Fate/stay night ~ For someone's smile ~ (シエロティエラ)
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番外編
四月馬鹿企画




今回はハリポタと連動しています。ですので、会話の重複が見受けられると思いますが、あまり気になさらないよう。

そんなこんなで嘘のようなお話、どうぞごゆっくりと。






 

 

 ある春の昼下がり、隻腕の少年は自宅敷地内の土蔵にて家電の修理を行っていた。この少年、衛宮士郎が行っているのはビデオデッキの修理、例の如く虎が持ち込んだものである。

 

 正直ビデオデッキと言われてもわからない人のために、一応軽く説明を書いておこう。こればかりは世代故に仕方ないことでもあるので、余り重く受けとることはないので安心していただきたい。

 

 

 現代における映像記録媒体はブルーレイやDVD、SDなどが挙げられるが、一昔前、といっても15年ほど前だが、ビデオと呼ばれるものが主流であった。一度は見たことがあるだろう、四角い長方形の媒体であり、中には記録及び再生用テープが巻かれて入れられている。

 現在主流のディスクとは異なり、何度も使用すると劣化によってテープが切れるという短所、さらに加えて媒体事態が多少重量を持って嵩張るなどの問題もあるため、今では使う人は余りいないだろう。

 で、このビデオテープを使用するために必要な機械がビデオデッキである。正直DVDドライバーよりも重くて場所をとってしまう。

 

 

 関係のない余談はここまでとして、ビデオデッキを修理する手際は、片腕とは思えないほどの良さであった。長年の慣れなのか、残っている右腕は流れるように動いている。

 

 そこに薄く開かれていた土蔵の扉がさらに開かれ、一人の少女が土蔵に入ってきた。纏う空気は周りを安心させ、この少女の周りでは喧嘩が起きないのでは、という感想さえ持たせるショートロングの少女である。

 

 

「……ん? 由紀香か?」

 

「うん。お疲れ様、士郎君。どんな感じ?」

 

 

 お盆に載せた二人ぶんの湯飲みを床におき、自身も床に座って士郎に訪ねる。埃などで服が汚れるなどの心配はあるが、少女、三枝由紀香は気にしていないようだ。

 

 

「もうそろそろ終わる。ただ、前に比べて少しペースが落ちてるな」

 

「……」

 

 

 少女、由紀香は少し悲しそうな目で士郎の左半身を見つめる、正確には左肩辺りを。

 衛宮士郎はつい一ヶ月ほど前に、魔術師と七騎の英霊が集って殺し合いを行う聖杯戦争に参加した。そのとき、とある出来事によって左肩から先を失ってしまった。

 戦争が終わるまでは代用していたものがはあったが、戦争終結と共に仮初めの左腕は霧散したので、今はまた片腕に戻っている。

 戦争が終結したあと学校に登校したときクラスメイトが驚愕し、由紀香が涙を流し、虎が吠えたのは記憶に新しい。

 

 

「……由紀香?」

 

「あっ、な、なんでもないよ?」

 

「? そうか」

 

 

 わたわたと体の前で両手を振る由紀香に目を向け、士郎は湯飲みに手を伸ばした。そしてその中身を一口含む。

 

 

「……やっぱ由紀香の煎れるお茶は美味いな」

 

「本当?」

 

「ああ。……これは紫蘇が入ってるのか?」

 

「あ、うん。紫蘇は疲労回復効果があるから、少し混ぜてみたの」

 

「そうか。ありがとうな」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 最近薬草の勉強をしている由紀香。

 元々保健系の進路を希望していることに加え、魔術に関わりはじめてからは、無茶をしがちな士郎のためにと色々と勉強している。

 

 

「……さて、気分も爽快。仕上げるとするか‼」

 

「頑張ってね。他には何かあるの?」

 

「いや、今回はこれだけだ」

 

「そっか。じゃあ終わったら呼んでね。後片付け手伝うから」

 

 

 由紀香そう言うと、空の湯飲みを二つ盆に載せ、土蔵を後にした。

 それを見送った士郎は仕上げにかかった。と言っても残りは配線を繋ぎ直し、外装を再びつけるだけなので、大して時間もかかることはない。

 ものの数十分で全て終わらせ、片付けも一人で終わらせてしまった。

 

 ふと土蔵の奥に目を向ける。そこには大きな魔法陣が床に刻まれていた。

 思い出すのは聖杯戦争、士郎はこの陣からサーヴァント·セイバーを召喚し、戦争に参戦した。汚染された聖杯を破壊するため、共に戦場を駆けた相棒は何も思い残すことはないと微笑み、朝焼けを背後に還っていった。

 自分の体に召喚の触媒となった鞘はもうない。聖杯戦争の折に、彼女に返したことにより、その加護は受けなくなった。異常なほどの回復力は未だに健在だが、そもそもの体質であるから関係ない。

 

 陣に近寄って縁を撫でる。

 

 

「……お前には何度も助けられたな。召喚する前もそのあとも。セイバー、お前のお陰で俺は生きている。ありがとうな」

 

 

 元の場所に帰った彼女には聞こえないだろう。だがそれでも士郎は感謝を言いたかった。

 すると声に反応したのか、突然陣が輝きだした。強い光を放つそれは、士郎を待ったなしで飲み込んでいく。

 

 

「ッ!? 待てッ!? 俺は魔力を流してないぞ!?」

 

 

 しかし無情にも士郎は光に呑み込まれ、その視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば俺は土蔵に転がっていた。場所は例の陣の上、すぐ横には別の人間の気配もする。

 体を起こして周りを見渡すと違和感に気がついた。

 

 俺は基本的に土蔵は整理している。だが目の前には修理しかけのストーブが放置されており、土蔵内部はそれ以外にも埃が溜まっている場所がある。

 そして日の傾きからして時刻は朝方、俺が土蔵にいたのは昼下がり。時間にズレが生じている。

 認めたくはないが。

 

 

「ここは平行世界の私の家、というわけか。どう思うかね、衛宮士郎君?」

 

 

 隣の人間、あの赤い不審者に似た口調と容姿の人物が話しかけてきた。 

 

 

「そうなんじゃないか? まぁ俺の家でもないけど」

 

 

 だから俺はそれに答えた。隣の人物、こことは別の平行世界の衛宮士郎は赤い不審者とは違い、不愉快な気がしない。

 とはいえ、一応確認しておくか。

 

 

「あんたも別世界の衛宮士郎なのか?」

 

「いかにも。む? どうやら家主一行が来たらしい」

 

 

 大人の衛宮士郎の言葉に従って意識を外に向けると成る程、確かに数人がこちらに走って向かってきている。恐らく、俺たちの出現に気がついて大慌てで来たのだろう。

 勢いよく開かれた扉から、この世界の住人と、何故か三人のサーヴァントが雪崩れ込んできた。というか赤い不審者、お前までいるのかよ。

 

 

「あんた、何者?」

 

「返答次第ではこの場で排除します」

 

 

 遠坂はいつでもガンドを撃てるように構え、セイバーは不可視の剣を構える。

 忘れていた。彼女らは結構喧嘩っ早い性分だったな。不振人物を警戒するためとはいえ、これでは円滑にことが進むわけないだろうに。

 

 

「そうは思わんかね?」

 

 

 突然何の脈絡もなく、隣のエミヤシロウが問いかけてきたが知るか。第一あんたが何を考えていたかわからん。

 

 

「いや、知らないよ。俺に聞くな」

 

「えぇッ!? 先輩がもう一人!?」

 

「それに一人は腕が……」

 

 

 俺の声にようやく気づく他の面々、遅すぎだろう。呆れて何も言えない。まぁあの赤い不審者は気づいていたみたいだが。

 

 

「いや、正確には三人だろ?」

 

「いや、もう一人いるから四人だ。なぁ、アーチャー?」

 

「なにっ!?」

 

 

 俺たちの発言に驚くこの世界の面々。成る程、アーチャーの正体は知っているのか。というか大人の俺、アーチャーを弄る楽しさに目覚めるのはいいけど、今はそれどころじゃないからな?

 

 

「とりあえず土蔵(ここ)から出ないか? こんなところで話し込むことはないだろう」

 

 

 大人の俺が案を提示する。ふむ、確かにこんなところで話し込むことはないか。

 

 

「そうだな。この世界の衛宮士郎、それでいいか?」

 

 

 一応ここの家主はこの世界の俺だし、許可をもらわない限りは行動できない。

 

 

「え? ……そうだな。じゃあ客間に来てくれ。あんた達も俺なら、場所はわかるだろう?」

 

「ちょッ!? 士郎!?」

 

「先輩!?」

 

「……本気ですか、シロウ?」

 

 

 家主の言葉に異議を唱える面々。まぁわからなくもないが、こちらとしても情報を整理したいから時間が惜しい。

 とりあえず二人して敵意がないことを必死に伝え、俺たちは客間へと移動した。

 そして今ちゃぶ台をアーチャー含めた四人のエミヤシロウで囲んでいる状態だ。なんというか、男四人でちゃぶ台を囲むなんて。まだ俺やこの世界のエミヤシロウなら良いが、着流し黒足袋の大人の俺やアーチャーは。

 

 

「むさ苦しいな」

 

 

 つい口から出てしまい、大人組から避難の視線を向けられた。やってしまった。

 

 

「君もその一人だぞ?」

 

「ぐぅ……」

 

 

 言い返されてしまった。

 

 

「でも大人のあんたが一番……いや、違うな」

 

「ああ、一番むさ苦しいのは……」

 

 

 このとき、俺は大人の俺とアイコンタクトで会話ができた。他の二人やこの世界の面々、俺たちの後ろで警戒しているセイバーとライダーも首をかしげた。

 

 

「「そこの赤い不審者(アーチャー)だな」」

 

「なッ!?」

 

「「「ブフゥッ!?」」」

 

 

 ハモった俺たちの言葉に本人は絶句、遠坂は爆笑し、それ以外は呆気にとられた顔をした。うん、俺この大人の俺と気が合いそうだ。

 

 

「貴様らッ!?」

 

「「あ? 否定させんぞ?」」

 

 

 反論しようとしたアーチャーを、また二人で押さえ込む。ヤバい楽しい。

 その後もアーチャーを大人の俺と一緒に弄りつつ、脱線した話題を戻して自己紹介と相なった。

 

 

「さて、言うまでもないと思うが、私は衛宮士郎だ。この世界とは別世界の存在、まぁ四人もいればややこしいだろうから、呼ぶときは『鍛治師(スミサー)』と呼んでくれ」

 

「じゃあ次は俺だな。俺も別世界の衛宮士郎。たぶんスミサーとも別の存在だと思う。まぁ呼ぶときは『贋作者(フェイカー)』と呼んでくれ」

 

「私は「「いや、お前はいいや」」おいッ!!」

 

 

 アーチャー弄りは楽しいが一旦ここでやめるか。最低限信用を得るためにもこちらの情報は開示しなければならないだろう。

 俺とスミサーは話し合って明かすべき情報とそうでないのを取捨選択し、この世界の面子に説明した。変わりと言ってはなんだが、この世界についても軽く教えてもらった。

 成る程、繰り返される四日間か。俺のいた世界では起きることはない事象だな。そしてこの世界の俺は、由紀香とはあまり深い関わりはないらしい。せいぜいクラスメイトが関の山か?

 

 と、そこでスミサーがアーチャーに疑問の視線を向けた。

 

 

「アーチャー、お前はずっと現世に?」

 

 

 む? それが何かスミサーと関係あるのか?

 

 

「いや、聖杯戦争が終わったときに一度『座』に戻ったのだが……」

 

「だが?」

 

「……驚いたことに、『座』が変容していた。雑草も生えない荒野だったはずなのだが、見渡す限りに青々とした草が生え、宙に浮かぶ歯車は錆びて地に落ち、空を覆い隠す雲も消え失せ、黄昏の空は快晴になっていた。あれはどう言うことなのだ?」

 

 

『座』が変わった? どういうことだ?

 そんなことはあり得るのだろうか? 平行世界の俺、アーチャーは『世界』と契約し、『抑止の守護者』という阿頼椰の奴隷になっている。その存在は既に固定され、不変のはずだが。

 

 

「……スミサー、貴様何か知っているのか?」

 

「さて、仮に知っていたとしても、私からは話すことはせんよ。無論衛宮士郎にもフェイカーにもな」

 

 

 まぁ確かに、それで万が一『世界』の琴線に触れるようなことになれば俺たちの世界が危なくなる可能性がある。

 

 

「そっか」

 

「まぁわからなくはない」

 

「……」

 

 

 まぁもっとも、この世界の俺はわかってないだろうけど。

 それにアーチャーは未だに疑惑の視線をスミサーに向けている。当の本人たるスミサーは微笑みながらそれを受け流しているが。

 

 と、横から俺の空っぽの左裾が引っ張られた。目を向けると、この世界のイリヤ姉さんが興味津々な目をして、スミサーと俺を見つめていた。

 

 

「ねぇねぇ聞いていいかしら?」

 

「「ん? (む?)」」

 

「二人は自分の世界で何をしてるの?」

 

 

 俺達の現状か。さて、どこまで話したものか。見るとスミサーも首捻っている。

 

 

「ん? 何か話せないことでもあるのか?」

 

 

 ……いや、この世界の俺、鈍すぎじゃないのか?

 少し考えれば下手に話せないことはわかるだろうに。それともこの世界の遠坂や姉さんはそこまで教えていないのか?

 とそこでスミサーが苦笑いしながら口を開いた。

 

 

「いや、どこまで話して良いものやらと思ってな」

 

「なんでだ?」

 

 

 ……これは酷い。

 

 

「考えてもみろ。もし余計なことを話して抑止が動けばどうする? 赤い不審者(アーチャー)のように死んだ後に現界しているのなら多少は良いかもしれないけど、俺やスミサーはまだ生きてるんだぞ?」

 

「下手すればこの世界だけでなく、私達の世界も滅びの対象にされかねんからな」

 

「……そうなのか」

 

 

 ……理解するのが遅いな。まったく、俺たちが平行世界の自分であるか気づくのは早かったのに、こういうことは鈍いんだな。

 

 

「まぁ何も話さないのもあれだから、俺たちの周りを簡単に話すのはどうだ、スミサー?」

 

「まぁそれくらいならいいだろう。私から話すか?」

 

「いや、楽しみは取っておきたいから俺から話す」

 

「楽しみて……」

 

 

 スミサーが何かいうが聞こえない。

 俺は自分の身の上と由紀香について軽く話すことにした。やはりと言うべきか、俺たちの原点はあの大火災なのは変わらないらしい。だがスミサーもアーチャーも、衛宮士郎も両親の記憶が全くないことには驚いた。

 加えてこの世界ではアインツベルンと和解していないらしい。間桐の『闇』に関しても微妙なとこだな。むしろこの世界の桜はそれをものにしている傾向がある。要するに問題を解決する前に本人がどうにかしてしまった感じだな。

 

 

「えっと……そちらでは私は?」

 

 

 桜がおずおずと聞いてきた。

 

 

「ああ、元気にしている。まぁこっちの桜は想像できるかわからないけど、慎二と結構仲良くしてる」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 俺の言葉に桜は若干引いていた。まぁ、もしかしたらそうなっていたかもしれないからな。俺も『闇』を解決しなかったらと思うと今でも怖くなる。あの兄妹には幸せになってほしい。

 

 

「そういえばさっき三枝さんの名前が出てきたけど、どうして?」

 

「ん? ああ、それは俺の世界では由紀香は俺の彼女だから」

 

「へぇそうなの……は?」

 

「へっ?」

 

「「「「か、彼女ォ!?」」」」

 

 

 ……そんな驚くことか? とりあえず凛、俺にガンドを撃とうとするな。桜は……まだ自制してくれてる。姉さんはコアクマになってらっしゃる。

 色々と凛が隠蔽がどうこうギャーギャー言っているが、俺は由紀香を選んだことを後悔していない。無論俺と関わることで危険が増すことはわかっている。だが俺という存在を正しく認識して尚、傍にいたいと彼女は言った。

 それにこの事に関しては既に師匠達からも許可が出てるので、今さら何を言われようと由紀香から離れない限り、俺から離れることはない。

 

 

「……とまぁこんなとこだ。この腕も聖杯戦争でやられたけど、今は師匠が義手を製作中だな。次はスミサーの番だぞ?」

 

「承知、と、その前にお茶のお代わりをいただけるか?」

 

 

 さてさて、スミサーからはどんな話が出てくるのだろうな。

 

 

「さて、何から話すか迷うが最初に言っておく。私は子持ちだ」

 

「「「「…………はっ?」」」」

 

「へぇ……」

 

 

 ……いきなり爆弾が投下された。まぁでも、スミサーからは大人の余裕というか、少し切嗣(じいさん)に似た雰囲気が感じられたからな。

 

 

「「「すみません、何て言いました?」」」

 

「だから私は子持ちだ。四人いて一番下はこの前一歳に、一番上はもうすぐ十四だ」

 

 

 そっか。どうりで、

 

 

「赤い不審者と違って落ち着きがあるわけだ」

 

「貴さ…「ああ、赤い不審者と違ってな」…オイッ!!」

 

 

 アーチャーが「お前は俺に何の恨みがある」とでも言いたげな視線を向けてくるが、俺はそれを軽くスルーした。元の世界では殺されかけたからな、嫌みで済むだけマシだろう。

 

 だがそんなことを考えている間に、スミサーはさらに大きな爆弾を投下してきた。

 

 

「まぁその……なんだ。実はイリヤと凛、桜の三人なんだ」

 

「「「「はいぃッ!? さ、三人とも!?」」」」

 

 

 誰を(めと)ったか言い争っていた姉さんと遠坂、桜に対して放ったこの言葉は、客間の空気を凍てつかせた。

 スミサーはそれを気にした風でもなく、殺気だつ遠坂を宥めながら一枚の写真を差し出してきた。その写真はスミサーを中心として、姉さん達三人とそれぞれの前に子供が一人づつ。一番幼い子供はスミサーに肩車されていた。

 そこには幸せそうな一家族が写っていた。

 でも気のせいではないだろう。この世界の姉さんが物憂げな表情を浮かべているのは。俺の世界では姉として、スミサーの世界では妻、母として未来を手にしている。

 そして俺とスミサーは別世界の存在、おいそれと干渉することはしてはいけない。この世界の姉さんには申し訳ないが、この世界の俺にどうにかしてもらうしかないだろう。

 

 

 

 

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 時間は過ぎてこの世界の昼少し前、何故か行われたセイバーとの手合わせを終えた後に、俺とスミサーの体が透けはじめた。

 

 

「……どうやら」

 

「時間みたいだな」

 

 

 俺とスミサーは誰に言うこともなく、ぼそりと呟いた。この世界の皆は、一様に残念そうな表情を浮かべる。

 アーチャーは相変わらず仏頂面だが。

 

 

「先程も言ったが、皺が取れなくなるぞ?」

 

「ふん、余計なお世話だ」

 

「まぁお前がそれでいいのなら構わんが。少しは笑顔を浮かべてみろ、そうすれば多少は世界の見え方が違ってくるぞ?」

 

「……善処しよう」

 

 

 アーチャーの眉間の皺はもう手遅れだと思うけど。まぁスミサーが言うことも強ち間違ってはいないんだが。

 

 

「あの……スミサーさんとフェイカーさんは……消えるんですか?」

 

 

 この世界の桜がおずおずと聞いてくる。他の面子も言葉には出さないが、皆が心配そうな顔をしている。この場合、笑顔を浮かべていたほうがいいな。

 

 

「消えるんじゃない。帰るのさ、元いた場所に」

 

「そもそも俺達は別世界の存在だ。むしろこうなることは必然だぞ」

 

 

 俺とスミサーは言葉を紡ぐ。そして俺たちはこの世界の俺に目を向けた。

 

 

「この世界の俺、お前はお前の道を進むんだ」

 

「焦らなくていい、遠回りしていい。お前が、お前とアーチャーが抱いた想いは、決して間違いではないのだからな」

 

 

 もう足は殆ど消えている。

 

 

「一人だけでできることなんて多可が知れてるからな」

 

 

 そうだ。俺は俺一人の力では何もできない。だが一人で無理でも二人なら。二人で無理でも三人なら。

 

 

「迷ったときは立ち止まるのも大切だ。私も何度もそうしたし、何度も皆に助けてもらった」

 

 

 もう残された時間はない。

 

 

「衛宮士郎」

 

「……なんだ?」

 

「夢を持て」

 

「……え?」

 

「英雄に、正義の味方になりたければ夢を持つんだ。そして、誇りも。忘れるな」

 

「いつかまた会うことがあれば、そのときは茶でも飲もう」

 

 

 最後にそう言い、俺たち二人はこの世界から消失した。

 

 

 

 

 

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 目が覚める。まるで網で引き上げられる魚のように意識が浮上する。目を開けると視界に映るのは、慣れ親しんだ自室の天井。枕元には由紀香と姉さんが座っていた。

 

 

「シロウ? 起きたの、シロウ!?」

 

「士郎君、大丈夫!?」

 

 

 姉さんと由紀香が俺に気がつき、迫ってきた。ああ、本当に帰ってきたんだな。

 

 

「ああ、わかる範囲では大丈夫だ。心配かけて悪い」

 

「本当よ‼ 土蔵の陣は光ってるわシロウは魂抜けてるわで冷や冷やしたんだから‼」

 

「……よかった……本当によかった」

 

「ユキカなんて泣きっぱなしだったし」

 

 

 それは……確かに二人に心配かけてしまった。本当に反省している。

 その後、姉さんと事情を聞いて家に来ていた遠坂の診察を受け、問題ないと判断されたため、一先ず安心した。診察が終わったのは夕方、そろそろ夕食の準備を始める時間帯である。

 

 

「食材は……あったな。遠坂は食べていくか?」

 

「折角だしね。診察料だとしてもお釣りがくるわよ」

 

「了解。由紀香、弟たちはどうする?」

 

「これから迎えに行くところ。今日はお父さん達も一緒だけど大丈夫?」

 

 

 由紀香の両親もか。弟たち、遠坂に間桐兄妹、虎とかも来るから十人ほどか。

 

 

「……腕が鳴るな」

 

「え? なに?」

 

「ああいや、何でもないぞ」

 

 

 だが我が姉は俺の呟きを聞き逃さなかったらしく、獲物を捉えたような目をした。

 

 

「ふふふ~、シロウの執事根性がたぎってきたのよね~」

 

「なっ、聞こえてたのか……」

 

「ふふふ~、今晩はなにかな~♪」

 

 

 姉は上機嫌に廊下を歩いていく。そしてそれを呆れたように追っていく遠坂。何のことはない、この衛宮邸では見慣れた光景。

 

 

「士郎君、なんだか楽しそうだね」

 

「ん? ああ、そう見えたか」

 

「何かあったの?」

 

 

 由紀香が不思議そうな表情で俺の顔を覗きこむ。ああ、やはり俺には彼女のいない世界は想像できないな。

 

 

「いや、今回は意識だけ飛ばされたんだが、その飛ばされた先で良い出会いがあったから」

 

「へぇ、どんな?」

 

「そうだなぁ、弟たちの迎えがてら話そうか」

 

 

 春の夕暮れ。『枕草子』では春は明け方が美しいと言われているが、黄昏時もまた美しいものである。差し込む夕日に重なる二つの影は、これから先も離れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。
この話は多少ネタバレになってしまっていますが、細かい部分はちゃんと隠せているでしょうか?

いずれ向かう結末ですが、それまでの過程もしっかり本編で描写できるよう頑張っていきます。
因みにですが、これを書いている私はビデオ世代であり、テレビも液晶ではなくブラウン管の世代でした。ついでに言えば、『時のオ○リナ』が出たときの衝撃は、幼稚園時代でしたが今でもよく覚えています。

それでは今回はこの辺で。





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本編
プロローグ






メイン作品で少し描写に苦戦しているため、息抜きに執筆しました。

こちらも連載しますが、本連載よりも更に不定期になると思います。



それではプロログス、ごゆっくりと







 

 

…………夢を見た。

 

そこは街、いや街だった場所。

 

見渡す限りの(死体)ひと(死体)ヒト(死体)……

 

燃え盛る焔、苦悶の声、悲鳴。

 

ニク()の焼ける音、におい以外の何もないと思わせる地獄。

 

その中を独り、歩き続ける少年。

 

 

 

 

 

 

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…………雨が降ってきた。

 

焔は数えきれない命と共に消えた。

 

歩いていた少年はついに力尽き、その身を地に伏せた。

 

仰向けになる。

 

手を天に伸ばす。

 

その手が地に落ちそうになる寸前、誰かがその手を握りしめた。

 

それは男。

 

少年の手を握りしめた男の顔は、歓喜と悲しみ、そして救いの顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

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遥かな荒野を臨む世界。

 

分厚い雲に覆われた黄昏の空。

 

響き渡るは、武骨な鉄を打つ音。

 

地に突き立つ無限の剣。

 

錆びた歯車は空に浮かび、止まることなく回り続ける。

 

丘の上に立つのは、紅の外套を羽織る白髪の青年。

 

その目は何を見て、その心は何を思うのか。

 

 

 

 

 

 

 

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…………………………ゃ……ん。…………みや……ん。……宮君、朝……よ、……きて?」

 

 

声が聞こえる。まぶたの裏からでも分かる、朝日の輝き。

嗅ぎなれた機械油とホコリっぽい匂い。硬い床の感触。ああ、俺はまた……

 

 

「……宮君、衛宮君。うーん起きないなぁ」

 

「シロウはまだ起きないの?」

 

「あ、はい。何度も呼び掛けてるんですけど、なかなか…………」

 

「うーん、よし! 私に任せて!」

 

 

冬の寒い朝、俺はまた土蔵で寝ていたのか。どうりで首を寝違えている訳だ。それはそれとして。何か忘れているような…………

 

 

「シーローーーーウ!! おっはよーーーーう!!」

 

「サラダバーッ!?」

 

「わわっ」

 

 

腹部に唐突に来たボディプレス。こんなことするのは、

 

 

「ゲボッゴホッ!! イリヤ姉さん……またやったのか…………」

 

「おはよう、シロウ! シロウが悪いのよ? あの子が何度も呼び掛けても起きないんだから」

 

「ゆ……ゆするとか……ゲボッ…………あるだろう……」

 

「あ、そういえばそうだった」

 

 

全く。俺は体から小柄な姉をどかして、土蔵にいるもう一人に顔を向ける。

 

 

「衛宮君。大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫。大分よくなった」

 

「よかった。あ、朝御飯できてるよ? 間桐君と桜さん、藤村先生も来てるし」

 

「う、ゴメン。直ぐに着替えていく」

 

「うん、わかった。イリヤさん、私達は先にいきましょう」

 

「ええ、そうね。じゃあシロウ、急いでね」

 

 

そう言って姉は俺の返事を待たずに土蔵から出ていく。もう一人もそれに続こうと立ち上がった。

 

 

「じゃあ衛宮君。準備しとくね?」

 

「わかった。ああそうだ」

 

「? どうしたの?」

 

 

改めて俺は目の前の子に顔を向ける。

 

 

 

 

「おはよう、三枝。いつも悪いな」

 

「うん、おはよう衛宮君。気にしないでいいよ」

 

 

 

 

 

俺は衛宮士郎。

 

 

十年前の地獄で孤児になり、衛宮切嗣の養子となった。

姉であるイリヤと養父、とある街に住む人形師、万華鏡の二つ名を持つハッチャケ爺から魔術の手解きを受け、モグリの魔術使いとして冬木に住んでいる。

 

この冬木の街で俺が魔術使いと知っているのは、イリヤと間桐兄妹だけである。

間桐兄妹は、まだ切嗣が生きているとき、人形師の師匠と外道神父、言峰と共に間桐蔵硯の呪縛から救いだした。以来こうして交流を続けている。

 

イリヤ姉さんの実家である、アインツベルン本家とも色々といざこざはあったが、今では和解し、イリヤも自由に過ごせるようになった。ただユーブスタクハイト様、通称アハト翁がイリヤや俺に対して孫馬鹿になっている感じがしないでもないが。

 

いったい何をどうしたら、あのじいさんはあんなに豹変するのだろうか。確かあのとき、万華鏡と師匠が意気揚々とアインツベルンの城に行って、しばらくして俺と切嗣が呼ばれたから向かうと、アハト翁が師匠たちと俺達に土下座していた。いや、うん。本当に言葉が出なかった。

 

それからというもの、年に二度は必ず顔を見せにこいと俺たちに言い含め、季節の節目には必ず本家からなにかしら贈り物がくる。イリヤ姉さんが、

 

「あの何かに取り憑かれたような雰囲気しかなかったお爺様が、あんなに普通になるなんて。私夢でも見てるの?」

 

と言っていたのは記憶に新しい。以来、アインツベルン本家とは友好な関係を築いている。

 

 

 

 

 

あの地獄からはや十年、人々は比較的平和に過ごしている。

だが先日、俺と姉に万華鏡のハッチャケ爺から警告があった。再び冬木の地で聖杯戦争が起こると。

 

前回マスターだった養父衛宮切嗣は、聖杯に潜む邪の存在を知り、世にでる前に破壊しようとしたらしい。しかし完全には止められず、結果的には冬木の大火災が発生した。

切嗣の英断がなければ、今頃この地球上の全ての生命は永久に失われていただろう。俺は家族と記憶を失うことになったが、それでも記憶の片隅に残っているものはある。

あの日、俺は顔も思い出せない、だがはっきりと家族だったと言える人たちから逃がされた。生き延びて幸せになるようにと言われて。家族を失った。地獄を見た。見慣れたくない死体に見慣れた。あのような辛い思いをするのは俺だけでいい。養父に引き取られ、姉や親しい人ができたが、家族を失った悲しみは、乗り越えることができた今でも消えない。

 

だから俺は決意した。俺は、俺と同じ思いをする人をこれ以上増やさないように、聖杯戦争を止めると。

 

今再びその戦争が起きようとしている。アインツベルン本家、万華鏡からも聖杯戦争を今回で終わらせる許可を貰っている。アインツベルンからは支援も来るそうだ。そのために姉さんは朝食をとったあと、本家まで行くことになっている。

 

数日後にまで迫った聖杯戦争。

俺は俺自身の目的と信じるもののために、戦いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








はい、ここまでです。

最後の方、文章に纏まりがなく、読みにくかった人も多いと思います。
次回は設定と対人関係について少々記述しようと思います。


いつになるかわかりませんが、あたたかく見守っていただけると幸いです。


ではまた。
メイン作品もよろしくお願いします。






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設定

では設定です。

ごゆっくりと。







 

◆ 人物設定

 

 

 

 

 

衛宮士郎(えみやしろう)

 

本作品の主人公。

本作品イレギュラーその1

 

原作と違い、魔術の手解きはしっかりと受けている。

 

初めは切嗣に教わっていたが、士郎の異端さを垣間見た切嗣によって、人形師蒼崎橙子に弟子入りすることになる。そこで万華鏡とも巡りあい、自身の魔術をある程度完成させる。しかし修行の過程で髪の一部が白くなり、メッシュをいれたように。肌は、服で隠れている部分が浅黒くなっている。

 

 

固有結界「無限の剣製」は展開可能だが、万全の状態でも現時点では五分間のみ。それを越えると、修正力によって体を内側からメッタ刺しになる。が、それによって死ぬことはない、というか許されない。故に、身体中を刺される痛みを、オーバーした時間と同じだけ煩うことになる。他の人から魔力のバックアップがあれば、時間オーバーしても少しは大丈夫。

結界の展開可能時間は、成長するにつれ、長くなる。

 

 

固有結界の副産物で使える投影、強化、変化の魔術に加えて、簡単な気配遮断や防音結界なども使用可能。原作よりも若干対魔力があるが、それでもキャスターから見れば、紙があるかないかのレベル。尚、本作ではオリジナル魔術も使用。しかしそのどれもが「肉を切らせて骨を断つ」というものなので、使うたびにイリヤに怒られている。

 

 

 

オリジナル魔術①

投影剣甲:

体内に剣を何本も投影し、それを鱗のように体から生やすという、急拵えの部分鎧。先述の通り、体から生やす形になるので、使用後その部位はズタズタになっている。緊急回避用の防衛魔術。

 

 

オリジナル魔術②

投影鉄爪:

両手の親指を除く、四本の指の間から金属の爪を生やす、近接戦闘用の魔術。狭い空間での戦闘において多用。

 

 

オリジナル魔術? ③

爆裂蹴脚:

剣、又は短剣を足首に装着し、ドロップキックの要領で相手にぶつけると同時に、剣を爆散させる。当たり前だが、足はボロボロになる。

 

 

 

 

性格は原作ほど自分を疎かにはしないが、それでも多少はサイバーズギルドの気がある。夢は自分の大切な人の笑顔を守り抜く存在になること。

 

この作品でも変わらず、執事スキルEX

 

 

外見イメージは、プリヤ美遊の世界の衛宮士郎が一番近い。

戦闘時は守護者エミヤが白い外套を着けず、代わりに腰にアヴェンジャーのような赤い布を巻いた感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎ イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルン

 

 

衛宮切嗣の実の娘。士郎の義理の姉。

本作品イレギュラーその2

 

アインツベルン本家で聖杯の器にされるために幽閉されていたが、万華鏡と人形師、そして父切嗣と義弟シロウの来訪により、その使命から解放される。素体を人間と遜色のないものに乗り換え、普通に暮らせるようになった。元の体は、最後の聖杯の器として使用するために、本家で保存している。

 

魔術は元の体と同様に使用できる。

外見は原作よりは少し成長しているが、それでもまだまだ小柄。髪は結ばずに後ろに流している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間桐慎二(まとうしんじ)

 

間桐の長男。

本作品イレギュラーその3

 

原作同様蔵硯の影に怯えており、自身に魔術の才能が無いことを卑下していたが、蔵硯を滅され、桜もろとも救われたときに改心する。嫌みな性格は残っているが、原作と比べると幾分かマシ。桜と仲は良いが若干、いやかなり素直ではないため、たまに桜にお仕置きされる。

 

魔術は依然として使えないため、知識面に於いて桜のサポーターとなっている。

 

外見は原作と変わらない。髪は相変わらずワカメ。

 

 

 

 

 

 

 

 

間桐桜(まとうさくら)

 

 

遠坂の家から間桐に養女に出された少女。慎二の義妹。

本作品イレギュラーその4。

 

原作同様、蔵硯に身体中を蟲で改造され、蔵硯本体も心臓近くに巣食っていたが、切嗣と人形師、言峰に救われる。身体中の蟲と蔵硯を摘出され、邪杯にされることもなくなった。

 

慎二とは原作に比べる仲は良いが、たまに慎二の我が儘に対してお仕置きすることもある。料理は洋食が得意。原作と違って士郎は惚れた男ではなく、面倒見のいい兄の親友。

 

魔術は虚数魔術を使うが、レアな魔術のために余り資料がない。故に、独学と慎二のサポート、士郎の師の力を借りて修練を積んでいる。

 

外見は原作と変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三枝由紀香(さえぐさゆきか)

 

 

一般人。士郎と慎二の同級生。穂群原高校陸上部マネージャー。

本作品イレギュラーその5

 

冬木大火災から8年ほどたったある日に、家族揃って銀行強盗に巻き込まれる。それを偶然通りかかった衛宮士郎と間桐慎二が解決。救助されたあと、家族でお礼をしに行った際に士郎とイリヤ、間桐兄妹と知り合う。以来、ちょくちょく交流がある。

 

高校進学を機会に朝は一人で、夜は弟たちと共に衛宮邸に訪れるようになる。士郎の料理のをよく手伝うが、最近の朝食は桜と共同で作ることが多い。得意分野は和食。

料理の腕は、士郎に次ぐもの。桜より上手い。

 

外見は原作と変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 各人物への印象

 

 

 

 

 

◎ 衛宮士郎 →

 

 

イリヤ:

大切な義理の姉。頼りになる姉。だが小柄な体を利用したボディプレスはやめてほしい。逆らえない人の一人。シロイコアクマ。

 

 

間桐慎二:

気の許せる親友。自分の表裏を知る数少ない人。知識面で大きく世話になっている。だが、桜にお仕置きされたときに助けを求めるのはやめてほしい。

 

 

間桐桜:

親友の妹。料理の弟子兼、魔術の妹弟子。最近洋食分野にて追い越されそうになっているのを危惧している。クロイアクマにしてはいけない。

 

 

三枝由紀香:

中学のときより交流のある女の子。裏に巻き込みたくない一般人。時折浮かべる笑顔に救われるような気持ちになる。料理に於いて、自分と同等の技量を持つと認識。

 

 

 

 

 

 

◎ イリヤ →

 

 

 

衛宮士郎:

大切な義理の弟。父切嗣の忘れ形見。少し自分を疎かにする傾向があるため、心配している。少しブラコンの気がある。

 

 

 

間桐慎二:

弟の友達。互いに裏を知る数少ない人。それだけ。

 

 

 

間桐桜:

可愛い妹分。料理が美味しい。自分の料理の師匠。気の許せる少女。

 

 

三枝由紀香:

新たな衛宮家の食客。士郎を狙っているのではと少し警戒中。

 

 

 

 

 

◎ 間桐慎二 →

 

 

衛宮士郎:

気の許せる親友。互いに裏を知る数少ない人。時折顕現するクロイアクマから助けてくれればさらに良しだったのに。

 

 

イリヤ:

親友の姉。妹の桜が世話になっているため、頭が上がらない。

 

 

間桐桜:

義理の妹。怒らせたら恐い。クロイアクマ始動記録更新中。

 

 

三枝由紀香:

たまたま助けた同級生。一般人。中学のときより交流のある女の子。

 

 

 

 

◎ 間桐桜 →

 

 

衛宮士郎:

頼れる先輩。兄の親友。料理の師匠にして魔術の兄弟子。魔術、料理共に目標とする人。

 

 

イリヤ:

お姉さんみたいな人。士郎同様、頼れる先輩。

 

 

間桐慎二:

大切な兄。分かりづらいが、言動の端々に自分に対する優しさを感じる。ただ、過ぎた我が儘には問答無用で制裁を。

 

 

三枝由紀香:

イリヤの次に頼れる同性の先輩。一般人。料理の腕の目標の一人。

 

 

 

 

 

◎ 三枝由紀香 →

 

 

衛宮士郎:

強盗から家族みんなを助けてくれた男の子。滲み出る優しさと、困った人に手を差し伸べるところが魅力。ただもしかするとその気性が仇となり、将来潰れてしまうのではないかと心配。

 

 

 

イリヤ:

シロウのお姉さん。何故か微妙に警戒されているため、少し悩んでいる。だが、頼れる姉のような人。

 

 

 

間桐慎二:

士郎と共に家族みんなを助けてくれた同級生。素直じゃないのは理解しているが、少し我が儘が過ぎるときは注意する。

 

 

 

間桐桜:

間桐君の妹。仲の良い後輩。料理の腕で負けられない。最近洋食に於いて自分よりも上手くなっている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

◎ 第三者 →

 

 

衛宮士郎:

穂群原のブラウニー。白髪のメッシュが一瞬ヤンキーを連想させるが、その人柄で認識を改めることになる。

 

 

 

イリヤ:

穂群原の雪の精。学校で遠坂に並ぶ学園のアイドル。冬木では知らない人はいない、士郎と並ぶ名物妖精姉弟。

 

 

 

間桐慎二:

言動の端々にある優しさが分かる人には好印象。それ以外からはワカメ扱い。ただひたすらワカメ扱い。ワカメネタのいじり対象。妹の桜とのやりとりは、見る人が見れば夫婦のよう。

 

 

 

間桐桜:

妹にしたい穂群原生徒ベスト5に常にランクイン。慎二の出来た妹。だが、時折もらすクスクスという笑い声に大概の人が、アクマを連想させる。慎二とのやり取りは、見る人が見れば夫婦のよう。

 

 

 

三枝由紀香:

弟たちの面倒をよく見る、姉の鏡。穂群原の癒し。穂群原の子犬系女子生徒堂々の一位。意外にもガードが固く、告白して玉砕した人は数知れず。

 

 

 

 

 




はい、設定でした。

本来原作では余り絡まなかったキャラクターを出す形となっておりますので、メイン作品と並行して展開を推考していきます。


メイン作品共々、よろしくお願いします。





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嵐の前の平穏

聖杯戦争前の日常です。

それではごゆっくりと







 

制服に着替え、食卓に向かう。

 

 

「おはよう、桜。慎二。藤ねえ」

 

「おはようございます、先輩」

 

「おはよう衛宮。今日も寝坊か」

 

「うむ」

 

 

あれ、藤ねえの様子がおかしいな。いつもは耳を塞ぐぐらいうるさいのに。まぁいいか。

 

 

「三枝も桜も悪いな。最近朝は任せてしまって」

 

「いえ、大丈夫です。気にしないでください先輩」

 

「そうだよ、衛宮君。私達もやりたくてやってるんだし」

 

「そうか、わかった」

 

 

そういい、皆で揃って朝食に手をつける。だが藤ねえは相変わらず黙りこくっている。これは何かあるな。

 

 

「藤ねえ、醤油とってくれ」

 

「ほい」

 

「とろろにですか、先輩?」

 

「ああ、やっぱとろろには醤油だな、俺はね」

 

 

藤ねえがピクリと動く。

やっぱりな…………

 

 

「レディーファーストだ、藤ねえ。ほら」

 

「え? アアッ!?」

 

「どうしたんだ藤ねえ? 俺はただ醤油を藤ねえのとろろにかけただけだぞ? まさか…………これが醤油じゃないとでも言うのか?」

 

「………………す……」

 

「なんだって?」

 

「激甘ソースです……」

 

 

それ見たことか。

 

 

「先生? ちゃんと食べてくださいね?」

 

「そうですよ、藤村先生? 食べ物で遊んだらだめです」

 

 

桜と三枝にも言われ、渋々とろろに箸をつける。不味い不味いと涙目で言っているが、自業自得だ。ほら、過去に同じことを俺にした慎二も怯えている。あのときは初めてクロイアクマが…………もといキレた桜を見た。

そんなこんなで平和? な朝食の時間は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

-----------------

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私は先にいってるわね! 四人とも遅刻しないのよ?」

 

 

テストの採点しなきゃーっなんて叫びながら藤ねえはスクーターをかっ飛ばして行った。というかテストの採点やってなかったのかよ。それでいいのか英語教師。ああ、そうだ。

 

「姉さん、これから行くんだよな?」

 

「ええ、これから飛行機に乗って本家に行ってくるわ。明日の夜には帰ってくるから、晩御飯だけ用意してくれれば大丈夫」

 

「わかった」

 

「あれ? イリヤさんどこかに行かれるんですか?」

 

「ああ、ちょっと実家にいかないといけなくなっちゃって。外国だからすぐに出発しないといけないの」

 

「そうなんですか。大変ですね」

 

「ええ、そうね。だからユキカ? 私がいないからってシロウにイタズラしちゃ駄目よ~?」

 

「し、しないです!」

 

「なんだよそれ……」

 

 

イリヤ姉さんにからかわれて三枝がワタワタと両の手を振っている。何かちょくちょく姉さんは三枝をからかうよな。何故かは知らんが。

 

 

「それより衛宮、三枝。そろそろ出ないと部活に遅れるぞ? 衛宮は部活に入ってないけど、柳洞の手伝いがあるんだろう? 何が楽しくて備品の修理をしてるか知らないけど」

 

「そうですよ、先輩たち。そろそろ行きましょう。イリヤさん、では失礼します。また明日」

 

「ええ、また明日ねサクラ、シンジ」

 

 

そうして俺達は学校へ、姉さんはアインツベルン本家に出発した。

道中何やらパトカーが騒がしかった。一体何があったんだ?

 

 

「なあ、さっきからパトカーのサイレンが響いているが……」

 

「衛宮君知らなかったんだ。ニュースで言ってたけど向こうで一家殺人事件があったみたい」

 

 

三枝の話によると、なんでも夜中のうちに起こったらしく、使われた凶器は長物、槍や長刀の類いらしい。それに最近は新都のほうでガス漏れ事件が多発しているみたいだ。

…………考えたくはないが、魔術師の誰かが既にサーヴァントを召喚して魂喰いをさせている可能性はある。警戒しておくか。慎二や桜はある程度自衛できるだろうが、三枝は一般人。巻き込む訳にはいかない。

少し微妙な空気になりつつも、俺達はそのまま学校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

 

「いや、すまない衛宮。いつも備品を修理してくれているお陰で文化部に予算を回せる」

 

「気にするな一成。俺がやりたくてやってるのだからな」

 

 

柳洞一成。

新都のほうにある山の上の柳洞寺の次男坊にして、ここ穂群原高校の生徒会長である。俺の数少ない一般人の友人である。寺の跡取りになるらしく、日々精進を心掛けているらしい。

 

 

「ところで今朝もひとついいか? 放送室のストーブがどうやら天寿を全うしたらしくてな。見てほしいのだ」

 

「天寿を全うしたなら、俺が見ても変わらないと思うが?」

 

「いや、俺が見てそうだとしても衛宮がどう判断するかわからん。だから一応見てほしいのだ。頼めるか?」

 

「わかった」

 

「うむ、助かる」

 

 

そう言いつつ、俺達は放送室に向かう。と、

 

 

「しかし今日は遠坂が休みらしい。先程職員室に行ったときに聞こえたが、何でも用事とかで今日はこられないそうだな」

 

「そうなのか」

 

 

遠坂凛。

穂群原高校のアイドルにして高嶺の花。成績優秀、容姿端麗ときているが、裏の顔はここ冬木のセカンドオーナーなる魔術師。遠坂の当主である。そしてハッチャケじいさんの話によると、酷いうっかり持ちらしい。

因みに俺が魔術使いであることはまだバレていない。一応師匠が作った魔力殺しのアミュレットを身に付けているから、魔力が漏れることもない。

 

そして一成は遠坂を毛嫌いしている。なんでも偽りの仮面の下には一癖も二癖もあるのだとか。うん、ある意味一癖も二癖もあるな、遠坂は。ああそうだ。

 

 

「一成。なんのかんの言いつつ、遠坂を気にしてんだな」

 

「なんだと!? 訂正しろ衛宮! 俺はあの女狐のことなんぞどうとも思っておらん! ええいそこに直れ、衛宮! 柳洞寺の説法を聞かせてくれる!」

 

 

後程ストーブを修理しながら一成から説法を受けそうになったが拒否した。

 

 

 

 

 

 

放課後、帰る準備をして陸上部に顔を出す。今日はバイトがあるから、先に夕食を食べておくように三枝に伝えるためだ。因みに桜と慎二には既に伝えてある。

グラウンドに向かったが、おいおい何してるんだあれは?

 

 

「なぁ三枝。これどういう状況?」

 

「あ、衛宮君。ええとね? 薪ちゃんが何か知らないけど一年生を追いかけてて、鐘ちゃんがそれを止めようとしているとこ」

 

 

薪寺楓。

穂群原高校陸上部のスプリンター。自称冬木の黒豹。何度か話したことはあるが、あれは会話が成立しないな。猪突猛進を体現したような少女だ。だが意外と怖いもの嫌い。そして俺のことをバカスパナと呼ぶ。

 

氷室鐘。

穂群原高校陸上部の高跳び選手。薪寺とは違い、冷静沈着な少女。だが聞くところによると、他人の恋愛話や噂には耳が早いらしい。

 

この薪寺、氷室、三枝の三人はよく一緒に行動していることが多く、穂群原では有名な三人組である。

 

 

「ああー! バカスパナ! 由紀っちになにしてんだコノヤロー!」

 

「薪の字落ち着け。いい加減に止まるんだ」

 

「うっせー! あたしはバカスパナの毒牙から由紀っちを守るんだー!」

 

「いや、毒牙ってなんだよ……」

 

 

人を誑しみたいに言いやがって、失礼な。

 

 

「薪ちゃん、失礼だよ? 衛宮君に謝らないと」

 

「うぇ? でも……」

 

「薪ちゃん?」

 

「うぅ…………ごめん」

 

「いや、気にするな」

 

 

そして俺は本題に入る。

 

 

「三枝。今日俺はバイトがあるから、先に夕食を食べていてくれ」

 

「うん、わかった。桜さんたちは?」

 

「もう伝えてある。最近物騒だから早めに帰ったほうがいいかもな」

 

「わかった。弟たちにも伝えとくね?」

 

「ああ」

 

「おーい衛宮。由紀っちに手を出してないだろうなー。出していたら私が地獄の果てまで追いかけてやるからなー」

 

「何でだよ……俺そこまで信用ないのか。じゃあな三枝、氷室。それから薪寺」

 

「うがー!! なんであたしはついでなんだー!!」

 

「薪ちゃん、落ち着いて」

 

 

陸上部の三人組の騒ぎを聞きつつ、俺はバイトに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイトが終わって、家路についている。夜遅くに終わり、流石に皆帰っているだろうと思いつつ、新都の道を歩いている。

ふと気配がしたから上を見上げると、ビルの上に人が立っていた。あれは…………遠坂か。何をしているんだ、あいつ? 暫く見ていると、遠坂は姿を消した。恐らく今回の聖杯戦争、あいつもマスターとして参戦するだろう。うっかりはしつつも、魔術師としての才覚は俺の遥か上だ。敵に回るとやっかいだろうな。

 

そうやって考えに耽っていると、いつのまに家に着いていた。しかも明かりが点いている。藤ねえあたりか。そう思いながら家に入ると、予想外にも三枝が藤ねえといた。弟たちはいないみたいだ。

 

 

「あれ? 三枝、なんでいるんだ?」

 

「あ、衛宮君。おかえりなさい。衛宮君の夕御飯を準備して待ってたの」

 

「そうなのか。慎二たちは?」

 

「間桐君たちは先に帰ったよ? あと弟たちは間桐君が送ってくれるって」

 

「そっか。で、藤ねえは見たまんまおやすみ中と」

 

「あはは。うん、そんなところ」

 

「じゃあ先に三枝を送っていくか」

 

「あ、いいよ。先に夕食を済ませちゃって」

 

「いや、最近物騒だから。親御さんに心配かけちゃまずいだろう。だから送っていく」

 

「うーん、わかった。じゃあお言葉に甘えて、お願いします」

 

「ああ」

 

 

 

こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

いやはや、三枝さんは原作でもあまり出ないキャラクターでしたから口調が難しい。
でも書き始めたからには完遂します。


さて、次回からついに聖杯戦争の開幕です。
シロウが強化されているぶん、どれだけ変わるのか。




それではこの辺で

メイン共々、よろしくお願いいたします。





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運命の夜



お待たせしました、運命の夜編です。



それではごゆっくりと







 

姉を抜いた面子で朝食をとった後、俺たち四人は学校に出発した。藤ねえは相変わらずのテンションで、

 

 

「四人とも遅刻しないようにね? あと士郎。今日は仕事の関係で晩御飯私食べれないから。よろしくね~」

 

 

といってスクーターをぶっ飛ばしながら学校に向かった。毎度思うがよくそれで一日持つな。俺はそんなテンションなら半日も持たないぞ?まぁそれはさておき、慎二が真面目な顔をしてこちらに話かけてきた。

 

 

「衛宮、すこし話がある」

 

 

慎二が真面目な顔をするときは、俺たち男しかわからないくだらない話か魔術絡みの話である。そして桜がさりげなく三枝を俺たちから引き離したことから、魔術絡みの話で間違いないだろう。

 

 

「昨晩、桜がライダーを召喚した」

 

「そうか」

 

「今は学校にライダーの宝具の結界を張ってある。中にいる人を溶かして自らの糧にする類いのな」

 

「ッ!? まさかお前……」

 

「最後まで聞いてくれ。桜もライダーも、無論僕も生徒や教師たちがいる間に結界を発動させる気はない」

 

慎二は言葉を続ける。

 

「けど結界に魔力を供給する呪刻は破壊しないと、自然に発動させてしまう。破壊には桜も協力するし、桜が既にイリヤさんに報告している。だから衛宮にも呪刻の破壊に協力してほしい」

 

「多分見つけるには俺は最適だと思うが、破壊は出来ないぞ? それに呪刻を破壊したら結界を張った意味がないんじゃないか?」

 

「今回張った結界は、俺たち以外のマスターを誘き出すためのエサ、囮さ。衛宮、お前も聖杯戦争に参加するんだろう? だから予め同盟を結んでおきたいのさ。だからお前に言ったんだ。」

 

「わかった。いつから始めるんだ?」

 

「明日からだ。頼むよ」

 

「わかった」

 

 

話は一段落ついたから、俺たちは前方で待っている三枝と桜のもとに走っていった。学校に着くとなるほど、慎二のいっていた違和感の意味がわかった。なんだか甘ったるい、不気味な感じが体を満たしてくる。俺はそれを表には出さず、平静を保ちながら校門をくぐった。

 

 

「ああそうだ衛宮。悪いけど今日の放課後の弓道場の掃除をやってくれないか? 僕は間桐の家に用事があってね」

 

「別に構わないけど」

 

「あ、衛宮君。私も今日は道具の点検とかで遅くなるかもしれない」

「そうか、とすると弟たちはいいのか?」

 

「うん、今日はお父さんとお母さんと一緒に食べるって。私も一緒に行こうとしたらなんか『あんたはしっかりと首輪をつけてきなさい』って言われたんだけど。どういうことだろう?」

 

「「ああ~なるほど」」

 

「何がだ?」

 

「なら三枝は衛宮と一緒に帰ったら?」

 

「そうですね。最近物騒ですし」

 

「うーんお願いしていい?」

 

「ああ、大丈夫だ。なら、終わり次第俺がそっちに行くよ」

 

「じゃあお願いします」

 

 

そうしてそれぞれの部活に向かっていった。さて、俺も一成のところに行くか。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

その日の学校も虎が気絶したり、虎が雄叫びあげたり、虎が暴れたりと比較的平和な一日だった。平和じゃないって? 必殺虎竹刀を持ち出さないだけものすごくマシだ。そして弓道場の掃除しに行ったときに、一悶着あったが平和的に解決し、今は掃除をしている。

しかし美綴のやつ、まだ俺を弓道部に再入部させることを諦めていなかったのか。俺の弓は邪道だと何度もいっているのに、物好きだな。

 

よし、あとは弓と弦の手入れをするだけだ。下手な扱いをするとすぐに弦は切れるし、弓は悪くなって思うように矢が飛ばなくなる。道具はデリケートだから丁寧に扱わn………………

 

気のせいか? 先程から金属音が絶えない。パイプ同士がぶつかり合うような軽い音じゃなく、もっと重たい、もっと鋭利なものがぶつかり合う音だ。それに、なんだか嫌な予感が、胸騒ぎがする。まさか、まだサーヴァントが七騎揃っていないのに戦闘しているやつが…………

 

気になった俺は掃除を中断し、音源へ向かった。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 三枝

 

 

私が今見ているのは夢なのだろうか?

 

部活が終わり、使用した道具の点検をして足りないものや、新調すべきものを確認して帰る準備をしていた。それで衛宮君がいなかったから弓道部のところに行こうとしていた。そしたら運動場から大きな音が聞こえてきた。今は校庭には誰もいないはず。気になって見に行くと赤い外套の男性と青い鎧? みたいなのを着た男性が戦っていた。青い人は赤く光る槍を振り回して、赤い外套の人は二本の白黒の剣を使って捌いていた。

今の世の中で、あんな危険なものを振り回す人なんてほとんどいない。ましてや鎧を着るなどそれ以上にいない。だから私は、今目の前で起こっていることが、普通じゃないってわかった。そして怖くなった。

ふと頭に浮かんだのは、先日あった夜の殺人事件。一家は長物で殺されていたという。いま二人が持っているのは、種類が同じものかはわからないけど、全く同じ凶器の類い。だから私は思わず後ずさりして、足元の小枝を踏んでしまった。

 

 

「ッ!! 誰だッ!!」

 

 

青い人に気付かれた。私はなりふり構わず、走り出した。捕まったらあの槍で刺されてしまう。考えなくてもわかることが怖くて必死に逃げた。角を曲がったとき、人にぶつかってしまった。誰だか知らないけど、巻き込む訳にはいかない。

 

 

「…………三枝? どうした?」

 

 

なんてことだ。よりによって衛宮君を巻き込むなんて。早く……早く逃げるように言わなきゃ。でないとあの男の人に殺されちゃう!

 

 

「よう、よくここまで逃げてきたな」

 

 

…………ああ、終わった。もう助からない。私がモタモタしていたせいで、私だけじゃなくて衛宮君まで巻き込んでしまった。我知らず、涙が溢れた。それは止まることなく流れ続ける。ごめんなさいお父さん、お母さん。家族をのこして死んでしまう私を許してください。弟たちもごめんね、こんな情けないお姉ちゃんで。そして衛宮君、巻き込んでごめんなさい。どうか、衛宮君だけでも逃げてください…………

そう心で懺悔していた。後ろから恐ろしい圧迫感のある男の人が近づいてくる。足音がいやに大きく響いている。一歩一歩近づいてくる度に呼吸ができなくなる。もうどうしようもなく恐ろしくなって私は目をつむり、すぐに襲ってくる死を覚悟した。

 

突然圧迫感がなくなった。目をつむっていたから理由がわからない。恐る恐る目を開けると、そこには見慣れた背中があった。私と槍の男の間に立つ彼の後ろ姿は、不謹慎にも騎士のように見えた。

 

 

Side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side back to 士郎

 

 

 

胸騒ぎがして校庭に向かう途中に、三枝と出会った。いや、何かから逃げている三枝とぶつかった。怯えかたが尋常じゃない。声をかけたけど、まともに話せるような精神状態じゃないのは一目でわかる。

 

 

「よう、よくここまで逃げてきたな」

 

 

唐突に前から聞こえた声に顔ををあげると、そこには紅の槍を担いだ青い革鎧の男がいた。間違いない、サーヴァントだ。

 

 

「あん? なんだ増えたのか。ったく面倒な手間をかけさせやがって。こちらとしてもあんまり一般人を殺すのは本意じゃねぇってのに」

 

 

どうやらこの男は無意味に殺すことは好きじゃないらしい。まぁ意味のある殺しがあるのかは知らないけど。

 

 

「なら見逃してくれないか?」

 

「無理だね、見られたからには坊主にも、そこの嬢ちゃんにも消えてもらわなくちゃならねぇ。ま、自分の運のなさを恨むんだな」

 

 

どうやら見逃してはくれないらしい。かといってなにもしないでやられるつもりはない。それに、三枝も逃がさなくてはならない。だとすれば……

俺は三枝から離れ、彼女と槍の男の間に立った。

 

 

「あん? 俺とやるのか? やめておけ、お前じゃ相手にならない」

「でも簡単に殺される訳にはいかない」

 

 

「そうかよ、じゃあ…………」

 

 

槍男は愛槍を構える。

 

 

「さっさとあの世にいけ」

 

 

そう言ってこちらに一突きしてきた。だが幸いやつはこちらが一般人であるとみて、たいして力を入れずに突いてきた。このぐらいの早さなら、俺でも捌ける!

 

━━ 投影開始(トレース・オン)

 

自身への暗示を心のなかで唱え、無銘だが丈夫な剣を投影し、やつの槍を弾く。

 

 

「!! てめぇ…………そういうことか」

 

「悪いが逃げさせてもらうぞ。三枝、立てるか?」

 

「え? あ、うん」

 

「よし、なら俺の背中に捕まれ。手は腹に回してくれ」

 

「わ、わかった」

 

 

三枝に指示をだし、再び男と向き合う。

 

 

「…………いまの間に殺そうと思えば殺せたんじゃないか?」

 

「そうだな、だがちょいとな。お前に興味が湧いたんだよ」

 

「なに?」

 

「いまお前はどこからともなく剣を出したな? そんで力をいれてなかったとはいえ、俺の槍を一度捌いた。魔術師に切りあいを望んでも仕方ないと思っていたところにお前の存在だ。興味持つに決まってるだろう?」

 

「何がいいたい」

 

「魔術師でこの地域にいるってことは、俺がどういう存在かわかるだろう? それでも俺から逃げると面と向かって言った。そこでだ」

 

 

男は続ける。

 

 

「俺の槍を十合捌いてみろ。そうすれば他のやつを相手にしている時間だけ逃げる猶予をやる。どうだ? 悪くない話だろう? その間に新たなサーヴァントを喚ぶなりなんなりすればいいのだからな」

 

 

確かにこちらにとっては美味しい話だ。だがわからない。何故そんなことを突然言い出したのか。

 

 

「わからないな。なぜそこまでしてくれる」

 

「なに、気紛れさ。マスターのいうことを全て聞くってのもしゃくなもんでね。ちょっとした意趣返しのものもあるな」

 

「…………わかった」

 

 

俺は三枝から距離をおき、槍の男と対峙する。

 

 

「…………衛宮君?」

 

「悪い三枝。今はなにも聞かずに俺の家に行ってくれ。いいな」

 

「でも…………」

 

「いいから早く、あいつが見逃してくれるうちに。行けッ!!」

 

 

三枝を無理矢理避難させ、両の手に剣を投影して構える。すると目の前のサーヴァントは怪訝な顔をした。まるでどこかで見たことがある、とでも言いたそうな顔だった。

 

 

「どうした、始めないのか?」

 

「…………気のせいか、なんでもない。そんじゃまぁ」

 

 

サーヴァントが槍を構える。

 

 

「俺はランサーのサーヴァントだ。さて坊主、ついてきてみなッ!!」

 

 

その言葉を皮切りに、俺とランサーはぶつかりあった。

 

突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く突く

 

 

避ける避ける避ける避ける避ける弾く避ける弾く避ける避ける避ける弾く避ける避ける避ける避ける避ける避ける弾く弾く弾く避ける避ける

 

5回弾いて右の剣が壊れ、再度投影する。七回目で左の剣が壊れ、再度投影する。九回目で両方の剣が壊れた。

 

 

「詰みだ、じゃあな」

 

 

ランサーが最後の一突きをくり出す。投影して弾く時間はない。ならば……

 

━━ 投影剣甲(ブレードガード)

 

体内、そのなかでも手の甲に直接剣を投影し、表面を剣の鱗のようにする俺独自の一時的な緊急防衛方法。これを使うと体内から剣が突き出るので、使用後は必ず手当てか、俺の体に埋め込まれている鞘に魔力を流す必要がある。だが防御面に関して言えば、近接戦闘において重宝するものである。

それを使って、最後の一突きを捌いた。ランサーは睨み付けるようにしてこちらを見つめる。

 

 

「てめぇ……なんだ今のは」

 

「俺しか使えない魔術だ。緊急防衛のひとつだよ。もっとも、使ったあとは手がこんな風に使い物にならなくなるからな。残念ながら多用はできない」

 

 

俺がそう説明すると、ランサーはしばらく考え込んだのちに一つ舌打ちをして言った。

 

 

「ったくさっき戦ったアーチャーみたいに何本も剣を出したかと思えば、果てはそんな芸当までやらかすとはな。いいぜ、褒美だ坊主。後ろから来るアーチャーを相手している時間だけくれてやる」

 

「…………感謝する」

 

「坊主、逃げられると思うなよ? すぐに見つけられるんだからな」

 

 

俺が全身を強化して走る直前に、ランサーからそう言われた。恐らくすぐに見つけられる何かがあるのだろう。だが今は折角時間を作ることができた。ならばその間に少しでも万全な体制を整える必要がある。それにしても気になることを言っていたな。アーチャーが俺と同じように何本も剣を出したと聞こえた。なんか嫌な予感がするが、今は放っておこう。

 

俺が校門にたどり着く頃には、後ろのほうで再び剣のぶつかり合う音が聞こえた。多分アーチャーと再戦している音なのだろう。鞘にも魔力を回しつつ、全力で家路につく。

 

衛宮邸に着くと、三枝と間桐兄妹が駆け寄ってきた。その後ろにいる眼帯をつけた女性は恐らくライダーなのだろう。幸い右手の怪我は既に治っている。魔力の残りは八割弱。ライダーのサーヴァントは広範囲での戦闘が得意だったはずだ。ならば。

 

 

「桜、慎二。ランサーがこれから来る」

 

「「なんですって(なに)?」」

 

「衛宮君、それってもしかして……」

 

「ああそうだ、俺と三枝を殺すために追ってきてる。だが幸い今はアーチャーの相手しているらしい。だからその間に俺もサーヴァントを喚ぶ」

 

「わかりました」

 

「衛宮、陣は土蔵の中にある。ライダー」

 

「なんでしょうか?」

 

 

慎二がライダーを呼び寄せ、長身の眼帯女性がそれに答える。俺はその間に土蔵に入り、サーヴァント召喚の詠唱を始める。

 

 

「これから衛宮がサーヴァントの召喚をする。なにが来るかは知らないけど、最後の七騎目だ」

 

「私達は衛宮先輩と同盟関係を結びます。アインツベルンとも同様です。いい?」

 

「わかりました」

 

 

俺が召喚を行っている間に、慎二たちが大まかな方針をたてる。俺の詠唱も最終節に差し掛かる。

 

 

「━━ 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪よりきたれ、天秤の護り手よ!!」

 

エーテルが集まり、魔力が弾ける。眩しい光が視界を満たし、一度強く脈動したのちに光は収まった。そして魔法陣の中央には、銀に輝く甲冑を身につけた、金髪の少女がいた。俺の右手に令呪が刻まれる。

目の前の少女が言葉を紡ぐ。

 

 

「召喚に応じ参上した。問おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━ 貴方が、私のマスターか ━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、運命に出会った。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

けっこう長くなってしまいました。慎二の性格面に関して色々と思うところがあるかも知れませんが、ホロウとCCCの慎二は私には中々好きなキャラの部類に入るので、「ならいっそのこと足して2で割ろう!」ってことにしました。

あと本作品の士郎には、原作に加えてちょいちょいオリジナル魔術を使用します。投影剣甲がその一つの例ですね。あと師事した人たちが人たちなので、性格と精神面が愉快なことになっています。


さて次回は戦闘と言峰教会編、若しくは凛視点の話の予定です。正直バーサーカーをそのまま彼の大英雄にするか、今までの型月作品に出てきたどれかにしようかと迷っています。まぁ追々組み立てていくので、暖かく見守っていてくださると嬉しいです。



ではこの辺で


次はメイン作品を更新します。





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三人の英霊



では最新話です。

ごゆっくりと






Side 士郎

 

 

「……確認しました。サーヴァントセイバー、これより我が身はあなたの敵をはらう剣となり、あなたを守る盾となりましょう」

 

 

目の前のサーヴァントの少女、セイバーはそう言葉を紡ぐ。

 

 

「ありがとう、セイバー。それと真名だけどまだ教えてくれなくていい」

 

「? それはなぜでしょうか?」

 

「俺自身、魔術師のくせに暗示の類いの耐性があまりないんだ。いつキャスタークラスのサーヴァントや他の魔術師にかけられるかわからない。そこからセイバーの情報が漏れるのもダメだろう」

 

「わかりました。では私が告げるべきと判断したときにマスターに伝えると、そういうことですね?」

 

「ああ、それでいい。宝具に関しても同様で頼む。あと俺は衛宮士郎だ。マスターって名前じゃない。好きに呼んでくれ」

 

「ではシロウと。ええ、このほうが私のしても好ましい」

 

 

セイバーはそう言い、暫くうんうんと頷いていたが、突如顔を引き締めて外を睨み付けた。そうだ、今はそれどころじゃなかった。ランサーの迎撃をしなければならない。

 

 

「シロウ、外にサーヴァントの気配が……」

 

「セイバー、一番近くにいるサーヴァントは味方だ。敵じゃない」

 

「なんですって?」

 

「セイバーは騎士、同盟相手はいらないと思うかもしれない。でも今回の聖杯戦争は少々複雑なんだ。詳しいことはあとで説明する」

 

「……わかりました。その代わり、あとでちゃんと説明してください」

 

「ああ、わかった。それから今の状況を手短に説明する」

 

 

それから俺は学校でランサーに襲われ、彼が追ってくること。親しい一般人の同級生が巻き込まれて保護していること。ランサーの目的は、目撃したその一般人の殺害。もうすぐここに来るだろうから、ライダーと共に撃退してほしい旨を伝えた。

 

 

「倒すのではなく、撃退ですか?」

 

「ああ、セイバーも多対一で勝っても気分がよくないだろう?」

 

「ええ、確かに」

 

「それに今は召喚されたばかりだ。完璧なコンディションって訳でもない。だから慣れるという意味でも撃退だ。それでいいか?」

 

「……ええ、構いません。シロウの言うことも一理ありますから」

 

「よし、なら外に行こう。ライダーとも顔を合わせないと」

 

それから俺たちは蔵から出て、ライダーと最終的な打ち合わせをした。三枝は、あらかたの事情を既に桜と慎二から受けているらしく、じっと黙っていた。だが見たところ、まだ震えていた。当然か。何気ない日常から突然血みどろな世界に放り込まれたのだ。俺は三枝な近づいた。

 

 

「……ごめん」

 

「衛宮君?」

 

「こんなことに巻き込んでしまって。怖い思いをさせて、本当にごめん」

 

 

俺の言葉に三枝は首を振る。

 

 

「大丈夫。確かに怖いよ。今すぐここから逃げ出したいよ。でも今ここから私が逃げたしたら、もっと多くの人に迷惑がかかっちゃう。だから私は衛宮君たちに出来るだけ迷惑がかからないように行動する。それが私が今できることだから」

 

「……わかった。三枝がそう言うなら」

 

「うん」

 

「……大丈夫。三枝は俺が守るから……」

 

「え?」

 

「なんでもない」

 

俺はセイバーたちのところへ戻った。彼女たちも話はついたらしい。少々和んているような感じがしたが。そこに殺気が近づいてくるのが感じられた。サーヴァント二人は勿論、慎二も桜も気がついたようだ。三枝も微妙に感じとったのか、口のはしを噛んでいた。

 

濃密な殺気を纏ったモノが猛スピードでこちらに接近したのちに、中庭に大きな音を立てて着地した。紅く輝く槍に蒼い軽鎧、ランサーだ。

 

 

「ほう? やっぱりサーヴァントを喚んだのか坊主。見たところ最後の一体に、同盟相手のサーヴァントってとこか?」

 

「ああ」

 

「いいねぇ、見逃した甲斐があったもんだ」

 

 

そう言い、ランサーは槍を、セイバーは目に見えない何かを、ライダーは鎖で繋がれた双小剣をそれぞれ構えた。

涼しげな風が一筋吹き、葉っぱが一枚地面についたと同時に双方がぶつかり合った。セイバーがランサーと正面からぶつかり合い、ライダーはその機動力を生かして様々な方向から攻撃を仕掛ける。二人を相手しているのに加えて、セイバーの武器が見えないので、ランサーはやりにくそうだ。

 

 

「卑怯者め! 武器を隠すとは何事か!」

 

 

ランサーが吠える。だがその間も三人は手を止めることなく、得物をぶつけ合う。無数の剣戟が鳴り響くなか、その余波が周りをも巻き込んでいく。彼からがぶつかる度に地面には大小様々な亀裂が走り、家が揺れる。

 

……これは不味いな。一応防音の結界がはってあるが、いつまで持つかわからない。そうなれば近隣の家々に音が漏れ、その人たちも巻き込むことになる。なら次に彼らが一息つくときがチャンスか。

そう考えているうちに、一度サーヴァントたちはお互いに距離を取った。

 

 

「一つ聞く。貴様のそれ、得物は剣か」

 

「どうだろうな、斧かもしれぬし鎚かもしれぬ。もしかしたら弓かもしれんぞ?」

 

「ぬかせ、剣使い(セイバー)

 

 

セイバーとランサーがそう言い、ライダーは静かにそれを見つめている。だがやはり全員場所が場所なため、戦いにくそうだ。ならば……

 

 

「二人とも、聞いてくれ! これ以上やったら周りにも被害が出かねない。だから場所を移す!」

 

「私も異存はありません」

 

「私もシロウの判断に従います」

 

「ありがとう。それと少しだけ時間稼ぎを頼む! 桜、慎二、それから三枝は俺の近くに」

 

「なんだか知らねぇが邪魔させてもらうぜ!!」

 

 

本当を言うと、三枝をこれ以上巻き込みたくはない。だが今から俺がしようとしていることに着いてきてもらわねば、俺たちがいない短い時間の間に他のマスターの攻撃に巻き込まれてしまう可能性がある。だから俺は三枝も連れて行くことにした。

 

手を胸に当て、目を閉じて自己に埋没する。周りの皆が、俺の動作に怪訝な表情を浮かべているのが感じられた。サーヴァント達も闘いつつ、俺に訝しげな視線を向けている。だがそれを無視して、俺は言霊を紡ぐ。

 

 

 

 

━━ I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

━━ Steel is my body and fire is my blood(血潮は鉄、心は硝子)

 

 

「シロウ、何を……」

 

 

━━ I have created over the thousand blades(幾度の戦場を越えて不敗)

 

━━ Unaware of loss.(ただの一度の敗走はなく)

 

━━ Nor aware of gain.(ただの一度の勝利もなし)

 

 

 

「衛宮? 何をブツブツ言ってるんだ?」

 

「…………あの坊主、まさか…………」

 

皆は俺が何をしているのかわからないみたいだが、一人だけ。ランサーは俺がやろうとしていることを察したらしい。なぜランサーが予想したのかはわからないが。

 

 

 

━━ With stood pain to create weapons(担い手はここに一人) Waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)

 

━━ I have no regrets.This is the only path(ならば、我が生涯に意味は要らず)

 

 

 

俺を中心に魔力がプラズマを放ち、足元に炎がちらつき始める。俺は目を開ける。

ここに来て魔術を知るものは俺のやることを察し、同時に間桐兄妹はそんなことあり得ないという目をしていた。

 

 

 

━━ My whole life was "Unlimited Blade Works"(この体は、無限の剣で出来ていた)

 

 

 

 

 

魔力が迸り、焔が疾走る(はしる)。まず視界を紅く染めたのちに、次に眩い白い光が目の前を覆い尽くす。光が治まり、目の前に一つの世界が広がる。

 

 

阻むもののない蒼穹のもと、見渡す限り無限に広がる草原。そこに突き立つ数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程の剣群。そしてその体を横たえる錆び付いた大小様々な歯車。

 

 

 

「…………マジかよ……」

 

「これは…………」

 

「これは……固有結界?」

 

「え? え? ここどこ?」

 

「これは正真正銘、俺の固有結界。俺の心象風景だ」

 

「これが……シロウの心なのですか……?」

 

 

右腕を少し振り、サーヴァント三人の周りの剣を退かす。宙に浮いた剣は、はるか離れた場所に突き刺さった。

 

 

「ここなら周りの被害を気にせずに戦える! 安心して動き回って大丈夫だ! こちらに飛び散る破片の類いは打ち払うから心配しなくていい! 但し……」

 

 

俺は言葉を切り、いくつかの剣を俺たちの周りに浮遊させ、待機させる。

 

 

「三分だ。三分でけりがつけてくれ!それ以上は俺が持たない」

 

「成る程な。周りに被害を出さず、味方サーヴァント達が思うままに戦える場所。ならは固有結界はこれ以上にない最適な場所だ。いいぜ坊主。三分でけりが着かなかったら引いてやらぁ」

 

「私は問題ありません」

 

「私も、シロウの言うことに異存はありません」

 

 

そう言って俺たちは、サーヴァント三人から距離を取った。序でに俺は片腕を振り、無数の剣をセイバーとライダーの背後に滞空させた。切っ先を全てランサーに向けて。

 

 

「僅かながら援護もする。二人は思うままに動いてくれ。出来るだけ俺が合わせる」

 

「「わかりました」」

 

「へっ、実質三対一か。おもしれぇ。さぁて、時間も押してるんだ。始めようぜ」

 

 

ランサーのその一言で、三人とも各々の得物を構えた。そして互いを静かに見据える。それだけでこの世界に濃密な殺気が溢れた。指一つ動かすことも出来ない緊張感がこの場を満たす。

 

 

「んじゃまあ、いきますかねぇッ!!」

 

 

再び三人の英霊がぶつかり合った。

 

 

 

 

 




というわけで今回はここまでです。


親切な方にご助言を頂き、思うように修正が入りました。

そして展開が急すぎたので、少々内容書き換えを行いました。


次回更新は未定ですが、近く必ず更新するので暖かく見守っていてください。


それではまた





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赤い主従



久々の更新になります。
今回から凛視点になります。


ではごゆっくりと。






 

 

 

Side 凛

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ!! 天秤の守り手よ!!」

 

 

エーテルがはじけ、魔力が迸った。やった!! 最高のカードを引き当てた!! そう確信した私は目を開けた。しかし私の目に飛び込んできたのは、何もいない部屋だった。役目を終えた召喚陣は光を収めて静かに床に刻まれた状態に戻っている。

おかしい。確かに召喚は成功した筈。しかしサーヴァントの気配はない。時計を見ると、確かに時間は……しまった。確か今日に限って屋敷じゅうの時計が一時間早かったのだ。そのせいで今朝はいつもは起きない時間に起きてしまったのだ。時間を間違えるなんて、なんてうっかり……なんて考えていると、屋敷の一角から何かを突き破る音、そして何かを破壊する音、そして凄い振動が伝わってきた。

 

 

「ええい、何なのよ!!」

 

 

私は急いでその部屋へと向かった。扉の前に着き、そのまま開こうとした。しかし扉は壊れたのか、ドアノブを捻ってもビクともしなかった。ええい、鬱陶しい!!

 

 

「こんの!! 開きなさい!!」

 

 

苛々が限界まできて、私は扉を蹴破った。この程度ならあとで修復できるので気にしない。

扉を開けた先に見たのは、天井に空いた穴。破壊されて瓦礫と化している家具の数々。そしてその瓦礫の上に足を組んだ状態で座っている、赤い外套を纏った白髪肌黒の青年だった。

 

 

「はぁ……またやっちゃった、反省。それで? 貴方は何なの?」

 

 

私は自分の失態について反省しつつ、赤い青年に質問した。すると、

 

 

「さて、こちらも状況を把握しきれていない。召喚直後が屋外、加えて遥か上空と来たものだ。何が何だかわからないまま、天井を突き破る結果となった。いやはや、これはまたとんでもないマスターに引き当てられたものだな」

 

 

質問の三倍はある皮肉で返された。倍返しを信条とする判事も吃驚だ。

 

 

「ぐっ、それについては悪かったわ。私が聞きたかったのは、あなたが私のサーヴァントかってこと」

 

「寧ろこちらが聞きたいものだな。こんな乱暴な召喚をされたのだ。君こそマスターなのか? そしてそれを証明するものは?」

 

「これよ」

 

 

私は彼の質問に対して、右手の甲に浮き出る令呪を見せた。それにしてもこのサーヴァント、一々皮肉を交えないと会話ができないのだろうか? しかもニヒルな笑みを口に浮かべながら。正直苛々が溜まる。

 

 

「……クククっ」

 

「……何がおかしいのよ」

 

「いやなに、令呪をマスターの証とするのかと思ってね。それは確かにサーヴァントを律するものだが、契約していない個体には無意味なものだろう? まさか失念していたわけではあるまい?」

 

「う……」

 

「……まさか本気でそう思っていたのか?」

 

「……」

 

「……」

 

 

気まずい沈黙が私たちを襲う。私は彼に指摘されたことが図星で、彼はまさかと思っていたことが当たってしまって。私たちは互いに渋い顔をしながら黙っていた。すると彼が先に口を開いた。

 

 

「すまない、少々からかいが過ぎた。ようやくラインが確認できたし、君が私のマスターであることは確かなようだ。しかし先のような勘違いを起こすとは、未熟であることは変わらないみたいだな」

 

「悪かったわね、未熟で」

 

「だが素質はあるようだ」

 

「? あんた言っていることが矛盾してない?」

 

「君から流れ込んでくる魔力が申し分ないからだよ。ポカはやらかすようだが、素質は確かにあることはわかるものだ」

 

「あらそう、ありがとう」

 

 

皮肉屋であることはわかったけど、ちゃんとフォローもするのね。そこは改めないといけないかしら?

 

 

「それで、あなたは何のサーヴァントなの?」

 

「見てわからないか? アーチャーのサーヴァントだよ。こんな身なりの輩が剣を取って正々堂々とやり合う質に思えるか?」

 

「なんだ、セイバーじゃないのか」

 

 

少しがっかりだった。高い宝石をいくつも使って召喚をしたのだ。なのにセイバーではなかったのだ。ふと青年、アーチャーを見ると、彼は少し拗ねたような顔をしていた。

 

 

「どうせアーチャーでは派手さに欠けるだろうよ。悪かったな、セイバーでなくて」

 

「あら、気を悪くしちゃった?」

 

「ああ、気に障った。見てろ、いずれその発言を後悔させてやる」

 

「そう、なら楽しみにしてるわ。私を後悔させてね?」

 

 

彼の発言と顔が可愛らしかったので、ついついからかいを入れてしまった。まぁ先程の皮肉の仕返しと考えればいいだろう。

 

 

「それで、あなたの真名は?」

 

「その事だか、マスター。私の真名はわからない」

 

「……は?」

 

 

今こいつは何と言った? 自分の真名がわからない?

 

 

「どうやら記憶に混濁が見られる。故に真名が自分でもわからない」

 

「ちょっ!? ならどうするのよ!? 宝具とかは!?」

 

「これは君の不完全な召喚のつけだぞ? 私がとやかく言われるすじはないのだが?」

 

「う……それは」

 

「まぁその程度は些末なとこだ。何ら問題はない」

 

「問題はないって、あなたね」

 

「何を言う? 君が召喚したのだ。そのサーヴァントが最強出ないはずがない」

 

「なっ!?」

 

 

何なのよこいつ。誉めたり貶したりわからない。

 

 

「わかったわ。今はこれ以上聞かない。さてアーチャー。早速頼みたいことがあるんだけど」

 

「いきなり戦闘か。今回のマスターは中々に好戦的だな。相手は?」

 

「この部屋の修復と片付け、お願いね?」

 

「は? まてまて、君はサーヴァントを何だと思っている!?」

 

 

私が箒と塵取りを投げると、アーチャーは心外だ、とでも言いたそうな顔をしてこちらを見ていた。けど投げ渡した二つを受けとることから、結構人がいいらしい。

 

 

「使い魔でしょ? 正直召喚直後で魔力が減って眠いの。だからお願いね」

 

「なっ!? おい、ま……」

 

 

アーチャーが何か言っていたが、私は無視して寝室へと向かい、そして着替えてベッドに潜り込んだ。疲労が溜まっていたのか、直ぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side アーチャー

 

 

召喚されたのが上空、加えて直後に天井を突き破る事態になったので、召喚主たる赤い服を着た少女をからかってしまった。まぁそのあとこうして屋敷の修復を押し付けられたのだが。

修復をしながら状況を確認していた。どうやらここは冬木の街らしい。そして記憶の欠片を紡ぎ合わせると、ここは俺がまだ若かった頃の場所であるとわかった。

零に等しい可能性を私は手繰り寄せたとわかった。ようやく、ようやく私の望みが果たせると。八つ当たりとはわかっているが、無ではない、自分の存在を消すことができる、限りなく低い可能性を手繰り寄せた。

 

私は自然と口を歪ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 凛

 

 

夢を見た。

それは男の夢。

人のために戦い続け、最後は助けた人に裏切られて死んだ男。

死後も人のためにと思い、「世界」と契約した男。

しかしその願いは裏切られ、人の後始末ばかりさせられた男の。

 

 

 

 

「うう……」

 

 

窓から差しこむ朝日を浴びて、私は目を覚ました。私が見た夢。恐らくアーチャーの過去だろう。マスターは契約したサーヴァントの過去を、夢として見ることができると聞いている。

 

 

「……何なのよ」

 

 

人のために戦い続けた男の末路は、永遠に終わらない殺戮地獄。決して報われない生涯と死後。無性に苛々した。頑張ったのならそのぶん、幸せにならなければならないのに。

ノロノロと着替えて寝室を出ると、部屋は完璧に修繕されているだけでなく、掃除もされていた。

 

 

「ああ、やっと起きたか。朝食を用意しておいたぞ。時間も時間だから軽いものにした。それと浴室の機器が故障していたからそれも修繕しておいた。それから台所は勝手に使わせてもらっている」

 

 

それをした張本人は、今は台所で紅茶を淹れている。しかも料理も紅茶も美味しいときたものだ。そしてそれを見たアーチャーはニヤニヤと笑みを浮かべている。頭痛くなってきた。

 

 

「……私は茶坊主を雇った覚えはないけど」

 

「それは失礼した」

 

「まぁいいわ、美味しかったし。それよりあなた、記憶は戻ったの?」

 

「いや、まだだめみたいだな」

 

「なら宝具は?」

 

「そもそも私は特定の武具の類いは持っていない」

 

「……は? 宝具を持っていない?」

 

「正確にはそれに該当するものはある。使い時を間違えなければ、鬼手になりうるほどのな。タイミングは君に任せるさ」

 

 

それは責任重大ね。覚えておきましょう。

 

 

「マスター、何か忘れていないか?」

 

「は?」

 

「……ハァ。契約において大切なことを忘れているぞ、君は」

 

「えっと……あっ名前」

 

「そうだ。マスター、君の名前は?」

 

「私は凛。遠坂凛よ」

 

「では凛と。ああ、この響きは君によくあう」

 

「なっ!?」

 

 

何てこっ恥ずかしいことを言うのよこの男は!? しかも顔を見る限り、からかいではなく、本気でそう思っている表情をしていたので、不覚にも顔を赤くしてしまった。

まぁ色々とあったが私は学校を休むことにし、霊体化したアーチャーを連れだって冬木の新都を散策した。彼に街の地形を知ってもらい、戦術に役立たせてもらうためだ。夜のとあるビルの屋上から街を見ていたとき、同級生の髪に白いメッシュの入った少年がこちらを見上げていたが、気のせいと流すことにした。

 

そんなこんなで一日が過ぎた。

 

 

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。


前回から時間が遡り、少々時系列がわかりにかったと思いますが、そこら辺は前回までと照らし合わせて確認していただけたらと思います。


ではこの辺で




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弓と槍


更新です。


それではごゆっくりと





 

 

 

Side 凛

 

 

次の日、いつも通りの時間に起床して学校へと向かう。背後には霊体化させたアーチャーを従えている。校門を潜ると、違和感が体を襲った。甘ったるい感じである。

 

 

「……アーチャー」

 

━━ ああ、結界だな。まだ発動はしていないが。

 

「どこの馬鹿よ? こんな分かりやすく結界を張るだなんて。まるで……」

 

━━ まるで囮のようにあつかっている?

 

「ええ、そうよ」

 

━━ 幸運と言うべきか、発動するまでに期間を要するようだ。だが逆に言えば、それほどに大規模なもの、と言うべきだな。

 

「取り敢えず、放課後に調査するわ。授業中は偵察とかお願いね」

 

━━ 了解した

 

 

アーチャーは私の頭の中に直接、私は周りに怪しまれないよう小声でアーチャーと会話する。これほどに大規模な結界は、その殆どが質の悪いものである。まだ詳細まで調べてはいないが、この学校に張られたものもその例に漏れないだろう。私達魔術師は一般人への秘匿が義務付けられている。ならそいつを捕まえるためにも、準備を怠らずに、わざと相手にのるのがベターだろう。

結界と相手への対策を考えながら、私は今日の放課後まで過ごした。昼休みに、穂群原陸上部三人娘の一人である三枝さんに、昼食のお誘いがあったけど丁重に断り、私は結界の調査をしていた。けど昼休みの時間は短いので、結局は結界の大まかな位置、校舎の半分より上ということしかわからなかった。

 

放課後にもう一度調査をした。範囲は絞れていたので、昼休みほどは時間はかからなかった。それでも部活生が帰るまでは大きな行動ができなかったため、結界の効果を調べる頃には日がとっぷりと暮れていた。

屋上へと行き、結界が刻まれている位置までいく。もしもの時のために、アーチャーを私の脇に待機させておく。私は結界の解析を始めた。

 

……………………信じられない。質が悪すぎる。

 

 

「これは……結界内にいる人間に無差別で効果を与える。術者以外の全員に。人間を溶かしてそのまま術者に糧として供給するタイプ」

 

 

ある程度対魔力を持っていれば耐えられないことはないが、この学校には私以外魔術師はいないはず。発動はするタイミングがタイミングなら、この学校の生徒全員が巻き込まれてしまう。冬木のセカンドオーナーとして、そんなことをさせるわけにはいかな……

 

 

「よう。なんだ消しちまうのか、それ」

 

 

突然声を後ろからかけられた。アーチャーによる警告がなかったことから、相手が相当のやり手ということはわかる。私は咄嗟に後ろを向き、相手の姿を目に入れた。それは青い軽鎧を身に付けた若い男だった。貯水器の上に座り込んでいる。

 

 

「……これ、あなたの仕業?」

 

「いいやぁ? こそこそと策を弄するのは魔術師の専売だ。そうだろう?」

 

()()()()()()()()

 

 

彼のその発言からわかった。霊体化しているアーチャーが見えている。ならば、

 

 

「やっぱりあなたはサーヴァント」

 

「いかにも。それがわかるお嬢さんは、俺の敵ってことだな? あ~あ、こりゃ失敗だな。面白がって、声かけるんじゃなかった」

 

 

男はそういいながら、赤く輝く槍をどこからともなく取り出した。敵はサーヴァント、しかも槍を持っていることから、恐らく素早さは最高級のランサークラス。周りを確認する。しまった、金網で四方を囲まれている。

 

 

「ほう? 周囲の状況を確認か。まぁ悪くない。そんじゃ……」

 

 

ランサーはそう言うと、こちらへと飛び降りてきた。私は軽量と強化の魔術を用い、金網を飛び越えて屋上から飛び降りた。着地はアーチャーに勢いを殺してもらい、そのまま強化した体で校庭を走る。しかし直ぐ後ろにはもうランサーがおり、まさに今私の首は跳ねられようとしていた。

だが、間に実体化したアーチャーの邪魔が入り、私は一命をとりとめた。アーチャーは左手に黒に赤い線で亀甲模様の描かれた中華剣を握っている。

 

 

「いいねえそう来なくちゃ。見たところセイバーじゃあないな。てことはアーチャーか。いいぜ、弓を出すまで待ってやるよ。そら、さっさと得物を出しな」

 

 

だがアーチャーはランサーの言葉に反応することなく、ただ私を見つめている。それに私はようやく察した。アーチャーは私から命じられるのを待っている。

 

 

「アーチャー、手助けはしないわ。あなたの力、ここで見せて!!」

 

 

私がそう言うと、アーチャーは一つ口のはしを歪めて笑い、そして全身に魔力をみなぎらせた。そして次の瞬間視界から消え、轟音と共にランサーとぶつかり合っていた。

 

轟音と共に赤と青の光がぶつかり合い、校庭の地面には亀裂が入っていた。そしてついにアーチャーの黒い剣が砕かれた。そのまま一突きされてしまうと思った矢先、アーチャーは右手に白の波紋のついた剣を。左手には先程のと同じ、黒い剣を持っていた。

 

 

「二刀使いか」

 

 

ランサーがぼそりと呟く。アーチャーはそれに対して無言で双剣を構える。

 

 

「弓兵風情が剣士の真似事とはなぁ!!」

 

 

そして再び赤と青がぶつかり合った。何度も何度も剣戟が鳴り響くと共に、より戦いも激しくなっていく。アーチャーとランサーがぶつかり合うなかで、アーチャーの双剣は何度も弾かれ、砕かれた。しかしその度にアーチャーは新しく剣を取り出し、応戦していた。そして今、またさらに一つ黒い剣が弾かれ、私から少し離れた位置に突き刺さり、霧散した。二人の英霊も、一旦互いに間を開けた。

 

 

「二十七。それだけ弾き飛ばしてもまだあるとはな。何者だ、てめぇ……」

 

「随分と慎重だな。様子見とは君らしくない」

 

「ったく、いいぜ。聞いてやるよ。てめぇどこの英雄だ。二刀使いの弓兵なんぞ見たことも聞いたこともねぇ」

 

「そういう君は分かりやすいな。槍兵は最速の英雄が選ばれると聞く。君ほどの腕を持つ者は、三人ぐらいしかいないだろう。そしてその獣の如き敏捷さと言われれば、恐らく一人」

 

「ほう? そうかい」

 

 

ランサーはアーチャーの言葉に目を燃やし、槍の先を下げて構え直した。するとランサーの持つ槍に、周りに漂う魔力が吸い込まれていく。槍は貪るように魔力を食らっていき、その赤い禍々しい輝きを増していく。

宝具だ。ランサーは宝具を放つ気だ。

 

 

「ならば受けてみるか、我が必殺の一撃を!!」

 

「止めはしない。いずれは越えねばならん相手だ」

 

「アーチャー!!」

 

 

何とアーチャーは、ランサーの宝具を受けると宣言した。流石の私もそれには驚愕し、彼に声をかけた。だがアーチャーは私の声に返答することなく、ただただランサーを見据えていた。ランサーは燃えるような目をし、濃密な殺気をたぎらせながらアーチャーを睨み付けていた。

と、突然ランサーの槍から魔力が霧散した。

 

 

「誰だ!!」

 

 

ランサーがアーチャーから目を外し、鋭い声をあげる。ランサーが目を向けた方向を見ると、一人の女生徒が走って逃げていくのが見えた。ぬかった!! てっきり全員帰宅していると油断していた!!

 

 

「弓兵、勝負は預ける。逃げられると思うなよ!!」

 

 

ランサーはそう言うと、女生徒を追っていってしまった。アーチャーと私は、見ることしかできなかった。って、

 

 

「アーチャー!! 追うわよ!! アーチャー!!」

 

「ぬっ? すまない、凛。今なんと?」

 

「だから!! ランサーを追うって言ってるの!! 行くわよ!!」

 

「了解した」

 

 

アーチャーは返事をすると私に近寄り、抱えて移動を始めた。ランサーを追う際に何度かの小さな剣戟が聴こえ、そしてしばらくして走り去る男子生徒の影が見えた。まさかさっきの剣戟は彼が? とにかく先を急ぐと、ランサーは立っていた。それはまるで私達が来ることを待っていた、とでも言うように。

 

 

「よう、また会ったな」

 

「……さっきの女の子と男子生徒は?」

 

「あん? 一旦逃がしたよ」

 

「逃がしただと?」

 

「おうよアーチャー。ただし、条件付きでな」

 

「一般人なら問答無用で殺すと思ったが?」

 

「ちょいと面白いものを見せてもらってな。てめぇの相手をしている間だけ逃げるなり何なりしろと言ったのさ。あの魔術師の坊主、中々おもしれぇ。お前と同じように何本も武器を出してたぜ、アーチャー」

 

「……何だと? いや、そんな筈は……」

 

 

アーチャーが珍しく動揺している。けどランサーが槍を構えると、意識を切り替えて戦闘態勢に入った。

 

 

「そんじゃまぁ、第2ラウンドと洒落こもうや!!」

 

 

ランサーの一声を皮切りに、再び赤と青はぶつかり合った。

 

 

 

-----------

 

 

 

 

戦闘に一段落つき、ランサーが去っていったおと、私達は一息ついていた。無論このあともランサーを追う。しかし連戦だとアーチャーもきついだろうと思い、今少しだけ休んでいる。

 

 

「では凛、そろそろ行こうか」

 

「ええ、行きましょう」

 

 

私は再びアーチャーに抱えられ、夜の街を高速で移動した。

 

 

「アーチャー、走っていた男子生徒の特徴はみた?」

 

「ああ。白いメッシュが入っていた」

 

 

白いメッシュ。ということは桜が通っている家の生徒、衛宮士郎だ。ランサーは彼が魔術師と言っていた。とすると、彼は潜りである。加えて今はランサーに追われている。何としてでも、ランサーに殺される前に駆けつけなければならない。

アーチャーに抱えられ、道を指定しながら彼の家へと向かう。そして件の広い日本家屋へとたどり着き、私達は一旦止まった。

 

 

「この獣臭さ。間違いない、ランサーだな」

 

「獣臭さって」

 

 

そう言いつつ、私はアーチャーと共に塀の上に立ち、その中の状況を確認した。そして私は今までの常識を覆されるものを見てしまった。隣に立つアーチャーもいつもは崩さない表情を変え、今は目を見開き、口を半開きにしている。

 

 

「……そんな……何故……」

 

 

アーチャーは譫言のようにそう呟いていた。

私達の目の前に広がるのは夜なのに限定して明るい空間。阻むものがない青空の下、無限に広がる草原につき立つ無限の剣群。そしてその身を横たえる大小様々な錆びた歯車。その中心で戦うランサーと、その他二人の英霊。少し離れた場所に固まる三人の同級生と一人の後輩。同級生の一人であるメッシュの少年は腕を振り、剣を飛ばしてランサーに攻撃している。

 

 

私達が追ってきたメッシュの少年は魔術の大禁呪、固有結界を展開していた。

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。


次回はいつ更新するかはわかりませんが、こちらは教会に行った次の日までの話を書き、ハリポタの更新に戻ります。


ではこの辺で






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初戦の行方


更新です。

それではごゆっくりと





 

 

 

 

青が、蒼が、紫が走り、銀と紅と風がぶつかり合う。砂塵が散り、岩塊や金属片が飛び散る。それを浮遊する何本もの剣が打ち払い、蒼に殺到する。蒼は紅でそれを弾き飛ばし、同時にこちらへと向かう。しかしそれを青と紫が阻む。

 

あまりにも早い応酬で、形は見えず、色でしか判別できない戦場に皆はいた。ランサーはその敏捷さを活かして猛攻を繰返し、ライダーは機動性を活かしてありとあらゆる方向から攻撃を仕掛ける。セイバーは現在の全力を出し、ランサーと真っ向から打ち合い、その技量から有利に戦闘を進めている。

 

 

「チィッ!! やりづれえなぁ本当によぉ!!」

 

「ハァァアアアアア!!」

 

「そぉらあ!!」

 

「フッ!!」

 

 

剣戟が鳴り響き、その度にこの世界の地は陥没し、ひび割れる。だがその度に世界はもとに戻っていく。破壊されたそばから修復されていく。

 

 

「ハッハァ!! いいマスターと同盟先を見つけたなぁ!! ええ、お二人さんよぉ!!」

 

「ええ、そうですね!! ハァァアアアアア!!」

 

「甘ェ!! ってうおお!?」

 

「足元がお留守です」

 

 

ライダーの鎖がランサーの足元に巻き付き、そのまま引っ張られた。そしてそのまま、プロレスラー顔負けの見事なジャイアントスウィングをランサーにかました。いや、ハンマー投げか?

 

 

「せぇのっ」

 

「ウオオアアアアアアア!?!? なんじゃこりゃあ!?!?」

 

「こ、これは……」

 

「くそっ!! 鎖が取れn」

 

「それっ」

 

「ノワッ!?」

 

 

ライダーは鎖の先についているランサーを、地面に叩きつけた。そしてまた振り回し、叩きつけた。それを何度も繰り返す。正直ランサーは敵だが、見ていて不憫になってきた。

 

 

「そぉれっ」

 

「わたたたたたたっとと」

 

 

そして最終的に遠くに投げ飛ばされだが、ランサーはそのまま態勢を安定させ、着地した。しかしそこにセイバーは突撃し、ランサーに息をつかせる暇を与えなかった。再び剣戟が鳴り響き、周りを破壊しながら三人のサーヴァントは互いにぶつかり合う。

 

 

「……衛宮君。衛宮君」

 

「? 三枝?」

 

「いま起こってること、夢じゃないんだよね? 現実なんだよね?」

 

 

彼女には本当に申し訳ないが、現実であることをわかってもらわねばならない。だから簡潔にことを伝える必要があるだろう。詳しく説明するにしても、一度心の整理をしてもらわねば、

 

 

「ああ、現実だ。今目の前で起こっていることは全て」

 

「……うん。それと衛宮君」

 

「どうした?」

 

「気のせいかもしれないけど、さっきから変な音が聞こえるの。なんかギチギチと堅いものが擦れ合う音みたいなのが」

 

「……え?」

 

 

三枝の言ったことに違和感を覚え、急いで解析を自分にかける。

おかしい。

俺の予想では、この固有結界は最低でも三分は展開時間が持つはず。『世界』の修正を考慮しても二分は持つはずだった。だがまだ一分しか経過していないのに、限界が来ている。まさかサーヴァントを召喚したことによって、展開時間が大幅に短くなったのか? そう考えているうちに、空にヒビが入りはじめる。それを魔力を込めて押し止める。

サーヴァントの戦いも終わりそうだ。それまでは持ってくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅の槍を持ったランサーは、ライダーのダガーについている鎖をつかみ、ライダーを遠くへと投げ飛ばした。そして槍先を下に向け、こちらを見据えて構えた。その途端、まるで貪り尽くすように、槍は魔力を集め始め、纏った。

彼は宝具を使うつもりだ。

 

 

「宝具か!!」

 

「おうよセイバー。こいつで〆だ。こいつが受けきれるか?」

 

「いいでしょう、受けて立つ!!」

 

「いくぜ……その心臓、貰い受ける!!!!」

 

 

━━ 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク) ━━

 

 

 

濃密な魔力を孕んだ一突きをランサーは繰り出したが、私は回避した。いや、回避したはずだった。しかし槍はその軌道を変え、私に向かってきた。今度は風王結界を纏った私の剣で弾いたが、槍はさらに軌道を変更し、私を穿った。私の右脇腹を。

激痛が体を駆け巡る。幸い霊核は破壊されていないため、マスターの魔力供給や治癒の魔術があれば修復できる。ランサーを見ると、彼は槍と同じように赤い目を爛々と燃やし、鬼の様な形相でこちらを睨み付けていた。

 

 

「かわしたなセイバー……我が必殺の一撃を!!」

 

 

ランサーの目は怒りの一色で染まっていた。そこにライダーが私の側へと戻ってきた。

 

 

「すみませんセイバー、遅くなりました。大丈夫ですか?」

 

「ええ、なんとか。それにしても今の言葉にその宝具。貴公はもしやアイルランド、アルスターの光の御子なのか?」

 

「チッ。ったく有名なのも考え物だな。この槍を使うからには必殺でなけりゃならんのに」

 

 

ランサーは目に灯る怒りを治め、やれやれと首をふると、槍を肩に担ぐようにして構えを解いた。

 

 

「悪いが今日はここらで分けとしねぇか?」

 

「逃がすと思っているのですか?」

 

「さっきからうちの臆病なマスターが帰ってこいって五月蝿いんだよ。それに……」

 

 

ランサーは一度言葉を区切ると、周りを見渡した。結界による世界は、ひび割れてボロボロになっており、今も崩壊を続けている。

 

 

「この結界もそう長くは持たねぇだろうよ。坊主は苦しそうだしな」

 

「何? ……ッ!? シロウ!!」

 

 

ランサーに言われてマスター、シロウを見ると、彼は自らの体を抱え込むようにして、踞っていた。彼の周りにはライダーのマスターとその兄、そして巻き込まれた少女が寄り添い、必死に彼に呼び掛けていた。

私は急いでシロウの元へと向かった。そして彼のもとへ辿り着いた瞬間、世界は壊れ、もとの中庭に私達はいた。どうやら本当に今回はここまでらしい。

 

 

「セイバー、ライダー」

 

「なんでしょう?」

 

「なんですか、ランサー?」

 

「その坊主、大事にしろよ? お前らとやりあう前に一度剣を交えたが、今時珍しい気質の野郎だ。マスターとしても人間としても、とんでもねえ奴になる」

 

「ええ、わかりました」

 

「無論です」

 

「それから坊主に伝えろ。サーヴァントと周囲のことを考えて、戦いの場を用意するのはマスター冥利につきる。だがそれで自分が死にそうになっちゃ世話ねぇとな」

 

「ええ」

 

「必ず」

 

「じゃあな。次会うときは本気で死合おうぜ。てめぇらの命は俺が貰い受けるからな」

 

 

ランサーはそう言うと、彼の持ち味である超スピードで去っていった。彼の言葉もあるが、戦ってみてわかった。どうやら彼は枷をつけられている。次は本気で、という言葉から、その枷は初戦の一度限りのものだろう。召喚直後の万全でない今で相手をしていたらどうなっていたか。

 

それにしてもおかしい。マスターは固有結界を三分は展開していなかったはず。精々二分程度だ。しかし結界は自然崩壊し、シロウは未だ以て苦しそうに息を荒らげている。

 

 

「衛宮君? 大丈夫? 衛宮君?」

 

「衛宮、どうした。おい衛宮!!」

 

「シロウ、大丈夫ですか? 私がわかりますか?」

 

 

必死に声をかけるが、彼は荒い息を絶やさない。それどころかさらに苦しそうな息をしている。気のせいか、何かがギチギチと擦れ合う音もしている。

 

 

「シロウ? 大丈夫ですか?」

 

「……セイ…………バー」

 

「はい、私はここにいますよ、シロウ?」

 

「…………なを……れ………ろ」

 

「今なんと?」

 

 

シロウが何かを言ったのは聞こえたが、内容まではわからなかった。だから私はシロウの口元へと耳を寄せた。

 

 

「俺から……皆を………離れさせろ……ぐっ…………今すぐに!!」

 

 

ギチギチという音に混じって聞こえたシロウの声に、私は普通でないと判断して、少女、ユキカを連れて離れた。話を聞いていたライダーも、シンジとサクラを連れて、シロウから離れた。その直後。

 

 

 

 

ボキャッ ブツリッ ミチッ

 

 

「ガフッ!? ゴボォ……」

 

 

骨を砕き、肉を断ち切り、皮膚を突き破り、互いに押し退け合ようにして、シロウの内側から数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの剣が生えてきた。

 

 

「「ひっ!?」」

 

「なっ!?」

 

「「ッ!? シロウ!?」」

 

 

サーヴァントである私とライダーは、咄嗟に彼に駆け寄った。

 

何が起きた? 彼は剣で刺された。

 

誰がやった? 今ここにそれをなし得る者はいない。

 

ならこの状況は? 彼の内側から剣が生えている。

 

原因は? わからない、予想するとしたら。

 

 

「固有結界の代償?」

 

「シロウ!! しっかりしてください!! シロウ!!」

 

 

シロウに声をかけるが、反応はない。剣は何度も生えては引っ込むのを繰り返している。まるで過ぎた力を行使した罰であるかのように。

 

私は、見ているだけで何もできない自分が悔しかった。

 

 

 

 






はい、今回はここまでです。

前回教会まで話を書いてからハリポタに移る、と言いましたが、予定を変更して、あと1、2話書いてからハリポタに移るようにします。

その際、教会まで書くかはわかりません。

ではこの辺で





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一夜明けて


更新です

ではどうぞごゆっくりと






 

 

「衛宮君!? 衛宮君!?」

 

「シロウ!! 私の声が聞こえますか!! シロウ!?」

 

 

セイバーと三枝の声が聞こえる。

 

 

「兄さん、どうすれば!?」

 

「桜!! 治癒の魔術は使えるか!?」

 

「それが……」

 

「くそっ!! どうすれば!?」

 

 

慎二と桜の声も聞こえる。今俺は全身を串刺しにされているのだろう。展開時間を越えることはなかったのに、何故こうなったのか。しかし何とかして俺は死ぬことはないと伝えなければ。

 

 

「……セイ…………バー……」

 

「!? シロウ!!」

 

「……俺…………は……」

 

「しゃべらないで下さい士郎。今サクラとシンジが何とかし……!? セイバー!!」

 

「ええ、新手です!!」

 

 

新たなサーヴァントか? それにしても、この地鳴りはいったい……

 

 

ドズーンッ!! という音と共に、一人の大男が庭に落ちてきた。

 

 

「シロウ!! 無事なの!?」

 

 

大男の肩からは、銀髪の少女が降りてきた。あれは、確か本家に行っていた姉のイリヤだ。とすると、この大男は姉の召喚したサーヴァントなのか?

 

 

「ッ!! 止まりなさい、魔術師(メイガス)!!」

 

「サクラたちには近づかせません!!」

 

「そこで倒れて死にそうになってるのは私の弟よ!! あなたたちこそ退きなさい!!」

 

「その証拠は!!」

 

 

しまった、セイバーとライダーに姉さんのことを報告するのを忘れていた。何とかして伝えなければ。それにしても俺の体はどうなっている? 刺されすぎて痛みが麻痺してきたぞ?

 

 

「……姉……さん…………」

 

「シロウ!?」

 

「なっ!? 待ちなさい!!」

 

 

俺が呼ぶと、姉は服が俺の血で汚れることも構わずに、俺の元へと駆け寄ってきた。セイバーがそれを止めようとしたが、慎二と桜によって説得がされている。大男はこちらを静かに見つめ、立っている。

 

 

「衛宮君、しっかり!! 包帯、包帯はどこに……」

 

「ユキカ。あなたは家から桶とタオルを持ってきて。桶にはできればお湯を、なければ水を入れてお願い」

 

「は、はい!!」

 

「シンジはユキカの手伝い、サクラは私の手伝いをして。急いで!!」

 

 

姉さんが指示を出して場を動かす。俺のことなのに、俺自身が何もできない。何と歯痒いことか。ん? あそこ、塀の上に見えるのは……ッ!!

 

 

「……姉さん」

 

「シロウ、しゃべらないで」

 

「……塀の……上」

 

「え? 何?」

 

「ッ!? ライダー!! 新手です!!」

 

「またですか!?」

 

「■■■■■……」

 

 

サーヴァント達が臨戦態勢をとり、その時塀の上から二人の赤い人影が降りてきた。冬木のセカンドオーナーである遠坂凛と長身の赤い外套を纏った白髪の男だった。

 

 

「!? トオサカの……」

 

「これはどういうこと? それに何で桜が魔術を使ってるわけ?」

 

「……仕方がないか。リン!! 手伝って!!」

 

「え?」

 

「今は時間がないの!! 私達の情報と宝石二つ、これじゃだめ!?」

 

「……交渉ってこと?」

 

「そう!! 受諾するなら急いで手伝って!!」

 

「……凛、どうする?」

 

 

赤い男が遠坂に答えを委ねる。しばらく彼女は考えたのち、姉さんの条件を飲むことにしたらしく、こちらに近づいてきた。そして男に指示を出すと、イリヤにどうすればいいか指示を仰いだ。その間に桶とタオルをもった慎二と三枝が戻り、イリヤの指示で、もう剣が生えないだろう場所を拭いていた。

 

 

「手伝うわ。その代わり、きっちり説明しなさいよ? 桜が魔術を使ってるわけもね」

 

 

そう言いながら、大きなルビーのついたネックレスを取りだし、ブツブツと何やら呟く。するとそのルビーは淡い光を放ち始め、魔術を使えない者は、その光景に目を奪われていた。だが、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する。目蓋越しに朝日が差し込むのを把握する。どうやら俺は、あのあと朝まで眠ってしまっていたようだ。

 

目を開ける。

まず目に入ったのは、私物がほとんど無い自室の天井だった。次に目に入ったのは、枕元でタオルを持ったまま、座って眠っている三枝。その隣でこちらを見つめるセイバー。そして最後に目に入ったのは…………部屋の中で苦しそうに正座をする、鉛色の大男の姿だった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……シロウ?」

 

 

しばらく俺と大男は見つめあっていた。セイバーが困惑した声をあげた。それを聞くと、大男はゆっくりと立ち上がり、部屋を出ようとして…………ずっこけた。

 

 

「~~~~■■■」

 

 

どうやら足が痺れてしまったらしい。英霊も足が痺れるのか? まさか霊体しなかったのか? というか今の転ぶ動作で家が揺れたぞ? その時に物凄い音がしたものだから、建物の奥から誰かがドタドタと走ってくる音がする。そして三枝も目を覚ましたみたいだ。

 

 

「へ!? なに!? 今の音は? ……あれ? あの男の人どうしたの?」

 

「シロウ!! 何がって、バーサーカー? あなた何やってるの?」

 

「■■■……」

 

「……どうやら足が痺れてしまったみたいです」

 

「「そ、そうなの」」

 

 

しばらく姉さんと三枝は呆然としていたが、俺が体を起こしたと同時にこちら側に帰ってきた。そして枕元へと近寄ってきた。

 

 

「シロウ、大丈夫?」

 

「どこか痛むところはありませんか?」

 

「衛宮君、大丈夫なの?」

 

 

三人が一斉に聞いてくる。三者三様に不安げな目差しをこちらに向けてくる。やはり結構な心配を掛けさせてしまったか。

 

 

「ああ。体が動きにくいぐらいでなんともない」

 

「「本当?」」

 

「嘘ではないですか?」

 

「ああ、嘘じゃない」

 

 

三人とも俺をしばらく見つめていたが、やがて納得したように俺から少し離れた。三枝はまだ枕元にいたが。それよりも、だ。

 

 

「姉さん、セイバー。あの後どうなって「あの後あなたは治療したわ、そしてそのまま一夜明けたのよ」……遠坂か?」

 

「ええ、おはよう衛宮君。病み上がりで悪いけど、早速話を聞かせてもらえるかしら? いろいろとね」

 

「わかった。なら居間にいこう。そこなら大人数入れるだろう? 幸い今日は休日だ。登校する必要性が無いぶん、時間はまだある」

 

「ええ、そうね」

 

「ならリン、一緒に行きましょう。私達がここにいる理由に関しては、私から話すわ。シロウは着替えてからいらっしゃい」

 

「ああ。ありがとう、イリヤ姉さん」

 

 

そう言うとイリヤと遠坂と大男、バーサーカーのサーヴァントは部屋から出ていった。俺は立ち上がろうとしたが、体に上手く力が入らず、転倒しそうになった。しかし、そこでセイバーと三枝が両脇から支える形で、俺を止めた。

 

 

「すまない、二人とも」

 

「ううん、気にしないで」

 

「マスターを支えるのはサーヴァントの役目です。ですからお気になさらず」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

そして俺は着替えて(その時だけ二人に席を外してもらった)洗面所へ行き、口の中を濯いでこびりついた血を洗い流した後、二人に支えられながら居間に移動した。

居間では既に食事を済ませた面子がお茶を飲んでいた。桜や慎二、ライダーもいる。流しにある食器の数からして、朝食を食べてないのは俺だけだろう。俺はいつもの席まで支えてもらい、そして座った。そして姉さんが遠坂と三枝に説明している間、俺は軽く食事を済ませた。

 

時々長身の赤い外套を纏った白髪の男が、もう赤い不審者でいいか。どうもこいつとは相容れない。先程から敵意の籠った目を向けてくるものだから落ち着かない。

 

食事を済ませた後、俺は話に参加した。

 

 

「さて、今の衛宮君を見る限り、体が動きにくい以外は特に異常は無いみたいね?」

 

「ああ、それにこの状態もしばらくすればもとに戻る。今日中に普段通りになるさ。まぁでも、遠坂と姉さんの治療がなければ、明日までこの状態だったかもしれないけど。治療してくれてありがとうな」

 

「そう、どういたしまして」

 

 

一先ず話を始める前に、治療のお礼を遠坂に言った。遠坂も素直にそれを受け取ってくれたみたいだ。

 

 

「未熟者が身の程を弁えないからだ」

 

「なんだと?」

 

「事実だろう?」

 

「うるさい。言われなくても自覚してる、この赤い不審者が」

 

「赤い不審者ではない、アーチャーのサーヴァントだ」

 

弓兵(アーチャー)なんて柄じゃ無いだろう。てめぇなんて赤い不審者で充分だ」

 

「なら貴様は魔術師ではなく、素行不良の学生だな。髪を一部分だけなんぞ染めおってからに、カッコいいとでも思っているのか?」

 

「地毛だよ。つか若白髪の肌黒なてめえに言われたかねぇよ」

 

「「ああ? やるか?」」

 

「はいはい、二人とも喧嘩をしない」

 

「「ふんっ」」

 

 

赤い不審者(アーチャー)との口論は遠坂によって中断された。願ってもないことだ。奴の顔を見ただけでイライラしてくる。

 

 

「さてと、衛宮君。大体のことはイリヤスフィールに聞かせてもらったわ。無論あなたの魔術に関してもね、全てじゃないけど」

 

 

遠坂は俺に顔を向けて言った。そしてその目は、『嘘・即・捻切る』と語っていた。

まずい。何がまずいかというと、たまにイリヤ姉さんや桜も同じような目をするんだが、逃げられた試しがない。気のせいか、赤い不審者も冷や汗を顔に浮かべている。

 

 

「いろいろと突っ込みたいことはあるんだけど、今は控えるわ。それよりも一番聞きたいことがあるわ」

 

 

遠坂は姿勢をただして、俺と姉さん、桜と慎二を見る。

 

 

「聖杯が汚染されているってイリヤスフィールから「イリヤでいいわ」……イリヤから聞いたわ」

 

「なッ!? シロウ、それは本当ですか?」

 

 

遠坂の発言にセイバーが食いつく。他のサーヴァントは表情を変えない。とすると、恐らくだが、この場にいる四人のサーヴァントの中で、純粋に聖杯を求めているのはセイバーだけ、というとこになるのか?

 

 

「ええ、本当よ」

 

「……なんということだ」

 

「爺さん、親父である衛宮切嗣の手記と、アインツベルン現当主、アハトじい様の話によれば、聖杯は確実に汚染されている。まだアインツベルンが妄執に囚われていた頃、第三次聖杯戦争のときに召喚した、最悪のサーヴァントによって」

 

 

俺とイリヤ姉さんの返答で、居間は沈黙に包まれた。

 

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。

さて、次回の話を書いたのち、ハリポタのほうの二巻内容の執筆を始めようと思います。

ハリポタの二巻が終わる、又は中間のあたりになると、またこちらを進めるという形を取らせていただきます。

それにしても仲の悪いお二方、そして以外にドジなバーサーカー。今後どうなるんでしょう?



では今回はこの辺で


感想お待ちしております




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聖杯、そして間桐の今



予告通り、更新します。


それではごゆっくりと






 

 

 

 

 

第三次聖杯戦争。

アインツベルンは最悪のサーヴァントを召喚した。

クラスはイレギュラーの「復讐者(アヴェンジャー)

その英霊の真名は「この世全ての悪(アンリ・マユ)

ゾロアスター教にて、最高悪神として記されている存在である。

 

しかし、召喚されたのは本物のアンリ・マユではなく、アンリ・マユとして生け贄に捧げられた、ただの一人の少年。

『悪であれ』と願われ、生け贄となった一人の少年。

 

無論他のサーヴァントに勝てるはずもなく、四日目に敗退した。それが全ての始まりだった。

敗北したサーヴァントは、聖杯の器として、その魔力が使われる。

その際、聖杯戦争の基盤となる大聖杯へと吸収される。

 

無色の魔力の固まりであった大聖杯は、アヴェンジャーを吸収したことによって、汚染されてしまった。

アヴェンジャーは悪であって欲しいと願われた存在。

無色の大聖杯はその願いを受けてしまった。

 

以降、聖杯戦争に勝利し、願いを叶えた場合、曲解した方法で願いを叶えてしまうようになる。

例えば、自国を救うと願えば、自国以外の全ての生命を死滅させてしまうなど。

ただ、第三次聖杯戦争は途中で終わり、勝者がでなかったことから聖杯が顕現することはなかった。

ここまではアインツベルン本家に残されていた記録によるものである。

 

 

しかし第四次聖杯戦争の終盤。

衛宮切嗣は言峰綺礼との死闘の最中、聖杯から漏れ出た「この世全ての悪(アンリ・マユ)」の呪いの泥を浴び、聖杯が汚染されていたことを知った。聖杯が完成すれば、この星の全土に呪いがばら蒔かれると判断した切嗣は、自らの召喚したセイバーの宝具を用い、これを破壊する手段をとった。

 

しかしここで切嗣は呪いの漏れ出る孔ではなく、聖杯本体を破壊してしまった。

それによって呪いが少しこぼれ落ち、冬木の新都を焼き払った。

たった少量で都市一つを飲み込み、焼き付くした。

結局生存者は数人しかおらず、それも中心地から遠く離れた場所で炙り出された人々だけであった。

 

泥を浴びた切嗣は、年々呪いの浸食で衰えていった。

しかし第四次聖杯戦争終結から五年、外部の魔術師の力を借り、アインツベルン本家に特攻した。

彼らとの議論の末、アインツベルンは自らの非を認め、聖杯を解体、浄化することを決定した。

その場に偶々居合わせた万華鏡もそれを承認し、間桐も後にそれを承諾。

第四次が聖杯を破壊という形で終了したために、第五次聖杯戦争にて計画を実行するということになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………というわけだ」

 

「……正直半信半疑な状態よ」

 

「……シロウ」

 

「なんだ? セイバー?」

 

「聖杯は……本当に汚染されているのですか?」

 

「ああ。確かに汚s「汚染されておる」……? アハトじい様?」

 

 

セイバーの質問に答えようとした矢先、一人の老人の声が部屋に響き渡った。その老人は腰まで伸びた髪を背中へと流し、白い装束を身に纏っていた。その傍には、二人のメイドが控えていた。

彼の老人こそ、アインツベルン現当主である、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンである。

 

 

「え、衛宮君? まさかこの人は」

 

「ああ、アインツベルンの現当主だ。アハトじい様? 何でここに?」

 

「うむ。此度の聖杯戦争で聖杯を解体するためにな。必要になるだろう資料等を持ってきたのだ」

 

「お爺様? 本音は?」

 

「うむ。孫達が聖杯戦争に参加するのだ。それが心配でな」

 

 

……やっぱり。

俺とイリヤ姉さんは、アハトじい様の発言に少しだけ呆れた。しかしアハトじい様はそれを気にすることなく、遠坂とセイバーの元へと近寄り、懐から2、3枚の紙を取り出した。

 

 

「ここに来る前に大聖杯を調べたが、その結果だ。今ここで目を通してくれ」

 

 

アハトじい様にそう言われ、遠坂とセイバーは渡された紙を受け取り、読み始めた。遠坂は読むにつれて顔をしかめ、セイバーは顔に絶望の色を宿していった。暫くして遠坂はアハトじい様に紙を返すと、深い溜め息をついた。

 

 

「どうやら本当のようね。わかったわ、衛宮君、イリヤ。あなた達の話を信じるわ」

 

「ああ、助かる」

 

「ありがとう」

 

 

聖杯についての説明は終わった。しかし、セイバーは呆然とした表情をしたまま固まり、床に座り込んでいる。俺はセイバーの元へと近寄り、座り込んで目線を合わせた。

 

 

「セイバー。大丈夫か?」

 

「……」

 

「……悪い、遠坂。姉さん。少し俺は席を外す」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

説明の最中に体の感覚が戻った俺は、セイバーに肩を貸しながら自室へと移動した。セイバーは俺にされるがままになっており、部屋に着いても床に座り込んでいた。

それほどにまで、聖杯を求めていたのか。

 

 

「……セイバー」

 

「……シロウ? ここは?」

 

「俺の自室だ。少し心を整理するために、お前をここに連れてきた」

 

「そうですか」

 

 

セイバーはそう一言、無気力げに言葉を紡いだ。その目は何も見ていなかった。この世の全てに絶望した目をしていた。

 

 

「なぁセイバー。お前は聖杯が欲しかったんだよな?」

 

「……ええ」

 

「そうか。それ程にまで叶えたい願いなのか」

 

「……はい」

 

 

セイバーはその後暫く、俺が何を聞いても肯定か否定の返事以外しなかった。

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず聖杯戦争に関しては理解したわ」

 

「そう」

 

「それで? あともうひとつ聞きたいことがあるんだけど?」

 

「なにかしら?」

 

「何で桜が魔術を使ってるわけ?」

 

 

リンがサクラを見ながら私に聞いてきた。これは私個人の判断で話していいことではない。だから私はサクラに視線を向けた。サクラは私を見て一つ頷き、リンの方を見てこう言った。

 

 

「それは私が魔術面における、マキリの当主だからです」

 

「え? どういうこと? 蔵硯じゃないの?」

 

「……遠坂先輩。いえ、今この家にいる人たちは、サーヴァントの方々と三枝先輩を除いて全員知ってますね」

 

「だからどういうことよ?」

 

「……姉さん。姉さんはお父様から、私の養女についてなんと聞かされていました?」

 

 

サクラは真剣な顔で、リンに質問した。成る程。最初に双方の事情を把握して、情報の齟齬を修正するのね。聞かされたことと実際にあったことの違いを修正し、認識するために。

 

 

「……その前にいい?」

 

「はい?」

 

「三枝さんがこれ聞いていいの?」

 

 

尤もである。ユキカは一般人。巻き込まれただけの人なのだ。本来なら記憶を消して、そのまま日常に返すことが最善である。けど。

 

 

「普通の魔術実験とかを見られただけなら、私から記憶操作するわ」

 

「え? 私の記憶を?」

 

「あくまで普通は、よ。でも今回は特殊。聖杯戦争に巻き込まれたとなれば、仮令記憶を消してもまた狙われるわよ?」

 

「……」

 

「それに、三枝先輩がいなくなっちゃったら悲しいです。私もイリヤさんも兄さんも、衛宮先輩も勿論」

 

「だから、最低限こちらの事情を知ってもらうのよ。その方が行動しやすいし」

 

「わかったわ。ならそのことについてはもう言わない」

 

 

リンはそう答え、本題に戻った。

サクラが間桐に養女に出されたことについて、リンは殆ど聞かされていなかったらしい。ただ一つ、「その方が桜が幸せだから」という理由で。それ以後は、関わることを良しとされなかったらしい。だから出会ったとしても、他人として接するしかなかったようだ。

 

それに対し、サクラは自分の身に起こったことをリンに話した。

連れていかれたその日に、間桐蔵硯の蟲蔵に入れられ、ありとあらゆる場所を犯されたこと。

体内に刻印蟲を何匹も寄生させられ、体を内部から改造されたこと。

それが何年も続いたこと。

蔵硯本体を心臓近くに寄生させられ、まさに彼の操り人形同然だったこと。

 

それらを全て話した。リンは話を聞くうちに顔を青ざめさせ、そして次には怒りで顔を赤くしていた。拳を握りしめ、必死に何かに耐えるようにしていた。

 

 

「丁度四年程前です。ある日、いつものように蔵に連れていかれました。しかし私が蔵に入る前に、何者かが屋敷へと侵入しました」

 

「え?」

 

「それは衛宮先輩とイリヤさんのお父様、そして今は私の師匠となっている、ある魔術師。言峰教会の神父に衛宮先輩でした」

 

「綺礼も?」

 

「ええ。数分間ドンパチやっていたんですが、お爺様が私を盾にして、彼らを脅しました。しかし衛宮先輩が不思議な剣で私を刺すと、私は無傷のまま、中の全ての蟲が死滅し、お爺様の本体も私の体から出てきたんです」

 

「剣で刺した? それで無傷?」

 

「はい。後ほど聞いたら、宝具の一つといってました。といっても、今は使えないようですが。そのままお爺様は神父さんによって魂まで消滅し、残りの蟲も、師匠によって全て処分されました。ですが、魔力や魔術回路の制御のため、今は師匠に手解きを受けてるんです」

 

「……」

 

 

サクラが一通り話終えると、リンは黙りこんだ。暫く拳を握りしめ、唇を噛むと、サクラの前に移動して頭を下げた。所謂「Japanisch Dogeza」をするリンに、サクラと慎二、ユキカは非常に戸惑っている。かくいう私もだ。

私達があたふたしていると、リンは頭を下げた状態で言葉を紡いだ。

 

 

「……ご免なさい。今更なのは、もう遅いというのはわかってる。でも……」

 

 

リンはサクラに謝罪、懺悔していた。サクラはハッとした表情を浮かべ、リンを見つめている。リンは頭を下げたままだ。

 

 

「気がついてあげられなくて、何もできなくて、何もしなくて、本当に……」

 

 

でも言葉は続かなかった。サクラがリンの頭を抱え込み、抱き締めたのだ。サクラの行動に、リンは呆気にとられていた。

 

 

「大丈夫です。確かに辛かった。痛かった。何度も何度も、私を養女に出したお父様を恨みました。でも、たまに姉さんが優しく接してくるとき、本当に嬉しかったんです。それにお爺様の呪縛からも、既に兄妹揃って救われています。だからもう恨んでません」

 

 

サクラの言葉にリンは暫く固まり、そして静かに涙を流し始めた。サクラも静かに泣いていた。互いにすれ違っていた姉妹は、漸く仲直りの一歩を踏み出した。

私はその光景を見ながら思った。もっと早く、キリツグ、お父様と仲直りすれば、もっと長く、シロウとアインツベルンのみんなで幸せな時間を過ごせたのではと。もはや叶わない願いに少しの羨望を抱きつつ、私は泣き続ける姉妹を暫く眺めていた。

 

 

 

 

 







はい、ここまでです。
いかがでしたでしょうか?

私としては、肉親が距離をおいたまま、というのはあまり好きではないので、このように早い段階から仲直りのさせました。

因みにこのあとの展開ですが、こんな会話がありました。



「ところで桜、遠坂。お前たちこれからどうするんだ?」
「え?」
「お前たちの関係だよ」
「えぇっと……」
「その……」
「ああ~焦れったい!! また元のように姉妹として接するの? それとも今まで通り他人として接するの!?」
「えぇ!? ちょっ!?」
「に、兄さん!?」
「うだうだ悩んでも仕方ないだろう!! 桜も!! お前はたまには我が儘言ったらどうなんだ!!」
「う、うぇ?」
「で、でも……急に姉妹として接したら、遠坂先輩に迷惑じゃあ……」
「迷惑じゃない!!」
「え?」
「全然迷惑じゃないわ!! むしろ私だって姉妹として関わりたいわよ!!」
「……本当に?」
「無論よ!!」
「ッ!! 姉さん……」
「桜ァ!!」


そして再び抱き合って泣く姉妹。それを優しい目で見つめる士郎とセイバー以外の面子。
いやはや、この作品では慎二さんが灰汁抜きされ過ぎて、ツンデレワカメになっちゃいますね。タグに入れたほうがいいのでしょうか?


さてさて、次からはこちらの作品は一時更新を停止し、ハリポタの更新をしていきます。

ちゃんと両方とも完結させるのでご安心を。


それでは今回はこの辺で




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夢のあと



久しぶりに更新します。今回は短めです。
今度は何話更新できるか。


それではごゆっくりと。






 

 

夢を見た。

 

本来サーヴァントは夢など見ないが、例外としてマスターの過去を、夢として見ることがある。

今、私が見ているのはシロウの過去だろう。

 

始まりは地獄だった。

生の代わりに死が蔓延し、無数の(ニク)が焼け落ちていく。

私は自分の目が信じられなかった。これが、シロウの始まりだというのか。親の顔ではなく、こんな地獄が……

 

声が聞こえた。少年の声だ。

まさか、生きている人がいるのか。

そう思い、私は声のもとへと駆け出した。それは不気味な黒い太陽の昇る方向だった。

 

声の元に辿り着くと、そこには一人の少年と二人の男女がいた。大人の二人には瓦礫が積み重なり、身動きがとれていない。その瓦礫に、火の手は迫っている。

私は駆け寄り、彼らに重なる瓦礫を退かそうとし、すり抜けた。忘れていた。これは、シロウの記憶の中。

 

 

『父さん!! 母さん!!』

 

『士郎……逃げるんだ……』

 

『いやだ!!』

 

 

ッ!? この少年が……シロウなのか?

 

 

『行きなさい士郎……あなただけでも……!!』

 

『いやだ!! 父さんも母さんも残して行けない!!』

 

 

女性と男性、シロウの両親が必死にシロウを逃がそうとする。だがシロウは首を縦に振らなかった。彼らの顔は、ぼやけていて見ることができない。

火の手が迫る、もう時間がない。子供ながらに悟っているのだろう。それでもシロウは動こうとしなかった。

そこで母親と父親が手をのばした。母親はシロウの頬に、父親はシロウの頭に手を置いた。

 

 

『士郎、よく聞くんだ』

 

『……』

 

『お母さん達はもう助からない、それはわかるわね?』

 

『……ッ!!』

 

 

シロウは顔を俯かせたまま、何も言わない。しかし、その肩は震えていた。父親と母親は、そんな士郎に優しい視線を向けている。

 

 

『僕たち親が望むのは、子供の未来、子供の幸せだ。決して子供が一緒に死ぬことを望まない』

 

『……』

 

『だから士郎、生きなさい。生きて生きて生き抜いて、そして幸せになりなさい』

 

『……うん』

 

『これはお母さん達との約束よ? ちゃんと守れる?』

 

『……うんッ!!』

 

『じゃあ指切りしようか』

 

 

士郎は顔をあげ、ゆっくりと母親と小指を絡ませた。

 

そのとき、彼らの一部分がはっきりと見えた。

父親の髪は赤銅、その瞳は黒。

母親の髪は黒、その瞳は琥珀色。

 

そのとき、大人達の上の瓦礫が少し動いた。火も彼らのすぐそばまで来ている。

 

 

『さぁ立って、前を向いて。大丈夫よ、士郎なら絶対に』

 

『決して振り返ってはいけないよ。さぁ走るんだ!!』

 

『……ッ!!』

 

 

二人に叱咤され、シロウは両親に背を向けて走り出した。同時に瓦礫は崩れ、シロウの両親は火に包まれた。それでもシロウは、振り返ることなく走り続けた。

 

 

━━ 助けてくれェェェエ!?

 

━━ この子だけでも……連れてって……

 

━━ 熱い……熱いよぅ……

 

━━ お……かあ……さ……

 

 

シロウは走る。

耳を塞ぎ、涙を流し、それでも走り続ける。少しでも遠くに逃げるために、少しでも黒い太陽から離れるために。親との約束を、守るために。

 

これが……これがそうだというのか。

私達が……私が聖杯を求めた結果だというのか。

民を救う、国を救う、そう願って聖杯を欲した。だが私達が好き勝手やりたい放題にやった結果、一つの街を無慈悲に地獄に変えてしまった。

 

雨が降りだした。

地に降り注ぐ雨はやがて、数えきれない命の灯火と共に炎を消し去った。

燃え残った瓦礫の間を、シロウは独り歩いていた。瓦礫からは、炭となったヒトの一部分が、そこかしこからのぞいている。

歩き続けるシロウは、やがてその体を大きく傾けた。

 

 

「ッ!? いけない!?」

 

 

私は咄嗟に手をのばした。だがここは記憶の中、私の体はシロウをすり抜けた。

すり抜けたシロウはそのまま倒れ、仰向けになった。

 

 

「あ……あああ……ああああ!?」

 

 

何もできない。この手は、たった一人の少年さえ救うことができない。剣を手に取り、人を斬ることしかできないというのか。私に人を、救う資格がないというのか。

 

 

『……まだ……約束……生きる』

 

 

シロウは天に手をのばした。その目に宿る光は、だんだんと弱々しいものになっていく。

このままでは……このままでは、シロウは死んでしまう。

 

 

「誰か……誰かいないのですか!? このままではこの子が……シロウが、死んでしまう……」

 

 

自分の無力さが悔しかった。どんなに手をのばしても、どんなに声を張り上げても、私は干渉することができない。

だが誰かが、落ちそうになったシロウの手を掴んだ。

 

 

『生きてる……まだ生きてる……!!』

 

「ッ!? 切嗣!!」

 

『ありがとう……生きていてくれて、ありがとう……』

 

 

切嗣は涙を流し、感謝の言葉を繰り返していた。

その言葉を聞いたとき、私の視界は黒く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

自分はいつの間に寝てしまっていたらしい。枕元にはシロウが座っていた。どうやら私が寝かされている布団は、彼が用意したものらしい。

私は身を起こし、シロウに顔を向けた。

 

 

「……目が覚めたか」

 

「……はい」

 

「そうか。……安心していいぞ。セイバーが寝てから二時間程度しか経ってない」

 

「……そうですか」

 

「もうちょっとしたら昼飯だ。大丈夫か?」

 

 

シロウ私に向き直り、声をかけてくる。何故……

 

 

「あなたは……」

 

「ん?」

 

「シロウは……聖杯が欲しいとは……思わないのですか?」

 

「……どうしてだ?」

 

「眠っている間にあなたの過去の一部を、夢として見ました」

 

「……そうか」

 

 

私の問いに、シロウは黙りこんだ。そしてゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 

「……ああ。聖杯はいらない」

 

「ッ!! ……理由を聞いても?」

 

「過去を変えたところで、また同じことにならないとは限らないからな。もしかしたら、もっと酷いことになるかもしれない。それにな?」

 

 

シロウは少し身を乗り出し、私の目をまっすぐと見つめた。

 

 

「起きてしまったことは変えられない、失ったものは戻らない。そのときの悲しみ、苦しみを無かったことにするなんて、俺にはできないよ」

 

「……」

 

「父さんと母さんは、俺に生きろと願った。生きて幸せを掴めってな。もし過去を変えたりしたら、その願いや込められた想いも無駄にしてしまう。俺はそんなことしたくない」

 

 

シロウは真っ直ぐに私を見つめ、そう言葉を紡ぐ。その目は、今言った言葉が本気であると、そう雄弁に語っていた。

 

 

「……あなたは」

 

「うん?」

 

「……あなたが家族を失った理由を……シロウは知っていますか?」

 

「……ああ、知っている」

 

「ッ!! ……そうですか」

 

 

シロウは……知っているのか。

 

 

「原因が切嗣、親父達と知ったときは、そりゃ言葉にできない程怒ったよ。悲しさと苦しさのままに、俺は親父を殴った。何度も何度も。殴り過ぎて、俺の手から血が出るほどに」

 

「……」

 

「でも虚しいだけだったよ。だってそうだろ? 親父を殴ったところで、父さん達が生き返るわけじゃないしな」

 

 

シロウは悲しみを帯びた目をしながら、振り返るように、懐かしそうに言葉を続ける。

 

 

「しかもそのときの親父、何て言っていたと思う?」

 

「……私にはわかりません」

 

「涙を流して、ひたすら謝り続けていたんだ。何度も何度も、俺も怒るのをやめたよ」

 

「……」

 

「それからだ、俺が魔術を学び始めたのは。親父の次に、滅茶苦茶厳しい師匠がついて、無理難題をいくつもこなして、やっとこのレベルまできた。アインツベルン本家と和解したのも、そのときだ」

 

 

シロウの目から憂いは消え、代わりに強い意思を感じさせる光が灯った。

 

 

「セイバー、俺はお前の願いはわからない。でもセイバーがそれほど精神的に追い詰められるってことは、セイバーにとってそれはとても大切なことなんだろう?」

 

「……はい」

 

「俺はそれを否定しない。何が大切かは、それは人によって違う。でもこれだけは言わせてくれ。この地の聖杯は、正しい形で願いを叶えない。俺の過去を見たのなら、尚更わかるだろう。だからしっかりと見極めてくれ」

 

 

シロウはそう言うと私の返事を聞かず、部屋から出ていった。

シロウは聖杯を壊す、その決意は並々ならぬものだ。悲しみも苦しみも、全てまとめて今の自分が在ると、シロウはそう言っていた。それらを無かったことにほできないと。

 

私はどうだろうか?

カムランの丘で戦う前、家臣の半数以上が私に反旗を翻した。だがたしかに、私に味方したものもいた。ベディヴィエール卿なども、私に味方したではないか。

私に反旗を翻した筆頭である、円卓騎士の一人の彼、前回の聖杯戦争で対峙したランスロット卿は、最後に何と言っていた?

魔力へと還っていくランスロットは、私に何と言っていた?

彼が遺した言葉が真実ならば、ならば私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"ーやってしまった」

 

 

現在絶賛自己嫌悪中。

凄く上から目線な言葉がだった。もう少し別の言い方があっただろうに、何してんだ俺は。思い返すほど憂鬱になる。

 

 

「それにしても……」

 

 

まさかセイバー、俺の過去を見ていたとは。しかも覚えている限り、一番初めの大火災のやつ。

聖杯から溢れた極大の呪いによって、俺は家族と記憶の一部を無くした。だが生きると、幸福を掴むと両親と養父(きりつぐ)に誓った。

だから俺は聖杯戦争を終わらせる。俺の大切な人たちの笑顔を守るために、俺と同じ思いをする人を出さないために。

 

そうこう考えていると、居間に到着した。時刻は11時半頃、そろそろ昼食の準備をするか。

俺は部屋に入り、そしてずっこけた。

 

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

「何でテメェが台所(ここ)を使ってる? それに何で食器の位置を知ってるんだ」

 

「なに、家主がなかなか戻ってこないのでな。時間も時間だから、私が貴様の代わりに用意してやろうと思ったのだ。食器の位置に関しては、黙秘させてもらおう」

 

「お呼びじゃねぇよ、赤い不審者(アーチャー)。どけ、そこは俺のテリトリーだ」

 

弓兵(アーチャー)だ。残念ながら、殆ど終わっている。あとはメインディッシュだけだ」

 

「ならそれは俺がやる。お前は他をやれ」

 

 

俺はアーチャーを押し退けるようにして台所に立った。慎二と桜は料理以外の準備をしており、三枝はイリヤ姉さんと遠坂の二人と、何やら話をしていた。

そういえばサーヴァントたちは食べるのだろうか? まあ多めに作っておいて損はないだろう。

 

 

「衛宮君とアーチャーさんって仲が良いんだね」

 

「「良くない。ッ!? ハモるな!!」」

 

「なに二人でコントやってんのよ」

 

「「チッ」」

 

 

やっぱり俺、この赤い不審者、嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、ここまでです。

こちらを更新するのは久しぶりですね。
番外編も下書きを進めていますので、ゆったりと待っていてください。



それでは今回はこの辺で


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状況確認



なんか三枝さん人気ないですね。
そして何故かヒロインにカレンが出てくるネタが浮かぶ、今日この頃。

それはそれとして更新です。今回は短めです。

それではごゆっくりと。





 

 

 

昼食の準備ができたから、未だ居間に来ないセイバーを呼びに行った。

 

皆には先に食べとくように言ってあるので(サーヴァントたちは食べるのだろうか?)、俺はまた自室へと向かった。

だが自室にセイバーはおらず、布団も綺麗に畳まれてもぬけの殻となっていた。

まさかこの家から出ていったのか、と不安になっいたところ、道場の入口か開く音がした。

俺は急いで道場に向かい、中に入ると、果たしてそこにセイバーはいた。

 

窓から射し込む日の光を受けながら、セイバーは正座、瞑想をしていた。その姿に、俺は目を離せなかった。

 

 

「……シロウ?」

 

 

しまった。

つい見とれてしまっていた。

セイバーに名前を呼ばれなかったら、時間も忘れてずっと見ていただろう。

俺は誤魔化すように咳払いを一つし、セイバーに近寄った。

 

 

「セイバー。昼食用意したけど、食べるか?」

 

「……ええ、いただきます。その前にシロウ、少しよろしいですか?」

 

「ん? どうした?」

 

 

セイバーは立ち上がって俺に質問してきた。だから俺もセイバーに正面から向き合った。大事な話だろうからな。

 

 

「……先程のシロウの言葉を聞き、自分なりに考えてみました」

 

「……」

 

「正直に言いますと、まだわかりません。私の願いが正しいのか、そうでないのか、今も混乱しています」

 

「……そうか」

 

 

まぁそうだ。

聖杯に託す程の願いだ。そんなあっさりと答えが出るはずもない。

そして俺は彼女(セイバー)じゃない。だから彼女の葛藤を、本当の意味で理解することは、今はできない。

 

 

「……ですから」

 

「ん?」

 

「ですから貴方が、私に教えてください。この聖杯戦争の間、あなたが得た答えの一つを。その過程で、私も私だけの答えが見つけられると、私は思っています」

 

 

セイバーはそう言うと、柔らかな笑顔を浮かべた。

 

 

「それに私は最初に言いました。あなたの剣となる、と。ですから安心してください。この地の聖杯の問題は、私の願いの正誤に関係なく捨て置けない問題です。ですから、最後まであなたと共に在ります」

 

 

はじめはいたずらっぽく、続いて見る者を安心させる頼もしい笑顔を浮かべ、セイバーはそう言いきった。

ああ、これなら一先ず大丈夫だな。

 

 

「ああ、頼りにしてる。そしてこれから嫌になるくらい見えてやるから、腹を壊すなよ?」

 

「ええ、望むところです」

 

 

俺達は互いに軽口を叩きあいながら、居間へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員で昼食を摂り(結局バーサーカーだけ食べなかった)、今後の話し合いとなった。序でに言えば、アハト翁は既に郊外の城に戻ってる。昼食だけ食べてすぐに出発した。

 

 

「とりあえず三枝、両親に連絡はしたのか?」

 

「うん、テスト勉強でお泊まりになるって言ったら許可がでたよ? なんでか帰ったら御赤飯だって言われたけど」

 

 

……なんでさ。

まぁ護衛はしやすくなるからいいのだが、赤飯て……、なんか遠坂は不機嫌になるし、姉さんは俺を睨んでくるし、俺なんかしたか?

 

 

「……ハァ、まぁいいわ。とりあえず、あんた達三陣営は同盟組むのね?」

 

「「「ああ(ええ)」」」

 

「遠坂はどうするんだ?」

 

「私? 出来れば私もお願いしたいけど、いいのかしら?」

 

「私は構わないわよ」

 

「えっと、私も」

 

「「俺も」」

 

「そう、ならお願いするわ」

 

 

ここに四陣営の同盟が成立した。

……これって聖杯戦争のルール的に大丈夫なのだろうか? まぁ今回で聖杯は破壊するからいいのだろうけど。

 

基本方針は、学校では俺と遠坂が護衛をしつつ、サーヴァントたちは他の陣営の情報の収集。イリヤ姉さんは自由登校なので、町での調査。夜は俺と慎二、セイバーとライダーで見回り。

ということに決まった。三枝も、それで納得していた。

 

因みにセイバーは霊体化できないそうで、ならいっそのことと、遠坂のツテで超短期留学生として、桜のクラスに入ることになった。

 

 

「さて、話は粗方終わったわね。というわけで……」

 

 

遠坂が俺に視線を向けてきた。序でに桜と慎二も。何故か赤い不審者も。

これは不味い、非常に不味い。

 

 

「衛宮君、聞かせてもらえる? 何であなたが固有結界を使えるの?」

 

 

きた。

一番話したくない話題がきた。ここは戦略的撤退を……

 

 

「さて、俺はお茶d「「逃げるな(逃げないでください)」」……はい」

 

 

できませんでした。

アカイアクマとクロイアクマに一睨みされて、動けなくなりました。序でに言うと、赤い不審者に肩を掴まれていた。触るな、赤が感染(うつ)る。

 

 

「さぁキリキリ吐いてもらうわよ」

 

「クスクス、先輩? 私も妹弟子なのに、何も聞かされてませんよ?」

 

 

うわぁい、アクマのバーゲンセールだ。

姉妹による圧力が半端なく怖い。そりゃもう、対象でない慎二でさえ部屋の隅っこに行って怯えるほど。

ここは姉さんに助けを求め……諦めよう、我が姉はシロイコアクマになってらっしゃる。

西部戦線、異常しかなし。

 

 

「……謹んでお話させていただきます」

 

 

そこからは質問タイムという名の尋問だった。

遠坂からの拳ときどきガンドを避けつつ、俺は説明を終わらせた。あとで壊れた家具の弁償代払わせよう。

 

だがまぁ、遠坂がキレるのもわからなくはない。橙子師匠も初めて知ったとき、結構怖い目を向けてきたからな。あれは解剖させろと、視線で語りかけてきていた。

 

 

「ったく、何でこんなヘッポコに……」

 

 

ヘッポコで悪かったな。その代わりそれ以外の魔術は使えないんだよ、こちとらな。

俺達は三枝の淹れてくれたお茶で、一息ついた。

 

 

「まぁいいわ。ところで衛宮君、あなたまだ教会に行ってないんでしょう?」

 

「ああ」

 

「なら今夜いくわよ」

 

 

……行きたくねぇ。

赤い不審者と向き合って飯を食うぐらい行きたくねぇ。

というか赤い不審者と向き合って飯を食うぐらいなら、俺は泰山の激辛麻婆豆腐を食べるね。

さっき昼飯食っただろって? 向き合ってないから妥協した。

 

 

「何て顔をしてるのよ、まるでこの世の終わりのような」

 

「……あそこの神父、正直関わりたくない」

 

「気持ちはわかるけど、義務だから仕方ないわよ。割り切りなさい」

 

 

結局今夜教会に行くことで決定し、一旦解散となった。

遠坂は屋敷に荷物をとりに、間桐兄妹も本邸に荷物を、三枝はライダーの護衛付で宿泊道具とカモフラージュの勉強道具をとりに。

俺は道場に行って日課をこなす……はずだった。

 

現在俺はセイバーと向かい合っている。イリヤ姉さんは見物中、バーサーカーは見張りだ。

 

 

「あの~、セイバーさん?」

 

「なんですか、シロウ?」

 

「何をしておられるので?」

 

「何って、鍛練ですが」

 

 

セイバーはそう言うと、竹刀を一振りした。それだけで結構強い風が吹いた。そしてセイバーは竹刀を正眼に構えた。

 

 

「さぁシロウ、構えてください」

 

「なんでさ!?」

 

「? これは異なことを、私は純粋にシロウの実力が知りたいだけです。仮にもランサーの刺突を捌いたのでしょう?」

 

 

セイバーはキョトンと首を傾げつつ、だが竹刀の構えを解かなかった。序でに言えば、ランサー云々の(くだり)で姉さんの目付きは険しくなった。あとで怒られるな。

そしてセイバーだけど、これはこれ以上言っても聞かないよな。俺は仕方なく竹刀を二本とり、両腕をだらりと垂らすようにして構えた。

 

 

「二刀使いですか?」

 

「ああ、これが俺の基本だ」

 

「わかりました。さぁ、来なさい!!」

 

「……いくぞ」

 

 

俺は二刀を構え、セイバーへと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 






前書きでも書きましたが、今浮かんでるネタは、

・原作ルート以外の未来の士郎さんとカレンさんが並行世界へ
・どこかの作品に投入される。住処は廃教会
・二人して基本傍観、たまに原作の騒動に介入

ってな感じで。

序でに言えば、何故か『IS』の世界が候補です。
束さんをカレンさんが言葉攻め、暴力の方は士郎さんが鎮圧とか。

まぁ書かないと思いますが。


それでは今回はこのへんで。




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戦法と違和感、夜へ




さてさて更新です。
今回も短めです。

それではごゆっくりと





 

 

 

道場での彼の鍛練と、昨夜ランサーに言われたことを受け、私はシロウの実力が知りたいと思った。

 

聞けば本気ではなかったとは言え、ランサーの槍を捌いたとか。

いくら近接戦闘に特化した魔術師とはいえ、サーヴァントの攻撃を凌ぐことは、余程の例外でない限り難しい。

少々強引な形ですが、彼の実力を測ることにしました。

 

 

 

シロウはまず私に一太刀浴びせてきました。ですので、私は試しに自分の扱う竹刀で受けてみました。

 

なるほど、筋はいいです。

恐らく彼は、どの分野においても、一流に届くことはないだろう。しかしそれを補って余りあるものを有している。

言い方は悪くなってしまうが、戦士としては半端者でしかない。だが、こと戦闘においては、一流となりうる。

 

私は返す刃で彼に打ち込むが、それを彼はもう一本の竹刀で防いだ。そこからは、私が中心にシロウを攻めていった。

 

シロウは両の手に持つ竹刀で、私の一太刀一太刀を、右へ左へと受け流していく。その動きはまるで円を描くよう、二本の剣の織り成す、球形の壁のようです。

 

しかしやはり練度が荒いのか、次第に隙が出来始めました。

私が彼の左から打ち込んだとき、彼の右側に決定的な隙が生じました。

ですので、私はそこに打ち込もうと足を踏み出し……咄嗟に後方に下がりました。

 

直感で嫌な感覚がしたので後ろに下がると、やはりシロウは反撃してきていました。

隙があった右側には防御の剣を配置し、もう片方の剣でカウンターを放って来ていました。

 

 

「これは……」

 

「俺に才能がないのは、俺自身がよくわかってる。そのぶん、賭け金(チップ)は多めに場に出す(レイズする)必要があることもな」

 

 

彼はわざと隙を作っていた。

近接戦闘に特化した魔術師と侮っていた。サーヴァントには届かないが、彼は既に相応の実力と経験をつけている。

 

彼の戦法は一つ判断を間違えると、自分の命を失う諸刃の剣。ここまでの技量は、実戦でないと積み上げることができない。彼は今までに幾度となく、自分よりも強い者達と戦ってきたのだろう。

 

だが少しだけ、彼の底が垣間見えた。

彼は防御のこそ神業じみているが、逆に言えば、カウンターを狙わないと、攻撃を当てることは難しい。

 

 

「……わかりました。では私ももう少し、ギアを入れましょう」

 

 

私も少し力を出すことにし、シロウ目掛けて突進した。

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

「す、すみませんシロウ。やり過ぎました」

 

 

ついつい力を入れすぎてしまい、私の一太刀がシロウの脳天にクリーンヒットしてしまった。

 

 

「い、いや大丈夫だセイバー。俺が未熟だっただけだ」

 

「いえ、その……私もやり過ぎました」

 

「そうよ、セイバーにスイッチが入ったのか悪いわ」

 

「なっ!? イリヤスフィール、訂正してください!! 私は決して戦闘狂では……」

 

「でも楽しそうだったわよ? 口許に笑みまで浮かべてたし」

 

「うう……」

 

「いいんだ姉さん。俺の今の力量がわかってもらえたと思うし、俺は気にしてないから」

 

 

結局シロウは気にしてないということで、場が収まったのですが、罪悪感が酷いです。

やがてイリヤスフィールは道場から出ていき、帰ってきた他の人達の出迎えに向かいました。

 

 

「……本当に申し訳ありません、シロウ」

 

「だからいいって。本当に気にするな」

 

「……はい」

 

 

しばらくしてシロウは起き上がり、汗を流しに行った。

 

成る程、確かにランサーの言う通り、彼は人としてとんでもない領域に到達するだろう。そしてそれを御しきれる精神をも持つ。

 

ただその道筋は、彼のこれからの選択次第で、よい方向にも悪い方向にも傾きうる。

誰かが側におり、ときどき彼の道を修正する、はたまた彼の重石となるかすれば、彼が荊の道の果てに、破滅を迎えることはないだろう。

もう少し、彼の歩む道を見たい、そう私は思いました。

 

さて……

 

 

「……いつまで隠れているのです」

 

 

私は道場の入口近くにいる者に対し、言を投げ掛けました。その者は観念したかのように、姿を現しました。

 

 

「……いつから?」

 

「途中から入ってきたことには気がついていましたよ?」

 

「なるほど、つまり最初からか」

 

 

隠れていた者、赤い外套を纏ったアーチャーはやれやれとばかりに、額に手を当てていました。

 

 

「……何を考えていたのですか?」

 

「別に、あの男の実力が知りたかった。ただそれだけのことだ」

 

 

アーチャーはそう言うと、再び霊体化して道場を後にしました。

 

妙だ。

彼は私とシロウが打ち合っている間、シロウのことを憎しみの篭った目で睨んでいた。まるで親の仇を見るかのような、そんな憎悪の篭った目を。

 

それにアーチャーを見ていると、何処と無く鍛練中に垣間見た、戦闘者としてのシロウと被る感じがしました。出来れば気のせいであって欲しいですが。

 

モヤモヤとするものを抱えながら、私は道場を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

「セイバーさんこうするんだよ? こう、包み込むような感じで」

 

「え、ええ……これは……くっ」

 

「慌てなくても大丈夫ですよ、初めは私もそうでしたから」

 

 

時間は過ぎて夕食のあと。

 

現在何故か私は縁側に座り、ユキカとサクラと共にお握りを作っています。

正直生前から数えて殆ど料理はしたことないので、力加減も過程も全くわからない。

このお握りという基本的なものにさえ、四苦八苦している状況です。

序でに言うと、夕食前にリンとシロウ、イリヤスフィールは教会に行きました。

 

 

「慎二、準備できたか?」

 

「こっちは問題ないよ。ライダーもOKだ」

 

「了解。んでセイバーは……何してるんだ?」

 

 

そうでした。

私とシロウ、シンジとライダーとで夜の見回りに行くのでした。それがお握りを作るのに手間取ってしまい……くっ!!

 

 

「あ、衛宮君、間桐君。もうすぐ出掛けるの?」

 

「あー、うん」

 

「そうだな」

 

「ごめんけど少しだけ待っててくれる? セイバーさんは準備してきていいよ、あとは私達がやっとくから」

 

 

……すみません、ユキカ。全く戦力にならずに。

私は立ち上がり、台所の流し台に手を洗いに行きました。その間も、彼らの会話が聞こえてきます。

 

 

「三枝、これは?」

 

「衛宮君達はこれから見回りでしょう?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「兄さん達は結構長く出ていきますよね?」

 

「まぁそうだね」

 

「だからお腹が空いたときのためにね。手軽に食べれるように、塩むすびにしたから」

 

「一人二つずつです」

 

 

そういえば、何故シンジが見回りなのでしょう?

彼には悪いですが、シンジは魔術師ではない、一般人とさほど違いはありません。本来なら、ライダーのマスターであるサクラが来た方がいいと思いますが。

 

そんな疑念を抱きつつ、私は準備を終わらせました。

 

 

「お待たせしました」

 

「おっ、来たか」

 

「はい、準備万端です」

 

「お握りは僕が持っとくよ。もし戦闘になったとき、衛宮が持ってたら邪魔になるだろうし」

 

 

私を最後にメンバーは揃い、玄関に移動しました。

既に私とライダーは、サーヴァントとしての戦闘服に着替えています。

 

 

「セイバー。見回りにおいて戦闘になったとき、慎二以外で迎撃することになっています」

 

「シンジ以外、ということはシロウもですか?」

 

「ああ。まぁサーヴァントじゃなく、マスターに対するだけど」

 

「ではシンジは?」

 

「慎二は戦略方面を担当してもらう」

 

「そういうことさ。まぁ経験のある作戦参謀には劣るけど、同年代の中では、追い付かれはしないと自負してる」

 

「私とあなたでサーヴァントを。シロウが魔術師の相手とシンジの守護。シンジがブレインを務めるのですね? わかりました、異論はありません」

 

 

これはなかなかできたメンバーかもしれない、私はそう思いました。

 

 

「さて、行ってきます。帰りは遅くなるから、先に寝てていいぞ」

 

「うん、わかった」

 

「何か異常があれば、すぐに連絡しなさい」

 

「この家は私とバーサーカーに任せてね、シロウ!!」

 

「兄さん、あまり無理はしないでくださいね?」

 

 

私達は見送られつつ、聖杯戦争の夜へと繰り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と上機嫌だな」

 

「そうかね?」

 

「ああ。この10年、お前の顔が綻ばせるのは久しくみていなかったからな。何か気に入ったものでもあったのか?」

 

「気に入ったもの……ああ確かに、腐れ縁を見つけたな。この上なく、面白いことになりそうな縁が」

 

「そうか」

 

「それより、わかっているな?」

 

「無論、我は出んぞ。精々今回の行く末を見ていくさ。だが、我にとって不愉快なことになれば、そのときは出ていくからな」

 

 

 

 

 

 

 






はい、ここまでです。

前回後書きで書いていたネタですが、試しに書いてみることにしました。
無論最優先はハリポタ完結なので、そこのところは安心してください。

ただ、場合によっては第2優先事項がこれではなく、新しく書く方になる可能性もあります。

ですがこれも安心してください。
書き始めたからには、完結させるのが私の流儀ですので、これもしっかりと手を抜くことなく、完結させます。


それでは今回はこの辺で





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襲撃と追想




アンケートですが、シャルロットさん人気ですね。
まさかですが、母親が社長の妾だったから娘も……なんて理由じゃないですよね(汗)

今回はこちらを更新します。

それではごゆっくりと





 

 

 

 

 日は既に暮れ、夜の帳が下ろされた冬木の街に四人はいた。

 昼間に教会に行ったことによって正式に聖杯戦争の開幕が宣言されたため、恐らく殆どの陣営(といっても残るはキャスターとアサシン、ランサー陣営だが)が行動を大なり小なり起こすだろう。

 

 とりあえず手始めに、一家斬殺事件とガス漏れ事件のあった地域周辺を調査することにした。

 斬殺は長物、ガス漏れは昼間調査すると、生命力を吸われていることがわかっている(認識阻害の魔術で病室に入って調べた)。故に、そこら周辺を調べることで微々たるものでも情報を入手する、というのが今回の目的だ。

 

 魔導の知識は慎二が一番持っているから、俺がその知識を元に魔力運用を行う。セイバーとライダーは、サーヴァントの痕跡がないかを探ってもらっている。

 

 

「……衛宮、どうだ?」

 

「……やっぱ日数が経過しすぎているな。残り香が薄くなりすぎていて詳しくはわからない」

 

「そうか。でも……」

 

「間違いないだろう。実行犯は遠隔地から魔力を吸ったみたいだ。唯一救いがあるとすれば、そいつが対象を殺さなかったぐらいか」

 

「成る程ね、可能性としてはキャスター、若しくはその他陣営のマスターの魔術師だろうね」

 

「ああ」

 

 

 ほんの少しだけど、数ある選択肢から幾つかを省くことができた。まだ戦争の初日、敵もあまり派手には行動してこないだろう。

 ランサーのように始まってもないのに仕掛ける奴もいるが、あいつは思い立ったが、っていう人間じゃあなさそうだからな、あいつは例外だろう。

 

 

「シロウ、只今戻りました」

 

「慎二。ガス漏れは兎も角、斬殺は確実にサーヴァントでしょう」

 

「おかえり、そうだったのか」

 

「長物を使うキャスター、それともアサシン……」

 

 

 アサシンクラスで呼ばれるのは、歴代のハサン・サッバーフのうち一人のはず。だがもしかしたら歴史に埋もれているだけで、長物を使う暗殺者も世界にいたのかもしれない。

 

 ……一度図書館とかで歴史書や伝説・説話を読み漁るか。

 

 

「たぶんここにはもう何も残っていないだろうね。一応土とかは持ち帰るけど」

 

「土? 何故ですか慎二?」

 

「ああ、大気じゃなく、土とかに含まれる魔力の残り香の濃薄を調査する、基本的な魔術があるんだよ。僕や衛宮にはできないけど、桜や遠坂ならできると思ってね」

 

「基本的なものではなく、応用的なものを使わないのですか?」

 

 

 まぁその疑問は尤もだろう。

 でも少し違うんだよな、これが。応用的なもの全部が全部、基本的なものに優るとは言えない。

 その説明は、慎二に代わって俺がすることにした。

 

 

「例えば剣術でも基本的に強い人は、自分なりの剣を持っているよな?」

 

「ええ、はい」

 

「でも殆どの人は、基礎の共通の型を学ぶだろう? そしてそこから幅広く発想を広げて自分の剣を持つ。でも中には愚直に基礎を修める人もいる。セイバーがいた時代にも、何人かはそんな人がいたんじゃないか?」

 

「言われてみれば、確かにいました」

 

「そしてときには熟練で多数の技能をもつ人じゃなく、基礎を極めた人が場を好転させたこともあっただろう?」

 

「成る程、大体わかりました」

 

 

 セイバーは得心がついたように頷き、ライダーも納得するような表情を浮かべた。

 

 

「要は適材適所、今回は基礎の部分が必要だから使うのさ。ライダー、悪いけどこのサンプルを桜に持っていく。衛宮達はどうするの?」

 

「俺達はもう少し見回りをする。いいか、セイバー?」

 

「構いません」

 

「わかりました。セイバー、士郎、御武運を」

 

「ええ」

 

 

 慎二とライダーは、音もなくその場から去った。

 もうここには用はない。

 それにこれ以上ここにいれば、確実に『お巡りさんこっちです』コースまっしぐらになるので、俺達は急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

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 事件のあった場所を離れ、俺達は記念公園にたどり着いた。

 この公園は十年前の火災の中心地、要するに俺が昔住んでいた地域の跡地である。そしてこの地は龍脈が通っていないのに、比較的『濃い』のだ。

 

 

「……シロウ、ここはもしや」

 

「ああ、セイバーの考えている通りだ」

 

「……そうですか」

 

 

 ……感傷に浸る暇はないな。

 俺達は記念公園を早く通りすぎるため、早足で先を急いだ。

 

 

「!! シロウ、伏せて!!」

 

 

 突如セイバーの声が響き、俺は伏せた。同時に俺の頭があった場所を二本の矢が通りすぎた。

 遠方からの狙撃、だが矢の材質が骨であることから、あのいけ好かないあかい不審者のものではないだろう。何にしても狙撃手をどうにかしないことには、この場を切り抜けることはできないだろう。

 

 

「シロウ、狙撃はできますか?」

 

「場所がわかればなんとか」

 

「シロウ、あそこでは?」

 

 

 セイバーが指し示す場所を見ると二百メートルほど先、確かに二体の弓を構えた骸骨がいた。骸骨ということは、ゴーレムの一つか。

 

 

「シロウ、新手です!!」

 

 

 セイバーの声に意識を周りに向けると、そこには剣を構えたゴーレムが多数出現してきた。その数、三十はいるだろう。加えて狙撃のゴーレムも七体に増えている。

 ここはセイバーに近接ゴーレムを任せ、俺は狙撃を受け持つのが得策だろう。

 

 

「セイバー、周りのコイツラは任せた。俺は狙撃手をやる」

 

「わかりました、ではそのように」

 

 

 俺は弓を投影し、狙撃手に狙いを定めて矢をつがえる。コイツラが無限に湧くのか、はたまたこれを倒せば終わりなのか。

 上等だ、魔力が尽きるまで付き合ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮君たちが出掛けたあと、みんなでお茶の間にいて四人の帰りを待っているときだった。

 

 

「……ん~」

 

「? どうしたの、リン?」

 

「いや、前から気になっていたんだけど、三枝さんっていつから士郎と関わりあったのかなって」

 

「あ、私もそれは気になりました。私が先輩と知り合った頃には、既に三枝先輩はいらっしゃいましたし」

 

「私と衛宮君? そうだね~」

 

 

 別に隠すことでもないし、話しても大丈夫かな?

 何かみんな興味津々な顔をしているし。特にアーチャーさんがすごいな、たぶん本人は隠しているのだろうけど。

 確かあれは三年前だったっけ。

 

 

 

 

 

 

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 私はあのとき、家族全員で新都に出掛けていた。

 丁度弟たちの洋服とかを新調したり、私の教材を買ったりと結構お金を使う予定だったから、銀行に入った。

 待合室の椅子に座って弟たちの面倒を見ながら、私は両親が戻ってくるのを待っていた。

 

 

 そのときだった。

 突然五人ほどの覆面を着けた男の人達が、ピストルを発砲しながら銀行に駆け込んできた。その人達は強盗で、中にいた人達を人質にお金を要求していた。

 

 無論待合室にいた私達も例外ではなく、弟たち含めて全員が一ヶ所に集められ、ピストルを突きつけられた状態で待機させられた。

 正直に言ってとても怖かったけど、私がしっかりしてないと弟たちを余計に怖がらせてしまうと思い、私は彼らを安心させることを優先した。

 

 でも一番幼かった子はやはりというべきか、泣き出してしまった。それによって強盗犯の一人が苛ついたのか、その泣いちゃった弟にピストルを向けた。

 咄嗟に私はその子に覆い被さり、せめて自分が盾になれたらと思いながら目を瞑った。

 

 でも一向に発砲される気配がなく、寧ろ誰かが倒れこむ音がした。

 私は気になって目を開けてそちらを見ると、一人の男の子が目の前にいた。そしてピストルを持っていた男性を蹴り飛ばしていた。

 

 その子はある意味この街で有名な男の子だった。

 赤銅色の髪なんて、日本人ならあまり見ない髪色である。加えて白いメッシュが入っていれば、自ずとこの街では一人の人物に絞られてしまう。

 

 強盗犯を蹴り飛ばしたのは、衛宮士郎君だった。加えて間桐慎二君も他の強盗犯を殴り飛ばしていた。

 強盗犯達は突然の事態に対処できず、人質に近い人達から次々に昏倒させられて行った。お金を出すカウンターの前にいた人達も、彼らによって制圧されていった。

 

 それはあっという間に過ぎた出来事だった。

 まるで流れるような早さで、警察が来るよりも先に二人が犯人達を縛り上げ、抵抗できないように場を納めた。今回の騒動では誰も死傷することなく終わったけど、一歩間違えていれば彼ら、または私達が死んでいたかもしれなかった。

 でも誰一人傷つくこともなく、犯人達も余計な罪が増えることなく終わったのは、紛れもなく衛宮君と間桐君のおかげだった。

 

 ということで後日、私達三枝一家はお礼を言いにまず衛宮君の家に向かった。彼の家を冬木では知らない人は少ないので、迷うことは殆どなく到着した。

 そして衛宮君の在宅を確認して、家族一堂で衛宮君に頭を下げたのがファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

「━━……というわけなの」

 

 

 私が話終えると、アーチャーさんとバーサーカーさんを除いた皆は、ひどく唖然とした表情を浮かべていた。

 特に桜さんとイリヤさんは、まるでこの場に二人がいれば容赦なく叱りそうな、そんな雰囲気を身に纏っていた。ちょっと怖いかも。

 

 

「……それ何て小説? まるで王道ラブコメじゃない?」

 

「クスクス、兄さんピストル持った人に素手で向かったんですか。人を助けるためとは言え、死んだら元も子もないのに。クスクス」

 

「今まで詳しいことは知らなかったけど、そんな風にあれは鎮圧されたのね。まったく、シロウってばまた自分を軽視して」

 

 

 あれ?

 もしかして、私地雷を踏んじゃった?

 あわわ、どうしよう? もしかしたら衛宮君と間桐君、帰ってきたらお折檻受けるかもしれない、ごめんね?

 

 

「……やはりこの世界でもその在り方は変わらんか、衛宮士郎。ならば貴様が理想に飲まれて溺死する前に、私が引導を渡す」

 

 

 ポツリとアーチャーさんは、小さく呟いた。

 その誰にも聞こえないようなとても小さく、それでもはっきり聞こえた言葉は、何故か私の耳から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 







はい、ここまでです。

オリジナル要素って考えるのに時間がかかりますよね。それも原作が存在しているものは、尚更矛盾点を最小にするために。
まあ考えているときは本当に楽しいのですけどね(笑)

さてさて、次回はどちらを更新しましょうか。
私としてISを先に区切りよくしてハリポタを更新したいのですが、fateの更新を心待ちにしている方々もいらっしゃいますし、どうしようかと。


まぁ少なくとも、ハリポタの更新はもうしばらく先です。


それでは今回はこのへんで。





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夜が明けて



ひっさびさに更新しました。最後に更新したのは、何と一年前の四月一日。こうも放ったらかしにしておいたことに、我が事ながら非常に驚いております。

では久しぶりのFate、色々拙い部分があるとは思いますが、どうぞごゆるりと。





 

 

 

 何とかゴーレムを撃退したが、狙撃のために投影を繰り返してしまったがために、魔力を多量に消費してしまった。流石にこの状態で敵が来たらまずいということで、今日は家に帰ることになった。家につくと既にみんな寝静まっており、屋根の上にアーチャーが、庭にはバーサーカーが佇んでいるだけだった。

 

 

「とりあえず俺は部屋に戻るけど、セイバーはどうする?」

 

「サーヴァントは基本睡眠は不要です。アーチャーと共に見張りをしておきます」

 

「そっか。まぁ一応部屋と寝具は準備しておくから、いつでも言ってくれ」

 

 

 そう言い残して俺は風呂の準備をする。寝る前にイリヤと三枝の部屋をそれぞれ確認する。二人ともそれぞれぐっすりと眠っているようで、これなら蔵で魔術鍛錬しても問題ないだろう。行水ではないが急いで風呂を済まし、敷地内の土蔵に向かう。いつも三枝の弟たちが泊まったりするときは鍛錬を仕方なくずらしてやるのだが、今三枝はこちらの事情を知っている。ならこそこそする必要はないだろう。

 

 

「――同調開始」

 

 

 お決まりの言葉をつぶやき、自身の魔術回路のスイッチを入れる。撃鉄を打ち込むイメージが走り、続いて全身に得も言われぬ感覚が張り巡らされる。そして何も持たぬ腕を虚空に伸ばし、何かをつかむ動作をする。

 

 

「――投影開始」

 

 

 虚空に伸ばされた掌に一振りの刀が握られる。この刀は万華鏡がどこかから持ってきた一振りの贋作。鍔はなく代わりに大きなルビーがはめ込まれており、柄には下地に誰かの髪の毛が、そして柄頭には紫のリボンが結び付けられており、とにかく刀としても剣としても異質なものだった。だが不思議と一番自分にしっくりくるものであり、自分とは全く方向の違う剣製であると感じた。

 

 

「……師匠はどこからこれを持ってきたんだろうな」

 

 

 この不思議な刀は今まで解析した宝具や刀剣類と異なり、この刀は基本骨子から何から色々と混ざっていた。統一されたものでないながらも、全てが奇跡のようにかみ合っているため、最高の刀となり得ているのだ。

 しかしいろんな文献や伝承、時間と共に埋もれて一般には知られてない言い伝えなども調べたが、この刀に該当するものは一切なかった。ということはこの世界では作られず、並行世界にて作られた刀ということになる。

 

 その後二、三本ほど同じ刀を投影した後、今度は自己に埋没する。実際には唱えずも、固有結界を展開するための詠唱を心で唱える。次々に魔術回路が活性化し、自身の魂を解析する感覚になる。次第に目の前が白く染められていき、最後に俺は無限の剣が乱立する草原にいた。剣の一本一本は錆が落とされ、真新しい輝きを放っている。中には普通の刀剣には出せない輝きを放っているものもあり、それらは草原の中心にある小高い丘の周囲につき立っている。

 そしてその丘の中心、頂点を割けるように先程投影した刀が刺さっていた。まるで自分がいるのはそこではないと、頂点にふさわしい剣がそこにあるとでも言うように。

 

 

「しかし俺の最高の剣製ってなんだ?」

 

 

 疑問が頭を埋め尽くす。自分、衛宮士郎の基本は、本物の贋作を作り出すことである。勿論自分がないわけではないが、この力事態が贋作を作り出すと言うもの。それがオリジナルを作るとしたら、どのような制約がついて影響が出るかわからない。

 色々考えているうちに、俺の視界はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

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「――ん、――――よ、起きて。衛宮君」

 

「ん、んん……さえぐさか?」

 

「おはよう衛宮君。また土蔵で寝ちゃったんだね」

 

「ああ……」

 

 

 どうやらあのまま土蔵で寝てしまっていたらしい。目が覚めると既に朝になっており、私服に着替えた三枝が俺の頭のチックに座り込んでいた。日の高さからして既に九時過ぎ、いくら休日だからと言って、流石に寝すぎたかもしれない。

 俺は起き上がると一つ伸びをし、彼女に挨拶をして朝食を食べに行った。既に姉さんは朝食を済ませているらしく、バーサーカーと共に本堤へと向かったらしい。アーチャーもいないことから、遠坂もこの家から出かけたのか、ただ霊体化しているだけなのだろう。となると、実質俺が最後に起きてきたということになる。流石に迷惑をかけたか。

 

 

「いつも言っている気がするが、何か悪いな。全部任せっきりになって」

 

「大丈夫だよ。衛宮君昨日は疲れてたみたいだし、仕方がないよ。それに私は守ってもらっている立場だから、せめてこういうことぐらいで役に立たないと」

 

 

 フンスと力もうとするかのように両こぶしを握る三枝。その様子に微笑みながら、俺は朝食を食べる箸を進めた。寝起きに合わせてあっさりとした味付けの魚にだし巻き卵、ほうれん草の御浸しに米という組み合わせは、純和風の質素且つ穏やかな感覚で自分を満たす。今日は桜はおらず、三枝だけで準備したのか。

 

 

「御馳走様、うまかったよ」

 

「良かった」

 

 

 朝食の片づけをした後、今日も道場に赴き、二刀流やあらゆる武具の鍛錬をする。武器を投影して使う以上、並み以上に使いこなせるようにならなければならない。そのためこの道場には通常と二刀流用の竹刀と木刀の他に、薙刀や槍、木剣なども置いてあり、果ては斧などの特殊なものも置いてある始末。その全ての鍛錬をするため、時間単位で時が過ぎていく。途中セイバーとの模擬戦を挟みながら、最後は一人で素振りをしていた。

 

 

「……何の用だ」

 

「……別に、ただ長時間籠って何をしているのかとな」

 

「それで? 俺の未熟さ加減を笑いに来たのか?」

 

「さて、な」

 

 

 鍛錬が一区切りついたところで、途中から覗いていた赤い不審者に問いかける。そもそも霊体化して気配を消せる彼らが姿を現している時点でマスター暗殺もクソもないのだが、やはりどうしてもこいつは好きになれない。

 

 

「……そろそろ昼食だ。私はあの少女に頼まれて貴様を呼びに来たにすぎん」

 

「にしては随分と声をかけるのが遅かったな」

 

「……ふん、頼まれたのはつい先ほどだ。貴様の様子を見始めたのはそれよりもっと前だ」

 

 

 互いに憎まれ口をききつつも、俺は道具を片付ける。流石に汗臭いままで昼食の席につくわけにもいかず、風呂の準備をして汗を流しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……奴は何なのだ。何もかもが私の時とは違いすぎている。昨晩の刀も、オレはあんな刀見たことがない。貴様は一体……」

 

 

 

 







はい、ここまでです。
なんかもう自分で書いておきながら自分で設定や過去話を読み返す始末、哀しくなりました。
さて、次回は聖杯戦争を存分に絡ませた話にしようと思います。

それでは皆様、またいずれかの小説で。




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