エクスデス先生(仮) (Rakusai)
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エクスデス先生1

 気が付いたら、エクスデス先生だった。

 

 いや、なんのこっちゃと言う話だが、布団に倒れこんで目が覚めたらそうだったとしか言いようがない。

 筋骨隆々とした四肢を青味のかかった甲冑に包み、身の丈は2mを軽く超え、片手には死神の剣と思われる剣も携えていた。

 なお、職業は暗黒魔道師の模様。

 貴様のような魔法使いがいるかと言いたいが、同じFFシリーズのゴルベーザ兄さんも職業魔道師である。

 意外と古くから存在しているようである、筋肉系魔法使い。

 

 話がそれた。ともかく、エクスデス先生なのである。

 森の中でふと意識が覚醒し、色々と混乱した後にとりあえず水場探そうとウロウロ、見つけた小さな泉に姿が映って……。

 俺とはいったい、……うごごご。

 ちなみに甲冑は脱げた。意外と簡単にすぽっと。

 下から出てきた顔は、ディシディアのコスチュームで出てきた悪魔風のアレ。もしくはネオ・エクスデスの先の人。水鏡なので曖昧だが。

 ちなみにこの甲冑、気合を入れたら魔力か何かを材料にして再生成が出来るようだ。

 メイド・イン・エクスデス。……木製?

 

 

 とまあ、先ほどからこんなことを考えつつ泉のほとりでうんうんと唸っている。

 フルフェイスの兜までかぶった全身甲冑の大男が。

 我ながらシュールだ。

 ところで延々数時間、少なくとも太陽の角度が目に見えて変わる程度は座り込んでいるのだが、腹は減らないし喉も渇かない。

 そもそも、この体でなにを食べればいいのかが分からないと、その内に飢え死にか食中毒である。

 エクスデス先生は樹木なので、とりあえず土と水と太陽光があれば生きていけるような気はするのだが……。

 水は飲もうと思うのなら飲めるといった具合で、別に必須でもないかな? と首をかしげた。

 ひょっとしたら食事そのものが不要だったりするんだろうか、この肉体。

 

 人間が、人間? が生きていくのには衣食住が必要だと言うが、衣もとい鎧は自分で作れるし、食は要るかどうかがわからない。

 最後の住居は、何か不要な気がしてならない。元が樹木だし。むしろ俺が建材。将来の夢は立派な家の大黒柱(物理)です。

 

 ……。

 

 でも、オリジナルのエクスデス先生は城を建ててたよな。バリア完備のすごいヤツ。

 これはつまり、家を建てるなら城を目指せと言うことか。さすがに常時ビクンビクン脈打ってる内壁は趣味が合わないけど。

 まあ、住居についても後でいいだろう。

 何となく眠る必要も無さそうだし、身の安全? ハハッ、見ろよこの上腕二等筋を。真空波とか打てるんだぜ!

 

 実際打てた。ちょっとした大木が幹からべきっと折れた。

 

 ……魔道師ってなんだっけ?

 

 

 さておき、結局やるべきことが特にないことが発覚してしまった。

 なので、ちょっと魔法の練習でもしてみようと思う。

 自衛手段としては真空波と死神の剣があれば問題はない気がするのだが、暗黒魔道師としてのアイデンティティが魔法を使えと叫んでいた。

 ジョブチェンジしてから1日たってないけど。

 あれやこれやと試行錯誤して、魔力かなーこれと思ったものをこねくり回し、うろ覚えのFFTの詠唱を試してみたりする。

 

 結果、目の前に出現する一抱えほどの氷の塊。

 

 ずどばぁんと派手な音を立てて泉に落下して、水鏡として機能していた森の貴重な水源をカチンコチンに固めてしまった。

 ブリザドである。

 何か勢い余って岸辺の雑草まで凍らせているがブリザドである。

 すごいね暗黒魔道師。

 

 ……。

 

 そしてファイアとサンダーを避けた俺氏、ファインプレー。火事の元ってレベルじゃねーぞ。

 何にせよ魔法である。黒魔法である。

 せっかくなのでもう一回、今度はこころもち魔力っぽい物を抑え目で使ってみると、小さな氷が出てきてカチコンと小さく地面を凍らせた。

 どうやら威力は調節できるらしい。ちょっと安心。

 ともあれこれで堂々と胸を張って暗黒魔道師を名乗れると言うものだ。思わず笑いがこみ上げてくる。

 

「ファファファファファ……」

 

 あっ、笑い声これ固定なんですね先生。

 

 

 

つづかない?



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エクスデス先生2

 どうも、今日も今日とて森の中、泉のほとりでエクスデス先生をしています。

 腹が減らない喉も渇かない睡眠すらも必要ない。ついでに言うと基本不死身。究極生命体エクスデスの誕生だァァッ!

 

 つまりね、やることが無いんです。

 

 食糧を調達する必要も、安全確保のために縄張りを作る必要も、自衛のために自らを鍛える必要もないから。

 少し前に襲撃してきたクマさんなんて、真空波の余波だけで空を舞いました。噛み付かれても問題はなかったと思います。多分。

 フルプレートだからね。木製疑惑あるけど。

 今のところはモンスター的なアレコレも見かけていないので、この泉の前でボケーッとしている分には身の危険は感じません。

 突如として野生の光の四戦士(暁の戦士でも可)が出てこない限りは大丈夫だと思います。ええ。

 

 もしくは亀。あるいは賢者。具体的にはギードさん。

 

 生まれたてのエクスデス先生を、何か邪悪っぽいという理由で500年も封印しやがった外道亀畜生です。

 さらにさらに、何とか封印を解いた先生に対して暁の四戦士をプロデュースしてけしかけ再封印する徹底ぶり。

 なおかつもガラフが隕石に乗って第一世界にやってきたのも、ギードの差し金な模様。

 

 全エクスデス種の天敵(確信)。

 

 そりゃあカメェェェッー! とか叫びますよ、先生も。

 もっとも、後々にエクスデス先生がやらかしたことを考えると割りと残当な模様。

 と、そんな益体も無いことを考えながら、エクスデス先生になってから数度目の夜明けを見つめています。

 

 

 いやね、その気になれば光合成だけしながら延々と百年もこのままでいられそうなんですよ。

 なにしろ元が植物だけに時間の感覚が人間とは段違いのようで、ぼんやり空を眺めてるだけで一日が終わったりもして。

 時々思い出したように魔法の練習なんかもしているので今はまだ大丈夫だと思うけど、何かしら目的見つけないとボケそうです。

 

 そうそう魔法と言えば先程言ったクマさん相手にケアルの発動に成功しました。ホーリー使ってただけあって、先生ったら白魔法もいける模様。

 試してはいないけど、時魔法も行けるでしょう。デジョンであーれーさせてたし。ディシディア的なテレポ移動は、ちょっと憧れる。

 と、木立の間に鹿を発見。……水を飲んでいるところ悪いけれど、せっかくなので魔法の実験台になってもらうことにしよう。

 

「スロウ」

 

 魔力をひねり出して魔法の名前を告げると、鹿の周囲の空間がぐにゃーと歪んで見えるようになった。

 慌てた鹿が跳んで逃げ出すが、その動きはスローモーションのように遅滞している。滞空時間が明らかに長いのだ。

 そのまま森の奥に消えるのを見送ってもよかったが、スロウ状態で肉食獣に出会われたら寝覚めが悪い。……寝ないけど。

 と、言うことで。

 

「ディスペル」

 

 イメージとともに魔力を放出すると、稲妻のような光線が鹿に向かって飛びパチンとはじけて消えた。

 スロウを打ち消された鹿は、元来の俊敏さを取り戻し木立の奥へと去っていった。

 俺はその結果に満足してうんうんとうなずいてみせる。

 これからも、動物たちを見かけたら何かしら魔法を試してみることにしよう。

 

 

 崇められました。

 

 

 なんでやねん。

 いや、傷ついた動物にケアルかけたり、補助魔法の実験に付き合ってもらったりしたからなんだろうけど。

 ヘイストかけた狼? 野犬? のスピードはすごかったです。はい。

 

 で、気がついたら、俺の周りがアニマルパラダイス。

 

 最近は肉食獣と草食獣が仲良く水を飲みに来ます。野生の本能はどうした、お前ら。

 そして目の前にはそんな彼らが持ってくる、獲物の分け前とか木の実とかが積み重なっています。

 元々動物たちの憩いの場だったのだろう森の泉は、今ではちょっとした祭壇チックに。

 とりあえずレイズかけても蘇生しない動物たちは、腐らせるのもしのびないのでファイアで焼いていただいています。

 ここで美味しくないなーとか、調味料が欲しいなーと思わないのは俺がエクスデス先生だからなのだろう。きっと。

 暫定異世界での初食事が動物からの貢物って、どうなんだろうね?

 

「ファファ……」

 

 思わず笑い声をもらしたら、近くにいたリスっぽい動物がめちゃくちゃビクゥッとしてました。

 迫力あるもんな。先生の笑い声。

 

 ごめんよ。

 

 

つづいた。



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エクスデス先生3

 我輩はエクスデスである。名前は、名前……先生の名付け親って誰なんだろうね? 自称?

 

 はい、どうも。今日も相変わらずエクスデスやってます。

 アニマルパラダイスのご神体と化してから、ざっと一ヶ月ちょいといったところでしょうか。

 飲まず食わずってこともないんですが、あからさまに健康に悪そうな野外生活を続けていても大事はありません。

 雨にも降られ、風にも吹かれ、季節の過酷さにこそさらされてませんけど、野ざらしの私は元気です。

 

 すごいね、エクスデスボディ。

 

 ここしばらくは、変わりばえもせず魔法を試したり、動物を愛でたり、森の木々に癒されたりしています。

 腰を下ろしてから微動だにしていないもので、魔法使うときに動かす上半身は置いても、そろそろ下半身に根が生えていないか心配です。

 まあ根付いたら根付いたで仕方ないので、このまま御神木と化すのも悪くは無いと思ってます。

 割りと本気でそんなこと考えちゃうあたり、俺の思考は人間だった頃とは随分とズレてきているのでしょう。

 何か以前からこんな性格してたような予感もヒッシヒシとしますけど!

 

 

 しかし、そうしてあらためて己の姿を省みると、ずいぶんと自然に埋没し始めていることが分かる。

 上半身の胸甲には土や細かな草の欠片などの堆積物が張り付いているし、下半身なんてツタ系の草が巻き付きはじめているほどだ。

 

 あ、ちなみに一番自然の侵食が激しいのは、初日に投げ出してそのままになっていた死神の剣です。

 

 もう完全に雑草の海に沈んで、パッと見で所在地が分からねえや。ファファファ。

 錆びてたらゴメンな。

 でも、即死付与のお前さんの使いどころが無かったんじゃ。

 

 

 そんなある日のこと、俺から見て背中側の低木をかき分けて一つの足音が聞こえてきた。

 足音の主はカチャカチャと金属質な音を鳴らしながら、二歩、三歩と俺の、と言うよりは泉のほうへと近付いて、ドサリと地面に倒れる。

 実に見事な、絵に書いたような行き倒れをやってのけたのは、金属製の軽鎧を身につけた赤毛の剣士だった。

 

 行き倒れは、少しばかり薄汚れたなりをしているものの端整な顔立ちをした青年だ。

 彼を剣士と呼んだのは、倒れると同時に投げ出された杖代わりにしてきたのだろう長剣があったから。

 実際は、剣の柄頭に刻まれた紋章や軍服に通じるような軽鎧の意匠から騎士と呼ぶのが適切かもしれない。

 まあ直接聞いてみないことには正確なところはわからないので、今は置こう。

 

 問題は、彼をどうするかだ。

 

 これが普通の動物ならいつも通りのケアルして終わりなのだが、なにしろ相手は人間だ。

 今は先生やってるが俺も元は人間なので見捨てるに忍びない感情はあるが、同時に助けてもいいものかという考えも湧いてくる。

 感情とか倫理道徳とか社会とか宗教とか、色々と面倒くさいからね、人間って。

 

 

 助けるか。

 

 

 そう決めたのは、人間も動物の一種だしいつも通りでええやろ、とそんな考えからだ。

 いやまあ、ちょうどやってきていた狼が、赤毛の彼に鼻を寄せてスピスピさせていたからってのもちょっとあるけどね?

 見た目はほほえましいが、ここ一ヶ月余り動物たちを見続けてきた俺には分かる。

 

 あのスピスピは、「大丈夫?」じゃなくて「食っていい?」だと。

 

 青年にレイズかけたときにちょっと残念そうに去っていった狼一家には悪いが、目の前で人間がモグモグされるのは勘弁だった。

 かくして、とりあえずの命の危機を脱した青年を、俺は右手でもって持ち上げ自分に寄りかからせるようにした。

 後はケアルでもかけて、目覚めるまで放置しておけばいだろう。

 

 ケアル、そうケアルだ。

 

 ケアルラでもケアルガでも、ましてや影の薄いケアルダでもなくただのケアル。

 多分使おうと思えば上位の回復魔法も十分に行使可能なのだけど、今のところはケアル一本で間に合ってたりする。

 エクスデス先生由来の大魔力も関係しているのかもしれないが、重症からの急速回復にレイズを使うくらいでケアルラ以上に出番が無い。

 ……過剰回復で鼻血出ちゃうかどうかが怖くて、試していないとも言う。

 

 一応、全快状態の自分に回復魔法をかけてみたところ、無傷の状態で回復させても特に悪影響は無いようには思える。

 ただし、治験の対象がエクスデスボディなので、ぶっちゃけ参考になるかどうかは微妙。

 悪い予感が当たって過剰回復で体がパーンしたりしても、あっさり復元できそうなんだもの。

 

「ケアル」

 

 と言うことで、行き倒れさんにはケアルかけといた。完治した。顔についてた細かい傷も、もうなくなった!

 ところで攻撃魔法主体の黒魔法を使った記憶がここしばらくありませんが、俺は暗黒魔道師です。

 どの魔法が得意か聞かれたら真っ先に回復補助系と答えますが、俺のジョブは暗黒魔道師です。

 あと真空波とか打てます。

 

 ……。

 

 これさ、パラディンじゃね?

 

 

 

 ただし、ドラクエの方の。

 

 

つづこう。

 



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エクスデス先生4

 騎士アルトは、王国近衛騎士団に所属する騎士である。

 

 近衛の中では最も若く、その特徴的な赤毛は見る者の目を引きつけ、真面目で実直な性格は多くの騎士、王族の歓心を買っていた。

 騎士団の次代を担う者として剣腕を鍛えてきたアルト。そんな彼を初陣で待ち受けていたものは、亡国と言うどうしようもない出来事だった。

 

 宣戦布告もないまま突如として侵攻を開始した北の帝国は、またたく間に王国の領土を席巻。

 北方の守護である大貴族の裏切りもあって、開戦よりわずか半月で王都は陥落し国王はじめ王族はそのほとんどが断頭台の露と消えた。

 近衛騎士団も王都の攻防戦で磨り潰され、最後に確認された生き残りはわずか一個小隊にも満たない数だった。

 

 その数少ない生き残りも、唯一生き残った主君の血筋……王女を逃がすために潰えて消えた。

 

 迫り来る帝国の追っ手から殿軍となって王女が乗る馬車を逃がし切ったその後に、近衛騎士団は帝国に対する最後の反撃を慣行。

 アルトは、アルトだけは、ただ年若いという理由で、その攻撃に参加することを許されなかった。

 

 逃げろと。

 

 そう命じられて、森の中に投げ込まれた。

 自分も戦えると、一緒に死なせてくれと、アルトは叫ぶことが出来なかった。

 王女を頼むと、生き延びて自分たちの戦いを報告しろと、そう言われてしまったからだった。

 

 軍馬のいななきを背に受けて、アルトは森の中を駆け抜けた。

 

 振り向かなくても分かっていた。帝国軍の本隊、今まで戦っていた先遣隊とは比べ物にならない数が迫っていると。

 そのまま一昼夜、ただくたに駆け抜けたアルトは、自分が酷く疲弊していることに今さらながら気がついた。

 

 傷口が傷む。殿軍として戦う中で負った大小の傷が熱を持っていた。

 

 体が重い。王都陥落以来、まともな休息をとってはいない。

 

 空腹が、渇きが、眠気が、意識を閉ざそうと襲い掛かってくる。

 

 森の中は、獣の気配が多い。

 三日目には、どうにかして木のうろに身を隠して休むことが出来た。手持ちのわずかな食糧は、その時点で全て消費した。

 四日目。水場を探してさまよった。生の木の実をかじり草の露をすすりながら、森の中を歩く。

 五日目。傷口が赤く腫れ、体全体が熱を持っていることに気がついた。

 六日目。剣を杖にしなければ歩くこともできなくなった。目は霞み、眼前の景色すら判然としない。

 

 

 そして七日目。

 

 

「うっ……」

 

 軽い頭痛と眩暈を感じながら、アルトは意識を覚醒させた。

 ようやく見つけた水場を目の前にして、ついに限界を迎えて倒れたことまでは覚えている。

 ぼんやりとした頭で周囲を見回し、記憶にある通りの泉を見つけると手を伸ばして清水を口に運んだ。

 

 甘露か。

 

 久々に口にしたまともな飲み水は、自然そう思ってしまうほどアルトの五体に染み渡った。

 不思議と体は軽く、傍らには愛剣もある。

 これならば、森を抜けられるかもしれない。

 アルトがそんなことを考えた、その次の瞬間。

 

『目が覚めたか』

 

 厳粛な雰囲気を伴いながら、声が響いた。

 

 

 

 それは巨大な人型をしていた。

 

 今は泉のほとりに座しているが、立ち上がればアルトの背丈をゆうに超えるだろう巨体。

 半ば自然に埋没して、草と土にまみれた甲冑騎士。

 巨大な甲冑も、その内にあるだろう巨躯の肉体も、探そうと思えば人の内にあるいは存在するかもしれない。

 しかし、目の前の"それ"は明らかに人とは違う、異質な、常ならぬ存在だとアルトは思う。

 

 まるで巨木のようだ。

 

 アルトの抱いたその感想は、偶然か否か"それ"の本質をきわめて正確に見抜いていた。

 

「あなたは、いったい何者なのだ?」

 

 投げかけた問いに、巨大な騎士は何事かを考えるような素振りを見せ、またフルフェイスの兜をアルトの方へと向ける。

 そして口を、そう兜の内にあってうかがう事はできないが、おそらくは口を開いた。

 

『我が名はエクスデス』と。

 

 

 

つづく



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エクスデス先生5

『我が名はエクスデス』

 

 どうも目を覚ました赤毛の青年に聞かれて、思わずそんな答えを返してしまった俺です。エクスデス先生やってます。

 ちなみに言語関係はフリーパスで翻訳されている模様。少なくとも、赤毛の彼は日本語使ってないので。口の動き的に。

 

「エクスデス……殿。自分は、アルト。王国近衛騎士団の騎士、でした」

 

 何かを悔いるようにそう言った赤毛くん、もといアルトくんは、ポツリポツリと懺悔するように事情を話してくれました。

 突如として侵攻する帝国、崩壊する王国、逃げ延びた王女と殿軍となって壊滅した近衛騎士団、裏切り者の貴族。

 

 なるほどFF2か!

 

 すみません、せめて心の中で茶化さないと重いんです。話の内容が。

 まあ、概要的にFF2でも間違って這いないと思う。さすがに皇帝が黄泉の国の力を使ってるかどうかまでは分からないけど。

 

「そして自分はこの森に逃げ込み、エクスデス殿、おそらくは貴方に助けられたのでしょう」

 

 アルトくんは、話の最後をそう言って締めた。聞いてみたら、自分の体についていた傷がなくなっていたことからの予想らしい。

 身の上を説明しながら、自分でも状況を整理していたんだそうな。

 聡明で責任感が強く、唯一生き残りでついでに美形。アルトくんの主人公力(しゅじんこうちから)の高さに、俺ビックリです。

 で、分かりきったことだったけど「行くのか?」と聞いたら、「はい」と重々しい返事が返ってきました。

 

「分かってはいます。自分一人では、帝国の包囲網を抜けることすらかなわないだろうと」

 

 アルトくん個人に対するものまでやってるかは分からないけど、帝国による敗残兵狩りが行われているのは想像に難くない。

 見つかろうものなら、きさまら反乱軍だなってやつである。

 一人のほうが身軽と言う点は利点にも見えるが、食料やら水の調達に目的地までのルート探しも全部一人でやる必要があるのだ。

 アレコレやってる内に、多分警戒網にひっかかる。

 ふむん。……。

 

「命を救っていただいたことに感謝を、ですが自分は」

「待て」

 

 今にも永訣の言葉を告げそうなアルトくんの言葉をさえぎって、俺は実に久々にその場から立ち上がった。

 それによって下半身に巻きついていたつる草がブチブチとちぎれ、甲冑に積もっていた土や草がボロボロと零れ落ちる。

 二度三度、肩や腕を回してみるが特に問題はない。

 

「エクスデス、殿?」

「私も行こう」

 

 随分と小さくなった、もとい立ち上がったら視点が上がって見下ろす形になったアルトくんに、俺はそう言ってみせる。

 それをなぜかと問われれば、まあ助けたんだから最後まで面倒見ようぜって程度。

 無事にたどり着けたかどうかでやきもきするのが嫌だった、とかそんな感じだ。

 

「それは……いえ、本当によろしいのですか?」

「よい」

 

 どうやら、アルトくんは俺の同行を許してくれるようだった。

 かっこつけて立ち上がったのはいいけど、俺の姿って超絶目立つからね。ありがたいけど、ちょっと……って言われないか不安だった。

 しかし、そうなるとさすがに土まみれの格好はどうにかしようという気分になってくる。

 こう、ふんっ! と気合入れたらどうにかならないだろうか?

 

「ふんっ!」

「っ!?」

 

 なりました。どうにか。

 ちょっと土やほこりや草なんかが飛び散ってアルトくんをビックリさせたものの、エクスデスメイルは新品同様のピカピカに。

 そのあと、せっかくなので積み重なっていた動物たちからの『お供え物』を幾つか持っていくことにする。

 飲み食いいらずの俺はともかく、アルトくんには必要だからね。運搬にはエクスデスマントを外して風呂敷包みに使用しました。

 再生成すればマントはいくらでも増やせるし、意外と便利だなこの能力。

 

 

 あ。

 

 

 いかん、忘れるところだった。使いどころは思いつかないけど、放置は不味い。

 

「ふっ!」

「!??」

 

 と、言うことでもう一回気合を入れて、『そいつ』を手元に引き寄せる。

 土と草を蹴散らし、ビュンと風を切って俺の手元まで飛んできたのは、ほとんど地面に埋没していた死神の剣。

 またも驚かせてしまったアルトくんにはごめんなさいである。

 しかし、これでこんどこそ出発の準備は整った。

 

「では、行くとしようか」

「は、はい」

 

 なぜか背筋を伸ばして返事をしたアルトくんに案内を頼みつつ、俺は森の泉を後にする。

 ずっとこの場にいるのも悪くはないと思っていたが、いざ外の世界へ思いをはせればやはり自然と心がおどるものらしい。

 今さらながらここが異世界だと確定したことでもあるし、落ち着いたらアルトくんに色々と聞いてみるのもいいだろう。

 

「ファファファ……」

「!?」

 

 思わず笑ったら、アルトくんがすごい勢いで振り向いていた。

 すまぬ、すまぬ。

 

 

 序盤のお助けキャラ程度の働きはするから、許してほしい。

 パラディン(仮)だけに。

 銀の槍はもってないけどな!

 

 

 

 つづくん?



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エクスデス先生6

 草を踏みつけ、低木の枝を切り払い、木立の合間を縫って森を行く。

 足元には獣道。

 しかしそれも途切れ途切れのつたない線でしかなく、眼前にはどこまでも続く樹木のとばりが下りている。

 

 そんな感じの未開の森からこんにちは、今日も今日とてエクスデス先生をやってます。

 

 いやしかし、ここ一月ほどを暮らしていた場所は、割りと掛け値なしの未開の地だった模様。

 森歩きに慣れてないとは言え、専業軍人であるアルトくんの足で七日歩いても踏破できないと言う点も森の広大さを感じさせます。

 もういっそ、樹海と呼んでも差し支えはないでしょう。

 

「森の奥地は、迷いの森とか帰らずの森と呼ばれることもあると聞きます」

 

 とはアルトくんの弁。

 兎にも角にも木々の数が多く似たような景色が続く上に、熊に狼、時々虎まで出るので、その厄い名称も納得ものです。

 まあ、我が魂の故郷……は日本なので、我が肉体の故郷(多分)のムーア大森林に比べたらマシだと思いましょう。

 少なくとも、森の木が動いて道を作ったり塞いだりはしないようですし。

 

「森の精霊、魔物、そういった噂話は昔からありますが……少なくとも、自分は目にしたことがありません」

 

 アルトくんは、チラリと俺の方へと視線を向けてからそう言う。

 ああ、うん。そうね。この森に不可思議存在はいるか? って聞かれたら間違いなく俺=エクスデス先生だよね。

 ここに来てから時間はたっていないので、噂話とは無関係だけど。

 

 そもそも、精霊と言うほど清廉じゃあないし魔物と呼ばれるほど邪悪でも……邪悪、でも……後者は自信ないわ。うん。

 エクスデス先生の出自を考えると、ガッチガチの邪悪の化身言われても否定できないです。暗黒魔道師だし。一応。

 

「ファファファ」

 

 そんなわけで、笑って誤魔化しておくことにした。自分でも説明し切れる気がしないのでしかたがないと思いたい。

 中の人の俺はともかくとして、外の人ことエクスデスボディがどこから来たかも謎ですし。おすし。

 アルトくんも、特に追求することなく小さく息をつくだけに留めてくれた。

 そして俺たちは、再び言葉少なに南に向かって森を歩く。

 

 木々や地形が邪魔になれば迂回し、時には下草や低木を払って前進した。

 ここで役立ったのが死神の剣。まさか植物相手に即死発動してくれるとは、このエクスデス先生の目を持ってしても見抜けなかった。

 死神の剣で低木ぶった切ったら、あっという間にシオシオと枯れ果てて後は蹴りでも入れればあっさりと道を作ることが出来た。

 らくちん、らくちん。

 隣で見てたアルトくんはすごい引きつった顔した後に、一歩離れて歩くようになったけど。

 

「そろそろ日が暮れます。今日はここで夜営にしましょう」

 

 そうやって進んでいる内に見つけた少し広めの木々の合間で、アルトくんはそう言って歩みを止めた。

 夜通し森歩きをするんじゃないかと思っていたが、どうやら今は無茶をするような場面ではないと判断したらしい。

 焦りとか色々とあるだろうに、本当に人が出来ているなあ。

 

 さて、ここで一つ、森歩きなんてせずにテレポ使えばいいんじゃね? と疑問が湧いて出る。

 

 時空魔法テレポ。

 大変便利で浪漫溢れる空間移動魔法であり、FF5的にはダンジョンからの脱出手段にあたるものだ。

 まさに今の状況にピッタリのこの魔法、しかし俺はとある恐怖から使うことができないでいた。

 

 いしのなかにいる。

 

 ゲームが違うとか言われようと、転移魔法言われるとこの可能性が脳裏をよぎるのだ。

 それに俺はこの森の奥地から一歩も動いたことがなく、森の入り口にテレポしても何所に出るのか分からない。

 これで北側の、帝国の制圧下にあるだろう方向に出てしまったら目も当てられない。

 この辺を考えると、世の移動魔法使いたちが一度行った場所にしか転移したがらない理由が何となく理解できるってもんだ。

 まあもちろん、いつかはダテレポでビュンビュン移動してみたいので、石ころや何かを使った実験は進めるつもりでいる。

 俺、いつか教会の屋根でふんぞり返ってる異端審問官の隣にテレポするんだ……。

 この世界に居るか分からないけど、異端審問官。

 

 そんな益体のないことを考えながら行っていた野営の準備も終わり、目の前には焚き木が積み重なっている。

 エクスデスマントの風呂敷包みから、今日の食事を取り出しているアルトくんの姿を眺めながら、俺は指先を焚き木に向ける。

 そして全力でやるとえらいことになるので慎重に慎重に魔力を調整しつつ、魔法を発動した。

 

「ファイア」

 

 ボッ、と音を立てて極小の火が焚き木に火をつけて暗くなり始めていた周囲を照らす。

 うむ。これだけはお供えの調理のため時たま使っていただけあって、火力の調整は完璧だ。

 

「エクスデス殿……今の力は」

 

 そして、ちょっといい気分になった俺の視線の先では、突如生み出された炎を前に神妙な顔をするアルトくんがいた。

 

 あれっ?

 

 

つつく



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エクスデス先生7

 アルトくんの神妙な顔にあれっと首をかしげて、ああ、そういえばと自分で納得した私です。

 エクスデス先生してます。

 

 いやね、意識のあるアルトくんの前で魔法らしい魔法を使ったのは初めてなんだよね。回復の時には気絶してたし。

 色々とそれっぽい……死神の剣を念動力テイストな方法で振り回したりとかはしてたけど。

 なので、あらためて自分が魔道師であることを告げました。『暗黒』部分は聞こえが悪いので言ってないけど。

 

「あれが、魔法」

 

 そんな何かに納得するような調子で呟かれた言葉を聞くに、どうやら魔法と言う概念自体は存在する様子。

 ちょうどよくキャンプ体勢も整ったところなので、この世界における魔法の扱いについて聞いてみることに。

 

「伝説、言い伝え、あるいは歴史の中に、魔法使いがいたと言う記述は残されています」

 

 そう言った後、「少なくとも自分は、今の今まで会ったことはありませんでした」と、続けるアルトくん。

 なるほど、この世界において魔法は架空の存在か、あるいは遠い昔に失伝して表向きには残っていないってところだろう。

 とりあえず、これから出会う人向けに表向きの名乗りとして考えていた『旅の魔法使い』はお蔵入りかな。

 

「エクスデス殿、魔法は、自分にも使えるものなのでしょうか」

 

 そう言って、俺の方をじっと見つめるアルトくんの瞳には、力を求める強い決意のような物が宿っていた。

 まあね。なんとなくこうなる予感はしてました。

 国も仲間も失って無力感にさいなまれているような状態で、目の前に魔法なんて不思議な力を提示されたら飛びつきますわ。

 さて、問われたからには俺も答えなくてはなりますまい。

 

 「分からぬ」と!

 

 FF5的にはお店で手に入るけど、システム的にはともかく実際に魔法屋で何してるのか描写がないし。

 一部の魔法は宝箱から入手できるので、魔道書的な何かを購入してるんじゃないかと想像するくらいはできるけどさ。

 何より、白黒時空と区分けして使っちゃいるけど、俺が魔法だと言い張ってるこの力が本当に魔法なのかを証明することもできなかったり。

 ほとんど感覚で使用している力を他の誰かが使えるかなんて、分かるもんかという話である。

 

「そう、ですか」

 

 そう言ってややうつむきがちになり、小さく息を吐くアルトくん。

 だけどまあ……。

 

「覚えられぬことも無いかもしれん」

「!! 本当ですか?」

 

 おおう、すごい食いつき。ここまで期待させて、やっぱり無理でしただったら罪悪感が湧くなあ。

 ただ一応、成算らしきものがあると言えばあるのだ。

 アニマルパラダイスで暮らしているときに色々と試した補助魔法。その中には当然のようにライブラの魔法も含まれている。

 FFではおなじみ、かけた対象のHPや弱点を表示させる白魔法だ。

 某関西弁の子にかけて、方向キーを下に入れたことのあるヤツは挙手。

 

(T)ノ

 

 話がそれた。

 それで実際にこのライブラを使ってみたところ、出現した俺にしか見えていないだろうゲームっぽいウィンドウに情報が表示された。

 HPなどはゲームと違って具体的な数字の出ないファジーな表記がされていたのだが、幾つかある項目の一つにMPが存在していたのだ。

 このMP、ほとんどの動物は『無し』と表記される項目だが、稀に『微量』表記の動物がいたりする。

 

 そしてアルトくんは、そんな稀な方の対象に属していた。

 

 なので魔法を覚えようと思えば覚えられる、かもしれない。

 やっぱり『微量』表記だったので、ラ系とかガ系は難しいかもしれないけど。

 ちなみに俺自身にライブラかけたら、MPの表記は『膨大』でした。あらためて、すごいねエクスデスボディ。

 

 え? いつアルトくんにライブラかけたかって? ……治療後に目を覚まさなかったから、不安に駆られてつい。

 

 ゴホン。

 さておき、そんな訳でアルトくんには魔法を覚えられる可能性があるかもしれない。

 しかし一方で、やっぱり不可能だって可能性もある(予防線)。

 それでもいいなら、俺は魔法の指導を行おうと思うのだがアルトくんはどうだろうか?

 

「是非」

 

 即答でした。

 やる気があっていいんじゃないでしょうか。ええ。

 こうなれば俺も、アルトくんが一人前に魔法を使えるように頑張ろうと思う。

 

 騎士 アルト は 暗黒魔道師 エクスデス の 弟子 になった!

 

 ……暗黒魔道師の弟子とか壮絶に聞こえが悪いので、アルトくんのためにも絶対に名乗らないようにしよう。そうしよう。

 

 

つついた



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エクスデス先生8

「ファイア」

 

 声とともに魔力がひるがえり、パチリと音がなって火の粉が舞った。

 本来ならば炎を生み出すはずだった力は、集中の不足から無為に放出され空気に溶ける。

 アルトは、その光景を前にして歯噛みした。

 

 師が……師となったエクスデスが、夜営のたびに使う炎の魔法ファイア。

 

 最も力の弱い魔法の一つとして教わったこの魔法を用いても、今のアルトには種火を生み出すことすらできなかった。

 

『焦ることはない』

 

 そう言って自らをたしなめる師の言葉を、アルトは受け入れられずにいる。

 森を抜けるまでもう幾日か、それまでの間にこの力を物にしたいという心があったからだった。

 

「エクスデス師、自分は不安なのです。森を出れば、いつ帝国兵と戦いになるかもしれないと思うと」

 

 事実、帝国兵は精強だった。

 王国最精鋭の誉れ高い近衛騎士団をもってして互角、王都陥落はけっして奇襲と策略の結果だけではない。

 高い冶金技術によって生み出された強固な甲冑と武器の数々、優れた士気と統制された指揮系統。

 帝国はおそるべき敵だ。今のままでは勝てないと、アルトは心を焦らせる。

 

『そうか』

 

 エクスデスは、アルトの内心を吐露するような言葉を耳にして、一言そう言って黙り込んだ。

 甲冑に包まれて顔色は伺えず、感情の色を表すことのない平坦な声音。

 時折、奇妙な笑い声をあげて喜色を示すことこそあるものの、アルトの目にするエクスデスの姿は概ねそう言った印象だ。

 

 畏怖。

 

 アルトからの感情に名を付けるのなら、その表現が一番適切だろう。

 言葉を交わし、教えを受けてもなお、巨木のようだと初見で抱いた印象は覆されていない。

 しばしの無言のあと、エクスデスは地面から木の枝を一本拾い上げアルトに差し出した。

 

『折って見せよ』

 

 アルトはそう言って差し出されたその枝を受け取ると、たいして力を込めることもなく折って見せた。

 乾いた小枝でしかないそれを壊すことは、難しいことではなかった。

 エクスデスは、それを見届けるとまた一本の枝を拾い上げる。

 

『プロテス』

 

 そうして言葉とともに魔法を発現させると、淡い黄色の輝きを放つようになった枝をアルトへと手渡した。

 

「これは……」

 

 軽く力を込めても、枝は折れなかった。

 より強く力を込めれば、あるいは折ることができるかもしれなかったがアルトがそれをする前に、エクスデスが口を開く。

 

『他者の守りを厚くする白魔法だ。火を灯すことだけが、魔法ではない』

 

 言ってから、エクスデスはさらに続けて様々な魔法の系統が存在するのだと説明をする。

 

 癒しと守りに重きを置く白魔法。

 

 攻撃に重きを置く黒魔法。

 

 他者を援けあるいは妨害することに重きを置く時空魔法。

 

 様々な魔法がある中で、自分に適した魔法はどれかを見出す必要があるとエクスデスは言った。

 アルトは、手の中で淡く輝く木の枝を見ながら考える。

 

(自分は、一人で何をしようとしていたのか)

 

 思えば、似たような話は騎士団の先輩からもされたことがあった。その時に折られたのは、木の枝ではなく弓矢の矢だった。

 

 束ねた矢は折れない。

 

 魔法を使った分だけ多少おもむきは違ったが、エクスデスの示したかったのはそれではないかとアルトは思う。

 否、違っていてもこの際は構わなかった。

 このまま力を求め、その力をもって何を成すかとアルトは自らの状況を省みる。

 皇帝の暗殺でも狙うのならば、今のままでもいいだろう。

 しかし、血塗れで玉座に倒れ伏す顔も知らぬ皇帝の姿を想像して、アルトは「違う」と首を左右に振った。

 

(自分は騎士だ。近衛の、騎士だ)

 

 ならば、この身は主君のために。

 わずかな間に遠い日のように感じるようになった騎士叙任式を思い出し、アルトはそっと目を閉じる。

 そして、今はただ王女の元へと馳せ参じることだけを考えようと決める。

 エクスデスと言う埒外の力を持つ者の助力を得れば、それはきっと難しいことではない。

 そして、その後は……。

 

(仲間が必要だ。志を共にする仲間が)

 

 王女がどのような選択をするのか、今のアルトには分からない。

 帝国と戦い、王国の再興を目指すのか否かということすらも。

 そして、アルトは王女がどのような選択をしたとしてもその意思を尊重して援けようと思っている。

 

 しかし、一人ではきっと何もできない。

 

 ゆえに仲間が必要だと考えた。

 数の不利を背負いながら帝国兵の足止めを成しえた理由は、近衛騎士団の団員たちが連携して事に当たったからだ。

 共に王女を支える仲間を見つけなくてはならない。

 

「感謝しますエクスデス師。自分の目指すべき道が、見えたような気がします」

 

 アルトの言葉に、エクスデスは何も言葉を返さなかったが、静かに一つうなずいて見せた

 

 それから3日。

 

 アルトたちは、ようやくにも深い森を抜けて平原の開けた風景を目にすることができた。

 そして若き騎士は、その日までに自身にとって一つの契機となった守りの魔法を身につけることとなる。

 

 

つづく



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エクスデス先生9

 うっそうとした森の木立を抜けると、そこははるか彼方まで広がる大草原だった。

 そんな訳で、森の中からこんにちは。俺です。エクスデス先生をしています。

 隣では、つい昨日から白魔道師をサブに付けたアルトくんが遠い目をして南の方を眺めています。

 

 最初は分かりやすさ優先で黒魔法教えたんですけど、どうにも上手く行かないので白魔法を薦めたところ大当たりしたんだよね。

 個人の資質による魔法適性の高い低いが存在しているのかもしれない。

 黒魔法も一応発動はしているので練習を続ければ上達する可能性はあるけど、アルトくん本人の希望で白魔法一本に絞ることにした。

 アレもコレもとやっている時間もないので、この判断は間違ってないだろう。多分。

 

「ようやく森を抜けました。エクスデス師、この平原を抜ければ目的の地です。それまでよろしくお願いします」

 

 そう言ってスッと流麗に頭を下げてみせるアルトくんに、俺はうなずいて答える。

 俺たちの目的地は南の公爵領で、王国では直轄領の次くらいに栄えているらしい。

 領地を治める公爵は、王家の血を引いたいわゆる分家筋で、アルトくんと同僚の騎士たちが守ったお姫様はそこに落ち延びたそうな。

 無事に逃げ延びていればという注釈は付くものの、その辺はたどり着いてみなければ分からない。

 しっかし……。

 

「広いな」

「―――はい」

 

 ポツリと呟いた俺の声に、アルトくんが返事をする。

 目の前に広がる地形はだだっ広い草原地帯で、多少の丘陵めいた起伏はあるものの思わず笑いがもれそうになるほど見晴らしがいい。

 人が歩いているだけでももちろん、俺の体格がマッチョ&ビッグなので壮絶に目立つ。

 帝国とやらの哨戒網がここまで届いていた場合、サクッと発見されてお馬さんで追いかけられる羽目になりそうだ。

 それならば夜になってから移動するのが安全なのだろうけど、ここは便利な魔法の出番。

 

「バニッシュ」

 

 魔法名を唱えると、俺とアルトくんの周りに光の粒が集まってその姿を覆い隠す。

 一瞬の後、その場には透明人間と透明エクスデスが一人と一本。お互い目には見えないし地面に影も映っていない。

 

「事前に聞いてはいましたが、恐ろしい魔法ですね……」

 

 顔は見えずとも聞こえるアルトくんの声に、俺は思わずうなずいてしまう。もちろん、相手には見えていない。

 今回使ったのはFF5に登場しない魔法で、白魔法だったり裏魔法だったり時空魔法だったりするバニッシュだ。

 FF5以外の魔法も使えるのかと聞かれれば、使えちゃったんだから仕方がない。

 アニマルパラダイス時代に、記憶にある補助魔法は一通り試したのだ。

 

 で、アルトくんの言う恐ろしい魔法と言うのは、まあ言わずもがなで悪用しようと思えばいくらでもという話。

 足音や足跡までは消せないのでバニッシュ単独だと完全ではないが、他にレビテトとか言う魔法があってな……。

 まあもっとも、まだまだこの世界については無知なので、うっかりデジョンでもかけられてあーれーするリスク考えると怖い。

 バニッシュデスにはお世話になりました。眠れる獅子的な意味で。

 

「しかし、これならたしかに見つかる心配は無いかと思います。行きましょう」

 

 そんな言葉に続いて、アルトくんが南に向かって歩き出したのが分かったため、俺もその足跡を追うように追従する。

 道案内の面では多少不便だが、まあ、一定時間ごとに効果は切れるのでそのたびに修正すればいい。

 半日以上も魔法を使いながら移動する際のコストも、俺、もといエクスデス先生のMPならば問題ない。

 唯一心配する必要があるのは、アルトくんの体力についてだ、が。

 

「リジェネ」

 

 何度目かのバニッシュかけなおしの際に、アルトくんに使用したこの魔法がだいたい解消してくれた。

 HP=体力を徐々に回復させる魔法は、駆け足移動を長時間続けるにも大変便利でした。

 さらに失った体力はケアルである程度補充可能だったので、リジェネ前にアルトくんが自前でかけた。MPの体力変換といった具合。

 魔法については俺が使ってもよかったのだけど、練習になるからあえて自分で使うとのこと。

 その向上心に脱帽です。先生もとい師匠としても嬉しいね、ファファファ(小声)

 もっとも、本当に脱帽して兜脱いじゃうと悪魔っぽいエクスデスフェイスがお目見えして「森へお帰り」されかねないので自重。

 バニッシュしてりゃあ見えないだろうけど。

 ちなみにMP、からっけつになっても昏倒したりはしない仕様。MP0で戦闘不能になるような存在だと、どうなるか分かりませんが。

 

 

 

 そうして移動をしている内に、あっという間に2日が経過。

 今回は火を点けると目立つので焚き火は無しで、アルトくんは木の実や果物をかじりながらの強行軍でした。

 ケアルとかリジェネでゴリ押しての行動でしたが、コレがそれなりに有効な模様。

 ただし俺はともかく人間やっぱり寝ないと調子は崩れる様子。

 

 まあ、俺ったら寝る必要とかないので、夜番しつつ仮眠を取ってもらうことであっさり解決しましたけど。

 アルトくんは師に見張りをさせるなんてと恐縮していましたが、これは種族的な差異なので気にする必要は無いと説得しました。

 そうして仮眠を取らせたあとに移動を再会して、森を出て3日目の正午過ぎには草原の向こう側に街を囲む城壁と思われる建造物を発見。

 人里にたどり着けば、なんとか現在の情勢を確認できると道を急いだわけですが。

 

「待て」

 

 俺は、そう言って先を行くアルトくんを引きとめた。ちょうどよくバニッシュも解けたので、ちょいちょいと指で示して近くに呼びます。

 不思議そうな顔をする彼に、俺は遠くに見え始めていた外壁より少し北寄りを指差します。

 人間の視力で見えるかは分かりませんが、そこに俺は"とある物"を確かに確認していたからだ。

 つまりは、なんだ。

 

「戦闘だ」

 

 街のさらに向こう側、遠く続く平原に土煙が上がっているのが見える。

 相対するのは、アルトくんのそれによく似た銀色の鎧を見に付けた兵士と、相反するように黒い鎧を見に付けた兵士の姿。

 ようやくにも街に着いたと思いきや、どうにも一筋縄とはいかないようだった。

 

 

つづくのかどうなのか



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エクスデス先生10

 どうしてこうなった。

 

 

 うん。どうも私です。エクスデス先生しています。現在戦場のど真ん中……だった場所にいます。

 

「エクスデス師……」

 

 ああ、アルトくんも一緒です。ものすごく呆然としていますが。

 無限に広がる、って訳ではないけどだだっ広い大草原。そこにはザワザワとした人の声と虫と蛙の鳴き声が満ち満ちています。

 そう虫と蛙の。

 

 かーえーるーのーきーもーちー! トード!(全体化)

 

 以上、数分前のセリフbyエクスデスボイス。

 状態異常魔法怖いですね。多分効かないけど俺。と言うかエクスデスボディ。

 魔法が一般的じゃないからか、そんなこと関係なく俺が使ったからかは知りませんが、黒鎧の一団は一瞬で蛙の合唱団になってしまいました。

 

 どうして、もとい、そうしてこうなった。

 

 ミニマムの方がよかっただろうか。いや、そうじゃない。

 アルトくんの母国である王国の要衝に攻めかかる黒鎧の帝国軍! それを見て逸るアルトくん! どうしよう俺!

 メテオとかフレアとか、全体化ファイガとか使うと大惨事待ったなしと思われるので、そうだそれなら状態異常にしてやれ、トードでいいや。

 しかしてその結果がこれである。

 

 状態異常魔法怖いね(二回目)

 

 微妙に黒っぽいカエル軍団は、ピョコピョコミピョコピョコと帝国領に向かって移動する素振りを見せてますが、しょせんはカエル、遅いです。

 いやまあ、通常のカエルならすばしっこいかもしれませんが、いまさっきカエルになった大型犬サイズのにわか両生類なら仕方がない。

 中には勇敢に王国兵に突っ込んでいくカエルくんもいますが……鉄の鎧に弾力溢れたカエルボディの体当たりじゃあなあ……。

 何匹かは反撃を受けてひっくり返り、ピクピクしています。南無。

 さて、このまま傍観してても、いずれは収拾が付くかもしれませんが、カエルさんたちに対して忍びないのでアルトくんに声をかけませう。

 

 どうする?

 

 判断ぶん投げたとも言うけどな!

 

「あ、はい、ええと、とりあえず指揮官を捕まえましょう。位置関係でだいたい分かります。それから元の姿に戻して……戻せますよね?」

 

 そんな俺の無茶振りに答えて、アルトくんは超冷静に今後の対応を示してくれます。最後だけちょっと不安そうだったのは気にしない。

 表情その他もろもろから、深く考えたら負けだと考えているのが手に取るように分かるけど、気にしないったら気にしない!

 エスナでももう一回トードでも、どうとでもなるのだから。

 でもそうか、この世界? だと乙女のキッスとか市販されてないから、蛙と小人と石化の回復は俺がやるか誰かが魔法覚えるしかないのか。

 ……三回目だけど、状態異常魔法怖いね。マジで。

 

 

「ごごごご、御助勢に感謝いたしますぞぉっ!」

 

 

 で、旗に囲まれた辺りにいて、複数の蛙に囲まれてた偉そうな蛙を連れて会いに行った王国側の責任者さんのセリフがこれである。

 無茶ビビっているこの辺を治める王国最大の実力者にして、遠く王家の血を引く公爵であらせられる将軍閣下。推定40代ナイスミドル。

 大丈夫よー、エクスデスだけど怖くないよー、いきなり斬りかかられたけど無傷だから特に問題ないよー。

 ちょっと反射的に反撃しちゃって酷いことになったけど、レイズしたら生きてたから大丈夫大丈夫。

 

 ゴメン嘘ついた。超怖いよね。俺。

 

 なお、推測するにエクスデス先生を打ち倒すには、超高レベルの光の戦士が聖剣持った上で6回から7回斬りつける必要があると思われます。

 単発攻撃ならメガフレアにだって耐えてみせらあ。でもみだれうちと連続魔、限界突破は勘弁な! ファッファッファ!

 

 むしろ光の戦士が怖い。

 

 

 つづいたらどうしよう

 




書いてた分だけ供養。続きは気が向いたら。


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