のとどめを刺した成果も含め、

特にこの魔女戦で活躍した絵莉の物になる事になった。

 

絵莉自身はそんな事に喜ぶ間も無く、紫香の元へ駆け寄った。

 

その手にあるのは、苺色のソウルジェム……紫香のソウルジェムだ。

 

紫香の抜け殻を取り囲む花組達をかき分け、膝をついて紫香の手を両手で握った。

 

絵莉の手には彼女のソウルジェムがある。

 

そんな事をしなくても、胸のあたりに置くだけで

普通に息を吹き返すのだが……まぁ、気持ちというのは大事だろう。

 

そのうち、絵莉と紫香の重なる手の中で優しく魂の光が溢れ出す。

苺色の光は大きくなったかと思うと、ふんわりと収まっていった。

 

光が完全に消える頃、紫香のまぶたが微かに動く。

 

 

篠田「紫香!」

 

三矢「……ぅ、うぅ……」

 

青冝「ちょ、どいて! 絵莉の関係者よ!」

 

上田「ごめんなさい通してぇ〜〜!」

 

武川「ほいほい、オイラが通りますよっと」

 

 

絵莉を心配した利奈やクインテットに光が紫香を取り囲む輪の最前列に出てきた。

 

芹香は溢れる野次馬に邪魔され上手く前に出る事は出来なかったが、

海里が輪から何人か引き抜いた為大きめの隙間が出来た。

 

 

月村「あなたは来ないの?」

 

清水「おう、ちょっとこいつら〆てくわ。 帰り、『例の場所』で会おうぜ」

 

 

海里の言う『例の場所』、恐らくリュミエール本部の事だろう。

 

 

月村「……わかったわ」

 

 

芹香は海里にそう言うと、利奈達の元に行く為と輪の中に入っていった。

 

 

「ちょ、おい!? 何すんだよ!?」

 

「いだだだだだ!!」

 

清水「ちょっと話したいことがあるんでな、あぁお前らも来いよ」

 

「なななんで海里が怒るわけ!?」

 

「お、俺達はただ告白の手伝いをしてやっただけで」

 

清水「い い か ら 来 い」

 

「「……ハイ」」

 

清水「八雲! 力強!ちょっと手伝ってくれ! なぁに、逃げないようにすれば良い」

 

空野「うん! 任せてよ海里!」

 

地屋「おう、今回ばかりは許さんな」

 

清水「じゃ、行くか! 仲 良 く や ろ う ぜ ? お前ら」

 

 

ニコッとした微笑みから繰り出される、あまり出さない絶対零度の殺気に怒り。

 

逆らうのをズルズルと引きずってでも、紫香で遊ぼうとした不真面目を連れていった。

 

……その後、保健室に何人かの不真面目な怪我人が訪れたのは言うまでもないだろう。

 

 

サボりではなく、割りと冗談抜きな状態で。

 

 

三矢「……あ、れ?」

 

篠田「紫香! 大丈夫!? すっごく心配したんだよ!?」

 

武川「どこも異常は無いかい!?」

 

三矢「絵莉ちゃん、光く……」

 

 

意識がハッキリしたかと思うと突然、紫香は大粒の涙を流し出した。

 

 

篠田「あっ!? はわわわ!?」

 

武川「紫香どこか怪我してるのかい!?」

 

三矢「魂だけになった時……倉君に、会ったの」

 

篠田「え、倉!?」

 

武川「……ぐらりんにか」

 

三矢「う……ん、確かに倉君だったの。『僕のせいで悲しい思いさせてごめんね』って、

『もういいんだよ』って、『今までありがとう』って……!

 

ごめん、ごめんなの! 私……わた……し!!」

 

 

もはや声を出して泣く紫香、その涙は止まる事を知らない。

 

 

篠田「……ぐらりんとちゃんとさよならしたんだね、紫香」

 

三矢「光君、ごめん……なの! 私、気が狂ってたの。

 

付き合うとかは、もういいの……友達でいたい、前みたいに。

 

……許して、欲しいの」

 

 

そうは言ってみたものの、何を言っているんだ自分はと

思ってしまったらしく、紫香はうつむいてしまった。

 

それを見た光は……背中からハリセンを取り出し、

モードを『紙』にしてってえぇ!? 紫香の頭に()()()()()()()()!?

 

 

三矢「ふぎゃっ!?」

 

武川「うっへっへ!! いきなりツッコまれるのは驚くだろ?

これで今までの分を全部返したぞ!」

 

 

そう言ってその場で意外にも大笑いをする光、

絵莉はその笑いの裏に隠された優しさに関心していた。

 

 

篠田「ぴかり……」

 

武川「オイラはお笑い芸人! 笑わせるのが宿命で役目なのさ!

だからオイラも笑っていなきゃ! ぐらりんの分も、ね」

 

 

その時の笑いと言ったら、なんと儚げな事か。

 

光自身も『相方の死』により、何も思わなかったという訳ではないらしい。

 

3人とも……それぞれ、辛かったのだ。

 

それがお互いの中ですれ違った、紫香がその度合いが強かったというだけ。

 

 

三矢「2人ともぉ……! ぐすっ」

 

武川「あぁ、紫香泣き過ぎて化粧がぐちゃぐちゃじゃないか!」

 

三矢「……えへへ、大丈夫なの」

 

紫香が効き手に魔力を込めて顔を撫でたなら、

涙でぐちゃぐちゃになっていた化粧は、すぐに整ってキレイになった。

 

治っていないのは……泣きはらして赤くなった目元くらいか。

 

 

三矢「願いで『最高の美貌』を手にいれたんだから、

このくらいできなきゃ叶えた願いの意味がないの」

 

篠田「わぁ〜〜! ねぇ紫香、それあたしにもやって!」

 

三矢「絵莉は学校終わってからね」

 

 

このくらいになれば、もう大丈夫だろう。

 

3人は倉がいたあの頃のように、無邪気に笑い合いながら明るく楽しそうにしていた。

 

最高の友達……紫香はもう、無茶な恋愛なんてしたりしないだろう。

 

 

行けるはずが無い欲の行く先は、もう行く必要が無くなったのだから。

 

 

上田「ゲーム、クリア」

 

 

ふと、呟く利奈の終了宣言。

 

他の優しく見守る生徒達と同じように、チャイムがなるまで3人を見守っていた。

 

 

 

 

?「…………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時間を進めて、現在放課後。

 

 

利奈は吐息も白くなるような寒空の中、凍った道路を滑って転ばないように気をつけて走った。

 

 

上田「うぅ〜〜! 寒い寒い……」

 

 

近いはずなのに何故か遠く感じる、早く着きたいという感情がそうさせているのだろう。

 

目的地、それは魔法で存在を薄められた倉庫……リュミエールの本部だ。

 

冷え切った氷のようなドアノブを握って急いでひねり、素早く入って扉を閉めた。

 

 

上田「ふぅ……ハチべぇ、もういいよ」

 

 

利奈が肩にかけていたサブバックの口を開けたなら、

『きゅっぷぃ!』と可愛く鳴いてハチべぇが顔を出した。

 

 

ハチべぇ「寒い事自体に嫌悪感はないよ、僕にはそれを感じ取る『感情』はない。

でも凍えるといった身体的な不利はあるから、こういう気遣いは評価すべき点だね」

 

上田「評価してくれるんだ! ありがとうハチべぇ」

 

 

相変わらずの1人と1匹。

 

利奈はハチべぇをかばんから出し、自分の右肩に乗せた……

 

この位置はもはや定番といった所か。

 

ちょっと激しめな扉を閉める音は、主に関係者な本部への訪問者を知らせる。

 

 

篠田「あっ! みんな、利奈とハチべぇが来たよ! 利奈ぁ〜〜!」

 

ハチべぇ「やぁ絵莉」

 

上田「あぁ、絵莉ちゃん……えっと」

 

 

利奈は何から話すか分からないような様子だったが、絵莉はそれを見て明るく返してくれた。

 

 

篠田「もう大丈夫だよ、1番仲良しだった頃に戻ったの!

 

それに、新しいチームも作ったんだよ?

 

まぁ……念話の回線繋いでいない非公式だけどね、楽しくやってるよ」

 

 

そう言って絵莉はいつものように可愛げに笑ってみせた。

 

確かに、もう大丈夫みたいだ。

 

コミュニケーション能力の低い利奈でも、これ位なら流石にわかる。

 

 

篠田「ほらほら、早く来てよ利奈! 入口近くは寒いでしょう? 今日はお客さんが来てるんだよ!」

 

上田「お客さん? あ、荷物自分で持つよ」

 

 

暖かに暖房が効いている倉庫に来たなら、その端の方にある

ソファーに座るリュミエールの面子を見つける事が出来るだろう。

 

……なるほど、絵莉の言うお客さんが3人程いる。

 

芹香は離れた所で辞書のページを記しているが、利奈を見つけると視線を利奈に向けてくれた。

 

 

月村「今はこんばんはかしら? 寒い中おつかれさま、利奈」

 

上田「ありがとう芹香、本当に寒かったよ」

 

 

血流が戻り痛む両耳を摘まみ、軽く笑いながら利奈はそう言った。

 

 

清水「お、来たか」

 

武川「ハゥイ! 客だぞ〜〜!!」

灰戸「客は威張る者じゃないでしょ」

 

中野「お邪魔しています、ハチべぇもいるんだね」

 

武川「あれがハチべぇ?」

 

灰戸「どうやらそのようだね」

 

上田「……え、あ!?」

 

ハチべぇ「ぎゅっぷぃ!」

 

 

利奈はしまったという感じで右肩にいるハチべぇを

慌ててバックに隠そうとしたが、4人はそれを見て笑い出した。

 

 

清水「大丈夫だ、ハチべぇの事は灰戸もぴかりも既に知ってる」

 

武川「茶色い喋るうさぎさんってね!」

 

清水「……オイ、ちょっと説明と違うぞ」

 

灰戸「海里の判断で現状、月組のリーダーみたいなのを務める僕と

その相方を務める情報発信役のぴかりも、知っておくべきだって事になったんだよ」

 

篠田「……あれ? ハチべぇって魔法使い以外にも見えるの?」

 

ハチべぇ「そういえば言っていなかったね。

 

本当は都合良くそうなればいいけど、僕の存在は『先駆者』とは違い、

魔法使いと一般人関係なく見えてしまうらしいんだ。 とても厄介な事にね」

 

上田「そうだったんだ」

 

清水「やっぱりそうだったか……ぴかりが教室に来る度に

隠れてたから、なんか変だなって思ってたんだよな」

 

月村「先入観という事ね、誰がそんな事吹き込んだのかしら」

 

中野「自然に出来たんだと思うよ」

 

 

事情を知った利奈はハチべぇに謝り右肩に乗せ直した、そこはハチべぇの定位置だ。

 

 

 

 

さて、話は別の事へと切り替わる。

 

 

上田「そういえば……ここって確か、リュミエール以外の人の意識は

魔法で向かないようにしてあるんじゃ……」

 

両肩に背負った荷物を置いたり、コートを脱いで畳んだりしながら

利奈はそんな疑問を抱いたが、解答はすぐに返ってきた。

 

清水「あぁ俺が入れたんだ、中野が俺に頼みがあるって言ってな」

 

中野「こんな街に完全に溶け込むような何気無い倉庫が本部だって思わなかったよ」

 

上田「そういう魔法だもんね」

 

清水「おう、それと……灰戸はついでに連れてきた。 武川はそれについてきた」

 

灰戸「『ついで』って君ねぇ……

 

花組がどうなったかを聞きたくてね、現場報告ついでについて行ったんだよ」

 

武川「花組みんな無事だってね! オイラ、すごく安心したよ!」

 

灰戸「僕ら月組はやっぱり実際に惨事を目撃した人もいるから、

特に首を突っ込むような真似はしなかったみたいだよ」

 

清水「同志だと説得力あるだろうな、目撃したの1人じゃねぇし」

 

灰戸「鳥組は大半が4階を除きに行ったらしいけど、風組が総出で収めてくれたらしいね。

 

あの2つの組は組単位でバランスが取れているからありがたいと思うよ」

 

清水「……マジかよ、風組がいなかったらもっと被害が広まってんじゃねぇか」

 

武川「風は賢いのが多いからね、白髪の人が多いけど」

灰戸「それは口に出して言う事じゃないでしょ」

 

 

……風組は成績重視な子が多い、まぁストレスが多く前途多難なんだろう。

 

 

 

 

そんな感じで、各組の把握は大体は一通り理解した所。

 

次は『何故、三矢紫香は魔女化したのか』という話になったが、

この話はとある理由によって簡潔に終わった。

 

……えっ? 『何故簡潔なんだ』って? 理由は絵莉と光がいるからだ。

 

海里によると、あの状況を作ったのは花組の不真面目達の仕業で、

予想通りというかやはり『遊び感覚』だったらしい。

 

一部不真面目は優梨の配下で、後々叱られたんだとか……ここまでとなると不真面目達も散々だ。

 

でもまぁ、結果的に校内で孵化なんて下手したら大惨事にもなり得た事だ。

 

このくらい叱られても仕方ないだろう。

 

……海里の『仕置き』は少々オーバーだったらしいが、

彼ら彼女らにしたらまさに『画面越しの寸劇』だったのだ。

 

唯一良い点をあげるなら……悪気はなかった点くらいかな。

 

 

さてさて……何回『さて』って言ってるんだ!

 

話題は最後の物になる、『中野蹴太の頼み事』だ。

 

その話が始まると、蹴太はいつもの顔……

ようは『真面目な顔』だ、真剣な話をする時の顔。

 

いつもの顔というのは、彼がふざけるのが少ないという事の隠れた表現でもある。

 

 

中野「ごめん、清……海里。 部外者の僕が本部に来てしまって」

 

清水「おぉ覚えてたのか! フルネームじゃなくて、やっぱそれだと聞きやすいな。

 

謝る必要はねぇよ、ここに連れてきたのは俺だしな。

 

それで? 頼み事って何だ?」

 

中野「……僕を」

 

 

緊張してたのか、蹴太は一度深呼吸。

気持ちを改め意思を固め、大きめの声で蹴太は言った。

 

 

 

中野「僕を! リュミエールに入れてくれ!!」

 

 

 

 

それを聞いた一同は、驚いたような反応を見せる。

 

海里は何故か、そんな反応しなかったが。

 

その後に続くは理由の説明、火がついたように蹴太は話を続ける。

 

 

中野「僕は魔法少年になる時の願いで、『指導者の技量』を手に入れた。

 

でも、技量だけじゃ通用しないって今回の魔女戦で痛いほどわかった。

 

だから僕は強くなりたリュミエールが桁違いなチームなのはわかっている、

君が以前見せたチーム所有のグリーフシードの数が明確に物語っている。

 

……僕が足を引っ張る可能性だってある。

 

それでも! 僕はリュミエールに入りたい! 体を引きずってでもついて行く!

 

強くなって必ず貢献する!! 不幸だって弾き飛ばすほどに強くなって見せる!!」

 

 

止まる勢いの後の一時の沈黙、それを終わらせたのは海里だった。

 

 

清水「……こいつが弱いように見えるか?」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ、今までの実績や魔力の量からして彼が弱いとは言えないね」

 

上田「私もハチべぇと同じ、とても弱いようには見えないよ」

 

月村「事前に真面目と不真面目をまとめたのは彼よね」

 

篠田「すっごくしっかりしてたよ!

だって、助けてくれなきゃあたしとどめさせなかったもん!」

 

中野「リュミエール……!」

 

 

海里は当然の事のように指輪をソウルジェムに戻すと、蹴太の前に差し出した。

 

 

清水「偶然だな? 俺も ち ょ う どお前を

リュミエールに勧誘にしようと考えてたんでな。

 

中野蹴太がリュミエールに入るぞ! 3人とも異論はねぇか?」

 

月村「否定する理由がないわ、早く入れてしまいなさい」

 

篠田「やったやった! 新しいメンバーが1人増えるんだね!」

 

上田「異論はないよ、海里」

 

清水(……オイオイ、こんな時に赤くなってどうすんだよ俺)

 

 

利奈自身は気がついていないようだが、いつの間にか『海里』と自然に呼ぶようになっていた。

 

今のがその第一声と言った所か、その微笑みは確実に強い鼓動を生む。

 

 

清水「……さ、最終確認だ。

 

中野蹴太、お前はチーム『リュミエール』の一員になる事を望むか?」

 

中野「はい、僕は……チーム『リュミエール』に加入します!!」

 

 

そう言って蹴太は指輪をソウルジェム戻し、海里の前に勢いよく差し出した。

 

 

……ん? 『真面目か!』というツッコミが聞こえたような気がしたが、

きっと気のせいだろう、ツッコまれなくとも彼は真面目だ。

 

 

清水「お、おう。 リュミエールのリーダー権限で、正式に加入を許可する!」

 

 

そう海里が言ったなら、2人が差し出している

青のソウルジェムと水色のソウルジェムは強く輝きを放ち始めた。

 

それだけではない、赤に緑に橙もだ。

 

その輝きの強さを言うなら、芹香の作業を止める程。

 

4人のソウルジェムに水色の光が入り込むのはもちろんのこと、

蹴太のソウルジェムにも4つの光が入り込んだ。

 

 

 

 

今、ここに『水色の光』が増えた。

 

この『光』には確かに、1つ足りないものがある。

 

だが、これから学んで行くだろう。

 

そうでなくても、彼の輝く力は強いのだから。

 

 

 

 

清水「……よし! これでリュミエールの仲間入りと言った所だな、よろしくな蹴太」

 

中野「こちらこそ!」

 

 

寒色系の魔法少年2人が交わす握手、リュミエールは新たな光を歓迎しよう。

 

 

武川「魔法使いって良いもんだね、こうやってみんな仲良くなってく」

 

灰戸「考え所はありそうだけどね」

 

武川「オイラもちょっとだけやってみたいかな、魔法少年」

灰戸「僕の話聞いてたのかな?」

 

武川「ふぇ、オイラ言ってみただけだよ」

 

灰戸「……まぁいいや、今はリュミエール含めた花組を部外者として見守ろうか」

 

武川「オイラ達の役目は魔女や魔男の被害から、

一般人側として避けさせるって大事な役割があるもんね!」

 

 

そう言ってぴかりはハリセンを手にし、まるで思いを込めるように握りしめた。

 

 

灰戸は「そうだね」とぴかりに言い、今はリュミエールの増加を静かに祝うだけだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベットの上でうさぎの抱き枕を抱いて、利奈はふわふわの毛布に埋れた。

 

ふと指輪をソウルジェムに戻して見つめるなら、

穢れ1つなく透き通る赤色の宝石がその瞳に映るだろう。

 

皆平等に浄化がされたのだ、利奈個人のグリーフシードも使われていない。

 

各チーム所有のグリーフシードを少しずつ使ったという感じか。

 

分配担当は……中野 蹴太、なんだ結構ちゃんとしてるじゃないか。

 

 

上田「サイコキネシスの魔法かぁ……」

 

 

ふむ、確かに利奈にしたらあまりみた事のない形式の魔法だ。

 

 

利奈の魔法はと言うと……

 

簡単に言えば魔力で物質を作り出し、それを使用し攻撃すると言った所か。

 

それに比べ、蹴太の魔法は形がない。

 

形がないという点なら、力強の『重力の魔法』や

八雲の『嵐の魔法』と類似する点があると言えるだろう。

 

そういえば、そう考えるなら魔法の形式は大雑把に分ければ2つに分ける事ができる。

 

『形ある魔法』と『形なき魔法』だ、まぁその中間もあるわけだが。

 

大半は武器などを生成する、『形ある魔法』が多いと思う。

 

それだけ『形なき魔法』は珍しい物で、利奈からしても蹴太の魔法は新鮮だろう。

 

 

最近、花組全員を信じ切る……というのはまだ無理がある利奈だが、

少しずつ……ほんの少しずつ、信じれる人が増えてきたように利奈は感じていた。

 

最初は誰も信じていなかった利奈、ここまで増えたのはかなりの進歩だろう。

 

確実に、希望は増えている、増している。

 

物語は順調に、その行先を書き記す。

 

『思い出』という名の進んで来た道を、とても良い形で残している。

 

今日はぐっすり眠れそうだ、まぁ寝る前のゲームは欠かせないけどね。

 

利奈は自らのソウルジェムを指輪に戻すと、グリーフシードを整理して

限界が近いグリーフシードを枕元に置いて布団の中に体を収めた。

 

 

上田「この前は失敗したなぁ……今日はしっかりやろっと、復活薬!」

 

 

そんなにゲームで復活薬を逃したのが悔しかったのか……

 

まぁ利奈のゲームからしたらもっとも高価な消費アイテムだ、

利奈がこうなってしまうのも無理はないだろう。

 

さて、おやすみなさい。

 

 

明日も学校、ゆっくり休もう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

音もなく、夢は始まった。

 

夢から覚めて起きたらなら、利奈の顔面にゲーム機が落ちているだろう。

 

いつもやってしまっているようだが……これは痛い。

 

 

 

 

ここは黒板の魔女の結界、いるのは1匹の使い魔だけ。

 

 

 

 

この頃になると、この夢にはもうすっかり慣れてしまっていた。

 

逆に楽しめる程である。

 

いつものまっすぐ続くステンレスの道を進んだなら、

その向こうなら不思議な生物が元気に駆けてくるだろう。

 

 

上田「チョーク! また会ったね」

 

【こんばんは利奈!】

 

上田「って喋り方、すごい流暢になってる!?」

 

【リュウチョウ?】

 

上田「……あ、あぁ、スラスラ喋れてるって言えば分かってくれるかな」

 

【スラスラ……わかるよ利奈! 僕、すっごい練習したもん!】

 

上田「すごいよなぁ……その『黒いモヤ』っていうのを

食べて話せるようになったんでしょ?」

 

【それもあるけど、最近は自分で練習してるよ】

 

上田「へぇ〜〜!」

 

 

静かになった結界内を散歩でもしながら、気軽に会話を楽しむ2つの存在。

 

おっと、今回はステンレスの道から降りられそうな場所を見つけたようだ。

 

落ちないよう協力して慎重に降りて行く。

 

 

下の方は緑の床だった、まるで学校のプールの滑り防止の床のような床。

 

大量の机と椅子がそこにきちっと並べられていた、

所々に()()()()()()()()()()()()が散らばっている。

 

流石、学校がテーマの結界()()()場所。

 

 

遠くからはわからなかったが、羽織り物や下着に至るまで男女問わず様々な衣類が……

 

 

ん? 見た事のある白と赤の制服?

 

 

上田「あれ? これ……うちの学校の制服だ!」

 

【制服? えっと、椛学校?】

 

上田「『第三椛学園』の制服だよチョーク!

……ちょっと着てみるか、そっぽ向いててチョーク」

 

【?】

 

上田「おすわり!」

 

【ワン!……って、僕は犬じゃないよ!】

 

 

素直に利奈に背を向け、おすわりをするチョーク。

 

そのまましばらくすると、「もういいよ」と利奈が声をかけた。

 

 

【……ん、おぉ!? うわぁ……!】

 

 

硬質な組織はあまり明確な表情を作らなかったが、その声からしても感動の度合いは分かった。

 

チョークが振り返るなら、そこには制服姿の利奈がいた。

 

最初のパジャマ姿とは全く違う服装となっている。

 

 

【それが制服? すごく可愛い!】

 

上田「制服で可愛いだなんて、言われた事なかったな」

 

【そうなの? とても似合ってるよ】

 

上田「あんまり言うと照れるって」

 

 

利奈は照れながらチョークにそう言ったが、ふとチョークの変化に気がつく。

 

 

上田「あれ? チョークの目……」

 

【僕の目?】

 

上田「あ、う、えっと……」

 

 

利奈が周りを一通り見渡したなら、彼女が探していた物は

この結界の大半となるステンレスの道を支えていた柱で見つかった。

 

円で囲うように水道が設置されている、水道の上についているのは丸い鏡だ。

 

『鏡』、これが利奈が探していた物。

 

 

上田「ほらチョーク、ここに鏡があるよ」

 

【鏡か! 自分の顔を見てほしいって事だね】

 

利奈はチョークを連れて柱の近くに行き、水道の上にある鏡の内の1つを覗きこんだ。

 

チョークも水道の上に乗り、2人は自らの顔を確認した。

 

 

【……僕と利奈、全然違うね】

 

上田「いやいやそこじゃないよ」

 

【え?】

 

上田「ほら、チョークって前は『目玉』が無かったでしょ?」

 

それを言われて、再び鏡で自分を見るチョーク。

 

ようは黒板の使い魔には『目玉』という物は

元は存在しなかった、そこにあるのは窪みだけ。

 

ところがある時、そこに赤いチョークの球体が出来た。

 

チョーク自身は意識をしたことがなかったが、

今となればビー玉のような赤い瞳が瞬きで見え隠れしている。

 

【これが『目玉』? ……あぁ、そういえばいつからかよく見えるようになったな】

 

上田「『黒いモヤ』かな?」

 

【う〜〜ん……無意識だったから覚えてないや】

 

上田「どういう事なんだろ……あ、そう言えばチョー」

 

 

 

 

【何? 利奈……あれっ、利奈?】

 

 

ふと、チョークは周りを見渡したが……そこに利奈の姿はなかった。

 

 

【もう行っちゃったのか、もっとお話したかったのにな……『僕』、か】

 

 

鏡に手を当て自分を見るチョーク、鏡を撫で下ろした跡には白くチョークの線が残る。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

上田「……あれ」

 

 

目が覚めたなら、そこは自分の布団の中。

どうやら無意識に布団に潜っていたようだ。

 

布団から顔を出したなら、若干冷んやりとした空気が頭を包む。

 

 

上田「寒っ! あれ、ゲーム機は……あったあった」

 

 

枕の下に紛れていたゲーム機を充電器に刺し、枕元のグリーフシードを確認する。

 

……相変わらず黒板のグリーフシードは、謎の穢れの減りを見せていた。

 

まぁ何回も経験しているから大体の原因の検討が付くが、証拠や根拠がない。

 

 

上田「今は起きるっ……!」

 

 

とても寒かったが、布団を蹴り上げて利奈はなんとか起きた。

 

寝起きはとても寒いものだが、慣れてしまえばどうってことないし最高の眠気覚ましになる。

 

 

上田「うぅ〜〜寒い寒い!」

 

 

体をさするなり小さく地団駄を踏むなりして

、寒さに耐えながら利奈はとっとと着替える。

 

冷えた床は木製だろうが、氷のように冷たい。

 

ホント、冬の朝というのはとても寒い。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

降りたての雪をブーツで踏みしめながら先を行く。

 

冷ややかな風がやわやわと吹き抜け、地味に顔面を冷やしてくる。

 

……うん、簡単に言おう。

 

 

め っ ち ゃ 寒 い !

 

 

上田「が、学校が遠い!」

 

ハチべぇ「幼少期から住んでいる土地なのに、寒いのがダメなのかい?」

 

上田「あ、おはようハチべぇ」

 

 

どこからやってきたのか、見ると足元にハチべぇがいた。

 

 

ハチべぇ「おはよう利奈」

 

上田「うん、毎年やっぱりこれだけは慣れないんだよなぁ……ほら、入って」

 

ハチべぇ「そういう生物なんだね、僕には到底理解出来ない」

 

 

そう言いつつ、ハチべぇは利奈が開けたサブバックの中にスルッと入っていった。

 

その一連の作業は、とっくの昔に慣れたもの。

 

利奈はハチべぇの頭を撫でて、キツくないよう位置を整えてあげた。

 

ハチべぇは「きゅ〜〜」と可愛くないてみせる。

 

……うん、可愛いがあざといけどやっぱり可愛い。 うさぎ型は反則!

 

 

上田「学校まで我慢してね、ハチべぇ」

 

ハチべぇ「しばらく入らせてもらうよ」

 

 

そんな感じで、サブバックの蓋を優しく閉めた……時だった。

 

 

?「うわっ!?」

 

 

ドシャっ! と目の前にいた男子が大胆にすっ転んでしまった。

 

ニット帽にマフラーと暗い灰色のコート……ふむ、『暗い灰色のコート』。

 

どうやら第三椛学園の生徒のようだ。

 

 

上田「わっ、大丈夫ですか?」

 

 

利奈は両肩の荷物をその場で降ろし、転んだ彼に手を差し伸べた。

 

 

……ところが

 

 

?「あっ……!? 触るな!!」

 

 

そう強く言われ、利奈は何故か強く突き返されてしまった。

 

 

上田「うわっ!?」

 

 

その突き飛ばされてバランスを崩した勢いのまま、

利奈は雪山に背中から体を突っ込み真っ白になる。

 

突き飛ばした当の本人はそこまでするつもりはなかったらしく、

その男子はしまったという顔をするが、起き上がって早々に逃げてしまった。

 

 

上田「っ……ぷはっ! ハチべぇ大丈夫!? 潰れてない!?」

 

ハチべぇ「僕の体に身体的なダメージはないよ」

 

上田「良かった……あれ」

 

 

ふと転んだ彼がいた所を見るなら、そこには何か落ちていた。

 

 

上田「これなんだろ、キーホルダー?」

 

 

拾うと、それはかなり凝った作りだった。

 

手のひら代の小瓶の中に、簡素な船がその帆を張っている。

 

返そうにも持ち主は既に逃げたらしく、周りには雪化粧をされた住宅街しか広がっていない。

 

 

 

 

……思えば、これが始まりだったのだ。

 

花組の『闇』に利奈が触れる事になったのは。

 

不真面目成立の裏に隠された『闇』……

 

恐らくリュミエールが、『花の光』が、簡単に照らせるモノではないだろう。

 

花組全てが団結する日は、まだまだ遠い先の話らしい。

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

篠田「利奈ぁ〜〜元気出して!」

 

 

 

上田「感情の起伏が激しい人かぁ……」

 

 

 

?「ふむ、あなたの根は優しいのでしょう」

 

 

 

清水「……なんだと?」

 

 

〜終……(16)仲直りと五つ目の光〜

〜次……(17)小船と黒猫の恩返し〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




酒松 倉……彼は紫香にたくさんの、言葉と希望を遺し旅立ったようですね。

こんな倉だったからこそ、紫香は狂った欲を持ってしまったのでしょう。

絶望というのはすなわち、希望の反転……2人は良いカップルだったと思いますよ。


……ふむ、うえマギには出さない予定の展開。

ハチべぇのシステムで死者はまだ出てませんが、
ちょっと魔法使いの『死』について話しておきましょうか。

話の流れ的にいい機会だし。


魔法使いは本体でもあるソウルジェムを木っ端微塵にでも破壊されない限り、
魔法使いが孵化で死ぬ事はありません。

一応事故とかでも死にますが、魔法使いとして強化された肉体は
そんな簡単には死んではくれないでしょうね。

大半が人間同様の命を全うし、その一生に別れを告げるのです。

もし魔法使いの寿命が尽きてしまったのなら、
ソウルジェムは光となって溶けその魂は天に登るでしょう。

魔法使いは全うした運命から解放され、人生という次の『物語』を迎えるのです。

ようは『生まれ変わり』というやつですね。

魂が壊れて続きが無いなんて、悲しすぎて話にならない……
やっぱり私にはHappy ENDがお似合いです。


さて、幕を降ろしてしまいましたが、
ここでちょっとした余興として雑談をして終わりましょう。

今回の雑談長いので、面倒な方は『〒』の行間を飛ばせば
最後のお知らせまで飛ばすことが出来るでしょう。


〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒


前回は『肉』についてお話しました。

やっぱり、『鶏肉』が好きだって意見が出ました。

えぇ私も好きですよ、家庭の味ですもの。

肉じゃがも鶏肉が入っていましたよ、ハイ。

沖縄の『スパム』が出た時は興味心身でしたね、
なにせ私にしたら名前しか聞いた事無い肉類です。

今の私に入手する事は通販ぐらいしか無いですが、
機会があれば一度口にしてみたいです。


(;゚∀゚)<(後書きの長さが暴走レベル)


『肉』について語ったなら、次に語るべきは『野菜』ですね。

子供だったみんなが誰もがぶつかる、『好き嫌い』という壁でもあります。

まぁ、人間とはとても面白い者。

ある一点を境に味覚が急に変わってしまうもので、
大抵の人は乗り越えられるらしいですね。


閑話休題、明るい話をしましょう。

私は『葉野菜』が好きです、白菜にレタスとか色々ありますが、
グリーンボール! キャベツか特に好きです!

胡麻ドレッシングかポン酢が美味しいですね。

加熱したや物よりは生野菜を良く食べます。

野菜の利点というのは、やはり『生食』が出来る点ですね。

『肉』や『魚』だと菌が潜んでいますから、
加熱して食べるのが無難なので『生食』は無理そうですね。

(レバ刺や馬刺しは例外ですね多分)

葉野菜とか人参とかばっかり食べてて、『でかい小動物』と言われる始末。

でかいってなんだでかいって!? ( ;꒪Д꒪)

地元が海産物中心なので、名産の話は今回も関係なし。
次話すのは多分『魚』だから、その時にじっくり話しましょうか。


〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒〒


2月までうえマギの更新はちょっとだけ止まってしまいますが……

私自身はハーメルンSSのまどマギ小説徘徊したりしていないわけでは無いので、
何かあったら言ってくださいな、短文ですが返しますので。
(もちろん感想はきちんと返します)


さて、最後のお知らせといきますか。

実はちょっとした『短編』をちびちびと書いているんですよw

原作の世界観を書く練習ってのもありますが、
熱を出して寝込んでいる時にこの2人ばかりが夢に出てきましてね。

せっかくなんで、小説にしてやろうかとw

これを投稿するかどうかは、小説の出来次第になってしまいますが……

まぁ、本編ついでに書いていきます。


じゃ、今回はこの辺で! 次に会う時は2月ですね!

なんか寂しくなりますが……まぁ、また2月の頭にお会いしましょうね。

o(*・ー・)〇"ぐっ♪o(*・▽・)ノ"ばーい♪


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(17)小船と黒猫の恩返し


。o.゚。・*(pq´▽`*)オヒサァ♪*。゚.o。

2月最初のハピナですよぉ!

予告通りの最新話です、お待たせしました!


さて、今回はボトルシップの落とし主探しを主体にして物語を進めていきますね。

単にボトルシップ……といっても、その種類は色々で様々。
どんなボトルシップなのかも1つの見所として読むとある程度は楽しいかも?

新たにリュミエールとなった中野 蹴太の様子も気になる所。


今回も1万字以上という大ボリュームお送りしていきますよ!!
走れメロスより多いですよ? どうしてこうなった!? (;゚∀゚)

……失礼、少し落ち着きます。 久々だったのでテンションがw


では早速、数週間ぶりに物語の幕を上げましょうか。

舞台は相変わらずと言った寒い冬。

水たまりの水も凍りつき、滴る液体が氷柱になる頃……


2016年9月24日
○PC向けに改行訂正
○誤字・脱字訂正
○その他訂正



冷んやりと冷え込んだ学校内、一日中コートを羽織りたいくらいだ。

 

まぁそんな事は出来ないのが学校って物、ブレザーの学校は勝ち組だと思う。

 

少し厚くしただけの制服なんて簡単に寒さをしのげるものではない、

肌をなでるような寒さはすぐにでも鳥肌が立つだろう。

 

使われない教室なんてその寒さは、ほとんど外と変わらない。

 

その暖かさは魔法によるもの。

 

 

そう、ここは使われていない理科室である。

 

今は『リュミエールの溜まり場』としての役割を持っているのだ。

 

今日から、1人増えている。

 

 

中野「ふむ、確かにこの場所は落ち着く。 ちょっとした読書に最適だな」

 

清水「おう! 結構来る人少ねぇし、大事な話とかしやすいんだこれが」

 

中野「あぁ、そういえば加入するに当たって何か連絡事項とかはあるのかい?」

 

清水「連絡事項? 真面目だなぁお前」

 

中野「よく言われる」

 

清水「んじゃチーム所有のグリーフシードから説明しとくか」

 

中野「あ、待って! メモを取るからちょっと道具を取り出すよ」

 

 

そう言って筆箱からシャーペンを取り出してカチカチと鳴らしたが……

 

中身がなくなってしまったのか、一向に黒い芯は出てこない。

 

新しいしんを取り出そうと筆箱を再度探したが、その時蹴太は固まった。

 

 

清水「……ん? どうした蹴太?」

 

中野「し ん 忘 れ たぁ……」

 

清水「は? ……あ、ホントだ」

 

 

愛用のシャーペンをカチカチしながら、うるうると涙目になる蹴太。

 

予備も買っていたはずなのだが、どうやら借りパクされていたようだ。

 

なっ、なんというアンラッキー……

 

 

清水「そんな落ち込むなって、俺のシャーしんやるから」

 

中野「……うん、ありがとう」

 

清水「そんなになるなって、誰かがフォローすればいいだろ?」

 

 

自分の不幸体質にため息をつく彼にそう軽く笑いながら言うと、

リュミエールのグリーフシードを取り出して口頭で説明を始めた。

 

蹴太も一心不乱にメモを取り始める。

 

……細かい、項目が細かい。 流石は性質が《真面目》と呼ぶだけの事はある。

 

 

 

 

一方のリュミエール女子組。

 

机に突っ伏して落ち込む利奈を傍に、3人でキーホルダーの持ち主を調べていた。

 

 

篠田「利奈ぁ〜〜元気出して!」

 

月村「親切心を無視した相手がおかしいんじゃない、あなたがそんな落ち込む意味がないわ」

 

上田「うぅ……でもやっぱり、あんな逃げ方されたらへこむよぉ……

結局、この誰かが落としたキーホルダーを返せなかったしさ」

 

 

ふむ、どうやら利奈は絹のハンカチでキーホルダーを磨いていたらしい。

 

黒の実験台の上に置いたなら、蛍光灯の光が反射して、

中の水に見たてた硬化したジェルがキラキラと光を乱反射する。

 

近くで体を丸めて寝てたハチべぇは、起き上がり興味深そうにそれを観察した。

 

 

ハチべぇ「人工的に作られた小型船の模倣だね。

材質は木材と薄地の布、そして元々ジェル状だった固体」

 

月村「改めてキレイにしてから見ると、やっぱり精巧に作られているってわかるわね」

 

篠田「わぁ〜〜! 細かい! なにこれ、こんな事出来る人いるの!?」

 

月村「世の中にはその位器用な人がいるって事よ、

一切途切れることがなくリンゴを丸ごと剥ける特技のようにね」

 

上田「……なんで私の方を見て言うの」

 

 

ちなみに、その小型船は俗にいう『ヨット』というので、

真っ白な帆を張った旧式の物であると素人でもわかる。

 

旧式……昔の船のと言ってもそんな大規模ではない。

 

海賊船のようにどっしりした大きな船というわけではなく、

1人用、2人乗れるか乗れないかくらいのこじんまりとした船だ。

 

 

月村「それにしても……おかしいわね」

 

上田「え、このボトルシップが?」

 

篠田「デザインが気に入らなかったの?」

 

月村「そんな理不尽な理由じゃないわよ!

ちょっと貸してちょうだい利奈、今から説明するから」

 

上田「えっ? いいよ、物があった方がわかりやすいもんね」

 

 

芹香は利奈の了承を確認して小さなボトルシップを手にすると、

手取り、当然足は取らないで説明し始めた。

 

 

月村「ボトルシップは、折りたたんだパーツを

ピンセットで瓶の中で組み立てて作り上げる工芸作品よ。

 

今言ったのが普通なんだけど……見なさい、ボトルの口を」

 

篠田「口?」

 

上田「どれどれ……」

 

 

ボトルシップの口にはキーホルダーにするための部品が付けられていて、

直視は出来なかったが別方向からガラス越しに見る事は出来た。

 

芹香の言うボトルは蜂蜜などを入れるようなふっくらとした形ではなく、

ぶどう酒を入れるような細身のボトル、別称ガラス瓶。

 

口はキーホルダーサイズのためか、爪楊枝2〜3本がやっと入るくらいの小ささだ。

 

 

篠田「ボトルもちっちゃいから、口もちっちゃいんだね」

 

上田「あれ、でもこれって……」

 

篠田「小さいのがどうかしたの?」

 

 

芹香はわかってないなぁという感じでわかりやすくため息をしてみせた。

 

絵莉はショックを受けて驚き、少々落ち込み気味。

 

だが芹香もただの鬼ではない、ちゃんとヒントを与える。

 

 

月村「さっきも言ったでしょう?

『折りたたんだパーツをピンセットで瓶の中で組み立てる』」

 

篠田「……あぁ! ピンセットが入らない!」

 

月村「ふぅーん、考えればわかるじゃない」

 

上田「あれ、じゃあこれは本来はあり得ない物って事?」

 

月村「瓶を一部破壊して繋ぎ直した可能性も考えたけど、

破壊した跡と接合した跡、どちらも見当たらないわ」

 

篠田「ど、どうやって作ってるんだろ……」

 

月村「そこよ絵莉」

 

篠田「……え?」

 

上田「あ、あぁ! そういう事か!」

 

月村「相変わらず察するのが早いわね。

そうよ、私達……花組に特有の『アレ』よ」

 

篠田「…………ぁ、ああぁ!! そっか!」

 

 

「「魔法!」」

 

 

絵莉はハモった声に驚いたが、その声の先を見て笑い出してしまう。

 

ふむ、利奈がわざと合わせてきたらしい。

 

芹香はその様子を見て、クスッと笑い微笑む。

 

 

月村「仲が良いのは良い事ね。

 

まぁそういう事よ、これでだいぶ持ち主を絞れたわ。

 

……さて、ここには幸運にも人探しにうってつけの情報屋がいるようだけど?」

 

 

 

 

中野「これで全部だね、長めの説明ありがとう」

 

清水「ちょ、『ありがとう』かよ!?

ほとんどの奴らは長いって喚くからな、真面目な連中はよくわからん。

 

……って、どうした? 3人とも俺の事じろじろ見て」

 

ちょうどリュミエールについてのルールや説明やらが終わったようで、

蹴太が海里にシャーペンを返してメモ帳をぱたんと閉じる頃だ。

 

 

上田「海里に仕事が出来たんだよ!」

 

清水「仕事?」

 

月村「あなたがお得意の人探しよ。色々調べた結果、

これは魔法で作られたんじゃないかって可能性が出てきたの」

 

中野「魔法……花組の生徒かい?」

 

篠田「そうだよ! 花組特有なの!」

 

月村「……それ、私の言葉そのままじゃない」

 

 

それを聞いて凹む絵莉、厳しいなと利奈と海里は冷や汗をかいて、

蹴太はスパルタ教育なのか? と苦笑いをしている。

 

 

清水「厳しいのはいいが程々にしてやれよ……

で、情報屋に人探しの依頼か。 聞きたい情報はなんだ?」

 

月村「『状況を変える魔法』が使える魔法使いを全員教えてちょうだい」

 

篠田「状況?」

 

上田「地屋さんみたいな魔法かな」

 

篠田「う~~んと……『重力』の魔法?」

 

上田「そうだね、魔力しか見えない魔法かな」

 

月村「正確には『形なき魔法』かしらね。

ところで、心当たりはあるかしら? 海里」

 

清水「ちょっと待ってな、今思い出してみる……」

 

 

そう言って海里はしばらく考え込んだが、解答はすぐに返ってきた。

 

 

清水「確か、『形なき魔法』を使えるのは花組に3人いたな。

んで、その中でそのボトルシップを作れそうなのが……1人いる」

 

篠田「お、誰? 誰なの?」

 

清水「和出(わで) (こがね)って奴だな。

感情の起伏やたら激しいから、結構印象に残ってたぜ」

 

中野「和出……名前と顔は知ってるけど、僕はあまり知らないな」

 

清水「蹴太が知らないのは当然と言っちゃあ当然だな、あいつはどっちかって言うと……

利奈の言い方で『不真面目』な方だし、基本的にほとんど教室にいないからな」

 

上田「感情の起伏が激しい人かぁ……」

 

月村「面倒である事は間違いないわね」

 

篠田「和出、さん……怒りっぽい人なんだよね、その人」

 

 

ふむ、絵莉は知ってたようでちょっと引きつってしまう。

 

 

清水「なんだ、絵莉は知ってたのか。

まぁそんなビビるなって、俺も同行すっから大丈夫だろ」

 

上田「海里も着いて来てくれるの?」

 

清水「おう、相手は不真面目だしその方が良い。 この前話し合いもしたし協力してくれるだろ」

 

上田「話し合い?」

 

月村「肉体言語の間違いじゃないかしら」

 

清水「ちょ、ハッキリ言ってくれるなオイ」

 

 

行動の手順を枠組み程度に決めると、リュミエール一同は移動を開始した。

 

去り際は丁寧に、蹴太が理科室の引き戸を閉めた。

 

ふぅっと吐く息は白くならない。

 

この廊下は外ほど寒い……というわけではなさそうだ。

 

一同が進む先を見るついでに、海里に先ほどからあった疑問を投げかける。

 

 

中野「そういえば、君は魔力を追って魔法使いの追跡が出来たんじゃなかっけ?」

 

清水「それも考えたんだがな、残ってる魔力の量が尋常じゃなく少ないんだよ」

 

中野「魔力不足による手段の変更か」

 

清水「まるで、最初から『なかった事』にされてるみたいで……悪いな」

 

中野「手段を選べるのは賢い証拠だよ」

 

清水「俺不真面目寄りなんだけどな」

 

 

そんな感じで2人の会話は上手い具合に弾んだ。

なんだかんだ言って仲が良い、この2人の波長は合っているらしい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

所変わって、ここは本校舎の2F。

 

花組ももちろんのこと、鳥組に風組と月組も混じって

都道府県の商店街のようなそれなりの賑わいをみせていた。

 

リュミエールはそれなりに知名度はあるようで、花組と月組から視線を浴びる。

 

視線と言うと色々あるが、『ここに来るの珍しいな』だとか

『あ! リュミエールだ!』とか冷たいものはなさそうだ。

 

いや、基本冷たいものは普段からないのだが……

 

利用しようとか遊んでやろうとかの『ふざけた視線』は数は減ったがたまにある。

 

 

ん? 今日はその視線が無いな。

 

……あぁなるほど、海里が言っていたのはこういう事か。

 

肉体言語……というか、悪意は無かったとしても『校内で孵化』なんて

この前はそんな非常事態になったのだ、流石に少しは懲りたらしい。

 

中にはほら、海里を見てビビっている者もちらほらいる。

 

 

さて、廊下に何人か生徒もいる。

 

いつまでもこの冷え込んだ廊下にいても、凍えるか風邪を引くだけだ。

 

早速教室に入ろう、まずは絵莉が行動に出る。

 

 

篠田「あたしは『クインテット』のに行って、何か知らないか聞いてくるよ!

(男性アイドル)の話もするかもしれないからちょっと長引くかも」

 

上田「うん、いってらっしゃい絵莉ちゃん」

 

篠田「は~~い!」

 

 

そんな感じで、絵莉は一旦リュミエールの集まりから外れて

4人で集っているクインテットの集まりに移動した。

 

蹴太がいるおかげか、真面目から話を聞くのもよりスムーズに行えた。

 

利奈も話をしているらしい……お? 優梨か、その選択は賢いね。

 

ふむ、1対1で彼女なりに頑張っている。

 

 

 

 

最初の手法としては、窓の外を眺めていた優梨に声をかけた。

彼女は「久しぶりね、利奈」と快く利奈の話を聞いてくれている。

 

 

上田「……えっと」

 

下鳥「焦る事はないわ、ゆっくり話しなさい」

 

上田「ぁ、ありがとう」

 

 

相変わらずの豪華なオーラ、まるで女王に謁見をしに来たような気分になる。

 

利奈はしっかりと頭の中で話す内容を整理すると、出来るだけ噛まないように話し出した。

 

 

上田「和出さんがどこにいるか知りませんか?」

 

下鳥「和出? あぁ釖の事を言ってるのね、あなた『星屑の天の川』に用があるの?」

 

上田「星屑の……天の川?」

 

下鳥「あら、その様子だと知らないみたいね」

 

上田「何かのチームなの?」

 

下鳥「……えぇ、ちょっとごめんなさいね」

 

 

優梨は周りを見て盗み聞きする奴がいないかを確認すると、先ほどより小声で話を再開した。

 

 

下鳥「あなたの思ってる通り、『星屑の天の川』はチーム名よ。

数夜をリーダーとした5人の魔法使いのチームよ」

 

上田「数夜……え、前坂さんが!?」

 

下鳥「数夜の事は知ってたみたいね」

 

 

前坂(まえさか) 数夜(かずや)……影のように自らの存在を隠し、

たまに現れては暗がりをばら撒くちょっと問題がある少年。

 

利奈は彼の事を知っていた。その理由は明白……利奈がまだ、

『道具』として扱われていた時期、1番無理な要求をしたのが彼だった。

 

今はそうでもないが、契約前は名前を思い出しただけで

恐怖が湧き上がるような人物だった。

 

 

……ふむ、一例を上げてみようか、その方が分かりやすいだろう。

 

 

 

 

それは1年前の、とある日のお昼休み。

 

 

 

 

「ごっめぇ~~ん! 上田さん、近くのパン屋から

こっそり適当に買って来て!お昼忘れて来ちゃってさぁ」

 

上田「あ、えっと……ごめんなさい、お財布忘れてきちゃって……」

 

前坂「だったら万引きでもして盗ってくりゃ良いじゃねぇか」

 

上田「……え?」

 

「ちょ、数夜それは尽くし過ぎたぞ」

 

「いやいやそこまでは良いよ! ほら、お金渡すから2~~3個買ってきて!」

 

上田「……ぁ、はい。 メロンパンとジャムパンて良いですか?」

 

「へぇ、私の好み覚えててくれたんだ。 ありがとう! じゃ、よろしくね!」

 

上田「分かりました」

 

 

 

 

……お分かりいただけただろうか?

 

とまぁ、こんな感じでかなりぶっ飛んだ人物である。

 

結構厄介な少年だが、最近は大人しくしているらしい。

 

近況では特に周囲の視線を集める事は無い。

 

彼は花組で1番のめんどくさがりで、大きな問題を起こす事は一切なかった。

 

 

……そう、彼は《めんどくさがり》。

 

チームリーダーなんて出番が多くなるような難しい役職は望まないはずだ。

 

 

上田「リーダーとかやらなそうなのに……」

 

下鳥「結成しただけでまともにリーダーはやっていないらしいわよ」

 

上田「えっ、どういう事?」

 

下鳥「簡単に言うなら……まとめて言うならそうね、

『チームに入ることを望まなかった魔法使い達の集まり』という事よ。

ほとんどチームとしての活動はしていないらしいわ」

 

上田「無理して組んでるって事なのかな」

 

下鳥「中には組まなきゃダメだって意見もあるから、取り敢えず組んでいるんでしょうね」

 

上田「色々な意見を持ってる人がいるんだ」

 

下鳥「花組でなくてもそんなモノよ」

 

 

チームと言っても、色々あるらしい。

 

 

窓際、優梨は自分の影に利奈を隠してそんな感じに話を進めた。

 

 

さて、この辺で閑話休題。

 

 

下鳥「ところで、釖を探していたんだったわね」

 

上田「優梨は知ってる?」

 

下鳥「それなら、さっき海里が行った方にいるわよ」

 

上田「……あれ、私探してる意味が無いな」

 

 

冷や汗をかき薄ら笑いで顔を引きつらせた利奈だが、優梨はその先を考えていた。

 

 

下鳥「そうでもないわよ、『星屑の天の川』のメンバーで

あなたに一度は会いたがってる人物がいるわ」

 

上田「え、私に?」

 

下鳥「屋上にいる黒猫、その猫に話しかけてみなさい」

 

上田「えっ、屋上!? 冬季だから立ち入り禁止だよ!」

 

下鳥「……あぁ、説明不足だったわね。

別に屋上にまで入らなくていいわ、ガラクタに隠れて昼寝でもしているはずよ」

 

上田「そう、なんだ。 寒いからマフラーだけ巻いて行ってみる」

 

 

黒猫に話しかける……? 一見すれば不可解な行動だ。

 

やっぱりちょっと不安そうな利奈だったが、優梨は微笑み1つ付けたした。

 

 

下鳥「誰かに見られるのが嫌なんでしょう?

そっちに人が来ないよう手を回してあげる」

 

上田「本当!?」

 

下鳥「安心なさい利奈、あなたが今から会いに行くのはそこまで意地悪な性格な人じゃないわ」

 

上田「わかった! 行ってくる!」

 

 

利奈は大部分を納得したようで、自分の席にあるカバンから

薄桃色のシンプルなマフラーを取り出すと、サッと首に巻いて教室を出た。

 

 

廊下を歩く途中で芹香に会った。

 

芹香もその事を知ってたようで、今海里と釖が話をしていると言った。

 

それが肉体言語ではない事も知って安心すると、

利奈は今からしようとしてる事を芹香に伝えてその場を後にする。

 

芹香が教室に入るのを見届け、階段の一段目に足を乗せる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ここは4階、先日大惨事があった室内広場をスルーして廊下の端に着く。

 

氷のようにキンキンに冷えた壁の色に塗装された厚い鉄扉を開けたなら、

コンクリート剥き出しの古い階段が蛍光灯に照らされ現れる。

 

 

上田「寒っ!? 寒い! うぅ、こんな所で昼寝出来てるのかな」

 

 

独り言に混じる吐息は、ほんのり冷やされ微かに白色。

 

階段を登ると、屋上に出る鍵がかかった扉の隣にガラクタの山が積んであった。

 

 

上田「黒猫は……と」

 

 

ガラクタの山を覗き込むと、ふわふわの毛布にくるまれた何かがあった。

 

ちょっとだけ捲ると、どこから学校に入り込んだ?

という感じの凛々しい黒猫が体を丸めて眠っていた。

 

冬毛なのか、毛がもふっとしている。 利奈に自然に笑みが浮かんだ。

 

触りたいのは山々だが、昼寝中らしいので我慢する。

 

 

上田「かわいい、ふわふわだ」

 

?「おや、随分と律儀ですねぇ」

 

上田「……あれ? ぅわっ!?」

 

 

どこかから声がしたかと思うと、黒猫は起き上がって利奈の前にある

重厚なプラスチックのガラクタの箱の上に座った。

 

 

?「どうぞ? これは自慢の毛並み、触られても減るもんじゃないし」

 

上田「あ、ありがとうございます」

 

 

利奈は少々困惑した様子だが、ふわふわに触りたい欲の方が優った。

 

背中を丁寧に撫でるなら、長めで柔らかな黒の毛が手のひらをくすぐってくる。

 

ふわふわな物に目がない利奈は、目をキラキラとさせて夢中で撫でた。

 

 

上田「わぁ~~……! ふわふわ!」

 

?「ほぉ? 撫でるのがお上手、お家でペットでも飼っているのですか?」

 

上田「いえ、妹が動物アレルギーであまり飼えなくて……」

 

?「それなら魚介類を育てると良いですよ、

金魚掬いの金魚なんかが生命力強くて良いですね」

 

上田「詳しいんですね、猫なのに」

 

?「ははは、人間が猫に擬態してるだけです」

 

 

猫と会話するとなるとかなり奇妙な物になるが……ハチべぇに比べたらまだ現実味があるだろう。

 

?「いやはや、ここまで丁寧な扱いは久々ですね? 動物を飼っていないとは思えない」

 

上田「普通に撫でただけですけど……」

 

?「……ふむ、あなたの根は優しいのでしょう」

 

上田「えっ?」

 

?「あなたが感じる事のない優しさがある、だから僕を丁寧に扱ってくれた。

 

乱暴な者だったら両手でめっちゃめちゃにされてるよ……

 

まぁ、その時は小さな虎になって脅かしてやりましたけど」

 

 

猫の表情は分かりづらいが、声のトーンの下降でその時の状況が伝わってきた。

 

 

上田「乱暴な者……それで寒い中ここに?」

 

?「昼寝の邪魔をされるのは僕には死活問題ですからね」

 

上田「……ごめんなさい」

 

?「いやいや、あなたは悪くない。 念話で話は聞いていますよ、利奈さん」

 

上田「ぁ、そうなのか……ひゃあ!?」

 

 

下げた頭を上げたなら、そこには制服を着た少年がいた。

利奈は驚いてめまいがするが、少年は利奈の手をとる。

 

 

?「……あぁ、驚かせてごめんね」

 

上田「ぁ、えっと……大丈夫です」

 

?「話すんだったらこっちの方が良いと思ったんだ、お礼も僕なりにきちんと言いたかったし」

 

上田「お礼?」

 

 

利奈は名も知らない彼に何をしたか心当たりが無いが、彼はお礼をそのまま述べた。

 

 

?「僕は軽沢(かるさわ) 響夏(ひびか)、好きな物はようかん。 先日は僕を救ってくれてありがとう」

 

上田「救う……あ!」

 

 

利奈達の間で『救う』と言うと、魔法使いの感覚では魔女や魔男の討伐だ。

 

黒猫から思い浮かぶ魔なる物……

 

利奈は不意に出したシルクハットから誓詞のグリーフシードを取り出した。

 

 

軽沢「そうそれ、記憶が正しければ僕は誓詞の魔男だった者。

 

……本当に助かった、君がいなきゃ彼女は一生白猫の花嫁のままだったからね。

 

あぁ彼女の事は心配しなくて良い、ちゃんと自分の家に帰ったよ」

 

上田「そうだったんですか、良かった……」

 

 

本人確認が終わると、利奈はシルクハットにしまって消してどこかにしまった。

 

 

軽沢「彼女の事はすっぱり諦めた、僕は《気まぐれ》猫のよう。

彼女と縁が無かったとしても、またいい出会いがきっとあるさ」

 

 

色々と無駄にかっこつけた事を言うが、ようはプレイボーイなのだろう彼は。

 

その中で出会った彼女(白猫)が特に気に入り執着した……という所か。

 

 

上田「体調は大丈夫ですか?」

 

軽沢「体の方は問題無いよ、グリーフシードはどこだと

やたらうるさく聞いてきた魔法使いも何人かいたけど……

 

適当に話して流したよ、彼女は別の魔法使いが家まで送ってくれたらしい」

 

上田「上手く事が収集したんですね」

 

軽沢「始まりは利奈さんの討伐からだよ」

 

 

その後も色々と話をすると、学校のチャイムが鳴った。

 

 

軽沢「あれ? 君が初めてかな、僕に飽きが来ないで話せたのは」

 

上田「いつもはどうなんですか?」

 

軽沢「適当に切り上げて昼寝する」

 

上田「ま、マイペースですね」

 

軽沢「なにせ僕は《気まぐれ》、自分の好きなように振る舞うのさ。

さて、昼休み終了のチャイムが鳴ったし教室に戻ろう」

 

上田「はい!」

 

 

そう言うと、響夏は両足を振り上げ下げる時の遠心力で立ち上がった。

 

カンカンと足音を立てて軽快に階段を降りていたが……

 

ふと、足を止めて声を出す。

 

 

軽沢「あぁ、最後に一つだけ言っておくよ」

 

上田「あ、はい。 何でしょうか?」

 

軽沢「君……君たちは(リュミエール)、僕らについて触れてるみたいだね」

 

上田「これの持ち主を探しているんです」

 

軽沢「ボトルシップ? へぇ、結構凝ってるねぇ……」

 

 

そのボトルシップを見た響夏は、視線を奪われたように固まった。

 

心当たりがあるのだろうか? 何か考えているようだが……

 

 

上田「……? どうしました?」

 

軽沢「なんでもないよ、でもこれだけ言っておくね」

 

 

 

 

そう言って響夏は片目を拭う、その先は予想外の光景。

 

 

 

 

上田「!!!」

 

 

思わず、利奈は口を両手で覆い言葉を失ってしまった。

 

彼の拭った片目……色がおかしい、()()()()()()()()()()()

 

 

軽沢「立場の関係で細かい事は言えない、でもこれだけは言っておくね。

 

花の闇は深い、触れたり知ったりするなら安易に考えたらダメだよ。

 

その時は、闇は光を名乗る君達を飲み込もうと動くだろう。

 

……さぁ、早く教室に戻ろう?次の教科の先生が来ちゃうよ?」

 

 

手を引いて響夏は階段をゆっくり降りだしたが、利奈は一旦その場に止まる。

 

 

上田「……軽沢さん!」

 

軽沢「ん? 何?」

 

上田「ありがとう、気をつけます」

 

軽沢「……僕は恩を返しただけさ」

 

 

再度響夏が片目を拭うと、その色は元に戻っていた。

 

さて、早く教室に戻ろう。 次の教科は何だったかな?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

無意識に先生の話を聞いて要点をノートにまとめたのならほら、

時計を意識さえしなきゃあっという間に放課後さ。

 

報告会もかねてリュミエール一同は本部(倉庫)に全員集まった。

 

ハチべぇは暖房の上で体を丸めて眠っている。

 

ソファーを円状に組んで5人が5人を見えるように座る。

 

まず、本人に直接話を聞けた海里から口を開いた。

 

 

清水「……ダメだ、何にも知らんとさ。

何か知ってるようだったが、一向に口を割らなかった。

 

俺があいつから聞けた情報は……『俺のじゃない』って事だけだったぜ」

 

中野「十分な収穫だよ海里、僕なんて一通り話を聞いたけど何にもわからなかったからね」

 

月村「私は学生カバンを見た目だけ全部1つ1つ確認してみたわ、それっぽいのは無かったわね」

 

上田「ボトルシップだけ付けてたって事かな?」

 

月村「その可能性が高いわ」

 

篠田「あたしはクインテットでそれっぽい魔法を使った子がいないか

総出で聞いて回ったよ! ……誰もいなかったけど。

 

あと、キーホルダー1個にそこまでするなんて寛大すぎるだろって言われた」

 

中野「優し過ぎるって?」

 

清水「当たり前だろ、ペンや消しゴムならまだしも自作のボトルシップだぞ?

誰か盗もうとする奴が出ないって保証はねぇ」

 

篠田「あ、そっか」

 

上田「私は優梨に話を聞いてきたよ」

 

「「優梨!?」」

 

 

そう声を荒くして驚いたのは海里と絵莉だった。

 

 

上田「……あれ、私変な事言ったかな」

 

清水「いやそうじゃねぇ、下鳥(しもどり) 優梨(ゆうり)か……

あいついつのまにそんなに利奈と仲良くなってたんだ」

 

篠田「その子って『女王』って言われてる子だよね?

力強い風格とカリスマ性を持った魔法使い……一部の不真面目達をまとめる長!

あ、あんな人と話せたなんて利奈凄すぎるよ!!」

 

月村「私は初めて聞く名前ね、『女王』ってそんな名前だったのね」

 

中野「僕は全然知らなかった」

 

清水「オイ」

 

 

上田「とにかく! その優梨に、海里が和出さんと話してるのを知って、

探していた人とは別の人を紹介してもらったの」

 

篠田「別の人?」

 

上田「和出さんって『星屑の天の川』って

チームに入ってたみたいなんだ、そのチーム別の人」

 

中野「『星屑の天の川』なら知っている、

チームは大体把握してるからね。入っていたのは5人だったかな」

 

清水「俺も知ってるぜ。『前坂 数夜』をリーダーとした、チームの活動をしない非団結チーム。

 

メンバーは『木之実(このみ) 美羽(みう)』『浜鳴(はまなり) 最上(もか)』『軽沢 響夏』『和出 釖』の4人だな。

 

利奈が話せそうな奴……なるほど? 響夏と話をしてきたのか」

 

上田「そうだよ! お礼が言いたそうにしてるって優梨が教えてくれたの」

 

月村「お礼を?」

 

上田「うん、私がソロ狩をした時の魔男だった人で、救ってくれてありがとうって」

 

清水「一般人も混ざってたらしいな」

 

篠田「うわっ!? 何それ、危ない!」

 

中野「利奈が来なかったら両者共に危なかったという事か」

 

清水「で、どんな話をしてきたんだ?」

 

上田「えっと……その人が言ってたんだ、『花の闇は深い』って」

 

篠田「花の闇?」

 

中野「闇ってなんの事だろう? このボトルシップそんなにまずい物なんだろうか」

 

月村「それとは別問題な気がするけど」

 

清水「まぁ、表沙汰になってないから、今は警戒程度で大丈夫だろうな」

 

上田「それと、帰り際目が変になっちゃって、

ビックリして聞けなかったけど元に戻ったから安心したよ」

 

清水「……なんだと?」

 

 

その時、海里が利奈の話の内容に驚いた。

 

まるで心当たりがあって、それと重なりでもしたような表情だ。

 

 

月村「反応したわね、何か心当たりでもあるの?」

 

清水「……まさか、な」

 

篠田「なになに? 気になる!」

 

中野「心当たりがあるなら聞かせて欲しい、どういった点なんだい?」

 

清水「利奈、その変な目って『白目が黒目で黒目が白目』じゃなかったか?」

 

上田「あれ? そうだけど、私海里にそれ教えたっけ?」

 

 

清水「……実はな、釖の片目もそんな色をしてたんだよ」

 

 

上田「えぇ!?」

篠田「ほえぅ!?」

中野「何だって!?」

 

月村「それ、本当なんでしょうね?」

 

清水「ここで嘘を言う理由がねぇな、この目で見たし間違いないぜ。

 

釖は片目に怪我をしたからって眼帯を付けてたんだが、

テンションが高かったもんだから1度すっ転んじまってなぁ……

 

その時に見たんだよ、あいつの片目。 聞いたんだが、教えてくれなかった」

 

篠田「病気……かな?」

 

中野「いや、そんな眼球の病は存在しないはずだよ。

黒目なら白内障を疑えるけど、白目が黒くなるとなると……」

 

上田「なんで軽沢さんは目の色を変える事が出来たんだろ?」

 

清水「恐らく『擬態』の魔法だな、それって見た目だけで根はそのままだと思うぞ」

 

上田「『擬態』の魔法で猫になったりしてたんだ」

 

篠田「色々な魔法があるんだね」

 

 

しばらく5人はじっくり話し込み、情報が共有された所で海里はまとめに入った。

 

 

清水「……よし、話はまとまったな。

 

『花の闇』ってのは気になるが、何も起きてない以上俺たちは対策を組めねぇ。

 

引き続き明日も、このボトルシップの持ち主をリュミエールで捜索するぞ。

 

意義は無いか?」

 

篠田「意義なぁ~~し!」

 

中野「僕も特に変更点は無いよ」

 

月村「早く見つけてあげましょう」

 

上田「うん! 明日もよろしくね、みんな!」

 

 

後はそれぞれの都合に合わせて各自解散だ。

 

ハチべぇはいつのまにか、どこかに行ってしまったらしい。

 

また誰かの所に行ったんだろうか? 全く、ハチべぇはよくわからない。

 

 

リュミエールは触れた、『花の闇』に。

 

中途半端な不真面目とは違う、花組の 完 全 な裏側に。

 

そこで行われている事は未知数、まさに『闇』と言った所か。

 

その先は真っ暗で何も見えない。

 

何も起きていない? 今に起こるさ、もうすぐ要素は落ちる。

 

リュミエール……『花の光』は照らせるか?

深淵に投げ出されてしまった星屑、『花の闇』を。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

((流石に約束は守るって!))

 

 

 

吹気「多い! ちょ!? 多い!」

 

 

 

上田「準備を忘れた!? 大丈夫なの?」

 

 

 

「……どうせ孵化するもんだから、これ」

 

 

 

〜終……(17)小船と黒猫の恩返し〜

〜次……(18)逃避の荒波と瓶の主〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……ふむ、なんだかんだ言って雑魚級の
魔女・魔男の解放後を明確に出すのは初めてになりますかね。

見ての通り、身体的問題は無し。 魔男時の記憶がやっぱり、
残ってしまっているようですが時間をかけて受け入れたようですね。

まぁ、《気まぐれ》な彼なら立ち直るのも容易でしょう。
楽観的だなぁ……普段何を考えてるんだか。


これが、ハチべぇのシステムです。


本文にもあったとおり、彼はピンピンしているでしょう?

人間に合うように作られた希望のシステム……登校だってちょっと休めば余裕です。

人間を使い捨てにする『先駆者』のシステムとは全くその性質は違い、人道的です。

非効率的と『先駆者』は言うでしょう。

ですが、なによりそのシステムは等の本人である人類が受け入れられない要素……

重要なのは効率より合理、合理的システムが宇宙を救うのです。

……だなんて、ちょっとハチべぇっぽい事を
つらつらと述べてみましたがいかがでしょ?w

この世界で成立するシステムがわかりやすく説明出来たのなら、私としては幸いです。


さて、新しいチームが出て来ました。

他にもチームはたくさんありますが、リュミエールやクインテット以外に
チーム名を明確に紹介するのは『星屑の天の川』が初めてでしょうね。

まぁチームといっても全部が全部5~~6人だって訳では無いですよ。
2人組のチームだってあるし、10人以上の大人数だってあります。

それについては、物語の進み具合に合わせて
追い追い話して行きましょうかね。 どのチームも個性豊かで面白いですよ?




閑話休題、この辺で雑談入れます。

話中に黒猫が出て来ましたが……利奈、そこ代われ下さい。

子猫もふりたい! もふりたい!!

でもやっぱりうさぎもふりたいいぃぃ!!!

-=≡Σ(((⊃゚∀゚)つ うさぎいいぃぃ!!!

ハピナ家は家族に猫アレルギーがいるので
動物が飼えないんですよ……飼ってるのは魚介類位ですかね。

金魚掬いの金魚なんですけど、案外この子が長生きなもので
2cm程の小さな魚だったのが今では10cm超えてます、強いw

金魚掬いの弱った金魚でも、ちゃんと育てれば長生きします。

きんきん(金魚の名前)、可愛いです ( ´ ᗨ ` )

……そういえば以前金魚掬いを題材に、ホラー短編を書いてましたね私。
ちらっと探したら見つかりました。 なんと懐かしいことか!

希望があればハーメルンSSにも投稿してみましょうか?
まぁ希望があればになってしまいますが。

う~~ん……多分無いだろうな (´-ε-`;)


では、今回はこの辺で。

なんだかんだいって本題のボトルシップの落とし主が見つかっていないですねぇ……

次回は見つかるのでしょうか?まぁ、それは乞うご期待って事で。

1月はおつかれさまでした! 2月も良い日々を過ごしていきましょう!

それでは、また次回っ!


 \またねぇー♡/
   ∧_∧∩ミ
 /(๑•ω•๑)っ \  
/| ̄∪ ̄  ̄ |\/
|__ __ _|


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(18)逃避の荒波と瓶の主

( -。-)スゥーーー・・・ (o>ロ<)oコンバンハアアアアアアアア!!

(;゚∀゚)<(じゃないこんにちはだ!)

(>∀<)<(多分いつものハピナですよ!!)


2月でもまだまだ寒い北国、今年も桜は5月かな……w

2月だってのに全然暖かくならないですね!

それどころか昨日は吹雪レベルの雪が(ry

フローリングの床がとても冷たいです。


おっと、この辺で閑話休題。


前回はなにやら、不穏なフラグが立ったような気がします。

とうとう『花の闇』という言葉がリュミエールの耳に入りました。

これだけ念入りに探しても、まだ持ち主が見つからないのか?

『ボトルシップの持ち主』『白目が黒目で黒目が白目』……

次々と浮かび上がる要素、これらの答えは一体どこにあるのやら。


さて、この辺で物語の幕を上げましょう。

舞台は言わずともわかるだろう、冬だ。

雪も降らず空は晴天、青々とした空が印象的な日。


(11月14日~:編集中)



あぁ、今日も寒そうだ。

 

外は説明するまでもなく、ここはいつもの寒い校内だ。

 

変わった事と言えば……今日はいつもよりは暖かく、

コートを羽織るまでではないという事ぐらいだろう。

 

リュミエールが落し主探しを行っているなんて話が広まり、

最近の花組では落し主探しがよくわからないブームになっている。

 

リュミエール達も、そこまで積極的に行動しなくても

協力してくれる生徒が現れ比較的情報が集まりやすくなって……

 

まぁ、ある程度は楽になった。

 

学校の落し物が花組によって減った状況に、

花のクラス担任はとても喜んではくれたが……

 

 

何故か、肝心のボトルシップの持ち主が見つからない。

 

 

ここまで話が広まったなら、自分から名乗り出てもいいはずだ。

 

それなのに、見つからない。

 

これはどういう事なんだろうか……? 兎にも角にも落し主は続く。

 

探してみてはいるものの、見つからないまま時間は放課後。

 

 

吹気「これ、上田さんのじゃない?」

 

 

ふと、帰りの会が始まる前、利奈は声をかけられた。

 

それはちょうど、荷物を片付け帰り支度が終わった所。

 

学生鞄にうずめていた顔を上げたなら、

そこには細身の消しゴムを差し出した生徒がいた。

 

 

上田「……ん? 私のだ、どこに落ちてたの?」

 

吹気「教室の隅っこに転がってたよ」

 

上田「あぁ机から落っことしたのか、私。

ありがとう、これで細かいとこまで消せるよ」

 

篠田「風香! 先生来たよ……あれ、利奈の行消し用の消しゴムだ。

そういやさっき利奈は探してたもんね、風香が見つけてくれたの?」

 

吹気「絵莉おかえり、その辺に転がってたよ。

 

……ん、『行消し用』? 上田さん消しゴム何個持ってるの?」

 

上田「5個だよ」

吹気「多い! ちょ!? 多い!」

 

「みんな席につけ、帰りの会始めるぞ!」

 

上田「あっ、先生来たよ。 2人とも席に戻らないと」

 

吹気「……あ、うん。 そうだね、早く帰りたいし」

 

篠田「っああぁぁ!? 帰りの準備忘れてた!!」

 

吹気「いつもの絵莉だ」

 

上田「準備を忘れた!? 大丈夫なの?」

 

吹気「席近いから私が手伝うよ」

 

篠田「ありがとぉ~~! 風香が天使に見えるよぉ~~!」

 

そうと決まれば、絵莉と風香は急いで席に戻って行くしかない。

日直のあいさつはもう1人の日直がこなしてくれている。

 

わたわたと2人は利奈から遠い席で帰る準備をせっせとする中、

利奈は学生鞄から筆箱を取り出し、消しゴムを閉まって元に戻した。

 

さて、起立の声。 立ち上がって礼をする。

 

とっとと帰りの会を終わらせて、早く帰ろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

寒空の中の普通の帰り道、利奈は雪を踏みしめながら

リュミエール本部を目指して滑らないよう歩いていた。

 

足元のまっさらな雪を見つめ、

それを踏みしめる音を聞きながら

無心で大通りを歩いて行く……

 

 

ふと肩を叩かれ、振り返ったならそこには海里がいた。

懸念が無くなって表通りを歩くようになった利奈は

海里とも帰り道が途中まで一緒になったのだ。

 

「今日も勉強おつかれ」と明るい声で言われたなら、

利奈は笑顔で「海里もおつかれ」と返す。

 

それを聞いた海里は急に、ばっと利奈と反対方向に顔を向ける。

 

赤面で口を手で覆った……利奈はどうしたんだろうと思うだけ。

 

 

上田「え、今日は集まらないの?」

 

 

帰り道を共に歩きながらリュミエールについて話をしていたが、

本部に行くつもりだった利奈に海里は今日は違うと告げた。

 

 

清水「そういう事になるな。

 

芹香と蹴太はいつもの塾で、絵莉からはクインテットの方で

次の休みに池宮である(男性アイドル)のライブについて、

交通機関とかも兼ねた予定を組むんだとよ。

 

俺もそのボトルシップについてなんか頭の隅に引っかかるんでな……

ちょっと整理してみる、曖昧な情報が多いんでな」

 

上田「情報を?」

 

清水「おう、脳内整理ってやつ」

 

上田「すごいなぁ……私そんなにたくさん知らないもん」

 

清水「頭ん中の許容量が多いってだけだよ」

 

 

その許容量が気になった利奈は、いくつかの題を投げかけてみた。

自分なりに、ちょっと難しいのも混ぜてみる。

 

 

上田「お父さんが鹿児島県民」

清水「火本(ひもと) 徳穂(のりお)、自称は魔法侍」

 

上田「抹茶チョコレート」

清水「里口(さとぐち) 千代子(ちよこ)の好物だな、使う魔法は『飲料』の魔法」

 

上田「実は黒帯」

清水「それは山巻(やままき) 唐輝(からて)、一年の時に空手の型を競う大会で優勝した実績を持ってる」

 

上田「優勝!? 唐輝さん優勝してたの!?」

 

清水「してるぜ、その時の優勝の盾も学校に飾ってあるな。

……利奈、その様子だと知らなかったろ?」

 

上田「うん! 知らなかっ……あ」

 

清水「俺に情報で勝とうなんざ、10年は早いな……利奈なら5年か?」

 

そう言って海里は利奈を見てニヤリとして笑った。

利奈は明らかに悔しがっている、その素直な反応の可愛いこと。

 

何年早いかを増やすのではなく減らす当たり、海里の優しさが垣間見る。

 

 

清水「っと、この辺で利奈とは別の道か。

冬の夜道は暗いし寒い……気をつけて帰れよな」

 

上田「ありがと、またね海里」

 

清水「おう! また明日な」

 

海里は利奈に手を振り、分かれ道の先の曲がり角に見えなくなってしまった。

 

 

その先、海里は小さなお店のショーウィンドウに寄りかかった。

ガラスに照らす柔らかい灯りが、海里の影を雪に写す。

 

清水「……やっぱ気づいてないのか」

 

『海里』……何をきっかけに、利奈はそう()()()()()呼び始めたのだろうか?

いくら頭の中を探ろうとも、その答えになりそうな情報はなかった。

 

当たり前だ、そうなるきっかけは海里の意識が虚ろな時にあったのだから。

 

今は、その声を思い出すたびに自らの強い鼓動を1つ1つ、実感をしていくだけだ。

 

白い吐息をそっと吐き、晴れた暗めの寒空を見上げる。

 

街明かりに星々が負ける中、ほんの少しの星と人工衛星が静かに夜空で輝いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

利奈はそんな海里の心情なんて知らない。

本部によらず、普通に自宅への帰路につく。

 

猛吹雪に慣れてしまった体は、コートや手袋の防寒の力を借りてるけど

その気温にすっかり慣れていた。 この位の寒さ、なんのその。

 

今日は吹雪かない、それはありがたい。

 

風が吹くか吹かないで、体感温度はかなり変わってくるからだ。

 

風に吹かれた雪の粒は、不意に瞳に入って来たり

息を吸った口の中に入ってきたりと、色々と不意打ちがひどい。

 

風が無いなら、頭や肩に雪が積もるだけ。

 

 

上田「今日も見つからなかったなぁ……」

 

 

利奈はハチべぇのいないサブバックから赤い水玉の巾着を取り出し、

ハンカチに包まれたボトルシップを手にした。

 

キラキラと輝くジェルの海は、街灯の光を淡く乱反射する。

 

ため息交じりに吐く吐息、その色をぼんやりと見た。

 

まるでボトルシップの中のヨット、その白い帆のようには白くない。

 

 

……ん? ()()()()

 

 

上田「あれっ?」

 

矛盾に気がついた利奈は再び息を強く吐いたが、

その空気交じりな水蒸気は白くなる事なくその存在を現さない。

 

 

 

 

ふと、頬に暖かな熱気を感じた。

 

こんな鳥肌が立つ程に寒い中では、起こるはずもない熱めの熱気。

 

あったとしたら異常気象、その要因が気になってくる。

 

 

 

 

上田「なんで温かいんだろ? 屋台でもやってるのかな……」

 

 

ボトルシップをしまって進む先、そこで起こるは好奇心。

 

熱気を感じる方へと進む利奈、大通りから外れ路地裏を進んだなら……

 

そこには広く空けた場所があった。

 

さしずめ、古い大きめの建物を取り壊した跡地と言った所だろう。

 

そこは本来、たくさんの雪が積もっているべき場所……

 

しかし、そこは砂利が混ざった茶色の土が剥き出しになった状態でそこにあった。

 

 

空き地周辺だけが雪が積もっていないのか?

 

いや、そんな都合の良い話が現実に存在する訳がない。

 

溶けたのだ、熱によってその周囲だけ。

廃材の山の頂上に存在する、()()()()()から発せられる熱で。

 

 

上田「魔女!?……違う、これ魔男だ」

 

 

利奈の言う通り、そこにあったのは魔男の結界のエンブレムだった。

 

ひっくり返った3つの勾玉が、円を作らず手裏剣のような形を象る。

 

穴が空いているはずの真ん中、花びら全てが縄模様なアヤメの花が、

一輪だろうが迫力ある狂い咲きをしていた。

 

 

おっと、何故利奈はこれが魔男のエンブレムだとわかったのだろうか?

 

せっかくの機会だし、今一度説明しておこうか。

 

判断材料となったその秘密、それはエンブレムの形にある。

 

魔女のエンブレムは不気味だが可愛げな雰囲気だったり、

形状が丸型や花型だったりと丸みを帯びた物が多い。

 

そのエンブレムを引き立てる様々な種類のモチーフも、

ハートや星などが多く使われていてどこか女の子っぽい雰囲気。

 

例外として黒板の魔女のような四角い形なんかもあるが……

『鋭角が少ない』と言ったらわかりやすいだろう。

 

トゲトゲとかギザギザが少ないのだ、あったとしてもその数は少ない。

 

 

一方魔男のエンブレム、こちらは逆にクールだったり

かっこいい雰囲気だったりと可愛げな雰囲気とは程遠く、

 

形状も直線を多用したような丸くない異形が多い。

 

比較的丸い形をしたのもあるが、その形状はイガグリのようだったりと

やはり魔女のエンブレムに比べたら『鋭角が多い』と言えるだろう。

 

引き立てるモチーフも、1種類だけであとは直線曲線を駆使した

複雑な彫り込みがあったり、はたまたシンプルだったりする。

 

全体的な印象としても、やはり男性向きという雰囲気だ。

 

 

まぁそういうことで双方のエンブレムには大きな違いがあるって事だ。

 

花組の中でも魔女や魔男との戦闘の経験が特に多い利奈が、

ちょっと前に気がついてリュミエールに広めて

一同で伝えても大丈夫と判断して海里が花組に広めたというわけ。

 

エンブレムの形なんて一見どうでもいい要素に思えるが、

魔女と魔男ではかなり違いが出てくる為、これも戦闘で大切な判断材料だ。

 

 

さて、利奈が今回の魔男の元の身体、抜け殻を見つけたようだ。

 

周りに誰もいない事、人の気配の無さを確認したのなら、

赤いスカーフを4枚作り出して1つに丸めて握りしめ魔力を込める。

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

赤色の光を放ったかと思うと、利奈の手の中のスカーフは

ふわっふわの枕に布団に敷布団……抜け殻保護のレベルが

日に日に上がっているような気がするのは気のせいだろうか?

 

もちろん、一般人から抜け殻を隠す為のカバーだって忘れない。

 

それらは抜け殻を優しく包んで寝かせ、一番奥のガラクタの後ろに隠す。

 

 

上田「誰もいないって事は魔力を使い過ぎたのかなぁ……早く助けてあげなきゃ!」

 

 

指輪のまま魔法を使っていた利奈だったが、

これををソウルジェムに戻して声をあげる。

 

 

上田「変身っ!」

 

 

利奈の掛け声を合図にソウルジェムが赤色の光を放つなら、

その姿をよく見慣れた赤い魔法少女に変えた。

 

いつもの赤い奇術師……ん? いつもとはちょっと違う、言うなら亜種。

 

上田「え、あれっ?」

 

今の格好を言葉にするなら……

 

 

長袖だったタキシード風の上着は袖が無く、二の腕まである絹の長い手袋。

 

ミニスカートは動きやすいショートパンツに形を変え、ハイソックスは短くなる。

 

長いブーツも短くなって素足が見える程で、

その肌の白さが利奈のインドア派を物語っている。

 

頭の片側に乗っていたシルクハットは巨大化し、利奈の頭をすっぽりと覆った。

 

長々と伸びる赤い髪は結ばされ、下向きの2本結びで着飾った。

 

 

まぁ簡単に言えば、いつもより露出度は高めといった感じだろう。

いわゆる、季節感を取り入れた衣装チェンジ。

 

 

上田「可愛いけどちょっと寒いなぁ……早く動いて体を慣らそう。

 

 

アンヴォカシオン!」

 

 

『ちょっと』と言う辺り、魔法使いの体はそれなりに異常気象には強いらしい。

こんな寒い中、半ズボンというのは……考えただけでも鳥肌が立つ。

 

まぁ、とにかく今回のソロ狩といこうか。

 

利奈は慣れた手つきで棍を1本召喚し、警戒しながら結界に入っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

……聞こえるのは、不思議な和風の賑やかさ。

いつのまにか過ぎ去った、淡く儚い祭りの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目に聞こえる和風の笛の音……

骨まで響く太鼓の音……

鳴るのは、不思議で和風な演奏。

 

 

見渡す先は祭りだった。

普通の数倍のでかさはある屋台は、

自分は幼子に戻ったのでは? と

錯覚をしてしまうほど。

 

錯覚を打ち消すのは大きめの丸い砂利道、

隙間から儚げに咲く菖蒲の花。

屋台に寄り添うようにそこらじゅうに咲いていた。

 

 

青みを帯びた紫で統一された、

よくわからない文字の店名な

屋台の数々。同じ店はない。

 

屋台は懐かしいものばかり。

たこ焼き器に鉄板と綿あめを作る機械、

フライヤーにクレープ焼き器まである。

 

その品々は紫がかった物ばかりだが、

品揃えは豊富なようだ。

 

 

結界の中は菖蒲の祭り、

悪い点はうるさいまでに響く

よくわからない和風の演奏位か。

 

 

上田「暑い……夏みたいにじりじりする。

風吹いてるみたいだし、この格好で良かった」

 

暑がる利奈の言う通り、

その結界の中は例えるなら『夏』。

蒸し暑いでかく汗は、

利奈の手袋に吸収されたり

肌の上でやんわり蒸発したりした。

 

蒸発した汗は、体内にこもる熱を

身体から追っ払ってくれる。

 

利奈の魔力は結界に入る前に

この気候を感じ取っていたのだろうか?

いやはや、魔法とは便利な物だ。

 

 

上田「あんまり怖くないな、

そんなに絶望しないで孵化したのかな」

 

ふと、ギリギリ手の届く位置にあった

ふわふわとした薄紫の綿あめを

もぎゅっとむしり、試しに口にして……みた!?

こら、天然! それ魔男の作ったお菓子だよ!?

 

上田「美味しい、ぶどう味だ!」

 

……美味いんかぁ〜〜い。

しかも手、べたついてないじゃん。

結構質の良い綿あめだな、

ちょっと食べてみたいとか思っちゃったわ。

 

脱いだシルクハットを当てたなら、

面白いように巨大な綿あめは

吸い込まれてその帽子の中に

ひゅぽっと収納されてしまった。

 

 

どうやら孵化して間もないというのは

本当に間もなかったようで、

特に周辺の物に不吉な細工はない。

 

全体の不気味さもちょっと控え気味。

ふむ、利奈の言う通り

そんなに絶望しないで

孵化をしてしまったと思われる。

単なる『完全な魔力切れ』だろう。

 

まぁ、使い魔の姿が

見当たらないのが気になる。

警戒は解かない方がいいらしい。

 

 

上田「私より大きい物もしまえちゃうのか、

このシルクハットどうなってるんだろ」

 

強いて言うならそれが『魔法』だ。

不可能を可能にする不思議な魔法、

きっとどこかにそのシルクハット

独特の空間でも保持しているのだろう。

きゅっと被り直し、先へと進んだ。

 

 

しばらくそんなに入り組んでいない、

巨大な屋台に挟まれた砂利道を歩く利奈。

まぁ屋台といっても、食べ物だけではない。

 

 

覚えているだろうか?

水槽に泳ぐたくさんの金魚、

やってみたけどポイが脆い。

 

覚えているだろうか?

並ぶ銃と鉄皿のコルク弾、

打ってみるけど的が重い。

 

覚えているだろうか?

思い出せば懐かしい物ばかり。

白ヒモのくじに、オモチャ屋さん。

 

あれ欲しいこれ欲しいと言ったが、

何度、親にダメだと言われた事か。

だからこそ、買ってもらった

いくつかの物はとても大切で、

時には一生の宝物になるのだろう。

 

祭りの記憶も、それに近い。

 

 

おっと、進展があったようだ。

不意に和風の音楽が小さくなる、

まるで『何か』が来るから静まり返る、

気の利いたゲームのBGM。

 

目を向ける先、それを見た利奈は

持っていた棍をきっちり構えた。

 

 

驚異的なジャンプ力でポンポンと、

着地時に硬い太鼓の音を

出しながら、飛び跳ねながら、

太鼓を模したそいつらは

道の先からやってきた。

 

プロペラ状に設置された、

どうやら腕らしい伸縮するバチは、

高速回転で当たったら痛そう。

 

 

膜鳴の使い魔、性質は間奏。

 

 

頭の周囲を囲む大量の黒い瞳が、

祭りに入り込んだ異質なお客を

細部までじっくりと捉える。

穴が空いていない勾玉の模様が、

空いた口のようでどこか不気味。

 

無限ではない、魔男という生物の体力。

永遠にその響きを続けるために、

使い魔は休憩中のその間を繋ぐのだ。

まぁ、今はその演奏は見当たらないが。

 

 

使い魔はバチの腕を

尋常じゃないスピードで

回転させながら、利奈襲いかかる。

 

たくさんいるそのうちの1匹が

利奈の目の前までに迫ったが、

棍の素早い一撃に弾き飛んで

屋台の壁に鈍い音を立てて激突をした。

 

 

さて……始めようか、久々のソロ狩。

 

 

利奈のゲーム脳が、起動した。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

目指すは結界の最深部、魔男のいる空間だ!

 

 

勢いをつけて走りこむ道中、

軽快な太鼓の音を立てながら

利奈に突っ込んできたが、

攻撃の仕方が端的で対した事ない。

 

こんなの棍を2本も使うまでもない、

手軽な1本の乱舞で充分だ。

とはいってもやはり数は数、

本来多人数でやる事を

1人でやってるんだから

手は抜かない方が良さそうだ。

 

利奈の動きは身軽なもので、

時には倒した使い魔を踏み台に、

屋台の壁を蹴り出すなりして

若干不安定な砂利道を走り抜けた。

 

上田「やっぱり数が少ないな、

これなら一気に行ける!

やあああぁぁぁっ!!」

 

進む先から現れる使い魔の数も、

段々とその数を減らしていく。

順調な戦況と共に、利奈は先へと突き進む。

 

 

結界も中盤に差し掛かる頃、

太鼓を模した使い魔は

もう姿を現さなくなった。

 

どうやら倒し切ったらしく、

一旦息を落ち着かせて

冷静に周りを見渡してみた。

 

周囲は相変わらず屋台だったが、

なんだかおかしくなっている。

なんというか……1つ1つの屋台が

融合してしまっているようだ。

 

鉄板とクレープ焼き機の鉄が

ぐんにゃりと繋がってしまったり、

フライヤーの中でたこ焼きが

何個も揚げられてたりと、

色々と混ざってしまっている。

 

揚げたこ焼きなんて胃がもたれるだけ、

袋に入ったポテトはぶどう味?

……なんじゃそりゃ、食べたくない。

 

青みの紫がかった光景も、

不気味な色味が増してきている。

砂利道の丸石も歪な色が混ざる。

 

 

上田「なんか、これぞ結界!

って感じなってきたなぁ……

早く魔男を見つけなきゃ」

 

利奈は周囲確認兼休憩を終えて、

歩きという名の早歩きを再開した。

いや、本人は早歩きをしている

つもりはないらしい。

1つ1つの歩幅がでかいのだろう。

 

しばらく進んでいくと、

上空に何やら鳥? のような

空飛ぶ生物が見えてくる。

どこかに進んでいるようで

地上には見向きもしない。

 

次に向かう先はその方角だろう。

一本道だったのが入り組んできた頃、

このタイミングでの異変はラッキーだ。

 

右、左、次はまっすぐ。

そんな感じで先へ先へと進んで行くと……

 

 

?「くっ、来るなぁ!!

来るな来るな来るなああぁぁ!!」

 

 

上田「っ!? 何!?」

 

唐突に響く悲鳴、考えもしなかった第三者。

道の先から走ってくるのは、

まるで時計のような魔法使い。

 

逃げる事しか頭に無いのか、

本来指す事で攻撃するランスを

ぶんぶんと振り回している。

 

相手は空飛ぶ使い魔、

適当に振り回したんじゃ

まず当たるわけが無い。

 

 

膜鳴の使い魔、役割は集客。

 

 

飛べそうにない勾玉型の羽を持つ鳥……

それでも空を飛ぶ、だってこれは鳥だもの。

無茶苦茶だと思うかもしれないが、

魔の物は大抵無茶苦茶だろう?

 

菖蒲色の羽毛、腹に刻まれるは

太鼓の金具のような模様、

その尾はまるで菖蒲の花びら。

 

ちゃんと鳥をしている辺り、

ほぼ生まれたての魔男の

実力の無さを物語っている。

 

それなりの魔法使いでも

戦えば倒せそうなものだが……

何故か、彼は逃げている。

 

 

上田「落ち着いて!

使い魔をちゃんと見て!!」

 

利奈の声に少年はハッとなって

軽く飛んで後ろに振り向き、

狙いを定めてランスを突き出すと

ドスンっと使い魔を串刺しにした。

 

狙いも的確、込める力も良し。

なんだ、戦えるじゃないか。

何故逃げていたのだろう?

 

立ち止まった少年を狙い、

使い魔は矢のように

ビュッとくちばしを突き刺そうと

突っ込んだらしいが、

それは前線に出た利奈の棍によって

弾き飛ばされ防がれた。

 

まだ少年は怯えたような表情だが、

小さめな使い魔は数が多く

狙ってくるのは利奈だけではない。

これ以上逃げるのは許されないらしい。

 

?「う、うぅ……っえええぇぇぇいっ!!」

 

刺して払って刺して払って……

一突きという名の一撃で使い魔を倒した後、

払う事による遠心力で使い魔の死体を抜き、

再び次の使い魔を突き刺す。

 

一連の動作は見事な『乱舞』となっていた。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

空中にいる使い魔を、

見知らぬ魔法少年を守りながら

戦うというのはキツイもので

利奈は両手に棍を持ち、

猛スピードで乱舞を放つ。

 

上田「たあああぁぁぁっ!!」

?「もうやだあああぁぁぁ!!」

 

棍とランス、双方の乱舞は

空飛ぶ異形の鳥の数を減らしていく。

辺りに響くのは笛の音のような、

高い高い断末魔だけだ。

 

 

?「これで……最後っ!」

 

ドスンッ! 最後の使い魔を突き刺す、響くのは断末魔。

 

【Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaa!!??】

 

……ビュッとランスを払うなら、ぐちゃっとその死体は崩れ潰れた。

 

 

?「っはぁ! ハァ……ハァ……」

 

上田「大丈夫? すごい数だったね」

 

少年はランスを砂利道に突き立て、

肩で息をしてぜーぜーいった。

 

技術があるのに体力がない……

逃げてばっかりだったのだろう。

逃げる技術だけが上がったのか。

 

?「……自分、に」

 

少年は苦い顔でなにか言おうとしたらしいが、

先に利奈が彼に声をかけた。

 

上田「逃げていたのには

なにか理由があるんだね?

 

でも聞かないでおくよ、

多分複雑な理由だと思うから。

 

私空気読めないから、

その真意は絶対にわからない。

 

でも、今は前に進もう。

ここから出るには結界の主を、

魔男を倒すしかない」

 

?「関わらな……え?」

 

上田「立てる?」

 

?「あ、あぁ、立てます」

 

なにやら利奈の言葉に驚いた様子だが、

その理由は今の利奈にはわからない。

 

ただ彼のランスを持っていない手を

棍を手放した片手で取り、

立ち上がる手助けをするだけだ。

 

?「魔男なんですか?」

 

上田「多分ね、入口のエンブレムが

魔男みたいだなって思ったから」

 

?「そう、なのか……」

 

ほんの僅かだったが、

彼のランスを握る手が

強くなった様に見える。

 

?「……本当は戦うなんて事

自分は全力でしたくないけど、

アンタ以外に魔法使いはいなさそうだし、

相手が魔男なら……戦えない事はない」

 

上田「ありがとう、じゃあ行こうか!」

 

返事は無いが、少年はほんの少しうなづく。

利奈はその様子を確認すると、

使い魔の死体が転がるこの場を後にして

先へと進んで行った。

 

さっきとは違うゆっくりとした歩きだ、

無意識に少年のペースに合わせているのだろう。

 

少年は利奈を盾にでもするような動きで

1mくらい後ろをついて行った。

 

なんか盾って嫌な表現だが……

まぁ、利奈からしたら

ついて来るだけ幸せってやつかな。

 

 

再び不気味になってきた祭りの

ちょっと入り組んだ砂利道を進むなら、

その先に鳥居を見つけるだろう。

 

その中央には扉があり、

周辺の鳥居内の空間は

石を投げ込まれたての水面の様に

激しく、ゆらゆらと歪んでいた。

 

魔男は、この先にいるらしい。

 

上田「準備はい」

?「早く終わらせよう」

 

後ろを向いて声をかけようとした利奈だったが、

それをはじき返す様に少年は強く回答する。

 

上田「い……うん、わかったよ。

早く終わらせて帰ろうか」

 

どちらにせよ逃げていたのだ、彼は。

利奈は彼の為にも今回は素早く倒そうと

自分の中で目標を立てた。

 

 

否定的な態度に怒ろうとは、

利奈は微塵も思わなかった。

 

その逃げの体制、感じる恐怖。

それはどこか昔の利奈と重なり、

その辛さが利奈にはよくわかった。

 

でも、それは完全ではないと思っている。

何故なら辛さは人それぞれで全部違う、

結局本人にしかそれはわからないんだから。

 

 

上田「行くよ!」

 

?「……うん」

 

やっと出た声のボリュームは、

ようやく普通といった感じか。

その声に利奈は思わず笑み、

少年はその様子を不思議そうに見た。

 

さて、菖蒲が描かれた

和風のふすまに手をかけたなら、

勢いをつけてピシャリと開けた。

その先に広がるのは盆踊り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんどん太鼓、鳴る太鼓。

眼下に咲き誇るは菖蒲の花。

お客もいない孤独な祭り、

切なさ香る菖蒲の祭。

 

歪な色の砂利の地面にそびえ立つ、

3段重ねの巨大なやぐら。

下がる垂れ幕はシルエットが踊る柄、

そんな舞台の上に彼はいる。

 

 

その姿を大雑把に言うのなら、

なんとか赤牛と言える程だろう。

 

複雑に折れ曲がった角の、牛の頭を2つ持つ生物型。

太い四足は人間の足、変色して異質を放つ。

腹には漆黒の皮が張られ、

木製の胴体の大体真横中間にある

球体がついた腕が轟音を鳴らす。

音の追い打ちをかけるのはバチの尾、

2本の腕と1本の尾の3本で

うるさいまでに音を鳴らし続けた。

 

 

太鼓の音は響く音、

強く張った膜から振動は鳴る。

 

 

膜鳴(まくめい)の魔男、性質は轟き。

 

 

誰も聞きやしない音を響かせる、

うるさいまでの自己主張を響かせる。

 

 

だが、ずっとそれが続くわけにはいかない。

魔男疲れて休憩をしたが、

間を繋ぎとめる使い魔はもういない。

 

湧き上がるのは怒り……

その矛先は、結界に侵入した

招かれざる客へと向けられた。

魔男はやぐらから飛び出し、

利奈達の方へ突進して来る。

 

?「ひいぃぃ!? こっちに来る!!」

 

上田「君! 飛行魔法は使える?」

 

?「へっ!? と、ととと飛べるけど

操作がまだ完璧じゃないよ!

適性型って言われたけどよくわからない!」

 

焦っていたのか尋常じゃない早口だったが、

知ってる単語ばかりな上

頭の回転がはやい状態での

理解は容易な物だった。

 

上田「そのランスにまたがって飛ぶんだね?」

 

?「そっ、そうだけど」

 

上田「私の魔法でサポートする、

とにかく飛べれば十分だよ。

 

 

アンヴォカシオン・アロンジェ!」

 

 

利奈は手に魔力を込めて

2つの魔法を同時に唱えたなら、

鉛筆程の小さな棍が生成された。

 

軽く操作するなら、

少年の持っているランスの

後ろの方に巻きついた。

 

上田「これで大丈夫……っ!?」

 

?「うわっ!?」

 

一定のスピードで走っていた魔男、

ドンッ! と腹についた太鼓を叩いたなら、

急な加速をして2人に突っ込んだ!

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

利奈は咄嗟に棍の箒を作り出し、

少年がしっかり握りしめていた

ランスを片手に上に飛んだ!

 

?「わっ!? ちょ、急!

 

 

キキメイコライザー!!」

 

 

2人がかりの飛行魔法は、

たやすくとは言わないが

魔男の不意打ちを回避した。

 

空中で少年は利奈の手を借りて

ランスを使って空中にとどまる

自らの飛行を整えたが、

利奈はハッとなって慌て出す。

 

上田「ごっ、ごめん!

咄嗟に引っ張っちゃって……」

 

?「強引、次から気をつけろ」

 

言ってることが冷たいが、

どこか無理をした冷たさで

利奈は違和感を感じながら反省した。

 

そんな中、魔男は地面を飛びもせず

やかましい音を鳴らしながら

猛スピードで走り続けた。

単純で戦闘に工夫がない……

まぁ、魔力切れにより孵化した魔男なら

強さはこんなものだろう。

 

無駄な魔力使わないうちに、

とっとと戦闘を終わらせてしまおう。

 

上田「どう戦いたい?」

 

?「どうって……戦いたくない、

出来れば後ろに回りたい」

 

だからさぁ……まぁ、正直でよろしい。

これをマイナスに受け取らないのが

利奈のすごいところだろう。

 

彼女は『池宮の精神』が誰よりも強いのだ、

自分が受け取れなかった分まで……ね。

 

上田「教えてくれてありがと、

じゃあ後衛はよろしくね!」

 

利奈は棍の箒に乗ったまま、

手に持つ1本の棍をしっかり握りしめて

魔男へ向かい加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「リュミエール……

ただの馬鹿溜りじゃないのか?

 

何なんだ彼女は……変な人だな。

 

 

サンデードライバー」

 

 

空中で両手に魔力を込めて

パンっと両手を叩いたなら、

魔力の火花が別タイプのランスが生成され、

彼の周囲をファンネルの様にまとうだろう。

 

利奈から距離をある程度置き、

その矛先を魔男に向ける。

 

?「この状況、自分逃げればいいのに……

気でもくるったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ始めよう、孤高の奇術。

祭りに終わりの時を捧げ様ではないか。

 

いつもとは違う涼しげな衣装、

じりじりとした暑さなんて

慣れでとっくの昔に忘れてしまった。

 

腹太鼓をやかましく響かせながら、

魔男は本来の意欲を忘れ

祭り会場にみたてた空間を暴れまわった。

 

それでも、立ち向かう1人の魔法少女はひるまない。

轟きに屈せず、利奈は宣言するだろう。

 

 

Tu es prêt?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Bmoooooooooooooooooo!!!!】

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「……っ!?」

 

少年はその戦いっぷりに驚いていた、

戦場に立たないどころか

ほとんど逃げる彼は、

利奈の様子なんか知るわけない。

 

魔男も早いものだったが、

それについて行き乱舞をする、

魔男の腕や突進と一戦を交える

利奈の素早さも尋常じゃなかった。

 

魔男の腕が利奈をおもいっきり

殴ったかと思えばそれはかわされ、

逆にその腕にダメージを与えた。

 

突進が加速したかと思えば、

逆にその加速を利用して

2つの頭をフルスイングで殴る。

 

隙を見て時折ランスを投げつけるが、

利奈に当たることなく魔男刺さった。

それどころか、ちゃんと刺さるように

魔男を誘導している様にも見える。

 

【Nmoooooooooooooo!!??】

 

……ふむ、かなり圧縮された

木製の本体に傷が増えてきた、

この辺が頃合いだろう。

 

上田「全体が満遍なく傷ついてるのに、

お腹の辺りだけ傷が少ない……

この魔男の弱点は『太鼓』かな。

 

 

クグロース!」

 

 

両手に棍を握りしめて魔法を使うなら、

その棍は太さを一回り程増して

魔力の容量が普通より増える。

 

?「あっ……!」

 

少年は勘でわかったのだろうか?

いや、これは別っぽいが……

今は理由はわからない。

 

咄嗟に残ったランス全てを投げ、

魔男の足首全てを捉えた。

そのまま地面に張り付けにし、

身動きが取れないようにする。

 

上田「ファインプレーだよ!」

 

利奈はそのまま高出力の魔力を

持っている棍に注ぎ込み、

赤色の刃を作り出す。

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。

赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

その赤々とした刃を

おもいっきり振りかぶって、

向けた先の魔男にぶつけた!

 

ザンッ! っと斬撃音が響き、

魔男の腹についた太鼓を削ぎ落とす!

 

魔男はガクガクと痙攣したかと思うと、

切られた腹の空洞から黒い魔力が噴き出し、

頭を揺さぶる程のでかい断末魔をあげた。

 

上田「ゲーム、クリア……っわ!? うるさい!」

 

利奈は耳を塞いで距離を置き、

その結末を見届ける事にした。

少年はただただ呆然としている。

 

その勢いは止まる事を知らず、

高くそびえ立つやぐらがぼやける程に溢れた。

ひっそりと咲く菖蒲の花は、

今となってはもう見えない。

 

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

並ぶ不気味な屋台たちも、

腹にでかでかと穴が空いた魔男も、

歪な色の砂利も全て吸い込み、

結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは、

濁りなき菖蒲色のソウルジェムと

太鼓がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……膜鳴の魔男を救った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

雪は降る、容赦無く降る。

気がつけばガラクタの山は白く薄く雪が積もり、

むき出しの茶色の地面も白い雪に包まれた。

 

そのど真ん中にはカバーがかけられた

妙なガラクタとも言えない物体があるが……

 

 

「この辺に妙な結界があったって本当?」

 

「あぁ、ちらっと変な魔力を

感じたやつがいるらしいぜ」

 

「確か、この辺よね……」

 

2人の魔法使いが魔男がいた場所を見つけるが、

すでに魔男は誰かに倒されており

エンブレムさえそこにはなかった。

 

「何だこれ?」

 

そのうちの1人が物体を見つけたなら、

かけられていたカバーをがばっとめくった。

そこにいたのは寝かされた男子、

枕元にはソウルジェムがある。

 

「……って、菖蒲!? 菖蒲じゃねぇか!!」

 

「うそ、菖蒲君!?

でも菖蒲君は特訓があるからって

先に帰ったはずじゃ……」

 

「と、とにかく起こそうぜ!

誰か倒した後みたいだしな」

 

 

菖蒲という少年が息を吹き返す頃、

変身をといた2人の男女は

物陰からその様子を見届け、

帰路を歩く最中だった。

 

膜鳴のグリーフシードは利奈の手の中に。

 

上田「あの人、名前も菖蒲って言うんだね」

 

?「…………」

 

上田「……無視はちょっと傷つくかなぁ」

?「名前なんてどうでもいい」

 

上田「ふぇう!? うぅ……」

 

?「……さっきとは大違いだな、アンタ」

 

上田「へ、そう? 自覚無いんだよね」

 

?「二重人格か? 変な奴」

 

上田「多分違うと思うよ……あれ?」

 

ふと、利奈が変身を解いた彼を見るなら、

頭の片隅にあった記憶が

バチっと脳裏に映るだろう。

 

 

あれは確か、おとといの夕方……

 

 

『ニット帽にマフラーと暗い灰色のコート……』

 

 

上田「ああぁぁ!!」

 

?「ヒエッ!? な、なんだよ急に」

 

上田「おとといぶつかった人だ!

あっ、そうだもしかして……!」

 

利奈は彼の事を思い出すと、

持っていたバックの中から

ボトルシップを取り出し、

厳重な包みを解いて彼に見せた。

 

?「……!!」

 

彼は相当驚いたような顔をして、

利奈から何も言わずに

ボトルシップを受け取った。

かなり大事な物だったのか、

すがるような様子でそれを握りしめる。

 

上田「良かった、落とし主が見つかって。

探しても見つからなかったから安心したよ」

 

利奈はホッとしたような表情で

一連の結果を見たが……少年の様子はおかしかった。

 

?「アンタらの……せいで……!」

 

上田「……え?」

 

 

?「アンタらのせいだ!!

知ってたよ、リュミエールの誰かが

ボトルシップを持ってた事!

持ち主を探してた事なぁ?

 

目立つの嫌だってのに……!

大々的に探しやがって……!!

 

ふっざけんな!!!」

 

 

上田「…………」

 

?「どうせ弄んでたんだろ?

花組なんかどいつもこいつ……も」

 

少年は安心した事で湧き上がった怒りを、

そのまま全部利奈にぶつけた。

返ってきた反応は少年の予想を反し、

暴言は途中で止まってしまう。

 

 

利奈は……泣いていた。

 

 

上田「ごめん、なさい……」

 

静かにこぼれる大粒の涙。

少年は怒るとでも思っていたのか、

反応に明らかな動揺が見える。

 

?「な……なんでアンタが泣いてんだよ」

 

上田「そんな風に苦しんでるなんて、知らなくて……

そのボトルシップすごく大事な物だったのに、

わた、私、わた……し……!」

 

 

利奈が泣いている様子を

少年はただ呆然と見ていたが……

しばらくして、声をかけた。

 

?「……アンタ、本当に変な奴だな。

さっきから自分はわざと嫌味な対応したが、

 

何故、一切怒らない?

 

何故、自分を責めるんだ?

 

……泣くなよ、見苦しい。

落とした自分にも落ち度はあった」

 

上田「……でも「津々村だ」え?」

 

津々村「なっ、名前だよ!

まだ言ってなかったろ?

津々村(つつむら) 博師(ひろし)、2年花組在籍。

 

……わっ、わわわ悪かったよ!

泣かせる気はなかっ、たんだと思う。

 

素直にありがとうとは言わないけど、

アンタが見つけなきゃ一生雪の中った」

 

……なんだそりゃ。

 

途中から内容も微妙で

支離滅裂になっていたが、

その必死さは十分伝わる。

 

利奈はコートの袖で目元を拭い、

熱を持ったまぶたで微笑むだろう。

 

上田「上田 利奈です。

名前教えてくれてありがとう、博師さん」

 

津々村「やっ、やめろよ!

お礼とか慣れてないんだ!

自分はもういくよ!」

 

博師ははずかしさもあってか

その場から逃げるように去ろうとしたが、

利奈はそれを引き止めた。

 

上田「まっ、待って博師さん!

ソウルジェム浄化してないよ!」

 

慌てて博師の左手を掴むなら、

その中指にはまった指輪を見る。

自然で柔らかな水色の石には

4分の1程が穢れている。

 

利奈は膜鳴のグリーフシードで

博師のソウルジェムを浄化しようとしたが、

博師は利奈の手を振り払う事で

何故か浄化を拒否した。

 

津々村「いいよ、浄化しなくても。

 

 

……どうせ孵化するもんだから、これ」

 

 

上田「……え?」

 

一瞬、利奈は背筋が凍ったかと思った。

博師の最後の言葉、妙に暗い。

まるで絶望でも吐き出したような言い方だ。

 

だが、深入りは出来ない。

絶望は簡単に他人に見せる物ではないからだ。

出来る事があるとすれば、触れない事だけ。

 

津々村「じゃ、自分は行く。

後で自分のグリーフシードで浄化する。」

 

上田「あぁ……うん、気をつけてね」

 

博師は笑いはしなかったが、

最後にちゃんと利奈の目を見てうなづいた。

そのまま夜の暗い小道に消えて行く。

 

 

帰路につく中……利奈の心境は複雑だった。

ボトルシップの持ち主が見つかった喜び、

持ち主の絶望を見て何も出来ない悲しみ。

 

今の利奈にはどうしようもできない。

会ったばかりだからなのもあるが、

もっと深い、暗い何か……

簡単には触れられない何か。

触れてはいけない暗闇が、

利奈を拒んでいる気がしたからだ。

 

かつて、同じような『闇』を持っていた

利奈だからわかる彼の心情。

簡単には明かせない闇……

今出来るのは、その闇が滅びへと

向かわないように祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((ひぃ〜〜ろぉ〜〜しぃ〜〜!!))

 

津々村((……何ですか?))

 

((いやぁ、またグリーフシードが

足りなくなっちゃってさぁ?))

 

((不足なう〜〜!))

 

((ちょっと『収穫』させてくれない?

ぜんっぜんグリーフシード足りないの!))

 

((ピンチなう〜〜!

すぐに来てよ、あの場所!))

 

津々村((……トモちゃんには

何もしてないんでしょうね?))

 

((流石に約束は守るって!

実際、知己より質良いし?))

 

津々村((…………))

 

((早く来てよ〜〜暇なう!))

 

津々村((わかりました、今行きます。

 

 

今日は……いつもより、

上手く絶望できそうだから))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてボトルシップの持ち主は見つかり、

いつしか落とし主探しのブームも

収束へと向かって行った。

 

不真面目達はしなくなったが、

真面目達にこの習慣は身についたようで、

これは1つの活動として

後にポスターも作られたらしい。

 

 

そうして利奈は出会った。

人嫌いの勿忘草の魔法少年、

あからさまに戦闘を嫌う

逃避の荒波に出会ったのだ。

 

逃避の荒波は瓶の主。

ハッキリと喜ばなかったものの、

彼のボトルシップの扱いを見れば

その喜びようが明らかである。

 

となると……この時点で

ある事が明らかになるわけだが、

今それを述べるタイミングではない。

 

 

さぁ、次の朝を迎えよう。

リュミエールに事の収束を伝えなければ。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「ははは……その時は世話になるぜ」

 

 

 

上田「うん、ありがとう」

 

 

 

地屋「ん〜〜あ〜〜……

ここで考えても全然わからねぇな」

 

 

 

下鳥「確かに、決定的な証拠ね」

 

 

 

〜次……(18)逃避の荒波と瓶の主〜

〜終……(19)被る黒と病弱少女〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




……まず最初に、利奈の消しゴム複数持ち、実話です実話w
実際大量に持ってました私……まぁそんなの自慢にもなりませんが。


まさかこの季節に祭りの話が
出るとは思っていないでしょうね (・∀・)ニヤニヤ
目の前にいる皆様、驚いたでしょう?

雪○クと言われたら負けますが(オイ
ん? 私ですか? 残念、
札幌と私の地域は程遠い。
……行きたかったな (´-ε-`;)


閑話休題、ちょっと今回の魔男について
お話しをましょうか。

膜鳴(まくめい)』という聞きなれない単語、
これは本来『膜鳴楽器』という
主に太鼓を示す言葉から
もじったまぁ『準俗語』なんです。

もっと専門的に言うなら……
強く張った膜状のものの振動に
よって音を発する楽器の総称。
大部分はたたいて音を出す太鼓の類。

うん、便利だコ○バ○ク(殴


雑談としても魔男の話題、
今回は『祭り』について語りますね。

お祭りかぁ……小さい頃は
家族でワイワイ妹と手をつなぎ、
賑わう屋台並びの中を歩いたものです。

その時の『すっぱいカスタードワッフル』が
1番記憶に残っていますね。
当時の私自身はなんとも思わず
半分位食べてしまったのですが、
父親に分けたら「捨てなさい」ですよ。
どれだけ私の胃は強いんだろう……

当時の妹は綿あめが特に好きで、
片手に私の手、もう片方は綿あめ
というスタイルが主でした。

私自身手がべったべたになるので
綿あめはあまり好きじゃなかったのですが……
うん、食わされてましたね妹に。
私が食べると笑うのが可愛いんだこれがww

……というのが、古い記憶。
今祭りに行くとしたら1人で行きます、
帽子を深々を被って顔を隠してね。

1人で祭りも結構楽しいですよ?
好きな物食べて好きな事して、
うちの地元の祭りは
バイクサーカスなんてやってるんで
かなり充実しています。

終いの果てにお気に入りの屋台の
おばちゃんに顔を覚えられました。
そりゃ覚えるわ毎年だものww

去年ももちろん行きましたが、
今年も行くつもりでいますよ?
最近はお手伝いの家族とかがいて
会話が弾むってもんです!

……流石に「いつも1人なの?」って
手伝いのオカンに言われた時は
その頭かち割ってやろかと思いましたが。

(#・∀・)<(どうせ1人だよ悪かったな!!)


さて、今回はこの辺で。
次回はある意味でですが、
事態の大きな進展を行います。

次回の第19話で『花の闇』の
もっと深い所までわかるでしょうね。
まぁ、皆様の考察と推理力次第ですが。

それでは皆様、また次回。
(。>∀<。)ノシ<(マッタネー!!)


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(19)被る黒と病弱少女

今週は投稿できないと言ったな? あ れ は ウ ソ d(殴


はい、1週間で書く量を2日で書きましたこのアホゥはww
書いてしまいたいことが山ほどあったのでねぇ、飲茶しました^q^
前回大きく進展すると宣言してしまったので、その分もね。

なので今回は文章が長めですゴメンナサイ・・・休憩挟みながらどうぞ。

あの心理状態だからこそ書ききれるシーンもあったのでね、
休憩ちまちま挟みながらなんとか完成させましたよ。


※というわけで鬱要素とまでは言いませんが・・・
 学校での劣等経験者の皆様にはかなりきついシーンがあります今回。
 その部分は『★』のラインで区切ったのですっとばしてください。


前回は確か・・・ボトルシップの持ち主がやっと見つかったんでしたっけ。
やり方が気にくわなかったようで本人は怒ってましたが・・・
どっちにしろあの反応、無事返すことができてよかったですね。

今回はちょうどその次の日、まずはこの事を伝えなければなりません。
というわけで利奈はいつものように学校へと向かうようですが・・・
本日の学校はなんだか情報で溢れてますね、何事でしょうか?

まぁそんな感じで、今回の舞台の幕は上がります。
今日は昨日と比べて冷え込んでいるようです・・・。



昨日はそんなに寒くなかった。

 

日差しは照って穏やかで、凍りつきもやんわりと溶け水になる。

 

一方本日、冷んやり冷え込み風も吹く。

無論、溶けた水は再び凍りつく。 凍った地面はツルツルだ。

 

 

ドシャッ!!

 

 

……あぁ、早速被害者が出たようで。

 

 

中野「なんで学校の目の前で転ぶかなぁ僕!!」

 

大勢いる前でド派手に転ぶ蹴太、

ついでにバックの中身もぶちまける。

一部の生徒達からは笑われてしまった。

 

 

な、なんというアンラッキー……

 

 

その場に軽く震えながらうずくまって

強打した尻の痛みに耐えるなら、

1人の生徒が駆け寄って来る。

 

その生徒は海里であり、周辺の教科書を拾っていった。

彼の行動力は尊敬すべきレベルにまで達しているだろう。

 

清水「おいおい……大丈夫か?」

 

中野「痛いけど大丈夫、ごめん海里」

 

「うわぁ、痛そうだね……」

 

「ちょっと手伝ってやるか」

 

1人助けたなら、また1人、また1人と彼を助ける協力者が増えていく。

あっという間に散らばった大量の教科書やノートは片付いた。

 

「次は気をつけろよ!」

 

中野「ありがとう! 気をつけるよ!」

 

清水「ほら、行こうぜ蹴太」

 

中野「はい!」

 

……ふむ、良い関係築けている。

2人は不真面目と真面目という完全な反対位置にあるが、

似てる面があったらしく息が合っている。

 

それにしても、なんと優しい世界。

真面目だぁーー不真面目だぁーーと

1人1人の個性は強いものの、いざとなれば団結と協力。

 

校則は破る物と言う生徒も

何人かいるという現状だが、

その土台はしっかりしているらしい。

 

……まぁ、土台がしっかりしてようが

その土台の上で全員が全員

納得の行く結果が生まれるという

都合のいい話にはならないが現実。

 

 

もしそうだったのなら……きっと、利奈は()()()幸せだった。

 

 

それはさておき、助けてもらえて良かったね蹴太。

《不幸体質》なのは確かに災難だが、

それをフォローしてくれる周囲がある。

 

最近は不幸だって蹴り飛ばすような奴が、

言うなら上司になったから安泰だろう。

 

外とあまり気温は変わらない玄関、

校内の暖かな風とはさみうち。

玄関と廊下を仕切るガラス扉の先に

置かれたストーブの熱風だろう。

 

玄関前の広場に並ぶ各学年と組・・・

それぞれの日直の生徒達は腕や足をさすりながら耐えた。

ストーブ近くの生徒達は、ひっそりとその幸運を喜ぶだろう。

 

 

雪を手で払うようにほろったなら、

日直生徒のかったるい挨拶を耳に校内を歩いていった。

 

海里と蹴太が会話をしながら進む先、

ふと、海里はその頭に念話を聞いた。

 

中野「ん?」

 

清水「あぁ、悪りぃな急に立ち止まって。

先に行っててくれ、ちょっと用事が出来た」

 

中野「?……わかった、先行ってる」

 

清水「おう」

 

蹴太が先に階段を上がって行くなら、

海里は逆に階段を降りて行った。

向かう先はいつか来た空き教室、

使われていない為鍵はかかっていない。

 

教室のドアに隠れた生徒を見つけ、

念話を送ると同時に肩に手を置いた。

 

清水((よぉ、朝っぱらから念話か?))

 

 

隠れていた利奈は驚いた。

人気者な海里はいつも、誰かと一緒にいる。

実際、今日も蹴太と一緒にいた。

 

邪魔にならないようにと

念話で後で話したいと送ったのだが……

海里の優先順位を利奈は知らない。

 

肩に感触を感じ振り向いたなら、

そこには海里の意地悪そうな笑みがあった。

 

上田「わっ!?……あれ、蹴太さんは?」

 

清水「先に行かしたぞ」

 

上田「え、大丈夫なの?

楽しそうに話してたけど」

 

清水「心配いらねぇぞ? 後からでも話せる内容だし、

口調からして利奈の方が重要な話っぽいからな」

 

大事な話だと察してくれるのは

コミュ症な利奈としてはありがたいが、

それと同時になんだか申し訳なくなった。

 

だが、それは話さない理由にはならない。

 

上田「なんかごめん、ありがとう」

 

それらの意味はこの言葉に集約される。

 

その意味を理解出来る海里は、

「謝る必要はねぇよ」と

利奈の少しの罪悪感を消した。

 

清水((んで? 話したい事ってなんだ?))

 

早めの登校な2人には、

まだまだ余る程の時間がある。

利奈がその辺の学校の椅子に座るなら、

海里はその辺の学校の机に座った。

こら!? 椅子に座れ海里!

 

上田「昨日の事なんだけど……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

(☆ぶれいくたいむ☆)

昨日のやり取りを説明中。

膜鳴の魔男の特徴やら、

ボトルシップの返却、

津々村 博師の事などなど……

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

上田「じゃあこれ、リュミエールに寄付ね」

 

そう言うと、利奈はシルクハットを出して

その中からグリーフシードを取り出した。

まだ使われていないとれたての、膜鳴のグリーフシード。

 

昨日の穢れは別のグリーフシードで浄化を済ませたらしい。

 

清水「これが昨日利奈が倒した魔男のグリーフシードか」

上田「2人で倒したの!」

 

清水「お、おう。2人で倒したんだな。

(話を聞く限りほとんど利奈だが)

すまん、1人で倒させちまって」

 

上田「いいよいいよ! いつもの事だから」

 

清水「で、津々村は俺らの探し方が悪かったと言ってたんだな。

すぐ見つかると思ったんだが、俺の判断ミスだなぁ……

 

先に俺だけに話そうとしたのはそれが理由だったのか」

 

上田「みんなで頑張って探したのに、

怒られただなんて言いづらくて」

 

清水「だが津々村の大事な物には間違いねぇんだろ?

別に話しても大丈夫だ、それ位で凹む奴らじゃねぇよ」

 

上田「……そっか、そうだよね。

わかったよ、先に海里に話して良かった」

 

利奈は一通り話を終えたのなら、

安心したようにホッとした笑みを浮かべた。

 

清水「話せてスッキリしたみたいだな。

この情報、確かに頭に入れたぜ」

 

上田「うん、ありがとう」

 

その辺りでちょうど学校のチャイムが鳴った。

ふむ、そろそろ教室に戻った方が良さそう。

早くしないと担任の先生が来てしまう。

 

清水「おっと、そろそろ行くか。

めんどくせぇなぁ……授業とかサボりてぇわ」

 

上田「わからないところがあったら、

また私や芹香が教えるよ」

 

清水「ははは……その時は世話になるぜ」

 

情報は多い物の、多いってだけで

やっぱり勉強は好きではないらしい。

褒める物ではないが流石不真面目。

 

利奈が行くよと促すなら、

海里はだるそうにその場を後にした。

次の教科は一時間目の数学。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「起立!」

 

「礼!」

 

「着席!」

 

今日やった所は多分図形、

利奈が独自の問題を作成して

授業とは別のノートに

書き込んでるんだから

間違いはないだろう。

 

こんな変わったノートを作るのは、

花組には利奈くらいしかいない。

彼女は図形問題が好きなようで。

……ふむ、彼女の図工の高さも

図解能力の高さがあってこそなのかな。

 

月村「あら、今日やった所の応用?」

 

上田「うん! 結構面白かったから

もう一回やってみようかと思ってさ」

 

月村「なら、点Aと点Dの長さをバラバラにしてやってちょうだい。

結構面白い事になるわよ、ガラリと変わるわ」

 

そう言って、芹香は手際良く

利奈のシャーペンと消しゴムで

今書いてる問題をちょっと書き直した。

 

上田「え、ちょ、それ難しいよ」

 

月村「あら? あなたなら簡単じゃない」

上田「出来るけど面倒だよ!

 

今日やったとこの応用?

え〜〜っとこの公式が当てはまるから

この長さをx、こっちをyにして……」

 

花組が契約してからというもの、たまにある芹香のいたずら。

積極的なのは良いが……難問は押し付けないでほしい。

 

まぁ解ける程度のばかりな辺り、

芹香の優しさが見えなくもない。

 

月村「その式違うわよ、

そうするとxが違う数値になるわ」

 

上田「……あ、ホントだ違う」

 

図形問題好きと理数系、

2人の頭の性質はどうやら合うようで。

唯一違う点があるとしたら、

芹香の英語嫌いな点くらいか。

 

 

「「GS比較大会〜〜!」」

 

利奈が黙々と計算をする中、

不真面目のうるさい声の中で

気になる内容が入ってきた。

 

上田「じーえす……?」

 

月村((グリーフシードの事よ、

一部の魔法使いはそう呼んでるみたいね))

 

上田「……あぁ((グリーフシードの事なんだ))」

 

見ている感じ、どうやら誰が

グリーフシードの数が多いかを

比較しようとしているらしい。

 

利奈と芹香が趣味よりな勉強片手に

その様子を見守る中、

遊びなんだか真面目なんだか

方向性がよくわからない大会が開催した。

 

 

火本「……(おい)も参加していいのじゃっとな?」

 

地屋「全然? 大歓迎!」

 

「実際みんなノリノリだし?」

空野「ノリノリなのは君だけだと思うよ」

 

火本「まぁまぁ、お手柔らかに。

(おい)と古城殿2人は(あす)っで確認するわけじゃね」

 

古城「2人組で活動してるのって

僕らと力強達ぐらいでしょう?

どの位の実力か確かめたくてさ」

 

火本「(ない)かあったら協力も出来(でく)

 

空野「へぇ、ちゃんとした理由があったんだね」

 

地屋「当たり前だろ? 俺が選んだ連中だぜ?」

古城「等の本人はぶっ飛んでるけどね」

 

その時力強は軽いチョップを喰らわそうとしたが、

忠義はそのチョップを見事みきり白羽どりをした。

その流れの鮮やかなこと鮮やかなこと。

 

大体は合っている事なので

八雲は若干笑ってしまったが、

徳穂は冷や汗をかいて薄ら笑い。

 

 

地屋「さて、そろそろ見せ合いといこうか」

 

空野「みんなどの位ある?」

 

古城「もらったのもあるが……

まぁ、1〜2個って位だろ」

 

火本「そいじゃあ、取り出そうか」

 

教室の片隅で一同は

胸ポケットやズボンのポケット、

和風の巾着……あ、これは徳穂のだ。

せーのの合図で取り出した。

 

それらは雑魚級の物ばかりで、

まだ使っていないのは1つあるかないか。

 

古城「やっぱりみんな1個か2個なのか」

 

地屋「まぁそんなもんだろうな」

 

火本「魔力切れがあらかしたじゃっど」

 

地屋「……あ?」

 

古城「『魔力切れがほとんど』だとさ」

 

地屋「あぁ、まだまだ俺らも未熟な魔法使いって事だな。

学習しない奴らもいるもんなぁ 俺 含 め て」

古城「ちょ!?」

 

地屋「……ってか八雲、八雲!

なにボケぇーーっとしてんだよ?」

 

空野「え、だって……」

 

八雲は何かに気がついたようで、

見せ合うグリーフシードを見て

なにやら驚きを隠せない様子。

力強はその様子を見て、ふぅっと息をつく。

 

地屋「またいつもの女々しさか?

言わないとわからねぇぞ、

何が気になっているんだ?」

 

力強の言う事となれば八雲は断れない、

ちょっとの間を置いて話し出した。

 

空野「……僕の中途半端と力強の新品、

徳穂の中途半端と古城の新品。

全部置いてみて、窓際でいいから」

 

古城「へ?」

 

火本「よくわからんけど、

とりあえず置いてみろ」

 

地屋「言い方が乱暴だな」

古城「今のも鹿児島弁ね」

 

地屋「お、おう。 じゃあ並べてみるか!」

 

そんな感じで、3人は八雲の指示通り

それぞれのグリーフシードを窓際に置いた。

もちろん、八雲自身も置く。

 

地屋「……は?」

 

古城「何で、え? 何で!?」

 

火本「(なん)ちこっなんだ?」

 

空野「ほら、やっぱり全部同じだよ」

 

まさに、八雲の言う通りだ。

4人が並べた4つのグリーフシード、

 

 

全てが同じ形状……()()()()()()なのだ。

すなわちそれは、『被る』という事。

 

 

2個くらい被ってしまうならわかるが、

それが4個も被るとなると……

1度孵化をしたなら魔力の節約だとか、

いくらバカでも多少の警戒はするはずだ。

 

古城「……なんでこんな事に

なっているのかがわからないな」

 

火本「魔力の()っこが下手な魔法使()けなたろかい?」

 

地屋「……忠義、徳穂は何て?」

 

古城「今の? 『魔力の扱いが下手な魔法使いじゃないか』だって」

 

空野「それは無いと思うよ。

魔女や魔男の討伐という運命を

背負うという対価があるんだ、

合理的なハチべぇがそんな中途半端な

魔法使いを創るとは思えない」

 

地屋「ん〜〜あ〜〜……ここで考えても全然わからねぇな」

 

火本「みんなはそんグリーフシード、どこで手に入れた?」

 

空野「僕は病院の近くで見つけた魔女を普通に討伐して手にいれたよ。

その時は・・・力強はいなかったな」

 

地屋「じゃなかったら2個もならねぇよ。

 

俺は別の魔男を倒した時に、

誰かのグリーフシードでみんなのソウルジェムを浄化して……

俺が最後だったから、そのまま俺のになった感じだな」

 

古城「僕も魔女討伐で手に入れた感じだね、

自慢の手裏剣でみじん切りにしてやったよ!

米粒みたいに粉々なのさ!!」

 

火本「(おい)は……あんまい覚えちょらんな、

無意識に持っちょった感じかな」

 

古城「まぁ全部全部覚えてるって

都合の良い話は無いからね」

 

火本「面目(めんぼっ)ない、覚えちょらん」

 

 

地屋「情報量が多い奴に聞いた方が早そうだな」

 

空野「情報量……やっぱり海里かな?」

 

古城「清水海里を?」

 

火本「確か、情報屋を名乗っちょったはず」

 

空野「昼休みに聞きに行ってみよう。

このおかしな現象……

何かわかるかもしれない」

 

地屋「そうすっか、2人ともそれでいいか?」

 

火本「そいでいいよ、(おい)はみんなに合わすっ」

 

古城「情報屋っていうくらいだから

そりゃあ大量の情報持ってそうだしね」

 

地屋「じゃあそれで決まりだな!

グリーフシード片付けるか……あれ、どれが俺のだっけ」

古城「忘れるの早っ!?」

 

空野「力強は脳味噌も筋肉みたいな人だからね」

地屋「間違いじゃないがムカつくな」

 

火本「右端のが力強ので、左端が(おい)のだよ」

 

地屋「……ん? おぉ、徳穂覚えてたのか!

サンキュ、おかげで助かったぜ」

 

力強が教えてもらった

グリーフシードを手に取りしまうなら、

徳穂も別のグリーフシードを手に取る。

 

空野「僕のはこれだね、力強の隣に置いたから」

 

古城「じゃあ僕のは残ったグリーフシード……っと」

 

さて、グリーフシードをしまったなら

次の教科の準備をしなければ。

 

地屋「次の教科何だっけ?」

 

空野「歴史」

「「よっしゃああぁぁ!!」」

 

八雲が次の教科名を口にしたなら、

徳穂と忠義はあからさまに喜んだ。

 

この歴史オタク忍者に、この歴史オタク侍あり。

 

地屋「2人の歴史好きには敵わんなぁ……

わかんないとこあったら教えてくれよな」

 

そう言う力強の表情は冷や汗に苦笑い。

八雲は2人の轟きに驚いて

その場で固まったままだ、

口をぽかーーんと開いたまま。

 

 

上田「解けたよ、芹香」

 

月村「……うん、正解。

あれだけ言っていた割には

あっさり解けるものね」

 

上田「あっさりじゃないよ!?

ひっかけ問題だって気がつくまで

無駄な回り道したもん!」

 

月村「利奈、次にやる所を見てみなさい」

 

上田「次?」

 

利奈はノートの下に敷いていた数学の教科書を手に取って

ページをめくったなら、とある事に気がつく。

 

上田「……あ、これって」

 

月村「来週は有利に勉強出来そうね」

 

上田「ありがとう芹香!」

月村「まぁ理解出来なきゃ意味は無いけどね」

 

 

ふと、学校のチャイムが鳴った。

 

一時間目の休み時間はもう終わり。

 

月村「良い暇つぶしになったわ、

次やる時はもっと早く

解けるようになっておく事ね」

 

一見冷たい言葉だが、

そう言う彼女の表情は

かすかに笑みを浮かべていた。

 

上田「次の教科も頑張ろうね」

 

月村「あなたの苦手な社会だけどね、

歴史なだけありがたく思いなさい」

 

上田「社会……うん、ガンバルヨ」

 

そう言う利奈の目は死んでいたが、

容赦無く次の教科の先生は

教室に向かい歩を進めるだろう。

 

バックに数学の教科書とノートををしまうなら、

入れ替わりで歴史の教科書とノートが出てくる。

例の図形ノートはというと、机の中。

 

 

上田「…………」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

冷え込む廊下と窓には結露。

冬になってから時が過ぎ、

この寒さにもだいぶ慣れた。

 

授業終わりなそんな中を

ふらふらと歩く利奈。

付き添う芹香は若干呆れ気味、

後に合流した絵莉は気を使う。

 

時間を進めて今はお昼休み、

利奈は冷たい黒の机に突っ伏していた。

復習ノートにぐるぐると渦を書く。

 

上田「なんで日本人なのに世界の歴史勉強しなきゃいけないのさ! うぅ……」

 

篠田「利奈にも苦手な教科あったんだ」

 

月村「一番苦手なのは地理だけどね」

 

上田「頑張ってるんだけどどうしてもダメ!

もはや拒否反応というか……」

 

月村「そう言ってる割には平均点以上は取っているけど」

 

篠田「えっへへ〜〜んっ!

何かわからない事あったら聞いてね!」

 

月村「なに言ってるのよ、

あなたいつも平均点付近じゃない」

篠田「ろっ、60点もあれば十分でしょ!?」

 

上田「あはは……ありがとう絵莉ちゃん」

 

相変わらず厳しい芹香に、

厳しさを受ける絵莉があり。

いつもの光景、利奈は軽く笑う。

 

月村「歴史を教えてもらうなら別の人からにしなさい。

そうね、例えば……」

 

芹香が何か考えるちょうどその時、

使われていない理科室の扉がガララと開いた。

出てくる人数は5人程。

 

地屋「よぉ〜〜っす、海里いるか?」

 

火本「お邪魔しもっす〜〜!」

 

月村「……ちょうどあの、

歴史オタクコンビみたいにね」

古城「初対面でそれ!?」

 

空野「まぁまぁ……あぁ上田さん、

この前はうちの力強がお世話になりました」

 

上田「え? ……あぁ、唇の魔女の時の事?」

 

空野「ずいぶんと活躍したようで、

僕としてもとても嬉しいです」

地屋「オカンかよお前は」

 

武川「絵莉〜〜! 久々にオイラが来たぞ!」

 

篠田「ぴかり? ぴかりだ!

久しぶり、最近なにしてたの?」

 

武川「月組に対する情報伝達、

今日来たのは経過報告。

灰戸も元気だよ、忙しそうだけど」

 

ハチべぇ「最初は好奇心で動く

生徒が多かったみたいだけど、

最近では学習して注意が出来てるね」

 

上田「ハチべぇ! 月組に行ってたんだ」

 

ハチべぇ「正確には花以外の

クラスの観察をしていたのさ、

風も鳥も月も特にこれといった

目立つ変化は見られなかったね」

 

上田「そうだったのか、

淋しかったよハチべぇ〜〜!」

 

利奈がハチべぇをもふる中、

使われていない理科室の前は

今までに無い程の賑わいを見せた。

 

中野「な、なんかカオスな事になってるね」

 

清水「そりゃ5人も同時に

理科室に入って来たら

こうなるだろ、倍だぞ?

 

お前ら! そこで話してても寒いだろ?

とりあえずみんな座れよ、一通り話を整理しようぜ」

 

 

とりあえず海里の促しで理科室に入り、

適当に10人は理科室の椅子に座った。

 

海里は1人席を立ち、

教師でもしているかのような振る舞いで

一同の話をキレイにまとめる。

 

清水「地屋と空野と火本に古城。

お前ら4人が話したいのが

『グリーフシードに関して』、

で、ぴかりが話したいのが

『月組の現状報告』でいいな?」

 

空野「先にぴかり君からでいいよ、

僕らの話は長くなるから」

 

武川「お? ありがとう!

んじゃ遠慮なくパパッと話す!

 

 

月組の様子の話だけど、

最近『真っ黒人間』が話題になってるんだ。

夜中に突然現れて、何もせずに消える影」

 

清水「真っ黒人間?」

 

武川「ちょっとした怪談話なんだけど、

妙に信憑性があるらしい……

って灰戸が言っててさ、

一応海里の耳にも入れとけって。

 

花組に黒い魔法使いとかいたりする?」

 

清水「いや、黒い魔法使いはいないな……

というか、黒は穢れの色だからな?

真っ黒だったら即刻孵化するだろ」

 

中野「使い魔や魔女、魔男といった

魔なる物である可能性は無いのかい?」

 

清水「それも多分ねぇな、魔なる物だったら結界を作る。

怪談話とかの話になる前に誰かが倒すだろうな。

 

そうだろ? ハチべぇ」

 

ハチべぇ「海里の言う通りだね。

魔女や魔男はその理想を実現するため、

自身の魔力を使って独特の結界を創る。

 

例外でも無い限り、結界を創らないで

行動するというのはあり得ないよ」

 

清水「……となると、

気になるのは真っ黒人間の正体だが」

 

武川「む〜〜……やっぱり、

細かな情報が少なすぎるよね。

大雑把な目撃情報しかない。

 

もうちょっと重点的に

灰戸と協力して情報を集めてみるよ」

 

清水「おう、花の魔法使い達にも

この話を後で広めとくぜ。

今日はわざわざありがとな」

 

 

武川「はいはい! オイラの話が

終わったよ、次の人どうぞ!」

 

地屋「……なんか、やたら怖い話を

サクッと終わらしてきたけど大丈夫か?」

 

武川「全然? 問題なし!

わかんないものは仕方ないもん」

 

空野「それなら良いんだけど……」

 

古城「先に進まないなら仕方ないな、

僕らの話も始めようか」

 

火本「そいもそうか。

 

 

海里殿、まずはこれを見て()し」

 

地屋「お、早速出す感じか。 えっと例のGSは……と」

 

清水「……まだその呼び方使ってたのか」

空野「地味に気に入ってるらしいよ」

 

さて、しばらくすると

4人の例のグリーフシードが

黒の机の上で並ぶわけだが、

これにはリュミエール一同……

と部外者1名は騒然となる。

 

清水「ちょ、なんだこりゃ!?」

 

篠田「同じグリーフシードが4つも!

よく4つも同じのが揃ったね、なんかすごいよ!」

中野「そんなのんきな話ではなさそうな雰囲気だよ」

 

月村「ちょっと、利奈もなんとか言いなさいよ!」

 

上田「え、だって……」

 

驚きを隠せない利奈がハッとするなら、

シルクハットをぽんと出して

そこから1つのグリーフシードを取り出した。

 

 

それは机に並ぶグリーフシードと同型。

 

 

月村「……え?」

 

篠田「利奈も同じの持ってたんだ!」

 

上田「ソロ狩した時に取ったんだ。

名前は確か……疑心の魔女、

これは疑心のグリーフシード」

 

それは、7本の線と歪で様々な花をモチーフとした新品。

 

地屋「5……個?」

 

空野「この勢いだと……探せばまだまだありそうだね」

 

火本「(だい)かは()たんけど、

こん子ちっと孵化しすぎじゃねか?」

 

古城「不注意にも程あるね、

管理がまるでなってない」

 

清水「ちょ……っと待て、これは流石におかしい。

この事を俺に話に来たんだな?」

 

空野「海里なら何かわかるかなって」

 

地屋「無駄に情報量あるもんな」

清水「お前後で覚えとけよ?

 

……いや、流石にこれはわからんな。

こんだけ何回も孵化するっていうなら

フォローとか指導とかを

誰かがしてくれると思うし、

俺の所にも情報が入るだろ」

 

古城「情報屋でもわからないか……

なにかわかると思ったんだけどな」

 

火本「予想以上にややこし事情が

ありそうじゃっど、この案件」

 

清水「問題はこのグリーフシードが

誰を元にした物かって事だな。

 

『7本の線』と『花』……か。

線だけじゃ何の事かさっぱりだし、

花を扱う魔法使いはいくらでもいるからな。

特定には時間がかかりそうだ」

 

 

空野「今すぐの解決は無理そうだね……」

地屋「まぁ薄々そう思ってた点もあるな」

 

火本「武川殿が()ちょった『真っ黒人間』も気いなっ所だ」

 

篠田「怪談話……だっけ? 正体もわからないし、怖いね」

 

武川「そうだね絵莉。 聞いたことあるなオイラ、

『おばけは正体不明だから恐ろしい』ってね」

 

月村「・・・馬鹿馬鹿しい、

おばけなんて非科学的なもの存在するとは思えないわ。

 

まぁ、私達がいる限りそうとも言い切れないけど」

 

そんな話のまとめの中……

ふと、利奈の頭に1つの言葉が

記憶の中から浮かび上がってきた。

 

上田「『花の闇』……」

 

古城「『花の闇』? なんだいその言葉は?」

 

中野「……なるほど。

このグリーフシードの異常な『被り』、

これが花組の見えない部分である可能性は高いって事だね」

 

清水「裏で何かしら動いてるってことか……

上手いこと隠してるんだろうな、

じゃなかったら俺に情報が入らない訳がねぇ」

 

地屋「しっかしすげぇな、

そんなに自分の情報に自信があるのか?」

 

ニヤニヤしながらそう言う力強に、

海里の中のナニカがぷっつんといったらしい。

海里はにこやかに笑いながら、1つの情報を開示した。

 

清水「お前……昨日魔法の練習で

自らを無重力にして飛ぶ

飛行魔法の練習をしたらしいな?」

 

地屋「……げっ」

 

空野「昨日? あぁ、あの事か」

 

力強が引き気味の笑みで冷や汗をかき、

八雲が若干の笑いを堪える中、

海里の話はそれでも続いた。

 

地屋「ちょっ、海里、それどこで知」

 

清水「その時八雲もその隣で飛行魔法を練習していて、

その時に発生した風にお前は」

地屋「だあああぁぁぁ!? やっ、やめろ! 恥ずいだろ!!

 

わかった、わかったからそれは言わないでくれえぇ〜〜!」

 

清水「嫌 だ と 言 っ た ら ?」

地屋「許せ海里ぃ〜〜!!」

 

もはや、力強は半泣きだ。

ここまで引っ張っておいて

言わない海里も結局は優しい。

 

 

さて、この辺でお昼休みの終わりを告げる

聞き慣れたチャイムの音が鳴った。

 

清水「……時間に救われたな、力強」

地屋「恥ずかしさで爆破するかと思ったぞ!?」

 

空野「結局言わないでくれてるんだから、

海里に感謝しなよ? 力強、

その調子だといつか言われるよ」

地屋「マ、ジ、か、よぉ……」

 

火本「がっはっは!

仲がいいのは()か事だな!」

 

古城「その辺にして早く教室に戻ろう」

 

篠田「えっと、次の教科は何だっけな」

 

中野「花組の次の教科は英語だったはずだよ」

 

武川「うわ、オイラやっちゃった!

月組の次の教科体育じゃないか!」

 

月村「早く着替えてらっしゃい、

これに懲りて次からは時間割を把握しておく事ね。

……次は英語か、ハァ」

 

武川「おおおオイラ先に行くよ! 遅刻するうぅーー!!」

 

着替えも含めるとなると……

まぁドンマイとしか言いようがない。

彼ならなんとか間に合うだろう、多分。

 

上田「私達も行こうか、

ぴかりさん間に合うといいね」

 

利奈の言葉を皮切りにして、

一同は机の下に椅子をしまい

旧理科室を後にした。

 

暖かさに慣れた体に、

冷え込んだ冷気が肌を刺す。

 

 

上田「あれ、ハチべぇどこ行くの!?」

 

ハチべぇ「ちょっとした観察だよ、花以外の組に行くだけさ」

 

上田「あ、あぁ花組じゃないんだ。

見つからないように気をつけてね、ハチべぇ!」

 

ハチべぇ「君の忠告を頭に入れておくよ」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

授業風景は省略しよう、特に気になる点も無い。

 

まぁ簡易にまとめるとしたら、

3時間目の国語の時間に

利奈が当てられて噛む事なく

読み切ってやったぜ。という感じかな。

 

ふとした放課後、教室から出たものの、

利奈は気になっていた事があった。

 

もちろん、先程話した内容

『真っ黒人間』や『疑心の魔女』

の事も気になる所だが、

復習ノートがどこにいったかが

見つからずに困っていた。

 

上田「旧理科室に忘れてきたのかな……

今日は集まる予定は無いし、

ちょっと見にいってみるか」

 

生徒達が雪崩れ込むように玄関に進む中、

途中流れから外れて旧校舎へと

利奈は進む先を変えた。

 

 

魔法がかかっている旧理科室は暖かで、

ストーブが止まっていても

不思議な事にその熱を保っている。

 

『不思議な事に』?

いやいや、これは魔法の仕業。

 

思った通り、昼休みに利奈が座っていた

位置に相当する机の上に

そのノートは開きっぱなしであった。

 

光の騒ぎで皆、意識が逸れて

ノートに向かなかったのだろう。

 

上田「うちに帰ったら復習しなきゃ、

今日の歴史全然わからなかったしなぁ……」

 

ため息をついてバックに復習用のノートをしまうなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの微か……どこからか、小さな悲鳴が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゃ、ぁぁぁ…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「え、何……っあ!?」

 

悲鳴の後、ぶわっと感じる黒い魔力。

その魔力はすぐに収まった。

 

一連の出来事は目の前を

一瞬で過ぎ去る閃光のように、

止まる事を知らず始まり、収束する。

 

上田「……今の、一瞬だったけど

魔女か魔男が孵化した時のだよね?」

 

そうとわかれば一心不乱に走り出す、

向かう先は上の方……2階立ての旧校舎、その2階へ。

近づく度に大きくなるのは笑い声。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

駆け込む先、その先は女子トイレ。

旧校舎のトイレと言えども、

全て洋式で女性に優しい。

 

学校のトイレ……そこは時に溜まり場となる。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「あれ? こんなとこに生徒?」

 

「未知の訪問なう〜〜!」

 

上田「今この近くで悲鳴が聞こえませんでした……え?」

 

2人の女子生徒が立つ後ろ、

そこにはぐったりとした

三つ編みの女子生徒がいた。

 

……手足を縛られ、予想だにしてなかった

2人以外の人物の登場、少女は弱々しい声を出した。

 

「助、け……て……」

 

涙目で縛られた両手を差し出し懇願、

その両手からこぼれたのは

卵型のソウルジェムだった。

穢れは4分の1程くらいかな。

 

上田「っ! アンヴォカ」

 

バックを床に投げ捨てて

武器である棍を召喚しようとしたが、

それを言い切る前に利奈は不意打ち、

手足を縛り上げられてしまった。

 

上田「うわっ!?」

 

支える物が一切無くなり、

利奈はそのまま倒れこんでしまった。

 

「おっと? 邪魔しないでね、

今ちょっとした『作業』してるとこだから」

 

「作業中なう〜〜! お邪魔は禁物!」

 

上田「作業……? 見た感じ、

それがまともじゃないのは確かだよね?」

 

利奈は強気でそう言い放ったが、

それを聞いた2人は笑い出した。

そして、片方は利奈を見て言うだろう。

 

 

「だから、なに?」

 

 

ゾッとする程の冷ややかな()()

……それは利奈がいつしか忘れていた『絶望』、

湧き上がる恐怖に声も出なくなる。

いわゆるフラッシュバックというやつだ。

 

「……ん、急に大人しくなった?」

 

「弱体化なう?」

 

「まぁ楽なのには変わりないからいいか、

どっちにしろこうしてれば2人とも言う事聞くし」

 

そう言った彼女の手に蘇芳色の魔力の花が咲き、

その花を握り潰したならそこからリボンが生み出され、

……弱る少女の首を巻いた。

 

「ひぐっ!?」

 

「なぅ……!? ちょ、それは

いくらなんでもやり過ぎなんじゃ」

 

「あんたもあの子知ってるでしょ?

あいつからも気をつけろって聞いた」

 

「…………」

 

「こうなったら絞りとろ、

この子の口止めはあいつの

呪いでもかけときゃいいでしょ」

 

上田(呪い……?)

 

「うぅ、外道なう……」

 

「こんな事してる時点で外道でしょうが、

まぁやめる理由にはならないけど?」

 

「……楽しさ優先、エンジョイなう!」

 

 

縛りあげた利奈を無視し、

2人は少女の目の前まで来て

少女を冷たい目で見下ろした。

 

「さ〜〜て? あんた今日は全然孵化してないよね?

あたしらを養う気あるの?」

 

「ご、ごめんなさ」

 

「謝れば済むって思ってるんだぁ?

おっかし! バカじゃないの?

……こうなったら()()、やっちゃう?」

 

「放火なう〜〜!」

 

「やっ、やめて!! お願い!!

私は、死んでもいいから……家族には手を出さないで!!」

 

「なにさ、良い顔出来るじゃん。 さぁほら、ほら……! ほら!!

 

 

早 く し ろ よ 病 弱 少 女!!

あんた、それしか価値無いでしょ?」

 

 

顎を掴みガンを効かせ、不気味な笑いで至近距離。

瞳でも焼くような目で少女の目を睨みつけた。

 

隣にいる《笑い上戸》な彼女はただただ、笑っていた。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★

 

 

 

上田「ゃ……やめて!! ひどすぎるよこんな事!!」

 

一瞬絶望に勝る、利奈の希望。

それは声となって2人を刺したが、

それは2人に届く事はなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……2()()に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、2人を何かがピシャリとはたく。

 

「っあ!? 痛った!?」

 

「激痛なう!?」

 

隙が出来た、状況が変わったその一瞬。

利奈の意識は絶望から脱し、すぐさま行動に出た!

 

 

上田「ジュイサンス!」

 

 

披露の魔法、演目は『脱出』。

赤色の魔法が利奈を拘束から解放したかと思うと、

利奈は2人を押しのけて少女の元へとすぐさま向かった。

 

上田「大丈夫!?」

 

出したシルクハットからグリーフシードを取り出したなら、

転がっていた半分にまで穢れたソウルジェムを浄化する。

 

「……っ! 怖かったよぉ……!!」

 

利奈から浄化し終わりキレイになった

黄緑のソウルジェムを受け取ったなら、

少女は安心したかのように泣き出した。

 

「みっ、未達成なうぅ……」

 

「ちょっとなんなのさ!?

もう少しで孵化するとこだったのに、

バカなんじゃないの!?」

 

?「バカなのはどっちかしら?」

 

流れにそって現れた第三者。

一同が声の方向を見るなら、

そこには1人の女子生徒がいた。

 

 

……下鳥、優梨だ。

 

 

「ゆっ、優梨!?」

 

彼女は蘇芳色のリボンを

慌てて解いたなら、ポケットの中に

ぐしゃぐしゃにして突っ込んだ。

 

「登場なう!? ど、どうして優梨がこんな所に?」

 

下鳥「あら、私が今日日直だったの、

あなた達は忘れているのかしら?」

 

「……あっ、見回りなう!?」

 

「校内パトロール!? 優梨の日直は明日でしょ!?」

 

下鳥「今日 但木君がお休みでしょ?

繰り上がったのよ、順番が。

まさかこんな事になるなんてね」

 

「っ……!」

 

「ゆっ、油断大敵なう」

 

下鳥「……それで」

 

その言葉の後、優梨は持っていた鞭で

床をピシャアンッ! っと叩いた。

この場にいる優梨以外の一同が驚くが、

利奈は病弱少女に大丈夫と声をかけた。

 

下鳥「これはどういう事かしら?

私に隠れて、私から離れて、

何かコソコソやっていると思ったら……

 

あなた達だったのね? グリーフシードを()()していたのは!」

 

上田(量産……え、まさか)

 

利奈は何か思いついたようだが、

今はこの病弱少女を守るので手一杯。

シルクハットを出す暇も無い。

 

「ちっ、違、誤解なう!」

 

下鳥「じゃあその子はどう説明するって言うのよ?

どう見てもボロボロじゃない!」

 

「学校で孵化してたから、助けてやっただけだよ!

だ、だってってほら、これが証拠!」

 

彼女はそう言って1つのグリーフシードを

強気で優梨に提示して来たか、優梨は別の所に目がいった。

 

下鳥「……あなた確か、左利きじゃなかったかしら?」

「え、あっ……!」

 

優梨の言う事が正しいとしたら、

彼女は墓穴を掘った事になる。

グリーフシードを持つ手は……右。

 

優梨が逆の方の手を鞭ではたいたなら、

条件反射と痛みで握りしめていた手は緩んで

隠していた物を床に落としてしまった。

その手からこぼれたのは……

 

 

2〜3個はあるグリーフシード、それらは全て同じ形。

 

 

下鳥「確かに、決定的な証拠ね」

 

「…………」

 

「勘違いなう、違うよ! えっと、これは……」

 

下鳥「白状なさい、もう……生半可な嘘は通用しないわよ!」

 

「な、うあぁ……」

 

完全にオロオロとする少女の傍、

もう片方はまだまだ余裕綽々だ。

 

「嘘? あたし達嘘ついてないよ? ねぇ、そうだよね?」

 

「……う、うん、正直者なう」

 

「長い付き合いだったあたし達を疑うの?

友達でしょ優梨、最高の関係!」

 

下鳥「……その最高の友達が、

目の前で悪さをしているのよ。

なら、その子の首の跡は何?」

 

上田「首の跡……? ごめん、ちょっと見せてね」

 

利奈の頼みに、病弱少女は素直に承諾した。

首元のレースをどかしたのなら、

そこには何かが巻きついたような跡が

くっきりと残っていた。

 

「……っはは、墓穴掘り過ぎだね」

 

「ダメだよ!! ばらしたらあの人が!!」

 

「いいよ、もうばればれだし」

 

流石に余裕が無くなってきたのか、

病弱少女の首を巻いた張本人の顔には

若干の狂気が見え始める。

 

《ご都合主義》……もう彼女の勝手な都合は通ってくれないらしい。

 

「でも、これを喋る訳にはいかないんだよなぁ……

あたし達、そういう立場には無いんだし?」

 

不意に、彼女はそろそろとその場から移動をし

閉まっていたトイレの扉をガンっと思いっきり蹴った。

 

 

……その時、黒い魔力が扉の奥から噴き出した。

 

 

「うっ……うわあぁあ!!」

 

上田「大丈夫、落ち着いて!」

 

利奈は病弱少女を肩に背負うと、優梨の近くに移動した。

……魔力の勢いが強く、逃げるのには間に合わないようだ。

 

下鳥「これは……孵化!? 今何をしたのよ!?」

 

「べっつにぃ〜〜?

ちょっとした細工を起動したってだけ!

さぁ、時間を稼いでよ! 知己(ともみ)!!」

 

「孵化なう……ね、ねぇ、なんか様子がおかしくない?」

「え? まさか! 普通に孵化しただ」

 

その言葉を言い切る前に

彼女が蹴った扉の鍵は壊れ、

尋常じゃない量の黒い魔力が噴き出した。

 

その黒い魔力の異常な量を見れば、

この孵化はただの孵化ではないのは明らか。

 

生まれる、ボス級の魔女が。

 

上田「っ……うわっ!?」

 

「きゃああぁぁ!!」

 

下鳥「変身なさい! 結界に取り込まれるわよ!!」

 

黒い黒い魔力の渦の中……見えたのは赤と黄緑、紫の光。

 

それさえも飲み込み、構築されるは雅な空間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所々鏡張りの柱がある床がツルツルの、

赤と青と白の金織桜文様な世界。

 

鏡に映るは、自分自身。

 

本当の君はどれかな? 本当の私はどれかな?

 

それがわかるのは自身だけ。

それに気づかぬまま、時は流れる。

個人を見ない、平等な、時が。

 

 

居場所の魔女、性質は孤独。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

ハチべぇ「利奈! あそこを見て!」

 

 

 

下鳥「ったた……悪いわね」

 

 

 

「全校生徒……ですね」

 

 

 

月村「・・・世の中、結果が全てよ」

 

 

 

〜終……(19)被る黒と病弱少女〜

〜次……(20)無意味な身代わり[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




自分で書いたとはいえ、すごい情報量ですねぇ今回・・・
『真っ黒人間』『疑心の魔女』気になるのはこのくらいでしょうか。
シリアスはもうおなかいっぱいです、コメディでも書こうかしらw

・・・あぁ、『★』を読んでしまった人は大丈夫でしょうか?
簡素に述べるなら『病弱少女を強制的に孵化させようとしていた』です。
いやはや、世の中にはこういった事があるから恐ろしい・・・


暗い話はこの辺で蹴り飛ばし・・・いや殴り飛ばしましょうか!
危ない危ない、蹴り飛ばすのは先人の方がいるんだったww


次回から魔女戦ですよ! 戦闘シーン、私のいっちばん書いてて楽しい回!!
もうある程度の進展や設定は決めてしまっているのですが、
そうだとしても楽しみですねぇ・・・長くならないように注意しなきゃ。


おっと、病弱少女について描いてみたんですよ。
別の絵も同時進行で描いていたのでかなり手抜きですが・・・
ごまかしで比較対象も描いてみたのでご参考までに。

【挿絵表示】



さ、て、と、ここまで色々とうだうだ喋りましたが、この辺で雑談にしましょう。
今回のテーマは『ストレス発散』についてにしましょうか。
えぇ、これが無かったらうえマギはこの時間に更新されていないです^q^

ストレス発散と言っても人それぞれ、その数は多種多様。
かかる費用に行う方法やそれによって生み出す結果。
かかわってくる要素は様々です、中には面白いモノもあるかも?w

え? 私ですか?(オイ聞いてないぞ 私はですねぇ・・・
まぁストレスが軽い時は基本執筆や絵を描くことなんですが、

重かった場合は・・・


放り込んで切り刻んで投げ込んで切って潰してとどめは 焼 き 討 ち ですね☆

【挿絵表示】

上 手 に 焼 け ま し た (^言^)

【挿絵表示】



一番ひどい時は1日中寝ていますね、夢の世界ってやつですわ。
明晰夢は確率なんですが、悪夢を見ることはないので助かってます。
この体質に感謝ですよ、夢を見やすい体質なんてそう簡単にありませんものw


・・・と、もう少し話したいですが、眠くなってきましたねぇ・・・
自覚無くともさすがにこの執筆スピードは疲れたんでしょうか?
失礼、短いですが今回はこの辺で勘弁してくださいonz


それでは、ここまで読んでくれてありがとでした!
次回もお楽しみに、です!!


ヾ(´¬`)ノ~●~*バクダンフリフリバイバーイ

         ドゴォォォォン!!
           ; '      ;
     ホギャー!?  ,,(' ⌒`;;)
        ,' (;; (´・:;⌒)
      ∧_,,∧(;. (´⌒` ,;) ) '
    Σ<,,`Д´>((´:, ,; ;'),`
     と;    )つ(´:;`;;)
      〉 ) 〉 〉
      〈_フ__フ


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(20)無意味な身代わり[前編]

遅 れ す ぎ ! ! 本当に遅れて申し訳ありませんでした!!

うへあぁ・・・なんとか3月最初の日に間に合いましたよ!
いやはや、例のゲームが配信開始したりコンテスト開催したりと
色々と忙しかったからねぇ・・・(主な理由はリアル事情ですが)

イベントやゲームも良いですが、こっちも頑張りましたよ!
最低でも1日1行は書いてました、ちまちま作業。
やれやれ・・・忙しい時期に魔女戦は書かない方が身のためですね。


それはさておき、ついでに言い訳も無へと返し、


前回は女子トイレで魔女が誕生してしまった所で終わりましたね。
どうやら3人は結界に巻き込まれる前に変身できたっぽいですが、
やはり黒い魔力にのみこまれてしまうというのは良くない。

ついでに言うと、今回の結界は原作にないタイプにしてみました。

前書きなのであまり詳しいこと書けないですが・・・w
それなりに楽しめるのでは? と、淡い期待を胸に抱き、
記念すべき20話を投稿する次第です、ハイ。


さて、この辺で物語の幕を再度上げましょうか。

主人公の意識は闇の中・・・そんな中、何か声が聞こえたような気がして・・・



「……ィナ……リ……」

 

上田「うぅ……ん……」

 

利奈か目を覚ましたなら、その目に最初に入ったのは同じ体制で寝る自分自身だった。

 

上田「っあぁ!?」

 

驚いてがばっと起き上がるが、そこにあるのは単なる鏡の柱。

等間隔でその鏡はあるようで、映す景色はまるで異世界のように怖い。

 

ふと、右肩に感触を感じたかと思うと、利奈が知ってる声がする。

 

茶色のうさぎもどき、ハチべぇだ。

 

ハチべぇ「利奈、大丈夫かい?」

 

上田「うん、大丈夫。 ここは……魔女の結界?」

 

ハチべぇ「そうだね、ここは魔女の結界だ。

しばらく気を失っていた所を見ると、どうやら結界に取り込まれたみたいだ」

 

上田「結界……結界!? 他のみんなは!?」

 

ハッとして立ち上がり、周りを見渡すなら・・・

そこには寝転がる紫と黄緑の魔法少女がいた。

 

下鳥「っ……ぐらぐらするわね……」

 

上田「ゆっ、優梨! 大丈夫?」

 

下鳥「目立った怪我は無いわ。でも、頭を打ったみたい……

強めの頭痛がするけど、しばらくしたら治るわよ」

 

「ず、頭痛ですか?」

 

上田「あっ、君も目を覚ましたんだね。 大丈夫?」

 

「私は大丈夫です、でも下鳥さんが……」

 

下鳥「あら、私の事知ってたの?」

 

「なっ、名前だけ知ってます。 一応……みんなの名前を覚えています」

 

下鳥「すごいわね、花組のみんな?」

 

「全校生徒……ですね」

 

「「!?」」

 

上田「私全然わからないのに、全員覚えてるってすごいな」

 

利奈と優梨が素直に驚く中、病弱少女は一旦間をおいて寂しそうに呟いた。

 

「……お友達、欲しかったんです」

 

病弱少女は女の子座りのままその場でうつむいてしまったが、

優梨は痛む頭痛に耐えてしゃがみ少女と同じ位置の視線にする。

 

下鳥「あなた、お名前は?」

 

「名前? 私の……えっと、はっ……橋谷(はしたに)俐樹(りず)です」

 

下鳥「俐樹、早速だけど私とお友達になりましょ」

 

橋谷「ふぇっ!? いきなり呼び捨てですか!?」

 

下鳥「呼び捨てはダメだったかしら?」

 

橋谷「いっ、いえ……呼び捨てされた事無くて」

 

下鳥「ならいいわね、よろしくね俐樹。私の事も『優梨』と呼び捨てにしなさい」

 

上田「私もなる! 私は上田 利奈、優梨が呼び捨てなら私も呼び捨てかな、『利奈』でいいよ」

 

橋谷「よっ、よろしくお願いします」

 

病弱少女……俐樹は、目を点にして驚いていたが、その表情もやがて笑みに変わる。

 

急展開に急接近。 戸惑う事もあったが、なんだかんだ言って念願の友人を手に入れたのだ。

 

今の彼女の中の選択肢に『喜ぶ』以外は存在しない。

 

 

そんな中、優梨はその場にどさっと倒れてしまう。

 

上田「えっ……あ、大丈夫優梨!?」

 

下鳥「流石に無理したわねぇ……

えぇ、頭痛がするだけ、それが激しくなっただけ。 少し……寝ていれば治るわよ」

 

一見、言葉からは余裕があるように思えるが、

その痛みの激しさは辛そうな優梨の表情を見れば明らかだった。

 

橋谷「ず、頭痛ですか……? ちょっと待っててください」

 

ふと、俐樹は魔法で可愛げな植木鉢を出すと、

同じような原理で現れた緑のジョウロで魔力の水をあげた。

 

植木鉢が黄緑の光を一瞬放ったかと思うと、白い菊の花が植木鉢いっぱいに咲いた。

俐樹が魔法をかけたなら、それらは収束して一輪の白いチューリップになる。

 

一連の動作はとても優雅で、弱々しい病弱な少女の面影を忘れてしまうほどキレイだった。

 

上田「わぁ……! 俐樹って、花の魔法を使っているの?」

 

橋谷「いっ、いいえ違います。 正確には『植物』の魔法、でしょうか。

 

さぁ優梨さ……えっと、優梨。 この花の蜜を飲んで下さい、楽になります」

 

俐樹は植木鉢から白いチューリップを摘むと、

優梨を支えて起き上がらせてその白の花を差し出した。

 

下鳥「ったた……悪いわね」

 

優梨は頭を抑えて痛みに耐えて、俐樹の手伝いを受けながらなんとか花の蜜を飲み干した。

 

ふぅっと1つ息をつき、いつもの風格が戻ってくる。

 

上田「……頭痛はどう?」

 

下鳥「俐樹のおかげで治ったわ・・・全く、魔法って恐ろしい物よ。

あんなに頭が痛かったのにすぐに収まっちゃうもの」

 

橋谷「フィーバーフュー、夏白菊です。

パルテノライト(頭痛に効く効果)があるので、魔法で底上げした分含めかなり楽になったと思います」

下鳥「楽どころか完治よ、あなたやるわね」

 

あまり褒められた事は無いらしく、俐樹はとても嬉しそうだ。

 

利奈はその様子を微笑ましく思う。

 

 

事態が落ち着きを取り戻したなら、俐樹は植木鉢とジョウロを消して収納。

 

下鳥「さて、この魔女の結界だけど……見た事無いわね、こんなに形」

 

ハチべぇ「これまでにないケースだね、

他の魔女や魔男の結界に比べたらこの結界は少々特殊だ」

 

ハチべぇの言う通り、この結界は普通では無いらしい。

言葉にするなら……密閉された箱型の空間。

 

見渡しても先へと続きそうな道は無く、魔女への扉も見当たらない。

 

これはどういう事だろうか?

 

 

上田「……どこかに扉が隠されている? 例えば……この柱の中とか」

 

 

おぉ、利奈の勘が冴える冴える。

 

確かにこの予想は一理あるな、どこかに隠されている可能性がある。

 

橋谷「でも、すごい数ありますよ。

この中から扉が入ってるのを引き当てるのは無理があるんじゃ……」

下鳥「そうでもないわよ」

 

橋谷「えっ!? どうして?」

 

下鳥「見なさい、この鏡の柱を」

 

優梨が指をさす先にある柱、そこには指をさす優梨の姿が映る。

何故か羽付きの豪華な髪飾りを付けていない優梨の姿だったが。

 

利奈もその方を見てみたが、映る利奈の姿……

これも同様にシルクハットを被っていなかった。

 

橋谷「あれカチューシャ……付けてる。 え? あれ? 違う姿が映ってる!?」

 

下鳥「時にはズボンに変わってたり、時には髪型が違ったり……

全部本物とは感じの姿になってしまっているわ」

 

上田「……あ、そっか! 同じ姿が映ってる鏡の柱が扉の入ってる柱って事だね」

 

ハチべぇ「100%合っているとは言えないけど、本物が存在する可能性はとても高いね」

 

橋谷「これから、その柱を探すの?」

 

下鳥「そういう事になるわね。 でも、あまり大胆な行動は出来ないわ。

 

使い魔がまだ出てない以上、行動するには絶好のチャンスだけど、いつ出てくるかもわからない……

 

一応増援を求める念話は送ったわ。それまで、気をつけて行動するわよ」

 

上田「りょーかい!」

 

橋谷「足引っ張らないように頑張ります」

 

ハチべぇ「早く魔女を見つけてしまおうか」

 

 

周りに警戒しながら結界内を歩く先……

 

たくさんの鏡の柱が映すのは、全く別の3人と1匹の姿。1つとして同じ姿は見当たらない。

 

ただ四角い空間に鏡の柱が立っているだけなのに、

乱反射して映す多種多様な光景は明らかに異世界だと実感させる。

その上、映している姿が全部バラバラなんだがらたちが悪い。

 

たまにひげがもっさり生えていたりする面白いのがあるのは本気でやめて欲しい、

静かなこの状況で笑いをこらえるのが大変だ、何がいるかわからないのに笑いはいらない。

 

下鳥「本物、無いわねぇ……それにしてもすごい数」

 

橋谷「こ、こんなにたくさんあるんじゃ、簡単に見つかりそうには無いですね……」

 

ハチべぇ「ただえさえ人数は少ないし、時間はかなりかかるだろう」

 

上田「でも見た感じ無限じゃない、逆にこんなにあるんだったら1つくらいは本物あるよ」

下鳥「あなたのポジティブ思考嫌いじゃないわ」

 

橋谷「はい、休憩を取りながらゆっくり探しましょう」

 

床を歩くならコツコツ鳴る、要因は優梨のヒールだろう。

 

利奈は黒のスタイリッシュなブーツだし、俐樹は茶色のフェミニンなブーツだ。

 

ハチべぇに至っては利奈の肩の上。

 

 

そういえば黄緑の魔法少女、俐樹の姿について説明が無かったな……

進展があるまでここで説明しておこうか。

 

 

利奈の黒とは真逆の白をベースとしたアンクル丈で黄緑のドレスだ。

幅の広い肩紐がついているタイプの品で、なんとも女の子らしい仕上がりになっている。

 

ぱっつんに切られていた前髪は寄せられ、隠していたおでこが丸見えになる。

黄緑の髪は長めの三つ編みで、頭の上には小さな銀のティアラ。

 

手袋はせずに右手には花のビーズなブレスレットを付けている。

左手にはしっかりとした腕輪、緑のそれはまるで生い茂る葉。

その腕輪の上で光るのは黄緑の宝石……これが俐樹のソウルジェムのようだ。

 

足は先程も述べた濃いめの茶色のブーツ、

フェミニンなこのブーツにはアクセで黄緑の花が咲いている。

 

黄緑の魔法少女、俐樹の姿はそんな感じだ。

 

例えるなら、どこかの国のアリスがそのまま国のお姫様になったような姿かな。

 

 

……おっと? 3人が何か見つけたようだ。

 

ちょうど利奈達がいた辺の反対側辺りについたなら、そこに2人の魔法少女の姿を見つける。

 

見えるのは蘇芳色と柿色の魔力の光。

何かと戦っているようで、長い長いリボンとベルトが宙を舞う。

 

俐樹は明らかわかる程の恐怖を抱いたが、

優梨は「私がいれば下手な事はしないわ」と彼女の精神の安全を保証した。

 

駆けつける間、2人の声はキンキンと響く。

 

 

「ちょ!? 全然つかまんないじゃん!!」

 

「真似っこなう〜〜! 捕まらないなう〜!」

 

「あんたベルトなんでしょ!? 頑丈なんだしなんとかしてよ!!」

 

「全力なう! 頑張ってるよ! でも追っても追っても捕まらない!!」

 

「なんなのよ……なんなのよもう! ()()()()ってどういう事!?」

 

「意味不明! 理解不能! こいつらチートなうぅ!!」

 

「こっち来ないでよキモい!! ばっ、バカバカバカ!!」

 

「「いやあああぁぁぁ!!!」」

 

 

下鳥「っ……! 急ぐわよ!」

 

橋谷「はっ、はいぃ!」

 

優梨は走るスピードを早める為に履いていたハイヒールのヒールを折り、

少しでも早さの向上に務めた。 俐樹は優梨に必死でついていく。

 

利奈は持ち前の早さで走る優梨の真横まで来ると、ある事を提案しだした。

 

上田「私が先に行って様子を見てくる!」

 

橋谷「さ、先に?」

 

下鳥「……なるほどねぇ? わかったわ、行ってきなさい!」

 

利奈は優梨の指示にうなづくと、行く先にしっかりと目線を向け、

手に赤色の魔力を込めて魔法を放つ!

 

 

上田「アヴィオン!」

 

 

作られたのは赤々とした棍の箒。

 

利奈が手放し軽く飛ぶなら、それは利奈を乗せて宙へと旅立った。

 

橋谷「わっ、早……早いよ!」

 

下鳥「あの子は力は無いけど早さはあるの。 あの位、利奈にとっては余裕の範囲ね」

 

 

利奈が急いで向かった先、そこには異形しかいなかった。

先程まで断末魔を上げていた魔法少女の姿が見当たらない。

 

異形……魔法少女の代わりに存在する、それは使い魔と呼ぶべき魔女に仕えるモノ。

 

姿形は魔法少女を象るものの、その異常さは肌の色を見れば明らか。

無機質なモノクロは感情のないピエロの仮面のように微笑んだ。

 

 

居場所の使い魔、役割は虚像。

 

【挿絵表示】

 

 

 

空を飛びながら様子を伺う利奈だったが、周りの景色は赤と青と白の金織桜文様……

空間の赤に混じり、見つかりずらいという都合の良さを生んだ。

 

真下に見えるとある柱の影。位置的には……利奈の下辺り、

使い魔とはちょっと近いかなと思うくらいのの程よい距離。

 

下鳥「さすが利奈ね、上手いこと紛れてるじゃない。

いざとなったら逃げることもできそうだし、やっぱり戦歴が違うとその手際も変わるものね」

 

 

 

ぜぇぜぇと息切れする俐樹、優梨は腕を捕ませて背中をさすった。

目を閉じて明後日の方向を眺めている、どうやら念話に集中しているようだ。

 

使い魔達はしてやったりと言った様子ではしゃぎまくり、

木材と材木をこするような音でキュキュキュっと笑いながら1人1人……いや1匹1匹?

 

それぞれの鏡の柱の周りでくるくると喜ぶように舞い踊ると、鏡の柱の中へと入って行った。

 

 

ちょっとの時間が立ち、遠くの方から何かの気配・・・と言っても、普通に花組の魔法使いだが。

その人数は少なめ、ほとんどが嫌々やってる係の生徒か好きでやってる部活の生徒。

 

上田「あっ、来た! 誰が来たんだろ」

 

人数確認と人物把握、2つの目的を持って空中の滑空を再開しようとした利奈だったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滑空中にちらりと向けた視線の先、ズボン姿の利奈を映し出していた鏡の柱。

 

その中の彼女が……にんまりと、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

利奈に驚く暇も与えず、それは攻撃を棍で仕掛けてきた。

 

利奈の対応は早く、速攻で防いで弾いた。

 

その後も彼女の猛攻は続く、キュキュキュっと愉快に笑いながらその棍を振るいに振るった。

 

いつのまにやら肌の色はモノクロに変わってしまい、

それは本物との違いの差を見せつけるかのよう。

 

 

・・・次の虚像する者(ターゲット)は、利奈らしい。

 

 

上田「っ・・・! 何これ、すごく強い! どういうこと? 見切られまくってるじゃん!」

 

ハチべぇ「どうやら今回の使い魔は相手を『真似る』事ができる能力があるみたいだね」

 

上田「うそ、キリが無いって事!?」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ、それはあり得ない。

 

使い魔にしてここまで優れた能力を持っているんだ、

その代償としてなにかしらの明白な弱点が存在するはずだよ」

 

上田「使い魔にも『弱点』があるの?」

 

ハチべぇ「今回の魔女は結界の構造からしてもかなり特殊な法則で築かれていると言える、

使い魔にも、その特殊な法則が適応すると思うね」

 

上田「う、今はちょっと深いことを考える余裕はないんだよなぁ・・・

ごめんハチべぇ、今はこの私じゃない私との戦いに集中させてね!」

 

 

一方、優梨と俐樹はというと・・・あらら、こちらにも使い魔。

双方が黄緑のバックアップを受けながら紫が鞭を片手に舞う。

 

橋谷「だっ、大丈夫ですか!? 今回復の蜜を作るから」

下鳥「その必要は無いわ、ちょっと苦戦しているだけよ。

 

・・・面倒ね、これならあの子達も苦戦するのも無理ないわ。

こんなのまともに戦っても勝てる可能性が低い」

 

橋谷「そっ、そんな・・・!」

 

下鳥「でもあきらめる理由にはならない、私たち(魔法使い)は最後まで・・・戦い抜くだけよ」

 

優梨が鞭を振りかぶり強い打撃を仕掛けるなら、

優梨を微妙に模した使い魔はそれをかわしカウンター。

さらにそれをかわして優梨は再度攻撃を仕掛ける・・・さっきからこんな状態が続いているのだ。

 

この使い魔の役割は虚像、移す姿は対象と全く同じ。

やっかいなのがその性質さえも真似してしまうことだ。

 

まぁ、今の俐樹と黄緑のような失敗例もあるが。

双方戦うことなく、後ろの方で植木鉢とにらめっこ。

 

橋谷「でっ、できました! これを周囲に撒けばセラピー効果でこっち側だけ戦いがより有利に」

 

そう言って俐樹は優梨の元へと近づいた。 当然、向こうの黄緑も紫に近寄ってくる。

 

 

・・・問題は、その先だった。

 

 

黄緑が不気味な程に元から笑っていた仮面のような顔を

にんまりと歪めたのなら、その手に大切そうに持っていた

 

可愛げな植木鉢を・・・俐樹へとおもいっきり投げつけた!

 

下鳥「!?っ、俐樹!!」

 

橋谷「・・・え?」

 

俐樹は自分の魔法を起こすきっかけともなる

その大切な植木鉢を投げるなんてことは 絶 対 に しない。

この使い魔のあまりに変化球な不意打ちに対応できなかった。

 

使い魔の投げた植木鉢は俐樹の頭めがけ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月村「第五章! 嵐の巻「突風」! 対象は物体!」

 

吹気「紙吹雪クラシックbar(バージョン)!」

 

空野「荒れ狂う風よ! 少女を襲う陶器を吹き飛ばせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙に翡翠に天色・・・3つのとっさの風の魔法は一体となり、

俐樹の目の前までせまっていた植木鉢を吹き飛ばした!

 

植木鉢が吹っ飛んだ先、鏡の柱にはでかでかとしたヒビが入る。

ぶつかった植木鉢は言うまでもなく陶器の残骸と化す。

 

橋谷「ふ、ふぇうぇ・・・」

 

空野「大丈夫?」

 

大けがをする自分を脳裏に見てしまったのか、

俐樹はその場にへなへなとへたりこんでしまった。

八雲は優しく彼女を再び立ち上がらせてあげる。

 

ふむ、若干ひどい言い方だがさすがは《女々しさ》。

自分がそれっぽい影響もあって女の子の扱いをわかっている。

・・・深くは言わないでおこう、いろいろとややこしい事になりそうだ。

 

 

今重要なのは状況、この使い魔・・・ただの虚像というわけではないらしい。

 

 

一瞬優梨は安心した様子を見せたが、すぐに自らの偽物に向き合った。

 

下鳥「遅かったじゃない! この2匹は私が受け持つから、

人より頭の回るあなたたちは突破口を探しなさい!」

 

吹気「突破口・・・あぁ弱点ね、探してみるよ」

 

風香はあっさり優梨の要求をのむと、目星を周囲を見渡し始める。

だが、芹香は素直に『yes』とは言わなかった。

魔法で俐樹の代わりに黄緑と戦いながら、戦う優梨に声をかける。

 

まぁ戦うと言ってもそれは戦闘に不向きな俐樹の模倣、

芹香の多種多様な魔法の前には手も足も出ない。

この弱さ加減・・・きっと俐樹だったら互角だったろう。

 

月村「待ちなさい! 1人だなんて無茶よ、何を言ってるの!?」

 

下鳥「・・・あら、探さないの?」

 

月村「無茶よ! あなたも念話でわかってるでしょう?

他の魔法使い達は迷子、この状況からしてもっと使い魔は増える可能性は高い・・・っ!?」

 

不意に飛んでくるモノクロの鞭状のなにか。

芹香はかわすが、意識がそれて魔法が切れてしまった。

 

攻撃が来た方を見るなら、使い魔はその本性を現していた。

そう、この使い魔は()()()。 かなりの伸縮性があるようだ。

おそらくこの体質で身長や体型を変えたりしていたのだろう、

こんな狂った世界観だろうが、結局はここも現実・・・仕組みは何とも合理的だ。

 

下鳥「本性を現しても私と類似? 腹立つ正体しているじゃない」

 

月村「のんきな事言ってる場合? 根拠も無いのによく気楽でいられるわね!」

 

人を模倣していたはずの黄緑は、もはや人とは思えない姿だった。

木材をこすっていたような笑い声も木材を削るような声に悪化し、

伸びた腕をぶんぶんと辺りに振り回し散らして芹香ににじり寄る。

 

下鳥「あら、なんの考えもなく動いてるとでも思っているのかしら?」

 

月村「そうよ、このレベルの使い魔相手に1人で挑むなんて、勝算が無いわ」

 

こんな状況下でも、いつもの冷ためな発言が炸裂する。

芹香の言うことは確かな正論だ、彼女が求めるのはきっと確実だろう。

・・・だからこそ、優梨はこれに口を出す。

 

下鳥「・・・利奈よりも結果に囚われているね、かわいそうな子」

月村「なんですって?」

 

芹香の怒りのゲージは一瞬メーター振り切ったが、

それは優梨の背後に迫る紫の不意打ちによって暴発を免れた。

 

月村「ぁ、危ない! 第三章」

 

呪文を唱えようとした芹香だったが、言い切る前にそれはよろめいた。

脳が理解したのは鋭い音・・・どうやらよろめきの要因は優梨にあるようで、

優梨はよろめいた隙を突いて思いっきり蹴り飛ばした!

 

柔らかな身体に容赦ない蹴りが刺さるように深々をめり込み、

いっぱいまで引っ張られて解放されたゴムのような勢いですっ飛んで行く。

 

月村「どう・・・やったの!? 今の、あなたの利き手の反対だったわよね?」

 

芹香は驚愕を隠せない、それは本来ならばあり得ない対応。

 

下鳥「少し、利奈の真似事をしてみようと思っただけよ。

今私たちに危害を加えようと企んでいる使い魔のようにね」

 

そう言って見せたのは()()()()()鞭を優梨に見せてきた。

紫に追撃をするため、両手に持った鞭を床にたたきつけて気合いを入れる。

 

月村「二本流ですって? でも情報ではそんなの・・・」

 

下鳥「何があったかは知らないけど、データに囚われて肝心な事を

思いつかなかったらその恵まれた頭の良さも水の泡になるわよ?」

 

月村「・・・まるで私のことを詳しく知ってるみたいに話すのね?

そこまで、私とあなたは深い面識は無かったっはずだけど」

 

下鳥「もちろん、深い面識も無いし深い理由もないわ。

でも、あなたとは楽しく会話ができそうね。 また今度お茶でもしましょ」

 

それを言い切ると、優梨は使い魔の方へ走り出していった。

利き手の鞭は反応の鈍い黄緑を捉えてともに紫の方に投げつける。

結果? 当然使い魔同士激突だ、痛い痛い。

 

 

月村「・・・・・・」

 

判断を、誤った・・・彼女を、甘く見ていた。

芹香の頭の中にはその考えがぐるぐると渦巻く。

 

不真面目側だったとしても、優梨はすべてわかっていたのだ。

俐樹の植木鉢からわかる『一度模したらそこから発展できない』ということも、

自分が優梨の事を周辺の生半可な不真面目達と同価値に見ていたことも。

 

月村「・・・世の中、結果が全てよ」

 

なにか思い出してしまいそうな様子の芹香だったが、

辞書の確認でその記憶を再度無意識の中に沈めた。

ふと上空と見上げた先、そこからわかるのは物事の進展。

 

 

戦況はだんだんと、それは確実に、魔法使い達の優勢へと反転してゆく。

 

 

月村「急ごう、ここで無駄なことを考えてても仕方ない」

 

 

その口調は、どこか自身への言い聞かせ。

 

 

月村「第五章! 嵐の巻『飛行』! 対象は自身!」

 

 

利奈がいるはずの上空へと飛んでいく芹香、今までより増した早さはまるで逃走。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時を戻して一方利奈、こちらでは使()()()()()()異変が起きていた。

空を滑空しながら同系統の棍の乱舞で終わりの見えない・・・

継続が永遠にも思えた相殺を繰り返していたのだが、

 

なんのきっかけもなく、利奈を微妙に模した使い魔の全体にヒビが入った。

 

そのヒビの激しい入り方・・・まるで強化ガラスに

石でも投げ込んだが如く、ビシィッと蜘蛛の巣状に。

使い魔は木材を無理矢理折ったような断末魔をあげた。

 

その痛がる隙を利奈が逃すはずもない。

 

上田「やあああっ!!」

 

使い魔の攻撃をかわしたなら、横殴りに棍を振りかぶる。

 

伸縮性のある使い魔は最初はその性質を生かしてなんとか耐えたが、

その性質は全てにおいて良い影響を及ぼすというわけでは無いらしく、

逆に風船のようにボンっと破裂してしまった。

この使い魔は性質に殺されたと言っても過言では無い。

 

上田「倒し・・・た、あれ?」

 

ハチべぇ「利奈! あそこを見て!」

 

ハチべぇがその小さな手を差し出す先・・・

その先では1本の鏡の柱が粉々に割れて崩れ落ちて行くのが見えた。

 

上田「鏡の柱が崩れていく・・・」

 

利奈は少し考え込むような仕草を見せたが、すぐにハッとなった。

 

ハチべぇ「なにかわかったようだね」

 

上田「うん、多分これが使い魔の『弱点』だと思う」

 

ハチべぇ「なら、それを試してみるといい。

君の思考は、どうやら間に合ったようみたいだからね」

 

ハチべぇが周囲を見渡すなら、周囲には別の魔法使いを模した使い魔が迫っていた。

本来、倒されることを想定されていなかったのを倒されたのだ。

そりゃあ・・・当然魔女に気に入られてしまうわけで。

 

ハチべぇ「利奈、使い魔が来るよ!」

 

上田「りょーかい! もうまねっこされる心配もなさそうだし、

この辺でそろそろ本気を出していくよ!!

 

 

アンヴォカシオン!!」

 

 

自身の模倣は終わりを告げた・・・となれば、残されたのは他人の模倣。

 

もう鏡の前で踊り狂うなんてふざけたまねはしなくていいのだ。

 

その両手にいつものように棍を構えると、

鏡の柱に捕まって乗り移りながら迫る使い魔を待ち構える。

このまま1人で使い魔を倒してしまおうと思ったらしいが、

 

 

月村「第2章! 滝の巻『凍結』! 対象は使い魔!」

 

 

その内の数体が橙色の冷風に包まれたかと思うと、

瞬時に凍り付いてその腕は折れてそのまま落下してしまった。

利奈が隣を見るなら、そこにはよく見知れた魔法少女がいた。

 

彼女は飛行魔法にも慣れたらしく、本を抱えなくとも宙に浮く。

 

上田「芹香!? ・・・あ、そっか。 芹香って役員だったもんね。

優梨が増援って言っていたけど、芹香もその中にいたんだね」

 

月村「私の事情はいいのよ、今は目の前の使い魔に集中しなさい」

 

上田「りょーかい!」

 

そうして2人は出揃った、暖かで似た色の魔法少女が。

まぁこの2人なら大丈夫だろう、この2人程魔法の性質が合うペアはない。

ここに緑が混ざればそれはもう最強形態といえるのだが・・・今は仕方ない。

 

 

気合い入れていこう! 本番はこれからだ!

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

一方俐樹、優梨と同じような優しい人を見つけて

なんだか精神が安定してきたような様子だ。

風香と八雲の2人に連れられて、結界内を頑張って探索。

 

空野「大丈夫? そろそろ辛くなる頃じゃないかい?」

 

橋谷「大丈・・・夫、だいぶのに慣れてきたから」

 

吹気「大丈夫じゃなさそうに見えるんだけど、止まれないけど歩こう」

 

橋谷「う・・・うん。 ごめんなさい、私のせいで・・・」

 

空野「謝る必要は無いよ、体が弱いんでしょう?」

 

俐樹はそれに答えることができなかった。

申し訳なさで頭に胸に、いっぱいいっぱいで言葉が詰まる。

 

相変わらず、鏡の柱が写す景色はおかしな自分。

時には服だったり身体だったり、性別が反転しているモノもあった。

その時の八雲子の違和感の無さといったら笑うしかない。

 

ふと、利奈を捕獲する組からはぐれたドジっ子が

早速3人の内の誰かを模して襲いかかってきた。

・・・よりにもよって八雲子の姿だったようだが。

 

 

空野「あっ、あああ荒れ狂う風よ吹き飛ばせええええええええ!!!」

 

 

吹気「紙吹雪クラシ・・・ってちょっと、吹き飛んじゃったじゃない」

 

赤面で八雲子を吹っ飛ばす八雲、風香の出した紙吹雪も無意味なほどに

遠くの方へと吹き飛んでしまった。 俐樹は・・・ただ褒めた。

 

橋谷「・・・に、似合ってましたよ」

 

精一杯の褒め言葉、八雲にとっては複雑な気分。

 

そんな魔女戦では珍しい柔らかなハプニングの中、

ふと俐樹が目を向けた先の柱・・・違和感が激しい。

 

 

何故って、その鏡の柱に写る姿は()()()()()()()だったんだから当然。

 

 

橋谷「あ・・・あぁあぁ!?」

 

なにかは移るだろうという固定概念、驚きのあまり変な声が出る。

 

空野「どうしたんだ・・・うわっ!? なんだこれ!?」

 

吹気「・・・よくわからない、どうしてこれだけ普通の鏡なんだろ?」

 

下鳥「なるほどね、そこに魔女への続く道があると見て間違いないわね」

 

不意にする声、そこにはボロボロになった優梨がいた。

腕や服についたガラス片を魔法で取り除く辺り、

どうやら使い魔無敵のトリックに自分で気がついたようだ。

 

空野「下鳥さん!? あれ、あの下鳥さんそっくりなのは・・・」

 

下鳥「俐樹のニセモノごと柱にたたきつけてやったわ。

私のニセモノは倒せたけど、俐樹のニセモノは倒せなかったから

適当にその辺に建っていた鏡の柱にくくりつけておいたわよ」

 

吹気(・・・この人、やっぱりが違いすぎる・・・)

 

ボロボロになろうがけろっとしている優梨に2人は驚き気味だが、

俐樹は特にその風格に威圧されることもなく質問を出す。

 

橋谷「この中に、魔女に続く扉があるの優梨さ・・・優梨」

 

少しうつむき気味な質問の仕方だが、地味は肝が据わっている。

何故こんな弱々しい子がこんな強い精神を持っているのか・・・

まぁ、それは今考えるべき事柄ではない。 優梨は感心をして答えた。

 

下鳥「そうね、魔力の量も特にこの柱から来てるのが一番多いし、

まずこの中に魔女に続く道があると思って間違いないわ。

 

みんな集まってから開けたいところだけど・・・

あら、ちょうどみんな集まってきたようね」

 

 

まずは暖色ペア、芹香は休憩もかねて利奈の後ろに乗せてもらっている。

 

月村「利奈、あなた結局全部倒しきったわね・・・

いつもあのくらいの量を倒しているの?」

 

上田「あれは多い方かな、いつもはあれよりちょっと少ない位」

月村「あなたのその体力はどこからきているのかしらね」

 

上田「う~~ん、ソロ狩?」

月村「今のは皮肉よ、そのくらいわかるようになりなさい」

 

 

その他大勢、何人か使い魔の猛攻に遭っていたようで

遅れた原因として成立するし合点がいく。

・・・中には本当に道に迷っていたバカもいたようだが。

 

 

まぁこれで全員そろった訳だ、これで次のステージへ行ける。

 

 

下鳥「問題はどうやって中の扉をおおっぴらにするかね、

どうやって開けようかしら「私がやるわ」・・・あら?」

 

手を挙げたのは芹香だった、顔のある高さの軽い挙手。

早速辞書を開き、そこから2枚のページを取り出す。

 

月村「今のあなたのように物理的な手段を取って、

ガラスの破片をかぶるようなまねはしたくないもの。

ここは、私が中を明らかにするわ」

 

上田「芹香・・・?」

 

利奈は一瞬の違和感を感じた。 まぁ違和感にとどまってしまったようだが。

明白な芹香のライバル視・・・優梨は優雅にほほえみ動じない。

 

下鳥「あなたならそれができるのね、やってみなさい」

 

今の命令形が気にくわないようだが、

それは魔法を行わない理由にはならない。

 

 

月村「第4章地の巻『崩落』! 第5章嵐の巻『移動』! 混合、『分解』!!」

 

 

通常の約2倍の魔力が詰まって放たれた魔法は、

対象とした鏡の柱を1枚1枚の小さな鏡に変換し、

隠されていたその中を明らかにしていく・・・

 

全てが変換されたとき、目の前に現れたのは扉だった。

材質は桜の木・・・せっかくのきれいな木目もごてごてのペンキで台無しだ。

黒く焼かれて刻まれるのは見たことない文字・・・

こんなでたらめ、やっぱり読むことはできない。

 

上田「やっぱり、なんて書いてるのかまったく読めな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*私を、忘れないで。*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に感じ取ったのは、謎の言葉。 それは念話とは言えない異質なモノ。

何故か、それは扉に長々と刻まれた文字の事であるとわかる・・・ 何 故 ?

 

上田「・・・え、誰? 『私を忘れないで』って誰が言ったの?」

 

月村「誰も何も言っていないわよ、空耳じゃないの?」

 

橋谷「それは・・・桜の花言葉ですか? フランスのなんてよく知ってるね」

 

上田「フランスの花言葉なんだ」

 

よく考えれば、この空間は赤と青と白の金織桜文様。

・・・それが、魔女の真意だろうか? 狂気の中に眠る()()の真意?

 

下鳥「なんだか不思議な話だけど、今は魔女の目の前よ。

気になるのもわかるけど、ここは校内・・・その話は後回しにしましょう」

 

空野「・・・あ、そういえばここ学校だ! 早く救わないと」

吹気「魔法使いじゃない生徒や先生が入るのも時間の問題って事か」

 

上田「そうだ・・・ね、早く魔女を救いに行かなきゃ」

 

 

なんか思いっきり気になる疑問が生まれてしまった気がするが・・・

まぁ、今は目の前にある魔女に集中すべきだ。

 

全員それぞれの魔法の特性にあった順番に並ぶと、

先頭を名乗り出た利奈は木製のドアノブを回してゆっくりと開いた。

扉に触れればなにかがわかるとも思ったが、そんなこともなかった。

 

 

扉の向こうはそこら中に家具が並び、木の香りが鼻をくすぐる。

まるでログハウスの中で昼寝でもしているようだ。

 

いよいよ魔女と対峙するというのに気になることがある。

・・・『明らかに悪役な2人の魔法使いの行方』だ、彼女らは無事だろうか?

どっちにしろ、今回も簡単にはいかなそうな雰囲気・・・

 

 

気を引き締めて行け、魔法使い。 魔女を救え、魔法使い。

 

 

黒い魔力に囚われた魔法少女を救え! 花組の魔法使い!

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

下鳥「十分よ、良いタイミングだったわね」

 

 

 

上田「・・・っあ!? しまった!」

 

 

 

月村「構わ・・・ない、で! 戦いに集中・・・なさい!!」

 

 

 

「不意打ちねぇ・・・ずいぶんとふざけた真似してくれるじゃねぇか」

 

 

 

〜終……(21)無意味な身代わり[後編]〜

〜次……(22)猫だましと傷だらけの魂〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




『魔法使いは運命に沿う』・・・・・・っと、今回はここまでかな。
次はいよいよ魔女戦か、例のアレ仕上げなきゃなぁw

・・・およ? ここまで来たということはうえマギ20話を
最後まで読んでくれたということでしょうか、ありがとです。

まずいつもの後書きに入る前に、イラストと1枚ペタっと。


【挿絵表示】


ふむ、太い油性ペンの線もどっしりしていて味わいがある、
体力が無い時はこのスタイルで描けばかなり楽ですね。

鉛筆のみで描くのとは色彩が違いますからね!(細部描けない^q^

あと使い魔にとっつかまった魔法少女も描いてみましたよ。
こっちは本格的に描いたので、使い魔との比較にどうぞ。


【挿絵表示】


・・・えぇ、わざとダサめな格好になるように描きましたとも。
決して企画も立てず当てずっぽうに描いた訳ではゴッフォ(吐血

皆さんはきちんと構図を決めてから描きましょうね、特に着色^q^;


ここでちらっと『原作にないタイプ』の結界について話しますか。

原作やうえマギの今までの結界はいわゆる『先に進めばゴール』でした。
まぁ使い魔倒しながら先に進めば扉がハローするわけですね。
なんと単純で明確かつ、わかりやすい構造。

一方私が創った今回の結界・・・『条件でゴール』とでも言いますかね?
この法則で出来た結界は、ただ先に進むだけでは扉に辿り着けない。
少々というか、かなりやっかいな物になっていますね。

原作や色々なまどマギ二次創作作品を見てきましたが、
このタイプの魔女の結界は見た感じなかったですね。

や っ た ぜ 。 私が第一人者ですよ!(誰も見ませんが^q^


・・・くだらないドヤ発言を無視して、最後は雑談で終わりましょうか。

最近『笑いながら涙を流す』『ニコニコしながら裏で怒る』・・・
といった感じで、なんか感情と表情が一致しないですw
久々にこんなの自分じゃないって思いましたよ、オッカナイ。

皆さんは『感情と表情が一致しない』なんて事あります?

まぁ、働いたりとかしたら作り笑いの機会とか増えそうですが。

なんとも怖い物で・・・特に意味もわからず泣くのが一番恐ろしい。
だって、泣いてる理由がわからないんですよ?
止めようにも起こってる理由がわからないから、止めようがない。
この時こそ作り笑いが虚しくなる瞬間は無いでしょう・・・なんと悲しい。

みなさんは自分の感情に正直でいてくださいね、
『自分に嘘をつく』というのは・・・かなり辛い所がある。


・・・・・・w なんか、しんみりした空気になってゴメンネ。

居場所の魔女戦自体はもう書き終わっているので、
次回はもう少し早く投稿できるように努力します。

自分ストック制なのでね、このやり方だと話が組みやすくて便利。
いざというときに早め投稿出来る!(もう1回分しかないですがw


それでは皆様、また次回。 次回もお楽しみに! です!!

サョォォ━。゚(゚´Д`●゚)゚。ナラァァ━ッ!!!!


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(21)無意味な身代わり[後編]

ちょうど1週間後・・・ に し た か っ た w

今回はボス級の魔女につきちょっと長め、長文注意報。

プロットを書いてみたのは良いけど、なんでか2話分だった^q^;


こんばんは! 最新話の執筆に息詰まっていたハピナですよ!

情報をじわじわ出すというのは難しいもので、
それは出し過ぎても隠し過ぎても面白くない。

自分としては読者様の『予想外による驚き』を発生させたい!
ある意味アハ体験? 『そうだったのか』発生が重要な目標かな。


さて、雑談はこの辺りにして前回のおさらいといきましょか。


校内で孵化してしまった魔女・・・彼女の名は『居場所の魔女』。
現れたのはもちろん魔女の結界、でも複雑な構造。
魔法使い達は苦戦を用いられてしまいますが、なんとか突破!

模倣を超える実態、魔法使い達は常に成長している。

さて、いよいよ魔女のいる結界の最深部へと進みますが、
果たしてどんな世界観・・・魔女はどんな姿をしているのでしょうか?

前編は終わり、次は後編。 上がる幕の先は、第2部。



あなたの記憶に私はいない。 私の居場所もどこにもない。

 

 

座れる席はない、望む席がない。

 

 

助けての声も沈んで、浮かび上がることなく誰も救わない。

 

 

助けて!! 助かって!! 助けて、助かって・・・・・・

 

 

 

 

あぁ・・・また、闇が、迫り来る。

 

 

 

 

お願い、お願い、お願い・・・

 

 

 

 

救いが無いのなら、せめて私の周りに来ないで。

 

 

 

 

 

 

あぁ・・・誰が正しいのもわからなくなる・・・・・・

 

 

 

 

 

どうか、忘れないで。 私はあなたの、味方だから。

 

 

 

 

 

 

あぁ・・・・・・どうか、どう・・・か・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

私、を、忘れ・・・・・・ない、で・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女の意識は闇に溶けた、もう思い出せるのは自分の存在の薄さくらいか。

 

集団の堂々巡りから外れて自身さえ思い出せない、そこに残ったのは孤独だけだ。

 

自分かどれだかわからなくなる、追い求めても思い出せる訳もない。

 

ならせめて、この孤独から抜け出すことが不可能となったのなら・・・・・・

 

 

その孤独を抱かえ、その呪いとともに眠ろう・・・感じなくなるほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橋谷「・・・あれ? 怖く・・・ない?」

 

下鳥「今すぐ危害があるわけじゃなさそうね、安心なさい俐樹」

 

橋谷「う、うん。 ありがと・・・」

 

優梨の後ろで小さくなっていた俐樹だったが、ホッとして優梨の横に出る。

それほどにまでこの魔女の結界(深部)は狂気的な物は無かったのだ。

まぁ、かなり散らかっているようで死角が多く油断は出来ないが。

 

 

周囲を包むのは天然の木材の香りが、一同の鼻腔をくすぐってくる、

太陽と思えるほどの大きな電球は暖かに辺りを照らした。

まるでそれは晴天の森の中・・・だが、ここは室内なのには変わりない。

 

そこは巨人の家の中とも言えるほどの窓のない大きな室内だった、一般の体育館の数倍はでかい。

 

雑多に置かれているのは家具。 イスにテーブルやソファー・・・

かなりの数と種類があるが、どれも同じ木材のみが使われているようだ。

 

その最深部、そこに今回の魔女は鎮座していた。 それは、現実であり得るようであり得ない姿。

 

 

木目が薄い味のある桜の木材、それが魔女を構成するものだった。

 

主に円柱に削られた木材で彼女は組まれ、座る部分には桜色のクッションが使われている。

身体を支える足は4つ、無難。 その先はまるで桜の花びら、ひん曲がって支えている。

 

背もたれは緑と白の木材で葱を3つ組み合わせたような模様で組まれており、

その中央では使われるはずもない桜の形ににた口がある。

 

その背もたれの根本から生えているのは翼・・・だろうか?

ムチのようにしなる丈夫な枝に等間隔に細長い宝石が付いている。

こんなもので飛べるのかと疑問に思うところだが、これで飛べてしまうのが魔族の恐ろしいところ。

 

 

ここまでの説明だと一見その姿は普通の椅子だが・・・

もし、彼女が商品化されたとしてもその売り上げは0だろう。

 

 

もっとも特徴的な部位、それは座る部分についた鋭く尖る 剣 山 だ。

まるでそこに座る者を絶対的に拒みでもするようにクッションに鎮座している。

 

全てを拒み、それ以上の思考をやめた少女の末路・・・それがきっと彼女なのだろう。

 

 

居場所の魔女、性質は孤独。

 

【挿絵表示】

 

 

 

そして・・・その両端には眠る少女、モノクロの椅子に縛り付けられている。

 

下鳥「っ・・・!!」

 

橋谷「ヒッ!?」

 

さすがの優梨も、これには苦い顔をする。

俐樹も似たような反応した・・・どれだけ彼女は優しいのだろうか?

 

「あんな魔女の間近に置かれているなんて」・・・とね、その思考は正しい。

助けに行こうとも、至近距離だったらとばっちりが2人にかかる可能性がある。

 

「ちょ・・・ちょっと! 誰か捕まってるよ!?」

 

「やっべ、魔法使いでも捕まるほどに強いのか!?」

 

月村「落ち着きなさい、まだ被害も出ていないのに怖じ気づくのは早いわよ」

 

「でも・・・」

 

月村「周りをちゃんと把握しなさい、死角が多いし距離を詰めるのには最適だわ」

 

上田「そうだね、使い魔も見あたらないしまずは様子見かな」

 

月村「そうと決まれば行くわよ、適当に固まって魔女との距離を詰めるの」

 

今回の芹香はなんだかやたら積極的なような気がするが、何故だろうか?

・・・あぁ、優梨をちらちら見ている。 やっぱりライバル視はあるらしい。

 

下鳥「今はそうすべきなようね、行きましょう」

 

そんな意識など優梨は動じず、気にするのは2人の魔法少女の安否だけだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

さて、それぞれ魔女の近くで死角に来た。 早速念話で作戦を組んでゆく・・・

 

俐樹は相変わらず怯えていて、なにかを握りしめて震えている。

 

上田((俐樹ちゃん、大丈夫だよ。 魔女はこっちに気がついていないから))

 

利奈がそう念話を届けて肩に手を置くなら、俐樹は小さく頷いた。

 

 

まずはこれからどうするか考えよう、優先すべきは人命救助だ。

 

 

魔法使い達は・・・そうだな、魔女の近くの家具の山の影に潜んでいる。

 

この魔女の結界には天然素材の家具の山が乱雑にあるわけだが、

その内のいくつかが魔女の近くにあるのだ。 隠れ場所にはちょうど良い。

利奈は魔女から見て右の方に潜んでいる。 優梨と俐樹は利奈と一緒。

 

芹香は風香と八雲を連れて反対側にいる、優梨の役割を担うらしい。

向こうの方が不真面目は多そうだが・・・大丈夫だろうか?

まぁ今更変えることも出来ないのでこのままで頑張るしかない。

 

ただ、魔女に目という部位が見た感じ存在していない・・・視覚がない?

いや・・・それはあり得ないが聴覚が高い可能性はある。

とにかく警戒は行ってはならないということは変わらない、注意せねば。

 

 

利奈側としては柿色の魔法少女を救いたいところ、

向こうは朱雀色の魔法少女を助ける作戦を立てているらしい。

 

あぁ、柿色の魔法少女というのは「なう!」とよく言っていた方だ。

その姿を例えるならバレリーナ・・・これを習い事にでもしていたのだろうか?

 

モノクロの椅子に縛り付けられ、悪夢を見るような顔で眠っている。

 

下鳥「『ボス級』と呼ばれる程の強さ・・・ねぇ。 いかにも動かなそうだけど、油断は出来ないわ。

 

何か 囮 になりそうな物があればいいけど、あの様子じゃ生半可な物で釣れそうにはないわね」

 

「え? 物じゃダメって事?」

 

下鳥「見なさい、あっちもこっちも物だらけよ。

それにあの魔法使い拘束の仕方・・・下手に拘束を解いたら怪我をするわね」

 

ふむ・・・再度見るなら確かに、背もたれの一部となる棒や椅子の腕を添える部位まで

まるで蛇のように腕に腹に胸と絡みつき、過剰に彼女らを束縛した。

 

「・・・よくわからんけど、生き物じゃなきゃダメって事か」

 

「魔法で生き物を作り出せたりしないの?」

 

下鳥「無茶言いなさい! そんな練金術みたいな事出来るわけないでしょ!」

 

上田「出来たとしてもすごい量の魔力を消費しそうだね。

 

 

優梨、私が囮になろうか? 早さに自身はあるし大丈夫だと「ダメよ」・・・え?」

 

 

・・・その否定は即答だった、そんなの言語道断だ。 とでも言う勢い。

 

 

下鳥「誰かを犠牲にして()()に進めようだなんて作戦は絶対に実行しない。

そんな事をしたら()()の名が腐るわよ・・・あなたは『道具』じゃないんだから」

 

上田「!」

 

利奈は気がついてなかった。 自らの潜在意識・・・その思考が、

 

 

『道具』としての行動に出ようとしていたことに。

 

 

その後に続いたのは利奈にだけに伝わった言葉だった、それは念話。

 

下鳥((その考え方はもうやめなさい。 

まぁ、また言いそうになったら私が止めてあげるわ))

 

・・・頭に直接伝わった凛々しくも優しいその言葉に利奈は泣きそうになったが、

今は泣いてる場合ではない。 落ちそうになった涙を飲み込んで天を仰ぐ。

 

橋谷「あ、あの・・・」

 

静かになったその状況、俐樹はそのあまりにも小さな声を出した。

 

小さくもやっとの俐樹の主張、優梨はそれを聞き逃さない。

 

下鳥「どうしたの俐樹、何か思いついたの?」

 

橋谷「!、えっと・・・ね」

 

俐樹は聞こえると思っていなかったのか最初は驚いた。

少しずつ、ぽつぽつと、1つ1つ話し出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

(☆ぶれいくたいむ☆)

 

俐樹が自分の考えた作戦をゆっくりと述べたり、

 

それを優梨がまとめてみんなに伝えたり、

 

さらにそこから朱雀の魔法少女救出側に情報伝えたり、

 

それを元に利奈が戦術を組んだり、

 

まぁ色々となんやかんや・・・

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ハチべぇ「やはり人類にとって『集団』というのは個人より良いみたいだね。

この短時間で結論を見いだす事が出来ている、僕の見解は正しかったようだ」

 

「・・・なんか、ハチべぇがまた難しい事言ってるぞ」

 

やっぱりハチべぇの理論的な言葉は一部不真面目のには理解出来ないようで。

 

上田「みんなで上手く意見がまとまったねって言いたいんだと思うよ」

 

「お、ぉぅ。 な ん と か わかったわ・・・多分」

 

「今のでもわからない人いるんだ」

「うるせぇ!」

 

下鳥「今はケンカしてる場合じゃないわよ、それは個人差だから仕方ないわ」

 

「あ、そっか・・・ごめん」

 

「いやいや俺の理解力が足りねぇんだ」

 

雨降って速攻で地固まる、すぐ仲直り出来るのはイイコトだ。

 

上田「俐樹ちゃん、お願いできるかな?」

 

橋谷「はっ・・・はい! がっ、頑張ります・・・!!」

 

 

さて、視点をおもいっきり変えていっそ魔女からその作戦を見届けよう。

 

彼女はいる、そこにいる。 だがそれは彼女自身にはわからない。

 

存在意義を自分で見いだせない、そう考える思想も闇に溶けた。

 

 

ねぇ来てよ、こっちに来てよ。 私はここにいるよ?

 

 

そんな願いは 絶 対 に 達成されないだろう。

 

彼女自身が居場所となろうが、そこに座ることは出来ない。

 

その末路は混乱か? 求めてるのか拒んでるのかもはや理解不能。

 

 

だから彼女は、居場所を他所に求めた。 居場所を・・・()()のだ。

 

 

悪夢を見せて、居場所を無くす。 その記憶は彼女の物だ。

 

だが決してそれでは満足しない、だって()()()()()居場所ではないのだから。

 

無駄な努力を繰り返す、それは決して達成されることは無いのに。

 

 

・・・さて、そんな結末の見えない堂々巡りはここで終わらそうか。

 

 

不意に飛び込むその生気、魔女の意識はその方へ向いた。

 

違う、それは周囲にある無機質な部下とは全く違う。

 

『命』・・・確かなそれは魔女の意識を確実に引く。

 

 

ぽとっと地面に落ちたとき、ふとそれは()()の光を放った。

 

 

橋谷「インテンス・ローズっ!!」

 

 

それは主の声を合図にしたかのように自身を暴発させた。

 

黄緑の小さな球体・・・魔法を凝縮して作られた『種』。

 

弾けた魔力を糧に、吹き出したかのように咲き乱れる!

 

 

魔女は振り向く、動かすことのないと思っていた体を動かして。

 

そこには巨大な花が咲いていた。 茨を突き立て、誇るかのように咲くバラの花。

 

確実に驚きを抱いただろう、それは居場所を奪った者達から意識が離れる程。

 

彼女の行動はあまりにも早かった。 刹那、赤色の魔法がバレリーナを包む。

 

それは自身に使った脱出の魔法、今度は自分意外に対して使用した。

 

残ったのは肘掛けが異様に伸びた椅子だけ・・・背もたれに浮かび上がるのは泣き顔。

 

 

魔女は怒る。 そりゃそうさ、彼女は居場所を奪われた。

 

奇声を上げ、居場所を奪いし異物にその鞭のような翼を振り上げる。

 

 

上田「誰か!!」

 

お姫様だっこでバレリーナを抱えていたが、力が無い利奈は片腕で支えられるわけもなく・・・・・・お?

 

橋谷「はっ、はいぃっ!!」

 

その声に反応した俐樹とっさに祈りを捧げた。

 

茨が利奈の方へ伸びたかと思うと、バレリーナをその花の中にかくまった。

 

 

上田「アンヴォカシオン!!」

 

 

すぐさま利奈は魔女の猛攻に対処する、その赤々とした棍で攻撃を弾いた!

 

物体と物体がぶつかり合う重々しい音・・・なかなか強い打撃だぞこれは。

 

ならばと利奈は受け流し、回転させて再度殴り飛ばす。

 

魔女はそのままバランスを崩し、同時に利奈は半回転して棍の箒に着地。

 

その時に起きた、 と ど め 。 

 

吹き抜いた魔力のがぐらつかせ、魔女を転倒にまで追い詰めた。

 

ダァンっ! っと木材が地面にたたきつけられる音が大きく鳴る。

 

その傍らでは数人の魔法使いがモノクロの椅子に攻撃を仕掛け、

仕切る芹香の指示のままに体操選手もどき(朱雀色の魔法使い)を解放した。

 

芹香は風の魔法で家具の山の影まで彼女を誘ってゆく。

 

 

作戦、成功。 確認すべきは2人の安否。

 

 

かくまう花はふわりと落ち、家具の山の影へと優しく着地した。

 

魔力の光と共にふわりと咲いたなら、キラキラと消えていく。

 

そこに駆けつけたのは優梨、寝転ぶバレリーナの状態を確かめた。

 

下鳥「ほら、しっかりなさい!」

 

優梨は軽くペしペしとバレリーナの頬を叩く、目を覚ましたのは割りとすぐだった。

 

要因はやはり束縛していたモノクロの椅子にあったのだろうか?

まぁどう考えてもそうだろう、魔女が要因の可能性も否めないが。

 

下鳥「目を覚ましたようね、体の方は「あの子は!?」・・・あの子?」

 

「だっ、ダメ!! あの子はプリマにならなきゃいけないの!!」

 

いつも笑っている彼女だが、今は何故か顔を真っ青に青ざめてパニック状態。

 

何かあったのだろうか? あの子とは誰の事なんだろう?

 

彼女の友人だった優梨はその事情を知っていた、この要因は悪夢だと確信できる。

 

下鳥「落ち着きなさい! ここはスタジオじゃないのよ!」

 

「・・・・・・え?」

 

ハッとなり周囲を見渡したなら、その周りには大量の家具の山があった。

 

遠くからは大きな音がたくさん聞こえる・・・皆、魔女と戦っているのだ。

 

下鳥「早く準備なさい、今の魔女はボス級みたいよ」

 

「・・・う、うん。 準備なう!」

 

まだ現状を上手く把握できていないようだが、とにかく魔法で武器を作り始める。

 

みかんのような魔力の固まりが出来たなら、彼女はそれを引き延ばす。

慣れてるのか手際がいいもので、ベルトにしたのなら腰に装備。

 

下鳥「言っておくけど、私はまだあなたたちを許した訳じゃないわ」

 

「・・・把握なう」

 

下鳥「でも、今はそれも無しよ。 早くあの魔女を救いましょう」

 

そうして優梨も家具の山、影から飛び出し魔法使い達に加勢した。

 

戦う前の軟体操、身体の下準備。 彼女の習い事はバレエ。

 

 

一方の魔女と戦う魔法使い一同、先導は赤色の魔法少女。

入り乱れる攻防の中を飛び抜けて戦闘に貢献した。

 

モノクロの椅子の姿から人の姿に変え、手足を伸ばして襲ってくる使い魔。

 

奇声を張り上げてその鞭のような翼を振り上げ、振り下ろし、

一度手にした物を奪われた・・・その怒りのままに襲い来る魔女。

 

 

同じ物は無い様々な魔法。

 

 

個々を見失った色の無い使い魔。

 

 

自身を見失い、闇に溶けた魔女。

 

 

双方一歩も譲らず魔力は弾け、攻撃に追撃で空間には焦げが付く。

 

そりゃそうだ、だってこの辺は大部分が木材だもの。

 

上田「っええええええええええいっ!!」

 

不意に集団から飛び出し、利奈は高く飛んだ!

 

振り下ろしたその攻撃はモノクロの使い魔を強く叩き落とす。

 

家具の山にその手その足を絡ませ空中をターザンのように移動していたのを

叩き落とすっていうんだから、キレイに直下で落ちるしかない。

 

固いのか柔らかいのかわからないその感触・・・なんだか不気味。

例えるなら、太いしなやかな枝をおもいっきり叩いたという所か。

 

月村「追撃!!」

 

芹香の指示、とっさの判断。 彼女は辞書をばっと開く。

 

辞書のページを手にして使い魔に投げつけるなら、その後を追うように多種の魔法が周りにまとった。

 

芹香の放った魔法の効果は『誘導』その効果は補助だ。

ふむ・・・あらかじめ紙飛行機にして折り、辞書に挟んでおいたのだろう。

 

だいぶ補助に板が付いてきたようだ、自身の魔法を理解しているのだろう。

 

それはさておき魔法の行く先、落ち行く使い魔に文字通り追撃!

 

その加速した勢いのまま地面に激突、ゴキっと変な音と共に地面が割れた。

 

そりゃ割れるよ、この空間の床はフローリングだ。

 

言うまでもなく使い魔は絶命、白と黒がばらばらに裂けて砕けた。

残ったのは白と黒の木材の残骸・・・どうやらこの使い魔も木で出来てたようで。

 

 

となると、燃やせば簡単に倒せそうなものだが・・・これはさすがに不真面目達にも理解出来るようだ。

 

もし、この場に火の魔法なんて放ったら燃え広がって大惨事だ。

 

そんな事もあって、加熱系は使わずに皆戦っているのだ。

 

まぁ・・・そもそも火の魔法を使う魔法使いがこの場にいないのだが。

 

 

その頃バレリーナがやっと駆けつける、準備に時間がかかったらしい。

 

家具の山からおそるおそる出てきたが・・・ふと、腕を引っ張られ転びそうになる。

 

そこにいたのは体操選手もどき(朱雀色の魔法少女)、その行動に驚いたような顔をしている。

 

「ちょっ! どこ行こうとしてんの!?」

 

「出陣な「え~~なんでよ?」う・・・ほぇ?」

 

「魔力減るし面倒じゃん? 倒すとこ影から見てようよ、その方が面白いじゃん?」

 

「え、ズルなう? うん楽しそう、でもボス級の魔女なのに大丈夫かなぁ・・・」

 

楽しい事や笑える事に目がない少女、彼女はその子が言うことに賛同だった。

 

 

だが・・・不安もある。

 

 

もし今戦ってる魔法使い達が敗北したとしたら、次の標的は隠れていて生き残った自分たちだ。

 

それを覆すのには彼女なりの理由があったようで、まるで遊びの話のように話出した。

 

「そんなのリュミエールの魔法使いがいるから大丈夫だって。

ほらそこ! 今だって使い魔倒しちゃったんだからさ、もう1体もほっといてもやられるでしょ」

 

「リュミエール、規格外なう? なら大丈夫・・・かな?」

 

さすが《ご都合主義》、自分達で勝手に納得するような理由で発想をごまかしている。

 

遠くから魔法を放っても良い物だが・・・それも嫌なようだ。 そうさせているのは狂気的な理由。

 

「それにさ、欲しいじゃん? ボス級のグリーフシード」

 

「あの魔女の? ・・・泥棒なう?」

 

「なにが泥棒さ、元々()()()魔女なのよ? 泥棒しようとしてるのは向こうだし」

 

そう言って笑うだろう、今までにない狂気的な笑みで。

 

 

「私達はね、失敗したの。 それを知ったら、()()()は悲しむわぁ・・・」

 

 

うっとりした目で頬を両手で覆う、恋い焦がれたその瞳には一切光が無い。

 

 

「そう・・・だね、汚名返上なう」

 

悪い事でも思い出したかのようにバレリーナの顔は歪む、これではステージに立てない。

 

「隙を見て返してもらお、黒い魔力が死に際吹き出すのを利用すれば余裕余裕」

 

・・・都合の良いことに彼女らの魔法はベルトとリボン、現時点では嫌な予感しかしない。

 

 

朱雀が微笑む頃、ちょうど2体目の使い魔も白と黒の残骸と化す所だった。

 

残されたのは魔女だけ、相も変わらずその場に鎮座している。

 

いや、鎮座というかもう横向きに倒れてしまっているのだが。

 

ムチ状の羽根は魔法使い達を拒んでいるが、それも時間の問題か。

 

「やった! 使い魔全部倒した!」

 

「なんだ、大変だったのは最初だけか」

 

月村「油断してはならないわ、最後まで気を引き締めるの」

 

下鳥「でも魔力の消費には気をつけるべきね」

 

月村「・・・まだ私が話していたんですけど」

 

下鳥「あら、そうだったの? ごめんなさい」

 

月村「・・・・・・」

 

軽く棍を床に付き、利奈は詰まっていた息をいったん抜いた。

とてとてと、早めの歩きで俐樹が利奈の元に寄ってくる。

 

魔法使いの体ながらも元々病弱だった俐樹は息が切れていたが、

利奈に褒められて嬉しそうな顔で疲れを押しのけ、精一杯喜んだ。

 

そんな中・・・芹香のいつもと違う様子が気になるらしく、

戦いながらも彼女は芹香の事をチラチラ見ていた。

 

何故、優梨をライバル視しているんだ? 何故、いつもより《冷淡》なんだ?

 

今の利奈はその理由はわからないだろう、まさか・・・芹香が優梨に

本心をつかれて精神を揺さぶられたなんて思わないだろう。

 

もちろん優梨に悪気なんて無いが。 それは芹香の受け取り方。

 

橋谷「ほっ、細いのがぴゅんぴゅん・・・」

 

下鳥「おつかれさま俐樹、よく頑張ったわね。 あなたの咲かす花々キレイだったわよ」

 

橋谷「・・・・・・や、やっ・・・たぁ!」

 

俐樹は自身の武器であろうジョウロを大切そうに抱きしめる。

 

月村「そういえば捉えられた魔法使いがいないわね。

逃げたのかしら? 助けられたのに逃げるなんて考えられないわ」

 

上田「でも、使い魔に捕まってるよりは良いと思うよ」

 

利奈は本当にそう思っているらしく、自然にニコっとしてみせる。

 

月村「・・・その発想を持てるのがすごいわね」

 

その利奈の寛大さに芹香はただ関心するだけだ。

 

 

一通り話終わった頃・・・魔女はその翼をとぐろに巻き、

横向きに倒れたその身体を起こし始める頃だった。

 

上田「あっ、魔女がまた動き出したね。 それじゃあ私先に」

 

そう言って持っていた棍を構え直して魔女の方を向・・・

 

 

橋谷「っあ・・・!? 危ない!!」

 

 

俐樹は思わずじょうろを手放し、声しか出ずに顔を覆った。

 

上田「えっ、何? ・・・うわっ!?」

 

拍子、利奈は突然横に飛んで倒れ込んでしまった。

 

そこにいるのは・・・この環境下で忘れられていた、()()()()居場所の使い魔。

 

魔女の翼と同じような形状、色の鞭状の足が生えた家具と言ったところだろうか。

 

虫のようにうねうねと足を動かしながら魔法使い達に這い寄ってくる。

 

その動きの不気味なこと不気味なこと・・・家具の裏については触れないでおこう。

 

本来そこにいることが役割であった使い魔、魔女の危機に動き出したのだ。

 

 

居場所の使い魔、役割は存在感。

 

 

優梨の鞭に、利奈に不意打ちをした使い魔ソファーベースの使い魔は投げ飛ばされたが・・・

 

利奈が起き上がって周囲を確認する先・・・芹 香 が 倒 れ て い た。

 

色々と仕込みをしていたのか辞書の間に色々挟んでいたらしく、

芹香の周りにはほんのページで折られた様々な折り紙作品散らばっていた。

 

上田「芹香!!」

 

駆け寄って抱き起こそうとした利奈だったが、直前でその手を止めた。

 

・・・()()()()()、苦痛の表情で腹の辺りを痛がっていた。

 

どうやら芹香は利奈をかばったらしく、真っ正面から

 

月村「構わ・・・ない、で! 戦いに集中・・・なさい!!」

 

自力で何とかしようと、開いて投げ出された辞書に手を置いて

橙色の魔力を込めようとしたが・・・痛みで意識が逸れてなかな溜まらない。

 

そうこうしている内に様々な家具が虫のような身体と化して襲いかかる。

 

すごい数だ・・・優梨は俐樹の護衛、利奈は芹香の護衛にまわる。

 

他の魔法使い達もその対応に追われている、魔女は空へと舞い眼下を見下ろす。

 

 

動くと痛い、意識も(うつ)ろ。 激痛でずぶずぶと沈んでゆく自我。

 

重たいまぶたの中、その瞳を動かすなら・・・そこには赤が写る。

 

利奈が棍を振り回し、乱舞して戦っている。 自身に攻撃は一切当たらない。

 

月村「・・・・・・」

 

ふと、頭に浮かんで渦巻くのはあの言葉。

 

 

『利奈よりも結果に囚われているね、かわいそうな子』

 

 

月村(・・・結果)

 

それは、彼女の性格である《冷淡》の裏に隠された思想。

 

何も出来ない自分に対する怒りも相まって、負の感情がぐるぐると渦巻く。

 

大きく破けたエプロンについたネームタグを見るなら、

大きなオレンジのピンは穢れが目立つようになっていた。

 

月村(落ち着きなさい、こんなところで絶望してどうするの?)

 

頭の中でそう自分に声をかけた、自問自答で自画自賛。

 

求めるべきは結果、自分の不備のせいで悪い結果を出すわけにはいかない。

 

 

何体もの同時に相手にしているにも関わらず、難なく乱舞をこなす利奈・・・

ふとその後ろ、ゴトっと大きなベッドが一瞬動く。

 

黒い魔力の気配・・・不意打ちだろうか? 芹香は鈍った感覚の腕を辞書へと伸ばす。

 

案の定、そのベッドは真っ黒な足をぶわっと生やしたと思えば突撃してきた!

 

上田「・・・っあ!? しまった!」

 

辞書からちぎったページをぐしゃっと丸めてその使い魔に投げようとした・・・が、

痛みが予想以上に激しく、投げるまでの動作が上手くいかない。

腹の中は相当砕けてしまっているのだろうか? 魔法使いの体じゃなきゃどうなってたか。

 

月村(動 き な さ い ! ! )

 

歯を食いしばって痛みを振り切ろうとしたが、現実その意志と反してしまった。

 

居場所の使い魔は利奈の不意をついてその図体を利奈にぶつけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不意打ちねぇ・・・ずいぶんとふざけた真似してくれるじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ない! そこに乱入した魔法使いの手、いや足によって床に叩きつけられた!

 

身体に対する魔力の付与、強化されたその蹴り下ろしは木材の体を真っ二つにへし折る!

 

あらら、完膚無きまでに壊しちゃったよ。 守るならずらすだけでも良かったのに。

 

・・・まぁ、利奈に危ない目に遭わせようとした奴なら彼は容赦しないだろう。

 

 

清水「よぉ利奈、戦闘の方は順調か?」

 

 

そう言って利奈の前に来るだろう、それが当然のように何食わぬ顔で。

 

上田「か、海里! 来てくれたんだね!」

 

月村((遅かったじゃない・・・死ぬかと思ったわよ))

 

海里が2人に話しかける頃、周囲は青々とした魔力を帯びた道具が使い魔の相手をしていた。

 

もちろん道具だけじゃ使い魔の相手なんて出来るわけ無い。

それを助けとして1人の魔法少女が戦いを繰り広げる!

 

篠田「ていやああぁぁっ!!」

 

魔力の毛を輝かせ、デッキブラシを振り回して使い魔の相手をした。

緑の魔力を振りまきながら、使い魔を魔法使いの多い方へと追っ払う。

 

 

清水「・・・ってお前大丈夫か!?」

 

月村((命に別状はないわ、動けなくてごめんなさいね))

 

だいぶ芹香の念話は聞き取りやすいものになってきていた、

痛みが引いたのか? ・・・いや、感覚が麻痺しているのだろう。

 

増援が来て安心してしまったのか力が抜けてしまい、

握りしめていたはずの紙くずは転がり落ちてしまっていた。

 

海里が連れてきたのか、回復魔法が使える魔法少女がやってくる。

 

その顔を知っていた利奈は軽くあいさつをしてお礼を言うと、

ほわほわとした雰囲気で照れた。 うむ、かわいい。

 

治療魔法が開始した。 回復特化なその魔力は傷を、怪我をも癒す。

 

話す行為さえ邪魔するほどの激痛が治っていく。

芹香の意識は遠のいた、1つの心のつっかえを抱いたまま・・・。

 

 

海里が粉砕したベットの使い魔を利奈と絵莉で修理、魔法でただのベッドに作り替えた。

裏の方が色々とひどかったようだが・・・絶命していたし隠しただけで終わり。

 

・・・ふむ、なんとかベットして使えそうだ。 海里はそれを治療専門の魔法少女に託す。

 

清水「月村さんを頼んだぞ御手洗! ・・・さて、どう倒してくかだが」

 

篠田「みんなぁ~~! 一通り追っ払ってきたよ!」

 

清水「お疲れ絵莉、倒してもらって悪かったな」

 

篠田「あ、ごめん倒してはいない、追っ払っただけ」

清水「お、おう。 それでも十分だ」

 

上田「ありがとう2人とも、まさか不意を打たれてたなんてなぁ・・・」

 

清水「間一髪ってとこか、間に合って良かったぜ」

 

 

芹香を治療に専念させ、3人は家具の山の陰に隠れて作戦会議。

 

海里が連れてきた魔法使い達は新しく現れた使い魔対峙に加勢し、

優梨の念話を頼りに絵莉を連れてここまで来たんだとか。

 

蹴太の姿が見あたらないが・・・どうやら塾に行ってて来れなかったらしい。

勉強も大事だが、助けになれないのが心残りと言っていたのだとか。

 

篠田「このメンバーなら、海里補助であたしと利奈で前衛かな」

 

上田「あれ? 絵莉ちゃんって直接攻撃な魔法使えたっけ?」

 

篠田「勉強関連じゃなきゃ武器っぽいのが出来るって最近わかったんだよ!」

 

清水「あのデッキブラシもそうだな、動きがなんか不慣れだったが」

 

篠田「う、バレてた? そうなの、まだ倒すまでは至らなくて」

 

上田「武器っぽいか、私前に出るのは得意だからサポートするよ」

 

篠田「うぅ・・・ごめん利奈! 精一杯頑張るよ!」

 

 

話がまとまった頃、それは海里は絵莉の補助をしていた道具を引き寄せ終わった頃でもある。

 

清水「さらっと決めちまったが、まぁこの状況で早めの決定は正解だろ。

それじゃ、とっとと行こうぜ! 後ろは俺に任せとけ!」

 

絵莉は指示棒を腰のベルトにセットすると、デッキブラシをがっちり構えた。

利奈の棍とは重さが違うのか、その構えはどこか槍を持つ動作。

 

篠田「学校でボス級なんてあぶな過ぎし、早く救出しちゃわなきゃね!」

 

利奈はいつものように軽くその場で乱舞して、慣れた手つきで棍を構える。

 

上田「ハチべぇ、まだ激しく動く事になりそうだけど・・・

ごめん、もうちょっと我慢してちょうだいね」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、どうして君は僕を気遣うんだい?

優先すべきは魔女の救出、君は目の前の敵にだけ集中すると良い」

 

上田「もうハチべぇったら・・・じゃあ遠慮無く戦わせてもらうよ!」

 

それぞれが戦闘に向けて心構えを作るその先、使い魔が生まれうようよ這い寄る。

 

 

さぁ、もう一息だ! 襲い来る使い魔の闇、照らす程の 光 が迫る!

 

 

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

魔女の周辺、そこでは魔法の火花を散らしながら戦闘が繰り広げられていた。

 

魔法使い側は劣勢を強いられていたが、増援により優勢に逆転する!

 

様々な魔法が飛び交う中、あちらこちらに花を咲かす魔法少女が1人。

 

彼女自身・・・実は、元々病弱な体だったせいで

魔法少女に変身したとしてもその体力はあまり高くない。

 

ハチべぇ曰く、人道的に作られたこのシステムではこれが精一杯だったのだとか。

 

もし『先駆者』のシステムで契約していたのなら、

間違いなく、今の弱い体とサヨナラすることになっていただろう・・・と

自身の見解を述べた。 あながち、間違いではないだろう。

 

茨にツルの鞭、鞭を制すのは鞭? 現状ただ1人の指導官ポジジョンの優梨は

両手に握りしめた2本の鞭でしばき倒しながら周りを魔女へと導いた。

 

下鳥「使い魔はこれでかなり減ったわね・・・そろそろ頃合いかしら」

 

「もう突っ込んでも大丈夫かな?」

 

下鳥「そうね、まずは前衛の魔法使いであの魔女に挑んで、

中間や後衛の魔法使いは残りの使い魔を倒しながら補助に回りましょう。

弱った頃にみんなで魔女を救いに行く・・・これで良いわね」

 

「まぁそれが無難だろうな、ここまで来ればひねる必要もねぇだろ」

 

「なんか、ずいぶんあっさりしてたね」

 

それほどこの結界の前半が複雑化していたという事だろう、

ここまで来る者がいるのが想定されていなかったのか?

 

下鳥((前衛は私に続きなさい! 後衛は使い魔討伐と補助に回るのよ!!))

 

そう言って迫った使い魔をはじき飛ばして魔女へと突き進む先、

そこへ三原色の魔法使いが優梨の目に飛び込んできた。

 

清水「すまん優梨、集めるのに時間がかかっちまった!」

 

下鳥「十分よ、良いタイミングだったわね」

 

篠田「はっ、わわ・・・すすすすごい女王様だ!」

下鳥「出来れば優梨と呼んで欲しいのだけれども」

 

そういえば、絵莉が真っ向から優梨と対面するのは初めてだ。

おびえはしていないが、その風格に対し絵莉には緊張が見える。

 

上田「あれ? 一緒にいた俐樹ちゃんは?」

 

下鳥「俐樹の事ね、話すのは進みながらでもいいかしら?」

 

上田「進みながら・・・うん、大丈夫だよ」

 

よくよく考えたら、もうのんびり話している暇はない。

 

唇の魔女の魔女の時はあまり人が来ない4階だったが、

放課後とはいえ現在元2階・・・一般人が来るのも時間の問題。

 

 

利奈は乱舞で使い魔を一掃、道を切り開く。

 

海里が隙を作った使い魔、絵莉がデッキブラシで追い払う。

 

優梨は倒された使い魔のガレキを2本の鞭でどかして道を作る・・・

 

4人の行動は後続の魔法使い達に多大な進みやすさを与えた。

 

使い魔と戦いながら進む先、優梨は俐樹の事について利奈に念話で説明してくれる。

 

下鳥((俐樹・・・すごい才能よ、自分の体の弱さをしっかり自覚しているわ。

植物について詳しいし、その知識を生かして魔法にしてる様子かしら。

あの子自身があまり行動出来ない代わりに植物が頑張ってる感じね))

 

利奈はタンス型の使い魔を殴り飛ばして引き出しを飛び出させた。

 

ふと視線を家具の山に向けるなら、それらは植物が生えていた。

 

家具達はガタガタと動いて隙間から黒い足を出し脱出を計ろうとしているが、

細部まで生え渡った植物は解放するわけもなく、のんきに花を咲かせていた。

 

その状態のがいくつもある・・・この植物の拘束が無ければ、

使い魔の数はこんなものでは済まなかっただろう。

 

クラス全員が立ち向かってやっとの数になっていたのだろうか?

そんな大量の使い魔、考えただけでぞっとする。

 

上田((どうやってこんなに・・・・・・あ、種!))

 

下鳥((その様子だとわかっているようね、そういう事よ))

 

 

・・・うん、文章的に伝わらないので私が説明しよう。

 

 

俐樹、彼女の活躍で数々の家具(使い魔)の山は拘束されているが、

そもそも体力のない彼女がどうやってこんな広範囲に植物を生やしたのだろうか?

 

彼女も彼女なりに考えていたのだろうか?

 

魔女に捕まりし魔法少女(現在ズル真っ最中)を見つけた際、握りしめていた物・・・

それが、彼女が扱う植物の魔法・・・魔法の『種』だったのだ。

 

これはいわゆる物であり、小さく持ち運びに困らない。

 

俐樹はこれを魔力を込めて投げつけた先で咲くように作ったのだ。

()()()()()()咲くように作る時に工夫をして、

その『種』を他の魔法使いに撒いてもらうように優梨が指示。

 

俐樹だ誰よりも早く魔女へとその遅い足を進める中、

周囲では彼女の魔法があちこちで発動していたということだ。

 

 

そんな大活躍をした俐樹が魔女の元にたどり着く頃、4人はちょうど俐樹に会う。

すでに俐樹は戦っていた。 植物に魔力を注ぎ、その行く末を花にゆだねる。

 

上田「俐樹ちゃん!」

 

橋谷「あっ、利奈さ・・・これ、足場に使ってください!!」

 

俐樹がばっとジョウロを掲げたなら、植物は入り組んで複雑な足場となった。

空を滑空する魔女だが、これを使えば飛べない魔法使いでも届くだろう。

 

無論、飛ぶ者はしっかり飛ぶが。

 

下鳥「利奈! 海里! あなたたちは先に行きなさい!!

絵莉! あなたはタンリュカ・ルシウムで使い魔の気を逸らすのよ!」

 

篠田「っえぇ!? なんで私の魔法知って・・・ってそれどころじゃない、

はぁ~~い! あたしがんばりまぁ~~す!!」

 

優梨が強く指示をする先、そこには利奈と海里がいた。

絵莉は2人に「行きなよ!」と声をかけ、立ち止まって掃除用具入れを召喚する。

 

清水「利奈、行くぞ!」

 

彼は道中使い魔の邪魔を散々してきた道具達を素早く収納すると、

今度は1本の青々と光る剣をどこからか取り出してみせた。

 

戦闘に関する空気は読みやすくて助かる、利奈は次の行動を理解した。

 

上田「りょーかい!」

 

走り込んで軽く飛ぶなら、双方飛行魔法を発動する!

足場の間をかいくぐって来た使い魔もいるが、行動の方が早かった。

 

 

上田「アヴィオン!!」

 

清水「フリューゲル!!」

 

 

赤と青の魔力を散らし、2人の魔法使いは逃げる魔女へと向かっていった。

棍の箒と魔力の翼・・・両手が空いてる状態での攻撃は驚異だ。

 

あまり自身の攻撃が上手く出来ない俐樹を優梨が守り、

絵莉はチョークを飛ばしながら他の魔法使い含め遠隔射撃。

 

俐樹の植物の導きもあってか、2人は比較的楽に魔女の元へと行けた。

 

清水「一気に決めるぞ!」

 

上田「うんっ!

 

 

クグロース!」

 

 

2人の息はかなり合っているもので、利奈は棍を強化し海里は構えた。

双方の魔力がそれぞれの武器に蓄積されていき、魔力の刃を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放つ、2人の必殺魔法。 双方の刃からなる魔法の斬撃!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

清水「オブリーオ・テンポラーレ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

容赦ない2つの攻撃が、魔女の木の身体に容赦なく交差し斬った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて! 嫌!! やめ・・・テ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめて、おねがい、や・・・メ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

いやああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユ     ル     サ     ナ     イ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、木材の針が粉々になった魔女の口のような模様から飛び出した。

なんと不運な・・・どうやらこの模様の部分が本体だったようだ。

 

状況はスローモーション・・・利奈の目の前に針が飛んでくる。

 

とどめにしようにも、使い切りの魔力の刃は使用済み。

 

止まる思考の中・・・・・・唯一思いついたのは先ほどの事。

 

 

芹香に返そうとしていた紙くず、使おうとしていたのか魔力がこもっている。

どんな魔法かはわかっていないが・・・今起こせそうな行動はこれしかない。

 

 

魔女の本体に紙くず(芹香の魔法)を投げつける!

 

 

不運の分が返ってきたのか、その魔法は強力な物だった。

 

 

第一章、炎の巻『爆破』、対象は未設定。

 

良い意味では・・・・・・倒された芹香の敵討ち。

 

 

魔女の断末魔と共に一体は爆風に包まれる、無論利奈も吹き飛んだ。

 

 

本来ならその衝撃で大怪我してる所だったが、彼女は1人じゃなかった。

 

 

バランスを崩した体は受け止められ、爆風を受け身にしてその場から素早く離れる。

 

 

下鳥「っ!? 逃げるわよ!!」

 

橋谷「ヒッ・・・・・・!?」

 

篠田「うわあぁ!? なんか大惨事だああぁ!!」

 

みんなそれぞれの飛行魔法やらいろんな手段でその場から逃げる、全力で。

 

 

爆風に混じって魔女がやられた時の黒い魔力も混じってるものだから、

その状況はかなりの大惨事となっている。 誰も巻き込まれなかったのが幸いか。

 

 

木材の身体が燃えゆく中、全てが1点に飲み込まれる。

魔女だった木材も、モノクロの裂けた死体も、そこら中にあった家具(使い魔)も全て、

全部全部、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれていく……

 

あとに残ったのは、少し濁った桜色のソウルジェムと

家具中心で葱と桜がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法使いは・・・居場所の魔女を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「おい一言多いぞ!」

 

 

 

上田「よかったね、俐樹ちゃん!」

 

 

 

下鳥「『アレ』? それって一体なんの事かしら?」

 

 

 

「俺の目の前にいるじゃねぇか」

 

 

 

〜終……(21)無意味な身代わり[後編]〜

〜次……(22)闇の仕置きと六つ目の光〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




・・・ふぅ、無事に討伐出来て良かったですね。
やっぱり時間はかかりましたが、なんとか書ききりましたよ!


利奈と海里の協力して放った必殺魔法、双方良い前衛でした。


俐樹の大活躍に優梨のサポート、双方良い後衛でした。


絵莉、もうちょい武器の練習せい! 芹香、あんまり無理するな!


そういえば、魔女の姿を真面目に描くのはこれが初めてですね。
いかがだったでしょうか? 上手く描けてるといいのですが。

・・・そうだな、今回はイラストについて話しましょうか。

情けない事に、まだ自分のパソコンは持っていません。 おっふ^q^;
デジタルは慣れないのでアナログで描いています、鉛筆ってすばらしい。

ペン入れには某数字のコンビニで安く売っている
『サラサボールペン黒』を愛用、これがコピックにじまない!
着色用に『サラサボールペン赤』も使っています、サラササマサマです。

使っているコピックは10本、色鉛筆1式と蛍光ペン数本。
たまに太い油性ペンかな? これが着色用の 神 器 !

アイディアは日常か悪夢のどちらかからもらっています。
今回の居場所の魔女は・・・ふむ、日常寄りに描いていますね。
完全な思いつきで描いているのもまれにありますw

一番描くのが好きなのはやはり主人公である『上田利奈』ですね、
好きなモノの詰め合わせなので描きやすさ爆発。

一番描くのが苦手なのは・・・実は魔女文字だったりしますw
あんまり描いてても面白いモノは無く、ひらがなを書くに同じ。
まぁ・・・その絵にまどマギっぽさがものすごい出るので
必ずと言っていい程、それ関連の絵には描いていますがね。

こんなモノでしょうか? あとは小話がダラダラダラダラ・・・・・・

まぁ、今も絵を描くのは好きだって言葉で後書きは締めましょうか。
(pixivに出す勇気は 皆 無 で す が ^q^;)


それでは、また次回。 ここまで読んでくれてありがとうございます!
文章長くて ご め ん な さ い でした!!

マタネー ヾ(・ω・ ).....ポチッ! □_ρ(-ω-。) OFF


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(22)闇の仕置きと六つ目の光


予約時間としてはおはよう、投稿時間としてはこんばんは。

ハーメルン活動の休み明けのハピナです、みなさんお久しぶりですね。

今回初めて予約投稿を利用しました、なんとも便利な機能。
今頃私は書き疲れて寝ているでしょう、上手く投稿できてるかな・・・

理由としましてはやはり『ハーメルンSS小説コンテスト』の集計。
量が多く時間がかかりそうなので、先に本編を書いちゃいました。

とある場所で4月1日に投稿すると宣言してまして、
嘘つくわけにもいかないのでこの形を取りました。

エイプリルフールだから許される? なにをご冗談をw(自爆

起きてたら感想の返信でもしているんじゃないですかね?
休み中だったとはいえ、放置してしまったのは申し訳ない・・・

いつもの如く丁寧に書いていますよ、感想は嬉しいのでね。


真面目な話はこの辺にして前回の復習といきましょう。

芹香が大怪我をしてしまいましたが、そのとどめは彼女の魔法。

利奈は敵討ちを海里と共に果たし、魔女を救出することに成功しました。

今回は魔女を倒した直後から物語は再開することになります。

さて、この辺で久々に舞台の幕を上げるとしましょうか。


あぁ・・・このほこりっぽい感じの布質懐かしいなぁ・・・おっと失礼w
舞台は魔女の結界から解放されて、現実から始まります。



 

気がつくと、女子トイレに男女関係なく大量の人がいるなんて

普通じゃあり得ない状況が利奈の目に入ってきた。

 

焦げる匂いから解放されたのなら、まず一同は騒ぎ出した。

 

最初の作業は全員でその場から出る所から始まる、

主な目的は男子を女子トイレから追い出すことだ。

 

なんだかんだ言って、花組の魔法達はまだ14歳・・・

一部色々あってひん曲がってしまっている者もいるが、

所詮はまだ深いところまで知らない子供だ。

 

どたばたと一同が慌てたりしたが・・・時間が立てば落ち着くものだ。

 

 

時間が立って状況が落ち着いた頃、蹴太を除いたリュミエールが一旦集う。

 

月村「やたら落ち着きを払っているわね」

 

清水「こういうのは逆に騒ぐ方が意識してるってやつだろ。

・・・まぁ、この話はこの辺にしようぜ。 他に話すこともあるだろうしな」

 

篠田「利奈、すごい爆風だったけど・・・大丈夫だった?」

 

上田「・・・・・・」

 

篠田「利奈? ・・・利奈っ!」

 

上田「え、うぇっ!? あ、ごめん・・・ちょっとボケっとしてた」

 

何を考えているのか・・・利奈はどこか上の空といった様子だ。

 

なにせまた助けられてしまったのだ、こうなるのも無理はない。

 

そうだろう? 抱かれて助けられるなんてこれで3回目。

 

さすがに恋愛に鈍感な彼女でも何とも思わないなんて事はないだろう。

まぁ、その感情の正体にはまだ気がつけないようだが。

 

 

一方、俐樹は変身を解いた後も優梨に守られていた。

やはり孵化前の状況を警戒してるのか・・・慎重なのに損はない。

 

優梨の手際は良い物で、彼女は魔女が崩壊をする最中から

鞭でソウルジェムとグリーフシードを先に回収していたのだ。

 

それを俐樹に両手でしっかり握るように指示し、彼女を守った。

 

しっかりとは言ったものの、俐樹は優しい者で強く握る事はなかった。

両手からは、ソウルジェム魂の暖かさとグリーフシードの冷たさが伝わる。

 

優梨もその優しさわかっていた、これも考慮して彼女を守った。

 

下鳥(・・・いない、あの子達どこにいったのかしら)

 

おそらく今回の魔女を孵化させたであろう《ご都合主義》の少女、

《笑い上戸》で楽しければ良いという発想の少女。

 

見た感じでこの2人がいなかった・・・逃げたのだろうか?

 

 

その頃リュミエールの方、落ち着くのが早かった海里は

男子トイレから飛び出して階段の方へ走っていく人影を見た。

 

清水「ちょ、待て!」

 

3人はそそくさと逃げるように階段を急いで下りていく

・・・こんな校内では魔法を使って引き留めることはできない。

 

さらにそれらが選んで降りた階段の先、目の前には職員室があるのだから。

 

普通に引き留めようにも、この小さめの人混み・・・

ご丁寧に近くにあった掃除用具の中身を散らして行く手を塞いでくる。

 

清水「・・・行っちまった、何であんなに慌ててたんだ?」

 

 

そんな逃走など知るはずもなく、優梨の護衛は終わりを迎えた。

 

俐樹がその手を開くなら、桜色のソウルジェムはキレイになっていた。

 

自分の魂が生み出したグリーフシードで浄化なんて普通じゃあり得ない・・・

まぁ、これも『ハチべぇシステム』だから成立する結果だと言えるだろう。

 

優梨は2つを守ってくれた俐樹にお礼を告げると、

抜け殻を抱き起こしてその手にソウルジェムを置いた。

 

すると、桜色のソウルジェムは淡い光を放ち

体を無くして眠っていた少女の意識を呼び起こした。

 

「・・・・・・ぅ」

 

橋谷「大丈夫・・・ですか?」

 

「・・・ぇ、俐樹ちゃん?」

 

少女は目を覚ますと、起き上がって辺りを見回した。

 

周囲ではボス級の魔女との戦闘を終えた魔法使い達。

ソウルジェムの浄化を行っていたり、少女を心配そうに見ていたりしている。

 

橋谷「よ、よかった……目を覚ましたようですね、

お体の方は「早く! 早く逃げよう!!」・・・え?」

 

「逃げよう俐樹ちゃん! もうこんなのダメだ、嫌だ! 嫌だ!!」

 

少女は何故か半パニック状態だ、俐樹の両肩を持って激しく揺さぶるが、

それは優梨の手によって止められた。 俐樹は揺さぶられてちょっと具合悪そう。

 

下鳥「落ち着きなさい、もう危ない状況じゃないわ」

 

「嫌、嫌! こんなのもう嫌!! 離して、離してえぇ!!」

 

下鳥「落ち着きなさい! 周りを良く見るの!」

 

「嫌・・・い、っはぁ・・・あ、ぁ・・・・・・」

 

いわゆる過呼吸という症状だろうか? 無駄な呼吸が目立つ。

呼吸の等間隔が極端に短く息の量も多く、とても苦しそうだ。

 

橋谷「え、えっと・・・簡素ですが、どうかこれを」

 

俐樹はコップをかたどった花を過呼吸な少女に差し出した。

その中には涼しげな香りの蜜が1カップほど入っている。

 

彼女は俐樹の事を知ってて信用していたのか、

拒否をすることなくその蜜をゆっくりと飲み始めた。

 

口の中には上品な甘さが広がり、鼻からは森林の香りが抜ける。

 

下鳥「ここじゃ人が多すぎるわね・・・場所を変えましょう」

 

 

最後に女子トイレから出てきたのはこの3人だった、

利奈が3人を心配し、慌てたように様子を見にくる。

 

上田「優梨! 俐樹ちゃん!」

 

少女のパニックはすっかり治まって落ち着きを取り戻していたが、

我ここに在らずといった様子で完全な放心状態になっていた。

 

橋谷「し、心配させてごめんなさい……みんな、みんな無事です」

 

俐樹は蜜が飲み干されて空っぽになった花を受け取る所。

これと言った大きな怪我は無く、被害は少なく済んだらしい。

 

ふとしたところで優梨の念話、どうやら周囲に聞かれたくなかったらしい。

 

下鳥((今海里に頼んでリュミエール本部を借りたわよ。

話の続きはそこでしましょう、ここは人が多すぎるわ))

 

上田((話の続き?))

 

下鳥((今まで起こった事についてよ、俐樹やこの子についてのね。

誰が何を聞いているかもわからないこの状況……

こんな大勢の中で話すのはあまり好ましくないわね))

 

上田((あぁ、りょーかい))

 

ちょっとの時間が立つと、海里が4人の元へやってきた。

手には使用済みの居場所のグリーフシードが握られている、

どうやら浄化の分配が終わったようで3/4は穢れていた。

 

清水「待たせたな、とりあえず一通りの後始末は終わったぜ」

 

下鳥「おつかれさま、積極的なのは良い事ね」

 

上田「海里、芹香と絵莉ちゃんは……」

 

清水「2人なら無事だぞ、月村さんの治療も終わった。

窓際に座って2人とも休憩を取ってる所だ、安心していいぞ利奈」

 

上田「そうなんだ、絵莉ちゃんも芹香も元気そうで良かった」

 

2人の安否がわかった利奈はホッとした様子。

特に芹香は自分を庇って大怪我をしたのだ、それが1番心配だった。

 

清水「それじゃ、今日のところはこの辺で解散としようぜ!

俺らは場所を移動しようか、話したい事も聞きたい事もある」

 

皆海里の言葉に返事をすると、ねぎらいのおつかれとでも

言い合いながらそれぞれの日常の場に戻るだろう。

 

あぁ、部活組はダッシュで戻る。 ベースとなる魔法使いの身体は丈夫、

さらにスポーツ向け体力。 部活の続きに支障はないらしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

落ちかけた夕日を背に、魔法使いの集団は表通りを歩いて行った。

 

オレンジ色の空には灰色の雲が少し、行く先に伸びる影は夕暮れを示す。

 

大通りから路地裏へ、そこからちょっと進んだ先にその建物はあった。

 

 

橋谷「え、えっと・・・ほ、本当にここなんですか?

本部という雰囲気が全くに近い程無いのですが・・・」

 

周りの雰囲気に完全に溶け込んだボロ倉庫。

場所も合っている、確かにここがリュミエールの本部だ。

 

篠田「ここに間違いないよ! これでもキレイにした方なんだからね!」

清水「あんまり外観キレイにしたら目立つから程々だがな」

 

上田「・・・芹香、なんだかフラフラだけど大丈夫?」

 

月村「後遺症でも残ったんじゃないかしら、気にすることはないわ。

それよりも入りましょう、この場に留まっていても凍えるだけね」

 

下鳥「お言葉に甘えてお邪魔しましょうか。 ほら、あなたも入るわよ」

 

「・・・・・・」

 

相も変わらず放心状態、精神的疲労が大きいのか?

 

無心でずっと優梨にくっついている。

 

まるで《人懐っこい》子犬のようだ、怯えるようにすがって離さない。

 

とにもかくにも、一同はまず本部(倉庫)に入ることにした。

 

このままでは体を冷やしてしまう。

 

 

俐樹の提案で、軽い茶会を開くことになった・・・彼女が魔法でハーブ茶を入れるのだとか。

植物を枯らす魔法は使えないので、紅茶を入れる事は出来ないと彼女は言う。

 

茶菓子と言って利奈はシルクハットから紫がかった綿飴を取り出した。

割り箸程の大きさの棍を作り出して掬っていく・・・ちょっと、量が多くないか?

 

7人分をとってもまだ一部というのだから、すごい量だなと海里は笑ってしまう。

 

綿飴にハーブティーとかなりおかしな構成になってしまっているが、

俐樹が和菓子に合うハーブティーを選んでくれる。 なんと優秀なことか。

 

清水「なんだかんだいって救出することが出来たから万々歳だな」

 

武川「すっごい不気味だったからねぇ雰囲気、

事態が丸く収まったようでオイラも一安心!」

 

清水「・・・って、ちょっと待て! なんでお前がいるんだよ!?」

 

武川「ん? あぁ暇つぶし?」

清水「さすがに黙ってついて来るな! ストーカーかお前!」

 

武川「ごめんごめん! でもなんか暗い子がいたからさぁ?

笑わすのを宿命としてるオイラとしては見捨てることは出来!! ない!!」

 

ソファーの上で急に立って妙なポーズで決めた光だったが、

すぐさま優梨にソファーから降ろされてしまった。

 

下鳥「 静 か に し ま し ょ う ね ? 」

武川「ハイ」

 

一通りのコントを見届けた彼女・・・思わず笑い出してしまう。

 

それを見て、利奈は少女に言葉を投げかけた。

 

上田「良かった、笑えるならもう大丈夫だと思うよ」

 

少女はハっとして自身の顔を触り、先程よりは緩んだ表情になる。

 

橋谷「ど、どうぞ」

 

俐樹はちょっとびっくりしちゃった様子かな、それでもお茶は出すらしい。

 

光がようやく落ち着いたところで利奈も綿菓子を差し出した、タイミング良し。

 

 

「・・・ふはぁ! ごちそうさまぁ、すごくおいしかったぁ!」

 

茶会が終わる頃、少女は笑顔も押さえられない程に明るくなっていた。

気持ちの暗さで青かった顔色も、今となれば火照るように赤い。

 

海里が説明を求めると、彼女は語尾が滑るような口調で話し始めた。

 

根岸「私は根岸(ねぎし)知己(ともみ)、助けてくれてありがとぉ!」

 

橋谷「良かったですね、トモちゃんすっかり元気ですよ」

 

上田「あれ? 2人は知り合いなの?」

 

利奈が見た様子、2人に面識は無いと思っていたが・・・そうでもないらしい。

 

根岸「そうだよぉ、ちょっとある事で知り合ってねぇ・・・」

 

()()()・・・そう言った知己はまた、暗くなってしまった。

俐樹が「今は大丈夫ですよ」と言って震える背中をさする。

 

下鳥「・・・『量産』、ね」

 

根岸「!!」

 

月村「ちょっと、いくらなんでも直球過ぎじゃないの?

これから話を聞こうって時に怖がらせても意味はないわ」

 

キツめな口調で芹香は口を挟むが、優梨はそれでも揺らがなかった。

 

下鳥「軽い気持ちで言ってる訳ないじゃないわ、

私はこの目でトラウマになるほどのその残酷な光景を見たの。

 

確かに私達の助けは必要になってくるわ、でも・・・

それは本人が克服出来なきゃ意味が無いと思うの」

 

月村「そんなのもっと後で良いでしょ、またいつか話せばいいわ」

 

下鳥「()()()っていつなの? 先延ばしにしても解決しないわよ」

 

月村「・・・・・・」

 

2人の意見のぶつかりで空気が重くなってしまったが、

それを利奈の天然がぶち壊す。 良タイミング、ナイス天然。

 

上田「・・・だっ、大丈、大丈夫! 何があっても私達が守る!!」

 

話すのが得意でない利奈はだいぶ言葉が詰まったようだが、

その誠意は伝わったようで知己の震えは止まった。

 

 

膝に置いた拳は制服のスカートを握りしめてしわを作る・・・恐る恐る話し出す。

 

根岸「私の口からはぁ・・・言えないぃ、立場的に言えないぃ!」

 

必死なまでの知己の叫び、ふと・・・利奈は頭の片隅にその言葉が引っかかる。

 

上田「立場的に・・・? あれ、どこかで聞いたような・・・

う~~ん、ごめん! ちょっとした事なのか思い出せないや」

 

篠田「今すぐ思い出せないなら仕方ないよ、ゆっくり思い出せば良いと思う!」

 

上田「うん、ごめんね。 ちょっと考えてみるよ」

 

そう言って利奈は考え込んでしまった、思い出すために過去を辿る。

 

 

根岸「話すなら、俐樹ちゃんから話して欲しい。

俐樹ちゃんならアレ、かけられてないから」

 

下鳥「『アレ』? それって一体なんの事かしら?」

 

俐樹は少し悩むような様子を見せたが、一呼吸おいて・・・一言、言った。

 

 

橋谷「・・・こっ、この先は、絶対に他言無用です。

下手をしたら私達の・・・命に、関わります。 冗談ではありません」

 

 

命と言ったぞこの子!? 生命が関わるとなると事態は大事になってくる。

 

捉え方を間違えれば大げさにも聞こえるその言葉・・・どうやら本気らしい。

 

清水「信用していいぜ。 ここにいるメンバーは今まで、1度も、

秘密事項とかを周囲、他の魔法使いにバラしたことはないからな」

 

じゃなかったらソウルジェムの魔女・魔男の探知機能だってバレている。

 

俐樹はリュミエール一同を信用したようで、そのまま話を続けた。

 

橋谷「あまり、多くは話すことは出来ませんが・・・」

 

 

俐樹はゆっくりと1つ1つ、物事を一同に話し始めた。

 

知己の安否も考えて話す事は限られてしまったが、情報としては十分だろう。

 

俐樹が話したのは2つの事・・・・・・

 

 

橋谷「私は負担が大きすぎる為、逃れることは出来ましたが・・・

トモちゃんは一種の『呪い』をかけられてしまっているんです」

 

篠田「『呪い』・・・? なんか物騒だね」

 

月村「物騒という言葉だけじゃ説明にならないわね、どんな呪いなの?」

 

俐樹が知己の方を見たのなら、知己は片目のコンタクトを外した。

そのコンタクトはやたら色が濃い・・・とてもおしゃれ用には見えない。

 

・・・外した元の目、その色。 一同は驚愕するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の片目は()()()()()()になっており、()()()()()()になっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「それ・・・って・・・!」

 

一番驚いたのは利奈だった、彼女はそれを聞いただけでなく見ているのだから。

 

橋谷「・・・・・・え? 皆さん知っていたんですか?」

 

武川「オイラには何が何だかさっぱりなんだけど」

 

清水「そりゃそうだ、リュミエールの間でしか知られていない情報だからな」

 

思い返されるのは気まぐれな少年、黒猫の姿に擬態をしていた少年。

 

警告をしてくれた少年・・・響夏の目、魔法で本当の見た目を隠していたが、

彼の片目は確かに、今の知己と同じような色をしていたのだ。

 

そこからわかる事実・・・・・・どうやら2人の口から語らずとも、

今、特に問題となっている事柄の一部が明らかになったようだ。

 

 

下鳥「『星屑の天の川』・・・ね、あなたに呪いをかけたのは」

 

 

それを聞いた俐樹はギクッとトラウマでも思い出したような恐怖の表情、

知己は「今はいないから大丈夫だよ」と俐樹に声をかけた。

 

根岸「ごめんねぇ俐樹ちゃん、無理に話す事は無いのよぉ」

 

橋谷「・・・ぃ、いいえ! 言わずに気がついてもらえたなら、一番いい形です」

 

完全に俐樹の声が震えているが、彼女はまだ続きを話す気でいるらしい。

 

 

月村「その様子だと、()()()()()が呪い発動の条件のようね」

 

 

俐樹はゆっくりと頷いた、頷くことしか出来なかった。

 

下鳥「ごめんなさいね、辛い事思い出させて・・・心苦しいでしょう?」

 

そんな言葉が俐樹の支え・・・今まで投げかけられたことが少なかったのか、

通常より彼女の場合は何倍にも膨れあがっていると考えられるだろう。

 

どうやら、芹香の言ったことが正しいという解釈で良いらしい。

 

上田「・・・あぁ! そっか、軽沢さんが『星屑の天の川』だからか!」

 

清水「ってことは、響夏にも呪いがかけられているって事になるな」

 

となると、このチーム関係者には全員かどうかは根拠が無いが・・・

少なくとも大半はこの呪いがかけられてるという事になる。

 

橋谷「こ、効果については・・・ごめん、なさい・・・話せません」

 

 

・・・どうやら『呪い』について聞き出せるのはこの位のようだ。

 

それでも十分な情報量、よくぞ頑張って話してくれた。

 

 

武川「・・・もう、オイラ置いてけぼりじゃないか」

 

篠田「あはは・・・あたしがわからないとこ教えたげるよ」

 

武川「おぉ! 助かる絵莉!」

 

相変わらずこの2人は仲が良い、双方協力して話についていく。

 

 

『呪い』の話はこれ以上話せないので、話を『量産』の話に変える。

 

 

話すのも辛そうな俐樹だが、それでも彼女は話すのをやめなかった。

 

 

量産・・・それは、グリーフシードを生み出す機械的な手段。

 

彼女の話を聞く限り、『花の闇』と呼ばれる量産に関わる魔法使い・・・

その中にどういう事か()()()()()魔法が使える者がいるらしい。

 

残酷なことに、それがどういった魔法なのかはわかっていない。

 

その魔法を使用して強制的に孵化をさせ、魔女や魔男としての姿を得る前に討伐。

 

これを数回行うことで、ソウルジェムが穢れやすくなるというのだ。

 

この状態のソウルジェムを何度も何度も孵化させ、これを討伐。

 

それによって多数のグリーフシードを作り出す・・・これが量産だ。

 

同じ人物を絶望させるから同型のグリーフシードが存在してしまう・・・

『被る黒』、その正体は『量産型グリーフシード』だったという訳か。

 

 

一連の話が終わったなら・・・不穏な空気が本部の室内を支配するだろう。

 

それを突破したのは海里の怒り、目の前の小さな机を拳で力任せに叩いた。

 

清水「・・・正気じゃねぇ、なんでそんな事が出来るんだ」

 

上田「本当にごめんなさい・・・情報提供とはいえ、こんな事1お言わせるなんて・・・」

 

利奈は心から申し訳なさそうな様子で俐樹に謝ったが、

俐樹の顔はほほえみを取り戻していた。 何故こんな表情をしているのだろう?

 

橋谷「ぃ、いえ! 本当は誰にも話すこともなく

お墓まで持って行こうとしていた話だったんです!

でも、話せて良かったです。 味方なんていないって思ってたの、に」

 

まだ話そうとしたらしいが、ぽろぽろとこぼれる涙に遮られてしまう。

 

知己は俐樹に泣かないでと声をかけてポケットティッシュを差し出した。

 

 

さて、この後行われたのは魔法使いの対策会議・・・2人をどう守るかの会議だ。

 

本当なら『星屑の天の川』をどうするかの話をしたいが、

あるのは状況証拠だけ、何かをするには証拠が足りなすぎる。

 

現状で出来ることと言えば『攻』ではなく、『守』が妥当だろう。

 

橋谷「トモちゃんはもう大丈夫だと思います」

 

根岸「・・・えっ?」

 

下鳥「あら、どうしてそう思うのかしら?」

 

橋谷「き、聞いたんです! 私、聞いたんです!

「知己はもう限界だな」って言ってたのを・・・聞いたんです。

だからトモちゃん、もうあの人達に怯えて過ごさなくて良いんですよ」

 

根岸「でもぉ・・・俐樹ちゃんはぁ・・・」

 

橋谷「だっ、大・・・大丈夫です!! 私の事は気にしないで下さい」

 

根岸「・・・・・・俐樹、ちゃん」

 

俐樹の笑みはあまりにも切なく・・・悲しい、無理をしているようにも見える。

 

その時、利奈はあることを思いついた。 それはふとした単純な思いつき。

 

海里に念話で相談してみるなら、返ってきた返事は褒め言葉。

 

清水((俺は良いぜ、きっとその子も喜ぶんじゃないか? 言ってみろよ))

 

上田((本当!? ありがとう、言ってみるよ!))

 

そうと決まれば、早速利奈はその思いつきを俐樹に提案することにした。

 

上田「俐樹ちゃん、そういえばチームはどうしてるの?」

 

橋谷「チームですか・・・入っていないですね、それどころでは無くて・・・」

 

上田「じゃあ、さ」

 

とりあえず、一呼吸置く。

 

正直どういう返事が来るかわからないが・・・言ってみるだけ価値はある!

 

 

上田「俐樹ちゃんが良かったらだけど、リュミエールに入ってみない?」

 

 

橋谷「えっ?」

 

この驚き方はどちらかというと、『鳩が豆鉄砲喰らった』という方の驚き方だ。

 

知己の喜び様もすごい、自分の事のように嬉しそうな顔をしている。

 

根岸「俐樹ちゃん、入りなよぉ! すごいじゃない、あのリュミエールだよ!!」

 

橋谷「良い・・・んですか!? 私、どう考えても足手まといにしか・・・」

 

月村「・・・足手まとい? もし足手まといだったのなら、

今日あった魔女戦の使い魔はもっと多かったはずよ」

 

芹香の言うとおり、今まで真価を発揮出来なかっただけで彼女は普通に強い。

 

俐樹自身は自分に自信が無さそうな様子だが、

彼女の実力は居場所の魔女戦で証明されている。

 

清水「まぁ強要はしないがな、いざという時に念話で助けを呼べるだろ」

 

下鳥「入れてもらいなさい俐樹、この人達なら信用出来るわ」

 

俐樹の瞳はキラキラと光る、まるで憧れのモノを目の前にしたかのようだ。

ふぅっと息を抜いて、俐樹は自らの回答をおそるおそる口にした。

 

 

橋谷「入っても・・・良い、ですか? 皆さんが良ければですが」

 

 

え? 回答に対する返し? そんなの、1つに決まってるじゃないか。

 

 

篠田「やったあぁ!! すごいよ! また仲間が増えるんだ!!」

 

武川「また賑やかになりそうだね、オイラも感激した点があるかな! 多分!」

清水「おい一言多いぞ!」

 

 歓 迎 ! この一言、この言葉に結果は収束される!

 

上田「よかったね、俐樹ちゃん!」

 

何気ない笑みに、いつもの真っ直ぐな感情表現。

 

利奈はソファーから立ち上がって俐樹に手を差し出した。

 

橋谷「はっ・・・はいっ! よ、よろしくお願いします!!」

 

涙ながらに彼女は喜ぶだろう。 今日、一番の笑顔だ。

 

 

清水「・・・ところでハチべぇ、この場に蹴太がいない訳だが、

チームメンバーが全員揃ってなくてもメンバーの新規加入は可能か?」

 

ハチべぇ「可能だよ」

 

そう適当な方を見て海里が言うなら、茶色の生物が海里の膝に降り立つだろう。

 

今までどこにいたのやら・・・まぁ、その辺は今気にする点ではない。

 

清水「そうか、ついでに契約時の発光を隠したいんだが方法はあるか?」

 

ハチべぇ「それなら、僕がその光を送り届けるよ」

 

上田「・・・え? そんなこと出来たの!?」

 

篠田「そんなの聞いてないよ! もう、教えてくれれば良いのに!」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、僕は言って欲しいなんで言われてないよ」

月村「そういう点がなんともあなたらしいわね」

 

清水「それじゃ、その・・・『光の運搬』でいいか? 頼んだぜハチべぇ」

 

ハチべぇ「わかったよ、蹴太の分の光は僕が送り届けよう」

 

 

ふと、利奈は優梨にもチームに入らないか聞こうとしたが、

優梨は利奈からの視線を感じてわかっていたかのように言葉を返した。

 

下鳥「私はまだリュミエールには入らないわよ? 入りたい気持ちはあるけど、

他に入っているチームの中でちょっとやらなきゃ仕事があるのよ。 ごめんなさいね」

 

相変わらず人の思ってることを読むのが得意な優梨。

やっぱり利奈は驚いたが、これには流石に慣れた。

 

上田「他のチームの仕事? なら仕方ないね・・・

ごめんね、優梨に無理な頼み事しようとしちゃって」

 

下鳥「気持ちだけ受け取っておくわ、気にしてくれてありがとう」

 

優梨なら多少は教えてくれそうだが、深入りしないのが利奈の良いところ。

 

 

清水「じゃ、最終確認を一応取っておくぜ。

橋谷俐樹、お前はチーム『リュミエール』の一員になる事を望むか?」

 

橋谷「・・・はい!」

 

おぉ、意志が強かったのか言葉が詰まることなく回答は出た!

 

指輪をソウルジェム戻し、海里の前にそっと差し出す。

 

清水「良い返事だ! リュミエールのリーダー権限で、正式に加入を許可する!」

 

そう海里が言ったなら、青のソウルジェムと黄緑のソウルジェム、

2つの魂の結晶はは強く明る気な輝きを放ち始めた。

 

それだけではない、赤に緑に橙もだ。

 

優梨、光、知己の3人はその様子を見守る。

 

4人のソウルジェムに黄緑の光が入り込むのはもちろん、

俐樹のソウルジェムにも4つの光が入り込んだ。

 

ハチべぇは5つの光をその体に受け取ると、本部(倉庫)の窓からどこかに行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、ここに『黄緑の光』が増えた。

 

この『光』は『闇』に飲まれ、本来の輝きを発すること許されていなかった。

 

でも、これからは違う・・・環境が変わって彼女の運命は大きく変わった。

 

その『光』は真価を発揮するだろう、もうその輝きを遮るモノはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある、場所。 そこは、暗がり。 光刺さぬ、暗がり・・・・・・

 

時は少し戻る。 それはリュミエールとその仲間達が本部(倉庫)にたどり着く頃。

 

夕闇の光さえ拒むように3人は路地裏へと入っていった。

 

行き止まりに身を潜めるなら、1人はがらくたに座って膝に肘を置いた。

 

祈るように両手を握ってあごを乗せる、目の前には膝を突いた2人の少女。

 

「・・・それで、今日の収穫の方はどんな感じになっている?」

 

「雑魚級が5つですリーダー、平日にしては多い方だと思います」

 

「順調なう!」

 

少女がグリーフシードを献上するなら、リーダーはその質を確認し始める・・・

 

「ほう? ずいぶんと多いな、苗は減らしたはずなのに・・・なぁ?」

 

暗がりの中、リーダーと呼ばれるその人物の表情は見えづらい。

だが確実にそれは良い感情ではないことは読み取れた。

 

「・・・はっ、反省なう」

 

これにはいつも笑っているような子も、冷や汗をかいてしまう。

 

「だが問題はない、収穫を行えたのは事実だからな」

 

「ホントに反省なう! 次から気をつけるよ」

 

「あぁリーダー! なんと寛大な事か・・・! ありがとうございます!!」

 

この言葉には2人も安堵の表情、一旦は安心したようだ。

 

「それに、苗には困っていないしな。 新しい苗を作ればいい」

 

「・・・ん? 新規なう?」

 

「新しい苗? 新たにリーダーが絶望に堕とした魔法使いを見つけたのですか?」

 

「何を言ってるんだ? 新しい苗なら・・・」

 

そう言って視界の狭い薄暗さの中、リーダーは片手を前に差し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺 の 目 の 前 に い る じゃ ねぇ か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞳は一切光がない・・・無いどころか、穴が空いてるのかと思う程だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにかを小さく唱えたかと思えば、2人の指輪は強制的にソウルジェムへと戻る。

 

「ぎっ・・・!? やああああああああああああああああ!!!!」

「ぅ・・・あああああああああああああああああああああ!!!!」

 

人気のない路地裏にこだます悲鳴、その悲痛は止むことを知るはずもなかった。

 

一瞬にして穢れが沸く魂・・・急激な汚染による精神の激痛は果てしない。

 

2人少女が制服にもかかわらず、ひび割れたコンクリートの上でのたうち回った。

 

手を下ろしても苦しみは続く・・・魔法は止まったのに、何故だろうか?

 

おか、しい・・・・・・? これは明らかにおかしい!

 

 

何故、ソウルジェムが孵化寸前にまで穢れているのに、

こんなに心の痛みがあっても()()()()()()!?

 

 

これも彼女らの長の魔法の効果だろうか?

俐樹の言っていた絶望を操る・・・こういうことか。

 

「安心しろ、精神崩壊はさせないと約束する。 長は、ここにいる。

時間が立ったら孵化させてやろう、その時まで・・・罪の重さを知れ」

 

ふと、リーダーは自らの指輪をソウルジェムに戻した。

 

その魂は闇に溶け込めるほど光がない・・・それは、黒のソウルジェム。

 

建物の影に隠れてしまった夕日を見る、見えないその太陽を影ごしに見る。

 

「・・・やはり、闇には光が憑き物か。

調子の乗り具合からして、そろそろ我らの行為がバレる頃だとは思っていた、

光に紛れはびこる闇、そろそろ本格的に対策を練る必要があるらしい」

 

ふと2人を見るなら・・・片方は口から泡を吹き、

片方は涙を流しすぎて真っ赤に目が腫れていた。

 

「早い、やはり精神は弱いか。 狩るぞ、収穫の用意する」

 

手をかざしてまた2人に魔法を使うなら、2人分の黒い魔力が吹き出すだろう。

 

長はただ笑うだろう、闇に迫る驚異を・・・純粋に、楽しみにしているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして4体目の魔女は倒され、リュミエールに新たな光が増えた。

 

色々とあったが・・・ついに、花の闇の一角に触れることが出来たらしい。

 

時に俐樹は()()()()()と言った、事態は急激に重たいモノになって行く。

 

それでも、これで闇に囚われていた2人の魔法少女を救えたのには変わりない。

 

事態は良い方向と悪い方向、それぞれ両端に向かって伸びていく。

 

久しぶりの長い1日だった・・・今日という日を終わらすことにしよう。

 

 

利奈には、彼が待っている。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

【見てはいけ……ない、目を瞑れ! 今回はもう帰るんだ!!】

 

 

 

灰戸「それが見た様子ではおかしな事態になっているみたいでね」

 

 

 

月村「じゃあシャンとしなさい! じゃなきゃ利奈じゃない別の誰かよ」

 

 

 

篠田「それって、魔法使いにとって一番の励みになると思うよ」

 

 

 

〜終……(22)闇の仕置きと六つ目の光〜

〜次……(23)粉の変異と機械泥棒〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





悪は成敗、当然の如く成敗。 当 然 だ ろ う ?

書いた張本人ですが、ちょっとばかし仕置きをさせてもらいました。
一部の人が待っていた展開じゃないですかね? 成敗ですよ!

ともあれ、やっと黒幕を書くことが出来ましたよ・・・w
ここまでものすごい長かった気がします(実際長かった(ざっと5ヶ月半

言うならば『光と闇の戦い』前半終了と言った形でしょうか、
物語は後半戦へとそのページを着々と進めて行きます。

次回、またしても大胆な展開を用意していますw
予告ですでに察している人もいそうですが・・・そういう事ですハイ。


さて、この辺でこの日ならではの雑談でもしましょうか。

『エイプリルフール』、この日は嘘をついて良い日とされてますが、
実際に嘘をついて楽しんでる人は少ないと思いますね。

実際、私もコンテストとして取り上げるまではガン無視でしたし。

冗談で嘘をつくとしたらどんな嘘がいいかなぁ・・・
というか、その行為自体あまりいい行為ではないので
簡単に思いついたらそれはそれでひどい気はしますがw

私なら嘘をついて、それを嘘だと思わせ実行しますね。
妹にこれをマカロンでやったらなんか発狂しました^q^

さすがはマカロンハンター・・・2個だけでもそんなに喜ぶか。

ん? 購入場所? そんなのあの青いコンビニに決まってますよ。

売ってる場所が少ないのでね、名前はロー(殴


さて、今回はこの辺で。 次回もお楽しみに、です!
☆⌒(*^-゚)ノ~♪see you again♪~ヾ(゚-^*)⌒☆


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(23)粉の変異と機械泥棒


お久しぶりとでも言うのかな? 10日ぶりのハピナです。

はい、色々あって休息を取ってました。(ほとんど絵描いてましたが

若干遅れましたが続きです、今回は珍しいところから始まります。


前回はリュミエールに新たに、黄緑の魔法少女が加入したところで終わりました。

無論悪いことをした2人は実刑、 慈 悲 は な い 。

他にも、『花の闇』が行ってきた行為の一部が明らかにもなりました。

魂までもが漆黒の魔法使い・・・明らかに、そいつは只者ではなさそうな予感。

さぁ、幕を再度上げましょう。 物語の続きは現実から離れた場所から・・・。



 

それは眠り、意識が身体から離れる。

 

 

そして眠る、行先は見知って見知らぬ夢の世界。

 

 

現実寄りなその世界は妄想かもしれないし、実際にあるのかもしれない。

 

そんな事の立証なんて不可能だ、夢の記憶なんてほとんど消えるから。

 

まぁその世界があまりにも現実離れしていたのなら、それは夢だと認めざるを得ないけど。

 

 

そう、た と え ば・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【利奈!】

 

 

上田「……え?」

 

 

気がつくと、周囲は緑が中心の異世界……そう、黒板の魔女の結界だ。

 

いつもなら自ら迎えに行くはずのチョークが、

今回はなんと目の前にいた……黒いモヤのような物を咥えて。

 

夢の中だからか頭がぼんやりしているが、どうやらいつもの夢らしい。

 

【えっへっへ、待ちきれなく僕から来ちゃった!

利奈が現れる場所は一緒だからね、いつもここだから覚えてたんだ】

 

上田「そ、そうだったんだ。 また会えたねチョーク」

 

【うんっ!】

 

食事中だったのにも関わらず来たのだろうか?

 

煙を固めたかのようなよくわからない黒いモヤは、まだボーリングの玉3つ分くらいはある。

 

【まぁ座ってよ、立ちっぱなしは辛いでしょ?】

 

ねっちょりした粘性のある音を立てながらの食事中だが、

チョークは相当話をしたかったようでそのスピードは遅い。

その前よりも目玉らしくなった瞳は利奈を写している。

 

上田「ありがとうチョーク、そうさせてもらうよ」

 

今日のところはその場に座って話をしよう。 さて、今日はどんな話をしようかな?

 

【そうだそうだ、利奈に話したかった事があるんだ】

 

上田「話したかった事?」

 

これが彼なりの真剣なのか、食事を一旦やめてお座りをした。

 

これから彼が話すこと、そこから得られたのは・・・確信。

 

 

【やっと僕の声、聞こえたんだね!】

 

 

上田「・・・え? どういう事、だって今こうして話を」

 

【違う違う、ここの外の話だよ】

 

上田「外!?」

 

【・・・説明が必要みたいだね、だいぶ話せるようになったし教えてあげるよ】

 

 

チョークはどういう事かの説明を頑張って話してくれたが、

どうも日本語がおかしい点が多々あったので要約をしよう。

 

彼が話す内容によれば、利奈はこの世界を夢だと思っているらしいが、

これは夢などではなく現実にある黒板のグリーフシードの中なのだと言う。

 

主を失い役割を終えた結界とその配下、待つ結末は終息のみ。

黒い魔力と共に終息したその内部・・・残るのは大体の結界の形だけ。

 

黒板の使い魔のうちの1匹でしかないチョークもそれをわかっていた。

教師と呼ばれる主がいなくなった時、その運命を受け入れていた。

 

 

・・・・・・その、はずだった。 システムエラー、予想していない事態の発生。

 

 

終息が起きた時に最後にその1点へと向かったのがチョークだったが、

グリーフシードはすでに完成しており魔力に還ることなくその内部に放り込まれたのだとか。

 

理由はわからないが、チョークは生き残った。

 

主による支配が無くなった時、まずチョークは『自我』を手に入れた。

 

やることも無く感じたことない『空腹』の自覚に襲われ死を覚悟した時・・・

周囲に現れた黒いモヤ、チョークはそれを本能的に食べたらしい。

 

何故か? 本人はわかっていないようだがそれはヒトから生み出された物。

いわゆる心の穢れ・・・()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

使い魔は人を喰らい魔女となる・・・それは聞いたことあるだろう?

使い魔であるチョークもその本能を持っていたということだ。

 

そうしてチョークは生き延びた、役割を失い結界の残骸に取り残された生物として。

 

【理由はわからないけど、ここで過ごす内に人間の知識を得たんだ。

それで僕は『孤独』も知った……その時に来たのが、利奈だよ】

 

硬質な顔は表情を作れない、ただその赤い瞳は真っ直ぐ利奈を見た。

 

【利奈とはたくさん話したね、僕すごい楽しかったんだ。

もし1人だったら……多分、ここから飛び降りてた。

人間の知識の入り組んだ複雑さに耐える事が出来なくなってね】

 

上田「チョーク……」

 

【だから、これからもよろしくね! 今回は何を話そうかな】

 

そう言って黒いモヤを食べ終えた……その時だった。

 

 

チョークがその言葉を言い切る前に、その硬質な身体がひび割れたのは。

 

 

音は止まる事を知らず、全身にまでヒビが広がっていった。

 

自身の身体が割れるなんて事態、いくら使い魔でも何も感じないわけがない。

増してや人間の知識を得たチョークなら……

 

【っ……!? ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!】

 

上田「ちょ……チョーク!? 大丈【見るな!!】っ!?」

 

【見てはいけ……ない、目を瞑れ! 今回はもう帰るんだ!!】

 

上田「え、なんで!? やだ、待ってチョー」

 

……またしても、忽然と利奈はその場から消えた。

いや、正確にはグリーフシードから出たと言うべきか。

 

ほぼ同時、形を保てなくなったチョークは崩れ落ちた。

この残酷な光景を見る前に覚めた利奈は幸運と言うべきだろう。

 

それで終わりかと思われた彼の残骸は、どこかで見た事があるような

暖かな光を放ちながら、粉々になった硬質な死体は・・・再度、形を創る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残されたのは・・・・・・ 1 人 の 少 年 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「チョーク!!」

 

利奈はがばっと起き上がってその名前を叫んだが、

そこは黒板の魔女の結界ではなく利奈の自室だった。

 

時計を見るなら午前4時、いつもより早く目が覚めたようだ。

 

もう一度寝る気にはなれない、友達にヒビが入ったショックだろうか?

夢の世界に戻ろうと布団に潜っても眠気が一向に来る事は無い。

 

上田「そんな……どうして……!?」

 

夢の記憶は起きると消えるというが、嫌な事に先程の光景が焼き付いてしまったらしい。

 

今の利奈に出来る事といえば……砕けた友達を思い泣く事しかない。

 

穢れを吸ったはずの黒板のグリーフシードは、新品同然に穢れが無くとてもキレイだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教室の窓越しに見る外は寒く雪景色、雪は降らずにただ寒いだけ。

若干高めな室温に温められて、窓には水滴がたくさんついている。

 

好きな理科の授業とはいえ、利奈の頭はぼんやりとしていた。

意識が逸れて上の空、考える事は別の内容。

 

あれから何事も無く普通に登校したが……いつもより考える事が多い。

 

量産については実施チームを隠して注意を呼びかける事になる。

許せないのは事実だが、明確な証拠も無いのに騒げない。

 

俐樹と知己に関しては、俐樹を中心に守る事になった。

 

知己は本当に標的から外れたらしく、見張りを付けなくても大丈夫そう。

 

今日も幼馴染みとギクシャクと勉強内容相談中、

残念ながらキャッキャウフフとかの楽しいものではなさそう。

 

いつになったらこの2人は普通に話が出来るのやら……

片方が逃げ気味なのが悪い、もう少し気楽で良いだろう。

 

一方の俐樹、リュミエールの女子で手分けして様子を見守る。

まぁ優梨が積極的に俐樹に話しているから大丈夫そうだが。

 

優梨が俐樹に関わるようになった為の効果が、

日の目を浴びなかった彼女は花組で一目置かれるようになった。

 

もちろん彼女がリュミエールに新しく加入した事は、

花組全体ではまだ知らない者が多数を占める。

この事の伝達は事態が落ち着いてからになるだろう。

 

とにかく俐樹には味方が増えた、狙われはしてるが前よりは安全だろう。

 

 

「上田さん!」

 

上田「・・・? あ、はいっ!」

 

「君話を聞いてた? ずっと窓の外を見ていたよね?

この問題を解いてみてちょう「アとウとオとケです」・・・うん、正解」

 

得意科目なら授業を聞かずとも理解が出来ている。

 

朝の読書は理科の教科書、無意識な内に丸暗記。

 

 

何事も無く昼休み、本日は特にイベントはなく平和な日。

 

俐樹を連れていつもの教室へ、手荷物は午前の授業の宿題くらい。

 

いつもの教室・・・言わずともそこは使われていない理科室。

 

そこは利奈の所属するチーム『リュミエール』の集合場所でもある。

 

今日は優梨はいないようだ、その代わり前いなかった蹴太がいる。

リュミエール一同、久々に全員集合という形になる。

 

彼は教壇にいる海里と話をしている・・・どうやら昨日の話をしているようだ。

 

俐樹を見かけたなら、微笑んで手を振ってくれる。

 

どっちかというと気が弱い俐樹は控えめに礼をする、慣れていないのだろう。

 

月村「なにこれ、こんな漢字存在しないわよ」

 

篠田「忘れちゃった! こうじゃなかったっけ?」

 

月村「・・・同じ所を間違えないで欲しいのだけれど、これはこうよ」

 

向かい合って座る2人は午前中の復習をしている、教科は国語かな?

 

直しているのはプリント問題、芹香の答案は全問正解。

 

上田「こんにちは、絵莉ちゃん勉強頑張ってるね」

 

篠田「あ、利奈! 俐樹ちゃんもこんにちは!」

 

橋谷「えっと・・・・・・べ、勉強中お邪魔します」

 

月村「構わないわ、どうせこの子あなたたちを理由に休むつもりでしょうし」

 

篠田「そっ!? そそそんなことないよぅ!!」

 

明らかに声が裏返っている・・・本当にその気だったのだろう、オイオイ。

 

絵莉はごまかしでもするように立ち上がって椅子を2つ引いた。

 

座ることを催促する絵莉に従い、利奈と俐樹は椅子に座る。

 

 

日常には普通が憑き物、何気ない会話を4人は交わしていった。

 

集団慣れしている絵莉を中心に話す話題、誰1人として困ることはない。

 

無難な話題なはずなのに・・・何故か、利奈と芹香が乗り気で無い。

 

篠田「あれ、2人とも元気ないよ? どうしたの?」

 

月村「・・・そうよ、今日の利奈元気無いじゃない。 悩みがあるなら言いなさいよ」

 

上手いこと芹香にごまかされたような気がするが・・・みんなの意識は利奈に向く。

 

上田「へ? たっ大した話じゃないよ! 私が見た夢の話だし・・・」

 

篠田「夢?」

 

月村「たかが夢でそこまで様子がおかしくなるなんて、それこそおかしな話よ」

 

たかが夢、特に霊的な物を基本は信じていない芹香はそう思うだろう。

 

だがその内容があまりにも・・・利奈にしたら感情が揺らぐ程の物だった。

 

篠田「悩むくらいだったら聞かせて欲しいな、その夢の話!」

 

上田「え、でも・・・」

 

興味津々な絵莉の目線におどおどして焦る利奈に、芹香はため息をついて一言。

 

月村「私達があなたをオモチャにするような人々に見えるかしら?

安心して話していいわよ、絶対あなたをバカになんかしないから」

 

そこで笑み。 普段しかめっ面な彼女だが、珍しく笑顔になった。

 

利奈は本当に良い友達を持った、いつしか言っていた孤独とはなんだったのやら。

 

橋谷「お優しいんですね」

 

素直な俐樹の第一印象、芹香はそっぽを向いて照れ顔を隠す。

 

月村「これで優しかったら、世の中はあまりにも甘ったるいわ」

 

 

結局、利奈は今まで見た夢の話を3人にすることにした。

 

それはグリーフシードの内部で起こった・・・と思われる一連の話。

夢の中の友人、それは自我を得た1匹の残された使い魔の話。

 

一番驚いていたのは絵莉だった、なぜならその主は昔の彼女だったからだ。

 

残酷なまでに明確な魔女の時の記憶・・・絵莉は自らの手下を覚えている。

 

篠田「・・・じゃあ、その内の1匹が生き残ってたって事なんだ」

 

歪んだ記憶を辿るのは決して良い物ではない、絵莉の顔は苦悩の表情。

 

上田「ご、ごめん! 嫌な事思い出させて、この話もうやめようか?」

 

篠田「いいの、いつか向き合わなきゃって思ってたから」

 

そう、一度孵化したからと言ってもう孵化しないことを約束されたなわけがない。

 

一部の人々はハチべぇのシステムを甘ったるいと言うだろう。

だが、このシステムにはこのシステムの苦しみが存在する。

 

現実はそんなに甘くない、ハイリターンにはハイリスクが必須。

 

橋谷「り、利奈さんは顔が広いんですね、人が良いから納得です」

 

月村「それで体にヒビなんて入ったらたまった物じゃないわね」

 

それを聞いた利奈はその瞬間を思い出してしまったのか、暗くなってしまう。

 

暗がりを照らしたのは一番長い仲である芹香の言葉だった。

 

月村「・・・あなたらしくないわね」

 

上田「えっ?」

 

月村「いつもなら絶対そんなわけ無いって否定するじゃない、あなた本当に上田利奈なの?」

 

上田「私は私だよ、それ以外の何者でも無いもん」

 

若干ムッっとしそうな口調だったが、利奈は怒りもせずにそう答えた。

 

月村「じゃあシャンとしなさい! じゃなきゃ利奈じゃない別の誰かよ」

 

上田「そう、だね。 もうちょっとポジティブに行くよ!」

 

友人の厳しくも思いやりある言葉に励まされ、利奈は元気を取り戻した。

 

夢と思ってた現実・・・チョークの無残な姿を見てしまった彼女だったが、

彼は無事だと信じ込む事にした。 バカみたいに信じるのが利奈なのだから。

 

 

2人の会話を聞いていた絵莉はふと思った事を言ってみることにする。

 

篠田「それって、魔法使いにとって一番の励みになると思うよ」

 

月村「・・・()()()()励みになる、ですって? 私の言葉が?」

 

芹香はなぜかあり得ないという様子だったが、絵莉はそのまま言葉を続けた。

 

篠田「あたしみたいに心が穢れてダメになっちゃって、

魔女や魔男に変わった事のある人はたっくさんいると思うんだ。

 

人間じゃない何かになっちゃったって悲しみもあると思う・・・

でも、それでも自分は自分だって事は変わりないって意味の言葉なんだよ」

 

月村「あなたの言うことは正しいわね、そういう意味で私は言ったのよ。

でも私が言っても何もならないわ、利奈以外みんなみんなね」

 

()()()()()反応するか・・・さらっと悲しい事を言うな、芹香は。

 

確かに芹香は周囲を避けるように過ごしてきて顔が狭いのもあるが、

それは明白な励ましの言葉、さすがに無反応というわけではないだろうに。

 

 

ふとした時、俐樹が突然涙を流し始めた。 溜め込まれた涙がこぼれ落ちる。

 

上田「俐樹ちゃん!? どうしたの大丈夫?」

 

橋谷「ごっ、ごめんなさい! が・・・我慢できなくて」

 

利奈が差し出したハンカチを受け取り、彼女は自らの涙を拭いた。

 

3人はわかる、その苦しみの意味と、それが一番大きいのは彼女だと。

 

正確には『量産の被害者』だ、心に負った傷は並大抵のものではない。

 

中野「ん? すすり泣く泣く声・・・あらら」

 

清水「おいおい、大丈夫か?」

 

俐樹の泣く声を聞いて、遠くで話をしていた2人も流石に反応したらしい。

 

拭いても拭いても止まらぬ涙、泣きながらも俐樹は語る。

 

橋谷「ご、ごめんなさい。 なんだか安心してしまって・・・」

 

上田「安心?」

 

橋谷「い、今まで泣くのは我慢してきたからからでしょうね。

良い人達に囲まれて、気が緩んでしまったのか・・・涙が・・・」

 

篠田「大丈夫大丈夫! 誰も攻めたりしないし、いっぱい泣きなよ」

 

絵莉はそう言って俐樹の肩に手を置いた時、俐樹は絵莉に抱きついた。

 

爆発でもするかのように泣きじゃくる彼、声が響かぬよう絵莉は強く抱きしめる。

 

傍ら、芹香はどこか感情を押し込めるような様子を必死に隠そうとしていた。

 

 

結局この日は彼女の違和感を追求することなく、終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

委員の仕事があるからと、珍しくそそくさとした様子で教室を後にしてしまった。

 

利奈が出来る事といえばただ付き添うことだけ・・・まぁ、これが彼女の逆に良い所だが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後、花組含んだ全校生徒はこれもそそくさと帰路についた。

学校に委員や部活に係の生徒を残し、それぞれの放課後を過ごす。

 

身が震えるほどの寒い冬が続く・・・暗がりの比較的早い午後で、街中の街灯は照った。

 

それでも全てを照らしきるというのは無理そうだ、それでは昼中と変わりない。

 

そんな照らす光の届かぬ死角を利用し、逃げた子供が息を切らしていた。

 

握りしめた拳を開くなら、そこには爪楊枝半分ほどの機械が握られていた。

 

・・・こんな小さな機械が市販で売っている訳がない、魔法で作られたのだろうか? 

 

「・・・へへっ、これであいつらは勝手に絶望する」

 

制服姿の1人の人物。 暗がりの中、手の中の成果を見てにやついた。

 

 

やれやれ・・・やっと事態が落ち着いたというのに、もう一波乱起きような予感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし・・・あぁ、母さん? 私はこれから塾だよ」

 

・・・

 

「大丈夫よ! 塾での次のテストの話でしょう? 勉強してるから大丈夫」

 

・・・・・・

 

「そうよ、次も満点・・・え、違う? テストの話じゃないのね」

 

・・・・・・・・・

 

「家に帰ってから話したい? 大切な話か・・・どんな内容なの?」

 

・・・・・・・・・・・・

 

「え? なに、それ・・・? どういうこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは誰かの携帯電話での会話、その顔は絶望と驚きに満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日、やはりと言って良いほど教室は騒がしくなっていた。

 

教室の外にまで騒がしい声が聞こえている、ドアの前には見張りの生徒。

 

いつも通り登校してきた利奈がこの状況に驚かないはずがなかった。

 

野次馬が多く状況がわからず困っていたところ、利奈は肩を叩かれた。

 

それは久々に見る顔、利奈が知る限り彼はもう1人の情報屋。

 

ごったがえす人混みの中、比較的背の高い彼は見つけやすかった。

 

灰戸「あぁ利奈ちゃんじゃないか、久しぶりだね」

 

上田「灰戸さん! これは一体? 何があったんですか!?」

 

自分のクラスの事を他クラスの生徒に聞くのもどうかと思うが、彼の場合は例外。

 

灰戸「聞いた感じの話になるけど、どうやら()()騒ぎになっているみたいだね」

 

上田「盗難・・・? 誰かの物が盗まれたって事ですか?」

 

灰戸「それが見た様子ではおかしな事態になっているみたいでね、

細かい事は花組の情報屋に聞いてみるのが一番早いと思うよ」

 

彼の言う通りだ、ここからでは野次馬の声も混じってやかましすぎる。

 

灰戸「教室に入りたいんだろう? 手伝ってあげるから聞いておいで」

 

上田「はい、ありがとうございます!」

 

そう言ったなら、八児は利奈を教室の入口までエスコートした。

 

利奈は気がついていないが、ふと目が合った海里に口パクで言う。

 

『気がついてやれよ』意地悪そうな顔でそう笑って、野次馬に溶け込んでいった。

 

 

『量産』について対策が組まれた一方、まだ裏で闇が動いているのだろうか?

 

それとも他の魔法使い? はたまた誰か一般人?

 

このままでは判断が付かない、とにかく事情を知らなければ。

 

いよいよ本格的に動き始めたらしい闇、この騒ぎはただの盗難騒ぎではない。

 

いや、盗難って事自体ただの事態とは言えないが・・・これは騒ぎ過ぎである。

 

誰も感じられぬ誰かの心、その中でこの光景を大笑いするだろう。

 

 

自 分 だ と は 絶 対 に 気 づ か れ な い ・・・とね。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「ようは密室殺人事件じゃなくて『密室盗難事件』って事ですか」

 

 

 

?「へぇ、上手い事言うじゃない! ようはそういう事よ!」

 

 

 

足沢「それとこれとは別だろオイ!?」

 

 

 

清水「てめえら!! いいかげんにしやがれやああああああああああ!!」

 

 

〜終……(23)粉の変異と機械泥棒〜

〜次……(24)明かさぬ盗品と校則違反〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





一難去ってまた一難とはまさにこの事、何やらまた一騒動起こった様子。

え? 電話? はてさて、いったい誰の事やら・・・

それはさておき久々の灰戸八児! しばらく出番がなかったな。

そりゃあ最近は光と闇の戦いでてんやわんや、あまり出る場面でもなかった。

月の情報屋灰戸による、花の情報屋海里への意地悪な口パク!

・・・予告からして 嫌 な 予 感 しかしない(白目


さて、雑談としてはこの先の展開について話しましょうか。

まぁ今回は前書き共にあまり多く書けないですが、お許しください。

現在執筆中ですが、今後ちょっとした推理展開にしたいと思ってます。

最初はわかりづらくしますが、途中容疑者を放り込む予定。

犯人は誰かな? どうやって盗み出した? 最後まで欺けたのならそれは最高。

次回はあまり話が進まないことをここに謝罪、精進したいと思います・・・

って言ったの何回目になるかな^q^ いつになったら成長するのやら。


それでは、今回はここまで。 体壊さない程度に執筆したいと思います。


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(24)明かさぬ盗品と校則違反


またしても一週間を過ぎての投稿・・・もう少し早く執筆出来なかったのか自分!


というわけでこんばんは、最新話書き立てのハピナです。

遅れた理由はもちろん絵を描いていたのもそうですが、
そろそろ話が佳境に入ってきたのもありましてね・・・

前回推理展開と言ったと思いますが、これが難しくて難しくて!

いっそ推理物の短編を書いてしまおうかと思ったくらいですが、
そんな時間があるはずもなく・・・コ●ンとか読んで何とか完成させましたw

上手く書けていれば幸いです、1つの事件としてちゃんと成立してるかぁ・・・


さて、前回は利奈の悪夢と事件の始まりで構築されていたはず。

まぁずいぶんとやかましく騒いでいたようですが、何があったんでしょうね?

今回は盗難事件についてを中心に物語を進めて行きたいと思います。

さぁ舞台の幕は上がりました! 早速続きを始めましょう!

物語の再開は騒がしい教室前から、主人公はそんな状況を目の当たりにし・・・



 

騒然とする室内、気のせいかいつもより窓の結露は多い気がする。

 

それはそうだ! いつもより大きな騒がしさから生まれる口からの息は、

集団となって集まり窓を曇らすほどの湿気となって窓に冷やされた。

 

換気は寒いと皆は拒否、しっとりとした暖かさの中で非日常は暴れ狂う。

 

 

ぎゃあぎゃあと騒がしい花組教室内、利奈は教室に入ったは良い物の立ち尽くしていた。

 

まぁボケっとその場に立っていても話が進まないのでとりあえず自分の席に向かう。

 

机の上に荷物を置いて、中身を取り出して机の中と出し終わった学生鞄は机の横・・・

ここで細かく書くまでもない普通の片付けを済ませると、とにかく周囲を確認した。

 

ただでさえジャングル並にうるさいのに、それが増すとなると意味不明だ。

 

響くわざとらしい笑い声に鼓膜は嫌気を覚え、内容への理解を阻害する。

 

事前に灰戸が、これは盗難騒ぎだと教えてくれたのは良いが

・・・騒ぎ過ぎで理解不能だ、何故こうもやかましくなってしまったのだろうか。

 

状況が読めず困っていると、そこへ海里がやってくる。

 

どうやら不真面目の集団から逃げてきたようで、若干眉間にしわがよっている。

 

清水「よぉ、朝っぱらからこんな事になってるが・・・大丈夫か利奈?」

 

上田「私は今来たばっかりだし大丈夫だよ、海里は?」

 

清水「俺が来た時もすでに、まぁ見ての通りこんな騒ぎだ。

 

情報を集めようにも冗談と本当がごちゃごちゃに混ざりすぎて、

ちゃんとして正確な情報を得る事が出来てねぇ、盗品もわからねぇしな」

 

上田「盗品がわからないって?」

 

清水「おう、何が盗まれたのかがわかってないんだよ。

まるで盗品の正体を最初から明かしてないみたいだn」

 

まだ利奈に丁寧な説明を続けていた海里だったが、

周りを注意せず興奮してはしゃぎまわっていた生徒の……

 

肘 鉄 を く ら っ た ! !

 

当然これに海里が怒らない訳が無い、何せ骨がぶつかるような固い音がしたから。

 

何事も無かったかのように首の骨を鳴らしたが・・・あぁ、これは怒ってる。

 

上田「え!? なんかすごい音したけど大丈夫?」

 

清水「・・・利奈、ちょっと下がっててな?」

 

利奈には優しげに微笑んでいるが、その雰囲気は氷のように冷ややか。

 

巻き込まないように利奈を自分の後ろにやると、火でも付いたかのように怒鳴った!

 

 

清水「てめえら!! いいかげんにしやがれやああああああああああ!!」

「そうだぞ! 清水君の言うとおりだ!」

 

 

清水「・・・は?」

 

上田「あっ先生、おはようございます」

 

海里がクラス全体に喝を入れようと怒鳴りを入れたが、

直後に教室の後ろの扉を強めに開けて若い男の先生が入ってきた。

 

あぁ~~あ、これは花組のクラス担任に上手いこと利用されたようだ。

 

「朝っぱらから騒がしくして、他のクラスの子から連絡が来たぞ!」

 

どうやら野次馬の内の1人が余計な仕事をしたようで、

悪い生徒も悪くない生徒も席に座らされ、説教大会の予告を告げられた。

 

「君たちも自分のクラスにに戻りなさい! もうすぐ朝の会が始まるぞ!」

 

いやまだ時間があるのだが、何分前行動とは学校ではよくある約束事。

 

結局誰の肘鉄かわからないままの海里はかなり不機嫌だが、

流石に自分の担任には逆らえない。 大人しく戻る事を選択する。

 

清水「仕方ねぇな・・・戻ろうぜ、利奈」

 

上田「う、うん」

 

担任に口答えする不真面目な強者もいるが、そこまで悪ではないらしい。

 

海里の怪我気になるが、今は自分の席に戻るしかないらしい。

 

利奈自身は全く関係ないが、担任の怒りながらもためになる話を静かに聞いた。

 

怒り散らしてるだけでないその説教が教師のすごさを物語るだろう、

そのコミュニケーション能力は尊敬すべき、ある意味利奈の目指す所。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

清水「ったくひでぇよな!?

結局誰がぶつかってきたんだかわからねぇんだぜ!?」

 

中野「ホントだよ! 久々に騒ぐような雰囲気だからってひどいよ!!」

 

昼休み、ほとんど水と化した氷嚢を青タンにあてがって海里は怒り散らした。

 

それは確かにひどいと蹴太がうなづく、彼も流れ弾を喰らったらしい。

 

なんというアンラッキー、蹴太は頭を蹴られる他様々な被害があったようで・・・

 

 

橋谷「あ、ありがとうございます。 守って下さって助かりました」

 

篠田「そんな! お礼はいいよ、あたし達の会話に巻き込んだだけじゃない」

 

一方女子のグループ、俐樹が立ち上がって礼をしたのを絵莉が座らせた。

 

誰が何を話しているかもわからないあの状況、それは行動面も危険にさらされる。

 

それは俐樹の危険だってあり得る、だから絵莉は行動に出た。

 

人柄の良い彼女は友人も、もちろん味方も多い。

 

彼ら彼女らに手伝いを求め、俐樹を中心にある程度の小さな人の輪を作っていたのだ。

 

ならば海里もそこから情報を得られるだろうと思いがちだが・・・そんな都合良く行かない。

 

何故か? 盗まれた当事者は伝えるのに必死だったからだ。

 

それをネタに受け取った不真面目が騒いだ為・・・

結局の所、真相は埋もれてしまったという訳。

 

 

上田「芹香、大丈夫? なんだか顔色が青いけど」

 

月村「・・・ただの、寝不足よ。 そんなに気にする話じゃないわ」

 

いや、魔法使いの体というのは寝不足になりにくいはずなのだが・・・

 

睡眠が必要ではないという事にはならないが、その必要になる時間は少ない。

 

不眠くらいじゃないと睡眠関連でおかしくはならないが・・・

 

まさか 一 睡 も していない?

 

上田「ただの寝不足には見えないんだけど・・・少し寝た方が良いんじゃない?」

 

月村「そうさせてもらうわ、少し寝させてちょうだい」

 

弱々しい声でそう言うと、芹香は筆箱を枕にして眠ってしまった。

 

適当な場所に置かれた外された芹香のメガネ、利奈はメガネケースにしまう。

 

何があったのだろうと気になる所だが、当の本人は夢の中。

 

 

中野「もう! 結局どんな話だったんだろうね、盗難騒ぎ」

 

清水「・・・なんか仕組まれたような気がしてならないな、わざとらし過ぎる」

 

中野「どっちにしろひどい目に遭ったのには変わりないね!」

 

清水「まぁ中野がそこまでそこまでされるのも無理はないか、

しっかし情報が取れないとなったか、困ったな・・・教室に戻って収集するか?」

 

海里が情報収集を企むちょうどその時、この誰にも使われていない理科室。

 

2回程の軽いノックが鳴った、出迎えたのは芹香を見届けた利奈。

 

上田「はい、どちらさまで・・・あれ?」

 

そこにいたのは2人の生徒の姿だった、女子生徒と男子生徒。

 

前にいた気の強そうな女子生徒は見知らぬ者だったが、

後ろにいた落ち着きのない男子生徒は見覚えがあった。

 

上田「えっと……足沢さん? 確か、先日蜜毒の魔女の時に飛んだ人」

 

どうやら合っていたらしく、男子生徒……大翔は、

うずうずと落ち着きのない状態から強めのガッツポーズをした。

 

足沢「ほら見ろ! 覚えてるって言ったろ? そうだと思ったんだよ」

 

そう言って、強めに前にいた女子生徒の肩をつかんだ。 落とすようにガッと。

 

上田「・・・はい?」

 

足沢「あぁ賭だよ 賭 け ! 上田さんが俺のこと覚えてるかのね。

まぁ結果俺が勝ったというわけになるのさ!」

 

自慢げに自画自賛を行おうとした彼だったが、

急にどこかを痛がりだしてしゃがんでしまった。

 

なにやら、すねの辺りを押さえている・・・

 

あぁどうやら前の女子生徒がかかとで蹴ったらしい。

 

元々《ハイテンション》な彼女は気持ちを落ち着けると、利奈に話し始めた。

 

?「そんな賭した覚えないっての!! ごめんね、今のこいつの大嘘だから」

 

足沢「でも俺の方が合っt「乗るって言ってないでしょ!?」・・・うぇい」

 

上田「ま、まぁ中に入って下さい。 ここだと寒いと思いますし」

 

 

寒い中扉を開けっ放しで話すのも寒いので、とりあえず全員中に入った。

 

空いた適当な席に座る、何の話なのか海里も呼び出された。

 

ここ最近での話題となると、朝にあった『盗難騒ぎ』だろうか。

 

清水「俺を呼び出してまで話をするって事は、それなりに重要な話って解釈で良いんだな?」

 

足沢「じゃなかったらこの理科室以外は全部寒いようなボロ校舎には来ねぇよ」

 

?「ボロ校舎じゃない旧校舎! 後貧乏揺すりしない!」

足沢「それとこれとは別だろオイ!?」

 

清水「……そろそろ本題に入らんとキリがないんだが」

 

?「えっ? あ、ごめんいつもこうなるんだ!

上田さんも、長々と待たせちゃってごめんね」

 

上田「いえ、そんなに長くなかったので大丈夫ですよ」

 

 

話をするとはいえ、面識の少ない者同士まずは自己紹介といこうか。

 

利奈は控えめ、海里はおなじみ。 2人の自己紹介はそんな感じ。

 

2人ともそれなりに名が知れているようで、詳しく紹介しなくとも伝わったらしい。

 

 

足沢「俺は足沢(たるさわ)大翔(ひろと)! サッカー部所属で現役バリバリ、魔法使いと両立出来てるぜ多分」

 

?「出来てないでしょ? そっちに集中させる為にチームの使ってるじゃない!」

 

足沢「この状況下でも容赦無いなお前!? この前のグリーフシードの件は悪かったって!」

 

清水「大翔の活躍は知ってるぜ、その分しっかり活躍してるみたいだな」

 

上田「活躍? えっと、一度地域の大会で優勝したんでしたっけ」

 

足沢「知ってたか、もちろん頑張ってるぜ! チームには世話になってるな」

 

落ち着きのない彼の言っていることは本当で、学校には優勝の盾が展示されている。

 

 

研鳴「研鳴(となり)紗良(さら)! 部活は入ってなくて、趣味で振り付けをしてる!」

 

清水「魔法使いとしてはチーム『ゲマニスト』のリーダーを務めてるんだったな」

 

研鳴「あれ? 以外! 結構な弱小チームだったのに、やっぱり情報屋は知ってるんだね」

足沢「自分で弱小って言っちまったよこのリーダー・・・あ、俺がサブリーダーな」

 

上田「振り付けというと、ダンスと言うことですか?」

 

研鳴「ジャンルなんてない独学だけどね、将来動画投稿したいと思ってるよ!」

 

足沢「もう出来るんじゃないか? ここ最近の伸びが異常だもんな紗良」

 

研鳴「・・・そうかな? まぁ、もう少し様子を見ようと思っているよ!」

 

 

チーム『ゲマニスト』、研鳴紗良がリーダーを務める魔法使いの弱小チーム。

 

構成メンバーは5人で男女比率は紅一点、人間関係等も安定している。

 

ゲマニストは『ゲーム』と『-ist(専門家)』を足して作られた俗語らしい。

 

 

一通り互いの事がわかったところで、いよいよ本題に入る事になった。

 

芹香や蹴太も一応耳を傾けるが、絵莉は相変わらずと言った様子だが。

 

俐樹? 彼女はぼんやりとした全体像を優しげに見守っている。

 

上田「えっ、『盗難騒ぎ』の被害者は『ゲマニスト』の人達だったんですか!?」

 

研鳴「私と大翔を除いたメンバーだけどね! とんっでもない物盗まれたの!!」

 

清水「除くとなると、被害者は3人って事になるな」

 

上田「少なくとも3つかな・・・ねぇ、ところで何を盗まれたの?」

 

利奈がそれを聞くと、何故か紗良と大翔は苦い顔をしてしまった。

 

言いずらそうなのもあるが、何か言葉が詰まるような様子である。

 

そんなに盗まれた品が『とんでもない物』だったのだろうか?

 

上田「・・・あ、あれ? 私、何かまずい事でも言いました?」

 

研鳴「全然そんな事無いよ! ただ、ちょっと・・・言いづらくてね」

 

清水「何だよまどろっこしい、笑ったりバカにしたりしねぇから言ってみろよ」

 

足沢「まぁここのチームの情報網には信用性あるからな・・・

もう言っちまおうぜ紗良、だからわざわざここまで来たんだろ」

 

しばらく紗良は悩むような様子を見せたが、決意したかのように頷いた。

 

研鳴「よし言っちゃおう! その盗まれた物って言うのはね、・・・なの」

 

だが決意にはあまりにも早すぎたらしく・・・後半、声が急激に小さくなってしまう。

 

清水「途中小さくて聞こえなかったぞ、もう1回言ってみろよ」

 

 

研鳴「だから! ゲ ー ム 機 ! 盗品はゲーム機なの!!」

 

 

ようは没収確実の品、これには校則に敏感な利奈も大きな反応は免れない。

 

上田「ゲーム機!? 学校にゲーム機持ってきていたんですか!?」

 

足沢「ぱっ、パソコン部の一環だぞ!? パソコン部の・・・」

 

悪い事をしていたのはわかっていたらしく、大翔も強くは言えず苦笑いだ。

 

清水「それくらいにしてやれ利奈、どちらにしろ盗難の方が許せん」

 

上田「あ・・・ごめんなさい、ちょっとビックリしちゃって」

 

研鳴「いいよいいよ、ゲーム機を学校に持ってくることも悪い事だし」

 

清水「なるほどな? それで教室では『何が盗まれたか』が聞けなかったのか」

 

足沢「ごまかして言おうにもあの騒ぎじゃうるさくて伝わらなくてな・・・」

 

 

話をまとめるに、盗まれた品数は3つでその内容は『ゲーム機』であるらしい。

 

普段はそれぞれケースに入っていて、開けないとゲーム機だとわからないんだとか。

 

まぁ放課後に暗室カーテンをかけてパソコン室で堂々と3人はゲームしてたので、

そのカーテンの隙間から誰かしら除いていた可能性は否めないんだとか。

 

パソコン室の鍵はリストバンド付きで、紗良がしっかり管理をしていた。

 

鍵を盗まれた形跡も一切なく、ようは盗難は()()で行われたとの事。

 

 

上田「ようは密室殺人事件じゃなくて『密室盗難事件』って事ですか」

 

研鳴「へぇ、上手い事言うじゃない! ようはそういう事よ!」

 

清水「魔法が使われた可能性もあるって訳か、それでここに来たのか。

・・・いいぜ、放課後パソコン室でどんな魔法が使われたか見てやるよ」

 

足沢「本当か!? ってか海里そんな事出来たんだな」

 

清水「探索関係は得意分野だからな、情報集めは出来る方だぜ」

 

じゃなかったら情報屋を名乗れる程にはならないだろうというツッコミはどこへやら。

 

 

さて、というわけで放課後にリュミエールは事件調査を行う事になった。

 

芹香と蹴太は塾の関係、絵莉はクインテット、俐樹は病院で参加は出来ないらしい。

 

だが、絵莉は盗品を明かさない方向でクインテットでも調査の手伝いをするのだとか。

 

チームの掛け持ちはさぞかし忙しいだろうに・・・絵莉は絵莉なりに頑張っている。

 

まとまった話をリュミエール間でも情報伝達をしたらなら、

今日の昼休みの終わりを告げるチャイムがちょうど鳴った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

午後の授業は特筆する要素も無く、平和で平凡に過ぎ去っていった。

 

現在4人はパソコン室、パソコン部の活動に部外者がお邪魔します。

 

迎えてくれたのは紗良だった、確かに腕には古いリストバンドが付いている。

 

細めの鎖につながれた品・・・ニセモノと入れ替えるのも難しそうだ。

 

中の様子はというと、暗室カーテンをかけてないせいか明るい印象。

 

まぁ、パソコンに向かう3人の男子生徒の周辺空気はなんだか暗いが。

 

見た様子、手分けして発表用のスライドを作っているらしい。

 

 

研鳴「いらっしゃ~~い! わざわざ来てもらって悪いね!」

 

?「静かにしろよ紗良!! 久々の客とはいえやかましいぞ!!」

 

?(2)「そういう菖蒲君もそれなりに騒がしいけどね、声が大きいし」

 

?「……え、やかましかったか? そんなでかくしたつもりは無かったんだが」

 

?(3)「まぁどっちもどっちだけどな、菖蒲は声が大きいが」

但木「お前ら! 俺が声でかいの強調しすぎじゃねぇか!?」

 

研鳴「はい、作業に集中する! みんな手が止まってるよ!」

 

上田「・・・私達が来ても良かったのかなぁ」

 

清水「大丈夫だ利奈、この様子だと『喧嘩するほど仲が良い』ってやつだろ」

 

上田「う、うん」

 

利奈は唐突に始まったコントに驚いていたが、海里は利奈を安心させた。

 

こういうなれ合いも人間関係だは存在するのだ、利奈はまた1つ学習したらしい。

 

 

研鳴「紹介するよ! えっと、一番端っこで作業してるのが菖蒲君!」

 

但木「俺は但木(たたき)菖蒲(あやめ)な!? 普通紹介するんだったらフルネームだろ!!」

 

やかましい彼は《根性・大きい声》が取り柄、使う魔法は太鼓など和風中心。

 

 

研鳴「えぇ~~どっちでも良いじゃん! 3人の中で一番髪が短い短髪君が努務君!」

 

曲本「まぁそうカリカリすんな菖蒲、紗良の紹介通り俺が曲本(まかもと)努務(つとむ)だ」

 

比較的落ち着いた様子の彼はチーム1番の《仲間思い》、使う魔法は船関連が多い。

 

 

研鳴「今言った努務の隣にいるメガネの子が操太郎君! 一番パソコンの扱いが上手いんだ!」

 

切通「一番かどうかは知らないけど切通(きりがよい)操太郎(そうたろう)は合ってる、部費の管理は僕担当」

 

控えめな印象の彼は文字通りの《引っ込み思案》、使う魔法は機械等特にゲーム関連だ。

 

 

紗良が部員の紹介を終える頃・・・ふと、菖蒲は利奈の事が気になった。

 

但木「上田さ・・・違うな、その様子だと利奈って呼んだ方が良さそうか」

 

上田「あ、はい! 利奈で大丈夫です、どうしました?」

 

但木「いや、俺の気のせいか・・・最近、俺とどこかで会ってないか?」

 

上田「え? 特に会っては・・・あ!」

 

確かに()()()()()()初対面だが、利奈と彼は確かに会っている。

 

思い出すのは数日前の出来事、それは居場所の魔女と戦う前の話。

 

何故、太鼓の魔法で思いつかなかったのだろうか? 彼は膜鳴の魔男だった。

 

 

上田「この前孵化してた・・・膜鳴の魔男、但木さんだったんですね」

 

 

それを聞いた紗良と努務は驚いたような反応を見せた、操太郎はわからない様子。

 

海里は驚きもしなかった、むしろ相変わらずな活躍に関心をしている。

 

利奈の活躍は暗く人目の少ない夜にもあるらしい、彼女はどこまで伸びるのやら。

 

切通「え、何? 何の話なの、菖蒲君って魔男化してたの!?」

 

曲本「そういや操太郎はあの場にいなかったんだよな、知らないのも当然か」

 

研鳴「絶望しきった経験はあまり広めるような話じゃないもんね・・・

ごめんね操太郎君、言うタイミング逃しちゃってたんだ」

 

但木「まぁ魔男になったって言っても、ただの魔力切れだけどな! 気にすんな!」

 

にへらと笑って彼はそう告げたが、それが孵化であることには変わりない。

 

切通「・・・肝心の菖蒲君が気にしていないわけないと思うんだけど」

 

但木「その・・・なんだ? 心配かけて悪かったな、みんな!」

 

曲本「ったく、次は気を付けろよ? 必殺魔法連続でぶっかますなんてさ!」

 

研鳴「でも菖蒲君なりに気を使ってくれたんでしょ?

うちのチームのグリーフシードをあまり使わないようにってさ」

 

但木「・・・・・・」

 

頬を若干赤くして菖蒲はそっぽを向いたが、後に利奈の方を見た。

 

但木「とっ、とにかくありがとうな! 俺を助けてくれてさ!!」

 

恥ずかしげな感情を吹き飛ばす勢いで菖蒲はそう怒鳴りに近い形で言った。

いや叫んだ? どちらにしろ、今の声は場の空気を明るくするのには十分だったらしい。

 

上田「お役に立てたようで嬉しいです、元に戻れてよかったですね」

 

お礼を言った菖蒲に、利奈も優しげに微笑んだ。

 

 

清水「それじゃ、始めるぜ」

 

作業片手に見守る被害者3人と依頼者の内の1人、そして利奈が見守る中、

海里は青のコンパス片手にパソコン室の中を見て回った。

 

無論、パソコン室の窓と、出入口の扉についた窓には暗室カーテンをかけてある。

 

魔力の光を淡く放ちながら、コンパスの針はくるくると回る・・・

 

清水「・・・なるほど? やっぱり普通の盗難じゃなかったみたいだな」

 

ふと海里がそう言って笑う、何か面白いことでもわかったのだろうか?

 

上田「海里、何か分かったの?」

 

清水「あぁ魔力の痕跡がいくつか見つかったぜ、それもおかしなルートでな」

 

上田「ルート・・・? 使った経路ってこと?」

 

清水「そういうことだな・・・おっと、これで全部か」

 

しばらくして、コンパスの光はおさまった。 どうやら、分析し終わったようだ。

 

清水「おーーい! 今から説明するぞ、長くなるが大丈夫か?」

 

但木「全然いいぜ、どうせアレもないし今日のところは暇だしな」

 

曲本「お前のセーブデータって95%だったもんな、そりゃ悔やまれるわ」

 

切通「構わないよ、作業しながらでもいいならだけど」

 

研鳴「とりあえず利奈ちゃんは座りなよ、立ちっぱなしは辛いでしょ?」

 

上田「あ、はい。 ありがとうございます」

 

 

さて、利奈が着席したのなら海里の分析結果の説明が始まった。

 

聞くところこれは明らかに魔法使いによる犯行・・・どんな魔法が使われたのだろうか?

 

とにかく悪事は暴くべき! 盗まれた品、3台のゲーム機を犯人から取り返せ!!

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「そうなんですか? ・・・大丈夫でしょうか」

 

 

 

軽沢「黒猫はきまぐれ、今はそうじゃないけど黒猫の姿の方がなにかと便利なんだよね」

 

 

 

清水「なぁ、お前いったいどんな魔法を使っているんだ?」

 

 

 

「・・・そうかもな、若干お喋りをしすぎてしまったようだ」

 

 

 

〜終……(24)明かさぬ盗品と校則違反〜

〜次……(25)通れぬ経路と踊る身〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





何とか書ききったぞ・・・w 次回はもう少し情報を開示するとしますか。

え? 登場人物が増えすぎじゃないかって? えぇ、多いですね今回(白目

これでも『花組』は全部出していないっていうから大変!
1クラス単位舐めてました、ホントクラスを受け持つ学校の先生方すごいですわ。

多すぎてわかりずらいと思うのでちょっと1チーム描いてみました。
それなりにどんなのかわかると思うので、どうぞご参考にしてください。


【挿絵表示】

右上(曲本 努務)・・・優しく、基本表情は柔らか。 魂の色は金茶色。
右下(足沢 大翔)・・・爽やかなサッカー大好き少年。 魂の色は鶸色。
左上(但木 菖蒲)・・・殴りたい、このドヤ顔。 魂の色は菖蒲色。
左下(切通操太郎)・・・基本大人しい子で頭の回転が速い。 魂の色は錆鼠色。
中央(研鳴 紗良)・・・髪の毛にポニーテール癖。 魂の色は若草色。

『ゲマニスト:在籍人数5』→リーダーは紗良、サブリーダーは大翔。


ちょっと雑談でも挟みますか、今回は『絵』についてにでもしましょう。

現状かすってもいないですが、私の目標は『劇団イヌカレー』様です!

現実のようで非現実な世界観・・・あれが自分で作り出せたらなと憧れています。

でもなかなか上手くいかず・・・いっそ貼り絵でもした方が良いのかなと考え中。
それやるとしたら今度は素材集めに金と時間がかかるので自粛^q^

結局1から手書きという結果になってしまってますね、あの世界とは程遠い。

参考といえばほとんどが検索画像ですね、あと自分で取った写真を少し。
順番的にはキャラクターだけ描いて、背景は行き当たりばったりでw

もう少し磨きたいな・・・目標はpi●ivですね、いつか投稿したいものですよ。


さて、今回はこの辺にしますか。 次回は長くなる事をここで予告しておきます。

なんとか15000字以内に抑えることが出来ましたが、やっぱり長いので要注意。

書くも描くも計画的に、程々に。 それでは、また次回。


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(25)通れぬ経路と踊る身

試行錯誤しながら執筆をしていたら・・・い つ の ま に か 深 夜 ^q^

はい、こんばんは。 眠気で色々とオカシイハピナです。 眠い・・・

本当は昨日投稿したかったのですが、間に合わなかったonz

ここのところ推理展開を書いているのですが、これがアホみたいに難しい。

もはや書かなきゃ良かったと思う始末・・・コ○ン何冊読んだっけ・・・

『一週間を過ぎて』とかそんなレベルじゃないですね、申し訳ない。

とはいえ手を抜くわけにもいかない、その辺のバランス取りながら書きますハイ。


さてと、前回は今回が長くなると言いましたが長いです本当に;q;

中途半端なところで切ってしまいましたが、今回はそこからです。

様は海里の分析結果、一体どんな結果になったのでしょうか?

肘鉄に担任の説教と色々とありましたが・・・まぁ重要なのはここでしょう。

さてt(ry 物語はそれなりに暖房の効いたパソコン室から再開しましょう。

舞台の幕は再度・・・この明かりの少ない暗がりの中、上がります。



『密室盗難事件』・・・それは最近の花組を揺るがす事件だ、学校では起こるべきでない出来事。

 

判明した犯人はバレたら確実に成績が下がるだろう、まぁそんなの当然の罪に能いするが。

 

とにかく今は被害者の為に盗品を取り返したい、そのための海里を呼んでの調査(分析)だ。

 

 

清水「魔法が使われた痕跡を辿ってみたんだが、範囲は意外と狭かったぞ」

 

研鳴「え、狭かったって?」

 

上田「あんまり多く見つからなかったって事かな」

 

清水「それか前にも言った『形のない魔法』な可能性もあるな」

 

切通「その前にどの当たりに魔法の痕跡があったかを僕は聞きたいね」

 

ただ1人立って説明をする海里、今度は指さしたりして細かな説明に入る。

 

 

『第三椛学園』もちろん、この中学校にもパソコン室というのは存在する。

 

覚えているだろうか? 主に白で構成された機械だらけの静かな教室。

 

得意な奴は楽しんで、苦手な奴は苦労した。 地獄はブルースクリーン?

 

時には先生に隠れて授業と関係のないページを覗いた事もあっただろう。

まぁ、そんな不正は授業担当の教師のパソコンから全て丸見えなのだが。

 

この中学校のパソコン室も、これと言った特徴的な部分は無い。

 

あるとすれば、教室の扉の上に空気を通す為の小さな窓があるくらいか。

 

 

・・・そう『窓』、この事件はこの窓が大きなポイントとなってくる。

 

 

清水「扉の上の窓に()()()()()()()()()()()()があったぜ。

どうやったかわからねぇが、どうやらここから何かしらしてたんだろうな」

 

研鳴「そういえば密室とはいえ、その窓は確認していなかったな」

 

曲本「でもその窓、人が通るには小さくないか?」

 

研鳴「うん、だからこの窓に関しては無視してたの」

 

確かに、その縦幅はハガキ2枚分ほど・・・人がくぐるのには無理がある。

 

この窓があったとしても、この教室は密室と言い切れるだろう。

 

使用不可の逃走経路・・・まさに()()()()()というのにふさわしい。

 

 

但木「鍵を盗んで犯行に及んだって事か? 一般人と同様に普通で」

 

まず上がるのは通常の手口、無難にいけばこの方法だろう。

 

研鳴「それは無いよ! パソコン室の鍵は普段職員室に厳重に保管されてるし、

それ以外の時は先生か私が肌身離さずこうして付けているもん!」

 

そう言って紗良は自らの腕を前にして菖蒲に見せてきた。

 

彼女の腕には古びたリストバンド付きの鍵が付いている。

 

通した袖の先を広げていて、それが長く装備していたことの証明になる。

 

但木「・・・だよな、俺らと違ってお前が物を無くすと思えないしな」

 

上田「一般人がやったのだとしたら、魔法の痕跡の説明が付きませんね」

 

清水「少なくとも花組の誰かってのは間違いねぇだろうな」

 

 

曲本「魔法で操作して窓を通したとかは? サイコキネシスみたいに」

 

サイコキネシス、つまり念力の魔法となると・・・思い浮かんでしまうのは1人の魔法少年。

 

但木「となると・・・犯人は中野蹴太か!?」

上田「蹴太さんは犯人じゃないですよ!!」

 

清水「あいつのアリバイは俺と月村さんが証明出来るぞ。

なにせ、その日は暗くなるまで()()()()()に励んでいたからな」

 

芹香と蹴太の通う塾は第三椛学園とは距離がある、往復するにも無理があるだろう。

 

切通「それに、その人が犯人だとしたら魔法の痕跡はどう説明するの? 努務」

 

曲本「……説明がつかねぇな、その痕跡は中野蹴太が犯人じゃないって証拠でもあるのか」

 

 

切通「単純に魔法を使って鍵を開け閉めしたんじゃないの?

それだったら、鍵が無くてもパソコン室に出入りが出来る」

 

鍵が無いとなると、思いつくのは魔法使い独特の手段だ。

 

魔法による解錠……これなら、鍵が無くとも侵入できる。

 

ところが、一番可能性の高いこの手口も現場が否定を掲げる。

 

砥鳴「鍵穴に魔法か……あれ、鍵穴に魔法の痕跡なんてあったっけ?」

 

上田「えっと……無かったはずだよ、あったのは窓についてた痕跡だけ」

 

切通「じゃあ魔法で『偽の鍵』を作り出した可能性は?

じゃなきゃ魔法を鍵穴全体に流し込んで、硬化させて動かせば」

 

清水「俺の知る限りで偽の鍵を作れそうな魔法を持つ奴はいない。

それに、魔法を鍵穴に流し込んだら確実に痕跡が残るだろ」

 

切通「魔法を使わず扉を外して教室内に入った、これならどう?」

 

但木「その手があったか! 確かに扉を外しちまえば

魔法の痕跡を残さずとも密室のまま盗みを働けるな!」

 

多々こねる操太郎の推理、かなり合理的な所まできたようだが……

 

残念、やっぱりこれでも矛盾が生まれてしまう。

 

清水「それだと窓についた魔法の痕跡の説明がつかなくないか?」

 

曲本「よく考えたらパソコン室の扉って()()()()()だよな……

いちいちネジやら金具やら外してる間に、誰かに見つかっちまう」

 

切通「・・・これだけ考えを上げても、正解が出てこないんだね」

 

 

それからというものの、一同の頭を回転させ色々と考えてみたが……

やはり、パズルのピースのようにピタリとはまる案が見つからない。

 

上田「……考えれば考えるほどかわからなくなるね」

 

清水「『密室盗難事件』・・・この分だと、相当上手くやってると思うぜ。

あまりにも情報が少なすぎる、こういう事に慣れてるとも言えるな」

 

但木「くっそ! 一体誰が盗みなんてやったんだよ!!」

 

曲本「落ち着け菖蒲、ここで怒っても仕方ないだろ」

 

切通「でも……菖蒲君の気持ち、すごくわかるよ。 元々安い物じゃないし、不安にもなる」

 

解決の糸口は見つからない、現状に3人はため息をつく。

 

チーム名が『ゲマニスト』という程、例えればゲームが命なのだろう。

依存するのは良くない事だが、手放す段取りが悪すぎた。

 

犯人の狙いは盗んだゲームで遊ぶこと? それとも売り払ってお金に?

 

幸い、これだけ騒いでいればすぐには盗品をどうにかしないだろうというのが見解だが、

自分の大切な物がどんな状況に置かれているか不明というのは不安しか生み出さない。

 

彼らにしたらソウルジェムの次に大事なモノ、肝心のソウルジェムにも不安からか穢れが・・・

 

 

研鳴「こら! 暗くなるな! もう、無くなったって確定じゃないんだから!!」

 

 

沸き出た3つの不安をなぎ倒したのはゲマニストのリーダーだった。

 

右手で努務、左手で菖蒲の背中を景気付けに広げた手で叩いた!

 

痛そうにする2人と喝を入れた1人、3人を見た操太郎の表情は和らいだ。

 

切通「2人とも痛がってるよ紗良、もう少し手加減してあげたら?」

 

研鳴「え? 普通に叩いただけだけど」

「「お前の 普 通 が 痛ぇんだよ!!」」

 

研鳴「えぇ~~? 男なんだからその位しっかりしなさいよ!」

 

意地悪そうな笑みの裏、3人が不安を忘れてくれた事を紗良は喜んでいた。

 

実力的には『ゲマニスト』というチームは弱小かもしれないが・・・

 

彼らと彼女にはそれを上回る友情があるのだろう、お互いを補う固い絆が。

 

 

・・・まぁ、それもおそらく時間の問題だ。 盗まれたという事実は変わらない。

 

 

だからこそ、求められるのは一刻も早い『手口解明』と『犯人発見』だ。

 

上田「早く見つけなきゃね、盗まれた物と盗んだ犯人」

 

清水「・・・情報屋と言っても、わかってるようでわかってない部分は多々あったんだな」

 

上田「それでもかなり助かった部分あったよ? 分析が出来るのも海里くらいだしさ!」

 

利奈はいつもの笑顔を海里に向けた、優しげな瞳に海里の顔が写る。

 

十分役に立ったじゃない! それが彼女のメッセージ。

 

海里が小さな1つの鼓動と共に出てきそうな、赤面を押さえるのに必死になるのには十分過ぎた。

 

上田「?、どうしたの? 海里」

 

清水「・・・なっ、なんでもねぇよ!」

 

そんな海里の本心に利奈が気がつくのは、遠くはないもう少し後の話。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

帰り際、今日も特に変化なく変わらない暗がりの帰路を利奈は歩いた。

 

先程と変わったといえば、バックの中にハチべぇがいることくらいか。

 

ふといなくなり、ふと現れる。 よくわからない曖昧な利奈の友人。

 

上田「・・・って事があったんだよ、ひどい話だと思わない?」

 

ハチべぇ「僕にはよくわからない話だね、そもそもそういう状況に合わないからね」

 

上田「合ったことが無いからわからないかぁ・・・なんか幸せだね、それ」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ、君の言うことはたまに理解出来ない」

 

上田「わからなくなるほど合ってないってこと! ハチべぇにはちょっと難しいか」

ハチべぇ「身も蓋もないね」

 

妙に噛み合う双方、ずれているようで利奈とハチべぇは合っている。

 

ハチべぇがシステムを池宮で実行してからというものの、

一番多く共にいる魔法使いは利奈だと言っても過言ではないだろう。

 

彼女に何か感じている所があるのだろうか? 他にはない可能性を?

 

まぁ、そうでなかったとしても互いの信頼は高いからだと言えるのだが。

 

 

無意識に帰路を歩いていた利奈だったが、暗闇の中で指輪が光り出した。

 

点滅、ここからそう遠くは無い場所で誰かが孵化してしまったのだろう。

 

間隔からして近い用だが・・・この()()()で? 人が多いこの近くで?

 

ハチべぇ「どうやらどこかに魔女か魔男が現れたようだね、利奈」

 

上田「急ごうハチべぇ! なんか、嫌な予感がするの」

 

そう言って利奈は街灯の灯りに照らされた夜道を走り出して行った。

 

清水「ちょ、おい!? どうした・・・って近くに魔女か魔男が出たのか!」

 

なにやら考え込んでいた様子の海里を追い抜いて、ひたすら現場に急ぐ。

 

 

指輪の導くままに進んだのなら、そこに魔女のエンブレムが見つかった。

 

嫌な予感が的中し大通りの中で孵化してしまっていたようだが・・・

店の横の路地裏に出来ていたのが不幸中の幸いと言ったところだろう。

 

これなら魔法使いが路地裏の入口に結界を貼るなりして対策が出来る。

 

周りを見るなら大人や子供、老若男女が異常を知らず日常のままに行動。

 

暗闇の路地裏に人が入らない上に魔法使いが結界を張るとなれば、

滅多な事が無い限り一般人は入り込まないだろうが・・・それも時間の問題だろう。

 

既に結界が張ってあったようで、一般人でこの光る異様なエンブレムに目を向ける者はいない。

 

意識を向けることが出来るのは魔法使いだけ・・・まぁ、レアケースもあるが今はこれだけ。

 

オレンジにバレエシューズを突き刺したようなエンブレム、傍らで脱け殻が眠る。

 

こんな路地裏で中学生が眠っていたら確実に誰かの目に付くだろうが・・・

これも結界の効果だろうか? かけられたブレザーの背には複雑な魔方陣。

 

 

清水「とにかく加勢に入ろうぜ! どんな魔女にしろ、戦力が多いに越したことはねぇ。

もしグリーフシードをどうするかって話になったら俺達側が譲ればいい」

 

そう言って彼は自らの指輪をソウルジェムに戻した、淡い光を放つ青色の魂。

 

清水「準備はいいか? 利奈」

 

海里の問いかけに、利奈も指輪をソウルジェムに戻して両手で握りしめた。

 

上田「いつでも行けるよ!」

 

変わる目つき、彼女は魔法使いの事となると人が変わるタイプなのだろう。

 

大人しげな雰囲気だった面影はもはや皆無、このときばかりは奥底に眠る。

 

明る気に返事を返す利奈、海里はその決意を受け止めた。

 

清水「よっしゃ、早いとこ魔女を救いに行こうぜ!

今回利奈はソロじゃないんだから無茶するんじゃねぇぞ!」

 

変身とほぼ同時に目の前にある魔女の結界に入っていく海里、

利奈も同様に、海里に続いて魔女の結界に入り込んだ。

 

手慣れた者、もはや変身の言葉さえ口にする必要がないと悟った。

 

ハチべぇはいつのまにやら蚊帳の外? それでも、利奈は気遣いを忘れない。

 

利奈は当然のようにハチべぇを右肩に乗せた、ハチべぇはその黄金の瞳で先を見るだけだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鼻を通るのは柑橘類の香り、まるでオレンジサイダーの中にいるような爽やかさ。

 

ピンクと水色のシャボンが当たりに漂っている、中は二酸化炭素かな?

 

天井は筒抜けで見えるのは蜜柑色の、青空ならぬ蜜柑空。

綿菓子のような質量のある雲は様々な形を明確に象っている。

 

置かれた観葉植物やソファーがその場を劇場だと理解させてくれるが、

壁のヒビから見えるつややかなグミのような物体がその異様さを思い出させてくれる。

 

例えるならば壁と床しかない劇場といった所だろう、出入口もない劇場のエントランス。

 

天井が筒抜けとなると、空を飛べれば結界の大半を構築する劇場の全貌が見えてしまうが・・・

 

その点はさすが雑魚級と言った所、壁が高くて飛ぶには大変とはいえ・・・やはりゆるい。

 

 

飛び慣れた2人が選んだのは無論『飛行』、双方早速魔法を使う。

 

 

上田「アヴィオン!」

清水「フリューゲル!」

 

 

このリーダーにこのエース(副リーダー)・・・やっぱり普通の魔法使いとは格が違う。

 

壁の高さと軽々超えて劇場全体を眺める、天井が無いために全体が丸見えだ。

 

かなり奥の方、濁ったオレンジの積乱雲がつもり進入を拒む場所があった。

 

恐らく魔女がいるのはその場所だろう、扉をくぐるという手順は飛ばせないか。

 

早速その付近に向かおうとした赤と青の魔法使いだったが、

結界全体を眺める時に最優先で向かうべき場所が見つかった。

 

・・・戦っている? 見えるのは魔力の光だ!

 

見える色は群青、羊羹、菜種油・・・どうやら戦っている魔法使いの数は3人らしい。

 

上田「あそこで誰か戦っているみたいだよ!」

 

清水「おう、魔女を救いに行く前に先に手伝いに行くか」

 

飛ぶ方向を変えて向かう先は戦いの場、加勢する為に2人はその飛ぶ早さを速めた。

 

 

一方、ちょうどその光を放ちながら戦う3人の魔法使い。

 

魔導士のような魔法少年を中心に、ロボットとバレリーノが使い魔を倒しまくる。

 

ロボットのような魔法少年の攻撃が重々しいせいか当たりづらいが、

魔導士のような魔法少年の魔法の影響で見事に当たっている。

 

?「うおぉう!? やっぱし俺の殴る蹴るじゃ遅すぎるか!?」

 

?(2)「そこまでじゃないだろう釖、相変わらず《わざとらしい》奴だな。

落ち着いて使い魔の動きを見ろ、回避率は高いが動きがワンパターンだ」

 

軽沢「しっかし単純だよねぇ? バレリーノの格好で戦ったら動きが鈍るなんてさ」

 

和出「元があの子だったからじゃないの? バレリーナだsうわっ!?」

 

軽沢「釖は相変わらずって感じだね、リーダーの魔法がなきゃ今よりダメージくらってるよ」

 

3人が蜜柑を象る使い魔と戦う中、最初から暗い顔の少年・・・数夜が言う。

 

前坂「それにしてもすまんな響夏、俺が面倒くさがりなのに面倒事に巻き込んで」

 

軽沢「リーダーと釖が飛べる魔法が無いから僕も戦ってるって話?

それを気にする前にまずはこの辺の使い魔全部片付けた方が良いんじゃない?」

 

前坂「・・・そうか、お前は《気まぐれ》だもんな。 いつ戦いに飽きるかわからん」

 

ほんの少し、数夜は笑ったような気がした。 まぁ、小さすぎてわかりずらいが。

 

軽沢「黒猫はきまぐれ・・・と言っても今はバレリーノなんだけどね、

戦いを途中で投げ出すほど意地悪じゃないから安心していいよ」

 

話はそこで終わると思われた、使い魔への蹴りと同時に1つの念話。

 

 

軽沢((だから、もう少し人の事を信用しても大丈夫だと思うよ? 数夜))

 

 

奇妙な杖での殴打と共に、彼は響夏の問いに答えた。

 

 

前坂((・・・手遅れだ、俺は来てはいけないところまで来てしまった))

 

 

悲しげにも聞こえるその解答、あまり変わることのない彼の表情から読み取れるわけもなく。

 

 

ふと数夜が今まで見ていた方と違う方向を見るなら、そこには串刺しになった使い魔がいた。

 

赤色の棍・・・これを使う魔法使いといえば、思いつくのは彼女しかいないだろう。

 

降り立つ2人の魔法使い、降り立った後も止まることなく使い魔を倒し続けた!

 

上田「やっぱり果物に近いのかな? やたら柔らかいね」

 

清水「見た感じの使い魔の種類の数は1つ、この場は難なくこなせそうだな」

 

現時点で魔法使いの数は5人、雑魚級の使い魔となれば戦いながらの会話も造作も無いことだ。

 

軽沢「お! 君に会うのは久しぶりかな? 正直ちょっとキツかったんで助かったよ」

 

上田「はい、加勢します! それでもピンチなく戦えてたようで良かったです!」

 

完全に元の見た目と違う大人のバレリーノとなって踊るように戦う響夏、

その死角を補うように利奈は持ち前の根で使い魔にとどめを刺していった。

 

おっと、響夏が蹴り逃した使い魔が利奈に迫る! 攻撃したがまだ足りない。

 

臨機応変さで使い魔を上に弾き飛ばした所、釖が別方向に跳び蹴りした!

 

和出「おぉっと!? 響夏ったらボケっとしてやんの! こんなの見逃すなよ!」

 

わざとらしく釖は煽るが、そこに悪意は全く感じられない。

 

蹴られた使い魔は壁に激突し落下、衝撃ですぐには起き上がれなかった。

 

間髪入れず、釖はその拳を振り上げた! 無論、魔法使いの拳はそれで終わるわけが無く!

 

 

和出「巨人の腕! ビッグレイトオォ!!」

 

 

唱えた呪文を発端に彼の手は魔力の光を放ち、急激な巨大化を果たした!

 

そのまま使い魔を殴り潰し1撃で仕留めた! 果汁が周辺に飛び散る。

 

手を離したのなら、潰れた蜜柑のような有様・・・あまり長く見ない方が良さそうだ。

 

上田「魔法? 手が大きくなった!」

 

軽沢「君が見たのは始めてだったかな? 釖の魔法は『巨大化』の魔法なんだよ」

 

和出「そういう響夏は『擬態』の魔法だな、ほとん()()()()()()()()使()()姿()は見てないな」

 

軽沢「黒猫はきまぐれ、今はそうじゃないけど黒猫の姿の方がなにかと便利なんだよね」

 

上田「お昼休み中に隠れてこっそりお昼寝したりですか?」

 

和出「大当たりじゃねぇか! 寝てばっかじゃなくてたまには行動もしろよな!」

軽沢「どうなるかはその時の気分次第だね」

 

上田「わっ!? 使い魔が・・・次の集まりが来ますよ!」

 

利奈が声を上げて目を向ける先、おそらく最後の使い魔の集団が迫ってきた!

 

無論、利奈は自身の武器を構えて迫る襲撃に備えるだけだ。

 

釖と響夏もその見た目を変え、臨機応変に戦いへと身を投じる。

 

和出「次は蹴りで行くか? とっとと片づけちまおうぜぇっ!!」

 

軽沢「今度はただ振り回すんじゃなくてちゃんと狙って攻撃することだね」

 

踊りながらの攻撃、雑魚級相手に3人がかりならなんのその!

 

踊る身、はじけるのは勝機の魔力と使い魔の果汁しぶき。

 

 

一方、3人をサポートする方針で後衛を務める2人の魔法少年。

 

海里はいつものように様々な道具を生成して投擲することで使い魔に追加ダメージ。

数夜は奇妙な杖を振り回し、なにやら魔法を使い魔に使用しているらしい。

 

魔法の正体が掴めない・・・いったい数夜の魔法はどんなものなのだろうか?

 

清水「なぁ、お前いったいどんな魔法を使っているんだ?」

 

前坂「・・・俺? あぁ、俺の魔法は後衛専門だよ。 攻撃はメンバーに任せてる」

清水「大雑把すぎてどんな魔法かわからねぇんだが」

 

前坂「細かい説明? ・・・面倒だな、話すと結構長いんだよ」

 

渦中と言ってもいい魔法少年・・・どんな答えを返すと思えば、その解答は案外素直だった。

 

清水「聞いた通りの≪面倒くさがり≫みてぇだなぁ・・・頼むよ、ある程度の長さでもいい」

 

前坂「・・・まぁ、これから必要になりそうだし適当に話しておくか」

 

口に出して適当と言ったぞこの子・・・どちらにしろ、答えてくれるのだから結果オーライか。

 

前坂「俺の魔法はこれといった名前は付けてないんだよな・・・強いて言うなら『防御』の魔法か?

対象の物体か生物に俺の魔法をかける事で、それから発生した攻撃を反射することが出来る」

 

なんだ、普通に説明できるじゃないか。 確かに数夜の魔法で前衛をするには厳しそうだ。

 

清水「『防御』の魔法・・・一見ダメージくらいまくっているように見えるやつも平気ってことか」

 

前坂「俺にはこのくらいの事しか出来ないし、釖がよく被弾するから」

 

と言いつつ、彼は大きめのあくびを杖を持っていない手で隠した。

 

この場でもあくびが出来るほどの余裕があるのか・・・気が強いのか抜けているのかよくわからない。

 

とにかく彼が≪面倒くさがり≫というのは間違いでないらしく、なんだかだるそうだ。

 

 

最終面、若干怖い顔で海里が数夜に言った。

 

清水「 本 当 に 『防御』の魔法なんだろうな?」

 

前坂「この期に及んで嘘をつくなんて、それこそ面倒だと思うんだけど」

 

そんな殺気を投げかけられても数夜は余裕綽々、その瞳からは嘘が読めない。

 

清水「・・・そうか、妙なこと聞いて悪かったな」

 

前坂「別にいいよ気にしてない、今は目の前の面倒事を片付けてしまおう」

 

清水「おう! 使い魔の数も残り少ねぇみたいだしな」

 

海里はそう言って笑い、気合を入れなおして魔法を継続したが・・・明らかに目が笑っていない。

 

だが疑うには要素も少なく、第一明確な物的証拠がない。

 

今は目の前のそれこそ明確な事柄に集中するしかないらしい。

 

 

和出「巨人の足! ビックレイトォ!!」

 

 

最後の1匹、魔法で巨大化したロボットのような足に潰されて果汁をぶちまけた。

 

あたりは柑橘類の香りが充満して果汁でびしょ濡れになっているが、使い魔の気配はない。

 

どうやら、この場は凌いだようだ。 一端の安全がわかると、響夏は背伸びをした。

 

軽沢「ふぅ! やっと場の状態が落ち着いたみたいだね、大変だったよ」

 

背伸びをする間、響夏の体は魔力の光を放ったかと思うと・・・

その光は響夏の身体の形状を瞬時に変化させ、1人の黒猫のような魔法少年の姿にした。

 

彼の背伸びが終わる頃、擬態の解除もちょうど終わる。

 

背伸びが擬態解除の条件ではなさそうだが、利奈はこの姿を見るのは初めてだった。

 

上田「・・・あれ? 私、軽沢さんの擬態してない変身姿を見るのは初めてかもしれないです」

 

軽沢「ん? 君は見るのは初めてだっけ?」

 

和出「そりゃあ滅多にその姿にはならないもんな! 俺だってみたの久々だぞ!!」

 

前坂「響夏は《気まぐれ》だからな、案外擬態を解くのを忘れていたりする」

 

清水「魔法の解除を忘れるとかレアケースだなおい・・・ん? お前も解除魔法を使っているのか?」

 

そう言って海里が指さす先は釖の手足、いつの間にか元の大きさに戻っている。

 

和出「俺? ・・・あぁ時間が立ったら戻るんだよ、解除魔法は無いな」

 

前坂「時間経過で戻るんだったな、その時間も計算に入れて使用している」

 

和出「そういうこと! 何気に使うまでに時間がかかったんだぜ?」

 

その言葉の後のドヤ顔、やっぱりわざとらしいがそれだけ苦労したということなのだろう。

 

 

ハチべぇ「そろそろ先に進んだ方が良いんじゃないかい?

利奈と海里以外が結界に入る前に張った結界はそんなに長持ちしない物だったはずだ」

 

前坂「・・・そうかもな、若干お喋りをしすぎてしまったようだ」

 

上田「上から見た時、そんなに複雑な構造じゃなかったから比較的楽だと思うな。

えっと、確か構造はそっち・・・の方だっけ? 結構広かったからな」

 

確かに雑魚級とはいえそれなりに結界内は広い、単純とはいえ細かく覚えるのは大変だ。

利奈は考え込んで思い出そうとしたが、そんな彼女の左肩に海里は手を置いた。

 

清水「大丈夫だ利奈、一応全体を覚えておいて正解だったな」

 

ふむ、確かに情報屋を自称するほどの記憶力・・・海里の記憶力は人より優れている。

 

軽沢「それなら、花の情報屋に従うのが一番の近道みたいだね」

 

和出「よっしゃ! そうと決まればとっとと魔女のところへ向かおうぜ!!」

 

力の入りすぎたガッツポーズが上に向かって決まったのなら、

ロボットの様な彼の機械仕掛けの鎧はガシャンと硬質な音を立てた。

 

「いつか壊れるぞ」そんな数夜の呆れ声を無視して、釖は先へと進む。

 

まぁ、後に海里に着いていくことを忘れていた彼は赤面で戻ってくることになるが。

 

 

海里の記憶を頼りに進む先、先程ので基本的にいる使い魔は全てだったのか邪魔が無い。

 

少ない割りに1匹1匹が強い・・・そういう使い魔なのだろうか?

 

そうだとしても、使い魔が()()()しかいなかったという違和感はつきまとう。

 

そんな事を考えている内に、たどり着いたのは行き止まり。

 

見た感じの質感は果物のような扉がそこにはあった、海里の記憶はどうやら正解だったようだ。

 

前坂「・・・なるほどな、伊達に情報屋を名乗っている訳じゃなさそうだ」

 

清水「当然だろ? 正しい情報と間違った情報の区別くらい付くぜ」

 

軽沢「着いたとなれは、とりあえずの作戦かまずは組まなきゃね」

 

上田「えっと、私の魔法は『奇術』・・・というか棍ですし、やっぱり前衛ですか?」

 

和出「おう! そうと決まれば俺と上田さんと響夏で突g」

前坂「とりあえず冷静にどうするかを考えてから行動しろ脳筋」

 

 

・・・とにかく、花の脳筋2号を落ち着かせてから互いの魔法の確認作業と作戦会議だ。

 

話し合いの結果は、『利奈・海里』『響夏・釖・数夜』を基本として進む事になった。

 

そうと決まれば早速行動、そろそろ時間も少なくなる。 臨機応変が特に早い響夏が扉を開く。

 

 

扉の先はまるで劇場、座席も無くやたら爽やかで広々とした空間がその先に広がっていた。

 

浮かぶ淡い2色気泡は相変わらずで、弾けたなら何かの果物の香りが鼻をくすぐる。

 

ステージを構築するのは無難な木材、俐樹がいたならそれはみかんの木だとわかるだろう。

 

清水「・・・そういうことか! だから1種類しかいなかったのか」

 

上田「え、何の話・・・もしかしてさっきの使い魔?」

 

清水「察しが良くて助かるぜ、つまりそういうことだ」

 

どういうことだろうか? 海里はステージ上で踊り狂う使い魔を見てなにかわかったようだが・・・

 

なるほど、こちらは確かに使い魔が2種類いる。 それも()()()()()()()ような見た目だ。

 

オレンジをモチーフにした使い魔、いざという時は1体のように合体し結界への侵入者を襲う。

 

 

降板の使い魔、役割は位置。

 

 

降板の使い魔、役割は移動。

 

 

演劇中も、そうでないときも、彼女らは魔女と共にプリマを引き立てるのだ。

 

 魔 女 と 共 に ? そう、この舞台での主役・・・()()()()()()()()()()

 

白鳥を象るその体、もはやバレエ独特のスカートを履くことも許されない空っぽの身体。

 

彼女自身の主張はどこかに消え去ってしまった、その願いは全てプリマに託された。

 

魔女は引き立て役に過ぎないのだ、その願いは主役がもっと輝くことにしかない。

 

 

降板の魔女、性質は脇役。

 

【挿絵表示】

 

 

 

上田「珍しいね、魔女が主役じゃないなんて。 中心にいることなく踊ってるよ」

 

軽沢「彼女の願った事はそういう願いだったねぇ……魔女になってもそれを願うか」

 

清水「彼女の願った事だと?」

 

前坂「内容までは詳しく知らん、ただそういう願いだったというのを聞いただけだ」

 

和出「なぁなぁ! そろそろ結界の時間もやばいだろ? 早く魔女を助けちまおうぜ!」

 

すると突然、待つのに飽きたのか釖が舞台上に向かい走り出してしまった!

 

相変わらずだな! そう声を出すのとほぼ同時に響夏も後に続く。

 

利奈もかなり驚いたがやはり反応は早い、2人を追いかけて彼女も追いかけて行った。

 

前坂「・・・力が強いのが良いんだけど、行動が突発的で若干苦労するんだよね」

 

清水「奇遇だな、俺も同じようなやつを思い浮かべてたわ」

 

双方脳筋を友達に持つ者、互いに共感できる苦労があったらしい。

 

 

それもさておき、魔女にいる壇上に乗り込むということは戦闘開始のきっかけと言ってもいい。

 

ごく自然の事のように2人の魔法少年はその身を変化させた、巨大な手に腕が翼。

 

赤の魔法少女がやることは1つ、棍を召喚して走りながら構えるだけ。

 

 

さぁ、速いとこ今回の魔女を救い出してその魂を解放しよう! タイムリミット(結界が切れるまで)は残りわずかだ! 

 

 

上田「ボス! ステージ!!」

 

 

壇上に上がったのなら、早速と言えるほどの速さで使い魔の内の1匹が巨大な手に潰された。

 

大きな隙・・・別の使い魔が釖に襲い掛かったが、彼の背を超えて跳んだ利奈が棍で殴り飛ばした!

 

その周囲、響夏が翼となったその腕で飛び回りながら上空に蹴り上げる。

すると、その使い魔はシンプルな青のナイフにより見た目がサボテンとなった。

 

やっぱり攻撃を多めにくらう釖、それは暗めの魔力によって守られた。

逆に傷つくのは使い魔の方だ、事実上の大振りで戦う肉盾ロボとなり前衛を導いた。

 

もちろん後衛の方にも攻撃は来たが、喧嘩硫の打撃か奇妙な杖での殴打に果汁を散らす。

 

事態は優勢、苦労することなく先へ進んだ。 今回はかなりバランスがとれているらしい。

 

気が付けば使い魔の数も残り少なく、逃げるように踊っていた魔女も追いつめられる結果となった。

 

一番奥の方には黒い白鳥をかたどった巨大な人形がおいてあるが・・・ここで数夜が助言。

 

前坂「あの人形は無視でいい、強く生まれたなら別の話になるがな」

 

なら魔女に狙いを絞っても問題ないだろう、場の方針がここで固まった。

 

 

踊る身、ただでさえ中が空洞で攻撃出来る範囲がせまいというのに、

その上バレエに似た踊りを延々と続け隙が無く当たりずらくもある。

 

それについて行けるのは利奈だけ・・・いや、いるだけ幸運と言うべきだろう。

 

3人がかりで魔女に挑む、当たる攻撃の大半が利奈の乱舞だ。

 

響夏は臨機応変! 翼だった腕もいつの間にか鞭の様な形状となり、『擬態』の魔法を駆使する。

 

一方釖は『巨大化』の魔法だ、応用が効きづらい彼は若干イラついているように見える。

 

不意に、追加攻撃を狙い飛び回っていたナイフのうちの1本に拳が当たってしまった!

 

それは巨大化させながらの攻撃だったらしく・・・

 

打ち落とされた削っていない鉛筆の長さのナイフは魔力に触れて巨大化する、

地面に落ちる頃には3倍もの大きさになってしまっていた。

 

前衛の邪魔にならないように巨大ナイフを回収した海里、流石器用というか上手い。

 

和出「げっ!? すまん!! 手違いでナイフ巨大化させちまった!」

 

清水「構わねぇ! そのまま攻撃を続けてくれ!」

 

和出「ぉ、おう! 今度そのナイフ代弁償するわ!!」

清水「大げさだなオイ!? そこまでしなくていいよ!」

 

そんな焦りの最中、完全に意識を反らしてしまっていた釖は魔女の蹴りをくらってしまった!

 

勢いで吹き飛んだようだが、何故か魔女の方が苦しんでいる印象……あぁ、彼の活躍か。

 

狙っていたといえばひどい言い方だが、これは願ってもいない不幸中の幸いならぬ不運中の幸運。

 

無論バレエを模した踊りは中断され、魔女の動きは見てもわかるほどに大きく鈍る。

 

 

攻めるなら……今!

 

 

上田「やああああぁぁぁぁっ!!」

 

 

利奈は棍をもう1本召喚し、二本流という形の本気で猛攻を開始する!

 

魔女もやられているだけではない。 何度も反撃を狙うが、響夏がそれをひたすらに邪魔した。

 

さすがに魔女の危機をかぎつけた周囲の使い魔も合体して集まってきたが、

明らかに不機嫌そうな釖が攻撃の邪魔を受付させない・・・やっぱりすねたか。

 

それでも後衛は安定して大きな変化は見せない、縁の下の力持ちってやつだ。

 

残り少ない使い魔の内の1匹を杖で殴ったのなら、数夜は大きくあくびをした。

 

確実に削られる魔女の体力・・・しばらくしたなら、ついによろめきふらつきだした。

 

 

その時利奈は確かに見た、空洞だったはずの魔女の中に現れた弱点・・・ドロリと半端に溶けた果実。

 

 

とどめを刺すのならここだろう、でなければ弱っていたとしても確実に避けられていた。

 

 

両手の棍を1つまとめたのなら、赤色の魔力を多めに込める。

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

これはある意味お約束? 魔女は最後の力を振り絞って避けようとしたらしいが、

やっと攻撃を魔女にかすらせることが出来た釖と、さらに足下を掬った響夏がそれを妨害。

 

避けきれなかったとしたのなら、結末はもはやその渾身を受けるしかない。

 

叩き込まれた魔力の刃、切り裂く度に飛び散るのは果汁。

 

果実を断つ音がする・・・この時のさわやかな香りには流石に違和感を覚えた。

 

魔女の弱点、恐らく心臓に相当する物体が崩壊したのなら、

空洞なはずの穴から・・・胸からも背からも黒い魔力が吹き出した。

 

清水「離れるぞ!!」

 

海里の声をきっかけに一同はその場から逃げ出した、若干放心していた利奈は海里が連れ出す。

 

少しは耐えられるとはいえ、この黒い魔力の噴出は魔法使いでも流石に危険だ。

 

ステージを降りて、舞台の一番奥の方へ。

 

ある程度の距離を置いたところで、5人はその結末を見届ける事にした。

 

 

そして、全てが1点に飲み込まれる。

 

果肉を散らした使い魔の死体も、奥に置かれていた黒の人形も、

ぶちまけられた果汁や果汁に至るまで、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる・・・。

 

いつしかあれだけたくさん浮遊していたシャボンも消え、気がつけば一同は路地裏にいた。

 

残されたのは、濁りなき蜜柑色のソウルジェムとみかんとバレエがモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法使いは・・・降板の魔女を救った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

和出「・・・マジで譲ってくれるのかよ、お前らどんだけ寛大で心広くて鈍欲なんだ!?」

 

軽沢「そこは『寛大』でとどめようよ、君たちやっぱり変わってるね」

 

前坂「今回のグリーフシード、譲ってくれたことを感謝する。

・・・といっても、さすがに今回分の浄化はやらせてもらうがな」

 

上田「あ、浄化してくれてありがとうございます」

 

清水「俺たちの方はチームのグリーフシードがあるから大丈夫だって言ったんだがな、

やってくれるっていうんだったらありがたくそうさせてもらうぜ」

 

救出が終わり、魔法使い達は穢れの溜まった自身の魂を浄化した。

 

海里は魔女の結界に入る前に言った通り降板のグリーフシードを譲った、利奈も海里に賛成だ。

 

海里は自分のソウルジェムと利奈のソウルジェムを浄化し終えると、数夜に渡す。

 

 

前坂「それで、ソウルジェムを戻した結果はどうだ?」

 

和出「それが・・・孵化する前に疲れ切っていたのか、起きてすぐ寝ちまったんだよ」

 

清水「・・・は? 目を覚ました直後にか?」

 

軽沢「誰もが魂を戻されてすぐに目を覚ますって訳じゃなさそうだね」

 

上田「そうなんですか? ・・・大丈夫でしょうか」

 

前坂「そこまで珍しいケースじゃない、事実俺自身も何回かあった現象だ。

念のために治療の出来る魔法使いのところへ連れて行く、今回は加勢感謝する」

 

清水「お、おう。 魔法使いとはいえ、暗いから一応は気をつけろよ」

 

数夜は自らの変身を解くと、荷物を釖に任せて魔女だった少女をおんぶした。

 

そうして3人は帰路に着いた、結果として一般人を誰一人と巻き込まなかったのは大成功。

 

路地裏を出て街灯に照らされた大通りを歩く、寒くないようにと少女にブレザーを被せたまま。

 

 

利奈と海里の帰り道は彼らとは反対方向だ、利奈は戦闘を終えて背伸びをする。

 

肩が重いなと思えば両肩の荷物を思い出す、バックを覗けばハチべぇがいた。

 

やはり、あの激しい戦いの最中では話す事は出来なかったんおだろう。

 

路地裏を出たのならここは人通りの多い通り、言わずとも一般人の数も多い。

 

それが理由なのだろう、普段気になることがあれば感情なく聞いてくるハチべぇが静かなのは。

 

上田「今日もおつかれさまだね、魔法の調子はどうだった?」

 

なんとなくで先程の海里の調子を聞く、なにやら考えていたようだが彼は答えてくれた。

 

清水「あぁ、特にこれといった問題は無かったぜ。

いつも通りってやつだな・・・まぁ聞かずともなんとなくわかるが、利奈はどうだった?」

 

上田「私もいつも通りだったよ、使った魔法も単調だったな」

 

清水「そういや最近は他に魔法を使ったりしてないよな・・・戦闘に慣れてきたのか?」

 

上田「慣れてきたのはあるかな、ある程度自分の事がわかってきたのかも」

 

そう言って思い浮かべるのは最初の戦闘、配分がわからず無茶をしたあの日。

 

その頃と比べたらだいぶ変わったものだ、よく孵化しなかったなと利奈は思う。

 

最初に戦ったと言えば黒板の魔女だが・・・あぁ、悪い事を思い出してしまった。

 

上田「・・・・・・」

 

黒板の使い魔の生き残り・・・チョーク、彼は今どうしているのだろうか。

 

清水「おーい、大丈夫か? なんか暗い顔をしているみたいだが」

 

ふと、自分を呼んでいた海里の声に気がつく。 どうやら考え事で聞こえていなかったようで。

 

上田「え? あぁ、大丈夫だよ。 そういう海里もなにか悩んでるみたいだけど」

 

清水「俺か、なんか頭に()()()()()()()()感覚があってな・・・ちょっと情報を整理してた」

 

頭に引っかかる感覚・・・何か重要な事を海里は逃してしまっているのだろうか?

 

それか思いつきそうなんだろうか? それが今の利奈にわかるはずもなく。

 

それを知る前に利奈と海里が別れる道にまで来てしまった、今日の所はさようならだ。

 

利奈が手を振るなら、海里も軽く手を振って返す。

 

すぐにまた考え込んでしまったが・・・まぁ、明日になればわかるだろう。

 

 

そうしてまた、1日が終わる。 ちょっと変わった1日が終わる。

 

一部が眠れぬ夜が来る、一体・・・盗まれた品はどこへやら。

 

真相が明らかになる時はいつ? そんなの、誰も予想がつく訳がない。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

地屋「……あぁ~あ、掃除当番とか面倒だなオイ」

 

 

 

火本「お邪魔していいじゃっとな? ちっと頼みがあって来たんだ」

 

 

 

清水「これよりひどいことをお前はしたんだぜ? わかってるんだろうな?」

 

 

 

上田「なっ……なにあれ? ハチべぇ! あれはなんなの!?」

 

 

 

〜終……(25)通れぬ経路と踊る身〜

〜次……(26)若き盗人と浮上の闇〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




な に こ の 手 探 り 感 ^ q ^ 

結構頑張って書いたけどどんな反応が来るか不安、ですね・・・

あぁ、推理をするなら『方法』についてにしていただきたい。

白目で笑いながら言いますが『密室になった経緯』は目を背けていただきたい。

力量不足で申し訳ない・・・『経緯』については後々書いていきます。


さて、早いようですが次で『誰が犯人か?』とか『方法』とかのタネ明かしです。

なんで早いかと言うと・・・うえマギって推理小説ではないのでね。

あまり長く書いてもあれだしそもそも作者が持たn(殴


というかまた増えましたね魔法使い、ホントどこまで増えるのやら・・・

さすがに無限ではないですよ、1クラスなんだからもちろん有限ですw

全員揃ったら出席でも取りますか、その前に魔法使い達の説明をば。


【挿絵表示】

左(和出 釖)・・・感情がいちいちでかい、意図的かは不明。 魂の色は菜種油色
中(前坂数夜)・・・しょっちゅう、もはや癖なあくびと背伸び。 魂の色は群青色
右(軽沢響夏)・・・基本のんき、14という子供を満喫している。 魂の色は羊羹色

『星屑の天の川:在籍人数5』→リーダーは数夜、サブリーダーは??。



今回の雑談は・・・そうですね、『推理』にでもしますか。

自分は推理系とかは迷探偵コ○ンで覚えました、小説はほぼ皆無。

というか、あまり現実的なものを書くのは得意でなくて・・・

仮想とかなら結構スラスラ書けるのですが、現実寄りだとなかなか進まない。

ハッキリ言って途中で 飽 き ま す w なんか、書いていて楽しくない。

何作品か書いてみたのですが、これがもう意味不明で支離滅裂で・・・

かろうじて読めそうな物はチラシの裏にでも投稿しています。


さて、今回はこの辺にしますか。 次回 も 長くなる事をここで予告。

何せ重要な場面が近くなってきているので当分は長いと思いますゴメンナサイonz

程々といっても、過度な遅行は言語道断・・・ それでは、また次回。


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(26)若き盗人と浮上の闇

ハッピーバースディですよおおぉぉ!!
誕生日おめでとうですううぅぅ!!(((o(*゚▽゚*)o)))


え? 私は誰の誕生日の事をやかましく祝っているのかって(。´・ω・)?


何を言ってるんですか!? そんなの決まってる!
 そ れ は う ち の い m (殴 \(^o^)/


……はい、初っ端から暴走して申し訳ない。 お久しぶりです、読者の皆様。

2週間と2日ぶりのハピナです、物語の重要な部分執筆+忙しさの影響で遅れました。

遅くなりましたが、今回の話でやっと『密室盗難事件』の解明編となります。

自分なりに辻褄が会う様に書いて確認する作業は大変でしたよ……
苦戦しましたが、何とか今回の26話という形になってくれました。

さて、液晶の向こうにいる皆様はどんな推理をしているのでしょうか?
果たしてその推理は当たっているのでしょうか? はたまた近い推理?

書いた側としてはどんな結果に仕上がったのか気になりますねぇ……
えぇ、少なくともうえマギではもう推理展開はやりませんとも(白目


前回はというと……前半は被害者達の事件の推理や現場の状況の説明、
後半はこちらで雑魚級と定義している魔女、降板の魔女戦をお送りしました。

さすがにノーヒントだと推理には難しいと思ったので、
ある程度の推理はこちらで潰させてもらいました。
……まぁ言い方は悪いのですが、かなり推測を絞れたと思います。

全体的な着色を行って描いた挿絵は降板の魔女が最初でしたね、
背景も描いたので全体的にまとまった感じになったかなと期待。

ん、そのせいで誰が元の魔女なのかバレてないかって?
……わ、私は知りませんねハイ。 どうせ色でバレるでしょう、多分。

戦闘シーンはもちろんの事、新しく3人の花の魔法使いが明らかになりました。
一体何人いるのやら……全員揃ったら、担任に出席でもとらせますかねw


さてと、前振りとしてはこの位ですかね。 早速、舞台の幕を再度上げましょう。
物語の再開はやっぱり冬、鳥肌がくっきり立つ程の寒さに目が覚める頃。



事件が起きて24時間が過ぎた、起きたての朝はやはり寒さが肌に刺さる。

 

被害者達は退屈な夜を過ごしただろう、その暇を潰すのが盗まれた彼らの所持物だったのだから。

 

え、盗まれた品は何だって? それは言えない、何故ならそれらは校則違反だ。

 

利奈はというと、その日ぐっすり眠れてしまった事を悲しく思う……それは何故か?

 

()()()()()、それが一番の理由だろう。 夢を見る事無くいつのまにか朝になった。

 

 

結局それぞれが憂鬱な朝、一部目覚めも悪く不安の中で1日が始まった。

玄関の扉を開けたなら、薄ら積もる雪の上に茶色のうさぎのような生物かいる。

 

上田「おはよう、ハチべぇ」

 

ハチべぇ「おはよう利奈、今日はよく眠れたかい?」

 

上田「うん、逆に寝過ぎちゃった位だよ」

 

それはうさぎに似た長い耳を生やし小動物のようなもふもふの毛並み、それがハチべぇだ。

 

いつものように、利奈のサブバックに飛び乗って中に潜む。

 

上田「最近、魔女や魔男の数も少なくなったような気がするね」

 

ハチべぇ「それだけ魔法使い達が今の立場に板がついたという事だろう、

その分1体1体の魔女と魔男の強さは増していると僕達は分析するよ」

 

上田「ある程度の工夫はするようになったかな、まぁそうは言いつつ結局棍しか使ってないけど」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、それだと結局何も変わらないじゃないか」

 

上田「そうなっちゃうよね、でもこれなら無理に変える必要も無いかな」

 

魔女や魔男がそれでも尽きる事が無いのは、100%という数値が実在しない事の証拠だろう。

 

とはいえ、花組の魔法使いが現状に慣れたのは事実。 何がともあれ平和は良い事だ。

 

……まぁ、今は『密室盗難事件』のせいで平和とも言えない状況になっているが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

寒空の下で校門をくぐり、玄関の前で備え付けのブラシで雪を取ったのなら中に入る。

 

その日のあいさつが当番の生徒の為に設置されたストーブ、

その穏やかな火が放つ暖かさは登校したての生徒を優しく出迎えた。

 

近くにある方の階段を上がり2階へ、向かう先は自分のクラスである『2年花組』だ。

 

 

時間が経てば朝の会だ、担任が簡単に出席を取れば一言の声をかけて教室を後にする。

 

扉が閉まったならお喋りでも始めようと一瞬明る気に騒ついたが、

教壇に上がりクラス全体を呼ぶクラス長の声に花組はジャングル化を免れた。

 

花組のクラス長といえば、最初の契約時に花組を取りまとめた《真面目》な彼しかいないだろう。

 

中野「突然ですが、抜き打ちの『荷物検査』をしたいと思います!」

 

一部面倒だと声をあげたが、不安要素が無いなら素直に受けるべきだという正論に負ける。

 

一同はその抜き打ちの荷物検査の意味を何となく察する事が出来ていた。

そりゃそうだ、昨日散々派手に騒いだからその理由となる事件を知らないはずが無いのだから。

 

今思えば、情報が回らないようにとの企みが無いと言えなくもない状態だが……

どうやらその代償として、事件()()が一同の頭に焼き付いてしまったらしい。

 

これは騒ぎを仕掛けた者にしたら、失敗かな。

 

みんな自分の荷物を持って教壇の前に並ぶ、検査は真面目な生徒達が公正に行う。

 

 

利奈も同様の荷物検査を受けたが、中は何の変哲もない中身だった。

 

教科書とノートにハンカチ&ポケットティッシュ・・・その他含めて普通の内容。

 

去り際、利奈の次は芹香が荷物検査を受けていた。 かばんの数は1つ。

利奈は2つだ、何故か彼女は荷物が多くなってしまう傾向にあるらしい。

 

芹香の荷物から出てきたのは教科書にノートと手帳、手帳の内容はスケジュール。

 

中身までを見ないが、非公式な荷物整理を実施した真面目達のせめてもの考慮だろう。

 

月村「もういいかしら? 早く勉強に戻りたいだけれども」

 

冷たい口調で彼女はそう言った、そこに柔らかな感情など感じれない。

 

やはり怖いという印象を周囲は感じたが、利奈はいつもと違うような感じを彼女から感じた。

 

()()()()・・・まるでストレスでもぶつけるような鋭い冷たさだ。

 

中野「あ、あぁ。 手間をとらせて悪かったね、もう大丈夫だよ」

 

終わりを告げられた芹香は教壇におかれた荷物を奪い取りでもするように回収すると、

早歩きでその場を後にした・・・心配そうに見つめる利奈に一言。

 

月村「・・・そんな目をする必要はないわ、不眠がひどくてイライラしてただけ」

 

最後に何か言いかけたような気がしたが、彼女はそれを声にすることなく席に戻る。

 

利奈にはなんとなくわかった。 『ごめんなさい』・・・彼女に何かあったのだろうか?

 

それでも利奈は深くは追及しない、無作為に首を突っ込んで傷つけたくなかったから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼休み、定番と言っていいレベルでリュミエールはいつもの場所に集った。

 

海里は何やら考えながら、蹴太から朝の荷物検査について聞いている。

結果誰一人怪しい者は無かったらしい、まぁ漫画やお菓子等の怪しい物はあったそうだが。

 

やはり学校にゲームを持ち込むというのは、それほどゲーム好きだったゲマニストくらいか。

 

幸運なのは、これだけ騒ぎになっていればすぐに盗品を売ったりはしないという確率の高い予測。

 

相手がそれなりの手練れとなれば、忘れられた頃に盗品をどうにかするだろう。

となれば、求められるのは一刻も早い解決・・・その為に海里は考え込んでいる。

 

今日の絵莉の勉強は家庭科、教えているのは家庭科に強い俐樹。

 

中学2年の家庭科となると、建築関係のことを勉強することが多い。

食ならまだしも建築とは少々難しい・・・絵俐にもわからない点が発生してしまった。

 

というわけで昼休みの時間を使って勉強だ、教える俐樹も役に立てることを嬉しく思う。

 

利奈は芹香と一緒に来た、不機嫌そうな彼女に利奈は何も言わず付き添う。

 

この対応は正解だったらしく、芹香はどこか落ち着いた表情。

 

掘り起こすことなく見守り、ただ寄り添う・・・それは悩む者に対する1つの対応だろう。

 

 

と、いうわけで本日も全員集まりました。 リュミエール一同。

 

 

清水「収穫なしか、何かしらの収穫はあると思ったんだがな」

 

中野「ごめん、僕の提案スカに終わっちゃった・・・」

 

清水「ある程度の予測はしていた展開だ、この分だともう魔法で隠してるな」

 

中野「え、隠してる? 家に置いてあるとかじゃないのか?」

 

清水「魔法を使った犯行だと確定してるからな、収納魔法だって使っている可能性もある。

・・・って言っちまうけどな、正直決定打になるようなものがまだ無いんだ」

 

片手で頭の後ろを掻いて海里はため息をついた、確かにまだハッキリしないらしい。

 

中野「荷物検査でも何も出てこなかったもんね、収納魔法は視野に入れた方がいいか」

 

 

清水「……ところで、月村さんは大丈夫か? ここんとこずっと寝てるみたいだが」

 

上田「ずっと眠れていないんだって、だから今眠ってるのかな」

 

利奈が座っている席の隣、芹香は自らの腕を枕にして眠っている真っ最中だった。

 

見慣れたメガネを外し、寝息を立ててぐっすりと眠っている。

 

……腕組みに埋もれ、彼女の深みある綺麗な橙色のが指輪が見えない。

 

篠田「教室だとずっと自習をしてるのに、なんでこっちに来たら寝ちゃうんだろ」

 

橋谷「ひ、人の目が気になってしまうのでは? 周りに人が、たくさんいますから……」

 

篠田「ここに来てやっと眠れるって感じなのか……あれ、今どこまでやってたっけ」

 

橋谷「えっと……次のプリントで最後ですよ、頑張りましょうね」

 

篠田「あ、これとこれか。 ありがと! なるべく早く出来るように頑張る!」

 

 

考えれば考えるほど、考えは渦巻いて見えていたはずのゴールがぼやけていく。

 

数々の要素で出来たパズルの答えは1つしかない、それは単純で複雑だ。

 

今のところ要素は1つの線にならず、複雑でしかなく解ける気配がない。

 

 

しばらくそれぞれの昼休みを過ごしたが、ふとした時に変化は訪れる。

 

数回のノック音、それはこの使われていない古びた理科室への訪れを知らせる。

 

芹香は完全に眠ってしまっている、ここは利奈がその訪問を出迎えた。

 

上田「は~~い、どちらさまで……うわっ!?」

 

何気なく利奈は戸を開いたが、見上げるほどのでかい図体に利奈は驚いてしまった。

 

何度か見たことある青年……じゃなくて少年は花組の生徒だった。

 

なにやら困ったような様子だが、まずは目の前にいる利奈に彼は尋ねた。

 

火本「お邪魔していいじゃっとな? ちっと橋谷さんに頼みがあって来たんだ」

 

橋谷「……え? わっ、私にですか?」

 

上田「とにかく中に入ってください、ここじゃ寒いと思いますので」

 

 

眠る芹香に自分のブレザーを脱いでかけ、利奈は勉強を終えた絵莉のテーブルについた。

座るよう促してみるが、すぐに終わる用事だからと彼は立ったままになる。

 

上田「えっと、リュミエールに何か用があって来たんですか?」

 

火本「こんチームに薬を(つく)いがなっ魔法使()けがいると聞いてな、製作を依頼したい」

 

橋谷「い、依頼だなんて堅苦しくなくて良いですよ。 どんなのを作って、欲しいですか?」

 

火本「こげな()み時期だちゅうのに、(おい)の相方が(ちん)()ん物を()んすぎてな・・・

腹を壊しちゃって今もトイレにこもっている、保健室に薬も無くて困っちょったんだ」

 

腹を壊すほど飲んだなんて、一体どのくらい飲んだらそうなるんだ?

まぁ冷え切った水道の水をがぶ飲みなんてしたら、当然そうなってしまうだろう。

 

橋谷「腹痛を抑える効果が必要なんですね、少し待っていてください……」

 

俐樹はテーブルの上で両手を添えると、自らの魔力を使い花を作る。

 

篠田「やっぱりいつ見てもキレイなんだよな、あたしも1回頭痛薬作ってもらったんだよね」

 

頭痛がしてしまうまで勉強したのかこの子は……まぁ願いで得た物を無駄にしないのは良い事だが。

 

 

火本「おっと!? でくれあま(ちっ)()も咲かせてくるれあ助かっんだが、大丈夫(だいじょっ)そうか?」

 

橋谷「だっ、大丈夫ですよ。 少し時間がかかりますが、できるだけやってみます」

 

火本「注文が()おてごめんね、()め方が量が(すっ)のて()んやしし()()()()()()()()から」

 

清水「・・・小さい方が、持ち運びがしやすいだと?」

 

考え事をしながらその光景を眺めていた海里と蹴太だったが、海里はふとした言葉が気になった。

 

橋谷「そ、そうですね、小さく咲かせるなら蜜も濃縮させた方が良いですね」

 

そう説明してくれた俐樹だったが、返事をしたものの海里は悩みっぱなしだった。

 

上田「・・・もしかして海里、違うこと考えてる?」

清水「すまん! ちょ、ちょっと考えさせてくれ」

 

その言葉にまともに答えず、海里は1人考え抜いた。 何か掴みかけているのだろうか?

 

記憶力の異常な高さをフルに生かして詰め込んだ情報、脳内で検索をかけて整理する。

 

そして記憶の片隅にあった()()()()を思い出した時……再度、それを確認して海里が言う。

 

 

清水「……なるほど、な。 そういうことだったのか!」

 

 

その表情は悩みを解決でもさせたかのよう、明るめな様子でニヤリと笑う。

 

 

中野「ん!? 突然どうしたんだ海里、何がそういうことだって?」

 

清水「わかったぜ、『密室盗難事件』のトリックと犯人に至るまで全貌をな!」

 

篠田「うっそ!? わかりそうになかったのにわかったんだ海里!」

清水「俺お前に何かしたか!? 少なくとも最近はなんもしてないだろ!?」

 

重要な事がわかったような様子を海里見せたのに、わからない絵莉はやっぱりバカっぽい。

 

上田「わかったなんてすごいな……それで、犯人は一体誰なの? 海里」

 

清水「悪いがまだ言えない、俺たちみたいな存在がいる以上は

いつどこからどんな情報が漏れるかわからないからな」

 

こんな台詞があるなら芹香は「あら、私達が信用出来ないみたいな言い方ね」

と厳しい事を言いそうなものだが、肝心の彼女は夢の世界へと旅立ってしまっている。

 

まぁ、言わずとも当のリュミエールリーダーである海里がメンバーを信用していない訳が無いが。

 

 

そんな海里の思いつき中心の話の最中、またこの理科室に来訪者が訪れた。

 

全く、最初と比べて随分と賑やかになったものだ。

 

今度はノックする事無く突然だ、扉を背にして死角になっていた徳穂を驚かす。

 

武川「はいどうも~~! オイラピカピカ金ぴかりん! 月にも負けないまぶしい電球!

腹筋に笑いを即蓄電! 池宮の電気屋といったら電球少年ぴっぴかり!!

 

……ん? 今日は何でか言い切れたな、なんかスッキリしないのは何故? オイラわかんないや」

火本「よくわからんけどぽかっと出てきて正直(しょちっ)驚いたぞ!?」

 

篠田「ぴかり! この時間だとこんにちはだね、また暇してたの?」

 

武川「やぁ絵莉、オイラは一仕事終えた後さ! 今日の昼漫才も好評だったぜ!」

 

スッキリしない理由は恐らく、投げられる消しゴム等の芹香のツッコミが無かったからだ。

 

それに慣れてしまった彼はいつの間にか、入る時にツッコまれるのが定番化していたらしい。

 

やられたらやられたで痛いが、それが急になくなると寂しくなるものだ。

 

清水「ちょうど良いところに来てくれたな光、ちょっと頼みがあるんだがいいか?」

 

武川「お? 花組の情報屋さんが逆に頼み事とか珍しい、オイラに何の用だい?」

 

清水「その花組の情報屋が頼み事をするわけだがな、」

 

 

灰戸「……で、ぴかりが君に頼まれて僕をここまで連れてきたというわけだね」

 

しばらくして、海里の頼み通り光は月組にいた八児を連れて来てくれた。

連れてこられた八児は月組の情報屋、突然だったがある程度の状況はわかるらしい。

 

武川「灰戸を連れて来たぞ海里! オイラもたまには役に立つのさ!」

 

清水「悪りぃな、せっかくの昼休みだってのに突然呼び出しちまって」

 

灰戸「別に構わないよ、特に用事も無く暇を持て余していたしそれに……笑い話でもなさそうだ」

 

整った顔立ちが海里を真っ直ぐに見る、どう考えてもふざけには受け取っていない。

 

清水「光からも聞いてると思うが、これは情報屋だから出来る事なんだ」

 

灰戸「例の事件の事は知ってるよ、情報屋だから出来るとなると情報の収集かい?」

 

清水「いや、その逆だ」

灰戸「……逆だって?」

 

一瞬海里の言ってる意味が理解出来なかった灰戸だったが、すぐにどういった意味が理解出来た。

 

清水「とある情報を()()してほしい、その事件を解決する為に必要になるんだ」

 

灰戸「拡散の期間は? 情報の詳細は紙に書いて渡してくれれば良いよ。

読んだら、理科室ならマッチかライターありそうだからそれで燃やしておく」

 

清水「紙に書いて燃やすって……徹底してるなお前」

 

灰戸「その位しないと不味いんだろ? 君含めた魔法使いってのはさ」

 

清水「まぁ、そうなんだけどよ。 んで、その期間ってのが結構至急な話でな」

 

そうして2人の情報屋は情報拡散の為の詳しい手順を話し始めた。

 

誰を起点にすれば話が広まりやすいか? どうやって伝えようか?

 

光の漫才を利用しようなんてことも考えられたが、これはさすがに却下された。

……光がなんだかしょんぼりしているが、絵莉が落ち込む彼を慰める。

 

橋谷「で、出来ましたよ。 時間がかかってごめんなさい、どうぞ持って行って下さい」

 

火本「おぉ! 作ってくれて助かりもした、また(ない)かあったらお願いしもす!」

 

俐樹が蜜の入った花を完成させたなら、徳穂はお礼を告げて急ぎつつ丁寧に運んでいった。

 

 

利奈はというと、ハチべぇをひざの上に乗せて芹香のブレザーをかけなおす。

 

上田「ハチべぇ、周囲に魔法が使われているようなの気配はある?」

 

そう、小声でハチべぇに聞いた。 なるほど、彼女は彼女なりに助力しているらしい。

 

ハチべぇ「魔力の気配は無いよ、その気配があれば知らせれば良いんだね」

 

上田「うん、ありがとう。 もしそんな気配が出てきたら教えてね」

 

見つめる先は固定されることなく、ぼんやりと全体を眺めているだけだ。

自分の頭でできる程度、その場の状況を内容の誓いを続けて聞きながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時間を進めて現在、帰りの会。 担任による短い連絡事項が終わったなら、かかるのは号令。

 

 

「起立! 礼! さよならぁ~~!」

 

 

高速であいさつを済ませる不真面目、あまりの酷さに今日はやり直しをかけられてしまった。

 

それでも帰る早さは変わらない、早速机を運ぶか引きずるように後ろへと下げた。

 

掃除当番は邪魔な生徒たちが教室から出て行くのを待ちながら、雑談で暇を潰す。

 

地屋「……あぁ~あ、掃除当番とか面倒だなオイ」

 

空野「仕方ないよ、他の日だってみんなそう思ってやっているんだからさ」

 

地屋「同じじゃねぇだろ! 舞が休んじまってるから他より人数少ないんだぜ? 不平等だ不平等」

 

篠田「それなら先生が掃除を手伝ってくれるみたいだよ! 人手が足りないからって」

 

地屋「……ま、まぁ多いに越したことはねぇな」

 

確かに人手が多いのは良いことだが、本音は担任がいることによる手抜きの不可が重いので嫌らしい。

文句を言うな力強! 担任の言う通り掃除をすればいつもより早く終わるだろう。

 

地屋「そういや聞いたか八雲? 例の盗難事件の話をさ」

 

空野「盗まれた物見つかってないんだってね、犯人もまだわかっていないみたいだし」

 

地屋「その話なんだけどよ、どっから出たかはわからないが結構良い話が広まってるぜ」

 

デッキブラシを立ててあごを乗せ楽な体制の力強、影から話を盗み聞く者の存在に気がつかない。

 

空野「盗難事件で良い話? そう言えそうなのは盗品発見とか犯人解明とかしか思いつかないけど」

 

地屋「へへっ、実はそういう話なんだよなぁ?」

 

空野「……え!?」

?「……は!?」

 

八雲の驚きに事の犯人の驚愕は溶けた、双方の驚きを無視して力強は内容を八雲に告げた。

 

 

地屋「犯人自体はまだわかってないがな、その正体がわかりそうな証拠品が見つかったらしいぜ」

 

 

?(ちょ、嘘だろ!? んなもん一切残ってねぇぞ!?)

 

さすがに驚かないわけないだろう、何せ自分の犯行だとバレる情報が見つかったのだから。

 

証拠も残さず行ったはずの犯行、証拠品が見つかったとなれば確実に焦る。

 

となれば彼が次に行う行動、その証拠品の盗難しかない。 彼曰く、盗難を補うのは盗難。

 

地屋「旧校舎の理科室でそれを元に誰が犯人かを探り当てるんだとよ」

 

これを聞いてにやける事の張本人、帰宅のために起こる人の波に自らを紛れさせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

静まり返る旧校舎、窓の外は白い雪がふわりと落ちて降り積もる。

 

音も無く動くその光景、まるで元から音が無かったかのような雰囲気だ。

 

それが現実だと実感させてくれるのは・・・古びた板の床がきしむ音。

 

こんなただでさえ寒く人の少ない上に、誰も来ないような時間帯。

 

1人歩む黒き影、電灯もついていないその環境ではその姿は見えない。

 

 

こっそり理科室を覗いたが、何故か扉の鍵は開いていた。 中に入ろうとも誰もいない。

 

 

?「何……で、だ? 何で誰もいねぇ!? 場所はここで合っているはずだぞ!?」

 

 

そんな驚きを待たずして、突如2つある理科室の両方の扉がピシャリと閉まった。

 

突如の出来事にさらに驚き慌てて扉を開けにかかったが、何故か開かない。

 

そりゃそうだ、扉の向こうでは念力の魔法も駆使して蹴太が扉を抑えている。

 

反対側の扉、こっちは俐樹が小刻みに震えながら必死になって抑えている。

まぁ、九割程はあんまり力を入れずに扉を抑える徳穂によって塞がれているが。

 

遅めの夕焼けでは明るさは暗がりだが、机の下に隠れていた利奈が電灯のスイッチを入れた。

 

?「っ!! マジか、誰かいたのか!? ……どうなってやがる!!」

清水「これよりひどいことをお前はしたんだぜ? わかってるんだろうな?」

 

怒りに任せかなり激怒した様子だったが、教壇下に隠れていた海里はそんなの知らない。

 

清水「明らかに反応がわざとらしいが、まぁすぐに化けの皮も剥がれるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぁ、そうだろう? 和出(わで) (こがね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、そこにいたのは釖だった。 そう言われ怒っていたはずの釖は大きく笑い出す。

 

和出「……あぁ~~わけわかんね、なんのドッキリだよこれ?

相手間違えてるんじゃねぇの? 言ってる事さっぱりわかんねぇな」

 

清水「とぼけてんじゃねぇよ! お前なんだろ、『密室盗難事件』の犯人ってのは」

 

和出「それってあれか、昨日騒いでたなんかが盗まれたって事件のことか?

俺は興味なかったら、詳しくは知らないな」

 

とぼけるなと言われても彼は動じない……感情がわざとらしいまでにでかいが、根がぶれない。

 

清水「詳しくないなら教えてやるよ! お前が犯人だって根拠も全部な!!」

 

最後はかなりベタな台詞になってしまったが……

まぁ、ここらで液晶越しの君ら含め答え合わせをしよう。

 

 

清水「事件の現場となったパソコン室は密室と言われてたが、実は事実上だったんだよな」

 

和出「事実上? すまん、言ってる意味がわからねぇんだが」

 

清水「実際そういう場所があってな、『通れぬ経路』って言った方が早いか」

 

それはパソコン室の唯一の扉、その上にある空気を通す為の小さな窓。

 

いくら中学生くらいの子供とはいえ、通るのには狭すぎて使えない。

 

なにか引っ掛けた様な魔法の痕跡が残っていたようだが……

どうやら、海里は辻褄の合う方法を思いついたらしい。

 

 

清水「お前、確か『巨大化』の魔法が使えるんだったよな? 時間経過で戻る魔法」

 

和出「おう! 色んな物を巨大化出来るが、主に手足を巨大化させて物理で攻撃してるな」

 

清水「それは実際にこの目で見たから知ってるぜ、命中率にかけるが力が強いのが取り柄」

 

これなら利奈も知っているだろう、その微妙な活躍は昨日に目撃している。

 

清水「……だがな? あの効率の良さは不自然とも言える、何せ時間経過で戻っちまう」

 

和出「不自然か? あそこまで出来るようになるまで試行錯誤で結構苦労したんだぜ」

 

清水「さらっと嘘を付きやがるなぁ……お前の魔法、()()()()()()()()()だろ」

 

釖は一瞬動揺したようにも見えたが、唇を噛んでその動揺を飲み込んだ。

 

和出「俺が? 『巨大化』の魔法じゃない? バカ言え、目の前で俺の魔法を見たじゃねぇか!」

 

清水「そりゃしっかり見てたぜ、こんな物まで残してくれてな」

 

和出「……は? 残した? 俺の魔法で残るような物は無いはずだが……なっ!?」

 

海里がどこからか大きなナイフを出した、その大きさは通常の3倍にもなる。

 

清水「弁償してくれるって約束をしたお前の魔法の影響を受けたナイフだぜ?

手違いだって謝罪してたんだから忘れたとわ言わせねぇぞ、まぁ金はいらんがな」

 

和出「取っておいてたのか!? そんな包丁よりもでかいやつをか!?」

 

清水「そういや、おかしいな? もう24時間も立ってるのにどうして元の大きさに戻らない?

24時間以上……それがお前の言う制限時間か? そんなに長かったらあの効率は不可能だろ」

 

思わぬ証拠、それは最初の嘘を暴く物。 明確な証拠があるのに釖は反論出来るわけもない。

 

清水「結論は簡単だぜ? 巨大化の逆である縮小もできる……

 

お前の魔法の正体は()()()()()()()だ!

 

捨ててグリーフシードに取り込まれたとでも思ったか? 生憎、俺は道具に関しては強いんでね」

 

筋肉質な脳に潜めた盗みの神経、釖は海里の持つナイフの事情を辿り思い出そうとしてみた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

不意に、追加攻撃を狙い飛び回っていたナイフのうちの1本に拳が当たってしまった!

 

それは巨大化させながらの攻撃だったらしく・・・

 

打ち落とされた削っていない鉛筆の長さのナイフは魔力に触れて巨大化する、

地面に落ちる頃には3倍もの大きさになってしまっていた。

 

前衛の邪魔にならないように巨大ナイフを回収した海里、流石器用というか上手い。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

和出「……お前! まさか、あの時()()()俺の拳にナイフを当てたってのか?」

 

清水「なんでか魔法での制限時間を変に誤魔化していたし、

見る限りは元の大きさに戻るタイミングがバラバラ……

あんなの変だと思わない方がおかしいぜ、だから試させてもらったんだ」

 

和出「変わらなかったら変わらなかったで済む話……なかなか考えるじゃねぇか」

 

口にする言葉は褒めている内容だが、その顔は悪い感情を押さえ込むようにきしんだ。

 

上田「ど、どういうこと? なんで『大小』の魔法だって言えるの?」

 

ハチべぇ「海里の持つ巨大ナイフは釖の魔法を受けた物だ、それは君自身も見ているだろう?

それが時間経過によって戻らないとなれば、元に戻すとなれば戻す魔法も必要となる」

 

上田「大きくする魔法の逆……小さくする魔法が必要になるってこと?」

 

ハチべぇ「君は相変わらず察しが良いようだね、その解釈で間違いないよ」

 

海里が釖を問い詰める間、利奈は腕の中のハチべぇとともにその様子を見守った。

 

 

さて、彼の魔法が本当は『大小』の魔法だということがわかった所で説明をしよう。

 

清水「タイミングとかはさすがにわからんが、事前に窓を開けておいたんだろうな。

旧校舎ってわけでもないし、パソコンを使う授業はいくらでもあるからな。

 

確かパソコン室のパソコンを使う時は()()()『使用許可証』を書いて

職員室に提出する必要があったな、授業をする時はその授業を担当する教師が代理をしたがな。

 

だから部活がある度に毎度の如く盗めるような隙があったってわけだな。

普通なら鍵かけて提出に行くから大丈夫なんだが、魔法があると別問題。

 

時間はもちろんその時を狙ったんだろう、ここでの問題は方法。

 

 

やり方は単純かつ、魔法の正体がわからなければ絶対にバレない方法だ。

 

 

まずは何回かジャンプするなりして窓を開ける、教科書とか使えばなお届く。

 

開けたらドアノブを足場にするなりして窓枠を掴む、届かないなら手をでかくすればいいだろ。

 

それが出来たら次に行うのは『縮小』の魔法、もちろん窓につかまったままな。

 

そうしたらどうなるか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これが『通れぬ経路』を通った方法って事、言わずとも体が小さいから出入りが出来る。

 

 

あとは今回の盗品を盗み出して、入った時と同じ手段で出るだけだ。

 

無論、盗んだ物を抱え込んだままな。 こうして盗難完了ってわけだ」

 

確かに海里の言うことは筋が通る、だが釖も犯人扱いされて黙っていられるわけがない。

 

和出「待てよ、それじゃおかしくねぇか? そんな小さい身体でどうやって盗品を運ぶんだ?」

 

清水「盗んだ物を抱え込んだまま魔法を使ったんだ、無論盗品も収縮する。

効かないんじゃないかってのは言わせねぇぞ? この巨大ナイフがそれも証明している」

 

つまり、自身の大きさを自由に変えられるのに、

それが物に対しては巨大化だけなんてあり得ないという事だ。

 

和出「じゃあ! その窓が使われたって明確な証拠はあるのか!?

別の方法で偶然付いた跡かもしれねぇぜ、それについてはどう弁解するんだよ!」

 

清水「わかってねぇなぁ……あの窓は空気を入れ替えるためについてる窓だぜ?

こんなただでさえ寒い時期だってのに、()()()()()()()()()窓なんか開けるか?」

 

和出「……っ! じゃあ!! 他の窓が使われたって可能性はないのか?

俺たち魔法使いは飛行魔法で空を飛べるだろ、外から盗難に入った可能性はねぇのかよ!?」

 

清水「俺、ハッキリと『 密 室 盗難事件』って言ってなかったっけか?

そんなことしたら窓の鍵は開いてるだろ、今の季節だと明らかに室内は寒くなるだろうな?」

 

……やれやれ、彼の無実を晴らすための反論は少々短いがここまでのようだ。

もう少し反論を詰めそうな気もするが、彼は不真面目頭の出来はそんなに良くない。

 

 

和出「……そこまで、俺を犯人に仕立て上げてぇのかよ……!!」

 

かなり問い詰められたようで、もはや隠していた感情が外に出る。

それは怒り? 恨み? まぁ、どちらにしろ悪い感情には変わりないようだ。

 

清水「いい加減白状しろよ、ここまで状況が出揃ってたらお前以外犯人だってあり得ねぇ」

 

……次の瞬間、釖は足早に教壇前の段差に上がったかと思うと海里は襟首を掴まれる。

 

ネクタイごとシャツをつかまれ、力の強さに大きくシャツにはしわがよった。

 

至近距離で釖は怒りのままに怒鳴りつけた、海里の表情なんて見えるわけもない。

 

和出「俺を悪者にするのもいい加減にしやがれ!! 状況証拠しかないのに問い詰めやがって!!

んなもん他にもいくらでも方法があるだろうが!! 固定概念に囚われやがって!!

 盗 ま れ た や つ も 盗 ま れ た 奴 だ ! !

ゲーム機なんか学校に持ってくるから盗られたんだろうがああぁぁ!!」

 

これだけ怒れば普通なら怖気づくところだが……こればっかりは相手が悪すぎた。

 

怒号を言い終わった後の少しの隙をついたなら、海里は釖の手首をシャツから離す。

 

釖の反抗する力もなかなかだったが、喧嘩に強い海里に敵うわけがない。

 

清水「そうカリカリすんなよ、お前の悪口なんて一言も言ってねぇぞ? ところで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつ、俺が()()()()()()()だなんて言った? お前、何でそれを知っている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和出「……ぁ!? あいつらゲーム好きのチームなんだから、そっ、そうだとしか……」

 

明らかな動揺、普通なら知らないことの認知。 どうやら……決着は付いたようだ。

 

清水「口が滑ったみてぇだなぁ……釖? 諦めろ、お前は言っちゃいけねぇ事を言ったんだ」

 

和出「て、めぇ……!! 海里ぃ……!! こんな、リュミエールなんぞいるから……!!」

 

清水「自分で撒いた種だろうが、どうせまだ持ってるだろ? あとで盗んだゲーム返して来い」

 

その言葉に釖は観念したのか、振りほどこうと力を入れていた腕の力を抜いた。

 

となれば、海里もその手を無理に掴むことはない。 ほぼ同時に釖の手首を離してあげた。

 

さて、本人の観念もあり犯人確定事件解決。 これだけ判明期間も短ければ盗品も無事だろう。

 

最後に盗品はどこにあるか聞こうとしたが……突如、どこかから拍手が聞こえてきた。

 

利奈が間隔の広い拍手の音がする方を見れば、そこには1人の生徒がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前坂「お見事だ、少ない要素から犯人を暴くから追い詰めるまでこなすなんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは……釖の所属するチーム『星屑の天の川』のリーダー、前坂数夜だった。

 

橋谷「ふ、ふえぇ!? なっ、なんで人が入り込んでいるんですか!?」

 

火本「変だな、(つん)と誰も中に入って()んかったのに……」

 

中野「ご……ごめん海里! どうやったのかはわからないけど、中に人が!」

 

犯人が観念したのならもう扉を守る必要もないだろう……

いや、それ以前にこれは状況確認の為なのだが。

 

何の為だって? そりゃもちろん、この理科室の中の状況を確認するためさ。

 

そんな光側の増員は無視し、数夜は無機質に微笑みながら話を続けた。

 

前坂「いやはや、うちの部下がすまなかった。 そうするように指示したのはこの俺だ」

 

和出「……は!? 待ってくれリーダー! 俺は「 黙 っ て ろ よ 釖 」……っ!」

 

清水「へぇ、お前の指示でやってたのか。 やっと本性を現したようだな……『花の闇』」

 

いつもの如く彼はだるそうにあくびをして背伸びをした……が、その直後目つきが変わる。

 

 

前坂「改めて紹介しよう、俺の名前は前坂数夜。 星屑の天の川のリーダーを務める者だ。

花組の間ではなんでか『花の闇』とか一括りに去れているが、まぁそれの中心核だな。

今までは隠していたが……ここまでうちのチームの問題が浮き彫りとなれば、

もうこれ以上の小細工で隠すことは出来ねぇだろうな」

 

 

その笑みの深いまでに邪悪なこと。 これが、花の闇の中心にいる人物だというのか?

 

利奈はふと、思い出していた。 1年か2年か前に見た彼の姿、声、風貌……

 

これだ、時に見せる残酷な一面。 その稀な一面が今、彼の全てとなっている。

 

前坂「さて、妙な呼ばれ方をしてる俺だが……()()()()()()()()があってな、なにか知ってるか?」

 

清水「もう1つ呼び名? 情報屋としては聞きたいところだね、どんな呼び名なんだ?」

 

和出「やっ、やめろ数夜!! そんなことしたらお前は……!!」

 

前坂「黙ってろと言ったはずだ! 失敗した奴なんぞに指図される必要性など存在しない」

 

和出「っ、確かに失敗した俺も悪いが、だが……それは……」

 

数夜は釖の言葉を最後まで聞くことなく、自らの指輪をソウルジェムに戻した。

 

一同は声をあげるなりして驚愕をするだろう、その存在は本来あり得ない。

 

何故ソウルジェムを見ただけで驚愕をするかって?

簡単さ、その色は 真 っ 黒 だったのだから。

 

上田「なっ……なにあれ、あれがソウルジェム? ハチべぇ! あれはなんなの!?」

 

そうハチべぇに聞こうとした利奈だったが、問いは数夜の睨みに邪魔されてしまう。

昔、彼の狂気を浴びた経験のある利奈……さすがに彼には勝てないらしい。

 

前坂「おっと? 知っても特にメリットはないだろう、今は知るまでも無い」

 

ハチべぇを抱きしめて利奈は恐怖に耐えたが、その前に海里が立ちふさがった。

 

清水「そいつのおかげで元から山ほどあった聴きたい事が益々増えたが、

まずお前の呼び名を聞かない教えてはくれなさそうだな。 なぁ、そうだろ?」

 

前坂「やっぱりリュミエールリーダーは器が違う、リクエストに答えて教えてやろう」

 

そう言って持っていた自らのソウルジェムに手をかざす、感じ取られたのは一瞬の魔力。

 

前坂「俺のもう一つの呼び名、それは光に隠れ暗躍する単純かつ闇の長に相応しき者……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  絶  望  側  の  魔  法  使  い  だ  !  !  」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名乗り、彼はあざ笑うだろう。 その笑みも、噴き出す黒い魔力に呑まれて滲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも急な出来事……急でも対応出来そうな者だが、これは不意打ち過ぎる。

 

数夜は黒い魔力にのまれようとも、まだ狂ったかのように笑っている。

 

その声はだんだんと金属音に近くなるが、それでも笑いの質は変わらない。

 

利奈の視界も闇、影、黒に包まれ、自らの意識を手放してしまった。

 

最後に聞こえたのは……花組で最も脆いだろう、俐樹の必死の悲鳴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歪んだ黒に包まれた世界、光を忘れ去ってしまったかのような悲しい世界。

 

照らされることも無いのに、どこかに刺さるとてつもなく長く様々な刃は明確に目に見える。

 

すぐにでも動き出して入り込んだ者を切り裂きそうな鋭さだが、そこに意思は感じられない。

 

何故か? それは足場にすぎないからだ、その意思を持つのは世界の主だけ。

 

暗い世界から感じ取れるのは何だろう? それは光に対する諦め、どこもかしこも何も無い。

 

 

鋭利の魔男、性質は自暴自棄。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

橋谷「先導してくれるのは嬉しいです……けど、危なくないのですか?」

 

 

 

上田「感情の起伏が激しい人かぁ……」

 

 

 

火本「しもた!? 刀(つく)っ魔法は(おい)そげん()よは()!!」

 

 

 

「何でこんな事してまで俺を助けたんだ!? そこまで罪を被る必要ねぇだろ!!」

 

 

 

〜終……(26)若き盗人と浮上の闇〜

〜次……(27)闇を秘め変えて[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




まさか今日が高血圧の日と定義付けられてしまってるとは……ナンデモアリマセン スミマセン

それはさておき、事件やらなんやらで忘れられた頃に ボ ス 級 孵 化 です!
まさかこんな展開になるとは予想だにしないでしょう、驚いてくれたら嬉しいです。

こんな小規模なようで大規模な事件の犯人が例のチームだとわかってしまって、
いい加減、そのチームのリーダーが黙っているわけがないですよ。

察している方も読者達の中に何名かいたと思いますが、
これで絶望の魔法の持ち主も明らかになるでしょう。

……まぁ、これに関してはまだまだ明かしていない事が 多 々 ありますが(^言^)


今回は特に何かを紹介することもないので、残念ながらイラストはありません。

え、そんなの待ってない? ……わ、わかっておりますとも自身過剰(´・ω・`)

何かあったら描きますよ、描いてほしい絵があったら感想にでも気軽に言って下さい。


さて、最後は雑談でも挟みますか。 雑談読むのが面倒な方はすっ飛ばしてもOK!

今回は『誕生日』についてでも話しますかね、それは自らが生まれた日。

その日の晩ご飯はケーキやらご馳走やらケン○ッキーに変身し、
ゲームやおもちゃ等の好きな物がプレゼントされるとっても特別な日。

……なんですがねぇ子供の内はw 大人になると祝わなくなるのがよく聞く話。

三十路とかアラフォーとかの用語を耳にしますね、
『年を取る=老ける』の方程式が成立してしまうのが悲しい話。

ですが全てがそうとは限りません、友人や家族……
もしかしたら恋人に祝われる事もあるかもしれません。

まぁ私の所も今日はそんな感じで、誰かの誕生日でした。
……帰りついでにケン○ッキー買うってかなり面倒だよちょっと(´・ω・`)

それで聞いたんですよ、当の本人に「誕生日何がいい?」と毎年恒例の質問で。
昔は「メモ帳」とか「ラメペン」とか可愛い事言った者ですが……

今年の解答、「(アイドルアニメ)のCD買って!」……どうしてこうなった(´;ω;`)

ヒトとは大人になる者だなと実感しました、成長は良い事ですが……なんか寂しいような気もします。

まぁ本人がそれで嬉しいのなら、私は喜んで某中古ゲーム店に連れて行きましたけどね。

 せ っ か く の 休 日 に 私 の 運 転 で (#・∀・)

私が駐車激下手なの知っててでも運転させたのか……
おっと、変な事思い出しそうなので雑談はこの辺で。


今後当分は 遅 い ペ ー ス になります、
どことは言いませんが重要な場面が待ち受けていますからね。

次回から久々の戦闘シーン無双、ようは『前後編』に入ることとなります。

なにやら今度の相手は嫌な予感しかしませんが……一体全体どうなることやら。


それでは皆様、また次回。 27話は現実ではあり得ない、
とても不気味で明かり無く暗い異世界でお会いしましょう。


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(27)闇を秘め変えて[前編]

なんかよくわからないけど、普段と比べ倍のスピードで書けました。
 何 故 w ^q^; やはり前後編は捗るのかなぁ……


色々あってこんばんは、最近時間に余裕のあるハピナです。

一番難儀としていたレポートも何とか合格の判子をもらって 開 放 感 !

肩を並べ歩く友人も、別の原作ながら復活してて嬉しい限り。

やっと書きたい展開を書けたのもあって近状は絶好調ですよ!!

……まぁ、それでも明らかに1人足りない足りない人物がいるのは事実ですが。


前回は犯人判明と同時に、ついに『花の闇』の主格が明らかになりましたね。

なにやら『絶望』の魔法を使って来たようですが……何が起こったのでしょう?

まぁ言わずとも自分で自身のソウルジェムを孵化させたという状況は
私が何も言わなくてもわかりそうなので言ってしまいますが(白目

探偵も泥棒も傍観者も、全員 巻 き 添 え で 結界へご招待です。

なにやらやたらと暗い世界観になっているようですが、
一体どんな世界や使い魔、そして魔男が待ち受けているのでしょうか?


さぁ、物語の幕を再度上げましょう。 今回は久々の前後編。
魔男の創った暗い暗い世界の中、最初に目を覚ましたのは……



頬に触れるのは冷たさ、意識が明確になってくるとそれが金属だと理解できた。

 

目を覚ましそれを理解できたのは良いが、同時に理解してしまったこともあった。

 

……視界が、()()()()()()()()()の光景が逆立ちしたかのように真逆だ。

 

あり得ない光景に利奈は思わず目を瞑った、処理しきれない光景にめまいを催す。

 

そんな時、頼るように抱きしめる腕の中から声がした……ハチべぇだ。

 

ハチべぇ「利奈、何故君は魔法使いに変身しないんだい? 変身前の身体じゃ耐性が無い」

 

上田「……ぁ、あ! そっか、ありがとうハチべぇ」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、急だったとはいえ不意打ちには対応できないみたいだ」

 

ハチべぇを一旦そっと降ろしてあげると、利奈は自らの指輪をソウルジェムに戻した。

 

暖かな赤色の輝きを放つ魂、その光は本人の意思に答え制服だったその姿を変えた。

 

奇術師を模したマジシャンのような姿となる、その色は赤を中心とした色調だ。

 

異常が起きていた視界が元に戻ったのなら、利奈は周りを確認するために立ち上がった。

 

ある程度の確認が出来たなら、当然のようにハチべぇは利奈の右肩に乗る。

 

上田「ここは……けっ、結界!? うぅ、頭がぼんやりしててハッキリしないや」

 

ハチべぇ「結界に取り込まれた時に強く頭を打ってしまったようだね、

他の魔法使いも同じように結界に取り込まれてしまったようだ」

 

上田「みんな同じようににここに来ているのね、どこにいるんだろう?」

 

見渡す限りに多種多様の刃、取ってや柄見えず視界が滲むまでどこまでも刃が伸びる。

 

上にも下にも続いているようだが、横向きには途中から霧がかかったようにぼやけて見えない。

 

ふと、ぼやけた先を見通すなら……そこには誰かいた。 1人、いや2人。

 

上田「っ!? 誰かいるよハチべぇ、ちょっと大きく移動するから捕まってて!」

 

そう注意がけをしたなら、利奈はこの結界の足場となる金属を飛び移っていった。

魔法使いの身体能力、これがあればビルの屋上から隣へと飛び移ることだって容易だ。

 

巨大なはさみと思われる刃に足を降ろしたのなら、そこには俐樹がうずくまっていた。

 

見た様子利奈よりその病状はひどそうだ、元から身体の弱い彼女だからこそだろう。

 

上田「俐樹ちゃん!? 大丈夫……じゃ、なさそうだね」

 

橋谷「こ、これは、何、でしょう? すごく、視界が……吐き気が……!」

 

ハチべぇ「俐樹、君も魔法使いに変身するといい。 そうすればその具合の悪さは治るよ」

 

返事をするまでもなく、彼女は自身の指輪をソウルジェムに変えた。

 

柔らかな黄緑の魂の輝き……その優しい光はそっと俐樹を包んでいく。

 

その光が収まる頃、最初と比べて明らかに俐樹の姿は変わっていた。

強い身体に体質が変わったのなら、静かに息を落ち着ける。

 

 

その姿はまるで花屋から出てきたか弱い娘のようだった、言葉で雰囲気を示すならフェミニン。

 

花咲くようなふんわりとしたスカートがついた、黄緑のワンピースが基調となっている。

 

大きな花びら1枚を摘み取ったようなエプロンに、袖はチューリップのようにふんわりとしぼむ。

 

白のハイソックスを足に付け、その先は黄緑のツヤのあるパンプスを履いている。

 

手袋は付けていないので青いまでに白い肌が見えている、気弱なのを増徴しているようだ。

 

若干乱れた長い三つ編みは一旦解かれ、その魂の色に染まった三つ編みに再度結ばれた。

 

頭にはメイドカチューシャを装備、ソウルジェムはアンクレットとして輝く。

 

 

魔法使いへの変身を終えて呼吸を落ち着けたなら、彼女は立ち上がって周囲を見た。

 

橋谷「わ、私はもう大丈夫です……それより、あの人も起こしてあげてください」

 

俐樹が指さす先にも誰かいたようだが、起こされるまでもなく彼は起き上がった。

 

火本「ぐ……うぅ……なっ、(ない)があったんだ!? ……のわっ!?」

 

起き上がった……が、彼も利奈と俐樹に似たの症状が出てしまったらしく尻餅をついた。

 

ハチべぇ「わけがわからないよ、魔法使いの身体なら耐性があるという事を忘れているのかい?」

 

上田「必ずと言って良い程に入る前は変身してたからなぁ……ちょっと忘れてたかも」

 

火本「結界、への、耐性? そいでこげな具合が()るなっちょったのか……!」

 

気持ち悪さを振り払うように軽く首を振ると、徳穂は指輪をソウルジェムに戻した。

その色は和を感じさせる渋めの茶色、魂の輝きに包まれその身を別の姿に変える。

 

 

着物に羽織と袴、その姿はまるで江戸の街中を歩く1人の侍のような姿だった。

 

足には足袋を履いて質の良い(わら)草鞋(わらじ)をさらに履き、

その両手には布質だがとても頑丈そうな手甲を着けた。

 

腰には茶に輝くソウルジェムが付いた鞘に1本の刀が収まっており、魔力が鞘から漏れ出ている。

重量感あるその風貌……魔法使いならぬ()()()、そう呼んでも強ち間違いでは無いだろう。

 

 

今のところ周囲にいる魔法使いは利奈を含めて3人のようで、

海里や蹴太に釖、3人の姿はどこにも見当たらない。

 

こことは別の場所に出てきてしまったのだろうか? 辿り着く答え、現時点ではこれかな。

 

進めそうな先を探すが、奥の方は前も後ろも順に鈍り先が見えない……先に進むには危険だ。

 

上田「霧みたいなのがかかってて奥までよく見えない……

足場もあまり続いてないしみたいだし、行くのは危ないかな」

 

火本「だが、こん先から今の所はいない使()け魔が出てくる可能性もあっとが面倒だ」

 

橋谷「確かに、見ただけでも危なそうですね……わっ、私の魔法で、奥の様子を見てみます」

 

不用意にこの闇の中には入れないと彼女は考え、機転を利かせて魔法を使った。

 

彼女の魔法は『植物』の魔法だ、黄緑の魔力で植木鉢を作り出して魔法を唱える。

 

 

橋谷「ロンサム・アンヴィー!」

 

 

声量があって力強いけど優しげな声、彼女の呪文に彼女自身の魔力は反応する!

 

あらかじめ植物の種が仕込んであったのだろう、1本のツタが植木鉢から出てきた。

 

向かう先はもちろん見えない闇の先だ、これである程度はわかるだろうと彼女は言う。

 

……ところが、その目論見はあまり間を置かないで崩れる事になる。

 

何故って、闇の先に探りを入れていたツタが急速かつ順々に枯れ出してしまったからだ。

 

橋谷「ぇ、え!? 何ですかこれは!?」

 

ハチべぇ「危険だ俐樹! この様子だと闇の正体は魔男の黒い魔力、早くツタを放すんだ!」

 

火本「そげな事をしちょっ時間は無さじゃっとよ!!」

 

そう言った徳穂は次の瞬間、腰に刺していた鞘を手にして刀を素早く振り抜く!

 

いわゆる『居合い斬り』という斬り方で、その一部始終はかなり素早い。

 

目に見えたのは茶の魔力の残像……気がつけば、その刃は鞘に収まっている。

 

俐樹は焦っていたのか植木鉢を手放すことが出来なかった、まだ抱けるように持っている。

 

……いや、植物を愛する彼女だからこそ乱暴に手放すことは出来なかったのだろう。

それを考えれば、咄嗟にツタを斬ってくれた徳穂の判断は大正解だったと言える。

 

上田「俐樹ちゃん! 大丈夫!? どこにもケガはない?」

 

橋谷「わ、私は何ともありません……ごめんなさい! 臨機応変に、対応出来なくて……」

 

火本「大丈夫(だいじょっ)! 見た感じ、そん植木鉢は大事(でし)な物じゃろから仕方のない事だよ」

 

とにかくだ、無理に先へ進むのは危険だということがわかっただけで収穫だ。

 

となれば()()()()()()ということになるが……結界にゴールがある以上、それはあり得ない。

なら、いったいどこへ進めばいいのだろうか? 次に話すべきはその事ぐらいだろう。

 

そんな事を3人と1匹で話そうとした……その時だった、見知らぬ声が一瞬頭に響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*上へ*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「……へ、上? 今誰か『上へ』って言わなかった?」

 

橋谷「ま、まだ私は何も言っていませんが……そうですよね?」

 

火本「……ん、(おい)の事か? (おい)もまだ(なん)()ていないな」

 

ハチべぇ「念話さえ送られた形跡はないね、本当にそんな声が聞こえたのかい?」

 

上田「みんな何にも言ってないの!? あれ? 変だな、

確かに今、声が聞こえたような気がしたんだけど……」

 

利奈の様子からして、声の事はどうやら本当の事のようだ。 彼女は嘘をつくのが下手な性格。

 

だが周りがその声を聞いていないのも事実……これは不思議な話だ。

 

そうなると、それは念話も使われていない利奈にだけ聞こえた声ということになる。

 

真相を知ろうにも情報が少なすぎるし、事象があまりにも唐突過ぎる。

 

判明には行き届かないだろうが……まぁ、このおかげで1つわかったことがある。

 

火本「上田さんの()事が正しければ、こん先は上に()こて進めば良さそうじゃっど」

 

橋谷「た、確かに……前後左右に移動できないのなら、上下のどちらかに進むしかありませんね」

 

上田「よくわからないけど、今は他に情報が無いしとにかく上に進もう! 早速飛行魔法で」

 

火本「あぁ……上田さんごめん、(おい)は飛行魔法使えない部類の魔法侍なんだ。

幸い足場はずんばい(たくさん)あっで、別の魔法でついて行っ事は出来(でく)っ」

 

ハチべぇ「徳穂、そこは魔法侍じゃなくて魔法使いじゃないのかい?」

火本「そこは好きでそう()てるだけじゃっで見逃してくれよ!?」

 

橋谷「私は飛行魔法が使えます、あまり使う機会がなかったのでそんなに早くないと思います」

 

上田「2人とも上に行くのに支障はなさそうだね、一通りの準備が出来たら魔法を使おうか」

 

一時は行く先もなくどうなる事かと思ったが、どうやら無事にこの先の方針も固まったらしい。

 

目的は魔男討伐、目標は他魔法使いとの合流。

 

さぁ! この暗がりを切り裂くように飛び交い、未だ見えぬ先へ進もう!

 

 

上田「アヴィオン!」

橋谷「フライト・クローバー!」

 

 

2人は魔力を込めて魔法を放ったのなら、赤と黄緑の魔力は空を舞う。

徳穂は魔法を使わず、魔法を使う2人を様子を見守っていた。

 

利奈の魔法は自身の主力としている棍が基準、これを基礎とした箒を作り出してその上に立った。

 

俐樹の魔法は空で葉の広い四つ葉が作られたかと思うと、丈夫そうな茎やいくつかの花が咲き、

1人乗りの簡素で可愛らしいブランコ型の乗り物になった。 俐樹は静かに座る部分に座る。

 

上田「あれ、徳穂さんは魔法使わないの?」

 

火本「どげな飛行魔法か確認したかったんだ、2人とも適性型で(おい)の判断は(ただ)したろかい?」

 

橋谷「は、はい。 私は少し遅いですが……利奈さんも私も適性型です」

 

火本「ふむ、なら(おい)が安全を確認しかたで先導して()っも大丈夫(だいじょっ)そうだな」

 

ハチべぇ「君の魔法は種類が少ない代わりに細かな調整が出来るんだったね。

僕自身見たことがあるけど、場の状況を読み取って魔力消費を抑えようとしているんだ」

 

徳穂はハチべぇの言葉を肯定すると、自らの両手に魔力を貯め始めた。

 

どうやらハチべぇの言う調整をしているようで、その貯まる早さは遅い。

 

そして魔力を貯めきったかと思うと、力強く自らの両膝を両手で叩いた!

 

例えるなら電流のごとく、ふくらはぎを駆け巡って草履へと到達する。

 

さしずめ『魔力付与の草履』と言ったところか、光る草履というのはなかなか見ない。

 

火本「(おい)はそこあたいにある刃の足場を登るから、2人は(おい)の後をついてきてくれ」

 

橋谷「先導してくれるのは嬉しいです……けど、危なくないのですか?」

 

火本「そん心配(せわ)はいらんよ、飛ばずに移動すっで逆に機動性()こてかわしやしんだ!」

 

そう言うと、徳穂は早速高く飛んで1段上の足場に登って行った。

 

優しい事に、下を見下ろして2人が登ってくるのを待っている。

 

まぁ……そんな事知らずに、俐樹は慌てふためいてしまうわけだが。

 

橋谷「えっ、えぇ!? ちょ、ちょっと待ってくださあぁ~~い!!」

 

彼は優しい事に待っていてくれているのだが、俐樹は慌てて後を追う為に飛び立った。

 

俐樹から利き手でで支える先、クローバーの大きなプロペラが光を散らして宙へと誘う。

 

彼女自身は遅い遅いと言っていたが、飛び抜けて遅いと言えるほどの遅さではない。

 

上田「私を忘れてもらっちゃ困るなぁ……俐樹ちゃん! そんなに慌てなくても大丈夫だよ!」

 

利奈も俐樹の後を追って空を飛ぶ、その早さは俐樹よりも明らかに早い。

 

そりゃそうだ、彼女はどちらかというと早さ重視な魔法使いなのだから。

 

追い越そうと思えば追い越せるが、利奈は俐樹に追いついて共に上へと進んだ。

 

 

巨大な図体ながら、軽快に結界の大半を占める刃の足場を登っていく茶の侍。

 

方言混じりな念話を聞きながら、2人の魔法使いはその後を追っていった。

 

しばらく時間も立てば俐樹も飛ぶのに慣れ、最初よりは早くなっていた。

 

上田「俐樹ちゃん大丈夫? さっきよりかなり早くなっているみただけど」

 

橋谷「はい、大丈夫です! さ、先ほどより飛ぶのに慣れてきたので」

 

火本「しっかし、随分(あばてもなか)()け結界だな……ぼっぼっ(そろそろ)(ない)かしら出てきてもおかしくないんだが」

 

何も問題がないというのは確かに安全で良いことだが、この場では状況が変わってくる。

 

ここは魔男の結界……この広さと不気味さからして、おそらくボス級の物だろう。

そんな場所で何も問題が無いという方がおかしいのだ、こんな危険な場所では。

 

……まぁそんな利奈の一瞬の嫌な勘は、すぐさま当たることになる。

 

火本((っ!? いかん、上から(ない)かが来るぞ! 武器を構えろ2人とも!!))

 

その忠告とほぼ同時に、確かに上から何か落ちてきているようだった。

 

複数の落下物……距離が迫るにつれてそれ、いや()()()の正体は明らかになっていく。

 

ほぼ黒に近い四角い石、歪に寒色が混じった丸い石。 様々な石がその正体だ。

 

ただの石に見えるそれらは刃にぶつかるなり、乱暴に着地するなりして動きを変える。

 

どっちの石も丈夫なのか、あちこちにぶつかっても割れることはない。

 

これで終わりか思えば……それでは終わらない、それらは変化を迎えた。

 

 

四角い石の方はゴトッと一度動いたかと思えば、両端から漆黒の腕。

時々闇に溶けて見えなくなるまでの黒い腕、10の指は先が鋭く尖る。

 

丸い石の方は上下からこれまた鋭い刃が飛び出し、2つの目と口が現れた。

暗がりな闇からはどこからともなく小さな球体が生まれる、刻まれるのは逆十字。

 

刃の上は刃の明るみに照らされよく見える。 四角い石は行進し、丸い石はこまのように回った。

 

上からは降ってくる、左右からは投擲と体当たり……下からは無いのが幸いか。

何故か? 飛び上がるには、石の重量はあまりにも重い。

 

そんな2種の石の豪雨が3人の魔法使い達に襲いかかった、冷たく容赦ない凶器の雨が。

 

 

鋭利の使い魔、役割は衛星。

鋭利の使い魔、役割は研磨。

 

【挿絵表示】

 

 

 

橋谷「ひっ……ひえああああぁぁぁぁ!?」

 

か細い悲鳴が一帯にに響くが、《病弱》と言われる彼女も伊達に魔法使いをやっていない。

 

魔法の影響も多少あるが、体重含め総重量の軽い彼女は風邪の影響を受けやすい。

 

落下の勢いによる風の影響で押されたのもあって、なんとか回避出来ている。

 

上田「あっ!? 危ない!!」((俐樹ちゃん私から離れないで!))

 

利奈はその早さを生かし、降り注ぐ2種の使い魔を軽々とかわしてみせた。

 

余裕があるのか、飛んでくる投石を自前の棍で舞いながらたたき落としている。

 

俐樹に当たりそうな投石ごと叩き落としている辺り、彼女の技術の高さを思い知らされる。

 

徳穂も先程の宣言通り上手く回避出来ているようだが……この猛攻では全員、時間の問題か。

 

さすがボス級の手下と言ったところか、使い魔の強度は並大抵の固さではない。

利奈の棍でも、叩き落としてその軌道を変えるか弾くかが精一杯で破壊には至らない。

 

火本「投石が()こすぎっ!? こん投石がなきゃ四角(しかっ)い方なら斬れるのに!」

 

上田「……()()()()()()()斬れる?」((投石が無くなったら斬れるんだね!))

 

火本((え? そうじゃっど、集中が出来れば連続で斬ることも可能だ、四角(しかっ)い石に限るけど))

 

刃に岩石がぶつかる音でやかましいこの環境下では、かなり念話は重宝する。

 

利奈が提案したのは、自分は投石を弾くことに神経を注ぐということだった。

 

俐樹にもその提案を話したところ、彼女はこの場を凌ぐ方法をひらめいてるらしい。

実行までには時間がかかるらしいが……そうなると、彼女の必殺魔法だろうか。

 

上田((私が投石を全部弾くよ! 徳穂さんは石を斬って、俐樹ちゃんは魔法の準備を!))

 

この猛攻の中であまり時間は使いたくない、すぐさま利奈は行動に出た。

 

上田((ハチべぇ! 使い魔や魔女・魔男の他にも、魔力は感知できる?))

 

ハチべぇ((可能だよ、かなりの範囲において僕は魔力全般の感知が出来るからね))

 

上田((じゃあ悪いけど俐樹ちゃんの魔法の出来具合と、他に魔法使いがいないかの探知をお願い))

 

ハチべぇ((君が探してほしい魔法使いは海里や蹴太、それと釖のことだね。

おそらくここは違う場所にいるだろう、君は使い魔の投石を弾くのに集中するといいよ))

 

上田((ありがとうハチべぇ! それじゃ、私はしばらくこっちに集中するからよろしくね))

 

それを期に利奈の念話は途絶え、彼女は2本目の棍を出して飛ぶ速さを早めた。

 

 

火本((利奈さんをこげな()こで見たこちゃ無かったけど、

尋常じゃなく()え! いかなこて(まさか)ここまでとは思わんかったな))

 

橋谷((利奈さんは1人でボス級の魔女を倒した経験がありますからね。

あぁ……魔法の方は、もうしばらくお待ちください! かなり大規模な魔法なので))

 

火本((準備に(あせ)っこちゃ()よ俐樹さん、彼女と(おい)()いながい上に(すす)んからゆっくい準備(しこ)()か))

 

そう念話で語る徳穂、傍らで両手で刀を握りしめて硬質な石をばっさり切り裂いた。

 

何度も、何度もだ。 技術は高く、斬った後の残骸にさえ飛び移って移動する。

その繰り返しの一刀が力強く、1回1回止めてはいるが手際は良い。

 

俐樹はこじ開けて進む侍の後について行く、抱かえる植木鉢に魔力を注ぐ。

 

かなり凝った作りで、ある程度黄緑の魔力が貯まったこの植木鉢なら、

すでに魔法を使えそうなものだが……さらに魔力を込めるとなると、

恐らく()()()()()()があってとの事だろう、考えなしはあり得ない。

 

目指す量の半分程貯まった頃にふと横を見ると、赤い光が目の前を横切った。

 

この状況だと恐らく投石を弾いてくれている利奈だろうが、視覚で姿を捉えられない。

前のボス級の魔女の時は少なくともその姿を目で捉えることが出来たが、今は見えない。

 

彼女の強さは明らかな伸びを見せる……これが、魔法使いの才能というやつだろう。

ハチべぇが多くは彼女と共にいるのもわからなくもない、信頼度の他にも安全度が高そうだ。

 

 

長いこと上に登って行ってるが、特に変化も無く順調に上に登ることが出来ている。

降ってくる使い魔の数もだいぶ減ってきているが……そう都合良くはいかないらしい。

 

 

一帯に響く何かが折れた音……硬質な音、植木鉢に刺さったのは金属片。

尋常じゃなく驚いたが、植木鉢とその中身自体に支障は無いので問題なさそうだ。

 

 

俐樹は音の方を見て気がつく、この金属片の正体が 刀 身 なのだと。

 

 

火本「しもた!? 刀(つく)っ魔法は(おい)そげん()よは()!!」

 

 

どうやら彼の魔法は攻撃や防御のに長けているが、制作の方は苦手としているらしい。

 

切り損ねた使い魔が飛びかかってその両手を振り下ろす、目的はその鋭い爪で切り裂く事だろう。

 

さすがに不意打ちには対処出来なかったようだが、風を斬るような早さで目の前に何か来た!

 

利奈だ! 投石を弾いていた作業からのこの突進、これは恐らく捨て身。

自身を…… 身 代 わ り にしようとしているのだろう。

 

そんなの 不 本 意 に決まっている! 多少無理をしてでも今に間に合わせる!!

 

 

橋谷「インテンス・ジャックツリー!!」

 

 

呪文と共に魔力を充填し終わった植木鉢を上に突き出す、急いだせいか若干魔力がこぼれた。

 

まぁ多少雑だったとはいえ、どちらにせよ間に合ったようだ。

 

照明……いやそれ以上の、例えるなら太陽にも匹敵するような強烈な光が放たれた!

 

魔力の許容量を超えたのか、植木鉢はひび割れて木っ端みじんに砕け散ってしまった。

入っていた土は渦を巻きながら魔力に還元され、リンゴより一回り小さい位の種が出てくる。

 

晴天と共に照らされた草原のように輝く黄緑……俐樹は芽吹く時を感じ取れた。

 

両手を向けて意識を集中するなら、種の皮は弾けて何本かのツタが飛び出した!

 

ほとんどがハサミの刃などに絡みついて土台とし、上下に編み上げられて急速な成長をする。

時には丈夫そうな枝が生え、時には広々とした葉が生え、成長を繰り返す。

 

若干の光源とさえなるその強大さ……まさにツタどころか大木と言うのが合っているだろう。

 

やはり『植物』は生きる物の一種なのか、ありがたい事に余った魔力が俐樹に戻ってきた。

まさか、これが魔力を過剰に込めた効果だとは想わないだろう。

 

魔力不足になるかと思ったが……これは思わぬ幸運だ。

 

さすがにこんな大木の全ては操作出来ないようだが、ある程度の操作はできるらしい。

さしずめ自分から数mといったところか……有効が広範囲なのがなんとも必殺魔法らしい。

 

上田「うわっ、なにこれ!? つ、ツタ? ……そっか、俐樹ちゃんが助けてくれたのか」

 

ふとした時に利奈の驚く声がする、声がした方を見るなら、

利奈と徳穂にご丁寧にハチべぇまでツタに捕まっていた。

 

近くには砕けた石が転がっている、一部残骸から生える漆黒の腕が生々しい……

どうやらツタが利奈と徳穂を救う時に、襲いかかってきた使い魔も破壊してくれたようだ。

 

火本「(あっ)ねじゃねか!? いくら(おい)が危なかったからって、捨て身をされるのは辛すぎっよ!」

 

ハチべぇ「利奈が行動は時折自分を計算に入れない、自己犠牲なんて身も蓋もないね」

 

上田「あはは……ごめんごめん、こうでもしないと間に合わなそうで思わず飛び込んじゃった」

 

橋谷「みっ、みなさん! よかった……無事だったんですね」

 

ハチべぇ「僕までツタに捉えられるのはわけがわからないけど、

利奈と徳穂は窮地から救われたみたいだね、使い魔の攻撃もほぼ無力化したようだ」

 

ほぼ無力化……どういうことかと考えてみたら、そういえば四角い石の落下が無い。

 

投石はまだいくつかあるものの、その数は最初に比べて歴然と減っていた。

 

丈夫そうな枝は生物のようにしなり、飛んでくる投石をある程度はたき落とした。

 

広々とした葉は傘となって四角い石の落石を防いだ、何度も落ちるがその先にも葉。

 

まるで日光を求める植物本来の姿、その葉の重なり具合からすれば

徳穂はもう少し魔力を減らしてしまっても登る事が出来そうだ。

 

まぁ落石攻撃がほぼ無くなったとなれば、切り裂く攻撃が増えそうなものだが……

その辺は利奈が臨機応変な対応でが防いでくれるだろう。

 

橋谷「本当に怪我もなくて良かったです! みなさん、無事、で……」

 

まだ何か言いたかったらしいが、だんだんと声は萎縮して前のめりになり……

 

おっと、乗り物から身体が離れて落ちる前に利奈が支えてくれだようだ。

何処かに飛んで行ってしまいそうな俐樹の乗り物は、徳穂が捕まえて支えてくれる。

 

ふむ、宙を飛べはしないが椅子として座るぐらいなら本人でなくても出来るらしい。

 

火本「うお……っと! (あっ)(あっ)ね、俐樹さんの乗り物どっかに()っしまいそうじゃったな」

 

上田「俐樹ちゃん大丈夫!? 急に倒れそうになって危なかったよ!?」

 

ハチべぇ「俐樹、君が必殺魔法を使うのはこれが初めてだったね。

しかも、既に完成していた必殺魔法にさらに魔力を追加して込めた。

未体験の大幅な魔力消費だ、身体への負担が大きかったんだろう」

 

今までの状況からして……ハチべぇの言う事は筋が通る、

利奈に頼まれて魔力を感知していたからわかった事だ。

 

橋谷「すみません、気が抜けた瞬間に突然めまいがして……

でも移動に支障はありません、構わず先に進みましょう」

 

火本「明らかにフラフラじゃねか! 何処か休めそな場所は……

ダメだ無い、投石が邪魔で落ち着けそうな場所が無いな」

 

上田「それなら私に考えがあるよ! 私達の進行具合は下がるけど、

俐樹ちゃんの意思は尊重できるし先に進むことが出来る」

 

そう言うと、利奈は徳穂に俐樹を任せて作業に取り掛かる。

両手に魔力を込めたなら、頭に明確な完成品を思い浮かべて呪文を唱えた!

 

 

上田「アロンジェ・ジュイサンス!」

 

 

両手に持っていた棍を重ねて、少し時間を置いて手早く広げる。

 

すると、広げたその空間に布が現れた。 一連の動作はまるで巻物を広げる動作。

 

形状的に完成品は……空飛ぶ絨毯? いや、面白いが空飛ぶ担架と言ったところか。

 

人を乗せて飛ばすにはそれなりの技術が必要そうだが、

まぁ彼女ならこの魔法具を上手い飛ばせるだろう。

 

利奈もなかなかしゃれたことを考える、これなら寝たままでも移動可能だ。

 

火本「こや担架(たごし)じゃっとな? 何回も棍(つく)っだけあって器用(じく)なものじゃっど?」

 

ハチべぇ「前にも似たような構造のを利奈は作った事があるね。

これに乗って移動しても、身体に何らかの支障は無いと思うよ」

 

橋谷「そ、そうなんですか? では……少し休ませてもらいます」

 

そう言うと、俐樹はふらつきながら利奈の手伝いを借りて担架へと寝転がった。

 

こんな環境下でも担架に横たわって眠ってしまう……

無理して貯まりきるのを早めた位だ、かなりの負担だったのだろう。

 

……ふとした時、利奈は新たに作り出した棍で投石をはたき落とした。

ここはまだ魔男の結界、しかもボス級の魔男が主となる結界。

油断は出来ない……ここから出ない限り完全な安全は無いのだ。

 

上田「投石止まないなぁ……こんな大木があるのに、どこから飛んで来てるんだろ」

 

火本「全部(すっぺ)防ぎ切っのは流石に無理(むい)な話か、()よ先に進んだ方が良さげだな」

 

ハチべぇ「下の方は残骸の他にも生き残りの使い魔が大量にいるみたいだね。

進むなら上に進んだ方が良いと思うよ、今までの方向を無理に変える必要もない」

 

上田「それもそうだね、じゃあこの葉を屋根にしながら上に登って行こうか」

 

火本「おっと!? ()りけど(すす)んのは少し待っちょっただきたい! 

()か刀を(つく)いたいんじゃっどん、魔法で(つく)っは得意じゃねんだ。

武器もないし、時間をくるれあ(おい)としても助かっかな」

 

確かに武器がなければさすがに大変だ、利奈は彼の魔法での政策を待つことにした。

 

折れた刀を慣れた手つきで鞘に納め、そのまま居合の構えに入った。

鞘の中で魔力が練って新たな刃を作っているようだが……その速度は明らかに遅い。

 

利奈は2人の護衛をしながら準備が整うのを待つことにした。

1人は休養1人は準備、それらが終わるのをゆったりと待つことにしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少しの時間を戻し、少し上に視点を進める。 そこには2人の魔法少年の姿があった。

 

水彩画の海のように暗闇を魔力が照らしていた、その色は青と水色。

 

闇の中で青い光を放ちながら飛ぶ複数の青い物体……

よく見ると、それらはヒトの手のひら程の尖った鉄杭だ。

 

主に四角い石に対してだが、落下してくる石全般にその鉄杭は刺さって行く。

 

それらは青の魔法少年に殴り蹴り、水色の魔法少年の魔法、

つまり『念力』の魔法による石破壊の起点となった。

 

中野((ちょっと海里! 本当に進む方向は上でいいの!?))

 

清水((心配いらねぇよ、確かに下の方がいる魔法使いの数は多いけどな、

下の方には利奈がいる……魔力感知出来るハチべぇもいるし大丈夫だろ))

 

中野((まぁ彼女の実力は僕も知っている、僕らのチームのエースだからね。

それだったら孤立している上の方にいる魔法使いの方を優先しようというのはわかるよ))

 

どういうことかというと、2人が目を覚まして変身したところまでは最初の3人と一緒だ。

 

だが使った魔法が違ったようだ、海里が最初に使ったのは魔法のコンパスを使った探知の魔法。

 

事前に作っていたのだろう、時間をかけて作ったその品は性能が高いと言っていい。

……まぁさすがに距離が離れていれば鈍くもなるが、この単調な結界では十分だろう。

 

探査の結果、上には1人で下には3人魔法使いがいることがわかった。

 

魂を交わした知人(リュミエールのメンバー)なら誰かということまでわかるようだ、そうでなければ性質が精一杯らしい。

 

性質というと、主なのをあげるなら……そうだな、

『形ある魔法』か『形なき魔法』かは大丈夫と言えばわかるだろう。

 

いくらボス級とはいえ、魔法使いが3人もいれば使い魔くらいは凌げるだろう。

 

……え、『もし魔男に会ってしまったらいくら3人でも大惨事じゃないか』って?

そんな事はあり得ない、何故なら彼ら彼女らは扉の向こうにいると決まってるからだ。

それはシステムが位置付けた規則、破られるとしたら無いに等しいレアケースだろう。

 

 

行く先、蹴太を先導に先へと進む。 そのルートは最も効率が良く、魔力消費も少ない。

 

飛び交う投石も彼の『念力』の魔法が退けた、いくつもの逆十字の投石の軌道を変える。

 

踏みしめる場は海里が使い魔に刺した鉄杭なのだが、所々使い魔を壊しきれない。

 

そこで海里の出番だ、後続の彼は壊しかけの使い魔を破壊してくれる。

 

時には丸い石の使い魔の本体さえ殴り飛ばした、ケンカ強さはなんとここで生きた。

 

2人の息はかなり合っている、魔力の色が似ていると色々な点が合うのだろうか?

 

それはさておき、2人は順調に先に進んでいたが……変化は唐突に、下から現れた。

 

清水「順調に行けば上につくだろうn……って何だ!?」

 

中野「これは植物!? 下の方から生えてきたのか!? 成長が早すぎる!!」

 

清水「確実に魔法による物だ……あぁなるほどな、これは俐樹の『植物』の魔法だろ」

 

分析は蹴太の方が早かったが、情報は海里の方が多かった様子。

海里の言う通り、これは俐樹の放った必殺魔法だ。

 

丈夫そうな枝、広々とした葉……攻撃の収まり具合からすれば、魔法の意図は簡単に読める。

 

さしずめ攻撃の無力化と言ったところだろう、思わぬ魔法だったとはいえこれはありがたい。

しっかりとした足場になっているのに、これをわざわざ無視して進むのには面倒だ。

 

清水「よっしゃ! とにかくこれを利用しない手はねぇな、これに沿って進もうぜ」

 

そうと決まれば使わない手は無い、2人は大木の葉を足場にして再び上に進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大木の頂点に辿り着く着く先、そこは目的地である結界の終着点でもあった。

 

何だか比較的楽に登れてしまったような気もするが、

普通ならここまで苦労をしないようには登れていないだろう。

 

下から投石が飛んで来ているが、石は意外と重くてあまり上の方まで上がってくれない。

下にいるのに、上にいる魔法使い達に向かって落石攻撃だなんてもってのほかだ。

 

まとめると、頂上に辿り着いてしまえば鋭利の使い魔を倒したも同然ということだ。

 

利奈一行が頂上に着く頃、俐樹の体調もすっかり回復していた。

担架の上で起き上がり、登り疲れた2人に回復薬(花の蜜)を作る。

 

上田「俐樹ちゃん!? ダメだよ! もう少し休んでいなきゃ」

 

橋谷「わ、私はもう大丈夫です、体調の方もすっかり回復しました。

散々休ませてもらったんです! もう攻撃はなさそうですし、今度は利奈さんが休んで下さい」

 

上田「でも! ……うん、ありがとう俐樹ちゃん」

 

回復薬を完成させた俐樹だったが、珍しく強めに出て利奈にこれを押し付けて来た。

元々押しが弱いのが利奈だ、俐樹の意思も尊重して回復薬を受け取る。

 

ハチべぇ「君は休憩を取らなくても大丈夫なのかい?」

 

火本「(おい)? (おい)は剣道で元から身体(ごて)を鍛えちょったのもあっとかなぁ……そげん()れてはいないよ」

 

ハチべぇ「元から鍛えられていた身体が魔法使いの変身時にさらに強化されたようだね。

それなら、利奈とこれほどの差が出るのもわからなくもないよ」

 

 

利奈が俐樹から受け取った回復薬をゆっくり飲みながら休んでいると……

何やらどこか近くで一同を呼ぶ声がした、それは移動しながら近寄ってくる。

 

清水「お〜〜い! 俺達はこっちだ、先に着いて待ってたぞ!」

 

中野「利奈さん! 俐樹さん! 徳穂! みんな無事ですか?」

 

橋谷「ぁ、あら? リーダーさんに蹴太さん! お二人共先に登り切っていたのですね」

 

清水「おう、正直俐樹の魔法はかなり助かったぜ。

落石を避けながら登るのが、途中から楽になったからな」

 

ハチべぇ「大木の葉が傘の役割を果たしていたからね。

結果からしても、君達への負担もかなり減少したと言えるだろう」

 

上田「……よし、全部飲み切ったし体力も回復した! 私が足引っ張っていられないもんね!」

 

火本「うんうん、利奈さん含め2人共回復したようで良かったよ。

……あれ、とこいで例の盗人の姿が()んじゃっどん」

 

徳穂は釖がこの場にいない事が気になったようだが、それは海里が真剣な面持ちで説明し始めた。

 

清水「釖は……俺の魔法が合っていればの話だが、恐らくあの先にいるぜ」

 

海里が指差した先、そこには禍々しい黒色の扉があった。

とげとげしいドアノブは、まるで入る者を拒む様。

 

黒い魔力……ハチべぇでなくても、そこから漏れ出る魔力は明らかに危ないとわかる程だ。

 

清水「魔力に大きな乱れが無いから、多分魔男に捕まってるな……

死ぬ事は無いとはいえ、一刻も早い行動が必要になると思うぜ」

 

上田「魔男に早く挑もうって事だね、先頭は私が行こうか?」

 

清水「おう、利奈は入ったら速攻で釖の救出に向かってくれ。

もちろん、無理そうだったら無理して行く必要はねぇ。

俺と徳穂が先に行く、蹴太と俐樹は後に続いてフォローしてくれ」

 

方針が決まれば後は簡単な魔法の確認だ、それを終えたらいよいよ魔男に挑む事としよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の時は近い、運命の時も近い。 刻一刻と時は立つ……

 

 

この時、利奈は思ってもいないだろう。

 

 

まさか、この先で思わぬ者に救われることになるなんて……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒く渦巻く空間の中、わずかな光を反射してそこにいる者達の存在を示す。

 

1つは化け物1つは人間、空間内に存在するのは今のところその2つだ。

 

そこに立ち尽くす1人の魔法少年、伝わるはずも無いのに問いを投げかけた。

 

 

「……どうして、何でこんな事してまで俺を助けたんだ!?

お前がそこまで罪を被る必要ねぇだろ!! なぁ!!」

 

 

答えが返ってくるわけがない、そもそも言葉が伝わっているかさえもわからない。

 

目の前の化け物はただ、()()()()()魔法少年を見つめるだけだ。

 

続く問いを断ち切るかのような、金属を弾いたような咆哮が響く頃……

どこか遠くで扉が開く音がしたような気がした、それが開戦の音と認識する前に。

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

中野「やっと有利になったって言うのに……どこまでこの魔男は強いんだ!?」

 

 

 

橋谷「こんなの初めてですよ! どうしてこんなことになっているんですか!?」

 

 

 

清水「っ!? り、ぁ……利奈ああああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「利奈をこれ以上傷つけるなああああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

 

 

〜終……(27)闇を秘め変えて[前編]〜

〜次……(28)闇を秘め変えて[後編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




 こ れ は 長 い w ^q^ 気合いが入っていたとはいえ、結果長文。

なんとか15000字以内には収める事が出来ましたが……
あれ、後書きまで来れた人いるのかな? みんな大丈夫?(不安

前後編は戦闘シーンも多数入ってくる為、文章が長くなりがち。

段落をなるべく切り離して読みやすくなるような努力はしているのですが、
やはり量が多いと大変な物ですね。 長文無双で申し訳ない。

前後編は結構重要なフラグとかも多数混ぜている為、
確実に長文となってしまうのが逃げられない道……どうしようもない。


……え、『服装の表現が細かすぎて頭に思い浮かばない』?

ご安心を! その辺は私も自分の表現力に限界感じて描きましたw

左から俐樹、利奈、徳穂です。 相変わらずの画力ですが、参考までに。

【挿絵表示】



はい、この先安定の 雑 談 となります。 読むのが面倒な方は、
長めの改行を入れておくので、容赦なくすっ飛ばしちゃってください!








今回の雑談は……そうですね、『ご当地』についてでも話しますか。
え、『前にも話した内容じゃないのか』って? キノセイデスヨー 多 分 ^q^

うちの地元には地元限定ハンバーガーショップがありましてね、
観光客だけでなく私含めた地元民も愛するお店なんですよ。

名物は甘辛いタレにつけ込んだからあげのハンバーガーなんですよ!
これが飽きない飽きない何個でも食べれる、からあげ単体も最高!

まぁ何個でもと言ってしまうのですが、胃袋的に1個が限界ですw
ですが通い詰めはしますよ、たまにやる割引がお得。

そんなお店なんですが……最近四六時中混んでいるんですよこれがonz

原因? そうですね、新幹線がやって来たと言えばわかるでしょうか?

休日どこも行列だらけですよ……こんな経済効果いりません(泣

終いの果て、平日も交通網渋滞で私生活にも支障が出る事態。

儲かるならまだ良いけど 赤 字 ってどうなってるんだよ電車会社!

調べてみれば、石川県も以前こんな事態になっていたようです。
……全部じゃないですが、石川県民の気持ちがわかった気がします。

頑張れ地元! だけどもせめて頑張りすぎるな!! 特に黒z(殴








さて、文章的には長く時間的には早い。 とにかく、今回はこの辺で。

次回はいよいよ花火のように華やかで爆発的な展開がお待ちかねですよ!

予告的には完全に不穏な空気が漂っていますが、果たしてどうなる事やら。


それでは皆様、また次回。 ここまで読んでくれてありがとです~~!!


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(28)闇を秘め変えて[後編]


活動報告のお知らせ通り5月31日に投稿(予約投稿)です、みなさんこんばんは!

5月最後のハピナです、早いもので明日からもう6月ですよ。

梅雨の時期が迫ってますね……ところで梅雨ってどんな雨なんでしょう?

いやいや、嫌味とかではなく北海道には梅雨が存在しないんですよw

ある程度長い雨は降ったりしますが、梅雨と言えるほどではないですね。

梅雨があると湿気が増えるそうで……カビには気を付けてくださいね。

女性の方はヘアスタイルがまとまらない傾向にあるそうなので、
手鏡やブラシ等を所持していると役に立つと思います。

まぁ梅雨を経験したことないやつが何を言っているんだって話ですが(白目

やはり天気は晴れが良いですね、雲一つ無い青いまでに晴天の空。


さて、前回のあらすじとしては一味違った結界を切り抜けた所で終わってたはず。

利奈は珍しく補助に徹し、徳穂はその刀裁きを見せてくれましたね。
見所としては俐樹が必殺魔法を使って格段に場の状況を有利にした事でしょうか。

おかげで、先の方にいた海里と蹴太もかなり楽に進めていましたね。

釖は不幸にも結界の最深部に出てしまったようですねぇ……
魔男に話しかけるというおかしな行動を取るし、大丈夫でしょうか?

まぁ、それもこれより進む物語の先で分かってくることでしょう。

前回不吉な予告があったのもあり、不安を煽られる現状。
果たして、魔法使い達は無事に魔男と討伐することは出来るのでしょうか?


さぁ、(恐らく)待ちに待たれた物語の幕を上げましょう!

舞台は言わずとも暗く冷たい世界、そこで物語は進みます。

少年の言葉の傍らで、魔男は1人思考する……。



 

こんなヒトとも言えない姿に成り果てようとも、その異様さを自覚する事位は出来る。

 

知っていた……こんな事するのはかなり負担がかかる事だって、わかっていた。

 

まぁ、それでいい。 何だって俺は定めた、定 め ら れ た 悪役だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和出「……っうわ!? ちょ、何だ!?」

 

魔男の前に立っていた釖だったが、不意を突かれその体はかなりの早さで持って行かれた。

 

今現在いたはずの空間が、目で負えない程の高速で流れる……

今のスピードが自分にとっての普通の感覚より速い証拠。

 

移動が終わって止まるなら、その金属質な床に着地をする。

周囲を眺めてみたなら、周りには数人の魔法使いがいた。

 

上田「だっ、大丈夫!? 魔男との距離がすごく近かったよね!?」

 

そう慌てて問いかけてきたのは、花組では既にかなりの知名度を誇る少女。

 

なるほど、 場の状況からして釖を移動させたのは利奈だったらしい。

 

釖に大きな怪我は無いが、さすがに魔男と至近距離な状況は驚かれる。

 

和出(怪我なんてするわけねぇんだがなぁ……こいつらまだ()()()を知らないんだったな)

 

橋谷「あ、あんな所にいたのに……怪我が無いなんて奇跡です!」

 

ハチべぇ「魔力に大きな消費や明確な乱れも無し、大事も無くこの場にいたようだね」

 

和出「元は俺の所属するチームリーダーの攻撃だぜ?

知ってるやつの攻撃ならある程度は回避で出来るに決まってるだろ!」

 

清水「つまり、多く魔法を使わないでボス級の魔男の攻撃をかわしてたって事か?

見たところ無傷だしなァ……それにしては、あまりにもラッキー過ぎる気がするが」

 

火本「のんきに話しちょっ場合じゃねよ!? 目の前に魔男がいるじゃねか!!」

 

清水「落ち着け徳穂! 今の距離を保つ内は大丈夫みたいだ、

釖は避けれてたとはいえやはりボス級……戦術でも立てようぜ」

 

手慣れてると言ったところか、リュミエール一同は大きく焦ることは無い。

 

それはそうだ、実際魔法使い達は魔女・魔男の1番の欲の実現場所とも言える場所にいるのに、

少し距離を置いた先の結界の主は彼ら彼女らに近づいてこようともしない。

 

この魔男には魔の物特有の激しいこだわりが無いのだろうか?

 

どちらにせよ好都合だ。 海里が他の魔法使い達に連絡を通したなら、

今いる6人でどの位の事が出来るかの話し合いを始める。

 

どちらにしろ、また校内でボス級の孵化が起こるなんて事になったのだ。

本校舎とは距離のある外れの古校舎とはいえ、やはり早急な討伐をしたい。

 

 

……さて、話がまとまるまでの間はこの空間についてまだしていない説明でもしよう。

 

 

この場は、鋭利の魔男を主とする結界の最深部。

扉の外ほどではないが、やはり最深部も空気が暗く冷たい。

 

 

意外にも扉の向こうはそれなりに明るかった。

十字に伸びる廊下の先に中心に広々とした場が空ける。

 

廊下を歩けば牢屋が並ぶ、鉄格子は頑丈でもその内部は丸見えだ。

何故か牢屋の中は家具やトイレもろともズタズタに切り裂かれている。

 

何とか使えそうな程に無事な牢屋は数えられる程だ、

それでも100%まともな生活には不可能な様子だが。

 

廊下は古びた石の床、広場は黒い金属の床。 硬質な床はどちらも冷たい。

ただでさえ暖かさなんて元から無かったような空気なのに、

不気味な雰囲気と混ざりに混ざって病的な程に冷え込んだ。

 

冬なんて表現は似合わない、この場に合う名は心霊スポットだ。

まぁこの場に幽霊なんていそうにない、いたとしてもすぐ逃げるだろう。

 

魔男のいる広場には、雑多に壊れた拷問器具がばらまかれていた。

 

何本にも束ねられたレザーウイップ、バラエティのテレビでよく見る三角木馬……

西洋のもっと残酷な物もあったが、マニアック過ぎて名前がわからない。

 

どれもこれも無茶な使われ方をしたかのように壊れてしまっているが……

 

あぁ、全て 彼 が要因で壊れてしまったのか。

 

広場のど真ん中に位置する電気椅子、その機能を失った電気椅子に彼は座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、この電気椅子は()()()()()()()()のだ。

 

 

だけど電力を使い切られて壊れてしまった、この結界の主である魔男によって。

 

 

金属質の怪物は立ち上がる、奇妙で足のような部位を動かして立ち上がる。

外され忘れた電気椅子のヘルメット、無理矢理引っ張られたコードは千切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を一言で言うと、とても歪な形をした刃物だ。

大きさは……成人男性より一回り大きい位かな。

 

恐らく下半身となる大きな刃の部分と、胴体となる肢の部分には

それぞれ別の複雑な模様が丁寧に彫り込まれていた。

 

人間でいう腰辺りからは第二の足と言えるような部品が付いている。

月の関節に先端は巨大なハサミの刃……先ほど立ち上がる時もこれを使ったのだろう。

 

巨大な頭は鉄球だ、ペンキでべったりとバツが描かれている。

そこにはヒトならあるべき顔が無く、ただバツが描かれているだけ。

 

頭には千切れたコードが付いたヘルメットが被さっている、

電気椅子から無理矢理立ち上がった時に取れた代物だろう。

 

腕であろう固定化された部位は一見すると目のようにも見えた、

中心には目の虹彩を象るかのように手錠がはめ込まれている。

 

手に当たる両端には球体にお椀が2つ付いたような部品が付いていた。

釖が言うに、そこから様々な種類や強度の刃が出てくるらしい。

 

 

これが、『花の闇』と呼ばれその中心核となった少年の成れの果て(魔男)だ。

 

希望なんて最初から無かったかの様な風貌は、元になった少年の感情を指し示す。

 

自暴自棄……その性質のままに自分をただひたすら痛めつけていたのだろう。

 

だが人間の為に作られた器具が金属質の魔男に通用する訳がなく、

どれだけ傷つけようとも悲しいことに彼は無傷のままだった。

 

……今はただ、戦術がまとまり広場に足を踏み入れた魔法使い達の相手をするだけだ。

 

 

鋭利の魔男、性質は自暴自棄。

 

【挿絵表示】

 

 

彼は自らに傷を求め、ダメージを受ける為に侵入者に対峙する。

 

自傷という名の救いを求め、魔男の刃は鋭く光る。

 

それぞれの役割のままに魔法使い達は立ち向かう、未だかつてない絶望的な魔男へと!

 

 

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

魔男の攻撃は多種多様、その刃は近接にも遠距離にも対応した。

 

利奈が接近して乱舞をかまそうとするなら、足に当たる刃で応対してみせる。

雑魚級の魔女・魔男なら余裕で通じるはずの二本流も、この魔男相手では互角らしい。

 

遠くから俐樹がツタを高速で伸ばし、海里が重りのついた磁石を飛ばしてくる。

そんな遠距離からの手段には手に当たる部位から様々な刃を連射してきた。

 

拘束しようと伸びるツタをズタズタに切り裂いて細切れにし、

投げられる重り付きの磁石に大量の刃を付けてその飛ぶ方向を変えてきた。

 

やっかいなのがその飛ばす仮定でその部位が()()()()しているということだった。

それは居合いを狙う徳穂の集中力を乱し、蹴太の念力の魔法でも止められない。

 

 

一言でまとめると……異常なまでに強い、今までの魔女魔男とは格が違う。

 

以前どこかで魔女・魔男は元となった魔法使いによってその攻撃手段や結界、

使い魔や()()()()()にまで大きく影響してくると言っただろうか?

 

元となったのは絶望すら操る事が可能である強力な魔法を持つ魔法少年……

原理がどうであれ、その強力さが魔男にも写し出されていると言うのが妥当だろう。

 

魔法使いの最高位とも言える利奈を加えてでも、順調とはとても呼べない苦戦具合だ。

 

だが、利奈は薄々感じていた……この魔男は何かが違う、行動から感じる違和感。

それが重要な事に繋がりそうなきもするが、今は思考を戦闘からずらせない。

 

 

乱舞で蓄積ダメージを狙っていた利奈だったが、かなりの手数を弾かれてしまう。

まるで利奈の攻撃方法を()()()()()()()かのようだ。

 

双方見切り見切られ……読み合いが続く。

 

稀に斬られそうになる事があるが、海里が磁石をぶつけて弾くか、

蹴太が魔法で軌道を変えるかのどちらかの魔法が利奈を助けてくれた。

 

釖も、相変わらずの大振りながらなかなか頑張っている。

時には拳を巨大化させてパンチ! 時には足を巨大化させてキック!

 

一見すれば隙だらけの金属質な頭を重点的に狙うが、

魔男もヘルメットのコードを振り回して魔男は感電を狙う。

ただでさえ当たれば強いな攻撃なのに、これでは当てられず無意味だ。

 

弱点さえ見つかっていない現状、このままでは消耗戦となってしまう。

変化が必要だ、そう思った利奈は一部魔力を自ら被るシルクハットの中に集約させた。

 

彼女の帽子は収納魔法の媒体となり、かなりの数のアイテムが収納されている。

 

その中には彼女が事前に作った魔法具がいくつか入っている、

まぁ普段は棍で済んでしまう為にあまり使うことは無いが。

 

しばらくして……とある魔法具に魔力が充填された、あとは使う隙を探すだけだ。

 

助力を求めて念話をしようとしたが、まともな念話が出来る状態では無かった。

途切れ途切れで単語まみれな内容だが……伝わるだろうか?

 

上田((新、手……隙……作、成……助け、が……欲しい!))

 

中野((……え、何? 内容が切れすぎて何を言ってるのかがわからないんだけど))

 

清水((ようは新しい手立てを試したいから隙を作るのを手伝ってくれってことだな、

蹴太は後衛重視に戦闘スタイルを変えて、俐樹の手助けをしてやってくれ!))

 

中野((隙を? わかった、とにかく俐樹ちゃんを助ければ良いんだね))

 

橋谷((け、蹴太さんが手伝ってくれるのですか? わかりました))

 

どうやら海里の手助けもあって、言いたかった事が伝わってくれたようだ。

 

海里が何も無い空中に手をかざしたかと思うと、そこから何か取っ手が現れた。

 

その取っ手を手にして引き抜くと、現れたのはプラスチック製の剣だ。

 

魔力が付与されているのか、その半透明な刃の内部は淡い青に光っている。

 

前にも見たことある碧刀の方が威力も高く、これを使った方がいい気もするが……

 

碧刀は金属製、感電を避ける為にも電気を通さないプラスチック製を使ったのだろう。

 

蹴太はというと、海里の言う通り俐樹の手助けをする為に行動を開始。

 

『念力』の魔法を使ったのなら、俐樹の操るツタが水色の光に包まれた。

 

見た様子、俐樹が操るツタの動きを補助してくれているようだ。

ツタが切り裂かれることがかなり減った、効率も上がり本数が増える。

 

 

一方利奈の方はというと、二本流をやめて1本で魔男に対応していた。

 

主力の前衛に海里が加わってかなり楽なったのがありがたい話。

 

片方の棍を上に投げたのなら、海里がそれに手をかざしどこかに収納される。

 

最初は均衡を保っていた戦況も、段々とその状況は変わっていく。

 

さすがに優秀な前衛が2人となると魔男も辛くなってきたのか、

度々金属質の雄叫びをあげるようになった。 割とうるさいのが難点。

 

 

未だ電流を帯びた魔男に立ち向かうのは木製の棍とプラスチック製の剣。

 

捕縛をしようとしてくるツタが地味に邪魔だ、何かしら捕まるのも時間の問題か。

 

もう少し弱まれば、徳穂と釖の攻撃も当たるようになるだろう。

どうして最初からこの組み合わせで戦わなかったのやら……

 

それもこれも、新たな手を打つ為に助力を頼んだ利奈の手柄だ。

 

かなりの不利だった戦況は、魔法使いの有利に傾いた!

 

 

さて、短く魔男が鳴いたと思えば……利奈が望む隙が一瞬だけ出来た!

 

願ってもいないチャンス、利奈がこれを逃す訳が無い!

 

清水「今だ! 何するかわからんがやっちまえ!!」

 

 

上田「アンヴォカシオン!!」

 

 

意外にも、利奈が唱えた魔法は一番使い慣れた召喚魔法だった。

 

……え? この場において新しい棍を召喚してどうするんだって?

おかしいな? いつから、利奈の召喚魔法で召喚出来るのが……

 

 棍 だ け と 思 っ て い た ん だ い ?

 

 

利奈が召喚したのは星形の変則ステッキだ、いつもの棍とは大違い。

 

形状的には、五角形の金色の輪っかに5色のステッキが付いた物だ。

 

ステッキの色は赤、青、黄色、緑、白の明確な原色5つ。

 

利奈のシルクハットが淡く赤に光っているところを見ると、

どうやら魔法でシルクハットの中身を召喚したようだ。

 

中心部分の五角形にはある程度握りしめられる程の装飾があり、

使う時はこの装飾部分を持って使う構造になっているらしい。

 

すぐさま利奈はその装飾部分を手にして魔男に立ち向かう。

 

棍で殴り飛ばして大きく仰け反らせたかと思うと、

その変形ステッキの黄色いステッキを押し付け、押し倒した!

 

明らかな悲鳴を魔男はあげた、赤の魔力が魔の物特有の黒の魔力を弾く。

 

混ざらない物が無理矢理混ざったかのような勢いで、

赤と黒の魔力が火花を散らして周囲の床やガラクタを焦がした。

 

どうやら、利奈が召喚した魔法具は()()()()の機能を持っていたようだ。

 

いつのまにこんな物を作っていたのやら……この分だとまだまだありそうだ。

 

最初光ってもいなかった黄色のステッキ、吸収を終える頃には輝いていた。

 

急激に電流を抜かれた魔男は何だかぐったりした様子、

ボス級討伐の為の弱点を探すなら今のタイミングが一番良いだろう。

 

そう思って利奈は魔男から距離を置いた……完全に、油断していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想以上に消耗してしまった、これが魔法使いの団結力の力というものか。

 

電流を持っていかれたのは大失態、倒されるのも時間の問題かだな。

 

……少々手を抜いていたが、そろそろ、痛めつけた方が良さそうだ。

 

手違いがあったとしても回復魔法が使える魔法少女がいるから問題ないだろう。

 

さぁ……始めようか、そ ろ そ ろ 仕 置 き の 時 間 だ !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……唐突だった、利奈が黒い魔力の急激な噴出に巻き込まれ吹き飛んで行ったのは。

 

清水「っ!? り、ぁ……利奈ああああぁぁぁぁ!!」

 

完全なる不意打ちだ、利奈は受け身を受ける事も出来ずに壁に激突した。

 

そう叫ぶ海里も同様に吹き飛んでいた、そんな状況でも仲間を想うか……

 

だが海里が吹き飛んだ方向には運が良いのか悪いのか、腕力の強い徳穂がいた。

結構な勢いで激突してしまったが、何とか激突にいたらずに済んだ。

 

火本「危なかった……! 大丈夫(だいじょっ)かい海里?」

 

清水「俺は何の問題も無いが……離してくれ! 利奈がやばい事に!」

 

和出「行ってる暇はねぇぞ!! 俺の記憶が正しければ、本番はこっからだぜ!」

 

橋谷「なっ、何ですかこれ!? 今まで弱っていたはずなのに……

こんなの初めてですよ! どうしてこんなことになっているんですか!?」

 

和出「細かい事を説明している暇はねぇが、超簡単に言うと第二形態ってやつだ」

 

中野「第二形態なんて、魔女・魔男が細かに魔力を調整することが可能なのか?

やっと有利になったって言うのに……どこまでこの魔男は強いんだ!?」

 

ハチべぇ「彼の言う事は間違いないようだね、魔男の魔力が上昇の傾向にあるよ」

 

ちゃっかりハチべぇは利奈から離れて、回避行動を取っていたらしい。

 

気が付けば体制を立て直した海里の足元で魔男を観察していた。

 

状況確認が終われば、利奈の元へ戻る……なんとも無情な生物だ。

まぁ、そもそも元から感情なんて持ち合わせていないような存在なのだが。

 

清水「くっそ……!! みんな次の攻撃に備えろ! 次来る時は相当強ぇぞ!」

 

魔男の染み出る黒い魔力や不気味さ、えげつなさは上がる一方だ。

 

ただでさえ前段階でも互角だったのに、もっと強化されるとなると……

 

突如ガタガタと周囲から物が震えるような音が聞こえたと思えば、

壊れた拷問器具達が命を持ったかのように動き出した。

 

まともに機能しない物ばかりとはいえ、捕まったら確実にまずい。

 

それでも、魔法使い達は立ち向かうしかない……何故か?

 

絶望ほど魔法使いにとっての毒はない、ただ立ち向かうことしか許されていないのだ。

 

勝利を確信でもしたかのように魔男はその金属質な声で高らかに笑った。

 

その笑い方……まるで元となった魔法少年そのままの笑い方だったが、

現時点では重要な要素では無い。 それがわかるのは海里と釖しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*リ……ィ、ナァ……利奈!*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「……っ、痛……い! ぁ、頭が……背中、が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*大丈夫だよ、ちゃんと周りを見て!*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、どの感覚で聞いたのか理解出来ない見知らぬ声……

その声に呼び覚まされ、激しく揺れていた利奈の意識は明確になった。

 

壁伝いに起き上がって周囲を見ると、目の前には脱げたシルクハットがあった。

 

持っていた武器(棍と星形の魔法具)、グリーフシード数個、その他雑貨等々……

ぶつかった勢いで飛び出て来たのか、いくつか利奈の近くに転がっていた。

 

ハチべぇ「目を覚ましたようだね、利奈。 まずこれを飲むと良い」

 

いつのまにかいた目の前のハチべぇに利奈が気がつくと、

ハチべぇは加えていた花の蕾を利奈の手元の近くに置いた。

 

上田「これは……俐樹ちゃんの、魔法? この状況で作る時間なんて……」

 

ハチべぇ「俐樹が君の事を見習ってある程度の()()()()をしていたみたいだね。

本当は君のそばで看病したいみたいだったけど、今はこれが精一杯みたいだよ」

 

上田「……そっ、か。 後で……俐樹ちゃんに、お礼言わなきゃね」

 

全身打撲という重症でも、蕾から溢れる爽やかな花の香りを感じ取る事は出来る。

今も痛みで意識が朦朧(もうろう)としているが、五感は鈍らずに済んだようだ。

 

微量の魔力を注いだのなら、ふんわりと花が開いて輝く蜜が顔を覗かせた。

流動性のある液体は弱った身体でも楽々飲み干せる、喉のつっかえなんて感じない。

 

即効性の品だったのか、利奈の身体をすぐさま柔らかな光が包んだ。

光が消える頃には痛みもほとんど消える……戦場に復帰するには充分な容態だ。

 

 

シルクハットの中身をある程度片付けながら、利奈は戦場の状況を再確認した。

 

星形の魔法具も折りたたまれ、その他雑貨もキレイに収納された。

 

ついでにグリーフシードでソウルジェムを浄化する、燃費も考え黒板のグリーフシード。

 

戦況はと言うと、優勢とも劣勢とも言えない不安定な均衡を保っていた。

 

広場の中央を占領する巨大植物、俐樹と蹴太は協力して魔男と拷問器具双方の動きを制限。

切り裂かれる数はだいぶ増えたが、慣れたのか制御は最初より出来ている。

 

海里は剣を収納して新たな道具を多数召喚し、本格的な拷問器具の破壊と分解。

一部使えそうな物は無力化させてから青色の光を一瞬放って収納される。

 

肝心の魔男の相手はと言うと、徳穂と釖が2人がかりで互角の戦いを見せていた。

 

刀が出来るのが居合いだけだと思った? いやいや、チャンバラだって出来る。

 

格闘は刃の相手にならないと思った? いやいや、見れば上手い事受け流しをしている。

 

 

見た様子では、まず魔男が操っているであろう周囲の拷問器具から処理しているらしい。

 

さて、浄化も終わり準備完了! 棍を手にして背伸びをする。

 

その場から立ち上がったなら、言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

上田「長いことみんなところから離れちゃったなぁ……見たところ互角だけど、

早いとこ合流しなきゃね。 よし! 魔男を絶望の深みから救出するよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余 計 な こ と し よ う と し て ん じ ゃ ね ぇ よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上田「……え?」

 

それは一瞬の出来事だった、本当に一瞬過ぎて思考が止まる。

 

誰かが利奈を呼ぶ声がしたような気がしたが、目の前の出来事が大きすぎて誰のかわからない。

 

思考が止まるほど驚くのも無理はない、何の前触れもなく()()()()()()()()()のだから。

 

急に目の前に来られると、意外にも思考は働いてくれない物のようだ。

例えるとするなら……そうだな、とある黄色の魔法少女の最初の死に際といえばわかるだろう。

 

利奈の手も動かない、棍の防御が追いつかない。 魔男はその刃を振り上げ、そのまま利奈を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「利奈をこれ以上傷つけるなああああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……おもいっきり斬りつけるかに思えたが、突如通常ではあり得ない出来事が起きた。

 

先程まで利奈が使っていた黒板のグリーフシードが利奈の目の前に現れたかと思うと、

突如強烈な光を放って輝き出した! それは眩しいまでの真っ白な光。

 

何が起こったかまだ理解が追いつかないが、今のフラッシュで魔男が怯んだ。

 

上田「なっ、何これ!? グリーフシードが……うわっ!?」

 

その隙をついて利奈の身体はツタに巻きつかれ、広場の中央へと運ばれる。

ツタが利奈を降ろして引いたのなら、魔法使い達は利奈に駆け寄って声をかけた。

 

橋谷「利奈さん! 大丈夫!?」

火本「大丈夫(だいじょっ)か利奈さん!?」

中野「あ、危なかったぁ……!!」

 

先程の光景を見ていたようで、その慌てぶりは目に見えてわかった。

……が、慌てているせいか同時に話していて何を言ってるかわからない。

 

上田「えっと……ごめん、同時に話されると何を言ってるのかわからないや」

 

利奈が嬉しながら困っていると、慌てる3人を落ち着かせて海里が前に出た。

 

上田「あぁ、落ち着かせてくれてありがとう海里。 そんな暗い顔しないでよ、私は大丈」

 

その言葉を利奈が言い切る前に、突然利奈は海里に抱きつかれてしまった。

 

かなりビックリしてしまったが、彼が無言の裏で小さく震えていたのがわかる。

 

……誰よりも、心配していたのだろう。 周囲を見るなら、拷問器具は全て処理済み。

 

上田「だっ、大丈夫だって! ちょっと、私は無事だったんだし一旦離してくれないかな!?」

 

清水「……もうしばらく、こうさせてくれ」

 

上田「ま、ままま待って待って!!  ここ結界の中でしょ!? 魔男まだいるよ!?」

 

自覚が出て来たのか、利奈は顔を赤くして慌て出した。

 

確かに場違いだが、それ以前に利奈が持たないだろう。

 

心配だったのはわかるが、ちょっと抱きしめる時間が長すぎる。

 

中野「離してやれよ海里、利奈さん恥ずかしさで壊れちゃうよ」

 

清水「……ぇ、あ!? ちょ、悪りぃ! 大丈夫か利奈!?」

 

上田「大丈夫だけど、大丈夫じゃなぃよぅ……」

中野「利奈さん気を確かに持って!!」

 

 

和出「……ハチべぇ、ありゃ一体何だ? あの白い光は何が起こっているんだ?」

 

釖はハチべぇに問いかける、もちろん目の前で起こる出来事についてだ。

 

ハチべぇ「それは僕にも答えられないよ、今起こっている出来事は完全なる未知数だ。

どうなるか僕も観察をしているところだよ、あれからどんな結果が生まれるかのね」

 

目の前で異様な事が起こっているのに、相変わらずハチべぇは変わらない。

ただ静かに、その黄金の瞳に今起こっている異様な光景を写すだけだ。

 

 

グリーフシードは回る、回る度にその形を段々と変えて行く。

 

何か強力な力が作用しているのか、魔男は身動きが取れない。

 

その目の前で、真っ白な光は曖昧な形を確実にしていく。

 

 

そして光が収まる頃……そこには、1人の魔法使いが立っていた。

 

真っ白な髪に真っ赤な瞳の両眼、俗に言うアルビノという見た目だ。

 

全体的に白い服装、ポイントに黒と赤が軽く入っているが真っ白な服装。

それは白のタキシード、胸に輝く白の宝石がはめ込まれたブローチが誰かを象る。

 

ズボンは全体的に真っ黒で、白と黒の対比がいい感じに引き立っている。

 

手袋を付けず靴も履かず、赤と緑を捻じった腕輪と足輪を付けていた。

 

頭にはシルクハットのモチーフが付いた、とても細いカチューシャを付けている。

 

 

彼はそういう姿形だ。 グリーフシードから生まれた、白の魔法少年。

 

 

ハチべぇは思うだろう、この結果は『先駆者』をも超える可能性を秘めていると。

 

 

少年はその赤い瞳で魔男をしっかり見ると、一直線にに走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な……!? ど、どういう事だ? グリーフシードが魔法使いにだと!?

 

そんな情報聞いたことねぇぞ、だがあいつが情報を取り逃がすとも思えねぇ……

 

まぁいい、どちらにしろこいつもまとめて仕置きしちまえば

 

【へぇ! 君その状態でも()()()()()()()んだ、すごいや!】

 

……ぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中野「え、彼何と会話をしているんだ? 話してる言葉も明らかに日本語じゃないよ?」

 

橋谷「私達の事は見ていないようですが……まさか、そんなはず無いですよね?」

 

清水「……いや、確かに魔男の方を見て発声しているようだな。

魔男の動きも止まっている、あいつの声を聞いている」

 

あまりの異常事態の連続に、一同は困惑して思わず固まってしまっていた。

 

発声する様子からして、デタラメに発声している様には見えない。

 

白の魔法少年はよくわからない言葉を話している様子だったが、

対する魔男もどこか法則でもあるかのように小さく金属音で鳴く。

 

確かに彼は魔男と会話をしているように見えた……あり得ない話だが。

 

そして利奈は何故か、彼に対して既視感を抱いていた。

どこかで見た事があるような……利奈は彼を知っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、この状態での言語がわかる……? お前は一体なんなんだ!?

 

【う~~ん……よくわかんないけど、人間なのは間違いないかな】

 

どう考えてもまともじゃねぇだろ、 お前は何だ!? 新手の魔男か使い魔か?

 

【だから ニ ン ゲ ン だってば! ほら、姿形も全部人間さ!

それよりさ……名前を知らない魔男さん、こんな事はやめたらどうだい?】

 

はぁ!? 話を逸らすな!! お前の正体の話をしてるんだ今は!!

 

【だって……君は自分がしたく無い事をして、自分を苦しめている。

自分で自分を傷つけるなんて、僕には理解出来ないな】

 

……!?

 

【不本意なんでしょ? 本当は、誰かを傷つける事が。

目を覚ましてても、自身の性質のままに行動するんだね】

 

…………黙、れ

 

【自暴自棄になって、やけになって悪者になろうとしてる。 本当は悪く無いのに】

 

やめ……ろ、やめろ! お前に何がわかる!? 黙れ!!

 

【?、僕間違ったこと言ってるかな? 君本当は優しいんでしょ、誰よりも。

証拠にほら、そこにいる君の親友は傷なんて1つも……】

 

黙 れ え え え え ぇ ぇ ぇ ぇ ! ! ! ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急激に金属質な声で吠える魔男、その音は今までで1番深くでかい。

 

「あっ、ごめん! コウショウケツレツ? になっちゃったみたい!

何でかわからないけど彼怒っちゃった、僕が彼を落ち着かせるよ!」

 

そう遠くの方にいる魔法使い達に大きな声で謝罪を告げると、

利き手に白色の魔力をある程度込めて魔法の呪文を唱えた!

 

 

……まさか、ここであの魔法の呪文が出てくるとは誰も予測出来ないだろう。

 

 

「アンヴォカシオン!」

 

 

そう彼が唱えると、その手にリュミエールなら見慣れた物が生成された。

色はついていないものの、それが利奈が主戦力としている棍である事はわかった。

 

 

清水「ちょっと待て! あ……アンヴォカシオン、だと!?」

 

橋谷「ええぇぇ!?」

 

中野「これって……利奈さんの召喚魔法じゃないか! どうして彼が!?」

 

火本「普通じゃないことが多過ぎて……もう頭がついて行かんぞ……」

 

和出「本当にあいつは何者なんだ!! 何で他人の魔法が使える!?」

 

もう、怒涛としか言いようが無い。 驚きの声は混じって響き、皆が利奈の方を見た。

 

上田「……ぇ、違う! 違うよ、今唱えたの私じゃない!」

 

現に呪文が聞こえた方角は利奈の方じゃない、声質だって明らかに男物だ。

 

 

そんな中、白の魔法少年はその棍で乱舞し魔男に攻撃を仕掛け始めた。

 

単独で相手をしていて大丈夫か……と思われたが、一切苦戦している様子が無い。

 

彼が桁違いのボス級を単独で相手出来るほどに強いのだろうか?

……ところが、見た様子だとそれはどうやら違うらしい。

 

何故って、明らかに()()()()()()()()()()()()()からだ。 力の入り過ぎで命中率が下降。

 

確か、白の魔法少年は『交渉決裂で魔男が怒った』と言っていた。

怒りによる()()()()()()、これが魔男の弱体化の原因である可能性が高い。

 

 

だが、魔男も魔男だった。 伊達に、強さの桁が違うと言われていない。

 

乱舞の合間に度々ある隙をつき、その刃で切り裂こうと振り上げてくる。

 

……ところが、またしても予想外の行動が魔男をさらに追い詰める事になる。

持っていた棍に魔力を込めたかと思うと、今度は別の魔法の呪文を唱えた!

 

 

「インテンス・アイヴィー!」

 

 

白色に一瞬輝いたかと思うと、今度は何本にも編み上げられ、

束ねられた無色のツタとなって白の魔法少年が操るがままに、

多少遅くとも魔男の足の部位を拘束してしまった!

 

恐らく、利奈の魔法しか使えないとでも思ったのだろう。

まさか俐樹の魔法も使えるとは到底考えつかない。

 

足元を縛られガクンと前のめりになってしまったが、

反撃とばかりに手の部位を高速回転させて刃を飛ばす!

 

 

「イキシサコネス!」

 

 

快進撃は止まらない、飛び交う刃の軌道を念力の魔法でほんの少し逸らした。

 

若干衣装が切れてしまうものの、回避にはまぁ……何とか充分と言える範囲だろう。

 

「油断したなぁ」と苦笑いで少年はため息をつき、さらにツタでの拘束を強化する。

 

……結果、魔男の上半身以外は全て無色のツタに縛り縛られぐるぐる巻きになった。

 

まるで枝付きの繭だ、かなり暴れまわっているがほどける事は無い。

何せさらに魔法でツタに魔力付与をし、その拘束を強化している。

 

「……もう、大丈夫かな? 結構暴れてるけど大丈夫だよね……多分」

【ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね? もうこんな事やめようよ】

 

2種の言葉を彼は優しく告げて、最後に魔力で刀を作り出した。

 

両手で握りしめて魔力を込め、その拘束していない上半身に向かって振り下ろす!

 

その刃が魔男の上半身に食い込んだかと思うと……刀が折れた。 え、折れた!?

 

「……あれ、刀じゃダメなのかな? 他の魔法を試してみようかな」

 

折れた刀を外したカチューシャで触れると、刀はぱっと消えてしまった。

再度利き手に白色の魔力を貯めたなら、また別の魔法の呪文を唱えた!

 

 

「ヴェルクツォイク!」

 

 

今度は鉈を多数召喚して斬ろうとしたらしいが、これも大幅に刃が欠けた。

 

 

「……ヴェルクツォイク」

 

 

何を思ったのか今度は磁石で殴り始めたが、これで破壊出来るわけがない。

……あぁ、泣き顔になってきている辺りヤケを起こし始めたのだろう。

 

 

「何でだ!? 全 然 効 か な い ! 僕の魔法ってこんなに弱かったのか!?」

清水「お、落ち着け! 誰か知らんが考えなしにやったら魔力を無駄にするぞ!?」

 

 

海里の言葉を聞いて、素直に魔法をやめてくれたのはいいが……

 

結局、白の魔法少年は感情のままに泣き出してしまった。

 

その純白のような純粋さと言ったら、まるで幼い子供のようだ。

 

上田「だっ、大丈夫大丈夫! 泣かないで、拘束出来ただけでもすごいよ!」

 

「……ホント? 本当に?」

 

上田「私なんか吹き飛ばされちゃったんだよ? だから君はすっごく強いんだよ」

 

「…………ぅ、うん、ありがとう利奈。 ちょっと元気出てきたかも」

 

上田(あれ、この人が私の名前を聞くタイミングなんてあったっけ?)

 

利奈が白の魔法少年を慰める頃、海里は魔男の身体を魔法で分析していた。

その傍では、男子の魔法使い達が分析の完了を待っている。

 

拘束された魔男はというと、流石に暴れ疲れたのか大人しくなっている。

 

ん、俐樹? 彼女なら利奈と一緒に白の魔法少年を慰めているよ。

 

清水「……分析が終わったぜ、そいつの言う通りだ。

どうやってわかったのかはわからんが、魔男の魔力は上半身に集中していた。

俺の意見も含めれば、ここがこの魔男の弱点で間違いないぜ」

 

中野「問題はどうやって破壊するかだよね、ただ必殺魔法を当てても壊れないよこれ」

 

和出「壊れねぇぞぉ……それ、俺だって壊れてるところは見たことないしな」

 

火本「……かった(もしかしたら)(おい)の居合いで斬れるかもしれんな、

集中出来(でく)っ時間があればこっちの物だが、試してみるかい?」

 

清水「そういや斬る事に特化した魔法だったよな、どんな物でも斬れる魔法……

やってみる価値はあるな、よっしゃ! そうと決まれば頼んだぜ、徳穂!」

 

火本「一応、やっみっよ。 少し時間をくれ、気と魔力を貯めたい」

 

和出「オイオイ、そんな簡単に上手くいくか? まぁやってみなきゃわからんが」

 

そうと決まれば善は急げ! 徳穂は魔男の前まで来ると、居合いの構えで目を閉じた。

 

その様子が気になったのか、泣き止んだ少年はその光景を見たいと言いだした。

 

利奈は2人を引き連れて他魔法使いと合流する、それも 忍 び 足 で 。

 

そこまでしなくて良いと海里は3人に言う、蹴太は笑いを堪えていた。

 

釖は……ただ、静かにその光景を見ていた。 《わざとらしい》はずの彼が、だ。

 

そういやこの魔男の元となったのは彼の仲間か、一体どんな心情なのだろう?

 

まぁ、そんなの知るわけが無いが。 泥棒の心情なんて、わかるわけが無い。

 

 

時間が立ち、徳穂が目を開けて頷いた。 その瞳は薄ら茶色に輝いている。

 

どうやら準備が整ったようだ、一同は徳穂と少し距離を置く。

 

……時は、来た。 小さな金属音が聞こえたかと思うそれは、親指が(つば)を押し上げる音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼曰く、自分は必殺魔法は持たないと言う。 が、これが必殺魔法とは気がつきもしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火本「 切 り 捨 て 御 免 ! ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えるなら速攻で過ぎ去った流星だ、目に捉えられるのは茶の魔力の残像だけ。

……斬った? いや、確かに斬った。 時間差で固い物を断った音が鳴る。

 

茶色の光の筋が見えたかと思えば、魔男の身体は真っ二つに斬れた。

 

断末魔なんて聞こえない、まるでこの時を待ちわびでもしたかのようだ。

 

ある者は有様に胸を締め付け、ある者は手際を目にして感動に浸った。

 

その終点は一体、どこに辿り着くのだろうか? その終点はどこにあるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、そもそも終点なんて……存在しないのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界唯一の明るみが黒い魔力の中に消える、全てが1点に飲み込まれる。

 

魔男だった金属も、忘れ去られた白い道具達も、荒れた牢屋の室内も牢屋自体さえ、

全部全部、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれていく……

 

あとに残ったのは、濁りなき群青色のソウルジェムと

割れたハートがモチーフで鎖で縛られたかのようなのグリーフシード。

 

……誰よりも先にとある人物が現実に目を覚まし、誰かが連れ去られる事になるが、

完全に消えきっていない現実と結界の狭間でそれを認識出来る者はいないだろう。

 

同時に、群青色のソウルジェムも 持 ち 去 ら れ て しまっているが、

そんな重要なことさえも、歪みというのは残酷なまでに認識を許さない。

 

 

魔法使いは……鋭利の魔男を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「ぇ、マジで? これ、本当にお前のソウルジェムか!?」

 

 

 

和出「い、言うさ! 言うぜ俺は!! 何せお前の命にかかってるからな!」

 

 

 

前坂「それが、()()()()への復讐だ。 それで俺は救われる」

 

 

 

下鳥「なんだか懐かしい名前が出てきたわね」

 

 

 

〜終……(28)闇を秘め変えて[後編]〜

〜次……(29)特殊な魂と弱る長〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……一応15000字以内ですがやっぱり文章量が多くなってしまいますね、スミマセンonz


急すぎる超絶展開? いえいえ、随分前から要素は多く落としていました。

チート級の魔法? いえいえ、見た通りちゃんと制限がありますとも。

驚 き ま し た ? ウッヘッヘ、謎の少年が登場しましたよ!!

これが書きたかった展開ですよ、彼の存在が重要となってくるのです。

見た目としてはイラストを描きこんだので、いつもの画力で参考までに。

【挿絵表示】



いやはや、これは本当に良かった! 自分としては 大 満 足 ですよ!

まぁ自己満足になってしまわないよう注意しなければいけませんがね。

これが最終回ってわけじゃないんです、まだまだ頑張って執筆していきますよ!

今後の展開としては、彼に関する説明とか正体解明とかしなければいけませんね。

どうあがいても台本形式なので、せめてわかりやすく書きたいと思っていますonz



さて、この先はいつもの『雑談』となります。 面倒な人は飛ばして下さいませ。




今回は6月が梅雨の時期でもあるので、『天気』について話しましょうか。

いやね、自分それなりに自覚しているのですが恐ろしい位の晴れ女なんですよ。

……え、単なる 思 い 込 み じゃないかって?

降水確率が50%だったのに傘持っていったら快晴になることが
しばしばあると言えばわかっていただけるでしょうか(白目

使わない傘って結構荷物になるんですよ、この気持ちわかりますかね(涙目

逆に雨男や雨女もいると聞きましたが、イマイチ想像がつかないです。

でも天気予報は晴れなのに雨が降ったら……うん、悲しくなるのは 確 実 。

あと朝に雨が降っていたら体内時計が狂って目覚めが悪くなりますね、
やっぱり朝起きたら日光を浴びるという行為は重要であると度々実感。




さてと、雑談としてはこんなものでしょうか。 いつもより若干短め。

次回より通常に戻るので、文字数も少なめになってきます。

ついに脅威を見せた『花の闇』……物語は加速する一方ですね。

白の魔法少年についても追及しなければいけませんね、彼は一体何者なんでしょうか?

残るフラグはまだまだ大量ですが、読者の皆様だ楽しんで執筆出来るよう頑張ります!




それでは皆様、また次回。 次回は結界を抜け出した後、現実の世界で会いましょう。


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(29)特殊な魂と弱る長


どうも、最近の空は曇りしか見ていないようなハピナです。

えぇ、モチベーションが死んでおります……やる気スイッチOFFですよonz

執筆スピードが恐ろしく遅いですね、これは な ん と か しなければ!


なんだかんだで次回で30話ですか、時間が立つのは早いですね。

30話を迎える暁には何かしらの特別編の執筆を考えています。

書くとしたら過去編ですかね、(アンケート1位)の絶望の経緯を語る物語。

それかコラボ、誰かとのコラボを短編として執筆とか。

まぁ、30話を投稿するまでの間に考えておきますよ。


さてと、前回のあらすじとしては討伐後のお話になりますね。

気になってくるのは2人の人物、魔男だった少年と謎の少年。

双方、あの後どうなったんでしょうか? それが明かされるのは今回。


さて、舞台の幕を再度上げましょう。 目が覚めると、そこは……



 

現実に戻ると、そこはリュミエールの集合場所としている理科室だった。

 

冬は日が落ちるのが早い、周囲の明るみは教室の電灯が主流となっていた。

 

グリーフシードが完成しきると、一同は周囲の状況を確認する。

 

 

……数夜と釖の姿が無い! どうやったかはわからないが、魔法で逃げられたようだ。

 

 

逃げたとわかった根拠としては、数夜の抜け殻があったはずの場所に

ボス級の物と思われるグリーフシードしか残っていなかった事があげられるだろう。

 

それは割れたハートがモチーフで鎖で縛られたかのようなデザイン……

討伐したてな魔男の黒の魔力の成れの果て、鋭利のグリーフシードだった。

 

魔法で逃げた事がわかった理由としては、後に海里が抜け殻跡を分析した事かな。

分析結果として魔力の残骸が見つかったらしい、それも『形なき魔法』だ。

 

 

さて、空間が安定したのなら一同は変身を解いてソウルジェムの浄化に入る。

 

火本「なんか……申し訳なか、貴重な物なのに(おい)のまで浄化してもらっちゃって」

 

中野「そんな萎縮しなくても大丈夫だって、ちゃんと管理がなってるから足りてるんだ」

 

火本「うぅ……面目(めんぼっ)()、こん恩は()けうちに(もど)すよ」

中野「だから大丈夫だって! そんな深々と頭下げないでほしいな!?」

 

……うん、さすがに正座からの唐突な土下座は驚かない方がおかしい話だ。

 

浄化は順調、グリーフシードの数は余裕で足りている。

ハチべぇが処理したのはわずか1~2個。

 

2人以外の魔法使いはというと、分析魔法等を終えて雑談でもしていた。

 

清水「してやられたようだな……どうやったかは知らんが共に逃げたようだぜ」

 

上田「泥棒さん、浄化もしないでどこかに行っちゃって大丈夫なのかな?」

 

清水(まずそこを気にするのか、相変わらず優しい性格してるな)

 

橋谷「だ、大丈夫だと思います。 チーム『星屑の天の川』の方にも、

固有のグリーフシードを所持していると思うのでそれを使っていると思います」

 

「みんなきれいになったみたいだね! 顔色も最初よりは明るいみたいだよ!」

 

そう言って目に見えてわかるくらい少年は喜んだ、素直過ぎにも程がある。

 

変身を解いた彼だったが、髪の色も瞳の色もそのままだった。

白の魔法少年は変身を解いた後も変わらず、アルビノのままだった。

 

元々こういう特殊な色だったのだろうか? こんな生徒がいるなら海里も知っているはずだが……

 

清水「そういやお前のソウルジェムをまだ浄化してなかったな。

一番活躍したのはお前なんだ、お礼も含めて浄化させてもらうぜ」

 

「え、良いの? 僕のソウルジェムそんなに汚れていないよ?」

 

清水「あぁ、少量でも穢れが少ないに超したことはないからな」

 

「それなら浄化してもらおうかな、はい! これが僕のソウルジェム!」

 

清水「おう俺に任しとk……ぇ、マジで? これ、本当にお前のソウルジェムか!?」

 

少年は自らの指輪をソウルジェムに戻し、グリーフシード片手に待つ海里に渡した。

 

そのままソウルジェムを浄化しようとした海里だったが……なにやら様子がおかしい。

 

少年のソウルジェムに対して驚いているようだ、何故だろう?

 

「?、僕嘘付いてないよ! ほら、柔らかな魂の宝石に輝く黄金色の枠!」

 

その言動からして嘘はついていないようだが、それでも海里は驚きを隠せない。

未だ変わらぬ現状が気になった利奈はその様子を覗きに来た。

 

上田「どうしたの海里、その子のソウルジェムがどうしたの? ……え!?」

 

そう言って利奈は海里の手元を見た、ちょうど少年のソウルジェムを持つ手だ。

 

その手には確かに何か置かれていたようだが……それは見た事無い品だった。

 

色と宝石の形はソウルジェムの物なのに、形状が完全にグリーフシード。

双方を足して2で割ったような物……どちらとも言えないアイテムがそこにあった。

 

「ひどいなぁ!? 今の僕は人間なのに、これがソウルジェムじゃないなんてさ」

 

上田「で……でもさ、ソウルジェムって上下に棒状の金具なんて付いてないよね?」

 

「棒状の? ……言われてみればそうだな、何でこんな形になってるんだろ」

 

やたらと自分は人間であることを無意識に主張しているようだが……

 

そんなの当然の事だ、いちいち主張するまでもない当たり前のこと。

 

それとも、何か意味があるのだろうか? そんな疑問を無視して喋り出す生物。

 

ハチべぇ「どうやら実験の結果、魂から生成されたのはそれのようだね」

 

清水「……()()だと? ハチべぇ、今のはどういう事だ?」

 

ハチべぇ「彼との契約条件だよ、彼は僕と契約するために取引を」

清水「待て! なんか重要な話っぽいし、ちょっと場所を変えようぜ」

 

橋谷「ば、場所を変えるのですか? ここでも、大丈夫な気がしますが……」

 

上田「逃げたって言っても、さっきの2人が遠くに逃げたって保証は無いもんね。

今もどこかで盗み聞きをしているかもしれない……ってことなんじゃないかな」

 

「さっきの魔男だった人とロボットの人かな? 盗み聞きは良くない!」

 

火本「まってか(そういえば)蹴太が今日(きゅ)の曜日にこけいるのは(めずら)し、塾はどげんしたんだ?」

 

中野「塾? ……ぁ、ああああ!? やっべ忘れてた! 海里、僕先に行くよ!!」

 

清水「お、おう。 最近は日が落ちるのが早いから、気をつけて行けよな」

 

忘れた頃にアンラッキー……そういや彼は《真面目》であると同時に《不幸体質》だ。

 

ソウルジェムを指輪に戻し、自分の荷物を魔法で回収して理科室から走り去った。

 

……徳穂が言ってくれなかったら、確実に時間的に不味かっただろう。

この分なら恐らくギリギリになりそうだが時間には間に合いそうだ。

 

 

さて、海里がこの面子で場所を移すと言うなら行く先は()()()()しかないだろう。

 

よくわからないアルビノの彼も一旦学校から出た方が良い……何故か?

 

彼の着る制服がちょっとおかしかったからだ、形は男物なのに色が女物の制服。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

落ちかけの太陽は沈み切った、この暗がりな夜を照らしているのは月明かりだけ。

 

街灯は無い……何故か? そこは廃墟ばかりの廃れた場所だったからだ。

 

その内の1つ、何の前触れもなく2人の少年が廃墟の室内に姿を現した。

 

どうやら魔法でここまで逃げたらしいが、魔法を使った当の本人は苦難の表情だ。

 

何度も苦しげに咳き込んだかと思うと……口から血を吐き出し、地面が赤に濡れた。

 

 

和出「りっ、リーダー!! 大丈夫ですかちょっと!? 無茶し過ぎですよ!」

 

前坂「ぉ、俺に対する心配は必要無い……こうなる事も想定して孵化させたからな」

 

和出「そんな事言わないで下さいよ!? 俺を庇ってこんな事になったのに!」

 

確かに庇ったからこうなったがが、数夜は咳き込みながらも自分のせいだと言い張った。

 

前坂「何度も言わせるな、俺の勝手な行動が吐血という結果に繋がっただけだ」

 

釖を見るその瞳は相変わらず暗いままだ、光なんてなに一つ無い真っ黒な瞳……

 

そこから感情を読み取る事は難しい……いや、読み取らせる気が無いとも言える。

 

だが怯ませるには不十分だったようだ、増してやチームメンバーである釖ならだ。

 

 

釖から目を背けて口元を拭い、数夜は「話は終わりだ」と言ったが……

唐突な怒号が廃墟に響き渡った、ソウルジェムを手にした数夜も思わず止まる。

 

 

和出「……()()!!」

 

前坂「だから話は……あ?」

 

和出「今まで黙ってたが も う 我 慢 出 来 ね ぇ ! !

ここからはメンバーじゃなく、お前の友達として話をするからな!」

 

数夜はソウルジェムに魔法を使おうとしたらしいが、釖は数夜の目の前にどかっと座った。

 

和出「『星屑の天の川』の活動自体に異論は無ぇ、あいつだって納得してるしな。

 

……だけどな、お前がそんなボロボロになっちまうのは納得いかねぇ!

頭痛とか眩暈とかは今まで見て来たが、吐血するなんて初めてだぞ!?

 

このままだと命にかかわる! もう自暴自棄になるのはやめろ!!」

 

普段《わざとらしい》と言われる彼だが、その本気度は十分伝わってくる。

 

真っ黒なその瞳の奥底をも覗けるほどに真っ直ぐに見る、まぁ見ているだけだが。

 

真剣なのは確かなようで、数夜もその真剣さに答えることにした。

目は相変わらず暗いままだが、最初と比べ明らかに雰囲気が変わった。

 

言うなら……どちらかというと、今の彼は気の抜けた《面倒くさがり》な彼だ。

最初に見せていた殺気に満ちた雰囲気とは全く違う、真逆と言っても間違いでは無い。

 

……え、どちらが本当の彼かって? それは本人しかわからないだろう。

 

前坂「前に響夏にも言ったがもう手遅れなんだよ、それも随分と前からな」

 

和出「手遅れってお前な! まさか、()()()()()まだ気にしてるのか!?」

 

前坂「……それは、 言 わ な い 約 束 じゃなかったか?」

 

何か地雷を踏んでしまったのか、数夜は魔力の込めた手を釖に向ける。

 

だが、向けるだけで魔法を使うには至ることは無かった。

 

これは彼なりの配慮だろう……というか、本当はこんな感じなのだ。

表向きは何も考えていないか狂気的にどちらかだと思われるが、真相は……

 

和出「い、言うさ! 言うぜ俺は!! 何せお前の命にかかってるからな!」

 

前坂「命って、大袈裟じゃないか? 今日だって軽く血を吐いただけだぜ」

 

和出「だけどよ!? 症状が日に日に重くなってるのは間違いねぇ!」

 

最初は頭痛で次はめまい、今回は吐血……なるほど、確かに症状は重くなっている。

 

ハチべぇ「確かに、数夜の症状は日を追って重くなって来ているね」

 

和出「そうだよ! だからお前は……ん?」

 

前坂「来てたのかハチべぇ、リュミエールの所に行ったんじゃなかったのか?」

 

ハチべぇ「彼とは君達と違って特殊な契約をしているからね、後で聞けば良い話だ」

 

和出「それで俺達の方に来た訳か……げ、これの事すっかり忘れてた」

 

釖は制服のポケットに手を突っ込むと、何やら小さく様々なケースを取り出す。

菜種油色の魔力を込めたなら元の大きさを取り戻す……それらは盗まれたゲームだった!

 

前坂「ゲーム機についてはあいつに任せる事にしている、今もこの場にいるはずだ」

 

そう言って数夜は人を探すように辺りを見渡すと、彼の傍に魔法使いが現れた。

 

和出「……相変わらずどこにいるのかわからねぇな、普段どこにいるんだよ」

 

前坂「それがわかったら()()()なんて出来ねぇだろ、優秀なんだこいつは」

 

和出「まぁそうだよな、しっかし()()()()()()ってのに俺らのスパイやるなんてな」

 

前坂「ハチべぇ、もしスパイの事をあいつらにバラせば……わかってるな?」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、僕にこの事をバラすメリットが無いよ。

心配しなくても話す気は無いから、君の方が変に気を使う必要は無いよ」

 

釖がその魔法使いに盗んだゲーム機を渡すと、頷いてどこかへ行ってしまった。

何をしようとしてるんだか……それは明日になってみなきゃわからなそうだ。

 

前坂「……釖、俺にあった出来事は知ってるんだったな」

 

和出「当たり前だろ? あの頃は酷い時期だったよなぁ……まぁ今は落ち着いたけど」

 

前坂「だったら諦めろ、俺はあれ以来何も変わっちゃいないんだからな」

 

和出「……っ、数夜お前!」

 

前坂「『貼られたレッテルは二度と剥がれない』…… だ っ た ら ?

俺はその通りに生きてやる、やめてくれと言われても貫き通す。

 

それが、()()()()への復讐だ。 それで俺は救われる。

 

実際、俺達の活動が無かったら花組の均衡だって存在しないだろうよ」

 

『星屑の天の川』のチーム活動となるとろくな事をしていそうだが……

そんな内容、現時点でわかるわけも無い。

 

前坂「気づくのには遅過ぎた、もう後に戻る事は不可能だ。

 

なら、なってしまったこの状況のまま俺は行動するだけ。

 

積み上げちまった『罪』と共に……な」

 

暗がりの先を暗がりの目で見通すなら、その先には新しいソファーがあった。

それは後から置かれたソファー、暗闇の中で目立たぬよう黒い色をしている。

 

その上で何人かの魔法使いが眠る……身代わりとなった者、呪いを受けた者。

 

未だ苗床である者達が、孵化の時を待つかのように眠っている。

 

和出「そういや根岸の姿が無いな……集め損ねたか? あいつも苗床じゃ?」

 

前坂「バカ言え、()()()()()()()って言ってきた奴がいるのに苗床に出来るか?

とっくの昔に呪いは解いてある、絶望させて栽培する予定はもう無い。

じゃなかったら、勝手に行動した美羽と最上が罰として苗床になった意味が無いだろ」

 

和出「まぁ、そうだよな……で、その苗床だが今日はどう配分する?

数夜はダメージがでかいから不参加でも構わねぇが」

 

前坂「悪いな……響夏とあいつも呼んでおくから、今日は3人で向かってくれ。

配分としては最上はボス級の可能性があるからここで即時回収、そいつと美羽は外で孵化させる」

 

和出「おう! 俺らに任しとけ!! ばっちり裏で暗躍しとくからさ!」

 

前坂「《わざとらしい》お前が1番の不安要素なんだがな……泥棒出来る位だから大丈夫か。

じゃあ頼んだぞ、俺は休ませてもらう。 何かあったら念話で連絡してくれ」

 

そう言うとふらつきながら立ち上がり、廃墟の片隅に描いてある魔法陣に手を触れた。

 

魔法陣に魔力を注ぐ、ふと指輪に戻し忘れていたソウルジェムを見ればキレイな群青。

 

すでにある程度は穢れている……そこに別の魔法をかけると、ぶわっと穢れが湧き出した。

 

真っ黒なソウルジェムに逆戻りだ、孵化する事なくその状態を保っている。

 

 

前坂「……希望なんて、持つだけ無駄な感情だろ」

 

 

その独り言はまるで言い聞かせだ。 それを言い切ったのなら、彼は廃墟から姿を消した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、それは人の気配も消えて街が眠りに付く頃。

 

池宮では他の街から旅する魔法少女が訪れていた、高台に上がって街を見渡す。

 

この辺にはいない……そう思って彼女は場所を変えようとしたが、

突如、誰かに呼び止められた。 振り向くと、そこにいたのは紫の魔法少女。

 

「っ……!? 誰よ、あなたも魔法少女? ここはあなたのテリトリーなの?」

 

下鳥「それは間違いだわ、でもこの街にあなたの求める物は無いわよ」

 

「グリーフシードの事? 嘘だってバレバレよ、情報は来ているのよ!

この街に魔女がいるってキュゥべえが言っていたもの!」

 

そう言って魔法少女は優梨に武器を突きつけた、それでも優梨は動じない。

 

下鳥「あら、ごめんなさい。 勘違いされちゃったかしら? グリーフシード は あるわよ」

 

「……嘘じゃないみたいだね、どういう事?」

 

下鳥「実際に見たらわかるんじゃないかしら? ほら、これが()()()()グリーフシードよ」

 

優梨は魔法少女にグリーフシードを投げて渡した、相手は受け取って驚く。

 

「っえぇ!? 正気なの? 見知らぬ魔法少女にグリーフシードをあげちゃうなんて」

 

下鳥「いいからそれでソウルジェムを浄化してみなさい、今に分かるわ」

 

「命令口調なのが気に入らないけど……まぁいいか」

 

彼女はアクセサリーとなっている自身のソウルジェムを浄化しようとしたが……

反応が無い、一向に彼女のソウルジェムは浄化されるような様子を見せない。

 

「えっ、あれ? 何で浄化出来ないんだろ……これニセモノなの!?」

 

下鳥「いいえ、それは確かにグリーフシードよ。 この街で出回っているのはそれ。

ただちょっと、()()()()()()()()()()という明らかが違いがあるだけね」

 

孵卵器(インキュベーター)が別……? まさか、キュゥべえ以外にも誰かいるって事なの!?」

 

下鳥「私が言えるのはここまで、魔力消費を抑えたいなら別の街を探す事ね。

 

あぁそれと、引き止めて悪かったわね。 それは謝罪料とでも思ってちょうだい。

そのグリーフシードは()()()()()()()()()()、有効に使う事ね」

 

結局、終始優梨は動じる事なく最後まで話し切った。 今も優雅に微笑んでいる。

 

優梨はもう一つグリーフシードを彼女に投げ渡すと、彼女はそのグリーフシードで浄化作業。

 

本物かどうか確かめる為だろう……ふむ、浄化出来たのでこれは本物と証明された。

 

親切な事に、彼女は使えなかった方のグリーフシードを有効にに返してくれる。

 

その顔はもはや警戒心なんて存在しない、どうやら優梨の事を信用してくれたようだ。

 

「教えてくれてありがとう! あなたみたいな魔法少女もいるのね、私ラッキーだよ!」

 

下鳥「グリーフシードを探すのにはオススメしないけど、休息には最適な場所よ。

また来てちょうだいね、今度会う時は観光客と地元民の関係かしら?」

 

「余裕が出来たらもう一回来ようと思うよ! その時になったら、またよろしくね!」

 

そう魔法少女は優梨に別れを告げ、この場から立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下鳥「……『キュゥべえ』、なんだか懐かしい名前が出てきたわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏で池宮を守る彼女、その行動は闇と言うよりは光に寄り添う『影』と言うべきか。

 

見知らぬ魔法少女の口から出た『キュゥべえ』と言う名前……彼女はそれを知っている?

 

話を聞くに別の孵卵器(インキュベーター)らしいが、今の所ハチべぇとの関連性はわからず終い。

 

 

増えるは光、弱るのは闇、潜むのは影。 それぞれが大きな変化を迎える時期になる。

 

物語は何処へと向かうのだろうか? その終着点は幸か不幸かどちらになるか?

 

それは先に進んでみなきゃわからない、その先待っているのがどんな結末でも同じ事。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「待て待て、1人と1匹で話し込むのは俺たちに説明してからにしてくれ」

 

 

 

橋谷「……あぁ、ごめんなさい。 少しビックリしてしまって」

 

 

 

火本「となっと、犬や猫とかの動物でも契約出来(でく)っちゅうことか?」

 

 

 

「僕と契約してほしい! 僕を魔法使いにしてくれ!!」

 

 

 

〜終……(29)特殊な魂と弱る長〜

〜次……(30)粉の終わりと七つ目の光〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……はい、3つの場面をお送りしましたがいかがだったでしょうか?

なんか調子悪くて上手く書けてるか不安ですが、まぁせめて読めるほどには。

29話では特に説明する必要のありそうな人物もいないので、
今回イラストは無しとなっております……なんかスミマセン。



早いですが、この辺で雑談です^q^ 面倒な方は吹っ飛ばして下さい。



今回は記念日について話しましょうか、それは最近の記念日。

……え、『ロックの日』だろうって? いやいやその日じゃないよ!

今回取り上げるのは明日、6月10日の『路面の日』になります。

若干の距離はありますが、私の地元には 路 面 電 車 があるんですよ。

えぇ、車と共に電車が道路を走っておりますw

最近は『ノンステップ』なんてのも導入されてハイテク化してきてますね。

私古い車両の方が味があって好きなのに……いえ、ナンデモアリマセン。

路面電車ってのはやたらめったら本数が多いのが便利ですね、
数分置きとかのレベルで車両が駅にやってきます。

あと線路によって道が決まっているので、相当な事がないと乗り間違えない。

間違ったバスに乗ってギャーなんて事もありません、ビバ地元。

休日は路面電車に揺られて1人旅です、これがなかなかに楽しい。

……ん、なんで1人なのかって? 聞 か な い で く れ ;q;



さて、正直ネタも尽きたので今回はこの辺にしておきましょうかw

次回は主に説明回となることをここで予告しておきます、ご了承下さいませ。

それでは皆様、また次回。 ここまで読んでくれてありがとです!


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(30)粉の終わりと七つ目の光


なんだかんだで 3 0 話! 時が立つのは早いものですよ、総文字数でしみじみ。

どうも、少ない晴れにテンションが上がるハピナです。 晴天の空が見たい^q^

久々に1話を見返してみたら、あまりにも書き方が違い過ぎて逆に笑えましたね。

何故嫌われるような台本形式で書こうと思ったのか……わけがわからないy(殴

まぁ今更30話分も書き換える気力も時間も無いのでこのまま書いていきますonz
せめて読みやすいようには努力していきたいと思います、というかそうします。


さて、前回30話記念になんか書こうと言いましたが未だ何するか決まってませんonz

誰かの過去編を書こうとは思っていますが、アンケートをする気力がありません正直。

まぁ感想等1人でも希望があったら選別して書きますよ、脇役に限っちゃいますが……


前回のあらすじとしては、光と闇と影のごちゃまぜで締めくくりましたね。

例の孵卵器の名前が出てきましたが、ハチべぇとの関係性は未だ謎。
 
あと『星屑の天の川』のその後ですか、どうやら先に目覚めて逃げた様子。

命にかかわる等何やら事情がありそうですが……果たして真相はどうなのやら。

さて、舞台の幕を再度上げましょう。 最初の発声は謎の白い魔法少年。



 

「わあぁ……! ここがアジト? すごい、アジトって感じがする!!」

 

清水「あんまりギャーギャー騒ぐなよ、アジトって言うほど物騒じゃねぇし」

 

「でも、外からここが認知されないように魔法がかかっているんでしょ?

すっごく は い て く ? だよ、やっぱりすごいよ!!」

 

清水「あのなぁ……『ハイテク』って言葉は機械に対して使う言葉で」

 

上田「まぁ楽しんでるなら良いんじゃないかな? この倉庫気に入ったみたいだよ」

 

 

放課後の第三椛学園を後にして、辿り着いたのはリュミエール本部だ。

 

夕闇さえ消えた成り立ての夜を雪を踏みしめながら歩き、辿り着いた先。

 

火本「ここが、本部? 周りの建物に溶け込ん程目立たなかったのにな」

 

橋谷「目立たないように、海里さんが魔法をかけてくれたんですよ」

 

火本「なるほど……それなりに有名だし、変に扱われる可能性があっでな」

 

何故かリュミエールじゃない魔法侍もいるという状態になってしまっているが……

まぁこの際細かい事は気にしなくて良いだろう、彼も貢献者の内の1人だ。

 

 

清水「早速話を聞きたいわけだが、そういやお前の名前を聞いてなかったな」

 

「僕の名前? そういやそうだね、今まで言わなくても成立してた」

 

清水「おう、良い機会だし教えてくれれば助かるぜ」

 

そう海里が言うと、アルビノの少年はにこやかに笑った。

 

待ってましたと言わんばかりの笑み、明る気な声で彼は自分の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は()()()()だよ! 利奈以外はさっきが初めましてだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が自分の名前だという道具の名前、それを聞いた一同の反応は疑問か驚愕。

 

火本「チョークちゅうと、黒板に文字や図を()たりする道具(しょどっ)の事だな」

 

清水「……おい、ちょっと待て! 『チョーク』ってそれ本当か!?」

 

橋谷「えっ、利奈さんも海里さんもどうしたんですか?

確かに名前を聞かれて道具の名前を言うのは変ですが」

 

上田「ちょっ、 チ ョ ー ク ! ? 本当にチョークなの!?」

 

利奈はチョークと名乗る少年の両肩を持って軽く揺さぶった。

彼は驚かれるのをわかっていたらしく、驚くことなく軽い説明をした。

 

チョーク「うん! 今は色々あって、ニンゲンになることが出来たけどね」

 

橋谷「()()()()()()()()()()? ごめんなさい、理解が追い付かないです」

 

チョーク「……そっか、僕の事初めてな人がいたんだっけ。

とりあえず座ろうよ、話が長くなったいそうだしね」

 

そう言うと、彼は倉庫の中心に円状に置かれたソファーの内の1つに座った。

確かに話は長くなりそうだ、ここは座って聞いた方が楽だろう。

 

 

ハチべぇ「チョークの事を話すのなら、僕もこの場にいた方がいいね」

 

チョーク「ハチべぇ! あの時は本当に助かったよ、急だったのに臨機応変で」

 

清水「待て待て、1人と1匹で話し込むのは俺たちに説明してからにしてくれ」

 

チョーク「あぁ、ごめんごめん。 まず何から話したら良いかな?」

 

上田「……チョークに、『チョークに何があったか』を聞かせてほしいんだ」

 

ハチべぇ「それに関しては僕も気になる所だね、最初はどんな状態だったんだい?」

 

チョーク「僕の状態? ……そうだね、それを話すと長くなるけど良いかな?」

 

清水「おう、少なくとも俺は時間があるからゆっくり話してくれて構わないぜ」

 

チョーク「ありがとう! 僕、元はグリーフシードの中の結界にいたんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は語り始めた、自分に身にあった出来事を。

 

行われるのは追憶、少年は……()()()()()()()()

 

自身の死を覚悟して迎えた崩壊、その後に待つのは死では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めて、覚めることが出来て……僕はまだ生きてたんだってわかった。

 

散らばった僕の欠片を踏みしめて起き上がる、皮膚に刺さる破片が痛い。

 

……()()? まさか! 僕の硬い体じゃ痛みなんて……え?

 

チョーク「なっ……なんで!? 僕の、身体……」

 

僕の前足は白くない、手のひらが出来ていてそこから5本の指が伸びている。

 

僕の後ろ足も白くない、足首の先にはつま先とかかとが出来ていた。

 

餅みたいに柔らかな皮膚……石のように硬かった皮膚じゃない。

 

顔を覆ってみる。 無かったはずの鼻、飛び出ていない口……

 

頭を触ったら、真っ白な髪の毛が伸びていた。 髪なんて、無かったのに。

 

チョーク「これ、僕の顔……? そうだ、下にある鏡!」

 

四足歩行で移動しようとしたけど、今の身体じゃ上手く進めない。

 

力の入れ方を工夫してみたら、よくわからないけど後ろ足だけで立つことが出来た。

 

右足、左足、右足、左……うわっ!? バランスを崩して倒れた!

 

何回も何回も転んだけど、しばらくしたら進むのに慣れる。

 

それはまるで、元々刻まれていた技能。 長い時の中で刻み付けられたスキル。

 

 

辿り着いた先は道の下、そこら中に学校の机や椅子がある所。

 

移動式の黒板やホワイトボードなんかもあるけど、僕の目当てはこれじゃない。

 

結界の端から端まで続く真っ直ぐ道を支える柱、その根元にあるのは水道。

 

円で囲うように水道が設置されている、水道の上についているのは丸い鏡だ。

 

『鏡』、これが僕が探していた物で……利奈が前に探したことのある物。

 

 

かつてこれには、1人の少女と生き残りの使い魔の姿が映し出されていた。

 

 

今映し出しているのは1人の少年だけ、見覚えのない顔がそこにはあった。

 

 

真珠のような輝く白い髪、ビー玉みたいな真っ赤な瞳……僕と同じように動く。

 

 

チョーク「これが……僕、今の僕」

 

そう自覚するのにそんなに時間はかからなかった、何故ならこれは鏡だから。

 

鏡は素直なまでに、そのままの景色を映してくれる。 反転しているけど。

 

これが僕、僕の得てきた知識が正しければ……これはヒトだ。

 

チョーク「……ニン、ゲン?」

 

何故こうなったのかはわからない、理由なんて思い浮かばない。

ただ1つ、やらなきゃいけないと思えたこととしては……

 

チョーク「服、着てないや……何か着た方が良いよね」

 

この結界には幸運にも服はたくさんある、制服という名の服だ。

 

……正直、どうやって着ればいいのかわからなかった。

 

スカートだとこの身体には似合わない、なら着る必要があるのはズボンの方か。

 

えっと、必要なのはシャツとズボンと……ベルトかな? タイツは無理だから靴下。

 

鏡を見ながら試行錯誤、ちょっと変だけど上手く着れたかな?

 

チョーク「……完成、かな? 出来上がりを聞けそうな人が1人もいない」

 

上を着て下を着て、長い髪はヘアゴムで結ぶ……うん、なんとか形にはなった。

 

何だか利奈に会いたくなってきた、早く僕のこの姿を見せてあげたい。

 

褒めてくれるかな? そうだったら嬉しいな、次に会うのが楽しみだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの時も、僕はその時の気分で決めた場所に座って外を見ていた。

 

この姿になる前もそうだったけど、僕には外の景色を見る力が備わっているらしい。

 

外の景色……それはグリーフシードの外、利奈が住む()()()()の事。

 

深呼吸して見ようと意識すると、割と簡単に見ることが出来る。

 

まぁどこかに収納されているせいか、いつも若干の赤を帯びた暗闇なんだけどね。

 

利奈の姿が見えた時なんか、いつも見れてやったぁってなるんだ。

 

その時に告げる言葉が『おやすみ』ならなおさらラッキー!

 

だって、高確率で利奈が僕のいるこの結界にやってくるんだから。

 

来てくれた時は色んな話をするんだよ、明るい話も暗い話も。 たくさん!

 

 

それでね、どういう原理かはわからないけど……利奈に僕の声が届く時があるんだ。

 

ホントに稀だよ? 僕の言ったことを認識してくれるんだ。

 

最初は僕らの言葉の意味を教えてあげた時だったかな? あの時は本当に驚いた。

 

まぁ3~4回しか聞こえなかったけどね、条件がわかればもっと話せたのかな。

 

あの時も、利奈の事を見守っていた。 何故か、外の景色は見えていた。

 

収納された場所から出てきた? いや、その時はそれどころじゃなかった。

 

気がつけば見えるのは利奈の倒れる姿、僕は声をかけずにはいられない。

 

 

チョーク「利奈! 利奈!! 大丈夫だよ、ちゃんと周りを見て!」

 

 

頭が痛いみたいだけど……起き上がった、身体をぶつけただけで済んだみたいだ。

 

ハチべぇが利奈に花を持ってくる、きっと利奈の身体を癒す物。

 

でもどうしよう、今のところの事態はどう考えても利奈達が不利。

僕に出来ることは無いのだろうか? 何か、僕に出来ること……

 

 

ハチべぇ((驚いたね、グリーフシードの中に生物がいるなんて初めて見たよ))

 

 

……あれ? 今、ハチべぇが僕の方を、見て…… 僕 ! ? 

 

 

チョーク「僕の事が見えるの!? 僕の声が聞こえるの!?」

 

ハチべぇ((その解釈は間違っているね、魔力として君を認識出来ているだけだよ))

 

チョーク「魔力として僕を認識……? でも今の僕はニンゲンに」

 

ハチべぇ((わけがわからないよ、君は()()()人間なだけじゃないか))

 

チョーク「形だけ、ニンゲン……?」

 

……うん、実はわかってはいた。 ニンゲンの形をしているだけだって。

 

だって、全然暖かくない。 自分の手首を見ても、利奈のような青い血管が無いんだ。

 

ヒトの形をしてるだけ、使い魔の身体とまるで変わらない……生気が無い人形。

ニンゲンだなんて言えるわけがない、ニンゲンらしさは魔法使いよりも少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待てよ、魔法使い? ……そうだ、そうだ! この方法なら利奈を助けれるかもしれない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョーク「ハチべぇ! 君に頼みがあるんだ、出来れば今すぐに!」

 

ハチべぇ((身も蓋もないね、内容を言ってくれなきゃ何が言いたいのかわからないよ))

 

チョーク「あっ、ごめん! 僕が君に頼みたいこと、えっと……」

 

必死で頭の中を整理する、事態は一刻を争うって表現で合っているのかな?

 

とにかく、僕は言いたいことをまとめた。 良いと言ってくれるかわからないけど言う!

 

これは必死の頼み事、僕の……咄嗟の思いつき。

 

 

チョーク「僕と契約してほしい! 僕を魔法使いにしてくれ!!」

 

 

……次のハチべぇの言葉まで少し間が開いた、さすがに驚いたのかな?

 

ハチべぇ((それは難しい話だね、僕の契約方法は))

 

チョーク「『集団に限られる』って言いたいんでしょ? それでもお願い!

ハチべぇの方にも僕と契約すれば確実にメリットがあるから!」

 

ハチべぇ((わけがわからないよ、第一君は人間じゃなくて使い魔じゃないか))

 

チョーク「僕の願い事は『ヒトになること』って言っても、契約を断る?」

 

ハチべぇ((……君の願いが、『ヒトになること』だって?))

 

 

うん、ほんのちょっとだけど反応があった、ここでとどめの言葉をぶつけるんだ!

 

 

チョーク「僕で、()()をしてみない? 使い魔と契約したらどうなるかを試すんだ!

 

それで失敗したとしても、デメリットは契約をした使い魔の僕にしかない……

 

さぁ、僕の願いを叶えてよ! 孵卵器(インキュベーター)!!」

 

ハチべぇの言葉は途切れてしまった、ハチべぇなりに悩んでいるらしい。

 

でも、急な殺気と共に彼は来た。 【余計な事をするな】って、利奈を本気で○す気で。

 

その時の僕は……ハチべぇを急がせるのを我慢出来なかった、悲痛なまでに叫ぶ。

 

チョーク「 早 く ! ! 」

 

ハチべぇ((……君の言う事は一見わけがわからない、それでも契約する価値があるようだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

契約しよう、黒板の使い魔『チョーク』。 君の願いはエントロピーを凌駕した))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハチべぇが契約の了承を告げた瞬間、この身体の奥で強い熱が生まれたのを感じた。

 

それはどくどくと脈打って全身へと駆け巡る……これが、この暖かみが生命。

 

暖かみは熱さへと変わってゆき、一点に集約して身体から飛び出す。

 

これが、ソウルジェム……? チョークのように真っ白な魔力が溢れかえってきた。

 

ソウルジェムを手にすると、正しく着ているかもわからない制服は変化を遂げる。

 

服装は利奈に似た白のタキシード、彼女を連想出来るのがかなり嬉しいな。

 

これで僕も加勢をすることが出来る……行ける、みんなの所へ。

 

 

よし! 魔法使いも魔男も全部、僕の魔法で救いに行くぞ!

 

 

この、残骸として取り残された世界を取り込み飛び出して!!

 

 

チョーク「利奈をこれ以上傷つけるなああああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがチョークが人になるまでの経緯だ、彼がいなかったら利奈は確かに危なかった。

 

ハチべぇ「その実験の結果、君の身体は変質を遂げて正真正銘の人間になったんだね」

 

チョークの最初の説明が終わって、間を置かず口を開いたのはハチべぇだった。

相変わらず動揺もせず感情の大きな揺らぎをみせない、いやそもそも感情が無い。

 

清水「契約と実験……そんな短時間でよくハチべぇを納得させたな」

 

チョーク「ちょっとした賭けだったんだ、ハチべぇは『先駆者』? に拘ってるから」

 

ハチべぇ「結果は良かったね、ヒト以外でも契約をする事が可能なのが判明した」

 

火本「となっと、犬や猫とかの動物でも契約出来(でく)っちゅうことか?」

 

ハチべぇ「それは無いよ、契約をする対象は感情が複雑に絡んでいなきゃいけない」

 

でなければ、わざわざ孵卵器(インキュベーター)がこの地球に来たりはしないだろう。

 

地球という惑星に住むヒト程、最適な契約対象はいなかったという事か。

 

逆を言えば、今回わかったのはヒトから生まれた者でも契約は可能だという事実。

 

例をあげるなら……既に死を迎えたとしても魂がある幽霊(ゴースト)

魂が無くとも入り組んだ感情を持つ魔なる者(使い魔)

 

チョークの件も『先駆者』の契約で普通は考えられない特殊な事例……

その点では、ハチべぇのシステムは一回り有利となったと言っても過言ではない。

 

 

上田「……チョーク、本当に大丈夫なんだね?」

 

 

チョークが一通り自分の身に起きた事を話し終えると、

利奈は彼を気遣って心配そうな声でそう聞いてくる。

 

チョーク「え? 僕は……あぁ、そっか。 利奈は僕の死に様を見ていたんだっけ」

 

橋谷「しっ、死に様ですって!? チョークさん死にかけたんですか!?」

 

清水「最初の方の、死んだと思ってたけどそうじゃなかったって話だな」

 

橋谷「……あぁ、ごめんなさい。 少しビックリしてしまって」

 

チョーク「大丈夫だよ利奈、ちょっと身体の形が変わっただけだよ」

 

そう言って首を回したり、腕を回したりして元気な様子を見せた。

 

チョーク「これは僕の考えなんだけど……僕の食べてきた物って

一種のヒトの要素だったと思うんだ、知識でもあるし質量でもある。

 

ヒトの要素が元の使い魔の身体に収まりきらなくなっただけの話だと思う。

それだけの話なんだよ、ただ形が変わっただけなんだ」

 

チョークはにこやかに笑っているが、それでも利奈はまだ心配な様子だ。

 

上田「……チョークの身体に何かあったら、私か他の誰かに言うんだよ!」

 

まぁ不安を完全に除けないのも無理はない、利奈は目の前でその死に様を見てるのだから。

 

でも大丈夫、そう確信出来る。

 

何故なら……今のチョークは、人間(ニンゲン)なのだから。

 

この身体の奥、脈打つ生命(いのち)が全身に暖かさを巡らせる……

もう硬い体じゃない、粉々になって砕ける事も無い。

 

彼はただ嬉しく思った、姿が変わったとしても気をかけてくれる利奈と自分。

 

チョーク「うんっ! ありがとう利奈、みんなもこれからよろしくね!」

 

 

清水「……って、もうこんな時間になっちまったのか! 結構話し込んじまったな。

俺はまだ大丈夫だが……利奈と俐樹辺りはそろそろ帰らねぇとまずいだろ」

 

海里はタイムキーパーをしてくれていたらしい、確かにもう遅い時間だ。

 

窓の外を見れば見上げる先に程々の星空、暗めな街中で見える星の量。

 

早く帰らなければ。 特に、病弱な俐樹は心配されやすいだろう。

 

ハチべぇ「まだ話していない事はたくさんあるね、それはどうするんだい?」

 

上田「それはまた、今度みんなで集まった時に話すのが良いかな」

 

橋谷「す、すみません……私のせいで話を打ち切らせてしまって」

 

清水「気にすることねぇよ、だからって俺たちは咎めねぇし」

 

火本「あれ? (もど)っって()ても、チョーク君わやどけ(もど)っんだ?」

 

その言葉に一瞬来る静寂、彼は忘れていた一番重要な事を言ってくれた。

 

火本「……ん、(おい)言っちゃいかんこと()たよな空気かな?」

 

 

徳穂の言う通りチョークには 帰 る 場 所 が 無 い !

 

 

チョーク「あれ? ハチべぇ、そっちの方は対応されなかったの?」

 

ハチべぇ「君の願いは『ヒトになること』だ、それ以外の事を願っていない」

 

清水「……ケチくせぇなオイ、それぐらい用意してやれよ」

 

ハチべぇ「身も蓋も無いね、何故そこまで僕がやる必要があるのかい?」

 

チョーク「やっちゃったなぁ……あの時は咄嗟だったから簡単な願いだったんだ」

 

チョークは困り果てたような様子でこれからどうするかを考え始めた。

 

自分で何とかするつもりらしい、まぁ1人でどうにかなる問題ではないが。

 

利奈も一緒に考えたがなかなか名案が思い浮かばない……そんな中、彼女は言った。

 

 

 

橋谷「ぁ、あの! 良かったら……良ければですが、(うち)に来ませんか?」

 

チョーク「君の家に? ……あ、そういえば名前を聞いていなかったな」

 

橋谷「橋谷俐樹です、私なら……チョークさんに力になれるかと」

 

つまり泊めてあげる事が出来るということか? だけど俐樹に負担はかけられない……

 

利奈はそう考えた、俐樹の家の事情がどんなのかは知らないがそういう考え。

 

止めようとしたが、海里は利奈の行動を止めて俐樹に1つ質問をする。

 

清水「……俐樹」

 

橋谷「はっ、はいっ! 何でしょうかリーダー」

 

清水「そんな固くなるなよ、お前ん家……()()()()空いているんだな?」

 

橋谷「……! はい、チョーク君位なら泊める事が出来ます」

 

清水「なら決まりだな、心配することねぇよ利奈! 俐樹に任せれば大丈夫だ」

 

海里には変な確信があるらしい、それは利奈にはわからない確信だ。

 

若干の信憑性に欠けるが……それでも、情報屋でもある彼の言葉には信用性がある。

 

最終的には利奈も含め、チョークの事は俐樹に任せることで一同は納得をした。

 

 

これで最後になるだが、次に話すのはチョークとの連絡手段だ。

連絡手段に関しては、スマホが無くともある程度の目処は付いている。

 

上田「やっぱり魔法使いだし、チョークとの連絡手段は念話でかな?」

 

清水「そういや携帯もスマホもねぇもんなぁ……お前自身はどういった風に繋ぎたい?」

 

チョーク「リュミエールに入りたい!!」

 

清水「……あ? 悪りぃ、それは嬉しいんだが答えの方向性がずれてるぞ」

 

チョーク「ずれてないよ!? チームに入れば、そのチーム専用の念話が出来るでしょ?」

 

確かに、チームに所属すればそのチーム専用の念話が使えるようになる。

その点に関しては、チームに入っていない徳穂にはあまり関係の無い話。

 

火本「まってか(そういえば)そげな機能もあったな、(おい)は無所属じゃっであんまい実感無かったけど」

 

橋谷「いわゆる、『コンビ』という者ですね……入らなくていいんですか?」

 

火本「チームに入らずとも、(おい)には最強の相棒がいる! 所属の必要()のさ」

 

 

チョーク「 と に か く ! 僕がリュミエールに入るってことでいいね?」

 

火本「流れ的にちっとばかし強引になっちゃってるな」

 

清水「それだけ加入したいってだけだろ、俺は全然構わねぇぞ」

 

ハチべぇ「この場にいないメンバーの分の光は、僕が3人の元へ届けるよ」

 

清水「おう、その辺は頼んだぜハチべぇ」

 

 

チョークの意志も固い、周囲の反対意見も特に無い。

 

彼に関してはまだまだわからないこともある、それを知る一環になるだろう。

 

チョークにはまだ謎が多い、もしかしたらとてつもない秘密を持っている……かもしれない。

 

清水「じゃ、いつのまにか恒例になった最終確認を一応取っておくぜ。

チョーク、お前はチーム『リュミエール』の一員になる事を望むか?」

 

チョーク「はい! 僕はリュミエールに入りたいです!!」

 

チョークの返事は当然の如く肯定だ、その声はとても元気が良い。

指輪を変わったソウルジェム戻し、海里の前に力強く差し出して来る。

 

清水「まぁ返事はそうだろうな、かなり入りたがってたみたいだし。

それじゃ、リュミエールのリーダー権限で正式に加入を許可する!」

 

そう海里が言ったなら、青のソウルジェムと白のソウルジェム、

2つの魂の結晶はは強く明る気な輝きを放ち始めた。

 

それだけではない、輝きを放つ色には赤に黄緑もある。

 

唯一リュミエールではない徳穂は、腕を組んでその様子を見守っている。

 

4人のソウルジェムに白の光が入り込むのはもちろん、

チョークのソウルジェムにも3つの光が入り込む。

 

ハチべぇは4つの光をその体に受け取ると、本部(倉庫)の窓からどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、ここに『白の光』リュミエールに新たに生まれた。

 

家さえも無かったヒトになりたての元黒板の使い魔、その先は未知数。

 

誰も彼がこの先、どうなってしまうかはわからない……

 

けれども、その先が明るい事は確実だろう。

 

何故なら彼には仲間がいる、自ら救った親友に自分を導いてくれる長や提供の友達。

 

この先何があってもきっと大丈夫、彼はもう……1人じゃない。

 

一人きりだった結界の残骸には、とっくの昔に別れを告げた。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「どう、して……!? どうして、そんな悲しい事言うの!!」

 

 

 

?「どぉ~~もぉ~~! ちょいとお礼言いたくてわざわざ訪ねたでござる!」

 

 

 

清水「……どうやらしてやられちまったみてぇだな」

 

 

 

「近い内にリュミエールを脱退する、方法はハチべぇにでも聞くつもり」

 

 

 

〜終……(30)粉の終わりと七つ目の光〜

〜次……(31)腐った果実と仮の解決〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……さて、いかがだったでしょうか? 驚 い て く れ ま し た ?

え、『大体の予想は付いていた』? アッハイ、かなり調子乗ってました^q^;

この先、チョークは物語を進める上でかなりの重要人物になってくるのでね。


閑話休題、これからの展開は『コンビ』を1つのテーマとして進めていきますよ!

ここでの『コンビ』の説明は次回にでも混ぜ込んでいるのであしからず。

自分としてはそろそろ花組の生徒を全員登場させたい、あと3人くらいかな?

あぁスポットライト当たっていない生徒の人数です、このテーマを上手く生かしたい。

まぁこの先しっかりと設定決めて芯を固めて書いていかないとゴタゴタになりそうですねぇ……


おっと、30話記念としてイラストを描いていたのを忘れるところでした^q^

時間が無かったので、余った折り紙やら余ったモールやらで創作を実施。

いつもの凝った絵じゃないですが……まぁ、無いよりはマシってやつですわw

【挿絵表示】




さぁ! 最後は雑談を放り込みますよ!! もちろん面倒な人は下までGOです^q^




今回はいつもと違う特別な回、なので『誕生秘話』についてでも話しますか。

実を言うと、うえマギの原文が出来たのって〈6年前〉のことなんですよね。

自分は勉強ノートも大量に持ってましたが、同時に小説ノートも結構な数持ってました。

本当はスマホに直接書ければ良かったのですが、なにぶん校則を守りたがる身でして……ハイ。
制服のスカート? 可愛いと定評のある制服をひざ下で着用ですよもちろん。

絵の方は当時所属をしていたイラスト部で鍛えました(先輩のレベル高くて死にそうでしたが^q^;)。

後にスマホにデータを移したりして小説の執筆をしていましたが、完全に自己満足。
投稿サイトに投稿することなく自分の中で押し込めたままでした。

えぇ、今の名前と違うのですがその時のハンドルネームを暴いて言いふらした意地悪な団体がいまして。
(悪気無いけ面白半分だったと弁解してますが、それでも許す気にはなれないです)

最初の作品と最初の名前は当時のクラスメート達の手によって全部 台 無 し onz

で、もし共感性のあるクラスメートがいたらなぁ……って、
さらに当時全盛期だったまどマギに影響されて書いたのがうえマギです。

身も蓋も無い駄文でしたよ……前回29話までは、その原文のシナリオ通りに進めていました。

誕生秘話としてはこんなもんですかね? 6年前の原文を修正して執筆をしているのです。
まぁ今回からは完全に1からの制作なんで、これからは苦労する事になりますonz

あぁ、その時のクラスメートに味方なんて1人しかいませんでしたよ。
どれも現実のアイドル大好きオタクばかりでね、よくうちわを持ち込んでいたのを覚えてます。

対象といえば、女子はジャニー○に男子はA○B48……
当時全く話についていけませんでした、私だけついていけずに置いてけぼり(´・ω・`)




さて、今回はこの辺にしておきましょうか。 言い忘れてたけどチョーク主観多めでしたね。

30話突破記念としては……まぁ、希望があればぼちぼちとやっていきますよ。
(企画自体消える可能性がありそうですけどねこのままだと(;゚∀゚) )

この先は私でさえ未知数の物語、芯がぶれないようしっかり設定等を組みながら書いてく次第。


それでは皆様、また次回。 ここまで読んでくれてありがとうございます!


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(31)腐った果実と仮の解決

時には熱中症でぶっ倒れ炎天下の救急車で病院行き……

時には多数の虫刺されによる蚊のアレルギーで歩行不可……

これだから夏は嫌いなんだああああぁぁぁぁ!!!!。・゜・(ノД`)・゜・。


……はい、皆様こんばんは。 2ヶ月ぶりの夏大っ嫌いなハピナですよ、お久しぶりです。

まず最初に、こんなに遅れてしまって申し訳ない……
予告も無しに間が空くなんてあまりにも酷い話。

今後はこんなに間が空かないよう計画的に執筆に励みたいと思います、時には無理も必要だ!


さて、結構の前の話になってしまったので……ここで前回のあらすじといきましょうか。

前回は白の魔法少年チョークがリュミエールの本部に訪れたシーンだったはず。

そこで使い魔だったはずのチョークがヒトとなった経緯も一通り語られましたね。

今回はそんな日から1日立った所から始めましょう、視点はもちろん主人公。

それじゃあ幕を上げようか、物語は夢を見る事無い虚無の無意識から再開をする。



目が覚めると朝、カーテンが開いた窓からは朝日が部屋に差し込んで眠気を消し去った。

 

早めの目覚めの後はしばらく横になったまま時間を潰す、

起きる時間を決めてあるからつかの間の自由時間。

 

枕元を見て……自覚した、彼は確かに願いによって人間になったのだと。

何故って? 必ずと言って良い程、毎晩枕元に置いていたグリーフシードが無かったからだ。

 

 

そう、彼女は上田利奈。 怒涛の1日を終えて、晴天の新たな朝を迎えた。

 

 

とりあえず着ていたパジャマを脱いで着替えを始める、まず手に取るのは下着や靴下。

 

チョークからの知らせは特にない、聞いたのは橋谷家に無事馴染んだという念話くらいか。

 

そういえばと思い浮かぶのは2人の女子生徒、掃除当番だった篠田絵莉と塾通いの月村芹香。

 

2人に会いたいな……利奈はそんな事を思い浮かべながら、着替えを終えて自室を後にした。

 

ちなみにチョークは地図片手に池宮を散策するらしい、曖昧な土地勘を安定させるのだとか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

おはよう、寒空の中でも朝は生徒たちを出迎えた。 今日も学べ、地元の学び舎で。

 

利奈は自分の教室に入ったのなら、何気無く朝の挨拶を教室に響かせた。

 

返ってくるのはクラスメイトの声、よく知る友人やちょっと知ってる他生徒。

 

ハチべぇと契約して魔法使いになってからかなりの時間が立ったというものの、

最初より随分と明るくなったなと彼女は嬉しく思っていた。

 

そういう自身を実感をする一方で……何故か聞こえない、一番の友(親友)の声。

いやそもそも発声してなかったのだ、机に向かいひたすら勉強を続けている。

 

利奈にしたら状況が最初の頃に変わっただけだ、あまり深くは考えない。

 

まぁそんな深入りが無いからこそ、芹香は彼女と仲が良くなったわけだが。

 

芹香の席の近くに来ると、強調を控えることを意識し笑顔で声をかけた。

 

 

上田「芹香おはよう、朝から勉強おつかれさま」

 

月村「…………」

 

上田「ん、芹香? 私邪魔しちゃったかな」

 

月村「……あぁ、おはよう。 気が付かなくてごめん、ちょっと眠くて」

 

上田「最近元気ないもんね、クマとかもひどくなっちゃってるし」

 

 

確かに芹香の眼の下には黒いまでの濃いクマが出来てしまっていた。

 

魔法使いは小時間の睡眠でも平気なほど丈夫な身体であるはずだが……

 

その状態で寝不足となると、相当な時間寝ないで行動しているということになる。

 

 

何故、最近は身体を壊すほどに芹香は勉強をしているのだろうか?

 

 

体調を崩すとなると、流石に何も聞かないというわけにはいかない。

 

利奈は芹香を心配して、どうしてこんなことになっているかを聞こうとした。

 

ところが、彼女の名前を呼んだところで都合悪くチャイムが鳴った。

 

芹香は勉強道具を片付けて1時間目に備える、教室には担任が入ってくる。

 

利奈も自分の席に戻る、聞くとすれば昼休み中がちょうどいい時間だろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

またもや時間を進めて今は昼休み、給食を終えて長めの自由時間だ。

 

授業の方はというと、利奈は特に問題なく終えることが出来た。

 

あるとすれば……苦手な社会の時間があったせいで、退屈してしまった事くらいか。

 

早めの足並みで廊下を進む芹香を、利奈は後に続いてついて行った。

 

言葉を選びながら、芹香を励まそうと努力を重ねている。

 

 

上田「えっと……大丈夫? 最近全然寝ていないみたいだけど、何かあったの?」

 

月村「心配しなくてもいつも通り、何もおかしいところは無いじゃない」

 

上田「いつも通りじゃないよ! 現に休み時間はずっと寝ているじゃない!」

 

月村「寝不足で何が悪いのかしら? それとも寝ちゃダメなのかしら?」

 

上田「魔法使いが寝不足ってあり得ない話だよ、疲れもあるんじゃないの?」

 

月村「誰だって疲れることはあるわ、別に突っ込む話でも……何よその顔」

 

上田「……本当に、大丈夫? 今までこんな事は無かったよね?」

 

 

利奈の最後の言葉に、クールに声を発していた芹香は言葉を詰まらせた。

 

『今までこんな事は無かった』……親友となった利奈だから言える言葉。

 

実際に芹香は大丈夫じゃなかった、こんな状態で大丈夫な訳が無い。

 

話すのが苦手な利奈だったが、その気持ちは十分に伝わっている。

 

それでも……芹香は突き放そうとする、そうまでする理由があった。

 

 

 

 

そして発してしまった、言ってはいけない事を……彼女は言ってしまった。

 

 

 

 

月村「いい加減にして!! あなたには 関 係 無 い じゃない!!」

 

 

 

 

利奈は……泣いた、言葉を失って唖然とした顔で衝撃を受けて。

 

芹香はさすがにしまったと思った、彼女を泣かせてしまったのは初めてだ。

 

もう、後には戻れない。 自分から修復難儀な、大きな大きなヒビを作ったのだから。

 

 

月村「近い内にリュミエールを脱退するわ、方法はハチべぇにでも聞くつもりよ」

 

上田「どう、して……!? どうして、そんな悲しい事言うの!!」

 

月村「さっきも言った事忘れて無いわよね? 話はこれで終わりよ。

ここでそんなに泣いたら注目を集めるわよ、早く泣き止むことね」

 

 

芹香はまた前を向いて歩きだす、利奈にその後を追う気力は無かった。

 

ただ涙が止まらない、その場で身動きが取れず立ち尽くして無く。

 

それが()()()()()としてもだ……何故、それが本心じゃないかわかったかって?

 

 

じゃなかったら芹香のソウルジェムはこんなにも穢れていない、

橙色の宝石はまるで腐った果実のようにその色を黒く濁らせている。

 

 

武川「その時にオイラは笑って……え!? 上田さんどした!?」

 

灰戸「ん、どうした光……あれ、利奈ちゃんどうしたんだい?」

 

上田「わっ、私、芹香を、傷つけ……ちゃったぁ……!!」

 

武川「あぁあぁ、とにかく落ち着いておくれよ上田さん!」

 

灰戸「……僕らじゃどうしようもないね、一旦旧校舎の理科室に行こう」

 

 

利奈はよく知る知人に会って安心したのか、利奈の泣きは度を増した。

 

笑わすのが得意な光も、普段泣かない人が泣けばさすがに焦っている。

 

八児は冷静に2人を連れて行く先を進むのを再開する

ちょうど2人はリュミエールに会いに行くところだったらしい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

旧校舎の理科室に到着する頃には、ある程度利奈は落ち着いていた。

 

それでもまだ泣いているようだが……なるほど、利奈なりに気を使ったのか。

 

真っ先に絵莉と海里が来てくれた、2人は未だ泣き続ける利奈を慰める。

 

しばらくして……利奈は泣き止む、話を出来る状態に戻った。

お客含めたみんな席に着くと、利奈は一連の事情を説明をする。

 

当然芹香はこの場にはいない、どこへ行ってしまったのだろうか?

 

 

篠田「月村さん……そんな、利奈にひどい事をを言っちゃったんだ」

 

上田「違う、絶対何かの間違いだよ! 悪いのは…… 私 な ん だ ! ! 」

 

清水「落ち着け利奈! 誰も悪くねぇ、聞いた話が正しければ突発的な発言だろ」

 

ハチべぇ「そうだね、今の芹香の現状じゃリュミエールを抜ける事は難しいよ」

 

上田「……ハチべぇ」

 

 

利奈はかなり困惑している、『関係ない』と言われ悲しいもののその理由に心当たりが無い。

そんな都合など孵卵器(インキュベーター)が知るはずも無く、ただ現在における芹香の不利を言葉にした。

 

 

ハチべぇ「加入の時と同じように、脱退も単独で行う事は出来ないよ。

 

少なくとも、そのチームの半数以上が脱退に賛成しないと抜ける事は出来ない。

 

芹香が今すぐにでもリュミエールを抜ける事は現在あり得ない話だね」

 

篠田「って事は……まだ、月村さんと話をする余地があるってこと?

だって、そんな理由も話さないで脱退なんて悲しすぎるよ!」

 

清水「当然だ、脱退するならそれ相応の説明をしてもらわないと納得出来ん」

 

上田「……ありがとう2人とも、私以外に芹香気遣ってくれる人いてくれて嬉しいよ」

 

 

……思えば、彼女は契約前も1人で過ごすことが多かった。

 

利奈のように『道具』扱いされることはなかったものの、彼女は放置されていた。

 

言い方をひどくすれば()()()()()()と言ってしまっても過言ではない。

 

ずっと1人本を読みふけり、会話するとすれば利奈のあいさつくらいだった。

 

彼女の裏には何があったのだろうか? 巧妙に隠されていたのか海里でさえ知らない。

 

 

清水「花組のみんなの事情は大体は把握したが、やっぱ深部は知らないところもあるな。

例をあげるなら『前坂数夜』『古城(ふるき)忠義(ただよし)』『山巻(やままき)唐輝(からて)』、こんなもんだな」

 

篠田「へぇ~~? 海里でも知らない人っていっぱいいるんだ!」

 

清水「仕方ねぇだろ……山巻は1年の途中からの転校生だからあんまり知らねぇし、

忠義とはこれから話すところだぞ? さっき話してる途中で切れちまった話も含めてな」

 

 

海里が見る先、そこでは花組と月組の雑談が行われていた。

 

一連の話し合いが終わるのを待つのも兼ね、軽く話をしていたらしい。

 

雑談の内容が気になる? 言ってない? まぁ、どっちでもやることは同じだ。

少し時間を戻そう、それは光と八児が利奈を連れて来る少し前から始まる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

それは利奈と芹香以外のリュミエールが集って、そんな時間も立っていない時だった。

 

理科室の扉からノック音が鳴る、どうやらこのチームを訪ねるお客が来たようだ。

 

休憩と称して絵莉は勉強の魔の手から逃げた、今来たお客を出迎える。

 

いつもなら逃げることなんて無いのだが……あぁ、新しい勉強方法に慣れなかったのか。

 

芹香がいないので今日は蹴太が教えている、彼の教え方は口頭が多い。

 

 

篠田「お客さんだから仕方ないでしょ? 一旦休憩 休 憩 !」

 

中野「でもまだ計算の途中……まぁいいか、一通り終わったら再開するよ」

 

篠田「わかってるって! は~~い、どちら様でしょうか?」

 

 

にこやかに笑って理科室の扉を開けると、そこには2人の男子生徒がいた。

 

その内の1人は最近リュミエールが共闘した魔法侍だ、もう片方はその相棒だろう。

 

その相棒はなんだか《ノリノリ》だ、両手を握って比較的有名な忍びの印を結ぶ。

 

 

?「どぉ~~もぉ~~! ちょいとお礼言いたくてわざわざ訪ねたでござる!」

 

清水「相変わらずテンションが高けぇな忠義、それでお礼ってなんの話だ?」

 

古城「おいおい、情報屋を名乗る海里がそれを知らないって抜けてるでござぁ~~る!!」

 

清水「……若干 ム カ つ く 言い回しも相変わらずだな」

 

火本「こら忠義! あんまい調子(おだめ)に乗ったら怒らせてしまうじゃねか」

 

古城「っはは、ごめんごめん! さっきまで2人で軽く社会の勉強してたからさ」

 

清水「さしずめ日本史の勉強ってとこか? 伊達に歴史好きって言われてねぇな」

 

 

火本徳穂と古城忠義、この2人はコンビを組んで和風ユニットとして魔法使いの活動をしている。

 

徳穂は自らを『魔法侍』と称し忠義は自らを『魔法忍者』と称す、時代感は古め。

 

双方社会の成績は優秀で、特に日本史を得意としている。 それどころか趣味に成り果てる。

 

おっと、ここで言う『コンビ』は()()()()()()()2人組で活動している集まりと定義付けよう。

 

彼ら含めて花組に存在する正式な『コンビ』は3組いる、どれも個性的なペアだ。

 

 

古城「いや~~ははは、冬場なのに水道の水がぶ飲みするとかアホな事したもんだよ、

腹の薬リュミエールの子が作ってくれたんだっけ? ありゃ本当に効いたわ」

 

清水「作ったのは俐樹だぞ、そこにいる三つ編みの女子生徒な」

 

橋谷「へっ!? ……あぁ確かにあの時作りましたね、き……効いて良かったです」

 

 

俐樹は頬を赤らめあからさまに照れている、感情が表に出てくるという事は素直な子だろう。

 

 

古城「それとこれ、そっちのグリーフシードで徳穂が結構浄化してもらったんだろ?」

 

 

そう言って忠義はグリーフシードを古めかしい巾着から取り出し、海里がいる前の教壇に置いた。

 

新品のグリーフシードと使いかけのグリーフシード……なるほど、使った量ちょうどという事か。

 

言い回しは確かに癖があるが、まぁ性格自体はそんな悪くないようだ。

 

 

清水「その分を返すってか? 別に返さなくても大丈夫だぞ、まだグリーフシードはあるしな」

 

古城「そういう余裕言ってられなくなるかもしれないよ? ここは受け取っておきなよ」

 

清水「……()()()()()()()だと? 何が言いたいんだ?」

 

 

その事について説明をしようとした忠義だったが、ちょうどそのタイミングで3人が来た。

 

3人……そう、利奈を連れてきた光と八児がこの理科室を訪れてきたのだ。

 

海里は一旦会話を止め、勉強から逃げて絵莉と共に利奈の元へ行く。

 

その間、光と八児は待ってる間暇を潰すのも兼ねて適当な雑談を開始。

 

和風コンビの2人も同じテーブルの椅子に座る、月の情報屋とは面白い話が出来そうだ。

 

 

火本「あげな大声(うごえ)出して泣くなんち、よっぽどんこっがあったんじゃろなぁ……」

 

武川「大抵の人の笑い取る自信あるけど、あそこまでとなるとオイラでもちょっと難しいかな」

 

古城「んん? たまに見かけてるけど、ただ単に笑わせてるだけじゃないの?」

 

武川「ちょ、心外だなぁ!? ただむやみやたらと笑わせてるわけじゃないよ!?」

 

灰戸「何も考えていないようで、実は相手の状態や事情も考慮して笑わせてるからね」

 

 

八児も八児で序盤の言い方がひどいような気がするが、悪意が無いので光は良しとするらしい。

 

まぁ、光と八児の付き合いが長いのも1つの妥協理由と言えるだろう。

 

話を一度変え、とりあえずお互いの来た理由について話す事にした。

なぁに、言ったって構わない。 特に隠すほど秘密な理由でも無いしね。

 

 

古城「僕は相棒がこのチームに結構お世話になってたのもあってね、お礼を言いに来たのさ」

 

火本「1人で行って()たんじゃっどんなぁ……面目(めんぼっ)()、忠義」

 

古城「いいって事よ! 相棒が世話になったら僕が世話になったも同じさ!」

 

 

この和風コンビは互いの信頼性が高いようで、見るからに仲が良さそうだ。

 

忠義が歯を見せて笑ったかと思えば、徳穂の無駄に広い背中を片手で叩いた。

 

叩かれた徳穂は微動だにする事がない……なるほど、体格にに合った筋力というわけか。

 

 

灰戸「僕はとある事件状況の報告にね、海里にちょっと伝えたい事があったんだ」

 

武川「オイラは特に理由は無いけど、ネタも練ってる途中だし暇だったからついて来た!」

 

灰戸「……え、理由無かったの? まぁ僕としては光がついて来ても構わないんだけどね」

 

 

八児の反応からして、何らかの理由はあるだろうと自分なりに解釈していたらしい。

 

結果見事に正解は理由無し、予想が外れた反動で八児は苦笑いしか出来ない。

 

()()()()()……というと、勘が良いなら何の事件の事かすぐにわかるだろう。

まぁ詳しい話は後ほどだ、その時になったら八児が説明してくれる。

 

 

古城「しっかし花組以外にも来る生徒がいたなんて意外、しかも情報屋ときた!」

 

武川「お、おぉ? 『以外』と『意外』で新たなダジャレの誕生か!?」

 

灰戸「偶然だと思うよ……うん、たまに互いの情報を交換してるんだ」

 

火本「そもそもクラスが()ごもんな、(まっ)で別な情報が交換出来(でく)っって寸法か」

 

灰戸「花組以外、僕含めてみんな一般人だからね……特に場所の情報が助かるんだ」

 

古城「場所の情報を頼りに、お笑い芸人もどきが注意喚起を広めるって訳?」

 

武川「それで合ってるけどお笑い芸人 も ど き ではないなぁ!?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

さて、互いの目的がわかった頃に利奈は落ち着きを取り戻した。

 

いわゆる『今に至る』という状況だ、八児は海里の視線に気が付いた。

 

いつもなら序盤火花を散らす2人だが……今回は控えておこう。

 

先に話をして良いよと忠義が譲る、まずは情報交換から始まるらしい。

 

海里が話したのは近況、どの辺に魔なる物が出やすいだとかの予想等。

 

 

清水「……ってことだから、当分はその辺の地域に気をつけろって言うと良いと思うぜ」

 

武川「その辺雪積もりやすいから割りと人多いんだよなぁ……うん、オイラに任しとけ!」

 

灰戸「他に雪が多い場所を提示すればなお効果がありそうだね……さて、次は僕の番か。

海里に情報を開示したんだから、僕も情報を開示しなきゃいけないね」

 

清水「オイオイ、いつその情報が情報交換になった? 安全の為には必要な情報だろ?」

 

灰戸「とは言ってもこれだけ特別なんて言ったら混乱するよ!

まぁ今日はこの情報を言いに来たんだし、構わないさ」

 

 

八児が語りだしたのは最近起こった事件の近況……そう、『密室盗難事件』について。

 

 

 

 

灰戸「花組に僕の知り合いがいるんだけど、彼から聞いたんだ。

……その事件の被害者たちの元に、盗まれた品が戻ってきたんだって」

 

 

 

 

清水「ハァ!?」

篠田「ええぇぇ!!?」

橋谷「戻ってきたんですか!?」

上田「……え!?」

中野「へ!? 嘘だろ!?」

 

 

驚きの声は重なり団子になって教室内に響く……無理もない、これは思わぬ展開だ。

 

 

清水「ちょ、それ 本 当 の話なんだろうな!?」

 

灰戸「何をそんなに驚いているんだい……チーム『ゲマニスト』、

そのサブリーダーである大翔に聞いたから間違いないよ」

 

清水「いや、お前の信用性の話じゃない……どうやらしてやられちまったみてぇだな」

 

武川「え、してやられた? 何かまずい事にでもなったの?」

 

 

海里が言ってるのはどういうことだろうか? まぁ簡潔にだが、軽く説明しよう。

 

一連の状況を説明するなら、『犯人が見つからないまま盗品が見つかった』ということ。

 

ということは、盗品を取り返す行動の必要が消え去った。

 

盗んだ犯人を捜す必要性が一部無くなってしまったのだ。

 

いや犯人探しをするのは重要なことだが、きっと被害者である彼らなら……

 

 

清水「『ゲームを取り返せればそれで良い』、ゲーム命なあいつらならそう言いそうだな」

 

灰戸「実際そんなことを言ってたって大翔から聞いたよ。

特に操太郎がもういいって言っていたね、努務はまだ許せないみだいだけど」

 

上田「犯人を捜す必要が、無くなっちゃったって事?」

 

清水「おぉ利奈、すっかり回復したみたいだな……まだ元気ない様子だが」

 

灰戸「全部無くなったって訳じゃないけど、相手側のダメージは減ったね」

 

 

問題はその盗品が見つかった場所だ、その場所は被害者それぞれのバックの中。

 

どこかに落ちてたとか置いてあったとかじゃない、 バ ッ ク の 中 だ !

 

下手をしたら、被害者たちがその『ゲームの存在に気が付かなかっただけだ』と

変な誤解を生んでしまうと共に騒ぎの反動だって降りかかるかもしれない。

 

『してやられた』、ホントにそうだ。 それも、軽く向こうの計算に入っていただろう。

 

一通り話が終わったのなら、海里は教壇に戻って肘をついた。 やっぱり納得いかない様子だ。

 

 

灰戸「前ほど表向きに探すのは、あまりメリットがあるとは言えない状況だね」

 

清水「……不本意だが、これで一旦解決ってことにした方が良さそうだな」

 

中野「まぁ、盗品が戻ってきたなら一旦は大丈夫じゃないかな?」

 

篠田「でもなんかスッキリしない終わり方だねぇ……盗んだってことは変わらないのに」

 

清水「それも今後の展開しだいってやつだな、とりあえず様子見といこうぜ」

 

 

一方、情報屋らが情報交換をしている間の和風コンビは社会の教科書を眺めながら待機中。

 

 

火本「……ぼっぼっ(そろそろ)忠義が話をしても大丈夫(だいじょっ)な頃合いじゃねか?」

 

古城「んん? あぁ、確かにもう話しかけても大丈夫そうな空気かな」

 

火本「お、ちょうどこっちに来たぞ。 (かた)っても良さそうだな」

 

 

海里は次に先程止めた忠義の話を聞くらしい、月組の2人は伝え方を相談している。

 

 

清水「それで、さっき言ってた()()()()()()()ってどういう事だ?」

 

古城「っとなぁ……まぁ簡単に言えば、出回るグリーフシードの量が減るって事だな。

 

僕ら魔法忍……じゃなかった、魔法使いは着々と力を付け環境に適応し始めている。

 

前程バカみたいに魔力を使ってしまう、君らに合わせて言うならそんな不真面目は減った。

 

まぁ未だに使う魔力の調節を間違えて孵化なんて事もあるけど、それでも少ない。

 

今後グリーフシードの数は減る、これを巡った争いも起きるかもしれない」

 

火本「(つん)と、最近の雑魚級は()よなってて簡易には倒せねごっなってきちょっな」

 

 

忠義はノリにも乗らず一連の発言について説明をした、口調は落ち着き聞きやすい。

 

彼の言う通りだ、時間が立って魔法使い達は確実にその力を高めている。

 

恐らく雑魚級の魔なる物は減り、1体1体の強さも上がっている。

 

下層の魔法使い達はグリーフシード不足に陥る時がじわりじわりと迫りくる。

 

最も恐れる事……()()使()()()()()()()だ、それはグリーフシードを巡る争い。

 

だからこそ、上層にいる魔法使い達がしっかりしなければならない。

 

それが忠義が言いたかった事だ、今回の返却もその貴重さを伝える為だろう。

 

 

話がまとまったなら、ちょうどその時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

 

次の花組の授業は社会らしい、和風コンビは張り切って理科室を後にした。

次の月組の授業は数学、光は数回八児のお世話になるだろう。

 

利奈も他の皆と共にその場を後にする、泣き止みはしたがまだ暗い。

 

芹香は今、どうしているだろうか? その事ばかりが気がかりで悩ましい。

 

まぁ……芹香はその時荷物を持って保健室、そのまま誰にも会わずに帰ってしまうが。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

白い吐息は重々しい……帰り道な寒空の下、雪は降らずとも頭に積もる物がある。

カバンの

 

それは『疑問』か? 『後悔』か? 『悲しみ』か? それを判断する気力は既に無い。

 

ただ足跡を残しながら歩くだけだ、静かに帰路を進み行くだけだ。

 

 

上田「芹香、どうしちゃったんだろう……やっぱり私が知らない内に悪い事を」

 

 

泣き止みはしたが、最低でも利奈は今日1日この調子だろう。

 

その表情は不安げで暗い、やはり芹香の事が気になっているのは間違いない。

 

考え事で頭が満たされ周囲に意識がいかない、それは周囲の状況も同じだ。

 

今歩く先に曲がり角がある、住居の影に隠れ先が見えない曲がり角。

 

……もはや言わずともわかるだろう? つまり、()()()()()だ。

 

 

上田「そういえば帰り道におつかい……って、うわっ!?」

?「なっ、何でこんな目に絶対おかしいっt……ひえあぅ!!?」

 

 

突如、利奈は曲がり角を曲がった直後に人と鉢合わせになってしまった。

 

ぶつかってはいないが、何故か相手は尋常じゃなく驚いている様子。

 

街灯が少ない道だから暗くて怖く見えたのだろうか? それにしては驚き過ぎだ。

《ビビり》なんだろうか? まぁ利奈はそんな意地悪を言う性格ではないが。

 

 

?「ごっ、ごごごごめん! わざとじゃないんだ!! 今、僕は急いでて……」

 

上田「えっ、そんな恐縮しなくて大丈夫ですよ! 私怒っていませんし」

 

?2「って言ってるじゃないのぉ、大丈夫だよぉ唐輝君」

 

 

知り合いだろうか? 冷や汗をかいて怖がる少年にやさしい言葉をかけた。

 

まだ少年は震えているが……ふむ、利奈は怒っていないという事は理解したようだ。

 

綿菓子のように柔らかな雰囲気の少女が利奈に話しかける、その表情は柔らかな笑み。

 

 

?2「ごめんなさいねぇ? 怖がられ過ぎて気分を悪くしなかったぁ?」

 

上田「ビックリしちゃったのは私も同じです、大丈夫ですよ」

 

?2「……こうして面と向かって話すのは初めてですねぇ、上田さん」

 

 

名前を呼ばれたのにはまたちょっと驚いたようだが、すぐ納得した。

 

何故って? 彼女の服装が『第三椛学園』の制服だったからだ。

 

恐らく彼女は花組だ、その指には見知った指輪が付いている。

 

少女の後ろに隠れ怯える少年、未だ怯える彼は利奈を涙目で見ている。

 

そういえば少年は全速力だった、急ぐほどの目的があったのだろうか?

 

微笑む少女はどこかで見たことがある、記憶の片隅に彼女はいた。

 

それは回復専門の魔法少女、魔法に見合い語る口調も性格も柔らかだ。

 

 

 

 

利奈自身は気が付いていないが、これで花組全員を利奈は認識したこととなった。

 

正確には今目の前にいる『君』が認識したというのが正解か?

 

近い内に出席でも取ろうか? まぁ、それは今関係ない話だけどね。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

「っあ!? 人が死んで……いや、じゃなきゃあんな気は感じれない」

 

 

 

「大丈夫だよぉ、姿見えないだけでちゃんと近くにいるからぁ」

 

 

 

「おい下がれ! 見た様子君は後衛向きだろ、前の方は上田さんと僕に任せろ!」

 

 

 

「……行くよ、今度は僕が命を賭けて助けに行く番だ」

 

 

 

〜次……(31)腐った果実と仮の解決〜

〜終……(32)ビビりな空手家と柔軟少女〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、次回で花組の魔法使いの名字から名前に至るまでが明らかになる事となりますね。

人数は35人、全員出すのに結局半年もかかってしまったなぁ……1クラス分は案外多い。

出席を取るとなるとかなりの文章量になる、本編や番外やらどこで書くかは検討中。

後『改行が長い』なんてアドバイスを頂いたので、今回改行は少なめ(4行以内)です。

読みやすさが向上しているのなら幸いです、まぁ内容は変わらんので個人差はありそうですがw




さて、今回の雑談は『夏』に関する事にしましょうか。 書く元気実際無いので、今回は短め。

夏の恐ろしさといえば『熱中症』や『虫刺され』等の病があげられますね。

他にも海水浴やハイキングに花火大会と、外出が多く事故が多くなる時期でもあります。

あぁ……気候にはこんな地獄の時期が他にあるでしょうか、夏は嫌いです(´・ω・`)

皆様も夏の害にはお気をつけ下さいませ、じゃないと病院送りの結末が待っていますので。




次回は雑魚級との戦闘が入ります、文章量が15000字超えとなるので長文注意報喚起。

今回イラストは無いですが次回入ります、そっちの方も描いていかなければ。

それでは皆様、また次回。 22〜26日は用事があるので更新は不可能、悪しからず。


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(32)ビビりな空手家と柔軟少女

週に1度はハピナの日! ……はい嘘です、そんなことありませんよもちろん(´・ω・`)


こんばんは! 9月最初のハピナですよ、最近は涼しくなってきて良いですね。

まだまだ暑いところもありそうですが、とりあえず私のところは涼しくなりました。

今度は風邪に気をつけないと……あぁ、暑い地域は熱中症にご注意を。


さて、前回のあらすじとしてはやっとの復帰なのに新たな波乱の予兆が起きて終了でしたね。

今まで怪しい様子だった芹香が暴言、一体何がどうなっているのでしょう?

流石に利奈も泣いてしまいましたね、2人の仲に溝が出来てしまった訳ですが……さて。

今回はいつもより長くなります、総文字数はざっと15000字以上と大ボリューム。

それでは幕を再び上げましょう、物語はビビりな男子と柔らかな女子との出会いから。



そのコンビとの出会いは唐突、予想だにしない思わぬ場面で巡り会った。

 

時刻は深夜とも呼べない午後、暗がりを帯びた夕方がオレンジに雲間から照っている。

 

その色からはメガネの彼女を連想させるが……だから利奈は、足跡を意識して歩いてたのか。

 

利奈はそんなに怒っていないのに、未だ少年は少女の後ろに隠れて様子を伺っている。

 

この2人は既に知名度の高い利奈の事は知っていたらしく、

用事があるので進む先を走りながら簡単に自己紹介を聞くことになる。

 

 

御手洗「私は御手洗(みたらい)琴音(ことね)って言うのぉ、気軽に琴音ちゃんって呼んでくれると嬉しいよぉ」

 

上田「あぁ、うん。 よろしく琴音ちゃん……えっと、そっちの人は?」

 

御手洗「ほら唐手君、全然怒ってないよぉ? 隠れてないでご挨拶!」

 

山巻「…………や、山巻(やままき)唐手(からて)……ねぇ本当に大丈夫なの琴音ちゃん?」

 

御手洗「もう大丈夫だってば! ほらぁ、へっぴり腰になってないで走る!」

 

 

唐輝は見た感じでは運動系らしく、体つきも比較的がっちりしているのだが……

雰囲気からして弱い、例えるなら琴音がいてやっとこの場に入れると言った様子だ。

 

弱そうな彼見つけた2人が進む先……まさか、自分の家だとは言うまい。

 

まぁそんな予想は良い方向で外れ、行く先は広めの芝生な広場だったわけだが。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

3人がしばらくして到着した先、そこには遠目で見た通りの広々とした公園があった。

 

ブランコ、滑り台、シーソー、鉄棒…….基本的な遊具は揃っているそれなりの公園。

こんな広い土地があるのなら、もう少し遊具があっても良いのに……という印象。

 

この公園には何脚かベンチがあるのだが、その上でで誰かが寝転んで眠っていた。

 

 

 

 

悪夢を見るかのような顔で……()()()()()()()ような印象で、魔法少年が。

 

 

 

 

上田「……えっ、え? 空野さん!?」

 

山巻「っあ!? 人が死んで……いや、じゃなきゃあんな気は感じれない」

 

御手洗「利奈ちゃんの知り合いぃ? まぁとにかく、唐輝君のは当たってたねぇ」

 

 

のんきな事を言いつつ、眠り切っている彼の元に一番急いでるのは琴音だった。

 

何故急いでいるのかって? 真冬という環境下で寝ている事自体が異常だからだ。

 

それもぐっすりと……こんな状況、正常だと言う方が確実におかしい。

 

琴音はいち早く八雲の元へ駆けつけると、その容態を観察しだした……

 

唐輝が言うに、彼女の魔法は回復専門なのでおかしい事ではないらしい。

 

 

御手洗「……身体にも魔力にも問題は無いねぇ、それどころか浄化したてだよぉ」

 

上田「浄化したて? ソウルジェムを浄化したばっかりってことですか?」

 

山巻「こっ、怖い……どんな経緯でこうなったのかが、理解……出来ない」

 

ハチべぇ「どうやら魔女と戦ったばかりのようだね、休憩をしてるのだろう」

 

上田「ハチべぇ! またなんの前触れも無く……どこに行ってたの」

 

 

まぁ、そんな事を聞いたとしてもどこかから来たとしかわからないだろう。

 

ハチべぇほど、協調性が無く自由な存在はなかなかいない。

 

……ともかく、ハチべぇは八雲の経緯を知っていたらしく3人に話して見せた。

 

 

ハチべぇ「先ほど力強と八雲が雑魚級の魔女を討伐したんだけど、

落としたグリーフシードの分じゃ1人分しか浄化出来なかったみたいだ。

 

それだけ、2人にとってその魔女が強敵だったということになるね。

 

どのようにソウルジェムを浄化するかって話になった直後、

力強がほぼ強引に八雲のソウルジェムを浄化したのさ。

 

身もふたもない結果だ、それによって力強は孵化をしてしまったんだから。

 

それらの現象が今に至っているんだよ、利奈」

 

 

一通りの事情を聞いた利奈……その行動の理由に、彼女は心当たりがあった。

 

 

 

 

『空野「荒れ狂う風よ! かけがえない相棒の風を反転さ」……

 

地屋「ちょ!? バカ野郎!! ここは俺の重量操作だろ!!

 

っ……! くそっ!!

 

 

激! 増! 減!! 」』

 

 

 

 

以前、八雲は自分を危険に晒してまで力強を助けたことがある。

 

その時は今よりも魔法は安定せず、下手をすれば死もあったかもしれない場面。

 

まぁ結果的に特に大きなケガはなく無事だったから良かったのだが、

命がかかってしまったんだ……彼なりに思うところはあっただろう。

 

だがなんの考えもなしに浄化を譲った結果、最後は孵化してしまったという事だ。

 

脳筋による失態だが、思いやりあるこの失敗は一概に否定することも出来ない。

 

ソロ討伐なんて後衛向きの魔法使いに出来る訳もなく、親友を救えない事に絶望したのだろう。

彼にとっては幸いにも、その分の穢れも譲られたグリーフシードで賄えたとハチべぇは言う。

 

ようは八雲のこの状態は一種の『ふて寝』なのだろう、現実逃避の身体は眠りについた。

 

 

御手洗「じゃあ、この子はその力強って人に庇われたって事情があるんだねぇ」

 

山巻「孵……化!? よく、そっ、そんな……浄化を放棄して、孵化なんて!!」

 

御手洗「落ち着くのよぉ唐輝君、怖いのはわかるけど今はこの人の為にも怖がらないのぉ!」

 

山巻「……ぅ、うん。 それと、その人まだ起きないのかな? 起こしても……怒らない?」

 

上田「どちらにしろこんな環境下だし、詳しい事情を知るなら起こすしかないね」

 

 

とりあえず3人である程度話し合った結果、眠っている八雲を起こす事が決まった。

 

琴音が八雲を優しく起こす間、利奈は孵化してしまった力強……魔男を探す。

 

……ん、唐輝? あぁ彼なら、不安そうな顔で八雲が起きるのを琴音の傍らで待っている。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜[数分後]〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

空野「……っ、うぅ……」

 

山巻「ぅわっ!? 琴音ちゃん起きちゃったよ、ど……どうしよう!?」

 

御手洗「まだ何の反応もしてないねぇ、怖がるにはまだちょっと早すぎるよぉ!」

 

 

あまり時間が立たない内に八雲は目を覚まし、頭を抱えて起き上がった。

 

唐輝は相変わらずのビビりだが、琴音はそんな彼を落ち着かせ八雲に事情を話す。

 

最初は寝起きの放心状態だったが、しばらくして重々しい口を開いた。

 

 

空野「そう、だったんだね。 あれは夢じゃなく、紛れもない現実だったんだ」

 

御手洗「……もうそんな暗くなることないじゃないのぉ、ほら元気出して!」

 

空野「暗くもなるさ、この分だとハチべぇから話は聞いたんでしょ? 僕は……」

 

御手洗「それなら次はこっちの番、これから助けに行けば良いじゃない!

ほらぁ、利奈ちゃんもこの場にいるんだから大丈夫よぉ!」

 

空野「……え? 海里のチームにいるエースが?」

 

 

ふむ、利奈への信頼はかなり高いようだ。 誰が言いふらせば高くなるのやら。

 

当の本人は魔男を探している、正確には魔男の結界の入口と抜け殻と言ったところだ。

 

遊具の裏や茂み中を探していった結果、見つけたのは案外簡単な場所だった。

 

無駄に遠回りをしてしまったのに気が滅入ってしまう……何故って?

 

まさか、八雲が寝ていたベンチの後ろに抜け殻があるとは思わないだろう。

 

わかりやすく言うなら……『灯台下暗し』という言葉がこの状況には妥当か。

 

とにかく利奈は3人に抜け殻の存在場所を告げ、抜け殻を魔法で保護する。

 

 

上田「これで、この寒い状況でも彼が危なくなっちゃう事は無いと思うよ」

 

山巻「確かに、見るからに暖かそう……でっでも、長くもってくれるのかな?」

 

御手洗「私の魔法も追加でかけておくからぁ、かなりの時間大丈夫だと思うよぉ」

 

 

抜け殻の状況は何重にも毛布にくるまれて、巨大な1つの泡の中に入っている。

 

一瞬その泡はきらめいたかと思えば、中の抜け殻の姿を見えなくしてしまった。

 

まるでそこには何もないようななってしまったが、琴音はその説明を始める。

 

……そういえば、琴音の事に関しては唐輝はあまりビビるような様子を見せない。

 

それだけ信頼しているという事だろうか? まぁ、今は関係の無い話だけどね。

 

 

上田「えっ……消えた!? いやそんなわけないけど、どうやって見えなくしたの?」

 

御手洗「光の屈折の原理を利用しているんだよぉ、泡自体も100%魔力製だから大丈夫だねぇ」

 

上田「一般人は疎か魔法使いにも見えないって事か……確かに、これなら大丈夫かな」

 

山巻「時間も時間だし、他の人も来る気配がないから 大 丈 夫 ……とは思う」

 

上田「唐輝さんかなり信用しているんだね、琴音ちゃんの事」

 

 

それを聞いた唐輝は何故か怯えるのも忘れ、そっぽを向いてしまった。

 

何か悪い事を言ってしまったのかと利奈は不安になったが、そんなことは無い。

 

何故って、隠れる彼の顔は赤面だからだ。 ビビりの裏は素直、可愛いやつめ。

 

 

さてと、これで抜け殻の保護は終わった。 次に探すのは魔男の結界の入口だ。

 

……とは言っても、それはすぐに見つかることになるわけだけどね。

 

利奈が隠れて指輪を使ったのだ、その輝きの点滅でその場所を探すことが出来る。

 

 

上田「……あ、あったよ! 意外とわかりやすい場所に結界が出来てた!」

 

 

彼女が皆を呼んで指さす先、そこには割と広さのある砂場があった。

 

そのど真ん中に結界の入り口がある、淡く光る魔なる物のエンブレムが。

 

例えるなら激しく燃える業火を象る紋章、裏腹に溢れ出るのは熱気ではなく冷気。

 

 

上田「冷たい炎か、気を引き締めて挑まないと感覚が狂っちゃいそうだね」

 

山巻「不気味な雰囲気……うぅ、何度目にしてもこっ怖いのは……怖い」

 

御手洗「そんなにビビらなくても大丈夫よぉ、慣れちゃえば楽に戦えるわ」

 

 

彼女はそう言うが、魔なる物の結界の世界観に慣れる事はまず無いのが普通だ。

 

まぁ利奈の一例のように何回も訪れたならわからないが、それは被る事ないレアケース。

 

利奈が口には出せない違和感を抱いていると、ふと頭に念話が聞こえて来た。

 

 

御手洗((唐輝君の戦ってる姿を見れば、どういう事かすぐわかると思うよ))

 

 

琴音の方を見れば、負の感情など微塵もない柔らかな笑みで利奈を見ている。

 

ようは時期が来ればわかるという事だろう、ならその時が来るまで展開を待とう。

 

……さて、結界への道が見つかったとなれば、その先行うべきことは1つ。

 

 

山巻「またあの不気味な世界に行くことになるのか……うぅ、やっぱりこっ……怖い」

 

 

彼はそうは言いつつ、震えてはいるが琴音の後ろに隠れしっかりと行く先を目に捉えている。

 

 

上田「私たちはこれから魔男を倒しに結界に入るけど、空野さんはどうしますか?」

 

空野「……行くよ、今度は僕が命を賭けて助けに行く番だ」

 

上田「命なんて賭けなくていいよ!? 1人じゃないんだからさ」

 

 

八雲も最初は暗い表情をしていたが、決意したかのように前を見据えた。

 

それでも固い表情に変わりなかった様子だったものの、

利奈のかけた言葉を聞いて少しは安心したような顔をする。

 

まぁそれでも、親友が孵化してしまったことによる不安は取り除けないが。

 

とにかく、これで全員魔男に挑む心構えが整ったということだろう。

 

周囲に一般人がいないかの簡単な確認を終えて、作戦会議を実施。

 

 

話の結果、『利奈と唐輝が前衛』『琴音と八雲が後衛』ということに決まった。

 

前衛で利奈はわかるが、ビビりな唐輝が前衛で大丈夫なんだろうか?

 

琴音が言うに彼は前衛向きな魔法らしいが……魔法が前衛向きならそうなるか。

 

人数が多ければ他に回すことが出来るが、4人しかいないとなれば仕方ないだろう。

 

八雲は以前見た通り風の魔法、琴音は回復などの補助魔法。 ふむ、後衛は妥当。

 

 

上田「助けに行こう! 目標は孵化して魔男になっちゃった地屋さんの救出!」

 

 

決意したかのように利奈がそう言えば、琴音はふわふわとした雰囲気でおー!と言った。

八雲も決意を固め、唐輝は怯えながら弱くももうなづいて見せた。

 

4人の意志が固まったのなら……さぁ、その身を魔法使いに変えて行こうか。

 

砂場のど真ん中に位置する結界の入口に足を踏み入れたのなら、

視覚を完全に裏切る形での冷やかな冷気が4人を出迎えるだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

脈打ちマグマが流れる岩石、それがこの結界を形作る主流の物体だ。

 

まるで、火山の火口を取り出し草原のように引き延ばしたかのような世界。

 

頭上を見上げれば漆黒の空、この火口のような空間から出るのは恐らく危険だ。

 

先に行けるような道も無い……これはどういうことだろうか?

 

どちらにしろ今までに無かった形式、周囲を探索するなりして展開を待つしかない。

 

 

ところで、いるだけでも暑そうな光景だが……4人が感じるその気温は全くの真逆だ。

 

口からは白い息が出るほどの寒さ、それこそ結界の外の冬の気温と変わらない。

 

こんないるだけでも気が滅入りそうな場所、この場の把握は早めが吉らしい。

 

 

御手洗「う〜〜ん……先に進めそうな道は無いよぉ、結界に存在するのはこの場所だけだねぇ」

 

空野「先が無いってことなの!? じゃあ、僕らはどこに進めば良いって言うの?」

 

上田「……もしかしたら、先に進んで魔男を見つけるって形じゃないかもしれない」

 

空野「え、先に進まない形だって? この場で色々と戦ったりするってこと?」

 

上田「うん、私は前にも同じような状況だった別の結界を知っているんだ」

 

 

利奈がふとした時の脳裏に思い返すのは、抹茶チョコレートが腐敗したような世界観。

 

もう随分と前の話だ、それは「蜜毒の魔女』での戦いの不気味に甘い記憶だろう。

 

そこでは使い魔を全て倒し切ってから魔女が現れた、この魔男も恐らくは……

 

 

上田「あれ? そういえば唐輝さんの姿が見えないけど、どこに行ったんだろう」

 

 

別の結界について話そうとした彼女だったが、1人足りないことに気が付いたようだ。

 

そういえばと八雲も気が付き周囲を見渡したが、どこにも唐輝の姿が無い。

 

相方の姿が無くても琴音は焦らず、この状況の理由を微笑んで話した。

 

 

御手洗「大丈夫だよぉ、姿見えないだけでちゃんと近くにいるからぁ」

 

 

全く確証の無い発言だっただが、こんな状況で嘘をつく事は考えられない。

 

とにかく、何かしらの準備をしているということは確かだろう。

 

今は、もう遠くはない脅威への襲来に戦いへの準備をするのがベストだ。

 

 

 

 

……そう、()()()()()。 戦闘の時は既に、目の前にまで迫っている。

 

 

 

 

ひび割れた岩が脈打ったかと思えば、隆起し陥没し変形を繰り返した。

 

不格好な岩たちが形作ったのは、結局不格好なモノに仕上がる。

 

頭の上でハナズオウが焦げようとも真っ黒に燃え盛る、激しく燃え続ける。

 

塊となった岩石から生えるの歪な手足、流動するマグマはまるで浮き出た血管。

 

空いた3つの穴からは燃えるようなマグマが垂れる、恐らくこれが顔だろう。

 

 

業火の使い魔、役割は先導。

 

 

空野「っ!? こっこれが、力強の使役する使い魔……!」

 

上田「気をしっかり持って! じゃないと助ける前にやられちゃうよ!」

 

御手洗「唐輝君も準備が出来た頃じゃないかなぁ? みんな、戦うよぉ!」

 

 

そうと決まればやる事は1つ、相変わらず唐輝の姿はわからないが……

 

とにかく挑もう、利奈の憶測が正しければ使い魔を倒し切らなきゃいけない。

 

後衛の2人は既に覚悟も準備もできている、その両手に魔力を込めている。

 

 

上田「ゲーム、スタート!」

 

 

その台詞はもはや違和感ない定番、彼女の中である種のスイッチが入った。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

その手に召喚したのは赤色の棍、彼女の主力武器といえる品。

 

軽くその場で振り回すと、湧き出る使い魔の集団の内の1つに突っ込んで行った!

 

まぁ雑魚級の使い魔なので数があってもそんなに苦戦することは無いが、油断は禁物。

 

火傷の危険性は無いものの、その逆の凍傷の危険性は存在する。

なるべく距離を置くなどを工夫を欠かさず、そして素早くその岩の身体を砕いた。

 

1匹そのひび割れ方を見抜き、殴る事でその使い魔を粉砕していく。

 

時折蹴りで応戦するが、その度に靴底には霜が付いた……気は一切抜けない。

 

1人前線で舞い狂う利奈、孤高の舞が使い魔の数を確実に減らしていった。

 

 

順調に戦況を進めるその一方、利奈はもう1人の存在になんとなく気が付いていた。

 

姿自体は目の片隅で一瞬捉える程度だが、鉄色の魔法少年は確かにそこにいる。

 

鉄色の道着、紫の帯。 表情も一転して鋭い、ビビりの面影なんて見受けられない。

 

最初は左の回し蹴り、その蹴った足を右ななめ前、相手と近くなるよう置く。

その状態から後ろ回し蹴り、距離が短い為よけきれる訳もなく使い魔は粉砕。

 

……なるほど? 現時点でどの階級にいるかはわからないが、唐輝の空手の技術は高い。

 

 

山巻「琴音! 時間が立ったが、こいつら(使い魔)はあとどのくらい残ってるんだ!」

 

御手洗「う〜〜んとねぇ、あと10体か15体くらい使い魔が残ってる感じだよぉ!」

 

山巻「おう! それじゃ、ここからは一気に決めるぞ!!」

 

 

前線で利奈と協力して戦うと共に、そんな大きめの声が聞こえてきた。

 

決意の言葉が言い終わったかと思うと、利奈の周囲で共闘する唐輝の動きが早くなる。

 

無駄な事は考えていられない、利奈もその早さに喰らい付くが如くそれについて行く。

 

遅れを一切取ることなく早さにすぐ適応をする辺り、伊達にエースと言われない強さを感じる。

 

 

山巻「オリャアァッ!!」

 

 

さて、最後の1匹は唐輝に脳天から拳で殴られひび割れ、焦げた花を枯らし崩れ落ちた。

 

使い魔が一通り片付いたのなら、それらの残骸はドロリと赤黒く溶けて床に染みていく。

 

ひと段落着いたようだ、利奈が一旦戦い抜いた自らの身体を確認すればあちこちに凍傷。

 

 

御手洗「みんなおつかれさまぁ〜〜! 今軽く治療するよぉ、怪我はあるかなぁ?」

 

山巻「僕はまだ大丈夫だ琴音、それよりも上田さんの傷を治した方が良い」

 

上田「私の? あ、じゃあ……まだ次が来るまで時間はありそうだし、お願いしようかな」

 

 

唐輝も前衛にいたし、それなりの凍傷を負っているはずだが……なるほど?

彼が着ているのは鉄色の()()、素手とはいえ厚手の生地が寒さを凌いだのだろう。

 

……そういえば、またしてもいつの間にやら唐輝がこの場に現れる結果となった。

 

この突然な出現は何かの魔法だろうか? まぁ、今それを気にする場面でも無いけど。

 

 

周りの状況に対する見張りは当分八雲がしてくれるらしい、これで琴音は治療に専念出来る。

 

琴音は両手に魔力を込めてすり合わせたかと思えば、空気を含んで泡立った。

 

彼女の魔法は『入浴』の魔法、攻撃全般が苦手な回復専門の魔法少女だ。

 

その泡で利奈の怪我した部位を洗えば、たちまち怪我は回復の兆候を示す。

 

これならすぐにでも治るだろう、回復に関して利奈は琴音に任せる事にした。

 

 

空野「……………………」

 

 

一方見張りの八雲、真面目に周囲を見張ると共に考え事で頭の中を巡らせていた。

 

それは久しい孵化、グリーフシード不足による孵化、庇われた結果目の前で起きた孵化。

 

これが『コンビ』の限界だ、人数が少ないとどうしてもグリーフシードが足りなくなる時が来る。

 

自らの魔力の限界を知ろうとしない魔法使いと同じく、主な孵化源となる……皮肉な事にね。

 

時に、ハナズオウの花言葉は『疑惑』『裏切り』『不信』……その成れの果てを見て何を思う?

 

 

空野「…………ん、あれは?」

 

 

ふと顔を見上げて見つめた先、八雲の横目で1点で冷ややかなマグマが泡立っているのが見えた。

 

しばらくは泡立っていたが、そこまで間を置くことはなくその沸騰は止まってしまった。

 

それで終わりかと思われたが、八雲は行動に出た。 単純に嫌な予感がしたからだ。

 

 

 

 

そうだ、力強はいつだって……何の前触れも無く行動を起こすやつだったっけ。

 

 

 

 

空野「荒れ狂う風よ!! 僕らを……!」

 

 

対象を言い切るまでには間に合わなかった、それでも守り切るのには間に合った。

 

そりゃそうだ! 魔法で重要なのは唱えることじゃなくて、発動をしようとする意思。

 

暴風は天色の魔力を帯びて意思を持った、飛び交う破片を風が4人から守る。

 

 

何が起きた? 答えは簡単、その一点から地面を割って冷たいマグマが噴き出した。

 

最初は流動体のマグマだったが、それは急激に冷え固まって黒い岩石となる。

 

脈動しながら細かにヒビ割れ、黒い岩石は破片となって中の物から剥がれ落ちた。

 

 

破片は意思を持ったかのように幾つかに集まって塊になり、新たに形を造っていく。

 

塊は風船が膨らむが如く8本の棒状の部位を示し、やがて彫刻のように生物を象った。

 

例えるなら真っ黒な頭の無い馬、頭の代わりに十字に生えるのは4つのヒトの肩。

 

 

業火の魔男、役割は分岐。

 

 

さて、一方の崩れた岩石の中身はというと……あぁ、やはりこれが主で間違いない。

 

魔女や魔男は同じ物は無く唯一無二、異色なのがあれば間違いなくそれは主。

 

2つの顔と2つの肩に4本の腕、

腹も胸も無い上半身は数珠の輪。

団扇状に広がる花びらが足にあたり、蜘蛛の足のように動くらしい。

 

炎のような頭の顔の内、片方には黒縁メガネ……どこからそんな要素が生まれた?

 

事情を知るのは八雲だけだ。 その事情はきっと、他人が安易に聞ける物じゃない。

 

 

業火の魔男、性質は諦念。

 

【挿絵表示】

 

 

 

空野「力、強……っ!」

 

 

八雲はバカの部類には入らない、彼に声をかけても届かない事は実感している。

 

それでも……死の運命ではないとしても、やはり親友の魔男姿を見れば同様する。

 

最初の風が止む頃に魔男は目の前にいる魔法使いを見た、ヒトではない色の瞳に八雲が映る。

 

 

山巻「おい下がれ! 見た様子君は後衛向きだろ、前の方は上田さんと僕に任せろ!」

 

 

突然の出現、口調の明らかな変化……声をかけた唐輝を一瞬別人かと思ってしまった。

 

それでも、動揺で魔男に固定化されていた意識が目覚めたのには変わりない。

 

新たに緑の帯を腰に縛る唐輝の傍ら、八雲はその場を後にして後ろに下がった。

 

 

山巻「亀の如く、万年の時をこの身に!」

 

 

これは彼の魔法の呪文だろう、そう唱えて身構えると帯が鉄色の魔力を得る……彼の準備は出来た。

 

 

上田「琴音ちゃん! あ、えっと……」

 

御手洗「全部じゃないけど大体は治ったよぉ? さぁ、唐輝君のお手伝いをしてあげてぇ!」

 

上田「えっ!?……うん、ありがとう琴音ちゃん!

 

 

アンヴォカシオン!!」

 

 

無駄に優しさが働いた利奈は治療途中なのを気にしたらしいが、琴音は心情を察してくれた。

 

あの極度なまでのビビりを相方として成立させる事が出来ているのだ、この位余裕で読める。

 

琴音の了承を得た利奈は魔法で新たに棍を作り出す、それも本気モードの2本。

 

雑魚級とはいえ挑むのは4人で前衛は2人、油断して気を抜く事は許されない。

 

さぁ、始めようか。 この見た目は暑く実際は寒いという、気が狂うような結界での()()()

 

 

上田「ボス、ステージ!」

 

 

気合を入れたら走り出す、主を守ろうと走ってくる使い魔を棍で弾く……やはり岩は固い。

 

2本同時の打撃で倒れてはくれるものの、これがボス級だったらと冷や汗が垂れる。

 

魔法使いの身体なのが幸いだ、濃く白い吐息が出ようともしばらく凍える事は無い。

 

冷や汗さえ凍ってしまいそうな冷気が一帯を覆う……これも魔男が出て来たからだろうか?

 

とにかくまずは使い魔を減らさなければ……と思った矢先だった、()()が起きたのは。

 

 

上田「……ぇ、え?」

 

 

その光景に利奈は思わず足を止めた、理解には多少の時間を要するこの状況。

 

何が起きたって、周囲の爆音と共に使い魔が半数程その頭を失って倒れたのだから。

 

しかも全てが同時にだ、気がつけば目の前に唐輝がいた……息切れが激しい様子。

 

 

御手洗「あ、こらぁ! 唐輝君無茶し過ぎだよぉ、今限界考えて無かったでしょ?」

 

 

周りの使い魔は大半が倒された、後衛の琴音が来たが特に問題は無いだろう。

息切れする唐輝の背をさするが、唐輝の目は虚ろでどこも見ていない。

 

 

山巻「……ごめん、ちょっと無茶し過ぎた。 琴音、軽くでいいから治療頼む」

 

御手洗「はいはぁ〜〜い、私にお任せぇ! 流石にあちこち傷だらけだねぇ……」

 

上田「……よ、よくわからないけど私は先に行くよ! 使い魔が減った今はチャンスだから」

 

空野「僕も上田さんに同行する、力強を……出来れば早く助けに行きたいんだ」

 

御手洗「うんうん、ここは私に任せて2人共先に行ってぇ! 特に八雲君、はね?」

 

 

ふとした時、残った少数の使い魔の内の1匹が4人の方に突っ込んできた!

 

……が、琴音が近くに並べて置いたボトルの内の1本を投げつけると中身全部が使い魔にかかる。

 

使い魔一瞬震えたかと思えば、イガグリのように大量のトゲを作って倒れ込んだ。

 

立ち上がって再度動こうにも、身体中に生えた巨大なトゲが邪魔して身動きが取れない。

 

なるほど? 倒す程の力は無いが対応出来ないという訳ではないらしい。

 

 

御手洗「ほらほらぁ! 私は大丈夫だからぁ、早く魔男を討伐しに行くのぉ!

唐輝君の治療が終わったら、私もすぐ後を追うよぉ!」

 

上田「うはぁ……回復以外にもえげつない魔法が使えるんだね、確かに大丈夫そう」

 

空野「ありがとう琴音……ちゃんさん? 僕らは先に進んで力強を助けに行くよ」

 

 

そう言った八雲が見つめる先、燃えるような渦巻いた目が八雲の姿を捉えている。

 

()()()()を? 力強は魔男に成り果て、そう考える思考は残っていないはずだが……

 

これが『コンビの強さ』だろうか? とにかく、早く先に進むに越した事は無い。

 

 

再び走りこむ先、明らかに使い魔の数は減っていた。 これなら利奈だけでも大丈夫そう。

 

棍を構え直して先へ進む、八雲の風の補助もあって進みやすさは過剰なほど。

 

時には打撃に倒され、時には風に煽られ倒れる……ボスの前に来るのはあっという間だった。

 

魔男は静かにその場に浮いていた、感じ取れるのはまるで諦めたかの様な脱力。

 

……それでも、目の前に2人の魔法使いが迫ったなら4つの手に冷たい炎を灯す。

 

一瞬高い火柱を上げたかと思えば、円形の刃が付いた巨大な刃物が生まれ出た!

いわゆる『チャクラム』という品だろう、取って部分は魔男のエンブレムの様な形。

 

花びらの様な足を地に付け、いよいよ魔男は動きだし攻撃を開始した!

対する利奈も立ち向かう、八雲も覚悟を決めて友人を迎え打つ!!

 

 

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

魔男の主な攻撃はチャクラムによる斬撃、利奈は器用に棍を扱いそれらを受け流していった。

 

一撃一撃はそんな重くは無いが、4本の腕から繰り出される斬撃は手数が多い。

 

八雲の風の援護が無ければ、今よりもっと苦戦していただろう……ボス級ならどうなってた?

 

細かい事は置いといて、雑魚級であればダメージが蓄積すれば自然と倒せる。

 

それにしてもだ、雑魚級にも弱点は存在する……素早く倒し魔力を節約するに越した事は無い。

 

 

最初の斬撃が上から来たなら、それを片方の棍で受け流し数珠の身体に打撃を加える。

 

次は振り下ろしでの斬撃が来たようだが、これは八雲が起こす風に軌道がずれる。

 

かわしやすさが上がったのだ、意識する事軽々とかわし更に地面にチャクラムを沈めた。

 

これで魔男の手数は4つから3つに減る、怒りを買ったがこれで戦況は明らかに有利になる。

 

さらに振り上げで襲い来る二重の振り上げた斬撃、利奈は高く飛んで顔に打撃を加えた!

 

燃え上がる顔は炎であり手応え無くすり抜けたが、赤々とした瞳の緑の目玉に打撃が当たる。

 

弱点かどうか明確な事はまだわかっていないが、いくら魔男でも目玉をどつかれたら流石に激痛。

 

悶え苦しみ奇声を発して明らかな効果を示しているが、完全に倒し切るまでには至らない。

 

これには八雲の表情も歪む……そりゃあ相手は親友だった物、やはり早急な討伐が必要だ。

 

一旦利奈は目つぶしを喰らった魔男との距離を離す、距離を置いて遠くから状況を確認した。

 

 

上田「冷たっ……!? 目玉は他より効くみたいだけど、容易に狙えそうに無いな」

 

 

要するに魔男の目を狙って攻撃しようとするなら、冷たい炎の中に棍を突っ込むという事だ。

 

現に利奈の両手はかなり冷えてしまっている、一歩遅かったら凍傷の危険性があった。

 

となると、他の場所を狙いたいが……目玉以外に通用する場所なんてあるだろうか?

 

 

ハチべぇ「どうやら、今の攻撃で魔男の魔力が集中する部位が出来上がったようだね」

 

 

ふと、魔男の明確な魔力の変化を感じ取ったハチべぇがそう利奈に語りかけた。

 

 

上田「魔力の集中する部位?」

 

ハチべぇ「今までは全体的に偏りが無かったけど、君の攻撃によって上部の魔力が弱まった。

 

現に上部の頭の燃え方が弱まっていないかい? それが証拠と言っても良い。

 

狙うなら中部が良いと思うね、あのダメージだと上部は警戒されてると僕は見解するよ」

 

上田「中部……でも、中部となるとちょっと難しくなってくるかな」

 

 

利奈の言い分はわからなくもない、確かに中部を狙うとなると難易度は上がってくる。

 

何故って、その頭は数珠の身体に囲まれているからだ。 突きしか通じない位置にある。

 

序盤で数珠の身体に打撃を加えたが、それに関してはほとんど効いていない印象。

 

それにチャクラムの攻撃が止んだ訳でも無い、利奈の必殺魔法で丸ごと切り裂くのも難しそう。

 

珍しくソロだと多少の無茶が必要な相手が出てきてしまったらしい、

ここは周囲の魔法を組み合わせ協力が必要……そう思った時の念話だった。

 

 

御手洗((唐輝君の治療が終わったよぉ! 今頃2人と合流しているんじゃないかなぁ?))

 

山巻「ようはそういう事だ、見た感じかなりの痛手を与えれたらしいな」

 

上田「へっ、痛手? ……うわっ!?」

 

 

何の物音も前触れも無く彼は利奈の隣にいた、そりゃあ驚かない訳が無い。

 

合流した唐輝が見る先、未だ魔男は目に打撃を喰らいもがき苦しんでいた。

 

段々と落ち着きを取り戻して来ているが……ふむ、作戦を組む時間はありそうだ。

 

利奈は棍、八雲は風、唐輝は拳。

 

全く種の違う魔法たち、どのように連携して魔男を攻略するのだろうか?

 

 

魔男が目つぶしから解放された後、燃え上がる音で吠えてその怒りを示す。

 

上部の頭の炎は小さくなって目玉が安定する事なく炎の中をさまよい、

中部の頭の丸い炎はその火力を上げて前よりも激しく燃え盛った。

 

周囲の冷たさはその冷気を増す、生物の吐息は明確な白となる程の寒さだ。

 

性質に反する諦めきれない怒りの感情に、魔男は苛立ちを持ってチャクラムを振り回した。

 

そんな中目の前で揺らぐ一瞬の残像、チャクラムで斬り捨てようとするが斬ったのは空。

 

 

山巻((気の流れが特に集中していいるのはメガネらしい、狙うならそこだぞ))

 

上田((わかった! メガネを壊せば良いんだね!))

 

空野((ホントに弱点がわかるんだ!? 業火の魔男のメガネが、弱点……))

 

 

その念話の終わりを待たずして、唐輝は突然また前触れも無く魔男の目の前に姿を現した!

 

2つの炎を支える魔男の燭台の双頭、その中間を唐輝は拳で殴り飛ばす。

 

勢いで大きく仰け反らせる事には成功したものの、代償に攻撃の刃が迫り来る。

 

そのまま喰らうかと思われたが、ふと遠くから投げられたボトルを先に斬り裂き中身を散らした!

 

無論その洗剤は唐輝にまんべんなくかかってしまうだけだが、それだけでは終わらない。

 

何が起こったかって、チャクラムの刃を一切受け付けずに()()で受け止めてしまったのだ。

 

いくら強化された魔法使いの身体とはいえここまで強力ではない、考えられる要因は……

 

 

御手洗「もうぅ! 唐輝君無茶しちゃダメだって言ってるじゃないのぉ!!」

 

山巻「ごめん琴音、助かった! でも作戦通り役割は果たしたぞ!」

 

御手洗「効力が切れる前に早く下がるのよぉ!!」

 

 

琴音の言葉を聞いた次の瞬間、またその場から姿を消してしまった……どんな魔法の効果だ?

 

それよりもだ、次の段階に入ろう。 仰け反って独立した中部の頭に当たる炎。

 

その真下に八雲が走って到着、その両手に天色の魔力を込め一気に解き放った!

 

 

空野「一時(いっとき)の疾風よ! その意を持って冷やかな炎を一瞬でも打ち消せ!!」

 

 

彼の起こす風は全体的なのが主流だが、この時は一点に集中している。

 

傾いた隙を狙い中部の炎を消したのだ、2つの目玉は燭台に転がりメガネは宙に浮いている。

 

さて、これで遠慮無くとも凍傷を負う言葉無くなった。 とどめを刺すには充分な条件下!

 

傾いた魔男の身体を駆け上がって高く飛び、両手の棍を1つまとめ赤色の魔力を多めに込める。

 

放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

メガネはプラスチック性だったのか、容赦無い必殺の斬撃はバキッと音を立てて真っ二つ!

 

メガネを失い同じ顔が2つになった魔男は、今までにない尋常じゃない苦しみ方をした。

 

……が、それでは終わらなかった。 禍々しい光を放ちながら、メガネが元の形状に戻って行く。

 

もっと粉々にする必要があるようだ、魔男のこのアイテムへの執着は激しいらしい。

 

利奈は無理をしてもう1発必殺魔法を放とうとしたらしいが、その前に八雲が先を行く!

 

 

空野「もうやめてよ!! それに縛られる必要はもう無いだろう!!?」

 

 

叫ぶのは限界の声、先程より込める魔力の量が多い……どうやら八雲も必殺魔法を使うらしい。

狙う先は言わずとも直りかけのメガネ、どんな魔法かわからないが全力を放つ!

 

 

空野「慈悲無き鎌鼬(かまいたち)よ! 本心を縛りし冤罪を粉々に斬り裂き存在を消しされ!!」

 

 

その言葉と共に込められた魔力はその手を放れ、狙う先へと飛んで直撃した!

 

天色の魔力を帯びたかと思うと、風刃に幾度も裂かれ深い傷を増やしていく……

 

それはまさしく『粉』と化すまでに粉々になった、ここまでとなれば修繕は不可能。

 

要するに弱点の修復不可、待ち受ける結末は何だろう? そんなのは決まっている。

 

……魔男の()()だ、燭台からは炎が消え黒い魔力が噴き出す。

負の勢いに飲まれ行く目玉、その視線は八雲の方を向いている様に見えたが確証は無い。

 

 

御手洗「早く離れるのよぉ! 近くにいたら危なくなっちゃうのよぉ!!」

 

 

八雲はその視線に気がついていたらしく、釘で打たれたかのように視線の先を見ていた。

 

唐輝は八雲の動かない身体を無理やりに腕を引き、その場から退散した。

 

利奈も唐輝の後を追ってその場を離れる、空気が若干暖まっていくのを感じながら。

 

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

 

ドロドロに溶けた冷たいマグマも、もはや火を灯すことは無い魔男も、

使い魔の残骸も全て吸い込み、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは、濁りなき濃紅色のソウルジェムとマグマがモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……業火の魔男を救った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

気がつけば元いた公園に4人は辿り着いていた、そこは見覚えがある広々とした公園。

 

琴音が何も無い空中に両手をかざすと、泡が弾けるような音と共に抜け殻の姿が現れた。

 

どうやら間に合ったらしい、周囲も幸運な事にこれと言った人の気配は無い。

 

利奈は周囲を確認して変身を解いた、卵型に戻ったソウルジェムには多少の穢れ。

 

同様に他3人も変身を解いた……が、唐輝は突如ガクッとその場に崩れ落ちてしまった。

 

 

上田「わっ!? 山巻さん大丈夫!? ソウルジェムは……ええっと」

 

御手洗「慌てなくて大丈夫だよぉ、唐輝君頑張ったもんねぇ? おつかれさまぁ!」

 

上田「……がっ、()()()()?」

 

 

琴音は相変わらずの笑みで屈む唐輝の背中をさすっている、落ち着かせるように声をかけながら。

 

肝心の唐輝はその身を震わせている、今までは恐怖を我慢していたのか?

 

いや、我慢というよりは忘れていたような……長い間恐怖を忘れていたのだろう。

 

 

御手洗「こっちは大丈夫だよぉ、それよりも早くソウルジェムを元に戻してあげてぇ」

 

 

そう言って琴音は濃紅色のソウルジェムを差し出す、砂場に転がっていたらしい。

 

どちらにしろ唐輝は動けない状態のようだ、琴音が離れられない理由は見るからにわかる。

 

とにかく今は抜け殻の安否確認だ、受け取ったソウルジェムを抜け殻へと返そう。

 

八雲と手分けして抜け殻をベンチの上に移動させたなら、ソウルジェムを手の上に置いた。

 

それは淡い光を放ったかと思うと、持ち主の意識を身体に呼び戻した。

 

 

地屋「……っ、うぅ……あれっ? 俺今まで何を……あぁ、そういう事だっけか」

 

空野「力、強……君って奴はなぁ!!」

 

地屋「見た記憶が二重になってて歪んでやがる、なぁ俺どうなって……うおっ!?」

 

 

目元を擦って力強は起き上がったが、八雲に突っ込まれてまた倒れてしまった。

 

 

地屋「ちょ、おま!? わかったから離れろよ! 相変わらず《女々しい》な!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

唐輝はまた《ビビり》に戻ったものの、大きなケガは無く事を終える事が出来た。

 

対する琴音も魔力安定、利奈にお礼を言うのと共に力強の無事を柔らかに祝った。

 

八雲は寒空の中眠ってしまうほどに絶望をしていたが、今では安心しきった顔で泣いている。

 

目覚めた力強も身体と精神共に無傷、視覚的な記憶が曖昧らしいが……まぁ良かった。

 

2組のコンビがそれぞれの喜びを分かち合う、利奈は出る幕は無いと思案しその場を静かに去る。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

既に外は完全な闇に包まれていた、白い吐息を吐きながら元進んでいた道を行く。

 

先程の戦いにより多少の余裕が心に出来たらしく、空を見上げれば珍しく星が見える。

 

ぼんやりと星の灯りが頼りの闇を見つめていると、ふと頭の片隅の記憶が過った。

 

 

月村『利奈!』

 

 

そう名前を呼んで微笑みを投げかける少女の姿、それは唯一の親友の姿。

 

徳穂と忠義、唐輝と琴音、八雲と力強……今日1日で様々な2人組に出会った。

 

私も彼女彼らのように仲を戻す事が出来るのだろうか? そう思うと不安が募る。

 

 

上田「……あっ!?」

 

 

不意に握りしめた手を見たが、自分のソウルジェムを指輪に戻していない事に気がついた。

 

穢れが溜まっていたまま放置していたらしい、そんなことしたら危ないというのに……

 

とにかくだ、利奈は慌ててシルクハットを出しグリーフシードを取り出した。

 

ソウルジェムにかざせば、溜まっていた穢れは全てグリーフシードへと吸収されていく。

 

と同時に、使いかけだったグリーフシードが震え出したが……まさか孵化をする?

 

 

上田「えっ、あれ、おかし……いな? なんで?」

 

ハチべぇ「利奈! そのグリーフシードは孵化を仕掛けている、早く僕の背中へ!」

 

上田「ぁ……あぁ、うん!」

 

 

バックから出てきたハチべぇが背中を向ける、そこに利奈はグリーフシードをかざす。

 

すると、グリーフシードはハチべぇの背中に飲み込まれそのまま消えてしまった。

 

危うく孵化しかけたという状況でも、ハチべぇは慌てることなく無表情のまま。

 

 

上田「ごめんハチべぇ、声かけてくれなかったら危なかった」

 

ハチべぇ「選ぶグリーフシードを間違えるなんて、君らしく無いね」

 

上田「……そうだね、さっき勝ったばかりなのに……なんか、調子が悪いや」

 

 

ヘラヘラと笑って空を見る、星の光は相変わらずで可笑しいのは私だけかと利奈は笑った。

 

……まさか思わないだろう、ちょうど同じ頃に()()が同じ空を見ていたとはね。

 

互いを思い空を見た、ふと瞳に写ったのは一筋の流れ星。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

ハチべぇ「ソウルジェムを浄化しなくて良いのかい? 穢れが溜まっているようなのに」

 

 

 

月村「私の言った事が聞こえなかったのかしら? あなたに付き合ってる暇は無いんだけど」

 

 

 

「そうだ、自分は、耐えなきゃならない……」

 

 

 

「それはお前が1番知っているはずだ、リュミエールのエースでない『上田利奈』をな」

 

 

 

〜次……(32)ビビりな空手家と柔軟少女〜

〜終……(33)偽否定と意外な救い〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




魔女・魔男戦=イラスト、それがこのハピナの勝手な定義になりますw 大変でしたが。

文書では格闘の組み手の組み合わせ、イラストでは炎の動画を見たりと工夫は欠かさず。

久々だし上手く描けていれば良いのですが……まぁ、感じ方は個人差か。




さて、今回の雑談としては『アイスクリーム』について話しましょう、いや何故にw

自分としては『moo』が好きですね、ソフトクリームとかの牛乳くさいのが至高。

あぁ以前地元の観光地で『ホワイトチョコ』なる物を食べたのですが、
そのまんまホワイトチョコで面白かったですね、自分の中で2番目。

有名な明治なんたらカップはカロリーおばけなので食べませんw
あれ1つでご飯一膳分のカロリーあるんですよ?

痩せていたいなら1回につき半分食べるのが良いでしょうね、
そうすれば2回楽しめるメリットが生まれるので。




それでは皆様、また次回。 次回は視点を返えいつもと違う目線からお送りしましょう。


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(33)偽否定と意外な救い

暑くなるのか涼しくなるのかハッキリしろと言いたい微妙な気候、そんな中でのこんばんは。

今のペースが板に付いてきたハピナですよ、ネタも詰まる事は無く現状は順調。

地道に続けて早くも私ももうすぐ1周年、現状維持で頑張っていこうと思います。


さて、前回までのお話はちょっと長めな感じでしたね。 まぁ戦ってるんだから長くもなるか。

変身すると人が変わる唐輝と柔らかながらも根はしっかりとした琴音、この2人が登場しました。

そのコンビと共に利奈が挑んだのは業火の魔男、冷たい炎が印象的な世界観でしたね。

最後は八雲共々救われたが、利奈は未だ不調のまま……一体この先どうなることやら。

幕が上がり次の場面は別の目線から、主観となるのは同じ夜空を見上げる者。



 

雪が降らない静かな夜の事……偶然か必然か、彼女らは同じ星空を見上げていた。

 

利奈は帰路についていた、彼女の1日はこれで終わりだろう。 何せ魔男を倒した直後だから。

 

利奈が終わるなら芹香は逆に続く、彼女の塾帰りを含めた夜はまだ終わっていない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

願いを込める事無く、ふと流れた流れ星を見送った……塾帰りに1人、空を見るのをやめる。

 

 

月村「言い過ぎちゃった……? ううん、利奈はあそこまで言わないと離れてくれない」

 

 

月村芹香は夜道を歩く、夜道と言っても思ったほど暗くない。 何故か?

 

そこは店の並ぶ商店街だったからだ、最近リニューアルしたそこはかなり明るい。

 

そんな彼女の家は商店街の一角、ちょっと高そうなお店というのが第一印象だろう。

 

店に入り奥の扉を開ける、その先は整理整頓された広めの月村家の居住スペース。

 

芹香が真っ先に向かったのはリビングだった、そこには彼女の母親らしき女性がいる。

 

 

月村「……ただいま、母さ」

 

「遅かったわね、いつもならもっと早く帰ってこれるでしょう?」

 

月村「小テストがあったの、忘れてたの? はい、答案用紙もちろん90点以上。

じゃあ私は着替えてお風呂入ってくるから、ご飯はいらない」

 

「芹香! まだ話は終わっていないわよ!? 例え94点でもね、次どうなるかわからな」

 

月村「次もこう(90点以上)よ? その内成績だって上がる、()()は絶対しないから」

 

 

その後も芹香の母は彼女を呼び止めたが、芹香はそれを完全に無視して2階への階段を上った。

 

まだ芹香の母の無慈悲な説教は終わっていないが、このタイミングで芹香の祖母が止めに入る。

 

もっと早く止めに入れば良いのに……見るからに、この家は母が強いらしい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

芹香はあれから着替えやお風呂に歯磨きなどを済ませ、すぐベットに入って眠りに付いた。

 

……いや正確には床に就いただけという話だ、彼女は眠ろうとしても眠れていない。

 

結構は机の上に出て勉強をする事にした、やる内容としては塾の復習かな。

 

もちろん勉強もするのだが、効き手とは反対側の面に1枚の淡い橙色の紙を置いた。

 

ほのかに光を発しながら輝いている……こんな特殊な紙、魔力性としか考えられない。

 

 

月村「おかしな身体になった者ね、まぁ……便利なのには代わり無いけど」

 

 

独り言を呟きつつ、芹香は両手に別種のペンを持って勉強と魔法生成の同時進行を開始した。

 

様子からして主体はやはり勉強のようで、魔法生成の方は全くと言っていいほど見ていない。

 

難しい魔法陣ではないのだろう、こんな小規模なら大体で描いても魔力は反映してくれる。

 

 

ハチべぇ「ソウルジェムを浄化しなくて良いのかい? 穢れが溜まっているようなのに」

 

 

そんな言葉が聞こえてきたのは、作業を開始して1枚目の魔法が出来た頃だった。

 

窓の外を見ると、そこには月明かりに照らされながら尾を揺らすハチべぇの姿があった。

 

外は雪が降っている……そんなにハチべぇの事が嫌いでもなかった芹香は、

窓を一時的に開けて招き入れた。 タオルでハチべぇの身体に付いた雪を拭き取る。

 

 

月村「私の所に来るなんて珍しいわね、用があるなら早めに言ってくれる?

見ての通り勉強中なの、アポ無しで来たのを許してるのだけでも感謝しなさい」

 

ハチべぇ「その割には一度勉強した事を勉強し直すなんて、わけのわからない事をするんだね。

最近の君は魔法使いにしても睡眠時間が足りていない、それじゃあ身体に負担がかかる一方だよ」

 

月村「説教しに来たのかしら? さっき親からも説教を受けたから聞きたくないんだけど」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、なら本題だけ話そう。 僕の質問は君の行動に関してだ」

 

月村「……私の行動?」

 

 

相変わらずハチべぇの話し方は単調だ、芹香の威圧にも動ずる事は無く話を続ける。

 

 

ハチべぇ「最近の君のソウルジェムには穢れが溜まったままだ、浄化しようとする気配もない。

 

こんな珍しいケースは僕も初めてだよ、通常ならキレイな状態を保とうとするのにね。

 

穢れの長期間の蓄積は倦怠感だって生まれるはずだ、どうして君は無意味な事をするんだい?」

 

 

図星に図星を重ねてもはや嫌味、それでもそこには感情が無くただの好奇に過ぎない。

 

芹香もそれはわかっていた、ハチべぇと仲が良い人物が身近にいたのなら尚更。

 

芹香も無駄に怒る必要は無いと判断したらしい、ただ淡々と質問に対する解答を語り出す。

 

 

月村「あなたでもわからないのね……言うなら『1人でも魔法使いとして活動する』為よ。

 

すぐに影響が出るって訳ではないけど、その内グリーフシードが足りなくなる時期が来るはず。

 

普通なら今の内にグリーフシードを貯蔵しておくか、グリーフシードを巡る争いが起こる。

 

私は面倒な事に巻き込まれるのは嫌なの、だから『100%じゃない状態』に慣れる事にしたの。

 

私のソウルジェムもその一環よ、『何もしない分には穢れる事はない』……

私達が魔法使いになる時、最初にそう言ったでしょう? ハチべぇ」

 

 

随分と前(1話)の話になるが、ハチべぇが契約時に最初そう言っていたのは確かだ。

 

 

ハチべぇ「確かに僕はそう言ったね、君の言っている事は理にかなっているよ。

 

だからわざわざ手間のかかる『手描き』で、君は魔法を作っているんだね。

 

君の本に関する魔法なら、魔法を『転写』する事だって可能なはずだよ」

 

 

捉え方によれば悲しくも聞こえる解答、ハチべぇは結果としか捉えられない孵卵器。

 

 

月村「魔法を転写出来るのは当たっているけど……

そんなのどこで知ったわけ? 私、滅多に使わないわよ」

 

ハチべぇ「君のことはある程度なら知ってるよ、最近の行動で注目度が高かったからね」

 

月村「下手したらストーカー同然の台詞ね……一体どこから見ていたのかしら。

用が済んだのなら帰ってくれる? 魔法の自慢大会してる程の暇なんて今の私には無いの」

 

 

窓を指差して芹香はそう冷たく言ったが……ハチべぇはその場から動かず、窓の外を見るだけ。

 

本来なら『身も蓋もないね』なんて言って大人しく去るハチべぇだが、今回は何故か留まった。

 

流石にこの対応には多少イラっときたらしく、次の芹香の言葉には苛立ちが混じった。

 

 

月村「私の言った事が聞こえなかったのかしら? あなたに付き合ってる暇は無いんだけど」

 

 

そんな芹香の怒りに動じるはずもなく、ハチべぇはその理由をすぐに述べた。

 

 

ハチべぇ「この窓の先で魔女が生まれたようだね、誰かが孵化したみたいだよ」

 

月村「魔女が? 指輪にそんな反応は無いんだけど」

 

ハチべぇ「僕は魔力を直接感知しているからね、君達より把握出来る範囲が広いんだ」

 

月村「どちらにしろグリーフシードを増やすチャンスのようね……

ハチべぇ、どうせ暇なんだしその魔女の近くまで案内しなさい」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、僕は常に暇だと勘違いされるのはおかしな話だ」

 

 

芹香は自力で付けた自室の鍵を閉めると、その身を魔法使いに変えて家を後にした。

 

2階の窓を開いて、そのまま外へ。

 

帰って来たら暖房で部屋を温めなければと面倒になったが、それも魔法で事足りる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

深夜の低いビルの上、結界の出入口があるからに魔女はそこで生まれたらしい。

まもなくエンブレムは発光し、気がつけば男女の魔法使いが唐突に現れる。

 

 

 

 

蜜毒の魔女、性質は誘惑。

 

 

 

 

ここでの説明は省こう、芹香にしては初めてだが2度も同じ魔女を紹介する手間は必要ない。

 

魔女や魔男が被るなんて事は魔法使いの間じゃよくある話だ、今回もそのケースの1つ。

 

特筆する点があるとすれば……芹香がサポートを行った魔法使いはソロだったという事くらいか。

 

上田利奈? 彼女は今頃自宅で眠りについているだろう、前衛をしていたのは別の魔法使いだ。

 

それは群青の魔法少年……もう察しただろう? だが芹香には情報が足りていない。

 

 

場をなるべく明確に言うなら南地区の北よりだ、芹香の家は中央地区の南よりにある。

 

抜け殻にソウルジェムを戻し、お礼を告げられ救われた者は寄り道する事なく帰路につく。

 

さて、言うならば芹香の狙いは『浄化のおすそ分け』だ。

 

その戦いで貢献した者が、より多くその時のグリーフシードで浄化を出来る。

 

つまりはその物(グリーフシード)が無くとも、貢献さえ出来れば浄化の機会はあるという事だ。

 

この心理を芹香は利用する事にした、とにかく戦いに参加し貢献をすれば良い……とね。

 

浄化を終えて元々魔女とソロで戦っていた魔法少年と会話でも開始した、情報収集ってやつだ。

 

 

前坂「正直助かった、あの足場が無い空間でソロをするのはキツい面があったからな」

 

月村「……変わった戦い方をするのね、まさかあなた自らが買って出て囮になるなんて」

 

前坂「元々そんな前衛って訳でも無かったからな、杖で殴る物理には限界がある」

 

月村「そういえば、今日は珍しく周りに魔法使いがいなかったのね」

 

前坂「今日は東地区の方で多く魔女や魔男が発生してるらしいからな、そっちに行ったのだろう」

 

 

そんな有力情報含めた他愛も無い雑談で、浄化の時間を潰す。

浄化を終えた後は、もちろんグリーフシードの所有の話になった。

 

 

月村「待たせたわね、後衛だったからあなたほど穢れの吸収はしなかったようよ」

 

前坂「浄化が終わったみたいだがさて、グリーフシードはどちらが所有するかの話になるが……」

 

月村「私はいらない、今の浄化で事足りたから充分よ。 それはあなたがもらってちょうだい」

 

前坂「……即答だな、そこまで早くグリーフシードをいらないって言ったのお前が初めてだぞ」

 

月村「面倒事は嫌いなの、今の時期なら尚更。 私は1()()()()()()()()()練習をしなきゃいけない」

 

 

芹香のその言葉を最後に、少しの間が空いた……数夜は考えるようにして一言。

 

 

前坂「辛くないのか?」

 

月村「……えっ?」

 

前坂「お前のやっている事は矛盾している、聞いてるこっちがわけがわからなくなりそうだ。

 

何故か? お前、親友と思ってくれていた上田利奈を自ら突き放したらしいな。

 

その反面やっている行動は上田利奈と共にいる為の行動だ、この辺は憶測になるが……違うか?」

 

月村「……どうしてそこまで? 私の事をストーカーでもしたのかしら?」

 

前坂「塾に知り合いがいてな、お前が椛中とは別の、

有名中学の問題集を大量に抱えていたお前を見たんだってよ」

 

 

確かにそんな事をしたら目立ってしまう、1〜2人に見られても仕方ない状況だ。

 

 

月村「そういえば一度だけ制服で取りに行ったわね……完全に失敗だった」

 

 

頭を抱えて面倒くさがった自分に呆れる芹香、それが終わった頃に数夜の話は再開する。

 

 

前坂「上田利奈を突き放したのは保険か? 現実を覆せるのかという不安の表れだな」

 

月村「それが親って者よ、反抗や対策をしているとはいえ仕方のないことじゃない」

 

前坂「聞き方を間違えたな……なら逆に聞こう、()()()()()()()()()()()()()何がしたい?」

 

月村「……!!」

 

前坂「状況から読むからにお前がやっている事はそういう事だ、自分を庇い過ぎたようだな。

 

増してや親友と読んでくれるほどの友に傷を残して別れるなんて、無駄以外の何物でもない。

 

今のお前は先に恐怖を感じ過ぎて、今を穢してしまっているのにも気づかない哀れな女だ」

 

 

少々キツめの口調だったが、数夜の言葉はかなり的を得ていた。

 

それを聞いて、芹香が顔を真っ青にして後悔をしてしまうのも無理はないだろう。

 

ふと、なんの前触れも無く数夜が芹香のソウルジェムに何かぶつけてきた。

 

芹香はソウルジェムを指輪に戻すのを忘れていたらしい、両手で持ったまま落ち込んでいたのか。

 

ぶつけられたのはグリーフシードだった、絶望より生みでた穢れをキレイに浄化する。

 

 

月村「なっ……!?」

 

前坂「この程度で絶望するな! 今ならまだ戻れる、

時期を見て明日以降お前のタイミングで謝れ!

 

上田利奈は謝れられて許さない、そんな意地悪な奴じゃないって自分で分かっているだろう?

 

それはお前が1番知っているはずだ、リュミエールのエースでない『上田利奈』をな」

 

月村「わっ、わ……私は」

 

 

芹香は思わぬ言葉に戸惑ったらしいが、答えを待ってもらえずグリーフシードを押し付けられた。

 

 

前坂「こいつはいらん、今回はお前がこれを受け取れ! 自宅に帰って頭を冷やせ」

 

月村「……変な、話ね。 絶望側の魔法使いなんて言った、あなたに助けられるなんて」

 

前坂「前に同じような事をした奴がいてな、同じ結末は見たくない……それだけだ」

 

 

そう言い切り芹香を指差すと、数夜は儚げに微笑んだ……瞳は暗いままだが滅多に見せない笑み。

 

後ろを向き手の甲を見せて手を振ると、そのまま隣の建物へ飛び移ってしまった。

 

数夜はそのまま姿を消す……その場に残されたのは、グリーフシードを手に入れた芹香ただ1人。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

月村「……ただいま」

 

 

へとへとになって窓から自室に入る芹香、魔法で部屋を暖めるとその変身を解いた。

 

 

月村「そういえば、ハチべぇはどこに行ったの? ……つくづく自由な生物ね」

 

 

独り言の毒舌をかましつつ、部屋着姿だった芹香はそのままベットに突っ伏した。

 

厚い布団の中に潜り込み、芹香が好む固めの枕に頭を着けた。 あとは、眠って明日を迎えるだけ。

 

……胸の中の不安を押し殺し、頭の中を『大丈夫』の言葉で埋め尽くした。

 

それでもダメなら片腕を両目の上に押し当てて、何も見ないよう意識する。

 

それでも……眠れない、目の前が暗闇であっても嫌に目が覚めてしまう。

 

 

それは()()も同じだった、明日への不安から目が覚め布団に潜る。

 

互いの思いはものすごい至近距離ですれ違っている、きっかけがあれば仲直りはすぐだろう。

 

まぁ、きっかけが起こるのは明日以降……2人共頑張って寝付くのに辿り着くと良いさ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

静まり返った夜の街、時間を比喩するなら太陽が今にも顔を出そうと待ち構えている頃。

 

まるでドロドロに溶けてしまったかのような意識を引きずり、夜の街を歩く少年がいた。

 

負った傷を魔法で無かった事に出来ても、散々実感された精神までもは無かった事に出来ない。

 

その身体には倦怠感が溜まっていた、些細な事でもストレスを抱く彼には重すぎる負担。

 

 

津々村「吐、き、そ、う……どっかに、公衆トイレとか、無かったかな……」

 

 

ソウルジェムを見れば、魔男の状態から解放されて1日も立っていないのに穢れが溜まっている。

 

絶望により溜まったにしては、魔法使いにしては多いように感じるが……現状で原因は不明。

 

もはや歩くのが精一杯という状態、こんな寒く遅い時間の中倒れたりしたらかなり危険だ。

 

抜け出しても良さそうな物だが、彼の根の思いはそれを絶対に許さない。

 

何故か? 彼は自らが定めた身代わりだからだ、思い浮かぶのは相方でもある彼女の姿。

 

 

津々村「そうだ、自分は、耐えなきゃならない……知己の、為に……っ!」

 

 

いわゆる『自己犠牲の精神』ってやつだ、これを感じるほど辛い物は無い。

 

白い吐息を吐きながら涙を流す、顔についた涙の跡が余計に冷たく感じた。

 

……その自身への強いいけなかったのだろう、

効き手からパキンっと何かが割れた音がしたような気がした。

 

指輪の形を保てなくなったソウルジェムは魔力を噴き出す……真っ黒な、魔力。

 

見る光景はまるでスローモーション、遠くなる意識の中でただ思い人の名を呼んだ。

 

 

津々村「と……モ……m……」

 

 

その言葉を最後にして彼の意識は完全に、そして強制的に現実世界からサヨナラをした。

 

次に目を覚ましたなら、待っているのは夢を見るかのような感覚と見慣れた異世界。

 

……そう、()()()()()()()()異世界。 もはや、自分が何回孵化をしたかなんて覚えていない。

 

 

その先の詳しい事情は誰も知らない……恐らく誰かに討伐されたのだろう、何故かって?

 

単純な話だ、孵化をして魔男になったから彼を最初に見つけた魔法使いが討伐したってだけの話。

 

そしてグリーフシードが手にはいる……単純だから、一種の恐ろしさがあるのだろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

それぞれが不安を抱えて眠る、なんとも寝相の悪くなりそうな夜でこの1日は終了した。

 

光と闇の騒動……近いうちに一種の佳境に入る事になる、真っ向勝負にはまだ遠いが。

 

だいぶ明らかになった『花の闇』だが、まだ全貌が明らかになった訳ではない。

 

まぁ現時点では、ただの魔法使い間での悪党でしかないけどね。

 

さぁ、新しい朝を迎えよう。 次の日もきっと平和には過ごせない、

見るに飽きない様々な展開が、利奈たちをきっと楽しみに待っている。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

篠田「知ってるけど、なんで月村さんはそんな細かい所まで知ってるの?」

 

 

 

ハチべぇ「僕の経験上でもここまで強力なのは見た事がない、少しの気の緩みが命取りだ」

 

 

 

月村「ここまで来て今更戻るとでも思ったの? あなたの考えも浅はかな面があるのね」

 

 

 

上田「強かろうが弱かろうが私たちは引かない!」

 

 

 

〜終……(33)偽否定と意外な救い〜

〜次……(34)無知な少女と歪む苗〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





いかがでしたか? まさに『意外』じゃないでしょうか、まさか数夜が助言をくれるなんてね。

もちろん何の意味も無くこんな展開にした訳ではありませんよ、ちゃんと裏の意図があります!

……とはいえ、既に80%位は明らかになっているのが現状ですね。

『「花の結束」〜commencement〜』もついに終盤、いよいよ終わりが近そうです。

あと5〜6話ってところでしょうか? 予定としては43話で章の終わりにしようと思っています。




さて、自分なりには定番と化した雑談に入ります。 読むのが面倒な方は飛ばして下さいませ。

場所によって違ってくるとは思いますが、少なくとも今時期は夏祭りの季節です。

一昨日神輿が近くを通りましてね、最後尾にいた獅子舞に頭をがぶりと噛まれましたよw

近所の神社では今年も祭りをやるそうで、既に屋台の準備がおこなわれています。

まぁ祭りに行く時はいつもの一人旅ですけど! 今年も飴細工でも買いますかね。




それでは皆様、また次回。 この調子で執筆を進めて行く方針であります!


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(34)無知な少女と歪む苗


こんばんは、10月に入ってちょうど1日が立ったハピナです。
最近暗くなるのが早くなり、寒くもなってきました。

はい最高でs(殴 ……失礼、自分夏よりは涼しげな秋や冬の方が好きですね。

えぇ、何よりも蚊がいませんし(最優先事項)


さてと、前回のあらすじとしては利奈以外の目線から話を進めて行きましたね。

結果的に最近様子がおかしかった芹香に何があったかがわかりましたが、いかがでしたか?

彼女がアドバイスを受けたのは意外な人物、どんな意図があったのか或いは……謎が多い。

最後の方も1人の魔法少年が孵化したりともう散々な展開です! これからどうなる事やら。

それではとっとと幕を上げますか……始まりは夜が開けて次の日そこは通い慣れた校内。



 

昨日と変わらず今日も騒がしい、それどころか毎日こんな調子だと言っても間違いではない。

 

それがこの学校の校内だ、各クラスから生徒たちの賑やかな音が溢れかえっている。

 

利奈はいつものように登校して来た、扉を開けておはようと言えば周囲から返ってくる。

 

そして自分の席に着いて荷物整理……今日は芹香の所に寄らない、()()()()

 

逆に芹香は何やら考え込んでいる様子だった、昨日といい彼女なりに考えているんだろう。

 

空いてしまった距離、出来てしまった溝……初めての亀裂に利奈は明らかな戸惑いを見せていた。

 

何か2人にはきっかけが必要だ、一時的に距離が縮むような出来事が。

 

 

何の変哲も無く、結局花組の担任がやって来て朝の会が始まった。

 

日で変わる日直の掛け声……起立、礼、着席。

 

普段通りのいつもの朝だ、何か起こるとすればもう少し先の話になるだろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

気にする程の出来事も起きずお昼になった、利奈の現在地は別校舎にある理科室。

 

卵型のソウルジェムを手のひらで転がして弄ぶ、調子の不調が気になっている様子だ。

 

芹香の姿は今日も無かった、また勉強をしている? 今頃どこにいるのやら……

 

まぁ、結局リュミエールを抜けなかっただけありがたい話だと思えばポジティブになれるだろう。

 

そんな中でリュミエールに新たに入ってきた情報があった、今までに無い別パターンの話。

 

 

清水「『浄化格差』だと?」

 

篠田「うん、何でかわからないけど……最近ソウルジェムの浄化に差が出来てるみたいだよ」

 

中野「えっ? 同じ場で魔なる物戦いなら、穢れの度合いは同じになるんじゃないか?」

 

清水「いや、本来はヒトの魂を物質化した物だ。 個人差が出るのはある意味当然だな」

 

武川「量産型グリーフシードについては解決したのにねぇ……変な話だよ」

 

清水「……お前って魔法使いだっけか?」

 

武川「『魔法使い』じゃないよぅ! オイラは天下一品の『漫才師』なのさ!」

 

 

もはや扉をノックもせず自然に会話に入る光、思わず海里もある種のため息をついた。

 

 

『浄化格差』……海里の言う通り、浄化の度合いに差が出るのは当然の結果だ。

 

全く同じだなんてあり得ない、戦いの激しさや魔力の使用量から差が生まれる。

 

だが『浄化格差』という話題が出来上がるとなると……何かがあるのは確実だろう。

 

そんな新たな問題も耳に入らず、利奈は1人意識が別の所に行ってしまっていた。

 

いわゆる『上の空』という状態だ、それに最初に気がついたのはまだ発言をしていない人物。

 

 

橋谷「りっ、利奈さん? 大丈夫……ですか?」

 

上田「……えっ? あぁ、大丈夫だよ? ほら、こんなに元気元気!」

 

橋谷「あっ、えっと……むっ、無理はしない方が良いと思いますっ!!」

 

 

最後の方で俐樹は力んでしまい裏声になってしまった、顔を赤らめオロオロしている。

 

失敗したと思い込んで恥ずかしがっているが、下手な言葉よりは真剣さが伝わる。

 

無表情同然だった利奈の顔にも少し笑みが見えた、多少は気が楽になったらしい。

 

 

上田「そうだ! チョークさ、そっちの家でどんな感じで過ごしているの?」

 

橋谷「チョークさん、ですか? とても真面目な方で、テーブルマナーの覚えも早いんですよ」

 

上田「テーブルマナー?」

 

橋谷「あっ、私の家は礼儀作法に厳しいんです……最初は戸惑っていましたが、今は大丈夫です」

 

上田「俐樹ちゃん家って礼儀正しいんだね、うちでもそこまでやってないや」

 

 

俐樹の話を聞く限り、チョークは俐樹の家でも上手くやっていけてるみたいだ。

 

利奈は安心をする、最近は学校もあって会えていなかったが……元気でいるらしい。

 

頭も賢く知識はあるので、少し学力を整えればここの中学に転校する事も可能だとか。

 

彼も()()魔法使いとなる時が近々来る、その訪れまで心待ちにしていよう。

 

……さて、俐樹との雑談を一通り終えた辺りで利奈も『浄化格差』の話題に気がついた。

 

 

上田「ん、『浄化格差』? 3人で何の話してたの?」

 

篠田「最近出てきた話題だよ! 浄化に格差が出来たって話をしてたの!」

 

清水「それじゃ伝わらんだろ……ソウルジェムをグリーフシードで浄化した時に、

明らかにその浄化量に差が出てしまってるって話だ。 利奈は何か心当たりはあるか?」

 

上田「心当たりは特に無いかな、それどころじゃ無かったってのもあるし」

 

清水「あぁ……それなら無理もねぇ、次に俺たちが調査するとしたらこの案件だな」

 

中野「橋谷さんもおいでよ、そこで1人でいるのは寂しくない?」

 

橋谷「ふぇっ!? ぁ……えっと、ありがとう、ございます」

 

 

そうして6人で同じテーブルに向かって椅子に座り、『浄化格差』について話を始める。

 

……が、やはり前情報が無いのか話が一向にまとまらない。 話題の概要が分かった程度だ。

 

『花の闇』の案件も落ち着いたかと思えば、また新たな問題……波乱万丈とはこの事。

 

 

 

 

根岸「……ここでいいの?」

 

灰戸「君が探していた溜まり場はここで間違いないよ、僕は何回も来ているからね」

 

根岸「別校舎に集まっていたのね……ありがとう、連れて来てくれて助かりました」

 

 

昼休みが半分くらい過ぎた辺りで、不意に理科室の扉がノックで鳴った。

 

出迎えたのは相変わらず発言が少ない俐樹、扉を開けて驚いたような顔をした。

 

それはかつての同志……『苗』という被害者だった2人、そして互いに少ない友人。

 

 

橋谷「はっ、はい、何のご用意で……トモちゃん!?」

 

根岸「俐樹、久しぶりぶりだね! 俐樹がリュミエールに入ってから

あまり会わなくなっちゃったけど、元気そうで良かったよ!」

 

橋谷「私も会いたかったですよ! 最近は色々と忙しくて、なかなか会えませんでしたね」

 

 

喜びで会話が弾む2人、悪意無く蚊帳の外になってしまった八児は先に理科室に入る。

 

 

武川「およ? 灰戸じゃんか!」

 

灰戸「『灰戸じゃんか!』じゃないよ! 用も無いのに勝手に入ったらダメじゃないか」

 

清水「そんなに怒るな八児、そこまで重要な話はしてねぇし今は構わねぇよ」

 

灰戸「うん、僕の事は名前で呼んでくれないかな? それ位の情報はあるよね?」

 

清水「へぇ? まだ気にしてたのか、もうお前の名前バカにするやつはいねぇぞ?」

 

 

……そこの情報屋2人、周りが引くからにこやかにわらいながら

背後に虎と龍が見えそうな気迫を立てるのはやめなさい。

 

 

篠田「知己ちゃんだ! なんか口調も前よりしっかりしてるね!」

 

上田「確か……元はもうちょっと、語尾が滑るような喋り方だったね」

 

根岸「頑張って直したんだ、たまに戻っちゃうけどしっかりしなきゃって思って」

 

 

ここまで言った知己だったが、唐突に語られていた言葉は止まってしまった。

 

何かを思い出してしまったような顔でうつむく、その表情は暗い顔をしている。

 

立ち直る様子が無い……思い出した内容が悪い事じゃなきゃこうはならないだろう。

 

 

橋谷「トモちゃん……何か、辛い事でもあったんですか?」

 

根岸「えっ? あっ、あぁ……うん、その事でちょっと相談に来たんだ」

 

灰戸「最初僕も相談に乗ってあげたんだけど、魔法使い関連の悩みみたいなんだ」

 

 

早速話を聞きたい所だが、この場では少し人数が多いような気がする。

 

とりあえず楽に会話が出来るようまずは女子だけで固まり、話を聞く事にした。

 

女子だけなら4人だけだ、残る男子は教壇周辺にでも集まって別の雑談でもする。

 

 

 

 

橋谷「トモちゃんには魔法使い関連の悩みがあるんでしたね、何があったんですか?」

 

 

最初は優しく言葉をかける俐樹、慣れた相手なのか言葉の最初の方が詰まる事は無い。

 

 

根岸「えっと、私の仲の良い男の子の事なんだけど、最近様子がおかしくて……」

 

篠田「男友達? もしかして恋バナだったりして!?」

 

上田「そんな楽しげな話でも無さそうだよ……明るい話だったら良かったんだけどね」

 

橋谷「その男友達ってもしかして、博師君の事ですか?」

 

根岸「……! やっぱり俐樹ならわかっちゃうか、そうなんだけどさ」

 

 

どうやら図星だったらしく知己は苦笑いをしたが、その後も彼女は悩みを話し続けた。

 

 

根岸「最近ずっと暗いままで……何というか、全然笑わなくなっちゃったの」

 

篠田「ずっと暗いまま? 相当何か嫌な事でもあったのかなぁ……」

 

根岸「聞いても『大丈夫』の一点張りだって言うの、顔色も悪くて絶対大丈夫じゃないのに」

 

上田「本人は何も言わないのか……なら逆に、知己さんが何か気がついた事は無いの?」

 

根岸「えっ、私が? そういえば考えた事無かったな、私が気がついた事……」

 

 

かなり心配していたのだろう、自分がどう思ったかなんて考えた事無かったらしい。

 

知己はしばらく考え込んだ、自分なりに今までの記憶を辿って記憶を思い起こす。

 

しばらくして……心当たりが見つかったらしく、知己は無意識から帰ってきた。

 

 

根岸「……そういえば、最近博師君のソウルジェムを浄化しても全然にキレイにならないな」

 

橋谷「えっ、キレイにならない? 使用途中のグリーフシードだったからですか?」

 

根岸「ううん、雑魚級だけど数少ない新品のグリーフシードでだよ!

でも新品だった筈なのに、思いの他多く使っちゃったみたいで……」

 

 

……ふと利奈が違和感に気がつけば、目線だけ女子達の方に向けている海里に気がついた。

 

海里は利奈の目線に驚いたらしく、赤面で慌ててそっぽを向いた。

 

案の定灰戸から悪気ないツッコミが入り2人の間で火花が散る、この2人はぶつかりやすい。

 

光はともかく蹴太が大変、溜まり場である理科室において彼らを止めるのは蹴太だからだ。

 

さて、男子たちの様子が落ち着いた所で利奈の頭に念話が来る……海里からの念話だ。

 

 

清水((……すまん、結局そっちの話を盗み聴きするような形になっちまったな))

 

上田((うぅん、大丈夫だよ。 それより……気になったんでしょ? 今の知己さんの話))

 

清水((察しが早くて助かる、根岸の話によれば津々村博師と

『浄化格差』については深い関わりがありそうだからな))

 

 

恥ずかし気な焦りは優しさによって救われた、とりあえず念話を終えて話の輪に戻る。

 

 

根岸「博師君がグリーフシードを使う容量も大きいし、

何故かソウルジェムが穢れやすくなった気がするの」

 

篠田「原因がわかったら楽だけど、わかってたらここには来ないか」

 

橋谷「直接本人に聞けないとなると、注目をして様子見をするしか今は手段が無いですね」

 

上田「確か、知己さんは博師さんと一緒でチーム入っていないんだっけ?

グリーフシードが足りなくなったらまたここに来ればいいよ、貯めて置いたのがあるからさ」

 

根岸「へっ!? あっ……ありがとう、実はちょっと足りてなかったんだよね」

 

 

グリーフシードを分けて貰えるのは予想外だったらしく、知己は驚いたような顔をする。

 

まぁ彼女が驚くのも無理もない……最近はグリーフシードの数が減っている。

 

同時に入手難易度が上がっている、と言われているのが近況であるからだ。

 

さて、申し訳なさそうに自らの指輪をソウルジェムに戻して見せた知己。

 

その色は完全にキレイとは言えない位少し濁っていた、分かりやすく言えば10%位か。

 

 

篠田「……えっ? ソウルジェムに穢れが溜まったまま過ごしてるの!?」

 

根岸「絶望さえしなきゃ、何もしない状態で穢れが溜まる事は無いから。

ちょっとだるい感じはするけど、日常生活を送るのに師匠は無いのよ」

 

上田「ごめん、勝手にだけど知己さんのソウルジェム浄化するよ。

穢れが溜まったまま活動するなんて、私には考えられない!」

 

 

いわゆる『正義感が強い』という感情だろう、利奈は早々に行動に出た。

 

手元にシルクハットを出すと、中に手を突っ込んで1つのグリーフシードを取り出した。

 

雑魚級で使用途中の品だ、こんな品でも10%程の穢れを浄化するのは容易く出来る。

 

利奈が知己のソウルジェムを手に取ることなく、そのグリーフシードを当てる。

 

すると少しの穢れはあっという間に浄化されて、本来の桜色の輝きを取り戻した。

 

 

根岸「わっ!? す、すみません! グリーフシード貴重になってきてるのに」

 

上田「人助けの為にケチったりはしないよ、そんな謝らなくても大丈夫」

 

橋谷「トモちゃん、ソウルジェムキレイになりましたが、具合の方はどうですか?」

 

根岸「……うん、最初よりは気分が良い感じはするよ。 浄化してくれてありがとう」

 

篠田「とにかく! その子に関しては様子見だね、また困った事があればあたしたちが聞くよ!」

 

 

 

 

その後は女子のトークでもすると、終わり頃にちょうどチャイムが鳴った。

 

昼休みの終わりだ、皆持ち込んだ荷物などを片付けてそれぞれの教室に戻って行く。

 

悩める少女は本当に何も知らない、その暗さの奥に潜む毒が彼女を守っていることも。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

帰り道、利奈は日替わりのパトロールもあって道を外れて寄り道をした。

 

今日は賑やかな商店街、これだけ明るい雰囲気なら安易に孵化する事はあまり無い。

 

元は芹香が担当する区域だったが……真面目な事に、代わりにやっているつもりなのだろう。

 

 

 

 

まぁ、そんな勘違いもすぐに思い込みだとわかる事になる。 何故なら2人は互いに真面目だ。

 

 

 

 

上田「やっぱりこの辺にはあまり出ないなぁ……あっ! すみませんぶつかってしまって」

 

月村「構いませんよ、別に穢れをしている訳でもな……っ!?」

 

上田「……芹香?」

 

 

買い物目的の主婦や老人で溢れかえる人混みの中、偶然にも2人は再会してしまった。

 

会うべきでなかったタイミング、最後あんな別れ方をしたなら固まるのも無理はない。

 

……さて、この商店街が芹香の担当になっている理由を考えた事があるだろうか?

 

思い浮かぶ理由、きっと正解は記憶に新しい。

 

利奈が今いる場所……芹香の住む家はこの商店街にある、()()()()()担当だったのだ。

 

 

ハチべぇ「何故2人共この場において固まっているんだい? 久々の再会じゃないか」

 

 

空気を読まず言葉をぶち込んできたのはハチべぇ、芹香の鞄から顔だけ出した。

 

 

上田「……えっと、私は日替わりのパトロールを芹香の代わりにしてたの」

 

月村「おかしいわね、私も今パトロールしていた所よ。 何故あなたはこの辺りにいるの?」

 

上田「最近全然来ないし連絡も無いから、一応代わりにしておこうと思って……」

 

月村「私がサボりですって? そんな事する訳無いじゃない……説得力が無いわね」

 

「「…………」」

 

 

2人は会話を試みてみるが、やっぱりどこかギクシャクしてしまっている。

 

そもそも利奈は元々話すのが得意ではないし、芹香は無駄話をするのがあまり好きじゃない。

 

互いに変に気を使ってしまっている、この滞りは何とかならないものか……

 

そんな時だった、利奈と芹香が常に身につける指輪が点滅の光を発したのは。

 

点滅するソウルジェムの光の意味、それはここからそう遠くない場所での孵化を示す。

 

 

ハチべぇ「誰かが孵化をしたようだね、その光ならここからそんなに遠くはないよ」

 

月村「遠くはないって……は? 表通りって訳じゃないでしょうね!?」

 

ハチべぇ「ぎゅっぷぃ!? 君の言う表通りにはいないみたいだよ! 離しておくれ!?」

 

 

芹香は鞄からハチべぇを取り出し、攻め立てでもするかの如くハチべぇを揺さぶった。

 

相当慌てていたらしい、ハチべぇの声にハッとなって芹香はハチべぇを手放した。

 

一方の利奈は光が示す先を探している……見つけた先は確かに路地裏へと続く建物の間。

 

 

上田「こっちにいるみたいだね、路地裏……灯りになる物なんて持ってたかな」

 

月村「そんな物探していたら、いつ一般人に被害があるかわからないわ!

ついてきなさい、この辺は熟知しているから暗闇でも道は分かる!」

 

上田「……えっ、ちょっと芹香!?」

 

 

芹香は利奈の腕を掴むと、そのまま人混みを突き進んで行った。

しばらくして明るみは無くなり、街灯も無い暗がりが一体を包む。

 

路地裏、未だ回る換気扇やちゃんと蓋がしまったゴミ箱が立ち並ぶまるで裏の世界。

 

利奈にとっての頼りは道を指し示す魂の指輪と、腕を引いて少々強引に導く少女。

 

利奈は……正直な所、内面で嬉しく思っていた。

 

普通ならわざわざ手なんか取らずに1人で行ってしまうだろう。

彼女は芹香に必要とされている、今もしっかりと腕を掴んでいる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

篠田「うぅ……ちょっと無茶しちゃったかな、雑魚級だったら良いんだけど」

 

ハチべぇ「この魔力の量は雑魚級とは言えないね、気を引き締めた方が良さそうだよ」

 

篠田「うえぇ!? あたし1人じゃ無理って事じゃない! 夕方のこの辺にいる魔法使いは……」

 

 

訪れた商店街の正面玄関から入らず、脇の小道から商店街に入って行く絵莉。

 

指輪の点滅具合から魔なる物の方角を判断し、街灯がまだついてない道を走った。

 

彼女がリュミエールの他に所属するチーム、クインテットは雑魚級を見つけ5人で戦闘中だった。

 

だが近辺で別の誰かが孵化したと、わざわざハチべぇが戦闘中に知らせてきたのだ。

 

絵莉はクインテットの中でも前衛でもない後衛でもない中間、

だからこうして他4人に魔女を任せ結界を抜け出す事が出来たのだ。

 

文字通り偵察に来た訳だが、まさか見つけた相手がボス級だとは思わなかったらしい。

 

何とも運が悪い……走ってる途中で十字路に差し掛かったが、ここで絵莉の幸運が来た。

 

 

篠田「もうちょっとで目的地に……ってうわ!? あれ、利奈? それに月村さんも!?」

 

月村「無駄話をしている時間は無いわ! あなたもついてきなさい!!」

 

篠田「へ!? 無駄話どころかまだ話もしてない……ちょ、ちょっとまって!?」

 

 

何というか……焦りの勢いが強すぎる、利奈を握る反対の手で絵莉の腕を掴み走り出した。

 

ちゃっかりハチべぇは利奈の右肩にしっかりと捕まっている、そこが定位置なのか?

 

いると気がついた利奈はついていくのに集中しているらしく、状況を飲み込むのは後かと知る。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

しばらく芹香に引っ張られるがままに進む先、そこには1件の廃墟があった。

 

3階立ての大きめのアパートのようで、おかしな箇所は1ヶ所に絞られた。

 

あちこちに黒く焼け焦げた部屋がいくつかある、窓はガラスが取り外され人の気は無い。

 

 

ハチべぇ「どうやら3階の最奥の部屋で誰かが孵化したようだよ、強い魔力を感じ取れるね」

 

上田「うわっ、真っ黒! あんなに真っ黒じゃ、火事でもあったのかな」

 

月村「……この辺じゃ有名な話よ、アパートの老朽化でコンセントから発火した事件。

両親が死んで息子が取り残されて、その子の親友も間も無く行方不明」

 

篠田「ニュースで聞いた事あるよ! 火事は知ってるけど、

なんで月村さんはそんな細かい所まで知ってるの?」

 

月村「私の姉の友人でもあったのよ……捜査は今でも続いてるはず、多分だけど」

 

上田「それであちこち焦げてるんだ、何で今も解体しないで残ってるんだろ」

 

ハチべぇ「3人共早く向かった方が良いんじゃ無いかい? 通行人がそろそろ来そうだよ」

 

 

ハチべぇの発言に3人はハッとなる、誰もいない内に急いでアパートへ入って行った。

 

老朽化したアパートと言っても、落下防止が隙間だらけの鉄柵という訳ではない。

 

案外しっかりしたコンクリート、しゃがんで進めば外から見える事は無いだろう。

 

一体で焦げ臭い匂いがする……燃える材質は相当激しく燃えたらしい。

 

コンクリート製の階段を上がり、3階に着いたところで利奈はその異様さを感じ取った。

 

 

 

 

とてつもなく重苦しい雰囲気……感覚でわかる黒い魔力、今度の相手はかなり手強い。

 

 

 

 

一番奥の部屋の前に3人で固まって中の様子を見る、先陣を切ったのは利奈だった。

 

 

上田「……っ!?」

 

篠田「利奈? どうしたの……えっ、何これ?」

 

月村「これは思った以上に深刻ね、こっ……ここまで酷いのは初めて見たわ」

 

 

芹香でさえ動揺を隠せなかった、それ程までに3人の目の前に広がる光景は衝撃的だった。

 

風で吹き飛ばされたかのように荒れた部屋、それらは焼け焦げた物ばかり。

 

そして部屋全体を覆い尽くすエンブレム……とは呼べない程にひん曲がったそれらしき模様。

 

なんとかそれが波を中心にしたエンブレムだと分かったが、

部屋全体に張り巡らされたエンブレムはマークと言い難い。

 

室内に手を差し出せば、揺らぐ様にして段々とその姿が滲んで消える。

 

もはやこの部屋自体が結界への入口になっているというのが、過言どころか正解だ。

 

念のため利奈はリュミエールに、絵莉はクインテットに念話で応援要請をしておく。

 

 

上田「念話終わったよ、しばらくしたら皆集まって手伝いに来てくれるって」

 

篠田「……なんか、久しぶりで懐かしい感じがするね! 前も3人の時あったの覚えてるよ!」

 

月村「この状況でニヤニヤ出来る余裕とはご立派ね、分けてほしいくらい……言い過ぎかしら」

 

上田「芹香はその位毒舌があった方が芹香らしいんじゃないかな?」

 

月村「ちょっと、それどういう意味よ」

 

 

利奈、絵莉、芹香……確かに絵莉の言う通りこの3人は過去に共同して戦った事がある。

 

覚えているだろうか? 『運転の魔女』、デパート・エタンの地下駐車場。

 

その時の面子が今揃っているのだ、違うところがあるとすればハチべぇの存在か。

 

 

ハチべぇ「3人とも準備は良いかい? この先は、魔力的にも今までで1番辛くなるだろう。

 

僕の経験上でもここまで強力なのは見た事がない、少しの気の緩みが命取りだ。

 

利奈、芹香、絵莉、それでも君たちは前に進むかい?」

 

 

先に進むに当たって魔法使いとしての覚悟を聞いたが、既に3人は変身を終えていた。

 

 

月村「ここまで来て今更戻るとでも思ったの? あなたの考えも浅はかな面があるのね」

 

篠田「先に入って、使い魔だけでも数を減らしておけば他のみんなが楽になるよね」

 

上田「前衛は私が引き受ける、みんな行くよ! 強かろうが弱かろうが私たちは引かない!」

 

 

意思の強い3人の言葉を聞き届けるもハチべぇは無表情、ただ静かにその瞳を閉じた。

 

改まって利奈は前を向き、揺らぐその先へと進む……芹香と絵莉も後に続く。

 

そしてその場から誰もいなくなった、いるとすれば焦げた部屋の片隅に寝転がる抜け殻か。

 

 

 

 

眼下に広がる光景、淡い水色と桃色に黄色も混じって広がる空を滲ませた。

 

異世界の宇宙に浮かぶのは……ストップウォッチ? 簡素な数字しか表示しない。

 

能動的に足場はそれぞれ動き回る、法則はあるが思考は他に働きかけている。

 

 

 

 

泡沫の魔男、性質は無常。

 

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

篠田「……見た感じだとすっごい強そうだよ、どうしよっか?」

 

 

 

月村「呼んでもいないし別に困ってもいないわよ、甘く見てもらったら困るわ」

 

 

 

根岸「いっ、移動って!? どこに行けばいいの!?」

 

 

 

上田「いっけえぇ!! 一気に押し出せええぇぇ!!」

 

 

 

〜終……(34)無知な少女と歪む苗〜

〜次……(35)儚げな裏で友情の行末[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





実を言うと滑り込み予約投稿って言うね、予約したの数時間前だよ(白目

次回よりボス級の魔女・魔男戦となるので、前後編が入ります。
文章量的に長くなる傾向にあるので、ご了承下さいませ。

さて、誰が孵化してどのような魔なる物が出るのやら……イラストの方も腕が鳴ります。




雑談は定番、これは決定事項……嘘です、最初の形式崩したくないだけです(´・ω・`)

今回は最近のイラスト事情について話しますか、自分はアナログオンリーですね基本。

いやパソコンを使っても良いのですが……そもそもおじいちゃんパソコンだし、
試しで買ったペンタブが扱いずらい上に数週間で寿命が来たのでもう嫌ですonz

最近は100均で売っているシールに目を付け始めました、特に丸シールがお気に入り。

切ったりするのが大変ですが、ペンで塗るより明確な模様が着けれるので私は好きですね。

36話で出てくる魔なる物のイラストにも使用しています。
是非、小説を読む際の参考にして下さいな。

正直デジタルに出来そうにはありません、これからもアナログで描いていきます\(^o^)/




それでは皆様、また次回。 ネタ切れの脅威が迫っていますが、何とか頑張ります……ハイ。


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(35)儚げな裏で友情の行末[前編]

土曜日? 日曜日? 今週私は休日も授業ですがなにか? ……じっ、時間を下さい!onz


どうも、疲れ果てて満身創痍のハピナですよ。 レポートの量多過ぎなんじゃあ……

執筆も間に合わず本日はストック分を使用、遂に余裕が無くなった!\(^o^)/

これでうえマギもかつかつの投稿になります、やっていけるのかなぁ……ちょっと不安。


さて、今回より6回目の前後編に入ります。 前後編の文書は長くなりがちなのでご注意を。

誰が孵化してしまったのは予想がつくでしょうか? ついでにイラスト付き、本編に期待。

いつもより短くて申し訳ない……それでは幕を上げましょう、目を覚ましたのは利奈以外。



友人といたのはとある部屋、時間としては夕方だったそんなの、結界の中じゃ関係ない。

 

知己が目を覚まし辺りを見渡そうとすると、揺らぐような視界に思わず吐き気を催した。

 

記憶を思い起こす余裕も無い、場を把握出来ていない事もあって混乱してしまった。

 

 

ハチべぇ「何をしているんだい? 生身の状態だと適応しないに決まってるじゃないか」

 

 

……またか、一体ハチべぇはいつの間にこの場にいたのだろうか? わかるわけもない。

 

気になるところだが、今はハチべぇの言う通りにした方がいいだろう。

 

指輪をソウルジェムに戻すと、その身を桜色の魔法少女に変えた。

 

目元を擦って辺りを見回し状況を確認、それで分かった第一印象。

 

ここは現実世界じゃない、場所からしてどうやら結界の中盤辺りにいるらしい。

 

 

眼下に広がる光景、淡い水色と桃色に黄色も混じって広がる空を滲ませる。

 

乗っていた謎のパネルは表示の切り替わりを繰り返し、示す情報を変えていた。

 

ほんの微かな時計の音がどこかで鳴っている、耳の奥でなっているかのような音。

 

見渡せば異世界を模す宇宙、ストップウォッチの足場が周辺で浮いている。

 

表示されている記号が違うのが影響しているのだろうか?

乗ろうとする者を拒むかのように、激しい上下運動を繰り返す。

 

 

今自分がいる結界の状況を把握したところで、一番大事なことを思い出した。

 

 

 

 

廃墟に入ってまで追いかけたはずの人物……津々村博師の姿がどこにもいない。

 

 

 

 

その先のもっと恐ろしい現実を認識する前に、事態に進展が起きた。

 

何か風を切って回るような音が聞こえたかと思えば、見た先にいるのは『化け物』。

 

違う2種の針を回し又は動かし、それらは侵入者を排除しようと飛んでくる。

 

胴体となるであろう円盤は透けて、向こう側の景色を映し出していた。

 

壊れたネジ巻きを巻くような空回りの音を立てながら、その役割を全うしようと迫り来る!

 

 

泡沫の使い魔、役割は記録。

 

【挿絵表示】

 

 

 

根岸「ぼっ……! ボア・レオメッガ!」

 

 

知己は反射的に魔法を使うと、頭を押さえてその場にしゃがんだ。

 

すると、彼女に覆いかぶさるように木製のテーブルがそこに現れる。

 

無論容赦なく襲い来る使い魔は知己を突き刺そうとその針を持って特攻してきたが、

その針は木製のテーブルに突き刺さっただけで終わってしまった。

 

 

ハチべぇ「気を付けて! この場にいたら危ない、移動した方がいいよ!」

 

根岸「いっ、移動って!? どこに行けばいいの!?」

 

ハチべぇ「とにかく進むしかない、結界の出入口か結界の主を目指すんだ!」

 

 

ハチべぇの言う通りだ、木の板である頭上を見上げてれば見えたのは針の先端。

 

その数はどんどん増えていく、これではテーブルが壊れるのも時間の問題だろう。

 

テーブル下から辺りを見回すと、上下する足場の中で比較的ゆっくりなのを見つけた。

 

先を行くにはこのルートしかない……このままではテーブルごと串刺しだ!

 

知己はタイミングを見計らって飛び出す、同時に元いた場所は剣山になった。

 

 

根岸「ストール・セッメーガ!」

 

 

両手に桜色の魔力を込めて、まるで祈りでもするかのように両手を握った。

 

魔力を解き放つと、クッション部分が青ではなく桜色のパイプ椅子が生成された。

 

これが彼女の主な武器らしい、今の役割は大盾となってしまっているが。

 

パイプ椅子で追いかけて来る使い魔を追っ払いながら、とにかく先へと進んだ。

 

主な足場となるストップウォッチを見極め、軽い跳躍で飛び乗り移る。

 

基本足場は充分な数は確保できそうだが、上下するスピードが速すぎて足場もある。

 

切り裂こうとしてくる使い魔が厄介だが、数が少ないので何とかなるだろう……

 

 

だなんて、そんな砂糖を直に舐めたような甘い考えは通用するわけがなく、

望まれることが無かったピンチは苦々しくもすぐにやってきた。

 

 

根岸「斬られる! ダメっ、無理だ、対処しきれな……っ!?」

 

 

高速回転の同時な複数斬撃を避けるのに必死になった結果、彼女は致命的なミスをした。

 

何をしでかしたって、避けるのに意識を持っていかれて乗る足場を間違ってしまったのだ。

 

乗せた片足は激しい上下運動の前では安定することなく、 落 ち た 。

 

そのまま異世界の宇宙へ落下の一途を辿る、思わぬ展開に思考が止まった。

 

滲む視界の先はわかず終い、単独であれば死にはせずとも大怪我はしただろう。

 

 

 

 

……()()()()()()ね、魔法使いという存在が団体であることが功を奏した。

 

 

 

 

上田「っと、危ない! 間に合った!!」

 

月村「何が間に合ったよ、私が魔法で加速しなきゃ危なかったじゃない」

 

篠田「あれっ、根岸さんだ! いつも一緒にいる人はどうしたの?」

 

根岸「……えっ、と……博師、君は…………」

 

月村「混乱しているじゃない、その辺の状況確認は後回しよ。 前を見なさい!」

 

篠田「はわわ!? さっきの使い魔が迫ってきてるよ!?」

 

上田「とにかく今はこの場を凌ごう! 細かい話はその後だね!」

 

 

利奈は反動をつけて知巳の腕を掴んでいた手を上へと振り上げると、

同時に持ち上がった知巳の体を上手い具合に棍の箒に乗せた。

 

 

上田「しっかり捕まっててね? アヴィオン・アンヴォカシオン!」

 

 

……ふむ、恐らく『知巳に飛行魔法が無い』という事は俐樹から聞いた事があるのだろう。

 

新しく棍の箒を作り出すと、知己を元の箒に残して使い魔に特攻していった!

 

器用な物で知己に対する使い魔の攻撃は利奈による棍の箒の操作でかわされていった。

 

まぁ、魔法使いである知己も黙って見ているわけではない。

 

カラーボックスを使い魔に被せ邪魔をし、その両手にパイプ椅子を持って振り回す!

 

 

空を回りながら舞う使い魔を叩き落としたのなら、そのまま落ちればそれで良い。

 

だけども使い魔もヤワじゃない、すぐにでも再度空を飛んで襲い掛かってきた。

 

それでも何のダメージも無いというわけじゃない、その動きは確実に鈍ってくる。

 

そこが後衛を務める絵莉と芹香の狙い目だ、彼女らは上を見上げながら足場を飛び移る。

 

魔法をぶつけるかの判断は芹香がする、正確に時を見て魔法を放っていった。

 

 

月村「第三章! 雷の巻「落雷」! 対象は使い魔!」

 

 

時には1冊の本から魔法によって放たれたページは弾け、麻痺を起こす落雷となり……

 

 

篠田「ルビーニ・エカン!」

 

 

時には魔法によって作り出された縄跳びが、隙だらけの使い魔を縛り上げた。

 

 

事の展開は順調、確実に滲んだ宇宙を突き進み先の景色を次々に目に捉える。

 

浮かぶ足場を飛び移り、滲んだ宇宙を飛び交い、やがて1つの場所に辿り着いた。

 

さて、道筋の曲がり角を示すかのように存在していたパネルだが……様子がおかしい。

 

何故おかしいかって、意思を持ったかのように移動しどんどん()()()()()いったのだ。

 

空を飛ぶ使い魔もその針を絡ませ、幾つもの塊となって歪な像を作っていく。

 

 

ハチべぇ「……驚いたね、使い魔が集団という形で協定を組み融合している。

 

ボス級の割には結界の構造が単純だったからイレギュラーかと思ったけど、

どうやらこの魔男は戦力の方に力を注いでいたようだね。

 

『チョーク』という黒板の使い魔の結果といい、僕のシステムは先駆者よりも」

 

月村「あなたの自慢話は後にしてちょうだい、今は聞いてる暇は無いわよ」

 

根岸「協定、って? 使い魔同士で協力しているって事? あんな風になってまで!?」

 

上田「でもあり得ない話じゃないと思うよ、チョークみたいに考える事は出来るしそれに……」

 

篠田「ボス級の魔女の使い魔だもんね、やっぱりボス級となると格が違うよう!」

 

月村「……あなたのそのおめでたい単純思考、治る気配が一向に来ないわね」

 

ハチべぇ「気をつけて! 使い魔同士が融合する事で、黒い魔力の量が上がっているよ!」

 

 

ハチべぇが明確な注意を4人に呼びかける頃、既に使い魔は融合を終えていた。

 

元々融合するような身体構造でもない、融合体の身体のあちこちから針が飛び出している。

 

利奈の感性で言うなら『中ボス』が妥当だろう、それでもこいつは使い魔に過ぎない。

 

 

篠田「……見た感じだとすっごい強そうだよ、どうしよっか?」

 

根岸「融合って……下手に攻撃したら、また分裂しちゃうんじゃない?」

 

月村「最善策は分裂させる事なく、この足場の真下に落下させる事ね。

 

まぁ、そもそも攻撃したら分裂するかどうかも確定じゃないから危険だわ。

 

下手な判断をすれば最悪な結果を生む羽目になる、そうなれば後続に影響は確実……」

 

 

まとめて言うと、単純にこの融合体は『やっかい』って事になる。

 

ある程度の距離を置いている為利奈たちの存在には気がついていない様子だが、

これを無視して先を行くにしても後に来る魔法使いが大変な目にあるだろう。

 

そりゃそうだ、魔法使いが全員飛べる魔法を持っているとは限らない。

 

この場には実力がある者が3人もいる、倒せないなんて事はまず無い。

 

最も悩んでいたのは芹香だったが、彼女の滞りを変える者がいた。

 

 

上田「あれってまだ魔男じゃないんでしょ? だったら何とかなるんじゃないかな」

 

月村「何とかってあなたね!? そんな生半可な感情だったらろくな結果が」

 

上田「その結果がダメだったら誰かがフォローすれば良いよ!

今回は私がするからさ、悩んでも仕方ないしまずは戦ってみるしかない!」

 

ハチべぇ「利奈の言うことは一理あるね、あの融合体は今までのデータには無いね。

前例が存在しないというのに、この場で脳内の検証を行うのは無意味に近いよ」

 

月村「ハチべぇあなたまで……! どんな結果になるかわからないというのに!」

 

 

そんな不確定要素を否定しつつ、芹香の頭にはとある言葉が浮かんでいた。

 

 

『利奈よりも結果に囚われているね、かわいそうな子』……

 

 

自覚があるのかこの言葉が頭にこびりつく、ずっとまとわりついている。

 

改善どころか悪化していると言えるだろう……今の状態というのは。

 

唇を噛んで俯いた、やっと出た言葉は思った事とは真逆だった。

 

それが彼女にとっての『抗い』でもある、14年間刷り込まれ続けた固定概念への対抗。

 

彼女はこの魔男との戦いで何か変わろうとしている、変われるのだろうか? 或いは……

 

 

月村「そこまで言うのなら行きましょう、即興だけど私に考えがあるわ」

 

上田「……ありがとう芹香、必死だったけどちょっと言ってる事が雑過ぎたかな」

 

月村「元々難しく考えれる性格じゃないでしょう、その位わかっているわよ」

 

篠田「その考えってどんな感じなの? あまり時間無いだけど、手短に説明出来そう?」

 

月村「余裕よ、結果から言うとあの融合体を倒すのにはあなたの力がいるわ」

 

 

 

 

使い魔の融合が完全に終わる頃、あちこち針が飛び出した不完全な巨人が完成する。

 

『手』という形にならなかった針の束がついた片腕を引きずり、向く先は2人の魔法使い。

いるのは2本の棍を構えた赤色の魔法使いと、独特のパイプ椅子を構えた魔法使い。

 

融合して攻撃性が増したのか、ある程度の距離があっても襲い掛かってくる!

 

 

初手の針の雨、範囲に強い知己が全身の力を使ってパイプ椅子で薙ぎ払った。

 

不気味な事に全身のありとあらゆる部位から針が飛び出してきたが、

束にもならない単体なら利奈の速さで余裕の対応が出来る。

 

まだ中学生ではあるが、今前衛を務める2人が女というのには変わりない。

 

力が無いなら他の部分で補えばいい、利奈なら速さで知己は広範囲。

 

それぞれの得意な面、より伸びた面を生かして未知なる融合体に立ち向かう!

 

 

不意に融合体の拳が腕を伸ばし殴りかかってきたが、橙色の風が隙をついてその身体を押す。

 

すると、でかい図体はバランスを崩し……大きく倒れこんでその腕を折ってしまった。

 

芹香の予想通りその腕は蠢いて単体になっていく、再度融合しそうな気配は無い。

 

 

さて、事前に組まれた作戦で狙っていたのはこの場面だ!

芹香が隣にいる絵莉に指示を出したのなら、絵莉は行動に出た!

 

 

篠田「ルビーニ・エカンっ!!」

 

 

先ほど放った縄跳びを魔力で生成する、今度は魔力多めで3本同時にだ。

 

絵莉が操作をすると、3本は三つに編み上げられてその強度を増す。

 

さらに細かな操作をすると、分裂した使い魔同士が離れないように縛り上げた!

 

単体の使い魔にも使った絵莉の魔法、まさかこの場でも生きるとは思わなかっただろう。

 

ある種当然、いくら融合しようと使い魔は使い魔……元々融合出来るような構造じゃない。

 

 

月村「成功よ絵莉! 融合体の動きが鈍くなっている、その調子で拘束しなさい!」

 

篠田「う~~ん……ごめん! この前出来たばかりの魔法で、

縛っているのがあんまり長く持ちそうに無いの!!」

 

月村「使い慣れていないって事かしら? ……困ったわね、なら私の魔法で」

 

 

絵莉の表情は見るからに辛そうだ、魔力を込めたその両手は若干震えている。

 

散々使い魔は弱いだなんて言ってきたが、やはり相手は数が多く物量作戦。

 

いくら優秀といえども魔法使い1人で大量の使い魔に対処するなんて、

そんなことが出来る魔法使いは片手で数えられる人数に限られる。

 

流石に魔法が出来た時期までは把握していなかったらしい。

まぁ、そんな細かいところ知っているのなんて1人しか思い浮かばないだろう。

 

自らの持つ本のページをめくり急いで魔法を探す、対策は既に考えてあったようだ。

 

 

……が、短時間で完成したその即興かつ入念な考えは結局無駄になることになる。

 

 

何故無駄になったかって、彼女が一番会いたくない人物が登場してしまったからだ。

 

 

その魔法使いは3人組、先を行くリーダーはよりにもよって芹香のライバル。

 

 

下鳥「俐樹に手伝ってと言われて来てみれば……どうやら、お困りのようね」

 

月村「……呼んでもいないし別に困ってもいないわよ、甘く見てもらったら困るわ」

 

下鳥「呼ばれてここに来たわけじゃないわよ、勘違いする前に落ち着きなさい」

 

橋谷「すっ、すみません! その、1人で結界に入るのは不安で……」

 

月村「謝る必要は無いわよ、その3人と合流した経緯によるけど」

 

 

優梨が後ろにいる2人の魔法使いに目配せをすると、魔法使いは移動をした。

 

来た先は絵莉の隣、どうやら彼女の魔法の手助けを念話で指示されたらしい。

 

手伝いというと『融合体の拘束』だが、彼女の魔法ならそれが可能なのか。

 

 

浜鳴「サンチュー・ベロー!」

 

 

片手に魔力を込めて一直線上に放てば、そこから丈夫なベルトが生成された。

 

融合体が縄跳びで離れないよう縛っているのと他の場所を補助的に縛っていく。

 

絵莉は隣にやってきた最上に驚いたらしいが、魔力の負担が格段に減ったようだ。

 

 

浜鳴「よぉ~~し! しっかりばっちり、身動き取れないなう!!」

 

篠田「っはぁ!? ふえぇ、助かった……すごい負担だったよ」

 

浜鳴「うは、軽く汗かいてるじゃん! 大変じゃないの? そんな私は救世主なう!」

 

 

魔法使いの増援が来たおかげで、事はますます順調に進むだろう。

 

ただ……違和感が残った、優梨が目配せをしたのは()()だったはずだ。

 

優梨が自身の斜め後ろにいる魔法使いを見たが、上の空で明後日の方向を見てる。

 

 

下鳥「あら、最上は行ったけどあなたは行かないのかしら? 美羽」

 

木之実「…………」

 

下鳥「……それどころじゃないみたいね、なら私の補助に回りなさい」

 

 

美羽はまるで思考を投げ出してしまったかのように呆然としていたが、

ここまで来たのと同じように移動することくらいは流石に出来る。

 

 

上田((優梨! それに俐樹ちゃんも! 2人共来てくれたんだ!))

 

橋谷((はっ、はい! リュミエールから招集がかかったのですが、

近くに優梨とそのお友達がいたので先に来ました!))

 

下鳥((乱入して悪いわね利奈、今から前衛に私と美羽も入るから把握しておいてちょうだい))

 

 

根岸「えっ、何!? ……新手の使い魔じゃなくて増援か、ちょっとビックリしたな」

 

上田「前衛2人と後衛1人が増えたの、私たちは引き続きこの融合体にダメージを与えよう!」

 

根岸「……うん! この調子なら、目の前にいる融合体を倒せそうだもんね」

 

 

さて、改めて身構えよう。 相手は使い魔、ここで無駄に魔力を削るのは避けたい。

 

使い魔も融合が離れてしまった塊がだいぶ増えてきた、これなら停止も時間の問題。

 

それじゃあ、早く終わらせようか。 周りを見ると、使い魔は融合体の他にいない様子。

 

 

上田「ゲーム、再スタート!」

 

 

紫の魔法少女が加わり、融合体の破壊が目的の前衛はその全体的な火力を高めた。

 

融合体の攻撃を弾くのは知己が引き受け、利奈は融合体に攻撃する事に務める。

 

融合体が分裂する一環で束縛を逃れる個体も何体か出て来たが、これには優梨が対処。

 

逃げた使い魔を2本のムチで素早く捉え、モーニングバスターの容量で遠心力を生かしている。

 

融合体にダメージを与えると同時に束縛を支援する……

この融合体を倒す場でこれ以上の効率の良い攻撃は無いだろう。

 

分裂しては縄跳びで縛られる、分裂してはベルトに縛られる、融合体はどんどん歪になっていく。

 

やがて巨体を支える脚さえ丸く潰れ、その場に崩れ落ちてしまった。

 

どうやらとどめの時が来たらしい、今まで見てきた中で最も強い使い魔の終わりの時が。

 

 

下鳥「今よ!! 総出で押し出すの!!」

 

根岸「おっ、押し出す!? 押し出……クロウステト・キャストヌガネン!!」

 

上田「いっけえぇ!! 一気に押し出せええぇぇ!!」

 

 

知己は咄嗟にパイプ椅子を床に叩きつけると、そこに魔方陣が展開された。

 

この判断は正しかった、『咄嗟に家具を作る』なんて事があまり無かった経験を補うフォロー。

 

要するに本来判断をすべき頭が追いつかないのを見越し、魔方陣に魔力の使用を任せたのだ。

 

 

魔方陣が光を発して消えたかと思えば、融合体の目の前に大きめのタンスが現れた。

 

融合体が行動を起こす前に自らの引き出しを全段飛び出させ、初手の押し出しを実施。

 

これをきっかけに利奈が物理的な体当たりをした、引き続く優梨も利奈とほぼ同時に体当たり!

 

 

かなり傾いたが、まだ足りない! タンスは最大出力で2人は体重もかけて体当たりをしたはず。

 

単体での浮力でギリギリ耐えているのか? だが使い魔は落ちた、3()()()()()()によって。

 

緑の学校の縄跳び、黄緑の花を咲かせた蔦、頑丈そうな柿色のベルト……

 

それらが魔方陣によって床に固定され、足場の無い空へと融合体を思いっきり引っ張っていく。

 

本来は4本なのだが……残された蘇芳色の柔らかなリボンは

何をする事もなく、ただふわふわと魔方陣から生えて揺れるだけ。

 

とどめを刺されて、滲んだ宇宙をボロボロと崩れながら落下する融合体。

 

ゼンマイが巻かれ過ぎて壊れたかのような悲鳴をあげながら、

融合体はドロりとした黒い魔力となりただ静かに消えていった。

 

どうやら、泡沫の使い魔を一通り倒す事が出来たらしい。

進む先に新たな足場が出来ると、最奥には扉が現れた。

 

襲い来る前章はもう無い、一時的な休戦の訪れに魔法少女たちは歓喜に満ち溢れた。

 

 

篠田「やっとだあぁ……! 結界の主がいる扉の前まで来るのが

こんなに大変になる時が来るなんて思わなかったよ」

 

根岸「すごい数だったけど、大勢いればボス級でも割りと何とかなるんだね」

 

上田「ボス級の魔女や魔男とあまり戦った事無いの?」

 

根岸「数は少ないかな、いつも2人だったから雑魚級ばかり倒していたんだ」

 

橋谷「とっ、とにかく増援を待ちつつソウルジェムを含めて回復しましょう……っ!?」

 

 

俐樹は場が落ち着いて気が抜けたのか、最上の存在に気がつき絵莉の後ろに逃げた。

 

 

浜鳴「えっ? ……あ」

 

下鳥「無理もないわね、美羽と最上の回復は私がやるからあなたたちは4人で回復なさい」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、俐樹はいつになったら立ち直ぎゅっぷぃ!?」

 

 

余計な事を言いかけたハチべぇだったが、突然頭を掴まれて言葉は途中で途切れてしまった。

 

見れば芹香がハチべぇを止めたらしく、微動だにしないハチべぇの顔を睨みつけていた。

 

優梨は微笑んで軽く礼をしたが、芹香は見ただけで特に反応せず利奈たちの元へ戻る。

 

 

 

 

橋谷「……はい、これで浄化も含め治療は一通り終わりました。

やはり前衛と後衛の役割分担がしっかり行われていたのか、

目立つような怪我や穢れは見当たりませんでしたね」

 

上田「俐樹ちゃんたが3人を呼んでくれて助かったよ、やっぱり人が多い方が心強いね」

 

橋谷「いっ、いえ! 私は何も……声をかけたのは優梨だけでしたし」

 

上田「だとしたら、他の2人は優梨が連れて来たのかな?」

 

月村「時間が立ったのを見越して、あなたが克服出来たかどうか兼ねたんでしょうね」

 

上田「いや、単純にいつも一緒にいる2人だから連れて来ただけだと思うよ」

 

月村「どうかしら? 裏の意図があるかもしれないわよ? ……また喧嘩になってるわね」

 

「「…………」」

 

篠田「……とっ、とにかくだよ! この先はボス級がいるんだし、増援が来るまで待とう!」

 

 

俐樹の魔法も含めた治療は一通り終わったが、相変わらず2人はギクシャクしている。

 

まだ引きずっているのか……それだけ、互いの間に深い溝が出来たという事か。

 

本当はすぐにでも溝を埋めたいが、現状はそうじゃない……早急な討伐が求められる。

 

妙な空気になってしまったが、今は一時的な安全も得られたし討伐に向け増援を待とう。

 

そんな感じで休憩も兼ねて待っていると、利奈は突然後ろからの軽い強襲を受けた。

 

 

チョーク「久しぶりの利奈だ! 利奈、久しぶり!

ごめん橋谷さん、みんなを集めるのにちょっと遅れちゃった」

 

上田「わっ!? チョーク?」

 

ハチべぇ「多数の念話が漏れていたと思えば、君の念話だったようだね。

どうやら元々使い魔である個体だと、念話をするのはあまり得意じゃ無さそうだよ」

 

橋谷「ちょ、チョークは念話が得意ではないんですか?」

 

清水「個体とはひでぇ言い方するじゃねぇか……

 

だが集めるのを手伝ってくれたのは助かった、チョークがリュミエールを呼んでくれた。

 

俺は別の連中を集めるのに集中出来たし、結果的に時間の短縮になったからな」

 

 

海里も来たかと思えば、それに引き続いて多数の魔法使いが利奈たちの元に集まって来た。

 

中には花の闇も混じっているが……今回はそんな事を言ってられそうな相手じゃない。

 

ふと、集団から抜け出して数夜が優梨の元へやってきた。

周囲は軽い警戒を示したが、芹香がそれらを止める。

 

 

前坂「……美羽はずっとその調子なのか?」

 

下鳥「えぇ、最近はこうやって思考を投げ出してしまう事が多いのよ」

 

前坂「……そうか」

 

 

数夜はそれだけ言うと、前にも見た事あるような不格好な杖を召喚し美羽に向かって振った。

すると……呆然としていた美羽はハッとなり、目の前を見てその瞳を数夜に向けた。

 

 

木之実「リーダー……? リーダーじゃないですか! あぁ、私を助けてくれたんですね!!」

 

下鳥「良かったわね美羽、さっきより顔色も良くなって元」

 

木之実「会えて嬉しいです! リーダーも討伐に来たんですね?

一緒に戦えるなんて……あぁ、なんて幸せなんでしょう!!」

 

下鳥「ちょっと美羽、私の話を聞いてるの? そもそも聞こえてるのかしら?」

 

浜鳴「メロメロなう、美羽ってばリーダーの事となると周りが見えなくなるんだから」

 

下鳥「……それにしては、様子がおかしいような気がするんだけど」

 

前坂「あまり俺に固執するなと言ってるだろう美羽、今は優梨について行け」

 

 

そう数夜に言われ優梨の方を向いた時点で、やっと美羽は瞳の輝きを取り戻した。

 

 

木之実「……あれっ、2人共いたんだ。 今まで全然気がつかなかった」

 

下鳥「()()()()()()()()ですって? 最上も私もずっと一緒にいたじゃない」

 

木之実「え? だって私……何をしていたんだっけ、記憶が曖昧になってるな。

まぁ特に支障無いんだったら良いんじゃない? とにかく3人一緒にいたんでしょ」

 

浜鳴「団体行動なう、一緒にいたのは間違いないんだけど……」

 

下鳥「覚えてないないなら仕方ないわ、もうすぐ作戦会議も始まる頃だし後にしましょう」

 

 

優梨たちは一連の話を終えると、残りはギャル特有の雑談を始めて作戦会議を待った。

 

 

篠田「月村さん、何でさっきはあたしたちを引き止めたの? 花の闇の長だよ!?」

 

月村「色々あったのよ、特に悪い事をしていないのなら無駄な警戒で気力を使うのはやめなさい」

 

篠田「でもっ……!」

 

上田「芹香の言う通りだと思うよ、今まで芹香が言った事で間違いだったことないもん」

 

月村「……利奈」

 

清水「みんな! 中野はいないから今回は俺が割り振りをする、みんな集まってくれ!」

 

チョーク「海里が集まってだって、利奈も橋谷さんも行こうよ! ほら、絵莉と芹香も!」

 

 

チョークは利奈と俐樹の腕を掴むと、無邪気に海里の元へ引いて行った。

 

芹香はやれやれといった様子で後を追い、絵莉は慌てて3人を追った。

 

知己は……行く先であろう扉をしばらく眺めていた、その瞳は涙で潤んでいる。

 

 

 

 

まぁ、知己がこうなるのも無理はない……待ち受ける主は壊れてしまった相方なのだから。

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「……前衛の中で、重傷者が出たそうだ」

 

 

 

軽沢((ここまで余裕が無いのは久々だねぇ……ぅわ!? ちょっと、あれは流石にマズいぞ!))

 

 

 

篠田「……あたし、利奈たちが心配だから加勢に行くよ!」

 

 

 

根岸「う、そ!? こ、れ、博師……君が?」

 

 

 

〜終……(35)儚げな裏で友情の行末[前編]〜

〜次……(36)儚げな裏で友情の行末[中編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。




……はい、いかがでしたか? 久しぶりにチョークの登場です、相変わらず利奈に懐いている。

強い主の手下も強い、単純な構造もあって融合してしまいました。
様子がおかしいのも1人存在、利奈と芹香の仲も気になる所。

今回簡潔で申し訳ない……次回の私はもっと上手くやれるでしょう、多分。


それでは皆様、また次回。 今週の日曜日も遅くまで授業! 身も蓋もないね!!


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(36)儚げな裏で友情の行末[中編]


どれだけ、続きを書くのに時間をかけてるんだ……遅れて申し訳ない。

約半年ぶり? ですね、一時期は消去も考えてましたが結局続きました。

待たせてしまった方はごめんなさい、また1からやり直しです。


本来は後編となる筈だった36話ですが、長かった為にさらに分割しました。

中編と後編を合わせたら文字数が2万越えてしまいます、それは流石に読むのが大変。

いつもあげていた幕も埃を被ってしまいましたが、ほろってでも上げることにします。



根岸「どうしたの博師君、ここに来て大丈夫? この場所って確か、博師君の苦手な……」

 

津々村「これは特に、無かった事にしたかった。 でも、自分の魔法じゃ出来なかった。

 

これじゃあ生き残った自分の意味が無い、あの火事を無かった事にしたいのに。

 

自分の為に願いをかけてくれたあの子はもういない、どうして自分は……!」

 

根岸「博師、君?」

 

津々村「……ねぇ知己、お願いがあるんだ。 もう、自分の心は持ちそうにも無い」

 

根岸「お願い? あっ、これって博師君のソウルジェムだけど……なんで戻したの?」

 

 

 

 

津々村「……砕いてくれ、知己の魔法でこの場で、忘却に逃げようとした自分をその手で。

自分はもう持たない! 心が! 記憶が! 孵化が! もう、こんな自分は 嫌 な ん だ !!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

上田「知己さん大丈夫?」

 

根岸「っ!!」

 

上田「わっ!?」

 

根岸「……ごめんなさい! ちょっと考え事してたの、悪い事を考えてしまって」

 

上田「あぁ、大丈夫! いきなり話しかけた私にも落ち目があるから」

 

 

知己はせっかく気を使って話しかけてくれた利奈を、驚いたのか押しのけてしまった。

 

回復を終えた後、どうやらその場で顔を伏せてしゃがんだまま考え込んでいたらしい。

 

脳裏に残っていたのは少し前の記憶、博師がボス級の魔男へと孵化をする直前の出来事だ。

 

まるで叫びでもするかのような絶望の言葉を最後に、知己の記憶は途切れていた……

 

この時に孵化をしたのだろう、笑いとも悲しみとも似つかない狂気的な表情を覚えている。

 

 

清水「手筈はそれで良いな! ところでチョーク、お前は『模倣』の魔法だが」

 

チョーク「誰と一緒に行くかって話でしょ? 僕、利奈がいる前衛が良い!」

 

清水「お、おぅ……前衛にするんだな? 攻撃が激しいから気をつけろよ」

 

 

知己と利奈がちょうど話を終えた所で、チョークが笑顔で利奈の所へやって来た。

 

相変わらず利奈に懐いているらしい、何故か海里は乗り気でない様子だが。

 

後に続いて前衛の魔法使いも何人か来た、人数確認を含め前衛を海里が訪ねてくる。

 

 

清水「絵莉はどうする? 今回の使い魔と戦った時は、前衛と後衛の両方やってたそうだな」

 

篠田「う~~ん……融合体の事もあって、魔力を使い過ぎちゃった感じはするかな?

前衛に余裕があるなら、あたしは後ろ辺りがいい! 何かあったら手伝いに行くよ」

 

清水「じゃあ後衛だな、人数は多いし余裕を持って組んだから心配しなくて良いぞ」

 

根岸「私は、前衛で行く! 孵化しちゃったけど、博師君の事は1番わかってるから」

 

清水「ん、根岸は前衛か? 確かお前は家具の魔法、中間辺りが良いはずだが……」

 

根岸「それで大きな怪我をしちゃっても構わない、私が博師君を助けるんだ!」

 

清水「……確か根岸と津々村はコンビだったな、良いぜ! 無理しないようにな」

 

 

絵莉は最後に利奈と軽いハイタッチを交わすと、後衛担当が集まる魔法使い達の所へ移動した。

 

床で待機がてら寝ていたハチべぇは絵莉が行くのを見届け、この時利奈の右肩の上に乗った。

 

海里はまだ利奈たちに用事があるようで、今度は『辞書』を整理する芹香に話しかける。

 

 

月村「何の用かしら? まぁ、その様子と状況からして構成を決めるのに間違いは無いわね」

 

清水「月村さんはいつもの後衛だったな、力強と八雲がいるからそいつらと一緒に」

 

月村「勝手に決めないでくれない? 私、一言も構成について発言していないわよ」

 

清水「『本』の魔法で……え? 後衛じゃないのか? 月村さんの魔法は後衛向きじゃ」

 

月村「愚問ね、後衛に向いてるから何? 今回私は前衛に入らせてもらうわ」

 

 

思わぬ答えに海里は少し驚いたが、無駄な間は芹香が片手で強く本を閉じる音で消した。

 

 

月村「あら、意外って顔じゃない? そんなに変な事を言ったかしら、前衛でも戦えるわよ」

 

 

そう良いながら芹香は『辞書』から剣形の栞を引き抜くと、魔力を込めて掲げてみせた!

 

栞に着いていた小さなリボンは巨大化し巻いて柄となり、

橙色の淡い光を放ちながら煌々して薄い刃を輝かせる。

 

何枚もの栞を書いて重ね貼り付けたらしい、作るのに相当時間がかかっただろう。

 

 

月村「それに、ちょっと確かめたい事があるの。 これだけの条件が揃えば充分よね?」

 

清水「お、おう……そこまで言うなら良いぜ、あまり無茶しないように気をつけろよ」

 

月村「当たり前じゃない、私はそんな簡単に危険を晒すほどバカじゃないわ」

 

 

そんな調子でツンとしたまま、芹香は剣を栞に戻して『辞書』に挟み込む。

 

彼女はその場に留まった、理由は単純にそこが前衛の集まりだったからだ。

 

他の魔法使いは驚いたような目で見ているが、芹香の睨みがそれを黙らせる。

 

 

月村「やたら目線が集まるわね、足手まといとでも思っているのかしら?」

 

上田「そんな事無いよ! 普段後衛の魔法使いが前衛にいるから珍しいだけだよ!」

 

月村「……珍しいですって? まぁ、それも一理あるわね……」

 

 

芹香の反応が戸惑い気味だったが、利奈に助け船を出されたのが意外だったのだろう。

 

まだ喧嘩の事を気にしているのだろうか? それなら彼女の行動には変な点がある。

 

何故自分の得意分野ではなく、わざわざ喧嘩相手のいる陣を選んだのだろうか?

 

その答えは今回の魔男を救えば明らかになるか、或いは……

 

……おっと? そろそろ準備が出来たらしい、扉の前に魔法使いたちが集まってきている。

 

 

チョーク「魔法使いたちが集まってるみたいだね、行こう行こう! みんな前衛を待っている」

 

 

チョークはそう言って、いつもの明るい笑みで扉の方へ走っていった。

 

前衛の魔法使いたちも後に続いた、チョークの純粋さには感服する。

 

そうして一同は準備を終えた、後は魔男がいる扉の先に乗り込むだけだ。

 

扉を開ける役割は海里、開け次第前衛の魔法使いたちが突っ込むのだ。

 

念話で合図を全体に行き渡らせたなら、海里はその扉を開いて中へ入っていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ただでさえ歪んでいた宇宙は益々歪む、それでも色を判別できる事に不気味さを憶えた。

 

規則的に並ぶ床は丸いガラスがはめ込まれ、中で時計が進んだり戻ったりしている。

 

同じ時を刻む物はなに一つ無い自由な時計、それでも時自体は容赦無く過ぎ去って行く。

 

床から時計の音はしない、何故なら音を鳴らす権限があるのは結界の主だけだ。

 

そう、結界の主……最奥の中心にいるのは魔男、絶望した少年の成れの果て。

 

 

根岸「……博師、君?」

 

 

成れの果てはヒトとは言えない異形の姿、知己が驚愕を覚えるのも無理はない。

 

魔男はヒトだった頃の面影を大きく残している、すぐにでも元が彼だとわかるだろう。

 

青と黄と桃色、主に水色の色が使われた時計が魔男の身体となっている。

時計にはストップウォッチを思わせる飾りが付いている、機能するかは謎。

 

数字の代わりに奇妙な模様が時刻を示す……ここまで聞けば比較的普通だろう。

 

異質なのは時計の針だ、秒針含め3つの針は一体となってしまっている。

その見た目はまるで折れ曲がった人体だ、脇腹辺りから秒針が飛び出ている。

 

両端の側面からは先の折れた針が生えており、足となってその巨体を支えている。

 

魔男はその3つの瞳で魔法使いたちを見据えているだろう、時計のように等間隔で回りながら。

 

 

泡沫の魔男、性質は無常。

 

【挿絵表示】

 

 

 

ハチべぇ((気をつけて! どうやらこれは魔男の攻撃のようだ、しばらく降り続けるよ!))

 

 

魔法使い全体に向けて、ハチべぇは念話で大きめに叫んだ。

魔法使いよりも魔力に敏感なハチべぇ、何か異変を感じ取ったのだろう。

 

ハチべぇの声の後、並大抵の人間なら鳥肌が立つような感覚を覚える……黒い魔力の増大だ。

 

目覚まし時計な鳴るような音で鳴けば、滲んだ空は色を落とし鉛筆程の時計の針となった。

 

まさに針の雨と言った所か、これが魔男の攻撃だろう……気を抜いたら刺さってしまう。

 

その針の雨以外に、魔男は攻撃を仕掛けるような様子は無い。

 

まだ何かしらの攻撃手段を残している可能性はあるが、今の所は距離を詰めるのが最善だ。

 

一同はそれぞれの魔法を駆使して先へ進む、そうして魔男との戦いが始まるのだ。

 

 

 

 

……そのまま、始まれば良かったのだ。 この魔男は異質の強さ、結界もまた異質だった。

 

 

 

 

唐突に訪れた違和感に利奈は思わず足を止めた、上を見上げてその正体に気がつく。

 

針の雨……見るからに落ちる速度が遅くなっている、落ちる針を手に取れる程に。

 

実際に手に取ればまるで絵の具を固めたかの様な、奇妙な強度が感触として残る。

 

数秒で霧状のただの色となって溶けてしまったが、魔男にとって攻撃するには充分だ。

 

そもそも何故遅くなったのか? そう思いながら周囲を見渡し、そして驚愕する。

 

 

 

 

見渡す限り広がる惨劇。 誰しもが転び、怪我をし、串刺し……

軽傷なのは反応が早い者か運が良い者だけ、無傷は1人だけ。

 

 

 

 

上田「どういう……事? なんでこんなことになってるの!?」

 

ハチべぇ「針の雨は収まったようだね、()()()()に黒い魔力の気配はしないよ」

 

上田「それなら、早くみんなの様子を確認しに……足元以外?」

 

 

足元の床にある時計を見てみれば、急ぐことも無く遅れることも無く進んでいる。

 

これがどんな意味を示すのかはまだ分からないが……今考えるべき事はそっちじゃない。

 

とにかく最も近い魔法使いの元へと急ぐ、足をやられて見るからに大怪我だ。

 

 

上田「大丈夫!? うわっ、すごい血……! 今止血するよ!」

 

 

利奈に明確な回復魔法は存在しない、だから熱心な彼女は勉強した。

 

それが召喚した布類を使った止血方法だ、止血箇所も暗記している。

 

治療風景を1人が心配そうに見守り、もう1人は呆然と見ていた。

 

何が起きたのかはある程度わかる、最上の膝につく痛々しい擦り傷を見れば。

 

1人の面倒を見ながらもう1人を庇うとなれば、彼女の大怪我も納得だ。

 

 

浜鳴「しゃ、謝罪な……ごめん!! 私のせいで、優梨がこんな……!」

 

下鳥「大丈夫よ! 急所をやられなかったわ、自分のせいだなんて考えるのはやめなさい」

 

木之実「血、針、刺し傷……足、怪我? 優梨が?」

 

浜鳴「再度上の空なう……もう!! ボス級戦闘なう、

ボケっとしてないでしっかりしてよ美羽!」

 

上田「……よし! 終わったよ、これで歩くくらいなら大丈夫そうだね」

 

下鳥「助かったわ利奈、ありがとう。 私は後衛の方へ行くわ、ごめんなさいね」

 

ハチべぇ「治療魔法を受けに行くんだね優梨、しばらく針の雨を降る様子は無い、

無理をして走らなくても、徒歩で安全に後衛に合流出来そうだよ」

 

浜鳴「えっ、優梨後退なう? 私たちはこのまま進めばいいの?」

 

下鳥「悪いけど美羽のことは頼んだわよ、何かあったら念話で連絡してちょうだい」

 

 

優梨はそう言うと、持っていた2本の鞭を強化し棒状にする。

後は雪上のスキーの容量で、鞭を支えにしながら歩いて行った。

 

 

魔男との戦闘中にこんな閑話を挟んでしまったが、利奈は一切気を抜いていない。

 

見れば、魔男はその場から動く事無くただ時を刻んでいる……その間は一定感覚だ。

 

魔男自身が動かないとなれば、代わりに攻撃する使い魔がいてもおかしくはなさそう。

 

だがいない、この場にいるのは魔男だけ……攻撃する気が無いのだろうか?

 

……いや、それは無い。 そこまで攻撃の意思が無いのなら、こんな残状にはなっていない。

 

主を守る使い魔がいないとなれば、それ程までに主が強いという事になる。

 

まだ何か、魔男にはやっていない行動があるのだろうか?

利奈が彼女に再び会ったのは戦いの中でそんな事を考えていた最中だった。

 

 

月村「利奈! どうやらあなたは無事だったようね!」

 

 

開いた本を脇に抱えて芹香が走ってきた、明らかにページ数が減っている……頬に切り傷。

 

利奈はよくわからない違和感と運で無傷で済んだが、どうやら彼女は魔法で凌いだらしい。

 

流石は頭の回転が早いだけある、そのまま彼女は利奈たちの元へ来る……はずだった。

 

 

月村「さっき、女王が足を怪我して歩いて行くのを見……きゃあぁっ!?」

 

上田「えっ!? なっ、何どうしたの芹うわあぁっ!?」

 

浜鳴「正面衝突なう……ってちょっと!? 大丈夫なのそれ!?」

 

 

文字通り正面衝突だ、芹香が急に予想外加速したかと思えば利奈にぶつかってしまう。

 

芹香が自ら加速したようには見えなかった、まるである点を境に切り替わったかのようだ。

 

最上も美羽の手を引っ張り見に来てくれた、前の彼女なら光景を見て笑っていそうな者だが。

 

 

上田「痛た……だっ、大丈夫! 思いっきりぶつかっただけで対した事無いよ」

 

浜鳴「見るからに対した事なさそうに見えないんだけど、心配不解消なう」

 

月村「目に見える程にひどい怪我は無いわ、無駄な心配をするのはやめなさい」

 

上田「それにしても、芹香の意思で走るのを早めたようには見えなかったんだけど……」

 

月村「私の意思じゃないわ、その唐突に早くなるような異変が使い魔の代わりかしら」

 

 

そんな芹香の言葉を聞いた瞬間、ふと利奈の頭の中で1つの可能性が浮かんだ。

 

魔法使いの直感という奴だ、先ほどのハチべぇの言葉と混ざって1つの考えが出来上がる。

 

まだ次の針の雨が来るまで時間はあるだろうとハチべぇは言った、利奈は行動に出る。

 

 

月村「あっ、ちょっと利奈!? 急に走ったりしてどこ行くのよ!?」

 

上田「思いついた事があるの! ハチべぇもまだ時間があるって言うし、ちょっと見てくる!」

 

浜鳴「置き去りなう!? 置いて行かないで! ほら、置いて行かれる美羽も行こう!」

 

木之実「……ん、え? 何? あぁ、またボケっとしてたの私? ごめんごめん」

 

浜鳴「お目覚めなう、やっと起きてくれたよ……私たちだけになる前に早く行こうよ」

 

 

利奈が向かった先は丁度芹香が急激な加速をした辺り、慎重に動きながら模索をした。

 

そして彼女の考えは正しいと決められ、同時にそれはとても厄介だと息を飲み込む羽目になった。

 

何がわかったかって? 主がいる結界の最奥の床は、

規則正しいタイル状になっているが、そこに答えがある。

 

 

浜鳴「到着なう! あれっ、ここって月村さんが急に早くなったとこ?」

 

月村「床に埋め込まれた時計……やたらと針の進み方が早いわね、壊れてるのかしら?」

 

上田「ううん、多分これが答えだよ。 芹香の走る早さが急に早くなった原因」

 

木之実「……やばい! 言ってる意味が全くわからないんだけど私!? マジウケる!」

 

月村「放心状態だったからでしょう、これが答え……なるほどね? 言ってる意味がわかったわ」

 

木之実「ちょ、そっちもそっちで理解するのが早くない?」

 

月村「少し考えればわかる話よ、あなたももう少し頭を使いなさい」

 

木之実「なっ……!? 違うわよ! 考えるのは面倒なだけだもん、何言ってんの?」

 

上田「今は喧嘩してる場合じゃないと思うなぁ……」

 

 

その後もしばらく芹香と美羽は言い合ったようだが、結局芹香が論破してしまった。

 

 

それよりも、利奈の言っている『答え』とはどういう事かここで説明しておこう。

 

今利奈が見ている早く進む時計、この時計が示す意味合いとは何なのか?

 

答えは簡単だ、この床の上では()()()()()()()()()()()という事になる。

 

芹香が走ってる所でこの床の上に入ってすぐ出て行ったのが加速の原理だろう。

 

もっと細かく追求するなら、利奈が先ほど見た遅く落ちる針も関係してくる。

 

あの場面は魔力などの影響で針が落ちるのがゆっくりになっていたのではなく、

利奈の方が床の時計に影響されて早くなっていたという事になる。

 

要するに床の時計は、魔法使い側にのみ時の影響を与える継続的な罠なのだ。

 

利奈たちは目撃していないが、恐らく加速の逆もあるだろう。

 

ほら、しばらくすれば利奈の想われ人から念話が聞こえてくる。

 

 

清水((前衛のみんな、状況が落ち着いたぜ! そっちの状況はどうだ?))

 

軽沢((参ったねぇ……急に針の落ちる早さが早くなったもんだから、何本か刺さってしまった))

 

清水((やっぱり遅行のパターンもあるのか……厄介だな、他の連中の方はどうだ?))

 

チョーク((僕らの方は大丈夫だよ、桜色の魔法少女が魔法で家具の屋根を作ってくれたんだ!))

 

根岸((結局何人か怪我しちゃったけどね……持ち運べるのも作ったから、こっちは大丈夫だよ))

 

 

利奈と芹香を除いた前衛はどうやら無事だったようだ、

厚手のテーブルを屋根の代わりにしたらしい。

 

知己の魔法はこの魔男との戦いでは優秀な方だ、屋根を作れば早かろうが遅かろうが関係無い。

 

何故って? 急な加速で転んだり、急な遅行で針が降るのが早くなっても

屋根さえあればどんな状態になったとしても刺されないからだ、上からだけなら確実。

 

 

チョーク((そういえば、利奈と芹香はどこに行ったの? 僕の近くにはいないみたいだけど))

 

上田((あぁ私たちも大丈夫だよ! 芹香もいる、他には浜鳴さんと木之実さんがいるよ))

 

清水((その辺の話は後衛にいった優梨から聞いている、かなりボロボロだったようだな……))

 

木之実((……ねぇ、うちのリーダーは無事? 前坂数夜は無事なの? ねぇ!))

 

浜鳴((場違いなう!? 聞く事がさっき念話で話したのと別だよ美羽! 優梨は大丈夫?))

 

橋谷((ち、治療しているのは私ですが……えっと、うぅ……清水さん))

 

清水((ん? あぁ優梨は順調に回復してる、酷かったんで扉の外にいるがな))

 

浜鳴((良かったぁ……安心なう、かなり無理してたみたいだけど大丈夫なんだね))

 

木之実((優梨は無事だったんだね、ありがとう。 それで、後衛の方はどうなってるわけ?))

 

清水((オイオイ、キレ気味になるなって! お前の言いたい事はわかってるぞ、頼むぜ))

 

前坂((……後衛の方では俺が全体に『防御』の魔法をかけた、針は全部跳ね返している。

あまり俺に執着するな美羽、今度は利奈中心とした3人に従って行動しろ))

 

木之実((リーダー!! 無事だったんですね、後衛を守り切るなんてさすがです!!))

 

浜鳴((執着なう……とにかく、リーダーも無事なんだね))

 

清水((戦うのに支障が出るほどの怪我をした奴はみんな扉の外に出たぜ。

俐樹も扉の外だ、俐樹を中心として治療を進めているみたいだな、後))

 

 

気弱な俐樹が大勢をを引っ張れるとは思わないが……彼女も成長している?

 

まぁ実現出来ているということは、誰か他の人物が彼女を助けてくれているのだろう。

 

だが戦える魔法使いが減ってしまったのも事実、またしても早急な討伐が必要になる。

 

そもそも魔女や魔男長引いて良い事は無い、あるのは魔力の無駄な消費だけだ。

 

さらに海里が話を続けようとしたところで、ハチべぇが声を上げた。

 

 

ハチべぇ((気を付けて! 黒い魔力が高まっている、もうすぐ針の雨が降りそうだよ!))

 

 

その声を筆頭に、結界にいる魔法使いたちの警戒度は一気に高まった。

 

もうすぐ次の針の雨が降る……まともな対策が完成するまで、しばらく凌がなきゃいけない。

 

何を思いついたのか、利奈は3人に足元に気をつけて自らの周囲に来るよう咄嗟に呼びかけた。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

 

召喚したのは赤々とした2本の棍、2つを結合して高く掲げた。 続いて連続で魔法を使う!

 

 

上田「アロンジェ・クグロース!!」

 

 

利奈の持つ長い棍は赤い光を放ったかと思うと、長さや太さを変えて変形し始めた!

 

上の方の棍は厚みを残した円盤となり、下の方の棍はガラスに突き刺さって設置される。

 

ハチべぇが予告した通り、程なくして容赦無い針の雨が降り注いで来た!

 

利奈が咄嗟に作った棍の傘、木材に突き刺さる音が何度も何度も聞こえてくる。

 

まるでキツツキが大量にいるかのような音……しばらくして、針の雨は再び止んだ。

 

 

月村「……対応が早かったわね利奈、分厚い木材なら長く持ってくれると分かったのは収穫よ」

 

浜鳴「おぉ~~!? 脅威回避なう! やっぱり危ないなぁ針の雨……お手柄なう!」

 

木之実「やっぱうちらの魔法じゃ対処出来そうに無いなぁ……

ていうか、リュミエールのエースいるんだし気を張らなくっても別にいいか!

 

 

確かに回避出来そうな魔法は美羽と最上には無いが、美羽は他に言い方があるだろうに。

 

芹香は『辞書』を開いていて、魔法を使おうとしていた意思を伺う事が出来る。

 

結局利奈の方が早かったから使わず終いだ、魔力を無駄にしなかっただけ良いだろう。

 

 

先を見ればまだ遠い、魔男は微動だに動こうともせずにただ時だけを刻んでいる。

 

1番近いのはチョークと知己がいる方の、前衛の魔法使いたちだ。

 

最初に魔男に挑むとすれば彼女らだろう、安定して屋根を補充できるのはこの場では強み。

 

チョークは利奈の方を見て微笑んだ、その両手には既に色の無いパイプ椅子がある。

 

どうやら、利奈を含めた前衛より先に魔男へと挑むつもりらしい。

 

強化や分析等の小さな魔法を使い、先頭にいる魔法使いが合図をしたなら……

 

 

一同は加速も併せて走り出した! 利奈たちも何かあったら援護出来るよう後を追いかける!

 

 

距離は元からじわりじわりと詰めていた、魔男と前衛はそんなに遠い距離でもない。

 

初手に走りこんだ抹茶色が、中身が詰まったジュースの瓶で魔男を頂点から殴りつけた!

 

微動だにしない魔男は微動だにするわけがなく、素直に打撃を喰らってくれる。

 

殴打による強い衝撃で瓶は粉々に砕け、中に入っていた液が魔男全体にかかった!

 

炭酸のような音を立てて泡を立てる、淡い光に突かれ魔男の身体はぎりりと軋む。

 

抹茶の炭酸なんて飲料は飲みたくもないが、ここでは意味合いが違ってくる。

 

要するに魔男に対するデバフ効果だ、これで機械質の身体にダメージが通り易くなる。

 

 

殴打が決まったのなら、抹茶色の魔法少女は新たに武器を召喚して突っ込む!

 

そのカラフルなメイスの頭は、まるで家庭でもよく見かけるようば電動ミキサー。

 

魔法で蓋を空ければ、魔力を含め拡販された中身の液体を撒ける機能付き。

 

 

突っ込んで行くのは彼女1人だけじゃない、3人の魔法使いが後に続く!

 

 

若草色の魔法少女はタンバリンを片手に、秋を思わせる魔法の光を纏いながら奇襲をかけた。

 

ほぼ同時にウサギと猫を足したような大きな獣が魔男を襲う。

全体は地味な羊羹色、太めの縞模様がチシャ猫を思わせる。

 

後に続くのは知己とチョーク、2人ともパイプ椅子を持って前衛として戦う。

 

家具の魔法なんて、チョークは初めて扱う魔法のはずなのに、

まるで元からその魔法を使っていたかの様な模倣を魅せた。

 

知己も隣で驚いている、目が合おうともただチョークは無邪気な笑みを見せるだけだ。

 

 

その場から微動だにしないものの、対する魔男も何もしない訳じゃない。

 

ボタンかと思われた3つの突起は割れ、ゼラチンで固められた様な不気味な針が大量に出て来た。

 

巨大な針は刃にもなり、多様性で魔法使いを傷つけようと不規則にその見た目を変えた。

 

行動が読めない……! 何せ手数が多過ぎて人間の域じゃない、盾役がいないと辛い位だ。

 

盾の役割は知己が担う、チョークもそれを真似して知己の助けとなった。

 

5人がかりでも押され気味、後衛からバブや援護射撃が来るがそれでもキツい。

 

知己が何度も呼び掛けているのがなんとも悲痛だ、聞こえてるのかさえわからない。

 

 

根岸「やめて! 私知己だよ、わからないの!? お願いだから……キャッ!?」

 

チョーク「ダメだよ、声は聞こえてるみたいだけど……まるで感情を感じないよ!

今は戦うのに集中した方が良い、それだけ今は危ない状況なんだ!!」

 

根岸「感情が……? わっ砥鳴さん!? クロウステト・セッメーガ!!」

 

 

知己は何かを見たのか、咄嗟にでかでかとした桐箪笥(きりタンス)を空中に召喚した!

 

すぐに後、待たずして分厚い桐箪笥の背に大量の針が貫通はせずとも強く突き刺さる。

 

どうやら紗良の事を助けてくれたらしい、桐箪笥は間に割り込んで身代わりとなったのだ。

 

 

これで終わりか? いや、機動力がある者はこれでは終わらない!

 

 

紗良は片足で引き出しを開けたかと思えば、片手を着いてタンスの上に乗った。

 

そのまま魔男の多数の腕を駆け下りる、器用にバランスを取りながら本体に向かって一直線!

 

途中他の針による邪魔が入ったが、抹茶色の魔法少女が酸を撒いて動きを鈍らせた。

 

要するに千代子の魔法だ、度を越した最早薬品同然のジュースを妨害目当てで振り撒いている。

 

おかげで紗良は針の根元に辿り着いた、軽く飛び斬撃を避けて突っ込む!

 

 

研鳴「斬り裂け! ウィンターナイトフィーバー!!」

 

 

元は秋の魔法を使っていたのだが、攻撃を目当てに別の魔法に切り替える。

 

彼女が持つ魔法のタンバリンは音を鳴らしながら魔力が蓄積され、半円の刃を生み出した!

 

片手を着いての側転で最後の針の攻撃をかわすと、根本から魔男の腕を斬り落とす!

 

響いたのは目覚まし時計の鳴るような断末魔……ふと、チョークが苦い顔をした。

 

言葉の意味がわかるのだろうか? そうだとしても、悲鳴の内容なんて知りたくもない。

 

 

里口((やった! これで魔男の猛攻が少しは弱くなるんじゃないかな?))

 

研鳴((いいねいいね! 良い感じにテンション上がって来たよ!!))

 

チョーク((うん、2人は上手い具合に連携を組んで他の腕も……ってうわ!? 大変だ!!))

 

 

見れば、響夏が苦戦を強いられていた……その姿は鋭い刃を持つ獣、食いちぎる方針らしい。

 

だが魔男も思考出来ない訳じゃない、特にボス級となればその強さは一段と上がる。

 

何が起きたのかって、要するに響夏に対する魔男の攻撃が全て()()()()()()()斬撃なのだ。

 

その漆黒の刃の硬さは見た目ではわからないが、

下手に噛もうとすればその口は勢いで切れてしまうだろう。

 

魔男による斬撃の手数の多さを見れば、姿を再び擬態させる暇が無いのは明らかだ。

 

 

軽沢((ここまで余裕が無いのは久々だねぇ……ぅわ!? ちょっと、あれは流石にマズいぞ!))

 

 

余裕が無い状況なのに、何故かまだ余裕がある様に聞こえるのは何とも彼らしい。

 

さて、響夏が言うあれ……唇の魔女の時に少し似ている、

漆黒の刃を編み上げた後に繰り広げられる独特の攻撃。

 

その見た目はまるでイソギンチャクだ、パラサイトのごとく刃を開いて食らいつきにかかる!

 

 

軽沢「っ……! みんな、ごめ」

 

チョーク「こっちだ、(ttmrhrs)!!」

 

軽沢「なっ!? ちょ、白? 白いの! 何をしてんだ!!」

 

 

……刹那、突然チョークが色の無い桐箪笥に乗り魔男に向かって大きな声をぶつけた!

 

後半は意味を聞き取る事が出来なかったものの、魔男の注意を引く事には成功したらしい。

 

その動きは硬直してしまっている、人間で言えまるで動揺でもしてしまっているかのようだ。

 

そのままチョークは桐箪笥を魔男にぶつけた、魔男は大きく仰け反ってさらにその動きを鈍らせる。

 

宙返りに近い形での飛び降り際、チョークは響夏の方を顔も向けて見た。

 

響夏はその意味を魔法使いの感性ですぐに察する、やるべき事はやろうとしていた事の再開だ。

 

瞬時に鳥のような獣になって空を飛んだかと思えば、牙を生やした獅子となる。

 

響くのは百獣をもひれ伏すような吠える声、黒色の根元に噛みつき魔力を込めて引きちぎった!

 

響いたのは目覚まし時計の鳴るような断末魔……知己は既に、涙目だ。

 

 

軽沢「ゔえっ!? ぺっぺ……」((うぅ、錆びた金属を舐めたみたいな味がした))

 

里口((うわっ、噛んだ時の味の感想なんて言わなくて良いよ!? どう考えても刺激的だって))

 

チョーク((とにかく後1本で魔男を無力化出来るよ、みんなもうひと踏ん張りだ!))

 

 

そう言ってチョークは魔男の方が見た、()()()()()()()()()()()()()()

 

秒を3つ刻んで魔男のヒトにも見える針は動いた、表情を作れそうなのは3つの目だけ。

 

その瞼が白目を狭めたのだ、それでも感情を感じないとなるとこれは本能か。

 

不意を突いた突如の発光、チョークは咄嗟に目を瞑ったが……他者の目は眩んだ。

 

刹那、チョークたちは強い衝撃波を浴びた! 追い打ちのように針の雨が降る。

 

 

 

 

打撲と衝突による激痛を感じると共に、誰かの呻くような声が長く聞こえたような気がした……。

 

 

 

 

この針の雨も、もう1つの前衛は利奈による棍の魔法で先程と同じように凌いだ。

 

が、突然の強力な発光に一同の目は眩んでしまっていた。 慣れが早いのが魔法使いの身体。

 

回復したのならすぐに駆け付ける、だが急ごうとしてもやはり途中の床に手間取る。

 

 

それでも抗いながら到着した先……その光景は、大惨事と呼ぶのに相応しい。

 

 

 

 

全身に針を浴びて重傷の獣、淡い魔力の光を放って縮み、1人の魔法少年に戻った。

 

 

 

 

上田「酷い……あっ!? チョーク!!」

 

根岸「ぇ、え? なっ、何が起こったの?」

 

月村「いいから! 魔男から一旦距離を置きなさい!!」

 

 

何が起きたか分からないとなれば、芹香の命令口調の指示は正しいと言えるだろう。

 

芹香の声を筆頭に、混乱が混じりながらも前衛一同は後ろに下がって行った。

 

()()()()()()()()()()()()()()チョークを何とか運ぼうとしている利奈と、

その有り様を見てショックを受け呆然とその場に立ち尽くす知己を除いて。

 

 

月村「重傷者!? 攻撃を全て庇ったようね……って利奈! 早くしなさい!!」

 

 

芹香が駆け寄る先、近くで改めて見たチョークの容態は凄まじい物だった。

 

既に針は溶けるようにして消えたらしいが、所々に刺し傷があり血が滲み出ている。

 

下手に動かしたら衝撃があれば血液が益々流れる位の深い傷だ、利奈が手間取るのも無理はない。

 

 

根岸「う、そ!? こ、れ、博師……君が?」

 

上田「そうだ、知己さん! えっと、タイヤ付きのベットは作れる? 病院にあるような」

 

根岸「……せ、セッメーガ・クラヴァーチ」

 

 

突然の利奈の思い付きを受け入れ、知己は手際良く桜色の魔力を使いベッドを作り出した。

 

行動の反面で返事をする気力は無かったらしく、呪文を唱える声には気力が無い。

 

親友の手によって重傷が出た……知己にとってその事実が、相当ショックだったのだろう。

 

 

方法が見つかる前の段階でも、一旦下がった前衛一同は利奈の加勢に来てくれていた。

 

皆で手分けをしてチョークを慎重かつ急いでベッドに乗せると、そのまま魔男から距離を置く。

 

そして、前衛の魔法使い達は引き下がるのに必死で気がつく余裕が無かった。

 

 

今までチョーク達が与えたダメージ、その大半が()()()()()()()()()()()()事に。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

上田「それ、確か芹香の『辞書』のページ……え、ちょっと!?」

 

 

 

清水「……前衛の中で、重傷者が出たそうだ」

 

 

 

月村「察しが早いわね、つまりそういう事よ」

 

 

 

根岸「……博師君を、おねがい!!」

 

 

 

〜終……(36)儚げな裏で友情の行末[中編]〜

〜次……(37)儚げな裏で友情の行末[後編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




久しぶりのうえマギとなりましたが、いかがでしたか?

泡沫の魔男はどうやら、チョークたちの攻撃を無かった事にしてしまったようです。

また1から攻撃のし直し、果たして倒しきれるのだろうか?


そういや今日はひな祭り、今年も雛人形が屋根裏からやってきました。

金平糖が好きだと言っていた姉妹も、今となればカロリーが高いと食さない現状。

幼い頃は「灯りを付けましょ爆弾に」と歌ったりしてふざけたものです。

成人ともなると、急に19年の間に問題が見えてしまうもので……

えぇ、姉妹にふざけた方が正しい歌詞だと思われてしまったのは後悔しかない。


それでは雑談もこの辺にして、また次回お会いしましょう。
せめて今年は去年のような失敗がないよう、細々とやってく方針です。


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(37)儚げな裏で友情の行末[後編]


午前0時にこんばんは、だいぶ昔の調子が戻ってきたような気がするハピナです。

いや、多分戻ってないです……戻ったと言えるのなら絵も描ける筈。

まだそこまでは戻ってないですね、先が思いやられる……精進せねば。

今回は元々前後編だったお話が引き延び、3話構成になってしまった所の最後。

前衛たちの様子が気になる所ですが、今回は別の視点から始めましょう。

言葉にするなら『一方その頃』、そんな場面から物語の幕は再度上がります。



 

前衛の魔法使いたちが先陣を切って戦う一方で、魔男との戦闘で度が重い怪我人が出た事は、

念話を通じて後衛の役割を持つ魔法使いを指南する魔法少年にも伝わっていた。

 

 

橋谷「なっ、なんでしょう? 目も眩む様な……今の、激しい閃光」

 

中野「あれ、どうしたんだ海里? そんな顔して、驚くには過剰な気がするけど」

 

清水「……前衛の中で、重傷者が出たそうだ」

 

前原「重傷者? 聞いた感じ重要視すべき情報な割りには、誰とは分かってないんだな」

 

清水「どうやら、前衛の方は俺らが思った以上に厳しい状況になっているらしい」

 

 

考え込む海里の表情には、隠し切れない不安が滲み出ている……

 

離れた場所で戦う同士の苦戦は、一同に焦りと心配を生み出した。

 

その中には、今回自ら後衛を希望した絵莉もいる。

 

 

篠田「……あたし、利奈たちが心配だから加勢に行くよ!」

 

 

融合体の強さに前衛に関する情報量の少なさ、不確定事項の多さに絵莉は痺れを切らした。

 

 

清水「っあぁ!? おい、待て絵莉! 考えもしないで突っ込むのは危ねぇぞ!?」

 

篠田「考えてる時間があれば助けに行くもん!!」

 

橋谷「まっ、待って下さい! 気持ちは分かるけど、単独行動は、危ないです!」

 

 

前だけを見て1人突っ走る絵莉を俐樹が慌てて追いかける、

俐樹について行ったハチべぇが突然2人に呼びかけたのはその直後だった。

 

 

ハチべぇ((絵莉! 俐樹! 危ない、上から何かが来るよ!!))

 

篠田「えっ、上?」

 

橋谷「ぅ……え!? ロンサム・アンヴィー!!」

 

 

絵莉より先に、ハチべぇが言い示す物に絵莉は気がついた。

彼女の行動に早さは無い、ただ持っていた植木鉢を突き出す。

 

だが俐樹の魔法はそれだけでも充分だった、急激に植木鉢から伸びた蔦は絵莉の腹を括る。

 

そのまま後衛に引く、それは間一髪の回避……前を見れば、一同を遮る強固な傷害が2つ。

 

 

橋谷「だっ、大丈夫ですか!?」

 

篠田「大丈……ぅ、うわあぁ!? さっき倒した奴が2体も出てきたあぁ!!」

 

橋谷「融合体が、2体も!? でも、融合体はさっき、

扉を潜る前に、倒した筈じゃ……きゃっ!?」

 

 

突如の降臨に魔法少女たちが驚愕しようとも、融合体は容赦無くその不恰好な腕を振り下ろす!

 

本来なら魔法少女でもそれなりのダメージを受ける筈だが、そのダメージは通らなかった。

 

ほら、前を見れば魔法使いたちが攻撃を受け止めている。

 

 

清水「ちょ、オイ!? お前まださっきの怪我完治してないだろ! 無理すんな!!」

 

下鳥「無理はしなきゃいけない時があるのよ! 聞いた感じ、かなりマズイ戦況じゃないの?」

 

前坂「俺が『防御』の魔法で軽減してなきゃ、マズイのはお前だがな優梨」

 

 

そんな長たちの会話の傍、数夜の魔法の効果も付け加え2人がかりで攻撃を弾き返した!

他の後衛にいる魔法使いも後に続く、攻撃を弾いただけじゃ融合体は倒せない。

 

 

 

 

だが……これでは、後衛の魔法使いたちは先に進めない。

 

今までいなかった使い魔を融合体として召喚する辺り、合流させたくないという魔男の意思が見え隠れしている。

 

……事態は想像以上に最悪だ、前衛の魔法使いが全員やられてしまう可能性までもが見え隠れし始めた。

 

 

 

 

一方魔法で創られた巨大な机の下、懸命の治療が行われようがチョークは目を覚まさない。

 

知己の限界も近いらしく、千代子や紗良の励ましが無かったら正気を失っているだろう。

 

それは即ち孵化への直結、もう時間は残されていない……打てる手立ては1つがやっとだ。

 

 

月村「……そういえば、魔男が変に濡れていたのは貴方の魔法が原因かしら」

 

里口「私? うん、魔男を弱らせようと思って魔法で作ったジュースを振りかけたよ」

 

砥鳴「色が完全にヒトの飲み物じゃなかったけどねぇ……あれはもう、ジュースじゃなくて何かの薬だよ」

 

月村「貴方の作るジュースの効果は、対象を弱らせるだけ?」

 

里口「まだまだあるよ! 弱らせるのももちろんだけど、逆に強くするのもあるかな」

 

月村「……思い付きだけど私に考えがあるわ、その強化ジュースを1つ私に渡しなさい」

 

里口「強くするジュース? いいよ、予め作っておいたのがあるからあげる」

 

 

思考の末に芹香は唐突な要求を示したが、千代子はすんなり魔法のサイダーを差し出した。

急な要求に疑う様子を千代子は示さない、彼女が《騙されやすい》と言われる由縁だろう。

 

 

月村「瓶入りという事はジュース関連ならなんでも作れそうね、コップは可能かしら?」

 

里口「え、コップ? 作れるけど……飲むの!?」

 

月村「そんなわけないじゃない、頭が固いわね」

 

 

辛辣な言葉を飛ばしつつ、芹香は千代子からコップに入ったサイダーを受け取った。

 

炭酸の泡が浮かんでは弾け、その空気から爽やかさを感じ取れる程の新品。

 

宣言通り飲む事は無く、芹香は魔法少女衣装のポケットから折りたたまれた紙を取り出す。

 

 

上田「それ、確か芹香の『辞書』のページ……え、ちょっと!?」

 

 

それが彼女の言う考えだったのか、芹香はためらいなくジュースの中に紙切れを浸した!

コップ入りきらない分は指で押し込むなりして、全体をまんべんなく浸す。

 

 

月村「何か問題かしら? 話を聞いた限り、効果は()()()()()()()って予想しただけよ」

 

 

……さて、しばらくすれば芹香の予想通り、コップの中の液体は泡立って淡い輝きを帯びた。

 

中身を取り出せば不思議と濡れておらず、開けば抹茶色のインクで追記がいくつかされている。

 

取り出した後のサイダーは光を失い、炭酸の泡を放ちながら蒸発し消えていってしまった。

 

 

月村「里口さんと言ったかしら、魔法陣に関しての知識は持っている?」

 

里口「魔法陣? は、作った事無いかな」

 

月村「妥当だったようね、魔法陣を作りそうな魔法には見えなかったし」

 

 

芹香のキツい言葉に千代子は苦笑いで若干のショックを受けたが、

残念ながらそれが事実なのには変わりない。

 

折りたたまれたページを開いて伸ばせば、折り目さえキレイに無くなり元に戻る。

 

そして自らの魔力を持っているページに込めたのなら、芹香は魔法の呪文を唱えた!

 

 

「第二章! 滝の巻「探求」! 対象は魔男!」

 

 

その後魔法が発動して持っていたページが橙色に溶けると、柔らかな水流となって意思を持つ。

 

芹香が魔男の方を指差すと、芹香の腕を纏っていた水流は

微動だにしない魔男に向かって一直線に飛んで行った!

 

魔男の気に触れぬよう全体を膜となって覆ったのなら、やがて1点に集まり魔力を残して蒸発。

 

 

淡い橙色に光る箇所、そこは折れ曲がった人体を象る長針の心臓部。

 

 

砥鳴「おぉ!? 魔男の胸が、橙色に光った!!」

 

軽沢「うん、君の魔法が通じなかったから気持ちは分かるけど、

紗良はもうちょっと落ち着くべきなんじゃないかな」

 

里口「魔男の身体の中は機械みたいに入り組んでて、

調べる系の魔法は通じにくいって言ってたんだっけ」

 

上田「じゃあ、魔男のあの光っている部分は……魔男の弱点かな」

 

月村「察しが早いわね、つまりそういう事よ」

 

 

利奈の理解の早さに芹香の表情は緩んだが、その微かな笑みは一瞬にして終わった。

 

 

月村「問題は()()()()()()()()()()()()()()という事よ、倒し切れないわ」

 

軽沢「『倒し切れない』かぁ、何だか物騒な事を言うもんだねぇ」

 

月村「とぼけないでくれるかしら? 貴方も見たでしょう、

 

無傷同然の魔男の身体、まるで攻撃を無かった事にされたような有り様。

 

相当対策を練らなきゃ、逆に返り討ちにされるわよ? もっと頭を使って考えてちょうだい」

 

 

芹香の言う通り、生半可な攻撃を長々と続けていても無駄なのは前衛一同先ほど思い知った。

 

また下手に行動しようなら、チョークのような重傷者が出ないとは言い切れない。

 

だが突破口が出来たのも事実、状況は平行線なのか変化が出たのか……それは誰も分からない。

 

 

要するに、()()()()()()()()()()()()必要があった。

言葉にしてしまえば簡単だが、それが出来るのは数少ない。

 

 

上田「私、行くよ! 魔男の弱点は丸見えだもの」

 

月村「……利奈が?」

 

里口「上田さんが行くの? でも、この場にいるメンバーで上田さんしか行けそうな人いないもんね」

 

砥鳴「うん!! 上田さんの力があれば、あの魔男を倒せるかもしれない!!」

 

月村「待ちなさい利奈! まさか、貴方勢いで言ってないでしょうね?」

 

 

利奈は早速自分の武器である棍を2本用意したが、 その前に芹香が利奈を止めた。

 

利奈は全てを背負おうとしている、1度しかないチャンスや

チョークと知己の知った上で、全ての責任を。

 

芹香が納得する筈も無い、それは余りにも危険な賭けだ。

 

 

上田「違うよ芹香! 単純に、チョークをこんなにしたのが許せないんだ」

 

月村「……言わせて貰うけどそんなの建前でしか無いわ、他の安全策を考えるべきよ」

 

上田「チョークだけじゃないよ! 知己ちゃんだってこんなに苦しんでる、博師さんもそうだよ」

 

月村「いい加減にしなさい! 貴方がしようとしてるのは無茶でしかないわ!」

 

上田「でも! これしか方法は無い、これ以上誰も傷付いて欲しくない!!」

 

 

芹香が何と言おうが、利奈の意思は曲がる事を知らなかった。

 

だが芹香は口を止めない、『自分がどうなろうと勝てれば良い』……

利奈からそんな考えを感じ取っていたからだ、自身を無視する『自己犠牲の考え』だ。

 

しばらく2人の意見のぶつけ合いは続いたが、それは意外な形で崩れる事になる。

 

 

根岸「……ナチュラル、ハイタイムだ!」

 

里口「ナチュラルハイタイム?」

 

根岸「今思い出したの! 博師君の必殺魔法、悪い事を無かったことにする魔法」

 

 

この知己の思い出した情報には、流石に利奈と芹香も耳を傾けた。

知己が言う魔法、確実に今回の魔男と深く関わっている。

 

 

根岸「ナチュラルハイタイムって、確か……

 

悪い事を無かったことにした代わりに、その場所が一定時間脆くなるデメリットがあった筈。

 

魔力の消費量だって多いから、魔法を使った分だけ待ち時間が長くなるの」

 

月村「脆くなるデメリット……!? そんなの、全身に施してしまったら」

 

上田「魔男の身体全体、しばらくは普通より脆くなる! 決まりだね、芹香」

 

 

確かに知己の言う事が正しければ、利奈の突撃は大幅に成功率が上がる。

 

……が、同時に芹香が止める事にも限界が来てしまった。

 

利奈はどうしても行くつもりらしい、何かもどかしいそうな芹香に利奈は一言告げる。

 

 

上田「終わり良ければ全て良し、だよ! 私だって、生半可な考えでこんな事言ってないしさ」

 

 

それは結果を重視した芹香の考えに基づく言葉、それがこんな所で仇になってしまった。

 

当てはまっているが納得がいかない、そんな考えの不一致に芹香の脳内は錯綜した。

 

一言告げた利奈の笑みが強く残る……これが利奈なりの気遣いだ、

純粋なまでの彼女の優しさは、時に自己を犠牲にする残酷さがある。

 

 

利奈が自己犠牲を選んでしまったのは自分のせい?

芹香は不安を募らせ、喧嘩した事を深く後悔するばかりだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

魔男にはもう針の雨を降らす余裕は無い、その力は融合体を2体も生み出すのに使ってしまった。

 

それ以前にデメリットを含めない誤算の回復により、魔男の身体は軋んでいる。

 

それでも魔男は無情に時を刻み続ける、そこにヒトとしての考えは見受けられなかった。

 

無常はヒトの死も意味している、現状ヒトとしての博師は死んでいるも同然。

 

その様子はまるで機械のようだ、身体も心も成れの果ては時計仕掛け。

 

 

 

 

一定の間隔で刻まれていた魔男の身体、それを崩す要因にになったのは招かれざる客の猛攻。

 

 

 

 

里口「これでもくらえ! プリンス・ラパートの涙!」

 

 

突如魔男に向かって投げ込まれたのは、尾を引いた手の平程のガラス玉だった。

 

振り払おうとゼラチン質の針で叩いたらしいが、尾が切れたと同時にガラス玉は弾ける!

 

中に入っていた炭酸を含んだ液体、またしても彼女の作った液体が魔男全体にかかった。

 

 

里口((さっきのは柔らかくする効果だったけど、これは遅くする効果があるから動きが鈍る筈だよ!))

 

軽沢((そうみたいだねぇ、そんなに鈍くなるなら僕が攻撃しても大丈夫かな?))

 

砥鳴((いやいや、ここは上田さんに任せて私たちは魔男の触手? の動きを封じるよ!))

 

 

砥鳴「惑わせ! オータムデイタイムフィーバー!」

 

 

紗良がタンバリンを片手に若草色の魔法を使ったのなら、

紅葉や銀杏の葉の幻が舞うのと共に残像を身に纏った。

 

それは千代子と響夏も同じだった、3人は魔男を撹乱させる役に回ったらしい。

 

千代子は瓶を振り回しながら走り回り、響夏は鵺となって尾の蛇を揺らしながら空を掛け回った。

 

時の流れが狂った空間が点々とあるのに、こんなに動き回って大丈夫なのか?

 

そんな風に思うかもしれないが、既に芹香によって手は打たれていた。

 

 

ほら、床全体を眺めれば所々が橙色に輝いている。

 

どうやら、芹香が広範囲に先程の探求の魔法を再度一定範囲に使ったらしい。

 

器用な事に、輝きの強さで促進か抑制かを見分けられるようにしている。

 

 

今度も魔男の針を減らす戦法で戦っていたが、今回は魔法使い達の人数が違った。

 

 

月村((突っ込むわよ! 道を開けなさい!!))

 

木之実((ちょっと!? すごいスピードなんだけど大丈夫なのこれ!?))

 

上田((大丈夫! 私たち飛び慣れてるから!))

 

浜鳴((気分爽快、未体験なう!))

 

月村((……貴方たち、本当にしっかりしなさいよ?

この作戦には、『ロープ状の魔法具』が必要不可欠なのを忘れないで))

 

 

3人の魔法使いが魔男の気を引く隙を突き、利奈と芹香は飛行魔法で

上手いこと死角を通り、遂には魔男に気づかれずにすぐ近くに降り立った。

 

降り立ったのとほぼ同時に、ギャル2人はそれぞれの武器を召喚した。

美羽は蘇芳色のリボンで最上は柿色のベルトだ、彼女らはそれを魔男に投げて放つ!

 

絡め取ったのは魔男の両腕に当たる触手、ぐるぐると巻き付いて動きを止めた!

 

 

木之実「っぐうううう!! ちょ、なんなのこの馬鹿力!? マジあり得ないんですけど!?」

 

浜鳴「辛抱なう! だいぶ弱くなってこれなんだから、もう耐えるしかないいぃぃ!!」

 

木之実「ハァ!? マジで勘弁してよ! 面倒ってレベルじゃないんだけど!!」

 

 

美羽は最悪だと怒りながら嘆いてるようだが、この状況は流石にどうしようも出来ないだろう。

 

これで魔男の主な攻撃手段はほとんど防げた! が、明らかに長く持ちそうな状況じゃない。

 

狙った状況が出来上がったのなら、撹乱に回っていた千代子ともギャル2人と共にリボンとベルトを引いた。

 

現状4人がかりで魔男の触手を機能しなくしている状態だが、まだ1ヶ所残っている……!

 

妨害に対する抵抗とばかりに、魔男は残った触手で暴れ狂っている。

 

 

唯一残った魔男の攻撃手段の妨害、ここで芹香の出番だ!

魔男の前まで来て、急いで『辞書』を開き橙色の魔法を使う!

 

 

月村「第二章! 滝の章「凍結」! 対象は魔男!」

 

 

それは開き1ページに渡る大きめに描かれた魔法陣だった、細部まで線密に書き込まれている。

 

『辞書』から飛び出した2枚のページは空中で入り交じり、淡いオレンジの濃霧の塊になった。

 

芹香が魔男の方へ指を指したなら、濃霧はまるで生きているかの様に飛んで行く。

 

触手の束の根本にぶつかると、一瞬にして触手全体が氷漬けになってしまった!

 

芹香が『辞書』を通じて魔力を付加すればする程、氷の硬度は強固な物になる。

 

 

月村「流石に、キツいわね……大げさに騒いでると思ったけど、そうでも……なさそうね!」

 

 

一応凍りついてはいるのものの、凍り切らなかった部位が暴れ狂っている。

 

1人で抑え込むとなると相当キツいだろう……芹香の指差す腕は震え、額には冷や汗をかいている。

 

それでも芹香はこの方法を選んだ、まさか加勢が来るとは思わなかったらしいが。

 

 

月村「貴方、こんなところにいて良いのかしら? 重症者の護衛が役目の筈だけど」

 

軽沢「それなら利奈と桜色の子に任せたよ、こっちの方が面白そうだし」

 

月村「ここでもその呑気な態度が通じると思っている訳? あまりにも、楽観的、過ぎるわ」

 

軽沢「それに、正直キツいんじゃないの? どの魔法使いも、魔力の放出くらいは出来るよ」

 

月村「……勝手にしなさい」

 

 

芹香の態度は相変わらず冷ややかだったが、響夏の緩い風貌も特に変わることも無い。

 

響夏が『辞書』に両手をかざし集中をすれば、その手から淡い羊羮色の魔力が漏れ出た。

 

魔男は更なる拘束の強化に目覚ましの雄叫びをあげた、もう一切の身動きを許されていない!

 

 

根岸「今がチャンスみたいだよ上田さん、この白い男の子は私に任せておいて」

 

上田「うん、博師さんを()()()くるよ! 知己さんはチョークを守ってて!」

 

根岸「……博師君を、おねがい!」

 

 

知己の心は既に魔男を直視出来ない程に弱っていた、これ以上の無理は孵化に直結する。

 

チョークも未だに目を覚まさない、まともな治療を受けれていないのだからある種当然だ。

 

魔男の拘束状態だって長く持つ状態じゃない、どの面を取ってもこれは一刻を争う状況。

 

 

最早無駄に時間を使うことは許されない、利奈は魔男に向かって一直線に走りだした!

 

 

無茶な事に遅くなる床は避けているが、逆に早くなる床は自ら突っ込んでいる。

 

転ぶかと思われる行動だが、転ぶどころか上手いこと加速の糧にしてさらに早く走る。

 

結果、芹香の仮定を大きく上回る時間で利奈は魔男の元に到着した! 何故か少し斜めだが。

 

それを見た魔男は最後の抵抗と言わんばかりに、人体を象った針を時を無視し高速回転し始めた。

 

ヒトの感情は無いとはいえ、流石に死に対する恐怖は忘れ切っていないのだろうか。

 

 

上田「いっけええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

利奈も負けじと両手に持った棍で魔男にお得意の乱舞で攻撃した、一連の行動はとてつもない早い。

 

……()()()()()()だ、彼女の乱舞の早さは通常の数倍にも跳ね上がっていると言えた。

 

それは何故か? 床を見ればほら、芹香の魔法によって橙色に輝いている。

 

要するに、本来魔法使いたちの妨害になるはずの床を逆に利用し、利奈は加速をしているのだ!

 

それにしては適応が早いような気もするが、それが利奈の魔法少女としての才能。

 

 

脆くなった魔男の身体は攻撃される度に欠ける、弱点が露になるまでもう少し。

……そんな時だった、思いもよらない形で利奈が窮地に立たされてしまったのは。

 

 

砥鳴「おぉ……!? 魔男の身体が削れてる!! ダメージ入ってるよ!!」

 

木之実「ちょっとぉ~~、まだなわけ? もう押さえつけてるの飽きてきたんだけど」

 

砥鳴「飽きる飽きないの問題じゃないでしょ! もう少しの辛抱だよ!」

 

木之実「マジウケる、単に押さえつけるだけなのにマジになっちゃってさぁ……あ」

 

砥鳴「最後まで力一杯押さえつけ……あぁ!?」

 

 

美羽と紗良が押さえつけていた触手の束、力が僅かに抜けた一瞬の隙をついて1本だけ出てきてしまった!

 

その1本は鋭い刃を鈍く光らせ、一直線に自分に特に危害を加える対象へ向けた。

 

無論その対象は利奈だ、状況的に回避出来そうな余裕も無い……危ない!!

 

 

 

 

利奈は大怪我を覚悟した、自分を犠牲にしてでも勝利に近い道を選ぶ。

たった1つの油断によって作られた絶望的な状況……それを救ったのは、思いもよらぬ反応。

 

 

 

 

根岸「やっ……やめて、お願いやめて! 博師君!!」

 

 

 

 

それは魔力を一切使っていない声、それは心の奥底から放った渾身の呼び声でもあった。

 

感情を失っている筈の魔男、チョークの傍らにいるハチべぇは無表情ながらもその光景に驚いた。

 

利奈に向けられた明らかな悪意、その触手が……ピタッとその動きを止めたのだ!

 

空前絶後の意外な救済、その間にも利奈の乱舞は止まることを知らない。

 

そしてようやく見つける、微かな橙に輝く歯車だらけで機械仕掛けの心臓。

 

利奈は両手の棍を1つまとめ赤色の魔力を多めに込めたのなら、攻撃のタイミングを見極めた。

 

 

放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

利奈が放った必殺の斬撃は見事魔男の心臓に当たる……が、機械仕掛けの心臓はとても硬い。

 

そこで利奈は工夫をした、下から振り上げる形で大剣を振り上げたのだ。

 

魔男の針は時計回りに回る、利奈は敵の挙動さえも勝利への糧にしたということだ!

 

 

上田「いっけええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

二の腕の筋肉が悲鳴をあげようとも、利奈は魔法少女の身体をフルに使って大剣を上へと上げる。

 

そして……魔男の拘束に限界が来るのとほぼ同時に、機械仕掛けの心臓はバギッを音を立てて割れた。

 

歯車やネジを散らして粉々に砕ける、そこから黒い魔力が吹き出したのは直後の話。

 

 

浜鳴「大成功なう! 早いと魔男から離れないとヤバいよ!?」

 

軽沢「どうやら上手くいったようだねぇ、後衛にも念話で逃げろって連絡いれとくか」

 

月村「利奈! 何をしてるの!? 早く貴方も下がりなさい!」

 

 

利奈は満身創痍で逃げるにも、それはふらふらとした足取りでとても遅いものだった。

 

元々は1度切りのチャンスの中で行われた作戦、プレッシャーや責任感もあっただろう。

 

芹香は黒い魔力が吹き出す勢いの強い中に危険だろうが飛び込み、利奈の腕を掴んだ。

 

 

月村「逃げるわよ!!」

 

 

利奈は返事をする元気も無かったが、芹香の目を見て確かに頷いた。

 

そのまま結界の外に向かって走り出す、途中で知己のところへよって一緒にベッドを押した。

 

知己は心配そうに後ろの様子を見ていたが、すぐに前を向いてベッドを押して逃げる。

 

逃げる内に後衛とも合流を果たす、どうやら融合体を2体とも倒せたようだ。

 

とにかく魔法使いたちは黒い魔力の放出から逃亡する、巻き込まれたら大変な事になる。

 

 

そして全てが1点に飲み込まれる。

 

針の雨を降らしていた歪む宇宙も、心臓を砕かれ時さえ刻めない魔男も、

床に嵌め込まれた時計も全て吸い込み、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは、五割は濁った勿忘草色のソウルジェムと時計がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……泡沫の魔男を救った。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

ハチべぇ「それは本当に正しい記憶なのかい?」

 

 

 

チョーク「だとしたら、それはとても嬉しい勝手だね!」

 

 

 

津々村「……ごめん、ありがとう知己」

 

 

 

月村「そんな必死にならなくて良いわよ、言いたい事はちゃんと伝わるから」

 

 

 

〜終……(37)儚げな裏で友情の行末[後編]〜

〜次……(38)人嫌いの改心と暖かな和解〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





やれやれ……長らく滞っていた部分が、やっと終わりましたよ。

本当に失踪なんてことにならなくて良かった、自分の事なのにまるで他人事ですが。

現状まだ執筆しか出来ていませんが、ぼちぼち他作品の感想も書く時間も取りたい。

今回の雑談は無しです。 ホワイトデー? ……知らない子ですね、記憶にありません。

それでは皆様、また次回。 次回は3月下旬にでもお会いしましょう。


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(38)人嫌いの改心と暖かな和解


皆様10日ぶりです、気候がやたらと上下する時期になってきました。

体調にお気をつけください、日光を浴びるのはホント大事です。

さて、今回は泡沫の魔男を討伐した後の話から物語は再開します。

普段なら結界から出た直後からですが、今回はちょっとした変化球。

それでは物語の幕を再度上げましょう、最初は意識さえ明確はない視点。



 

沈む意識は目覚める事を許さない、例えるなら頭のてっぺんから足の先まで水の中。

 

溶け出して散った意識は眠りを促すだけだ、それはまるで夢の中。

 

ふと身体の所々で暖かな感覚を覚えた、貫かれて空いた穴の傷。

 

痛みなく皮膚の内側が蠢き、元から何も無かったかのように治っていった。

 

やがて目覚める程の体力を取り戻し、泡がぱちりと弾けたかのように目を覚ます。

 

 

チョーク「うぅ……ん、あれ? ここって、リュミエールの本部?」

 

 

辺りを見渡せば、そこは広めにカーテンで仕切られた空間。

 

どうやら医務室の役割を持っているらしく、学校の保健室程の設備は整っている。

 

毛布を被せられた身体を起こせば、そこへ駆け寄って来る1人の少女がいた。

 

 

橋谷「良かった、目を覚ましてくれて……具合はいかがですか?」

 

チョーク「俐樹だ! うん、身体の痛みも無くなってるよ! 俐樹が治してくれたの?」

 

橋谷「えぇ、勝手ながら、ですが」

 

チョーク「だとしたら、それはとても嬉しい勝手だね!

……あれっ、前までリュミエールこんな場所あったっけ?」

 

橋谷「……ありがとうございます、この辺に新しくある家具は

知己さんが今回のお礼として作ってくれたのですよ」

 

 

相変わらずチョークの日本語は少しおかしいが、彼の言葉からは優しさを感じる。

 

それはさておき、俐樹はチョークの上半身に巻かれていた包帯を取った。

包帯を取り替えようとしたらしく、ベッドの傍らには新品の包帯が置いてある。

 

置いてある家具はどれも桜の木だ、まぁチョークに木材の知識は無いので分からないが。

 

 

大怪我のせいかほとんど吹き飛んでいたチョークの記憶、討伐後どうなったかは俐樹が教えてくれた。

 

主に前衛たちの活躍で泡沫の魔男は討伐されたが、結界が消えた後も大変だったらしい。

 

結界がグリーフシードに凝縮されて消えたとなれば、当然魔法使いたちは現実に戻される。

 

結局何が起こったかって、要するにそう広くはないアパートの一室に魔法使いたちが敷き詰められたのだ。

 

様々な長が揃ってたからパニックは免れたが、それでも事態の収拾には時間がかかった。

 

ただでさえ重傷者はいるし、エースは放心状態……密集した空間での浄化と治療の両立は難しい。

 

それでも、博師のソウルジェムと泡沫のグリーフシードが誰かに持っていかれることはなかった。

 

特に博師の事を気にしていた知己が最初に見つけ、事態が落ち着くまで守ってくれたおかげだ。

 

 

その後一通りの治療や浄化は終わったが、まだチョークの治療や利奈の浄化等が完全ではなかった。

 

そこで、リュミエールだけ帰宅前にこのリュミエール本部を訪れたという訳。

 

今本部にいるのは、リュミエールのメンバー全員と知己に博師とチョークらしい。

 

 

俐樹によってきちんとした治療を改めて施された結果、チョークの大怪我はほぼ完治していた。

 

あれほどあった穴が空いたような傷は少々痕が残ったものの塞がり、体力も回復している。

 

自分の身体が治った事を理解すれば、次に気になったのは利奈と博師だった。

 

俐樹に支えられながら治療スペースを後にして、仕切りになっていたカーテンを潜り抜ける。

 

その先はいつもの広間だった、その中心には円状に置かれた見慣れたソファーが複数。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

利奈は1度も孵化をした事が無かった、それ故にソウルジェムがキレイになるのも早い。

 

それでも穢れが溜まった事による精神の疲労はある、ソファーに座った身体は怠い。

 

浄化も終わって手の中に収まった赤いソウルジェム、それは不思議で暖かな魂の宝石。

 

 

ぐったりとして利奈は休んでいると、先程作られた治療スペースのカーテンが空く音がする。

 

そこには俐樹と治療を終えたチョークがいた、チョークの上半身は包帯に巻かれている。

 

精神はそんなに疲れていないらしく、怪我が治ったチョークはすっかり元気になっていた。

 

 

篠田「あっ! チョークだ、身体の怪我治ったんだね!」

 

清水「やはり治療専門の魔法少女に任せると違うな、目立った傷も無くなってる」

 

橋谷「えっ? あ……じっ、時間をかければ、誰でもこの位は治ります」

 

月村「何を今更、もっと自信を持っても良いのに控え目過ぎるのよ」

 

橋谷「ごっ、ごめんなさい!」

 

 

俐樹は芹香のキツめな態度に怖じ気づいてしまったらしく、思わず謝ってしまった。

チョークは謝る必要は無いと笑っている、顔を起こした俐樹はまだ怯え気味。

 

 

チョーク「利奈! 怪我はあまり無いみたいだねら利奈は大丈夫?」

 

上田「あぁ、うん……大丈夫だよ、ソウルジェムもキレイになったし」

 

清水「精神的に疲れてるみたいだな、色々あったしそりゃあぐったりしちまうぜ」

 

 

利奈はチョークに自分のソウルジェムを差し出した、確かに穢れもなく澄んだ状態。

 

だが肝心の利奈は顔色が悪い、もうしばらく休まないと元気とは言えないだろう。

 

これでも最初よりは回復した方だ、疲れのあまり上の空だった

利奈の意識はきちんとした方向性を得ている。

 

 

一方利奈の丁度反対側のソファーに座っている博師は、まだ意識が霞がかった様になっていた。

 

魔男の名残がまだ抜け切っていないらしく、感情の浮き沈みが小さくなってしまっている。

 

なかなか浄化仕切らない勿忘草色のソウルジェム、

チョークが様子を見に来る頃にやっと穢れが抜け切った。

 

 

根岸「ハチべぇ、博師君……大丈夫かな?」

 

ハチべぇ「博師の魂はまだ安定していないようだね、定着には時間がかかりそうだよ」

 

根岸「そう、なんだ……」

 

チョーク「博師はまだ具合悪そうだね、なんだか顔色が僕と同じくらいだなぁ」

 

根岸「え? あ! 君は確か、魔男の結界で私たちを庇ってくれた白い人」

 

チョーク「僕はチョークだよ!」

 

根岸「チョーク、さん? あの時はありがとう

 

 

知己は庇ってくれたこと気にして申し訳さそうにしていたが、チョークは特に気にしていない。

 

逆にチョークは博師の身を案じる、彼はつい先程まで魔男となっていたのだ。

 

ボス級の魔女や魔男に孵化をするのは、思った以上に魂に負担がかかる現象である。

 

 

チョーク「博師、大丈夫?」

 

 

起きてるのか眠っているのか分からない博師の様子、心配になったチョークは声をかけた。

 

すると、不思議なことに博師の目線は確かにチョークの方を向いた。

 

不安定な筈の博師の魂、これには知己の肩に乗ったハチべぇも関心を抱く。

 

 

津々村「……声が、聞こえたんだ」

 

チョーク「声だって?」

 

津々村「声、2回聞こえた……最初のはハッキリとした声だった、丁度アンタに似た声」

 

チョーク「僕? ……あぁ、あの時か! 確かに1度、君の名前を呼んだね!」

 

根岸「博師君の名前? えっ、呼んだ事あったっけ……?」

 

 

知己には博師が魔男になってしまっていた時、チョークが彼の名前を呼んだ記憶が無かった。

 

先程の魔男との戦いで前衛の魔法使いとして戦う時、

戦うチョークを間近で見ていたにもかかわらずだ。

 

敢えて言うなら知己の記憶は正しい、正確に言えば

チョークは『()()()()()では呼んでいなかった』のだから。

 

 

津々村「もう1つは、よく聞こえなかった……でも、最初のよりは強く心に響いた」

 

チョーク「僕、2回も博師の名前を呼んではいないよ」

 

ハチべぇ「それは本当に正しい記憶なのかい?

 

僕が見た限り、魔男化した時の君は特にヒトの意識が少ない。

心に響くというのは普通、孵化した魔法使いには無い現象だよ。

 

相当な意思の方向性が無いと、チョークの様な例外意外は聞き取る事すら出来ないね」

 

 

ハチべぇの言う通り、魔法使いは一度孵化をしてしまえば

知り合いや親友さえ傷を付ける絶望の化身と化す。

 

もし聞き取れたとすれば、それが『相当な例外』だったとしか考えられない。

 

いや、確実にあるだろう。 終盤で利奈が危なくなったあの時、

魔男は確かに、知己が声を発した後に止まったのだから。

 

 

津々村「自分を、博師君って言ってた……あれ? じゃあ、あの声って知己の!?」

 

 

そうだと気づいた博師は途端に虚ろだった意識を明確にし、勢い良く起き上がった!

 

だが身体がついて行かなかったのか、頭を抱え再びソファーに背を預ける。

 

博師が確信を得るのは簡単だ、何故なら博師を『博師君』と呼ぶのは知己だけ。

 

 

津々村「っぐぅ!!」

 

チョーク「あぁ!? まだ動いちゃ危ないよ、博師の身体フラフラじゃないか!」

 

津々村「そうか、自分は確か……ソウルジェムを破壊してもらおうとして、絶望を……」

 

 

博師は力無くソファーの上に上がった自分の手を見れば、その指に見慣れた勿忘草色の指輪。

 

ソウルジェムに戻してみれば、魂の宝石は奥まで澄んだキレイな色をしている。

 

元は破壊しようとしていた物だ、ソウルジェムを持つ指は自然と力む。

 

 

ところが、それは盗られてしまった! 唐突に知己が博師のソウルジェムを奪い取る。

 

 

津々村「おわっ!? ちょっと、何するんだ知己!? それ自分のソウルジェムなのに!」

 

根岸「……博師君、どうして? 何であんな事させようとしたの!」

 

津々村「どうしてって……それは、自分が自分の事を心から嫌になっただけで」

 

根岸「博師君はいつもそう! 頭の中に溜め込んで、心の中に押し込んで!!」

 

津々村「……知己?」

 

 

知己は博師に対してかなり大きな怒りを示したが、その目元は涙で潤んでいた。

 

博師が無事ヒトに戻った事による対する暖かな安堵、

博師が魔男になってまで絶望した事に対する冷やかな悲しみ。

 

様々な感情がその涙に混ざって溜まる、やがて雫になれば頬を伝って流れ落ちた。

 

 

根岸「もう、自分が嫌だとか壊したいとか言わないで!

博師君消えたら悲しむ人はたくさんいるんだよ?

 

そうなる前に誰かに相談してよ、私じゃ力不足だけど……胸の内に押し込むよりは良い。

 

博師君の苦しみを分かったり無くしたりは出来ないかもしれないけど、

少しでも感情や言葉を吐き出して楽になったらそれでも良い!」

 

 

比較的大人しい知己にしては珍しく強い言葉だ、思わず博師も反論出来ず聞くだけになる。

身体は様々な感情が暴れて震えるが、博師のソウルジェムを持つ両手は決して力まない。

 

 

根岸「だからね? 博師、もし忘れられないくらい辛い事があったら……

 

博師の限界が来る前に、誰かに辛さを打ち明けてね?

 

……博師君が納得するまで、このソウルジェムは博師君が持つべきじゃない」

 

チョーク「えぇ!? ダメだよ、ソウルジェムが無かったら魔法使いは」

 

津々村「良いんだ、白いアンタ……ここからは、自分に任せてくれ」

 

 

博師は驚いて焦るチョークを止め、ソファーにもたれかかった重い身体を起こした。

 

 

津々村「知己……悪かった、ソウルジェムを破壊してくれだなんて言ってしまって。

 

自分の心は死んでいたんだ、多分今も死んでいる。

味方なんて誰もいないと思っていた、誰も信用出来なかった。

 

……でも、孵化をして魔男になって自分は思い知ったんだ。

どれだけ、自分が周囲に対して盲目だったのかを」

 

 

魔法使いに魔女や魔男だった時の記憶が残るのと同じ様に、

博師にも魔男だった時の記憶が頭に残っていた。

 

それは一定で間隔で左に傾く景色、自分の記憶なのにまるで他人事のように感じてしまう。

 

当然だ、博師がそこに感じた感情は一切無いのだから。

魔法使いたちは色々言っていた筈だが、その内容は分からないと言う。

 

 

津々村「これだけ迷惑をかければ益々嫌われるかと思った、けど……実際は違った。

 

魔男の状態から解放された後も、わざわざ治療や浄化をしてくれた。

 

自分は《人嫌い》だ、でも……それもかなり過度だったらしい、もう少し心を開くべきか」

 

 

気がつけば博師は知己の方を見て話をしていた、虚ろだった意識は話す度にハッキリとする。

 

 

津々村「でも、自分自身を今すぐには変える事は出来ないと思う。

魔男だったとはいえ迷惑をかけた自分が、これ以上アンタらに迷惑をかけるなんてことは……」

 

 

博師がそうして話してる途中で、音の出ない歯ぎしりが博師の言葉を止めてしまった。

 

目は自然とまぶたを落とし、感情は申し訳無さと情けなさに溺れて行く。

 

ふと、落ち込んでいる博師の手が取られる……それは知己だった。

博師の拳になった手を解き、勿忘草色のソウルジェムを握らせた。

 

 

津々村「これ、自分のソウルジェム……」

 

根岸「急がなくて良いんだよ! 迷惑なんかじゃない!

私も博師の力になるから、ゆっくり慣れていこう」

 

津々村「……ごめん、ありがとう知己」

 

 

氷の様に冷え切っていた筈の博師のソウルジェム、

長く知己の手に包まれていたせいかほんの少し暖かだ。

 

浄化がし辛くなる程に孵化を繰り返した魂、希望など無いと決めつけた事もあった。

 

これ以上無駄な期待をしないようにと心を冷やかにし、いつしか絶望しか見なくなった日々。

 

それは今回の件で雪解けを果たしたのだ、まだ少し冷たさは残っているがこれは大きな進歩。

 

博師はやっと希望を感じていた、自分がいても良い暖かな場所を見つけ、

いつもそばにいたかけがえのない親友の存在を改めて実感したのだから。

 

 

 

 

その時だった……綿菓子の様な煙状で濁色の魔力が、博師の片目から激しく噴出したのは。

 

 

 

 

根岸「ひっ、博師君!?」

 

チョーク「ぅわあぁ!? ななななんだこれ!? たっ大変なことになってるよ!!」

 

ハチべぇ「君が慌てること無いじゃないか、これは君に起きている現象ではないよ」

 

チョーク「そういう問題じゃないでしょ!? 普通ヒトでこんな事起こらないよ!?」

 

津々村「知己も白いアンタも焦らんでくれ、自分自身に痛みは無い」

 

 

痛みの問題でも無い気はするが……魔男の時の無感情が

抜け切っていないのだろう、謎の魔力の噴出はしばらく続いた。

 

噴き出す濁色に勿忘草色が混じった様子は無い、どうやら博師の魔力では無いようだ。

 

なら、博師の片目から噴き出している魔力の正体は一体何だろうか?

 

流石にこれにはリュミエール本部にいた全員が注意を向けた、

やがて飛び出した魔力は1つに纏まり、不気味な球体になる。

 

そして、風船が針を刺されたかのような爆発をして……消えてしまった。

 

 

中野「ほっ、本当に大丈夫なのか博師? かなり凄いことになっていたけど」

 

津々村「…………」

 

根岸「大丈夫だよ、博師君」

 

津々村「……痛みは自分には一切無かった、自分の魔法でもないから心当たりも無い」

 

清水「俺も初めて見る現象だな、そういう情報も出回ってないし……ん?」

 

 

博師の安否を確認出来た海里が周囲の状況を確認すると、1人様子がおかしい人物がいた。

 

 

上田「俐樹ちゃん!? 急にソファーに座り込んじゃって、大丈夫?」

 

橋谷「すみません、ちょっと()()()()()()があったのを思い出してしまって」

 

清水「似たような事だと?」

 

橋谷「……はい、見ていたのは、優梨だけなので……私と優梨以外は、誰も知りません。

 

心配させるのは、嫌だったので、みんなには、隠していたのですが……

 

情報があまり無いとなると、もう話すしかない……と思います、私の勝手な考えですが」

 

清水「懸命な判断だと思うぜ、その似たような事を話してくれれば俺たちとしても助かる」

 

 

知己が博師の目を診る間、俐樹は深呼吸をしてから『似たような事』について話し始めた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

それは俐樹がリュミエールに入って間もない時の話だ、落ちかけた夕日は沈んですっかり夜。

 

 

橋谷「あの……大丈夫ですか? 私の事、送ってもらったりして」

 

下鳥「構わないわよ? 事前に帰りが遅くなるって言ってあるもの。

それに、まだ分からないわよ? 帰り道に出くわす危険性だってある、今日は甘えなさい」

 

橋谷「……すみません」

 

 

リュミエールに入る事を嬉しくもあるが、俐樹は素直に喜べないでいた。

 

今も狙われてるかもしれない自分が、あのリュミエールに守ってもらって良いのだろうか?

 

あまり活動的になれない病弱な自分が、足を引っ張るのではないだろうか?

 

不安が混じる申し訳なさが、俐樹の喜びを減らしてしまっている。

 

今だって優梨に守られながら送ってもらっている、ふと俐樹の口から出た言葉は暗かった。

 

 

橋谷「私、こんなに、多くの人に、面倒を見てもらってしまって、良いのでしょうか……」

 

下鳥「悲観するのはやめなさい俐樹、大きな勘違いをしてるわよ」

 

橋谷「……優梨?」

 

下鳥「だって私と俐樹は友達よね? 友達なら助けるのは当然じゃない!

 

それにリュミエールの仲間でもあるわ、仲間同士でも助け合うのは当然よ。

 

甘えていいのよ? もっとみんなを頼りにしなさい、誰もお荷物だなんて思わないわ」

 

橋谷「……!? どっ、どうしてそれを?」

 

下鳥「分かるわよ、俐樹は私の()()()だもの」

 

橋谷「そんな、私は、私……っ!」

 

 

目の前には友達になってくれた優梨、その瞳は心の奥底まで見透かされていそうだ。

 

その表情は優しげに笑っていた、頼っても良いのだと彼女は笑う。

 

『甘えても良い』……1人で抱え込もうとしていた俐樹には、なにより友好的な言葉。

 

阻まれていた筈の喜びの感情が沸き上がる、瞳を潤すのは嬉し涙。

 

この人達に私は甘えて良い、頼りにして良い……そんな安堵に俐樹は希望を感じた。

 

 

 

 

流れ落ちそうになる嬉し涙……だが、その前に俐樹の片目から異様な物が吹き出した。

 

 

 

 

橋谷「……ゃ!? きゃあああぁぁぁ!?」

 

下鳥「なっ、これは……! 俐樹落ち着きなさい、俐樹!!」

 

橋谷「嫌、何ですかこれええぇぇ!!」

 

 

噴き出したのは見知らぬ濁色の魔力、煙状の魔力が噴き出し最後は球体に纏まって弾けた。

 

 

下鳥「俐樹、大丈夫かしら? 凄い悲鳴を上げていたけど」

 

橋谷「大……丈夫です、痛覚といった症状はありませんでした」

 

下鳥「……やはりね」

 

橋谷「えっ?」

 

下鳥「何でもないわ、ちょっとその魔力に心当たりがあっただけよ。

私がリュミエールに入るのはまだ先ね、しなきゃいけない用事がさらに増えたわ」

 

 

相変わらず優梨はその笑みを崩さなかった、何を考えているのかは表情から読めない。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

橋谷「その後優梨にこの事を秘密にしてもらうようお願いして、

後は私のお家まで送ってもらったんです……わざわざ」

 

清水「魔力に心当たりか……明日、優梨に念話とかで聞いてみるのも1つの手だろうな」

 

上田「じゃあその用事が終わったら、優梨もリュミエールに入ってくれるって事だね!」

 

月村「分からないわよ、その用事の他にも用事があったって話だったじゃない」

 

篠田「まだまだリュミエールは賑やかになる可能性があるんだね、あたし楽しみだよ!」

 

 

俐樹の話が終わった頃になると、知己が博師を診るのがちょうど終わる。

 

知己は博師の身体や魔力に至るまで問題は無かったという、

彼女の診断によって確実に博師の魔法ではないと確定したのだ。

 

ただ、それが誰の魔力でどんな魔法なのかはまだ分かっていない。

 

とにかく、この辺りでリュミエール本部にいる魔法使い達は一通りの回復をおえた。

 

謎の魔力の噴出の正体を今知るのには情報量が少なすぎる、

ある程度の会議をした後に今日の所は解散とした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

篠田「それじゃあね! 2人共、仲良くしながら帰るんだよ!」

 

月村「……余計なお世話よ」

 

上田「うん! また明日ね、絵莉ちゃん」

 

ハチべぇ「絵莉、この後の僕は君についていけば良いのかい?」

 

篠田「クインテットの方でこれからグリーフシードの整理をするんだ、

多分危ないのもいくつかあると思うから、ハチべぇに回収して欲しいの!」

 

 

途中まで3人で歩いていた帰り道、分かれ道で絵莉は利奈と芹香に一旦の別れを告げた。

 

そこからしばらくは利奈と芹香の帰り道は同じだ、気まずい空気が2人の間で流れている。

 

まぁ、その気まずさも先程と比べたらだいぶ薄まった方だ。

 

沈黙のままある程度の距離を歩いた、考えを改めたのは2人分かれるまで半分を過ぎた頃。

 

芹香に話しかけようと利奈は横を向いたが、先に言葉を発したのは芹香の方だった。

 

 

月村「……悪かったわね、あんな酷い事を言っちゃって」

 

上田「芹香! あの……えっ?」

 

月村「あの時、電話で嫌なことがあってかなり気分が悪かったのよ。

寝不足で苛立ってもいた、利奈も分かる通りの最悪な状態」

 

上田「そんな! 私だって、最悪な状態だって分からなかったのに」

 

月村「……あれは本心じゃないわ、リュミエールを脱退ですって?

そんな事する筈無いわ、あんな事を言ったのは愚かだったと思う」

 

 

芹香は深く反省をしているのか、制服姿で背負ったリュックサックを握る力は強くなる。

 

口を噤んで俯いていた彼女だったが、突然両肩を掴まれ驚いて前を見た。

 

そこには何とも言えない表情の利奈がいた、難しい顔だが必死さは伝わってくる。

 

 

上田「芹香は悪くない! 私だって、芹香の事分からなくて不謹慎だったよ。

 

辛いんだったら無理に話しかけなきゃ良かったんだ、様子を見てそっとしておけば良かった。

 

悪いのは私だよ、だから……そんな顔しないで!」

 

 

利奈も利奈なりに考えていたのだろう、だから今日の魔男に対し利奈は強気な行動に出ていた。

 

話す事が苦手な利奈の、彼女なりに考え工夫した気遣いだったのだろう。

 

優しさはあるがそれにしては必死過ぎる、利奈の態度に芹香は肩に置かれた手を退かした。

 

 

月村「そんな必死にならなくて良いわよ、言いたい事はちゃんと伝わるから」

 

上田「本当!?」

 

月村「いつもことじゃない、利奈が口で物事を伝えるのが下手なことなんて」

 

 

そっちか! だなんてツッコミが頭に浮かぶ、利奈はその場で軽く愕然とした。

 

そして2人は思わず笑ってしまう、いつもの調子が戻ってきた。

 

これは『仲直り』と言っても良いだろう、噛み合わない言葉はもう無い。

 

2人の長い喧嘩が終わったのだ、何故無駄に笑い合う事を我慢して来たのか。

 

危うく互いに謝りたいのに機会を完全に逃す所だった、もう利奈と芹香は大丈夫。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

そこは店の並ぶ明るい商店街、芹香は利奈と別れた後に自宅があるこの商店街を訪れていた。

 

寄り道? それは違う、何故なら彼女の家はこの商店街の一部。

 

もうすぐ自分の家に着く……そんな時だった、防犯用の持たされたスマートホンが鳴ったのは。

 

それは芹香の家の番号からの着信だった、仕事の合間に電話して来たのだろう。

 

家からの電話は大抵母親からだ、芹香は早めに終わらせるつもりで電話に出た。

 

 

「もしもし」

 

月村「何かしら? 私、まだ帰ってる最中なんだけど」

 

「あぁ……急にごめんな芹香、ちょっとだけ話をしたくてな」

 

月村「……父さん? 店番は?」

 

「今は一旦母さんに任せている、芹香も忙しそうだし手短かに済ませるよ」

 

 

普段芹香の父親は仕事が忙しく、滅多に芹香に電話をしない。

いやしないと言うよりはする暇が無い、事実芹香も驚いている。

 

当然、芹香は自分の父親が何を話すのかは全く予想がつかなかった。

 

一呼吸おいた後に発せられる父の要件、その内容に芹香はまた驚かされた。

 

 

 

 

「芹香、もう転校の事は心配しなくて良いよ。 芹香は、芹香のしたいようにしなさい」

 

 

 

 

月村「……えっ?」

 

「母さんも心配してたぞ、芹香が最近寝ていないからって。

あまり無理するんじゃないぞ? 大事な娘なんだからな」

 

月村「ちょ、ちょっと待って! だって、お母さんが」

 

「お母さんと俺とで少し話をしたんだ、もう少し芹香の事を信じてやってくれってな」

 

月村「お父、さんが?」

 

「それじゃあ仕事に戻るぞ、芹香も気を付けて帰って来なさい。

家に帰ったら家族で話そう、今日の晩ご飯は芹香の好きなシチューだよ」

 

 

父親の声に混じって聞こえる微かな母親の声、どうやら彼は妻に呼ばれていたらしい。

 

後半の言葉はほとんど早口だった、『早く切らなきゃ』という焦りが垣間見得る。

 

それでも、芹香にはこれで充分だった。

 

 

 

 

悲しくも無いのに涙が流れる、安心と安堵が心を包む。

 

体調を崩すほどに苦労し、悩み込んだ時間は無駄にはならなかった。

 

芹香は父親の優しさに救われたのだ、この日からやっと眠れる日々が再び始まるだろう。

 

両手に機械の熱を帯びた電話を握れば、縋りたくなる程の暖かさが伝わってくる。

 

そして芹香の指にはまっている指輪、その橙色の魂の宝石は暖かに輝いていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

物語はここで、やっと1つの区切りを得る事になる。

 

今まで落し物を渡してくれても、その人物を拒否をするような博師。

 

この日を境に《人嫌い》があろうとも、知己の力を借りながら関わろうと努力するようになる。

 

まだ色々な物を心の中に抱えているが、彼はやっと花組の一員となれたような者だ。

 

彼の目から濁色の魔力が噴出した事態も、これからその実態が明らかになっていくだろう。

 

 

 

 

利奈たちはまだ知らない、この『濁色の魔力噴出』が

物語を次に進める軸ことなど今は分かりやしない。

 

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

「白橋直希です、今日からここ第三椛学園でお世話になります!」

 

 

 

「久しぶりなのぜぇ~~! みんな元気してたか? あたしはこの通り回復したのぜ!」

 

 

 

「全く……隠すつもりが無かったとしてもよ、教えてくれたって良かったじゃない」

 

 

 

「あれ、お姉!? 何でお姉ちゃんがここにいるの!?」

 

 

 

〜終……(38)人嫌いの改心と暖かな和解〜

〜次……(39)増える花々と妹は踊り子〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





まさに『やっと』1つの区切りです、本当に長かった。

博師は花組の中でも、かなり難しい性格を持つ人物の1人でした。

どう人嫌いな彼を花組に馴染ませるか、試行錯誤は難航しましたね。

それも今回で一段落、やっと余裕を持って執筆を進めれそうです。

39話より日常編に入ります、個人にスポットライトを当てる予定。


雑談としては、やはり今のよく変動する微妙な時期についてですね。

暖かくなったり寒くなったり、これでは桜も混乱してしまう。

たまに雪をかぶった桜なんてのもありますね、見たことないですが。

寒い地域だと桜が咲くのは遅くなりますね、大抵は5月かな。

今年も私は花見に行こうと思ってます、桜は毎年見ても飽きませんもの。


それでは皆様、また次回。 39話は登場人物盛りだくさんでお送りします。


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(39)増える花々と小さな踊り子

どうも皆様! 1ヶ月ぶりのハピナですよ、4月から大変な日々を過ごしてました。

何せリアル本格的な仕事が始まった訳で、慣れるのがこれまた大変……貧血が振り返した()

本当に時間がかかったのは40話ですが、その前に39話をお届けしましょう。

39話は登場人物増加の回、新参からお久しぶりまで選り取り見取り取り揃えてますよ!

それでは、1ヶ月ぶりの幕を開きましょう……おっと、少し埃が被っている。



 

空を見上げれば照りつける太陽、珍しく雲一つ無い晴天からは暖かな日光が降り注いだ。

 

既に降り積もる真っ白な雪は光を反射して輝いている、

いつしか気候が暖かになれば輝きを通り越して溶けるだろう。

 

雪が積もり残る程の寒い中で雪を踏みしめ走る生徒達、向かう先は第三椛学園の校門。

 

どうやら遅刻ギリギリだったらしく、生徒達を見てもなお教師は校門の扉を閉めようとする。

 

そんな厳しい教師の手がある者を見て止まった、生徒達は逃げるよにして駆け込んで行く。

 

 

「先生おはようございます!!」

 

「おはようっす!!」

 

「あっ!? コラ! お前ら遅刻だぞ……ったく、

着席時間はとうの昔に過ぎているのになんて奴らだ」

 

?「ありゃりゃ、今のはあたしのせいか? 悪かったな先生」

 

「いや、君が謝る事は無いよ……それよりも、また君が学校に来れるようになって嬉しいよ」

 

 

教師は見ているだけではなく手を貸す、その生徒は松葉杖で車から降りる所だったからだ。

 

若干雪に足をとられふらついているが、それでも少女は力強くその場に立った。

 

その少女は奇跡の少女、車椅子を強いられていたにもかかわらず

驚異的な回復スピードで治療の大半を終えて今ここに立っている。

 

 

車道「ちぃ~~っす先生! 久々に車道舞が登校して来たのぜ!

あぁ、あたしの事は構わないのぜ? 先生は気にせず自分の仕事をして欲しいのぜ」

 

「大丈夫なのか? 車道」

 

車道「平気平気! これでもキツいリハビリして来てるんだから、簡単に転びはしないのぜ」

 

 

幸いにも、校内の雪は朝当番の生徒達に雪かきされて少ない。

 

適当にやる生徒が多ければ雑になるが、今日は真面目な生徒が多かったらしい。

 

両脇に挟んだ松葉杖をしっかりと拳で握り締め、弱い足を支えながら先へと進んで行った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

朝の会が始まる前の、教室が温まる前のちょっと寒い自由な時間。

 

花組に段々と統一感が生まれたおかげか、前程の耳触りな騒がしさは減って来ている。

 

そんな中には利奈もいた、泡沫の魔男との戦いから数日は立っている。

 

何日か立てば流石に疲れは取れる、利奈の顔色は明るく晴々とした様子だ。

 

何故ご機嫌かって、今の利奈は芹香との雑談を楽しんでいるからだ。

 

互いに共通の話題が見つかったらしく、この2人にしては長い時間念話が続いている。

 

利奈は豊富な知識で多彩な言葉を語り、芹香はそれらを時には抑制しまとめながら話を進めた。

 

一度噛み合えば取っ掛かりがなく回り続ける歯車だ、やはりこの2人は相性が良い。

 

それも含めて花組一同が先生が来るのを待っていると、突然教室の扉が力強く開いた!

 

 

車道「久しぶりなのぜぇ~~! みんな元気してたか? あたしはこの通り回復したのぜ!」

 

 

そこには松葉杖にもたれかかる舞の姿があった、歯を出して笑い呑気に手を振っている。

 

入院していた筈の彼女が何、故この場にいるのか?

 

驚きと歓声の中で沸く花組一同、そんな中で舞に近付いたのは2人の生徒。

 

 

車道「おぉ! 力強に八雲もいる……そりゃそうか、お前ら仲良くしてたか?」

 

地屋「舞!? 舞じゃねぇか、入院してたんじゃなかったのか?」

 

車道「とっくの昔に退院してるのぜ! 一時期、奇跡だの何だのと騒がれたけどな」

 

空野「退院したなら連絡くれれば良いのに、僕も力強もみんな心配していたんだよ?」

 

車道「ちょっとしたサプライズって奴だのぜ!

それに、リハビリ期間中はそれどころじゃなかったのぜ」

 

 

力強と八雲は手を貸そうとしたらしいが、舞は自分で出来るとお礼を言って断った。

 

自分の席に戻る直前、舞は力強と八雲に自分の指にはまっている指輪を見せた。

 

その鈍色の宝石はキレイな状態を保っている、その後は力強く拳を握り締めた。

 

 

車道「それに、あたしはちょっと休み過ぎたのぜ!

そろそろ貢献とかしておかないと、置いてけぼりになっちまうのぜ」

 

 

『何もしない分には穢れる事はない』とされるソウルジェム、入院中でも舞は大丈夫だろう。

 

とはいえ、舞は舞なりに思う所はたくさんある。

 

自分が入院している間、自分だけ何も出来ないというのは辛い面もあっただろう。

 

元々現役でレーサーとして活躍している彼女だ、活躍を求めるのは選手としての本能。

 

舞が自力で席に座りリュックサックを降ろす頃、ちょうど花組の担任が教室に入って来た。

 

 

「みんな早く席に着け! 時間はとうの昔に過ぎているんだぞ!」

 

 

担任の言う通り既に席に座るべき時間は過ぎている、

窓際にいた生徒も廊下側にいた生徒もみんな席に戻った。

 

 

「今日はみんなに花組の新しい仲間となる転校生を紹介する、入っておいで!」

 

 

担任は出席簿を教卓に置き、教室の前の扉に向かって声をかけた。

 

すると、教室に第三椛学園では見慣れない生徒が扉を開けて入って来た。

 

黒板に置いてある白いチョークを手に取り、徐にフルネームを書く。

 

 

 

 

一部の花組の生徒はかなり驚くだろう、何故なら名前は初めてだが姿は知っている人物。

 

 

 

 

チョーク「白橋(はくばし)直希(なおき)です、今日からここ第三椛学園でお世話になります!」

 

 

 

 

彼はにこやかに笑ってみせた、頭には白髪を隠すかのように黒いバンダナが巻かれている。

 

チョークは『白橋直希』と名乗ることにしたらしい、

なら彼の事は白橋か直希で呼ぶのが正解だろう。

 

舞といいチョーク基直希といい、今日は何かと花組に新たな人物が訪れる日だ。

 

 

「白橋君は録町さんの後ろに座りなさい、新しい席が用意してあるからな」

 

白橋「はいっ! 小林先生!」

 

録町「また面白そうな人が来たもんだね、よろしく! 転校生」

 

 

転校生が注目を浴びながら移動すりや中、席に着く彼に最初に話しかけたのは花奏だった。

 

直希は明るく振る舞いながらもやはり緊張があったらしく、若干その動作は固い。

 

花組の担任はそんなのには構わず、朝の会での連絡を淡々と始めた。

 

ただでさえ話をちゃんと聞かず騒ぐ生徒もいる、早めに終わらせないとキリがない。

 

……と思ったらしいが、いつもより数分も残して朝の会は終わってしまった。

 

特に担任が何か特別な指導をしたわけでもないのに、生徒の間にまとまりが生まれている。

 

真面目な生徒はそのままに、不真面目な生徒は割りと話を聞いている。

 

まぁ、お喋りも無くちゃんと話を聞いてくれることに越したことはない。

 

担任は不思議に思いながら出席簿を手に、そのまま花組の教室を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

授業が退屈かは教える教師の力量と、生徒たちのやる気に深く関係する。

 

午前の授業は言うまでもない、いつも通りの平凡な時間が過ぎた。

 

時間を進めてお昼休み、リュミエール一同はお客を何人か迎えていつもの理科室に来ていた。

 

 

車道「いやぁ〜〜しっかし、まさかあたしが帰って来たタイミングで

転校生がやってくるなんてのは流石に驚いたのぜ! なぁ直希」

 

白橋「うん! 舞と僕ははじめましてだったかな? えっと、鈍色で車の魔法少女さん」

 

車道「っははは! 初対面にしては随分と知ってるみたいなのぜ、

なら、仲良くなるには面倒な自己紹介も取っ払って話が早いってもんだぜ!」

 

 

舞と直希は互いに初対面だったが、元々フレンドリーなせいかすぐに打ち解けた。

 

最初は直希の様子を見て心配そうな顔をしていた俐樹だったが、

直希が明るく振舞っている様子を見届けて安心したらしい。

 

さて、ただでさえ移動にも苦労する舞が何の目的も無しに古校舎に来た訳ではない。

 

 

上田「そういえば、海里はそんなに驚いてなかったよね? 2人共急に来たのに」

 

清水「チョー……直希の場合は俐樹から事前に相談を受けてたからな、舞は驚いたが」

 

橋谷「えぇ、今のところ花組でどう振る舞えば無難なのかを少々」

 

車道「あたしは言ってなかったのぜ、まぁ驚かすつもりだったから当然なのぜ」

 

清水「やっぱりそのつもりだったのかお前は……」

 

 

苦笑いをしている海里に対し、舞は若干嬉しそうに豪快に笑ってみせた。

 

その様子は男っぽいを通り越してもはや男だ、なんと《男勝り》なことか。

 

まぁそれだけ笑える元気を取り戻せたということだ、元気ならばそれで良し。

 

 

その後の舞は主に海里から自分がいない間、どんなことがあったかを一通り聞いた。

 

 

車道「唇、居場所、鋭利、泡沫……聞いた限り、たくさんの魔法使いの孵化しちゃったのぜ。

 

様々な問題と数々の事件かかぁ、あたしがいない間に色んな事があったもんだぜ!

 

みんな揃ってなかなかの苦労人なのぜ、あたしもその時に手伝えれば良かったのぜ……」

 

 

入院を強いられた身体だったとしても、舞は自分が長い間何も出来なかった事を気にしていた。

 

思わず口からため息が零れる、考えれば考える程悩む内容はいくらでも湧き出た。

 

その思考の負の連鎖を遮ってくれたのは、舞の長らくの友人にして今日の客人。

 

 

地屋「そんな暗くなるなよ舞! やっとまた通えるようになったってのによ」

 

空野「そうだよ、これから僕らと一緒に貢献してけば良いよ!」

 

車道「これからねぇ……ネガティブになっちまってるが、今からでも間に合うのぜ?」

 

地屋「貢献することに期限なんてねぇよ! なぁ八雲」

 

空野「自分で活動してなかったんじゃないんだし、気にすることないんじゃないかな」

 

 

そんな感じで舞は力強と八雲に励まされたが、まだちょっと気にしている様子。

 

力強や八雲の見舞いのおかげで魔法を練習をする余裕はあったらしいが、

しばらく活動してなかったブランクのせいか、飛行魔法はまだ使えないと彼女は言った。

 

そんな舞の発言から近い内に裏山で魔法の練習をする事になる、

最近は魔法に慣れて魔女や魔男との実践ばかりだったので練習は久しい。

 

さて……海里たちが舞と話す間、利奈たちは直希と話をしていた。

 

直希曰く舞に対して隠しているつもりは無かったらしい、今日来ると決まったのは最近なんだとか。

 

 

上田「じゃあ転入って形で学校に入るために、今まで何かしてたって事なのね」

 

白橋「うん! 俐樹に教えてもらいながら、たっくさん勉強したんだよ!」

 

橋谷「ほとんど、直希さん自身の力で、習得したんですけどね」

 

白橋「俐樹はすごいんだよ! 教え方とても上手でさ、英語なんかすぐに覚えちゃったんだ!」

 

橋谷「とてもは余計です……色々教えてみたのですが、

どうやら、直希さんは言語を覚えるのが得意みたいです」

 

 

俐樹の言ってる事は正しく、直希はこの理科室に国語辞典と英和辞典と和英辞典を持ち込んだ。

 

分からない事や気になる事があれば辞典で調べて学ぶ、

言葉に関する繰り返しのその行為に苦は感じないらしい。

 

その学びっぷりは芹香も驚きだ、今の彼女はもう目にクマが出来る程の勉強はしていない。

 

 

月村「全く……隠すつもりが無かったとしてもよ、教えてくれたって良かったじゃない」

 

橋谷「すっ、すみません! 準備が忙しいのと、緊張で……話す余裕が無くて」

 

上田「実際に体験した訳じゃないけど大変だって分かるよ、

今まで学校に行った事が無い人を学校に入れるんだもん」

 

白橋「俐樹があんまり緊張して眠れない様子だったから、

せめてリュミエールのリーダーにだけでも話したらって言ったんだ」

 

篠田「そこまで気にしなくても大丈夫だと思うんだけどな、

まぁそれが俐樹の良い所だってあたしは思うよ!」

 

 

利奈や絵莉の言葉に気持ちが少し楽になったのか、俐樹の表情に微笑みが見えた。

 

『白橋直希』という名前は彼自身が決めた名前らしく、

まず直希の戸籍の取得に時間がかかったんだとか。

 

他にも制服や教科書など気になる事は多々あるが……まぁ、その話はまた今度。

 

今日の集まりでは主に2人の歓迎に時間を注ぎ込み、問題解決に関してはあまり話さなかった。

 

『浄化格差』や『濁色の魔力の噴出』と言った気になる問題はあるが、

それらはまた後日に話す事になりそうだ……まぁ、今日の場合は仕方ない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間を進めて青空が橙色を帯び始めた頃、利奈は自分の家に帰って来ていた。

 

今は自室にて荷物整理をしている、利奈のバックから出て来たハチべぇは背伸びをした。

 

しばらくしてやっと荷物整理が終わり利奈はベッドに寝転がったが、

嫌に合致したそのタイミングで自室のドアがノックされた。

 

ベッドから起き上がった利奈が扉を開けると、そこには利奈の母親がいた。

 

何やら疲れたような顔をしている、ハチべぇはいつの間にやら何処かに隠れたらしい。

 

 

上田「お母さんどうしたの?」

 

「利奈、悪いけど今日は代わりに流兎を迎えに行ってちょうだい」

 

上田「流兎の? そっか、今日は流兎の……いいよ、

お母さん今日お仕事があった日で疲れてるんでしょ」

 

「助かるわ利奈、今日はちょっと具合が悪いの……部屋で寝ているわね」

 

上田「あぁ、お母さん布団に入ったら整えるよ」

 

 

利奈の母親は今日仕事があったらしく、今日は特に疲れた様子だった。

 

利奈は母親を寝室に連れて行って寝かせた後に自室に戻り、

私服に服を着替えてバックに少なめの荷物とハチべぇを詰めた。

 

防犯用のスマートフォンは、校門を出た時点で既に電源を入れている。

 

休憩をして少し時間を潰せば、流兎を迎えに行くのにちょうどいい時間帯になった。

 

利奈はそのまま自室を出て家を出発し、見慣れた道を進んで行く。

行き先は流兎が週3で通うバレエ教室で決まり。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

流兎と言うと、それは上田(うえだ)流兎(ると)の事だ。

 

利奈の5歳下の妹で、明るいがやんちゃで何をしでかすか分からない破天荒な性格。

 

姉の利奈とは血の繋がった姉妹にしては仲が良く、

その相性はシスコンの一歩手前と言われたほどである。

 

そんな流兎は習い事としてバレエを習っている、幼い頃からやっているその腕前は上級クラス。

 

週3回はのレッスンはいつものこと、利奈が代わりに迎えに行くのは珍しい事だが。

 

 

上田「ここだよハチべぇ、私の妹が通うバレエ教室『池宮バレエアカデミー』」

 

ハチべぇ「人気が多い所にある建造物のようだね、

これだけ人通りがあれば魔なる物も寄り付かないだろう」

 

上田「そういえば、中央地区……特にこの辺りで魔女か魔男の気配はする?」

 

ハチべぇ「心配しなくてもそのような気配はしないよ、

君は上田流兎を迎えに集中すれば良い」

 

上田「ありがとう、なら今は流兎の事だけ気にしていようかな」

 

 

夕焼けの空の下で見慣れた街並みを歩いて約30分、着いたのはコンクリートの丈夫そうな建物。

 

1階はエントランスや空き部屋が並び、2階に大きな鏡とバーに控え室。

 

そんな建物に利奈はやって来た、ちょっと早く来てしまったらしく人が少ない。

 

癖である早歩きがまずかったのだろう、利奈は建物の壁にもたれかかって時を待つ。

 

しばらく上の空で待っていると、不意に利奈は意外な人物に声をかけられた。

 

 

浜鳴「……あれっ、上田さんじゃん! 遭遇なう、何してるの?」

 

上田「えっ!? えっと、練習が終わった妹を迎えに……」

 

浜鳴「あぁ流兎ちゃんの事? 待機なう! 中に入りなよ、外にいたら風邪引いちゃう」

 

 

利奈がここで会った最上の姿は、学校とは明らかに違った。

 

髪はがっちり後ろで1つのお団子に縛り上げてあるし、メイクも最低限に収めている。

 

どうやらこのバレエ教室の生徒で間違い無いらしい、最上の姿はそれらしい格好だ。

 

建物の中に入ると、そこにはソファーやら自動販売機やら様々な物が置いてあった。

 

差し詰め、バレエを習いに来た生徒や迎えに来た親御さんの待機場所と言った感じだ。

 

まぁ、利奈のような例外もたまにいるが。

 

中に入ってソファーに座ればそこはフカフカ、向かいに最上も座ってきた。

 

 

浜鳴「上田って何か聞いた事あるなって思ったけど、

やっぱ上田さんの妹だったんだね! 驚きなう!」

 

ハチべぇ((最上、君はこのバレエ教室に通う生徒なのかい?))

 

浜鳴「あぁハチべぇもいたのか、ご丁寧にバックの中に収まっちゃって……収納なう。

 

あたしは上級クラスの夜の部に通ってるよ、まぁこの時間にしか学生じゃ通えないけど。

 

流兎ちゃん達とは入れ替わりなう! 今は早く来ちゃったから待ってる感じかな」

 

上田「早く来たって事は、浜鳴さんも家が近いんですか?」

 

浜鳴「近距離なう! 通ってる回数、あたしの家が3本の指に入る多さだからねぇ」

 

ハチべぇ((最上はバレエとの因果関係が深いのだろう、

それが君の魔法少女姿に現れていると僕は思うよ))

 

浜鳴「ハチべぇって何でもかんでも魔法少女に繋げたがるよね、執念なう」

 

 

ハチべぇは何処でも変わらないが、このバレエ教室での最上は学校とは違って見える。

 

根っからのギャルと言える程のメイクと性格をしている彼女、

それが今では話しやすいバレエ教室の生徒となっている。

 

利奈が見ていなかっただけだろうか? 今の最上は学校とは違い、別の人物の様にも見えた。

 

 

浜鳴「そんな敬語でなくていいって! 緩和なう、もっと気軽に話しなよ」

 

上田「あぁ、うん……ごめん、ちょっと人見知りな所があって」

 

浜鳴「理解なう! 分かってるって、そんな積極的じゃないってのは誰が見ても分かるよ」

 

上田「えっと……浜鳴さんってバレエ習っていたんだね、魔法少女姿もバレエ衣装だったし」

 

浜鳴「あたしの姉も妹もそうだよ、一家相伝なう! まぁバレエが好きなのもあるかな」

 

上田「バレエが好きなんだ、流兎も言ってたなぁ……踊るのが好きだって」

 

浜鳴「それになりたかったのもあったんだよ? 目標なう!

いつかはプリマになるって、それが目標で目指していたんだ!」

 

上田「()()()()()()? なんか、昔の話みたいな言い方だね」

 

浜鳴「……! あ、いや……あはは、対したことないよ! 気にしたら敗北なう」

 

 

それは利奈にしたら単純に気になった事だったが、最上は一旦話に間を置いてしまった。

 

肩に背負った大きなカバンから水筒を取り出しお茶を飲む、

利奈は近くにあった自動販売機からアルミボトルのホットココアを買った。

 

話はそのまま休憩に変わるかと思われたが、ここでハチべぇが話に余計な水を差してきた。

 

 

ハチべぇ((最上の言う通りそれは対したことは無いだろう、

君はもうその目標を達成出来ないと判断したんだからね))

 

 

突然ハチべぇが告げた爆弾に思わず最上はむせてしまった、

飲んでいたお茶が気管に入ってしまったらしい。

 

利奈が最上の背中を軽く叩くが、それでもハチべぇは語ることをやめなかった。

 

そりゃあハチべぇは何とも思わない、何故ならこの生物は感情を持ち合わせていない。

 

 

ハチべぇ((どうしてそんな反応をするんだい? これは君が僕に言った事じゃないか))

 

浜鳴((だからって……KYなう!))

 

ハチべぇ((君はバレエダンサーとしての努力の末に、これ以上伸び代は無いと告げられ絶望した。

 

そこで君は同じくバレエダンサーとして練習を積み重ねる、

妹の浜鳴(はまなり)楽照(らて)に自身に置けなくなった君の希望を置く事にした。

 

だから君は契約時の願いを、『妹を世界規模で活躍するバレリーナにする』

という事にして、君はその魂に誓ったんじゃ無かったのかい?))

 

浜鳴「いい加減にして!!」

 

上田「浜鳴さん、声が出てる!」

 

 

利奈に言われなければ、最上はさらに苦渋に歪む独り言を連発していただろう。

 

かなりの声量はあったが、運良くレッスン中に流れる音楽が2階に届くのを妨害してくれた。

 

最上は言葉を空気と一緒に飲み込み、とにかく一旦は落ち着いた。

言われてしまった物はしょうがない、最上はそう思ったのか利奈に別の話を始めた。

 

 

浜鳴((過去話、なう……才能が無いって言われたんだ、長い間散々頑張ってきた挙句にね。

 

今まで何のために頑張ってきたんだって思ったよ、

これ以上頑張っても無駄だなんて……辛辣なう。

 

それでもまだ続けちゃってるってことは、ヤケでギャルになった事みたいに中途半端って事))

 

上田((中途半端って?))

 

浜鳴((そう、そのまんまの意味……あたしは、どっちにもなれなかった中途半端な人間なんだ。

 

バレエダンサーにも、ギャルにも……ギャルの知識や格好だって

美羽や優梨に教えてもらわなきゃちゃんとしたのにならなかった。

 

この口調だって、なるべくギャルっぽくしようって昔に癖を付けたんだ……定置()()、ってね 。))

 

 

そう言って最上は頬を指でつついた、 最上の口調は元からこうだったという訳ではないらしい。

 

最上にも利奈が知らないような様々な事情がありそうだ、

積み重ねた努力が崩れ落ちたのが1番大きいと予想はつくが。

 

彼女は自分の事を中途半端な人間だと思っているらしい、

諦めている辺り自分に対して絶望しているようだ。

 

 

上田「……そっ、そんな事無いよ!」

 

 

最上は自分の事を話し出した途端暗いまま……そう思った利奈は思わず、声を出していた。

 

 

浜鳴「……意外なう、上田さんにそう言ってもらえるなんて思わなかった」

 

 

最上は言葉通りの事を思ったらしく、反応は小さいが利奈の言葉に驚いていた。

 

 

上田「じゃあ、なんで浜鳴さんはまだバレエを続けてるの?」

 

浜鳴「バレエを? そりゃあ、まぁ……単に好きだからかな、継続なう」

 

上田「それで良いと思うよ!」

 

浜鳴「それで良い……って?」

 

上田「だって、頑張ってきた事は無駄にはなってないんでしょ?

 

好きな事として、バレエを続けることが出来ている……

私は、それだけでも頑張った価値があるって思うんだ。

 

この前魔男と戦った時だってそうだよ! 頑丈そうなベルトを鞭みたいに使って、ええと」

 

 

利奈は言葉を探しながら必死に話をしている様子だった、相変わらず話すのが下手だ。

 

それでも利奈が言いたい事は伝わっていた、言葉を選ぶ頭はちゃんとしているらしい。

 

伝わる内容はどれも優しさに溢れている、気が緩んだ最上は思わず笑ってしまった。

 

 

浜鳴「もういいよ、理解なう! 上田さんが言いたい事は大体伝わったよ、ありがと」

 

上田「ごめん、上手く話せなくて」

 

浜鳴「逆にその話し下手な感じが面白いと思うけどね? 予測なう!

 

そりゃあ優梨も上田さんの事を気にいるよ、話してて飽きないもん。

 

上田さんって優しいんだね、ちょっとは楽になった気がするよ」

 

 

そう言って最上は利奈に微笑みを見せる、先程の苦しみは少しは緩和されたようだ。

 

利奈もその笑顔を嬉しく思う、その時にハチべぇがまた何か言おうとしたらしいが……

飲みかけで蓋を閉めたココアと一緒に、思わずバックの中にしまいこんでしまう。

 

最後に『わけがわからないよ』だなんて言いたかったらしいが、

バックの中にご丁寧にしまわれてその言葉はくぐもって終わる。

 

 

 

 

さて、待っている時間が30分を過ぎそうになった頃になると、

小学生くらいの生徒たちが階段を降りて1階にやって来た。

 

利奈の後から来た親御さんたちが自分の子供を出迎える、

親子はお喋りでもしながら自分の車に向かうだろう。

 

人の波が過ぎ去ってからやってくる生徒たち、彼女らはバレエの事を話しながら降りて来た。

 

どうやら優秀な生徒の集まりのようで、子供なのに優雅な雰囲気さえ感じ取れる。

 

そんな中、利奈を見つけるや否や話をやめて利奈に駆け寄ってくる生徒がいた。

 

 

「あれ、お姉!? 何でお姉ちゃんがここにいるの!?」

 

「驚き過ぎよ流兎、自分の姉くらい驚かないで対応しなさいよ」

 

「あはは……ごめんごめん、いつもはお母さんが迎えに来てたからさ」

 

 

優雅な雰囲気を投げ飛ばしてでも利奈に走り寄る生徒、それが上田流兎だった。

 

きっちりと縛っていたはずのお団子の髪は若干緩み、鼻の頭や首元に汗が見える。

 

流兎は利奈に荷物を持ってもらい背伸びをしたりして甘える一方、

付き添いらしいもう1人の女の子は流兎に対して厳しいように見えた。

 

 

上田「おかえり流兎、その子は?」

 

流兎「友達の楽照だよ! すっごい厳しいんだけど、その分踊りもすっごく上手なの!」

 

楽照「べっ、別にそんなんじゃないんだからね!

浜鳴楽照です、池宮バレエアカデミーへようこそ」

 

流兎「お姉ちゃんと一緒にいるのは……あぁ、楽照のお姉ちゃん!

そういえば、お姉さんの年頃はこれからレッスンだっけ」

 

浜鳴「夜のレッスンな……ぅん! 中学生はこの位の時間帯から、大人はもっと遅いんだよね」

 

 

どうやらこの教室での最上は口調を変えているらしく、時々最上の言葉は詰まった。

 

普段のギャル言葉はやめる所が、最上のバレエに対する真剣さが伺える。

 

後は軽い雑談をしてそれぞれの行動という感じになったが、

その前に流兎はこれだけは言いたいと一同を引き止めた。

 

 

上田「ん、どうしたの流兎?」

 

流兎「ちょっと!? なんであの事言わないの楽照、悪い事じゃないじゃん」

 

浜鳴「あの事?」

 

流兎「楽照ってば変なんだよ、さっき次のバレエの発表会で

主役になったって言われたのに誰にも言わないんだもん!」

 

楽照「流兎!? ……そ、そんな対したことないわよ、そこまで大きな公演じゃないし」

 

 

流兎は言っても良いじゃんといった様子で笑っているが、楽照は顔を赤らめて焦っている。

 

色々と行動が遠回しだが、楽照は要するに恥ずかしがり屋なのだろう。

 

そして、そんな楽照の嬉しい知らせを心から喜んだのが楽照の姉だった。

 

 

浜鳴「本当なの楽照!? 今度の公演って行ったら、結構大きなバレエ発表会じゃない」

 

楽照「まぁ……事実上のプリマかな、別にそんなすごい事じゃないんだからね!」

 

浜鳴「楽照が、プリマ……!? おめでとう楽照!!」

 

 

あまりの嬉しさに最上は楽照に抱きついてしまって、

楽照はこれからレッスンだろうと言って先に行く事を促す。

 

 

浜鳴「ごめん楽照、流兎ちゃんもまたね!

上田さん、今日は話が出来てすっごく良かったよ!」

 

 

ご機嫌な様子で最上は階段に足を踏み出した、もう暗い感情なんか1ミリも感じない。

 

零れそうな嬉し涙を最上は流さないよう貯める、泣き顔を仲間や先生に見せるわけにはいかない。

 

最上の心は晴々として希望に満ち溢れいた、今日はいつもより上手く踊れるだろう。

 

 

 

 

そんな時だった……綿菓子の様な煙状で濁色の魔力が、最上の片目から激しく噴出したのは。

 

 

 

 

1階と2階を繋ぐ階段が、まるで火事にでもあったと勘違いする程に噴出している。

 

利奈は驚愕の声を飲み込んだ、その理由は流兎と楽照が無反応だったからだ。

 

やはり魔力は特殊な例でもない限り一般人には見えない、

最上もそれを分かってるらしく一言だけ念話が届いた。

 

 

浜鳴((うっ、上田さん……極秘なう))

 

 

最上の声も表情も引きつっているが、場所が場所だ。

 

今一般人だらけのこのバレエ教室で、魔法使いの騒ぎを起こすわけにはいかない。

 

そんな事になっているとは露知らず、流兎は利奈の腕を強めに引いた。

 

 

流兎「お姉! ボケっとしてないで早く帰ろうよ、もうお腹ぺこぺこなんだってば!」

 

上田「あぁ、うん……ごめんね流兎、今日の晩御飯はスーパーで買って帰るよ」

 

流兎「じゃあ好きなお弁当選んで良いの!? やったぁ! 今日は豚丼にしよっと」

 

楽照「あまり自分のお姉さんを乱用しないの……

私は真っ直ぐ帰るわ、また次のレッスンで会いましょう」

 

流兎「うん、またね楽照ちゃん!」

 

 

外は夜が近くなり暗くなり始めているが、流兎と楽照の表情は明るい。

 

なんだかんだ言って2人はまだ小学生の子供なのだ、これ位明るい方がちょうどいい。

 

そんな感じで利奈も流兎を連れて帰るだろう、今日の晩御飯を何にしようか考えながら。

 

 

裏で魔法使いが様々な事にあってようが、一般人にはいつもの慣れた日常でしかないのだ。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

山巻「わあぁ!? ちょ、ちょっと! どっ、どんどん魔女との距離が離れてくよ!?」

 

 

 

ハチべぇ「探していた魔女が移動を始めたようだね、結界と共に僕らから離れている」

 

 

 

古城「それなら拙者に任せるでござる! あのすばしっこいのを大人しくさせるでござるよ!」

 

 

 

車道「それじゃ、出発するのぜ! 舌を噛まないよう気を付けるのぜ!」

 

 

 

〜終……(39)増える花々と妹は踊り子〜

〜次……(40)逃げの依存と感じぬ希望〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





……さて、久々の日常回はいかがだったでしょうか?

登場人物盛りだくさん、舞も仮ですがやっと入院生活を脱し復帰出来たようです。

何気に花組の担任の名前が明らかになりましたが、まぁそんなことは小さな進展に過ぎない。

逆に大きな進展は何かと言えば、やはり利奈に妹がいた事が明らかになった事でしょう。

チョークも新たに人間としての名前を得たことですし、
物語はいよいよ佳境への道のりを本格的に進み始めたのです。


39話にちなみ、改めて皆様にお礼を申し上げます……くだらないシャレなのは気にせず。


もうしばらく台本形式は続いてしまいますが、
どうかもう少しだけこの形にお付き合い下さい。

それでは皆様、また次回。 次回はかなり文字数が多くなってしまってます、ご了承ください。


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(40)逃げの依存と感じぬ希望

一昨日は、水曜日の『平日』でした。

昨日は、木曜日の『平日』でした。

本日も、金曜日の『平日』です。


滅 び よ ゴ ー ル デ ン ウ ィ (殴


どうも! 1週間と6日ぶりのハピナですよ、本日も絶賛祝日出勤実施です!

どんどん社会の闇に埋もれ……まぁいいや、それよりもうえマギですね(泣

前回の後書きにて記載した通り、今回は15000字越えの長文なので、
文を読む際は休憩を挟みながらご覧下さい、ちなみにイラスト付き。

あらすじとしては、舞が発端となり魔法使いの大半が集まって
魔法の練習、いわば『魔法演習』をするところから物語は始まります。

それでは物語の幕を上げましょう、今回は戦闘シーンも織り交ぜています。



それは夕暮れ、とある日の放課後にあった出来事だ。

 

今日は約束された日、舞を含めた魔法使い一同は久々に裏山にやって来ていた。

 

目的は魔法の練習だ、これによって複雑化した魔法の習得も図ることになっている。

 

舞は病室でも魔力操作くらいは練習していたらしいが、まず自分の魔法を知る所から始めた。

 

そこで、早速舞は魔法を唱えた……のだが、それはかなり豪快な物だった。

 

 

車道「ライドオン! ライト・モードトラック!」

 

 

舞の武器は直径30cm程の鈍色の立方体だった、何かの金属らしく両手じゃないと持てない重さ。

 

一見なんの変哲もない物体だったが、練習を進めていく内にその正体は明らかになった。

 

この金属の立方体、舞の魔法によって()()する性質を持っていたのだ。

 

どんな形にでもなるという訳ではなかったが、かなり便利な物ではあった。

 

時には町中でよく見かけるような軽自動車、時にはかなりの速度が出せそうなバイク、

ゴツい大型トラックにだってなった、要するにこれは乗り物に変形出来る武器。

 

 

車道「軽トラにまでなるのぜ!? すっごい万能なのぜ!」

 

ハチべぇ「現段階ではその立方体のみのようだ、魔力の消費量も少し多目だ。

今の舞の状態だと、攻撃方法は轢く事しか無さそうだね」

 

車道「なんか物騒な攻撃方法なのぜ……とにかく、これにも試しに乗ってみるのぜ」

 

上田「あっ、ちょっと!? 1人で動いたら危ないよ!」

 

車道「そこまで心配しなくても大丈夫だぜ、そろそろこの身体にも慣れてきたのぜ。

しっかし足での走り方を忘れてるなんて……当分は車での移動が主流なのぜ」

 

 

舞は最初、変身をした魔法少女の身体なら大丈夫だと意気込んでいたらしいが……

 

実際は俐樹よりも弱い身体だった、ただの徒歩もどこかふらついている。

 

結局は利奈から貰った棍を杖にして、ハチべぇの魔力管理付きで手伝ってもらっている状態だ。

 

それでも舞は仕方ないと受け止めることができた、行動も豪快ならその心も豪快な反応を示す。

 

舞の魔法少女姿が鈍色のつなぎであるのがせめてもの幸運だろう、いくら転ぼうが痛い傷は無い。

 

一度車に乗ってしまえばあとは手慣れた者で、座席の調整を終えれば話は早い。

 

座席に乗った舞はパワーウィンドウを開け利奈に手招きをした、指差しているのは隣の座席(助手席)

 

 

車道「せっかくだし利奈も乗のぜ! さっきから見てるだけなのぜ、それじゃつまらんのぜ」

 

上田「えっ、いいの? 逆に邪魔になったりしない?」

 

車道「それこそ練習になるのぜ、これから他の魔法使いを機会はあるのぜ。

誰かを乗せても安全に走れるようじゃなきゃ、レーサーの名が廃るのぜ」

 

 

それはレーサーではなくドライバーのような気もするが……まぁ、意図が伝わればそれで良い。

 

利奈が助手席に乗り込めば、魔法の効果か自動的にシートベルトがかかった。

 

周囲を確認して前を見据えたなら、舞はしっかりとハンドルを握りしめる。

 

 

車道「利奈、準備は良いのぜ?」

 

上田「うん! 心の準備は出来てる、いつでも行けるよ」

 

車道「ハチべぇ、一応ガソリンは持ってきたけど魔力管理は頼むのぜ」

 

ハチべぇ「その辺りは僕に任せて、舞は練習に集中するといいよ」

 

車道「それじゃ、出発するのぜ! 舌を噛まないよう気を付けるのぜ!」

 

 

舞の掛け声に答えるようかかる車のエンジン、前を見据えるその瞳は炎の如く燃えていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

清水「……しっかし、ここまで団結するのに結構時間がかかったな」

 

中野「最初はみんなバラバラだったからね、僕としても驚いてるよ」

 

白橋「あれ? でも、ちらほら魔法使いの数が足りないね」

 

中野「みんながみんな集まれた訳じゃないからさ、僕だってこういうのに参加したの久々だし」

 

清水「特に力強と八雲は用事があって嘆いてたな、舞が心配だどうだと言ってたし」

 

 

舞の車が裏山を周るように走る中、花の魔法使い達は魔法の練習に励んでいた。

 

最初はリュミエールと舞だけで行う予定だったが、

集まりに集まって結局花組のほとんどが集まってしまった。

 

『クインテット』や『ゲマニスト』に所属する魔法使い、

チームに入っていないコンビなどの魔法使いまでいる。

 

流石に『星屑の天の川』は来なかったらしいが、かなりの人数がいるのは間違いない。

 

ちらほら塾やその他用事でいない魔法使いもいたが、その辺はチームもごちゃ混ぜで練習する。

 

 

録町「ん〜〜? なかなかCDが飛び出してくれないな、中の構造はかなり直してもらったのに」

 

切通「うぅ……射出部分に歪みがあるかもしれない、もうちょっと削ってみる」

 

月村「貴方が落ち込む意味がわからないわ、知識なら貸すから落ち着いて作業なさい」

 

吹気「まぁ別に上手くいかないなら、上手くいかないなりにやってけば良いと思うけどね」

 

砥鳴「私たちゲマニストに任せれば大丈夫よ! 機械の事ならお任せ!!」

 

 

強い遠距離魔法が無い魔法使いは、後衛中心の魔法使いと一緒に新たな武器を創っていた。

 

特に花奏は自身の魔法であるCDを素手で投げていた程の、遠距離に関してはかなりの弱さだった。

 

主に花奏の新しい遠距離武器の作成を中心に、一同は強化も含めた作業に勤しんでいた。

 

しばらくして花奏の新しい武器の調整を終えた操太郎、

試し打ちをしたのなら弾であるCDは勢い良く飛び出した!

 

どうやら上手くいったらしく、操太郎は安心したような表情をして喜びを共有する。

 

 

白橋「わあぁ……! すごい器用だね海里、新しい武器が出来た!」

 

清水「ゲマニストは由来にもあるように、ゲームといった機械系に強いからな。

特に切通はポリゴンの魔法を扱うからな、メンバーの中でも機械には詳しい」

 

白橋「僕の魔法にオリジナルって無いから、こういうの普通に凄いって思うんだ!」

 

清水「おおぅ、花奏に操太郎を紹介した紗良の計らいも良かった」

 

中野「……試し打ちはもうちょっと考えてやって欲しかったかな?

僕の魔法が間に合ってなきゃ、頬かおでこにCDが刺さってるよ」

 

 

蹴太の不運は相変わらずだ、反応が遅ければ流れ弾をくらっていただろう。

 

なんというアンラッキー! 前より目立った災難は減ったが、

彼が持つ《不幸体質》は簡単には治ってくれないらしい。

 

蹴太の顔は苦笑いだった、どうしてこうも不幸が自分の方に来てしまうのか。

 

 

それはさておき、この場で練習をしているのは後衛の魔法使いだけではない。

 

他にも戦いの技術を向上させる為に来ている魔法使いもいる、それが前衛の魔法使い。

 

あちこちで組み手が執り行われていた、一部、 本気でやっている所もあるが。

 

その一角、そこでは魔法少年2人による近距離の激しい組み手が行われていた。

 

拳とランスの攻防……唐輝が教える側らしく、その組み手は真剣に執り行われている。

 

 

山巻「遅い!! 拳を振り上げるなら、その武器を振り降ろせ!」

 

津々村「んなこと言われなくたって分かってる! だからこうしtのわっ!?」

 

山巻「やばっ、うおぉ!?」

 

 

互いの戦いに慣れが出てきた頃、放たれた博師の攻撃の1つが急所に向かってしまった。

 

唐輝は思わずカウンターで反応したが、傾く博師の服を掴んで共に倒れてしまう。

 

そのまま受け身も取れずに地面に激突する……かと思われたが、

地面から生えるようにして現れた桜色のベッドに受け止められた。

 

 

津々村「痛い……ごめん、自分のせいでアンタも倒れちまった」

 

山巻「……え? ああぁ!? ごごごごめんなさい! 僕のせいで博師が!!」

 

津々村「へ? いやいやいや、アンタが謝るんじゃなくて自分が謝るんだって」

 

御手洗「もぉ〜〜2人悪くないよぅ! 怪我が無くて良かったねぇ、知己もナイスだぁ!」

 

根岸「ありがとう琴音、唐輝君も博師君も思う存分戦って良いよ! 私達がついてるから」

 

 

これらの組み手は練習とはいえ、数をこなせば僅かにも失敗が出てくる。

 

慣れた強者なら安心出来るが、唐輝と博師が組み手をするのは初めてだった。

 

どうやら2人を見守る者がいて正解だったらしい、

練習とはいえ知己の魔法が無ければ怪我をしていただろう。

 

 

 

 

前衛も後衛も共に協力し、そんな感じで魔法使い一同はそれぞれ魔法の練習を進めた。

 

耳を澄ませば車を走る音が遠くで聞こえる、舞の走行復習も順調に進んでいるようだ。

 

海里が全体の管理、直希は蹴太に教えてもらいながら飛び交う様々な魔法を見ている。

 

直希はたまに自分に必殺魔法が無い事を密かに嘆いたが、

魔法使いが魔法を使いこなす様を見れば感動でそれも忘れた。

 

練習を風景を眺める中、ふと様子がおかしな魔法使いを彼は見つけた。

 

いや、魔法侍……と呼ぶのが正解だろう。

 

直希が気になって念話で声をかければ、その侍は人を探していると言った。

 

 

白橋((組み手をしてる最中に突然いなくなったって?))

 

火本((そなんだよ、戦っちょったらいっの()めかいねごっなっちょったんだ))

 

清水((……方言が強くて何を言ってるかさっぱりだぞ、よく言ってる事が分かるな直希))

 

白橋((ヒトの言葉はたくさん練習したからね! 関西弁とか、博多弁とか、広島弁とか))

 

火本((そや日本語ちゅうより、方言(ぢご)のよな気がするけど……気にしたら負けか))

 

 

徳穂が言うに、彼は相方である魔法少年と先程まで組み手を行っていたらしい。

 

時には刀と苦無で刃を交え、茶色と黒茶の魔力がぶつかり火花を散らした。

 

その中で、視覚に頼らない気配による剣術を徳穂は手伝ってもらっていたが……

 

攻撃の機会を伺っていたはずの相方の気配が突然、徳穂の場を急に離れてしまったらしい。

 

何も言わずにその場を離れた相方、何事かと行方を探して今に至るのだとか。

 

 

清水((火本の相方と言うと、古城忠義の事か? お前に相対して、魔法忍者を名乗っていたな))

 

火本((忍者の魔法少年姿でも木の色に近けから、見つけづらくて困っている……念話をしても返事(へし)(もど)()ん))

 

中野((それなら、僕らを中心にみんなで手分けして捜索!

この場にはかなりの人数がいるから、山一つ位は捜索))

 

車道((あぁ〜〜、確か名前は蹴太だっけか? 悪いが、その必要は無いのぜ))

 

中野((出来る……え?))

 

 

意気込む蹴太に割り込む様に聞こえて来た念話、それは山中で走行練習をしている舞からだった。

 

 

車道((忍者姿の魔法少年と言ったのぜ? あぁ、うん……そいつなら))

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

車道((さっき走ってる最中、いきなりあたしと利奈が乗る車の荷台に飛び乗って来たのぜ))

 

中野((……え? とっ、飛び乗ったああぁぁ!?))

 

古城((吹き抜ける風が最高でござるよ! 山道に揺れてジェットコースター気分でござる!))

 

車道((だからってルーフ(車の屋根)の上で直立しないで欲しいのぜ!? 危ないったらありゃしないのぜ!))

 

清水((……おおぅ、とにかくその魔法忍者を探す手間が省けたのは分かった))

 

古城((ごめん徳穂! 急ぎの用事が出来たでござる、残りは徳穂だけで練習してくれでござるよ!))

 

火本((急な用事(ゆし)が出来たのか……そいなあ仕方ない、気をつけっ()たっくっんだよ!))

 

 

一通りの念話が終わると、舞は運転を続けながら呆れた様なため息をついた。

 

 

車道「ったく、どうしてもそこから降りるつもりは無いのぜ? 怪しい忍者」

 

古城「飽きたら降りるでござる! しばらくは山の風景を楽しむでござるよ!」

 

車道「あぁもう、転がり落ちて怪我をしても自己責任なのぜ」

 

上田「あはは……それでハチべぇ、魔女の存在が見つかったって本当なの?」

 

ハチべぇ「ここからそれなりの距離はあるけどね、誰かが孵化したのは間違いないよ」

 

 

ここに至った要因は舞の走行練習中の出来事だ、

利奈と共にいたハチべぇが突然魔女の存在に感づいた。

 

それをハチべぇは利奈に告げたのだ、魔力の規模からそれが雑魚級であるとも判断する。

 

孵化した魔女の周囲で、感知した魔法使いはたった1人だけ……

 

そこで、利奈は舞にお願いし急いで現場に向かってもらっているのだ。

 

雑魚級なら少人数でも何とかなる、練習の邪魔をしたら悪いだろうという利奈の基づいて。

 

 

ハチべぇ「魔女と1人きりの魔法使いの距離が縮まり始めたよ、

どうやらどちらかかが互いの存在に気がついたようだね」

 

上田「ハチべぇそれ本当!? 舞さん!」

 

車道「分かってるのぜ! ちんたら走ってたら間に合わないのぜ、しっかり捕まってるのぜ!」

 

 

舞の行動はとにかく早かった、素早くギアを切り替えたかと思えば急に曲がり道を変える。

 

 

古城「え、ちょ!? そっちは思いっきり森の中でござるよ!? ひいいぃぃ!?」

 

 

迫り来る大枝や木の葉の束、忠義はそれを避けようとして車の荷台に落ちてしまう。

 

ところが、鉄の板は痛いはずなのに受けた感触はそこまで固くはなかった。

 

代わりに振り向けば、誰もいなかった筈の荷台には4人の魔法使いがいた。

 

 

山巻「痛た……わぁ!? ごっ、ごめんなさい! 気が逸れたから僕の魔法が!」

 

津々村「いやアンタ、慌てなさんな……不意打ちで強い衝撃が来たら自分でも途切れる」

 

古城「ええっと? つまり、拙者と同じ様にこの車に?」

 

御手洗「見た感じ只事じゃなかったからねぇ、唐輝君の力を借りて乗っちゃったのぉ」

 

根岸「何がともあれ……勝手に乗り込んじゃってごめんなさい、私たちも力になりたいです」

 

 

その光景はバックミラー越しに舞にも見えていた、利奈が見るその表情は苦笑い。

 

 

車道「気が付かない内に随分にぎやかになったものなのぜ……

軽トラじゃ座席が少なくてキツい、ちょっと魔法を使うのぜ!」

 

上田「魔法? でも、今は走ってる最中……」

 

車道「なぁに、ちょいとばかし変形するだけなのぜ」

 

 

舞は利奈を見ているニヤリと笑ってみせると、利き手に魔力を込めてクラクションを鳴らした!

 

 

車道「ライドオン! ライト・モードワゴン!」

 

 

魔法発動と同時に、舞は上手いこと運転して車体を跳ねさせ一瞬宙に浮かせる。

 

その隙に車体全体が眩しい鈍色の輝きを放ち、膨れ上がるようにして変形!

 

地面に着地する頃には、軽トラだった車体はワゴン車へと早変わりしていた。

 

 

車道「さっきとは別の車体になったのぜ、みんなシートベルトを締め直すのぜ!」

 

上田「りょーかい!」

 

古城「何で拙者だけ後ろの荷物入れる所でござるか!?

まぁ、ここに乗るのも新鮮で楽しくはあるでござるが」

 

車道「楽しいのぜ!? そこに行ったのは偶然、直す暇は無いし我慢してくれなのぜ」

 

ハチべぇ「魔法使いにおける男女のコンビが2組、4人も無断乗車していたようだね」

 

上田「えっと……仲間が多いに越したことは無いと思うし、良いんじゃないかなハチべぇ」

 

 

無感情に辛辣なハチべぇを利奈が苦笑いで止める傍、

頑丈さを増した舞の車は更に険しい道へと突き進む。

 

やがて車体は森を抜けた、裏道を多用しながら舞はハチべぇの案内に沿って走る。

 

若干スピードが出てしまっているが、それによって人を引くなんてことは彼女には絶対無い。

 

 

ハチべぇ「次は北西の邦楽に向かって車を走らせればいいよ」

 

車道「はぁ? そっちの道を進んじまったら路地裏を抜けちまうのぜ」

 

ハチべぇ「身も蓋もないね、何故急がなきゃいけない状況で一般人の目を気にするんだい?」

 

御手洗「えっとねぇ……私の魔法で車全体を包んでおくよぅ!

これで一般人のみんなから見えなくなるからぁ、思いっきり走ってねぇ」

 

車道「おぉ! 恩に着るのぜ、これで最短の距離で進めるのぜ!」

 

 

車体を包む魔力の泡を確認したのなら、躊躇なく進路は山の外に向いた。

 

コンクリートで塗装された道路、一般の車が何台もまばらに走行している。

 

その間を潜って猛スピードで舞の車は進んだが、それに気がついた一般人は1人もいない。

 

 

高速のドライブをして5分程立った頃、舞の目に1人の少女が目に入った。

 

そこはとある路地裏の一角、明らかに不安そうな表情をしている。

 

どうやら、ハチべぇが遠くから感知した『1人きりの魔法使い』が彼女らしい。

 

 

上田「あの人……浜鳴さん?」

 

車道「あれが例の魔法少女か、とにかくサッと乗せてくぜ!」

 

上田「え? サッて、ちょっと!?」

 

 

舞は驚いた事に運転席から離れ、後部座席に乗っていた琴音を跨いでスライドドアを開いた!

 

不思議な事にそれによって車の運転が途切れる事はなかったが、

それでも周りから見れば気持ち的に危なっかしいのに変わらない。

 

まぁ、魔法使いならその不思議な事の原理は魔法。

 

 

車道「よっす! いきなりだが失礼するのぜ!!」

 

「……え、ひゃああぁぁ!?」

 

車道「事情は大体知ってるのぜ、悪く思わないでくれなのぜ!」

 

 

『1人きりの魔法使い』が叫び声をあげるのも無理はない、

急に腕を掴まれ走る車の中に引き込まれたのだから。

 

2人共車の中に入り切ったのなら、空いていた扉は勝手に閉まり舞は運転席に戻った。

 

なんと豪快な行動な事か……新たに乗り込んだ魔法使い含め、一同は驚きを隠せない。

 

まぁ舞ならそんな行動もとるだろう、《男勝り》な彼女は行動も豪快だ。

 

後ろ座席を見れば新たな乗客が琴音と知己の間に収まっている、

バックミラー越しに舞が『1人きりの魔法使い』に話しかけた。

 

 

車道「へぇ? あたしと同じクラスのギャルだったのぜ」

 

浜鳴「拉致なう!? ちょ、あたし急いでるんだけど!?」

 

ハチべぇ「安心するといいよ最上、少なくとも利奈と舞は君の状況を理解している」

 

古城「……拙者は?」

 

車道「気がついてたのはやっぱり魔法使いの方だったのぜ!

というか、逆だったらそれはそれでやばかったのぜ……先を急ぐのぜ!」

 

ハチべぇ「最上の探していた魔女が移動を始めたようだね、結界と共に僕らから離れている」

 

車道「逃げてるってことなのぜ? そうはさせないのぜ、ここまで来たらもう引き下がらないのぜ!」

 

山巻「えっ、えぇ!? まだあの危なっかしい運転をするの!?」

 

津々村「……空手家のアンタ、ここは諦めて慣れるしかない」

 

 

既に唐輝は怯え博師は車酔いを起こしかけているが、速さを緩める余裕はない。

 

ハチべぇの案内に従い、猛スピードの車に乗って町の中を走り抜けていく一行。

 

やがて舞が何かを見つけてニヤける頃、利奈は窓の外で高速で逃げる輝く紋章を目にした。

 

 

浜鳴「発見な……うぅ」

 

上田「あれが魔女の紋章……って、浜鳴さん大丈夫? 顔色が悪いけど」

 

車道「壁伝いに移動してるみたいなのぜ、これは都合が良いのぜ!

みんなどこでもいいからしっかり捕まってるのぜ、突っ込むのぜ!!」

 

 

抵抗とばかりに建物の壁を這いずり廻り逃げる魔女の紋章、

普通に走ってるだけじゃ絶対に追いつけないだろう。

 

それを見る最上の顔色は何故か青い、逃げる魔女は彼女と親しい関係なんだろうか?

 

全員が支えを得たのを確認したのなら、タイミングを見計らって車道は紋章に突っ込んだ!

 

 

紋章の先に広がるのは魔女の結界、先にあったのは統一された極彩色の迷宮。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

粘液質の壁でヒトの基本的な顔のパーツは蠢き、床は規則性を持って変わりギラギラと輝いた。

 

後ろを見れば、入って来た筈の入口は無くなり分かれ道……この場が迷路だとはすぐ理解出来た。

 

一見今回の魔女が単純だと思うだろう、()()()()()()()()()()()()()までは。

 

 

古城「……ちょ、え? ええええぇぇぇぇ!!?」

 

上田「いきなり!? まっ、前置きも無しに……」

 

車道「ちょっと、すごい速さで逃げてくのぜ!? 全力疾走て追いかけるのぜ!」

 

 

結界に侵入して早々の魔女の登場……それがこの魔女の性質の一部だとして、

本来魔女に従える為にいる筈の使い魔はどこに行ってしまったのだろうか?

 

 

サンドブラストの加工がされた瓶の身体、中身は赤黒い液体で満たされドロドロと揺らめく。

 

高価そうな子供用のワンピースがその中で浮かんでいる、不思議と沈むことはない。

 

下半身はまるで逆さ向きのハンガー、足はマニキュアに使われる筆先1本。

 

湧き出す色の付いた液は滴らない、恐らくそれはマニキュアの液だろう。

 

瓶の蓋から生える2本の腕、その筋肉は人間の物とはとても言えない。

 

腕の先はさらに4つに割れ、カプセル剤のような関節から伸びる触手が(うごめ)いた。

 

例えるなら、この魔女は薬瓶にカビが生えたような気味の悪い不気味さがある。

 

白目が肌色で黒目がマニキュアを塗ったような濁色……そんな汚い瞳で、

魔女は舞たちが乗る車を見るなり奇声をあげて結界の奥へ逃げてしまった。

 

大勢が相手では流石に都合が悪い、ならばこの場から逃げてしまおう……()()()()()()()まで。

 

 

逃避の魔女、性質は傲慢。

 

【挿絵表示】

 

 

 

車道「割と複雑な迷路になっているのぜ、カーナビ着けといて良かったのぜ……」

 

ハチべぇ「今まで進んだ経路が記録される機能のだね、

この結界は小規模の迷路で構築されているようだよ」

 

山巻「わあぁ!? ちょ、ちょっと! どっ、どんどん魔女との距離が離れてくよ!?」

 

御手洗「自分の結界だからぁ、迷路の構造を完全に把握してるってことかなぁ?」

 

ハチべぇ「琴音が言う事の可能性はかなり高いと思うよ、

でなければあの魔女はあそこまで早く行動出来ない」

 

津々村「だとしたら自分らはマズい状況、アイツに追いつくのにやたら時間がかかる」

 

根岸「無駄に魔力を消費しちゃうって事かな……うぅ、何とかならないのかな」

 

 

悩んでいる間にも魔女との距離はどんどん離れていく、

対策が生まれたのは咄嗟の思いつきによるものだった。

 

 

古城「……あ、そうでごさる! 迷路なら構造を上手いこと利用して、

何処かの道で魔女を挟み撃ちにしてやるでござるよ!」

 

 

思い立ったら吉日とばかりに、忠義は荷台の後ろで何やら道具を取り出し準備を始めた。

 

 

山巻「はっ……挟み撃ち、だって?」

 

古城「そうでごさるよ! なんかほら、ゲームとかでそういうのあるでごさろう!」

 

津々村「悪くない手だとは思うが、車は2台もないぞ? アンタに考えはあるのか?」

 

古城「二手に分かれて追い詰めるでござる、問題は迷路の把握でござるが……」

 

上田「追い詰めるだけで良いなら、私にも考えがあるよ!」

 

 

利奈の言う考えは、忠義の提案をベースに問題点をカバーした作戦だった。

 

口頭で作戦を伝えながら利奈も作戦を行う為の魔法を使う、やっているのは道具の作成だ。

 

その内容を聞いて一同は納得をする、魔女を完全に見失う前に行動を起こさなきゃいけない。

 

 

即興にしては上出来だ、成功しなければ意味が無いが。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

飛び去る度に自らを追いかける者たちは遠ざかる、魔女は迷宮を疾走していた。

 

1人だけなら相手をする、迫り来る都合の悪さから彼女は逃げ惑っていた。

 

それは彼女自身の本質でもあった、その自分勝手さが親の教育によって

生まれ出た副産物だとは本人は気がつくことは恐らく無い。

 

孵化してからも、使い魔を建築材にしてまで都合の良い世界を創るという身勝手さを醸し出していた。

 

まぁ……そこにあるのは満足感などではなく、常に何かに怯える恐怖しかなかったが。

 

 

 

 

さぁ、次の曲がり角で完全に撒ける! そう、魔女が確信をした時だった。

 

 

 

 

走る車の屋根が不意に開く、そこから4人の魔法使いが飛び出した!

 

 

 

 

魔女は車を撒くことには成功したが、新たな追っ手が来るとは思いもしなかったらしい。

 

そこには棍の箒に乗る赤き奇術師、ムササビの如く風呂敷を広げ飛ぶ忍者、

ランスに跨る魔法少年と寄り添う魔法少女……4人の魔法使いが魔女を追尾している。

 

知り尽くした迷路を右往左往して惑わしにかかるが、素早い彼女らはらなかなか撒けない。

 

それも一心不乱にだ、迷路の構造を覚えることも()()()()()しないとこの速さは出ない。

 

そんな把握もしない状態で、魔女を追いかけてしまって大丈夫なのだろうか?

 

何か考えがあるのだろう、魔法使い達は遠距離での攻撃を一斉に魔女に仕掛けた!

 

 

上田「スフェール・ノンブルー!」

 

古城「忍法『明るき晴天の手裏剣』!」

 

津々村「ランセサイザ・ダイナマイター!」

 

 

手のひら大で太陽型の手裏剣を右に避ければ、赤い魔力の球が魔女に迫る。

それを左にかわせば、勿忘草色のランスが瓶の身体を掠め大きな傷を付けた。

 

魔女は奇声をあげながら逃げ惑う、そんな彼女もただやられているだけでは済まない。

 

8つの触手が先の口を開け鋭い牙を見せてれば、マニキュアの液を球にして吐き出し飛ばした!

 

 

根岸「クロウステト・レオメッガ!」

 

 

魔女の攻撃は強い毒性を持ち明らかに危険だったが、

空中に出現する小さなタンスによってその弾道は阻まれた。

 

 

古城((ぐぬぬ……やはり、追いかけてるだけでは収拾がつかないでござるな))

 

津々村「ダメージは一応入ってる、事実魔女の身体に削ったような傷が多数見える」

 

ハチべぇ「どうやら移動によって急所を避けているようだね、

このままだと討伐までにかなりの時間がかかってしまうよ」

 

根岸「防御はまだまだいけるよ! 攻撃は単調だし、動きは簡単に読めちゃう」

 

津々村「なるべく激しい移動がないようにしてるけど、何かあったらすぐ言ってよ知己」

 

古城((しっかし、本当に任せっきりで大丈夫でござるか?

文字通り道は全く覚えてござらぬし、下手をしたら共倒れでござる))

 

上田「舞さんたちなら大丈夫だよ! それに、あの人だけって訳じゃない」

 

 

忠義はムササビのように飛んでいる影響か、口から苦無を飛ばしている。

念話で話すその表情からは若干の不安が見えた、作戦に不満があるのだろう。

 

それでも行った以上はもう後戻り出来ない、やるべきは現状維持だ。

 

次は分かれ道の無い直角の曲がり角だ、魔女は一切迷う事なく曲がり角を曲がった。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()のだ、思わぬ形で魔女は追い詰められてしまった。

 

 

 

 

曲がり角を曲がった瞬間、運送に使われるような巨大なトラックが道を塞いでいる。

 

魔女は物の見事に激突を許し、その瓶の身体に小さなヒビを入れてしまう。

 

となれば逃げ道は来た道を戻る事だ、魔女が後ろを向いた……その時だった。

 

 

根岸「メビリ・ムナガチースリンヌイ!!」

 

 

振り向く僅かな隙をついて、知己は貯めた魔力で必殺魔法を放った!

 

放たれた桜色の魔力が高く上空に飛んだかと思うと、

利奈たちの背後に大量の家具が雨のように降り注いだ!

 

出来上がったのは桜色の家具の山だ、これでは簡単に通れそうにもない。

 

何故なら魔女は、浮いて移動は出来るが空を飛ぶことは難しい様子。

 

逃避できない絶望と哀愁に、魔女はガラスを引っ掻いた様な甲高い奇声をあげて怒った。

 

 

挟み撃ちにするには場所の把握役が2つ必要だなんて、誰が決めたのだろうか?

 

 

()()()()()()()()()()、もう片方はただ追いかけていれば大丈夫だ。

 

 

追い詰めれるよう工夫するのが、場所の把握役なのだから。

 

 

車道「よっしゃあ! やたらすばしっこいから、回り込むのに苦労したのぜ」

 

山巻「ぁあ、うぅ……着い、た? 車酔いで、気持ち悪い……」

 

御手洗「唐輝君フラフラだねぇ、車酔いは私が治してあげるよぅ」

 

車道「悪いけど戦闘の方は頼んだのぜ! 生憎、私の武器は今はまだこの車しかないのぜ」

 

浜鳴「な、うぅ……ホントに、この魔女と戦うしかないのね」

 

 

何やら最上はこの魔女と戦うに当たって迷いがあるようだが、その原因は分からない。

 

だが迷いがあるのは最上だけだ、一同が止まる理由にはならない。

 

怒り狂い襲いかかってくる魔女、皆と共に利奈も武器である棍を構え迎え撃った!

 

 

上田「ボス、ステージ!!」

 

 

それは利奈にとって定番の掛け声だ、この時は一同の出撃の合図にもなった。

 

 

襲い来る魔女の二つの腕と八つの指、その口からはリボンやナイフの刃が唾液と共に出て来た。

 

そのリボンは最上がよく知る物だ、蘇芳色のリボンは体液に濡れているが捕獲には向いている。

 

魔女の手法はリボンで捕獲した者を、ナイフの刃で斬り刻むといった所だろう。

 

直接ナイフの刃で斬りつける事も出来る、喰らった傷は痛々しいことになりそうだ。

 

そんな被害を受ける訳にはいかない! いつも以上に前衛は気を引き締めた、それは利奈も同じ。

 

 

上田「アンヴォカシオン!」

 

古城「ウヒョー! リュミエールのエースの本気でござる、初めて見るでござるよ!」

 

山巻「……っ、こんな時にノッてる場合か!? 今は目の前の相手に集中しろ!」

 

 

初手はすっかり酔いが覚め人が変わった唐輝だ、拳で魔女が仕向けた刃を受け流す。

 

絡まろうとするリボンをパイプ椅子で弾く知己の傍ら、

琴音は魔法の泡を生み出し魔女にぶつけて弱体の効力を与えた。

 

最上は自らが持つ唯一の補助魔法を前衛3人にかけた、それは回避率を上げるという内容だ。

 

バレエを踊る事によって全体にかかる魔法、時折更新しないと途切れてしまうタイプ。

 

彼女ら後衛の補助を受け、残る前衛4人はそれぞれの武器で魔女に挑んだ!

 

 

魔女はリボンやナイフの刃による攻撃はもちろん、

筆の足を使って色濃いマニキュアを床に塗って来る。

 

床に塗られたマニキュアは滑って転ぶことを狙っての策だろうか?

 

まぁ、この4人には雑魚級魔女による姑息な手は通用しそうにもないが。

 

 

上田「瓶は厚いガラス、ハンガーは細長い鉄……うぅ、固い物質ばっかりだ」

 

津々村「アンタは融通が効くからまだ良い、自分は突くことしか出来ないから絶望的」

 

ハチべぇ「どうやらこの魔女は防御面に魔力を費やしているようだね、

筆による床塗りの雑さ等の攻撃面の弱さはそれが原因と言えるだろう」

 

山巻「あのガラス瓶にヒビでも入れたいが、あんなに動いてちゃ力が入らんな……」

 

古城「それなら拙者に任せるでござる! あのすばしっこいのを大人しくさせるでござるよ!」

 

 

様子を見ようと前衛が一旦一歩下がる中、最も早く飛び出したのは忠義だった。

 

魔女の前に出て両方の忍者小手に黒茶色の魔力を込める、

一定の魔力が溜まったならそれを複数の球体に固めた。

 

一見なんの変哲も無い磨かれた泥団子のような球体、忠義はそれを魔女に向かって投げつけた!

 

 

古城「忍法『暗き曇天の煙幕』! いっけぇ魔女の目を晦ますでござるうぅ!!」

 

 

忠義がほぼ《ノリノリ》で叫んだ通り、彼が投げた球体の正体は煙幕だった。

 

魔女の前で外殻が弾けたかと思うと、まるで積乱雲のような煙が魔女を大幅に覆い尽くした!

 

防御をしようと魔女は腕を自分の前で交差させたが、逆に触手にある口か大量の煙を吸ってしまう。

 

吸ったのとほぼ同時に、魔女の瓶の体内ある赤黒い液体が激しく泡立った。

 

赤が少なくなり液体は黒に近づく……その色の変化と比例し、魔女はだんだんと大人しくなる。

 

 

古城「やったでござる! 目眩しの高価でかなり動きが鈍ったでござるよ!」

 

車道((でもまだ動いてるのぜ、急に視界が塞がれたせいか混乱してるのぜ……大丈夫か?))

 

山巻「充分だ、これだけ鈍れば無駄な魔力を割かなくて済む」

 

 

魔女が混乱し激しく動く中で、次に行動に出たのは唐輝だった、茶の帯を腰に縛り呪文を唱える。

 

 

山巻「熊の如く! 岩をも砕く豪腕をこの身に!」

 

 

魔法を使い帯に鉄色の魔力が帯びたかと思うと、唐輝は魔女との距離を一気に詰める。

 

厚い家具の防御も受け、唐輝は攻撃に集中することが出来た。

 

拳を強く握り締めて思いっきり振りかぶり、その拳を魔女の身体に叩き込んだ!

 

瓶の身体に大きなヒビが入るとと共に、魔女はリボンを引っ張り張ったような断末魔をあげた。

 

ヒビから液が漏れ出ることはない、相当厚いガラスなのだろう。

 

 

山巻「ぐっ……普通殴っただけじゃ、決定打にはならないか」

 

ハチべぇ「ダメージそのものは入ってるようだね、言うならあともう1歩だよ」

 

山巻「分かってる! 後は頼んだぞ、トドメを刺してくれ!」

 

 

唐輝は利奈と博師の方を見てその言葉を発していた、利奈は若干戸惑っている様にもみえる。

 

 

上田「ちょっとトドメを刺すにはヒビが足りないけど……うん、魔力を多めに使って強引に」

 

津々村「アンタ待て、その必要はない」

 

上田「え? だって、普通にやっても……」

 

津々村「いいから、普通にやってくれ! 自分に策がある、()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

上田「……作戦があるんだね? りょーかい、ならいつも通りに行くよ!」

 

 

そう言った利奈は両手の棍を1つまとめ赤色の魔力を多めに込める、それは過度な量ではない。

 

一方博師は持っていたランスの先端にある円錐に手をかけると、

その先端を捻る……どうやらダイヤルになっているらしい。

 

一定量まで巻き上げると、ランスの全体に勿忘草色の魔力が溜まり出し煌々と輝いてみせた。

 

 

さて、双方早々と準備を終え魔女を倒すための最後の行動に出る。

 

利奈は魔女の目の前まで走り込んだ、妨害とばかりに触手の攻撃が襲うが弾かれる。

 

ベルトがリボンを弾いたのだ、その防御率は魔女の攻撃を熟知してなければ達成できない高さ。

 

走りながら回避して進み、ついに利奈は魔女の目の前まで来た!

 

遠い上に中液が濃く分からなかったが、瓶の中のワンピースは安物の品だった。

 

ポリエステルが混じった材質……何を指し示すのか分からないそれは、ヒトの様に動いている。

 

これが魔女の本体だろう、厚いガラスの中に彼女はしまわれていたのだ。

 

 

そんな身体ももうじき終わる……放つ、利奈の必殺魔法。 赤色の刃からなる魔力の大剣!

 

 

上田「ソリテール・フォール!!」

 

 

利奈が大剣を創り出して構え、真後ろに差し掛かったその時、

魔女の身体に博師の武器の一部である円錐の物体が突き刺さった。

 

薄い氷を踏み抜いたような音がすると、ヒビら勿忘草色の光を一瞬放った。

 

次の瞬間……ヒビが少し改善されていたのだ、行われたのは()()()()()という奇行。

 

 

車道((ちょ、オイオイオイ!? 何やっちゃってくれてるのぜ!?))

 

ハチべぇ((そういえば舞は彼の必殺魔法を見たことが無かったね、見ていれば分かるよ))

 

車道((見ていれば分かる、って……大丈夫なのぜ?))

 

 

不安になる余裕があるのは車体に潜む舞くらいだ、利奈自身は不安なんてありゃしない。

 

何故か? 利奈は博師の()()()()()()()()を知っていたからだ、それはつい先日の話。

 

それはともかく、一切の迷いなく利奈はその大剣を横に振りかぶった!

 

魔女の身体は最初に比べてヒビが減っていたが、その脆さは増してまるで飴細工のよう。

 

それが博師の魔法の効果だ、彼はデメリットを上手いこと活かし活用したらしい。

 

 

ガラスの破片と共に血飛沫の如く中の赤黒い液体が飛び散り、

その液に浸っていた安物のワンピースが吹き飛んだ。

 

何処から聞こえるのかハッキリしない断末魔が辺りに響く、その声はとても痛々しい。

 

投げ出されたワンピースは繊維状に解れて糸となり、黒い魔力となって激しく蒸発しだした。

 

 

どうやら無事魔女トドメを刺すことが出来たらしい、となればやるべき事は……

 

 

古城「逃げるでござるううぅぅ!!」

 

山巻「ちょ、オイ!? なんだあいつ、逃げるのはっや!?」

 

車道「とにかく早く逃げられない奴は乗るのぜ! しばらくひとっ走りしてやるのぜ!」

 

上田「ゆっくり話してる暇は無さそうだね、浜鳴さんも行こう!」

 

浜鳴「……え? あぁ、うん……逃避なう!」

 

 

最上は黒い魔力に還元されて崩れて行く魔女が気になるらしいが、利奈に手を引かれ走り出す。

 

一方の利奈も唐輝と後衛にいた琴音と合流し、急いでワゴン車に戻った舞の車に乗り込んだ。

 

利奈自身飛行魔法は使えるが、飛べない魔法使い達を案じてわざわざ陸路を選んだらしい。

 

 

車道「しっかり掴まってるのぜ、激しい運転にはなるけど我慢するのぜ!」

 

 

窓の外を覗くと、上空にムササビの様に飛ぶ忠義と知己を乗せランスで飛ぶ博師がいる。

 

舞が車を発進するのと空飛ぶ魔法使いたちが出発するのは、ほぼ同時のタイミングだった。

 

魔法使いが逃げてる間も魔女は滅びて行く、マニキュアの液も固まりボロボロと崩れ落ちた。

 

 

そして、全てが1点に飲み込まれる。

 

崩れ切ってとなって形状を失った残骸と化した魔女も、迷宮を構築していた粘液質の壁も、

床に塗られたマニキュアも剥がれ全て吸い込み、結界ごとその結界にあるもの全て飲み込まれる……。

 

あとに残ったのは全体の4分の3に穢れが溜まったソウルジェムと、

リボンやフラフープといった新体操がモチーフのグリーフシード。

 

 

魔法少女は……逃避の魔女を救った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔法使いたちが戦っている間も結界は移動していたらしく、

結界から脱してみればそこには広々とした駐車場が広がっていた。

 

どうやらデパート・エタンの地下駐車場に出てしまったらしく、

一同は慌てて変身を解除して人気の少ない物陰に移動した。

 

ソウルジェムとグリーフシードを持って来たのは最上だ、大切そうに持っている。

 

 

上田「全員揃ってるね? みんなソウルジェムを見せて、魔法使ったし浄化しなくちゃ」

 

車道「懐かしい場所なのぜ……前来た時は車椅子だったのぜ、よくここまで回復したもんだぜ」

 

ハチべぇ「今回は役割分担がしっかりしてて人数も多い、

戦闘による魔力の消費量は少量で抑えられたと僕は思うよ」

 

 

ハチべぇの言う通り、必殺魔法による魔力消費は多少多かったものの浄化量は少なくて済んだ。

 

ついでとばかりに孵化寸前のグリーフシードの整理もする、

今日だけでハチべぇはいくつグリーフシードを背中で飲み込んだことやら。

 

順調に浄化を進め終える頃、ふと博師はとある重大な事に気がついた。

 

 

津々村「……ん? そういやアンタ、抜け殻は何処にあるんだ?」

 

浜鳴「抜け殻? ……ぁ、ああああぁぁぁぁ!!」

 

山巻「そういえば、ここって()()()()()()()()()()()()()だ!

どどどどうしよう!? 抜け殻がどうなってるのかわっ分からないよ!」

 

車道「落ち着くのぜ! まだカーナビの記録が残っている、そこからさっきの場所を調べるのぜ」

 

浜鳴「うぅ、不覚なう……早く抜け殻を探さないと」

 

 

「その必要は無い、慌てるな最上」

 

 

浜鳴「……え?」

 

 

声がしたのは舞の車の裏からだった、裏から抜け殻を背負った数夜が出てくる。

 

 

山巻「ひっ……ひええぇぇ!!?」

 

前坂「そんなビビること無いだろ、せっかくお前らが無くした者を持って来たってのによ」

 

御手洗「じゃあぁ、その子ってぇ……」

 

前坂「さっきお前らが倒した魔女の抜け殻だ、早くこいつのソウルジェムを戻してもらおうか」

 

浜鳴「理解なうリーダー、再生なう!」

 

 

最上は指示に従い、背負われた抜け殻の手に持っていた浄化済みのソウルジェムを当てがった。

 

すると、か細いソウルジェムの輝きと共に背負われた少女の意識を呼び起こしてくれる。

 

数夜はその様子を確認すると、最上から蘇芳色のソウルジェムを受け取る。

 

 

木之実「ぅぅ……リー、ダー?」

 

前坂「また孵化をしたようだな美羽、俺の為だからと無茶をし過ぎだ」

 

木之実「でもリーダー、私はリーダーの為なら」

 

前坂「()()()()()()()()()()()()()

 

木之実「……え?」

 

前坂「もうお前を追ってまで批判する奴なんかいねぇぞ、絶望に溺れ幻を見てるだけだ。

身を滅ぼしてまで俺に尽くすな、たまには逆に俺に頼ってみせろ。

お前ら自身分かってるだろ? もう、そんな依存する必要は無いってよ」

 

木之実「……っ!!」

 

 

彼女に何があったかは知らないが、どうやら数夜の言葉に安心感を抱いたようだ。

 

美羽が流す涙で数夜の背中が濡れる、いつもは厳しい数夜だが今は黙っていた。

 

精神が疲れ果てていたのだろう、少なからず今の美羽は僅かでも希望を感じていた。

 

 

そんな時だった……綿菓子の様な煙状で濁色の魔力が、美羽の片目から激しく噴出したのは。

 

 

上田「『濁色の魔力噴出』……!」

 

古城「のわあぁ!? ちょ、それ大丈夫でござるか!?」

 

前坂「こんなんでも痛覚は無いらしいからな、今はほっとけ」

 

根岸「ちょっと待ってよ! どう見ても只事じゃないじゃない!」

 

前坂「 ほ っ と け と言った、見れば分かるだろ? 今はこいつに構うな」

 

 

未だ美羽の目から濁色の魔力は噴出し続けているが、

数夜は美羽を背中に背負ったままその場を後にした。

 

 

津々村「アンタ、何処に行こうってんだ?」

 

前坂「元は俺のチームのメンバーだからな、後処理は俺の方で行わせてもらう」

 

車道「なんかさっきからみんな静かだけど……お前ら一体、何者なのぜ?」

 

前坂「それは俺の口から話すことじゃない、情報は充分出回っているからな。

行くぞ最上、そのグリーフシードは連中にくれてやれ」

 

浜鳴「……へっ? 置いてけぼりなう!? 待ってよリーダー!」

 

 

美羽を背負って立ち去る数夜、そんな数夜を最上は追いかけて行ってしまう。

後には、いくらか使用された逃避のグリーフシードと妙な静けさだけが残った。

 

 

車道「……とっ、とにかく! 厄介な相手だったけど、けど無事魔女を討伐出来て良かったのぜ」

 

ハチべぇ「消費魔力も少量で抑えることが出来たようだね、

 

古城「よくよく考えれば飛び出して来ちゃったでござる、

今までの事を徳穂や海里に念話で連絡を入れとくでござるよ!」

 

御手洗「そういえばぁ、グリーフシードはどうしようかなぁ……

そうだぁ! 私は博師君と知己ちゃんにあげれば良いと思うよぅ!」

 

津々村「自分らが? 知己はしっかり防御出来てたが、自分は全然だったんだけど」

 

山巻「そうじゃない、と思う……どちらにしろ、僕らはしばらくお休みするから……もらってよ」

 

根岸「ありがとう2人とも! グリーフシードって今じゃ貴重なのに、すごくありがたいよ」

 

 

しばらく唐輝と琴音のコンビが休むのも要素にはあったが、

夕方共に魔法の練習に励み絆を深めたのも大きいだろう。

 

今回の戦闘や逃避のグリーフシードの事もあり、

コンビ同士の友好度は確実に上がったと言えるだろう。

 

ふと博師がチョーカーの首元から時計を見れば、時刻はすっかり夜になっていた。

 

 

津々村「もうこんな時間か、ここから外に出出たら辺りはすっかり真っ暗かな」

 

車道「真っ暗……!? 門限無しとはいえ病み上がりで夜遅くまでいるのは流石にマズいのぜ……

ちょっくら車でひとっ走りなのぜ! 中央地区の辺りで、誰か送って欲しい奴がいたらついでに送ってくのぜ」

 

上田「中央地区? それなら私の家が近いかな、お願いします舞さん」

 

 

こうして、今夜も魔法使いによる不思議で不気味な夜は解決という形で更けていくのだろう。

 

利奈の他にも、博師と知己のコンビが舞の世話になることになった。

 

何やら2人で話をしているようだが、助手席に座りぼんやりとしている利奈には聞こえない。

 

まもなく車は地下駐車場を抜けて外に出る、商業区域であるその場所は街明かりで溢れていた。

 

人の波も混じり、まるで目の前に天の川が流れているかのよう……

自ら帰路に着くまで、利奈は住み慣れた街の風景を眺めているだろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

木之実「うぅ……リーダーも最上もごめん、私ってばまた孵化しちゃって」

 

浜鳴「もういいよ美羽、復活なう! また元に戻れたんだし、元気出さなきゃだよ!」

 

前坂「…………」

 

浜鳴「ほらリーダーも……リーダー? 考え込みなう、どうしたのリーダー?」

 

前坂「……どうやら、裏で何かが動いているのは間違いないだろうな」

 

木之実「裏って、何の事ですかリーダー?」

 

前坂「ちょっと考え事をしててな……今日、美羽の現象を見て確信した」

 

 

 

 

俺がかけた呪いに、()()()()()()()()()()()って事をな……!

 

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

木之実「なっ、なんであんたが……私たち、あんたにどんな事をしてきたと思ってんのよ」

 

 

 

浜鳴「とにかく、協力してくれるって事だね!? 歓喜なう! ありがとぉーー!!」

 

 

 

和出「へっ、ほざけ! 否定しか出来ねぇ奴らの話なんざ聞くかよ!!」

 

 

 

白橋「うぅ……試したことないけど、今はこれしか方法が無い……!」

 

 

 

〜終……(40)逃げの依存と感じぬ希望〜

〜次……(41)罪による証明と白き救済〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




40話突破記念イラスト(*⁰▿⁰*)

【挿絵表示】



さて、久々の魔法使いvs魔女との戦闘はいかがだったでしょうか?

相変わらず魔法使いの数が多く纏めるのは大変でしたが、まぁ全員それなりに
それぞれの役割は果たしてくれたんじゃないかとは思っています、多分。

登場人物の数もかなり増えてきました、前章が終わったら
後章が始まる前にリストを挟むのもありかなとは考えています。

大体……そうだな、50話前後でうえマギの前章は終わるかなと予想していますね。

イラストの方も増やしていきたいですね、最近になってデジタルで描き始めたので。


雑談を若干挟みます、興味がない方は飛ばして下さい。
今回は『花見』についてにしましょうか、私は桜が好きなのでね。


……えぇ、ほぼ愚痴になりますが私は仕事の関係で行けませんでしたよ。

皆様はお花見行けましたか? 今年の桜も各地でキレイに咲いたんだとか。

今年は例年に比べ暑くなるのが早く、比較的開花も早かったですね。

風も強かったから散るのも早かったなぁ……尋常じゃなく春が短かった、わけがわからないよ。

今後も休みが潰れるなんて自体がありそう、現実ってなんと非情なんだ(白目

適度に休憩を取ったり隙間時間見つけたりして、今後は執筆を進めていきたいですね。

まぁ自分なりに気をつけますよ、病みすぎて優しさを捨てる事だけは絶対にしたくないので。


それでは皆様、また次回。 次回は利奈以外の目線からの場面もあります、お楽しみに。


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(41)罪による証明と白き正義

桜は散ってしまいましたが、執筆に対する集中力は散漫していませんとも!

どうも、1週間と1日ぶりのハピナですよ! いやはや、毎週休日という物は待ち遠しい。

41話となる今回は、前回の魔女討伐がオマケに付いた『魔法演習』より数日後の話になります。

どうやらまたしても一騒動起きてしまうようです、一体いつになったら平穏が訪れるのやら。

それではいつものように物語の幕をあげましょうか、今回は掃除の必要がなさそうです。



 

窓を眺めて外の景色を見ようとしても、結露に阻まれ結局見えず終い。

 

出席を取るに当たって先に名前を呼ばれた利奈、ちょっとした時間は若干暇だった。

 

出席簿を強めに閉じる音、その音にぼんやりとしていた利奈の意識は目覚めさせられた。

 

 

「今日も和出は休みか、誰が事情を知ってる奴はいるか?」

 

前坂「釛なら、体調不良で休んでいます」

 

「そうか……もう3日も休んでいるな、誰か和出について分かったら俺に教えてくれ! 以上だ」

 

 

学生による欠席、それには体調不良やサボりなどの様々な理由が伴ってくる。

 

出席数が減ってしまうのは将来に影響が出てしまうか、

義務教育の上ではその影響力というのはやや弱い。

 

それでも普段欠席をしないような生徒が、急に連続で欠席をし始めれば誰だって心配する。

 

 

花組ならば尚更だ、何故なら彼ら彼女らは魔法使いである。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

篠田「それで利奈も含めて急にいなくなったんだ、みんな驚いてたよ」

 

上田「……ごめん、その時は急がなきゃいけない理由があったんだ」

 

清水「『1人きりの魔法使い』だろ? 利奈でもなきゃソロ狩は難しい、

利奈と舞が急いで向かったのは寧ろ正解だったと俺は思うぜ」

 

上田「そう? ありがとう海里」

 

白橋「利奈も大変だったもんね、話を聞く限りすっごい早い魔女だもん!」

 

ハチべぇ「先日の魔法演習は、それぞれが己の能力を向上させることが出来たっ言えるだろう」

 

中野「……それで、なんで今日はこんなに賑やかなのかな!?」

 

 

それはとある日の昼休みの時の事、朝の会は午前の授業と共にあっという間に終わった。

 

蹴太が皮肉混じりでそういうのも無理はない、理由としてはとても簡単。

 

何故かって? 見ればほら、使われていない理科室にはいつもよりたくさんの人がいる。

 

リュミエールの他にも、クインテットやゲマニストのメンバー……

どうやら先日の魔法演習の反省会も兼ねて集まっているらしい。

 

花組の大半がこの教室に集まってしまっているのだ、一体いつからこうなるようになったのやら。

 

 

月村「そういえば、結局アイドル好きの新しい武器はどうなったのかしら?」

 

録町「ちょっと!? そこは名前で覚えてくれないかな!?」

 

足沢「まぁまぁ……それより操太郎、そのCD射出機はどのくらいまで進んだんだ?」

 

切通「えっと、後は目の細かいヤスリで全体をならすだけで完成する……はず、多分」

 

月村「自分で作った魔法道具なのに、ハッキリしない答え方ね」

 

切通「うぅ、まだ実戦で動かしてないからどうとも言えないんだよう……」

 

ハチべぇ「機構内部に魔力は充分行き届いてる、実戦で使える可能性は高いと僕は分析するよ」

 

吹気「そういや今日は足沢さんね、くせっ毛の長髪さんはどこに行ったのよ?」

足沢「紗良の事か? それなら、自分の武器を見直したくなったからって先に帰ったぞ」

 

 

今この理科室に来ているのはほぼ先日の魔法演習に来ていた面子だが、

やはり日も経てば演習をやった日とそれぞれ事情が違ってくる。

 

各テーブルで話し合いや作業は行われた、流石に戦闘の練習をする者はいなかったが。

 

リュミエールのほとんどは教壇周辺にいた、理科室の全体を見守っているらしい。

 

そんな感じで一同は昼休みの時間を過ごしていると、理科室の扉からノックの音が聞こえた。

 

訪問者はもう慣れたイベントだ、利奈は理科室の扉の前まで来て客を迎える。

 

 

上田「あれっ、優梨だ! 久しぶりだね、今まで何してたの?」

 

下鳥「ちょっと調べ物をしていたのよ、あまり会えなくてごめんなさいね」

 

篠田「そういえば……最近見てなかったね、クインテットのメンバーもあたしも見かけてない」

 

清水「よぉ優梨、今日来たのはその調べ物ってのについての話か?」

 

下鳥「情報を持って来たのならもっと纏まってから言いに来るわよ、

今日ここに来たのは……そうね、リュミエールにお客を連れて来たの」

 

 

そう言って優梨は後ろを向いたが……誰もいない? いや、優梨の後ろに隠れている。

 

何をビビっているのやら、そこにはミニスカで化粧をした規則違反の象徴ギャル2人。

 

まぁ2人はこの場には来た事ない、多少過剰だが慣れない場はそれなりに怖気付く。

 

 

ハチべぇ「久しく見る組み合わせだね、優梨の多忙が影響していたのだろう」

 

下鳥「そんな隠れなくても良いじゃない、来たいと言ったのはあなたたちよ」

 

浜鳴「緊張なう、来た事ないしちょっと居づらいかも」

 

木之実「……やっぱり帰るわ、ここまで来たけど都合が悪過ぎる」

 

下鳥「もう、あなたたちしっかりしなさい!

 

 

廊下は肌寒いというのに、未だ理科室入る事が出来ないギャル3人。

 

なかなか理科室にに入れず優梨が困っていると、思わぬ助け舟が3人にやって来た。

 

それは本当に意外な人物だった、一番助けに来なさそうな1人の少女。

 

 

橋谷「ぁ、あの! すみません!!」

 

木之実「……えっ? 優梨じゃなくて私ら?」

 

橋谷「あっ、あまり廊下に長くいたら……風を、引いてしまいます」

 

浜鳴「躊躇なう、あたしたちってこの教室の空気に合わな」

 

橋谷「いいから! 入って、ください!!」

 

 

そう言って、俐樹は優梨の後ろに隠れていた2人の腕を引いて引っ張った。

 

行く先はもちろん理科室の中だ、優梨が感心したような表情でその様子を見ている。

 

……が、そもそも俐樹に筋力が無いせいか、なかなかギャル2人は理科室に入ってくれない。

 

 

橋谷「うぅ〜〜……ちっ、力が強過ぎですぅ〜〜……」

 

白橋「俐樹どうしたの? 綱引きかな、2対1はずるいよ!」

 

木之実「転校生!? これどう見ても遊んでるようには……ちょ!?」

 

 

直希に悪気は無い、彼は時折思いがけないド天然な行動に出てしまう傾向にある。

 

今回に関しては良い方向に働いたらしく、直希は俐樹の文字通り『力』になった。

 

4人が理科室に入り切ったのなら、優梨は入って来た扉を静かに閉めた。

 

 

橋谷「ふあぁ〜〜、暖かなう! やっぱり暖房が効いてる部屋は最高だよ」

 

白橋「あれっ、綱引きじゃなかったの? まぁいいや、

ずっと廊下にいると身体冷やしちゃうし良いよね」

 

木之実「なっ、なんであんたが……私たち、あんたにどんな事をしてきたと思ってんのよ」

 

橋谷「そっ、それは昔の話です! 時間はかかったけど……

わっ、私はあなた達を許した……つもりです」

 

木之実「……変な奴、勝手にすればいいじゃん」

 

 

理科室に入った後のギャル2人は優梨に案内された、

立ちっぱなしは疲れるだろうからと空いた黒い机の席に座らせる。

 

優梨はそれなりの注目を浴びたが、3人の来客によって大きく理科室の様子が変わる事は無かった。

 

まぁ変化がない事(いつも通り)はある意味、安心出来る要素ではあるだろう。

 

話を聞くために教壇の上にいた海里は2人の前に移動し、椅子に座った。

 

優梨は余裕ある風格で腕を組み壁にもたれかかる、何故か利奈の隣だが。

 

 

清水「しっかし珍しいのが来たもんだな、用件は何だ?」

 

浜鳴「質問なう、『星屑の天の川』に所属してる和出釛の行方について何か知らない?」

 

清水「……は?」

 

木之実「ほらね! やっぱりあたしらは悪者に見えるんだよ、帰ろ帰ろ」

 

下鳥「落ち着きなさい美羽、海里はまだ何も言っていないわよ」

 

 

目に見えて美羽はこの場に居づらそうだ、それでも溜め息を吐いて美羽は話を続けた。

 

 

木之実「でも『同じメンバーなのに分からないのか』ってちょっとは思ったっしょ?

やっぱこの話をするには都合が悪いんだよなぁ、いちいち反応されんの嫌だし」

 

浜鳴「そんなこと言わないで美羽……とにかく、情報不足なう!

釛君の家族や先生はリーダーが手を回してくれてるけど、

いつまで誤魔化せるか……どこで何をしてるのかも分からない、行方不明なう」

 

下鳥「嘘偽りは無いわよ、美羽に至っては来たくもないのにこうして来ている。

相当困っているらしいわね、詳しい事は表沙汰にはなっていないけど」

 

清水「嘘を言ってるようには聞こえねぇよ、俺の方でも最近釛の情報は入ってないからな」

 

上田「何処かで孵化しちゃって、誰にも気づかれてないって可能性はあるのかな」

 

清水「それなら誰かしら見つけて討伐してるだろ、回数は減ったがパトロールは継続してるぜ」

 

上田「じゃあ、本当に行方不明……!?」

 

 

まず魔法使いである時点で、一般人による犯罪に巻き込まれているとは考えられない。

 

孵化をして気づかれてないという線も無い、となれば……どういう事だろうか?

 

明確な判断をするには情報が少な過ぎる、不安と疑問の中で一同は共に悩んだ。

 

 

木之実「……そもそもあいつ、いっつも1人で行動してたし分かんないのはある意味当然っしょ」

 

上田「いつも、1人……?」

 

木之実「行動が《わざとらしい》し、私らもあんまし相手してなかったんだよね、

そもそも『星屑の天の川』って団体行動する為のチームじゃないし」

 

浜鳴「ちょっと美羽、言い過ぎなう」

 

木之実「事実でしょ? 私らも自由に出来るから入ったんじゃん、

要するに都合の良いチームって事よ、プレイボーイの響夏は例外だけど」

 

 

それどころかそもそも釛の姿を見る者があまりいない、ここ最近は単独行動が多い。

 

見かけたとしても美羽の言う通りいつも1人だ、その数は契約時から段々と減っている。

 

利奈はその事情を聞いて、何故か心の表面から共感が湧いて来た。

 

 

上田「和出さん……だっけ、みんなで手分けして探せないかな」

 

浜鳴「協力なう!? ほっ、本当に!?」

 

木之実「まさか、口から出まかせでしょうよ」

 

 

最上は机に手をつき乗り出してまで驚いたが、美羽はイマイチ信用していない様子。

 

 

清水「誰がお前ら2人に協力しないって言った?

俺はまだ何も言ってないぞ、まずは俺の話を聞いてくれ」

 

浜鳴「聞く! 全力で傍聴なう!!」

 

清水「2人の温度差が凄ぇ……まぁいいや、同じ花組の仲間として行方不明者がいるのは心配だな。

情報屋として情報網には自信があるぜ、外見の特徴とかを教えてくれりゃあ周囲に探すよう頼める。

リュミエールとしても釛の捜索に協力したい、メンバーにざっと念話で聞いたがみんな賛成だしな」

 

木之実「は? リュミエールって結構いたよね、いつの間に全員に念話なんてしたのよ?

いちいち1人1人に念話をするのに、どんだけ時間がかかると思って……

そういや、リーダーが多人数を相手に同時に念話が出来る奴がいるって」

 

浜鳴「とにかく、協力してくれるって事だね!? 歓喜なう! ありがとぉーー!!」

 

 

変に疑う美羽を吹き飛ばす勢いで喜ぶ最上、あまりの積極的態度に海里の表情は少し苦笑い。

 

どうやら美羽は悪い方向に考えるネガティブな癖があるらしく、

比較的ポジティブな最上といる事でバランスをとっているようだ。

 

最上の勢いに押され美羽は静かになってしまった、その間に海里は釛の捜索についての話を始めた。

 

 

清水「俺はどんな奴か分かってるが、一応みんなに伝える用の外見の情報を教えてくれ」

 

橋谷「えっと……回視なう! 背は男の子の割にはそんなに高くなくて、

髪型はボサボサの短髪で見た感じほっそりした体型だったかな」

 

木之実「色で釛を判断するのは正直無理、菜種油っていう知名度低くてダサい色だし」

 

上田「魔法少年の姿なら一度だけ見たことあるよ、確か……カラフルなロボット、だったかな」

 

清水「よっしゃ、そんだけ情報が揃ってりゃ充分だ! 絵莉に大翔、お前らのチームでも頼めるか?」

 

篠田「大丈夫だよ! あたしから天音に力を貸してもらえるよう頼んでみるね!」

 

足沢「俺も紗良に言ってみる、普段動かないあの3人には良い運動だろうさ」

 

 

海里を中心に話を進める内に内容は膨らみ、やがて花組の大半を巻き込んだ内容になってきた。

 

誰がどの辺りを探し、捜索自体は基本どの位の時間行うか……など、後半は具体的な話になる。

 

一通り話が纏まる頃、ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

今日学校が終わり放課後になれば、早速『和出釛の捜索』が始まるだろう。

 

それまで勉強に励むことにしよう、一同は次なる授業を受けるため花組の教室に戻って行った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間を進めて帰りの会の終わり立て、挨拶の後に花組一同は椅子を机の上に上げ後ろに移動する。

 

そんな作業をしながら、直希は今日行われる捜索においての自分の立ち回りを思い直していた。

 

学生鞄を肩に背負いながら、目の前の空に指で図を描いて何度も覚え直す。

 

 

白橋「えっと、僕は俐樹の家の近くにしてもらえたから……あの辺りを探せば良いのか」

 

 

考え事をしながら教室を出て廊下を歩くと、ふと明るい声が耳に入って来た。

 

それは廊下の端の方から聞こえて来た、声のする方へ行けばそこは別のクラスの教室。

 

教室の室名札には『2ー月』……どうやら月組の教室のようだ、中はまだ帰りの会の真っ最中。

 

 

武川「ってなわけで、最近万引きやスリとかの盗難被害が池宮で増えてるから気をつけてねぇ〜〜!

え、オイラがやったんじゃないかって? まさかまさか、オイラの頭がそんな事出来る訳がない!

それこそ、八百屋から魚を盗もうとする頭にネジ穴しかない泥棒みたいな者! オイラってアホだもん」

 

 

教室の後ろの扉からこっそり覗けば、そこでは漫才が行われていた。

 

傍らでは若い女の先生がその様子を明るく笑いながら見守っている、

元になった人物の影響だろうか? 教師がいるとどうしても目に入ってしまう。

 

もちろん黄色い彼が行う漫才も面白かった、その腕はつい見入ってしまうほど。

 

 

「ねぇねぇ、あの子誰だろう? ほら、教室の後ろにいる子」

 

「あぁ花組に行ったっていう転校生だろ、最近やけに団結力上がったクラスの」

 

「すっごいイケメンじゃん! うちのクラスに来れば良かったのに」

 

 

一応黒いバンダナで頭は隠れているが、若いのに白髪で整った顔立ち……

まるで外国人のような風貌は、どうしても目立ってしまっていた。

 

月組の一部の生徒にも見つかってしまう、しばらくして直希もその事に気がついた。

 

逃げるようにしてその場を後にする、聞けた漫才のネタは結局1つだけ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

帰路を外れて歩く内に、直希は自分が担当する区域の近くまでやって来た。

 

池宮ではどちらかというと地味で簡素な場所、目立つのは自衛隊の施設くらいだろう。

 

要するに直希がいるのは西の地区だ、工場などが建ち並ぶ工業の区域。

 

帰りが遅くなる事には困ったが、その辺は俐樹が経緯を変えて家で説明してくれるらしい。

 

そう俐樹について考えた時だった、彼女の体調が悪かったのを思い出す。

 

 

白橋「そういえば、最近の俐樹って風邪気味だったっけ……この辺ってどうなってるんだろ」

 

 

この地区について知らないのか、直希は鞄からスマホを取り出し電源を入れた。

 

まだ代替え機だが、近々彼のスマホが用意されるのだとか……

他にも何かありそうだが、相当親切な家に引き取られたらしい。

 

マップのアプリを開いて一通り見てみると、1件の店が直希の目に止まった。

 

 

白橋「……あれっ!? 俐樹が気に入ってるハーブ専門店、この辺りにも出店してたんだ。

そういやのど飴も売ってたなぁ……ちょっと寄り道になっちゃうけど、ごめんみんな!」

 

 

遠くない距離、直希が見つけたハーブ専門店はあった。

 

誰しもが知る有名なハーブから誰も知らないようなハーブまで、選り取り見取り取り揃えている。

 

人気なのはティーバッグや石鹸だが、直希が目的とするのは体に優しいのど飴。

 

 

白橋「確か、俐樹が好きなハーブはブルーマr……ん?」

 

 

スマホから目を離し直希はふと前を見た、視界の端に人影が映る。

 

普通は一般人だ、だがその人影は急ぐように路地裏へと入って行ったのだ。

 

さらにその人影はどこか同年代の様にも見える、直希はとある人物を思い出した。

 

まさかと思い、足音を立てないよう早歩きで路地裏へと入って行く。

 

直希が担当する区域からはどんどん離れて行くが、それでも直希は後を追う。

 

人があまりいない場所なのか、その辺りは日光が入りづらく廃油や火薬の匂いが漂っている。

 

酷い場所だ、そう思いながら何気なく直角の曲がり角を曲がった……その時だった。

 

 

白橋「あっ、ごめんなさ……え?」

 

 

直希がぶつかった少年は一見、名も知らない知らないの人物だった。

 

第三椛学園とはまた別の学校のジャージ、普通に考えれば他校の生徒。

 

それでも、直希は彼が誰であるかを理解出来た。

 

 

 

 

彼の手を見ればほら、見慣れた指輪の上で菜種油色の宝石が存在を主張している。

 

 

 

 

和出「っててて……おい、どこ見て歩いてや……がっ!?」

 

白橋「あぁ!? 和出釛!!」

 

和出「マジかよ、この辺に配備されてる魔法使いはいないんじゃ……っくそ!!」

 

 

見つかってしまった釛は本気で直希から逃げようとしたのか、

この場に魔女も魔男もいないのにソウルジェムを使い変身した!

 

利奈が言っていた通り、まるでロボットのような姿の衣装に身を包んだ。

 

近未来的な眼帯に手をかけると、眼帯についた宝石が魔力の輝きを放つ!

 

 

和出「鋼鉄の翼! ジェヴォラーレエェッ!!」

 

 

短く強い呪文と共に菜種油色の魔力が弾け、釛の背にジェット機にあるような

文字通り小さなジェットエンジンが付いた頑丈な鋼鉄の翼が背中の機械から出てきた。

 

床を蹴ってそのまま空を飛ぶ、魔力を燃料にして路地裏を無音で滑空する。

 

数秒の内に釛は見つかった場所からかなり離れた場所に移動した、胸の内に湧くのは一旦の安堵。

 

 

 

 

釛はこれで撒けたと思ったらしいが……相手が悪かった、直希も変身して魔法を使う。

 

 

 

 

白橋「鋼鉄の翼! ジェヴォラーレエェッ!!」

 

 

短く強い呪文と共に白色の魔力が弾け、直希の背にジェット機にあるような翼が生成された。

 

それは釛と全く同一の物だった、唯一違うのは直希のが無色である事だけ。

 

釛は当然驚きを隠せない、彼の『模倣』の魔法を見るのは釛にとってこれが初めてだった。

 

 

和出((ちょ、どういう事だよお前!? 何で俺の魔法が使えるんだ!?))

 

白橋((えぇっと……飛びながらの説明は無理だよ!? とにかく一旦止まってくれよ!))

 

和出((うるせぇ! んなこと言って簡単に捕まる俺じゃねぇぞ!!))

 

 

目立たぬよう滑空する2人の魔法少年、機械の翼を背に着け高速で空を飛ぶ。

 

釛は今度こそ撒こうとして複雑な路地裏を右往左往したが、直希はその動きに喰らい付いてみせた。

 

まるで元から自分の魔法だったかのようだ、それは初めて目にした魔法なのに。

 

 

和出(チッ……このまま進むと路地裏から出ちまうな、仕方ねぇ)

 

 

しばらく空中の追いかけっこが続いていると、周囲から日の光が差し込むようになってきた。

 

これ以上は目立つと判断したのか、釛は地面に着地し鋼鉄の翼を背中の機械に収納した。

 

直希も背中に着けていた無色の翼を消して着地する、周囲を見ればそこは比較的広い十字路。

 

その十字路は卍の形をしており、街の方からは見えず一般人に見られる心配は無い。

 

とにかく釛は止まってくれた、直希は説明をしようと釛に話を持ちかける。

 

 

白橋「止まってくれてありがとう! それで、僕の魔法についてだったね」

 

和出「……も、だろ……」

 

白橋「僕の魔法は『模倣』の魔法で……えっ?」

 

和出「お前も、俺らをバカにしに来たんだろ? 何をするにも悪にしか見ない俺らを」

 

白橋「え、何の話? バカにしに来たんじゃないよ、僕は君を探しに来たんだ」

 

和出「嘘つけや! 分かってんだぞ!? 裏で俺の事も《わざとらしい》だの陰口叩いてんのはな!!」

 

白橋「……ごめん、本当に何の話? 僕にはさっぱり分からな」

 

和出「どいつもこいつもバカにしやがってぇ……! 『星屑の天の川』が『花の闇』だァ?

ふざけんじゃねぇ!! 誰が孵化の度合い調節して魔法使い支えてると思ってんだ!!

数夜だって、今じゃ身体ん中あんなボロボロになっちまってよぉ! なァ!?」

 

白橋「あの、一旦落ち着いて」

 

和出「裏で誰が何をしてるかなんて、誰もそんなの知ろうともしない。

いつから、歯車は狂ったんだ? いつから……俺たちは、悪者になっちまったんだ?

最初こそやべぇ事はしてたが、もうその分を償えるくらい苦しんだだろ!?

それでも許さねぇか? だったら、とことん悪になり切ってやらぁ!!

自分の存在を証明するために盗んで盗んで盗みまくる、邪魔する奴はぶっ飛ばす!!」

 

白橋(っ……! ダメだ、真面に話を聞ける状態じゃない!)

 

 

直希が偶然見つけた釛は最早正気では無かった、目にハイライトが灯っていない。

 

釛が言ってる事は支離滅裂で、直希の話をほとんど聞いていなかった。

 

その表情は怒っているようで狂気に駆られ怯えている、眼帯についた菜種油色の宝石は黒に近い。

 

 

和出「巨人の腕! ビッグレイトオォ!!」

 

 

釛は自らの手に魔力を込めて振り上げると、その拳は倍以上に膨れ上がった。

 

そのまま直希目掛けて振り下ろす、直希の反応は早く何とか回避することが出来た。

 

直希は初めてだが、最初に比べ見る限り彼の動きは素早さを増している。

 

どうやら以前のように何も考えずただ巨大化させる事をやめたようだ、

おかげで拳や蹴りによる攻撃の命中率は格段に上がっている。

 

直希は釛が使いこなす『大小』の魔法を『模倣』する事も出来たが、

それでは魔法使い同士の戦闘でどちらかが大怪我をしてしまうと判断した。

 

 

白橋「ルビーニ・エカン!」

 

 

直希は自分の固有魔法を持たない魔法少年だったが、その代わりに使える魔法があった。

 

それは自らの元となった人物……篠田絵莉が扱う固有魔法、『学校』の魔法の一部。

 

直希は白色の魔力で無色の長い縄跳びを創り出す、どうやら戦わずに釛を捕まえるつもりのようだ。

 

 

和出「両手で持つ変則型の鞭ってところか? いい度胸じゃねぇか!

戦うんだったら、そのくらい闘志を燃やさなきゃなぁ!」

 

白橋「本当は僕だって戦いたくない……最後にもう一度だけ聞くよ、僕の話を聞いてくれない?」

 

和出「へっ、ほざけ! 否定しか出来ねぇ奴らの話なんざ聞くかよ!!」

 

 

会話は釛によるストレートパンチによって強制的に終わる、

ついに魔力を無駄にするような決闘か始まってしまったのだ。

 

 

拡大と縮小を繰り返す不規則な格闘術、釛はパターンを読みづらい攻撃で攻めに攻める。

 

直希は避けるので精一杯と言っても過言ではない、とにかく隙を探しては縄跳びを振った。

 

格闘と縄跳びという変わった攻防が続いた、やや力押しの釛が有利に見える。

 

 

白橋「……っ! 全然、命中しない」

 

和出「オラオラどうしたぁ!! そんな紐一本じゃ何ともねぇぞ!!」

 

白橋(普通に戦ってたんじゃキリがない、何か突破口は……

あっ、そうだ! 利奈や海里みたいに作戦を考えなきゃ)

 

 

直希は両手で取っ手を持ち縄跳びを振り回していたが、一旦距離を置いて少し考えてみた。

 

続く釛の攻撃による邪魔は何度かあったが、それは鉄製の掃除用ロッカーや

先ほど空を飛ぶのに使った鋼鉄の翼を障害物にして攻撃を阻んだ。

 

考えに考え……やっと1つの案が頭に浮かんでくれた、早速直希は行動に出る!

 

と言っても、両手で1つずつ持っていた縄跳びの取っ手を片手で2つ持つ形に変えただけだが。

 

改めて直希は釛と向き合う、この作戦で終わらそうと強く決意し身構えた。

 

 

白橋(上手くいくかどうか、分からないけど……やるしかない!)

 

和出「ようやくやる気になったみてぇだな、まどろっこしいこと考えてねぇでかかってこい!!」

 

白橋「これで決める! うおおおぉぉ!!」

 

 

根性を入れんと勢いでとりあえず雄叫びをあげた直希だったが、

まぁ流石にこのまま何も考えずに突撃していくわけじゃない。

 

縄跳びを振り回しながらまずは機会を伺う、不規則な攻撃だが隙が無いわけじゃない。

 

態度の変化に警戒されたのか、なかなか隙が出来なかったが……

戦いながらそれなりに長く待ち、やっと釛に隙が出来た!

 

 

白橋「タンリュカ・ルシウム!」

 

 

直希は縄跳びを持っていない方の手に白色の魔力を込め、それを空中に放った!

 

すると、魔力は何本ものチョークに変化し豪速球で釛に襲いかかる。

 

それを連続で放つ、チョークと言っても魔力製のチョーク……当たったら普通に痛いだろう。

 

 

和出(遠距離で攻めてきたって事か……? 顔つきが変わった割には、随分と雑なもんだな)

 

 

どうやら直希は釛を追尾せず、広範囲にチョークの弾を撃っているらしい。

 

先ほどより手数は明らかに多かったが、文字通り雑な攻撃を釛はそれらを全て回避する。

 

だがかわした代償として、釛は大きく体制を崩してしまう……

直希の狙いはこの隙だ、すかさず釛を狙って縄跳びを振った!

 

 

和出「……ぐっ!?」

 

白橋「バランスを崩した、ここだああぁぁっ!!」

 

和出「なめんなァ!! いくら自分の身体でバランスを崩したとはいえ、当たらな」

 

 

今の直希の攻撃は2つ持った取っ手の内、1本を相手に投げつけるという方法だ。

 

更に釛は身体を捻りその投てきをかわす、簡単な行動だったがこれ以上動けそうにない。

 

……さて、この動けない状態が()()()()()だとは気づかれなかったようだ。

 

 

白橋「ビッグレイトオォ!!」

 

 

突然直希は呪文を口にしたが、急でも予め仕込んであった白色の魔力はその言葉に反応した。

 

その魔力は何処に仕込んであったんだって? 答えは意外な場所にある。

 

見ればほら、直希が投げつけた縄跳びの取っ手が一瞬の内に倍以上に膨れ上がる。

 

 

和出(……は? ちょ、マズい! さっきのふざけた弾幕はカモフラージュか! やべっ!?)

 

 

気がついたようだが時すでに遅し、釛は放たれた塊に当たり全身を打撲した。

 

肉が沈む鈍い音と共に、釛の口から痛がるような声が空気と共に漏れ出る。

 

思わぬダメージ量に直希は罪悪感を覚えたが、彼の考えた作戦はこれで終わりではない。

 

直希はもう片方の取っ手も振り払うように投げる、釛が完全に倒れこむ前にだ。

 

投げた勢いによって、釛の身体に縄跳びの紐がぐるぐると巻きつく。

 

釛は倒れた後も抵抗とばかりに、巻き付いた縄跳びを力任せに引きちぎろうとした。

 

それでも釛の拘束は解けない、魔力製の縄跳びは丈夫で釛にダメージが残っていたからだ。

 

 

 

 

どうやら直希の勝利に終わるようだ、まぁ結局勝ち負けは関係ないが釛を捕まえれた。

 

 

 

 

和出「ぐっ……クソがっ!! こうなりゃ警察に連れてくなり勝手にしやがれ!!」

 

白橋「えっ、警察? 何で君を警察に連れて行かなきゃいけないの?」

 

和出「……何でって、だから俺を追いかけて来たんじゃねぇのか?」

 

白橋「違うよ! 僕、君と話がしたいだけなんだ」

 

和出「なんか、俺とお前で色々と食い違いが……ぐあ!?」

 

 

釛は観念したのか冷静になる……が、せっかく話が出来る状態になったのに様子がおかしい。

 

縛られたまま全身を痙攣させている、どこが苦しいのか自分で分かっていない。

 

直希が驚いた影響で縄跳びは緩んでしまったが、それでも苦しみ続けている。

 

要因は釛を見ればすぐに分かった、彼の眼帯から黒い魔力が漏れ出ている。

 

目の前の事に夢中になり過ぎて、ソウルジェムの事など度外視していたのだろう。

 

 

もうすぐ釛は孵化をする、これを防ぐには早急な浄化が必要だ。

 

 

白橋「大丈夫!? ……うん、どう見ても大丈夫じゃないよね!?

そっ、そうだ! こういう時は浄化だ、グリーフシードを使って……

ってああぁぁ!! そうだ、僕のソウルジェムって変わってるからグリーフシードは」

 

 

まぁ要約すると、今の直希はグリーフシードを1つも持っていないという事だ。

 

これには彼なりの事情があるのだが、一刻も争うこの状況でそれを語っている暇はない。

 

釛が持つグリーフシードを探すという手もあるが、その情報を聞き出すことも出来なさそうだ。

 

 

白橋「うぅ……試したことないけど、今はこれしか方法が無い……!」

 

 

普通に考えれば八方塞がりで、このまま釛は魔男化の一途を辿る。

 

だが直希には1つだけ思い当たる方法があった、それは本来ならばあり得ない方法。

 

首元のチョーカーを乱暴に外し、急いでそれを白色のソウルジェムに戻した。

 

色と宝石の形はソウルジェムの物なのに、形状が完全にグリーフシード。

双方を足して2で割ったような物……それはどちらとも言えない、これが直希の特殊な魂。

 

暴れて苦しむ釛を馬乗りになってでも押さえつけ、直希は行動に出る。

 

 

 

 

あろうことか、孵化寸前の釛のソウルジェムに自分のソウルジェムを押し付けたのだ!

 

 

 

 

それは一見意味が分からない行動だが、その意味はすぐに分かることになる。

 

多少反発するように魔力の火花が散っているが、押し付けたソウルジェムは穢れを吸収している。

 

そうしている間も釛の黒に近かったソウルジェムは輝きを取り戻し、

直希がソウルジェムを離す頃にはキレイな菜種油色に戻っていた。

 

 

一先ず釛は助かったが……これは一体、どういうことだろうか?

 

直希の特殊な魂は、本当にソウルジェムと言えるのだろうか?

 

それを知るにはまだ情報が無い、今はまだ直希だけの秘密。

 

 

和出「あれ……俺ってば、孵化せずに済んだのか?」

 

白橋「うん、ちょっと危なかったけどね」

 

和出「なんか、悪りぃな……俺と話がしてぇらしいが、ちょっと……休ませて、くれ……」

 

 

そう言って釛の全身の力が抜けると、気を失ったのか自然と彼の変身は解けた。

 

眼帯だったソウルジェムも卵型になって転げ落ちるが、それは直希が落ちる前に受け止める。

 

どうやら今は話せる状態ではないらしい、それは気絶している釛を見れば明らかだ。

 

無理もない、釛を見つけた様子だと3日かけて絶望という感情だけで

孵化寸前になるまでソウルジェムに穢れを溜め込んだのだろう。

 

とにかく釛を見つけたことを直希は念話で伝える、釛と直希が2人で会話をするのはまた今度。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

こうして、短期間行方不明だった和出釛は無事見つかり捜索は早めに終わった。

 

長らく釛は絶望にどっぷり浸かっていたらしく、所々記憶が飛んでしまっていたのだとか。

 

余談だが、それはここ最近増えていた池宮での万引きやスリの話。

 

これを気に、何故かそれらが減っていったというニュースが光を中心に広がる事になる。

 

防犯カメラにも写らず証拠は無し、犯人は手練れだそうだが……早急な事件解決を願おう。

 

 

あぁ、すぐに聞かなくなった噂話によると結局釛は保護者にこっ酷く叱られたらしい。

 

厳しく言えば因果応報という奴だ、周囲を心配させた分も含めて

自分の罪を見つめ直し、しばらく反省してると良いだろう。

 

どうせ、彼の腕ならば警察に捕まることはまず無いだろうから。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「……まぁ、相手が通称『花の闇』じゃあそう簡単に行くわけねぇよな」

 

 

 

上田「1cmくらいの大きさの……粘土かな、何だろうこれ」

 

 

 

軽沢「そう言えば……それについて、数夜が何か言ってたような気がするよ」

 

 

 

前坂「思い込みも甚だしい、お前はさっきから何を言ってる?」

 

 

 

〜終……(41)罪による証明と白き救済〜

〜次……(42)自由な食事会と暗躍者〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




やれやれ……直希に襲いかかった挙句孵化をしそうになるなんて、彼は人騒がせな人物だ。

さて、行方不明者の捜索が主軸となった今回はいかがだったでしょうか?

今回はたった1人の人物に振り回されてしまいましたが、進歩した事があったのもまた事実。

まさかギャル2人がリュミエールを尋ねるとは、前まではあり得ない話でした。

美羽は捻くれてまだいづらい様子ですが、最上がいればその内慣れるでしょう。




さて、今回の雑談は……そうだな、『服装』についてでも話しますか。




個々のキャラクターを創る上で、やはり大変なのは服装の決定です。

学園物となれば制服で統一出来るので楽ですが、魔法使いの姿はどうにもならない。

『色』『魔法』『願い』そして最低でも、その人物の本質に合った服装にしないと違和感が出る。

その点で直希は結構苦労しました、何せ自分自身の本質がまるで無いような人物ですもの。

私自身が元々ファッションセンス無いので、資料等を見て決めるようにはしていますね。




今回はこんなものですかね、あまり長々と話しても終わらないだけです。

次回より物語は段々と佳境に差し掛かります、一体前章の終着点はどこにあるのやら。

それでは皆様、また次回。 急激な気候の変化にはお気をつけ下さい、特に黄砂。


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(42)自由な食事会と暗躍者


まずは申し訳ない! 前章の重要な部分を慎重に書いていたら
こんなにも時間がかかってしまいました……前に投稿したのいつだっけ?

その分もあって今回は少しばかり短めです、次回がとてつもなく長いです。

となると、前章もいよいよ大詰めですねぇ……ここまで来るのにかなりの時間を要しましたよ。

さて、今回はつい最近釛が親に叱られた経験から後の話から始まります。

それでは、物語の幕を上げましょう……あらら、裾がほつれている。



 

和出「ったく、この前はひでぇ目にあったな……頭に拳骨って、うちの親父は昭和かよ」

 

 

寧ろ、昭和でないと歳が合わないのだが……ツッコミ役がいないのは少々残念だ。

 

そんな数夜は昼休みの今、授業や部活以外では使われない被服室にいた。

 

ホコリが多く割りと人が寄らないこの教室はいわば穴場、

窓を全開にし近くの椅子を一列に並べてベット代わり。

 

釛はいつもこの場所にいた、教室よりこの被服室の方がいる割合は多い。

 

特に気分が悪かったり会話が上手くいかなかったりするとこの場に逃げる、

以前『形なき魔法』について調べていた海里に尋ねられたのも被服室だったりする。

 

 

今日も椅子で出来たベッドに寝転がり、1人の時間を過ごす予定だったようだが……

 

 

白橋「お邪魔します! 話に来たよ!」

 

 

珍しく来客が来てしまったようだ、釛は驚いた勢いで起き上がったがベッドが崩れてしまう。

 

 

和出「っだ!? ぃてぇ……ちょ、なんで転校生のお前がこの場所を知ってるんだよ!?」

 

白橋「あれっ、来ちゃダメだった? どこにいるかなぁって探してたら、教えてくれた人がいて」

 

和出「教えてくれた人だと!? それって誰なんだよ?」

 

 

それを聞いた直希は後ろを見る、すると2人の生徒が被服室に入って来た。

片方は釛が嫌という程に見知った人物、恐らく案内人は彼だろう。

 

 

軽沢「僕だよ釛、やっぱりここにいたね」

 

和出「響夏じゃねぇか、また面倒な奴が来たなぁ……隣にいるのは連れか?」

 

上田「えっと、こんにちは」

 

軽沢「ここに来る途中で会ったから連れて来た、《気まぐれ》で」

 

和出「……ある意味、お前の《気まぐれ》が一番脅威だよ」

 

 

とりあえず一同は白い机を囲んで6つある椅子の内の4つにそれぞれ座る、

何故か机の上には紙パックの牛乳やら袋に入った黒胡麻ねじりパンやらが並んだ。

 

 

白橋「わあぁ、凄い! これ今日の給食に出てたのだ!」

 

上田「こんなにたくさん……これって、どうやって手に入れたの?」

 

軽沢「まぁ、釛と言ったら盗みだよね」

 

和出「おう! 給食室の前に大量にあったからな、ゴミになるよりは食った方が良いだろ」

 

軽沢「4〜〜5人分ってとこかな、それだけ盗んで誰にも見られてないから凄いよ」

 

 

直希は先ほど食べた給食が足りなかったらしく、早速パンを千切りながら食べている。

 

彼が細身だが実は食べる量が結構多い、こう見えて太らない体質なのだ。

 

響夏も喉が渇いたのか牛乳を飲んでいる、利奈は盗品だからなのか口にするのをためらった。

 

 

上田「…………」

 

和出「食わないのか? リュミエールのエースさんよ」

 

上田「えっ、でも……捨てる物だったとはいえ、盗んできた物だし」

 

和出「そういやチョコレートクリームもいくつか余ってたな、これなら食」

 

上田「食べるっ!!」

 

和出「……分かった、分かったから澄んだ目で俺を見るのをやめてくれ」

 

白橋「利奈って甘い物が好きなんだよね、前にアイス食べた時も夢中だったもん」

 

 

それをきっかけに利奈も少量は食べる、本当に甘い物が好きらしい。

 

まぁ、残りは直希が食べたりか釛が持ち帰ったりするだろう。

 

小さな食事会が執り行われる中、早速直希は釛に話を始める。

 

まず最初に話したのは、前日戦った時に直希が釛の魔法を使えた理由だ。

 

直希の魔法は『模倣』の魔法、それらを分かりやすく釛に教えていく。

 

 

和出「要するに、お前は魔法のモノマネをする事が出来るってことか」

 

白橋「うん! その代わり、僕は必殺魔法を使う事が出来ないけどね」

 

軽沢「『万能な魔法を使える対価』か、その辺りは僕も共感出来る」

 

和出「おう、お前の必殺魔法ってなんか微妙だからな」

 

軽沢「結構ハッキリ言ってくれるね、釛」

 

 

会話の中で、釛は直希の魔法を凄いと思うと同時に少し恐ろしくも思った。

 

対面した魔法使いの数だけ魔法が使える、彼の魔力は何にでも化けるという事になる。

 

しかもそれをアレンジする事だって可能、つくづく相手にしたくない厄介な魔法少年だ。

 

 

白橋「そういえば、何で3日も行方不明になっちゃってたの? みんな心配してたよ」

 

和出「何て言うかな……なんか、希望を感じなくなっちまっていたんだよな」

 

上田「希望を、感じなくなっていた?」

 

和出「その反動で絶望ばっか目に見えるようになってたんだよな、

きっかけは全く覚えてない……だけど、何をしても満たされない」

 

軽沢「それで盗みを働きまくってたってことでしょ、それが釛の生業みたいなものだし」

 

和出「後半は記憶が途切れ途切れになっているがな、あと生業って言えるほど立派じゃねぇぞ」

 

軽沢「分かってるよ、釛の悪い癖だからね」

 

 

世間一般では明らかにとんでもない癖だが、警察に突き出すにも証拠が1つも無い。

 

何とももどかしいが、今話しているのはそっちの話ではない。

 

釛は家にも帰らず日々を野宿で過ごし、無作為に沸く負の感情にもがき苦しんでいたのだとか。

 

時には壁を殴り、ガラクタを蹴り飛ばし……ストレスを発散する事も彼は試したらしい。

 

それでも癒されない絶望、その内ソウルジェムを気にかける余裕さえ無くなった。

 

 

白橋「大変だったんだね……あれ? って事は、ずっと外で1人でいたんだよね」

 

 

『和出「マジかよ、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()んじゃ……っくそ!!」』

 

 

白橋「それなのに、何で昨日僕らが君を捜索するって分かったんだい?」

 

和出「あぁそれなら……別に話しても良いか、設置場所変えればいいし」

 

白橋「あれっ、どこ行くの?」

 

 

話している最中で釛は立ち上がり、黒板の横にある本棚に手をかけた。

本を何冊か取り出して後ろを探ると、そこから油粘土の塊のような物が出てきた。

 

 

上田「1cmくらいの大きさの……粘土かな、何だろうこれ」

 

和出「盗聴器だ、魔法使わないで自分で作ったから長持ちはしないけどな」

 

上田「へぇ、この粘土の塊みたいなのがと……えっ? 盗聴器ぃ!?」

 

軽沢「釛の魔法少年の時の服装はロボット、ある程度の機械なら作れるっぽいね」

 

和出「まぁ俺は機械専門じゃねぇからかなり不恰好だがな、

単に小さくするのは俺専門の魔法でお手の物って寸法よ」

 

 

全ての教室では無いらしいが、彼はこれを校内の至る所に設置しているのだとか。

 

女子トイレや女子更衣室には流石に設置していないと断言したが、

リュミエールが集まる場所としている使われていない理科室には設置してると言う。

 

盗聴器から昨日の捜索の話を聞いていたのだろう、釛は配備場所の穴を突いたらしい。

 

 

和出「まさか見つかるなんてな、来なさそうな所を突いたつもりだったんだが」

 

白橋「僕ってば寄り道しちゃったんだよね、担当の区域離れてさ」

 

和出「そこまでは計算に入れてなかったぞ、未知数だし予測しきれない」

 

 

そう言って席に戻りながらため息をついた、その手には盗聴器が握られている。

 

ついでに直すつもりなのか、ポケットから簡素な工具を出し釛は魔法で盗聴器を巨大化した。

 

油粘土の塊にしか見えなかった物体は、巨大化してみれば確かに何かの機械だった。

 

どうやら外装は雑に作られたのだろう、これでは縮小しても機械には見えない。

 

蓋を開けると何本かネジが転がったが、釛は無視して作業を始める。

 

 

和出「……うん?」

 

 

すると、間も無い所で釛はふと手を止めた。

 

 

軽沢「釛、手が止まってるよ」

 

白橋「まっ……まさか、壊れちゃったの!?」

 

和出「なわけあるかぁ!? ()()()()を見つけただけだ、

いくらなんでもちょっといじっただけで壊れるなんてあり得ねぇ!」

 

上田「妙な部分?」

 

和出「盗聴器ってのは一定の周波数を発する機械なんだが……

なんか、2種類の周波数を発しちまってるんだよな」

 

軽沢「不具合とかじゃないんだ、気づかない内に着けちゃったんじゃないの?」

 

和出「まさか! 設計図も使ってんのに、そんな器用な事は出来ねぇよ」

 

 

そう言って釛は苦笑いをする、疑問が残ろうが雑談を続けながら彼は作業を再開した。

 

改めて中身を見ると無駄な部分があったらしく、基盤を取ったり配線を足したりしている。

 

そんな中、利奈はとある話題を持ち出そうとした。

 

 

上田「あの、えっと……うぅ、どう言えば良いんだろ」

 

白橋「どうしたんだい利奈? ゆっくり話せば良いよ、利奈の話聞きたい」

 

上田「うん、ありがとう直希」

 

 

利奈の言葉は詰まり気味だが、それにも理由があるらしい……彼女の表情は真剣だ。

 

 

上田「……和出さんと軽沢さん、『濁色の魔力噴出』について何か知らない?」

 

和出「『濁色の魔力噴出』ねぇ、盗聴で言葉だけは知ってるが意味までは分からん」

 

軽沢「そう言えば……それについて、数夜が何か言ってたような気がするよ」

 

上田「ほっ、本当!?」

 

軽沢「美羽と最上がちらっと言ってたんだ、確か……『呪いに細工をしている奴がいる』だっけ」

 

白橋「呪いに細工? なんか、難しそうな話だね」

 

軽沢「僕もそれだけ聞いた、意味は全然分からない」

 

 

この場でも呪いというと、俐樹や知己が散々苦しめられてきた絶望の呪いの事だろう。

 

その呪いは証として片目に変化が現れる、特徴は『黒目が白目で白目が黒目』になるという物。

 

釛が片目に医療用の眼帯をしてるのもそれを隠すためだ、

響夏にも証はあるが『擬態』の魔法で隠してしまっている。

 

 

上田「呪いに細工って……2人にもその呪いがかかってるんでしょ、大丈夫なの?」

 

軽沢「そもそも呪いに細工があったって数夜の独り言を聞いてから知ったし、

それに気がつかなかった分には特に問題無いと僕は思っているよ」

 

和出「まぁ、呪いがどう細工されたか知らなきゃ追求も出来ねぇけどな……

よっしゃ! これで良しって奴だぜ、少しは長持ちするようになっただろ」

 

 

釛は作業を終わらせ盗聴器の蓋を閉め、菜種油色の魔法で縮小させた。

ちょうどそのタイミングで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

軽沢「昼休みが終わるみたいだね、次の教科は英語だから早めに行かないと先生が来る」

 

白橋「やったぁ〜〜! 英語、僕の得意科目だ!」

 

和出「英語が得意科目……だと? マジかよ、俺は意味不明だぞ」

 

上田「行くのは良いけど、この余った食材はどうするの?」

 

和出「俺の腕をなめるなよ? 隠す方法なんざいくらでもあるぜ!!」

 

 

そう強くガッツポーズをする釛を尻目に、響夏は利奈と直希を被服室の外に連れ出した。

 

何やら釛は喚いているが、不機嫌そうな顔ですぐに盗聴器の再設置や食材の片付けを始める。

 

何故急に連れ出したかと響夏に聞けば、それは《気まぐれ》だと答えるだろう。

 

全く……釛と響夏は仲が良いやら悪いのやら、良く分からない。

 

とにかく今は急いで花組の教室に戻ろう、英語を担当する教師は怒ったら怖い。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

時間を進めて花組の帰りの会、湿度が上がったような若干重い空気に包まれていた。

 

何故かって? 理由は今日行われていた英語の授業、その時間での出来事のせいだ。

 

まぁ要するに宿題が面倒なタイプだったって事だ、それは自分で課題を翻訳するタイプの宿題。

 

その上宿題を出した教師は採点が細かい、点数は稼げるがその逆もあるという事になる。

 

そのせいか放課後は謎の賑わいを見せた、英語が苦手な者は得意な者に群がる。

 

 

利奈は英和辞書を片手に教室を出た、真面目な性格は時が経っても健在らしい。

 

英語が得意だと言ってた直希も何人かに声をかけられたが、その前に俐樹が連れ出した。

 

相変わらず不運なのは蹴太だ、既に不真面目の何人かに囲まれている。

 

他のクラスに聞ければ良かったがそれは出来ない、

花組は『1組』や『A組』と呼ばれる男体と同じ部類。

 

皆今日出された宿題を終わらす為のそれぞれの行動に出る、

教室内は机を動かす音と多数の生徒が会話する話し声で埋め尽くされた。

 

 

和出「教科書両開き1枚分って長すぎるだろ!? ったく、お前はどうすんだよ?」

 

軽沢「んーー? 気が向いたらやる」

 

和出「いつもそんなんで間に合うから不思議だよなお前は……ん? おっ、数夜じゃん!」

 

 

釛が肩を掴んで捕まえた数夜は、相変わらず面倒臭そうにしている。

 

明らかに顔色が白く健康とは言えなかったが、それ以外はいつも通りだ。

 

誰にも話しかけず、そのまま程々の早歩きで花組の教室を出ようとしていた。

 

 

前坂「……なんだ、お前らか」

 

軽沢「数夜また顔色悪くなってるね、血吐いたの?」

 

和出「ダイレクト過ぎんだろお前!?」

 

前坂「最近貧血薬を飲み始めたから大丈夫だろう、この身体はヤワじゃない」

 

軽沢「……血を吐いた事は否定しないんだね」

 

前坂「俺の事はどうでも良い、お前の方はどうなんだ? 釛」

 

和出「たはは……しばらくは大丈夫だぜっ!! 違和感はあるが、当分は平気だろ!」

 

 

釛は両手を拳にして突き上げる、まだ医療用の眼帯はしているが確かに大丈夫のようだ。

 

 

前坂「軽視するな釛、こいつをやるから今日は大人しく家に帰って休め」

 

 

そう言うと、数夜は釛に百均でも売ってそうな小さな布の袋を手渡した。

 

 

軽沢「数夜、これの中身って何?」

 

前坂「見るならここで開けるな、俺は先に行く」

 

和出「ちょ、おい!? 待てよ!!」

 

 

釛はここで見てはいけない中身の理由が分からず数夜に尋ねようとしたが、

数夜はそのまま逃げるように階段を駆け下りてしまった。

 

中身が気になった2人は、帰る前に誰もいない男子トイレでその袋の中を覗くことになる。

 

思いもよらないだろう、割れたハートがモチーフで鎖で縛られたかのような

グリーフシード、中にはそれが1つに限らず数個は入っていたのだから。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

少し飛ぶがさらに時間を進めて今は深夜、太陽は沈み切って星空が街と人々を見下ろした。

 

人々は皆建物の中だ、眠りについて家の灯りまで消してしまってる者も多数いる。

 

一部の者には好ましい時間帯だ、そんな夜を数夜も好んで行動していた。

 

 

前坂(やはり妙だ、一通り見て来たがあいつらは呪いが解けてしまっている。

あの呪いは自然に解けるようには組んでいない、俺が解かなきゃ解けない仕組みだ。

誰かが細工したのには間違いない、だが一体誰がそんな細工を……)

 

 

考え事をしながら街灯だけが頼りの暗い道を歩いていた数夜だったが、何故か急に止まった。

 

 

前坂「……ストーカーとは趣味が悪いな、何をそこまで警戒する事は無いだろう」

 

 

その言葉を言い終わるのとほぼ同時に、素早く指輪をソウルジェムに戻す。

 

そのまま数夜は群青色の魔法少年に変身、奇妙な杖を召喚し手にした。

 

自分の後ろに向かって杖を投げる! 魔力を込めていたのか、ぶつかった電柱にめり込んだ。

 

思わず電柱の裏から出て来た追跡者、数夜は急接近して拳を前に繰り出す!

 

だがそのパンチは受け取られてしまう、それでも追跡者の姿を目の前に捉える事が出来た。

 

 

前坂「なぁ? リュミエールのリーダーさんよ」

 

清水「……まぁ、相手が通称『花の闇』じゃあそう簡単に行くわけねぇよな」

 

前坂「何を企んでたかは知らんが、それ相応の覚悟は出来ているんだろうな!?」

 

 

数夜は掴まれた手を軸にして横蹴りを入れたが、一の腕を魔力で強化し海里は防いだ。

 

 

清水「上等だ、売られた喧嘩は買うぞオラァ!」

 

 

流石は不真面目の中でも一二を争う人物だ、やはり喧嘩慣れしている。

 

数夜から圧力と暴力を受けたが、海里の精神は微動だにしない。

 

そのまま2人はタイマンを張った、魔力の輝きで目立つといけないので体術が中心だ。

拳が入れば回避をして蹴りが入れば屈む、物が投げられれば別の物で弾き返す。

 

互いに動きの読み合いだ、どちらかが隙を見せるか疲れるまで続くだろう。

 

 

清水「強い魔法を持ってる割りには体術もなかなかやるじゃねぇか、

俺にはその魔法を使わないのか? 散々使って来たその呪いってやつをよ」

 

前坂「お前に呪いをかけたところでつまらないからな、無駄に魔力を使う気もない」

 

清水「まぁそんな強力な魔法を、人に言われて簡単に使いそうにも見えねぇな」

 

 

打撃の勢いは手数を稼ぐ度に威力を上げさせ、一手の重みはどんどん増した。

 

頰を狙って放たれたのとある一手、数夜は回避したが流れ弾は先程の電柱に当たった。

 

倒れる電柱に遮られ2人は一旦距離を置く、このままでは電線まで切れてしまう!

 

 

清水「っ!? やっべ!!」

 

前坂「ハァ……何をしている、一般人に影響が出るのは流石に無いぞ」

 

清水「悪りぃ、一旦こいつをなんとかするぞ!」

 

 

魔法使いの戦いで、一般人に影響が出してはいけないのは暗黙のルール。

 

2人は一旦タイマンをやめ、電柱の修理に取り組む事にした。

 

数夜が妙な杖を振るい魔法で電柱が倒れるのを防ぎ、

海里が様々な道具を空から取り出し電柱の修理をする。

 

 

 

 

やがて、暗がりの道に誰か通りかかる前に折れていた電柱はほぼ元の姿に戻った。

 

 

前坂「……興醒めだな、タイマンで戦っていたのに勢いが止まってしまった」

 

清水「おう、悪かったな骨を粉砕しちまうようなパンチを回避しちまって」

 

前坂「まぁいい、それで? 理由もなく俺の後をつけて来た訳じゃ無いだろう」

 

清水「気になる事があってな、お前の呪いについてある程度推測が纏まったから確信を得に」

 

前坂「ほう? 気分転換にはちょうどいい、聞かせろ」

 

 

休憩も兼ねているのか数夜はその場に座る、警戒の体制はそのままだ。

 

 

清水「いいぜ、ついでに答え合わせといこうじゃねぇか」

 

 

海里も同じくその場に座る、双方座ってでも対応出来るという姿勢の表れだろう。

 

 

清水「お前が呪いをかけた人物には2種類ある、1つは『星屑の天の川』のメンバー全員だ」

 

前坂「根拠は? 響夏は上田利奈に、釛はお前に調べられたがギャル2人はどう判断する?」

 

清水「出回るグリーフシードの数で判断したぜ、最近じゃあ数も減って偏りが見えやすいからな」

 

前坂「もうその辺りの情報はお手の物か、恐ろしい奴め」

 

清水「お前も人の事言えないぞ? で、もう1つは量産型グリーフシードの元になった奴らだ。

橋谷俐樹、津々村博師、根岸知己……この3人だろ、呪いをかけていたのは」

 

前坂「こじ付けに過ぎないな、根岸知己は証を見せたらしいが他の2人は何とも言えない」

 

清水「ああ、()()()()()()()()を見るまではこじ付けに過ぎなかった」

 

 

しばらく話し込んでいた2人だったが、ある時を境に数夜の表情は真剣さを増す。

 

 

前坂「……なに? それはおかしいな、どうやってその結論に至った?」

 

清水「『濁色の魔力噴出』だ! 知己は見てないから分からないが、

これらが起こった後から明らかに俐樹と津々村博師の孵化回数は減少している。

かけられる前より明るくなった、呪いの効果が無くなった結果だろうよ」

 

前坂「何故そうなる、2人の変化はお前の気のせいじゃないのか?」

 

清水「とぼけるな! 呪いの効果が『希望への鈍感』ってのも、分かっているんだぞ!!」

 

前坂「思い込みも甚だしい、お前はさっきから何を言ってる?」

 

 

海里は文字通りとぼけていると思ったらしいが、見ればそれは違うようだ。

 

言われた方は困惑の表情をしている、それは見覚えのない事を突きつけられた気分。

 

数夜は続けて言葉を口にするが、その内容は海里にとって衝撃的な内容となった。

 

 

 

 

前坂「『希望への鈍感』? 俺がかけた呪いに、そんな効果を付けた覚えは無いぞ」

 

 

 

 

それは根本からの否定だ、これが正しければ様々な事柄が根本から崩れる事になる。

 

 

清水「覚えが無い? どういう事だよ、希望を感じなくなる症状は1人に限らないぜ」

 

前坂「俺は真実しか言ってない、確かに希望を感じなくなるような効果は付与していなかった」

 

清水「俺が言ってる事も根拠や証言がある真実だ、そっちこそ真実を受け止めろ!」

 

前坂「効果か、なるほど? 何か違和感があると思っていたが、その正体はこれか。

俺の魔法がかかりやすくなる効果だけにしては、妙だとは思っていた」

 

清水「……その口振りに態度、嘘をついているようには見えねぇな」

 

 

海里と数夜は情報戦でも読み合いだ、言葉のドッチボールでも拮抗した状態が続く。

 

……が、しばらくしてその均衡を打ち破るが如く急に数夜は笑い出した。

 

何故笑っているのか? それは海里には分からない、彼は自分の無知に対し笑っている。

 

 

清水「何がおかしい!? 今話しているは笑い事じゃねぇぞ!」

 

前坂「いやはや、あまりにもお前と俺の情報が合致しなくてな……ここまで来ると笑いもする。

気に入った、明日このメモの通りの場所と時間に来い! 話の続きはそれからだ、清水海里」

 

清水「わっ!? とと……池宮市◯◯地区△△町◇◇丁目××-☆☆? おい、これってどういう」

 

 

少しの間だけ投げられたメモに目を向けていた海里、

目線を正面に戻したがそこに数夜の姿は既に無かった。

 

どうやら海里がメモを読んでいる間に塀を越えて逃げたらしい、何と逃げ足の速いことか。

 

メモに書いてある場所に何があるというのだろうか?

今からその場所に行くには、時間帯が遅過ぎるのが残念だ。

 

 

 

 

(……偶然にしては、かなり重要な場面に遭遇しちゃったな。

只でさえレベルが違うだったのに、正式な場を設けたらどうなるか。

これは他のリュミエールの子に伝えた方が良いね、特に彼女かな。

海里は情報屋のライバルとはいえ同じ第三椛学園の仲間だ、僕は守りたい。

そうなれば彼女に連絡を取りたいけど……あれっ、連絡先何も知らないや)

 

 

 

 

(どちらにしろもうすぐ全ての工程が終わる、1つの終わりに向かって。

適当に機会を作ろうとしたけど、まさかこんな幸運な事があるなんてねぇ。

この好機は是非利用させてもらおう、それで目的は達成されるもん!)

 

 

 

 

明日は多数の生徒が毎週待ち焦がれる休日だ、大事が起こる時間は充分過ぎる程ある。

 

 

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

清水「じゃあ話させてもらうぜ、途中で寝たりするんじゃねぇぞ」

 

 

 

上田「……勘違いも甚だしいよ!」

 

 

 

((もう駄目だね、最初から殺すつもりは無かったでしょ))

 

 

 

下鳥「この際ハッキリ言うわ、貴方が裏で様々な悪事に関わり暗躍していた事を認めなさい」

 

 

 

〜終……(42)自由な食事会と暗躍者〜

〜次……(43)無心な裏切りと真の闇〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 





いかがだったでしょうか? 今回は釛の意外な一面が明らかになりました。

よくよく考えれば彼の魔法少年姿はロボット、ある程度機械に精通してても変ではないですね。

だからと言って盗難が許される話ではないのですが……やれやれ、いつになれば捕まるのやら。

まぁ余った給食、特にクリーム系はポケットに忍ばせよく家に持って帰った記憶はあります。

チョコクリーム、コッペパンより食パンに付けた方が美味なんですよねw


さてと、今回は全体的に短いですがここまで。

次回は長文につき、目の疲労の管理にはご注意下さい。

それでは皆様、また次回。


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(43)無心な裏切りと真の闇

長らくお待たせしました、どうまとめようか迷いに迷っていた鈍足のハピナです。

とてつもなく時間がかかってしまい申し訳無い、
やっと前章をどう終わらせるかの目処が立ちました。

今回明らかになるのはいよいよ黒幕、その正体は一体誰なのでしょうね?

まぁ誰も予測してないと思いますが、一応ヒントになるような違和感は各話に巻いてあります。

もちろん、何故そいつが黒幕なのかって切り札もね。

その他にも色々あるのですが、その辺りは今回を読んで見てからのお楽しみ。

本当にここまで長かった、いよいよ花の結束を阻む要素を明らかに出来ます。


それでは、物語の幕を上げましょう……あぁ、この辺は私自身も待ち遠しかったです。




いつも通りの寒がりな朝、空から降り注ぐ雪も既に見慣れた。

 

空を吹けば白い吐息が雪を押し出す、そこには最早面白味が感じられない。

 

池宮でも特に寒い西地区、海里は入り組んだ廃墟と空き家の群れの中を歩いていた。

 

 

清水「メモの場所は……このビルを入ってすぐか、なんか陰気臭い場所だなオイ」

 

 

その中でも一際物騒な雰囲気を放つ廃墟ビル、その前に海里は来ていた。

 

手には千切られたチラシを持っている、そこには何も書かれていないが……

 

どうやら文字の形にインクの色が反転しているようだ、なんと不思議な事やら。

 

 

ビルの中に入ると元は何かの会社だったようで、なかなか広々とした内装だった。

 

その反面辺りは散らかっている、崩れた瓦礫や粗大ゴミがそこら中に転がっている。

 

どうやら海里が今いる場所はエントランスのようだ、受付の机には1人の少年が寝転がっていた。

 

 

……彼は呑気な者で、コートを毛布代わりにして昼寝をしていた。

 

 

清水「時間通りに来たぞ、話ってのをしようぜ」

 

ハチべぇ「数夜、君が待っている人物が訪れて来たようだよ」

 

清水「ハチべぇ? お前ここにいたのか、てっきり利奈と一緒にいると思ってたんだが」

 

ハチべぇ「数夜に見張りを頼まれていたんだよ、彼の眠りは深いからね」

 

前坂「ふわあぁ……何だ、真面目側じゃない割には時間通りに来たのか」

 

 

数夜は海里が来たのを目で確認すると、起き上がって目元を擦った。

 

最初はゆるゆるだった彼の雰囲気だが、一息つくなり一気に重い物に変わる。

 

言葉で言うなら前者は《面倒くさがり》な数夜で、後者は星屑の天の川としての数夜だろう。

 

 

前坂「話の続きと言ってもな……そうだ、まずお前が知ってる事がどれだけ正しいか試してやる」

 

清水「会って早々随分と上から目線だな、ここで話そうと提案したのはお前なんだが」

 

前坂「悪いな、俺は《面倒くさがり》……途中で話すのに飽きてしまうかもしれないなぁ?」

 

 

当然今の彼は《面倒くさがり》に寄ってる訳が無い。

 

だが、どうやら海里から話を始めなければ話すつもりは無さそうだ。

 

数夜はそれ以降何も喋らなくなり、膝の上に乗るハチべぇの毛づくろいを始めてしまった。

 

だが逆に海里は考えた、寧ろこれが攻勢に立てるチャンスなのだと。

 

仮にも海里は花組においての『情報屋』だ、彼には情報屋としてのプライドがある。

 

 

清水「そこまで言うなら話してやるぜ、お前に喋らす前に一から十まで喋っちまうからな!」

 

前坂「喋りたいならどうぞ? まぁ、ほとんど合っていないと思うが」

 

ハチべぇ「彼は情報屋だよ数夜、いくつかの事項は当てられてしまうだろう」

 

前坂「……相変わらずどっちの味方か分からないな、ハチべぇは」

 

ハチべぇ「わけがわからないよ」

 

 

ハチべぇは何を考えているかそれは分からない、何故ならハチべぇはいつも無表情。

 

 

清水「じゃあ話させてもらうぜ、途中で寝たりするんじゃねぇぞ」

 

前坂「大事な話をする時に眠ってしまう程、俺は落ちぶれたつもりは無いんだけどな」

 

清水「なら遠慮なく核心から話そうか、お前の魔法の正体……()()()()()()()だろ」

 

 

その話を海里がした瞬間、今までハチべぇを撫でていた数夜の手が止まった。

 

 

前坂「……その心は?」

 

清水「理由は2つあるぜ」

 

前坂「言ってみろ、どうせ間違ってるだろうが」

 

清水「1つはお前が以前一度だけ見せたソウルジェムだ、あれはかなり妙だったからな」

 

前坂「あぁ、こいつの事か」

 

 

そう言って数夜は額に着けていた男物のティアラを外して海里に見せ、再び額に嵌めた。

 

真ん中で黒みを帯びた宝石が付いていた、それは暗く光を通さない。

 

これが数夜のソウルジェムだろうか? その間にも、海里の話は理由を述べ続けた。

 

 

清水「どんな魔法かって選択肢が膨大過ぎる疑問を考える前に、

まず穢れが溜まり切ったソウルジェムがどうしたら孵化しないかを考えた」

 

ハチべぇ「通常ソウルジェムは穢れが溜まり切る事で孵化をするからね、

それは魔法使いにとって逃れられない運命と言っても過言ではいだろう」

 

清水「普通はそうだな、それが普通ならだが」

 

前坂「普通ならか、俺は普通じゃないって事になるな」

 

清水「いや? 逆に考えたってだけだ、どうしたらソウルジェムに穢れが

溜まり切った状態でもそのままでいられるのかってな」

 

前坂「安直な考えだな、要するに何が言いたい?」

 

 

海里はその時ニヤリと笑い、数夜が持っていたティアラの宝石を指差した。

 

 

清水「簡単な話だ、お前のそれは逆に()()()()()()()()()()()()()だと考えりゃ良い」

 

前坂「あり得ない話だ、ソウルジェムの性質を変えるにはそれ相応の魔法が必要になる」

 

清水「それがお前の魔法って訳だ、ただ単純にソウルジェムの性質を反転させただけのな」

 

前坂「第一『反転』の魔法は俺の魔法だという証拠が無い、

他の魔法使いが『反転』の魔法を所持している可能性は捨てられん」

 

清水「それがお前が使っていた『防御』の魔法の原理だったとしたらどうだ?」

 

前坂「……!」

 

清水「攻撃を与える側と受ける側、両者のダメージ量を反転させたと言っても辻褄は合う。

何だったら他の連中に聞いても良いぜ? 特にお前が『防御』の魔法を使ってる場面をな」

 

 

一通り聞くにかなり数夜を追い詰める内容に見えるが、数夜は何故かまだ笑えた。

 

 

前坂「ククク……足りないねぇ? お前が言ってるのは所詮証言の塊に過ぎない、

それを証明する何か物質としての証拠が無けりゃあ俺は認めない」

 

 

それを聞いた海里はすかさず、何も無い宙から小さな瓶が付いた写真を取り出した。

 

 

清水「その証拠があるとしたら、お前はどう考えるんだろうなぁ?」

 

前坂「デタラメを言うな、そもそも『形なき魔法』に証拠が残るはずが」

 

清水「魔法を使った痕跡があるとしたらどうだ?」

 

前坂「っ!? 待て、なんだその写真は」

 

清水「見覚えがあるみてぇだな、お前が思った通りこれらは同じ魔方陣を写した写真だぜ。

ポスターの裏、長机の下、瓦礫の影、廃墟の壁……色んな場所にあるからな」

 

前坂「確かにどれも同じ魔方陣だが、俺とは無関係だ」

 

清水「ならこれはどう説明する? 学校の奴には紙の切れ端、逆に廃墟の奴はチョークの粉」

 

前坂「調べ方が入念にも程があるな、だからどうしたんだ?」

 

清水「切れ端にはotel……掠れているが、切れ端の柄の豪華さからも分かるのはホテルの資料だ。

しかも一部が少し焦げちまっているな、池宮で火事で閉業したホテルと言ったら限られる。

要するに今俺たちがいるこの場所だ、数年前に厨房から発火して大火事になったこのホテル」

 

前坂「……恐ろしい奴め」

 

 

語られる推理を数夜は否定しつつ嘲笑いながら聞いていたが、

海里の話が続くにつれてその口数は確実に減っていた。

 

 

清水「この魔方陣を最初はこれを通じ自在にワープする、

『転移』の魔法だと思ってたんだが……そりゃ違った」

 

前坂「根拠は?」

 

清水「まだ分からねぇのか? 写真に対応する小瓶の中身は、どれも全部どれかと対になっている」

 

前坂「つまり、それもまた『反転』の魔法だと」

 

清水「そういう事だ、反論はあるか? まぁ、俺の分析でこの魔方陣から

分析できた魔力の色は()()()だったのが決定的になっちまうけどな」

 

前坂「……その分析が正しいという保証は? お前が出来たのは魔力自体の感知だった筈だが」

 

ハチべぇ「その時は僕も立ち会ったよ、証拠が欲しいなら

海里の改良した魔法具のコンパスを見ると良いと思うよ」

 

 

そうハチべぇが海里の発言を保障した途端、数夜は黙り考え込んてしまった。

 

どうやら手詰まりのようだ、魔法での証明をされてしまったらもうどうしようもない。

 

次の手とばかりに海里はコンパスに魔力を込め始めた、この廃墟にも例の魔方陣は存在する。

 

 

 

 

その時だった……今まで撫でていたハチべぇの首根っこを鷲掴み、強く投げ出したのは。

 

 

 

 

ハチべぇ「ぎゅっぷぃ!?」

 

 

 

 

潰れたような声で鳴いてハチべぇは投げられたが、瓦礫への激突は免れた。

変身した海里によってその身体を受け止められたのだ、流石反応が早い。

 

 

清水「オイ何しやがる!? 気でも動転したか!!」

 

 

海里は数夜を怒鳴りつけたが、数夜にはあまり聞こえていないようだ。

 

それどころか笑っている、今までにないくらい不気味な笑い方。

 

そして再び海里を見た、その目は子供とは思えないくらい殺気で溢れている。

 

 

前坂「……あぁ、そうだ! 俺が使うのは『反転』の魔法で大正解だぜ。

メンバーの目を反転させたのは俺だ、ソウルジェムの性質を変えたのも『反転』の魔法だ。

呪い関しては心当たりが無い効果があるが、そんなことは最早どうでも良い。

あまりにも多くを知り過ぎたんだよ、お前は……だから、悪いが()()()()()()

なあに、俺の罪なんか既に犯してるも同然だぞ? 元からこの世に希望なんか持っちゃいない」

 

 

そう物騒な事を口走ると、数夜は持っていた奇妙な杖を床に落とした。

 

 

清水「っ……! やっぱりその杖はフェイクだったか、

魔力を込める動作が無いから妙だと思ったんだ!」

 

 

先手は数夜だった、拳を叩き込むが海里はそれを受け止める。

 

最初の数倍は重いと感じるだろう、どうやら数夜は本気で殺しにかかっているらしい。

 

その後も蹴りも入り混じった攻撃が海里に襲い来る、海里も本気で戦わなければやられてしまう。

 

 

前坂「そう来るか、まぁ……殺されそうになればそうもなるわなぁ!!」

 

 

数夜の攻撃のほとんどは急所狙いの危険な攻め、海里の攻撃は気絶を狙った攻め。

 

ハチべぇは魔法使い同士の戦闘を見つつ、巻き添えをくらわないよう移動を続けた。

 

踏み抜いた小石が砕け、逸れた拳は空を切ろうとも次の攻撃の重しとなる。

 

所々魔力が篭った攻撃が見える、無駄な魔力を消費しないのは強い魔法使いの証拠だ。

 

両者一歩も手を抜かない、手を抜けば数夜は気絶するし海里は死ぬかもしれない。

 

 

前坂「いい加減諦めろ、お前がどうしようが俺はお前を殺す」

 

清水「そうはさせねぇ! こちとらお前とは話してぇ事があるんだぞ!!」

 

前坂「っ……いい加減、諦めろと言っている!!」

 

 

数夜は遂に海里の服を捉えて投げ飛ばそうとしたが、

海里は地面に足を付けて屈んだ姿勢から蹴りを狙った。

 

しかしそれが当たる事は無い、当たらなかった代わりに数夜には隙が出来た。

 

その隙を狙って海里は力を弱め、ある一点わ狙い拳を振りかぶった!

 

 

清水(以前俺の手違いで利奈のソウルジェムに衝撃を与えた事があった、

もしその時の反応が魔法使いであるこいつにも適応されるとしたら……!)

 

 

咄嗟に思いついたフェイントも入れた二段構えのパンチ、

その拳は先程数夜がちらつかせていたティアラの宝石に見事命中する!

 

額を殴られ数夜はよろめいた、力を弱めたのは宝石を割らない様にする配慮だったらしい。

 

そりゃそうだ、ソウルジェムに手を出すのは魂を傷つけるのと同じなのだから。

 

 

……が、数夜はニヤリと笑い体制を立て直して海里の首筋を狙って蹴りを放った!

 

 

清水(なっ!?)

 

前坂「まんまと引っかかった様だな? 敵相手にソウルジェムを素直に見せる訳ねぇだろうが!!」

 

清水(……っ!!)

 

 

まるで宝石を殴られた影響など出ている様子は見られない、

どうやら先程数夜が見せたティアラは偽物だったようだ。

 

海里のソウルジェムは首の横に付いている、このままでは数夜の蹴りが命中するだろう。

 

だがその蹴りも当たる事は無かった、何故なら命中したのは別の物質。

 

 

前坂「……羽!?」

 

 

それは海里が片翼だけ出現させた魔力の翼だった、

数夜の不意打ち同然の蹴りを受け止め力任せに振り払う。

 

だが無理に放ったカウンターだったのか、海里と数夜は互いに大きくよろけてしまう。

 

まぁこの2人だけなら、すぐに直せるただの大きな隙に過ぎない……2()()()()()()だが。

 

 

 

 

((もう駄目だね、最初から殺すつもりは無かったでしょ))

 

 

 

 

ずっとタイミングを狙っていたのか、海里の背後にに何者かが急接近する。

この汚い手に海里は気づくのが遅れ、その者の手は海里の首筋を狙った。

 

 

前坂「っ!? よせ!!」

 

 

青ざめた顔で数夜も絶叫すり、このままでは海里のソウルジェムが破壊されてしまう……!

 

 

 

 

その時だった、空を切る音を立てて何かが海里に向かって突っ込んで来たのは。

 

 

 

 

急な展開か混ざった結果、その場には4人の魔法使いが倒れこむ状況になった。

 

 

前坂「……は? ちょっと待て、何がどうなってる」

 

ハチべぇ「『花の光』がやってきたようだね、海里はエントランスの隅にいるよ」

 

前坂「エントランスの隅?」

 

 

ハチべぇが前足で指差す方を見ると、そこには壁に激突した海里がいた。

 

 

清水「ってて……って、ええぇ!?」

 

上田「痛た、速さだけ考えて飛んだらこうなっちゃうんだ……間に合って良かった」

 

清水「オイ! 大丈夫か利奈!?」

 

 

その傍らには赤き魔法少女……何故か利奈が倒れていた、手には棍の箒を持っている。

 

どうやら猛スピードでこれに乗って空を飛び、海里目掛けて突っ込んだ様子。

 

海里は目の前で倒れている命の恩人を抱き起す、

利奈はなんとか立てたが強い衝撃で少しの間動けそうにない。

 

 

下鳥「どうやら間に合ったようね、先に行かせて正解だったでしょう?」

 

月村「どうかしら……俐樹、利奈の身体を治療してあげて」

 

橋谷「はっ、はい! 治療ですね、任せてください!」

 

篠田「大丈夫かな? あたしから見れば海里もケガしてそうだけど」

 

白橋「利奈も海里も大丈夫だと思うよ! 魔力の乱れも感じないからね!」

 

中野「とにかくみんな変身だけでもしておこう、何が起こるか分からない!」

 

 

どこから駆け付けたのか、その場にはリュミエール一同全員が出揃っていた。

何人かそうじゃない人物もいるが、出揃ったのは事実である。

 

 

前坂「どうしてここにいる事が分かった? この場所この時間を知る由も無いはずだが」

 

 

理由を探して数夜は入って来た者達を観察すると、柱の後ろに隠れた1人の人物が目に入った。

 

 

武川「ええっと、あれぇ? オイラなんか、大変な状況に巻き込まれたっぽい?」

 

篠田「もう! 気をつけてね、途中で帰らないって言ったのは光なんだから!」

 

前坂「……なるほど? 月の情報屋か、案外あなどれない者……だな」

 

 

ふと数夜はその場に膝をついた、かなり本気で戦ったらしく魔力を消耗していた。

 

奇妙な杖を呼び寄せ支えにして立つが、肩で息をしているようにも見える。

 

その傍らには優梨がいた、彼女の目線は何故か数夜を見ていない。

 

 

 

 

その目線の先にいたのは意外な人物、本来この場にいるはずのない人物だ。

 

 

 

 

下鳥「さぁ、どう弁解してもらおうかしら? 魔法忍者の古城(ふるき)忠義(ただよし)さん」

 

 

 

 

微笑む優梨が見る方向、そこには黒茶の魔法少年が大の字になって倒れていた。

 

忠義が優梨の声に気がついたかと思うと、彼は跳ね起き辺りを見渡す。

 

偶然通りがかったのだろうか? そう考えるのが普通だ、何故なら一見全く関係の無い人物。

 

 

古城「ヨッコラセっ……あ、もしかして止まったでござるか?」

 

下鳥「止まった?」

 

古城「魔法使い同士本気の戦いを見て驚いたのでござる、

何せ得る事が出来るのは魔力の無駄な消費でござるよ!」

 

篠田「あれっ? あの人って確か」

 

中野「徳穂とコンビを組んでる忍者だったね、でもどうしてこんな所にいるんだ?」

 

古城「通りすがりの正義の忍者でござる、無駄な殺生は避けるべきでござるよ!」

 

武川「おぉ! なんか漫画のキャラにいそうな活躍だ、オイラ感動したかも!?」

 

 

忠義と光のノリは見るからにベクトルが近い、雑談を始めれば長く楽しく続くだろう。

 

古城「それじゃあ拙者は失礼するでござる、早く仲直りするでござるよ!」

 

 

そう言って忠義はその場から立ち去ろうとしたらしいが、

その前に腕に鞭が絡まった為に移動を止められてしまう。

 

 

古城「どっひゃあ!? なっ、何するでござる!?」

 

下鳥「待ちなさい、貴方大事な事を忘れているわよ?」

 

古城「忘れてる事? いや、そんな事は無いでござるが」

 

下鳥「弁解よ、海里を殺害しようとしたのはどう説明するつもりかしら?」

 

古城「拙者が!? いやいやいや、咄嗟だったからあんな風になっただけでござるよ!」

 

下鳥「飽くまで偶然だったと言うのね?」

 

古城「そもそも、拙者にはリュミエールのリーダーを狙う理由が無いでござる」

 

 

忠義はわけがわからないと言った様子だが、優梨はそれに対して溜息をついた。

 

 

 

 

下鳥「この際ハッキリ言うわ、貴方が裏で様々な悪事に関わり暗躍していた事を認めなさい」

 

 

 

 

強気の姿勢で優梨は言ったが……それは誰しもが予想しない、驚きの発言だ。

忠義自身も顔を引きつらせている、これはあまりにも突発的な告発だ。

 

 

清水「暗躍だと? 忠義が関わってるとは思えないんだが」

 

下鳥「貴方達は表ばかり調べていたのだから、分からないのはある意味当然よ。

その代わり、私は別の方角から『花の闇』について調べさせて貰ったの。

そうしたら分かったわ、彼が暗躍していたのなら全てに合点が行くとね」

 

古城「何が何だかサッパリでござる、噂されていたのは呪いでござろう?

拙者が扱うのは忍法でござる! 呪術なんて扱えないでござるよ」

 

下鳥「貴方自身呪いなんて使えないのは分かっているわ、

でも別の魔法には()()()()()()()()()()()()()があった様ね」

 

上田「別の魔法……?」

 

古城「呪いに細工出来る効果? そんな魔法は持ってないでござる!」

 

下鳥「忍法『暗き曇天の煙幕』、流石に自分の魔法の事くらい知ってるわね」

 

古城「お? よく知ってるでござるね、曇天の煙幕は敵を惑わす目くらましの」

 

下鳥「『幻惑』の魔法の、でしょう?」

 

 

優梨は遮る様に効果を言ってみせた、言いかけだった忠義の言葉は止まってしまう。

 

 

白橋「幻惑って言うと、えっと……コンランしちゃう?」

 

橋谷「こっ、混乱ではなく、人を惑わす事を指しているのですよ」

 

下鳥「貴方、呪いをかける瞬間に同行して幻惑をかけたんじゃないかしら?

証を付けるだけの筈の呪いを、証が付いている間は希望を感じ辛くなると錯覚させた。

利奈が『濁色の魔力噴出』と呼んでいる現象は、数夜と貴方の魔力が混じった魔法……

それが、呪いをかけられた者が強力な希望によって解けるからじゃないかしら?

濁色の魔力が煙状なのも、元は煙幕だったと考えれば辻褄が合うわ」

 

前坂「…………!」

 

下鳥「まぁ、要する魔法に一種の催眠術ね」

 

古城「何を言ってるでござるか? 拙者の煙幕にはそんな効果は無い、全部憶測の話でござる! 」

 

 

確かに優梨の言っている事は今のところ憶測の話だが、彼女の表情は余裕だった。

 

その言葉を待っていたかのように、優梨は衣装のポケットからジップロック付きの袋を取り出す。

 

中身は穴の空いた革製品の切れ端だ、一緒に折り畳まれた紙も入っている。

 

 

下鳥「利奈、貴方がこの前戦った魔女を覚えているかしら?」

 

上田「この前……もしかして、今じゃ逃避の魔女って呼ばれてるあの?」

 

下鳥「よく覚えてるじゃない、これはその時に手に入った物よ」

 

清水「特に舞や博師が活躍したって聞いてるぜ、その時は魔法忍者もいたようだな」

 

古城「確かにいたでござるが、その切れ端と何の関係があるでござるか?」

 

下鳥「大アリよ、この切れ端についた液体をご覧なさい」

 

古城「液体? 赤黒い液体なのは分かるでござるが、乾いてしまってるでござる……っ!?」

 

 

忠義はその液体について何かに気がついたらしく、一瞬だけたじろいだ。

 

それだけ意味があったのだろう、これが優梨が示す最初の証拠。

 

利奈にも心当たりがあった、彼女は液体が飛び散る瞬間を目の前で見ている。

 

『ガラスの破片と共に血飛沫の如く中の赤黒い液体が飛び散り、

その液に浸っていた安物のワンピースが吹き飛んだ』

 

 

それは魔女が討伐された瞬間の出来事、その時広範囲に渡って液は飛び散ったのだ。

 

 

下鳥「色んな物が汚れてしまって大変だったわね、それは服だけじゃなくて武器も同じ」

 

古城「革製品……なるほど、浜鳴最上の武器でござるか」

 

下鳥「よく知ってるじゃない、武器整備の時にその時のベルトのを貰ったのよ。

こっちで調べた結果、主成分はアサガオの種に含まれる成分だと分かったわ。

含まれてる魔力はほんの僅か、分析も難しい隠蔽工作には最高の魔法ね」

 

古城「口から出まかせでござる! そもそも、子供にそんな調べ方出来るとは思わないでござる」

 

下鳥「あら、何だったら分析結果を印刷して来ても良いわよ?

詳しくは言えないけど私の家業は医療関係なの、この位頼めば簡単に分かってしまうわ。

何なら美羽に聞いても良いわよ、貴方の煙幕を喰らった途端思考が鈍くなったと聞けるわよ」

 

 

言うならば圧倒的包囲網だ、必要な証拠は出揃っている……

ここまで来るのにどれほどの時間がかかったのやら。

 

アサガオの種といえば、摂取する事で幻覚作用を起こすという意外な効果を持っている。

 

それを魔力で微調整したのだろう、魔力消費を極限まで抑えた最高の幻惑魔法だ。

 

 

古城「もう、分かったでござるよ! 隠してて悪かったでござる、

忍法『暗き曇天の煙幕』は確かに、幻惑の効果を持っているでござるよ」

 

清水「それじゃあ認めるんだな? 呪いに細工したって事を」

 

古城「それとこれとは全く関係ないでござるよ、変に解釈しないでござる」

 

清水「……何ィ?」

 

古城「幻惑の魔法に催眠の魔法、聞くからに妖しい響きでござるよ!

何かあった時に拙者が怪しまれるのは一目瞭然、そういうのを避けたかったでござる。

呪いだの何だの言っているでござるが、第一『花の闇』とも呼ばれた悪徳組織である

『星屑の天の川』に加担する理由がこの正義の忍に何処にあるでござるか?」

 

 

敢えて幻惑の魔法である事を認めたと言わざるを得ない、確かに一番の問題はそこだ。

 

『星屑の天の川』と古城忠義の繋がりが全く無い、その痕跡すら見つかっていない。

 

ぶつけられた正論に海里は言葉を詰まらせたが、そこに言葉を繋ぐ者がいた。

 

 

下鳥「確かに、その辺りには一番手間取ったわね……でも、その言い訳もそれまでよ」

 

古城「言い訳? 拙者が言っているのは間違いの無い正論でござ」

 

下鳥「あらあら、ならこれを見てもそんな口が聞けるかしら?」

 

 

優梨は切れ端を一旦しまい、今度は別の物を取り出し忠義に見せた。

一見ただの油粘土の塊だ、これがどんな意味を示しているのやら。

 

 

古城「……なんでござるか? そのガラクタは」

 

下鳥「誰かさんが設置した盗聴器よ、魔法も使っていて随分手が込んでいるわね」

 

篠田「ホントに機械なの? なんか、あたしには油粘土の塊にしか見えないんだけど」

 

上田「確かに機械だよ、私もこの目で確認したから」

 

白橋「修理してる所が凄かったんだよ! こう、配線がバビョーンってなってて」

 

 

あまりにも抽象的な直希の説明はさておき、優梨は次の説明に入った。

 

 

下鳥「海里、この盗聴器を分析してみてちょうだい」

 

清水「え? 俺が分析するのか、作った奴の魔力しか出ないと思うが……」

 

下鳥「いいから、分析してみなさい」

 

 

そう強く主張をする優梨、海里にその依頼を断る理由は無かった。

 

まだ彼の中には疑問が残るらしいが、とりあえず盗聴器に対する魔力の分析を始める。

 

海里は空中から青々としたコンパスを取り出すと、それをしばらく盗聴器にかざす。

 

 

清水「……は? どういう事だ?」

 

 

一瞬海里は何かに驚いたような様子をみせたが、すぐ冷静になり結果を話した。

 

 

清水「主に確認出来たのは菜種油色の魔力だったが……

何故か、ほんの微量だけ()()()()()が見て取れたぞ」

 

月村「黄緑ですって?」

 

上田「黄緑って言ったら、俐樹ちゃんが黄緑色の魔法少女だけど……」

 

橋谷「わっ、私ですか!? でもその塊は今初めて見ましたし、触れてもいません!」

 

上田「それは分かってるよ、どうやって付いたのかが分からないの」

 

 

さらに疑問が増えてしまったかと一同は思ったが、優梨は何故かそれを聞いて微笑んだ。

 

 

下鳥「ところで俐樹、貴方には回復魔法があったわね?」

 

橋谷「うぅ……はい、魔力で回復効果のある花の蜜を作ることができます」

 

下鳥「その蜜は全て同じ物かしら?」

 

橋谷「いえ、人の症状によって成分の割合を変えているので……

同じ物は無いと思います、私が蜜を調べれば誰にあげた蜜か分かるかと」

 

古城「……!!」

 

 

その時、何かに気がついたら忠義の表情は一瞬だけ凍りついた。

それ以外は素知らぬ顔だったが、優梨はその隙を見逃さない。

 

 

下鳥「そういえば貴方、以前冷水の飲み過ぎでお腹を痛めた事があったわよね?」

 

古城「……確かに、一度拙者の相方の紹介で世話になった事があるでごさる」

 

下鳥「なら少なくとも、蜜を調べれば貴方が盗聴器に触ったという事は明らかになるでしょうね」

 

 

側から見れば会心の一手……だが、忠義は何故か呆れたかのように溜息をついた。

 

 

古城「やっぱり、そう言うでござるか……単なる偶然でござるよ。

掃除当番で掃除をした時にでも付いたんでござろう、第一拙者には機械系の技術が」

 

下鳥「あらあら、貴方の実家は電気屋じゃなかったかしら?

この盗聴器も貴方の家に商品としてある設計図に随分そっくりのようだけど」

 

古城「じっ……か!? ちょっと、拙者は寮生活でござるよ!?

ここと拙者の実家までは調べに行くのにどれだけ距離があると」

 

下鳥「池宮以外にちょっとしたコネがあるだけよ、それに……

この際ハッキリ言わせてもらうわ、貴方知りもしない筈なのに

どうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

古城「それ、は……」

 

 

優梨の言う通り忠義以外の初見たちは皆、粘土のようだということしか分からない。

 

それなのに、忠義は初見にもかかわらずそれをガラクタだと言い放った。

 

優梨が長い時間をかけて見つけた証拠も証言も完璧、最早言い逃れは叶わない。

 

 

下鳥「貴方たちが表の問題に取り組んでくれて助かったわ、

その分だけ私は裏の問題に取り組む事が出来たのだから」

 

上田「……優梨」

 

下鳥「さあ、これ以上はどう弁解するつもりなのかしら? 魔法忍者さん」

 

 

その優梨の言葉が告げられた後、この場は忠義の言葉を待つ静寂に包まれる。

 

 

 

 

そして……次の瞬間、忠義は壊れたかのように高らかで不気味にに笑い出した。

 

 

 

 

どうやら、優梨の言っている事は間違いではないらしい。

 

手のひらで顔を覆ったまま笑いが落ち着いたかと思えば、その隙間からギョロリと瞳がを見た。

 

まるで発狂でもしたかのような豹変っぷりだが、忠義の場合は本性を現したと言える。

 

 

古城「あぁ〜〜あ、バレちゃたのかぁ? 僕ってば、結構頑張ったつもりなんだけどな」

 

下鳥「……その分だと、その『忍者口調』もわざとやっていたようね」

 

古城「こっちの方がバカっぽくて逆に怪しまれないと思ったのさ、

実際全くに近い程怪しまれなかった……この布を巻いただけの服装も、ね!!」

 

 

忠義は語っていた言葉を途中で一旦止めると、自らの忍者の衣に手をかけた。

 

そうすると、忍者の衣は黒茶の魔力の淡い閃光を散らして消える。

 

どうやら覆う形で隠していたようで、そこには別の衣装が存在していた。

 

それはほぼ黒で構築された剣士の衣装、片手には大きな鎌を召喚し肩に抱える。

 

一言で言うなら中世の『死神』だ、そこには忍者の面影など全く無い忠義の姿があった。

 

 

古城「ネタバレついでに教えてあげるよ! 前に前坂数夜が絶望の魔法使いとか言ってたけどさ」

 

清水「……確かに一度言っていた事はあったな、お前の場合盗聴器から聞き出したんだな」

 

古城「あれって、寧ろ僕の事なんだよねぇ? この群青野郎はただの操り人形(マリオネット)ってわけ」

 

清水「なっ!?」

 

前坂「…………」

 

 

忠義かネタバラシをする間、数夜は俯いたまま何も喋ろうとしない。

そこには驚くような仕草もない、どうやら元から全てを知っていたようだ。

 

 

古城「一時期スパイがどうたらこうたら言ってたような気もするけど、

多分それも僕なんじゃない? 隠れて盗み聞きを繰り返してたし。

みんな騙されやすくって笑えるよ、『反転』の魔法を『絶望』の魔法だって勘違いしてるもん」

 

上田「じゃあ、本当に『絶望』の魔法を使えるのは……!」

 

古城「やっぱり察しが早いねぇ、そう! この僕だ、まぁ上手いこと隠してたけどね?

表面上では魔法侍と行動するお茶目な魔法忍者、真の姿は『星屑の天の川』サブリーダーさ!」

 

月村「まるで無意味ね、そこまでして得た物は何一つ無いわよ」

 

古城「意味ならあるよ? だって、僕が望んでいるのは『絶望』だもん!」

 

 

半端笑うようにしてそう告げる忠義、これには流石に強気で食って掛かった芹香も言葉を失った。

 

 

中野「……何がどうなったら、そういう考えに至るんだ」

 

古城「だってさぁ、自分が悪い事をしたってのにのうのうと笑っているのはおかしくない?

時には名前を隠して嘲笑う、誰が笑ったかなんて全部は分かりっこない。

ならぜ〜〜んぶ絶望させるしかないよねぇ? そうすりゃいつかは根絶やしに出来るじゃん!」

 

橋谷「そっ、そんな事の為に私やトモちゃんは呪いで苦しめられたのですか!!」

 

古城「呪い? あぁ違う違う、呪いは確かに前坂数夜がかけた奴だよ」

 

橋谷「そんなの嘘です! 嘘つきです!!」

 

 

珍しく俐樹は今までされた仕打ちもあってか怒り狂っているが、

忠義はまるで相手にしていないという様子で呪いについて説明しだした。

 

 

古城「そもそも僕、結局のところ呪い自体には細工をしてないんだよねぇ」

 

下鳥「何ですって?」

 

古城「ありゃりゃぁ! 流石にここまでは分からなかったみたいだな、

散々裏に回ってシラベマシターって言ってたのに穴があるもんだね」

 

前坂「……『幻惑』の魔法」

 

古城「へぇ? まぁ、呪いをかけた張本人なら分かっちゃうかな。

そうさ! 数夜が呪いをかけたのと同時に、僕も幻惑の魔法を()()()()()の話さ。

『この呪いは希望を感じにくくする効果がある』って、そんな暗示をかけてね。

笑っちゃうよねぇ? 僕自身は絶望の魔法なんで微塵も使ってないのに、

呪いをかけられた者は勝手に絶望して孵化していくんだからさ!」

 

 

忠義はまるで、楽しかった思い出話でも話すかのように笑いながら話している。

 

だが彼の話す内容はえげつない、どれも精神を傷つける残酷な話ばかりだ。

 

その中で彼が示す事柄は1つだけ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

古城「結局は、数夜がやった事には代わりないんだよねぇ?」

 

 

 

 

その言葉を告げた忠義は、今日一番の不気味な笑みだった。

悪に染まった邪悪な表情、それが忠義が一番言いたかった事だろう。

 

 

上田「……勘違いも、甚だしいよ!」

 

古城「あれあれ? リュミエールのエースが花の闇を庇っちゃうわけ?

そんな事無いんだよなぁ、呪いがソウルジェムを穢す根元になったのは間違いないし」

 

上田「なら、()()()()のソウルジェムが黒いまま保たれていたのは何故?」

 

前坂「…………!」

 

上田「『反転』の魔法だけじゃ孵化までには至らない!

もし呪いをかける瞬間全部に細工を出来る程尾け回していたのなら、

貴方の『絶望』の魔法が引き金になったとも言える!!」

 

 

要するに、結局最後は忠義が直接手を下していたという事だ。

 

確かに利奈の言う事は正論だ、数夜が孵化せず魔法少年のままでいられるのが証拠。

 

その証拠は果てしなく揺るぎない……それはかつて利奈が怯えていた相手、

利奈は魔法少女を通して確実に心身ともにその強さを増している。

 

 

 

 

古城「……僕が、手を下した? 犯人と同じように? 兄さんが散ったみたいに?

違う、僕は犯人とは違う! 僕は被害者だ、僕が仇を打たなきゃいけないんだ!!

黙れ! 黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ……うるさい! ボクハワルクナイ!!」

 

 

 

 

元々発狂しているような人物が幻想に苦しみ暴れ狂う、もはやそれは本物の狂気だ。

 

目は虚ろで食いしばった唇からは血を流し、まるで思考に喰われるように忠義は苦しむ。

 

次の瞬間……忠義は弱々しいが、また笑った。

 

 

古城「興醒めだ、これでゲームオーバー……用済みのキャラはここで穢し尽」

 

前坂「まっ、待て!!」

 

古城「……あ? 何出しゃばってんのさ、黙ってろって言ったじゃん」

 

 

念話での指示を受けたのか今まで一言め喋らなかった数夜だが、

忠義が行動に出ようとすると痺れを切らしたかのように声を荒げた。

 

 

前坂「お前の標的は俺だろう、それ以上の攻撃は単なる悪事になる」

 

古城「はぁ? 今更どうしたって悪者は悪者なんだよねぇ、犯罪者が何を言ってるのさ?」

 

前坂「……なら」

 

 

揺らぐことの無い忠義の意思、そんな彼の前で数夜は何故か変身を解いた。

 

その手には黒いソウルジェムが握られている、それは絶望で保たれる反転した魂。

 

それを忠義の前に差し出す、彼は本気だった。

 

 

 

 

前坂「その鎌で、俺のソウルジェムを破壊すれば良い」

 

 

 

 

清水「……なっ!?」

 

下鳥「何を馬鹿な事を言ってるの!? 止しなさい!!」

 

前坂「これで満足だろう忠義、お前は兄の仇とする者を討てる……だから、絶望を重ねるな」

 

 

数夜の目は真剣そのものだが、忠義は一瞬驚いただけでその覚悟を笑った。

 

 

古城「いやぁ君の自暴自棄もそこまで来ちゃったもんだねぇ、自ら殺され祈願?

お前に口出しされる筋合いは無いね、主菜(メインディッシュ)は最後に食べる物だもの!

だから……まずはそこの女からだ、そいつは何故か僕達の事を知り過ぎている」

 

 

そう言い切ったその時、忠義は不意打ちで優梨に目掛け持っていた大鎌を振った!

 

飛ぶ魔力の刃はひたすらに黒い、まるで闇そのもの……絶望そのもののような斬撃。

 

不意打ちだからか見事に斬撃は命中した、ソウルジェムに黒い魔力が絡み付く。

 

 

 

 

だが忠義の狙いは外れた、何故かって? 何故なら、優梨は庇われたからだ。

 

 

 

 

上田「っうぅ……!」

 

下鳥「利奈!? 貴方なんて事を!!」

 

上田「大丈夫、こういうのは慣れてるから……っあぁ!?」

 

古城「ぷっ、あっはっはっは! 馬鹿じゃないの!? 体力が無くて庇う事しか出来てないじゃん!」

 

前坂「……待て、何か様子がおかしいぞ」

 

 

 

 

利奈はじわじわ思い出してしまっている、花組での最初の立場。

 

 

 

 

それがどんなに黒く暗い感情だったか、光届かない事に諦めを感じたか。

 

 

 

 

あぁ、これが『絶望』か……心が強く軋む傷みに、利奈は悲鳴を荒げた。

 

 

 

 

上田「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

下鳥「何よ、これ……っきゃ!?」

 

橋谷「利奈! 優梨!」

 

清水「っくそ!! 古城お前! 利奈に何しやがった!!」

 

古城「……ははっ、何だこの黒い魔力の量? こんなのは見た事ない、普通じゃないよ」

 

中野「海里! 無理だ、一旦離れなきゃ巻き込まれる!!」

 

 

優梨は噴き出す黒い魔力の勢いに吹き飛ばされ、廃墟の壁に叩きつけられた。

 

利奈の元へ行こうとした海里は、蹴太にかなり強引に廃墟の外へ連れ出される。

 

芹香、絵莉、俐樹の3人で手分けし優梨を外へ連れ出す傍、辺り一帯が衝撃で揺れた。

 

ギリギリになって数夜と忠義も外に出る、数夜の肩にはハチべぇがいる。

 

魔法使い達は皆様々な表情をしていたが、ハチべぇはこんな時でも無表情だ。

 

 

 

 

ハチべぇ「利奈が孵化をするのはこれが初めてだったね、やはり彼女には素質があったようだ」

 

 

 

 

激しい劣等、渦巻く感情……助ける者はもういない。

 

作り出した逃げ場(自室)も、今となれば無意味。

 

聞こえる他人の声でさえ、頭を揺るがし苦しい。

 

頭痛が収まらない、吐き気が収まらない、苦しさが収まらない。

 

涙なんて、流しすぎてとっくの昔に忘れた。

 

頭を掻きむしって嗚咽を吐いて、延々と湧き出る劣等に苦しめ続けられる。

 

苦しみの果て、孤独の果て、絶望の果て……

 

ふと頭をぐしゃぐしゃに掻き乱すのをやめ、胸の辺りに弱々しい光を見た。

 

 

 

 

その時、彼女のブローチはパキリと音を立てて壊れた。

 

 

 

 

純粋な赤が美しかったはずの彼女の魂は、限界を迎えていた。

 

真っ暗な魔力が噴き出そうともなんとも思わない、そこには柔らかで暗い感情しかない。

 

今は、体から意識が離れることによる安らかな眠りに身を任せるだけだ。

 

 

 

 

これが、『絶望』。

 

 

 

 

そう考える思考さえも、黒い魔力の中に沈んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Ladies and gentlemen, boys and girls!

 

晴れ舞台に1人舞台、孤独の果てに絶望した魔女の悲しげで楽しげなショーが始まる。

 

そこは赤々しく、鮮やかな世界観。

 

巨大な棍がが乱立する世界の中、その中心にポツリとある巨大な巨大なサーカステント。

 

入り組んだ内部の最新部にある華やかなステージ、観客席には可愛いお客さんがたくさん!

 

 

私は自慢のうさ耳を軽く動かし、リボンを整えて見てくれるお客さん達に一礼をする。

 

始まるよ? 楽しいショーが始まるよ?

 

大人も子供も男も女も、みんなみんな……()()()()()

 

 

孤高の魔女、性質は自己実現。

 

 

………………………………

 

 

次回、

 

 

 

月村「冷静になりなさい! ……っ、貴方の腕を再度見るの!!」

 

 

 

前坂「無理もない、あの攻撃の激しさに前例は無かったからな」

 

 

 

武川「ほげええぇぇ!!? ぅお、うおあああああ!!!」

 

 

 

下鳥「……ごめんなさい、最後の最後で最悪の事態になってしまったわね」

 

 

 

〜終……(43)無心な裏切りと真の闇〜

〜次……(44)赤き孤高の少女[前編]〜

 

 

 

魔法使いは運命に沿う。

 




さて、魔法使い一同にとっての絶望の幕開けはいかがだったでしょうか?

えぇとても楽しみにしておりましたとも、主人公を孵化させるこの瞬間を!

……えっ、黒幕が明らかになるのは楽しみではなかったのかって?

それももちろん楽しみでしたよ、ここまで書くのに苦労しましたもの。

ですが利奈の孵化はそれを上回ります、孵卵器にでもなった気分ですね。


前章については、大体50話を目処に終わって後章を迎えるでしょう。

前章の名前は『花の結束』、それが現実となる……予定です、ハイ。

最大のネックはやはり黒幕です、自分で書いておいて彼に頭を悩ませています。

まぁ、どう対処するかは7割ほど決まってますがね……まずは彼女を救わないと。

需要は無いですがいつもの挿絵も入れます、その方が私と読者様のイメージが合い易いのでね。


さて、今回はこの辺で一旦おしまい。

ここからまた長い執筆期間に入りますが、気長に待っていただけると幸いです。

次回は今回の直後から始めましょう、主人公の孵化なので今まで以上に頑張って書きます!


それでは皆様、また次回。



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