最強の王様になった『 』 (8周目)
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はじまり

突発的に書いたので、続くかは気分次第となります。

この話は、ノゲノラの世界でカリスマ性抜群な者がディスボードに招かれたらどうなるのか。 というストーリーとなります。

というわけで

ではどうぞ⇩


 

 

 

 

 

 ———『都市伝説』。

 世に囁かれる星の数にも届くそれらは、一種の『願望』である。

 

 

 ———例えばそれは、『人類は月に行っていない』という都市伝説。

 ———例えばそれは、ドル紙幣に隠されたフリーメイソンの陰謀。

 ———例えばそれは、フィラデルフィア計画による時間移動実験。

 千代田線核シェルター説、エリア51、ロズウェル事件、etc——–—

 

 

 枚挙にいとまがないこれらの都市伝説を眺めれば、明確な法則性が見えてくる。

 即ち……『そうだったら面白いのに』という『願望』によって構成される。

 火のないところに煙は立たぬという。

 だが尾ひれがつくと、しまいには魚より肥大化して伝聞する『噂』の性質を考えれば、これらの都市伝説の形成される過程も見えてくるというものだ。

 つまるところ、根はあっても葉はない(・・・・・・・・・・)

 身も蓋もなく言えば、デタラメが大半を占める(・・・・・・・・・・・)ということだ。

 だが別段それは、責めるにも不思議に思うにも(あた)わない。

 人は古来より、『偶然』より『必然』を好んできたもので。

 そも、人類誕生が天文学的確率の偶然の産物(・・・・・・・・・・・・・・・・・)だという、事実より。

誰かが人類を計画的に創った(・・・・・・・・・・・・・)と、本能的、経験則的に思いたがるように。

 世界は混沌ではなく、秩序によって構成されていて。

 後ろで糸を引く誰かを想像することで、不条理かつ、理不尽な世界に、意味を見出す。

……少なくとも、せめてそうあって欲しいと願う。

 故に都市伝説もまた、概ねそんな切実な『願望』から生まれるといえる。

 

 

 その代表として一つ、『神』を挙げてみよう。

 そもそも神とは、一週間で世界を創り、また一週間で世界を壊した、と言われている。

 今も世に残されている神話や神にまつわる道具など、それらも全て人間の頭の中で構成されたものが元となる。

 最も有名なのは、イエス・キリストだろう。

 彼は神の子と呼ばれ、そしていくつもの奇跡を世にもたらした。 

 更に、その後信徒の一人によって裏切られ、そして磔にされたのちに処刑された。

 その時キリストの脇腹を刺したと言われる槍が『ロンギヌスの槍』であり、キリストの血を受けた杯が『聖杯』である。

 ここまではいい。

 しかし、何とキリストは処刑された三日後に蘇ったと言うのだ。

 何故生き返ることが出来た? 人間ではそのようなことは不可能だ。

 ならばそれはもう神の仕業としか言いようがない。

 つまり、神とは恐ろしく気まぐれな存在であることが判る。

 もし本当にそのようなものが存在するのであれば、我々人間は堪ったものではない。

 

 

 ————さて。

 そんな天上を照らすほどの、数多の『都市伝説』の中に。

『事実だが都市伝説とされている』ものが含まれているのは、あまり知られていない。

 ———誤解なきよう、前記した都市伝説が真実であると言うつもりはない。

発生した原理が異なる都市伝説が存在する、ということだ。

 

 

 

 ————例えばそれは、あまりに非現実的過ぎる『噂』が『都市伝説』と化した事例だ。

 

 そんな『噂』がここに一つ。

 そして、当の本人にも理解不能なことに巻き込まれ、『存在そのものが非現実的』となってしまった者が一人。

 

 

 まず最初は『噂』のほうから説明しよう。

 

 インターネット上で、まとこしやかに囁かれる『 』(くうはく)というゲーマーの噂だ。

 曰く———二百八十を超えるゲームのオンラインランキングで、不倒の記録を打ち立て。

世界ランクの頂点を総ナメにしているプレイヤー名が “空欄” のゲーマーがいる、と。

 「そんなはずはない」とお思いだろうか。

 まさしくそう、誰もが思った。

 そうして至った仮説は、単純だった。

 

 

 当のゲーム開発スタッフが、身元が割れないようにランキングに『空白入力』したのがいつしかブームになり、様式美となったもので、実在はしていないプレイヤーであると……。

 

 

 だが奇妙なことに、対戦したことがあるという者は跡を絶たない。

 曰く……無敵。

 曰く……グランドマスターすら破ったチェスプログラムを完封した。

 曰く……常軌を逸したプレイスタイルであり手を読むことが出来ない。

 曰く……ツールアシスト、チートコードを使っても負かされた。

 曰く……曰く……曰く————。

 

 

 そんな『噂』を、普通ならば鼻で笑うだろう。

 だが調べてみれば、誰もが言葉を失った。

 何故なら『 』(くうはく)名義のユーザーは間違いなくどのゲーム機、どのSNSにも確かにアカウントとして存在しており、また誰もがその実績を閲覧出来るそこに並ぶのは。

 文字通り『無数』と表現されるべき数の実績(トロフィー)と、ただひとつの黒星もない対戦成績(・・・・・・・・・・・・・・・)であるからだ。

 —————そうして謎は更に深まり。

 事実があるにもかかわらず『噂』は逆に非現実味を帯びていく。

 

 『敗北実績を消しているハッカーである』

 

 『ハイレベルプレイヤーが誘われるゲーマーグループがある』————などなどと。

 

 こうして新たな『都市伝説』が生まれていくわけだ。

 

 

 

 そして次に『存在そのものが非現実的』な者についての説明だ。

 

 その者は、最初は何の変哲もないただの人だった。

 ゲームやアニメが大好きで、休みの日などは家に引きこもり、トイレや風呂などの最低限のこと以外では決して部屋から出ないような、そんなただのどこにでもいる人。

 しかしある時気まぐれに外を散歩していたら、雲ひとつ無かった快晴であったにもかかわらず、頭上から特大の雷が落ちた。

 その者は即死し、蘇ることなど当然無かった。

 

 だが次の瞬間、自我のようなものが残っていることに気付き、目があるわけでもないのに周りを見渡す。

 すると目の前には、途轍もなく胡散臭そうな髪の長い男が立っていた。

 その体にはボロボロのマントのようなものを着ており、背にはカドゥケウスを思わせる双頭の蛇が巨大な首をもたげていた。

 そいつはその者のことをジーッと見てから、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。

 まるで新しいオモチャを見つけたとでもいうように。

 そこからそいつの行動は早かった。

 どこからか『黄金の鍵』のようなものを取り出すと、その者の魂にねじ込んだのだ。

 『暇潰しにはちょうど良い』と言いながら、その魂を適当な世界へ送り込んだ。

 始終ニヤニヤと笑いながら。

 

 送られた先で、その者は一人の男の子として産まれた。

俗に言う『転生』というものであろう。

 名付けられた名前は『空』。

 空とは仏教で言うところの『縁起を成立せしめるための基礎状態』である。

 自分の両親が何を思ってこの名を付けたのかは判らない。

 だが、その者にはそれ以上に重大なことがあった。

 それは、あの胡散臭いボロマントにねじ込まれた『黄金の鍵』である。

 

 生前……否、転生前とでも言うべきか。

 その時ハマったゲームがアニメ化し、当然貪るように最後まで見た。

 そしてその中で登場するやたらとギンギラギンに輝く黄金の王。

 そいつが持っていた宝物庫の鍵がまさしくあの時ねじ込まれた鍵そっくりなのだ。

 

 最初のうちは『そんなことあるわけ無い』と思っていたのだが、赤子であるが為睡眠時間はたっぷりある。

 その時夢に見る光景はいずれもあの傲岸不遜な王の姿。  そして夢の世界を覆い尽くさんばかりの財宝の数々。

 

 一度両親がいない時に、あの宝物庫が開けるかどうか試したことがある。

 するとどうだろう。

 金色の波紋が小さな手の上に浮かぶではないか。

 その者は歓喜した。

 憧れていた二次元のチカラを使うことが出来る、と。

 だが鍵を宿した弊害からか、意思とは別に思考がそれはダメだと昂った心を無理矢理冷静にする。  何故ならそんなことをすれば、即拉致監禁され様々な非人道的な実験や、下手をすれば洗脳されてから兵器として扱われる可能性もある。

 

 ならばどうすればいい。

 隠し通すしか無い。

 極力チカラを使わず、死ぬまで隠し通すこと。

 それが一番安全な策だと思考回路が告げる。

 チカラを使えないのは惜しいが、厄介ごとに巻き込まれるよりはマシだ。

 そう思い直し、鍵の存在は心の奥にそっとしまった。

 

 

 それから何年か経ち、両親が離婚。

 そして今、空は父親の再婚相手と向き合っていた。

 最初は何の興味も抱くことはなく、ただ周りの会話に適当に相槌を打ち、表面だけの薄っぺらい笑顔を浮かべていた。

 その時、再婚相手の横に座っていた真っ白な少女がこちらを見て、こう言った。

 

 

 

 『ほんと…空っぽ』

 

 

 

 この言葉に空は思わず感動した。

 自分の名前と薄っぺらい笑みを浮かべるような心をダブルミーニングで罵ったのだ。

 

 空という『存在そのものが非現実的』な者が初めて他人というものに興味を持った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「…にぃ…手、止まってる…よ?」

 

 

 「ん?……あぁ悪ぃ悪ぃ。 ちょっと昔のこと思い出してた」

 

 

 「……?」

 

 

 「白と初めて会った時のことだよ」

 

 

 「むぅ…にぃ、変態」

 

 

 「さっきの会話から何でそんな答えが出てくるのか兄ちゃんはさっぱりわかりません」

 

 

 「小さい…白…思い、出して……コーフン…してた」

 

 

 「いやいや、確かに白は完全無欠な美人さんだが、さすがの兄ちゃんも年齢一桁に興奮はしねーよ」

 

 

 「じゃあ…二桁なら……するの…?」

 

 

 「そりゃもちろん……と言いたいが、せめて十八歳にはならないとな。 十八禁の世界にゃ白はまだ早い」

 

 

 

 義理とはいえ兄妹の会話としてはどうかと思うようなやり取りをしながら、二人はネットゲームに興じていた。

 部屋は十六畳ほどの広さだろうか。 中々に広い。

 だが無数のゲーム機と、一人四台……計八台のパソコンが接続された配線は、近代技術を思わせる複雑さで床を這い、開封されたゲームパッケージが錯乱したそこに、本来の広さを感じさせる余地は見受けられない。

 ゲーマーらしく反応速度を重視させたLEDディスクプレイが放つ淡い光と、とっくに昇った太陽が遮光カーテンから落とす光だけがぼんやり照らす部屋で、二人は言う。

 

 

 

 「……にぃ、就職……しないの?」

 

 

 「金目のモンなんぞ腐るほどあるからなぁ。 その辺の国より金持ってるぞ、兄ちゃん」

 

 

 「…やっぱり、にぃ……チート」

 

 

 「しゃーねぇだろ。 兄ちゃんが望んで手に入れたチカラじゃねーんだから。 それに、なんだかんだで白もコレ利用してるだろ」

 

 

 

 空が白の横に金色の波紋を出しながら言う。

 白もそこから半分ほど飛び出ているカロリーメイトを取り出しながら、もそもそと食べる。

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 

 兄……空。

 十八歳・無職・童貞・シスコン・ゲーム廃人。

 典型的な引きこもりを思わせるジーパンTシャツ、そしてボサボサの黒髪の青年。

 そして黄金の鍵を持つ者。

 

 妹……白。

 十一歳・不登校・友達無し・いじめられっ子・対人恐怖症・ブラコン・ゲーム廃人。

 空とは対照的な真っ白な髪。

 踵まで届きそうな長い髪、だが丁寧に手入れされたように枝毛などは一切ない。

 転校したその日以来、家の外で着たことはない小学校のセーラー服の少女。

 

 

 それが『 』(くうはく)……即ち、『空と白』というゲーマーの正体である。

 

 

 

 ————と。

 かくこのように、知らないままにしておくのも。

 夢があっていい都市伝説(・・・・)もまた、存在するのである。




どうでした?

作者はfate大好き厨二病患者なので、こんな話は結構妄想内で繰り広げてたりします。

エミヤの方はもう少しお待ちください。

感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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神の誘いへ挑む

もう言い訳もなにもない。

一度こういうの考え始めたら止まらないんです。
エミヤの方は明日あたり投稿できると思いますので、それまでお待ちくださいm(_ _)m

今の所あまり原作と変わりないですが、ディスボード入ったらそれなりに変化しますので、そちらもその場面に到達するまでお待ちください。


ではどうぞ⇩


 

 

 

 「どうだ(しろ)、気持ち良いか?」

 

 

 「んふぅ……にぃ、ちょっと…強い」

 

 

 「ん、ならもう少し優しく……こんなもんか?」

 

 

 「ん…っ、ふぅ……さいこー」

 

 

 

 今この二人がナニをしているかというと、単なるマッサージである。 (しろ)は食事をしながらゲームをすることがあり、その際に足でマウスを扱うのだ。 そんなことをすれば、当然足にも足の指にも負担がかかる。

 だから空は定期的に(しろ)の足をマッサージしているのだ。

 …まぁ、絵面だけ見れば少し問題のありそうな光景だが。

 

 (しろ)はこのマッサージがお気に入りなのだ。 一度足マウスを酷使し過ぎたせいか、足を少し痛めてしまったことがある。 その時に無駄にハイスペックな兄がマッサージをしてくれたのだ。

 それ以来足マウスのあとは、ずっとこのマッサージを兄に頼んでいる。

 

 

 

 「そういや(しろ)、今何時かわかるか?」

 

 

 「ふにゅぅぅ…………ん、えと…まだ、夜中の八時(・・・・・)……」

 

 

 「朝八時を夜中とは、斬新な表現だな妹よ。 …お、この辺ちょっと凝ってるな」

 

 

 「んっ……にぃ、激しい…」

 

 

 「何だ、ここが良いのか。 なら重点的に揉んでやろう」

 

 

 

 ニーソを脱がせ、セーラー服から覗く生脚に特に何か思うことも無く。 空は白の足のコリを優しく揉みほぐすのだった。

 

 

 空は白のことを何より大切に想っている。 それが家族愛なのか、それとも別のナニカなのかは判らない。 だが、白のことが大切であり、そばに居るのが当然の存在であり、失いたくない大事な女の子。 それが自分にとっての当たり前。

 つまるところ、空は行き過ぎたシスコンなのだ。

 愛しい白のためなら、白の敵となり得る対象全てを消し潰すことも出来る。

 だが、しようとは思わない。 面倒くさいし、労力の無駄だし、何より白がそんなことを望まないから。

 

 白も自分の兄である空が大好きだ。

 初めて出逢い、一緒にチェスで遊んだあの時から。 学校でいじめられ、親と別居状態になり、頼れる存在が兄だけになってしまった今も。

 自分と七歳離れたこの兄に人智を越えた能力があることには驚いたが、自分自身も他とはかけ離れた頭脳を持っているので、似た者同士だとも思った。

 二人で『 』(くうはく)という名のアカウントを作り、オンラインゲームで頂点を取り続け、一時の悦を楽しんでいる自分たちの日常が大好きなのだ。 もちろん空も。

 

 

 

 「それにしても、さっきの千二百人を四人で相手するのはさすがに疲れたな。 …他にマッサージして欲しい所はあるか? 白」

 

 

 「……ふともも…?」

 

 

 「…何で疑問系なんですかね。 それに兄ちゃん一応男なんですが」

 

 

 「にぃ……いや…?」

 

 

 「嫌とか嫌じゃないとか、そういうことではないと兄ちゃんは思うんですよ。 もっとこう、倫理的な問題を気にして欲しいと言いますか…」

 

 

 「…にぃ…もしかして………ホモ?

 

 

 「オイ、妹のふとももマッサージしないだけで何でそういう結論になんの? 兄ちゃん普通に女性が好きだからね。 ………あぁはいはい、やりゃあ良いんでしょ」

 

 

 「…うむ……よきに、はからえ〜…」

 

 

 「…はぁ、俺尻に敷かれるタイプなのか?」

 

 

 

 妹とはいえ女性のふとももを男が揉むのはさすがの空も気が引ける。 だが、このワガママなお姫様はそんなの関係ねぇーとばかりにマッサージの快楽に浸る。

 ちなみにマッサージを受けている態勢は、超便利な『王の財宝(むげんそうこ)』から取り出したフッカフカの敷布団に寝転び、空が白の足をマッサージしている。 という感じだ。

 今はふとももをマッサージしているので、スカートの中の縞々パンティが空に丸見えの状態なのだが気にしない。

 むしろ自分に欲情してくれと言わんばかりに見せつけているような気もする。

 

 

 

 「なぁ妹よ。 やっぱりコレまずいんじゃねーの? 特に目の前に広がる理想郷(ユートピア)が兄ちゃんにモロ見えなことが」

 

 

 「やぁ……にぃの、エッチ…♪」

 

 

「含み笑いで言われても全然説得力ねぇよ。 こちとら性欲持て余してる花の十八歳だってのに。 ワザとか? ワザと見せてんのか?」

 

 

 

 などと、相も変わらず日常会話の斜め上なやり取りをしながら一日を過ごす。

 

—————それがいつ終わるとも知らないまま。

 

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 

————テロンッ

 

 

 

 「……にぃ、メール」

 

 

「妹のふともも揉まされてるご褒美という名の苦行を強いられてる兄ちゃんに何を要求してるか知らんが、そんな余裕はねぇっ」

 

 

 

 白のシミひとつ無い綺麗でスベスベの、そして確かな柔らかさを持つふとももを優しく揉み解し。

 目の前に広がる理想郷(ユートピア)に対して必死に、ナニとは言わんが耐える兄は余裕なさげにそう答える。

 

 

 

 「つかどうせ広告メールだろ。 ほっとけ」

 

 

 「……友達……から、かも?」

 

 

 「———誰の?」

 

 

 「……にぃ、の」

 

 

 「はは、おかしいな、愛しい妹に胸を抉られる皮肉を放たれた気がする」

 

 

 

 兄……空。

 繰り返すが–——十八歳・無職・童貞・シスコン・ゲーム廃人。

 自慢ではないが、彼女はおろか、友達すらいない己に届くメール候補に『友人』などというカテゴリーがあろうはずもなく、その説は却下される。

 尤も、それは妹———白も同じらしかったが。

 

 

 

 「……うぅ……めんど、くさい」

 

 

 

 だが白は、マッサージによる眠気に手放しそうになる意識を振り絞って、手を伸ばしてタブPCを探る。

 ただの広告メールなら問題ない。

 だが『新しいゲームの広告メール』なら、無視する訳にはいかないからだ。

 引きこもりとニートが、タブレットPCを何に使うのか、疑問に思われるだろうか?

 しかしそれは愚問と言わざるを得ない。

 

 もちろん———ゲーム用だ。

 だが、この兄妹に限って言えば別の使い方もしている。

 無数のゲームのため、無数のアカウント、メールアドレスを持っている二人だが、基本的にゲーム専用機となっているパソコンにかわってこの端末で、三十以上あるメールアカウントを同期し、メールを閲覧している。

 効率主義と呼ぼうか。

 はたまたアホと呼ぶべきか。

 

 

 

 「……音はテロン……三番メインアドレスの着信音……これ、かな?」

 

 

 

 異様な記憶力を発揮してあっさり発掘する白。

 

———【新着1件———件名 : 『 』達へ】

 

 

 

 「…………?」

 

 

 

 こく、と小首を(かし)げる妹。

 『 』(くうはく)———即ち「空と白(ふたり)」に届くメールはさして珍しくはない。

 対戦依頼、取材依頼、挑発的な挑戦状———いくらでもあるのだが、これは。

 

 

 

 「……にぃ」

 

 

 「なにかな? 断ったらホモのレッテル貼られそうなので一生懸命ふとももマッサージさせていただくという、ある種ご褒美(よだれもの)な苦行を兄ちゃんにさせた、愛しい鬼畜妹よ」

 

 

 「……これ……」

 

 

 

 兄の変態皮肉発言など聞こえていないかのように、画面に映るメールを兄に見せる。

 

 

 

 「うん? ———なんだこれ」

 

 

 

 兄もそのメールの特殊性に気づいたのか。

 

 

 

 「セーブもドロップ確認もきちんとしたし、白の足も凝りは取れた、と。 よし、全部オールオッケー」

 

 

 

 間違いなく全て終了したことを確認して、パソコンからメーラーにアクセスする。 そして(いぶか)しげに。

 

 

 

 「……何で『 』(くうはく)兄妹(・・)だって知ってんだ」

 

 

 

———確かに、ネット上で空白複数人説があるのは兄も知るところだった。

 だが、問題は件名ではなく、本文にあった。

 本文には、一言だけ、こう書かれ、URLが貼られていた。

 

 

 

 【君ら兄妹は、生まれる世界を間違えたと感じたことはないかい?】

 

 

 「……なんだこれ」

 

 

 「…………」

 

 

 

 少し、いや、かなり不気味な文面。

 そして見たことのないURL。

 URLの末尾に、「. JP」などの国を表す文字列はない。

 特定のページスクリプトへの———つまりゲームへの直通アドレスで見かけるURL。

 

 

 

 「……どう、する?」

 

 

 

 あまり興味はなさそうに、妹が問う。

 だが、二人の正体を知っているそぶりの文面には、妹も思うところがあるようで。

 そうでなければ、無言で敷布団へ寝に戻っただろう。

 兄に判断を委ねる———それは、兄の領分(・・・・)だと判断したため、即ち————

 

 

 

 「駆け引きのつもりか? まあ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か」

 

 

 

 そう判断し、URLをクリックする。

 ウィルスの類なども警戒し、セキュリティソフトを走らせながらURLを踏んでみた。

 が………現れたのは、なんとも簡素な。

 至ってシンプルな、オンラインチェスの盤面だった。

 

 

 

 「……ふぁふ……おや、すみ……」

 

 

 「ちょちょ、待てって。 『 』(くうはく)宛の挑戦状だぞ。 相手が高度なチェスプログラムとかだったら兄ちゃん一人じゃ手に負えないって」

 

 

 

 一気に興味が失せたらしく、眠ろうとする妹を引き止める兄。

 

 

 

 「……いまさら……チェスとか……」

 

 

 「うん……いや、気持ちはわかるけどさ」

 

 

 

 世界最高のチェス打ち———グランドマスターを完封したプログラム。

 そのプログラムに妹は、先手後手入れ替えで()()()()()()興味が失せて久しい。

 ヤル気がわかないのもわかる……が。

 

 

 「『 』(くうはく)に負けは認められない。 せめて相手の実力がわかるまで、起きててくれ」

 

 

 「……ぅうぅぅ……わかっ、た」

 

 

 

 そうして、チェスを打ち始める空。

 一手、二手と積み重ねて行く兄の対戦を、興味なさそうに。

 いや、眠そうに。 船を漕ぐように、かくん、かくんと眺めている白。

 が———五手、十手と重ねたところで。

 五分の四閉じられていた白の目は開かれ、画面を凝視していた。

 

 

 

 「……え? あれ、こいつ」

 

 

 「……にぃ、交代……」

 

 

 

 一切の反論なく、素直に椅子を明け渡す兄。

 それは、妹が兄の手に負えないと判断したということ。

 つまり、世界最高のチェスプレイヤーが相手をするに足りると判断したということ。

 入れ替わった妹が、手番を重ねていく。

 

 

————チェスは、『二人零和有限確定完全情報ゲーム』である。

 『運』という、偶然が差し込む余地のないこのゲームにおいて。

 理論上、必勝法は明確に存在する(・・・・・・・・・・・)が、それはあくまで理論の話。

 十の百二十乗という膨大な局面を把握できた場合の話である。

 つまりは、事実上ないに等しい。

 だが白は、これを把握しきる。 それができる頭脳を持っている。

 グランドマスターをも完封したプログラム相手に二十連勝した白は、プログラムの不完全性を証明した。

 

 しかし、その妹が————

 

 

 

 「……うそ……味方の、退路を…絶った……?」

 

 

 

 と驚愕に目を見開く。

———だが、一方で兄はその打ち方に違和感を覚えていた。

 

 

 

 「落ち着け。 このチェス、相手は人間だ」

 

 

 「———え?」

 

 

 「プログラムは、常に最善の手を打つ。 集中力も切らさないが、既存の戦術通りの動きしかしない。 だからこそお前は勝てる。 でも———こいつは」

 

 

 

 画面を指差して兄。

 

 

 

 「あえて悪手をとって誘ってる。 それを相手のプログラム(・・・・・・・・)のミスと判断したお前のミス(・・・・・)だ」

 

 

 「………うぅ」

 

 

 

 兄の言葉に、しかし妹は反論しない。

———確かにチェスの技量において、いや、殆どのゲームにおいて。

 (しろ)(そら)を圧倒的に上回る。 まさしく———天才ゲーマー。

 だがこと駆け引き、読み合い、揺さぶりあいなど『相手の感情』という不確定要素を見抜く———つまりギャンブルや戦争ゲームでの司令塔役などにかけては兄は常人離れして上手かった。

 故にこそ、『空白』———二人だからこその———無敗。

 全ジャンルのゲームにおいて死角などない。

 

 

「落ち着け。 相手が人間なら、なおのことお前が負ける要素はない。 相手の挑発には乗るな。 読み合い揺さぶりは兄ちゃんがやる。 お前は冷静に考えて、次の手を打てばいい」

 

 

 「……りょーかい……がんば、る」

 

 

 

 

 

 コレが……数多のゲームで世界ランキングのトップを独走するゲーマーのからくりだった。




真面目に指攣った( ̄∀ ̄;)

iphonで四千文字超えるのはなかなかキツイ。
何度も繰り返しますが、エミヤは明日あたりに投稿すると思います。


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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いざ異世界へ


はい、描けました。

今回はやっと二人がディスボードに入ります。

さあて、どんな無双ゲーにしてやろうか(ゲス顔)


ではどうぞ⇩


 

 

 

 

 

 

 『Checkmate! You are winner!』

 

 

 「…………………………」

 

 

 「…………………………」

 

 

 

 長い沈黙が続く。

 結果は———兄妹の勝ちだった。

 今回行ったチェスは、持ち時間制ではない。

 ゆえに勝敗が決するまでに掛かった時間は、約六時間以上に及んだ。

 

 

 

 「「———————」」

 

 

 

 さらに続く沈黙の後。

 

 

 

 「「はああぁああぁあぁぁああ〜〜〜〜…………」」

 

 

 

 大きく息を吐く二人。

 それは呼吸さえ忘れるほどの勝負だったことを物語る。

 長い長い息を吐いたあと、二人は力なく笑い出す。

 

 

 

 「……すごい……こんな苦戦……ひさし、ぶり」

 

 

 「ははっ、兄ちゃんはおまえが苦戦するとこを見るのすら、初めてだぞ」

 

 

 「……すごい……にぃ、相手……ほんとに、人間…?」

 

 

 「ああ、間違いない。 こっちの誘いにノらなかった時の長考、仕掛けた罠の不発の時にも僅かに動揺が見えた。 間違いなく人間————そうじゃなきゃおまえ以上の天才(バケモン)か、暇を持て余した神様ってところじゃねぇの」

 

 

 「……にぃ…ちゅうに、くさい」

 

 

 「ちょっとぐらい巫山戯させてくんない? そうじゃねぇと兄ちゃん疲労でぶっ倒れそうなのよ」

 

 

 「……それに、しても……どんな、人だろ」

 

 

 「無視っすか。 ……だんだんと俺の扱い酷くなってきてねぇか?」

 

 

 

 グランドマスターを完封したプログラムを、完封した妹が、対戦相手に興味を抱く。

 

 

 

 「いや、案外グランドマスターかもよ? プログラムは正確で規則通りだが、人間は複雑だ」

 

 

 「……そ、か……じゃあ……今度、将棋でも……竜王と、対戦、したい……」

 

 

 「果たして竜王がネット将棋にノってくんのかねぇ……。 まぁ、考えてみようか♪」

 

 

 

 と、勝負後のエンドルフィンがもたらす幸福感に、ニヤけた顔で語る二人に、再び。

 

 ———テロンッ

 

 というメールの着信音が響く。

 

 

 

 「今の対戦相手じゃねぇの? ほら、開けてみろよ」

 

 

 「……うん、うん」

 

 

 

 と—————しかし、届いたメールには。

 ただ一言、こう書いてあった。

 

 

 【お見事。 それほどまでの腕前、さぞや世界が生き難くないかい?】

 

 

 そのたった一文で、二人の心境は————氷点下まで下がった。

 LEDディスプレイに向き合い、激闘を繰り広げた二人の、その背後。

 無機質な光。

 パソコン、ゲーム機器の数々が奏でるファンの音。

 無数の配線が床をのたうち、散らばったゴミと、脱ぎ散らかされた服。

 陽を遮断するカーテンが、時が止まったように、時間感覚を奪う空間。

 世界から隔離された————十六畳の、狭い部屋。

 そこが兄妹(ふたり)の世界———その、全て。

 

 ————苦々しい記憶が二人の脳裏を(はし)る。

 

 

 生まれつき出来が悪く、その為、人の言葉、真意を読むことに長けすぎた兄。

 例え人智を超えた能力を持っていたとしても、本人の能力はある程度生まれついた才能が影響する。

 

 生まれつき高すぎる知能と、真っ白な髪と赤い瞳(アルビノ)故に理解者のいなかった妹。

 兄と同じく他とは何かが隔絶している。

 そして、長い間テストと称した実験を毎日毎日行なわされていた。

 

 

 お世辞にも楽しい記憶とは呼べない過去———いや、現在に。

 黙って俯く妹。

 その最愛の妹を俯かせた相手に怒りを叩きつけるようにキーボードを打つ兄。

 

 

 『超絶大きなお世話様どうも。 なにもんだ、テメェ』

 

 

 ほぼ即座に返信が送られてくる。

 ————いや、果たしてそれは返信だったのだろうか。

 どう見ても先ほどの答えになっていない文面が届いた。

 

 

 【君たちは、その世界をどう思う? 楽しいかい? 生きやすいかい?】

 

 

 その文面に、怒りを忘れて妹と顔を見合わせる。

 そんなもの、改めて確認するまでもない。

 答えなど、とうの昔に決まっていた。

 

 ————「クソゲー」だと。

 

 

 

 

 ……ルールも目的も不明瞭な、くっだらないゲーム。

 七十億以上ものプレイヤーが、好き勝手に手番を動かし。

 勝ちすぎても、負けすぎてもペナルティ。

 パスする権利も無く。

 喋りすぎたら、踏み込み過ぎと疎まれる。

 パラメーターも無く、ジャンルすら不明。

 決められたルールに従っても罰せられ。

 ————何より

 

 ルールを無視した奴が(・・・・・・・・・・)我が物顔で上に立つ(・・・・・・・・・)

 

 こんな訳のわからない人生(クソゲー)に比べたら、どんなゲームも————簡単すぎる。

 

 

 

 「…チッ————胸糞悪ぃ」

 

 

 

 舌を打ち、なおも俯いたままの、愛しき幼い妹の頭を撫でる(あに)

 ————そこには、先ほどまで神の如き勝負を演じてみせた二人はいない。

 落ち込んだ——落ちぶれた——社会的に見ればあまりにも弱々しい。

 寄る辺の無い、世界から爪弾きにされた兄妹がいるだけだった。

 イラついたことで、一気に襲ってきた疲労。

 久しぶりにパソコンの電源を切ってやろうかとスタート画面にカーソルを向けた兄の耳に。

 

 ———テロンッ———

 

 と、再度メールが届く。

 それに構わずシャットダウンしようとした兄の手を————白が止めた。

 今さっきまで俯いていた妹が自分の手を止めたことに、空は何事かと画面を見直す。

 

 すると、そこにはこう書いてあった。

 

 

 

 【もし、 " 単純なゲームで総てが決まる世界 " があったら————】

 

 

 その文面に、訝しげに、しかし確かな憧れを感じるその世界を想像して、淡い望みを隠すことのできない二人。

 

 

 【目的も、ルールも明確な盤上の世界(・・・・・)があったら、どう思うかな?】

 

 

 

 再び二人は顔を見合わせて、自嘲気味に笑い、(うなず)いた。

 空はキーボードに手を置き。

 ……そういうことか、と。

 

 

 

 『ああ、そんな世界があるなら……成る程、確かに俺たち二人は生まれる世界を間違えたわけだ』

 

 

 

 ————と、最初に届いたメールの文面になぞらえて返信する。

 

 

 

 

 —————刹那。

 

 

 

 

 パソコンの画面に微かなノイズが走り。

 それと同時に、ブレーカーが落ちたような、バツンッと音を立てて部屋の全てが止まる。

 唯一……メールが表示されていた、その画面を除いて。

 

 そして————

 

 

 

 「ったく、今度は何だ? 鬼か蛇でも出てくんのか?」

 

 

 「…にぃ、意外と……余裕……?」

 

 

 「そりゃあね。 世界最古の英雄であり王である者のチカラが宿ってんだ。 多少のことじゃ狼狽えたりしねぇよ」

 

 何が起こっても白だけは絶対に(まも)る。

 

 

 

 部屋全体にノイズが広がり、走り始める。

 家そのものが軋んでいるのではないかと思えるほどの音、さらに放電しているようなバチバチと弾ける音。

 白を抱き寄せ、周囲に気を配る空。

 何が起こっているのかは分からないが、兄がいるから絶対大丈夫とおとなしくじっとしている白。

 そんな二人を他所に、ノイズはなおも激しくなり————

 

 ついにはテレビの砂嵐のように……否。

 間違いなく画面から。

 今度は文章ではない———『音声』が返ってきた。

 

 

 

 

 『僕もそう思う。 君達はまさしく、生まれる世界を間違えた!』

 

 

 

 最早画面以外の、部屋の全てが砂嵐に呑まれる中。

 唐突に画面から白く細い腕が生える。

 

 

 

 「あ?」

 

 

 「……貞子?」

 

 

 

 画面から伸びた腕には、キラキラと輝く星のような物が存在し、それがさらに強く輝くと————

 

 

 

 『ならば僕が生まれ直させてあげよう———君達が、生まれるべきだった世界にっ!』

 

 

 

 ———部屋の枠が弾けた。

 

 

 

 

 

 「えぇー……」

 

 

 「…にぃ、へるぷみー……」

 

 

 「了解しました。 お姫様」

 

 

 

 

 何が起こるのか警戒していたら、成層圏辺りに放り出されたでござる。

 

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から【天翔ける王の御座(ヴィマーナ)】を取り出し、乗り込む二人。

 同じく空を舞っていたパソコンなども、全て『王の財宝(むげんそうこ)』に回収する。

 さて、こんなタチの悪いスタートを強いたバカはどこだと周りを見渡すと、すぐ隣から高らかに叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 

 

 「ようこそ、僕の世界へッ!!」

 

 

 

 壮大で、とても綺麗で異常な景色を背後に、浮遊しながら『少年』は腕を開いて笑う。

 

 

 

 「なあ、お前誰?」

 

 

 「ここは君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ! この世総てが単純なゲームで決まる世界ッ! そう————人の命も、国境線さえもッ!!」

 

 

 「おーい、もしもーし」

 

 

 「この世界は、『十の盟約』によって成り立っているッ!」

 

 

 「聞けよ」

 

 

 【一つ】この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる。

 【二つ】争いは全てゲームによる勝敗で解決するものとする。

 【三つ】ゲームには、相互が対等と判断したものを賭けて行われる。

 【四つ】 " 三 " に反しない限り、ゲーム内容、賭けるものは一切を問わない。

 【五つ】ゲーム内容は、挑まれた方が決定権を有する。

 【六つ】 " 盟約に誓って " 行われた賭けは、絶対遵守される。

 【七つ】集団における争いは、全権代理者をたてるものとする。

 【八つ】ゲーム中の不正発覚は敗北とみなす。

 【九つ】以上をもって神の名のもと絶対不変のルールとする。

 

 

 「そして【十】———『みんな仲良くプレイしましょう』」

 

 

 「うん、面白いルールだね。 ところでお前誰?」

 

 

 「僕? 僕はテト。 あそこに住んでる…神様?」

 

 

 

 言って、遠く———空も見た、地平線の彼方に巨大なチェスの駒を指差す少年。

 自分の存在が疑問系なのは如何なものかと思うが、今はいい。

 

 

 

 「そうか。 じゃあテト、取り敢えず下に降りていいか?」

 

 

 「…うん……そろそろ、寒い」

 

 

 「そうだね。 じゃあ、僕はここまでだけど、君達が楽しんでくれることを期待しているよ」

 

 

 「俺らが楽しむことを期待すんのかよ。 変わってんのな、アンタ」

 

 

 「ふふっ、君も大概だと思うけどね。 それじゃ、そう遠くないうちにまた会おう」

 

 

 

 

 そう言い残して、傍迷惑な神様は帰って行った。

 そして空と白も、いい加減超高度空域に漂ってるのも飽きたので、光学迷彩を発動させて地面へと降りて行った。

 ひとまず着陸したのは、少し広めの崖のような場所。

 土の感触、草の香り————どう考えても外の世界だ。

 

 すると、突然目の前から巨大なドラゴンが空へと飛んで行った。

 衝撃波に近い空気の波をその身に受けながら、空は妹にこう言った。

 

 

 

 「なあ、妹よ」

 

 

 「……ん」

 

 

 「人生なんて無理ゲーだ、マゾゲーだと、何度となく思ったが」

 

 

 「……うん……」

 

 

 

 二人、声をハモらせて言う。

 

 

 

 

 

 「「ついに " バグった " ……もう、何これ、超クソゲェ……」」

 

 

 

 





最近テスト勉強に追い回される毎日ですよ、ええ。

期末テストがね、十二月の初っ端にあって、その二日後くらいに修学旅行て……ウチの高校、どんだけハードスケジュールなの?

てなわけで、ノゲノラは今話。 
エミヤはあと一話更新したら、暫く止まります。

感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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家族以上夫婦未満

やっとこさシンガポールから帰ってこれました。

というわけで、気まぐれにこちらを更新。
修学旅行前に一話投稿しようと思っていたのですが、朝が早過ぎて無理でした(=ω=;)


今回はキリのいいところが無かったので、変な区切り方してます。


ではどうぞ⇩


 

 

 

 

 ——昔々の、更に大昔。

 神霊種(オールドデウス)は、唯一神の覇権をかけ、その眷属・被造物達と共に争った。

 その争いは、それはそれは気の遠くなるほどの永きにわたって続けられた。

 流れ出た血が染みていない大地は無く、絶え間ない悲鳴が響く空。

 知性あるもの達は憎み合い、互いを滅ぼさんと凄惨な殺し合いを繰り返した。

 

 森精種(エルフ)達は小さな集落を拠点とし、魔法を駆使して敵を狩っていった。

 龍精種(ドラゴニア)は本能のままに殺戮に身を委ね、獣人種(ワービースト)達は獣同然に獲物を喰らった。

 荒野と化し黄昏に呑まれた大地は、さらに神々の戦乱によって尚深い闇に呑まれ、幻想種(ファンタズマ)の突然変異である『魔王』、そしてその同胞たる怪物どもは世界に跋扈(ばっこ)した。

 

 そんな地獄のような世に、幾多の王家も、数多の美姫も、まして勇者など、いるはずもなかった。

 人類種(イマニティ)はただの儚き存在でしかなく、国を作り徒党を組み、ただ生き残ること(・・・・・・・・)にその全てを賭した。

 吟遊詩人達が謡うべき英雄譚も未だ無い—————そんな、血で塗りたくられた時代。

 

 

 しかし、そんな永久とも思われた戦乱は、唐突にその幕を閉じる。

 空が、海が、大地が—————星そのものが。

 憔悴し疲弊しきり、共倒れ同然に争いの継続を断念させられた。

 かくして————その時点で、最も力を残していた一柱の神が、唯一神の座についた。

 それは、最後まで戦乱に関与せず(・・・・・・・・・・・)

 傍観を貫いた神だった。

 

 唯一神の座についた神は、地上の有り様を見回し。

 地上にうろつき回る総てのものたちに語りかけた。

 

 

 

 ————腕力と暴力と武力と死力の限りを尽くし、屍の塔を築く、知性ありしモノと自称する(・・・・・・・・・・・・・)汝ら証明せよ。

 汝らと『知性無き獣の群れ』の差異や、如何(いか)に?————

 

 

 

 全ての種族が、口々に己の知性を証明せんとした。

 だが、荒れ果てた世界を前にその言葉はあまりに虚しく響き。

 (つい)ぞ、神が納得のいく解を示せたものはいなかった。

 

 すると、神はこう言った。

 

 

 

 ————この天地における一切の殺傷・略奪を禁ずる————

 

 

 

 神の言葉は『盟約』となり、絶対不変の世界のルールとなった。

 かくしてその日、世界から『戦い』は無くなった。

 しかし知性ありしモノ達は、口々に神に訴えた。

 

 『戦い』は無くなっても、『争い』は無くなりませぬ———と。

 

 ならばと、神はさらに言った。

 

 

 

 ————知性ありしモノと主張する『十六種族(イクシード)』達よ。

 理力と知力と才力と資力の限りを尽くし、知恵の塔を築き上げ、汝ら自らの知性を証明せよ————

 

 

 

 神は十六個のコマを取り出し、悪戯気に笑った。

 かくして『十の盟約』が生まれ、世界から『戦争』は無くなり、あらゆる諍いは『ゲーム』によって解決するものとなった。

 

 唯一神となった神の名は———テト。

 嘗ては『遊戯の神』と呼ばれたものだった……。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「いや〜……しっかし、セグウェイ入れてて正解だったなぁ……。 そうは思わんか、妹よ」

 

 

 「ん、同意。 ……移動、チョーらくちん…♪」

 

 

 

 着陸時に見えた街を目指し、兄妹二人は王の財宝(むげんそうこ)から取り出したセグウェイに乗って、道を下っていた。

 ……というかこの兄妹、金にものをいわせて、ネットで色々な物を買っている。

 ゆえにどのような環境下に放り出されようが、この二人は大抵生きていけるのだ。

 例えそれが、異世界であろうとも。

 

 

 

 「にぃ……街に、着いた、ら………『むげんそうこ』…どう、するの?」

 

 

 「ん〜、暫くは封印だな。 いくら異世界つっても、こんな能力をヒトが持ってたらおかしいだろうからな。 だから妹よ、街の五百メートル前に着いたら歩くぞ」

 

 

 「…むぅ、仕方なし」

 

 

 「何処ぞの武士の真似か? 白は武士より無垢なお姫様って感じだと兄ちゃんは思うぞ」

 

 

 「…………」

 

 

 「あっれー? もしかしなくても照れていらっしゃいますか? ……………いや、ゴメン、頼むから前見て運転してくれ。 事故っても替えが無いからなコレ」

 

 

 「にぃ、の……せっそーなし」

 

 

 「安心しろ。 確かに兄ちゃんは女の子大好きだが、どんなことになろうと、兄ちゃんの一番は白だ」

 

 

 「…白も、一番は…にぃ、だから」

 

 

 「嬉しいねぇ。 なら、いっそのこと結婚するか? もちろん規定年齢に達してからだが」

 

 

 「……どうせ、にぃ………ハーレム、作る」

 

 

 「おう、そりゃ男の夢だからな。 でも、正妻は白がいい。 つーか、白をその辺の馬の骨とも知れん奴の嫁に出すなんて絶対させんからな。 他人にやるくらいなら兄ちゃんがもらう」

 

 

 「〜〜〜〜〜……に、にぃ…五百メートル、前」

 

 

 「ん、もう着いたのか。 案外速かったな」

 

 

 

 顔を真っ赤っかにした白は、咄嗟に話を替えた。

 そうでもしなければ、自分は気絶していただろう。

 ———(そら)への愛しさで。

 

 

 

 「ふむ、少し遠いが厄介ごと招くよりはマシか……。 うっしゃ、白、行くぞー」

 

 

 「らじゃー…」

 

 

 

 金色の波紋の中からローブを取り出し、空と白は手を繋いで街へと向かうのであった。

 もちろん世間一般で言う『恋人繋ぎ』で。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 

 ルーシア大陸、エルキア王国———首都エルキア。

 赤道を南におき、北東へと広がる大陸、その最西端の小さな国のまた小さな都市。

 神話の時代においては、大陸の半分をもその領土とした国も、今や見る影もなく。

 現在、最後の都———その首都を残すのみとなっている小国であり、もっと正確に言えば。

 人類種(イマニティ)の最後の国でもある。

 

 そんな都市の、中央から少し外れた郊外。

 酒場を兼ねている宿屋という、如何にもRPGにありそうな建物の一階。

 多くの観衆に囲まれ、テーブルを挟みゲームをしている一組の少女達がいた。

 一人は十代中頃と思しき赤い髪の毛の、仕草や服装に上品さを感じさせる少女。

 そしてもう一人は———。

 赤毛の少女と同い年ほどだろうか、その雰囲気と服装から随分年上に感じられた。

 喪服のような黒いベールとケープに身を包んだ———黒髪の少女。

 行われているゲームは……ポーカーらしい。

 

 二人の表情は対照的で、赤毛の少女は焦りからか、真剣そのもの。

 一方、黒髪の少女は死人を思わせるほどの無表情の中にも、余裕が(うかが)えた。

 理由は明白———黒髪の少女の前には大量の、赤毛の少女の前には僅かな、金貨。

 つまり、赤毛の少女が完璧に負け込んでいるのだろう。

 

 

 

 「……ねぇ、早くしてくれない?」

 

 

 「や、やかましいですわね。 今考えてるんですのよっ」

 

 

 

 ————そこは酒場、昼間っから呑んだくれている観衆達が下品に(はや)し立てる。

 赤毛の少女の表情は更に苦悩の色に染まっていく。

 だが、何はともあれ———随分盛り上がっている様子だった。

 

 

 

 ………———。

 その勝負が行われている酒場の、外。

 テラス席のテーブルに座り、窓から覗き込むフード姿の幼い少女が言う。

 

 

 

 「……もり、あがってる………なに?」

 

 

 「あら、知らないの? あんたたち異国人———って、人間の異国なんてもうないわね」

 

 

 

 窓を覗き込む少女の隣の席には、同じくテーブルを挟んでゲームをしている一組がいた。

 幼い少女と同じフードを被った青年と、露出度の高い服を着たグラマラスな少し化粧の濃い女性。

 

 青年が答える。

 

 

 

 「あー。 ちと田舎から出て来たとこでな、都会の事情に詳しくないんだわ」

 

 

 

 奇しくもやっているゲームは、中と同じ………『ポーカー』。

 青年の言葉に、訝しげに女性が答える。

 

 

 

 「人類種(イマニティ)に残されている領土で田舎って……それってもう世捨人じゃないの」

 

 

 「はは、まぁ、そうだな。 で、こりゃ何の騒ぎ?」

 

 

 

 適当にはぐらかすように言う青年に、グラマラスな女性は言う。

 

 

 

 「今、このエルキアでは『次期国王選出』の大ギャンブル大会が行われてるのよ」

 

 

 

 酒場の中の様子を眺めながら、フードの少女が更に問う。

 

 

 

 「……次期国王…選出?」

 

 

 「ええそうよ。 前国王崩御の際の遺言でね」

 

 

 

 

 『次期国王は余の血縁からでなく " 人類最強のギャンブラー " に戴冠させよ』

 

 

 

 

 なおも女性、ビンのキャップを上乗せしながら言う。

 

 

 「国盗りギャンブルで人類種(イマニティ)は負けが込んで、今やこのエルキア、しかもその首都を残すだけだからね———なりふり構わなくもなるわよ」

 

 

 「ふーん、『国盗りギャンブル』ねぇ………面白そうなことやってんな、こっち。 ……んじゃ、あの()達も次期国王候補ってことか?」

 

 

 「んー? 『候補』とは少し違うかもね、参加資格は人類種(イマニティ)なら誰でもあるから」

 

 

 「…そっか。 さて、こっちもそろそろ決めようぜ」

 

 

 「あら、結構余裕ね」

 

 

 

 言って、さっと札をオープンする、女。

 その表情には勝ちを確信し、相手に憐れみを抱くような落ち着きが浮かび上がる。

 

 

 

 「悪いわね坊や、フルハウスよ」

 

 

 「ん? あー、そうだな、確かに悪い」

 

 

 

 だが、フードの青年は、本当に適当な動作で手に持っていた札を投げ出した。

 そうやって投げ出され開かれた札を見て、女は目を見開く。

 

 

 

 「ロ、ロイヤルゥゥゥウ、ストレェェトォォォォオ、フ、フ、フゥラッシュゥゥゥウ!!??」

 

 

 

 最強の手札を、おくびにも出すこともなく揃えた青年に、さっきまでの余裕は何処へやら。 女はテーブルに手をつき吠えた。

 

 

 

 「嘘! 嘘よ嘘よ嘘よ! 嘘でしょぉぉ!!」

 

 

 「よく見ろ、事実だ」

 

 

 「あり得ないわッ! 六十五万分の一の確率なのよ!?」

 

 

 「その六十五万分の一が今だったんだろ」

 

 

 「…でもッ!」

 

 

 「盟約その六『賭けは絶対遵守される』———だったな」

 

 

 

 そう、盟約による賭けは絶対。

 この世界では、【生命】という概念そのものに、【盟約】と言う名の強制力が働いている。

 

 

 

 「あ、あんた……一体、何者………?」

 

 

 「別に……ただの、田舎者(よそもの)だよ」

 

 

 

 そう言いながら、賭けられた財布を受け取って悠々と席を立つ青年と、その後を追う少女。

 敗者である女は、ただただそれを目で追うことしかできなかった。

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「…にぃ…ズルい」

 

 

 「ん? イカサマなら別にズルくないぞ」

 

 

 

 ———そう、ロイヤルストレートフラッシュなどという手札がそうそう出るわけがない。

 あんな手札を出すのは、イカサマを使ったと公言しているに等しい。

 だが———

 

 

 

 「『十の盟約』その八、ゲーム中の不正発覚は、敗北とみなす————ってことはつまり、バレなきゃいいってことだ。 このことを確認できたのはいいことだろ」

 

 

 「…にぃ…こっちのお金、わかる?」

 

 

 「さっぱりわからん。 でもまあ、任せとけ、こういうのは兄ちゃんの領分だ」

 

 

 

 なおも勝負に盛り上がる中央のテーブルを余所目に、カウンターへ向かう二人。

 カウンターに一枚硬貨を置いて、フードの青年がおもむろに問う。

 

 

 

 「なあ。 二人一部屋、ベッドは一つでいい。 これで何泊出来るよ?」

 

 

 

 マスターらしき人物がちらりと一瞥し、一瞬の逡巡のあと。

 

 

 

 「一泊と食事付きだな」

 

 

 だが、その言葉にヘラヘラと———目以外で笑って、フードの青年が答える。

 

 

 

 「いやーはっはーあのさ〜、五徹した上に頭使いまくってるからクタクタなんだよねぇ〜。 『本当は何泊か』さっさと教えてくんないかな?」

 

 

 「———なに?」

 

 

 「言っとくぞ。 ————嘘を吐く相手は慎重に選べ………な?」

 

 

 「…チッ。 二泊だよ」

 

 

 「ほ〜らまた嘘吐く……。 あのな、相手をボッタクる時はもうちょい視線と声のトーンに気をつけろ。 と、アドバイスしとくよ♪」

 

 

 「……ハァ、四泊食事付きだ」

 

 

 「ほい、四泊ごっそさん」

 

 

 

 終始ヘラヘラと笑いながら、交渉を済ませ、鍵を受け取った青年。

 それを見て、不機嫌そうに宿帳を取り出すマスター。

 

 

 

 「おい…あんた、名前は?」

 

 

 

 

 

 

 「ん〜…………『 (くうはく)』でいいよ」

 

 

 




いや〜、シンガポール暑かった。
そして日本は寒すぎる。
マリーナベイサンズは見応えがありました。
USSも楽しかったです(^ω^)


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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巨乳エルフは至高


エミヤのほうがスランプ(?)入ってしまったので、暫くはこちらを投稿すると思います。

スランプって本当に何も浮かばないんですよ。
気分転換や別作品読んだりと、色々試しているのですが、未だ脱却できない(=ω=;)

今回はちょーっとだけオリジナル入ります。
本当文才がない作者ですいません。

ではどうぞ⇩




 

 

 

 

 

 

 「おーい妹よ。 頼りになるお前の兄ちゃんが四泊もぎ取ってやったぞー。 つまり四日は二人でゲームやったりイチャラブしたりと自由にできるぜ」

 

 

 「…にぃ、あれ…」

 

 

 「ん〜? ……うわぁ」

 

 

 

 兄の報告を平然と聞き流し、白は現在ポーカーが行われているテーブルに……いや、テーブルを挟んで向き合っている二人のプレイヤーの内、黒い方の少女を目で示した。

 更に正確に言うと、少女が手に持つ札を見て。

 妹のスルーに軽く心を痛め、空は示された札の中身を見てこう言った。

 

 

 

 「…俺よりタチ悪ぃイカサマじゃねぇか……」

 

 

 

 そう、ロイヤルストレートフラッシュを叩き出した空でさえ『ないわー』と思えるイカサマだった。

 赤毛の少女が黒い少女に対して、やたらとムキになって勝負を挑んでいるのはわかっていた。

 しかし、赤毛の少女は負け続けた。

 『ポーカーフェイス』すら知らないらしい彼女は、『ワンペア』や『ツーカード』などの札なら何度か来ている。

 それなりに運が良いのか、それとも必死に頭を使って導き出しているのかはわからない。

 だが、何度やってもドローの続いた後に勝負を決める相手の札は『ファイブカード』。

 それも今持っている札は『A(エース)のファイブカード』という『ロイヤルストレートフラッシュ』の更に上位のソレ。

 これでは勝ち目など最初から無いに等しい。

 

 

 

 「…白、どんなやり方かわかるか?」

 

 

 「…ううん……けど、イカサマは…本当」

 

 

 「んーっと…なら、魔法とか?」

 

 

 「…魔法、なら…発信源とか…あり、そう……」

 

 

 

 冗談半分で言ってみたのだが、白がわからないのなら自分にもわからない。

 スパコン並みの頭脳を持つ妹は、あらゆる計算方法でそのイカサマを導き出そうした。

 しかし、わからなかった。

 ならばそれは、人間業ではないということだ。

 

 空は周りに怪しまれないように周囲を見渡した。

 ———すると、一人変な奴がいた。

 そいつは自分たちと同じ様なローブを見に纏い、フードを深く被っていた。

 ついでに言うと、フードで見えづらいが若干目が光を帯びている。

 

 

 

 「おいおい…マジですか。 モノホンの魔法かよ……」

 

 

 「にぃ、『モノホン』は…死語」

 

 

 「いや、今それ指摘することじゃねぇでしょ。 ……にしても、本当に人間以外の種族が存在してたなんてな…。 ったく、萌えるじゃねぇかチクショオ」

 

 

 「…にぃ、浮気するの…早すぎ」

 

 

 

 ジト目を向ける白に更に萌え上がりながら、空はポケットに突っ込んでいたケータイを取り出し、フードの人物にレンズを向けて、シャッターを押した。

 

 一瞬驚いたような警戒するような素振りを見せたフードの人物は、謎の四角い薄い板のような物をこちらに構える青年に、顔を向けた。

 すると、その青年は横にいた小さな少女と共に、こちらにゆっくり歩いて来たのだ。

 ————途轍もなく嫌な笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 「いやいやぁ、突然失礼。 いきなりだが俺の名前は空。 こっちは妹の白。 よろしくな」

 

 

 「よろ…」

 

 

 「…………」

 

 

 

 当然返事などするはずも無い…が、それでも少なからず関心はあるようだ。

 それが好奇心でも警戒でも、とにかく自分たちに興味は抱かせた。

 それを瞬時に見抜いた空は、ますます嫌な笑みを深めながら更に続けた。

 

 

 

 「それにしてもスゲェよなぁ……アンタの『魔法』」

 

 

 「ッ!?」

 

 

 

 周りには聞こえない、だが相手には聞こえる声量で空は話した。

 フードの人物は、先ほどの謎の薄い板のこともあってか、二人に対しての警戒を更に強める。

 

 

 

 「観衆から自分に対しての認識を阻害でもしてんのかな多分。 俺でも一瞬見逃しかけたぜ。 そして恐らく相方であろうあの黒い少女に対しては、行っているポーカーを有利に進めるために何らかの操作をしている……ってところだろう」

 

 

 「……何のことなのですか〜?」

 

 

 「へぇ、もうちょい粘るかと思ってたが…もう口開けるのか、意外と早かったな。 …あ〜、何のことなのですか…だっけか? 俺が『魔法』って言った時……いや、コレ使った時にさ、アンタ少し警戒したろ、俺たちのこと」

 

 

 「それは〜、少し被害妄想が過ぎると思うのですよ〜」

 

 

 

 空が取り出したのは、ケータイだった。

 フードの人物は女性…なのだろうか、少し声が高く、間が伸びるというかゆったりとした喋り方だ。

 深めに被っているフードの中から、軽く微笑みながら答える女性。

 ……だが、光を帯びている目だけは閉じない。

 

 

 

 「いやいや、被害妄想なんて気色悪いもんじゃねぇよ。 俺はただ単にこう言いたいだけだ」

 

 

 「私には全く全然さっぱり関係無いのですが〜。 そんな私に何が言いたいのですか〜?」

 

 

 これはどちらかといえばあまり意味の無い駆け引きだ。

 しかし、どうしても確認したいことが空にはあった。

 そこで空は、心底失望したような顔を仮面として、相手が最もイラつくであろう台詞を選び、口に出した。

 

 

 

 「お前、魔法まで使ってあんなレベルの低いイカサマしか出来ねぇって…脳味噌仕事してんのか?」

 

 

 「初対面の相手に喧嘩を売るだなんて〜、なかなかいい根性してるのですよ〜」

 

 

 「魔法については何にも言わねぇんだな」

 

 

 「無意味な妄想を膨らませて〜、どう解釈するのかは〜、あなたの自由なのですよ〜」

 

 

 「ははっ……面白いな、アンタ」

 

 

 「あなたも〜、人のこと言えないのですよ〜」

 

 

 「よく言われるよ。 ……っと、いきなりスマンかったな。 『エルフ』なんて初めて見たもんだから、探らずにはいられなくてな。 ついついちょっかいかけちまった」

 

 

 「……いえいえ〜、わたしこそ〜、失礼したのですよ〜」

 

 

 ここで急に双方柔和な雰囲気になり、空はいきなりの失礼に謝罪し、フードの人物はそれを受け入れた。

 しかし、『エルフ』と言われた瞬間、フードの人物はまた空に対しての警戒度を上げていた。

 それを空はまたもや瞬時に見抜き、そのことを相手に悟らせることもなかった。

 

 

 

 

 「…にぃ、そろそろ…いこ」

 

 

 

 眠そうに目をコシコシとこする白。

 兄と同じく五徹した後に、神らしき人物とチェスで対戦したのだ。

 疲れが溜まっているのも無理は無い。

 まして白は十一歳だ。

 

 

 

 「ん? おぉ悪い悪い、さすがに白も疲れてるよな。 ……じゃあな、アンタとの話し合い、結構楽しかったぜ。 エルフのお姉さん」

 

 

 「は〜い、私も暇つぶしくらいにはなったのですよ〜。 イマニティのお兄さん」

 

 

 

 笑顔…笑顔なのだが、何故だろう………二人の間に火花というか歪みというか、何やらよくわからないものが見える。

 そして空は踵を返し、三階へ続く階段へと歩いて行く。

 その途中で、ポーカーをしている赤毛の少女の耳元に小声で————

 

 

 

 

 「……おたく、イカサマされてるよ?」

 

 

 「——————へ?」

 

 

 

 何故彼女にそれを言ったのかは、自分でもいまいちわからない。

 だが敢えて言うなら、同情心とか慈悲でもなんでも無い———ただの気まぐれだ。

 

 赤い髪とは対比的に、青い瞳を丸くしてキョトンとする少女にそう言うだけ言って、三階へと上がっていく二人。

 イカサマをされている————それ以上のことは何も言わず、振り返りもせず部屋へと向かった。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「にぃ…なんで、話し、かけたの?」

 

 

 「いや〜どうしても確認しときたいことがあってな。 ちょっとリスクがでかい駆け引きだったが……まあ、欲しい情報は得られたかな」

 

 

 「…?」

 

 

 「あの黒い方の女の子……あれ、傀儡(かいらい)じゃないな」

 

 

 「え…っ」

 

 

 「俺も最初はエルフの手先として国王の座を狙ってんのかと思ってたが、違うな。 あの黒い少女とフードを被ってたエルフの女は確実にパートナー関係だ。 それも対等な立場(・・・・・)として確立された関係だろう」

 

 

 「なんで…?」

 

 

 「あのエルフは、俺たちや他の人間には最初は興味どころか視界にすら入れていなかった。 だが、あのパートナーの少女にだけは相手を心配するような、身を案じるような目を向けていた。 ……それと、『黒い少女は傀儡では無い』この結論に至った一番の理由はな…………白、普通何か重大な役割を任された時、人間誰しも抱く感覚は何か…わかるか?」

 

 

 「ん……緊張感」

 

 

 「正解だ。 どれだけ自信があろうが、どれだけ余裕があろうが、少なからず人間は緊張する。 でもな、あの少女にはそれが無かった。 自分のパートナーを信じきってる証拠だ」

 

 

 

 

 いつの間にか着いていた部屋に入り、扉を閉じ、鍵を閉め、置かれていた簡素なベッドに座り込んだ。

 白もベッドに座り、空にもたれかかる。

 

 

 

 「よっぽどあのエルフは魔法の実力があるんだろうな…。 絶対の勝利を約束されているゲームに緊張感なんか持つはずが無ぇ」

 

 

 「でも、そんなゲーム…おもしろく、ない」

 

 

 「ああ、クソゲー以下の作業でしかない。 ……だが、あいつらにとっては面白いかどうかなんてどうでもいいんだろうな。 自分たちが勝ったという『結果』が残ればいいんだから。 ……あ〜、いや、つーかそもそもあいつら自身結局は傀儡にされるかもしれないって気付いてんのかな? あの少女は今は傀儡ではない…が、その本人が国王の座についてからの行動次第でどう転ぶか…………ハァ、もういいや疲れた、寝よ。 続き考えるのは明日ってことで」

 

 

 

 

 そう言うと、空はそのままベッドに倒れこんだ。

 そして白も兄にしがみつき、むにゃむにゃと寝息を立て始める。

 それを見ながら、空は上質な毛布を取り出し、白の背中に腕を回して自分も寝た。

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 空と白が夢の世界に旅立ってから四時間ほど経った真夜中。

 誰かがゆっくりと階段を上がってくる。

 女性…だろうか、その豊満な肢体には布一枚だけが巻き付けられ、なんとも言えない扇情的な格好をしている。

 よく見ると、昼間ポーカーで追い詰められていた赤毛の少女ではないか。

 

 少女は三階まで上がると、またもやゆっくりと廊下を歩いて、ある一部屋の前で立ち止まる。

 数分そこで立ち尽くし、それから深呼吸をして、覚悟を決めたようにドアをノックしようと—————

 

 

 

 「———何か用か?」

 

 

 「ひゃああああああぁぁあああ!!!」

 

 

 「うるせーよ、他の客に迷惑だろーが」

 

 

 「あ、あなたが後ろから…いきなり声をかけるから…!」

 

 

 「あーはいはい、俺が悪うござんした。 で、何か用か?」

 

 

 「……えっと…その、あの……す、少し、お話が…」

 

 

 「ふーん……まぁ、ここで立ち話するのもアレだからな。 中入れよ」

 

 

 

 そう言うと、空は部屋の扉を開け、中に入るように催促した。

 戸惑いながらも、それに従い部屋に置いてあった椅子に座る。

 そして空はベッドに腰掛け、白に膝枕をしながらその頭を優しく撫でる。

 

 

 

 「そういや名前聞いてなかったな、どちらさん?」

 

 

 「ステファニー・ドーラという者ですわ。 昼間の件で、お話を伺いたく……」

 

 

 「ああ、ポーカーでボコボコにされてた………」

 

 

 「ボコボ…ッ…! そ、その覚え方は止めてくれません?」

 

 

 「見る限り身ぐるみ剥がされたって感じだな。 …で、昼間の件ってのはアレか? 俺が『イカサマされてるよ』って言ったやつか?」

 

 

 「……やっぱり……まけた?」

 

 

 

 もにゃもにゃと可愛い寝ぼけ方をしながら、聞き取れてはいたのか白が目を閉じたまま言った。

 その態度にカチンと来たのか。

 

 

 

 「———ええ…ええ負けましたわよッ! それよりイカサマとわかっていたのに何故教えてくれなかったんですの!? それをバラせば勝てましたのに!!」

 

 

 「えーっと、盟約その八『ゲーム中の不正発覚は敗北とみなす』…か?」

 

 

 「そうですわ! お蔭で敗北し、国王選定からも外れ、何もかも終わりですわよッ!!」

 

 

 「あーもーだからうっせーよ。 少しくらい自分を抑えることが出来ねぇのかお前は…」

 

 

 「…にぃ、みみせん…ぷりーず」

 

 

 「はいはい…っと、あった。 ほい」

 

 

 「てんきゅー……うにゅ…ねむい」

 

 

 「おう寝とけ寝とけ、白は今日頑張ったからな。 あとで何か甘いもん食べるか?」

 

 

 「…うゅ…にぃの、作った…おかし」

 

 

 「りょーかい。 俺もあとでコーヒーでも飲むか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——————って、話を聞きなさあぁぁぁあい!!」

 

 

 





ステフをどうやってイジっていこうか悩む(-ω-;)ウーン

あと、金欠鬼が考えるオリジナルゲームって、全部パズルとかナゾナゾみたいな感じになっちゃう(ノω;`)


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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じゃーんけーん………

えーっと、年末いろいろと予定が詰まっているので、今年中の更新はこれで終わりです。
時間が空いたら書くかもしれませんが…。

今回ステフがえっちぃことをされます。

えっちぃのは、大好きだ!


ではどうぞ⇩


 

 

 

 

 

 「……つまり、お前は前国王の孫娘で、自分の祖父が間違っていないことを証明したいから国王選定に参加した……と」

 

 

 「ええ、その通りですわ」

 

 

 「んで、イカサマ見破れずに負け落ちて、選定から外れてしまった」

 

 

 「だからさっきからそうですわと言ってるでしょうッ!!」

 

 

 「…少し落ち着け。 怒鳴ったって選定資格が戻ってくるわけでもないだろーが」

 

 

 

 先ほどから話を聞いているのかいないのかハッキリしない空に、ステファニーは苛立っていた。

 自分の祖父は、王だった。

 人類種(イマニティ)の王だった。

 国盗りギャンブルで負け続け、稀代の愚王とまで呼ばれた祖父。

 だが、自分だけは知っていた。

 祖父は常に人類種(イマニティ)のことを思いやり、人類種(イマニティ)の為に尽くしてきた。

 そんな優しい人だったということを。

 

 しかし、目の前に座るこの男は、自分の話をまるでBGMを聞いているかのように何も感じ取ってくれない。

 いや、そもそも聞いているのかどうかも怪しい。

 

 ステファニーが非難の目で空を睨んでいると、空は唐突にその口を開いた。

 

 

 

 「…なあ、お前の祖父(じい)さんがどんな人で何をやらかして愚王と呼ばれてんのか、それに対してお前が何をしたいのかも何となくわかる。 その上で言うぞ————」

 

 

 「…なんですの」

 

 

 「————お前の祖父さんは、『馬鹿』だ」

 

 

 「な…何を根拠に、お祖父様が間違っていると言うんですの!?」

 

 

 「……ちゃんと話聞け。 誰も間違えてるだなんて言ってねぇだろ。 ちゃんと説明してやるから最後まで黙って聞け」

 

 

 「…………わかりましたわ」

 

 

 「はぁ………いいか、お前の言うお前の祖父さんは間違えてはいない。 だがな、それだけでしかないんだよ。 『間違い』じゃないが『正しい』とも言えない。 国盗りギャンブルの対価に何を賭けてたかなんて知らねぇが、そのゲームを繰り返した結果が今のエルキア(ここ)だ。 …………まだ情報が少ないからわからないことも多いが、結果的に人類種の領地は残り僅かになってしまった。 他の誰でもないお前の祖父さんの行動で。 ……まぁ、今までの人類種が負け込んでたのも原因の一つではあるがな」

 

 

 

 それを聞いて、ステファニーは悔しそうに歯を食い縛る。

 だが、言われていることは事実であるが故に、強く言い返すこともできなかった。

 

 一時の憤りの為か、何時からか立ちっぱなしになっていたステファニーを見て、空は気づかれないように自分の背後に金色の波紋を出し、適当に服を取り出した。

 

 

 

 「それと……そのままじゃ風邪引いちまうぞ。 サイズが合うかはわからんが、取り敢えずコレ着とけ」

 

 

 「…え……へっ…?」

 

 

 「それともなにか? そういう露出癖でもあるんですかね、前国王の孫娘様」

 

 

 「あ、ありませんわよッ! ………ですが、あの…よろしいんですの?」

 

 

 「あーいいのいいの。 とにかく、そのあんまりにあんまりな布一枚の格好をどうにかしてくれ。 正直アンタは魅力的だから目のやり場に困る」

 

 

 「お世辞がお上手なんですのね」

 

 

 「世辞でもなんでもねぇからとっとと着替えて来い。 話の続きはそれからだ」

 

 

 

 そう言われて、ステファニーは着替えられそうな場所を探すのだが、生憎ここは安宿の狭い部屋。

 個室などどこにも無い。

 外に出たとしても誰かに見られたくないし、どうすればいいのかと戸惑っていると………。

 

 

 

 「ん……? ああ、悪い悪い。 そんなんじゃ着替えられねぇよな」

 

 

 「…ええ。 あ、あの、本当に申し訳ないのですけど、廊下に————」

 

 

 「さすがにノーブラノーパンは嫌だよな」

 

 

 「………HA?」

 

 

 「あれ、下着いらねぇの?」

 

 

 「いえいりますけど!」

 

 

 

 すると空は、何処からともなくメジャーを取り出した。

 しかしステファニーはメジャーなど見たことがなく、何に使うかはわからない紐としか思えなかった。

 そして、いつの間にか起きてケータイを構える白とイイ顔でメジャーを伸ばしては戻す空が、ステファニーに迫る。

 

 

 

 「そんじゃパパッと測っちまおうか、バストサイズとヒップサイズ」

 

 

 「…シャッター、チャンス……!」

 

 

 「え、いや…あの、ふ、二人とも何か顔が怖いですわよ……!?」

 

 

 「は〜い、まずは両腕を上に上げて〜」

 

 

 「えあっ、ちょっ!? あ、あなた何処触ってますの!!?」

 

 

 「あーあーもー暴れんな。 不可抗力でそのたわわな胸鷲掴みにするぞ」

 

 

 「不可抗力を宣言しないでくれません……ッ!?」

 

 

 

 予想外というか当然というか、ステファニーは戸惑いながらも逃亡を図った。

 しかし、そんなことをこの兄妹が許すはずもなく。

 あれよあれよと両腕を頭の上で組まされ、無防備となった豊満な胸に———空の持つメジャーが当てられた。

 

 

 

 「やめっ…! あ…っ……や…なん、なんですの……この紐は……! ッ……ていうかあなたは何故平然と(わたくし)の胸を触っているんですの……!?」

 

 

 「むむむ……ぉお……おお! 89! アンダーバストは65! ということは……『Fカップ』かッ!?」

 

 

 

 何故男のお前にそんなことがわかるのだ。

 

 

 

 「…むぅ、ぐ……あっとうてき…はいぼく」

 

 

 

 白が自分の胸とステファニーの胸を比べて軽く落ち込むが、自分はまだ十一歳であり、まだまだ未来が、希望があると持ち直した。

 

 

 

 「おっしゃ、このままのノリでヒップサイズも測っちまえ!」

 

 

 「今ハッキリと『ノリ』と仰いましたわよねッ!!  (わたくし)にセクハラすることが『ノリ』ってさすがに酷くありませんの!?」

 

 

 「はいペローン♪」

 

 

 「いやあああぁぁぁあああああッッ!!!」

 

 

 

 

 軽くパニックに陥っているステファニーの隙をついて、体に巻きつけてあった布の下部分を捲り上げる空。

 そこには見事に育った形の良い桃が存在し、羞恥によって全身を駆け巡る血液により、それはほんのりと赤みを帯びていた。

 

 ちなみに空はしっかりと防音効果のある宝具を部屋の隅に配置している為、いくら悲鳴をあげようが外に音は漏れない。

 完全に犯罪者の手口である。

 

 

 

 「ほほぅ…ヒップも89か。 よし、ならばコレが似合うんじゃねぇか?」

 

 

 「ハァ…ハァ…ハァ……なんなんですの、この兄妹。 …お祖父様ごめんなさい。 ステフは…ステフは……汚されてしまいましたわ……うふ…ふふふふ……」

 

 

 「おーい、お前に似合う下着と、さらに服を選びなおしてやったぞー……という訳で。 …さぁ、測定は終わったんだ。 今度はお着替えタイムと洒落込もうか!」

 

 

 「着替えくらい一人で出来ますわッ!!!」

 

 

 「…ナイス、アングル」

 

 

 

 パシャリとケータイのカメラのシャッターを押す白。

 その画面には、両手で自分の体を守るように覆いながら、赤面した顔にサファイアのような瞳を持った少女が写し出されていた。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 空が用意したステフの洋服一式は、白色のAラインのワンピースに赤色のベルトを組み合わせたシンプルなものだ。

 それでも元が良いので、その辺のモデルなんか目じゃないくらい綺麗で可愛い。

 

 

 

 「…如何…ですの…?」

 

 

 「…ぐぬぅ……ベルトの、せいで…おっぱいが…つきでてる……。 …うらやまけしからん」

 

 

 「白、今ですら超絶美人なお前も何年か経てばさらに綺麗で可愛い完全美人になれるんだから。 それまでの辛抱だ。 それと、ステファニー…だったな。 良く似合ってるぜ」

 

 

 「あ、有難うございますわ…」

 

 

 

 セクハラされた身とはいえ、褒められるのは嬉しいらしい。

 そして空は、これまた何処からか、短めのブーツを取り出してステフに履かせた。

 こうすることで、膝上のスカートから伸びる美脚が惜しみなく晒け出されるのだ。

 次は髪型を整える。

 ステフの体を床に敷いたシーツの上に横たえ、一度髪をぬるま湯で軽く洗ってから乾かし、櫛で丁寧に梳かしていく。

 結構な長さがあるステフの髪を梳かしながら、空はステフにこう聞いた。

 

 

 

 「なあ、『ステファニー』って長いし呼びづらいから、これからは『ステフ』って呼んで良いか?」

 

 

 「ええ、構いませんわよ」

 

 

 「…にぃ…早速、ヤるの?」

 

 

 

 いきなりのトンデモ発言に、空は一瞬固まってしまい、ステフは『ヤる』の意味がわからずキョトンとしていた。

 というか義理とはいえ妹に見られながらコトに及ぶなどどんな羞恥プレイだ。

 いや、義理でなくとも羞恥プレイには変わりないが…。

 

 

 「え、いや…ナニを期待してらっしゃるんですかね、可愛い可愛いマイリトルシスターよ」

 

 

 「…あの『やる』とは何ですの? 何かやるんですの?」

 

 

 「ん…ナニを、ヤるの」

 

 

 「いやいやいやいや、白はまだ十一歳だし、そんな子の前でDT卒業とか展開的にアレなんですけど……。 つーか妹よ、相手の了承も無しでヤるのは兄ちゃんのポリシーに反するからダメ」

 

 

 

 この男、意外にマトモな感性をしていた。

 いろいろと言い訳じみた言葉を並べてはいるが。

 つまりお前はまだ十八禁の域には早いから、健全な展開でないとダメ…という訳らしい。

 

 

 

 「…そういえば空さん、先ほどから服や靴などを一体何処からかお出しになっているのですか? 見たところカバン一つ無いようですが……」

 

 

 「あ」

 

 

 「…にぃ、いまごろ…?」

 

 

 「うぁぁぁ……ミスった…」

 

 

 「え…え? 何か聞いてはマズイことだったんですの?」

 

 

 「いいやなんでも無い、なんでも無いから取り敢えずそのことは気にするな」

 

 

 「…どこか、ぬけてる…にぃ…かわゆす…」

 

 

 「やめてー! 男の俺にそんな萌え属性いらねぇんだよー! 見た目は好青年な兄ちゃんだが中身はおっさんに近いのに『ドジっ子』だなんて必要ねぇよ! 一体何処に需要があるんだよそんな混沌(カオス)!!」

 

 

 「…だいじょーぶ。 しろには…ごほーび、でっす」

 

 

 「嬉しいけど…ッ! 嬉しいけどなんか違う!」

 

 

 「…あの、一体どうしたんですの?」

 

 

 

 全くこの状況が飲み込めないステフと、王の財宝のことが露見しかけて(へこ)む空、そしてその兄を慰める(?)白。

 空の属性云々よりも、この光景の方が混沌としていた。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「…落ち着かれました?」

 

 

 「…にぃ、いっそ…言う?」

 

 

 「………まだ、言わない」

 

 

 

 さっきから自分を置き去りにしてボソボソと会話しているこの兄妹。

 兄の方は下を向き、妹の方はその兄にしなだれかかっている。

 

 

 

 (この二人…本当に『兄妹』ですの…?)

 

 

 

 度を超えたスキンシップに呆れつつ、ステフは未熟ながらも相手を観察していた。

 

 ———暫くして、空がガバッと顔を上げてこう言った。

 

 

 

 「という訳でステフ、ゲームやろうぜ!」

 

 

 「…まずは何が『という訳』なのか説明が欲しいですわ」

 

 

 「こまけぇこたぁいいんだよ! いいから、ホレホレ、もう『じゃんけん』でいいからゲームやろうぜ!」

 

 

 「…はぁ…何を賭けるんですの?」

 

 

 「ステフが勝ったら俺たちはステフの言うことなんでも聞いてやる。 んで、俺たちが勝ったらステフは俺たちの言うことをなんでも聞く————ってのはどうだ? お前の知りたいことなんでもわかるようになるぜ。 イカサマの手口とか俺の秘密とか」

 

 

 「……いきなり始めた割にリスクの高い内容のゲームですわね」

 

 

 「だが、その分リターンもデカい。 勝負は十回、そして俺が十回連続で勝ったら俺の勝ち。 一回でも俺が負けたらその地点で俺の負け。 もし全てアイコだった場合は俺はイカサマのヒントだけ教える。 そしてお前に要求するものは『無し』だ。 どうだ、受けるか? それとも蹴るか?」

 

 

 「…………………受けますわ」

 

 

 

 呆れの混じった真剣な顔というなんとも奇怪な表情をしながら、ステフは空が突然誘ったゲームに乗った。

 

 ………だが、その場のノリという雰囲気を保ったままゲームを提示した張本人は、表に出さないまま裏で嗤う。

 

 

 この時のステフは、あまりにも警戒心が薄くなりすぎていた。

 この部屋を訪ねて間もない頃であれば、もしかすると気付けたかもしれない。

 ————今までのやり取りが全てこの『じゃんけん』に持ち込むための過程であったということを。

 

 

 

 




fate/GOのクリスマスイベント。
それに出てくるサンタコスのセイバーオルタ。
あの子ノッブみたいに配られますよね?ね?
攻撃の仕方が可愛くて仕方がない(´・ω・)
フライドチキンは全て手に入れた。
さあ、存分に貪れ( ゚ω゚ )

少し早いけど、皆さん———


———メリークリスマス!
———フローエヴァイナハテン!


そんでもって、良いお年を〜(ノ*´>ω<)ノ


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お前人間じゃねえよ

みなさん遅まきながら、あけましておめでとうございます。

課題テストを目の前にしている金欠鬼です。
年末忙しかったけど、楽しかったー!

今年もよろしくお願いします。

ではどうぞ⇩


 

 

 

 「……世界とは…理不尽なのですわ……」

 

 

 

 結果から言うと、ステフは負けた。

 駆け引きでもなんでもない、それでいいのか『 』(くうはく)と言いたくなるような方法で終わった。

 

 じゃんけん勝負は十回。

 一度でも勝ち以外の手を出したら空の負け。

 全てに完勝すれば空の勝ち。

 そんな無理ゲー極まるこのじゃんけんは、『スーパーミラクルイカサマ万歳超高速後出し作戦』略して『ゴリ押し』という最低最悪の手段で空が勝った。

 内容はカンタン。

 その名の通り目にも留まらぬ速さで相手の手を読み、ほとんど同時に後出しをするのだ。

 

 

 

 

 「白〜兄ちゃん勝ったぞ〜、いえーい♪」

 

 

 「い、え〜い…♪」

 

 

 

 世界に対して絶望しているステフをよそに、二人は軽〜くハイタッチを交わす。

 当たり前のことだが、勝者側と敗者側の空気の差が激しい。

 ステフの綺麗なサファイアのような目はハイライトが消えており、口からは魂が抜けているようにも見える。

 肌は少し青ざめており、体は小さく震えている。

 

 そして、空はひとしきり白と戯れた後、ステフに歩み寄り……こう言った。

 

 

 

 「んじゃ、盟約に誓った通り、今日からお前の全ては俺のモノってことで。 これからよろしくな、ステフ」

 

 

 「……………………………………」

 

 

 「…やっぱショックか?」

 

 

 「……………………………」

 

 

 「でもな、これお前にとってのデメリットってかなり少ないんだぜ。 何故なら『ステフという存在の全ては空の所有物である』。 これ以外お前に拘束は掛かっちゃいない。 俺の命令にこそ強制は働くかもしれんが、俺は別に奴隷みたいに扱うつもりも無い。 つまりお前は基本的には自由の身となんら変わらんぞ。 メリットも少ないが」

 

 

 「………本当に…本当に、奴隷として扱うつもりは無いんですの?」

 

 

 「おう」

 

 

 

 

 前王の孫と言っても、その前に一人のうら若き乙女である。

 自分の身が他人の好きにされるということに不安と恐怖を覚えないはずが無い。

 縋るような目でこちらを見るステフに、空は優しく微笑む。

 白もさすがにこの状況でステフのパンチラを撮影するような外道では無かった。

 

 

 

 「…信じて…良いんですのよね…?」

 

 

 「お前結構疑り深いのな…。 安心しろ。 そんな人権無視した所業なんざ趣味じゃねぇしな。 …………あーでも、今から一つだけ確認ついでに最初の命令をする。 これだけは勘弁しろよ」

 

 

 「…………ッッ」

 

 

 

 この身に何を命令されるのか。

 もしかしたら肉体(カラダ)を求められるかもしれない。

 怖い。 …だが、それも悪くないと思う自分がいる。

 いや、()()()()()()()()()()()()自分がいることに、ステフ自身混乱していた。

 

 そして空はゆっくりと顔を近づけてくる。

 体は硬直してしまって動かない。

 顔に血が上って熱い。

 脳内がスパークしている間に、空の口がステフの耳元に———————

 

 

 

 

 

 「俺の所有物(モノ)になれ。 ステファニー・ドーラ」

 

 

 

 

 ——————ドクン。

 

 

 その言葉が囁かれた瞬間、ステフは思考回路をショートさせ、気絶した。

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 その後、空と白は気絶したステフを叩き起こし、エルキアに存在する人類種の城へと案内させた。

 そして現在、エルキア城内の大浴場で白を洗うステフだが、空がすぐ横で服を脱いでいることに…………いや、()()()()()()()()()()()()()()驚きを隠せないでいた。

 

 

 

 「…あなた本当に空ですの? 未だに信じ難いのですが…」

 

 

 「仕方ねぇだろ。 こうでもしないと白と一緒に風呂に入れねぇんだから」

 

 

 「そもそもどうすれば男性である空が『女性』になれるんですの?」

 

 

 「そんなもん『性転換薬』使ったからに決まってんだろ」

 

 

 「にぃ、は…基本…なんでも、あり」

 

 

 「…本当に便利ですわね。 その『げーとおぶばびろん』とやらは」

 

 

 「実際便利だぜコレ。 内容量無限とかいう意味わかんねぇ構造してるから何でも入れられるし。 重宝するよマジで」

 

 

 

 

 空はステフに『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』のことを話していた。 

 もちろん口外するなという命令をしてから。 

 そして空は女の体になったことで、白やステフという美女と一緒に風呂に入っても健全という状況を生み出した。

 

 そう、『性別』という名の最大の壁をやすやすと乗り越えたのだ。

 

 

 

 

 「それはそうとステフよ、風呂(これ)が終わったら調べ物したいんだけどさ、この城に図書室とかある?」

 

 

 「ええ、一応ありますが、何を調べるんですの?」

 

 

 「ステフたんはおバカなのかな? ()()()()のことを調べるに決まってございましてよ?」

 

 

 「…ステフの…バカ、は…デフォ…」

 

 

 「し、失礼ですわね! これでも国内最高アカデミーを首席で卒業してますわよッ!! というかそもそも()()()()()()()()ことに反応してバカと罵られるなんて、これただのイジメですわよね!?」

 

 

 「あれ、言ってなかったか? 俺たち二人はこことは違う別の世界……まぁ、要するにアレだ。 宇宙人みたいな感じで認識してりゃあいい」

 

 

 「言ってませんわよ! ………それにしても別世界からいらしていたなんて、道理で色々と人間離れした能力を持っているはずですわ」

 

 

 

 

 音がよく響く大浴場で、ステフの驚愕と苛立ちの混じったツッコミが炸裂した。

 それと同時にこの二人が異世界から来たということに対しては、結構アッサリ納得出来てしまっていた。

 

 それにしても横にいるこの男…今は女だが、空は今や自分の『ご主人様』である。

 ならばせめてそれらしく背中でも流そうかと思ったのだが、肝心の空は自分の妹と一緒に泡まみれになっている。

 ()()()()()()と命令された割には何をすれば良いのかなどの指示も出されていないので、いつも通り一人で体を洗っている。

 そして、いつの間にか『空に奉仕したい』と思ってしまっている自分に気づき、顔を真っ赤にして首をブンブン振る。

 

 奴隷扱いを怖がっていたくせに、いざモノにされると奴隷根性丸出しであった。

 

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 

 風呂から上がってサッパリした空と白は、どうせならこの世界の服を着てみようということで、ステフに何かそれらしいものを用意するよう言った。

 早速隷属させたステフを使い倒している空は誰がどう見てもただの鬼畜である。

 

 

 

 「おぉぉ……これが執事服…いや、燕尾服って言った方が良いか。 一回こういうコスプレみたいな格好してみたかったんだよなぁ。 ……自分で言うのも何だが、結構サマになってんな俺」

 

 

 「…ぅぅ…にぃ、いつもの…服…出し、て…っ」

 

 

 「やーだよー。 白のフリフリドレス姿とか滅多に見れるモンじゃねぇし、白だって満更でもないくせにムフフ」

 

 

 「にぃっ…いぢわる、しない、でぇ…。 この、服…胸のとこ…ぶかぶか、で……むか、つく、のぉッッ……!」

 

 

 「おぉう…マジでキレてらっしゃるようで……。 でもせっかくステフが好意で用意してくれたヤツだからなぁ。 ……まぁ、別にいっか」

 

 

 「コレ、が…好意とか…くそ、ふぁっきん…ッ!」

 

 

 「コラ白、あんまり汚ねぇ言葉使うなよ。 替えの服出してやるから落ち着けって」

 

 

 

 

 そう言いながら空が取り出した服は、メイド服であった。

 白は最初こそ『えー』みたいな顔をしていたが、胸元スカスカのドレスよりマシだと考えたのか、空のチョイスしたメイド服に着替え始めた。

 それにしても兄妹とはいえ男女が同じ場で着替えをして、互いに違和感など微塵も感じていないあたりこの二人は末期である。

 

 

 

 「失敗、しましたわ……」

 

 

 「あん? なにが失敗したんだ」

 

 

 「何でもありませんわよっ!」

 

 

 

 思わず口からこぼれた呟きに焦りつつ、首を振るステフ。

 空に用意してもらったワンピースの裾を軽く叩きながら、プイッと後ろを向くステフ。

 その顔は風呂上がりだからか、赤くなっていた。

 ちなみに空はもう一度『性転換薬』を飲んだので、きちんと男の体に戻っている。

 

 

 

 

 「ふぅ……そんじゃステフ。 図書室に案内してくれ」

 

 

 「ナビ、よろ…」

 

 

 「ええ、わかりましたわ」

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………オイ」

 

 

 「はい、何ですの?」

 

 

 「…これのどこが図書室なんだよ。 どう見てもその辺の書庫よりデカいっつーか、もうコレ()()()で良くね?」

 

 

 「そんなこと(わたくし)に言われましても……」

 

 

 

 

 暫く城内をクネクネと移動して辿り着いた図書室だったが、そこは図書室と言い張るには規模がおかしかった。

 しかもコレでステフの()()()()()()と言うのだから驚きだ。

 

 空はその辺にある本を一冊手に取り、ペラリと適当にページをめくってみた。

 

 

 

 「……予想はしていたが…マジで?」

 

 

 「どうかしたんですの?」

 

 

 「ステフ、これってさ……エルキア語?」

 

 

 「いいえ、『人類語』ですわよ」

 

 

 「うわあ……ド・シンプルな世界ですこと」

 

 

 

 会話は成り立つのに、本に記述された文字は全く読めなかった。

 つまりこの世界の公用語は日本語ではない。

 

 

 

 「……本当にあなた達は異世界から来たんですのね」

 

 

 「ああ。 ……まぁ、信じてくれるなんざ思っちゃいないがな」

 

 

 「あ、いえ。 別にそれに関しては、なんとも思いませんわ」

 

 

 

 本来ならこういうのは普通なかなか信じて貰えないのが定番なのだが。

 予想外にもさらっと答えたステフに、さすがの空も目が点になった。

 

 

 

 「は? いや…え? なんで」

 

 

 「なんで、と言われましても。 森精種(エルフ)達が使う高度な魔法には、異世界からの召喚魔法なども存在しますし、そんなに信じられない話でもないからですわ。 それにどう見てもあなたたち御二方は人類種(イマニティ)にしか見えませんもの」

 

 

 

 ————なんじゃそりゃ。

 

 そう思うと同時に。

 

 ————デスヨネー。

 

 が空の頭を埋め尽くしていた。

 

 

 

 「…ハァ……しゃーねぇ、覚えるか…白?」

 

 

 「……ん」

 

 

 「オーケー。 んじゃいっちょやりますか」

 

 

 「…おー」

 

 

 

 掛け声と同時に白は三冊くらいの本を並べて開き、空は王の財宝(むげんそうこ)の中から縁なしの眼鏡を取り出す。

 そして眼鏡を掛けたまま一冊の本をじっくりと読み始める空。

 白は何時からか横に出されていたコピー用紙にシャーペンで記号のような文字を書き出していく。

 

 一気に静かになった書斎で一人何をすれば良いのかわからず、取り残されるステフ。

 

 ステフは二人が何をしているのかイマイチわからなかった。

 だが、途轍もないことを行っているという事だけはわかった。

 そして何より縁なし眼鏡を掛けた空を見て鼻血を堪えるハメになり、しっかりするんですのよステフ! と両頬を軽く叩き、自分に喝を入れる。

 

 

 

 

 「…ステフ、飲み物と軽く摘めるもの持ってきてくれ」

 

 

 「アッハイ」

 

 

 

 従者姿の二人に仕える王族とはこれ如何に。

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 「…あの、その…先程から何を…」

 

 

 「ステフって普段からお菓子作りとかすんの? 資源不足で砂糖もバターも碌に無ぇだろうに、よくここまで旨味引き出せるもんだ。 素直に感心するぜ」

 

 

 「あ、ありがとうございますわ。 ……それで、先程から何をお調べになって——————」

 

 

 

 

 

 「…にぃ————おぼえた」

 

 

 

 

 

 「——————へ?」

 

 

 「お、さっすが白」

 

 

 「……もっと、ほめる……」

 

 

 「ああ、当然だとも。 さすが兄ちゃんの自慢の妹、(のち)の嫁さん。 天才少女めっ! このこのっ」

 

 

 

 白の後ろから『あすなろ抱き』し、優しくクシャリと頭を撫でる空に、気持ち良さそうに目を細める白。

 ———それを呆然としたまま眺めるステフが呟く。

 

 

 

 

 「……え? あの、何を、おぼえたんですの?」

 

 

 「何って、んなもん()()()に決まってんだろ」

 

 

 

 さも当然のようにさらっととんでもないことを言ってのける空に、ステフはこの日何度目かわからない驚愕に目を見開く。

 

 

 

 「にしても、相変わらずさすがだなオイ。 兄ちゃんはもうちょいかかりそうだ」

 

 

 「……にぃ、遅い」

 

 

 「フッフッフ、男は早いより遅い方が良いんだぞ?」

 

 

 「………にぃ、ポークピッツ」

 

 

 「だぁれがポークピッツじゃいッ!! 兄ちゃんのはビッグマグナム通り越してジャッカルなんだよ!! 馬とタメ張れんだぞ!!」

 

 

 

 唖然と、二人の(恐らく)下品なやり取りを眺めていたステフ。

 驚きのあまり声を掠れさせて、言う。

 

 

 

 「あの……聞き間違いですの? ()()()()()()()()()————って言ったんですの?」

 

 

 「『パーフェクトだウォル—————え? ああ、うん、そうだけど?」

 

 

 「『感謝の極み』————こくっ」

 

 

 「————こんな短時間で? じ、冗談ですわよね?」

 

 

 「別にそんな難しくねぇだろ。 音声言語は一致してんだからあとは文字をおぼえりゃ終わりじゃねぇか」

 

 

 「……それを……まだおぼえられない、にぃ」

 

 

 「十八ヶ国語の古文まで出来る白が特別なんです〜ぅ。 ()()()()()()な兄ちゃんはゲームするのに必要最低限な六ヶ国語を出来れば困らないんですぅ」

 

 

 

 

 —————凄い。

 ソレが今ステフを埋め尽くしていた。

 

 この二人は簡単そうに言うが、"誰にも教わらず" 文字を覚えるのは、『学習』ではなく『解読』である。

 それをこんな短時間でやってのけて誇りもしない。

 もはや自分の中の常識や理解を完全に逸している目の前の二人。

 その凄まじさに背中に寒気が走った。

 しかし、同時に自分はとんでもない出会いをしてしまったのではないだろうか。

 そんな思いが己の内に渦巻く。

 

 

 それこそこの国を—————この世界すらも変えてしまいかねない人達と。

 

 

 




>>『性転換薬』
別名『TS薬』。
ギルガメッシュにはこれを飲んで是非とも『姫ギル』になって実装されて欲しい。


>>『ジャッカル』
純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻、マーベルス化学薬筒NNA9、全長39cm、重量16kg、13mm炸裂鉄鋼弾、対化物戦闘用拳銃。
別名『百万発入りのコスモガン』
わかる人にはわかる。
超デカい。


>>逸般ピーポー
誤字ではない。


今更ですが、空は身体能力がおかしいです。
と言っても体力とかは常人並みですがね。


みなさんお久しぶりです(^o^)/
最近6日と7日のガチャに賭けている金欠鬼です。
頼むから槍鯖の星5来てくれ。
金欠鬼のパーティーにはランサー枠が欠けてんのよ。
信じてるぜおっぱいタイツ師匠、施しの英雄。



誤字などあれば報告お願いします。


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泣き虫クラミーちゃん

はい、いつの間にかこの作品がランキングに載っていてリアルに牛乳で噎せた金欠鬼です。
みなさま本当にありがとうございますm(_ _)m

FGOでは鯖ではなく礼装にばかり好かれ、ジャンヌのレベルがなかなか上がらず、今ピックアップされてる槍トリアこと乳上を狙ってるのが現状です。


ではどうぞ⇩


 

 

 『戦い』とは、案外さっさと無くなるものである。

 しかし『争い』はどんな法を敷いても、どこの世界であろうとも無くならない。

 

 ————それは何故か。

 

 答えは単純明快。

 『感情』や『心』といった不明瞭な……しかし確かに存在するモノを生命が持つ故に。

 ———己の邪魔になるならその邪魔そのものを消せばいい。

 ———己の利益になるならば幾らでも他者を利用し尽くせばいい。

 ———己にとって気に入らない相手ならば力づくでも従えさせればいい。 それが嫌なら排除するまでのこと。

 

 このように本能以外のナニカを持つ生命たちは、過去の過ちから今の今まで何一つ学ばず、忘却しようと努め、そして更に繰り返して来た。

 空と白が生活していた元の世界では、世界中で殺人が起きない日など存在せず、常日頃から顔も知らぬ誰かの命が何十人、何百人と消えていった。

 

 それからテトに生まれ直させられた世界『ディスボード』。

 『全てが、総てがゲームで決まる』というぶっ飛んだ盟約によって殺傷や略奪などの戦いの根っこが断ち切られた。

 だが、やはりと言うべきか……一見平和そうな世界でも、やはり『争い』だけは無くならない。

 テトが唯一神の座を握る前まで繰り広げられていた『世界大戦』とも言える超超大規模の戦争。

 無限に広がる蒼穹が焼かれ、本来踏みしめるべき大地は抉れていた。

 幻想種が当たり前のように跋扈する、血で塗りたくられた————————

 

 

 

 

 「はいはい、把握把握。 とどのつまりそん時のディスボード(ここ)は悲惨な状態でした〜ってことだろ? 俺が知りたいのはそんなテンプレ展開満載な地獄旅行日記の内容じゃ無ぇんだよ。 俺が読みたいのは、十六もある種族の()()()()データが書かれた資料本みたいなヤツなんだよ。 なんで何処にも見当たらねぇんだ?」

 

 

 「にぃ、いま……それ以前の、問題、ある……」

 

 

 「そうなんだよなぁ……今の人類種なんて他の種族からしてみたらカモでしかねぇ状況なのに、同種の問題で躓いてるとかあり得んぞ」

 

 

 「……じゃあ、にぃ……」

 

 

 「ああ、そうだな————」

 

 

 

 二人は顔を見合わせ、同時にこくりと頷く。

 

 

 

 

 

 

 「—————テト(あいつ)を徹底的にぶちのめす為の第一歩として、取り敢えず王様になるか」

 

 

 

 人類種の王。 つまり一つの種族の代表になることを『第一歩』と言ってのけ、ディスボードに来た瞬間から変わらない目標を口にする。

 そう、この二人にとって王様になることなど、数ある内の一つのクエストのようなものに過ぎないのである。

 

 ステフが用意してくれたお茶も茶菓子もキッチリ食べ尽くし、取り入れたブドウ糖を脳の餌にしながら、燕尾服の青年はメイド服に身を包む少女と共に大広間へと向かう。

 

 

 

 「さーて……どう出て来るんだ? 巨乳エルフのオネーサンよ」

 

 

 「……にぃ、目がケダモノ……キモい」

 

 

 「…………これ完全に(わたくし)忘れられてますわよね? ねぇ、無視しないでくださいません? 一応私にも『堪忍袋の()』というものがあるのですが、いい加減キレますわよ?」

 

 

 「フ、『キレますわよ?』と言ったなステフ。 おおいに結構、存分にキレるが良い! 切れた()は俺が手ずからじっくりねっとり繋ぎ合わせてやる。 ちなみに俺は絶倫でな、枯れることは永劫無い。 今のお前の面影すら無くなるくらい骨抜き(オシオキ)にすることもできるのだ。 そぉら、とっととキレろ。 早く(ハリー)! 早く(ハリー)! 早く(ハリー)!」

 

 

 「ひっ……!」

 

 

 「……むぅ……にぃ、かっこいい、セリフ……ダサく、しないで…。 ……あと、その……ワクテカ顔、まんま、盛り猿……」

 

 

 「えぇー、名言なんて使ってナンボだろ? 謝るからその超可愛い嫉妬を是非とも行動で示してくれると兄ちゃんは嬉しい」

 

 

 

 猿呼ばわりされたことにかなりダメージを受けたのは秘密である。

 白は頬っぺたを『ぷ〜ぅ』と膨らませ、空がステフに構う度に『私怒ってます』とアピールする。

 

 

 

 「……知ら、ない……っ」

 

 

 「ヤッベェ、今更だが自分の妹が可愛い過ぎて萌え死にそう……! ……ぉわっ、鼻血出てきた。 ティッシュティッシュ」

 

 

 「アホなこと言ってないでさっさと行きますわよ!」

 

 

 

 

 

 グダグダな第一歩になりそうだ。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 夕刻————エルキア王城の大広間。

 

 国王選定のゲームが行われていたと思しきその場には、真ん中の小さなテーブルに備え付けられている、これまたテーブルと同じく小さな椅子。

 そして床に膝をつき、項垂れている一人の男性と。

 向かいの椅子に腰掛けたまま無表情に腕を組む、喪服のような黒いベールに黒い服という出で立ちの、長い黒髪の少女。

 ————そう、酒場でステファニー・ドーラをイカサマによって負かした………あの少女。

 

 

 高官らしき人物。

 恐らくゲームの審判者であろう老人が、声高に言葉を発した。

 

 

 

 「———さて、ここに集いし皆の者全てに問う。 この者、クラミー・ツェルが選定の闘いを最後まで勝ち抜いたわけであるが…………彼女に挑む者、またはこの選定に異議がある者は、もう居らぬか?」

 

 

 

 それに対しての反応は、ささやかなざわめきだけだった。

 それもそうだろう。 今の今まで全戦全勝したクラミーに今更勝てると思える者など、もはやいるはずも無い。

 その様子に審判人は————

 

 

 

 「————では、前国王の遺言に従いクラミー様を———エルキア国王として戴冠させる。  今この場の沈黙を同意とし、(これ)を————」

 

 

 

 

 

 

 

 『異議、有ああぁぁぁぁぁぁぁりッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 その言葉を遮ったのは、冷え固まったようなこの沈黙を、粉砕☆玉砕☆大喝采とばかりに突き破る、咆哮のような『異議申し立て』の声だった。

 ざわつくどころか皆が一斉に跳び上がったその原因は。

 

 一番前で少女を片腕で抱っこして、もう片方の手にスマホを持つ燕尾服の青年。

 青年に抱きかかえられ、クラミーに向けてスマホを構えるメイド服を着た白い少女。

 その後ろで、ストレスと緊張のあまりリバースしそうになっている赤髪の巨乳が一人。

 

 

 

 「カチコミ&サプライズ大成功♪ 時間的にはギリだったみてぇだが、取り敢えず間に合ったらしいな……。 あ、異議があるのは俺ら二人でーす。 後ろはただの付き添いだから無視して良いぜ」

 

 

 「喪服ひんぬー……悪く、ない」

 

 

 「……………誰?」

 

 

 

 クラミーのもっともなその疑問は、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。

 先ほどの雄叫びに若干ビックリしていたクラミーは、慌てて表情を引き締め、無表情に戻してから視線を二人の()()に向ける。

 

 

 

 「……ステファニー・ドーラの従者?」

 

 

 「いえ、それは…………ぉうっ…!」

 

 

 

 吐き戻しそうになるのを必死で抑えつけ、ステフは否定の言葉を発そうとした———が。

 

 

 

 「おいおい、後ろのは無視して良いつったの聞こえてなかった? そんなベール付けてっから盲目(めくら)と思ってたが、まさか『つんぼ』だったとはねぇ」

 

 

 

 空気を()()()空が煽った。

 この世界で伝わるかは微妙なところだったが、元の世界では差別用語として捉えられかねない単語も使って揶揄嘲笑した。

 

 すると何かが通じたのか、クラミーは目元を僅かながらヒクつかせ、観客席の一箇所から同じく僅かな殺気が漏れていた。

 空はニヤけそうになるのを我慢し、白にだけ聴こえる音量の声で————

 

 

 

 「右方面左斜め上」

 

 

 「ん……バッチリ」

 

 

 「んじゃ、来たら合わせろよ?」

 

 

 

 何が来ると白が何を合わせるのかはわからない。

 しかし、この二人はそれだけの会話で通じ合えた。

 伊達に十年近く常日頃から一緒に居る訳ではないのだ。

 

 

 

 「自分は負けて選定資格を失ったから、今度は使用人にやらせるなんて………。 未練がましく無様な上に見苦しいこと……」

 

 

 「ダメだ、コイツ人の話を聞かないタイプだ」

 

 

 「……ふっ……」

 

 

 

 再び張り詰めかけた空気を、これまた一気に抜いてしまう空の一言。

 白にすら鼻で笑われ、クラミーは羞恥と憤りで顔を赤くする。

 ステフは『どんどん煽っていくスタイル』の空と白に慌てながら、若干涙目になっているクラミーに同情の目を向けた。

 

 

 

 「つーかよ、ソレお前が言えたことじゃねえっしょ」

 

 

 「…………どういう意味よ」

 

 

 

 

 「だってさぁ、ここは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』に玉座明け渡す場所じゃねぇだろ?」

 

 

 

 空の驚愕の一言に、ざわめきが増す城内。

 『無双ゲー』が通じたとは思えないが、()()()()()()()という部分は通じたらしい。

 

 ————他国の力?

 

 ————ペテン師?

 

 

 

 

 「え、ちょっ……空、どういうことですの? 他国の力って?」

 

 

 「……お前本当に首席卒業したのか? ここまで言ってもまだわかんねぇの?」

 

 

 「……ステフ、アホの子……」

 

 

 「ハァ……ったく、いいか、例えばだぞ? 例えば————」

 

 

 大きな声で、無駄に大きく口と目を開いて、叫ぶ。

 

 

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を国王なんかにしたら、この国………いや、人類は終わりなんだよねぇ!」

 

 

 

 観客達のざわめきは、ついに恐怖を伴ったものに変わる。

 そんな周りの様子に、本当に誰も気付いていなかったのかと心底呆れる空。

 ステフは『はぁ?』みたいな顔をして固まっている。

 

 

 

 「……私が、魔法でイカサマしていると? 何を根拠に————」

 

 

 「————なに、お宅は人の話を無視するのがデフォなの? さっき『例えば』って俺が言ったの聞いてた?」

 

 

 「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 

 

 

 今にも「うっさいわよッ!!」と叫んでしまいそうになるのを必死に堪えるクラミー。

 それを観客席から眺めるフードの人物。

 空に敵意を抱きながら、顔を赤くして肩をプルプル震わせながらも頑張ってほとんど崩れている無表情を戻そうとするクラミーに、心の中で「ファイトなのですよー」と応援する。

 フードに隠れた口元がニヤけているのは言うまでもないが。

 それにしても空とこのフードの人物。

 性格面で言えば二人は同類なのかもしれない。

 

 

 

 「———ま、まぁいいわ。 異議があるならご希望通り勝負しましょう」

 

 

 「ねぇねぇどんな気持ち? その自称鉄面皮の無表情(笑)が今まさに剥がれそうになってるけど、今どんな気持ち?」

 

 

 「いちいちうっさいわねッ! そんなことどうでもいいでしょ!!」

 

 

 「知ってるよ、何言ってんの?」

 

 

 「きィィィィーーーッッ!!」

 

 

 「あ、勝負するのは良いけど。 もしポーカーで勝負するなら————そこの協力者、追い出した方が良いぜ?」

 

 

 「……そこ、じゃー…!」

 

 

 「なに!? なんなのよ、喧嘩売ってんの!? ねぇ!?」

 

 

 「おーい、誰かそこのフード野郎の帽子取ってくんない?」

 

 

 

 片やヘラヘラとした表情を軽く引き締めて()()()真面目にしながら話す青年。

 片や無表情をアッサリ崩され、その上挑発に乗ってしまった挙句おちょくられている黒髪の少女。

 

 観衆は困惑しながらも空の注文を聞いて、白が示した場所にいたフードを被っている人物を見つけた。

 そしてすぐ側にいた一人が、恐る恐る帽子を剥がすと————

 

 

 ————ヒョインッ。

 

 そんな効果音がピッタリな動きで飛び出す、長い二つの耳。

 ファンタジーものでもよく見る、あのエルフのように長い耳。

 

 

 ……ざわ……ざわ。

 こ、こいつ森精種(エルフ)じゃねぇか!

 ざわ……ざわ……。

 ってことはまさか、本当にあいつの言う通り———

 …ざわ…ざわ…ざわ…。

 あの(アマ)、魔法でイカサマしてやがったのかっ!?

 

 

 

 「なぁオイ、クールビューティー(爆)なペテン師さんよ、()()()助けねぇの?」

 

 

 「フフン————貴方こそ人の話を聞いていなかったのかしら? 私には一切関係のないことなのだけれど」

 

 

 「んじゃ追い出しても問題無ぇよな? それと、言っとくがそもそもお前自身そんな話してねぇだろ。 自分が何喋ったかもわからねぇなんて……可哀想に」

 

 

 「〜〜〜〜〜ッあったまキタ! いいわよ、追い出せばいいんでしょっ! そこのアナタ、さっさと出て行ったら!?」

 

 

 

 そう言われて、そそくさと出て行くエルフの女性。

 

 さぁて、不安要素も取り除いたところで————

 

 

 「———じゃあ早速ポーカー、やろっか?」

 

 

 「はぁ!? 私をここまでコケにしてくれた相手に今更ポーカーだなんてヌルすぎるわ!」

 

 

 

 もはやガチ泣きする二歩手前ぐらいの表情で、プライドをズタボロにされたクラミーは、ポーカーとは別のゲームを提示した。

 ズタボロと言っても、ほとんどが自爆で負ったダメージなのだが。

 

 

 

 「イカサマなんて介入する余地の無い、実力を証明するのに最適なゲームで勝負するわよ! それでアンタを完膚なきまでボッコボコにしてやるんだから! 逃げんじゃないわよ!!」

 

 

 「もうポーカーフェイスの面影ゼロだな」

 

 

 「……にぃ、ノリノリ……楽しそう」

 

 

 「……もうイヤですわ、この兄妹」

 

 

 




(´・ω・`)クラミーちゃんは堪え性があまりないタイプだと思っている。特に空におちょくられると素の性格が出る。
チョロインとか言っちゃダメ。相手が空なら仕方がない

FGOのお年玉ガチャには裏切られた。
何故課金石でしか回せないの?
コツコツ十連分石貯めてた金欠鬼がバカみたいじゃん。

あ、それと結構前の活動報告にFGOでの金欠鬼のフレンド検索IDを載せています。
良かったらフレンド申請おなしゃす。
ちなみにリーダーはlevel86ジャンヌです。


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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A・U・O(偽)爆☆誕!

いやぁ、久々にこっちを書きました。
なんか内容おかしくね?と思われる方も出てきそうで怖いです。実際書いてて『あれ?』となった所も幾つかありましたし。
まぁいいや(ぉぃ

ではどうぞ↓


 「それでは、これより人類種(イマニティ)の最後の領地『エルキア』を治める国王の選定ゲームの最終戦を始めます」

 

 「字面にするとややこしいな」

 

 「ソラは少し空気を読んでくださいません?」

 

 「おかしなことを言う、俺が空気だ! だからお前らが俺に合わせるのが道理なんだよオーケー?」

 

 「ダメですわ……この人が勝てばとんでもない暴君が生まれることに……! 何としてでも食い止めなければなりませんわ。 頑張ってくださいクラミー」

 

 「……ステファニー・ドーラ、あなたどっちの味方なの?」

 

 

 エルキア大聖堂で行われるゲーム。 クラミーが用意したのは、巨大な盤面に片側十六個の駒を設置したチェス。

 人類種の未来を担う国王が決まる瞬間を一目見ようと野次馬たちが大聖堂に集まり、中はかなり混雑していた。

 

 

 「……さっきからギャーギャーうるせぇな。 ちっと黙らすか」

 

 「……にぃ、おねがい」

 

 「あいよ、実際こういうのじゃ俺は白には勝てねぇ。 任せっきりになる手前、こんぐらいは俺がやらねえとな」

 

 「何を————」

 

 

 

 ————や か ま し い。

 

 

 

 『……ッッ………!?』

 

 

 空が一言発した瞬間ステフをはじめ、周りでやかましく騒いでいたギャラリーやクラミーまでもが口を閉じた……いや、()()()()()()()

 まるで下から顎をかちあげられたように、あっかんべーをしていたら舌でも噛みそうだ。

 言葉の重み……なのだろうか、何にせよ空の発した三つの音声は確かな質量を持っていた。

 それによって起こされた強制的な沈黙。 これには魔法を使って遠くで見ていたフィール・ニルヴァレンも絶句した。

 

 

 「人の話は黙って聞く。 こんなことガキでも知ってるジョーシキだぜジョーシキ」

 

 「…にぃ、こんなこと、できるなんて……白も、しらな、かった……」

 

 「だって向こうじゃ使う機会無かったからな。 黙ってたことは謝る。 でもな————」

 

 

 白の身長を超えるほどに伸びた髪を優しく(くしけず)りながら、空は口角を吊り上げた凶悪な(かお)を浮かべた。

 

 

 「————これで対戦相手を含めた全員が俺に対して何らかの印象を抱いた。 それ自体は大小様々で恐怖、忌避感、畏敬、もしくは漠然とした興味や好奇心といった風に違いはある。 だが、ここではその焼き付けられた印象が大事なんだよ」

 

 「………?」

 

 「人間ってのはな、()()()()()()()に目が行きがちなんだ。 まあ同然だわな、俺だってそうだし」

 

 「…注目…させる、ため……?」

 

 「ああ。 そんで、その注目してる対象がとんでもない強さを持っていると理解したら、連中はかなりの贔屓目で判断してくれる。 セコいっちゃあセコいが……ま、これも勝負のうちだ。 あとは、相手がボロを出してくれりゃあラッキーなんだが」

 

 「…にぃ、これ終わったら……ごほーび、ぷりーず…」

 

 

 報酬次第でどこまでも頑張れるのが白だ。 傭兵のような行動原理だが、報酬の渡し手が誰でもいいという訳でもない。 (そら)だからこそなのだ。

 むんっ、とやる気を(みなぎ)らせた白に空は変わらぬ頼もしさを感じ、とびっきりのご褒美をあげようと決めた。

 

 

 「おう、何でも幾らでも全部叶えてやる。 頑張れよメイドさん」

 

 「…なん、でも……いくらでも………ぜん、ぶ…………ふふっ♪」

 

 (ソラ、ソラ! 口が開かないんですの! 何事ですのこれ!)

 

 

 やはり妹には甘々なお兄ちゃんの空であった。

 しかし、お忘れだろうか。 今ここにいる(空と白を除く)全員の口が開かない状況であることを。 しかも、その原因が無視するどころか、あまつさえ国王選定の場でいちゃついているのだ。

 ギャラリーの中には血の涙を流している男たちがちらほら見える。 何もわからないまま強制的な沈黙を強いられ、混乱している最中に見せられたのはバカップルのそれ。 軽い拷問であった。

 

 

 「……あ、黙らせたままなの忘れてたな。 悪い悪い、『口開いていいぞ』」

 

 「……ッ…ッ…ソ、ソラ! あなたいったい何しましたの!?」

 

 「うるせーから黙らせただけだよ。 そんな取り乱すことでもねぇだろ」

 

 「…にぃ……ふつう、けっこう…あせる、よ…?」

 

 「えぇー、ほんとにござるかー?」

 

 「ほんとでござります! ……って、変な喋り方しちゃったじゃないですの!」

 

 

 空の妙なボケと、焦りから来る変なテンションのせいで口調がめちゃくちゃになりかけるステフだったが、取り敢えず元凶の男に当たり散らすことで落ち着きを得た。 当たり散らすと言ってもぐるぐるパンチくらいだが。

 

 

 「えー、オッホン。 では、改めまして———これより国王選定ゲームの開始を宣言致します。 両者は壇上へとお上がりください」

 

 「このチェスは駒が意思を持っているわ。 通常と違う所はそれだけよ。 ま、せいぜい足掻きなさい」

 

 「成る程、確かに王を選定するに相応しいゲームだ。 てな訳で白、ガンバ」

 

 「…マジです(car)………うそ、がんばる…っ」

 

 

 白も冗談を言えるほどには余裕があるらしい。 何より見返りが本人にとって破格すぎるのだ。 白は今、何十億通りものパターンを全て脳内処理し終え、そのあとの兄に求める諸々の『お願い』を考えていた。

 ふんす、と自信満々な態度で盤面へと向かう。

 

 そんなのほほんとしたやり取りを気に入らないと思うのがクラミーである。 別に今でなければ気にもかけないが、このゲームは人類種にとっての生命線を決めるもの。 そして此処はクラミーが考えに考えた(すえ)に時間と労力をかけてやっと辿り着いた場所だ。

 こんな目の前にいる何も考えていない馬鹿どもに任せていいことじゃない!

 この一戦に人類種の未来がかかっているんだから、あんな巫山戯た連中になんて絶対敗けない!

 

 

 「————ッ」

 

 「……お、あっちもやる気充分みたいだぜ。 手ぇ抜くなよ白。 それは覚悟決めて此処に立ってるあいつにとっての最大の侮辱だ」

 

 「…ん、さいしょ、から……フル、スロットル…!」

 

 「さて、どうせならドンパチ派手に(はや)そうぜ。 その方が()()()だろ」

 

 「……勝つわ。 あなた達になんて絶対負けない!」

 

 

 

 火蓋が切って落とされた。

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 

 「B2ポーン、B4…」

 

 

 ズゴゴゴ…と、確かに口にした通りの場所に兵士(ポーン)が動いた。

 いつもならクリック一つで自在に駒を操れるが、本当に『意思を持つ』とはこれだけなのか?

 そんな空の予想は、次の瞬間見事に的中した。

 

 

 「ポーン7番、()()

 

 

 クラミーの声に反応したポーンが、()()()動いた。

 

 

 「…………」

 

 「へぇ……」

 

 「はぁ!?」

 

 

 三人の反応はそれぞれ違う。 白は完全無視、空はおもしれぇとばかりに口角を吊り上げ、ステフは「はぁ!?」である。

 それを見て、クラミーは嗜虐的な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

 「言ったでしょう、この駒は『意思を持つ』って。 駒はプレイヤーのカリスマ、指揮力、指導力、そして王としての資質に反映して動くの。 つまり今のこの現状は、あなたより私の方が一マス分上ってことの証明なのよ」

 

 「良いですわクラミー、そのままこの二人を倒してください!」

 

 「ステフ、お前所有物(モノ)の分際でご主人様(オレ)(がわ)に付かねえとは……後でたっぷりお仕置きしてやる。 覚悟しとけよ、性格が変わるぐらいの」

 

 「それはお仕置きではなく拷問! それ拷問ですわ!」

 

 「大して変わりゃしねぇよ。 痛みと快楽とどっちがいい?」

 

 「……そう。 あくまで巫山戯るつもりなのね。 いいわよ、そっちがその気ならこっちだって好き勝手に動くわッ!!」

 

 

 クラミーが浮かべるのは怒りの形相。 それを見て、空は……。

 

 

 「眉間に皺寄せて……可愛い顔が台無しじゃねぇか。 それにせっかくのゲームなんだ、楽しんで何が悪い」

 

 「……ついに開き直ったわね。 今のでよく分かったわ。 あなたが人類のことなんか何一つ考えていないことをね!」

 

 「馬鹿抜かせ、人類種云々はこのゲームが終わった後の事だろうが。 勝った後の事ばっかり考えて目の前のゲームに手が着かないとか……間抜けにも程があるだろ? なあ、お前に言ってんだぜ、クラミー・ツェル。 白と戦ってる最中に俺と呑気に喋ってていいのかよ」

 

 

 そう、当然のことながら会話の最中でもゲームは続いている。 集中力を欠いた指揮がまともな結果などもたらすはずがない。

 ハッと盤面に意識を戻すクラミーだが、既にかなり追い詰められている。

 最初から前へ前へしか指示を出していなかったツケが回ってきたらしい。 白は一見不利に見えるこの状況で着実にクラミーをチェックへと追い込んでいた。

 そして、ついに———

 

 

 「女王(クイーン)、H5………チェック…」

 

 「チィ…ッ!」

 

 「言っただろ、『目が行きがち』だ……って。 お前は結局、最初から最後まで俺に釘付けだった訳だ。 いやぁ、男冥利に尽きるねぇ」

 

 「まさか……これを見越して…黙らせたんですの?」

 

 「さあ、どうだろうな」

 

 「くっ……!」

 

 

 白の技量に圧倒されつつあるクラミー。 しかし、実力でここまで押されたことは悔しいが、クラミーにはまだ余裕があった。

 なぜなら———

 

 

 「んじゃ、ここから一気にチェックメイトだ」

 

 「……ダメですわダメですわ、このままじゃこの二人の暴君治世ががががが……!」

 

 「D2ポーン、D4…」

 

 

 ———動かない。

 指示を出した駒が動かないのだ。 

 それはまるで白の命令を拒むような、明らかな拒絶の態度。

 これに対して空は驚きながらも納得していた。

 成る程、意思を持つ駒とはそういうことか……と。 それと同時に、白が()()()ことも悟った。

 

 

 「……………………」

 

 「フフッ、無様ね。 わざわざ死にに行く駒がいる訳ないでしょ」

 

 

 動かない、動かない、動かない。

 こうすれば勝てると導き出したパターン。 その全てに一回は含まれる手『犠牲(サクリファイス)』。 本来のチェスは犠牲を囮にして他の駒の(みち)を切り拓く。

 それゆえに打てる手の数、その総数は無量大数以上の膨大な量がある。 だからこそそれを全て読み切れる白は全世界のチェスプレイヤーの中で最強だった。

 だが犠牲が使えないとなると、打てる手はかなり絞られる。 初期状態ならばいくらでもやりようはあったが、ここまで動かした後だと打つ手は無いに等しい。

 

 

 「……ごめん、なさ…っ……にぃ、ごめん…なさい……」

 

 「おう、よく頑張ったな白。 あーあーもう泣くな泣くな、まだ『 』(くうはく)が負けた訳じゃねぇだろ。 白が行き詰まったなら俺が受け持つ、今までと一緒だ。 あぁ、それと————」

 

 「…っ……?」

 

 「————兄ちゃん今からちょっと雰囲気変わるけど、あんまり引かないでくれ。 ……ははっ、何心配そうな顔してんだよ。 安心しろ、白のおかげで勝ちは見えた」

 

 

 そう言う兄の眼は……真紅に染まり、瞳孔が縦に割れていた。 まるで爬虫類を思わせる目だった。

 自分の頭を優しく撫でてくれる兄の背中は、今までよりも更に大きく見え、そして何より頼もしかった。 

 いつもと同じの凶悪な笑みに、不覚にも見惚れたのは秘密だ。

 顔が真っ赤になっていたのを後でステフに指摘され、布団にくるまりゴロゴロするのは余談である。

 

 

 「あら、今度はあなたが相手? いいわよ、そこの妹みたいに泣かしてあげる」

 

 「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。 まあ尤も……『(オレ)』が相手をする以上、お前の敗北は確定事項だがな」

 

 

 そこに居たのは圧倒的な威圧と絶対に勝てないと確信させる程のカリスマ性。 着ている衣装は燕尾服という従者なのに纏うのは自分とは段違い……いや、比べるのも烏滸がましいほどの風格。

 思わず跪いてしまいそうな、完成された王の姿だった。

 

 

 「(オレ)が直々に相手をするのだ。 せいぜい愉しませろよ小娘。 その小賢しい小細工を含め、貴様の力を限界まで振り絞れば……或いは(オレ)に触れることが出来るやもしれんぞ」

 

 「…は、ははっ……なによ、それ。 冗談じゃないわよ……」

 

 「どうした、我の姿に見惚れて言葉も出ぬか? 良い良い、本来ならばその不敬により我が手ずから調教してやるところだが、特に赦そう。 遠慮せずに掛かって来るがいい。 愛でてやろう、森精種(エルフ)に組した道化よ」

 

 「これ誰ですの?」

 

 

 今日、ディスボードに正史世界の歴史の中で最古の王のチカラを持った青年が、その本性を現した。

 ちょうどその頃、遥か彼方に聳え立つ巨大なチェスの駒の上で、一人のショタ神が思いっきり吹き出したという。




さて、かなり無理がある爆☆誕でしたが……。
仕方ないよねーもともと結構無理のある組み合わせだったしーこうでもしないとAUO成分足りないしー。
はいごめんなさいm(_ _)m

ステフはどんな感じでお仕置きしてやろうか。
緊縛? 鞭? 三角木馬? 寸止め?

ダメだ、考え方がどんどんcv杉田さんのドSマスクになってきてる…。


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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我が愛は破壊の慕情

遅くなってスンマヘン。
頑張って金欠鬼なりの王様を書いてみました。
調子に乗った変態×機嫌の良い愉悦部部長=今話の空ガメッシュ
ギルガメッシュとは少ーし違いますがご了承をば。

ではどうぞ↓


 「(オレ)の愛しい(いもうと)を泣かせ、あまつさえ謝罪せず傲慢にもつけあがるその不遜……寛大な我をしても赦せんな。 決めたぞ————」

 

 

 今までとは全く違う雰囲気の空は、白を泣かされたことに憤っていた。

 だが、その怒りをただ相手にぶつけるだけでは面白くないので、ジワジワと真綿で首を絞めるように追い詰めてやろうと考えたのだ。

 空は自分が鬼畜であることを自覚している。 その上で相手の反応を愉しむようなロクデナシであることも理解している。

 だが———

 

 ————愉悦に於いてオレに自重は無え。

 

 ゆえに何処までもサディストで在ろう。 そして何処までも調教を愉しもう。 愛する者たちをオレなりのやり方で愛でるのだ。 たとえ肉親であろうと関係無い。

 

 全て総て凡てオレのものだ。

 

 強欲? 結構。 節操無し? 大いに結構。

 ()()()()()()()()!!

 

 

 「————クラミー・ツェル。 お前を愛でてやろう。 欣喜雀躍(きんきじゃくやく)せよ、これは名誉である」

 

 

 容赦無く、慈悲無く、加減無く。

 お前を覆うヴェールを引き剥がし、新たな扉を開かせてやろう。 無論のことお前の主人も共に…な。

 その奴隷めいた卑屈な……しかしどこかに野望を抱く憐れな姿。 一度バラバラに壊して再構築してやろう。

 ツェル家の娘というお前を砕き、ただのクラミーとしてオレの横に侍らせる。

 

 それが最初の調教だ。

 

 

 「……さて、盤上に(かしず)く我が駒どもよ。 貴様ら揃いも揃ってまこと無能よな。 台の上に座り込み、されるがままにされていて何が兵士か! 何が騎士か! 挙句敗けることを前提とし、命令すら無視するとは呆れたぞ」

 

 

 視線を向けられただけで重圧が襲ってくる。

 白は頬を朱に染めトロンとしている。 ステフはキャラがガラリと変わった空から感じる威圧に内股を擦り合わせ熱い息を吐く。 敵側であるクラミーは、空のあまりの存在感に息が詰まりかけて口をパクパクさせている。

 離れたところで観戦しているフィール・ニルヴァレンは、原始的な恐怖により失禁しそうだった。

 

 空ガメッシュ恐るべしである。

 

 

 「貴様らも戦う者であれば勝利を掴もうと獅子奮迅するのが当然だろう。 身を粉にせずしていったい何が成せるという。 犠牲(サクリファイス)など名ばかりにすぎん、兵士(ポーン)女王(クイーン)に勝てないなど誰が決めた? 要は貴様らが恐れているだけであろうが」

 

 

 青年らしさを残しながらも王としての厳とした態度。

 服装こそ従者だが、風格はこの場の誰よりも王だ。

 何処までも傲慢で、それゆえに雄々しいその姿。

 そして———

 

 

 「恐れるな……とは言わん。 だが、貴様らは一人で戦うのではない。 背後には戦友が控え、さらに(オレ)が指揮するのだ。 負けるなどあり得んし、何より(オレ)が赦さん」

 

 

 ————そして空は右手を前に出し、口角を吊り上げてこう言う。

 

 

 「()すな! 立て、立って闘え! この戦に勝利した暁には貴様らに褒美をくれてやる。 金でも土地でも女でも、何でも構わんぞ。 そら、貴様らも漢なのだ、ヤル気が出てきたであろう」

 

 

 これから首でも刎ねられるんじゃね?

 そんな空気が一変し、勝てば何でも褒美を貰えるという男には堪らない状況。

 白の陣地の駒たちがウズウズと身じろぎしだし、前方の兵士に関しては既に直立している。

 チョロい。

 

 

 「ふむ、では行くぞ。 女を泣かせた罪は勝利をもって償え益荒男(ますらお)たちよ!!」

 

 『オオオオオオオオオオオオォォォオッッ!!!』

 

 

 凄まじい(とき)の声を上げ、褒美の為に奮闘する戦士たち。

 そして空は、その浅ましくも人間らしい欲に忠実な行動に愉悦しながら的確に指示を飛ばす。

 白はそんな空の腕に抱かれてウットリしており非常に危ない構図になっている。 しかもすぐ後ろには自分のご主人様の威圧で感じる変態(ステフ)がいる。

 諸々が心配になる画面(えづら)だ。 こんなのが王族でいいのかエルキア。

 

 

 「さて、どうするクラミー・ツェル。 お前は呑まれるだけの雑種か? 違うと言うのならば全力で抗え、そしてお前の覚悟を見せろ」

 

 「……っ…好き勝手言ってくれるわね。 私たちがどんな思いでここまで来たのかも知らないくせに…ッ」

 

 「ああ、知らんな。 ゆえに申してみよ、聞いてやる。 我に拝聴されるという身にあまる栄誉に打ち震えるがいい小娘」

 

 「ほんっと……ムカつくわね」

 

 「()()

 

 「く…っ。 い、イマニティには、これしか道がないのよ。 あんたも知ってるでしょ、前国王の愚かな采配のせいでこの国はもう後が無い。 十六種族(イクシード)位階序列最下位の人類種(イマニティ)は、少しでも上の序列の種族の庇護下に入って一切を閉ざさないと……今度こそ滅んでしまう」

 

 「続けよ」

 

 「それだけは阻止しなきゃいけないの。 魔法に勝てない以上、魔法が優れている種族に助けを乞うしか生き残る道がないのよ……ッ」

 

 

 確かに、人類種は精霊回廊というこの世界特有の成分は持っているものの、魔法を使えないし()()()()()()()()()()()

 古の大戦を生き残ったとはいえ、他の種族からすれば力も弱く魔法も使えない完全な劣等種であった。

 そして、クラミー自身も売られた身である。 奴隷として森精種(エルフ)に売られ、碌な食事も寝床も与えられず、衣服も最低限かつ粗末なものばかりだった。

 幸いにもエルフの男たちは巨乳が好きなため、身体を求められることはなかったが、それでも何度部屋の隅で涙を流したかわからない。

 そして何時しか絶望した。 人類種は所詮こんなもの……と。 フィールに出会ってなければ、生きる気力さえ無くしていただろう。

 

 

 「私はもうあんな思いをするのは嫌なのよ! フィーがいなかったら私は生きられなかった。 それだけ人類種は弱いのよ! 力ある者の庇護が無いと、今度は人類種全員が私と同じ目に遭っちゃう……ッ」

 

 「なるほど、お前はお前なりに人類の未来を考えていたということか。 しかし解せんな。 お前のような立場は傀儡にされやすい。 それを知らぬお前でもあるまい」

 

 「傀儡になんてさせないわ。 それだと本末転倒じゃない」

 

 「その通りだ。 だが、森精種との契約を如何にしてか反故せぬ限り、魔法を感知できんお前には無理………いや……ああ、成る程な。 お前の主人か」

 

 「————ッ」

 

 「ふむ、その反応を見るに主人と言うより親と言った方が適切か? しかし森精種の上層部を誤魔化すとは、お前の親はなかなかやり手のようだ。 このチェスにも何か仕込んでいるのだろう? 良い良い、構わぬ、遠慮するな。 存分に使うがいい」

 

 「……私は、あなたに勝つッ!」

 

 

 黒い陣営の王の駒が鈍く光り、一マス前に踏み出す。

 すると、黒の駒たちも同じように光り始め、隊列を組みだした。

 空はその現象を見てニヤリと嗤い、一体の兵士の駒に相手の兵士を斬り倒すように命じる。

 

 しかし————

 

 

 「ほう……」

 

 「フッ……」

 

 

 ————()()()()()()()()()()

 斬り結び、鍔迫(つばぜ)り合いになった途端、剣と剣との交錯部から侵食されるように……否、事実侵食されたのだろう。

 なぜなら、染まった駒がこちらに敵対しているのだから。

 

 

 「ふむ……さしずめ『洗脳魔法』か」

 

 「…………」

 

 「ああ、審判よ。 止めんで良いぞ。 この程度のイカサマを告発して得た勝利など旨味の欠片も無いからな」

 

 「……どういうつもり」

 

 「ッハ、言ったであろう、旨味が無いと。 それにこんなところで止めてしまっては調教にならんではないか」

 

 

 あくまで調教のつもりらしいこの王様。

 どれだけ王としての風格を持とうが根は空という変態なのだろうか。

 それとも愉悦を求めるとてもイイ性格をした王様なのか。

 

 だんだんイライラしてきたクラミー。 公衆の面前で自分が森精種と結託していたことも、過去に奴隷としての経歴があったことも、こうして魔法によるイカサマをしていることも、全て曝け出させられた。 もう丸裸もいいところである。

 しかし、そこをさらに追い詰めるのがこのドS。

 

 

 「貴様ら、よもや敵の洗脳になぞ屈するなどとは言わんだろうな。 貴様らの我欲とはその程度か? 己が渇き望むものは洗脳に膝を折るほどちゃちなものなのか?」

 

 この王は動揺しない。

 動じないし揺らがない。

 何処までも()を貫くのが王だ。

 

 「違うだろう。 貴様らが手を伸ばすものは勝利の先にこそある。 言ったであろう、『座すな』と、『立って闘え』と。 洗脳ごとき己の欲望で塗り潰せ! 自らを律しきれぬなど、貴様らそれでも男かァ!!」

 

 『オオオオオオオオオオオオォォォオッッ!!!』

 

 「嘘っ! まさか、効いてないの!?」

 

 

 怒涛の勢いで洗脳など効かぬわぁ! とばかりに攻め込んでくる白い軍勢。 驚いたことに、本当に効いていなかった。

 あの森精種の魔法がである。

 しかし理屈自体は簡単だ。 駒たち個々の意志力が、洗脳魔法を超えたというだけのこと。

 それはもう狂気とも言える()の強さであった。

 そして、この事態を生み出したのは目の前の青年。 

 人類種(イマニティ)だ。

 

 

 「あ……あり得ない。 人類が、魔法に…勝てるわけ……ない」

 

 「その固定観念は今砕かれた。 どうだ? お前の全てを曝け出し、全力の上でイカサマまで使って尚倒せぬ相手がいる気分は。 お前が絶望した人類の力の弱さ、同じく人類の力の強さによって未知へと変えられた。 ああ、それはもはや希望とも言えるな」

 

 

 どさりと座り込み、呆然と焦点の合わないめで何処かを見つめるクラミー。 全てを丸裸にされて、その上で自分を粉々に壊された。

 自分が今まで頑張ってきたことは、いったい何なのだ。

 何のために……ここまで来たのだ。

 そんな思いが自分を取り囲む。

 

 盤の上の黒陣営の王の駒にヒビが入る。

 ピキピキと全身にヒビが走り、遂にはバイザーに———

 

 

 ————パキンッ。

 

 

 自壊した。 目的意識を(うしな)った王。 それはもう国が機能しないことを意味する。

 これ以上ないくらいの敗北の宣言であった。

 クラミーは俯き、茫然自失。

 審判は、高らかに宣言した。

 

 

 「勝者、『 』(くうはく)!!」

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 「……ふぅ……あー、疲れた、マジ疲れた。 暫くは仕事したくねー」

 

 

 元に戻ったのか、いつもの口調で働きたくないと言う空。 白は自分の兄に蕩けそうな熱い視線を向けて胸に頬ずりしている。 エロい。

 ステフはイッたのかビクビク痙攣している。 エロい。

 空は今すぐ二人をいじめ倒したいという衝動に駆られるが、その前にまずクラミーの調教がまだ済んでいないことを思い出し、白を抱え、ステフを引きずりながらクラミーの元まで歩いて行った。

 

 

 「うむ、エロとはやはり偉大だな。 疲れが一気に吹っ飛んだぜ。 さあて、あとは陥落寸前のおにゃのこを攻め落とすとしましょうか」

 

 

 鬼畜、変態、ロクデナシ。

 勇者枠より悪役の方が映える主人公はこいつくらいではなかろうか。 しかも自分の性癖を自覚しているから世話ないのである。

 

 ぐるーっと周って行き、見つけたのは未だペタンと座り込んでいるクラミー。

 ギャラリーや審判もいなくなり、ガランとした大聖堂。

 薄暗く寂しい雰囲気の中、空はクラミーに近づくと————

 

 

 「俺らの勝ちだ」

 

 

 ————後ろからギュッと抱きしめて、よーく聞こえるように耳元でそう言った。 

 すると、クラミーは我慢していたものが溢れ出すようにポロポロと涙を零し始めた。 今まで頑張って堪えていた不安や重圧、その他諸々は綺麗な雫となり、目元から止めどなく流れていく。

 嗚咽が漏れ、空の体を拳で叩くが、力が入らなかった。

 空も泣かせてしまった以上、慰めるのは自分の責任と思い、好きなだけ胸を貸してやった。

 背中を優しくさすってやり、今までよく頑張ったと言うと、クラミーは声を上げて涙が枯れるまで泣き続けた。

 

 

 「……良かったのですよ、クラミー」

 

 

 泉に魔法で遠視をしていたフィールは、クラミーを慰める特権を取られたことに嫉妬はしたものの、クラミーが辛い状況を脱することができたことに安堵を覚えていた。

 やはり主人というよりは母親のようである。

 

 

 「さて、私もクラミーを慰めに行くのですよー」

 

 

 クラミーは渡しませんっとばかりにダッシュでエルキアに向かうフィールなのであった。

 御歳五十二歳のエルフさん。

 不老長寿とあってか、やはりパワフルだ。

 

 

 「クラミー! 今撫で撫でしてあげるのですよー!」

 

 

 




・欣喜雀躍…嬉しくて小躍りすること。

さて、クラミーをマッパにひん剥いて墜とした訳ですが。
どう書いてもチョロインになっちゃうよなんでだろ?
まあクラミーだから仕方ないよね(暴論)

感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


※サーセン、フィールは五十二歳でしたので修正しました。六十五とか盛りすぎたぜ殺される……っ!


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ステフにお仕置き&戴冠の儀

嗚呼ぁ、戴冠の儀の演説考えるのしんどかったぁ〜。
夜のテンションに任せて勢いで書いたけど、矛盾とか無いといいなぁ。
それにしてもノゲノラのヒロインたちってなんであんなに可愛いんやろなぁ。
『おっぱい』は淫語に入らないと思います!

ではどうぞ↓


 「………ねぇ、フィー」

 

 「はーい、なんですかクラミー」

 

 「……なんでこうなったわけ?」

 

 「へ? なにかおかしいところがあるのですかー?」

 

 「有るわよ、大有りよ! なんで私たちがさっきまで敵だった奴らとお風呂に入ってるのよッ!?」

 

 

 ———カッポーン

 そんな効果音がお似合いな、エルキア城の大浴場。

 そこには今、つい先ほどまで国王の座を賭けて戦っていた空たちと、クラミーとその主人フィール・ニルヴァレンがいた。 裸で。

 もう一度言う———()で。

 いやまぁ、服を着たまま風呂に入るのは基本無いが、それでも少しおかしい。

 どうしてこうなった。

 

 

 「別に恥ずかしくねーだろ。 今の俺女だし」

 

 「ええそうね、そのこと自体意味不明だけど! 普通もっと険悪ムードになるでしょうが!」

 

 「んなこと言われたって、なあ?」

 

 「はーい、なーんにもおかしくないのですよー」

 

 「フィーまで何言ってんのよぉぉぉおッ!!」

 

 

 少し離れたところで白はステフに髪を洗ってもらっており、空とクラミーとフィールはお湯に浸かっている。

 その中で一人だけパニック状態のクラミーは、滑稽を通り越してとても可愛らしく思えた。

 空は例によって例のごとく女体化して、見た目は女性、中身はおっさんというなんとも羨ましい状態になり、目の保養に(いそ)しんでいる。

 それにしても目の前にいるこの二人、体型が驚くほど綺麗に相反している。

 フィールは女性なら誰でも羨むような立派な双丘と安産型のお尻を持っており、もともとのおっとりした口調もあってか母性が半端ない。 抱きしめられたいタイプの女性だ。

 クラミーは逆にするんぺたんな体型だ。 だが、ガリガリではなく、折れそうなほどの細い腕にスラリとした美脚を持っている。 こちらは抱きしめたいタイプの女性だ。

 そんな風に、見た目はそこそこの美人な空が、おっさんの心でうむうむと頷いている。

 しかし、遠目でそれを見ていた白が微妙な視線を向けているのを感知したので、あとで白にたっぷりゴニョゴニョしてやることを決意した。

 

 

 「……もう、いいわ。 頭痛が痛い」

 

 「クラミーは深く考えすぎなのですよー。 もう少し気楽にすれば良いのですよー」

 

 「そうだぞ。 そもそもゲームは決したんだからな、張り詰めた気を抜くために今ここにいるわけだし。 リラックスしときゃ良いんだよ」

 

 「なんであんたたちは息ぴったりなのよー! 互いのことなんて全く知らないでしょうが!」

 

 「クラミー、だんだんツッコミがワンパターンになってきてんぞ」

 

 「うっさい!!!」

 

 

 湯船に浸かったまま、水面をバチャバチャと叩きながらクラミーは顔を真っ赤にして心の中で叫ぶ。

 本当になんでこうなったのー!? と。

 まあ無理もないと言えばそうであり、仕方がないと言えばそうである。

 結局は全て成り行きの問題というか、目の前の見た目は美人なおっさんの変態性を恨めとしか言いようがなく。

 挙げ句家族であるフィールまで悪ノリしている今ではいくら抗弁を述べたところで意味はない。

 どことなく性格が似ているこの二人を相手にして勝ち目など最初(ハナ)からありはしない。

 つまるところクラミーはどうしようもないのだ。

 

 

 「……にぃ、あんま、いじめちゃ……メッ…」

 

 「そうですわよ、ソラの頭は世界の法則よりちんぷんかんぷんで、お腹は暗黒物質の塊を丸焦げにした以上に真っ黒なのですから。 あなたについていける人なんてシロぐらいしか……」

 

 「てめぇステフ、マジで一回()めてやろうか」

 

 「あら、暴力の類は盟約によって禁じられているので無理ですわよ」

 

 「誰が暴力で締めるっつったよ。 締めるってのはいわゆる躾だ。 痛みでの躾なんざ甘すぎんだよ」

 

 

 そう言うと、空はおもむろに王の財宝を使い、神狼繋ぐ縛鎖(グレイプニル)()のステフを縛り上げた。

 もちろん肌に傷がつかないように緩めにだが。

 そして今度は手元に少し大きめの容器を取り出した。 容器の中身はトロリとした液体で満たされており、ほのかに甘い匂いを放っている。

 白は幼いながらも愉悦の表情を浮かべてステフを見ている。 クラミーは色々とツッコミどころが多すぎてフリーズし、フィールはそんなクラミーの目を両手でそっと隠した。

 

 

 「ここから先は十八禁だァ、侵入禁止ッてなァ! いやらしくビクンビクン痙攣しつつ鳴いてェ、無様に快楽の彼方へ————イッちまいやがれ!!」

 

 「ひぃっ、んあああああああぁぁ!!」

 

 

 どこぞのセロリを真似たのだろうか、妙にノリノリの声音で容器の中身をステフにぶちまける空。

 詳しい描写は無理なのでここから先は皆様の妄想内でお好きに想像してくれれば良い。

 そう、詳しい描写は無理なのだ。

 無 理 な の だ 。

 

 それにしても、鎖で縛られ全身をトロリとした液体でヌタクタにされているにも関わらず、何故笑顔……いや悦顔を浮かべているのだろうか。

 グレイプニルは正確には鎖ではなく繋ぐ物という概念の権化に近い。 だが、今回は敢えて鎖という表現をしよう。

 その効果は伝承にある通り神殺しの狼を縛り縫い付けるほどのもの。 

 その語意は『貪り食うもの』である。

 空がなぜこの宝具を開帳したのかはそのあたりの意味にある。 優しくキツく縛り上げられ、全身をトロトロにされたなんとも扇情的なその姿。

 ステフは、何故か体の表面をピリピリとした痺れが走るのをくすぐったく感じ身をよじるが、その度に自分を縛り上げている鎖に締め付けられ艶声をあげてしまう。

 空はそんなステフを見て満足そうに頷き、さらに黄金の波紋の中から電動歯ブラシ(毛筆柔らかめ)を取り出す。 その数四本。

 そして空は取り出した歯ブラシの内二本の電源を入れて両手に持ち、ぷるんぷるんと揺れているステフの双丘、その頂点にぷっくりと咲く桃色の突起へとゆっくり押し当てた。

 

 

 

 「ひあああああああああああああああ!!」

 

 「ふはははは! ()い! ()い鳴き声を上げるではないか!」

 

 

 いつの間にか王様モードになっていた空にステフはさらにいじめられるのだが、そこはそれ、さすがにアレなので割愛するとしよう。

 ちなみに、残りの歯ブラシ二本をどう使うかは秘密である。

 

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 「ねえ、私たち今回のことでエルヴン・ガルドに報告しに行かなきゃならないんだけど」

 

 「おう、行ってらっしゃい」

 

 「……いって、ら…」

 

 「…………………………………」

 

 「どした? 拾い食いして腹壊したような顔して」

 

 「うるっさいわね! ていうかどんな顔よそれ! ……ああもうっ、あなたの相手してるとこっちが疲れるわ」

 

 「……嬉しい…くせに……」

 

 「………盟約さえ無ければぶっとばせるのに……!」

 

 

 嗚呼、本当にムカつく。

 でもそれに反応して喚いても、こいつは何故か慈愛のこもった目でこっちを見る。

 なんなのよ、もう。 ペースが崩れるったらありゃしないわ。

 私は人類種を生きながらえさせるために森精種と手を組んだ。 そしてそれすら反故にするためにとても面倒くさい契約も結んだ。

 私は本気でこの国を救おうとしたのに……こいつはそんな私を簡単に押し退けて王位に就いた。

 いや、正確にはこいつらね。 

 この兄妹は異常なほどに強い。

 兄もそうだが、特に妹。 

 フィーの魔法で強化された駒を使っても、それをさらに上回るほどのゲームの腕。 あんな特殊なチェスでなければ魔法があっても勝てたかどうか怪しい。

 純粋なゲームの実力なら圧倒的に私が下回っている。

 そして、兄の方は私の理解を超える人間だ。 否、あれはもはや人間と呼べるのかしら。

 あの風格、眼、手腕、そして大浴場でも見せたあの金色の波紋。

 本人曰く『貰い物』らしいけど、明らかに人智を逸している。

 

 

 「……少しは警戒しないの? 私があんたのそのチカラを報告するかもしれないのに」

 

 「あぁ、その辺は心配してないから」

 

 「………何でよ」

 

 「逆に聞くが、どう報告するんだ? 相手のイマニティは金色の波紋を出す魔法を使っていましたってか? そんなもん人さま見下すのが普通の老害(おいぼれ)どもが信じるかよ。 ましてやエルフだぜ、魔法の全てを知っているようなプライド高い奴らが()()()()()()ものを認めたりするわけねぇだろ」

 

 「再現……できない…?」

 

 「ま、何にせよ報告しようがするまいが変わんねぇんだよ。 人類の王位も勝ち取ったし、もうバレても問題無いからな」

 

 

 エルフが再現出来ない魔法……そんなものがあるのか?

 一番森精種(エルフ)という種族の凄さを知っている自分だからこそ疑問に思えた。

 エルフは、腕力こそ弱いが魔法力はピカイチだ。

 (いにしえ)の大戦の記述においても天翼種(フリューゲル)の天撃を、死者こそ多数出たものの魔法で防御するなどの偉業が記されている。

 フリューゲルとは神の尖兵として神より創られし天使(あくま)

 そのフリューゲルが放つ天撃は、星の表面を削り取るほどの威力を持つ。

 そんな馬鹿げたものを防ぐほどのエルフが再現出来ない魔法など存在し得るのか? と。

 

 そして————

 

 

 「はぁ……もういいわ。 適当にそれっぽいこと言えば向こうも納得してくれるでしょうし」

 

 

 ————考えるのを止めた。

 

 これ以上はただ疲れるだけだ。

 そう判断したクラミーは、側で白にモニュモニュと胸を揉まれているフィールにそろそろ戻ろうと声をかけた。

 ちなみにステフは……いや、やめておこう。 本人の名誉のためにも見ないことにしようと思う。

 それにしても、クラミーは空のことをウザいとは思っているものの、怨恨や妬み嫉みなどは一切感じられなかった。

 多分、いろいろと溜まっていた諸々を吐き出してスッキリしたからかもしれない。

 

 

 「フィー、面倒だけど一応報告しなきゃいけないし、もう戻るわよ」

 

 「はー、っい———んぅ——あっ——クラっ——ミー」

 

 「……むぅ……たぷんたぷん、うらやましい……もっと、揉んで、やるっ……!」

 

 「なんと優秀な妹なのか……! イイぞ白、もっとやれ!」

 

 「……誰かこのアナーキーな二人をどうにかしてぇ」

 

 「さて、クラミーも巻き込んで……っと」

 

 「え? いやぁああ!」

 

 

 無秩序とはこのことか。

 巨乳エルフを揉みしだくロリ妹。

 スレンダーな慎乳を優しく揉み揉みする青年(おっさん)

 キマシタワー建設と通報待った無しである。

 

 

 「何で私までー!?」

 

 「知ってるか? 女性ホルモンが分泌されるほど体はエロく成長するんだぜ」

 

 「ちょっ、何言って———ふぁっ——んあっ——!」

 

 

 この後、妙にやりきった感のある顔を浮かべる兄妹と、ヘロヘロになった二人組がいたという。

 

 

 

◆*◇

 

 

 

 「よし、戴冠の演説しなきゃな」

 

 「……にぃ、忘れてた……?」

 

 「正直言うとガチで忘れてました、ハイ」

 

 「……ステフ、は…?」

 

 「観覧席だろ」

 

 

 そんなお前ら本当に元ニートかよと思うほどの非コミュ障ぶりを発揮させながら、空と白は手をつないで城のベランダに備えられた壇上へと向かう。

 ()()()()

 空は左腕にティアラを捻じ曲げた腕輪を着け、白は男性用の冠を髪留め代わりとして着けている。

 これから人類種全員を前に演説するとはとても思えないほどラフな格好であった。

 

 

 「すぅ〜、ふぅ〜。 よし、スイッチ切り替えますか」

 

 「……白、喋るの苦手…だから、にぃ……おねがい」

 

 「了解しました、お姫様」

 

 

 無数の人々が集まる広場。

 そこに集うのは新しい王の言葉を聞こうとする民衆。

 崖っぷちもいいところまで追い詰められたイマニティがすがる一縷の希望。

 エルフの間者を魔法も使われた上で叩き潰したという兄妹にそれを見出す表れだ。

 そして今、絶望の淵に垂らされた一本の……否、二本が絡まって一本になった蜘蛛の糸による演説が始まる。

 

 

 「……さて、御機嫌よう。 親愛なるイマニティ同胞諸君よ。 早速戴冠の儀を終えるためいろいろと語りたいところだが、まずは諸君らに簡単な質問をしよう」

 

 

 眼が、赤く朱く(くれない)に染まる。

 瞳孔は縦に割れ、圧倒的なカリスマが溢れ出す。

 

 

 「何故貴様らはそうまで卑屈なままなのか、(オレ)は甚だ疑問だ。 前国王が愚かで種族自体が水際まで追い詰められたからか? 人類種が魔法を感知することすら出来ない弱小種族だからか? もしそうならば、我の問いに答えよ」

 

 ————貴様ら自身は何か行動を起こしたのか?

 

 

 その言葉に、全員口を噤んだ。

 何故なら、彼らは事実()()()()()()()()()()

 

 

 「歴代の人類種の王が魔法相手に四苦八苦していた時、人類種にとっての何かを失った時、そして前国王が負け続けた時……いったい貴様らは何をしていたのだ? 何もしていないだろうが。 己自身はその場から動かす静観しているだけ、そしていざとなれば口からクソを吐き散らす。 まったく話にならん、論外だ。 何もしない、しようとも思わぬ貴様らが、必死に知恵を絞り人類種という重荷を一身に背負う者を嗤うなど笑止千万」

 

 

 今まで王に縋り続け、甘え倒してきた民衆を空は一喝する。 

 だから貴様らは阿保なのだ、と。

 文句を言う前に、何か一つでも自分から行動してみろ、と。

 

 

 「まさか全ての責任は代表者である王にある、などと(たわ)けたことは言わんだろうな? 阿保どもが、この状況もはや人類種全体の問題なのだ。 雛鳥ですら自ら殻を破るのだぞ、つまり今の貴様らはまだ孵化すらしていないというわけだ」

 

 

 質問はそのまま演説へと変わっていく。

 そして、誰もが無意識下で行っていたことの残酷さをまざまざと見せられ、何人かは地面にへたり込んでいた。

 

 

 「我ら人類種は力無き種族。 ああ、確かに事実だ。 そう、我らは弱者だ。 それゆえに力ある強者に唯一対抗するものを鍛えた。 『知恵』という弱者だからこそ磨ける爪牙を我らは持っている」

 

 「だが、それでも尚敗け続けたのは何故か。 その答え自体は簡単なことだ。 盟約によって殺傷略奪の類が禁じられた今、強者であった他種族も知恵を磨くことを覚えたからにほかならん。 本来我らの専売特許であった利巧さを周りが真似始めたからだ」

 

 「さて、ここでもう一つ質問だ。 何故貴様らは俯き下を向いているのだ。 力ある種族がさらに知性を兼ね備えたからか? それによって勝ち目などもはや有りはしないと決めつけているからか? ————否、だ」

 

 「ここでもやはり、人類種の怠慢が問題となる。 我ら今代の王は違うが、先代までは恐らく王族の親族の内から誰かを選ぶ選挙方式だったのだろう。 確かに王になった以上はそれなりの果たすべき責任と為すべき義務がある」

 

 「だが王とて人の子、失敗や間違いなどザラにある。 貴様らはその度に弾劾をしてきたのだろう。 もう一度言うぞ、貴様ら自身は()()()()()()()()()()()()()? 全てを王に任せ、己が元来持っている牙も爪も磨くことをせず、ただただ無為に腐らせていった。 それが原因だ」

 

 「さて、ここまで一息に諸君らを(ただ)したが、何か異論のある者はいるか?」

 

 

 手など挙がるはずが無かった。

 何故なら全て事実だから。

 実際にこの口は王に対して文句しか吐き出していなかったから。

 それら全てを棚に上げて、今の言葉に反論など誰ができようか。

 

 

 「少し長くなったが最後に一言諸君らに言葉を贈り、それをもって戴冠の儀とする」

 

 

 

 

 ————研鑽せよ。

 

 

 

 

 

 怠けていたなら今からでも磨け。

 人類種であるなら既に当事者、関係無いなど口が裂けても言わせない。

 むしろ気に入らない王なら引き摺り下ろすぐらいの気概を持て。

 それすらできないなら口を開くな。

 前国王は自分なりに国のことを考えて、その上で愚王と罵られた。

 理念は正しくても、人の心は従えない。

 救いがないなら作るしかない。

 自分の救済は自分の力で掴み取れ。

 学べ我が愛子(いとしご)らよ。

 いつの日か諸君らが羽ばたくときを楽しみにしているぞ。




明確な単語を使ってないからR-18の規制には引っかからないはず。
ていうか、もっと過激な描写のある作品なんてザラにあるしね。セーフセーフ。
これでBANされたらどうしようも無い。

白が空気気味だけど、本来の設定で『コミュ障』があるからだいたいこんなもんじゃないかな、多分。
むしろアニメの白は喋りすぎだと思うんだ。


感想待ってまする(ノ*´>ω<)ノ


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