遊戯王vivid 鮮烈な決闘者たち (竜音(ドラオン))
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第1話

※11月6日・内容に加筆修正

※12月7日・内容に修正


【デュエル喫茶〝遊戯屋〟】

 

 

 

 

「美味しかったわ。またね、坊や」

「ありがとうございましたー」

 

 

 店から出る客を見ながら俺は一息をつく。

 流石に昼時は客足が多かったが、乗りきってしまえば少しは気が楽になる。

 と言っても店内にはまだ何人か客はいるのだが。

 

(さっきの客、ずっと俺のこと坊やって呼んでたな。ん、あっちのテーブルでのデュエルは決着が着きそうか)

 

 あるテーブルにて行われているデュエルを横目に先程まで客のいたテーブルを片付けていく。

 たまにカードを忘れていってしまう人もいるから抜け目なく確認をする必要があるのだ。

 

 

「……これでよし。そろそろかな」

 

 

 テーブルにも椅子にも忘れ物がないことを確認し、時計を見ると時刻は3時半を過ぎた辺りだった。

 もうすぐ学生たちが来る時間だ。

 この辺りは小学校や中学校が近いのでおこづかいを持っている学生たちがよくお茶をしに来る。

 また、立地もよくて近くにはスーパーがあり、買い物帰りの主婦たちも来るのだ。

 ああ、そういえば。

 ここが何て言う店なのかを説明していなかったな。

 ここはデュエル喫茶〝遊戯屋〟。

 〝デュエルモンスターズ〟を店内で行うことのできる喫茶店だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、鍵の閉め忘れはないな」

 

 

 夕方の客が多い時間も終え、店の全ての鍵を確認する。

 なぜ店の鍵の確認をしているのかというと。

 遊戯屋はデュエルのできる喫茶店と言うことでテーブルのスペースが広くなったりしたため、人の暮らせるスペースが取れなかったのだ。

 こればかりは設計のミスとしか言えないため、店とは別の場所に家を持っている。

 まぁ、いま住んでいるところも良いところだから文句はないのだが。

 すでに辺りは暗く、街灯の明かりが道を照らしている。

 

(そういえば……。最近は通り魔事件が起きていたな)

 

 思い出すのは店に来ていた客たちの噂話。

 なんでもデュエルモンスターズの実力者に街頭試合を申し込み圧倒しているとか。

 しかも、モンスターに魔力を込めて威力を上げて怪我まで負わせているらしい。

 なんともはた迷惑な話だ。

 

 

「遊戯屋店長、天戯(あまぎ)遊砂(ゆうさ)さんとお見受けします。貴方に1つ確かめさせて頂きたい事が」

 

 

 本当に、なんともはた迷惑な話だ……。

 目の前に現れたのはバイザーを着けた女性。

 年齢はいまいち分からないが背格好からして年上なのは間違いないだろう。

 

(噂の通り魔、か)

 

 どうやら女性に完全にターゲットとして認識されているようで、逃げることは難しい。

 仮に逃げたとしてもすぐに捕まってしまうだろう。

 

 

「噂の通り魔、ってことで間違いはないかな」

「否定はしません。私は、貴方と私のいったいどちらが強いのかをデュエルで確かめたいのです」

 

 

 そう言って女性はデュエルディスクを構える。

 自身の力試しのために勝負を挑んできたということなのだろう。

 

(強さを知りたいってことか。あまりいい思考とは言えないな……)

 

 仕方なくデュエルディスクを構えてデッキをセットし、飴を1つ口にする。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエルディスクが起動し、先攻後攻を決める。

 先攻は女性だ。

 

 

「私の先攻、私は《沼地の魔神王》を捨てて《融合》を手札に加えます。さらに《E-エマージェンシーコール》を発動し、《E・HEROスパークマン》を手札に加えます」

 

 

 女性は連続でサーチを行い手札を整えていく。

 使われたカードたちからして女性のデッキはほぼ間違いなく【E・HERO】のはずだ。

 

(そういえばアイツも同じデッキを使っていたな……)

 

 思い出すのは1人のヒーロー使い。

 しかし、感慨に更けるのをすぐにやめデュエルへと意識を再び集中させる。

 

 

「手札の《E・HEROスパークマン》と《E・HEROエッジマン》を融合!」

 

 

 青のスーツのヒーローと金色に輝くヒーローが合わさり1人のヒーローが女性の場に現れる。

 

 

「融合召喚!金の(いかずち)(まと)いし戦士、《E・HEROプラズマヴァイスマン》!」

 

E・HEROプラズマヴァイスマン ATK2600

 

 

 1ターン目から手札を3枚消費して上級モンスターを出した。

 すごいのかもしれないが【E・HERO】などの融合召喚を主体とするデッキは手札消費が激しい。

 残りの2枚の手札だけで女性はどうするつもりなのだろうか。

 

 

「私はカードを1枚セットし、ターンエンドです」

 

女性 LIFE8000

E・HEROプラズマヴァイスマン ATK2600

セットカード1

手札1

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

 女性の場にはプラズマヴァイスマンとセットカード。

 

(少し危ないかもしれないがまだ動く必要はないな)

 

 手札の枚数はこちらが上、今は攻めなくても良いだろう。

 

 

「俺は、手札の《インフェルノイド・リリス》を除外して《インフェルノイド・シャイターン》を特殊召喚」

 

インフェルノイド・シャイターン DEF0

 

 

 現れたのは機械のような身体をした小さな悪魔。

 ステータスは攻守ともに0だが優秀な効果を持っている。

 

 

「シャイターンの効果を発動し、そのセットカードをデッキに戻す。尚、この効果の発動に対して対象のカードは発動できない」

 

 

 言い終わると同時にシャイターンは姿を消し、女性のデュエルディスクの上に現れる。

 そして女性のデュエルディスクからセットカードを引き抜いてデッキに戻してしまった。

 

 

「くっ……」

「俺はモンスターとカードをセットしてターンエンド」

 

遊砂 LIFE8000

インフェルノイド・シャイターン DEF0

セットモンスター1

セットカード1

手札2

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 

 もしも《死者蘇生》などのカードがあるのなら女性の勝ちは決まるのだが……。

 女性の表情に変化は見られないので何を引いたのかは分からない。

 

 

「私は《融合回収》を発動し、墓地のスパークマンと《融合》を手札に加えます。そして手札のスパークマンと《E・HEROクレイマン》を融合!」

 

 

 再び青のスーツのヒーローが現れ、今度は丸い土色のヒーローと合わさっていく。

 

 

「融合召喚!雷を自在に操る戦士、《E・HEROサンダー・ジャイアント》!」

 

E・HEROサンダー・ジャイアント ATK2400

 

 

 2ターン連続での融合召喚。

 しかしそれ相応の代償もあり、女性の手札は0になった。

 とりあえずこのターンに大きなダメージを受けることは無くなったと言えるだろう。

 

 

「プラズマヴァイスマンで《インフェルノイド・シャイターン》を攻撃、『プラズマ・パルサーション』!」

 

 

 女性の言葉にプラズマヴァイスマンは跳び上がり、シャイターンに向かう。

 シャイターンはプラズマヴァイスマンから逃れようとしたが時すでに遅く、頭を掴まれて高圧の電撃を叩き込まれ破壊された。

 

○ATK2600VSDEF0×

 

 さらにプラズマヴァイスマンの放った電撃は止まることなく迫ってくる。

 

 

「プラズマヴァイスマンは守備力を攻撃力が上回った分、相手に戦闘ダメージを与えます」

「っぁあああああ!」

 

遊砂LIFE8000-2600=5400

 

 

 電撃が直撃し予想外の痛みに声が上がる。

 どうやらモンスターに魔力を込めて威力を上げているらしい。

 

(く、これも噂通りか……)

 

 本当にモンスターの攻撃が当たるとは思っていなかったために油断していた。

 

 

「まだ私の場にはサンダー・ジャイアントがいます。サンダー・ジャイアントでセットモンスターに攻撃、『ボルティック・サンダー』!」

 

 

 サンダー・ジャイアントの攻撃によりセットされていたモンスターの姿が現れる。

 セットされていたのは様々なものを手に持ち、黄色いリュックを背負った虫。

 

魔導雑貨商人 DEF700

 

 

「《魔導雑貨商人》のリバース効果を発動。デッキの上からカードをめくり、一番最初に出た魔法か罠を手札に加える。1枚目《インフェルノイド・アシュメダイ》、2枚目《インフェルノイド・リリス》、3枚目《モンスターゲート》。よって《モンスターゲート》を手札に加え、残りのカードを墓地へ送る」

「ですがそのモンスターは破壊されます」

 

○ATK2400VSDEF700×

 

 

 サンダー・ジャイアントの攻撃により《魔導雑貨商人》は感電し破壊される。

 墓地へ送れたのは2枚。

 少ない枚数だったのは残念だが、こればかりは運なため仕方がない。

 

 

「私はこれでターンエンドです」

 

女性 LIFE8000

E・HEROプラズマヴァイスマン ATK2600

E・HEROサンダー・ジャイアント ATK2400

手札0

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

 女性の手札は0枚。

 対してこちらの手札は4枚。

 手札は可能性の数とも言うが、女性はその可能性を失っていることに気づいているのだろうか。

 

 

「俺は《インフェルノイド・デカトロン》を召喚。そして効果を発動し、デッキから《インフェルノイド・ネヘモス》を墓地に送る」

 

 

 場に出たのはどこか鮫のようにも見える機械のような身体の小さな悪魔。

 デカトロンが鳴き声を放つとどこからか真空管状の物が飛来しその身体に突き刺さった。

 

インフェルノイド・デカトロン ATK500 ☆1→11

 

 

「レベルが上がった?」

「デカトロンは墓地に送ったモンスターのレベル分だけレベルを上げ、そのモンスターの名前と効果を得る。さらに《名推理》を発動。さあ、レベルを宣言してくれ」

「では……8を宣言します」

 

 

 女性が宣言したレベルは8。

 上級モンスターが出ないように狙ったつもりのようだ。

 だが、このデッキではその意味はない。

 

 

「1枚目《インフェルノイド・アドラメレク》、2枚目《煉獄の死徒》、3枚目」

「待ってください。モンスターが出たのならばそこで終わりなはずです」

「残念ながら、インフェルノイドたちは通常召喚できないモンスターたちだ。よって、《名推理》の通常召喚が可能なモンスターには当てはまらない」

 

 

 もしかしたら知らない人もいるかもしれないが、《名推理》は通常召喚が可能なモンスターを対象としているので通常召喚ができない特殊召喚モンスターが出た場合はそのまま効果を続行するのだ。

 ただし、通常召喚はできるが特殊召喚のできないモンスターだった場合には墓地に送られて効果は終了なので注意が必要である。

 

 

「続けるぞ。3枚目《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》、4枚目《モンスターゲート》、5枚目《インフェルノイド・アスタロス》、6枚目《インフェルノイド・ベルフェゴル》、7枚目《インフェルノイド・アドラメレク》、8枚目《インフェルノイド・ネヘモス》、9枚目《インフェルノイド・アスタロス》、10枚目《ゾンビキャリア》。よって、《ゾンビキャリア》を特殊召喚し残りのカードを墓地へ送る」

 

 

 墓地に行ったのは9枚。

 

(まだ少し心(もと)ないな)

 

 さらにもう1枚のカードを発動させる。

 

 

「さらに《ゾンビキャリア》をリリースして《モンスターゲート》を発動。1枚目《インフェルノイド・ヴァエル》、2枚目《ヴォルカニック・クイーン》、3枚目《インフェルノイド・アシュメダイ》、4枚目《インフェルノイド・シャイターン》、5枚目《インフェルノイド・ベルゼブル》、6枚目《インフェルノイド・ルキフグス》、7枚目《煉獄の虚夢》、8枚目《虹クリボー》よって、《虹クリボー》を特殊召喚し残りのカードを墓地へ送る」

 

 

 ゾンビが姿を消し、虹色の小さな悪魔が姿を現した。

 

(これだけ落ちれば十分かな)

 

 まぁ、今の場ではインフェルノイドを特殊召喚できないので一掃する必要はあるが。

 

 

「俺は手札と場のカードを全て除外して《天よりの宝札》を発動。手札が2枚になるようにデッキからカードをドローする」

「《天よりの宝札》!?そんなカードを使うなんて……」

 

インフェルノイド・デカトロン→除外

虹クリボー→除外

セットカード→除外

 

 

 発動したカードを見て女性は初めて表情を変化させた。

 確かにこのカードを使う人はあまりいないのかもしれない。

 だが、このデッキにおいては自身の場のリセットと手札補充を同時に行えるので重宝しているのだ。

 

 

「そして俺の場のレベルとランクの合計が8以下なので、墓地のシャイターンとベルゼブルを除外して《インフェルノイド・ベルフェゴル》を特殊召喚」

 

インフェルノイド・ベルフェゴル ATK2400

 

「さらに、墓地のルキフグス、アスタロス、アシュメダイを除外して《インフェルノイド・ネヘモス》を特殊召喚」

 

インフェルノイド・ネヘモス ATK3000

 

 

 直後、周囲に火柱が上がり巨大な蛇のような悪魔が姿を現した。

 その姿はかなりの巨体で今までに出てきた悪魔たちよりもはるかに大きい。

 

 

「ネヘモスが特殊召喚に成功した時、このカード以外の全てのモンスターを破壊できる!やれ、『(こう)(えん)(ごく)』!」

「な!?っきゃあああああ!?」

 

 

 次の瞬間、世界が虹色の炎に包まれた。

 さらにモンスターが破壊されていく音も聞こえてくる。

 

E・HEROプラズマヴァイスマン→破壊

E・HEROサンダー・ジャイアント→破壊

 

 しばらくして、徐々に炎が収まっていき視界が晴れていった。

 

 

「くっ……。しかし、貴方の場のモンスターもネヘモスだけ。まだ、私は負けていません!」

「それはどうかな?」

 

 

 完全に炎が晴れたとき、そこには()()の悪魔が存在していた。

 

インフェルノイド・ネヘモス ATK3000

インフェルノイド・ベルフェゴル ATK2400

 

 

「そんな……。どうして!?」

「自分の場のインフェルノイドが効果で破壊される場合、そのモンスター1体の代わりに墓地の《煉獄の死徒》を除外できる。つまり、この効果でベルフェゴルは破壊から逃れたと言う訳だ」

 

 

 あり得ないといった表情で驚く女性に破壊されなかった理由を答える。

 《煉獄の死徒》は《名推理》の時に落ちていたのだが、女性は気づいていたのだろうか。

 反応からしてインフェルノイド自体を知らない可能性もあるが……。

 

(それにしても、ひどい……)

 

 恐らくだが、この女性は今まで単調なパワーデッキしか相手にしていなかったのではないだろうか。

 あまりにも戦術が単調な上に手札の消費が悪すぎる。

 確かに最近は前に比べて攻撃力重視のデュエリストが増えてきているのは目立つ。

 だからこそこの女性の戦術でも勝つことができていたのだろう。

 

 

「ベルフェゴル、ネヘモスでダイレクトアタック。『(ごう)(えん)(めつ)(じん)』」

「っくぅぅうううう!」

 

女性LIFE8000-2400-3000=2600

 

 

 2体の悪魔が焔を放ち女性を包むように火柱が上がった。

 魔力は込めていなかったのでソリットヴィジョンの衝撃を受ける程度のはずだ。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

遊砂 LIFE5400

インフェルノイド・ベルフェゴル ATK2400

インフェルノイド・ネヘモス ATK3000

手札2

 

 

 女性の手札は全てなく、場も空。

 次のドローで全てが決まると言える。

 

 

「負けない……私は負けられない!!私のターン、ドローーッッ!!」

 

 

 女性は叫びながらカードを引いた。

 何が彼女をそこまで追い詰めているのかは分からないが負けてやるつもりは微塵もない。

 

 

「手札がこのカード1枚のみなため手札から《E・HEROバブルマン》を特殊召喚!」

「このタイミングでバブルマンか」

 

E・HEROバブルマン DEF1200

 

 

 バブルマン、【E・HERO】においては中々に有名なカードであると言えるだろう。

 手札がバブルマンのみであるという条件があるものの自発的に手札を減らしてしまえばその条件もさほど厳しくはない。

 さらにバブルマンの真価は場にも他のカードが存在しないときにこそ発揮される。 

 

 

「場と手札に他のカードが存在しないためバブルマンのもう1つの効果を発動!デッキから2枚ドローする!」

 

 

 バブルマンのもう1つの効果。

 それは条件は厳しいものの、発動すれば禁止カードとなっている《強欲な壺》と同じ効果の2枚ドロー。

 そんな効果を女性はこの局面で引き当てたのだ。

 

 

「ドロー!」

 

 

 引いた2枚のカード。

 この2枚で全てが決まるとも言えるだろう。

 

 

「私は《E・HEROワイルドマン》を召喚!」

 

E・HEROワイルドマン ATK1500

 

 

 続けて現れたのは大きな剣を装備した上半身が裸のヒーロー。

 

(さて、何が出てくるか……)

 

 女性の場にはレベルが4のヒーローが2体。

 恐らく融合かエクシーズを行うのだろう。

 

 

「私はレベル4のバブルマンとワイルドマンでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 バブルマンとワイルドマンが光となって合わさり、1つのモンスターへと姿を変えていく。

 

 

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500

 

「な……に……!?」

 

 

 召喚されたのは紫の体躯を持つ反逆の竜。

 攻撃力はネヘモスよりも低いが、このモンスターの効果があるので持ちこたえることはできないだろう。

 ……だが、今それは重要ではない。

 

(何故だ!?このカードはアイツの……!)

 

 女性の召喚した竜。

 それは俺が知る限りではアイツしか持っていないはずのモンスター。

 故にこのモンスターを女性が召喚するのはあり得ないはずなのだ。

 

 

「くっ……。俺はネヘモスをリリースし、相手の墓地のカード1枚を対象にベルフェゴルの効果を発動する。俺が選ぶのは《融合》」

 

 

 俺の宣言にネヘモスは火球へと姿を変えていき、ベルフェゴルの手に収まる。

 

(ダリベに吸われるわけにはいかないからな)

 

 ダーク・リベリオンの効果を考えれば出来るだけ攻撃力の高いモンスターは残しておきたくはない。

 だから俺はネヘモスをリリースしたのだ。

 

 

「そして対象にされたカードは除外される。ベルフェゴル、『悪徳(クリファ)の焔(・フラム)』」

「くっ……」

 

 

 ベルフェゴルが火球を放ち、女性の墓地の中から《融合》のカードを焼き払う。

 【E・HERO】デッキなら《融合》はキーカードなはずだ。

 

 

「私はダーク・リベリオンの効果を発動!オーバーレイユニットを2つ取り除いて相手のモンスター1体の攻撃力を半分にし、その分攻撃力を上昇させます!私が選ぶのはベルフェゴル!『トリーズン・ディスチャージ』!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→3700

インフェルノイド・ベルフェゴル ATK2400→1200

 

 

 ダーク・リベリオンが咆哮をあげベルフェゴルから力を吸収していく。

 

(2500のダメージが確定したか)

 

 もしもネヘモスが残っていたらさらに攻撃力が上がっていただろう。

 

 

「行きなさい、ダーク・リベリオン!『反逆のライトニング・ディスオベイ』!」

 

○ATK3700VSATK1200×

 

 

 ダーク・リベリオンは一度空へと飛翔してベルフェゴルに向けて急降下をし、ベルフェゴルを破壊する。

 さらにベルフェゴルを破壊したあともその勢いは止まらず、俺へとぶつかってきた。

 

 

「ぐぅううう!」

 

遊砂LIFE5400-2500=2900

 

 

 先程のプラズマヴァイスマンに近い威力に膝をつきそうになるがなんとか踏みとどまる。

 

(くそっ、いてえ……)

 

 さすがにこの威力はそう何度も受けたくはない。

 

 

「私はカードをセットし、ターンエンドです」

 

女性 LIFE2600

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK3700

セットカード1

手札0

 

 

「俺のターン、ドロー。こいつは……」

 

 

 引いたカードを確認し、俺は墓地に残っているカードを確認する。

 確か一番最初に除外したカードが……

 

 

「俺は墓地のベルフェゴル、ヴァエル、アドラメレクを除外してネヘモスを特殊召喚する!」

 

インフェルノイド・ネヘモス ATK3000

 

「その特殊召喚成功時に私は《奈落の落とし穴》を発動します!」

 

 

 ネヘモスが再び現れた瞬間、ネヘモスの下に巨大な穴が出現にネヘモスを引きずり込もうとしていく。

 

 

「だがネヘモスの全体破壊効果は発動する!『虹炎獄』!」

 

 

 穴に引きずり込まれる直前、ネヘモスは再び場を虹色の炎で包み込んだ。

 

 

インフェルノイド・ネヘモス→破壊、除外

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン→破壊

 

 

「俺は墓地のアスタロス、アドラメレク、シャイターンを除外し、もう1体のネヘモスを特殊召喚する!」

「そんな、2体目を!?」

 

インフェルノイド・ネヘモス ATK3000

 

 

 何度でも現れる巨大な蛇のような悪魔。

 デカトロンと《名推理》で2体落ちていたことにどうやら気づいていなかったらしいな。

 

 

「これで終わりだ。いけ、ネヘモス『(ほう)(れん)(ごく)(さつ)』!」

「きゃあああああ!?」

 

女性LIFE2600-3000=-400

 

 

 ネヘモスの放った炎に包まれ、女性のライフが0になってデュエルが終了する。

 女性はしばらく茫然としていが、すぐにこちらを悔しげに睨み付けて走り去っていってしまった。

 これは確認しなくちゃいけないことができたな。

 

(まぁ、できれば次は普通のデュエルにしてほしいが……)

 

 痛む身体を引きずりながら俺は家に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

プレイミス等もあるかもしれませんが暖かい目で見ていただければ幸いです。

番外編は何かしらの記念の時に投稿します。

それでは。


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第2話

【二色の瞳の少女】

 

 

 

 

「あううう……」

「どうかしたのか?」

 

 

 通り魔に襲撃されてからすでに5日。

 テーブルに倒れこんで呻いている3人の少女たちがいた。

 制服の形状から近くの学校の初等科生だと言うことが分かる。

 そんな少女たちの珍しい姿に、俺は声をかけた。

 

 

「あ、遊砂さん」

「よう。ヴィヴィオは何でそんな状態なんだ?」

 

 

 俺に気づいてこちらを向いた八重歯の少女――リオに、未だに突っ伏している少女――ヴィヴィオについて尋ねる。

 この3人は常連で学校終わりによく寄ってくれるので、そこそこに話やデュエルをする仲なのだ。

 まぁ、それだけが理由ではないが今は良いだろう。

 

 

「実はこの前ノーヴェ先生の紹介でヴィヴィオが中等科の先輩のアインハルトさんとデュエルをしたんですが……」

「ほとんど手も足も出ず、途中でアインハルトさんがデュエルをやめちゃったんだよ……」

 

 

 3人目の少女――コロナの言葉に続くようにヴィヴィオは答えた。

 話を聞いた限りではヴィヴィオは先輩がデュエルをやめた原因が自分にあると考えている感じか。

 

 

「その先輩がデュエルをやめた理由は分かるか?」

「ううん。趣味と遊びの範囲内だったら充分に強い、とは言われたんだけど……」

 

 

 そう言いながらヴィヴィオの表情はどんどんと暗くなっていく。

 

(趣味と遊びの範囲内、ね……)

 

 何ともおかしなことを言う子だ。

 まるで趣味と遊びの()()()()のデュエルを知っているかのような言葉。

 

 

「それで?その先輩とはもう何もないのか?」

「えっと、明後日にもう一度デュエルをしてもらうんだけど……」

 

 

 明後日とはまた急な。

 だが再戦できるというのにヴィヴィオの表情はあまり明るくない。

 

 

「自分の本気の気持ちを伝えるって意気込んだのにどんな風にデッキに手を加えたらいいかが分からないんだよー……」

 

 

 そう言ってヴィヴィオはまたテーブルに倒れこむ。

 確かにデッキの改良は難航するものがあるので仕方がないのかもしれない。

 

 

「その先輩のデッキはどんなデッキだった?」

「ええと……。融合が主体のデッキだったよ」

「E・HEROっていう名前のモンスターがたくさん出てきてきてたよね」

 

 

 俺の問いにリオとコロナは記憶をたどりながら答える。

 

(E・HERO、ここでそれを聞くとは……)

 

 頭に浮かび上がってくるのは5日前にデュエルをした通り魔。

 関係があるとは思いたくはないが……。

 

 

「ならちょうどいい。【E・HERO】デッキなら持っているからデュエルするか」

「良いの!?」

 

 

 驚きながらヴィヴィオは勢いよくテーブルから飛び起きる。

 【E・HERO】はアイツのデッキの真似をして組んだからそこそこ扱えるはずだ。

 まぁ、完璧に真似できているわけではないから本人にはおよばないだろうが。

 

 

「客も少ないみたいだし、注文があってもトクミチがやるだろ」

「俺かよ!?」

 

 

 驚いたように近くにいた学生が声をあげる。

 こいつはトクミチ・テイダ。

 ここでバイトに入っている学生だ。

 今日はバイトの日ではないのだが、いるからには有効活用させてもらう。

 

 

「バイト代出すぞ」

「オーライ、店長。あとは任せろ」

「「「変わり身はやっ!?」」」

 

 

 トクミチの態度の急変に店内にいた客のほとんどが驚く。

 バイト代さえ出せば文句もないため、いつものことなんだが。

 

 

「じゃあ、始めるか」

「うん!」

 

 

 店内のデュエルスペースへ移動し互いにデュエルディスクにデッキをセットする。

 

 

「あ」

「どうした?」

 

 

 デッキをセットし、飴を口に入れようとするとヴィヴィオは俺を見ながら声を出した。

 

 

「いつもデュエルする前に飴を舐めてるなー、って思って」

「ああ。癖みたいな感じだから気にするな」

 

 

 どうやら、いつも飴を舐めていることが気になったらしい。

 確かにいつも舐めていたら気にはなるかもしれないな。

 俺の説明にヴィヴィオは納得したらしく、デュエルディスクを構える

 

(まぁ、本当は舐めなきゃ普通のデュエルができないからなんだがな……)

 

 この飴を舐めている本当の意味は教える必要はないだろう。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 さて、先攻は……

 

 

「俺からだな。俺は《マスマティシャン》を召喚」

 

マスマティシャン ATK1500

 

 

 現れたのは杖を手に持つ眼鏡をかけた老人。

 アイツのデッキには入っていなかったが入れないと回せないからな。

 

 

「《マスマティシャン》の効果でデッキから《E・HEROアナザー・ネオス》を墓地に送る」

 

E・HEROアナザー・ネオス→墓地

 

 

 墓地に送るのは《E・HEROネオス》が小さくなったような姿のヒーロー。

 他のヒーローでもよかったのだが相手はヴィヴィオ。

 警戒しておいて損はない。

 

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

遊砂 LIFE8000

マスマティシャン ATK1500

セットカード1

手札3

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを引き抜き、手札のカードと見比べる。

 初等科生とは言え相手が相手。

 一瞬でライフが無くなる可能性もあるのだ。

 

 

「私は《EMギタートル》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

EMギタートル スケール6

 

 

 ヴィヴィオの背後に光の柱が現れ、中に亀とギターが合わさったようなモンスターが現れた。

 

(開幕でギタートル、ってことはもう1体は……)

 

 現れたモンスターに嫌な予感を感じながらセットカードをいつでも発動できるように備える。

 

 

「さらに私は《EMリザードロー》をもう片方のペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

EMリザードロー スケール6

 

 

 続けて現れたのはカードが襟巻きのように首についているトカゲ。

 既に分かったかもしれないが、ヴィヴィオのデッキは【EM】。

 【EM】には下級モンスターが多く、ステータスは低い方だが効果によって味方をサポートする戦いを得意としている。

 正直に言って数が揃うと厄介な相手である。

 

 

「もう片方のペンデュラムゾーンにEMと名のついたカードがセットされたためギタートルの効果が発動!デッキから1枚ドロー!」

 

 

 リザードローがセットされたためにギタートルの効果が発動される。

 しかしこれで終わりではない。

 

 

「さらにリザードローの効果を発動!このカードを破壊してデッキから1枚ドロー!」

 

EMリザードロー→破壊

 

 

 とたんにリザードローは煙をあげながら姿を消し、1枚のカードがヴィヴィオの手元へと飛んでいった。

 ギタートルとリザードローによるドローコンボ。

 ペンデュラム召喚が最大5になるか最小7になる制限はあるものの、手札の枚数が変わらずに展開できるのは十分に強力だ。

 

 

「そして今度は《EMモンキーボード》をセッティング!」

 

EMモンキーボード スケール1

 

 

 さらに続くように現れたのは歯がキーボードになっている猿。

 まさかこいつまで握っているとは思ってもいなかったが。

 

 

「モンキーボードをセットしたターンのメインフェイズ、デッキからレベル4以下のEMを手札に加える事ができるよ!私は《EMドクロバット・ジョーカー》を手札に加えて召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

 

 

 場に現れたのはつぎはぎの帽子をかぶった道化師のような姿のモンスター。

 

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果でデッキから《EMシルバー・クロウ》を手札に加えるよ!」

 

 

 ドクロバット・ジョーカーが帽子からカードを取り出しヴィヴィオへと手渡す。

 何が恐ろしいかと言えば手札がまだ1枚も減っていないという点だろう。

 手札の内容次第ではこのターンで負けが決まってしまう。

 

 

「さすがは()()ってか……」

「揺れて、魂のペンデュラム!天空に絵描くは神聖のアーク!ペンデュラム召喚!出てきて、私のモンスターたち!」

 

EMシルバー・クロウ ATK1800

EMドラミング・コング ATK1600

EMビッグバイトタートル ATK800

EMリザードロー ATK1200

 

 

 俺の呟きは聞こえてなかったらしく、ヴィヴィオはデュエルを続ける

 そしてヴィヴィオの場が全て埋まった。

 なんと言えばよいのか分からないほどに不利である。

 

(おいおい、効果を含めて総火力9300。ワンキルでも狙ってるのかよ……)

 

 すさまじい展開に冷や汗を流す。

 このままではライフが一気に無くなるのは明白。

 

 

「罠カードオープン、《ヒーロー・ブラスト》!俺は墓地のアナザー・ネオスを手札に加える!」

 

 

 セットカードを発動した瞬間、目の前の空間にヒビが入る。

 そしてそのヒビを突き破りながらアナザー・ネオスが現れた。

 

 

「さらに《ヒーロー・ブラスト》の効果で手札に加えたモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つモンスターを1体破壊する!」

 

 

 《ヒーロー・ブラスト》の真価、それは相手のモンスターの破壊。

 アナザー・ネオスの攻撃力は1900、よってそれ以下のモンスターであれば破壊できるのだ。

 

(とはいえ、どれを破壊しても厄介なことに変わりはないが……)

 

 ヴィヴィオの場にはシルバー・クロウとリザードローがいる。

 総ダメージを下げるならシルバー・クロウなのだが、その場合リザードローによって手札を増やされる。

 かといってリザードローを破壊すると、シルバー・クロウによって総ダメージが底上げされる。

 

 

「……俺はリザードローを破壊する」

「きゃあっ!?」

 

 

 アナザー・ネオスの放った蹴りによりリザードローは破壊された。

 

(手札を増やされる方が厄介だからな……)

 

 そしてアナザー・ネオスは手札へと戻ってきた。

 

 

「減っちゃったけど……。シルバー・クロウで《マスマティシャン》を攻撃!そしてシルバー・クロウとドラミング・コングの効果を発動して攻撃力をアップ!」

 

EMシルバー・クロウ ATK1800→2100→2700

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800→2100

EMドラミング・コング ATK1600→1900

EMビッグバイトタートル ATK800→1100

 

○ATK2700VSATK1500×

 

「くっ……」

 

遊砂LIFE8000-1200=6800

 

 

 それぞれの効果によってシルバー・クロウの攻撃力が上級モンスター並の攻撃力へと変化し、《マスマティシャン》をあっさりと破壊する。

 しかもシルバー・クロウの効果で他のモンスターまで攻撃力が変化した。

 

(ペンデュラムゾーンのカードを破壊しない限りこの攻撃力が続くのはキツイな……)

 

 セットが無いとはいえこの攻撃力のモンスターを毎ターン相手にするのは骨が折れるだろう。

 

 

「《マスマティシャン》が戦闘で破壊されて墓地に送られたのでデッキから1枚ドロー」

「続けて残りのモンスターたちで攻撃!」

 

遊砂LIFE6800-2100-1900-1100=700

 

 

 総攻撃によりライフが風前の灯となる。

 墓地に落としたのがアナザー・ネオス以外だったらこの時点で負けていたな。

 

 

「私はカードを2枚セットしてターンエンド!」

 

ヴィヴィオ LIFE8000

EMシルバー・クロウ ATK1800

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

EMドラミング・コング ATK1600

EMビッグバイトタートル ATK800

セットカード2

ペンデュラムゾーン

EMギタートル スケール6

EMモンキーボード スケール1

エクストラ

EMリザードロー

手札1

 

 

 手札が少ないとはいえ、なんと言えばいいのか……

 普通に考えてあり得ない展開をしているとしか言えないのではないだろうか。

 はたして、この状況を覆せる者がどれくらいいるか……

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 これで手札の枚数は6枚。

 枚数だけであればヴィヴィオを上回っている。

 しかし、反撃の手段となるとかなり限られてくるのだ。

 

 

「俺は手札のアナザー・ネオスとバブルマンを融合!」

 

 

 一先ず、ヴィヴィオの場を一掃することから始めた方が良いだろう。

 《ヒーロー・ブラスト》で手札へ加わったアナザー・ネオスと水のヒーローが合わさり新たなヒーローが誕生する。

 

 

「融合召喚!極寒のヒーロー、《E・HEROアブソルートZero》!」

 

E・HEROアブソルートZero ATK2500→3000

 

 

 現れたのは凍てつく凍気を纏う氷結のヒーロー。

 さらに自身の効果によって攻撃力を上昇させた。

 

 

「攻撃力は高いけどそれくらいじゃ負けないよ!」

「慌てるなって。ヒーローは変身をまだ残してるんだからな」

 

 

 アブソルートZeroの召喚に驚きはしたものの、ヴィヴィオはまだ余裕そうな表情を変えない。

 確かにビッグバイトタートルがいるのだから平気だと考えられるのだろう。

 ちなみにビッグバイトタートルの効果は戦闘によってこのモンスターを破壊したモンスターを破壊するというものだ。

 だが、甘い。

 

 

「俺は《マスク・チェンジ》を発動!」

 

 

 俺がカードをセットした瞬間、アブソルートZeroは大きく跳び上がる。

 さらに光を放ち、その姿を変えていく。

 

 

「変身召喚!全てを押し流す豪雨のヒーロー、《M・HEROアシッド》!」

 

M・HEROアシッド ATK2600

 

 

 アブソルートZeroの放つ光が収まった時、そこにいたのは全く違う姿のヒーローだった。

 そして、これによりヴィヴィオの場が完全に一掃される。

 

 

「アブソルートZeroが場を離れた時、相手の場のモンスターを全て破壊する!『大氷(アイス)河期(エイジ)』!」

「そんな!?」

 

EMシルバー・クロウ→破壊

EMドクロバット・ジョーカー→破壊

EMドラミング・コング→破壊

EMビッグバイトタートル→破壊

 

 

 いきなり現れた氷山によりヴィヴィオの場のモンスターたちは氷の中へと飲み込まれ破壊されていった。

 しかし、いたのは全てペンデュラムモンスター。

 エクストラデッキに行っただけなのでこのままでは再び召喚されてしまうだろう。

 

 

「続いてアシッドの効果を発動!アシッドが特殊召喚に成功した時、相手の場の魔法、罠を全て破壊する!『アシッド・レイン』!」

「嘘っ!?」

 

EMギタートル→破壊

EMモンキーボード→破壊

セットカード2→破壊

 

 

 アシッドの放った銃撃がヴィヴィオの場の魔法、罠を全て破壊していく。

 なお、ペンデュラムゾーンにあるペンデュラムモンスターも魔法カード扱いのため、アシッドによって破壊される。

 これでヴィヴィオの場にはなにも存在せず、手札も1枚のみとなった。

 

 

「そしてアシッドをリリースして《偉大(グレート)魔獣ガーゼット》をアドバンス召喚!」

 

偉大魔獣ガーゼット ATK0→5200

 

「ええええええええっ!?」

「ヴィヴィオの場は……何もないのに!?」

「攻撃力……5200!?」

 

 

 現れた悪魔の攻撃力に3人は驚き、叫ぶ。

 確かに決まればゲームエンド並のコンボではあるのだが、驚くほどだろうか。

 

(確かに攻撃力は高いが、他に効果はないんだが……)

 

 《偉大魔獣ガーゼット》の効果は、アドバンス召喚のためにリリースしたモンスターの攻撃力を倍にした攻撃力になるというかなり単純なもの。

 効果に対する耐性なんて持っていないし、《スキル・ドレイン》や《エフェクト・ヴェーラー》、《幽鬼うさぎ》などのカードで簡単に対処できる。

 まぁ、ヴィヴィオの最後の手札がそれらのカードではないのなら防ぐことはできないが。

 

 

「ガーゼットでダイレクトアタック、『グレート・バンカー』!」

「きゃあああああっ!?」

 

ヴィヴィオLIFE8000-5200=1800

 

 

 ガーゼットの放った拳によりヴィヴィオのライフが一気に削り取られる。

 

――――ドクンッ……

 

 不意にエクストラデッキの中から脈動を感じた。

 

(ガーゼットにつられて反応しやがったな……)

 

 思い浮かぶのは何枚かのカード。

 確かに、本来であれば〝その〟カードたちを召喚するのがこのデッキ本来の姿なのだ。

 それをヴィヴィオとデュエルをするために調整をしたから不満なのだろう。

 

 

「俺はカードをセットしてターンエンドだ」

 

遊砂LIFE 700

偉大魔獣ガーゼット ATK5200

セットカード1

手札0

 

 

「ううう……」

 

 

 やや俯き、ヴィヴィオはデッキからカードを引こうとしない。

 どうやら一気に逆転をされて心が折れかけているようだ。

 

 

「ヴィヴィオ、諦めるのか?」

「だって、こんなの勝てるわけない……」

 

 

 瞳に涙を溜め、ヴィヴィオは悲しげにこちらを見つめてくる。

 

(こんなとこまでアイツと同じ、か)

 

 思い出すのはヴィヴィオと同じ(ロート)(グリューン)の瞳を持った少女の姿。

 

 

「デッキには可能性が秘められていて、信じればデッキは答えてくれる」

「え……?」

「お前と同じように泣きそうになっていた子に言った言葉だ。ヴィヴィオ、お前はまだデッキからカードを引いていない。デッキの可能性が全てなくなったわけじゃないんだ。それに、先輩に本気の気持ちを伝えるんだろ?ここで諦めてたら本気の気持ちを伝えられないぞ?」

「あ……。うん!」

 

 

 一瞬、呆けた表情をしたものの、ヴィヴィオはすぐに悲しげな表情を消す。

 

 

「答えて、私のデッキ……。ドロー!」

 

 

 目を閉じて集中し、ヴィヴィオはデッキからカードを引く。

 他の奴が気づいているかは分からないが、ヴィヴィオのエクストラデッキから微かな光が漏れていた。

 もうすぐアイツのカードが再び現れるのだろう。

 

 

「私は《金満な壺》を発動!エクストラデッキのリザードロー、ギタートル、モンキーボードをデッキに戻して2枚ドロー!」

 

 

 ヴィヴィオが発動したのは禁止カードになっている《強欲な壺》を模した金色の壺。

 壺系の魔法カード共通の効果、2枚ドローは強力だが特殊召喚がペンデュラム召喚しかできなくなるデメリットが存在している。

 

 

「私はペンデュラムゾーンに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をセッティング!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン スケール4

 

 

 ヴィヴィオの後ろに現れたのは、ヴィヴィオと同じオッドアイのドラゴン。

 このドラゴンこそがヴィヴィオの切り札であり、()()の切り札でもあったモンスターだ。

 

 

「さらに私は《EMアメンボート》を召喚し、カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

EMアメンボート ATK500

 

「そしてエンドフェイズにペンデュラムゾーンのオッドアイズの効果を発動!このカードを破壊してデッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター、《星読みの魔術師》を手札に加えるよ!」

 

ヴィヴィオLIFE1800

EMアメンボート ATK500

セットカード1

手札1

 

 

「攻撃力500を攻撃表示!?」

「その攻撃力じゃ防げないよ!?」

 

 

 どうやらリオとコロナはアメンボートの効果を知らないようだ。

 まぁ、知っていれば対処も可能だから慌てることもない。

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

 引いたカードは……魔法カード。

 

 

「アメンボートは攻撃表示の時に攻撃対象に選ばれたとき、守備表示にすることで攻撃を無効にすることができる」

「うん。知ってたんだね?」

「まあな。だから効果で破壊させてもらう。俺は《死者への供物》を発動!対象はアメンボート!」

 

 

 次のドローができなくなるが十分に使い勝手のよい速攻魔法。

 相手の発動した魔法、罠を破壊する効果にチェーンすれば少しだけ特だろう。

 

 

「なら私はそれにチェーンして《エンタメ・フラッシュ》を発動!私の場にEMが存在しているときに発動できて、相手の場の攻撃表示のモンスターを全て守備表示になって次のターンの終了時まで表示形式を変更できない!」

 

 

 アメンボートが破壊される直前、凄まじい光を発し目が眩む。

 そして光が収まるとガーゼットが防御の態勢をとっていた。

 

偉大魔獣ガーゼット ATK5200→DEF0

 

 守備力が0なのだから防御の態勢をとっても意味がない気がするが気にしない方がいいのだろうか。

 

 

「うまく凌いだか……。俺はこれでターンエンド」

 

遊砂LIFE700

偉大魔獣ガーゼット DEF0

セットカード1

手札0

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 ヴィヴィオがデッキからカードを引いた瞬間、誰の目から見ても明らかなほど眩い光がヴィヴィオのエクストラデッキから発せられた。

 

 

「私は《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

星読みの魔術師 スケール1

時読みの魔術師 スケール8

 

 

 ヴィヴィオの背後に現れたのは白い格好の魔術師と黒い格好の魔術師。

 スケールが1と8ということは2から7のレベルのモンスターが出せるということだ。

 

 

「もう一度揺れて、魂のペンデュラム!天空に絵描くは神聖のアーク!ペンデュラム召喚!出てきて、私のモンスターたち!」

 

EMビッグバイトタートル DEF1200

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

EMシルバー・クロウ ATK1800

EMドラミング・コング DEF900

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500

 

 

 5体中3体が攻撃表示。

 つまりは防がれた時の対策もしていると言うことになる。

 

 

「私の本気の気持ち……絶対に伝えるんだ!私は《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《EMシルバー・クロウ》をリリース!」

「え!?」

「ヴィヴィオの手札はないから上級モンスターもいないのに!?」

 

 

 ヴィヴィオの行動にリオとコロナは驚き、ヴィヴィオを見つめる。

 確かに今のヴィヴィオの手札は0枚で手札にモンスターはいない。

 しかし今のヴィヴィオのデッキにはその条件で召喚できるモンスターが存在している。

 

 

「誇り高き銀狼よ。二色の眼持ちし龍と1つになりて新たな力を生み出して!融合召喚!《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK3000

 

 

 シルバー・クロウとオッドアイズが1つになり、新たなドラゴンがその姿を現す。

 全体的に体毛が生え、獣のように姿を変えたオッドアイズ。

 この姿こそオッドアイズの持つ可能性の1つだ。

 

 

「ついに召喚できたな……」

「これが、私の本気の気持ちです!」

 

 

 昔見た姿とどこも変わっていないビーストアイズの姿。

 その姿に俺は懐かしさを感じていた。

 

 

「まずはドクロバット・ジョーカーでガーゼットに攻撃!」

「なら罠カード発動、《陰謀の盾》。このカードは装備カードになり、装備したモンスターは1度だけ戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも0になる」

 

○ATK1800VSDEF0×

 

 

 《陰謀の盾》によりガーゼットは守られ、ドクロバット・ジョーカーの攻撃では破壊されなかった。

 

 

「ならビーストアイズで攻撃!『ヘルダイブバースト』!」

「く……!」

 

○ATK3000VSDEF0

 

 

 《陰謀の盾》の効果を失ったガーゼットはビーストアイズによって破壊される。

 だが、ビーストアイズにはまだ残された効果がある。

 

 

「ビーストアイズが戦闘でモンスターを破壊した場合、融合素材にした獣族モンスター1体の元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるよ!シルバー・クロウの元々の攻撃力は1800!よって1800のダメージ!」

「……よくやった」

 

遊砂LIFE700-1800=-1100

 

 

 ビーストアイズの放った炎を受け、俺のライフが0になる。

 確かに調整はしたが、ほぼ全力は出せたはずだ。

 

 

「遊砂さん、ありがとうございました!」

「おう。もう大丈夫みたいだな」

 

 

 デュエルをする前の気落ちしていた姿はどこへ行ったのか。

 ヴィヴィオはとても嬉しそうに話しかけてきた。

 この様子なら明後日にあるという先輩とのデュエルも大丈夫だろう。

 嬉しそうに話す3人の姿を見ながら俺は仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話

投稿がかなり遅れましたが3話目です。

デュエルパートがとくに難産でした。


【罪深き王の再誕を願う者】

 

 

 

 

―――アラル港湾埠頭・廃棄倉庫区画

 

 

「ダークリベリオンでビーストアイズを攻撃!『反逆のライトニング・ディスオベイ』!」

「きゃああああ!!」

 

 

 《ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃を受けヴィヴィオのライフが0になる。

 中等科の先輩、アインハルトとヴィヴィオのデュエルはアインハルトの勝利という形で終わりを告げた。

 

(流石は覇王の子孫。幼いとはいえ聖王に勝つか……)

 

 デュエルが終わり、疲労から動けなくなったヴィヴィオを背負って歩いていくアインハルトを見て昔を懐かしむ。

 昔はアイツらの実力はほぼ拮抗していた。

 故に互いに勝ったり負けたりを繰り返していたのだ。

 しかし今のヴィヴィオは聖王とはいえ、その記憶や経験がなく。

 さらには年齢的にも下である。

 そこが勝敗の決め手だったのだろう。

 

 

「お疲れさん。いいデュエルだった」

「うん。無理を言ってお店を休ませちゃってごめん」

 

 

 労いの言葉をかけるとヴィヴィオは申し訳なさそうに目を伏せた。

 デュエルをする前にも謝っていたな。

 

 

「気にするな。今日は休みにする予定だったから」

 

 

 なんでもないことだと答えながらヴィヴィオの頭に手を置く。

 本当に優しい子だ。

 

 

「……デュエルは終わったぞ。そこにいる奴、出てこい」

「え?」

「おいおい、ここは救助隊が訓練で使ってる場所だぞ?他には誰もいねーよ」

 

 

 俺の言葉に何人かは首をかしげ、赤髪の女性――ノーヴェは呆れたように答える。

 確かに周囲に人影はなく、不審な魔力も感じない。

 

 

「そこの倉庫の影に隠れているのは分かっているんだ。さっさと出てこいロリコンストーカー」

「……なぜ私がいることが分かった。あと、私はロリコンではない」

 

 

 現れたのは長身で金髪の男。

 男が現れたことに俺以外の全員が驚く。

 

 

「〝JS事件〟の時だったか。その時に眼鏡をかけた変態に何回も追われて周辺サーチには改良を加えてるんだよ。だから魔力の隠蔽程度は意味がない」

 

 

 〝JS事件〟の時に現れた眼鏡の変態。

 名前は確か……クアトロだったか?

 そいつは姿と魔力をほとんど隠蔽してしまうので普通にサーチするのでは見つからなかったのだ。

 

(そういや、あの事件から見てないな)

 

 まぁ、いなければいないで助かるから良いのだが。

 ふと見るとノーヴェやその姉妹たちが何故か遠い目をしたり膝から崩れ落ちていた。

 

 

「ちぃっ……。まぁ、いい。ここにいる全員を我が王の復活の贄にすることに変わりはない。そして、最初の贄は貴様だ!」

 

 

 男の言葉と同時にワイヤーのようなものが俺の腕と男の腕をつなぐ。

 見たところ簡単に外れるような代物ではないようだ。

 

 

「さあ、デュエルだ!その命と魔力、全てを捧げるがいい!」

「しゃーないか。……本気の一部を見せてやるよ」

 

 

 ニヤリと笑う男を正面から睨み付けながら魔力を解放していく。

 このデュエルに飴は必要はない。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエル開始の宣言とともに先攻後攻が決まる。

 先攻は男からだ。

 

 

「私の先攻、私は《テラ・フォーミング》を発動し《Sin World》を手札に加える!」

「《Sin World》?」

 

 

 男が手札に加えたのは聞き覚えのないカード。

 フィールド魔法ということはデッキの内容がある程度は伺えるかもしれない。

 

 

「そして、私は我が王へと贄を捧げるための世界。《Sin World》を発動!」

「なんだこれは!?」

 

 

 フィールド魔法が発動されると同時に、周囲の色が目に見えておかしくなっていく。

 その光景にノーヴェたちは驚き声を上げる。

 

 

「見るがいい!私は、デッキの中の《真紅眼の黒竜》を除外して《Sin 真紅眼の黒竜》を特殊召喚する!」

 

Sin 真紅眼の黒竜 ATK2400

 

 

 現れたのは頭と翼が白く染まった真紅眼。

 その姿はどこか苦しんでいるようにも見える。

 

 

「私はこれでターンエンド!」

 

男 LIFE8000

Sin 真紅眼の黒竜 ATK2400

フィールド Sin World

手札3

 

 

 最初のターンから上級を呼び出し、場も用意する。

 確かに、これだけできる男は強い部類に入るのだろう。

 そして一番問題なのはSinというカテゴリー。

 フィールド魔法や真紅眼の名前にも着いていることから他にも似たようなカードがある可能性がある。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 どうやって戦うにしてもカードを引かなければ話は進まない。

 

 

「俺は《地獄門の契約書》と《魔神王の契約書》を発動する!」

「け、契約書!?」

 

 

 2枚のカードを発動した瞬間、俺の場に紐が巻き付いている紙と石板が出現した。

 発動したカードを見て、アインハルトは驚きの声を上げる。

 確かにこのデッキはアイツらとデュエルするときによく使っていた物だ。

 もしかしたら俺の正体にも気づいたかもしれない。

 

 

「地獄門の効果でデッキから《DDナイト・ハウリング》を手札に加える」

「永続魔法ってことはあの効果は毎ターン使えるのかな」

「強力な効果ね……」

 

 

 デッキからカードを手札に加えると青髪の女性――スバルと橙色の髪の女性――ティアナが呟く。

 

(効果は強いけど、対策がないとかなり不利になるんだが……)

 

 呟きを聞きながら俺はデュエルを続ける。

 

 

「魔神王の効果で手札の《DDバフォメット》と《DD魔導賢者コペルニクス》を墓地に送り、融合召喚をする!」

 

 

 翼の生えた悪魔と内部に火球を灯した悪魔が1つになり、新たな姿へと変わっていく。

 

 

「業火(あやつ)りし烈火の王。今、ここに生誕し敵を焼き尽くせ!融合召喚!《DDD烈火王テムジン》!」

 

DDD烈火王テムジン ATK2000

 

 

 現れたのは紅い盾と剣を持った悪魔の王。

 攻撃力はそこまで高くはないが優秀な効果を持っている。

 

 

「そして、《DDナイト・ハウリング》を召喚!」

 

DDナイト・ハウリング ATK300

 

 

 現れたのは巨大な口の悪魔。

 

 

「ナイト・ハウリングの効果で墓地のコペルニクスを特殊召喚!さらにコペルニクスの効果でデッキから《DDリリス》を墓地に送る!」

 

DD魔導賢者コペルニクス ATK0

 

「そしてレベル4、コペルニクスに、レベル3、ナイト・ハウリングをチューニング!」

「融合の次はシンクロ召喚!?」

 

 

 ナイト・ハウリングが3つの光の輪となりコペルニクスがその中を通り抜ける。

 

 

「旋風(まと)いし疾風の王。今、ここに生誕し敵を切り裂け!シンクロ召喚!《DDD疾風王アレクサンダー》!」

 

DDD疾風王アレクサンダー ATK2500

 

 

 さらに現れたのは片刃の剣を持ち、マントを着けた悪魔の王。

 そしてアレクサンダーが現れたことによってテムジンの効果が発動する。

 

 

「テムジンが場に存在し、他のDDモンスターが特殊召喚された場合、墓地のDDモンスターを対象として発動できる!俺は墓地のバフォメットを選択し、特殊召喚!」

 

DDバフォメット ATK1400

 

「さらにアレクサンダーが場に存在し、他のDDモンスターが召喚、特殊召喚された場合、墓地のレベル4以下のDDモンスターを対象として発動できる!俺は墓地のリリスを選択し、特殊召喚!」

 

DDリリス ATK100

 

「こ、今度は同じレベルのモンスターが2体……」

「そして特殊召喚に成功したリリスの効果で墓地のコペルニクスを手札に加える」

 

 

 繰り返される特殊召喚に全員が驚き、言葉を失う。

 確かに見応えはあるが、展開できるデッキは他にもあるはずだ。

 

 

「バフォメットとリリスでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 バフォメットとリリスが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

(すい)()創りし怒濤の王。今、ここに生誕し敵を押し流せ!エクシーズ召喚!《DDD怒濤王シーザー》!」

 

DDD怒濤王シーザー ATK2400

 

 

 烈火、疾風、さらに続くように現れたのは怒濤の悪魔の王。

 さらに加えて言うのならば、この展開を行うのに手札の消費が僅かに3枚だということだろう。

 

 

「融合、シンクロ、エクシーズ。3種類の召喚方法を1ターン目からやるなんてスゴいっすね!」

「ああ。しかも手札の消費も少ない上に真紅眼の攻撃力を超えるモンスターもいる」

 

 

 融合、シンクロ、エクシーズ。

 3種類の召喚方法を1つのデッキで行う。

 言葉にするには簡単だが、実際に組むのはかなり難しい。

 専用の構築でも手札事故を起こす頻度は少なくないだろう。

 

 

「アレクサンダーで真紅眼に攻撃!『疾風連斬』!」

 

○ATK2500VSATK2400×

 

 

 アレクサンダーが剣を振るうと風の刃が出現し、真紅眼へと放たれた。

 放たれた風の刃は真紅眼の翼を切り落とし、次の瞬間には首が切り落とされた。

 破壊される直前、真紅眼の目に安堵の色が見えたのは気のせいだろうか。

 

 

「はははは!この程度の攻撃、痛くもない!」

 

男LIFE8000-100=7900

 

「続けてシーザー、テムジンでダイレクトアタック!『怒濤波撃』!『烈火崩刃』!」

 

男LIFE7900-2400-2000=3500

 

 

 ライフを半分以上減らされたというのに男の表情に変化はない。

むしろ笑みさえ浮かべていた。

 

 

「俺はカードをセットしてターンエンド!」

 

遊佐LIFE8000

DDD烈火王テムジン ATK2000

DDD疾風王アレクサンダー ATK2500

DDD怒濤王シーザー ATK2400

地獄門の契約書

魔神王の契約書

セットカード1

手札2

 

 

 さて、男の場にはフィールド魔法のみ。

 そして手札は3枚。

 ライフだけは半分以下にまで持っていったが、まだ油断はできない。

 

 

「私のターン。私はドローフェイズに《Sin World》の効果を発動する!」

「やはり何かしらの効果を持っているか……」

 

 

 召喚されたモンスターのステータスに変化がなかったことから強化などではないことは伺えていた。

 ドローフェイズに発動するということは、ドロー関連の効果なのだろうか。

 

 

「私はデッキからSinと名のついたカードを3枚選択し、相手はその中からランダムに1枚を選択する。選択されたカードを手札に加え、残りはデッキに戻してシャッフルする」

「Sinをサーチする効果か!」

 

 

 3枚の内からランダムに1枚とは言え、かなり使いやすい効果だと言えるだろう。

 

(3枚とも同じカードにすれば必ず手札に加わるしな……)

 

 維持さえできればある程度は望むカードを手札に加えられるのだ。

 

 

「私は《Sin青眼の白龍》《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》《Sinレインボー・ドラゴン》を選択する!」

 

 

 選択されたのはどれも高攻撃力を誇るモンスターの代名詞たち。

 真紅眼の時と同じように特殊召喚が容易だと想像するのは間違いではないだろう。

 

 

「俺は……右のカードを選択する」

「では残りの2枚をデッキに戻そう。さらに私は《トレード・イン》を発動し、《ダークストーム・ドラゴン》を捨てて2枚ドロー」

 

 

 選択したカードはなんだったのか。

 デッキからカードを引く男を見ながら思考する。

 今のところ出てきているのはレベルの高いドラゴン族と《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》のみ。

 これだけなら高火力ドラゴンだと考えられるのだが……

 

 

「私はデッキの中の《青眼の白龍》を除外して、《Sin青眼の白龍》を特殊召喚する!」

 

Sin青眼の白龍 ATK3000

 

 

 現れたのは所々が黒く染められた青眼。

 その姿に誰もが知る力強さは感じられず、ただただ悲痛さを感じられた。

 しかし、青眼であればまだ戦いやすいのも事実。

 他の2体であったのならば攻撃力の都合で少しばかり厳しかっただろう。

 

 

「安堵したな?」

「なに?」

 

 

 そんな俺の考えを読んだのか、男はニヤリと口角を上げる。

 

 

「貴様は他のSinでなくて安堵しただろう。しかし、その判断は大きな間違いだ!私の場にレベル8のモンスターが存在する場合、このモンスターはリリースなしで召喚できる!現れろ《星間竜パーセク》!」

 

星間竜パーセク ATK800

 

 

 男の場に現れたのは紫色のどこか虫のようにも見える竜。

 攻撃力などは大したことはない。

 レベルが青眼と同じ8であること以外は。

 

 

「貴様の魔力で我が王の力を見せることができる。私はSin青眼とパーセクでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 Sin青眼とパーセクが光の珠となり渦を描きながら1つになる。

 

 

「現れろ、No.46!雷鳴よ、とどろけ。稲光よ、きらめけ。顕現せよ、我が金色の龍、神影龍ドラッグルーオン!」

 

No.46神影龍ドラッグルーオン ATK3000

 

 

 最初に現れたのは毛のようなものが複雑に絡まりあった不思議な物体。

 その絡まりがほどかれていくと中から神聖な雰囲気を持った龍が現れた。

 さらに男の手の甲に46という数字が現れているのが見える。

 

 

「な、ナンバーズ……?」

「そんなモンスター聞いたこと無いっすよ?」

 

 

 現れたモンスターに全員が驚き、ざわめく。

 だが、今はそんなことを気にしている暇は無いだろう。

 なぜならこのモンスターから強い魔力を感じるからだ。

 

 

「ドラッグルーオンのオーバーレイユニットを1つ取り除いて効果を発動!手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚する!現れろ《ダークストーム・ドラゴン》!」

 

ダークストーム・ドラゴン ATK2700

 

 

 ドラッグルーオンの咆哮に答えるかのように黒い竜巻を纏った龍が男の場に出現した。

 

 

「そして《ダークストーム・ドラゴン》に《スーペルヴィス》を装備し、デュアル状態にする!」

 

 

 デュアルモンスター、それは召喚権を使って効果モンスターに変化するモンスター。

 最近ではあまり見ないが通常モンスター扱いになる点は使いやすい点だろう。

 

 

「《ダークストーム・ドラゴン》の効果を発動!私の場の表側表示の魔法、罠を墓地に送ることで場の魔法、罠を全て破壊する!」

「させるか!罠カードオープン、《契約(リース・ロ)洗浄(ンダリング)》!俺の場の契約書を全て破壊し、破壊した枚数分ドロー!さらにドローした枚数×1000ライフを回復する!」

 

地獄門の契約書→破壊

魔神王の契約書→破壊

手札2→4

遊佐LIFE8000+2000=10000

 

「ちっ……。墓地に送られた《スーペルヴィス》の効果で墓地の《ダークストーム・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 

ダークストーム・ドラゴン2 ATK2700

 

 

 《スーペルヴィス》の効果は表側表示のこのカードが墓地に送られた時に自分の墓地の通常モンスターを選択して特殊召喚するというもの。

 墓地や場で通常モンスター扱いになるデュアルモンスターだから蘇生できたのだ。

 

 

「2体の《ダークストーム・ドラゴン》でテムジンとアレクサンダーを攻撃!『黒の旋嵐』!」

「くぅっ…」

 

○ATK2700VSATK2000×

○ATK2700VSATK2500×

遊佐LIFE10000-700-200=9100

 

 

 2体の《ダークストーム・ドラゴン》の巻き起こした竜巻によってテムジンとアレクサンダーは破壊される。

 攻撃にはやはり魔力が込められていたらしく、竜巻の通った地面は深く抉れていた。

 直接攻撃を受けたら防壁を張らないと大怪我をしてしまうだろう。

 

 

「破壊されたテムジンの効果で墓地の契約書、《魔神王の契約書》を手札に加える!」

「それがどうした!ドラッグルーオンでシーザーに攻撃!『(しん)(れい)(ごう)(ほう)』!」

「攻撃宣言時、シーザーのオーバーレイユニットを1つ取り除いて効果を発動!」

 

○ATK3000VSATK2400×

遊佐LIFE9100-600=8500

 

「なんの意味があったか知らんが、意味がなかったようだな」

「シーザーが場から墓地に送られた時に効果を発動!デッキから契約書、《地獄門の契約書》を手札に加える!」

 

 

 場のモンスター全てが破壊され、防ぐものがなくなる。

 だが王たちのサーチ効果と《契約洗浄》によって手札は潤沢だ。

 

 

「そしてバトルが終了したとき、シーザーの効果によってこのターンに破壊されたモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 

DDD烈火王テムジン ATK2000

DDD疾風王アレクサンダー ATK2500

DDD怒濤王シーザー ATK2400

 

 

 これで全てが元通りになる。

 いや、手札が倍以上になっているのだからかなりアドバンテージを得た。

 シーザーの効果は破壊されたモンスターを特殊召喚するもの。

 もちろんデメリットは存在しているので使い勝手が良いとは言い切れない。

 さらには、バトルフェイズを挟まなければ蘇生はできず、破壊されたモンスター以外を蘇生することもできない。

 

 

「くっ……。ならば私は2体の《ダークストーム・ドラゴン》でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 2体の《ダークストーム・ドラゴン》が黒い暴風へと変化し、1つになる。

 

 

「現れろ、No.38!その身に銀河を宿し、羽ばたく竜よ。希望に寄せられた者共を喰らい尽くせ!希望魁竜タイタニック・ギャラクシー!」

 

No.38希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ATK3000

 

 

 現れたのは2体目のナンバーズ。

 その竜は瞳の中に宇宙の星々を宿しており幻想的な雰囲気を放っている。

 

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

男LIFE3500

No.46神影龍ドラッグルーオン ATK3000

No.38希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ATK3000

手札0

 

 

 男の場には攻撃力の高いドラゴンが2体。

 さらには片方の効果が判明していない。

 手札やセットが無いにしても油断はできないだろう。

 

 

「俺のターン、ドロー!ぐっ……」

 

 

 デッキからカードを引きいて手札に加えた瞬間、俺の身体にテムジン、アレクサンダー、シーザーの剣が突き刺さる。

 

(契約とはいえあまり受けたくはないな……)

 

 実際に刺さっているわけではないが気分の良いものではない。

 

 

「スタンバイフェイズ時、シーザーの効果によって特殊召喚されたモンスターの数×1000のダメージを受ける」

 

遊佐LIFE8500-3×1000=5500

 

「俺は《地獄門の契約書》を発動!」

「ならばその瞬間にタイタニック・ギャラクシーの効果を発動する!1ターンに1度、場で発動した魔法を無効にし、このカードのオーバーレイユニットにする!『消滅のスケイルズ・ストーム』!」

 

 

 男が宣言した瞬間、タイタニック・ギャラクシーは巨大な竜巻を作り出し契約書を飲み込んでいった。

 魔法に対する無効化効果を持っていたようだな。

 

 

「なら手札の《DD魔導賢者ニュートン》を捨てて、墓地の《地獄門の契約書》を手札に加える!」

 

 

 俺の手札に再び地獄門が加わったのを見て男は悔しげに表情を歪める。

 

 

「そして地獄門と魔神王、2枚の契約書を発動!」

 

 

 再び現れるのは紐が巻き付いている紙と石板。

 このデッキにおいては展開の要であるので呼び込む手段は幾つか入っているのだ。

 

 

「さらに《闇の誘惑》を発動。デッキからカードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスター《DD魔導賢者コペルニクス》を除外する。そして地獄門の効果を発動し、デッキから《DDナイト・ハウリング》を手札に加える」

 

 

 ドロー、サーチ、連続して行われたことにより手札の枚数が5枚へと戻る。

 

(これなら、いけるか……)

 

 手札と場、それらのカードを見て線が繋がっていく。

 

 

「先ずは手札の《DDスワロル・スライム》の効果を発動!DDD融合モンスターによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを手札から墓地に送り、融合召喚を行う!俺は《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》を墓地に送る!」

 

 

 発動したのはDDの中でも優秀な部類に入るスライム系のモンスターの効果。

 

 

「竜を討滅せし剋竜の王。今、ここに生誕し竜滅の力をふるえ!融合召喚!《DDD剋竜王ベオウルフ》!」

 

DDD剋竜王ベオウルフ ATK3000

 

「さらにテムジンの効果でヘル・アーマゲドンを蘇生する!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン ATK3000

 

「い、いきなり3000が2体も並びやがった……」

「……いえ、彼が本当にあの人ならまだ続きます」

 

 

 いきなりの展開にどうやら驚いているらしい。

 しかし、男の表情に変化はない。

 どうやら同じ攻撃力では意味がないと考えているようだ。

 だが、その考えは甘い。

 

 

「《魔神王の契約書》の効果で場のテムジンとシーザーを融合する!」

 

 

 続けて行うのはDDD同士の融合。

 

 

「神々の黄昏を打ち破り、押し寄せる波の勢いで、新たな世界を切り開け!融合召喚!出現せよ!極限の独裁神、《DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク》!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク ATK3200

 

「今度は3200っす……」

「そして、場の《魔神王の契約書》を墓地に送って、手札から《DDラミア》を特殊召喚する!」

 

DDラミア 100

 

 

 ヴィヴィオ達の驚きの声が聞こえるが気にせずにデュエルを続ける。

 現れたのは下半身が蛇の小さな悪魔。

 ステータスは低いが重要なのはチューナーだということだ。

 

 

「レベル7、アレクサンダーに、レベル1、ラミアをチューニング!」

 

 

 ラミアが光の輪となり、その中をアレクサンダーが通り抜ける。

 

 

「その身に血を浴びし呪血の王。今、ここに生誕し鮮血を散らせ!シンクロ召喚!《DDD呪血王サイフリート》!」

 

DDD呪血王サイフリート ATK2800

 

「さらに墓地のスワロル・スライムを除外して、手札から《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》を特殊召喚する!」

 

壊薙王アビス・ラグナロク ATK2200

 

「場が……」

「全部上級モンスターで埋まっちゃった……」

 

 

 場にいるのは剋竜王、怒濤壊薙王、呪血王、死偉王、壊薙王の5体。

 この中で攻撃力が3000を越えているのは怒濤壊薙王のみ。

 

 

「最後の締めだ。ヘル・アーマゲドンとアビス・ラグナロクでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 ヘル・アーマゲドンとアビス・ラグナロクが光の珠となり渦を描きながら1つになる。

 

 

「悪徳の時を生み出しし双暁の王。今、ここに生誕し世界を暁に染めよ!エクシーズ召喚!《DDD双暁王カリ・ユガ》!」

 

DDD双暁王カリ・ユガ ATK3500

 

 

 最後に現れたのは椅子に座っている1体の悪魔。

 残りの手札は1枚。

 もう他にやることはないだろう。

 

 

「バトル!カエサル・ラグナロクでドラッグルーオンを攻撃!『ジ・エンド・オブ・ジャッジメント』!」

 

○ATK3200VSATK3000×

男LIFE3500-200=3300

 

 

 カエサル・ラグナロクの放った濁流と光線により、ドラッグルーオンの体毛は焼かれ、その身を押し流していく。

 

 

「ドラッグルーオンが破壊された時、タイタニック・ギャラクシーの効果を発動!破壊されたエクシーズモンスターの攻撃力分、他のエクシーズモンスター1体の攻撃力を上昇させる!」

「そんなっ!?」

「3000の上昇!?」

 

 

 ドラッグルーオンが破壊されて発生した光をタイタニック・ギャラクシーが吸収しようと咆哮をあげる。

 この効果が決まれば攻撃力は6000となり、普通の攻撃で突破するにはやや厳しいものになる。

 ()()()()であるが……

 

 

「なぜだ!?なぜ攻撃力が上がらない!?」

「残念だったな。カリ・ユガがエクシーズ召喚に成功したターン、このカード以外の場のカードの効果は発動できず、無効化されるんだよ!」

 

 

 カリ・ユガの効果は場を完全に制圧する絶対的な力。

 《エフェクト・ヴェーラー》には対応できないが、現状では最大の効果を発揮している。

 

 

「続けてカリ・ユガでタイタニック・ギャラクシーを攻撃!『ツインブレイクショット』!」

「くっ……」

 

○ATK3500VSATK3000×

男LIFE3300-500=2800

 

 

 カリ・ユガの放った攻撃により、タイタニック・ギャラクシーの翼は砕かれ、その身は大地に伏した。

 これで男の場には守るモンスターの姿はなく、手札も存在していない。

 

 

「さぁ、これで終わりだ……」

「ありえない……。こんな、こんなことが……」

 

 

 もはや、男に抵抗する手段はない。

 ナンバーズに対して絶対的なまでの傾倒が敗北の理由だろう。

 

 

「行け、サイフリート、ベオウルフ!『呪刀血刃』!『剋滅竜爪』!」

「ぐぁぁぁああああっっ!!」

 

男LIFE2800-2800-3000=-3000

 

 

 サイフリートとベオウルフの攻撃を受け、男のライフが0になる。

 それと同時に俺の腕に巻き付いていたワイヤーのようなものが外れた。

 

(上手く展開できたから勝てたが……。4000クラスの攻撃力が出てきていたら苦戦していたかもな)

 

 デッキをデュエルディスクから外し、デバイスの中にしまう。

 このデッキの最大攻撃力はカリ・ユガの3500。

 4000クラスの攻撃力が出てきた場合、対抗手段が少なくなってくるのだ。

 

 

「終わった……のか?」

「たぶんな」

 

 

 ノーヴェが先頭に立ち、男の様子をうかがいながら訊ねてくる。

 デュエルには勝利したが、このあとどうなるかは全く予想がつかないのだ。

 

 

「ゆ、遊佐さん。あなたはもしかして……」

「ああ、流石に気づくか。お前の思っている通りだよ、ヘタ王」

「ヘタ……」

「王……?」

 

 

 おずおずと話しかけてきたアインハルトに昔の呼び方の1つで応える。

 呼び方の意味が分からないらしく、リオとコロナは首をかしげていた。

 

 

「く……。くは、ははははははははははははははは!!!」

「!?」

 

 

 突然の男の笑い声に全員が驚き、身構える。

 見ると男の身体が浮かび上がっており、怪しく発光していた。

 

 

「私が敗北し、全てが終わったと思っていたか?」

「どういう意味だ……」

 

 

 どこか劇のように大きく身体を動かしながら男は話し始める。

 

 

「そうだろう、そうだろう。だが、それも大きな間違い。私は確かにデュエルに敗北した。だが、我が王の復活に私の敗北は関係ない!」

 

 

 直後、男の身体を包むようにカードが球状に展開されていく。

 

 

(さき)のデュエルでの貴様の魔力、確かにいただいたぞ。我が王よ、この身を捧げあなたの復活の礎に!」

 

 

 その言葉と同時にカードが様々な方角に飛び散っていく。

 あまりにも突然の事態に、誰もが反応することができず、見ていることしかできない。

 やがて、カードが全て飛び散ると男の身体が光となって消え始めた。

 

 

「は、はははははは……。闇の心持つものよ、ナンバーズを全て集めて贄となるがいい……。さらばだ、歴戦の王たちよ……」

 

 

 その言葉を最後に男の姿は完全に消滅した。

 全員が言葉を失い、嫌な沈黙が場を支配する。

 

(ナンバーズ……。なんなんだよ、このカードは……)

 

 そんなことを考えながら、俺は手元に飛んできていた()()()カードを見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





読了ありがとうございました。

DDは効果が長くなってけっこう大変でした。

デュエルパートは分けた方が読みやすいんでしょうか?

最強カード、等が見てみたいといった意見がありましたらどんどん書いてください。

ミスなどの指摘や気になったことがありましたら教えてもらえると助かります。

投稿は亀ですがこれからもよろしくお願いします。


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第4話

遅くなりました。

デュエル長い……


【主のいない店での一幕】

 

 

 

 

「こんにちはー!」

「おお、いらっしゃい」

 

 

 カランカランとベルの音を鳴らしながら3人の少女、ヴィヴィオたちが〝遊戯屋〟の中に入ってくる。

 そんな彼女たちに返事をしたのは〝遊戯屋〟店長、天戯遊砂……ではなく、アルバイトのトクミチだった。

 

 

「あれ?遊砂さんは?」

「さっき用があるとかで出ていったぞ。5時くらいには帰ってくるって言っていたかな」

 

 

 遊砂の姿がないことをリオが訊ねると、トクミチは食器を洗いながら答えた。

 どうやら遊砂は何かしらの用事でいないらしい。

 アルバイトであるトクミチしか店にいないのは問題があるように思えるが、〝遊戯屋〟ではとくに珍しい光景ではないため、ヴィヴィオたちはテーブルへと座る。

 

 

「ご注文は?」

「えっと……、オレンジジュースとイチゴショートで」

「私もオレンジジュースかな。それとチョコレートケーキでお願いします」

「私はメロンソーダとミルクレープで!」

 

 

 3人はそれぞれメニューを注文する。

 ちなみにヴィヴィオがオレンジジュースとイチゴショート、コロナがオレンジジュースとチョコレートケーキ、リオがメロンソーダとミルクレープだ。

 

 

「そういえば……。コロナのデッキって融合が主体だったよね」

「うん。手札で融合するとすぐに手札がなくなっちゃうけどね」

「私はシンクロが主体だけど、やっぱり手札がなくなるとキツいよね」

 

 

 自然と3人の話題はデュエルモンスターズのものになる。

 世界的に広まっているのだから話題となっていてもおかしくはないのだが。

 

 

「ほれ、注文の品。店長手製だから味わって食べなよ」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

 

 トクミチの言葉に3人は笑顔で答えた。

 なお、〝遊戯屋〟にて出される食事は全て店長である遊砂の手製であり、その味を気に入って何度も通ってしまう客がいるほどである。

 

 

「と、そういえばそろそろ今日のプロ戦が始まるな」

 

 

 そう言ってトクミチは店内にあるテレビの電源をいれる。

 〝遊戯屋〟の中にはやや大きめのテレビが設置されており、店の人間が電源をつけることができるのだ。

 

 

[さあ、いよいよデュエルが始まります!本日の対戦はプロランク7位のオーリ・ムラーチカと、プロランク1位の()()()です!]

 

 

 画面に映されたのは黒髪で爽やかそうな男性と、蒼い仮面を着けた男にも女にも見える人間。

 

 

「今日はオーリプロが悪魔王に挑むんだね」

「どんなデュエルになるのかな……」

 

 

 プロデュエリスト、それはデュエルモンスターズを仕事として活動している者たちの総称であり、ランキングが存在している。

 現在、プロとして活動しているデュエリストの人数はおおよそ3000。

 その中から7位と1位がデュエルするのだからその注目度は相当なものだと伺えるだろう。

 

 

[両者の準備は整いましたね……。それでは、デュエル開始ぃぃぃいいいいーー!!!]

 

 

 MCの宣言と共にデュエルが始まる。

 どうやら先攻はオーリからのようだ。

 

 

[皆が応援してくれているんだ。俺は《ソニックバード》を召喚!効果でデッキから《カオスの儀式》を手札に加える!]

 

ソニックバード ATK1400

 

 

 場に現れたのは背中にロケットのようなものを着けた一羽の鳥。

 効果で加えられたカードから分かるように、オーリのデッキは儀式を主体としている。

 それはプロの中でもかなり少ない戦術だ。

 

 

[さらに《儀式の下準備》を発動!デッキから《超戦士の儀式》と《カオス・ソルジャー》を手札に加える!]

 

 

 これでオーリの手札は6枚になった。

 その内の半分が判明しているが大きな問題ではないだろう。

 

 

「やっぱりサーチ効果は重要だよね」

「欲しいカードが呼べるもんね」

 

 

 ケーキを食べながらヴィヴィオたちは話す。

 

 

[場の《ソニックバード》と手札の《宵闇の騎士》をリリースして《超戦士の儀式》を発動!]

 

 

 《ソニックバード》の身体が炎になり、大きくなっていく。

 そして《宵闇の騎士》が場に現れ、炎の中を駆け抜けていった。

 

 

[幾多の試練を乗り越え超戦士の力を得よ!儀式召喚!《カオス・ソルジャー》!]

 

カオス・ソルジャー ATK3000

 

 

 現れたのは一振りの剣と盾を手に持ち、通常とは違う桜色の鎧の騎士。

 

 

[おおっとぉぉ!オーリプロが出したのは儀式モンスターの中でも屈指の攻撃力を持つ《カオス・ソルジャー》だ!しかも、姉であるウィンタープロと同じ〝桜花〟だぁぁぁああああ!]

 

 

 〝桜花〟それは誰もが知る儀式デッキ使い最強のプロ、ウィンター・ムラーチカの切り札である《カオス・ソルジャー》の通り名だ。

 彼女の扱う《カオス・ソルジャー》の鎧は桜色をしており、召喚された試合は全て勝利している。

 

 

[《宵闇の騎士》がカオス・ソルジャーと名の着いたモンスターの儀式召喚に使用されたとき、2つの能力をそのモンスターに与える!その内の1つを発動!]

 

カオス・ソルジャー(宵闇) ATK3000

 

 

 オーリの言葉と同時にカオス・ソルジャーが悪魔王へと接近し手札を1枚切り裂く。

 

 

[相手の手札をランダムに1枚選び、次の相手のエンドフェイズまで裏側表示で除外する。俺はこれでターンエンドだ!]

 

オーリ LIFE8000

カオス・ソルジャー(宵闇) ATK3000

手札4

 

 

 総合的に見て、手札消費1枚で攻撃力3000のモンスターが出た。

 さらに言えば悪魔王の手札を1枚減らしている。

 さすがはプロランキング第3位といったところだろう。

 

 

[俺のターン、ドロー]

 

 

 悪魔王は静かにカードを引いた。

 まるで何も起きていなかったかのように。

 

 

[俺は《EMドクロバット・ジョーカー》を召喚]

 

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

 

「え、EM!?」

「ヴィヴィオと同じカードだ!」

「それに悪魔族じゃないよ!?」

 

 

 現れたモンスターにヴィヴィオたちは驚く。

 しかし、EM自体は聖王教会がカードを公開して流通しているためそこまで驚くほどではないだろう。

 どちらかと言えば悪魔王が悪魔族以外の種族を使っていることへの驚きの方が大きそうだ。

 

 

[ドクロバットの効果でデッキから《EMリザードロー》を手札に加える。そして《EMペンデュラム・マジシャン》と《EMリザードロー》をペンデュラムゾーンにセッティング]

 

EMペンデュラム・マジシャン スケール2

EMリザードロー スケール6

 

[これで悪魔王はレベル3から5までを同時に召喚可能だぁぁあああ!]

[リザードローの効果でリザードローを破壊し、1枚ドロー]

 

EMリザードロー→破壊

 

[続けて《竜剣士マスター(ペンデュラム)》をペンデュラムゾーンにセッティング]

 

竜剣士マスターP スケール3

 

 

 見ている誰もが首をかしげる。

 セッティングされているスケールは2と3。

 これではペンデュラム召喚ができない。

 

 

[マスターPの効果でペンマジを破壊]

 

EMペンデュラム・マジシャン→破壊

 

[そして《竜剣士ラスター(ペンデュラム)》をペンデュラムゾーンにセッティング]

 

竜剣士ラスターP スケール5

 

[ラスターPの効果でマスターPを破壊し、デッキから同名カードを手札に加える]

 

竜剣士マスターP→破壊

 

[そしてマスターPをセッティングして、効果でラスターPを破壊]

 

竜剣士マスターP スケール3

竜剣士ラスターP→破壊

 

 

 ぐるぐると目まぐるしく悪魔王のペンデュラムゾーンが入れ替わっていく。

 

 

[手札から《竜呼相打つ》を発動。デッキから竜剣士と竜魔王のペンデュラムモンスターを1体ずつ選んで相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚を選ぶ。俺が選ぶのは《竜剣士ラスターP》と《竜魔王レクター(ペンデュラム)》だ]

[俺は右のモンスターを選ぶ]

[相手が選んだモンスターは自分のペンデュラムゾーンにセットするか特殊召喚をし、残ったモンスターはエクストラデッキに表側表示で加える。選ばれたのはラスターP。ペンデュラムゾーンにセットし、残ったレクターPはエクストラデッキに加わる]

 

竜剣士ラスターP スケール5

 

 

[もう十分だな。揺れろ災厄のペンデュラム。天空に絵描くは絶望のアーク!ペンデュラム召喚!出てこい、モンスターども!]

 

EMペンデュラム・マジシャン ATK1500

竜剣士ラスターP ATK1850

竜剣士マスターP ATK1950

竜魔王レクターP ATK1950

 

 

 現れたモンスターによって悪魔王のモンスターゾーンが全て埋まる。

 手札が残り1枚だが恐ろしいまでの展開だ。

 しかも悪魔王の言葉が正しければさらに回すこともできたのだろう。

 

 

[ペンマジの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、デッキから《EMギタートル》と《EMモンキーボード》を手札に加える]

 

竜剣士マスターP→破壊

竜剣士ラスターP→破壊

 

 

 手札が1枚だったのも少しの間。

 すぐに手札が2枚追加された。

 

 

[レベル4、ペンマジに、レベル4、ラスターPをチューニング!]

 

 

 ラスターPが光の輪となり、その中をペンマジが潜り抜けていく。

 

 

[竜の剣士はその身に爆炎の力を宿し、敵を切り裂く!シンクロ召喚!《爆竜剣士イグニスター(プロミネンス)》!]

 

爆竜剣士イグニスターP ATK2850

 

 

 現れたのは赤い鎧に身を包んだ竜剣士。

 その身体からは熱風が巻き起こっており、周囲の温度を上げていた。

 

 

[イグニスターの効果でデッキから竜剣士モンスターを守備表示で特殊召喚する。こい、ラスターP]

 

竜剣士ラスターP DEF0

 

[そしてラスターPとドクロバットでオーバーレイネットワークを構築!]

 

 

 ラスターPとドクロバットが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

[竜の剣士は風の友を得、共に空を駈ける!エクシーズ召喚《昇竜剣士マジェスター(パラディン)》!]

 

昇竜剣士マジェスターP ATK1850

 

 

 続けて現れたのはペガサスにまたがった竜剣士。

 持っている剣には旋風が纏われ、辺りに風音を響かせていた。

 

 

[マジェスターPのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果でエクストラデッキから竜剣士のペンデュラムモンスターを特殊召喚する。こい、ラスターP]

 

竜剣士ラスターP ATK1850

 

 

 もはや何度目かも分からない特殊召喚。

 心なしか竜剣士にも疲労が見える気がする。

 

 

[ラスターPとレクターPをリリース!]

 

 

 ラスターPとレクターPが1つになり、新たな姿へと変わっていく。

 

 

[竜の剣士はその身に堅き鎧を纏い、全てを守る!融合召喚!《剛竜剣士ダイナスター(パワフル)》]

 

剛竜剣士ダイナスターP ATK2000

 

 

 さらに続けて現れたのは青い大型の鎧を纏った竜剣士。

 その身体からは蒸気が吹き出しており、力強さがうかがえた。

 

 

[ダイナスターPの効果で墓地の竜剣士のペンデュラムモンスターを特殊召喚する。こい、ラスターP]

 

竜剣士ラスターP ATK1850

 

[そして《エキセントリック・デーモン》をペンデュラムゾーンにセッティング]

 

エキセントリック・デーモン スケール7

 

[俺の場のもっとも攻撃力の高いモンスターはイグニスターP。その攻撃力も《カオス・ソルジャー》には届いていない]

[そ、そうだ!大量の召喚には驚いたけど俺のモンスターを倒すことはできない!]

 

 

 悪魔王の言う通り、イグニスターPの攻撃力は2850。

 《カオス・ソルジャー》の攻撃力には150届いていないのだ。

 しかし、オーリの言葉に悪魔王は笑い声をあげる。

 

 

[くひゃっ。ひゃーっはっはっはぁぁあ!甘いなぁ、甘すぎるなぁ!]

[なに?]

[イグニスターPの効果を発動!場のペンデュラムモンスターまたはペンデュラムゾーンのカード1枚を破壊して場のカード1枚を持ち主のデッキに戻す!俺は《エキセントリック・デーモン》を破壊して《カオス・ソルジャー》をデッキに戻す!『リターン・オブ・プロミネンス』!]

 

 

 悪魔王の言葉と同時に《エキセントリック・デーモン》が炎の渦となって《カオス・ソルジャー》を飲み込んでいった。

 

 

[破壊したら可愛そうだもんなぁ?良かれと思ってデッキに戻してやったぜぇ!]

[くっ!]

 

 

 悔しげにオーリは悪魔王を睨み付ける。

 しかし、その表情ですら悪魔王は楽しそうに眺めていた。

 

 

[全モンスターで攻撃!逝っちまいなぁ!]

[ぐぁぁぁああああっっ!!]

 

オーリ LIFE8000-1850-1850-1950-2000=350

 

[あん?なぜライフが残っている?]

[お、俺は手札から《クリボール》の効果を発動していた!相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを墓地に送ってその攻撃モンスターを守備表示にする!]

 

爆竜剣士イグニスターP DEF0

 

 

 見るといつの間にか悪魔王の場のイグニスターPが守備表示に変化していた。

 ぎりぎり首の皮1枚繋がったというところだろう。

 

 

[ちっ……。ラスターPとマスターPでオーバーレイネットワークを構築!]

 

 

 ラスターPとマスターPが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

[灼熱の海を渡る溶岩の海竜よ。今ここに現れろ!エクシーズ召喚!《ラヴァルバル・チェイン》!]

 

ラヴァルバル・チェインDEF1000

 

[チェインのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果でデッキから《グローアップ・バルブ》を墓地に送ってターンエンドだ。そして除外されていた手札も戻ってくる]

 

悪魔王 LIFE8000

爆竜剣士イグニスターP DEF0

昇竜剣士マジェスターP ATK1850

剛竜剣士ダイナスターP ATK2000

ラヴァルバル・チェイン DEF1000

手札3

 

 

 長かった悪魔王のターンが終わり、オーリへとターンが移る。

 先程のターンで起きたことをどれだけの人が理解できただろうか。

 最終的な手札消費は3枚。

 そのたった3枚の消費だけでペンデュラム、シンクロ、エクシーズ、融合と4種類の召喚方法を行い、さらにはそのターンに仕留めようとまでする。

 ただただ、誰もが言葉を失っていた。

 なお、悪魔王が悪役のような台詞を言うのはいつもの事なため誰も悪感情を抱いているものはいない。

 

 

[俺のターン……]

 

 

 デッキに手を置き、オーリは瞳を閉じる。

 思い浮かぶのは幼馴染みやプロ仲間の面々。

 そんな彼らの姿を思い出しながらオーリは力強くカードを引き抜く。

 

 

[ドロー!!]

 

 

 引いたカード、そして手札を見てオーリはすぐに思考する。

 どうすれば逆転できるのか、どうすれば勝てるのかを。

 

 

[俺は手札の《疾走の暗黒騎士ガイア》と《(かい)(びゃく)の騎士》をリリースして《カオスの儀式》を発動!]

 

 

 《開闢の騎士》が鎧と剣を残してその姿を消し、ガイアがその鎧と剣を受け取り激しい光を発する。

 

 

[幾多の試練を乗り越え現れた超戦士よ。今もう一度その姿を現せ!儀式召喚!《カオス・ソルジャー》!]

 

カオス・ソルジャー ATK3000

 

 

 現れたのは先程の桜色の鎧の騎士ではなく通常の鎧を纏った騎士。

 

 

[《開闢の騎士》がカオス・ソルジャーと名の着いたモンスターの儀式召喚に使用されたとき、2つの能力をそのモンスターに与える!]

 

カオス・ソルジャー(開闢) ATK3000

 

[さらに《疾走の暗黒騎士ガイア》がリリースされた場合、デッキからカオス・ソルジャーと名の着いたモンスターを手札に加える!《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》を手札に!]

 

 

 《疾走の暗黒騎士ガイア》の効果によってさらにモンスターがオーリの手札に加えられる。

 

 

[墓地の《開闢の騎士》と《宵闇の騎士》。光と闇を除外して《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》を特殊召喚!そして除外された《開闢の騎士》と《宵闇の騎士》の効果でデッキから儀式魔法と儀式モンスター、《超戦士の儀式》と《超戦士カオス・ソルジャー》を手札に加える!]

 

カオス・ソルジャー―開闢の使者― ATK3000

 

 

 現れたのは儀式モンスターの《カオス・ソルジャー》とは違ったカオス・ソルジャーモンスター。

 この開闢はその召喚条件から様々なデッキでも見ることがある。

 

 

[墓地の《超戦士の儀式》と光と闇のモンスター、《疾走の暗黒騎士ガイア》と《クリボール》を除外して効果を発動!手札からカオス・ソルジャー儀式モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!]

 

 

 さらに続くように行われる儀式召喚。

 オーリの手札には先程の《宵闇の騎士》の効果で加わった《超戦士カオス・ソルジャー》が存在している。

 

 

[光と闇の混沌を超え、更なる力をその身に得る!儀式召喚!《超戦士カオス・ソルジャー》!]

 

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000

 

 

 オーリの場に現れたのは鎧の形状の変わった白き騎士。

 

 

[来た来た来た来た来た来たぁぁぁぁぁあああああ!出ました!オーリプロのエースモンスター、〝白雪〟!しかも3連続のカオス・ソルジャーモンスターの召喚!]

 

 

 〝白雪〟、それはオーリの代名詞とも言えるほどに有名なモンスターの通り名だ。

 通常の《超戦士カオス・ソルジャー》の鎧は青、赤、白の3色が合わさったものなのだが、オーリの扱う《超戦士カオス・ソルジャー》の鎧は白1色なのだ。

 さらに言えば持っている剣もエネルギー刃になっている。

 

 

[行くぞ!まずは《カオス・ソルジャー》で《ラヴァルバル・チェイン》を攻撃!『カオス・ブレード』!]

 

○ATK3000VSDEF1000×

 

 

 《ラヴァルバル・チェイン》の守備力はたったの1000。

 《ラヴァルバル・チェイン》は《カオス・ソルジャー》に抵抗する間もなく破壊された。

 

 

[《開闢の騎士》によって得た効果を発動!戦闘でモンスターを破壊して墓地に送った時、《カオス・ソルジャー》はもう一度だけ続けて攻撃できる!《剛竜剣士ダイナスターP》を攻撃!『カオス・ブレード』2撃目!]

 

○ATK3000VSATK2000×

悪魔王 LIFE8000-1000=7000

 

[くっ……]

[次だ!《超戦士カオス・ソルジャー》で《爆竜剣士イグニスターP》を攻撃!『零落白夜』!]

 

○ATK3000VSDEF0×

 

[さらに《超戦士カオス・ソルジャー》は戦闘でモンスターを破壊して墓地に送った場合、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!]

[なにっ!?ぐぅっ!?]

 

悪魔王 LIFE7000-2850=4150

 

 

 イグニスターPを破壊した直後、《超戦士カオス・ソルジャー》は勢いをつけて剣を振り抜き、斬撃を悪魔王に飛ばした。

 

 

[《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》で《昇竜剣士マジェスターP》を攻撃!『開闢双破斬』!]

 

○ATK3000VSATK1850×

悪魔王 LIFE4150-1150=3000

 

 

 《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》の放った斬撃によりマジェスターPも破壊される。

 悪魔王の残りのライフは3000。

 そして《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》には《開闢の騎士》のもとになった効果がある。

 

 

[《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》が戦闘でモンスターを破壊して墓地に送った時、もう一度だけ続けて攻撃できる!これで終わりだ!『時空(じくう)突刃(とっぱ)・開闢双破斬』!]

[それは受けられないな。手札から《速攻のかかし》を捨ててダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了する]

 

 

 《カオス・ソルジャー―開闢の使者―》の攻撃は突如現れたかかしによって止められ、悪魔王には届かなかった。

 

 

[くっ……。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!]

 

オーリ LIFE350

カオス・ソルジャー(開闢) ATK3000

カオス・ソルジャー―開闢の使者― ATK3000

超戦士カオス・ソルジャー ATK3000

セット1

手札1

 

[俺のターン、ドロー]

 

 

 オーリの場には3体のカオス・ソルジャーモンスターが並んでおり、1枚の伏せがある。

 手札に加えられたカードなどから考えると、儀式魔法を伏せた可能性はあるが、もしかしたら罠を引いた可能性もあるだろう。

 

 

[《EMドクロバット・ジョーカー》を召喚して、効果で《EMリザードロー》を手札に加える]

 

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

 

[そして《EMギタートル》と《EMリザードロー》をペンデュラムゾーンにセッティング]

 

EMギタートル スケール6

EMリザードロー スケール6

 

[ギタートルの効果で1枚ドロー。さらにリザードローを破壊してもう1枚ドロー。そしてモンキーボードをセッティング]

 

EMリザードロー→破壊

EMモンキーボード スケール1

 

 

 使用した合計は3枚。

 しかしその3枚によって手札のカード全ての情報がなくなった。

 いや、それだけでは終わらない。

 

 

[モンキーボードの効果でデッキから《EMペンデュラム・マジシャン》を手札に加える]

 

 

 ペンデュラムスケールを揃えながら手札の損失が一切ない。

 これこそがEMの強みとも言えるのではないだろうか。

 

 

[もう一度揺れろ、災厄のペンデュラム!天空に絵描くは絶望のアーク!ペンデュラム召喚!出てこい、モンスターども!]

 

EMリザードロー ATK1200

竜剣士ラスターP ATK1850

竜剣士マスターP ATK1950

竜魔王レクターP ATK1950

 

 

 先程までモンスターが並んでいなかったはずの場が全て埋まる。

 これがペンデュラム召喚の特徴であり、強みだろう。

 

 

[これだけ動いても発動しない、か。攻撃反応型か?]

[さあ?どうだろうな]

 

 

 悪魔王の言葉にオーリは内心汗をかきながら答える。

 

 

[ラスターPをドクロバットにチューニング!もう一度現れろ!《爆竜剣士イグニスターP》!]

 

爆竜剣士イグニスターP ATK2850

 

[イグニスターPの効果でデッキからマスターPを特殊召喚!]

 

竜剣士マスターP DEF0

 

[マスターPとレクターPでオーバーレイネットワークを構築!]

 

 

 マスターPとレクターPが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

[疾風纏いし深緑の鉱石よ。汝は風を吹き放つもの!エクシーズ召喚!《ダイガスタ・エメラル》!]

 

ダイガスタ・エメラル ATK1800

 

 

 現れたのは鳥のような翼を持った緑色の戦士。

 見た目からは戦士族のようにも見えるが岩石族である。

 

 

[《ガガガガンマン》で撃ち抜いても良かったんだが、変わりはないな。エメラルのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果で墓地のモンスター3体をデッキに戻して1枚ドローする。戻すのは《昇竜剣士マジェスターP》《ラヴァルバル・チェイン》《爆竜剣士イグニスターP》]

 

 

 3体のモンスターをエクストラデッキに戻し、悪魔王はカードを引く。

 確かに《ガガガガンマン》にはダメージを与える効果があり、悪魔王の言う通りとどめをさせただろう。

 だが、それをあえてやらなかった。

 

 

[始めよう。外なる神々の物語を。《爆竜剣士イグニスターP》と《ダイガスタ・エメラル》を墓地に送る]

 

 

 悪魔王の言葉にイグニスターPは焔、エメラルは風へとその姿を変えていく。

 

 

[白と黒の境界より現れしは討滅の神!融合召喚!《旧神ヌトス》!]

 

旧神ヌトス ATK2500

 

 

 焔と風が収まった瞬間、いつの間にか悪魔王の場には槍と盾を手に持った女性が現れていた。

 

 

[デッキの一番上を墓地に送って《グローアップ・バルブ》を特殊召喚]

 

グローアップ・バルブ ATK100

 

 

 墓地より現れたのは根の部分に眼がついている花。

 なお、デッキの一番上は《奈落の落とし穴》だった。

 

 

[リザードローにバルブをチューニング!]

 

 

 《グローアップ・バルブ》が脈動し、リザードローへと根を伸ばして包み込んでいく。

 完全にリザードローが見えなくなると根は脈動を強くしていった。

 

 

[その身は焔でできていた。血潮は溶鉄、心の蔵は融炉。汝は生ける炎にして(いにしえ)の神なり。シンクロ召喚!《古神クトグア》!]

 

古神クトグア ATK2200

 

 

 根の脈動が止まり、内側から溢れ出た炎が辺りに飛び散っていく。

 そして現れたのは炎としか言いようがないもの。

 

 

[お、驚きはしたが攻撃力は2500と2200。《カオス・ソルジャー》たちは倒せないぞ!]

[ああ、そうだな。だから、こうするのさ!ヌトスとクトグアでオーバーレイネットワークを構築!]

 

 

 ヌトスとクトグアが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 その渦は今までの渦とは違い、薄気味の悪い色をしていた。

 

 

[この世と異なりし外世の神よ。汝は千変万化にして這いよる混沌!エクシーズ召喚!《外神ナイアルラ》!]

 

外神ナイアルラ ATK0

 

[クトグアが素材になったモンスターがエクシーズ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする]

 

 

 悪魔王の場に1体の悪魔が現れた。

 その姿は男のようであり、女のようであり、子供のようであり、老人のようである。

 見ている誰もが同じ姿には見えていない。

 僅かにでも視界から外れれば姿が変わっており、1度として同じ姿はないのだ。

 

 

[《外神ナイアルラ》でオーバーレイネットワークを再構築!]

 

 

 ナイアルラを包み込むように闇が纏わり付いていく。

 

 

[万物の王にして盲目と白痴の最高神よ。今、ここに現れ破壊の限りを尽くせ!ランクアップエクシーズ!《外神アザトート》!]

 

外神アザトート ATK2400

 

「ひっ……」

「な、なにあれ……」

「あんなのが神様なの?」

 

 

 闇が晴れて中から現れたのは黒き外神。

 その姿はテレビ越しのはずのヴィヴィオたちにも恐怖を与えるほどだった。

 

 

[アザトートがエクシーズ召喚に成功したターン、相手はモンスターの効果を発動できない!『狂気の雄叫び』!]

 

 

 アザトートが言葉にならない叫びをあげた瞬間、《カオス・ソルジャー》たちは途端に武器を振りかざして暴れ始めた。

 どうやら狂気に呑まれて冷静ではいられなくなったようだ。

 

 

[くっ……。だが、そいつの攻撃力は2400。それでどうやって《カオス・ソルジャー》たちを倒すんだ!]

[まぁ、慌てるな。1つ話をしよう]

 

 

 そう言って悪魔王は周囲を見渡す。

 見ると何人かが恐怖で震え、顔を青くさせていた。

 

 

[なに、簡単な例え話だ。気楽に聞くといい。デッキは見えない未来、手札は可能性と選択肢、場は結果で現在、墓地は過去。何が来るか分からない未来を引き、自らの可能性から道筋を選択する。その結果は現在に如実に現れ、過ぎた過去は積もっていく。デュエルとは人生を縮小したものだと俺は考えている]

 

 

 デッキ、手札、場、墓地を順番に指差しながら話をする。

 誰もが話に引き込まれ、悪魔王を見つめていた。

 そして何人かがふと気づく。

 それではエクストラデッキはなんなのだろうか、と。

 

 

[エクストラデッキはもう1つの未来]

「もう1つの……」

「「未来……?」」

 

 

 悪魔王の言葉にヴィヴィオたちはそろって首を傾げた。

 

 

[デッキが普通の未来であるならエクストラデッキは自身の外の未来だ。場や手札の組み合わせで起こりうるもう1つの未来。それがエクストラデッキ]

 

 

 アザトートを見ながら悪魔王は静かに話を続ける。

 

 

[これが俺のデッキへの考えだ。つまり、デュエリストとは互いの人生を賭けて戦っているんだ]

[お前の考えは分かった……。なら、見せてみろ!そのもう1つの未来を!]

 

 

 オーリは笑みを浮かべて応える。

 悪魔王がどのようにしてこの場を切り抜けるのか、どのようにして自身を倒すのか、ただそれだけを期待して。

 

 

[アザトートは融合、シンクロ、エクシーズのモンスターのオーバーレイユニットを持っているとき発動できるもう1つの効果がある!『(ラブ)(クラ)(フト)』!]

 

 

 アザトートから闇が吹き出し、オーリの場を埋め尽くしていく。

 そして闇が晴れると、オーリの場に存在していた全てのカードが破壊されていた。

 

 

[なにっ!?]

[アザトートは融合、シンクロ、エクシーズのモンスターをオーバーレイユニットにしているとき、オーバーレイユニットを1つ取り除いて相手の場のカードを全て破壊する!これで終わりだ!『(クト)(ゥル)()』!]

 

オーリ LIFE350-2400=-2050

 

 

 アザトートの放った闇がオーリの身体を撃ち抜き、残りのライフを削りきる。

 これにより悪魔王の勝利が決まった。

 

 

「やっぱり強かったねー」

「途中のモンスターは怖かったけどね……」

「私たちもあんな風に強くなれるかな?」

 

 

 悪魔王とオーリのデュエルが終わり、ヴィヴィオたちは互いに感想を言い合う。

 テレビでは悪魔王が土下座せんばかりの勢いで他の人たちに謝っていた。

 彼はデュエル中にテンションが上がって悪役のような台詞をよく言ってしまい、デュエル後には毎回謝罪をしているのだ。

 

 

「よーし、遊砂さんが帰ってきたらデュエルしよっと!」

「私もやろうかな!」

「私も私も!」

 

 

 そう言って彼女たちは遊砂の帰りを楽しみに待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 




今回のデュエルは【カオス・ソルジャー】と【竜剣EM】でした。

カオス・ソルジャーたちにジャストキルされかけて驚き急遽かかし先生を入れました。

まさかちょうどになるとは予想外でした。



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第5話

かなり遅れてすみません。

しかも今までで一番短い……。

禁止制限が変わりますが、あまり問題がなかったので結構うれしい作者がいます。


【心の闇、力に溺れた者】

 

 

 

 

「推理とモンゲが制限か……。左腕だけだとキツいし、雑貨商人か貪瓶を入れるかな?」

 

 

 客もおらず、掃除や準備も終えた午後。

 次のリミットレギュレーションを確認し、デッキの調整を行う。

 

(せめて準制限ならまだ回せるんだが……。いっそ別方向に変えてみるか……?)

 

 広がっているのは【インフェルノイド】のデッキ。

 このデッキには《名推理》と《モンスターゲート》が3枚ずつ入っているので入れ換えなければならないのだ。

 

 

「まぁ、ヴィヴィオのデッキよりはマシか……」

 

 

 ヴィヴィオのデッキは【EM】。

 禁止となったモンキーボードや制限になったドクロバット、ペンマジ、眼差し。

 かなりの弱体化はしていると思われる。

 

(あのデッキには何の痛手もなかったのは助かったと言えるか……)

 

 思い浮かべたのはかなり昔から使っているメインデッキの1つ。

 そのデッキは新禁止制限に対してなんの被害もなかったのだ。

 

 

「あ、遊砂。デッキの調整?」

「いらっしゃい。新しい禁止制限が分かったからな」

 

 

 ドアを開けて店に入ってきたのは金髪でスタイルのいい1人の女性。

 普段なら今はまだ仕事の時間のはずなのだが……

 

 

「今日は早いけど、どうしたんだ?」

「えっと、今日はあまり仕事がなくて早帰りになったんだ。それでなのはとヴィヴィオにお土産を買おうと思って」

 

 

 カードを片付けながら尋ねると、フェイトは少し照れたように答えた。

 

 

「なるほど。なら、ケーキか?一応、クッキーとかもあるが」

「うーん……。じゃあ、どっちも貰おうかな。ケーキはお任せにするよ」

「分かった。少し待っていてくれ」

 

 

 フェイトは少しだけ悩んだ様子を見せたがすぐに答えた。

 なお、店のケーキは全て同じ値段で提供しており、その安さも人気の1つと言える。

 

(そういえば、フェイトたちって婚期とか大丈夫なのか……?)

 

 ケーキとクッキーの準備をしながら俺はフェイトたちのことを考える。

 記憶に間違いがなければフェイトたちには1度も恋人がいなかったはずだ。

 正確な年齢は聞いたことがないが、おそらくは二十歳の半ば辺りなはず。

 一般的にはそろそろ結婚などを考え始めてもいい年齢だと思う。

 とはいっても結局のところは本人の意思次第なために俺が考える必要はないのだが。

 

 

「はい、おまちどおさま」

「うん、ありがとう。今晩の夕食のデザートに食べるね」

 

 

 ケーキとクッキーの入った箱を受け取り、フェイトは嬉しそうに微笑む。

 ファンクラブなんかもある理由がわかる気がするな。

 

 

「あ、そうだ。もうすぐ合宿に行くんだけど、遊砂もどうかな?ヴィヴィオたちも喜ぶと思うし」

「合宿?……ああ、あれか」

 

 

 思い出すのは前回の合宿。

 前回は八神家が大暴れして凄まじい合宿になったのだ。

 まぁ、それを差し引いても回りが自然に囲まれていて気分転換になったりはするのだが。

 

 

「そうだな。今回も参加するよ」

「うん、分かった。なのはたちには私から伝えておくね。詳しい日時はあとで送っておくから」

 

 

 そう言ってフェイトは店から出ていった。

 

(トクミチにバイトが休みになることを伝えないとな)

 

 俺が考える合宿に参加するのならば当然店は休みになる。

 合宿は数日はかかるので、その間を全てトクミチだけに店を任せるわけにはいかないからだ。

 

 

「……そういえば、ナンバーズのニュースとかが少ないな。こいつらの感覚からして心の闇を増幅させるタイプなのは確かなんだが」

 

 

 不意に思い出したのは飛び散っていったカードたち。

 その内の3枚が俺の手元に飛んできたのだ。

 そして3枚のうち2枚はあの時のデュエルで男が使っていた《No.46(しん)(えい)(りゅう)ドラッグルーオン》と《No.38希望(きぼう)(かい)(りゅう)タイタニック・ギャラクシー》だった。

 

 

「ちっ……。また騒いでやがる」

 

 

 あまりのカード入れから放たれる魔力に舌打ちをし、2枚のナンバーズを取り出す。

 こうやってこいつらは力の誘惑を行ってくるのだ。

 とは言っても、この程度であれば全くと言って良いほど効かないのだが。

 

(幻神とかの方がプレッシャーとかを()()感じるからなぁ……)

 

 昔の友人たちが持っていたカードを思い出しながら、ナンバーズを掴み魔力で押さえ込んでいく。

 不意に店のドアを開けて1人の男が入ってきた。

 

 

「いらっしゃいませ」

「金をだせ!」

 

 

 銃を構えながら男は叫ぶ。

 

(なんというか如何にもな強盗だ……)

 

 逆に珍しく感じながら俺は男の姿を観察していく。

 髪は乱雑に纏められており、髭は剃られていない。

 さらには服装も体型が分かりにくいだぼついた服で、サングラスをかけていた。

 そして一番重要だと思えるのは、両手の甲に描かれている35と84の数字。

 

 

「数字の部分から感じ取れる魔力がこれらと同じってことは……ナンバーズか」

 

 

 俺の呟きが聞こえたのか男は俺へ、正確には俺の手元にある2枚のナンバーズへと視線を向けた。

 

 

「ナンバーズ……。ナンバーズだな?ナンバーズだろ!?そいつをよこせぇぇえええ!!」

「力に溺れてんのかよ……」

 

 

 男は叫びながらデュエルディスクを展開する。

 どうやら殴りあって奪うといったことはしないらしい。

 まぁ、それならそれで助かるから良いのだが。

 男の使うナンバーズが何かは分からないが、油断をしてはいけないだろう。

 デュエルディスクを展開して男の前に移動する。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエル開始の宣言と共に先攻後攻が決まる。

 先攻は俺からだ。

 

 

「俺の先攻。俺はカードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

遊砂 LIFE8000

セットカード2

手札3

 

 

 特に展開することもなく男へとターンが回る。

 男のデッキが分からないうちから動く意味も薄いと思ったからだ。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 デッキからカードを引き抜き、手札に加える。

 すぐに男のデッキがどんなものか分かると思ってはいないが、気を付けておいて損はないはずだ。

 

 

「俺は《ジャイアント・オーク》を召喚!」

 

ジャイアント・オーク ATK2200

 

 

 男の場に現れたのは骨でできたこん棒を手にした巨体の悪魔。

 ステータスも守備力は0で、見事な脳筋モンスターだ。

 

 

「《ジャイアント・オーク》で攻撃!」

「《くず鉄のかかし》を発動。攻撃を無効にしてセットする」

 

 

 鉄で作られたかかしが現れ、《ジャイアント・オーク》の攻撃を防ぐ。

 

 

「攻撃を無効にされたことによって《ジャイアント・オーク》は攻撃表示のままだ!俺はこれでターンエンド!」

 

男 LIFE8000

ジャイアント・オーク ATK2200

手札5

 

 

 男が使ったカードは《ジャイアント・オーク》のみ。

 これだけではどんなデッキなのか全く分からないままだ。

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 

 デッキからカードを引き抜き、手札のカードを見る。

 とりあえずは今は動けるだけ動いておくべきだろう。

 

 

「《天帝従騎イデア》を召喚し、効果でデッキから《冥帝従騎エイドス》を守備表示で特殊召喚!」

 

天帝従騎イデア ATK800

冥帝従騎エイドス DEF1000

 

 

 現れたのは帝モンスターに従う騎士たち。

 これらのモンスターの特徴は、効果を使用するとエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できないということと、それぞれがアドバンス召喚に関係する効果を持っていることだろう。

 

 

「エイドスの効果で俺は通常召喚に加えてもう一度だけアドバンス召喚をすることができる。《冥界の宝札》を発動。イデアとエイドスをリリースして《可変機獣ガンナードラゴン》をアドバンス召喚!」

 

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800

 

 

 キャタピラ音を鳴らしながら機械の体を持った竜が俺の場に現れる。

 

 

「《冥界の宝札》の効果でデッキから2枚ドロー。ガンナードラゴンで《ジャイアント・オーク》を攻撃!『メタルバースト』!」

 

×ATK2200VSATK2800○

 

「くっ……」

 

男 LIFE8000-600=7400

 

 

 ガンナードラゴンの放った砲撃は、《ジャイアント・オーク》を飲み込み破壊した。

 

 

「俺はこれでターンエンド」

 

遊砂 LIFE8000

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800

冥界の宝札

セットカード2(くず鉄のかかし)

手札3

 

 

 手札の内容はやや微妙だが仕方がないか。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 これで男の手札は6枚。

 どんなデッキかは分からないが警戒するに越したことはない。

 

 

「俺の場にモンスターがいないため、《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚!」

 

フォトン・スラッシャー ATK2100

 

「墓地のモンスターを全てデッキに戻して、《究極封印神エクゾディオス》を特殊召喚!」

 

究極封印神エクゾディオス ATK0

 

「そして《ゴブリン突撃部隊》を召喚!」

 

ゴブリン突撃部隊 ATK2300

 

 

 男の場にモンスターが続けて召喚されていく。

 だが、どのモンスターの攻撃力もガンナードラゴンよりは下だ。

 

 

「《ギャラクシー・クイーンズ・ライト》をエクゾディオスを選択して発動!俺の場の全てのモンスターのレベルはエクゾディオスと同じ10になる!」

 

フォトン・スラッシャー ATK2100 ☆4→10

ゴブリン突撃部隊 ATK2300 ☆4→10

 

 

 男の場に同じレベルのモンスターが複数体。

 ランクは……10だ。

 

 

「《フォトン・スラッシャー》とエクゾディオスでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 《フォトン・スラッシャー》とエクゾディオスが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「全てを撃ち抜き破壊し尽くせ!エクシーズ召喚!《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!」

 

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000

 

「げっ……。罠カード発動、《帝王の溶撃》!アドバンス召喚したモンスター以外の場の表側表示モンスターの効果は無効になる!」

 

 

 グスタフ・マックスの出現に俺は慌ててセットしていたカードを発動する。

 グスタフ・マックスの効果は2000のバーン。

 シンプルであるからこそ強力だ。

 

 

「ちぃっ……。俺はこれでターンエンドだ」

 

男 LIFE7400

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000

ゴブリン突撃部隊 ATK2300

手札2

 

 

 どうやら《くず鉄のかかし》があるために攻撃しても意味がないことが分かるらしい。

 

 

「俺のターン、ドロー。あ……」

 

 

 引き抜いたカードを見て俺は軽く気が抜けてしまった。

 

(《帝王の溶撃》でモンスター効果はほぼ無効。加えてこいつを出したらなぁ……)

 

 なぜなら相手にとって最悪の組み合わせなコンボが出来上がるモンスターを引いてしまったのだ。

 とは言え、こいつはこいつで召喚したら相手を殺してしまう可能性があるので召喚できないのだが。

 

 

「墓地のエイドスの効果を発動。エイドスを除外して墓地のイデアを守備表示で特殊召喚。さらにイデアの効果でデッキからエイドスを守備表示で特殊召喚」

 

天帝従騎イデア DEF1000

冥帝従騎エイドス DEF1000

 

「そしてイデアとエイドスをリリースして、《怨邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」

 

怨邪帝ガイウス ATK2800

 

 

 ガイウスが更なる力を得て進化した姿が俺の場に現れる。

 見た目だけでなくその効果もパワーアップしている。

 

 

「《冥界の宝札》の効果でデッキから2枚ドロー。そしてガイウスの効果でグスタフ・マックスを除外し、1000のダメージを与える。さらに、ガイウスが闇属性のモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功したため、この効果の対象を2枚にできる!もう1枚は《ゴブリン突撃部隊》だ!」

 

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス→除外

ゴブリン突撃部隊→除外

 

「なにっ!?」

 

男 LIFE7400-1000=6400

 

「ガンナードラゴンとガイウスでダイレクトアタック!」

 

 

 ガンナードラゴンとガイウスの攻撃力の合計は5600。

 通ればかなりのダメージになる。

 しかし、鐘の音が鳴り響き攻撃が止まった。

 

 

「手札から《バトルフェーダー》を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

バトルフェーダー DEF0

 

「止められたか。俺はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

遊砂 LIFE8000

可変機獣ガンナードラゴン ATK2800

怨邪帝ガイウス ATK2800

冥界の宝札

帝王の溶撃

セットカード2(くず鉄のかかし)

手札4

 

 

 未だライフは減っておらず、手札も安定している。

 このデッキにおいては理想的な動きが出来ていると言えるだろう。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 男の場には《バトルフェーダー》が1体。

 正直な話、この状況から男が逆転するのはかなり難しいだろう。

 と言うよりも、場の状況からして完全に俺の方が悪役のような状態になっていた。

 

 

「墓地のモンスターを全てデッキに戻してエクゾディオスをもう一度特殊召喚!」

 

究極封印神エクゾディオス ATK0

 

「そして《星に願いを》を発動し、《バトルフェーダー》のレベルをエクゾディオスと同じ10に!」

 

バトルフェーダー DEF0 ☆1→10

 

「《バトルフェーダー》とエクゾディオスでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 《バトルフェーダー》とエクゾディオスが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

「もう一度現れろ!《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!」

 

超弩級砲塔列車グスタフ・マックス ATK3000

 

「罠カード発動、《奈落の落とし穴》。グスタフ・マックスを破壊して除外だ」

 

 

 ふたたび現れる巨大な砲身を持った列車。

 しかし現れたのも数秒のみ、すぐさま巨大な穴に飲み込まれて落ちていった。

 

 

「俺は……これでターンエンド……」

 

男 LIFE6400

手札0

 

 

 男の手札もなくなり、場にもなにも残っていない。

 もはや哀れとしか言えないだろう。

 

 

「俺のターン、ドロー。あー……」

 

 

 引いたのはまたしても召喚してはいけないカード。

 これでこのデッキの中のあまり召喚できないカード3枚が全て手札に揃ったことになる。

 ちなみに2枚目はガイウスを召喚したときの《冥界の宝札》で手札に来た。

 

 

「墓地のエイドスの効果を発動。エイドスを除外して墓地のイデアを守備表示で特殊召喚。さらにイデアの効果でデッキから最後のエイドスを守備表示で特殊召喚」

 

天帝従騎イデア DEF1000

冥帝従騎エイドス DEF1000

 

「そしてイデアとエイドスをリリースして、《神獣王バルバロス》をアドバンス召喚!」

 

神獣王バルバロス ATK3000

 

 

 獅子の半身を持ち、槍と盾を装備した獣戦士が俺の場に現れる。

 

 

「《冥界の宝札》の効果でデッキから2枚ドロー。ガンナードラゴン、ガイウス、バルバロスでダイレクトアタックだ」

「くそぉぉぉおおおおっっ!!」

 

男 LIFE6400-2800-2800-3000=-2200

 

 

 男のライフがなくなった途端、男は崩れ落ちるように意識を失った。

 ナンバーズが一切出てこなかったが、これで良かったのだろうか。

 

 

「……出てなくても勝者に渡るのか」

 

 

 男のデッキから抜けて目の前に飛んできた2枚のナンバーズ、《No.35 ラベノス・タランチュラ》と《No.84 ペイン・ゲイナー》を見ながら呟く。

 効果を見るかぎりどちらもステータス強化とバーン、さらに破壊効果を持っているようだ。

 使いこなせれば結構強いかもしれないな。

 まぁ、ランクが高いから俺はあまり使わないだろうが。

 

 

「それにしても……。いったい何枚あるんだ?」

 

 

 ナンバーズと言うだけあって、それぞれ数字が割り振られているのは確かだろう。

 しかし、その最大の数字はいくつなのか。

 それが全く分からない。

 一応、ペイン・ゲイナーが84ということから少なくとも84枚はあることが分かるが。

 

 

「管理局に連絡……はしない方がいいかもな。一般人には荷が重すぎる」

 

 

 ナンバーズを回収しようとして力に溺れてしまうのが関の山だろう。

 それならば連絡はしないで独自に集めた方がまだ被害は少なく済むはずだ。

 とはいってもナンバーズ絡みの事件も起きているはずなので、管理局が関わってくるのも時間の問題とも言えるが。

 

 

「ま、ナンバーズ同士は引き寄せ合うみたいだからなんとかなるだろ。ケーキとクッキーを追加しておかないとな」

 

 

 倒れている男をそのままに俺はメニューの補充を始める。

 できれば、今回の強盗のような迷惑なナンバーズの持ち主が現れないことを願いながら。

 

 

 

 

 




モンキーボードとラヴァチェが幽閉されて環境がまた変わりますね。

まぁ、私はデッキに入れてないので関係ないんですが。

最近、新しくインフェルニティとアモルファージを構築してます。

個人的にはぜんぜん満足には程遠い出来ですね。

アモルファージは地味に厄介な出来になりました。

それでは。


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第6話

遅くなりました。

今回はデュエルなしな上短いです。

4月中に書き上げたかったなぁ……

方界デッキがけっこう面白い。

DD方界とかHERO方界とか。

他に作っている人いるかなぁ……?


【色々な客、何でもない日】

 

 

 

 

 デュエル喫茶〝遊戯屋〟。

 この喫茶店はデュエルのできる喫茶店と言うだけあって〝デュエルモンスターズ〟をやっている者が多く集まる。

 しかし、〝デュエルモンスターズ〟をやっている者だけしか来ないわけではない。

 今日はそんな〝デュエルモンスターズ〟にあまり関わりのない1日だ。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 現在の時刻は午前8時。

 少しばかり遅めのモーニングを食べに来る客が来たりする時間帯である。

 

 

「いつものモーニングセットを」

「分かりました。少々お待ちください」

 

 

 客からの注文を受け、遊砂はキッチンへと向かっていく。

 ちなみに〝遊戯屋〟のモーニングセットにはいくつか種類がある。

 トーストとゆで玉子、コーヒーのAセット。

 トーストとサラダにコーンスープか野菜スープのBセット。

 ご飯に日替わりのおかずと味噌汁のCセット。

 この3つが〝遊戯屋〟でのモーニングセットの種類だ。

 ちなみにこのセットに加えて単品で頼むことも可能なため組み合わせは自由である。

 

 

「お待たせしました。それではごゆっくり」

 

 

 用意してきたモーニングセットを客の前に置くと、遊砂は他のテーブルの片付けを始める。

 〝遊戯屋〟の開店時間と同時に来店した客の食器などを片付けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コンニチハー!ティータイムに来ましたヨー!」

「ね、姉さま。あまり大きい声を出しては他のお客様に迷惑が……」

「こんにちは、遊砂君」

「相変わらずいい雰囲気の店ですね」

 

 

 時刻は2時半を過ぎた頃。

 どこか片言な発音の女性を先頭にして4人の女性たちが来店した。

 彼女たちはディアモンド家の4姉妹で近所では美人姉妹として有名である。

 なお、上から長女のダイヤ、次女のヒイエ、三女のルナハ、四女のキリマでとても仲の良い姉妹だ。

 

 

「ヘーイ、テンチョー!紅茶をお願いしマース!」

「いつもいつもテンション高いな……。他の3人もいつものやつかな?」

「はい。姉さまと同じものを」

「あ、ルナハたちも今日は姉さまたちと同じ紅茶でお願いします」

「たまには姉さま方の飲んでいるものも飲みたいですからね」

 

 

 ダイヤのテンションの高さにやや呆れたような表情を浮かべるも、よく頼んでいるメニューを覚えている辺り遊砂も彼女たちを疎ましく思っているわけではないのだろう。

 余計な情報だが、この4姉妹の姿を見るためだけにこの喫茶店に来ている客もいたりする。

 

 

「テンチョーも一緒にティータイムしませんカー?」

「良いですね。さ、遊砂もこちらへ!」

「いやいやいや、仕事中だから」

「でも、確か前にこの時間帯は客が少なくなるって遊砂君言っていましたよね」

「見たところ今は他にお客さんもいませんので大丈夫なのでは?」

 

 

 ダイヤの誘いを断るも更に妹たちの言葉が続き、断ることが難しくなっていく。

 これには流石に参加するしかないのかと遊砂が諦めかけた時、店のドアが音を立てて開いた。

 

 

「こんちはー、今日の講義が終わったから遊びに来たよー」

「おー、いらっしゃい。客が来たからお茶はまた今度な」

 

 

 入ってきたのは髪の長い大学生の女性。

 彼女もまた〝遊戯屋〟の常連の1人であり、ベルズーヤ・サイジヨウだ。

 ベルズーヤも4姉妹であるのだが、ディアモンド4姉妹のように4人で行動すると言うことはあまりない。

 

 

「いやー、ハゲの講義は退屈で辛かったわー」

「大学なんてそんなもんなんじゃないのか?」

「そーなんだけどねー」

 

 

 テーブルの上にくたっと 倒れ込みながらベルズーヤは愚痴をこぼす。

 と、不意にベルズーヤは身体を起こして遊砂の方を向いた。

 

 

「ねーねー、遊砂ー。今度の休みにどっかに遊び行かない?パーっと遊びたいんだー」

「ホワッツ!?テンチョーと2人きりで遊ぶつもりデスカー!?」

 

 

 ベルズーヤの言葉にダイヤが反応し立ち上がる。

 そんなダイヤの姿を見てベルズーヤは笑みを浮かべた。

 

 

「はいはい、ダイヤはあまり騒がないようにな。それと、ベルズーヤは俺で練習してないでちゃんとトクミチに言えるようになれ」

「う……。ハイ……」

「ブフゥッ!?……ナ、ナンノコトヤラ?」

 

 

 遊砂の言葉にダイヤはしょんぼりとしながら席に着き、ベルズーヤは思いきり吹き出してから露骨に視線を反らす。

 その姿から誰がどう見ても図星を突かれたことが分かるだろう。

 

 

「いつもトクミチがいる日に来ているうえにずっと目で追っているんだ。この店で分かっていない奴はほとんどいないぞ」

「なっ……。マジで!?」

 

 

 続けて聞かされた暴露にベルズーヤは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

 耳が真っ赤に染まっていることから、羞恥で顔をあげられないのだ。

 

 

「ま、アイツは良い奴だから頑張りな。応援はしてやるさ」

「う、うぐぐ……。年下の癖にぃ……」

 

 

 テーブルの上にコーヒーを置いて遊砂はキッチンへと向かっていく。

 その後ろ姿をベルズーヤは悔しげに見ていた。

 

 

「……ねえ、ルナハ。遊砂って本当に年下なのかな?」

「どう言うことですか?」

「いや、いくらなんでも落ち着きすぎなんじゃないかなーって」

「それは確かに私も感じていました。彼は明らかに同年代の子達よりも落ち着いていますからね」

「キリマもですか?ルナハあまり気になっていなかったのですが……」

 

 

 遊砂とベルズーヤのやりとりを見ていたヒイエは妹たちに不思議そうに話しかける。

 ヒイエの問いにルナハは首をかしげ、キリマは同意するように頷いた。

 

 

「だって、普通あのくらいの年頃なら女性に誘われたら喜んで出掛けるんじゃないかな?なのに遊砂は冷静に対応していたからさ」

「と、言われてもルナハたちも基本的に女子校だったので異性の反応なんて分かりませんよ?」

「それはまぁ、母さまが女子校に行くことを決めたから私たち全員に言えますけど……」

 

 

 キリマの言葉に3人はやや落ち込んだように顔を伏せる。

 キリマが言ったように彼女たち4姉妹は男性にほとんど関わりがなく、遊砂と出会ったことも偶然なのだ。

 故に異性の反応なんてものも漫画や小説などからの情報くらいしかない。

 ちなみに彼女たちは基本的には昼間に来るため学校が終わってからバイトに来るトクミチとはほとんど面識がない。

 

 

「う~ん……。私たちだけでは分かりませんね」

「Oh、ならテンチョーに直接聞いてしまえば良いんじゃないデスカー?」

「いえ、それでは誤魔化されてしまうかもしれません」

「どうしましょうか?」

 

 

 ダイヤの提案にキリマは首を振り否定する。

 良い案は浮かばず4姉妹は腕を組みながら頭を悩ませていた。

 

 

「あ、そういえば姉さま。そろそろショッピングに行くじかんでは?」

「そーでしタ!シスターたち、行きますヨー!」

「は、はい!ルナハは大丈夫です!」

「備えあれば憂いなし。既に代金は準備完了です」

「ナイスですヨー!」

 

 

 ヒイエが時計を見ながらダイヤに訊ねると、ダイヤは勢いよく立ち上がり妹たちに準備を促す。

 どうやら疑問はまた次に考えることにしたらしい。

 

 

「それでは、テンチョー。また来るネー!」

「ごちそうさまでした!」

「お騒がせしました。失礼しますね」

「うん、計算通りの代金でしたね。では」

 

 

 嵐が去ったとはまさにこの事なのだろう。

 そんな思いが遊砂の中にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー」

「ああ、来たか。それじゃバイトよろしく」

 

 

 既に学校が終わったのかトクミチがバイトに〝遊戯屋〟に来た。

 なお、ベルズーヤは帰っておらず、トクミチのことをチラチラと見ている。

 

 

「そろそろ帰宅前の学生が増えてくるからな。油断はするなよ」

「分かってるよ。店長、食材の貯蔵は充分か?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

 どことなく不安になってくるやりとりをしながら遊砂とトクミチは客の来る準備をしていく。

 そして飲食店で言うところの戦争が始まる。

 

 

「4番、オムライスとオレンジジュースを持っていってくれ!8番を片付けてお客の案内だ!」

「3番の注文はケーキと紅茶、6番でコーヒーのおかわりだ!」

 

 

 次々と来る注文に2人は忙しなく動き回り、客をさばいていく。

 この盛況ぶりは最近になってのことで、トクミチがいなければかなり厳しいものになっていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、終わった……」

「食材もけっこう減ったな……」

 

 

 カウンターの席に2人して座りながら休憩をする。

 既に客の来るピークの時間帯も過ぎ、店内にいる客の姿も少ない。

 

 

「そういえば、今日はあの3人は来なかったな」

「あの3人?ああ、ヴィヴィオたちのことか。テストの期間だからな勉強しているんだろ」

「うへぇ、小さいのに真面目だよなぁ……」

 

 

 勉強という言葉を聞いた瞬間、トクミチは嫌そうに顔を歪める。

 彼はあまり勉強が得意ではないためそう言った話は好きではないのだ。

 

 

「今回は合宿に行けるかどうかもかかっているらしいから頑張っているんだろうさ」

「ああ、店長も参加するんだっけ」

「まぁ、本格的な訓練には参加せずに自然を楽しむさ。ほれ、賄い飯」

 

 

 いつの間にかトクミチの前に出来立ての料理が置かれている。

 どうやら最後に残っていた食材の中から軽く作ったらしい。

 

 

「助かる。うん、旨い」

「独り暮らしだと食費とかも大変だもんな。と、もうすぐ上がる時間だな。食い終わったら帰って良いぞ」

「分かった」

 

 

 時計を見て時間を確認し遊砂はトクミチに言う。

 確かに時刻は午後8時。

 この時間になればほとんど客は来ないだろう。

 そして賄い飯を食べ終え、トクミチは帰っていった。

 

 

「さてと、もう客もほとんど来ないし、残りもほとんど掃除を軽くやるくらいしかない。さっさと終わらせてしまうか」

 

 

 そう呟いて遊砂は店内の掃除を始めた。

 これが〝遊戯屋〟の〝デュエルモンスターズ〟にあまり関わらない日の1日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読了ありがとうございます。

一応、今月中にもう1つあげるつもりですので待っていてもらえると嬉しいです。

それでは。


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第7話


ギリギリの投稿!

少々デュエルで効果処理に違和感を感じるかもしれませんが演出としてご了承ください。

それではどうぞ。


【彼方の世界、主を求める者】

 

 

 

 

「あと必要なものは……。リンゴとオレンジか」

 

 

 買い物袋の中を確認しながら俺は呟いた。

 今、俺は店の食材が少なくなってきたので買い出しに出ているのだ。

 

(ちょうど安売りがあって助かった。抑えられるところは抑えておいて損はないからな)

 

 出費を抑えるのは基本中の基本。

 まぁ、それでも質を落とす気はないけど。

 

 

「なんだっ!?」

 

 

 一歩を踏み出した瞬間、周囲の景色から色が消えて白と黒の世界に豹変した。

 突然の周囲の変化に驚き、買い物袋を落としかけるがあわてて持ち直す。

 

 

「これは……。違う空間なのか?」

 

 

 周囲を見渡し考えを口に出す。

 少し冷静になって周りを見ると、他の人が一人もいないことに気がついた。

 

 

「naんジ、WAレらのアルじniなりエRUもノka……?」

「お前が俺を呼んだわけか」

 

 

 聞き取りにくい言葉と共に現れたのは卵のような形をして中心に単眼の着いた生き物。

 どのようにして発音しているのかは分からないが、俺を呼んだ張本人で間違いないだろう。

 

 

「ワreら、あRUJIヲもとmeル。なnジのtiからヲみせヨ……」

「言葉は分かりにくいが、簡単に言えばデュエルしろってことか?」

 

 

 聞き取りにくい言葉を発しながら卵のような生き物は背後に巨大な石板を出現させた。

 石板にはデュエルモンスターズのカードの裏側と同じ模様が描かれているため、この石板があちらのデッキなのだろう。

 

(どんなデッキかは分からないが油断はできないな。最悪の事態も考えるとアイツらが入っているデッキを使った方が良いか……)

 

 思い浮かべるのは先日のデュエルで召喚することのなかったモンスターたち。

 あの3体のモンスターたちであれば最終手段として強行突破で脱出もできるだろうからな。

 買い物袋を近くにあった椅子に置き、デュエルディスクを構える。

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエル開始の宣言と共に先攻後攻が決まる。

 先攻はどうやら卵のようだ。

 

 

「わレraのセンKOう。ワreらHA、moンすターとカーdoヲせっtoシテたーンenど」

 

卵 LIFE 8000

セットモンスター1

セットカード1

手札3

 

 

 カードを伏せるだけで何も発動しない。

 あまりにもシンプルでどんなデッキなのかはまだ分からないな。

 

 

「俺のターン、ドロー……って、おい」

 

 

 手札を確認し、俺は頭をかかえた。

 何故なら初手から()()3枚が揃っていたからだ。

 

(確かに召喚するつもりはあった。だが、初手に来られても困るわ!)

 

 幸いにして残りの3枚で展開の補助ができるだけまだマシだろう。

 

 

「俺は《冥界の宝札》を発動。そして《天帝従騎イデア》を召喚し、効果でデッキから《冥帝従騎エイドス》を特殊召喚!」

 

天帝従騎イデア ATK800

冥帝従騎エイドス DEF1000

 

 

 現れたのはもはや定番とも言える2体の従騎。

 この2体がいるだけで動きやすさは格段に変わっているだろう。

 

 

「エイドスが召喚、特殊召喚に成功した場合、俺は通常召喚に加えて1度だけアドバンス召喚ができる。イデアとエイドスをリリースし、《The supremacy SUN》をアドバンス召喚!」

 

The supremacy SUN ATK3000

 

 

 呼び出すのは太陽の名を冠したモンスター。

 

 

「《冥界の宝札》の効果で2枚ドロー。SUNでセットモンスターに攻撃!『ソーラーフレア』!」

 

 

 SUNの攻撃を受け、セットされていたモンスターがその姿を現す。

 

セットモンスター→方界胤ヴィジャム DEF0

 

 現れたのは卵のような形をしたモンスター。

 その姿は対戦相手であるそれと全く同じ姿だった。

 

 

「KOノもんスTAーハせんとUではハカいSAレない。サらにコのmoんスたーをエイゾKUまほウとしteオモテGAわヒョうJIでおき、アイteモnスたーにカウンTAーを1つオく。かうンターのnoっタもんスたーha、KOうgeキできズ、こうKAモむコウtoなる」

 

The supremacy SUN ATK3000 方界カウンター1

 

 

 ヴィジャムはSUNの攻撃を耐えきると、霧のようなものを吐き出しながらその姿を消していった。

 

 

「くっ……。俺はこれでターンエンドだ」

 

遊砂 LIFE8000

The supremacy SUN ATK3000

冥界の宝札

手札5

 

 

 攻撃を防がれさらには行動まで封じられる。

 少しばかり不利な状況かもしれない。

 手札が5枚あるとはいえどうなるかはまだ分からないだろう。

 

 

「われラnoターン、どろー。wareらはeイぞくマホuとなッてiruこのmonスターをヨビmodoす」

 

方界胤ヴィジャム DEF0

 

 

 先程の吐き出された霧が集まり、再びモンスターが姿を現す。

 

 

「ワレらHAてふダの〝方界〟woさんシュruiみせ、もんsuたーヲよびdaす!」

 

方界波動→公開

方界合神→公開

方界超獣バスター・ガンダイル→公開

 

「砕けることなき闇は1つとなり、新たな世界を作り出す。光も射さぬ暗闇の中、新たな神が誕生する!現れろ、《暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ》!」

 

暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000

 

 

 現れたのは箱のような身体を持ち、刃物の腕を持ったモンスター。

 さらに対戦相手である卵の姿も同じような姿になり、言葉が聞き取りやすくなった。

 

 

「《方界波動》を発動し、クリムゾン・ノヴァの攻撃力を倍にしてSUNの攻撃力を半分にする!」

 

暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000→6000

The supremacy SUN ATK3000→1500

 

「クリムゾン・ノヴァでSUNを攻撃!『滅びの闇』!」

 

×ATK1500VSATK6000○

 

 

 SUNを取り囲むように正方形の闇が現れ、徐々にSUNを埋め尽くしていく。

 そして闇が晴れるとそこにSUNの姿はなかった。

 

 

「ぐぅぅううう……!?」

 

遊砂LIFE8000-4500=3500

 

 

 ライフが減るのと同時に全身から力が抜けていくような感覚を受け思わず呻き声をあげる。

 今の感覚はまさか……

 

 

「クリムゾン・ノヴァがモンスターを破壊した時、もう1度だけ攻撃できる。やれ!」

「なに!?」

 

 

 身体に起きた感覚に少しばかり気を取られていると相手がいつの間にか連続攻撃を宣言していた。

 俺の周囲を再び正方形の闇が現れ取り囲んでいく。

 

 

「この程度か……。我等の主となり得る者よ……。そなたはいったい何処に……」

 

 

 悲しげな声を出し、相手は背を向ける。

 どうやら俺が負けたと思っているらしい。

 

 なるほど―――――

 

 

 

――――――な め て ん じ ゃ ね え ぞ ?

 

 

「ッ!?」

「俺は手札から《バトルフェーダー》を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する」

 

バトルフェーダー DEF0

 

 

 鐘の音を鳴らしながら小さな悪魔が俺の目の前に現れ、攻撃をかき消していく。

 

 

「くっ……。我等はカードを1枚セットしターンエンドだ。エンドフェイズ、クリムゾン・ノヴァの効果で互いに3000のダメージを受ける。『逃れられぬ痛み』」

「ちぃっ……」

 

卵LIFE8000-3000=5000

遊砂LIFE3500-3000=500

 

卵 LIFE5000

方界胤ヴィジャム DEF0

暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000

セットカード2(方界合神)

手札1

 

 

 ターンエンドを宣言した瞬間、クリムゾン・ノヴァから闇が吹き出し俺と相手を貫く。

 それと同時に先程の感覚が襲ってくるが既に気にならない。

 

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、手札を1枚捨てて墓地のSUNを蘇生する!」

 

The supremacy SUN ATK3000

 

「そしてSUNのレベルを1つ下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚!」

 

レベル・スティーラー ATK600

 

「2枚目の《冥界の宝札》を発動し、《バトルフェーダー》《The supremacy SUN》《レベル・スティーラー》の3体を()()()()捧げる!」

 

 

 SUNが黒い光を放ち《バトルフェーダー》と《レベル・スティーラー》を飲み込んでいく。

 このカードを呼び出すのであればリリースよりも生け贄の方が適切だろう。

 

 

「逃れること叶わぬ根幹の思想。恐れ、怯え、震えるがいい!現れろ!《邪神ドレッド・ルート》!」

 

邪神ドレッド・ルート ATK4000

 

 

 黒き光を突き破り現れたのは巨大な身体を持ち、凄まじい威圧を放つモンスター。

 否、その姿はもはやモンスターと呼べるレベルを超えている。

 これこそがこのデッキに眠る3柱の切り札の1柱、ドレッド・ルート。

 

 

「《冥界の宝札》の効果で4枚ドロー。《おろかな埋葬》を発動し2枚目の《レベル・スティーラー》を墓地に、チェーンして《帝王の烈旋》を発動、さらにチェーンして《サモンチェーン》を発動。これで俺はこのターン、3回の通常召喚権を得る」

 

 

 2枚の《冥界の宝札》によって一気に手札の枚数が増えていく。

 だが、まだ止まらない。

 

 

「ドレッド・ルートのレベルを2つ下げ、《レベル・スティーラー》を2体特殊召喚する」

 

レベル・スティーラーA ATK600

レベル・スティーラーB ATK600

 

「そして2体の《レベル・スティーラー》と、お前の場のヴィジャムを生け贄に捧げる!」

 

 

 ヴィジャムに闇が纏わりつき、《レベル・スティーラー》たちを飲み込んでいく。

 続けて呼び出すのは次なる1柱。

 

 

「汝は全てを飲み込み消し去るもの。崩れよ、滅びよ、消えるがいい!現れろ!《邪神イレイザー》!」

 

邪神イレイザー ATK?→3000

 

 

 ドレッド・ルートに続くように威圧をしながら現れたのは長い体躯を持った竜のような邪神。

 

 

「《冥界の宝札》で4枚ドロー。3枚目の《冥界の宝札》を発動。そして、イレイザーのレベルを2つ下げて《レベル・スティーラー》を2体特殊召喚」

 

レベル・スティーラーA ATK600

レベル・スティーラーB ATK600

 

 

 過労死とも言えるレベルで何度も現れるてんとう虫。

 ややボロボロに見えるのは気のせいではないと思う。

 

 

「手札を1枚捨てて《THE トリッキー》を特殊召喚」

 

THE トリッキー ATK2000

 

 

 現れたのは顔に?マークを着けた奇術師。

 そしてまた、3体の生け贄が揃った。

 

 

「2体の《レベル・スティーラー》とトリッキーを生け贄に捧げる!」

 

 

 トリッキーが指を鳴らし、空間へと亀裂が走る。

 直後、亀裂から闇が吹き出し、トリッキーと《レベル・スティーラー》を飲み込んでいった。

 

 

「太陽を喰らいし闇の神よ。仮初めの姿を用いて世界を闇に落とせ!現れろ!《邪神アバター》!」

 

邪神アバター ATK?→4100

 

 

 闇の中から現れたのは漆黒の太陽と言えるもの。

 これが最後にして最強の1柱、アバター。

 

 

「《冥界の宝札》の効果で6枚ドロー。ドレッド・ルートが存在しているとき、場の他のモンスターの攻撃力と守備力は半分となる。が、アバターの攻撃力と守備力は場の最も高い攻撃力に100を追加した数値なために変化はない」

 

暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000→1500

邪神イレイザー ATK3000→1500

邪神アバター ATK4100→4100

 

「イレイザーの攻撃力と守備力は相手の場のカードの枚数×1000になるため3000になり、半分になる」

 

 

 正しくはドレッド・ルートを先に召喚したからアバターの攻撃力が下がらないのだが気にしなくてもいいだろう。

 

 

「そして、アバターが召喚に成功した場合、相手は相手ターンで数えて2ターンの間、魔法、罠を発動できない」

「なっ!?」

 

 

 手札の枚数は8枚に増え、相手は魔法、罠を発動することは出来ず、モンスターの攻撃力は半分になる。

 僅か1ターンで起きたことである。

 

 

「ドレッド・ルートでクリムゾン・ノヴァを攻撃!『フィアーズノックダウン』!」

 

○ATK4000VSATK1500×

 

 

 ドレッド・ルートが大きく拳を振るい、クリムゾン・ノヴァを殴り飛ばす。

 

 

卵LIFE5000-2500=2500

 

「これで終わりだ。イレイザー、アバターでダイレクトアタック!『ダイジェスティブ・ブレス』!『ダークネス・デモリクション』!」

「ぐぁぁあああっっ!?」

 

卵LIFE2500-1500-4100=-3100

 

 

 イレイザーとアバターの攻撃を受け、相手のライフが0になる。

 これでもう終わりだろう。

 

 

「おい、満足したか」

「汝……否、あなた様を我等が主として忠誠を誓います。どうか……」

 

 

 卵……いや、もはや卵の姿ではないので方界と呼ぶことにする。

 倒れていた方界に話しかけると方界はゆっくりと起き上がり、膝をついてカードを差し出してきた。

 見るとそのカードは方界のカテゴリーのカードだった。

 

 

「ほうほう、新たな悪魔が加わるんかいな」

(よろ)(しく)(おね)(がい)(しま)(す )!」

(ぬし)様よ。こやつ、中々に強い力を持っておるようじゃのう」

 

 

 いきなり俺の周りに3人の少女たちが現れた。

 1人は面白そうに笑い、1人は独特な言語で挨拶?をし、1人はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「いきなり出てくるなよ。まぁいい。他の奴らにも紹介してやれよ。()()()()()()()()()()()()

「任せときな!」

「くくく……。(今日)(は歓)(迎会)(です)(ね )

「新たな仲間とは。かかか、また楽しくなりそうじゃの!」

 

 

 答えながら3人は方界を連れて消えていった。

 他の奴らがいる所に転移したのだろう。

 そして4人がいなくなると同時に周囲に再び色が戻った。

 

 

「っと、戻ってきたか。リンゴとオレンジを買ってこないとな」

 

 

 方界のカードを見ながら俺は買い物の続きに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

私はこのデッキで三邪神と三幻神を入れ換えたりして使っています。

環境デッキは強いんですけどつまらないんですよね……。

正直なところ、環境デッキではなくもっと遊びのある楽しいデッキを他の人にも使ってほしいです。

大会とかなんてほとんど同じようなデッキばかりですし……

まぁ、私も対環境デッキの練習として環境デッキは作っているんですが……

それでは。


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第8話


またしても短いです。

一応、次回はデュエルパートになります。

それではどうぞ。


【取材、乱入、大暴露】

 

 

 

 

「着替えはこれで……。よし、忘れ物はないな」

 

 

 持っていく荷物の確認を終え、軽く首を回す。

 今日はまだ木曜だが、早めに持ち物のじゅんびはしておかないと落ち着かないのだ。

 とは言え店の準備があるのも事実。

 荷物をまとめて俺は店に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

 店に入ってきた客に挨拶をし、席へと案内する。

 平日の昼間と言うことであまり客の人数は多くなく、そこまでの大変さはない。

 

 

「はい。コーヒーにアイスとサンドイッチとナポリタン、ミルクレープにイチゴショートにガトーショコラ。お待ちどおさま」

 

 

 魔力弾を浮遊させる要領で大量の注文を運ぶ。

 

(けっこう量があるけど食いきれるのか?)

 

 注文を受け取ったのはどちらかと言うと細身の男性。

 さらに言うならナポリタンは大盛りを注文している。

 正直に言えば食べきれるとは到底思えない。

 とは言えこちらも注文を受けた身。

 男性がなにも言わないのであれば気にしなくてもいいだろう。

 

 

「いらっしゃいませー」

「すみません。店長さんはいらっしゃいますか?」

 

 

 入ってきたのはイヤホンマイクを着けた女性。

 店の外には色々な機材を持った人の姿も見える。

 

 

「俺が店長ですが」

「え……?す、すみません。ちょっと待っていてください」

 

 

 そう言って女性は店の外にいる人達の元へと向かっていった。

 一体何なのだろうか?

 

 

「先程は失礼しました。ええと、私たちは〝ミッドTV〟の〝ミッド散策〟と言う番組でして……。店内にカメラが入っても大丈夫でしょうか?」

「テレビ番組か……。まぁ、今の時間なら客も少ないんで大丈夫ですよ。ただし、写りたくないって言ってる人の要望は聞いてください」

 

 

 〝ミッドTV〟とはその名の通りミッドチルダで配信されているテレビの局の1つで、〝ミッド散策〟はそこで放送されている番組だ。

 ちなみにこの女性の名前はリーフ・アーオバで〝ミッド散策〟のリポーターである。

 今のところ店の中にいる客も少なく、先程の大量の注文をした男性以外にはコーヒーを頼む客位しかいない。

 これならそこまで迷惑になることはないだろう。

 

 

「ありがとうございます。スタッフさん達を呼んできますね」

 

 

 再びリーフは店の外にいる人達の元へと向かっていった。

 〝ミッド散策〟は昼間の生放送と夕方のその日の再放送があるほどの人気番組らしいからけっこうな店の宣伝にはなるはずだ。

 まぁ、有名になったらなったで店員の数を増やしたりしなくちゃいけなくなるだろうから一概に嬉しいとは言えないが。

 

 

「お待たせしました。それでは店内の撮影をさせていただきますね」

「どうぞ」

 

 

 機材を持った人達とともにリーフが再び店内に入ってくる。

 

(テレビだし記念に録画でもしておくか)

 

 そんなことを考えながら俺は店内のテレビを操作していく。

 今は店の内装を撮影しているだけなため、特には気にしていなくても問題はないだろう。

 

 

「けっこう店内は広いんですね。デュエルモンスターズも楽しくできそうです」

「テーブルデュエルはもちろん、デュエルディスクでのデュエルもできるようにスペースは広めにしているので」

 

 

 一通りの店内の撮影は終わったのか、リーフは軽く辺りを見ながら話しかけてきた。

 テーブルデュエルでは食べ物などを置いていてもデュエルができるような広さが良いと思ったためにテーブルはかなり大きく、デュエルディスクでのデュエルスペースも一組ずつとはいえ、楽しめるようにかなり広めに取ってある。

 

 

「ここまで設備に力を入れていて……。もしかして店長さんはデュエルモンスターズがお強いんじゃないですか?」

「あっはっは、そこまで強くはないですよ。負けることもありますから」

 

 

 リーフの問いに軽く笑いながら答える。

 自分が強いと断言するほど自惚れているつもりはないし、そんな証拠も今はないのだから構わないだろう。

 

 

「そうなんですか?では――」

「ししょおおぉぉぉおおおおーーーっっ!!」

 

 

 リーフの話を遮るかのように勢いよく店の中へと1人の女性が駆け込んできた。

 あまりの勢いにリーフやスタッフ達は目を丸くして言葉を失っている。

 

 

「エレナ……。何しに来た」

「デッキの構築が上手くいかないんです!やっぱりモンキー禁止とラスター、イグニスター制限じゃ大変なんですよぉ!」

 

 

 駆け込んできた女性――エレナ・メイヘムは俺の問いに腕を振り上げながら答えた。

 

 

「えっと……、店長さん。こちらの方は?」

「ああ、こいつは――」

「師匠の弟子!エレナ・メイヘムです!テレビが来ているとは流石は師匠です!これはやはり師匠のデュエルの腕が認知される良い機会ですよ!さぁさぁ、私とデュエルをして早くプロになりましょう!なあに、師匠でしたらすぐに1位になれますからぁぁぁぁぁ!?頭が割れるように痛いぃぃぃいいいっ!?」

「喋りすぎだ馬鹿が」

 

 

 復活したリーフの問いに答えようとするとエレナが勝手に言葉を遮り、話し始める。

 余計なことを話し始めそうだったので途中でアイアンクローで強制的に話しは止めたが。

 エレナは何かとすぐに俺をプロデュエリストにしようとするため抑えるべきところは抑えておかないとならないのだ。

 

 

「ええと……店長さんのお弟子さんと言うことでよろしいですか?」

「ええ、まぁ」

 

 

 エレナとは6年ほど前に出会って色々あって弟子にしたのだ。

 

(そういえば今の俺の肉体が11歳の時だったな……)

 

 リーフの問いに頷きながら昔を思い出す。

 出会った当時のエレナはいつもデュエルで負けて涙を流しており、強くなりたいと口にしていた。

 当時はプロランクでもかなり下の方にいたのを覚えている。

 弟子にするかわりに家に住ませてもらっていたから俺も助かっていたが。

 ちなみに家と〝遊戯屋〟ができたのは4年前だったりする。

 

 

「まぁ、昔に比べたらかなり強くなったわな」

「はい!」

「師弟仲が良いんですね。ちなみにエレナさんは何をやられてるんです?」

「プロデュエリストですよ!」

「プロでしたか。ちなみにランクは……?」

「ランクですか?1位で……もがもがっ!?」

「余計なことを言うな!」

 

 

 エレナは笑みを浮かべながら上機嫌で答えていく。

 ランクまで答え始めて慌てて口を抑えたが、間に合っただろうか?

 エレナの口を抑えたままゆっくりと周囲に目を向ける。

 

(あ、バレたわ……)

 

 周りの人が浮かべている表情は全て驚愕に染められており、さらにはカメラもバッチリとこちらを撮影している。

 そこまでを確認して、俺はただただ固い笑みを作ることしかできなかった。

 

 

「いっ、1位!?」

「むぐ」

 

 

 驚きながら尋ねてくるリーフにエレナは口を抑えられたまま頷く。

 スタッフ達にも動揺が走っているようでざわざわと話し声が聞こえてくる。

 

 

「1位が弟子!?」

「確かに()()()の素顔は公開されてなかったか……」

「だが、たかが喫茶店の店長が?」

「むしろ1位って言うのが嘘なんじゃ……」

 

 

 スタッフ達も口々に好き勝手なことばかりを言っている。

 ふと店の外に目を向ければ大量の人で埋め尽くされていた。

 テレビの力を嘗めていたわけではないがここまで騒ぎになると流石に困ってくる。

 

 

「ええと……、何か1位だと証明するものはないですか?言葉だけでは少し信じられなくて……」

「はぁ……。エレナ、プロランクカードは持っているか」

「え。デッキの相談をするだけのつもりだったので持ってきてないですよ」

 

 

 小さく溜め息を吐きながらエレナに問う。

 俺の問いにエレナは表情を固まらせた。

 

 

「受け取ったときに常に持ち歩くように言われただろうが……」

「だって私、デュエルするときは仮面しているんで必要な時がなかったんですもん」

 

 

 そう言ってエレナは口を尖らせる。

 しかしこれではエレナが悪魔王だと言う証拠がない。

 

 

「ったく。明日だ」

「「はい?」」

 

 

 短く発した言葉にエレナとリーフは首をかしげる。

 他のスタッフ達も何のことか分からずに首をかしげている。

 そんな彼らを無視して俺はいまだに写しているカメラの正面に移動した。

 

 

「明日、正午に悪魔王とデュエルをする。場所は……ミッド第3運動公園のデュエルコートだ。見に来たい奴だけ来い」

「ちょ、師匠!?そんな急な!」

「こう言うのは早めにハッキリさせておくんだよ。分かったらさっさと今日は帰ってデッキの調整をしてこい」

「うぐぅ……。分かりました」

 

 

 エレナは項垂れながら店から出ていった。

 

(明日もプロランクカードを忘れてこないように朝連絡するか)

 

 普段はいきなり転んだりするようなドジな弟子のことだ、なにも言わなければ明日もプロランクカードを忘れてくるだろう。

 それだけは避けなければ大々的にデュエルをする意味がない。

 

 

「悪かったな。番組を台無しにして」

「い、いえいえいえ!むしろこんなネタを得られましたので十分ですよ!」

 

 

 軽く謝罪をするとリーフは大袈裟なほどにて手を振って笑顔を浮かべた。

 迷惑になっていないと言うのなら良いのだが。

 

 

「ちなみになんですが、店長さんはプロになるつもりは……」

「ないな」

「ですよねー」

 

 

 リーフの言葉に短く答え、意識を明日のデュエルへと向けていく。

 最近はエレナも忙しくてデュエルをする時間はなかった。

 エレナの力がどれほど変わっているのかを知るには良い機会だろう。

 

 

「久々にお前の出番かもな……」

 

 

 1体のモンスターを思い浮かべながら俺は小さく呟いた。

 弟子の成長の確認と、フェイバリットモンスターの召喚。

 2つのことを考えながら俺は喫茶店の仕事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






読了ありがとうございました。

次のデュエルは盛り上げ……られたらいいなぁ。

それでは。


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第9話

先月中に投稿したかった……。

シャッホロの狂い姫が可愛くて仕方がないです。

彼女と戦ったり、一緒に食事をしたりしたいなぁ……。

絶対にソヤンケクルにぶちのめされるだろうけど……。


たぶん、今回は一番長いです。


【師弟の戦い】

 

 

 

 

 目の前に広げられたカードを一枚ずつ確認しながらデッキの構築をおこなう。

 今日の正午にあるエレナとのデュエル。

 それによってプロランク1位である悪魔王がエレナだということと俺が師であることを証明するのだ。

 

(禁止制限があっても十分に展開力があるデッキだからな……)

 

 エレナのデッキは竜剣士とEMの混成デッキとなっており、ランク4のエクシーズや融合、シンクロ、ペンデュラムといった儀式以外の召喚方法をかなり容易におこなえる。

 まぁ、救いがあるとすればラスター、イグニスター、ドクロバットジョーカー、ペンマジが制限なことと、猿が禁止になっていることだろう。

 正直なところ、禁止制限に入っていなかった時はかなり相手にするのが面倒くさかった。

 

(少し早いが出ておくか)

 

 時刻は10時を過ぎたとろを指している。

 正午までまだ時間はあるが気にしないでおこう。

 エレナにプロランクカードを忘れずに持ってくるようメールを送り、俺は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッド第3運動公園、ここは普段であれば子供連れの親や、散歩をしている人くらいしか平日にはいない。

 いや、正しくはいないはずだった。

 

 

「昨日の〝ミッド散策〟はビックリだったよな」

「そうだね。でも、おかげで学校の授業が休みになったし」

 

「さすがに喫茶店の店長が1位より強いとかはないだろー」

「だよなー。むしろ、あれが1位ってのも嘘かもしんないぜ」

 

「急に今日のお昼は郊外学習ってビックリしたけどこう言うことだったんだね」

「まさか遊砂さんが悪魔王の師匠だったなんてね」

「でも、確かに遊砂さんの本気のデッキって見たことないよね」

 

「見やすい場所を探すにゃー!」

「え、ちょ、ダレカタスケテー!」

 

「衝撃の真実ぅ!喫茶店の店長は1位の師匠でしたぁ~!」

「ベクターァァァァアアアアアア!」

 

「《終焉のカウントダウン》だよ。ゆっくり死んでいってね!」

「みょん!?」

 

「もっと店長はシルバー巻くとかSA☆」

「デュエルを見に全速前進DA!」

 

 

 一部でふざけている人間もいるが、ミッド第3運動公園にはかなりの人数の人が集まっていた。

 そこまで信じる人はいないと思っていただけに、この人数にはさすがに驚く。

 

(っつーか、ヴィヴィオたちがいなかったか?)

 

 目深にかぶった帽子の隙間から声のした方を見ると、そこにはSt(ザンクト).ヒルデ魔法学院の制服を着た生徒達の姿があった。

 聞こえてきた内容から察するにカリム辺りが根回しをしたのではないだろうか。

 

(一先ずはそこのクレープでも……)

 

「あのっ……」

「んえっ?」

 

 

 急に声をかけられ、反射的に変な声が出る。

 声をかけられた方を見ると、そこにはSt.ヒルデ魔法学院の中等科の制服を着た女子生徒がいた。

 と言うか今代の〝覇王〟、アインハルト・ストラトスがいた。

 

 

「なんか用かい、今代の」

「あなたは……、〝魔王〟なのですか?」

 

 

 不安気に、しかしどこか確信を持ちながらアインハルトは尋ねてきた。

 〝魔王〟、とても懐かしい名に少しだけ昔のことを思い出す。

 

 

「さあ、どっちだと思う?」

「分かりません……。ですが、私の中の〝覇王〟の記憶はあなたを〝魔王〟として認識しています……」

 

 

 少しおどけた調子で問いかけてみると、アインハルトは苦し気な、もしくは悲し気な表情で答えた。

 〝魔王〟、それは歴史に残ることのなかった王の名を持つ者。

 そして〝覇王〟、イングヴァルトの友人だった男だ。

 

 

「ま、ヴァルなら分かるだろうな」

「ッ!その呼び名は!」

「今は言わないさ。ちゃんとヴィヴィオもいる時に話してやるよ」

 

 

 アインハルトの頭をポンポンと軽く叩いて俺は歩き出す。

 色々と聞きたいこともあるだろうが、それは今ではない。

 アインハルトとヴィヴィオ、今代の2人が揃っているときにこそ話すべきだからだ。

 

(さて、改めてデュエル前の腹ごなしと行きますか)

 

 目についた移動販売車の元へと向かいながら俺は食べるものを思い浮かべていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッド第3運動公園デュエルコート、時刻ももう間もなく正午になるくらいだろう。

 回りを見ればデュエルを見に来た観客や、テレビ局のカメラやアナウンサーなどがいる。

 そして向かいを見ると、昨日とは違い仮面を着けて悪魔王の格好をしているエレナの姿があった。

 

 

「エレナ、デュエルの前にプロランクカードを公開しておけ」

「分かりました」

 

 

 俺の言葉にエレナは頷き、1枚のカードを取り出した。

 エレナの取り出したカードにテレビ局のカメラたちが一斉に向き、さらに空中へとカードが投影される。

 

  〔エレナ・メイヘム 〝()()()〟 ランク1位〕

 

 投影されたカードにはシンプルにプロ名とランクだけが記されており、偽造防止用に識別用の魔方陣が描かれている。

 

 

「これでいいだろう。さぁ、始めようか」

「お願いします!」

「「デュエル!」」

 

 

 デュエルディスクを構え、デュエル開始の宣言をする。

 先攻は……エレナからだ。

 

 

「私の先攻!私は《トリオンの蠱惑魔》を召喚し、デッキから《奈落の落とし穴》を手札に加えます!」

 

トリオンの蠱惑魔 ATK1600

 

 

 エレナの場に現れたのはオレンジ色の衣服を着た可愛らしい少女のモンスター。

 とは言っても可愛らしい見た目に魅了されて迂闊に近づいてはいけない。

 この可愛らしい姿は偽りの姿であり、本性は巨大な蟻地獄なのだから。

 

 

「カードを1枚伏せてから《手札抹殺》を発動し、3枚ドロー!」

 

竜剣士マスターP→墓地

BF-精鋭のゼピュロス→墓地

グローアップ・バルブ→墓地

 

「いきなり抹殺か……」

 

幻影騎士団ダスティローブ→墓地

魔界発現世行きデスガイド→墓地

彼岸の悪魔 ガトルホッグ→墓地

彼岸の悪魔 ファーファレル→墓地

彼岸の悪魔 グラバースニッチ→墓地

 

「墓地に送られたガトルホッグ、ファーファレル、グラバースニッチの効果を発動!」

「焦りすぎましたか……」

 

 

 《手札抹殺》によって手札から落ちたのは墓地に送られた時に効果を発動する彼岸のモンスターたち。

 これにより3種類のモンスター効果が発動する。

 

 

「グラバースニッチの効果でデッキからグラバースニッチ以外の彼岸、《彼岸の悪魔 ハックルスパー》を特殊召喚」

 

彼岸の悪魔 ハックルスパー ATK1400

 

「続いてファーファレルの効果をトリオンを対象に発動。対象のモンスターをエンドフェイズまで除外する」

 

トリオンの蠱惑魔→除外

 

「最後にガトルホッグの効果で墓地のガトルホッグ以外の彼岸、グラバースニッチを特殊召喚する」

 

彼岸の悪魔 グラバースニッチ ATK1000

 

 

 3種類全ての効果が発動し、最終的にはトリオンが除外されて俺の場には2体のモンスターが現れることになった。

 さらに言うなら俺にとって損失は全くない。

 

 

「くっ……。私はこれでターンエンドです」

「そしてエンドフェイズにトリオンは帰還する」

 

エレナ LIFE8000

トリオンの蠱惑魔 ATK1600

セットカード1

手札3

 

 

 苦い表情でエレナはエンド宣言をする。

 自身の発動したカードによって自身の行動を阻害してしまえば当然の表情かもしれないが。

 

 

「俺のターン、ドロー。俺はハックルスパーとグラバースニッチでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 ハックルスパーとグラバースニッチが黒い光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「死者の国を歩きし旅人よ。今、呼び掛けに答えてこの地に現れよ!エクシーズ召喚!《彼岸の旅人 ダンテ》!」

 

彼岸の旅人 ダンテ ATK1000

 

 

 黒い光の渦から現れたのは赤い服を纏った1人の男性。

 その攻撃力も1000と高くはない。

 観客たちもその攻撃力の低さにブーイングをし、バカにした声も聞こえてくる。

 そんな中、エレナだけは嫌そうに表情を歪めた。

 

 

「ダンテですか……」

「すぐには使わないがな。墓地のダスティローブを除外して効果を発動。デッキからダスティローブ以外の幻影騎士団、《幻影騎士団サイレントブーツ》を手札に加える」

 

 

 墓地のダスティローブの効果を使い、デッキからカードを手札に加える。

 これにより、手札の枚数は7枚に増える。

 ついでに言うと、まだ通常召喚も行っていない。

 

 

「そしてダンテのオーバーレイユニットを1つ取り除き、デッキの上からカードを3枚まで墓地に送って効果を発動!ダンテの攻撃力は墓地に送った枚数×500アップする!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ→墓地

幻影騎士団ラギッドグローブ→墓地

幻影霧剣→墓地

 

彼岸の旅人 ダンテ ATK1000→2500

 

「さらに墓地に送られたハックルスパーの効果をエレナの場にセットされた魔法、罠を対象に発動。セットされたそのカードを持ち主の手札に戻す」

 

セットカード→手札

 

「そんな!」

 

 

 セットされていた《奈落の落とし穴》がエレナの手札へと戻っていく。

 《手札抹殺》を発動する前に伏せていたものであり、墓地にも落ちていなかったのだから間違いはないだろう。

 

 

「《SRベイゴマックス》を通常召喚し、効果を発動。デッキからベイゴマックス以外のSR、《SRタケトンボーグ》を手札に加える」

 

SRベイゴマックス ATK1200

 

「そして場に風属性のモンスターが存在するとき、タケトンボーグは特殊召喚できる」

 

SRタケトンボーグ ATK600

 

「ベイゴマックスとタケトンボーグでオーバーレイネットワークを構築!」 

 

 

 ベイゴマックスとタケトンボーグが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「狭間の海を泳ぎし翼持つ海竜よ。今、虚空を破りて現れよ!エクシーズ召喚!《虚空海竜リヴァイエール》!」

 

虚空海竜リヴァイエール ATK1800

 

 

 現れたのは口に炎を溜めた水色の体躯の竜。

 

 

「リヴァイエールのオーバーレイユニットを1つ取り除き、除外されているレベル4以下のモンスター、ダスティローブを対象に効果を発動。対象のモンスターを自分の場に特殊召喚する」

 

幻影騎士団ダスティローブ ATK800

 

「自分の場に幻影騎士団モンスターが存在するとき、サイレントブーツは特殊召喚できる」

 

幻影騎士団サイレントブーツ ATK200

 

「さらに墓地のサイレントブーツを除外して効果を発動。デッキからファントム魔法、罠を1枚手札に加える。手札に加えるのは《幻影霧剣》」

 

 

 いったいどれ程の効果を発動しただろうか。

 見ている観客の表情をチラリと見てみると口を開けているのが何人も見える。

 

 

「大分動きますね……」

「そうか?ぜんぜん動いているとは思っていないんだが……」

 

 

 確かに手札はまだ6枚あるが、理想的な動きができたとは言い難い。

 できればベイゴマックスは特殊召喚をしたかったし、チェンジセカンドも来ていないから妨害も今一つだ。

 

 

「まぁいい。ダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 ダスティローブとサイレントブーツが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「その身に纏うは機甲の鎧。守護の力で仲間を守れ!エクシーズ召喚!《機装天使エンジネル》!」

 

機装天使エンジネル ATK1800

 

 

 続いて現れたのは青い機械の身体をした天使。

 やろうと思えばまだ動くことは可能だが、必要性は薄いだろう。

 

 

「ダンテでトリオンを攻撃!」

 

○ATK2500VSATK1600×

エレナ LIFE8000-900=7100

 

「くっ……」

「リヴァイエール、エンジネルでダイレクトアタック!」

「きゃぁぁあああっっ!!」

 

エレナ LIFE7100-1800-1800=3500

 

 

 3体のモンスターの攻撃によってエレナのライフが一気に半分以下にまで減少する。

 ダメージだけを優先していた場合、残りライフはさらに少なくなっていただろうが気にしなくていいだろう。

 

 

「ダンテはバトルフェイズ終了時に守備表示となる。が、手札の彼岸モンスターを墓地に送ってダンテでオーバーレイネットワークを再構築!」

「再構築!?」

 

 

 ダンテが光の珠となって渦を描きながらその姿を異なる姿へと変化させていく。

 

 

「美しき姿は永劫の時を超えていく。汝、常に淑女であれ!エクシーズ召喚!《永遠の淑女 ベアトリーチェ》!」

 

永遠の淑女 ベアトリーチェ ATK2500

 

 

 現れたのは白い服を纏った1人の女性。

 

 

「俺はカードを2枚セットしてターンエンド」

 

遊砂 LIFE8000

永遠の淑女 ベアトリーチェ ATK2500

虚空海竜リヴァイエール ATK1800

機装天使エンジネル ATK1800

セットカード2

手札3

 

 

 エクシーズモンスターが3体並び、2枚のセットカードが存在して手札が残り3枚。

 動きとしてはまだ不満があるが、見ている方からしてみると驚愕に値するらしい。

 先程からざわざわと騒がしい声や、テレビ局のアナウンサー達の話し声が聞こえてくる。

 

 

「さすがは師匠です。私のターン、ドロー!私は《EMドクロバットジョーカー》を召喚!さらに効果を発動!デッキから《EMリザードロー》を手札に加えます!」

 

EMドクロバットジョーカー ATK1800

 

 

 継ぎ接ぎだらけの帽子を被った男性が現れ、帽子の中からカードを取り出してエレナに手渡す。

 

(ヤバイ、動き始めやがった……)

 

 エレナの手札に加わったカード、さらにそれと組み合うであろうカードの存在を感じながら俺は冷や汗を流す。

 

 

「そして《EMギタートル》と《EMリザードロー》をペンデュラムゾーンにセッティング」

 

EMギタートル スケール6

EMリザードロー スケール6

 

「ギタートルの効果で1枚ドロー。さらにリザードローを破壊してもう1枚ドロー。そして《竜呼相打つ》を発動!デッキから竜剣士と竜魔王のペンデュラムモンスターを1体ずつ選んで相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚を選ぶ。私が選ぶのは《竜剣士ラスターP》と《竜魔王ベクターP》です!」

「俺は左のモンスターを選ぶ」

「相手が選んだモンスターは自分のペンデュラムゾーンにセットするか特殊召喚をし、残ったモンスターはエクストラデッキに表側表示で加えます。選ばれたのはラスターP。ペンデュラムゾーンにセットし、残ったレクターPはエクストラデッキに加わります」

 

竜剣士ラスターP スケール5

 

 

 選ばれたのはスケール5のラスターP。

 今の状態ならペンデュラム召喚は不可能だ。

 今の状態で終わるのであれば……

 

 

「さらに魔法カード、《揺れる眼差し》を発動!ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、破壊した枚数によっていくつかの効果を適用します」

 

EMギタートル→破壊

竜剣士ラスターP→破壊

 

「まず1枚以上の効果、相手に500ダメージを与えます」

「ちっ……」

 

遊砂 LIFE8000-500=7500

 

「次に2枚以上の効果、デッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加えることができます。私が加えるのは《EMゴムゴムートン》!」

 

 

 徐々に体勢を建て直していくエレナにセットしていたカードを発動しなかったことを後悔する。

 

 

「ゴムゴムートンと《エキセントリック・デーモン》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

EMゴムゴムートン スケール1

エキセントリック・デーモン スケール7

 

「揺れろ災厄のペンデュラム。天空に絵描くは絶望のアーク!ペンデュラム召喚!出てこい、モンスターたち!」

 

EMペンデュラム・マジシャン ATK1500

竜剣士ラスターP ATK1850

竜魔王ベクターP ATK1850

 

 

 手札の枚数が1枚になったが3体のモンスターを同時に召喚する。

 複数の同時召喚に関してはやはりペンデュラム召喚の方が強力だ。

 

 

「ペンマジの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、デッキから《EMギタートル》と《EMリザードロー》を手札に加えます!」

 

EMゴムゴムートン→破壊

エキセントリック・デーモン→破壊

 

 

 手札が1枚だったのも少しの間。

 すぐに手札が2枚追加された。

 

 

「レベル4、ペンマジに、レベル4、ラスターをチューニング!」

 

 

 ラスターが光の輪となり、その中をペンマジが潜り抜けていく。

 

 

「竜の剣士はその身に爆炎の力を宿し、敵を切り裂く!シンクロ召喚!《爆竜剣士イグニスターP》!」

 

爆竜剣士イグニスターP ATK2850

 

 

 現れたのは赤い鎧に身を包んだ竜剣士。

 その身体からは熱風が巻き起こっており、周囲の温度を上げていた。

 

 

「イグニスターの効果でデッキから竜剣士モンスターを守備表示で特殊召喚する。きて、マスター」

 

竜剣士マスターP DEF0

 

「そしてマスターとドクロバットでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 マスターとドクロバットが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「竜の剣士は風の友を得、共に空を駈ける!エクシーズ召喚《昇竜剣士マジェスターP》!」

 

昇竜剣士マジェスターP ATK1850

 

 

 続けて現れたのはペガサスにまたがった竜剣士。

 持っている剣には旋風が纏われ、辺りに風音を響かせていた。

 

 

「マジェスターのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果でエクストラデッキから竜剣士のペンデュラムモンスターを特殊召喚する。きて、ラスター」

 

竜剣士ラスターP ATK1850

 

 

 もはや何度目かも分からない特殊召喚。

 心なしか竜剣士にも疲労が見える気がする。

 

 

「ラスターとベクターをリリース!」

 

 

 ラスターとベクターが1つになり、新たな姿へと変わっていく。

 

 

「竜の剣士はその身に堅き鎧を纏い、全てを守る!融合召喚!《剛竜剣士ダイナスターP》」

 

剛竜剣士ダイナスターP ATK2000

 

 

 さらに続けて現れたのは青い大型の鎧を纏った竜剣士。

 その身体からは蒸気が吹き出しており、力強さがうかがえた。

 

 

「ダイナスターの効果で墓地の竜剣士のペンデュラムモンスターを特殊召喚する。もう一度きて、マスター」

 

竜剣士マスターP ATK1950

 

 

 どのタイミングで止めるかを悩んでいたら大量に大型モンスターを展開されていた。

 もはや何が起きているのかは分からなくなってくるが、やっておくべき事はやっておこう。

 

 

「ベアトリーチェのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果を発動!デッキからカードを1枚墓地に送る。俺が送るのは《SR三つ目のダイス》!」

 

SR三つ目のダイス→墓地

 

「私はマスターを対象にイグニスターの効果を発動!」

「ならその発動にチェーンしてイグニスターを対象に《幻影霧剣》を発動!対象のモンスターは攻撃できず、攻撃対象にもされず、効果は無効になる!」

 

 

 紫色の霧がイグニスターにまとわりつき、その動きを完全に封じる。

 

 

「う……。ならせめてリヴァイエールとエンジネルだけでも!ダイナスターでリヴァイエールに攻撃!」

「エンジネルのオーバーレイユニットを1つ取り除き、リヴァイエールを対象に効果を発動!対象のモンスターは守備表示になり、このターンそのモンスターは戦闘及びカードの効果では破壊されない」

 

○ATK2000VSDEF1600×

 

「そんな!なら、マスターでエンジネルを攻撃!」

 

○ATK1950VSATK1800×

遊砂 LIFE7500-150=7350

 

 

 マスターの突き立てた剣によってエンジネルは破壊され、その身を爆発させた。

 手札にあるのも最初に手札に加えた《奈落の落とし穴》とついさっき手札に加えたギタートルとリザードローのみ。

 マジェスターの効果もエンドフェイズである時点でもはややることも奈落を伏せるくらいだろう。

 

 

「私はカードを1枚セットしてターンエンド。エンドフェイズにマジェスターの効果でデッキからペンデュラムモンスター、《竜魔王レクターP》を手札に加えます」

 

エレナ LIFE3500

爆竜剣士イグニスターP ATK2800

昇竜剣士マジェスターP ATK1850

剛竜剣士ダイナスターP ATK2000

竜剣士マスターP ATK1950

セットカード1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地のダスティローブとサイレントブーツを除外して効果を発動。デッキからダスティローブ以外の幻影騎士団、《幻影騎士団サイレントブーツ》とファントム魔法、罠、《幻影霧剣》を手札に加える」

 

 

 ドローと合わせて3枚のカードが手札に加わる。

 

 

「まずはリヴァイエールを攻撃表示にし、オーバーレイユニットを1つ取り除き、除外されているダスティローブを対象に効果を発動。対象のモンスターを自分の場に特殊召喚する」

 

幻影騎士団ダスティローブ ATK800

 

「次にベアトリーチェのオーバーレイユニットを1つ取り除き、効果を発動。デッキからカードを1枚墓地に送る。俺が送るのはガトルホッグ。そして墓地に送られたガトルホッグ、ダンテの効果を発動。ガトルホッグの効果でハックルスパーを特殊召喚し、ダンテの効果でグラバースニッチを手札に加える」

 

彼岸の悪魔 ハックルスパー ATK1400

 

「そして彼岸の悪魔たちは彼岸以外のモンスターがいるときに自壊する」

 

彼岸の悪魔 ハックルスパー→破壊

 

「そして墓地に送られたハックルスパーの効果をエレナの場にセットされた魔法、罠を対象に発動。セットされたそのカードを持ち主の手札に戻す」

「またですか!?」

 

セットカード→手札

 

 

 さっきのターンと同じように再びエレナのセットカードが手札へと戻される。

 ハックルスパーの攻撃力も1400と奈落に引っ掛からないラインな為、防ぐこともできなかったのだ。

 

 

「さて、終わらせるか。墓地の《幻影霧剣》を除外して墓地の幻影騎士団モンスター、ラギッドグローブを対象に効果を発動。そのモンスターを特殊召喚する」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ ATK1000

 

 

 このままあのモンスターを出せば俺の勝ちは決まるが、少しばかり回り道をしてもいいだろう。

 

 

「ダスティローブとラギッドグローブでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 ダスティローブとラギッドグローブが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「お菓子とイタズラ、君が欲しいのはどちらかな?エクシーズ召喚!《ゴーストリック・アルカード》!」

 

ゴーストリック・アルカード ATK1800→2800

 

 

 現れたのは白い肌をした1人の吸血鬼。

 さらにアルカードは闇を纏い攻撃力が上昇した。

 

 

「ラギッドグローブの効果によってアルカードの攻撃力は1000アップする。さらにダスティローブを通常召喚」

 

幻影騎士団ダスティローブ ATK800

 

「そして自分の場に幻影騎士団モンスターが存在するとき、サイレントブーツは特殊召喚できる」

 

幻影騎士団サイレントブーツ ATK200

 

 

 途切れることなくモンスターが続々と現れる。

 手札の枚数も5枚とかなり多い。

 

 

「ダスティローブとサイレントブーツでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 

 ダスティローブとサイレントブーツが光の珠となって渦を描きながら1つになる。

 

 

「戦場に倒れし騎士たちの魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!《幻影騎士団ブレイクソード》!」

 

幻影騎士団ブレイクソード ATK2000

 

 

 渦の中から駆け上がってきたのは巨大な剣を手にした首無しの騎士。

 

 

「ブレイクソードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、自分と相手の場のカードを1枚ずつ対象として発動する。俺が選ぶのはブレイクソード自身とマジェスター。そしてそのカードを破壊する」

 

幻影騎士団ブレイクソード→破壊

昇竜剣士マジェスターP→破壊

 

「マジェスター!」

「エクシーズ召喚されたこのモンスターが破壊された時、自分の墓地の同じレベルの幻影騎士団モンスター2体、ダスティローブとサイレントブーツを対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、レベルを1つ上げる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしか特殊召喚できない」

 

幻影騎士団ダスティローブ ATK800

幻影騎士団サイレントブーツ ATK200

 

「だ、だけど《幻影霧剣》の効果でイグニスターは攻撃されないからまだ負けにはなりません!」

「その考えは甘いな。俺は《置換融合》を発動!」

 

 

 エレナの言葉を否定し、手札から1枚のカードを発動する。

 今から呼び出すのは俺のフェイバリットモンスター。

 

 

「俺の場のダスティローブとサイレントブーツで融合!」

 

 

 ダスティローブとサイレントブーツが渦を描きながら1つに合わさっていく。

 

 

「死した者たちの晴れることなき無念の怨嗟よ。今1つとなりて、その悪夢の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍。《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK2800

 

 

 現れたのは紫の身体にいくつもの球体がついたドラゴン。

 このドラゴンこそ俺のもっとも信頼する切り札であり、俺を象徴するモンスターである。

 

 

「スターヴが融合召喚に成功したため効果を発動する!相手の場の特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのモンスターの攻撃力をターン終了時までアップする!イグニスターの力を喰らい取れ!『ドレイン・バイト』!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン ATK2800→5650

 

 

 スターヴがイグニスターへと噛みつきその力を奪っていく。

 効果だけをみれば《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》に近い効果だと言えるだろう。

 

 

「これでデュエルは終わりだな」

「削れたのは結局650だけですか……」

 

 

 スターヴの攻撃力は5650、ダイナスターの攻撃力は2000。

 エレナの残りライフは3500なので削りきれる数値となった。

 

 

「まぁ、禁止制限できつくなったとはいえよく戦ったんじゃないか」

「そう言われると嬉しいです。いずれは師匠に勝つつもりですので覚悟してくださいね!」

「楽しみにしているよ。とゆーか、俺と入れ替わろうとするために悪魔族を使うんじゃない」

「えー……」

 

 

 俺の言葉にエレナは嫌そうに口を尖らせる。

 エレナがプロ名を〝悪魔王〟としているのも、プロとしてのデュエルで悪魔族を使っているのも、全ては俺を〝悪魔王〟としてプロに出すためだからだ。

 俺を〝悪魔王〟としてプロにしたあとは手早く自分もプロとして別名で登録し、師弟で1位2位を独占したいらしい。

 

 

「まぁいい、まずはデュエルを終わらせる。スターヴ、ダイナスターを攻撃!『ジェノサイド・ギフト』!」

 

○ATK5650VSATK2000×

遊砂 LIFE3500-3650=-150

 

 

 スターヴは翼を広げダイナスターへと光線を放つ。

 ダイナスターは自身の鎧で僅かに持ちこたえるが、すぐにその身は光線に飲み込まれ破壊された。

 

 

「さて、と。エレナ、これから大変だぞ」

「ですねー」

 

 

 デュエルが終わると同時にこちらへと走ってくるテレビ局のカメラたちに俺は溜め息を吐きながら起こるであろう質問責めに気合いをいれた。

 迂闊なことを話して余計な厄介事が起こらないとも限らないので返答には気を付けないといけないだろう。

 

 

「はぁ……。明日からの休みで気分転換は必須だな……」

 

 

 明日からのヴィヴィオたちとの合宿に思いを馳せながら、聞かれるであろう質問の答えを考えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

待っていてくれている人はいるかなぁ……。

とりあえず今月はもう1話更新予定です。

ミスや気になる所などがありましたら是非とも教えてください。


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第10話

遅くなった上に過去最短の内容です……

繋ぎ的な回と思ってください。


【世界移動】

 

 

 

 

 無人世界カルナージ、一年を通して温暖な大自然の恵み豊かな世界。

 そこが毎回合宿として行っている場所だ。

 そしてカルナージへ行くには首都であるクラナガンから臨行次元船で約4時間を要する。

 4時間というところから遠いイメージを持つかもしれない。

 だが、これでも距離としてはかなり近い方であり、遠いところでは24時間を越える世界もあるのだ。

 

 ――――が、しかし……

 

 それでも4時間というのも長い時間であるのに違いはないわけである。

 まぁ、つまり何が言いたいかというと……

 

 

「暇だ……」

 

 

 次元船が出てから1時間、既にデッキを弄るのも終わって何もやることがないのだ。

 これなら本でも持ってくるべきだったと今更ながらに後悔している。

 

 

 

「遊砂さんもやります?デュエルモンスターズしりとり」

「いや、いい……」

 

 

 前の席に座るヴィヴィオが誘ってきたが、俺は首を横に振って断る。

 デュエルモンスターズでしりとりは確かにできるだろうが、カード名に詳しくないとかなり厳しいものがあるんじゃないだろうか……

 

 

「ん……?」

 

 

 不意に思考にモヤがかかったように頭が働かなくなってくる。

 それに合わせて意識も徐々に遠退いていき、俺の意識はなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュルルルルゥゥ……」

「う……」

 

 

 小さな鳴き声と共に俺の顔を何か湿ったものが触れる。

 ゆっくりと目を開くと目の前には紫が広がっていた。

 

 

「…………スターヴ?」

「キュルンッ♪」

 

 

 目の前の紫、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》は俺の呼び掛けに嬉しそうに体を擦り寄せてきた。

 見た目は少々怖いかもしれないが、スターヴはかなりの甘えん坊で、実体化させたりすると必ず擦り寄ってくるのだ。

 

 

「スターヴがいるってことは……」

 

 

 周囲の景色を確認しながらスターヴの体を撫でる。

 いま俺がいるのはデュエルモンスターズの精霊達の住んでいる世界で、その中でも悪魔族たちが特に多く住んでいる魔界と呼ばれるエリアだ。

 

 

「おお、主様よ。来てくれたか」

 

 

 振り向くと一人の少女、《邪神アバター》が嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

「アバターか。何かあったのか?」

「むー……。まぁ、あったと言えばあったのう」

 

 

 俺の問いにアバターは視線を反らしながら答える。

 アバターの視線を辿ると、そこには何体かのモンスターの姿があった。

 どのモンスターも見覚えは一切ない。

 

 

「あれは?」

「主様を呼んだのはその事なんじゃよ」

 

 

 言いながらアバターはモンスター達の元へと歩き始めた。

 

 

「ん?あの翼は……」

「気づいたかの……」

 

 

 近づくにつれて最初に目についたのは、悪魔族とは違ったその翼。

 更に目につくのは頭上に光る赤い輪だ。

 

 

「天使族……?」

 

 

 天使族、彼らは常に天界と呼ばれる光の溢れる空中の都市に住んでおり、その姿は彼らに選ばれた人間にしか見ることはできない。

 そんな存在であるはずの彼らが何故かこの場にいた。

 

 

「そうなんじゃ。まぁ、厳密に言うなら堕ちた天使、【堕天使】じゃな」

 

 

 俺の疑問にアバターはため息を吐きながら答える。

 

 

「どうやら何か禁忌を犯したらしく、天界から追放されたようなんじゃ」

「それで拾ってきた、と?」

 

 

 音のならない口笛を吹きながらアバターは目を反らす。

 どうやら彼らを連れてきたのはアバターで間違いないらしい。

 

 

「はぁ……。まぁ、いい。で?」

「うむ。何かを企んではいるようじゃが気にするほどではないと思うぞ。全員の力を合わせても(わらわ)よりも下じゃからの」

 

 

 頷きながらアバターは腕を組む。

 しかし、やはり彼らは何かを企んでいたらしい。

 過去にも天使族が来て、攻撃などを計画していたことがあったために俺たちは警戒を決して怠らない。

 とは言っても、アバター、ドレッド・ルート、イレイザーの3人が自発的に動いてくれるので、俺は何もやることはないのだが。

 

 

「なら俺から言うことはないな。あいつらはお前らのデッキに組み込むことにしよう」

「それなら溶撃は抜いてもよいのではないかのう。あ奴等は特殊召喚が容易な者たちじゃからな」

 

 

 アバターの言う溶撃とは《帝王の溶撃》のことであり、アドバンス召喚以外の方法で召喚されたモンスターの効果を無効にするカードのことだ。

 確かに天使族には特殊召喚がしやすいカードが多く存在している。

 特殊召喚がしやすいのであれば溶撃の効果はむしろ邪魔になるし、抜くのであれば溶撃の発動条件であるエクストラデッキ0枚も気にしなくてよい。

 堕天使たちのレベルがいくつかはまだ分からないが、同じレベルがいるならエクシーズを入れてもいいだろう。

 

 

「あとでカードを送ってくれ。そろそろ向こうはカルナージに着くだろうし」

「分かったのじゃ。まぁ、調整のためにまた会うしの」

 

 

 「クリー」という鳴き声と共に複数回の爆発音が辺りに響き渡る。

 この音はクリボー時計と言って、魔界における時間を知る唯一のものである。

 仕組みは至ってシンプルで、1時間毎に《クリボー》が1匹増えていき、最大12匹爆発するというものだ。

 ちなみに午前の場合は「クリー」と鳴き、午後の場合は「クリクリー」と鳴く。

 なお、このクリボー時計は《クリボー》達が自発的に行っているものであり、虐待などではないことを記しておく。

 空で爆発する《クリボー》達の時計を聞きながら俺は意識を戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読了ありがとうございました。

やっぱり短いですよね。

次は遊砂の身の上話に持って……行けたらいいなぁ。



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