現代文學思想研究部録 (紫畝 幽扇)
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部録>>1

都市伝説、というものをアナタは信じますか?

 

…いえ、あの、声に出されなくても結構ですので。聞こえませんし。

 

 

で、まあ、都市伝説とは少なくとも、未確認生物や創世神の存在よりは信憑性が高く思えますよね。…は?いや、あなたの考えはまず置いといてください。

 

その都市伝説を例えるなら、学校の七不思議や妖魔の類ですか。まあ、色々ありますね。だから、あるんです。

 

 

当然それらは、様々な場で話されています。職場、友人間、インターネット等々……挙げるのが面倒なので言いませんけども。手抜きじゃないです。

 

 

まあ、その場所については別にどーだって良いのです。肝心なのは、都市伝説という存在についてなのだから。ああ、この話し方では疑問を生む事でしょうか。だからこそこう言いました、はい。

 

 

…さて、それでは本題です。別に説明で手を抜いた気はさらさらないですが、適当に見えるとあらば申し訳ない。適当ですけども。

 

それより、本題と言ってから話に入らないのは如何なものかとお思いで?それはそれは、ごもっとも。では今からお伝え致しましょう。

 

 

アナタは、学生ですか?

 

 

おっと、声に出して答えなくても構いません。さっきも述べましたが聞こえません。クドイとか言わない。メタいとかも言わない。言ってなくても絶対に言わない。

 

 

さあ、この質問の意を成す為、取り敢えずは物語に入らせて頂きましょうか。とてもとても、素敵で不思議な物語で御座います故、惑わされぬよう御注意を……あ、ミスった…

 

 

 

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早咲 識兎(ハヤザキ シキト)かく語りき】

 

放課後1番の感想は『秋の日差しというものは、どうしてこうも強いのだろう』という言葉で表された。

 

季節は、秋。秋の入り。

食欲の秋、行楽の秋、べんきょ……スポーツの秋…色々ある。「べんきょ」については気にするな。

それでも俺がお薦めするのは、俄然『読書の秋』だ。理由?んなもん俺が好きだからだよ。それだけだ。

 

さて、『お前だれ』とでも言いたそうな顔してるな、ここらで自己紹介をば。

吾輩は中学生男子である。

名前は、別に無いわけじゃない。雑煮の餅を食うのに原稿用紙3枚も使ったりやたら人間臭かったりするハイパーニャンコじゃないですし。

まあ、俺は、そういう人間だ。

平凡とも取れる顔面偏差値に学力が相関していないというのが救いだ。別に異様なまでのレベルという程でもないが。

 

俺は某学校の図書委員が一員であり、2年生。ただ悠々と秋日の下で、本を読んでくつろいでいる。

 

つまるところ現在地は、例によって長閑な某学校の図書室である。

 

 

閑散とした空間に響くは…俺の命令と口答え

おかしいな、先程は長閑だと断言していた筈なのに?

 

 

「いいから、この本さっさと書架に戻せ」

「ちょっと待て、この3冊済んだら」

「早くしろ」

「「元気だねー」」

「お前らも手伝え」

「「ヤダね」」

「あ、俺も同意で」

「ついでに俺も」

「俺も俺も」

「だから何処の駝鳥(ダチョウ)だよお前ら」

 

 

お気付きになられただろうか。てか、気付け。

 

 

全く以って、長閑ではないのである。どういう事だ。宣言して優等生キャラの面の皮を被っている意味がまるで無い。

 

 

「おいコラ煩いぞおい!」

 

 

ほら、教頭がこう言っているだろう?『おい~おい!』って。だから俺の感覚は間違ってない。間違って…ん?おいちょっと待てコラおい。

 

 

「教頭先生、何でここに居るんですか」

 

 

アンタ仕事はどうした、という言葉は飲み込んで、素直に疑問をぶつけるしかない。それと仕事はどうしたおい。

というのも、図書委員の顧問は3人で、いずれにもこの教頭は当て嵌まりはしないのである。

1人は国語教師、また1人は数学教師、最後はと言うと、カウンセラー。変な面子(メンツ)だと笑う他にない。

 

さて、この教頭は何故我らが図書室をお訪ねになられたのだろうか。皆目見当もつかない。いや、つく。皆目云々が言いたかっただけだ。ごめんねてへぺろまんぐーす。

 

 

「あ、本…返しに来たんですか」

「また借りにと思ったら、煩かったからの。お前は委員じゃろうが、きちんと注意せえよ」

「いやはや、面目次第も御座いませぬ」

 

 

本当に、だ。

 

元来、俺は静かな場所で本を読めれば良かったのだ。口実以外では、図書委員なんてどうでもいい。言ってしまえば、元より面目なんて無い。

 

総じて、今となれば…どうだ。

 

図書室は、全く閑の字が浮かばぬ部屋と成り果てているではないか。しかもそれが俺個人の見解となっている事にさらに驚き。びっくり仰天、天地神明。使い方違う。

 

 

一向に静まらない部屋の古い時計を仰ぐ。この学校は無駄な所に伝統云々申し立て、また無駄な所に新装云々言いまくる。いい加減図書室の時計も変えろよ。

 

 

「時間は…おい、部活だぞ(・・・・)

「ん?あー、了解…よし、じゃあ皆、始めるよー!」

「「「「「りょーかい」」」」」

「了承致した」

 

 

俺だけが横着に答え、カウンターから外れる。まあ正直褒められた行為ではないが。

 

だが、俺は5分ぐらい怒鳴られるよりもコチラの用事…もとい部活を優先させて頂く。物を同時に持ち合わせるなんて出来ないのだ。

 

 

さてと、学生であれば思い出して欲しい。否であれども思い出して欲しいものだ。

そう、それは俺らを個人足らしめない、非常に勝手で都合の良いことを好む芥だ。爆ぜろ。

俺は、認めない。

 

『ミンナ』の青春の形を。

 

廊下を這いずり、教室を呑み、校庭に統べるその塊を。

 

 

 

『青春という名の自己暗示』をーーー

 

 

 

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これは、本の物語。

 

悩める者と、活字のオハナシ。

 

まさしく狂者であり、また聖者でもある彼ら。

脆く、小さくて、古い紙の薫る世界で、彼ら英傑は夢を見る。

彼らの言う暗示とは、何なのだろうか。

 

素敵で不思議。そんな者共は今日もまたーーー

 

伝説を作る。

 

 

 

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「………というのを書きたいんだけど」

「いや…そりゃないだろ」

 

追記しよう。

 

これは、素敵で不思議で尚且つ可笑しい(・・・・)、俺らの俺らによる俺らの為の俺らに贈る都市伝説的な非日常的『日常』だ。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺らには主人公属性なんて無いです。




著:庶務(憂霧 ID:100073)


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部録>>2

山城(やましろ) 唯斗(ゆいと)かく語りき】

 

俺は山城唯斗。某市立中学に通う二年生だ。今はこうして、学内にある広さ蔵書量ともに平凡というなんてことない図書室のカウンター内で優雅に本を読むという当番日限定の日課をこなしているのだが。

 

「よっしゃあー!本の整理終わったぜー!」

「はい、次お願いしますね!」

「!?」

 

見ての通り、(心の目で見てください)同じ図書委員の松木(まつき)浩鳴(ひろなき)の手によって図書室が荒れ果てている。

ていうか、それを見てて何も言わない委員長も問題ありだよね!?

 

…………コホン、少し熱くなってしまった。それもあの松木(・・)のせいで。

この言い回しでわかった人もいるだろうが、俺と松木はいわゆるライバル的な関係にある……のだろうか?まあ、多分そうだ。言っとくが、学力面だけだぞ?性格とか諸々は言うまでもない。

まあ委員長が注意しないなら、図書委員第二学年学年長のこの俺(無駄に学内権力を振りかざそうと気取る馬鹿)が言うしかないだろうな。

 

「おい、松木」

「へい、どうしたでやんすか〜?山城君や」

「まず、その言い方やめろ。あと図書室を荒らすな。手間が余計かかるだろ。これ以上は言わせんな」

「へいへい」

「ま、つ、き、く、ん?」

「なんだよ、そのお、も、て、な、○、みたいな感じのやつ……」

「なんか言ったか?」

「……なんでもないです、はい」

 

はい、松木鎮圧成功〜。

と、ひと段落したところでそろそろ始めましょうかね。

 

「はい始めるよー!皆の衆、集まれ!!!」

 

俺の一言で、それまで図書室各所に散らばっていた部員が俺の目の前にある長机に着席する。

 

「図書室ではあんまり大きな声を出さないで!!!」

 

例によって図書委員長の注意が飛んでくるが、委員長の声など俺は馬耳東風である。

つーか、松木には注意しない癖に俺には毎回言ってくるんだよな。なんか心が寂しくなっちまうぜ。

 

「おい、部長。はよ立て」

「おう、そんじゃあ現文研始めま〜す」

 

こんな感じで、俺たち現代文學思想研究部(げんだいぶんがくしそうけんきゅうぶ)、略して現文研(げんぶんけん)は今日もスタートする。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「部長、今日の議題はなんだ?」

 

俺の問いかけに、部長はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに顔に笑みを浮かべた。

ああ、聞かない方が良かったか?

 

「ふふっ、聞いて驚けっ!!!なんと今日の議題はっ!!!」

「どーせ部長のことだ。いつも通り議論にすらならんつまんねえ議題を出すんだろ?」

「だよな。なんせあの(・・)部長だからな」

「………………(涙目)」

 

俺たち(松木以外の部員)が松木の愚痴をバッチリ聞こえるように言っていると、松木が涙目でこちらを見ていた。

仲間になりたそうではないがな。

まあ、流石に言い過ぎたか。ここはちょいとフォローしてやらないと可哀想だな。

 

「で、今日の議題はなんだ?」

「お、おう。では改めて、今日の議題はっ!」

「『我が現代文學思想研究部の方針について』だそうだ」

「俺の一週間前から知恵を絞って考えた議題くらい自分で言わせてくれよっ!」

「いや、知るかよ」

 

俺と松木のよく分からんうちに始まる漫才的な何かもいつも通りだな。フォローも我ながら完璧!

 

「お前らなぁ、開始早々他の部員をほっといてなにやってんだよ〜。白目剥いてんぞ」

「「え?」」

 

書記の内海(うつみ)に言われて部員たちを見回すと、全員の目が白くなっていた。

 

「すまん」

「まあいいけどよ、今日の議題なかなか議論になりそうじゃないか?」

「そういえばそうだな。方針なんてこの部活にはないと思ってたけどな」

「今日は久々に語り合えそうだぜ!」

「いや、ここって語り合うような場所だったのか?」

「君たち、先程からうるさいぞっ!!!」

 

どんどん会話がヒートアップしてきていい感じのところに、突然怒鳴り声が図書室内に響き渡った。なんだよ、部外者が水を差すんじゃ……あ、校長!?

あの生徒に対して滅多に顔を出さない校長がなんで図書室なんかに……。

もしや、俺たちの声が下の校長室まで行っちゃってた?これは、やらかしちまったな。

 

「ここは図書室だ。ちょっとはTKOというものを考えたまえ」

「…………すいません、校長先生。以後気をつけます」

 

校長よ、もしかしてTPOと言いたかったのでは?なんで、芸人さんについて考えないといけないんだよ。ネタならばっちこいだけどな。

 

「うむ、ならいい。これからも読書に励むのだぞ」

「はい」

 

校長は結局、TKOなる謎の言葉だけを残して図書室を去って行った。で、残された俺たちはというと、

 

「なんか、今日はもう解散にしねえか?」

「んだな。そんな心境じゃなくなっちまったし」

 

解散の流れになっていた。まさか校長、直接言わずに生徒たち自身から解散するように仕向けたというのか!?やるな……。どうやら校長の手腕を見誤っていたようだ。

と、俺が一人勝手に感心していると、松木の顔が曇っていた。

 

「…………」

「ん、どうした?松木」

「お、お、」

「お?」

「俺の一週間を返せえええ!!!」

 

この後、顧問(数学教師の方)に騒ぐなと怒られたのはまた別のおはなし。




著:副部長(紫畝 幽扇 ID:100110)


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部録>>3

「都市伝説というものをアナタは信じますか?」

 

「初っ端から1話の冒頭コピりやがったか」

 

「ん?何か聞こえたような……まあいいや」

「おい」

「えっと……それで、えー、まあ、その都市伝説?っていうのは、あれよりは信憑性高いですよねー。ほら、あの、えっと……。…………」

 

「…怪奇現象?」

 

「あ、そうそうそれ、その皆既現象よりも信憑性が高くて……そう、たとえば、雑煮の餅食べるのに原稿用紙3枚使う猫とか?よくわかんないけど、多分それのことだと思う」

 

「うんわかった、まずはお前は第1話を執筆した俺並びに読者に向かって謝罪するべきだと思うが」

 

「あと誤字ってるぞ。それだとなんか全部隠れてたり、すでに確認存在されてる現象みたいになるからな」

 

「あと猫に関しては都市伝説でもなんでもねえから。もう松木お前殴っていい?」

 

「ん?なにか幻聴が…耳おかしいのかな」

 

「耳鼻科ではなく精神科にいった方がいいと俺は思うぞ」

 

「激しく同意」

 

「なにも聞こえねーなー。…ところであなたは学生ですか?私は学生です!」

 

「いや『元気』みたいに言うなよ」

 

「その書き出しで始まる文章を遺書として松木を消したいんだが、いいか?」

 

「かなりさけーんでみたー『元気でーす!』」

 

「なあお前さ、必ずどっかからネタ引っ張ってこねえと気が済まないの?」

 

「えー、それではみなさん、くれぐれも惑わされないよう…」

 

「結局そこまで引っ張って来たか」

 

「途中うろ覚えの上脱線しまくったけどな」

 

「第1話著者としては、殴りたい一心でございますよ、ええ」

 

「ぜひご協力お願いします!」

 

「「「惑わされてたのお前だったんかい!」」」

 

※基本ボケてる奴が松木、あとは山城、早咲、内海です。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

【松木浩鳴(ひろなき)斯く戦えと見せかけて逃げたり】

 

『廊下を走るな』。

 

おそらく、全国どの学校内でも見かける文句だろう。

どんなに自由な校風だろうが、どんなに荒れた学校であろうが、必ずこの類の言葉が記された張り紙が掲示板やら廊下やらに貼り出されていることだと思う(実際守られているかは別にして)。

いつもは俺だって、基本的にはこのお言葉を遵守しようと心がけつつ生活をして居る(実際守れているかは別にして)。

別に優等生ぶっているとかではない。と言うかむしろ、こんな当たり前のことを守ろうとしてすらいない奴が劣等生なだけで、当たり前のことを当たり前にやろうとしているやつは優等生でも劣等生でもなく、それこそ普通なやつだと思う(実際守れているかは別にして)。だって廊下走ると危ないもんね。一人すっ転ぶならまだしも、人にぶつかったら大変だしね。守らないとダメだよね(そういっている奴が実際守れているかは別にして)。

 

まあ、だがしかし(アニメのタイトルではない)。

 

それはあくまで、いつもなら(・・・・・)のことだ。

 

つまり、今回ばかりは訳が違う。

 

『廊下を走るな』

 

この貼り紙に対し、廊下を猛ダッシュしつつ(・・・・・・・・・・・)軽く殺意を覚えた。

 

この状況でなに言ってんだ。ふざけるんじゃねえ。

 

後ろを振り返る。

 

するとそこには

 

「松木ぃぃぃ!!!待てやてめえおらぁぁぁ!!!」

 

変わり果てた副部長、山城唯斗の姿が!

まさに、ギョウソー・オブ・オニィである。

そして、おお、なんということだ!

その覇気たるや阿修羅の如く。逃げる俺を捕獲せんと脱兎の如き疾走で背後から迫ってくる。コワイ!

 

再び正面に向き直る。

 

もう一度言う。

 

『廊下を走るな』だと?ふざけるな。

 

そんなことしたら俺が死ぬわ!!!

 

廊下の直線もそろそろ終わりにさしかかり、松木は階段を下るべく、突き当たりの90度の角に備えた。

 

ーーーー山城ーーーー

 

俺は今、走っている。そりゃもう、全力で。

視界に捉えるは現文研部長、松木浩鳴。今俺の役8メートルほど前を走って逃げている。

だがあと少しで捕まえ………あ、階段下りやがった畜生!しかも無駄に速えなぁおい!

 

そもそもなぜ俺が奴を追っているのか。普段は廊下なんか走らないんだがな。でも今日ばかりは仕方がない。

 

発端は今から約5分前、図書室での会話だった。

 

〜〜〜〜〜

ーーーーー

〜〜〜〜〜

 

「おー、山城=サン、おっすおっす。」

「ニンジャスレイヤ○のネタ使うなっていつも言ってんだろが!」

「痛い痛い痛い、ギブギブごめんって!」

 

いつも通りまともな挨拶をせず図書室にやってきた部長にヘッドロックをかまし、松木は俺の腕をバシバシ叩いて降伏の意を示す。

いつもの流れだった。というか、いつもこんな調子なのだ。松木がやってきて、ボケをかましたりふざけたりする。それに対し部員(主に俺)が制裁を加え、部活を始めさせる。この部ができたときから変わっていない、もはや恒例の流れだった。疲れるっちゃ疲れるが、もう流石に慣れてきてしまった。………いや、慣れるのもどうなんだ。

 

ため息をつきつつ松木の首を締める力を強める。

 

「ぐええええ!いだい!参っだ参っだ!降参、降伏!我降伏す!」

 

先ほどまでジタバタやっていた松木も本気で苦しくなったのか動きを弱め、代わりに俺の腕を叩く力を強める。

俺はそんな松木の後頭部をやや下に見つつ、笑顔で言う。

 

「え、なに?幸福?我、幸福す、だって?そりゃよかったぜ、さすが松木(頭文字M)!」

 

「俺はマゾじゃねえええええ!!!!!!!!!」

 

松木が叫ぶ。まあこれ以上騒がれても困るし、こっちもそこそこ楽しんだので松木を解放して、自分の席に戻る。

気道がようやく広がった松木はしばらくぜえぜえと息をしている。そしてようやく落ち着き、自分も椅子を引いて席に座る。

 

「あー、死ぬかと思った……。…っし、んじゃ部活やるかーーーーって、あれ、他の奴らは?」

 

どうやら今頃気づいた様子で、松木は訊いてきた。俺は後ろに椅子を傾けつつ、答える。

 

「ん?ああ、早咲(庶務)内海(書記)も、まだ来てないぞ」

 

「えー、まじかよー。2人じゃ何もやれねーよ」

 

「そうなるな」

 

「えーそうかー…………んじゃ、なにしようかー……」

 

おい、さっき何にもやれねーって言ってたのはどこのどいつだ。

内心でつっこみつつ、松木の方を見ずにテキトーに提案。

 

「普通に読書したら?」

 

「やだ。つまんない。」

 

おい。一応うちの部名は現代文學思想研究部(・・・・・・・・・)だろ。本くらい読もうぜ。しかも、この部作ったのは他でもないお前だろうが。

 

「あ、そうだ!とりあえず近況報告でもしようぜ!」

 

と、唐突に松木が言い出した。

いきなりだなぁおい。

 

「何だそりゃ。やろうって言ってやることじゃねえだろ」

 

「いや、やることだろ。んじゃ言い方変えるか?『それじゃあまず、お互いの近況報告からね』。ほれ、どうよ?」

 

「ぐっ……!」

 

やべえ、なんかしっくりきた。

 

「何でも言い方次第ってことよ」

 

悔しいが、そうかもしれない。まあでも、どうせやることないのに変わりはないし、やっておくか、近況報告。

 

「んじゃ、まず副部長。最近何か変わりは?」

 

「特になし」

 

「さいですか」

 

はい俺のターン終了。……ん?さっきの言葉?何だよ、近況は報告しただろうが、変わりない、って。

自分の近況報告をわずか0.4秒で終わらせた俺は、次に部長こと松木に尋ねた。

 

「んじゃ松木、最近変わったことは?」

 

「ボーキとバケツ、それから開発資材が尽きた」

 

「うん、何の話かわからんがとりあえずわかった。それから?」

 

「うーん、他には………他には、ねぇ……」

 

松木が考える仕草をする。

 

「ないなら、もういいぞ?」

 

はっきり、めんどくさい。

 

「………あ、ちょっと待って、あったあった」

 

俺が遠回しに近況報告を終わらせようとすると、松木は慌てて何か思い出した。

 

「(……チッ)なんだ?さっさと言ってくれ」

 

「おい、あからさまに舌打ちすんな。えっと、確か昨日ね……」

 

「なんだなんだ」

 

適当に相槌を打つ。そして松木は、しれっと言い放った。

 

「LINEの友達の櫻_iって奴から2次元18禁画像約180枚が送られてきたから、とりあえず他の友達に横流ししておいた」

 

「うんうん、そうかー………っておい、ちょっと待てやてめぇおら」

 

危うくスルーするところだった。

 

「ん?なに?」

 

しかし、当の松木の方は『何か問題でも?』とでもいう風に平然としている。

 

「いや『なに?』じゃねえよ!なに18禁普通に取り扱ってんの!?」

 

「いや、俺が見つけたわけじゃなくてLINE友から送られてきただけだって」

 

「100歩譲ってそれでセーフってことにしてもだな、なんで横流しすんの!?」

 

「なんとなく」

 

「なんとなくでエロ画像流す奴があるか!それ受け取った奴はかつてない衝撃を受けたと思うよ!」

 

「退屈な日常に、せめてもの刺激を与えてやろうという心遣いから」

 

「たしかに刺激は必要だろうが、そっち方面の刺激は多分必要とされてなかったよ!」

 

「ついカッとなって」

 

「なにその犯罪理由みたいな!カッとなってエロ画像流す奴なんざこの世に居ねえよ!」

 

「遊ぶ金欲しさに」

 

「だからなんでそんな犯罪理由みたいなの!?しかも全く理由として成立してない!」

 

嵐のようなボケとツッコミの応酬にぜぇぜぇ、と息を荒げる。なにこれめっちゃ疲れる。多分今日1日の授業なんかよりよっぽど疲れたんじゃなかろうか。

 

しばらく息を整え、ようやく落ち着いてからもう一度松木に尋ねる。

 

「いいか松木、ふざけずに答えろよ」

 

「うに」

 

「死ね」

 

「ゴメン」

 

吐き捨てるようにそう言うと、松木が頭を地面に押し付け謝った。

もう一度訊く。

 

「ちゃんと答えろよ」

 

「はい」

 

「なぜ、送られてきた18禁画像を横流しした?」

 

今度は松木も、真面目な顔で考える。「うーん」「あー…」など唸りながら20秒間頭をひねる。

そして、

 

「面白そうだったから」

 

変わらず真面目な面持ちで答えやがった。

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

「うおっ!」

 

いつもの鉄拳制裁を加えようとした俺の腕を、間一髪で避ける松木。

 

「松木、お前にはもうちょっと、きつい制裁が必要らしいなぁ!」

 

「う……」

 

松木に詰め寄る俺。松木は怯んだように後ずさる。そして次の瞬間。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

図書室から駆け出した。

 

「あっ、こら、まてやてめぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

急いでそれを追いかける。

こうして、放課後の追いかけっこが始まった。

 

〜〜〜〜〜

ーーーーー

〜〜〜〜〜

 

廊下を結構な速度で駆け下り、現在1階。

しかし、副部長の方もピタリとつけてくる。いつまで体力が持つだろうか。いや、止まるわけにはいかない。今止まったら、俺は確実に殺られる。その一思いで1階の廊下を走る。

 

いや……でも待てよ。なんで俺はこんな命がけで副部長から追われてんだ。

副部長(あいつ)に送ったわけでもなかろうに、 あぜここまでしつこいのだろう。別にさ、横流しくらい、よくね?……むーん、謎だ。まあでも、俺は悪くないよね。うん、悪くないよね。

 

そう考えつつ、1階の端の方まで来る。

そろそろ体力も限界だ。このまま走り続けるのは流石にきつい。どうするか。

 

「(……隠れるか)」

 

1階の端にはトイレと階段、そして倉庫がある。階段と倉庫は廊下の直線部からは直接見えないから、倉庫に隠れてしまえば、向こうは俺が階段を上って行ったと思うだろう。うん、そうしよう。

 

廊下の直線が終わり、再び角を曲がる。そして、いつも扉が開いている倉庫に向かう。

 

「(うおりゃぁぁ!!)」

 

心の中でそう叫びながら、いつもドアが開いている倉庫に突入。入ったらすぐに扉の影に隠れ、息をひそめる。

 

そして3秒後。

 

「……っはあ、はあ、あいつ、また2階に行きやがったのか……!」

 

という声が聞こえ、次第に足跡が遠くなっていった。

 

「………っ、ぐはあー……!」

 

止めていた息を全て吐き出す。そして深呼吸。ようやく落ち着いた。

ついに、副部長の追撃を振り切った。我々は、勝利したのだ!(俺一人だけど」

 

ドアからこっそり廊下の様子を伺う。見たところ、誰もいない。胸をなでおろす。

 

「ふぅー…いない…っと…んじゃ、図書室で荷物回収して、悪いけど今日は帰ろっと……」

 

そんなつぶやきをしながら、一刻も早く図書室に向かおうと、駆け足に移行ーーーー仕掛けた、その時

 

「部長が先に帰ってもいいと思っているのかな、君は?」

 

ーーーー悪魔の声が、聞こえた。心臓が止まる寸前だった。

 

ぎぎぎ、と壊れたロボットのような動きで、声がした方ーーーー2階に通じる階段を、見る。

 

そこには。

 

「まだ今日の部活はこれからだろ…………な、部長さんや?」

 

副部長、山城唯斗がいた。

 

全身に冷や汗どころか脂汗がじっとりと滲み、カタカタ、と小刻みに震え出す。

そして、ようやくの態で声を絞り出す。

 

「副部長……………いたん、ですか」

 

山城はゆっくりと階段を3段ほど降りる。そして、ニヤニヤと笑いながら俺の問いに答える。

 

「たぶん疲れてきたお前なら、ここでその倉庫に逃げ込むと思っていたからな」

 

「………でもさっき、2階に……」

 

「足踏みして足音をだんだん小さくしていくやつだよ。でも正直、これに引っかかるとは思ってなかった。お前は幼稚園児か」

 

「なんだ、脅かすなよ…」

 

「いやぁ、すまんすまん」

 

「ははは…」

 

「ははは」

 

「………」

 

「………」

 

沈黙。ドアの隙間風の、ひゅうという音が聞こえる。遠くで誰かが話す声も聞こえる。それぐらいの静寂が、15秒ほど続いた。

そして俺はくるっと山城に背中を向けると、片手を上げつつ言った。

 

「んじゃ、俺は今日、チョットヨウジガアルカラ…………………お先!!!!!!!」

 

「行かせるかぁ!!」

 

「ぐごはぁっ!!!!!!!」

 

再び駆け出そうとした俺の背に、副部長の跳び蹴りがもろに命中し、俺は廊下に向かって前のめりにぶっ倒れ、そして意識も、吹っ飛んだ。

 

ーーーーーー

 

早咲「ーーーんでさ……って、よう副部長、来たか」

 

山城「うぃーっす、副部長、帰還しましたぜー」

 

内海「おう副部長、おかえりおかえり」

 

山城「ただいまただいま。んじゃ、今日の部活始めるかー」

 

早咲「了解……って、部長はいないのか?」

 

内海「確かに、部長がいないと部活できねえぞ」

 

山城「ん?ああ、大丈夫だ。部長ならちゃんといる」

 

早咲「は?どこに……?」

 

山城「ほれ」

 

内海「え?……って、うぉぉ!?なんだこのボロ雑巾!?」

 

早咲「いや待て、この頭とメガネの形……確かに部長だ!」

 

内海「ホントだ!何があったんだ部長!?」

 

山城「いや、気にしなくていいから。それより部活やろうぜ」

 

早咲&内海「そうだな」

 

山城「いや、お前らも結構冷たいな……」

 

早咲「いや、だって」

 

内海「部長だし」

 

山城「ははは…なんか部長が可哀想になってきたような…。まあいいや」

 

山城「それじゃ部長に変わりまして、今日の現文研、はじめまーす」

 

早咲&内海「よろしくおなしゃーす」

 

山城「んじゃ、今日の議題はーーー」

 

 

現代文学文化研究部は、今日も活動する。




著:部長(つぉとーと ID:100644)


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部録>>4

嵩坂(たかさか)(みなと)はただただ刺激を求める】

 

毎日が同じ事の繰り返し。

そんな日々に少し刺激が欲しかった。

「はい、今日の練習はここまで。」

 

部活の大会前だからなのか練習がすぐに終わった

俺、嵩坂湊(たかさか みなと)は練習を終え図書室に向かった。

今日はかなり時間がある方だ。

図書室に着き中に入ると部長を除く3人が座って話していた。

「あれ?部長は?」

 

「その辺に転がってると思うよ。」

 

「あ、本当だ...」

 

入ってすぐは見えなかったが縄で何故か縛られた状態で転がっていた。

「なんでや…なんでアニメネタがだめなんや…」

 

「何か言ってんだか、いいのか?」

 

「ほっとけ、そのうち松木(メガネ)松木(おまけ)に分離して静かになると思うから。」

 

「そだな。」

 

俺は納得した。

「いや、納得しないでよ!!わかった。俺が悪かったから、湊これほどいて。」

 

「ーーといってますが副部長どうしますか?」

 

「却下する☆」

 

「お前にきいてねぇぇ!!」

 

結局この後解放された。

 

 

 

 

〜〜〜現文研会議 take1〜〜〜

 

松木「え〜、それでは現文研会議を始めようと思います。」

 

松木以外「(チッ)了解。」

 

松木「あの〜なんで舌打ちするかな?」

 

内海「それは松木ですし?」

 

嵩坂「そだな。」

 

早咲「それ以外に理由なんて要らないよな。」

 

山城「いらないな。」

 

松木「泣いていいですか?」

 

松木以外「「どうぞ!!」」

 

松木「(泣)」

 

 

 

 

〜〜〜現文研会議 take2〜〜〜

 

松木「はい、気をとりなおしてもう一度」

 

松木以外「「うい」」

 

松木「え〜今日の議題は、『小説の進行状況について』です。では、副部長から。」

 

山城「まあ、普通ぐらいかな。」

 

松木「では他の方。」

 

早咲「同じく。」

 

嵩坂「まだまだですかね。」

 

内海「まあまあ。」

 

山城「で、部長は?」

 

松木「やってない(キリッ)。」

 

山城「は?」

 

松木「…ではこの議題は、終了して次ーー」

 

山城「おいコラ勝手に進めんじゃねえ。」

 

松木「…次の議題は--」

 

山城「そっちがその気ならいいだろう。部長一つ議題の提案がある。」

 

松木「何?」

 

山城「『おまけの処分』ってどうかな?」

 

松木「いや、ちょっとまて。つまり俺を--」

 

早咲「ちょっと失礼。」

 

内海「まあまあ松木落ち着けよ。」

 

松木「メガネ取られて縄で縛られている状況でどう落ち着けと⁉︎」

 

 

 

 

〜〜〜現文研会議…じゃなかった異○審問会〜〜〜

 

山城「これより異端○問会を始める。」

 

松木「おい!!思いっきりアニメネタじゃねーか。」

 

山城「黙れ‼︎貴様に発言権はない。」

 

内海「しばらく待て、今松木に事情聴衆をしているんだから。」

 

松木「・・・」

 

松木?「それメガネ!!あと『?』つけんな!!」

 

松木「・・・」

 

内海「えっとなになに…僕が受ける罰をオマケにお願いします…よし、分かった。副部長」

 

山城「これより判決を下す…とは言ってもまぁ最初だ軽くしといてやるよ。」

 

松木「まずなんで罰を受けなければーー」

 

山城「あまり言うようならもっと重くするけど?」

 

松木「ありがとうございます…もう十分です。」

 

山城「じゃあ早咲、例のアレを・・・」

 

早咲「これか?」

 

早咲が渡したノートにこの中の何人かは見覚えがあった。

 

ーーーーーーーーー

 

「おい待て、それまさか…」

 

「ん?ナンノコトカナ?」

 

そう言いつつ山城はノートの一部を読み始めた。

 

「『20××年○月☆日』今日の俺は--」

 

「ストップ、やめろ!!それをどうするつもりだ?」

 

松木が止めに入ったことで分かっただろう。

これは、松木のノート(黒歴史)だと。

「これか?ああ、これは…まぁ…いろんな人に見てもらおうと思ってな。」

 

ここまで来ると普通であればいじめだろうが、あいつMだからまぁ問題ないと思う。

いや、Mでも問題か。

 

そんなこと考えていると、図書室のドアが開いた。

 

「貴様ら何をやっとるんだ!?」

 

そこから入ってきたのは顧問(数学教師)だった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「全く、松木がMだというのは知っていたがさすがにやり過ぎだ。」

 

「「大変心より反省しております。(棒)」

 

俺達は、顧問に怒られていた。

 

「こんなことする暇あったら、勉強しろ。」

 

俺達を叱り終わると顧問はすぐに、図書室をあとにした。

 

「あ〜あ、せっかくやる気になっていたのに。まっ、続き始め…?あれ?松木どこいって……」

 

山城が松木を探していたがすぐに見つかった。

「チョットヨウジヲオモイダシタンデデハ。」

松木はノートを持って逃げ出した。

 

「・・・総員、副部長の権限を持って部長を連れ戻せ。」

 

「「了解。」」

 

部長を除いた4人は、動き出した。

 

 

 

 

 

〜早咲、嵩坂ペア〜

「どこ行きやがった?」

 

俺と早咲は、第一校舎付近を探していた。

「もう、帰ったんじゃ…」

 

「いやまだだ。あいつは、図書室に自分の荷物を置いていた。だからまだ帰れない!!」

 

「でもどうやって?あいつは逃げ足がすごいし、結構運動神経よくなかったか?」

 

「そんな時にはこれだ。」

 

そう言うと、早咲は一本の缶を出した。

 

「それ、持ってきたらまずいのでは?」

 

「先生方あいつらは会議中だから問題ない」

 

そう言うと早咲は持っていた缶を開けた。

「うっ。なんだこれ…」

 

缶の中からは、シップの匂いやらなんやら…とにかく飲み物の匂いではない匂いがした。

 

「何って松木が好きなコーラだけど?」

 

あいつこんなゲテモノが好きなのかよ。

そう思っていると、

「ぷはー。やっぱりこのコーラはうまい。」

 

「「…………はやっ!!」」

 

「ん?どしたの。」

 

こいつ予想よりもはるかに上回る行動をするな。

まぁいい。

「さて、松木。」

 

「…ナンデショウ。」

 

「少しの間眠ろうか?」

 

「いやだぁぁぁぁ。」

 

このあと、俺と早咲は松木を説得(物理)納得(気絶)させ、図書室へ帰還した。

その後松木がどうなったかは言うまでも無い。

 




嵩坂「ほんっとにすいませんでした。」

早咲「何をしていたんだい?」

嵩坂「まぁ色々と。」

内海「事情があるにしても、2ヶ月はないでしょう。」

嵩坂「お願いします許してください、松木に何してもいいので…。」

松木「おい、何故俺なんだ!?普通に考えてお前ーーー」

2人「「ん?まじで?」」

松木「やめろぉ俺に寄るな!!」

2人「「やだ。」」


嵩坂「今のうちに…」

山城「どこへ行くんだぁ?」

嵩坂「や、やだなぁ〜逃げようなんて思ってませんよ。」

山城「だよなぁ。貴様には、もう一つやることがあるもんなぁ?」

嵩坂「そっ、そうですよね〜あはははは…。」

山城「というわけでこい!!」

嵩坂「いやじゃぁぁぁ!!」


著:平部員(霧光 ID:100873)


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