ゴーレムとオーバーロード (NIKUYA)
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石と骨の超常現象

 

「…サービス終了日ですし、よかったら最後まで残って…いきませんか…」

 

なにも居ない、居なくなった空間に手を伸ばし、届かない言葉を連ねるのは、豪華なローブに身を包んだ、肉体を持たざる死の超越者、オーバーロード。…をこのゲームにおける種族に選んだ、モモンガという男だ。

 

伸ばした骨の手は虚空を掴み、引き戻される。

 

「ま、まぁ、モモンガさん、最後に来てくれただけでも…」

 

「そうですよね、NIKUYAさん。忙しいのに来てくれただけでもありがたいですよね。…しかし」

 

モモンガを慰めるように声をかけるソレは、隕石を磨いて組み立てたような人形、いわゆるゴーレムを種族に選択した、NIKUYAという男。

 

「モモンガさんの思ってることも、思い直す先も、ちゃんとわかってますよ。仕方ないんです。…やっぱり、さみしいですけどね」

 

41席ある円卓のうち、上座に位置する場所にモモンガが座り、そこからみて左手前のほうにNIKUYAが座り…残りの39席を眺める。

 

ここはこのゲーム、ユグドラシルにおけるギルドのひとつ、アインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリック地下大墳墓の第九階層の施設のひとつ、円卓の間。全盛期は、41席に空欄がでることすら珍しいほど賑わい、度々、様々な計画や雑談が行われる場所であった。

 

それがいまや、ここにいるのは二人である。

 

「みんなリアルがあるんですよね。仕方ないですよね…みんな、ここを忘れたわけでもない、みんな、仕方なく離れていったんですよね」

 

表情のない骸骨の顔が、明らかに落ち込んでいる。少しばかり怒りもあるのだろうが、それも仕方のないことだろう。

 

「モモンガさんがここを、ナザリックを管理維持してくださってたからこそ、最後に来れた人がいるんですよ。みんな、感謝してるんですよ?ヘロヘロさんも、自分のフル装備が残ってるの聞いて嬉しそうでしたし。」

 

「そうですかね、私としては、自分のためでしかなかったのですが」

 

「優しいんですよ、モモンガさんは。貴方だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンのギルマスが務まるんですよ。今までギルマスで居てくれて、ありがとうございました。」

 

最後だからこそ、ハッキリと感謝を伝える。最後だと実感したのか、互いに鼻声になり、嗚咽を我慢するのがわかる。

 

「湿っぽく終わるのも私達っぽくないですね。そうだモモンガさん、あのスタッフですけど」

 

「スタッフオブアインズウールゴウンですか?…そういえば一回も使ってないなぁ」

 

スタッフオブアインズウールゴウン。名前の通り、ギルドの象徴たるスタッフだ。

 

これはギルド武器といわれ、強力すぎる性能と引き換えに、破壊されればギルドが崩壊するという最悪のデメリットが存在する。

 

故に、今まで一度も使われることなく、円卓の間の装飾に成り下がっていた。

 

「それもって玉座の間に行きましょうよ。悪の最期は相応しい場所で。ウルベルトさんが言いそうじゃないですか。」

 

悪のRPをこよなく追求したギルドメンバーの名を借り、モモンガの行動を促す。

 

「しかし、いや、うん、そうですね、行きましょう。」

 

死の超越者が象徴たるスタッフに手を伸ばし、掴む。

 

禍々しいエフェクトが複数発生し、モモンガに絡みつく。

 

スタッフの効果で、モモンガのステータスが上がったのが見て感じ取れる。

 

円卓の間を出、第十階層の玉座の間に向けて歩く。

 

途中、とあるNPCの前で足を止めた。

 

「執事とメイド…えっと、名前は」

 

「セバス・チャンと、プレアデス達ですね。そうだ、この子らも連れて行きましょうよ」

 

「そうですね使われずに終わるのも、かわいそうですし。えっと、コマンドは…『付き従え』」

 

セバスと呼ばれる執事NPCと、それの元命令を遂行する戦闘メイドNPC、プレアデス達は、モモンガのコマンドに従い、二人の後ろに一糸乱れず従属する。

 

「いやぁ、たっちさんの造った執事なだけありますね、貫禄というか、なんというか」

「そうですね、こんな男になりたいっていう気持ちになりますねぇ。そういえばこの子は、ナザリックでも珍しい極善キャラでしたっけ」

 

アインズウールゴウン率いるナザリック地下大墳墓には、人間が居ない。

 

後ろに居る執事は竜人だし、メイド達も人間に似たカタチをしてるのも居るが皆異形種である。

 

 

というのも、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』における入団条件のひとつに、異形種であることというのがある。

 

故に異形種の元には異形種が集い、異形種によってのみ成り立つべきだという思考があるのだ。

 

異形種であるという時点で、人間に対しての感情はほぼ良くない。

 

人間とモンスターだ、考えれば当たり前である。

 

さらにこのギルドの活動の主体であった、PKも人間に対する感情の悪化に拍車をかけた…という設定で、ほぼ全てのNPCは設定上、人間に対する性格が悪い。

 

 

それゆえ、人間に対して善の感情を向けるNPCは珍しいのだ。

 

「たっちさんらしいですね、あの人は善意の塊みたいな人でしたね。私もあの人に助けられましたし。」

 

「モモンガさんの恩人ですよね、何百回も聞きましたよ。」

 

 

昔話に華を咲かせ、第十階層にある玉座の間の扉の前に到着する。

 

豪華で大きく分厚い扉は、両隣にいる非戦闘メイドによって開けられる。

 

目に飛び込むのは、紅い絨毯、煌びやかすぎるシャンデリア、それに照らされる41の紋章旗。

 

そして、奥に聳える、玉座である。

 

「こんな綺麗だったんですね…改めて見るとすごい造り込み。ここほんとにゲームか…?」

 

NIKUYAは感嘆を抑えられずに気持ちを吐露する。

 

モモンガは同じく豪華さに気圧されながらも、NIKUYAの言葉に喜んでいる。

 

「みんなの努力と課金の結晶ですからね、結局、ギルメン以外に見られることはありませんでしたけど。」

 

誇らしくもすこし悔しいことだ。

 

その昔、昔というか数年ほど前だが、1500の軍勢を率いてナザリック陥落を目論んだ大規模な攻略が行われたことがある。

 

各階層守護者が敗れ去り、第七回層すら突破されたことがあるが、切り札ともいえる第八階層にて勝利を収めた。

 

故に、第九、第十階層は、ギルメン以外の目に触れることはなかったのだ。そしてサービス終了日、今日になっても、侵攻してくる人は居なかった。

 

またも過去の記憶を懐かしみながら、玉座の前に歩みを進めた。

 

玉座の隣には、NPCが立っている。

 

「アルベドだったか…タブラさんの子だったよな。」

 

一瞥し、モモンガは玉座に腰掛ける。NIKUYAはその隣、アルベドの居る場所の反対側に立つ。

 

「モモンガさん、ほんとにサマになってますよ。まさに死の王、かっこいいですよ」

 

「NIKUYAさんこそ、最後の砦見たいですね。なにが攻めて来ても、二人ならなんとかなる気がします。」

 

互いを褒め合うのは社会人のクセだろうか。

 

「さあ、あと5分ですか」

 

アインズウールゴウンの、ユグドラシルの、私の青春の最期が、あと2分で訪れる。

 

「えっと…『跪け』だっけ」

 

NPC達が膝を折り、モモンガに頭を垂れる。

 

「そうだ、思い出した!アルベドの設定!変えないと!」

 

「え、えっ?はい、えっと、スタッフを使って…」

 

NIKUYAは慌ててモモンガに指示する。

 

「タブラさんが最後の行を変更してくれって言ってたの思い出しました!」

 

「待ってください、設定、ああここか…「長っ!!」」

 

設定魔のタブラさんらしい…ありえないほどの長文設定。

 

文字数ギリギリまで詰められているということは、どこか妥協すらしたのだろう。

 

読まずに、したに素早くスクロールする。

 

「…ちなみにビッチである。」

 

「えっと、その文を変えてほしいと…」

 

「とりあえず削除っと…なに書いたら良いんです?」

 

「あー、えっと…『モモンガを愛している』って書いてと頼まれましたよ」

 

「…いやいやいやいや、おかしい!おかしいでしょ!なんでそうなる!……じゃあこうしましょう」

 

激しい動揺の末、モモンガはキーボードに手を伸ばし、文字を入力する。

 

『ギルメンを愛している。』

 

「ギルメンて…私もです?」

 

「もちろん、NIKUYAさんも含めて皆ですよ。タブラさんも、最後にこんな羞恥を仕込むなんて…」

 

「私はなんでも構いませんが、とりあえず、ビッチ設定を変えられたのでよかったです。」

 

まさにタブラさんらしい、といえば納得する設定である。

 

タブラさんはギャップ萌えなのだ。

 

最後に変更を頼んだのは、どういう心境だったのかはわからないが。

 

「さて、ヤボ用も済んだ事ですし…そろそろですか。」

 

時刻は23時59分。

 

「もう一分切ってますね。…マスター、今までありがとうございました。お疲れ様でした。また、どこかで。」

 

「NIKUYAさんこそ、最後までありがとうございます。またいつか、お元気で。」

 

最後の最後にまた半泣きになりながら、二人は目を閉じ、再び開ければそこは自室であった。

 

 

 

 

…はずだった。

 

 

 

 

「んん?」

 

モモンガが声を出す。

 

「モモンガさん、恥ずかしい事いった後になんですが、これって…」

 

「サーバーダウンの延期ですかね?えっと、コンソール…あれ?」

 

モモンガがなにもない空間を指で突つく。

 

本来ならそこにプレイヤーコンソールが表示される筈だが、なにも表示されない。

 

「モモンガさん、GMコールも無理そうです。ログアウトできません。」

 

「どういうことだ!」

 

モモンガが勢い良く立ち上がる。その姿に強烈に違和感を感じる。

 

いや、逆である、違和感を感じなかった。

 

おかしい。

 

コンソールがでないだけならまだ不具合なのだと諦めがつく。だが今のはなんだ?なぜ違和感を感じなかった?

 

 

そこに、さらに追い打ちのように状況が襲ってくる。

 

「モモンガ様、NIKUYA様、どうかなさいましたか?」

 

モモンガが口を愕然と開いている。

 

「なにか問題がございましたか?」

 

再度問いかけるその存在に驚愕する。NPCであるアルベドが、コマンド無しにこちらを向き、表情を変えて話しかけて来ている。

 

「表情…表情?顔が動いている、瞬き!?」

 

モモンガが驚愕のあまり騒ぎたてる。が、途端に動きがとまり、賢者タイムのように落ち着いた雰囲気で玉座に座り直す。

 

「モモンガさん、これは…」

 

「NIKUYAさん、ちょっと試したいことがあるので、いいですか?」

 

モモンガがNIKUYAに耳打ちをする。

 

「コンソールやアルベドの違和感、それから察するに…笑わずに聞いてくださいね。私達は、えっと…ゲームではなく、現実としてこの世界に来てるのではないかと…その…」

 

モモンガが大層自信がなさそうに自論を話す。

 

それもそうだ、普通に、常識的に、常人が考えて、そんなことはありえない。ありえないのだ、絶対に。だが、それは納得できてしまう。

 

「私もそう思います…モモンガさんの口の動き、アルベドの表情、動き、空気の流れ…自然すぎます。少なくとも、ゲームではない…ですよ」

 

ふたりでこそこそ話す姿に、NPCであるはずのアルベドが首を傾げる。

 

「私共になにか粗相がございましたでしょうか…?」

 

恐れをもった声色でこちらに伺う。前方に控えている執事やメイドも、今の質問に身体を強張らせたのがつたわってくる。

 

「モモンガさん、とにかく、異世界に飛んだとしてロールプレイしましょう。それが今のところ一番正しい気がします。」

 

「ですね、真偽はともかく、とりあえずはそれで…よし。」

 

覚悟を決めたように、モモンガが耳打ちをやめ、アルベドに向き合う。

 

「アルベドよ、GMコール、メッセージ、ログアウトと言うのは知っているか?」

 

メッセージはユグドラシルの魔法である。

 

NPCが生を受けているとして、どこまでの知識があるのかを判断するための質問だ。

 

「申し訳ございません、モモンガ様。じーえむこーる、ろぐあうとに関してはお答えする知識がございません。メッセージに関しては、私も使用できる魔法についてであると考えます。」

 

なるほど、ユグドラシルの魔法については解るらしい。

 

ただし、プレイヤーのための仕様などは知識として存在しないようだ。

 

「よいのだ、アルベド。我々は今、異世界に飛ばされたのではないかと想定して思案している。…セバス」

 

「はっ」

 

頭を下げるアルベドを手で制し、右前方に跪き控える執事を呼ぶ。

 

「プレアデス一名を連れてナザリック地下大墳墓を出、周辺一キロの捜索をせよ。知的生命体がいれば交渉し連れてこい、できるだけ危害は加えるな。残りのプレアデスは第九階層の見回りをし、侵入者の警戒に当たれ。」

 

「承知いたしました。」

 

おお、モモンガさんかっけぇ。王の素質を垣間見た気がする。

 

そんなことを考えながら、口を挟む。

 

「連れて行くのはエントマ以外にしてね。もし異業種を知らない、もしくは敵対している人間種の世界なら、なにされるか分からないし。」

 

「承知いたしました。では、ナーベラルを連れて、探索に赴きます。」

 

セバスの後ろの6人のメイドが立ち上がり、一礼する。そして、セバスと共に玉座の間を後にする。

 

「私はどういたしましょうか?」

 

アルベドが笑顔で2人に問う。なにかを期待しているような顔だ。

 

「そうだな、アルベド…モモンガさんに抱きついてみてよ。」

 

満面の笑みを-表情筋は無いが-浮かべながら、NIKUYAはアルベドに命じる。モモンガの顎が外れそうなのを横目に見ながら。

 

「仰せの通りにぃ〜!!」

 

目にも止まらぬ速さでモモンガの首に手を伸ばし、胸を押し付け、顔を近づける。

 

「なるほど、18禁に抵触するような行為も大丈夫と…いよいよゲームじゃないですね。」

 

冷静に分析するNIKUYAに、怒声のようなモモンガの悲鳴が聞こえる。

 

「NIKUYAさん、な、なにをさせるんですか!アルベド、離れて、離れてくれ!アルベド!」

 

「モモンガ様、私もモモンガ様の命令を遂行したいのは山々なのですが、NIKUYA様より命じられた身、どちらを優先すべきであるか理解しかねます!なので!この場合、先に命じられた事を遂行するのが正しいのではないかと愚考します!モモンガ様!お許しください!これも命令でございます故!」

 

とんでもないサキュバスだこれは。モモンガさんも骨じゃなかったら即堕ちだろう。

 

だがこれも実験であり、結果も想定したものである。

 

「アルベド、そこまででいいよ、一旦離れて。」

 

「…畏まりました…。」

 

ものすごく残念そうな顔でモモンガから離れる。それを見、モモンガにメッセージを飛ばしてみる。

 

《ーーあ、モモンガさん、聞こえますか?》

 

《あ、NIKUYAさん…メッセージですよねこれ。》

 

《そうですよ。声を出さずに、脳内でやりとりできるようですね、これならNPCの前でも計画をたてられます。》

 

《なるほど、それで、さっきのはどういうつもりですか?》

 

脳内で軽い怒声が響く。目の前の死の王がこちらを睨む。と言っても、瞼も眼球も無いのだが。

 

《実験ですよ、18禁に抵触する行為が行えるか、NPCに忠誠心はあるか、変えた設定は適応されているか、です。アルベドとセバスに関しては、忠誠心があることが分かりましたね。》

 

《もっとほかの方法、抱きつかせる以外になかったんですか?》

 

《そうですね…モモンガさんがアルベドの胸を揉むとか。それでも確認できますけど?》

 

《…いや、いいです。それで、これからどうしましょう?》

 

《外はセバスに任せたので、アルベドを使ってほかの守護者を集めましょう。みんなの忠誠心を確かめるのも大事ですし。》

 

《そうですね。じゃあ…》

 

メッセージが切れた感覚がする。モモンガがアルベドに向き合い、咳払いをする。

 

「ごほん、アルベドよ、第六階層の闘技場に、第四、第八階層を除く各階層の守護者達を集めよ。時間はいまから一時間後だ。よいな?」

 

「はっ、畏まりました。」

 

「私達は皆が集まる前に闘技場にてやることがある。では、頼んだぞ。」

 

アルベドに命じ、2人は第六階層に転移する。

 

 

 

 

ここは、ギルドメンバーのブループラネットさんが主に手がけた自然豊かな階層だ。その階層の一角、闘技場に歩み進む。

 

「NIKUYAさん、私はアウラに頼んでこのスタッフの力を試しますが、NIKUYAさんはどうしますか?」

 

「そうですね、私はアウラとマーレと手合わせしたいですね。防御力やスキルの確認がしたいですし。」

 

NIKUYAの提案にモモンガが少し嫌な顔をする。

 

「危険じゃないですか?」

 

「防御力が無ければどのみち危ないですし、防御力やスキルがあるなら、アウラやマーレの攻撃ではまったく傷付きませんよ、大丈夫です。」

 

「一応、後ろからみてますね。何かあればすぐに救出します。」

 

互いの案を話しあい、闘技場に到達する。それと同時に、元気な女の子の声が響く。

 

「とーう!」

 

15メートルはあろう司会席の上から、小柄で黄金色の髪をした女の子が飛び降りる。

 

そして見事な着地をみせ、脱兎のごとく此方に駆けてくる。

 

砂ぼこりが我々に届かないギリギリでブレーキをかけ、2人の前に立ち止まる。

 

「モモンガ様、NIKUYA様、私達の守護階層へようこそ!」

 

優雅で元気な礼をみせ、少女が歓迎してくれる。

 

この子はアウラ。この第六階層の守護者の一人だ。

 

 

「アウラよ、少し用があって来た。邪魔をさせてもらうぞ。」

 

「邪魔だなんてとんでもない!このナザリックは全土に置いて至高の御方々のものでございます!その御方々を邪魔者扱いする輩なんてこの地には居ませんよ!」

 

「そうか、それで…」

 

モモンガが辺りを見渡す。

 

「あっ、少々お待ちください! こーら、マーレ!はやく来なさい!」

 

アウラが司会席上にいる可愛い子に声をかける。

 

「おねぇちゃん…と、飛び降りるの…?」

 

「モモンガ様たちが来てるんだよ!?はやく飛び降りちゃいなさいよっ!」

 

「わ、わかったよぉー…えぇい!」

 

翻りそうなスカートを抑え、姉と同じように飛び降りる。もちろん無傷だ。

そして恥ずかしそうに此方に駆けてくる。

 

「マーレ、おそい!」

 

「ごめんなさいおねぇちゃん…えっと、マーレ・ベロ・フィオーレ、只今参りました…!」

 

姉と同じ黄金色の髪をパッツンにし、姉よりも女の子らしく振る舞う女の子のような服装の男の子、所謂男の娘であるマーレが2人の前に姿をみせる。

 

「二人とも元気そうだな。良いことだ。」

 

「お陰様で元気にやらせてもらってます!…ところで今日はどういった御用で?」

 

アウラが興味を込めた声で尋ねる。

 

「うむ、今日はコレの実験をしにきた。」

 

モモンガが左手に持つスタッフを揺らす。

 

「そ、それは!モモンガ様しか持つことが許されないという、あの伝説の…!」

 

「うむ!これがその伝説の!スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンである!この七匹の蛇は………」

 

モモンガがコレクター特有のレア自慢モードに入ってしまった。

 

アウラとマーレはものすごく興味深くモモンガの自慢を聞いている。

 

「……なのだ!!…こほん、つまりだな、これの起動実験をしたい。的をふたつほど用意してくれないか。」

 

「畏まりました!シモベに用意させますね!」

 

暫くして、闘技場の奥から的を抱えたアウラのシモベが出てくる。

 

闘技場の真ん中あたりに的を立て、アウラとシモベが闘技場の端に寄る。

 

「モモンガ様、準備完了です!いつでもどうぞ!」

 

「うむ、では…」

 

モモンガが杖を掲げ、精霊召喚を試す。

 

無事プライマリファイアーエレメンタルが召喚され、的は支柱ごと灰になった。

 

「スタッフの力は使えますね?詠唱も問題無しですか。」

 

「そうですね、とりあえずは一安心です。さて、あれは消して…次はNIKUYAさんですね。」

 

NIKUYAはアウラとマーレに向き合う。

 

アウラは期待と疑問を持った目で、マーレは緊張と疑問を持った目でNIKUYAを見る。

 

「2人には俺と手合わせしてもらうよ。いいよね?」

 

ごくごく普通に、軽く遊び程度に手合わせするつもりで言ったのだが、アウラは武者震いのように体を震わせ喜悦の表情を見せ、マーレは悪寒に見舞われたように体を震わせ、しかしどことなく嬉しそうな表情をみせる。

 

「最近あんまり体を動かせて無かったからね、…そもそもこの体が完全に俺の意思で持ってるってのがよくわからないけど…とにかく、肩慣らしだよ、そんなに気負わないで、気軽にね?」

 




はじめての小説でした
次回は手合わせ後のシャルティア登場から書きたい、書きたい。


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石と骨と部下たち

改行がすくなくて。
思い付きで一気に書いたので荒いところがあったらコメで教えていただけると幸いです。


 

 

アウラとマーレとの手合せを終え、汗を掻いた二人が手合せの感想を語り合う。

 

「いやぁ、さっすがNIKUYA様だったね。1ダメージも与えられないなんて。」

 

「こ、こっちも攻撃は当たってないから…あれでも手加減なされてたのかなぁ?」

 

「NIKUYA様の全力の一撃なんてくらったら、この闘技場ごと消しとぶんじゃないかな?遊び程度の手合せって言ってたから、本気は出さないでしょうし」

 

「あれで遊び程度…やっぱりNIKUYA様はすごい御方だね、おねえちゃん」

 

…むず痒い。褒めすぎではないかと。表情があればもう真っ赤っかでニヤニヤで目も当てられない事になりそう。

 

「アウラ、マーレ。汗を掻いたな。これを飲むといい。」

 

そう言い、アイテムBOX…空中に手を突っ込んで無限の水差しとガラスコップを取り出し、二人に注いであげる。

 

アウラは一気に飲み干し、マーレは少しずつ口に運ぶ。

 

ほんとに男の子なのかこの子は。さすが茶釜さん、といったところか。

 

 

「NIKUYA様はお優しい方ですね。僕、あまりNIKUYA様のこと知らなかったです…。」

 

アウラが飲み干したコップを返す時にいう。

 

「いままであんまりここに来てなかったからねぇ。女性陣が居て…来づらかったな…」

 

「こ、これからはもっと、来ていただけませんかっ!」

 

「マーレ…そうだな、これからはもっと会いに来るよ。約束ね。」

 

「約束…NIKUYA様と約束…」

 

マーレが向こうの世界へトリップした時、後ろで眺めていたモモンガさんの横に黒い空間の歪み…ゲートが開通する。

 

「おや…私が一番でありんすか?」

 

シャルティア・ブラッドフォールン。

 

大墳墓第一から第三までの階層守護者で、吸血鬼の真祖である。

 

「よくきたなシャルティア。」

 

さっきまで暇してたモモンガさんが、多少の構ってほしさに声をかける。

 

「あぁっ、我が君!私の愛しの君!モモンガ様に逢うために馳せ参じましたっ!」

 

首に手をかけ、ぶら下がるように抱き着く。

 

『あれ買ってよパパ!』

 

『やめてくださいNIKUYAさん!俺まだ捕まりたくない!』

 

メッセージで野次を飛ばす。

 

「シャルティア…あんたちょっといい加減にしたら?」

 

アウラが羨ましそうな顔でシャルティアに突っかかる。

 

「あらチビスケ…居たでありんすか?ちっさすぎて見えんせんでした。」

 

モモンガに見えない角度で顔を厭らしくゆがめる。NIKUYAさんはちゃんと見えてるぞー?

 

「…偽乳。ずんぐり。変態。」

 

怒涛の攻めの姿勢のアウラ。

 

「な、偽…あんたなんかまったくないでしょ!」

 

「私はまだ76歳、これから成長の見込みがあるのよ!先月より1cm大きくなったし!それに比べてアンタはアンデット。成長しないって大変よねぇ。今あるもので満足したら?」

 

アウラはドS。容赦ない。

 

二人の言い争いが激化しそうな折、新たな守護者が闘技場に現れる。

 

「サワガシイナ。」

 

コキュートス。第五階層守護者の蟲王、性格もコンセプトデザインも武人である。

 

「オンカタガタノマエデサワギスギダ。」

 

「このチビが私に無礼を!」

 

「シャルティアが悪いんでしょ!」

 

一歩も引かぬ両者。コキュートスはとりあえず頭を冷やさせようと思ったのか一帯を凍らせるスキルを使用しようとする。

 

「そこまでだ!」

 

モモンガが3人を制する。

 

「シャルティア、アウラ。じゃれあうのもそれぐらいにしておけ。」

 

「「申し訳ございませんっ」」

 

ふむ、この4人も忠誠心はあるようで…

 

「シャルティア、アウラ。モモンガさんは胸の大きさで女性を比較するほど愚かな人じゃないよ。」

 

「そうでありんしたか…ではこの詰め物は…」

 

「ちなみに俺は小さい方がいい。」

 

「…!!用事を思い出したので1分ほど部屋に戻ります!少々お待ちを!!」

 

シャルティアがユグドラシル史上最速のゲート展開ー閉鎖を見せてくれた。

 

「よくきてくれたな、コキュートス。」

 

「オンカタノオヨビトアラバソクザニ。」

 

膝をついて礼をし答える。よくできた部下だ。私はうれしいよ。

 

「うむ、ご苦労。」

 

モモンガが労う。社会人としては当たり前、むしろ適当な感じの対応なのだが、コキュートスは労われたことに心底興奮し、喜びで口の触角のようなものをカチカチ鳴らしている。

 

「皆様、おまたせして申し訳ありませんねぇ。」

 

さて、集合予定時間の20分前に来たのは第七階層守護者のデミウルゴス、最上級悪魔である。

 

それの前を歩くのは、伝達の仕事を終えたアルベド。

 

これで、一時撤退したシャルティアを除いて守護者全員が…

「お待たせしたでありんす!」

 

デミウルゴスの後ろから、胸の辺りがシャープになったシャルティアが全力で駆けてくる。

 

「あらシャルティア、いつもの偽乳はどうしたのかしら?」

 

アルベドが嫌味たらしく尋ねる。が、シャルティアはもうその攻撃を無効化できる。

 

「胸の大きさなんぞで張り合おうとした私が馬鹿でありんしたぇ。NIKUYA様は小さい方が好きと仰りんしたの!」

 

「…NIKUYA様?」

 

アルベドの涙目が岩の顔に突き刺さる。痛い。

 

「NIKUYA様は…わたくしのような豊満な女性はお嫌いですか…?シャルティアのような幼いカラダをお求めになるのですか…?」

 

なにこれ、ロリコンかどうか聞かれてるの?ロリコンですありがとうございますた。

 

とはいかず…

 

「アルベド、私は大きくても小さくてもいい。どちらかと言うと、少しの差で、小さい方が好きだと言ったのだ。それに、モモンガさんは大きい方が好きだし。」

 

「なるほど、シャルティアのような哀れな虚乳に情けをかけてやったというわけですね!さすがは至高なる御方!」

 

「いや違、あ、シャルティア泣かないで!俺はシャルティア派だから!」

 

泣いてしまったシャルティアを撫でながら慌てふためくNIKUYA。

 

それを眺めるナザリック男性陣。

 

モモンガの助けなど無く、この修羅場を切り抜けないといけない。が、俺には秘策がある。

 

「まぁアルベドはモモンガさんの伴侶として創られたからね、モモンガさんの好みにはド直球じゃないかな!ねぇモモンガさん!!」

 

食らいやがれ俺の全力全開。アルベドは一瞬身体を硬直させ、神速の勢いでモモンガの方に向き直す。

 

「モモンガ様…私はモモンガ様の伴侶…モモンガ様、ここで契りを!私の創られた意味をここで示していただけませんか!!」

 

モモンガを押し倒し、自らの服を脱ごうとしている守護者統括。

 

「ま、まてアルベド!こういうのは二人きりでするもんだろ!ここはまずい!」

 

あ、モモンガさん肯定してる。アルベド調子に乗っちゃう。

 

「ではモモンガ様…後ほどお部屋に伺います。それで宜しいでしょうか?」

 

顔を赤らめながらも服を整え、守護者達の前に居直る。

 

「シャルティア、そろそろこっちにきなさい。」

 

デミウルゴスが促す。

 

「もうちょっと…もうちょっと撫でられていたいでありんす…」

 

こいついつ泣き止んだ。すごいエロい顔で上目遣いを仕掛けてくる。NIKUYAにコレの耐性はない。

 

「NIKUYAさん、シャルティアを離してください。…シャルティア、後でNIKUYAさんの部屋にいけばいくらでも撫でてもらえるだろうよ。」

 

この骨…やられたらやり返すギルドのトップなだけある。

 

「…シャルティア、続きは後でだ。」

 

「かしこまりました、NIKUYA様っ!」

 

したり顔で守護者列に居直る。これで第四と第八以外の階層守護者は集まった。

 

「では皆…至高の御方々に、忠誠の儀を。」

 

アルベドの宣言で、各守護者たちが与えられし名と役職を唱える。

 

 

「…御身の前に。」

 

皆が宣言を終え、頭を垂れたままNIKUYAとモモンガの言葉を待つ。

 

「…面を上げよ。」

 

モモンガさんが絶望のオーラVを発動させながら守護者たちに言う。

 

じゃあ俺も…と、威圧のオーラVを発動させる。

 

「よく集まってくれたな…礼を言う。」

 

まずは労い。だが、この二人はこの地での自分の立場をあまり理解していない。

 

労われた守護者たちは喜悦の表情をみせ、感動に全身を震わせる。

 

「礼など我々には勿体ない!我ら御方々にこの身を捧げた者たち…御方々にとってはとるに足らない者でしょう。しかしながら我らの造物主たる至高の御方々に恥じない働きを…誓います。」

 

「「「「「誓います」」」」」

 

おお…これが狂信者か。こわいな…対象が自分たちだってのも怖い。そして同時に頼もしい。

 

モモンガさんも満足そうな顔をしている。表情ないけど。

 

「素晴らしいぞ!守護者たちよ。お前たちなら失態なく事を運べると強く確信した。」

 

守護者たちがまたも喜悦に満ち満ちた顔をしているのを見ながら、本題にはいる。

 

「さて。現在このナザリックは原因不明の事態に巻き込まれている。すでにセバスに地表を捜索させているのだが…」

 

そこで丁度姿を現した執事、セバス。

 

さすセバ、居てほしいときに居る執事の鑑。

 

「セバス。捜索結果を皆に。」

 

「はっ。まず、周辺1キロはすべて草原でした。小動物以上の生命体は確認できず。丘や川などもございませんでした。」

 

草原…ナザリックはもともと、毒沼の中にある建造物だ。

 

「1キロ以遠には、複数の村、森がございました。」

 

「ふむ、ご苦労セバス。…となると、ナザリックの隠蔽が最優先か。マーレ。」

 

「はいっ!」

 

モモンガさんがいろいろと思案してくれている。

 

俺はいつもみんなの決定を待って、ついていくだけ。

 

考えることは全部モモンガさんに任せようと思っている。

 

「ナザリックの隠蔽は可能か?」

 

マーレにきいたのは、広範囲高火力魔法や補助魔法のうちでなんとかなるものがないかと考えたからだ。

 

「魔法という手段では難しいですが…たとえば、アースサージを使用して土で覆うとか…」

 

マーレはよくできた子である。自分のできることを把握し、提案できる子。いい部下である。

 

「ふむ、ではそれでいこう。周りの草原にも複数のダミーを用意してくれ。隠せない上空部分は幻術を展開してなんとかしよう。」

 

さすがモモンガさん、問題が一つ片付いた。

 

「さて…それともう一つ大事な事を言っておかねばならん。」

 

 

守護者たちが更に気を引き締め、耳を澄ませ、言葉を待つ。

 

「NIKUYAさんをお前たちナザリック配下の者たちの相談役に就任させる。もちろん、私とNIKUYAさんの立場は同じである。」

 

そう、これは闘技場にくる前に二人できめたことである。

 

頭の回るモモンガさんに外の事を任せ、俺は中で楽をしたい…と言えば聞こえが悪いが、モモンガさん的には魔王RPがしんどくて外の方が楽だろうからという配慮だ。

 

めんどくさいとかそんなのでは決してない。決して。

 

「ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか。」

 

デミウルゴスが発言する。

 

「許す。言ってみよ。」

 

「相談、というのは、どの程度の事柄までお許しいただけるのでしょうか。」

 

たしかに相談と一言で言っても、ナザリックの戦力構成の相談から晩御飯はなにがいいかの相談まで幅広い。

 

誰かが粗相を起こして御方の機嫌を損ねる可能性があるぐらいなら、ここで自分ひとりが犠牲になろうという心積りだ。

 

「ふむ…NIKUYAさん、どう思う。」

 

「そうだねぇ…なんでもいいよ。なんでも。みんなのちょっとした疑問や心配を解消するための役職だからね。もちろん、秘匿してほしい相談内容は誰にも話さない。モモンガさんにも、ね。」

 

デミウルゴスが安心したように息を零す。

 

「私めの質問に答えていただき、ありがとうございます。」

 

「よいよい。で、このあとさっそくみんなと二者面談するからね。」

 

「ということだ。では、私は自室にて話に有った村とやらを覗こうと思う。NIKUYAさん、あとは頼みましたよ。」

 

「了解ですー。なんかあったら呼んでくださいね。」

 

モモンガは骨の手をひらひら振りながら、転移でその場から消える。

 

俺は威圧のオーラを解き、皆に向き直る。

 

「じゃあ…そうだな、20分後に俺の部屋にきてよ。シャルティアから順番に、アルベドの後にセバス。そうだな、セバスの後にプレアデス達も呼んでくれるかな。」

 

「畏まりました。では、伝達してきます。」

 

セバスが礼をし、闘技場から出る。

 

「じゃあみんな、また後で。俺も部屋に戻ってるね。」

 

そういい、転移で自室に戻る。そしてメッセージをつなぐ。

 

『あー、モモンガさんー』

 

『NIKUYAさん、アルベドの件…』

 

『あ、はい。シャルティアの件。』

 

『…おあいこで。この後面談ですか?』

 

『そうですね、20分後に、シャルティアからプレアデスまで。』

 

『そうですか…シャルティアとのお楽しみは無いようにお願いしますね。』

 

『アルベドには面談後にモモンガさんの部屋に行くように言っときます。では。』

 

『あ、ちょ、NIK』

 

さて、面談の準備をしよう。



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石と部下の二者面談

いつも通り勢いに任せた突発的小説です
へんな言い回しとかあるかもしれませんがご指摘いただけるとありがたいです


ーーーモモンガとNIKUYAが去った後の闘技場ーーー

 

「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん…」

「ほんと押しつぶされるかと思ったよ!」

「マサカコレホドトハ」

「あれが支配者としての器を御見せになった御方々なのね…」

「ですねぇ」

皆が皆、支配者たるモモンガとNIKUYAにまみえた感想を募らせる。

「ん?シャルティア、どうかしたのかね?」

尚も頭を垂れたまま小刻みに震えるシャルティアを疑問に思い、デミウルゴスが問いかける。

「…お二方のすごい気配を受けてゾクゾクしてしまって…すこぉし下着が…」

スカートの裾を握り、恥ずかしげに答えるシャルティア。

皆がため息を吐き、心配して損したとばかりに身体を背ける。

「…実は私もそうなの。はやめに話を終えて、面談に備えましょう?」

アルベドが言う。

お前もか、という顔を向けるナザリック男性陣。それとなぜか顔を逸らすアウラとマーレ。

「そうだね、じゃああと16分後にシャルティアが面談に行き、次の者がNIKUYA様の部屋の前で待機する、ということでいいかな。」

「そうでありんすね、終わった者はどうするでありんす?」

「そうだね、終わった者になにも命令されなければ、各階層の見回りルートと防衛案の再確認をしてもらおう。万が一穴があってはいけないからね。」

「りょうかいでありんす。では下着も変えないといけないので私はこれで…」

「…うむ、時間に遅れないようにね。」

若干気まずそうにデミウルゴスがシャルティアを見送る。

「デハワレワレモメンダンニソナエテカイサンスルカ」

「そうね、デミウルゴスと私は回ってくるまでに、大墳墓の警備の案でも練っておきましょう。」

「ですね。では解散ということで」

 

 

 

 

「シャルティアか。入って。」

ここはNIKUYAの部屋。第九階層に41ある通称ロイヤルスイートのひとつ。

ワンルームであり、部屋の角にキングベッドと、真ん中に6人掛けの机が置かれている以外はほぼ何もない部屋である。

NIKUYAがAOGに加入したのはサービス終了の二年ほど前、ヘロヘロさんがまだたまにインしていた頃であり、それからはほぼナザリックの維持のために動いていたため、装飾などに気を遣う時間がなかったのだ。

それでも、元々あった装飾は部屋を彩り、まさにロイヤルスイートと呼ぶにふさわしい部屋になっている。

「失礼します。」

面談のためにシャルティアが訪ねてきた。やはり胸には何も詰めていない。

「じゃあ座って。面談を始めるよ。」

「は、はいっ」

背筋を伸ばし、手を膝の上に乗せ、顎を引いて椅子に座っているシャルティア。

「あー、そんなに固くならないで。気を抜いてくれたらいいから。」

面談というか面接だなぁと思い、気楽にしてほしいと言うNIKUYA。だがこのナザリックで至高の御方の前で気楽にしたことがある者はいない。

「御方の前で気を抜くのは不敬ではありませんか…?」

「いいのいいの。ていうか命令ね、もっと気楽にして。」

「わ、わかりました…」

若干座高が縮んだのを見て満足し、本題に入る。

「さて、面談と言っても、いくつか質問するだけなんだけどね、この質問内容は後続の者には話さないように。」

「畏まりました、NIKUYA様。」

「じゃあまず一つ目。モモンガさんが急に俺みたいに砕けた物言いになったらどう思う?」

まずはモモンガさんに頼まれていた質問。魔王ロールプレイがつらいので辞めたいから守護者に意識調査してくれとのこと。

「更に心を開いてくださったと感じるでしょう。これはナザリックの皆が同じ意見だと思いんす。」

俺としてはこう言うだろうなと予想していた回答だ。モモンガさんの危惧していた事態にはならないようでよかった。

「そうか。では二つ目。俺とモモンガさんのことどう思う?」

これもモモンガさんに頼まれてた質問。こんなん聞いてくる人とかちょっと重いんじゃない?と思ったが。

「モモンガ様はまさに美の結晶…何にも劣らぬ美と、皆を平伏させる超越者たる御方でありんす。」

「ふむふむ。」

おいおいなんだよ美の結晶て。骨じゃん…そうか、シャルティアはネクロフィリアだったか…

「NIKUYA様は…その…皆に優しく接していただけて…慈悲深く…その…私の…」

「私の?」

「…!あ、いえ!NIKUYA様は全てを破壊し得るチカラをお持ちになられる、まさにナザリックの守護神たる御方です!」

なんだかぼそぼそ言ってたのはほぼ聞き取れなかったけどまぁいい、なるほど守護神か、いいじゃない。

「ふむふむなるほど。シャルティアの気持ちは良くわかった。じゃあ最後の質問。ナザリックの10キロ圏内に人間の村があるってモモンガさんから報告があったんだけど、もし人間と友好関係を築けと言われたらできる?」

これもモモンガさんの質問。実際のところ俺からの質問はまったく思いつかなかった。

「そうでありんすね…人間は好きではありんせんが、仲良くするふりなら支障なく遂行できるでござんしょう。」

なんだかさっきの質問以降、もぞもぞとしているようなしていないような…手が動いてるような気もするが、テーブルがあって見えない。それはさておき。

「そうか。ならそういう任務があった場合は起用されるかもしれんから心の準備はしておくように。」

「畏まりました、NIKUYA様…んっ」

「どうしたシャルティア、顔が赤いぞ?大丈夫か?」

確か守護者はみんなバッドステータスに耐性あったはず…風邪とかはないし、部屋の温度は22度だし、熱を帯びる理由が見当たらない。

「いえ…なにもございません。大丈夫でありんすぇ…」

うーん、まぁ、ダメージとか受けてないみたいだしいいだろう。

「じゃあ質問は終わり。最後にそっちからの質問を聞きたいんだけど…なんかある?」

「そうでありんすね…そう…NIKUYA様は、お慕いになられている御方はいらっしゃるのでしょうか?」

お慕いに、というのは…好きな人はいるのかって事ですよね。

「そうだな、尊敬という意味ではモモンガさんだが…異性として慕ってるのは…秘密だな、シャルティア。」

俺はみんな好きだからね!シャルティアが一番かわいいと思ってるけど!

「秘密でありんすか…その…どうしても駄目でしょうか…?」

前かがみ上目遣いで攻めてくるシャルティア。誰だこの子創ったの!ペロロンチーノさんあんた最高!

「…んんっ、この事は他言無用だ。いいなシャルティア。」

「ここに誓います、NIKUYA様。」

こんな子に強請られたら言わないわけにはいかないでしょお父さん。よーしパパ頑張っちゃうぞ!

「…慕ってるものはいない。」

「…そうで…ありんすか…」

みるからに落ち込み、涙目になるシャルティア。これは事案です。モモンガさん私です。

「ただ!一番かわいいのはシャルティアだと思っている。これは本当に他言無用だ。戦争になり兼ねん。」

「………!!なんと!!私が一番…一番…私が…NIKUYA様の…」

あぁ駄目だ壊れてしまった。シャルティアが再起不能になったので、一般メイドにシャルティアの部屋に運ばせる。

「…ようやく一人目終わった…次はコキュートスか。」

部屋の温度を3℃に下げ、コキュートスを待つ。

 

 

 

 

「シツレイシマス」

コキュートスが一礼し、入室する。

「よくきたね、コキュートス。椅子と座布団どっちがいい?」

「椅子デカマイマセヌ。オキヅカイアリガトウゴザイマス」

あのしっぽどうなってるんだろうと思いつつ、席に着かせる。シャルティアよりは固くなってないのは、やはり普段から真面目なだけある。

「じゃあさっそくはじめるね。3つほど質問するだけだから、すぐ終わると思うよ。」

「カシコマリマシタ。」

「じゃあまず一つ目。モモンガさんが俺みたいな砕けた物言いになったらどう思う?」

シャルティアはああ言ってたけど、モモンガさんに夢見てる子もいるかもしれない。

「ワレラシモベニタイシテココロヲヒライテクダサッタトカンジ、サラナル忠義にハゲミマス。」

やっぱりこの子もこう言うと思ってた。モモンガさん、みんないい子ですよ。

「じゃあ二つ目。俺とモモンガさんの事をどう思うかだけど。」

「モモンガ様ハ守護者ノダレヨリモ強者デアリ、マサニナザリックノ支配者ニフサワシイ御方カト。」

なるほど、やっぱりこんな評価なんだな。これは魔王RPも辞め時が見つかりそうにない気がする…

「NIKUYA様モ守護者ノダレヨリモ強者デアリナガラ、慈悲ニアフレ、マサニナザリックノ最後ノ盾ニフサワシイ御方デス。」

慈悲にあふれ…なんかそんな接し方したっけな?まぁ、評価は悪くない、いいことだ。

「ふむ、なんだか小恥ずかしいな。じゃあ最後の質問だ。」

「ナンナリト。」

「人間と仲良くできる自信はある?」

コキュートスはカルマ値50の中立だ。だが見た目がコレなので、外で活動させるには不向きである。もしナザリックの支配、管理下に置けた集落からナザリックに人間を招待した時などを考慮しての質問である。

「ムコウニ敵意がナケレバ、モンダイナイカト。」

「ナザリックに招待することになったら?」

「…御方々ノテガケラレタコノナザリックヲ愚弄シタ場合ハ、理性ヲオサエル自信ハゴザイマセン。」

「そうか。よいよい。」

この子らの病的なまでの忠誠心はちょっと危険だな、そう思うNIKUYAであるが、今更どうこうできるわけではない。

「じゃあ質問はおわり。次はそっちからの質問に答えたいんだけど、なんかある?」

さっきのシャルティアの時はちょっと厄介な結末になったけど、コキュートスならその辺は大丈夫だろう。

「ソウデスナ…NIKUYA様ハアウラトマーレト、テアワセヲナサッタソウデスガ」

「そうだな、それがどうかした?」

「ワタシハナザリックノ剣トシテ創ラレタ身…鍛錬ヲオコタッテハナイノデスガ、サラナル向上ヲメザスニハ、ヤハリ同格カ格上トノ訓練ガ一番カト。」

「…なるほど。俺か守護者の誰かと手合せがしたいと。」

「僭越ナガラ。」

そうだった、この子は武人。トレーニングが趣味って設定だったな。

「じゃあそうだな…シャルティア、セバス、アルベドの何れかが暇な時は一日一戦のみ、俺の監視の下で手合せを許そう。皆には俺から伝える。」

「アリガタキシアワセ…!」

「それと、何れも暇が無いときは…俺が戦ってやろう。」

「ナント…!ナント慈悲深キ…アァ…アリガタキシアワセ…ナザリックニウマレテヨカッタ…!!」

壊れ…た?コキュートスもこうなるのか…?

「コキュートス?大丈夫かー?」

「…ハッ、モウシワケアリマセン、アマリニウレシカッタノデ…」

「よいよい。他に質問ある?」

「イエ、イマハゴザイマセン。」

コキュートスはまともである。ナザリックの中では。

「じゃあ面談終わり。次呼んできてね。」

「デハ、シツレイシマス。」

一礼し、静かに部屋を出るコキュートス。

(あ、椅子凍ってる…)

一般メイドに椅子を交換させ、部屋の温度を22度に変更し、アウラを待つ。

 

 

 

 

「失礼します!」

アウラが一礼し、入室する。

「ん、掛けて。なんか飲む?紅茶しかないけど。」

コキュートスが部屋を出た後、一般メイドに頼んで持ってきてもらった紅茶だ。

俺はモモンガさんと違って口の奥には胃がある。無機質だけども味はわかるし、実は種族特性で変形できたりもする。

「いえ、御方の前で飲食など、我々シモベには…」

やっぱり断られる。社長室で出されたお茶に手をつけないのと同じだ。

「紅茶は嫌いか?」

「いえ、紅茶は好きですが」

「じゃあ命令、一緒に飲んでのんびりしよう。砂糖いくつ?」

実はアウラとは一番仲良くできるとおもっているNIKUYA。ほかの守護者への対応に比べて砕けている。

「あ、じゃあお言葉に甘えて…お砂糖はひとつでお願いします」

「ん…あぁ、うまいなコレ。じゃあさっそく、質問していくけど。」

「はい!なんでも答えさせていただきますよっ!」

二人で紅茶を飲みながら、さっそく質問にはいる。

「まずは…モモンガさんが俺みたいな砕けた物言いになったらどう思う?」

「そうですね、モモンガ様がどうあろうと、我々は忠義を尽くすまでです。支配者たられるのは、物言いではなく、存在故ですから。」

この子意外と大人…ってそうか、76歳だった。見た目に騙されたらダメだ。

「そうだよね、モモンガさんはモモンガさんだもんね。」

「そうですよ、モモンガ様はモモンガ様です!」

「んじゃあ二つ目ね。モモンガさんと俺の事どう思う?」

この子の面談は滞りなく終わりそうだと思うNIKUYA。もしかしたらナザリックではアウラが一番大人かもしれない。…いや、一番はデミか。

「モモンガ様は慈悲深く、深き配慮に優れた御方だと思います!NIKUYA様も慈悲深く、その、私のお慕いする御方です…」

お慕い…慕うこと、思慕すること、などの意味の表現。「お慕い申し上げます」などの表現で用いられ、尊敬の念や恋心などの意味合いで用いられる。

「そ、そうか…なんか、うん、ありがとね。」

「い、いえ…すみません…」

気まずい。気まずいぞこれ。面談に呼んだら告られたでござ…いやまて、尊敬の意味だろ、そうだ絶対そうだ。

「じゃあ、最後の質問…人間と仲良くできるか。人間をナザリックに招待したらどう思うか。」

「命令であればまったく問題ないかと。ナザリックに招待するのも、ナザリックの素晴らしさを妬まない人間なら問題ないですね。」

アウラはカルマ値-100。中立~悪ではあるが、仲良くするフリは問題なさそうだ。

「そうか。アウラも人間に近しい姿だから、そういう任務に就かせる可能性も考えててほしい。」

「畏まりました。私にお任せください!」

うんうん、元気でいい。子供はこうでないとね。76歳だけど。

「じゃあ最後に、アウラからの質問に答えるよ。なんかある?」

「そうですね…NIKUYA様の好きな食べ物と嫌いな食べ物はなんですか?」

好き嫌いを聞かれるとは思っていなかった。小学生が異性に最初に聞くことランキング一位のこれが。

「そうだな、好きなのは肉と海鮮、嫌いなのはキノコ…料理長達のことじゃないぞ?あと野菜はあんまり好きじゃないな。」

「ハンバーガーはお好きですか?」

ハンバーガー。そういえばこの子、ジャンクフード好きな設定だったっけ。何気にそういう設定は覚えているNIKUYA。

「ハンバーガーは好きだよ?…そうだ、今度二人で食堂でハンバーガー作ってもらおうか!」

「二人で!?二人で…これって…」

あ、これは向こう側へ行くパターンか?この子もそっち系か!?

「二人でいくけど、食堂にはみんないるからねぇ」

「そ、そうですよね、でも、そっか…二人で…楽しみです!いついきますか!?」

子供のようにキラキラとした目で、握った両手を胸の前に構えて訪ねてくる。犬のようである。

「うーん、なにも問題がなければはやめに…その時ははやめに連絡するよ。朝連絡して、昼飯に食べに行こう。」

「はいっ!お待ちしておりますっ!」

しっぽがあったらブンブン振り回してるだろうなというほど喜んでいる。ここまで喜ばれるとは思わなかったのでちょっとびっくりしている。

「ほかに質問あるかな?」

「いえ、特にはございません!」

「そうか、じゃあ面談終わり。マーレ呼んできてね。」

「畏まりました!失礼しましたー!」

(よし…マーレも紅茶でいいかな。)

一般メイドにカップを下げさせ、新しい紅茶を持ってこさせる。

なんとなく嬉しそうな一般メイドを退室させ、マーレを待つ。

 

 

 

 

「し、失礼しますっ」

「どうぞ、マーレ。さあ、掛けて」

4人目の面談ともなれば、NIKUYAに少しあった不安も薄れている。段々と砕けてきてるのは誰も気づかないだろう。

「はい、NIKUYA様っ…」

シャルティアの時のように、膝に伸ばした手を置き、膝を閉じ、胸を張り、顎を引くマーレ。

それ女の子の作法やでマーレ君…違和感はないのだが。

「もっと気楽にね。紅茶は砂糖いくつ?」

「お、御方の前で飲食など…」

「命令ね、一緒に飲もう。アウラも飲んだから。」

「で、ではお言葉に甘えて…砂糖は大丈夫です。」

マーレより大人な舌なのかな?それとも男の子補正か…

「じゃあ質問3つほどするからね。まず一つ目、モモンガさんが俺みたいな砕けた物言いになったらどう思う?」

もうなんかみんなおんなじような事しか言わないと思うんだけど、ほんとに。

「僕は…嬉しいです。もっとお近づきになられたような気分になります。」

なんだろうこの違和感。男の子だという前提がなかったら見逃しそうな違和感。まぁわかんねぇや。

「そうか。じゃあ二つ目。俺とモモンガさんの事どう思う?」

なんだかんだ一番予想できないマーレ。もしかしたら一番大変なことになるのではないかと思っているNIKUYAだが。

「モモンガ様は、とてもお優しい方だと思います。」

あら、それだけ?…いや、今までが複雑すぎたんだ。この子ぐらいのが一番わかりやすくていい。

「そうだな、あの人は優しい人だ。」

「NIKUYA様は力に溢れ、とても頼もしい御方です。」

シンプルイズベスト。この子はもしかして、この面談が俺の負担になるのではないかと思ってはやく終わらせてあげようと思ってる…!?

「なかなかシンプルで分かりやすい回答だな。じゃあ最後の質問。」

「はいっ」

「人間と仲良くできるか。人間をナザリックに招待することになった時、どう思うか。」

マーレもアウラと同じ属性値。性格は違うが、問題はなさそうだが。

「命令であれば問題ないですが…自主的にとなると、その、興味が湧かなくて。ナザリックに招待なされる場合も同じです。」

興味がないか…嫌悪しているよりはマシだが、感情の洞察などはできなさそうだな。

「ふむ、そうか。じゃあ最後に、マーレから質問はあるか?」

「そ、そうですね…NIKUYA様は、僕の格好についてどう思いますか?茶釜様に頂いた服なので、不満というわけではないのですが…」

女装させられてるがまんざらでもないのをどう思うか、か…

「俺は嫌いじゃないよ。茶釜さんがそうあれと創ったんだから、間違っているわけがない。ただ…そうだな、お風呂はちゃんと男風呂入れよ?」

「わ、わかってますよー!!僕は変態じゃないんですから!!」

…お、おう。そうだな。

「んんっ、じゃあ他に質問はないかな?」

ちょっと距離が縮んだ気がし、多少いい気分になったNIKUYA。なんでも答えてやるぞと問いかける。

「うーん…モモンガ様とNIKUYA様の出会いについてなどお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「…長くなるぞ?」

ここから約二時間、途中モモンガさんからアルベドを外に連れ出していいかとのメッセージに返答しながら、延々と昔話を続けるNIKUYAであった。

一般メイドは紅茶の入れ替えのために8度の入退室を許可され、外に待っているデミウルゴスと苦笑いを交わすまでに仲良くなっていた。

「…ああもうこんなに時間が…すまんな長くて。」

「いえ!!こんなに幸せな時間は今までございませんでした…!ありがとうございました!」

「ん、じゃあ面談終わり。デミウルゴスは部屋の前で待ってるみたいだし、これ以上待たせてもね。」

「はい、し、失礼しましたっ!」

一礼して退室するマーレ。デミウルゴスらしき者に笑顔で話しかけているようだ。

(さて、デミウルゴスはコーヒーかな。)

一般メイドに、コーヒーがくるまであと少し待っててとデミウルゴスに伝えるように言い、コーヒーを持ってこさせる。

 

 

 

 

「お待たせ、デミウルゴス。」

なんだかんだで2時間ほど待たせた。だってマーレがあんなに嬉しそうに話を聞いてくれるのだから。

「いえ、お呼びいただき光栄でございます。」

やっぱりデミウルゴスはデミウルゴスだ。まったく出来た子だ。

「じゃあ席着いて。コーヒーでよかったよね?アウラとマーレは紅茶で…その前は出すの忘れてたから内緒ね?」

「かしこまりました。砂糖、ミルクは結構でございます。」

やっぱり大人はブラックだよね。俺は砂糖4つとミルク2つで。

「じゃあさっそく面談ね。3つほど質問するだけだから気楽にね。」

「はい。」

俺が一口飲んだあとに続いて飲むデミウルゴス。動きに隙がない。

設定的に裏切られたら一番大変なのはこの子だ。設定的に一番裏切らないのもこの子だが。

「まずひとつめ。モモンガさんが俺みたいな砕けた物言いになったらどう思う?」

「…そうですね。私としてはそちらの方が、深遠なる思想を僅かながらも読み取りやすくなるなるかと。」

深遠なる思想。ないです。俺とモモンガさんは小卒です。せ、せめてこの子の前ではボロがでないようにしないと…。

「そうか…じゃあ二つ目ね。俺とモモンガさんの事どう思ってる?」

マーレみたいに単純な感想がわかりやすくていいんだけど、この子はどうせ難しい言葉を使ってくる。脳内の辞書を待機させ言葉を待つ。

「モモンガ様は賢明な判断力と瞬時に実行なされる行動力を有される御方。まさに、端倪すべからざるという言葉が相応しい方かと。」

「ふむふむ。」

え、なに?たんげいってなに?つまり…どういう意味?あとでモモンガさんに聞こう。

「NIKUYA様は…昔、ウルベルト様が仰っていました言葉をお借りします事をお許しください。」

「かまわんかまわん。いってみい。」

なんだろう。ウルベルトさんだから悪がどうの正義がどうのかな?

「NIKUYA様はまさに、『力こそパワー』の権化であられると、ウルベルト様が仰っておりました。力はNIKUYA様、NIKUYA様は力であると。」

なるほどウルベルトさんがそんな事を。あの人も意外とそういうスラングとか好きな人だったっけ。

「なるほどな、デミウルゴスもウルベルトさんと同じ意見というわけか。」

「至高の御方のお言葉をお借りした事、どうかお許しを。」

「いや、それはいいんだ。やっぱりデミウルゴスはウルベルトさんの子だな…」

ぼそっと言った一言だが、悪魔の耳には届いたようだ。身震いし、顔が火照るのが見てわかる。

NPCを製作者に絡めて褒めると大変なことになると痛感したNIKUYAである。デミウルゴスですらこうなるのだ。

「ああ、取り乱してしまって…申し訳ありません。」

「いいよいいよ。じゃあ、うん、最後の質問だけど。」

一旦間を置き、コーヒーを飲んで落ち着く。やっぱりお茶の方がよかったかも。苦い。

「人間をどう思うか、仲良くできるか。ナザリックに人間を招待した場合どう思うか。」

デミウルゴスはカルマ値-500の極悪。ウルベルトさんに悪であれと創られた存在だ。

だが真の悪はただ単に人を恨み蔑む存在ではないとウルベルトさんが言っていた気がする。

「そうですね、人間は暇潰しにとても役立つ玩具だと思っております。肉体的には我々にはとても及びませんが、群としての思考などは見習う点があるとも思っております。仲良くするのは命令であればまったく問題ないでしょう。ナザリックに招待され得るような価値のある人間がいるかはさておき、御方の決定された事項であればこちらも問題ないでしょう。」

なるほどやっぱりデミウルゴス。しっぽさえ隠せばどう考えても外に持っていきたいNPCナンバーワンだわ。

使いやすすぎる。頭がいい、愛想がいい、仲間に優しい、もうデミウルゴスに全部任せて引きこもろうよモモンガさん。

でも、玩具か…シャルティアのソレとは方向性が違うし、暴走の心配も少ないが、今後これがどう表れてくるか。

「うむ、もしそういう任務があれば起用される可能性も考えててね。この世界の人間の賢さがあまりに高かったらそれこそ全部デミウルゴスに任せることもあるかもしれないし。」

「私めにお任せください。全て滞りなく完遂させてみせましょう。」

口角を上げ、右手を胸の前に添え、一礼するデミウルゴス。なんだろうこのやる気。

「うん、まぁ、頼りにしてるよ。じゃあ最後に、デミウルゴスから俺になんか質問ある?」

とんでもなく口角が上がって小刻みに震える姿に既視感を覚えつつ、問いかける。

「質問、ですか…NIKUYA様は、人間をどう思っておられますか?」

違和感のある質問だな。俺は元々人間だったわけだが、今はゴーレム。人間だったころならどう答えていたか…

「今は、そうだな。特にどうとも思わない。仲良くできるなら仲良くしたいし、敵対するなら滅ぼしてもいいと思ってる。」

「私めの質問に答えていただき、ありがとうございます。」

今はそう思ってる。ゴーレムの俺は。

「ほかに質問はないかな?ないなら面談終わりだけど。」

「ではもう一つだけよろしいでしょうか。」

「よいよい、なんでも聞き給え。」

「NIKUYA様はお酒などはお飲みになられますでしょうか?」

ん、アウラみたいな質問だなぁ。

「日本酒とかワインは苦手だけど、酎ハイとかカクテルは好きだよ。でもお酒よりはおつまみメインかなぁ。」

リアルでの味覚は引き継がれているのはコーヒーで分かったのだ。

「そうですか。実はコキュートスと9階層にあるバーによく行くのですが、よければ…」

「ん、一緒に飲みたいと?」

軽い問い返しに身体を強張らせ、自分の発言が浅はかで不敬であったと認識し冷や汗を掻くデミウルゴス。

「も、申し訳ございませんNIKUYA様!シモベたる私如きがお食事のお誘いなど…!」

いまにも自害しそうなデミウルゴスに若干引きながらも、誰かと一緒に飲むのなんてAOGのオフ会以来だなとワクワクするNIKUYA。

「いや、一緒に飲もう。コキュートスも誘ってね。他に一緒に飲める子いる?」

「あ、ありがとうございます…っ!!他にはシャルティアやアウラ、マーレも偶に見かけます。プレアデスのユリアルファも何度か見かけたことがありますね。飲んではいませんでしたが。」

ふむふむ、アウラとマーレも飲むのか。まぁ76歳だし、問題ないよね。シャルティアは酔い癖悪そう…

「じゃあ…どうせ外交はモモンガさんがやるだろうし、暇な守護者が集まり次第適当に飲み会やろう。…そうだ、宝物殿に人間化できるアイテムもあったような…モモンガさんもそれで飲み会に参加させよう、そうしよう。」

「モモンガ様もこられるのですか!それはなんと幸せな…シモベ一同、心よりお待ちしております!」

うんうん、息抜きは大事よ。たしか人間化したらバッドステータス無効化できないから、その点モモンガさんが了承するかどうか…

「もう質問ないかな?」

「ええ、これ以上ない上質な時間を過ごせた事、心より感謝いたします。」

「よいよい。じゃあ次のアルベドを…っと、アルベドはモモンガさんと外に出てるんだっけ。」

そういえばマーレに昔話をしているときにそんなメッセージが来たような…

「ええ、今はカルネ村なる人間の集落を救い、陽光聖典なる者たちとの戦闘の末に村長との取引中のようです。」

ふむふむなるほどなんだってー!!

「助けた!?戦闘!??なにやってんのあの骨!!慎重に行こうって言ったそばからあの骨は!!デミ、モモンガさんに怪我は!?」

「ダ、ダメージを少々受けたようですが、それ以外はなにも問題なかったようで…」

「問題ないだぁ!??今すぐシャルティアを呼べ!すぐにモモンガのとこにいく!」

「か、あ、畏まりました!すぐに!」

デミウルゴスが涙目になり膝を震わせていたことなど気づかず、怒りの余りにテーブルを殴り壊し命令するNIKUYA。

「あの骨…なにやってんだよ…!!」

 




次回はすべて収まったあとのカルネ村に殴り込む予定です。
ニグン?あぁ、まだ生きてます。ナザリックで。


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石と骨と村

カルネ村編です。4k程度で短くて申し訳。


その天災は、突如ここ「カルネ村」の広場に降り立った。

 

 

それは無機質な脅威。

 

それは宇宙からの試練。

 

それは神の最高傑作。

 

それは…抗う事すら冒涜と云えよう、超越した力。

 

 

村人はようやく一段落した今朝の悲劇を半ば忘れるほどに恐怖した。

いや、恐怖などとは違う。もっと本質的な…畏れ。

それは歪んだ時空から突如降り立ち、全身を怒りで震わせながら、大気すらも逃げ出すほどの大声で叫んだ。

 

 

 

「でてこんかいホネェェェェ!!!!!!」

 

 

 

全てが震え、全ての生物が恐怖から体を強張らせ、逃げることすらできずにこの天災に居合わせた己を恨む。

その場にいた全ての生物が、本能から、抗えないと強く確信する。

逃げる際に視界の邪魔になってしまったら。この息が聞こえて煩わしさを与えてしまったら。

生きているそれすら怒りに触れてしまったら。

自分の命など、瞬きの間もなく消し飛ぶ。

だから息をせず、動かず、ただ、待つ。怒りが収まるのを。天災が過ぎ去るのを。

 

 

天災に向かって疾走するそれを村人が視界に捉えたのは、どれだけの時間がたってからのことだろう。

1時間か、10時間か。恐怖に耐えた時間など正確には覚えていない。

ーー実際には5秒、なのだが。

 

それは命の恩人、村の恩人。偉大なるマジックキャスター、アインズ様。

諦めるしかないような天災も、先ほどまでのようにこの御方がどうにかしてくれる。そう信じ、祈る。

 

 

その矢先、轟音が耳を襲う。

 

先ほどの叫びではなく、金属が金属と強くぶつかる音。地面を何かが抉る音。

 

突然薄れた圧力からようやく顔を動かすことに成功した複数の村人が、それを後悔するように、顔を青く染める。

 

天災とアインズ様の間にあるのは溝。

溝は天災の右に向かって長く伸びており、砂埃を上げている。

その溝の先には、先ほど村を襲った騎士ですら玩具のようにあしらわれた、死の騎士…であろうモノが転がっている。

それは辛うじて動いているものの、もはや先ほどまでの恐ろしさなどなく、ただのガラクタにすら見えた。

 

いったいなにがどうなっているのか。

 

もはやこの村は…この国はダメかもしれない。

 

恐怖の限界から思考を辞めた村人達は、ただ、全てが終わるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

村長から情報を提供して貰っていたとき、村の中心に敵意が生まれた。

モモンガはそれを察知し、それがNIKUYAであると感じ、ない皮膚から冷や汗を掻いた錯覚を感じた。

なにかナザリックで問題があったのか。

もしやNPCに言いくるめられて俺を討伐に来たのか。

いや、NIKUYAさんはそんな人じゃない。そうだとしても、敵意丸出しで単身襲ってきたりはしない。

ならば…そうか、俺がなにかしたか。なにをした…そう、村を助け、軍と戦闘した。

NIKUYAさんがあんなに怒りを露わにしているということは、助けたことより戦闘したことについてだろう。

それらはすでにNIKUYAに伝わっている、どこまで伝わっていて、どこで怒ったか。

 

「アルベド、デミウルゴスにメッセージを送ったのか。」

 

モモンガと同じように動揺しているアルベド。

 

「はい、あらゆる事態を想定し、随時報告しておりました。」

 

「そうか…戦闘についてはどう報告した。」

 

多分、ここだ。この報告をデミウルゴスがNIKUYAさんに伝え、何かが琴線に触れたのだろう。

 

「下位天使複数と戦闘後、敵の切り札であろう天使の7位階魔法により少量のダメージを受けたが、大事には至らず、勝利。と。」

 

「…ダメージ、か」

 

それだ…慎重に行きましょうね、と約束した矢先に外に飛び出し、大騒ぎした挙句にダメージを食らう。

逆の立場なら超位魔法用意して殴り込みに行くわ。

…これは由々しき事態だ。何とかして、それこそ土下座でもして怒りを治めてもらわないと。

 

 

空気を裂き、NIKUYAの咆哮が響く。

 

「あーもう考えても仕方ない!土下座だ!」

 

村長宅の扉を押し開け、全力疾走でNIKUYAの前に立つ。

 

「NIKUYAさん、ごめんなs

 

「こんのアホ骨がぁぁ!!」

 

NIKUYAの拳が振りかざされる。

あ、これ駄目だ。死ぬかも。

100lvのガチ脳筋ビルドの攻撃力は理不尽である。食らえば死ぬか動けなくなるか。

回避するのは容易だし、魔法で牽制してれば回避すら必要ない。その点でいえばモモンガのほうが有利ではあるのだが。

仕方がないとはいえ、自ら死地に飛び込んでしまった。もう、NIKUYAの手加減を祈るしかない。

 

だが、モモンガが全壊(骨なので)することはなかった。咄嗟に間に入り込んだデスナイトが、モモンガの盾になったのだ。

役割を果たそうとしたソレは、NIKUYAの怒りと力を受け、地面を抉る鉄球に成り下がる。

特性により体力を1残したそれは、動ける体ではなくなり、ただ、主人への攻撃がこれ以上ないことを祈るのであった。

 

その時間稼ぎに心から感謝しつつ、モモンガは営業で培ったすべての技術を動員しーーアルベドと共にーー土下座した。

 

「NIKUYAさん、申し訳ございませんでしたー!!」

 

NIKUYAが出てきたゲートからさらに人が出てきたのも気にせず、ただ心から、謝罪する。

勢いよく下げられた頭は地面を叩き、小さな地響きを起こす。

 

「モモンガさん…もう…」

 

NIKUYAから掠れた声が聞こえる。

怒りはさっきの一撃で収まったようだ。

 

「ごめんなさい、NIKUYAさん…ダメージも、大丈夫ですから。もう二度と、こんな危ないことはしません。だから…」

 

顔を上げ、NIKUYAを見据える。震えていたそれは、力を無くしたように膝から崩れ落ちる。

 

「じんばいじだんだがらぁぁ…」

 

そのゴーレムの目があるであろう処から、液体が溢れ出る。

隣にたっている、先ほどゲートから現れたシャルティアが状況を飲み込めずあたふたし、何故か同じように泣きわめいている。

自分の隣で土下座しているアルベドも、全身を震わせ、声を押し殺し泣いている…

 

「ふふっ」

 

自分のためにこんなに心配してくれる人が居るんだ、ちょっとでも疑った自分に腹が立ち、それよりも、こうして泣いてくれていることに、嬉しさを感じ、つい笑ってしまった。

 

「笑い事じゃ!ないから!もう!この!骨!」

 

NIKUYAからの平手の応酬を食らいながら、やはり自分は良い仲間と部下を持ったと、確信するモモンガであった。

 

 

 

 

 

「で、アインズ・ウール・ゴウンを名乗ると。」

 

今日空き家になったという軒を借り、適当に盗聴対策を施し、NIKUYAとモモンガが緊急会議をしている。

 

「ええ、なので、これからはアインズと呼んでいただけると…やっぱり駄目ですかね?」

 

「いや、構いません。…他のメンバーが帰ってきたらその都度聞いてください。」

 

「そうですね。ありがとうございます。」

 

なぜ村を助けたか、何があって戦闘し、なぜダメージを受けたか、これからこの村をどうするかを話し合い、一段落した二人。

デスナイトは時間経過のHP回復によって半分ほど回復し、いまは村の復興を手伝っている。

アルベドとシャルティアにはこの軒の護衛を任せている。

村の周囲には隠密に長けたシモベが複数潜伏し、侵入者が来ないか見張っているらしい。

 

「じゃあ、えっと…この村は外界進出の足掛かりになるから繁栄を手伝う、それと、人間のフリして冒険者やりたい、俺も冒険者なれよ、と。」

 

「そうなりますね。」

 

「…馬鹿じゃないの?」

 

「……ごめんなさい。」

 

さっきダメージを受けて、危険な可能性もあると判明したばかりなのに、危険を伴うであろう冒険なんて。

この骨、もしかして浮かれてる?

 

「…なんで冒険者なんて?」

 

「そりゃあ、私たちもともと冒険者としてユグドラシルに降り立ったじゃないですか。」

 

「…なるほどね。」

 

「それに、この現実感…自然。空は明るいし、風はいい匂いがする。草は青くて、鳥が自由に飛び回ってる。こんな綺麗な世界、冒険しないほうが無理でしょう!」

 

気持ちはわかる。ユグドラシルをはじめたのも、新しい世界を見たかったからだ。

それよりもリアルで広いであろう世界に来たのだ、好奇心が刺激される。

アインズの言う通り、空気は美味いし太陽は温かい。22世紀ではヴァーチャルでしか体験できないソレが、ここでは現実なのである。

それにこの世界には都合よくも「冒険者」なんて職業があるらしい。

 

「じゃあ二人でやりましょう、冒険者。」

 

「マジですか!ありがとうございますNIKUYAさん!」

 

「ただし!!」

 

「はい!」

 

「護衛として二人、連れていきましょう。」

 

当然の判断である。危険があるかもしれない世界に、二人で旅立つなんてそもそもNPC達が許してくれるわけも無し、俺も許さない。

 

「私としては、二人でユグドラシル時代みたいな冒険をしたいんですけど…NPCがいると演技が…」

 

「演技をしてるていで素でいきましょう。あの子らはそれで騙せます。」

 

「騙…そうですね、演技のフリ、いいですね。」

 

「じゃあ連れていくNPCを決定する会議を…」

 

 

 

この会議は日が沈むころまで長引き結局決まらず、後日決めることとなった。

 

「…日も沈みましたし、帰りますか?」

 

「そうですね。じゃあ帰りましょう、NIKUYAさん。」

 

村長に軒を借りた礼を言い、アインズの開いたゲートからナザリックに帰還する。




左利きです


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石と骨と飯

寝る前に思いつきで書いた回です。
またまた変なところあったら教えていただけると幸いです。


「お腹すいた…気がする。」

 

転移から丸一日。

睡眠不要、飲食不要の指輪を内装に装着しているNIKUYAであるが、何かを食べなければいけない感覚に陥っていた。

それもそう、転移前は毎日三食(味や質はどうあれ)食べていたのが、途端に食べなくてよくなったところで、リズムとして組み込まれていたそれをたった1日で無視できるはずがないのだ。

 

NIKUYAは悩んだ。

時刻は午前0時を少し回ったところ。

一般メイドの大半は就寝し、モモ…アインズはなにやらアイテムの整理や簡単な実験に忙しそう、守護者も皆、とくに暇そうな子はいない。

 

(もしかして、暇なの俺だけ?)

 

この部屋に常にいるこのメイド…名はわからないが、この子も今は一応仕事中である。

暇ならなにかやること探せ、と思うかもしれないが、元々モンスターを殴って鉱山を殴ってプレイヤーを殴ってユグドラシルを楽しんでいた身、実験やら勉強やらは選択肢に入ってすらなかった。

(やること…よりも飯食いたい。腹は減ってないけど食いたい。でもみんな仕事中なのに飯食うとか…守護者はともかく、モ、アインズさんも仕事中なのに…)

 

NIKUYAは悩みに悩んだ。

特に腹が減ってるわけでもないので構わないのだが、やはり飯を食いたい。

選択肢はみっつ。

 

ひとつ、我慢する。

 

ふたつ、アインズさんには悪いが飯を食う。

 

みっつ、アインズさんと飯を食う。

 

…これだ。そうだこれだ。

そうと決まればさっそく…と、そうだった、あのアイテムは宝物殿に放り込んだんだった。

じゃあやる事決定だな。

 

「シズ呼んできて。」

 

 

 

 

 

メイドにプレアデスのシズを呼ばせ、予備に渡されていたリングオブアインズウールゴウンを貸し与え、宝物殿に転移する。

 

「さあて…どの山にぶん投げたっけか…」

 

宝物殿。広い部屋の至る所には黄金に輝く小山が築かれ、よく見ればそれは金貨の山であることが伺える。

その山には金貨の他、様々な宝石で彩られた調度品、上品な刺繍が施された魔法のハンカチ、力強さを感じる強固な鎧など、およそ雑多に扱われるのが似つかわしくないであろう上質なアイテムが埋もれている。

 

その山が、10や20ほど。

 

周りの壁を見れば、雑多に積まれた上質に見えたアイテムの扱いに納得してしまうほどの、神々しいまでのアイテムが、ひとつひとつ、飾られている。

 

NIKUYAは金貨の山を、子供が砂山を掘り抜く様に、適当に漁っている。

この数十の山の中から、ある指輪を見つけなければいけない。

(うーん、無理。やっぱりあの子に聞くしかないか。)

 

山の探索を止め、宝物殿の奥にある『闇』の前に立つ。これは扉である。

パスワードを入れれば道が開ける仕組みなのだ、が。

(わからんな。)

ギミック担当とも戦闘の話以外はあまりしていないNIKUYA。

ナザリックのほとんどのギミックを理解していない。

知っているものといえば、問題児さんが作った風呂場のゴーレムの起動要因ぐらいか…

 

「シズ、開けてくれる?」

 

「…かしこまりました。」

 

かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗きものは全て汝より離れさるだろう。

 

シズの言葉に反応し、扉にかかっていた闇が消え去る。

満足したNIKUYAはシズを撫で、奥に進む。

 

開けた部屋に到達した。

部屋の真ん中にはテーブル、それを挟む様にソファーが置かれている。

そのソファーに、異形が座り込んでいる。

 

異形がこちらを振り返る。

咄嗟にシズが腰の銃を構え、NIKUYAの前に立つ。

それを笑う様な動作を異形が見せると、シズは銃のトリガーに置いた指に力を込め…俺の制止の合図に気付き、警戒態勢のままトリガーから指を離した。

 

「まさか俺の姿で俺を迎えるなんて。久しぶり、パンドラ。」

 

NIKUYAの姿をしたそれは姿を歪ませ、本来の姿に変形する。

ドイツのであろう軍服を着こなし、卵頭、目と口は黒く塗り潰しただけの異形、ドッペルゲンガーのパンドラズ・アクター。

 

「大変ご無沙汰しておりますNIKUYA様…ところで本日は、どういったご用件で?」

 

うっわ、だっさい…いちいち大袈裟なアクションとトーンで問い掛けてくるそれに、アインズさんには悪いが引いてしまった。

シズも表情には出てないが、半歩下がった。引いてる。

 

「ある指輪を探しにきたんだが、さすがにあの山から掘り起こすのは怠くてね。パンドラならなんか知ってるんじゃないかなって。」

 

「指輪ですか…ここには数千の指輪が眠っております故、ひとつひとつを確認するのも一苦労…よければその指輪の名、聞かせていただいても?」

 

だっさ…ともういいや、慣れてきた。

指輪の名前…正確な名前は覚えてないんだった。特徴をいえばわかってくれるかな。

この子はマジックアイテムフェチだったし。

 

「アインズさんに、あ、そう、モモンガさん改名してアインズ・ウール・ゴウンになったからね、アインズって呼んだげてね。」

 

「承りました…ンーアインズ様ですね!」

 

「あ、うん。でね、アインズさんと一緒に飯が食いたいから、人間化させたいんだけど、そんな指輪を宝物殿に置いた記憶があって…名前は思い出せないんだわ。」

 

「それはこちらでは?」

 

ソファー前のテーブルから木箱を持ってくるパンドラ。

木箱を覗くとそこには10ほどの指輪が並べられていた。

 

「これは…全部、人間化の指輪だな。どうして?」

 

「ナザリック新聞に人間の村に行ったという記事がありまして、人間の姿に遠い同僚たちも人間の姿になれたなら、偉大なる御方々のお役に立てるのでは無いかと思い、先ほどまで数時間ほど山を捜索していたのです。」

 

なるほど、聞きなれない新聞の話は後で聞くとして、さすがナザリックの頭脳の一人。

言われる以上の事を成すシモベ。だっさい動きとだっさい喋り方が無ければデミウルゴスの次ぐらいに使い潰されるシモベになっていただろう。

 

「なるほどな、パンドラの働き、その考え、確とアインズさんに伝えよう。よくやった。」

 

「お褒めにあずかり!光栄にございます。」

 

なんかすげーテンション上がっちゃってるパンドラから指輪をひとつ受け取り、少しの頼み事を伝え、宝物殿を後にする。

無表情なのに目が冷えに冷えたシズと共に、アインズさんの部屋に向かう。

 

 

 

 

 

「アインズさーん!飯食いにいこー!!」

 

アインズさんの自室の扉を蹴り飛ばし(勢いよく開くだけで壊れなかった)、シズと共に勢いのまま入室する。

 

「え、あ、NIKUYAさん…あ、まって。」

 

そこには全裸の…いや骨だからどう表現すればいいか。

そこには一糸纏わぬ姿のかっこいい形の骨格標本が、うさ耳と孫の手を手に中腰で存在していた。

 

「え、あ、ごめん。」

 

「あ、うん…クリエイトグレーターアイテム」

 

 

骨格標本は魔法でできた黒い鎧を身に纏い(身はないけど)、部屋の真ん中にあるテーブルにNIKUYAと掛ける。

シズは全身を紅く染め上げ、プルプル震えたまま動かないのでアインズの使用しないベッドに横たわらせている。

さっきの突然の来訪を詫び、アイテムの付加効果の実験をしていた旨を説明され、本題に入る。

 

「アインズさん、飯食いにいきましょう。」

 

「え、いや…わかってると思いますが、食べられないんですよ…」

 

露骨に悲しそうな声の骨にシュールを感じながら、アイテムボックスから取り出した指輪をアインズさんに渡す。

 

「人間化できる指輪を宝物殿から持ってきました。精神抑制が切れるのと、攻撃力がガタ落ちするデメリットはありますが…これで、二人で飯が食えます。デメリットがデメリットなので、決定権はもちろんアインズさんが。」

 

「…ええ、一緒に飯食いましょう。なぜか食べなきゃいけない感じがして落ち着かなかったんですよ。」

 

そういい、鎧を解除し、左手の薬指に『一時的に』指輪をはめる。

鈴木さんより多少かっこいい顔のアインズさんは、上位装備創造で衣装を装着する。

 

「よっしゃ、じゃあさっそく二人でいきま…あ、シズおはよう、大丈夫?」

 

さっきまで小刻みにしか動かなかったシズがアインズさんのベッドから降り、NIKUYAの横に来た。大丈夫そうなシズを撫で、アインズさんにこの子も連れてっていいか聞く。了承を得られたので、三人で大食堂に向かうこととした。

 

 

 

 

第九階層、一般メイド向けの大食堂。

深夜ではあるがそこそこの数のメイドが食事をとっている。

NIKUYAとアインズは何の気無しに食堂内に足を運ぶ。

それが大狂乱の元になるなど露知れず。

まず入り口。出てきたメイドに驚かれ、気絶される。

中に入る。あらゆる所で絶叫とガラスの割れる音。

注文口では言葉を忘れたかのような料理員達と、それを叱咤しつつ平常運転の料理長。

料理長も緊張していたようだが、流石はプロの中のプロ、なにがあっても動じない(設定である)。

阿鼻叫喚の中ようやく注文を済ませ、出来るのを待とうとすると席にお持ちしますと強く懇願され、渋々三人で席に着く。

 

なぜこんなに騒がしいのかと零せば、いつもはプレアデスまでしか訪れない、守護者ですら見えることがないここに、支配者たる二方が来られるなんて夢にも思ってなかった所為だとシズから言われる。

社員食堂に代表取締役と社長が来るようなもんか、と軽く理解し、料理を待つ。

5分ほどで全ての料理が運ばれ、漸くありつけるまでになった。

 

「さて、じゃあ…まって、『変形-人型』」

 

ゴーレムの種族特性の変形を使用し、人型のゴーレムになる。

見た目は筋骨隆々のスキンヘッド、アメリカンヤンキーをモチーフにしている。

通常形態と比べて指が細く、箸が使いやすい。

 

「おまたせ。じゃあ、いただきます!」

 

「「いただきます」」

 

NIKUYAの前にあるのは、エンシェントドラゴンのシッポステーキのミディアムレア、黄金米と黄金栗の炊き込み、エメラルドグリーンレタスとスタールビートマトのエングレイブゴマダレ和え。

 

アインズの前にあるのは、滝登り鮭の塩焼き、白金卵の出汁巻、水神ほうれん草とアダマンタイトカツオ節のお浸し、封印されし味噌と増え続けるワカメの味噌汁。

 

シズの前にあるのは、シズ専用ドリンクイチゴ味。

 

「うめぇ、なにこれ、こんな肉初めて食ったぞマジで!!」

 

「そりゃあリアルでドラゴンなんていませんでしたし…ってなにこの鮭、すごいんですけど!!」

 

「…甘い」

 

「ちょっとください鮭。…うっめぇ!!こんなとろける塩焼きあんのか!アインズさんも肉あげます!」

 

「え、いいんですか!…えっ、なにこれ、もう、向こうで食ってたのは生ゴミだったのか…!」

 

「うわ、サラダもなにこれ!身体の中が洗われてる感覚!!」

 

「いやいやそれは言い過ぎ…って味噌汁!身体中を駆け巡る味噌の香り!」

 

「あーもう足りねぇ!ぜんっぜん足りねぇ!旨すぎ!!」

 

「私も全然足りませんこれ!おかわりしましょう!」

 

「…シズも」

 

「次は…カレーもいいな!ラーメンとか、エビチリもあんのか!あー困る!すげぇ悩む!」

 

「次は海鮮とかもいいですかね!いや、あえてジャンク…中華にしても…あーもう!決まらない!もう!」

 

結局二人は騒ぐだけ騒いで決めかね、料理長のオススメに任せることとなった。

 

宴会の如く盛り上がる二人は昼まで食い明かし、NIKUYAが途中来店したプレアデスのルプスレギナとの大食い対決に勝利したころ、お開きとなった。

 

 

 

 

「あー、食った食った…旨すぎんだよ何だこの世界。」

 

「いやー、飯も凄かったですけど、NIKUYAさんとルプスレギナの大食いは爆笑モノでしたよ。」

 

食後にアインズさんの部屋で休憩する二人。

アインズさんは未だ指輪をつけたまま、メイドに持ってこさせた紅茶を楽しんでいる。

 

「アインズさんの精神抑制のない素のテンション凄かったですね。二人でやったオフ会思い出しました。」

 

「あー、あの時ほど酷くなかったでしょう?流石にあれは…ねぇ。」

 

「ええ、まぁ…今日はすげぇ楽しかったです。」

 

久しぶりの友との食事。

最初こそ一波乱あったが、とても、とても楽しかった。

それこそ、シモベの前にも関わらず素で騒いでしまうほどに。

 

「また明日も行きましょう、NIKUYAさん。」

 

「そうですね。明日はなに食うか考えときましょう。」

 

幸せな悩みが増えた。

 

 

 

紅茶を飲み終え、軽い談笑を切り上げ、アインズさんの部屋を出る。

 

(ああ、待たせてたの忘れてた)

待機を言い渡していたシズが、命令時と一寸狂わぬ場所に待っていた。

 

「おまたせシズ。じゃあ、俺とお仕事しよっか。」

 

「…かしこまりました、NIKUYA様。」

 

表情は変わらないが、声が柔らかくなった気が…気のせいか。

俺とシズは今から、アインズさんのお手伝いとして、ナザリックのギミックが正常に動作するかの確認作業をする。

 

 

 

「なぁシズ、また俺らと飯行きたいか?」

 

「…是非!」



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石と骨と酒

今回も今回とて、思い付きで書いた回です。毎度。
誤字や脱字などご指摘いただけるとありがたいです。


「じゃあ、冒険者として外に連れていく子を選ぶわけだけど。」

 

「うーん、この指輪の効果って、物理攻撃力と魔法攻撃力が激減するのと、種族特性の無効化、ですよね。」

 

人間化の指輪を眺めながら、アインズさんが問う。

 

「そうですね。なので、護衛に持たせるのは得策ではないです。」

 

「じゃあ…限られてきますね。」

 

冒険者の御伴として連れていく子は自ずと絞られていた。

コキュートスは見た目がアレだし、、アルベドとデミウルゴスはその頭脳故に仕事がまさに山のようにある。

村できいた話によると、エルフなどはあまりよろしく思われていないようなので、アウラやマーレは耳を隠す必要がある。

プレアデスも、ユリは副リーダーとしての執務があるようで、ルプスレギナにはカルネ村の監視と護衛の任を負わせている。

シズは攻撃方法が近代的過ぎて目立つし、ソリュシャンは粘液飛ばすし、エントマは虫だし…

パンドラは、すまんけど外させてもらうわ。

残ったのは、シャルティア、セバス、一応アウラとマーレ、ナーベラル。

 

「シャルティア連れていきたい。」

 

「…NIKUYAさん最近、シャルティアを贔屓しすぎじゃないですか?趣味をどうこういうわけではないですけど、不和の元にならないですかね…?」

 

「うーん、確かに…」

 

確かに最近、事あるごとにシャルティアを呼びだしたり、いろんな雑務に使ったりしている気がする。

これはほかの子からみると不公平なのでは…と思うことはあったが、やはりかわいいシャルティアと共に居たい気持ちが勝ってしまっている。

では、不公平に思われないようにはどうするか…

 

「…着いてこれない子には他の任務を割り振りますが、その任務の重要性をこれでもかと説きましょう。で、今後の大きな任務に優先して選抜すると。」

 

「ありがとうございます。じゃあシャルティア決定!いえーい!!」

 

「…うん、精神抑制有ってよかったですよ私。」

 

犯罪者を見るような目に晒されているNIKUYAではあるが、そんなことよりシャルティアと旅ができるのがとても嬉しかった。

さて、では残り一人を決めるのだが。

 

「アインズさんは希望ありますか?」

 

「うーん、正直、NIKUYAさんと私のペアなら並の100lvが束になっても負ける気がしないので、誰でもいい感じですねぇ。」

 

確かに、脳筋ガチタンクビルドの俺が前を守れば、モモンガさんの魔法の雨でなんとかなるのだが。

 

「あ、アインズさんは人間化してもらいますからね。それか、上位道具創造での鎧纏って剣士になるか。」

 

「…うーん…魔法攻撃が激減したら60lv相当の威力になりますよね…上位道具創造で武器持っても筋力は30lv相当…精神抑制が厄介かもしれませんが、人間化します。」

 

「じゃあ魔法職はもう要らないですかね。前衛のセバスかアウラですが…」

 

「アウラにしましょう。耳ぐらいは幻術の装備でなんとかなるでしょう。」

 

結局連れていくのは、シャルティアとアウラになった。

パーティとしては、前衛盾のNIKUYA、前衛範囲攻撃のアウラ、前衛兼後衛遊撃のシャルティア、後衛火力のアインズ。

 

「思ったよりガチな編成じゃないですか?」

 

「うーん、例の軍の実力を考えれば、国落とせるんじゃないですかね。」

 

「またまたぁ~。…いや、いける、俺らならいける!うおー!」

 

「いや!冒険!侵略じゃないからね!しっかりして!」

 

毎度の事一波乱ありながらも、随伴決定会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせ、デミウルゴス。」

 

会議を終え、人間化したアインズさんと九階層にあるバーに来た。

扉を開けると、そこには仕事を一段落させたデミウルゴス、コキュートス、マーレがカウンターに掛けていた。

三人は席から立ち、こちらに一礼する。

 

「お忙しい中、私めの我儘を聞き届けていただき、感謝いたします。」

 

「いやいや、丁度暇になったとこだよ。」

 

デミウルゴスが先導し、予約札の置かれた6人掛けのテーブルに掛ける。

アインズさんの向かいに、デミウルゴス、コキュートスの順に掛けていく。

俺はアインズさんの横、その横にマーレ。

今日は男子会ということで、皆、バッドステータス無効化を解除する装備を着用して来店している。

 

副料理長が全員分のお酒を持ってくる。

アインズさんは日本酒のぬる燗、デミウルゴスは麦焼酎のロック、コキュートスはアポロという甘いカクテル、マーレは白ワイン、俺は苺ミルク酎ハイ。

(ぬる燗とか粋だなぁ。デミも渋い。コキュートスは虫だからな、甘い方がいいのか。…マーレは意外。もしかして…美容の?)

 

「んんっ、では皆、今日もご苦労。」

 

アインズさんが御猪口を片手に持ち上げ、皆の前に掲げる。

皆がそれに従い、グラスを掲げる。

 

「「「「「乾杯」」」」」

 

カキンッ

 

 

次々と運ばれる趣向の凝らされたオツマミに舌鼓を打ちながら、酒が回りだしたアインズさんが守護者と楽しく談笑する。

それを見守りながら、酒にクッソ弱い俺はちびちびとアルコール3%のコレを飲み進める。

 

 

 

 

「デミウルゴスよ、このような席を設けてくれたこと、心より感謝するぞ。」

 

アインズさんが真っ赤になった顔でデミに感謝を伝える。

コキュートスは多少羨ましそうな顔をしている。

 

「お前たちも来てくれてありがとう。私は今、とても楽しい。異変が起きてから、こんなにも温かい気持ちになったのは初めてだ。ありがとう。」

 

屈託ない笑顔でシモベに感謝を伝える。

それを受け、シモベは感極まり大泣きしてしまう。

 

(あー、アインズさんやっちまった)

 

「泣くな泣くな!ほら、飲むぞ!マーレ、飲み明かせ!」

 

「ああ、ナザリックに生まれてよかった!一曲歌わせていただきます!『ナザリックよ永遠なれ』」

 

「イイゾデミウルゴス!」

 

「う、あ、やばいこれ、うっ」

 

「あー!アインズさんが吐きそう!誰か魔法を!」

 

「あ、はい!えっと、え、…なんだっけ」

 

「酔ってる!マーレ酔ってる!アインズさん大丈夫!?」

 

「あ、ああ、大丈bうぇっぷ」

 

「副料理長!水!水と袋持ってきて!」

 

「ただちに!」

 

「うん、大丈夫そう…ってマーレ、それ俺のお酒じゃない?」

 

「ええ、あ、ああっ申し訳ございません!…か、あ、間接キス…!?」

 

「いやいや、男同士だからね!…おーいマーレ!?」

 

「アンコールダデミウルゴス!!」

 

「うむ!なら次は『至高の存在~A・O・G~』」

 

「うぇ、うっぷ…ごめんNIKUYAさん、ちょっとトイレ」

 

「あ、マーレ連れてってあげて!」

 

「あ!はいっ!!」

 

「なんでそんな嬉しそうなの!!」

 

バッドステータス、恐ろしや。

デミウルゴスは歌い止まないし、コキュートスは合いの手に忙しい。

マーレは間違えて(?)俺とアインズさんのお酒を飲もうとするし、アインズさんははしゃぎすぎてトイレなう。

酎ハイ二杯で記憶が飛ぶ俺は、その経験からコントロールして飲んでたので大事には至らず。

 

これが、ナザリック男子会…。

 

次やるときは、お酒の量とか酔い醒ましの手段とかを副料理長と相談しとこう。

そう心に決めるNIKUYAであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、気持ち悪い…」

 

「申し訳ございません、私どもがついていながら…」

 

「いやいや、はしゃぎすぎたアインズさんの責任だよ、ほんとに。」

 

デミウルゴスの歌のレパートリーが尽きたころに飲み終え、ようやく退店した3人。

マーレとコキュートスは寝落ちしたので店に置いてきた。

全部トイレに流したアインズさんを担いで、ほろ酔いのNIKUYAはデミウルゴスとともにロイヤルスイートを歩く。

アインズさんの部屋にはすでにペストーニャを待機させている。

状態異常はペストーニャに任せるとして。

 

「デミウルゴス、今日のアインズさんを見てどう思った?」

 

大事な事を聞く。羽目を外したアインズさん、バッドステータスにここまで魘されるアインズさん。

こんなアインズさんをみてどう思ったか。

俺はちょっと引いた。

 

「バッドステータス無効化の恩恵を知ることができましたね。…アインズ様に関しては、本当に、心から、幸せに感じました。」

 

「幸せに?」

 

「ええ。NIKUYA様がいらっしゃったとはいえ、あのような姿では我々の誰よりも基礎能力で劣っております。それでも我々の前にてあれほど楽しまれたご様子…我々の事を心より信用なされていなければ、できないことでしょう。」

 

そうだ、あんなに幸せそうなアインズさんは、2人でのオフ会でも見たことがなかった。

あの時でさえ、酔っては居たものの吐くほどではなかった。

 

この世界に転移して、人間を辞めて、精神の変化もアインズさんに聞かされていた。

もはや人間であったころの心なんて無くなってしまうのではないかと危惧、不安があったが。

やはり俺たちは俺たちだ。俺の知ってるアインズさんは、これからもアインズさんのままだ。

 

「この人はね、君らシモベのことを我が子のように思ってるんだ。我が子と酒の席を共にする喜び…そういうのはわかんないけど、きっとそういう気持ちなんだろうな。」

 

「我々を御子と…なんと寛大で慈悲に溢れた御方なのでしょう…!」

 

感動に打ちひしがれて感涙するデミウルゴス。

 

「この人はシモベに甘いから、なにかあればデミウルゴスがフォローしてあげるんだよ。」

 

「承りました。私めにどうぞお任せください。」

 

「じゃあ、またなにかあったら呼ぶからね。アインズさんのこと頼むわ。」

 

自室についたNIKUYAは、担いでいたアインズさんをデミウルゴスに渡し、一息つく。

 

 

 

 

 

「メイド…ごめん、名前なんて言うの?」

 

毎日部屋の事を任せているのに名前を知らなかった。

さすがに礼儀に欠けると思い、尋ねる。

 

「は、はいっ!シクススと申します!」

 

シクススか。フランスの作家にそんな人いた気が…

 

「じゃあ、シクスス。胃もたれとか酔い醒ましに良さそうな飲み物もってきてくれる?カップで2つね。」

 

「畏まりました、少々お待ちくださいませ。」

 

 

数分後、ホットミルクをもってきた一般メイドのシクススを無理やり同席させ、命令にて仲間同士で話す時と同じ態度で接するようにさせる。

身体を温めてくれるミルクを飲みながら、互いに愚痴や世間話をする。シクススは緊張しているようだが。

 

「いやぁ、やっぱり可愛いメイドと席を共にするのは素晴らしいな…」

 

ヴァーチャルでしか体験できなかったことを現実で経験できるなんて思いもしなかった、と気持ちを吐露する。

固まるシクススを他所に、ミルクを飲み干す。

 

 

「お代りなどはよろし…いらないかな?」

 

「うーん…じゃあシクススの余ってるミルク頂戴よ。」

 

「な、あ、いえ、私で良ければ是非…!」

 

「ああいや、冗談よ。次はもうちょっと甘めでお願い。」

 

「あ、はい…うん、待ってて!」

 

ああ、幸せな一日だった。

シクススを待つ間にペストーニャにメッセージを送り、アインズさんの容体を聞く。

どうやら酔いは醒めて、今は人間化の指輪を外して執務に励んでいるそうだ。

アインズさんにメッセージを飛ばす。

 

『アインズさーん、大丈夫ですかー』

 

『あ、NIKUYAさん…ご迷惑をお掛けしまして』

 

『いいのいいの。どうだった?』

 

『いやぁ、もうすっごい楽しかったですよ!またやりましょう!』

 

『次はアインズさんもデミと歌ってくださいね』

 

『え、じゃあNIKUYAさんも!よーし、いろいろやる気でてきたなぁ』

 

『あ、冒険者になるのって来週ですよね?』

 

『ええ、来週からで。どうしてですか?』

 

『いや、残りの守護者達とも飯食いたいなと。』

 

『私は忙しいので、ご一緒できない事もありますが』

 

『そうですね…いろいろ落ち着いたら、皆で宴会しましょうよ!』

 

『宴会!いいですね!無礼講で…ああもう、はやくいろいろ終わらせましょう!』

 

『宴会の件は料理長達と相談しときますね!じゃあ、がんばってください。』

 

『あいー、NIKUYAさんも頑張ってくださいねー』

 

 

「宴会、かぁ。」

 

「どうしm…どうしたの?」

 

シクススが帰ってきていた。

甘めのミルクの横にシュガースティックが数本。

 

「うん、いつかナザリックで宴会するからね。一般メイドにも参加させるかぁ。」

 

「え、私達が…それって、守護者様達や、あ、アインズ様もいらっしゃるんです…よね!?」

 

「ああ、うん。無礼講だからみんな仲良くさせるよー?」

 

「アインズ様とお食事…!シャルティア様やシズちゃんも…ああ!素晴らしいですね!宴会楽しみです!」

 

こんなに期待されては…とりあえず、料理長達と会議の必要があるなぁ。

食事量が大変な事になりそうだ。

 

さて…

 

「じゃあ、俺はアウラのところに遊びに行くから。シクススは…料理長に、明日のご飯は中華風がいいって頼んどいて。」

 

「はい…うん、わかったわ!」

 

 

 

 

 

 

 

転移にて巨大樹に到着。

ここからは日課である、アウラの部屋での、シャルティアやアルベド、プレアデスを交えたガールズトークwithNIKUYAの時間だ。

 

「お待たせアウラ。あら、もうみんな来てる?」

 

待たせた詫びにと持参した料理長特製プリンを皆に配り、朝まで続くトークが始まる。

 



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石と骨の劇的○フォーアフター

メリー☆クリスマスいゔ
今日の晩御飯はチキンレッグとケーキだよ!
もちろんシャルティアと一緒に食べるよ!!
いつもの如く無計画で思い付いたまま書き連ねているのでどこか矛盾などありましたらご指摘よろしくお願いします。


「では、この計画でよろしいですね。」

 

「ええ、如何様にもなさってください。」

 

カルネ村の村長は、笑顔で、仮面のマジックキャスターに返事をした。

 

 

 

 

カルネ村。

先の襲撃によって村人の半数は亡くなり、その際多く殺されたのが男だったのも相俟って、これまでに無い危機に陥っていた。

畑を看る男が少ない。

狩りに出る男が少ない。

…食べる物が、減ってきている。

これでは冬を越せない、いや、冬まで保たないだろう。

村の誰も、子供のネムでさえ、この危機を感じ取っていた。

だが、今朝の村人はまだ知らなかった。

村の男手が増える事を。

村が強固に護られる事を。

なにより、生活水準が数段上がる事を。

 

 

 

「さて、ではNIKUYAさん、さっそく作業を開始してください。私は村長と共に、村人に説明してきます。」

 

アインズさんと計画していた、カルネ村改造計画を開始する時がようやく来た。

計画の内容は、村の古い家屋の撤去、居住区画の整理、新しい施設や設備の設置、畑の改善、村を囲う壁の作成などである。

そのうち、NIKUYAに任されたのは、家屋の撤去、畑の改善、壁の作成である。

 

村人は皆、村長やアインズさんと共に広場に集まっている。

家屋の撤去は、皆が家財を外に持ち出してからの予定だ。当然である。

 

「NIKUYA様、先ずはなにをなさりますか?」

 

そう問うのは、今回のNIKUYAの護衛の任に就くことになった、マーレである。

マーレを護衛に選んだのは、畑の件でも役に立つからだ。

 

「家屋の撤去したいけど…先に壁つくっちゃうか。」

 

NIKUYAは村の家の配置を確認し、計画書通りに村の四隅に印を建てる。

 

「じゃあ、おっ立てるぞー」

 

「はい、NIKUYA様!」

 

「んんっ、あーあー、よし。《防壁作成・石》」

 

NIKUYAのスキルが発動し、2つの印の間に高さ5メートルの石壁が聳え立った。

ーー第六階層での実験通りに完成した。

上手くいったテンションのまま、四辺の壁を完成させ、壁の上での見張り用の梯子や落下防止の柵をとりつけ、門の作成に手をつける。

門を取り付けるために壁の一部、街道と接している部分を取り払い、デミウルゴスのシモベに事前につくってもらっていた扉をマーレに取り付けてもらう。

蝶番の設置などの細かい作業はこのゴツい手ではできないのだ。

 

門の作成が難なく終わり、村人への説明を終えたアインズさんと合流する。

村人達は早急に家財を広場に持ち出すとの事。合意は得られたようだ。

村人達が家財を持ち出すまで、やる事がない。

畑も、区画整理のために一度撤去するからだ。

やる事が無いとアインズさんに相談すると、計画の一端を先にやってしまっていいと言ってもらえた。

それならと、村長の元に行く。

 

「村長、渡しておく物があるんだけど」

 

村長に声をかける。

村長は毎度の如く驚いて肩を跳ねさせる。

人間としてはゴーレムが喋るだけでも常識外れであるようで。

 

「は、はい、なんでしょうか?」

 

村長は恐る恐る、と言った様子で返事をする。

ビビられるのにも慣れてきたNIKUYAは、それを気にせずアイテムを取り出す。

 

「これを渡しておく。無限の水差しっていうんだけど、名前の通り水が無限にでてくるアイテム。」

 

「な…っ、そのような、ひ、秘宝を賜れるなど、宜しいのでしょうか…?」

 

村長が驚愕と畏れと興奮…いろんな感情が混ざった声色で尋ねてくる。

秘宝…これはそんな大したアイテムではないのだが。

8つほど持ってるが、効果が効果なので1つしか必要ない。

それでいて、この世界では有用そうだからお近づきの記念感覚であげとこうと思ったのだが…

よく考えれば、現実にこんなものがあったら確かに秘宝だなぁ、と、軽々しくOKを出したアインズさんを遠目に見ながら反省する。

 

「ま、まぁ、アインズさんの贔屓になる村だからね。水汲みも大変そうだし、これで仕事の効率も上がるだろう。それと、これの存在は村人以外に知られないように。これは村長の所持の元、皆に平等に使うように。」

 

「か、かしこまりました。ありがとうございます。」

 

さて、これで水の問題はまるっと解決だろう。

次は…

 

「エンリちゃんはどこかな?」

 

村長に問う。

村長は何故という顔をしながらも、これも計画の一端だろうとエンリの住む家屋を指差す。

 

「彼女の家はあちらです。多分、妹と共に家財を持ち出している最中でしょう。」

 

 

 

村長に言われた家の玄関をノックする。

ほどなくでてきたのは、エンリちゃんではなく、10歳ほどの女の子。

確か名前は…

 

「ネムちゃん、だっけ。エンリちゃんいるかな?」

 

その女の子の顔には恐怖や畏れなどの表情は無く、どことなく違和感を感じたNIKUYAだが、それはさておいて本命を呼ぶよう促す。

ネムちゃんの一声でエンリちゃんが飛ぶように玄関に姿を見せた。

 

「お待たせして申し訳ありません!何用でしょうか?」

 

姉のほうはとてもしっかりしていて、礼儀正しい、愛想がいい、可愛いのモテコンボを決めている子だ。

歳は15歳前後だろうか?

 

「アインズさんに渡されてた小鬼将軍の角笛、あったろ?あれを使わせるようにアインズさんに言われてね。」

 

そう言い、エンリちゃんを村の防壁の外に連れ出す。

もちろん、マーレもついてきているのだが。

 

村から程よく離れた開けたところで、エンリちゃんに笛を吹かせる。

 

ピョォーー…

 

なにこれしょっぼい音!

あまりにも弱々しい音に笑いを堪えつつも、遠くの森から何かが近付いてくるのを察知する。

警戒に足らないレベルのモンスターの群れが、敵意無しに向かってきている。

 

「お、きたか。」

 

「え、えぇ、NIKUYA様、あれは!?」

 

驚いて尻餅をつくエンリちゃんに、アイテムの説明受けてる筈だが、と顔を顰めるNIKUYA。顰める皮膚は無いが。

程なくして、19のゴブリンの群れが、隊列を組み、エンリちゃんに跪く。

 

「御命令を、我らが長よ。」

 

ここに、将軍・エンリが爆誕した。

 

 

 

 

村の人手(亜人手?)が増えたころ、村人の家財の運び出しが終わっていた。

ようやく、次の段階に進める。

 

村人達に最後の確認をし、了承を得て、20あまりの家々を次々に解体する。

解体したあとの石材や木材は、村人が使用できるように後ほど建てられる共同倉庫に保管する為、一箇所に纏めておいた。

畑しか残ってない村に、次はマーレの魔法を使用する。

地形を動かすそれによって、小さな丘や小山があった村は、計画書通りに綺麗に平らになり、目の錯覚か、さっきより広くなったように感じる。

あとは、計画書通り、家や畑を配置するだけだ。

家はアインズさんに任せ、NIKUYAは畑をつくる。

まぁ、ほぼマーレの仕事になるのだが。

 

マーレのスキル、魔法等により、難なく最上級の畑が出来上がる。

村の6割ほどを占める大規模な畑になるが、新しい村人のゴブリンに加え、NIKUYAのスキルによって生み出された小型(ゴブリンと同じ程度の大きさ、強さ)のゴーレムが50体ほど居るので管理は問題無いだろう。

ちなみにこのゴーレムは依代に動物の骨を使ったため、時間経過での消滅はしない。

計画はほぼ狂いなく完了した。

ーーこれら70を超える軍勢の全てに名前を付け、全てを完全に把握し指揮する将軍の存在は、計画にはなかった嬉しい誤算だが。

 

アインズさんのほうもほぼ作業が終わったらしい。

上位道具創造で家が建てられるのは実験でわかった事であった。

中でもエンリちゃんの家は頑張ってつくったから見て欲しいと言われる。

エンリちゃんとネムちゃん、アインズさん、NIKUYAがそこに入る。

作られた家は、外見は中世をイメージした造りである。

 

「これが、私達の家…?」

 

頑丈な壁に、軋まない木の床。

窓にはガラスが張られており、しかも外からは中が見えないというマジックアイテムらしい。

キッチンには業物の調理器具が揃えられ、細長い鉄の管の根元にある栓を回すと、無限に水が出るという。

レイゾウコなる箱は、開けると冷気を吐き出し、それは食料の保存に役立つのだという。

リビングには永続光が付与された傘のようなものがぶら下がっており、手の翳し方で光量を調節できるらしい。

トイレは座って用を足すものらしく、なんと蓋をして一晩経てば、出たもの全てが消え去るらしい。

…これはただ、恐怖公の眷属がそれらを食いにきてるだけなのだが。

二階の寝室にはキングサイズのベッドが置いてあり、これがなんと羽毛でできているという。非常に柔らかく、温かい。

そしてなにより、フロというものが気になった。

1日の終わりに、身体の汚れを落とすための湯浴みをする場所らしい。

エンリとて、汚れる畑作業の後は水浴みをしていたのだが、冬はなんとも厳しい。甘えて、濡らした布で全身を拭くのに留めてしまうほどに。

それが、なんとお湯、つまり温かい水を身体の汚れを落とすのに使おうというのだ。

ユブネというところにお湯を貯めるそうだが、これだけの水を温めるには相当の薪が必要な筈だが…なんと、不死鳥の炎というアイテムをこの為だけに使用なされたらしい。

ーー

不死鳥の炎とは、永遠に燃え続ける炎で、炎の温度が50度ほど。ユグドラシル時代は、蛇種族の必需品であったり、爬虫類NPCを創るときの必須アイテムであったりしたので、機会があるたびにとりあえず取得していた、いわゆるゴミアイテムだ。

火事の心配無く、丁度良い湯加減を保つには最適なアイテムである。お湯の温度は40度程度になっている。

ーー

お湯に浸かると、疲れがとれるらしい。今夜さっそく、ネムと入ろう。

その他にも、様々な細かい説明をされたエンリであったが、あまりにも現実離れした、まさに夢の様な我が家の変貌に、ただただ笑顔で驚くことしかできなかった。

ネムはといえば、様々な家の機能を使用法を詳しく聞き出しては弄り回し、無自覚ながらも姉のサポートをするのであった。

 

 

 

 

「ほんとに、アインズさんはなんであの子にあんなに入れ込んでるんです?ロリコンですか?」

 

各家の確認を終え、アインズさんに問い質す。

他の家は、窓にはただのガラス、無限の水差しや包丁などの無いキッチン、トイレは同じ造りだったが、風呂も布団も用意してなかった。

 

「いやぁ、あの子ね、NIKUYAさんのこととかまったく悪く言わなくて。それどころか、私達のことすげぇ良く言ってくれましてね?」

 

「…それで、贔屓したと。」

 

こいつは昔から、ナザリックを褒められたらホイホイついていっちまうような人だったわ。

去年辺りの他ギルドとの奇跡の友好的交流を思い出し、溜息をつく。

 

「まぁ贔屓してしまうのはわかりますが。さっき村長に無限の水差し渡したときに気付いたんですが、現実に無限に水が出るアイテムあったらどう思います?」

 

「…なんとかしてお金稼ぎに使いますね。なんせ凄すぎる。」

 

「そういうことですよ。」

 

心底驚愕した様子のアインズさん。

表情はないのに心象が読めてしまうのは何故だろうか。

この後また二人で会議し、どうせ防壁もゴブリンもゴーレムもこの世界の基準ではやばいんだし水差しぐらいモーマンタイだという結論に至り、ついでに、近いうちにエモット姉妹をナザリックに招待する事も決まり、閉会した。

 

 

「なぁマーレ、お前はエンリちゃんの事どう思う?」

 

「…僕のほうが可愛いと思います。」




エンリちゃんはナザリックのお陰で国を落とせるレベルの戦力を手に入れました。覇王炎莉大将軍万歳。
NIKUYAがゴーレムを多く召喚できるのは、盾職的なあれと種族的なアレです。
あと、サブタイは本家○フォーアフターさんに怒られる可能性も考えて伏字にしました。ご了承ください。


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石と虫の齟齬

短いです
次から冒険者やります、多分。


 

シャルティアとアウラは緊張していた。

 

今二人は、アインズの部屋で、NIKUYAを含めて四人で、冒険になる為の計画を立てている。

計画の大筋はアインズとNIKUYAが決定し、冒険者としての偽名も決まり、細かい調整に意見を出し合う事となったが、それは問題ではない。

問題なのは、NIKUYAが言った一言である。

 

「エイトエッジアサシンの調査書を見ると、宿は四人部屋が取れない状況のようだが。」

 

四人部屋が取れないので、相部屋か二人部屋しかない。

相部屋は元より取るつもりがない。

これが何を意味するか。

そう、四人が二人ずつに分かれるという事だ。

つまり。

 

「そ、それはつまり、御方々のどちらかと、護衛である私達の一方が、二人で泊まる、という事でありんすか?」

 

護衛として付いていくのだから、護衛二人が同じ部屋というのは奇妙な話である。

当然と言わんばかりの顔で、NIKUYAは頷く。

 

「俺は魔法がほぼ使えないから、魔法が使えるシャルティアと同じ部屋が良いんだけど。アインズさんはどう?」

 

シャルティアがなにかブツブツ言いだしたのを無視し、問う。

 

「私はどちらでも構いませんが。強いて言うなら、人間化の影響で睡眠が必要ですから、朝にちゃんと起こしてくれる方がいいですかね?」

 

冗談を交え、NIKUYAの好きにしていいと言う。

そういえばアウラには、心地よい目覚めをさそう魔法があった気がするなぁと思い、NIKUYAにはシャルティアを、アインズにはアウラを宿での護衛に就かせると決定された。

 

 

「で、次は出自とか間柄の設定なんだけど。」

 

これはNIKUYAとアインズの間で激しい論争になり、アルベドとデミウルゴスを巻き込んだ大事になった。

最終的に、アルベドとデミウルゴスが、アインズとNIKUYA双方の主張を調整し、「遥か遠方の国の実力あるマジックキャスターであるモモン(アインズ)が、見聞を広げる為に、親友であるニック(NIKUYA)と双方の一人娘達のアイリ(アウラ)とティア(シャルティア)を連れて大魔法の転移で旅に出た。たまたま転移した先がこの国だったので、とりあえず腕っ節で食える冒険者とやらになることにした。」との設定になった。

…たしか、冒険者の最高位ランクである蒼の薔薇とやらにティアという名の者がいたと報告書にあったが、問題にはならないだろう。

 

その後アルベドによる細かな演技指導を受け、四人は解散した。

 

 

 

「あ、アインズ様と二人部屋かぁ…粗相の無いようにしないと。緊張するなぁ」

 

緊張といいながら、大役を担うことへの興奮の色を見せるアウラに、シャルティアは溜息交じりに愚痴る。

 

「チビはお眠りになられているアインズ様を眺めておけば朝がくるのだから緊張することはないでありんすぇ。私は寝ないNIKUYA様と一夜でありんすよ?なにを話せばいいやら、どうすれば数時間も楽しんで頂けるのか…あーもう、アウラ、なにか案を出して!お願い!」

 

「え、あんたなら真っ先にアレに辿り着くと思ってたのに…仕方ないわね、今からあんたの部屋で会議よ!」

 

 

 

 

 

「おまたせ、ユリ姉。」

 

「そのようなお戯れはご容赦ください、NIKUYA様。お待ちしておりました。」

 

軽く流されて少し悔しそうなNIKUYAは、プレアデス副リーダーのユリ・アルファと、大食堂で待ち合わせをしていた。

なにやら相談があるらしい。

自分が相談役という任に就いていたのを思い出し、適当に軽食を頼み、席につく。

今日頼んだのはスパイシーアメリカンドッグとメロンソーダである。

 

「で、相談だったよね。」

 

「はい。実は…」

 

ユリ曰く、最近エントマの様子が少しおかしい。

食事量は減り、口数も減り、時々何かを考える素振りを見せたと思えば身体を震わせている。

バッドステータスなどでは無いようなので、心因だと思うが、原因を聞いても答えてくれない。

職務に差し支えるレベルまで悪化しそうだから、なんとかしてほしい。

とのことだ。

 

…心当たりはある。

前日にこの大食堂でエントマに会った時に、不意に言ってしまった一言がある。

 

「ユリ姉、ごめん、原因は俺かもしれんわ」

 

エントマとシズのいる席に着いて、ワニ肉入りカレーを食ってたときに、エントマを眺めながら口をついて出た言葉。

『蜘蛛ってどんな味するんだろう』

 

「身の危険を感じた、という事でしょうか?」

 

ユリが強い口調で問う。この小さくない怒りは、NIKUYAにではなく、エントマに向けられているものである。

 

「まぁ、真偽はわからんし…本人に聞いてくる、ね。」

 

 

 

自室にエントマを呼び出した。

エントマはNIKUYAの一挙一動に過剰な反応を見せ、落ち着きがない。

 

(やっぱり怖がらせたんかな…)

 

席に着かせ、紅茶を啜る。

ユリから頼まれた事は伏せ、最近の不調を問う。

 

「最近あんまり調子良くないみたいだけど、なにかあったかな?」

 

できるだけ優しく問う。

この辺はリアルで部下を持っていた経験が多少活かされている気がしなくもない。

 

しかし、エントマの反応は芳しくない。

肩を小刻みに震わせ、頑なに口を閉ざしている。

 

(これは完全に俺の所為だわ…ユリ姉ごめん…)

 

「エントマよ、別に取って食おうってんで呼んだんじゃないんだ。ただ大事な配下が不調だと聞いたから心配してるだけなんだよ。」

 

優しく、優しく話しかける。

上司の二度の問いに答えないのはマズイと思ったのか、エントマは少しだけ口を開く。

 

「食べない、のでしょうか…」

 

どこか誘われるような、甘い声が耳に届く。

エントマの偽顔は表情を変えないが、その裏の本当の顔から吐息が漏れているのが聞こえる。

 

本気で怖がってると思ったNIKUYAは、安心させるために幾度も肯定する。

なぜか少し悲しそうな雰囲気だが、ようやく更に口を開いて貰えた。

曰く、やはりNIKUYAの所為であった。

食べられる事を考えると体が震えてしまい、他の事が手に付かなくなってしまったそうだ。

 

NIKUYAは過去を反省し、かわいい部下を食べるつもりは無いと強く言いつけ、怖がらせたお詫びにと冒険者業で要らない人間を手に入れたら優先的にプレゼントすると約束した。

ユリには、ほぼ解決したと伝え、エントマを叱らないでやってくれとお願いした。

 

(発言にはもっと気をつけないとな…)

 

 

 

 

 

「ところでエントマ、貴女、NIKUYA様に食べられると思って怖がってたって聞いたけど?」

 

ソリュシャンが少し意地悪げにエントマに問う。

しかしエントマは全く動じず、答える。

 

「怖がってたんじゃないわ。今まで食べる側だった私が食べられると思ったら、そう、興奮してしまったの。」

 

こいつはドMだな、と、今まで知らなかった姉妹の性癖を垣間見たドSであった。




ODⅡを見る限り、ソリュシャンとエントマはアウラとシャルティアみたいな関係性ぽいですね。

はぁ…シャルティアちゃんかわゆ…


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石と骨と娘

冒険者の登録を済ませました。


「二人部屋を二部屋、希望したい。」

 

細やかで美しい金の刺繍を施した漆黒のローブを身に纏った異邦人が、この酒場の主人に言う。

ここはエ・ランテルの酒場兼宿屋。質は低いが、その分賑わい、初級の冒険者がよく集う。

安さを売りにしているので、客の質もあまり良くなく、テーブルに着いてるのは皆、薄汚れた格好をしている。

 

「あんたら、見たところ相当な金持ちじゃねぇか?それだったらここじゃなくて、いっそ『黄金の輝き亭』とかの方がいいんじゃねぇのか。」

 

主人が眉を顰めて低い声で問う。

知る人は知る情報だが、この主人は意外に優しい。

金のない冒険者には一品サービスしてくれたり、相性の良さそうな冒険者同士を引き合わせたり。

欠点はと言えば、口調と顔が悪い印象を与えてしまう事か。

 

今、主人の前に居るのは、話しかけてきた豪華な黒いローブの魔法使い、黒をベースに銀のラインが際立つ軽鎧を着た拳闘士、純白に黒のデザインが施された服の鞭使い、薄暗い白で統一された軽鎧を着た槍使いの4人だ。

4人の装備すべて、素人目にでもわかるほどに高価で、強大な魔法が込められた品だとわかる。

この酒場には似つかわしくないのだ。

だが、漆黒の魔法使いはその予想を否定する。

 

「実は今日この国に来たばかりで、ほとんどお金を持ってないんです。明日から冒険者として活動するので、今日さえ凌げば大丈夫なのですが…」

 

装備のひとつでも売ればそれこそ住居が買えるだろう、と思った主人だが、なるほど、今日来たのなら金がないのも仕方ないのかと納得する。

ローブの内に下げられた金貨袋の大きさと鳴らす音の貧弱さを聞いて、二人部屋を二部屋、了承する。

 

「一部屋一日6銅貨だ。飯は追加で一人1銅貨、肉が欲しけりゃさらに1銅貨。備品の損傷は場合によっちゃ弁償してもらう。いいな?」

 

「ああ、ありがとう。飯は結構、保存食は持っているのでね。」

 

「…部屋は二階の奥の左右だ。」

 

本当は一日7銅貨なのだが、まけてやろう。

 

 

 

「さて、じゃあみんな、部屋に…っと。うん?」

 

店内左奥の階段へ進もうとしていたアインズ…モモンの前に、テーブルに着いていたスキンヘッドの男が足を延ばす。

なるほど、新人いびりというやつか。どこの世界でも居るもんだな。とNIKUYA…ニックは小さくため息を着く。

モモンは一度足を止めたが、同じく小さなため息の後に再度足を進めようとする。

当然、モモンはそのスキンヘッドの男の足を蹴る。

 

「おっとぉ、いてぇじゃねぇか?あぁん?どうしてくれんだよぉ?」

 

あー、これはリアルでもいた『チンピラ』みたいなもんか。懐かしさを覚えたニックだが、まぁそんなことはどうでもいい。

こういうやつは一回ちょっと痛い目見せといた方が

 

「これは…後ろのかわいい嬢ちゃん達に優しく介抱してもらうしかねぇなぁ??」

 

殺す。

 

突如爆音が鳴り響き、目の前にいたスキンヘッドは軌道上の机や椅子、壁を破壊しながら屋外へ退場していった。

誰もがそれを見ていたのに、なにが起こったかわからず青ざめる。

それを行ったであろう拳闘士が、低く、圧のある声で店にいる人間に言う。

 

「俺の、俺達の子を下卑た目で見る奴は、殺すぞ。今回は最初だったから半殺しで済ませてやった。次はないぞ。」

 

全員の血の気が引いた音が聞こえる気がした。

ただ、例の拳闘士の仲間の3人は、逆に高揚している気がしたが。

全員が全員、恐怖と対峙しているときに、客の一人が口を開く。

 

「あ、あのー…」

 

赤毛の髪を乱雑に切りそろえた、鳥の巣のような髪型の女が、恐る恐る話しかけてくる。

 

「なんだ?」

 

いまだに怒りが収まらないニックではあるが、相手が女であれば手はだせない。

さっきよりは多少優しい声で問う。

 

「あの無礼な男が吹き飛ばされた際にですね、私のいたテーブルも吹き飛ばされまして…で、私のポーションが割れてしまいまして…」

 

ポーションが割れたのは確かにあのスキンヘッドのせいだが、あいつらには弁償できる額のものではないので、どうか一本お譲りいただけませんか。とのことだ。

 

「ああ、すまなかったな。…モモン、一本やってもいいか?」

 

一応、この冒険者パーティのリーダーであるモモンに問う。

 

「ああ、まぁ仕方ないだろう。」

 

懐から下位ポーションを取り出し、女に渡す。

なにやら首を傾げていたが、懐にしまい込み、礼をして去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、ほんっと、殺すとこだった。」

 

部屋に入ったニックは深呼吸をしたあと、ベッドに座り込む。

ティアも同じく、向かいのベッドに座る。

いつもなら俺の許可なく座ることなんてないんだが、いまは家族ロールの最中。

子が座るために親の許可をもらう必要なんてない。

 

「NIK…パパは、なんでアレを殺さなかったのであり…ですか?」

 

ところどころおかしいが…っていうかパパと呼べと言った覚えなんてない。誰だ言わせてるやつ。

 

「殺してしまっては利用できないこともあるんだ。それに、この世界には法律ってのがあるはずだ。どんな理由であれ、殺人は罪になるだろうしな。」

 

「なるほど…後で隠密班に回収して貰いますか?」

 

どうしても殺したいんだなこの子は…

もしかしたら顔の利くヤツかもしれないし、急に居なくなっては原因を疑われるかもしれない。

さすがにもう怒りも収まってきたし、この件はこれで終わりにしようと思っている。

 

「放置で。どうせもう絡んでこないでしょ。…さて、朝まで暇だな。なにするよ?」

 

今から朝まで、だいたい10時間ほど。

寝ないニックは、いつもは食堂やバー、各階層の守護者の部屋などへ遊びにいっているのだが。

今はこの部屋からでないようにアイン…モモンから言われてるし、部屋でなにかできることを模索する。

 

「それならば…えっと…私がNI…パパにマッサージしてあげます…」

 

え。

なにそれ。

 

「…どういう、え、こと?」

 

マッサージ…マッサージとは?

肩を揉む、ツボを押す、コリをほぐす。

それがマッサージ…だよな。

リアルでもマッサージされた記憶がないニックだが、内容は至って健全な、ただの療法だということはわかる。

いや、健全ではないマッサージは…あったのだが。

 

「お疲れの御体には、マッサージがいいと聞き…ました。疲労無効であっても、小さなコリなどは溜まるらしいですし…」

 

健全だ。健全なマッサージのお誘いだ。

…しかし、ティアはマッサージなんてできるのか…?

 

「じゃあ、うん、お願いしようかな…」

 

「…はいっ」

 

何故かすごく顔を赤くするティア。

いいか、これはただの、ツボ押し、コリほぐしのマッサージだ。

それ以上のことはない。

マッサージ師が客にマーサージするのと同じだ。

 

「じゃあ、上は脱いだ方がいいよな。下は…脱がなくてもいい、よね?」

 

マッサージのCMを見たときは、上も下も脱いでた気がするけど…あれは個室で、同性のマッサージ師がやるからであって…

 

「下もお脱ぎください…」

 

なんでそんな目で俺をみるの。

…いや、足もマッサージしてくれるんだよな。そうだよな、よく歩いたし。

うん、じゃあ…下着はいいよね、さすがに。

上を脱ぎ、下を脱ぎ…下着にとある強化魔法をかけ、タオルを巻いてベッドにうつぶせになる。

脱いでる間は、ティアには後ろを向いててもらったが。

 

「これでいいか。じゃあ…うん、えっと、お願いします。」

 

「こ、こちらこそ、不束者ですが…」

 

なんのことだ。

とにかく、マッサージが始まる。

 

「では、失礼します…」

 

ティアがニックの腰に跨り、首の付け根に手を置く。

…温かい。吸血鬼って、もっと冷たいイメージがあったんだが。

 

首のツボから始まり、肩甲骨、腕、腰、足の付け根、脹脛へ順番にマッサージを施されていく。

その手腕は多少強引だがしっかりとツボを押さえ、確かに体がほぐれていく。

っていうか人間に変形してるとはいえ、ゴーレムなのにツボなんてあるんだな…

 

「あっ、いいよ、そこ…あーもうちょっと右も…もっと強く…いい、最高…」

 

「…ここなんてどうです?ここや…ここなんかも…痛くないですかぁ…?」

 

すごく気持ちいい。身体から力が抜けていく。

涎が垂れかけ、ハッとなり啜る。だがまたすぐに力が抜ける。

 

 

 

 

「あーもうダメ…もう、良すぎ…あぁ…はぁ…」

 

疲労無効なのに呼吸が荒くなる。

全身のマッサージは3時間を超え、全身が脱力し、涎が枕(付属されていたものではない私物の)に滲みている。

あまりにも予想外な多幸感と脱力感に襲われながら、呼吸を整える。

 

「んっ…どうでしたか…?」

 

3時間もマッサージしてたんだ、多少は疲れているだろうと思っていたが、何故か物凄く色気づいた目で語りかけてくる。

そうだな、『至高の御方に喜んで頂けた事への喜び』とかだろう。

 

「ああ、すごくよかったぞ。本当に。で、だ。モノは試しなんだが…」

 

 

ーーーマッサージ。

ティアは頭が真っ白になるのを堪え、考える。

今、この御方はなんと仰ったか。

思い出せ。

『お返しに俺もマッサージしてやろうか』

…どういう意味だろう。いや、分かるのだが、解らない。

 

「つまり…その…私は、脱いでうつ伏せになればいいんですよね…?」

 

きっと、それでいい。もうそれでいい気がする。

ティアは考えるのを諦め、服を脱いでベッドにうつぶせになる。

…ニックは咄嗟に後ろを向き、ベッドにうつぶせになったのを察して、ティアの腰にタオルを被せる。

 

「じゃあ、マッサージを始めよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、おはようモモンさん。」

 

「ああ、ニックさん。…ああ、眠い。」

 

日が昇り、他の部屋の冒険者達が次から次へと退店していくころ、部屋をでた四人は一階へと降りていく。

朝から飲んでいるものもちらほらいるが、大体はココを会議の場にしているようで、紙を眺めながら話し合っているものが多い。

それらが皆、一度俺らを見、すぐに目を逸らす。

昨日のが効いてるようだが…

 

「うーん、人気者になる計画が最初から破綻しそうだな…」

 

「すまんな、モモンさん。」

 

冒険者として高位に君臨し、皆からの羨望と好意を我が物とする計画は、前途多難に見えてきた。

 

「とりあえず、依頼でも見に行きますか。」

 

酒場を出、冒険者組合に足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、アイリことアウラは非常にモヤモヤしていた。

昨日の夜、部屋に入ってから朝にかけて、向かいの…ティアとニックの部屋から聞こえてきた、嬌声や物音について。

 

(やっぱり…いや、シャルティアはああ見えてウブだったし…じゃあ音はどう説明する…?)

 

「ん?どうしたの、アイリ。」

 

(げっ、シャルティア…うーん、聞いてみるしかないか…)

「いやぁ、昨日はどうだったのかなーって思ってね?」

 

どうだったのか、なんて、ナニを聞いてるんだろう。

私はアドバイスはトークしか思いつかなかったから、デミウルゴスやパンドラに聞きに行けといったのだが。

デミウルゴスかパンドラが何か吹き込んだのだろうか…?

 

「ああ、昨日…すごく喜んでもらえましたわ。それはもう、息が乱れるほど。」

 

(息が乱れる!?喜んでもらえた!??…やっぱり…そうなのか)

「そ、そっかぁ。ニックさんはなんか言ってたの?」

 

いや、まだ早計である。息が乱れるほど喜んでもらえることなんて…うん、きっといっぱいある。大丈夫だ。

なにが大丈夫かわからないけど。

 

「ああ、パパは…気持ちいいって言ってくれましたわ。」

 

「気持ち、いい!?」

 

ああこれは…いや、しかし、…いや無理だ、アレしか考えられない。

アウラはこう見えて76歳。子供ではないのだ。

 

「ええ。お返しにパパにもして貰ったのだけれど…すごくテクニシャンでね、それでいて力強くて…頭がどうにかなりそうでしたわ。」

 

恍惚の表情を見せるティア。

これはもう、決定だろう…とアウラは思う。

 

「そっか…ティア、私はアンタを応援するからね!…皆には内緒にしててあげるからっ」

 

「え?ああ、そう、ありがとう、アイリ。」

 

今日あったことは、アインズ様に訊かれても口を割らないでおこうと、心に決めるアウラであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、昨日暇じゃなかったですか?」

 

「ああ、ティアがマッサージでコリをほぐしてくれたんですよ。すごく良かったですよ?なんでも、パンドラがマッサージの技術を教えてくれたんだとか。」

 

「パンドラが…うーん、私も一回、してもらいに行きましょうかね。」

 

「親子水入らず、楽しんでください。」

 




マッサージに金を出したことないです。
確か、9階層にマッサージ店があったような、無かったような…

設定確認しなおそうと思って原作読んでたら5時間たってたでござる


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石と骨と冒険の始まり

お ひ さ し ぶ り ぶ り
数年ぶりの更新。なろうのほうで読み漁ってちょっとアレでこっちに戻ってきてオバロの二次創作読んでたらかきたくなっちゃったテヘペロ(´>∀<`)ゝ
いろいろ忘れてたけど結構なんとかなりそうな予感。
コメントくださってた方、ありがとうございます。ちまちま続けるかもしれません。不定期で。頑張ります。ごめんなさい。ありがとう。


 

 

 

 

《NIKUYAさん、俺、読めない》

 

《アインズさん、俺も、読めない》

 

「ふむ……」

 

冒険者ギルド、フロント横の依頼掲示板を、身形の良い2人が眺めている。

その後ろすぐに、これまた身形の良い、そして愛らしい2人の女の子が談笑している。

周りから見ると、年長者がしっかりと依頼を吟味しているように見えるのだが。

 

《うーん、適当なの持って行って、上のランクの依頼だったら強く出て、仕方なさそうに銅に見合った依頼を見繕ってもらうのはどうでしょうかね、NIKUYAさん》

 

《ほうほう、なかなかいいと思いますよ? あと、一応メッセージでも偽名で呼び合いましょう。盗聴ももしかしたらあるかもしれませんし》

 

「そうだな…これだ。」

 

そこそこ良さそうな見た目の依頼書を剥がし、モモンがフロントに足を運ぶ。

3人はその後ろを堂々と歩く。

 

「この依頼を受けたい」

 

強気な魔法詠唱者の発言に、受付嬢はすこし戸惑う。

 

「これはミスリル以上の冒険者向けの依頼でございます。」

 

「知っている。最初だからこの程度でいいだろうと思い、もってきたのだ。」

 

その発言を聞いていた、というより聞かせるように大きめの声で言ったのだが、ギルド内の冒険者が色めきだった。

 

「おいおい!ボンボンが装備だけ揃えても碌に役にたたねぇよ!てめえらは草毟りからはじめるんだな!!」

 

「そうだそうだ!!それと、厩舎の掃除は結構いい値になるぞ!」

 

「薬草採取には気をつけな!簡単だが、思い掛け無いモンスターとの接触もありえるからな!!」

 

なんだこいつら、優しいんだけど。

え、昨日のやつらとは違うと思……いや、あれはあれで、こっちのためを思ってたのかもしれない…?

 

「すみませんが規則ですので…」

 

「皆にこうも言われるとな。では、すまないが、銅で受けられる中で一番難しい依頼を見繕ってくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

受付嬢が一礼したところで、ティアに鎧をノックされた。

 

《どうした、ティア?》

 

《ああっ、NIKUYA様の御声が脳に直接ぅん……背後から何者かが此方に意識を向けて接近中。警戒レベルは1でありんす。》

 

背後から…と、振り向くと、人の良さそうな顔の青年が此方に歩いてきている。全く敵意はないので、話をしようか。

 

「ん?どうかされましたか?」

 

振り返り、優しく微笑みかける。

それにすこし安堵したような顔をして、青年が要件を話し出す。

 

「依頼を御探しだったようですが、良ければ、私たちの依頼をお手伝いしていただけませんか?」

 

「ほう……」

 

 

 

 

場所はギルド2階、小会議室。

其々の自己紹介をすませ、ルクルットと名乗る軟派レンジャーにすこしガンを飛ばして、尚もめげないしぶとさにすこし感心したころ。

 

「モモンさんとニックさん、で御間違えないですよね?ご指名の依頼がきております。」

 

受付嬢が会議室に訪れ、そう言った。

 

「ご指名のですか…しかし、今はもう既に依頼を受けた身、他の依頼は諦めていただくか、後日にするということで…」

 

「いやいやいやモモンさん!指名ですよ指名!私たちの事を後回しにするべきですって!」

 

「いやしかしペテルさん、先に受けた依頼を優先するのが、人として当然では」

 

「いやいやいやいや、俺からも言わせてもらうけどよ、こんなうめぇ話ねぇって!アイリちゃんとティアちゃんのためにも受けたほうがいいってマジで!」

 

「なら、指名してきた人の依頼を合同でやったらいいんじゃない?」

 

「お、それだニックさん!」

 

ということで、依頼主を交えて再度会議をすることとなった。

 

 

 

 

依頼主は、ンフィーレア・バレアレ。エ・ランテルで薬師を商っている。

依頼内容は、道中及び薬草の採取地での近辺警戒、護衛、荷物運び、等。

指名の理由は、今まで依頼していた冒険者が昇級し、王都に拠点を移したため、代わりとして。宿屋での件も加味し、不足なしと判断したためだそうだ。

 

「では、道中の警戒にルクルットさん、薬草の採取などにダインさんが適切であると思うので、漆黒の剣のみなさんもご一緒していただくということで。」

 

「ありがとうございます、ンフィーレアさん、モモンさん。」

 

「いえ、では報酬は漆黒の剣が6、此方が4。道中の討伐の報酬については総数の半額ずつということで、問題ないですね?」

 

銀である漆黒の剣の報酬が7でも良いのだが、どうしてもと譲らないので、減額しつつメンツをたてるとこうなったわけだ。

 

行き先はカルネ村、その隣の、トブの森。

森の賢王と呼ばれる怪物の縄張りの、端っこのほうでこっそりと薬草の採取だ。

 

 

「では、会議はこの辺で。明日の出発まで、しっかりと英気を養いましょう。」

 

「はいっ!」

 

明日は、エ・ランテルを出て2日の旅になる。

初の野営に想いを馳せながら、モモンとニックは昨夜泊まった宿屋へ戻った。




アウラのアイリってのは、ウを一個前、ラを一個後にしただけなのですよ。


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石と骨と漆黒の剣

なぞるだけってのはちょっとあれだけど、整合性のとれる程度の改変って結構難しい。整合性…とれてないのでは…?


 

ンフィーレアさんの乗った馬車を、8人が囲んで護衛する。

前に漆黒の剣の4人、後ろに我々4人。

薬草採取にしては物々しい護衛だが、ナザリックとしても、ンフィーレアさんを護らなければいけない。

それというのも、この人、「全てのマジックアイテムが使用可能」とかいう、くっそやばい異能持ちだそうで。

それを聞いたアイリが多少警戒度を増したが、モモンの手振りで気を抑えた。

とにかく、ンフィーレアさんは、ナザリックにとって危険であり、同時に有益に成り得ると判断したわけだ。

…モモンさんが、ね。

そのうちいろんな異能持ちをコレクションしたいなぁと、頭がおかしい人みたいな事も言い出したが。いや、収集癖のアンデットだとこんな感じなのかも。

 

警戒もそこそこに、エ・ランテルから数時間。

漆黒の剣のレンジャー、ルクルットの手振りにより、全員が停止する。

 

「森の方から足音複数。お出ましみてぇだぜ。」

 

「種類は?」

 

「ゴブリン多数、オーガ少数だよ」

 

「ありがとう、アイリちゃん。そうだな…ルクルット、いつものでいけそうか?」

 

「余裕だぜ。亀の頭を引っ張り出すみてぇにな!」

 

どうやら、慣れた作戦があるようだ。

 

「我々は、ペテルさんの合図で前に出ます。…そうだな。4人で全滅させますから、後方の護衛と、万が一の抜けをお願いします。」

 

「4人で…はい、わかりました。くれぐれも気をつけてくださいね。危なくなったらすぐに下がってきてください。」

 

さて、それじゃあ、前衛盾…ガチ脳筋タンクの実力、見せてやろうかね。

 

《あー、ニックさん。攻撃はちゃんと手加減してくださいね。》

 

《そうだったね、忘れてたわすまんすまん。モモンさんも、バフは程々にね。》

 

じゃあ、指一本分のパワーで…指一本でも、全力で突けばアダマンタイト凹ませられるんだよなぁ。今回は指の力だけでいこう。

 

《ティア、今回は魔法無し、飛行無しで槍を主体に、左側に回って敵を逃さないように立ち回って。》

 

《かしこま…わかりんした、パパ!》

 

《アイリ、ヘイト集めは俺がやるから、他の人へのヘイトをこっちへそらしてくれ。逃げそうなやつはティアのほうへ追い立てて、右側へ回りつつ牽制お願いね》

 

《わっかりました、ニックさん!》

 

《モモンさん、俺がヘイトを稼ぐから、3位階までで目立つやつ頼みます。》

 

《了解です、ニックさん。》

 

「みんな、用意はいいな。ルクルット、頼む。」

 

「任せい!よっと。」

 

ルクルットの放った矢は、へなへなと飛び、ゴブリンの群れと俺たちの間ほどに落ちる。それを見たゴブリンは大笑いし、余裕と見て全員で駆けてきた。

 

「そんじゃあ、あとは任せてくれ!」

 

ティアとアイリを横目で確認し、頷きあう。ゴブリンの手前15mほどでとまり、スキルを発動する。

 

「《挑発:lv1》!!かかってこんかいぃ!!!!」

 

ゴブリンの群れは、大声に苛立ったように俺に敵意を向けてくる。ああ、いいね。これが本物か…。

 

ゴブリンの突く槍を手刀…指刀ではたき落とし、細い腕を掴み、軽くぶん投げる。それにぶつかった後続のゴブリンが、またもや苛立ちを大きくさせ、意味のわからない言葉をわめき散らしながら突っ込んでくる。それらを数度投げると、ティアとアイリが、オーガを含む群れの後方に到着した。

 

「ヘイト集めが楽だな…プログラムより、本物の感情のほうが敵意を絞り出しやすいのか…?」

 

横を通るティアとアイリに敵意が向かないというのは少し不気味だが、まあいい。あとは手順通りだ。

 

俺が砂を掛けたり声を張ってヘイトを稼ぎつつ、次々とゴブリンをぶん投げる。

ぶん投げられたゴブリンはティアの槍に突かれ、行動不能になったり、死亡している。

ティアに向いたヘイトは、アイリの魔法で軽減され、俺の嫌がらせで俺に向く。

そして、モモンさんが…

 

「手始めに…《魔法の矢》」

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォ…………………………

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

結局、ゴブリンとオーガの討伐部位は、2割ほど回収できた。残りはちょっと、というかほとんど原型を留めていなかった。人型で初めて吐いたよね。ニニャさんが普通な顔で耳剝ぎ取ってるのみて、なにこいつ、って思ったわ。

 

《で、言い訳は》

 

《い、1位階ならなにも問題ないだろうと…》

 

《いや、うん、1位階ならファイアとかもっといろいろあるでしょ、それを何故敢えて魔法系レベルによって弾数と威力の変わるような変則魔法にしたのかなって聞きたいんですよ。》

 

《あー、えっとですね…弾数多ければ、力の証明にわかりやすいかなと…》

 

《…さすがに漆黒の剣の皆さんに引かれますよこれ》

 

 

 

 

 

 

と、そんな事はなかった。

 

今は野営の準備を終え、簡単な食事を戴いている。

干し肉と芋と玉ねぎらしきものを鍋に入れ、塩となにかで味付け。それと固めのパンを戴く。

味は…素朴で、温まる味だ。ナザリックの料理とは比べるのも烏滸がましいが、これはこれでまた違う味わいがある。

それぞれがおかわりしたころに雑談が多くなってきて、先の討伐の話も出た。ゴブリンやオーガを前にして一歩も引かない剛胆なニックさんかっこいいとか、踊るように軽いステップのアイリちゃんは天使のようだったとか、片手間のようでありながら堅実な槍さばきのティアちゃんはすごいだとか。

 

「にしてもよお、モモンさんのあれ…すごかったよなぁ」

 

「いやほんとに、あんなに心躍った魔法は初めて見ましたよ。オリハルコン…いや、アダマンタイト級でもああはならないのでは…!?」

 

「同じ魔法詠唱者として…ほんっとに尊敬します。」

 

「大変良いものを見せてもらったのである。」

 

「あとは、ゴブリン共がもうちょい硬かったら文句なかったんだけどなっ」

 

「ルクルット、さすがにゴブリンにそれは酷だろう」

 

ルクルットのジョークにペテルのツッコミで笑う漆黒の剣。と俺。

ティアとティナは内心どうなのかしらんが微笑みを浮かべ、モモンさんは恥ずかしがって頭を掻いてる。

 

 

 

 

 

 

今日は、本当に。

心から、楽しいと言える1日だった。




アウラはテイマーだけど、アイリは鞭使い


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石と骨と薬師

二話先ぐらいでいっかいナザリック帰って飯食おうと思ってます


 

 

 

 

 

 

 

「あんなのだったっけ…」

 

「どうしました、ンフィーレアさん?」

 

「いや、あんな壁とか…櫓とか…なかったんですけど。」

 

一晩あけて移動再開し、エ・ランテルを出てから2日目の昼前にはカルネ村に着くことができた。

が、様子がおかしいらしい。

ともかく近付くと、櫓や壁の上からゴブリン…ゴブリンウォーリア、ゴブリンファイターなどが顔をだした。

 

「おっとォ、動かんでくださいよ。人を呼んできますんで暫く待っててくだせぇ。武器には手をかけないで。特に後ろの4人はヤベェ雰囲気がプンプンしやがる」

 

「襲ってくることもなさそうだし、警戒にとどめよう。人を呼んでくると言った。」

 

「…後方と左右にさらに15だ。これはさすがにきついぜ」

 

 

しばらくし、門にある小窓を開いて少女が顔をだした。

 

「どうしたのゴブリンさんたち…ん?あ!ンフィーレア!」

 

「エンリ!大丈夫かい!」

 

「え?ああ…ゴブリンさんたち、彼は薬師の方よ。通してあげて。」

 

エンリに言われ、武器を下ろし一礼するゴブリンたち。門は開かれ、中に誘われる。

 

 

 

 

 

俺とモモン、そしてティアはこの村に来たことがあるが、今は変装…というか変形やら幻術で見た目を変えてるので村人には気づかれなかった。

 

が、とある問題が発生した。

 

「モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウンさん、なのですよね!」

 

「…その名に覚えは、ないのだが。」

 

ンフィーレアに、正体がバレた。

 

ティアやアイリに隠蔽の為の誘拐を示唆されたが、首を横に振る。

 

「名を隠していらっしゃるのは、わかってます。もちろん、他言はしません。ただ、この村を…エンリを助けていただいて、本当に、本当に嬉しいんです。ありがとう、ございました!!」

 

良い子だ。たまに見える目は、信念を宿した綺麗な目をしている。

 

「ふむ…他言はしないと、誓えるか?」

 

「ええ。この命と…バレアレの名にかけて。」

 

「そうか。ならば信じよう。」

 

「それ、と…」

 

なにやらいい辛そうに、言葉を詰まらせながら、懺悔のように訥々と話を繰り出す。

 

「謝らなければ、ならないことが、あるんです。」

 

「ほう?」

 

「僕は薬師で、ポーションをつくっています。エ・ランテルで、とある冒険者にポーションの鑑定を頼まれ、そして、僕は、ホンモノのポーションを見たんです。完成された、ポーションを。」

 

「ふむ…」

 

「そのポーションの色は、赤。劣化しない、神のみに造ることを許された、ポーション。」

 

 

それを、手に入れ、造るのが、薬師の悲願。

其れの為なら何を犠牲にしようとも。

 

 

 

「ンフィーレアさん」

 

「…僕は、貴方がたの持つポーションの秘密を知りたかった。探りを入れ、あわよくば1本、どれだけ積んでも手に入れようと…恩人に、こんな事を考えてしまっていたなんて」

 

「ンフィーレアさん。」

 

モモンさんが、再度、青年の名を呼ぶ。

 

「貴方は、なにも悪くない。知らない事を知りたい、それは当たり前で、目標に関することなら余計にそうです。私も、この世界を、人を、自然を、全て知りたい。」

 

「モモンさん…」

 

「それに、貴方の場合、ただ知りたいだけでしょう?それを悪用したりとかは…」

 

「悪用…ポーションを悪用って…ごめんなさい、思いつかないです…」

 

…正真正銘の研究馬鹿で正真正銘のお人好しだな、この子は。

 

「つまり、なにも疚しい事はないんですよ。」

 

「疚しいといえば、エンリちゃんといる時の態度のほうが疚しいぞンフィーレアさん。もっと堂々としないと!」

 

「んえぇっ!?いや、エンリはいま、その、関係なかったような…?」

 

おじさん、応援してるからね!

 

「とにかく、モモンさんの事などは、一切、他言はしません。では、僕は採取の道具の点検をしてきます。ありがとうございました!」

 

 

 

 

 

「さて。アイリ、どうみる。」

 

「あれほど純粋なら、操られない限りは問題ないと思います、お父さん。」

 

「ティアはどう思った?」

 

「弄りがいがありそうな…でも、壊れて欲しくないと思いんしたわ、パパ。」

 

《アイリは、ちゃんと見る目がありそうですね、モモンさん。》

 

《ティアも、そこそこは情があるようで。安心しましたよ。》

 

「では、我々もそろそろ仕事に戻るとするか。」

 




短くてすみません


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石と骨と賢王

めっきり暑くなってきました


 

 

「こ、降参でござる〜!某の負けでござるよ…」

 

今、モモンさんは、ハムスターを屈服させている。

 

「なんか、うん…絵面が悪いですね。」

 

「…言わないでくださいよ、ニックさん。」

 

 

 

 

カルネ村に到着した日の午後、早速とばかりにトブの森へと向かった。

ンフィーレアさんやダインさんが薬草を採取し、他が警戒に当たる。

人数が多いことで余裕を感じ、いつもより少し奥へと入り込むと、今まで手がつけられていない薬草や毒草、キノコや花などが多く見つかり、研究に用いるンフィーレアさんや、それに因って報酬が増えると聞いた漆黒の剣の皆がほくほく顏でいた。

そろそろ引き上げるかというころ、アイリから警戒を促される。

 

「なにか大きなのが向かってきてます。…結構はやい。すぐに接敵します!」

 

「マジだぜ。こりゃあ…やべぇかもな」

 

ルクルットは地面に耳を当て、聞いた音に冷や汗をかいている。

 

「もしや…」

 

「みなさんはンフィーレアさんを護り撤退。我々が殿を引き受けます。」

 

「モモンさん、それは…いや、任せました!頃合いを見て逃げてください!」

 

「ペテルさん、なんなら倒して引きずって追いかけますよ。」

 

冗談を言えるほど余裕があると見て…実際は余裕どころか、傷つくことすらないのはほぼ確実なのだが…先の戦闘から、逃げ出すのには訳はなさそうだと判断し、撤退を急ぐ。

 

「アイリちゃんとティアちゃんの事、しっかり守ってやってくれよ!」

 

「ルクルットてめぇ、うちの子はやらねぇって言ってんだ!はやくどっかいけ!」

 

悪態を吐くニックだが、軽口を叩きながらも足元の状態に気を配って皆を誘導するルクルットの姿に、少しの敬意を覚える。

 

 

「さて、おでましかな。」

 

言った途端、ニックに向かって、しなりのある蛇のようなものが突き出される。話に聞く限りおそらくしっぽだろうそれは、狙い違わず首を串刺しにする一撃であろう。

だが、それをニックは掴み、強く引っ張る。

 

「おらよおっ!」

 

「うひゃあ!!飛ぶでござる〜!!」

 

ズドンッ!と、目の前に引きずり出されてきたそれを見て、ニックとモモンは目を見開き、驚きを露わにする。

ティアとアイリは、何か感心したようにソレを見ている。

 

「びっくりしたでござるが…ダメージにはなってないでござるよ!しかしその力に敬意を表し、いまなら見逃してやっても「ああ、もう。」いいで…ござ?」

 

その巨体の話の途中で、モモンさんがかぶりを振り、声を出す。

 

「賢王っていうから…どんなのかと思えば…よりにもよって…」

 

「逃げないのであれば!いざ尋常に、命の奪い合いをするでござるよ!」

 

「はぁ…期待したのに…」

 

ーーハムスターだったなんて。

 

「《絶望のオーラ》……lv.1」

 

モモンさんの向けた指の先から、薄黒いオーラが漂い、件のハムスターをうっすら包む。

途端、全身の毛を逆立て、尻尾を股に挟み込み、腹を向けて倒れ込む。

 

「降参でござる〜!」

 

 

 

 

 

「で、モモンさん、これ、どうします?」

 

「いや…これね……もっと無かったのかな…」

 

「結構いい子ですね。レベルは大したことないけど、目に力が溢れていて、かっこいいと思いますよ?」

 

「アイリと似た意見なのは癪でありんすが、悪くはない子でありんすね。仕草に貫禄が見て取れるでありんす。」

 

おまえら…どんな感性してんだよ。

目、クリクリでかわいらしいでしょうが。仕草、ちょこまかしててかわいらしいでしょうが。

 

「アイリ、ティア…この目とか、口元とか、かわいいと思わないか?」

 

「かわいいとは…うーん、よく見ると、愛嬌もあるような…」

 

「言われてみれば、何処となく愛らしいでありんすねぇ…」

 

よかった、割と此方側だった。

 

 

 

結局、殺すのも躊躇われた上に、忠誠を誓われたので、お持ち帰りする事となった。

でかいけど、ペットぐらいにはなるだろうということで…。

 

 

 

 

「これが…」

 

「森の、賢王……!」

 

「なんと強大な…まさに王者であるな…!」

 

「これは…逃げ果せる自信すらわかねぇかもしれねぇな…。」

 

漆黒の剣の皆に賢王をみせると、予想はしていたが慣れない反応をされた。

曰く、叡智に溢れた瞳、鋼剣すら通さないような強靭で美しい毛並み、王者の余裕を伺わせる体躯、鎧すら切り裂くような恐ろしい爪、鞭のようにしなやかで最も恐るべきであろう尻尾、との評価で。

いやいや、クリクリでかわいい目、硬いけど手触りはよくて暖かい良い毛並み、ふっくらとしてもちもちしそうなかわいい体躯、短い腕にちょこんとついた綺麗な爪、猫のように感情を見て取れる面白い尻尾…とはならないようだ。この世界の美醜感覚がわからない。強ければなんでもいいのか!?

 

「ともかく、これは支配下に置いたので安全です。一応、ギルドに登録はしておこうと思うのですが…」

 

「あ、あの…」

 

「どうしました、ンフィーレアさん?」

 

ンフィーレアさん曰く、カルネ村がモンスターに襲われなかったのは、近隣の森にいる賢王が縄張りを守っていたからだろうと。賢王がいなくなると、カルネ村にモンスターが攻めてくるかもしれないので、どうにかならないか、と。

 

「ふむ。村にいたゴーレムやゴブリンだけでも不足はないでしょうが…緊急時以外は、森で放し飼いにしましょう。今回に限り、登録のために街まで持って帰るということで。」

 

「ありがとうございます!」

 

その後は賢王の鼻や記憶を頼りに更に森の奥に行き、高価なものや研究価値のあるものなどを大量に採取した。

なお、俺たちのチームは採取には一切参加できていない。薬草と雑草の違いが全くわからないのだ。

 

(出来ないことと、出来ること。新しく学べるか、新しくできることが増えるか…いろいろ実験しないとな。)

 

あとでモモンに相談しようと思ったニックであった。




バイト受かったんでバイト代でオバロのいろいろ買おうと思います。シャルティアのグッズとかちょっと探しておきます。


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石と骨の一時帰還

書溜めがなさすぎてやばみが深い
書くより読む方が好きだから、面白い作品があると書く手が動かなすぎます。いや、書きたい。書きたいけど、読みたい…!!


 

 

 

 

 

森での採取を終え、カルネ村へ引き返し、チームごとに軒を借りて一泊する事となった。

 

「では、ティア、アイリよ。留守を頼むぞ。…仲良くするのだぞ。」

 

「朝までには帰ってくるからね。誰か来たらすぐ呼んでね?」

 

「いってらっしゃいませ、お父さん、ニックさん。」

 

「いってらっしゃいませ、モモンさん、パパ。」

 

うーん、娘に見送られるお父さん、いいねぇ!!

夜の間、俺とモモンさんは、ナザリックに一時帰還、アルベドに現状の報告をするための食事会に参加する。参加者は、俺とモモンさん、アルベド、デミウルゴス、ルプスレギナ、ソリュシャンだ。

 

 

 

 

「帰ったぞ。」

 

「ただいまー。」

 

ティアの開いたゲートを潜り、ナザリック表層に転移した。

そこには現在ナザリックに滞在している、名のある僕が皆集まっていた。

 

「おかえりなさいませ、至高なる御方々。心より、御帰還をお待ちしておりました。」

 

アルベドが皆を代表して一歩前に出、口上を述べる。それに合わせ、背後の配下たちが膝をついて頭を垂れる。

 

「面を上げよ。一時的ではあるが、我々は帰ってきた。明日にはまた発つが、皆に於いては変わらずこのナザリックを守り通しておいて欲しい。大儀である。そして、期待しているぞ。」

 

モモンさん…アインズさんの言葉に、僕たちはみな、涙を浮かべ、何人かは感動の嗚咽すらもらしている。

 

「いつまでもここにいるわけにもいかないし、さっそくですまないけど、報告会のほうに向かおうか。アルベド、案内してくれる?」

 

「かしこまりました。本日の食事会、報告会は、第九階層にございます、バーを貸し切って行います。尚、料理長がいらっしゃるため、食堂で頂けるもの、バーで頂けるもの、どちらもご注文賜れます。では、我々は徒歩で向かいますので御方々は」

 

「ん?ああ、アインズさん、アルベドに指輪渡してないんです?」

 

「ゆび、わ…?アインズ様…?」

 

「え、指輪…ああ、そうか、あったほうが便利ですよね。」

 

なんとまだ渡していないらしい。役職的には、アルベドにはそれは必要だと思うんだよな。

 

「アルベドよ、食事会の時に渡すものがある。他のものと先に待機しているが良い。」

 

「かしこまりました。第九階層、バーにて、お待ちしております。」

 

食事会に参加する面子が、ナザリックに入っていく。

 

「ユリよ」

 

「はっ、此方を。」

 

プレアデス所属、ユリ・アルファが前に出て、綺麗な箱に詰められたそれを差し出す。

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。このナザリック地下大墳墓におけるギミックや阻害を無視した転移を可能にする、ギルドメンバー専用の指輪だ。

使いようによってはナザリックを半壊させることも、全壊させることもできる、究極の急所だ。

取り扱いがそこらの危険物より危険なので、外出時はプレアデスの誰かに預け、ナザリックの深層で保管してもらっているのだ。

 

「これを、アルベドに、か。用意してからバーにいくか。」

 

「今まで渡してなかったのが不思議なくらいにアルベドの仕事量がすごいらしいですよ?これで改善されるといいですけど。」

 

NAISEIって大変なんやなあ。と思ったよねほんと。

 

 

 

 

 

 

「またせたな。」

 

準備を終え、人間化したアインズさんと俺は第九階層のバーにきた。

いつもと違い、明かりは十分な光量で、席の配置も変えられている。配置変えについては俺が許可したので問題ない。

 

僕は此方が入るなり、席を立ち、床に平伏する。

 

「楽にし、椅子につくがよい。報告会なのだ、対等にとは言わんが、ある程度は立場の差を気にせずに話し合おう。」

 

平伏を辞め、俺たちが座ってから、他の僕が順に座っていく。

 

今回のテーマは『和食』。俺とアインズさんの食べたいものを、懐石やコースっぽく順に出してくる感じだ。

 

まず、飲み物は、日本酒『超越』。

ゲーム時代は、銘や味のフレーバーテキストしか無かった物だが、現実になったことによってそれらが飲めるようになっていた。その中でもこのお酒は、アインズ…モモンガさんしか開けることを許されないお酒として創られていたものだ。在庫本数はそこそこ多いし、ユグドラシル金貨があれば追加で複製もできるのだが、それらの検証は後々になる。

ともかく、希少ではないが独特なお酒だ。アインズさんが居ないと開けられないからな。

 

先付は、ヒラメの昆布〆。ヒラメも昆布もユグドラシルに於ける上級者向けフィールドで採れる最高級の一品を使用している。

今の所は在庫分でなんとかなるが、そのうち大釜を使うことを考えると、金策は急務になってくるな…。

 

吸物は、豆腐、絹さや、柚子のお吸い物。醤油や塩、香り付けの柚子でさえ厳選に厳選を重ねられた一品だ。

 

向付は、鮪、鯛、烏賊、赤貝。山葵醤油とちり酢と共に。前世では食える魚なんぞアーコロジーの中の生簀にしかいなかったからな。タニシなら食ったことあるが、あれはヤバかった。赤貝は美味いと思うけど、多少トラウマがなぁ…。

 

そして煮物。

かぼちゃ、里芋の煮物を頼んでいる。家庭的で、且つプロの手腕が光る一品だ。

懐石での煮物は、もっと煮物然としていない風だったのだが、資料を見る限りだとどういう味なのか全く想像できなかったので、所謂家庭的な味のものとして紹介されていたものにした次第だ。

 

続いて揚げ物。レンコンやシシトウなどの野菜の天ぷら、エビ、穴子、アジなどの海鮮の天ぷら、ニンニクやたまご、かしわ、さらにはウニの海苔巻き天などの変わり種が盛り沢山で提供される。当然、油や天つゆ、抹茶塩なども最高級だ。というか、今回は水から器から全部が最高級である。舌が肥えてないのに最高級ばっかりだと、冒険者としての活動に支障がでそうな気もする。昨夜の薄いスープも、あれはあれでよかったんだけどな。味としては比べ物にならない。

 

焼き物、サンマの塩焼き。

単純だがそれ故最高、程よい焼き目に、溢れる脂、柔らかく解れる身。前世の100年ほど前は、一般家庭で普通に食えた程度のものだったそうだが、もちろん俺は食ったことない。アインズさんもだ。なお、こちらも最高級以下略。

 

蒸し物として、ウニの茶碗蒸し。

底と上にウニが乗せてある。底のは熱が通っていて、上のは程よく温まっている。たしか、バフンウニ、とかいったか。

 

それから、ご飯と、沢庵。

コメはこっちの世界ではまだ見たことないが、あるのだろうか。あっても改良されてはないだろうし、日本米には遠く及ばないだろう。高く見積もってもタイ米か。カレーも食いたいな。チャーハンも。

 

そして、ご飯と一緒に、止め椀のアサリの味噌汁が出てくる。

手間はかかるが、殻ごと入れてもらっている。ドラマで見た、殻ごと口に入れて身だけ食べるってやつがやりたかったのだ。

 

最後に、水物。無花果の田楽、抹茶のアイスクリーム、わらびもちを頼んだ。

甘いものというのは不思議な引力があるもので、幾らでも食えるような錯覚に陥る。

ちなみに、別腹というのは実際にあるそうだ。デザートを前にすると、胃にある消化途中の物を腸に押し込んで容量を確保しようとする、と聞いたことがある。

 

と、まあ。食いたいものは幾らでもあるのだが、今回は和食に限定してみたわけだ。次回は中華とか、フランス料理とか、その辺から攻めてみたいな。

 

 

 

「さて、報告会の前に、食事を楽しもうと思う。日々我々の為に尽くしてくれている、此処に居ないものには申し訳なさもあるが、それは後に埋め合わせをしようと考えている。では、NIKUYAさんからも一言を。」

 

え、俺!?毎度ながら急に振るからさあ…いや、社会人時代にはもっと無茶振りされてはいたけどさ!

 

「あー、今回は各部署の責任者、若くは代理人に集まってもらった。アルベドはナザリックの運営管理、デミウルゴスは消耗品生産研究並び戦略指南、ルプスレギナはカルネ村の監視並び外地の人間の観察研究、ソリュシャンはセバスの代理出席だが、王都に於ける情報収集及び工作、及びに外貨獲得への着手、と。皆の配下含め、大変に良くやってくれている。報告書はアルベドより上がってきてるから見てはいるけど、今回は現場の生の声を聴いて、更に深く現場を知りたいと思っている。ま、とりあえず先ずは飯だ。今回は和食。俺とアインズさんの故郷の…昔にあった料理のテーマだな。ルプーとソリュシャンには一応、フォークとスプーンを用意してるから、箸が難しかったらそっち使っていいからね。では、アインズさん。」

 

因みに、アルベド、デミウルゴスは箸が使える。ソリュシャンも使えるそうだが、確定ではない。ルプーは多分すぐ箸を諦めるだろう。

 

「うむ、では。皆、杯を持て。」

 

『超越』を注いだ御猪口を持ち、掲げる。

 

「食事会を始める。乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

 

 




食ったことないもの書くときって頭が痛くなります。食べたい。


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石と骨と食事会

語彙力も、美味い飯を食べた経験も少ないので、上手く書けたかはわからない。 寿司食べたい。


 

 

 

 

食事会が始まる。

先ずは乾杯したお酒を飲み干す。

日本酒『超越』。アインズさんにのみ開封を許された、超越者の為の酒。アインズさんは基本的に飲食不要・不可なのに何故専用のお酒があるのかは知らないが、フレーバーテキストを見る限りはアンデットに対する回復効果、つまりは負のエネルギーが込められてるわけでは無い。普通に、お酒だ。

ぐいっと一口。口の中に広がる質のいいアルコールの爽快感に続いて、仄かな甘みが広がる。それは長く続くものではなく、すぐに喉元を過ぎていく。後に残るのは、爽やかな喉越しと、アルコールの香りのみ。

 

「うむ。」

 

アインズさんの為のお酒という事もあってか、お気に召したようだ。表情が柔らかい。支配者の威厳はまだギリギリあるか。

 

それから、先付、吸物、向付と食していく。

初めて食べた味に、驚愕と感嘆が溢れる。俺はジャンクフードのほうが好きだと思っていたが、なんというか、魂に刻まれた記憶が和食を欲しているように感じる。リアルで和食とか食った覚えないのに。

 

「この『お吸い物』というものは、仄かな部分に手間隙がかけられているのが良いですね。香りだけでも、様々な趣向が施されているのがわかります。」

 

デミウルゴスは、お吸い物を大変気に入ったようだ。

確か海外では、ジャパニーズクリアスープと呼ばれているらしい。透き通っているのに深い味わいがあるので、日本通の外国人は日本食初心者にまずコレを勧める事もあるとかないとか。

 

「生の魚というのも、今まで敬遠してましたが、美味しいものですねっ。」

 

ルプーは刺身が気に入ったようだ。狼って生食のイメージしかないけど、生魚は食わず嫌いだったんだな。意外。

 

 

続いて、煮物、揚げ物、焼物。

 

素材本来の旨味に、調味料の絶妙な加減がマッチしている、最高の逸品ばかりだ。

 

「家庭的な味というものが、こういうことなのだと舌に叩きつけられたような気分ですわ。私も、精進しないと…」

 

「アルベド、新婚の奥さんは初夜に肉じゃがをつくるそうだよ。ね、アインズさん。」

 

「うむ、うま……え?なんですか?肉じゃが?食べたいですね、確かに。」

 

ああこいつ飯に集中して半分聞いてなかったな?

アルベドがクネクネとやばい動きをしだしたが、俺以外は誰も気にしていない。いや、そんなことより煮物食べよう。

 

揚げ物は、それぞれ好みが分かれると思ったが、皆が皆、全部を均等に賞賛していた。ルプーとか野菜の天ぷらを食べないと思ってたんだけどな。「にがうま〜!」って。

 

「たまご天は良いな。サクッ、プニッ、トロッと。噛むのが楽しくなってくる。」

 

「アナゴ天やべぇな。弾力も、肉汁も、とても魚とは思えないわ。すげぇ美味い。」

 

「大葉の天ぷらは、油で揚げているのに、爽やかで、不思議な感覚ですね。」

 

「コーン天ですか。揚げることで甘みが増しているように思えますね。これは、塩一択でしょう。」

 

「ニンニク天うまー!生姜天うまー!ごぼ天うまー!アインズ様、ししとう天美味しいですよ!」

 

「かしわ天も美味しいですけれど…エビ天も美味しいですわ。この抹茶塩というものも、奥深さがあって好みですわ。」

 

みな、楽しんでいるようだ。アインズさんとルプーは、互いのお勧めを食べて喜んでいる。他の子も、アインズさんにお勧めを聞きだした。其々に別の物をお勧めするあたり、人のことをよく見てるというか。それに、まだ食べてない物を勧めているようで。

 

「NIKUYAさんは、さつまいも天食べてないですよね?これ、すごく甘くて美味しいですよ!」

 

「えー、芋でしょ?フライドポテトみたいなもんじゃないんですか?…………うま、あま。甘い!さつまいもって美味いんだな!すげぇ!」

 

じゃがいもとは全然違う味だわ。さつまいも甘くて美味い。

 

そして、さんまの塩焼き。

これがもう、言葉が出なくなるほど美味い。

パリッと焼けた皮、芳ばしく香る脂、引き締まった身、味を引き立てる塩気。

ポン酢をかけ、大根おろしを乗せ、口に運んだ瞬間に全てが混ざり合い味覚を支配する。これが美味さだと、脳が、身体が理解する。

 

「うま…」

 

だれが言ったか。自分か、隣の人か。そんな事はもはやどうでもいい。 他の事は、コレを食い終わってから考えればいい。

 

「はぁ…」

 

アインズさんが完食した。美味さをかみしめているのか、空いた皿をみて嘆いているのか。

…そんな目で見ても俺のはやらんぞ。追加で頼めばよかろう。

 

 

 

「ふぅ、食ったな。」

 

塩焼きを完食し、次は蒸し物、ウニの茶碗蒸し。

まだ先は少しあるのだが、ここまでで凄く満足している。美味いって幸せなんだな。

 

「ウニはもっと大人の味なイメージがあったけど、意外に甘いんだな。温まってるからか?」

 

ウニの茶碗蒸し、もう少し苦いものだと思っていたが、まろやかでとろけるような甘さが素晴らしい。お酒が進む方向の甘さだな。

 

続いて、ご飯、沢庵、アサリの味噌汁。

昔は、これがTHE・朝ごはんだったそうだが。贅沢すぎやしませんかね?

噛めば噛むほど甘さが溢れるお米、それに塩気と味気を加える沢庵、それらを掻っ込む味噌汁。パーフェクトモーニングセットだろうこれは。

あさりの貝から身を取るのは、楽しかった。貝柱が残ってしまうことがあったが、勿体無いとはいえ僕の前で下手な事はできない…大丈夫、まだあさりはある。

 

「ふぅ。心が洗われるような気分ですわ。」

 

「極悪である私達が心を洗われた場合、一体どちらに数値が振れるのでしょうね?」

 

「ちゃぶ台前に正座してこれ食ってるセバスとかすごい似合いそう。アインズさん、どうかな。」

 

「いや、部下で遊ばないでくださいよ。…パンドラも連れてきたらよかったな。」

 

あの子は他の仕事があるからなあ。仕方ない。

今度、食事にでも誘ってみよう。

 

 

最後に、デザート。

無花果の田楽、抹茶アイスクリーム、わらびもち。

 

アインズさんとデミウルゴスは無花果の田楽が、アルベドとルプーは抹茶アイスクリームが、俺とソリュシャンはわらびもちが気に入った。

ルプーは冷たくて面白かったからだそうだ。まぁ、どれも美味いからな。

ソリュシャンは、自分に似てるとかなんとかいっていた。いや、わらびもちは取り込まないからね。纏うだけだからね。きな粉うま。

 

 

「ご馳走様でした。」

 

 

 

 

 

 

『アインズさん、最近思うんですけど。』

 

『なんですか?』

 

『うちのNPC…いや、元NPC達、少し気安くなってきた気がしません?』

 

『……確かに。どう思います、NIKUYAさん。』

 

『そうですね、アインズさんと同じ考えかもしれませんね。』

 

『そう、ですよね。やっぱり。』

 

『ふふっ。その姿だと、表情がわかりやすくていいですね。』

 

『えー、やめてくださいよ。骨だとポーカーフェースで誤魔化せるんですからね。』

 

『ま、それもそのうち不要になるかもしれませんし。』

 

『そうなってくれると、肩の荷が降りるといいますか。』

 

『今後にも期待、ということで。』

 

『ええ。…いい傾向だと、思いますよ。』




モンハンの3rdのHD版を買ったので執筆鈍くなります。ガンランス練習します。
いつもコメント、誤字報告ありがとうございます。


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石と骨と報告会

バイトが始まったので頭の容量がそっちに振られて話が書けてません。 次話書く前に投稿するのは…2年ぶり……


 

 

 

「これより、報告会を始めさせていただきます。概要は資料に纏めさせていただいておりますので、そちらを参考にしていただければ。」

 

「うむ、ありがとうアルベド。ではまず、アルベドの報告から聴こうか。」

 

「はっ。まず、ナザリック地下大墳墓の防衛に関してーーー」

 

アルベドの報告は、手元の書類にある通りだ。数人の守護者とプレアデスが抜けた穴を、高レベルのシモベでできるだけ埋める。それでできた歪みを、多数の雑魚で埋める。

 

「戦力は1割ほど落ちたままですが、警戒網を充実させ、外敵や異常の早期発見を重視しました。なにか、ご意見を頂けると幸いにございます。」

 

「うん、良くやってくれてると思うよ。ただ、こことここ、コキュートスの負担が大きいと思うんだけどどうかな?」

 

俺は資料を見て、意見する。

 

「そちらに関しては、コキュートス本人からの要望にございます。先日ご命令いただいた、休憩や自由時間なども加味した上で、限界までお役にたちたいとのこと。シモベ一同同じ気持ちでございますが、コキュートスには現在他に割り振れる仕事が無かったため、その点での負担が多く見えるのでしょう。」

 

つまり、他のシモベもたいして変わらず過労なのかよ。いや、ちゃんと休憩と自由時間も命令したけどね?それでももうちょいゆとりを持っても…って、命令しなきゃ休み無しなんだから、これでもマシか。

 

「ふむ、今後も現場をよく把握し、さらなる効率化を図れ。ゆとりを持てば、いざという時に打てる手が多くなる。言ってる意味はわかるな、アルベド?」

 

「はっ。削れるところは削り、各員の休憩時間や休息日を拡大させます。」

 

「よろしい。」

 

おお、暗にもっと休ませろって伝えたのか。さすがアインズさんかっこいい。

 

「では、続いては私が。隠密に長けた者、探索に長けた者を調査に当てたところ、この大陸にはーーー」

 

まず、トブの大森林には、ハムスター、ナーガ、トロルが王として君臨しているらしい。ハムスターは傘下に収めたが縄張りはそのままなので、陣営に変わりはないだろう。

それとは別に、大森林内部の湖の周辺に、いくつかのリザードマンの集落が存在したようだ。暮らしは原始的、特筆するほどの点はないが、とある部族が魚の養殖をしていたり、別の部族の長が色素欠乏、アルビノのメスだったりと、生物としては観察しがいのありそうなケースだ。

人間の生息域に関しては、アインズさんがカルネ村の村長から聞いた、王国、帝国、法国の他、竜王国、評議国、都市国家連合が確認された。他に、聖王国、空中都市、海上都市なども存在するようだ。

竜王国、評議国は人間のみの国家ではないそうだ。国として付き合うなら、どちらかがいいかな。

 

「蜥蜴人については、小規模ながら社会性が人間に近しいため、様々な実験に利用しやすいかと。竜王国は現在、ビーストマンという種族に侵略されつつあります。評議国には、強者として警戒すべきである竜が確認されております。法国には、未確定でございますが、プレイヤーの末裔の存在、ワールドアイテムの存在が、可能性としてございます。」

 

蜥蜴人は確かに、ナザリック陣営が社会に対してどう動くかの実験に使えそうだ。

竜王国は、潰せば人類の危機感を煽れるだろうが、方向性が違うのでパス。どちらかというと手助けしたほうがいいだろう。国の主が竜王の末裔だと資料にはあるので、異形にも…多少はマシな反応だろうさ。

評議国と法国は要注意だな。特に法国は人間至上主義だそうなので、できれば近寄らないようにしたい。最終的には潰すか従えるかになりそうだけど。そういえば法国の部隊を潰したって話もあったな。敵対しちゃいそうだ。評議国はもっと情報がほしいな。資料には危険な存在が複数、可能性として書かれているが。

 

「うむ、よくここまで調べてくれた。そうだな、蜥蜴人は後日、私の実験の駒として侵略しよう。私の許可なく、手を出さないように。他の国にも、な。竜王国に関しては、手を差し伸べる方向で検討しておけ。善寄りのシモベ達の意見を取り入れ、できるだけ恩を感じさせるような演出を企画してほしい。法国、評議国に関しては、安全第一で情報収集に徹しろ。法国に関しては既に手を出されているが、あれはあの場で終わったことだ。今はこれ以上は不確定な要素を増やしたくない。」

 

冒険者としての活動がひと段落したら、蜥蜴人の侵略、次いで竜王国への救援。法国と評議国の情報を集めつつ、王国を裏から支配、帝国は良き隣人として協力関係を築く、そうだ。

なんかスケジュールみっちりだけど、俺の頭の中ではなにも上手く噛み合ってない。なにをどうすれば王国を裏から支配できて、帝国とパイプが出来上がるのか。アインズさんと頭脳班すげぇわ。どうすごいのかわからんぐらいすごいわ。

 

「では、続いては私、ルプスレギナ、ベータが報告させて頂きます。カルネ村の監視、観察に関する資料をごらんくださいーーー」

 

ルプーの話は、有意義ではあるが、特筆すべきことはなかった。生活リズムや食生活、娯楽や労働、商人との取引などの話など、まさに観察レポートの様相だ。

 

「ではこれらから読み取れる、人間らしい仕草や生活様式を別途資料にし、ナザリック外での活動を担当するものや、担当するであろうものに配布せよ。小さな綻びが破滅に繋がることもあるのだからな。」

 

「はっ。ユリね……ユリ・アルファとともに、制作にかかります。」

 

「そうだな、ユリなら細かなところも気付くだろう。」

 

人間らしく、かあ。元人間だからわからなかったけど、異形が人間の真似をするのって大変、なんだろうなぁ。そんなところに気付くなんて、やっぱアインズさんすごいわ。

 

「では最後に、私、ソリュシャン・イプシロンが報告させて頂きます。」

 

ソリュシャンの報告は俺でもわかるほど有用だった。

王国はいま、貴族派と国王派で分裂寸前、それぞれ、とくに貴族派が様々な悪事や叛逆的な外国との取引などを行い、遠くないうちに国としては破滅するそうだ。国王は愚鈍ではないが優良寄りの凡夫、生まれる時代が悪かったと言われている。バハルス帝国との毎年の小競り合いで生産力も落ち、後がないそうだ。

さらに巨大犯罪組織、八本指とやらに裏から支配されているとも噂されている。既に傀儡なら、主を挿げ替えるだけで支配ができそうだが。糸の持ち主が国を保たせようとしてないなら、面倒が増えるだけか。

「大規模に工作する必要があるか…。そうだな、いっその事貴族派を全て潰して、国王派の次男三男に貴族派が治めていた土地を任せるのはどうだろうか。いや、それまでに帝国に潰されそうだな。」

 

「ねぇアインズさん。」

 

「なんですかNIKUYAさん。デザート追加ですか?」

 

なんでや!そんなん俺が食いしん坊みたいやんか!

 

「あ、料理長、わらび餅追加で。ってそうじゃなくてね、いっそ、ナザリック周辺をうちの国にするのはどうかね?」

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国とか、かっこいいと思うんだけどなあ。

 

「うーむ、そうですね……。国として王国と帝国を相手にした場合、王国はどうとでもなりますね。帝国は王国ほどではなくとも然程戦力が高くない。仮に戦争吹っかけられても問題はない。ただ……」

 

「法国かぁ。」

 

「人間国家として立国できるなら問題は少なそうですけども。でも国家と呼ぶには足りないものも多い。」

 

「じゃあ王国を表立って支配、リ・エスティーゼ王国改め、アインズ・ウール・ゴウン魔導王国、でどうですか?」

 

「え、なにその名前。いや、いいんですけど…じゃあ、そういう方向で進められるか、デミウルゴス、検討しておいてくれ。できる限り周りの国を刺激しない方法を模索せよ。」

 

「はっ、早急に検討いたします。」

 

よし、なんか仕事した気分。掻き乱しただけ?いやいや、俺の意見でも無いよりはあったほうがマシだと思うんだよ。脳筋からの目線とか、頭脳班には無理でしょ。できないならできないで案が捨てられるだけだし。

 

「そういえばソリュシャン、セバスはどうだ。」

 

セバスなぁ。あの子…子と呼ぶには渋いが。善に振り切ってるから、面倒なことに巻き込まれそうな気がするんだわ。主人公体質っていうか。まぁ、たっち・みーさんの子だから仕方ないんだけど。あの人いっつもなにかに巻き込まれてるんだよな。

 

「今の所、なにも問題はございません。市場の動向の把握も的確、人気もあり、お求めになられた役目を全うしているものと存じます。」

 

「なら良い。なにか面倒に巻き込まれたら、些細なことでもすぐに報告するように言っておけ。たっちさんは、なにかあっても心配かけまいと口を開かない事があったが、それではなにかあった時に取り返しがつかなくなる可能性もあるからな。」

 

「しかと、承りました。」

 

今の所、どこで何を食べたかとか、誰をどう助けたとか、全部報告させている。報告の行くアルベドにも、疑問点があれば小さなことでも早合点せずに俺に報告するように言っている。問題の早期発見、早期解決は組織としてはとても重要なのだ。末端の末端でも、燃えれば大木ですら灰になることが珍しく無いからな。

 

「さて、報告はもうないな。当面の行動指針は各員、皆に滞りなく通達するように。勝手な行動をしないようにも、しっかりとな。それとデミウルゴス、この前言っていた『牧場』の件、NIKUYAさんが手伝ってくれるそうなので後日2人で話し合え。」

 

「なんと!NIKUYA様、寛大なるご慈悲、感謝の極みにございます!」

 

ああ、そういえばそういうことも言ったような…牧場ぐらいならね。

 

「では、報告会を終了する。私とNIKUYAさんは村に戻って休むので、皆も良く休息を取るように。」

 

さて、状態異常無効化の指輪で酔いは無効化されているので、このまま村に戻るかな。

と、ああ、忘れてた。

 

「アインズさん、指輪、指輪!」

 

「え?ああ、また忘れてた。アルベドよ。」

 

「はっ。」

 

「この指輪を、お前にやろう。」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。ナザリックのほぼすべての場所に転移できる、ギルドメンバー専用だった指輪。職務上、アルベドには必要だからな。

 

「ありがたき幸せ……この指輪に恥じぬ働きを、御身に誓います……。」

 

うん?すごいプルプルしてるけど。まぁ、嫌がってはないだろう。

 

「では、我々は出立する。」

 

「いってきまーす。」

 

転移でアインズさんの自室に飛び、部屋の前で待機させていたユリに指輪を預ける。それから、アインズさんがアウラ…アイリにメッセージを送り、村に異常がない事、来客がない事を確認し、ゲートを開いてカルネ村に転移した。

アイリとティアに迎えられ、冒険者としての活動に移る。

 

「さて、冒険者モモンとニックとしての活動に戻りますかね。」

 

「目指すはアダマンタイト級、ってね。頑張りましょう。」

 

アダマンタイト級…青の薔薇とやらは女の子だけのパーティだったよな。一回会ってみたい。

 

 

 

 

 

 

そのころ、ナザリック、バーにて。

 

「さて、では私は休息を取りましょうかね。図書館か浴場か、どっちにしましょうか…」

 

「私はカルネ村の監視に戻りますかねー。」

 

「私も王都に…アルベド様、如何なさいました?」

 

「アインズ様…指輪……指輪…アインズ様………ハッ」

 

「アルベド?」

 

「これって、もはや結婚なのではないでしょうか!」

 

「なんでやねん!……失礼。」

 

「さすがにそれは……」

 

「きついっすね……」




最強チート異世界転生か、時間操作能力か、1億円が欲しいです。毎晩神様にお願いしてます。無神教なのでどの神様でもお願いします。
※追記
1話のPVが1万を超えていました。長らくお休みを頂いていたうちに皆様にお読み頂いていたようで、申し訳なくもあり、ありがたくもあります。
これからまた更新速度が落ちるかと思いますが、構想が出来次第、書き続けたいと思います。
これからも是非、よろしくお願いします。
ナザリックに栄光あれ。


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石と骨と暗殺者

オバロ二期!!二期ニキ!二期だぞオラァ!!書け!!投稿しろオラァ!!オバロ二期だぞテメェ!! さてはアンチだなテメー
二期が楽しみすぎて夜しか寝られない これもアインズ様の御威光の所為


 

 

カルネ村に戻り、夜明けに漆黒の剣と合流、ンフィーレアの馬車の空きの分の薬草を更に採取し、カルネ村を発った。

 

「いやあ、大漁大漁!追加報酬も出してくれるそうだし、明日の夜はパーッと飲むかぁ!」

 

「町に帰るまでが依頼だぞ、ルクルット。…まあ、飲むのは賛成だ。」

 

「気を引き締めて、明日を楽しみにするのである。」

 

野営中は、ハムスケの補助による薬草採取の分の追加報酬の話で盛り上がっていた。

 

「当初の予定の10倍は採れましたし、皆さんの報酬も倍…いや、3倍にしてもいいくらいですよ!」

 

「3倍であるか!」

 

「3倍だといくらでありんすえ?」

 

「ああ、もともとの報酬がコレくらいですから、コレくらいですかね。」

 

「今の宿だと半月は泊まれるぞ、モモンさん!」

 

「いやあ、ありがたい。ハムスケが存外役に立てたようで良かったです。」

 

ハムスケはあれでも英雄級の化け物なのだが、モモンやニック達からすると5歳児と6歳児ぐらいの差でしかないので、評価は芳しくない。

それを薄々わかっている漆黒の剣の皆は、苦笑いしながらも同調し、且つハムスケに同情するのであった。

 

 

 

 

 

 

「では、我々は討伐証明を交換してきますね。モモンさん達は、ンフィーレアさんの荷物の運び込み、お願いします。」

 

「わかりました。では、行きましょう、ンフィーレアさん。」

 

「はい、モモンさん。」

 

漆黒の剣に、道中での成果の報酬受け取りを任せ、モモン一行はンフィーレアと共にバレアレの店に向かう。

この街一番の薬師の、リィジー・バレアレが経営する薬屋だ。ンフィーレアはリィジーの孫であり、優秀な弟子であるそうだ。

 

 

 

 

 

「父さん、中に気配が」

 

「アイリ、ティア、悟られぬよう警戒を。ニックさん、ンフィーレアさんの前に」

 

「あいよ。ンフィーレアさん、中に誰かがいる可能性は?」

 

「おばあちゃんが居…いや、この時間は外に居るはずなので、それ以外だと心当たりはないです」

 

ふむ。まぁそのおばあちゃんが歴戦の戦士でもないなら、ここまで楽しげな殺気は放たないだろう。つまり。

 

「ンフィーレアさん、鍵を私に。中の安全を確認後、みんなで入りましょう」

 

「あっ…はい、お願いします」

 

自分の特異性に気づいたのだろう。そして、何に狙われて居るかも薄々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配の主、クレマンティーヌは混乱していた。

目の前には、鍛えられた肉体を軽鎧で包んだ、偉丈夫。

いや、目の前でもあるが、更にわかりやすく言うのなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい! まだなにもしてないんです! お願いします! 殺さないでください!」

 

「先に刺したのそっちだよ? もう、服が破れたじゃんか。結構したんだよこれ?」

 

「ごめんなさい! 弁償します! なんでもします!どうか、どうかお願いします! 許して…」

 

「ん?いまなんでも」「モモンさん黙って」

 

ニックは今、ビキニ風の鎧を着けた女のうえに跨っている。

下心はない。無いったらない。結構可愛いとか、胸もでけぇとか思っては…いるが、それよりもいきなり刺しにくるような女は割と苦手だ。ヤンデレとかちょっと画面の向こうだけにしててくれませんかね。

刺突は完全に避けたが、その際に扉に打ってあった釘に服を掛け、破れてしまった。

不覚。まさかこんな些細なミスで出費が嵩むなんて。こっちの世界ではまだビンボーなんだぞ。と、逆ギレに近い怒りを覚え、更に何度も刺突を繰り返す女に軽い殺気をぶつけた。

動きが鈍ったところで、拘束するために押し倒し馬乗りになったわけだが。

 

「ニックさん、衛兵呼んだらダメですかね」

 

「え、ああ。ダメですね。俺の顔見て言ってください」

 

ぱっと見はニックの婦女暴行の場面でしかない。いかにこの女が狂気的で、出会い頭に笑いながら刺突を繰り出してきたとはいえ、今は啜り泣く弱々しい女性である。間違いが間違いを呼ぶであろう。

 

「あー、とりあえず、名前、所属、目的、あとは言いたいこと。答えて」

 

「ぐすっ……な、名前は、クレマンティーヌ、元漆黒聖典、今はズーラーノーン……目的はンフィーレア・バレアレの拉致、あとは、兄を殺したい……うっ……助けてください……」

 

兄を殺したいとは穏やかではないな?まぁそれはいいや。

 

「ンフィーレアさんのタレントが目的か。」

 

「そうです……作戦全部教えます!スレイン法国とズーラーノーンの知ってること全部教えます!だからどうか……殺さないでください……うう」

 

いや、殺す気は…俺にはないよ。俺は許そう。だが、こいつら(アイリ、ティア)は許すかなッ!? って感じ。どうどう。落ち着け。この女は生かして活かすんだから。そんな殺気をぶつけないの。漏らしてるから!そんなに臭くないけど!あれだろう、作戦前にちゃんとトイレ行って水分取ってたんだろうね。透明に近いね。体型いいし、デトックスとか気を使ってるのかね。

小声で、続いて会話する。

 

「クレマンティーヌと言ったか。殺しはしない。だが、逃がすわけもない。どうだ、俺たちの配下にならんか?」

 

後ろで2人の女の子が動揺したのがわかる。

モモンさんは、まあ事前にある程度話していたし。

 

「配下になります! ならせてください! お願いします!」

 

まあそうなるわな。

で、配下には一方的な搾取をするだけでは破綻するのは自明の理。必要なのは対価だが。

 

「クレマンティーヌ、君を我らが配下に加えよう。希望にも出来るだけ添えるような契約をしてやる。詳しくは5日後、カルネ村で話す。それまでに身辺の整理をしてカルネ村の村長の家にいろ。合言葉は『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ』だ。他所に漏らしたらその地域ごと君が消し飛ぶ。5日後にカルネ村にいなくても同じく消し飛ぶ。わかったな?」

 

「は、はい! 5日後、カルネ村へ……! 絶対に行きます!」

 

「よろしい。じゃ、解放してやる。ンフィーレアさんに怪しまれないように、一応縄で縛って外に連れ出すけど、下手なマネはするなよ?」

 

 

ンフィーレアさんはこっちを伺ってはいるが、小声でのやり取りは聞こえていないようだ。さりげなくモモンさんがンフィーレアさんに会話を持ちかけているので、そっちに気をとられてもいる。

 

「ではンフィーレアさん、俺はこいつを突き出してくるので、荷物の搬入は他の3人にやらせます」

 

「わ、私もいくでありん……ついていきますわ!」

 

「ありがとうございます、ニックさん。では、モモンさん、アイリさん、お願いします」

 

やはりというかティアもついてくるようなので、3人で店を出、路地裏に入る。

 

「あの、ニック様、お伝えしたいことが」

 

「下賎な人間風情が尊き御方に話しかけていいとでも」

 

「ティア」

 

「申し訳ありません。」

 

「よいよい。ティアはいい子だ。自慢の娘だ。さてクレマンティーヌ。言ってみろ。」

 

また涙目になったクレマンティーヌを落ち着かせてから、問う。

 

「今夜、この街の墓地から、アンデットが溢れます。主犯はカジットという男。死の宝珠というマジックアイテムでアンデットをクリエイトします。数は千と少し。スケリトルドラゴンが二体、切り札として控えてます。目的は、負のエネルギーの収集。これの混乱に乗じて、私は街を出ようと思います」

 

アンデットの行進か。モモンさんに相談して、どう利用するか考えるかね。

 

「いい情報だ。ありがとう。じゃあ5日後、カルネ村で会おう。君には色々としてもらいたいことがあるからね。報酬も期待してていいよ」

 

報酬。兄を殺すお手伝いとかがいいかな? それなら武器と防具を貸し出せばいいだけなんだけど、多分。

 

「あとは、これを……」

 

「これは?」

 

クレマンティーヌが懐から……懐? そこってパンツの中じゃないの? 亜空間?

っと、懐から、小綺麗な装飾品を取り出した。

 

「これは、叡者の額冠といいます。スレイン法国の巫女姫の証で、着用者は自我を喪い、高位の魔法を使用する道具にするためのアイテムです」

 

「で、その危険物をどうするの?」

 

「是非、受け取っていただきたく……」

 

うーん、この世界のアイテムにしてはレアものなんだろうけど。俺は要らないなぁ。

と、そういえば前……ゲーム時代も、こういうことがあったな。レアドロップしたはいいけど、俺は必要無いものだったときとか。モモンガさんが、要らないなら交換してくれってうるさかったなあ。

 

「じゃ、遠慮なくいただいてくよ。スレイン法国に返さなくてもいいの?」

 

「あの国は……どうでも良いのです。私には新しい居場所が出来ますから……」

 

アインズ・ウール・ゴウンの異世界での配下一号。人間ではあるが、ギルドメンバーじゃなくて現地配下って立ち位置だから問題ないだろうと。この子の利用法は、のちのち決めるとして。

 

「じゃ、カルネ村で会おう。気をつけて言ってね。あ、これを貸しておこう」

 

カルネ村まで、一泊しないといけないのはめんどくさいからな。疲労軽減と敏捷増加の、初心者向けの指輪を投げ渡す。

 

「こ、これは……?」

 

「疲労軽減、敏捷増加の指輪。名前はメロスリング。雑魚ドロップだけど、在庫ないから失くさないでね?」

 

「な、失くすなんてとんでもないです!こんな、国の宝になってもおかしくないようなマジックアイテム……」

 

国宝級ってさすがに……60かそこらの雑魚のドロップだぞ。ドロ率は渋かったけど、高価ではなかったはずなんだが。

 

指輪をつけて屋根を走り抜けるクレマンティーヌを見送り、バレアレの店に戻る。

 

「おかえりなさい、ニックさん」

 

「ただいま、モモンさん。搬入お疲れ様です。ちょっと、いい噂を聞いたんですが……」

 

モモンさんに墓場の事、叡者の額冠の事を説明する。やはりというか、レアものには良い反応するね。ギルド倉庫にぶちこむことになったよ、叡者の額冠。

 

「アンデットの大群で街を飲み込んで負のエネルギーを集める……死の宝珠……楽しそうですね。ちょっと眺めにいきますか」

 

「そうですね。あわよくば、冒険者として派手に立ち回るのも良いかもしれません」

 

さて、次は墓場でひと暴れか。ティアとアイリは店の商品を眺めたりして待ってる。

ンフィーレアさんは帳簿付けに夢中なようだ。

 

「ンフィーレアさん、私たちは少し出てきます。漆黒の剣の方々が来られたら、待ってもらうか、お金だけ預かっておいていただけるとありがたいです」

 

「あ、はい、わかりました、ニックさん。依頼、ありがとうございました。またお願いしますね」

 

 

さて、対多数戦は苦手だが、モモンさんもアイリもティアもいるし、億に一つも負けはないだろう。

多少は骨のあるやつが居れば良いんだけど。アンデットだけに、な?

 

「ニックさん、いつのまに気象魔法覚えたんですか」

 

「え、口に出てました??」




久しぶりすぎて設定とか話し方とかに矛盾があると思います。この話の中ですら矛盾があるかもしれません。脳内補完でお願いします。オーバーロード二期、おめでとうございます。そしてありがとうございます。お久ぶりです。


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石と骨と墓場騒動

えいじゃのがっかんないのにアンデットいっぱいじゃん?おかしくね?
とか言うの禁止です 7割ぐらいすくないつもりです 書いてから気づいたわ


18

 

「カッパーだと!?お前ら、逃げろ!組合に此れを報告してくれ!」

 

「敢えて言わせてもらおう」

 

「だが断る!!」

 

決まったのではないか、モモンさん? ええ、ニックさん。

金属製の、大きな、無骨な門の前。左右には見張りの台。その上には既に、数匹のスケルトンが入り込んでいて、見張りの兵と鎬を削っている。

 

「ニックさん」

 

「ええ。てめぇら!引け!俺に道を開けろ!!」

 

右の見張り台に走りながら叫ぶ。なにを、と言わせる前にスケルトンを殴り潰し、蹴り飛ばし、危機に陥っていた兵を助ける。

 

「傷を負ったヤツは引っ込め!元気なヤツはここで残りカスを潰しとけ!いきますよモモンさん!」

 

「ええ。兵士たちの中から数名は各組合への状況報告をお願いします。あと、冒険者組合へ伝言を」

 

この日、兵士たちは、のちのアダマンタイト級冒険者チーム、『黒の暴風』の英雄譚の当事者となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいクソザコ、もう終わりか?」

 

「おぬし…何者だ!?」

 

エ・ランテルの墓地の奥深く、軽装備の男とローブ姿の男が対峙する。

 

軽装備の男の周りには、豪華な装備の3人の男女。

 

ローブ姿の男の周りには、倒れ伏した人間が数体、それと、バラバラになった大量の人骨。

 

「スケリトルドラゴンを…一撃で!ありえんわ!!クソ……ッ!!」

 

「クソもカスもねぇよ…もう終わりか聞いてるんだけど。え、まじで終わり?舐めてんの?せめてデスナイトぐらいだせない?っはー、くだらねぇわー。なーにが死の宝珠だよ名前詐欺じゃねぇか。あーもうめんどくさ」

 

ほんと、期待して損した。舐めた口聞くからもっとすごいもん出してくれるかと思った。せめてレベル70とか、そうでなくても40とかの良さげなの出してくれて、それを倒して一躍有名!みたいなのを期待してました。

それが、まさか。スケリトルドラゴン。かっこわらい。なんかもう、どうでもいいや。

 

「シャルティア、消せ」

 

「かしこまりました、NIKUYA様。『朱の新星』」

 

火球が雑魚とその周りのカスを包み込み、香ばしい匂いが熱風で運ばれてくる。

 

 

 

「…………あ、そういえば、モモンさん、死の宝珠、要りました?」

 

「ん?ああ、もう機嫌治りました?死の宝珠はまぁ、別にいいです。燃えてなかったらくださいな。」

 

勝手に期待して勝手に機嫌悪くしたわけだからね、さすがに理不尽だと思ったのさ。

 

「モモンさんが中位アンデット作って、それ潰して戦果にしません?」

 

「いや流石にそれは…心が痛むでしょ?」

 

「痛む肉もない癖に!」

 

「うるさいやい!幻肢痛とかあるでしょ!ていうか心はありますから!」

 

やいよやいよ言ってるうちに、火は収まり、灰は風に流されていった。死の宝珠は煤がついていたが残っていたので、モモンさんにあげた。この世界特有のレアアイテムが2つも手に入り、ご満悦のようだ。

 

「さて、戻りましょうか、モモンさん」

 

「そうですね。アイリ、ティア、いくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある兵士の日記

 

私は、今日、英雄譚の当事者となった。

私は、今日、英雄と言葉を交わした。

私は、今日、伝説を見た。

神よ。我々の危機にあの方々を遣わせて戴き、感謝いたします。




次はナザリックで誰かといちゃいちゃするお話かきたいです
がんばってかきます 風呂場でマーレといちゃいちゃするかなーと思ってます もしくはプレアデスの誰かと


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石と骨と風呂

みんなは小説かくときにプロットってありますよね
俺もそろそろちゃんと管理しないと終始つかないのでは?と思い始めました。整理してから本筋進めます


19

 

いろいろとゴタゴタしたが、無事に騒動が終わった。

俺たち『黒の暴風』は、スケリトルドラゴンの討伐の実績をかわれ、金級冒険者になった。

アダマンタイトにはまだ遠いが、知名度は上がったので良しとしよう。

 

「なんだか思ったほどでもないですね、いろいろと」

 

「そうですねニックさん。まぁ、スケリトルドラゴンと千程度の雑魚ですからね。飛び級だけでもありがたいもんです」

 

一応、他の冒険者でも問題なさそうだったが、街を救ったということで、金一封もいただいた。これは王都に送り出したセバスとソリュシャンに送ろう。

 

「とりあえず一度帰還して、金策でも考えますか、モモンさん」

 

「そうですねニックさん。バーも行きたいし、食堂も行きたい。とにかく帰りましょう」

 

「あー、とりあえず食堂で昼飯にしますか。ティア、ゲートを」

 

「かしこまりんした、パパ。『ゲート』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食堂で食い、遊技場でビリヤードを楽しみながら冒険者としての名声をあげる計画を話し合い、夕方にバーで軽いドリンクを嗜み、夜。

 

「銭湯いきましょ」

 

「え、NIKUYAさん、私もですか?」

 

「もちろんですよ。あとはー……」

 

あとは誰を連れていくか。

女性陣はもちろん無しで、セバスは王都、デミは任務で聖王国とやらに行ってて、コキュートスは風呂が苦手。となると……

 

「パンドラは嫌ですよ」

 

「え、可哀想。心ってもんがないんですか」

 

「それこの前も言ってませんでした?とにかく、パンドラはダメです。風呂なのに落ち着けない」

 

「そうなると、いま時間とれそうなのってマーレだけですね」

 

「ん……?ああ、マーレは6階層で作物の改良中でしたか。時間がありそうなら呼びますか。『メッセージ』」

 

言わずもがな、マーレは最速で部屋に来た。薄々わかってた。

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっはぁぁぁぁ…………いきかえる……」

 

大浴場、とは言うものの、その規模はこのナザリックの他の施設に比べるとささやかなものだ。それこそ、100年ほど前に存在した、大衆浴場にある大浴場と遜色ない。

まぁ、この浴室自体、数ある銭湯フロアのひとつでしかないのだが。

なんというか、他の、バラが浮いていたりだの、黄金のマーライオンがあるだの、そういうのは落ち着かないわけで。こういう、庶民的な雰囲気の方が最高に落ち着ける。

それに、このフロアにはあの堕天使の作品がないのだ。女性陣のようにマーライオンに追いかけ回される心配がない。

 

「あー、やっぱ肉体あると風呂は格別ですね。骨のほうだと温かいだけで、染みるような気持ち良さがないんですよね」

 

「あ、わかります。石のときはなんというか、いっそ不快な感じなんですよ。人型に変形させてるだけなのに、触覚も違ってくるみたいですね」

 

「なるほど、でも防御力は変わらずですもんねー。現実なら優秀な種族じゃないですか」

 

「遠距離攻撃が遠投だけってのがですね……」

 

とにかく、心身に染みる。温かく、暖かい。

昔の人間は毎日風呂に入ってたというから、水資源も豊富だったのだろう。全く、たった100年ほどで何故ああまで衰退したのか。

それはともかく置いておいて。

 

「マーレ、いつまでそこにいるつもり?タオル置いてはやく入ってきなさい。体が冷えちゃうよ」

 

浴場の外側に目を向けると、そこには、タオルを胸から下に巻いて、おろおろと落ち着かない様子のマーレがいる。

 

「だって、NIKUYA様ぁ……ぼ、ぼく、あの……はずかしくて……」

 

「男同士でしょ、恥ずかしくないよ?それとも、俺の言うことが聞けないって言うのかな?ん?」

 

「NIKUYAさん……マーレ、タオルは巻いたままでいいから、此方へきなさい」

 

「は、はい……」

 

ようやく覚悟を決めたのか、浴場に向かうマーレ。

足の指先で水面をちょんとつつき、意を決したように足を滑り込ませる。

そして縁の段差を降り、俺とアインズさんの間に座り込む。

 

「んっ……あぁ…………ふぅ」

 

「アインズさん、ごめん、あとで俺を1発殴ってください」

 

「NIKUYAさん…さすがにドン引きです。節操なさすぎじゃないですか?」

 

「な、俺はシャルティア一筋ですよ!それに俺は同性に欲情しません!」

 

「欲情…浴場で欲情、ふふっ」

 

「マーレ……」

 

「マーレ…………」

 

「NIKUYAさん、『なにこいつ可愛い。ほんまに男か?ついてるんか?見えへんな。シュレディンガーのマーレやな。茶釜さんほんっまに神。天使を生み出してしもてる。ぐへへ、悪いようにはせーへんよ、ちょいと堕天使にするだけや』ってメッセージで送ってこないでください。キモいです」

 

「な!!マーレに聞かれたらどうすんですか!セクハラで訴えられちゃう!」

 

「に、NIKUYAさまがお望みなら……いいですよ……?」

 

「ぐふっ」

 

「なっ、NIKUYAさん!メディック!メディー……いいや、ほっとこう。マーレ、上がるぞ。フルーツ牛乳を買ってやろう」

 

「あ、ありがとうございます…!謹んで、あの、ごちそうになります…っ」

 

「ふふ、そうかしこまらなくてもよい。そうだ、風呂上りのドリンクの飲み方の作法なのだが、片手を腰にあて、足を肩幅まで開き、一気にグイッと呷るのが作法なのだそうだ。やってみるか」

 

「えーと、こう、ですか…?」

 

「うむ、文献に載っていた通りのポーズだ。私もやってみよう」

 

 

 

 

深夜、たまたま巡回していた執事助手のエクレアに発見されるまで、NIKUYAは浴場に浮いていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(昨日からマーレの様子が変だ。姉として、原因を知らなければならない。だが回りくどいのは面倒だ。本人に直接きこう。無理矢理にでも)

 

「マーレ、昨日なにかあったの?」

 

「お、おねえちゃ…いや、なにもないよ……?」

 

「嘘だッッッ!! 誰にも言わないから、おねえちゃんに言ってみなさい?」

 

「う、うん……かくかくしかじかで……」

 

「そ、そうなんだ…光栄じゃない……じ、じゃああたしは用事ができたからこれで……」

 

 

 

 

 

(NIKUYA様の裸アインズ様の裸NIKUYA様の裸アインズ様の裸ああああああ……………羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい)

 

「あたしもご一緒…………なに考えてんだろあたし。はぁ……」




「箱のなかに猫がいるかどうかは、箱の中を見るまではわからない。確認するまでは、猫のいる世界線と、いない世界線が『にゃーご』」
「マーレは肩周りとか腰回りに男らしさがあるんですよ。あくまで骨格は男の子ですから。幼いながらも指も男の指ですし。だから隠してるんですけどね。男らしく創りつつ、男らしい部分を隠してしまって曖昧に感じさせる。よくできてると思いますよ。まさに神の造形。いやあ、ぶくぶく茶釜さんにはほんとに頭が上がらないです。足向けてねれませんね。それでですね、男でありながら女の子に見える理由としてですね、あえて一人称をボクにするっていうのもですよ、茶釜さん、謀ったなぁと思うわけですよ。いやー、演出家だなぁ。とことんまで男の娘を追求していらっしゃる。もうね、他に余計なことしちゃうとバランスがとれないんですよ。一人称を私にしたりだとか、髪を伸ばしたりだとか、スカートの長さもね、これ以上長くても短くてもダメで。ええ。ほんとに、神がかったバランスで。造形担当が何人も泣かされてますからね。頬ボネをあと0.何ミリ上にだとか、スカートをあと何ミリ下にだとか、ほんとに、執念というか、マーレを創ること以外なにも考えてないかのような、マーレを創る為に生きてるかのような執着心でしたからね。ええ、……あ、もう時間ですか?とにかく、茶釜さんのマーレへの愛は造形として発露しているということです。まさに男の娘、ということで。アウラについては、また次回…え、もういいって?いや語らせてよ。アウラはね、女の子でありながら…………」


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男の娘とメイドの大捕物

主人公でません
はぁ……マーレちゃんかわゆ……


20

 

王都の探索や情報収集は、セバスとソリュシャン。

エ・ランテルでの情報収集は、冒険者チーム『黒の暴風』

それらとは別に、王国での情報収集、とりわけ「居なくなってもおおごとにならない、武技やタレントを持つ者」を捜索するグループがある。

その任務の内容から、よくナザリックに帰還することの多いグループだが、今回は数日かけての捜索の末に掴んだ情報を元に此処に来た。

 

「マリアさ──ん、この先が、例のガガンボの塒です」

 

「な、ナーベちゃん、その癖、治らないんだね」

 

マリアことマーレ、ナーベことナーベラルは、とある噂を頼りに、盗賊達の塒に赴いた。

ちなみに「その癖」、とは、敬称のほうと蔑称のほうと両方である。

 

「マリアさ─んが突入、私が入り口の警戒、でよろしかったでしょうか」

 

「うん、そうだね……いや、ふたりで入ろうかな。入り口は塞いじゃったらいいし」

 

「では、そのように」

 

女の子がふたり…いや、片方は、違うが、盗賊の餌になるような容姿の者が、盗賊の塒に立ち入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレイン・アングラウスは困惑した。そして、恐怖した。

 

「あ、あの、これって、武技、ですか?」

 

「マリアさm……ま、こいつは当たりですね。蛆虫からダンゴムシに昇格です」

 

「ナーベちゃん、いまサンマって言ったよね?言い直せてなかったうえに、へんなこと言っちゃったよね?」

 

「い、いえ。そのようなことは」

 

「その癖明日に治ってなかったら、御方にいいつけちゃうね」

 

「……申し訳ありません、マリアさん」

 

 

「は、ははっ……」

 

幾度となく太刀を浴びせ、その全てを何事も無いかのように受け流され、切り札である武技『領域』『神閃』を合わせた秘技『虎落笛』をも見切られた。

あのガゼフですら殺せると確信していた秘技。強さだけを追い求め、遂に手に入れた最強の一太刀。

…だった、はずなのに。

 

「俺は……弱いのか……?」

 

「っ、ナーベちゃん、捕らえて」

 

「はっ。確保!」

 

いっそ、逃げよう。と思って意識を切り替えた瞬間、彼の意識は暗くなった。

 

 

 

 

 

塒である洞窟から出ると、そこには人間が集まっていた。

 

「止まれ!何者だ!」

 

その人間のうちの1人が大声で誰何する。ナーベが殺気だち、構えようとした。が、それはマリアの杖による脳天への一撃で沈静化された。

 

「あ、あの、私はマリアといいます。こっちはナーベ。中の盗賊たちはみんな転がしてます。女の子たちは置きっぱなしなので、あとはよろしくお願いします…あの、もういいですか?」

 

冒険者らは眼前の女の子の証言に、困惑した。この子らがふたりで制圧したのか?ほかの人らと制圧し、すでに別れたのか?

来たばかりであるため、情報が少ない。だが、ナーベと呼ばれた女はともかく、マリアとやらに荒事に向いた気配は全くない。むしろよく此処に居られるなと感心するぐらいである。

まぁ、ともかく、危険はないだろう。と、冒険者らはこのふたりを警戒しなかった。

 

「あ、ああ。大声出して済まなかったな。俺たちは中に入る。おまえら、いくぞ!」

 

マリアの引きずる袋が蠢いた気がしたが、おそらくは盗賊の宝だろう。宝の取り分が減るのは痛いが、本当に戦闘がないのならそれに優る節約はないと判断し、中身を聞かずにすれ違った。

 

 

「口のなってないプラナリアどもめ、教育して差し上げても宜しいのではないでしょうか」

 

「だから、ナーベちゃん…いいつけちゃうからね、ほんとに」

 

「も、申し訳ありません。思っても口にしないよう、気をつけます」

 

それでいいのか、とは思ったが、今はそれでも進歩だろうと諦めるマリアであった。

 

「じゃあ、帰ろうか…………っ!?」

 

「いかがなさいまし……っ!?」

 

気配。強者の気配がする。

もちろん自分よりは弱いだろうが、自分が知覚できるレベルの強者の気配。これは、さらに良い手土産になるだろう。

マリアとナーベは目配せし、気配のほうへ向かう。慎重に、気づかれないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた。あいつらだ。

複数いるが、とくに強そうなのは最前にいる槍使い。

そのほかには……あれは?

………………あれは。まさか。……そうだ、やはりそうだ。

 

「ナーベちゃん、あいつら、み、皆殺しで」

 

「宜しいのですか?」

 

「う、うん。全員生かさない。跡形も残さない。行動後、御方にメッセージを」

 

アレは、絶対に確保しなければならない。なんなら、いまからナザリックに連絡し、援軍を送ってもらうのも手だ。…いや、やっぱり、自分たちだけでやろう。成功したら、きっと褒められる。

まずは魔法で壁をつくって包囲、そして中を魔法で滅する。うまくいかなければすぐに撤退すればいい。

作戦をナーベに伝え、行動にうつす。

 

 

 

 

四方を分厚い土で囲み、それを推のように伸ばし、上部にも蓋をした。

そして、即座に範囲殲滅魔法を囲いの中を指定し発動させる。それも複数。MPの残りが不安だが、これでダメなら逃げる。

爆音やら風切り音やらが荒れ狂い、囲いの内部を消し炭と化していく。

中のモノは…漆黒聖典の者らは、この圧倒的な暴力になすすべも無く刻まれ、燃やされ、砕かれた。そのものらの中で最も強い、隊長ですら。

魔法のかけられた装備はその場に残ったが、それ以外はなにも無くなった。

 

警戒し、数分待ったが音沙汰がなかったので壁の上部を解放。バックドラフトを起こし、それが収まったところで壁を解除。

生存者が居ないことを再度確認し、ようやく一息つく。

そして、そこに残った複数の魔法の武具と……とある衣装を回収し、撤退した。

 

 

 

 

 

 

「こ、これで……アインズ様とNIKUYA様に、絶対に褒められる……っ!!やったよナーベちゃん、大手柄だよ!!は、はやく報告に帰ろう!」

 

「え、ええ。アインズ様にメッセージを送り、ゲートを開いてもらえる事となりました。暫しお待ちを。…して、その大手柄とは、いったい?魔法の武具を手に入れた程度では、手柄とはいえ、御方に…褒められる程の事ではないかと」

 

「ふ、ふふ。茶釜様が言ってたの。ボクに似合う衣装、自作もいいけど、やっぱり機能性も必要だなー、って。それでね、見せてもらった事があるの。これを」

 

「……それは、つまり、御方が認めるほどの機能がある衣装、だということですか?」

 

「み、認めるなんてものじゃないの!これは、魔法の武具なんて、それこそゴッズアイテムですら比較にならない程のものなんだよっ」

 

「……もしや」

 

「うん、そう。これは……」

 

白い生地に黒の縁取り、金の刺繍で竜の意匠を設えた、スリットの深いチャイナ服。

 

 

 

 

世界級アイテム『傾城傾国』である。




ブレインはゲイ設定になる予定だったそうです。どうでもいいですね。まぁ、がんばれ、ガゼフ。

ネタバレするとマーレちゃんが傾城傾国着ます。可愛い。見えそう。見せて(土下座)


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石と骨と褒賞

マーレのお話おおくね?
可愛いからしゃーない


21

 

「よくやった!!!!!!!!」

 

「最高だなお前ら!!!!!!!!」

 

玉座から駆け下り、俺はマーレを、アインズさんはナーベラルを、ひしっと抱きしめた。

 

大変重要な報告があるということで、玉座の間にて、守護者、プレアデス、それらの副官などを呼び集めた。そこで語られた、マーレとナーベラルの報告。

 

武技を持つものの捕獲と、そして。

 

「傾城傾国……これだけでも大手柄もいいとこなのに」

 

「ロンギヌスまで……!!あーもう、お前ら、マジでよくやった!お前らのおかげでナザリックはさらに、さらに強くなった!もう!あー、語彙が足りない、どう言えばいいのか!!」

 

ワールドアイテム。

精神支配無効を無視して相手を支配できる、それも対象人数に制限のない『傾城傾国』

使用者とターゲットのデータを抹消することができる『ロンギヌス』

ふたつのワールドアイテムが、マーレとナーベラルによってナザリックにもたらされた。

さらに、この世界にワールドアイテムが存在するという証拠、それらを使用する組織の存在の証拠、その組織に対する圧倒的な損害、着用者の抹消……これは、ただワールドアイテムを手に入れただけではないのだ。

 

抱きしめたままだった両者を、似たタイミングで解放し、ふたりで考えを巡らせる。

まずは、ワールドアイテムの対策が必要だろう。この世界でワールドアイテムの存在が確定したわけだし、出し惜しみしてこの子らを危険に晒すわけにはいかない。

それと、これらを所持していた組織の情報も必要だ。これは、装備品への刻印などから、組織はスレイン法国だと思われる。スレイン法国といえば、アインズさんが消した敵対グループが、陽光聖典という法国の一組織だったと思う。ともかく、粗方進んだ帝国と王国の情報収集の人員を減らし、法国への密偵を拡充するべきだ。

可能なら…法国は消すべきだな。

それらはアルベドとデミウルゴスに任せよう。デミウルゴスには様々な仕事を振ってるが、優先度の低いものは部下に回すように言っておこう。全部1人でやりたがるのは、悪くはないが関心しない。

そして、ワールドアイテム対策だが、これはワールドアイテムを所持する他ない。たしか、カロリックストーンは複数あったよな。

外で活動するものに所持させなければならない。

 

マーレにはもちろん『傾城傾国』

ナーベラルには『山河社稷図』

王都のセバスとソリュシャンは『熱素石』でいいだろう。

アインズは自前のモモンガ玉がある。

実はNIKUYAにも『世界核(ワールドコア)』というワールドアイテムが備わっていたりする。

デミウルゴスは『ヒュギエイアの杯』

シャルティアは『真なる無』

アウラは『強欲と無欲』

 

とりあえずはこれでいいだろう。

ナーベラルとマーレに関しては、ワールドアイテムの使用を推奨した。ナーベラルが空間ごと隔離し、マーレが支配。これで人材収集も捗ることだろう。

セバスとソリュシャンは、荒事に巻き込まれる心配はほとんどない、あっても現地の者らとだろうから、ワールドアイテムの中でも格が低いものをもたせている。まぁ、あれはあれでとんでもないアイテムなんだけどね。

 

「さて、余りに想定外の報告だったため、少々取り乱してしまったな。これからは、先に言った通り、外での任務を負うものはワールドアイテムを所持するように。なお、場合によっては貴様らの命よりもワールドアイテムを優先すべきだという事を理解してくれ。……もちろん、我が子らに傷をつけようとするものが現れた場合は、ナザリック全軍を持って殲滅するが」

 

これで、とりあえずの対策はできただろう。あとは情報を待ち、集まり次第法国を潰す。

 

「で、だ。今回の件での、褒賞だが……」

 

ワールドアイテム2点に加え、数多いゴッズ、レジェンド、レリック装備。武技を使える存在。それに、ワールドアイテムを鹵獲したことによる副次的な情報。

これらの褒賞となると、場合によってはとんでもないことになる。

仮にアインズ・ウール・ゴウンのギルドの場合、メンバーがワールドアイテムを単騎で入手しギルドに寄付した場合、最低でも100億金貨に様々なマジックアイテム、場合によっては他のワールドアイテムをも褒賞とする。

そのため、今回の件、褒賞はとても難しい。

お金は欲しがらないだろうし、ワールドアイテムは預けてる以上の物は与えづらい。…いっそ聞くか。

 

「なにか欲しいものはある?なんでもいい。本当になんでもいい。絶対に無理な事でなければ全力で叶えてあげる。言ってみて」

 

「い、いえ、こうしてお褒めいただけるだけで、最高の名誉です!」

 

「同じく、これ以上ない幸福でございます…!」

 

「いやいや、それじゃこっちの気がおさまらない。なんでもいいんだよ?普段ならできないような事でもさせてあげるし、本当になんでも言って?」

 

こればっかりは譲れない。ワールドアイテムに対する等価にはなりえないが、なにかしてあげないと気が済まない。

 

「な、なら……」

 

「うん、なんだい?」

 

「お世継ぎを…授かりたいです」

 

「……ん?」

 

ん??お世継ぎを、授かりたい……いや、まて、マーレ、男の子でしょ。え、どうしよ。

そんなマジックアイテムは…性別を変えるマジックアイテムはなかったはずだ。いやそんな問題じゃないだろ何考えてんの。

 

「……すまない、男であるマーレにそれは不可能だ……。ほ、ほかに、ないか?」

 

「な、なら、明日一日中、アインズ様とNIKUYA様と、デートが、したいです」

 

瞬間、複数の人物から殺気があふれた。俺がそいつらを睨んで黙らせる。

 

「明日はちょうどなにも大きな用事ないし、いいかな。アインズさんもいいよね?」

 

「ああ、構わない。ただし、6、9、10階層のみとしたいが、よいか?」

 

「もちろんです!あ、ありがとうございます!身に余る光栄です!」

 

ともかく、デートか。しっかりとリードしてあげないと…………あれ、男の子をリード?あれ?

 

「よいよい。して、ナーベラル、お前はなにかないか?」

 

「はっ、それでは……もう一度、その、ハグを……」

 

ひしっ、ひしっ。

アインズさんと俺で、左右から挟むようにハグしてやった。頭なでなでも込みだ。

ていうか、ふたりとも無欲かよ。可愛いな。

 

横の方から歯軋りが複数きこえるが、知らん。信賞必罰はナザリックの掟だ。

 

 

 

 

 

「さて、では、御開きとするか」

 

「各員、しっかりと任務をこなすように。では、解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふ、ふふっ、御方々に、抱きしめられ、た……ふふふ、ふふふふ………暖かかった。頭なでなでもしてもらえた。マーレ様に感謝してもしきれない。ああ、もう、感触を思い出すだけで幸せで絶頂しそう。もう死んでもいい。幸せってこういうことなのね……)

 

「ナーベ、顔がきもい」

 

「シズ、そっとしておきなさい」

 

「わかった、ユリねえ」




次回はデート回!
と思わせて、実はシャルティア回やろうと思います
多分


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石と……吸血鬼

マーレのターンエンド。シャルティアのターン。
次回はマーレのターン…と思わせといて……どうしよ


22

 

「はぁ……羨ましいでありんす…………」

 

ナザリック地下大墳墓、第9階層、とある区画、通称『バー』

 

カウンターで溜息を吐き、呑んだくれてる女がいる。なにを隠そう、第1から第3階層の守護者、シャルティア・ブラッドフォールンその人だ。

 

「新聞を読みましたが、あれはさすがに、相当する手柄を立てるのは…些か難しいと思いますね」

 

シャルティアに対して発言するのは、バーの主人。先程から何度か同じような会話をループしている気がするが、まだマトモにお酒を飲んでいる内は客である。丁重に持て成さなければならない。

 

「そーなのよ……さすがに、ワールドアイテムに匹敵する手柄なんてぇ……それこそ、御隠れになられた御方々の痕跡か、同じようにワールドアイテムを手に入れるしか……でも羨ましいのよ……!!はぁ、アインズ様と、そしてNIKUYA様と、デート……ハグ……頭なでなでも…………はぁ……」

 

「こちら、カルーアです。深酔いは…しないでしょうし、甘いもので少しでも気を紛らせてください」

 

「……うん、ありがと。……これからどうするでありんすかねぇ……」

 

先刻の緊急招集での、マーレとナーベラルからの報告。あれは確かに、御方々に直接御報告するに相応しい、いや、これ以上に相応しいものなどない程の戦果だった。

もちろん、それには喜びこそすれ、負の感情なんてない。

だが、それに対する褒賞。信賞必罰とは理解しているが、それにしても、よりによって、ハグとデートなんて。羨ましい、羨ましすぎて殺気を向けてしまった程に。

だが、羨むだけならグールにもできる。真相たるシャルティアは、どうすれば同じような褒賞、デートやハグをして頂けるかを必死こいて考えに考え、なんやかんやあってバーに来て、とにかく飲もうと酒を飲み、雰囲気に酔ってグダグダと管を巻くことになった。

 

「御方々と行動を共にできる最高の名誉を賜ってるのは理解してるのでありんすが、だからこそ己の感情で無為なことはできんせん。NIKUYA様…パパの娘としての行動は、パパへの評価へと少なからず関わってしまいんす……勝手な事はできない。御方々がいらっしゃるのだから私の大活躍するような場面もさしてありんせん……はぁ、どうすれば……」

 

ほう、アホキャラにしては結構考えてるんだな、なんて考えてそうなキノコをひと睨みし、再度酒を用意させる。

 

本当に、どうすればいいか。まったく、全くわからない。

こういうときは他のものの知恵を借りれば良いのだろうが…さすがに、ハグされたい、なんて願いを叶える方法を共に真剣に考えてくれるものなんて思い当たらない。

 

はぁ。

 

 

 

「騒がせてごめんなさいでありんす。そろそろ、お暇させて貰うわ」

 

「…はい、次は良いお話を待っております」

 

 

 

 

 

 

 

 

バーを出て、風呂でも入ろうかと銭湯へ足を向ける。

すると、その先に、とある人影が見えた。こちらへ向かう、NIKUYAの姿だ。

慌てて廊下の隅により、軽く頭を下げて待つ。

酒を飲んだとはいえ、毒無効の身では酔うこともない。足元がふらつく心配もない。が、先程までその方の事を考えていた─普段以上に─ので、動かないはずの心臓が激しく動いている錯覚でふらつきそうだ。

 

長い廊下を、ゆったりとした速度で歩く音。

主に人型での活動をしているNIKUYA様の、ナザリック内部での普段着、スーツ姿。その足部、革靴の、レッドカーペットを踏む音。

段々と近づく、御方の音。揺らがんとする体を意思で押しとどめ、御方の通り過ぎるのを待つ。

 

すると、NIKUYA様は、私の前で立ち止まられた。頭を上げる事はせず、声を掛けられるであろう時を待つ。

数秒、遂に御方からお言葉をいただいた。

 

「後で俺の部屋にきて。誰にも言わず、誰にもつけられず。内密に、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の話をしようと思う。

何故か幾分警備の薄まったスイートルーム前の廊下を、変装して進む。ペストーニャに見つかったが、こちら側の手の者だったらしく、それとなく御方のお部屋まで案内された。

 

NIKUYA様の部屋に入り、臣下の礼をとる。

 

NIKUYA様は顔を上げ、椅子に座るように仰られた。

 

それから、ニックとティアの演技の練習として、和やかにお茶を楽しみ、談笑する名誉を賜われた。

まぁ、任務の為の稽古のようなものだと言われたので、賜われた、のとは違うていだが。

 

さて、私がお呼ばれしたのは、この為だったのかというと、半分そうで、半分違った。

 

 

 

 

「普段の、ティアとしての任務、シャルティアとしての任務、共に、褒賞に足る働きだと、俺と、アインズさんが認めた。でだ。なにか、望むものがあるなら、ある程度叶えてやろうと思うんだよね。なんか欲しいものある?」

 

身に余る光栄、旅の共をさせていただいているだけで幸せだと、もちろんそう言った。当然そう思ってるし、褒賞が欲しいとは思っていても、それに足る働きだとは自らが認めていない。

だが、私が認めなくても、御方々が認めたのだ。ならば、褒賞を頂かなくては失礼にあたるであろう。

 

なので、再度問われたとき、思い切って……それこそ、本当に、心臓が、体が破裂しそうな気持ちを必死に堪え、お願いを、言った。

 

「……え、それ、逆にいいの?いや、いいのかな……ダメな気がす……まってアインズさんに確認する。………………いいの!?……あ、はい。じ、じゃあ……後ほど……いま!?う、うん。切りますね。………じゃ、シャルティア。目、瞑って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身に余る光栄だと、そう思った。

だが、自らこそが相応しいのだと、そうも思った。

ドス黒いナニカと、真っ白なナニカが、頭の中を占領せんとせめぎ合うようだ。

これが、幸せなのか、それとも……

 

『ここまではアインズさんの公認だけど……ここからは2人だけの秘密、だぞ』

 

頬と唇に残る感触は、あの方の声を思い出させる。

この事は、誰にも言えない。誰にも、言いたくない。

 

私と

NIKUYA様と

2人だけの

秘密

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ところでアインズさん、アルベドとアウラへの褒賞はどうしました?』

 

『ああ、アルベドへは、私の自室での職務を許しました。何故かあの子、自分の部屋なかったんですよ!アウラは、また今度、騎獣に乗ってのピクニックを、と。そっちはどうです?』

 

『コキュートスへは、今度、しっかりとした模擬戦の約束を。デミウルゴスは、ペイン系のレジェンド級アイテム数点の貸与、それとプレアデス各員へは、活きのいい要らない人間の優先的な供給と、食事会同席権…俺が同席する側ね。そんなもんかな』

 

『で、シャルティアは、どんな様子でした?』

 

『あ、ああ。うん。喜んでたよ?うん』

 

『?……NIKUYAさん、余計な事してないでしょうね』

 

『いや、してない!法に触れることなんて!してないから!』

 

『ナザリックでの法は私ですよ、NIKUYAさん』

 

『横暴だ!離反の計画をたててやる!』

 

『アルベドもデミウルゴスも、パンドラもこちら側ですが?』

 

『…………勝てねえじゃねえかよ!くそ!……ま、まあ、とくに、大したことはなかったです。ほんとに』

 

『……まぁ、良いですよ。ペロロンチーノさんも、寝取られるならNIKUYAさんみたいな人がいいって言ってましたし。あれって遠回しな嫁にくれてやる宣言だったのかな』

 

『いや、まだそんな関係じゃないし』

 

『まだ?』

 

『しまった……まあ、はい。清らかな関係でいたいです。当分は』

 

『はあ……シャルティア泣かせたら、拷問にかけますからね』

 

『嬉し涙は見逃してください』

 

『では、切りますね。これからアルベドからの報告があるので』

 

『ああ、頑張ってくださいね。では』

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

唇に手を当てる。

 

「……こっちでは、初めてだったんだ」




NIKUYA絶対許さん 略してN絶許
シャルティアは自室でどえりゃーことしてるイメージはあるけど、あくまで女の子相手ですからね、ええ。
……N絶許
ニューロニストさんがアップを始めました

活動報告を更新しました みるべし
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=178339&uid=118726


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