本日も晴れ、鎮守府に異常無し《完結》 (乙女座)
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人物設定

登場する人達の設定です。

※ネタバレ注意!




憲兵さん

ヨコヤマアキヒロ

本名 横山明弘

 

年齢30歳。元陸軍の叩き上げの軍人。本編の10年前の『悲劇の海戦』から2ヶ月後の日本に侵攻してくる深海棲艦を止めるための作戦『本土防衛作戦』に参加。532番隊で救助に当たる。何とか沿岸沿いの住民を避難させることに成功するが、部隊の大半が戦死。その後に現れた艦娘と協力し、防衛作戦は成功している。しかし、その戦闘で妻が巻き込まれお腹の子供と共に亡くなった。失意の中、守る姿が好きだと言ってくれた彼女の言葉を思いだし人々を守ることを決意。その後、命の恩人の艦娘を守る憲兵隊として鎮守府に配属された。

身長は180㎝と高く、元叩き上げの軍人のため体つきはよい。髪は短く切っている。表情があまり変わらず目付きが少し怖いため、初対面の人は大抵怯える。しかし根は優しく、礼儀正しい。年下でも上司であれば敬語。それに自分の使命を全うすることが彼の生き甲斐となっている。

 

ヨコヤマエリ

横山絵里

 

憲兵さんの妻。当時20歳。幼なじみでよく憲兵さんに助けてもらっていたらしい。子供が大好きであり、お腹の子供を産まれてくるのを楽しみに待っていた。お腹の子供の名前は『真守くん』とする予定だった。

 

 

 

提督

ニッタ コユキ

新田 小雪

 

年齢 18歳 着任時は16歳

 

飛び級で提督に着任した若き天才。優しく、誰に対しても平等に接するので多くの男性が虜にされており、ファンクラブがあるとかないとか。艦娘からも慕われているため鎮守府運営に大きな問題もなく順調である。

髪の毛は茶色であり、瞳は綺麗な黒。肌は白く、胸は年のわりには大きい方である。憲兵さんに密かに好意を抱いている。着任当時は怖い人だと思っていたが轢かれそうになったところを助けてもらい彼に惹かれていく。が、名前で読んでほしいとずっと言っているが呼ばれたことがない。

 

 

 

 

 

 

 

※ネタバレ

 

十年前に憲兵の亡くなった奥さんが庇った少女である。

 

 

 

 

 

 

世界海軍連合(WORLD NAVY UNION)通称WNU

 

世界の全海域の安全を確保する組織。

米、仏、英、独、中、伊、露、日、が代表的。全世界が1つとなって深海棲艦と戦うと公言している。

 

ホンダマサシ

本田雅史

 

海軍大将。軍にいる人は名前を一度は聞いたことはある有名な人。しかし見たと言う人は居ないらしい。詳細も極秘にされており謎の人物であり英雄扱いされている。

 

17歳の青年

よく鎮守府に新鮮な魚を届けに来る好青年。提督の新田小雪に淡い恋心を抱いている。努力家でお爺さんとお婆さんに育てられている。両親は10年前の『本土防衛戦』の時に亡くしている。見た目はかなりイケメンで学校では付き合いたい男子1位とかなりモテているが片思いしているため他の女の子を恋愛対象として見ていない。

 

コナツ

小夏

今年で10歳になる女の子。10年前に父親は戦死。母親は怪我をしており危険な状況の中彼女を出産。しかし、そのまま娘の顔を見ることなく息をひきとった。

鳳翔が大好き。憲兵は遊んでくれるから好き。

 

憲兵の元部下

本土防衛作戦の生き残り。今の仕事に生き甲斐を感じている。憲兵さんをいまでも副隊長と呼ぶ。

 

女性恐怖症提督

憲兵さんの元部下が配属されている鎮守府の提督。容姿端麗、文武両道と非の打ち所がない。しかし、女性が怖い。しかし、自らに課せられた任は必ず全うする。

新田提督に所属する艦娘鳳翔が好きらしい…

 

艦娘

 

天龍

不良ちゃん。憲兵は天敵。

 

龍田

怒らせると一番怖い。憲兵さんは彼女のお気に入り。

 

金剛

ルー○柴みたいなしゃべり方をする。憲兵は恋敵。

 

比叡

金剛お姉さまを敬愛。憲兵さんはカレーを食べてくれるいい人。憲兵さんの亡くなった奥さんにそっくりらしい。少し憲兵さんが気になり出した。

 

霧島

インテリ戦艦。強い。

 

榛名

大丈夫そうに見えて大丈夫じゃない。大人しい。憲兵さんとお茶を飲む時間が好き。憲兵さんが好きだが一歩を踏み出せない。

 

天使。口が悪いが根はいい子。憲兵さんが気になる様子

 

赤城

大食いではなく、美味しい食べ物を食べるのが好き。憲兵さんからよくお菓子をもらっている。

 

加賀

有能。憲兵さんはいい人と思ってる。

 

飛龍

お茶目。憲兵さんによく話しかける。

 

蒼龍

THE・女の子。憲兵さんに助けてもらい以後気になる様子。

 

北上

フリーダム。

 

大井

北上さんがいる時といない時でテンションが変わる。レズではない。

 

大和

憲兵さんの所によく訪れる。お留守番が多いが憲兵さんと居れる時間が多いから特に気にしてはいない。

 

那珂ちゃん

アイドル。

 

川内

ニンジャ

 

神通

鬼教官

 

夕立

ぽいぽい

 

時雨

雨の日によく一人で外に出ている。憲兵さんと仲良し。憲兵さんが気になる様子。

 

吹雪

憲兵さんと買い出しによく出る。司令官が時々怖いと相談している。一人の女性、女の子として自分を見てくれる憲兵さんが好きらしい。

 

鳳翔

お艦……オカン。人妻みたい。憲兵と並ぶと夫婦に見える。

 

優等生。憲兵さんから本を借りたりする

 

雪風

ラッキーガール。ボーイではない。

 

島風withジャージ

速い。ジャージを装備している。

 

鈴谷

女子高生。憲兵が大好き。憲兵さんの初の配属先で助けられた。

 

間宮さん

凄い人(小並感)。憲兵さんが何が好きかを網羅している。

 

提督の初期艦及び秘書艦。

 

最上

天使。かわいい!

 

叢雲

ツンツン

 

長門

強い!すごい!流石ビッグセブン!

 

陸奥

触ると火傷する危険なお姉さん

 

扶桑

美人。あと艦橋がセクシー

 

山城

お姉さま大好き。こちらはかわいい

 

千歳

お酒に強い。憲兵の天敵

 

私の母となってくれるかもしれない

 

ハラショー

 

れでぃー

 

瑞鶴 

ずいずい

 

翔鶴

アンラッキー

 

鹿島

恥ずかしがりや。でも大胆。どっちやねん!憲兵さんとはかつてバディを組んで仕事をしていた。世話好き。某アイドルゲームの蘭○に似ている。あとアン○ョビ。

 

 

 

ちっさいヲ級

マスコットキャラクター。杖をよく振り回すので危ないと注意されている。

 

イ級ブラザーズ

ヲ級を守る。でも白ご飯が好き。憲兵も好き。長門は敵

 

過去編の登場人物

 

副隊長

 

532番隊の副隊長。年齢は二十歳と若いが能力や冷静さから隊長から指名された。

 

隊長

 

532番隊の隊長。年齢は30歳。厳しいが部下を無駄に死なせるようなことは決してしない。リアリストでもあるが同時にロマンチストでもある。妻と息子がおり妻のお腹には2人目の子供がいる。

 

若い隊員

 

家族持ち。結婚して1年目。娘がいる。

 

 

 

 

 




まだ出てきていない子も居ますがどんどん出していきます。


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花と青い鳥と少女の物語 前編

これは憲兵さんがヲ級ちゃんに読んでる本の内容です。
一応書いたのでどうぞ


Ⅰ少女テトラの友達アルバ

 

 

「聞いてアルバ…私、夢を見たの」

 

ベッドに横になりながらそう話すのは青い鳥アルバの飼い主のテトラだった。彼女は生まれつき身体が弱く、外で遊ぶことはおろか、歩くことも困難な少女だった。

 

「外で元気に走り回ってる夢。お母さんとお父さんとピクニックに行く夢」

 

アルバに語り掛けるテトラ。自分の身体が思うように動かない。誰が悪いわけでもない。しかし、同年代の子供たちが外で遊ぶ中、部屋で治療をするテトラにとっては毎日が苦痛だった。彼女にとっての世界はこの狭い部屋の中だけ。外に出ることは許されなかった。

 

「お医者様ももうすぐでこの病気も治るって言ってくれたから…正夢になるといいな」

 

そう言って微笑むテトラを見るアルバ。どうにか彼女に外の世界を教えてやりたいと考えるが、アルバはただの鳥。この鳥籠から出たことがないのだ。アルバにとって自分が外に出られないのはどうでもよかった。彼女の唯一の友達でいられるならそれでいい。彼女がいつか外へ出られるその日まで…

 

 

Ⅱアルバの旅立ち

 

 

テトラの容態が急変した。慌ただしくなる室内。苦しそうに呼吸するテトラ。その場に崩れ落ち、泣き続ける母親。娘を何とか助けてあげてくださいと医者へと頼み続ける父親。アルバは何も出来ない自分を嘆きながらただ苦しむテトラを見ることしか出来なかった。

 

夜、昼間の騒がしさから不気味なほどに静かになる部屋。眠りについていたアルバはふと眼を覚ます。月の光で部屋が明るい。そしてアルバはあることに気づいた。何故か鳥籠の入り口が開いている。それだけではない、窓も開けられていた。誰が開けたかは分からない。不思議に思うアルバ。すると今まで聞いたことのない優しい女性の声が聞こえた。

 

「青い鳥アルバ…この国のあるところにどんな病気でも治すことができる七色の花があります。もし少女を助けたいのなら旅に出なさい」

 

「でも僕はこの鳥籠から出たことが無いです。旅を出来るのか不安です」

 

助けたいが鳥籠から出たことがないアルバにとって外の世界へ旅に出るのは恐ろしかった。そんなアルバの言葉を聞き優しい声は非情な現実を告げる

 

「この子はもってあと2週間です」

 

アルバに伝えられたのはテトラの余命だった。あと2週間で彼女は外で走ると言う小さな夢を叶えることなく死んでしまう。アルバは決心した。

 

「僕頑張ります…テトラのために旅に出ます」

 

「小さな冒険者よ。この先様々な苦難が待ち構えています。しかし貴方なら乗り越えられるはずです」

 

アルバは震える羽を広げ羽ばたきます。そして籠から出たアルバは寝息をたてるテトラの枕元へと向かいます。

 

「テトラ。僕が君の夢を叶えさせてあげるからね。だから待っていてね」

 

そう告げアルバは窓の外に広がる無限の夜空へと飛び立っていきました。

 

 

Ⅲアルバとフクロウのアンディール

 

外へと出たアルバはまず町へと向かいました。町の鳥たちなら何かを知っていると考えたのだ。

町へ着き辺りを見回すが今は夜中。町には鳥が見当たりません。どうしようかと考えるアルバ。するとアルバのとまっている家の屋根に1羽の鳥がとまった。

 

「小さな青い鳥よ。どうした?こんな夜中に」

 

「僕の飼い主が病気なんだ。助けるためにどんな病気でも治す花を探しているんです。何か知りませんか」

 

「悪いが私は何も知らないなぁ。もしかしたらこの町の外れにいるフクロウのアンディールなら何か知ってるかもしれない」

 

それを聞いたアルバは教えてくれた鳥へ礼を言い、町の外れにいるフクロウのアンディールの元へと向かった。そこにいたのは眠たそうにしている大きなフクロウだった

 

「すみません。あなたがアンディールさんですか?」

 

「いかにも私がアンディール。どうした小さな青い鳥よ」

 

「どんな病気でも治す花を知っていますか」

 

フクロウのアンディールはそれを聞きふぉふぉと笑う

 

「懐かしいなぁ。その花の話を聞くのは…知っておるぞ。日が沈む方へ飛び続けなさい。すると大きな森が見えてくるはずじゃ。そこは人が入ることを許されない神々が住むと言われている森がある。神々の森…そこに七色の花がある。それがお主が探している万能薬になる花じゃ」

 

アルバはアンディールにお礼を言うとアルバは西へと向けて飛び立ちました。

 

 

Ⅳアルバと神々の住む森、木の神グウィン

 

西へと飛び続け2日経った。アルバはへとへとになりながら飛び続けていた。休息をとる時間などない。ただひたすらに飛び続けた。そして2日目の日が沈むとき、たどり着いたのだ。目の前に広がる森。侵入するものを拒むように不気味な雰囲気を出す森『神々の森』。アルバは入ることをためらった。心の中に巣くう恐怖の感情がアルバの決意を揺らがせた。

 

「怖い…でも…」

 

そんな彼の頭に浮かんだのは元気に花畑で走り回る事を夢見るテトラの姿。病にうなされ苦しむテトラ。

 

 

 

「僕はテトラのために七色の花をさがさないとだめなんだ。怖くなんかない…僕は臆病者だけどテトラを助けるためなんだ!」

 

自身を奮い立たせるアルバ。

 

「怖くない!怖くなんかないぞ!」

 

こうして青い鳥のアルバは禁じられた森へと入っていくのでした。

 

 

 



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花と青い鳥と少女の物語 後編

憲兵さんが読んでる物語後編


Ⅴ アルバと木の神グウィン

 

不気味なほどに静まり返った森を進むアルバ。2日飛び続けたアルバは疲労が溜まりフラフラとなっていた。アルバは近くの大きな木に止まり休息をとることにする。羽を休め疲労を回復させるアルバ。この森のどこかに七色の花がある。しかしこの森に入る前に上空から確認したが地平線の向こうまで広がる森を目にしたアルバ。あと12日で七色の花を探さなくてはならない。途方にくれるアルバだった。

 

「誰だ…私の枝に止まる不届きものは」

 

不意に声がアルバの頭に響く。アルバは驚き辺りを見回すが誰も居ない。不思議に思うアルバにまたも声が響いた。

 

「そこの青い鳥よ…そなたが止まっている木じゃよ」

 

すると枝が揺れる。振り払うかのように揺れる枝から驚き飛び退くアルバ。揺れる木を見続けるアルバ。すると木にうっすらと顔が浮かび上がった。

 

「ふむ…この森の者ではないな…何用でここに来た?」

 

「すみません…ぼくの名前はアルバと言います。この森へはどんな病気も直す七色の花を探しに来ました」

 

「ほぉ…あの花をか」

 

「知っているんですか!?」

 

花の在りかを知っているような口ぶりに食い付くアルバ。一筋の光が見えたと思ったアルバだったが木のグウィンは残酷な事を彼に告げた。

 

 

「七色の花はこの森にしか咲かないのは確かだ。しかし、この森では咲くことはない」

 

グウィンの言葉を聞いたアルバは途方に暮れた。この森には咲かないと言う事実が重く彼にのしかかる。しかしグウィンは話を続けます。

 

「この森は土、水、光、木の神様がおる。土の神ファーナム、水の神オストラヴァ、光の神ソラール、そして木の神である儂がグウィンじゃ。植物のことなら分かるが、それ以外のことはてんでわからん。それぞれの神に聞いてみるとよい」

 

その言葉を聞いたアルバは木の神グウィンにお礼をして土の神ファーナムに会いに行くことにしました。

 

Ⅵ 土の神ファーナム

 

アルバはグウィンに言われた通りに北にある大きな岩の前に辿り着いた。アルバは大きな岩に話しかける。

 

「貴方が土の神ファーナム様ですか?」

 

はじめは反応しなかったがしだいに岩に顔が浮かび上がった。

 

「ほぅ…珍しい…客人が来るのは何年ぶりか…」

 

「こんにちは。ぼくの名前はアルバと言います。聞きたいことがあるのですが七色の花を探しています。先程木の神グウィンに話を聞いたのですがこの森で咲くのは確かなのですがこの森では咲かないと聞きました。どうしてでしょうか?」

 

アルバは土の神ファーナムと会い、花についての話をしました。ファーナムはアルバにこう告げます。

 

「この森で七色の花が咲くのは確かだが、この森の土では育たぬ。この森の土は七色の花が咲くのには堅すぎる。まずは土を柔らかくし肥やすことだ」

 

それを聞いたアルバはまず土を肥やすことにしました。しかし鳥であるアルバには無理な話です。すると土の神ファーナムがしばし待てと言いコーンと音を立てた。

 

「どうかしたか主よ…」

 

地面から出てきたのは小さなもぐらだった。

 

「ハベルよ…この鳥の為に土を肥やしてやってくれぬか?」

 

ファーナムがもぐらのハベルに頼んでくれたのです。

 

「主の為ならば…ではアルバよ…私を運んでくれ」

 

「ありがとうございます。土の神ファーナム様。ハベルさん」

 

アルバはファーナムにお礼を言いハベルを掴み木の神グウィンの元へと飛んでいった。

 

木の神グウィンがアルバがもぐらを連れてやって来たのを見て驚いていた。

 

「ほほう…ファーナムが手を貸すとは…あいつは相手の心を読むことができる?手を貸したとなれば相応の理由があったのだな」  

 

「はい…ぼくの飼い主のテトラを助けたいんです」

 

アルバは旅だった理由をグウィンに話した。話を聞いたグウィンは協力してくれると申し出てくれた。アルバは頭を何度も下げ感謝した。

 早速土を肥やす作業をするアルバとハベル。ハベルは凄い早さで土を肥やしていきます。土を肥やす作業は5日掛かると言われアルバはその間に他の神の元へと訪れることにしました。

 

Ⅶ 水の神オストラヴァ

 

アルバはグウィンに言われた通り水の神オストラヴァの元へと向かっていました。水の神オストラヴァが居るのは木の神グウィンが居る森から西へ3日掛かります。アルバは何度か休息を取りながら大きな湖がある場所へと飛びました。その途中にペイトと言うカラスと出会いました。

 

「青い鳥さんよ。何を急いでるんだ?」

 

「水の神オストラヴァ様に会いに行く途中です。」

 

「まぁ、ご苦労なことだな。気を付けろよ。この森は恐ろしい化け物がでるらしいからな」

 

「ありがとうペイトさん!」

 

ペイトにお礼を言い飛び立つアルバの後ろ姿を見て怪しく笑うペイト。

 

「なぁに人助けですよ…人助け…」

 

 

 

大きな湖に到着したアルバ。湖のほとりに止まり水を飲む。すると水の中から透明な騎士が現れた。

 

「…珍しい青い鳥とは。私の名前はオストラヴァ。この湖のまぁ、主と言ったところだ」

 

「貴方が水の神オストラヴァ様ですか?」

 

「神とは大袈裟だ。ただの死に損ないさ。さて青い鳥よ何用でここに来た?」

 

「ぼくの友達テトラの為に七色の花が必要なんです。でもこの森では咲かないと聞きました。水の神オストラヴァ様。どうすれば七色の花を咲かすことができますか?」

 

その話を聞き考えるオストラヴァ。

 

「恐らくこの森の水がよどんでいるからであろう…この湖以外の水は酷く汚れている…七色の花は澄んだ水が無ければ咲くことはない…これを持っていきなさい」

 

アルバの目の前に1つの瓶が現れた。キラキラと太陽の光を反射させまるで宝石のように光る水が入った瓶。

 

「この水は私が500年浄化させた水だ。これなら咲くだろう」

 

「ありがとうございますオストラヴァ様!」

 

アルバは瓶を掴み来た道を戻っていくのであった。

 

 

Ⅷ アルバと光の神ソラール

 

アルバは木の神グウィンの場所まで戻ってきた。すると目の前には肥やされた土が広がっていた。

 

「す、凄い!」

 

驚くアルバ。そこへ土の中からもぐらのハベルが現れた。

 

「肥やしておいたぞ。この柔らかい土なら咲くはずだ」

 

「ありがとうございますハベルさん」

 

喜びを表すアルバを見たハベルは微笑みながら気にするなと声をかける。すると木の神グウィンが話しかけてきた。

 

「アルバよ…水も手にいれたのだな。最後は光の神だけのようだな」

 

「はい!今から向かいます!」

 

「その必要はない。呼んでおる」

 

すると光が空から差し込み一人の輝く男がおりてきた。

 

「ワハハハ。私の名前はソラール!光の神だ!」

 

誰が見ても光の神だと分かる風貌の男。アルバは頭をさげ事の次第を説明する。

 

「七色の花は光が必要だ!この森は暗すぎる!木の枝を切り光が入るようにすればいい!ではさらばだ!」

 

ワハハハと笑いながら消えていくソラールに感謝し頭をさげるアルバ。

 

「木の枝を切ってもよろしいでしょうかグウィン様?」

 

申し訳なさそうな声で聞くアルバ。グウィンはこころよく木を切ることを許してくれたのだった。

 

Ⅸ 七色の花

 

木を何とか切り光が射し込むようにしたアルバ。しかし、ここには土と水と光しかありません。七色の花の種が無いのです。アルバはどこにあるのかと考えていました。しかし、答えはすぐ近くにありました。

 

「小さき者よ…そなたの働きは見事であった。飼い主のためにその小さな体でよく耐えた。七色の花の種は私の体の木の実の中にある」

 

そう言って枝を揺らし木の実を落とす。

 

「これを植え水をあげなさい。そうすれば3日で花を咲かすだろう…」

 

そう言い残しグウィンは喋らなくなりました。アルバは話さなくなりただの木になったグウィンに頭を下げ光が差し込みよく肥やされた土に木の実を植え水をあげました。

 

「あと3日…間に合って下さい…神様」

 

 

花を植えてから3日目の早朝。アルバはハベルに起こされました。そこで目にしたのは今まで見てきたどの花よりも美しく咲き誇る七色の花が太陽の光に照らされていました。

 

「やった!やったよハベル!」

 

「あぁ!早く行かなければ間に合わなくなる!この花をテトラの元へと持っていくんだ!」

 

テトラの消えかかる命の猶予は14日。ここまでの作業で今日は13日目。町に戻るまで2日掛かる。今すぐに出発しなければ間に合わない。ハベルはアルバに急ぐように伝える。アルバは今までのお礼をハベルに伝え花をくわえ神々の森から出発するのであった。

 

 

Ⅹ 化け物

 

森を抜けたアルバ。背後から何かが着いてきているような気がしていたアルバは振り替える。すると黒い霧のようなモノが追いかけてきていた。驚いたアルバは飛ぶ速度を上げる。しかし霧はすっぽりとアルバを飲み込んでしまった。

 

「ふふふ…だから言ったのに…」

 

それを上空から見て笑う一匹のカラス。カラスは大笑いしながら神々の森へと戻っていった。

 

黒い霧の中でも必死に飛び続けるアルバ。しかし霧から出ることが出来ない。そんな時だった。

 

「アルバ!」

 

自分が救いたいと願っている少女が草原で走っている姿が見えた。

 

「アルバこっちにおいで!」

 

手招きをするテトラ。アルバはいつの間にか籠に入っていた。アルバは何事か理解できなかったがテトラが走っている姿を見て今までのことは夢であったのではと思っていた。アルバはテトラの元へと飛んでいく。

 

「おいで!」

 

あと数センチでテトラの手に乗る所まで来たアルバだが、動きを止めた。

 

「君は…テトラじゃない」

 

「何を言っているのアルバ?」

 

「テトラは…今…家なんだ。ずっと苦しんで苦しんで…僕はそのために旅に出たんだ!お前は偽物だ!」

 

そう言ってアルバは幸せな幻想とは逆の方に向かって飛んだ。

 

 

目を覚ますと夜になっていた。アルバはどれ程眠っていたのかがわからないが町の方へ向けて飛んだ。力の限り飛んだ。間に合ってくれと心の中で何度も繰り返し飛んだ。

 

体が悲鳴をあげているのがわかる

 

軋む音が響く

 

それでも飛ぶ

 

愛する家族を救うために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん?」

 

「テトラ!?あなた!テトラが目を覚ましたわ!」

 

「なんという…奇跡だ!奇跡が起きたんだ!」

 

14日目を覚まさなかったテトラが目を覚ました。医者が後から診断したが病気はすっかり治り歩けるまでに回復していることに驚いていた。

 

「アルバ!やったよ!私歩けるようになったよ!」

 

小さい頃からの友達に報告するテトラ。

 

「アルバ?」

 

籠の中には何かの茎をくわえ息絶えているアルバの姿があった。

 

「アルバ…嘘だよね…あるばぁ…」

 

テトラはアルバを優しく手に乗せ涙を流すのでした…

 

 

 

 

 

「お母さん!お父さん!こっちこっち」

 

1年が経ち走れるようになるまで回復したテトラは夢見ていたお花畑で家族と出掛けていた。走り回るテトラを優しく見守る両親。花の冠を作ったり、家族でお昼を食べたりと心行くまで遊ぶテトラ。その少女の帽子には美しい青い羽が付いていた

 

 

                         

 

 

 

                         …fin

 

 

 

 

 




活動報告にアンケートあります!よろしければ見てって下さい!


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一日目

こんにちは乙女座と申します。
駄文でありますがよろしかったら読んでいってください!よろしくお願いいたします!


4月○日

 

朝 8時 晴れ 艦娘寮前

 

桜の花びらが舞い、新しい出会いなどが多い季節。綺麗な桜の木に囲まれた漁村にその鎮守府は存在した。決して大きいとは言えない、かといって小さな鎮守府とも言えないこの鎮守府。そこにはいつもの光景が広がっていた。

 

「待ちなさい!シャツのボタンを閉めてスカートの丈をちゃんと膝まで下ろしなさい!」

 

「だぁー!!!何なんだよ!お前には関係ないだろ!ってか足速すぎだろ!」

 

軽巡の天龍を追いかける緑の憲兵服に身を包んだ男性。

 

「駄目です!どのような理由であれ女の子がそんな服装してはいけません!待ちなさい!天龍さん!」

 

「嫌だああああああ!」

 

そう天龍を追いかけているこの男。この鎮守府に配属された憲兵である。

 

 

~本日も晴れ、鎮守府に異常なし!~

 

10年前、世界大戦、冷戦など過去の様々な危機に瀕しながらも何とか世界の平和の均衡を保っていたこの世界に突如海の底から現れた謎の勢力により一瞬にしてその均衡は壊された。

 

『深海棲艦』

 

後にそう呼ばれるようになった海からの侵略者は各地の海に出没。民間の船や軍の船などに対し無差別に攻撃を開始した。世界各国は早急に攻勢に出た。しかし、初回の殲滅作戦で軍は壊滅的な被害を受けた。特に被害の大きかったのはやはり海上で戦っていた海軍艦及び制空権を確保しようとした空軍の軍用機であった。後にこの戦いを『悲劇の海戦』と呼ばれることとなり、人類は敗北することとなる。そして日本本土にもその脅威が迫っていた。陸軍は陸上から攻撃するも一方的な防戦に追い込まれ、全滅は時間の問題だった。そんなときに現れたのが

 

『艦娘』

 

唯一深海棲艦に対抗できる力を持つ少女の姿をした第二次世界大戦の日本の戦艦や駆逐艦、軽巡艦の名前と武装を纏う少女たち。彼女たちのお陰で何とか防衛は成功。この戦いを『本土防衛の奇跡』と呼ばれることになる。そして彼女たちと共に現れた彼女たちを管理することができる妖精たち。人類は彼女たちを受け入れすぐに海の近くに基地を建築、これを鎮守府と称し防衛の要とした。

 

その彼女たちを管理、運営する人物を養成、それを

 

『提督』

 

彼女たちと交流し、より良い関係を築いてきた。

 

5年が経ち、海の大半を奪還した人類だったが、提督の中には己の欲望に負け利益を求める者や、見た目が可愛らしい艦娘たちを性欲の捌け口にする輩が現れた。

そんな彼らを取り締まる組織を立ち上げた。

 

『憲兵』

 

緑の軍服に身を包み、鎮守府の安全及び艦娘を守るための集団である。不埒な考えを持つ提督達を取り締まる彼らは恐怖の対象にもなっていた。

 

1つの鎮守府に1人配備される彼らは元々先の『本土防衛の奇跡』で彼女たちに助けられた陸軍の生き残りが殆どである。命を助けてもらった彼らはその身体、命を彼女たちや力を持たない市民のために捧げることを後悔しないような者が多い。

 

『艦娘』『提督』『憲兵』

 

彼らのバランスにより保たれているこの世界を守るため諸君には尽力してほしい。

 

世界海軍連合大将・本田 雅司

 

 

ー世界海軍連合書籍・『必須、海軍教科書』冒頭部分よりー

 

 

「はい。これでいいです。服装は自分で整えるようにしてください」

 

「はぁ……………」

 

憲兵に捕獲され服装を正された天龍は項垂れていた。何時もこの憲兵に追いかけられらる光景はこの鎮守府の日常の1つと言っていい。

 

「何で俺だけなんだよ…島風や愛宕や高雄とか危ない服装してる奴だっているじゃねーかよ」

 

「島風さんはまだ子供です。それに愛宕さん、高雄さんは自分で管理できていると確認しています。貴方だけなんです。それに貴方はよく町に出掛けますから、可愛らしい顔をしているのだから気を付けなければならない。わかりましたか?」

 

「うぅ…………」

 

天龍の頭のアンテナ?が下を向く。顔も少し朱色になっている。

 

「天龍ちゃ~ん。照れてるの~?」

 

おっとりした感じのしゃべり方をする彼女は天龍の姉妹艦龍田だ。

 

「ち、ちげーし!じゃあな憲兵!俺は部屋に戻るからな!」

 

そう言って急いで部屋に戻る天龍。それをニコニコしながら見つめる龍田。

 

「ごめんねぇ~いつもいつも天龍ちゃんが迷惑を掛けて」

 

「そんなことはありません。龍田さん」

 

「ふふふ…天龍ちゃん。ここに来てから毎日楽しそうだから良かったわ~。毎晩貴方の話をするのよ~」

 

そう言って憲兵に近づく龍田。憲兵は身長が高いので必然的に上目遣いになる。

 

「それはここの鎮守府の提督のお陰ですよ。彼女はまだ十代でありながら尽力していらっしゃいますから」

 

ここの鎮守府に配属された提督はまだ16歳であった。何かの間違いではないかと憲兵は配属されたとき本部に問い合わせた程である。何と飛び級で提督に就いたとか。

 

「確かにそれもあるわよねぇ~。提督は優しいから小破しただけで帰っちゃうぐらいてすからねぇ~」

 

そう、ここの提督は艦娘に優しすぎるのだ。十分な休みをとり、必要ならば艦娘の要望に答え、万全の体制で海域に挑む。資材などを回収する作業はローテーションを組み、無理のしないようにしている。そのお陰でこの鎮守府の艦娘に慕われており、関係も良好。ある程度付近の海域の安全を確保している。

 

「でも~、憲兵さんのお陰で天龍ちゃんや曙ちゃん、霞ちゃんも毎日が楽しいんだと思うわよぉ~。天龍ちゃんたちは前の鎮守府では提督や憲兵の人からも疎まれていたから~」

 

「………………………」

 

天龍は前の鎮守府では言うことを聞かず大破をよくする。私生活ではあまり良いとは言えないような生活を送っており、前の鎮守府からこちらに回されてきたのだ。曙、霞は暴言を吐き、一向に改善しないのでこちらに送られてきた。

 

「そんな天龍ちゃんや曙ちゃん、霞ちゃんに毎日注意してくれて、面倒を見てくれる憲兵さんには天龍ちゃん達や他の子も含めてみんな感謝してるのよ~。提督も、初めて天龍ちゃんが命令を無視して大破して帰ってきたとき泣きながら天龍ちゃんを怒って抱き締めてくれて………二人のお陰で笑顔の天龍ちゃんを見れたからぁ~」

 

そう言って微笑む彼女の笑顔はとても素敵な少女の笑顔だった。

 

「それが私達、憲兵の仕事です」

 

そう言って敬礼をする憲兵。その後、龍田は天龍の後を追いかけていった。

 

 

 

昼 13時 鎮守府正門前

 

「こんにちは憲兵さん!」

 

昼下がり、鎮守府周りの掃除をしている憲兵に声をかける白い服を纏った少女。茶色の綺麗な長い髪。黒い綺麗な瞳、白い肌と10人の男性が10人とも振り返るような容姿をしている。

 

「こんにちは新田様。」

 

そうこの鎮守府の若き提督、新田小雪提督。そんな上司の彼女に深々とお辞儀をして挨拶を返す憲兵。

 

 

「もう!様はいらないし小雪でいいって言ってるのに!」

 

「いえ、そういう訳にはいけません。上司にあたりますので」

 

「じゃあ上司命令です!小雪と呼んでください!」

 

キラキラとした瞳で見つめてくる彼女。そんな彼女に困ったような顔をしている憲兵。初めて会った時は彼女は彼を少し怖い男性と思っていたが、とある事件がきっかけで彼になついて、小雪と呼べと言い続けているが憲兵は真面目なためその様に呼んだことはなかった。

 

「私の上層部から提督には敬意を払うように言われていますので」

 

「えぇ~……もういじわるぅ」

 

しょぼんとし、近くのベンチに座り込む小雪提督。庇護欲を掻き立てられる仕草で恐らく同期の提督たちなら一瞬でノックアウトだ。

 

「…………」

 

この男。無表情。鋼の理性である。

しかし、このままにしておくのは不味いと感じた憲兵。掃除道具をもとの場所に置き、小雪提督に声をかける。

 

「よろしければこれから間宮さんから新しい甘味を試食してほしいと頼まれているのですがご一緒にどうですか?」

 

「いきますいきます!!」

 

すぐに機嫌を直しテンションが高くなった彼女を無表情で見る憲兵。そんな二人に高速に接近する影があった。

 

「てぇえええええいいいいいとおおおおおくうう!」

 

「金剛ちゃん!お帰り!」

 

金剛型一番艦の金剛である。小雪提督に抱きつき頬擦りをする彼女。その後ろから姉妹である、比叡、榛名、霧島が着いてきた。

 

「お姉様……早いです!あ!憲兵さんこんにちは!」

 

「こんにちは、憲兵さん。今日は降水確率は0%らしいですよ」

 

「えっと、こんにちは憲兵さん」

 

「こんにちは、金剛さん、比叡さん、霧島さん、榛名さん」

 

あまり表情を変えずに深々と頭を下げて挨拶する憲兵さん。その間も、小雪提督に抱きついたままの金剛。

 

「これから間宮さんの所へ新しい甘味の味見をしに行くのですがよろしければ皆さんもどうでしょうか?」

 

「Oh! nice ideaネー!私たちもtogetherするネー!」

 

こうして憲兵を含む提督御一行は間宮さんの所へと向かうのであった。

 

 

 

 

本日の主な出来事。

朝、天龍さんの服装が少し乱れていたので小注意をする。

 

昼頃、正門の警備及び掃除をしている時に新田提督と少し会話、甘味処間宮の試食に誘う。金剛型の皆様も同行する。

 

一言

 

あれだけの甘味を彼女たちは一体何処へ入れているのであろうか。謎である。

 

最後

 

本日も晴れ、異常は無し。




読んでいただきありがとうございます

感想、評価、アドバイス、よろしくお願いします!

これからもよろしくお願いします!


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二日目

ぼのたんかわいい


4月×日

 

朝 晴れ 10時 鎮守府正門

 

朝は天龍を追いかけ回した後 、何時ものように正門の警備をする憲兵。 2時間ほど警備をしていた。時折村の住民が訪れ採れた野菜や果物、魚をこの鎮守府に差し入れに来るのを対応するくらいで特に問題もなく過ごしていた。

 

「おはよう、くそ憲兵」

 

背後から声を掛けられ振り替える。そこにいたのは駆逐艦曙だった。

 

「おはようございます。曙さん。あいさつがまだなおっていませんね。私が渡した本は読んでいますか?」

 

「読んでるわけないじゃない!」

 

言葉づかいが直らない曙に憲兵が渡した本。『素直に話そう』という本を彼女に渡して時間があれば読むようにと伝えた。渡したときかなり怒っていた曙であるが、消灯時間が過ぎたら毎日のように読みブックカバーまでして大切にしているのを朧たち姉妹艦は知っておりニヤニヤしながら見ているのはここだけの話である。

 

「だめですね。その様な挨拶では周りに誤解されてしまいます。根は優しく、誰よりも他人が傷つくのを恐れている貴方が誤解されるのは姉妹艦の皆様も悲しいはずですよ」

 

「ぐぬぬぬ………」

 

顔を真っ赤にしながら俯く曙。

 

「新しい本をまた購入しますので読んでください」

 

「いらないわよ!バカ!アホ!くそ憲兵!」

 

曙はそう言って走り去ってしまった。その後ろ姿を見ながら溜め息を溢す憲兵だった。

 

 

 

憲兵は休憩するために正門にある監視所に入る。ふとテーブルの上を見ると缶コーヒーが1つ置いてあり置き手紙があり可愛らしい字でこう書かれていた

 

『間違えて飲めないの買ったから仕方なくあんたにあげるわ!あんまり無理して倒れんじゃないわよこのくそ憲兵!』

 

憲兵はその手紙を綺麗に畳み、近くの棚に入れる。中には沢山の手紙があり全て曙のものである。

今回と同じようにコーヒーと手紙を置いていっている彼女の手紙を大切に保管している憲兵あった。

 

その日の晩に曙の机の上には『これで貴方も人気者』という本が置かれており手紙には『コーヒーありがとうございました』と書かれており曙はその手紙を見ながら嬉しそうにしていた。

 

 

昼 12時 食堂

 

昼休み、多くの艦娘で賑わう食堂。食事を済ますために訪れる憲兵。和食セットをトレーに載せ、空いてある席を探す。しかし、時間帯が悪く空いている席がほとんどない。空いている席を確保してから頼むべきだったと少し後悔していた。立ち尽くす彼に二人組の女性が声をかける。

 

「こんにちは憲兵さん」

 

「こんにちは憲兵さん。どうかしましたか?」

 

正規空母の加賀と赤城であった。

 

「おはようございます。加賀さん、赤城さん。いえ食べる席を確保するのを忘れていまして」

 

「なら私たちとどうですか?確か一席空いていたはずです」

 

「いいですね!行きましょう憲兵さん!」

 

両名につれられ空母達がいる席へと案内される。

案内された先には蒼龍と飛龍が座っていた。

 

「あ、赤城さんたち待ってましたよ~ って憲兵さん?」

 

「えぇ!けけけけ憲兵さん?!」

 

やっほーと挨拶する飛龍とおかしいところないよねと言いながら服や髪を手入れする蒼龍。

 

「一緒に食べることになったのだけどいいかしら?」

 

「申し訳ありません」

 

憲兵は頭を下げ謝る。

 

「大丈夫ですよ憲兵さん!ね?蒼龍」

 

「はい!全然大丈夫でしゅ!」

 

噛んだ蒼龍を笑う飛龍。顔を真っ赤にして停止する蒼龍。そんな二人を見てやはり無表情の憲兵を加賀は三人席の真ん中に座らせる。いただきすの声と共に各自箸を進める。憲兵は無言で箸を進めていたがふと視線を感じ視線のする先を見る。そこにはチラチラと憲兵を見る蒼龍がいた。

 

「何か顔についていますか?」

 

「い、いえ!何でもないです……」

 

顔を真っ赤にする蒼龍。そんな彼女を不思議そうに見る憲兵であったが箸を進めていく。箸を進めていくにつれまたも視線を感じる。横から感じ横を向くと自身のご飯を食べ終えた赤城がじーっと見ている。見ているのは自分ではなく和食セットの目玉であるだし巻き卵であった。憲兵はだし巻き卵と赤城を交互に見てから見つめている赤城に声をかけた。

 

「食べますか?」

 

「いいんですか?!では一口だけください!」

 

目に見えるようにキラキラする赤城。キラ付け完了である。すると赤城は目を閉じあーんと口を大きく開ける。意味を理解できなかった憲兵は数秒硬直する。待っているのに卵焼きが入ってこないのを不審に感じた赤城は憲兵を見る。

 

「早く食べさせてください。顎が疲れちゃいます」

 

「は、はぁ…………」

 

向かいの蒼龍がいいなぁと呟いているのを聞いた飛龍。ニヤニヤしながら見ていた。加賀はじーっと憲兵を見ていた。憲兵は注目されているのを内心焦りながら赤城の口にだし巻き卵を一口運ぶ。

 

「むふー美味しいです!憲兵さん大好きです!」

 

幸せそうにする赤城。彼女は自身が発した言葉を聞いて視線が更に注目したのを気づいていなかった。憲兵は残りの卵焼きを赤城の皿の上に載せる。

 

「急用を思い出しましたので残りは赤城さんが食べておいてください。ご飯をご一緒できてよかったです。ありがとうございます」

 

そそくさと戦略的撤退をし、出る際に間宮と鳳翔にごちそうさまですと声をかけて食堂を後にした。

 

「むー……明日は私が………」

 

それを見ていた小雪提督は明日は自分と決心していた。

 

 

夕方 18時 鎮守府内 埠頭

 

憲兵は埠頭で携帯灰皿を手にしながら煙草を吸っていた。真面目そうに見える彼だが実は喫煙家であり、1日の業務の終わりにはここで煙草を吸っている。口にくわえた煙草のフィルターから出る煙を肺に満たす。口の中が少し苦いがこれもまた煙草を吸う楽しみの1つである

 

「………」

 

やはり無表情で海を見つめながら煙草を吸う。そんな彼に後ろから近づく影。

 

「何してんのー?」

 

雷巡艦北上であった。憲兵は急いで煙草の火を消そうとするがいいよー別に気にしないしと北上が止める。北上は憲兵の横に座り海を見ていた。

 

「………………」

 

「…………………」

 

静寂。会話を余りしない憲兵を北上は不快には感じずむしろ心地いいと感じる。話すのは嫌いではないが静かに過ごすのも悪くないと考えていた。

 

「もうすぐで大井っちが帰ってくるんだ~」

 

「遠征ですか?ご一緒ではなかったんですね」

 

「うん。前の出撃の時に被弾して中破しちゃってさー。提督が大事をとって3日も休みをくれたの」

 

「ご無事で何よりです」

 

「ぬふふふ、何たってスーパー北上様だからね」

 

そう言って笑う彼女。すると遠くから6つの人影が見えた。

 

「帰ってきたみたいですね」

 

「そうみたい………じゃあまたね憲兵さん」

 

そう言って彼女は走り去ってしまった。

 

本日の主な出来事

 

 

正門で曙さんと会話、缶コーヒーの差し入れがあった。経費で彼女にコミュニケーション能力を高める本を送る。

 

 

正規空母の皆様と昼食を取る

 

夕方

 

喫煙中に北上さんと少し会話する。

 

一言

 

昼食時の視線が怖かった

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 




煙草は体に悪い(戒め)

感想、評価、アドバイスよろしくお願いいたします。




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三日目

早く大和さん
作者の鎮守府に来てください


4月○☆日

 

早朝 晴れ 5時 鎮守府内憲兵の寮

 

憲兵の朝は早く、まだ周りが寝静まっている時から彼は準備を始める。初めに今日の1日の鎮守府の活動表からいつ出撃かなどを見て彼ら憲兵は活動する。今日は特に9時頃から鎮守府の広場で<那珂ちゃんらいぶ☆>があるため準備を始めることにする。

 

 

準備を進めること二時間である程度のステージと客席が出来上がる。首に掛けていたタオルで額の汗をふく。すると艦娘の寮から3人の人影が近づいてきた。

 

「わぁー!凄い!那珂ちゃん感激だよ!」

 

「ほほう!すごいなぁ。一人でここまで準備したんだ!」

 

「良かったわね那珂ちゃん。あ、憲兵さんおはようございます。それとお疲れ様です」

 

ステージに感激する那珂ちゃん。川内は感心したように観客席などを見渡す。神通はペコリと憲兵に挨拶をしていた。

 

「おはようございます。喜んでもらえてよかったです」

 

「うんうん。流石は那珂ちゃんのマネージャーさんだよ!そんな君には那珂ちゃんの新曲のCDをプレゼント!しかもサイン入りだよ!」

 

手渡せられたCDを憲兵は頭を下げて受けとる。那珂はステージに走って行きリハーサルを始めていた。

 

「では、私は鎮守府周辺の掃除をして来ます」

 

「見ていかないのか?」

 

川内が首をかしげながら憲兵に尋ねる。

 

「えぇ、私は憲兵ですので」

 

それを聞いてそっかーと残念そうにしている川内とお疲れ様ですと頭を下げる神通。開始2時間前だと言うのにチラホラと他の艦娘も集まって来ていたので憲兵は二人に頭を下げ掃除をしにステージから離れるのだった。

 

 

昼 14時 商店街

 

「いつも荷物持ちを手伝って貰ってありがとうございます!」

 

「いえいえ、これくらい大したことはないですよ」

 

笑顔でお礼を言う吹雪と歩く憲兵。買い出しに出るときは吹雪と憲兵で出ることが多い。

 

「間宮さんや鳳翔さんも感謝していましたよ!」

 

「それはなによりです」

 

楽しそうに話す二人を見て多くの人は親子?と勘違いしていた。そんな二人に声をかける一人の青年がいた。

 

「こんにちは憲兵さん!それと吹雪さん!」

 

「あ!お魚くれる人!」

 

いつも鎮守府に新鮮な魚を差し入れしてくれる漁師さんの孫である青年だった。憲兵は無言で頭を下げる。

 

「デートですか?」

 

「ち、違いますよ。買い出しの荷物持ちを手伝ってもらってるんですよ」

 

少し顔を赤くしながら必死に否定する吹雪。それを見てそこまで必死に否定されて少しダメージを受ける憲兵。青年と吹雪は世間話をしており憲兵は黙って吹雪の後ろに立っていた。疑いたい訳ではないがもしかしたらの可能性を考え彼女を守れる位置に移動していた。

 

「あ、その小雪ちゃんは元気ですか?」

 

少し顔を赤くして尋ねる青年。司令官は元気ですよ?と吹雪は首をかしげながら答える。青年はモジモジしながら意を決してポケットからあるものを取り出した。

 

「あの……これ……いつもありがとうって渡してください」

 

「わぁ!綺麗な簪!司令官喜ぶと思いますよ!」

 

青年が差し出したのは綺麗な青い花の装飾が施された簪だった。青年は吹雪に簪を預けた後、じゃあまたと凄いスピードで帰って行った。

 

 

帰り道に憲兵は吹雪に少し寄り道をしましょうと言い吹雪に村を一望できる山へと連れていくことにした。

 

「わぁ………いい眺めですね」

 

桜の花が満開に咲き誇り、村を覆い尽くす景色は圧巻だった。吹雪はその景色を見ながら少し寂しそうな表情をしていた。

 

「何か悩んでるんですか?」

 

「…はい」

 

ぽつりぽつりと話し出す吹雪。自分は本当に力になれているのか。戦艦のような力を持ってるわけでもなく、正規空母のように戦えるわけでもない。重巡洋艦の様なバランスのいい戦いや軽巡洋艦のように夜戦が得意な訳でもない。他の駆逐艦のように大きな特徴も無い。そんな自分が本当に必要なのかどうか分からないと

 

「だからこうやって暇なときには買い出しとか手伝ってるんですけどね………」

 

えへへと笑うが先程のように力がない。話を聞いていた憲兵は吹雪の隣に移動し、腰につけている双眼鏡を吹雪に渡す。吹雪はいきなりのことで理解できなかったが憲兵が指差す方向に双眼鏡を向け覗く。

 

「さっきの商店街ですか?」

 

「はい。次にあそこを見てください」

 

「漁港?」

 

「そして最後はあそこです」

 

そこには自分たちの働いている鎮守府。

 

「私は朝早くから貴方が努力しているのを知っています。トレーニングをしているのも、夜遅くまで勉強をしているのも。それに先日、北上さんが中破したときは貴方が敵の駆逐艦を撃破したと記録されています。それにあの青年のお爺さんの船が深海棲艦に襲われたときに守ったのも貴方です」

 

吹雪は双眼鏡を覗いたまま動かない。ただひたすらに何かを堪えているようだった。

 

「誇ってください。この活気があり、桜の花で彩られた村を、そして海を貴方達が守っているということを」

 

吹雪は堪えきれず声を出して泣き出してしまった。そんな吹雪を抱き締めたり、慰めたりせずただ隣で黙って立っている憲兵だった。

 

 

夕方 17時 艦娘寮前

 

買い出しの品を間宮、鳳翔に渡し部屋に戻る吹雪を憲兵は送っていくことにした。

 

「今日はありがとうございました。本当に色々と…」

 

「いえ、私は事実を伝えただけです」

 

「憲兵ですから………ですか?」

 

「む…………」

 

台詞を取られた憲兵を吹雪はえへと悪戯が成功した子供のような顔をして笑っていた。

 

「じゃあ、私はここで!ありがとうございました!」

 

そう言って元気に寮へと戻っていく吹雪を憲兵は黙って見送り、姿が見えなくなってから自身の寮へと足を進めるのだった。

ちなみに簪は無事提督に届けられ喜んでいたらしい。だがそれ以上に少し帰りが遅いのは何をしていたのかと食堂の時に提督と他の艦娘に問い詰められたらしい

 

 

本日の主な出来事

 

 

那珂さんのステージを作る。ライブは成功したらしい。

 

 

吹雪さんと買い出しに出る。青年と話をするが特に異常はなし。その後、悩んでる吹雪さんを高台へ連れていき話をする。

 

一言

何故か嫌な予感がしたので夕食は寮の自室で食べた。一体何だったのだろうか…あの悪寒は。

 

最後

 

本日も晴れ、桜の花も綺麗に咲き誇り、村、鎮守府に異常なし




吹雪ちゃんはかわいい。

感想、評価、アドバイスよろしければお願いします!
作者のメンタルは弱く、ほったらかされると一人で歌い出したりしますので。


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四日目

コンニチハ、ケンペイ=サン


4月○日

 

朝 8時 鎮守府正門

「お花見…ですか?」

 

「はいなのです!」

 

正門で警備をしている憲兵の元にやって来たのは駆逐艦電だった。電は憲兵が最初怖かったが話してみるといい人で、勉強を時々見てもらったりしている。そんな彼女が言うにはなんでも今年の桜は今までで一番咲き誇っていると村人から聞いた提督が皆でお花見をしようと言い、開催することになったらしい。場所は鎮守府から少し離れた近所の公園でするということであった。

 

「そうですか。楽しんできてください」

 

「はいなので……憲兵さんは来ないのですか?」

 

「はい」

 

それを聞いた電の表情が曇る。1人彼を置いて行くのは可哀想だと考えたのだろう。何時も鎮守府の警備やゴミ拾い、また提督や艦娘への本部からの資料を見やすい様にまとめてくれている。休むこともない。年中無休。演習などでその事を話すと他の鎮守府の艦娘達はそこまでしてくれるのか?と言うほどである。確かに他の憲兵達は艦娘や提督を守ろうとするがそこまでの雑務はしない。行事には参加するし、休みも貰ったりする。この憲兵が異常なのである。

 

「電は憲兵さんとお花見したいのです」

 

「……………すいません」

 

行かないと言うのが分かり、電はとぼとぼと帰って行った。すごい罪悪感を感じながらも自身の任務を放棄することはしない彼はまた警備に勤しむのだった。

 

 

 

 

「憲兵さん!」

 

電が帰ってから10分もしないうちに今度は正規空母を二人、赤城と加賀を従えた提督が来たのだった。

 

「どうしてですか?」

 

「何がでしょうか?」

 

主語が抜けているので何の事を問われているのか分からない憲兵。首を傾げ少し考えるが思い当たることが全く出てこない。

 

「花見です!」

 

「花見のことは知っていますよ。楽しんできてください」

 

「はい!…じゃなくて!憲兵さんも来るんです!」

 

「行きません。鎮守府の警備をしないといけませんので」

 

頑なに来ようとしない憲兵。そんな彼をやれやれといった感じで見ている加賀。赤城は手に持っているうま○棒を食べる。提督は一歩憲兵に近づく。

 

「他の子は先に行ってます。電ちゃんとても残念そうでしたよ?『憲兵さん来ないって言ってたのです』って」

 

「………電さんには申し訳ないことをしました。では次回は参加するようにしますので」

 

それでも動こうとしない憲兵。提督は仕方ありませんと言い片手をあげた。何をしようとしているのか分からない憲兵はただ見ているだけだったが次の瞬間、両腕をしっかりと加賀と赤城に組まれていた。

 

「な、何をするんですか?!」

 

「強制連行です♪大丈夫です。鎮守府は妖精さん作の監視カメラと警報器で守られていますので」

 

「許しは請いません恨んでください」

 

「行きましょう憲兵さん!」

 

「は、離してください!」

 

振りほどこうとするもかなりの力で腕を組まれているため動けない。力ずくで抜けようと考えるが艦娘に怪我をさせることは許されない立場なので力も出せない。鼻唄を歌う提督。その後を憲兵を拘束した加賀、赤城がついていく。ずるずると引きずられていく憲兵であった。

 

 

 

昼 13時 鎮守府付近の公園

 

桜が咲き誇る公園。そこではこの村を守っている鎮守府による花見が開かれていた。間宮、鳳翔が作った弁当だけでなく、近くの民家の人たちからの差し入れもあり豪華なものとなっていた。

 

「ささ、憲兵さん飲んでください」

 

手に持った紙コップに注がれる酒。酒を注いでいるのは水上機母艦の千歳だった。酒の入った紙コップを見て顔をしかめる。

 

「一応勤務中なのでお酒はちょっと………」

 

「私が入れたお酒は飲みたくないのね……」

 

よよよ、と嘘泣きをする千歳を見て少し困ったようにする憲兵。仕方なく酒を飲むことにする。口の中に広がるほのかな甘味と苦味。つんと鼻を突くような感触。

 

「うふふ…おいしいですか?」

 

「………はい」

 

紙コップ一杯で顔を少し赤くする憲兵を千歳はかわいいわねと言いながら見ていた。しばらくして千歳はヒャッハーさんにつれていかれ一人になり少しホッとする憲兵。

 

「え、えっと憲兵さん」

 

すると蒼龍がおかずやおにぎりを乗せた紙皿を持ってきた。後ろの方では別のシートに座った飛龍や赤城、翔鶴がニコニコしながら見ており、加賀は瑞鶴と何やら話していた。

 

「と、隣いいでしゅか?!」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

噛んだことを深く追求せず隣のシートの桜の花を少し払う。失礼しますと憲兵の隣に座る蒼龍。少し距離が近いような気もするが特に気にしない憲兵。

 

「楽しんでますか?」

 

「えぇ、来ないつもりでしたが来てよかったですよ」

 

そう言ってお酒を飲む憲兵。いつもとは少し違う優しい雰囲気を纏っているその姿を蒼龍は見つめていた。そして意を決し行動に出る。

 

「あの……これどうぞ」

 

卵焼きを差し出す。鳳翔曰く、憲兵がよく昼食で卵焼きを食べている姿が目撃されていると聞き、憲兵さんの為に蒼龍が作ってきたものだった。

 

「ありがとうございます。しかし、お箸がないですね……」

 

そう言って立ち上がった憲兵の服の袖を掴む蒼龍。少し顔が赤くなっており、座っているので必然的に上目遣いになる。

 

「私のがあるので……」

 

「……しかし」

 

「嫌ですか?」

 

少し涙目の蒼龍を見て渋々座る憲兵。笑顔になる蒼龍。

 

「では箸を」

 

「あ、あーん」

 

卵焼きを差し出してくる蒼龍。以前食堂で赤城相手に逆であるがこのようなことがあったと思い出す。憲兵は少し考えるが待たせている蒼龍が可哀想になり仕方なく食べさせてもらうことにする。

 

「失礼します」

 

「あっ……」

 

卵焼きを口に含む。甘味と卵の深い味が口に広がる。

 

「どうですか?私が作ったんですけど」

 

「美味しいですよ」

 

「よかった………」

 

すると何を間違えたのか憲兵のコップの酒を飲み干してしまう蒼龍。憲兵はそれに気づき止めようとするも既に飲み終えていた。飲み終えた彼女は顔を赤くしぼーっとしていた。異常に気づいた憲兵は直ぐに水をコップに注ぎ手渡す。すると蒼龍は憲兵と目があった瞬間に抱きついてきた。

 

「そ、蒼龍さん?!」

 

「えへへ…けーんぺーいさーん」

 

何とか手に持っている水をこぼさずにバランスをとる。ほっとしていた彼の胸に顔を埋めて頬擦りをする蒼龍。引き離そうとするもがっちりとホールドされており抜け出せない。お腹辺りには彼女の大きい膨らみが押し付けられるがそれどころでは無い憲兵は必死に振りほどこうとする。空母娘たちはそれを見て固まっており、駆逐艦達は顔を真っ赤にしていた。軽巡洋艦や重巡洋艦はガン見しており、戦艦達は空いた口が塞がらない。提督はそれを見てぷるぷる震え叫ぶ。

 

「な、な、なにしてるのー!?蒼龍ちゃん!なにうらやま………んん!憲兵さん困ってるでしょ!離れなさい」

 

蒼龍を引っ張るが離れようとしない。

 

「やー!」

 

「ぐぎぎぎ」

 

―――

――

 

10分後やっと憲兵から蒼龍を引き剥がすことに成功する。憲兵の上着を蒼龍に渡すとそれを抱き締めたまま眠ってしまった。

 

「憲兵さんも気を付けないといけないですよ!」

 

「すいません」

 

「もう!私といてください!そうすれば安心です」

 

提督はすとんと憲兵の隣に座る。そして憲兵の肩に自分の肩が触れそうなところまで近づいてくる。

 

「………提督」

 

「なんですか?」

 

「近くないですか?」

 

「蒼龍ちゃんは良いのに私はダメなんですか?」

 

先程のは事故だと何度も説明したが納得してくれない。もう考えるのはよそうと考える憲兵だった。

 

 

暫くして、提督と話をしている憲兵の元に電がやって来た。

 

「憲兵さん」

 

「電さん……朝は傷つけてしまい申し訳ありませんでした」

 

そう言って立ち上がり頭を下げる憲兵。電は必死に顔をあげてくださいと言う。それでも頭を上げようとしない憲兵。お酒がまわったのだろう。いつもとは少し違う憲兵。

 

「なら……お願いを聞いてほしいのです」

 

電は少しもじもじしながらそう切り出す。私にできる範囲であればと言い頭を上げる憲兵。

 

「ひ、膝枕をしてほしいのです……… 」

 

「いいですよ」

 

「えぇ!」

 

何故か提督が驚いていた。何時もの憲兵ならやんわり断るはずと考えていたからである。憲兵の隣に座り失礼するのですと言い、頭をゆっくりと膝の上に乗せる。少し固いが中々の心地に目を細める電。すると憲兵は電の頭をゆっくりと撫で始めた。

 

「はわわ!」

 

「…………」

 

どこか物寂しげに、慈しむような表情で頭を撫で続ける憲兵。そんな彼を見ていた提督は何時もとは違う憲兵を不安そうに見ていた。

 

 

 

夜 20時 憲兵寮の自室

 

お花見も終わり部屋に戻ってきた憲兵。提督や艦娘たちに誘ってもらいありがとうございますと頭を下げ部屋へと戻ってきた。

 

ふと棚の上に飾ってある写真を見る。

 

「………………」

そしてそれを倒し見えないようにした。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

電さんと会話をする。

 

 

提督様にお花見へと連行。千歳さんや蒼龍さんと交流する。少しのアクシデント発生。

 

電さんに膝枕をする。

 

一言

私にも子供がいれば、電さんのように甘えてくれただろうか………らしくもない……

 

最後

本日も晴れ、鎮守府に異常なし




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五日目

瑞雲はかわいい(白目)


5月○日

 

昼13時 商店街

 

5月になり鯉のぼりが村の各所で見られるなか、新田提督の鎮守府にも鯉のぼりがあげられることになった。準備するのは勿論、憲兵だ。しかし、鯉のぼりを置いていない(男の子がいないため)この鎮守府。買いにいくことになった。

 

「申し訳ありません。お手伝いさせてしまって」

 

「いえいえ、いつも買い出しを手伝ってくださっていますから。それに少し買うものもあったので」

 

憲兵の隣を歩くのは落ち着いた大人の雰囲気を出す女性、軽空母鳳翔だった。鯉のぼりを買うにしても、今まで買ったこともなかった物なので困っている憲兵を偶然見つけた鳳翔が声をかけたのだ。鯉のぼりを購入し、今は乾物屋へと向かっていた。

 

「憲兵さんは時間がある時は何をなさっているのですか?」

 

「そうですね………?」

 

「うぅ…………」

 

話している憲兵は前方で泣いている女の子を発見した。周囲を確認するが親らしき人物が見当たらない。今にも泣き出してしまいそうな女の子に近づき目線を合わせる憲兵。

 

「どうかしましたか?」

 

「…………」

 

「………迷子ですか」

 

「お母さんはどこにいるかわかるかな?」

 

鳳翔が尋ねるが首を横に振る。このまま一人おいて行くことも出来ないので連れていくことにする。この村には駐在所が商店街の外にあるため乾物屋に行った後に寄ることにする。最初はあまり話さない女の子であったが鳳翔が積極的に話しかけたお陰で女の子の顔には笑顔が戻っていた。

 

「おばあちゃんは肉じゃが作るの得意なんだよ!」

 

「ふふふ、そうですか…一度食べてみたいです」

 

「ほうしょーお姉ちゃんにも食べさせてあげるー!」

 

そんな二人の隣を無言で歩く憲兵さん。すると女の子は憲兵の手をいきなり握る。憲兵は少し驚いた表情で女の子を見るが女の子はにこーっとした笑顔で手を離さない。すると反対の手で鳳翔の手を繋ぐ。端から見れば親子のようである。暫くそのまま歩き乾物屋に着く。手を離してもらいたいが女の子は手を離そうとしない。仕方なくそのまま店へと入る。

 

「あらあら鳳翔ちゃん。いらっしゃい」

 

そこにはこの店の店主の老婆が座っていた。鳳翔はこんにちはと挨拶をする。憲兵も無言で頭を下げ女の子も元気に挨拶をする。

 

「あらあら、今日は旦那様とお子さんと一緒ですか?」

 

「ち、違います!」

 

頬を朱色に染めた鳳翔が否定するもほほほと笑う老婆。もうと目当ての乾物を探す鳳翔。憲兵は女の子を肩車したり、抱き上げたりし女の子と遊びながら鳳翔が買い物を済ますのを待っていた。

 

 

 

ありがとうねぇと後ろから店主の挨拶が聞こえ店を後にする。鳳翔が買い物を終えると憲兵の背中では静かに寝息をたてている女の子の姿。鳳翔はくすりと笑い駐在所へと行くことを促した。

 

「見つけた!小夏!」

 

商店街の出口を出た二人声をかけてきたのは何時も鎮守府に魚をくれる漁師の青年だった。青年は鳳翔と憲兵に頭を下げ女の子を起こす。眠り眼を開け青年の顔を見ると怒られると思ったのだろう。憲兵の背中から降りて鳳翔の背中に隠れた。

 

「帰るぞ!お爺ちゃんとお婆ちゃんが心配してる」

 

「や!」

 

「わがまま言わないでくれ」

 

「やー!鳳翔お姉ちゃんと憲兵さんも一緒に帰るの!」

 

鳳翔の着物を掴んで離さない。5分ほどこのやり取りが続き、ついに小夏は泣き出してしまった。

 

「やだやだ!鳳翔お姉ちゃんと憲兵さんも一緒に帰る!お父さんとお母さんいないのや!」

 

「小夏………」

 

その言葉を聞き僅かながらに憲兵の表情が歪む。青年は困り果ててしまいどうすることもできなかった。大きな声で泣く小夏。お父さんとお母さんに会いたいと泣くその姿を憲兵は見続けていた。すると鳳翔が小夏を優しく抱き締めながら頭を撫でる。

 

「小夏ちゃん……お婆ちゃんとお爺ちゃんが好きなのよね?」

 

「……うん」

 

「なら心配させないように帰らないと」

 

「鳳翔お姉ちゃんも………」

 

鳳翔は小夏の目を見て優しく微笑む。

 

「私はね、艦娘なの。だからね、一緒には帰れないの」

 

「………」

 

小夏の目から涙は止まらなかった。鳳翔はポケットから手拭いを取りだし、涙を優しく拭き取る。

 

「この近くの鎮守府に住んでるから何時でも遊びにおいで?いいですよね?憲兵さん?」

 

「勿論です」

 

それを聞いた小夏は少し落ち着いた。鳳翔は小夏に何時も着けている頭の簪を外し手渡した。

 

「これ…綺麗」

 

「これをあげるからお兄ちゃんを心配させたらダメよ?いいわね?」

 

うんと元気に返事をする小夏。青年は小夏の手を繋ぎ家へと帰っていった。その姿が見えなくなるまで小夏は鳳翔に手を降り続けていた。

 

「では、帰りましょうか。もうじきお腹をすかせた子達が沢山帰ってきますから」

 

「そうですね………」

 

こうして二人で鎮守府に戻るのだった。

 

 

 

夕方 18時 鎮守府中庭

 

「これでよし」

 

「できたね」

 

「っぽい!」

 

何とか鯉のぼりを完成させた憲兵。その作業を白露型駆逐艦の時雨と夕立が手伝っていた。

 

「綺麗な鯉のぼりだね」

 

「………えぇ」

 

「おいしそうっぽい」

 

「夕立……それはないよ」

 

的はずれなことを言う夕立に苦笑する時雨。何も言わず正門に戻ろうとする憲兵に時雨は様子が変だと気づき声をかける。

 

「どうかしたのかい?」

 

「………何でもありませんよ」

 

「嘘だね。憲兵は嘘をつくのが下手だからすぐにわかるよ」

 

時雨は憲兵の目を見つめる。憲兵は彼女の目が苦手である。何もかもが見透かしているように思え、心の中を見られているように感じるからだ。初めてここに来た時に話しかけてきたのは彼女だった。

 

「今日は少し疲れましたので失礼します」

 

しかし、心の内を話さない憲兵は自分の寮へと歩を進めていった。その寂しそうな後ろ姿を時雨と夕立は見続けていた。

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

 

鯉のぼりを買いに商店街へ。鳳翔さんに手助けをしてもらう。女の子、小夏様を保護。少しアクシデントがあるも家族のもとへ

 

 

夕方

 

鯉のぼり完成。夕立さんと時雨さんと少し会話をする。

 

一言

 

私は……結局何も守れていなかった。私は一体何のために戦っていたのだろうか……

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 




シリアスに………

提督出番なし!

感想、評価、アドバイスなどよろしくお願いいたします

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六日目

間違えて途中投稿してしまいました。申し訳ありません!


5月○日

 

朝8時 大雨 鎮守府正門

 

降り注ぐ雨。梅雨に入り村にも雨が続いている。多くの艦娘も寮で待機や勉学に励んでいる。そんな時でも憲兵は雨合羽を身につけ外で警備に当たっていた。冷たい雨の中でも微動だにしない。待機室で待っておけば良いのだが、仕事人間の憲兵であった。ふと自身に当たる雨がなくなり上を見ると赤い傘。気配がするので後ろを見ると戦艦大和がいた。

 

「おはようございます大和さん」

 

「おはようございます憲兵さん」

 

微笑みながら挨拶をする大和。彼女は出撃する際に多くの資材などを消費するため鎮守府で待機していることが多い。しかし、その戦力、火力は大きく統率力もあり多くの艦娘からは尊敬されている。そんな彼女はよく憲兵のもとに訪れる。

 

「雨が降ってますので部屋に戻ってください。私は大丈夫なので」

 

「ふふふ…大丈夫です」

 

憲兵の提案をバッサリと断り相合い傘をそのまま続ける。

 

「憲兵さん?」

 

「なんでしょうか?」

 

「顔が赤くないですか?辛そうですが」

 

「気のせいです」

 

「嘘だね」

 

ふと第三者の声がしそちらを見ると時雨が立っていた。憲兵は不味いと思い帽子を深く被り顔を見えないようにする。しかし、時雨は大和に頼み帽子を取らせる。そして憲兵のおでこに大和が手を当てる。

 

「風邪ですね………いつからですか?」

 

「問題ありません」

 

「い・つ・か・ら・で・す・か?」

 

「………………先日、雨の日に鯉のぼりを倉庫に直した日からです」

 

2日前、雨が降りだし鯉のぼりが雨で痛んでしまうと考えた憲兵は一人で夜中に鯉のぼりを倉庫に直した。その時はカッパも着ず雨にうたれながら作業をしており、翌日の朝から調子が悪かったが特になにもせず1日を過ごした。しかし、その無理が祟ってか今日の朝は体の節々が痛く、ふらふらの状態で警備をしていた。

 

「もう、戻りますよ憲兵さん」

 

「しかし!」

 

「大和さんはそっちをもってね」

 

「は、離して下さい」

 

ずるずると二人に連行される憲兵だった。

 

 

昼前 10時 憲兵寮の部屋

 

殺風景な部屋。憲兵の部屋を見た人間の感想はこれであろう。簡易的な台所。テーブル、業務用の机。そしてベッドとなっており、彼の私物は服などの日用品以外何もない。そんな部屋に大和と時雨は憲兵を連れてきて着替えるように促した。抵抗しても無駄だと考え、憲兵は着替えを持って洗面所へと入っていった。その間に大和は提督に報告してくると言い、部屋から出ていく。部屋に一人残された時雨は部屋を見渡す。目に入ったのは倒れている写真立てだ。時雨は棚の上の写真立てに手を伸ばす。手に取ると隙間から写真が落ちる。時雨は写真立てを棚に戻し写真を拾う。写真を見て唖然とした。

 

今のような無表情ではなく、笑顔で写る憲兵とその隣には綺麗な着物に身を包み、優しく微笑む女性が写っていた。

 

「どうかしましたか?」

 

突然後ろから着替えた憲兵に声をかけられ驚いた時雨は写真をそのままポケットにしまった。

 

「な、なにもないよ。憲兵は早く横になったほうがいいよ!」

 

「は、はぁ」

 

憲兵をベッドに寝かしその横に椅子を持ってきて座る。憲兵は依然として辛そうな顔をしている。時雨はハンカチで顔の汗を拭いていく。

 

「申し訳ありません。時雨さん」

 

弱々しくそう時雨に伝える。時雨は優しく憲兵の頭を撫でる。

 

「そこはありがとうって言ってほしいな」

 

「……すいません」

 

「君は謝るのが好きなの?」

 

そう言って笑う時雨。すると部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「憲兵さん!大丈夫ですか!?」

 

提督だった。憲兵は体を起こそうとするが提督はそのままで良いと伝える。時雨は席を立ち提督に譲る。提督は椅子に座りそして憲兵の手を握りながら謝る。

 

「ごめんなさい……いつも貴方に頼りっぱなしで…休みもほとんどなく働いてくれて…本当にごめんなさい。甘えっぱなしで……」

 

「気にしないで下さい。私の自己管理が出来ていなかっただけなので…提督の責任ではありません」

 

それでも謝り続ける提督の頭を優しく撫でる。

 

「提督はよくやっています。憲兵なんぞにここまでしてくれて……私はあなたの元で働けて幸せですよ」

 

その言葉を聞き提督は頬を朱色にし、顔を憲兵から背ける。

 

「君は本当に罪作りだね………もう」

 

おもしろく無さそうにする時雨を見て憲兵はどうして機嫌が悪いか理解できなかった。

 

 

昼 13時 憲兵寮の部屋

 

ふと目を覚まし窓の外を見るとまだ雨が降っていた。憲兵は体を起こしトイレに向かう。時雨と提督は憲兵が寝た後、静かに部屋から出ていっていた。トイレから帰ってきて体温を測る。38度とまだ熱は下がっていない。しかし憲兵は今日の郵便や、資材の計算、本営からの業務連絡や、今の世界の状況などの資料をまとめ始めた。

 

「あんた何してんの?!」

 

ふと声が聞こえそちらを見るとそこにはお粥を載せたお盆を持った瑞鶴が立っていた。憲兵は資料の整理を少ししておこうとと言うが、瑞鶴はテーブルにお盆を置き憲兵から資料などを取り上げる。

 

「病人なんだから無理したらダメよ」

 

もうと言いながら資料をテーブルに置き憲兵をベッドに寝かせる。

 

「ちゃんと治さないと…みんな心配してたんだから」

 

「すいません」

 

「分かったならいいわ。ほら鳳翔さんがお粥を作ってくれたから持ってきたわよ」

 

憲兵を寝かし、椅子に座る瑞鶴。お盆を膝の上に置き安定させる。

 

「ほら、あーん」

 

「…………」

 

「早く口開けなさいよ。食べさせるだけだから」

 

そう言って笑う瑞鶴。憲兵は瑞鶴の性格が一番接しやすいと常々思っている。憲兵はなんのためらいもなく瑞鶴に食べさせてもらっていた。

 

「憲兵さん大丈夫ですか?」

 

「憲兵さーん!雷が来たからには元気になるわよ!」

 

「憲兵。大丈夫かい?」

 

「もう!憲兵さんは病人なのよ!静かにしないと!全く子供なんだから!」

 

第六駆逐艦の子達が入ってきて食べさせて貰っているのを目撃された。その後、誰が食べさせるかで騒ぎになり後から来た鳳翔さんに怒られたのはまた別の話である。

 

 

本日の主な出来事

 

 

大和さんと時雨さんに熱が出ているのがバレて仕事を休む。

 

 

提督様や様々な艦娘に看て貰う。

 

一言

 

自己管理を見直そう。

 

最後に

 

本日は雨、提督様曰く異常なし。




変な夢を見た

犬がブレイクダンスをしていた夢を…

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七日目

イベント参加せず


6月◇日

 

晴れ 朝 9時 鎮守府 中庭

 

連日の雨が止み、さんさんと太陽の光が村を照りつける。葉に着いた連日の雨の雫に光が当たりまるで宝石のように輝いていた。憲兵は中庭で花の手入れの作業をしていた。タオルを首から掛け、腕をまくり軍手を着けて花などの手入れ。ここの鎮守府の庭は憲兵が世話をしていた。花があれば艦娘達の心が少しでも安らぐだろうと考え、季節により様々な花を自腹で買い、提督に許可をもらい庭を作っていた。鎮守府内の艦娘達はこの庭をかなり気に入っており、金剛に至ってはここでティータイムなどを楽しんだりしていると聞いている。ちなみに曙は、時々手伝いに来る。

 

「憲兵さーん」

 

「何でしょうか?」

 

「あそんでほしいっぽい!」

 

そこへ来たのは夕立だった。耳のような髪の毛がパタパタと動いており犬を連想させる。彼女は他の駆逐艦達が遊ぶからぜひ憲兵さんもと誘いに来た。しかし、憲兵はこの後資料などを纏める仕事と本部への報告書があるためやんわりと断ろうとしていたが、断りをいれる前に夕立に手を引かれて連れていかれる。

 

「あの…私には仕事が」

 

「ぽい~♪」

 

聞いてはいなかった。

 

 

広場

 

「憲兵さん連れてきたよ!」

 

「おはようございます。憲兵さん」

 

「けんぺぇさん!おはようございます!」

 

「憲兵さんおそいー」

 

広場には潮、雪風、島風(ジャージ装備型 )がいた。憲兵はおはようございますと頭を下げ挨拶をする。しかし、頭の中ではどうしたものかと悩んでいた。このような年頃の女の子と遊んだことがないからだ。そんな憲兵の考えなんぞ知らない彼女達は何をして遊ぶかを相談し始めた。

 

「かけっこ!」

 

「島風が勝っちゃうよ」

 

「わ、私は読書とか……」

 

「おもしろくないっぽい」

 

あーでもないこーでもないと決着がつかない。憲兵はどうしたらよいか分からずあたふたとしていた。そんな彼女たちに近づく1つの影。

 

「フフフ………困ってるな憲兵」

 

スカートの丈を膝まで下ろした天龍だった。

 

「天龍さんおはようございます」

 

「おう!さっき追っかけ回された時に会ったけどな!」

 

皮肉たっぷりに憲兵に返事をするが憲兵は表情を変えない。天龍は言い争いをしている駆逐艦達に近づき目線を合わせるためにしゃがむ。

 

「かくれんぼはどうだ?そしたら皆フェアだろ?」

 

ニカッとはにかみながらそう切り出す天龍を見て憲兵は感心していた。彼女は面倒見が良く、時折鎮守府から出掛けるときは大抵近所の老人の元や、子供たちと交流している。天龍の提案に賛同する駆逐艦の娘達。鬼は何故か憲兵がすることになる。

 

「30秒数えてから探し出してください。範囲はこの広場ですから」

 

潮はそう言って走り出した。仕方なく30秒数えて待つことにする。

 

 

「…………………」

 

30秒経ち行動を開始する憲兵。まずは広場周辺に生い茂っている草の影へと隠れている子が居ないか確認する。するとピコピコと天龍のアンテナの様な物が見えていた。

 

「見つけましたよ天龍さん」

 

「な!」

 

見つかるとは思っていなかったのだろう。天龍の顔は驚愕の色に染まっていた。憲兵は次の獲物を探しに出るのだった。

 

次に憲兵は広場の倉庫に訪れた。憲兵は倉庫の影などを見たが見つからない。すると倉庫の中からガタッと言う音がした。憲兵は倉庫の扉を開け、なかを確かめる。すると島風の頭に付けている黒いリボンが見えた。

 

「島風さん。見つけましたよ」

 

「憲兵さん見つけるのおっそーい」

 

早く見つける遊びではないのだがと思いながら次の場所へと移動しようとすると、屋根の上から物音がした。憲兵は倉庫の屋根へ登り確認する。

 

「雪風さん、見つけましたよ」

 

「見つかっちゃいました」

 

えへへと笑う雪風を憲兵は抱き上げゆっくりと屋根からおりた。後は夕立、潮なのだが中々見つからない。すぐにでも見つかると予想していた憲兵は困っていた。すると前方からまだ見つかっていないはずの夕立が深刻な顔をして走ってきた。

 

「憲兵さん!大変っぽい!」

 

「どうかしましたか?!」

 

「潮ちゃんが木に登って降りられないみたい!」

 

それを聞いた憲兵は夕立から場所を聞き、すぐに現場へ急行した。潮が登ったと言う木にいくとそこには提督や他の艦娘も駆けつけていた。

 

 

「潮ちゃーん!大丈夫!?」

 

提督の目線の先には高い木の枝に座り木にしがみつく潮。普段 そのような活発に行動する子ではなく、むしろ大人しく木に昇ることをするとは思えない。憲兵はすぐさま木に昇り始め、潮がしがみついている高さまで辿り着いた。憲兵はゆっくりと手を潮へと伸ばす。

 

「潮さん。こちらへ」

 

「………」

 

フルフルと首を横に振る。怖くて動けないのだ。憲兵は何とか近くまで行き潮を抱き寄せようとした。その時、枝が折れたのだ。潮は重力に引きずられるように落下していく、下からは悲鳴が上がり多くの艦娘は目を閉じる。潮自身も落ちたときの体へのダメージが怖くなり目を閉じ衝突時の衝撃を待った。

 

 

 

 

 

夕方 18時 医務室

 

「もう!無茶しすぎです!」

 

ぷんぷんと怒りながら憲兵の背中に湿布を貼る提督。憲兵は申し訳ありませんと謝り続けたいた。あの後、潮が落ちたときに憲兵は彼女を抱き、なんと着地したのだ。しかし、無茶に体を使ったのか潮が見ている時には何でもないような顔をしていたがいざ騒動が落ち着き、作業に戻って行った憲兵は物陰で腰を押さえながら悶えていた。加賀や赤城が肩をかしながらここまで連れてきたのだ。因みに何故潮が木に昇ったのかと言うと、いつもとは違う自分を憲兵に見てもらい驚かせたかったらしい。

 

「次からは気を付けてくださいね!」

 

その後潮が謝りに来た時に優しく頭を撫でる憲兵であった。

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

中庭の手入れをする

夕立さんに連れられかくれんぼをする。多少のトラブルがあったが問題はなし。

 

夕方

 

医務室で過ごす。

 

一言

 

腰を痛めたのに提督様が夕飯を食べさせようとしてくる。少し怖かった。

 

最後に

 

本日は快晴、少し異常あり




タンスの角に小指をぶつけて悶える作者

※潮と朝潮間違えました。申し訳ありません!


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八日目

もがみんもがみんもがみんみん




6月□日

 

朝 10時 晴れ 艦娘寮前

 

「憲兵さん……お手伝いします」

 

「大丈夫ですので…」

 

荷物を運んでいる憲兵を手伝おうとしているのは潮だった。前回のお詫びをすると朝から憲兵にベッタリでどこに行くにしろ着いてくる。朝起きたときに布団に潜り込んでいた時は驚き腰がまた痛くなったのは秘密である。朝からずっと後ろを着いてくる潮。朝食もともにし、資料を纏める時も、鎮守府内の巡回をするときも、正門で警備をしているときもだ。それを蒼龍や榛名、曙、吹雪、大和が少し羨ましそうに見ているのを気づいていない憲兵。彼女を無下に扱うことも出来ないので気が済むまで共に行動することにする。しかし、憲兵の仕事は駆逐艦、ましてや女の子がする仕事だけではない。それをさせるのは流石に気が引けたので休んでいて構わないと言ったが真面目な彼女は手伝おうとしてくる。

 

「力仕事は私がしますので潮さんは少し休んでいてください。折角の休日をなんの面白味も無い私と付き合わなくてもいいんですから」

 

「でも…」

 

どうしたものかと悩んでいる憲兵。最近胃薬が手放せなくなったのは歳のせいだと考えることにしていた。

荷物を運び終えて、次は中庭の手入れをすることに。花の水やりを潮がすることになり、楽しそうに今は水やりをしている。憲兵は新しく育てた花を庭へ移していく。

 

「憲兵さんはお花が好きなんですか?」

 

潮だけではない。この鎮守府の大半が疑問に思っていること。何故花を憲兵が植え始めたのか。それを潮はいい機会なので尋ねた。

 

「いえ………気まぐれですよ」

 

そう返し黙々と作業を続けていた。潮はその後に憲兵から多くの花の名前などを憲兵から教えてもらったりしていた。

 

「ただいま戻りました。憲兵さん」

 

そこへ赤城が演習を終え帰ってきた。憲兵は立ち上がり頭を下げる。潮も敬礼をして返事をする。

 

「お疲れ様です!赤城さん!」

 

「おはようございます。赤城さん」

 

「あれ?潮ちゃん憲兵さんとあれからずっと一緒なんですか?」

 

首をかしげる赤城。朝に演習で出るときに正門で警備をしていた二人を見たからである。もうあれから三時間は経っているのに二人で行動しているのが不思議で仕方がないといった様子。

 

「今日は憲兵さんのお手伝いをしようかと」

 

「へぇ~……偉いわね」

 

そう言って潮の頭を撫でる赤城。照れながら撫でられる潮。赤城はこの後暇と言うことで二人の作業を手伝うことにした。

 

「憲兵さん。この花は食べれるんですか?」

 

「食べれません」

 

 

 

昼 13時 食堂

 

憲兵と潮、赤城は昼食をとっていた。相変わらず憲兵は黙々と日替り定食を食べ、赤城は幸せそうに蕎麦をすする。潮は魚の骨と格闘していた。そこにお盆を持ち向かいの空いている席に来たのは北上と大井だった。

 

「前失礼するよー」

 

「お邪魔します」

 

「どうぞ」

 

軽く挨拶を交わし再び箸を進めていく。北上は食べながら憲兵の顔をチラチラと見ていた。

 

「北上さん?私の顔に何かついてますか?」

 

「いやぁ~無表情で食べる憲兵はかわいいなぁ~って」

 

「そうですか?」

 

「大井っち~。よーく見てごらん」

 

大井は憲兵の顔をまじまじと見つめる。なるべく気にしないように考えていたがここまで見られていると食べ辛い。

 

「あの…あんまり見すぎるのは良くないと思います」

 

助け船を出したのは潮だった。潮に咎められた二人はごめんねと謝罪し食事を再開した。

 

 

夜 19時

 

「本日はありがとうございます。助かりました」

 

「でも…あんまりお手伝いできていませんでした」

 

1日の業務が終わり憲兵はもうすることがないと潮に伝えお礼を言う。しかし、潮は納得していない。

 

「手伝おうとしてくださっただけでも結構です。昨日の事なら気にしなくてもいいです」

 

「でも……」

 

「艦娘を守るのが我々憲兵の仕事ですから」

 

「でも腰を痛めて…」

 

「それは歳のせいです」

 

「え?」

 

「もう三十路なので…」

 

冗談なのか本気なのか分からない返答をする憲兵に対して潮は少し気が楽になる。もうすぐ消灯時間であることを伝え潮を艦娘の寮へと戻らせた。

 

 

 

夜中 0時 鎮守府内倉庫

 

潮が戻った後、自室にて資料をまとめ憲兵は夜の巡回にて出ていた。一人警備をしながら歩く憲兵はふと後ろから誰かに見られているような気がして後ろを振り向くが誰もいない。気のせいだと考え歩く。また時間が経つと視線を感じる。今度は確実に気配を感じていた。憲兵は腰につけている銃に手を掛け、警戒しながら進んでいく。角を曲がり待ち伏せをすることにし、息を殺し気配を完全に消す。するとヒタヒタと足音が近づいてくるのを確認し銃を抜き近づいて来ていた物を取り押さえた。ヌルヌルとした感触がしたが気にしている場合ではなかった。

 

「何者だ?ここが世界海軍連合管轄の鎮守府と知っての狼藉か?」

 

「……………ヲ」

 

「………………?!」

 

憲兵が取り押さえたのは深海棲艦の空母?だった。

抵抗することもなくじっと憲兵を見つめる深海棲艦。資料で見た様な感じの物ではなく、かなり小さい。駆逐艦並の大きさだった。驚き固まっている憲兵は足に何かが体当たりしているのに気づく。足元を見てみると深海棲艦のイ級?のような物二匹がぱしぱしと体当たりをしていた。

 

 

本日の主な出来事

 

 

潮さんと共に行動する。

 

 

赤城さん、潮さん、北上さん、大井さんと昼食を取る。

 

夜中

深海棲艦らしきものを捕獲?する。資料で見たものよりも小さく、ヲ級は駆逐艦並の大きさ、イ級は手のひらの大きさのもの二匹を捕獲。抵抗することもなく従ったので憲兵寮の空きの部屋へ。翌朝の早朝に提督に報告することにする。なおこの資料は大本営には提出しないものとする。

 

一言

 

不味いことになった。

抵抗しないものは撃つなという憲兵隊の教え以前に撃てるわけがない。

 

最後に

 

本日は晴れ、異常発生

 




お気に入り百件突破しました!ありがとうございます!
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九日目

ぬいぬいぬいぬい


6月○$日

 

朝 10時 晴れ 執務室

 

「へぇ~これが深海棲艦ヲ級なのね」

 

「Oh~プニプニしてるネー」

 

「このイ級は食べられるのでしょうか?」

 

「赤城さん。何でもかんでも食べないでください」

 

「何か他の深海棲艦とは違いますね司令官。ヲ級は小さいですし、イ級は牙も無ければ何か丸っこいですし」

 

「…ヲ!」

 

「キュー」

 

前日に捕縛したヲ級及びイ級を提督の執務室に連れていった。連れていく際に暴れる様子は全くなく、あるとすれば建物の中を珍しそうに見ていたぐらいである。今は提督と、秘書艦の吹雪、そして金剛、赤城、加賀がヲ級とイ級を触ったり持ち上げたりやりたい放題している。

 

「どういたしますか?まだ大本営には報告してはいません」

 

「うーん………しばらく様子見といきましょう!報告は私の方から上手くつたえておきます!では、ヲ級ちゃんは私と居ましょうね~」

 

「ヲ!」

 

抱き締めようとする提督の手から逃れ、憲兵の後ろに隠れる。吹雪が持っていたイ級もヲ級に着いていく。

 

「……………」

 

「ヲッヲッヲッ!ヲオオン!」

 

ヲ級は憲兵によじ登り肩車してもらっている状態になり、持っていた小さな杖で憲兵の頭をぽこぽこと叩く。イ級は憲兵の足元にぴったりとくっついていた。

 

「………面倒は憲兵さんが見てください!」

 

笑顔で言われ断れることもできず憲兵は少し困った顔をして敬礼をした。

 

 

 

 

 

「困った顔の憲兵さんかわいい………青葉ちゃん!写真撮れた?」

 

憲兵が執務室から去った後に悶える提督だった。

 

 

 

昼 13時 食堂

 

憲兵とヲ級は昼食を取るため食堂に来ていた。ヲ級のことは鎮守府内放送で全ての艦娘に伝えられており特に驚いたりすることはなく珍しいものを見るような様子でヲ級を見る艦娘達。憲兵はやはり日替り定食、ヲ級にはお子さまランチを頼み席に座る。

 

「いただきます」

 

「ヲヲヲヲヲヲ」

 

手を合わせて挨拶をする憲兵の真似をして手を合わせるヲ級。憲兵は黙々と食事を開始。箸の使い方が分からず憲兵の真似をするヲ級。その姿は愛らしく敵であるはずなのだが多くの艦娘がハートを撃ち抜かれていた。因みにイ級は足元で米に食らいついていた。

 

「口元が汚れていますよ」

 

食べ終わったヲ級の口元を憲兵は持っていたハンカチで拭いていく。綺麗に拭いた後、憲兵は手を合わせてご馳走様と挨拶をし、やはりヲ級はそれを見て真似していた。

 

 

午後15時 正門

 

憲兵は何時ものように正門で警備をしていた。ヲ級も憲兵の服(明石作)を着て一緒に警備をする。イ級二匹はヲ級の足元で戯れていた。しばらくしてヲ級は疲れたのか休憩室へと入っていった。

 

「おはようございます憲兵さん」

 

「おはようございます」

 

鎮守府に訪れたのはあの青年だった。手には本日獲れた魚が入った箱を持ってきており差し入れで持ってきていた。

 

「今日もありがとうございます。提督も喜びます」

 

「いえいえ、何時も守って貰っていますし…それに小雪ちゃんが喜んでくれるなら」

 

本当にいい青年である。憲兵は箱を受け取り足元に置き青年と立ち話を始める。ふと青年の目にいつの間にか休憩室から出てきて箱の魚をつつくヲ級が目にはいる。

 

「この娘は?」

 

「深海棲艦のヲ級兼憲兵見習いです。挨拶をしてください」

 

「ヲ!」

 

「はぁ………へ?深海棲艦ですか?」

 

「ええ、先日この鎮守府に侵入してきまして捕まえました。しかし、抵抗することもなく害も無いと判断し、しかも他の深海棲艦とは違うので新種ではないかと考え保護しています」

 

「へぇ~……確かに10年前に見たのと違いますね。よろしくな」

 

「ヲ!」

 

すんなりと受け入れてくれた青年に敬礼をするヲ級だった。

 

 

夜 21時 憲兵寮

 

資料をまとめている憲兵が作業する机の横の布団の上でゴロゴロするヲ級とイ級。特に邪魔をすることがないのでそのままにしていた。時折艦娘寮からヤセーンヤセーンと聞こえるのは無視しておくことにする。以前注意しに行ったら朝まで夜戦の話を延々と聞かされたからである。

 

「ヲ………」

 

ヲ級とイ級二匹はいつの間にか寝ておりヲ級がイ級を抱き締める形で寝ていた。憲兵は拳銃を抜き寝ているヲ級達に向けた。しばらくそのままでスヤスヤと寝ているヲ級を見る。こうして見ているとかつて仲間を、大切な人を奪った奴らの仲間には見えない。憲兵は拳銃を下ろし眠るヲ級達に掛け布団を掛け、部屋から静かに立ち去った。

 

 

同時刻 時雨、夕立の部屋

 

時雨は布団の上で手元にある写真を見ていた。以前風邪を引いた憲兵を部屋に連れていき、着替えてるときにこの写真を手にいれた。写真に写る憲兵。そして着物の女性。家族か何かだと考えていたが見た目は全く似ていない。どのような関係なのかが気になって仕方が無かった。

 

「一体誰なんだろう………」

 

笑顔を見せたことのない憲兵。写真を一緒に撮るだけでここまで笑顔にさせる女性。その質問に答えてくれる人は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

写真の裏に小さな字で書かれている文字を時雨は見落としていた。ほとんど掠れて読めないが1つだけ読める字があった。

 

 

 

 

―― ――。

 

横山 絵里

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

執務室で深海棲艦の今後の話し合い

 

 

深海棲艦と昼食。知能は幼子のようである。イ級は犬に近い。昼食の後は警備。漁師の青年から魚の差し入れがある。

 

 

資料の整理。

 

一言

 

 

深海棲艦は謎が多いと聞く。無差別に攻撃するもの。逆に人を助けたのもいると聞く。できれば寝ているヲ級達も後者と信じたい。私の持つ銃をもう人に向けて撃たれないことを願う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 




いつの間にかお気に入りが500突破していた。
ありがとうございます!

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提督と憲兵

今回は番外編?みたいな感じ


ある日の昼下がり、中庭で花を眺めながらお茶会を楽しむ提督と戦艦組や空母、重巡洋艦組。駆逐、軽巡洋艦組は憲兵と遠足に行っている。

 

「私も遠足行きたかったなぁ」

 

「仕方ないネー」

 

保護者として憲兵が着いていき、提督はお留守番。最初は駄々をこね一緒に着いていくと言ったが結局着いていくことが出来なかった。残された組は仕事を一通り終わらせてからお茶会を開いていた。因みに長門が一番五月蝿かった。

 

「そう言えば提督と憲兵さんとの出会いって聞いたことがないんですがどうだったんですか?」

 

不意に赤城が提督に尋ねる。

 

「そう言えばそうね…聞きたい?」

 

「勿論です!」

 

食いついてきたのは蒼龍だった。提督は紅茶を一口飲み思い出すように話し出した。

 

 

 

 

 

◇月○○日

 

桜の花が咲き誇る漁村の鎮守府の正門前に白い海軍服を身に纏った一人の少女が立っていた。彼女の名前は新田小雪。海軍学校を飛び級で卒業した若き天才である。彼女は本日付でこの漁村の鎮守府に配属されることになっていた。

 

「今日からここが私の……よし!」

 

気合いを入れて鎮守府に入っていった。

 

 

執務室に入る提督を出迎えたのは一人の少女だった。

 

「は、はじめまして司令官。私は暁型駆逐艦の電なのです」

 

「はじめまして電ちゃん。私は今日からここで指揮を執らせてもらいます新田小雪です。よろしくね」

 

初期艦の電と挨拶を済ませる提督。鎮守府の運営の仕方など様々なことを電や資料などで確認し、鎮守府を見て回ることにする。倉庫や艦娘の寮、広場など電とお互いの話をしながら歩く。

 

「そういえば明日から憲兵隊の人がここに配属されるそうなのです」

 

「そうなの?確か憲兵隊って結構こわいんだよね?先輩の何人かが捕まったって聞いたことあるよ」

 

「陸軍のトップエリート集団ってきいてるのです」

 

提督も海軍学校の時から聞かされてきた憲兵隊と言う組織。本土防衛作戦で初めて艦娘と戦ったのは海軍ではなく陸軍だった。それから5年経ち、海軍が艦娘を管理するようになってから鎮守府内で艦娘に対する事件が多くなってきていた。そんな時に激怒したのが本土防衛作戦での生き残り陸軍だった。そして彼らは艦娘を守る為の組織『憲兵隊』を設立。艦娘を保護するための集団として鎮守府に配備される。そこから多くの提督が検挙されきた。今では憲兵隊のお陰で問題なく各地の鎮守府は運営されている。

 

「怖い人なのかな…」

 

不安を募らせる提督だった。

 

 

 

「司令官さん。憲兵隊の方が来たのです」

 

「よ、よし!大丈夫大丈夫…きっといい人」

 

翌日の昼に憲兵隊から憲兵が来た。執務室で待つ二人。するとノックの音が聞こえる。

 

「ど、どうぞ」

 

「失礼します」

 

現れたのは身長180㎝ほどで鋭い目付きで憲兵隊の服を纏った男性だった。電ははわわと怯えており、提督も冷や汗を流していた。

 

「こんにちは。今日からこの鎮守府に配属されました憲兵です。」

 

帽子を取って頭を下げる憲兵。慌てて自己紹介をする提督。

 

「こんにちは…えっと昨日からこの鎮守府に配属されることになりました新田小雪です。よ、よろしくお願いします」

 

じーっと彼女を睨み付ける(見ているだけ)憲兵。

 

「失礼ですが……歳はおいくつですか?」

 

「え?今年で16歳になりました」

 

「………………少々お待ちください」

 

そう言って部屋から出ていく憲兵。提督は何かいけないことをしてしまったのでは?と考え顔を青くしていた。

ほどなくして憲兵は戻ってきた。提督は不安になり憲兵に何か問題があったのかと聞くと、なんでも提督が若すぎるとのことだったので大本営に確認をとったとのことだった。

 

「では今日からよろしくお願いいたします」

 

「よろしくおねがいしまふ!」

 

噛んだのが恥ずかしいのか顔を真っ赤にする提督と無表情の憲兵だった。

 

 

「それが提督と憲兵さんのfirst contactですかー?」

 

「うん…あの時は憲兵さんあんまり話さないし少し怖かったなー。でも実は優しくてさぁ~。仕事も簡単にまとめてくれたり凄く助かってて……あの時くらいから気になり出したの……」

 

頬を少し朱色にしながら話す提督。金剛は少し面白くなさそうにしており、比叡がなんとか落ち着かせようとしていた。

 

「へーそうだったんですね」

 

「変わらないなぁ。昔も今も」

 

赤城が成る程と言う感じで返事をする。お菓子を頬張りながら変わらないねーと呟く飛龍。

 

「その後に榛名ちゃんが来たんだよね」

 

「はい!」

 

 

 

まるで機械のように業務連絡や仕事を終わらせていく憲兵に提督はあまり話しかけることが出来なかった。次第に仲間が増えていく中、彼だけが交流を絶っていた。話し掛けても簡単な返事しかしない憲兵。しかも雑務や鎮守府内の掃除なども一人でスピーディーに終わらしていくその様子からまことしやかに艦娘達からケンペイロボと呼ばれていた。そんな時に初めて戦艦で来たのが榛名だった。彼女は憲兵が他の鎮守府から連れてきた艦娘だった。戦艦を手に入れ行動できる海域を広げていった。そして数日が経ったある日のこと。その日は風が強い日だった。

 

「お買い物?」

 

「はい…憲兵さんにその…お礼がしたくて……」

 

もじもじと顔を朱色に染めながらそう提督に話してきた榛名。何があったのかと聞いてみると以前買い出しの時に財布を落とし探していたときにたまたま備品を買い出しに出ていた憲兵も探すのを夜遅くまで手伝ってくれたらしいとのことだった。

 

「憲兵さんが…」

 

やはり怖い人ではなく優しい人なんだと再確認をし、快くお礼の品を買いに行くことにした提督と榛名だった。

 

 

 

 

 

お礼の品を買った帰り道。

提督と榛名は鎮守府に続く道を歩いていた。

 

「いいの見つかってよかったね」

 

「はい!でも万年筆でよかったのでしょうか」

 

「喜んでくれるよ」

 

そう話しながら歩いている二人。

提督も日頃のお礼として手帳を買っていた。和気あいあいとしながら鎮守府への道を歩く二人。すると一人の女の子がボールを追いかけて公園から飛び出してきた。提督はその時トラックが迫ってきているのに気がつく。トラックの運転手は突然女の子が飛び出してき、ブレーキをかけるも間に合わない。咄嗟に提督は道に出て女の子を庇うようにして抱きしめ離脱をしようとするにも間に合わない。榛名の悲鳴が聞こえ目の前のトラックがスローモーションのようにゆっくり迫ってきた。その時だ。二人を黒い影が抱きトラックから回避した。

 

「大丈夫ですか?」

 

憲兵だった。

 

 

 

 

事故にはならなかったので憲兵がトラックの運転手と話し合いをして事後処理をする。

その間に提督は女の子の母親と話をしていた。

 

「本当にありがとうございます。なんと御礼を言ったらいいか…」

 

「気にしないでください。今回は誰も怪我してませんから」

 

「ごめんなさいぃ」

 

怖かったのだろう。号泣しながら謝る女の子。提督は優しく頭を撫でながら泣き止まそうとしていた。

 

「提督」

 

話し合いが終わったのだろう。憲兵が声をかけてきた。手には買い物袋を持っており浮かない顔をする憲兵

 

「憲兵さん………」

 

「戻りましょう」

 

 

 

鎮守府に着き憲兵は鎮守府内へと戻ろうとする。そんな憲兵を榛名と提督が止めた。

 

「そ、そのありがとうございます。そのこれ……この前のお礼です」

 

榛名はおずおずと紙袋を手渡す。提督は気まずそうに手帳を差し出した。憲兵は不思議そうに受け取る。

 

「今日はごめんなさい。本当に助かりました……貴方が居なかったら今頃私とあの子は……」

 

「気にしないでください。私は貴方と艦娘。そしてここの住民を脅威から守るのが仕事です。それに貴方は私に謝るべきではありません。貴方は人として女の子を守ろうとしたんです。それを誇ってください」

 

そう言って憲兵は買い物袋を持って鎮守府内へと戻っていった。

 

「ずるいね」

 

「そうですね……ずるいです…」

 

提督は頬を少し染めながら憲兵の後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

「あの時の憲兵さんかっこよかったなぁ…」

 

「かっこよかったです」

 

二人の乙女はキャッキャと思出話(憲兵さん)をしており金剛はティーカップを破壊し比叡が悲鳴をあげていた。

 

 




私の鎮守府に初めにきた戦艦が榛名です
知らぬ間にお気に入りが600越えててびっくり

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十日目

新年明けましておめでとうございます

今年も憲兵さんをよろしくお願いいたします




7月ν日

 

午前四時 憲兵寮 憲兵の部屋

 

まだ朝日が昇っていない時間。憲兵はまだ自室で寝ていた。すやすやと寝ている憲兵。突然何かが顔に触れていることに気づき憲兵は目を冷ました。

 

「ヲ!」

 

ヲ級だった。憲兵は意識を覚醒させヲ級を見る。ヲ級は憲兵を起こしに来たのだろう。両手で憲兵の顔をペチペチと叩きながら嬉しそうに微笑んでいる。憲兵は深いため息を吐き布団から出る。ヲ級は憲兵が起きたのを確認すると布団から離れていく。

 

「どうかしましたか?」

 

「ヲ!ヲ!ヲヲン!」

 

「……成る程。散歩ですか」

 

憲兵はヲ級が言う散歩と勘違いしている鎮守府の見廻りに行きたくて起こしてきたと理解する。しかし、時間はまだ午前四時。見廻りをするにはまだ早い時間帯だ。

 

「まだ早いので六時頃にしましょう」

 

「ヲ………」

 

しょぼんと悲しそうな顔をするヲ級を見て少しの罪悪感が出てきた憲兵。こんな時はどうすればいいかと考える。ヲ級は部屋の隅でいじけている。憲兵は思考を巡らせ仕方なく朝の花の手入れをすることにした。

 

 

 

ヲ級とイ級を連れていき中庭へ訪れた憲兵。花に水をやりながら虫などがついていないか確認する。だんだんと朝日が昇って来たのだろう。沢山の向日葵が光に照らされて鮮やかな黄色が中庭を覆う。ヲ級はその美しさから跳び跳ねて喜び、イ級もぴょんぴょんと跳び跳ねていた。

 

「あ……おはようございます!憲兵さん!ヲ級ちゃん!イ級ちゃん!」

 

声を掛けてきたのは吹雪だった。

 

「おはようございます吹雪さん。自主練お疲れ様です」

 

「ありがとうございます!憲兵さんは今日早いですね」

 

「えぇ、彼女に起こされたので」

 

向日葵を見て喜ぶヲ級を見て苦笑する吹雪。憲兵はこのあと吹雪を朝食に誘ってヲ級達と朝御飯を堪能した。その際に提督がその姿を目撃。吹雪は提督に呼び出されたのだった。

 

 

 

午後3時 鎮守府中庭

 

昼時の賑やかさから休み時へと変わり穏やかな日中。榛名は一人中庭のベンチで流れる雲を眺めていた。他の姉妹は演習に行っており暇をもて余していた。

 

「はぁ……ん?」

 

「勘弁してください」

 

「えぇ!いいじゃん!鈴谷とデートしようよ!」

 

彼女の視界に入ったのは腕を組ながら歩く鈴谷と愛しの彼だった。鈴谷は元々違う鎮守府で働いていたがセクハラを受けていたところ、当時そこで働いていた憲兵に助けられた。それがきっかけで憲兵に猛アタックしている。

 

「お・ね・が・い」

 

「いけません」

 

「いけずー!でも好きだから許す!」

 

憲兵に抱きつき離れない鈴谷。憲兵は困った顔をして離そうとするも離れない鈴谷。離してください。嫌!と繰り返している二人を榛名は羨ましそうに見ていた。自分にもあれくらいの積極性があれば…そのように考えていた。

 

「ずいぶん楽しそうね」

 

今度は叢雲が腰に手を当てて憲兵と鈴谷の前に立っていた。

 

「おはようございます叢雲さん」

 

 

「おはよー叢雲」

 

「おはよう。鈴谷は憲兵から離れた方がいいんじゃない?困ってるわよ」

 

「えぇ~……やだ!」

 

「あ、あんたねぇ」

 

「もしかして叢雲…妬いてる?」

 

いたずらな笑みを浮かべ、ニヤニヤしながらそう尋ねる鈴谷。それを聞いた叢雲は顔を真っ赤にしわなわなし始めた。

 

「ち、違うわよ!な、な、なにいってんの?! 」

 

うがー!と怒る叢雲と余裕の笑みを浮かべる鈴谷。困っている憲兵。状況が悪化していた。榛名はその光景を見ながら微笑む。きっと憲兵がいるから彼女達はあそこまで表情豊かに笑ったり、怒ったり出来るのだろう。そう思いながら3人のやりとりを見続けていた。

 

 

午後7時 鎮守府 食堂

 

夕飯時になり、美味しそうなカレーの匂いがする。憲兵は少しうきうきしながら食堂に訪れた。憲兵は誰にも言ってはいないが卵焼き以外にカレーが大好物であり、2週間に1度のカレーの日を楽しみにしている。今日は朝からヲ級に起こされたり、鈴谷に絡まれたりと何かと忙しかったがカレーを食べられると知りそれまでの疲れなどを忘れ食堂に向かった。

 

「あ、こんばんは憲兵さん。今日はカレーですよ」

 

「こんばんは間宮さん」

 

間宮と挨拶をし、カレーをトレーに載せてもらう。心なしか量が多いように思い不思議そうにしていた憲兵。

 

「憲兵さんはカレーが好きなんですよね?多めに入れときましたよ」

 

微笑みがらそう言う間宮。憲兵は顔を赤くし帽子を深く被り直しありがとうございますと言いそそくさと席へと移動していった。

 

「ふふ…子供っぽいところもあるのね」

 

 

席に座りカレーを食べ始める憲兵。そこへ翔鶴と瑞鶴がやって来た。

 

「こんばんは憲兵さん」

 

「こんばんはー。ここいいかしら?」

 

「こんばんは。別に構いませんよ」

 

おじゃましまーす。と憲兵を挟む形で座る彼女達。そしていただきますと挨拶をして食べ始める。

 

「憲兵さんはカレーが好きですか?」

 

「えぇ、大好きです」

 

無意識にそう答えてしまった。食堂が静かになったのに気がつかずにあまり表情に変化はないが嬉しそうにカレーを食べ続ける憲兵。瑞鶴はへぇ~といった表情で憲兵を見ており、翔鶴は少し頬を朱色にしながら憲兵を見ていた。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

早朝からヲ級に起こされる。花の手入れなどをする。

朝食は吹雪さんを誘う。

 

 

鈴谷さんと話をする。腕を組んでくるのは勘弁してもらいたい。嫌ではないが、その…胸が当たっており少し恥じらいをもってもらいたい。

 

 

カレーだった。食後変な視線を感じたが何事もなく終わった。

 

一言

カレーはやはり美味しい。今度は比叡さんのカレーをいただきたいが、周りの人たちは比叡さんのカレーは嫌いらしい…どうしてだろうか?

 

最後に

 

本日も晴れ、異常なし




お気に入りが600越えてて……これからもよろしくお願いいたします

評価、アドバイス、感想どんどんお願いいたします


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十一日目

遅くなりました

や、やめて!ボーキサイトを食べないで!赤城さん!


7月$日

 

午前八時 鎮守府 埠頭

 

「では遠征行ってくるわね!」

 

7月に入りだんだんと暑くなり出した今日この頃。沖へと遠征任務へ進んでいく雷、響、暁、電を見送る憲兵と提督。埠頭の掃除をしているときに遠征組が出発する時であったため見送ることにしたのだ。

 

「では私は仕事に戻りますので」

 

そう言って仕事に戻ろうとする憲兵。キュッと袖が掴まれ憲兵は掴んだであろう提督を見る。

 

「えーっと……一緒にご飯どうですか?」

 

上目遣いでそう尋ねてくる提督。恐らくあの青年に提督が同じことをしたら銛一本でエリートレ級に挑むだろう。しかし、憲兵は表情を変えずいいですよと返事をし、食堂へ移動しようとする。

 

「えい!」

 

「………提督。何をしていらっしゃるのですか?」

 

「腕を組んでます」

 

え?何言ってるんですかと言わんばかりの視線で憲兵を見る提督。この状況はまずい、何とか離れなければ自身が憲兵に連れていかれてしまうと考え何とか離れてもらおうと説得する。しかし、提督は離れようとはせず逆に体を密着させてくる。

 

「まずいですので………離れて…」

 

「だめですか?鈴谷ちゃんはいいのに?」

 

うるうるとした瞳で憲兵を見上げ尋ねる提督。断ると言う選択肢が消え、離れてもらうことを諦めた憲兵は腕を組んだまま食堂へいくことになった。

 

 

 

大和が腕を組んでいる二人を見てああすればいいのねと言っていたのはまた別の話である。

 

 

「HEY!提督一緒にbreakfastをってうえええ!」

 

前方からやって来た金剛が二人が腕を組んでいるのを見て驚き少しばかりキャラが崩壊していた。比叡があわわと金剛をなんとかなだめ、霧島は憲兵さんもなかなかやりますねと言っていた。するとふらふらと後ろから榛名が歩いてきた。ぼーっとしておりどこか足取りもおぼつかず、顔は少し赤くしんどそうにしていた。

 

「榛名ちゃん大丈夫?」

 

提督は憲兵の腕から離れ心配そうに榛名に近づき声を掛ける。しかし、榛名は大丈夫ですとしか返事をせず笑顔にも元気がない。ちょっとごめんねと声を掛けた提督が榛名のおでこに自分のおでこを引っ付ける。

 

「熱出てるじゃない!」

 

「榛名は大丈夫です」

 

「榛名寝てるようにって言ったはずネー」

 

「榛名は大丈夫です」

 

「も、戻って休んだ方が…」

 

「榛名は大丈夫です」

 

「姉さんは戻って寝ていてくださいって…」

 

「I'm okay,kirishima」

 

榛名は大丈夫ではなかった。仕方ないですね。許してね榛名と比叡が憲兵さんお願いしますと言う。すると今まで黙って見ていた憲兵が榛名に近づき失礼しますと言い榛名の背中へ腕を回し、膝の下にも手を回し持ち上げた。いわゆるお姫様だっこである。憲兵は榛名を比叡の案内のもとそのまま部屋へと連れていく。残された三人は唖然としており提督が私もしてもらいたい!と騒いでいた。

 

 

 

午前10時 艦娘寮 金剛姉妹の部屋

 

医務室で風邪薬を貰い金剛姉妹の部屋へとやって来た憲兵。ノックをし中から比叡からの返事を聞き部屋へと入る。ベッドにはすやすやと眠る榛名、そして側でおでこに水で冷やしたタオルを乗せる比叡。かなり抜けているように思われがちな比叡だが金剛型の中では結構しっかりしている。フリーダムハイテンションな姉を追いかけ回すうちに身に付いたらしい。

 

「薬はテーブルの上に置いておきます」

 

「ありがとうございます憲兵さん」

 

榛名の頭を優しく撫でる比叡。姉思いでもあるが妹たちにも優しい彼女。撫でられた榛名の表情はとても安らかなものである。

 

「比叡さんはしっかりしていますね」

 

「そんなことないですよ」

 

あははと笑う比叡。憲兵はよく比叡に声を掛けたり気に掛けたりする節がある。

 

「それにしても榛名さんはどうして出てきたのでしょうか。部屋で休んでいればよかったのに」

 

「それは………どうしてなんでしょう?」

 

二人して考えるが全く答えが出てこない。榛名は憲兵さんに会いたくて出てきたと言うのにこの二人はどうにも鈍いのだ。

 

「では私は仕事がありますので失礼します。榛名さんにお大事にとお伝えください」

 

「任せてください!」

 

にぱっと笑う比叡。その笑顔を見た憲兵が固まった。

 

「絵里……………」

 

「へ?憲兵さん何か言いました?」

 

ぼそりと呟いた憲兵。何でもありませんと謝り部屋から去っていった。

 

因みに回復した榛名がお姫様だっこされている写真を翌日青葉から買い取って写真たてに飾っているとかいないとか。

 

 

 

午後6時 艦娘寮 廊下にて

 

「憲兵ちょっと待って」

 

振り替えると時雨が走ってくる。憲兵は廊下では走らないようにと伝える。時雨はごめんよと伝え憲兵の隣に並んで歩く。

 

「そういえばこれ返しておくね」

 

「これは…………」

 

写真であった。

 

「風邪引いたときに部屋で見つけてそのままもって帰っちゃって………返すタイミングが見つからなくて…ごめんなさい」

 

「いえ………問題ありませんよ。特に何かあるわけでもありません」

 

そう言って写真をポケットへ入れる憲兵。時雨は憲兵にそれに写っている女性が誰なのか聞こうとしたが、聞かない方がいいと考えた時雨は黙って憲兵の横を歩く。

 

「晩御飯は何なんでしょうか」

 

「今日はうどんらしいよ」

 

そうですかと返事をする憲兵。すると後ろから彼の背中に何かがしがみついてきた。

 

「ヲヲヲヲヲヲ!」

 

「キュー」

 

ヲ級とイ級達だった。憲兵はヲ級を背負う形で歩く。

 

「なつかれてるね」

 

「えぇ、可愛いものですよ」

 

「ヲヲーヲ!」

 

そう話ながら歩く二人と3匹。食堂まで仲良く話しながら進んでいった。

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

遠征に行く第六駆逐艦の皆様の見送り

 

 

榛名さんが大丈夫ではなかったので自室へ。風邪とのことで薬を比叡さんに預ける。

 

夕方

 

時雨さんと会話する。写真をもっていたとのこと。

 

一言

 

私は…まだ彼女を引きずっているのか……

 

最後に

本日も晴れ、鎮守府に異常なし




感想、評価、アドバイスよろしくお願いいたします。

どうでもいいかもしれませんが作者の艦娘ランキングは

1,天龍
2,最上
3,マイラブリーエンジェルぼのたん
4,ヒエーさん

天龍はないと言った作者の友は海の藻屑に……


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過去:一人の副隊長の話

今回は残酷な描写があります




$◇月○日

 

「作戦の概要を説明をする。今回は本土に迫ってきている深海から現れたunknownの攻撃から沿岸部の住民を避難させる作戦だ。現時点で避難はかなり遅れている。君たち530から540番隊は敵を海岸部で食い止めることが任務となる。危険で死ぬかもしれない。しかし、ここで我々が逃げ出せば多くの住民が、君たちの愛する人、家族…そして未来を作る子供たちが犠牲になる。我々は今までこの国を守るために訓練してきた。それは力無き者たちを守るためだ。海軍は先の作戦で壊滅状態だ。彼らの最後の通信、『敵は海の底からやって来た。言葉も通じない。人の形をしたもの達ではない。彼らから本土を守ってくれ』という言葉を心に刻み作戦を遂行してほしい。では諸君。作戦開始だ」

 

おお!という声と共に2000人近い陸軍が行動を開始する。私は532番隊の隊長と仲間たちと共に指令本部から出て輸送トラックへと向かう。ここの支部だけでない。日本各地の支部で我々以外の陸軍が行動を開始した。

 

私は隊長及び部隊を合わせ200人の部隊の副隊長としてこの作戦に参加した。輸送トラックに乗り込み作戦地域へと向かう。トラックが発進しピリピリした雰囲気の中、一人の隊員が私に話しかけてきた。

 

「副隊長……俺死ぬんですかね?」

 

一番若い隊員が体を震えさせながら尋ねてくる。彼は一年前に結婚したばかりで、子供は今年一歳になる娘さんがいる。この作戦に参加したのも避難地域に家族がいるからだ。それでも愛する家族を置いて死んでしまうのではと思ったのだろう。私はただ………彼に大丈夫だと、作戦は成功し誰も死ぬことはないと言うことしかできなかった。不安が紛れたのか彼は大丈夫、生きて帰るんだと到着するまで自分に言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

トラックに揺られて一時間ほどで作戦が開始される沿岸部に到着。塹壕や指令テントなどが建てられ、戦車部隊も配備されていた。何時もなら活気に溢れた漁師達がいる町も今は避難中で民間人の不安の声しか聞こえない。

 

「副隊長。後一時間ほどで敵が姿を見せる。それまでに各自銃の点検及び作戦の確認をさせろ」

 

この部隊の隊長が私にそう指示をした。彼にも今年7歳の息子とお腹の中に新しい命を宿した奥方がいる。今日が出産予定なのだがこの作戦地域に家族がいるためこの作戦に参加している。わかりましたと返事をし、部隊に指示を出す。その間隊長は水平線を眺めていた。私は自分の銃や装備の点検、隊員とどう敵と対応をするかを話しながら過ごしていた。

 

 

 

 

 

「敵見えないですね」

 

予想時刻になっても現れない敵に各隊員は動揺していた。違う進路をとったのでは?各々がそう言っていた。進路を変えてどこか違うところに行ってしまえと私自身も考えていた。私にも守るべき――――が……彼女が死ななければそれだけでよかった。避難はまだ半分と言ったところだ。あと30分。このまま現れず避難が完了してくれればいい。そう考える。

 

 

だが

 

 

 

現実はそううまくいかないものだった。

 

 

突然の爆音。

 

揺れる大地。

 

飛び交う怒号。

 

悲鳴。

 

吹き飛ぶ人の一部と思われる赤い塊。

 

先程まで話していた隊員を見ると上半身に無数の破片が突き刺さり事切れていた。

 

「敵の砲撃だ!」

 

誰が叫んだか分からない。

「撃ち方始め!」

 

 

沿岸部から戦車の砲撃を開始。

 

 

敵の攻撃は凄まじく砲撃が雨のように降り注ぐ。

 

 

塹壕も吹き飛ぶ。

 

 

血に染められていく海岸。

 

 

どれくらい経ったのか分からない。短時間だったのか、それとも長時間砲撃に晒されたのか、私には分からなかった。圧倒的な攻撃に晒された私達の心はいとも簡単にへし折られたのだ。敵の砲撃が止み静かになる。私は何とか部隊を点呼する。我々の523部隊には200人の人間が居たが今では半数になっていた。隊長とは連絡が取れず、戦車部隊は全滅。他の530,533 ,537の部隊は壊滅。他の部隊は何とか被害をまぬがれていた。私は通信兵に現段階でどれ程の住民に被害が出たかの確認をした。避難中の民間人にも被害が出たらしい。これが我々を滅ぼそうとするunknownの力なのか。私は手が震えていた何もできない。そう心で思ってしまった。

 

ふと水平線を見ると無数の敵が近づいていた。人の形をしたものではない。異形の者達。鯨のような体に大きな口から大きな砲を出し近づいてくる。上陸するつもりなのだろう。

 

逃げてしまえ。

 

そう思ってしまう。

 

しかし、出撃前に震えていた部隊の若い隊員が私に近づいてきた。

 

「副隊長!指示を!我々がここで負けてはいけません!我々の背後には守るべき命があります!」

 

 

 

 

 

 

『死なないでね……私がおばあちゃんになっても守ってくれるんでしょ?お腹の子供の名前も決めてるんだから』

 

 

 

 

 

 

そうだ。ここで諦めてはならない。

 

私は部隊に攻撃の指示を出す。隊長がいない間は私が指示を出す。陸軍の誇りを胸に一歩も引くな。戦い、勝ち、愛する者の元へ帰ろう!そう部隊に言い我々は戦闘を開始した。

 

 

 

住民の避難が完了するまでの時間30分。人生で一番長く、そして絶望した時間が始まったのだ。

 

 




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過去:一人の副隊長の話

暗い内容
駄文ですがよろしくお願いします


「いやだあああああ」

 

「くそったれ!」

 

「あ、足が俺の足が」

 

「ダメだ!攻撃がほとんど効いてないぞ!」

 

「衛生兵!早くしろ!」

 

「あ………あ……」

 

「おい!田中!返事しろ!」

 

我々が攻撃を開始してから10分。状況は変わらずただ圧倒的な敵の砲撃により蹂躙されるだけだった。だが、そこから誰一人逃げることはなかった。背後には我々の守るべきものがある。ただそれだけが我々が敵に立ち向かう理由だった。

 

「隊長!534番隊との通信が取れません!」

 

「このままでは我々は…… 」

 

「本部より緊急入電!『新タナ、unknown確認サレタシ』とのことです!」

 

「敵の増援なのかよ!ふざけんな!」

 

本部より入った連絡では新たな反応が沖より現れたとのことだった。そして、こちらに高速で接近している。

 

「副隊長!部隊の70%喪失!壊滅状態です!540,539全滅とのことです!」

 

「あいつらのせいだ!あいつらさえ現れなければ!」

 

「バカよせ!敵の砲撃に晒されるぞ!」

 

周りの制止の声も虚しく一人の部隊員が敵に向かい乱射する。落ち着け!と声をかけるも私の声はもう彼の耳には届かない。奇声を上げ、泣きながら敵に発砲する。まともな状態ではない。

 

「伏せろぉ!」

 

次の瞬間我々のいたところの近くに敵の砲撃が着弾。私は吹き飛ばされ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふくたい………!」

 

 

「………いちょう!」

 

目を覚ますと若い隊員が血だらけになりながら声をかけてきていた。何分間気を失っていたのだろう。体を起こし辺りを見渡す。まだ、戦いは続いてはいるが周りの銃声が少なくなっているのはわかる。

 

「先程の砲撃で我々の部隊はあと5人です。前線本部が吹き飛ばされました。本部との連絡も……」

 

もう終わりだ。そう理解した。どれだけ頑張っても、足掻いても、立ち向かっても……

 

「12時の方向!敵あり!」

 

そちらを向くと我々に砲身を向けているunknown。

 

 

 

あぁ………終わりか……彼女に最後に会いたかった…まだ彼女にお礼も言っていない。このまま終わってしまうのか。

 

 

目を閉じ敵の攻撃が来るのを待ちかまえる。爆音が響く。獣のような叫び声が聞こえて目を開ける。青い血を吹き出させながら沈んでいくunknown。なにが起こったのか理解できずにいるいる我々の耳に若い女性の声が聞こえてきた。

 

「よし、この長門に続け!」

 

背中に砲門を背負った女性。

 

「おらおら!怖くて声も出ないか」

 

「全砲門!fire!」

 

「吹雪がやっつけちゃうんだから!」

 

海の上を走り、敵を殲滅していく少女達。我々はその光景から目を離すことができなかった。

 

 

 

20分後。すべての敵を殲滅した少女達。そして一人の女性がこちらに近づいてきた。

 

「貴方がここの指揮官か?」

 

「部隊長は行方不明です。私は532部隊の副隊長です。今回は我々を助けていただきありがとうございました」

 

頭を下げてる私に頭を上げろと言う。そして彼女たちが何者であるかを聞くと驚きの返事が返ってきた。

 

「戦艦長門だ」

 

我が耳を疑った。長門は第二次世界大戦で日本が作り出した戦艦の名前である。詳しく話を聞いていくと彼女達は艦娘と言うらしい。詳しい話を彼女が言っていたが私は戦闘の疲れや目の前で起きた奇跡で頭が追いつかずこのときの話はほとんど覚えていない。ただ一つ分かったことがあるとすれば、彼女たちは我々の味方であるという事だ。

それから一時間が経ち本部から増援が送られてきた。ともに戦った艦娘に銃を向けたときは前線にいた生き残りが割って入り助けてくれた経緯を説明。しかし、いきなり現れあのunknown『深海棲艦』を殲滅する力を持っている彼女たちは危険だと判断され、武装を解除した後本部に連れて行かれた。我々はその後病院へと送られ、精密検査を受けたり、後始末に追われた。我々の作戦地域での参加者2000人の内生き残ったのは120人。隊長は最初の攻撃で戦死したと伝えられた。他の作戦地域では我々の所よりも早く艦娘が到着しており、被害は我々よりなかったそうだ。それでも受けた被害は大きく今回の作戦の死者は7000人行方不明は1500人にも及んだ。市民の被害は3000人。艦娘達が居なかったら恐らく本土は壊滅していただろう。私は彼女が心配だったが今は自分の仕事をしなければならない。その後始末の最中だった。私に悪夢のような電話が掛かってきたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横山絵里さんの旦那様の横山明弘様ですか?」

 

ーーーーーはい。そうですが

 

「今から病院に来ることは可能ですか。」

 

ーーーーー何かあったんですか?

 

「落ち着いて聞いてください明弘さん。奥様の絵里さんが先の戦闘に巻き込まれました」

 

ーーーーど、どういうことですか!妻は無事なんですか?

 

「深海棲艦の砲撃により建物が倒壊し

 

 

 

倒れてくる瓦礫の付近に居た少女を

 

 

 

絵里さんが身代わりになるように突き飛ばし

 

 

少女の代わりに下敷きになりました。    

 

 

 

先ほど救助され緊急搬送されてきました。

 

 

我々もできる限りのことはしましたが

 

 

残念ですが

 

 

お腹の子供も一緒に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほど亡くなられました」

 

 

 

 

 

私はその場から動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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過去:一人の○○さんの話

これにて過去編おわりどす!


降りしきる雨。その中を傘をさすこともなく歩く一人の男。目は虚ろになりフラフラと歩く。行き先などない。どこに向かっているのかも分からず足を動かしていた。

 

「……どうして」

 

ぽつりと呟く言葉は悲しみと悔しさを含んでいた。

 

「………どうして」

 

怒り。己に対しての怒りだった。

 

「どうして側にいてやれなかった!」

 

自分を愛してくれていた彼女。微笑みかけてくれた彼女。一人だった自分に温もりを与えてくれた彼女。病室のベッドの上には冷たくなり、話すことも、抱き締めてくれることも出来ない彼女が横たわっていた。何度呼びかけても、何度彼女の手を握っても、何度頭を撫でても…

以前のように微笑み返してきたり、抱き締めてくれたり、顔を赤くして照れることもなかった。まるで人形のようだった。

 

「神よ………どうして……あんまりではないですか!」

 

雨が降る空に向かって叫ぶ。彼は自身の怒りをどこにぶつけたらいいのか分からなかった。

 

彼女とお腹の子供のために戦った。

 

三人で過ごすことさえできればよかった。

 

結婚記念日には花とケーキを買う予定だった。

 

幼稚園、小学校、中学、高校、大学と成長していく子供を彼女と二人で見守ってやりたかった。

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

残されたのは彼、横山明弘ひとりだった。

 

 

 

 

一ヶ月が過ぎ大きく世の中、そして世界が変わった。まずは艦娘との共同戦線。そしてunknownとされてきた物は『深海悽艦』と呼ばれ人類共通の敵となった。そして、新たに設置された『鎮守府』と呼ばれる施設。艦娘と彼女たちを指揮する『提督』の配備。初代鎮守府には本田雅史海軍大将が就いていた。破壊された町の復興も始まり、傷だらけではあるが日本はゆっくりと元の静けさを取り戻していった。しかし、彼にとってはそんなことはどうでもよかった。彼女が居ない生活。葬式では何を話したのか、何をしたのかも覚えていない。ただ、火葬場へ運ばれていく彼女と子供を見ているだけだった。

結婚をしてたった一年。今年21になる彼は新しく三人で住む予定だった家で一人過ごしていた。

 

「絵里………君の言った通りだ。少し広すぎるな…この家は」

 

結婚した後に買うことにした家。彼女は広すぎるよと何度も彼に言っていたが、彼は広いくらいがいいんじゃないのか?子供も増えるだろうしね。と言い彼女のお腹を撫でたのを昨日のことのように思い出す。やるせなくなり彼は前線に行くときに持っていっていた荷物の片付けを始めた。

 

「…………なんだこれは?」

 

ふと荷物の中に布の袋があり中を確認すると手作り感満載のお守りと手紙が入っていた。

 

『明弘くんへ

恥ずかしくて直接渡せなかったけどお守り!下手くそだけど頑張って作りました!これがあれば明弘くんはきっと生きて帰ってくると信じています!私を一生守ってくれると言ってプロポーズしてくれたんだから絶対に帰ってきてね!明弘くんは皆を守ってくれるヒーローだから元気に帰ってきて平和になってから町の皆やお腹の子供を守ってね!明弘くんの誰かを守ろうとしている姿が大好きだよ!でも守ってばかりの明弘くんがこれから先辛いこととか悲しいことがあったら私が守ってあげる!だから絶対に死なないでね。約束だよ。 絵里より』

 

手紙にポタポタと溢れる涙。お守りを握りしめ泣く。

 

「許してくれ………守れなかった……側にいてやれなかった……痛かっだろ…怖かっただろ……」

 

言葉にしても届かないと分かっていても彼にはそう言葉にするしかなかった。

 

 

 

 

7年の歳月が流れる。

 

陸軍施設のグラウンドには緑の服と帽子。腰にはサーベルと拳銃を下げ、鋭い目付きで列を作る男達。

 

「おはよう諸君!君たちはこれから世界海軍連合の鎮守府に配属されることになる」

 

陸軍大将の男が話を始めた。

 

 

「一年前にとある鎮守府において提督が艦娘に対して肉体関係を強要。その艦娘は姉妹艦を人質にされ仕方なく従い性欲の捌け口とされ追い詰められ自ら命を絶った!」

 

殺気に包まれるグラウンド。日本を脅威から守ってくれている艦娘を自殺に追い込んだことに対しての怒り。

 

「一ヶ月前には、休みを与えられず酷使され命を散らした艦娘がいた」

 

ここにいる緑の服の男達の殆どが先の本土防衛作戦の生き残りである。

 

「こんなことが許されていいのか?!我々を死地から救いだしてくれた彼女達をこのままにして!?だから我々がここにいる!3年間苦しい訓練を乗り越えた君達に私から言うことは一つだ!

 

 

艦娘を守れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたに従えば熊野には手を出さないのね?」

 

「あぁ…君が私の言うことを聞けばだがな?」

 

執務室で向かい合う男女。一人は白い服に身を包んだ提督。もう一人は重巡洋艦の鈴谷。

 

「まずは服を脱いでもらおうかな?」

 

「………」

 

睨み付けながら服のボタンを外していく。それをニヤニヤしながら見ている提督。

 

「脱いだよ」

 

「反抗的な目付きだな?」

 

そう言って鈴谷の頬をビンタする。

反抗すれば熊野が危険な目に遭う。そう思い歯を食い縛りながら我慢する鈴谷。握りしめられた手は爪が食い込み血が流れていた。

 

「まぁ、いいさ。さて楽しませて貰おうかな」

 

そう言い自身のズボンを脱ぎ、彼女に近づいていく。

体を許すなら好きな人にしたかったなと考え目をつぶる鈴谷。するとドアが勢いよく開けられ一人の男が入ってきた。

 

「な、なんだ!」

 

「艦娘保護法第10条。艦娘に対し同意もなしに肉体関係を強要する事を禁ず。これに違反した場合提督の地位を剥奪。連行させてもらいます」

 

殺さんとばかりの目で提督を睨む。男は自身の緑の軍服を鈴谷に着せ、もう大丈夫ですよと優しく声をかけた。

 

「誰なんだ貴様は!」

 

「本日より各鎮守府に配属されることになりました。日本陸軍特別組織憲兵隊です」

 

鈴谷を背に隠すようにして立ちはだかる男。

 

皆を守る姿が好きだと言ってくれた彼女と生まれてくるはずだった子供に恥じないように生きていくと決意した。

 

「初めまして提督。憲兵です」

 

一人の憲兵さんのお話。

 

 

 

 

 

 




次回からはほのぼのに戻ります

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十二日目

7月○日

 

朝 10時 鎮守府広場

 

「笹を用意しました」

 

「ありがとうございます!」

 

広場には3メートルほどの笹が10本用意されていた。今日は七夕と言うことで短冊と笹を憲兵と叢雲、吹雪、長門が用意した。憲兵は1本、叢雲と吹雪が2本ずつ、そして長門が5本運んできた。流石は戦艦。軽々と笹を持ち上げる様に憲兵は感嘆した。

 

「じゃあみんな!短冊に願い事書いていこう!」

 

提督の一声により艦娘達は短冊に願い事を書いていく。

憲兵は一人鎮守府の門へと向かおうと足を進めているとふと後ろから服の袖を掴まれた。後ろを向くとそこには響がじーっと見ていた。

 

「何でしょうか?」

 

「憲兵は書かないのかい?」

 

「私には願い事など……」

 

「………………」

 

響が無言で憲兵に短冊と筆を渡す。断ろうとも考えたがせっかく響がこうして渡しに来てくれたのだ。断るのも気が引ける。そう考え艦娘の輪の中へと響に連れていかれた。

 

 

「蒼龍?願い事書いた?」

 

「う、うん。書いたよ」

 

飛龍が短冊に蒼龍が何を書いたのかが気になり見せてよと言うが、蒼龍は絶対に嫌と言って渡そうとしない。まぁ、予想はできてるけどねとニヤニヤしながら蒼龍に言う。蒼龍はえっ?と疑問符を浮かべていた。

 

「憲兵さんと仲良くなりたいとか、付き合いたいとかそんなんでしょ?」

 

「ち、ち、ち、違うもん!」

 

顔を真っ赤にしながら否定する蒼龍。そこへ赤城がやって来た。

 

「私も憲兵さんのこと書いたわよ?」

 

ニコニコしながらそう赤城が言い短冊を見せる。

 

『憲兵さんから沢山お菓子が貰えますように』

 

その願い事を見て苦笑する二人。すると加賀も私も書きましたと見せてくる。

 

『憲兵さんの手料理をたべたいです』

 

どうしてこの二人はこうまで食べ物関連なのか。

 

「加賀さん。憲兵って料理作れるの?」

 

瑞鶴の疑問は憲兵が料理を作れるのかと言うところにあった。

 

「えぇ、ある程度の料理はできるらしいわ。それに美味しいのよ」

 

加賀曰く、母の日に鳳翔と間宮へ憲兵が料理を披露する機会があり、かなりのものだったらしい。

 

「でも…憲兵さんのカレーは比叡さんと同じですごく甘いんですよね」

 

翔鶴がカレーの味を思い出しながら笑う。憲兵と比叡がつくるカレーは甘く、駆逐艦や長門には評判だがそれ以外の艦娘からは不評なのだ。不味くはないらしいが。

 

「へぇ~食べてみたいなぁ」

 

瑞鶴、飛龍は最近ここに来たばかりなので憲兵の食べたことがないため二人は短冊に加賀と同じ願い事を書くことにした。

 

 

「ふんふーん」

 

「鈴谷はなに書いた……」

 

上機嫌に笹へ短冊を付けていた鈴谷に何を願い事で書いたのか気になり声を掛けた最上。目にしたのは鈴谷の短冊にびっしりと書かれた願い事。

 

『憲兵さんとラブラブになって結婚して、朝起こしてあげて―――――――』

 

「多いよ!」

 

「だってぇ~」

 

両手を頬にあてやんやんとする鈴谷。

 

「あんまり書きすぎるとお願いがかなわないよ?」

 

「えぇ~」

 

仕方ないかぁと言いながら短冊を取り外し新たな短冊に願い事を書く。

 

「これなら!」

 

『憲兵さんが今晩私の部屋に来て「いわせないよ?!」』

 

若干最上のキャラがぶれていた。こうしてあーでもないこーでもないと二人で騒ぎながら願い事を考えるのだった。

 

 

 

「むむむ」

 

「長門はなに書いたの?」

 

唸る長門に声をかける姉妹艦の陸奥。長門は陸奥に恐る恐る短冊の願い事を見せる。

 

『ヲ級ちゃんとイ級ちゃんと仲良くしたい』

 

「あぁ…無理だと思うわよ」

 

「何故だ!」

 

「だってヲ級ちゃんが皆に改めて紹介されたとき貴方抱き締めすぎて大破させちゃったじゃない」

 

「し、仕方ないだろう!?可愛かったんだから」

 

その事件があってからヲ級は長門を見ると一目散に憲兵の背後へと隠れるようになり、イ級たちは長門へ体当りをするようになった。体当りは痛くはないが長門の心は大破していた。

 

「まぁ、いいんじゃないかしら」

 

「う、うるさい!」

 

 

その頃憲兵は自身の短冊を笹に着けたあと、背の低い駆逐艦達の短冊を笹に結んであげていた。様々な願い事を書いている子達。

 

「私はレディーだから自分でつけるわよ!」

 

「憲兵さんに頼んだほうがいいわよ!私が頼んできてあげる!」

 

「いいの!大人は自分の力でつけるんだから!」

 

言い合いをする駆逐艦二人。それを響と電が止めようとしていた。憲兵はゆっくりと近づき目線を会わせるためにしゃがむ。

 

「暁さん。私が着けます」

 

「だ、大丈夫だもん!」

 

「人に頼らないのが大人ではありません。一人では無理なときに誰かに頼るのが大人ですよ」

 

「そうなの?」

 

「えぇ…だからお手伝いしますよ」

 

優しく暁に諭し短冊を受けとり笹へと結び付ける。

 

「あ、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

「ヲ!」

 

後ろから短冊を渡してくるヲ級。憲兵は受け取り短冊に何が書かれているかが気になり見てみる。

 

『$=#<+#(*―#<=+%』

 

よく分からないが願い事なのだろう。憲兵は笹に結んで付ける。

 

沢山の願い事が書かれた短冊の風に揺られる様はとても綺麗であった。

 

 

 

 

 

 

本日の出来事

 

今日は七夕なので笹を用意。皆さん楽しそうにしておられました。

 

一言

 

皆さんの笑顔がこれからも絶えないことを祈ります。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風に揺られる1つの短冊。書かれているのは

 

 

 

『君に会いたい』

 

 




お気に入りが凄いことに………

ありがとう!そしてありがとう!(某ヒーロー感)

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十三日目

8月%日

 

朝 10時 鎮守府中庭

 

本格的に夏に入り太陽が照りつける中、中庭では作物に水をやったり、収穫する憲兵。春先に植えたキュウリやトマト、茄子などの夏野菜が見事に実をつけていた。そして近くのベンチで作業を見つめる榛名と曙。憲兵は額から汗を流しながらえっさほいさと作業を進めていく。半分の作業が終わり休憩に入る憲兵の元へ榛名は駆け寄り飲み物を渡す。ありがとうございますと言い飲み物を受けとる。よく冷えた麦茶が喉の乾きを潤し、先程までの疲労感が和らいでいく。

 

「暑い中よくやるわね」

 

「えぇ、野菜は栄養価が高いものが多いので皆さんに味わってもらおうと」

 

「ふーん……あ、トマト」

 

曙の表情が変わる。曙はトマトが大の苦手らしい。榛名からその話を聞く憲兵。すると憲兵は収穫したトマトから2つ取り上げそれを冷水で綺麗に洗う。そしてそれを曙と榛名へ渡す。

 

「食べてみてください」

 

「え……」

 

「いいんですか?」

 

「他の人には内緒ですよ」

 

手渡されたトマトを見つめる曙。榛名はいただきますと手渡されたトマトを食べる。

 

「甘くて美味しいです!」

 

「え」

 

「ほら、曙ちゃんも食べてみてください!美味しいですよ」

 

そう言ってトマトを食べ進める榛名。それを見た曙は恐る恐るトマトにかじりつく。

 

「あ、美味しい」

 

いつも食べている市販の物とは違う甘さ。曙は無意識に笑顔になりながらトマトを食べ続ける。それを憲兵は微かではあるが微笑みながら見ていた。トマトを食べ終わりふぅと息をつく曙。そして

 

「ま、まぁいいんじゃない?美味しいわよ」

 

そっぽを向きながらそうトマトの感想を述べる彼女に憲兵と榛名は顔を見合わせて微笑むのであった。

 

 

 

昼 13時 鎮守府埠頭

 

昼食を済ませた憲兵は埠頭に来ていた。理由は勿論煙草を吸うためである。最近は提督に体に悪いからともう1つの理由で吸わせてもらえなかった。しかし、今日は門の警備をしているときに近所のおじいさんから一本煙草を譲り受けたので楽しみにしていた。

 

「…………」

 

火をつけて煙を肺に満たす。特に美味しいわけではない。しかし、この煙草を吸っている時間だけはなにも考えなくて済む。煙を吐き出しホッとする憲兵だったが

 

「あ、憲兵さん!」

 

あぁ、見つかってしまった。そう心で愚痴る憲兵。手を振りながら近づいてくる提督。煙草を吸っているのはバレていない。憲兵は速やかに煙草の火を消し携帯灰皿へ捨てる。そして提督に向き直りお疲れ様ですと頭を下げる。

 

「ん?………」

 

近づきクンクンと憲兵の臭いを嗅ぐ提督。憲兵冷や汗を流しながら硬直する。この場面を他の憲兵隊に見られたら即に連行される。憲兵は煙草以前にそちらの方が気になり固まる。そんな憲兵の心配など露知らず提督は憲兵の服を嗅ぐ。

 

「煙草の臭いがします」

 

「………すいません」

 

「煙草は肺癌の原因になるからやめないと!天龍ちゃんが俺も吸いたい!って駄々こねてるんですよ!」

 

憲兵は出来るだけ艦娘や提督の目に入らないように煙草をたしなんでいたが、運悪く天龍が煙草を吸っている憲兵を目撃し俺も吸いたい!と言い出したのだ。理由はかっこいいだろ?と言っていたらしい。それもあり提督は憲兵に煙草はだめ!と禁止令を出したのだ。

 

「し、しかし、煙草は私にとっても大切な物の一つであり害しかないわけでは!」

 

「だーめ!」

 

むぅと頬を膨らます提督。憲兵は勝てないと察知し渋々禁煙をすることになるのであった。

 

 

夜 21時 憲兵寮廊下

 

晩御飯を提督と第六駆逐艦達と食べ、仕事を終わらし今日は早めに眠りにつけると思い軽い足取りで自室へと向かっていた。読みかけの小説でも読もうかと考え部屋の扉を開く。

 

「お帰り!鈴谷にする?鈴谷?それとも鈴谷?」

 

そう言って部屋から飛び出し胸に飛び込んできたのは鈴谷だった。突然のことに困惑した表情になる憲兵。最近胃薬を飲む事が多いのは年齢だけではないのかもしれない。

 

「鈴谷さん。離れましょう」

 

「やだ!」

 

すりすりと鈴谷は憲兵に頬擦りをするが、憲兵の精神はガリガリと削られていた。このままではまずいと考えた憲兵は鈴谷を抱き上げ艦娘寮へと向かう。

 

「自分の部屋で寝ましょう」

 

「えー!一緒に寝ようよー」

 

「勘弁してください」

 

 

 

 

 

鈴谷を部屋に戻し、再び自分の部屋へと戻ってきた憲兵。自室の扉を開けてようやく一息つく。憲兵は服を着替え本を手にベッドに腰かける。手に持っている本のページを開き読み進める。本の内容は一人の戦闘機パイロットの話である。主人公のパイロットは戦争で焼かれた家族の敵討ちの為に敵国と戦いながら、もがき、苦しみ、最終的には自身の命と引き換えに敵討ちを果たす内容である。憲兵はこの本の作者が好きで作者の本をすべて揃えている。

 

「……敵討ち」

 

憲兵が読んでいるページには、主人公の村を焼き払い、富と名声を手に入れた男が主人公に撃ち殺された場面だ。

 

「………」

 

もし自分が仇討ちに燃え、このような殺人マシーンになったら彼女は何と思うのだろうか。仇討ちを終え彼女のもとへ行った時に彼女は何と言ってくれるのだろうか。恐らく拒絶されるだろう。何より人を傷つける事が嫌いだった彼女は仇討ちなど。思考に更ける憲兵。

 

「ヲ!」

 

いつのまにか部屋へ侵入していたヲ級。憲兵の背中に飛び付き読んでいる本を覗き込んでいる。憲兵は優しくヲ級の頭を撫で少し待っていてくださいと言い、持っている本を仕舞い、新しい本を取り出した。憲兵はベッドに座り直し膝の上にヲ級を座らせ本を読み聞かせていくことにした。花と青い鳥が表紙に描かれている本。悲しくも優しい物語のこの本を憲兵はヲ級に読み聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

曙さんと榛名さんと中庭で育てていた作物の収穫。

 

 

禁煙をすることに

 

 

多少のトラブルがあったが問題なし

 

一言

 

『花と青い鳥と少女の物語』は何度読んでもいいものだ。この作者の他の本を今度探してみようと思う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし




お、お気に入りが凄いことに

ありがとうございます!

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十四日目

就活の荒波に飲まれ大破する作者。

まだだ!まだ終らんよ!


8月(日

 

朝 10時 洋服店

 

どうして私はここに居るのだろう。憲兵は頭の中でそう愚痴る。いつものように朝から警備をしていた彼に声をかけてきたのは駆逐艦如月だった。おはようございますと挨拶をし、少しばかり彼女と話をしていた。すると来週に海水浴のために海に行くと提督が言い出したらしく水着を買いに行くために外出すると。そしたらあれよあれよと同行することになりどの水着が似合っているかと憲兵に見てもらいたいと言い出したのだ。

 

「うふふ、どう?似合ってる?」

 

試着室から出てきた如月が身に付けていた水着はピンクのビキニだった。憲兵は無表情で似合ってますと言いうが如月は不服だったらしく他のも見てほしいからそのまま待っていてほしいと言いまた試着室に籠ってしまった。彼女が着替えている間は女性ばかりのこのエリアで一人で居なければならない。精神的にもキツいが如月を一人にするわけにもいかないので待つことにする。

 

「あれ?憲兵さん?」

 

そこへやって来たのは綺麗な黒髪と白い肌。大和撫子を体現したかのような容姿の女性、戦艦扶桑、山城姉妹だった。

 

「お疲れ様です」

 

「どうしてこんなところにいるんですか?」

 

「実は…」

 

ここに来た経緯を説明する。山城はふーんと興味がなさそうにしており扶桑はあらあらと微笑んでいた。3人で話をしていると試着室から如月が出てきた。大胆な黒のビキニを身に纏い自信満々である。

 

「どうですか憲兵さん……扶桑さん?山城さん?」

 

今度は黒いビキニを着て出てきた如月は扶桑と山城が居ることに驚きと恥ずかしさにより思考が停止していた。

 

「少しはりきりすぎじゃないかしら?」

 

「そうね。如月ちゃんはもう少し押さえ目のほうが良いような気がするわね。そうよね?憲兵さん?」

 

「そうですね………先程のピンクの水着の方が似合ってました」

 

その憲兵の言葉を聞き、さっきの方が似合ってたのねわかったわと少し上機嫌で試着室へと戻っていった。憲兵が良いと言ったピンクの水着を買いその後四人で近くのお店で昼食を済まして鎮守府へと戻っていくのであった。

 

 

昼 15時 鎮守府 甘味処『間宮』

 

間宮から新しい羊羮を作ったから試食してほしいと言われた憲兵はその時一緒に居た時雨、夕立、吹雪、暁、朝潮を引き連れて間宮の元へ訪れた。艦娘達は憲兵がご馳走しますと言い好きなものを頼んでくださいと言われそれぞれメニューとにらめっこしていた。しかし、朝潮だけご馳走になるわけにはと渋っていた。彼女の性格上真面目な為に憲兵に申し訳ないと考えているのだろう。

 

「わたしは自分のお金がありますから大丈夫です!」

 

「でもせっかく憲兵さんがご馳走してくれるって言ってるんだよ?」

 

吹雪が朝潮にそう言うがやはり首を縦に振らない。

 

「ならこの前のお礼と言うのでは駄目でしょうか?私の顔をたてると思って」

 

以前憲兵が資料を運んでいるときに手伝いますと言い手伝ってくれた朝潮へのお礼と言うことで朝潮は渋々ながらもご馳走になることになった。

それぞれが注文し程なくして注文した品が運ばれてきた。駆逐艦組は間宮さんスペシャルパフェを頼み、憲兵さんは緑茶と間宮さんが食べてみてほしいと頼んでいた羊羮だった。いただきます!と元気よく挨拶をし各々がパフェを頬張る。憲兵は羊羮を丁寧に切りそれを口へと運ぶ。

 

「………これは」

 

「どうでしょうか?」

 

いつの間にか側に居た間宮が憲兵に感想を尋ねる。憲兵はもう一切れ口へと運び味わう。口の中に広がる深い味わい。癖のない甘さ。

 

「蜂蜜でしょうか?」

 

「正解です」

 

ふふふと微笑みながら憲兵さんは何でも解るんですねと言う間宮。とても美味しいですと感想をのべる憲兵だったがふと視線に気がつきその先を見る。視線の主は隣の夕立だった。よだれを垂らし、目をキラキラさせながら憲兵の羊羮を見ている。すでに間宮さんスペシャルパフェは空になっており憲兵の羊羮を狙っているのだろう。

 

「………一口食べますか?」

 

「っ!ぽい!」

 

耳のような毛がパタパタと動き喜びを表現する夕立。憲兵は一切れを夕立に食べさせる。夕立はぽい~と味わって食べていた。ふと憲兵は自然と食べさせた自身の行動に疑問を抱く。以前なら自ら食べさせるなどあり得なかった。

 

「憲兵さん!もう一口ほしいっぽい!」

 

あーんと口を開ける夕立。憲兵は自身の変化に戸惑いながらも夕立に食べさせていた。

 

「夕立ちゃんだけずるいです!私も食べてみたいです!」

 

そう言って憲兵の向かいに座っていた吹雪があーんと口を開けた。ぼ、ぼくも食べてみたいかなと時雨。れ、レディーとして味見は大切よねと暁。わ、わたしも食べます!と朝潮と次々と憲兵に食べさせてもらおうとせがむ駆逐艦一同。憲兵はその後一人一人に一口ずつ食べさせていくことになった。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

如月さんと水着を買いにいく。店で扶桑さん、山城さんと会い、帰りに食事をする

 

 

吹雪さんたちと甘味処へ。精神的に疲れる。

 

一言

この鎮守府に配属されもう二年も経ってしまった。ここの鎮守府は本当に良いところだ。私なんぞを受け入れてくれる。私に居場所を与えてくれる。

 

 

 

私はこの場所にいていいのか?

 

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 

 




感想、アドバイス、評価よろしくお願いいたします。

あと、4月の神戸でのイベントに出ることになりました。詳細はまた活動報告に載せます。


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旅行 出発

遅くなりました。




8月◇€日

 

朝 7時 鎮守府門前

 

「憲兵さんは私の隣!」

 

「私の隣になるんです!」

 

「ぽい~」

 

「鈴谷、おちついて!」

 

「勘弁してください」

 

ぐいぐいと憲兵の手を引っ張る鈴谷と大和。夕立は大和、最上は鈴谷を止めようとしていた。今日は海へ行く日で3泊4日の旅行になり、大本営からの許可も貰い全艦娘が行けるのだが、憲兵が移動中のバスでどこに座るかで争っていた。

 

「埒が空かないわね」

 

「蒼龍参加しなくていいの?」

 

「あうぅ………」

 

傍観していた瑞鶴はからからと笑い。飛龍は蒼龍の背中を押していた。

 

「出発の時間まであと少しなのに………」

 

ここはグッと我慢した提督。今すぐ憲兵に飛び付きたい衝動を抑え何とか統率をとる。流石は飛び級で卒業しただけのことはある。やるときはやる提督なのだ。その提督の姿を見てうっとりする金剛。そして憲兵さんは補助席に座ってもらうことにし、補助席の番号が書かれたくじを引いて決める。真ん中の席になるので二人の艦娘に挟まれる形になる。

 

「では憲兵さんどうぞ!」

 

そう言ってくじを差し出してきた提督。憲兵は早く決めなければと思いさっとくじを引いた。

 

「五番五番!」

 

鈴谷が祈るように手を合わせる。そして憲兵の口から番号が発表された。

 

「三番ですね」

 

「ええええええ!」

 

残念そうに肩を落とす鈴谷。隣になった両名はというと

 

「よかったね榛名!」

 

「は、榛名はだだだいじょうぶでふ!」

 

比叡が声をかけるが大丈夫ではなかった。

 

「おぉ!よかったじゃん蒼龍!」

 

「あわわわわ」

 

ニヤニヤする飛龍。顔が真っ赤になった蒼龍だった。

 

 

今回は40人バスを2台呼びそれに乗り込む。憲兵は最後に鎮守府の戸締まりを妖精さんたちと確認し乗り込んだ。

 

「では、失礼します」

 

そう言い席に座る憲兵。

 

「は、はひ!」

 

「榛名は大丈夫です!」

 

すると憲兵が座ると同時に膝の上にシュノーケルと浮き輪を装備したヲ級とイ級ブラザーズが乗る。

 

「ヲ!ヲ!ヲヲン!」

 

「キュー!」

 

「ギュー!」

 

憲兵は優しく頭を撫でながら初めて、この鎮守府に来て初めてほんの一瞬だが笑ったのだ。

 

「……………?」

 

多数の視線を感じふと辺りを見渡すと車内の艦娘そして提督がポカンとした表情で見ていた。

 

「…………憲兵さんが笑った」

 

「え?」

 

無意識だったのだろう。指摘されて初めて微笑んでいたことを知らされた。提督は嬉しそうに微笑む。

 

「やっと笑ってくれましたね。ここに来てからずっとかなしそうな顔してましたから」

 

「憲兵さん笑うと可愛らしい顔するんですね」

 

近くにいた吹雪も微笑みながら憲兵を見ていた。

 

「…………少し寝ます」

 

「照れてる憲兵さんかわいい!」

 

指摘され恥ずかしくなった憲兵は帽子を深く被り直し顔を隠す。しかし、この恥ずかしさは嫌いではない。そう心で呟く憲兵だった。

 

 

「………憲兵さん」

 

隣ですやすやと寝息をたてる憲兵を見る榛名。お話ししようと考えていたが起こすのは可哀想だと思いただ見ることしかできない。でも肩が触れ合いそうな距離に憲兵さんがいる。そう思うと顔が熱くなるのがわかる。今考えれば憲兵さんには助けられっぱなしだなと榛名は思う。榛名は以前鈴谷と同じ鎮守府に居た。当時は提督に気に入られておらず体罰をよく受けていた。それにより榛名は精神的に参っていた時に、立ち直らせてくれたのが彼だった。はじめはとても怖かったが接していく内に外見は怖いが根は優しい人だと。そして何より毎日のようにカウンセリングや生活面でのサポートをしてくれる憲兵に思いを寄せるのには時間が掛からなかった。側に居てくれるだけで安心できる人。

 

そんなことを考えていた榛名に憲兵が寄りかかって来た。思考が停止する。隣に座っている比叡はおぉ~と声をあげており何人かの艦娘からの視線が榛名に突き刺さる。視線の中には提督も混じっていた。

 

少しの間だけ…今だけは彼を独り占めしたいと思う榛名であった。

 

 

憲兵は目覚めると同時に榛名に寄りかかっているのに気付き謝罪をする。榛名は大丈夫ですと微笑んでくれたのが救いであった。憲兵が目を覚ますと同時に何故かカラオケ大会が車内で開かれる。提督はノリノリで歌っており、金剛とデュエットしていた。隣に座っていた蒼龍が憲兵に歌わないですか?と聞いてきたのが彼の運のつきだった。多くの艦娘が聞きたいと言い出した。しかし、憲兵は渋っていたが多くの艦娘の気分を損ねるわけにはいかないと思い歌うことになってしまった。

 

「一曲だけです」

 

そして憲兵は歌い出した。

 

綺麗な声。日頃の憲兵からは考えられない声だった。歌の内容は亡くなった女性に想いを伝える歌。周りが忘れても自分は忘れない。季節がどれだけ過ぎようと君を忘れない。

記憶のなかに君を描く。それだけでもいい。悲しくそして優しい歌。

 

歌い終わり拍手に包まれる。すごい!歌がうまい!称賛の声が多く憲兵はほっとする。すると憲兵の膝の上で聞いていたヲ級だけが憲兵の頭を撫ではじめた。イ級ブラザーズも憲兵の足元で憲兵に体を寄せていた。

不思議に思った憲兵だが何故か『彼女』が側にいるように感じるのだった。

 

 




今回、憲兵さんに歌わせた歌。わかった人いるかな?

かなり古いです。

評価ありがとうございます!
それとお気に入りが増えていてとても嬉しいゾイ!

就活で投稿スピード落ちますがよろしくお願いいたします。


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旅行 パーキングエリア

遅くなりました




「憲兵さんこれどうぞ」

 

隣の蒼龍が某シェアしてハッピーなお菓子を差し出してくる。憲兵はありがとうございますと受けとる。蒼龍は憲兵の膝の上に座っているヲ級と足元のイ級ブラザーズにもお菓子を渡す。ヲ級は棒状のシェアハッピーなお菓子を嬉しそうにほうばる。シェアしてハッピーはおいしい。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、それにしてもヲ級ちゃんは憲兵さんに本当になついていますね」

 

蒼龍は憲兵の膝の上にいるヲ級の頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細めるヲ級。後ろからなんで私の時は逃げるのに!とビッグセブンが悔しがっている声が聞こえたが聞こえない振りをする。

 

「ねぇ憲兵さん」

 

蒼龍と話をしていると後ろの座席にいた赤城が顔を覗かせていた。

 

「何でしょうか?」

 

「お腹が空きました」

 

にっこりと微笑む赤城。憲兵はいそいそと鞄から何かを取り出した。そして赤城に取り出したものを渡す。

 

「おにぎりです。加賀さんと分けてください」

 

「中身は?」

 

「鮭です」

 

「気分が高揚します」

 

憲兵が作ったおにぎりを食べる一航戦の二人。それを見ていた提督。食べてみたいなぁと思う反面、台所に立つ憲兵を想像する。

 

『小雪…朝ごはんが出来てるよ』

 

『ほっぺたにごはんがついてるよ』

 

「最高じゃない!!!!」

 

「うお!びっくりした」

 

「なんだ!敵襲か!」

 

突然叫んだ提督に近くで窓の外をワクワクしながら見ていた天龍が驚き、寝ていた木曾も目を覚ました。

 

 

パーキングエリアに止まり少しの休憩を取る艦娘達。憲兵はトイレで用を足しバスに戻ろうとする。すると近くに喫煙スペースを見つけた。

 

 

気がつくと手には煙草を持っていた憲兵。私はいつの間に煙草を……と困惑する。しかし禁煙をしてから早2週間が経ち久しぶりに口にした煙草に少し涙が出る。煙草を堪能しているとふと視線を感じその方向を見ると夕立が見ていた。

 

「…………何がいいですか?」 

 

「紫芋ソフトクリームっぽい!」

 

交渉が成立した瞬間であった。

 

 

パーキングエリア ベンチ

 

「ぽい~」

 

「ねぇ、夕立。それ……全部」

 

「買ったの?」

 

「すごい量……」

 

沢山のお菓子やジュースが入った袋を足元に置きアイスを食べている夕立に疑問を抱く時雨、村雨、白露。憲兵はげっそりした顔で近くのテーブルにいた。アイスだけでなくお菓子やらジュースをねだられてかなりの出費になった。煙草を買うよりお金が飛んだとなれば迂闊に煙草は吸えない。

 

「お疲れさまです。憲兵さん」

 

声をかけられ顔を上げると微笑む練習巡洋艦鹿島がコーヒーの入った紙コップを差し出していた。

 

「これどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

受け取ったコーヒーを飲む。コーヒーの優しい甘さが口に広がるのが分かる。カフェオレなのだろう。すると今度はサンドイッチを差し出してくる鹿島。面倒見がいい彼女は以前の鎮守府から共に行動をする艦娘であり、憲兵としての仕事を始めてから艦娘に詳しい彼女に様々な事を教えてもらうことが多かった。異動してから1年経ったときに追いかけてくるかのようにこちらの鎮守府に着任したのだ。

 

「憲兵さん。ほっぺにケチャップが付いてます。じっとしててください」

 

「か、鹿島さん?」

 

ほっぺに付いていたケチャップを白い綺麗な指で拭き取りそのまま指を舐める鹿島。それを偶然見ていた暁があわわと顔を赤くしていた。

 

「……私は捕まりたくありません」

 

「大丈夫ですよ。憲兵さんは真面目ですから。それに………」

 

ずいと顔を近づけてくる鹿島に対し憲兵は後ろへのけ反る。

 

「私と憲兵さんの仲じゃないですか」

 

そう言って微笑む鹿島。ではまた後でとその場を後にする鹿島。憲兵は何時から彼女があそこまで変わったのかと頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

「ひううう」

 

憲兵が見えてないところで顔を真っ赤にして悶える鹿島。彼女自身かなりの恥ずかしがりやなので本来はあのような大胆な行動はしなかったのだが姉である香取から授かった『男を落とす~香取著~』に書かれていたことを実践した。確かに憲兵のいつもとは違う顔を見ることが出来たが、かなり恥ずかしかった鹿島。

 

「わ、わ、わたしってば…………」

 

パーキングエリアでの休憩時間が終わるまでまともに憲兵を見ることが出来なかった鹿島であった。

 

 

 

パーキングエリアでの休憩を終え目的の海へと向かうバス。車内ではトランプ、ウノ等をして時間を潰す面々。憲兵はヲ級に本を読み聞かせていた。

 

「『ぼくはテトラのためになないろのはなをさがさないとだめなんだ。こわくなんかない!ぼくはおくびょうものだけどテトラをたすけるためなんだ!』」

 

物語は病気の少女の為に飼われていた青い鳥が人が入ることを許されない森へと入っていく場面である。ヲ級は物語に入り込み憲兵の袖をきゅっと握っている。

 

「こわくなんかない!こわくなんかないぞ!こうして青い鳥のアルバは禁じられた森へと入っていくのでした。続きはまた夜にしましょう。車酔いしてしまうので今はここでやめておきましょう」

 

ヲ級の頭を撫で今日はここまでにしようと言う憲兵。

 

「おい!いいところなんだからもっと話してくれよ!」

 

近くで聞き耳をたてていた天龍が続きを聞かせてくれと怒る。それをなだめる木曾。

 

「それにしても憲兵さんは読み聞かせるの上手ですね」

 

隣で聞いていた蒼龍は普段の憲兵から想像できない姿に驚いていた。

 

「まるでお父さんみたいですね」

 

「…そうですか」

 

そう言って僅かではあるが憲兵の顔に陰りが見えた。

 

 

 




沢山の感想ありがとうございます

就活もある程度落ち着いてきたので更新速度も少し上がるかな?

感想、評価、アドバイスや誤字報告よろしくお願いいたします。



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旅行 到着 海 

今回は憲兵さんがキャラ崩壊してるかも
アドバイスお願いします!!

※ 憲兵さんの口調に納得できなかったので変えました


「「「着いたー!!!!」」」

 

バスから降りた元気な駆逐艦達の声。殆どの駆逐艦は目の前に広がる危険と隣り合わせとは違う、遊ぶことができる海を見てテンションが上がっていた。

 

「おーい。自分の荷物は自分で下ろすんだぞ~」

 

「「「「はーい!」」」」

 

天龍の呼び掛けに応じ各々の荷物を旅館へと運ぶ一同。旅館に入ると仲居さんとこの旅館の女将が出迎えてくれた。挨拶を済まし割り振られた部屋へと荷物を運んでいく。憲兵はボストンバッグ1つを持ちヲ級とイ級ブラザーズと共に自室へと向かう。

 

「…………ここですか」

 

大きく開いた窓からの眺めは良く、ヲ級とイ級ブラザーズは景色を堪能していた。いつの間にか海へと繰り出したヲ級とイ級ブラザーズ。憲兵は一人部屋で鞄から旅館で読もうと考えていた本を取りだし窓際の椅子へと腰掛けゆっくりと本を読み進めるのだった。

 

 

「あれ?憲兵さんがいないのです」

 

30分経っても宿から出てこない憲兵に気づいた電。それを聞いた艦娘達も辺りを見渡すが憲兵の姿はなかった。

 

「多分部屋に居ると思うわ~。私呼んでくるわね~」

 

「ちょっ!おい!このままにするなよ!」

 

眩しい黒の水着を着た龍田が宿へと向かう。砂に埋めて顔だけ出した天龍が行かないでくれ!と叫ぶも鼻唄を歌いながら宿へと入っていった。

 

 

「……………」

 

静かにお茶を飲みながら本を読み進める憲兵。するといきなり視界が真っ暗になる。

 

「だーれだ?」

 

うふふと笑う声を聞いて憲兵は龍田さんですねと言い解放してもらう。

 

「皆待ってるわよ~」

 

「いえ……私は大丈夫ですので」

 

「ほら~水着を着て~。それともお手伝いしましょうかぁ?」

 

憲兵は身の危険を感じ着替えるので少し待ってて下さいと言い部屋から龍田を出した。あまり気が進まないが本当に身ぐるみ剥がされる危険を感じバッグから水着を取りだし着替えるのだった。

黒の海パンと上にシャツを着た憲兵。自分には付ける価値は無いといつも首からチェーンを通して下げていた結婚指輪をなくさないように部屋の金庫の中へと入れる。

部屋から出ると龍田が待っていた。お待たせしましたと頭を下げ廊下を歩き出す憲兵の腕に龍田は飛び付き腕を組む。彼女の大きな胸が当たっているのに気づくが顔色1つ変えず離れてくださいと言う憲兵だが龍田は待たせた罰ですよ~と微笑む。憲兵は大きなため息をつきそのまま海へと出るのであった。

 

 

砂浜に出てきた憲兵を発見した駆逐艦が遊んでもらおうと集まってきた。憲兵は腕を引っ張られながら海へと連れていかれ、あらら横取りされちゃったと微笑む龍田。そんな彼女に助けてくれ~と天龍が泣きながら助けを求めるのだった。

 

「ほら曙、潮!憲兵さん来たよ!」

 

「か、関係ないでしょ。あんなやつ!」

 

「うぅ」

 

姉妹艦に背中を押されて憲兵の近くに来た曙と潮。憲兵は彼女達と目が合い近づいてきた。

 

「憲兵さん漣達の水着似合ってますか?」

 

その場でくるりと回る漣。そしてどうだ!と胸を張る朧。憲兵は良く似合ってますよと答え、次は曙と潮を見る。二人は顔を見ようとせず曙は横を向いており潮は下を向いていた。

 

「曙さんと潮さんもとても似合っていて可愛らしいですよ」

 

その言葉を聞いて笑顔になる潮。顔を赤くしながらふんとそっぽを向く曙であった。

 

 

駆逐艦達と海で泳いだり砂浜で日向や伊勢と砂だけで特別な瑞雲を作ったりビーチバレーで長門、武蔵、那智、足柄、霧島と死合(誤字ではない)を繰り広げたりなどなかなか充実した時間を過ごす憲兵。途中で提督にオイルを塗って欲しいと頼まれたが丁寧にお断りした。

ブルーシートに座り笑顔で遊んでいる艦娘を眺める憲兵に声をかけてきた人物がいた。

 

「桜村の憲兵さんですね?」

 

「たしかに私が桜村の鎮守府の憲兵ですが……貴方はもしかして」

 

声をかけてきたのはここの地域の鎮守府に配属されている憲兵だった。この地域の海を守るのは若い男性提督で容姿も整っている。優しい、そして何より素晴らしい采配で数々の海域を深海棲艦から解放している。そしてそんな彼の鎮守府に配属されていた憲兵が

 

「お久しぶりです。あの作戦以来ですね副隊長」

 

「貴方が配属されていたとは……子供は元気ですか?」

 

「はい。今年10歳になりました」

 

「よかったです」

 

「はい………副隊長はどうですか?奥方の方も元気ですか?」

 

憲兵は自身の妻が亡くなったことを周りには言っていなかった。かつての部下は生きていると思ったのだろう。何気ない質問であった。

 

「……………妻はあの防衛戦の時に亡くなっています」

 

「…え?あ、も、申し訳ありません!」

 

「別に大丈夫です。それより久しぶりに飲みに行きませんか?君の子供の話も聞きたいですし……どうでしょうか?」

 

話を変える憲兵の気持ちに気づいたのだろう。若い憲兵は笑顔でそれに了承する。

 

「よ、よろこんで!では19時に『朝焼け』と言う居酒屋で!酒も、肴もおいしいんですよ!」

 

「それは楽しみです。では私は提督に許可を貰ってきますので。また後で」

 

「はい!では失礼します!」

 

そう言って帰っていくかつての部下の背中を見ながら立派になったなと心の中で呟く憲兵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「憲兵さんに奥さん?」




感想、アドバイス、評価よろしくお願いします。




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旅行 一日目 夜、部下の告白

「どうしたの榛名?元気ないネー」

 

海で遊び尽くし宿で豪華な夕食も食べ各々部屋へと戻り時間を過ごす。金剛型の部屋では金剛と比叡はテレビを見ており、霧島は憲兵から貸してもらった本を読んでいた。榛名は窓の側の椅子に座り窓から見える海をぼーっと見ていた。海で遊んでいたときから榛名の様子が少しおかしかったのは金剛型の3人は気づいていた。夕食の時でも元気がないのも分かっていた。

 

「憲兵さんが居ないからじゃないんですか?」

 

霧島がそう聞くも榛名は首を横に振る。

 

「………榛名は大丈夫です。憲兵さんも久しぶりに羽を伸ばしたいんです。きっと……」

 

「でも珍しいですよね。憲兵さんが出掛けるのって」

 

「憲兵さんにもお休みが必要なんですよ」

 

他愛のない話で盛り上がる金剛型。時刻は午後9時を過ぎようとしていた。するとどたどたと誰かが走っている足音が聞こえたかと思うと勢い良く扉が開かれた。入ってきたのは息を切らした吹雪だった。何事かと思い心配して話しかける金剛と比叡。

 

「け、憲兵さんが大変なことに!」  

 

 

宿の玄関に降りると若い青年に肩を支えられ顔を真っ赤にした憲兵がたっていた。玄関に充満する酒の臭い。目の焦点もほとんど定まっておらずふらふらしている。

 

「すいません。副隊長が飲み過ぎてこのような結果に…」

 

申し訳なさそうに頭を下げる憲兵の部下。話によるとかなりのお酒を飲んだらしい。普段しっかりしている彼がお酒の量を考えずに飲んだことに驚く一同。提督は頭を下げながら加賀と赤城に憲兵を部屋へと連れていくように伝える。すると憲兵は側で見ていた比叡と目が合う。憲兵は加賀と赤城を振りほどき比叡を抱き締めた。

 

「絵里……ぼくは君になにも……して……やれなかったな。許してくれ………」

 

「ひ、ひえ?」

 

抱き締められた比叡は硬直。その場にいた全員が唖然としていた。

 

「ふ、副隊長!まずいですよ!」

 

我に返った部下は憲兵を引き剥がす。そして憲兵の部屋まで部下が連れていくのであった。

 

 

部屋に憲兵を寝かせ広間へと降りてきた憲兵の部下。多くの艦娘と提督が待ち構えており逃げられないなと悟った彼は加賀に促され提督達が座っている向かいの椅子へと腰かけた。

 

「本日はどうもすみません」

 

「いえいえ、こちらもお騒がせしました。それと比叡さんは大丈夫ですか?もし不快に感じられましたら艦娘保護法第20条艦娘に対するわいせつな行為をした者に対する処罰にのっとり心苦しいですが副隊長を処罰できますが」

 

「い、いえ不快だなんてそんなことないです!」

 

「そうですよ!むしろ私にばっちこいです!」

 

比叡が否定。鈴谷が最上に取り押さえられていた。それを見た憲兵の部下はよかったですと笑顔になった。そして少しお互いの鎮守府の話をしたあと提督がある話題を切り出した。

 

「あの……絵里って誰なんですか?」

 

その名前を聞いた彼の表情が曇る。すると知っておいてもらった方がいいだろうと部下は判断し話を始めた。

 

「十年前に副隊長には奥方がおられました」

 

その言葉を聞き唖然とする一同。提督は憲兵さんがケッコンカッコガチをしてるなんてと目をぐるぐると回していた。

 

「その奥方の名前が絵里さん。お二人とも仲が良く我々部下から見てもお似合いのお二人でした。本当に………副隊長が二十歳の時には奥方のお腹の中に新しい命も宿っていました」

 

彼は昔を思い出すように話をする。一同は話に聞き入っていた。

 

「副隊長は元々親が早くに亡くなっており孤児院で過ごしていました。その時に出会ったのが絵里さんだったらしいです。いつも一緒で副隊長は彼女がいない人生など考えられないと……なのに」

 

「なのに?」

 

「皆さん十年前の本土防衛作戦は知っていますよね?」

 

「えぇ、確か人類が初めて敗北した悲劇の海戦の二ヶ月後の防衛戦ですね。初めて私達艦娘と共同で戦った作戦でもありますね」

 

加賀の説明を聞きその通りですと答える部下。

 

「あの戦いに副隊長と私は参加していました。そして私達は生き残った。しかし………副隊長の奥方はその防衛戦の時に一人の少女を庇い亡くなったと…お腹の子供と共に……」

 

絶句する一同。愛した女性とその間に新たに生まれてくるはずだった子供が亡くなった。

 

「その後は皆さんのご存知の通り副隊長は憲兵隊として貴女方を守っています。恐らく副隊長の性格上守ってくれた貴女方を助けたいと思ったんだと思いますよ。意外かもしれませんがああ見えて副隊長はかなりのお人好しですから」

 

静まり返る居間。ほとんどの艦娘は泣いていた。最愛の人がそして子供が死んだことに対する同情だけではない。憲兵がその悲しさと虚しさに押し潰されそうになりながらも自分達に優しく接し、弱さを一切見せず前を向いて一歩ずつ進んでいる。

 

「わ、わたひにだきついたのは?」

 

涙でぐしゃぐしゃになった比叡が尋ねる。

 

「比叡さんが副隊長の奥方にそっくりなんですよ。元気で家族想いで、失礼ですが空回りしたりするところまで」

 

「ぞうなんでずね」

 

居間には泣く声がしばらく続いた。

 

 

「ごめんなさい。情けないところを見せてしまいました」

 

目を赤くしながら頭を下げる提督と艦娘達。部下はこちらもすいませんと頭を下げる。

 

「副隊長のために皆さんが泣いているのを見て不謹慎ですが安心しました。こんなにも素晴らしい方々に思われているんですね。さて、私はそろそろ失礼します。これからもよろしくお願い致します」

 

そう言って自身の家へと帰る部下であった。

 

あそうだと玄関で立ち止まる部下。

 

「ああ見えて副隊長って結構もてるんですよ。こうなんて言いますか……乙女心をくすぐるような人なので。皆さんも気を付けてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイス等々よろしくお願い致します。

因みに本作の舞台になっている桜の村はモデルがあります。
日本海側の村と言うよりかは町ですが香住町と言うところです。とてもいいところで住んでいらっしゃる方々も優しく気さくな方が多いです。


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旅行 一日目夜 女子会 二日目 朝 温泉

遅くなりました!

本編どうぞ


部下が帰った後、提督と艦娘達は夕食をとった宴会場を借り集まっていた。男が参加できない所謂女子会だった。お菓子や飲み物を用意する。今回の議題はホワイトボードに書かれているのは『憲兵さんについて!』だった。時間になり提督が前に立ち話を始めた。

 

「今回皆に集まってもらったのは憲兵さんについてです。私たちは憲兵さんに良くしてもらっていますが彼の事を全く知りません!なのでここで皆と一緒に憲兵さんがどのような人なのかを一緒に考えてほしいです。では司会の加賀さんよろしくね!」

 

「わかりました。まず分かっていることを書いていきます」

 

加賀はホワイトボードに憲兵の情報を書いていく。

一つ、年齢は30歳

一つ、結婚していたが奥さまと子供と死別

一つ、誰に対しても敬語

一つ、元陸軍副隊長

一つ、料理がおいしい

 

 

「まずはこんなところですね」

 

「少なすぎじゃね?あと料理のところ要らないだろ?」

 

「確かにな」

 

やってやりましたとドヤ顔をする加賀だが天龍と木曾の眼帯コンビは情報少なすぎだろとツッコミをいれる。

 

「はい!」

 

すると吹雪が手を挙げ発言の許可を加賀から貰う。

 

「憲兵さんは私たち艦娘に優しいです!特に駆逐艦の皆は憲兵さんに何かしら御馳走になったり、遊んでもらっています!」

 

実際駆逐艦グループが憲兵さんに良くしてもらっているのは周りも知っており、駆逐艦全員が吹雪の発言にうんうんと頷いていた。

 

「そ、それに私たち艦娘を一人の女の子として見てくれます。この前は髪飾りを買って貰いましたし……」

 

顔を赤くしながらえへへと笑う吹雪。艦娘を兵器として見る人が世間では多い。決して恐れているとかではないが人類が傷を付けることができなかった深海棲艦を倒す力をもった兵器と考える人が一般的だ。彼女たち自身もそれは自覚しているからなんとも思わないが憲兵は艦娘を一人の人間として、女性として接している。これが彼が慕われる理由の一つなのだろう。しかし、後半の髪飾りを買ってもらった発言をした吹雪には一部の艦娘から嫉妬の視線が向けられる。

 

「はい!」

 

次に軽巡洋艦で憲兵に追いかけ回されている天龍が手を挙げる。

 

「憲兵は結構甘党なんだぜ?」

 

だよな間宮さん、鳳翔さん?と二人に確認する。はいと笑顔で答える二人。

 

「憲兵さんはよく私の甘味処に来てパフェとかケーキとか和菓子とか食べに来るんですよ。そこがとてもかわいくてね」

 

「甘い卵焼きとかも好きですよ。それに憲兵さんは辛い物が苦手ですね。そこが子供らしいと言いますか。見た目はかっこいいのにギャップがあってかわいいですよ」

 

ふふふと笑う二人。憲兵が見た目によらず甘党なのを聞き提督はそうなんだと新たな憲兵の一面を知り満足していた。

 

「はいはーい!」

 

次に手を挙げたのは重巡洋艦の鈴谷だ。

 

「憲兵さんは読書が好きだよね!部屋に本が沢山置いてあるし!」

 

憲兵の部屋によく侵入している鈴谷だから知っている情報だ。

 

「花とかも好きだよねー」

 

「煙草を吸いますよね」

 

他にも憲兵の情報が次々と挙げられていく。その中で大和があることに気づいた。

 

「そう言えば憲兵さんの本名って何ですか?」

 

この一言により全艦娘が固まった。そして艦娘全員が答えを知っているであろう提督を見る。

 

「じ、実は私も知らないんだよね」

 

共に過ごしてきたのに憲兵の本名を知らない一同だった。

こうして女子会をする一同の夜はふけていく。

 

 

 

 

憲兵がべろべろに酔っぱらった日の翌日。憲兵は目を覚まし時間を確認した。時刻はまだ6時半。日が昇り始めた時間だ。憲兵は昨日の記憶が無く顔が青ざめる。もしかして部下がここまで運んでくれたのだろうかと思い彼に謝らないといけないと考えると同時に恐らくみっともない姿を他の艦娘や提督に見られたかもしれないと頭をかかえた。とりあえず昨日入ることができなかった温泉に入ろうと布団から出ようとするが身体が動かない。何かが布団の中にいる。布団をめくりその正体を確認する。

 

「ヲー」

 

「キュー」

 

ヲ級とイ級だった。憲兵は優しくヲ級とイ級ブラザーズを撫で起きないようにゆっくりと布団から出て温泉へ向かうのであった。

 

 

 

「ふぅ」

 

温泉に浸かり一息吐く憲兵。おじさんみたいだなと思ったがよくよく考えればもう三十路。妻も子供も居なくなり今までの10年間は本当に辛かった。一歩ずつ前を向いて歩いてきた。妻と子供に恥じないように、いつか自分が天国に行ったときに二人に笑顔で迎えてもらえるように……そのようなことを考えていると温泉の扉が開かれた。

 

「ヲ!ヲ!ヲーン!」

 

「キュー!」

 

入ってきたのはヲ級、そしてイ級ブラザーズだ。ヲ級は頭の黒い被り物をお湯を入れた桶に入れ、湯船へと飛び込む。イ級ブラザーズも後を追うように飛び込んだ。

 

「ヲ級さん。イ級さん飛び込んではいけないですよ」

 

めっとヲ級とイ級ブラザーズを叱る憲兵。ヲ級とイ級ブラザーズはしょぼんとした表情になるが憲兵はゆっくりと頭を撫でる。次からは気を付けましょうと言いまたゆっくりと温泉を堪能していた。

 

 

がらがらと扉が開く音がしそちらに視線を向けると

 

「え、憲兵さん!?」

 

空母翔鶴が入り口に立っていた。

 




お気に入りが1700件を突破していました。やりました。
沢山の評価、感想ありがとうございまっする!(死語)

前回はシリアスだったので今回からほのぼのです。

ではこれからも
~鎮守府~            
憲兵さんと艦娘とときどき提督
を応援してください!(ニセタイトル)

まだまだ感想、評価、アドバイス、誤字脱字の報告お願いします。




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旅行 二日目 温泉 釣り

遅くなりました




「け、憲兵さん!?」

 

タオル一枚の翔鶴。憲兵は何故彼女がここにいるのか理解できなかった。翔鶴自身もなぜ憲兵がここにいるのかを理解できていないのと、憲兵に無防備な姿を見られた羞恥により思考が停止していた。数秒沈黙が訪れるが先に行動したのは憲兵だった。翔鶴から視線を外す。

 

「申し訳ありません。今すぐ出ていきます。すみませんがタオルを巻いていないので向こうを向いていてもらえますか?」

 

「え、あ、ひゃい」

 

ばっと後ろを向く彼女を確認しタオルを腰に装備する憲兵。そしてそのまま翔鶴を視界に入れないように出ていこうとする憲兵。扉を開き出ていこうとした時だった。

 

「で、出ちゃうんですか?」

 

「当たり前です」

 

「見たところ入ってきたばかりなのでは?頭も濡れてませんし………そ、その私は気にしませんので一緒に入りませんか?」

 

「いけま………っ!」

 

「お願いします……憲兵さんとお話もしたいですし」

 

後ろから抱きしめられる憲兵。何としてでも出ないといけない状況だが抱きついてきた翔鶴を振りほどく術を知らない憲兵は硬直していた。

 

 

「成る程、女風呂が掃除中で仲居さんに男風呂なら今空いてるし入っても問題ないから入っていいと言われたんですね」

 

「は、はい………憲兵さんもまだ寝てると思って大丈夫だと……」

 

あの後なしくずしに一緒に温泉に入ることになり、湯船に浸かる二人。ヲ級はイ級ブラザーズと泡だらけになりながら体を洗っていた。翔鶴は話題を切り替えようと昨日の話を切り出した。

 

「それにしても昨日かなりべろべろになっていましたね。皆珍しそうにしていましたよ」

 

「申し訳ありません。ご迷惑を……他に何か失礼なことをしていませんでしたか?」

 

「いえ、特には……あ、比叡さんに酔っぱらって抱きついてました」

 

「……………それは本当ですか?」

 

憲兵の声が震えていた。比叡に抱きついた記憶がない。しかもかつての部下、しかも現役の憲兵に見られていた。艦娘保護法第20条、艦娘に対するわいせつな行為をした者に対する処罰が適用される行為なはずだと彼は考える。かつての上司だからと部下がみすみす見逃すことなどしない。憲兵隊は艦娘に危害を加える者が親や、兄弟、親友だとしても容赦なく捕縛する。冷酷な集団と言われる所以がこの憲兵隊の徹底的な捕縛体制、慈悲の1つもない事から言われる。

 

「比叡さんが気にしてないって言ってましたし、大丈夫だと思いますよ。憲兵さんの部下の人も憲兵さんなら大丈夫だって言ってましたし」

 

頭を抱える憲兵を見てくすりと笑う翔鶴。しかし、翔鶴はそれ以上に気になることがあった。

 

「あの……どうしてそんなに離れてるんですか?」

 

湯船には浸かってはいるが二メートルほど距離を空ける憲兵。

 

「気にしないでください」

 

「…どうしてそっぽを向いてるんですか?」

 

話しているときも憲兵は翔鶴の方を全く見ず明後日の方を見ている

 

「…………気にしないでください」

 

翔鶴は顔を少し赤くしそっぽを向く憲兵がかわいく見え少しだけいたずらをしようと肩が触れあうまで距離を詰めた。すると憲兵は離れていく。

 

「私の事嫌いですか?」

 

少し悲しそうにそう憲兵に問う翔鶴。

 

「ち、違います……翔鶴さんは女性としてとても魅力的ですし、その恥ずかしいと言うかなんと言いますか……お、お先に失礼します!」

 

かなり切羽つまっていたのであろう。顔を真っ赤にしながら立ち去っていく憲兵。少し残念そうに微笑む翔鶴だけが残された。

 

 

 

朝の事件から少し経ち憲兵は朝食をヲ級達と取っていた。すると隣失礼しますと赤城、加賀が座った。憲兵は昨日の事を謝罪する。会う艦娘すべてに昨日の事を謝罪する彼はホントに誠実なのだろう。

 

 

「大丈夫ですよ。憲兵さんにも酔っぱらいたいときだってあると思いますし」

 

「そうですね。気にしない方がいいですよ」

 

そう言って微笑む二人。謝罪したほとんどの艦娘も同じような事を憲兵に言っており笑って許してくれた。憲兵は少し泣きそうになりながら頭を下げる。

 

「おはよう憲兵さん!」

 

「おはようございます」

 

そこへ飛龍と蒼龍、そして後ろには瑞鶴と今朝温泉で一緒だった翔鶴がいた。翔鶴は今朝の事を思い出したのだろう。頬を赤くする。それにつられて憲兵も頬を赤くしていた。

 

「翔鶴姉どうしたの?顔赤いけど」

 

「な、なんでもないわよ」

 

感の鋭い瑞鶴。翔鶴と憲兵は内心ヒヤヒヤしながら朝食をとるのであった。

 

 

二日目の午前中は自由時間。海で遊んだり、町に出かけるなど各々好きなことをする。憲兵とヲ級、イ級ブラザーズは堤防でゆったりと釣りを楽しんでいた。ゆっくりと過ぎていく時間。波の音を聞きながら憲兵は手応えを感じリールを巻く。釣れたのは小さなアジだった。そのアジを見て彼は昔彼女と釣りをしたことを思い出していた。

 

 

 

『釣れた!えへへ……どう?釣れないってバカにしてたけど私だってやればできるんだよ』

 

『小さくないかい?』

 

『いいの!大きさは関係ないの!釣るまでの過程が大切なの!』

 

『……………』

 

『むぅ~』

 

 

 

あの時見せてくれた笑顔、膨れっ面。それを見ることは二度とできない。でも絶対に忘れない。忘れることなどできない。今でも彼が愛し続けているのは彼女だけなのだから。




感想、評価、アドバイス、誤字脱字報告よろしくお願いいたします

ちなみにこの小説が終わったら書こうと考えているものがいくつかあります。また活動報告に書きますのでよろしかったら見てください。

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旅行 二日目 散歩 星空

釣りを終えた憲兵はしばし休憩したあと街をゆっくりと見て回りたいと思い、少しばかりのお金を持ち周辺の街へと繰り出した。古い町並みを歩いて進んでいく。多くの観光客などで賑わっているお土産物屋や地元の人たちの話し声が聞こえる商店街。憲兵は町並みを眺めがら目的もなくただ歩く。ふと花屋があるのに気づき足を止め眺める。ひまわりや朝顔をはじめ、夏を代表する花が色とりどりに咲き誇り鮮やかに店を彩っていた。立ち止まりそれを眺める憲兵に気づいた店員の女性が近づいてきた。綺麗な黒髪で10代半ばの少女だった。憲兵はそっと頭を下げ綺麗に咲いていますねと店員に話しかけた。少女もありがとうございますと微笑む。

ふと憲兵の目に入ったのはポツンと置かれた寄り添うように咲いている二つの白い花だった。

 

「あれは…エーデルワイスですか?」

 

「ご存知なんですか?」

 

「えぇ、好きな花なので…確か花言葉は『大切な思いで』と『勇気』だった気がします。夏の開花なのに暑さに弱いのでかなり育てるのが難しい花なんですよね」

 

「詳しいんですね」

 

「好きな花なので…しかし、現物を見たのは初めてです」

 

「そうなんですね…ならこんな話は知ってますか?」

 

 

昔、とある登山家の男性が山を登っていました。男性は山を登る途中に一人の女性と出会います。それはそれは美しく綺麗な女性でした。男性はその女性に恋をしてしまいました。しかしそれは叶わぬ恋でした。なぜならその女性は地上へ降りてきた天使だったからです。しかし、男性は叶わぬ恋と知っていても彼女を諦めることができませんでした。そして男性は「どうかその美しい姿を見る苦しみから救ってください」と祈りました。すると女性はその場に白い一輪の美しい花を残して消えてしまいました。女性は男性に美しい白い花を残し天界へと帰ったのでした。

 

 

「……………」

 

「私、このお話が大好きで毎年育てるのが難しいと知っていてもエーデルワイスを育ててるんです」

 

そう言って微笑む少女。憲兵は黙って話を聞きエーデルワイスを見る。見事に咲くその花は自分が愛した女性を思わせる。

物思いにふけている憲兵に女性は植木から一輪のエーデルワイスを新たな鉢に植え替え憲兵の元へと持ってきた。

 

「よかったら貰ってください」

 

「いけません。せっかく大切に育てた花なのに」

 

「いいんです。私の話を聞いてくれたので感謝の気持ちです」

 

そう言って憲兵にエーデルワイスを渡す。ありがとうございますと頭を下げ憲兵はその花屋を後にするのだった。

 

 

 

「お帰りなさい」

 

散歩を追えた憲兵が、宿に戻ると提督が待っていた。憲兵はただいま戻りましたと頭を下げる。すると提督はもじもじとしながら何かを言いたそうにしていた。

 

「あの…憲兵さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「よかったら今晩出掛けませんか?二人で」

 

それを聞き硬直する憲兵だった。

 

 

「わぁ!星が綺麗ですね憲兵さん!」

 

「そうですね」

 

夕食を食べ終えた後、二人は宿の近くの砂浜へ出ていた。提督は夜空を見上げる。夜空には沢山の星が輝きその一つ一つが光を放っていた。

 

「綺麗ですね」

 

「はい…」

 

夜空を見上げる憲兵を気づかれないように見つめる提督。無表情だがどこか悲しげに見える憲兵。奥さんと産まれてくるはずだった子のことを考えているんだろうかと提督は思う。二人腰を下ろし夜空を見る。二人の間には言葉は無く、ただ静かな時間が流れていく。

 

「提督はどうしてこの世界に来たんですか?」

 

唐突に憲兵が話しかけてきた。提督は驚きながらもどうして提督になったのかを話はじめた。

 

 

「憧れの、人がいるんです」

 

提督はゆっくりと話始めた。

 

「実は、十年前の本土防衛戦で戦闘に巻き込まれているんです。当時八歳だった私は親と避難してたんですけどはぐれてしまって…その時に深海棲艦の砲撃が近くの建物に当たって建物が崩れてきたらしいんです」

 

待ってくれ…

 

「その時助けてくれた人がいたらしいです。名前も顔も性別も分からないんですけど…私は気絶していてなにも覚えてないんです。私は助かったんですけど私を助けてくれた人がどうなったのかはわからなくて…親も戦闘が終わってから病院で私と逢ったのでその人を見てないって…探したけど見つからなくて」

 

まさか…

 

「私はあの時助けてくれた人みたいに誰かを守る仕事がしたい。そう思って提督になりました。続けていればいつかきっと逢えると思って。それでお礼が言いたくて」

 

そう言って照れながら話す彼女。

 

「ありがとうございます。あなたのお陰で私は人を守る仕事ができていますって言えるように…これからも頑張っていきたいと思ってます」  

 

恐らく彼女が身命を賭して守った女の子は提督なのだろう。彼女が守った女の子は立派に多くの人の命を守りながら折れず、真っ直ぐと歩いている。

あの時の彼女の行動は間違ってはいない。恐らく私がその場にいたら私もそうしただろう。彼女を失ってから一時期はどうして命と引き換えに赤の他人を助けたんだ。見捨てたら良かったと考えたこともあった。でも…今こうして彼女が守った女の子は彼女のように人を守りながら意思を継いでくれている。これほど嬉しいことはないだろう。

 

「助けた人も誇らしいでしょう。小雪さんが立派に国を、人を、そして艦娘を守っているのを…」

 

「ふぇ…今小雪って」

 

「そろそろ戻りましょう」

 

「は、はい!」

 

絵里…君が守った女の子をこれからは私が守っていく。見ていてくれ。

 

 




心が折れそうだ…

感想、評価、アドバイスお願いします!


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旅行 三日目 呼び方 コトバ 榛名

遅くなって申し訳ないです
決して人間性を捧げて遅くなったわけではありません。




「憲兵さん…その…」

 

朝、朝食を食べている憲兵に声を掛けてきたのは提督だった。もじもじと何かを言おうとしている提督。何かしてしまったのかと考える憲兵だったが心当たりがない。

 

「どうかしましたか提督?」

 

「その…昨日みたいにまた小雪って呼んでください」

 

提督が顔を赤くしながらもじもじする。提督の発言により静まり返る朝食の場。憲兵はだらだらと冷や汗を流し硬直する。まずい…と心中穏やかではない憲兵。

 

「なら私も鈴谷さんじゃなくて鈴谷って呼んでほしい!いや…ハニーって呼んで!」

 

「わ、わたしも蒼龍さんじゃなくて蒼龍って…」

 

ざわざわと自身の呼び方を提案してくる艦娘達。天龍様って呼べ!など聞こえてくる。憲兵は早急に朝食を食べ検討しておきますと声を掛けその場から逃げようとする。すると出入り口には加賀が立っていた。逃がさんぞ憲兵と言わんばかりのオーラを纏っている。

 

「憲兵さん。試しに私を加賀と呼んでください」

 

無表情で近づいてくる加賀に威圧された憲兵。背後には鈴谷や蒼龍、提督が居るため突破できない。ここは仕方なく従うことにする。

 

「か、加賀……さん」

 

「……はぁ」

 

やはり彼には荷が重すぎたのだろう。加賀は呆れてはいたものの、これはこれで破壊力が…とぶつぶつと何かを言っている加賀。そして微妙な空気になった食堂から憲兵は逃げるようにして出ていくのだった。

 

 

 

 

食事を終えた憲兵は宿のロビーにて、吹雪や夕立、その他の駆逐艦、そしてヲ級にバスの中でも読んでいた本を読み聞かせていた。物語は中盤になり主人公のアルバが親切な大樹のグウィンに病気を治す花の在処を聞く場面である。

 

「『七色の花はこの森にしか咲かないのは確かだ。しかし、この森では咲くことはない』グウィンの言葉を聞いたアルバは途方に暮れた。しかしグウィンは話を続けます。『この森は土、水、光、木の神様がおる。土の神ファーナム、水の神オストラヴァ、光の神ソラール、そして木の神である儂がグウィンじゃ。植物のことなら分かるが、それ以外のことはてんでわからん。それぞれの神に聞いてみるとよい』その言葉を聞いたアルバは木の神グウィンにお礼をして土の神ファーナムに会いに行くことにしました」

 

物語に入り込んでいる艦娘達。憲兵は少し恥ずかしく思いながらも物語を読み続ける。

 

「アルバは土の神ファーナムと会い、花についての話をしました。ファーナムはアルバにこう告げます。『この森で七色の花が咲くのは確かだが、この森の土では育たぬ。この森の土は七色の花が咲くのには堅すぎる。まずは土を柔らかくし肥やすことだ』それを聞いたアルバはまず土を肥やすことにしました。……」

 

話が進むにつれて何故か軽巡洋艦の一同も憲兵の朗読会に参加していた。時折、那珂ちゃんがうるさかったが神通に怒られていた。

 

 

「こうしてアルバは何とか土を肥やすことができました…ここまでにしましょうか」

 

「続きが気になるのです!」

 

「すごく面白いね。アルバのひたむきに頑張る姿は心打たれるよ」

 

眼を輝かせる電、憲兵の隣で眼を瞑りながら話を聞いていた時雨もこの物語を気に入ったようだった。各々が感想を述べる中、憲兵の膝の上で話を聞いていたヲ級がじっと憲兵を見つめていた。何か言いたそうにしているヲ級。憲兵は優しく頭をなでる。その時だった。

 

「ア、アリ…ガト……ウ」

 

ゆっくりと、そして笑顔でそう告げたのだ。ヲ級の言葉を聞いた一同。静まりかえる。

 

「ヲ級ちゃんが言葉を…」

 

吹雪がそう呟く。驚く一同を尻目に憲兵に頬ずりするヲ級だった。

 

 

夕方になり、ヲ級が言葉を発したことを提督に報告しに行く憲兵。しかし部屋には提督の姿が無かったのでヲ級と手を繋ぎながら提督を探していた。

その道中に温泉に入っていたのだろう、髪をタオルで拭きながら女湯へ続く通路から榛名が出てきた。

 

「憲兵さんもお風呂ですか?」

 

「いえ。この子が言葉を覚えたのでその報告をしに提督を探しています」

 

「そうなんですか…え?言葉を?」

 

「はい。昼の時間に本を読み聞かせていたのですが読み終わったときに『ありがとう』と舌足らずではありましたがはっきりとヲ以外の言葉を口にしました」

 

「そうなんですか…凄いですね。ヲ級ちゃんは…」

 

そう言ってヲ級の頭を撫でる榛名。ヲ級は気持ちよさそうに眼を細め榛名へと抱きついた。ヲ級を抱き上げる榛名の顔をペタペタと触るヲ級。憲兵はこの光景を見ながらいつの日か全ての深海棲艦が今目の前にいるヲ級や榛名のように艦娘や人間と分かり合える日が来ることを願うのであった。

 

 

「それでは旅行最終日!思い残すことが無いように楽しみましょう!!」

 

では乾杯と元気な提督の声と共に始まった最終日の夜の宴会。豪華な食事とお酒で盛り上がる一同。未成年の提督や駆逐艦はジュースではあるが盛り上がっていた。憲兵はヲ級とイ級ブラザーズにご飯を食べさせていた。口元を汚すヲ級の口を拭く憲兵。ヲ級はまたアリガトウとお礼を憲兵にする。今の所ヲ級が覚えた言葉はこの一言だが大きな変化である。そんなやりとりをしている所に赤城がやってきた。

 

「憲兵さん。お刺身要らないんですか?」

 

憲兵が手を出していないお刺身を狙ってやってきたのだろう。憲兵は赤城にお刺身をあげようとする。するとそこへ電がやってきた。

 

「あの…それは憲兵さんの分なのです。だからその…」

 

「う、そうですね…すいません憲兵さん」

 

うなだれる赤城を見た憲兵は半分どうぞと差し出す。電さんもよかったらどうですかと声をかける。ありがとうございます!憲兵さん愛してます!と言いながらお刺身を頬張る赤城。電も遠慮していたが憲兵がこんなに量が食べられないのでと言い電も一緒に食べることになる。

電と話をしながら食事をする憲兵。すると背後から憲兵に抱きついてくる人物が居た。

 

「鈴谷さんですね…榛名さん!?」

 

鈴谷だと思って振り向いた先には顔を少し赤くした榛名がいた。えへへと微笑みながらぎゅっと抱きつく榛名。硬直する憲兵。他の艦娘はわいわいと盛り上がっており気づいていないが、見ていた金剛が負けないネー!提督とハグするネー!と提督に飛びかかっていた。

 

「憲兵さん…温かいです」

 

「榛名さん…いけません」

 

「はわわわ」

 

「…?」

 

憲兵は榛名に離れるように必死に問いかけ、電は顔を赤くしながら混乱している。赤城は刺身を食べ続けていた。

 

「榛名は…憲兵さんに感謝しています」

 

「??」

 

「前の鎮守府で助けてくれて…死んでしまいたいと思っていた榛名に手を差し伸べてくれて…この鎮守府に呼んで貰って…今こうやって楽しい時間を過ごすことができるのは貴方のおかげです。感謝してもしきれません。貴方のおかげで榛名は『榛名』のままでいれました」

 

憲兵の背中に顔を預ける榛名。憲兵は黙って話を聞いていた。出会った当初の榛名は酷いものであった。何度も死にたい、もう楽にさせてくださいと懇願する榛名をみて前任の提督を心の中で何度も殺してやろうかと考えることもあった。榛名は出来損ないの欠陥品ですと泣きじゃくる少女。すでに心は壊れていた。憲兵が榛名に付き添い、彼女のケアをし続けた結果、榛名は立ち直れた。しかし、それは憲兵一人の力だけではない。それを彼は彼女に伝えなければならない。

 

「それは違います。榛名さん」

 

榛名の方へと向き直り彼女の目をみる。優しい声でしっかりと伝える。

 

「私が貴方に出会った時、貴方はどん底にいました。正直私は貴方を元の状態に戻すことは出来ないと思っていました」

 

無理だと何度思ったか。何度も心が壊れ、泣き続ける彼女から目を背けようとしたかを伝える。

 

「そんなこと…」

 

榛名はうるうると瞳を揺らす。

 

「私は手助けをしただけです。私一人の力ではありません。貴方は自分の強い意志で今の『榛名』さんへと戻ったんです。貴方自身の力なんですよ…絶望の中、己の強さを信じ光を見つけた貴方だったから…貴方の中にある誇り高き金剛型三番艦の魂を見失わなかった榛名さんだったからですよ」

 

そう言って榛名の頭を優しく撫でる。榛名は我慢できなくなったのだろう。ぼろぼろと涙を流しながら憲兵に抱きついた。憲兵はそれを拒むことなく受け止め腕の中で泣き続ける榛名を抱きしめていた。

 

 




感想、評価、アドバイス、他にも何かあればどしどしお願いします!

活動報告でこのお話の番外編のアンケートがあるのでよかったら覗いていってください。

あと、憲兵さんが作中で読んでいる物語の登場人物の名前はとあるゲームからです。物語の内容は私が好きな二つの本が元になってます。


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金剛の憲兵見習いの一日

このお話は時系列的に憲兵さんが来て一年目のとある日の1日です。


金剛は提督が好き。この鎮守府の全ての艦娘が知っている事実である。人目を気にせず抱きつき、またある時は布団に潜り込む。彼女の提督である小雪自身は特に気にする様子もなく金剛のスキンシップに対して何も言わない。少しくらい反応してくれてもいいのにと思う金剛。

今日も金剛は提督の執務室に入り浸っている。提督は秘書の電と共に資料を整理している。真剣に仕事をしている彼女の顔を見ているだけでもいい。いつものかわいい顔も好きだが、真剣な顔も好きなのだ。金剛はソファに座りながら提督をじっと見る。至福のひとときだ。

そんなとき、執務室のドアを三回ノックする音が室内に響く。

 

「提督。今よろしいでしょうか?」

 

聞こえてきたのは低い男性特有の声。その声を聞いた提督の眼が輝き表情が緩んでいるのが見てわかる。入ってください!とげんきよく返事をする提督。失礼しますと扉を開けて入ってきたのはこの鎮守府に配属されている憲兵。身長も高く元陸軍だったためか体つきも逞しく、見た目はおっかない男性。しかし、見た目とは裏腹に性格は穏やかで優しい。彼もこの桜鎮守府の艦娘達に慕われている人物の一人である。しかし、金剛は彼が苦手である。嫌いではない。彼の人柄は認めるし、なにより妹の榛名を救ってくれた人でもある。感謝してもしきれないほどの人物だが

 

「憲兵さんはこのあと暇ですか?」

 

「すいません。この後大和さんと長門さんの送迎がありますので」

 

「むー…なら一緒に行きます!」

 

金剛のライバルでもあるのだ。提督は見てわかるように憲兵さんLOVEなのだ。彼女以外にも彼を想っている娘は多い。まずは金剛の妹である榛名、そして鈴谷、蒼龍、大和、時雨、吹雪、如月、曙などなど…。他はいいのだが提督が取られるのは嫌な金剛。提督とラブラブになりたい。でも提督が好きなのは憲兵。

 

 

 

 

 

 

 

 

なら憲兵さんの真似したらいいんじゃない?

 

 

 

 

朝 六時 憲兵寮 憲兵の部屋

 

「一日憲兵見習いですか…」

 

朝、眼が覚め支度を整えていた憲兵の部屋にやって来たのは金剛だった。憲兵は何事かと思い訳を聞くと今日一日憲兵見習いとして側に居させてほしいとのことだった。

 

「Yes!今日一日お願いしたいデース!」

 

大丈夫だ。問題ないと言わんばかりの笑顔でお願いする金剛。憲兵は困り、眉間を押さえる。

 

「提督の許可は…」

 

「取ってマース!」

 

「…わかりました。ならまず憲兵服を渡しますので着替えてください。女性用の物がありますので」

 

そう言って隣の物置へと入っていく憲兵。五分後、手に憲兵服を持ち出てくる憲兵。金剛はそれを受け取り憲兵の部屋の洗面所で着替えるのだった。

 

 

 

朝 七時 鎮守府正門

 

憲兵の服に袖を通した金剛は、憲兵からまずは鎮守府正門の掃除をすると言われ掃除をする。

 

「憲兵さんは毎朝してるんですか?」

 

「雨の日以外は掃除をします。鎮守府は軍施設なので外見が汚ければ住民の方の不安を煽ったり、苦情になりますのでできるだけ清潔にしています。それに皆さんが気持ちよくすごし、任務や作戦を終わらせて帰ってくる『家』なので…」

 

そう言い黙々と作業をする憲兵の背中を見る金剛。こういった考え方が好かれる一つの理由なのだろうと考えていた。

 

 

 

 

昼 十三時 鎮守府正門 休憩所

 

三時間の掃除、そして正門の警備が終わり時間を確認すると食事時だ。すると手に何かを持ち入ってくる憲兵。

 

「昼休みなので金剛さんは食堂でお昼ご飯を食べてきてください」

 

「What?憲兵さんは食堂にはいかないんデスカ?」

 

「今日は纏める資料が多いのでここで食べます」

 

「寂しくないんですカ?」

 

「……特に寂しいとは思いませんが」

 

「…食堂に行ってくるネー」

 

そう言って食堂へと向かおうとする金剛。扉の前で立ち止まり何かを考えている。憲兵はどうしたのだろうかと金剛に声を掛けた。

 

「どうかしましたか?」

 

「やっぱり食事は皆で食べた方が楽しいネ!憲兵さんも一緒に食堂に行くデース!」

 

そう言って憲兵の弁当箱を持ち憲兵の手を引っ張り食堂へと連行していくのだった。

 

 

鎮守府 食堂

 

憲兵さんの手を引っ張り食堂へとやって来た金剛は姉妹艦である比叡、霧島、榛名の元へと歩みを進める。

 

「あ、金剛お姉さまってひええ?!」

 

「あら、金剛お姉さまってば大胆ですね」

 

「あ、えっと…憲兵さん」

 

「憲兵さんも一緒にいいですカー?」

 

「いいですけど…どうして手を繋いでいるんですか?」

 

比叡の言葉を聞き憲兵の手を握っていることに気がつく金剛。お姉さまも憲兵さんを…榛名はどうしたら…と目をぐるぐる回す榛名。憲兵は困ったような顔をしている。ふと視線に気がつき視線の元を見ると提督が羨ましそうに金剛を見ていた。

 

「Oh…」

 

 

◇ 

 

夕方 十八時 憲兵寮前

 

「今日一日お疲れ様でした。色々と助かりました」

 

「私も色々と学ばせてもらったネー!ちょっと疲れたけど楽しかったデース!」

 

一日の業務を終え、いつもの服装に戻った金剛。憲兵はありがとうございますと頭を下げる。

 

「これをどうぞ」

 

「What?」

 

紙袋を手渡される金剛。なかを見てみると四つのティーカップが入っていた。

 

「買い出しの際に金剛さんがこれを見ていたので今日のお礼で買いました。よろしければ使ってください」

 

「え、あ、うぅ…提督の気持ちが少しわかったデース」

 

ずるいデス。そう思う金剛。

 

「ありがとうデース。大事に使いマス」

 

「では私は自室ですることがあるので今日はここで」

 

部屋に戻ろうと寮へと入ろうとする憲兵。

 

「憲兵さん!」

 

それを呼び止める金剛。振り返った憲兵の目を見る金剛。

 

「私、負けないデース!」

 

そう言って艦娘寮へと走っていく金剛に憲兵は何のことか分からず立ち尽くしていた。

 

 

 




感想、評価、アドバイス、その他もろもろお待ちしています!

ちなみに我が鎮守府で金剛は一番来るのが遅かったです。榛名→霧島→比叡→金剛の順番です。

デースとネーの発音が好きです。最近中の人が同じ人と知って驚きのあまり言葉を失いました。声優さんってすごい!


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憲兵さんの部下の1日

今回は憲兵さんの部下のお話。
新田提督達が来る前日のお話。


朝 七時 憲兵家

 

「いってらっしゃい」

 

「いってらっしゃいパパ!」

 

朝、笑顔で見送りをしてくれる私の妻と娘。本当にいい家族をもったものだ。妻は近所でも有名なくらいきれいだし、娘も目に入れても痛くはない。

 

「あ、あなた…その向こうでは気を付けてね?浮気はダメよ?」

 

「わかってるよ。僕が愛してるのは君だけだからね?」

 

「みおもパパ好きだよ」

 

「うん。パパも美緒が好きだよぉ」

 

そう言って娘の美緒を抱き上げる。ほっぺにちゅーとしてくる娘…あぁ、これで十年は戦える。絶対結婚なんてさせない。てか許さない。男が近づくことも許さん。捕縛する。

 

「今日休みたい」

 

「行きなさい」

 

ぴしゃりと妻に言われしぶしぶ鎮守府へとむかうのであった。

 

朝 九時 執務室 

 

「お疲れ様です提督」

 

「た、助けてくれ!憲兵さん!」

 

執務室を入ってからの提督の第一声が助けを求める声だった。状況を確認すると戦艦武蔵に押し倒されている提督の姿があった。思わずため息をついてしまう。この鎮守府ではいつものことなのだ。ここの提督はまぁ、かっこいいのだ。運動神経もよく、頭も良い。性格もよく見た目も多くの一般人の女性が振り向くような端整な顔立ちをしている。今年で25歳になるのだが女性の前ではかなり弱気なのだ。

 

「武蔵さん…離れましょう」

 

「む…仕方ない。また夜に来るとしよう」

 

「はぁ…」

 

しぶしぶと部屋から出ていく武蔵。提督は泣きそうな顔をしながら震えている。これが我が上司の欠点なのだ。女性が苦手どころの話ではないのだ。昔、襲われそうになったのが原因らしいのだ。

なら何故艦娘を指揮する提督になったのかと聞いたとき

 

『人を助けるのに理由はいらないだろ?私の祖父が昔海軍で働いていて、多くの人を救ったらしい。だから私もそうなりたいんですよ。全ては守れませんが、私の手の届く範囲は絶対に守りたい…そう思って海軍に来たので』

 

笑顔で答えた彼の顔は本当に良い笑顔だった。その時居た大淀さんがぽーっと提督を見つめていたのは内緒だ。 

 

「ありがとうございます憲兵さん」

 

椅子に座り直す提督。とりあえず本日の予定を話していく。

 

「桜村から旅行で新田提督と艦娘が来るそうですよ」

 

「なに?!な、なら鳳翔さんも来るのか!?」

 

「え、えぇまぁ来ると思われます」

 

「そうかそうか…会えるかなぁ」

 

そう言って資料を纏める提督。彼は新田提督の鎮守府に配属されている鳳翔さんのことが好きらしい。以前新田提督と演習したときに何故か炊き出しをしていた鳳翔さんに一目惚れしたとか…こうティンと来たとか

 

「会えると良いですね」

 

「あぁ!さて今日の仕事を終わらせましょう!」

 

 

 

 

昼 十二時 執務室

 

「お疲れ様です」

 

「おぉ!憲兵さん!見回りご苦労様です!どうですか?一緒に食事でも?」

 

ま、眩しい。何でこんな笑顔をできるんだ。私が今の妻を振り向かせるためにどれだけ苦労したか…神よどうして、この世界は残酷だ。

 

「艦娘達に囲まれるのが困るから誘ってますよね?」

 

「…ソンナコトナイゾ」

 

しっかりしてほしいものである

 

 

 

食堂

 

食堂へとやって来た提督と私だったが提督は食堂に入った瞬間挙動不審になる。

 

「…大丈夫ですか?」

 

「憲兵さん…離れないでくださいよ…」

 

周りを見ると提督を見つめる艦娘達。最近胃薬が手放せなくなったのは歳のせいだ。そうに違いない。

提督と席に座り食事を取る。日替わりランチを食べる提督。わたしは愛しの妻の弁当を食べる。手紙が入っているな…ふむ今日は美緒も手伝ったのか……何だと?!

 

「いつも思いますけど憲兵さんのお弁当美味しそうですね…一口貰っても」

 

「ダメです。これは娘が手伝って作ってくれたものです。私のものだ。私のものだ」

 

「あ、はい」

 

やらん!ついでに嫁にやらん!

 

 

夕方 十七時

 

「憲兵さーん」

 

「夕張さん?どうかしましたか?」

 

正門の掃除をする私の元へやって来たのは夕張さんだった。嫌な予感がする。

 

「熊野さんと足柄さんとイクちゃんが提督に襲いかかってます!」

 

「助けてえええぇ憲兵さあああああん!」

 

「待ってください!熊野がぎゅってしてあげますわ!」

 

「待って!私と夜戦しましょう!」

 

「イクと気持ちいいことしよぉぉ!」

 

「いやあああああああああああ!?ヘルプ!ヘルプ!憲兵さああああああん!」

 

おかしな叫び声を挙げる提督を追いかける三人の艦娘。

これはまずいな

 

「今行きます提督!何とか持ちこたえてください!」

 

「無理無理!無理だぜこんなの!どうやって相手にすれば良い?!」

 

少しばかり提督の口調がおかしいがとりあえず熊野さんと足柄さんと19さんを取り押さえなければ提督が死ぬ。死にはしないと思うが追いかけてる三人の眼が少々危ない。提督を追いかける三人を追うために駆け出すのだった。

 

 

夜 十九時 自宅

 

「つ、疲れた…」

 

へとへとになりながら自宅へと帰ってくる。あの追いかけっこはその後多くの艦娘も参加し大規模なものとなったが何とか鎮圧することができた。手伝ってくれた那智さんと夕張さんには感謝してもしきれない。わたしは提督に明日の予定などを報告をし、帰宅すると言うと行かないでくれと泣きつかれたが帰ってきた。許してください提督。ちなみに提督の部屋はオートロック式となっておりカードが無いと入れないものとなっているので夜はまぁ、安心です…多分。

 

「ただいま」  

 

「おかえりなさいあなた」

 

出迎えてくれる妻。ぎゅっと抱きついてくる…癒されるなぁ…

 

「美緒は?」

 

「帰ってきてますよ。今日は学校の後にお友達と遊んで帰ってきたらしいですよ」

 

「へぇ~…それは男か?」

 

知りませんよもうとふくれる妻。かわいい。すると奥から美緒がおかえりなさい!と駆け寄ってくる。かわいい。ほんともう天使。あれ?私の家は天国なのか?

 

「パパ!今日のお昼のお弁当おいしかった?」

 

「うん!おいしかったぞ!」

 

私の返事を聞きえへへと笑う娘。

 

美緒の笑顔を見て本当に守れてよかったと思う。あの本土防衛戦での戦いは無駄ではなかった。守りきれたんだ。

 

「そういえば明日副隊長が配属されてる鎮守府がこっちに旅行で来るらしい」

 

「あら、そうなんですか?」

 

 

「多分引率で来ると思うからなぁ」

 

明日顔を出してみるか

 

 




感想、評価、アドバイス、その他もろもろお待ちしています!

今回はギャグでした

もし、憲兵さんの奥さんと子供が生きていたらもっと表情豊かになってたかもしれませんね。


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蒼龍の回想

遅くなって申し訳ありません

決して蟻から地球を防衛するゲームをしてたわけではありません…

今回のお話は憲兵さんが来て、半年ぐらいの時系列です


彼はいつでも私たちの味方でいてくれる

 

そんな憲兵さんが好き…

 

無意識に目で彼を追ってしまう

 

彼の一つ一つの行動が愛しく思ってしまう

 

いつからだろう…彼を好きになったのは

 

 

 

 

 

彼と出会ったのは一年前。私が桜村鎮守府に配属された日のことです。初めての土地だったので私はその…恥ずかしいんだけど迷子になってしまいました。どうしようと途方に暮れている私に声を掛けてくれたのは彼でした。見た目が怖いので最初は助けてー!って叫んだりしましたっけ…

その後、彼は私の荷物を持ってくれて鎮守府まで案内してくれました。彼は時間になっても来なかった私を探しに来てくれたみたいなのです。この時は見た目は怖く無口。でも優しい人なんだなって印象でした。

配属されてから数週間経ち、ようやくここでの暮らしに慣れてきた頃でした。その日、私は初めての出撃でした。戦場に慣れるために出撃すると言うことで練度の高い電ちゃん、榛名さん、霧島さん、時雨ちゃんそして私。私はこの時自信に満ち溢れていました。二航戦として、立派に戦ってやる!って意気込んでました。でも敵を目の前にして私は動くことができませんでした。

 

『恐怖』

 

それが私を支配した。体が震え、目の前の敵に対して私は何もできないと思ってしまった。震え上がり、動けなくなった私を敵が見過ごす訳がなかった。敵の攻撃…しかもたった1発被弾しただけで大破してしまいました。震えしゃがみこんだ私を榛名さんが守り、電ちゃん達が敵を掃討していました。提督は通信ですぐに帰投するようにと言い、私は何もせずに鎮守府へと帰っていきました。この時の私は情けなくて…悔しくて泣きながら帰っていきました。

鎮守府の埠頭へ着いた私たちを待っていたのは提督でした。提督は私に大丈夫?早く入渠しないと大変!と気遣ってくれました。そして私が入渠するために歩いていたときに憲兵さんと鉢合わせしました。彼は俯いていた私にお疲れさまですと声を掛けてくれたのに…私はその時に、何もできなかったの!って泣きながら怒鳴ってしまい、そのまま彼の元から走り去ってしまいました。

 

 

その日の夜、私は眠れなくて外に出ていました。埠頭に座りぼーっと海を見ていた時、また彼に会ってしまいました。彼は隣よろしいでしょうか?と聞いてきたが私は昼間のこともあったので黙って頷きました。彼は隣に座り海を眺めていました。彼と私の間には会話は無くただ時間だけが過ぎていく。

 

「蒼龍さん」

 

「…」

 

「敵が怖いですよね」 

 

「…ッ!」

 

敵を思いだし震える身体。殺されるかもしれない恐怖。また深い海の底へと沈んでしまうかもしれないと思うと震えが止まらなかった。心の奥底にしまった筈の記憶が甦る。

 

「おかしいですよね…戦うために生まれた艦娘。しかもニ航戦が…」

 

「貴方は一人の女性、怖がって当然なんです。強がる必要はありませんよ」

 

すごく優しい声だった。それを聞き心を縛っていた何かが壊れ様々なものが溢れだしてきました。

 

「…死にたくないよ…怖いよ…もし沈んだらあの冷たい海の底に沈んでいくなんて…もうやだよ……」

 

 

「…」

 

ぼろぼろと溢れでる感情を言葉にしながら泣く私。すると彼はポケットからハンカチを取り出し私の涙を拭いてくれました。

 

「ここには私と蒼龍さんしか居ません。我慢しなくてもいいんですよ」

 

その言葉を聞き私は憲兵さんの胸に泣きついてしまいました。憲兵さんはわんわんと泣く私の背中を優しく子供をあやすようにぽんぽんと叩いてくれました。彼の優しさに包まれ、そのまま私は泣き疲れて眠ってしまった。その後憲兵さんが私を部屋まで運んでくれたらしいです。

 

 

 

 

初めての出撃から三日経ち、私は出撃しました。出撃する際に提督が手作りのお守りを渡してくれました。そして私も今回は着いていく!と言ってボートで着いてこようとしてましたが叢雲ちゃんに止められていました。

前回と同じ編成で海へと出る。そして偵察機から敵艦隊を発見したとの報告が入る。そして目の前に現れた敵を見て身体が震えた。

 

沈んだらまた暗い海の底…

 

怖い…

 

死にたくない…

 

 

 

そう思っていたときでした

 

 

 

 

 

 

 

『蒼龍ちゃん!がんばれええええええ!』

 

 

 

無線から聞こえたのは提督の声でした。そしてふとお守りを渡されたときに言われた提督の言葉、そして三日前の夜に話をした彼の言葉を思い出した。

 

 

『蒼龍ちゃんは一人ぼっちじゃないからね!』

 

『蒼龍さんは一人ではありません。他の艦娘や提督が付いていらっしゃいます』

 

そうだ。私は一人じゃない。

 

眼を開き敵を捉え、

 

弓を構える

 

 

「攻撃隊!発艦始め!」

 

 

敵を見事撃破した私を提督、そして一緒に出撃した皆が泣きながら喜び、私も泣いちゃいました。

私はあの人にも伝えたいと思い、いつも彼がいる正門まで走っていきました。そこにはやはり無表情で立っている彼がいました。

 

「お疲れさまです憲兵さん!」

 

「お疲れさまです。そしてお見事です蒼龍さん。貴方ならできると分かっていました」

 

「提督や電ちゃんたち、そして話を聞いてくれて…泣いてる私を慰めてくれた憲兵さんのおかげです…」

 

「私は何もしてません。ただ強い一人の女の子にハンカチを貸しただけです」

 

そう言って僅かではあるが優しく微笑んだ彼の顔を見て…

 

 

彼に…憲兵さんに恋をした…

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイス等お願いします!

関係ないですがガンダム0083を久々に見て、ガトーを見て夕立しか出てこなかった


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十五日目

ゲーム、アニメのサブタイトルなどで好きなのは

「黄金の秋」ターンエーガンダムより

「バカがヨロイでやってくる」ガン×ソードより

「死してなお輝く」メタルギアソリッドⅤより

ですかね…

まぁ、とりあえず本編どうぞ!


9月◇日

 

朝 9時 鎮守府中庭

 

9月に入ったがまだまだ暑さが残る朝。憲兵はせっせと中庭の雑草を抜いていた。そんな憲兵と同じようにヲ級も雑草を抜いていた。イ級は雑草を食べていた。

 

「おはようございます憲兵さん」

 

後ろから声を掛けられ振り向いた先に居たのは吹雪だった。近くの物陰に提督と電の二人が様子を伺っていた。憲兵は吹雪にあいさつを返した後、しゃがみこみ作業を続ける。すると隣にしゃがみこむ吹雪。憲兵は特に気にする様子もなくただ雑草を抜いていた。

 

「1つ質問いいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「憲兵さんの本名って何ですか?」

 

ピタリと作業をしていた手を止める憲兵。吹雪は地雷を踏み抜いてしまったのかと冷や汗を流す。

どうして私が…と吹雪は心の中で悪態をつき朝の出来事を思い出していた。

 

 

 

朝 8時 執務室

 

「憲兵さんの本名を聞き出す?」

 

提督に呼び出された吹雪に下された任務は憲兵の本名を聞き出すことだった。提督はゆっくりと頷きまるで重要な任務を言い渡すかのような雰囲気を醸し出している。

 

「憲兵さんが来て二年になります。それまでに様々なイベントで私たちは憲兵さんと仲良くなりました。でも…」

 

ぐっと拳を握る提督。秘書艦担当の電は黙々と資料を纏めている。

 

「憲兵さんの本名を知らないことに気づかず二年も過ごしてたなんて!私ってほんとバカ!」

 

 

いきなり叫ぶものだから電は何なのです?!と驚いていた。

実は憲兵隊など派遣される人物の資料は大本営が管理し、現場の提督などには彼らの情報は伏せられている。

提督達の仕事が光とすれば、憲兵は影の仕事。しかし徹底的に管理されている訳ではなく、名前や年齢は派遣された憲兵個人の判断で伝えられてもよいとされている。

ここの憲兵の性格から見れば教えなくても大丈夫と考えているのだろう。

 

「とにかく吹雪ちゃんへの任務は憲兵さんの名前を聞き出すこと!いい!?」

 

「ひぃ!し、司令官怖いです!わ、わかりましたからぁ!」

 

凄い気迫で吹雪に詰め寄る提督。吹雪は完全に震え上がっていた。

 

 

「憲兵です」

 

「……」

 

「…冗談です」

 

冗談を言っているのか言っていないのか分からない微妙な表情をしている憲兵。吹雪は教えてくださいよぉと憲兵の顔を覗き込む。物陰では少しばかり憲兵さんと距離が近いんじゃないかなと愚痴る提督。電は提督の袖をひっぱり早く執務室で業務を終わらせないとダメなのですと提督を執務室へ連れて帰ろうとしている。

 

「お願いします!」

 

「いいですよ」

 

「本当ですか!?」

 

「はい」

 

普通に教えてくれると言う憲兵。そして名前を言おうとした瞬間だった。

 

「憲兵さん!遊んでほしいっぽい!」

 

どこからか現れたのか夕立が憲兵の腕を引っ張り猛スピードで連れ去っていってしまった。ポツンと取り残される吹雪。物陰で見ていた提督はうなだれ、電は提督を引っ張っていた。

 

 

 

昼 13時 執務室

 

「夕立ちゃん…いいところで…」

 

「あの…資料に判子押してほしいのです」

 

執務室の机で唸る提督。吹雪はどうしてこんなことに…と内心泣いていた。すると執務室にノックの音が響く。

 

「HEY!提督!ティータイムするネー!」

 

入ってきたのは金剛だった。金剛に腕を引っ張られる提督。

 

「金剛ちゃん!お願いがあるの!」

 

「何ですカー?提督のお願いなら例え火の中水の中デース!」

 

 

「私もご一緒してよろしかったんでしょうか?」

 

「問題ないデース!一緒にティータイムを楽しむデース!」

 

提督、吹雪、電、そして金剛型の輪の中に居る憲兵。少し困った顔で椅子に座っている憲兵を見て微笑む榛名。比叡は憲兵にお菓子をよそっていた。

提督の次の作戦はお茶会をしながら聞き出す作戦だった。

 

「どうぞ憲兵さん」

 

「霧島さん…ありがとうございます」

 

霧島から紅茶を受け取る。憲兵は紅茶を少し飲みおいしいですねと感想を言いながらそわそわとしていた。

 

「…あの榛名さん」

 

「なんですか?」

 

「近いです」

 

「榛名は大丈夫です」

 

憲兵に肩が触れあうほどぴったりと引っ付いて座る榛名。

 

「…提督」

 

「何ですか?憲兵さん」

 

「近いです」

 

「私も大丈夫ですよ~」

 

反対側にはぴったりと引っ付く提督。憲兵は懐から胃薬を取り出し飲む。最近減りが早いのでまた買い出しの時に買わなければと考えていた。

吹雪はそれを見て、提督に耳打ちをする。

 

「司令官…名前聞き出さないと…」

 

「んーそれは後で…」

 

すっかり当初の目的を忘れている提督。ただ時間が過ぎていっていた。そんな時だった。

 

「そう言えば憲兵さん」

 

「なんでしょうか?」

 

「憲兵さんの本名って何ですか?」

 

比叡があっさりと聞いていた。それに反応する提督とその他の艦娘。電はスコーンをおいしそうに頬張っていた。

 

「そう言えば吹雪さんも聞いてきましたね…」

 

「は、はい!」

 

「先程は教えれなかったので教えておきますね…横山明弘と言います」

 

普通に教えてくれる憲兵。いい名前ですねと霧島が言い、ありがとうございますと憲兵も返事をしていた。名前を聞き出せて満足する提督。すると比叡がひらめいたと言わんばかりの顔をする。

 

「あ!なら明弘さんって呼んだ方が良いですか?」

 

えへへと笑う比叡だったが憲兵の手が止まった。

 

「……その、憲兵さんと呼んでもらった方がありがたいです…」

 

凄く寂しそうに、そして悲しそうな声色。

 

「すいません。少し用事があるので失礼します。金剛さん…スコーンと紅茶ありがとうございます」

 

 

そう言って足早に立ち去っていく憲兵であった。

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

雑草を抜く。吹雪さんと話をする

 

 

 

金剛さんのお茶会に誘われる。

 

 

一言

 

駄目だ…比叡さんの声で名前を呼ばれるとどうしても彼女を思い出してしまう…こんな事では駄目だ。乗り越えたのではないのか私は……

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイスなどよろしくお願いいたします

活動報告に少しのアンケートがありますのでよろしかったら見ていってください。

※修正をしました。


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十六日目

本編どうぞ!




9月*●日

 

朝 10時 鎮守府正門

 

「おはようございます!憲兵さん」

 

「おはようございます。いつもありがとうございます」

 

「アリガトウ!」

 

「喋った!?」

 

いつものように魚を届けに来る青年。ヲ級が喋ることに驚いていた。しかし、驚いたかと思えばすぐ笑顔になりヲ級の頭を撫でる青年。すごいなお前と優しく声を掛け、ヲ級を抱き上げる。ヲ級は嬉しそうに青年を抱き締め返していた。

 深海棲艦と分かり合える日がくるきっかけじゃないかと青年は言う。青年の考えに憲兵は賛同していた。旅行先で榛名とヲ級が触れ合っているのを見ていた。榛名の裏のない笑顔とヲ級の笑顔、そして今目の前で触れ合っている笑顔の青年とヲ級。いつの日か深海棲艦との戦争も終わり、深海棲艦も艦娘も人間も仲良く暮らせるのではないかと…しかし、それは夢物語なのかもしれない。でもほんの少しの可能性に掛けてもよいのではないのだろうか。希望がなければ心を持つ者は生きてはいけないのだから。

 柄になく未来の事を考える自分の変化に戸惑いながらも、憲兵は青年と談笑していた。

 

「…あれなんですね。憲兵さんも笑うんですね」

          

「え?」

 

「2年前の憲兵さん…失礼ですけどすごく怖かったですよ…その何て言ったらいいのか…」

 

なんと言ったらいいのか、言葉が出てこずあたふたとする青年。憲兵は彼が言わんとしていることをなんとなくだが予想できていた。

 

「その…この人、生きているけど死んでるって思ってました」

 

「……」

 

予想していた言葉を言われ、黙ってしまう憲兵。青年が謝ってくるが気にしていないと彼は答える。

 生きてるけど死んでいる。正にその通りの生活を当時していた憲兵。2年前だけではない。彼女と子供が死んだ日から、ただひたすらに自身に課せられた仕事だけをこなしてきた。そこには彼女の死と子供の死から逃れる為だったのかもしれない。守ると約束した妻と子供を死なせてしまった自分が許せなかったのかもしれない。そんな彼はいつの間にか死んでいたのだろう。

 先に死んでしまった彼女と子供に恥じないように生きていくつもりで憲兵になったはずなのに…

 

「でも憲兵さんは笑っているほうが素敵ですよ。凄く優しそうで…」

 

「ありがとうございます」

 

「あ!憲兵さん!…それとお魚くれる人!」

 

そこへ提督がやって来たのだった。青年は提督の顔を見て挙動不審になる。どうしたのだろうと心配する憲兵。心中穏やかでない青年そして憲兵のもとへやってきた提督。

 

「いつもありがとう!お魚とってもおいしいし皆喜んでるよ!」

 

「え、あ、そのき、気にしないでくだしゃい!」 

 

顔を真っ赤にする青年。好きな女の子の前ではこんな顔をするのかと少し微笑ましく思う憲兵。熱でもあるのと青年の顔を覗きこむ提督。これがいけなかった。至近距離で好きな子の顔を見た青年はおかしな悲鳴を挙げながら走り去ってしまった。

 

「んー?」

 

「…」

 

取り残される二人だった。

 

 

夕方 18時 中庭

 

夕方になり中庭の花に水をやる憲兵。そこへ曙がやってきた。いつものように無言で憲兵の手伝いをする曙。手伝いをはじめてしばらく経ち曙が憲兵に話しかける。

 

「く、くそ憲兵!」

 

「何でしょうか曙さん」

 

「えっと…その…い、一緒に晩御飯…たべない?」

 

次第に声が小さくなり最後の方はほとんど聞こえないぐらいの声の大きさだった。

 顔を真っ赤にして俯く曙。憲兵は曙の近くまで行き、目線を合わせるためにしゃがむ。

 

「本日の仕事は終わっていますので私でよければ夕食をご一緒させてもらいます」

 

憲兵を夕食に誘うことに成功した曙は嬉しそうに顔をあげるが憲兵が目の前にいるのに気づきすぐに仏頂面に戻る。

 

「約束だからね!私は先に席取ってあげるから!」

 

そう言って走り去っていく曙の後ろ姿を娘を見るかの様な目で見る憲兵だった。

 憲兵が見えないのを確認した曙は嬉しそうにスキップしながら食堂へと向かうのであった。

 

 

「席を確保してもらいありがとうございます」

 

「き、気にしなくていい!」

 

食堂で二人仲良く夕食をとる憲兵と曙。今日の夕食はオムライス。ケチャップは鳳翔が憲兵の育てたトマトから作ったものらしい。愛の結晶みたいですと赤城が言ったのを聞いた鳳翔が顔を赤くしていたのは別の話だが…

 美味しそうに食べる曙。憲兵も食べるのを進めていくがあることに気づく。

 

「曙さん頬っぺたにケチャップがついています」

 

「え?ど、どこ?」

 

「じっとしていてください」

 

憲兵はお手拭きで曙の頬っぺたに付いているケチャップを優しく拭き取る。

 

「じ、自分でできたわよ!」

 

「す、すみません。出すぎた真似でした」

 

年頃の娘にすることではなかったと反省する憲兵。しかし、憲兵の考えとは逆に曙の頭の中はパンク寸前だった。子供扱いされるのは嫌だが、好きな異性にこうして気に掛けてもらうのは悪くはないなと考える曙だった。

 

 

夜 21時 艦娘寮ロビー 

 

「アルバは水の神オストラヴァの助言通り、肥やした土の近くに湖の水を運びました。そしてアルバは光の神ソラールのもとへと向かうのでした」

 

ロビーでは例の本を艦娘達に読み聞かせる憲兵の姿があった。物語も終盤に入ろうとしていた。

 

「本日はここまでにしましょう。消灯時間まであと一時間なので」

 

「もうすぐ七色の花がでてくるのです!」

 

「頑張れアルバ!」

 

物語の感想を言う艦娘達を見る憲兵。膝の上ではイ級を抱き枕にし、うとうととするヲ級。憲兵はヲ級を優しく抱き上げ自室へと戻ろうとロビーから出る。

 

「…アルバ、ガンバレ」

 

憲兵の耳に聞こえたのは微笑みながら眠るヲ級から発せられた言葉だった。

 

「いい夢を見てください」

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

青年と話をする

 

夕方

 

曙さんに中庭の手入れを手伝ってもらった後、夕食を取る。

 

 

艦娘の皆様から本を読んでほしいとのことで艦娘寮のロビーにて本を読む。

 

一言

 

深海棲艦と分かり合える日が来るのを切に願う。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 

 

 




感想、評価、アドバイス等よろしくお願いします!

◇お気に入りが2000人突破しました!
皆様の暖かいコメントやアドバイス、評価のお陰です!
これからも精進していきますのでよろしくお願いします
誤字脱字が多い作者ですが見捨てないでぇ!(比叡)




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十七日目

本編どうぞ!


9月**日

 

朝 11時 正門

 

九月の中旬を過ぎ、暑さが和らぎ日中涼しく過ごしやすい季節になる。暑さから解放された艦娘達は各々作戦や遠征、演習、訓練に没頭していた。そんな中、大和はるんるん気分で憲兵がいるであろう正門へと足を運んでいた。運用するには莫大な資材を必要とする大和。暇な時は憲兵と過ごす。今日はお昼の食事を誘うために彼に会いに来ていた。

 憲兵の姿を確認し笑顔になる大和。しかし彼の隣には先客がいた。

 

「榛名さん…その…近いです」

 

「榛名は大丈夫です」

 

正門には憲兵の横にぴったりとひっつく榛名がいた。憲兵は離れようとするが榛名は憲兵が逃げないように彼女は腕を絡ませ憲兵の肩に頭を預ける。離れようにもガッチリと捕まえられている憲兵は逃げることができなかった。

 あの旅行から榛名の憲兵に対する態度が一変した。いつも一歩引いた所から彼の姿を目で追ってきた彼女だったが、旅行の後は積極的になっている。控えめな彼女があそこまで積極的になったのは恐らく彼との間になにかあったのだろう。

 ちくりと胸に痛さを感じる大和。それがなんなのかを分からない彼女ではない。嫉妬…彼を取られてしまうかもしれないという焦りからかもしれない。しかし、自分の思いを伝えることが果たしてできるのか。自分は艦娘で彼は人間。しかも奥さんと子供がいた。亡くなってはいるが彼の心にはいつも奥さんと子供がいる。そこに入り込むことなんてできるのかと…

そんな考えに支配され俯き動けなくなる大和。以前なら自分も彼に抱き付くくらいのことをしていたが動けない大和。彼女は憲兵に声を掛けること無く来た道を戻っていくのだった。

 

 

「憲兵さんに話し掛け辛い?」

 

自室に戻る途中大和だったが、落ち込んでいる様に歩く彼女を見つけた提督により執務室につれていかれた。

 

「はい…提督は憲兵さんが好きなんですよね?」

 

「うん…大和ちゃんもでしょ?」

 

「…はい。でも彼の心には奥さんがいます…振り向いてくれるか分からなくてその…怖いんです。本当はなんとも思ってないかもしれない…仕事だから優しくしてくれているかもって思っちゃうと…」

 

次第に声が小さくなり、俯き泣きそうな顔をする大和。

 

「それでも、私は憲兵さんが好きだよ」

 

そんな彼女に提督ははっきりと言った。

 

「仕事だから優しくしてくれるって大和ちゃん言ったけどそんな器用なことできる人じゃないもん。憲兵さんは不器用だし、嫌いな食べ物が出たら顔しかめるし、恥ずかしいことがあったら赤くなるしね…奥さんが居たことには驚いたよ…子供も居たのはビックリだったし…でも好きなんだもん。仕方ないよ」

 

「提督…」

 

「だからさ、大和ちゃんも難しいこと考えずにね!」

 

そう言って微笑む提督の笑顔。大和は頑張ってみますと言い、執務室から飛び出していった。

 

「私も憲兵さんと晩御飯食べよーっと!」

 

仕事に取りかかる提督だった。

 

 

昼 12時 鎮守府正門

 

 

「憲兵さん!」

 

「な、何でしょうか大和さん」

 

警備をしていた憲兵に詰め寄る大和。憲兵は何かしてしまったのかと焦る。

 

「その…お昼御飯は食べましたか?」

 

「いえ…まだですが」

 

「な、なら一緒にどうですか!」

 

お昼のお誘いであることにホッとする憲兵。

 

「私でよろしければご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「ッ!はい!」

 

そして大和は憲兵の腕に抱き付く。

 

「大和さん…離れましょう」

 

「ふふふ…駄目です」

 

悪戯な笑みを浮かべる大和。少しだけ強くなった大和であった。

 

 

 

夜 19時 憲兵寮 自室

 

 提督と電と食事をした憲兵は自室に戻り書類の整理を終わらせていた。各鎮守府の情報などを共有するモノもあり、一通り目を通していた。

 ふと目にした資料。そこには『第二期憲兵育成期間』と書かれていた。現在憲兵隊は配置している憲兵隊員が少ないのではないかと言われており、新たな憲兵隊員を募集、育成を始めていた。来月の頭に1ヶ月間研修で新しい憲兵隊の研修生が配備される主が書かれている。そしてここの鎮守府に来る研修生の名簿に目を通した。

 

「…女性?」

 

憲兵隊では珍しい女性隊員だった。年は二十歳。ショートカットに切られた黒の髪の毛。瞳も綺麗な黒色であった。

 

「…」

 

「その人誰?」

 

ふと背後から声が聞こえ振り向く憲兵。そこには不機嫌な鈴谷が立っていた。どうやって中に入ったのかと思ったがそれより機嫌の悪い鈴谷をどうやって宥めるかを考える。

 

「もしかしてお見合い?」

 

「違います。新しい憲兵隊員の名簿です」

 

「…ほんと?」

 

「ほんとです。来月の頭に来るそうですのでその時はよろしくお願いいたします」

 

「なーんだそうだよね…安心した」

 

そう言って憲兵のベッドに腰かける鈴谷。どこかいつもとは違う様子でそわそわして落ち着きがない。何かに怯えているようにも見える彼女を見て何かを感じる憲兵。するとおずおずと鈴谷が口を開いた。

 

「ねぇ…憲兵さん」

 

「何でしょうか鈴谷さん」

 

「その…今日…一緒に寝てくれない?」

 

資料を纏める憲兵の動きが止まる。

 

「それは…なぜでしょう?」

 

「……昨日ね…アイツに襲われそうになる夢を見たの」

 

憲兵は鈴谷を見る。顔色も悪く、震え、いつもの明るい彼女の姿がそこには無く、怯え、震え上がった少女がいた。

 

「怖い…あの時憲兵さんが助けてくれなかったらって…だから側にいてほしい…我が儘なのはわかってるけど…」

 

震える手を見る鈴谷。すると大きな手が優しく包み込む。顔を上げると心配そうな顔をする憲兵がいた。

 

「今日は特別に許可します。ですが、一緒には眠れませんが側にいますので」

 

「ありがとう」

 

鈴谷はその日、憲兵の部屋のベッドで眠る。その傍らに椅子に座り手を握る憲兵。その日鈴谷は悪夢を見なかったらしいが、翌日は恥ずかしく憲兵を見ることができなかったのはまた別の話。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

榛名さんと話をする。大和さんと食事をする

 

 

資料のまとめ。鈴谷さんの側にいることに。

 

一言

 

新たな憲兵隊員が配備されるらしいがどのような人物なのだろうか。

そして鈴谷さんに少し気を配らなければ…

 

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし

 




感想、評価、アドバイス、誤字脱字などなにかあればお願いします。

夏になり動きが鈍くなる作者を許しておくれ


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十八日目

遅くなりました

本編どうぞ!


10月●◇日

 

朝 8時 鎮守府正門

 

10月に入り涼しくなる季節。今日はこの桜村の鎮守府に新しい憲兵隊員が配属される日。いつものように早く起きた憲兵は正門で新しい憲兵隊員が来るのを待っていた。

 鎮守府の正門に時間通りに大荷物を持った女性がやって来た。ぜぇぜぇと疲れた様子でやって来た女性。憲兵は彼女が息を整えるのを待つ。

 

「はじめまして!本日付でこの桜村鎮守府の憲兵隊2期生の研修に参りました。秋山美香ともうします!」

 

ビシッと敬礼をし挨拶をする新しい憲兵隊員の秋山美香。写真で見るよりかはかなり幼いように見えると考える憲兵。

 

「はじめまして。この桜村鎮守府の憲兵です。よろしくお願いいたします」

 

敬礼をし挨拶を返す憲兵。するとキラキラとした瞳で憲兵を見る美香研修隊員。

 

「あ、あなたが伝説の横山殿でありますか!」

 

「で、伝説?」

 

「はい!狼藉を働く提督を数多く検挙し、現場復帰不可能と判断されていた艦娘のケアをし、立ち直らせ、大きく海軍連合に貢献し名誉憲兵として表彰された人物として私たち憲兵2期生では憧れの存在、そして伝説と言われております!ご教示いただけるなんて感激の極みであります!」

 

「そ、そうですか…」

 

ハイテンションな彼女に着いていけない憲兵。美香研修隊員はその後も憲兵がどれだけ有能であり憧れの存在かを長々と聞かされるのであった。

 

 

荷物を憲兵寮の部屋に置き、提督のいる執務室へと案内する。その道中に天龍を追いかけ回しスカートの丈を膝まで下ろしたり、駆逐艦の子達に遊びに誘われたり、鳳翔に買い出しの約束などをしたりなど様々なことがあったが何とか執務室へとたどり着いた。

 

「提督、研修隊員が来ました。御時間宜しいでしょうか?」

 

ノックをした後、室内へそう呼び掛ける憲兵。ドアの向こうから返答を待つ。ど、どうぞと緊張した提督の声が聞こえ美香研修隊員を連れ執務室内へと入る。

 

「失礼します」

 

「失礼します!」

 

緊張しているのか美香研修隊員の声が裏返る。憲兵はその様子を見てかつて新米兵士だった頃の自分を思い出していた。

 

「ほ、本日付で桜村鎮守府の憲兵隊の研修で参りました秋山美香ともうします!よろしくお願いいたします!」

 

ビシッと敬礼をする美香研修隊員。提督も敬礼をし自己紹介をする。

 

「この桜村鎮守府の提督をやっています新田小雪です。これからよろしくお願いいたします」

 

その後提出する書類などを提督に渡し、この鎮守府の決まり事などを美香隊員に伝える提督。その間憲兵は今日の秘書艦である吹雪の手伝いをしていた、

 一通り説明が終わり雑談をしている二人。すると執務室の扉が勢いよく開かれる。

 

「てぇいとおおおくうううううううう!」

 

「お帰り金剛ちゃん!」

 

演習に出ていた金剛が帰ってきたのだ。金剛はそのまま提督にダイブし頬擦りを始める。すると開かれた扉から続々と演習終わりの艦娘達が報告をしに入ってきた。

 

「は、はじめまして!これから研修隊員として色々と学ばせてもらいます!」

 

「憲兵さん2号デース!よろしくデース!」

 

金剛、比叡、電、時雨、赤城、飛龍が美香隊員に挨拶をする。すると開いていた扉からヲ級とイ級ブラザーズが入ってきた。入ってきた深海棲艦を見て硬直する美香隊員。しまったと憲兵は内心焦っていた。上層部にも黙っていた存在がバレた。しかしそんな憲兵の心配を他所にヲ級とイ級ブラザーズは美香隊員をじっと見つめる。

 

「ヲッ!」

 

片手を挙げて挨拶をするヲ級。するとわなわなと震え出す美香隊員。次の瞬間ヲ級を目にも止まらぬ早業で抱き上げ頬擦りをはじめた。

 

「な、なんでありますか!このかわいい深海棲艦は!ほっぺぷにぷにでありますよ!」

 

ヲ級の愛らしさにメロメロの美香隊員。よかったと胸をなでおろす憲兵。こうして受け入れられていくヲ級であった。

 

 

夜 19時 食堂

 

「資料などは昼に片付けておくか、夜に纏めて片付けるのもありです。大抵の仕事をスムーズに進めていきましょう。その方が後の時間ゆっくりとできますから」

 

「了解であります!」

 

 食堂に向かいながら1日の業務を振り替える憲兵と美香隊員。食堂に着き中に入ると真っ暗であった。

 

「…停電なのでしょうか?」

 

次の瞬間明るくなる室内。そしてパンとクラッカーの音が鳴り何事かと困惑する美香隊員。そして彼女の目に入ったのは『ようこそ美香隊員!桜村の鎮守府へ!』と書かれた垂れ幕だった。

 

「へ?」

 

「えへへ成功だね!」

 

「はいなのです!」

 

突然のサプライズに驚く美香隊員。様々な種類の食事が用意されており、お酒やジュースも用意されていた。

 

「美香さんの配属祝いです!一人前に成るまでよろしくお願いいたします!」

 

そう言って微笑む提督と艦娘達。これからよろしくねと歓迎する艦娘達を見て瞳が揺れる美香隊員。

 

「か、感激です…私とても不安で…歓迎されないかもしれないって思ったりして…ありがとうございます!」

 

そう言って提督に抱きつく彼女の姿を優しく見守る憲兵であった。

 この日鎮守府に新たな仲間が加わりより活気づき、賑やかになる桜村であった。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

秋山美香2期生を出迎える。鎮守府の業務や提督の挨拶などを済ませる。

 

 

 

秋山美香2期生の歓迎会。夜遅くまで皆さん楽しんでおられました。

 

最後に

 

本日も晴れ、異常なし

 

 




久々にヲ級ちゃん出てきた…

感想、評価、アドバイス、誤字脱字の報告があればよろしくお願いいたします 
 
あと、本編に登場する憲兵さんが読んでいる本について活動報告でアンケートがあります。よかったら見てくだせぇ…


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十九日目

遅くなりました

どうぞ!


10月●◇日

 

朝 8時 執務室

 

10月の2周目に入り、美香隊員がこの桜村の鎮守府に慣れ

だしたこの日。美香隊員は提督に呼び出されていた。話したいことがあるからすぐに来るようにと言われ執務室へと急ぐ美香隊員。すれ違う艦娘達が彼女に挨拶をし、それに笑顔で元気よく挨拶を返す。

 部屋の前まで来た美香隊員は服装が乱れていないかを確認し、大きく息を吐く。

 

「提督、秋山研修隊員であります!」

 

ノックをし、中にいる提督に声を掛け返事を待つ美香隊員。部屋の中からどうぞと返事が聞こえたのを確認しドアを開け中に入る。提督が腰かけている来客用のソファーの向いに腰掛けるように言われゆっくりと腰を下ろす。すると電がお茶なのですと暖かいお茶を美香隊員と提督に用意し、テーブルに置く。美香隊員はおずおずとお茶を飲む。程よく暖かく少しの苦味がするのをゆっくりと飲む。すると提督がゆっくりと口を開いた。

 

「実はですね…来週に桜村ではお祭りがあるんです」

 

「お祭りでありますか?」

 

「はい。花火大会なんですが今回は美香さんにも参加してもらえるかどうかを確認しようと思って呼びました!」

 

お茶を飲む提督。美香隊員はこんな自分を気に掛けてくれることに喜びを感じていた。

 

「いいのでしょうか」

 

「いいんです!」

 

即答された美香隊員はふふふと笑う。それにつられて提督もえへへと笑い和やかな雰囲気に包まれる執務室。

 

「それにしても珍しいですね。この季節にお祭りとは」

 

「この村では毎年しているみたいです。なんでも桜村の昔話での記念日がそのお祭りの日らしいんです」

 

「昔話…でありますか?」

 

「はい…聞きたいですか?」

 

「聞きたいであります!」

 

 

 

昔、昔、この村は小さいながら豊かで活気がある村でした。そんな村をまとめていたのは臆病な村長で、村人は村長が臆病であることをバカにしていました。しかし、村長は村人から馬鹿にされていることに気づいていながらも村が豊かになるよう努力しました。

 そんなある日、この村に海から巨大な化け物が現れ襲ってきたのです。村人は化け物の恐ろしさに恐怖し、戦うこともできずただ逃げ回るだけだった。

 

「ここは通さんぞ」

 

怪物の前に現れたのは村長であった。手は震え、足も震えている村長の姿を見た化け物は大笑いしました。

 

「そんなに震えているお前なんぞに私が倒せるものか」

 

そう言って村長を吹き飛ばしました。そして村を壊そうと前進しようとする化け物の前にまたも村長が立ちはだかる。

 

「ここは…ここは村の人々が長い年月をかけて作り上げてきた村だ。それをお前のような化け物に破壊されてなるものか。私は臆病な人間だが、この村を見捨てて、村人を見捨てて逃げるような卑怯ものではない!」

 

何度吹き飛ばされようが、何度地面に叩きつけられようが立ち上がり化け物と戦う村長。ついに村長は化け物を倒すことができました。

 恐怖で震え上がり動けなかった村人が村長の元へと駆け寄りました。しかし、村長は微笑みながら死んでいました。村人は悲しみました。彼は臆病ではない、彼は誰よりも勇敢で勇ましい男だったと…

 この村は命をとして戦った村長を忘れないために、彼が好きだった桜を村中に植え、春には桜の花で彩られる美しい村へと変わっていくのでした。

 

 

「この村長さんを忘れないために村人が桜を植えた日が来週のお祭りの日になるらしんです」 

 

話終えた提督、美香隊員を見ると号泣していた。

 

「わた…しも、村長さんみたいに、皆を守る憲兵になりますぅ」

 

提督は美香隊員を泣き止ますために尽力したのはまた別の話である。

 

 

 

夜 19時 食堂

 

「提督の前で泣いてしまいました」

 

「…」

 

「桜村の昔話聞いたっぽい!」

 

「僕もあの昔話好きだな」

 

憲兵と時雨、夕立と夕食をとる美香隊員。憲兵はもくもくとカレーを食べ進めており、その隣で時雨と夕立は美香隊員と昔話について話していた。

 

「そっか、来週がお祭りなんだね」

 

「楽しみっぽい!」

 

「リンゴ飴とか食べたいな…」

 

来週のお祭りを楽しみにする美香隊員と時雨、夕立。お祭りで何を買うか、花火はどんなものなのかを話をする。

 

「それにしても昔話の村長さんはどうして馬鹿にされてたのに戦ったんだろう」

 

夕立がカレーを食べながらそう口にする。

 

「…それは…村が村人が大切だからではありませんか?」

 

美香隊員がそう答えるが納得しない夕立

 

「でも村長さんは村人に馬鹿にされてたんだよね?なのに…命と引き換えになんて…」

 

 悲しそうな顔をする夕立。それを聞き確かに何故彼が自分をバカにしていた村人を守ったのだろうと思う美香隊員。

すると今まで黙って話を聞いていた憲兵が口を開く。

 

「彼は馬鹿にしながらも自分を愛してくれた村人を、守りたかったんでしょう。臆病なだけで村のために頑張っていた村長ですから…彼は愛されていたんでしょう。まぁ、これは私の考えですが」

 

それを聞いた夕立は納得したのかカレーのおかわりに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

提督に執務室に呼ばれお祭りのお誘いを受けました。この村の昔話を聞いて情けない話、提督の前で泣いてしまいました。

 

 

横山殿と時雨さん、夕立さんと夕食を食べる。横山殿の考えに驚きました。

 

最後に

 

本日も晴れ!鎮守府に異常ありません!

 

 

 

 

 

 

「これでいいでしょうか?」

 

「問題ありません」

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイス、誤字脱字などあればよろしくお願いいたします。

今回は平仮名がおおいですが、昔話は平仮名だと考え昔話は全て平仮名で書きました。すいません

※平仮名を漢字にし、読みやすくしました!皆様に読みにくい文章を出してしまい申し訳ありませんでした。



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二十日目

最近寒くなってきたので皆さん体調には気を付けてください

本編です!


10月**日 桜の日

 

夕方 17時 桜村神社

 

桜の日になり、村全体が光で溢れる日。人々が行き交い、話し声や笑い声、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。その中を元気な駆逐艦の娘達と変装したヲ級に手を引かれあっちへこっちへと引っ張られる憲兵。その後をゆっくりと話ながら着いていく潮、時雨、吹雪、電、朝潮そして鳳翔。イ級ブラザーズは吹雪と時雨の腕のなかで人形に扮して着いてきていた。

 

 

「憲兵さん!あれ食べたいっぽい!」

 

「憲兵さんおっそーい!」

 

「けんぺぇさん!リンゴ飴です!」

 

「ヲ!ヲ!ヲヲン!」

 

「レ、レディーは飴なんか…」

 

「憲兵さん!疲れてるなら雷がお茶を買ってきてあげる!」

 

「ハラショー」

 

「少し、待ってください」

 

もう三十路を迎えて体力的にも衰えが出始めたのか、憲兵はふらふらになりながらも駆逐艦達に振り回されながら屋台巡りをしていた。

 憲兵は人数分のリンゴ飴を購入し駆逐艦に配っていく。近くの休憩所で皆で座り美味しそうにリンゴ飴を食べる駆逐艦とヲ級。すると憲兵の隣に鳳翔が腰を下ろしペットボトルに入ったお茶を差し出してきた。

 

「お疲れさまです」

 

「ありがとうございます鳳翔さん…頂戴いたします」

 

「凄くお疲れですね」

 

「彼女達のパワーには着いていくのでやっとですよ」

 

ふふふと笑う鳳翔。憲兵はペットボトルのお茶をゆっくりと飲んでいく。疲れが幾分かましになり鳳翔と話をする憲兵。するとヲ級が自分が座っていた席から立ち上がり、鳳翔の前に立つ。そして食べかけのリンゴ飴を鳳翔に差し出した。

 

「ヲッ!ヲッ!」

 

「……どうしたのヲ級ちゃん?」

 

「一口どうぞと言っているのだと思われます」

 

「あぁ、なるほど…」

 

ヲ級は首を縦に振り鳳翔の口元へリンゴ飴を近づける。鳳翔はありがとうと言い一口かじる。そして次にヲ級は憲兵に差し出してきた。憲兵もありがとうございますと言い一口かじる。すると鳳翔がふふふと笑う。何かしてしまったのかと考える憲兵の耳に顔を寄せてくる鳳翔。

 

「間接キスですね…」

 

耳元でそう呟く彼女、そしてそのまま憲兵の肩に頭を預けも憲兵にもたれ掛かる。いつもは物静かな女性が急に大胆になる。攻めるときは攻めるのが鳳翔クオリティー。硬直し動かなくなってしまう憲兵。それを見ていた暁はその後鳳翔に弟子入りするのはまた別の話。

 

 

夜 19時 桜村神社の裏山

    

「横山殿!それと皆さん!こちらでございます!」

 

裏山から花火を見る場所に向かう憲兵達。すると先に来ていた提督や秋山隊員、そして他の艦娘が待っていた。憲兵は頭を下げながら敷かれていたブルーシートに腰を下ろす。回りには駆逐艦の艦娘達が座り、花火が始まるまでの時間を過ごしていた。

 アナウンスが流れ、花火が始まる。空を鮮やかに彩り、様々な形の花火が打ち上がる。来ていた村人や艦娘達は空を埋め尽くす火の花に目を奪われていた。

 

「綺麗…」

 

憲兵の隣に座っていた吹雪がそう呟く。そうですねと返事をする憲兵。憲兵は花火を見るのに夢中になっているヲ級の頭を優しく撫でる。

 

 

 

 もし…もし子供が生きていたらこの美しい風景を見せてあげられたのだろか?産まれてくるはずだった子供は…私に似て無口で、おとなしい子か、彼女に似て明るく元気な子か…どちらにせよこの花火を見せてやりたかった。

 愛する妻も、子供も…全てを失った。打ち上げられ消えていく花火の残り火に小さな男の子と手を繋いだ彼女の姿が見えたような気がした。待ってくれ…消えないでくれ。まだ伝え切れていないことが沢山あるんだ…さよならも、ありがとうも言えないまま…私の目の前から消えないでくれ。私を…一人にしないでくれ…

 

「憲兵さん?」

 

 ふと我に返り声の主を確認する。隣に座っていた吹雪さんが不安そうに私を見ていた。

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「泣いているんですか?」

 

何を言っているのかと思ったがふと頬をつたうものに気づき手で触れる。濡れていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「…えぇ、少し目にゴミが入ったみたいです」

 

何年振りだろうか…涙を流したのは…

 

ハンカチで涙を拭きまた花火を見る。

 

 

しかしもうそこにはもう彼女の姿は見えなかった。

 

 

花火大会も終わり、鎮守府の帰路につく一同。憲兵は疲れて眠ってしまったヲ級を背中に背負い歩く。その隣を提督が並んで歩いていた。

 

「綺麗でしたね。花火」

 

「えぇ…とても綺麗でした」

 

憲兵の雰囲気がいつもとは違うと感じた提督。

 

「…憲兵さん何かありましたか?」

 

「何でもありません」

 

きっぱりと言う憲兵。提督はそれでよしとはしなかった。

 

「嘘です。何かあったんでしょ?だから相談…」

 

「何もないですので…大丈夫です…」

 

それは明確な拒絶であった。提督はそれ以上なにも言わず憲兵を心配そうに見つめていた。

 

鎮守府に着いた後、憲兵は人を避けるように自室へと戻っていくのだった。その姿を多くの艦娘が心配そうに見つめているのに気がつかない憲兵だった。

 

 

本日の主な出来事

 

桜村のお祭り、花火大会に参加。

 

一言

 

絵里…私を憎んでいるのか…

 

 

最後に

 

本日も晴れ、異常なし

 

 




憲兵さんが病んじゃう?!
前半の鳳翔さんとのいちゃいちゃはどこへ…

感想、評価、アドバイス、誤字脱字などあればよろしくお願いいたします。



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二十一日目

遅くなりました!
ごめんなさい!




11月●日

 

朝 10時 鎮守府正門

 

「…」

 

いつものように鎮守府正門で警備をする憲兵だが、雰囲気が以前とは全く違う彼の変化に多くの人が驚きと共に不安に駆られていた。

 彼の変化に艦娘達や提督はどうすればいいか考えるがこれといった案が出てこない。秋山隊員は1ヶ月の研修を終え、先日憲兵隊本部へと一度戻っており彼女もまた憲兵の変化を見て不安そうにしていた。

 

「あの…憲兵さん…」

 

「…なんでしょう電さん?」

 

「お、おはようございますなのです」

 

「おはようございます」

 

恐る恐る声を掛けてきた電に淡白な返事と挨拶を返し黙る憲兵。電は肩を落としトボトボと戻っていった。

 

「…」

 

残された彼の頭上には曇り空が広がっていた。

 

◇ 

 

昼 14時 鎮守府会議室 

 

「憲兵さんの様子がおかしいです」

 

そう口にしたのは提督だった。

 会議室に居るのは演習、出撃、遠征任務がない艦娘たちが集まっていた。

 

「挨拶は返してくれるけど…」

 

「私たちとまったく関わらなくなりましたね」

 

「あのお祭りの後ですよね」

 

各自何が彼をあそこまで追い詰めているのかを考える。

 

「あの時憲兵さん泣いてました」

 

吹雪が思い出したのは花火を見て静かに涙を流す憲兵の姿であった。あの時の彼の横顔は言葉にできないほどであった。

 

「…奥さんと子供を思い出したんじゃないですか?」

 

「それしかない…よね」

 

赤城の意見に同意する提督と一同。10年も前とはいえ、最愛の人とその人との間に出来た子供を同時に失った彼の悲しみと喪失感は想像もできない。

 

「榛名は憲兵さんに助けられました…だから今度は私が助けたいです。あの人の悲しみを和らげるなんてできないかもしれません…いやできないです。でも…それでも榛名はあんな悲しそうな憲兵さんを放っておけません!」

 

どん底から手を差し伸べてくれた相手が苦しんでいる。たとえ拒まれても、彼には元気にいてほしい。好きな人には笑顔でいてほしいと考えるのはおかしいことではない。たとえ偽善だとしても榛名は彼を救いたい。

 

「でも…どうしたらいいの…」

 

不安そうにそう口にする鈴谷。重い雰囲気が立ち込める室内でどれだけ考えても出てこない答えを探す一同。しかし、腕組をして考えていた提督が、私いいこと思い付いたとそう口にしたのであった。

 

 

 

夕方 19時 憲兵寮

 

「…」

 

 自室で資料を黙々と纏める憲兵。彼の頭の中で考えるのは彼女と子供のことばかりであった。どうして自分が生き残り、彼女と子供が死んでしまったのか。自分だけ幸せな日々を過ごすことなど許されるはずがない。

 

「…」

 

机の引き出しから写真を取り出しそれを見る。そこには夏の旅行に行った際、提督が撮ろうと言い皆で撮った写真だった。思い返せば彼女達と関わっていくうちに救われていたのは自分であることに気づく。彼女達の暖かさや、まっすぐな意思、思いやりは彼の凍りついていた心を溶かしてくれた。しかし、喪失感を和らげることができなかった。二年前の自分に戻ったようだと自嘲する憲兵。自分はここに居るべきではないのではないかと言う考えが頭を過る。椅子の背もたれに体を預け天井を見る憲兵であった。

 扉をノックする音が部屋に響く。何かあったのかと憲兵は立ち上がり部屋の扉を開ける。するとヲ級とイ級ブラザーズが居た。憲兵は不安そうに自分を見てくるヲ級やイ級の頭を撫でる。ぱぁっと明るい表情になる一人と二匹。するとヲ級が憲兵に紙と白い花を差し出してきた。そこには『いつも、ありがとう。げんきだして だいすき』と下手くそながらに一生懸命に書かれた手紙、そして白い花

 ヲ級は憲兵が元気がないのを見ており、自分に何か出来ないかと考えていたのだ。魚をくれる青年に聞いたとき、手紙を書いてみたらいいと言われ、憲兵や提督などには内緒で青年に字を教えてもらって手紙を作ったのだ。

 

「これは…手紙と…白いアザレア?」

 

「ヲ…」

 

憲兵は驚きもあったがそれ以上に言葉にはできない何かが込み上げていた。そしてヲ級を見ると照れているのか微笑んでいた。

 

「……あり、がとうござい…ます」

 

憲兵は込み上げてくるものに我慢できず涙を流す。先日流した涙とは違い、暖かい涙が出てくる。今まで我慢してきた分なのか憲兵は泣きじゃくる。ヲ級は驚いたのかあたふたとしており、イ級ブラザーズは憲兵の足元に寄り添っていた。

 数分後、何とか泣き止んだ憲兵。憲兵はヲ級の頭を優しく撫でる。そこへ電がやってきた。

 

「け、憲兵さん!あ!ヲ級ちゃんもイ級ちゃんたちもその…今から食堂に来てくれますか?」

 

 

鎮守府 食堂

 

「何かトラブルでしょうか?」

 

「憲兵さん…扉が空かないので開けてほしいのです」

 

疑問に思いながらも憲兵は食堂の扉のドアノブを回す。すんなりと回り室内へ入る。

 

「憲兵さん!いつもありがとう!」

 

クラッカーの音と共に提督の声が続き、艦娘達もありがとう!と憲兵を歓迎する。何事か分からず呆然とする憲兵を電と雷が手を引っ張り席へと促す。テーブルには憲兵が好きな好物が並んでいた。

 

「これは…一体…」

 

「その憲兵さんが元気が無かったので…元気付けようと…」

 

えへへと笑っている提督や艦娘達。憲兵は突然のことで驚いていたが、それ以上に自分を元気付けてくれるためにここまでしてくれた彼女達の思いやりにまた涙が出てきた。

 

「あ!憲兵さん泣いてる!」

 

「本当に…本当にありがとうございます…」

 

 憲兵はこんなにも素敵な人々に囲まれていることに感謝するのであった。

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

朝 

 

門番と一通りの業務を終わらせる

 

夕方

 

資料の整理

 

 

提督と艦娘の皆様にお疲れさま会をしていただいた。

 

一言

私は…本当にここに来てよかった。彼女が死んでから私は私ではなかった。でも、桜村の提督や艦娘の皆様、そしてヲ級とイ級たちのお陰で私は私を取り戻すことができた。だから…もう少し頑張ってみよう。前までの私を見たらきっと絵里に怒られそうだから

 

最後に本日は曇り後晴れ、鎮守府に異常無し

 

 

 

 




多くの感想、評価、アドバイスありがとう!そしてありがとう!

まだまだ募集していますのでよろしくお願いいたします!

憲兵さんが元気になってよかったよかった。シリアスが似合わないほのぼの作品なのでね…多分

あと、鉄血のオルフェンズ2期始まりましたね!(関係ないね)
え?鉄血で好きなキャラ?最近はタカキウノくんです


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番外編 お魚の青年

遅くなってごめんなさい!

許してください!何でもしますからぁ!


11月*日

 

朝 8時 鎮守府正門

 

「ヲッ!ヲッ!ヲッ!」

 

「キュー!」

 

いつもと変わらない朝。少しだけ変わったことと言えば今日は憲兵が居らず、ヲ級とイ級が門番をしていることだろう。

何故憲兵が居ないかと言うと今日は憲兵が憲兵隊本部に呼び出されているためである。今日一日、憲兵が不在のためヲ級とイ級が門番をしているのだ。

 通りすぎていく人に挨拶をするヲ級達。多くの村人はヲ級とイ級の存在を知っていた。敵と同じ容姿をしている彼女達だが、まったく悪意を感じることもないため村人に受け入れられている。道行く村人達はヲ級とイ級にお菓子をあげたりと一日憲兵をしている彼女達を応援していた。

 

「ヲーッ!」

 

「キュキュ!」

 

ヲ級とイ級達の回りには多くのお菓子や果物、野菜などの差し入れが置かれておりそれを見て喜んでいた。しかし、ここで問題になったのはどうやって運ぶかである。ヲ級は体が小さいがため運ぶことはできない。イ級はどう考えても運べない。途方に暮れるヲ級とイ級ブラザーズ。

 

「おはようございます!憲兵さん!旬の魚を持ってきました!」

 

「憲兵さーん!遊びに来たよー!」

 

そこへ現れたのは魚をくれる青年と妹の小夏。青年は魚が入ったクーラーボックスを持ったまま憲兵を探す。休憩室を覗き中を確認する青年。しかしそこには憲兵の姿が無い。どうしたことかと思い誰かいませんかと声を出す。クイクイと服の裾を引っ張られているのに気づき下を見る。そこにはヲ級とイ級ブラザーズがいた。

 

「おー!元気にしてたかぁ?」

 

「ヲー!」

 

「ヲ級ちゃんおはよー」

 

休憩室の机にクーラーボックスを置き、ヲ級とイ級の頭を撫でる青年。小夏はイ級を抱き上げる。するとヲ級は青年の手を引っ張り大量のお供え物の場所まで引っ張る。

 

「ヲ!ヲーン!ヲーヲーヲヲヲヲーヲ」

 

「憲兵さんが本部に呼ばれてるから代わりをしてたら皆から貰ったけど運べないと」

 

「ヲーン!」

 

「代わりに運んでほしいと…いいよ!とりあえず魚を運ぶから食堂まで案内してくれるかい?」

 

「小夏も手伝うー!」

 

「ヲッ!」

 

ビシッと敬礼をするヲ級。そして青年と小夏を鎮守府内へと案内するのであった。

 

 

鎮守府内 食堂

 

「すみません。わざわざ持ってきてもらって。ありがとうね小夏ちゃん」

 

「いえいえ。いつも海の平和を守ってくれている皆さんへの感謝の気持ちですよ」

 

「えへへ」

 

 食堂へと魚を運んだ青年は、鳳翔と話をしており小夏は鳳翔に抱きついていた。その間ヲ級とイ級は青年が運んでくれた村人からのお菓子を頬張っていた。

 一通り話を済ました青年は小夏を連れて帰ろうとするする。

 

「よろしかったらお昼を食べていきませんか?」

 

「いやいや、そんな…」

 

「遠慮ならさずにね。出来たらお呼びしますからそれまで鎮守府を見学してください。小夏ちゃんもね?」

 

「やったー!鳳翔おねえちゃんのごはん!」

 

そう言って微笑む鳳翔に頭を下げる青年。妹の小夏と共に鎮守府を見て回ることにするのであった。

 

 

朝10時 鎮守府中庭

 

「へぇ…すごいなぁ憲兵さん。家庭菜園してるのか」

 

「ヲッ!ヲッ!」

 

「イ級ちゃんまってー!」

 

「キュー!」

 

 綺麗に手入れされている中庭に感嘆する青年。小夏はイ級ブラザーズとおいかけっこをしていた。そこへ丁度演習を終えた天龍がやってきた。

 

「お?漁師のおっさんのとこの…」

 

「あ、天龍さんお久しぶりです」

 

「あ!天龍!」

 

天龍に頭を下げる青年。小夏は天龍に駆け寄っていきその豊満な胸へと飛び込む。

 

「おう!小夏!元気だったか!?」

 

「えへへ!元気だよ!天龍も元気?」

 

「あったりまえだろ?!俺を誰だと思ってんだよ」

 

小夏の頭をわしわしと撫でる天龍。小夏はきゃーと満面の笑みを浮かべる。

 

「そういえば、おばあちゃんがいつも荷物持ってくれてありがとうって言ってましたよ。とても助かってますって」

 

「ばあさんは元気か?」

 

「はい!今度龍田さんといっしょに自宅に来てほしいって言ってましたよ」

 

「そうか…また遊びに行くからって伝えといてくれ!じゃあ俺は提督に演習の結果を伝えにいってくる。小夏もまた遊んでやるからな」

 

「やったぁ!」

 

じゃあと天龍は執務室のある本館へと歩いていった。

 

 

 

昼 12時 食堂

 

「すげぇ…」

 

「美味しそう!」

 

「ご飯はおかわり自由だから一杯食べてね?」

 

昼になり食堂では青年が持ってきた秋刀魚の料理が今日の昼食になっていた。秋刀魚の竜田揚げの香ばしい匂いにつられて多くの艦娘が食堂に集まっていた。

 

「あれ?お魚くれる人?」

 

声を掛けられどきっとする青年。振り向くと彼の意中の相手である提督がお盆を持ってたっていた。

 

「あ、そ、そのこんにちは…」

 

「こんにちは!ここで食べてもいい?」

 

「も、もちろんです!」

 

「お兄ちゃん?」

 

顔を真っ赤にし、噛みながら返事をする兄を不思議そうに見る小夏。提督はどうしたんだろうと不思議に思いながら彼の向かいの空いている席に座る。

 

「じゃあいただきます!」

 

提督の挨拶に続き小夏も食べ始める。青年はちらちらと提督を見ながら食べていた。その様子を遠くから見ていた鳳翔はあらあらと微笑みながら作業を続けていた。

 

「そういえばさ…君の名前って聞いてなかったんだけど…教えてくれる?」

 

「え、えっと…矢沢義弘って言います」

 

「へぇ…なら義弘くんだね!いつもお魚ありがとう!皆喜んでくれてるよ!」

 

「そ、そんな…僕のおじいちゃんを助けてくれたお礼です。返しきれない恩がありますから」

 

提督の笑顔に胸の鼓動が早くなるのを感じつつ青年は提督との昼食を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

今日の日記

 

今日は秋刀魚を届けにいったら憲兵さんが休みだったので直接鳳翔さんに渡しにいった。お昼は鎮守府でごちそうになり新田小雪さんと食事ができた…

やっぱり新田さんはかわいいなぁ…

 

最後に

本日も大漁!桜村漁村に異常なし!

 

 

 

 

 

 




感想、評価、アドバイスなどよろしくお願いいたします

寒くなってきたので皆さん体調には気を付けてお過ごしください…

Twitterもやってますのでよかったらフォローお願いします!


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二十二日目

今回は早いぞー


11月●日

 

朝5時 憲兵寮

 

「…」

 

「むにゃむにゃ」

 

朝目を覚ました憲兵が目にしたのは憲兵のシャツを着た鈴谷が横で寝ている光景だった。戸締まりはしっかりしたはずなのに…と考える憲兵であったがとりあえず鈴谷を起こすことにする。

 

「鈴谷さん」

 

「えへへ…んー…けんぺぇさん…あったかい…」

 

「…」

 

ゆすっても起きない彼女をどうしたらいいのかと頭を悩ませる憲兵。とにかく布団から出よう。そう考え出ようとするが服の裾をしっかりと掴んで離さない鈴谷。引っ張っても離さない。憲兵は仕方なく上の服を犠牲に脱出する。脱出した後、鈴谷にしっかりと掛け布団を掛け洗面所へと向かっていった。

 11月に入り朝晩と寒さが増してくる日が続き、布団から出た憲兵に寒さが襲う。顔を洗い、歯を磨き、髭を剃る。そして憲兵服に袖を通しいつもの服装に着替え、上から深緑のロングコートを羽織り仕事モードに入る。机の上にある資料に目を通し今日の業務を確認する。本日からは艦娘の体調などに気を掛け、体調が優れない者が居れば休ませるようにと本部からの連絡を目にする。

 

「体調管理…」

 

後ろですやすやと寝息を立てる鈴谷を見る。自分のシャツ1枚で風邪をひかないだろうかと心配になる憲兵。出る前にエアコンを着け、暖房の設定温度を高くして部屋を後にするのであった。

 

 

朝 6時 中庭

 

 中庭で冬から春にかけて咲く花の球根を肥えた土に埋めていく憲兵。一人で作業をする彼であったが朝のトレーニングを終えた吹雪が彼の姿を見つけ声を掛けた。

 

「おはようございます!憲兵さん!」

 

「おはようございます吹雪さん」

 

「何してるんですか?」

 

憲兵の横にしゃがみ作業をしている憲兵の手元を見る吹雪。

 

「今の時期に植え、春になると咲く花の球根を埋めています」

 

「へぇ~…何の花が咲くんですか?」

 

「それは春になってからのお楽しみです」

 

「えぇ!教えてくださいよ!」

 

「…吹雪さん」

 

「はい?」

 

「もしです…私がここを離れる場合は…貴方がこの子達の面倒を見てくれますか?」

 

「な、何言ってるんですか!憲兵さんがここを離れるなんて…冗談でも言わないで下さい!」

 

「そうですね…すみません」

 

「もう!」

 

頬を膨らましそっぽを向く彼女に彼は頭を下げるのであった。

 

「けーんぺーいさーん!」

 

そこへ着替えた鈴谷がこちらに走ってきた。立ち上がり頭を下げ挨拶をする吹雪と憲兵。鈴谷はえいっ!と憲兵の胸へと飛び込む。憲兵は飛び込んできた彼女を受け止め、困った顔をする。

 

「えへへ!憲兵さん鈴谷に布団をかけ直してから部屋の設定温度を高くして出てくれたでしょ!ポイント高いよぉ…」

 

抱き締める力を強める鈴谷。憲兵はまずいと思い弁明をしようと吹雪を見る。鈴谷の発言を聞いた彼女は顔を真っ赤にしぷるぷると震えていた。

 

「ち、違うんです!吹雪さん!」

 

「け、憲兵さん…鈴谷さんと…」

 

「話を落ち着いて聞いてください…」

 

「ずるいです!私も憲兵さんの部屋で寝たいです!」

 

この事態をどのように収拾するかを考える憲兵。事の原因の鈴谷は頬を染めながら憲兵の胸に頬擦りをし、それを見た吹雪がまたずるいと言い事態が悪化する。憲兵は考えるのをやめるのであった。

 

 

昼 13時 食堂

 

「…はぁ」

 

「ため息をつくと幸せ逃げちゃうよ?」

 

「疲れたんですか?本部の呼び出しもあったから…」

 

「大丈夫?」

 

二抗戦の飛龍、蒼龍そして提督と昼食をとる憲兵。朝の事件があったからか、いつもよりげっそりとした表情で昼食の秋刀魚の甘辛揚げを食べる。そんな彼の事情を知らない二人の艦娘、特に隣で食事をしている蒼龍は心配そうに憲兵を見ていた。

 

「大丈夫です…」

 

「本当?」

 

「本当です」

 

「…目を見て言ってください」

 

「…」

 

「もう!また倒れちゃいますよ!」

 

「申し訳ありません」

 

どうして私はこうも嘘がばれるのだろうかと考える彼を他所に蒼龍は憲兵のおでこに自分の額をくっつける。向かいで見ていた飛龍はおぉ!と声を挙げ、隣の提督は声にならない叫び声を挙げていた。

 

「そ、蒼龍さん?!」

 

「ね、ね、ねちゅはないでしゅね!」

 

顔を真っ赤にしながら額をくっつけながら話す蒼龍。額を離し黙ってしまう蒼龍。憲兵は無数の視線を感じつつ急いで昼食を掻き込み食堂から逃げるように出ていったのであった。

 

 

夕方 18時 正門

 

 最近、提督及び艦娘の自分に対するの接し方がおかしい。そう考えながら正門で警備をする憲兵。今朝の鈴谷をはじめ、彼に引っ付いてくる艦娘が多いと疑問に思う憲兵。

 

「…まさか」

 

甘えたい年頃なのだろうかと的はずれな結論に至る憲兵。無理もない。彼とここの鎮守府にいる艦娘や提督は年齢が離れすぎている。三十路のおじさんに好意を抱いているとは考えず、自分を父親のように見てくれているんだと考えていた。

 

「父親か…」

 

気づけばこの仕事をはじめてから年月が経っていることに気がつく。歳を取り、体も若いときより劣ってきているのを感じる憲兵。白髪も二、三本と見受けられ、おじさんなんだなと感じる。

 

「…まだまだいけるさ」

 

そう空を見上げ一人呟く憲兵であった。

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

鈴谷さんが自室に侵入。対策を考え中。

中庭で球根を植える。

 

 

 

飛龍さん、蒼龍さん、提督と昼食を取る

 

夕方

 

鎮守府警備

 

一言

 

30歳ともう良い歳になったと実感。若くはないがまだまだ働ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

憲兵の机の上に置かれている封筒。先日本部に戻った際に渡されたものであり、彼の今後を決める大切な書類が手渡された。

 

 

 

『憲兵隊育成教官に異動願い』

 

 

中の資料にはそう書かれていた。

 

 

 




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二十三日目

叩きつけてやれ!


11月ⅠⅠ日

 

朝 10時 商店街

 

「次は何の店かな?」

 

「次は乾物屋よね憲兵さん!」

 

「確かペットショップの隣ですよね?」

 

「そうなんですか?!」

 

「ぽい?!」

 

買い出しに出掛けようと提督に声を掛けたときに偶然遠征任務を終え執務室に居た時雨、夕立、朝潮、吹雪、雷が手伝いに行くと言い商店街へと出掛けていた。手伝ってくれるのはありがたいが彼女達は元気であるため手を引っ張られることが多いので体力が少し消耗していた。

 憲兵は先に歩く彼女達を見ながらゆっくりと着いていく。笑顔で談笑する彼女達を見てどこか心が安らかに感じる憲兵。彼女達が笑顔で元気でいてくれる。それだけで日頃の業務など苦にならない。提督、艦娘、町の人たちが元気でいてくれるなら何でもしよう。ならもう歳であり憲兵としての経験を積んだ自分に出来ることはこれから提督や艦娘、そして町を守るであろう秋山隊員のような後進に道を譲るのが妥当ではないか。訓練生育成教官に指名されたならその任務を全うしたらいい。だが、心に何かがひっかかる。そう考えていた彼の顔を覗き込む夕立。いつの間にか乾物屋に着いていた一行。

 

「憲兵さん?乾物屋に着いたっぽい!」

 

「…そうですね」

 

「ぽい?なにか考え事っぽい?」

 

「いえ…何でもありませんよ夕立さん」

 

まずはおつかいの任務を全うしよう。そう意気込み乾物屋へと入っていくのだった。

 

 

「かわいい~」

 

「ふわぁ」

 

「ぽいぽい!」

 

「わんわん!」

 

乾物屋での買い物を終わらせた憲兵と吹雪一行は隣のペットショップに訪れていた。最初は憲兵が入るのを渋っていたが朝潮がシュンとしたので仕方なく店へと入ったのであった。

艦娘達はペットふれ合いコーナーで動物とふれ合っていた。吹雪と朝潮は猫に夢中になり、夕立は柴犬と戯れていた。

 

「見て!私になついてるわよ!」

 

そして何故か頭にオウムを乗せ嬉しそうに憲兵に駆け寄る雷。憲兵は苦笑いしながらどう反応したらいいか分からずとりあえずよかったですねと雷に声を掛けていた。

 

「憲兵も触ってみなよ。すごくかわいいよ」

 

そう言ってダックスフンドの子犬を笑顔で憲兵に差し出す時雨。しかし憲兵は後ずさりし私はいいですと離れていく。それを見た一同。沈黙が走る。

 

「……もしかして憲兵さん」

 

その言葉の先を言おうとした朝潮。すると彼は焦りながら話し出した。

 

「そんなことはありません。犬が怖いなんてことはありえません。ただ、小さい頃に孤児院で飼われていたジャーマンシェパードドッグに追いかけられてから少し苦手ではありますが決して怖くはありません」

 

「…」

 

「なら抱っこしてみ…」

 

「私はいいですので皆さん心行くまでふれ合っていてくだ…」

 

そう彼が言い掛けた時だった。

 

「憲兵さん!」

 

後ろから夕立の声が聞こえ振り向く。

 

「わん!」

 

「ッ!?!?!?」

 

夕立が抱っこしていた柴犬が憲兵に吠える。すると彼は勢いよくペットショップから出ていくのであった。

 

 

 

夕方 19時 食堂

 

「憲兵さん走って鎮守府まで行っちゃって笑っちゃいました」

 

「血相を変えて走ってきたと思ったらそういうことだったんですね」

 

「憲兵さん、そのお肉貰ってもいいですか?」

 

「…勘弁してください。あとどうぞ赤城さん」 

 

「肉がうめぇなぁ!」

 

 夕食になり今夜は焼き肉の鎮守府。そこでは今日新たに発覚した憲兵さんが犬が怖いと言う話で持ちきりであった。吹雪が笑いながら加賀にペットショップで起きた出来事を話す。普段表情豊かではない彼女が少し笑っていた。天龍は憲兵の弱点が分かったからなのか満足そうに肉を食べていた。すると憲兵の隣で静かに食事をしていた龍田が妖艶な笑みを浮かべ憲兵の耳に顔を近づける。

 

「くぅーん」

 

「…?!」

 

耳元で子犬の鳴き声の真似をする龍田。憲兵はビクッと体を震わせ席から立ち上がる。

 

「…犬が苦手なのは本当みたいねぇ」

 

「龍田さんそういうのは控えてください…」

 

「大丈夫よ~貴方にしかしないから~」

 

ふふと笑う彼女に憲兵は深くため息をつきながら席に座る。天龍はこれから犬の真似をしたら憲兵が逃げだすのかとうきうきとしながら食事をするのてあった。

後日何で逃げねぇんだよ!と叫びながら全力疾走しながら追いかけてくる憲兵から逃げる天龍がみられることになった。

 

 

夜 21時 艦娘寮 ロビー

 

「こうしてアトラは元気に草原を走り回れるほどの元気を取り戻しました。その光景をアルバは遠い空から眺めるのでした…」

 

「ヲー…」

 

「アルバ…頑張ったよね」

 

「いいお話でした…ふふ…泣くとは思いませんでした」

 

「アルバ~」

 

夜に例の本を読み聞かせる憲兵とそれを聞く艦娘。物語が終わると結末に感動し目に涙を浮かべる艦娘達が多かった。

特に扶桑はさめざめと泣いていた。妹の山城も泣くのを我慢しているのであろう。顔を下に向けながら震えていた。

 

「これでこの物語は終わりです」

 

「いいお話だったのです」

 

「レディーは…泣かないもん」

 

「ボロ泣きっぽい」

 

「今度は何のお話を読んでくれるの?」

 

涙を拭きながら憲兵に次の物語は何を読んでくれるのかを聞く雪風。

 

「次は…そうですね…また物語を探してみます」

 

その返事を聞き嬉しそうにする雪風。憲兵は優しく彼女の頭を撫でる。雪風は気持ち良さそうに目を細める。するとクイクイと服の袖を引っ張るヲ級。憲兵は雪風の頭を撫でるのを止めヲ級の頭を撫でる。ヲ級は嬉しそうに微笑んだ後、彼の体に抱きつく。

 

「雪風は負けません!」

 

それを見ていた雪風が憲兵に抱きつく。憲兵は困った顔をしながら二人の頭を撫でていた。

 

「憲兵さんって雪風ちゃんとヲ級ちゃんには甘いですよね」

 

「確かに…」

 

「もしかして…ロリコン?」

 

「違います」

 

疑いの目を向ける艦娘達と提督に焦りながら弁明する憲兵。笑い声がロビーに響き今日も平和な一日が終わるのであった。

 

 

 

今日の主な出来事

 

朝 

 

鳳翔さんと間宮さんに頼まれおつかいに。帰りにペットショップに寄る。

 

 

夕御飯は焼き肉であった。龍田さんには不意を突かれましたが今度は動揺しないようにしよう。

艦娘寮で本を読み聞かせた…暖かい時間です。

 

一言

 

犬が怖いのではなく苦手なだけである。

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に異常なし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




たくさんの評価ありがとうございます!

まだまだ感想、評価、アドバイス待ってます

少し話が変わりますがハーメルンに作品を投稿しはじめて2年を過ぎるのに驚きました。こうして続けられるのも作者の作品を読んでくださって温かい感想やアドバイス、誤字脱字の報告をしてくださる読者の皆様のお陰です。これからもよろしくお願いいたします!





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二十四日目

遅れてすみません!



12月Ⅰ日

 

朝 10時 鎮守府多目的室

 

 12月に入り本格的に冬の寒さとなり誰もが服を着込む季節となった。この鎮守府の艦娘達も寒さ対策のため服を衣替えし任務や演習、遠征へと向かうようになった。そんな中、提督から朝から多目的ホールに全艦娘が集まるように放送が掛かり艦娘達は何事かと思いながらホールへと集まっていた。

 

「何が始まるんだろ?」

 

「さぁ?」

 

集まる時間になり不安になる駆逐艦一同。吹雪の疑問に答えられず不安になる時雨。ざわざわと騒がしくなる中、提督と秘書艦の電、そして憲兵とヲ級とイ級ブラザーズがホールに入ってきた。彼らはホールの壇上に上がる。静まり返るホール。艦娘が見つめる中提督が話を始めた。

 

「…朝から集まってもらってありがとう。実は報告することがあります…」

 

今にも泣き出しそうな提督の声を聞きただ事ではないと感じる艦娘達。そして提督の口から告げられたのは

 

「憲兵さんが今月末からこの桜村鎮守府から憲兵隊育成のため陸軍本部へと異動になります…」

 

しんと静まり返るホール。そんな中提督と代わるように今度は憲兵が艦娘の前に立った。

 

「…突然の事で申し訳ありません。実は以前から育成教官として声が掛かっており、今回その話を受けることにしました。私の後には秋山隊員が代わりに配属されます。なので何も心配することなくいつも通りに過ごして…」

 

淡々と説明をする憲兵だったが彼の話を遮るようにホールに声が響く。

 

「そんなのいや!嘘だよね?憲兵さんがここから居なくなるなんて!」

 

鈴谷だった。彼女の言葉を皮切りに他の艦娘から抗議が始まった。

 

「う、嘘ですよね?憲兵さんが居なくなるなんて…榛名は大丈夫ではありません」

 

「笑えない冗談ねぇ~…」

 

「やだよぉ…憲兵さんが居てくれたから私は戦えたのに」

 

ざわざわと騒がしくなり収集がつかなくなるホール。提督が何とか落ち着かせようと声を掛けるも騒ぎが収まらなかった。その時だった。

 

「話を聞いてください!!」

 

普段温厚な憲兵が声を荒げ艦娘達を黙らせた。話を聞いて貰える状態になったことを確認し話を続ける。

 

「私は皆さんに沢山の物をいただきました。私の妻と子供が亡くなったことは以前の旅行の時に話を聞いてると聞きました。私は10年前、妻と子供を亡くしました…どうにもならない苦しみに、怒りに、悲しみに心と体を苛まれながら過ごしてきました…」

 

当時のことを思い出しながら話をする彼の言葉を静かに聞く一同。

 

「でも…私は…貴方達…艦娘と提督…そしてこの子達に出会いました」

 

側に居たヲ級の頭を優しく撫で話を続ける。

 

「私は…貴方達に救われたんです…死んだように過ごしていた私を救ってくれた…だからこそ…人を、国を守っている艦娘にできる事をしたいと思い憲兵隊育成教官としての任を引き受けました。後進に続く憲兵を育て貴方達を支えたいと思ったんです」

 

所々からすすり泣く声が聞こえるホールを見渡す憲兵。鈴谷や蒼龍は姉妹艦である最上や飛龍に泣きついている。後ろでは号泣する提督と静かに泣く電。

 

「…残り僅な間ではありますが手を抜くこと無く全力で仕事をします。貴重な時間を割いて私の話を聞いてくださりありがとうございます」

 

頭を下げ後ろへと控える憲兵。涙でぐしゃぐしゃになりながら前に出てきた提督が以上で終わりです。業務に戻って下さいと声を掛け解散するのであった。

 

 

昼 12時 食堂

 

「…」

 

「榛名…ご飯食べないと元気が出ないヨー」

 

「榛名…気持ちは分かるけど憲兵さんの気持ちも分かってあげようよ…」

 

「…それにしても突然でしたね。憲兵さん」

 

話題はやはり憲兵の話であった。多くの艦娘は彼がこの鎮守府から離れることに最初は反対であった。提督も反対し、執務室で憲兵と口論した。しかし、彼の話を聞き自分達の為に何かしたいと思い決断した事に反対はできない。受け入れ、残りの時間沢山の思い出を作ろうと心を切り替えようとしていた。しかし、切り替えれない榛名のような艦娘もいた。特に鈴谷は部屋に閉じ籠り泣いていると同室の最上が不安そうにしていた。

 

「榛名は…反対です……行ってほしくないです」

 

「何を言ってるんですカー?」

 

「え?」

 

金剛が少し怒りながら榛名の言葉に反応する。

 

「榛名は憲兵さんが好きなのは知ってマース。行ってほしくないと思うのは当然デース。でも本当に好きなら彼を応援して送り出すべきだと思うヨー」

 

優しく榛名に言い聞かせるようにする。しかし、心の余裕が無かった榛名はキッと金剛を睨む。

 

「勝手なことを言わないで下さい!好きだから行ってほしくないんです!反対です!絶対!」

 

「勝手じゃないネ!今の榛名の方が勝手デス!相手に自分の意見を押し付けようとしているだけデース!そんなのダメデース!憲兵さんだって悩んで出した結論デース!」

 

「榛名落ち着いて」

 

「お、落ち着いてくださいお姉さま」

 

比叡と霧島が止めに入るがヒートアップする二人。

 

「お姉さまには榛名の気持ちなんか分かりません!知った風に言わないでください!」

 

「分からないデス!ただ後ろばっかり見て前を向こうとしない榛名の気持ちなんて!好きなら残りの時間素敵な思い出を作って彼を送り出して上げるべきデス!」

 

喧嘩が始まり周りの艦娘達も二人を止めようとする。そこへ騒ぎを聞き付けた提督が食堂に入ってきて二人の間に入る。

 

「二人とも落ち着いて!どうしちゃったの!?」

 

何とか二人を落ち着かせようと事の原因を聞こうとする提督。しかし榛名は私は反対です!お姉さまなんて大嫌いと言い食堂から走って出ていってしまった。

 

「榛名ちゃん!」

 

「は、榛名…」

 

「わ、私追ってきます!」

 

 

 

「金剛お姉さまなんて…嫌いです」

 

村を見下ろせる山の上でベンチに座り一人泣いている榛名。この場所は榛名がこの桜村へ来た時に憲兵に連れて来てもらった場所であった。不安でいっぱいだった彼女の不安を和らげるため彼が連れてきてくれた場所。貴方ならできますと言ってくれた彼のために頑張ろうと決意した場所でもあった。考えれば考えるほど彼の思いでが甦ってくる。

 

「憲兵さん…」

 

「…やっぱりここだったんですね」

 

「憲兵さん?!」

 

後ろから声がし振り向くと彼がいた。息を切らせ肌寒い季節なのに汗をかいている憲兵。走って探していたのがすぐわかった。

 

「鈴谷さんの説得している最中で鈴谷さんと話をした後に喧嘩の事を後で聞きました…残りの僅かな時間全力で仕事をすると言ったのにこれじゃあ駄目ですね…」

 

困った顔をしながら榛名の隣に座る。

 

「懐かしいですね…貴方を連れて鎮守府に行く前にここに来ましたね」

 

「…はい」

 

村を見ながら話をする憲兵。返事はするが榛名はずっと下を向いている。

 

「…喧嘩の原因を聞きました…私が移動することを反対して喧嘩になったと」

 

「…」

 

「正直…私は嬉しかったです」

 

「え?」

 

憲兵の言葉に驚く榛名。顔を上げまだ村の景色を見る憲兵の横顔を見る。彼は少し恥ずかしそうに話を続ける。

 

「提督も反対してくれまして…駆逐艦の皆さんや大和さん蒼龍さんもあの後私に行かないでほしいと言ってくれました…まさか引き止められるとは考えていなかったので…不謹慎ながらも嬉しかったです」

 

そう言って頬をかく憲兵。そして視線を榛名の方へと向け優しく話す。

 

「普段優しく温厚な貴方が怒ってまで反対してくれたのはとても嬉しいです…ありがとうございます」

 

「は、榛名は…憲兵さんに居てほしいです…ずっとこの鎮守府で榛名を見守っていてほしいです…」

 

「…はい」

 

「やだ…やだよぉ…行ってほしくないよぉ」

 

わんわん泣きながら憲兵に抱きつく榛名。彼は黙って彼女の頭を撫でながら落ち着くまで胸を貸すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「…ごめんなさい」

 

謝る榛名に気にしないで下さいと声を掛ける。

 

「目が赤くなってしまいましたね…綺麗な顔が台無しですよ」

 

そう言ってハンカチで榛名の涙を優しく拭き取っていく。

 

「グスッ…憲兵さん」

 

「何でしょう?」

 

涙に濡れながらもしっかりと彼の目を見て告げる。

 

「向こうでも…頑張ってください」

 

今まで助け続けてくれた彼への期待と信頼の言葉。その彼女の言葉を聞き拳を握りしっかりと答える。

 

「わかりました…皆さんの恥にならぬように尽力させていただきます。それと約束します」

 

「?」

 

「困ったことがあれば呼んでください。すぐに助けに行きますから」

 

「…はい!!」

 

笑顔の戻った榛名を見て安心する憲兵。二人で仲良く帰路につくのであった。

 

 

 

榛名の前を歩く彼の背中を見ながら後ろから着いていく。今なら金剛お姉さまの言っていた事が理解できます。好きだから…大好きだから彼には悔いの残らないように頑張ってほしい。きっと憲兵さんなら優秀な人材を育てて皆を助けてくれる人を育てることができると信じます。

 本当なら今すぐにでも彼に想いを伝えたい…でも彼の心には10年前からずっと奥さんが居る。想いを伝えれば優しい彼を困らせてしまう。いつか…彼の隣に寄り添える女性になるまでは……

 

 

 

 

「はるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

「お姉さま!?」

 

鎮守府に着くと金剛が号泣しながら榛名の胸に飛び込んでいた。相当心配していたのか力強く榛名を抱き締めていた。

 

「ごめんねぇぇ。榛名に酷いこと沢山言っちゃったネェ…ごめんねぇ」

 

「…榛名もごめんなさぁぁぁい」

 

 

わんわんと泣く二人を見てホッとする憲兵に提督が近づいてくる。お疲れさまでしたと憲兵に労いの言葉を掛ける彼女に頭を下げる憲兵。

 

「あと…1ヶ月だけだけど…私たちを見守ってくださいね」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

本日の主な出来事

 

 

ホールにて私が異動することを告げる。

 

 

鈴谷さんの説得。榛名さんと金剛さんが食堂で喧嘩をしたらしく榛名さんが鎮守府から出ていくも、話をして連れ戻す。

 

一言

 

私に行ってほしくないと反対してくれた…私の居場所はここなんだと再確認できた。皆様の期待を裏切らないように残りの1ヶ月を過ごし、本部での業務に全力を尽くす。必ず…

 

最後に

 

本日も晴れ、鎮守府に少しの混乱あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は何度も何度も書き直して完成させました。
あと少しではありますがよろしくお願いいたします。

感想、評価、アドバイスなどあればよろしくお願いいたします。


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二十五日目

前回の投稿から遅くなってしまい申し訳ございません!

ではどうぞ!


12月24日

 

朝 8時 鎮守府  

 

憲兵の異動騒動から2週間が経過した。鎮守府では憲兵が安心して本部に異動できるように多くの艦娘が自分達の生活態度を見直し鎮守府の掃除や中庭の手入れなどを進んで手伝うようになった。中でも曙と吹雪がよく手伝っており憲兵の後ろをついて回っている。しかし、天龍はいつも通り憲兵に追いかけ回されていた。鈴谷に至っては毎日のように憲兵の部屋に忍び込み彼に抱きつくように眠ることが多くなり憲兵の胃薬を飲む量が増えたとかどうとか。榛名や大和は出撃や演習以外では彼の近くに居り彼との思い出を多く作ろうとしていた。

 そんな変わりつつある鎮守府にもクリスマスの時期がやって来た。朝から多くの艦娘が鎮守府の飾り付けをする。提督や憲兵も鎮守府の飾り付けを手伝っていた。憲兵の後ろを付いて回るヲ級とイ級ブラザーズ。クリスマスの飾り付けを手伝ってはいるが何故飾り付けをしているのかは理解できていなかった。

 

「…ツリーを出さないといけませんね」

 

「ヲ?」

 

「キュー?」

 

ふと呟いた憲兵の言葉を聞きツリーが何であるかが気になる一人と二匹。憲兵は頭を撫でながら驚かせようとヲ級達を部屋で待っておくように伝え、ツリーを取り出すために倉庫へと足を進めた。

 倉庫に到着した憲兵は自分の身長より大きいツリーの置物を見る。どう考えても一人で運ぶのには無理のある大きさである。誰かに手伝って貰おうと考えているときだった。

 

「憲兵さん?何してるのですか?」

 

偶然倉庫へ飾り付けの為に使う脚立を取りに来た大和が声を掛けてきた。憲兵はツリーを出すのに誰かに手伝って貰おうと考えていたことを伝える。

 

「なら私が手伝いますよ」

 

大和が快く手伝いを買って出てくれた。

 

◇ 

 

鎮守府中庭

 

大和に手伝って貰い中庭にツリーを運び出した憲兵。そこへヲ級達が駆け寄って彼の足へと抱きつく。憲兵はヲ級を抱き上げツリーを見せる。

 

「ヲー…」

 

ツリーの大きさに圧倒されるヲ級。イ級達もツリーの回りを走り回っていた。

 

「では…飾りつけですね」

 

 鎮守府内の放送が掛かり中庭へと集まるように言われ、鎮守府内で飾り付けを終わらせて来た艦娘達が続々と集まってきた。提督が集まった彼女達の前に立ち、皆で飾り付けをすることを伝える。駆逐艦はどこに付けようかと相談しながらツリーの装飾品を選んでいる。軽巡艦の艦娘達や重巡艦、戦艦、空母組は駆逐艦の手の届かない場所の飾り付けを担当していた。彼女達が作業しているのを提督と並び眺める憲兵。

 

「皆とてもいい笑顔ですね」

 

「そうですね…本当にいい笑顔です」

 

二人で話をしていると鈴谷が憲兵の空いている腕にしがみついてきた。

 

「ねぇ~憲兵さん。上に付けるの届かないから肩車して?」

 

ね?とお願いしてくる鈴谷。提督はあわわと不思議な声を出していた。憲兵は無理ですと伝える。しかし、最近の鈴谷は引き下がらない。お願いと少女特有の甘い声と自慢の胸を憲兵に当てながらお願いする。憲兵はポーカーフェイスではあるが冷や汗を流しながら彼女のお願いを断る。

 

「鈴谷さん…無理を言ったらダメよ」

 

助け船を出してくれたのは加賀だった。鈴谷はちぇーっと言いながら憲兵の腕を解放し飾りつけへと戻る。

 

「助かりました加賀さん」

 

「いいのよ…これでサンタさんからプレゼントが貰えますね…」

 

やりましたと小さくガッツポーズする加賀を見てほっこりする憲兵。そこへ赤城もやって来た。

 

「サンタさんには国産のお米と松阪牛をお願いしました」

 

ふふんとどや顔をする赤城。やはりかと内心思った憲兵だが顔には出さずサンタが二人のもとにも来ると伝える憲兵だった。

 

「憲兵さんは何を貰うのですか?」

 

わらわらと飾り付けを終えた駆逐艦組が彼の周りに集まってきた。

 

「私の元へはサンタさんは来ません」

 

「そうなんですか?」

 

不思議そうに首を傾げる吹雪。

 

「私はもう大人ですからね…」

 

「大人になると貰えないっぽい?」

 

「えぇ…」

 

憲兵は少し寂しそうに答える。実は子供の頃からプレゼントを貰ったことがない憲兵。孤児院はお金があまりないためクリスマスパーティーはあったがプレゼントは用意できなかった。しかし、彼女と出会ってからは毎年のようにお互いお小遣いを集め渡しあっていた。それは大人になっても続いていたが彼女が亡くなってからはそれも無くなっていた。

 飾り付けもほぼ終わり後は星を付ける作業になる。憲兵は装飾品が入れられていた箱を倉庫へと運んでいた。すると提督が憲兵の元へとやってきた。何か忘れていたのかと思った彼は何かありましたか?と提督に聞く。すると

 

「憲兵さん!今年は憲兵さんが星を付けてください!」

 

そう言って彼の腕を引っ張り中庭へと連れていく。中庭では

二人を待っていた艦娘達が並んでいた。憲兵は榛名から飾りつけの星を受け取る。

 

「私なんかでよろしいのでしょうか?」

 

申し訳なさそうに聞く彼に提督は憲兵さんじゃないとダメと言い、周りの艦娘もうなずく。憲兵はでは失礼しますと脚立に登り星をツリーのてっぺんに付ける。

 一時間ほど掛けて飾り付けしたツリーは様々な装飾品に彩られ立っていた。それを眺める一同。するとぽつぽつと見上げている顔に冷たい感触がする。

 

「雪なのです!」

 

空から雪が降ってくる。駆逐艦はきゃいきゃいとはしゃぐ。今年も素敵なクリスマスになる。そう確信する憲兵。

 

「さて!じゃあ食堂でパーティーだ!」

 

提督の掛け声と共に食堂に向かう一同であった。

 

 

夜中 12時 艦娘寮

 

パーティーも終わり皆が寝静まる中、憲兵は赤と白の服を身に纏い赤い帽子、そして白い髭を装着し艦娘のプレゼントが入っている袋を背負っていた。

 

「さて…行きましょう」

 

一人気合いを入れ彼女達の部屋にプレゼントを枕元へ置きに行くのであった。

 

○赤城と加賀の部屋

 

「赤城さんは松阪牛と秋田県産のコシヒカリですね」

 

台車で運んできたプレゼントをぐっすりとよだれを垂らしながら寝ている赤城の枕元へ置く。

 

「加賀さんは髪留めと櫛ですね…綺麗な髪なのでこれが似合いますね」

 

すやすやと眠る加賀の枕元へとプレゼントを置く。

まだまだ先は長いとそっと部屋から出ていく憲兵であった。

 

○時雨、夕立の部屋

 

「時雨さんは本ですね…『素敵な奥さんになるためには』と『男を魅了する料理』…ですか…好きな男性ができた時のためでしょうか?」

 

不思議に思いながらも時雨の枕元にプレゼントを置く。

 

「夕立さんはスカーフですね…喜んでくれるといいのですが…」

 

布団を蹴飛ばし眠る夕立に布団をかけ直し枕元にプレゼントを置く憲兵であった。

 

○吹雪、電の部屋

 

「吹雪さんは髪留めと簪、電さんは熊の人形ですね」

 

まだ子供だなと思い心の中で微笑みながらプレゼントを枕元に置く憲兵であった。

 

 

 

 

 プレゼントを渡し終えた憲兵。気づけば夜中の3時を越えていた。へとへとになりながら部屋へと戻る憲兵。服を着替え寝巻きになり布団へと横になる。あと少しで本部へと戻ることを実感する。あと数日であることに少し寂しさも感じるが永遠の別れでは無いと考える。色々な事を考えている内に彼も深い眠りへと落ちていくのであった。

 

 

本日の主な出来事

 

本日は朝から鎮守府内の装飾。そしてツリーの飾り付けを行った。私に星の飾りを付けさせてくれくれた彼女たちは本当に良い子ばかりである。

 

最後に

 

本日は雪、鎮守府に異常なし

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。少し寒いことに気づき目が覚める憲兵。何故か昨日閉まっていた窓が空いており不思議に思う彼の枕元には小さな箱が置いてあった。何だろうと思い箱を開ける。中には綺麗な花のネックレスが入っており手紙も同封されていた。手紙を空けそれを読む憲兵。

 

『メリークリスマス』と書かかれていた。




感想、評価、アドバイスお願いします!

今年の投稿は今回で終わりです!来年も本日も晴れ、鎮守府に異常なしをよろしくお願いします!

次回作のアンケートを活動報告に載せています!よろかったらどうぞ!


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最終日

新年明けましておめでとうございます

遅くなってごめんなさい…

本編どうぞ!


最終日

 

12月31日

 

朝8時

 

「荷物はこれで全てですね…」

 

朝早くから荷物をまとめる憲兵。もともと私物がほぼなかったので荷物を纏めるのに一時間と掛からなかった。自身の私物が無くなった部屋を見渡す。2年間過ごしたこの部屋とも今日でお別れである。明日の朝にはこの鎮守府から遠く離れた本部での勤務となる。

 

「……」

 

椅子に腰掛け目を閉じる。目を閉じれば瞼の裏に広がるのは騒がしくも穏やかな日々。こんな自分を受け入れてくれて、共に過ごしてくれた彼女達の顔が浮かぶ。ゆっくりと息を吸い、そして吐く。

 

「最後までしっかりと仕事をしましょう」

 

最終日だからこそ今まで以上に気を引き締め作業に取りかかるのであった。

 

 

朝 10時 鎮守府中庭

 

「あ!憲兵さん!おはようございます!」

 

「おはようございます吹雪さん」

 

中庭の手入れをしようとした憲兵が目にしたのは軍手を着けて作業をする吹雪の姿だった。

 吹雪には自分の居なくなった後のこの中庭の世話をお願いしていた。顔に泥を付けてにっこりと微笑み挨拶をする吹雪。憲兵はポケットからハンカチを取り出し泥を拭き取る。

 

「じっとしていてください」

 

「くすぐったいですよ~」

 

えへへと笑う吹雪につられるように優しい顔をする憲兵。そんな彼らを見つけて近づいて来る人影があった。

 

「憲兵さーん!吹雪ちゃーん!おはようっぽい!」

 

「おはよう憲兵」

 

夕立と時雨であった。

 

「おはようございます時雨さん。夕立さん」

 

「最後まで真面目だね…」

 

「憲兵ですから」

 

ぶれない憲兵に笑う一同。憲兵と三人は中庭の作業をしながら沢山話をする。昨日の演習ではMVPを取ったと話す夕立。

昨日は鳳翔さんに料理を教えて貰いおせち料理の手伝いをした時雨。昨日は川内に夜戦の話を延々と聞かされたと笑う吹雪。彼女達の話をしっかりと聞き、心に彼女達の笑顔をしまう憲兵であった。

 

「げっ!憲兵」

 

声が聞こえ振り向く憲兵の目線の先にはいつものように服を着崩した天龍が立っていた。

 

「…」

 

「…」

 

声を発することなく見合う両者。沈黙が二人の間を支配していた。

 先に動いたのは天龍だった。自分が歩いてきた道を走って戻る。その後を物凄いスピードで追いかける憲兵。

 

「待ちなさい天龍さん!貴方は最後まで!」

 

「う、うるせぇ!今日という今日は逃げ切るからな!」

 

「待ちなさい!」

 

「やだね!」

 

「あらあら天龍ちゃんったら…相手してほしいからって」

 

追いかけられている天龍を見てそう呟く龍田。ちげーし!と声を挙げながら走る天龍。

 いつものように追いかける憲兵と追いかけられる天龍。そしてそれを見て笑う龍田と吹雪達。この雰囲気は好きであると再確認し天龍を追いかけまわす憲兵であった。

 

 

お昼 13時 食堂

 

「憲兵さん!ご一緒しましょう!」

 

昼食時に声を掛けてきたのは空母組の艦娘達だった。赤城に手を引かれ席に座らせられる憲兵。隣には蒼龍が座っておりぴったりと肩が触れあうほどの距離まで椅子を近づけてくる。

 

「蒼龍さん…近いです」

 

「嫌ですよ…今日は最後ですからね!」

 

えへへと笑う蒼龍を見る憲兵はその笑顔を見ていい笑顔ですと伝える。蒼龍は意外なカウンターパンチを喰らい顔を真っ赤にさせながら俯いてしまった。

 

「憲兵さん…」

 

向かいに座っている赤城がおずおずと自身のトレーを彼の前に差し出す。

 

「今まで沢山食べ物を頂いたので…好きなおかずを食べてください…」

 

辛そうにぷるぷると震えながらそう進言する赤城。憲兵はふっと笑い差し出して来た皿の上に今日のメインであるしょうが焼きの豚肉をそっと置いた。驚いた顔をする赤城。

 

「私は美味しそうにご飯を食べる赤城さんを見るのが好きなので遠慮せず食べてください」

 

それを聞いた赤城はまるで神様を見るかのような瞳で憲兵を見つめる。

 

「憲兵さん…愛しています」

 

号泣しながらしょうが焼きを口に運ぶ赤城。それを見た加賀がふふふと笑っていた。

 

「いつも通りですね憲兵さんは」

 

「おかしいでしょうか?」

 

「いえ…それが貴方のいいところですから」

 

まるで貴方のことは全て分かっている雰囲気で静かに食事をする加賀。憲兵もゆっくりと食事を進めていく。そんな時だった。

 

「憲兵さーんこれあげるー」

 

飛龍が憲兵の皿にプチトマトを乗せてくる。

 

「…好き嫌いはいけませんよ」

 

「えぇ…お願い!この通り!」

 

頭を下げてお願いする飛龍。憲兵はため息をつきながらプチトマトを食べる。それを見ていた瑞鶴が憲兵さんは飛龍に甘いよねと呟く。

 

「そうでしょうか?」

 

「時には厳しくするのも必要よ?ねぇ翔鶴ねぇ」

 

「そうね…でも瑞鶴も嫌いなもの私のお皿に乗せることあるわよね?これからは自分で食べてね?」

 

「…やっぱり厳しくするのなしね…憲兵さんも甘やかしてね」

 

「それは違うのではないでしょうか」

 

笑いが起こる食堂。瑞鶴は恥ずかしそうに食べ進め翔鶴はごめんごめんと瑞鶴の頭を撫でていた。

 

 

 

昼 14時 鎮守府正門

 

「そうですか…今日で憲兵さんとお別れですか…」

 

「えぇ…明日の早朝にこの村から本部へと異動になります。大変お世話になりました。おじいさまとおばあさま、そして小夏さんにも伝えて下さい」

 

正門ではいつものように魚の差し入れをしに来る青年と憲兵が話をしていた。

 

「小夏…寂しがると思いますよ」

 

寂しそうに呟く青年。妹の小夏だけではない。こうやって魚を差し入れする度に話をする青年にとっては彼は短い間であったが亡くなった自分の父親に重ねていることもあり色々と相談したりしていたため彼が居なくなるのは寂しさを感じる。

 彼の心情を読み取ったのか憲兵は彼にあるものを用意していた。

 

「…ささやかな気持ちではありますがこれを」

 

「これは…お守り?」

 

憲兵が差し出したのは桜の刺繍で彩られたピンク色のお守りであった。

 

「どうかお二人の未来が安全でありますようにと…迷惑だったでしょうか?」

 

申し訳なさそうにする憲兵。しかし、青年は目に涙を浮かべ憲兵に頭を下げた。

 

「大切にします…向こうでも頑張ってください!小夏も喜びます!」

 

「えぇ…あなた達の未来に幸あれ」

 

憲兵は陸軍式の敬礼を青年にする。青年も憲兵に今までの感謝の気持ちを込めて敬礼を返した。

 

「…やはり似ている…」

 

「え?」

 

「いえ…なんでもありません」

 

彼の目には青年の敬礼した姿がかつて自分の部隊の隊長であった矢沢義信大尉の姿に重なって見えた。

 

 

 

昼 15時 執務室

 

「本日の業務はこれにて終了です。提督。一年最期の業務お疲れさまでした」

 

執務室では大晦日ということもあり通常の業務は早くに終わらせていた。椅子に座りながら体を伸ばす提督。

 

「一年終わっちゃうのか…」

 

「早かったのです…」

 

「早かったですね…」

 

しみじみと窓の外を見る提督と電。そして憲兵。

 

「覚えていますか?私が初めて憲兵さんと会ったときのこと…」

 

提督が憲兵に話しかける。

初めて提督とそして電と出会ったときのことを話す。

 

「あの時は憲兵怖かったよ」

 

「なのです」

 

「…申し訳ありません」

 

ばつが悪そうに謝る憲兵を見てふふふと笑う提督と電。

 

「でも…今は憲兵さんが好きだよ」

 

「電も憲兵さんが大好きなのです」

 

そう微笑みながら憲兵に伝える二人。憲兵は恥ずかしいのか表情は変わらないが照れながら頭を下げる。

 

「私も…提督、そして電さんを初めとする艦娘の皆さんのことが…その…なんといいましょうか…」

 

瞳をきらきらさせながら見ている二人。憲兵は顔を明後日の方に向ける。

 

「その大好きですよ…」

 

顔を真っ赤にする憲兵を初めて見た二人。憲兵は帽子を深く被り直し失礼しますとそそくさと執務室から出ていく。出ていく途中にこけそうになる憲兵。提督と電はきゃーきゃーとはしゃいでいた。彼のこの言葉は妖精さん作の小型マイクで拾われ鎮守府全体に流されており全艦娘が聞いていたのはまた別の話である。

 

 

夕方 17時 広場

 

「憲兵さんおそいー!」

 

「こっちだよけんぺぇさん!」

 

「ヲー!」

 

「ま、待ってください…」

 

厚着をした島風と雪風を追いかける憲兵。業務がなくなった憲兵は駆逐艦達、そしてヲ級、イ級ブラザーズと鬼ごっこをして遊んでいた。その姿を榛名、比叡、鹿島、鳳翔、大和、曙が見ていた。

 

「ふふふ…憲兵さんったらあんなにばてちゃって」

 

「榛名も憲兵さんと追いかけっこ…いいかもしれません!」

 

「榛名…落ち着いて!」

 

微笑みながら様子を見ている鳳翔。榛名は榛名も追いかけます!と飛び出そうとしているのを比叡が何とか押さえていた。

 

「…ふん!何よだらしない!」

 

曙は憲兵がバテているのを少し面白くなさそうに見ていた。それに気づいた大和が曙の頭を撫でながら憲兵の話を始めた。

 

「曙ちゃん憲兵さんから貰った本大切にしてるのよね?」 

 

「な、な、なんで知ってるの?!」

 

「大切にしている事を彼に言ったほうがいいと思いますよ?」

 

鹿島も曙の頭を撫でながら微笑む。曙は顔を真っ赤にさせながらうーと唸っている。そこへ走り疲れたのかへとへとになった憲兵が休憩のため近づいてきた。鳳翔は憲兵に汗ふき用の手拭いを憲兵に渡す。憲兵はお礼を言い汗を拭いていく。

 

「ふふふ…皆はしゃいでますね」

 

「さすがに体が持ちません」

 

「憲兵さん!雷がお茶持ってきてるわよ!」

 

雷に手渡されたお茶を飲みながら一息つく憲兵。ふと目に入ったのは大和と鹿島に撫でられて唸っている曙だった。

 

「曙さん?どうかしましたか?」

 

「な、なんでもないわよ…その…」

 

何か言い淀んでいる曙を見る憲兵。大和と鹿島が曙に今ですよと言う。

 

「その…本…大切に読んでるから…憲兵…さん」

 

顔を真っ赤にしながら憲兵に貰った本を大切にしている事を伝える曙。憲兵はそれを聞き少し嬉しそうに彼女の頭を撫でるのであった。

 

 

夜 11時55分 桜村 桜花寺

 

鎮守府での夕食を終えた一同は新年を迎える為に桜村の桜花寺へと出向いていた。高台に設置されたこの寺は村全体を一望できる場所にある。そこへ村の人々も新年を迎えるために寺に集まっていた。憲兵はヲ級と手を繋ぎ他の艦娘達と共に人々の列に並んでいた。ヲ級は初めての体験からなのか目をきらきらと光らせていったい何が始まるのかとワクワクした様子で憲兵の手をぎゅっと握っていた。

 

「あと五分ですね」

 

腕時計で現在の時間を確認する憲兵。その隣で榛名がイ級ブラザーズを抱き抱えながら比叡と話をしていた。

 あっという間の一年だった。そう思わずにはいられないほど早く時が過ぎたと思う彼は一年間を振り返っていた。ここに配属されてから二年。ただ仕事をこなした最初の一年とは違い彼女達と打ち解け楽しい時間を過ごした一年。本当にここに来てよかった。そう思える。これも提督や艦娘達のお陰であろう。十年前に無くした大切な物を彼女達のお陰で取り戻せた。

 

「あと一分だよ!」

 

吹雪のその一言で目を開ける。周りでは新年へのカウントダウンが始まった。憲兵はヲ級を村の景色を見えるように抱き上げる。ヲ級はしっかりと村を見ていた。この子と出会えたのもきっと何か意味があったのだろうと考える憲兵。

 

「ありがとう」

 

誰にも聞こえないようにそう呟く彼の言葉と共に時計の針が十二時を指した。その瞬間村の各所に設置されている灯籠に火が灯る。村を優しく包み込む光が新年の始まりを祝っていた。

 

「憲兵さん!」

 

提督に呼ばれ振り向くと艦娘達が居た。

 

「明けましておめでとう!」

 

新年を共に迎えることが出来たことを喜びつつ明日旅立つことに寂しさを感じる。だが、二度と会えないわけではない。終わりではない。新しく明日から始まるのだ。

 

「明けましておめでとうございます。提督、皆さん」

 

 

桜村鎮守府勤務最終日

 

主な出来事

 

朝 

 

吹雪さん達と中庭の手入れをする。

 

 

赤城さん達と昼食をとる

 

夕方

 

駆逐艦の艦娘の皆さんと遊ぶ

 

 

桜花寺で皆さんと新年を迎える

 

一言

 

この報告書を書くのもこれで最後です。ここに来て本当によかったと思う。皆さんがこれからも幸せに過ごせることを祈りつつ彼女達を守るであろう憲兵隊を指導していく。

 

最後に

 

本日も晴れ、桜村鎮守府に異常なし

 




感想、評価、アドバイスお待ちしております!

本編はあと少し続きます!

番外編を二個ほど作ろうかなと考えてたり…まぁね

新作は皆さんのアンケートを参考に決めます!
次回もお楽しみに~


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本日も晴れ、鎮守府に異常無し

遅くなりました!

この話で本編は終了です!
では最終話どうぞ!


エピローグ

 

「本日の訓練は以上です。お疲れ様でした」

 

 本日の訓練が終わり訓練生へ号令を掛ける。私の後に続きありがとうございましたと返事をする訓練生を後に本部へ今後の訓練内容の変更を伝えに戻る。

 今年憲兵隊に入隊した隊員達は皆素晴らしい素質の人物が多い。初めて彼ら、彼女らの前に出たときは何故かサインや握手を求められたりもしたが今は落ち着いている。しかし、女性隊員から買い物や飲み会の誘いが今でも多い。若い隊員が多く親元を離れている隊員が多いから寂しいのだろう。

 

「今日もダメだったね」

「もっと頑張らないとね…」

 

今日の訓練の内容の話だろう。女性隊員には少しきつい訓練内容ですから…彼女達にも立派な憲兵になってもらいたい。そうこう考えている内に陸軍憲兵隊育成科の部屋まで着く。ノックをし部屋の中に入ると資料が積み上げられ倒れそうなデスクで死にそうな顔をしている人物と目が合う。私を見るや否やずれた眼鏡を掛けなおすこの男性。彼こそがこの憲兵隊総司令の九条直木総司令である。

 

「おお…君か…てっきり迎えが来たのかと思ったよ」

「本日の訓練が終了しました。こちらが資料となります」

「おぉ…仕事が早いと言うか熱心と言うか…君は実に面白い人物だね…五年前の表彰式で見たときから君には注目していたからね」

「ありがとうございます」

 

さあさあ座りたまえよと言い来客用のスペースへと案内される。総司令が座るのを確認した後断りを入れ椅子へと腰を下ろす。

 

「おーい。五月雨くんお茶を持ってきてくれるかい」

「了解しました!少し待っていて下さい!」

 

元気に返事をしてお茶を入れに行く五月雨さん。少し嫌な予感がするが今は置いておく。

 

「今期の訓練生は皆合格できるね。素晴らしい働きだよ横山教官」

「お褒めいただき感謝します。しかし、私一人の力ではありません。全員が努力した結果であります」

「そんなに謙遜しなくていい…それにしても君が来てからもう二年か…早いもんだね」

 

廊下からキャーと五月雨さんの声が聞こえるが大丈夫だろうか…

 

「そうだ…以前君が担当していた桜村鎮守府だが、深海棲艦と話をすることが出来たらしいよ。これは人類平和への大きな一歩になる…」

「彼女達がですか…」

「ふふふ…君の元へ週に一回のペースで桜村の鎮守府から手紙が来ているからね。気になるだろう?」

 

気にならないと言えば嘘になる。あそこには私の大切な娘達、そしてかけがえのないヲ級とイ級がいる。

そうか…もう二年も経っているのか。

 

「そんな君に私からプレゼントを用意した!少し待っていなさい」

 

ごそごそと山積みの資料から何かを取り出す総司令。その間にびしょびしょになった五月雨さんがお茶を持ってくる。私は彼女にハンカチで顔を拭くように言い、水で濡れて少し透けている服では目のやり場にも困る以上に可哀想だと思い彼女に私の上着を渡し、これを羽織って部屋まで戻り服を着替えて来るように指示をする。五月雨さんはすみませんと言いながらそそくさと部屋へと向かっていった。

 

「あったあった!これだ!」

「長期休暇?しかも一ヶ月もですか?」

「君はここに来て二年間ほぼ休みなく働いている。少しは羽を伸ばしてきなさい。これは上官命令だよ?いいね?もし隠れて働いていたらあの山積みの資料の片付けを手伝ってもらうことになるよ」

 

話は以上だ。部屋に戻って休みなさい。総司令はそう言い自身のデスクに戻っていく。私は頭を下げ部屋を後にするのだった。部屋から出る前にやっぱり手伝ってくれないか…と言う声が聞こえた。

 

 

4月1日 

 

 電車に揺られること一時間。見慣れた駅が見えてくると同時に車内放送が掛かる。

 

『次は桜村、桜村です。お降りの際は足元に注意して忘れ物のないようお願いします』

 

電車のドアが開きホームへ降りる。二年前と変わらず綺麗な駅である。二年前、この村の住民の人達が『憲兵さんありがとう!いつでも遊びに来てね!』と横段幕を用意してくれていたときは泣いてしまった…少し恥ずかしい。

 駅の改札口を出ると桜並木の道が出迎えてくれた。変わらない。しばらく道なりを進むといつも買い出しをしていた商店街が見えてきた。

 

「あれ…あんたぁ憲兵さんじゃねぇか?!」

「ご無沙汰しています。源さん…お元気そうで何よりです」

「おーい、サチ!憲兵さんだぁ!憲兵さんが帰ってきたぞ!」

 

彼の通るような声と共に商店街の人が次々と店から出てきて私を出迎えてくれた。

 

「おめぇ帰ってくるなら連絡の一つくらいよこしやがれ!」

「あれだ!今日採れた野菜やるから!」

「あんた!少し痩せたんじゃないかい?!向こうでも働きっぱなしだったんだろ?ほら揚げたてのコロッケ持っていきな!」

 

野菜や果物、そして食べ物などを私に持ってきてくださる皆さんの暖かさに私は涙を堪えきれなかった。歳のせいか…

 そんな私に懐かしい声が聞こえた

 

「あ!憲兵さん!お久しぶりです!」

「憲兵さんのおじさん!」

 

手には今日漁で取れた魚が入っているであろうクーラーボックスを持ちこちらに向かってくる爽やかな青年と少しばかり背が伸び、赤いランドセルを背負った少女。間違いない、あの兄妹だ。

 

「お久しぶりです…義弘さん、小夏さん」

「憲兵さん!お久しぶりです!」

「おじさん帰ってきたんだ!」

 

体つきが良くなった義弘さん。前より可愛らしくなった小夏さん。一ヶ月の長期休暇が出たことを伝える。また遊んでもらえるとはしゃぐ小夏さん。

 

「…憲兵さん!俺!憲兵さんから貰ったお守り大事にしてます!」

「小夏も持ってるよ」

 

義弘さんは首からお守りを下げ、小夏さんはランドセルにお守りを付けていてくれた。

 

「…」

「あれ?憲兵のおじさん泣いてる?」

「ど、どうしよう!」

 

焦る彼を見た村の人々は笑っていた。村の人々の優しさに包まれていることを実感し流れる涙が止まらなかった。

 

 

「懐かしいです…二年前のことですがこの道を歩くのは」

「憲兵さんが居なくなってから寂しかったですよ…少しの間小雪さんも元気無かったですし…」

「小夏も寂しかったよ~」

 

 私は青年と共に鎮守府へと向かう。小夏さんと手を繋ぎながら歩く鎮守府への道。変わらない道のりを進んでいく。義弘さんは二年間の間のことを私に話してくれた。驚いたことに深海棲艦と交信に成功したのは彼が初めてであった事にも驚いたがそれ以上に共に暮らしていることには驚いた。

 

「もうすぐですよ!」

「ええ…見えてきましたね」

 

目の前には二年前と変わらぬ門が見えてきた。

 

「皆驚きますよ!」

「…少しこの荷物を少し見ていてくれますか?」

 

私は荷物を義弘さんに預け

 

「ま、待って下さい~天龍ちゃん」

「だー何だよ!俺の勝手だろ?!」

 

二年前と変わらずスカートの丈が短い天龍さんが秋山隊員に追いかけられている姿を見つけた。

 

「だ、駄目ですよぉ…横山教官から天龍ちゃんには少し厳しくするように言われてるんです~」

「もう居ないんだからいいだろ?!」

「まだ直っていないんですね…天龍さん…」

「は?」

 

追いかけられている姿を見てた私は彼女に声を掛ける。すると立ち止まり壊れたブリキのおもちゃのようにぎこちなくこちらを見る。私と目があった瞬間滝のように汗が流れていた。

 

「…」

「…」

 

しばしの沈黙の後天龍さんが走り出した。久しぶりだが体は鈍っていないはず。私は全力で天龍さんを追いかけた。

 

「だああああああ!何で!?何でお前が居るんだよ?!」

「待ちなさい天龍さん!」

 

全力で逃げる天龍を追いかけ回す。すると騒ぎを聞き付けたのか多くの艦娘が集まってきた。

 

「憲兵さんが帰ってきたっぽい!」

「oh!久しぶりネー!」

「司令官に報告してくるのです!」

 

続々と集まってくる皆さんを他所に私は天龍さんを追いかける。

 

「な、なんか前より早くないか!」

「二年間教官として訓練生と共に鍛えてきました…秋山隊員!挟み撃ちです」

「了解しました!」

「ギャー」

 

秋山隊員と天龍さんを捕まえスカートの丈を長くする。ふと彼女の顔を見ると少し嬉しそうに見えた。

 

「憲兵さん!」

 

後ろから声が聞こえ振り向くと二年前よりも大人になり白い提督服を着た女性が立っていた。その他にも軍手を着けた吹雪さんと曙さん。泣いている鈴谷さんと榛名さんと蒼龍さんを慰める比叡さんや霧島さんや飛龍さんと最上さん。おにぎりを食べている赤城さんや優しい微笑みを浮かべる加賀さん鳳翔さんや間宮さん。笑顔で帰ってきたのねと言う瑞鶴さんや翔鶴さんや金剛さん。跳び跳ねて喜んでいる夕立さん、雪風さん。落ち着いた様子で私を見ている大和さんと時雨さん。そして龍田さん。その他にも沢山の艦娘の皆さんが揃っていた。

背中に飛び付いてきた人物を確認する。そこには笑顔で私を見つめるヲ級がいた。私は優しく彼女の頭を撫でる。足元にはイ級の二匹が居た。

 

「お久しぶりです。皆さん」

 

頭を下げ挨拶をする。

 

「おかえりなさい憲兵さん」

 

提督が笑顔でそう言ってくれる。その後に続き艦娘の皆さんもおかえりなさいと言ってくれた。

 

笑顔で私を出迎えてくれる皆さんを見て確信する。

 

私の居場所はここなのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日も晴れ、鎮守府に異常無し fin…




最後まで読んでいただきありがとうございました

皆さんのアドバイスや暖かい感想のおかげで何とか書き上げることができました。ありがとうございます。
本編はこれで終わりですが番外編を何編か考えているのでよろしければまた見てください!

では、またお会いしましょう!


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番外編 憲兵と榛名 前編

番外編です

榛名と憲兵さんのお話

※内容が暗く、残酷な描写もあります。ほのぼのではありません


「被害を受けた艦娘は以上か?」

「はい…もう少し早く到着していれば…」

 

 机を挟み話をする男二人。一人は白衣を身に纏い椅子に座りながら手元の資料に目を通しながら険しい顔をしている。もう一人は後悔の念を滲ませ悔しそうな顔をしていた。

 ここは陸軍憲兵隊本部の艦娘ケア専門の部屋。今年発足され、鎮守府において提督から幾多の非道な扱いを受けた艦娘の今後をどうするかの決定をする場所である。椅子に座る男は十枚の資料を机に置きため息をつく。資料には潮、電、大鯨、鳥海、神通、熊野、鈴谷などの名前と経歴が書かれておりとある鎮守府で提督から肉体関係を強要されたり、暴力を振るわれたりなどの受けた事が書かれていた。

 

「悔やんでも仕方あるまい…これだけで済んでよかったと言うべきか…いや、被害にあった艦娘がこれだけ居るんだ。もっと早くに対応するべきだった」

「…」

 

 やるせない感情が勝り表情が曇る二人。今回は轟沈した者や、自ら命を絶った者が居ないだけで彼女達が受けた苦痛は計り知れない。資料を見ても分かるように今回捕縛された提督は気の弱い艦娘に対しての暴力行為及び熊野を人質に鈴谷へ肉体関係を強要した。少しでも憲兵の男が踏み入るのが遅ければ鈴谷には消えない心の傷を残す最悪の結果になっていたかもしれない。

 手に持っていた資料を机に捨て置き椅子から立ち上がる白衣の男。窓の外に広がる海を眺めながら深いため息をつく。

 

「本当に醜いな…我々人間は…欲望に駆られ命を賭けて戦う少女たちにこのような仕打ちを…滅ぼされて当然かもしれん」

 

その言葉に反論することが出来ない男を他所に白衣の男はゆっくりと男に向き直る。

 

「…鈴谷の様子はどうだった?」

「最初は震え怯えた様子でしたが今では落ち着いています。しかし…男性の提督への配属は難しいかと」

 

 憲兵が提督を取り押さえ助けた時、彼女は気丈に振る舞っていたがその瞳には涙が溜まっていた。無理もないだろう。姉妹艦を人質に取られ肉体関係を強要されたのだ。しかも暴力も振るわれている。怖くないはずがない。

 

「一年後、提督の職務に就く女性がいる。そこへ配属にする。それまではここで療養させながら鹿島に演習をしてもらおう」

「…他の艦娘は?」

「暴力を振るわれていた艦娘達は治療の後、他の鎮守府に配属する。姉妹艦がいる鎮守府だ。勿論ケアの為に女性の憲兵を同行させる。だが…彼女はそうはいくまい」

 

そう言って一枚の資料を憲兵に渡す。そこに書かれている艦娘は金剛型三番艦榛名の名前であった。

 

「あの鎮守府の唯一の戦艦だ。他の艦娘を庇い暴力を受け、食事もまともに取らされず出撃…よく沈まずに耐えてくれたが…酷く衰弱し、我々を恐れている。意識が回復した今でも彼女は医者や看護師を見たら酷く怯えている」

 

 男は鈴谷を保護した後に見た榛名を事を思い出す。薄暗い部屋のなかで衰弱し、死んだ目でうわ言のように出撃ですねと呟く彼女の姿。入渠もさせてもらえなかったのであろうか、服は破れていた。彼はすぐさま彼女を緊急搬送させるために本部へと連絡を入れた。その間も彼女は榛名は大丈夫ですと繰り返していた。

 

「彼女はもう戻れない…解体してやるしか…ない」

 

 非情な決定を下す白衣の男。彼も出来れば彼女を助けてやりたい。だが既に彼女の心は壊れていた。ヒステリックになり泣きわめき、暴れる。そしてもう楽にしてくれと泣く彼女は戻れない。

 

「…待って下さい…私が責任を持って彼女を助けます」

「…できるのか貴様に?」

「…必ず」

 

睨み付ける白衣の男の目を真っ直ぐと見て返事をする男。数分の沈黙の後、白衣の男はため息をつきながら頭をがしがしとかく。

 

「やれるだけやってみなさい」

「感謝します…では失礼します」

 

そう言って男は部屋から静かに退出していった。白衣の男は椅子に座り直し資料を纏めながら先程話していた男について考える。

 

「横山明弘…憲兵隊のトップの成績の男か…」

 

 

 病院のとある一室の扉の前に憲兵は立っていた。中からは医者と看護師の声と泣き叫ぶ女性の声が聞こえていた。ノックをして中へ入ろうとした彼だったがタイミング良く中から医者と看護師が出てきた。憲兵は頭を下げる。医者の男も頭を下げる。

 

「憲兵隊第一部隊隊長横山明弘です。彼女に話があるのですがよろしいでしょうか?」

 

面会の許可を取ろうとする憲兵。医師は最初睨み付けるような顔をするもすぐに普段の顔に戻る。

 

「憲兵隊か…ダメだな。彼女は軍関係者を見ると暴れるほど怯えている。会わせる訳にはいかん」

「五分だけでいいんです。お願いいたします」

 

真っ直ぐと医者の男の顔を見る憲兵。そして頭を下げた。医者は仕方なく看護師同伴と言う条件で面会を許可した。憲兵は頭を下げノックをして部屋の中へと入る。

 入室した彼の目に入ったのは病室のベッドの上で丸まって震えている一人の少女だった。髪の毛はぼさぼさになり目元には酷い隈。そして何より彼を見ている瞳が恐怖に染まっていた。

 

「…ッ!」

「はじめまして…今日から貴方の担当になる憲兵です」

「…榛名をまたあそこへ連れていくつもりですか?」

 

震える声でそう問いかけてくる彼女。憲兵は静かに首を横に振り否定する。

 

「貴方を…職場に復帰できるように」

「解体してください」

 

彼の声を遮る榛名から出てきた言葉。

 

「榛名は…役立たずの艦娘です…榛名は…お姉様達みたいに活躍できませんでした…許してください…許して!いや来ないで!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

悲鳴を挙げ暴れだす榛名。彼女を落ち着かせる為に看護師と外で待機していた医師が部屋に駆け込んでくる。医師は看護師に榛名を押さえつけるように指示をする。そして呆然と立っていた憲兵を睨み付け出ていくように指示をする。憲兵は重い足取りで病室から出ていくのであった。

 

 

 

 数分後、待合室で待っているように指示を受けた憲兵。彼は先程の彼女を見て本当に元の生活に戻してやれるのかと不安に思っていた。

 

「待たせたね…」

 

そこへ先程の榛名の担当医である医師が現れた。

 

「先に自己紹介をしておこう。私は彼女の担当医である金元康だ」

「私は憲兵隊第一部隊隊長の横山明弘です」

 

 互いに自己紹介を終え、話はすぐさま彼女の事に移る。

 

「見ての通りだ。彼女は心が壊れている。悲しいが解体してやった方が彼女の為でもあると私は思う」

 

本部での判断と同じことを彼に告げる金元医師。

 

「…私が彼女を元の艦娘に戻します」

「…できるのか?先程彼女が暴れたときに何も出来なかった軍人が?」

 

棘のある言い方をする金元。彼は深く深呼吸をし話を始めた。

 

「私がここに配属されてどれだけの艦娘を見てきたと思う?どれだけの艦娘が自ら命を絶ったと思う?お前たち軍人は彼女たちへどれだけの仕打ちをした…どうせ彼女達を兵器の一つとしてしか考えていない。そうだろう?軍人はどいつもこいつも同じだ。私はね…命を救うのが仕事だ。君たちは命を守るのが仕事だろ…なのにあのような姿になるまで酷使する君たち軍人は…人間ではない」

 

これ以上はやめておこう、今日は帰りたまえと促される憲兵。唇を噛み締めながら病院を後にする憲兵であった。




感想、評価、アドバイスお願いいたします。

※間違えて途中で投稿してしまいました…申し訳ありません!


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番外編 憲兵と榛名 後編

遅くなってごめんなさい!

いやほんと…




 榛名と初めて会った日から一週間。その間憲兵は毎日のように彼女の元へと訪れた。彼は直接会うのは無理だと判断し交換ノートを医師の金元を通じて始めることにした。金元医師は反対していたが諦めず何度も頭を下げる憲兵に呆れながらも他の軍人とは違うと感じ始めていた。そして憲兵が持ってきた交換ノートを金元医師も仕方なく榛名へ手渡した。ノートを渡された榛名は初めのうちは読むことをせずに返していた。しかし、毎日のように今日の事や、町の話を書いてここへ持ってきてくれる憲兵の行為に申し訳無さを感じた榛名は少しずつ読むようになっていった。そして返事がないまま一方的な交換ノートを始めて二週間目でようやく返事が返ってきた。

 

『こんにちは』

 

たった一言だったが彼にとっては大きな一歩であった。この返事があった日はバディを組んでいる艦娘の鹿島に報告するほど喜んだ。

 それから毎日彼女との交換ノートでのやりとりが続いた。簡単な自己紹介や、病院での出来事。主治医である金元医師の顔が少し怖いなどを書くようになっていた。本当に少しではあるが病室でも怖がることもなく看護師や金元医師と笑って話ができるまで回復した。だが、軍関係者と会うのはやはり怖いと言っている。憲兵はどうしたらいいのかと頭を悩ませていた。

 

「…」

「どうしたんですか?難しい顔をしていますよ?」

 

ふと声を掛けらた彼は頭を上げる。視線を上げた先には首を傾げながらこちらを見つめている鹿島が憲兵を見ていた。彼はどうすれば彼女が艦娘に戻れるかを考えていたと鹿島に伝える。中々案が出てこず悩んでいる憲兵に鹿島が少し休憩するために外に出ては?と進言する。ここのところ働き詰めの彼への心配の言葉だった。

 

「外へですか……なるほど!」

 

憲兵はデスクの電話機に手を伸ばし、金元医師へ電話を掛ける。内容は一日だけでいいから榛名を町へと連れていく許可を取っていた。断られるかと思われたが金元医師からの返答は彼女が行きたいと言うのならいいと言う返事であった。

 

「私も…憲兵さんと…」

「何かいいましたか?」

「い、いえ!なんでもありません!」

 

 まさか聞こえているとは思わず、すみませんと頭を下げ部屋から出る鹿島であった

 

 

 

 電話があった翌日。金元医師はいつものように憲兵から受け取った交換ノートを榛名の元へと届けにいく。交換ノートを受け取った榛名は以前よりも生気を感じられるようになった。彼は憲兵の行動がここまで彼女の精神を安定させるとは思っていなかったため大変驚くと同時に中々やるじゃないかと感心していた。

 数分後、交換ノートを読み終えた榛名に金元医師は昨日憲兵と話した内容を伝えた。彼が町を案内したいと言っていると。数分考えた後、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「外に出てみたいです。この交換ノートには町の景色は勿論なんですが…笑顔で町を行き交う人の事も書かれています。榛名も…この交換ノートに書かれている所に出掛けてみたいです」

「それは憲兵と会うことになるが…」

「この交換ノートを書いている人ですよね?見てみますか?」

 

 榛名はノートのあるページを広げて金元医師に見せる。するとそのページには赤、黄色、橙色など秋の紅葉を代表する色彩で簡単だが、絵が描かれていた。初めて中身を確認した彼は少し驚いていた。あの男絵が描けるのかというのもあるが毎回この絵を描いているのかと。

 榛名は自身にとってその絵は初めて見る景色だと言っていた。艦娘として以前の鎮守府で長い間閉じ込められていた。唯一外に出れるのは出撃する時の海だけ。このノートには自分が知らない世界が広がっている。それを知りたいと医師に伝えた。

 

「こんなに暖かな景色を描ける人になら…榛名は安心できそうです」

「分かった…そう伝えておこう」

 

 こうして榛名にとって産まれて初めてのお出掛けとなるのであった。

 

  

 

「お、お待たせしました」

「…本日、護衛させて貰います憲兵です」

 

榛名が外に出たいと言った日から二日後、榛名は港町の駅前で待ち合わせしていた憲兵と出会う。あの絵を描いていた男性とは思えないほど大柄な男であった。最初に出会ったときのことを錯乱していた榛名は覚えておらず、今日が初めての顔合わせといっていい。榛名は金元医師から事前に憲兵について聞かされていたが

 

「…あの…」

「…何でしょうか?」

「……何でもありません」

 

 怖い。そう思ってしまう榛名。逆に憲兵もどう接すればいいか分からず黙り込んでしまう。目の前には涙目の少女。しかし、ここで何もできなければ後悔してしまう。何より彼女を艦娘としてでは無く、一人の女の子としてこの町を案内しようと考えていた。

 

「何かあれば言ってください。今日は艦娘では無く一人の女の子として、護衛では無く案内人として町を案内させていただきます」

「は、はい!」

 

では行きましょうと彼女を町へと連れていくのであった。

 

 

「わぁ…」

「ここはこの港町では『台所』と呼ばれる場所です。様々な地域から野菜や食肉などが揃えられており、この港で獲れた新鮮な魚も揃っています」

 

人々の活気に溢れた声、多くの人が行き交う光景を見て圧倒されていた。そこはあの暗い鎮守府の部屋とは違う世界が広がっていた。

 

「凄いです」

「ここはこの港町の中心部ですから」

 

そう話をしている二人に後ろから声を掛けてくる人物がいた。

 

「あれ?あんた艦娘じゃないかい?」

 

 後ろには荷物を抱えたおばちゃんが立っていた。憲兵はまずいと身構えるが次の瞬間にその必要は無いと判断した。

 

「え、えっと」

「あんた達のお陰でここに戻ってくることができたよ…本当にありがとう。そうだ!ちょっとこっち来な!」

「あ、あれ?」

 

おばちゃんに手を引かれていく榛名。ずんずんと進んでいくおばちゃんと榛名の後を何とか着いていく憲兵。するとおばちゃんがとある店へと榛名を連れてきた。

 

「あれ?母さんその子は?」

「あれだよ!ほら艦娘だよ」

「はぁ~この娘がか?」

「あんたこの子に揚げたてのコロッケやんな」

「あいよ!ちょっと待ってな娘さん!」

 

 突然のことに困惑している榛名を余所にコロッケを揚げるおっちゃんと中でそれを手伝うおばちゃん。憲兵は少し離れた場所でそのやり取りを見ていた。数分後、揚げたてのコロッケを持っておばちゃんとおっちゃんとが出てきた。おばちゃんは榛名にそれを渡す。

 

「ほら!熱々の内に食べな!おいしいから!」

「そ、そんな…お金も払ってないのに」

「いいのいいの!あんたはこの海を守ってくれてるんだろ?こんなコロッケじゃ足りないかもしれないけど感謝の気持ちだよ!」

 

 にっこりと笑いながら笑う二人。榛名はじゃあとコロッケをかじる。一口、二口と口にコロッケを運ぶ榛名。すると榛名の瞳からは自然と涙が流れていた。おいしいですと何度も言いコロッケを食べる榛名を見ておばちゃんは榛名の頭を撫でていた。

 

 

 おっちゃんとおばちゃんに別れを告げその後二人は様々な店を見て回った。その度に榛名は店の人や道行く人に感謝された。気づけば榛名の手には沢山のお土産があった。持ちきれない分は憲兵がそっと荷物を持ち運んでいた。楽しい時間はすぐに過ぎる。夕方になり町が橙色に照らされる時間。榛名を憲兵はとある場所へと連れていっていた。

 

「ここは…」

「…ここは私が貴方との交換ノートに絵で書いた景色の場所です」

 

榛名の眼前には、ノートの中でしか見ることが出来なかった紅葉で彩られた山々の景色だった。夕方と言う時間帯であるため夕日がより一層紅葉を鮮やかに染め上げていた。

 

「…綺麗」

「……」

 

しばらくの間黙って景色を眺める二人。すると榛名がゆっくりと口を開いた。

 

「憲兵さんの交換ノートのままでした…ここの町は活気に溢れていて、皆笑顔で…暖かくて…榛名は前の鎮守府が世界の全てだと考えてました。榛名はでき損ないの兵器。産廃だって…」

 

 あの提督が彼女に言ったのだろう。憲兵は悔しさから拳を力強く握る。もう少し早く…対応していればと後悔する憲兵。榛名に謝ろうと彼女の方へ向く。しかし彼の目に写ったのは弱々しい少女の姿では無かった。

 

「だから…死にたい…解体されて楽になりたいって思ってました…でも……私はもっとこの世界を見てみたいです!だから私を…『榛名』を艦娘としてこの町を…海を守れるように戻りたいです!お願いします!元に戻るのに時間が掛かるかもしれないですけど…ここで終わりたくないです!」

 

ーあぁ…何て強いのだろうこの子は…そこまで言われたら何がなんでも彼女を支えてやらねばー

 

「任せてください。

 

何があっても貴方を支えます。

 

何があっても見捨てはしません。

 

何があっても貴方を裏切りません。

 

何があっても貴方を守ります」

 

「約束ですよ?」

 

「えぇ…約束は破りません。私は憲兵ですから」

 

この後、約半年掛けて彼の支えと己の心で誇り高き金剛型三番艦榛名として立ち直ることが出来た彼女は自分を救ってくれた彼が配属される鎮守府へ向かうことになる。

 

 

 

 




鉄血のオルフェンズも後2話ですね…オルガァ…

次回作はかなり迷ってます!
票が別れているのでどうすれば…



本編の番外編で次はヤンデレ鈴谷と憲兵さんの話を書こうかな……


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