GATE 黒川茉莉 特地にて、斯く戦えり (猫耳最高!)
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1話 『門』

初めての投稿ですので、至らない所があると思います。よろしくお願いします。m(__)m


 

自衛隊中央病院

 

そこに黒川は白衣を着て伊丹の前に立っていた。

 

伊丹「よぉ、クロちゃん。やっぱり白衣が似合うよ」

 

黒川「隊長、とても元気そうで何よりですわ」

 

伊丹「まぁ、病気でも何でもないからな」

 

 

炎龍退治からしばらく、レレイがハーディから『門』を開く方法を授かり、日本で実験をした……。

 

研究員「3、2、1……コンタクト!」

 

空中にガラス窓のようなものが出来た。

 

研究員「コレが『門』?銀座のとは大分違うようだが……」

 

レレイ「あれは『門』を固定するため、石で建造されたもの。コレが『門』の実体」

 

研究員達は「なるほど」と頷くと、『門』に近づいて観察を始めた。

棒を持ってきて押し込む者もいたが、棒は何の抵抗もなく中に消えていった。引き戻してみると棒には何の変化もない。

 

研究員「なるほど……」

 

だが、誰一人として触ったり、向こう側を覗き込んだりする者はいなかった。カメラを中に突っ込んだが白くボヤけてハッキリと映らない。レンズにスプレーをかけ、曇らない加工をしたが同じ結果になった。

 

研究員「もしかすると霧とかに包まれているのかもしれない」

 

誰かが中を覗いてみる必要があった。

研究員達が無言でやり取りをしているなか、伊丹はレレイに歩み寄った。

 

伊丹「どこに繋いだんだ?」

 

レレイ「分からない。同じ世界に複数の『門』を開くことは出来ない。ので、適当に手近な世界に繋いだ」

 

伊丹「そうか、この方法で俺たちの世界と特地を繋ぎ直す訳だ」

 

特地では『門』の影響で毒霧のようなものが発生していた。こちらでは星の位置がズレていると言うことが確認されている。

通常『門』は一定の時間で消える。だが、帝国が無理に『門』を固定したため こちらの世界と特地が無理矢理繋がっているのだ。『門』の影響を無くすには一旦『門』を閉じなければならない。

 

レレイ「ただし、いくつもある世界から1つを見つけるのは無理。目印が必要」

 

研究員「その手配は此方で引き受けている。純度の高い鉱物などがいいだろう」

 

「なるほど」と伊丹は答えると、『門』に近づいて中に顔を突っ込んだ。そして一歩踏み込んで異世界に消えた。

それから数秒、血相を変えて戻ってきた伊丹は大声で叫んだ。

 

伊丹「レレイ!!すぐにこの『門』を閉じろ!急げ、早く!!この世界はヤバい、メチャクチャやばい!」

 

実験を見ていた政治家達を代表して嘉納が尋ねた。

 

嘉納「一体どうしたって言うんだ?」

 

伊丹「これぐらいの卵がずらっと並んでいて、近づいた瞬間、花びらみたいにパカッと……」

 

人の頭ぐらいの卵が、ベトベトした場所にずらっと並んでいたと告げた。それを聞いた瞬間、人々は伊丹が考えたのと同じSF映画を思い浮かべ、血相を変えた。

 

研究員「実験中止!レレイさん『門』を閉じて下さい!」

 

夏目「建物の出入り口を封鎖しなさい!もし、中との通信が途絶えて24時間経過したら、この建物ごと爆撃しなさい!これは防衛大臣としての命令です」

 

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m
1週間に1回以上は投稿する予定です。


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2話 黒川、自衛隊中央病院へ

よろしくお願いします。m(__)m


防衛大臣の夏目が声を轟かせる中、レレイは首を傾げながら『門』を閉じた。

その瞬間、地震が研究所を襲った。さして大きい揺れではなかったから伊丹は気にせずレレイに声をかけた。

 

伊丹「…………レレイ、今の世界とは未来永劫、永久に繋ぐなよ。こっちが滅びる」

 

とりあえず無事に済んだようで皆、胸を撫で下ろしたが、これで終わりではなかった。

 

伊丹「お、おい!なんだよ!?」

 

突然、伊丹は両脇から黒服に抱えられてしまった。しかも両手両足を四人がかりで。

周囲を見ると、大勢の白衣や黒服達が取り囲むように並んでいた。無表情で。

夏目が冷厳に言う。

 

夏目「直ちに検査です。身体に寄生しているものがないか、徹底的に調べなさい。」

 

廊下を引きずられていく伊丹。

 

伊丹「だ、大丈夫だから!何もくっついてないからっ、ホントだっ!俺は、俺は……無実だあぁぁ!!」

 

必死に声をあげる伊丹。だが、皆首を傾げていた。

 

夏目「何で無実?」

 

嘉納「ああ。あれこそが、お約束って奴だ」

 

そして伊丹は今、自衛隊中央病院にいる。

そして何故か、特地にいるはずの黒川もここにいた。

 

ある日、黒川は檜垣三等陸佐に呼び出され、自衛隊中央病院に行けと命じられた。

 

中央病院で彼女を迎えた院長、看護部長から「これを見てください」と、言われカルテを見せられた。だが、それには『防衛機密』というスタンプが捺されているだけで、住所等の必要事項が何も書かれていなかった。ただ1つだけ書かれていた事があった……。

 

黒川「伊丹耀司」

 

看護部長「そう。ここで経過観察することになった患者です。ですが、見ての通り何も書かれていません。貴方は見ず知らずの患者を名前だけで対応出来ますか?」

 

黒川「無理ですわ。『おつむは大丈夫ですか?一度脳ドックで調べて貰うことをオススメしますわ』と、申し上げる事でしょう」

 

院長と看護部長はその毒舌ぷりに若干ひいた。

無理もないだろう、第三偵察隊の人間ですら黒川の豹変ぷりに(毒舌)驚きを隠せないのだから。

環境は人を変える。たとえ短期間でも『特地』の戦場という環境に身を置けば人格に影響を与える。ましてや伊丹という個性豊かな人間の部下であったという経験は隊員に良くも悪くも多大な影響をもたらしていた。黒川もまたその一人なのだ。

そして彼女は悟ってしまった。『喰う 寝る 遊ぶ その合間にほんのちょっとの人生』だということを。

 

看護部長「私たちも、これじゃあ何も出来ないと。正直困りますと、言いました。そしたら、この患者をよく知るスタッフを送るからそれを使いなさいって、貴方が送られて来たんです」

 

黒川「なるほど、確かに伊丹二尉はわたくしの上司でしたから、ある程度は存じております。ですが、その程度で『よく知る人材』にされるのは遺憾ですわ」

 

看護部長「ですが、我々よりはマシです。正直我々では彼の看護というか管理というか……扱いはもう不可能でお手上げなんです。助けてください、この通り」

 

そう言って二人は頭を下げた。

 

黒川「どういうことですか?」

 

看護部長「彼の体内には異世界の謎の生物が寄生している可能性があるので隔離して観察するようにというお達しなんです。分かります?」

 

黒川は正気を疑うように怪訝な視線を向けた。

 

看護部長「私は正気です。正気のつもりですが少し、自分でも疑いたくなります。とは言え、特地に行っていた貴方なら、こちらではあり得ないような生物の一匹や二匹、向こうで見たのではありませんか?」

 

黒川「ええ、確かにそうですわ」

 

看護部長「でしたら、寄生生物がいてもおかしくありませんよね。本当に彼の体内にいるかは分かりませんけどね」

 

院長「……と言う訳で、彼の管理、監視をお願いしたいのです。よろしいでしょうか?」

 

黒川は二人の祈るような視線に負け、了承したのだった。

 

 




短くてすみません。
お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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3話 冗談

遅くなりすみません。m(__)m まぁ、見てくれてる人が居ればですが……。
今回も短いです。m(__)m


伊丹「なぁ……。本当にここで寝るのか?」

 

伊丹の病室で黒川が寝るための準備をしていた。

 

黒川「先程の話をもう忘れてしまわれたのですか?数時間前のことを覚えていないのですか?それとも覚えられないのでしょうか?貴様は高齢者ですか?認知症ですか?ここはどこで貴様は誰ですか?あ、異世界の生物の影響ですか?そうでしたら誠に残念ですが、伊丹二尉は異世界の生物に侵されイカれてしまったと報告するしかありません。二尉には自衛官として異世界の生物から国民を守るため、火炎放射器で焼却し殺菌する他ありません。入隊時に覚悟しているはずですね。分かりましたか?オーケー?」

 

伊丹「……昔の黒川を返してっ!……こんなの黒川じゃない!」

 

黒川「これが私ですわ。二尉のお陰です」

 

伊丹「……」

 

黒川「元は二尉の悪ふざけが原因です」

 

黒川が伊丹の病室で寝ることになったのは、黒川がここに来る直前の出来事が原因なのだ。

伊丹は「訓練という形で体を動かす日々を送ってきたため、体を動かさずにはいられない」と、いう事を言い、病室を脱け出し事もあろうにナースステーションの目の前で突然、胸を押さえ「ぐはっ……腹が焼ける!!……た、助けてくれっ…」と、悶えた。これには皆大いに冷や汗を流し、本当に寄生生物が出てくるのかと思ってしまった。サイレンが鳴り、警務官達が廊下を走ってきて伊丹を取り囲んだ。

だが、それは伊丹の冗談…悪ふざけだった。これには看護師、警務官など伊丹が患者だという事を忘れ、大声で30分間も罵声を浴びせ続けたのであった。

そして、伊丹には24時間体制で完全武装した警務官が病室の前につけられ、火炎放射器を装備した隊員が控える事になったのである。

黒川は監視、管理のため病室で伊丹と二人きり、生活することになった。大声を出せば完全武装した警務官が来るのだが。

 

黒川「『体を動かさずにはいられない』と、言ったそうですね。では、自衛隊体操でもなさったらどうでしょうか?」

 

伊丹「え…?いや、ね」

 

『体を動かさずにはいられない』と、言うのは嘘であり、運動は極力避けたいのだ。

 

黒川「自分の発言に責任をもったらどうですか?運動中毒の伊丹二尉は、自衛隊体操を思う存分おやりになって下さい。そうすれば夜ぐっすりと寝られます」

 

伊丹「自分が楽したいだけなんじゃ…」

 

黒川「ぐちぐち言ってないでさっさと始めなさい!」

 

伊丹「は、はいっ!?」

 

ベットから飛び降りた伊丹は自衛隊体操をやりだした。

 

 

 

 

特地

 

ヤオ「珍しく私服とは、トミタ殿は外出か?」

 

栗林「そうよ。どうしても隊長のところに富田を行かせたいの。テュカが隊長のお見舞いに行くから、付き添い番を代わって貰ったの」

 

引きずるように富田を強引に引っ張り、栗林が答えた。

 

ヤオ「トミタ殿をイタミ殿のところに?何かの任務か?」

 

栗林「ううん。この間コイツ、死亡フラグを立てちゃったのよ。このままにして置くと、ちょっとのことで死ぬかもしれないから心配でしょ?だから隊長にフラグをへし折って貰うという訳」

 

ゾルザル派掃討時、栗林が「惚れた?良かったら私と付き合ってみる?」と、冗談で言うと、ボーゼスと交際中の富田が「あぁ、そりゃ駄目だ。だって俺、この戦争が終わったら結婚するから」と、見事にフラグを建てたのだ。

 

栗林に引きずられている富田が声を上げた。

 

富田「人間そんな事で死んでたまるか……だいたい死亡フラグってのが本当にあるんなら、隊長に会ったくらいでどうにかなるのかよ!?」

 

栗林「なるわよ!倉田に聞いたわ。そしたら、そういう事は隊長に押し付けるのが一番なんだって。つまり身代りね」




お読み下さりありがとうございました。m(__)m
もっと増やしていきたいと思います。


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4話 『ちゅうごく』

遅くなりすみません。m(__)m
原作とは少しずつですが変えていきます。


 

 

富田「それは酷くないか?それにどうやったらフラグを移せるんだ?」

 

すると、ロゥリィが声を上げた。

 

ロゥリィ「トミタの前でヨウジぃに死亡フラグとやらを立てさせればいいのよぉ。そうすればヨウジぃに移るわ……ってクラタが言ってたわよぉ」

 

現在、特地方面派遣部隊 第一、第二、第四戦闘団は帝国正統政府軍と共同で帝国ゾルザル軍と戦っている。そして、倉田は通訳として第四戦闘団にいる。

 

話について行けないレレイ、テュカ、ヤオを代表してレレイが尋ねた。

 

レレイ「死亡フラグ、とは何か?」

 

レレイの問いに栗林が答えた……。

 

テュカ「お父さんに死亡フラグを立たせてどうするのよ!?死んじゃうじゃない!」

 

青ざめた表情でテュカが叫んだ。

 

ロゥリィ「エムロイの使徒の立場で言うと死亡フラグなんて関係無いから心配要らないわぁ……でも」

 

テュカ「でも?」

 

ロゥリィ「これはチャンスよぉ」

 

「チャンス?」と、意味の分からないテュカ達が聞き返した。

 

ロゥリィ「ヨウジぃに例え嘘でも『この戦いが終わったら結婚するんだ』って言わせればぁ、テュカ……いえ、身近にいるわたしぃ達のことをそういう意味で意識させることになるって思わない?」

 

テュカ「そうかな?」

 

ロゥリィ「ほんの少しでいいのよぉ。その少しがきっかけになるのぉ」

 

テュカ「でも、お父さん……自分が死ぬかもしれないのにそんな言葉口にするかなぁ」

 

ロゥリィ「大丈夫よぉ、ヨウジぃは部下思いだしぃ。自分は寄生されていないことが分かるまでベットで寝てるだけって思ってるからぁ、きっと口にするわぁ」

 

テュカは富田と栗林を見つつ、「そうかもね」と、答えた。

 

ロゥリィ「たとえ嘘でも自分が言った言葉に縛られるのよぉ。だから、これはもの凄く意味のあることなのぉ。『嘘から出た実』って言葉もあるでしょ?」

 

ロゥリィに半ば洗脳されたテュカが大きく頷いた。言葉の重要性を理解したのか、『嘘から出た実』という言葉を何度も呟いている。

レレイがロゥリィの言ったことには無理がある、ということを言っていたが皆から無視されてしまった。

 

出発の時間が迫っているのか、栗林が「そろそろ行かないと」と、言い、テュカ、そして富田を引きずるように連れていった。

 

皆が去るとレレイだけが食堂に残された。

レレイはテーブルの上に書類を広げると、作業を始めた。

 

「どうぞ」と、レレイの前に香茶のカップを置く料理長。

 

料理長「何かお悩みで?」

 

香茶を飲み、答えた。

 

レレイ「難しい問題が山積みしている」

 

料理長「それは、どうやって皆を納得させるかでしょ?『門』を閉じるのを止めちまえばいいんですよ」

 

レレイ「そういう訳にはいかない。このままだと大変なことになる」

 

料理長「それだって今日とか明日ではないんでしょ?だったら今皆が嫌がる事を無理にすることはないんじゃないかって思うんですけどね」

 

レレイ「問題の先送りは事を大きくするだけ」

 

料理長「今すぐにしないといけないってことですか?」

 

レレイ「違う。皆が嫌がっているのは、『門』を閉じることではなく、それによって生活が変わること。ならば、考えるべきは生活を変えないで済む方法」

 

料理長「……そんな方法、あるんですかね」

 

レレイ「日本の政府と交渉した。このアルヌスには日本国の『州』という自治体が置かれる予定。日本の制度では、自治体政府は日本国籍を有する者が選ぶ代表者によって運営される。このアルヌスに住む日本国籍を持つ者とは私達のこと。つまり、同じ生活を続けていくことも可能」

 

料理長「そんなの……上手くいくわけ……」

 

レレイ「ところで、これは何?初めて飲んだ」

 

先程のレレイの言葉を考えていた料理長がビクッと驚きながら答えた。

 

料理長「そ、それはナルコっていう香草ですよ。行商人が珍しい物が入ったんで試して欲しいって言うんで仕入れて見ました。どうです……?」

 

レレイ「ナルコ?聞いたことがない」

 

料理長「レレイさんでも知らないものがあるんですね。もしご存じだったらどうしようかと冷や冷やしましたよ。実はナルコは眠りを誘う薬草なんですよ……」

 

カップが転がって、レレイがテーブルの上に倒れ込む。

 

料理長「効き目もバッチリだ…」

 

料理長が合図を出すと、奥から数人がやって来た。

 

料理長「箱の用意も出来てますぜ」

 

そして、料理長が大きな木箱を持ち出してきた。

 

メイア「本当にやるニャ?」

 

ディアボ「もう後には引けないってことは分かっているだろ?これが上手く行きゃ、『門』を閉じるのは先送りになる」

 

メイア「でも、こんなの最低の恩知らずがやることだニャ」

 

ディアボ「これはレレイさんの身を守るためでもあるんだ。レレイさんは必ずゾルザルに狙われる。なら、何処か見つからない所に隠す必要があるだろ?誰にも分からないようにな」

 

メイア「何で荷物みたいにして、ニホンに送る必要があるのかニャ?」

 

ディアボ「『門』の向こうならば……絶対にゾルザルの手は届かない。安全だ」

 

メイア「そうだけど……なら、レレイさんと話をして」

 

ディアボ「それでは『門』が閉じるのを止めさせることは出来ないではないか!?」

 

料理長「だから俺達がやるんだ。俺達ならレレイさんを守れる。『門』も残る、一石二鳥だ。確かに心は痛むかもしれんがレレイさんの為だ……だから手伝え」

 

PXに関する荷物として発送するので、PX従業員のメイアのサインが必要なのだ。

 

メイアは震える手で書類にサインをした。

そして、木箱にレレイ、杖を入れると蓋をして、ペタペタと壊れ物、水漏れ注意といったシールを貼っていった。

 

ディアボ「これでよし。では、『ちゅうごく』に連絡をしよう」

 

そう言うと、スマートフォンを取り出し、扱い方法が書いてある紙を見ながら操作していく。

 

パナシュ「こちらディアボ殿下の代理の者だ。レレイ……『玉璧』の荷造りは済ませた。繰り返す、荷造りが済んだ。約束通り目印をつけて発送するので、受け取りの手配を頼みたい」

 

料理長がふと、疑問を尋ねた。

 

料理長「このままだとニホンの企業に行っちまうと思うんですが、どうやって『ちゅうごく』とやらに受け取って貰うんで?」

 

ディアボ「荷物が盗賊なんかに奪われたりすることはよくあることだが……向こうでは起きないか?」

 

料理長「なるほど」

 

 

 

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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5話 銀座

 

銀座駐屯地『門』プラットホーム カウンター

 

係員「では、いってらっしゃい。テュカさん」

 

テュカにはアルヌス協同生活組合幹部として日本政府と交渉するのに必要ということもあり、森田総理から直々に特別許可証が発行されており、そのお陰ですんなりと銀座に入れた。

付き添い番として富田も行くのだが、護衛の任務もかねているので書類を見せて終わりだった。

 

テュカ「今日もよろしくお願いね」

 

普通になってしまった黒服付きのワゴン車に乗り込むテュカ、富田。

 

テュカ「あれ?もしかして……コマカド?」

 

いつもなら運転手のみなのだが、今回は助手席に駒門が座っていた。

 

駒門「こんにちは、テュカさん……今日は随分めかし込んだな」

 

頬を赤らめながら駒門が挨拶をした。よく見ると運転手も赤くなっているようだ。

 

テュカ「えぇ、お父さんに会いに行くんですもん、これくらいはね。ところで今日は何か特別な日?コマカドがいるなんて」

 

 

駒門「ちょっとな。銀座が騒がしくなってるんでな、俺が直接来たって訳だ」

 

テュカに外を見るように促した。

 

銀座駐屯地の周辺には多くの人が集まって車道を歩いている。プラカードを持っているようで、そこには……

「日本政府は、銀座事件の外国人被害者にも補償せよ!」

「『門』を閉じず、フロンティアを我らに解放せよ!」

「国際社会に特地を委託せよ!」

などと書かれている。

 

テュカ「何かの宗教行事?」

 

駒門「あれは、『デモ行進』って言うんだ。自分の主張したいことを皆に向けてアピールしたり、政府の不満とかを表明したりな」

 

テュカ「ふーん」

 

駒門「いつものように頼む」

 

駒門が運転手に出発を命じる。

 

テュカ達を乗せたワゴン車は警官の協力もあり、銀座駐屯地から道路に出た。

道路に出たのはいいが、長いデモの列のために渋滞が出来ていていっこうに進まなかった。

後ろには、運送トラックが続いているが運転手は皆、うんざりした顔をしていた。

 

テュカ「ニホン人って意外と多彩なのね」

 

デモの中には白人、黒人が混ざりあっており、アジア系が多数なのだが毛色の違いが目立っていた。

 

駒門「このデモは国際NGOが主体となっているんだ。一応主催者は日本人となっているんだが、蓋を開けたら中国、韓国、ロシア、フランス、アメリカ人がぞろぞろやって来てこの始末だ。だから俺まで出る羽目になっちまったんだ」

 

テュカ「そうなのね。ありがとう」

 

駒門「いいえ……」

 

テュカ「……それにしても、まるで軍隊みたいね」

 

テュカの感想に駒門も頷いた。デモに参加している外国人達は不自然なまでに統率がとれているのだ。テュカの通り『軍隊』のようだった。

 

何かを見つけ、テュカが叫んだ。

 

テュカ「ちょっと、何か変よ……何が起きたの!?」

 

それまで普通に進行していたはずのグループの1つが突然、列を乱し、警官を振り切って走り出したのだ。

それは、トラックや乗用車の間にまで溢れ、テュカ達の乗るワゴン車の周囲も人で埋め尽くされ、動けなくなってしまった。

襲われる、そう感じた富田は銃を構えた。

 

駒門「ここは特地じゃないぞ!頭を切り替えてくれ!!」

 

駒門が撃つなと叫んだ。

 

富田「撃たずにどんな対処をするんですか!?」

 

運転手「連中の目的は略奪か!?」

 

駒門「いや、違うだろ」

 

確かにショーウィンドが割られ商品が略奪されているが、よく見るとそういった略奪行為をしているのは一部でしかない。ほとんどは指揮されたように行動し、トラックの窓を割り、運転手を引っ張り出すと荷台に積まれた物を引っ掻き回していた。

 

運転手「何かを探しているみたいですね」

 

運転手もその事に気づいたようだ。

 

1台が終わると一人の男が次のトラックを指差して何かを叫んでいる。それに従って人々が走り出し、次のトラックに群がっていく。

 

富田「何を探しているんですかね」

 

駒門「分からんな…とにかく、ここにいるのはまずい……脱出するぞ。これから発煙筒を焚く。車内に煙が充満したら一斉に外に脱出してくれ。車から煙が出てれば連中も少しは離れるはずだ。富田とお前(運転手)、テュカさんを守れよ、俺はこの腰だからな。集合場所は、とりあえず駅交番、そこで合流だ。いいな」

 

富田「了解!」

 

富田が武器を鞄にしまい込んだ。

 

駒門が発煙筒に着火し、車内は煙で充満した。

 

駒門「行くぞ、今だ!」

 

突然、車から煙が出ているのを見たデモ参加者達は車から離れていく。その隙をついて富田とテュカは車から降りたが、目の前のトラックから、『壊れ物』 『水漏れ注意』などと書かれたシールが貼られている木箱が持ち出されていった。それを見たテュカが足を止め叫んだ。

 

テュカ「ちょっと、それをどこに持っていくのよ!組合の物よ!」

 

一人の男がテュカに気付き、デモ参加者達に向けて何かを叫んでいる。

 

富田「俺の後ろから離れるなよ!」

 

富田はそう言い、群衆を押し退けるように突進していった。

 





お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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6話 『韋駄天』

遅くなりすみません。m(__)m


 

特地

 

ゾルザル派掃討中の第四戦闘団に『韋駄天』の知らせが届いた。

 

幕僚「先ほど『韋駄天』が発令されました」

 

健軍「何!?……何かの間違えじゃないのか?」

 

幕僚はもう一度メモを見直しながら読み上げる。

 

幕僚「いいえ、間違いありません。状況『韋駄天』、退去準備命令です」

 

状況『韋駄天』……特地派遣部隊が特地に入る前、政府によって作られた緊急対処マニュアルに規定された事態の1つで、『門』に何らかの変化が見られたなど、日本と特地が絶たれる可能性が高くなった場合に発令され、全隊員は任務を放棄して可及的速やかに特地からの退去準備をすることになっていた。

これに続いて『脱兎』が発令されれば総員退去、つまり全隊員は日本に逃げ戻らなければならない。

 

倉田「団長!あと少しです。あと少しでゾルザルを!」

 

通訳として第四戦闘団にいる倉田が意見具申した。

 

健軍「状況『韋駄天』は『門』に何かが起こったことを意味する。グズグズしていると特地に取り残されて帰れなくなるかもしれん。すぐにアルヌスに戻らなきゃならんのだ」

 

倉田「でも、『脱兎』はまだ発令されてません。今すぐって訳じゃないんですよ!その間にイタリカに行ってゾルザルの首をとってしまえばいいんです!」

 

健軍「だが、『脱兎』が発令されてからでは間に合わん」

 

倉田「じゃあ、イタリカはどうなるんです?ピニャ殿下とか、騎士団の人達はどうなるんですか!?皆は、ペルシア達は俺たちが援軍に行くって信じてるから戦っているんでしょ!?」

 

倉田「他の世界の人達がどうなろうと知らないってことですか!?」

 

すると、「三曹、それは言わない方が」と声が聞こえた。

 

用賀二佐「団長が何も感じてないわけないって言ってるんだ」

 

健軍一佐がヴィフィータと付き合っているのは知られている。もちろん倉田も知っており、倉田もペルシアと付き合っていることから健軍に仲間意識を抱いていたのだ。

 

倉田「だったら、女を見捨てたりなんかしちゃ駄目でしょう!違いますか!?」

 

健軍「確かにお前の言う通りだ」

 

倉田「だったら!」

 

健軍「だが、それは私情だ。お前はここに残る覚悟を決めているかもしれんが、他はそうじゃない。お前や俺の為に他の隊員を巻き込むわけにはいかんのだ」

 

倉田「分かりました。なら俺だけでも行きます!行かせてください!」

 

倉田はそう言うと、降下しようとロープに手を伸ばしたが、隊員達から「馬鹿なことを言うな!」と押さえ込まれてしまった。

 

倉田「放せ!俺は残留希望を出しているんだぞ!ここに残ってもいいんだ!降ろしてくれ!」

 

健軍「…そいつを黙らせておけ」

 

パイロット「……いいんですか?」

 

健軍は尋ねてくるパイロットに先を急ぐように告げた。

 

 

 

永田町 首相官邸

 

閣僚「で、状況はどうなっている?」

 

緊急事態発生を受けて、首相官邸に召集された安全保障会議。

 

閣僚達はいったい何が起きているのかという説明を求めた。

 

「本日午前、銀座駐屯地周辺を進行していた国際NGO『銀座事件の外国人被害者への補償を求め、特地を解放する会』の参加者、およそ三千人の内の一部が暴徒化。トラックに襲いかかって積み荷を略奪し、これを検挙しようとする警官との乱闘騒ぎとなりました。騒動は国際NGO全体に波及し、投石やプラカードを武器として暴れました。国際NGOは銀座駐屯地を占拠して立て籠り、国際NGO側の要求は、『門』を国連常任理事国の共同管理下におくことに同意せよ、というものと、銀座事件の外国人被害者の補償を約束させることで、

それがない限り動かないと言っています。

また、我々が事態の解決に話し合いでなく強行手段を用いた場合、『門』を破壊すると言っています」

 

「銀座駐屯地を占拠!?素手の暴徒をどうして防げなかった!なぜドーム内まで侵入を許したんだ!」

 

「未確認ではありますが、暴徒の一部が自動小銃やロケット弾、爆発物などで武装していたと報告が入ってます」

 

「そういうことなら警官が対処できなかったのは仕方ないだろう…だが、自衛隊は違うはずだ。陸自は何をやっていた!」

 

「暴徒の全員が武装していた訳ではありません。当初は非武装だと思い込んでいました。そのため人海戦術で押しきられてしまったのが実情です」

 

「なるほど…ところで駐屯地内にいた職員や隊員達は無事ですか?」

 

「はい、ほとんどが特地側に逃げ込んで無事です。それと暴動に巻き込まれそうになって駐屯地に助けを求めてきた観光客達がいましたので、それらも保護したという報告が来ています。ドームを閉じ損ねたのもそれが原因だということです」

 

「その観光客達は大丈夫なんですか?」

 

「はい。怪我はないようです。ですが、その連絡中に特地派遣部隊との連絡が途絶えてしまったので、詳しいことについては確認できていません」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「どうやら回線ケーブルが切断されたようです。全ての通信手段が使えなくなってしまいました」

 

「どうして連中はそんなことを!?」

 

「今回の騒ぎは単なる国際NGOの暴走とはとらえない方がいいと思います。一部ではありますが、統制がとれていました。まるで軍隊だと現場から報告も入っています。おそらく最初から計画されたものだったのでしょう」

 

「連中は最初から特地派遣部隊、二万六千人を人質にとることが目的でこんなことをしたという訳かね?」

 

「そう見るのが自然です」

 

「まずいことになりました」

 

「何がまずいんですか?」

 

「実は特地派遣部隊のマニュアルでは『門』に変化が起きたり、日本との連絡が絶たれたりすと隊員達に引き揚げの準備命令が出されることになっているんです。現在はそれに当たります」

 

「…『韋駄天』か、今は作戦の大詰め段階だったんじゃないのか!?」

 

話を聞いていた嘉納が机を叩いた。

 

嘉納「状況を確認しよう。銀座駐屯地は暴徒によって占拠されている、そうだな?」

 

「はい。駐屯地の回りは座り込みのせいで近づけない状態です」

 

嘉納「そして『門』からこちら側は連中に占拠されている。ただし、隊員が問答無用で銃をぶっ放す『門』の向こう側…特地には立ち入ってない」

 

「暴徒の正体は分かるか?」

 

「デモ参加者の多くが中国人です。その他にも韓国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、オランダ等が混ざっています」

 

「他にも留学生などですね。それとは別に、ここ数日 観光ツアーなどと称して中国人グループが入国しており、厳つい体格の男性ばかりで、それが今回の中心だと思われます」

 

「中国政府の反応は?」

 

「現在、森田総理が問いただしているところです」

 

嘉納「『門』を国連の下に…さもなきゃ『門』をぶっ壊すか。そんな簡単に壊せるものなのか?」

 

「『門』は石と石が押し合ってバランスを保っているようなものですからね…車などで突っ込まれたら」

 

嘉納「特地派遣部隊は異世界の漂流者になるわけか」

 

「欧米は『門』を閉じることに賛成してくれていたはずだ!」

 

「自国の利益に無関心な国はありませんからね。中国の動きによって日本に少しでも隙が出来るなら、そこを突いてくるのは当然でしょう」

 

嘉納「『門』から得られる莫大な利益、それが各国の目的だ。なら、俺は『門』を破壊されてもいいんじゃないかって考えるぜ。『門』がなくなっちまえば暴動も収まるしな」

 

閣僚達は一斉に声をあげた。

 

「乱暴だぞ、嘉納さん!」

 

「約三万人の自衛官と装備をどうするつもりだ!」

 

嘉納「装備に関しちゃあ、更新中の六四式等、中古ばかりなんだ。失ったところでさして痛くねぇだろ?それにな、『門』は閉じることになってたんだ。特地に残留する隊員が三万人になっちまうがな。別に永遠に失うって訳じゃない。帰ってくるのに手間はかかるが、いずれは戻って来れるのはガチだ。レレイ嬢がいるからな」

 

森田「いいえ、そうもいかなくなりました」

 

森田総理が中国との会談を終え、会議室に入ってきた。

 

嘉納「森田さん、いったい何があった?」

 

森田「中国側からレレイ嬢、そしてテュカ嬢の身柄にまつわる示唆がありました。…彼女達は中国に確保されている可能性があります」

 

嘉納「何だって!?」

 

レレイがいなければ三万人の隊員達は戻って来れないのだ。

 

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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7話 政治家

遅くなりすみません。m(__)m



 

 

「テュカ嬢はこちらに来るとこになっていましたから確保されたというのは分かります…けど、レレイ嬢は特地にいるはずでは!?」

 

「現場からテュカ嬢が行方不明になっているとの連絡が入りました」

 

森田「……中国側からレレイ嬢の杖を見せられました。中国に確保されている可能性は低くないと思います」

 

「もう少し情報が欲しいです…特地派遣部隊との連絡が切られたのは痛いですね」

 

「総理の言う通り、レレイ嬢の杖が中国側にあったのであれば、その状況は大きく分けて3つに解釈できます。杖の偽物を作った。杖しか手に入らなかった。彼女の身柄が中国側にある、の3つです。どの状況でも杖の存在を我々に提示した理由は1つに絞られます。 それは我々の決断を遅らせるということです」

 

「時間稼ぎか…」

 

「そう思わせようとしている可能性もあります」

 

「…特地の派遣部隊と連絡をとる方法はないのか?」

 

「『門』をドームで覆っちゃいましたからね。誰かを使いに送り込むくらいしか…」

 

森田「デモ隊の目を盗んで『門』を越える方法は…ないですね」

 

その時、外務省の役人が飛び込んできた。

 

森田「どうしました?」

 

役人「中国で撮影禁止地区を撮影したとして日本の商社マンが四人逮捕されました!」

 

さらに海上保安庁の職員も来た。

 

海保「尖閣諸島に中国海軍の艦隊が近づいています!このままだとあと、数時間で領海内に入ります!」

 

財務大臣にメモが届き、それを読み上げた。

 

財務大臣「財務省からです。大量の円買い注文が出て、円相場がものすごい勢いで上昇しています。おそらく中国ファンドによる為替操作です」

 

「中国の日本大使館前でデモが起き、大量の投石、火炎ペットボトルの投擲で大使館機能が麻痺しています!上海では日本料理店が襲われています!」

 

「金融機関のATM通信回線がハッキングを受けて停止、送金機能が麻痺しています」

 

「JRのダイヤ管理コンピューターが停止、電車がことごとく停止しました!」

 

森田「そ、そこまでしますか!?」

 

 

 

 

 

首相官邸を出た嘉納は防衛省の大臣車に乗り込んだ。

 

嘉納「夏目さん、話がある」

 

夏目「どうしたんです?外務省に戻らないんですか?」

 

嘉納はそのまま夏目の横に座った。

 

嘉納「参ったぜ」

 

夏目「参っているわけにはいきませんよ、これからどうするんですか?」

 

嘉納「森田総理があそこまで腰抜けだったとは思わなかった」

 

責任の重圧に耐えきれなくなった森田総理は『門』の管理を国連に預ける…つまり、要求を飲むと言いはじめたのだ。

 

もちろん閣僚達は声をそろえて止めた。

 

夏目「国連に預けてしまったら我が国の国益はどうなるんです!?」

 

森田「最低限は確保できますよ。それに国連に託してしまえば後のことは我々が責任を負わなくてもいいというメリットもあります」

 

夏目「それで特地の問題を手放すことが出来たとしても、中国との問題はどうするんですか!?こっちの弱腰を見透かされて好き放題されますよ!いいんですか!?」

 

森田「良いはずありません。しかし、ここで無理をして人質にされた日本人商社マンはどうするんです。見棄てたって言われますよ?

タダでさえ支持率が落ちているのに、そうなれば今度の選挙もダメです」

 

夏目「しっかりしてください、総理!そうなったら人質にされたことを公表して批難すればいいんです!相手の言いなりになってどうするんですか!?」

 

森田「尖閣諸島だって戦争になったら多くの犠牲が出ます。それで勝てるんならいいですが、もし負けたらどうするんですか!」

 

夏目「多大な犠牲が出る可能性は確かにあります。ですが、我が国の領土を奪い取ろうとするなら、多大な犠牲を払う必要があるってことを分からせてやらなきゃダメなんです!

そうでなくてはどうやってこの後、日本は独立と自尊心を保っていけばいいんですか!?」

 

森田「そうは言いますけどね、そんな決断は私には出来ませんよ。やはり、アメリカの手を借りましょう。特地や『門』は国連に預けると宣言します。その代わり中国に手を退かせるよう工作を頼み、尖閣諸島も安全保障条約の対象だと宣言して貰えばきっと、牽制出来ますよ」

 

夏目「それだけは止めてください。自国を自分で守る意思のない国を助けてくれる国なんて、この世にあるわけないじゃないですか!!!」

 

森田「夏目防衛大臣。これは内閣の首班としての私の意思ですよ?それに反対されるようなら貴方を解任するしかありません。いいんですか?」

 

夏目「総理、浅はかな考えは止めてください!」

 

森田総理はもう意地でも動かないという態度を見せていた。

 

森田「私は自分のことをよく分かっています!私は冷静に日本のことを案じて判断しています」

 

すると嘉納が宥めるように言った。

 

嘉納「総理、ちょっと待ってくれ。それは最終手段だ。外務省の方でもなんとかならないか試してみる。だから…」

 

森田「…分かりました。えぇ、明日くらいまでは待ちますよ。でもね、それまでになんとかならなければ私は、今申し上げた内容で解決を図ります。いいですね?これがこの閣議の決定です」

 

 

 

 

夏目は大臣車の窓の外を見つめ、ため息をついた。

 

夏目「どうして我が国はあんな人が総理になれるのでしょうか?」

 

嘉納「我が国では無難に仕事をこなし、上司に気に入られることが組織でのし上がっていく方法だからだ。派閥の代表の役割は利害関係の調整だしな。そのせいで事無かれ主義の人間ばかりが残っていくことになる。だから、指導者に向かない人間が居残っちまうんだ」

 

夏目「…嘉納さん。あのような閣議決定がなされた以上、私に出来ることはありません。残念ながら私はこういう時に動かせるような個人的な手札はありませんから……。でも嘉納さんは違いますよね?」

 

嘉納「俺か?そんなもん有るわけねぇだろう?俺は真っ当な政治家だぞ。くそっ、『13年式G型トラクターの買いたし』でも出せってのか?」

 

夏目「世界最高のスナイパーなんかに依頼しなくても、特地派遣部隊への連絡。レレイ嬢、テュカ嬢の救出という重要な任務を果たしてくれそうな人材が貴方の個人的な友人にいるはずですよ?」

 

嘉納「あいつの事を言っているんなら、それはどっちかと言うと防衛大臣のあんたの領分じゃないのか?『特殊作戦群』…使えるんだろう?」

 

夏目「ですが、総理にバレてしまいます。いくら頭がお花畑の総理でも、あれだけ噛みついた私の動向くらいは監視させているはずですから」

 

嘉納は舌打ちをしつつ、ニヤリと笑った。

 

嘉納「あいつなら確かに動いてくれるだろう。しかも良いとこに身柄をこちらで押さえてある。よし、わかった。その代わり、あんたにも後始末の手伝いはして貰うぞ。あいつが後で酷い目に逢わないように、形式だけは整えてやらなきゃならんからな。俺たちが負うべき責任まで押し付けちゃ可哀想だ」

 

夏目「どうするんですか?」

 

嘉納「まず、特地派遣部隊に訓令を書いてくれ、防衛大臣の署名捺印入りのな。なに、閣議に逆らうことにはならんから心配するな。

森田総理は明日と言ったが、少なくとも今日の段階では今までの方針で問題ないって事だからな」

 

夏目は白紙を取ると文面を考え始めた。

 

嘉納「国益確保のために必要と考えられるありとあらゆる処置を許可するって内容にすればいい」

 

夏目「でも、その後はどうするんです?」

 

嘉納「明日の朝には森田総理を首相の椅子から引きずり下ろしてやればいいんだ。今夜中に全閣僚を説得して一斉に辞表を出す。森田総理もすべてを兼務することは出来ん。これであいつに引導を渡してやる」

 

この状況で総理を引きずり下ろせば、それを主導した者が代役を勤めることになる。 だが、この時期に総理になっても良いことは1つもない。

 

夏目「ちょ、ちょっと待ってください!選挙まであと少ししかないって言うのに貴方が総理になろうって言うんですか!?」

 

嘉納「あいつのままにしておくよりはましだ。日本にとってそれが必要なら、その一瞬の為に全力を尽くす、それが政治家ってもんだろ?」

 

夏目「ですが、これまでの苦労が!政治家生命が吹っ飛びますよ!?」

 

嘉納「本位さんから日本を託されたからな…

こいつが俺達政治家の戦争だ。俺は一気に行くぞ、夏目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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8話 好意

遅くなりすみません。




 

 

自衛隊中央病院

 

 

伊丹「ハァ……ハァ…」

 

黒川「もう終わりですか?もっと続けてもいいのですよ?」

 

あれから伊丹は自衛隊体操を約一時間も続けていた。と、言っても途中からスピードやキレがなくなり、グダグダになっていたのだが。

 

伊丹「勘弁してくれ…クロちゃん…限界」

 

黒川「……」

 

黒川は伊丹をまるで汚物を見るような目で見ていた。

 

伊丹「…黒川……さん」

 

黒川「はぁ、分かりました。今日はこの位でいいでしょう。これから毎日、一時間やること、いいですわね?それでも足りないようでしたら、一時間と言わず好きなだけおやりになってください。あ、それと汗臭いのでシャワーを浴びてくるのをオススメしますわ?いえ、行ってきてください。スッキリしていた方がいいでしょう?」

 

伊丹「毎日!?…お前がやれって言ったからやったのに…」

 

伊丹は黒川に言われるままシャワーを浴びに行った。勿論、警務官付きで。

 

 

一人病室に残った黒川は伊丹のベッドと自分の簡易ベッドを見つめていた。

 

黒川(今思えば男性と二人きりで寝るなんて今まで一度もなかったですわね…まさか隊長と。…別に一緒に寝る訳ではないですし…。

そう言えば、隊長はテュカと同じ布団で寝たことがあるんでしたね。クリ(栗林)の話によれば隊長は既婚者、張り合っている訳ではないのですが…何故かムカつきますわね。まぁ隊長、見た目はあれですが中身は……ハッ!私は考えているのですか!?私のタイプは白馬の王子さまで、『喰う、寝る、遊ぶ その合間にほんのちょっとの人生』と考えている隊長とは程遠いのですよ!…現実は隊長の考えなのでしょうけど…。隊長、人道的だし、何も考えていないようで実は考えているし……ハッ!私はーーー」

 

黒川は何度も同じことを繰り返し考えていた。

 

 

 

伊丹「ふぅ~、スッキリした……!?黒川…さん?何で俺のベッドで寝てるわけ?そしてなぜ簡易ベッドがないんでしょうか?」

 

黒川は自分が寝るはずだった簡易ベッドを片付け、伊丹のベッドで寝ているのだ。その理由は数分前にある。

 

 

数分前

 

黒川はループから抜け出すと、ひとつの疑問につきあたった。それは何故、伊丹を思ってしまうのか…。そして、結論を出した。自分は伊丹に好意を抱いているのではないかという事だった。しかし自分には分からない黒川は確かめる方法を思い付いた。それは、伊丹と同じベッドで寝てみて、自分に異変があれば自分は伊丹に好意を抱いている、異変がなく普段通りだったら好意はない。というものだった。

 

黒川「た、隊長に異変が起きたとき、直ぐに分かるようにですわ…ダメですか?いけませんでしょうか?」

 

黒川は少し噛みながらいつもより早口で言った。そう、すでにこの時点で異変が起きているのだが本人は気付いていない。

 

伊丹「…それはつまり、一緒に寝るということでしょうか?」

 

黒川「そうですわ。…何か問題でもあるのでしょうか?」

 

伊丹「問題って…お前、一応男だぞ、俺」

 

黒川「ええ、知っていますわ…隊長は前にテュカと一緒に生活していらしたのでしょう?テュカの事ですから同じベッドで寝たのでしょう?その時、手を出したんですか?」

 

伊丹「出すわけないだろ!?」

 

黒川「でしたら、私と寝ても大丈夫といえますよね?」

 

伊丹「テュカの場合は状況が状況なだけにだな…それに大人の男女が一緒に寝るというのはですね…色々と不味いのでは?」

 

黒川「わ、私だって恥ずかしいのですよ!?早くこっちに来てください。ロゥリィ達に事実無根を言いますよ!」

 

伊丹「わかった……そっちに行くから、後から何か言うなよ?」

 

黒川「えぇ、大丈夫ですわ…」

 

そう言うと黒川は伊丹に背を向けて伊丹が入ってくるのを待った。

 

黒川(証明して見せますわ…私が隊長に好意など抱いていないことを…すぅーはぁ、すぅーはぁ(深呼吸))

 

伊丹「し、失礼しまーー」

 

『いますぐ めい☆コン めい☆コン お掃除ーー』

 

突然、アニメ『めい☆コン』のOPが流れた。

 

黒川「ひゃっ!?」

 

それに驚く黒川。

 

伊丹「! おっと、失礼…俺の着信音だ。…? 嘉納閣下からだ……もしもし、はい…え!?

そんな、まさか…はい。了解」

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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9話 ゴルフ場へ

遅くなりすみません。m(__)m


 

黒川「隊長?病院での電話は」

 

伊丹「ん?あぁ……。なぁ、黒川…俺が外に抜け出すのを手伝ってくれないか?」

 

黒川「…はぁ?突然何を言い出すのですか?おつむは大丈夫ですか?一度脳ドックに行くことをオススメしますわ…」

 

黒川は真面目な顔で脳を診て貰うことを薦めた。

 

伊丹「大丈夫だ、問題ない。…理由は後で説明する。緊急なんだ、協力してくれ…頼む」

 

黒川「…分かりましたわ。ですが、私もついていきます。良いですわね?」

 

伊丹「え!?何で…?」

 

黒川「私は隊長の管理、監視を任されているのですよ?その私が行かないというのはおかしくありませんか!?」

 

伊丹「おかしくはないけど……ダメって言っても罵倒されて、結局は行くことになるしな…じゃあ、俺コレに入るから、よろしく」

 

伊丹を汚物入れに入れ、頭の上にシーツを被せ、蓋をして病室を出た。

 

警務官「こんな時間に掃除かい?」

 

黒川「患者に夜も朝もありませんから…特に不潔な汚物はすぐに処理してしまいませんと…汚物は」

 

大事な事なので2回言いましたわ。

 

警務官「そうですな…ハハハ」

 

警務官は汚物ということを聞くと距離を取り、乾いた笑いをした。

 

黒川「失礼します」

 

 

 

病院から抜け出した伊丹と黒川はタクシーを捕まえて乗り込むと、嘉納から伝えられたゴルフ場の名を告げた。

 

黒川「で、いったいどうしたというのですか?」

 

黒川は少し怒ったように言った。

 

伊丹「怒っていらっしゃる?」

 

黒川「いえ、怒ってなどいませんわ。汚物」

 

伊丹「絶対怒ってる!」

 

黒川「勘違いも甚だしいですわよ。汚物」

 

先ほど、黒川が確かめようとしていた事を突然の電話に邪魔されたことから怒っているのだ。

 

伊丹「わかったよ、お前は怒ってない」

 

黒川「分かればよろしいのです。で、どうしたのですか?」

 

伊丹「嘉納さんの話だと…あ、外務大臣な。レレイとテュカが中国に捕らえられているかもしれないと…それを確かめようにも、今、特地とは連絡が絶たれていて無理なんだ。そして銀座駐屯地はデモ隊によって占拠されているらしい…」

 

黒川「ですが、レレイ達の身柄が中国にあるというのでしたら、どうやって助けるのですか?」

 

黒川は一瞬驚いたが冷静になり疑問を口にした。

 

伊丹「そうなっていたら俺個人でどうにかできる範囲を超えてるが、嘉納さんはそうなっていないと考えているらしい。レレイの身柄は特地にある可能性が高い。

だが、テュカは……話によれば今日、こっちに来る予定になっていて銀座で行方不明になった、と」

 

黒川「何故レレイの身柄が特地にあると?」

 

伊丹「中国は特地が欲しい、レレイの力が欲しいわけだ。レレイを手に入れたのなら、銀座駐屯地を占拠なんてことはしなくてもいいからだ」

 




短くてすみません。m(__)m
アニメ第2クールの新作PVが公開されましたね!見てない方は是非見てください!

お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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10話 高度一万三千フィート

遅くなりすみません。m(__)m
アニメ第2クール始まりましたね~、特戦群があまり活躍してない……。


 

某ゴルフ場

 

嘉納「お前にはデモ隊に占拠されている銀座駐屯地に行って、特地派遣部隊の狭間陸将にこれを届けて貰いたい」

 

嘉納は書類の入った封筒を伊丹に渡した。

現職大臣の前ということもあって黒川は白衣姿で直立不動の姿勢をとっている。そして、その横には顔にアザを作った富田が同じく直立不動の姿勢をしていた。

 

その近くでは嘉納の秘書の野路と整備要員が芝生の上に駐機しているヘリコプターに給油作業をしていた。

 

伊丹「レレイとテュカの件は?」

 

嘉納「それについては俺の立場から何とも言えん。お前が思ったようにすればいい」

 

命令はしていない。伊丹が勝手に行動したと言い訳出来るようになっているのだ。だが、伊丹はコレに文句を言うつもりはない。命令されなくても助けに行くことには変わりないからだ。

 

嘉納「おっと、紹介がまだだったな…。こいつは間所航空のパイロットの河田だ。元海自の二等海尉でな、俺の個人的なつてでなんとか無理を聞いてもらえそうなパイロットはこいつだけなんだ」

 

河田「よろしく、伊丹二尉。銀座上空、高度一万三千フィートまでご案内しますので大船に乗ったつもりでいて下さい」

 

握手をしていた二人だったが、『高度一万三千フィート』と言う言葉に伊丹が反応した。

 

伊丹「え!?高度一万三千フィートって何…?」

 

伊丹を無視して野路が説明を始めた。

 

野路「では、作戦をご説明します。伊丹二尉、コレをご覧ください」

 

妙に張り切っている野路が銀座駐屯地のドームの設計図を広げて懐中電灯で照らした。

 

野路「防衛省から大臣が個人的なつてで入手して下さった資料です。国家機密の漏洩にあたることを承知下さい。…このドームなんですが、天頂部に実はマンホールの蓋のようなハッチが作られています。ここに降りることが出来れば、デモ隊に邪魔されずに内部に入ることが出来るはずです。しかもこの丁度真下が『門』です。

ザイルを用意しましたので、内部に侵入したらこれで『門』の前に降りて下さい」

 

野路は伊丹の前にザイル等を置いた。それに加えて散弾銃も置いた。

 

野路「何があるか分かりませんので、一応武器を…。

残念ながらコレしか。大臣が個人的に所有されている散弾銃を盗んで参りました。保管用のロッカーごと盗まれたと盗難届を出しますので、決してお持ち帰りにならないようお願いします」

 

伊丹「流石は嘉納さんの秘書だ…」

 

野路「コレだけでは火力不足かと思いましたが、富田氏が自前で武器をお持ちだったのが幸いです」

 

富田という言葉を聞いて伊丹はその場に富田が居ることに気付いた。

 

富田「…自分が着いていながら」

 

富田は自分のせいでテュカが…と謝った。

 

伊丹「…気にすんな、何とかなる…!」

 

富田「はい。…?何で黒川がいるんだ?」

 

黒川がここに居ることの疑問を口にした。

 

黒川「汚b…隊長の監視、管理のためですわ」

 

伊丹「ハハハ…あれ?ちょっと待って下さい、さっき『高度一万三千フィート』、ドームの天頂って…もしかしてパラシュートで降りる、とか?」

 

野路「はい。伊丹二尉と富田二曹のお二人が空挺の資格をお持ちだから出来る作戦です。スカイダイビングもプロ並みだとか。軍用のパラシュートが手に入りませんでしたので、スカイダイビング用のパラシュートを二組用意してあります。急いだものでカラフルな奴しか手に入りませんでした」

 

そう言いながらパラシュートの詰まったコンテナを伊丹と富田に渡した。

 

黒川「ほぅ、知りませんでしたわ」

 

伊丹「高度一万三千フィートから自由降下?しかも夜間に!?そんなの出来ーー」

 

嘉納「お前が空挺のプロで良かったぜ!この方法がダメってことになればもう、諦めるしかなかったからな」

 

伊丹の出来る筈がない、と言う言葉を嘉納が遮った。

伊丹が空挺のプロというのは、特戦群の流した嘘、嫌味なのだ。

 

黒川「隊長、早く着けましょう…!」

 

黒川がワクワクしたように急かした。

 

伊丹「あれ?俺と黒川なのは決定なのね…って、それより、銀座なら空からじゃなくても、噂に聞く隠し地下通路とかあるんじゃ…?夜間に降下なんてしなくても」

 

嘉納「そんな物はねぇんだよ。噂の地下通路なんてのは、皇居と永田町とかの代物でな。銀座まではカバーしてない」

 

伊丹「え…いや、でもーー」

 

野路「いいですか?先ほども言いましたが、パラシュートはカラフルで大変目立ちます。なので警察に話を着けました。降下に合わせて銀座の送電を一時的に停止します。そうすれば見えなくなるでしょう。それと同時に機動隊が放水をしてデモ隊を陽動します。伊丹、黒川、富田氏はその隙をついて『門』に降りて下さい。いいですね?」

 

伊丹の言葉はまたしても無視されてしまった。

 

 

 




お読み下さりありがとうございました。m(__)m
アニメ期待ですね。


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11話 『そのとき』

大変遅くなりすみません。m(__)m




『門』

 

特地方面派遣部隊、陸将の狭間と国際NGO代表が交渉をしていた。

 

国際NGO代表中国人「我々の特地への立ち入りを認めてください!…それがダメでしたら、日本による不法な特地占拠を防ぐため、『門』を破壊します。それでも政府の許可などと言いますか?」

 

『門』の中央に74式戦車を置き、その周囲に人垣をつくって特地には一歩も入らせないという構えを見せる自衛隊。

 

日本人は平和ボケしていると聞いていたが、流石に自衛隊は違ったようだ。国際NGO代表中国人の「劉」もこれ以上の交渉は時間の無駄だと理解したが、今は時間を稼ぐことが重要である。

 

劉「諸君らには暫しの時間を与える。その間にどうするか考えておきなさい」

 

当初の予定では、この作戦はディアボが発送してきた箱を乗せたトラックを騒ぎの中で絡め取り、箱に詰められているはずの『玉壁』(レレイ)を確保して終わるはずだった。しかし、箱の中には杖しか入っていなかった。その為、ディアボとの連絡、『玉壁』の確保の為、女性工作員をデモに巻き込まれた観光客として送り込んだのだ。

 

 

 

その頃、アルヌスでは……。

 

「化け物だ!」

 

「助けてくれ!」

 

「逃げろ!喰われちまう!」

 

町のあちこちで悲鳴が上がっていた。

 

 

『韋駄天』の発令でアルヌス駐屯地にいる自衛隊にも化け物…『ダー』が町を襲っているとの連絡が入った。

 

「敵の襲撃!?」

 

「違う、子供が化け物に化けたんだ!みんなが襲われている!」

 

「この手口はゾルザル軍だ!くそっ」

 

自衛官たちは一斉に銃を手にして立ち上がった。

だが、『韋駄天』が発令されたことで駐屯地を出るのを禁じられていた。

 

「じゃあ、町の人たちを見捨てろってことですか!?」

 

檜垣「お前たちが帰れなくなってしまう危険を冒すわけにはいかないんだ!」

 

檜垣三佐がとめた。

 

勝本「他の部隊の連中は無理でも、自分たちだけならっ!」

 

檜垣「こんな人数でどうしろっていうんだ!」

 

偵察本部に所属する第一~第六の各偵察隊は、第三偵察隊を除いてゾルザル派殲滅の為に行動している各戦闘団へと配属されていた。よって、今檜垣三佐の指揮下にあるのは第三偵察隊だけなのだ。しかも伊丹は隊長から外され、古田、倉田、富田、黒川が不在な為、残っているのは栗林ら、7人だけなのである。

 

桑原曹長「ですが、民間人をあのまんまにしておくなんて出来ません」

 

檜垣「だが、これが規則なのだ。『韋駄天』が発令されたら退去準備して待機。それが命令だ」

 

栗林「そんな命令!」

 

従う必要がないと叫んだ。

 

笹川「我々は国民に愛される自衛隊だったんじゃないんですか!?」

 

檜垣「何だその、中身すっからかんな言葉は!?」

 

笹川「伊丹隊長の言葉です」

 

檜垣「混ぜかいすな!……お前たちの言いたいことは理解できる。だがな、万が一『脱兎』が発令されたら間髪入れずに『門』を渡らなきゃならないんだからな。少しでも『門』の近くにいなければならないのに、離れてどうする?下手をすれば特地に取り残されて二度と帰れなくなるかもしれないんだぞ」

 

栗林「大丈夫です。レレイがいますから」

 

檜垣「何だ…それは?」

 

檜垣が聞き返した。

 

レレイに『門』を開く力があるというのは防衛機密扱いをされている。そのため檜垣たちは知らなかった。

 

桑原曹長から説明を受けて納得したが、それでもダメだと首を横に振った。

 

檜垣「上手くいくという保証はないんだろう?それだけを頼りにお前たちを危険にさらす訳にはいかんのだ」

 

残留希望者を募ったりと、『門』の再開通が可能であることを前提とした準備が行われていた事を考えると、かなり期待出来ると第三偵察隊は考えていた。

 

仁科「我々なら大丈夫ですって。任せてください!」

 

勝本「俺たちは背中丸めて生きていくのは嫌なんですよ!」

 

檜垣「お前たち…」

 

檜垣は部下達を見渡した。

 

桑原「どうしてもご許可頂けないと仰るんなら、せめて見て見ぬふりをしてくださいませんか?責任は自分が負います。でなきゃ孫にお爺ちゃんはみんなを守るために戦ったんだぞって、自慢話出来ませんからね?」

 

檜垣は伊丹が炎龍退治に行ったときのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

檜垣「伊丹二等陸尉は小隊の指揮を桑原曹長に委任し、現地住民の協力を得て単身、エルベ藩王国国境付近へ地下資源の調査に赴いた……ということか?柳田二尉」

 

柳田「はい」

 

檜垣「…ドラゴンが出ると聞いたが?」

 

柳田「覚悟の上でしょう」

 

檜垣「そうか…よし、そのように理解した。……何であそこまでやれるんだ、アイツは」

 

柳田「馬鹿であるからでしょう。しかし、それ故にやれるのです。ルールや規則は守るために存在しておりますが、それをいつ何故破るか決められるのが人間の価値なのでは?」

 

檜垣「はぁ…、あのヤオって娘がな、俺の足にすがって泣くんだよ。故郷と一族を救ってくれってな…。だが、俺にも立場がある、部下と家族がいる。…今のところ奴だけが人間の価値を示した。奴が羨ましいな…」

 

柳田「檜垣三佐、『そのとき』が今ではなかった…と、言うことでしょう」

 

 

 

 

 

 

檜垣「ダメだ。それだけは断じて許すことは出来ない」

 

栗林「三佐!」

 

檜垣「何故ならばだ!責任をとる者がいるとすれば、それは…私だからである!」

 

檜垣の傍らでずっと黙っていた幹部が尋ねる。

 

「檜垣三佐?」

 

檜垣「責任を負わなければならない者がいるとすれば、それは私である。諸君は私の部下であり、諸君の行動は全て私の指揮の下で為されなければならない」

 

檜垣は立ち上がると顔を真っ直ぐに向けた。

 

檜垣「今こそが、そうなのかも知れん。私にとっては恐らく今が『そのとき』なのだ!」

 

第三偵察隊「?」

 

檜垣「私は私の責任において命令する。これより第三偵察隊の指揮は、この檜垣が執る!」

 

第三偵察隊「はっ!」

 

居並ぶ第三偵察隊を見渡して頼もしそうに頷く。

 

檜垣「良い面構えだ、お前たち。みんなを助けに行くぞ!」

 

 

 

 

 




アニメでは『そのとき』がカットされてしまいましたね……。
遅くなりすみません。m(__)m


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12話 日本



大変遅くなりすみません。m(__)m
タイトルどうなんだろうか…? もっと違うのでもよかったかなぁ?まぁ、変えられるのでこれで!


 

狭間陸将「町の状況はどうなっている!?」

 

国際NGO代表を名乗る劉との交渉から執務室へ足早に戻ると状況の報告を求めた。

 

「負傷者は多数、犠牲者もかなりの数に上っています。今のところ救出だけで手一杯で、怪異…ダーの掃討まで手を回せません」

 

狭間「…しかたない。第5戦闘団の待機命令を解除し、負傷者と犠牲者を駐屯地内に収容させろ。全員を避難させる。で、各戦闘団はいつ戻る?」

 

「一番近い所で三~四時間といったところでしょう。全員が戻るには1日ではおそらく…」

 

特地のあちこちに散らばっている隊員達が1日で戻るのは不可能であると語った。

 

狭間「とにかく、デモ隊との交渉を続けて時間を稼ごう。それで、市ヶ谷(防衛省)との連絡は回復しそうか?」

 

「無理ですね。回線が完全に断たれています…」

 

狭間「無線もか?」

 

「ドームを電波の通さない構造にしたのが悔やまれます」

 

ドーム内を映し出すモニターに目をやった。

国際NGOを自称するデモ隊がドーム内に持ち込んだ大型トラックはフロントバンパーの部分に太い鉄骨が溶接され、先端を尖らせ『門』に体当たりしたときの破壊力を増そうとしているのだろう。それだけに『門』を破壊すると宣言した劉の本気度が伺えた。

 

狭間は、自衛官らは、こんなことをする国際NGOを民間人だとは思っていない。おそらくどこかの国の工作機関か、それに類するものに所属している連中だろう。

 

狭間「いざとなったら連中を力尽くで排除してでも隊員達を脱出させなければならん。『脱兎』発令時の序列を今のうちに徹底させてくれ。弾薬や燃料、それと薬品、食糧等は残しておくように」

 

「はい」

 

今の段階で『門』の破壊が開始されれば全員の帰還は困難である。派遣部隊の大半が異世界に取り残される。そうなれば、再び『門』が開かれるまで残った隊員だけで物資をやりくりしながら生き延びなければならないのだ。

 

「いっそのこと、退去準備命令を撤回してゾルザル派の殲滅を優先してはどうでしょうか?そうすれば帝国との講和条約が発効します。残った隊員だけでもアルヌスの保持は可能です」

 

部下が意見具申した。

 

狭間「いや、それは順番が逆だ。今はマニュアルに基づいた行動をとるように」

 

「陸将、そろそろ時間です」

 

狭間は再びドーム内に戻り、『門』のど真ん中に陣取る74式戦車の前に出た。

そこには既に、国際NGO代表を名乗る男、劉が待ち構えていた。

 

劉「我々の要求を受け入れて貰えるのでしょうか?」

 

狭間は少し間をおいて「断る」と返した。

 

狭間「好きにすればいい。君達が何を企てようとも我々はそれを防ぐだけである。その際は銃砲火器による対応もあり得ることは覚悟しておいて貰いたい」

 

狭間の合図で74式戦車の主砲が旋回し、トラックに向いた。隊員達も64小銃の槓桿を引いて銃剣の付いた銃口を国際NGOを名乗る集団へと向ける。だが、国際NGO側も怯んだ様子を見せなかった。

 

劉「強がりは言わない方がいいですよ?君達は非武装の民間人に引き金をひくことなど出来ないでしょう?日本人が良い人であることは皆が知っています。言っておきますが、これは褒め言葉ではありません。必要な時、どんな悪逆も非道も平然と出来るようでなければ、国家の威信も安全も守ることは出来ないからです。国家は愛されるより恐れられる存在でなければならない。しかし、君達の国は決してそういう存在ではありません」

 

狭間「…」

 

狭間には返す言葉がなかった。

 

 




短くてすみません。m(__)m
お読み下さり、ありがとうございました。

アニメ、展開が速いですね。動乱編は帝都制圧が好きなのでアニメ化されると嬉しいですね。


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13話 『玉壁』確保

遅くなりすみません。m(__)m
今回も短いですが、よろしくお願いします。




 

狭間は劉に返す言葉がなかった。

 

劉「では我々の要求をのべます。特地への立ち入りを認めて下さい。現在、日本政府に『門』と特地の管理を国連に譲るよう要求していますが、その進展具合によっては我々はこの『門』を破壊しなければなりません。そうなれば君達は異世界の漂流者となります。しかし、君達が特地を我々に明け渡せば漂流者となることはありません。どうですか、良い交換条件だと思いますが?」

 

狭間「我々がそのような脅しに屈するとでも思っているのか?我々は君達の特地への立ち入りを絶対に拒む」

 

劉「日本に戻れなくなりますよ。万が一そうなったとしても、それは日本政府や君達の責任で、我々のせいではありません」

 

狭間「それもまた覚悟の上だ。そもそも我々は君達の要求に対して返答できる立場にない。交渉は日本政府としたまえ」

 

劉は一瞬考え、しかしと続けた。

 

劉「君には日本の将軍として、独自の裁量権があるはずです。我々の特地への立ち入りを認めてしまいなさい。そうすれば我々も『門』までは破壊しません」

 

狭間は劉の言葉に違和感を覚えた。

自衛隊に代わってこの連中が特地に入ったとして、そのまま特地を保持出来るとは思わないからだ。この交渉はいったい何を目的としているのか?

 

狭間「政府の方針は『門』を一旦閉鎖することにある。我々に代わって君達が特地に入ったとしても、我々は容赦なく『門』を閉じるだろ。今度は君達が異世界の漂流者となるぞ?」

 

劉「もちろん、『門』の閉鎖はなしです。今後、特地に関わる方針は国連の常任理事国が決定することになりますから」

 

狭間「…なるほど、理解した」

 

劉「やっと理解してくれましたか?」

 

狭間「あぁ、お前達が交渉するように見せかけて、時間稼ぎをしているということを理解した」

 

劉「…なんです?」

 

狭間「お前達の要求はどれも我々には実行不可能なものばかりだった。つまり、お前達は我々になにもして欲しくない…時間を稼ぐことが目的か?」

 

劉「…ええ、確かにそうです。ですが、時間稼ぎの目的までは分からないでしょ?そして今、分かったとしても手遅れです」

 

狭間「何が目的だ!」

 

劉「そう慌てなくても直ぐに分かります」

 

その時、特地側から狭間を呼ぶ声が聞こえた。

 

「陸将!」

 

狭間が後ろを向くとそこには、第三偵の栗林、檜垣三佐、そしてレレイがいた。その後を自衛官に押さえられた工作員(観光客として自衛隊に保護された)が続いた。

 

劉「!?くそっ、『玉壁』が…」

 

レレイ、そして自衛官に押さえられた工作員を見て劉が舌打ちをした。

 

狭間「三佐、何があった?これはどういうことかね」

 

狭間には今の状況がどうなっているのか分からなかった。

 

檜垣「はっ、状況を報告します。住民救出中、レレイ嬢が拘束されているのを発見。近くにいたメイア、料理長などに話を聞くと数時間前、中国にレレイ嬢を預けるため日本に送った、はずだと…」

 

狭間「…なるほどな、レレイ嬢を確保するためデモを起こした。しかしレレイ嬢は送られておらず、直接特地に入り確保する必要があり、そのため時間を稼いだ…どうだ?合っているかね」

 

劉「えぇ…合っています。これで我々の作戦は失敗ですね。しかし、我々はここで捕虜になる訳にはいきません」

 

そう言うと劉は部下に合図を送った……。

 

 

 

 

 

 

 

 




大変遅くなりすみません。m(__)m
アニメ動乱編も最後…!と、言うことは空挺降下、帝都制圧ですね!リアルタイムで見れればいいな…。
お読み下さりありがとうございました。m(__)m


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