一色いろはが望むもの (ブイ0000)
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一色いろはは考える

アニメと原作のいろはが可愛くてつい書いてしまいました。

拙い文章かもしれませんがお付き合い頂けたら幸いです。


「ふんふふふ~ん」

 

わたしは今ベッドにうつ伏せになりながら自分のスマホを眺めている

 

そこには今日先輩と行ったカフェでとったツーショット写真

 

3枚ほどあるその写真にはバッチリとしたキメ顔をしている美少女(ていうかわたし)と恥ずかしいのか顔を赤く染めている目つきの悪い先輩が映っている

 

こうして見るとちょっと先輩かわいいな~と思ってしまう自分がいる

 

 

 

「ふぅ」

 

少しの間写真を眺めて改めて今日の事を思い出す。

 

今日は初めて先輩とデートをした。

 

 

今まで何人もの男の子と出かけた事があるわたしだが、今日のデートは今までにしたことのない体験だった

 

遅れてきたわたしに平気で『マジ待ったわ』とか言うし、映画は別々に見ようとするし

 

何て言うか…今まで出かけた事のある男の子達はわたしにアピールするために、取り入ろうとするために"俺って気がきくでしょ?"という行動や言動をするのだが、先輩の場合はそう言った行動は一切ない

 

だからこそ、採点を10点という点をつけてきたのだが…

 

「やっぱりおかしいなぁ」

 

普通の男の子ならこんなデートをしたら二度と出かけようとは思わないのだが、逆にありのままの態度でわたしに接してくれているのが嬉しいとさえ思ってしまう。

 

だからこそ今のわたしの心はポカポカしていて、自然と頬が緩んでいる

 

 

「本当に最近のわたしはどうしたんだろうな~」

 

 

葉山先輩と出かけた時(主に部活の買いだし)も似たような気持ちになったことはあるのだが、それよりも何て言うか、濃い…そう!このポカポカが濃い気がする

 

だから、認めたくないけど、今こんな、し、幸せそうな顔?をしているのかも……

 

 

 

「―――って!本当に何を思ってんのわたしは!!」

 

 

しっかりしなさい一色いろは!たかだか先輩と遊びに行ったくらいで何を惚気オーラだしてんの!?

 

大体、今日の先輩の言動や行動を羅列すると本当に最悪な事ばっかりじゃん

 

・遅れてきた女の子に対して本音を言う

・行動プランは人任せ

・時間つぶし前提で映画を見ようとする etc

 

 

ほら、いい所なんか一つも…

 

・意外とわたしの事を見てくれていた(ブーツの件とか)

 

「うっ…」

 

・お昼ご飯で女の子だけだと入りづらいお店に連れて行ってもらった。(しかも結構美味しかった)

 

「う、ん…」

 

・別れ際は最後までわたしのことを見ていてくれた。(手を振り返すとそれにも応えてくれた)←結構嬉しかった

 

「ぐはっ」

 

やばい。悪いとこだけじゃなくてちゃんといい所もある

 

 

 

 

「あ~も~!」

 

ボスッとお気に入りのクッションに顔を埋める

 

本当に、最近のわたしは自分で自分が分からない

 

憧れであるはずの葉山先輩とはまったく真逆の先輩に対して、ウキウキしたりポカポカしたりする

 

何でこんな気持ちになるのか分からない

 

「もー!こんなモヤモヤしたりするの先輩のせいですからね」

 

そう。元凶は分かっているのに原因が分からない。

 

わたしが今までにあまり味わった事のない感情が渦巻いている

 

だからこそ、今日デートをとりつけて原因を探ろうとしたのに、解決するどころか逆に増大した様な気がする。

 

こんな悩んだりするのはわたしのキャラではない

 

だから、わたしをこんな風にした元凶である先輩には――

 

「責任、取ってもらわないとね」

 

結局、ポカポカの原因が分からないまま、但し嫌な感情ではない事を認識した上で、この日のわたしは眠りに落ちたのだった

 

 

 

 

 




SSって難しいですね。

今後も長い目で見て頂きたいと思います。
興味がある方は最後までお付き合いして頂けたら嬉しいです。


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一色いろはは苦悶する

キーンコーンと午前中最後の授業終了をしらせるチャイムが鳴る。

 

あと2つ授業を受ければ放課後。

 

今日は生徒会の会議とかは無いし、終わったら速攻で"あの部屋"に行こう。

少しだけある仕事は副会長に押し付けちゃえばいいしね(笑)

 

 

 

 

最近のわたしは放課後をとても楽しみにしている。

いや、ちょっと違うかな。

 

正確には"あの部屋"に行くことを・だ。

 

あの部屋――奉仕部はわたしにとってもすごく居心地のいい空間なのである。

 

他愛もないおしゃべりをして、時に雪ノ下先輩が先輩の事を罵り、先輩が反論をして、それに結衣先輩が便乗したり、苦笑いしたり、そんなまったりとした空間

 

その空間が心地よく、最近は毎日のようにおじゃましていたりする。

 

 

 

 

ふふふっ。今日は何て言って先輩をからかってやろうかな?

 

そんな妄想をしていると自然と頬がにやけてしまうから困りものだ

 

あ~早く放課後にならないかな?

 

 

 

「最近のいろはってさ~何か変わったよね?」

 

「ほぇ?」

 

わたしが考え事をしていると一緒にお弁当を食べていた友達が唐突に言ってきた

 

ちなみに女の子の友達は少ないわたしだが、まったくのゼロというわけではない

 

特に一緒に食べている二人、一条結城と二ノ宮光とはほぼ毎日一緒にお弁当を食べるほど仲がいい

 

「変わったって、どこが?」

 

はて?と首を掲げてみる

 

「何て言うか、あざとさが少なくなった?」

 

「はい?」

 

「あ~結城の言う事分かるかも。前までのいろはって、とにかく自分が可愛いアピールしてたけどさ、最近はそれが無くなってきてるんだよねー」

 

「そ、そうかな~?」

 

言われてみてもピンとこない

 

確かにわたしは今まで男の子に対して計算的に「可愛いわたし」アピールをしてきたことは事実だし自覚している。

 

けどソレが無くなったと言われてもそんなことは無いと思う

 

現に先輩にはそう言ったアピールを毎日しているし、その度に「あざといあざとい」と切り捨てられる

 

だからそんなことは無いはずなのだ

 

そう言ってみると、自分では気づいてないの?と少し驚かれた目で見られた

 

「だってさーこの前の金曜日もサッカー部の西川君が”明日遊びに行かない?”って訪ねてきたじゃん?それを”ごめん、明日は用事あるから”で典型的に断わってたし」

 

 

「いやいや、その日は本当に別に用事があったわけで…断っただけであざとさが無くなったって言える?」

 

実際に先輩とデートという大事な用事があったわけだしね

 

「いやいや断った事自体にたいしてじゃなく、断わり方をいってるのよ」

 

「断り方?」

 

結城の言葉に再び首を傾げる

 

すると、光の方が代返するように言ってきた

 

「いつものいろはだったらさぁ"ごっめーん。明日はちょーっと用事があるんだぁ。本当に残念だけどまた今度誘ってねぇ~"と、こんな感じに言うと思う訳よ」

 

・・・・・・・・・・・・

 

やばい。ちょっとうざいと思ってしまったが、いつものわたしなら言ってそうだと納得してしまった。

 

「心当たりがあるっしょ?だからそういう計算的な事やめたのかなぁと思って」

 

いやいやいや、止めたつもりはあまりないのですが

 

だって先輩には―――と考えた所でふと気付いた

 

 

 

 

 

そういえば、そういったアピールをしているのは最近は先輩の前だけではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

あれ?あれれ?

 

 

何で先輩の前でだけなんだろう?

 

おっかしいなぁ~無意識の内に他の人には封印しちゃったのかなぁ?

 

だとしたら何で先輩だけ?

 

 

 

「???」

 

 

自分の事なのに考えても答えが出てこない

 

 

「もしかしていろは、葉山先輩に本気に挑むようにしたとか?」

 

「へ?は、え?」

 

葉山先輩?本気?

 

どういうこと?

 

「ほら、クリスマス前に一回振られちゃったけど、諦めた訳じゃないんでしょ?

だったら、好きな人に本気でぶつかるために他の男の子は切っちゃったみたいな」

 

「あーそういうこと。そう考えると健気だねぇいろはは」

 

あははと二人は笑い合っている2人の声が遠く聞こえた

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

キーンコーン

 

 

「あ、チャイムだ」

 

「はぁ、あと2限頑張りますか。じゃねいろは」

 

「あ、う、うん」

 

何故だか空返事をしてしまう。

 

5時間目が始まっても、ずっとわたしは上の空だった

 

原因はさっきの会話

 

 

『好きな人に本気でぶつかるために他の男の子は切っちゃったみたいな』

 

 

だってあの時、わたしの頭の中に葉山先輩は一瞬たりとも浮かんでこなかった

 

考えても考えても浮かんでくるのは―――



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一色いろはは気づき始める

「すーはー」

 

落ち着いてわたし。目の前には奉仕部の扉

 

待ちに待った放課後、何故だかドキドキしている鼓動を落ち着かせようと自分に言い聞かせる

 

今までこんなことはなかったのに一体どうしたんだわたしは!

 

「よっし!」

 

パンパンと頬を叩いて気合を入れ、いざ奉仕部へとつにゅー「何やってんだお前?」

 

「ひ!?」

 

しようと思ったところで横から聞き覚えのある声が聞こえた

 

振り返ってみると、そこにはいつものように目の腐った先輩が立っていて…

 

「ひ…」

 

「ひ?」

 

「ひゃああああああああああああ!」

 

 

思わずわたしは大声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

***********

 

 

「先程は驚かせてしまって申し訳ありませんでした」

 

わたしは奉仕部の定位置に座りながら対面に座っている二人の先輩に頭を下げた

 

「何事かと思ったよー。廊下からいきなり悲鳴が聞こえるんだもん」

 

うぅ…改めて言われると恥ずかしい

 

「まぁ、無理もないわ。いきなり背後霊に声をかけられたら誰だって驚くわよ」

 

「ちょっと?人を霊扱いするのやめてくんない?俺まだ死んじゃいないからね?

だいたい、いきなり悲鳴あげられて驚いたのは俺も同じなんだけど?」

 

雪ノ下先輩の罵倒にいつものように先輩が反論する

 

この言い合いは傍から何度見ても微笑ましく感じる

 

「どうぞ、一色さん」

 

「あ、ありがとうございますー」

 

雪ノ下先輩が紙コップに紅茶を注いで出してくれる

 

以前までは「紅茶、いるかしら?」と一言断られてから出してもらっていたが、最近では何も言わなくても出してくれるようになった

 

まるでこの部の一員だと言われているようでとても嬉しかったりする。

 

一口飲むと冷えていた身体が温まっていき思わずうっとりする

 

「で?今日は何しに来たんだよ?」

 

少し落ち着いたところで先輩が話しかけてくる

 

「せんぱーい、せっかく可愛い後輩が訪ねてきているのにその投げやりな態度は酷くないですかねー?」

 

「あーはいはい。つーか本当に最近は毎日のようにここに来てるが生徒会はいいのか?」

 

「この時期の生徒会って意外と暇なんですよねー。細かなところは副会長がやってくれますし」

 

「生徒会が忙しくないのだったらサッカー部に顔をだしたらどうかしら?一応あなたマネージャーなのでしょ?」

 

「この時期はその…外寒いですし…」

 

はぁ。とわたしの言葉に雪ノ下先輩が溜息をつく

 

ん~我ながらどうしようもない理由ですね

 

「寒いから嫌だとかお前社会舐め過ぎだろ」

 

「しょうがないじゃないですかー。それにほら、わたしって冷え症ですし」

 

「いや知らんけども」

 

「むー。じゃあ確かめてくださいよー」

 

この時わたしは特に何も考えず手を伸ばして先輩の片手に触れた

 

 

そう、特に何も意識していなかったはずだったのに…

 

 

 

ボッ!

 

 

「!?」

 

 

触れた瞬間、一気に身体全体の温度が上がったような感覚に陥った

 

 

あまりの不思議な出来事にわたしは慌てて手を引いた

 

 

「え?あれ?」

 

 

な、何いまの?いきなり体温が上がったような…

 

 

みると、僅かながら手汗をかいてるのが分かった

 

な、何これ?もしかしてたかだか手が触れ合っただけで恥ずかしがってるの?

 

「ど、どうしたのいろはちゃん?大丈夫?」

 

突然のおかしなわたしの行動に結衣先輩が心配そうに声をかけてくれる

 

「あ、はい。何でもないです」

 

「まぁ、本来触れれるはずもない霊に触れられる時点でおかしなものだし、何らかの拒絶反応を起こしても無理もないわね」

 

「ちょっと?いつまでそのネタ引っ張るつもりですかね?大体、さっきの悲鳴といい、何だかんだでちょっと傷ついてるのは俺の方なんですが…」

 

 

やばい。やばい。やばい。何でもないっていったものの身体はどんどん熱を帯びていく

 

「一色さん?」

 

「あ、えっと、やっぱり先輩方の言うとおりですよね!たまにはサッカー部の方に顔を出す事にします!雪ノ下先輩、紅茶ご馳走様でした!」

 

「え、ええ」

 

呆気にとられている先輩達を無視してパパッと支度を済ませ、わたしは奉仕部を出ていく

 

「結局、何だったんだアイツ」と出て行ったあとに先輩の声が聞こえた気がした

 

ていうか、わたしも今のわたしの状況を知りたい

 

 

 

そう思い、急いでお手洗いに駆け込み、鏡を見つめる

 

すると、そこには顔を真っ赤にしている乙女の姿があった

 

 

「うわ、な、何この顔…」

 

今まで見た事もない姿。マンガ何かで見る"ある感情"を抱いているヒロインの姿

 

「ウソでしょ?たかだか手が触れたくらいで…」

 

確かめるように自分の手を胸に持っていく

 

ドクンドクンと心音が早いのが分かる

 

「これって…いやいや、ありえないでしょ…」

 

今までそんな予兆もなかったはず

 

なのに、湧き出てくるこの感情は…

 

「そう言う事……なの?」

 

 

 




何やら展開が早過ぎる気もします。

SSって難しいですね。


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一色いろはの本物とは・・・

辺りは白い景色に包まれていた。

 

上下左右360度が白い世界だ。

 

身体の感覚はフワフワしていてどこか居心地がいいとすら感じてしまう。

 

あれ?わたし何でこんな所にいるんだっけ?

 

確か放課後になって、奉仕部に行って、それから、えっと、うん!家に帰ったんだ

 

それでベッドに横になって…あ、分かった。

 

ここは夢の中だ。ときどきあるよねー。自分が今夢を見ているって感覚。

 

どうせ夢なら何かいいことないかな~

 

すると、白い世界から一転してとある教室の前にわたしは立っていた

 

そう。奉仕部の部室の前だ

 

夢の中では3人の先輩方は何してるのかな~

 

そう思いながら扉に手をかけようとした時に中から声が聞こえてきた。

 

『それでも…』

 

あれ?これって先輩の声だよね

 

『それでも、俺は…』

 

あれ?ちょっと待って…この言葉の次って確か――

 

そう。わたしは知っている。この言葉の後を…

 

わたしが偶然聞いてしまったあの時の言葉

 

わたしの心の中に鋭く突き刺さった先輩の心の叫び

 

『俺は、本物が欲しい』

 

ドクン!と夢の中なのに心臓が跳ねた

 

すると、急速に頭の中が熱くなり何も考えられなくなる

 

「うっ…」

 

少し息苦しいのを感じると、うっすらと目を開ける

 

そこはわたしの部屋だった

 

予想通り、わたしは制服のまま寝ていたようだ

 

「ふぅ…」

 

ゆっくりと起き上がると、徐々に意識が覚醒していく

 

「本物が欲しい…か」

 

そうだよね。先輩のあの言葉を聞いた時、気になっちゃったんだよね

 

わたしの本当の気持ちってやつを

 

わたしは恋人はいたことはないが、男友達?は多くいた

 

何人もの男の子に『可愛いわたし』をアピールすることで群がってくる男の子は後を絶えなかったし、わたし自身もいい気分だった

 

いつだったか大多数の男の子はわたしを着飾るためのアクセサリーとさえ感じ始めた

 

特定の男の子にだけみてもらえばそれでいい

 

その特定の男の子が皆の憧れる葉山先輩だったのだろう

 

 

 

 

 

 

だけど、それは果たして『本物』だと胸を張って言えたのだろうか

 

皆が憧れていたから、あの人の彼女になれたらステータスになるから

 

そんな考えが、先輩の言葉を聞いた後に駆け巡った

 

だからこそ、確かめてみたかった。自分の気持ちをぶつけてみたいと思った

 

例え、結果が分かりきっていたとしても

 

幸いにも場所とシチュエーションは平塚先生がくれたチケットで最高の舞台が整っていた

 

戸部先輩に図ってもらい葉山先輩と二人っきり、夢の国、夜に咲く花火

 

そこで、わたしの気持ちをぶつけた

 

結果は予想通りだった。予想通りだったけど、やっぱり悲しかった

 

思わず涙が出てきた程に

 

でも、何か胸に突き刺さっていた針が抜けたように気持ちは軽くなった

 

そして意外にも悲しみを引きずることはなかった。

 

やけにあっさりと割り切れる事ができたのだ。

 

その時に気づいた。やっぱりわたしの気持ちは『本物』というには軽すぎるものだったのだと

 

言うなれば『葉山先輩に恋するわたしに恋していた』

 

こんな感じだったのだろう。

 

 

じゃあ、今のわたしはどうなんだろう?

 

あの時脈打った鼓動の正体、今までに見た事のない自分の姿

 

あの時の感情は、『本物』なのだろうか…

 

 



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一色いろはは決意する

「先輩、早くして下さいよ。帰るのがどんどん遅くなっちゃうじゃないですかぁ」

 

「そう思うなら手伝ってくれませんかねぇ?俺一人でやるより二人でやったほうが早いに決まってるんだから」

 

「え~だってわたしの担当分は終わりましたし」

 

「そもそも割り振りがおかしくない?何でお前が1列で俺が4列なの?」

 

「細かい男の子は嫌われますよ?あ、先輩の場合そうでなくてもですね。気がつかなくてごめんなさい」

 

「さり気にディスるのは止めてくれる?俺泣いちゃうよ?」

 

ハァと溜息をついている先輩をみていると自然と笑みがこぼれてくる

 

 

現在、明日の高校入試のための準備で教室内の机や椅子を後ろに移動している。

 

何故こうなったのかと言うと、話は1時間ほど前に遡る

 

 

 

放課後、平塚先生に呼ばれて生徒会メンバーは職員室に集合していた。

 

「えっと、全員そろったんですけど、今日呼ばれた理由って何ですかね?」

 

「実はな、明日の入試に備えて色々と準備をせねばならんのだ。君達にはその手伝いを頼みたい」

 

なるほどぉ。ようは雑用ですね。

 

「ではさっそく2階の教室の椅子と机を全て後ろに移動してもらおうか」

 

うぇ~肉体労働ですか…ていうかこんな寒いのに2階の教室全部って…

 

「そんな嫌そうな顔をするな一色」

 

おっとっと、顔に出てましたか

 

「ちゃんと助っ人を呼んである」

 

助っ人?と首を横にかしげると同時に入口のドアが開かれた

 

「失礼します」

 

そちらに目を向けると、よく見知った3人の先輩方の姿

 

その姿を見るとわたしの顔は自然と緩んだ表情になっていたと思う

 

「よろしくお願いしますね。せーんぱい!」

 

何が?という顔をした3人の顔に思わずクスッと笑ってしまった。

 

 

 

 

そんなこんなで奉仕部の3人を含めてお仕事が始まった

 

雪ノ下先輩の提案により効率よく作業を進めるために3組に分かれることになった

 

グループは先輩ーわたし、雪ノ下先輩ー結衣先輩、副会長達(ちなみにわたしが決めた)

 

 

「ほらほら先輩、他の人達は皆帰っちゃいましたよ?」

 

「そうですね。俺も早く帰りたい。だから手伝ってくれませんか会長」

 

「せんぱ~い、これ以上かよわい後輩に重いモノを移動させるのはどうかと思いますよぉ?」

 

「うぜぇ」

 

愚痴を言いながらも先輩は作業を続けてくれる。

 

 

 

今日1日中考えた。わたしの気持ちってやつを

 

わたしが先輩に抱くこの感情は「恋」というにはまだ不確定だ

 

でも、確定している事がある

 

それは、先輩の傍にいると楽しいと言う事

 

だからわたしは、先輩の傍にいたい

 

先輩の事をもっと知りたい

 

だから、これからはもっと纏わりついてやる

 

いつか、この感情を明確にするために

 

だから―――

 

「覚悟して下さいね。せんぱい」

 

「は?何が?」

 

「クスクス。何でもありませーん」

 

「??」

 

今はまだ…ね

 

 

 

 



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一色いろはは先輩を逃がさない

「あ~やっと終わった。すっかり暗くなっちまったな」

 

「お疲れ様です。せーんぱい」

 

平塚先生から任された仕事、もとい雑用を終えたわたし達は下駄箱で靴に履き替えて校門へ向かう

 

「じゃあ一色、俺自転車だから」

 

お疲れと言って先輩は駐輪場へ向かおうとするので

 

「待つよろし」

 

先輩のマフラーを引っ張り上げた

 

「ぐらっ!」

 

先輩から妙な奇声が漏れた

 

「ゴホッゴホッ!な、何だよ…」

 

「あのですね先輩、空を見てください」

 

「はぁ?」

 

「どうなっていますか?」

 

「星が輝いてるな」

 

「そうですね。ということは夜ですね」

 

「時間的には夕方だけどな」

 

「辺りは真っ暗です」

 

「そうだな。寒いし早く帰りたい」

 

「………(ぷくー)」

 

「え?何で膨れてんの?」

 

「はぁ…あのですね先輩?こんな暗いのにこんな可愛い女の子が一人で帰るのは危険と思わないですか?」

 

「いや、いつも一人で帰ってんじゃないの?」

 

「いつもはもう少し明るい時間に帰ってます」

 

「ああ、そう。で、俺にどうしろと?」

 

普通今の流れで察してくれるものじゃないですかね?

 

それとも分かっててとぼけてるだけなんですか?

 

ふっ!仕方ない。ここはとっておきを出すとしますか

 

コホン、と一呼吸置いて――

 

「もちろん、先輩はわたしを駅まで送ってってくれますよね?」

 

きゃぴるん。と、極上の笑顔を向けてみる

 

大抵の男子はこの笑顔で一発だ!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ものすっごく嫌そうな顔をされた!

 

「なーんーでそんな嫌そうな顔をするんですかぁ!」

 

「え?だってめんどくさいし」

 

超正直に言いやがりましたよこの先輩

 

ていうか失礼過ぎませんかね

 

「とにかく!先輩にはわたしを送る義務があります!」

 

「いつそんな義務ができたんだよ?」

 

「先輩、考えてみてください。今日は生徒会の仕事をしていて遅くなりました」

 

「そうだな」

 

「そして、わたしが生徒会長にならなければこんなことにはならなかったはずです」

 

「う…」

 

「さて問題。わたしが会長になったのは誰のせいでしょう?」

 

わたしが小悪魔的な顔でみつめると、先輩はバツが悪そうに顔をそらした

 

ふっふっふ。こういえば先輩は断わりませんよね?

 

ちょっとズルイかもしれませんが、逃がしませんよ?

 

「はぁ…分かったよ。駅まで送る」

 

嫌々そうではあるが認めてくれた先輩

 

よっしゃ!と心の中でガッツポーズをする

 

「ちょっと待ってろ。自転車とってくる」

 

「はーい」

 

 

 

先に校門で待っていると、カラカラと自転車を押しながら先輩がやってきた

 

「じゃ、行くか」

 

「はい!しっかりとボディーガードしてくださいね」

 

「はいはい。ん」

 

先輩は自転車に跨りながら後ろを軽く顎で指す

 

「何ですか?」

 

「乗れよ」

 

「あのですね先輩、二人乗りは禁止されてるんですよ?先輩は生徒会長のわたしに学校前で違反をしろと?」

 

「それもそうか」

 

やれやれと言った感じに先輩は自転車からおり、右手をわたしに差し出す

 

「なんですか?」

 

再び同じ言葉で問いかける

 

「鞄。籠に入れるから」

 

「っ!?」

 

あ~今のは効いた

 

完全に虚を突かれた感じ

 

「どした?」

 

しかもこの先輩は下心とか、計算してとかではなく素でやっているからタチが悪い

 

 

少し顔を背けながらわたしは先輩に言った

 

 

「先輩、あざといです」

 

「はぁ?」

 

訳が分からないと言った感じの先輩にわたしは鞄を差し出す

 

渡した鞄を籠に入れ、わたし達は一緒に歩き出した。



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一色いろはに何かが芽生え始める

一色いろはに何かが芽生え始める

 

「う~寒いですねぇ」

 

時間帯的には夕方だが、すでに外は暗い

 

そんな中、自転車を押す先輩と隣を歩くわたし

 

「今は星が見えるが、これから雪が降るかもって言ってたな」

 

「もし積もったりしたら明日は受験生大変ですね」

 

「やっぱりそうだよなー」

 

ハァ…と先輩の口から一つのため息が漏れる

 

「先輩?」

 

「いや、明日の受験な、妹もウチを受けるからさ」

 

あ~そういえば妹さんがいるって言ってたっけ

 

「確かぁ、お米ちゃんでしたっけ?」

 

「バカ違ぇよ。小町だ小町!何だよお米ちゃんって…」

 

おっと。そういえばそうでした。

 

「小町ちゃん…小町ちゃんですね。一回会ってみたいです」

 

「4月には会えるだろ」

 

「お、もう受かることは確定ですか?」

 

「まぁ、あいつの努力は知ってるからな。それに—―」

 

それに?

 

「—―由比ヶ浜でも受かったから大丈夫だろ」

 

「………」

 

ゆ、結衣先輩…すごくバカにされてますがわたし、少し納得しちゃいました。

 

ごめんなさい

 

「まあ、なんだ…小町のためにも楽しい学校にしてくれ。会長」

 

ニッと優しい顔で言ってくる先輩

 

こんな顔もするんだ…家族想いなんだなぁ

 

「クスッ!やっぱり先輩はシスコンですね」

 

「ばっかお前。千葉に住んでる兄貴はみんなシスコンなんだよ」

 

いやいやいや。そんな事あるわけないじゃないですか

 

どんだけ規模がでかいんですか

 

「まぁ仕方ないですね。先輩の頼みですし。でも—――」

 

キュッと先輩の袖を掴み、とびっきりの笑顔でこう言った

 

「何かあったときは助けてくださいね。せーんぱい」

 

「……後ろ向きに検討しておく」

 

「それ後退してるじゃないですか。そこは前向きに検討してくださいよ」

 

ガシガシと頭をかく先輩

 

まったく。相変わらずの捻くれさんですね

 

そして、その捻くれさんは実はすごく頼りになることをわたしは知っている

 

生徒会選挙、クリスマスイベント、フリーペーパー、先輩には本当に助けてもらってばかりだなぁ

 

あ、生徒会選挙は言いくるめられただけだっけ…

 

あれから数か月たったのに、あの時の記憶はまだ新しい感じがする

 

「ん?」

 

感慨に浸っていると、わたしの手に白く冷たいものが空から降ってきた

 

「あ、雪…」

 

「降ってきたか…つーかまだ星空見えてんじゃん」

 

「晴れてるのに雪って狐の嫁入りって言うんでしたっけ?」

 

「それは雨の時だろ。雪は狸だ」

 

「わぉ。先輩博学~」

 

「その言い方バカにしてる?バカにしてるよね?」

 

「だって先輩頭いいようには到底思えませんし」

 

「舐めるなよ?国語だけなら学年3位だぞ」

 

「え!?先輩ってそんなに頭良かったんですか?」

 

い、意外だ。意外すぎる事実

 

「失礼な奴だなお前は」

 

「ちなみに理数系はどうなんですか?」

 

「……………」

 

あれ?何か思いっきり顔を反らしてますけど

 

「先輩?」

 

「一色」

 

「はい」

 

「俺の正解は数字には左右されない」

 

「すいません。意味が分かりません。ていうか、数字に左右されるのが現実だと思います」

 

「うぐっ」

 

これで学年3位か~

 

ということはつまり、理数系は絶望的だと

 

そんなことを話していると、駅が見えてきた

 

何か、いつもより早く着いた気がするなぁ

 

「あ、ここで大丈夫ですよ。送ってくれてありがとうございます」

 

「おう」

 

スッと取り出した鞄をわたしは受け取る

 

「あと、これ使え」

 

「え?」

 

もう片方の手で差し出してきたのは折り畳みの黒い傘

 

「念のため天気が崩れそうな時は持ってんだよ。駅から家まで必要だろ?」

 

「い、いいんですか?」

 

「家まで遠くないしな。それに自転車だと傘さし運転は禁止だし」

 

だったら持ってること自体おかしくないですかねって言いたいけど自重しておく

 

というより、いきなりの不意打ちに突っ込む余裕もない

 

一瞬わたしの体温が上がったのがいい証拠

 

「(やっぱり、先輩はあざといです)」

 

しかもこの先輩はおそらく下心とか計算とかそういったものはない気がする

 

鞄を籠に入れてくれた時と同じく素で優しさを出してる

 

「ありがとうございます。先輩」

 

傘を受け取り、頭を下げてお礼を言う

 

「おう。気ぃつけてな」

 

「はい。先輩も気を付けて。まだ積もってないですけど、自転車に乗って転ばないでくださいね」

 

「大丈夫だ。たぶん」

 

クスリと笑って改札を通り階段を上る

 

その途中でクルリと振り向くと、あの時と同じように先輩はまだわたしを見ていてくれた

 

そのことがとても嬉しく、先輩に小さく手を振った

 

すると先輩もスッと手を挙げて答えてくれる

 

それを確認すると再び階段を昇っていく

 

トクン

 

また、身体が温まる

 

それがとても心地よくて、とても気持ち良かった



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一色いろはは悶えてしまう

この世で最も大切なのは時間だと思う。

 

学校で友達とおしゃべりをするにしても、遊ぶにしても、好きな人の傍にいるにしても、どれも等しく平等なのは時間だ。

 

今迄わたしは時間を無駄にはしたくないと考え、常に自分のスケジュールは空けないようにしてきた。

 

まぁそれだけにクリスマスイベントの時、海浜の生徒会長に前半の無駄な会議でわたしの時間を取られていたのはムカつきますけどー

 

あ、でもそのおかげで奉仕部の先輩たちと仲良くなれたんでしたっけ…

 

あと葉山先輩たちとディスティニーランドに行けたのもある意味あのイベントのおかげと言えるかもしれない

 

ディスティニーランド…

 

わたしが生まれて初めて告白をした場所

 

クラシカルな音楽、夜景、そして打ちあがる花火

 

シチュエーションとしては最高だったのだろう

 

だから、盛り上がってしまったわたしの心

 

普段のわたしなら、たとえ盛り上がっていたとしても負けると分かっている戦には挑まない

 

なのに、分かっていたのに、挑んでしまった負け戦

 

悲しかった。涙も出た

 

でも、すっきりした。引きずらなかった

 

やっぱりわたしにとって、あの恋は本物じゃなかったってことか

 

じゃあわたしって、意外と初恋ってした事ないのかも…

 

わたしの初恋ってどんな人になるんだろう

 

—―――――――—――

 

 

—―――――

 

――

 

「………っ」

 

今一瞬、昨日の別れ際の先輩の顔がチラついた。

 

最後までわたしを見ていてくれて、手を振ってくれた。

 

やっぱり、嬉しかった。

 

あの光景を思い出すとポカポカして、顔がフニャッとなってしまう。

 

「あ~う~」

 

ゴロンゴロンとクッションを抱きしめながらベッドを左右に転がる

 

「やっぱりこれって、"そういう事"なのかなぁ」

 

先輩がわたしの初めての相手…

 

「あれ?なんかエロい感じがする」

 

身体が火照ってしまい、クッションを抱きしめる腕に思わず力が入る

 

あ、話が大幅に脱線した。

 

一度冒頭に戻ってほしい。

 

そんな時間を何よりも大切にしている(ちょっと戻し方が雑すぎるが)わたしが、今日は特に予定を入れていない

 

やることが無く、ただベッドの上で悶えている。

 

すごい表現だ。乙女か!乙女だ

 

「う~ひまだ~」

 

バタバタと足を振りながら外を見るとすごい量の雪が降っていた

 

「そういえば先輩の妹さん大丈夫かなー」

 

来年には(恐らく)後輩になるであろう先輩の妹

 

どんな子なんだろう?

 

聞きたくても先輩の連絡先知らないしなー

 

こんな暇な日になるなら聞いとけばよかったなー

 

そしたら電話とかーラインとかー色々暇つぶしができるかもだしー

 

あ、でも先輩ならこっちの連絡無視しそうだなー

 

なんとなく先輩の性格分かってきたからなー

 

むふふ

 

 

 

 

 

 

 

でも、あの二人はもっと先輩のこと知ってるんだろうなー

 

妹さんの事も知ってたみたいだし

 

「やっぱり、ちょっと悔しいかも…」

 

もし、もう少しだけ先輩と早く会えていれば…

 

もし、先輩と同じ学年だったなら…

 

わたしはどんな生活を送っていただろうか

 

雪ノ下先輩や結衣先輩と一緒に、正式に奉仕部になっていたのだろうか

 

雪ノ下先輩が入れてくれた紅茶を飲んで、わたしが先輩を弄って、結衣先輩が微笑ましい笑顔でそれを見ている

 

やばい。そんなことになったら超幸せな光景じゃん

 

今もそんな感じかもしれないが、わたしとの距離は違う

 

わたしも、雪ノ下先輩も、結衣先輩も同じ経験をして、同じ距離で先輩の隣にいる。そんなifの妄想

 

「バカだなぁわたし。考えても仕方ないのに」

 

まぁ、これから知っていけばいい

 

"後輩"という立場を利用して思いっきり甘えてやるのもいいかもしれない

 

ん。それはそれでありだよね

 

ていうか、さっきから先輩のことばっかり考えてるな

 

「………」

 

一瞬の静寂、後、恥ずかしくなり再びベッドを右往左往

 

「はぁ…」

 

バカみたいだな。と思いながらもやっぱり考えてしまう

 

「会いたいよ。せんぱい」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は早めに投稿できました。

感想をくださった方々ありがとうございます。

すごいやる気になりました。(^^)/


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一色いろはは幸運の持ち主である

「さ~む~い~」

 

マフラーに顔をうずめながら呟く

 

ハァ…こんな雪の中何してるんだろうわたし

 

—――数分前

 

 

「ハァ…」

 

「若者が何を辛気臭い顔をしてるのいろは」

 

ベッドでクッションを抱きながら呆けていると後ろから声が

 

「………ママ、部屋に入るときはノックしてって何回も言ってると思うんだけど?」

 

「あ、いけない忘れてた。ごめーんね☆」

 

 

テヘッ!という顔をするわたしの母親

 

あ、あざとい

 

というか、アラフォーの人妻がやってもイラッとするだけだ

 

「で、何の用?」

 

「今日の晩御飯用のおかずがなくってさぁ、いろは買ってきてくれない?」

 

「(指で外を指す)」 (この雪が降ってる中買い物に行けと?)

 

「(コクコク)」

 

「絶対に嫌!」

 

「え~でも、ママこれからパートに行かないといけないし、アンタなら買い物に付き合ってくれる男の子一杯いるでしょ?」

 

 

「いや、そういう問題じゃないし」

 

ハァと再び息を吐き、スマホに目をやる

 

確かに声をかければ何人かの男の子は付き合ってくれるだろう。

 

だけど、そういうのは嫌だと今は感じてしまう。

 

わたしにとって買い物に付き合ってくれる男の子イコール荷物持ちなわけだが、適当に会話をし愛想笑いをしているだけで自分の労働を肩代わりしてくれる

 

メリットはあってもデメリットはあまりない

 

天秤にかけるまでもなくならば誘ったほうが得だと思うだろう。

 

—――――今迄のわたしなら

 

だけど今は違う。いまのわたしにはデメリット、というか感情的な問題が出てきてしまう。

 

もし、万が一の可能性に過ぎないが、男の子と一緒に出掛けているところを先輩に見られてしまったら?

 

別に先輩とは付き合っているわけでもないし、後ろめたさを感じる必要はどこにもない。

 

だけど、そういったシーンを見られるのは嫌だ。すごく嫌だ。

 

そんなことになるくらいなら一人で出かけたほうがマシだ。

 

というか、やっぱり先輩の連絡先を聞いておけばよかったなぁ。

 

先輩なら嫌だと言いながらも押し切れば最終的には一緒に行ってくれそうだ。

 

先輩と一緒に買い物。荷物持ちとしてではなく、デートとしてお出かけ…

 

やだ、なにそれ楽しそう。むふふ

 

「いろは?」

 

「ん?」

 

ハッとママの声で妄想の世界から現実に引き戻される

 

「あーまぁ、仕方ないから行くけどお小遣い頂戴ね」

 

「はいはい。じゃあこれ買い物リストとお金ね。お釣りはお小遣いでいいから」

 

「はーい」

 

—――――

 

以上、回想終了

 

 

そんなこんなで一人で出てきて買い物も終わったけれど、外は大雪

 

さすがに寒すぎる。

 

そう思っていると、ふとドーナツショップが目に入る。

 

お小遣いもあるし、ここは温まって行こう。

 

お店に入り、ドーナツ1個と飲み物を受け取って2階に行く。

 

どこに座ろうかと迷っていると—――

 

「あれ?」

 

顔は後ろ姿で見えないが、妙に見覚えのあるアホ毛が目に入る

 

「え?え?」

 

わずかに鼓動が早くなるのを感じ、早足にその人物の前に回り込む

 

すると、本を読みながら飲み物を啜っている目の腐ったような男の人がいた

 

もちろんじっとしているわけにもいかず、自然と笑みになりながらわたしはその人物に声をかけた

 

「せーんぱい!」

 

 




遅くなりました((+_+))

よろしければ感想お願いします。作者の執筆速度が(たぶん)上がりますゆえ…


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一色いろはは先輩を逃がさない②

タイトルが思いつきませんでした…


人がワクワクしたり、興奮したり、嬉しいオーラが出るのはどういう時だろう?

 

宝くじが当たっとき?努力が報われたとき?

 

大体みんな似た感じかもしれない

 

今のわたしは間違いなくそういった嬉しいオーラが全快なのだろう

 

だって、朝から会いたいと思っていた男の子を見つけてしまったのだから

 

「せーんぱい!」

 

 

「……………………」

 

 

わたしが声をかけると小説を片手で開き、ドーナツを咥えたまま目を見開いて固まる先輩

 

ん~、シュールな光景だ

 

そう思ったのだが、2秒後に何事もないように再び小説を読み始めた

 

ちょちょちょちょ、その反応は

 

「何でですかー!」

 

「うぉ、びっくりした」

 

「先輩、今わたしのこと見ましたよね!?なのに何でスルーするんですか!?」

 

「おい、少し声を抑えろ。周りに迷惑だろ」

 

「え?あ、すいません」

 

周りを見ると、わたし達は注目の的になっていた

 

ちょお恥ずい

 

こそこそととりあえず座ることにした

 

先輩の横に

 

「ちょ、何で隣に座ってくるの?」

 

「え?」

 

「いや、何でキョトンとしてるんだよ?」

 

「え?」

 

「え?いや、だから他の席でも」

 

「え?」

 

「……………あの、せめて対面にしてくれませんか?」

 

「え?」

 

「…………もういいです」

 

ふっ!勝った

 

先輩の許しを得たので遠慮なく隣でドーナツを頬張る

 

ん~おいしい

 

 

「で、先輩はなんでこんなところにいるんですか?」

 

「何かデジャヴを感じるシチュエーションだ」

 

「はい?」

 

まぁ前回は魔王だったけど…と呟いている先輩

 

「で、先輩はなんでこんなところにいるんですか?」

 

「まったく同じことを聞かなくてもいいから。雪が止まないからな。小町を迎えに行くまでの時間つぶしだ」

 

小町ちゃん?迎えに行く…

 

あー、試験が終わったら迎えに行くって事ですか

 

「相変わらずシスコンなんですね」

 

「うるせぇよ」

 

「でも先輩、試験が終わるのって確か夕方ですよね?まだ午前中ですよ?早すぎませんか?」

 

 

「うっ」

 

図星を付かれたのか先輩が渋い顔をする

 

「先輩?」

 

「その、なんていうか、家にいても落ち着かなくて」

 

「……ぷっ」

 

「笑うなよ」

 

いやだって、自分が受験するわけでもないのに。

 

ソワソワする先輩を想像すると面白いし何か可愛い

 

ん?待てよ…と言うことは

 

「つまり先輩は今暇ってことですよね?」

 

これは遊びに行くチャーンス!

 

「は?いやいやいや超忙しいけど」

 

「今の状況でどの口がその言葉を言うんですか?」

 

相変わらずそう簡単にはいかないですね!でも、ここで逃がすわけにはいかない!多少強引にでも付き合ってもらうもん!

 

「ばっかお前。ここでこうやって暇をつぶしながら小町の合格を心の中で必死に祈らないといけなくて忙しいことこのうえ「じゃあ先輩の暇つぶしに後輩のいろはちゃんが付き合ってあげましょう!」聞けよ人の話」

 

げんなりと頭を垂れる先輩

 

「先輩、その行動は失礼ですよ~。せっかく可愛い後輩が誘ってあげてるんですからそこは喜ぶところです」

 

「そんな上から目線でものを言われてもな」

 

むー!

 

「と に か く!一人でいてもモヤモヤするだけですよ?二人でどこか出掛ければ気晴らしにもなります」

 

「………一理あるかもな」

 

おっ!?喰いついた!?

 

「そうです。ここは勢いに任せて行っちゃいましょう!」

 

「どこに行く気だよお前は…」

 

ハァと息を吐きながら読んでいた小説を閉じる先輩

 

そして頭をガシガシと掻きながら呟いた

 

「まぁ、お前のことだからこのまま断るのは不可能だろうしな」

 

お?お?

 

「気晴らしにいいか」

 

やったーーー!と心の中でガッツポーズをするが、当然表には出さない

 

「ふふっ。相変わらず捻くれてますね。まぁ仕方ないから付き合ってあげましょう」

 

「だから何で上から目線――いや、もういいわ」

 

どこか諦めたような顔をする先輩と、ニコニコと笑顔でわたしはドーナツ屋を後にした

 

 

 

 




早めに投稿できました。

次回、デート編です。甘々になるかなぁ…

よろしければご感想お願いします。


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一色いろはは先輩と楽しむ

かなーりお待たせしちゃってすいませんでした。




偶然立ち寄ったドーナツ屋で、朝から会いたいと思っていた人に出会えた

 

はっ!これってもしかして運命!?

 

なーんて思っちゃうくらい今のわたしの脳内はフニャフニャとなっていた

 

「ふふふーん☆」

 

それこそ無意識で鼻歌が出てしまうほどに

 

「何かえらく機嫌がいいな」

 

おっと、やっぱり先輩にも気づかれたか

 

「そりゃ今から先輩を荷物も…先輩とデートできると思うと嬉しくってー」

 

「今荷物持ちって言おうとしたよね?いや、大体分かってたからいいけど」

 

むふふ。相変わらず甘いなぁー。でもね先輩、わたしの本心はスルーした後半なんですよ?

 

「つーか、すでにお前荷物もってるじゃん」

 

そう言う先輩の目線の先にはわたしが右手で持っている今晩の我が家の晩御飯の材料が

 

「ほれ」

 

スッと先輩が手を差し出してくる

 

その光景に、クリスマスイベントの時の光景がフラッシュバックした

 

わたしはフッと顔を緩めて先輩に食材が入ったビニール袋を渡す

 

「ありがとうございます!」

 

「はいはい。つーか、これからどこ行くの?」

 

「まーた人任せですかぁ?」

 

「前にも言っただろ?俺は誰かと一緒の時は後ろからついてくスタイルだ」

 

「ま、仕方ないですね。今日はわたしから誘ったわけですしエスコートしてあげましょう。しっかり付いてきてくださいね。せんぱい☆」

 

ギュッと先輩の袖を握って先輩の顔を覗き込むと、顔を赤くして目を逸らされた

 

やばっ!何か先輩が可愛い!育てたい!(←意味不明)

 

クスクスと胸に温かみを感じながら向かった先は駅前のショッピングモール

 

先輩の提案により荷物は駅のロッカーの中に一旦入れていざしゅっぱーつ

 

先輩を半ば引っ張るような形でモール内を散策していると、ペットショップを発見

 

外から覗いて見ると、犬や猫がガラス越しにたくさんいた

 

先輩先輩、といいながら袖をクイクイ引っ張ってみる

 

「ん?あぁ。見ていくか」

 

それで意図が伝わったようで二人で中に入っていく

 

「先輩!子猫ですよ子猫!めっちゃ可愛いです!」

 

「お、おぉ。何?お前って動物好きなのか?」

 

「私がっていうか、可愛いものが嫌いな女の子なんていませんよ」

 

「まぁ、そうかもな。つーか少し意外だったわ」

 

「何がですか?」

 

「てっきり『子猫可愛いって言ってるわたし可愛い』アピールかとも思ったんだが、今回は素で言ってるからな」

 

「え?あー、そう言う事ですか。まぁ、これが葉山先輩だったらそうしてたかもですけどー、先輩に今更そんな事したって意味ないですしねー。先輩捻くれてるし、目が腐ってるし」

 

「ちょっと?この場に関係ない単語出てきてますよ?」

 

クスクスと笑いながら、フッと肩の力を抜く

 

「なんて、こんなこと言うのも先輩だからですよ?」

 

「いや、そんなアピールいらないから」

 

「これも素ですって。だって、先輩は知ってるから」

 

「何を?」

 

「わたしの裏も表も、ウソも本当も」

 

そう。この人は知っちゃっている。葉山先輩にも見せない素の部分のわたしを

 

「お、おぉ?」

 

「クス!何ですかそれ?オットセイの真似ですか?全く似てないですしキモいですよ?」

 

「うっせ」

 

だから、変に着飾る必要はない

 

自分を偽る必要はない

 

そこまで考えて、分かってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、なるほど

 

わたしにとって本当の自分をさらけ出せる場所が、先輩の隣なんだ

 

 

 

 

「ふふっ」

 

「そんなに笑うなよ。いくら俺でも泣いちゃうぞ?」

 

「その時はわたしの胸をお貸ししましょうか?」

 

「はい!?何言っちゃってんのおまっ―――痛っ!」

 

どうやらキョドっていたら舌を嚙んだらしい

 

口を押えている先輩に睨まれてしまった

 

えーわたしのせい?

 

「あーいて」

 

「先輩、冗談で言ったのに焦りすぎですよ。まさか本気にしちゃいました?」

 

「そ、んなわけないだろ」

 

今一瞬つっかえましたね

 

「つーか、お前の慎ましい胸を借りたところでだな」

 

「あー!あー!先輩今言ってはならぬ事を言いましたね!?」

 

「あー、気にしてたのか。なんかスマン」

 

「謝らないでくださいよ!余計惨めっぽいじゃないですか!」

 

「スマン」

 

「だから!う~もういいです。先輩にセクハラ発言されたって雪ノ下先輩に言いつけちゃいますから」

 

「バカやめろ!世間的に俺が抹消されちゃうだろ!」

 

ギャーギャーといつものように、いつも通りに、バカみたいな会話を繰り広げる

 

こんな会話でさえ、楽しく、温かい

 

やっぱり、先輩といる時間は幸せだ



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